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ゼロの奇妙な使い魔 対サル用書き込みリレー依頼板

686ゼロいぬっ!:2009/03/24(火) 22:15:30 ID:cHNLclts

二人の間に重苦しい沈黙が流れる。
幻覚だと分かっていても身体が重く感じる。
遂に耐え切れなくなったラ・ヴァリエール公爵が口を開いた。

「それにしても戦場に単騎で出向くとは……まるで誰かの若い頃のようだな」
「……何を仰りたいのですか?」
「その、なんだ、おまえも人の事は言えない訳だし、今回だけは特別に……」

刹那。妻の猛禽じみた眼差しに全身が凍りつく。
幾多の戦場を駆け抜けた彼女の迫力は凄まじく、
曰く、一睨みで大軍が武器を捨てて逃げ出した、とか。
曰く、睨まれただけで火竜がお腹を見せて服従を示した、とか。
曰く、イタズラ好きの子供に『烈風カリンが来るぞ』と告げると大人しくなる、とか。
そんな伝説級の怪物に立ち向かう彼の心境は如何ばかりのものだったろうか。
気分はイーヴァルディの勇者どころか捧げられる生贄の少女であった。

「私は別に戦場に出た事を怒っているのではありません。
家長の指示に背いた、それに対し罰を与えるべきだと言っているのです。
規則は規則。それを特別だと許せば次も同じ過ちを繰り返すでしょう」

静かに響くカリーヌの言葉は規律を重んじる騎士のそれであった。
強すぎる力を持つが故に、それを抑制する規則が必要だと彼女は自覚していた。
力に溺れぬよう驕らぬようにカリーヌは己が信念を貫いてきた。
その教えがあればこそ三姉妹の誰もラ・ヴァリエールの権力を傘に、
他の貴族達に傲慢な振る舞いをしなかったのだろう。

「それともう一つ、私はまだ若い。今すぐ訂正してください」

返答に困った公爵が苦笑いを浮かべる。
いいかげんなおべっかは逆に彼女を苛立たせ、
“一番上の娘が嫁き遅れといわれる歳で若いもないだろう”と、
正直に答えればそれが自分の辞世の句となるだろう。
言葉に詰まる彼の目の前で大きな音を立てて扉が開け放たれた。

「ちびルイズを連れてきましたわ」
「御苦労」

始祖の助けをその身に感じながら公爵は安堵の溜息を洩らす。
おほん、と咳払いして気を取り直し威厳ある態度で臨む。
だが、彼が目にしたのは見る影もない自分の娘の姿だった。
気落ちなどという生易しいものではない。
悲嘆に暮れた表情は幼い頃の面影を隠し、
その瞳からは輝きが失われ、絶望だけを色濃く映す。
公爵は何を言い出せなかった。
今の彼女はまるでヒビ割れた硝子細工のようで、
少しでも触れてしまえば壊れてしまうように思えたのだ。


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