したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

ゼロの奇妙な使い魔 対サル用書き込みリレー依頼板

709ゼロいぬっ!:2009/05/19(火) 21:18:29 ID:04CJGkrk

「隊長、これからどうされるおつもりですか」

飛礫の如く降り注ぐ雨音にも掻き消されぬように隊員が声を張り上げた。
多分、そのような質問をしたのは後にも先にもこれっきりだろう。
常ならば撤退するトリステイン艦隊を護衛するべきだ。
だがウェールズが存命しており、さらにはアルビオンの実権を取り戻したという報が彼等の心を乱した。
もし事実だとするならトリステイン王国に加担する理由などない。
彼等は誇り高きアルビオン王直属竜騎士隊、王に刃を向ける事は有り得ない。
夢にまで見た王国の復権、それを前にして平静でいられるはずもなかった。

「……それを決めるのは俺じゃない、お前達だ」

一際大きく羽ばたいて隊長の火竜はその場で滞空する。
静かに告げた言葉が激流にも似た嵐の中で透き通って響く。
振り返り、隊の全員を眺めながら彼は話を続けた。

「ウェールズ陛下の下に戻りたい者がいるなら止めはしない。
このままトリステイン王国に残るのもいいだろう、自分で決めろ」

彼の突然の言葉に隊員達は己が耳を疑った。
隊員達にとって正しいのは王と隊長の命令、それだけだった。
常に先陣を切って戦場を駆け抜ける彼の姿が灯台の光のように道を示してくれた。
しかし彼は自分で決めろと言った。隊長としてではなく戦友として。
戸惑いながらも一人の隊員が彼に聞き返した。

「隊長は……ウェールズ陛下が生き延びたとの話を信じていないのですか」
戦場で虚報が飛び交うのは当然の事であり生存説はその最たる物だ。
その多くは敵を混乱させる物であったり誤解から生じる物など様々だ。
その問いかけに隊長は歯を食いしばりながら答えた。

「出来るなら信じたい。何度もそうあって欲しいと願った。
トリステイン王国の霊廟で陛下の遺体を目にした後もな」

手綱を掴む隊長の手が震える。
アルビオンから生還し、絶望的ともいえるタルブ戦を潜り抜け、
そうして再会した物言わぬ主の姿を前に彼はどれだけ嘆いただろうか。
死んだと分かっていたとしても目の前に突きつけられた真実は重すぎた。
叶うならば持てる全てを犠牲にしてでも蘇って欲しいと願った。
かつてワルドが母親の遺骸の前でそう願ったように。
そしてアンリエッタがウェールズの亡骸の前で思ったように。

しばらくして二騎の火竜が大きく羽ばたいた。
火竜の見据える先は連合軍のいる港ではなくアルビオン軍のいる内陸。
他の隊員が困惑する中、隊長と二人は互いに敬礼を交わす。
それはここまで共に戦ってきた戦友との訣別を示していた。

「今まで御世話になりました隊長。御武運をとは言えませんがお達者で」
「ああ。さらばだ戦友」

次第に小さくなっていく二騎の火竜を彼は見つめる。
たとえ敵味方に別れようとも彼等は間違いなく戦友だ。
しかし、これから戦うべき相手に言う事ではないとあえて黙した。
そして残った連中へと振り返り再度訊ねた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板