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('A`)は異世界で戦うようです

1名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。

過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。

テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。

そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。

大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。

よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。

*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。

2名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:23:14 ID:gOpuSR2Q0
(゚A゚)「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ドクオは目の前の現実を変えるために、走り出す。

ほんの数メートル、それが自分でも変えられるかもしれない距離。

誰かが自分の名を叫んでいた。それでもドクオは止まらない。

ここで何もしなかったら、自分は後悔する。今までのような小さなものではなく、自分の一生について回るほどの大きなものだ。そんなものを抱え生きていけるほどドクオは強くない。

エゴだということは分かっている。もしかしたら勝手なことをするなと恨まれるかもしれない。自分のことを思って涙する人も、いるかもしれない。

そんな人がいればいいな、とドクオが心中で呟いたと同時、強烈な衝撃が身体を貫いた。

肋骨が折れ、内蔵を傷つける。

肺の空気が一気に吐き出され、呼吸もままならない。

視界はちかちかと瞬き、上下左右も認識できなくなる。

壁に叩きつけられ、ようやく勢いが止まった瞬間、ドクオは自分に死が訪れようとしていることを知った。

音も聞こえず、薄れていく意識の中、走馬灯のように流れる記憶がドクオを駆け巡っていき、彼はその日ーー

命を落とした。

3名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:24:52 ID:gOpuSR2Q0
('A`)「はぁ……」

大きなため息を吐くと、ドクオは手に持っていた紙を床に投げ出した。

先日とある会社に送った履歴書に対しての返信があったのだ。社交辞令である長ったらしい口上を得て、最終的に書いてあることは『採用を見送らせていただきます』だった。要するに、不採用。

確かに今回の会社は落ちるだろうなぁとはドクオも思っていた。この周辺の企業としては五本の指に入るほど大きな会社だし、倍率もかなり高いだろうと某職業安定所のお姉さんも言っていた。

が、大学を卒業して半年も経っていない自分ならもしかして、という希望的観測があったのだが*鼹*

結果は書類選考すら通らず。

これではため息も吐きたくなるというものだった。

やはり前の会社を辞めなければよかった、と今更後悔の念が押し寄せる。待遇もそこそこよかったし、上司の理不尽さも仕事のない現状に比べればましに思える。

なにせこの不採用通知で指を折ることちょうど十。とうとう二桁の大台に乗ってしまったのだ。

('A`)「このままじゃヤバイよなー」

4名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:26:39 ID:gOpuSR2Q0
床に大の字になりながらこれからどうしようかと思案を巡らせるが、浮かぶのはどれくらいまでならニート生活を満喫できるのだろうか、そして現在の貯金をどうやって切り詰めるかということだけである。

現実逃避にも程があるが、さすがに一ヶ月足らずの間にこれだけやって面接にこぎ着けないとなると凹むのは当然だろう。よって思考が働かなくて済む方法を模索し始めるのも仕方がないというものだ。

もちろん働かなくて済む方法などどこにもないことなど分かっている。

働かざる者食うべからず。

まさにその通りで、働いていないドクオは現在食料飢饉に陥っていた。

のそのそとテーブルに置いてある預金通帳を開けば書いてある数字がこれでもかというほど目に飛び込んでくる。その数たったの一万円。つまり諭吉さん一人。

('A`)「一ヶ月を乗りきるのも難しい状況かよ」

幸い住んでいるアパートの家賃やら光熱費やらはすでに支払ってあるので一ヶ月の猶予がある。あるのだが、自分の体力と精神を維持できるのか心配になる金額だった。

ドクオには実家に帰るという選択肢がない。両親はすでに他界しており、親戚の家に預けられて育ったドクオは、快く迎えられはしなかった。どこで聞いたのか定かではないが、彼の両親は周囲の反対を押し切り駆け落ち同然で家を出たのが原因らしい。

この話がどこまで本当かは分からないが、その子供であるドクオの待遇は劣悪なものだった。食事は一日一回、団欒には入れず一人廊下でとったし、自室なんてもっての他、まるで駒使いのように家事をやらされ、それが終われば親戚の子供達と遊びという名のいじめが始まる。一日がいつ終わるのかと幼いながらに震えて過ごすような毎日だった。そういった事情もあり、ドクオは大学進学と共に逃げるように家を去った。

とはいえ、一応ドクオも大学に進学させてもらえた以上特に恨んだりはしていない。本音を言えば何故自分がこんな目に合わなくちゃならないんだろうと思った時期もある。しかしそれらは全て過去の話で、自分から関わろうとさえしなければ何の問題もないのだ。

そんなわけでドクオは孤立無援、支援物資は期待できないという状況でどうすべきかをもう一度考える。食料と現在の手持ち、さまざまな条件を考慮して計算し、逆転の一手を導きだそうとして……。

('A`)「無理だな。うん不可能」

という解を出した。

5名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:27:58 ID:gOpuSR2Q0
('A`)「つーか無理だろこんなん。一万円で何ができんだよこれ」

せめてもう少し金があればギャンブルという選択肢があったのに、とドクオは一人ごちてみる。もちろんそれが最適解だとは思わないが。

とにもかくにもドクオには今金がなく、時間だけが余っている。やはり金が許す限り履歴書を書くしか方法はなさそうだ。

ドクオは体を起こしてめぼしい求人はないだろうかとボロボロになったノートパソコンを開く。いい加減寿命を迎えそうだが、大学入学と同時に購入した頼もしい戦友だ。辛いときも苦しいときもこいつがあったからやってこれた。用途は主にピンク色の画像や動画の収集と再生だったが。

マウスを動かし様々な求人サイトを漁っていく。いくつか希望条件を満たした求人をリストアップし、募集要項を流し読みしていく。

('A`)「……ん?」

と、そのなかに一つ気になるものがあった。

企業名『黒の魔術団』

求人サイトに掲載される会社というのは半数が人をやる気にするような甘い言葉が書いてあるが、その実ブラックであることが多い。何せ募集をかけてしばらくみかけなくなったなと思った頃にはまた募集されているのだ。それが指す意味を考えればすぐにわかることなのだが、これはその中でも異色を放っていた。

一つが名前である。まともな企業であればこんな厨二病をこじらせた名前などつけないだろう。

次に給料の額が記載されていないこと。これはあり得ないことだ。どのような企業であっても大まかな給料額は記されている。歩合制であっても最低賃金くらいは書いてあるはずなのだ。

最後に、募集要項。

『我々の掲げる思想のもとに魔法の実験台になってくれる方を募集。成功した暁には異なる世界の一部を差し上げます』

('A`)「……なんだこりゃ」

6名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:29:44 ID:gOpuSR2Q0
頭がおかしいとしか思えなかった。こんなものを載せるサイトもサイトだが。

異なる世界とか、魔法だとか、夢物語を謳う企業なんて聞いたことがない。ましてやここは現代日本、世界に認められるオタク文化は確かに素晴らしいとは思うが、こんなところに堂々と記載するのはさすがに狂っている。

念のため世界的検索エンジンて企業名を調べてみるが、ヒットするのは漫画やアニメの話ばかりで会社のかの字も見当たらない。

('A`)「うさんくさすぎだろ」

しかし、妙に引かれるものがあるのも事実だ。訳のわからない文面や目的、そして報酬。どんな仕事なのかも興味がある。

もしかしたら麻薬の密売という線もあるが、そんな裏社会の求人を堂々と人目には触れさせないだろう。そのためのサイトでもあるのだから。

きっかり十分ほどあれこれと考えた結果、ドクオはマウスを動かしキーボードで必要事項を入力していく。

('A`)「ま、まともな返事は返ってこないだろうが、とりあえずな」

完全に冷やかし感覚だったがどうせ書類選考の段階で落ちるのが当たり前になっていたドクオの思考は投げやりになっていた。

そして全ての情報を入力し、応募と書かれたボタンを押した瞬間ーー

('A`)「は?」

モニターから溢れんばかりの光が発した。それは段々と大きくなり、やがて目を開けることすら出来なくなる。

(>A<)「ちょ、え? 何が、どうなっ……」

ドクオの言葉は最後まで発せられることはなく、深い闇に落ちていくように、意識が途切れた。

7名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:31:20 ID:gOpuSR2Q0
第一話「妄想の世界へ」

その日は快晴だった。雲一つない晴天とはまさにこのことだろう。青々とした空は小鳥が陽気に羽ばたいており、遥か遠くに見える海も宝石を散りばめたように輝いている。

これならば干してきた布団もふかふかになっているだろう。渡辺は箒に跨がりゆっくりと空を飛びながら、夜に布団に入る心地よさを考えていた。

渡辺が向かっているのは王立魔法学校であり、彼女はそこに所属する魔法使い見習いである。時間はすでにお昼を迎えようとしているが、本日は急ぎで済ませなければならない課題がないため、久々に遅い登校となった。つい先日まではクラス昇格試験の準備でてんてこ舞いだったが、それらもなんとか終わりようやく平穏な毎日がやってきたのだ。もちろん昇格試験までの小休止ではあるのだが。

暖かい日差しを浴びなからしばらく進むと宙に浮いた大きな城のような建物が見えてくる。彼女の他に登校する生徒はおらず、どうやら渡辺が最後の生徒のようだ。

とはいっても、この学校は通常の学校とは違い、自分で弟子入りする先生を選び、スケジュールを調整しながら受ける授業を組み合わせるという方針なので、お昼を過ぎてから顔を出す生徒もいるだろう。割りと自由な校風なのである。

从'ー'从「ふんふふ〜ん♪」

8名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:32:14 ID:gOpuSR2Q0
鼻歌を歌いながら、魔法使いの象徴ともいえる三角帽子がずれていたのを左で軽く押さえる。生徒の自主性を重んじる反面、魔法使いとしての見栄えには厳しいという一面もあるため、あまりそういったことに興味のない渡辺も身嗜みを整えるようになった。

校門に降り立ち、玄関に設置されている鏡で帽子と胸のリボンが曲がっていないか、マントはずれていないかを確認、くるっと一回転。完璧だ。

从'ー'从「今日もはりきっていこー」

間延びしたやる気のない声と共に、渡辺が校内に歩き出した瞬間。

*鼹顥⑤*ィィィィィィン!!

耳をつんざくような甲高い音が響いた。

从'ー'从「ほえ?」

何の音だろうと周囲を見渡すが、特に変わったことはない。

「お、おい、あれ見ろよ!」

校門の前で暇をもて余していた誰かが空を指差していた。その先を追ってみると、そこには……。

从;'ー'从「……あれれ〜? 結界が消えてるよ〜?」

魔物避けのための結界が、跡形もなく、消え去っていた。

9名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:34:43 ID:gOpuSR2Q0
◇◇◇◇

渡辺を含む魔法使い見習い達は騎士団の詰所にある演習場に集まっていた。皆一様に不安を隠そうとせず、終始そわそわとしていた。

渡辺はぼんやりと空を見上げながら、集められた理由を考えていた。

从'ー'从(結界が消えちゃったことと、あとはたくさんの騎士団が遠征に行ってるから人手が足りないのかな〜)

確か先日発表された騎士団のスケジュールでは三日ほど前から隣国に遠征に行っているはずだった。つまり、現在この王都は普段より幾分手薄になっている。そこに結界消失という事件が発生しているということは、けして偶然ではないだろう。もちろん人為的だという確証はないが、手違いということはほとんど考えられない。

从'ー'从(騎士団長さんもいないし、偉い人達ってほとんどいないんだっけ。大変なことになっちゃったよ〜)

渡辺がそこまで考えた時だった。近くからひそひそと話し声が聞こえた。

おい、あいつが例の忌み子だろ?

ああ、あの黒髪間違いない。

近付くと呪われるぞ。なにせ悪魔の子だからな。

渡辺がそちらを見ると、目があった。話をしていた生徒達はすぐに視線を反らすと蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく。

从ー从「……」

10名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:36:01 ID:gOpuSR2Q0
胸がちくりと痛む。

また、だ。

何度も繰り返し言われたきたこと。しかし他人の悪意は渡辺の心を少しずつ蝕んでいく。

从ー从(だめだめ、そんなこと気にしちゃダメだよ。これは仕方ないんだもん。仕方ない、仕方ない)

そうやって言い聞かせ、渡辺は涙が出そうになるのをグッとこらえた。

泣いてはいけない。泣いても誰も救ってくれやしない。

/ ,' 3「あーテステス」

と、不意に声が聞こえた。どうやら生徒を集めた張本人がやって来たようだ。

それまで各々話をしていた生徒たちも一斉に口を閉ざし、直立不動の姿勢をとる。相手は校長荒巻、傍らには護衛だろうか副騎士団長であるショボンが立っていた。

/ ,' 3「早速で悪いが本題に入らせてもらう。先刻王都を囲っていた結界が消失した。それは皆も知っていると思う」

荒巻はそう前置きすると、さらに話を続ける。

/ ,' 3「そして現在騎士団は隣国に出張に行っており、王都に残る騎士団は多くなく、街の住民を避難誘導するには人員が足りん。そこで、騎士団から我が校に出動要請が入った」

11名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:36:58 ID:gOpuSR2Q0
荒巻が言い終えると、隣にいたショボンが一歩前へ出る。グッと胸を張ると、

(´・ω・`)「我々が掴んだ情報によると町には魔物が侵入している。それも相当な数だ。騎士団も全力で住民の避難と魔物の駆除に当たっているがいかんせん人手が足りない。諸君らにはその手伝いをしてほしい」

静かだが場内に満遍なく行き渡るはっきりとした声だった。そのことが余計に事態が緊迫しているのだと悟らせる。

(´・ω・`)「この中には騎士団を目指し魔法学校の門を叩いた者もいるだろう。だからといって魔物を倒そうなどとは思うな。優先すべきは人命であり、諸君らも同様である。今成すべきことはなんなのかをしっかりと判断した上で行動してほしい。では、これよりいくつかの班に分ける。そこからは担当のものの指示に従うように」

ショボンがそう締めると、すぐに生徒たちの班分けが開始された。渡辺の名前が呼ばれた瞬間、場内がざわついたのを彼女は見逃さなかった。

12名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:38:41 ID:gOpuSR2Q0
('A`;)「うおおおおおおおお!!」

叫び声をあげながらドクオはひたすら駆けていた。襲いくる現実から目を背けているわけではない。本当に、まぎれもなく、どうしようもなく窮地にたたされているからである。

ちらりと後ろを振り返ると、見たこともない毛むくじゃらの生き物が数匹追いかけてきていた。

人を丸のみに出来そうな大きな口には鋭く尖った牙、丸太のような太い腕、熊のような特徴を持ってはいるが、けして同じ生き物だと思えないのは全身に逆立ったトゲがびっしりと生えているからだ。

('A`;)「いったいどうなってんだよ! つーかここはどこなんだ!?」

(・(エ)・)「KUMAAAAAAAAAA!!」

(゚A゚)「こっちくんなやぁぁぁぁぁぁぁ」

自分は家でPCをいじっていたはずだった。怪しい求人に応募をしたまでは覚えているが、それにしたって見知らぬ土地に放り出されるなんて夢でも見ているのだろうか。

13名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:40:00 ID:gOpuSR2Q0
しかし全力疾走する体は現実だと証明するかのように悲鳴をあげ、煙草で弱った肺はキリキリと痛んでいる。

('A`;)「と、とにかくどこか身を隠せるとこは!?」

走りながら辺りを見渡し、ようやく家らしき建物がまばらに見えてきた。どういうわけか建物は散々に荒らされており、他に人間がいるような気配はない。だがドクオにはこれらの建物は放置されていたわけではなく、生活の気配が色濃く漂っているように見えた。

('A`;)「って冷静に分析してる暇はねえ!」

ドクオはちょうど扉が開きっぱなしになっている建物を見つけると、一目散に駆け込んだ。木製のドアを急いで閉じ、鍵をかけようとする。が、鍵らしきものは取り付けられていない。

('A`;)「だぁぁぁぁ! くそ、仕方ねえ!」

軽く周囲を見渡し、二階に上がる階段を見つけるとドクオはそちらに向かう。同時に閉じたはずのドアがまるで紙切れのように宙を舞った。

('A`)「なんか起死回生の一手は……」

しかし、ドクオが思い付く間もなく熊のような生き物が二階にやってきた。これで逃げ場がなくなった。

('A`;)(絶体絶命じゃないですかやだぁぁぁぁぁぁぁ!! こうなったら一か八かにかけるしかねぇ!!)

14名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:41:27 ID:gOpuSR2Q0
ドクオは窓を開け放ち、枠に足をかける。後方から生臭い匂いが迫ってきた。迷っている暇はない。

覚悟を決め、足の裏に力を込めて、

(゚A゚)「あい! きゃん! ふらぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

跳んだ。

目指すは向かいの屋上。目視での距離はそんなに遠くはない。

届く、はず。

(゚A゚)「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

トン、と確かな感触。

('A`;)「と、届いた……」

どうやら急死に一生を遂げたらしい。跳んだ場所を振り替えれば、ドクオを追ってきた化け物が逆さに落ちていくところだった。あれでしばらく追っては来ないだろう。

('A`)「と、とりあえず落ち着こう。た、煙草煙草っと」

ポケットからセブンスターを取りだし、一本くわえて火をつける。美味いと感じたことはないが、いつのまにかドクオの精神安定剤のような役割を果たしていた。

('A`)y--~~「ふー」

15名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:43:26 ID:gOpuSR2Q0
煙を吐きながら、とりあえず現状を整理する。部屋にいたはずが一転して見たことのない場所におり、かつ見たことのない生き物との遭遇。さらには西洋風の建物に、人の気配のない街。

それらを総合し、ドクオは一つの結論にたどり着く。

('A`)「夢、だな」

あり得ない。そう、あり得ないのだ。こんな妄想の中でしか起こることのない出来事は、現実では絶対にあり得ない。ドクオのいた現実とはどうしようもないほどに理不尽で、救いのない世界なのだ。どこかのヒーローが手を差しのべてくれるはずもなく、ただ時間だけが無為に過ぎていくだけの日常。

確かに今見ている夢も、妄想としては出来が悪い。現にドクオを助けてくれるような都合のいい存在はいないし、そんな展開も起きていない。だが、見たことのない生き物も、見たことのない街も、全てがドクオがかつて思い描いたシナリオの設定に似ているのだ。

主人公が窮地に陥った時、颯爽と駆けつけてくれるヒロイン、もしくは仲間。

そして世界中を駆け回り、世界を救うための旅となり……。

( A )「あるわけねえだろ。そんなもん」

自分で考えた設定、世界は自分を楽しませてくれる。救ってくれる。何故なら自分が理想とした、そうありたいと願った世界なのだから。そうでなくてはおかしい世界なのだから。

だから、

ドクオは、

目の前の出来事がようやく『現実』であることを悟った。

16名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:44:32 ID:gOpuSR2Q0
(・(

(・(エ

(・(エ)

(・(エ)・

(・(エ)・)

いつの間にか現れた黒い円から少しずつ、先程の生き物が姿を見せていく。その数は先程の比ではない。

周囲を取り囲んでいくそれらを眺めながら、ドクオは今度こそ本当に終わりなのだと知った。

ドクオには特別な力も特殊な能力もない、自堕落で楽観的なただの人。

主人公になるだけの素質も、運も、何もない。

( A )(もういいや。疲れた)

楽になろう。

目の前のなにかが腕を振りかぶる。当たれば即死だろう。

( A )(現実なんてこんなもんだ)

( A )(生きてたっていいことなんかありゃしねえ)

( A )(くそったれが)

17名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:45:39 ID:gOpuSR2Q0
ズガンッ!!

何かが爆ぜる音、同時に熱風。

( A )「?」

何が起きたのだろうか。ドクオが顔を上げようとした瞬間、再び爆発。

('A`)「くっ……」

煙が周辺を覆い、何も見えない。肉の焼けるような異臭が鼻をつく。

その間にも爆発は続いており、何かが動く音と倒れる音が断続的に響いていた。

ようやく煙が晴れたとき、ドクオは確かにそれを見た。

幾度となく思い描いた妄想を完全完璧余すことなく体現した存在。

風に靡かれる長い黒髪、透き通るような白い肌は日の光を浴びてキラキラと輝いている。

少しの間を置いて、それはドクオを振り返った。

从'ー'从「大丈夫? どこか怪我はしてない?」

彼女の質問に答えることも出来ず、互いの視線が交錯する。

やがてーー

('A`)「女神……」

ドクオはぼんやりとそう呟いた。

18名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:47:43 ID:gOpuSR2Q0
どれぐらい見つめあっていただろう。一秒が永遠にも感じられるような、そんな気分だった。

目の前に彼女が現れた瞬間、全ての意識が一気に引き寄せられた。

その可憐さに、その凛々しさに、その神々しさに。

从;'ー'从「えっと〜、大丈夫?」

もう一度、彼女が口を開いた。

('A`)「あ、あぁ」

从^ー^从「ここは危ないよ〜。魔物がいっぱいいるから、早く避難所に行った方がいいよ〜」

安心させるためなのか、はたまたドクオの反応が可笑しかったのか彼女が笑った。

ただそれだけで世界は彼女のために作られているんじゃないかと思うほどに、美しかった。

('A`)(めっちゃ可愛い)

彼女が手を差し出してきたので、ドクオはそれを掴んでようやく立ち上がった。

19名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:48:55 ID:gOpuSR2Q0
从'ー'从「えっとね〜、これから避難所まで案内するから乗って乗って」

('A`)「え?」

箒に跨がり、空いたスペースをぽんぽんと叩く彼女。乗ってと言っているが、乗ってどうするのだろう。

素朴な疑問が浮かんできたが、とりあえずドクオは従うことにした。今置かれている状況を把握するためにも、情報がほしい。

从'ー'从「それじゃあしっかり捕まってて!」

その言葉と共に、ドクオの足が地面から離れていく。

('A`;)「ちょ、え、マジで? マジで?」

数秒後、二人を乗せた箒は空を飛んだ。

20名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:50:14 ID:gOpuSR2Q0

◇◇◇◇

从'ー'从「私は渡辺っていうんだ。あなたは?」

('A`;)「俺はドクオだ」

从^ー^从「ここで会ったのも何かの縁だし、よろしくねどっくん!」

('A`;)「お、おう」

箒に跨がり空を飛ぶという珍しい体験をしながら、ドクオは気が気じゃなかった。何せ箒の柄の部分というのは非常に細い上に円柱なので、落ちてしまうのではないかと不安になるのだ。加えて美少女の背中に密着している。今まで女性にキモいだの臭いだの散々蔑まされてきたドクオにとって、誰もが文句なしに美少女といっていい渡辺にくっついている状況は様々な妄想が掻き立てられるのだ。

('A`;)(この高さから落ちたら死んじゃう! でも渡辺ちゃん超いいにおい!)

先程まで死にはぐっていたことはすでに忘却の彼方へ追いやり、ドクオは今を精一杯生きることの喜びを堪能する。

从'ー'从「ところでどっくんはどうしてあんなところにいたの〜? あの辺はとっくに避難が完了してたはずだよ〜?」

('A`)「……」

21名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:51:40 ID:gOpuSR2Q0
さて、どうやって誤魔化すか。これまでの流れで自分が違う世界に来てしまったことはおぼろ気に理解している。先程の見たことのない生き物*鼹鮄亙佞亘睚*と呼んでいた*鼹類砲靴討癲△修譴鯑颪覆*撃破し、空を飛ぶ渡辺にしても、ドクオがいた世界ではあり得ないことばかりだ。

そして、それは渡辺にも当てはまるのだ。ドクオがいた世界の文明とこちらの世界の文明は当然食い違うだろう。それを伝えたところで頭がおかしいと判断されてしまえば終わってしまう。

ドクオは慎重に言葉を選びながら口を開いた。

('A`;)「実は俺、よく覚えてないんだ」

从'ー'从「ほえ?」

('A`;)「その、どうしてあそこにいたのか、今までどうしてたのか、家族や友達も分からない」

从;'ー'从「ええー!? どっくん記憶喪失なのー!?」

('A`;)「つまり、そういうことなんだ。だから、渡辺……さんが知ってる範囲でいいから俺の質問に答えてもらっていいかな?」

从'ー'从「渡辺でいいよ〜。私でよければ力になるよ〜」

どうやら誤魔化せたらしい。普通の思考回路をしていたらまず疑うべきところだと思うのだが、この渡辺という少女、少し抜けているらしい。

22名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:54:50 ID:Z1RVmQCU0
('A`)「えっと、まずここはどこなんだ?」

从'ー'从「ここはニューソク大陸の王都ヴィップだよ〜」

('A`)(聞いたことない地名だな)

('A`)「それで、さっきの、魔物? だったか。あれはなんだ? 王都っていうくらいだから守りは固いんじゃないの?」

从'ー'从「えっとねぇ、人間とか他の動植物が魔力によって変質した姿っていうのかなぁ。それが魔物なんだって〜」

从'ー'从「それでね、本当は王都を守る結界があるんだけど、急に消えちゃったんだ〜」

('A`)(……俺がこの世界に来た時に消えたってことなのか? だとすりゃどっかに俺を呼んだやつがいる?)

ドクオの中で様々な推測がなされるが、それは後回しにして質問を再開する。

('A`)「魔力……ってことは、今空を飛んでるのは……」

('A`)「魔法、なのか?」

从'ー'从「うん、そうだよ〜。私は魔法学校に通ってる魔法使い見習いだから、色んな魔法を使える訳じゃないけどね〜」

23名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:55:52 ID:Z1RVmQCU0
('A`)「もしかして、みんな使えんの?」

だとすればドクオの記憶喪失は簡単にばれてしまう。なにせドクオは一般人で特技も特長もないヒエラレルキーの最底辺なのだ。

从'ー'从「勉強すれば誰でも使えるんじゃないかなぁ? 魔力自体は人間であれば誰でも持ってるから、術式さえ覚えれば簡単な魔法なら使えると思うよ〜」

('A`)「へー。もしかして、俺も使えんのかな」

从'ー'从「もちろん!」

('A`)「なるほどな。ありがとう渡辺。勉強になったよ」

从^ー^从「どういたしまして。どっくん記憶喪失なんだもん、私もできる限り協力するね!」

渡辺の力強い言葉に思わずドクオは涙ぐみそうになるが、同時にこんないい子を騙してしいるということに罪悪感を覚える。

('A`)(でも、怪しまれないためには仕方ねえよな)

('A`)(それに、せっかく異世界に来たんだ。アニメや漫画の妄想じゃなくて、現実に)

('A`)(だったら楽しまなきゃ損ってもんだ)

この考えが目の前の美少女によるところだとは自分でも理解していたが、ドクオはわくわくを抑えることができなかった。

24名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:58:16 ID:Z1RVmQCU0
第一話として書いたのまだ半分くらいの分量なんでここで一度終わらせていただきます

25名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:59:38 ID:Z1RVmQCU0
あと文字化けしてるとこが多々見られますのでそこも次回以降修正していきます

26名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 21:40:39 ID:b0pZzOfQ0
同じタイトルのやつすでにあるよ

27名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 21:52:48 ID:P431btTs0

似たタイトルがあっても気にしなくてもいいと思うんです

しかし、演出だと思ってたが、文字化けだったのか・・・・・

28名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 00:00:27 ID:AcZYvZ0I0
>>26
そうだったんですか…
ですがもう建ててしまったんでこれで行こうかと思います

>>27
すいません、演出ではありませんでした
完全に私のミスです

あと次回の投下は明日の夜23時から0時くらいに開始したいと思います
一話が大分長くなってしまったので三分割です
長々とすいませんでした

29名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 00:22:03 ID:VfcSf6MY0

王道で好みの展開と世界観
これから冒頭にどう繋がるのか続きが楽しみ

30名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 00:36:15 ID:LRThmukIO
前VIPとかで投下してなかった?、なんか既視感がするんだが

31名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 18:28:07 ID:54lKDAgg0
おおお、異世界ついに復活かよ!!待ってた!
仕事終わったら読むぜ!楽しみすぎる!!!!

32名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 18:49:09 ID:OK4GL5UwO
>>31
そう思っていた時期が私にもありました

33名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 19:49:01 ID:JExxP6H60
面白い
けど流石にタイトルは変えた方がいいかもな
(´A`)異世界って有名すぎるタイトルだし

34名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 21:01:40 ID:tcTVOXw6O
この作品なら、ちゃんと続きさえすれば間違いなくまとめ付くだろうから、その時の為に新しいスレタイ決めてレスに書き込んで置くとまとめさんが困らないと思うよー
続きに期待

35名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 22:40:27 ID:5cB6oqb.0
すまん、異世界違いだったか…
でも普通に面白いから期待だわ!

36名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 23:25:27 ID:gwqTpoE20
別にわざわざタイトル変える必要もないかと
商標登録されてる訳でも無し
作者が一番気に入ったタイトルで行くのが良いと思われ

37:2014/05/26(月) 23:30:31 ID:QpEfSWjY0
どうも1です
ちょっと投下遅くなりそうなのでそのご報告です
1時過ぎになるかもしれません
時間通り投下できずすみません

38名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 23:35:00 ID:JExxP6H60
いや、>>31みたいに間違える奴や便乗だって叩く奴も出るだろうし
こだわりが無いなら、問題を起こさない為にも変えといたほうがいいだろ

39名も無きAAのようです:2014/05/27(火) 00:46:38 ID:E8KQRd9A0
別に俺はこのままでいいと思うぜ?
設定はよくある設定だし、タイトル被りはしゃーないかと。

40:2014/05/27(火) 00:50:21 ID:In3/VVnc0
特にこだわりとかはないので、このスレで終わらないようであれば次回以降

('A`)は魔法少女と出会うようです

とかにしておきます
異世界はさすがに有名なのがありましたので自重します

あと私は今回が初めてのブーン系でして、恐らく勘違いかと思われます

拙い文章ですが皆様のお言葉ありがたく心に刻み付けながら投下していきたいと思います

41:2014/05/27(火) 00:58:05 ID:nwdzsgZA0
渡辺に連れられてやってきたのは広い学校のような場所だった。ような、というのは建物の装飾がドクオの知る一般的な学校ではなく、まるで絵画の中でしか見たことのないような豪華なものだったからだ。

そこはすでにたくさんの人でごった返しており、中には包帯を巻いていたり眼帯をしている者もいる。

渡辺は避難、と言っていた。王都の結界が消失し、魔物が侵入してきたのだ、とも。これがその結果なのだろう。

('A`)(……受かれている場合じゃないな)

渡辺が助けてくれなければ自分がああなっていたのかも知れないのだ。憧れの異世界といっても、ドクオが思い描くシナリオのようにはいかない。その中でも傷ついている人は必ずいて、そのうえで成り立っていくのがアニメや漫画なのだ。

从'ー'从「あ、どっくーん。こっちこっちー」

と、少し離れたところから渡辺が手を振っていた。

从'ー'从「騎士団の人に報告にいくからどっくんもついてきて〜」

('A`)「ああ」

渡辺のあとに続き、建物の奥へと入っていく。床の材質は分からないが、リノリウムのようなかつんかつんという音が怪我人達の声に混じって響いていた。

しばらく歩いてたどり着いたのは、他と比べれば大きめの扉の前だった。渡辺は二回ノックをして、失礼しますと言ってドアを開ける。

42:2014/05/27(火) 00:59:49 ID:FR.L1.sg0
从'ー'从「ラウンジ地区担当、ニダー班所属の渡辺です! 街に取り残されていた住民を保護しました!」

( ・∀・)「報告ご苦労。ん?」

報告を受け、質素なテーブルに肘をついた聡明そうな一人の男が怪訝そうに眉をひそめる。視線がドクオを上から下まで往復し、彼は小さくため息を吐いた。

( ・∀・)「見たことのない格好だな」

从'ー'从「えっと、彼は記憶喪失のようでして、自分が何故取り残されていたのか、その記憶がないそうです」

( ・∀・)「記憶喪失、ねぇ」

男はしばし虚空を見つめ、何かを考えているようだった。

( ・∀・)「お前、名前は?」

('A`)「え? あ、ドクオ、です」

( ・∀・)「俺はモララー、騎士団の分隊長をやってる。人をまとめる立場だ」

('A`)「はぁ……」

( ・∀・)「ドクオ、お前は王都の状況は聞いたか?」

('A`)「渡辺……さんから、おおまかには」

43:2014/05/27(火) 01:05:22 ID:UGfk0BDE0
( ・∀・)「王都の結界が消失し、そこに現れた見慣れない服装の男。おまけに記憶喪失ときてる。俺が言いたいこと、分かるよな?」

('A`)「……」

モララーと名乗った男は、ドクオに聞いているのだ。お前が犯人なのか? と。

モララーの言っていることは至極当然のことだとドクオも思う。こんな状況であればその疑いは怪しい人間に向けられる。

('A`)「俺は何も知りません、と言いたいてすが、証明する手だてはありません」

( ・∀・)「ほう。じゃあ大人しく拘束されて、洗いざらい吐かされたいか?」

('A`)「……それでも俺は知らない、と主張し続けます」

( ・∀・)「……」

('A`)「……」

しばらくの間沈黙が場を支配する。ドクオは眼を逸らさなかった。逸らしたら取り返しのつかないことになると本能が叫んでいる。

( ・∀・)「ま、今はいい。緊急事態だしな。これが終わったらまた話そうか、ドクオ」

('A`)「分かりました」

この場はなんとか収めることが出来たようだ。次にどんな目に合うかは分からないが、これで時間は稼げる。

('A`)(別にやましいことは何一つないんだけどな)

( ・∀・)「とりあえず二人とも行っていいぞ」

モララーがしっしっ、と手を振る。ドクオと渡辺は失礼しました、とだけ言ってようやく部屋を出た。

44:2014/05/27(火) 01:06:30 ID:UGfk0BDE0
◇◇◇◇


部屋を出ると、ドクオは大きくため息を吐いた。

('A`;)「ぶっはぁぁぁぁ、すげえ緊張した」

こんなに緊張したのは大学時代の就活の面接以来だろうか。身体中に嫌な汗がじっとりと浮いている。

从'ー'从「私も緊張したよぉ〜」

その割にはけろっとした顔をしている渡辺。あまり顔に出ないタイプなのかもしれない。

('A`)「しっかし、あのモララーって人威圧感半端ないな。何でも知ってそうな雰囲気というか」

从'ー'从「モララーさんはね〜、魔法学校を主席で卒業して最年少で分隊長になったすごい人なんだよぉ〜」

('A`)「いわゆるエリートってやつなんだな」

从'ー'从「学校でも人気があるみたいだよ〜」

まぁ、確かに顔もよかったし、生徒が憧れるのも仕方ないのかもしれない。ドクオはあまり好きになれそうにないタイプだが。

<ヽ`∀´>「おんやぁ? そこにいるのは忌み子の渡辺じゃないかニダ」

45:2014/05/27(火) 01:07:56 ID:UGfk0BDE0
と、そこへ渡辺に声をかける男がいた。いかにも人を見下していそうな、典型的ないじめっこのような顔をしている。

从'ー'从「ニダー君……」

不意に渡辺の顔が曇る。心なしか声のトーンも下がっていた。

<ヽ`∀´>「落ちこぼれの渡辺がこんなところで何をしているニダ? しかもぶっさいくな男を連れて体でも売ってるニダ?」

ニダーと呼ばれた男はそう言って耳障りな笑い声をあげた。

<ヽ`∀´>「初級魔法しか使えないからって、まさかモララー様に変なことをしたんじゃないのかニダ? だとしたらウリはお前のことを軽蔑するニダ」

ニダーはなおも侮蔑の言葉を投げてくる。心の底から楽しそうに。

('A`#)「てめぇっ!」

从ー从「どっくん! 私は大丈夫だから!」

ドクオは思わず殴りかかりそうになる。が、渡辺の一声により足を止めざるを得なかった。

ぐっと握りこぶしを作り、行き場のない怒りを強引に押し込める。

<ヽ`∀´>「おお怖い怖い。自分に力がないから男を頼るなんて、魔法使い失格ニダ。そもそも、自分が忌み子だと分かっていながら魔法使いになろうだなんて傲慢にも程があるニダ」

はっきり言って胸糞の悪くなる言い方だ。ドクオは渡辺のことをよく知らないが、同じ人の心を持っているのならここまで酷いことは言えないはずだ。こいつには良心がないのだろうか。

<ヽ`∀´>「ま、悪いことは言わないニダ。出来る限り早く人の迷惑にならないとこで死んでくれニダ。そんじゃ、ウリは失礼するニダ」

それだけ言うと満足したのか、ニダーはモララーのいる部屋に入っていった。ドクオはそれを見届け、渡辺に詰め寄る。

('A`)「何で言い返さないんだ? あんな酷いこと言われたんだぞ?」

从ー从「……仕方、ないから。ニダー君の言うとおりだし」

('A`)「言うとおりって、お前死ねとまで言われたんだぞ? それで仕方ないって」

从ー从「私、少し外の空気吸ってくるね」

('A`)「あ、おい、渡辺!」

渡辺は早足に校内へと消えていく。振り返る瞬間、瞳からきらりと光るなにかが溢れたのをドクオは見逃さなかった。

46:2014/05/27(火) 01:09:27 ID:UGfk0BDE0
渡辺が去ったあと、ドクオは一人暇をもて余していた。というのも、校外へ出るのは禁止されており、出入口には魔法使いなのか騎士なのかは分からないが見張りが立っている。出ようとした瞬間金属の棒のようなもので制止されたものだから、思わず腰を抜かしてしまった。

仕方がないので校舎内を見回ろうと思ったのだが、思いの外面積は大きくなく、少し歩いただけで見るところがなくなってしまった。

さらに言えばドクオの格好は目立つらしく、人に会うたび奇異の眼を向けられたり、渡辺と一緒にいたところを見られていたのかひそひそと声が聞こえたというのも理由の一つである。

('A`)(そんなに目立つかねぇ。スウェットくらいこっちにもあると思うんだけどな)

ドクオはロビーのような広い場所にやってくると、適当に腰を下ろし、壁に背を預けながらそんなことを考えていた。とは言っても、実際ここにいる人達の中でスウェットもそれに類似した服装を見なかった以上はやはり物珍しいのかもしれない。

('A`)(やっぱり文化が違うんだろうな。なにせ魔法が当たり前に存在してる世界だもんな)

47:2014/05/27(火) 01:10:36 ID:UGfk0BDE0
文化が違えば文明も違う。渡辺に聞いただけではその全貌は見えてこないが、ドクオの考える魔法というものが発展すれば元の世界のような機械が発展する必要はあまりないのかもしれない。

魔法を覚えれば誰だって空を飛べるし、もしかしたら移動するのも一瞬かもしれない。錬金術だって魔法の一種だろうし、そこまでいったら機械なんて必要ないだろう。

('A`)(しばらく帰れないだろうから、渡辺に教えてもらえないかな)

そこまで考えたところで、ドクオは先程の渡辺とニダーのやり取りを思い出す。

('A`)(なんだったんだろう。渡辺があんなこと言われる原因が思い当たらないな。めっちゃ可愛いし、いい子だし)

ニダーは渡辺のことを『忌み子』と言っていた。もしかしたらその辺りが関係あるのかもしれないが、それでもあそこまで人を貶すことはないだろうとドクオは思う。

('A`)(忌み子、か)

*鼹類*前がうちの品位を下げてるんだ。

*鼹類*前さえ産まれてこなければ妹は死ななかったんだよ。

*鼹類*前さえいなければ。

*鼹類*前さえ。

( A )(……くそ、なんで今思い出すんだよ)

いつだったか言われた言葉がドクオの脳裏にフラッシュバックする。親戚の誰もが決まってニダーのような顔をしていた。

そんなことを言われたところで、産まれてきたことはどうしようもないのに。

自ら命を絶たなければいけないほど、自分の存在は忌避されるものなのか。

大人になった今でも、ドクオは自分の価値というものが分からない。生きていてもいいのか、死んだほうがよかったのか。

( A )(……本当は、渡辺に何か言わなきゃいけなかったんだよな、俺)

48:2014/05/27(火) 01:11:31 ID:UGfk0BDE0
後悔しても遅いのは分かっている。だがドクオにはかけるべき言葉が分からなかった。自分の価値にすら自信を持てない人間が何をいったところで空虚な妄言にしかならないだろう。

口から出任せを並べられればいいが、ドクオには何故かそれが出来なかった。言葉の端々に汚さが滲み出るような気がして。

( A )(くそったれ)

気づけば真っ白になるほど手を握りしめていた。この怒りは何にたいしてなのか、自分か、渡辺か、それともニダーなのか、

本当は分かっている。過去なんてものは今を形成する一つの道標であり、あれこれ考えたところでどうしようもない。過ぎ去ってしまったことは変えることなど出来ないのだから。

('A`)(せめて、自信もって気にすんなって言えるようになれればな)

ドクオがそう結論付け、顔をあげたその時だった。目の前に黒い円が現れたのは。

(・

(・(エ

(・(エ)・

(・(エ)・)

('A`)「え……」

(・(エ)・)「Wooooooooooo!!」

49:2014/05/27(火) 01:12:13 ID:UGfk0BDE0
円の中から次々と魔物が現れ、雄叫びをあげる。その数は街で見たよりもさらに多い。

('A`;)「くそっ!」

ドクオは弾かれたようにその場から駆け出した。街中での動きを見る限り、動きはそんなに速くない。運動不足のドクオでも十分に逃げ切ることが出来たのだ。

が、すぐにドクオの足が止まる。

('A`;)(そうだ、ここは避難所だった)

つまり魔物たちから逃げようと走り回れば、自由に動けない怪我人たちと遭遇してしまう。その瞬間この場所は地獄絵図と化するだろう。

(・(エ)・)「GYAAAAAAAAAAAAA!!」

ドクオはどうするべきかを瞬間的に判断し、くるりと魔物のほうを向いた。

('A`;)「かかってきやがれ化け物ども!? ドクオ様が相手になってやんよ!!」

何故そうしたのかは分からない。けれど、胸を張って彼女に会うにはこうするしかないと、ドクオは感じた。

50:2014/05/27(火) 01:16:31 ID:DYcRxU2Q0
◇◇◇◇

从ー从(嫌なとこ見せちゃったなぁ)

ドクオが記憶喪失だと知ったとき、渡辺は密かに歓喜した。何も知らないなら、仲良くなれるかもしれない、友達になれるかもしれないと思ったのだ。

自分の居場所はこの町にないことは知っている。渡辺という存在はあまりにも衝撃的で、未だ根強く蔓延っている。

この黒髪もそれを如実に表していた。

王都、いやこの世界を隈無く探したところで、渡辺と同じような漆黒の髪を持つ人間なんていないのだ。

ドクオの髪も確かに黒だったが、少し茶色がかっていて色素が薄い。けして自分とは同じではない。

漆黒の髪が忌み子として扱われる理由は、渡辺自身よく分からなかった。亡くなった両親も教えてくれなかったし、今後も知ることはないかもしれない。

渡辺は自分という存在に、人生に、命に、価値を見いだせなかった。人に嫌われ、蔑まれ、石を投げられても、彼女は自分に価値を与えるべく歩こうとしていた。だからこそ渡辺は暗いことを考えず、誰も恨まず憎まず、人に優しくあろうとした。魔法使いになるという道も、人の役にたちたいという願いからだ。

けれども現実は渡辺に牙を向いて襲ってくる。人のために、この世界の生きとし生けるもののために何かをしようとするほどに他人の悪意は増すばかりだった。

そんな世界に渡辺は絶望していた。そんな世界の中でしか生きることのできない自分に、価値があるとはどうしても思えない。

けれど、そんな中でドクオは初めて自分を恐れず、対等な人間として接してくれた。ニダーの台詞にも純粋に怒ってくれた。

人に優しくされたのは初めてだった。いや、あれは自分以外に向けられる感情としては当然なのかもしれない。普通の人間であれば、当たり前のように受けることのできたことなのかもしれない。

从;ー;从「嫌われちゃったかなぁ」

51:2014/05/27(火) 01:18:24 ID:DYcRxU2Q0
渡辺は初めて人に嫌われたくないと思えた。だって、あんな風に優しくされたら、知ってしまったら、もう耐えられないじゃないか。

从;ー;从「やだよぅ、嫌われたくないよぅ」

止めどなく溢れる涙は自分の意思ではどうにも出来ない。拭っても拭っても頬を濡らしていく。

しばらくの間、涙は止まらなかった。泣けるだけ泣いて、そうしたらきっと元通り。そしてドクオのところへ行って、笑顔を作ろう。

思い切り泣いて落ち着いた頃、渡辺はようやく顔をあげた。近くにあった鏡で顔を確認すると、眼は赤くなり、その周辺は腫れていた。

从;'ー'从「ひどい顔だよ〜」

化粧なんてやったこともないので、隠すこともできない。機会があれば化粧を覚えてみようと渡辺は心に決めた。

从'ー'从「早くどっくんのとこ行かなきゃ。記憶喪失だし、きっと寂しいよね」

この顔は見せたくないがやむを得ない。渡辺が校舎へ戻ろうとした時、複数の足音と悲鳴が聞こえた。

从'ー'从「ほえ?」

渡辺が騒ぎの方へと駆けつけるとそこにはたくさんの魔物が腕を振りかぶり、

('A+;)

从;'ー'从「ど、どっくん!!」

為す術もなく立ち尽くすドクオの姿があった。

52:2014/05/27(火) 01:19:32 ID:DYcRxU2Q0
◇◇◇◇

('A+;)「はぁ、はぁ……さすがに、しんどい」

(・(エ)・)「SHAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

正面の魔物がドクオ目掛けて爪を振るう。それを一歩後ろに下がり紙一重で回避。続いて右の魔物が突っ込んできた。

('A+;)「ぐぼっ」

壁に激突し、肺から空気が抜けていく。うまく呼吸が出来ない。

やはり素人の回避方法では一体ずつの攻撃は避けられても、間をおかずにこられると間に合わなくなる。ここまで致命傷をもらわなかったのは奇跡としか言いようがなかった。

それでも魔物からの攻撃は休むことなく繰り出され、じわりじわりとドクオは追い詰められていく。すでに足腰はがくがくと震えており、気を抜けば二度と起き上がれなさそうだった。

('A+;)(けど、もう少ししたら、他の魔法使いが来るかもしれない。それまで耐えろ、俺!!)

ドクオはなんとか立ち上がろうと全身を奮い立たせ、顔を上げる。そこには一斉にこちらへと腕を振るう魔物達がいた。

('A+;)(やばっ、よけきれ)

从'ー'从「どっくん!!」

そこへ渡辺が炎弾を叩き込んだ。昼間見た魔法だろうか、魔物達を巻き込んで爆発するとその体を焦がしていく。

53:2014/05/27(火) 01:20:24 ID:DYcRxU2Q0
('A+;)「た、助かったよ渡辺」

从'ー'从「どうしてこんなことしてるのよぉ!!」

そばに来るなり大声をあげる渡辺に、ドクオは少々面食らったが、しかしはっきりとした声で答えた。

('A+;)「怪我人がたくさんいるんだ。ここで逃げたら他の人を巻き込むかもしれないだろ? だから囮になったんだ」

从ー从「こんなに傷だらけになって……もしかしたら死んじゃってたかもしれないんだよ?」

('A+;)「けど、渡辺ならきっと来てくれるって信じてたよ」

从ー从「……おかしいよ、どっくん」

('∀+;)「俺もおかしいと思う。若さゆえの過ちなんだろ、きっと」

渡辺の手を借りてなんとか立ち上がり、笑みを作るが腫れた頬が邪魔をしてうまく出来なかった。

渡辺がドクオを抱き締めてくる。小刻みに震える彼女の体はとても小さくて、子供をあやすようにドクオは頭を撫でた。

从ー从「ばか。どっくんのばか」

('A+;)「ははっ。とりあえず、しばらく休みたい。もう体が動かないんだ」

从'ー'从「うん。治癒術師さんのとこに連れてってあげる」

54:2014/05/27(火) 01:21:14 ID:DYcRxU2Q0
渡辺に肩を借りて歩き出すが、体のあちこちが鈍い痛みを発し、足がうまく動かなかった。

我ながら馬鹿なことをしたとは思うが、今回ばかりはやってよかったと思えた。たくさんの命を救えたのだ。ここに来なければ、渡辺に出会わなければ、自分は一生なにも出来なかっただろう。

傷が癒えたら、渡辺に何て言おうか。こんな自分でも誰かの役に立てたのだ。ならば言うことは決まっている。

それはーー

55:2014/05/27(火) 01:21:56 ID:DYcRxU2Q0





ぐしゃっ。

56:2014/05/27(火) 01:23:36 ID:DYcRxU2Q0
嫌な音がした。

次に視界が高速で動いた。気付いたら床に転がっていた。痛みはない。

( A )(なに、が……)

( (エ) )

倒したと思った魔物が起き上がり、充血させた眼をこちらに向けている。どうやら怒らせてしまったようだ。

ゆっくりと近づいてくる魔物に、ドクオは何とか抵抗しようと体を動かそうとするが、意に反して言うことを聞いてくれない。

('A+;)(わたなべ……は……)

顔だけを動かし、周囲を見渡せば数メートルほど離れたところに渡辺は倒れていた。

背中に大きな爪痕を残して。

意識はあるらしく、彼女も立ち上がろうとしているが、魔物の攻撃をまともに食らってしまったのだ。ドクオより傷が深いのかもしれない。

( (エ) )

魔物は渡辺を標的にしたらしく、そちらへと向かっていく。

('A+;)「やめろ」

魔物は止まらない。

('A+;)「やめてくれ」

体は動かない。

57:2014/05/27(火) 01:24:59 ID:DYcRxU2Q0
('A+;)「くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

その時、神様はほんの少しだけドクオに力をくれたのかもしれない。

(゚A+;)「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

起き上がり、必死に走る。

从; ー 从「どっくん!!」

( (エ) )「GAAAAAAAAAAAAA!!」

魔物が爪を降り下ろす。あと数センチ。

その時、世界がスローになる。

風の流れさえも感じ取れるほどの極限の世界で、ドクオは地面を蹴った。

間に合え!! 間に合え!! 間に合え!!

魔物の攻撃は止まらない。

ドクオの体が魔物の爪に触れる。

渡辺が何かを叫んだとき。

ドクオの体を魔物の爪が貫通した。

58:2014/05/27(火) 01:29:22 ID:FR.L1.sg0
◇◇◇◇

ドクオの体から血が流れていく。止まることなく、ゆっくりと。

ドクオは動かない。ぴくりともしない。

魔物の爪がドクオの心臓を貫いた。一瞬だっただろう。

从;ー;从「あ……あぁ……」

目の前で倒れるドクオを、渡辺は揺する。

从;ー;从「どっくん、起きてよ。冗談はやめてよぉ」

ドクオは動かない。

从;ー;从「私を独りにしないでよぉ」

ドクオは答えない。

从;ー;从「もう、独りは嫌だよぉ。どっくん、起きてよぉ」

ドクオは、二度と笑わない。

从;ー;从「いや……いやぁ……」

ドクオは、死んだ。他ならない、自分のせいで。

从;ー;从「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

渡辺の叫びは誰にも届かない。誰にも響かない。この世界で、渡辺は独りぼっちになってしまった。

それでも現実は理不尽なもので、絶望を背負ってもまだ抗えと渡辺に地獄を突きつける。

( (エ) )「Oooooooooooooo!!」

魔物の攻撃はいとも簡単に渡辺を吹き飛ばし、彼女の体はぼろ雑巾のように床へ転がった。不思議と痛みはない。

59:2014/05/27(火) 01:30:52 ID:FR.L1.sg0
从ー从「」

だが、何故か渡辺は立ち上がっていた。戦う理由なんてないはずなのに、戦う意味なんてとうに消えてしまったのに。

从ー从「せめて、あなただけは……倒すよ」

箒を構え、残った力全てを使い詠唱をする。目の前に赤い魔方陣が浮かび、火の玉が発射された。

命中。爆発。黒煙で視界を奪われる。

これが最後の力だった。渡辺にはもうマッチほどの小さな火を出すこともできないだろう。

全身から力が抜けていき、渡辺は崩れ落ちた。

次第に煙が晴れ、渡辺は、もう何も言わなかった。

( (エ) )

魔物は頭部の大半を失い、腕をもがれ、ようやく絶命した。

そして、その後ろには、

<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ。さすがはウリニダ。忌み子が死にもの狂いで戦っても勝てない魔物を一撃必殺ニダ」

ニダーと、その取り巻きが立っていた。

60:2014/05/27(火) 01:31:47 ID:FR.L1.sg0
从ー从「ニダー……くん……」

<ヽ`∀´>「アンニョンハセヨ。
さてと、ここにはもう魔物はいないニダ。これで安心ニダ」

いつのまにか渡辺のそばに立っていたニダーが朗らかに笑いながら手をさしのべてくる。渡辺はこの手を掴もうとして、どうしても出来なかった。力が入らないのだ。

<ヽ`∀´>「……なんだ、ここはウリの優しさに感激して手を取るところだニダ。やっぱり忌み子は人間じゃないニダ」

从ー从「……え?」

<ヽ`∀´>「どうやら魔物はあれだけじゃなかったみたいだニダ。ここにも瀕死の魔物がいるニダ」

*鼹顥灰離劵肇魯淵縫鬟ぅ奪謄ぅ襯鵐瀬蹈Α*

*鼹顥泪皀離魯皀Ε▲淵織*タオシタヨ?

*鼹顥灰灰縫魯錺織轡*イルダケ。

<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ!! やはり魔物は人間の言葉が分からないみたいニダ。いいか? 偉い人間様の言葉、ありがたく耳にするニダ」

61:2014/05/27(火) 01:33:50 ID:FR.L1.sg0
>>60
文字化けで大変なことになったのでもっかい

从ー从「ニダー……くん……」

<ヽ`∀´>「アンニョンハセヨ。
さてと、ここにはもう魔物はいないニダ。これで安心ニダ」

いつのまにか渡辺のそばに立っていたニダーが朗らかに笑いながら手をさしのべてくる。渡辺はこの手を掴もうとして、どうしても出来なかった。力が入らないのだ。

<ヽ`∀´>「……なんだ、ここはウリの優しさに感激して手を取るところだニダ。やっぱり忌み子は人間じゃないニダ」

从ー从「……え?」

<ヽ`∀´>「どうやら魔物はあれだけじゃなかったみたいだニダ。ここにも瀕死の魔物がいるニダ」

ーーコノヒトハナニヲイッテイルンダロウ?

ーーマモノハモウアナタガタオシタヨ?

ーーココニハワタシガイルダケ。

<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ!! やはり魔物は人間の言葉が分からないみたいニダ。いいか? 偉い人間様の言葉、ありがたく耳にするニダ」

62:2014/05/27(火) 01:35:59 ID:FR.L1.sg0
とりあえず今回はここで終わりです
色々と手直ししたはずなのに相変わらず文字化け多くてすいませんでした
次回はまた明日の夜、同じ時間に投下します

63:2014/05/27(火) 01:37:50 ID:FR.L1.sg0
とりあえず今回はここで終わりです
色々と手直ししたはずなのに相変わらず文字化け多くてすいませんでした
次回はまた明日の夜、同じ時間に投下します

64:2014/05/27(火) 01:41:32 ID:UGfk0BDE0









<ヽ`∀´>「お前のことだよクソゴミ」

65:2014/05/27(火) 01:42:29 ID:UGfk0BDE0
一つ投下忘れてましたすいません
今度こそまた明日

66名も無きAAのようです:2014/05/27(火) 07:51:45 ID:wNVw8MhIO
良い感じに鬱展開だな。乙乙続き期待

67名も無きAAのようです:2014/05/27(火) 21:53:11 ID:F1h9G66M0
期待してる

68名も無きAAのようです:2014/05/28(水) 03:56:57 ID:3A3L3B4w0
おもすれえ!

69:2014/05/28(水) 10:31:14 ID:940RRGy60
从ー从「ワタ……シ……?」

<ヽ`∀´>「お前自分が人間だとでも思ってたのかニダ? 漆黒の髪を持つなんて人間なわけないニダ」

<ヽ`∀´>「お前何で自分が忌み子なんて呼ばれてるか分からないニダ? ならウリがおしえてやるニダ」

<ヽ`∀´>「ウリ達の世界では黒髪の人間なんて産まれないニダ。黒髪は悪魔の特徴なんだニダ」

<ヽ`∀´>「周りに不幸を撒き散らし、破壊の限りを尽くす存在は、人間なんて呼ばないニダ」

<ヽ`∀´>「だから人々はそいつらを迫害し、追いやり、封印したニダ。だが、やつらは死んでいく自分達を見て、人々の中に紛れようとしたんだニダ」

<ヽ`∀´>「見た目は人間と大差ないニダ。黒髪さえ隠せば充分人として生きていけるニダ」

<ヽ`∀´>「そうして人間として生活した悪魔どもは人との子を成したニダ」

70:2014/05/28(水) 10:31:54 ID:940RRGy60
<ヽ`∀´>「長い年月のなかで人と同化した悪魔は黒髪の子さえ成さなくなったニダ。だが、時折お前のような子供が産まれることがあるニダ」

<ヽ`∀´>「悪魔の血を色濃く引き継いだ、人魔だニダ」

<ヽ`∀´>「これで分かったニダ? お前は人間なんて高尚な存在じゃない、それ以下のごみくずだニダ。『そこに転がっている男も同様』に、ニダ」

ニダーの話を聞いても、渡辺は何も思わなかった。自分が悪魔だとか、そんなことはもうどうでもよかった。自分の人生なんてそんなものだと思っていたから。

それでも、渡辺は一つだけ許せないことがある。

一時の感情なんだと理解している。

少しだけ優しくされただけの関係で、互いのことなんて何も知らない、小さくて細い微かな縁でしかない。

でも、それでも渡辺は彼が何かを言おうと悩んでいたことを知っている。自分を慰めてくれようと、足掻いていたことを知っている。

从ー从「訂正して」

71:2014/05/28(水) 10:32:47 ID:940RRGy60
<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ!! お前みたいなクズでもプライドがあったニダ!? こいつは悪かったニダ」

从#'ー'从「どっくんはごみくずなんかじゃない!!」

<ヽ`∀´>「うるさいニダ」

ニダーは一切の加減をせず、渡辺の腹を蹴りつけた。それでも渡辺は止まらない。それぐらいじゃ止まってやるものか。

从#;ー;从「どっくんは名前も知らない、顔も知らない誰かのために命を賭けたんだよ!! 赤の他人を救おうとして、救ったんだ!! 安全なところに胡座をかいて高みの見物をしてるあなた達に、彼を蔑む権利なんてないんだよ!!」

<#ヽ`∀´>「黙るニダ!! ウリをバカにすることは許さんニダ!!」

从#;ー;从「あなたは誰かのために命を張れる!? あなたは見返りも何もなく、他人のために動けないじゃない!! 人を馬鹿にすることしかできないあなた達が人間を語るな!!」

<ヽ`∀´>「……もういいニダ。殺す」

从;ー;从「私は悪魔だよ。どっくんに何も返してあげられなかった。どっくんを死なせてしまった。ごみくずだよ。だから、せめて私だけはどっくんの味方でいるんだ」

<ヽ`∀´>「死ね」

ニダーが詠唱を始める。渡辺の命は詠唱が終わるまでだろう。その間に、渡辺は少しでも彼のそばに行こうと体を引きずっていく。

从;ー;从(ごめんね、どっくん)

72:2014/05/28(水) 10:33:29 ID:940RRGy60
<ヽ`∀´>「ウリのまhうぇあ!!」

渡辺には、ニダーが瞬間移動をしたようにしか見えなかった。気付いたら、壁にめり込んでいた。

从;ー;从「ほえ?」

一瞬、ドクオが助けてくれたのかと思った。本当は死んでなどなくて、体力を回復していただけなのかもしれない。しかし、その願いはあっさりと崩れ落ちることとなる。

(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)

そこには、空間という空間を埋め尽くすほどの魔物で溢れ返っていた。

73:2014/05/28(水) 10:39:27 ID:llU/SGqM0
◇◇◇◇

ーーここはどこだろう。俺は何をしていたんだっけ。

真っ黒に塗り潰された視界、辺りは静寂だけが蠢いていた。

ーーああ、そうだ、俺は、死んだんだ。

事切れる瞬間、誰かが呼んでいたような気もするが、記憶に靄がかかったように不透明で思い出せない。

大切な人だったのかもしれない、大事な言葉だったのかもしれない、かけがえのない感情だったのかもしれない。

だがもう終わってしまったことだ。過去は覆せない。変えられない。自分が死んだことも、彼女が泣いていたことも、もうーー。

不意に暗闇を引き裂く光が飛び込んできた。そらはゆっくりと、彼を飲み込むように大きくなっていき、彼の中に様々な情報が氾濫していく。

ーーなん、だ、これ。

彼女の生い立ち、彼女の生き方、彼女の覚悟、過去から未来を通して彼は、彼女の全てを知った。

守りたいと思った。そばにいたいと思った。彼女の笑顔を、他人の悪意に晒したくなかった。

ーー帰らなきゃ。彼女を独りになんかさせない。

手を伸ばした。彼女を守るだけの力を得るために。

( A )「こんな現実、俺が変えてやる!!」

瞬間、暗闇が吹き飛んだ。

74:2014/05/28(水) 11:39:32 ID:KH7IFHJk0
◇◇◇◇

ドクオの体から眩い光が吹き出し、一瞬にして魔物の大半が消滅した。魔物達も驚いたのか、それとも本能が危険を察知したのか、一斉に距離を取る。

从;ー;从「どっくん?」

( A )「Oooooooooooooo!!」

いつの間にかドクオの手には赤黒い細身の剣が握られており、その刀身からは美しすぎるほど鮮明な朱が不気味に輝いている。

ドクオが一歩踏み出すと、その姿が消え、魔物達の後方に剣を横に薙いだ格好で現れた。

魔物達は倒れることもなく、まるで幻だったかのようにその姿を消していく。始めからそんなものはなかったかのように。

魔物達はドクオの姿を見て何を思ったのだろう。何が起きたかも分からず、どうしていいか分からないといったようにオロオロとしていた。

( A )「l7o*鼹*eo9cdng*鼹*8fl8h2bd*鼹*fkhpv!!」

75:2014/05/28(水) 11:40:49 ID:KH7IFHJk0
人と思えぬ言葉を発し、ドクオは暴れたりないと言わんばかりに魔物を蹂躙していく。魔物たちはドクオに攻撃を加えるが、ドクオはそれらを無視して、傷を作りながら止まらない。

右に左に、魔物の隙間を縫うように群れの中を縦横無尽にかけ、一刀のもとに魔物たちは消滅していく。

( ∀ )「*鼹鼹鼹顗*

やがて魔物も敵わないと本能で悟ったのか、次第に逃げ出していく。しかし、ドクオはそれを許さず追いかけて無慈悲に剣を振るう。

威嚇のためなのか、奇声を放つ魔物。口を不気味に歪ませながら戦うドクオ。

ドクオ以外に動くものがいなくなった頃。

ドクオはようやく、糸の切れた人形のように床に倒れたのだった。

76:2014/05/28(水) 11:42:07 ID:KH7IFHJk0
◇◇◇◇

『目覚めたか』

『はい。計画は滞りなく、順調に進んでおります』

『確か、ドクオといったか。彼は実に優秀な駒になってくれそうだな』

『そうですな。地べたに這いつくばっている人間とは実に御しやすい』

『しかし、果たしてあれを人間と呼んでいいのでございましょうか』

『確かに、人間というカテゴリーに当てはめるにはいささか度を越えているかもしれん』

『破滅と絶望を撒き散らす存在を、ここでは<悪魔>と定義するのでは?』

『<悪魔>か』

『では、その<悪魔>を御する我らはどのような存在になるのか』

『決まっておりまする。我々は』

川д川『この世界の<神>となるのです』

77:2014/05/28(水) 11:43:49 ID:KH7IFHJk0
第一話 終

78:2014/05/28(水) 11:52:47 ID:dbbkfKO60
投下時間を大幅に過ぎてしまい申し訳ありませんでした
3つに分割したわりには最後だけ短かったりしましたが第一話これにて終了です
次回投下は来週中に行いたいと思います
投下出来るようになりましたらまた顔を出します

面白いと言ってくれる方本当に励みになります
ありがとうございました

79名も無きAAのようです:2014/05/28(水) 12:03:18 ID:ghasd6Z60


80名も無きAAのようです:2014/05/28(水) 12:24:54 ID:BYGCZ1Lk0
待ってた乙

81名も無きAAのようです:2014/05/28(水) 17:02:11 ID:e//V4qaoO
こう言う良作が出てくるるならまだまだブーン系も終わってないな

82名も無きAAのようです:2014/05/29(木) 00:03:51 ID:BkKCapeU0
おもしろい!!
きたいしてるよ

83名も無きAAのようです:2014/05/29(木) 17:56:08 ID:M.XY0fvw0
期待期待

84:2014/05/29(木) 21:58:28 ID:TkR1Ts5Y0
どうも1です
このままの速さで書き上げることが出来れば来週の月曜日には第二話の投下ができそうです
第一話よりは短くなりそうですのでまとめて投下できると思います

85名も無きAAのようです:2014/05/30(金) 22:40:02 ID:Luwe7ZOI0
やったー

86:2014/05/30(金) 23:48:54 ID:jvxj2O7Y0
どうも1です
昨日一話ほど長くないと言ったのですが、構想していた半分を書き終えたところですでに一話よりも長くなってしまいました
ということで急遽予定を変更し、明日の夜にでもその半分を投下したいと思います
予定では月曜日までに第二話は書き上がると思いますのでよろしくお願いします

皆さんの支援を見るたび頑張ろうと思えます
本当にありがとうございます

87名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 02:44:28 ID:GbyRxPicO
待ってる

88:2014/05/31(土) 12:28:41 ID:YWVVJOwU0
本日夕方六時から投下します

89:2014/05/31(土) 17:59:44 ID:OugCCYE.0




第二話「新たなる生活」



.

90:2014/05/31(土) 18:01:19 ID:OugCCYE.0
(´・ω・`)「なるほど。実に興味深いね」

ショボンは自室にて報告書に目を通していた。昨日の王都結界消失事件の事後報告である。

( ・∀・)「本人は記憶喪失だなんて吹いてましたけどね」

(´・ω・`)「だがそれだけでは今回の犯人だとは言い切れないだろう」

( ・∀・)「もちろんです。が、無関係ってことはない。現にドクオを狙うかのように召喚陣が現れています」

(´・ω・`)「ふーむ」

ショボンはむっつりと虚空を見つめる。報告書では禍々しい赤黒い剣を持って魔物の存在を文字通り<消滅>させていたらしい。それまで武器と呼べるものを持っていなかったにも関わらず、立ち上がった時には持っていた。

加えて人外の言葉を発し、戦闘を楽しむかのような振る舞いは、すでにーー。

(´・ω・`)「悪魔、か」

91:2014/05/31(土) 18:02:22 ID:OugCCYE.0
( ・∀・)「例の忌み子と同じ髪の色ですしね。無関係ではないんでしょう」

(´・ω・`)「なんにせよ、一度彼に話を聞くほかないだろうね。それに、例の件もある」

( ・∀・)「関係があるんでしょうか」

(´・ω・`)「様々な情報を組み合わせて柔軟に考えていかないと、国は守れないぞ」

( ・∀・)「それじゃあどうします? ドクオの件は俺がやりましょうか?」

(´・ω・`)「いや、私がやろう。モララーは黒の魔術団を」

( ・∀・)「了解」

モララーが出ていったあと、ショボンは部屋の窓から空を見上げる。騎士団の尽力により結界は元に戻ったが、王都では未だ深く傷痕を残している。

(´・ω・`)「彼は僕たちの敵なのか、味方なのか。出来れば戦いたくない相手だな」

敵の戦闘力が未知数であるし、何より彼は民間人でありながら被害を最小限に食いとどめてくれた功労者でもあるのだ。

これが杞憂で終わればいい、とショボンは願わずにはいられなかった。

92:2014/05/31(土) 18:03:31 ID:OugCCYE.0
◇◇◇◇

王都にあるとある病院の一室で、ドクオは目を覚ました。

( A )「……ん」

あれから一体どうなったのか。渡辺は無事だったのだろうか。そもそも自分は本当に生きているのだろうか。

様々な疑問が浮かんでくるが、とりあえず体を起こしてみる。特に痛むところもなく、至るところに包帯が巻いてある以外は健康そのものだと言えそうだ。

('A`)「そうだ、渡辺は!?」

病室には自分一人だけのようで、他には見当たらない。まさか、と最悪の事態が脳裏によぎる。

ドクオが急いでベッドから降りようとしたとき、がちゃりとドアノブが回った。

从'ー'从「あ」

そこから現れたのは渡辺だった。手には花瓶を持っており、一輪の花が差されていた。

('A`)「わ、渡辺……無事d」

从;ー;从「どっくん!!」

93:2014/05/31(土) 18:04:55 ID:OugCCYE.0
言い終わる前に渡辺が抱きついてきた。女の子特有の甘い匂いと柔らかさがドクオを包み込んだ。

('A`)(わんだほー)

鼻の下を伸ばすドクオと対照的に、渡辺は体を震わせている。小さく嗚咽が聞こえてくるところを鑑みるに、どうやら泣いているらしい。

从;ー;从「よかったよぉ、目覚めてくれた。心配、したんだからぁ」

('A`;)「あー、その、心配かけて、悪かったよ」

女性の涙には一生縁がないと思っていたドクオは狼狽えるしかなかった。だが、女の子が自分のために泣いてくれているという事実は案外悪くないなぁと得意気になってみたりする。

从;ー;从「どこか痛いところは? 何があったか覚えてる?」

('A`)「そうだ。なぁ渡辺。あのあと、どうなったんだ? 俺は何日寝てた? 魔物は? 避難所の人達は?」

ドクオが矢継ぎ早に質問すると、涙をぐしぐしと拭った渡辺が怪訝そうに答えてくれた。

从'ー'从「ほえ? えと、どっくんは三日間寝たきりだったよぉ。それで魔物はどっくんが全部倒したじゃない。避難所の人達もみーんな無事だよぉ」

('A`)「……俺が?」

どういうことだろうか。ドクオの記憶では渡辺に止めを刺そうとした魔物の一撃を食い止めるために自分は力を振り絞って、爪が、体をーー。

貫いていた、はず。

ドクオは穴が開いているであろう心臓部へ手を当てる。

ーー穴が、ない。

94:2014/05/31(土) 18:05:49 ID:OugCCYE.0
どころか、傷一つなかった。

('A`)(どういうことだ? 相当ぼろぼろだったよな? それとも、これも魔法なのか?)

从'ー'从「お医者さんもねー、びっくりしてたよぉ。あんなにぼろぼろだったのに、すごい早さで傷口が塞がっていったんだってー」

まさに奇跡だって。

('A`)「奇跡?」

そんなはずはない。ドクオの体は何の変鉄もない一般人よりもスペックが低いもやしなのだ。他人より傷の治りが早いという特徴があったとしても、こんなに早く傷が塞がるだなんてあり得るのだろうか。

ましてや、心臓を貫かれて、生きている人間がこの世界にいるのか。

从'ー'从「どっくん?」

('A`)「渡辺は、俺が魔物を倒したっていったよな。どうやって倒したのか覚えてるか?」

从'ー'从「うん。えっとねぇ、そこにある剣で魔物をばしっばしって」

渡辺が指差したのは見たことのない赤い刀身の両刃剣だった。手に取り、鞘から出してみる。装飾もどこか禍々しく、見るものに不快感を与えるような代物だ。

('A`)(なんだ、これ)

見覚えのないそれは、ドクオに恐怖を与える。理由は分からない。だが、ドクオにはその剣が畏怖の象徴のようにしか思えなかった。

从'ー'从「どうかしたの?」

95:2014/05/31(土) 18:06:37 ID:OugCCYE.0
渡辺が瞳に涙を浮かべながら尋ねてくる。駄目だ、今は考えないようにした方がいい。渡辺を無駄に心配させてしまう。

ドクオは剣を鞘に戻しながらできるかぎり優しい声で言った。

('A`)「いや、なんでもないよ。それにしても渡辺は俺のことずっと看ててくれたのか?」

从'ー'从「うん。命の恩人さんだし、それに……」

从//ー//从

('A`)「それに?」

从//ー//从「な、なんでもないよぅ!! うぅ、どっくんのばかぁ」

とりあえず誤魔化すことには成功したようだ。しかし、何故怒られたのだろうか。

从//ー//从「えと、きょ、今日は帰るね!! また明日来るから!!」

顔を赤くしたまま渡辺は逃げるように病室を飛び出していった。直後にがしゃーん!! と大きな音が聞こえてきて、必死に謝る渡辺の声が響いてくる。

('A`)「……なにやってんだあいつ」

96:2014/05/31(土) 18:07:29 ID:OugCCYE.0
◇◇◇◇

从//ー//从(うー、まだドキドキしてるよぉ〜)

ナースとぶつかり機材をド派手にばらまいてその後片付けを手伝ったあと、渡辺は胸に手を当てて先程自分が口走りそうになった言葉を思い出していた。

言葉にすれば簡単な感情だが、それを相手に伝えるとなると半端ではない覚悟が必要になる。ましてや出会って数日、きちんと話したのはほんの少し。その短いやり取りの中で芽生え感情は渡辺自身本物かどうかよく分からない。

人の悪意に触れながら生き続けたのだから普通の人間が普通に経験するような出来事も渡辺にとっては理解の範疇を大きく外れているのだ。

しかも誰もが彼女を人として見ていないこの世界で、彼だけは人間として、女の子として扱ってくれた。たったそれだけのことが渡辺にとって何よりも嬉しいことだった。

从'ー'从「どっくんは私のことどう思ってるのかなぁ」

意中の異性を思う女の子とはこんな思いで毎日を生きているのかと思うと、渡辺はその人たちを尊敬せずにはいられなかった。彼を思うだけで胸がぎゅっと締め付けられるようだし、体は大丈夫なのか、ご飯は食べられるのか、などと様々な感情が渡辺の中でぐるぐると渦巻いていく。

97:2014/05/31(土) 18:08:14 ID:OugCCYE.0
渡辺にとってのドクオとは、お話の中に出てくる勇者や王子様のような存在だ。誰もが見てみぬふりをする悪に憤り、あの絶望的状況さえも切り抜けた。

从'ー'从「でも、記憶喪失なんだよね」

記憶を失ってなおあれだけの力を発揮したということは、元々どこかの騎士だったり、戦場を渡り歩いた傭兵だったのだろうか。他国では未だ内紛が絶えないとところもあると先生も言っていたし。

だとすれば、戦いを楽しむような狂気は彼の本質なのだろうか。先程の様子ではそのような素振りは一切なかったように思えたが。

从'ー'从(ちょっと、ほんのちょっとだけど、あの時のどっくんは怖かったかも)

本心を言えば、笑みを浮かべなから魔物を躊躇なく切り伏せるドクオに渡辺は怯えていた。普段の彼からは想像もできないあの顔はニダーが見せた嗜虐的なものとは違うように感じたのだ。

ニダーは無抵抗の悪を殺すことで自分が英雄になれるのだと思っていたが、ドクオのそれは似ても似つかぬ殺すことそのものを楽しんでいたように見えた。

この二つは似ているようで全く別物だ。何しろ目的がかけ離れているのだから。

从'ー'从(でも、それを私が怖がったらどっくんもこの世界で一人ぼっちだもん。私は絶対に、何があったってどっくんの味方でいるんだ)

記憶を失い、宛のない彼を一人になんてさせない。これは渡辺が自分に課す最大の任務だ。

大好きで、尊敬できる彼のそばに。

渡辺はそのために、何ができるのか、何をすべきなのかを考えながら帰路につくのだった。

98:2014/05/31(土) 18:09:39 ID:OugCCYE.0
◇◇◇◇

それから数日が過ぎた頃、未だドクオは退院できないでいた。体は健康そのものだというのに、人体を構成するマナが大幅に失われており、実生活に支障をきたす可能性が高いとのことだった。

渡辺の説明によると、マナというのは魔力と違い自然界に湧いてでるようなものではなく、人間や動物などの生命体が生きていくために自分で作り出すものなのだそうだ。

マナがなくなれば命に関わると言われてしまい、ドクオとしてもせっかく拾った命である以上大人しくせざるを得なかった。なにより渡辺があれこれと世話を焼くので病院生活も満更ではないなぁという感じである。

('A`)「にしても、病院がタダってのはすごいなぁ」

从'ー'从「そうかなぁ。成人したらたくさん税金を払うんだよぉ? ずっと健康だったらちょっともったいない気もするよ〜」

('A`)「必要経費だろ。万が一ってこともあり得るしさ」

从'ー'从「どっくんは大人だねぇ」

元いた世界では税金なんてろくに支払ってこなかったが、渡辺にはそれを知るよしもない。美少女の前では格好いいことを言いたい年頃なのである。要はばれなきゃいいのだ。

('A`)「それに病院に行かなきゃ生きていけない人もいるだろうし、人助けしてると思えば安いもんだよ」

从'ー'从「なるほど〜。どっくん頭いいね〜」

('A`)「いやー、それほどでも……あるよ」

99:2014/05/31(土) 18:10:39 ID:OugCCYE.0
こんなくだらない会話も出来るくらいには仲良くなった二人だが、実はお互いのことをあまりよく知らない。ドクオは記憶喪失という設定があるため迂闊なことは言えないのだが、渡辺があまり自分のことを話そうとしないのが原因だった。

話したくない理由もあるのだろうが、ドクオとしては渡辺のことをもっとよく知りたい。恋人関係になりたいとかそういうわけではないが、友達ゼロの童貞歴イコール年齢である男にとって美少女を深く理解したいと思うのは普通ではないだろうか。

('A`)(まぁ時間はたっぷりあるし、今後色々話す機会もあるだろ。ゆっくりでいいか)

ゆくゆくはなんでも話せる間柄になりたいとドクオは密かに計画を立てている。

何せこの世界にきて初めて、いや、ドクオの人生において初めての友人なのだ。それに、現実に絶望していたドクオを掬い上げてくれたのも渡辺だった。もしあの時渡辺が来てくれなかったらドクオは間違いなく死んでいたのだから。

('A`)(……そういや、俺どうして生きてるんだろうな)

渡辺を魔物が襲ったとき、それを阻止するためにドクオは身を呈して彼女を守ったはずだ。魔物の爪が自分の体を貫く感触は確かに本物だった。あれはそう簡単に忘れることは出来ないだろう。

それに、渡辺は言っていた。あのあとに大量の魔物が現れ、それを殲滅したのはドクオなのだと。

ベッドに立て掛けてある一本の剣へ視線をやる。

('A`)(どうしてこの剣を持ってるんだろう。俺がこの世界に来たことと関係があるのか?)

考えたところで答えは出ない。しかし、全ての出来事が無関係だとは思えない。裏で誰かが手を引いているのは間違いないだろう。

('A`)(この世界に来る前に見た黒の魔術団ってのが関係してるのか?)

だとすれば、やつらは何故姿を見せないのか。他に目的があるのだろうか、それともーー

从'ー'从「ーーって、どっくん聞いてるのぉ?」

100名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 18:11:22 ID:BPnmygfoO
はじまた、しえん

101:2014/05/31(土) 18:12:06 ID:OugCCYE.0
渡辺の声で、ドクオは現実に引き戻された。

('A`)「ん? あぁ、すまん。で、何の話だっけ?」

从'ー'从「むぅ〜。私が話してるのに無視するなんてひどいよぉ〜」

('A`)「悪い悪い」

从'ー'从「何考えてたの〜?」

('A`)「今後の身の振り方とか、まぁ色々。なんせ退院したら宿無しになっちまうし」

从'ー'从「あ、そういえばそうだね〜。どっくんお金持って……ないかぁ〜」

持ってないことはないのだが、こちらの世界では間違いなく使えない。とはいってもたかだか数千円しか入っていないのだが。

从'ー'从「それなら〜、私の家においでよ〜」

と、渡辺が名案とばかりに明るい声をあげた。

私の家においでよ。つまり、一緒に住もうと言うことだろうか?

渡辺と?

俺が?

(゚A゚)「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

きっかり三秒固まってからドクオは思わず大声をあげた。

102:2014/05/31(土) 18:13:12 ID:OugCCYE.0
('A`;)「あの、渡辺さん? 自分が今何をおっしゃったか意味分かってます?」

从'ー'从「? 一緒に住もうよ〜。私のおうた、一人じゃちょっと大きいんだよぉ」

('A`;)「いやいや、俺男、あなた女。これ分かる?」

从'ー'从「ほえ? どっくん女の子なの?」

('A`)「んなわけあるか。俺のマグナムは普段ちょっと奥手だけどいくときはぐいぐいいくよ? むしろ暴れん棒だからね?」

从'ー'从「そうなんだ〜」

駄目だこの子早くなんとかしないと。絶対意味分かってない。

('A`;)「申し出は確かにありがたいよ? 帰るとこないのは事実だし。けど、一つ屋根の下に若い男と女が一緒ってのは間違いが起こりかねないんだよ?」

从'ー'从「え〜、きっと楽しいと思うな〜。二人でご飯食べたり〜、お散歩したり〜、えとえと、あとはね〜」

ドクオは思う。渡辺は大物か馬鹿のどちらかだと。

というよりは男と女という根本的なところを理解していない。男はいつだって狼なのだ。隙あらばビーストモードに移行して赤ずきんちゃんを簡単に食べちゃうのだ。

103:2014/05/31(土) 18:15:49 ID:yMDGY0mY0
ドクオだってそれは例外ではない。

('A`)「んー、しかし、家がないのは事実なんだよなぁ……」

実に悩み所である。ドクオとしては渡辺と暮らすのは願ってもない申し出だ。男と女という性別の違いを抜きにしてもかなり魅力的だ。しかし、ドクオの理性が持つかどうか。お風呂場でばったり鉢合わせた日にはドクオの暴れん棒は渡辺をいとも簡単に蹂躙してしまうこと間違いなしである。

「ならば私としてはこちらの提案を推奨したいところだな」

思い悩んでいると、扉から声が聞こえてきた。ドクオは咄嗟に身構える。つい先程まで敵のことを考えていたからこその素早さだった。

(´・ω・`)「楽しそうに話をしていたところすまないな。少しばかり失礼させてもらおう」

('A`)「……誰だ?」

警戒を解くことなく、ドクオは短く尋ねる。自分に何ができるとも思えないが、せめて渡辺だけは守らなければならない。

ドアが開き、顔を出したのは、人の良さそうな顔をした好青年だった。モララーのような人を小馬鹿にしたような感じでもなく、落ち着きと品のよさを感じさせる。

从;'ー'从「しょ、ショボン副団長!?」

その顔を見て渡辺がすっとんきょうな声をあげる。

(´・ω・`)「そういう君は、確か渡辺さんだったかな?」

从;'ー'从「なんで私のこと知ってるんですかぁ〜?」

(´・ω・`)「君の話はこの街にいれば有名だからね。とは言っても、こうして顔を合わせるのは初めてかな」

从'ー'从「……」

104:2014/05/31(土) 18:16:47 ID:yMDGY0mY0
渡辺が押し黙り、ショボンは小さくすまないとだけ言うとドクオの方に向き直った。

(´・ω・`)「名乗るのを忘れていたな。私は王都ヴィップ魔法騎士団の副団長を務めているショボンというものだ。君はドクオ君で間違いないね?」

丁寧に名乗るショボンをじっと見つめ、彼から敵意がないことを悟ると、ドクオはようやく肩の力を抜いた。

('A`)「……騎士団って、モララーとかって人がいた、あれか」

(´・ω・`)「そういえば君はモララーに会っているんだったね。その顔を見ると、あまり好意的ではないようだが」

('A`)「その副団長様がこんなとこに何の用だ?」

(´・ω・`)「別に取って食おうというわけじゃない。今日はラウンジ地区での件のお礼と、君に話があってね」

('A`)「……話?」

(´・ω・`)「話を聞いてくれるかね? 君にとっても悪い話じゃないはずさ。記憶喪失である君にも、ね」

どうやらドクオの情報はあちらにほとんど伝わっているらしい。恐らくモララーが報告でもしたのだろう。

(´・ω・`)「ふむ。ではまず、ラウンジ地区での件、本当にありがとう。君の勇気ある行動が大勢の住民を救った。君がいなければ大勢の命が奪われていたところだ。騎士団を代表して礼を言わせていただく」

('A`;)「あ、いや……そんな大したことは……」

騎士団という組織はよく分からないが、副団長というからには相当偉いのだろう。そんな人物から頭を下げられると、こちらとしても恐縮してしまうのは自分の器が小さいからなのだろうか。

105:2014/05/31(土) 18:18:09 ID:yMDGY0mY0
(´・ω・`)「謙遜はしないでほしい。これは厳然たる事実なんだ。それにその功績を踏まえて君に提案があるのだからね」

('A`)「提案?」

(´・ω・`)「ああ。実はね、騎士団内部でも結界消失事件は極めて異例の事態だったんだ。街のあちこちにある魔力増幅炉と、街の中心にある時計塔の術式を用いて結界を作っているのだが、あれはそう簡単に解除できる代物ではないんだ」

('A`)「……加えて身元不明の男の登場。容疑が懸かるのは必然、ですか」

(´・ω・`)「理解が早くて助かる。しかし、その身元不明の男は命を張って大勢の命を救った。仮に君が容疑者だとしても、得るものは特になかったはずだ」

('A`)「現に大怪我を負って入院してますしね」

(´・ω・`)「深読みすれば我々では考えが及ばない壮大な計画があったのかもしれないがね」

('A`)「ま、否定はできませんね。証明する手だてがない」

(´・ω・`)「報告通り、意外と冷静な人間のようだ。まぁ色々と憶測を並べ立てるのはここでは控えさせてもらおう」

(´・ω・`)「先の件で君は大立回りをしてくれたのは紛れもない事実、そして君は不可思議な力を持ってあの場を切り抜けた。ここで問題なのは結界が消えたこととその不可思議な力だ」

('A`)「力? 俺は魔法も使えなきゃ素晴らしい筋肉も持ってませんよ?」

ショボンは目を細めると、ベッドの横に目を向ける。

(´・ω・`)「その剣は君が使っていたものだろう。違うとは言わないな?」

('A`)「……正直なところは、分かりません」

(´・ω・`)「その時のことを話してくれるかい?」

106:2014/05/31(土) 18:19:13 ID:yMDGY0mY0
ドクオはあの時のことを思い出せるだけ話した。自分が魔物にやられ気を失ったこと、その次に目覚めたのはベッドの上だったこと。そして、いつの間にかこの剣があったこと。

(´・ω・`)「俄には信じがたい話だが、ここに証人がいるのだから、違いないのだろうな」

从'ー'从「どっくんは嘘をついてなんかいません」

(´・ω・`)「疑ってはいないさ。信じがたいというだけでね」

('A`)「それで、俺はどうなるんです? モララーがいってた通り尋問でもします?」

ドクオの言葉にいち早く反応したのはショボンではなく渡辺のほうだった。箒を構えて臨戦態勢をとる。絶対に連れていかせないという固い意志が見え隠れしていた。

(´・ω・`)「そんなことはしないさ。言っただろう、私は提案があると」

ショボンは一旦そこで言葉を切るとドクオの目を真っ直ぐに見つめる。嘘偽りのない純粋な決意のようなものが宿っている。

(´・ω・`)「君を騎士団に迎え入れたい」

それがショボンの提案だった。

107:2014/05/31(土) 18:20:21 ID:yMDGY0mY0
ショボンの説明によれば、ドクオが魔物を退けた力の正体が理解不能なもので、その危険性も去ることながら未知の原理が働いている可能性があり放置しておくことは出来ないのだそうだ。

加えてドクオの素性が知れない以上、一般人として普通の生活を送らせるにはリスクを伴ってしまう。

それならば騎士団の監視が行き渡る所に置いた方がいいというのが騎士団や王族の総意なのだそうだ。

(´・ω・`)「もちろん君の衣食住は全て保証しよう。とは言っても一人にさせておくことは出来ないので一人見張りをつけさせてもらうがね」

('A`)「……」

悪くない、というのがドクオの率直な意見だった。

こちらの世界で宛のない生活に身を置くよりは、監視付きとはいえ生きることはできる。何より、ドクオがこちらに来た経緯を考えればより安全といえる。

('A`)「確かに俺としては願ってもない良条件ですけど、そちらにメリットがあるんですか?」

(´・ω・`)「まず一つに君の生活に制限を与えられるね。監視されてるのだから妙な動きをすればすぐに対応できる」

(´・ω・`)「二つ目に万が一が起こった場合の戦場だ。君の力は未知数だからね。被害がどれ程になるか我々でも予測がつかない。であれば騎士団だけで対応できる方が好ましい」

(´・ω・`)「三つ目は、君への圧力。騎士団に衣食住の全てを任せるということは君を生かすも殺すも我々次第」

うまく考えられている、とドクオは素直に感心する。下手なことをすればいつでもドクオを殺せると圧力をかけていけば、いつかはぼろがでるだろう。

結局のところドクオは信頼されていない。その上で一つの組織ができる最大の譲歩がこれだということなのだ。

108:2014/05/31(土) 18:21:15 ID:yMDGY0mY0
从;'ー'从「ふえぇー、どっくん騎士団に入るのぉ〜? 学校出てないのにすごいよぉ〜」

(´・ω・`)「厳密に言えば身柄を預かるだけさ」

信頼してもいいのだろうか。騎士団というものが国を守るための組織である以上、先程述べた理由は建前だ。いくらドクオが怪しいといっても身内に率いれるのは相応のリスクが伴う。ならば他に理由があると考えるのが妥当だろう。

例えば、犯人を誘き出すための囮。

騎士団にドクオが入ることで敵はドクオに手を出すことが難しくなる。それを踏まえてでも姿を見せるということはやつらの目的が達せられるのも近いということをさす。

逆にまだ時間がかかるということは実行に移す段階に至っていないことになる。国が総力をあげて守るものを奪うにはそれなりの準備と覚悟が必要になるからだ。その間に騎士団が敵を突き止めればゲームは終わる。

恐らく、ショボンはそこまで見越して提案をしているのだ。

('A`)「分かりました。<ご協力しましょう>」

(´・ω・`)「<こちらとしても手間が省けるよ>」

不意に視線を交わす二人。ショボンの目にはいったい何が写っているのか。どこまで先が見えているのからドクオには想像がつかなかった。

(´・ω・`)「では具体的な日程などは近いうちに使いをよこそう。まずは君の体を治すのが先決だ」

('A`)「分かりました」

(´・ω・`)「失礼する」

くるりと華麗に踵を返すと、ショボンは堂々たる華麗な動作で部屋を去っていった。その後ろ姿はどこか男というものを感じさせた。

109:2014/05/31(土) 18:22:06 ID:yMDGY0mY0
从'ー'从「ふわぁ〜、まさかどっくんが騎士団に入るなんて思わなかったよ〜」

ショボンが去ったあと、渡辺はそんなことを言った。

そりゃそうだろう。ドクオだって驚いている。

('A`)「まぁあっちはあっちで他の目的があるっぽいけど。にしても、なんかなぁ」

今考えると、提案の一つでもしておけばよかったかなぁと思う。

せっかくの、渡辺との同棲生活。

帰ってきたらお風呂にする? ご飯にする? それともわ・た・し? とか、お風呂場でばったりとか、ロマン溢れる展開が待っていたかもしれないというのに。

从'ー'从「それじゃ〜お祝いだねぇ〜」

ほわわーんとした口調で渡辺が告げる。聞いている者の高ぶった精神を和らげる効果に一旗あげられそうだ。

('A`)「いや、ないな」

この娘にとって男も女も全て等しく<友達>で収まるのだろうことは想像にかたくない。この数日間の生活でそれぐらいはわかるようになったのだ。

普段から頭がお花畑な彼女のことだから先程の提案にも特に深い意味はなかったのだと思う。家がないなら面倒見るよ、的な。

从'ー'从「どっくん住むところ見つかって良かったねぇ〜」

('A`)「ん? まぁ、そうだな。せっかく誘ってくれたのに悪い気もするけど」

从'ー'从「気にしなくていいよぉ〜。それに、この街にいればいつでも会えるもん」

('A`)「はは、違いないな」

ドクオの新しい生活はこうして幕をあける。魔法の世界で、新たな仲間と共に。

110:2014/05/31(土) 18:23:06 ID:yMDGY0mY0
◇◇◇◇

それからさらに数日後、ドクオは渡辺と共に騎士団の寮へと向かっていた。もちろん渡辺の箒に乗って。

相も変わらす不安定な箒にドクオは渡辺に密着していた。周囲には同じように箒で空を飛ぶ魔法使い達があっちこっちと飛び交っているが、よく落ちないなぁと感心するばかりである。

横に進むだけでなく縦方向にも動いているので体制も不安定だというのに、見ていて安心感があるのはなぜなのだろうか。

('A`)「魔法使いは宇宙に行ってもうまく生活できそうだな」

从'ー'从「ウチュウ?」

ドクオの独り言に渡辺が反応するが、ドクオは何も答えなかった。

('A`;)(あっぶね。俺ってば記憶喪失の設定なのにこんなこと口走っちゃ駄目じゃん)

自分の浮わついた心をうまく押し込めて生活しないと、すぐにぼろが出そうになる。別に記憶喪失を隠さなくてもいいとは思うのだが、簡単に言えば引っ込みがつかなくなっているのである。

渡辺にせよショボンにせよ異世界から来ましたと言えばそれに至るまでの理由をきちんと話せばそれですむ話なのだが……。

会社で小さなミスを隠してたらなんだか大事になっていた時の気分を味わうドクオ、二三歳の夏であった。

从'ー'从「あ、見えてきたよぉ〜」

111:2014/05/31(土) 18:25:38 ID:xumOU3Zc0
どうでもいいことを考えていると渡辺が声をかけてきた。直方体のアパートのような建物がいくつも並んでいるのが見える。どうやらあれが騎士団の寮のようだ。

ドクオとしてはてっきり騎士団本部の土地内にあるのかと思っていたのだが、あくまでその近くにあるだけのようだった。ドクオの知らない機密情報の守秘義務的な色々があるのかもしれない。

('A`)(つっても職場の中に寮がある会社なんか見たことないし、これが当たり前なのか)

渡辺と共に寮の前に降り立つと、ショボンともう一人ーー小さな女の子で渡辺と同様三角帽子をかぶっているーーが二人を出迎えてくれた。

从'ー'从「こんにちはー」

渡辺がにっこりと挨拶をすると、ショボンが柔らかな笑みを浮かべて、

(´・ω・`)「わざわざ出向いてもらってすまないな。本来であればこちらから迎えにいくべきなのだろうが」

('A`)「気にしないでください。住む場所を用意してくれるだけでもありがたいですから」

社交辞令のような挨拶を交わし、ドクオは今最も気になっていることを聞いてみた。

('A`)「この子は?」

(´・ω・`)「む? ああ、君の部屋の隣に住む監視役さ。こんな成りをしているが立派な騎士の一人さ」

(*゚ー゚)「初めましてドクオさん。騎士団特殊魔法遊撃隊所属のしぃといいます。これからお隣同士よろしくお願いします」

('A`;)「お、おぉう」

(´・ω・`)「こう見えて彼女は優秀でね。若干十四歳ながら大魔導師なんだ」

112:2014/05/31(土) 18:28:06 ID:rCSdatdo0
ショボンがしぃの紹介を淡々としているがドクオはその内容がちっとも頭に入らなかった。

隣? 女の子? 監視役?

