したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

ゼロの奇妙な使い魔 対サル用書き込みリレー依頼板

777使空高:2009/12/30(水) 13:51:53 ID:kFLIND6Y
 リキエルとルイズはマリコルヌのほうへ振り向くと、酔いが回って赤くなり始めた顔を笑わせて、
手に持ったグラスを掲げ上げた。

◆ ◆ ◆

 夜更けである。少し前から、ちょっとずつ雲が出始めていて、いまもひと際大きい雲の影に、双子
の月が隠れたところだった。大きくも薄い雲であったから、さほど闇が深まるでもなかったが、どこ
か不吉な夜のさやけさはいや増すようだった。だがフーケは、そんなことを知る由もない。
 ぶち込まれた詰め所の内の牢には、窓がなかった。ついでに調度の類もなく、ぼろく小さな椅子と、
それが寝床ということなのか、大量のわら束があるばかりである。そのわら束に寝そべったまま、フ
ーケは身じろぎひとつしない。寝ているのではなかった。その証拠に彼女の両目は、どこからか微か
に入ってくる光を鋭く返している。
 ――たいしたもんじゃないの、あいつらは。
 フーケは昼間のことを、自分を捕らえた人間たちのことを思い返している。わけてもリキエルの奇
怪な言動は印象に残っていた。
 思えばあの平民は、初めの出会いからして普通ではなかった。どころか、顔を合わせるたびに厄介
なことになっていた気がする。いまにも死にそうなうめき声を上げていたり、これまた死にそうな有
様になっていたり、なぜかそれを自分が介抱したり。遂にはわけもわからないまま捕まってしまった。
 例外は、いつだったか早朝に顔を合わせたときだろうか。そのときはたしか、どうにかして宝物庫
を破れないかと、朝の散歩がてら思案していたのである。そういえばあの男の一言で、思いがけなく
宝物庫破りに活路が見出せたのだ。もっとも、結局はあのゼロのルイズのおかげで、なんとか破るこ
とが出来たのだが。
 いまにして思えば、宝物庫のとき一息に踏み潰してやっていれば、こんな寒々しい牢の中に転がさ
れることもなかったのだろう。だが、フーケはそれをしなかった。出来なかったのである。
 感傷があるのではなかった。リキエルの苦しむ姿を見、それまでのわずかな交流を思い起こし、哀
れと思わないでもなかったが、そのままほだされてしまうほど自分は甘くはないつもりだったし、実
際に主従ともども踏み潰す気でいた。
 ただほんの数瞬、ためらった。ゴーレムの足を止めてしまった。なぜかは、フーケ自身にもわから
ない。理由があるとするなら、あのとき一瞬だけリキエルと目を見てしまったことだ。
 爽やかな目、とでもいうのだろうか。意識ははっきりとしているようだったが、リキエルはどこも
見てはいなかった。もし見ていたのなら、それはたぶん空だった。恐怖や諦めはなく、涼やかさのよ
うなものをたたえた片側だけの瞳で、じっと空を見ていた。その目を見たとき、フーケは我知らず動
きを緩めたのである。
 ――本当に、あいつはなんだったんだろうね。
 フーケは、最後にリキエルと交わした言葉を思い出した。
 質問があると言って寄って来たリキエルは、数年来の知り合いか、友人のような気安さでフーケに
話しかけたのだった。
 ――よお、悪いな。こんなことに……いろいろと助けてもらっといてよォー、恩を仇で返すような
ことになってしまってな。恨まないでくれると、オレはとても嬉しいんだが、どうだろうな?
 ――だんまりか。仕方がないことか、こんな与太話なんかにつきあわせてな。さぞ面倒に思ってい
るだろう。あ、聞きたいことってのはこれじゃあないんだ。真剣に聞きたいことは別にある。
 ――それじゃあ本題に入るぜ。答えてくれなくても、それはそれでいーんだがな。……いいか、聞
くぜ。初めてお前さんと会ったときのことだ。オレは、馬鹿みたいにうめいていたよな。それをお前
は、走り寄って助けてくれた。なんの益にもならないのにな、不審者だったかも知れないのにな。あ
れは、どうしてだ?
 ――『人当たりのいいロングビル』としては、そうするべきだと判断したのか? それとも、単な
る同情か何かだったのか?
 適当なことを言って、そのまま流してしまってもよかった。意図の読めない、よくわからない問い
であったし、それに付き合う義理はまったくないはずだった。状況を考えれば、リキエルの決して望
まないであろう返答をしても、なんらそしりを受ける筋合いはなかったろう。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板