といった具合に女の子が自分の部屋の隣に住むという事実に混乱していたからである。

('A`)(渡辺が一番可愛いが、いやいやロリというのもこれはこれで)

从#'ー'从「むぅ」

鼻の下を伸ばしていたドクオの足に激痛が走った。渡辺が足を踏みつけたようだ。

('A`;)「ほあぁぁぁぁぁ!!」

从'ー'从「どっくんのバカ」

一瞬自分にフラグが立ったのだろうか、と思うが、もしかしたら渡辺はドクオのだらしなさに怒ったのかもしれないと考え直す。

自分の身の丈を考えなければ後々痛い目に合うのは知っているのだ。

(;*゚ー゚)「あの、大丈夫ですか?」

しぃがドクオの身を案じ、手を差し出すと柔らかい光が体を包み込む。光が消えた途端、ドクオの足の痛みが消えた。

('A`)「……お?」

(*゚ー゚)「回復魔法です。痛みが消えたと思います」

('A`)「これが回復魔法か」

やはりこの世界が元いた世界ではないのだと改めて認識する。

入院中にもいくつか回復魔法を受けてはいるのだが、それらは全てドクオの意識がないところでの話だった。感覚的にはこれが初めて受ける回復魔法なのである。

(´・ω・`)「さて、そろそろ君が住む部屋に案内しよう。私もこれから大事な会議があるのでな」

('A`)「あ、すいません。ほら、渡辺もいくぞ」

从#'ー'从「ぶーぶー」

113:2014/05/31(土) 18:29:17 ID:rCSdatdo0
膨れている渡辺の手を引きながら、寮へと向かう。白い壁で作られたアパートのような外見通り、ドクオの世界でよく見たタイプとほぼ同じ内装のようだ。

いくつかの棟に分かれ、その間に二階へ上る階段、内装は知らないが格安の市営アパートのようにも感じる。

建物は二階までしかないようなので高さはない。横幅を考えれば間取りはそれなりに広いのかもしれない。

(´・ω・`)「ここがドクオ君が住んでもらう部屋だ」

ショボンが立ち止まった部屋はアパートの右端の二階である。ということは、その反対側にある扉がしぃの住む部屋なのだろうか。

中に入ると玄関があり、左側にキッチン、右側にトイレとシャワールーム。奥に進むと六畳ほどの部屋が二つ並んでおり、二部屋を区切るようにスライド式のドアがあった。

('A`)「いい部屋ですね」

(´・ω・`)「最近改装したばかりだからな。このくらいなら住むのに困らないだろう」

すでに家具などは運び込まれているようで、あちらこちらに梱包用と思われる箱が散乱していた。必要最低限の家具とはいえ、結構な量である。

114:2014/05/31(土) 18:32:09 ID:Hky.zwyE0
(´・ω・`)「他に必要なものがあればこれで連絡してくれ。とはいっても審査があるだろうからすぐには手に入らないだろうがね」

そういってショボンが渡してくれたのは小さなタブレットのような端末と、お金が入った袋だった。端末の方は見た感じこの世界での携帯電話のような役割なのかもしれない。

('A`)「いやー、これで十分ですよ」

ドクオが端末をいじくりながら答えると、後ろのほうから渡辺の楽しげな声が聞こえてきた。

从'ー'从「あー、どっくん見てみてー。トイレとお風呂が別々だよぉー」

('A`)「俺より楽しそうだなあいつ」

(´・ω・`)「では近いうちに今後の予定などをしぃに伝えさせよう。私はそろそろ行かなくてはならない」

('A`)「分かりました。何から何までありがとうございます」

(´・ω・`)「なに、君が敵でないのならこれぐらい安いものさ。それではな」

ショボンが出ていくと、傍らにいたしぃがさて、と一歩前に出る。

(*゚ー゚)「それでは片付けでもしましょうか」

('A`)「え? いや、一人で出来るから大丈夫だって」

(*゚ー゚)「でもドクオさん、話によれば記憶喪失でしたよね? 魔法使えるんですか?」

('A`)「あー、いや、使えないけど」

(*゚ー゚)「それならお任せください。これぐらいなら魔法ですぐ終わりますから。では、家具の配置などを指示してください」

115:2014/05/31(土) 18:51:58 ID:EuspDjiA0
魔法ってそこまで出来るのかよ、とドクオは半信半疑ながらクローゼットを部屋の隅に置いてくれるよう頼んだ。

それを聞いたしぃはポケットから小さな折り畳み式のステッキを出してクローゼットに向ける。すると、

('A`)「おおー」

クローゼットが持ち上がり、ドクオが指定したところまでやってくるとゆっくり降りてきた。

(*゜ー゜)「こんなものです。もっと
詳細な配置図を作っていただければ一瞬で終わりますよ」

从'ー'从「ほぇー、しぃちゃんすごいよぉ〜


このようなやり取りを終えたあと、ドクオが指定した場所へしぃは家具を配置していく。その間渡辺はショボンが用意してくれた台所用品などを整理してくれた。

一日かかるかな、とドクオが思っていた片付けはしぃの活躍によってほんの一時間で終わってしまったのだった。ちなみにドクオは何もしていない。

('A`)「二人ともありがとう。すごい助かった」

(*゜ー゜)「いえいえ、これくらいなら朝飯前ですよ」

从'ー'从「私もお片付けは得意なんだよ〜」

その後、ドクオはしぃの部屋も片付けがあるのか聞いてみたが、ずいぶん前からしぃはその部屋に住んでいたとのことだった。だからこそしぃがドクオの監視役に選ばれたそうなのだが、この世界のジェンダーはどうなっているのか不安になる。

さすがにこのままはいさよならというのもなんだか申し訳なく思ったドクオは、先程ショボンからもらったお金を取りだし、

('A`)「なら、せめて飯でも奢らせてくれよ。日用品とかも買いたいし、そのついでといっちゃなんだが」

(*゜ー゜)「それくらいなら甘えさせていただきます」

从'ー'从「じゃあどっくんに街を案内するよぉ〜。んとね〜、おすすめのアイスクリーム屋さんと〜」

('A`;)「街に繰り出してから教えてくれよ」

あれこれ考えだす渡辺に呆れつつ、ドクオは彼女の手を引いて街へと向かうのだった。

116:2014/05/31(土) 18:53:10 ID:EuspDjiA0
◇◇◇◇

(´・ω・`)「報告にあがりました、陛下」

ショボンはきらびやかな謁見の間の中央に跪く。この場には自分と、玉座に腰を下ろした初老の男しかいない。本来いるべきはずの護衛のものたちは席を外させている。

( ΦωΦ)「ご苦労なのである、ショボン。して、進捗の方は?」

(´・ω・`)「依然滞りなく進めております。寮には見張りをつけておりますので妙な動きをすれば騎士団総力をあげてすぐにでも始末は可能です」

( ΦωΦ)「ふむ、しかし、報告によれば彼が持っている剣は……」

(´・ω・`)「はい。古文書を当たらせましたところ、例のもので間違いありません」

( ΦωΦ)「さらには<忌み子>もいるのであろう? 我輩の計画に支障を来さねばよいが」

(´・ω・`)「ご心配なく。遠征に行っているジョルジュ騎士団長から報告があがっております」

( ΦωΦ)「それは誠か?」

(´・ω・`)「こちらがその親書になります」

ショボンは一枚の新書を王へと献上する。王がそれを読む間、ショボンは今回の件について思案した。

そもそも、ドクオという青年がこちらがわにやってきたのは黒の魔術団の仕業であることは騎士団の上層部含め王族の連中にも知れ渡っている。記憶喪失だなんてのも嘘であることも当然分かっている。

そして、彼が偶然巻き込まれた被害者であることも。

しかし、そこが問題ではないのだ。異世界の人間がこちらがわに偶然来てしまったことは今までにも報告が上がっている。今回のことも例に漏れずその偶然の一つにすぎない。

問題なのは、彼の持っている赤黒い剣。この世界の歴史において最も人を殺し、神をも殺したあの魔剣が、何故今になって現れたのか。

もちろん黒の魔術団がそれに一枚噛んでいることは分かっている。だが、どこから魔剣を呼び出し、彼を持ち主とさせることが出来たのか、それらがショボンを悩ませているのだ。

( ΦωΦ)「どうやらうまくやっているようであるな」

(´・ω・`)「では?」

( ΦωΦ)「うむ。計画を少し早める必要があるのである。早急に件の物を見つけるのである」

(´・ω・`)「仰せのままに」

そういって一礼し、ショボンは謁見の間をあとにした。

117:2014/05/31(土) 18:54:11 ID:EuspDjiA0
(´・ω・`)「ふぅ……」

騎士団本部にある自室に入ると、ショボンは大きな溜め息を吐いた。

黒の魔術団も余計なことをしてくれたものだ。ドクオという偶然は仕方ないにせよ、魔剣はどうしようもない。何せあれにはこちらの魔法が通じないのだ。

伝承通りであれば、あれは本来人が持つことの出来ないものである神器の一つなのだ。一度剣を握れば体中のマナというマナを喰われ、最終的に死に至らしめる。

だが、どういうわけかその持ち主であるドクオは未だ健在で、特に異常をきたしている様子もない。

医者のカルテにも目を通したが、確かに通常よりはマナの生成量が少なくはあるが、生活に問題ないということだった。

つまり、黒の魔術団が何かしらやったのだろう。

不幸中の幸いは、ドクオが思っていたよりも善人だったことだろう。あれは人も、動物も、魔物でさえも問答無用で一撃なのだから。

(´・ω・`)「早く黒の魔術団を見つけなければ」

ショボンは休む間もなく次の仕事へと移る。全ては王都のため、王のために。

118:2014/05/31(土) 18:56:24 ID:EuspDjiA0
とりあえず第二話前編終了です
なんか色々詰め込みすぎた感が満載ですし地の文がグダグタしてるのは許してください
これを書きながらスキルアップでもすればなぁとか思っています
投下中の支援ありがとうございました
死ぬほど嬉しかったです

119名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 22:07:11 ID:BPnmygfoO
早く後半を投下するんだ、いいところで切りやがって!

120名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 00:54:59 ID:.Ydr3g0Y0
特にひっかるようなとこはなかったぜ?
続きが楽しみだ

121名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 09:40:58 ID:q5uKBTuU0
ワクワクが止まらんタイプの王道ファンタジーだな
こういうの大好き
続き超期待

122名も無きAAのようです:2014/06/01(日) 11:31:49 ID:rY/nll260

ボリュームあって楽しいよ
後編も期待してる

123:2014/06/01(日) 14:40:49 ID:NMaBX0sk0
第二話後半の投下時間のお知らせです
明日の夜九時から十時くらいに投下します
話数を重ねるごとに文章量が多くなってますが、別に狙っているわけではありません
たまたま偶然長くなっているだけです
渡辺が可愛すぎて夜も眠れないだけなんです

124名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 19:30:11 ID:Lt7at/Og0
ブーン系は面白ければ面白いほど失踪フラグが立つんだよなあ

125:2014/06/02(月) 21:23:22 ID:2qchLoc20
第二話後半投下します

126:2014/06/02(月) 21:24:04 ID:2qchLoc20
◇◇◇◇

王都ヴィップは大きく分けて四つの地区から成っている。

中央にそびえる時計塔を中心として、北側が城や騎士団の駐屯所、魔法学校があるヴィップ地区。東側が貴族達が住むきらびやかで派手な装飾を施した豪華な家が立ち並ぶシベリア地区。南側が飲食店や日用品などを取り扱う商店街があり、最も活気があるヴィップラ地区。西側は魔法が使えなかったり、使えても騎士団に属さず魔法アイテムなどを売って生計を立てる、いわゆる一般人や仕事人のベッドタウンであるラウンジ地区。という具合になっていた。

('A`)「王都ってぐらいだからやっぱ活気があるなぁ」

時計塔の下からヴィップラ地区を眺めるドクオは思わずそんな感想を漏らした。ドクオの住む騎士団寮はヴィップ地区でもやや南側に位置しているため、店が並ぶヴィップラ地区まで徒歩数分という立地だった。

(*゚ー゚)「これでも商業都市ヤ・オーイの半分にも満たないんですよ」

从'ー'从「そうなの〜?」

(*゚ー゚)「ええ。以前仕事でヤ・オーイへ行きましたが、熱気が違いました」

('A`)「へぇー。是非一度行ってみたいな、そういうの聞くと」

ドクオ達三人はとりあえず飲食店を目指して歩き出した。この世界で好まれる食事が分からないドクオは店の善し悪しが分からないので、基本的には渡辺としぃに選択を委ねるしかないのだが。

当の女性陣はああでもないこうでもないと熱く話し合いを繰り広げており、しばらく決まりそうになさそうだ。そんな二人はドクオから見ると仲のいい姉妹のように見える。

以前ニダーとかいうやつが渡辺に突っかかっていたが、しぃはそういった感情を持っていないのだろうか。確か、忌み子とか言われていたが、一体どういう意味なのだろう。

渡辺はドクオから見ても明るいし、可愛らしい容姿をしている。ちょっと間の抜けた所もあるが、それはそれで愛嬌があると言える。魔法だって見習いとはいえ使えていたのだから、特に嫌悪される理由は見当たらない。

127:2014/06/02(月) 21:26:46 ID:2qchLoc20
('A`)(あとでしぃちゃんにそれとなく聞いてみるかな)

こういうことはこちらの世界でしか分からないのだろう。ドクオはこの世界の常識ですらよく理解していないのだ。文字だって読めないし書けない。どういうわけか意思の疎通は図れているものの、基本的にドクオは異端者だ。

あれこれ考えたところでドクオにはこの世界の常識や秩序を動かせやしない。出来ることなんて限られたただの男。ならば出来ることは渡辺の味方でいることだけなのだ。

そのためには情報だ。例えどんなことがあろうとも、渡辺の味方であり続けなければ、あの日助けてもらった恩は返せそうにない。

从'ー'从「どっく〜ん。お肉とお魚だったらどっちがいいかなぁ〜?」

(*゜ー゜)「ドクオさんは肉に決まってます。むしろ肉食べて筋肉つけないとガリガリのままですよ」

从'ー'从「えー、お魚だって美味しいんだよぉ〜?」

('A`)「どっちも食べればいいじゃん。そういう店くらいあるだろ?」

从'ー'从「あ、それならねぇ〜、この前見つけたお店があるよぉ〜」

渡辺がそういって小走りで駆けていく。少し離れたところで手を振り、

从'ー'从「早く早く〜」

と笑顔を浮かべた。

ドクオはその笑顔を見て、もう一度深く心に刻む。

この笑顔を絶対に無くさないようにしよう、と。

128:2014/06/02(月) 21:27:48 ID:2qchLoc20



王都ヴィップ、シベリア地区にある豪邸の一室で、ニダーは一人悪態をついていた。先日の傷はほぼ完治しているものの、彼の心の隙間は以前埋まらぬままだった。

<ヽ`∀´>「くそくそくそ!! あの忌み子め、
よくもやってくれたニダ!! ウリは貴族ニダ!! あんなクズよりも価値があるニダ!!」

地団駄を踏みながらあの日の出来事を思い出す。邪魔さえ入らなければ忌み子を始末できたはずなのだ。結局忌み子は忌み子、周囲に破滅をもたらす存在でしかない。

何より彼が許せないのは忌み子に味方したあの男の存在だ。同じ忌み子のくせに、人を守ろうとしていた。

<ヽ`∀´>「殺してやるニダ。骨も残さず存在を消してやるニダ」

しかし、魔法使いである以上私闘は禁じられているし、一般人への魔法は永久的に資格を剥奪されてしまう。貴族であるニダーにとって魔法使いとは重要なオプションなのである。

<ヽ`∀´>「しかし、だからといってこのままではウリの腹の虫が収まらんニダ。父上に言って揉み消してもらうしか……」

『それならばいい方法があるけれど』

不意に声が聞こえた。周囲を見渡すが姿がない。魔法の一種だろうか。

ニダーは声をあげず、臨戦態勢に入る。この屋敷は厳重に守りを引いているはずなのに、侵入者がいるということは相当な手練れだろう。下手をすれば簡単に負けてしまう可能性もある。

『あら怖い顔。大丈夫、私はあなたの味方よ』

129:2014/06/02(月) 21:28:33 ID:2qchLoc20
<ヽ`∀´>「……なら、姿くらい見せたらどうニダ」

『訳があって顔を見られるわけにはいかないの。でも、私はあなたの望むものを与えてあげられる』

<ヽ`∀´>「……例えば?」

『あなたの気に入らない人間を、誰にも見られずに始末する力』

<ヽ`∀´>「っ!! それは本当ニダ!?」

『私は嘘が嫌いなの。ふふふ』

<ヽ`∀´>「どうすればいいニダ」

『時計塔の地下に行きなさい。そこにあなたの望む力がある』

<ヽ`∀´>「時計塔の地下? あそこには魔力炉しかないはずニダ」

『行ってみればきっと分かるわ。私から言えるのはそれだけ』

<ヽ`∀´>「分かったニダ」

『ふふふ、それではいい夢を』

声はそれだけ言うと、二度と聞こえなかった。

130:2014/06/02(月) 21:29:40 ID:2qchLoc20
◇◇◇◇

食事を終えた三人は、ヴィップラ地区を適当にぶらついていた。ドクオの日用品は購入したもののそんなに数が多くなかったので時間があまってしまったのである。

(*゚ー゚)「ところでドクオさんは、見たことのない不思議な格好をなさっていますね」

服屋を冷やかしていると、不意にしぃがそんなことを言ってきた。

ドクオの格好は相も変わらずスウェットである。日本では寝間着としてもコンビニに行くにしても対応できる万能衣服だ。

('A`)「そんなに変か、これ」

从'ー'从「変ではないけど……」

(*゚ー゚)「目立ちますね」

確かにスウェットに剣を提げるベルトという出で立ちは少々目立つかもしれない。他の帯剣者たちを見れば動きやすそうでいてスポーティーな格好が多い。中にはごてごてしたいかにも偉そうな貴族風な人間もいるが。

('A`)「んー、じゃあ思いきって服でも買ってくか。確かにこの服のままうろうろするのも周囲の目が気になるし」

先程からドクオ達をちらちらと見ていく通行人たちは、確かにドクオも気になってはいたのだ。それが自分に向けられているものだと信じたくなかったただけで。

131名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 21:30:52 ID:ybXhO3/w0
キター!

132:2014/06/02(月) 21:31:31 ID:2qchLoc20
しかし、渡辺としぃに言われた以上、もう気にならないとはいえないだろう。指摘されたということはつまりそういうことなのだ。

('A`)「どういうのが一般的なのか分かんないから、出来ればレクチャーしてもらいながら選びたいんだが」

その辺にあった服を適当に物色しながらドクオは二人にお願いしてみる。この世界の流行や一般的なコーディネートがよく分からないドクオからすれば下手なものを選んで再び奇異の目を向けられたくないのだ。

(*゚ー゚)「私は男性の衣服はよくわかりませんが……」

从'ー'从「私もだよぉ〜」

('A`)「ん〜、そんじゃこう、剣を持ってても違和感がないっていうか、そんな感じの服を選ぶか。変だったら言ってくれ」

(*゚ー゚)「分かりました」

从'ー'从「了解だよぉ〜」

こうして服を選び始めるドクオだったが、すぐにこのことを後悔するはめになる。

というのも、

(*゚ー゚)「色のバランスが悪いです」

(*゚ー゚)「コーディネート以前の問題ですよ」

(*゚ー゚)「センスなさすぎですね駄目男さん」

等々、しぃちゃん十四歳にことごとくダメ出しを頂くことになったからである。

133:2014/06/02(月) 21:32:37 ID:2qchLoc20
結局しぃがあれこれ選んだものをなん着か買うことで手を打ったのだが、ドクオはすでに満身創痍だった。

从;'ー'从「お、お疲れ様どっくん」

('A`/)「ホントウニツカレタヨ」

しぃが選んだ服を着込み、剣を提げると少しはましになった、ように思う。実際周囲の人たちの注目を浴びてはいないので問題はない。

(*゚ー゚)「ドクオさんはあまりセンスがないですね。次回買いに行くことがあればまた私が選びますよ」

('A`/)「アリガトウゴザイマス」

余計なお世話だと言いたいところだが、彼女は自分よりも年下と心の中で言い聞かせ、ドクオはなんとか平常心を保つ。

実際しぃの見立てはなかなかのもので、衣服に頓着のないドクオから見ても見違える、とまではいかないがそこそこ見れる印象にはなったと思えた。

いかんせん顔の作りが悪いのでイケメンのようにモテモテというわけにはいかないが。

134:2014/06/02(月) 21:33:50 ID:2qchLoc20
从'ー'从「でもどっくんかっこよくなったと思うよぉ〜」

('A`)「ほんとに?」

从'ー'从「ほんとに〜」

渡辺からお墨付きを頂けたのだから、見た目に関してはもう触れないでおこうとドクオは誓った。

店から出たところでドクオは二人に声をかける。

('A`)「さってと、んじゃ買い出しも終わったし、これからどうしますかね」

(*゚ー゚)「それなら時計塔に行ってみませんか? 一応王都の名物なんですよ」

从'ー'从「あ、それはいいね。王都の景色が一望できるんだよぉ〜」

('A`)「へぇ、そいつは見なきゃ損だな」

しかし、時計塔の下にいた際入り口らしきものは見かけなかったような気がするが、どうやって登るのだろうか。

それを二人に聞くと、お互いに顔を見合わせにっこりと笑った。

(*゚ー゚)「それは魔法使いにしか分からない秘密の出入り口があるに決まっているじゃないですか」

从'ー'从「魔法使いじゃなきゃ中に入れないんだよぉ」

('A`)「魔法使いじゃなきゃ?」

ドクオは何気なく時計塔を見上げた。入口は下にはなく、かつ魔法使いでなければ入れない。と、いうことは……。

('A`)「……上か」

135:2014/06/02(月) 21:34:50 ID:2qchLoc20
从'ー'从「だいせいか〜い♪」

(*゜ー゜)「では、さっそく行きましょう」

しぃがステッキを取りだし小さな声で何事かを言うと、彼女の小柄な体が宙に浮いた。

从'ー'从「それじゃどっくん乗って乗って」

渡辺は魔方陣を呼び出し箒を呼び出すと、早速跨がりドクオを促した。

('A`)「空飛ぶのって苦手なんだよなぁ」

ぶつくさと言いながらも渡辺の後ろに座ると、奇妙な浮遊感と共に箒はみるみる上昇していく。

从'ー'从「それ〜!!」

渡辺の掛け声で箒は空を行く。王都の人達が豆粒のように小さくなり、やがて認識できなくなるほどの高さに来るとようやく到着したようだ。

('A`)「おおー、こいつはすごい」

時計塔に足をつけた三人は、縁に腰掛けてその景色を堪能する。王都どころか、その先にある緑や海まで見渡せた。太陽はすでに傾きかけており、淡いオレンジ色が街を、世界を彩っている。

少しの間だけ、ドクオはそれに見とれていた。他の二人も黙って遠くを見つめている。

136:2014/06/02(月) 21:35:48 ID:2qchLoc20
やがて、ドクオは口を開いた。

('A`)「自然の神秘ってやつだな」

(*゚ー゚)「ドクオさんは確か、記憶喪失でしたね」

('A`)「ん? そうだけど」

(*゚ー゚)「ならばあなたが見る美しい景色はこの場所が初めてということになるんて すね」

从'ー'从「そうだねぇ〜。どっくん、この景色は絶対に忘れちゃ嫌だよ?」

つい渡辺の方を見ると、目があった。渡辺はにっこりと朗らかに笑っており、いつしかドクオも笑顔になっていた。

('A`)「忘れねぇよ。こんなに綺麗なもの」

(*゚ー゚)「忘れたらお仕置きですね」

从'ー'从「えへへ、そうだね〜」

このまま時間が止まってしまいそうなほどにのんびりとした優しい時間を、ドクオは一生涯忘れないだろう。

この世界のこの瞬間、この場所でなければ見ることも感じることもできなかった大切な何かは、ドクオの中で褪せることなく飾られていく。

そう思えるほどに、ここから見えるものは美しく、そして途方もなく大きかった。

137:2014/06/02(月) 21:36:42 ID:2qchLoc20
◇◇◇◇

ニダーは一人階段を下りていく。手元にあるランプだけが足元を照らすのみで、その先は闇がどこまでも続いていた。

この先にあるのは王都を守る結界の動力である魔力炉が設置されている。仮にこの魔力炉を失えば、先日のように王都は大混乱に陥るだろう。復旧も数日単位ではなく、もっと時間がかかる。そうなれば王都は一月と持たず壊滅するだろうことは安易に予想できた。

だが、用があるのは魔力炉ではない。気に入らないものを徹底的に叩き潰す圧倒的な力。それさえ手に入ればこんなところに用はない。

螺旋状に続く階段を一歩一歩確かめるように進んでいくうちに、ようやく目的の場所へたどり着いた。

周囲に目を配ると、円を描くように設置された魔力炉が鼓動のように音を立てている。その中心には結界を形作るための陣が描かれており、数秒ごとに光を発していた。

<ヽ`∀´>「……なんにもないニダ。こりゃガセを掴まされたニダ?」

一応他に何かないかと物色するが、特にめぼしいものはなさそうだ。

無機質な地下室にニダーの足音が響く。

その時だった。

<;ヽ`∀´>「っ!!」

目の前の魔法陣から黒い何かが噴き出している。

すぐに魔法の詠唱を開始するが、何かは凄まじい勢いでニダーの体を侵食していく。

<;ヽ`∀´>「っ〜!!」

138:2014/06/02(月) 21:37:37 ID:2qchLoc20
ニダーの全身を覆い尽くした何かは彼の中にあるそれらを食い破り、新たなそれを注入していく。

為す術もなく、ニダーはその感覚に身を委ねるしかなかった。

やがて、何かはニダーを解放すると始めから何もなかったかのように消えてしまった。

そして、立ち尽くしていたニダーは自分の内から溢れ出す今までにない力を感じた。

<ヽ ∀ >「……これが、力ニダか」

これならば誰にも負ける気がしない。気に入らないものを、逆らうものも、この国さえも叩き潰せるような気さえする。

<ヽ゜∀゜>「これはいいものを手に入れたニダ」

<ヽ゜∀゜>「ウリに逆らうやつは」





.

139:2014/06/02(月) 21:38:31 ID:2qchLoc20









<ヽ゚∀゚>「皆殺しニダ」








.

140:2014/06/02(月) 21:58:20 ID:r7CkAjHg0
日が完全に傾いた頃、ドクオたち三人は夕食を食べ寮への道を歩いていた。とはいっても渡辺の家はラウンジ地区にあるため、時計塔まで来たらお別れではあるが。

从'ー'从「私も一緒に寮に住みたいよぉ」

(*゜ー゜)「それならば早く騎士団に入団することです」

从'ー'从「簡単に言わないでよぉ〜」

('A`)「つっても俺なんかはしばらくやることないだろうし、いつだって会えるだろ」

从'ー'从「そういうことじゃないの!」

渡辺は一人ぷりぷりと怒っている。もしかしたら単に寂しいだけなのかもしれない。

(*゜ー゜)「大丈夫ですよ。私はドクオさんのような方はタイプではありませんから」

('A`;)「この子さらっと毒吐いたよ!?」

(*゜ー゜)「ドクオさんにもそのうちいいことありますよ。多分」

('A`;)「毒吐いた張本人が慰めるっておかしいよ」

今日一日行動を共にして思ったが、このしぃという女の子は意外に毒舌である。しかも人の心を的確に抉るようなことをさらっと言うのでドクオのHPはメリメリ減っていくのだ。

141:2014/06/02(月) 21:59:09 ID:r7CkAjHg0
やはり天才というのはどこか変わっているものなのだとドクオはまた一つ勉強になった。

('A`)「それじゃそろそろ帰りますかね」

从'ー'从「はぁ〜い」

(*゜ー゜)「それでは渡辺さん、また」

('A`)「暇な時はうちにでも来いよ〜」

从'ー'从「うん!! またね〜」

三人が別れようと、それぞれの道へ歩き出した時。

地面が大きく爆発した。

('A`)「っ!?」

(*゜ー゜)「っ」

从'ー'从「ほえ?」

土煙があがり、周囲の視界を奪う。そんななか、黒い何かが飛び上がったのをドクオは確認した。

(*゜ー゜)「下がってください」

ドクオを庇うように前へ出るしぃは、すぐさまステッキを取り出すとくるりと円を描く。すると、土煙が一斉に消え、辺りは元通りの景色を取り戻す。

142:2014/06/02(月) 22:00:56 ID:r7CkAjHg0
(*゚ー゚)「警告します。今すぐ無駄な抵抗をやめて出頭してください。さもなくば少々痛い目にあっていただくことになりますが」

しぃが暗闇に向かって警告するが、返答はない。どころか地面に空いた穴から風の塊がしぃへと飛んできた。

(*゚ー゚)「っ!?」

しぃはすぐさまステッキを動かすが、不意を突かれたのかステッキを落としてしまう。それを拾おうと屈んだ隙に、上空から追撃がくる。

('A`;)「しぃちゃん!!」

ドクオは思わず走りだし、しぃの体を突き飛ばしていた。風の塊はドクオの体をいとも簡単に吹き飛ばし、ドクオは地面に転がった。

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

从;'ー'从「しぃちゃん後ろ!!」

渡辺が声を荒げると同時に複数の炎弾を放つが、敵の攻撃は一向に衰えずドクオとしぃに襲いかかってくる。ドクオも何とか地面を転がってそれらを避けるが、最初の一撃が堪えているらしく、素早く行動できない。

('A`;)「くそ、一体なんだってんだ」

剣を抜き放ち、ようやく立ち上がる。しぃもステッキを拾い臨戦態勢を取っていた。

「お久しぶりニダ。クソゴミども」

やがて聞こえてきた声は、どこかで聞き覚えがあった。確か、ドクオが初めてこの世界にやってきた際に聞いた覚えがある。

从'ー'从「この声は……」

渡辺も同じことを思ったらしく、息を飲む音が聞こえた。

<ヽ゚∀゚>「生きていてくれて嬉しいニダ。思わず殺しちゃいたいくらい、ニダ」

声の方を見ると、いつか渡辺に暴言を吐いていた忌々しい顔が宙に浮きながら、ニヤニヤと笑っていた。

143:2014/06/02(月) 22:02:48 ID:r7CkAjHg0
ニダーが手を振るうといくつもの魔方陣が浮かび上がり、そこから攻撃用に変換されたいくつもの風がドクオ達を襲う。地面を抉り、砕き、破壊を振り撒きながら。

(*゚ー゚)「こんな街中で魔法を使うだなんて何を考えているんですか!?」

珍しく大声をあげるしぃに、ニダーはニヤニヤと笑みを浮かべ、

<ヽ゚∀゚>「そんなの決まってるニダ」

再び魔方陣を作りあげ、

<ヽ゚∀゚>「お前達をミンチにすることニダぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

刃と化した風を射出した。

(;*゚ー゚)「くっ」

しぃは先程から攻撃を行わず、ドクオと渡辺を含む防御壁を作ることしかしない。おそらく、こちらを心配しているのだろう。

仮にしぃがニダーに攻撃すれば、ニダーの操る風の魔法はドクオを襲う。渡辺は魔法で迎撃出来るだろうが、ドクオが持つのはこの剣一本。剣では魔法に勝てないのがセオリーなのだ。

しかし、この場合ドクオの身を案じている場合ではない。

144:2014/06/02(月) 22:04:27 ID:r7CkAjHg0
('A`;)「しぃちゃん!! 俺のことは気にするな!! あいつをさっさとやっちまえ!! このままじゃ一般人に被害が出るぞ!!」

(;*゚ー゚)「ですが……」

从'ー'从「私がどっくんを守るから大丈夫だよ!!」

渡辺の声にしぃが防御壁を解く。すぐさまドクオに風の刃が向かってくるが、渡辺がそれらを的確に処理していく。ドクオは地面を蹴り、ニダーに向かって剣を振るうがやはり届かない。

<ヽ゚∀゚>「クカカ、無駄無駄ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

('A`;)「うおっ!!」

ニダーの周囲に風が集まり、一気に爆発。ドクオは宙を舞い、地に叩きつけられた。

(*゚ー゚)「ならばこれはどうですか?」

しぃがステッキを振るうと、ニダーを取り囲むように氷柱が隙間なく出現した。

(*゚ー゚)「お仕置きです」

と、同時に氷柱はニダーに飛んでいく。何本も何本もニダーの体に刺さっていき、ニダーの体はもはや判別できないほど氷柱で覆われていた。

('A`;)「やりすぎじゃね?」

145:2014/06/02(月) 22:05:54 ID:r7CkAjHg0
(*゚ー゚)「……まだです!!」

しぃが叫ぶやいなや規模は小さいが渦を描く風、竜巻が複数現れた。それらは周囲の建造物を巻き込んで粉々にしながら徐々に徐々に大きくなっていく。

从'ー'从「えぇーい!!」

渡辺が炎ではない、別の魔法を放つ。すると竜巻は霧散し、砕かれたものがごとりと地面に落ちていく。

(*゚ー゚)「スペルキャンセラーとですか。では、私は」

しぃが両手を掲げると、見たことがないほど大きな魔方陣が宙に出現する。直径は十メートルほどだろうか、魔方陣は次第に複雑な図形や文字を映していき、円が一杯になると同時に吹雪が発生した。

強烈な吹雪をぶつけられた竜巻は一瞬で消滅し、さらにはニダーの身を凍らせていく。

从'ー'从「私もいくよぉ〜」

追撃で渡辺が炎弾を放ち、ニダーの体が爆炎に包まれる。あれでは人溜まりもないだろう。

('A`;)(魔法使い同士の戦いぱねぇ)

あまりにも派手な戦いにドクオは呆けているばかりだったが、しぃは警戒を解いていない。

(*゚ー゚)「……まさかこれで終わりではありませんよね?」

<ヽ ∀ >「当然ニダ」

146:2014/06/02(月) 22:07:14 ID:r7CkAjHg0
氷付けにされたはずのニダーの体は、徐々に黒い光を発していく。やがてそれは大きく膨れ上がり、一気に爆発した。

<ヽ゚∀゚>「お遊びは終わりニダ」

不意に、黒い光がドクオの頭上に展開される。

('A`)「は」

ドクオは何が起きたのかも分からず、それを見上げていた。

(;*゚ー゚)「避けて!!」

しぃの言葉でドクオの体が雷に撃たれたように震えた。すぐさま横に飛ぶと、黒い光はドクオが立っていた場所に落下する。

そこにはバチバチと音を立て、クレーターのような窪みができていた。

('A`;)「ちょ」

さらに追撃。ドクオはそれらを紙一重でかわしていくが、黒い光はさらに増えていき、ついに逃げ場を失ってしまう。

('A`;)「やば」

从'ー'从「どっくん!!」

自身も攻撃されているはずなのだが、渡辺が魔法を展開。間一髪でドクオの頭上に防御壁が現れた。しかし、強度が足りず、黒雷は数秒留まっただけですぐに地面へと飲み込まれていく。

ギリギリでその場を離脱したドクオは剣を握りしめるが、宙に浮いているニダーには当然攻撃が届かない。どうすべきかを考えるほどの時間さえ、あの黒い稲妻のせいでままならない。

('A`;)(このままじゃじり貧じゃねえかっ)

147:2014/06/02(月) 22:08:38 ID:r7CkAjHg0
唯一の攻撃手段を持つ渡辺やしぃも自身に襲いくる攻撃をいなすのが精一杯で手が回らないようだ。やはりあの二人を自由にはできないのだろう。

ならばやることは一つしかない。

ドクオは近くにいるしぃに狙いを定めると、一気に距離を詰める。

(*゚ー゚)「ドクオさん!?」

しぃの反応が遅れるが構わず突き飛ばす。すぐさまドクオは剣を高く掲げると、それめがけて光の束が落ちてきた。

(゚A゚)「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ドクオの体をいくつもの黒雷が貫く。だが、泣き言は言ってられない。

(゚A゚)「やつ……を……いけ!!」

途切れ途切れだが、しぃはこくりと頷いた。伝わった。

(*゚ー゚)「行きなさい!!」

しぃの回りに大量の氷の球が現れ、号令と共に球からレーザービームのような攻撃がニダーへと放たれる。

148:2014/06/02(月) 22:10:14 ID:r7CkAjHg0
<ヽ゚∀゚>「効かないニダ」

ニダーはそれらをまるで蜘蛛の巣を払うように右手を撫でるだけで掻き消すと、さらに黒雷を放った。

(*゚ー゚)「かかりましたね」

しぃはステッキをニダーの真下、何もない地面へと向ける。するとそこから冷気の帯がニダーを凍り漬けにする。

<ヽ゚∀゚>「っ!!」

瞬間、ニダーの攻撃が止んだ。

('A`#)「渡辺ぇぇぇぇぇぇぇ!! 炎弾だ!!」

ドクオが叫ぶと、渡辺が大きく頷いた。

从'ー'从「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

渡辺が最大級の炎弾を見舞うと同時、爆発!! 爆発!! 爆発!!

突風が吹き荒れ、ドクオたちは地面へと伏せて様子を伺う。ニダーの姿はない。

<ヽ゚∀゚>「甘いニダ」

('A`;)「っ!?」

声が聞こえると、周囲の風が止み、視界がクリアになる。しかし、ニダーの姿は見あたらない。

从;'ー'从「どっくん後ろ!!」

渡辺の声に振り向くが、遅い。ニダーの姿が見えた頃にはすでに黒い槍が迫っていた。

('A`;)(避けられない)

149:2014/06/02(月) 22:11:25 ID:r7CkAjHg0
先日と同様、ドクオは二度目の死を覚悟する。自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。

━━ドクン。

また一つ。

━━ドクンドクン。

全身を何かが掻き乱していく。それは暴力的に、破壊的に、ドクオの大切な何かを巻き込んでさらに膨張する。

これ以上はまずい。直感がそう告げる。

だが、止まらない。

これは力だ。どこから涌き出ているかも分からない。しかし、この状況を乗りきるために、ドクオは覚悟を決めた。

(゚A゚)「おおおおおおおおおおおおおお!!」

150:2014/06/02(月) 22:12:47 ID:r7CkAjHg0
◇◇◇◇

ドクオは咄嗟に剣を振るった。反射的に、無意識の内に。

赤黒い剣が黒雷の槍に触れる。

瞬間。

<ヽ゚∀゚>「はっ……」

从'ー'从「え……」

(*゚ー゚)「なっ……」

その場にいる誰もが息を飲んだ。それはドクオでさえも例外ではなかった。

('A`)「嘘、だろ?」

ドクオの目の前に確かにあったはずの黒雷の槍は、

跡形もなく消え去っていた。

始めから何もなかったかのように、

それが当然のように。

<ヽ゚∀゚>「お前、何をしたニダ」

呆然と立ち尽くすニダーの体が震え、絞り出すような声で問いを投げかけてくる。

ドクオは答えられない。自分でも分からない。

151:2014/06/02(月) 22:14:15 ID:r7CkAjHg0
<ヽ゚∀゚>「何をしやがったクソゴミがぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ニダーの体から爆発的に黒雷が吹き荒れ、手当たり次第周囲の物を破壊していく。

('A`;)「ちっ、俺だってわかんねぇよ!!」

考えるより先に体が動いた。自分に向かってくる光を剣で切りつけるたび、それは音もなく消滅していく。

しかし、今はそんなことはどうでもいい。目の前の敵を倒さなければ、怪我人が出る。

('A`)「渡辺!! しぃ!! ぼーっとすんな!!」

ドクオの激励に二人は弾かれたように動き出す。ドクオは自分に向かってくるものだけを的確に消していきながら徐々にニダーとの距離を縮めていく。

<ヽ゚∀゚>「シネシネシネェェェェェェェ」

直後、宙にニダーを中心とした魔方陣が形成される。でかい攻撃がくる。

(*゚ー゚)「渡辺さん!! スペルキャンセラーを!!」

从'ー'从「了解!!」

152:2014/06/02(月) 22:16:09 ID:r7CkAjHg0
しぃと渡辺が詠唱を開始するが、ニダーの方が早い。

<ヽ゚∀゚>「アアアアァァァァァァァ!!」

('A`)「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ドクオは反射的に地面を蹴り、飛び上がった。魔方陣の中心、ぼんやりと光の塊が集まる部分を切りつける。

金属同士がぶつかり合うような甲高い音、ドクオは力を込めて一気に降り下ろす。

パキィィィィィィン!!

魔法陣は形を保てず、集まった魔力が周囲に拡散した。チャンスは今しかない。

(*゚ー゚)「これ以上好きにはさせません」

从'ー'从「終わりだよ!!」

しぃと渡辺が同時に魔法を放つ。炎の渦がニダーの逃げ場をなくし、頭上から氷塊がいくつも落下していく。

<ヽ゚∀゚>「ガァァァァァァ!!」

最後の抵抗とばかりにニダーは二人に黒雷を向けた。魔法の制御に意識を向けていた二人の反応ご遅れる。

('A`)「俺もいること忘れんなよ!!」

ドクオが割って入り、それらをことごとく無効果した時、ニダーは炎に体を焼かれ、氷の塊に押し潰された。

153:2014/06/02(月) 22:17:48 ID:r7CkAjHg0




辺りに静寂が訪れる。ニダーの体は動かない。白目を剥いているのが確認できたことから、恐らく気絶したのだろう。

('A`)「は、はは……」

全てが終わったのだと悟り、ドクオは情けないことに腰が抜けてしまった。前回の魔物の時とは違うはっきりとした他人の殺意と対峙したのだ。その疲労度合いも生半可なものではない。

(*゚ー゚)「お疲れさまです」

从'ー'从「ふえぇー、なんとかなったねぇ〜」

涼しい顔をして駆け寄ってくる二人の少女にドクオは苦笑する。大の男である自分が情けなく座り込んでいるのに、女の子である二人は何事もなかったかのような振る舞いだ。

魔法というものの利便性、持つものによって殺戮の力になるか、守る力になるのかは人それぞれなのだと改めて思う。

(*゚ー゚)「そろそろ他の騎士団も集まってくるでしょうし、お二人にはお話を聞かせて頂くことになります」

('A`)「ああ、それくらいなら協力するさ」

从'ー'从「りょーかーい」

そしてドクオは手の中にある剣を見つめて思う。

いつの間にか手にいれたこの力は前回も、今回も誰かを守ってくれた。前回は無意識に、今回は己の意思で。

しかし、雷の槍を消滅させる瞬間ドクオは確かに感じたのだ。自分の中に入ってくる自分ではない別の何かの意思を。

それはどす黒い感情でドクオを満たそうとしていた。人への憎悪、殺戮の衝動、虚無への憧憬。

あれはおおよそ人が持ち得る全ての負の感情なのかもしれない。

ならば、この力は━━。

从'ー'从「どっく〜ん、しぃちゃんが待ってるよぉ〜」

('A`)「今行くー!」

━━誰かを殺すためのものなんだろう。

154:2014/06/02(月) 22:18:51 ID:r7CkAjHg0
◇◇◇◇

時計塔で起こった一連の騒動を眺めながら、彼女はクスクスと笑っていた。

予想以上の早さであれは本来の形を取り戻している。もしかすれば予定よりも計画を早めることができるかもしれない。

ニダーは本来以上の働きをしてくれた。彼の功績は計り知れないだろう。

王族どもがこちらの動向を探っているようだが、全てが明かされる頃には全てが終わっているだろう。

この世界は黒の魔術団によって、新たなる夜明けを迎えるのだ。

川д川「うふふ、もうすぐ、もうすぐよ」

155:2014/06/02(月) 22:20:54 ID:r7CkAjHg0





ニューソク大陸の隣、ヒロユキ大陸の首都ナンジャの酒場にて。二人の男がグラスを交わしていた。

( ^ω^)「……」

( ゚∀゚)「……」

周りの客は談笑し、実に楽しそうに酒を酌み交わしているなか、二人だけは終始むっつりと黙ったままである。

( ^ω^)「陛下は本当にやる気なのかお?」

( ゚∀゚)「だからこそ俺がここにいんだろうが。故郷を離れて頭が馬鹿になったか?」

軽口を叩く男に、もう一方は小さくため息を吐いた。

( ^ω^)「お前はそれでいいのかお、ジョルジュ」

( ゚∀゚)「いいわけがねえだろ。だがやらなきゃならねえ。騎士団長なんて肩書きもらっちまってるからな」

ジョルジュはそう言って軽く肩をすくめてみせた。

( ゚∀゚)「お前はどうする? ブーン。戻ってくる気なら俺が口をきいてやるぞ」

( ^ω^)「僕はすでに世捨て人だお。自由気ままに生きていく方が性に合ってる」


( ゚∀゚)「そうかよ。つってもしばらくはここにいんだろ?」

( ^ω^)「その予定だお」

( ゚∀゚)「なら俺からの依頼だ。金もきっちり出す。だから手伝え」

( ^ω^)「相変わらず強引な男だお。ま、金さえくれるってんならその依頼受けてやるお」

( ゚∀゚)「助かるぜ。俺はナンジャとの合同演習で動けないからよ」

( ^ω^)「陛下も手段を選ばないようになったおね」

( ゚∀゚)「仕方ねぇだろうよ。お前だって当事者なんだ、忘れたとは言わせねえよ」

( ^ω^)「分かってるお」

( ゚∀゚)「ま、そういうわけだから俺はそろそろ戻るぜ。また連絡する」

ジョルジュが去ったあと、ブーンは一人浴びるように酒を飲む。しかし、いつまで経っても酔いが回ることはなかった。

156:2014/06/02(月) 22:22:42 ID:r7CkAjHg0
第二話 終

157:2014/06/02(月) 22:26:15 ID:r7CkAjHg0
こんなところで第二話終了です
このお話でキャラが何名か増えましたが、現在の力量でうまく調理できるか少々不安です
今回までがドクオの異世界での生活スタート編、次回からは渡辺やしぃ、異世界の深いところを書いていけたらいいなと思います
次回投下は今週の金土のどちらかになりますので、よろしくお願いいたします

158名も無きAAのようです:2014/06/02(月) 23:17:09 ID:vsQC/TvkO
レベル高いな、期待大です

159名も無きAAのようです:2014/06/03(火) 21:26:50 ID:7yReHsCs0
俺の中で今一番おもしろいブーン系
俺もファンタジーバトル系の作品書きたくなってきた

160:2014/06/04(水) 09:40:29 ID:pZYGFIl20
本日また一つ歳とった1です
予定よりも早く第三話が書き終わりそうなのでそのご報告です
このままなら木曜日、遅くとも金曜日までには投下できると思います
なんだか風呂敷広げすぎて収拾つかなくなりそうだなぁと不安に思いながらの書き込みです

161名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 09:43:28 ID:LInul8V.0
誕生日かい?おめでとう!
投下速度早いなwww

162:2014/06/04(水) 09:44:35 ID:pZYGFIl20
>>158ー159
地の文たっぷりのわりに文章の勉強中なんで読んでいただけるだけで幸いです
おまけに面白いだなんて言われた日にゃ爆発します
今後もちまちま頑張りますのでよろしくお願いします

163:2014/06/04(水) 09:46:14 ID:pZYGFIl20
>>161
はい、祝ってくれる方がいない孤独な誕生日です
ありがとうございます
文章が書けない人間は速さで勝負という感じです

164名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 12:44:45 ID:3Sr0blsk0
おめでとう
創作板内でみても平均以上の文章力も、読者を引き込む力もあると思うがなぁ
この上更新まで早いなら言うことないわ
期待作品やで

165名も無きAAのようです:2014/06/04(水) 13:43:34 ID:uwYXRvKc0
誕生日おめでとう〜!
文章がしっかりしてるので分かりやすくて面白い

166:2014/06/04(水) 15:51:43 ID:pZYGFIl20
>>164>>165
いやはや催促したみたいで申し訳ありません(チラッチラッ
そしてありがとうございます
そんな風に言ってもらえると、作者冥利に尽きます
この作品には私の全てが詰まっているのでなんとか完結させたいものです

167:2014/06/05(木) 13:41:30 ID:/R87psA.0
今日夜遅くに投下しますねー
具体的な時間は多分日付が変わる前後かと思われます

168名も無きAAのようです:2014/06/05(木) 18:55:51 ID:vzhTrc9k0
やたー!
ワタナベかわいいよワタナベ

169:2014/06/05(木) 23:08:24 ID:V0EQBG/A0




第三話「魔法使いの流儀・前編」



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170:2014/06/05(木) 23:12:59 ID:V0EQBG/A0
ニダーとの戦いから数日後、行きつけのお店や細かなルールなどを覚えてきたドクオはようやくこの世界での生活に慣れ始めていた。

やはり同じ人間たちの住む世界である以上そこまで変わったルールなどはなく、意識せずとも一つの街中ぐらいなら問題はないようだった。

しかし、そんな中でもドクオが驚いたことがいくつかある。まず一つ目に物価だった。始めはお金の価値や物の価値がよく分からなかったが、渡辺やしぃの協力もあって大体の目安などを覚えることができた。そして自分の世界のものと比べてみると、その物価や税金の額はおよそ二倍ほど違うことが判明したのである。何より驚いたのは煙草の値段である。日本円にすると二十本で百円なのだ。つまり一本一円以下。

愛煙家であるドクオにとってこの事実は何よりも嬉しいことであった。むしろこのために異世界に来たのではないかと疑ってしまうほどに。

話がずれたが、ドクオが驚いたことその2は交通手段である。この世界は当然ながら電車や飛行機、車といったものはない。ではこれだけ広い町の移動はどうやっているのか?

その答えは魔法である。

これだけ魔法が広く流通しているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、こちらではバスやタクシーの代わりに魔法での移動が可能となっている。所定の場所で切符のような魔法紙を購入し、様々な場所に設置された魔方陣に乗ると、それだけで思い描いた場所の近くまで転送されるという優れものである。しかも値段は場所を問わず一律の値段だ。

もちろんこれは王都ヴィップ内のはなしであって、他の街や別の大陸に行くには異なる方法が必要になるらしい。それにともない値段も変わるのだとか。

最後に、これが最も驚いたことなのだが、なんとこの世界では電気が生活に浸透していないのだ。

別に電気という概念がないわけではなく、あくまで生活に使われていないだけの話だ。ドクオのいた世界では何をするにもまず電気が必要だったが、こちらではそれに変わる魔力というエネルギーがあるのである。

魔力は世界中のどこにでもあるもので、枯渇することがない。しぃ曰く魔力の源泉が世界中の至るところにあり、そこからものすごい量の魔力が涌き出ているそうだ(どれぐらいの量なのか単位を用いてしぃは説明してくれたがドクオには理解できなかった)。

こうしてドクオの生活も二人の尽力あってか様になってことで、ドクオはようやく平穏無事に生きていくことが出来ているのだが、現在そのことが逆に不満をもたらしていた。

('A`)「やることがねぇ」

171:2014/06/05(木) 23:13:44 ID:V0EQBG/A0

ドクオの不満とはまさにこの一言に尽きた。

騎士団の寮に厄介になってから働かなくても金が入ってくるし、食うものにも困らず嗜好品にさえ手を出せるようにまでなってしまった。つい最近まで食うに困っていたはずなのに、である。

元々大した勤労意欲など持っていなかったドクオではあるが、それにしたってこの暇さ加減はいかんともしがたい苦行のように感じられる。元のアパートには暇潰しに最適なパソコンとネットという偉大な道具があったのだが、こちらにはそんな大層なものはない。ドクオに魔法の知識とそれを応用する技術があればインターネットをこの世界で再現できるかもしれないが、それこそ夢幻である。

とにもかくにもドクオは現在暇をもて余していた。渡辺は最近学校に行ってなかったらしく、ここ数日ずっと学校に籠りっぱなしだし、しぃにしても騎士団の仕事があるので構ってもらえない。年下のしかも女の子に構ってほしいというのも情けないものだが、ドクオの交遊関係なんてそんなものしかないのだ。

('A`)「バイト、とか出来ないのかねぇ」

自分の立場を考えると、まず不可能だろう。あくまで騎士団に囲われてる身でしかない以上、下手をすれば関わった一般人にまで被害が及んでしまう可能性もある。ともなれば、やはりドクオはこうしてごろごろと時間が過ぎるのを待つしかないのだ。

('A`)「ねらーのみんなが懐かしいぜ。釣りスレ立てて馬鹿やってたのになぁ」

もうあの日々はやってこないのかと思うと少し寂しい気もするのは何故だろうか。あちらでは自分の存在など路傍の石か、それ以下の価値しかないというのに。

と、そんな折に傍らに置いてあった連絡用携帯端末が音を立てる。以前ショボンにもらったものだが、やはり見た目通り携帯電話のような役割を果たしている。難点はインターネットが出来ないことくらいだ。

('A`)「もしもし亀よ」

(;´・ω・`)『それは何かの呪文かい?』

172:2014/06/05(木) 23:14:52 ID:V0EQBG/A0
電話(といってもいいのか疑問ではあるが)の相手はショボンだった。寮に入る際顔を見て以来である。騎士団のナンバーツーとして様々な仕事を抱えているはずの彼から連絡がくるなどと予想していなかったドクオは思わず面食らってしまった。

('A`)「あまり気にしないでください。ただの発作です」

(;´・ω・`)『そ、そうか。その様子だと大分暇なようだな』

('A`)「ええ、そりゃあもう。飯食ってゴロゴロする以外何をしていいのか分からないくらいです」

(´・ω・`)『それなら丁度いい暇潰しを提案しよう』

('A`)「この無限地獄から解放してくれるのなら何でもしますよ」

(´・ω・`)『ほう、なんでもするか。ならば今から寮の入り口に来るといい。きっと君を満足させられる』

ショボンはそれだけを言って通信を切った。一体何をさせる気なのだろうか。ドクオにしてみれば暇を潰せればなんでもいいのだが、ショボンのような偉いかたから連絡が来るとどうも身構えてしまう。

('A`)「ま、行ってみりゃわかんだろ」

ドクオは深く考えず、簡単に身支度をすると部屋を出た。これがそもそもの間違いだったと気付くのはそれから間もなくのことである。

173:2014/06/05(木) 23:23:17 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

从'ー'从「えっとぉ、これとこれとぉ、あとはぁ〜」

渡辺は魔法学校にある図書室で黙々と資料を探していた。次の昇級試験で使う論文をまとめるためだ。

魔法使いというのは基本的に階級制で、渡辺がいるのは一番ランクの低い見習いである。その上に魔法使い、大魔法使い、魔導師、大魔導師と続いていくのだが大半の学生が卒業する際に授かるランクは大魔法使いだ。そこからは個人で国が指定する試験をパスすることによってランクをあげていくこととなる。

大魔導師以上になってくるとそこから専門的な分野の階級を冠することが多く、錬金術ならばアルケミストだったり魔法と剣技を両立するならマジックナイトといった具合だ。

通常魔法使い見習いなどというランクは入学当初から一年かそこらで卒業するものだが、渡辺は入学してもう三年ほどの月日を経ていた。三年も経つのにまだ見習いにいる理由としては、渡辺の頭が悪いということではなく、単純に彼女の境遇にある。

渡辺は所謂<忌み子>と呼ばれる存在であり、<忌み子>とは破滅と絶望を振り撒く悪魔として忌み嫌われている。

以前ニダーが言っていた話を渡辺は独自に調べてみたのだが、どこを調べても似たような記述しか載っておらず、結局は同じ答えに行き着いてしまう。

だから渡辺は周りの学生と同じように一年の間切磋琢磨できるような友人に恵まれず、失敗や間違いを一人で繰り返し、ようやく見習いを卒業できるところまで漕ぎ着けたのだった。

それだけにこの昇級試験は渡辺にとって大きな意味を持つ。渡辺という存在は否定されても、身に付けた技術や知識が一定のところを越えさえすれば誰かに認めてもらえるのだから。

だからこそ渡辺はドクオとのコミュニケーションもそこそこに昇級試験の準備を進めているのだが……。

从'ー'从「あれれ〜? 資料が一つ足りないよぉ〜?」

174:2014/06/05(木) 23:23:58 ID:V0EQBG/A0
渡辺が得意とする炎系の魔法の技術書がどこにも見当たらなかった。図書室は属性や構築する魔方陣、詠唱する言語によって棚が別れているのだが、渡辺の探す一冊だけがどこを探しても見つからない。

渡辺はどこかに放置されていないかと周囲を見渡した。しかし、室内は司書によって綺麗に整理整頓されており、放置された本は一切見当たらない。

代わりに見付けたのは、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて渡辺を見つめる数人の生徒だった。

从 ー 从「……」

また、だ。

渡辺の存在は学校内では有名だ。漆黒の髪を持つものは一人しかいない。一人しかいないということは否が応でも目立ってしまう。

極めつけに<忌み子>という、呪いにも似た言葉はどこに行っても渡辺に付きまとってくる。

渡辺は無言で図書室を立ち去ろうとして、思わず立ち止まった。

ξ゚?゚)ξ「取り返さないの?」

175:2014/06/05(木) 23:24:48 ID:V0EQBG/A0
渡辺の前に巻き毛の少女が立ちはだかった。意思の強そうな瞳が渡辺をじっと見つめている。

从;'ー'从「えと、きっとあの人たちも必要なんじゃないかなぁ」

渡辺は何故か言い訳のようにそんなことを口にした。

ξ゚⊿゚)ξ「馬鹿じゃないの。あいつらあんたのこと見て笑ってるわよ」

巻き毛の少女は怒りを露にしてそちらを睨み付ける。見た目通りの性格をしているらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「私が取り返してきてやるわ。ちょっと待ってなさい」

从'ー'从「あ、ちょっと……」

渡辺が止める間もなく少女は行ってしまった。静かだったはずの図書室に怒声が響き渡り、数人の生徒が迷惑そうな視線をこちらに向けている。

そんな中を少女は気にした様子もなく、本を手に取りこちらに戻ってきて、

ξ゚⊿゚)ξ「ほら。使うんでしょ? ああいうやつらにはガツンと言わなきゃ舐められるだけよ?」

とあっけらかんとそんなことを言った。

从'ー'从「あ、あの、ありがとう……」

ξ゚⊿゚)ξ「別に礼を言われることじゃないわ」

何でもないと言った風に彼女が背を向けたのを見て、渡辺は何故か、自分でもよく分からずに声をかけていた。

从'ー'从「あの、もしよかったら、お茶でもしませんか?」

少女が振り向く。少し間を置いて、笑顔を作り、

ξ゚⊿゚)ξ「仕方ないわね。暇だから付き合ってあげるわ」

と言った。

これが渡辺と少女━━ツンの初めての出会いだった。

176:2014/06/05(木) 23:26:19 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

('A`/)「もう勘弁してください」

(;*゚ー゚)「体力ないですね」

げっそりとした顔でドクオはしぃに懇願した。これ以上は無理だ、一歩も動けない。

ショボンに連れられてやってきたのは騎士団の演習場である。そこでドクオは暇潰しと称した訓練に参加させられたのである。半ば強引に。

(´・ω・`)『君は今後も敵に狙われたり事件に巻き込まれるだろう。今のうちに体を鍛えておけば何が来ても対処できるぞ』

とはショボンの談である。

確かに先日の事件はニダーという魔法使いが引き起こしたものだが、その裏では他の者が暗躍していたのではないかというのが騎士団内部でまことしやかに囁かれていたようだ。

かくいうドクオも同じ意見で、いくらニダーが自尊心の高い傲慢な人間といえど、街中で人目も憚らず暴れ狂うなどとは考えられなかった。

ましてや騎士団本部のある王都なら尚更である。

そういうわけでドクオは騎士団が普段こなしている訓練と同等のものを今しがた終えたわけのだった。しぃの監視のもと。

('A`/)「俺は頭脳労働メインなんだよ。体力ばっか有り余った体育会系と一緒にしないでくれ」

(*゚ー゚)「これくらい騎士団なら普通ですが」

同じメニューをこなしたとは思えないほど涼やかな顔をしたしぃにそう言われてはドクオもこれ以上何も言えない。一体この小さな体のどこにそんな力が隠されていたのか甚だ疑問である。

('A`)「まぁ実際暇潰しにはなったけどさ、こんなの毎日やってたら死ぬぞ俺」

(*゚ー゚)「慣れですよ。それに、ドクオさんもなんだかんだいいながら最後までついてこれたんですし、なんならこのまま正式に騎士団になればいいと思います」

('A`)「それは勘弁してください。なんか周りの視線が怖かったし」

ドクオが訓練をする傍ら、他の騎士団員とすれ違うことが多々あったのだが、その誰もが腫れ物でも扱うかのような視線を向けていたのである。

始めはただの好奇心なのかとも思ったのだが、途切れ途切れに耳にした内容はどれもドクオを快く思っていないように聞こえた。

それをしぃに告げると、

(*゚ー゚)「それは多分ドクオさんの髪の色でしょうね」

との答えが返ってきた。

('A`)「髪? そんな珍しいのかこれ」

(*゚ー゚)「ドクオさんは<忌み子>と同じ髪の色をしていますからね。黒髪の人間はこの街広しと言えど、ドクオさんと渡辺さんくらいしかいませんから」

177:2014/06/05(木) 23:27:24 ID:V0EQBG/A0
言われてみればそんな気がする。こちらの世界では金髪がほとんどで、それに混じって他の髪色がちらほらといるが黒髪というのは渡辺以外見たことがなかった。

('A`)「そういやその<忌み子>ってなんなんだ? 前にニダーもそんなこと言ってたけど」

以前しぃに聞こうと思っていたことを思い出し、ドクオは尋ねてみた。

(*゚ー゚)「簡単に言ってしまえば畏怖の対象です。黒髪の悪魔が破壊の限りを尽くし、討滅され、生き残りが人との間に子を成した。という昔話があるんですよ」

('A`)「それだけ?」

(*゚ー゚)「それだけでも皆さんが恐れてしまうのも無理はありません。何しろ神に匹敵する力を秘めているんですから」

('A`)「けど俺はともかくとして、渡辺なんかは人畜無害じゃん。なんか悪いことしたってんなら分かるけど」

(*゚ー゚)「ドクオさんの言いたいことは分かります。ですが、実際問題としてこういった話はごくありふれていますからね。ましてやこの話を信じているのは一人や二人ではありませんし」

少ない人数であれば<忌み子>という単語自体大した意味は成さなかったが、世間に浸透してしまえば真実などいとも簡単にねじ曲げられる。この場合正しいか間違いかではなく、信じるか信じないかなのだ。

それに、としぃは言葉を続ける。

(*゚ー゚)「この話がより真実味を増した話がありますからね」

しぃの声のトーンが一つ下がる。ドクオは思わず身構えた。

178:2014/06/05(木) 23:28:23 ID:V0EQBG/A0
('A`)「なんかあったのか?」

(*゚ー゚)「今から十五年ほど前に全世界を巻き込んだ大きな戦争がありまして、始めは大陸同士の争いだったそうです。しかし、その戦争はいつの間にか人ではない別の何かを相手に戦うことになっていたのだとか」

('A`)「なんでそんな曖昧なんだよ」

(*゚ー゚)「ドクオさんは体力がないだけでなく、頭もお馬鹿さんなのですか? 十五年前に私は産まれていませんよ」

言われてみればその通りだった。騎士団の連中が軒並みガタイがいいのでしぃも同じカテゴリに括ってしまっていたが、しぃは見た目通り十四歳である。

('A`)「んで、その戦ってた相手ってのが悪魔なのか?」

(*゚ー゚)「それが分からないんです。その戦争で生き延びたのはほんの僅かな人数で、ほとんどの人達が戦死してしまったと公式にはっぴょうされていますから」

('A`)「なんだよそれ。訳のわからないものだから悪魔って決めつけて、その矛先を渡辺に向けてるってことになるじゃねえか」

(*゚ー゚)「間違いではないと思います。悪魔という伝承の認知度も去ることながら、戦争の規模も歴史上で五指に入るほど大きいものですからね」

('A`)「それだけひどけりゃ余計にってことか」

ドクオには戦争というものがどれほどのものかは想像できない。たくさんの人間が血を流し、戦い、死んでいったのだろうということしか分からないが、それだけ悪魔という存在が人々にとって畏怖や破滅の象徴ということなのだろう。

だからといって一人の少女をよってたかって後ろ指を指すのはどうかと思う。だってドクオは知っている。彼女は誰よりも心根の優しい、人を傷付けることをよしとしない日向に咲く蒲公英のような温かい人間なのだから。

179:2014/06/05(木) 23:29:38 ID:V0EQBG/A0
それを知りもしない、知ろうともしない他人が自覚のない悪意をぶつけるならばドクオはそれを何とかしたい。

例え叶わぬ願いだと知っていても、願わずにはいられない。

(*゚ー゚)「気持ちは分かりますが、ドクオさんがどうこうしたところで群衆心理はそうそう変わることはありませんよ」

あまり表情を出さないしぃが嘆息するのを見て、ふと疑問が浮かんだ。

('A`)「しぃちゃんはあまりそういうの気にしてないみたいだけどさ、しぃちゃんから見ても渡辺はそういう存在じゃないのか?」

三人で街に繰り出した際も、しぃは渡辺と対等に付き合っていた気がするのだ。ドクオは二人を見て、まるで姉妹のようだと感想を抱いた記憶がある。

(*゚ー゚)「私にとって、悪魔や忌み子というのは空想上の存在です。悪魔なんて見たことがありませんし、渡辺さんが私に危害を加えたわけでもありません。私から見れば渡辺さんは私と同じ女の子です」

しぃの言葉は淡々としているが、どこか慈愛に満ちた優しい口調だった。

しぃにしても、今の渡辺には思うところがあるのかもしれない。

('A`)「みんながそう感じてくれればいいんだけどな」

それにはきっかけがいるだろう。一度外れた歯車はそう簡単に元に戻せない。誰かが手を差し伸べ、元の位置に嵌めてやらなければ。

この世界の住人ではないドクオに、それが出来るだろうか。

180:2014/06/05(木) 23:30:29 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

ショボンは上がってきた報告書に目を通しながら、時計塔広場の事件の推測を立てていた。

報告書の内容は極めて事件の概要を事細かに記載しているものの、ショボンには何かが欠けているように思えるのだ。

ニダーという魔法使いがやたらと忌み子に噛みついていたことは知っていたが、それが今回の動機に繋がるだろうか? というのがショボンの率直な意見である。

さらにニダーは貴族の出であるということも事態の整合性を歪めていた。ショボンは貴族の生まれではないが、同僚である騎士の中には大勢いる。彼らはみな口を揃えて貴族は下々に慈悲と慈愛を持って接し、上に立つものとして道を示さねばならないと豪語していた。もちろんその言葉が嘘ではないことをショボンは知っているし、そのための努力を惜しんでいないのもこの目で確かめている。

ならばこの違和感はなんなのだろう。ニダーも若輩者とはいえ貴族の端くれ、一般人が多い時間帯と場所であんな騒動を引き起こすとはどうしても思えなかった。

(´・ω・`)(やはり、黒の魔術団か)

思えばドクオというイレギュラーを抱えてから不自然な動きが頻発している。表だったものは結界の消失と今回の騒動だが、他にも魔物の大量虐殺や小さな集落での集団失踪など挙げていけばキリがない。

181:2014/06/05(木) 23:31:13 ID:V0EQBG/A0
加えてニューソクを治める王、ロマネスクの動きもまるでドクオが来ることを予測していたかのような周到さだ。正直、ロマネスクの目的の全てを知っているわけではないので、ショボンにはロマネスクですら信じることができていない。

(´・ω・`)(騎士団失格だな、僕は)

信じたくはない、信じたくはないがロマネスクと黒の魔術団は繋がっている。確かな確証はないが、ドクオを中心として考えると、そうとしか考えられないのだ。通常ドクオ個人がこちらの世界での生活に慣れていくための支援を国がここまでやるだろうか。その時点から大分怪しい。

カップに口を付けて液体を飲み干す。喉の渇きは癒えないしあまり旨くはないが、これ以上の贅沢は言えない。

ショボンがお代わりを取るために立ち上がった時、静かにドアがノックされた。

(´・ω・`)「入れ」

「失礼します」

若い新兵が新たな書類を持って部屋に入ってきた。

「モララー様から中隊を動かす承認を頂きたいとのことです。こちらがその書類になります」

(´・ω・`)「中隊を? 何かあったのか?」

新兵から手渡された書類を捲りながら、ショボンは眉を潜めた。ここ最近大きな事件が立て続けに起きてはいるものの、取り立てて隊を編成する事案は結界消失以外なかったからだ。

隊を編成する、ということは本格的な戦闘を行うという意思表示でもある。魔物でも、人でも戦略を必要とし時間をかけず、効率的に敵を攻め落とすために然るべき戦力を投入するということはそれだけでことは大きくなる。

「はっ。そちらの書類にも記載されておりますが、黒の魔術団と思われる集団のアジトを発見したとのことです」

(´・ω・`)「ほう。ほぼ間違いない、と言えるだけの材料が揃ったということか」

この短時間でモララーもよくやってくれたものだ、とショボンは部下の有能さに心で称賛を送った。

しかし、この状況で中隊を投入するという選択は些か早計すぎやしないか、とも思う。

現在王都にはまとまった戦力が残っていない。治安維持のための組織はお飾りのようなものだし、学校にいる教師も戦力としては心許ない。何かあった場合、再び成長仕切っていない生徒達を投入しなくてはならないというのは、あまり好ましくない。

となれば、ショボンが取れる選択肢は━━

182:2014/06/05(木) 23:32:34 ID:V0EQBG/A0
(´・ω・`)「隊は出せない。だが、代わりの戦力をこちらから出そう」

「は? と言いますと?」

(´・ω・`)「最近やってきただろう。騎士団に所属してはいないが、戦力になる人間が」

結界消失時、命をかけて避難所の人達を守り、時計塔広場で大立ち回りを演じた忌み子と同じ髪の色の男。

「まさか、例の男ですか? お言葉ですが副団長、彼は騎士団内部でもよく思われてはおりません。戦力としては申し分ないかもしれませんが、統率がとれるか……」

(´・ω・`)「何、それに関しては問題ないさ。私とドクオ、それにモララーが出る」

「副団長!? 正気ですか!?」

(´・ω・`)「多くの兵が遠征に行っている以上王都を手薄にするわけにはいかない。兵の代わりはいないが、私の代わりに指揮を取れるものはごまんといる」

「しかし……」

(´・ω・`)「話は以上だ。詳しい話はモララーとドクオを含めてすると伝えておけ」

ショボンがそう締め括ると、新兵は不安げな顔をして部屋を出ていった。

悪いことをしたかな、とも思うがショボンは大して気にもとめず、今度こそ飲み物を取りに立ち上がった。

183:2014/06/05(木) 23:33:36 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

渡辺とツンはヴィップラ地区のオープンカフェでお茶をしていた。もちろん誘ったのは渡辺からで、あわよくば学校での話し相手くらいにはなれないかなぁと淡い期待を抱いていたのだが……。

从;'ー'从(ふえぇーん、会話がないよぅ)

二人の間には一切の会話がなく、渡辺はひたすら紅茶のお代わりを頼むしかなかった。

ξ-⊿-)ξ「……」

正面に座るツンは始めに自己紹介をしたきり口を閉ざしたままである。話しかけるなといったオーラは出ていないが、この巻き毛の少女、なかなかに勝ち気そうな見た目をしていて渡辺のようなチキンハートには話しかけづらい雰囲気を漂わせているのだ。

かといって誘った手前、何かを話さなきゃと話題を探すのだが、同年代の友人などいない渡辺は何を話せばいいのかわからないのである。しぃは騎士団とはいえ年下だったので気兼ねなく話せたのに、こうも勝手が違うのかと渡辺は半ば泣きそうになっていた。

184:2014/06/05(木) 23:34:20 ID:V0EQBG/A0
ξ゚⊿゚)ξ「あんた馬鹿ね」

カップをテーブルに置いたツンが、不意に口を開いた。その姿はどこか気品があり、深淵の令嬢なんて言葉がしっくり来るような振る舞いだった。

ξ゚⊿゚)ξ「私とあんた、年齢なんかほとんど変わらないのに怯えすぎよ」

从;'ー'从「あぅぅ……」

ξ゚⊿゚)ξ「あんた例の忌み子でしょ? だから気を使ってるってわけ?」

从'ー'从「っ……」

<忌み子>という言葉をツンが口にした瞬間、渡辺はこの場から逃げたしたくなった。

本当は心のどこかで期待していたのだ。あの時自分を助けてくれた彼女なら、そんな言葉など関係なく一人の人間として接してくれるのではないかと。

学校という閉鎖された場所で、そばにいてくれる存在になってくれるかもしれないと。

だが、ツンは口にしてしまった。絶対に聞きたくなかった言葉を。

从 ー 从「あはは、ごめんなさい。私みたいな忌み子が、生意気に━━」

ξ゚⊿゚)ξ「だから馬鹿だっていってんのよ」

从'ー'从「!?」

ξ゚⊿゚)ξ「あんた<忌み子>って言葉に甘えすぎてない? そんなだから周りに舐められるのよ。自分は自分だって強く持てないから馬鹿にされるの」

从;'ー'从「で、でも、私は」

ξ゚⊿゚)ξ「でももへちまもないっての。自信のなさが体全体から滲み出てる。学校であんたのこと何回か見たことあるけど、いっつも下向いて全部の不幸を背負ったような顔をして、私そういうやつ嫌いなのよ」

从 ー 从「だって、仕方ないよ。私は<忌み子>で、許されない存在なんだもん。周りに不幸をばら蒔いて、破滅をもたらす人間で……だから……」

ξ゚⊿゚)ξ「けど、あんた人を救ったわよね。結界が消えたとき、身を呈してさ」

从'ー'从「ふぇ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ひょろっちい冴えない顔した男のこと庇って戦ってたじゃない。それこそ沢山の魔物に囲まれて、勝ち目の薄い戦いに」

从'ー'从「それは……」

ξ゚⊿゚)ξ「なかなかできることじゃないわ。誰だって自分の身が可愛いものよ。それでもあんたは戦った」

ツンはどこまでも真っ直ぐに、渡辺の瞳を見つめる。渡辺はその視線から目を反らせない。

ξ゚⊿゚)ξ「もういいんじゃない? 自分を卑下するの。自信持ちなさいよ」

185:2014/06/05(木) 23:35:05 ID:V0EQBG/A0
从'ー'从「……」

ξ゚⊿゚)ξ「私さ、あの時近くにいたの。魔物が沢山沸いてくるなか、どうしていいか分からなかった。本物の戦場を見て何も出来なかったの。死んじゃうかも知れないって思ったら足がすくんじゃった。普通の人だったらみんなそうだと思う。あんな大きな魔物を見れば誰だって怖いわ」

从'ー'从「あれは、どっくんが……」

ξ゚⊿゚)ξ「理由なんてなんでもいいのよ。命をかけて戦った、この事実はどうやったって変わらない。あんたは胸を張っていいの。<忌み子>だろうとなかろうと、ね」

渡辺はツンの言葉を心の中で反芻する。戦った理由は些細な理由だ。初めて触れた優しさにすがっただけの、偽善、依存。けして褒められたものではない。

けれど、目の前の少女はその事実でさえ認めてくれている。お前はよくやった、と。誰にも真似できないことをやってのけたんだ、と。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、私はあんたと友達になりたいなって、ずっと思ってたんだけど、あんたは<忌み子>だからって拒否するの?」

从'ー'从「私といたら、きっとツンちゃんも変な目で見られるよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「勝手に言わせとけばいいじゃない。肝心な時に何もできない腰抜けどもより、私はあんたのことをもっと知りたい。<忌み子>だとか言われても、誰かのために動けるあんたと私は一緒にいたい」

ツンはそう言ってにこりと笑った。渡辺の全てを知り、それでも渡辺を知りたいのだと言ってくれた。

この手を、取ってもいいのだろうか。

信じてもいいのだろうか。

一人で歩くことしか出来なかった自分は、誰かと共に歩いても許されるのだろうか。

从'ー'从「私は……」

それでも、心が求めている。暗く深い孤独の道から解放されることを。

誰かと繋がっていたい、誰かと話してみたい。

それを理解した瞬間、渡辺は溢れる涙を止めることが出来なかった。

从;ー;从「ふえぇー」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょ、ここは泣くとこじゃないわよ。笑顔でよろしくっていうとこでしょ」

从;ー;从「よろしくだよぉ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あーもう、これ使いなさい。まったく、子供じゃないんだから」

ツンがハンカチを差し出してくる。そんな些細なことがどうしようもなく嬉しかった。

186:2014/06/05(木) 23:36:18 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

('A`)「で、説明をお願いします」

日が完全に沈み一番星が輝きだした頃、ショボンの執務室に呼び出されたドクオはいの一番にそう尋ねた。

この場にいるのはドクオの他にモララーとショボン、プラス監視役のしぃ。誰も彼も難しい顔でドクオは居心地が悪い。

( ・∀・)「副団長の前だ。もう少しシャキッとしろ」

('A`)「俺は騎士団じゃないんですが」

(´・ω・`)「構わん。そのまま聞いてくれ」

椅子に深く腰かけたショボンが近くにあった端末を操作すると、三人の前にいくつかの文字が浮かび上がった。

(´・ω・`)「今回君たちを呼び出したのは、王都の近くに潜伏している黒の魔術団のアジトの襲撃のためだ」

('A`)「は」

あまりに物騒なショボンの言葉にドクオは思わず絶句した。

( ・∀・)「ま、申請書を出した私からしてもこうなるんじゃないかと薄々思ってましたよ」

('A`)「ちょ、ちょっと待ってください。今襲撃って言いましたよね? なんで俺が呼び出されたんですか?」

あまりにも予想をかけ離れた話に、ドクオは狼狽する。自分はたまたま巻き込まれただけで、戦闘力など皆無である。戦いかたなどほとんど分からない。

(´・ω・`)「それも含めて私から話そう。以前からモララーに頼んでいた黒の魔術団の動向についてなのだが、モララーの力によって潜伏先が判明した。しかし、皆も知るように現状王都には戦力が少ない。残っているのは殆ど魔法が使えるだけの非戦闘員だ」

( ・∀・)「ジョルジュ団長達が遠征に行っていますからね」

(´・ω・`)「残り少ない戦闘員を使ってしまっては王都の守りが薄くなってしまう。そこで、私は少数精鋭にて短期決戦をかけることにした」

(*゚ー゚)「それがこのメンバーということですか?」

187:2014/06/05(木) 23:37:29 ID:V0EQBG/A0
(´・ω・`)「うむ。敵の有する戦力が未知数である以上、下手な戦力では逆に返り討ちにされかねないからな」

('A`)「だからどうして俺がいるんですか」

( ・∀・)「お前はここに来てから二回の戦闘を経験してるだろ。どっちとも並みの実力じゃ生き残るのは難しかった」

(´・ω・`)「加えて、君には不思議な力がある。報告書で読んだよ。なんでもニダーの魔法を消したそうじゃないか」

('A`)「……」

確かにドクオの記憶違いでなければそんなこともあったような気がする。とは言え、過去の戦闘は偶発的に巻き込まれ、たまたま生き残れたに過ぎないとドクオは思っている。

(´・ω・`)「こんな状況だからな、我々騎士団もあまり多くの選択肢がない。力を貸してはくれないだろうか」

ショボンは立ち上がると、深々と頭を下げる。

('A`;)「いや、あなた偉い人でしょ? 頭下げちゃ駄目じゃないですか」

( ・∀・)「それくらい切羽詰まってるってことくらい分かれ。騎士団のナンバーツーが頭下げるってことは、そういうことなんだよ」

(*゚ー゚)「やはりお馬鹿さんですね」

('A`)「なんか俺が悪いみたいになってるんですけどー」

どうやら逃げ場はないようだ。それに、こちらに来てから何から何まで世話になっている。

ドクオは深々と溜め息を吐いて、

('A`)「まぁ分かりましたよ。とは言っても、あんまり期待できないと思いますよ? ろくすっぽ運動なんてしたことありませんし」

(´・ω・`)「構わないさ。不確定な要素も多分に含んでいるからな。さて、ドクオの了承も得られたことだし、具体的な話に移ろう」

ショボンが浮かんだ文字と地図を用いて話を進めていくが、ドクオはあまり頭に入っていなかった。

何せド素人である自分が本格的な戦場に赴くのだ。気が気ではない。

('A`)(確かにこういう展開を妄想しなかった訳じゃないが、なんかなぁ)

話し合いが進むなか、ドクオは自分の命ってなんだろうとつくづく思うのだった。

188:2014/06/05(木) 23:38:27 ID:V0EQBG/A0




話し合いが終わり、ショボンとモララーだけが部屋に残っていた。先程のような張りつめた空気はどこにもない。

( ・∀・)「しかし、本当にあいつを使うつもりなんですか? 言っちゃ悪いですが、足手まといですよ」

モララーは何でもないように言うが、実際は不安でならなかった。異世界から来た謎の男、加えてその実力は未知数。戦闘に関しては昼間の様子では期待できそうもない。

おまけに黒の魔術団の目的が彼の持つ魔剣であることは一目瞭然。もしかしたらドクオそのものも目標に入っているかもしれないのだ。そんなものを連れて歩いてはこちらに危険が及ばないとも限らない。

(´・ω・`)「お前の言いたいことも分かるさ。だが、どうにも胸騒ぎがするんだ」

( ・∀・)「と言いますと?」

(´・ω・`)「ドクオは、いや魔剣は、本当に黒の魔術団だけが狙っているんだろうか」

( ・∀・)「はい?」

(´・ω・`)「お前も変だと思わないか? ここまで、彼を中心に全てが動いていることに」

189:2014/06/05(木) 23:39:14 ID:V0EQBG/A0
( ・∀・)「ま、確かにそれは俺も思っていたことではあります。ですが、仮にそれが本当だとすれば、俺たちは何を信じて剣を取ればいいんでしょうかね」

騎士団とは国を守り、街を守り、人を守るための組織だ。悪を挫き、弱きを守る、そのために手段は撰ばない。

しかし、仮にその悪が守るべきはずのものだとしたら、騎士団とは何のために戦えばいいのか。

(´・ω・`)「もちろん杞憂であることを願うばかりだが、それでもその時が来たときのことを覚悟しなければならない」

( ・∀・)「俺達は騎士団である前に一人の人間です。いつだって自分が可愛いもんですよ」

(´・ω・`)「それも真理だな。しかし僕達が持つ誇りや信念が嘘ではないと民衆に啓蒙しなければならない。それが出来なければ騎士団なんていう組織は必要あるまいさ」

( ・∀・)「副団長ともあろう方がそんなことを言っていいんですか? 下が聞いたら泣きますよ」

(´・ω・`)「何が大切かを自分の意思で決められないのなら、死んでいるも同然だ。そんな腰抜けなどこちらから願い下げだ」

( ・∀・)「そいつはごもっともですね。俺だったらその場で打ち首です」

(´・ω・`)「そのためにも僕達は確かめなければならない。すでに賽は投げられている」

( ・∀・)「裏目に出ないといいですがねぇ」

(´・ω・`)「その時はその時さ。あちらではジョルジュがブーンに接触を図ったと聞くし、面倒ごとはあいつがなんとかするだろう」

( ・∀・)「上に立つ方々は背負うものが多いですね。俺はこれ以上持てませんよ」

そう言ってモララーは背を向ける。

(´・ω・`)「お前も気付かない間にこうなるんだよ」

ショボンの言葉に、モララーは何も言わずに部屋を出た。

190:2014/06/05(木) 23:41:01 ID:V0EQBG/A0
◇◇◇◇

从'ー'从「えっとねー、それでどっくんがねー」

渡辺と話すようになってから数日、ツンは何度も聞いたどっくん━━ドクオの話に辟易していた。

今までろくに人付き合いのなかった渡辺にはどんな話題が適切なのかもよく分からないのだろうが、それにしたって口を開けばドクオドクオ、たまに魔法理論というのはいかがなものか。傍目にはノロケにしか聞こえない。

それに文句も言わず付き合う自分もどうかとは思うが、楽しそうに話す渡辺を見ると、一生懸命に気を引こうとする子犬のように見えるのだ。

要するに、可愛い。

ξ゚?゚)ξ「あーもう、ドクオの話は分かったわよ。それよりもあんた昇級試験の資料は出来上がったの?」

从'ー'从「えー、ここからがいいところなんだよぉ」

ξ゚?゚)ξ「ってまだ半分くらいしか出来てないじゃない。このままじゃまた見習いのままよ?」

从'ー'从「うー、でもでも、頭の中ではもう完璧に出来上がってるんだよぉ〜」

ξ゚?゚)ξ「だったらそれをきっちり書け! 手を抜くな! この年で見習いだなんてあんたくらいのもんよ?」

从'ー'从「はぁ〜い」

少し膨れた渡辺が再び資料に向かうのを見て、ツンはクスリと笑う。表情がコロコロ変わる彼女は見ていて飽きない。

周りは<忌み子>だ<悪魔>だと騒ぎ立てるが、彼女を知れば知るほどそんなものとは無縁の存在だと感じる。元々が心根の優しい子なのだろう。自分とは正反対だ。

191:2014/06/05(木) 23:41:43 ID:V0EQBG/A0
ξ゚⊿゚)ξ(羨ましいな。私はこんな風になれない)

よってたかって虐げられて、それでも健気に前を向けるだろうか、と自問する。自分には無理だ。プライドの高い自分はきっと周囲の期待通り世界を憎み、他人を怨み、心の底から全てをぶち壊してやろうと動き続けるだろう。

それほどに、<忌み子>という悪習は深く根を張ってしまっている。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ渡辺、あんたは……」

言いかけて、やめた。

聞いたところでそんなものは自己満足だ。こうして渡辺のそばにいること自体どうしようもなく後ろめたいのに、さらに恥を上塗りしてどうするというのか。

从'ー'从「なぁに〜?」

ξ゚⊿゚)ξ「救いようがないくらい馬鹿だって言おうとしたのよ」

从'ー'从「さっきから馬鹿馬鹿言わないでよぉ〜」

この心地よい時間がいつまでも続けばいいのに。

そんな願いは絶対に叶わないことをツンは知っている。

そのために、ツンはここにいるのだから。

192:2014/06/05(木) 23:42:37 ID:V0EQBG/A0




王都からそれほど離れていない小さな廃村に、数人の魔法使いが集まっていた。ドクオがよく見るような三角帽子にマントといった格好ではなく、各々好きなファッションに身を包んだ━━どちらかと言えば厨二的なファッションである。元いた世界であれば彼らはドキュンと評されるだろうなとドクオは思う。

('A`)「いっぱいいますよ、あれ」

後方にいるモララーは奇襲のために使う設置型の魔法陣をそこかしこに設置しながら心底どうでもよさそうに答えた。

( ・∀・)「よかったな、沢山遊んでもらえるぞ」

('A`)「この場合男である俺はどんな目に合うんでしょうか」

( ・∀・)「なぁに死にはしないさ。死んだ方がましだろうけどな」

('A`)「俺なんでここにいるんだよ」

モララーはそこで興味をなくしたらしく、ドクオの言葉に返事をせず、代わりに偵察から帰ってきたショボンとしぃに声をかける。

( ・∀・)「どんなもんですか?」

(´・ω・`)「予想通りってところか。大がかりな陣を組んでいるところを見ると、それなりに重要な拠点だろうな」

(*゚ー゚)「しかし、いるのはしたっぱばかりな気もします」

('A`)「大事なところを留守にするっておかしくないか」

193:2014/06/05(木) 23:43:45 ID:smIulIUk0

(´・ω・`)「何、さっさと終わらせて吐かせればいい話さ」

( ・∀・)「まったくもってその通り。最近書類とのデートばかりで運動不足なんだ。派手に踊らせてもらうぜ」

(´・ω・`)「では、そろそろ所定の位置につこうか。合図はモララーに任せるぞ」

( ・∀・)「了解」

(´・ω・`)「ドクオはモララーから離れるな。万が一が発生したら身を隠して動くなよ。連絡手段は分かってるな?」

('A`)「了解」

(*゚ー゚)「副団長」

(´・ω・`)「ああ。行くぞ」

二人が所定の位置に付いたらドクオの端末に連絡が来る。あとはモララーのタイミングで突入だ。

('A`)「一応付け焼き刃の戦闘法は教わったけど、どこまで通用するのやら」

この数日、みっちりと剣術を叩き込まれたがはっきりいってうろ覚えである。構えだとかの基本をすっとばしてひたすら打ち合いをさせられた。あれが本番だったならドクオは軽く三桁は死んでいるだろう。

194:2014/06/05(木) 23:45:01 ID:smIulIUk0

( ・∀・)「あんなんでろくに戦えるわけあるか。お前は黙って隠れてりゃいいんだよ」

('A`)「だったら連れてこなきゃいいだろうに……」

悪態を吐いて、ドクオは煙草に火をつけた。命のやり取りだ、落ち着かなければ。

('A`)y━・~~「うまー」

こちらの煙草は値段が安い分味もマイルドであまり吸った気にならないが、ないよりはましだ。

( ・∀・)「なんだお前も煙草吸うのか。どれ、一本寄越せ」

('A`)y━・~~「モララーさんも喫煙者なの?」

( ・∀・)y━・~~「ふー。今はあんまり吸わないけどな。昔は戦場でよく吸ってた。気持ちが昂っちまうから落ち着くために、って感じでな」

('A`)y━・~~「似たような理由なんだな、どこも」

二人の煙草が根本まできっちりと灰に流れた頃、ドクオの端末に作戦開始の合図が入る。

( ・∀・)「さってと、派手に暴れさせてもらうか」

モララーが魔法陣を発動させる。そこから大小様々な球体が打ち上がり、眼下にいる魔法使い達に向かっていった。

( ・∀・)「いっくぜぇ!!」

爆音。周辺で巻き起こる爆発に敵は混乱し、右往左往している。その隙にモララーは空高く舞い上がり、持っていた多節式の槍を組み上げた。

( ・∀・)「ショウタイムだっ!!」

195:2014/06/05(木) 23:45:45 ID:smIulIUk0
◇◇◇◇

アジト襲撃の連絡を受けた彼女はクスクスと笑う。ここまで思い通りに動くともはや笑うしかない。何処までも愚かな連中だ。

川д川「作戦は順調、そしてここに恐れるものはいない。狙いは一つ、すでに手は打ってある」

彼女の視界にいるのは何も知らず、朗らかに過ごす一人の少女。今も幸せそうに最近出来た友人と喋りながら歩いている。

从'ー'从ξ゚⊿゚)ξ

自分が何者で、どんな存在で、何のために生きているのか。無知は罪だ。無知は言い訳にならない。

川д川「うふふ。これからが本当のパーティーよ。素敵な輪舞を踊りましょう。何から何まで仕組まれた絶望の輪舞を、ね」

196:2014/06/05(木) 23:46:29 ID:smIulIUk0
第三話 終

197:2014/06/05(木) 23:53:04 ID:5DeVuywY0
これにて第三話終了です
今回前後編にしてみました
できる限り短くしようと思うのですがどうにも一つの話がながったらしくなってしまいます
他の作者さんは短く綺麗に纏めてるのになぁと実力不足を痛感します
さて、次回投下はこのままいけば日曜日か月曜日になるかと思います
また予定が早まればその都度顔を出しますのでよろしくお願いします

198名も無きAAのようです:2014/06/06(金) 08:54:53 ID:ZX6CGXVc0
おもしれー!!!
続きも期待してます
乙です

199名も無きAAのようです:2014/06/07(土) 03:04:37 ID:xsqt5PpkO
投下ペース早くていいね。勢いあるから余計に面白い。

200:2014/06/07(土) 04:33:26 ID:jU5rjelI0
なんか自分が思い描くように執筆が進まない……
これじゃない感が半端ないです
もしかしたら月曜日に間に合わないかもしれません

201名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 03:29:48 ID:fmAwUd.U0
>>200
無理せずマイペースでいいと思うますw
のんびり読ませて頂いてますよ〜

202:2014/06/08(日) 17:42:50 ID:0Jfq5erY0
どうも1です
やっと筆がのって来まして現在半分ほど書き上がっております
ただ調子にのって余計なこと書きまくってたので、推敲後もあまり短くはらなければまさかの前中後編になるやも……
とりあえず明日には間に合いそうだということのご報告です

203:2014/06/08(日) 17:44:41 ID:0Jfq5erY0
>>201
いらっしゃいませ
無理せず書いていきたいと思っておりますが、やはりスピードを意識してしまいます
売れない作家はスピード命なのですよ

204名も無きAAのようです:2014/06/08(日) 21:28:07 ID:I9fNWMOY0
何かうまく言えないが
自分がおもしろいと思うものの本質を思い出したわ
ありがとう

205:2014/06/08(日) 23:47:56 ID:SOKdFUyk0
本日二回目の登場となります1です
今しがた第四話を書き終えたのですが、文章量が通常の1.5倍となってしまいました
ですので上のレスにある通り、今回は前中後編の三話編成でいきます
ろくに計画を立てられない作者ですいません
第四話の投下は明日の21時から24時の間に行います
それではまた

>>204
そう言っていただけると作者冥利につきます
今後も頑張っていきますのでよろしくお願いいたします

206名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 03:15:50 ID:5jgAuYLcO
ω・)乙。これがブーン系初投下とか信じられないうまさだ。

207:2014/06/09(月) 06:11:11 ID:jAl3WcRQ0
>>206
自分ではあまりそう思えませんが、そう言っていただけるだけで小躍りしたくなります
今後もそう言っていただけるだけようひたすら書いていきますのでよろしくお願いいたします

ちょっとした提案なんですが、ブーン系が元々vipで書かれていたということですので
今後時間があればvipでも投下していきたいなぁと思っているのですが、皆様いかがでしょうか?
稚拙な文章をさらに大勢の方に晒すことになるのでちょっと緊張しますが
自分もブーン系作者としてデビューしてしまったので、多少なりとも貢献しようかと思っているのですが……
皆様の意見を頂ければ幸いです

208名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 12:31:30 ID:jgdEf9/w0
貢献とか気張った事は考えなくても、もっと多くの人に見てもらいたいとかなら投下したら良いと思うよ
でもこっちでも読みたいから、アモーレみたいにvipに投下しつつ創作板にも投下するとかのがいいかと

209名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 15:58:45 ID:/ZzRx.nI0
ヴぃp投下に不満はないけど投下するときはこのスレのURL貼った方がいいと思う まとめが付いたらそれでもいいと思うけど

210:2014/06/09(月) 23:20:51 ID:Q3Oqlw1I0
>>208>>209
見てもらいたいという気持ちはありますが、反応とか気になるんですよね……
vipってそういうとこ厳しいですし
とりあえず五話まで終わったら試験的にvip投下してみます
vipと創作の二重投下がよさそうなんで、そのようにします
あとはスレのURLですね
一応五話投下終了までは意見をお待ちしてます

では四話はっじまっるよー

211:2014/06/09(月) 23:22:46 ID:Q3Oqlw1I0




第四話「魔法使いの流儀・中編」



.

212:2014/06/09(月) 23:24:06 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

( ・∀・)「オラオラァァァァァァァァ!! やる気あんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

怒声を浴びせながらモララーは多節式の槍を振るうと、前方にいた数人の魔法使いは為す術もなく一瞬で首を切断され絶命した。さらにモララーの後方からは閃光が迸り、地面を抉りながら周囲を殲滅していき、敵の兵士が悲鳴をあげながら熱に焼かれ、骨一つ残さず塵と帰した。

砂埃が舞い上がる中、疾走。一人の男が呆然と立っている。モララーに気付くと慌てて剣を構えたがすぐに身体を両断されて地に伏した。

と、モララーは身を屈める。次の瞬間四方八方から魔法弾が頭上を掠めていった。そのまま地を蹴り高く跳躍すると柄の節を分解し、広範囲を纏めて吹き飛ばす。着地と同時にモララーの周囲に魔法陣が浮かび上がり、幾何学的な文字から複数の光弾が帯を引いて敵を穿つ。

本来であれば人のいない寂れた廃墟が建ち並ぶ村は、たった一人の男によって悲鳴と怒号が飛び交う鮮血の舞台へと変化していく。

モララーの声が聞こえる度に爆発、土煙、悲鳴があがるのはそれだけ圧倒的だということだ。

それにしても。

( ・∀・)「最っ高に昂ってきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

('A`)「人変わりすぎだろ、あれ」

普段の冷静沈着で少し皮肉屋なイケメンは、こと戦場に置いては過激で危険なちょっと尖ったナイフのような男になるらしい。ちょっと、どころの話ではないような気もするが。

少し離れてモララーの後ろをついて行っているが、近付きすぎれば攻撃に巻き込まれるし離れすぎては敵に狙われるというジレンマでドクオは身動きがとれなくなっていた。

ドクオも戦えないわけではないが、つい最近まで命のやり取りを経験していなかった一般人としてはごめん被りたいところである。

そもそもこんなところまでドクオが来る必要があったのかと問われると、正直口を閉ざすところだ。陽動として動いているものの、その役目はモララー一人で十分にお釣りが来る。始めに設置した自動迎撃型の魔法が有効に働いていることも理由の一つではあるが、何より設置した本人が怒濤の勢いで戦場を荒らし回っているからだ。

傍若無人に暴れまわっているように見えて意外にドクオ位置を計算して攻撃しているし、それを踏まえて効率よく戦力を潰していく回転の早さはまさに鬼神、彼の通った道には草木どころか道すら残らないかもしれない。

それにしても、とドクオは周囲を見渡した。

('A`)(たかだか一人にここまで苦戦するものなのか?)

213:2014/06/09(月) 23:25:15 ID:Q3Oqlw1I0
ドクオは本当の意味で戦争というものを知らないが多少の知識くらいはある。ドクオから見てもモララーの強さが異常だということは分かる。比較対象は渡辺やしぃくらいだが、その二人が足元に及ばないレベルだろう。

だが、敵の数はざっと見ただけで百人を優に越えている。然るべき戦術に適切な人数を投入すれば撃破できない、というほどの差は感じない。ドクオというお荷物を抱えているのなら尚更だ。

にも関わらず、ここまで一方的な戦いになっているのはどういうことなのだろう。

('A`)(敵にとってそこまで重要な場所じゃないのか? それとも単に指揮をとる人間が無能ってことか?)

どちらにせよここを死守しようとする意思が感じられない。このままでは敵方の被害は大きくなるばかりで、意味のない戦いをしていることになる。

そもそもこの戦いの目的はなんだろうか。ドクオ達は黒の魔術団の手懸かりを掴みにここにいる。

もし、仮にここが重要な拠点であれば敵もそれなりの戦力と戦術でこちらを潰そうとするだろう。

ではそうでないとしたら?

ここには何もなく、戦うことが目的なのだとすれば、その意味はなんだ?

('A`)(……時間稼ぎ)

ドクオの脳裏に嫌な予感がよぎる。

予想が当たっているとすれば、敵の意図は別にあるということだ。

ならばそれはなんだ? どこに着地点がある?

ドクオは考える。自分が持つ知識と経験の中に思い当たる節はあるか。

ドクオが巻き込まれた事件は二つ。こちらの世界に来る切っ掛けとなった結界消失事件。王都中に大勢の魔物が出現し、王都にも甚大な被害が出た。二つ目は時計塔広場でのニダーとの交戦。結界消失の際、渡辺に異常とも言える執着心を見せていた。

214:2014/06/09(月) 23:26:49 ID:Q3Oqlw1I0
そして今回の件。この三つに共通しているのは全てにドクオと渡辺が関わっていること。加えて時計塔広場の件を除き、黒の魔術団が関連している。

例えば、そう例えば、自意識過剰の可能性もあるが、黒の魔術団の狙いがドクオだとしたら? ドクオと言わず、ドクオが持っている剣が目的だとしたら?

('A`;)「……まさか」

思い過ごしの可能性だってある。確信はないのだ。だが、この奇妙な一致は偶然で片付けられるのだろうか。

思えば初めてこの世界に来たときから魔物はドクオの周りに集中していた。その背後に何があったのかは分からないが、今でははっきりと黒の魔術団が関連していることを知っているのだ。

ここまでくれば勘違いではない。もはや限りなく真実に近い推測だろう。

('A`)(けど、なんでここにいるやつらは俺を狙ってこない?)

ここにドクオをとどめておくことに意味があるのか、それともここにドクオがいることに気付いていないのか。そのどちらかである可能性が高いが、前者ならば本命の意図が不明だ。だが、恐らくここにいる意味はない。

ドクオはこの考えをショボンに伝えるためポケットに入れた端末を取り出そうとして━━

━━ドクン

( A ;)「がっ……」

がくりと膝を折った。

頭が割れるように痛い。何かが流れ込んでくる。

ニダーとの戦いで感じたような衝動に似た痛み。ドクオの大切な部分に直接働きかける何か。

不快感が体を這いずり回り、胃液が逆流しそうになる。絶対に合わない部品を強引に合わせようとするような違和感がじわじわと広がって、ドクオの意識は闇へと引きずり込まれていく。

その間際、黒く塗りつぶされた王都が見えた。渡辺と、見たことのない巻き毛の少女も。

( A ;)(なん……だ、これ……)

二人が動き出す瞬間、ドクオは意識を手放した。

215:2014/06/09(月) 23:28:07 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

从;'ー'从「はっ、はっ……」

渡辺はただひたすらにヴィップラ地区を走っていた。運動不足だからではなく、走ることしか出来ないからだ。本来の移動手段である箒は魔力の伝達がうまくいかずにその辺に捨て置いた。あんなものを持ちながら走るなんてとんでもない。

渡辺の後方からは見たことのない生き物のような物体が追いかけてきている。楕円形で中心に赤い瞳のようなものがついており、背と思われるところからは羽がついているものの、それを羽ばたかせて飛んでいるわけではないようだ。

その物体は渡辺が射線上に入ると瞳から短いビームを放つので、渡辺は出来る限り距離をとりつつうまく攻撃を交わしている。

从;'ー'从「ふえぇー、なんで追いかけてくれるのよぉ〜!!」

渡辺が思いきり叫んでも楕円形の物体は容赦なく攻撃を放ってくる。言葉を解さないことを考えても、あれは魔導人形の一部なのかもしれない。

だとすれば操っている術者が近くにいるはずだが、渡辺が襲われた地点から大分離れている。術者も一緒に追いかけてきているのか、はたまた自律型のものなのかは渡辺には理解できなかったが、あれが渡辺を確実に狙っているのはわかっていた。

もし仮にあの物体は渡辺のマナを覚えていてそこからこちらの姿を追ってきている場合はアウトだが、そうでないなら━━

从;'ー'从「こっちだよぉ〜」

人気の少ない裏通りの曲がり道を左に曲がり、さらに右に曲がる。ヴィップラ地区は商業区であるため店が立ち並んでいるのだが、それはあくまでメインストリート周辺に限られているのだ。奥に行けば行くほど人も立ち寄らないし、以前開業したはずの店も客足の悪さに閉店しそのまま放置された空き家が多い。渡辺はそこに身を潜めることにしたのである。

216:2014/06/09(月) 23:29:01 ID:Q3Oqlw1I0
元々この周辺は渡辺の庭だ。幼少期からあまり人と接することの出来なかった彼女は人気の少ないこういう場所しか出歩けなかった。

从;'ー'从(反撃したいけど、魔法が使えないんだよぉ〜。困ったなぁ)

事の起こりは王都を覆う結界の異変だった。なんの前触れもなく唐突に、結界は黒く変色したのである。そして、それを境に王都の至るところで魔法が使えないという報告が相次いでいるようだ。

その時渡辺は資料の完成を祝うためにツンと街に繰り出しており、結界が黒くなる瞬間を見ていたのだが、それと同時にあの飛行物体が襲撃してきたことで渡辺はツンとはぐれてしまったのだった。

ツンも心配だが、とにかく今はこの状況を切り抜けるのが先決だ。魔法が使えない以上、今の武器は土地勘だけ。

ならばそれを精一杯利用してあれを無力化するしかない。

廃墟から少し顔を出して辺りを窺うが、動くものはないようだ。どうやらあれはマナや魔力で標的を探索するタイプではないらしい。そばによらなければ追ってはこないだろう。

从'ー'从(でも、なんで私の事狙ってたのかなぁ)

王都の内部で魔法を使えなくする、というのは分かる。王都が抱える戦力の殆どが魔法使いである以上これは最も効果がある。

だが、王族や騎士団の重鎮を狙うのではなく何故渡辺なのかがさっぱり分からない。思い当たる節があるとすれば自分が<忌み子>だからだろうか。

だとして、こんな大がかりな仕掛けを施す理由は?

普段あまり使うことのない頭をフル回転させるが理由は見当たらない。そもそも渡辺が目にしたのは自分が狙われているという事実だけであり、他の場所で別の人が襲われている可能性も否定はできないのだ。

217:2014/06/09(月) 23:29:56 ID:Q3Oqlw1I0
从'ー'从「やっぱり、もう一回街に戻って様子を見てきた方がいいかなぁ」

渡辺が廃墟から一歩出ようとして、すぐにやめた。

从'ー'从(……誰?)

足音が聞こえる。魔物のような大きい足音ではない。コツコツとヒールが石畳を叩くような音だ。

川д川「隠れてないで、出てきたらいかが?」

若い女の声が聞こえた。誰に向けての言葉なのか、渡辺には判断ができない。他に誰かがいるのかもしれない。

渡辺は体を強ばらせてじっと耐える。出来ることなら自分に気付かないでくれ。そう願いながら。

川д川「クスクス、かくれんぼなんて歳でもないのだけれど、いいわ」

女の周りでひゅんと何かを振る音がした。大丈夫、今王都で魔法は使えない。

川д川「見つけてあげる」

女の声を合図に、周囲の建物が崩れ始めた。渡辺は慌てて廃墟を飛び出すが、女はこちらを見付けるとにやりと笑い、持っていた杖から魔方陣を呼び出した。

从;'ー'从(魔法は使えないはずじゃ……)

一瞬の思考が渡辺の行動を遅らせた。女が放つ黒い光が渡辺に当たると、ぱっとはじけ、途端に渡辺は地面に倒れこんだ。

从;'ー'从(か、体が、重い……)

まるで地面に縫い付けられたように体があがらず、立ち上がることはおろか指を動かすことすら出来なかった。

川д川「ふふふ、残念だったわね。貴女に恨みはないけれど、私達のために死んでいただけるかしら?」

渡辺は反論したかったが、声がでない。少しでも力を抜けば押し潰されてしまいそうだ。

川д川「<忌み子>だなんて言ったところで所詮他の人と何も変わらないのに、悲しい話だわ。きっと貴女を殺すのは私ではなく、そう願う他人の悪意。恨むなら世界を恨みなさいな」

女はそれだけを言うと杖をこちらに向けた。こんな至近距離で魔法を使われれば、待っているのは確実な死である。

逃げようと渡辺は体に命令を下すが、なんの魔法なのか体は言うことを聞かない。どころか徐々に悲鳴をあげて筋肉からぶちぶちという音と共に刺すような痛みが走った。

川д川「さようなら、不幸な仔猫ちゃん」

死を覚悟し、目を閉じる。残された策はない。最後にドクオの顔を見たかった。

从 ー 从(さよなら……)

218:2014/06/09(月) 23:31:29 ID:Q3Oqlw1I0
ξ#゚⊿゚)ξ「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ツンの怒号。そして爆発。渡辺は爆風で吹き飛ぶが、誰かに抱えられて衝撃はなかった。

从'ー'从「ツンちゃん!?」

ξ゚⊿゚)ξ「話はあと!! 逃げるわよ!!」

ツンは渡辺を抱き抱えたまま宙を舞う。そのまま一気に加速すると、景色が早送りのように流れていった。

川д川「少しおいたが過ぎるんじゃないかしら。━━のく━━」

女の声が遠くから聞こえてきたが、最後まで聞き取ることは出来ず、やがて意識は途絶えてしまった。

219:2014/06/09(月) 23:32:18 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

彼女はいつも一人きりで、彼女の知る世界は使用人が数人と広い大きな屋敷の中だけだった。外の世界があることは知識として知っていたが出たことはない。

屋敷の中には同年代の者はいなかったし、彼女には常にやるべきことがあったから年相応の遊びを知らぬまま育ったのですることといえば魔法の勉強と書庫にある読書だけ。おかげで使用人達より博識になったし、その知識を応用できるだけの基礎は身に付いたと思っている。

しかし、彼女はたくさんの使用人に囲まれながらいつも孤独だった。

使用人と言葉を交わすのは必要なことと勉強中の質問だけ。故に独り言を口にするのがいつの間にか癖になっていた。

屋敷の中から見る外の景色はとても美しく、本の中の登場人物は皆イキイキとしていて自由に生きている。することのない屋敷の中なんて彼女にとってみれば牢獄も同然だった。そんな彼女だから外の世界というものに憧憬を抱くのは必然といっても過言ではなかったのかもしれない。

そんなある日、彼女はどうして自分は外に出てはいけないのかと使用人に尋ねてみた。普通の子供は外に出て友人を作り、日が暮れたら家に帰ってその日の出来事を話しながら家族と団欒を築くものではないのか、と。現に屋敷の周辺には多くの子供が遊びに来ていた。楽しそうに追いかけっこをして、朗らかに笑っているのを彼女は屋敷から見たことがある。

使用人の一人は彼女の問いに対し、あなたは選ばれた人間で周りの平凡な人間とは異なる道を歩まなければならない。それがあなたのためで、あなたはそのために生まれてきたのだ、と答えた。

自分だって子供なのに、他の人と違うなんてことに彼女は到底納得できるものではなかったが使用人が困った顔でそんなことを言うものだから彼女はそれ以上追求することが出来なかった。

220:2014/06/09(月) 23:33:10 ID:Q3Oqlw1I0
しかし、その日から使用人達と会話をする機会は格段に増えたように思う。彼女が寂しいと感じないよう、他人と違う生活をしていることに疑問を抱かないようにとの配慮だったのだろう。それから彼女はあまり孤独を感じることはなかった。

その数年後、彼女の人生に転機が訪れる。

彼女は両親が不在の理由を知らなかったし知ろうともしなかったのだが、その日は使用人達が朝から騒がしかったことから、何か重大なことがあったのだと推測していた。あの日から人が変わったように優しくなった使用人達に迷惑をかけたくなかったのだ。だから彼女は何かあれば使用人から話してくれるのを辛抱強く待った。今ではそれが間違いであったと酷く後悔している。

使用人達はその日からよそよそしい態度になり、彼女とあまり口を利かなくなってしまった。それは今だけだと彼女は信じていたが、それから使用人と会話をした記憶は、彼女が屋敷を出る最後の日だけとなる。

使用人との会話がなくなった翌週のことだった。彼女はいつも通りに起きて、いつものように勉強と読書に明け暮れていたのだが、お昼を回った頃に一人の男が訪ねてきた。今日から彼女の雇い主なのだという。

訳が分からず話を聞こうと使用人に説明を求めると、彼女の両親が亡くなったこと、お屋敷や他の土地などの資産は売りに出されてしまったことなどが明らかになった。つまり、今まで彼女は貴族と呼ばれるものだったが、彼女も気付かない間に落ちぶれ、全てを失っていたということだ。

221:2014/06/09(月) 23:33:58 ID:Q3Oqlw1I0
全てを知り、彼女は何も言わなかった。いや、言えなかった。彼女には知識が沢山あったが、見たことも聞いたこともない両親や自分の立場はどこか作り物のように感じられて現実感がまるでなかったのだ。使用人達は涙をこぼしながら謝罪の言葉を繰り返していたが、彼女はそれすら無感情に、機械的に返事をするだけで終わってしまった。

屋敷を後にしてから彼女の生活は一変する。今までのように勉強と読書だけでなく、炊事に洗濯掃除とやることは山のようにあった。しかし彼女は辛いとは思わなかった。屋敷の中から見ることしか出来なかった外の世界を出歩けたという満足感に満ち溢れていたから。どんな理不尽も、この空の青さを見れば耐えることができたのだ。

彼女が使用人として生活を始めてから一年後、今度は住む家そのものがなくなった。

彼女を雇っていた男が人身売買組織の親玉として検挙され、呆気なく騎士団に拘束、そのまま投獄されたのだ。彼女の他、彼に雇われた使用人達は屋敷を追われ食料を口にすることすら難しい生活へと身を落としてしまう。

彼女が昔思い描いた外の世界とはこんなにも無情なものだっただろうか。空は青く、空気は澄んでいて、人の心は暖かかったはずなのに、自分がいるこの場所はどうしてこんなにも醜いのだろう。

そんなことを考えながら、一人また一人と元使用人の仲間達が倒れていく。彼女は再び孤独になった。

最後に食事をしたのは何日前だったのかも分からなくなった頃、彼女は一人の少女と出会う。

住む家があり、食事も出せる。しかし一人では広すぎる家は寂しいし、自分は友達すらいない。よければ友達になってほしい。

人の温もりに触れ凍った心が雪解けの水のように流れていくのを感じた。彼女はこの恩を忘れない、どれだけ時間がかかったって必ず返すと約束して少女の友達となった。

それから一月も経たず、彼女は黒の魔術団の道具として生きることを余儀なくされた。

かつての友達に別れを告げられず、ありがとうさえ言えないままで。

222:2014/06/09(月) 23:36:39 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

(うA-)「んっ……」

意識が戻り、体を起こす。いつの間にか廃屋に放置されたボロボロのベッドのようなものに寝かされていた。モララーか誰かが避難させてくれたのだろう。

辺りを見渡すが、敵も味方もいない。静寂だけが漂っている。足音も、声も聞こえない。戦いはどうなったのか。

('A`)(くそっ、こんなことしてる場合じゃねえってのに……)

意識が途切れる瞬間、様々なものが流れ込んできていた。それは王都の情景、渡辺とその傍らにいた女の声まではっきりと。

そして一番ドクオが気になっているのは━━

('A`)(巻き毛の女の、あれは過去か?)

見たことのない場所と人がいたなかで、ドクオはその場の全てが手に取るように分かっていた。使用人の感情も、心の声も、後悔も、少女の絶望や憎悪、そして、初めて触れた優しさに、彼女がどれだけ救われ、報われたかも。

('A`)(やっぱりこれは時間稼ぎだ。しかも狙いは俺じゃなくて、渡辺。俺が本命なんだろうが、その準備ってとこか)

動かした感じでは体に異常はない。ここに来てから見ていただけなのだから当たり前だ。

('A`)「とにかく王都に戻んないと。取り返しが付かなくなる」

ドクオが外に出ると、壊れて廃れた村はさらに破壊を撒き散らされて見るも無惨な姿へと変わっていた。しかし動く者はなく、全てが終わったあとなのだと言うことを暗に悟ることが出来た。

( ・∀・)「よう」

223:2014/06/09(月) 23:38:31 ID:Q3Oqlw1I0
声の方を見ると、廃屋の屋根に腰かけたモララーと目があった。傷一つなく、程よい運動をした後のような爽やかさだ。

('A`)「戦いは?」

( ・∀・)「お前が寝てる間に終わったよ。世話かけさせやがって」

('A`)「悪い」

( ・∀・)「ま、あとは副団長の報告待ちだ。本調子じゃないなら休んどけ」

('A`)「そういうわけにはいかないんだ。急いで王都に戻らなきゃならない」

( ・∀・)「何?」

ドクオはこの戦いが時間稼ぎだということ、倒れる前に見た映像のこと、全てを丁寧に話していく。モララーは黙ってそれを聞いていたが、やがて。

( ・∀・)「駄目だ。お前が王都に行ったところで何ができる」

('A`)「戦える」

ドクオは問いに即答するが、モララーは槍の切っ先をドクオに向けて、さらに口を開いた。

( ・∀・)「お前は騎士団の人間じゃない。ただの一般人だ。戦う力だってあんのかどうかも分からない。今まではたまたま生き残れたけど、今度は? 残ってる連中もバカじゃあない。今頃対策を練っているはずだ。その上で、お前が行かなくちゃならない理由って、あるのか?」

('A`)「……」

モララーの言っていることは至極当然のことだ。いくら戦う力があるとはいえ、ドクオはあくまで守られる側の存在。そのために騎士団があり、魔法使いがいる。そこにドクオが割って入るということは、彼らの仕事を全て奪うことを意味している。誇りや矜持を、ドクオは否定するのだ。

( ・∀・)「やらなきゃならないことなら騎士団がやる。今回だって、要は大義名分のためなんだよ。本来ならここにいるべきじゃなかった」

モララーはそこで一度深く息を吸うと、はっきりと、凛とした声で

( ・∀・)「お前を行かせることはできない」

そう、言った。

( ・∀・)「連絡はいれとこう。王都がヤバイかもしれないってな。だから」

('A`)「関係ねえよ。大層なご高説ありがとさん。でも俺は行く」

224:2014/06/09(月) 23:40:09 ID:Q3Oqlw1I0
ドクオはモララーの言葉を遮り、しっかりと彼の目を見据えて言い切った。

(# ・∀・) 「よく聞こえなかった。でももう言わなくていい。疲れてんなら休め」

('A`)「なあモララーさん。あんたも分かってると思うけど、俺はいつの間にかここにいた存在だ。騎士団が掲げるような大層なもんは持ってない」

いつだって逃げ出して、努力すら否定して、目を反らして生きてきた。ドクオはそんな自分が今でも嫌いだ。

('A`)「けど、ここで見たもの聞いたもの、触れたものや感じたものは俺を変えてくれたんだ。いや、まだ変わってなんかいないかもしれない。でも、きっかけをくれた。自分の今までを全部壊せるくらいすごいきっかけだ」

この世界に生きる彼女は、不幸な境遇でも諦めず、自分のように腐らず、真っ直ぐに前を見据えている。

('A`)「俺はその恩を返すために何かがしたい。王都なんて関係ない。そんなのは騎士団が守るものだろ。なら俺はたった一人のために、すごく大きくて、小さい一人のために行くんだ。そのために、力を貸してほしい」

言い終えて、ドクオは頭を下げる。モララーは槍を肩にかけ、沈黙した。

どれくらいの時間がたったか、長かったのか、短かったのかも分からない静寂の中、一枚の紙がドクオの足元にヒラヒラと舞い降りてくる。

( ・∀・)「王都に戻るマジックアイテム落としちまった。緊急用なんだよなぁ、いやぁどこで落としたんだろうな。しかもドクオは体調不良で先帰っちまうし、不幸だなぁ。まいったまいった」

顔を上げると、モララーは明後日の方を向いてけらけらと笑っていた。男のツンデレとかはやんねえよ、と思いながら、ドクオは感謝を口にする。

('A`)「終わったら飲みにいこうぜ。あんたの奢りで」

( ・∀・)「お前の奢りだろばかたれ」

それだけ言ってドクオはマジックアイテムを手にして、強く願う。

('A`)「俺をあいつのもとに連れてってくれ」

ドクオの体は淡い光に包まれ、視界がノイズのように荒れていく。

( ・∀・)「精々気張れよ」

モララーの声を背にして、ドクオは王都へと単身乗り込んだ。

225:2014/06/09(月) 23:40:54 ID:Q3Oqlw1I0





光となって王都へと飛んだドクオを見送って、モララーは煙草に火をつけた。

( ・∀・)y━・~~「ふー。で、いつまで隠れてるんです、副団長」

モララーが声をかけると、隣の廃屋からショボンがひょこりと顔を出した。しぃも一緒にいる。

( ・∀・)y━・~~「盗み聞きなんてらしくないですよ」

(´・ω・`)「声をかけるタイミングを逃してしまってな」

ショボンはそう言うと、モララーと同じように煙草をくわえる。そう言えば彼も愛煙家だった。

(´・ω・`)y━・~~「ふー。さて、我々も帰るとしよう。ここには大したものはなかった。また一から情報を集めないとな」

( ・∀・)y━・~~「俺にお咎めはないんですか? 重大な規律違反ですが」

(´・ω・`)y━・~~「私は何も見ていない。つい先程ここに到着したばかりだからな。そうだろう、しぃ」

(*゚ー゚)「はい。転送魔法のようなものがこちらに来る際に見えましたが、それだけです」

(´・ω・`)y━・~~「だそうだ」

( ・∀・)y━・~~「都合がいいですね。それに助けられる俺も俺ですが」

(´・ω・`)y━・~~「この間言っただろう。我々は騎士団である前に一人の人間だと。僕には大事なものを守るために、無くしてはならないものを守るために戦う誰かの願いを無下には出来ないよ」

( ・∀・)「精々死んでないといいんですがね」

(*゚ー゚)「……馬鹿というのはしぶといものです。簡単には死にません」

(´・ω・`)y━・~~「だが、馬鹿じゃないと守れないものは沢山ある。組織という枠組みに嵌まっていては、絶対に届かないものがね」

(*゚ー゚)「……私には分かりません」

( ・∀・)「女子供じゃ分からないだろうよ。これは大人の男にしか理解出来ないんだ」

(*゚ー゚)「はぁ」

そう言って、モララーは空を見上げる。空は今日も青かった。

226:2014/06/09(月) 23:41:55 ID:Q3Oqlw1I0
◇◇◇◇

ツンと渡辺はヴィップラ地区の外れにある小屋に身を隠していた。魔法物体が未だ巡回しているため出歩くことも出来ないが、しばらくは時間を稼げるだろう、とツンの助言からである。

現在ツンは治癒魔法をかけてくれているが、口を利こうとはしなかった。何か事情を知っていそうではあるが、暗い顔で唇を噛みしめ、今にも泣いてしまいそうだ。

渡辺はわざと明るい声を出して、笑顔を作った。

从^ー^从「ツンちゃんありがとう〜。私死んじゃうかと思ったよぉ〜」

それに対し、ツンははっとしたような顔をするが、すぐに頭を横に振って、

ξ ⊿ )ξ「ごめんなさい。あんたが怪我をしたのは、私のせいだから、お礼なんか言わないで」

从'ー'从「でもでも、助けてくれたのもツンちゃんだよぉ〜。だから、やっぱりありがとうだと思うなぁ〜」

それだけのやり取りを終えると、ツンは再び口を閉じてしまった。いつの間にか治癒は終わっており、痛みはなくなっている。ツンは手持ち無沙汰になり、忙しなく視線を泳がせていた。

渡辺には、そんなツンが何かを言おうとして、どうすべきか分からない子供のように見えて、つい彼女の頭を撫でた。

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

从'ー'从「あのね、私は何が起きてるか分からないけど、ツンちゃんがそんな顔をしてると私も悲しくなるんだぁ〜。だからね、よかったらツンちゃんの抱えてる物、私に話してほしいな。何ができるか分からないけど、力になるよ。だって」

渡辺は笑う。今度は作った笑顔じゃなく、心の底から。

从^ー^从「友達だもん」

227:2014/06/09(月) 23:42:43 ID:Q3Oqlw1I0
その言葉に、ツンは目を見開きぱくぱくと口を開閉する。そして、耐えきれなくなったのか、ついには涙が溢れてきた。

ξ;⊿;)ξ「ごめん、なさい!! 私のせいで、貴女がこんな目に……」

渡辺はツンを優しく抱き締めた。子供をあやすように。

从'ー'从「大丈夫、大丈夫だよ。だから、何が起きているのか、話してほしいな」

渡辺の胸に顔を埋め、思いきり泣いたあと、ツンはぽつぽつと語り始めた。

ξ゚⊿゚)ξ「私は、黒の魔術団に所属しているの。今回、渡辺に近付いたのは、ドクオという男を捕らえるため」

从'ー'从「どっくんを?」

ξ゚⊿゚)ξ「あいつは、黒の魔術団が行った召喚魔法によって他の世界から呼び出された人間なの」

从'ー'从そ「ええー、そうだったんだ〜」

ξ゚⊿゚)ξ「……そして、私の役割は渡辺をあいつから遠ざけるようにすることと、王都の結界に細工してこの街で魔法を使えないようにすることだった」

ツンはさらに詳しく話していく。王都の近くに分かりやすい囮を起き、そこで騎士団の連中を相手取り時間を稼ぐ。その隙に王都に残った連中を無力化し、ドクオを捕獲する手筈だったらしい。

しかし、ツンの狙いは外れ、ドクオは囮の方へと向かってしまった。しかも黒の魔術団の上司である先程の女━━貞子というらしい━━は何故か渡辺を狙っている。

ξ゚⊿゚)ξ「私が聞いた作戦内容とはまったく別の展開になってて、私は慌ててあんたを探してきたってわけ」

从'ー'从「そうだったんだ〜。あれれー? じゃあツンちゃんは味方じゃないの?」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、だからそう言ってるじゃない」

从'ー'从「それじゃあなんで私を助けてくれたの? ツンちゃんが敵なら私を助ける理由ってなかったんじゃないかなぁ〜」

228:2014/06/09(月) 23:43:31 ID:Q3Oqlw1I0
ツン、いや黒の魔術団の狙いがドクオならば、渡辺という少女が一人死んだところで特に問題はなかったはずだ。最終的にドクオが手に入ればツンの役目は終わるのだから。

危険を犯してまで、上司に反抗してまで渡辺を助けるメリットははっきり言って、ない。

ξ ⊿ )ξ「それは……」

ツンは再び言い淀み俯いた。しかしすぐに顔を上げると決意を秘めた瞳を渡辺に向ける。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ渡辺。私の顔、どこかで見た覚えはない? ずっと昔、貴女が魔法使いになる前の話よ」

229:2014/06/09(月) 23:44:26 ID:Q3Oqlw1I0
第四話 終

230:2014/06/09(月) 23:49:16 ID:Q3Oqlw1I0
これにて第四話終了です
次で渡辺の話は終わりの予定です
最近渡辺を書いているときのイメージが具体的に出てきてしまってにやにやしてます
どっくんとかも具体的な構想はあるんですが、めんどくさいので書きません
さて、次回投下は金曜日か日曜日です
今週は何かと忙しいので長い目で見ていただけると幸いです

231名も無きAAのようです:2014/06/09(月) 23:55:58 ID:Cr2B2rhE0

続き楽しみにしてます

232名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 00:53:45 ID:2zaFXjO60
ドクオと渡辺の組み合わせはsnegな魔法少女思い出すな

233名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 02:37:49 ID:LqOITU7.0

ワタナベの友達増えて嬉しい
この作品のワタナベは幸せになって欲しいわー

234名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 07:11:02 ID:3Saa5kdY0
ええこや....

235名も無きAAのようです:2014/06/10(火) 20:39:13 ID:CdJYFnog0
ワタナベと友達になりたいわ
黒の魔術団さん俺とか召喚してくれませんかね?

236:2014/06/12(木) 19:22:41 ID:tutYy7xU0
どうも1です
忙しくてなかなか顔を出せずすいません
投下の予定ですが、やはり日曜日で確定になります
いつも通り日付が変わる頃に投下しますのでよろしくお願いいたします

237:2014/06/15(日) 07:59:57 ID:uuUF14NA0
今日の夜21時から23時の間に投下します
1週間も投下しませんでしたが、これからしばらくはまた3日に1回程度の頻度になると思いますのでよろしくお願いいたします

238名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 10:02:53 ID:yeJ/gH3g0
きたきたー!

239名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 20:34:09 ID:XnLDIZkI0
待ってた

240名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 20:44:56 ID:2reeD9yE0
一週間くらい週刊誌だと思えばなんてことないやw
続き読ませてもらおうか

241:2014/06/15(日) 21:01:20 ID:aSUQjz8I0



第五話「魔法使いの流儀・後編」


.

242:2014/06/15(日) 21:03:10 ID:aSUQjz8I0
◇◇◇◇

渡辺の最初の記憶は沢山の人に囲まれて罵詈雑言を浴びせられたところからだった。皆口々にお前は悪魔の子だ、何故産まれてきたんだ、と心ない言葉を言う人達の表情は皆一様に醜く歪んでいた。

子供心に、自分がこんなことを言われるのは親がいないからだと思っていた。渡辺を育ててくれていたのはもう顔も覚えていない初老の男性だ。彼は初めに渡辺の親は亡くなっているのだと教えてくれたことを、はっきりと覚えている。

彼の口癖は、今は辛くとも必ずどこかに君の理解者がいる。その人が現れるまで負けちゃいけない。優しい心を忘れてはいけない。笑顔を絶やさず、誰かに優しくすれば、いつか世界は答えてくれるから。という根拠もない綺麗事だった。

渡辺には彼の言うことが漠然としか分からなかったが、笑顔でいること、人に優しくするということが幼い彼女にとってある種の指針になったのは間違いなかった。

それから渡辺はどれだけ石を投げられても、どれだけ酷い罵りを受けても笑顔でいたし、人に優しくすることを止めることはなかった。誰も彼女を認めてくれることはなかったけれど、それでも彼女は真っ直ぐでいられたのだ。

けれども渡辺は人知れず何度か泣いてしまったことがある。意地の悪い貴族の子供たちに集団で暴行を受けたとき、大切に見守っていた子猫達が近所の子供たちに殺されていたのを見たとき、そして、自分を育ててくれた初老の男性が亡くなった時。

一人でも生活出来るほどの歳になってはいたが、生まれて初めて見る人間の死というものを間近で見て、渡辺はどうしようもなく悲しくなった。この世界で唯一自分を人として見てくれた彼の存在は、渡辺の心の支えになっていたのだ。

寝たきりになり、口数の少なくなった彼は、それでも渡辺に笑顔でいろと、優しくいろと何度も何度も言っていた。

彼が亡くなる直前に言った言葉は今でもはっきりと思い出せる。

『世界はとても残酷だけれど、けして醜くはないんだ。君が誰かのために出来ることをすれば、いつか必ず世界が美しく、綺麗に見えるはずだから。その時、きっと世界は応えてくれる』

そう言って動かなくなった彼のためのお墓は、土に埋めて目印である木片を立てる簡単なものでしかなかった。

それから彼女は彼の教えの通りに絶望せず、人を恨まず、険しい道のりを歩いてきた。渡辺と彼女が出会ったのはそんな時だ。

同じくらいの年齢なのに、みすぼらしくガリガリに痩せた少女は、渡辺の遊び場となっていたヴィップラ地区の裏路地で、虚ろな目をして壁に背を預けていた。

渡辺は迷わず彼女に食料を分け与え、身寄りがないことを知ると一人で住むには広すぎる家に招くことにした。嫌でなければずっとここにいてもいいよ、と言葉を添えて。

それから彼女とは友達になった。寂しかったのかもしれない。誰にも認められず、孤独な日々は渡辺に温もりを忘れさせていたから。

彼女が家に来てからは毎日が楽しかった。何をするにも一緒で、楽しいことも辛いことも彼女がいたから乗り越えられた。

共にいた一月ほどの時間は、今でも彼女の宝物だ。生まれて初めての友達だったから。

けれども、二人の楽しい日々は、呆気なく終わることとなる。

彼女は一人買い物に行ったまま、二度と戻ってくることはなかった。

買いに行った品物だけが、渡辺はどうしても思い出せない。

243:2014/06/15(日) 21:13:54 ID:ZFOD1W1k0
◇◇◇◇

王都に戻ったドクオは、結界が黒く変色している中をひたすら走っていた。道中楕円形の飛行物体にレーザーを撃たれたがすぐに粉砕して先を急ぐ。

('A`)(渡辺はどこにいるんだ!? 早く見つけないと、取り返しがつかないことになる!!)

現在どこにいるのかは分からないが、意識が断絶する瞬間に見た景色はヴィップラ地区なのだということは分かっている。記憶にないはずの光景なのに、何故かドクオはそう確信していた。

妙に冴え渡る頭と、走っても走っても尽きない体力、とてつもない運動能力は人間の範囲を越えている気もするが、それでも今はありがたい。そのおかげで誰かを救うために動けるのだから。

('A`)(どこだ、どこにいる。あの場所からそう離れてはいないはずだ)

川д川「あらあら、随分とお早い帰還ね」

('A`)「誰だ」

足を止めて声の方へと振り替えると、髪の長い長身の女が立っていた。杖を持っているところを見ると、魔法使いのようだ。

244名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 21:24:13 ID:k5sBsVUEO
きたか支援

245:2014/06/15(日) 21:25:33 ID:DLxT8URU0
川д川「初めまして、魔剣の主。私は貞子、あなたをこちらに呼び出した黒の魔術団の一人よ」

深くお辞儀をして、貞子はくすくすと笑う。前髪に隠れて目は見えないが、口元が嫌らしく歪に曲がっている。

('A`)「いきなり黒幕のお出ましとは運がいい。お前を倒せば結界も元に戻るんだろ?」

川д川「さあ? 試してみてはいかが? もっとも、その間にもあなたの探す女の子が醜い肉塊になっているかもしれないけれど」

('A`#)「ってめえ!!」

ドクオは怒りに任せて斬りかかるが、貞子の姿は陽炎のようにゆらりと揺れて見えなくなった。

川д川「随分と元気がいいのね。でも、今のあなたでは私の足元にも及ばない」

ドクオの背後から黒い塊が飛んでくる。慌てて剣を振ってそれを消し飛ばし、貞子へと踏み込むが、またも実体を掴めず、攻撃は空を切った。

('A`)「くっ、ちょこまか動きやがって」

再び貞子へと突撃し、攻撃、空振りを繰り返す。その間にも貞子の攻撃は激化し、徐々にではあるがドクオは押され始めていた。

('A`)(集中しろ。次の攻撃はどこから来る? どの位置なら俺に隙がでる?)

当たらぬ攻撃を何度も繰り返しながら、ドクオは考える。貞子の攻撃はいつも死角から。こちらの機動力を上回っているからこその行動。そこに付け入る隙はあるはずだ。

川д川「これ以上やっても無駄よ。元気のいい子は嫌いじゃないけれど、少し元気すぎるわあなた」

空振り。しかしドクオはすぐさま反転。
数歩の距離に貞子はいた。

('A`)(捉えた!!)

地を蹴り、爆発的な速度で距離を詰める。

川д川「あら」

('A`)「らぁぁぁぁぁ!!」

246:2014/06/15(日) 21:26:56 ID:DLxT8URU0
が、貞子は杖で剣を受け止めた。何の変哲もない、木の杖で。

('A`)「なっ」

川д川「まだまだね。その程度では」

魔方陣が浮かび上がり、瞬間、黒い帯がドクオを包んだ。

( A )「がっ」

外側ではなく体の内側を抉るような痛みに、ドクオはついに膝を折った。立ち上がっても、足が震えてバランスをうまく保てない。

結局、ドクオは倒れてしまった。

( A )「く……そ……」

体がうまく動かない。貞子に顔を向けて睨み付けるのが精一杯だった。

川д川「だらしないのね。もう少し楽しませてくれてもよかったのに」

そう言って、貞子は背を向けた。体がだんだんと透けていく。

『今日は顔見せだけで済ませておくわ。次に会ったときは楽しく踊りましょう』

('A`)「待て!! 渡辺はどこにいる!? お前らの目的はなんだ!?」

『ふふふ、自分の力で探してみなさい。あなたにはそれが出来るだけの力がある』

('A`)「なっ」

『私は一足先に目的を達するとするわ。ごきげんよう』

その言葉を最後に貞子の声は聞こえなくなる。

('A`#)「くそっ、早く渡辺を見つけないと」

しかし、これではっきりした。今回敵の目的は渡辺だ。ならばドクオのやることは一つ。

('A`)「待ってろよあの女。てめえらの好きにはさせねえぞ」

傷だらけの体を気合いで起こし、ドクオは再び王都を駆ける。まだ終わっちゃいない。体は動く。ならば、ここからが本番だ。

247:2014/06/15(日) 21:27:46 ID:DLxT8URU0
◇◇◇◇

ツンから全ての話を聞いた渡辺は震えが止まらなかった。買い物に行くと言って行方知れずだった少女が、大好きで大切だった彼女が、生まれて初めてできた唯一の友達が、今目の前にいる。

从;ー;从「あ……あぁ……」

生きていてくれた、再会できた。ずっとずっと会いたかった。

从;ー;从「ツンちゃん……ツンちゃ
ーん!!」

ξ;⊿;)ξ「渡辺!!」

二人はどちらともなく抱き締めあう。数年ぶりに見る彼女は大人の女性だが、記憶の片隅で息吹いている少女の面影は確かに残っていた。少しつり目になっているところも、なかなか素直になれないところも、全部全部昔のままだ。

从;ー;从「会いたかったよぉ!! 沢山探したんだよ!!」

ξ;⊿;)ξ「ごめんね、ごめんね……」

从;ー;从「ふえぇーん!! 許さない、許さないんだからぁ!!」

彼の言うことは間違っていなかった。人に優しく、笑顔でいれば、いつか世界は応えてくれる。この瞬間、いや、本当はずっと前から世界は渡辺に応えていたのだ。

ツンが生きていてくれたことが何よりの証拠。もしかしたら二度と会えないかも知れなかったのだから。

从うー;从「ツンちゃん今まで何してたのよぉ。ずっと心配してたんだよ?」

ξ;⊿;)ξ「私だって、会いたかった!! 今日まで生きてきて、あんたのこと忘れたことなんてなかった!!」

从;ー;从「私だって忘れたことないよ!!」

渡辺にとって、彼が亡くなってから初めて自分と対等に話が出来たのは、人として真っ直ぐに接することが出来たのはツンだけなのだ。忘れることなどできなかった。忘れようとしたって簡単には消えない大切や思い出だ。

ξ;⊿;)ξ「ほんとはずっと声をかけたかった、ちゃんと話をしたかった。勇気がでなくて、騙すようなことして……ごめんなさい……」

从;ー;从「いいよ、そんなの。ツンちゃんが今こうして目の前にいるんだもん。私は、それだけで十分だよ」

248:2014/06/15(日) 22:19:33 ID:7492edUQ0
これから沢山の話をしよう。ツンがいなくなったあとの話だ。魔法使いになったこと、友達ができたこと、きっと全部を話す頃には世が明けてしまうだろう。でも、そんなことは些細なことだ。だってこれからは隣にいてくれる。渡辺も隣にいる。

あのたった一月は、そう思えるほどに尊く、大切な日々だったから。

しばし二人で互いの存在を確認しあうように抱き合い、やがてツンは体を離した。

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱりあんたは変わってないわね、昔から。ずっと優しいままだわ」

从'ー'从「ツンちゃんだって、ずっと可愛いままだよぉ」

ξ゚⊿゚)ξ「……ありがと。でも、今はお互いを誉めちぎってる場合じゃないみたい」

从'ー'从「ほえ?」

ツンが渡辺を庇うように前へでる。辺りには誰もいないように見えた。

川д川「あら、意外に勘がいいのね。気付いていないのかと思ったのだけど」

やがて何もないはずの空間に黒い影が浮かんだかと思うと、ぐにゃりと歪んで人の形を作る。そこから、まるで旧友を訪ねるかのような気さくな態度で貞子が現れた。

从;'ー'从「嘘……」

249:2014/06/15(日) 22:34:51 ID:aSUQjz8I0
ξ゚⊿゚)ξ「こいつにとって距離なんて関係ないのよ。対象のマナさえ分かればどこにだっていけるし、現れる。私が今まで逃げ出せなかったのは、そのせいよ 」

川д川「逃げるだなんて、あなたを一人前に育て上げたのは誰だと思ってるのかしら」

心外だ、とばかりに貞子は言葉を投げるが、ツンは唾を吐き捨てるように忌々しそうに、

ξ゚⊿゚)ξ「人の命を道具としてしか見れないあんたに、育てたなんて言う資格あるわけないでしょ」

そう、はっきりと告げた。

川д川「反抗的な目つきね。一応、聞いておくわ。その娘を渡しなさい。そうすれば、今までのおいたも目を瞑ってあげる」

ξ゚⊿゚)ξ「断る! 私はあんたに利用されてたけど、この魂、プライドまで売り渡したわけじゃない! 渡辺はね、私を救ってくれた! 自分だって辛い目に合ってるのに、それをおくびにも出さずに私の手を取ってくれたのよ!? その恩も返さず、いなくなった私をまだ友達だと言ってくれる!」

ξ゚⊿゚)ξ「人を人だとも思わないようなあんたに、この気持ちは分からないでしょう! だから、私は渡辺を守る!」

ツンは声を張り上げ、高らかに宣言した。

対して貞子は余裕を崩さず、口元をにやりと歪め、

川д川「交渉決裂、ね。いいわ、少し痛い目を見て思い知りなさい」

持っていた杖を構えると、彼女の周囲からいくつもの黒い波動が巻き起こった。

ξ゚⊿゚)ξ「渡辺、離れてて。私が絶対に守ってあげる」

そして、二人の魔法使いは戦闘に入った。

渡辺はそれを見ていることしかできない。魔法が使えないことがこんなにももどかしいと思ったのは初めてだった。

从'ー'从(ツンちゃん……)

250:2014/06/15(日) 22:35:45 ID:aSUQjz8I0


ツンは手をかざし、魔法陣を幾つも作る。そこから黒い球が現れ、レーザー状の攻撃を貞子へ放った。

当たるとは思わない。貞子はツンに闇魔法を教えた人間だ。対策やこちらの考えはお見通しだろう。

ξ゚⊿゚)ξ(けど、こっちだって貞子のやりそうなことは分かってる。それに、あっちは私のもう一つの魔法を知らないはず)

貞子はレーザーを軽々と避けていくと、杖を鳴らした。魔法陣がツンの上下から挟むように出現。すぐに前方へと走り、再び魔法。

貞子は接近戦も心得ている。ツンでは到底敵わないだろう。ならば次の手次の手で追い込むしかない。

ξ゚⊿゚)ξ「食らいなさい!!」

複数の魔方を同時に放つ。一つは貞子の後方から上下左右に黒い網を展開させ、二つは貞子の両側面に爆発する黒球。正面に自身の体に魔法を纏わせるための強化魔法。

貞子は網を破ろうと魔法の準備をしていたようだが、ツンの接近に気付き数瞬動きが遅れた。

ξ゚⊿゚)ξ「はぁぁぁぁぁぁ!!」

ツンの両手から膨大な黒い波動が放出され、その魔力が両隣の球を誘爆させる。後方には網があるため威力は落ちないはずだ。

しかし、それだけでは貞子を倒せないのはわかっている。今のうちに他の魔法を張っておく。

ξ゚⊿゚)ξ(大事なのはこちらの手を読ませないことよ。大丈夫、私ならできる)

設置型の魔法は貞子が触れると発動し、ダメージを与え、さらに魔力を奪うタイプのものだ。ツンでは彼女の魔力を根こそぎは奪えない。少しずつ、少しずつ力を使えないように手を打っていくのが精一杯だ。

魔法を設置し終え、次の行動に移ろうとツンが動いた時、図上に大きな魔法陣が出現。貞子だ。

ξ゚⊿゚)ξ(くっ、渡辺!!)

ツンや貞子が使う闇魔法は防御系の術が使えない。つまり攻撃することしか出来ないのだ。

急いで渡辺の元へと走り、手を引いてその場を離れる。建物や床がメキメキと引き剥がされ、塵となっていく。あの広さと威力ではツンが仕掛けた魔法も意味を為さないだろう。

从'ー'从「ツンちゃん、ごめんね。私も戦えれば……」

ξ゚⊿゚)ξ「気にしないで。元々私が撒いた種よ。それに、私はあんなのに絶対負けないから」

振り返ると崩落したフロアの中心に傷一つなく立っている貞子の姿が確認できた。あれだけの瓦礫の中無傷で立っていられるのだから、ツンは自分と相手の差を突きつけられた気がした。

ξ;゚⊿゚)ξ「化け物め」

川д川「相変わらずつまらない攻撃ね、考えさせる暇もないくらい、大きく攻撃すればそれで終わりなのよ?」

貞子はさらにツンと渡辺の周囲を取り囲むように陣を置いた。

ξ;゚⊿゚)ξ「なんの真似よ」

251:2014/06/15(日) 22:36:36 ID:aSUQjz8I0
川д川「私は貴女を壊したくないの。まだまだ利用価値があるからね。だから、その娘を渡しなさい」

ξ゚⊿゚)ξ「断るって言ってんでしょ、あんたしつこいわ」

川д川「私は望んだものを全て手に入れないと気がすまないの」

ξ゚⊿゚)ξ「知ってる。だから私はここにいるのよ」

ツンは今までの生活を思い出す。貞子はツンを人間としてではなく、道具として様々なことを叩き込まれた。人を騙したし、殺しもした。誰も自分を誉めてくれなかった。それでも今日まで生きてこれたのは渡辺との思い出が彼女を人間たらしめた。

だからこそツンは渡辺だけは守ると決意している。たとえその結果、自分が死んでしまうとしても。

ξ゚⊿゚)ξ「それに、あんたなんか勘違いしてない? これで追い詰めた、なんて思ってるのかしら?」

川д川「まだ何か策があるとでも?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ。策と言えるものじゃないわ。けど、あんたの言ったことは一つだけ間違ってない」

ツンは手を高くあげ、

ξ゚⊿゚)ξ「策を与えないほどでかい攻撃で勝負は決まるってこと」

巨大な魔法陣が浮かぶ。

ξ゚⊿゚)ξ「私がまだ使用人と暮らしてた時に見た魔導書がこんなときに役立つなんてね」

貞子が一瞬だけ狼狽えるのが見えた。ツンはやつを出し抜けたことに思わずにやけてしまう。

ξ゚⊿゚)ξ「禁呪を食らいなさい!!」

魔法陣からツンが持つ魔力が放出され、暴走する。床も、建物も、何もかもが一瞬の内に蒸発し、塵すら残さない。凄まじい魔力の風がツンの体を叩き、立っていられずツンは近くの壁に激突してしまった。

自分で放った魔法にやられるなんて情けない、とは思っても、完成していない魔法を必要以上に誰かを傷つけることなく行使出来たのは僥倖としか言いようがないだろう。

それにこれだけの魔力の奔流に打たれたのだから、いくら貞子とて生きてはいまい。

魔力の暴走が収まり、辺りに静けさが漂い始めた。禁呪を放った場所は何もない。何かを使って綺麗な楕円形にくり貫かれたかのように、そこだけが他と切り離されている。

从'ー'从「ツンちゃん!!」

252:2014/06/15(日) 22:38:02 ID:aSUQjz8I0
いつの間にか渡辺が駆け寄っていた。見たところ大きな傷はないようだ。細かい石などで肌を浅く切ってはいるが、痕は残らないだろう。

ξ;-?゚)ξ「や、やってやったわ……。ごほっ」

渡辺の肩を借りて立ち上がるも、ツンは遂に血を吐き出す。さすがに禁呪と呼ばれるだけのことはあり、マナがごっそりと減って体内の機能すら低下しているようだった。筋肉は軋み、内臓も本来の動きをしていない。

从;'ー'从「すぐにお医者さんのところに連れていくね!! 死んじゃやだよ!?」

ξ;-?゚)ξ「全部終わったんだから大丈夫よ。あとは、王都の結界を元に戻せば……」

ツンはそこまで言って、自分を襲う衝撃に身を委ねるしかなかった。

甘かった。

敵は道具として自分の隅々まで知り尽くしている女だ。禁呪のことも分かっていて、打たせたと言うのか。

だとしたら、あの狼狽振りも、演技としか思えなかった。

床を何度も転がり、ツンは緩慢とした動きで先ほどの場所を睨み付ける。渡辺は無事だったが、近くには、やつがいた。

川д川

ξ;+?゚')ξ「渡辺!!」

川д川「さすがに今のは驚いたわ。予想よりも凄まじい威力ね。でも」

貞子は言いながら杖をツンに向ける。同時に、ツンが放った禁呪よりも規模は小さいが、同じものが放たれた。

ξ ? )ξ「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

死なない程度に加減されたのか、体はまだ残っている。意識もある。しかし、もう動けない。骨は何本も砕け、内臓を傷つけ、呼吸すらままならない。放っておけば自分が死ぬだろうことは簡単に予想できた。

从;ー;从「ツンちゃん!! お願い!! 私はいいからツンちゃんをいじめないで!!」

渡辺が立ち上がり、ツンの前に立ちはだかった。魔法も使えない、運動も得意ではない彼女が。

从;ー;从「あなたの狙いは私でしょ!? 好きにしていいから、ツンちゃんは助けてよ!!」

ξ ? )ξ「渡辺……何を……」

ツンには渡辺が何を言っているのか分からなかった。何故魔法も使えないのに立ちはだかるのか。

253:2014/06/15(日) 22:39:35 ID:aSUQjz8I0
从;ー;从「もう嫌だよ!! 私のせいでツンちゃんが傷つくのなんて見てられない!! 私一人の命でツンちゃんが、みんなが助かるなら、こんな命いらないよ!!」

渡辺のせいじゃない。これは自分のためだ。渡辺には生きてほしいから。日溜まりの中で、笑っていて欲しいから戦っているのだ。

ξ ⊿ )ξ「やめて……それじゃあ、私が戦った……意味が……」

なのに、救おうとしている本人にそんなことを言われたら、もう何も出来ないじゃないか。

从;ー;从「ツンちゃん、私のために戦ってくれてありがとう。でも、もういいよ。休んで大丈夫だよ」

大丈夫じゃない。渡辺の声は震えている。こんなにも誰かに優しい人間が死んでいいわけがない。

ξ;⊿;)ξ「やめて、お願いだから……」

まだ戦える。心は折れていない。なのにな、何故体は動かないのか。目の前で大切な友達がいるのに。

川д川「泣かせるわね。友情のために命を差し出せるなんて、すごいわ。尊敬しちゃう」

从;ー;从「貴女にはきっと分からないだろうね。人を傷つけることしかしない貴女なんかには一生分からない」

从;ー;从「魔法は誰かを傷つけるための力じゃない。大切な人を、心を守るために力ない人が学ぶものなんだ」

从;ー;从「魔法使いだから魔法が使えるんじゃない。誰かを守りたいから魔法使いになったんだ」

从;ー;从「だから、魔法を使えないからってツンちゃんがやられるのを見てることなんてできない。それが━━」

254:2014/06/15(日) 22:40:16 ID:aSUQjz8I0






从;ー;从「魔法使いなんだ」





.

255:2014/06/15(日) 22:41:08 ID:aSUQjz8I0
川д川「……そう。言いたいことはそれで終わりかしら? ならば、お望み通り殺してあげる!!」

貞子が初めて語気を荒らげた。なのにつも冷静沈着で、余裕を崩さなかったあの貞子が。

渡辺の言葉は、きっと渡辺にしか言えないことだ。ツンだってそんなこと言えるわけがない。

人を殺し、傷つけ、騙してきた自分にはきっと言えない。

でも、それを信条とする彼女の力にくらいなってあげたっていいじゃないか。そばにいて、支えてあげるくらいはさせてくれたっていいじゃないか。

なのに、何故こんなにも現実は無情なのだろう。肝心なときに助けてくれないのだろう。あの子は何も悪いことをしていないのに、どうして酷い目に合わなくちゃならないのか。

渡辺はいつかツンにこう言った。

世界はとても残酷だけれど、けして醜くはないんだよ。誰かのために出来ることをすれば、いつか必ず世界が美しく、綺麗に見えるはずだから。その時、きっと世界は応えてくれる。

ξ ⊿ )ξ「なら、応えてよ」

渡辺はもう十分に誰かのために戦った。そして今尚誰かのために戦っている。

貞子が杖を振るうのが見えた。特大の魔方陣が現れ、魔法が発現していく。

ξ;⊿;)ξ「渡辺のために、誰か応えなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

その時だった。彼女の願いに呼応するかのようにそいつが現れたのは。

魔法が渡辺を飲み込む間際、

(゚A゚)「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

紅い剣を持ったひょろい男が雄叫びをあげて魔法を消し飛ばした。

256:2014/06/15(日) 22:48:13 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇

ドクオは剣を構え直し、渡辺と、その後ろで傷だらけになっている少女を見る。流れ込んできた映像に出てきた少女だ。確か、ツンと呼ばれていた。

数年前に渡辺と友達になり、すぐに別れてしまった少女。

彼女はきっと渡辺のために戦ったのだろう。綺麗なはずの肌はボロボロで、顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。それでも彼女は最後まで戦おうとしていた。他の誰でもない、渡辺のために。

そして渡辺はそんな彼女のために、命をかけた。何もできないことを知りながら、せめて盾になろうと駆け出した。

誰もが出来ることじゃない。他人を思い遣り、その上で命をかけようだなんて、簡単に出来ることじゃないのだ。

( A )「お前がツンを傷付けたのか?」

川д川「ええ」

( A )「お前が渡辺を泣かせたのか?」

川д川「そうよ」

( A )「お前はこれからも誰かを傷つけるのか?」

川д川「必要ならば」

( A )「そうか。もういい」

ドクオは貞子をしっかりと見据えると、腹に力を入れ、思いっきり叫んだ。

(゚A゚)「てめぇは泣いて謝ったって許さねえぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

257:2014/06/15(日) 22:49:08 ID:y0WfqNpk0
ドクオは前に一歩踏み込む。それだけで貞子との距離をゼロに詰めた。

('A`)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

横に一閃。先程相対した時と同様、貞子は姿を眩ます。同時に何かの魔法陣が仕掛けられていた。

('A`)「るぁ!!」

爆発。が、ドクオは剣を振った勢いそのままに反転すると、爆風を利用して跳躍した。その先には貞子が魔法陣の準備をしていた。

川д川「さっきよりは遊べそうね」

('A`)「余裕こいてんなよ」

貞子の攻撃を一振りで消し飛ばし、さらに接近。しかし当然貞子は下に移動する。ドクオは近くの建物の壁を蹴って貞子をおった。

貞子は複数の魔法で迎撃してくるが、ドクオには効かない。剣を振ればそれだけで消えるのだ。要は敵の動きを先読みさえすれば負けるわけがない。

川;д川「くっ」

強烈な突きを繰り出すと、貞子は後方に飛ぶ。流石に当たればまずいと察したのか、避けながら小さい魔法でこちらを牽制し始めた。

ドクオはそれを消さずに動体視力のみで隙間を潜り抜けて貞子を目指す。相手に時間を与えればそれだけ様々な魔法がドクオを襲うのだ。

川д川「さっきとは段違いの動きね」

('A`)「俺にもさっぱりだけどな」

貞子が目の前に黒い壁を生成する。どうやら動きを悟られたくないようだ。

ドクオは壁を切り裂くと、すぐに距離を取る。やはり貞子はいない。

川д川「でも、まだまだよ」

頭上から大量の黒い矢が降り注いだ。逃げ場はない。

('A`)「ちっ」

大きく横に飛んでその場を離脱。が、黒い矢はドクオを追跡し方向を変えた。

斬り飛ばすか迷ったが、ドクオはそれに突っ込んだ。矢はドクオを追って他の矢に当たると相殺していく。

('A`)「ちょこまかと逃げやがって」

258:2014/06/15(日) 22:50:28 ID:y0WfqNpk0
再びおいかけっこが始まり、ドクオは貞子を捉えられずに翻弄され始めた。魔法は消し飛ばせるものの、それを相手すれば貞子は姿を消して違う方向から攻撃を繰り出してくる。かといって攻撃を無視すれば渡辺やツンに流れ弾が当たる可能性があり、迂闊に避けられない。

貞子もそれを理解しているのか、うまく位置を変えながら魔法を使うため、ドクオも次第に消耗していく。

('A`;)(このままじゃ俺が先にまいっちまう。動きを止められれば……)

貞子との距離を詰めるのはそう難しくはない。身体能力は断然こちらが圧倒している。問題は動きを邪魔する魔法の方だった。

('A`)(でかい一撃なら隙もでるはず!! それを撃たせればこっちの勝ちだ!!)

貞子は相変わらず一度に複数の魔法を使ってドクオを誘導する。しかしドクオも徐々にではあるが魔法が来るであろう位置を予想できるようになってきた。

渡辺とツンの位置は変わらないのなら、二人の射線上のものさえ消せば問題ない。

さらに貞子は度重なる連戦のせいか勝負を焦り始めているようだ。魔法の威力と精度が少しずつ低下している。

条件は五分。ならば先に体力が尽きた方の負け。

('A`)(いける、いけるぞ!!)

259:2014/06/15(日) 22:51:13 ID:y0WfqNpk0
貞子は焦り始めていた。ドクオの死角や、戦えない二人を狙って魔法を放っているのだが、ドクオは最小限の攻撃と恐るべき勘の良さでことごとく迎撃していくのだ。

加えて貞子の使える魔力も無限ではない。現状王都の結界を利用して普段よりも使える魔力は増加しているものの、闇魔法は通常のものより魔力の消費量が多い。

ツンとの戦闘によって蓄えていた魔力を大幅に消費したのは痛い予想違いだった。

川д川(でも、まだ策は用意しているわ)

問題は道具として使い潰すのが惜しいほどの素材だということだ。あの死に体に負荷をかければどうなるかくらい簡単に想像できる。

川д川(でも、惜しんでもいられないわね)

使い潰すのは惜しいが、また次の素材を見付ければいい話だ。代わりは探せばごまんといる。

貞子はそう分析すると、準備を始めるのだった。

260:2014/06/15(日) 22:52:08 ID:y0WfqNpk0
◇◇◇◇

(´・ω・`)「状況は芳しくないようだな」

王都の外壁まで戻ってきたショボンは開口一番そう言った。どうやら王都を囲む結界は王都の魔力を根こそぎ奪い、どこか違う場所へと送る役目をしているらしい。

( ・∀・)「こりゃあ中にいる連中も対処しあぐねてるんじゃないですか? 魔法が使えないんじゃどうしようもない」

幸い外にいる分には魔法を使えないということはなく、結界の中にさえ入らなければ対処のしようがある。

だが、問題はこの結界は外からの侵入を阻んでいるということだ。ヴィップラ地区の方から戦闘音が聞こえてくることからドクオは敵と交戦しているようだが、あれはドクオでから中に入ることができたのだろう。

(*゚ー゚)「結界に細工をしている元を断てば元に戻るはずですが、どうやら結界を作っている陣の方に細工があるようですね」

(´・ω・`)「ふむ。となれば、結界さえ消えてしまえばどうにでもなるな」

( ・∀・)「どうするんです?」

(´・ω・`)「魔力炉を停止させる」

ショボンは言うが早いか王都に背を向けると腰に差した剣を抜いた。

( ・∀・)「また復旧に時間かかりますよ」

(´・ω・`)「その間は騎士団で見回りをすればいい。そう簡単に魔物の侵入を許すほど柔な組織ではない」

( ;・∀・)「そりゃそうですが」

(*゚ー゚)「ですが、メインの魔力炉は王都の中ですよ? 外の魔力炉では停止に至らないと思います」

(´・ω・`)「こちらも細工をすればいい。騎士が三人もいるんだ。出来ないとは言わせないぞ」

三人は王都から少し離れたところに設置してある予備の魔力炉へ到達すると、すぐに準備に取りかかる。

(´・ω・`)「ここから私が魔力を送る。二人はメインの魔力炉への誘導を頼む。魔力の操作は二人の方が秀でているだろう」

ショボンは魔力炉へ手を置き、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。ここから魔力を送り、結界を維持しているメインの魔力炉をオーバーフローさせるのである。

本来であれば予備である魔力炉は結界の動力には組み込まれておらず、あくまで王都の中にある魔力炉がトラブルやメンテナンスで停止した際に切り替えて使用するものだ。だが、予備とはいえシステムの一部ではあるため干渉することは可能だろう、とショボンは判断したのである。

( ・∀・)「うまく行きますかね」

(´・ω・`)「駄目なら次の手を考えるしかないな。あとはドクオの頑張り次第だ」

261:2014/06/15(日) 22:53:13 ID:y0WfqNpk0




ドクオは貞子の動きに戸惑いを隠せなかった。先程まで小出しにしていた魔法が急に威力の高い魔法に切り替わったのである。

長い詠唱や広範囲で複雑な魔法陣を使わないことから大技ではないことは分かるが、それでも意図の分からないこの行動はドクオからすれば不気味でしかたがない。

('A`;)(これでまた振り出しかよ)

魔法を打ち消し、距離を詰め、貞子を追う。依然決定打は与えられない。

さすがに体力が減り始めていた。息も上がってきている。しかし貞子の攻撃は止まず、どころか熾烈さを増すばかりであった。

と、前方に魔法陣が浮かぶ。黒い流星がいくつも舞い飛び、ドクオは一つ残らず消し飛ばし、次の攻撃に構えるが━━。

貞子はドクオより少し距離を置いて目の前に魔法陣を作っていた。

勘が叫ぶ。今までで一番大きな魔法だ。つまり、これを防げばこちらの勝ち。

('A`)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

巨大な魔法陣から解き放たれたのは黒の濁流だった。ドクオの視界を埋め尽くし、ひたすらに破壊を撒き散らしていく。

後ろには渡辺とツンがいる。迎え撃つしかない。

剣を上段から一気に振り下ろすと、さすがに一発で消えてはくれなかった。容量が大きすぎて消しきれないようだった。

('A`;)(踏ん張れ、踏ん張れ俺!!)

262:2014/06/15(日) 22:54:42 ID:y0WfqNpk0
ずずっと足が後ろに押されていく。こらえきれない。せめて軌道をそらすことさえできれば……。

('A`;)(なんのためにここまできたんだ……誰も守れない力なんて意味があるのかよ!?)

ドクオは弱い人間だ。努力もしなかった、現実から目を背け続けて不平ばかり漏らしていた。

('A`;)(渡辺はツンのために力がなくとも前に出た!! ツンは敵わない相手に命をかけて戦った!!)

人は二人を馬鹿にするかもしれない。命を粗末にする大馬鹿者だと笑うかもしれない。だが、ドクオは、ドクオだけはそれを笑うことなんてできない。

二人は自分の大切なものを、無くしちゃいけないもののために立ち上がっただけだ。それを失ったら、もう前を向いて歩くことができないから。

('A`;)(なら俺だってそれに応えなきゃ、そうじゃなきゃ二人の頑張りを本当だって、胸を張って言えやしない!!)

ドクオは一歩を踏み出す。腕だけでなく、体を使って。

('A`;)(もう逃げねえ!! 二人のためにも、何より俺自身のために!! 今やらないで)

('A`#)「いつやるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ドクオは思いきり体を横に捻る。甲高い音を立てて黒い濁流がドクオの横を流れていった。

('A`#)「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!」

貞子へ向かってドクオは剣を振る。貞子は俯いて動かない。力を使いきって動けないのか、それとも他に何かがあるのかは分からないが、ドクオが先に斬ってしまえば終わりなのだ。

川゚д゚川「あはははははは!! これで終わりの訳がないでしょう!?」

あと二歩のところまで来たとき、貞子は目を見開き大口を開けて笑った。

ドクオは剣を振り下ろすが、何かの障壁に阻まれて体ごと強引に弾かれてしまう。

('A`;)「今度はなんだよ」

空中で体勢を立て直して着地。貞子の体から黒いオーラが禍々しく噴出していく。辺りの物という物を砕き、抉り、同時に大気が揺れた。

ξ ⊿ )ξ「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

その時、ツンの悲鳴が聞こえる。振り返ると、ツンの体から貞子と同じような黒いオーラが噴き出していた。唯一貞子と違うのは、ツンから出ているものはひたすらに貞子へと吸収されていることだ。

从;'ー'从「ツンちゃんしっかりして!! どうしたの!? ねぇ!?」

渡辺が声をかけるがツンの叫びは収まらず、体が不自然に反り返っている。見えない何かに引っ張られているかのようだ。

('A`#)「てめえツンに何をしやがった!?」

貞子はにやりと笑いながら杖をかざす。たったそれだけの行為で至るところに黒雷が降り注いだ。

263:2014/06/15(日) 22:55:43 ID:y0WfqNpk0
川゚д゚川「王都の結界が吸った魔力は私とその子に集約させている。私達がこの状況下で魔法を使えるのはそのため」

('A`;)「はっ?」

川゚д゚川「そして、このシステムはツンの体に刻まれた魔法陣と同期させている。彼女のマナを消費してね。けれどもうその子は戦えない、使えない。ならば、このシステムを利用してあの子の力を全て私に向けるようにすればいいと思わない?」

('A`;)「まさか……」

川゚д゚川「つまり、あの子の魔力も、命も、私に吸収されている。そしてシステムの要である彼女の力を吸い付くした時、ツンは━━」

264:2014/06/15(日) 22:56:40 ID:y0WfqNpk0




川゚д゚川「死ぬ」




.

265:2014/06/15(日) 22:57:46 ID:y0WfqNpk0
(゚A゚#)「てめえは、人の命をなんだと思ってんだよぉぉぉぉぉぉ!!」

この女は本当に人間なのかどうか、ドクオにはもう判断ができなかった。私利私欲のために命を食い潰すなど、神にでもなったつもりなのか。

こいつは生かしてはおけない。ここで倒さねば何人もの命がツンのように弄ばれる。

川゚д゚川「さあ来なさい魔剣の主!! あなたに本当の絶望を教えてあげる!! そして悔やみなさい、私に楯突いたことをねぇぇぇぇぇ!!」

ドクオと貞子の最終決戦が始まる。

266:2014/06/15(日) 22:58:31 ID:y0WfqNpk0

◇◇◇◇

貞子の攻撃は先程と比べるまでもなく威力と速度を増していた。ドクオは四方八方を動き回る黒い魔法を目で追うことすらできなかった。

だが、ドクオはそれを正確に打ち落としていく。見るのではなく、周囲を漂う魔力を感じるのだ。ドクオの集中力は極限まで高まり、それすら容易く可能にさせる。

だが、やはり貞子へは簡単に届きそうにない。溢れ出す魔力もドクオを邪魔するが、貞子から発せられている波動がドクオの動きを著しく阻害している。魔力ではない別の物なのか、ドクオの剣ですら消すことができなかった。

川゚д゚川「さっきまでの威勢はどうしたのかしら!? 誰が誰を許さないって!? 身の程を知りなさい!!」

前方から黒球。それを横薙ぎに消し飛ばし、上からの雷を横に飛んでかわす。さらに右から来る黒い手の一本を斬り飛ばすと両側面から黒い槍がいくつも踊り狂う。

('A`;)「くそっ……らぁっ!!」

大振りに剣を薙ぐと、魔法はまとめて消滅した。だがすぐに第二波が押し寄せてくる。

ξ ⊿ )ξ「あっ……がっ……」

从;ー;从「しっかりして!! 負けちゃやだよう!! 頑張って!!」

267:2014/06/15(日) 22:59:39 ID:y0WfqNpk0
貞子が魔法を使う度にツンの生気のない声と、渡辺の涙声が聞こえる。早く終わらせなければならないのに、ドクオは近付くことさえできない。

飛んで跳ねて斬り飛ばして、時間だけが過ぎていく。その間にもツンの命は縮まっていくのに、ドクオは何もできない。

('A`;)(俺よりもあの二人のが辛いんだ!! とにかく早く……)

ドクオは魔法の中へと走り出す。様々な魔法がドクオの肌を焼き、切り刻み、衝撃を与えるが、そんなものは気にしていられない。

川゚д゚川「近づいたところで無意味なのよ!!」

貞子へとあと一歩までのところで、暴力的な黒い風がドクオを軽々しく吹き飛ばし、宙を荒れ狂う黒雷がドクオの体を貫いた。

( A )(んだよこれ……こんなのチート過ぎんだろ……)

地を転がり、ドクオはとうとう力尽きる。始めから全力で動かしていた体は限界をとうに越えていた。元々があまり丈夫ではない体なのだ、ここまで動けたことが奇跡に等しい。

( A )(なんだよ、これ。こんなのが現実だっていうのか? 救いはないのかよ)

立ち上がろうとするが、すぐに膝から崩れていく。足に力が入らない。

( A )(俺はなんのためにここまできたんだよ。誰かを、渡辺を守るために来たんじゃないのかよ)

それでもドクオはふらふらになりながらもしっかりと二本の足で地を踏んだ。吹き荒れる黒の嵐を何度もその身に受けても、きちんと立ち上がった。

( A )(ここで俺がやらなきゃ、応えなきゃ、二人は世界に絶望したまま死んでくんだ)

剣を握る。腕をあげる。体はまだ、動く。魂も折れちゃいない。

(゚A゚)「まだ終わりじゃねえぞ!!」

268:2014/06/15(日) 23:00:30 ID:y0WfqNpk0
ドクオは走り出す。魔法をいくつも消し飛ばし、貞子だけをしっかりと見つめて。

もう小細工は終わりだ。正面からぶつかる。貞子が使うのは間違いなく魔法なのだから、剣で消せない訳がない。

自動迎撃の魔法かもしれないが、攻撃される前に懐に入って攻撃すれば問題ない。

(゚A゚)「はぁぁぁぁぁぁ!!」

川゚д゚川「馬鹿の一つ覚えね!!」

黒い風が再びドクオを襲う。横一閃。膨大な魔力が消滅していくのが剣を通じて伝わってくる。

振り抜いた。貞子を覆っていた黒いオーラはなくなっている。今しかない。

ドクオは体を捻り、逆袈裟に貞子を斬る。

(゚A゚)「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

川゚д゚川「マナは何度でも補充出来る!! 舐めるなぁぁぁぁぁぁぁ」

しかし、貞子の周囲では一切動きはない。黒い風も、雷も炎も槍も何もない。目の前には油断した貞子の体があるだけだ。

川д川「どういう……」

ドクオはそのまま剣を振り抜き貞子の体を両断した。

川д川「はっ……」

269:2014/06/15(日) 23:15:54 ID:y0WfqNpk0



(*゚ー゚)「メインの炉を捉えました。いつでもいけます」

(´・ω・`)「ありったけの魔力を注ぎ込むぞ」

王都の郊外では三人の騎士が王都解放のための策を打っていた。ショボンが手をかけ、魔力が大量に流れると炉は煙をあげてすぐに壊れた。

( ・∀・)「王都の結界の消失を確認。これで中に入れますね」

(´・ω・`)「急ぐぞ」

270:2014/06/15(日) 23:17:45 ID:y0WfqNpk0


貞子からは血も出ず、肉が剥き出しになることもなく、切った部分から少しずつ消えていく。まるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺れては透明になる。体の魔力が消滅しているのだろうか。

('A`;)「はっ、はっ、はっ」

最後の一撃の間際、貞子の攻撃が来ると思ったのだが、予想に反して何の抵抗もなくすんなりと攻撃が通ったのはどういうことなのだろうか。ドクオは消えていく貞子を見て、それを聞くのをやめた。

('A`)「……お前は死ぬのか」

川д|「そうね。魔剣は魔力やマナを食うの。人間じゃ生きてなんていられないわ」

('A`)「……最後に一つ教えろ。この剣はなんだ。なんのために俺が持ってる」

川д|「……少しだけ教えてあげる。その剣は魔剣アポカリプス。世界の創造と破壊を撒き散らす神の片割れの武器よ」

('A`)「神の片割れ?」

川д「あなたが持っている理由は、特にない。あなたじゃなくても誰でもよかった。魔剣を持たせることが最大の目的だったから」

貞子の体はほとんど残っていない。間もなく彼女は消滅する。

('A`)「そうかよ。お前を殺したこと、俺は後悔しねえぞ」

川「結構。最後の最後に楽しく踊れたし、私は満足よ」

それだけ言って、貞子は完全に消滅した。

271:2014/06/15(日) 23:18:30 ID:y0WfqNpk0

何もなくなった空間を見て、ドクオはようやく緊張の糸を解いた。渡辺を狙う敵はもういない。ツンの命を脅かす者も消えた。

終わったのだ、全部。

('A`)「ふぅ……」

ドクオは力を抜いて地面に身を投げ出した。もう動きたくない。帰って気持ちよくぐっすりと寝たい気分だ。

もちろん考えなきゃいけないことは山積みで、名前が判明した魔剣アポカリプスのことや黒の魔術団の目的。そのどれもが解決はしていない。

だが、それでも今は二人を守ることができたことを素直に喜ぼう。

从'ー'从「どっくーん!」

渡辺の呼ぶ声がしたが、ドクオは答えることをせず、空を見上げる。

黒かったはずの空は、いつの間にか結界ごと消えており、鈍い赤色に染まっていた。

('A`)(ショボンさんたちがやってくれたのかもな)

それだけ考えると、ドクオは深い眠りに身を落としていったのだった。

272:2014/06/15(日) 23:19:28 ID:y0WfqNpk0

◇◇◇◇

王都とは違う別の街の建物の中で、三人の人間が集まっていた。皆一様に黒いフードを目深に被り、表情は見えない。

一人の男が口を開いた。

『貞子がやられたか』

『仕方がないんじゃないか? あいつは結果をすぐに求めようとしてからな』

『アポカリプスの進行速度は半分ほどか。だが、今回奴は自信をつけただろう。再びあれを除くのは至難の業だな』

『しばらくは様子を見た方がいいかもしれん。こちらも全ての準備を終えているわけではないし』

『それもそうだ。今回計画の要として使用するはずのヴィップの結界も消えてしまったし、貞子の野郎余計なことを』

『何、すぐに計画は再始動する。それまで束の間の平穏を楽しませておけばいい』

『それに今回収穫がなかったわけでもないしな』

『なに?』

『貞子が使っていた結界を利用して魔力を吸収する術式は非常に面白い結果を見せてくれた。これを使えばもっと面白くなる』

『何をするつもりだ?』

『なぁに、ちょっとしたゲームさ。ドクオとかいうあの男、なかなかに見所がある』

『あまり羽目を外しすぎないようにな。あの男は計画の要だ。殺してしまっては魔剣も失われてしまう』

『分かっているさ。それでは準備をするため失礼させてもらう』

男が部屋を出ると、それを見ていた別の人間がぽつりと呟いた。

『神の前でゲームなどと、愚かなことを』

その声に、誰も気付くことはなかった。

273:2014/06/15(日) 23:21:09 ID:y0WfqNpk0





ヒロユキ大陸の北東部、荒れ果てた遺跡の最奥部にブーンは一人立っていた。侵入者を迎撃するための罠を掻い潜り、たどり着いたのは小さな空間だった。

( ^ω^)「陛下はこれで何をするつもりなんだか……」

彼の目の前には一本の杖が奉られている。伝承によればこの杖は魔剣アポカリプスと対を為す神器の一つ、創造を司るらしい。

ブーンには装飾すら施されていないこの杖にそんな力があるとは思えなかったが、それでも依頼は依頼。これを回収してジョルジュに渡さなければならない。

杖に手をかけた瞬間、眩いほどの光が辺りを包む。

( ;^ω^)「ちょ、何が……」

光が収まり、ブーンが目を開けると、そこには杖と、

川 - )「」

一人の少女が宙に浮いていた。

( ;^ω^)「ど、どうなってんだお」

少しずつ高度を下げ、やがて床に着くと彼女は力なく倒れこんだ。意識はない。

( ^ω^)「……こりゃまいったお。あいつになんて説明すりゃいいんだお?」

このまま放っておくのはさすがに目覚めが悪い。少しだけ迷うが、ブーンは少女を背負い、杖を取ると遺跡を後にする。

帰ったらジョルジュにどんな文句を言ってやろう。それだけを考えていた。

274:2014/06/15(日) 23:21:55 ID:y0WfqNpk0
第五話 終

275:2014/06/15(日) 23:28:54 ID:y0WfqNpk0
これにて第五話終了です
途中重大なミスのせいでちょっと書き直してお時間とらせてすいませんでした
そして、今回自分の語彙力のなさに絶望してます
戦闘シーンの描写ってのはやはり難しいですね
同じような表現というか文章になってしまうので自分としては今後の反省点です
渡辺とツンの話はある程度やりたいことやれたなぁって感じですかね

それと、第六話からVIPで投下しようと考えていましたが、文字数や改行制限やらあるのでもうしばらくこちらでやっていきます
もしVIPでも投下することになりましたらまたご報告にあがります

276:2014/06/15(日) 23:32:57 ID:y0WfqNpk0
>>240
私としては意外にも1週間というのは長く感じました
というか書きたくて投下したくて仕方がありませんでしたねw

皆さん支援ありがとうございました
次回投下は早くて18日、遅れれば19日になるかと
次の話は軽く読めるような話です
本日も読んでいただきありがとうございます
ではお疲れ様でした

277名も無きAAのようです:2014/06/15(日) 23:57:53 ID:MfiS.5Jc0


278名も無きAAのようです:2014/06/16(月) 00:10:19 ID:eZ2qzSsE0
ぬはー 乙
しつこくない程度の厨二加減で読みやすい
早く他の強敵とのバトルもみたいぜ
渡辺ペロペロ

279名も無きAAのようです:2014/06/17(火) 05:00:13 ID:Hj3RQb7w0
次の話が楽しみ

280名も無きAAのようです:2014/06/17(火) 20:13:21 ID:9nFWPFJY0
全何話くらいの構想なんだろ
未処理の伏線や話の煽りからするとまだ全体のストーリーの3割もいってないように感じるが

281名も無きAAのようです:2014/06/17(火) 20:38:05 ID:ryL2PJNw0
('A`)が叫びすぎなんだよなー
もっと叫び声のパターン増やさないとな

282名も無きAAのようです:2014/06/18(水) 08:09:40 ID:Ns.CtIic0
(゚A゚)「むきゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

283:2014/06/18(水) 10:33:55 ID:NTh1vHqs0
どうも1です
今日も日付が変わる頃に投下します
第六話は軽い話で短い予定だったのですが
色々と書いてる内にちょっと長くなったので二話分に分けようと思います

>>277
あなたの乙がとてもうれしいです

>>278
ありがとうございます
今後も黒の魔術団との戦いは繰り広げられますので楽しんでいただけるよう頑張ります

>>279
ありがとうございます

>>280
予定では30話くらいのはずだったのですが、話が長引いたりしてるのでもしかしたら50話は越えるやも……
話的にはそろそろ3割の終わりが見えてきたところですかね

>>281
確かにドクオ叫びすぎですねw
読み返していると恥ずかしいですw
もう少しバリエーション増やすか叫ばせないようにしないと単調になりますね

>>282
戦闘中にほんとに叫びそうですねw

284名も無きAAのようです:2014/06/18(水) 17:52:51 ID:1GQ3ml1A0
気付いたら投下予告来てた!
めっちゃ楽しみ!

285:2014/06/18(水) 22:43:54 ID:pMo3TmyQ0




第六話「戦いの後で」



.

286:2014/06/18(水) 22:46:32 ID:pMo3TmyQ0

◇◇◇◇

貞子による王都、もとい渡辺襲撃から早くも二週間が経過しようとしていた。

あの件で最も被害を被ったツンは、以前のドクオよりも酷いマナ欠乏症だとかで目下入院中である。何度かお見舞いに行ったのだが、少女らしい可憐さはどこにもなく、肌はカサカサでヒビ割れており、目の下にも隈が大きくできて初め誰だか分からないほどだった。

とはいっても、ドクオがツンと直接的に会ったのは病院が初めてである。記憶が流れ込んで来た理由は分からないが、そのおかげで彼女を一方的に知っていたというだけでまともな面識はなかった。それはツンも同様で黒の魔術団としてドクオの情報はあったが会話をするのはやはり初めてだった。

ツンに見舞いの果物を持っていったところ、彼女は力なく笑ってただ一言「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。黒の魔術団には戻れないし、こんな大怪我を負わせたのは自分だとドクオは思っていたが、ツンにも思うところはあったようでそれ以上の言及は避けておいた。

ただ、これからどうするかというのは気になるところだったので尋ねてみると、

ξ゚⊿゚)ξ「一応魔法学校に入学出来るみたい。渡辺と同じクラスから、ね」

というのが騎士団側から提示されたらしい。

魔法の扱いは独学ながら目を見張るものがあるし、一つだけとはいえ禁呪と呼ばれる魔法をも習得している。今でも充分一線で戦えるだろうが、彼女のこれまでの人生を鑑みて一度学校に入った方がいいだろうとショボンが口を利いてくれたそうだ。

なんせツンの経歴は悲壮の一言に尽きる。親の顔を知らず、気づけば奴隷として売られ、黒の魔術団では道具として使われていた。

ツンが全てを明かしたのかは知らないが、今までの彼女の人生に騎士団としても温情があったのかもしれない。これからは渡辺という友人もいるのだから、精一杯楽しんで生きていってほしいとドクオは思っている。

287:2014/06/18(水) 22:47:30 ID:pMo3TmyQ0

ちなみに渡辺は無事昇級試験に受かったようで、見習いから正式な魔法使いとして認められることとなった。ドクオは見習いと魔法使いがどう違うのか具体的に分からなかったが、渡辺の説明によると勉強する魔法のレベルがあがるのだという。

今までは簡単な魔法しか使えなかったが、他の魔法陣の勉強も出来るようになりバリエーション豊かになるのだと喜んでいた。今のままでも十分な気がするのはドクオが魔法を使えないからかもしれない。

そんな渡辺は毎日ツンのお見舞いに通っているようだった。小さな頃に別れた唯一の友達なのだ。積もる話は山ほどあるだろう、とドクオはここ最近二人の邪魔をしないように大人しくしている。渡辺と顔を合わせたのはこの二週間で数回であることを考えれば、やはり野暮なことはしたくなかった。

代わりにドクオは騎士団の訓練に精を出すようにしていた。貞子との戦いでは力不足を痛感したからだ。あとで聞いた話だが、貞子が最後に無抵抗のままだったのはショボン達が裏で結界を消してくれたからで、あれがなければドクオはあの場で敗北し、渡辺とは二度と口を聞くこともできなかっただろう。

ショボンはドクオがいなければもっと大変なことになっていたんだし、持ちつ持たれつさ、と言ってくれたがドクオは素直に頷くことができなかった。

それだけにもっと強くならなくてはならない、とドクオは決意新たに訓練に汗を流しているのである。

('A`)「貞子と戦ったときは結構強くなったのになぁ、俺」

288:2014/06/18(水) 22:48:21 ID:pMo3TmyQ0

訓練所で休息を取りながらそうぼやくと、傍らに座っているモララーが鼻で笑う。

( ・∀・)「その剣、アポカリプスだったか? それの力で強くなったように感じただけだろ。基本がなってないんだから弱くて当然なんだよ」

モララーの言うことはもっともだが、ドクオとしては反論したいところだ。そもそもこんな世界に来て戦って生き抜いているだけでもすごいことではないだろうか? 魔法も使えないただの一般人としては、という条件ではあるが。

( ・∀・)「言いたいことは分かる。けど、戦いってのはそんな甘くない。お前が一般人だなんて相手にゃ分からないんだ。死に物狂いでお前を殺そうとするんだぞ?」

('A`)「……分かってる。自分の力量くらい分かってるさ。出来ることと出来ないことの分別はついてる」

だから、出来ることを増やさなければならない。ドクオがこれまで逃げてきた現実と戦うためには、努力を惜しんではいられないのだ。

('A`)「黒の魔術団はこの剣を狙ってる。そのために俺を生かして、周りの人達を狙ってんだろ? 俺のせいで誰かが傷つくのは、渡辺じゃないけどやっぱりいいもんじゃない」

この力は望んだものではないかもしれないが、もう巻き込まれたなんて言い訳が通用するところはとっくに過ぎている。敵の目的はまだはっきりとしていないが、これからもドクオを、魔剣を狙ってくるというならそれに抗わなければ先はない。

誰かのためではなく、自分が生きるために。渡辺やその他の人達が自分のせいで死んでしまったら、ドクオは間違いなく後悔する。自分のことを許せなくなる。

そうならないためにも、ドクオは強くならなくてはならない。

( ・∀・)「きっちり考えがまとまってるようなら俺も安心だよ。さて、俺はまた見回りに行かなきゃならないから、今日はあがるぜ」

('A`)「ああ、お疲れ。俺はもう少し走ってからあがるよ」

( ・∀・)「やりすぎると体壊すから程ほどにしろよ。焦ったってろくなことはない」

('A`)「分かってる」

それだけ言ってモララーは訓練所をあとにした。先日消してしまった結界が未だに修復されていないため、騎士団は現在王都の見回りを交代で行っている。モララーは今日の当番のようだ。

289:2014/06/18(水) 22:49:58 ID:pMo3TmyQ0

モララーが去ったあと、ドクオは訓練所を何周かし、あがろうと荷物をまとめていると、不意に声をかけられた。

訓練所で何度か目にしたことのある騎士が数人ドクオを囲んでいた。丸腰なのを見ると敵意はないようだ。

('A`)「なんか用か?」

少しだけ警戒しながらドクオは質問した。自分が騎士団内部であまりよく思われていないことはしぃから聞いていた。もしかしたらリンチにでも合うかもしれない。

「お前、この間の件を解決したんだってな」

騎士の一人がそんなことを言った。

('A`)「……俺が解決したわけじゃない。ショボンさんとかモララーがいなきゃ俺には何もできなかった」

「それでもお前がいなきゃ王都は陥落してたかもしれない。そんな中俺達はあたふたしてて、何もできなかった」

申し訳なさそうに言う騎士達はばつが悪そうに頬をかき、ドクオに手を差し出す。

「すまなかったな。お前は何も悪くないのに、勝手に忌み子だなんだって騒ぎ立てて。見直したよ」

騎士達は皆一様に友好的な笑みを浮かべている。ドクオはどうすべきかを考えて、その手をとった。

('A`)「あんたらは悪くないさ。現に俺がいなきゃこんな事件は起こらなかったんだ。だからおあいこだよ」

これは本当のことだと思う。巻き込まれたことは事実だが、魔剣の持ち主としてここにいる以上ドクオはどこまでも当事者だ。王都に留まらず、旅にでも出れば誰にも迷惑をかけずに済んだかもしれない。

けれど、ドクオはもうそれが出来ない。大切なものを見つけてしまったし、それを自分の手で守るのだと覚悟を決めてしまった。

「お前はすごいやつだよ。よかったら、今から飲みにでも行かないか? 友好の証ってやつさ」

意外な申し出に、ドクオは目を白黒させる。少しくらい態度が丸くなってくれれば、と今のやり取りで思ってはいたが、これは些か進みすぎではないだろうか。

「何、王都の英雄を労るのも俺達の仕事さ。嫌だっていっても無理矢理連れていくぞ」

あまりにも屈託のない笑顔に、ドクオも釣られて笑みを浮かべる。こうまで言われては断るのは野暮というものだ。

('∀`)「……喜んでお供させてもらう」

この日、ドクオはまた一つかけがえのないものを手に入れた。

290:2014/06/18(水) 22:51:37 ID:pMo3TmyQ0

◇◇◇◇

从'ー'从「はぁ……」

ツンのお見舞いの帰り、渡辺は一人溜め息を吐いた。この日の渡辺はとても落ち込んでいた。具体的にどれぐらい落ち込んでいるかというと、行きつけのスイーツ店のジャンボ苺パフェ一つ完食出来ないほどである。いつもならば軽くふたつはいけるのだが、今日はそんな気分ではなかった。

落ち込む原因となったのはツンの些細な一言である。

ξ゚⊿゚)ξ『あんたドクオのこと好きでしょ?』

この一言は彼女にとって天と地がひっくり返るほどの衝撃だった。確かに自分はドクオを好いている。しかしそれが愛かと聞かれれば返答に困ってしまうのだ。

一度ドクオとしぃが連れ立ってツンのお見舞いに来たことがあった。その時の二人と来たら仲睦まじく、まるで恋人のよう(少なくとも渡辺にはそう見えた)にお喋りをしていたのだ。

ツンが言うにはあれは出来の悪い兄と優秀な妹のような関係だ、とのことだが、渡辺はどうも胸の辺りがムカムカとして居心地が悪かった。

今でもあの光景は渡辺の瞼にしっかりと焼き付いて離れず、思い出しては何かに当たり散らしたくなる衝動を抑えるのに苦労するほどである。

そんなおりにツンの一言が渡辺の心に拍車をかけたのだ。自分でも分からない感情を友人に指摘されて、渡辺はどうしていいのか分からなくなってしまった。

从'ー'从「好きかといわれてもなぁ……」

そもそもドクオは自分をどう思っているのだろうか。少なくとも嫌われてはいないとは思う。貞子との件でもドクオは身を呈して助けに来てくれたのだから、好意的に見られていると受け取ってもいいだろう。

それに、貞子が言っていたドクオは異世界から呼び出されたという事実。ドクオに面と向かって聞いてはいないが、しぃに確認をとったところほぼ間違いではないとの回答だった。騎士団がどうやってその真相に至ったか定かではないが、二つの組織からそのような答えをもらった以上彼は信憑性は高い。

もちろんそれが渡辺の気持ちに歯止めをかけているわけではないし、そんなことは彼の人柄を図るにあたっては小さなことだ。

つまるところ、渡辺は自分の感情をもて余していて、それに対する明確な答えがどこにあるのかが分からないのだった。

自信を持って彼を好きと言えれば、気が滅入ることもないのに、と渡辺は一人ごちてみる。

人を好きになるというのは動物を好きになるということとは違ったものであることは渡辺にだって分かる。けれどその好きという感情にきちんとした線引きができない。どこからが異性に対する好きで、どこからが違うのか。ツンに聞いても答えは返ってこなかった。

从'ー'从「よく分からないなぁ、こういうの」

人と接することが極端に少なすぎたせいか、はたまた人生経験なのかは知らないが目下渡辺の頭を悩ませるドクオという存在は彼女の目の上のたんこぶのようなものになっている。

せっかく見習いを卒業できたというのに、次から次へと問題が舞い込んでくるのは自分の体質なのだろうか?

日が傾き、暗くなってきた道を一人歩く渡辺は、また一つ溜め息を吐くのだった。

291:2014/06/18(水) 22:52:35 ID:pMo3TmyQ0

◇◇◇◇

(´・ω・`)「やぁドクオ、昨夜はお楽しみだったね」

起き抜けにショボンからそんなことを言われて、ドクオはたまらず飛び起きた。

辺りを見渡せば自分の部屋。どういう経緯でそうなったかは知らないが服が脱ぎ散らかされている。

('A`)「……どうしてこうなった」

自分の体を見ればいつの間にやらパンツすら身に付けておらず、全裸。そこにショボンがニコニコと笑って立っているということは━━

('A`;)「あんたそういう趣味だったのかよ!?」

(;´・ω・`)「何を勘違いしているかは予想がつくが、それは誤解だ。君は昨夜のことを覚えていないのか?」

('A`)「は?」

ショボンにそう言われて、ドクオは思い返してみる。確か昨日は訓練所で知り合った何人かの騎士と飲みに繰り出し、途中からショボンや非番だった他の騎士も混じって大きな飲み会になった気がする。

そのあとも何軒か店をはしごして朝まで飲もうぜ! と意気込んだところまでは覚えているが、その先はどうも思い出せない。

(´・ω・`)「君はそのあと酔い潰れてね、僕が君をここまで送り届けたのだが、部屋に着いたとたんに君は吐き始めたんだ。おかげで僕は眠ることなく君の粗相の始末をするはめになったのさ」

(゚A゚)「」

なんということであろうか。まさか騎士団のナンバーツーに送り届けてもらったどころか不始末の処理までさせてしまうとは。いくらドクオと言えど全裸で土下座は当然に思えた。

(;´・ω・`)「いや、僕は今日も非番だから構わないが、君は少し酒の飲み方というものを考えた方がいいぞ。あまり強くないようだしな」

('A`)「オッシャルトオリデスハイ」

(´・ω・`)「僕も久々に楽しく飲めた。君が来てから心休まる日が少なかったしな」

('A`)「あれ? 俺遠回しに責められてる?」

292:2014/06/18(水) 22:53:41 ID:pMo3TmyQ0

(´・ω・`)「それに、今の君とはもう一度話してみたかったしな」

全裸で土下座をしていたドクオは頭をあげた。話がしたい、とはどういう了見だろうか。

服を着なさい、とのお達しだったのでとりあえず寝間着に使っている元の世界からの相棒スウェットを着用し、ドクオはベッドに腰かけた。ショボンはいつの間にか用意していたコーヒー(名前は違うがドクオから見ればコーヒーそのもの)を口に含み、煙草に火をつける。

(´・ω・`)y━・~~「何、大した話じゃない。これは騎士団のショボンとしてではなく、あくまでショボン個人としての話さ」

('A`)「はぁ」

気のない返事をすると、ショボンが君もどうだい? と煙草を勧めてきたのでドクオもご同伴に預かる。

(´・ω・`)y━・~~「君はこれまで三つの戦いに身を投じて来たわけだが、その戦闘力ははっきり言って並の騎士では歯が立たないレベルだ」

('A`)y━・~~「モララーにはまだまだ弱い、怒られますが」

(´・ω・`)y━・~~「確かに我々からすればまだまださ。だが、君は元々魔物や魔法なんかとは無縁の世界の住人だろう」

('A`)y━・~~「……気付いてたんですか」

(´・ω・`)y━・~~「まあね。もちろんこの答えに至るまで紆余曲折あった。間違いないと確信を持ったのはやはり先日の戦いだったよ」

ショボンはその場で見聞きしたわけではないが、渡辺やツンが貞子から聞いたことを報告として受けたこと、他にも様々な推測をドクオに語ってくれたが、決め手は貞子が言っていた魔剣のことだと言った。

(´・ω・`)y━・~~「魔剣アポカリプス、これは僕達の世界の伝承に出てくる神器だ。全てを破壊し、食らい尽くす絶望の権化。伝承によれば魔剣はこの世界ではないどこかに封印されているはずだったんだが、何故か君が持っている」

その事実はやはり看過できないものだった、とショボンは続ける。

293:2014/06/18(水) 22:54:36 ID:pMo3TmyQ0

(´・ω・`)y━・~~「魔法の中には召喚魔法というものがあってね、通常はこの世界のどこかにある物や人物を呼び出す魔法なんだが、特定の条件下と特別な術式があれば異世界に干渉できるかもしれないという研究結果も出ている。仮説の段階ではあるが、できないことではないんだ」

('A`)y━・~~「だからこそ俺が異世界からやって来たのではないか、という説が有力だったわけですか。てことは最初から記憶喪失だなんて言わなくてもよかったんですか?」

ショボンは灰皿に煙草を押し付けて火を消し、少し考えてから、

(´・ω・`)「それはどうだろうな。あの状況下で君が違う世界から来たとなれば余計な混乱を招いたかもしれない。ただでさえ結界が消えるなんてことは滅多に起こることではないんだ」

('A`)y━・~~「そんな中異世界から来ましたーなんて言えばそれこそ俺が疑われるのは当然の結果、ですよね」

そう考えると記憶喪失という設定は最善の策だったように思えた。もちろんドクオもこの設定がいつまでも通るとは思ってはいなかったし、折りを見て打ち明けるつもりではいたのだから、それが早いか遅いかの違いでしかなかったのだろう。

(´・ω・`)「話が逸れたが、君がそういうものとは無縁であった以上、本来ならば被る必要のない戦いばかりだった。にも関わらず、君は剣を取り、体を張っている。僕は、その理由が知りたい」

('A`)y━・~~「……理由?」

何故今になってそんなことを聞くのだろうか。ドクオからすればこれまでの戦いは全て巻き込まれた、といっても過言ではない。確かに逃げることはできたし、他人の命など関係ないと切り捨てればそれで済んだことではあった。最初の戦いにしても、ドクオはこの世界というものを理解してはいなかったし、ましてや命をかけるに値するような感情など持ち合わせてはいなかった。

どこまでいっても他人。ここに来た当初はそんな思いが確かにあっただろう。

だが、ドクオは渡辺に出会った。優しく、可憐で強い少女に。彼女の姿はドクオにとって今でも憧れの対象だ。

('A`)y━・~~「俺は、救われたんですよ」

煙草を消して、ドクオは大切な思い出を語るようにゆっくりと口を開いた。

294:2014/06/18(水) 22:55:26 ID:pMo3TmyQ0

('A`)「俺は元の世界じゃ負け犬でした。他人なんて関係ない、自分さえよければそれでいい。その時その時を乗りきれればあとは知ったこっちゃないって、現実から目を背けてました」

勉強も運動も人より劣り、努力からも逃げていた少し前までの自分。この世界に来なければ未だに同じことを繰り返していただろう。

('A`)「けど、こっちに来て、渡辺に出会って、騎士団の連中に出会って、それじゃだめなんだなって感じたんです。逃げてたって変わらない。変わらなきゃならなかったのは自分なんだって、渡辺や他のみんなを見て、気付いたんですよ」

渡辺は誰よりも辛い状況の中で、笑顔を忘れず、他人のために動いていた。騎士団のメンバーは己の信念に基づき剣を取っていた。

その中でドクオは、自分という存在がとても矮小で醜いものにしか思えなかったのだ。

誰もが手にしているはずのものを、ドクオだけは持っていなかった。

('A`)「それを気付かせてくれた人に、追い付きたいし、恩を返したい。世の中儘ならないことも多いけど、俺が救われたようにまだまだ捨てたもんじゃないって胸を張って言ってやりたいんですよ」

本当に辛いときに、ドクオは何も言ってあげられなかった。言わなきゃならなかったのに、言えなかったのだ。

ドクオはその事を一生後悔し続けるだろう。もっとまともな人生を歩んでいれば簡単に伝えられたはずの言葉は、あの時のドクオでは、いや今だって口にする資格なんてありはしない。ドクオはまだ全てをやりきってはいないから。全てが終わったときに、ドクオは彼女に言ってやるのだ。

君の存在は、歩いてきた道は無意味なものなんかじゃない。

('A`)「だから俺は戦うんじゃないですかね。それが、無力だった男が力を手にして出来ることなんじゃないかと俺は思ってます」

他人からしてみれば下らない理由だろう。笑われるかもしれない。命をかけるなんて馬鹿げていると指を差されるかもしれない。

それでもドクオが掲げたものは彼にとって何よりも重い。絶対に曲げてはいけない信念であると自信を持って言える。

ドクオが語り終えた時、ショボンは小さく笑っていた。

295:2014/06/18(水) 23:24:19 ID:cfE26c6g0
(´・ω・`)「なるほど。やはり君は僕が思った通りの男だよ。いや、信じていたとも言えるな」

('A`)「何がですか?」

(´・ω・`)「騎士団というのは、信念がなければ機能しないんだ。自分以外に守るべきものがなければ戦う理由もないからな。だからこそ我々は自分自身に厳しいルールを設けている」

例えば弱きものを傷つけない、誰かを見殺しにしない、仲間を疑わない、小さなものなら食べ物を粗末にしない。

ショボンがあげていくルールは生きていればどれも当たり前に守られるものだった。もっと言えば常識、人として最低限のマナー。

(´・ω・`)「こんなものは守られて当然のものだ。けれど、人というのはどうして、簡単なものであってもちょっとくらいならという軽い気持ちであっさりと越えてはいけないラインを越えてしまう。だからこそ我々はどんなに小さなことであっても決めたことは絶対に守ってきた」

(´・ω・`)「騎士団とは秩序であると同時に人を守るための盾であり剣。それを根幹の部分で理解していなければ立ち上がることさえできない。新人にはまだ分からない者も多い。その点君はその辺りをしっかりと持っている」

('A`)「……よくわかりません」

(´・ω・`)「君は君の信じる道を行くべきだ、ということさ。周りがどうあろうと、上から下までしっかりと通った芯はそう簡単に折れやしない」

ショボンはそう言って腰をあげた。

(´・ω・`)「僕は君と知り合えてよかったと、心から思う。これからもよろしく頼むよ」

扉が閉まる音だけが部屋に残る。ドクオはしばし呆然としていたが、自分の腹の音を聞いて朝食がまだだったことを思い出した。

('A`)「住む世界が違うと意識も違うもんだな」

それ以上考えることは止めて、ドクオは腹の虫を収めるために冷蔵庫を漁るのであった。

296:2014/06/18(水) 23:25:37 ID:cfE26c6g0

◇◇◇◇

本日は学校がなく、久々の休日である渡辺は朝早くからツンのお見舞いに向かっていた。ここしばらくドクオと顔を合わせてはいないが、何だか今は会いに行けるような心境ではなかった。

それよりも今は大切な友人を見舞いたい、と心のなかで言い訳のように唱えてみるが、どうしてか罪悪感が募るばかりで渡辺は早々に気を落としてしまう。

(*゚ー゚)「随分と元気がありませんね」

その矢先、病院の前でしぃと出くわしてしまった。もちろん渡辺の心に彼女のことなどちっともなかったのだが、思わず渡辺は全身をびくりと強張らせてしまう。何もやましいことなどありはしないのに。

(*゚ー゚)?「どうかしましたか?」

从;'ー'从「あ、ううん、なんでもないよぉ! まさかこんなところで会うとは思ってなかったから」

(*゚ー゚)「はぁ」

怪訝そうに眉を潜めるしぃに、渡辺はどうしてか申し訳ない気持ちになった。彼女は悪くないのに、自分の気持ちも分からないのに勝手に嫉妬している。それが渡辺の心を大きく揺さぶっているからだ。

(*゚ー゚)「今日もツンさんのお見舞いですか?」

从'ー'从「うん。しぃちゃんも?」

(*゚ー゚)「いえ、私はツンさんの入学資料を届けに。退院次第即入学ですからね」

从'ー'从「そっかぁ。えへへ、ツンちゃんと一緒に学校通えるんだ」

とても喜ばしいことだ。と、そこで疑問が浮かぶ。

从'ー'从「そういえば、ツンちゃんとは学校で会ったけど、入学はしてなかったのー?」

(*゚ー゚)「ええ。籍はありませんでした。元々ツンさんの戸籍自体が抹消されていましたから。新たに騎士団側で用意させていただきました」

黒の魔術団に所属していたツンのこれまではどのようなものだったのだろう、と渡辺は考える。ツンは道具として扱われていた、と言っていた。

人ではなく道具。渡辺の持つ箒や、物を食べるときに使うスプーンやフォークのような扱い。壊れても代えがきくただの物。

そんな中で生きてきた彼女が今、長いときを得てようやく普通の女の子として生きることができるのだ。これほど喜ばしいことはない。

从'ー'从「……」

ないはずなのに、どうしてこんなにも嫌な気分になるのだろう。

297:2014/06/18(水) 23:29:44 ID:Crg8TgR60

それはきっとツンを取り戻すために戦ったのは自分ではない他の人間だったから。普通の女の子としての道を用意したのが自分ではない他の人間だったから。

どこまでいっても自分は役に立たない人間なんだと、気付いてしまったから。

ニダーは言っていた。自分は人間じゃない、悪魔だと。不幸を撒き散らすだけの存在なのだと。

渡辺にはその言葉が間違いではないように思えた。こんなにも嫌らしく醜い感情を抱く自分は果たして人間と言えるのだろうか。

(*゚ー゚)「どうかしましたか? 顔色が悪いようですけど」

随分と長く考え込んでしまったようだ。しぃが不安げに顔をのぞきこんでいる。

从'ー'从「ううん! 何でもないよ! あ、私用事を思い出したから、今日は帰るね。それじゃまたねー」

渡辺は逃げるようにその場を去る。しぃが呼び止めていたが、彼女のそばにこれ以上いるのは不可能だ。

从;ー;从(だって、涙が止まらないんだもん)

渡辺は自分が分からない。分からないけれど、この気持ちがどんなものかは知っている。

それは彼女が生まれて初めて、はっきりとした形を持った醜い醜い嫉妬だったから。

298:2014/06/18(水) 23:30:32 ID:Crg8TgR60

◇◇◇◇

('A`)「まさか食い物がないとは」

ショボンが帰ったあと、空腹を満たすために冷蔵庫を見てみると物の見事に空っぽだった。唯一ストックがあったはずの保存食もいつの間にか食べてしまったらしく、部屋にいては以前のようなみすぼらしい生活を思い出してしまうため、なくなく買い出しに出ることにしたのだ。

一応ドクオは料理ができる方である。長い一人暮らしで身に付けた家事スキルは物価の安いこちらの世界でも役にはたっているのだが、元来の性格ゆえなのかはあまり活かされてはいない。もちろん気が向けば台所に立つのだが、それも一週間の内に一回あればいい方である。

('A`)「まぁ、なにもしなくても金が入ってくるってのは人を堕落させるんだな。いい勉強になるよ、ったく」

適当な所で食事を済ますか、それとも買い出しをして部屋で食べるか迷うところだが、出不精な上に元々コミュ力のないドクオにとって知らない人と長い時間顔を合わせるのはできる限り避けたいところだった。

('A`)「いつもの店でいっか。この時間だと顔馴染みもあんまいないだろうし」

ダメ人間はどこまでいってもダメ人間なのである。ショボンと先程交わした熱い語り合いも、喉元過ぎればなんとやら、今大事なのは腹を満たすことなのだ。

ヴィップラ地区を歩くこと数分、いつもの店に入ろうとしたとき、ドクオは見知った顔を見つけた。

('A`)「あれ? 渡辺じゃん。なにやってんだあいつ」

299:2014/06/18(水) 23:31:41 ID:Crg8TgR60

渡辺はこちらに気付くことなくドクオの横を走り去っていく。どうやら周りに目を配る余裕もないようだった。心なしか泣いているようにも見える。

追いかけるべきか否か。

さすがのドクオと言えど、渡辺ほどの交友度があればそれくらいは考える。

しかし時とは考える間にも過ぎていくもので、渡辺の背中はあっという間に遠ざかっていく。

見えなくなる間際、ドクオは、

('A`)「おーい、渡辺ー」

思いきって声をかけることにした。

从うー;从?

从'ー'从……

从'ー'从そ

が、渡辺はドクオを確認すると逃げるかのように駆け出した。いつもの彼女からは想像もつかない俊敏さである。

('A`)そ「ちょ、何で逃げるし」

わけも分からずドクオはその背中を追うことになる。いくらドクオの顔が見るに耐えないグロ面だとしても、逃げることはないのてはないか。そもそもことあるごとに顔を合わせているのだから今さら気持ち悪いなどとはあんまりである。

心の中で滝のような涙を流しつつ、ドクオは渡辺を追いかけた。普段の訓練の賜物かは知らないが、意外にあっさりと渡辺は捕まった。

('A`)「なんで逃げるんだよ」

从;'ー'从ゼハーゼハー

あまりに疲れすぎて喋ることができないらしい。しばし息を整える。

('A`)「……まぁいいや。飯食ってないなら一緒にどうだ? そろそろ昼になるし、今日は奢るよ」

渡辺は少しだけ迷う素振りを見せると、やがてこくりと頷いた。小さな声でアイス、とのおまけも添えて。

300:2014/06/18(水) 23:32:32 ID:Crg8TgR60



しぃが病室に入ると、珍しい客が来たものだと驚いた様子のツンが出迎えてくれた。確かにあまり出入りはしないが、少しばかりしぃは不機嫌な顔を作る。

ξ゚⊿゚)ξ「そんな顔しないでよ。可愛い顔が台無しじゃない」

(*゚ー゚)「お世辞はいりませんよ」

ξ゚⊿゚)ξ「相変わらずの無愛想っぷりね。子供は子供らしく、素直が一番よ」

(*゚ー゚)「子供のままでいられるほど騎士団は甘くありませんから」

ξ゚⊿゚)ξ「大人ぶっちゃって。それで、今日はどうしたの? あんたが来るくらいだから、顔を見に来たってわけじゃないでしょ?」

ツンに促されて、しぃは持っていた鞄からいくつかの資料を取り出した。

(*゚ー゚)「入学案内を届けに来ました。退院次第すぐにでも入学可能ですよ」

そう言うと、ツンは満面の笑みを浮かべてそれらを受けとる。彼女にも人並みの憧れというものがあったのだろう、ペラペラとページを捲りながら時折フフフと怪しい笑い声が漏れていた。

(*゚ー゚)「一応渡辺さんと同じ担当にしていただけるよう口を利いておきましたが、あまり期待はしないでください」

ξ゚⊿゚)ξ「そこまでは望んでないわ。一緒に学校いけるってだけで夢のようだもの。それで十分」

301:2014/06/18(水) 23:41:08 ID:Crg8TgR60

(*゚ー゚)「以前より顔色も大分よくなりましたし、もうすぐですね」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、ね。けど、私の体にある魔法陣のせいで長くは生きられないだろうけど」

(*゚ー゚)「まだまだ先の話ではないですか」

ツンの体に刻まれた幾多の魔法陣は彼女に力をもたらすと共に、大きく寿命を削るものだとはしぃも聞いていた。

いくつか魔法陣を見せてもらったが、どれもこれもまともな神経で生身の体に描くなんて到底考えられないものだった。黒の魔術団という組織がどれだけカルトじみているのかがうかがい知れるいい見本だ。

ξ゚⊿゚)ξ「でもね、私はあいつらにも少しだけ感謝してる」

(*゚ー゚)「どういうことですか?」

あんなものを付けられて、感謝なんて言葉が出てくることにしぃは驚いた。自分だったら間違いなく怒り狂い、修羅の道をゆくことは想像に固くない。にもかかわらず、ツンがそんなことを言う意図が掴めずしぃは言葉を濁した。

ξ゚⊿゚)ξ「あいつらに利用されて使われなければ、私は二度と渡辺には出会えなかったと思うのよ」

(*゚ー゚)「浚われなければ渡辺さんと今も仲良く暮らしていたかもしれませんよ」

ξ゚⊿゚)ξ「それは無理。だって、あの子の境遇や価値観は普通に生きてたら絶対に理解できるものじゃないもの。辛い思いをして、それでも誰かのためにだなんて正気の沙汰じゃないわ」

それにはしぃも同意せざるを得ない。人に疎んじられ、見下され、それでもなお世のため人のためと他人に尽くすことのできる人間など聖人君子でもなければ不可能だろう。通常の神経をしていたら人を憎み世を恨み、血を血で洗うような残虐非道な犯罪者になっていてもおかしくはない。

ましてや渡辺という人間は育ての親こそいたようだが、両親の存在が見当たらないのだ。戸籍には載っているが、ツンと出会う以前から両親と係わった記録は一切ない。

そんな人と違う人間があそこまでまっすぐに育ったのはまさに奇跡としか思えなかった。

見る人が見れば忌み子としてではなく、彼女の存在そのものを気味悪がるものは大勢いるだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「そんなあいつの隣にいられる人間は、やっぱり同じような人間か、もしくはもっと酷い境遇の人間か、それくらいのもんよ。私だったらその異常さに気が狂ってたんじゃない?」

(;*゚ー゚)「仮にも親友と呼ぶ人をそこまで言いますか」

302:2014/06/18(水) 23:41:57 ID:Crg8TgR60

ξ゚⊿゚)ξ「親友だからこそ言えるの。あいつの生き方は到底理解されるものではないから。ま、そういう意味ではドクオの存在は大きいんじゃない? あれもあれで十分変人だし」

(*゚ー゚)「それは言えてますね」

ツンの評価はしぃから見ても正当なものだと思う。以前の生活がどんなものかは知らないが、身に余る強大な力を手にしてなおそれを正しく使おうとする様は渡辺とどこか似ている。

騎士団のように大層なものを掲げているわけでもなく、あくまで個人として戦っているのだから、偽善者と言われても否定はできないだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「似た者同士、なんだろうけどね。ちょっと妬いちゃうわ」

(*゚ー゚)「ツンさんにはツンさんにしかできない立ち位置があるように思えますけれど」

ξ゚⊿゚)ξ「なんていうのかな、根っこの部分で私と渡辺は違うから理解をしてあげられないのよ。例えばの話、渡辺を殺そうとしたやつがいるとする。そいつが命の危機に晒された時、渡辺は迷いなくそいつを助けようとするわ」

(*゚ー゚)「なるほど」

恐らく、ツンはそれを認めることができない。助ける必要があるのかと疑問を持ってしまうと言いたいのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオはそんな渡辺の生き方を肯定するんじゃない? 少し話をしたけど、あいつはそういうやつだなって思った」

ツンという人間は意外にも洞察力に優れているらしい。こんな短時間でここまで分析できる人間はそうそういない。しぃだってドクオという人間をはかりかねている。

ショボンやモララーはドクオを一定の位置で評価しているようだが、しぃにとってはただの馬鹿な大人くらいにしか思っていなかった。

かと思えば人のために危険を省みずに死地へ赴く度量を持っていたりするので、やはり分からない人間だ。

ξ゚⊿゚)ξ「だから私はここまで堕ちて、あいつの気持ちや考え方を少しでも理解できるんじゃないかって思う。お手本のような馬鹿もいるし、ようやくイーブンよ」

(*゚ー゚)「私には難しい話です」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたもその内分かるんじゃない? 何事も経験よ経験」

それからしばらくツンと渡辺やドクオの話をしたが、しぃには彼女の言いたいことを真に理解することができなかった。

自分がもう少し大人になったとき、彼女の言葉を理解するのだろうか?

そうすれば、しぃも騎士団として立派に胸を張れるんだろうか?

彼女の疑問に答えるものは、ここにはいなかった。

303:2014/06/18(水) 23:42:47 ID:Crg8TgR60
第六話 終

304:2014/06/18(水) 23:48:11 ID:Crg8TgR60
すごいぶつ切りな終わり方ですが、切りどころがなかったので場面転換で終わらせていただきました
今回みんながみんな好き勝手に喋ってるだけなんでそんなに分量多くならないはずだったんですが……
またも技量のなさが浮き彫りになる結果ですね、すいません
ちなみに今回の話でドクオが渡辺を呼ぶところはかなり好きなシーンになりました
渡辺可愛いよ渡辺
では次回投下は金曜日か土曜日になりますので、その時お会いしましょう
今回も読んでいただきありがとうございました

305名も無きAAのようです:2014/06/18(水) 23:49:36 ID:HLEYq1WQ0
乙乙

306名も無きAAのようです:2014/06/19(木) 00:01:38 ID:nITpBi820
ドクオの評価は変人かよwwww
男と女の差がでかいな

307:2014/06/20(金) 17:56:37 ID:sGdf9Tao0
どうも1です
今日の投下は無理そうなんで明日の夕方くらいに投下したいと思います
ではでは

308:2014/06/21(土) 14:23:14 ID:rYvQKNY60
本日16時から投下致します
軽い話がどうしてこうなったのか……
なんか伏線ばらまいただけな気がしてなりません

309名も無きAAのようです:2014/06/21(土) 16:22:45 ID:xggAIUxs0
>>308
待ってたщ(゜▽゜щ)バッチこいこい

310:2014/06/21(土) 16:31:44 ID:YKMrFccY0




第七話「束の間の平穏」



.

311:2014/06/21(土) 16:33:02 ID:YKMrFccY0
◇◇◇◇

( ΦωΦ)「先日の件、ご苦労であったなショボンよ」

謁見の間にてヴィップを治める王、ロマネスクより労いの言葉を受け、ショボンは仰々しく頭を下げた。

( ΦωΦ)「ジョルジュからも例の物を手にいれたとの報告も来ているし、吾が輩は有能な部下を持って鼻が高いのである」

(´・ω・`)「もったいなきお言葉」

( ΦωΦ)「だが、あのドクオという異世界人、気に食わぬな。魔剣があるとは言え調子に乗りすぎているのである」

ロマネスクは忌々しそうに肩をいからせながら、不満をぶちまけた。

また、だ。この男は自分の気に入らないことがあるとすぐに感情を剥き出しにする。ましてや臣下の前でそんなことを口にすれば自分の首を絞めると何故分からないのか。

(´・ω・`)「……陛下の心中お察しいたします。しかし、彼が王都のために尽力していることもまた事実。ここは穏便に」

( ΦωΦ)「……そうであるな。すまぬ、取り乱した」

平静を取り戻し、ロマネスクは要らぬ事情をぺらぺらと喋り始めた。我が儘な王妃が高価な調度品を購入しただの、庭園に大きく手を入れただの、ショボンにはどうでもいい話だ。

その金を出しているのが国中の血税だということも理解していない愚図な王の自慢話など聞くに値しない。

愛想笑いと適度な相槌をうちながら、ショボンはこの王の首を取るための方法を考え出していた。

もちろん、そんなこと出来るわけがない。尊敬はなくとも、彼は一国の王。首を跳ねれば国が傾いてしまう。

そして自分は王を守るための盾であり剣。全てを投げ出すにはあまりに多くを背負い込みすぎた。

(´・ω・`)「……陛下、そろそろ本題を」

( ΦωΦ)「おお、前置きが長くなった。今回貴公を呼んだのは少しばかり問題があるのである」

312:2014/06/21(土) 16:33:47 ID:YKMrFccY0
(´・ω・`)「と、申されますと?」

( ΦωΦ)「異世界人にやってもらうことができた」

(´・ω・`)「ドクオに? 計画に彼は必要ではないはずですが」

( ΦωΦ)「もちろんあの男は必要ではない。が、あの魔剣に用ができた」

どういうことだろうか? あれだけ嫌悪するドクオと魔剣を今さらどう使うというのか、ロマネスクの意図が掴めず、ショボンはさらに聞き返す。

(´・ω・`)「用とは、どのような?」

( ΦωΦ)「最近になって様々な事件が王都周辺で頻発しているのは知っているな? その中に混じって一つ不可解な件があるのである」

ショボンはここ最近で起こった事件を片っ端から掘り起こしていく。どれも妙ではあるが、特に計画の妨げになるようなものは見当たらなかった。

( ΦωΦ)「悪魔の目撃である」

(´・ω・`)そ

ショボンはあまりの衝撃に思わず立ち上がりかけた。

313:2014/06/21(土) 16:34:39 ID:YKMrFccY0
あり得ない、悪魔など存在するわけがない。そんなものはお伽噺にしか出てこない架空の存在だ。

( ΦωΦ)「仮にこれが本当だとすれば、吾が輩の計画に支障を来す可能性がある。そして、あれは神器でしか滅することができないのである」

(´・ω・`)「……ドクオを当て馬にするということですか?」

思ったよりも醒めた声でショボンは尋ねた。自分の声に驚きながらも表情は崩さない。いつの間にか張り付けていた仮面は、この男の前では絶対に外すわけにはいかなかった。

( ΦωΦ)「魔剣があるのなら苦戦はしまい。もっとも、本当の悪魔なのであれば甚大な被害が出ることになるのであろう」

そんなところにドクオを行かせるというのかこの男は。騎士でもない、巻き込まれたに過ぎない人間を、悪びれもせずに。

ショボンはいつの間に固く固く拳を握っていることに気付いて、すぐに力を抜いた。大丈夫、気付かれてはいない。この男に他人の感情を目敏く指摘するような気概はない。

( ΦωΦ)「……ショボンよ、貴公は少々あの男に感化され過ぎてはいないか? 貴公の役目を忘れるな」

(´ ω `)「……分かっております。私は陛下の剣であり盾、陛下の覇道を邪魔するものは全て斬るのみ」

( ΦωΦ)「分かっておるのならよい。何が大切で、何を守るべきかを履き違えるな。吾が輩は貴公を信頼している」

信頼している、などと簡単に言ってくれる。その黒い腹の内では自分など、いやこの国や世界ですら便利な道具にしか思っていないくせに。

( ΦωΦ)「吾が輩のために、やってくれるな?」

(´・ω・`)「……仰せのままに」

( ΦωΦ)「この計画はもはや止めることはできないのである。いや、止めたとしても止まらない」

(´・ω・`)「……では、私は作戦の準備に入ります」

ロマネスクに背を向け、ショボンは逃げるようにその場を去った。ここは自分のような弱者が留まっていい場所ではない。早く帰って夢に浸ろう。

願わくば永遠に醒めぬ夢を見れるように。

314:2014/06/21(土) 16:35:28 ID:YKMrFccY0





城を後にして、ショボンは大きく息を吐いた。あの王を前にすると気分が悪くなる。体調ではなく、心の底から滲み出る嫌悪感が体を這いずり回るのだ。

ロマネスクは信頼などという方便を巧みに操って人を束縛する。使命感や倫理観を根本的な部分で掌握するのだ。あんなことはそこらの詐欺師でも滅多にすることではない。少しでも良心があるのなら一歩を踏み出すことにすら躊躇うはずなのに、奴はその分水嶺をいとも簡単に越えてくる。

近くのベンチに腰かけて煙草をくわえた。ここ最近本数が増えている。元々そんなに吸うような人間ではなかったのに。

(´・ω・`)y━・~~(僕は、なんのために戦っているんだろうな)

今朝方ドクオと話したことが甦る。彼のように自分の道をしっかりと見定めて、胸を張って歩くことはどこまでも難しい。もしかしたらショボンでは一生かかっても無理なのかもしれない。

(´・ω・`)y━・~~(騎士として、か)

まるで免罪符のように扱っている言葉だが、許されることではない。騎士だから何をしてもいいわけではなく、最低限の誇りや矜持があって初めて意味を持つ。王という立場も同様のはずなのに、何故ここまで違ってしまったのだろう。

(´・ω・`)y━・~~(あの方が変わられたのは、やはり十五年前だろうな)

あの戦争では多くのものを失った。人がゴミのように宙を舞い、どこまでも続く鮮血と臓物の海。あそこはまさしく地獄、それも人の手によって作られた人工的な墓場だ。

(´・ω・`)y━・~~(いっそあそこで死んでいた方が楽だったのかもな)

315:2014/06/21(土) 16:36:14 ID:YKMrFccY0
風が吹いて灰がショボンの前をさらさらと流れていく。人の命も吹けば飛ぶように儚いものだと知ったのは、まさにあの時、あの瞬間だった。そこには大切なものが確かにあったはずなのに、ショボンの手をすり抜けて消えてしまった。

もう二度と戻らない。未だに夢の中で助けを求めてくるのは、きっとショボンが十五年前から歩くのを止めてしまったから。こんな世界のために自分は戦っただなんて、信じたくはなかった。

( ・∀・)「辛気くさい顔してますね、らしくもない」

と、後ろを振り返ればモララーが立っていた。そう言えば彼は見回りの当直だったか。

自分が今どんな顔をしているのか、普段はどんな顔をしているのかが分からなくて、ショボンは困って苦笑を浮かべる。モララーは何も言わずに隣に座った。

(´・ω・`)「僕にも色々と考えることがあるのさ」

( ・∀・)「ドクオに感化されすぎてんじゃないですか? 以前のあなたならそんな顔しなかった」

(´・ω・`)「どうだろう。やるべきことは何も変わってはいない」

( ・∀・)「そりゃそうでしょう。変わったのは心ですから」

(´・ω・`)「……」

自分は変わったのだろうか? 以前の自分はどんなだった?

( ・∀・)「ま、変わったのは俺もですけどね」

316:2014/06/21(土) 16:37:12 ID:YKMrFccY0
(´・ω・`)「良くも悪くも、ドクオの近くにいる人間は変わるのかもしれないな」

( ・∀・)「そりゃあいつが戦う理由をはっきりと持っているからでしょう。迷いがある剣は鈍る。あなたが教えてくれたことですよ」

(´・ω・`)「……モララー、君は何のために剣を取る」

( ・∀・)「決まってます。自分のために」

(´・ω・`)「……僕も同じように思っている」

モララーは何も言わずに立ち上がる。代わりにショボンに背を向けた。

( ・∀・)「俺はもう帰って寝ますよ。今のあなたと話してても何の得もない」

手をひらひらと振るモララーの姿は、他の騎士達が見たら大激怒だろう。それほどに礼節のない不躾なものだった。

しかし、ショボンはその背中に何も言えなかった。

モララーに指摘されるまでもなく、分かっていたから。迷いがあることくらい、不満があることくらい、とっくに知っていた。

けれどもその不満をどこにぶつければいいのか、この迷いをどうすればいいのかが分からない。自分の立場や周りの人間は、ショボンにたくさんのものを求め、ショボンはその期待通りにことを成してきた。それは誰かのためになると分かっていたからで、誰かを傷付けるものではないと知っていたから。

ショボンも子供ではない。必要とあらば命を奪ったし、傷付けもした。そこにあったのは戦いの不文律であって、嬉々として剣を振るったわけではない。

(´・ω・`)(分かっている。分かっているんだ)

ぎゅっと拳を握りしめて、ショボンは腰をあげる。もう何も考えたくない。

そう言えば、今日は徹夜だったことを、ショボンは今さら思い出した。

317:2014/06/21(土) 16:37:56 ID:YKMrFccY0

◇◇◇◇

('A`;)(俺は何かしたんだかろうか)

隣にいる渡辺は先程から一向に口を開こうとせず、何かを期待するような目でこちらを見ながらアイスを食べている。たまに目が合うとすぐに逸らしてしまうのだが、彼女の目の奥には確かな葛藤のようなものがある……気がする。

そう言えば渡辺を見かけた時もドクオから逃げようとしていたし、本当に気付かないうちに何かしてしまったのかもしれない。

だが、ドクオは元の世界にいたときに読んだことがあった。こういう場合、自分が何をしたかも把握せずに謝ると女性は火に油を注いだが如くさらに不機嫌になるそうだ。ここは慎重に何があったかを聞き出し、問題があったなら速やかに消化すべきだ。

ドクオはそう判断すると、渡辺がアイスを食べ終えたのを見計らって口を開いた。

('A`;)「ええええええっttttttと、そそそそそそそそののののののの、わ、わた、渡辺しゃん!!」

こんな状況に慣れていないドクオは盛大に噛んだ。しかも自分ですら何を言っているのか分からないほどに。

从;'ー'从「……え、どうしたの?」

('A`)(めっちゃ引いてますやん)

困惑した顔でこちらを覗きこむ渡辺は、やはり可愛い。元の世界でこんな噛み方をすれば即警察にしょっぴかれるところだった。いや、もちろん渡辺もかなり驚いている、もとい引いているのでドクオの心に絶大なダメージを与えたことには変わりはないのだが。

318:2014/06/21(土) 16:38:46 ID:YKMrFccY0
('A`)「あー、いや、その、なんか落ち込んでいるというか、さっき俺のこと見て逃げ出したから、どうしたのかなって」

噛まずに言えた。ボッチで年齢イコール彼女いない歴日々更新中の自分が。

ドクオの中で今日はある意味記念日になった。異世界の暦がどうなっているのか分からないが、とにかく今日は記念日である。

从'ー'从「えっと……それは……」

言いにくいことなのか、はたまたそれほど酷いことをしてしまったのか。ドクオは一瞬にして気が気でなくなる。脇汗がドバドバ出ているし、体中の穴という穴から冷や汗が噴き出している。

正直、貞子と相対したときよりも緊張していた。命の危機はないのかもしれないが、社会的に死ぬ可能性もゼロではない。

周囲の喧騒がやけに耳障りで、ドクオはコップに口をつける。渡辺は俯いて何も言わず、かと思えばドクオをしっかりと見つめて、何かを言いかけてまた俯く、の繰り返しだった。

このままでは先に進まない。そう判断したドクオはさらに口を開く。

('A`)「俺はさ、渡辺が困った顔してたり、泣いてるのを見るの嫌なんだ。初めて会ったとき助けてくれたし、それからもずっとそばで支えてくれてたから。だから、出来れば俺も渡辺の力になりたい。助けてもらってばっかりじゃなくて」

途切れ途切れだし、大きい声ではっきりとは言えなかったが、言いたいことは伝えられた。あとは渡辺がどう出るか、もしこれでも話してくれないのならツン辺りに相談するしかない。ドクオの話術ではどうしようもないのだ。

やがて、渡辺がおずおずと語り出した。

从'ー'从「あの、ね。私、最近変なんだ。どっくんがツンちゃんを助けてくれて、しぃちゃん達騎士団の人がツンちゃんに学校に入れてくれて。嬉しいはずなのに、嫌な気持ちになるの」

('A`)「……え?」

从'ー'从「それで、さっきしぃちゃんに会ったんだけれど、嫉妬しちゃって逃げちゃったんだ」

ドクオは渡辺の告白に頭をフル回転させる。彼女が言っていることの意味も、リユウモ分かった。単純に嫉妬しているのだろう。確かに貞子と戦った際、渡辺は魔法を使えないという制約の中で何もできなかったのかもしれない。だが、それはあくまで戦うということについてであって、渡辺がいなければ目も当てられない状況になっていただろう。

彼女が身を呈してツンを庇っていなければドクオだって間に合わなかったし、ツンが貞子と戦う理由はなかった。もしかしたら貞子と共にドクオと戦っていた可能性も十分にあった。

そんな絶望的な場面で、渡辺のした功績は多大なものだとドクオは思う。

319:2014/06/21(土) 16:39:30 ID:YKMrFccY0
その後の処理は一介の学生である渡辺には難しい話だし、ましてやドクオだって貞子と戦った以外はなにもしていないのだ。

('A`)「渡辺はなんか勘違いしてるぞ、それ」

从'ー'从「ほぇ?」

('A`)「あの時渡辺がいなきゃ俺は間に合わなかった。しかもツンの狙いはおれだだったわけで、渡辺が王都にいなかったらツンは貞子と戦う理由はなかったんだぞ?」

从'ー'从「でも、ツンちゃんに何もしてあげられなかったのは事実だよぉ」

('A`)「そんなことはないだろ。魔法が使えない状況で、渡辺はツンのために盾になってた。文字通り命をかけてたじゃん」

从'ー'从「……」

('A`)「何もしてないなんて言うなよ。ツンは入院しちまったけど、みんな生き残れたんだ。恥じることなんて何もない、渡辺は胸を張っていいんだよ」

ドクオは自分の言える精一杯を口にする。こちらに来て初めて会ったとき、ドクオは彼女に慰めの言葉すら言えなかった。けれど、今は違う。数回の戦いはドクオにとって少しの自信と勇気をくれた。そしてそれをくれるきっかけになったのはいつでも渡辺なのだ。

渡辺がいつも誰かのことを思って動いているのは知っている。そのために何をすべきかも理解しているだろう。ならばあの状況で彼女がしたことは最善で間違いのないものだった。

从'ー'从「……でも」

('A`)「それに、ツンの入学とかそういうのは俺達にはどうしようもないことだと思うぜ。渡辺は学生、俺は一般人、騎士団の連中とは役割が違う」

騎士団の本懐は王都に住む民のために、そして守るべき王族のために動くこと。ならばツンの処遇については自分達にできることなんてたかが知れている。

('A`)「嫉妬するのも分かるけどな。それだけ渡辺にとってツンは大事な友達なんだろうけど、渡辺がいたからツンも学校に通えるんだ。十分だろうよ」

从'ー'从「そうなのかなぁ……」

('A`)「ツンは渡辺に感謝こそすれ、悪態なんて吐いてなかったぞ」

320:2014/06/21(土) 16:40:17 ID:YKMrFccY0
きっと、渡辺は人が良すぎるのだ。誰かのために、人のためにと考えるその姿は立派だが結果を求めすぎている。何がベストかなんて、終わってからしか分からないのに、その時点で先々まで考えてしまうのだろう。

それが悪いとは言わないが、もう少し肩の力を抜いてもいいと思う。

('A`)「嫉妬なんてみんなするもんだ。けど、それが悪いことかって言われればそうじゃない。俺だってもっと強ければツンは傷つかなかったかもしれないって考えたらモララーやショボンさんに嫉妬する」

('A`)「けど、俺はそんなに強くないからさ、今出来ることしか出来ないんだよ。そこは折り合いをつけるしかないんじゃないか?」

ドクオにとって人生とは妥協の連続だった。努力をしていないからこそすぐに諦めることが出来たが、もし努力をしていれば何かができたかもしれないと今でも後悔している。

だが渡辺はそうじゃない。やるべきこと、すべきことをきちんとした上でも出来ることと出来ないことがあっただけの話。いわば適材適所なのだ。

('A`)「諦めろとは言わないけど、そこまで気に病むことじゃないだろ。一人が出来ることはそう多くはない」

こういう考え方は渡辺の過去、<忌み子>として生きてきた背景もあるのだろうが、それにしたって思い詰めすぎだ。

从'ー'从「……人のためって難しいね」

('A`)「難しいよ。誰かにとってほしい答えはそれぞれなんだから」

从'ー'从「私は、ツンちゃんがしてほしいことしてあげられたのかなぁ」

('A`)「それは間違いなく出来たじゃないか」

从'ー'从「……うん」

渡辺はそう返事したまま遠くを見つめる。彼女の心は、瞳はきっとまだまだ先を捉えているのだろう。

ドクオはそんな彼女に何をしてあげられるのか、未だに分からない。分からないが、やるべきことは決まっている。

('A`)(俺は渡辺を守る。そして、恩を返し続けるだけだ)

それだけが、今のドクオに出来ること。

321:2014/06/21(土) 16:41:02 ID:YKMrFccY0



店を出ても渡辺の胸の取っ掛かりは取れず、もう一つの話をドクオにすべきか迷っていた。

从'ー'从(私が、どっくんをどう思っているか)

しぃと仲良く話すドクオを見て、嫉妬していたのは間違いない。だが、その嫉妬はどういう類いの想いなのか、渡辺は判断できずにいる。

ドクオに話を聞いてもらって、答えを聞いて、全てを納得したわけてはないが、話をしてよかったな、とは感じていた。

正直に言えば、ドクオは頼りになる男だと思う。渡辺が困っているときに助けてくれるし、こちらのことを気にかけてくれている。もしかしたら兄という存在が渡辺にもいればこんな人間だったのかもしれない。

もっとドクオのことを知りたいと思うし、自分のことを知ってほしいとも思う。だが、そういった感情は人より経験が少ないからこそ生じてしまう勘違いのようなものではないかとも思うのだ。

他人から見ればそれは恋だと言うのかもしれないが、そう断言するには渡辺の心はぐちゃぐちゃで纏まりがつかない。

ならばいっそ、本人に尋ねてみようか。ドクオならば自分の望む答えを出してくれるかもしれない。

从'ー'从「ねえどっくん」

隣を歩いていたドクオがんあ? と間の抜けた返事をする。

从'ー'从「どっくんは恋とかしたことある?」

(゚A゚)「ぶふぉっ!!」

ドクオが飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。変なところに入ったようでげほげほま蒸せ返っている。

('A`;)「い、いきなり何を言い出すんだよ」

322:2014/06/21(土) 16:41:47 ID:YKMrFccY0
从'ー'从「私、そういうのよく分からないからどっくんなら知ってるかなって」

('A`;)「いや、まぁ俺も恋ぐらいは……」

言いかけて、ドクオははたと立ち止まる。渡辺も気付かなかったが、そう言えば彼はまだ記憶喪失という設定のままだった。

从'ー'从「あ、あのね、どっくんが違う世界から来たっていうのはツンちゃんに教えてもらったんだ。だからもう記憶喪失だって言わなくても大丈夫だよぉ」

渡辺がそう言うと、ドクオはばつが悪そうな顔をして、こめかみの辺りをぽりぽりと掻いていた。

('A`)「あー、そっか。ツンは元々黒の魔術団だっけ。騎士団の連中にもばれてるみたいだし、もう隠す必要ないか」

从'ー'从「どっくんが違う世界の人でも、どっくんはどっくんだからあまり気にならないよぉ」

('A`)「そっか。あー、んで、恋をしたことがあるかって話だが、ないことはないよ。成就したことはないし、その人とはまともに話したこともないけど」

从'ー'从「どんな感じなのかなぁ、恋って」

('A`)「んー、その人のことがずっと頭から離れなくて、どうすれば仲良くなれるかとかよく考えてたなぁ。結局挨拶を数回交わしただけで進展しなかったし」

从'ー'从「ふむふむ」

それには当てはまる気がする。気がつけばドクオは何をしているのかと考えることは割りと多い。

('A`)「あとは、そうだなぁ、その人が違う異性と仲良くしてるとやっぱり嫉妬してたかな。俺もそんなに経験ないからこれくらいしか言えないや」

从'ー'从「……」

从'ー'从(やっぱり、私はどっくんに恋してるのかなぁ?)

今のところドクオが言ったことは全て当てはまっている。ということは、そういうことなのだろうか?

ツンにもそう言われたし、これは確定、でいいのかもしれない。

('A`)「けど、これはまぁ受け売りなんだけどさ、恋とか愛だのっていつの間にか気付くものなんじゃないか?」

从'ー'从「いつの間にか?」

('A`)「そうそう。あいつ気になるなぁとか思ってても、実際は違う感情だったりするんじゃないか? 例えばペットを飼っているとする。当然愛情もって育てるよな」

从'ー'从「うんうん」

323:2014/06/21(土) 16:44:01 ID:YKMrFccY0
('A`)「けど、人間相手の好きとは違うわけだ。同じ好きでも条件が違えばまた別のものだと俺は思う。やっぱそういうのは少しずつ育っていって、いきなり気付くものなんだよ」

从'ー'从「いきなり、かぁ」

('A`)「最初は気になるなぁ、それからそいつのことしか考えられなくなって、ある日突然やっぱりこの人のこと好きなんだってなる。人の心なんて計算や理論で紐解けるようなもんじゃないよ」

从'ー'从「……」

('A`)「だからこそみんな立ち止まって、振り返って、何度も挫折しながら歩いていくんだ。そんな簡単に何でも分かったら誰も苦労しないだろうし」

何となく、ドクオが言いたいことが分かった気がする。

人を想う気持ちはそう簡単に理解できるものではない。故に考える。考えて考えて、その先に人は気付くのだろう。

もしかしたら考えるのをやめて、少しだけそのことを忘れた頃に答えはやってくるのかもしれない。

だとしたら、今は分からないままでいいのだ。

从'ー'从「そっかぁ、やっぱりどっくんは頼りになるねぇ」

('A`)「褒めてもなんも出ないぞ」

从'ー'从「素直な気持ちだよぉ〜」

渡辺はにっこりと笑ってドクオの前に出る。

从^ー^从「どっくん」

('A`)「あん?」

324:2014/06/21(土) 16:44:47 ID:YKMrFccY0
从^ー^从「大好き」

('A`;)そ「ファッ!?」

渡辺はそのまま前を向いて走り出す。今はこれでいい。その内あちらの方からやってくるだろう。そうしたら、きちんとドクオに伝えよう。

呆然と立ち尽くすドクオに、渡辺はもう一度声をかける。

从'ー'从「置いてっちゃうよぉ〜」

('A`;)「いや、今のどういう意味だよ!? え、何新手のジョーク? それともいじめ?」

慌てて追いかけてくるドクオに捕まらないよう渡辺は走り出す。

きっとこれからも渡辺はドクオのことが大好きだ。どんな感情かは分からないけれど、それだけはずっとずっと変わらない。

从^ー^从「えへへ」

('A`;)「待てって! おい渡辺さん?」

二人は王都をどこまでもどこまでも駆けて行く。渡辺が疲れはてて、彼に捕まるのはそう遅くはなかったけれど。

325:2014/06/21(土) 16:45:33 ID:YKMrFccY0

◇◇◇◇

王都とは遠く離れた小さな集落で、一人の男が目の前に作られた光を見て満足そうに頷いた。

「これは素晴らしい。やはり貞子が残したあの術式、無駄ではなかったな」

魔力を集め、人のマナですら集めたあの術式は大いに利用価値がある。貞子はあくまで予備電源のような使い方をしていたが、あれでは宝の持ち腐れだ。

マナとは人が生きるために最も効率化された魔力である。そして人はその身にマナを生成する機構までも備えているのだ。

ならば、マナを操ればその機構を作ることも可能であるということ。

人の存在とはかくも神秘的で、不可思議なものだが、彼女はその可能性を見出だしてくれた。

「楽しい、これは楽しいな。もっともっとシステムを効率的に回せば魔剣に頼らずとも大陸くらいなら簡単に治められる」

男はさらに術式を稼働させる。すると近くにいた人間は消滅し、きらびやかな光へと変換された。

「ふむ。まだまだ改良の余地があるな。人が持つマナはこんなものではないはず」

幾人もの人がマナに変わり、その場所に男一人だけになった頃、男は口元を歪ませながら集めたマナを術式に入れる。

「もう少し足りない。あと少しだけだ」

先日作り上げた実験体は失敗だった。出力をあげすぎたせいか言うことを利かず、挙げ句の果てには自壊してしまったのだ。

「まぁ材料はいくらでもある。もう少し見直してみよう」

男は術式を消して、誰もいなくなった集落をあとにする。

【+  】ゞ゚)「これからが楽しいゲームの始まりだ、魔剣の主よ」

彼は棺桶死オサム。人の死を操る者である。

326:2014/06/21(土) 16:46:19 ID:YKMrFccY0
第七話 終

327:2014/06/21(土) 16:50:28 ID:YKMrFccY0
今回は短いですが終わりとなります
元々一話分の話を二つに分けたので大分短くなりました
今回は軽い話でバトルバトルしてた本編を少しでも和らげたかったのですが、見事に失敗です
けど渡辺の可愛らしさが前面に押し出されたと思うのでそこそこ満足です
次回からまたバトルバトルな話になりますので、お付き合いいただければと思います
では今回も読んでいただきありがとうございました
次回投下は恐らく水曜日か木曜日になりますのでよろしくお願い致します

328名も無きAAのようです:2014/06/21(土) 18:01:46 ID:SL0DJFQ20
乙乙

329名も無きAAのようです:2014/06/21(土) 19:40:47 ID:xggAIUxs0
乙でした

330名も無きAAのようです:2014/06/22(日) 01:10:56 ID:4Sa1iQMY0
乙 良かった

331名も無きAAのようです:2014/06/22(日) 09:38:30 ID:GgNBW1HE0

早漏すなあ

332名も無きAAのようです:2014/06/22(日) 18:37:56 ID:OCDgRO9M0
この渡辺はドクオに押し倒されても文句言えない

333名も無きAAのようです:2014/06/22(日) 23:20:39 ID:BzfvGRiU0

ところでしぃってロリ枠でいいの?

334:2014/06/25(水) 03:24:40 ID:ha7Lbg220
夜分遅くにこんばんは、1です
本日夕方以降暇を見て投下していきたいと思います
いつもたくさんの乙をありがとうございます
おかげで執筆意欲がもりもり湧いております

>>331
自分でもそう思います
皆さんをあまりお待たせするのもあれなんでできる限り間隔を短くしてお送りしております

>>332
渡辺さんは今までぼっちでしたんで、男がどういう生き物か分かってないだけなんです
許してやってください

>>333
14歳ですよ?リアルだとjcですよ?
BBAとは言わせません!!

それではまた投下の際にお会いしましょう

335:2014/06/26(木) 04:21:56 ID:vhAPCg.Q0
てすと

336:2014/06/26(木) 16:10:17 ID:AXRm0dFE0



第8話「ゲームの始まり」



.

337:2014/06/26(木) 16:11:41 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

('A`)「なぁ、一体どこに連れてくつもりなんだ?」

ドクオは先程購入した魔法紙を手で弄びながら、前を歩くモララーに声をかける。早朝だというのに街はすでに活気に溢れ、朝の特売か何かなのかヴィップラ地区の方から威勢のいい声が飛び交っていた。

( ・∀・)「どこって、そんなの決まってるだろ。仕事だ仕事」

('A`)「仕事って、俺騎士団じゃないよな?」

名目では一応騎士になるのだろうが、ドクオは正式に任命を受けたわけではない。そもそも騎士寮に厄介になっているのもそちらの方が王都や騎士団にとっても都合がいいからである。言ってしまえばドクオはなんちゃって騎士だ。

戦う力はあるものの、それだけの男に仕事とはどういう了見だろうか。確かに部屋の中で暇を持て余すよりは随分と建設的な気もするが、何も分からず魔法が飛び交う戦場に立たされるのは正直いい気持ちではない。

( ・∀・)「んなこと言ったって、陛下からの勅命なんだ。俺に言われてもどうしようもない。反逆罪で打ち首になりたくなきゃ大人しく言うこと聞くしかない」

('A`;)「反逆罪って……」

なんと無茶苦茶な。ヴィップを治める王の話を何度か聞いたことはあったが、皆口々に素晴らしい統治者だと言っていた。民の声を親身になって聞いてくれるとのことだったが、異世界人であるドクオの声には耳を傾けてくれないようだ。

('A`)「で、こんなのまで買わされたってことはもしかして王都を出るのか?」

( ・∀・)「ご名答。今回は遠征とまではいかないが、ちょっと遠い。詳しい話は道中でしてやるよ」

モララーはそう言って移動用魔法陣の前で立っていた二人の騎士に向かって小さく手を振った。

('A`)「今回もこのメンバーか」

その二人の騎士、しぃとショボンを見てドクオは溜め息を吐く。

(´・ω・`)「我々だけでは不満かね?」

その様子を見てショボンがここぞとばかりに発言する。ドクオは慌てて、

('A`;)「いえ、そういう訳じゃなくて、なんていうか……」

このメンバーだとろくなことにならない。と口にしそうになるが、すんでのところでドクオはそれを飲み込む。

ショボンもモララーもしぃも実力は折り紙付きだということは分かるのだが、彼らほどの実力者が出向くということは、それほど危険が伴う仕事だということ。ドクオとしてはもう少し穏便な仕事をさせてほしいと切に願っているのだが、世の中世知辛いものである。

代わりにドクオは気になっていたことを聞いてみることにした。

('A`)「というか、ショボンさんは副団長でしょう。王都を離れていいんですか?」

前回の件でも王都を離れたが、あのときはそんなに距離がなかった。今回の話だと、なんだか相当遠くまで行かされそうな雰囲気である。

338:2014/06/26(木) 16:12:49 ID:AXRm0dFE0

(´・ω・`)「これも陛下の勅命でね。今回は私が同行しないとならないくらい大きな問題なのさ」

('A`)「……マジすか」

(´・ω・`)「マジ? どういう意味かね?」

('A`)「いえ、何でもありません」

副団長直々に出なければならないほどの問題。それはつまり貞子と同等、もしくはそれ以上の危険が伴うということ。

ドクオはこの時点で全てを投げ出して逃げたい衝動に刈られた。あんな女がそう何人もいるとは思えないが、ドクオは黒の魔術団とやらに狙われている以上、奴等に襲撃されるとも限らないのだ。

もちろん、それらを考慮しての布陣なのだろうが、どうにも不安を掻き立てるメンバーであることに違いはない。

(*゚ー゚)「毎度思うのですが、ドクオさんは顔のわりに小心者ですね」

ドクオの顔を観察していたのか、しぃは小さくそんなことをのたまった。顔のわりにとはどういうことだ。どこからどう見ても幸薄そうな一般人だろう。豪胆な顔をしているとは思えないのだが。

( ・∀・)「ま、話してても先に進まない。さっさと目的地に行きましょうか」

(´・ω・`)「そうだな。全員魔法紙は持ったか?」

('A`)「そう言えば、前回は歩いて目的地まで行きましたけど、今回はどうやって行くんですか? さすがにこれに乗ったら到着ってわけじゃないでしょう?」

ドクオは王都でも移動魔法陣を利用したことがない。というのも、ドクオの移動範囲が極端に狭いことに起因している。

ドクオが住んでいる騎士寮は商業区であるヴィップラからさほど離れていない場所にあるため、徒歩で十分に行き来できるためだ。この世界での娯楽は何度か耳にしたことがあるものの、基本的にめんどくさがりなドクオは一度王都をくまなく歩いたくらいで、一日のほとんどを部屋で過ごし、あとは訓練所に顔を出すだけだった。

そんなドクオだったから、この移動術式は以前説明を受けたくらいで利用したことがなかったのである。

( ・∀・)「ああ、とりあえずそれ貸してくれ」

モララーに促されて魔法紙を渡すと、彼はその紙に何事かを記すとこちらに返してくる。

ドクオにはこちらの文字は分からないため、この言葉がどんな意味をなすかは神のみぞ知るというやつだ。モララーのことだから悪いようにはならないと思うが、少々不安ではある。

(´・ω・`)「さて、準備は整ったかな? 時間も差し迫っているから行くぞ」

ショボンの号令で一人、また一人と魔法陣に乗っては消えていく。残ったのはドクオとショボンだけだ。

339:2014/06/26(木) 16:13:42 ID:AXRm0dFE0

('A`)(うわー、なんか怖いなぁこれ。乗りたくない訳じゃないけど、モララーに貰ったあれも大概だったしなぁ)

黒の魔術団のアジトから王都に戻ったときのことを思い返し、ドクオは思わず胃液が込み上げてくるのを感じた。移動系の魔法は渡辺の魔法と魔法アイテムくらいしか経験したことはないが、あれは酷いものだった。

一瞬にして視界が歪み、三半規管を掻き回すような感覚を得る。それに耐えて視界が正常に戻ると王都に到着していたのだが、ドクオはすぐに嘔吐した。

(lii'A`) (憂鬱だ)

思い出し下呂をしそうになって、ドクオは魔法陣に乗るのを躊躇っていると、いつの間にか後ろに回っていたショボンが背中をさすってくれた。

(;´・ω・`)「大丈夫か? 少し休んでからでも構わないぞ」

(lii'A`)「いえ、大丈夫です」

(´・ω・`)「まぁ、転送系の魔法はなかなか慣れないものだからな。私も始めは何度も吐いたよ」

(lii'A`)「やっぱりですか」

(´・ω・`)「転送魔法陣も開発されたのはここ二十年ほどのことだからね。開発当初はもっと酷かった。本当に死ぬかと思ったほどだ」

これでましになった方だということは、乗り心地(?)はこれが限界ということなのだろう。今後この世界で生活していくのなら避けて通れぬ道だが、仕事と称して連れていかれる度に転送魔法陣を使うとしたら前途多難である。

(lii'A`)「覚悟決めるしかないか……」

ドクオが気合いを入れて魔法陣に乗ろうと構えたときである。

(´・ω・`)「ドクオ」

と、ショボンが呼び止めた。

340:2014/06/26(木) 16:16:14 ID:AXRm0dFE0

('A`)「はい?」

せっかく意思を固めたところでいきなり呼ばれたため、ドクオは興ざめしたがショボンの顔は何か大事なことでも言おうとしているのか、こちらを真っ直ぐ見つめている。

(´・ω・`)「すまないな。本当ならば、君をこんなことに巻き込みたくはないんだ。ただでさえ異世界から偶然呼び出されて大変だろうに」

ショボンはそう言って頭を下げる。前回も、そして今回も組織で権力を持つ彼に謝罪をされると、何だか申し訳ない気分になる。

('A`)「……頭をあげてください。ショボンさんは何も悪くないでしょう」

(´・ω・`)「いや、騎士団の副団長なんて肩書きがあっても、一般人が戦いに行かざるを得ない状況を変えることさえ出来ないほど無力な自分を、私は許せないんだ」

('A`)「……確かに、なんで俺が戦わなきゃならないんだって思いますよ。けど、戦わなきゃ守れないものもある。黒の魔術団もどんなことをしでかすか分かったもんじゃないし。それに、今の俺に出来ることはこんなもんしかないから」

ドクオは自分に出来ることを知っている。戦いについては素人かもしれないが、それでもドクオは渡辺を、他の人を守る力がある。それを知りながら指をくわえて見ているだけなど、こちらに来る前と何も変わらない。

それじゃいけないのだ。ドクオだって死にたがりの馬鹿じゃない。けれど立ち向かわなきゃならない現実が目の前にあるというなら、動かなければ後悔するのは目に見えているから。

ドクオがそう言うと、ショボンはようやく頭をあげた。

(´・ω・`)「恩に着る。ただ、君は絶対に死んではいけない。何かあればすぐに逃げるんだ。いいな?」

('A`)「分かりました」

そう約束をして、ドクオはようやく魔法陣へと踏み出した。

前回のように渡辺が狙われることも今後あるのかもしれない。ツンだって黒の魔術団を抜けた身だ。いつ追っ手が来るかも分からない。

その時、貞子よりも強大な敵が立ちはだかるのだろう。ドクオはそんなやつらとも戦わなければならない。

きっと騎士団が用意してくれる実戦はドクオの血肉になる。何事も経験だ。

そこまで考えたところで、ドクオの目の前が歪み始めた。

341:2014/06/26(木) 16:16:56 ID:AXRm0dFE0



渡辺は現実に嫌気が差して、逃避と言わんばかりに机に突っ伏す。このまま机と一体化して沢山の人の役に立てるなら本望だ。もうこんな俗物にまみれた世界なんて必要ない。

ξ゚⊿゚)ξ「なに現実逃避してんのよ。そんなんじゃいつまでたっても進級出来ないわよ」

向かいの席に座ったツンがため息混じりにそう告げる。長い入院生活も終わり、ツンが魔法学校に編入という形で入学したのはつい先日のことだ。体調はまだ本調子ではないようだが、日常生活に支障はないということでようやく渡辺と肩を並べて学生生活を謳歌できるようになった。

从'ー'从「だってぇ……今回の課題は難しすぎるよぉ」

渡辺達はつい先程まで学校で講義を受けていたのだが、講義を修了した証として課題の提出を求められたのである。

この学校は一つの講義を修了する度に課題を出されるのだが、その難度はまちまちで魔法術式の構築だったり実技試験だったりと内容もバラエティーに富んでいた。そして、今回の講義は錬金術という魔法使いにとってはもはや珍しくもない使えて当たり前のものだが、出された課題に使う媒体が問題だった。

从'ー'从「魔導鉱石の原石なんて簡単にてに入らないよぉ……」

魔導鉱石とは錬金術においてよく使う基本的な媒体の一つで、その用途は様々である。加工を施して燃料にしたり、数が多ければ形にして商品にしたりとかなり応用が利く便利なものだ。

これだけ世に浸透しているものなのだから手に入れるのはそんなに難しくはない。ヴィップラの出店でも覗けば簡単に手に入る代物なのだが、原石となると話は違う。

342:2014/06/26(木) 16:19:42 ID:AXRm0dFE0

元々魔導鉱石は特定の鉱山でしか採掘されず、扱いも国家資格が必要なほどに危険なものなのだ。採掘時には小さな塊で見付かることが少なく、鉱石自体が魔力を多分に含んでいるためちょっとした刺激で簡単に暴発してしまう。

そのため市場に出回っているのは塊を小さく砕き、きちんと魔力が漏れないよう特殊な加工をしてようやく出荷となるため、課題で原石を持ってこいなどとは前代未聞だった。

从'ー'从「でも課題をこなさなきゃ単位取れないよぉ……」

ξ゚⊿゚)ξ「大きさは砕いたものでいいんでしょ? お店では売ってないと思うけど、出荷元に行けば譲ってくれるんじゃない?」

从'ー'从「そんな簡単に貰えるかなぁ……」

魔導鉱石の値は一介の学生でも買えるほどお手頃な価格だ。ならば現地に行けば元値で売ってくれる可能性もないことはない。

だが、その場所に行くまでが大変なのだ。

从'ー'从「箒で行ったらどれくらいかかるかなぁ」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そこは飛行馬車を使いなさいよ」

飛行馬車とはこの世界において最もポピュラーな移動手段だ。移動術式が開発される前まで街中を移動する際は飛行馬車が利用されていた。しかし、短距離での使用はコストパフォーマンスが悪いために現在では街と街を移動する際に使われているのと、大量の物資を運ぶ際に使われているくらいだった。

343:2014/06/26(木) 16:20:42 ID:AXRm0dFE0

从'ー'从「う〜、ツンちゃんも一緒に行こうよ〜。一人じゃ心細いよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「とは言ってもねぇ、実際どれくらいかかるか分からないじゃない。私だって課題やらなきゃならないし……」

从'ー'从「お願いします〜。あんな遠いところまで一人旅なんて嫌だよぉ〜」

渡辺が半分泣きながら切実にそう言うと、ツンは黙ってあれこれと考え始めたようだった。

ξ;-⊿-)ξ=3「はぁ、仕方ないわね。分かったわよ、ついてってあげる」

ついに折れたのかツンはため息を吐いて了承した。

从'ー'从「ほんと〜? やったぁ〜、それじゃあ早速準備しなきゃだね」

ξ゚⊿゚)ξ「甘いなぁ、私。甘やかしたりするのはドクオの仕事なのに……」

ツンの言葉に渡辺は、

从'ー'从「酷いよぉツンちゃん。どっくんはそんなに甘やかしたりしないよぉ」

ξ゚⊿゚)ξ「うっさい。ったく、それじゃあ買い出しでもしましょうか。長い旅になりそうだしね」

从^ー^从「えへへぇ〜、ツンちゃんと旅行だなんて、なんだか夢みたいだねぇ」

ξ//⊿//)ξ「な、ば、馬鹿じゃないの!? 私達は課題のために行くんであって、遊びに行く訳じゃないのよ!?」

从'ー'从「えー、折角外に出るんだもん、ちょっとくらい遊ぼうよぉ」

ξ//⊿//)ξ「そ、そこまで言うなら少しくらいなら、つ、付き合ってもいいけどね!」

从'ー'从「よぉーし、それじゃあお買い物にしゅっぱぁーつ!」

腕をあげて渡辺が歩き出し、その後ろを何かをぶつぶつと呟きながらツンがついてくる。遊びじゃないのは分かっているが、それでも胸の高鳴りを抑えることができない。

それはツンが隣にいるから、あの時叶わなかったことを、今度は出来るから。

渡辺は笑って、これからのことを考える。

いい旅になりますように。

344:2014/06/26(木) 16:23:30 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

移動術式をくぐったドクオは早速だが吐き気に襲われ、近くの茂みでげろげろと胃のなかを吐き出していた。やはりあの感覚は慣れるものではない。

しぃが魔法で多少吐き気を抑えてくれているものの、根本的にそういう意図の魔法ではないためすぐに回復というわけにもいかないようだ。

(lii'A`)ゲロゲロー

(;*゚ー゚)「す、すごい勢いですね」

(lii'A`)ゲロゲロー

しばらくしてようやく吐き気が治まったのを見て、しぃが魔法を止める。胃が空っぽになったせいか幾分すっきりした気分だ。

少し離れてドクオを待っていたモララーとショボンは若干呆れ気味に声をかけてくる。

( ;・∀・)「お前ほんと大丈夫かよ」

(lii'A`)「まぁなんとか。もっかい移動術式を使うならもう少し待ってほしい」

こんな状態でもう一回など正気の沙汰ではない。そんなことをすれば二度と目覚めぬ奈落の底へと堕ちていくに決まっている。

ドクオはよろよろと近くに設置されたベンチに腰掛け、しぃが買ってきてくれた飲み物に口をつけた。爽やかな飲み心地の液体が、弱った胃にすーっと溶けていく。生きているって素晴らしい。

345:2014/06/26(木) 16:24:14 ID:AXRm0dFE0

(´・ω・`)「もう移動術式を使うことはないから安心してくれ。ここからはあれを使う」

ショボンが指差した先にあったのは馬車のような乗り物だった。ようなというのは馬がなく、代わりに後方から車などについているマフラーがあり、下部にはゴテゴテとした機械が取り付けられている。本来馬が引くはずの部分にはハンドルらしきものがついていた。

('A`)「なんか、馬車のなり損ないっていうか……」

(*゚ー゚)「見てくれはあんなですけれど、乗り心地は割りといいですよ」

( ・∀・)「そうそう。静かだしな」

口々に馬車の乗り心地を褒める二人にドクオはそこはかとない危険を感じる。あの二人が結託して自分を騙しているのではないか、と不安になった。

(´・ω・`)「そう身構えるな。あの二人が言うように、移動術式を使うよりはいいぞ」

('A`)「……まぁ、そこまで言うなら信じますが」

( ・∀・)「俺達の言うことは信じられないってのかよ」

(*゚ー゚)「私はそんなに信用ないですか?」

('A`)「そういう訳じゃないが……あ、モララーは別な」

( ・∀・)「え、何それ酷くない? 俺達親友だろう」

('A`)「いつから親友になったんだよ。初耳だ」

( ・∀・)「この野郎一晩中飲み明かした仲なのに」

おどけるモララーを一瞥して、ドクオはショボンが指を差した場所へと歩き出した。モララーは何事か文句を言っていたようだが、そんなものを相手にしていたら日が暮れてしまう。

346:2014/06/26(木) 16:24:57 ID:AXRm0dFE0

ショボンが店の人と短い会話をしたのち、一つの馬車を差してからそれに乗り込んだ。やはり馬車は人が運転するらしい。

ショボンが一つの馬車に乗り込むのを見てから対面にドクオが座り、その隣にしぃ、モララーがその向かい側。最後に乗り込んだモララーは扉を閉めて座った。

(´・ω・`)「いいぞ。出してくれ」

ショボンが言うと奇妙な浮遊感と共に馬車が浮かんでいく。

('A`)「おお」

扉の窓から外を見ると、徐々に地面が離れていくのが見えた。こんな簡素なものが空に浮かぶという事実にドクオは少なからず感嘆する。魔法というのは本当に底が知れない。

発信してからしばらくの間は米粒のようになった地表を眺めて楽しんでいたが、そのほとんどが青々とした森林ばかりで長時間見ているというのはやはり飽きてきた。その頃合いを見計らってショボンが口を開く。

(´・ω・`)「さて、今回の任務を説明しよう」

ショボンの言葉にしぃとモララーが神妙な顔付きで頷いた。釣られてドクオも顔を引き締める。

(´・ω・`)「今回の任務は鉱山都市モ・トコ周辺に出没した悪魔の殲滅だ」

('A`)そ「悪魔!?」

347:2014/06/26(木) 16:25:43 ID:AXRm0dFE0

予想外の言葉にドクオは大声をあげた。悪魔と言えば、確か以前しぃが説明してくれた伝承にしか描かれていない破壊と絶望の象徴。十五年前の戦争でも現れたというが、そちらの信憑性は定かではない。

そんな伝説上の存在が、何故今頃になって現れたというのか。しかもそれを殲滅ということは、ドクオ達が戦わなければならないということだ。

あまりの出来事にドクオは開いた口が塞がらない。しかしそれとは対照的に他の二人は落ち着いている。

(´・ω・`)「ドクオも話くらいは聞いていたか。とは言ってもそんなに大袈裟な話じゃない。モ・トコ周辺で悪魔と思しき生命体を見かけたため、その真偽を確認し、もし本当に悪魔だったなら討滅といった具合だ」

('A`;)「なんだ、脅かさないでくださいよ。そんなのと戦わなきゃならないなんてさすがに荷が重すぎる」

( ・∀・)「とは言っても、周辺住民の話によればほぼ間違いないらしいけどな」

モララーがあっけらかんと言う。それならなんでこんなに落ち着いているのだろうか。勝てるかどうか、どころか生きて帰れるかどうかすら怪しい存在と一戦交えなければならないのに。

(*゚ー゚)「モ・トコの周辺の集落ではすでに何人かの住民が襲われているようで、被害はかなり拡がっていますね。自警団や派遣されている騎士も交戦したそうですが歯が立たず、生存者はゼロ。状況は絶望的です」

('A`)「そんなのと戦うの?」

(´・ω・`)「戦闘中に送られてきたとされる音声があるんだが、こちらの攻撃は全て無効化されているようだった。魔法が効かないのか術式を破壊しているのかは分からないが、かなり厳しいな」

聞かされる言葉にドクオは思わず頭を抱える。王都でショボンが頭を下げたのはこれが原因だったのか。

348:2014/06/26(木) 16:26:40 ID:AXRm0dFE0

('A`)「そんな相手にどうするんですか? いくらショボンさん達が行ったところで攻撃が効かないんじゃやられるだけじゃ……」

( ・∀・)「ばぁか、何のためにお前を連れてきたとおもってんだよ」

('A`)「……魔剣か」

(´・ω・`)「そうだ。既存の攻撃手段では歯が立たないが、ドクオの持つ魔剣はどうやら魔力やマナを消滅させるようだからな。ましてや伝承にさえ書かれている代物だ。もしかしたら対抗手段になり得る可能性がある」

と、言うことはだ、その化け物を相手にするのは必然的に━━

('A`)「俺がやるのか」

(´・ω・`)「うむ。私達も出来うる限りのサポートはさせてもらうが、最終的に君に頑張ってもらう必要がある」

( ・∀・)「責任重大だな」

(*゚ー゚)「私達の命はドクオさんにかかっていますから」

('A`;)「ちょっとプレッシャーかけないでくれます? もう逃げ出したいくらいなんだけど」

(´・ω・`)「とは言ってもモ・トコに直接行くわけではない。周辺の街の被害状況や出没地域も確認しなければならん。モ・トコには明日の夕方に到着予定だ。今日は近くの街に宿を取ってあるからそこで一泊、のちに二つ三つほど他の街で情報を集め現地入りという形だな」

ショボンが他にも細々とした注意事項などを説明してくれたが、ドクオの耳には入ってこなかった。

とんでもない仕事に連れてこられたものだとドクオは心中で呟く。自分の成否がそのまま他の仲間の命を左右するなど、ドクオの人生で初めてのことだった。

('A`)(いや、そうでもないか。初めてこっちに来たときも俺があの魔物とやりあってなかったら色んな人が死んでた)

349:2014/06/26(木) 16:27:24 ID:AXRm0dFE0

ニダーと戦ったときもそうだ。あの時もドクオが最後まで戦わなかったらしぃも、渡辺も怪我じゃすまなかったかもしれない。貞子の時は渡辺も、ツンも下手を打てば死んでいた。そう考えれば状況は変わらないように思う。

いつだってぶっつけ本番で立ち向かったのだ。いつも通り、そういつも通りでいい。ドクオには戦況を正しく判断できる戦術眼などないし、便利な魔法もない。あるのはいつの間にか手に入れた古代の伝承。そして、一月かそこらで身に付けた体力と力。

('A`)(俺だって少しは成長したんだ。やれないことはないはず)

窓の外を見つめながら、ドクオは言い聞かせる。たとえ悪魔がどれほどの力を持っていようが、同等の力がドクオの手にはあるのだ。

ドクオは何も言わずにぎゅっと拳を握り締め、来るべき戦いに想いを馳せる。

350:2014/06/26(木) 16:28:08 ID:AXRm0dFE0


从'ー'从「荷物多くなっちゃったねぇ」

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたがあれこれ必要のないものを買うからでしょうが。ちょっと貸しなさい、私が選別する」

从;'ー'从「あ、ダメだよぉ、それは私のおやつだってばぁ〜」

ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!! 遊びに行く訳じゃないんだから、こんなにいらないでしょ!?」

从'ー'从「あー、それもダメぇ〜」

大きく膨れ上がり必要なものも入らなくなった渡辺の荷物を逆さにしてツンはあれこれと物色すると、大量のお菓子類をひたすらに仕分けていく。よくもまぁこんなにお菓子ばかり入れたものだと呆れを通り越して感心するばかりだが、今回の旅に関しては少しきつく言わねばなふまい。

何しろニューソク大陸の北端まで行くのだ。いくら飛行馬車で一日かからず行けるとはいえ、お遊び感覚では痛い目を見ることは火を見るより明らかだ。

王都周辺は騎士団が守りを固めているおかげか魔物もあまり活発ではないが、王都から離れていくのに比例して魔物は強力になっていく。自分達の天敵である人間の絶対数が少ないため、数を増やすと共に魔物同士の縄張り争いなどかわ頻発し、進化を遂げていったのだ。

飛行馬車は空を走る場所であるため、当然だが陸の魔物と出くわすことはないと断言できるが、北の方は空を飛ぶ魔物の数が比較的多い。黒の魔術団にいた頃、飛行馬車が魔物に襲われていたのを何度か目撃しているツンとしては出来る限り危険を減らしいたいのだ。

351:2014/06/26(木) 16:28:58 ID:AXRm0dFE0

ξ゚⊿゚)ξ(まったく、お菓子よりも身を守るものを持ちなさいっての)

鞄から出されるお菓子達を抱き締めながら渡辺は血の涙を流していたが、これも渡辺のためだ。もちろんツンの鞄も多少の空きは確保しているので、お菓子全てを持っていけないわけではないが、今はこれくらいして渡辺にも危機感を持ってもらわなければならない。

あらかた整理の終わった鞄に、課題で使うものを片っ端から入れていく。ツンがどうして渡辺の課題に必要な道具類を知っているのかと言えば、友情の力がなせる技、とでも言っておこうか。ただ単に渡辺が心配だったため、ツンが下調べなどを行っただけなのだが。

ξ゚⊿゚)ξ「ま、こんなもんでしょ。って、あんたはいつまで泣いてるのよ」

从TーT从「だってこんなにも沢山のお菓子が……」

ξ゚⊿゚)ξ「帰ったらいくらでも食べられるわよ。んなことより明日に備えてさっさと寝る!! 何のために私が泊まってると思ってるの!?」

从'ー'从「はぁ〜い」

渡辺が寝床に入り寝息を立てるのを見届けてからツンも布団を被る。とりあえずの準備はこれでいいだろう。あとは明日の朝早くに王都を発てば夕方には現地入りだ。

ξ゚⊿゚)ξ(そういえば、モ・トコ周辺で事件が起こってるって話だったけど、大丈夫なのかしら)

もし何らかの重大な事件が発生してい場合、学生や一般人に検問をしている可能性もある。だとすれば行ったところで街に入れなかったり、飛行馬車の運行自体されていないかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ(その時は、その件が落ち着くまで二人でのんびり旅行ってのも悪くないか)

いつも慎重に動くはずの自分が、渡辺といるだけでこんなにも変わるものなのか、とツンは驚いた。自分も少しずつ変わっているのかもしれない。

だがこの変化は決して悪いものではない。凍り付いた心がゆっくりと溶けていくような、人の温もりや優しさがツンを包んでいる。

それに身を任せてみるのはけして悪いことじゃない。

そんなことを考えている内に、いつの間にかツンの意識は微睡みに落ちていくのだった。

352:2014/06/26(木) 16:29:42 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

夜、モ・トコより二つほど離れた街にドクオ達は滞在していた。途中小さな集落に立ち寄ったが、悪魔に関する情報は得ることができなかった。

というのも、その集落にはそもそも人がいなかったのである。人が住んでいた形跡は確かにあるのに、まるで唐突に消えてしまったかのように集落だけが残っていた。つい先程まで日常生活を営んでいたはずなのに、人だけがいないという異常な様相はドクオの胸に不安だけを募らせていく。

('A`)(それに、村の中心に魔法陣を描いたような痕跡があった。まさか、悪魔を召喚でもしたんだろうか)

あんな目立つところに魔法陣を描けば、否が応でも他の人々が気付くはずだか、村のどこにも戦闘が行われた形跡はなかった。

つまり、その集落は突然、なんらかの形で村人全員が死亡、もしくは消失したということだ。しかもその異常を誰にも気付かせず、ごく自然に。

それ以上のことはどれだけ調べても分からなかったが、この街に到着して話を聞いたところによれば同様のことが他の集落でも起こっているようだった。

('A`)(なんか嫌な予感がするな)

353:2014/06/26(木) 16:30:30 ID:AXRm0dFE0

街の中央広場にある噴水の縁に腰掛け、空を見上げながらこれからのことを考える。

悪魔と集団失踪。この二つが繋がっているのは間違いないが、人為的なものなのか、それとも自然に発生してしまったのかがいまいち掴めない。誰かの手によって引き起こされたものならばそいつを倒せば済む話だが、自然的なものならドクオにはどうしようもない。

もちろん魔法陣の痕跡がある以上、誰かがこの件に噛んでいるのは間違いない。

ドクオは煙草を取り出して火を点ける。こちらに来てからすっかり馴染んだ味を堪能し、吐き出す。

('A`)y━・~~(やっぱ煙草は落ち着くな。健康には悪いんだろうけど、今さらやめられんし)

わざとどうでもいいことを考えて、少しでも気持ちを落ち着けようとするが、煙草を持つ手は僅かに震えていて緊張を隠せない。

以前までとは状況が違うのだ。ニダーや貞子のように強敵とはいえやつらは人だった。人であるから感情があり、限界がある。伝説上の存在ではない。

354:2014/06/26(木) 16:31:13 ID:AXRm0dFE0

('A`)y━・~~(まぁ、ここまで来た以上、生き残るためには戦うしかないんだろうけど)

腹は当に決めたはずなのに、何故こんなにも胸がざわつくのだろう。落ちていく灰を見つめながらその理由を探すが、うまく説明できそうにない。

煙草を二本ほど吸いきったところで、ドクオはようやく重い腰をあげた。明日から忙しくなる、休めるときに休んでおかなければ身が持たない。

ドクオが宿へと足を向けた時、向かい側から誰かの足音が聞こえてきた。

腰にある剣に手をかけ、身構える。足音は一つ、相手は一人のようだ。

(*゚ー゚)「あ」

ドクオは暗闇から現れた少女の姿に拍子抜けした。まさかしぃがやって来るとは思わなかった。

355:2014/06/26(木) 16:31:58 ID:AXRm0dFE0

('A`)「……しぃちゃんか。どうしたんだ、こんな夜更けに」

(*゚ー゚)「なんだか眠れなくて。ドクオさんもですか?」

('A`)「ああ。今日のこともあるし、気が高ぶっちゃって」

剣にかけた手を戻して、もう一度煙草を取り出す。火を点けるとしぃがくすくすと笑った。

(*゚ー゚)「ドクオさんでも緊張するんですね」

('A`)y━・~~「そりゃな、元々こんな生活とは無縁だったわけだし」

(*゚ー゚)「……ドクオさんは一般人ですもんね」

しぃが言った一般人、という言葉が少しだけ強調されて聞こえた。どこか羨望のような感情が混じっているよな、そんな気がする。

隣に並んだしぃの顔はいつもと変わらない無表情。頭一つ分背の低い彼女は空を見上げている。ドクオもそれを追って顔を上げた。

356:2014/06/26(木) 16:32:47 ID:AXRm0dFE0

二人の間に静寂が訪れる。街は眠りについており、頬を撫でる風の音さえも聞こえてくる。昼間は賑やかだった広場も今は二人だけしかいない。

しぃが哀愁のような雰囲気を纏っているように見えるのはドクオに女性の感情を分かる術がないからだろうか。

('A`)y━・~~「……答えたくないならいいけど、しぃちゃんはなんで騎士団に入ろうと思ったんだ?」

何かを話さなきゃ、と口をついたのはどうでもいい世間話とは離れたものだった。モララーは騎士団に入ろうとする者は何かを抱えている人間が多いと言っていた。例えば、渡辺やツンのように。

ショボンは騎士団というのは秩序であり、剣であり盾だと言った。それは誰かのために命をかけるだけの理由や事情があるということだろう。圧政に強いたげられたのかもしれないし、魔物や盗賊に家族や友人、果ては恋人を奪われたのかもしれない。

個人ではどうしようもないことを騎士団ならば変えられるという希望を持つからこそ、自分にルールを課して戦うのだろう。ドクオはそう理解している。

だから、こんなことはきっと聞いてはいけない。人それぞれ思うところがあって騎士団にいるのだ。ドクオのような人間が容易く踏みいっていい領分ではない。

言ったあと、しぃの沈黙にドクオは慌てて次の話題を探したが、裏腹に彼女はなんでもないかのようにそれを話し始めた。

(*゚ー゚)「私は孤児なんですよ、魔物に両親を目の前で殺されまして、そのあとにとある教会で育てられました」

それから、とつとつとしぃは語る。

魔物に両親を殺された彼女は心を閉ざし、少しのことで脅えるようになってしまった。周りの子供とも馴染めず、一日誰とも話さないことも多かった。

だが、それを見た神父はしぃを気にかけ、辛抱強く何度も何度も話を聞いてしぃの心の傷を少しずつ癒してくれた。しぃが他の子供達と遜色なく笑顔を見せるようになったのは両親の死から一年後である。

周りの子供達も辛い経験をしているはずなのに、いつだってしぃに優しくしてくれた。そんな環境もしぃを立ち直らせてくれるのには好都合だったのかもしれない。

そして月日が流れ、しぃが十二歳になった頃、その教会の取り壊しが決定した。

357:2014/06/26(木) 16:33:29 ID:AXRm0dFE0

(*゚ー゚)「元々教会なんていうのは信仰がなければ機能しません。どちらかと言えば孤児院として残っていたんでしょう。ですが増えすぎた子供達を養うには寄付金だけでは足りません。取り壊しもやむ無しでした」

行き場を失った子供達は騎士団が引き取り、未だに訓練生として学校に行ったりしているそうだ。衣食住を保証された生活を与えられた子供達は選択肢のない日々をなんとかこなしている。しかし、唯一教会の神父だけが行方が分からないまま。

(*゚ー゚)「私達には選べるほどの道はありませんでした。気がつけば騎士団にいたという感じですね。もちろん騎士になれたことは誇りに思いますし、今の生活にも満足しています」

けれど、しぃの顔はけして晴れない。その理由はドクオにだって分かる。

('A`)y━・~~「神父さんが、今も心配か?」

(*゚ー゚)「そうですね。宗教が廃れたこの時代ですし、何をしているのかは分かりませんが、出来ればもう一度会ってお礼を言いたいとは思います」

しぃはそれきり口を閉ざした。大切な思い出を慈しむかのように目を閉じる。

('A`)y━・~~「……なら、この件が終わったらちょっと長めに休暇でも取って探しに行こうぜ」

そんなしぃを見て、ドクオは思い付いたことを口にした。我ながらいい案のように感じる。

だが、しぃは馬鹿にしたような、それでいて驚いたような表情をドクオに向けていた。

(*゚ー゚)「……はい?」

('A`)y━・~~「なんだよその顔。会いたいんだろ、神父さんに。だったら探しに行こう。王都にいたって神父さんが訪ねてくるとは限らないしさ。こっちから出向いたほうが喜ぶかもしれないぞ」

(*゚ー゚)「……手がかりも何もないんですよ?」

358:2014/06/26(木) 16:34:13 ID:AXRm0dFE0

('A`)y━・~~「そんなもんは道中探していけばいいんだよ。何もしないよりはましじゃないか。きっと大人になったときに、あの時探しに行けばよかったって後悔したんじゃ遅いんだぜ?」

自分がそうだったんだ、とは口が裂けても言えないが。

('A`)y━・~~「一回じゃ見つからないかもしれないが、何回も何回も探しにいけばいつかは見つかるさ。一人じゃきついかも知れないが、俺もついていくよ。暇だからな」

(*゚ー゚)「……そう、ですね」

('A`)y━・~~「俺だけじゃ不安なら渡辺やツンも誘おう。モララーも、ついてきてくれるかな。なんだかんだあいつもしぃちゃんのこと気にかけてくれてるしさ」

(*゚ー゚)「話が大きくなってませんか?」

('A`)y━・~~「いいんだよ、これくらいで。その方が寂しくない」

しぃもドクオも一人ではない。頼れる仲間や友人がいるのだ。周りを頼らず、一人で何でもできるのは凄いことかもしれないが、それには限界がある。

(*゚ー゚)「ドクオさんは、時々凄いことを言いますね」

('A`)y━・~~「何も凄くはないさ。当たり前のことを当たり前に言ってるだけだ」

その当たり前が一番難しいことをドクオは知っている。元の世界では出来なかったこと、こちらに来て経験したことが今のドクオに段々と根付いているからこそドクオは胸を張っていられるのだ。

359:2014/06/26(木) 16:34:57 ID:AXRm0dFE0

(*゚ー゚)「ドクオさんは馬鹿ですよ。見つかるかも分からないのに」

残り少なかった煙草が最後の一本となり、くわえてからドクオはようやく彼女に言葉を返した。

('A`)y━・~~「んなもんやってからじゃなきゃ分からないって。見つかりゃ万々歳、見つからなきゃ仕方ない。さっきも言ったが、やらずに後悔するよりやったほうがいいんだって」

しぃは瞳を閉じて、何かを考えているのだろう。彼女の心にある思い出の欠片は、きっと簡単には見付からない。けれど行動を起こすことに意味があるのだ。おそらく、しぃもそれを分かっている。だからすぐに答えられない。

最後の煙草が灰に変わる頃、ようやくしぃは一言だけポツリと呟いた。

(*゚ー゚)「……約束ですよ」

('∀`)「おう」

にこやかな笑顔でドクオは静かに答えた。つられてしぃも笑っている。年相応の可愛い笑顔に、ドクオは思わず頭に手をやりわしわしと撫でてしまった。

(;*゚ー゚)「ちょ、やめてください」

('A`)「はは、悪い悪い」

嫌そうにそう言うものの、しぃは逃げたり止めたりはしない。ドクオの手にされるがままだ。

どれくらいそうしていたか、ドクオは唐突にその手を止めた。

('A`)「……おい」

360:2014/06/26(木) 16:35:46 ID:AXRm0dFE0

ドクオの声にしぃも顔を険しくする。

(*゚ー゚)「ええ。何か、おかしいですね」

辺りは相変わらず静寂を守っている。それはおかしいことではない。しかし、あまりにも静かすぎる。いつの間にか虫や鳥の声、果ては星空の光さえない真っ暗闇の中にドクオたちは迷い混んでいた。

武器を持っていないしぃを庇うようにドクオは前に出て武器を構える。誰かが襲ってくる様子はないが、周囲に何かがいるのは確かだ。小さな息遣いとジリジリと距離を詰める足音が微かに聞こえている。

('A`;)(数が多いな。俺だけでなんとかなるか?)

汗が頬を伝い、ポタリと地面に落ちた瞬間━━

('A`)(来たっ!)

▼・ェ・▼「GYAAAAAAAAAAAAA!!」

犬のような姿をした魔物、その数三匹が一斉に襲いかかってくる。ドクオは前方の一匹を斬り伏せ、しぃの手を引き走る。

361:2014/06/26(木) 16:36:35 ID:AXRm0dFE0

('A`;)「なんだよありゃ! この街の結界はどうなってんだ!?」

(;*゚ー゚)「先程まで正常に動作していました。つまり、敵は中にいるということでしょう」

('A`;)「誰かが手引きしたってことか。とにかく今は」

距離を空けたところで振り返り、もう一太刀。短い悲鳴をあげて魔物は消え去った。

('A`)「ここを切り抜けるとするか!」

ドクオの声と同時に二人を囲むように魔法陣が浮かび上がる。そこから大量の魔物が現れ、次々と牙を向いてくる。

動きそのものは冷静に対処すればそれほど驚異ではない。しかし魔物達はうまく連携をとって前後左右を動き回り、ドクオの隙をついて攻撃を繰り出していた。

('A`)「きりがねえぞ!」

(;*゚ー゚)「ドクオさん、私のことは構わずに!」

('A`)「馬鹿、んなこと言うな!」

362:2014/06/26(木) 16:37:19 ID:AXRm0dFE0

一匹、また一匹と増え続ける魔物をドクオはひたすら斬り伏せていく。術者がどこかにいるはずだが、もしかしたらこの空間そのものが敵の魔法という可能性もある。だとすればここを脱出しなければ生き残る術がない。

('A`)(魔法ならこの剣で斬れるはず。なら、そいつを探すしかない)

と、ドクオが意識を魔物から外した時だった。魔物達の動きがぴたりと止まり、ぶるぶると震えだす。

('A`)「なんだ?」

予想もしない展開にドクオは剣を構えたまま呆然とする。が、次の瞬間魔物達の体が発光し、一つの塊となった。

(;*゚ー゚)「……これは、生体合成!?」

('A`)「は?」

塊は徐々に形を成していき、一匹の魔物となる。その姿は先程の可愛らしい外見とはうって変わって禍々しいものへと変化していた。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

363:2014/06/26(木) 16:38:06 ID:AXRm0dFE0

('A`;)「うげっ、ケルベロスかよ」

九つの首を持ち、同じ数の尻尾。体は先程の三倍ほどもある。どの顔も光のない目をしており、口には肉を噛み千切ることに特化した鋭利な牙がびっしりと生え、止めどなく涎を垂らしている。

(;*゚ー゚)「来ます!」

合体した魔物が走り出した。動きも速い。寸でのところで横に飛び、攻撃をかわすが体勢を整える前に魔物の体がこちらを向き、九つの口から炎を吐いた。

('A`;)「くそっ」

剣で火炎を受け止めるも全てを消しきれない。徐々に押し負け、ドクオは上方向に体を崩され火炎をもろに浴びてしまう。

( A )「があっ」

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

何かの加護でも働いたのか、剣により威力が弱まったのかは知らないが消し炭にならずに済んだが、火傷が酷く鈍い痛みが体を駆け巡る。

('A+;)「っのやろう!!」

しかし止まる訳にはいかない。痛む体に鞭を打ち、ドクオは正面から駆け出す。

('A+)「はっ!!」

364:2014/06/26(木) 16:39:34 ID:AXRm0dFE0

図体が大きくなった分こちらの攻撃は当たりやすくなった。横薙ぎに降った剣は致命傷にはならないが、一つの首を切り落とした。いつものように消滅とはいかないが、魔物からは悲痛な叫びがあがる。

さらに一歩踏み込み、もう一撃。まとめて二つの首を消滅。すぐに横に飛ぶと前足がドクオの頬をかすった。

('A+)(あまり時間はかけられねぇ)

ドクオは地を蹴り懐へと潜る。腹の中心に切っ先を向け、一気に突いて思いきり振り下ろした。

▼・ェ・▼「Wooooooooo!!」

叫びと共に魔物は崩れ落ち、光の球となって周囲に拡散した。すると暗闇が徐々に消えていき、街の景色が元に戻っていく。

(*゚ー゚)「どうやらあの魔物が魔法の元になっていたようですね」

('A+)「……」

しぃの声が安堵を取り戻すと同じくして、ドクオはついに膝を折った。

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

薄れ行く意識の中、血相を変えたしぃの瞳に涙が浮かぶのを確認して、ドクオは再び闇の中へと落ちていった。

365:2014/06/26(木) 16:40:35 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

( ゚"_ゞ゚)「ふむ。あの程度ではやはり駄目か」

遠くからドクオの戦いぶりを見ていたオサムは手元にあるメモに走り書きをする。

( ゚"_ゞ゚)「所詮は魔物でしかないということか。しかしマナの密度をあげたことで魔剣ですら消しきれないようだな。これは実に興味深い」

魔剣とは全てを喰らい消滅させる破壊の象徴だと思っていたが、使用者の力不足なのかイマイチ驚異とは感じなかった。

対貞子戦では彼女の闇魔法ですら打ち消すことが出来なかったそうだし、少々がっかりである。

できるのならば魔剣の本当の力を知りたい。余すことなく、全てをさらけ出してほしい。伝承の通り、破壊と絶望を撒き散らして欲しいのだ。

( ゚"_ゞ゚)「もっと強いキメラを当ててみるか。だが、残りも少ない。これは参った」

366:2014/06/26(木) 16:41:38 ID:AXRm0dFE0

座っていた棺桶の中を物色しながらオサムは次の手を考える。今回のゲームをするにあたり様々な物を用意してきたが、小手調べに使う駒はそう多くない。可能であれば次でゲームを始めたいが、魔剣の力を引き出さねば面白くない。

これでは折角の舞台も盛り上がらないと言うものだ。

( ゚"_ゞ゚)「今さら王都に行って新たな駒を作るのもめんどうだ。どうせならここを実験場にしてしまおう」

幸いこの街は幾つも手をつけていない。モルモットも多く残っていることだし、騎士団が向かうモ・トコからもそう離れてはいない。

オサムが棺桶を空けると一つの黒い球が浮かび上がり、ゆっくりと降下していく。

( ゚"_ゞ゚)「今回は少し大きめにしておくか。あまり時間もない」

黒い球に手を突っ込み、情報を与えると球は複雑な模様と文字を描きながら地面に貼り付いた。一瞬にして魔法陣が出来上がり、オサムは無表情にそれを観察する。

( ゚"_ゞ゚)「こんなものか。さて、次の段階に進むとしよう」

魔法陣が光を失い見えなくなると、オサムは踵を返し街を出る。

魔剣の主と騎士団、楽しいゲームの時間だ。

367:2014/06/26(木) 16:42:24 ID:AXRm0dFE0
第八話 終

368:2014/06/26(木) 16:46:18 ID:AXRm0dFE0
昨日投下するといっていたにも関わらず一日遅れてしまいまして大変申し訳ありません
なんだかよくわからないんですが、BBHとかなんとかで書き込みができませんでした
とりあえずこんなところで第八話終了です
次回投下は恐らく月曜日か日曜日になると思います
今回も読んでいただきありがとうございます
それではまた次回

369名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 17:57:48 ID:9NtxaA6c0
乙乙

370名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 18:18:58 ID:AzP8GVQ60

ドクオのギャルゲ系イケメン具合に嫉妬

あとケルベロスの表現の仕方に何だか笑ってしまったw てか頭が12頭ないか?
かわいい

371名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 23:31:49 ID:0neGwT/w0

今回も楽しく読ませてもらった
このドクオ絶対イケメンだろ

372名も無きAAのようです:2014/06/28(土) 21:02:58 ID:TlDpC.Ps0
お、来てたのか


373:2014/06/29(日) 00:31:04 ID:fXDvGWPk0
こんばんは、1です
どうやら日曜日の投下は無理そうなので月曜日の夜にでも投下しようかなと思います
ちょっとリアルで問題がありまして次の話がまだ半分ほどしか出来上がっておりません
ですのであと一日待っていただけたらと思います
では月曜日の夜にでも

>>369
ありがとうございます

>>370
oh...九つなのに三つ多い……
指摘ありがとうございます
ケルベロスはAA作るか悩んだんですがめんどいのでやめました
私もこれ見た瞬間ぶふぉってなりましたね、あまりの手抜きっぷりに
伝わればいいかなって感じなものでしたのでw

>>371
顔はキモいイメージですよ
中身が成長していく感じなんですが、なんかイケメンすぎですね

>>372
はい、更新頻度だけは優秀だと自負してます
文量が最近少ないかなと思ってますが

374:2014/06/30(月) 15:52:51 ID:MYtN.GAA0
すいません1です
まだ執筆が終わっていません
もう少しで終わるのですが、投下は延期させていただきます
多分今週中には投下しますのでしばしお待ちください
とは言っても、読んでいる方は片手で数えられるほどでしょうが
では

375名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 18:43:23 ID:bfqCKllU0
作者の都合が一番
待ってますよ

376名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 18:54:39 ID:OOCEsemIC
今日期待してたけど仕方ないな、まあ投下できる日まで待ってるよ

377名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 19:58:38 ID:eVDUd.0YO
報告なく消えるよりずっといいんだぜ

378名も無きAAのようです:2014/07/01(火) 01:29:26 ID:OvHmMtf60
まじきたいしつる

379:2014/07/01(火) 02:04:42 ID:omB3Xylg0
なんだか最近筆がのらないことが多いもので本当にすいません
一応毎日筆を取っているのですが、スランプかもしれません
書いては消して書いては消してを繰り返し、とうとう一話分まるまるかきなおしているところです
遅くとも木曜日までには投下いたしますのでもうしばしお持ちください

380名も無きAAのようです:2014/07/01(火) 07:17:29 ID:9LaFxnNc0
焦らずマイペースでやってください
もう暖かいので全裸待機も余裕!

381:2014/07/02(水) 19:36:15 ID:2LKcBS9g0
どうも1です
ようやく投下できる出来の文章が出来ましたのでそのご報告です
ただいまよりその手直しをいたしますので、明日の夕方から夜には投下できそうです
待っていてくださる方には大変ご迷惑をおかけしました
ではまた明日投下する際にお会いしましょう

382名も無きAAのようです:2014/07/02(水) 21:26:46 ID:HRidzFlE0
>>381
お待ちしてますーw

383名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 00:11:38 ID:muVde1rI0
待ってますよ

384:2014/07/03(木) 14:22:17 ID:nhiZL3QQ0
本日18時から投下します

385:2014/07/03(木) 17:59:33 ID:2V.Din8.0




第九話「水面下の戦い」




.

386:2014/07/03(木) 18:00:24 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

元々しぃという子供は主体性がなかったと記憶している。

何をするにも両親がいなければ泣いていたし、友達と遊ぶのも周りの意見に合わせ、けして自分の心の内を他人に明かすことはなかった。

恥ずかしかったのとは少し違うし、自分が何かを言えば周りは少なからずそれを尊重してくれたんだろうとは思う。

けれどしぃがそれをしなかったのは何か考えがあったわけではない。ただ何を言えばいいか、自分が何を考えているのかという根本的な部分を理解していなかったに過ぎなかった。

例えば亡くなった母が好きなものを作ってくれると言ったときも、しぃは何が好きなのかを答えることが出来なかった。だって母が作ってくれるものはどれも美味しくて嫌いなものなんて一つもなかったから。

例えば友達と遊ぶときも、何をしようかと迷った時しぃは何をしても構わないと思っていた。かくれんぼでも鬼ごっこでも、要はみんなで遊べるのであれば何であろうと構わなかったから。

数え上げればきりがないこんな昔話は自分の中ではごくありふれたもので、今日に至るまでしぃはそれでいいと信じてやまなかった。

両親が魔物に殺され、教会に預けられたのは自分の人生の大きな分岐点ではあった。

そこで彼女はがらりと変わってしまった生活に、両親が目の前で残虐に殺されるという場面に恐れを抱いたのはまぎれもない事実であるが、心を閉ざした理由はそれではなかったのである。

しぃの過去の中では自分が困っていた時に必ず、両親であったり友達であったり、果ては見ず知らずの他人であったりが手を差し伸べてくれたのだ。だから、両親が亡くなる間際もそれを信じてやまなかった。もしかしたらしぃが自らの意思で誰かに助けを求めることをすれば助かったかもしれない。

387:2014/07/03(木) 18:01:15 ID:2V.Din8.0

その後悔が彼女の中で大きくのしかかり、ついには彼女の感情を凍てつかせたのだ。

だからといってそれを省みて行動に移せるほど彼女の心は成長しきっていなかったし、ましてや自分の立場や境遇はすぐにでもどうにかなるものでもなかったから、結局のところ彼女は自分の殻に閉じ籠るしか方法はなかった。

一人になれば生きるために行動できるかもしれない。

孤独であれば立ち上がることができるかもしれない。

そんな浅薄な考えで、子供ならではの想像が、その時は通用するのだと本気で信じていた。

しかし、その考えはすぐに消し去らざるを得なくなる。

両親を失った彼女を憐れんだのか、それとも単に仕事を全うしようとしたのか、預けられた教会の神父はしぃを気にかけてくれた。

何度もくだらない話をしてくれた。ためになる話もしてくれた。しぃが口を開かなくても彼は毎日のように、暇を見つけてはしぃとコミュニケーションをとってくれたのだ。

388:2014/07/03(木) 18:01:56 ID:2V.Din8.0

何度も煩わしいと思ったが、次第に彼女の心は昔のような子供としては正しいであろう本来の形へと戻っていく。

友達ができた。好きな人だってできた。笑うことが増えたし、時に泣くこともあった。

そこに足りないものは、亡くなった両親だけだったが、神父はそんなことを忘れさせてくれるくらいに子供たちを愛してくれたし、しぃも彼を本当の親のように愛してしまったのだ。

故に彼女は大きくなるにつれ、あの日の後悔を忘れていく。自分に足りないものが何かに気づくこともなく、幸せな日々が、昨日と同じ今日、今日と同じ明日がずっと続いていくのだと信じてしまったから。

そんな保証はどこにもないのに。

389:2014/07/03(木) 18:02:40 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

(うA-)「ん……」

ドクオが目を覚ますとベッドの上だった。体中に包帯が巻かれており、自分が何故こんな状態になったのかを思い返してみる。

('A`)(そういや昨日、魔物に襲われたんだっけ)

そして攻撃を受けきれず、怪我を負ったものの倒すことには成功した。あのあとすぐに意識をなくしたはずだから、しぃがここまで運んでくれたのだろうか。

そこまで考え、ふと足の辺りに何かが乗っているような感覚があることに気付いた。

(*-_-)zzz

そこにはしぃが寝ていた。手にステッキを持っているところを見るに、一晩中回復魔法をかけてくれたのだろう。完治こそしていないが、傷は大分塞がっている。

しぃの頭を軽く撫でてやると、心地よさそうな声が聞こえた。布団に丸まって寝ている子猫とはこのような感じなのかもしれない。

390:2014/07/03(木) 18:03:24 ID:2V.Din8.0

しばらくしぃを撫でていると、扉を開く音が聞こえた。顔を出したのはショボンだった。手には治療に使う道具なのか箱を抱えている。

(´・ω・`)「目が覚めたようだな」

('A`)「おかげさまで」

(´・ω・`)「あとでしぃにお礼を言うといい。一晩中治癒魔法をかけていた」

('A`)「はい」

ショボンはベッドの端にある簡易椅子に腰かけると、ドクオの包帯をてきぱきと変えていく。騎士ともなればこういったことも日常茶飯事なのだろうか。

(´・ω・`)「話はしぃから聞かせてもらったよ。災難だったな」

手を動かしながらショボンが話を続ける。

(´・ω・`)「一応周辺を調べてみたが痕跡すらなかった。どうにも厄介な敵だ」

('A`)「悪魔と何か関係があるんでしょうか」

(´・ω・`)「無関係ではないだろう。我々がこの街に滞在していたからこそ襲ってきたわけだしな。ましてや魔法を使っている」

391:2014/07/03(木) 18:04:17 ID:2V.Din8.0

魔法を使ったということは明確な敵意を持っていたということ。そしてドクオが狙われた以上、目的は明らかだろう。

(´・ω・`)「早めにモ・トコに向かった方がいいかもしれん。街に被害が飛び火する可能性もある」

('A`)「悪魔の情報もめぼしいものはありませんでしたしね」

(´・ω・`)「……問題はそこだ」

ショボンの動きが止まる。気付けばドクオの瞳をじっと見つめていた。

(´・ω・`)「目的地まで目と鼻の先まで迫っているにも関わらず、何故こうも情報が得られない。あるのは目撃情報のみで、相手の特徴すら浮かんでこないのは異常だろう」

('A`)「人がいなかったところもありますしね」

徹底して情報を隠蔽されている状況はこちらとしてはかなり不気味だ。何の意図があるかも分からない以上、下手に他の街に居続けるのはやはり得策とはいえない。

ドクオとしても出来れば他の人間に被害が出るような行動は避けたいし、誰かが傷つく場面を見たくはない。そう考えれば、やはりショボンの意見は妥当と言える。

(´・ω・`)「君の容態も思っていたほど深刻ではなさそうだし、昼にはこの街を出よう。街の住民に被害が及ばぬ前に」

('A`)「分かりました」

(´・ω・`)「世話をかける」

('A`)「気にしないでください」

392:2014/07/03(木) 18:05:02 ID:2V.Din8.0

包帯を変え終わったショボンは立ち上がり、申し訳なさそうな顔でそう言うと踵を返す。街を出る準備をするのだろう。

しぃは相変わらず気持ち良さそうに寝息を立てている。ドクオは起こさないように気を付けながらベッドから出ると、布団をかけてやった。

('A`)(しかし、昨夜のあれは何が目的だったんだ? 黒の魔術団にしては回りくどいやり方をしてる気がする)

貞子は王都の結界を利用し、騎士団を撹乱する大胆な計画でドクオや渡辺を追い詰めた。本人の戦闘能力もさることながらそういった作戦を考案、実行に至ったのは始めから明確な目的があったからだ。渡辺が何故狙われたのかは本人がいない以上定かではないが、彼女なりに強い意思があったのは想像に固くない。

それに対し、今回の騒動は目的が不明瞭である。村の人間を消したことは目的を隠蔽するためなのかもしれないが、大本にある悪魔という存在にどう関係しているのかが全く掴めていない。

加えて破壊と絶望を司るほどの存在を魔法使いが呼び出したとしてどう使役できるというのか。伝説や伝承の中にしか確認されていないものが本当にいるのかすら信憑性に欠けるが、それでも目撃情報がある以上それに酷似した何かがいるのは確実ではある。

黒の魔術団の目的がドクオの持つ魔剣である以上、悪魔がどれだけ有益に働くのかすら分からないのだからこの時点で敵の狙いがどこにあるのか見当がつかない。

ここまで考えれば今回の件に黒の魔術団が絡んでいるとはどうも言いづらい状況だ。昨晩の出来事は悪魔騒動と別のものではないか、とドクオには思えてならない。

もちろん完璧に無関係だとは言いづらいが、それでもその背景が見えてこないのだから判断は難しいところである。

('A`)(考えが纏まらん。煙草でも吸って落ち着くか)

393:2014/07/03(木) 18:06:21 ID:2V.Din8.0

頭をがしがしと掻いて、ドクオはドアノブに手をかけた。すると、しぃがゆっくりと顔をあげて辺りを見回していた。どうやらお目覚めらしい。

(*うー゚)「ん……具合はどうですか?」

目元を擦りながらしぃが尋ねてくる。顔色がよくないのは寝起きだからだろうか。

('A`)「ん、ああ。特に問題はないよ。夜通し治癒魔法をかけてくれたんだって? ありがとうな」

お礼を言うと、しぃは少々恥ずかしそうにそわそわと体を揺らして、

(*゚ー゚)「お荷物を抱えての名誉の負傷ですから、それくらいは当然です」

とだけ答えた。照れているのか頬が紅く染まっている。

('A`)「そういやさ、ずっと疑問だったんだが魔法使いってのは杖とか棒みたいなのがないと戦えないのか?」

ふと気になっていたことを聞いてみる。渡辺やしぃが魔法を使っているのはいつも箒やステッキを持っていた。モララーにしても多節棍を持っている時にしか魔法を使用していなかった。

(*゚ー゚)「いえ、そんなことはありません。ただ、媒体があるほうが素早く魔法を出せるんです」

('A`)「どういうことだ?」

(*゚ー゚)「簡単に言えば、ステッキや箒などに魔法陣を登録し、それを呼び出すことで詠唱を短縮しているんです。本来魔法を使う際は、魔力に適切な命令を下す術式、つまり魔法陣が必要です。ですが戦闘中や怪我人にいちいち魔法陣を描いていたのでは間に合いません」

(*゚ー゚)「魔法陣とはすなわち魔力への命令ですから言葉としても口に出すことができます。ですが当然それを口にして形にするのも時間がかかります。ですから私達は物に魔法陣をある程度登録して詠唱を短くしているということです」

394:2014/07/03(木) 18:07:23 ID:2V.Din8.0

('A`)「へぇ、よく考えられてるな」

(*゚ー゚)「もちろんそれ以外にも魔法を使う方法はありますが、基本的なことはこんな感じです。魔法というのは様々な応用がききますから」

きっと本来であれば専門的な話になるのだろうが、しぃはドクオにも分かるように言葉を選んでくれたのだろう。まだまだ子供だというのに頭の回転が速いとつくづく思う。勉強が得意ではないドクオにとって大変羨ましい限りだ。

とは言っても理解したところでドクオには魔法を使えそうにもないが。

('A`)「さてと、俺は少し散歩にでも行くが、しぃはどうするんだ?」

(*゚ー゚)「怪我人に一人歩きをされて倒れられても困りますし、私も付き合いますよ。昨晩のようなことがありましたし」

('A`)「それもそうか。なら俺は外で煙草でも吸って待ってるよ」

ドクオはそれだけ行って部屋を出る。小さな宿なので玄関はすぐそこだ。

ドクオが玄関を開けると、朝特有の清々しい空気がドクオを出迎えてくれた。

('A`)(いい朝だ。本調子なら陽気に口笛でも吹いて走り回りたいところだな)

煙草を取りだし、火を点けようとしたところで向かいの通りからモララーとショボンが歩いてくるのが見えた。

近くまで来ると相手もドクオに気づいたらしく、小走りでやってくる。

395:2014/07/03(木) 18:08:08 ID:2V.Din8.0

( ・∀・)「よう、包帯男」

('A`)y━・~~「名誉の負傷だろ。馬鹿にすんな」

( ・∀・)「油断するからそうなるんだよ。俺なら指先一つでダウンだっての」

('A`)y━・~~「よく言うぜ。最近の模擬戦じゃ俺に何回負けてんだよ」

( ・∀・)「たまには華を持たせてモチベーション保たせてやってんだ。言わせんな恥ずかしい」

すっかり気心の知れたモララーと軽口を叩きあっていると、ショボンが割って入ってきた。

(´・ω・`)「確か、一度本気でやって負けたとか愚痴をこぼしていたが、そういうことだったのか。いやはやモララーさんのサービス精神には頭が上がらないね」

( ;・∀・)「副団長! それは言わない約束では!?」

('A`)y━・~~「モララーさんの優しさは五臓六腑に染み渡るわー」

( ・∀・)「……この野郎、あとで覚えてろよ」

そこまで話したところでドクオの後ろからしぃがひょこりと顔を出した。

(*゚ー゚)「おや、モララー隊長に副団長、おはようございます」

396:2014/07/03(木) 18:08:59 ID:2V.Din8.0

( ・∀・)「おお。救世主登場だ」

(´・ω・`)「うむ。おはよう」

(*゚ー゚)「救世主?」

何のことだか分からないといった風に小首を傾げるしぃだったが、ドクオはあえてそこには突っ込まなかった。多分突っ込んだら負けだろう。

('A`)y━・~~「それじゃあ俺達は軽く散歩でもしてきます」

(´・ω・`)「なるべく早く戻るようにな」

('A`)y━・~~「ええ」

(*゚ー゚)「はい」

煙草を消して携帯灰皿に入れるとドクオは歩き出す。モララーの横を通り過ぎた際、後ろには気を付けろよ、と囁かれたが自業自得だ。

それから二人はのんびりと朝の散歩を楽しみ、次の街へと向かうこととなった。

397:2014/07/03(木) 18:09:43 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

ξ#゚⊿゚)ξ「だぁかぁらぁ、ちょっと近くまで行くだけだって言ってるじゃない!! はぁ? んなこと知らないわよ、こっちは客よきゃぁぁくぅぅ」

ξ#゚⊿゚)ξ「金だってきっちり払うって言ってるじゃない!! 通常料金に上乗せ、はいこれで問題なし!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「私達は魔法使い、騎士の卵よ? んなもん三角帽子で分かるでしょうが!!」

飛行馬車を借りに交渉すると言っていたツンは先程からあんな調子だった。怒鳴り、喚きまた怒鳴る。どうにも業者側が飛行馬車の運行を渋っているらしく、いくら言っても聞いてくれないようで、ツンはそれに腹を立てているようだ。

受付からは大分距離が空いているはずなのにここまではっきりも聞こえているということは、それだけ周りの注目を集めているのだが当のツンはお構い無しである。

从'ー'从(やっぱり難しいかなぁ)

現在モ・トコ周辺は厳戒体制を敷いているようで一般人の立ち入りを制限している、と渡辺は聞いた。原因はやはり悪魔騒動で近くの村では住民丸ごと行方不明になっているそうだ。

そのため業者もみすみす危険をおかしてまで北へ飛行馬車を動かすのはごめんだということで頓着状態になっているのだった。

398:2014/07/03(木) 18:10:28 ID:2V.Din8.0

ξ#゚⊿゚)ξ「だぁぁぁぁぁ、もう埒が明かないわ!! どうしても出さないならここら一帯まとめて吹き飛ばすわよ!?」

从;'ー'从「ツンちゃんそれは脅迫……」

あまりにも物騒なことを言い出すツンに、傍観を決め込んでいた渡辺もさすがに宥めることにする。下手をすれば役人に連行されかねない。

ξ#゚⊿゚)ξ「だっていつまでたっても首を縦に振らないんだもの。私は気が長い方じゃないの」

从'ー'从「でもでもぉ、受付の人も困ってるよぉ」

引きつった笑みを浮かべてこくこくと頷く受付の女性に、渡辺はごめんなさいと謝って妥協案を持ちかけた。

从'ー'从「あの、せめて近くまでは行けませんか? 私達モ・トコにどうしても行かなければならないんです」

受付の女は確認するとだけ言って奥に引っ込む。上の者に確認しに行ったのだろう。時折あーだこーだと話し声が聞こえた。

ξ゚⊿゚)ξ「近くまでって、あんたそれでいいの?」

从'ー'从「うん。あとは飛んで行けばいいかなって」

実際時間はかかるが行けない距離ではないのだから、無理を言って飛行馬車を飛ばしてもらう必要はないのだ。それにお金だって持ち合わせがないわけではないが、節約するに越したことはない。

問題は荷物だが、それも休み休み行けばさしたる問題にはならないだろう。

399:2014/07/03(木) 18:11:28 ID:2V.Din8.0

それらをツンに説明すると、あっちは仕事なんだからと言っていたが彼女もそれなりに納得はしたらしくこれ以上の文句は言ってこなかった。

しばらくすると受付の女が戻ってきて、二つほど手前の街までなら馬車を飛ばしてくれるという旨を伝えてきた。かなり離れたところだが二、三時間もあれば到着するはずだ。

从'ー'从「無理を言ってすいません」

運転手に礼を言うと、逆に謝られてしまった。本当ならば彼らも目的地まで送り届けたいのだが命には代えられないのだと苦虫を噛み潰したような顔で返される。

それは仕方のないことだ。彼らはあくまで運転技術があるだけの一般人、万が一魔物や悪魔に襲われでもしたら抵抗する術がない。本来であればこんな騒動の中で馬車を飛ばすのだって相当な無理をしているのだと渡辺は思う。せめて彼の身の安全だけは守らねばなるまい。

ξ゚⊿゚)ξ「これじゃああそこでごねてた私が悪者みたいじゃない」

从'ー'从「ツンちゃんすごい顔だったよぉ」

こんな感じ〜と手で目を吊り上げる渡辺の顔を見ると、ツンはそこまで変な顔してないわよ、と憤怒の表情を見せる。

从;'ー'从「今してるよぉ〜」

運転手がはははと笑い声をあげたのを聞いてさらに腹を立てたツンは渡辺のほっぺたを両手で挟みうりうりと八つ当たりをしてきた。

从')、('从「らんれわらひにゃろぉ〜」

ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!! あんたが余計なこと言うからでしょうが」

从')、('从「にゃ〜へ〜れ〜」

時間はゆっくりと過ぎていく。この先に何が待っているのか渡辺には予想もつかないが、せめてツンと運転手さんだけは守ろうと誓う渡辺だった。

400:2014/07/03(木) 18:12:23 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

ドクオ達がモ・トコに着いたのは夕方を回っていた。道中立ち寄った街の様子を伺ったのだが、二つ前と同じで藻抜けの空。人が生活していた痕跡があるだけの作り物のような街があるだけだった。

中を丁寧に調査するも結果は変わらず不自然なほどに何も見つからない。建物が破壊されたり物が盗られた形跡もなく、人がいないだけ。まるで絵画のように静かなワンシーンに、ドクオはうすら寒くなった。

('A`)(敵がいるのはわかっても正体不明、さらに目的も不明ときたもんだ。こりゃ今回の仕事は長引きそうだな)

依然進展しない問題はショボンやモララーにも焦りを生んでいるようで、モ・トコに着くなりドクオとしぃに荷下ろしを命じると、現地に派遣されている騎士団の詰め所に情報の交換に行ってしまった。

(*゚ー゚)「珍しいですね、副団長が冷静じゃないなんて」

('A`)「あの人はいつも落ち着いてるからな。悪魔なんて話を聞けばいてもたってもいられないんだろうけどさ」

四人分の荷物はさして多くはない。着替えといくつかのアメニティが入っているだけで、消耗品などは現地調達という手筈だ。とはいえ、モ・トコ周辺はすでに危険区域として制限を設けていると聞いているのでお店が通常営業をしているのかは甚だ疑問だったのでドクオは部屋にあるものをいくつか持ってきている。

('A`)「えっと、今日から宿泊するのは騎士団の駐屯所か。なんか肩身が狭いな」

(*゚ー゚)「遠征する際はこんなものですし、慣れるしかないでしょう」

('A`;)「俺は今後も駆り出されるの確定なのかよ」

(*゚ー゚)「……」

いや、そこは何か言ってほしい。というか、言ってもらわないと不安になる。

401名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 18:12:26 ID:zV6vKxlA0
わたなべの顔がww

402:2014/07/03(木) 18:13:24 ID:2V.Din8.0

('A`)「はぁ、まぁいいけどさ。とりあえず、荷物置いたらショボンさん達待ち?」

自分達が泊まる手筈になっている部屋に荷物を置くと、早速煙草に手をかけた。しぃが顔をしかめてこちらを見てきた。部屋では吸うなということか、自分の近くで吸うなということかは判断できなかったが、とりあえず煙草は戻しておく。

(*゚ー゚)「そうですね、私達は特にすることもありません」

駐屯所を出ると、目の前には高くそびえ立つ鉱山が広がっていた。よく見ると細い糸のようなものが鉱山と街を繋いでいる。あれはなんだろうか。

('A`)「なぁ、あれってなんだ?」

しぃはドクオが指を差した方をじっと見つめると、小さく声をあげた。

(*゚ー゚)「ああ、あれは鉱石や人を運ぶための荷車ですよ。魔力で動きます」

ロープウェイのようなものだろうか。異世界と言えど人が生活を便利にしようと考え付く先は似たようなものなのかとドクオは感心してしまう。

折角だからとドクオとしぃはモ・トコを少し歩くことにする。鉱山都市として名高い街は現在閑散としており、人々は家からあまり出ようとしていないようだ。店などはちらほらシャッターが閉まっているし、ドクオも事の重大さを再確認させられる。

もし、何事もない時に訪れれば筋骨粒々の男達が街を練り歩き、取れた鉱石や資源を巡って様々な人が行き交っていたのだろう。それを思うとドクオは早急に問題を解決しなければと奔走するショボンの気持ちが手に取るように分かった。

403:2014/07/03(木) 18:14:13 ID:2V.Din8.0

('A`)「鉱山都市っていうからてっきり高所に街があるのかと思ったんだけど、麓に作ってあるんだな」

(*゚ー゚)「一応中腹にも小さな街は在りますが、そこはあくまで中継点です。そこからいくつかの採掘場に分かれて仕事を分担しているようですね。中は鉱山やポイントによってもまちまちですが、どこも迷路のように広いので迂闊に近付かないようにこんな立地になったのでしょう」

('A`)「ふーん。確か、魔導鉱石だっけ? 錬金術に使うって聞いたけど、こんだけでかい街に発展するってことは日常的に使用されるくらい需要が高いのか?」

(*゚ー゚)「基本的にどんな場所でも使われていますよ。家の灯りだったり、調理器具だったり、用途は様々です」

('A`)「儲かるんだろうな」

(*゚ー゚)「意外に俗物なんですね」

('A`)「そういう生活してたから余計にな」

人の出歩いていない街をぶらぶらするのは正直なところあまり面白いとは言えなかった。偶然開いている店を覗いても売っているものはほとんどなく、この街に物資が流れてきていないのだろう。

メインで物資を届ける役目を担っている飛行馬車もまともに運行していない状況なのだから仕方がないとも言えるが、それにしたってこの広い街に自分達しか歩いていない状況はどうにも不気味だ。

('A`)「暇だなぁ。早くショボンさん達戻ってこないかな。活気のない街なんか面白くもないぞ」

宿舎まで戻ってきたドクオは煙草を取りだし火を点ける。人がいるのであればおすすめの観光スポットでも見てうまいものでも食べて暇を潰せたのだろうが。

(*゚ー゚)「こういう状況ですし仕方ありませんよ」

煙を吐き出しながら空を見上げる。元の世界と何も変わらない綺麗な夕焼け。一番星が輝き、月が顔を出し始めていた。

404:2014/07/03(木) 18:15:21 ID:2V.Din8.0

('A`)y━・~~「……聞きたいことがある」

静寂の中、ぽつりとドクオが呟いた。

(*゚ー゚)「はい?」

('A`)y━・~~「今回の件でいくつか疑問に思うことがあるんだ」

(*゚ー゚)「疑問、ですか」

('A`)y━・~~「ここに来るまでいくつかの街を見てきたが、人が消えていたとこもある。それはまぁ、悪魔がなんかやったってことで一応の説明はつく」

(*゚ー゚)「そうですね」

('A`)y━・~~「けど、その他の街、例えば人がいた場所では一切悪魔の話は聞かなかった。どころか目撃情報すらなかったよな」

ショボンの説明ではモ・トコを中心にしてその周辺で目撃されているとのことだが、ここまで悪魔による被害は住民の消失以外皆無なのである。

加えて人の消えた街ですら暴れた形跡がないということがドクオの疑問を冗長していた。

(*゚ー゚)「……つまり?」

('A`)y━・~~「何故悪魔の姿が見えない?」

王都から大々的に勅命を受けて騒動の原因を探っているはずなのに、肝心の目標がここまで話にすら上がってきていない。

悪魔なんてこの世界の誰もが怖れる存在だということは渡辺が証明している。ならば、もっと事態は深刻になっているのではないか。

('A`)y━・~~「昨晩のことを考えれば、悪魔ってのが第三者によって隠蔽されている可能性もある。その場合、悪魔を呼び出した理由があるはずだが、その背景すら見えてこないってのはどういうことだ?」

(*゚ー゚)「……確かに、言われてみればおかしいですね」

('A`)y━・~~「さて、それを念頭に置いてもう一度状況を整理してみようか」

ドクオ達は王都から悪魔の討伐を依頼され、ここまで来ている。悪魔はモ・トコを中心に目撃されており、いくつかの被害届も出ている。

405:2014/07/03(木) 18:16:22 ID:2V.Din8.0

そしてドクオ達は王都を出発、いくつかの街を経由してここまで来たのだが、悪魔の話も、どこで被害があったのか、そういった話を全く聞いていない。

(;*゚ー゚)「……おかしい。何故悪魔が暴れている状況だけがはっきりしていて、ここまで誰一人悪魔の話題を口にしないんですか?」

('A`)「可能性はいくつかある。一つ、悪魔は始めから存在しない。二つ、住民消失が起こった場所でだけ悪魔が現れた。三つ」

ドクオは一拍の間を置いて、それを口にした。

('A`)「この件に他の住民達が協力しているか」

しぃは何も答えない。ドクオが出した三つの考察があまりの衝撃だったのか、顔面蒼白で目を見開いている。

(;*゚ー゚)「そんな、馬鹿なことがあるわけ……」

ようやく絞り出した声もどこか力がない。信じたくはないのだろうが、認めざるを得ない、といった感じだろう。

('A`)「確実ではない。が、可能性がないとは言えないだろう。俺的にも信じたくはない。けど、状況を鑑みるとそう考えるのがしっくりくる」

真相はまだ分からないし、もしかしたら操られているという線もあるかもしれない。

('A`)(さすがに、騎士団が一枚噛んでるってのはないだろうけど)

と、その時だった。

街の入り口辺りから爆発と爆発音が響き渡る。同時に誰かの叫び声。どこかで聞いたことがあるようなないような。

(*゚ー゚)「ドクオさん」

('A`)「あいよ」

しぃが走りだし、そのあとを追う。そこには━━

406:2014/07/03(木) 18:19:00 ID:2V.Din8.0

从;'ー'从

ξ;゚⊿゚)ξ

大量の魔物相手に応戦している見知った顔が二つあった。纏っている服もぼろぼろで、相当な距離を魔物と戦いながらここまで来たのだろう。

('A`;)「渡辺と、ツン? なんでこんなとこにいるんだよ!?」

(*゚ー゚)「問答はあとです。助太刀しましょう」

二人はそれぞれ得物を握りしめると魔物の群れに突撃する。

渡辺とツンが一度こちらを見たが、声をかける余裕はないだろう。

ドクオは二人の前に躍り出ると、魔物達をまとめて薙ぎ払った。

それからしばらく四人は乱戦を繰り広げたが、全ての魔物を蹴散らすまでそう時間はかからなかった。

407:2014/07/03(木) 18:19:55 ID:2V.Din8.0




( ・∀・)「どうにも今回の件違和感があるな」

現地の騎士と情報の交換を行ったあと、確認することがあるというショボンと別れ、モララーは一人ドクオとしぃを探して街を歩いていた。

得られた情報はほとんどない。モ・トコを中心に目撃されているはずなのに、現地の騎士ですら悪魔と交戦もなく、見たことすらないのだという。しかも挙げられているはずの被害もほとんどないというのだから、王都から遠路はるばるやって来た自分達の立場がない。

これではなんのためにモ・トコまで来たのか分からなくなってしまった。

( ・∀・)「悪魔、悪魔ねぇ」

モララーは悪魔をこの目で確認したことがない。知っているのは十五年前の戦争で生き残った極僅かな人間だけだ。

どんな存在か分かっているからこそショボンとドクオが派遣されたのだろうが、それにしたってまるで先が見えないこの状況はどういうことなのだろう。

名前だけが一人歩きして実害がないなんて、これでは話が根本から覆されてしまうではないか。

( ・∀・)「どこの誰がやってるのかは知らないが、悪魔の名を語って好き勝手してる馬鹿がいるのは確定だろうな」

となれば、モララーは騎士として動かなければならない。悪魔だなんていたずらに恐怖心を煽っておいて人の生活を脅かす悪党だ、容赦なくこてんぱんにのしてやろう。

だがそれには敵の目的や正体を暴かねばならない。そのためにも最低ドクオの協力は得たいところだ。

( ・∀・)(どこほっつき歩いてんだか)

408:2014/07/03(木) 18:21:13 ID:2V.Din8.0

ふとモララーは立ち止まる。人のいない道の真ん中に異彩を放つ人間が立っていた。

【+  】ゞ゚)

棺桶のような物の隙間から覗く顔。そもそも何故棺桶が道の真ん中に立っているのかが疑問だが、怪しい人間であることに違いはない。

( ・∀・)「おい、こんなとこでなにやってんだ」

一瞬声をかけるべきか迷ったが、話は聞かなければならない。それが騎士というものだ。

男から返事はない。じろりと一瞥をくれただけで、すぐに明後日の方を向いてしまった。

( #・∀・)「おい、てめえ、質問に━━」

相手の反応に語気を強くしたモララーが近付いた時だった。

( ;・∀・)(体が……動かない……)

【+  】ゞ゚)「ずいぶんといい素体だ。ぜひとも使わせていただこう」

男が何事かを呟くと、棺桶から黒い人形のようなものが何体か歩いてきた。ような、というのはここまで近くにいながら靄がかったようにそれの正体を認識できないからだ。

( ;・∀・)(くそっ、動け動け動け!!)

何かの魔法なのか、モララーはスペルキャンセラーを発動させる。体は動かずとも口は動くようで、すぐさまモララーは後方に距離をとって体制を立て直す。

黒い人形の動きはそれほど早くない。棺桶男もその場から動こうとせず、こちらの動きを観察しているように見えた。

( ・∀・)「先手必勝ってな!」

素早く得物を組み立て、モララーは疾風の如く駆ける。左右から襲ってくる人形に、槍を大きく横に薙ぐとそれだけでごみくずのようにバラバラになった。

弱い。これならば問題なく男を捕縛できそうだ。

409:2014/07/03(木) 18:22:13 ID:2V.Din8.0

【+  】ゞ゚)「まだまだ人形はある。君はどこまで耐えられるかな」

モララーが槍を構え直すとそこかしこから魔法陣が現れ、先程と同じ黒い人形が周囲を埋め尽くす。それらは一斉にモララーの方へと頭を向けると、ぎこちない動きでこちらへ攻撃を繰り出してきた。

飛び道具は持たないらしく、全て近接攻撃だけ。ならばとモララーは中空に手をかざし、詠唱。巨大な魔法陣を作り出し、この周辺を吹き飛ばす光の魔法を繰り出した。

光はモララーの目の前一帯を飲み込み、地を剥がし建物を粉砕し、ありとあらゆる物質を破壊していく。人形達は声をあげることなく消滅していったが、棺桶の男には通用していないように見えた。

さらにもう一撃大きな魔法。今度は範囲魔法ではなく、目標を定めた強力な一点突破の魔法だ。棺桶男の周辺の光を圧縮圧縮圧縮。物体の許容量を越えて内包された光の魔力が内部から爆発を起こした。

砂煙が巻き起こり視界を奪う。しかし、モララーは動かない。

ここまでやったが、あの男は生きているという確信がモララーの中にはあった。この視界の中、何かをしているかもしれない。しかし、魔力の変動が感じられない以上、下手に動くよりは様子を見るべきだ。

念のため防御系の魔法を準備しつつ、モララーは周辺を警戒する。

煙が晴れると、男は同じ場所に立ったままだった。魔法陣を発動させた形跡もない。

( ・∀・)「こんな雑魚ばっかいくら呼び出しても意味ないぜ。やるならてめえでかかってきな」

あからさまな挑発だが、敵はそれでも動かない。何を考えているのか、表情はびくりともせず、こちらを見ているだけ。

もう一度周辺を確認し、モララーは自身の身体能力を強化する魔法を発動させ、棺桶男に向かう。

殺しはしない。しかし、痛い目にあってはもらおう。何かしらの情報を持っているかもしれない。

モララーが槍を中段に据え、溜めを作った瞬間だった。

410:2014/07/03(木) 18:22:57 ID:2V.Din8.0

( ;・∀・)「は?」

男の姿が消え、街中にいたはずなのに深い闇が一面に広がっていた。

( ;・∀・)「くそ、どうなって……」

言い終わる前に後方から何者かの気配。すぐに振り向こうとする。が、

( ;・∀・)「力……が……」

何故か力が抜けていく。モララーは為す術なく膝を折ってしまう。

敵の攻撃を避けることも出来ず、鋭く尖った何かがモララーの体を貫く。

そのまま、モララーの意識はぷつりと途切れた。

411:2014/07/03(木) 18:24:10 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

大量の魔物を殲滅した四人は、傷だらけの渡辺とツンの治療のために宿舎へと足を運んでいた。随分と長い間追われていたのか魔法使いのトレードマークとも言えるマントや三角帽子は汚れ、破け若干卑猥な具合になっていてドクオは目のやり場に困ってしまう。

('A`)「しかしツンさんの体はひんs」

ξ#゚⊿゚)ξつ三○A`)「メメタァ」

ξ#゚⊿゚)ξ「乙女の体を貶すなんていい度胸ね」

(*)A`)「サーセン」

(;*゚ー゚)「あの、そんなことよりもどうしてお二人がこんな場所まで? 一応モ・トコ周辺は立ち入り禁止のはずですが」

ξ#゚⊿゚)ξ「あ? 今そんなことって言ったか? 私の胸はそんなこと程度だよぷすすーって言ってんのか? あ?」

(;*゚ー゚)「わ、私よりは全然大きいじゃないですか!」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ チラッ

(*゚ー゚)←つるぺた

从'ー'从←美乳

ξ゚⊿゚)ξ←微乳

('A`)←まな板

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、私だってこの中なら上から数えた方が早いし、別に巨乳になる必要もないっていうか」

('A`)「お前のコンプレックスがなにかは分かったけどさ、いい加減落ち着こうぜ。まだ慌てる時間じゃない」

412:2014/07/03(木) 18:25:03 ID:2V.Din8.0

自分の発言が原因だったことを申し訳なく思いながらも、ドクオは脱線した話を元に戻すことにする。このままではツンの胸の話で一日が終わってしまいかねない。

('A`)「んで、二人はこんなとこまで何しに来たんだ? 悪魔の話は王都でも噂になってただろ?」

从'ー'从「えぇっと、実はねぇ」

ドクオが尋ねると渡辺は、課題で魔導鉱石の原石が必要になったこと、それを入手するためにここまで来たことを話してくれた。

从'ー'从「それでね、モ・トコまでは行けないから二つ前の街で降ろしてくれたんだよぉ」

ξ゚?゚)ξ「そうしたら街には人っ子一人いないし、いきなり魔物がわんさか現れるしで参っちゃったわ」

ドクオとしぃは思わず顔を見合わせた。

ツンは今、街に人がいなかったと言った。ツン達が降ろしてもらった街は間違いなくドクオ達が一泊したところだが、お昼の時点では人がいないなんてことはなかったはずだ。

('A`)「どういうことだ、これ」

(*゚ー゚)「……私達が出てから夕方までの短い時間で人が消えたということでしょうか?」

順序を考えればそうなのだろうが、街中の住民全てを消すなんて芸当がこの短い時間で可能なのだろうか。王都ほどではないが、モ・トコから王都までの中継地点であるあの街は宿舎町としてそれなりに栄えていた。人の数も少なくはない。

413:2014/07/03(木) 18:25:58 ID:2V.Din8.0

('A`)「それと、魔物が街に現れたって言ったが、結界はどうなってたんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「結界? んなもんなかったわ。あったのは魔法陣くらいよ」

从'ー'从「広場の中心に大きいのがあってぇ、そこから魔物が一杯出てきたよぉ」

ドクオは考える。他に立ち寄った街でも魔法陣が設置されていたような形跡があったはずだ。そこに街の住民の集団失踪。

未だ正体を現さない第三者に、昨晩の襲撃。

そして、悪魔。誰も姿を見ておらず話題にすらあがらない異常とさえ言えるこの状況。

何かが繋がりそうで繋がらないもどかしさがドクオをさらに焦らせていく。

(*゚ー゚)「ドクオさん。少し落ち着きましょう。ツンさんや渡辺さんも今日はお疲れでしょうし、副団長からの指示を待つのが得策かと」

('A`)「……そう、だな」

そういえば、ショボン達は何をしているのだろうか。ツンや渡辺が合流したことは先程報告したはずだが、それにしても顔すら見せないというのは少し変ではないか。

ましてや魔物が街のすぐそばまで来ていたのだから、何かしら伝令があってもおかしくはないのだが……。

414:2014/07/03(木) 18:26:43 ID:2V.Din8.0

('A`)「……ちょっとショボンさんのとこ行ってくる。しぃは二人の手当てを頼んだ」

(*゚ー゚)「分かりました」

部屋を出て会議室へと向かう途中、数人の騎士と自警団の連中とすれ違った。皆一様に緊迫した顔で何事かを話している。

何かあったのだろうかと、ドクオは声をかけてみた。

('A`)「なんかあったのか?」

「えっと、あなたは確か……」

('A`)「今回の騒動で同行している騎士のドクオだ」

「騎士の方でしたか。実は、その……」

口ごもり、目を逸らす男にただ事ではない雰囲気を感じた。

「モララー隊長と、ショボン副団長が行方不明なのです」

415:2014/07/03(木) 18:27:28 ID:2V.Din8.0
第九話 終

416:2014/07/03(木) 18:32:37 ID:2V.Din8.0
本日の投下はこんなところで終了です
本当はもう少し文量があったのですが、ここから先はちょっと切りどころが難しいので今回はこんな感じです
次回投下は来週中、とだけ言わせていただきます
最近スランプでろくに文章が思い付きません
元々大した実力ではないのですが手直しやら何やらと時間をかけないと皆様に見てもらうのも厳しい状況です
ですので、しばし時間を空けてしまうことご了承いただきたいと思います
では今回も読んでいただきありがとうございました

417名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 18:45:12 ID:N2qF1Yfg0
乙乙
続きが気になります

418名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 20:27:36 ID:ZkQdQ8hE0
今回もいいね!
毎回楽しませてもらってるよ!

419名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 20:39:07 ID:zV6vKxlA0
面白い、乙でした
次回も楽しみにしてます

420名も無きAAのようです:2014/07/05(土) 23:03:19 ID:tr0WtOFIO
面白かった、続き期待

421:2014/07/08(火) 23:51:38 ID:SiqoaP4I0
こんばんは1です
ようやくまともに文章が浮かぶようになってきました
このまま調子よくいけば金曜日の夜にはなんとか投下できそうです
毎度ながらたくさんの乙をありがとうございます
次の話からはがっつり戦闘シーンなので、気合い入れて書いていきたいと思います
それでは金曜日の夜にお会いしましょう

422名も無きAAのようです:2014/07/09(水) 00:34:12 ID:A2ryOUkg0
期待

423:2014/07/11(金) 22:30:35 ID:MuFWsT2w0




第十話「降臨」





424:2014/07/11(金) 22:32:11 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

とうとう彼女の人生の中で一際大きな、そして最悪の事態が発生してしまった。

教会の解体。それは即ちしぃ達孤児の行き場がなくなってしまうということだ。

元々この教会という組織が、世界中で信仰というものが廃れてからも誰かに救いの手を差しのべることをやめなかったのは、単に彼らの信じる神の教えであるからだった。しかし、現代社会において明確な形のない神という存在は目の前にあって人を救うことのできる魔法という力の前に薄れてしまった。

世界を作ったかもしれない、人々を救ったかもしれない、などというどこまでも想像の域を出ない神などというものより、はっきりと目に見える力━━魔法で人を救い続けた者たちの方へ信頼が集まったのは当然の流れだったのかもしれない。

そんな状況の中で、世界各地にある古い信仰は教会を無くしていくという形で確実に衰退していく。しぃたちの住む教会の取り壊しもその一部に過ぎなかった。

取り壊しが決まった際、しぃは神父に尋ねてみた。何故抵抗をせずに受け入れたのか、と。

その時神父が何を言ったのか、詳しいことは覚えていない。けれど、彼は静かな、とても穏やかな声で自分達の役目は終わったのだ。この一言がしぃの記憶の奥底にしっかりと焼き付いて離れなくなってしまった。

彼は自分達を取り巻く環境に対してどこまでも実直だったのだ。その責任の在処も、今何をすべきなのかも全部分かった上でこの言葉を選んだのだと、しぃは思う。

425:2014/07/11(金) 22:33:52 ID:MuFWsT2w0

彼が口にした言葉は簡単なことだ。子供でもすぐに分かるどこまでもシンプルな台詞。けれどその奥底にある意味まではその時の彼女には知る由もなかっただけの話。

だから、彼女はそれ以上言及することはできなかった。

そんな中でも、他の子供達は当然教会の取り壊しには反対だったし、何がなんでも自分達の家を守ろうと口々に言っていた。だが、しぃは神父の言葉を聞いたときに仕方がないんだ、と諦めていた。

本当は壊されたくない。自分の二つ目の家と、家族を。

あの日の後悔はいまだしぃの心を縛っている。それでも、この教会に来たことで自分の心は少しずつ温かさに満ち溢れていったのだ。

その温かさを教えてくれたのは、共に歩んでくれた沢山の兄弟と、血の繋がりはなくとも家族とは何かを教えてくれた神父に他ならない。

そして、神父が教会の取り壊しを認めてしまった時点で子供であるしぃたちには何もできないのだ。

自分達は無力で、世間を知らない。知っているのは世界がどれだけ残酷に出来ているか、それだけのこと。

それでも、そうだとしてもしぃはその時にもっと考えて、考えて考えて考えて行動しなくてはならなかったのだろう。結果を見れば、自分達の身柄は騎士団が預かってくれたことでなんとか生きていくことができた。最低限、いやそれ以上の生活を今日までしてこれたのだから。

無知だった子供達は世界について理解を深め、自分達に出来ることが何かを知った。自分達のような悲しみに彩られた人生を送らないように誰かを救う力を与えられた。

だが、しぃを含め教会で身を寄せあって生きてきた毎日の中にあったものはもうどこにも見当たらない。

子供達の頭を撫でてくれた荒れた肌の大きな手も、名前を呼んでくれた野太い声も、誰よりも優しかったあの人はもう戻らない。

あの時には分からなかった何もかもが、成長し騎士となった彼女の深い部分で次第に重みを増していく。

出来たはずのこと、しなくてはならなかったこと、その分別がつくようになった今になってようやく、彼女は気付いてしまった。

これは自分が背負うべき業なのだと。きっかけはとても些細で、特別なことなどないありふれた過去の一つにすぎない。

426:2014/07/11(金) 22:34:45 ID:MuFWsT2w0

だから、贖罪しなければならない。

一つは両親に、一つは神父に。

最後に、自分自身に。

偽り続けた感情や価値観が招いた罪を贖うために、しぃは答えを見つけなければならない。

427:2014/07/11(金) 22:36:49 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

もはや後戻りが出来ないところまで事態は進んでしまった。それに気付いたとき、ショボンはこの件を自分の手で決着を着けなければならないと判断した。

(´・ω・`)(初めからおかしいとは思っていた。何故ドクオだった? 何故悪魔が目撃された?)

魔力の痕跡を辿りながらショボンは思う。

ここまでの情報を整理しながら一つ一つ自分の知識と照らし合わせれば、もっと早くに気づかなければならなかった。

最初にこの任務が命ぜられた時、ドクオを向かわせると言われた時、昨晩のドクオ襲撃の時、ヒントはいくらでもあったはずなのにショボンはロマネスクを無意識に信じてしまったのかもしれない。

腐っても人の上に立つものだと。

蓋を開けてみれば何もかもがあの暴虐の王の思惑通りに事が進みすぎていた。下手をすればもう間に合わないかもしれない。

(´・ω・`)(人のいない集落、目撃されない悪魔、そしてモ・トコという場所)

人が消えた街や集落は全てモ・トコを中心として渦を描くように展開されている。どの場所も同じように、日常の合間に突然いなくなったようだとモ・トコの騎士は言っていた。

誰が何のためにそんなことをしたかは騎士達も頭を悩ませていたようで、犯人に心当たりもなかった。そんな中で真しやかに伝説の存在が現れたのだと噂され始めた。

確かに落とし所としては仕方がない面もあるだろう。大勢の人間を破壊の爪痕を一切残さず、短時間で消失させる存在など騎士、いや人間など世界中を探したってどこにも見当たらない。

428:2014/07/11(金) 22:38:39 ID:MuFWsT2w0

ならばそんなことができるものはなんだ? 人間以外のものならば、一体なんだというのか。

その答えとして挙げられたのが悪魔だった。

王都からの長い道のりの途中で、一貫して悪魔を見たという情報がなかったのはこれが原因なのだ。そもそもの話存在していない、現れていないのだから目撃も何もないのだから流れてこないのは当たり前だった。

それに、ショボンは知っている。本当に悪魔が降臨したのなら被害はもっと凄惨極まりないことを。あれは人という憐れで無力な存在が立ち向かうことすら許されない、文字通り悪魔なのだ。

そして悪魔の本質とは破壊と絶望にある。地上の生きとし生けるもの全てを滅し、さらには欺き、人が神に謀反を起こした元凶。

そんな存在がこの程度の破壊で満足するはずがない。目撃されてからすでに二週、それだけの時間があればニューソク大陸などとっくに火の海と化してなければおかしいのだ。

それほどまでに絶望的なまでに、人間と悪魔の力には絶対的な差がある。ショボンは今もやつらと対峙したときのことを思い出すだけで震えが止まらない。刃向かった時点で死ぬ、敵わないと本能が警鐘を鳴らしたのは生まれて初めてのことだった。

(´・ω・`)(では、この悪魔騒動の首謀者は何なのか。それは昨夜の奇襲が答えだろうな)

429:2014/07/11(金) 22:40:33 ID:MuFWsT2w0

ドクオを狙っていたように見えた、とはしぃの証言だが、そこに間違いはないのだろう。何せ貞子による王都襲から一月しか経っていない。その際彼女はドクオになんと言っていたか。

ショボンは直接聞いたわけではないし、その場にいた者達からの話なので本当のところは分からないが、それでも間違いないという自信がある。

魔剣アポカリプス。伝承において人や魔物、悪魔のみならず神をも殺した最強にして最凶の剣。持つものの命を削り取り、代わりに強大な力を与えるというそれ。

黒の魔術団は魔剣を狙って一連の騒動を引き起こしている。ならば今回もその一部と考えるのが妥当だろう。

(´・ω・`)(敵の狙いがドクオだということは、僕達は間違いなく誘い込まれたということ)

ドクオはいつも騎士団と行動を共にし、あえて騎士だと名乗らせてはいるものの実際の身分は一般人に過ぎない。本来ならば王都からの要請も受ける必要はないし、またそれを聞く義務もない。いつだって彼の善意につけこんで事件に関わらせているだけなのだ。

つまり、初めからドクオはここに来る理由もなければ必要もないということ。これが意味することは━━

(´・ω・`)(疑いようがない。ロマネスクは黒だ。奴は王という地位にありながら黒の魔術団と関わりがある)

430:2014/07/11(金) 22:41:29 ID:MuFWsT2w0

ドクオを戦地に向かわせたのは誰だ?

悪魔という狂言を用いてここに来るよう仕向けたのは誰だった?

王都ヴィップを治めるロマネスク本人だ。

仮に、これが魔物や盗賊などが出没しているだけだったならばショボンはドクオを王都に残してそれなりの対応をしていたはずだ。ドクオの持つ魔剣を使わなくとも騎士団の部隊を編成して原因を探らせればいいだけの話なのだから。

しかし、ここに悪魔という存在を匂わせればショボンがどう動くかなどあの男なら肝胆に予想がついただろう。

彼もまた悪魔がどういうものなのかよく知っている。実際に戦場で相見えたのだから、その恐ろしさも身に染みているのだ。

悪魔がもたらした悲劇は大切なものを奪うだけに飽きたらず、一人の男をも狂わせてしまったのだろう。

同情はする。守れなかったことを申し訳なく思う。自分にもっと力があればたくさんのものを背負うことも出来た。

だが、だからといって他人の運命をいたずらに弄ぼうなど愚かの極み。騎士団の理念を大きく逸脱している。

(´・ω・`)(そんなことさせるものか。僕は副団長だ。騎士団の在り方は、いや、僕の中の騎士は悪を挫き弱きを守ること。奴のやり方を認めるわけにはいかない)

431:2014/07/11(金) 22:42:16 ID:MuFWsT2w0

ショボンは剣を握る。

胸の内に秘めたるは騎士としての志。

この手にあるは人を守るための力。

これ以上ドクオを戦わせてはならない。ましてやドクオは異世界の住人なのだから。

自分達のケツは自分達の手で拭く。

それがショボンの信ずる騎士なのだ。

魔力を追っていたショボンはようやく足を止めた。辺りはすでに暗くなっており、日はとっくに沈んでいた。屯所にいるはずのモララー達に何も言わずに来てしまったので、もしかしたら心配しているかもしれない。

(´・ω・`)(早めに終わらせて戻ろう。王都に帰ったらロマネスクに話を聞かなければならないしな)

魔力はどうやら街の外れにあるロープウェイを渡ったようで、ここからは辿ることができなさそうだ。

(´・ω・`)(ならば、探索魔法を使うまで)

ショボンが簡単に詠唱をすると小さな魔法陣が目の前に浮かぶ。いくつかの細い光が街の中を縦横無尽に走っており、その中の数本は街を離れてロープウェイの先へと向かっている。

やはり敵はこの先にいる。モ・トコ周辺の街や集落で見た魔法陣の痕跡は、おそらく何かしら大掛かりな術式の下準備だったのだろう。意識しなければ分からないほど小さな魔力とはっきりと視認できる大きな魔力が混在しているのは、各々の街に張った魔法陣が影響しているのだ。

432:2014/07/11(金) 22:43:10 ID:MuFWsT2w0

向かった先は分かった。しかし、街の住人がほとんど避難している今、ロープウェイを動かすことはできない。歩いて行けないことはないだろうが、到着する頃にはへとへとになって戦闘どころではないだろう。

ショボンはしばし黙考し、ふぅと小さく息を吐いた。魔力は温存しておきたいが、一人でやると決めた以上やるしかない。

(´・ω・`)(空を飛ぶしかないな。どれだけの距離があるかは分からんが)

ショボンが魔力を操ると、体がふわりと宙に浮く。まるで呼吸をするかのように自然な流れで。

(´・ω・`)(どこのどいつかは分からんが、首を洗って待っていろ)

一瞬の静寂、ショボンは鉱山へと宙を切って駆ける。

433:2014/07/11(金) 22:44:29 ID:MuFWsT2w0




どうやらこちらの動向に気付いた騎士の一人が向かっているようだ。張り巡らせた魔法陣が彼にそれを知らせてくれる。

彼が得意とする魔法は基本的に戦闘には向かないが、高度な情報をやり取りする状況においては大いに役立つ。

その気になれば遠く離れた人間の囁きでさえ容易く聞き取れるし、一挙手一投足まで完全に把握することもできる。今回の件についても様々な魔法を用いて騎士を攪乱させてもらった。

ショボンがこちらに向かっているということは、こちらの目論見はほとんど看破されたと見ていいだろう。

黒の魔術団である以上、あの魔剣に興味を抱くのは至極当然だし、ましてやあれがどんな役目をもっているかなど考えなくとも分かることだ。

本来であればもっと早くに計画の全てを終えて魔剣の主とゲームを開始するつもりだったのだが、王都にいる協力者の準備が間に合わなかった。この遅延がなければ騎士ごときに嗅ぎ付けられることもなかったのだが、過ぎたことは仕方ない。

それに、いくら騎士団のナンバーツーと言えど冷静さを欠いて単身敵の元へと乗り込むなど愚の骨頂。もう少し頭がいいのかと思っていたがどうやら見込み違いだったようだ。

434:2014/07/11(金) 22:45:36 ID:MuFWsT2w0


( ゚"_ゞ゚)「とは言え、ここにある術式を解析されるのはまずいかな。彼にはさっさとご退場願うとしようか」

オサムは傍らの棺桶を開くために手を伸ばす。漆黒だったはずのそれは使い古され、所々傷や塗装が剥げており、大量の魔力と術式を無限に収納できるいわば魔法専用の収納ボックスである。

その中から数種類の魔法と魔力を選択すると、オサムの前に眩い輝きを放つ光の玉が四つほど並んだ。

( ゚"_ゞ゚)「さて、どうするかな。あまり弱いものを作っても彼ほどの実力者であれば簡単に壊されてしまうし、あまり強すぎても魔力の消費が激しい」

昨晩魔剣の主に襲わせたものは魔力で構成された擬似的な魔物である。生き物というものを突き詰めていけば最終的には魔力になるということを利用して、彼は独自の研究により魔力から生物を産み出すことに成功した。

術式を用いて命令を与えることができるし自我を持たないので、命令を遂行することにはうってつけなのだ。下手に人間や魔物を使って裏切られる心配もないし、他人の命を奪うことに躊躇いもない。彼にとって信じられるものは機械的に自分の目的のために動く駒だけである。

もちろんまだまだ問題点は山ほどあった。例えば命令を与えてそれを遂行したあとはオサムが術式を解除しなければいつまでも残り続けてしまう。しかも術式の解除にはオサムが近くにいなければならない上、さらに魔力を消費するので効率が悪いのだ。

おまけに魔力は周囲に浮かぶ自然界のものでは純度が低く、一度大量に集めて純度を高めなければならない。その作業も意外にめんどくさいので、できれば無駄に使いたくはないのである。

435:2014/07/11(金) 22:46:44 ID:MuFWsT2w0

だが今回は相手が相手、素人である魔剣の主程度ならばそこそこのもので問題はないが騎士団のナンバーツーともなればそう甘くはない。

ここはやはり一番効率がよく、かつ最大限に敵を殲滅できるものを作った方がよさそうだ。

( ゚"_ゞ゚)「ここはあれを使うべきだろう。出し惜しみをしてはいられん」

オサムは詠唱し、魔法陣を呼び出す。棺桶ではないまた別の収納空間に繋がっているそこからは周辺の村や街から捕まえてきた人々が意識無く眠っていた。

( ゚"_ゞ゚)「本来であればこんなことに使いたくはないが、あの男の狼狽える姿を見るのもまた一興。存分に楽しませてくれ」

(  ∀ )

虚ろな目をした男を喚び出して、魔力の光を注ぎ込む。胸の辺りからまるで溶け込むように体が光の玉を飲み込んでいき、少しずつ全体に広がっていくたびに何度も痙攣をするが、意識のない彼にとってどうということではない。すでに痛いと思う心などないのだから。

( ゚"_ゞ゚)「あとは、こいつとこいつもいい素材だ」

同じ作業を四度繰り返し、完全なるバーサーカーとなった人間が四人立ち並んだ。あとは命令の術式を組み込むだけで彼らの命が果てるまで戦い続けるだろう。

( ゚"_ゞ゚)「さぁ、魔剣の主よ。どこまで俺に近づけるかな?」

命令を与えた四人はふらふらと覚束ない足取りで鉱山の迷宮へと消えていった。

すでにゲームは始まっている。あとはいつそれに気付くかだ。

ぼーっとしていれば悪魔に身も心も喰われてしまうぞ。

436:2014/07/11(金) 22:47:43 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

('A`;)「ったく、何でお偉いさんが独断専行なんてしてんだよ!」

モ・トコに派遣されていた騎士から話を聞いたドクオは夜の街を駆けていた。

理由は簡単だ。ショボンとモララーがいなくなったから。

実にシンプルな理由だが、王都から遠征してきた騎士の数はたった三人、内二人が何百何千といる騎士を取りまとめる役柄で、しぃのような下っぱを一人残して動くなど本来あってはならない。

ましてや肩書きを偽らされているドクオだっている以上、動くならせめて指示を置いていってもいいものだが、そんなものはどこを探しても見当たらなかった。

つまり、今ドクオ達は戦況を冷静に分析するはずの上司がいない中で何かをしなければならないのだが、ドクオは結局彼らを探すことを先決した。

しぃには待機していた方がいいと言われたのだが、あの二人が自分達に何も言わずに出ていったということはかなり切羽詰まった状況なのだと考えている。ましてやモララーもショボンも騎士団の中では頭が切れる方だ。指揮系統が混乱しては下の者はまともに動けないことも分かっているだろう。

('A`)(つまり、ショボンさんやモララーがいなくなったのは自分達で全てを終わらせなきゃならない事情があったか、もしくは敵に捕まったかのどっちか)

実力者であるあの二人を相手に捕まえるなんて芸当ができるとは思えないが、これだけ周到に手を回すような相手だ、こちらの動きを制限する何かをしていてもおかしくはない。

437:2014/07/11(金) 22:48:29 ID:MuFWsT2w0

ドクオ以外の足音が聞こえない街は相変わらずどこもかしこも固く閉ざされており、灯りすら見当たらなかった。避難勧告が出されている以上これも仕方のないことではあるが、人気のない夜の街というのはかなり恐怖心を煽る。

('A`)(ま、好都合ではあるけどな)

不意に速度を落とし、ドクオは腰の剣を抜き放つ。

('A`)「はぁっ!」

掛け声と共に剣を逆袈裟に振り抜く。暗闇に紛れた鳥型の魔物が短い悲鳴をあげて消滅した。

続いて振り向き様に同じ魔物を横薙ぎに一閃。すぐに右へ飛び、頭上からの攻撃を避けて跳躍すると縦に両断して着地。

('A`)「どうやらとっくに戦場みたいだな」

さらに両側から魔物が襲う。ドクオが上半身を軽く後ろに反らすと魔物達は互いを攻撃して一瞬怯んだ。その隙に斬り伏せ、周辺を探る。

魔物はまだまだ湧いてくる。敵はこちらの動きを把握しているのか、それとも偶然なのか。

正面の魔物達をまとめて斬り倒しながらドクオは宿舎に残っているだろう三人を思い返した。

万が一のために待機しているよう頼んでは来たが、この様子ではあちらも魔物と戦っているのだろう。ツンや渡辺はここに直前にも一戦やらかしているのだから何とも運のない二人だ。

('A`)(しっかし、このタイミングで仕掛けてきたってのは妙だな。部隊を崩すには分断するのが一番だけど、宿舎には残留してる騎士もいるんだぞ?)

魔物を丁寧に倒しながらドクオは考える。

('A`)(ショボンさんやモララーがいない時を狙ったのか、それともあっちは元から戦力に数えられてないのか?)

総合的に見ればドクオが狙われているのは分かるのだが、何をしようとしているのかが今一掴めない。もう少し魔法や魔剣についての知識があればまともな考えが浮かぶのだろうが、生憎とドクオはそういったものと無縁なのだ。

438:2014/07/11(金) 22:50:01 ID:MuFWsT2w0

('A`)(どうする? ショボンさんは諦めて一回戻るか? 敵が仕掛けてきた以上、俺だけじゃ敵の居場所すら割り出せないし)

魔物の出現場所は完全にランダムで術者の特定は出来そうもないし、ましてや近くにいるとも限らない。これだけ大規模な召喚系の魔法を行使しているということは相当な手練れであることは間違いないだろう。

それに、モ・トコは現在ほとんどの住民が出払っており戦場としてはうってつけだ。鉱山として発展してきた街は王都ほどではないがそれなりに広い。隠れる場所など無数にあるし、それこそドクオごときでは予想もつかない場所に潜んでいる可能性もある。

('A`)(敵の魔法の有効範囲も分からないし、参ったな)

勢いだけで飛び出してきたのはやはり無謀と言う他ないだろう。こんなことならしぃを連れてくるんだった。

今さらごちたところで状況が変わるわけではない。大切なのはこれからどうするかだ。

('A`)(……一度戻ろう。しぃちゃんのがこういったことには詳しいだろうし、どのみちこの分じゃ町中魔物だらけだろう。早期解決には俺じゃ役不足だ)

方針が固まった以上、魔物と遊んでいる暇はない。ドクオは地を蹴り魔物の脇をすり抜け様に両断するとそのまま走り出した。

しかし、ドクオはすぐに横に跳んだ。どうやら敵もそう簡単におもいどおりにさせてはくれないらしい。

前方より鋭く尖った岩の槍が大量に流れてきた。回避があと数瞬遅れていたらドクオは串刺しになっていただろう。

('A`;)(な、なんだよおい)

439:2014/07/11(金) 22:51:08 ID:MuFWsT2w0


体勢を立て直しながら、槍が飛んできた方向を見る。そこには岩で作られた巨大な人形が仁王立ちしていた。

体躯はドクオの四倍ほど、無造作に組む合わさった岩は大小様々でなんとか人らしい形を成してはいるものの所々不自然な凹凸があるせいでおよそ芸術性の欠片もない。ただ命を奪うために作られた無作法な木偶人形のようだ。

こいつはどうやらドクオが宿舎に向かうのを邪魔したいらしい。道幅一杯の体は横を通る隙が一切見当たらない。

('A`;)(ゴーレム!?)

ドクオが一歩踏み出すと、ゴーレムもこちらを狙って自らの体に使われている岩を分離させて飛ばしてきた。

軽く避けてドクオはゴーレムの懐へ入ると左足の部分を斬りつける。魔剣によって岩が消失し、バランスを崩す。

と、ドクオは回避の体勢に入ろうとしてその目を疑った。

左足を失ったはずのゴーレムは、舗装された道のレンガをその足に吸収し始めたのだ。すぐに新しい足を取り戻すとゴーレムは腕を振り下ろす。

左へと回避、が、先ほど飛ばしたはすの岩が後方からドクオの体へと命中する。

( A )「ごっ」

軽く数メートルを転がり、立ち上がるがすぐに岩が飛来し、避けてはゴーレム本体から攻撃の繰り返しで、いつの間にかドクオは防戦一方になっていた。

('A`;)(動きは早くないのに、四方八方から攻撃されたらさすがに避けきれん)

しかもゴーレムのどこを破壊しても周囲に岩や土があれば瞬く間に腕や足を一回り大きく再生してしまうため、敵の攻撃範囲は徐々に広がっていってしまうのだった。

440:2014/07/11(金) 22:52:26 ID:MuFWsT2w0

('A`;)(こういう敵はどこかに核があるのがセオリーなんだが)

元々意思のないものに命を吹き込んでいるのだから、当然そのための術式は間違いなくあるはずだ。見つかりさえすれば多少強引にでも斬りつければそれでこの戦いは終わる。

だが相手も魔剣の特性くらいは掴んでいるだろう。一目で分かるような部分に核となる術式を作るはずがない。

ドクオは剣を鞘に納めると、飛んでくる弾丸や本体の攻撃を避けることに意識を傾けた。どうせ効かない攻撃などする意味がない。

('A`;)(どこだ、どこにある。無くちゃいけないはずなんだ)

弾丸の軌道とタイミングは読みやすい。何せ必ず死角から来るうえ、見えるところから弾丸、本体の攻撃、弾丸というパターンになっている。これならばドクオといえど避けるのはそう難しくはなかった。

そう、難しくはない。何せ先に向かった方角から戻ってくるだけなのだから、冷静になれば簡単に避けられる。

しかし、問題はドクオの体力と集中力だ。休む間もなく襲い来る攻撃は当たれば致命傷になるまでに肥大化している。がむしゃらに攻撃をしたことで周囲の土や岩を吸収してしまった。

そのせいで舗装されていたはずの道は抉れて穴だらけ、移動する距離も弾丸の大きさに伴い長くなっているし、威力も最初に受けた一撃の数倍になっている。

('A`;)「はっ……はっ……」

集中を切ってしまえば終わり、さらには体力が尽きて動けなくなっても終わり。その限られた時間の中で敵を倒さなければならないというプレッシャーがドクオを蝕んでいく。

('A`;)(早く、早く見つけないと……)

441:2014/07/11(金) 22:53:33 ID:MuFWsT2w0



从;'ー'从「あれれ〜、また増えてるよぉ〜」

ξ;゚⊿゚)ξ「口動かす前に手を動かしなさい! 死にたくないでしょ!?」

(;*゚ー゚)「とは言っても、これはさすがに……」

宿舎の前には鳥型の魔物が大量に押し寄せており、その圧倒的な数の前にしぃ達は苦戦を強いられていた。

どこから現れているのかも分からず、さらには見たことのない姿形をした魔物との終わりの見えない戦はしぃ達の心をじわじわと弱らせていく。

(;*゚ー゚)(戦闘を初めてすでに一時間は経過しています。なのに、減るどころか増える一方。魔物はどこから入り込んで……)

モ・トコには今ほとんど人がいない。が、この街に派遣されている騎士団の人間が何人かは滞在しているはずなので、魔物避けの結界は正常に作動しているはずなのだ。魔物が街に入り込むことなど微塵も有り得ない。

であれば理由は一つしか考えられないだろう。

敵はすでにこの街に入り込んでおり、かつこちらを狙っているということだ。

その意図までは分からないが、自分達がしなければならないことはこと単純。生き延びること。

(;*゚ー゚)「副団長やモララー隊長ドクオさんが戻ってくるまでは耐えましょう!」

从;'ー'从「了解だよぉ〜」

ξ;゚⊿゚)ξ「分かってるわよ! でもドクオ達が戻ってくる保証はあるの? 戻ってきたとして、この状況が収まるの?」

442:2014/07/11(金) 22:54:20 ID:MuFWsT2w0

(;*゚ー゚)「それは……」

思いがけないツンの言葉に、しぃは答えに詰まってしまった。

ドクオやショボンは敵の動向や現在ある情報から目的や対抗策を見出だそうとしていたから、しぃは彼らならなんとかしてくれるのではないかと思ったのだ。

だから、しぃはあの二人が戻ってくるまでと言ったのである。

从'ー'从「ツンちゃん!」

渡辺がツンを呼んだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ごめん。とにかく頑張りましょ」

ツンもはっとした様相でしぃをちらりと一瞥。

(* ー )「……すみません」

それきり、しぃもツンも渡辺も口を開くことはなかった。

ツンが言いたいことは分かっている。

今の今まで考えたことすらなかったが、しぃは今日に至るまで自発的に何かをしたことがなかった。それは子供の頃からそうだったし、騎士団に入団しても変わっていない。

しかも、ここにいるのは騎士ではない一学生が二人。本当ならしぃが魔物の大群を退ける策を考え二人に指示を出さなければならない立場なのである。

なのに、自分ができることは戦うだけ。あろうことか学生と同じ位置で。

(* ー )(でも、私の考えは正しいんでしょうか。もし、間違ってお二人に怪我をさせてしまったら、私は……)

443:2014/07/11(金) 22:55:05 ID:MuFWsT2w0

いつもであれば、しぃの考えを述べた時、傍にいて大局を見渡すことができる誰かに判断を仰ぐことができていた。過去のように、何もしないよりはせめて意見ぐらいは言ったほうがいいと知っているから。

だから騎士団に入ってしぃは大なり小なり過去の罪から目を逸らすことができていた。

自分は変わったんだ。

昔の幼かった自分ではないんだと。

けれど、人の本質とはそう簡単に変わるものではない。

今、この場所、この状況において彼女は自分にできることなんて初めからないと信じこんでいた。自分は騎士団の中ではしたっぱで、作戦立案や状況把握をする上の人間からの指示に従っていればそれでいいのだと考えていたから。

彼女はそうやって騎士団という組織の中で立場を築き上げてきた人間だ。今までも、そしてこれからも同じように考え同じように動くだろう。

(* ー )(私は……私は…)

ξ#゚⊿゚)ξ「しぃ!」

(;*゚ー゚)そ

444:2014/07/11(金) 22:55:56 ID:MuFWsT2w0

ツンの怒号で思考の海から戻ってくる。目の前には魔物が迫っていた。

(;*゚ー゚)(避けられない)

と、横から炎が躍り出る。魔物は炎に焼かれ、消し炭と化した。

从'ー'从「しぃちゃん、ボーッとしちゃ駄目だよぉ?」

ξ#゚⊿゚)ξ「戦闘中なの分かってんの? 迷惑かけんじゃないわよ!」

从'ー'从「ツンちゃんも落ち着いて。話は全部終わってから、ね?」

ξ゚⊿゚)ξ「……分かったわよ」

そのあと、何事もなかったのように三人は戦闘に戻ったが、終始しぃの心はざわついたままだった。

学生に助けられ、怒られ、迷惑をかけている。その事実がしぃの感情を掻き乱して、内に貯めたものを全て吐き出してしまいそうになった。

自分は、何故ここにいる?

何故戦っている?

何故、騎士になんかなったのだろう。

445:2014/07/11(金) 22:56:41 ID:MuFWsT2w0

◇◇◇◇

鉱山の中はまるで迷路のように入り組んでおり、採掘場と呼ばれる場所以外の道幅はけして広くはない。ともすれば広い部屋の中で報告書を読むショボンには少しばかり息苦しさを覚えさせる。

唯一の救いは道がきちんと舗装されていることだろう。採掘した鉱石を安全に運ぶため、路面に飛び出したり尖った石や岩は丁寧に取り除かれており、ちょっとしたお屋敷の廊下と遜色ないほどだ。

両側の壁に取り付けられた魔法石の明かりが頼りなく床を照らしている中をショボンは早足で進んでいる。

魔力の糸はこの奥に続いており、鉱山の深くに足を進めるにつれてはっきりと色濃くなっていた。

(´・ω・`)「……随分と広い採掘場だな。この鉱山のメインか?」

開けた空間を見回してショボンは感嘆の声をあげた。

四角い箱のような形をした部屋は採掘場としては異例とも呼べるほど広く、王都ヴィップの玉座の間の三倍以上ある。周囲を見渡せばキラキラと輝く何かが岩の壁に混じって剥き出しになっており、その数足るやとてもではないが数えきれる量ではなかった。

ショボンが一瞬自分が夜の星空の中に迷い混んでしまったかと錯覚してしまうほどに美しい。所々部屋を支えるための柱が立っているのが少し残念ではあるが。

(´・ω・`)「魔導鉱石の原石、か。採掘するのは難しいと聞いたことはあったが、なるほど」

446:2014/07/11(金) 22:57:27 ID:MuFWsT2w0

近くの壁を観察すると、この輝きを放つ剥き出しになった部分が一つ一つ独立したもののようだ。少しの刺激ですら暴発する原石がこんなにも大量に隣接しているのだから国が資格を交付するのは納得である。

(´・ω・`)「……魔力、ね」

魔導鉱石とは錬金術で使われる媒体の一つだ。当然ではあるが名のとおり魔力を多分に含んでいる。

(´・ω・`)「今は考えても仕方がない。先を━━」

急ごうとは言えず、代わりに彼は怪訝そうに眉を潜めてしまった。

何故彼がここにいるのだろうか。彼には何も言っていないし、この複雑に入り組んだ鉱山を先回りしてきたとでもいうのか。

(´・ω・`)「モララー」

(  ∀ )「」

そこには、虚ろな瞳をしたモララーがニヤニヤとだらしない笑みを浮かべて立っていた。

(´・ω・`)「何故ここにいる。答えろ。これは命令だ」

幻影ではない。魔力の動きを視認できる今、魔法による幻影ならばこれが人の形をなしているはずがないのだ。

つまり、目の前にいるのは紛れもない本人だということになる。

ショボンの問いにモララーは答えない。不気味に笑ったままだ。

(´・ω・`)「答える気がない、もしくは━━」

447:2014/07/11(金) 22:58:11 ID:MuFWsT2w0

操られている。そう考えるのが妥当か。

仮にも若くして騎士団の分隊長になった男が不覚を取るとも思えないが、それだけ敵の方が上手だったということだろう。

(´・ω・`)「通るぞ」

ショボンは警戒しながらモララーの脇を通りすぎていく。腰に差した剣はいつでも抜けるように柄に手をかけながら。

立ち尽くしたまま動かないモララーはこちらに視線を向けることなく、黙って違う方向を向いている。

結局、最後まで彼は何もしてこなかった。

採掘場を抜けて再び狭い通路に出ると、ショボンは足を止めて振り返る。

(´・ω・`)(一体何を目的にモララーを操り、配置したんだ?)

操られていたのか、はたまた自分の意思でここにいたのか見当がつかない。人の心を操作する魔法は高度なものだとマナに働きかけてしまうためショボンですら完璧に見抜くことはできない。

経験と勘から彼が操られているのは間違いないと思うのだが━━

その時だった。

448:2014/07/11(金) 22:58:57 ID:MuFWsT2w0

視界一杯に目映い閃光が迸る。次いで爆発。慌ててその場を後にするが、他の場所にある魔導原石もこの衝撃で連鎖的に爆発しているようだ。

(;´・ω・`)「まさか、このために!」

逃げ場所を失ったショボンは急いで防御魔法を構築する。だがあまりにも短い時間だったために不完全な形で出来上がった防御結界はすぐにでも消えてしまいそうなほど頼りないものだった。

(;´・ω・`)(人の部下を捨て駒のように使うか)

改めて敵の恐ろしさがひしひしと伝わってきた。こんなにも簡単に人の命を扱うなんて正気の沙汰ではない。

(;´・ω・`)「とにかく、ここを出ないとますいな」

この様子では一帯の鉱山も巻き添えに崩落してしまっただろう。もちろん敵が巻き込まれて死んだなんて馬鹿な真似をするとは思えないが。

ショボンはさらに詠唱。範囲は半径数十メートルといったところか。

自分を中心に魔法を発動させると、周辺の岩が一気に消滅していく。けして岩という存在を消しているわけではない。あくまで岩を構築する魔力を分解して形を保てなくしているだけだ。

だがこのまま消していくだけではさらなる岩が降り注ぐが、ショボンはさらに魔法を重ねる。

分解した魔力を壁や柱にして出来うる限り部屋として機能するように再構築していくと、とりあえずショボンが自由に動けるくらいのスペースが完成した。周囲に魔導原石が大量にあるからこそできる荒業である。

しかしこれも単なる時間稼ぎにすぎない。一刻も早く脱出しなければ酸欠や二次崩落に巻き込まれるだろう。

(´・ω・`)「……モララー」

崩落した先を見つめながらショボンは少しだけ迷う。

449:2014/07/11(金) 22:59:54 ID:MuFWsT2w0

自分の部下も岩の中に埋もれているはずだ。これぐらいで簡単に死んではいないだろうが、長くは持たない。

(´・ω・`)「少しだけ待っていてくれ。すぐに助けに来る」

部屋の向こう、壁を一枚挟んだ辺りから広めにスペースを作っておく。あまり距離は離れていなかったため、これで問題ないと思う。

ようやくショボンは一息つくと、再び魔力探索術式を展開させようとして━━

突如吹き飛んだ壁、そこから光線が伸びてきた。

(;´・ω・`)そ「なっ」

身を伏せてそれを避けると第二撃が向かってくる。今度は跳躍、さらに三、四と光線が雨霰と降り注ぐ。

飛んできた方を見れば、穴の空いた壁に傷一つないモララーが先程と同じ笑みを浮かべてこちらを見ていた。

(  ∀ )

(;´・ω・`)「くっ、もはや逃げられないか」

モララーはすでに獲物を握っている。逃げ道のないこの空間では彼をやり過ごすことはできそうもない。

けれどもモララーは自分の部下だ。彼が入団してから何かと世話を焼いてきた。応用魔法を教えたし、戦闘技術を磨かせた。一緒に酒を飲んで愚痴を言い合って過去の話に涙して励まし合った。

そんなモララーに、自分は剣を向けねばならないのか?

(´ ω `)(僕は何のために騎士になった)

騎士とは弱きを守る盾、悪を挫く剣。

自分に立てた誓いはなんだ。

それは目の前にある全ての理不尽をこの手で救うこと。

自分の正義は何のためにある。

それは悪に虐げられる人達を救うために。

ショボンは剣を勢いよく抜き放つ。

(´・ω・`)「私は王都ヴィップ騎士団副団長、ショボン。いざ参る!」

450:2014/07/11(金) 23:00:39 ID:MuFWsT2w0



( ゚"_ゞ゚)「どうやらうまくいっているようだな」

作業を終えたオサムは近くの壁に描かれた魔法陣から情報を探った。やはり今の振動は一部の採掘場が崩落したことによるものだ。

ならば、今頃騎士の二人は戦っているのだろう。これでショボンとモララーは死んだも同然である。

さらに街の宿舎で待機していた三人はオサムが作り出している魔物と交戦しており、身動きが取れない。あれはモ・トコという鉱山都市だからこそ使える錬成術式だ。魔導原石が大量にあって初めて成り立つが、その分半永久的に魔物を産み出すだろう。

そして、オサムが最も楽しみにしている魔剣の主は━━

( ゚"_ゞ゚)「ゴーレムにうまく囚われているか。やれやれ、これでは先が思いやられるな」

451:2014/07/11(金) 23:02:02 ID:MuFWsT2w0

魔剣の力ならばあんなもの五分と経たず壊せるものを、何故こんなにも苦戦しているのかオサムには理解できない。

とはいえ、そう簡単に破壊できるほど柔な作りにした覚えもないので致し方あるまい。

( ゚"_ゞ゚)「だが、おかげで全ての準備は整った。ゲームは中盤に差し掛かったぞ」

棺桶を開き、溜めていた魔力を解放すると巨大な魔法陣が浮かび上がる。黒々とした一般的には使われない幾何学的でより複雑な魔法陣だ。

ばちばちと魔力が部屋の中を暴れまわり、大きすぎる力に世界も呼応するかのように地鳴りを響かせた。

手、足、胸と徐々に現れていく体。それらはのっぺりとしていておよそ人とは思えないほどの美しい白色だ。顔は目も鼻も口もあるがどれも人形のように開くことはなく、ただの装飾品にしか見えない。

ゆっくりと時間をかけて、ようやく人型の生物が召喚された。

長い黒髪を靡かせ、それはオサムを睨み付けるように顔を向けてくる。

( ゚"_ゞ゚)「いい仕上がりだ」

452:2014/07/11(金) 23:02:50 ID:MuFWsT2w0

それを眺めて彼はふむふむと頷く。概ね想像通りだ。あとは最後の仕上げをすればこのゲームは終盤に向けて動き出すだろう。

誰も彼もが絶望の中で泣き叫びながら死んでいくのだ。そうなってようやく彼は絶望する。

人型の生物は声すらださずにただただ立ち尽くす。

( ゚"_ゞ゚)「さて、手始めにここら一帯の街々を焦土に変えようか、悪魔よ」

453:2014/07/11(金) 23:03:35 ID:MuFWsT2w0
第十話 終

454:2014/07/11(金) 23:08:34 ID:MuFWsT2w0
これにて第十話終了です
今回の一連の話は本来こんなに長期化させるはずではなかったのですが、今後長編をやることが増えると思うので試験的に実施しています
あと二話か三話でこの話を終わらせられるとは思うのでお付き合いいただければ幸いです
最近暑いせいか集中力が続かずお待たせして申し訳ありませんが、次回も来週中には投下という形でお願い致します
その際は必ずこちらに一報いれるので、お待ちくださいませ
それでは今回も読んでいただきありがとうございました

455名も無きAAのようです:2014/07/11(金) 23:45:46 ID:Mms7zxvc0
乙乙
楽しみにしてます

456名も無きAAのようです:2014/07/12(土) 10:16:12 ID:buy/pwBo0

最近これだけが楽しみになってきてる

457名も無きAAのようです:2014/07/12(土) 12:15:32 ID:Ffb0xMZk0
モララーとショボンどうなる…
毎回楽しみに読んでるぜ

458名も無きAAのようです:2014/07/13(日) 19:40:29 ID:PUmtn9uA0
この話すげえおもしろいと思うんだが読んでる人少ないんだな

459名も無きAAのようです:2014/07/13(日) 20:36:22 ID:DH2DCfBY0
あまり書き込まないけど更新ペース早いから楽しみにしてるよ?

460名も無きAAのようです:2014/07/13(日) 21:14:06 ID:ZUBbjO1Y0
読み専の人も居るからね
俺も楽しませてもらってるよ
もうすぐ話が終わるってのは意外だけど完結してくれたらまた読む人も増えるさw
この作者には期待してる

461名も無きAAのようです:2014/07/13(日) 21:22:52 ID:uxidwceU0
え、もう終わるの?
伏線回収しきってなくね?

462名も無きAAのようです:2014/07/13(日) 21:28:11 ID:101RRbRwO
第二部という形もありうる

463名も無きAAのようです:2014/07/13(日) 21:48:35 ID:JwIulYEc0
この話って今の一連の話って言ってるだろ、終わらんよ

464名も無きAAのようです:2014/07/13(日) 22:54:34 ID:uxidwceU0
だよな
この話で終わるとかありえないだろ
さすがにビビった

465名も無きAAのようです:2014/07/13(日) 23:56:18 ID:jVIMrjYQ0
ああなるほど
そういう事かww
みんなも作者もごめん

466名も無きAAのようです:2014/07/14(月) 07:08:16 ID:DaV74fO20
うぇーい無理せずゆっくり書いてねー
楽しみにしてるぞ!

4671:2014/07/17(木) 00:58:44 ID:BUfRUMoM0
どうも1です
最近色々と環境が目まぐるしく変わっておりましてなかなか執筆が進んでおりません
とはいえ一応十一話は四分の三ほど書き上がっておりますので今週の金曜日か土曜日には投下できそうです
いつになくレスがついていて驚きましたが、こんなにもたくさんの方々が自分の作品を見てくださっていることに感激です
それとこの話は三部作の予定で現状ようやく三分の一ほどシナリオが進んできた感じです
第一部は今やっているモ・トコ編と幕間が二話ほどと中編一本で終わります
ですのでそこそこ長くなるとは思いますがお付き合い頂ければ幸いです
シナリオ自体はとっくに完成しておりますので自分が死なない限りは完結までしっかりやっていきますのでよろしくお願いいたします

468名も無きAAのようです:2014/07/17(木) 21:30:50 ID:RIqZChuI0
今夜の総合は静かですね

469名も無きAAのようです:2014/07/19(土) 03:45:14 ID:DRSXC5Xw0
( ^ω^)やっと追いついたお
( ^ω^)僕の出番まだかお??

470名も無きAAのようです:2014/07/19(土) 10:19:38 ID:tfi3a3E.0
今日辺りかな?

4711:2014/07/19(土) 13:27:28 ID:UtpfPXNc0
どうも1です
本日の投下ですが、予定が入ったので明日にずらします
こういう時に限って予定が入る会社が憎らしい
待っていてくれるかたには申し訳ありませんが明日お会いしましょう

4721:2014/07/19(土) 13:28:12 ID:UtpfPXNc0
>>469
君の出番は第二部からだよ
この話終わったら少し出てくるから待っているように

473名も無きAAのようです:2014/07/19(土) 16:36:16 ID:DRSXC5Xw0
( *^ω^)おっぉっぉ

474名も無きAAのようです:2014/07/19(土) 21:29:14 ID:Vi6IwJXw0
支援絵かきたいけど絵下手だし登場人物の服装把握できない

475名も無きAAのようです:2014/07/19(土) 22:07:25 ID:OXctHYVE0
>>474
その辺は想像力と勢いでカバーするんだ!

4761:2014/07/20(日) 10:24:23 ID:DKaxDB8Y0
>>474
基本的に服装というのはあえて決めていません
異世界という設定ですが、あまり我々の住む現代世界と明確な差はないんじゃないかと私が思っているからです
一応設定が確定しているのは魔法学校の指定が三角帽子とマントだけであとは自由な服装です
騎士団連中は男が甲冑着込んでて、女は魔法学校の三角帽子に帯みたいなのがついているイメージですかね

本日21時から23時の間に投下したいと思います

4771:2014/07/20(日) 21:11:55 ID:V03MPEb.0

第十一話「神対神、開戦」

.

4781:2014/07/20(日) 21:12:51 ID:V03MPEb.0

◇◇◇◇

繰り出された大振りな拳を左に跳んで避けると、すぐに後方から巨大な岩石が飛来する。体勢を立て直す間もなくドクオはそれに剣を当てた。

岩は元からなかったかのように消失。しかし、岩の弾丸はさらに左右同時から向かってきている。

('A`;)「くそっ!」

身を伏せて弾が相殺するのを確認し、ドクオはゴーレムとは逆方向に駆け出した。次々に浮かび上がる大小様々な岩や石が雨霰と降り注ぐ中を致命傷を食らわないよう細心の注意を払いながら。

距離を空けて攻撃が止んだ隙に振り返ると、ゴーレムはなおも拳を振るい周囲の石畳をところ構わず粉砕して弾丸を増やしていく。ドクオの視界に映るのは浮遊する岩でほとんど埋め尽くされており、その数たるや数百はくだらないだろう。

ドクオは動くかどうか一瞬だけ迷ってしまった。だが、その一瞬が命取りだった。

ドクオが動かないと見るや、ゴーレムは浮遊した石を一斉に射出し始める。

('A`;)そ「冗談じゃねえ!」

逃げられるほどのスペースもない今、ドクオは迎撃するしかない。一つ二つ三つと高速で動く岩の嵐を叩き落としていくが、ドクオを狙っているわけではなくただ真っ直ぐ飛ばしただけのそれらは後ろにある建物を破壊し、周囲に粉塵を撒き散らしていく。

4791:2014/07/20(日) 21:13:36 ID:V03MPEb.0

不明瞭になる視界、それでもドクオは自分でも驚くほどの反射神経でもって弾丸に対応していた。

いくつかの破片や致命傷にならないものは微々たる傷を残していくが、動けなくなるほど酷いものではない。痛みがないわけではないがドクオの心が折れるようなことはなかった。

しかし、じわじわと焦りは募っていく。熾烈さを増す攻撃を避け続けるのにも集中力や体力が削られ、攻撃をすればそれに比例し威力も範囲も上がっていくというジレンマ。敵を構築するはずの魔法陣を見つけさえすれば突破口は開くはずなのにその糸口さえ見つかっていないのだ。

('A`;)(どうすりゃいい、どうすりゃこいつを倒せる?)

不意に煙の中から巨大な手がぬうっと伸びてきた。ほとんど無意識の内にドクオは剣を振るってしまう。

('A`;)「やべっ!」

岩で作られた凹凸の無骨な手は一瞬で消滅するが、その途端に周囲で漂っていた岩が集まり再び手や腕を再構成する。

さらに集まった石や岩は全て腕になったわけではなく、いくつかがドクオに向かっていた。剣を振り抜いてしまい体勢を崩したままのドクオは避けることもできず岩の餌食となってしまう。

( A )「がぁっ」

石畳を跳ねて転がり、先にあった建物に激突。意識は切れなかったが立ち上がるのさえ厳しい。ようやく顔を上げた時には目の前にゴーレムが屹立し、腕を振りかぶっていた。

('A+;)「こ、のっ!」

間一髪剣で防ぎ、その間に身を低くしたままゴーレムの股下を通り抜ける。こちらを踏み潰そうと巨大な足が床を叩き、衝撃で地面が揺れる。

('A+;)「うおっ」

思わず膝を崩すも転ぶことはない。だが踏み砕かれた石畳の破片がまたも弾丸として襲いかかってきた。

4801:2014/07/20(日) 21:14:19 ID:V03MPEb.0

もはや避ける術もなく撃ち抜かれ、左腕と右足が歪な方向に曲がっていた。

( A+)「がぁぁぁぁっ!」

さらに追い打ち。ゴーレムの拳がしっかりとドクオを捉える。地面に伏していたドクオは衝撃を殺すこともできずダイレクトに攻撃を食らってしまった。

体中の骨が折れる感触、内蔵も潰れたのか口から血を吐き出してしまう。

掠れる視界の中でゴーレムがこちらを見下ろしていた。止めを刺そうとしているのだろう。

( A+)(……もう動けねえよくそったれ)

もはや体はピクリとも動かない。今の攻撃で剣もどこかにいってしまった。反撃などできるわけがない。

今の今までよく耐えたとドクオは自分を誉めたい気分だった。例えここで命を落とすとしても、ただの一般人である自分が魔法使いなんてチート集団と渡り合えたこと自体が奇跡とさえ言える。

この戦いだってドクオは敵の弱点である魔法術式がどこかにあると予想まではできたのだ。

それが見つからないということは、敵の術者がプロであり自分が素人であることの証明に他ならない。言い換えれば経験の差、短時間でいくつもの死線を越えてきたとしても長きに渡って積んできた経験は絶対に縮まらないのだ。

そんな相手とここまで戦うことができた。もうそれで十分じゃないか。誰もドクオを馬鹿にするやつなどいない。

( A+)(ここが俺の限界だよ。現実から逃げ続けた負け犬の限界)

ゴーレムの足裏が視界に入る。踏み潰されれば即死だろう。

( A+)(ごめん、みんな。先にリタイアさせてもらうよ)

4811:2014/07/20(日) 21:15:07 ID:V03MPEb.0

ドクオは今も戦っているだろう仲間達に心の中で謝罪をする。

ショボンやモララーは一人で敵と戦っているのだろう。

しぃや渡辺、ツンだって協力して街を守っているかもしれない。

誰も彼もが自分ではない誰かのために戦って傷ついて、その後ろ姿を見てきたからドクオは立ち上がれた。

でも今のドクオは一人ぼっちで、どこまでも無力だ。いつだって誰かがそばにいてくれたからドクオは戦えた。守るべきものを見失わなかったから剣を握れた。

ショボンはドクオを芯の通った男だと、期待通りの男だと言ってくれたのに、中身や想いはそう簡単に変わってくれやしない。

( A+)(ここが俺の着地点だ。だから、もう休ませてくれ)

なのに。

そう思って全てを諦めたはずなのに。

体が全く動かないはずなのに。

( A+)

ドクオは立ち上がっていた。

ゴーレムの足が迫っている。直撃は避けられない。

ドクオは両手を上にあげる。魔剣は手元にない。

それでも、ドクオは受け止めた。

自身の力のみで、何トンもあろうかというゴーレムの踏みつけを、受け止めたのだ。

傷口から鮮血が吹き出るのが分かった。あらぬ方へ曲がった腕や足から何かが砕けるような感触もある。内蔵も破裂しているのかもしれない、嘔吐感が一気に押し寄せていた。

( A+)「駄目なんだよ。みんな戦ってるんだ。俺一人だけ休んでるわけにはいかねえんだ」

4821:2014/07/20(日) 21:15:54 ID:V03MPEb.0

あいつらはみんな自分以外のために戦ってしまう馬鹿どもだから。

あいつらはみんな誰かのために傷つくのを恐れない阿呆だから。

ここで諦めて死んでしまったら、渡辺が、ショボンが、モララーがしぃがツンがしてきたことを教えてくれたことを全部否定することになる。それだけは何があってもやっちゃいけないこと。

(゚A+)「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

力を入れて押し返すと、ぶちぶちと筋肉が切れるような音が聞こえた。少しずつではあるがゴーレムの足が上がっていく。

(゚A+)「らぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁ!!」

叫び声と共にドクオは地を蹴って飛び上がった。

するとずぅぅぅんと大きな音と共にゴーレムは背中からひっくり返る。じたばたと両手両足を動かしているが体積を増したゴーレムの体は簡単には起き上がれない。

ドクオは近くに転がっている魔剣を回収するともう一度飛び上がり、顔と思しき場所へと切っ先を差し込む。

これで終わりだとは思わない。そのままゴーレムの上半身から下半身へ疾走すると再生する間もなくゴーレムの体が消滅していく。

('A+)「はっ、はっ……」

全てが消滅した。が、周囲に飛び散っている石畳の破片が小刻みに揺れているということは間違いなく再生するのだろう。今回は運よく全身を消滅させられたが、単なる時間稼ぎにしかならない。

いや、収穫はそれだけではなかった。

これでドクオの考えは根底から覆されたのだ。

なんせ、このゴーレムには核となる術式が存在していないのである。

('A+)(全部消したのにまだ動くってことは、これは本体じゃないんだ)

4831:2014/07/20(日) 21:16:40 ID:V03MPEb.0

始めからおかしかったのだ。こんなに動きが遅く単調な攻撃しかしてこない岩石の人形が自らと周囲の岩を使った二段構えの戦法を取ること自体が。

これだけの大質量を操作するような魔法であればおかしくはないとドクオは無意識の中で判断してしまった。そもそも魔法を詳しく知らないドクオからすれば何もかもが魔法で納得できてしまうのは仕方のないことである。

だからこそ敵はそこを突いてきたのだろう。ドクオが魔法に不得手だということを知り、かつドクオの持つ魔剣の特性を知る故の戦法。

だがドクオはもう迷わない。諦めない。

この瞬間、ドクオは全てに気付くことができたのだ。

('A+)(思えば、ヒントは昨日の夜にあったじゃないか)

ドクオとしぃを別空間に閉じ込め、魔物と戦わせるような魔法。それは魔法を倒した瞬間に解除された、通常よりも異質なもの。

異質だからこそ、それだけではないのだろう。

('A+)(つまり、これは幻。魔法が仕掛けられてるのは━━)

ドクオは剣を握ると瞼を閉じる。暗闇の中で耳と肌が音や風の流れを鋭敏に感じ取っていた。

それに混じって一つだけ風でも音でもない、目を閉じていてもはっきりと映る光がある。けして見えているわけではなく、見えなくとも光だと分かってしまうほど違和感のある光の集合体。

(゚A+)「見えた!!」

目を開けると、周囲にあった全ての岩や石を集めたのか先程よりも数倍大きくなったゴーレムが拳を振るっているとのろだった。

構わずドクオは走りだす。背中越しに空を切る感触が伝わるが、もはやゴーレムに用はない。そこから足裏に力をこめて、ドクオは宙を舞う。

ゴーレムの胸の手前。そこに光の塊を見つけた。

('A+)「ここだぁっ!!」

4841:2014/07/20(日) 21:17:26 ID:V03MPEb.0

握りしめ、上段に構えた剣を思いきり降り下ろす。

何かを斬りつけた手応えを感じると同時、視界が一瞬だけホワイトアウトした。

高く舞い上がったドクオは痛みで受け身を取ることも出来ず、そのままべしゃりと石畳の上に落下したが思いの外体はピンピンしている。

('A`)「……」

いつのまにかあれだけ重傷だった怪我が一切合切無くなっていた。どころか踏み砕かれ穿たれた石畳も建物も何一つ破壊の爪痕を残してはいない。

('A`)「全部幻、ってことか」

あれだけ心折れそうになったことも、死ぬんじゃないかと思った怪我も、全ては敵が作り出したまやかしだった。

多少拍子抜けはするものの、強力な魔法であったことに変わりはない。死んでいたとしても不思議ではないのだ。

仮にあの術式の中で死んだとしたらどうなっていたのか。考えたくもないが一先ず危機は去ったと見ていいだろう。

('A`)「さてと」

ドクオは立ち上がると剣を構え直す。

随分と長い間閉じ込められていたようだ。辺りにはうじゃうじゃと鳥型の魔物が蔓延っている。

('A`)「こいつら片付けて宿舎に━━」

言いかけて、背筋に悪寒が走る。

何か得体の知れないものがこちらに近付いてきているのを感じた。

その瞬間、百で利かない数の魔物が一斉に消滅する。

('A`;)そ「なんだ!?」

4851:2014/07/20(日) 21:18:53 ID:V03MPEb.0

周辺を見回すと、いた。少し離れたところに二人組の人間がこちらを見つめて立っている。

( ゚"_ゞ゚)

( ∵)

その内の一人━━いや、人として数えていいのか分からない、まるで人形のようなものの前に淡い輝きを放つ球体が浮かんでいる。

それは口を大きく開けると━━

('A`;)「は?」

( <Θ>)〇

光の球を喰らった。

驚きのあまりドクオはその場から動くことが出来ず、ただただ異質な二人を見つめることしかできない。

やがて、二人はドクオから数メートル離れたところまでやってくると、男の方が恭しくお辞儀をした。

( -"_ゞ-)「お初にお目にかかる、魔剣の主。俺は棺桶死オサム、予想通り黒の魔術団の一人だ」

黒の魔術団。その言葉を聞いてドクオは戦闘体制に入る。

( ゚"_ゞ゚)「おっと、俺は君と戦いに来たわけじゃない。それに俺自身は魔法使いではあるが戦闘能力はほぼ皆無でね、君にはどうひっくり返っても勝てそうにないんだ」

('A`)「……今回の騒動はお前が黒幕か?」

( ゚"_ゞ゚)「その通りだ。ついでに言えば昨日君に魔物を宛がったのも俺さ」

('A`#)「お前たちの目的はこいつだろう。なんで関係のない人達まで巻きこんでんだよ!」

4861:2014/07/20(日) 21:19:40 ID:V03MPEb.0

( ゚"_ゞ゚)「俺は魔法使いであると同時に研究者でね、好奇心が騒ぎ出すんだ。例えば、その魔剣の仕組みや力の限界。何が出来て何が出来ないのか、非常に興味がある」

('A`)「……そんなことのために、巻き込んだってのか?」

( ゚"_ゞ゚)「そんなこと? 心外だな。分からないことがあれば知りたくなるのが人間だろう。例え何を犠牲にしても、やり遂げねばならないことはあるものだ」

('A`#)「てんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

気付けばドクオは魔剣を振りかぶり駆け出していた。

オサムの言葉は同じ人間が発したものだと信じられない。貞子も人としての倫理や常識が欠けていたが、好奇心を満たすためだけに人を殺すなど、奴はそれ以上の狂気を感じる。

あと数センチで切っ先が触れるところまできて、ドクオは剣を止めた。

( ∵)

否、オサムの隣にいた不可解な生物に止められたのだ。触れれば喰らわれるはずの魔剣を手で受け止めたのである。

('A`;)そ「なっ」

ドクオがいくら力を込めようとも、押そうが引こうがびくともしない。

( ゚"_ゞ゚)「ふむ、やはり実験は成功のようだな。魔剣にも引けを取らない強度とは」

4871:2014/07/20(日) 21:20:32 ID:V03MPEb.0

('A`#)「てめえ、こいつは、何者だよ!? これを触って消滅しないなんて、普通じゃねえぞ……っ!!」

( ゚"_ゞ゚)「人は何で構成されているか、君は知っているか?」

('A`#)「何を言ってんだてめえ」

( ゚"_ゞ゚)「答えは色々とあるんだが、突き詰めて言えば人を構成するのは純粋に魔力なんだよ。ただの魔力の塊でありながら生き物はマナという純度の高い魔力を体内で作り上げるのだが、俺はこの事実に驚愕したよ」

('A`#)「だから何を」

( ゚"_ゞ゚)「人というのは生き物中でも特にマナの生成効率が良くてね、作る量も早さもこの世界に生きる生物の中では頂点に君臨する」

ドクオは動けない。目の前の敵に魔剣を握られているうえに、オサムの周囲に魔力が集まりだしているからだ。

下手な真似をすれば殺す、と彼の瞳が言っている。

( ゚"_ゞ゚)「濁りきった魔力で構成された人間が、何故こんなにも純度の高い魔力を生み出すのか。それは人の身体的機能や隠された秘密があるんではないかと、俺は興味を持ってね、調べてみたよ」

('A`#)「調べたって、まさか」

( ゚"_ゞ゚)「生きたまま腹をかっさばいたり、色んな魔法アイテムを埋め込んだり、頭の中に直接魔法陣を書き込んだりもしたかな? まぁ、それは所詮過程だ。つまらない話さ」

ありえない。生きたまま? 切り刻んだり道具を入れたり陣を描くだなんて、人がどれほどの苦痛や絶望を味わうかこいつは理解しているのか? 死ぬなんて生易しいものではないことはドクオにだって分かることだ。

ギリギリと歯を食い縛り、どうすればこいつを殺すことが出来るのかをドクオは考え始めてしまう。

4881:2014/07/20(日) 21:21:21 ID:V03MPEb.0

( ゚"_ゞ゚)「そんなことを繰り返しているうちにあることに気付いた。この機能は絶妙なバランスによって偶然生まれた素晴らしいシステムなのだと。人は生きているだけで一つの魔法陣なんだ、とね」

( ゚"_ゞ゚)「それに気付くと今度は違う興味が湧いてきたよ。もし、人が己の魔力によってマナを生み出すことが出来るのなら、体を構成する魔力の純度を高めたなら人としての存在はどこまで昇華するのか」

( ゚"_ゞ゚)「その結果、人を越える存在、いわば神とも呼べる圧倒的な力をもったこれが生まれた」

( ∵)

( ゚"_ゞ゚)「つまり、こいつは人でありながら人ではない」

4891:2014/07/20(日) 21:22:11 ID:V03MPEb.0




( ゚"_ゞ゚)「神」



.

4901:2014/07/20(日) 21:23:10 ID:V03MPEb.0

('A`;)「神……」

魔剣を掴んでいる手が不気味に煌めいている。無機質な肌も、感情を表さない顔も、この存在そのものが意図的に作られた力だというならこいつは━━

('A`)「まさかこいつは、人間なのか?」

( ゚"_ゞ゚)「何を言っているんだ。当たり前だろう。人間でありながらその価値を高めてやったんだ」

( A )「……」

もう言うことは何もない。こいつは冒してはならない領域を越えてしまった。

ドクオには他人の価値観や倫理観を否定する権利なんてない。自分の考えを押し付けることがどれだけ愚かなことなのかも分かっているつもりだ。

だからこそ、ドクオはオサムを許すことが出来ない。いや、許してはいけない。

こいつを認めてしまったら人という存在を否定するのと同じだ。

ドクオは知っている。自分以外の人間が生きているという普遍の事実を。

ドクオは見てきている。自分以外の人間が生活を営んでいることを。

ドクオは痛感している。自分以外の人間が他人のために流す涙がどれだけ温かいものかを。

こいつは、それを、踏み躙った。

( A )「許せねえよ。人の命を、生活を、人生をなんだと思ってやがる」

(゚A゚)「神? 価値を高める? 何様のつもりだ!? 悪戯に与えられた力がどれだけの悲劇を産むか知ってんのかよ!?」

力とは単体では意味などない。それを持つ人間の有り様によって形を変えるものだから。

渡辺のように思いやりが出来るから人を守るための力となり、ショボンのように自らの信念に基づくからこそ大切なものを守るための剣となる。

力があるから戦うのではない。力があるから守るのではない。

目的を達するために望んだもの、必要だったから選んだものが力だったに過ぎないのだ。

4911:2014/07/20(日) 21:24:05 ID:V03MPEb.0

('A`)「お前はここで倒す」

ドクオはさらに力を込める。人形の腕が徐々に押し込まれていき、ドクオは見計らって腕を弾いた。

('A`)「覚悟しろ。人の痛みを教えてやる。他人にやったこと、全部お前に返してやるよ」

( ゚"_ゞ゚)「できるものならやってみろ。その前に、君のお仲間が死んでいるかもしれないがな」

('A`;)「なに?」

( ゚"_ゞ゚)「騎士団の副隊長だったかな? 彼は仲間である男と生き埋めになっている。いつまで保つだろうな」

('A`;)「ショボンさんと……モララー、か?」

( ゚"_ゞ゚)「さらに騎士団の駐屯所では無限に魔物が湧いている。一体の力は弱いが、数の暴力の前にどれだけ抗えるだろうな」

('A`;)「ぐっ……」

( ゚"_ゞ゚)「俺をやったところで彼らの命は助かるかな? 君のいう命の重さとやら、教えてくれるのだろう?」

醜悪な笑みを浮かべるオサムは人形の背中をポンポンと叩いた。すると人形が目にも止まらぬ速さでどこかへと飛び去っていった。

( ゚"_ゞ゚)「あれには駐屯所を完膚なきまでに叩き潰すよう命令を与えている。君の選択肢は三つ。鉱山に行くか、駐屯所に行くか、ここに留まるか。どれを選んだところで死人は出るだろう」

さあ、どうする?

オサムは笑みを崩さない。他人など知ったことではないとでもいう風に、彼はドクオを煽っている。

('A`;)「く、そっ!」

時間はあまり残されていない。悩んでいる暇も惜しい。

ならば、今は信じるしかない。

ドクオはオサムに背を向けて駐屯所へと走り出す。オサムからの攻撃を警戒していたが、何かをする様子は見られなかった。

('A`;)(間に合ってくれ。誰も死なすわけにはいかないんだ!!)

4921:2014/07/20(日) 21:26:16 ID:V03MPEb.0

◇◇◇◇

もはや限界だった。倒しても倒しても増え続ける魔物の前にしぃ達の体力はとっくに底をついている。

魔法だって無限に使えるわけではない。鍛えているとはいえ、休む間もなく連戦に次ぐ連戦、彼女達の心が疲弊していくのに比例して体力の消費は倍々に増していった。

从; ー 从「はっ、はっ、二人とも、ごめんね。私、もう無理みたい」

やがて、渡辺が力なく膝をついた。きめ細かく白い肌には無数の傷がついており、服は破れて扇情的な姿を晒している。

ξ#゚⊿゚)ξ「諦めないで!! 少し休みなさい!! それまで私達が持ちこたえるから!!」

かくいうツンも限界を迎えているらしい。得意の魔法を使わずに、媒体として持っていた杖で魔物を殴り付けていく。

(;*゚ー゚)「その、通りですよ!!」

しぃはまだ魔法を使うことはできるものの、もってあと数十分というところだ。たった一人で二人を守り続けるのはまず不可能。しぃの魔法をもってしても体力まで回復させることはできないのだ。

三人が無惨に殺されるのは時間の問題だろう。抵抗は出来れど根本から解決する方法が見つからない。

4931:2014/07/20(日) 21:27:05 ID:V03MPEb.0

しぃの見立てでは召喚、もしくは生み出すための術式があるはずなのだが、ここの守りを手薄にすれば陥落するのは目に見えている。

仮に術式を発見したとしても、しぃにそれを解除できるかといえば確実ではない。何せこれだけ無尽蔵に魔物を繰り出すということは行使する魔力の量も、術式の規模も並大抵のものではないだろう。

つまり、始めから打つ手など皆無だったのだ。彼女達は舞台の上で踊らされる憐れなピエロでしかなかった。

(;*゚ー゚)(せめて、ドクオさんか副隊長がいれば……)

考えたところでもう遅い。おそらく、敵はそれすらも見越してこの状況を作り上げたのだ。でなければ騎士団がここまで追い詰められるなど有り得ないことだろう。

それに……。

从; ー 从

ξ;゚⊿゚)ξ

騎士団に所属していない一般人を完全に巻き込んでしまっている。元々ここら一帯が立ち入り禁止区域に指定されているものの、個人で訪れるには障害が一切ないのだ。

騎士団の半数以上が遠征から戻っているのであれば規制するにあたって人数を割くことができたのだろうが、現状そこまで手が回らないというのも抱えている問題の一つだった。

4941:2014/07/20(日) 21:27:53 ID:V03MPEb.0

だからといって彼女達を巻き込んでいいという理由にはならないが、あまりにも条件がこちらに不利な方向へと傾きすぎてしまっているのも事実なのである。

(;*゚ー゚)(このままでは、全滅してしまいます。それだけは、避けないと)

騎士として、そして彼女達を大切な友人として認めているからこそしぃは決断をしなければならない。

誰かに求められたわけでもなく、しぃが自ら判断して動かなければ過去の失敗を繰り返すことになる。

(;*゚ー゚)「お二人とも、頼みがあります」

手を休めることなくしぃは口を開く。迷っている時間はない。

(;*゚ー゚)「この場から離れてドクオさんを探してきてください。ここは私が引き受けます」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、何言ってんの!? あんた状況分かってる!? 三人でさえ厳しいのに、一人でなんて」

(* ー )「分かってますよ!!」

しぃは感情に任せて大声をあげた。改めて言われなくたってそれくらいのことは理解している。

(* ー )「それでも、このまま三人で戦うよりは勝算があるんです。これだけ大きな術式です。見つけたとしても私達が解除するには時間がかかるんですよ。ならば、それを破壊できる人がいれば戦況は変わるんです。だから」

从;'ー'从「もし、間に合わなかったら?」

不安げに渡辺が尋ねてきた。声が震えている。言わなくとも分かっているのだ。

(* ー )「私は、騎士です。力のない誰かを守るのが役目、それが年上の方でも、本質は変わりません」

ξ;゚⊿゚)ξ「あんた、死ぬ気?」

(*゚ー゚)「死にません。お二人を信じます」

4951:2014/07/20(日) 21:28:43 ID:V03MPEb.0

しぃは何もできない。過去から現在まで幼稚な考えと価値観で全てを台無しにしてきた。自分にできることなど何もないのだと勝手に決めつけてきた。

本当は何かができたはずなのに。

見て見ぬふりをして、それが運命なんだと、仕方のないことなんだと諦めてきた。

だが、今のしぃにはできることがある。やらなきゃいけないことがある。

騎士としてではなく、同じ人間として、彼女達の友人として。

それだけで十分だろう。

今までも、それだけで十分だったはずなのだから。

(*゚ー゚)「私が隙を作ります。その間にお二人は市街地へ行ってください」

しぃは今までで最も大きな魔法陣の準備を進める。おそらくこれが最後の魔力になるだろう。それで構わない。

大切なものを守れるのなら、本望だ。

(*゚ー゚)「お願いします」

魔法陣が浮かび、発動。瞬間的に膨大な魔力が周囲を埋めつくし、大量の冷気が魔物を凍らせていく。

(*゚ー゚)「今です!」

一瞬だけ二人が息を飲んだが、すぐに走り出した。そう、それでいいのだ。今生き延びるにはこれしか方法はない。

ξ゚⊿゚)ξ「戻ってくるまで生きてなさいよ! すぐ戻るから!」

从'ー'从「私も頑張るからね! 約束だよぉ!」

4961:2014/07/20(日) 21:29:54 ID:V03MPEb.0

二人の背中が見えなくなるまで魔法を展開し続け、しぃは途端に脱力してしまう。

嬉しかった。少しでも躊躇してくれたことが、堪らなく救いとなった。

幼くて役に立たない自分なんかを心配してくれたという事実に、しぃは報われてしまったのだ。

(* ー )「簡単には、死にませんよ」

だって、しぃにはやることがある。ドクオと話した神父を探しにいくという約束。彼女達はついてきてくれるだろうか?

ステッキを構え直し、しぃは肉弾戦に移行する。あまり得意ではないが抗う術は残されていない。

(* ー )「私は、生きなければなりません」

前方の魔物の頭部をステッキで突き刺し、抜き様に後方へ。建物との距離を計りながら魔物の群れに突っ込まないよう注意を払い、撹乱しつつ丁寧に一体一体潰していく。

どれだけ時間が経ったかは分からないが、体に付いた傷の数はけして少なくない。

何度も何度も挫けそうになりながら、それでもしぃは膝を折らなかった。送り出した二人が必ずや戻ってきてくれると信じているから。あの二人は自分を裏切ることはしないと確信しているのだ。

だが、強く持っていたしぃの心も魔物の軍勢の前に少しずつではあるが弱くなっていった。

すでに千にも届こうかという数の魔物は容赦なくしぃに牙をむき、彼女の体を傷付け、強さを増していた。

そんな中でのことだった。しぃのステッキが魔物の攻撃を防いだ際に弾かれ、宙を舞った。

(;*゚ー゚)「ぐっ」

4971:2014/07/20(日) 21:30:48 ID:V03MPEb.0

もはや攻撃する手段は拳しかない。彼女の非力な拳ではろくにたダメージを与えられないだろう。

前方の魔物を殴り付ける。しかし人よりも固い筋肉で構成された魔物の体はびくともしない。

ニヤリと笑ったかどうかは分からないが、その隙に魔物が鋭く尖った爪をしぃに振るった。身をそらしギリギリでかわすも体勢が崩れる。

その時、しぃの背中に抉るような痛み襲った。ちらりと視線を向けると魔物が立っている。

(;*゚ー゚)「く、はっ!」

ぐらりと揺れる体、一気に力が抜けていく。その姿を見て我先にと押し寄せてくる魔物。しぃは死を意識する。

(* ー )(やはり、私では……)

冷たい石畳の床に転がり、視界一杯に映る魔物達は自分の体をどう見ているのだろう。

単なる捕食物か、はたまた意識あるサンドバッグか。もしかしたら何も考えていないかもしれない。

(* ー )(ごめんなさい、ドクオさん。約束、守れそうにありません)

動かない体、ぽっきりと折れた心。死を覚悟した彼女は瞳を閉じる。もはやどうすることも出来ないだろう。

過去の出来事が走馬灯のように流れていく。後悔ばかりの人生だった。せめて最後の最後くらい、これでよかったと思う人生でありたかったが、それも叶いそうもない。

けれど、渡辺とツンをここから遠ざけることができたのは誇ってもいいだろうか。騎士として、あるべき姿であったと胸を張ってもいいだろうか。

しぃは訪れる死を待つ。

(* ー )「さよなら。ドクオさん」

死の縁にたって思い浮かんだ彼の名を呟いた。何故彼が浮かんだのかは分からない。

きっと最後に約束をしたからだろう。神父を探しにいくという、小さな小さな口だけの約束だ。

そんなことでも彼は必死に守ろうとするんだろう。それくらい彼は優しい人間だ。自分とは違って、迷いがない。

4981:2014/07/20(日) 21:31:34 ID:V03MPEb.0

最後に考えることがこんなことなのか、と半ば呆れながら横たわっていたしぃだが、いくら待っても死はやってこなかった。

恐る恐る目を開けてみる。

(*;゚ー゚)「……えっ?」

魔物が消えていた。

あれほど大量にいたはずの魔物は姿形を消して、どこにもいない。あるのは戦闘の際に破壊された床や建物の破片だけ。

ゆっくりと時間をかけて立ち上がり、もう一度念入りに確認しても状況は同じだった。

(*;゚ー゚)「魔物は……まさか、ドクオさんが?」

可能性はある。二人のどちらかがドクオを探しだし、術式を破壊したのかもしれないが、いくらなんでも早すぎやしないだろうか。

しぃは案外近くにあったステッキを拾うと、建物に背を預けて座り込んだ。とにかく戦闘は終わったのだ。それだけで十分だろう。

(*゚ー゚)「助かったんですね、私」

いまいち実感がわかないが、急死に一生を得たのは幸いだった。

傷だらけの体はすでに少女といっていいか分からないほどに汚れており、女性としてはあるまじき姿かもしれない。

早く終わらせてシャワーを浴びたいな、なんて考えてしぃが息を吐いた時。

( ∵)

4991:2014/07/20(日) 21:32:22 ID:V03MPEb.0

(;*゚ー゚)「━━」

なんの前触れもなく、それは現れた。

人形のようなのっぺりとした顔、作り物のような肌。まるで人間らしいものがどこにもない。

それは周囲に光の球を引き連れており、ともすれば幻想的に見えなくもないがしぃはあまりのことに呆然としていた。

( ∵)

不意に、漂っていた光球がしぃの横を通過していく。次の瞬間、しぃの体は吹き飛ばされごろごろと地面を転がっていた。

何が起こったか分からない。しぃの目には球が近くに来たくらいの認識でしかなかったのだ。

(;*゚ー゚)「こいつ……」

はっきりとしているのはこいつは紛れもなく敵だということ。もしかしたら魔物が消えたのはこいつが何かしたのかもしれない。

( ∵)

立ち上がる間もなくしぃは胸ぐらを掴まれ持ち上げられる。先ほどにも増して倦怠感が襲ってきた。

(* ー )(まさか、マナを吸い取って━━)

自分の中の魔力が根こそぎ失われていく感覚、さらには意識さえ朦朧とする。抵抗も出来ず、しぃは考えることもままならない。

( ∵)

それが空いている腕をあげた。何をするつもりかは分からない。確認をする間もなく、しぃは意識を失った。

5001:2014/07/20(日) 21:34:08 ID:V03MPEb.0

◇◇◇◇

(;´・ω・`)「ふっ、はっ」

(  ∀ )

逃げ場のない狭い空間の中でショボンはひたすらモララーの攻撃をいなしていた。

攻撃は全て急所狙いの単調なものだ。いなすのは難しくないが、そのスピードが尋常ではない。

筋力や反射神経強化の魔法を使っているのかもしれないが、人間が可能とする動きを大きく上回っている。これでは筋肉や内部器官に相当な負担をかけているのは間違いないだろう。

にも関わらず、モララーの表情は一切変わらない。うっすらと汗が浮かんでいるくらいで、痛みに顔を歪めることも疲労による身体能力低下もなく、ひたすらにショボンという敵を躊躇なく殺そうとしている。

カキン、キン、カキンと金属を弾く音が部屋の中に響いている。何も知らぬ人間が見れば剣舞をしているように見えるかもしれない。基本にどこまでも忠実だったモララーだからこそ一挙手一投足が芸術のように洗練されているのだ。

モララーの槍がショボンの右脇を通過する。伸びきった腕をショボンは真下から蹴りあげた。

モララーの腕が上がると同時にショボンは剣を横に振る。

浅く腹部を裂いただけだった。あの状況からモララーはバックステップで致命傷を避けたようだ。

一度ショボンは距離を取る。滝のような汗が全身を流れていくがそれに構っている暇はない。

(;´・ω・`)(獲物のリーチに差がありすぎる。かといって魔法を使えばこの部屋は崩落しかねない)

5011:2014/07/20(日) 21:35:00 ID:V03MPEb.0

崩れた鉱山の中、強引に作り出した部屋は少しの衝撃で簡単に崩れるだろう。さらにショボンは生命維持のために様々な魔法を使っているのだ、細かい調節は効きそうもない。

そんなことすら分からないのか、モララーの周囲に魔法陣が浮かぶ。彼が得意としている光系の攻撃魔法だろう。

(;´・ω・`)(まずい!)

ショボンは慌ててスペルキャンセラーを展開したが、陣が消失したとみるやモララーは一瞬でこちらとの距離を詰めてきた。

ショボンは右に飛ぶが、間に合わずに槍の切っ先が脇腹を掠める。着地と同時にモララーの死角に回り込んで袈裟斬りを見舞った。

だが、彼の槍は意思を持っているかのようにぐにゃりと曲がって攻撃を弾いた。多節棍ならではの操作魔法である。

大きく体勢を崩したショボンにモララーは槍を突き入れてきた。身を捻りなんとかかわすものの、さらに二つ三つと突きが襲いくる。

(;´ ω `)「がはっ」

捌ききれず、深々と突き刺さった槍は腹部を貫通している。激痛が全身を駆け巡るが、それを無視してショボンは剣を振った。

モララーが地を蹴り、ショボンを越えて後方へと回る。槍は自然とショボンの体から離れ、視界から消えた。

(;´ ω `)「おぉぉぉぉぉ!!」

振り向き様に横薙ぎの一閃。だがモララーはすでに距離をとっている。空を切る剣、傾いた体勢。次の瞬間には地面から槍の切っ先が近づいていた。

(;´・ω・`)「く、そぉっ!」

やむなくショボンは魔法を使用する。低レベルの防御魔法だったが、出力を間違えたのか槍に触れた途端に魔力の壁が消失した。

5021:2014/07/20(日) 21:35:45 ID:V03MPEb.0

だが、槍の動きは一瞬だけだが確かに止まった。ショボンは横に跳ぶとごろりと一回転、すぐさまモララーへと視線を向け━━

(  ∀ )

(;´・ω・`)「なっ……」

目の前にモララーが立っていた。槍を構え、こちらに狙いを定めている。

(;´・ω・`)「くっ!」

再び横へと転がり、大振りの一撃をかわす。その間に立ち上がると、ショボンは魔法を発動した。

モララーの足元から光が溢れ、周囲を漂いながら彼の体に纏わりつく。

(;  ∀ )

拘束を確認、さらに自身の姿を周囲の景色と同化させて見えなくさせた。これでしばらく時間を稼げそうだ。

モララーはすぐに拘束をほどいたが、こちらの居場所までは分からないらしく、キョロキョロと辺りに目を配っている。

(´・ω・`)(勝負はここからだ。勝利条件は三つ)

5031:2014/07/20(日) 21:36:31 ID:V03MPEb.0

一つ、モララーを殺さずに無力化すること。

自我を失い、普段以上の力を持っている彼を止めるというのはなかなかに骨が折れるだろうが、ショボンが騎士であり信念を持った一人の人間である以上これだけは確実に守らねばならない。

二つ、閉鎖されたこの空間から脱出すること。

現在魔法で強引に作られた部屋は少しの刺激で簡単に崩壊するという危うさを秘めている。ましてや周辺には魔導鉱石が大量に埋まっているのだ。下手を打てば二人揃って生き埋めになる可能性が極めて高い。

三つ、ショボンの魔力がなくなる前に決着をつけること。

この空間を支えているのはショボンの魔力だ。つまり、ショボンがここを維持できなくなった場合ショボンだけでなくモララーも即死亡となる。モララーが自我を取り戻していればまだ救いはあるだろうが、現状それも期待出来そうにない。

(´・ω・`)(三つ、この三つが全て揃わなければ僕たちは死ぬ。その前に終わらせるために、全力を注がなければ……)

ショボンが思考を終えた瞬間、モララーが拘束をほどいた。しかし、体のあちこちが不自然に歪曲している。

(´・ω・`)「痛みさえ感じないか。ならば、まだ手はある」

剣を握り直し、モララーに肉薄。ショボンの体も相当に消耗しているが、やってできないことはない。

(´・ω・`)「ふっ!」

5041:2014/07/20(日) 21:37:26 ID:V03MPEb.0

急所を避けて袈裟懸けに斬りつける。血飛沫が舞い、さらに逆袈裟。

モララーの横を抜けて背後へ。強烈な横蹴りを見舞うとモララーの体が吹き飛んでいく。

(´・ω・`)(骨が折れてもまだ動かされている。それなら、どうやったって動けないほど痛め付けるしかない)

生きていればまだ回復手段がある。王都に戻れば優秀な治癒術師達がいるのだ。彼を止めるのに遠慮をしていれば共倒れ、それだけは避けなければ。

モララーがよろよろと起き上がる。血も多く流れているし、肉体の損傷も激しい。勝負を決めるなら今しかない。

(´・ω・`)「悪く思うな」

ショボンの目の前に魔法陣が浮かび上がる。出力を間違えてはいけない。

モララーの前後左右に光の柱がそびえ立ち、その頂からいくつもの帯が降り注ぐ。

それは標的に触れると爆発、爆発、爆発。凄まじい閃光が視界を奪うがショボンは構わずモララーに接近した。

(´・ω・`)「一気に決めるぞ」

ショボンの剣に光が宿る。本来ショボンが得意とするのは魔法剣と呼ばれる術式だ。剣に魔法を宿し、斬りつけた部分に威力を収束させる魔法剣術の極み。

体の内部に直接魔法を叩き込むものや傷口から浸入させるものもあるが、今はモララーの動きを封じることに特化した魔法を付与している。

(´・ω・`)「はぁっ!」

5051:2014/07/20(日) 21:38:10 ID:V03MPEb.0

横薙ぎに腹部を斬りつける。一瞬置いて、傷口から冷気が拡がり、徐々にモララーの動きが鈍っていく。

剣を鞘に収め、ショボンが振り返ったとき、モララーは地に伏してピクリとも動かなかった。

(´・ω・`)「……あとは、ここから脱出━━」

言いかけた時、どこからともなく地鳴りのような音が聞こえてくる。今の戦闘の衝撃で鉱山全体の均衡が崩れてしまったようだ。

(;´・ω・`)「少しやりすぎたか」

あまり愚痴ってもいられない。一刻も早く脱出の手筈を整えなければ。

(´・ω・`)「ここの座標が分からないし、この状況じゃ転送術式はあまり期待できそうもないか。あとは、壁に穴を空けながら進む……現実的ではないな」

様々な方法を思案するが、どれも理論的には可能であってもショボンの残り魔力では到底不可能なものばかりである。

せめてモララーが動ける状態であればまだ救いはあったのだが、仮死状態の彼を起こしたところでまた戦闘になるのは目に見えている。

(´-ω-`)「確実ではないが、仕方ないか」

5061:2014/07/20(日) 21:39:13 ID:V03MPEb.0

ショボンは自分の胸に手をあて、集中する。自分を中心に巨大な魔法陣が浮かぶ上がった。

(´・ω・`)「こうなれば、この鉱山を纏めて消し飛ばすしかない」

当然それには魔力が足りないが、周囲にある魔導鉱石と自身の生命力、即ちマナを術式に転用すればそのくらいの出力は叩き出せるはずだ。

もちろん取り出すマナの量を間違えればショボンの命はない。

しかし、それでもショボンには部下を死なせて一人生き延びるなんて真似は出来そうもなかった。

自身を媒体に周囲の術式を展開。魔導鉱石も十分な量が確認できた。それらを結びつけて記憶にある座標へと範囲を拡げていく。

(´・ω・`)「……あとは、天に委ねるしか━━」

魔法が完成する直前、ショボンの胸を何かが貫いた。

(  ∀ )

(;´ ω `)「なっ……」

首だけを後方に向けると、いつのまにか起き上がっていたモララーが槍を突きだしていた。

大量の血液が傷口から溢れ落ちていく。

(´ ω `)「詰めが……甘かったか……」

もはやショボンの生存は絶望的だった。自身のマナを限界まで抽出し、かつこれだけの失血。生き延びたとしても目を醒ます確率は限りなく低い。

だが、彼にはまだ信頼できる男がいる。

何も知らず、自身の信念のために剣を取れる男が。

(´ ω `)「頼んだ……ぞ……ドクオ……」

5071:2014/07/20(日) 21:40:05 ID:V03MPEb.0

◇◇◇◇

宿舎に向かう道中、運よく渡辺と合流したドクオはこれまでの経緯を簡単に説明されていた。

たった一人で戦う選択をしたしぃの安否が気にかかるが、隣を走る渡辺は息も絶え絶えで今にも崩れ落ちそうだ。

('A`)「渡辺、あとは俺が何とかする。お前は休んでろ」

从;'ー'从「で、でもぉ……」

('A`)「大丈夫。しぃちゃんは絶対生きてる。俺が死なせやしない」

从;'ー'从「……うん。なら、あとは任せるね」

('A`)「おう。ツンを見付けたあとゆっくり来い。その頃には全部終わらせとく」

渡辺が頷いたのを確認し、ドクオはスピードをあげた。もはや一刻の猶予もない。

オサムはあの人形を駐屯所の方へ行かせていた。ということは、間違いなくしぃはあれと対峙しているはずだ。ドクオの剣ですら軽々と受け止めたあれに、疲労困憊のしぃが敵うとは思えない。

('A`;)(間に合え、間に合ってくれ)

5081:2014/07/20(日) 21:41:08 ID:V03MPEb.0

速く、もっと速くと両足をひたすらに動かし、宿舎が近付いたところでふと違和感を感じた。

('A`)(魔物が、いない?)

そういえばあれは魔物を一瞬で消滅させたかと思えば魔力に変換し、それを喰らっていた気がする。渡辺の話ではここに大量の魔物が押し寄せていたとのことだったから……。

('A`;)「しぃちゃん!!」

一気に跳躍し、建物を越えて宿舎の前へと辿り着く。

そこには、いた。

しぃと、人形が。

( ∵)つ( ー *)

片手で胸ぐらを掴まれ、力なく気を失っているしぃ。満身創痍でずっと戦っていたことからくる脱力なのか、あれに何かされたのかは不明だがドクオがすべきことは分かっている。

(゚A゚#)「その汚え手を離しやがれぇぇぇぇ!!」

一瞬で距離を詰め、しぃを掴んでいる腕に刃を向ける。ガキン、と金属同士がぶつかるような音。同時にしぃの体がどさりと地面に落ちた。

( ∵)

(゚A゚#)「らぁっ!」

5091:2014/07/20(日) 21:42:20 ID:V03MPEb.0

反転し、勢いを利用して横薙ぎの一撃。人形はそれを片手で受け止めると、あんぐりと口を開ける。

( <Θ>)

そこから目映い光が放たれ、至近距離で爆発。ドクオは後方に跳んでしぃを片手で引き上げながらそれを避けた。

そのまま申し訳ないと心で謝りながら乱暴にしぃを遠くへと投げ、もう一度人形へ接近。おそらくこの剣でなければダメージは通らないだろう。しかし、人形の反応速度はこちらの攻撃速度を上回っている。

('A`)(なら、こいつでどうだ!)

もう一度横薙ぎ。受け止められる寸前にピタリと止めて、すぐに大きく開いた口目掛けて剣を突きいれる。

がちゃっ、と口が閉じて奥までは到達しない。引き抜こうとしても閉じる力が強すぎて身動きがとれなくなった。

('A`;)(マジかよ)

人形の腕が振り上げられた瞬間にドクオは正面を蹴りつけて、その反動で強引に剣を引き抜く。予想よりも強い力だったせいで、ドクオは後方に一回転。

体勢を立て直し、顔をあげると周囲には光球が浮かんでいる。ドクオが動き出すと同時にそれらがこちら目掛けて飛来した。

横に走り、着弾しては爆発し砂塵が吹き上げられる。視界が遮られるが、特徴的な人形の体はこの距離ならば目視できた。

身動きしない人形の背後に身を低くして近づく。気づかれてはいない。

5101:2014/07/20(日) 21:43:21 ID:V03MPEb.0

('A`)「こ、のっ!」

振り向く瞬間に跳躍、両足を脇に引っ掻けて一回転。思いの外重さのない人形を地面へと叩きつけ、着地と共に人形に剣を突きいれる。

その時人形が動いた。ごろりと床を転がり、攻撃を避けてこちらの足を掴んだ。

('A`;)「っ!!」

強烈な力で足を払われ、ドクオは転倒。その隙に人形が立ち上がると、先程着弾させた光球が再び向かってきた。

('A`;)「やばっ」

その速さに対応できず、直撃。体の至るところを襲う爆発にドクオは叫ぶことさえ出来なかった。

( A )「あ……がっ……」

なんという強さだ。ろくに動かなかったのは手を抜いていたということだろうか。まったく、なんてものを産み出してくれたのか。こんな状況でありながらドクオは思わず笑ってしまいそうだった。

だが、楽しい。楽しくて仕方がない。これほど壊しがいのあるものなんて初めてだ。

ドクオの中で何かが蠢いている。あぁ、いつものあれだ。身を任してしまえば引き返せないドクオの爆弾。

5111:2014/07/20(日) 21:44:06 ID:V03MPEb.0

けれど、今のままでは手も足もでないのは明白だ。あれに勝てるのはきっと自分だけ、負けるわけにはいかない。

時間がないのだ。ショボンとモララーのことも気になる。こいつを放っておけばみんな殺されてしまう。戦えるのは自分だけなのだ。

こいつはドクオに力を寄越そうとしている。誰にも負けない圧倒的な力、全てを壊し、他を寄せ付けない絶対的な恐怖。

今ドクオに必要なものをくれるというのだ。

ならば━━

( A )「━━っ」

ドクオの中で、何かが弾けた。

5121:2014/07/20(日) 21:44:58 ID:V03MPEb.0




( ゚"_ゞ゚)「おぉ、ようやくか。ようやく魔剣の本領発揮というところだな。実に興味深い」

オサムの作ったあれと、魔剣の力。神にも等しい力を持った存在と、神をも屠る最強の魔剣。

黒の魔術団の目的がなんであれ、オサムはこの時この瞬間のために全ての準備を整えてきたのだ。

自分の努力や成果が報われる、この至福は何者にも代えがたい普遍的な価値がある。

( ゚"_ゞ゚)「さあ全てを曝け出せ!! 俺にお前の全てを見せてみろ!! さあさあさあ!!」

爆発的に膨大な力が辺りを埋め尽くしていく。魔力とも違うオサムの知らない力。

神をも殺す絶対的な法則で成り立っているあれを自らの手で解明できたらどれほど楽しいだろう。

その力を自らが扱うことができたならどれほど面白いだろう。

きっと世界なんて小さなものなど玩具にすら劣る矮小なものへと成り下がる。

その瞬間に、オサムは神さえ使役するそれ以上の存在へと昇華するにちがいない。

( ゚"_ゞ゚)「はははははははっ、さあ始めようじゃないか!! 神対神の遊びを!!」

5131:2014/07/20(日) 21:45:41 ID:V03MPEb.0
第十一話 終

5141:2014/07/20(日) 21:52:28 ID:V03MPEb.0
これにて投下終了です
今回どこもかしこも戦闘戦闘戦闘で構成されております
そういえば今回の話で初めてショボンが戦闘するわけなんですが別に出し惜しみしていたわけじゃありません
単純に出す機会がなかっただけなんです
一応騎士団のナンバーツーなんで結構強いんですよ
モララーもそこそこ強いんですよ?
ドクオも強いっぽいですけど
しぃはまぁ、年の割りには強いですかね
ようやく今回の話の終わりが見えてきました
すでに十二話十三話の構成をまとめていますが、もしかしたら今までで一番の文量になるかもしれません
一応金曜か土曜に投下予定ですが、場合により来週は見送るかも……
随時こちらで告知はしていきますのでよろしくお願いいたします
では今回も読んでいただきありがとうございました

515名も無きAAのようです:2014/07/20(日) 22:41:42 ID:jVzG5Qlk0
( ^ω^)オオオオオオオオオオオ
( ^ω^)楽しかったお!!!!
( ^ω^)まさかビコーズさんがここで出るとわ
( ^ω^)まさに適役♪

516名も無きAAのようです:2014/07/20(日) 22:55:09 ID:eLtR1QJU0
乙乙

517名も無きAAのようです:2014/07/21(月) 12:37:18 ID:AjW1Be.E0

どこもかしこもピンチでハラハラした
続きも楽しみにしてる

518名も無きAAのようです:2014/07/21(月) 21:40:29 ID:X7K0tEwI0
現行で一番すき


5191:2014/07/22(火) 15:36:09 ID:/QGsadK20
>>515
ありがとうございます
ビコーズはこんな感じですよね

>>516
ありがとうございます

>>517
今回は色々と試験的な話なのでどこもかしこも戦闘ばかりですね
しばらくはみんなでピンチになってもらいます

>>518
ありがとうございます
そんなこと言われるとハッスルしてしまいます
出来るかぎり早めに次の話を投下できるよう尽力します

520名も無きAAのようです:2014/07/22(火) 19:06:47 ID:tSs9bl6o0
乙!

521名も無きAAのようです:2014/07/22(火) 22:28:02 ID:n5T5Y6H.O
読んでる

522名も無きAAのようです:2014/07/23(水) 21:06:39 ID:Ze/wv61.0
これまとめついてほしいなぁ
こんなワクワクする連載久しぶり

523名も無きAAのようです:2014/07/24(木) 16:12:57 ID:QiXnGvaY0
>>522
文が綺麗で上手いんだよな
一時は説明ぽかった時もあったがそれは作者も自覚してたし何よりそっからレベルが上がってるのがいい
俺もこれ好き

524名も無きAAのようです:2014/07/24(木) 21:21:14 ID:QvEA4Wgs0
段々読む人増えてるしな

5251:2014/07/25(金) 09:41:02 ID:4GacB82k0
どうも1です
現在鋭意書きため中でして、今週の投下は絶望的です
来週の水曜日までには投下したいと思っておりますので、それまでもうしばらくお待ちください

>>520>>521
ありがとうございます
読者様がいるだけで感謝感激です

>>522>>523
手放しに褒められると調子に乗ってしまいそうです
文章に関してはいまだ自信がないので何ともいえませんが、とりあえず勉強というか参考というかはある程度やっております
語彙力がないのでひたすらに読みやすい文章というのは徹頭徹尾励んでいきたいですね

>>524
そのようでうれしい限りです

526名も無きAAのようです:2014/07/25(金) 13:18:42 ID:0fTL4zfk0
( ^ω^)僕は今まで読んだなかでこの作品はアルファベットに匹敵するものになると思ってるお

527名も無きAAのようです:2014/07/25(金) 20:23:09 ID:G21XDRY.C
残り109話か、完結まではまだまだだな

5281:2014/07/27(日) 13:19:41 ID:tVeqCan60
>>526
いやぁそんなことはないと思いますよ
そこまで長くなるとは思いませんし、ましてや初心者なもので
ですがそう言っていただけてとても励みになります

>>527
そんなに続きませんよw

5291:2014/07/28(月) 21:40:41 ID:5PlpwITw0
どうも1です
仕事の都合で投下が金曜日にもつれ込みます
ぽんぽんと投下できていただけに最近の更新遅延が目立って仕方ありません
ですが逃亡は致しませんので生暖かく見守って頂きたいです

530名も無きAAのようです:2014/07/29(火) 02:31:25 ID:iP2M7AtE0
( ^ω^)待ってるお

5311:2014/08/01(金) 21:06:26 ID:Fg3tJaY20



第十二話「心の在処」





5321:2014/08/01(金) 21:09:10 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

从;'ー'从ノシ「あ、ツンちゃ〜ん」

ツンを見付けた渡辺は大声をあげて手を振った。街のどこにも魔物がいないことから安心してしまっているのである。本当はどこかに隠れているのかもしれないという不安はあるのだが。

ξ゚⊿゚)ξ「あんたね、どこに魔物が潜んでるのか分からないんだから少し自重しさなさいよ」

渡辺より消耗が少ないツンは、多少息を弾ませているものの顔色は良好である。渡辺と同じくドクオを探し回っていたはずだが、やはり黒の魔術団での経験があるからだろう。

从'ー'从「あのね、どっくん見付かったんだぁ〜」

ξ゚⊿゚)ξ「本当に? よかった……。本人はしぃのとこに?」

从'ー'从「うん。あとは任せろぉ〜って」

ξ;゚⊿゚)ξ「それ死亡フラグよ」

从'ー'从「でもでも、どっくんはやるときはやってくれるんだよぉ〜」

ξ-⊿-)ξ=3「信頼するのもいいけど、あれだけいた魔物が急にいなくなったのはおかしいわ。もしかしたら何かあったのかもしれない」

从'ー'从「そういえば、まだ術式が見つかってないよぉ」

ξ゚⊿゚)ξ「うん。それに、鉱山の方で大規模な爆発があったわ。もしかしたら中にショボンさん達がいるかも」

5331:2014/08/01(金) 21:10:38 ID:Fg3tJaY20

从;'ー'从「ふぇぇ〜、それじゃあ……」

ξ゚⊿゚)ξ「まだわからないけど、事態は急を要するわね。多分だけど、この街の至るところに術式が張り巡らされてるみたいだし」

从;'ー'从「ん〜と、え〜と」

ξ゚⊿゚)ξ「混乱するな。とにかく、一度宿舎に戻って荷物を回収した方がいいわ。中に魔力探査の道具とかもあるし、全体の構図を把握しないことには私達は動けない」

从'ー'从「それは、うん。そうだね」

ξ゚⊿゚)ξ「魔物召喚やら仲間の分断やらうまいことやってくれたみたいだけど、このままやられっぱなしってのは癪だわ。さっさと反撃にでるわよ」

从'ー'从「おー」

走り出すツンに追走する形で渡辺は足を動かしていたが、唐突にツンが速度を緩めると立ち止まった。

ξ゚⊿゚)ξ「……あのさ、ちょっと気になったんだけど」

从'ー'从「なぁに?」

ξ゚⊿゚)ξ「私達が途中よった街で意味の分からない術式があったの覚えてる?」

飛行馬車を降ろされた際に寄った街に確か用度不明の魔法陣があったのを思い出す。その街は人がいなかったことも印象深い。

从'ー'从「覚えてるよぉ。そこから魔物が一杯出てきたよねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ「それってさ、この街の状況と似てない?」

从'ー'从「……あ」

渡辺達は自分の目で魔法陣を見たわけではないが、人のいない街で魔物の大量発生。言われてみれば驚くほど酷似している。

だが魔物と戦闘している最中に魔物を喚び出す、もしくは生み出している術式があるのではないかと話をしていた。

ξ゚⊿゚)ξ「さらに、魔法ってのは規模の大小に関わらず魔力を使うものよ。これだけ大きい術式なら余計に魔力をくうはず。この魔力は一人で補える量を越えているといってもいい」

5341:2014/08/01(金) 21:13:01 ID:Fg3tJaY20

从;'ー'从「人のいない街の魔法陣って……」

渡辺は自分の内に浮かんだ考えを否定しようとするが、叶わない。ツンの憶測はどこまでも筋が通りすぎている。

ξ゚⊿゚)ξ「確かドクオ達の話では他の街でも似たようなものを見たってことよね。それらを考慮すれば、ほぼ間違いないと思う」

从;'ー'从「人を魔力に変えたってこと?」

信じたくはない。信じたくないが……。

ξ゚⊿゚)ξ「ええ」

無情にもツンはそれを肯定した。黒の魔術団での経験がこの現実を受け止める心を、冷静さを作り出したのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「そして、私はこんなことができるやつを一人だけ知ってる。黒の魔術団の中でも有名だったわ。自由奔放、唯我独尊で上からの命令なんかくそ食らえ。もっとも扱いが難しいなんて言われてた」

渡辺は無意識に拳を握りしめていた。

罪のない人々を、懸命に生きる人々の未来をこうも簡単に奪ったのだ。

从'ー'从「許せないよ。そんなの」

感情が昂っていくのを止めることができない。今すぐにでもそいつの前に行って文句の一つでも言ってやりたい気分だ。

ξ゚⊿゚)ξ「落ち着きなさい。そいつはオサムっていうんだけど、戦闘はあまり得意じゃなくて、どちらかと言えば頭脳戦がメインよ。けど、こんな風に自分の僕を生み出したりして戦うからある意味貞子より質が悪い」

从'ー'从「どうするの?」

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオやショボンさん達が戦ってるんなら、私達がやるべきことは敵の術式を解除するのがベストでしょうね」

从'ー'从「それじゃあ!」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。まずは魔力を辿りましょう。そのためにも宿舎に急ぐわよ」

敵の正体は分かった。やるべきことも定まった。

渡辺はツンの後ろを走る。こんなこと絶対に許してはならない。

そのためにも渡辺は止まってはならないのだ。

握った拳は、固く固く握られたままだった。

5351:2014/08/01(金) 21:16:22 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

(゚A゚)「Aaaaaaaaa!!」

ドクオの全身を得体の知れない何かが駆け巡っていく。自我を食い破り、倫理観を破壊し、人としての理性すら闇の底へと沈んでいった。

もう戻れない。いや、戻らない。

大切なものを守らなければならないのだ。そのために必要なら、ドクオは自分すら投げ捨てる覚悟を決めた。

貞子を殺した時、初めて生き物の命を奪った時、ドクオは罪悪感を覚えた。けれど、そうしなければ渡辺やツン、しぃやショボンにモララー、王都に住む人々全てが傷つけられていただろう。

ドクオは自分のせいで誰かが傷つくのを見たくない。

だから強くならなければならない。

今以上に、それ以上に。

(゚A゚)「Foooooooooo!!」

ドクオは立ち上がり、人形へと肉薄する。

(;∵)

一瞬だが人形の顔に焦りが見えた。だが今更そんなことはどうでもいいことだ。

袈裟斬り。斬撃は目で追えないほど早く、空気を切り裂き真空を生む。

刹那、人形の体は肩口から分断された。さらに真空が刃を発生させ、第二波。人形の体のあちこちに深い傷を作っていく。

そこから回し蹴り。分断された人形の上半身は軽く数メートルを越える距離を飛んでいく。

5361:2014/08/01(金) 21:18:43 ID:Fg3tJaY20

(゚A゚)

それを追ってドクオは走る。一瞬でそれに追い付くと元の形が残らぬほど縦横無尽に斬撃を繰り出し、最後に大きく上方から降り下ろすと、前方広範囲がまとめて消し飛んだ。

ドクオはゆらりと残した下半身へと振り返る。

街全体を覆っているはずの結界が淡く色付いていた。そこから幾筋もの光が人形に集まり、人形は元の形へと再生する。

( ∵)

(゚∀゚)「GYAHAHAHAHAHAHA!!」

笑いが止まらない。楽しい、愉快だ。

壊しても壊してもこいつは戦える。殺しても殺してもこいつは動ける。

ならばもっと徹底的に、もっともっと絶望的に蹂躙してやる。

(゚∀゚)「Haaaaaaaa!!」

( ∵)

人形が動いた。再生した腕をこちらに向け、同時に大量の魔力が収束。全てを殺す絶対的な力が地を抉り、周囲の建物を薙ぎ倒しながらドクオへと向かってくる。

ドクオは片手を前に出し、軽く払った。それだけで魔力は霧散し、沈黙が訪れる。

(゚∀゚)「AHYA!」

ドクオが跳んだ。一瞬で人形の真上に移動し、落下する勢いを利用して剣を降り下ろす。

対応できない人形は数瞬遅れて防御するが、間に合わない。頭から真っ二つになりごみのように転がる。

着地したドクオは人形に近付くと片方を持ち上げた。

(゚A゚)

先程までの笑みはもうない。

がっかりだった。あまりにも面白くない。神を謳いながらこの程度の力、自分の足元にも及ばないなど甚だしい。

これは油断だったのかもしれない。強大すぎる力を持つがゆえの慢心、ドクオは持っていたそれを投げ捨てる。

5371:2014/08/01(金) 21:20:51 ID:Fg3tJaY20

だから、ドクオは気付かなかった。気付けなかった。

振り返ったとき、持たなかった半身がいつの間にか消えていた。辺りを見回しても見当たらず、まるで始めからなかったかのように跡すら残っていなかった。

途端、頭上から光が降り注いだ。ドクオの半径数メートルが吹き飛び、砂塵があがる。さらに四方八方から光球が踊り、ドクオは避けることさえできず余すことなく被弾した。

(#A"+)

攻撃が止み、視界が開けた頃にはドクオの体は肉が抉れ骨もひしゃげ、全身から血を流し、本来ならば死んでもおかしくないほどの傷を負っていた。

ドクオから数メートル離れたところに光の粒子が集まり、人形が現れる。切られたはずの体はすでに再生しており、余裕を見せつけるようにこちらの様子をうかがっていた。

(#∀"+)

ドクオが顔を歪めて、笑う。直後、彼を中心として暴風が吹き荒れた。

(( ∵))

人形は微動だにしない。それでもよく見なければ分からないほどではあるが、小さく震えているのをドクオは確認した。

自分達は戦いの権化だ。壊すために生まれ、殺すために存在し、全てを無に帰すために生きている。

泣け、逃げ惑え、恐怖しろ。

それがドクオを更なる存在へと昇らせるのだ。

(#∀"+)「Aaaaaaaa!!」

ドクオと人形の戦いはまた一つ高みへと進む。

もはや人という存在では止められないところまで。

5381:2014/08/01(金) 21:23:33 ID:Fg3tJaY20



(*- _-)「ん……」

大気を震わせ地を揺らすほどの爆音でしぃはようやく目を覚ます。

確か、自分は得体の知れない何かに襲撃されて抵抗できずに気絶してしまったはずだ。間違いなく死んだと思っていたのだが、五体満足でいるところからどうやら生き延びているらしい。

ということは、渡辺かツンがドクオを連れてきてくれたのだろう。

(*゚ー゚)「えっと……」

ずきりと体が痛む。人形に掴まれた際体内のマナを根こそぎ奪われた影響か、うまく体が動かず自分の体じゃないような錯覚を覚えてしまう。

(;*゚ー゚)「それより状況は……」

今なお続いている戦闘音はしぃの遥か頭上から聞こえていた。そちらへと視線をやると、宙に浮いた二人の人間が目にも留まらぬ速さで攻防を繰り広げている。

しかも人形は傷一つないのに対し、ドクオの体は目も当てられないほどの傷だった。

なのに、ドクオは歪に笑っている。

攻撃するのが愉しくて仕方ない、傷つけるのが嬉しくて仕方ない。

彼の背中からはっきりと伝わってくる異常とさえいえる感情は、しぃの知っている彼とは似ても似つかない悪魔のような存在へと変貌を遂げていた。

(#∀"+)

(;∵)

(;*゚ー゚)「あれが、ドクオさん?」

5391:2014/08/01(金) 21:25:51 ID:Fg3tJaY20

しぃは、何故だかこの戦いを止めなくてはならないと本能的に察する。このままではドクオが手の届かない遠くへと行ってしまうような気がした。

けれどもこの人外としかいいようのない戦闘は、体力も底を尽きた今の自分では、いや、仮に万全の状態で介入したところで止めることなど出来やしないだろう。

ドクオの剣と人形の手が交差し、衝撃波が生じる。

(;*つー゚)「あぅっ……」

未だ嬉々として攻撃を続けるドクオは、あれだけの傷を抱えながらなおも優勢を保っていた。表情のない人形の方があまりの猛攻に焦っているようにも見える。

やはり、あれはドクオではない。

しぃの知っているドクオは戦うことを嫌っている。

しぃの知っているドクオはあんな歪んだ笑みを浮かべたりしない。

あれは、本人の意思ではなく、悪意ある他人の手により操られているに違いないのだ。

しぃはドクオの仲間である前に、一人の人間としてこんなことは止めさせなければならない。

魔物に囲まれたとき、しぃは選んでしまった。過去と向き合う覚悟を決めた。

もう失ってはいけない。そのために、今、しぃは立ち上がらなければならないのだ。

(*゚ー゚)(何ができるか分からないけれど、やらなきゃ)

ぷるぷると震える足腰に渇をいれ、しぃはしっかりと立ち上がる。ステッキを握り締めて━━

5401:2014/08/01(金) 21:28:18 ID:Fg3tJaY20

( ゚"_ゞ゚)「どこへいこうというのかね?」

唐突に聞こえた声に振り向いた。

( ゚"_ゞ゚)「興を削ぐようなことは控えてもらおう。大切な実験中なんだ」

(*゚ー゚)「あなたは……」

( ゚"_ゞ゚)「君は今、あれを見て恐怖しているかね? ならばそれが正常な反応だよ。あれは人という領域を越えて神の頂に登り詰めようとしているのだから」

全身黒一色の男は顎に手をやりながら、にやにやと不気味に笑っている。おそらく、敵ではあるのだろうが一切の敵意が感じられない。

ただ新しい玩具を与えられた子供のように、どこまでも純粋に、無邪気に今を楽しんでいる。

(*゚ー゚)「あなたが、今回の首謀者ですか」

( ゚"_ゞ゚)「だとしたら?」

(*゚ー゚)「私はここであなたを討たねばなりません」

( ゚"_ゞ゚)「それは不可能だろう。君は魔物との戦いで消耗している。対して、俺は君一人程度ならば簡単にあしらえる力を持っている」

それに、と男は続けた。

( ゚"_ゞ゚)「この実験を見届けなければならない。やるというなら構わないが、早めに終わらせてもらおう」

瞬間、男の周囲に魔法陣が展開された。並の魔力ではない。街一つならば簡単に消し飛ばせるほどの膨大な魔力、あんなものを放たれてはしぃなど一たまりもない。

(;*゚ー゚)「くっ……」

( ゚"_ゞ゚)「これは忠告だ。余計な真似をせず、大人しくあれを眺めていろ。それが正しい選択だ」

また、だ。しぃは己の無力さを噛み締める。

何かが出来るはずなのに、何も出来ないという矛盾。やることは分かっていても力及ばず、無駄に時間をもて余すしかない。

心なき力は暴力だが、力なき心はなんだというのか。

(*゚ー゚)「……一つお聞きしたいことがあります」

5411:2014/08/01(金) 21:30:18 ID:Fg3tJaY20

力はなくとも、心がまだ折れていないのならば、出来ることはあるのではないか。

それだけを信じてしぃは口を開く。

( ゚"_ゞ゚)「何かね?」

(*゚ー゚)「あれはなんですか? そして、ドクオさんはどうなってしまったのですか?」

人のようで人でない存在と、人なのに人を外れた存在。この二つの矛盾がどうにも引っ掛かって仕方がない。

( ゚"_ゞ゚)「簡単な話さ。人のもつ魔力を純度を高めて変換した、いわば人を越えたもの。そして、魔剣の主は言わずとも分かるだろう」

(*゚ー゚)「……分かりません。ドクオさんは今まで人であり続けました。それが、何故今更……」

( ゚"_ゞ゚)「今までは力をうまく伝えていなかったんだろう。彼は力をもて余していた」

(*゚ー゚)「ならば、あれが本来の姿であると?」

( ゚"_ゞ゚)「そういうことだ。神に近しいあれと接触したことで秘められたものが溢れだしたのさ」

(*゚ー゚)「……それと、あの人形は人の魔力をマナに変換したと言いましたが、とさか」

( ゚"_ゞ゚)「元は人だよ」

男が言い終わる前にしぃはステッキを振るった。

しかし、彼は余裕を持ってそれを受け止める。

( ゚"_ゞ゚)「どういうつもりかね?」

(* ー )「あなたは、人を、命をなんだと思っているんですか?」

5421:2014/08/01(金) 21:31:44 ID:Fg3tJaY20

あれが元は人だというなら、この男の手により望まぬ戦いを強いられているということ。

争いなどと無縁の人だったのかもしれないし、温厚な人間だったかもしれない。

( ゚"_ゞ゚)「皆決まって同じことを言うんだな。所詮いつかは死を迎える。早いか遅いか、それだけの無意味な生を俺が意味を与えているんだ」

(#*゚ー゚)「あなたは神になったつもりですか!? 力に溺れ、人の命を悪戯に弄ぶなど許されるはずがないでしょう!!」

人の命は他人に決められるものではない。自分で決めて自分で選ぶことにこそ価値がある。

しぃはそのことに気付くまで時間がかかり、後悔を繰り返してきた。

だからこそ、その行動にどれだけの覚悟と意味があるかが分かる。

( ゚"_ゞ゚)「だからどうした。飯を食い糞を垂れ、性に溺れ寝るだけの存在に意味があるのか? そんなものに俺は興味などない」

(#*゚ー゚)「人の価値はそんなところにあるんじゃありません!! それは心に、魂に、歩んだ道にこそ真の価値がある!! 苦しんで、悩んで、涙を流したとしても、道のどこかで振り返ったとき、その時にこそ人は自分の生に、命に価値を見出だすんですよ!!」

(#*゚ー゚)「それを、あなたは、踏みにじった。私は人として、騎士として、あなたを許しません!!」

( ゚"_ゞ゚)「許さない、ときたか。くっくっくっ、いいだろう。遊んでやろう、若き騎士よ。その人の価値とやら、見せてみろ」

5431:2014/08/01(金) 21:33:21 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

瓦解した鉱山跡地にてモララーは一人槍を振るっていた。

何故自分がこんなところにいるのか、体が本調子ではないのか、疑問は多々あったが熟考する暇もなくモララーは戦闘を余儀なくさせられている。

近くには血塗れのショボンも転がっているというのに、早めに決着をつけねばならない。

( ;・∀・)「しっかし、どうなってんだこりゃ」

( ´W`)

( ・−・ )

虚ろな目をした二人の刺客はうまく連携を取りながらモララーを攻め立てる。

右から一人、華奢な体躯の割りに素早い動きでこちらとの距離を詰めると下から強烈な蹴りが繰り出された。

上体を反らしうまく避けるが、左からもう一人。こちらはハンマーのような大きい鈍器を手にしている。

( ;・∀・)「容赦ねえな、ったくよ!」

モララーは反らした半身を戻さずそのままバク転。返る力でハンマーを持った手を同時に蹴りあげると、男はハンマーを落とした。

不安定な足場だが着地。瞬間、右の男が攻撃の体勢に入っているのが見える。

5441:2014/08/01(金) 21:36:29 ID:Fg3tJaY20

( ・∀・)「そら!」

弱い魔法で牽制すると、男は横に跳んだ。それを追ってモララーも跳ぶと、左の男は素早くハンマーを拾い上げ、こちらの斜線上に投擲する。

( ・∀・)「っと」

下から槍を当てて上方に弾き、広範囲に魔法を放った。モララーを中心に半径数メートルを光の槍が降り注ぐ。二人の男は防御すらせずに槍に貫かれ、力なく倒れていった。

( ・∀・)「なんだよ。もう終わりか」

と、モララーが槍を折り畳もうとしたとき━━

( ´W`)

( ・−・ )

何事もなかったかのように立ち上がる男達。依然彼らの体には穴が空いたままだ。常人であればショック死してもおかしくない傷を負いながら、彼らは平然と立ち上がったのである。

さすがのモララーもこの二人に違和感を覚え始めた。

( ;・∀・)(なんだこいつら。敵の魔法なのか?)

どういうことかは分からないが、この戦いを終わらせるにはこの二人を殺す他ないようだ。

どれだけ切り刻んでも、どれだけ中を掻き回しても、こいつらは体が動く限り戦い続けるのだろう。

( ;・∀・)(とんだことになりやがったぜ)

ゾンビのように酷く緩慢とした動きで向かってくる二人を、モララーは槍でいなしながら考える。

少し離れたところで倒れているショボンと今の状況、さらに正体不明の男と出会ってから定かではない記憶。これらから導き出されるのは、自分が敵に操られショボンと戦わされた。

そして、何らかの方法でショボンはモララーを救いだし倒れてしまった、というところだろう。

5451:2014/08/01(金) 21:37:43 ID:Fg3tJaY20

では、この二人はなんだろうか。これまた推測ではあるが、敵の魔法によってモララーと同じく操られた人間、もしくは始めから作られた存在。

どちらにせよ敵であることには変わりないのだから、さっさと終わらせるに限る。

問題はどこまでのダメージが致命傷となるか、だ。

現状、普通の人間であれば死んでいるはずの傷ももろともせず今だ活動している彼らは、早さはなくなったものの十分に戦えるようだった。

( ・∀・)(てことは、本当に動けなくなるまでやらなきゃこいつらは止まらない)

上等だ。目の前に自分を止める奴がいるなら倒すまで。

モララーはそうやって生きてきたし、これからもそうして生きる。

邪魔をするやつは何人たりとも許さない。

( ・∀・)「行くぜ! おらぁ!」

モララーは槍を大きく振って衝撃波を放つ。

男達が吹き飛び、そのうちの武器を持たない男へと肉薄。急所である心臓部へと槍を突き立て、刺さったままぐるりと体を反転させる。

すぐ後ろまで迫っていた男を横から殴り付け槍を引くと、刺さっていた男も数メートルほどバウンドして動きを止めた。

5461:2014/08/01(金) 21:40:04 ID:Fg3tJaY20

そこから魔法、一点集中型の巨大な光の槍を展開して止め。大きなクレーターを形成して男は瓦礫へと沈んだ。

( ・∀・)「あらよっと!」

すぐに地を蹴り、宙を舞う。片方の男が拾ったハンマーを振りかぶっていた。

地響きと共にハンマーが誰もいない地を叩き、その隙に後方へ回ったモララーは首を切り飛ばす。

何も出来ずに倒れた男を見下ろし、一息つこうかと煙草を取り出しかけて━━

( ・∀・)「おっと」

振り向き様に槍を分解。巻き付けて男を拘束する。

( ・∀・)「こんなんじゃ不意打ちにもならねえぞ」

男の胸に手を当て、魔法陣を展開。体の内部を破壊する強力な攻撃を使い、そこから槍を振って遠くへ投げる。

( ・∀・)「めんどくせえ。終わらせ━━」

(´ ω `)「やめろ……」

( ・∀・)そ「副団長!?」

魔法陣を展開させかけて、モララーは慌てて止めた。敵の二人はもはや虫の息で、起き上がるのにも相当な時間をかけている。

5471:2014/08/01(金) 21:41:03 ID:Fg3tJaY20

( ・∀・)「大丈夫ですか? 俺が油断したせいで……」

(´ ω `)「謝罪は……あとだ。あの二人を、殺してはいけない」

( ・∀・)「はっ?」

(´ ω `)「あれは、一般人だ。間違いなく」

( ・∀・)「一般人て……」

(´ ω `)「僕達は……騎士だ。救わなきゃならない。だから」

満身創痍で立ち上がるショボン。足腰は震え、まるで生まれたての動物のように弱々しい。

( ; ・∀・)「そんな傷で戦うつもりですか!?」

(´ ω `)「当たり、前だ。僕は騎士で、彼らは一般人。命をかけてまで救うべき人達なんだ!! それが、僕の道なんだよ!!」

( ・∀・)「……分かりました。あいつらは敵に操られてるんですよね? なら、副団長は魔法の解析をお願いします。俺は足止めに徹しますから」

(´ ω `)「くれぐれも、殺すなよ」

( ・∀・)「了解」

騎士としての誇りや矜持がショボンを立たせているなら、その部下である自分はそれを支えるために働かねばならない。

尊敬する上司のため、先輩のため、決意新たにモララーは槍を振るう。

( ・∀・)「仕切り直しだよこの野郎」

5481:2014/08/01(金) 21:42:01 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

ξ;゚⊿゚)ξ「何よ、これ」

宿舎までたどり着いたツンと渡辺は、目の前で繰り広げられる戦いに萎縮してしまった。

人を越えた戦いとはまさにこのことだろう。黒の魔術団でさえここまでの実力を持つものはいなかったはずだ。

つまり、これは奴が生み出した戦闘兵器ということなのだろう。

从'ー'从「……どっくん」

渡辺が不安げに目の前の光景を眺めて呟く。

ツンは何かを言わねばならない、と察したがそれよりも大事なことがある今それを言うときではない。

ξ゚⊿゚)ξ「渡辺。早く宿舎に入りましょう。私達にはやることがある。優先順位を間違えちゃ駄目よ」

从'ー'从「うん」

戦場を避けて宿舎に侵入すると、中は大分荒らされてはいるもののツンと渡辺の荷物は無事だった。中身も無事だ。

ξ゚⊿゚)ξ「これと、これ。あとは、これもね」

必要なものを取り出し、持参したポシェットに入れていく。すると、隣でそれを見ていた渡辺が、

从'ー'从「そういえばしぃちゃんはどこかなぁ?」

ξ゚⊿゚)ξ「……確かに見当たらないわね」

彼女も相当消耗しているはずだ。魔物がいなくなったとはいえ、敵は無尽蔵に魔物を生み出すような魔法を操れるのだ。どこかで休んでいるのならばいいのだが。

5491:2014/08/01(金) 21:43:33 ID:Fg3tJaY20

ξ゚⊿゚)ξ「……一応これ飲みなさい。全快とはいかなくても、魔力は回復するわ」

小さな瓶詰めの液体を渡辺に渡し、自らも同じものを飲み干す。これで魔物と遭遇しても対応できるはずだ。

从'ー'从「……ねえ、やっぱり」

ξ゚⊿゚)ξ「分かってる。もしかしたらって可能性もあるしね。念のためこの周辺を━━」

ツンが言い終わる前に、部屋の壁を突き破って何かが飛んできた。二、三度床を跳ねて止まったそれを見て、思わずツンは駆け寄る。

(*#ー")

ξ;゚⊿゚)ξ「しぃ!?」

从;'ー'从「しぃちゃん!!」

傷だらけのボロボロ。衣服は破れ、露出した肌は裂けて血が滲んでいる。

( ゚"_ゞ゚)「おや、小娘と遊んでいたら忌み子と道具に遭遇するなんてな」

穴の空いた壁から男が顔を出した。

ξ゚⊿゚)ξ「棺桶死オサム……」

( ゚"_ゞ゚)「久しいな、貞子の道具。君も俺の研究対象として欲しかったのだが、もはや無用の産物だよ」

ツンはオサムを睨み付ける。この男ほど生理的に嫌悪感を抱かせる人間も珍しい。見ただけで嘔吐感が込み上げてきた。

5501:2014/08/01(金) 21:44:56 ID:Fg3tJaY20

ξ゚⊿゚)ξ「あんたなんかに体をいじくられなかっただけ不幸中の幸いだったわ」

( ゚"_ゞ゚)「そう嫌わないでくれ。今俺は気分がいいんだ。魔剣を覚醒させ、神を創造した。もはや君達では止められないほどに事態は進展したのさ」

ξ゚⊿゚)ξ「冗談じゃない。あんたのやり口くらい私が分からないとでも思ってんの? 止めてみせるわ。こんなくっだらない計画、全部ね」

( ゚"_ゞ゚)「相変わらず威勢だけはいい。王都の連中に感化されたようだ」

ξ゚⊿゚)ξ「……渡辺」

ツンは杖を構えてオサムと対峙する。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと野暮用ができたの。しぃを連れて話した通りにできる?」

从;'ー'从「え? でも……」

ξ゚⊿゚)ξ「お願い。黒の魔術団とのけじめはきっちりつけときたいの。特にこいつは、私の体に描かれてる魔法陣の考案者だからね」

本来であれば貞子に対するけじめだったのだ。しかし、この男も貞子同様人を弄ぶ、いやそれ以上の屑。黒の魔術団を知るツンとしては何がなんでも止めなければならない。

(*#ー")「駄目……です」

臨戦態勢に入ったツンの後ろから、小さな小江が聞こえた。

从;'ー'从「しぃちゃん!? 立ち上がっちゃ駄目だよ!!」

しぃはよろよろと立ち上がると、ツンの隣でステッキを構える。

(*#ー")「この人は、私が倒さないと……」

5511:2014/08/01(金) 21:46:16 ID:Fg3tJaY20

小さな声だが、確かな意思を感じる声色。つい先程までおどおどしていたはずの彼女とはうってかわって、決意が溢れている。

ξ゚⊿゚)ξ「無茶よ。何があったかは知らないけど、その体じゃろくに戦えない。休んでなさい」

(*#ー")「人を、命を、この人は弄んでいるんです! たくさんの可能性を、未来を奪い、自分の欲求を満たすための道具にしか思ってない人間を、私は許せません!」

从'ー'从「しぃちゃん……」

しぃの想いは人として、騎士として至極当然のことなのだろう。そして、本人もそうありたいと願うからこそ、ここに立っている。

自分の命を省みずに。

ツンはしぃと自分を重ねてしまった。

自分の理想や思想なんて、黒の魔術団に入った時からどこにもなかったとツンは気づかされる。

どこまでも真っ直ぐで、愚直なほどの理想をツンはどこかに置き忘れてしまったのかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ(……子供なのは私なのかも)

全てに絶望した自分と、そこから立ち上がろうと足掻くしぃ。

ツンにはしぃを止める権利などありやしない。

从'ー'从「それなら、私も協力するよぉ〜。一人じゃ出来ないことも、みんなでやれば不可能じゃないよ」

(*#ー")「ですが」

从'ー'从「ね? ツンちゃん」

渡辺に振られツンは少しの間、迷う。

自分は二人の隣に立つ権利があるだろうか?

どこまでも愚かな自分は、正義のために戦えるのだろうか?

ξ-⊿-)ξ

5521:2014/08/01(金) 21:47:35 ID:Fg3tJaY20

そんなもの、ありやしない。けれど、ツンは今自分の意思で決めることができる。

心のままに、歩くことができる。

ξ゚⊿゚)ξ「しぃはまず体力と魔力の回復をしなさい。そこの鞄に回復瓶が入ってる。渡辺と私で少し時間を稼ぐわ」

从'ー'从「ツンちゃん!」

ξ゚⊿゚)ξ「勘違いしないで。こいつを倒すには三人の方がいいって判断しただけよ。それじゃ、やるわよ!」

( ゚"_ゞ゚)「相談は終わったか? それじゃ心置きなくやらせてもらおう」

オサムの周辺に魔法陣がいくつも出現する。そこから三体の魔物といくつかの光球が現れた。

ξ゚⊿゚)ξ「渡辺は右の魔物を、私は真ん中と左のをやる」

从'ー'从「了解だよぉ〜」

ツンは杖を前に振ると、すかさず攻撃を放つ。貞子直伝の闇魔法、巨大な爪を模した黒い塊がオサムのいた辺りをまとめて抉りとった。

さらに頭上から黒雷。敵の立っている場所をまとめて吹き飛ばす。

ξ゚⊿゚)ξ「これで終わりじゃないでしょ?」

もくもくとあがる煙の中から浮かんでいた光球が飛来した。

ツンはひらりと横に飛んでそれをかわす。闇魔法では一切の防御魔法を形成することができないため、防御や回避は己の体術次第なのだ。

从'ー'从「えーい!」

渡辺が隣で箒を降っていた。部屋全体を包む莫大な炎の渦がいくつも巻き起こり、周辺の物という物が消し炭になっていく。

5531:2014/08/01(金) 21:49:20 ID:Fg3tJaY20

ξ;゚⊿゚)ξ「出力間違えてんじゃないの?」

渡辺の攻撃に呆れながらも魔法をいくつも設置していく。部屋から出さないように、しぃに被害が及ばないように考えながら、敵の行動を予測しながら。

( ゚"_ゞ゚)「なかなかやるな」

視界が一気にクリアになる。オサムが何かしたのか、煙が一斉に掻き消えた。

( ゚"_ゞ゚)「だが甘い」

オサムの目の前に生き耐えた魔物が横たわっている。それらはすぐに光となり、魔法となり、凶器となってツンと渡辺に降り注ぐ。

从'ー'从「ツンちゃん!」

渡辺がツンの前に躍り出て防御結界を形成した。結界に弾かれ、光の槍は霧散する。

ξ゚⊿゚)ξ「喰らいなさい!」

床が盛り上がり、板を突き破って黒い棘が現れた。それに触れた木の板は瞬時に溶けていく。

オサムの後方にまで及んだ黒い棘は、彼の行動を制限すると同時にこちらの動きを見えなくさせた。

5541:2014/08/01(金) 21:52:02 ID:Fg3tJaY20

さらにツンはその棘を起点として黒い霧を噴出させる。

( ゚"_ゞ゚)「これは……」

ξ゚⊿゚)ξ「闇毒よ。体内に入れば魔力と臓器を蝕む強力な毒にあんたは耐えられるかしら」

( ゚"_ゞ゚)「戦法としては面白いが、まだまだだな」

不意に、後ろから衝撃。一気に部屋の端まで叩きつけられる。

ξ ⊿ )ξ「がはっ……」

( ゚"_ゞ゚)「幻も見分けられないとは、やはりまだ子供か」

从'ー'从「ツンちゃん一人じゃないよ」

渡辺の炎がオサムを包んだ。周囲の魔力が瞬時に膨れ上がり、さらに火力を増す。

ξ;゚⊿゚)ξ「駄目! それは━━」

( ゚"_ゞ゚)「幻だ」

从;'ー'从「え?」

渡辺の目の前にオサムが現れ、グーで殴り付ける。体を崩した渡辺を、さらに魔法で弾き飛ばす。

ξ゚⊿゚)ξ「こんのぉ!」

闇で作られた龍がオサムへと迫る。同時に設置した魔法も発動。四方八方を囲んで動きを封じたはずが━━

( ゚"_ゞ゚)「弱いな」

オサムは手を頭上に掲げる。それだけで魔力に戻された魔法が彼の掌に収束してしまった。

( ゚"_ゞ゚)「君達程度の魔法なら瞬時に解析できる。勝ち目はないと思うぞ」

(*゚ー゚)「それはどうでしょうか」

5551:2014/08/01(金) 21:53:13 ID:Fg3tJaY20

しぃの声が静かに、しかしはっきりと響いた。オサムが振り向く前に肉薄していたしぃは彼の体に魔力を放出する。

魔法として論理的に構築されたものではなく、相手を傷つけるだけの暴力的な魔法。

オサムは防ぐ間もなく直撃し、部屋の壁を破り、ツンの設置魔法をいくつかその身に浴びながら彼は外へと押し出された。

从'ー'从「もう大丈夫なの?」

(*゚ー゚)「ええ。大分回復しました。お二人ともありがとうございます」

ξ゚⊿゚)ξ「礼を言うより、やることがあるわ。さっさと終わらせてシャワー浴びるわよ」

三人で外へ出ると、ボロボロになったオサムが立ち上がるところだった。肩で息をしながらにやりと笑っている。

( #"_ゞ゚)「さすがに、今のは効いたよ。うまく連携を取られる対処できないものだな」

ξ゚⊿゚)ξ「さっさとこの街に張り巡らせた魔法を解きなさい。そうすれば半殺しで勘弁してあげる」

( #"_ゞ゚)「それは無理な相談だ。すでに計画は最終段階に入っている」

从'ー'从「どういうこと?」

( #"_ゞ゚)「さてな。俺はここらで退かせてもらおう。あとは君達の目で確かめるといい」

5561:2014/08/01(金) 21:54:35 ID:Fg3tJaY20

そう言ってオサムの姿が薄くなっていく。ツンはすぐに魔法で攻撃するものの、幻を貫通しただけでどこかへいってしまった。

あとには沈黙と破壊の爪痕だけが残る。三人は互いに顔を見合わせるが、言葉はない。

ξ゚⊿゚)ξ「計画ってなんなのよ」

やがて、ツンがぼつりと呟いた。

从'ー'从「なんだろう。でもでも、よくないことなのは何となくわかるよぉ〜」

渡辺が気の抜ける間延びした声で言うが、彼女からすれば十分に気を引き締めているのかもしれない。

(*゚ー゚)「……そういえば、ドクオさんは?」

思い出したようにしぃが言うと、ツンもはっとなる。確か、のっぺりとした人形のようなものと戦闘していたはずだが、近くだというのにめっきり音が聞こえない。

ξ゚⊿゚)ξ「さすがに死んでないとは思うけど、様子を見に行きましょう」

5571:2014/08/01(金) 21:55:58 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

貧しい家に生を受け、早くに両親を亡くして物乞いにまで身を堕とし、日々の食事に困るような生活が続いた自分にも目指すものができた。

報われぬ者に救いの手を。

なんといい言葉だろう。

報われぬ自分には誰も救いの手を差し伸べてはくれなかったが、たまたま盗みに入ったきらびやかな建物の中で一人の男が分厚い本を読み上げていたのを聞いた。

幼かった彼にはそれが何なのかは分からなかったが、あれは神の御教を謳う聖書だったのだ。

それを読み上げる時間は決まっていて、朝昼晩の三回。彼は当初の目的も忘れて何度も何度もその男の言葉を聞きに足しげく通うまでになる。

そんなある日、彼はとうとう見つかってしまった。自分が街で悪評高い盗人だということも男は知っていたが、彼は怒られることもなくもてなされてしまう。

『腹が減ったのならいつでも来るといい。だが、人様の物を盗るのはよくないことだ』

彼はそう言って笑顔で自分の頭を撫でてくれた。

報われぬ者に救いの手を。

その日、その時、その瞬間から彼のいく道は決まっていたのかもしれない。

男は教会に務める神父なのだといった。謳いあげたのは聖書という。

彼は熱心に神父の教えを聞き、その言葉の通りに生きていく。

誰も救ってはくれないが、神父はこんな子供を救ってくれた。

だから自分も同じように、誰かを救う人間になろう。

神の御教をどこまでも愚直に守っていこう。

彼に一つの道ができた。

5581:2014/08/01(金) 21:57:02 ID:Fg3tJaY20



『そうするほか、我が子達を助ける方法はないんだな』

男の声が静かに響いた。目の前にいるのは男と、女。計三人の人間が神妙な顔つきで話し合っている。

『あなたが協力してくれるというなら、私達が口を利いて差し上げますわ。あなた一人と未来ある子供達の命、考えるまでも思いますが……』

『分かっているさ。私は老い先短い。こんな老いぼれの体でよければ喜んで差し出そう』

『話が分かる御仁で助かりますよ。これで俺の研究も飛躍的に進むでしょう』

男がにたりと笑う。その笑顔がけして善意的なものではないことは分かっていた。それでも、彼は提示された条件を飲む他に子供達を救う手段がないことを知っている。

孤児など食い扶持を減らすお荷物でしかない。

みすぼらしい子供を喜んで引き取るような人間はこの世界にはいないのだ。

誰も彼もが地位と権力に固執し、偽善と欺瞞を振りかざし、人を人とも思わぬ愚行を繰り返す。己を魅せるために金を使い、見せしめのために人をも殺す。人命など路傍の石よりも価値のないごみのような扱い。

それでも彼が善であれたのは、子供達の無垢な心と神の教えがあったから。報われぬ者達に救いの手を、悪しきものは裁きの鉄槌を。

それは彼の矜持であり、信念であり、生きてきた道でもある。

だからこそこうして全てを受け入れる覚悟ができた。

『老兵はただ去り行くのみ。世界が戦場ならば、それもまた一つの真理だ』

『殊勝な心がけでございますわ』

『この教会はどうされるおつもりで?』

『信仰などとっくに廃れている。ならば無くなったところで特に影響はないだろう。好きにするがいい』

『そうですか。ならば好きにさせていただきましょう』

559名も無きAAのようです:2014/08/01(金) 22:03:01 ID:P.oddmBI0
見てるよ
支援

5601:2014/08/01(金) 22:03:22 ID:Fg3tJaY20



『神父様、どうして教会の取り壊しを受け入れたんですか?』

幼い少女に尋ねられて、彼は苦笑する。

神父のいない教会に価値はない。子供のいない孤児院に意味はない。

自分が抱えた荷物は自分だけで背負うものだ。ましてや幼い子供達に負い目を感じて欲しくはない。彼女らは自分の、そして未来を担うかけがえのない財産なのだから。

全てを明かすこともできただろう。明かした上で、選択を強いることもできた。だがそうしたところで彼女達の命を自分一人で守ることなどできやしない。

老兵は去るのみ。

彼はもう世界から消える。大切なものを救うために。

『私の役目はもう終わったのさ。君達は君達の道を歩むといい。生きるための道は信頼できる人間が教えてくれるだろう』

『でも……』

『大丈夫。何も恐れることはない。君達は何でもできて、何にでもなれる。そのための下地は十分に教えたはずだ』

少女は首を傾げる。

聡い子だ、今は分からずともきっと近い将来に理解するだろう。その時、自分が言ったことを正しく導いてくれれば、蒔いた種は芽吹くはず。

自然と笑みがこぼれた。

『いつか君は大きな壁の前に立ちすくむかもしれない。今日という日を後悔するかもしれない。けれども、君は君の信じる道を行きなさい。たとえどれだけ辛くとも、悲しもうとも、歩くことをやめてはいけない。その先にこそ、君が君であるための答えを見つけられるはずだから』

神は人を救わない。どれだけ綺麗なお題目を掲げたところで、それは紛れもない事実。

人を救うのはいつだって人なのだ。人は一人で生きていけないから、手を取り合って助け合いながら生きていく。

魔法が繁栄し、その事実を人が知ったとき、神は必要とされなくなった。

けれども、彼には神がいないとは思えないのだ。人の未来は誰にも分からない。だからこそその先にある巡り合わせというのは運命の悪戯だとか、奇跡だとか呼ばれるのだろう。

願わくば、彼女に幸多き人生を。

5611:2014/08/01(金) 22:06:33 ID:Fg3tJaY20



『何を……する気だ……』

『何、あなたはこれから神にも等しい存在へと昇華する。そのための準備さ』

『……ならばこれはなんだ!! お前達は人々を救うための組織ではなかったのか!? なのに、なのに━━』

目の前に積まれているのはたくさんの人、人、人。どれもこれも血みどろで息をしていない。

『必要な犠牲だよ、神父様。世界の平和というのは常に犠牲の上に成り立っている。先の戦争も多大な犠牲のお陰で終結したに過ぎない』

『だからといって、罪もない人を手にかけていいはずがないだろう!?』

『綺麗事だよ。それに、この世界は近い内に生まれ変わる』

『……どういうことだ』

『この世界に人間という病原菌がいる限り平和など訪れやしない。だから、一度壊すのさ。そこから世界は新たな歴史を歩むことになる』

『何を……』

『あなたには、全てを壊してもらう。世界から、人という人を』

『やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』

『あははははははははははははは!!』

5621:2014/08/01(金) 22:09:16 ID:Fg3tJaY20

◇◇◇◇

( A )「ぐっ……」

間一髪、ドクオは自ら振り下ろした剣を握っていた。

( ∵)

彼の下には傷だらけの人形が横たわっている。驚異的な再生力を見せていたはずが、いつの間にか体中ボロボロで身動き一つしない。

( A )(今のは、こいつの記憶か?)

戦いの最中、突如ドクオの脳裏に浮かんだ映像に出てきた人物はどこか人形の面影があったように思える。

以前にも似たようなことがあった。貞子と戦う前に、ツンのものと思しき記憶が流れ込んできたことが。

何故このようなことが起こっているのか、ドクオには分からない。けれども、この記憶の流出はドクオに何かを伝えているのだということだけは分かる。

ツンも、こいつも、同じく誰かに助けを求めて、助けてもらえなかった。救いの手を差し伸べてもらえなかった。

誰かが手を差し伸べれば、他の道があったかもしれないのに、みんなが笑っていられる幸せな未来が待っていたはずなのに。

( A )(俺は、こいつを斬っていいのか? 殺してしまって、本当に正しいのか?)

剣を握る手に力が入る。

早く殺せと、壊せと内から溢れ出るなにかがドクオに命じていた。

殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセコロセコワセ

5631:2014/08/01(金) 22:10:06 ID:Fg3tJaY20

( A )(くそっ、静まれ! 静まれ!)

なおも強い殺人衝動と破壊衝動が全身を巡り、体が言うことを利かない。この体も、心もドクオのものだ。他の誰でもない、自分のことは自分で決める。

(゚A゚)「邪魔だ! お呼びじゃねえんだよ糞野郎!」

ドクオが叫ぶと同時、声が聞こえた。集中しなければ聞こえないほどの小さな声。それは悲しみに彩られ、深淵の底から響くような暗い感情を引き起こしてくる。

『━━━━』

何を言っているかは分からない。分からないが、意味だけは分かる。

これは単純なる破壊と殺戮を求めている。そのためにドクオを欲していた。自由に動く体を、血塗られた心を。

( A )「がぁぁぁ……」

軋みをあげながら腕が徐々に下へと落ちていく。同時にドクオの指の肉も少しずつ離れていった。

( A )「俺のことは俺が決める。俺がしたことは俺が背負う。だから勝手に命令すんな。俺は」

( A )「こいつを殺さない!!」

瞬間、ドクオの腕はふっと力が抜けた。

('A`;)「はぁっはぁっ」

滝のような汗が流れ、ドクオはその場にへたりこむ。止めどなく脱力感が押し寄せ、気を抜いたら意識を持っていかれそうだった。

だが、まだ終わらない。もしかしたら、この人形は救えるかもしれないのだ。

('A`)「……お前に聞きたい。お前は、しぃちゃんの探してる神父なのか?」

( ∵)

5641:2014/08/01(金) 22:11:19 ID:Fg3tJaY20

ボロボロの人形は答えない。じっとこちらを見つめているだけ。

('A`)「あんたは人を救うために、オサムに利用されたんじゃないのか?」

( ∵)

('A`)「なぁ、答えろよ。しぃちゃんはあんたを探してるんだ。あんたに会いたがってるんだ。あんたに、ありがとうって言いたいんだよ!」

( ∵)

( ;.;)

('A`)「あんたにもまだ人の心が残ってるんだ。今からだって遅くない。しぃちゃんに会ってやってくれよ」

( ;.;)ソウカ……シィガワタシヲ……

('A`)そ「……」

('A`)「そうだよ! 今この街に来てる! だから」

( ;.;)ダガモウオソイ。ワタシハヒトノミチヲオオキクフミハズシタ

('A`)「どんな姿になったってあんたはあんたじゃないか! あの子が欲しいのはあんたの言葉なんだよ!」

( ;.;)シンネンヲウシナッタワタシハタダノドウグデシカナイ

('A`)「違う! あんたはまだ心を失っていないじゃないか。誰かを心配し、人を想い、安寧を願ってる! それは紛れもない人としての心だろう!」

( ;.;)ワタシハ━━

彼が何かを言いかけたとき、後方から殺気を感じてドクオは振り返る。

( ゚"_ゞ゚)「人形相手におしゃべりとはいい趣味じゃないか」

5651:2014/08/01(金) 22:12:29 ID:Fg3tJaY20

('A`)「オサム……」

( ゚"_ゞ゚)「人形にまだ自我があるとは驚いたが、それも些細なことだ。計画はすでに最終段階に入っている」

('A`)「最終段階?」

( ゚"_ゞ゚)「教える義理はないが、俺を追ってこい。そこで全てを見せてやろう」

オサムが指を鳴らすと、人形と共に姿が揺らぐ。

('A`)「ちっ、待ちやがれ!!」

『採掘場に来るといい。君が来るのを待っているよ』

それだけを残して、オサムと人形は消えた。

('A`)「……の野郎」

心の底からあの男への怒りが湧いてくる。

人をあんな風に変えてしまったことを、誰かを想う心を踏みにじったこと、大切なものを奪ったこと。

そのどれもが越えていい領域を踏み外している。

('A`)「お前は絶対に殺す」

誰もいなくなった街で、ドクオは一人呟いた。

そして、ドクオは一つの変化にも気付く。

人の命の重さ、心の在処、その認識が自分の中で価値を変え始めていることに。

从'ー'从「どっくーん!」

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえ、そちらに顔を向けると渡辺が手を振りながら走ってきていた。

('A`)「渡辺……」

自分も、人を踏み外した存在なのだろうか。

人形との戦いで力を欲した自分は、ひたすらに破壊と殺戮を望んでいた。それだけが自分の存在価値なのだと信じこんでいた。

果たして、ドクオはまだ人であるのか、自分ですら分からない。

( A )「俺は……」

まだ、人でありたい。

5661:2014/08/01(金) 22:13:41 ID:Fg3tJaY20



渡辺、ツン、しぃと合流したドクオは簡単に近況を交換し、これからのことを相談する。

ξ゚⊿゚)ξ「私と渡辺はオサムが張ってる術式を解きに行くわ。多分だけど、あいつが使ってる術式は私に使われてる術式を応用しているはずだから」

从'ー'从「私が行っても役に立つかなぁ……」

ξ゚⊿゚)ξ「一人じゃどうしようもないかもしれないでしょ。とにかく今は人手が欲しい」

('A`)「……そうだな。ならそっちは任せるよ」

(*゚ー゚)「私はオサムと対決させていただきます。彼の考え方を私は許すことが出来ません」

ξ゚⊿゚)ξ「ほんとは私もそっちに行きたいんだけど、ま、今回は任せるわ。私の分もぶん殴っておいて」

(*゚ー゚)「分かりました」

从'ー'从「穏便じゃないよぉ……」

あれこれと話が進む間、ドクオはしぃに話すべきかを迷っていた。

あの人形は、しぃの探し人だ。お礼を言いたいと語るしぃの表情は真剣そのもので、そして、もしかしたら二度と叶わないものかもしれない。

彼はまだ人間だった。けれどもドクオにはそれを救う手だてがない。戦闘になれば彼ともう一度話す機会はないかもしれないのだ。

そうなれば、ドクオは迷うことなく彼を殺すだろう。人に危害を与えるために作り替えられた存在は、否応なく周囲を破壊し尽くす。それは彼の望むことではない。

5671:2014/08/01(金) 22:14:31 ID:Fg3tJaY20

そして報われぬ者に救いの手を、という信条を持った彼の教えを受け継いだしぃにそれを見せるのはなんとしても避けたかった。

('A`)「……しぃちゃん。君はツン達と行ってくれないか?」

(*゚ー゚)「敵の数は二人ですよ? いくらドクオさんと言えど数の不利は覆せません」

('A`)「けど、その……」

言い淀むドクオにツンが詰め寄った。思わずドクオは一歩下がってしまう。

ξ゚⊿゚)ξ「あんた、なんか隠してない?」

('A`;)「んなことはないけど……」

ξ゚⊿゚)ξ「私の目をちゃんと見なさい」

しばしツンと見つめ合う。気恥ずかしさよりも、自分の心を見透かされそうな瞳に、ドクオは視線を逸らしたくなる。

ξ゚⊿゚)ξ「……しぃ、ドクオと行きなさい。こいつなんか隠してる」

('A`;)「ちょ、おい!」

ξ゚⊿゚)ξ「うっさい! あんたのことだからしぃのこと心配してるんでしょうけど、そういうの余計なお世話っていうのよ? しぃももう子供じゃない。自分の道は自分で決められる。自分の荷物くらいきちんと背負えるわ」

(*゚ー゚)「……はい。それくらい、当然です」

从'ー'从「そうだね。もし、抱えられなくなったら私達が支えてあげればいいもん。しぃちゃんは一人じゃないよ」

女性三人にそう言われると、ドクオはなにも言えなくなってしまう。

小さく溜め息をつくと、ドクオはしぃの頭を撫でてやった。

5681:2014/08/01(金) 22:15:23 ID:Fg3tJaY20

(*゚ー゚)?「ドクオさん?」

('A`)「その、なんだ。必ずしぃちゃんのことは守るよ。けど、色々と覚悟はしといてくれ。多分、俺だけじゃ何も出来ないから」

(*゚ー゚)?「はぁ……」

本当は、あの人形のことだけじゃなく、自分のことも心配なのだ。もしかしたら自分はまた力に飲まれてしまうかもしれない。得体の知れない何かに身を任せてしまえば、ドクオはたくさんの大切なものを傷つけてしまう。それだけは何としてでも見られたくなかった。

('A`)「……危なくなったら逃げてくれ」

(*゚ー゚)「分かりました」

ξ゚⊿゚)ξ「私達は術式の解除が終わったらショボンさん達の捜索に向かうわ」

('A`)「俺達よりお前らの方が大変そうだけど、しくじるなよ。駄目だったら全部パーだ」

ξ゚⊿゚)ξ「誰にもの言ってんのよ。私と渡辺は最高のパートナーよ?」

从;'ー'从「私自信ないなぁ〜……」

(;*゚ー゚)「そこは嘘でも任せてって言いましょうよ……」

('A`)「とにかくやることは決まったな。お互い頑張ろう」

ξ゚⊿゚)ξ「もちろんよ」

从'ー'从「おー!」

(*゚ー゚)「はい!」

そうしてドクオ達は二手に別れて行動を開始する。ドクオとしぃはオサムとの決戦を、ツンと渡辺は術式の解除とショボン達の捜索。

四者四様の最終決戦の火蓋が切って落とされた。

('A`)(*゚ー゚)

ξ゚⊿゚)ξ从'ー'从

5691:2014/08/01(金) 22:16:08 ID:Fg3tJaY20
第十二話 終

5701:2014/08/01(金) 22:22:14 ID:Fg3tJaY20
これにて本日の投下終了です
本当は最後の手前くらいまで書きたかったのですが予想以上に長くなったので半分にわけました
モ・トコでの話もあと二話で終わるかと思います
ちょっと転職などしまして忙しいですが、また来週には投下したいと思います
それでは本日も読んでいただきありがとうございました

571名も無きAAのようです:2014/08/01(金) 22:41:44 ID:P.oddmBI0

今回もボリュームがあって面白かったよ

5721:2014/08/01(金) 22:51:19 ID:Fg3tJaY20
>>571
投下中の支援ありがとうございました
自分は何分気分屋なもので筆の乗り具合が日によって変わってしまいます
しかも文章の書き方というか、表現の仕方も安定しないので分かりにくかったらすいません
一応一話の文量は電撃文庫換算で30ページくらいに納めています
なのでボリュームがあるかと言われると、実はそうでもなかったりしますw
こういった御言葉はとても励みになります
ありがとうございました!

573名も無きAAのようです:2014/08/02(土) 00:50:31 ID:g6yeSXj20
乙乙
面白かったです

574名も無きAAのようです:2014/08/02(土) 04:00:04 ID:wQBqFdF60
( ^ω^)乙だお
( ^ω^)今回もハラハラしたお
( ^ω^)次回も期待だお

575名も無きAAのようです:2014/08/02(土) 05:42:55 ID:rQG3EmWk0
顔文字君キッショw

576名も無きAAのようです:2014/08/02(土) 12:16:30 ID:wQBqFdF60
( ^ω^)んだこら

577名も無きAAのようです:2014/08/02(土) 13:15:25 ID:fa5uI3A20
やめなよ

578名も無きAAのようです:2014/08/02(土) 17:55:40 ID:7V5cjlh60
君は顔文字じゃなくてブーンって名前がちゃんとあるだろ?

579名も無きAAのようです:2014/08/02(土) 20:38:04 ID:DseNonJU0
( ^ω^)だおだお

580名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 01:17:39 ID:KJ/61X2c0
誰でもいいけど騙り者は嫌われるもんだ、あぼんしようにもここじゃAAで弾けないしね
だからウザがられてんじゃない?

581名も無きAAのようです:2014/08/03(日) 01:42:12 ID:pAc3K2eM0
( ^ω^)ウザくないお

5821:2014/08/05(火) 00:49:00 ID:JrzmoqSI0
どうも1です
今週の金曜日に第十三話を投下できそうです
残り二話、気張っていきます

5831:2014/08/05(火) 00:52:26 ID:JrzmoqSI0
それと顔文字付きのコメントに関してですが、今後もスレが荒れるようであれば差し控えていただけると幸いです
できれば皆様には私が書いた作品を滞りなく読んでいただきたいので、心苦しいですがご了承いただきたいと思います
差し出がましいようですが、ご理解くださいませ

584名も無きAAのようです:2014/08/05(火) 12:42:25 ID:P4Kmuoro0
川 ゚ -゚)「作者乙だぞー!!」

↑こういうの駄目って事か?
ブーン系コミュニティでAAレスが否定されるのは違和感があるな
過度の連レスを制限すれば問題無いように思うが

まぁスレの自治は作者に任せる

5851:2014/08/05(火) 13:19:12 ID:62eFFt6g0
>>584
いえ、あくまでそういったレスで荒れるのであればですかね
自分は特に問題はないと思ってますし、嬉しいです
ですが、過度にやり過ぎて不快に思うかたもいるかもしれないので、注意と捉えていただければと思います

586名も無きAAのようです:2014/08/05(火) 18:40:32 ID:KYq37fZc0
何だろうな、顔つるっつるの中坊がガクトやキムタクの真似してるようなそういう類の不快感なんじゃないだろうか

5871:2014/08/09(土) 23:19:22 ID:Mp/6WgvU0
どうも1です
引っ越しやら何やらでまだ半分ほどしか書き上げておりません
本来であれば昨日金曜日の投下だったのですが、おそらく来週のどこかになりそうです
やるやる詐欺で申し訳ありません
近いうちに投下日を告知しに参りますので今しばらくお待ちくださいませ

588名も無きAAのようです:2014/08/10(日) 01:33:26 ID:EfICnaYE0
超待ってる
だが無理はしないで自分のペースで書いてくれよ

http://www.youtube.com/watch?v=QleN4Bjvl1E&amp;feature=youtube_gdata_player
俺の中でのEDテーマ
なんとなく渡辺のイメージ

5891:2014/08/11(月) 12:49:56 ID:5Fyh4cMU0
どうも1です
今週の金曜日にはなんとか投下できそうですのでお待ちいただければ幸いです
投下前にあと二話で終わると言ったのですがもしかしたらあと三話ないし四話になるかもしれません

>>588
こういうのを見ると書いててよかったなぁと思いますね
やはり動かすキャラには愛着があるのでそれぞれのテーマソングとかイメージ曲なんかは見るだけでニヤニヤしてしまいます
一応自分的オープニングやエンディングもあるにはあるのですが、ここでは明言しないでおきますw

5901:2014/08/15(金) 05:26:19 ID:enxHGJmg0
どうも1です
本日21時より投下開始いたします
百物語と重複すると思いますが、目を通していただけると幸いです

591名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 08:53:48 ID:WlLTJE9c0
百物語も書くのか!
楽しみ

592名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 08:54:36 ID:WlLTJE9c0
あっ勘違いだ
とにかく楽しみにしとく

5931:2014/08/15(金) 21:00:18 ID:YSQy/0hU0



第十三話「戦う理由」



.

5941:2014/08/15(金) 21:03:39 ID:YSQy/0hU0

◇◇◇◇

('A`)「どうやら招かれてるみたいだな」

(*゚ー゚)「鉱山の地下にこんなものを設けているとは……」

ドクオとしぃは目の前に漂う一つ目の魔物についていきながら周囲を警戒する。ここはいわば敵の本拠地、いつ何が起きてもおかしくはない。オサムが不意打ちを仕掛けてこないとも限らないのだ。

明らかに人の手が入った縦長の通路を歩いていくと、開けた場所に出る。ドーム状の空間、その中心に巨大なタワーが建っており、周囲を大規模な術式が囲んでいた。

そこに二つの人影。

( ゚"_ゞ゚)

( ∵)

ドクオはゆっくりと歩いていく。これが最後の戦い。オサムを倒し、神父を救う。これ以上あの人を苦しませてはならない。

('A`)「言われた通り来てやったぞ。随分と悪趣味な秘密基地じゃないか」

静かに、だがはっきりと言葉を紡ぐ。それでも半球状のここではドクオの声が反響していた。

( ゚"_ゞ゚)「どうだ? 俺の研究の成果が全て詰まっているこの場所は。神秘的で、感動的だろう」

('A`)「はっ。お前の美的感覚は壊滅的だな。こんな薄気味悪い場所がお気に入りだなんてどうかしてる」

5951:2014/08/15(金) 21:05:41 ID:YSQy/0hU0

( ゚"_ゞ゚)「褒め言葉として受け取っておこう。だが、そんな口を利けるのも今だけだ。すぐに断末魔の嬌声をあげさせてやろう」

(*゚ー゚)「あなたの悪巧みもここまでです。私達があなたの計画を止めてみせます」

( ゚"_ゞ゚)「下らない正義感、だな。本当にくだらない。人間の本質を理解しているのか? 人の歴史とは戦いの中で生まれてきたというのに、君達はそれを否定するのか?」

('A`)「過去のことなんて知らないよ。俺達が生きるのは今で、その先なんだ。たとえ戦いの中で歴史が作られたとしても、これから先もそうやって歩んでいくとは限らない」

(*゚ー゚)「人の心はあなたが言うほど醜いものではありません。誰かを想い、手を伸ばす優しさを誰もが持っているんです。生まれながらの悪なんて、本当はどこにもいないんですよ」

( ゚"_ゞ゚)「綺麗事だな。よほど幸せな生活を送っていたようだ」

('A`)「引くつもりはないんだな?」

( ゚"_ゞ゚)「元よりそのつもりだが」

オサムの言葉にドクオは剣を抜いて答える。もはや言葉ではこの男は止まらない。

( ゚"_ゞ゚)「君達には君達の理想があるように、俺にも俺の信念がある」

('A`)「黙れ。誰かを死なせてまで手に入れる思想なんて、たとえその先に誰もが笑っていられる未来があったとしても、俺は認めない」

ドクオとオサムの視線が交差する。

ドクオの言葉は奴が言う通り綺麗事だ。ドクオ自身貞子を手にかけている。彼女にも未来があったはずで、その未来をドクオは奪ったのだ。自身の手で自分の言葉を否定している以上、こんなことを言うのは間違っているのだろう。

5961:2014/08/15(金) 21:06:59 ID:YSQy/0hU0

必要な犠牲だったとは言わない。自分の価値観で人の生死を決めたのだからドクオは立派な罪人だ。だからこそ、ドクオはその事実を受け止めて歩かねばならない。

('A`)「俺もあんたと同じ人間だよ。けどな、いや、だからこそ言ってやる。お前は間違ってる」

( ゚"_ゞ゚)「……ふっ、人を殺すために剣を振るうか。ならば、俺も相応の力で答えるとしよう。来い! 魔剣の主!」

オサムが手を振った。瞬間、人形がこちらに走り出す。

( ∵)

大降りのフック。ドクオは後ろに下がって剣を抜いた。人形はそのまま拳の連撃。その全てをうまく避けて、一瞬の隙を見つけて懐へと入る。

('A`)「らぁっ!」

人形の腹に横一閃。金属がぶつかる音、腹部に少し食い込んだだけでダメージにはならなかった。

踏み込んだ足を軸にそこから体を反転させ、回し蹴りを叩き込む。人形の体が吹っ飛び、ドクオは追いかける。

( ゚"_ゞ゚)「俺を忘れるなよ」

オサムの声と同時に下方から地面が盛り上がった。どのような魔法かは知らないが、ドクオは強引に横へと跳ぶ。

着地した瞬間、体勢を立て直した人形が迫っていた。

('A`)「ちっ!」

(*゚ー゚)「ドクオさん!」

人形の横から高速の水弾が四つ。人形がそちらへ意識を向けた。

('A`)「こん、のぉ!」

胸の辺りを狙って鋭い突きを繰り出す。ほとんど同時の攻撃に人形がわずかに動きを止めた。

だが、二人の攻撃は見事に外れることとなる。

人形の体が半透明になり、光となって霧散。ドクオの剣が空を切り、そのすぐ隣に再び人形が構成された。

攻撃の勢いを殺しきれないドクオに人形の光の礫。さらにオサム側からも黒い槍が狙っている。

(;*゚ー゚)「間に合って!」

5971:2014/08/15(金) 21:08:16 ID:YSQy/0hU0

ドクオを覆う水の障壁。光の礫の軌道が逸れた。しかし、黒槍は障壁を突き破りこちらへと侵入する。

突きを戻す勢いを利用して体を返し、槍を消し飛ばす。障壁がなくなるのを見計らって人形の手がこちらに伸ばされるのが見えた。

さらに反転、剣で腕を弾いて全身を前へ。岩に体当たりをしたような反動が返ってきたが、人形との距離が離れた。

中空に光の弾が浮かんでいる。動き出すのを確認してから逆方向へ駆け出し、オサムの位置を確認。あまり離れていない場所に、奴はいた。すでに複数の術式を展開しており、こちらの動向を探っているのだろう。

迷うことなくそちらへ足を動かすと、周囲の床がタワー状にいくつもそびえ立つ。

('A`)「しぃちゃん!」

(*゚ー゚)「了解です!」

ドクオの掛け声で、しぃが用意していたのか広範囲の魔法を発動。巨大な氷の刃が隆起した岩々をまとめて凪ぎ払い、一瞬で凍りつくと粉々に弾けとんだ。

ドクオは最大速度を維持したままあと二歩のところまでオサムに接近、居合いの要領で後ろに流していた剣を目一杯横に振るう。

刹那、視界にノイズが混じった。次の瞬間オサムとドクオの距離が離れ、その中間に人形が現れる。

( ゚"_ゞ゚)「そう簡単に近付かせるほど俺は安くないぞ」

('A`)「くそっ!」

右、左と物理攻撃を交えながら人形は魔法を巧みに操りドクオを攻撃していく。さらにその後方にいるオサムはそこまで強いものではないが魔法で支援。しぃも負けじとオサムの魔法を相殺、攻撃を返していくもののやはり経験の差かドクオ達は徐々に押され始めていた。

5981:2014/08/15(金) 21:09:49 ID:YSQy/0hU0

特にオサムの魔法で厄介なのは空間操作系の術式だった。距離を操り視界を操り、人形をこちらの完全な死角へと移動させていく。意識の外からではドクオもうまく対応が出来ない。

しぃもオサムと人形の飛び道具をうまく対処していると思うが、絶対的に手数が足りないのだ。二人分の魔法に対し、一人でそのほとんどを阻止しなければならない上にオサムと人形はこの場所にショートカット術式を用意しているようで、展開から発動までの時間が早すぎるのである。

しぃが打ち漏らした魔法の弾幕を避けながらの戦闘にドクオの中で焦燥を募らせていく。人形の攻撃は鋭く、そして重い。まともに食らえば意識を断絶させられるであろうことが容易く予想できた。しかも人形は戦闘が長引くにつれて攻撃のスピードを増し、パターンが多彩になっている。ギリギリのところで捌いているものの、少しずつではあるがドクオの被弾は多くなっていた。

('A`;)(どうなってんだよ……戦ってる中で成長してるってのか? それとも、オサムがなんかやってんのか?)

視認できる範囲では特別な魔力の動きはないはずだ。オサムが身体強化系の魔法を使っている様子もない。つまり、純粋に成長しているということになる。

('A`)(確か、こいつは魔力を吸収する力を持ってる。いや、それもあるけど魔法で定期的に放出してるよな。なら、何が……)

もう少し時間があればこの空間における魔力の流れを追えたかもしれないが、敵はそのからくりを簡単に明かしはしないだろう。

意識が思考の渦に飲み込まれ始めた時だった。突如背中で何かが炸裂した。

(゚A゚)「ぶべらっ!」

(;*゚ー゚)「ドクオさん!? 自分から当たりに来ないでください!!」

('A`;)「わ、わりぃ!」

(;*゚ー゚)「って前向いてください! 前!」

('A`)「あ」

( ∵)

振り向くと、人形がいた。

5991:2014/08/15(金) 21:13:20 ID:YSQy/0hU0

腹部に拳がめり込んでいく。

( A )「あ、がっ……」

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

弧を描き宙を飛ぶドクオ。揺れる視界の中で、人形の方へと魔力が流れていくのが見えた。

( A )(あれ?)

魔法に使われる様子はなく、ただただ人形の体へと吸収されていく。その度に人形の体から魔力が放出、吸収を繰り返していた。

( A )(どういうことだ、あれ)

空中で体を動かし、うまく着地を決める。それを狙ってドクオにトゲ付きの鉄球を模した黒い魔法が降り注ぐ。

それらを大きく剣を降って消し飛ばし、ドクオは立ち尽くした。攻撃に備えていた人形が一瞬動きを止める。

('A`)(魔力は)

一度周囲に展開されたオサムの魔法陣に吸収されると、違う魔力が排出されて人形へと放たれる。

('A`)(もしかして、こいつ……)

ドクオが解を導きだす前に人形が距離を詰めていた。

('A`;)「考え事もできねえのか!!」

ドクオが防御の体勢をとると、右下から鋭利な棘となった床がこちらを狙っていた。

バックステップ、着地。するとドクオの後方から無数の水弾が人形へと飛んでいく。

幾つかが人形の目の前で弾け、隙ができた。ドクオは人形へと近付き一歩踏み込む。

間違いなく当てられる距離。さらに、追加の水弾が人形へと迫っていた。

しかし。

6001:2014/08/15(金) 21:16:09 ID:YSQy/0hU0

( ∵)

人形が水弾に向けて軽く手を振ると、水弾が始めから存在しなかったように消失。さらに逆の手でドクオの剣を握って受け止めた。

(;*゚ー゚)「えっ!?」

('A`;)「はっ?」

予想だにしなかった展開に、ドクオも、しぃも絶句する。確かに、敵は魔力を掌握する術を身につけてはいたが、ドクオの魔剣のように魔法そのものを消す力などなかったはずだ。

( ∵)

驚きのあまり動きが止まったドクオに、人形が魔法を消し飛ばした手を額に当ててきた。脳内に警鐘が鳴らされる。

全力で剣を引き抜き、逃れようとするが間に合わず、目の前で魔力が解き放たれた。

( A )「なっ……」

今のは水の魔法だった。しぃが使った魔法を利用したのか、それとも別の力なのか。どちらにせよこちらの動揺を誘うやり方はオサムの入れ知恵だろう。

うまく受け身をとって最小限のダメージに抑えるが、視界がちかちかと明滅していた。さすがのドクオといえど、至近距離で魔法を使われては威力を殺しきれない。

(*゚ー゚)「どういうことかは知りませんが、意識の死角をつけば━━」

しぃが援護のために術式を展開させるのが見えた。

('A+;)「駄目だ! 避けろ!」

ドクオの叫びにしぃが術式を留めた。途端にゆらりと陽炎が揺れる。

( ゚"_ゞ゚)「それを許すと思うかね?」

しぃの目の前にオサムが現れ、黒い霧を発生させる。

(* ー )「え……」

同時、留めていた術式が暴発。標的を失った水のレーザーはドクオへと向かう。

('A`;)「やべぇ!!」

6011:2014/08/15(金) 21:17:44 ID:YSQy/0hU0

復活したドクオは剣を構えた。が、それを阻むように人形が魔法を展開。周囲を光の障壁が取り囲んでいく。

さらに障壁の中心からは細い糸が噴射され、ドクオの体に纏わりつくと一気に締め上げた。

('A`;)(動か━━)

動きを封じられたドクオは力任せに体を左へと寄せる。圧力のかかった水のレーザーが右肩を抉っていく。

からん、と音が響いた。肩に力が入らない。いつの間にか剣を落としている。

( ∵)

拾っている暇はない。人形がこちらを向いていた。

( ゚"_ゞ゚)「無様だな」

オサムが手を振ると、砕けた岩石の礫が人形を追い越してこちらへと迫る。剣を拾う暇もなく、ドクオは右へ転がって回避。

('A`;)「くそっ!!」

体を起こした時には人形の足がドクオをとらえていた。抉られた肩口に足が触れると、光が炸裂。驚異的な威力と魔法の力でドクオは端にそびえる壁に激突する。

( ゚"_ゞ゚)「弱い、弱すぎるぞ!」

再びオサムの魔法、ドクオの周囲に陣が浮かび上がり、そこから無数の黒い針が突き刺した。

致命傷にはならない程度に調整されたのか、ご丁寧に急所を外されている。腕や足に空いた穴から鮮血が流れていく。もはや痛みすらない。

( A )(早く、剣を回収しないと……)

床に倒れたドクオは急いで立ち上がろうとするが、うまく力が入らなかった。ちらりとしぃを見るが黒い霧はなおも彼女を覆っており明後日の方を向いている。どうやらこちらを認識してはいないようだった。

( ゚"_ゞ゚)「人形よ、これは君の獲物だ」

6021:2014/08/15(金) 21:19:09 ID:YSQy/0hU0

オサムが魔剣を差してにやりと笑うのが見えた。

人形が魔剣を拾い上げる。片手で軽く振るい、具合を確かめているようだ。

( A )「てめぇ、それを……離せ!」

( ゚"_ゞ゚)「何、すぐに返すさ」

オサムが言うと同時、人形を魔法陣が囲む。ドクオが見てきたどの魔法陣より複雑で、巨大な術式だった。

( A )「何を……」

( ゚"_ゞ゚)「外の戦いでは君と魔剣の力の解析をさせてもらった。おかげで魔剣という存在の力をいくらか人形に組み込むことが出来た」

( A )「なん、だと……」

先ほどしぃの魔法を消し飛ばしたことをドクオは思い出す。仮にも伝説上の力を解析、組み込みをやってのけるなど信じられことではない。

だが、オサムはそれをやってのけた。あり得ないと言えることさえも、平然と。

( A )(どれだけ狂ってやがる……)

( ゚"_ゞ゚)「おかげで大分面白いことが分かった。魔剣が魔力を食らうのは、どうやらこの人形ととても似た性質を持っているようでね。元々そういった仮説は俺の中も考えてはいたんだ」

ドクオにはオサムが言う言葉の意味を正しく理解することは出来なかった。

その言い方では魔剣と人形は同質の存在だと言っているようなものだ。

生物としての兵器と、意思を持たぬ武器。相反する二つの存在が、同じだなどととても信じられることではない。

( ゚"_ゞ゚)「魔剣の主である君はもう気付いているのではないか? それとも、目を背けているのかね? この魔剣を持つ意味を、力を、理由を、知らないとは言わせない」

( A )「んなもん……知らねえよ」

本当は、薄々分かっている。あの剣は強い自我を持っていること。人を殺せと、世界を壊せと深淵の淵から呼び掛けている。

6031:2014/08/15(金) 21:20:13 ID:YSQy/0hU0

あれは絶望を、悲壮をもたらすもの。それに取り憑かれたドクオも、もはや同様の存在なのだろう。

( ゚"_ゞ゚)「まだそんなことを言うか。よく目を開いて見るがいい。人であった存在が、体を欲した魔剣が、本当の悪魔となる瞬間を刮目せよ!」

人形から発せられる光が魔法陣を消し飛ばす。静寂が訪れ、徐々に人形の体に変化が生じていく。

体色が黒へと変わり、筋肉が隆起する。頭には黒い髪が生え、周囲に薄い魔力が漏れだしていた。

そして、肩甲骨の辺りから白く大きな羽がばさりと現れ、

( . )Aaaaaaaaa!!

人形は、更なる高みへと上り詰める。

( ゚"_ゞ゚)「ふははははははははは!! これだ、これだよ俺が求めていたものは!! 今、この瞬間、俺の研究は成就した!! 人も、悪魔も、神さえも凌駕した存在を作り出したのだ!! さぁ、殺せ!! 壊せ!! 全てを━━」

( . )

オサムの言葉は最後まで発せられることはなかった。

音もなく近付いた人形の手により、オサムは切り捨てられ、消えた。

自分が生み出した狂気に、殺されたのだ。

( . )Aaaaaaaaa!!

人形は生まれたことを誇るかのように、存在を誇示するかのように、吠える。到底生き物とは呼べぬほどの声で。

( A )「さすがに、これはねぇわ……」

(* ー )「ドクオ、さん……」

状況は絶望的だった。しぃは未だ解けぬ魔法によって視力を奪われたまま。武器もない、他に味方もいない。ただの人間にすら劣るドクオしか、あれを止める人間は見当たらない。

けれども、それでもドクオはやるしかなかった。人形も、いや、ビコーズ神父はどこまでも被害者で、救いを求めている。

人を愛した人間が救われないなんてドクオには認められない。

('A`)「やらなきゃ。俺がやらなきゃ……」

ドクオは立ち上がる。たとえ命を投げ出すことになるとしても、譲れないものがそこにはあるから。

6041:2014/08/15(金) 21:21:19 ID:YSQy/0hU0

◇◇◇◇

(;´ ω `)(さすがに一筋縄ではいかないな)

操られているであろう二人の炭鉱夫にかかっている魔法の術式は酷く難解で、幾重にも渡って解除を妨害する罠が張られていた。

もっと多くの時間が残されていれば簡単とまではいかなくともショボンでも十分に対応できただろう。

しかし、先の鉱山崩壊術式を展開した際に、自身のマナを使用したせいでショボンはまともに動くことができない。

何せ一人の命を全て使うほどの規模だ。最後の最後でモララーが槍を突き立ててくれたお陰で、彼のマナを吸収できたからこそ死ぬことは免れたが、未だ危険な状態に変わりはない。

(;´ ω `)(このタイプの術式はそう簡単に個人で使えるものじゃないんだ。ということは、どこかに大元の術式があるはずだけれど……)

術式の一部を書き換えればご丁寧に魔力の暴走を促す術式を組み込まれているせいで迂闊に手を出せないうえ、魔力の供給元を特定させないように隠蔽術式を展開させているようだ。

その全てを同時に解析、削除しなければ二人の炭鉱夫は死に至る。しかも、マナを利用されてショボンが行った魔法と同規模の破壊を振り撒くだろう。

そもそも、敵が送り出している魔力の量が尋常じゃない。人一人が一度に操れる魔力は最高位の魔法使いですら精々王都の半分ほどである。

だがこの術式は半永久的に作用される仕組みになっていることから見ても、人間が扱う量を大幅に越えていた。

(;´ ω `)(せめて、大元の術式を解除できれば……)

6051:2014/08/15(金) 21:22:07 ID:YSQy/0hU0

連鎖的に積み上がる問題に手をつけられる箇所が減っていく。恐らくではあるが世界的に見てもここまで大掛かりで、なおかつ人を陥れるほど酷いこの術式は最高峰レベルだろう。

知識だけでも、技術だけでもこんなものは作れやしない。それに、人の全てを否定するぐらい冷酷な心がなければ平常な精神ではいられないはずだ。

どこまでも人というものを馬鹿にしている。

王都を襲った貞子とやらも随分と狂った人間だったが、彼女でも比較できるものではない。

故にショボンは諦めることをしてはいけない。風前の灯火となった命さえ投げ出さねば騎士団のルールも、自身の心も根本から折れてしまう。

本来であれば今回の件、全てショボン一人で片付けなければならないはずなのに、帰りが遅い自分を心配してドクオも巻き込まれているはずだ。

失敗して、死にかけて、それでもしぶとく生きているのならその穴を埋める必要がある。結局ドクオに全てを投げてしまったのだから、騎士団副団長としての本質を果たすべきだ。

(;´ ω `)(まだまだ、まだまだだ!)

痛む傷口を押さえながら踏ん張っていた時、突如術式の命令が書き変わったことにショボンは気付いた。

これだけの術式に干渉でき、かつ書き換えるなどその辺の汎用な魔法使い、いやしぃほどの術者であっても到底不可能なはず。さらにここにいる者を考えれば本人以外考えられない。

(;´ ω `)(また不穏分子が現れたのか?)

だが、今はありがたい。どこの誰かは知らないが術式の一部が書き換えられたことによりショボンでも手を出せるレベルまで導かれた。

ショボンがこうしている今もものすごい速さで術式が書き換えられている。

(´ ω `)(救ってみせる! 絶対に!)

6061:2014/08/15(金) 21:23:23 ID:YSQy/0hU0




( ;・∀・)(まずいな)

敵の攻撃をうまく無力化しながら、モララーはショボンへと目を向ける。

(´ ω `)

魔力の解析をしているのだろうが、すでに息はあがり大きく肩を上下させ、膝が笑っていた。

もはや彼は限界だろう。体内のマナを著しく消費している、とモララーは感付いていた。

だがモララーが止めたところで、ショボンがそれを止めないことも痛いほどに理解している。彼は彼の信念に基づいて動いているのだから、誰もそれを阻むことなど出来やしない。

( ;・∀・)(俺にできるのは敵の足止め。そしてあの人を信じることだけだ)

傷付きながら、悔やみながら、尚も歩き続けるなんてモララーには出来ないだろう。本当に大切なもの、譲れないものはモララーにだってある。けれど、失ってまで貫かねばならない信念は経験がものをいうのだ。

だからこそモララーはショボンを信じ続けてきたし、尊敬することができた。背中を見て、この人のために剣を取っていこうと誓うことができた。

失いたくない。

もっとこの人の隣で学びたい。

そのために、モララーは退くことをしない。

( ・∀・)「くそったれが!」

6071:2014/08/15(金) 21:24:45 ID:YSQy/0hU0

大きく槍を振るい、衝撃波で二人を吹き飛ばす。先程つけた傷から鮮血が吹き出した。あまり力を込めたつもりはないが、剥き出しになった筋繊維や血管はいとも簡単に破れてしまう。

それでも痛みすら感じず、苦痛に顔を歪めることもない二人の男。一般人であり、生涯炭鉱夫として働き血生臭い戦いとは無縁の人間。

なのに彼らは望まぬ戦いを強いられて傷付いていく。たった一人の心無い人間の手によって。

そもそも一般人を戦闘員に作り変えるなど狂っていなければ出来ることではないだろう。人には人の生活があり、未来があるのだから。

ゾンビのような緩慢な動きと生命力で男達は執拗にモララーへと向かってくる。体のどこかが破損する度に彼らの腕が、手に力がなくなり人間とさえ呼ぶことも躊躇うほどに形を変えていた。

時間が経つだけ振るう刃が重くのし掛かり、自分が騎士であることさえ忘れてしまいそうだ。

モララーは虐げられる弱者のために、大切な人を守れる力が欲しくて騎士になった。目の前にいる二人はまさしく、自分の信念そのものなのに、彼らは自らの不運を嘆くことも、悲嘆に暮れることもなく与えられた命令に従うだけの生き物に成り下がって、モララーはそれを虐げているだけ。

こんなことのために力を身に付けたわけじゃないのに。

心に溜まる汚水はだんだんと行き場をなくし、いつの間にかモララーの瞳を介して流れていく。

( ;∀;)「苦しいよな、悲しいよな。きっと副団長がなんとかしてくれるから。だから諦めるんじゃねえぞ!」

( W )

(  − )

モララーの声は二人に届いたのだろうか。答えはない。

けれどもきっと、届いていると信じるしかない。

これが終わったら土下座でもなんでもしよう。許されるだなんて思っちゃいない。罵りでも嘲りでも好きなだけすればいい。

だから、今だけは、今だけは耐えてほしい。全ての決着をつけるやつらがここには揃っているのだから。

6081:2014/08/15(金) 21:25:30 ID:YSQy/0hU0

◇◇◇◇

ツンは一枚の紙を取り出すと、それに魔力を込める。ふわりと浮かび上がり、宙を舞いながらモ・トコの街を進み始めた。

ξ゚⊿゚)ξ「ふむふむ、こっちか」

从'ー'从「なんだか可愛いねぇ〜、これ」

ξ゚⊿゚)ξ「ただの紙が浮いてるだけじゃない。可愛いもなにもあったもんじゃないわ」

从'ー'从「そうかなぁ〜」

渡辺がまるでお花畑で蝶を追うかのような発言をするのを横目で見ながら、ツンは色をつけ始めた線を確認した。

街中に張り巡らされた大小様々な網目状の線は全て魔法として使われている魔力であり、継続して存在しているということは術式にリンクされているということ。

そして線の太さは魔力の量で、太ければ太いほど魔力が通る量も大きい。つまり、それが術式のメインシステムに繋がっているはずだ。

ツンが使った魔力紙は魔力を視認させると共に最も魔力消費量が多い術式へ誘導するという効果を持つ。ただし速度は遅いので方角を割り出すためにしか使えないのだが、ツンはもう一つアイテムを取り出した。

从'ー'从「それはなぁに?」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ見てなさい」

ナイフほどの大きさの棒を地面に突き刺すと、細い魔力の線が棒の先へと収束していき、一本の太い線へと生まれ変わった。

从'ー'从「わぁ、おっきいねぇ〜」

ξ゚⊿゚)ξ「驚くのはここからよ」

棒を抜いて手に持ち、先程の魔力紙へと向ける。

6091:2014/08/15(金) 21:27:30 ID:YSQy/0hU0

すると、必要以上に魔力を込められた紙は太いパイプとなった線に飲み込まれて一気に加速していった。

ξ゚⊿゚)ξ「よし、追うわよ」

从;'ー'从「わわ、ちょっと待ってよぉ〜」

杖に乗って空を飛んでいくツンのあとを渡辺が箒で追従する。そこまで速度は出ていないが、急ぐに越したことはない。

棒を使うためにいくつかの細い魔力の流れを潰してしまったが、おそらく問題はないはずだ。ツンの見立てでは細いラインはあくまで補助機構としての役割しか果たしていない。命令そのものはメインラインを通っているはずなので大きな影響は与えないだろう。

ξ゚⊿゚)ξ(ま、こんなもんで簡単に壊れる術式を作るとは思えないしね)

オサムの用心深さと魔法学への執念をツンは間近で見てきたのだ。必要のないものは排除し、徹底的に効率を求める一方できちんと補助的なバックアップシステムくらいは用意する。そういう男だ。

モ・トコの外れへと向かっていく魔力紙は、いくつかの中継点として設置された魔導鉱石を経由してとある場所で止まった。そして、その場所を見てツンは驚きを隠せず呆然とする。

ξ;゚⊿゚)ξ「……嘘……」

从;'ー'从「ふわぁ、おっきいねぇ〜」

ツンと渡辺の十倍以上の高さと幅を持つ巨大な岩。さらにその周囲に展開している魔法陣。

これが、オサムが構築した術式なのは間違いない。間違いないが、同時にツンは舌打ちをしてしまう。

ξ;゚⊿゚)ξ「まさか貞子と同じ手を使うとは思わなかったわ……」

从'ー'从「ほぇ? どういうこと?」

ξ;゚⊿゚)ξ「これ、この街の結界に使われてる魔力炉の役割を持ってる」

ツンが魔法陣を確認しながら言うと、渡辺が小さく嘘、と呟くのが聞こえた。二人にとって結界を利用した魔法というのはあまりいい思い出ではない。

6101:2014/08/15(金) 21:29:09 ID:YSQy/0hU0

从'ー'从「えとえと、解除、難しいの〜?」

ξ゚⊿゚)ξ「完っ全に結界のシステムを利用してるっぽいし、まずは解析していかないと手の出しようがないわ。しかも」

ツンは鉱石を注意深く観察する。これだけ大きなものだ、暴発防止の術式は組まれているものの下手に手を出せばモ・トコの街一つくらい簡単に消し飛ばすだろう。

ξ;゚⊿゚)ξ「とにかく解析に入るから、渡辺は周辺の警戒をよろしく。敵だと判断したら片っ端からぶっ飛ばすのよ!」

从;'ー'从「な、なんとか頑張ってみるよぉ〜」

解析用に持ってきた箱状のアイテムを取りだし、魔法陣のシステムをスキャンしていく。目の前に浮かび上がる魔法モニターには文字の羅列が並び、使用されている術式など情報が細かく表示されていった。

ξ゚⊿゚)ξ(やっぱり私の推測は間違ってない。私につけた術式と王都で使った術式を元にしてるんだわ)

さらに別のモニターを作成し、いくつかのコマンドを打ち込む。使用されている術式の詳細が映し出され、ツンはそれらの内容を頭に叩き込んでいく。

自分の知識と照らし合わせながらの作業、もちろん専門ではない。ツンはあくまで戦闘員としての魔法使いだ。学者として完成されたオサムにはほど遠い。

だが、黒の魔術団で培った経験や知識は皮肉にもツンの血肉となり誰かを救うことができる。

後ろで心配そうに見つめる渡辺を、他で戦っているだろう仲間達を。

汚れきった自分は人間としての道を歩いていいのか、ドクオと渡辺に救われてから何度も何度も悩んできた。

自分の肌に刻まれた魔法陣は呪縛となってツンを苦しめている。破壊の力として闇の魔法を叩き込まれ、より効率的に術式を構築することに特化した体は人を壊すためのもの。

そんなものが、果たして人と言えるのかツンには分からない。一生答えは出ないのだろう。

それでも、ツンは誰かを救える。助けることができる。力は、知識はどこまでいっても使う人間の心によるのだから。

その心があるかぎり、ツンはまだ人であれる。今ここにいるのは、それだけで十分だった。

6111:2014/08/15(金) 21:31:31 ID:YSQy/0hU0

ξ゚⊿゚)ξ(この術式、間違いなく周辺の街の結界と繋がってるわね。しかも街の生体反応を検知して自動的にマナを取り出すようなシステムになってる)

他の街で突如消えた人達は皆マナを取り出されこの術式に集められたのだろう。その行き先は鉱山の地下━━つまりオサムの研究室へと繋がっている。

さらにオサムが使用した魔法を自動で委託し、人が使うよりも効率的に魔力を維持することができるようだ。

集めた魔力の用途はオサムが任意で取り出したり出来るようで、あくまで魔力や魔法の操作、収集、解析がメインのようである。

ξ゚⊿゚)ξ(……現在継続中の魔法は、これか。場所は鉱山? オサムとあの変な人形のほかに誰かいるってこと? なら━━)

そこにショボン達がいる可能性が高い。反応を調べれば二つ分。マナの使用量や動向反応から察するに戦闘を行っているのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ(えっと、詳しい場所と他の反応は……うん。やっぱりドクオとしぃが戦ってる場所とは違うみたいね。四人、ってことはショボンさんとモララーさんで間違いない)

四つの反応のうち、二つはこのシステムで強引に生命力を強化され、自我を奪われているようだ。だが、気になるのは今にも消え入りそうな一つの反応。人間が生きていられる限界までマナが減っていた。

十中八九モララーかショボンのどちらかが生命の危機に瀕しているということ。これではこの術式を解除するまで持つかどうか分からない。

ξ゚⊿゚)ξ(助けに行きたいけど、騎士団の二人だから怒られるだろうな。ほんと、男ってのは熱っ苦しいわ。やることやるまで生きてなさいよね)

6121:2014/08/15(金) 21:34:24 ID:YSQy/0hU0

とりあえずメインのシステムの外堀から少しずつ削除していこうとして、ツンはあることに気付いた。

誰かがこのメイン術式に干渉している。しかもツンのように専門的な道具を使わずに、自身の魔法によって。

ξ;゚⊿゚)ξ(こんなことできるの相当な術者じゃなきゃできるわけない。ということは、ショボンさんが? しかも、これって、人心操作系の魔法を解除しようとしてる?)

無茶だ。こんな大きな術式を、メインの魔法陣の外から取り外そうだなんて普通の魔法使いなら試みようともしないはず。なにせ魔法陣の中枢の詳細が分からない以上、ダミーとして作られた術式の区別がつかないのだから。

だが、干渉している人間はそれらに引っ掛かることなく少しずつ、確実に網を掻い潜っている。

ξ゚⊿゚)ξ(こんなこと出来そうなのはショボンさんよね。なら、こっちもとことん利用させてもらうわ。うまく書き換えていけばショボンさんの方が解除してくれるかも)

あくまでツンの目的は街を覆うオサムの術式を解除すること。それだけで奴の戦力は大幅に削減されるはずだ。

从;'ー'从「つ、ツンちゃん!」

ツンがいくつかの術式を書き換えた時、渡辺が焦った声でこちらを呼んだ。

渡辺の方を振り向くと、複数の魔法陣が現れ魔物を吐き出し始めるところだった。先程戦った鳥型の魔物だ。

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり侵入者撃退用の術式を組んでたか。渡辺! 何とか堪えなさい! すぐに終わらせるから!」

从;'ー'从「了解だよぉ〜」

すぐに爆発音が聞こえた。渡辺が交戦を始めたのだろう。

あまりいいBGMではないが、ツンはツンのすべきことに全力を傾けねばならない。

ξ゚⊿゚)ξ(渡辺は体力がある方じゃない。ましてや見習いから昇級したばかり。時間をかけてられないわね)

もう一度気合いを入れ直し、ツンは表示されているモニターへ集中した。

6131:2014/08/15(金) 21:36:51 ID:YSQy/0hU0




目の前の魔物に炎の塊をぶつけ、さらに小さく圧縮した火球をばらまく。

始めに放った炎が広がると同時に、火球が連鎖的に爆発。あまり威力はないが、鳥型の魔物は魔法攻撃への耐性が高くないためにまとめて爆散した。

頭上で飛んでいる魔物には炎の渦をいくつも出して牽制する。掻い潜って近付いた魔物は設置型の炎で迎撃。

渡辺の目的はあくまで時間稼ぎだ。ツンが術式の解除を終えるまで堪えることができればそれでいい。何も出てくる魔物全てを殲滅する必要はないのだ。

ならば作戦は簡単だ。使用する魔力、体力を温存しながら近付けないようにすればいいだけのこと。殺すまではいかなくとも、戦闘不能にすればそれで事足りる。

渡辺は自分が出来ることと出来ないことをある程度理解していた。運動は得意じゃないし、戦闘なんかもっての他。勉強も苦手だし、魔法陣の構築も普通の人間より時間がかかる。

けれども今の渡辺は何でも出来そうな気分だった。十や二十できかない数の魔物を目の前にしても、負ける気がしない。

何故なら渡辺は今誰かのために戦うことが出来ているから。王都で貞子と戦った際、渡辺は何もできず泣いてばかり、守ってもらうだけ。あの時ドクオが駆け付けてくれなければ自分は死んでいただろう。

6141:2014/08/15(金) 21:38:38 ID:YSQy/0hU0

だから今、こうしてツンを守ることが出来て、ドクオの手伝いが出来て、とても満ち足りた気持ちが全身を巡っている。

本当は魔物を悪戯に殺生するのだって罪悪感は、ある。

元来争い事を好まない性格だが、何もしないまま死んでしまうなら戦うことを選択できるくらいには彼女も成長したのだ。

ドクオに会う前は自分の命を軽く見ている節があったが、ドクオが戦う姿や騎士団の生きざまは渡辺にいい影響を与えてくれた。少なくとも自分を取り巻く様々な要因を考えて動くことができるのだから。

誰かに優しくして、自身のことを省みない生き方も一つの考え方だろう。感謝されることはなくとも自分の道標として教えてくれた言葉は渡辺の心を大きく占めている。

だが、こうして信頼できる誰かが出来て、そこに自分がいないことを想像して、とても悲しい気持ちになったのだ。

みんなと笑い合えないこと、悲しみを分け合えないこと、辛いことや苦しいことを自分ではない誰かと共有していたら、そう考えるだけで嫌な気持ちになる。

昔の渡辺ならそんなことを思うだけで罪悪感で一杯になっていたが、それは人として当たり前の感情なのだと今は理解している。

いいところも、悪いところもあって初めて人は人であるのだということ。全てを受け止めて笑って許すことができるのは聖人君子でもなければ不可能なのだから。

从'ー'从「えい! ツンちゃんは私が守るんだからぁ!」

6151:2014/08/15(金) 21:41:21 ID:YSQy/0hU0

箒を振って魔法が途切れないように陣をいくつも形成していく。使いきらないよう配分を考慮し、最低限で最大の火力を。

空と陸、二つのルートをきっちり抑えられた魔物達は渡辺に近付けないことから少々不満が溜まっているのか闇雲に突撃を繰り返し、自ら戦闘不能に陥っている。

翼を焼かれ、爪を砕かれ、地に伏せていく魔物達。本来一番頭を使う時間稼ぎという役割を渡辺は忠実にこなすことができていた。

そう、その時までは。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

从;'ー'从「あれれ〜、三つ首のわんちゃんが出てきたよぉ〜」

嫌な予感がした。鳥型の魔物は数を減らしたままで増えていないな、とは渡辺も気付いていた。このままうまくいくのではないかと少し楽観的になっていた部分も、否定はしない。

しかし、このタイミングで出てきたということはあちらがわもこれが持久戦だと予想していたのだろうか。

从;'ー'从「でもでも、負けないんだから!」

ケルベロスが三体、真ん中の一体が疾駆。迎撃用の魔法が迎え撃つも、強靭な肉体には焦げ痕すら残らない。

从'ー'从「えーい!」

ケルベロスの足元目掛けて爆発系の魔法を三つ。土煙に紛れて渡辺は箒に跨がり宙へと浮いた。ついでに渡辺が陣取った場所へ高出力の魔法を設置。

残りの二体がこちらを視認し、炎を吐き出す。うまくかわしながら渡辺は大量の炎の礫を作り出した。

从'ー'从「いっけぇー!」

6161:2014/08/15(金) 21:42:23 ID:YSQy/0hU0

箒を振って魔法が途切れないように陣をいくつも形成していく。使いきらないよう配分を考慮し、最低限で最大の火力を。

空と陸、二つのルートをきっちり抑えられた魔物達は渡辺に近付けないことから少々不満が溜まっているのか闇雲に突撃を繰り返し、自ら戦闘不能に陥っている。

翼を焼かれ、爪を砕かれ、地に伏せていく魔物達。本来一番頭を使う時間稼ぎという役割を渡辺は忠実にこなすことができていた。

そう、その時までは。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

从;'ー'从「あれれ〜、三つ首のわんちゃんが出てきたよぉ〜」

嫌な予感がした。鳥型の魔物は数を減らしたままで増えていないな、とは渡辺も気付いていた。このままうまくいくのではないかと少し楽観的になっていた部分も、否定はしない。

しかし、このタイミングで出てきたということはあちらがわもこれが持久戦だと予想していたのだろうか。

从;'ー'从「でもでも、負けないんだから!」

ケルベロスが三体、真ん中の一体が疾駆。迎撃用の魔法が迎え撃つも、強靭な肉体には焦げ痕すら残らない。

从'ー'从「えーい!」

ケルベロスの足元目掛けて爆発系の魔法を三つ。土煙に紛れて渡辺は箒に跨がり宙へと浮いた。ついでに渡辺が陣取った場所へ高出力の魔法を設置。

残りの二体がこちらを視認し、炎を吐き出す。うまくかわしながら渡辺は大量の炎の礫を作り出した。

从'ー'从「いっけぇー!」

6171:2014/08/15(金) 21:43:08 ID:YSQy/0hU0

炎弾が地面へと向かって躍り狂う。炎に耐性を持つケルベロスには致命傷にはなり得ない。だが、こちらの目的はどこまでいっても時間稼ぎだ。目隠しでもなんでも攻撃を続ける他方法はない。

さらに地と空、挟み込むように二つの魔法陣を形成。その中心に炎がいくつも上から下へと流れていき、地面に触れた瞬間巨大な爆発が巻き起こる。

現在渡辺が使える魔法の中では最大の威力を持つが、効果は期待できそうにない。立て続けに同じものを放つと、渡辺は周辺に目眩まし用の設置魔法を置いておく。

土煙の中から一つ、黒い影が躍り出た。紙一重で横に回避、そしてターン。横から思いきり体当たりをかましてやると、ケルベロスは短い悲鳴をあげて落下していった。

だがほっとするのも束の間、下から巨大な岩がものすごい早さで飛来する。急いで箒を操るも、避けきれず箒の後ろに当たってバランスを崩してしまった。

从;'ー'从「ふ、踏ん張って〜!」

うまく体を使って落下は免れたものの、敵の攻撃は止まない。失速した渡辺を狙って炎が乱れ飛ぶ。服を焦がし、肌を焼きながら宙を行き交い攻撃のチャンスを窺うが、一度離れたイニシアチブはなかなか戻ってこない。

その間にも魔法を設置していくが、こちらの魔法を認識しているのかケルベロス達は弱い魔法を狙ってそれらを潰していく。

炎系の魔法が得意な渡辺にとってははっきりいって相性が悪すぎた。魔力も無限ではないし、高威力の魔法でさえ敵の表面をほんの少し焼くくらいでろくなダメージになっていないようだった。

从;'ー'从(どうしよう……私の魔法じゃ時間稼ぎもできないよぉ……)

敵の数が時間によって増えていくとしたら、渡辺には抗う術がない。広範囲魔法は例によって威力が低いし、騎士団のほとんどが魔法使いであることを考慮すれば魔法耐性がある魔物を選ぶはずだ。

ケルベロス自体魔物としてはそこまで高位の種類ではないし、ましてや物理攻撃に特化した種族は防御を捨てている場合が多い。にも関わらず見習いを卒業した渡辺の魔法さえ通らないのではまるで話にならなかった。

箒を駆って空を飛ぶのですら魔力は消費されていく。このままではツンに被害が及びかねない。

从;'ー'从(でも、手を休めるわけにはいかないよぉ……。きっとみんなも、どっくんもこんな気持ちで戦ってるんだもん)

6181:2014/08/15(金) 21:44:11 ID:YSQy/0hU0

右へ左へ、上へ下へとうまく敵に狙いをつけられないように動き回りながら、この流れを変える一手を思案する。

現在自分が切れるカードはいくつあるのか。まずは状況を整理していかなければならない。

渡辺が使えるのは炎系の魔法、そして空を自由に動き回れるということ。これは陸上しか動けないケルベロス達と相対する上では大きなアドバンテージだろう。

しかしいつまでも逃げ回っていてはいつツンが襲われるか分かったものではない。一応防御障壁を張ってはいるものの、ケルベロスの攻撃力を考えるとすぐにでも壊されてしまう可能性がある。

それとここに来る前ツンからもらった魔法道具もあるのだが、用途の説明を受けることなく受け取ってしまったので使い方はおろかどのような効果があるのかすら分からなかった。

ツンがちらりと言っていたのは攻撃系の道具だそうだが、説明書や仕様書はもちろんながら存在していない。

从;'ー'从(……とにかく使ってみるしかないよね。私がツンちゃんを守るんだから!)

方針は決まった。あとはどのタイミングでそれを使うか。そしてそのチャンスを作れるかどうかにかかっている。

とにかく、今は耐えて天に運を任せるしかない。

从;'ー'从(ツンちゃん、頑張って!)

6191:2014/08/15(金) 21:45:19 ID:YSQy/0hU0

◇◇◇◇

( ゚.゚)

魔剣を手にしたビコーズの動きはまさしく、普段のドクオの戦い方を忠実に再現していた。まるで鏡に映る自分を見ているかのようで、ドクオはあの魔剣がどれほどの力を秘めているかを改めて確認させられる。

剣を一振りすれば地面を消し飛ばし、瞬きの間に姿を消して死角から現れる。

幸いなのは敵がこちらの力を計りあぐねているのか致命傷になる攻撃が来ないことだった。

なにせ魔剣が手元にない今のドクオは普通の人間に毛が生えた程度の力しかない。敵の一撃をもらえば簡単に死ぬし、魔剣で斬られれば即消滅するだろう。

確かに魔剣を持って戦闘を行っていた経験は活かされてはいるものの、元のスペックが天と地ほど離れているため精々攻撃を避けることしかできない。

こちらから敵に踏み込んだところでカウンターを食らうだけだろうし、ましてやダメージが通るのかすら怪しいところだ。

それでもなおドクオが戦い続ける理由は、混乱したままのしぃが残っているからだった。

(* ー )

('A`;)(くそ、このままじゃ攻撃をもらっちまう……早く目を覚ましてくれ、しぃちゃん!)

敵もしぃの存在を分かってはいるのだろうが、あれは戦いそのものを嬉々として行っている。つまり、このままドクオを相手取っている限りはしぃに意識が向けられることはないということ。

もちろんドクオの体力が底を尽きればその時点で二人が生存する確率はほとんどないし、その前にドクオが死んでしまう方が現実的ではある。

今の状況をひっくり返すなんて、やはり今のドクオでは力不足だった。

('A`)(しぃちゃんが目を覚ませばまだ可能性はある。だから、それまでもってくれよ俺の体)

目の前を人形の剣が掠める。すんでのところで体を反らして避けるも、さらに一歩踏み込まれ袈裟斬り。

ドクオはそのまま転倒し、横に転がる。すると上空から光の刃が降り注いだ。

体のバネを使って最速で起き上がると、ドクオは一気に駆け出す。ビコーズが隣を並走するが攻撃はない。

6201:2014/08/15(金) 21:46:34 ID:YSQy/0hU0

慌てて急ブレーキ。突然止まったドクオにビコーズは着いてこれずに遥か先で停止した。ドクオは手近の石を拾うと思いきり投げつける。

一刀の元切り捨てられ、再びこちらへ。ドクオは振り返るとあっさり逃げ出した。

だが、ビコーズの人を越えた身体能力の前では無意味。一瞬で回り込まれ、剣を突き入れられる。

('A`;)「うぐっ……」

体を九十度回り込ませてギリギリ回避。着ていた服に触れ、その部分が一部消失する。

再び距離を取ってドクオは武器になりそうなものを探したが、そんなものはどこにもなかった。もしドクオに魔法の知識があればオサムが用意した魔法陣を利用できたのかもしれないが、考えたところでどうしようもない。

と、ドクオはすぐに思考を中断。目の前で人形が剣を振りかぶっていた。

('A`;)(避けきれねぇ……っ!)

一か八か、ドクオは人形の腕を掴んで押さえ込む。つっかえ棒の役割を果たし、奇跡的にも腕が振り下ろされることはなかった。

('A`;)(ぐっ……さすがに、押さえきれねぇ……)

徐々に沈んでいく体。全ての筋肉を総動員しても歯が立たない。

努力はした。自分にできる精一杯を続けてきた。けれども、この世界の怪物と真っ正面から相対してみればこの通りだ。所詮非力な一般人などその程度しかない。

逃げ出したかった。全てを投げ捨てて崩れてしまえばどれだけ楽になるか。

こんな世界などドクオになんの関係もない。巻き込まれただけの被害者なのに、どうしてこんな痛い思いをして、怖い思いをしてまで戦う理由などどこにあるというというのか。

けれども、ドクオはこの世界に生きている人達の笑顔を知っている。優しさを、強さを、涙を。

この世界にいる誰もがドクオを人として見てくれた。

元の世界で見捨てられ、孤独に死を待つだけの存在であったドクオを、何も言わずに見返りすら求めず拾い上げてくれた人がいる。

きっとそいつはドクオが死んでしまったら涙を流す。たくさんの人が死んだら心を痛める。

ドクオは、そんな彼女を見たくない。そんな顔をさせたくない。

たとえ一秒足りとも悲しませてはならない。

それが今、ドクオがここにいる理由。

6211:2014/08/15(金) 21:47:37 ID:YSQy/0hU0

力がなくとも、どれほど弱くとも戦わなければ彼女は笑ってくれないのだから。

('A`;)「なぁ、ビコーズ神父。あんたは報われない人達をたくさん救ってきたよな。誰かを救うことで、世界は変わっていくんだって信じてたはずだ。醜いとこも、汚いとこも知りながら、それでも人の可能性を信じて手を差し伸べてきたんだ」

('A`;)「色んな人を見てきただろうよ。あんた自身辛酸舐めながら生きてきたんだから。なのに、今のあんたはどうだ! こんな結末で満足なのかよ!? 人を想い、世界を憂いたあんたが、人を殺すための兵器でいいのかよ!?」

('A`;)「あんたのことをまだ慕ってる人達がいるんだ!! あんたに会いたいって、お礼を言いたいって、あんたを待ってる人がいるんだよ!!」

('A`;)「いい加減目を覚ましやがれ!! 馬鹿野郎!!」

叫んだ瞬間、ドクオの体から力が抜けた。体勢が崩れ、前のめりに倒れてしまう。

腕や足の感覚がない。折れているのか、斬られたのかさえ定かではなかった。

殺される。

だが、目を逸らしてはいけない。自分の生きざまを、ビコーズの生き方をきちんと見届ける必要があるから。

('A`)

( ゚.゚)

しかし、ビコーズは動かなかった。切っ先をドクオに向けながら、何かと必死に戦っているようにも見える。

やがて、ビコーズの体が小刻みに揺れ始めた。さらに、宿舎前で戦った時と同じ、彼の瞳から何かが流れていく。

('A`)「……神父」

( ;.;)コロシテクレ

6221:2014/08/15(金) 21:48:33 ID:YSQy/0hU0

ビコーズは、はっきりと自分の意思を伝えてくる。

まだ彼の心は残っていた、オサムや魔剣などに負けてはいないのだ。

('A`)「……諦めんなよ。俺だって諦めない。まだ、戦いは終わっちゃいないんだ」

ドクオは心の底から彼を救いだす方法があるはずなのだと信じていた。人の心はそんなに弱くない。

こうして彼と心を通わせていることが何よりの証拠ではないか。

( ;.;)モウイイノダ トックニツキタイノチ

( ;.;)コレイジョウダレカヲテニカケタクハナイ

きっと、彼は自分がしてきた全てを覚えているのだろう。人でありながら、人を救うはずの体は、多くの血に染まって心を凍てつかせてしまった。

本当は、手を差し伸べてあげたかったのに。

('A`)「あんたはまだ人間だろ。その証拠にこうして俺と話して、涙を流してる。人間じゃないなら、俺はとっくに死んでるはずだ」

ここにいるのはただの非力な男。戦うことを知らず、無様に逃げ続けてきた男なのだから。今の彼ならば手にかけることなど実に容易いはずだった。

( ;.;)ナゼキミハソコマデスルノダ

心の底からの疑問が、ドクオに伝わる。

('A`)「簡単な話だろ。報われぬ者に救いの手を。誰かを救うことに理由なんてない。救いたいから救う、目の前に泣いてるやつがいたら助けるのが人間なんだ」

( ;.;)ナンノカンケイモナイキミガナゼ?

('A`)「しぃちゃんにそう教えたのはあんたじゃないか」

彼の想いはしぃに引き継がれ、そしてドクオまでやってきた。

何の関係もない、弱い男を突き動かすほど大きな力となって元の場所へと戻ってきたのだ。

( ;.;)ワタシハ、スクワレテモイイノダロウカ

('A`)「あんたはたくさんの人を救った。だから、今度は俺が、あんたが救ってきた人達が生きているこの世界があんたを救うんだよ」

想いは世界を巡る。

6231:2014/08/15(金) 21:50:09 ID:YSQy/0hU0

彼の生き方を見て、どれだけの人が他人に優しくなれだろう。

どれだけの人が誰かを救っただろう。

一人が一人に手を差し伸べて、その一人が他の誰かを助けて、そうやってたくさんの人達が他人に優しくなって、みんながみんなを想えればいい。

彼がそうしたように。

しぃがそうしたように。

だから、ドクオは彼を救いたい。

だから、ドクオは立ち上がらねばならなかった。

彼を、しぃを、人の心を、嘘だと否定しないように。

('A`)「まだ終わりなんかじゃねえ。終わらせやしない。絶対に諦めるもんか。俺はあんたを救ってみせる! だから、あんたの望みを言えよ! 生きたいって、救ってくれって言ってくれ! ビコーズ神父!」

( ;.;)

( ;.;)ナラバ

( ;.;)タノム

( ;.;)ワタシヲコロシテクレ

ビコーズは、

涙を流しながら、

人の心が通った声で、

静かにそう言った。

6241:2014/08/15(金) 21:53:22 ID:YSQy/0hU0

( ;.;)モハヤマケンハワタシノココロヲトリコンデイル

( ;.;)カラダヲエタマケンハスベテヲハカイシツクスダロウ

( ;.;)ワタシノジガガアルウチニオワラセテホシイ

('A`;)「だから、まだ諦め━━」

( ;.;)イイカゲンニメヲサマセ!!

( ;.;)マケンハヒトノココロヲムシバムノダ

( ;.;)ワタシハモウモドレ……ナ……

ビコーズの声が段々と小さくなっていく。ここまで口を開くことが出来たのさえ無理をしていたのかもしれない。

('A`;)「ふざ、けんな! 俺は、諦めねえぞ! ここまで来たんだ! 諦めたら、しぃちゃんに申し訳が立たねえだろうが!」

ドクオは立ち上がり、吠えた。不意に視界の隅で何かが動く。

(*゚ー゚)「神父……様?」

そこには、魔法から解き放たれたしぃが立っていた。

('A`;)「しぃ、ちゃん」

(*゚ー゚)「神父様……ですよね?」

6251:2014/08/15(金) 21:54:20 ID:YSQy/0hU0

(*;ー;)「しぃ、しぃです。あなたの教会でお世話になった、しぃです! ずっと、ずっと探していました! 教会がなくなってから、ずっと……」

(*;ー;)「姿形が違うとしても、神父様は神父様です。誰よりも優しくて、誰よりも強い私達の父親でした」

(*;ー;)「だから、言わせてください。私達を育ててくれて、愛情をくれて━━」

6261:2014/08/15(金) 21:55:04 ID:YSQy/0hU0




(*;ー;)「ありがとう、ございました」




.

6271:2014/08/15(金) 21:55:46 ID:YSQy/0hU0

しぃの言葉と同時、ビコーズの体の震えが止まり、彼を中心に空気が変わった。

('A`)「……しぃちゃん。絶対に諦めんな。俺も絶対に諦めないから。諦めたら全部終わりなんだ」

(*うー;)「はい」

('A`)「俺はビコーズ神父を助けたい。そんでしぃちゃんともう一度会わせる」

(*゚ー゚)「……お願いします」

('A`)「戦おう。今のあの人を止めるには、戦うしかない」

ビコーズが、いや、ビコーズを食らった何かが吠えた。魔剣に飲まれ、自我を失い、悪意に囚われた彼は今も悲しんでいるのだろう。

だから、ドクオはまだ戦わねばならない。

彼を救うため、傍らで涙を流す少女のため。

('A`)「来い! 神父!」

6281:2014/08/15(金) 21:56:29 ID:YSQy/0hU0



一体自分はどうなってしまったのだろう。

死んでしまったのか、それとも生きているのか判断がつかない。まるで柔らかい綿に包まれているかのような安らぎを覚えた。

同時に風や魔力の流れ、どこで誰が何をして何を思っているかが手に取るように分かる。

様々な情報、様々な想いが種類を問わずに与えられ捨てることさえ出来ない。

だが、こちらにとって好都合だ。そのなかには自らの力では知り得ない隠され、秘匿されてきた情報さえある。

これさえあれば世界の掌握も、神に等しい存在になることも、新たな世界を創造することすら容易いだろう。

今、

この瞬間をもって、

彼は、

世界の全てを手に入れた。

6291:2014/08/15(金) 21:57:12 ID:YSQy/0hU0
第十三話 終

630名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 21:58:58 ID:yVaw9OaY0
(・ω・`)乙
ビコーズ頑張って欲しい。しぃとちゃんとであって欲しい。
創作版で読んだ物語で初めて泣いた。
これからも頑張ってくれ

631名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 21:59:59 ID:5gs.t5VY0
乙!
盛り上がって来たな

6321:2014/08/15(金) 22:00:14 ID:YSQy/0hU0
これにて今回の投下終了です
ようやく終わりが見えてきました
次回も二週間以内にお届けしたいと思います
今回は色々と言葉選びといいますか、そういった粗が出てしまっておりますが、次回から少しなおしていこうと思います
では今回も読んでいただきありがとうございました

633名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 22:35:04 ID:Yucy7Ksw0
乙乙

634名も無きAAのようです:2014/08/15(金) 23:33:38 ID:We4dNDgw0

厨二っぽい地の文の運びだけど、普通に上手いし読みごたえありかつ読みやすいんだよなぁ
勉強になるわぁ

635名も無きAAのようです:2014/08/16(土) 20:46:06 ID:8LDJwksg0
>>634
きちんと文章になってる分まだ読めるからな
THEラノベって感じ

636名も無きAAのようです:2014/08/17(日) 14:28:26 ID:6MLeMdyY0

みんな成長してるなぁってのが分かるな

6371:2014/08/21(木) 23:23:05 ID:bJU5L84M0
どうも1です
現在十四話鋭意執筆中です
おそらく来週の金曜日には投下できるかと思います
仕事が忙しくなかなか顔を出せていませんが、皆さんの支援やレスなどはしっかり読ませていただいております
ただただ読んでいただけるだけでもありがたいのに、書き込みもいただけて作者冥利に尽きます
返レスしたいところですが、忙しいため今回は生存報告と投下予告のみとさせていただきます
それではまた

638名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:47:31 ID:AthcAp4k0
期待して楽しみに待ってます!

お仕事大変ですががんばって?

639名も無きAAのようです:2014/08/21(木) 23:51:25 ID:oHzk2Bmk0
きながにまってるよー

640名も無きAAのようです:2014/08/22(金) 01:12:18 ID:YxQf.5ok0
待ってますよ

641名も無きAAのようです:2014/08/29(金) 23:29:49 ID:hVmurqDw0
作者さんから郵便です

本日投下が出来なくなったそうです
また後日連絡をお待ちください

642名も無きAAのようです:2014/08/30(土) 00:19:52 ID:twdmxM0k0
待ってますよ

6431:2014/09/02(火) 08:05:21 ID:l8AaR42.0
てす

6441:2014/09/02(火) 08:06:18 ID:l8AaR42.0
やっと規制解除されました!
今週の金曜日に投下します!
郵便してくれた方ありがとうございました!

6451:2014/09/03(水) 23:44:36 ID:GKetSwM60
すいません予定変更です
明日の夜十時から投下します
大変お待たせして申し訳ありませんでした

646名も無きAAのようです:2014/09/04(木) 18:58:49 ID:OFkFkr46O
そろそろパンツ脱ぐか

647名も無きAAのようです:2014/09/04(木) 19:24:39 ID:zVH/wL3o0
パンツ爆発しといた

6481:2014/09/04(木) 22:00:07 ID:JgPwpBr60




第十四話「広がっていく希望」



.

6491:2014/09/04(木) 22:01:09 ID:JgPwpBr60

◇◇◇◇

从 ー 从「はっ……はっ……」

増えていく敵、熾烈さを増す砲火の中を渡辺は華麗に宙を舞っていく。すでに敵の攻撃のタイミングや、連携のクセなど見切ったものは多々あったが、渡辺はけして反撃をしなかった。

正確にいえば反撃ができない。どれくらいの時間戦っているのか分からないが、敵の攻撃を避けて相殺して操って。けしてツンを傷つけないように、邪魔をしないよう渡辺は出来うる限りの策を駆使してしつこいくらい時間稼ぎに徹している。

魔力が尽きれば箒で飛行することも出来なくなるし、力のない渡辺など一瞬で物言わぬ肉塊に成り果てるだろう。

さらに、先程から魔力消費量が自分の思っているよりも大きく減っていた。敵の術式にそういった作用が働いているのかもしれない。

魔法の使えない渡辺は他の一般人にも劣る矮小な存在でしかなくなってしまう。そうなれば術式の解析に集中しているツンへ意識が向いてしまう。そうなれば黒幕と戦っているドクオ達も劣性を強いられるのだ。

この街では沢山の仲間がそれぞれの想いを胸に戦っている。渡辺にはその手助けが出来るのだ。

6501:2014/09/04(木) 22:01:56 ID:JgPwpBr60

たかだか魔法使いになったばかりのひよっこだが、誰かのために戦う理由はそれで十分だった。

从 ー 从(それに、まだ最後の手は残ってる)

渡辺の手に握られた楕円形の道具。ツンがくれた一筋の希望。

使い方も、威力も未知数だが戦闘能力に期待できない自分に預けたということはそれなりに期待できるはずだ。

あとはそのタイミング。いつ使うべきか、使ったとして戦闘は終わるのか。攻撃手段がこれしかない現状、魔物の数がなおも増えるのであればまだ使うべきではない。

もちろんこの道具で全てが決する可能性はそこまで高くないだろう。

だからこそ使うタイミングは慎重に選ばなければならない。弾丸は一発。外せば何もかもが終わる。渡辺にはそんな確信があった。

下を見ればケルベロスの他にゴーレムが二体、巨大なゾンビが三体、こちらを睥睨している。ケルベロス以外はいずれも遠距離攻撃を持ってはいない。代わりにそこらに転がっている岩を投げつけて攻撃していた。

直線的な攻撃なうえ、ゴーレムもゾンビもそこまで知性は高くないようで好き勝手に攻撃しているので回避するのは容易い。

651名も無きAAのようです:2014/09/04(木) 22:02:02 ID:b6BMUx6M0
きた!これで勝つる!

6521:2014/09/04(木) 22:02:58 ID:JgPwpBr60

問題は奴らの防御力だった。硬い鉱石でできているゴーレムは言わずもがな、ゾンビ共も防御力こそ低いもののどれだけ傷がつこうとも死ぬことのない耐久力は火力のない渡辺にとっては厳しい相手である。

ましてや高火力の魔法を制限されている今、対抗する術はない。

故に渡辺は適度に牽制し、かつツンを守りつつ逃げ続けるしか方法がないのだ。

こうして様子を見ている間も防御障壁の維持に魔力を裂かれ、浮いている箒にも魔力は使う。

そのためにはツンが術式を解くことが大前提。おそらく、下にいる魔物を倒したところで次の魔物が現れるのは間違いない。

これだけ強固な守りを施しているのだ。たかだか魔法使いに昇格した程度の小娘に攻略を許すほど甘くはないはず。

現状でさえ手を遍いているのだから、これ以上は渡辺がどうこうできるレベルではないだろう。

だからこそ、この街の出来事を終わらせるための条件をきっちりと整理する必要があった。

極限の戦いの中で、渡辺は自分でも経験したことのないほどに集中力を増しているのを感じた。

从'ー'从(この戦いを終わらせる条件は、三つ。まずはツンちゃんが術式を解除すること)

6531:2014/09/04(木) 22:03:48 ID:JgPwpBr60

これは最低条件の一つとも言える。オサムが施した魔法はモ・トコだけでなく周辺の街にまで及んでいる以上、目先の敵を潰したところで意味はないのだ。

从'ー'从(次に、これ以上魔物を増やさないこと。多分、術式を解かないと次々出てくるもんね)

ツンは侵入者迎撃の術式だと言っていた。仮にツンが術式の解除に成功したとしても、現れてしまった魔物は消えたりしないだろう。どころか周辺の街に散らばり人々に被害をもたらす可能性もある。

そうならないためにも渡辺は現状を維持したまま時間を徹底的に稼ぐ必要があった。

从'ー'从(最後に、オサムさんを倒すこと。術者がいなくなれば同じ被害は出ない、はず!)

ここまで考えたところで、やはり出来ることは変わらないことに気付き、渡辺は少々気落ちした。

ここまで真剣に考えたのに、到達点は一緒だった。

从;'ー'从(うー、一生懸命考えたのにー……)

と、渡辺が自身の思考回路に心底落胆している時、不意に後方から高熱を放つ何かを感じた。

箒を繰り、方向転換。炎を纏った九つの岩弾が目前まで迫っている。

从;'ー'从(ふぇぇ……避けられないよぉ〜!)

6541:2014/09/04(木) 22:04:43 ID:JgPwpBr60

体を横に傾け、直撃だけは免れるものの、次々に飛んでくるそれらを完全に回避することはできず、幾つかが箒の柄を叩いていった。

錐揉み回転しながら落ちていく自分の体と箒。落下すれば命はない。うまく体勢を立て直そうと踏ん張るものの、さらに炎弾が追撃。たまらず渡辺は魔法を展開させてしまう。

从;'ー'从(あ! 私の馬鹿ぁ〜!)

最低限の防御魔法だったが、咄嗟の展開だったために著しく魔力を消費してしまった。これでは時間稼ぎどころの話ではない。

再び上空へと避難。未だにこれでもかと言わんばかりに飛んでくる炎弾と岩石の嵐の中で、さらに重大な事実に気付いてしまった。

从;'ー'从(あ、ツンちゃんに貰った道具!)

見れば渡辺の元を離れて地面に落下していた。先程体勢を崩した時に落ちてしまったのだろう。ケルベロス達の足元に転がっている。

拾いに行きたいが、今のままでは不可能だ。敵が構えている陣地に無策で飛び込むなど愚の骨頂、それくらい渡辺にだって分かっていた。

从;'ー'从(ふぇぇ……どうしよう……)

最後の希望が絶たれてしまった。勿論あれ一つで全てが決する訳ではないが、重要なファクターの一つであることに違いはない。

6551:2014/09/04(木) 22:05:31 ID:JgPwpBr60

迷っている間にも危険は迫る。渡辺は決断しなければならない。

从'ー'从(……なくしちゃいけない。あれは最後の希望なんだから!)

砲火の嵐を紙一重の差で交わしながら渡辺は魔物の元へと箒を走らせた。体力も、魔力も残り少ない今、これが最後のチャンスだろう。

物までの距離まで、あと僅か。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

从'ー'从(え……)

離れた位置にいたはずのケルベロス。渡辺が道具に到達する直前、横から割り込んできた。

得意の炎弾ではない。鋭く尖った牙を剥き出しにし、凶悪な形相でこちらを狙っている。

今さら方向転換など不可能。避けきれない。

全ての動きが止まったように感じた。一瞬一瞬が手に取るように分かる。

だがそれに反して体は動かない、言うことを利かない。

渡辺は思わず目を閉じた。これで何もかもが終わってしまう。自分の命も、この戦いも。

从 ー 从(ごめんなさい、みんな。ごめんなさい、どっくん)

6561:2014/09/04(木) 22:06:19 ID:JgPwpBr60

信じてくれたみんなを裏切る形になってしまった。もう、抗う術はない。

その瞬間、渡辺は強い魔力の奔流を捉えた。自分でもない、ツンでもない、もちろん魔物のものでもない。

もっと別の異質な魔力。渡辺の感覚で言うならば、もっとも近いものは、マナ。

从'ー'从「……ほえ?」

地面を滑り、痛みに半べそをかきつつおそるおそる目を開ける。すると、そこには予想もしなかった光景が広がっていた。

渡辺の魔法を意にも介さなかったケルベロスが、幾つもの肉片となって散らばっている。

さらに渡辺の周りには自らが使うものよりも数段レベルの高い防御魔法が。

そして、渡辺の目の前にはパタパタと羽を羽ばたかせている奇妙な生物。

(*゚∀゚)

从'ー'从「……猫?」

それは一言で言えば羽の生えた黒猫だった。あえて疑問をあげるならば、この猫が一体どこから出てきたのかということ。

そして━━

6571:2014/09/04(木) 22:07:57 ID:JgPwpBr60

(*゚∀゚)「ニャ」

猫が短く鳴いた。それだけで少し離れた場所に立っていたゴーレムを中心に巨大な爆発が巻き起こる。

从;'ー'从「わわっ」

ゴーレムは木っ端微塵、おまけに大きなクレーターが出来上がっていた。

从;'ー'从「す、すごいよぉ……」

(*゚∀゚)「ニャ、あんたがあたしのご主人かニャ?」

从;'ー'从「しゃ、しゃべったー!」

(*゚∀゚)「そりゃ魔法生物ニャンだからしゃべるに決まってるニャ」

从;'ー'从「魔法生物? って、もしかして」

もしや、ツンにもらったあの道具がこの猫を召喚、いや作り出したというのだろうか。

(*゚∀゚)「ニャニャ。何はともあれ、あたしのご主人はあんたで間違いなさそうニャ。あたしはつー、主人を守る使い魔ニャ」

猫はそれだけ言って、ニヤリと笑った。

6581:2014/09/04(木) 22:08:41 ID:JgPwpBr60



大きな音に思わずツンは振り返ってしまった。

渡辺では対処しきれないほどの魔物が現れていたのは分かっていた。それでも今まで渡辺を気にしなかったのはひとえに彼女に渡した道具があれば、少なくとも渡辺が死ぬことはないとたかをくくっていたからである。

しかし、それがうまく機能した様子がなかったのでツンの不安はとうとう爆発してしまった。

だが。

从'ー'从「がんばれーねこちゃーん」

(*゚∀゚)「ニャ」

黒猫が広範囲に燃え盛る火炎を放つ。うまく魔物の動きを制限し、見事に手のひらで踊らせていた。

その後ろで精一杯応援する渡辺。どうやら戦いは猫に任せたようだ。

ξ゚⊿゚)ξ「何よ、うまくやってくれてんじゃないの」

ツンが渡した道具は使い魔を製造するためのもの。使用した、というよりも術者を指定して魔力が蓄積されると自動で使い魔が生成される仕組みになっている。

蓄積される魔力は指定した術者の内包魔力やマナの量にも左右されるのだが、ここまで時間がかかったということは━━

ξ゚⊿゚)ξ(渡辺の潜在能力って一体どうなってんのよ)

6591:2014/09/04(木) 22:09:31 ID:JgPwpBr60

使い魔の姿形は術者の脳内イメージ、というよりは本人が持つ想像力が魔力を伝って道具側が勝手に形作る。今回の場合、渡辺の使い魔というのは黒猫で、彼女の持つ力はそれ以上になるということ。

使い魔がケルベロスやゴーレムを一撃で倒すなんて、ツンが見たデータにも掲載されていなかった。

しかも、同時に複数の魔法を展開してうまく渡辺やツンを守りながら戦っているようだ。時間稼ぎということもしっかり理解しており、渡辺よりも数段お利口さんである。

ξ゚⊿゚)ξ(ま、とりあえず結果オーライってやつね。あとは……)

自分がこの術式を解除すれば全てが解決、ショボン達の捜索に向かえるというもの。

あれだけの使い魔が出てきた以上、渡辺は心配いらないだろう。

ξ*゚⊿゚)ξ(さぁって、さっさと終わらせて王都に戻りますか!)

どこぞの誰かが干渉している術式を巧みに変換と削除、さらには自身で組んだ術式を嵌め込み、うまく魔導原石から引き剥がしていく。

6601:2014/09/04(木) 22:10:36 ID:JgPwpBr60

あちらの最優先の目的は精神掌握系の魔法を引き剥がすことだというのは一目瞭然。ならばそれさえも利用してしまえば解除の早さも二倍になる。

ξ゚?゚)ξ(こっちのルーンはここに、この魔導関数はこれね。この辺は、まるごと変換、と)

術式とはすなわちルーンや魔導関数の集合体だ。それ単体で意味を持つ図形ルーンと、魔力を適切な場所に適切な量を配置する魔導関数。大まかに言えば術式はこの二つで構成されている。

そして術式をいくつも組み合わせて出来上がるのが魔法陣であり、呼び出すことによって魔法は発動、というのが一般的な形だ。

もちろん魔法というのは元を辿れば魔力に命令を与え、特殊な変化を施し様々な物であったり事象を引き起こすものであり、魔力に命令が伝わるのであれば陣を用いる必要はない。

例えば言葉、即ち音であったり文字であったり、魔力が反応すればなんでもいいのだ。しかし、魔力への命令は当然ながら膨大な情報量を扱わなければならないために音や文字ではどうあっても時間がかかってしまう。

故にその問題を解決するためにルーンと魔導関数を用いた術式と魔法陣が考案された。

突き詰めていえば、ツンが今いじくっている魔法陣も一部のルーンや魔導関数を適当に変えてしまえばシステム自体は使えなくなる。

だが、オサムは他の誰かに術式を解析、変換されることを見越してなのかそういったことをすれば自動的に魔導原石のエネルギーを暴発させる術式も同時に組み上げているようだ。

6611:2014/09/04(木) 22:11:29 ID:JgPwpBr60

どこから引っ張っているのか詳しくは分からないが、様々な場所から強引に魔力を集めているところを考えると、おそらく周辺の街の魔力炉もシステムの一部として機能させているのだろう。

そんなものが暴発すれば、単純に計算しても大陸北部が消滅するであろうことは想像に固くない。

ξ゚⊿゚)ξ(よくもまぁここまで面倒な術式を組んだもんよ。この知識と技術を世のため人のために使えば称えられたものを)

この複雑で繊細なシステムを見れば、研究者として、技術者としての腕は相当なものだということは誰の目から見ても明らかだ。だからこそもう少し違った形でそれを発揮できれば、とツンは残念に思った。

術式の解除は順調に進んでいく。顔も名前も知らない向こう側の術者もうまくこちらの意図を組んで動いてくれていることもあってか、ツンも驚くほどスムーズにことは運んでいった。

だが、だからこそツンは慎重にならなければならなかったのだ。

まるで導かれるように変換されていく術式は、ツンの意図とは正反対の方向へと向かっていた。

だから、それに気付けたのは僥倖というほかなかったのかもしれない。

ξ;゚⊿゚)ξ(え、なにこれ……どうなってんの?)

6621:2014/09/04(木) 22:12:21 ID:JgPwpBr60

組上がっていく術式の意味を大まかに訳すならば━━

『全ての魔力を一つに収束させる』

つまり、モ・トコにいる全ての存在を魔力に変換するということ。

ξ#゚⊿゚)ξ「ふ、ざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

この短時間で、かつ一切の無駄なくこんなことができる人間などここには一人しかいない。

ツンは、そしてもう一人の協力者は、嵌められたのだ。

あの狡猾で、傲慢で、人を人とも思わぬ悪魔に。

このままではこの街にいる仲間達を含め全ての人間が死を迎える。最悪それだけは避けねばならない。

ξ;゚⊿゚)ξ(急げ! 私ならできる! 急ぐのよ!)

ξ;゚⊿゚)ξ「渡辺! ここはいいからあんたはショボンさん達を探しに行って、この場を離れなさい!」

突如呼ばれた渡辺が怪訝そうに眉を潜めていた。

ξ゚⊿゚)ξ「説明してる暇はないの! とにかく早く!」

渡辺が慌てて頷き、使い魔を連れて飛んでいく。それと同時、周囲に蠢いていた魔物達が淡い光となって消えた。

もう、時間はほとんど残されていない。

6631:2014/09/04(木) 22:13:21 ID:JgPwpBr60

◇◇◇◇

(;´ ω `)(これは、一体どういうことなんだ?)

途中まではほとんど完璧といっていいほどの進捗だった。なのに、今ショボンの前にある術式は異様とさえ言えるほど禍々しいものへと変貌を遂げている。

全てのルーンや魔導関数の意味を汲み取ることはできない。ショボンでさえ見たことのないルーンの配置と関数の設定は、現代魔法における定石を遥かに外れている。

それでも、ショボンの騎士としての勘が告げていた。

これは、危険だと。

このままでは、全滅だと。

(;´ ω `)「モラ━━」

声を張り上げ、戦っているモララーへと目を向けた時だった。

( ;・∀・)「これは……」

6641:2014/09/04(木) 22:14:47 ID:JgPwpBr60

モララーと戦っていたはずの炭鉱夫達が、光の粒子となって消滅したのだ。始めから、存在などしていなかったかのように。

( ・∀・)「……どうなってんだよこれ」

(;´ ω `)「分からない。分からないが、とてつもなく嫌な予感がする」

( ・∀・)「奇遇ですね。俺もそんな気がします」

立っていられなくなり、ショボンが地に膝を着く間際、モララーが肩を貸してくれた。

( ・∀・)「とにかくここを離れましょう。ドクオ達も気がかりだ」

(;´ω`)「僕のことはいい。あとは自分で何とかする。モララーはドクオとしぃの方を優先してくれ。何かあれば、連絡を頼む」

一瞬迷った顔を見せたが、モララーはすぐに頷いた。今優先すべきが何かを理解できないほどモララーは馬鹿ではない。

だからこそショボンは彼を信頼できるのだ。

6651:2014/09/04(木) 22:15:36 ID:JgPwpBr60

( ・∀・)「勝手に死なれちゃ困りますからね。ジョルジュ団長もいない今、あなたを失うのは痛い」

(´ω`)「分かっているさ」

それだけを言って、モララーが去っていく。途端に膝を着き、大きく息を吐いた。

もしかすると、約束は守れないかもしれない。

(´ω`)(すまない。モララー)

瓦礫の上に寝転び、流れていく雲を眺める。どこまでも穏やかで、戦闘の真っ最中だということも忘れてしまいそうなほどに、美しい朝焼けだった。

と、その中に高速で飛行する物体を見つける。魔物、ではない。あれは、人だ。

だんだんと近付いてくるそれに、臨戦態勢を取ろうとして、ショボンは体に力が入らないことに気付く。どうやら戦うことすらできそうにない。

从'ー'从「あ、ショボンさん見つけたよぉ〜」

(*゚∀゚)「ニャニャ。ご主人お手柄ニャ」

(´ω`)「渡辺!? 何故君が━━」

从'ー'从「はいは〜い。話はあとですよ〜。えっと、確か、もう一本……」

渡辺がポケットから瓶を取り出した。確か、あれは魔力を回復させる薬だ。それを飲まされ、ショボンの体にある程度力が戻っていく。

6661:2014/09/04(木) 22:16:19 ID:JgPwpBr60

失ったマナまですぐに回復するわけではないが、先程よりは幾分ましになった。少なくとも自力で立つのは問題ない。

(´・ω・`)「……すまない。助かったよ。それにしても、何故君が」

从'ー'从「えっと、どこから話せばいいのかなぁ〜」

(*゚∀゚)「そんなことより、さっきの魔法使いに言われたこと忘れたのかニャ」

从'ー'从「あ、そうでした。あの、ショボンさん、ツンちゃんが早くこの街から離れてって言ってました〜」

(´・ω・`)「……何?」

渡辺が手短に今までの経緯を話す。モ・トコに来た理由、これまでの戦い、ツンが今何をしているのか。

(´・ω・`)(なるほど。ということは、さっきまで僕のカバーをしてくれていたのは彼女だったのか)

一つ目の謎が解けたところで、二つ目の謎であるここから離れろとはどういうことだろうか。

(´・ω・`)(あの術式はよく分からないが、魔力を操る用途のものだろう。そして、消えた炭鉱夫達)

さらに周辺の街から消えた住民、オサムという敵の目的。

様々な角度から思考を張り巡らせ、ショボンが導き出した答えは━━

6671:2014/09/04(木) 22:17:13 ID:JgPwpBr60

(´・ω・`)「まさか、この街全体の魔力をマナへと変換するつもりなのか?」

从'ー'从「ほえ? そうなんですか?」

(*゚∀゚)「ニャ。魔力の流れから考えれば、あり得なくはないと思いますニャ」

(´・ω・`)「……ところで、この猫は」

(*゚∀゚)「ニャ。魔法使い渡辺の使い魔、ツーといいますニャ」

(´・ω・`)「……そうか」

深くは突っ込まないようにしよう。使い魔を作る魔法道具は確かにあった気はするが、普通人語を解さないはずだ。

だが、今はそれを考えている暇はない。

(´・ω・`)「どのみち、今彼女は一人で術式の解除をしているんだろう。ならば、僕がそちらの補助に回ろう。何をするつもりかは分からないが、力にはなれるはずだ」

从'ー'从「私はどうすればいいですか?」

6681:2014/09/04(木) 22:18:02 ID:JgPwpBr60

(´・ω・`)「モララーと共にドクオ達の元へ。彼らが戦闘中であれば支援し、速やかにこの街から離れるんだ」

从'ー'从「分かりました〜」

(´・ω・`)「君は魔法使いといえど、騎士団に属していない。けして無茶はしないように」

从'ー'从「は〜い」

渡辺が気の抜けた返事をして箒で空へと消えた。

これである程度の問題は解決に向かうはすだが、最大にして最悪の問題である方は、すぐにでもなんとかしなくてはならないだろう。

ショボンが行ったところで役に立たないかもしれないが、やらないよりはましだ。

(´・ω・`)「本調子ではないが、なんとかなるだろう」

ショボンは再び魔力を辿り、戦場を駆ける。

いつ倒れるとも知れぬ身でありながら、救えるはずの人達のために。

6691:2014/09/04(木) 22:18:45 ID:JgPwpBr60

◇◇◇◇

宙に浮いている氷の剣を一本掴んで思いきり降り下ろす。ビコーズの体に当たるものの、強度が足りないせいか一撃で粉々になった。

横薙ぎに向かってくる剣撃を身を低くしてかわすと、すぐにもう一本。やはり当たると同時に粉砕される。

('A`;)(やっぱろくなダメージにならねぇ!!)

距離をとるために横へと飛ぶが、ビコーズの魔法がドクオを襲う。後方に待機しているしぃがうまく防御魔法を敷いてくれるが、全ての攻撃を防ぐことは敵わない。

突き破ってきた魔法がいくつか体を掠めるも、致命傷にはならなかった。三度氷の剣を取って投擲。

ビコーズはそれを手を払うだけで簡単に防いだ。

武器を持たぬドクオは先程からしぃに簡易的な氷の剣を至るところに精製してもらい、それらを無造作に引っ付かんで攻撃しているのだが、元が人を超越した存在であるビコーズには傷一つ負わすことができなかった。

代わりにドクオは完全に生身なうえ、魔剣による身体強化もないため、一撃一撃が酷く重い。

食らえばその時点で死亡、なのにこちらの攻撃は一切通らないというあまりの戦力差。もしこの場にしぃがいなかったらと思うと背筋が震える思いだった。

6701:2014/09/04(木) 22:19:28 ID:JgPwpBr60

だが、泣き言を言っていてはビコーズにも、しぃにも合わす顔がない。

ドクオはもうとっくに腹を括っている。

しぃを、ビコーズを、ありとあらゆる報われない人達を救う。

ビコーズがそうしてきたように、しぃがそうあろうとしたように。

だからここで引くという選択肢は端からない。あるのはギリギリでもなんでも、彼と戦い、目を冷まさせることだけ。

幸い敵の攻撃はしぃとの連携で避けられないわけではないのだ。攻撃が通らないのが目下の問題点ではあるものの、それにもきちんと目処はつけている。

あとは然るべきタイミングで然るべきことをするのみ。

('A`;)(とはいうものの、俺の体が無事でいてくれるか怪しいな……)

威力、速さ共に魔剣の加護を受けたドクオをゆうに越えている。おまけに魔法まで使えるのだからどこまでも反則級の相手だった。少なくとも今までドクオが相手取ったどの敵よりも手強い。

こちらの動きはいとも容易く見切られるし、あちらの動きにドクオはついていけないし、とないない尽くしである。

('A`)(あとは、ビコーズ神父がどこまで人間であるか、だろうな)

いくら人を越えた存在であっても、目があり、鼻があり、手があり足がある。関節や筋肉の動きにも限界はあるし、視界も全方向確認できるわけではない。

6711:2014/09/04(木) 22:20:19 ID:JgPwpBr60

人型をしている以上、弱点はいくらでもあるはずだ。

ドクオは自分の知識をフル動員して出来る限りの抵抗を試みる。その全てが通用するわけではないが、最悪被弾は防げるはずだ。

('A`;)(しかし、ほんと隙がねえな。今んとこはうまくいってるけど、気を抜いたら即死亡だぞ)

うまく距離を図りながら敵の攻撃のあと、動作の継ぎ目を狙いながら牽制にもならない攻撃を繰り返す。

しぃに攻撃をさせる案も一度は考えたが、氷の剣をどれだけ使うかも分からないし、仕上げに至るまでどれほどの時間がかかるか予測ができない以上、無駄玉を打たす訳にはいかなかった。

ドクオに決定的な危険が迫るまで温存するに越したことはない。

( ゚.゚)

ビコーズの周辺に光の玉が漂い始める。同時にドクオへ向かって突っ込んできた。

氷剣で迎撃。両手に剣を持って力一杯袈裟に振り抜く。

閃光。光が一気に弾けた。

(うA-;)(うおっ、まぶしっ)

6721:2014/09/04(木) 22:21:08 ID:JgPwpBr60

視界を奪われ、ドクオは急いで後ろへ跳ぶ。

(*゚ー゚)「右です!」

しぃの声に従い、さらに右へ。左から大量の破片が突き刺さる。たまらず膝から崩れ落ちそうになるが、踏みとどまり視界の回復を待つ。

が、背中から何かが炸裂した。おそらく、先程の光弾だろう。気を失いそうな痛みを耐えると、視界が元に戻る。

( ゚.゚)

目の前にビコーズが迫っていた。近くの氷剣を掴んでガードの体勢を取ろうとして、思い直す。

敵の武器は魔剣。全ての魔法を破る絶対的破壊の象徴。

辺りには逃げ道がない。

('A`)(やばい……!?)

しかし、ビコーズの攻撃はドクオの顔面数ミリ前を切った。体勢が後ろに崩れている。

下を見れば足元から氷の塊が隆起していた。どうやらそれに足元を掬われたようだ。

6731:2014/09/04(木) 22:21:54 ID:JgPwpBr60

(*゚ー゚)

しぃに魔法を使わせてしまった。礼を言いたいところだが、自分の不手際に申し訳ない気持ちになる。

それでもこれはチャンスだ。ドクオは少し大きめの氷剣を取ると脇腹に叩き込む。さらに顔面へと膝を入れ遠くへと吹き飛ばした。

あまりの硬さに叫び声をあげそうになるが、なんとか抑えてもう一本を投擲。

敵に当たったかを確認せず、ドクオは駆け出す。敵の視界に入る前に次なる死角に入らねばならない。

その瞬間。

( ゚.゚)

('A`;)「なっ」

気付けばビコーズが目の前に立っていた。なんの前触れもなく、さも当然のように。

突然のことにドクオは反応できず、頭上に振り上げられた魔剣を見上げることしか出来ない。

('A`;)(何が……)

6741:2014/09/04(木) 22:22:52 ID:JgPwpBr60

停止した思考。避けなければ、と考えれば考えるほどに動かなくなる体。スローモーションのように一瞬が一秒に、一秒が一分に引き伸ばされていく。

その長く短い一瞬で、ドクオはようやく把握した。オサムが使っていた空間を自由に行使する魔法を、どういうわけかビコーズも使用したということ。

たった、それだけのこと。

簡単に他人の魔法を体得するなどできるはずがないのに、彼は、人ではないそれはなんでもないかのようにやってみせた。

それは自分ではけしてできないことだ。魔法など分からないし、分かったところでできるはずもない。

どれだけ魔力を理解しても、どれだけ世界を知っても、ドクオは所詮ただの人間。

魔剣を持っているだけの、人間でしかないのだから。

(;*゚ー゚)「ドクオさん!! 動いて!!」

遠くでしぃの声が聞こえた。氷や水の魔法をしっちゃかめっちゃかに発動させているようだが、間に合わないだろう。距離が離れすぎている。

考える時間はたくさんあるはずなのに、伝えなきゃいけないことも山ほどあるのに、ドクオはそれを言葉にすることが出来ない。

6751:2014/09/04(木) 22:23:36 ID:JgPwpBr60

( ゚.゚)

('A`)

(;*゚ー゚)「ドクオさぁぁぁぁぁぁぁん!!」

魔剣がドクオに触れる。自身の体が魔力となる感覚、そして消滅を始める自分だったもの。

消え行く間際、ドクオは自分の内から溢れるものの存在に、ようやく気付いたのだった。

6761:2014/09/04(木) 22:24:21 ID:JgPwpBr60




(;* ー )「あ、あぁ……」

しぃの目の前で、また一人大切な人がいなくなってしまった。

ドクオは自分が合図を出すまで指示された魔法を使うなと言っていた。それがビコーズを止める唯一の手立てだから、と。

だが、そんなもの律儀に守る必要なんてなかったのだ。ドクオの命を脅かされた時点で使うべきだった。

自分で決めて、自分で選ぶのだと決意したはずなのに、肝心の場面で何故躊躇ってしまったのか。

ドクオは誰にでも優しかった。誰にでも分け隔てなく接していた。平等に誰かを救おうとしていた。

それは渡辺という存在に感化されただけのエゴだったのかもしれないが、それでも彼は自分でそうすると決めて戦い続けていたのだ。

そんなドクオだったからこそ、しぃは信じることができたし甘えることができた。あのひょろくて頼りない背中を見て安らぎを得ることさえあった。

なのに、

6771:2014/09/04(木) 22:25:03 ID:JgPwpBr60

自分のせいで、

自分の弱さで、

自分の甘さで、

彼は、

死んでしまった。

他の誰でもない、自分のせいで。

(* ー )

しぃは力なく膝を折る。無感情のビコーズがゆっくりと近付いてきた。

何も言わず、ひたすらに魔法を発動。小さな威力のものも、大きなものも片っ端から呼び出して攻撃していく。

ビコーズは魔法の嵐の中にも関わらず、散歩するような気軽さで悠々と歩いている。こんなもの、何でもないと主張するように。

手にした力を、格の違いを見せつけるように。

最後の魔法を打ち終えて、しぃは今度こそ虚脱感に身を任せた。

もうビコーズを止める手段も、力もない。しぃ一人では役不足だ。

何より、この世界のどこを探してもドクオがいない。

一緒にビコーズを探しにいこうと笑った柔和だけど整っているとは言えない顔。

やる気がなくていつも気だるげに話す声も、全部、全部。

(* ー )「ごめ……なさ……」

6781:2014/09/04(木) 22:25:45 ID:JgPwpBr60

誰にともなく呟く言葉と同時、しぃは魔法陣を展開させる。

自身の全ての魔力、果ては自分の体のマナをも使っての最大火力。

もう、自分には何もできない。大切な人を、仲間を守ることさえろくにできず、探していた恩人を救うこともできない。

全部、自分の覚悟が足りなかったから。

だから、せめてもの償いを。

何もできない自分にできる最後の贖いを。

(* ー )「さよなら」

しぃは魔法を発動させた。

しかし、何も起こらない。どころか展開させていたはずの魔法陣さえ輝きを失い霧散していく。

静寂が訪れ、音もなく近づいてくるビコーズの姿にしぃの思考はより深みへと堕ちていった。

(* ー )「……どうし、て」

周囲にはいつの間に張っていたのか魔法無効果の術式が展開されていた。しぃが集めた魔力も、自身のマナもごっそりと消えていく。

最後の足掻きさえ出来ない。させてもらえない。

6791:2014/09/04(木) 22:26:39 ID:JgPwpBr60

自分の命さえ賭けたのに、心に灯ったはずの光が徐々に弱くなっていく。

(* ー )「これが、私の贖罪というわけですか。咎だと、あなたは仰るんですね」

ビコーズは答えない。

(* ー )「私には誰も救う権利なんてなくて、救われる権利もないと」

ビコーズが足を止めた。魔剣を振りかぶっている。

(*;ー;)「確かに私は咎人ですよ!! それでも、最後くらい、自分の死に場所くらい選ばせてくれたっていいではないですか!!」

彼女の痛々しいほどの叫びが辺りに響いた。それに答える者はどこにもいない。

かつて信じていた神も、その教えを説いた神父も、この場においてはしぃを断罪する処刑人で、しぃには許しを乞うことも全てを嘆く権利もない。

でも、それでも、しぃは彼に伝えなければならなかった。

届くことはないと知っていても、ここにいる何かはビコーズではないけれど確かにビコーズなのだから。

(*;ー;)「私は神父様を恨みません。あなたに沢山の愛を頂きました。たくさんの教えを頂きました。人を愛すること、誰かを救うこと、人として受けるべきだった全てをあなたは私にくれたのです」

6801:2014/09/04(木) 22:27:22 ID:JgPwpBr60

(*;ー;)「血の繋がりなんてなくとも、あなたと過ごした日々が、思い出が、想いが、私達みんなが家族であると教えてくれています」

(*;ー;)「私は神父様を救うことはできません。悲しみに暮れている神父様に手を差し伸べる権利も力もないのでしょう。たから、私は自分にしかできない最後のことをしようと思います」

(*うー;)

しぃは涙を拭い、泣き顔を笑顔へと変える。

もう涙は出ない。

今、目の前にいるのは紛れもない彼。想い焦がれたいつかの父親なのだ。

別れに相応しいのは涙じゃない。

感謝を込めた、心からの笑顔。

6811:2014/09/04(木) 22:28:04 ID:JgPwpBr60





(*。^ー^。)「育ててくれてありがとうございました、お父さん」





.

6821:2014/09/04(木) 22:28:51 ID:JgPwpBr60

( ゚.゚)……

ビコーズは何も言わない、動かない。剣を振りかぶったまま、しぃを見ているだけ。

もう十分彼は苦しんだ、地獄を見てきた。

教会を無くし、たった一人で何を見てきたのかしぃは知らない。けれどもここで娘に刃を向けなければならないほどには辛い経験をしてきたのだろう。

だからこそしぃは最後に笑ってあげなければ、認めてあげなければ彼の人生が無意味なものだったと肯定することになる。

しぃは立ち上がり、ビコーズと真っ正面から向き合い、その体を抱き締めた。

(*。^ー^。)「もう一度会えてよかった」

しぃがそう言ったとき、冷たい滴が彼女の頬を濡らす。

ビコーズの顔を見れば、大きく見開かれた瞳から大粒の涙が溢れていた。

(*゚ー゚)「お父さん?」

6831:2014/09/04(木) 22:29:35 ID:JgPwpBr60

( ;.;)コンナフガイナイワタシヲマダチチトヨンデクレルノカ

(*゚ー゚)「当たり前ですよ。親というのは、そういうものでしょう?」

( ;.;)アア、アア

(*゚ー゚)「私が最後までそばにいます。だから、終わりにしましょう。これ以上誰も傷つけなくていいんです」

その言葉と同時に、ビコーズの体色が人本来の色を取り戻していく。羽は光の粒子となって溶け、異様に盛り上がった筋肉も年相応の痩せ細ったものへと戻っていった。

( ;.;)「私はもう人を傷つけたくない!」

(*゚ー゚)「神父、様……」

けして泣くまいと自らの感情に蓋をしていたはずなのに、次から次へと涙が溢れていく。

(*;ー;)「神父様、いえ、お父さん!!」

しぃは生まれて初めて、人目を憚らず大声をあげて泣いた。

( ;.;)「すまなかった。そして、ありがとう……」

ビコーズの腕がしぃを力強く抱き締める。

しぃは、この日神父が、ビコーズが父としてくれたものを一生忘れまいと、心から誓った。

本当に大切なものは、今この瞬間をもって確かなものとなったのだから。

6841:2014/09/04(木) 22:30:27 ID:JgPwpBr60

( -.-)

(*-ー-)

けれど、しぃは忘れていた。幸福も大切なものも、きちんと掴んでいなければすぐにさらわれていくということを。

だから、しぃは気づかなければならなかった。敵はけしてビコーズだけではないということに。

━━ドクン━━

(*゚ー゚)「……え?」

━━ドクン、ドクン━━

( ∵)「━━」

ビコーズがしぃを突き飛ばし、何かを言っていた。なのに、それを理解できない。

いや、理解できないのではなく、何を言っているのか分からなかった。

(;*゚ー゚)「お父さん!!」

何故なら、

( . )「━━!!」

ビコーズはもう、

(*;ー;)「やめてええええええええええええ!!」

ビコーズではなくなっていたから。

6851:2014/09/04(木) 22:31:09 ID:JgPwpBr60

( ∵)「ハハハハハハ!! 手ニ入レタ!! 手ニ入レタゾ!! 全テヲ越エル力ヲ、全テヲ操ル体ヲ!!」

再びビコーズの体が黒く変色、白き翼を纏い魔力を放出。

体はビコーズのもののはずなのに、顔付きはまるで別人。先程瞬殺されたオサムのように見える。

( ゚"_ゞ゚)「コレガ力、コレガ世界ノ全テ。実ニ面白イ!! サァ!! 死ノ饗宴ヲ始メヨウデハナイカ!!」

6861:2014/09/04(木) 22:31:51 ID:JgPwpBr60



ここは、どこだろうか。

自分は死んだのだろうか。

真っ暗で何も見えない。

魔剣アポカリプスの力で、自分は魔力へと分解されたのだ。もう生きてはいないだろう。

なのに、何故自分はまだここに存在しているのか。

そもそも死とは何だろう。生きるとはなんだろう。

人が魔力の塊だと言うのなら、魔力さえ生きていると言えるのではないか。

じゃあ、魔力となった自分はどんな存在なのだろう。

人であると言えるのか、はたまた別の存在へと変化するのか。

いや、人はどこまでも人だ。

泣いて、笑って、苦しんで、悲しんで、悔やんで、それでも歩き続けるのだから。

ほら、同じようにたくさんの人が感情を、心を燃やしている。

懸命に、這いつくばっても、たくさんの人が生きようとしている。

6871:2014/09/04(木) 22:32:45 ID:JgPwpBr60

ξ;゚⊿゚)ξ(;´・ω・`)

あれは、ツンとショボンだ。街に張り巡っている魔法を解こうと奮闘していた。

誰かのために、みんなのために。

从;'ー'从( ;・∀・)

渡辺とモララーがこちらに向かってきている。尋常じゃないくらいに焦燥した顔をして、戦っているであろう自分達のために。

(*;ー;)( ;.;)

しぃがオサムの前で泣いている。オサムに乗っ取られたビコーズも、必死に叫んでいる。

血の繋がりがなくても、しぃとビコーズは紛れもなく親子という絆で繋がっているから。だから二人で戦おうとしている。

( ゚"_ゞ゚)

オサムの手によって弄ばれたたくさんの運命が、たくさんの命が、ここには集まっているのだろうか。

誰も彼もが戦っている世界で、一人俺は何をしている?

('A`)

6881:2014/09/04(木) 22:33:42 ID:JgPwpBr60

想いが、絆が、心が、終わりじゃないと伝えている。

まだ死んじゃいない。

オサムも、きっとここに連れてこられたのかも知れない。

繋がっていく世界を、人の絆を、想いを、全てを、あいつも知ったんだ。

それでもあいつは私欲を望み、顕現した。

俺は止めなくちゃならない。

終わりにさせちゃいけない。

ここにある幾つもの心が、記憶が、俺を導いてくれる。

('A`)「なあ、そうだろ? そのために俺を連れてきたんだろう、   」

『━━━━』

声は遠い。なのにはっきりと意思だけが伝わってくる。

ドクオは手を伸ばした。

戦うために、抗うために、守るために。

この心は、想いは、まだ砕けちゃいない。

ならば、ドクオは歩みを止めてはならないのだ。

己の矜持をなかったことになどできやしないから。

ドクオの目の前に、光が現れた。

6891:2014/09/04(木) 22:34:25 ID:JgPwpBr60

◇◇◇◇

後方から来た渡辺から事情を聞いたモララーは、信じられない気持ちで一杯だったが、現状を鑑みるに事態は最悪の方へ進行していることをようやく飲み込んだ。

( ・∀・)「こいつは参ったね」

从'ー'从「早くどっくん達にも伝えないといけませんね〜」

( ・∀・)「毎度思うんだけど、渡辺ってあんまり焦らないよな」

从'ー'从「こう見えてすごく焦ってるんですよ〜」

(*゚∀゚)「マイペースとも言えるんだニャ」

( ・∀・)(え? なんで猫が喋ってんの? てか、これ使い魔だよね? どういうことなの?)

どうしようもなく疑問を口にしたいところではあるが、今はそれを聞いたら負けな気がする。詳しくはあとで話してもらうことにしよう。

現在モララーと渡辺は大量の魔力が流れる方を追っているところだった。

6901:2014/09/04(木) 22:35:08 ID:JgPwpBr60

もし、ショボンの予想が正しいとすればこの町にいる全ての人間が魔力へと変換される可能性がある。そうなればもはや敵を止める人間はいないし、下手をすれば大陸そのものの崩壊を招きかねない。

本来であればモララーも一目散に逃げ出したいところではあるが、ぐっと心の奥底に押し込めておく。

( ・∀・)「と、ここだな」

从'ー'从「……あれれ〜? 何か変な音がしませんか〜?」

( ・∀・)「変な音?」

渡辺に言われて、モララーは耳を澄ませてみた。

確かにどこからか妙に甲高い音が聞こえる。モララーの耳、というより感覚が正しければ、これは……。

( ・∀・)「魔力が、共鳴してる?」

从'ー'从「共鳴って……」

( ・∀・)「……分からん。が、様々な魔力が入り交じって相互干渉を引き起こしてるみたいだな。こりゃ、マジで離れた方が」

モララーの言葉は最後まで紡がれることはなく、すぐに防御魔法を発動。膨大な魔力が下方から噴出する。

岩壁を食い破り、弾き飛ばし、飲み込みながらあらゆる方向へと暴れまわる魔力の波。あとコンマ数秒防御が遅れていたら、モララーと渡辺は塵も残さず消滅していたかもしれない。

( ・∀・)「……何が起こってるんだ、あれ」

6911:2014/09/04(木) 22:35:51 ID:JgPwpBr60

(*゚∀゚)「何者かが世界の理を垣間見たんでしょうニャ」

( ・∀・)「は? 世界の理?」

从'ー'从「断り? お引き取りくださーいってこと?」

( ・∀・)「……よくわからねえけど、魔力とはまた違った力ってことか?」

(*゚∀゚)「ご主人達もよく知ってる力だニャ。魔剣、と言えばわかるかニャ?」

魔剣。

その一言にモララーはある程度の意味を理解する。

魔剣アポカリプス。伝承の中で絶大な力をもたらし、神をも殺した最凶の象徴。

だが、それは今ドクオの手にあるのではないか。そしてそれを持つドクオはすでにその力を知っているはず。

ならば、猫の言う理を垣間見たというのは少々腑に落ちない。

(*゚∀゚)「今の持ち主は魔剣の力を、魔剣が秘める力の意味を僅かたりとも理解していなかったニャ。けれど、どういうわけか今、その入り口に立ったということだニャ」

( ・∀・)「……」

得意気に語る猫の使い魔。渡辺は無邪気に物知りだね〜、などと誉めちぎっているが、モララーはうすら寒ささえ覚えてしまう。

何故、こいつは使い魔の癖に人語を解するのか。さらに、どうしてモララー達が知らないような情報まで事細かに話せるのか。

ただの使い魔でないことは分かる。けれど、こいつはそれ以上に常軌を逸している。

( ・∀・)「……猫。お前は」

6921:2014/09/04(木) 22:36:36 ID:JgPwpBr60

(*゚∀゚)「今それを聞いてどうするつもりですかニャ? そんニャことよりすべきことがあると思いますがニャ」

使い魔に指摘され、舌打ちを打つ。

確かにその通りだ。あそこにドクオ達がいるなら助太刀しない理由がない。

( ・∀・)「くそったれ!!」

モララーと渡辺は暴走した魔力が収まるのを見計らって中へと突入。グシャグシャになった広い空間の中に、二つの人影。

(* ー )

一人は力なく瓦礫に転がる小さな少女。

( ゚"_ゞ゚)

もう一人は見たことのない姿形をした漆黒に染まった異形の存在。

なのに、モララーにははっきりと分かる。あれは自分達の敵で、倒さねばならない驚異なのだと。

从'ー'从「しぃちゃんと、オサムさん……なのかな?」

( ・∀・)「おい、ドクオがいねえぞ」

瓦礫に降り立ち、しぃを抱き起こす。息はある。死んじゃいない。

( ・∀・)「喋れるか?」

6931:2014/09/04(木) 22:37:19 ID:JgPwpBr60

(* ー )「たい……ちょ……あれは、あの人は……私の、おとう、さん……で」

( ・∀・)「無理に喋るな。渡辺、しぃを頼む」

(* ー )「どく、お……さんも、死んで……」

( ・∀・)「……あいつはまだ死んじゃいないさ」

(* ー )「へ?」

( ・∀・)「あいつがそう簡単にくたばるたまかよ。何、時間稼ぎでもしてりゃそのうちひょっこり顔出すさ」

あいつはそういうやつだ、とは口に出さず、狼狽える渡辺にしぃの介抱を任せる。

槍を呼び出し、構えて男と対峙。

( ・∀・)「うちの部下が随分世話になったみたいじゃねえか」

( ゚"_ゞ゚)「マタ生贄ガ現レタカ。貴様ハ神ヲ目ノ前ニシテイルノダ。平伏シタラドウカネ」

( ・∀・)「神だか白髪だか知らねえが、てめえは俺の敵で、世界の敵だ。なら、さっさと終わらせてもらうぜ!」

男━━渡辺がオサムと呼んでいた━━の返答を待たずにモララーは瓦礫を蹴っていた。

鋭い突きの嵐、さらに後方から大量のレーザーを発動。自身は上空へと跳躍し、そこから落下速度を加えた一撃を放つ。

轟音、周囲に砕け散った岩や砂利が巻き上がった。だが、手応えがない。

( ;・∀・)(後ろ!?)

6941:2014/09/04(木) 22:38:03 ID:JgPwpBr60

( ゚"_ゞ゚)

軽く頭を背に向ければ、オサムが無防備に立っている。特に何かをしてくる様子もなく、不気味な笑みを浮かべているだけだ。

( ・∀・)(どういうことかは知らねえが、チャンス、だな!)

振り返り様、オサムを光の弾で蟻一匹通さないほどびっしりと取り囲み、一斉に発射。瓦礫の山を全て破壊し尽くすほどの威力と数を込めた魔法だ。無事で済むわけがないのだが……。

( ;・∀・)「!?」

モララーは瞬間的に防御魔法を展開。刹那、モララーが放ったはずの光弾がそっくりそのままこちらへと跳ね返ってくる。

( ;・∀・)(ちっ!!)

どこまで耐えられるかも分からないが、防御壁の外側に別の魔法を設置、展開し、モララーは防御を解く。

魔法陣が展開されると同時に光弾はそちらへと誘導され、次々と弾けとんだ。

( ・∀・)「らぁっ!」

視界は未だに土煙で遮られているが、モララーにはオサムが動いていないという確信めいた予感があった。

力を得て、己を過信しているものはゆっくりと敵をいたぶるのが好きな傾向がある。おそらく、オサムも同じだろう。

( ・∀・)(捉えた!)

6951:2014/09/04(木) 22:38:49 ID:JgPwpBr60

予想通り、さらに幸運なことにオサムはそっぽを向いてこちらに気付いていない。今が絶好のチャンス、これを逃さない手はないだろう。

だが。

(  ∀ )「はっ」

何が起こったのか分からなかった。一歩踏み込んだ瞬間、謎の衝撃が腹部を圧迫。おまけに体の至る部分に切創が大量に作られていく。

(  ∀ )(何が……)

( ゚"_ゞ゚)「脆イゾ人間」

声が聞こえ、追い討ちをかけるように再び謎の衝撃がモララーの頭部に加えられた。

一気に意識を持っていかれそうになり、気づけば瓦礫の上に転がっていた。やはり、分からない。

(  ∀ )(どうなってやがる……)

( ゚"_ゞ゚)「マルデゴミクズノヨウダ。神ニ逆ラウナド愚カダヨ」

なおもやかましく一人大仰しい動作を交えながら高説を垂れるオサムだが、さすがのモララーもこれは予想外である。

確かに本調子でないとはいえ、こうもあっさり戦闘不能にされるとは思わなかったのだ。

いくら神だなんだといったところで大したことはないと踏んだのが間違いだったらしい。不可視の力は的確にモララーの急所を捉えている。

6961:2014/09/04(木) 22:39:33 ID:JgPwpBr60

(  ∀ )「ゲホッ……やべえな、これ」

時間稼ぎにすらならないなんて、騎士団の隊長としての面目丸潰れだ。

しかし、目に見えない強力な攻撃などどうすることもできない。あの猫が言っていた世界の理とやらの力だとでもいうのか。

( ゚"_ゞ゚)「モウ動ケナイカ。当然ダ。世界ノ理ヲ覗イタ今ノ俺ニトッテ人ナド玩具同然ダカラナ」

下卑た笑い声と嘲笑の笑顔が、モララーを見下ろしていた。動こうにも体の隅々までピクリともしない。体中を駆け巡るマナに何らかの細工がなされたのかは知らないが、もはやモララー、いや、ショボンやジョルジュでさえ敵わないだろう。

从;'ー'从「ね、猫ちゃん!」

(*゚∀゚)「ニャ」

動けないモララーを見かねたのか、渡辺が炎弾を、猫が光弾をオサムへと放つ。

だが当然のようにオサムには届かない。届く前に消えてしまった。

( ゚"_ゞ゚)「神ノ前デ無駄ナコトヲ」

オサムが腕を振り、使い魔であるツーが消滅。この間、コンマ数秒の出来事だった。

涙を浮かべ、腰が引けているにも関わらず、渡辺はけして逃げることはせずに、深呼吸の後、渡辺は口を開いた。

从;'ー'从「か、神様なんて知らないもん! 少なくとも、神様は私達人間を傷つけたりなんてしないよ!」

6971:2014/09/04(木) 22:40:16 ID:JgPwpBr60


( ゚"_ゞ゚)「全知全能ノ神ガドノヨウナ気紛レデ虫ケラヲ殺ソウト構ワナイダロウ。憐レナ下等生物共ヨ」

(  ∀ )「渡辺! 逃げろ! お前じゃどうしようもねえ!」

モララーは精一杯の声で叫ぶ。しかし渡辺はオサムをしっかりと見据える。

从'ー'从「……あなたは、どこまでも悲しい人だね。人として大切なものを失くして、人としての命まで捨ててしまうなんて」

( ゚"_ゞ゚)「ナニ?」

从'ー'从「人はね、神様なんかに負けないよ。だって、人はいつだって自分の力で歩いてきたもん」

从'ー'从「誰かを助けて、笑顔をもらって、明日も頑張ろうって思えるから、それが私達を動かす力になる」

从'ー'从「人は、あなたに比べたらすっごく小さな存在だよ? でもね、私達は一人で戦ったりしない。一人で生きてるわけじゃない」

6981:2014/09/04(木) 22:41:00 ID:JgPwpBr60

从'ー'从「あなたは今、誰かと繋がってる? 誰かのために何かをしようとしてる? そんなあなたになんて私達は負けない!」

从#'ー'从「だから、私は最後まで戦う! みんなのためにも、私のためにも、絶対、絶対なんだから!」

馬鹿野郎。本当にどうしようもない大馬鹿野郎だ。

そういえば、みんなそうだった。あいつに関わったやつはみんな何かのために、誰かのために、倒すための戦いではなく、守るために剣を取るようになる。

(  ∀ )「はは、ったく、馬鹿ばっかりだな」

(* ー )「本当に、そう思います」

自嘲気味に呟いた言葉に、返事がくる。モララーと同じく、体中血塗れになりながら、震える足で必死に立ち上がろうとしていた。

(* ー )「教えてもらいました。戦う意味、理由、人を救うために必要なこと。そして、私が私であるための大切なものを」

(* ー )「私はずっと自分というものを偽って生きてきました。誰も救えず、力がないからと言い訳をして、逃げていた」

(* ー )「本当は何かができたはずで、行動できたはずなんです。弱さを知りながら、向き合うことができなかっただけ」

(* ー )「一人じゃ怖くて、足がすくんで、進むことができなかったから。でも、私は知りました。気付きました」

(* ー )「私は一人じゃありません。たくさんの人に支えられて生きています」

(* ー )「だから!」

6991:2014/09/04(木) 22:43:35 ID:JgPwpBr60
(* ー )「私は! 神父様を、お父さんを助けるために出来ることをします! もう逃げません!」

絶望的な状況の前で、よくこうまで言い切れるものだとモララーは呆れを通り越して感心してしまった。

死にかけの体で、策も力もない弱い体で、それでもなお戦うというのか。

ならば、大人の男で、騎士である自分が寝ているわけにはいかないだろう。

( # ∀ )「んなろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

筋肉が軋みをあげ、ぶちぶちと何かが切れる音がする。

知ったことか。小娘どもにここまで言わせたのだ。今だけでいい、死んだっていい。動け。

7001:2014/09/04(木) 22:45:28 ID:JgPwpBr60

( #・∀・)「らぁ!」

立ち上がり、槍を取る。まだ終わらない。終われない。

心が折れるまで、モララー達は何度でも立ち上がるだろう。たとえ腕をもがれ足がちぎれても、戦わねばならない理由がある。

( ・∀・)「さぁ、もう一戦始めようかくそったれな神様よ!」

( ゚"_ゞ゚)「愚カナ……人トハドコマデモ愚カダナ。何故コウモ死ニ急グ。ヤハリ、改革ガ必要ダ」

从'ー'从「させないもん! 私達の世界は私達で守って見せるんだから!」

(*゚ー゚)「あなたの好きにはさせません。たとえあなたが神様だとしても、私はあなたを認めません」

( ゚"_ゞ゚)「クックックッ、シカシ、モウ遅イ。戦イニスラナランヨ」

( ・∀・)「あ?」

オサムがパチリと指を鳴らすと、地面が揺れた。

始めは小さく、しかし徐々に強さを増していく。

从;'ー'从「え?」

( ゚"_ゞ゚)「ハハハ! 刮目セヨ! 世界ハ今宵生マレ変ワル!」

(;*゚ー゚)「何を……」

7011:2014/09/04(木) 22:48:12 ID:JgPwpBr60
次の瞬間。

モ・トコに絶望が舞い降りた。
空は赤く染まり、街に光が降り注ぐ。破片が舞い上がり、炎が地面を駆け巡っていく。

爆発音、破裂音、粉砕音、ありとあらゆる破壊の断末魔が響き渡っていった。

( ;・∀・)「……これは」

( ゚"_ゞ゚)「人ノ命ガ、自ラノ世界ヲ破壊スル様ヲ見届ケルガイイ! ココカラ世界ガ始マルノダ!」

光はやがてモ・トコに留まらず、南へと流れていく。あの方角は━━

(;*゚ー゚)「あっちは……」

从;'ー'从「王都だよ!?」

( ; ・∀・)「冗談じゃねえ!! 今すぐ止めろ!」

( ゚"_ゞ゚)「フン!」

モララー達の前で何かが弾ける。

それだけ、たったそれだけでモララーの体は動けなくなった。腕、足、腹、胸から血が滴っていく。

横を見れば渡辺やしぃも同様に地に伏している。

7021:2014/09/04(木) 22:48:54 ID:JgPwpBr60



(  ∀ )(戦うとか戦わねえとか、そんな次元じゃねえ……端から勝負にすらなりやしねえ……)

力の桁が違いすぎる。不可視なだけでなく、理論も理屈も分からない。魔法ではない他の力。

未来も、過去も、心も、体も、

神の前では児戯でしかないというのか。

(  ∀ )(くそ……くそ……! くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!)

( ゚"_ゞ゚)「終ワリダ。死ネ」

从; ー 从「うぐっ……」

(;* ー )「まだ……あきらめ……」

( ;  ∀ )「っのやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

モララーの叫びが響き渡り、どう足掻いても避けきれない光の弾幕がこちらに向かってきた。

7031:2014/09/04(木) 22:52:09 ID:JgPwpBr60
かってきた。

自身の無力さ、自身の思慮の浅さ、考え出せばきりがないほどたくさんの後悔が押し寄せてくる。

力があれば、ああしていれば、もっと別の方法もあったはずなのに、せめて二人の少女を守ることだってできたはずなのに。

ここに必要なのは圧倒的な力で、誰かを守ってくれる救世主で、それは神様なんかじゃないのだ。

たとえボロボロになっても、弱い心だとしても、力の使い方を、在り方を履き違えないどこまでも馬鹿な人間。

それが、

('A`)

横合いから一人の男が乱入する。

紅い剣を携え、伝説の力を引っ提げて、

そいつは、遅い到着を果した。

从'ー'从「どっくん!」

(*゚ー゚)「ドクオさん!」

( ・∀・)「おせえぞ、馬鹿野郎」

('A`)「わりい。ちょっと道が混んでてさ」

7041:2014/09/04(木) 22:52:52 ID:JgPwpBr60

ちらりとこちらを一瞥し、軽く手を振る。すると、モララー達の傷がみるみるふさがり、体力も幾分か回復した。

( ;・∀・)「な!?」

ドクオは魔法を使えないはず。なのに、この現象はどういうことだ。

それに、どこかその背中が頼もしく見える。姿形は変わらないのに、纏う雰囲気だけが別人のようだった。

( ・∀・)(また一皮剥けたってわけか)

('A`)「三人とも。あとは俺に任せてみんなを連れて逃げてくれ」

(*゚ー゚)「何を……」

('A`)「もうこの街は限界だ。しかもオサムが発動してる魔法はこの街の全魔力が対象になってる」

从'ー'从「それって……」

('A`)「このままここにいたら助からない」

モララーは判断に迷う。確かにモララー達では歯が立たないどころかまともに戦うことも出来ないが、支援くらいなら出来るはずだ。

敵の攻撃の出所や、方法をゆっくりと検証していけば勝機を見出だせるかもしれない。

7051:2014/09/04(木) 22:53:36 ID:JgPwpBr60

('A`)「モララー。お前の言いたいことは分かる。けど、ツンやショボンさんにも伝えてる時間がないんだ」

( ・∀・)「……最後に一つ聞かせろ」

ドクオの言いたいことも、自分が聞きたいことも理解して、飲み込んで、モララーはたった一つ、たった一つだけ大事なことを口にする。

( ・∀・)「勝てんだろうな」

('A`)「当たり前だ」

ニヤリとドクオが笑った。モララーも釣られて笑う。

( ・∀・)「……分かった。さっさと終わらせろよ。俺達じゃ逆立ちしても勝てそうにねえんだ」

('A`)「おうよ」

从'ー'从「どっくん! 早く帰ってきてね!」

(*゚ー゚)「ドクオさん」

と、しぃがドクオの手をきゅっと握る。

(*゚ー゚)「あの、その……」

('A`)「しぃちゃん。終わったら、全部話す。何もかも」

(*゚ー゚)「……はい」

('A`)「それと、神父のことは任せろ」

(*゚ー゚)「ッ!」

7061:2014/09/04(木) 22:54:20 ID:JgPwpBr60

(*゚ー゚)「はいっ!」

( ・∀・)「行くぞっ!」




ビコーズを乗っ取った本物の悪魔と向き合い、ドクオは無表情で睨み付ける。

('A`)「よぉ」

( ゚"_ゞ゚)「ヤハリ帰ッテキタカ」

('A`)「もう言葉はいらねえだろ。さっさと始めようぜ」

( ゚"_ゞ゚)「イイダロウ。俺カ、オ前カ、世界ノ命運ヲ、神ト呼バレルハドチラガ正シイカ」

地響きが大きくなっていく。他に人はいない。人の、世界の理を外れた二人が視線を交差させる。

(#゚A゚)「オサムぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

( ゚"_ゞ゚)「コォォォォォォォォォイ!!」

ドクオとオサム、理を知ったもの同士最終決戦の火蓋が切って落とされた。

7071:2014/09/04(木) 22:55:03 ID:JgPwpBr60
第十四話 終

708名も無きAAのようです:2014/09/04(木) 22:56:25 ID:b6BMUx6M0
おつおつ

7091:2014/09/04(木) 22:56:56 ID:JgPwpBr60
皆さま大変お待たせいたしました
第十四話これにて投下完了です
次回でモ・トコ編終了となります
ではまた約二週間後に投下いたします
今回も読んでいただきありがとうございました
それではまた次回

710名も無きAAのようです:2014/09/04(木) 23:17:19 ID:xPzAxDGw0


711名も無きAAのようです:2014/09/05(金) 00:25:04 ID:uLx6ALLs0
乙!!!
理とは一体…

712名も無きAAのようです:2014/09/05(金) 00:29:17 ID:U8TxXkf.0
乙乙
続きが気になります

7131:2014/09/17(水) 20:55:21 ID:5578e4r.0
どうも1です
今月末から出張が入ってしまいました
年内一杯までだそうでして、かきための方がなかなか進まないことが予想されます
ですのでしばらく不定期の更新とさせていただきたいと思います
完結までは逃げることはないので、みなさまのんびりとお待ちいただければと思います
大変申し訳ありません

714名も無きAAのようです:2014/09/17(水) 21:27:24 ID:.tlB1Wlw0
待ってますよ

715名も無きAAのようです:2014/09/18(木) 22:29:16 ID:lI2dWaG60
>>713
それを言うやつの大半が帰ってこないんだぞ
ちゃんと帰ってこいよ

716名も無きAAのようです:2014/09/18(木) 22:39:32 ID:LkoAlEyw0
待ってる

717名も無きAAのようです:2014/09/21(日) 20:02:13 ID:cFXT.drI0
これタイトル変えなくていいのか?

718名も無きAAのようです:2014/09/21(日) 20:20:34 ID:USs0vCSk0
すでに>>26から>>40までに結論がでてますし

719名も無きAAのようです:2014/09/23(火) 10:56:01 ID:.8lCfeZk0
一通り目を通したつもりだったけど見落としてたわ
ありがとう

7201:2014/09/25(木) 22:39:15 ID:MmZDOqrI0
どうも1です
十月中旬くらいに投下する時間が作れそうです
次回でモ・トコ編終了です
お待たせして大変申し訳ありません

721名も無きAAのようです:2014/09/25(木) 23:14:57 ID:XsxEE0yM0
キターー(゚∀゚)!

722名も無きAAのようです:2014/09/26(金) 21:25:54 ID:roJe45Dw0
待ち遠しい
本当に好きな作品だから完結まで読みたい

723名も無きAAのようです:2014/09/27(土) 06:16:23 ID:jn9q.4cs0
よし全部めを通したぞー
さくしゃがんばらい

724名も無きAAのようです:2014/10/05(日) 04:32:59 ID:0EMU2hwk0
いつの間にかまとめがついてたことにびっくりした

725名も無きAAのようです:2014/10/05(日) 21:52:23 ID:EZY0KHj20
http://boonzone.web.fc2.com/different_world.htm
これか

7261:2014/10/19(日) 18:23:16 ID:YXzuX9nI0
お待たせして申し訳ありません

明日の21時から投下出来そうです!

727名も無きAAのようです:2014/10/19(日) 19:07:02 ID:Lr4GRp020
待ってる

728名も無きAAのようです:2014/10/19(日) 19:34:34 ID:UNprwVgY0
まってたぞ!!!!

729名も無きAAのようです:2014/10/19(日) 22:07:39 ID:bYzPauyo0
おっしゃ待ってた

730名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 14:24:36 ID:jOwQCam20
追いついた
楽しみに待ってるで!

731名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 21:39:28 ID:1j5FkWLI0
キタ━━ヽ(´ω`)ノ゙━━!?

732名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 21:46:57 ID:yM8xbfhw0
ξ゚⊿゚)ξウズウズ

733名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 21:57:29 ID:1j5FkWLI0
( ^ω^)ツンどうしたお

734名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:25:58 ID:/z22627U0
ダメそうか?忙しいって言ってたもんなあ

7351 ◆B8K2xdDAGY:2014/10/20(月) 22:34:00 ID:OowH3q0c0
お久しぶりです、1です
書き込んだ覚えがないのに投下予告が出ているのにちょっと驚きです
今後このようなことがないよう酉つけておきます
そして本編の進捗状況なのですが、予想以上に長くなってるのと、重大なミスを発見してしまい現在書き直しております
もしかしたらまた話を二つに分けるかもしれません
その際は再び投下予告に参りますのでよろしくお願いします
次の投下は10月31日〜11月の頭くらいを目処にしていただけると助かります
なかなか顔を出せずに申し訳ございません
そして毎度ながら読んでいただいてる皆様には最大の感謝を
それではまた

736名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:39:40 ID:jOwQCam20
おお、まさかのなりすましだったのかw
楽しみに待ってますわ

737名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:45:27 ID:/z22627U0
       ∧∧
      ヽ(・ω・)/ ズコー
     \(.\ ノ
  、ハ,,、

738名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:54:52 ID:JZN7TagEO
ほんとにズコーだな(AA略)

739名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 22:56:06 ID:LLuHzcCE0
なりすましで作者を誘い出す高度な外道技

740名も無きAAのようです:2014/10/20(月) 23:26:48 ID:m2vpLxYs0
乙乙ゆっくり書いて完結してくれ

741名も無きAAのようです:2014/10/21(火) 00:19:53 ID:/XAOGoUM0
( ゚ω^ )ゝ 乙であります!
ゆっくりでいいぞ!!
その間に読み直しておくから!

742名も無きAAのようです:2014/11/06(木) 10:04:16 ID:fgKdE9qI0
そろそろ…

7431 ◆B8K2xdDAGY:2014/11/09(日) 18:25:12 ID:oZDNoOvw0
おひさしぶりです、1です
ようやく投下の目処が立ちました
予定してた時期より大幅に遅れをとっていますが、11月20日の21時より投下をしたいと思います
大変お待たせしまして申し訳ございません

744名も無きAAのようです:2014/11/09(日) 22:55:16 ID:XLXiaqAM0
待ってた

745名も無きAAのようです:2014/11/11(火) 19:25:46 ID:RMBGZ2SA0
きたああああ

746名も無きAAのようです:2014/11/21(金) 07:06:01 ID:5JCPB7Oc0
・・・

748名も無きAAのようです:2014/11/25(火) 00:02:38 ID:r80BlYAcO
あれれ〜?

749名も無きAAのようです:2014/11/25(火) 00:07:27 ID:zsG4nz5k0
前も一時的に規制されてたってVIP総合でヘルプ出してたからそれかもなあ

750名も無きAAのようです:2014/11/27(木) 02:44:59 ID:7iBjJjVc0
気長に待とうではないか

751名も無きAAのようです:2015/03/22(日) 21:48:27 ID:iyl5n7SE0
待ってるよー

752 ◆5EWptf5Cbg:2015/06/04(木) 16:48:59 ID:ORCc//7c0
これかな

753 ◆B8K2xdDAGY:2015/06/04(木) 16:49:41 ID:ORCc//7c0
こっちか

7541 ◆B8K2xdDAGY:2015/06/04(木) 16:54:27 ID:ORCc//7c0
皆様約半年ぶりでございます
1は仕事の忙しさとか色々なことから逃げてスレから逃亡しておりました
大変申し訳ございません
ようやく自分の気持ちも踏ん切りつきましたのでぼちぼち再開していこうかなと思いますので
よろしければお付き合いいただければ嬉しいです

つい先程また再開しようかなと思い立ったので、いつ頃投下するかは分かりませんが、夏が終わるまでには投下しますので、よろしくお願いいたします

755名も無きAAのようです:2015/06/04(木) 17:41:28 ID:ywxLv2j.0
よろしくお願いいたします

756名も無きAAのようです:2015/06/04(木) 17:53:09 ID:Jbise1e6O
ほほう。期待して待っとるよー

757名も無きAAのようです:2015/06/04(木) 19:27:51 ID:VhF5csno0
良かったよ、気にせずまたよろしく!
楽しんで読んでたからね

7581 ◆B8K2xdDAGY:2015/06/14(日) 01:31:30 ID:3.aqaflI0
どうも1です
今までどこまで書いたかとか色々と考えていた設定を書いたデータが
どっかにいってしまったため初めから読み直してきました
とりあえず十五話に関しては以前書いたものの冒頭が残ってたので今月中には投下したいなぁと考えております

また進捗具合などを報告しに参りますので、その際はよろしくお願いいたします

759名も無きAAのようです:2015/06/14(日) 09:05:20 ID:Yu1PIQpU0
きたい

760名も無きAAのようです:2015/06/14(日) 10:40:07 ID:riYLBk8E0
待ってるよー

761名も無きAAのようです:2015/08/16(日) 21:42:24 ID:fjrG4mo60
今年中に来てくれることを祈る

762名も無きAAのようです:2015/08/22(土) 20:03:44 ID:iEnPJe3Y0
気長に待つさ

763名も無きAAのようです:2017/02/24(金) 05:34:27 ID:xiPdW8fA0
追いついたけどもう更新は無いのかなあ
悲しいなあ

764 ◆B8K2xdDAGY:2018/09/30(日) 19:01:21 ID:Lt3LK7jc0
テスト

765 ◆B8K2xdDAGY:2018/09/30(日) 19:03:59 ID:Lt3LK7jc0
書き込めた
久しぶりです、人いないと思いますが
久々に思い出して続き書こうと思い立ったのでやってきました
気が向いたらまた書きます

766名も無きAAのようです:2018/09/30(日) 19:48:16 ID:gbJB2eLQ0
>>765
マジか、嬉しい。

767 ◆B8K2xdDAGY:2018/10/04(木) 23:50:41 ID:kRj7Xg4o0
10月中旬くらいに15話の半分投下させていただきます
結構長めなんで半分に分けます

768名も無きAAのようです:2018/10/19(金) 08:50:37 ID:2f7YqYC60
待ってる

769名も無きAAのようです:2018/10/21(日) 11:59:24 ID:2PaE8LFI0
今度はほんとにほんとなんだよなぁ?!

770 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 21:57:59 ID:EmUWWVKM0
すっかり投下予告を忘れていました
今から投下します

771 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 21:58:43 ID:EmUWWVKM0


第十五話「報われぬ者に救いの手を」


.

772 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 21:59:49 ID:EmUWWVKM0
「報告! 大陸北方より未確認の力を確認! 魔法⋯⋯いや、マナの⋯⋯塊?」

「結界の出力を上げろ! 王都が消し飛ぶぞ!」

「住民の避難を急げ! 可能な限り地下に入れるんだ!」

王都ヴィップでは強大な力がこちらに向かっているのが観測され、城下だけでなく騎士団内部でさえ慌ただしくなっていた。

騎士団長のみならず、副団長までいない今、各部隊長が少ない騎士を取りまとめ、被害を最小限に止めようと奔走している。

ヴィップは大陸最大の街であり、住民の数も相応に多い。都市崩壊級の魔法にも耐えられる強固な結界が街全体を覆っているとはいえ、差し迫っている不可思議なエネルギー体の前ではどれほどの効果を持つかは分からない。一瞬にして王都が消滅する可能性もある。

過去を遡っても、これほどの危機が王都を襲ったことがあっただろうか。当然騎士達の焦りと緊張は最大限まで高まり、住民の避難、ひいては防衛対策も滞っているようだった。

773 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:01:25 ID:EmUWWVKM0
( ФωФ)「どうも面倒なことになったようであるな」

王都ヴィップを治める王、ロマネスクはそんな騎士達に嘆息しながら呟く。

『仕方がないでしょう。あれは魔法であって魔法ではない。世界の法則を無視した高エネルギー体なんて、彼らには初めてでしょうから』

誰もいないはずの場所から声が聞こえた。しかし、ロマネスクはそれが当たり前のように続ける。

( ФωФ)「貴様の同志とやらの仕業であろう。計画も最終段階を迎えた今、王都が消し飛ぶのはまずいのではないか?」

『そうね。あれをどうにかするのは簡単だけれど、それを目撃されるのは困るの』

協力者であるロマネスクにさえなかなか姿を見せないのだ。意図は分からないが、それも当然と言える。

774 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:02:10 ID:EmUWWVKM0
( ФωФ)「ではどうする。我輩が先導して祈りでも捧げさせればよいのか?」

それはそれで面白い。奇跡を起こした王として、大衆の支持は集められるだろう。

だが、そんな奇跡は起こらない。タネがある以上、それはペテン以外の何物でもなく、ロマネスク自身もそんなご都合主義は好みではない。

『まぁもう少し待ちましょう。モ・トコには魔剣の主がいるのでしょう?』

( ФωФ)「やけに信用しているな。確かに脅威ではあったが、相手は悪魔に最も近しい存在であろう。魔剣といえどどうにかなるものなのか」

魔剣アポカリプスを顕現させる為だけの媒体に、事態を収束させる力があるとは思えないが。

報告書を読んだ限りでは、分隊長クラスと五分、それ以上は敗戦濃厚。そんな巻き込まれただけの一般人だ。

775 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:03:37 ID:EmUWWVKM0
『あなたはまだ魔剣の力を知らないから。それに、彼は理に呼ばれていた』

( +ω+)「⋯⋯ふむ」

世界の理。計画の最大にして最後の壁。ロマネスクが最も憎むべき存在。

奴は、導かれているとでも言うのだろうか。あんなものに。

( ФωФ)「貴様が言うのであれば我輩は傍観しよう。どうせ他にすべきこともない」

『懸命ね。万が一は、私が何とかしましょう』

声はそれきり途絶えた。ロマネスクは小さく溜息を吐く。

( +ω+)(忌まわしいのは魔剣だけではないぞ。貴様もだ)

776 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:04:26 ID:EmUWWVKM0
◇◇◇◇

目の前の空間がヒビ割れ、光が漏れる。瞬間、爆発、爆発、爆発。説明のつかない力がドクオの周囲を渦巻いていく。

構わず疾走。オサムの半歩前、剣を薙ぐ。

鈍い音と共に不可視の壁が刃の進行を阻み、同時に弾き返される。堪らず距離を取るが、ドクオを追っていくつもの光が流れた。

咄嗟に魔剣を横に一閃。いくつかは消しとばしたが、撃ち漏らした光に被弾。幸いダメージはそれほどでもない。魔法で傷を癒し、さらに攻撃魔法。

('A`)「はぁっ!」

空間を抉るように魔力の道筋が捻れ、白金の輝きがオサムへと向かう。

( ゚"_ゞ゚) 「効カヌ!」

またしても不可視の壁に阻まれる。が、その隙にドクオは懐へと潜り込んだ。

777 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:05:23 ID:EmUWWVKM0
('A`)「どうやら自動じゃないみたいだな」

( ゚"_ゞ゚) 「クッ⋯⋯!」

まずは一太刀。今までのように消滅はしない。しかし、オサムの体には一筋の傷ができた。

奴は不死身ではない。通常の攻撃や魔法は効果がないが、魔剣の力は通る。この街に仕掛けられた術式がすぐに回復させるのだろうが、効かないわけではないのだ。

王都に向けて放った攻撃、さらにモ・トコの崩壊術式のせいで時間はかけられない。それでも、奴の体には限界がある。

所詮ドクオが使える魔法は一時的なものだ。端から通用するとは思っていない。

('A`)(魔法はあくまで牽制。本命はこいつ。どっちかが倒れるまでインファイトしかねえ!)

ドクオが距離を取るより早く、弾き飛ばされる。一度地面を跳ねるも、空中で回転しうまく着地。

('A`)(いない!?)

剣を構えるが、オサムの姿がない。後方、そして頭上から魔力の収束を感知。

778 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:06:09 ID:EmUWWVKM0
前方に回避。ドクオの立っていた上方から浄化の光が、後方にはアニメで見たワームホールのような大きな穴が空いており、砂や岩を吸い込んでいる。

嫌な予感がして、ドクオは駆け出した。一瞬遅れて同じ魔法がドクオの進行方向を塞ぐように無数に現れる。壁際に追いやられ、ドクオは退路を失ってしまう。

「食ラウガイイ!」

声だけが聞こえ、ドクオの視界が白と黒で埋め尽くされる。

('A`;)(避けきれない!)

剣を構え、迎撃の態勢へ。全ての力を消すことはできないが、直撃だけは免れた。身体のあちこちに黒と白の痣ができ、異常な痛みを感じるが動かないわけではないようだ。

ドクオが動き出す瞬間、再び空間にワームホールが出現。そこから無数の流星が飛来した。

('A`)「ちっ!」

こちらに向かうものだけを的確に叩き、消し飛ばす。流星は追尾性がないらしく、ドクオは駆けながら穴まで接近。斬りつけようとして、

( ゚"_ゞ゚) 「甘イ!」

中からオサムが顔を出す。同時に半透明の鎖がドクオの四肢に絡みつき、引きずり込んでいく。

('A`)「ぐっ⋯⋯」

抵抗はするがうまく力が入らない。先程の痣が輝き始め、ドクオの動きを妨げているようだ。

( ゚"_ゞ゚) 「虚無ノ世界ニ誘ッテヤロウ」

('A`;)「さ⋯⋯せ⋯⋯る⋯⋯」

剣を落とさなかったのは幸いか、手首を捻り鎖に当てる。

(#゚A゚)「かぁぁぁぁぁぁ!」

779 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:06:53 ID:EmUWWVKM0
甲高い音を立てて鎖が消え、一瞬力が
弱まった。その隙にオサムの顔に剣を突き立てる。

( ゚"_π) 「ガァァァァァァッ!」

引き抜くと同時に他の鎖を断ち切り、その場を離れる。いつの間にかワームホールは消え、オサムの体が現れた。

('A`)「らぁっ!」

一つ、二つとオサムに連撃を叩き込む。上下左右へ目に見えぬ速度でダメージを与えていく。

回復する暇を与えてはならない。回復させても全快させてはいけない。

ドクオの攻撃に怯んでいたオサムだが、不意に彼の周囲を漆黒の風が吹き荒れた。

( ゚"_ゞ゚) 「舐メルナ!」

瞬間、拡散。辺りの地面や壁を所構わず破壊する。空間も激しい損傷を受けたのか、ヒビが入っていた。

空間にヒビを入れるだけの魔力を制御せずに垂れ流したということは、奴には余裕がないということの証明だろう。今の攻撃は相当効いたようだ。

( ゚"_ゞ゚) 「俺ハ神ダ! 等シイ力ヲ手ニ入レタノダ! 貴様ノ様ナ弱者ニ負ケル訳ガナイ!」

オサムの声は怒りで震えている。それに呼応して大気が、大地が揺れた。おそらく、最大級の攻撃が来る。

( ゚"_ゞ゚) 「オオオオオオオオ!!!!!!!」

周辺の魔力がオサムの前に集まり、圧縮される。

('A`)(あれは、まずい!)

駆け出し、魔剣が触れる瞬間、辺りの景色が白一色に変わった。

魔剣アポカリプスと同等の破壊の力が広がっていく。音を立てず、形を変えず、ただただ、消える。

('A`;)「オォォォォォ!」

もはやドクオですら理解していない力の本質さえ奴は掌握しているらしい。どうすれば力を効率的に使えるのか、何をすれば魔剣と渡り合えるのか。

否、魔剣を超えられるのか。

オサムの力はその領域にまで至っている。

780 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:08:08 ID:EmUWWVKM0
ドクオが気がついた時、辺りには何も見当たらなかった。白一色となった世界に一人、立ち尽くしていた。

自身が消滅の力に飲み込まれなかったのは、まだ魔剣の力が上回っていたからだろうか。それとも単に力同士の衝突で相殺できたからなのか。

( A ;)「はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯」

だが、ドクオの体からは著しく力が失われている。立っていることがやっとの状態だった。

ふとドクオの前方、宙空に浮かぶオサムが着地。あちらは随分と余裕がある。

( ゚"_ゞ゚) 「ククク、辛ソウダナ。コレガ神ト、人間ノ差ダ」

オサムの言う通り、この短時間を戦ってみて分かった。ドクオと奴の間にはどうしても埋められない差があることは。

オサムは力の扱い方を完全に理解している。おまけに体力も魔力も無尽蔵、有限と無限ではどちらに分があるか考えるまでもない。

さらに、戦闘は得意ではないと嘯いていたが、ドクオなどよりも豊富な戦闘経験に加え、理に触れたことでさらなる高みに登っていた。

モララー達には勝てると言ったものの、はっきり言って勝ち目が薄いのはドクオも感じている。

781 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:08:56 ID:EmUWWVKM0
付け焼き刃の魔法は陽動くらいにしか使えない、唯一の対抗手段である魔剣は本体に近付くことがままならない。

せめて、オサムの魔法だけでも一時的に封じることができれば勝算は少なからずある。

( ゚"_ゞ゚) 「大人シクシテイルナラバ、神トシテノ慈悲ダ。一瞬デ消シテヤルゾ?」

( A ;)「悪いがお断りだ。お前を倒して、神父を救い出すって約束したもんでね。子供との約束は守る主義なんだ」

( ゚"_ゞ゚) 「戯言ヲ。神ノ前デハ全テガ児戯ニ等シイ。アマリ笑ワセテクレルナ」

( A ;)「俺一人殺せないくせに何が神だ。どれだけの力を持ってたって、どれだけの知識を持ってたって、人間は神になんかなれない」

オサムの力は絶大で、戦闘は確かに有利だろう。だが、オサムは自分の力を振るうのが楽しくて仕方がないと言わんばかりに決着を早めていない。

遊んでいるのだ。ドクオを舐めている。

もし人の命すら自由にできる本当の神なら、自分に逆らう存在を問答無用に、絶対的な力ですぐに終わらせる。

何故なら人と神の格の違いを思い知らせるため。

勝てる勝てないという場所ではなく、到底手が届かないのだと思わせなければ、きっと神という存在は認められない。

ならば、自身の感情に左右されるオサムはけして神ではなく、どこまでいっても人なのだ。

そして、人であるならドクオでも対抗できる。

('A`)「人間舐めんじゃねえぞクソ野郎!」

782 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:13:05 ID:EmUWWVKM0
◇◇◇◇

オサムの術式により崩壊を始めるモ・トコを渡辺達は飛行していた。街に残った少数の住民達も、オサムによって消されたのか、はたまた避難したのか一度も目撃していない。

从;'ー'从「うー、逃げるってどこに逃げればいいのぉ〜?」

オサムが使っている術式は街どころかその外部にまで影響が及んでいるようで、遠くの空までも不気味に揺れている。この分では渡辺達が餌食になるのも時間の問題だろう。

( ・∀・)「状況を整理して考えてみりゃ、このまま逃げてたっていつかはこの魔法にやられるだけだろうし、術式の解除が最優先じゃないか」

隣を飛ぶモララーが嘆息しつつ答える。平然とした顔をしているが、絶え間なく周囲を警戒しているところを見ると、あまり余裕はないのだろう。

状況を鑑みれば、モララーの言う通り自分達が捕まるのは時間の問題だ。モララーやしぃがうまく敵の魔法の探知をしてくれているからこそこうして無事でいるが、一瞬でも判断を間違えればそこで全てが終わる。

ならば、こちらからその原因を取り除いてしまえばそれでいい。そこまでは渡辺でも理解できた。

(*゚ー゚)「しかし、ここまで複雑な術式を私達で解除できるでしょうか」

渡辺の胸中を代弁するかのように、しぃが呟いた。

783 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:18:05 ID:EmUWWVKM0
事実、自分達の中に魔法理論に詳しい者がいない。実戦における魔法の扱いに関しては太鼓判を押せるだろうが、研究者━━オサムが自身をそう言っていた━━が自作した術式を解析して破壊できるほど精通しているとは言い難い。

ツンは黒の魔術団時代の経験、ショボンは騎士団の副団長としての責任から大なり小なり知識があった。それでも危険な綱渡りであることには違いないが。

( ・∀・)「考えてても仕方ねえよ。解除が無理なら体張って時間を稼げばいいだろ。何にせよ何もしないで逃げ回ってるなんて俺の性に合わないしな」

(;*゚ー゚)「しかし、その時間が今一番足りないものなんですよ」

しぃの言う通りだ。かと言って、この場で押し問答をしている時間も勿体ないのだが。

「それニャら、あたしが力を貸すにゃ」

不意にどこかから声がする。しかも聞き覚えのある口調で。

他の二人も驚いた顔をして辺りを見回すが、誰もいない。

「ここだニャ」

声と同時、渡辺の頭上に光が集まっていく。それは羽根の生えた猫を形取ると、実体を帯びていった。

从'ー'从「あれれ〜、猫ちゃん?」

そこには、先程オサムにやられたはずのつーが何故か復活していた。

从'ー'从「えっと〜」

(*゚∀゚)「あたしはご主人の魔力によって生み出されてるニャ。ご主人が死ニャニャい限り何度でも蘇るニャー」

渡辺が聞きたかったことをツーが察してくれたのか、先に答えてくれた。傷一つないところを見ると、彼女の言は間違いないようだ。

从'ー'从「へぇ〜、そうだったんだ〜。びっくりだよぉ〜」

(;・∀・)「使い魔としては規格外だとは思うけどね。普通復活しないから」

784 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:20:47 ID:EmUWWVKM0
モララーもしぃもどのように反応すればいいか、言葉に詰まっている。もしかしなくても、この猫はすごいのだろうか。

えへん、と胸を張るつーを眺めていると、はっとした顔でモララーが一つ咳をした。

( ・∀・)「って今はそんなことはどうでもいい。それより、力を貸すってのはどういうことだ」

(*゚∀゚)「そのままの意味だニャー。あたしは⋯⋯」

つーが言い淀むと、ちらりとこちらを一瞥。

(*゚∀゚)「忌み子の使い魔だからニャ」

从'ー'从「???」

正直意味が分からない。自分の使い魔であることがどんな理由になるというのか。

モララーやショボンの反応から察するに、喋る使い魔は珍しいことは分かる。渡辺自身も使い魔を連れる生徒を見たことはあるが、いずれも言葉を発していなかった。

だが、それはたまたま見たことがないだけで世の中には人の言葉を操る使い魔だっていてもおかしくないはずだ。

自分達は魔法使いで、それに仕えるのが使い魔なのだから。

(*゚ー゚)「とにかく、つーさんにはこの術式を解除する算段があるんですよね?」

再びあれこれと考えていると、しぃが発言する。

(*゚∀゚)「任せてほしいニャー」

頷くつーは自信満々のようである。先程の戦闘を見る限りではあまり期待できそうにないのだが。

785 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:22:30 ID:EmUWWVKM0
モララーもしぃも渡辺と同意見のようで、互いに顔を見合わせている。

それも一瞬、すぐにモララーが頷く。

( ・∀・)「オッケー。んじゃ決まりだな。ツンのとこまで急ごうじゃねえか」

(*゚∀゚)「了解ニャ。大船に乗ったつもりでいるニャ」

すべきことは決まった。そして自分達には出来ることがある。

モ・トコに来てから、渡辺は周りの誰かに頼ってばかりで、何もできなかった。

唯一できたのはツンを守ることとショボンを助けられたこと。それさえもツンのお膳立てがあったからこそだった。

つーという使い魔を得たことも、ツンのおかげと言えばそうなのだが、それでも今はありがたい。

从'ー'从(ツンちゃん、待っててね)

三人と一匹は飛行する。目指すはツンの元。


.

786 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:26:25 ID:EmUWWVKM0


ξ ⊿ )ξ(範囲拡大、魔導関数の変数を固定化。工程の長期化⋯⋯駄目だ間に合わない。なら、一時凍結させる)

表示される情報を頭の中で整理しながら、やらなければならない作業を一瞬で組み立て、機械的に打ち込んでいく。

本来これらは人が手作業で行うことではない。専用のツールで作業を代理させなければ間に合わないのだ。

それでもツンは、自分でも驚くほどの速さと正確さで術式の書き換えに成功している。

否、成功はしていない。邪魔が出来ているに過ぎない。

何せこちらが解析、書き換える間にも術式は複雑に変換されている。あちらを弄ればこちらがさらに高度で難解な術式を描いていくのだ。

もしかしたら、僅かながらの可能性として、それだけならツン一人でもなんとかなったかもしれない。

ツンが手をつけられない、どうしようもない一番の問題は━━

787 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:28:46 ID:EmUWWVKM0
ξ ⊿ )ξ(なんなのよ、この言語は!)

未知の魔法言語。

様々なルーンや魔導関数で構成される術式のはずが、見たことも聞いたこともない文字と記号で埋め尽くされているのだ。

もちろん変換されていない部分も沢山あるのだが、そちらに手をつけている間に他が未知の言語に置き換わっていく。

これでは、完全にお手上げだった。

せめてもの抵抗として、術式の対象が拡がっていかないようにはしているが、どれだけの効果が望めるか。

かといってツンが諦めてしまえば、術式の拡散は止まることを知らず、間も無くして大陸中の生き物がマナへと変わっていくだろう。

その中には渡辺や、ドクオだっている。

ξ ⊿ )ξ「諦めるわけには、いかないのよ⋯⋯」

そう、諦めるわけにはいかない。自分がやっていることはほんの少しの時間稼ぎでしかないことも、痛いほど理解していた。

だからこそ、だからこそツンはここにいるしかない。

ξ ;⊿;)ξ「どうすればいいのよこんなの! 手立てがないじゃない!」

788 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:30:54 ID:EmUWWVKM0
流れてくる涙を拭おうともせず、ひたすら魔法モニターを叩いていく。ここで手を止めてしまえば、自分はもう何も出来ないだろう。それが分かっているから、動かし続けるしかなかった。

だから、ツンにはどうすることも出来なかった。自分に向けられた魔法に対処出来なかったのだ。

ξ ⊿ )ξ(ごめん、渡辺)

浮かんでくるのは短かった王都での日々。たった一人の親友と過ごしたかけがえのない時間。

自分の身なんてどうでもいい。せめて、彼女だけは助かって欲しい。

それだけを願って、ツンは自分の死を受け入れ━━

「諦めるのはまだ早いと思うよ」

ξ゚⊿゚)ξ「!?」

ようとして。

(´・ω・`) 「ふっ!」

巨大な防御術式がツンを守るように展開される。半透明の光はバチバチと音を立てると霧散していった。

ξ゚⊿゚)ξ「ショボン⋯⋯さん⋯⋯!?」

(´・ω・`) 「遅くなってすまない。思いの外ダメージが大きくてね」

ツンの隣に、ショボンが立っていた。

(´・ω・`) 「術式に干渉していたのはやはり君だったか。若いのに大したものだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなことより━━」

(´・ω・`) 「分かっている。だが⋯⋯これは」

横からショボンがモニターを覗くと、眉を顰める。やはりショボンですら見たことはないようだ。

789 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:36:00 ID:EmUWWVKM0
(´・ω・`) 「なるほど。これを作った奴は天才だな、本当に。どれ、少し変わってくれるかな?」

しばらく、と言ってもたかだか数分、ツンの隣で作業を眺めていたショボンが口を開いた。

ξ゚⊿゚)ξ「ショボンさんこれは」

ツンの説明を遮るように、優しく肩を押され、首を横に振る。

(´・ω・`) 「私も騎士団副団長という肩書きだ。こういう場合の対処法は心得ている。もちろん、一時凌ぎではあるが」

ツンと場所を変わると、ショボンは物凄い速さで術式の書き換えを行なっていく。ツンが手をつけることが出来なかった部分もまとめて変換しているようだ。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、これ、大丈夫なんですか?」

ツンの見立てだと、魔法の有効範囲の縮小どころか更なる拡大と、対象の追加に見えるのだが。

(´・ω・`) 「ん? ああ、これはね、魔法学に精通した旧友に教わったんだが」

ショボンが一度言葉を切ると、最後の一文を入力。すると、術式の書き換えが一瞬止まった。

ξ゚⊿゚)ξ「え!?」

さらに未知の言語で構成された部分がツンのよく知る見慣れたルーンに変わっていく。その命令の意味は━━

ξ゚⊿゚)ξ「マナの、相互干渉?」

(´・ω・`) 「特定のルーンと関数を用いると、相互に干渉し合って歪みを起こすらしい。旧友の言葉を借りるならバグる」

集められたマナは、特定の人物へと供給されていたが、ショボンが書き換えた直後から供給先からも同じラインを通ってマナを吸い取るようになっていた。

ラインの中でぶつかったマナはそこで、消失。

ツンの知識をフル動員しても、術式自体にそのような命令にはなっていない。だが、マナの流れを追う限り、マナは消失していく。

ξ゚⊿゚)ξ「すごい⋯⋯」

790 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:38:11 ID:EmUWWVKM0
(´・ω・`) 「この言語はマナや魔力の種類、大きさの選別、そちら側に関係しているのだと思う。もちろん解読は出来ないし、する時間もない以上、推測だがね」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、これなら!」

(´・ω・`) 「長くは保たない。どうにも、変換されていく言語は私達が扱う術式よりも遥かに多くの意味を持っているようでね。すぐに書き換えられてしまうはずさ」

ショボンはまごうことなき天才なのだろうとツンは感じた。遠く離れた場所から道具を使わずに術式を解析、書き換えを行い、果ては少しの時間でツンよりも多くの戦果を上げている。

なのに、そのショボンですら敵わない。それすなわち、自分達には手の施しようがないということ。

再びツンの胸中を暗雲が覆い始める。限界は近い。

(´・ω・`) 「諦めるのはまだ早い。今、君は一人じゃないんだ。全てを一人で背負い込む必要はないんだよ」

ξ ⊿ )ξ「でも⋯⋯」

ショボンはこちらの考えを悟ったのか、励ましにもならない言葉をかけてくる。

どうしようもないのに、出来ることなど、何もないのに。

(´・ω・`) 「君は自分に出来る精一杯をやったと思っているだろう。けれど、諦めない限り、戦いは終わらない。心が折れない限り、勝負は分からないんだよ」

それに、とショボンは続ける。

(´・ω・`) 「解決するための道筋は、案外すぐ近くにあるものなのさ」

791 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:40:32 ID:EmUWWVKM0
その一言が、ツンを現実に引き戻した。

いや、その一言があったからこそ、ツンはこの現実に気づくことができた。

『ツンちゃーん!』

ξ ⊿ )ξ「⋯⋯」

ξ゚⊿゚)ξ「⋯⋯え?」

大切な友人の声が聞こえた気がして、ツンは振り向く。

从'ー'从( ・∀・)(*゚ー゚)(*゚∀゚)

そこには、いつも通り緊張感のない顔をした渡辺と、仲間達がいた。

ξ゚⊿゚)ξ「ショボンさんは、知っていたんですか?」

(´・ω・`) 「⋯⋯」

ツンの問いかけにショボンは何も答えない。それは、否定とも肯定とも取れる。だが、この人のことだ。きっと全てを考慮した上で、最善の選択をしていたに違いない。

だからこそはっきりと諦めるなと語りかけていたのだ。

(´・ω・`) 「ま、まぁ僕くらいになると当然予想の範囲さ。何せ副団長だからね」

ξ゚⊿゚)ξ(脂汗がすごい。というか、さっきのはただの気休めだったのね)

それでも、この状況において援軍が来てくれたのは大きい。勿論、本音を言えば渡辺には逃げて欲しかったのだが、彼女がここに来たということはきっと意味がある。

ξ゚⊿゚)ξ「渡辺、私は」

从'ー'从「ツンちゃん! 猫ちゃんがこの術式を何とか出来るんだって!」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたに逃げ⋯⋯え?」

言いかけて、渡辺の言葉を反芻する。

从'ー'从「そうだよね? 猫ちゃん」

(*゚∀゚)「任せてほしいニャ」

思わぬ所から、逆転の目が舞い降りた。

792 ◆B8K2xdDAGY:2018/11/04(日) 22:41:51 ID:EmUWWVKM0
十五話半分終わりです
投下したら意外に短いですね
今月中にもう半分投下できたらなと思います
それではまた

793名も無きAAのようです:2018/11/23(金) 00:06:51 ID:Nf.3zt9Y0
いつのまにか更新されてるね お疲れ様見てるよ

794名も無きAAのようです:2019/01/03(木) 19:19:43 ID:IX7CFJ.c0
おっおー

795名も無きAAのようです:2019/02/12(火) 00:31:37 ID:Mg1TkYwo0
そして気付けば2月なんだよなぁ…

796名も無きAAのようです:2019/02/21(木) 21:45:54 ID:pNZ86c4.0
待ってます


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