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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

60佐川優希 ◆EI0jXP4Qlc:2005/06/23(木) 23:59:45
とりあえず、今日はここまでです。結構長く書き下ろしましたが、大丈夫でしょうか。

他の方の作品を見ていると、小林が設楽に対して敬語。設楽はかなり冷たいイメージとなっているようです(激ミルクの誘拐のような感じ)
今回、私の中での彼らが二人でいるイメージが、どうしても「君の席」と「epochTVsquare」で固まってしまっているため、
二人はこのような口調となっております。イメージを壊された方、すみません。
ただ、たまにはこんな、馬鹿馬鹿しいシーンもいいんじゃないかと。いかがでしょうか。

61名無しさん:2005/06/24(金) 09:17:14
>>57-60
乙〜。一人称は珍しいよーな気がする。新鮮で面白いと思う。
ところで太田さんの石の力解放のきっかけは・・・呪文?
それはあまりに少年漫画っぽくなり杉じゃね?と、思ったんだが・・・

62佐川優希 ◆EI0jXP4Qlc:2005/06/24(金) 19:43:06
>>61
レスありがとうございます。
太田さんの石の力の解放のキッカケ、呪文ではないです。
能力は下のスレに記載しております。ただ、言わせたかっただけってのもありますが。
確かにクサイですねー。それを覚悟の上でしたが。

63佐川優希 ◆EI0jXP4Qlc:2005/06/24(金) 22:56:21
[title] アウトレットシアター#3
 >>57-59からの続き。結構長くなると思われます。
 登場芸人について色々相談させていただきました。とにもかくにも読んで頂きたい。
 閑話休題。いえ、この言葉を覚えたって言いたいだけです。

******

  「まさか……」
 青ざめた太田さんは一つの事実に気が付いた。
 「お前ら、「黒い欠片」を、持っていないのか……?」
 「なるほど、そういうことかぁ」
 設楽が笑った。
 「エメラルドを持っているのは……、田中さんだぁ」
 まるで失くしたおもちゃを見つけた子供のように、無邪気な笑みを顔全体に湛えていた。
 「空間を分断したのは、太田さん。なるほど、なるほどね! まんまと騙された!」
 そして響く哄笑。この狂った空間に、よく似合う。
 「おまっ、違うぞ! これをよく見てみろ! こっちがほんもんだ!」
 と、太田さんが緑色の石を取り出すも、小林が放つ黒い線により、あっけなく破戒される。
 「!」
 小林は言う。
 「最初田中さんがセンターマイクを振り回していたのは、体格の所為だと思っていましたが、どうやら、素手で触ることを、避けていたようですね」
 まずい、小林が冷静さを取り戻してしまった。太田さんの集中力が途切れてきたのが原因だろう。
 「そして舞台上の人間に触れた瞬間、私は黒い気配が消えるのを感じました。そしてそのまま私達に向ってきたのを見て、確信しましたよ。エメラルド、黒い欠片を破戒する力を持っているのは田中さんだと。それに太田さん。それが本当にエメラルドなら、もしくはそれが太田さんの石だとしても、わざわざ俺たちに見せびらかしたり、しませんよね」
 設楽は言った。
 「俺らを浄化して傷つけずに勝つ……、いい方法だったけど、残念でしたねぇ。俺たちが黒い欠片を持っていないというのは、本当に予想外だったでしょう」
 ホント、予想外だった。つまり、この二人は、魂そのものが、黒く染まっているのだから。
 「太田さん。貴方ももう限界のようだ。貴方は、この空間では常に先の物語を考え続けなければならない。考えられないのなら、ただの人。そこが、小林との大きな違いですね」
 設楽は心底おかしそうに、両手を広げた。
 「この状況では誰も来ないかなぁー……。本当にこのホールだけ分断されてるみたいだし。……自分が作った空間に自分が閉じ込められて窮地に陥るのって、屈辱ですよね。ゴシューショーサマ」
 さっきの俺を真似て、設楽が皮肉を言うも、太田さんは反応しない。ホントに立ってるのがやっとのようだ。一回3分って自分で言っていたくせに。倍以上使いやがって。
 「田中さんの腹部から、力を感じますね。さっきの漫才の内容は、ホントって事か」
 小林が不愉快そうに顔をゆがめた。設楽は至って普通にこう提案する。
 「じゃあさ、腹、切っちゃえばいいんじゃない? その黒曜石で」
 見たところ、小林のその石の使いっぷりは伊達じゃない。俺の腹を割くことなど、容易だろう。
 「やめろ……! ンなことしてみろボケ、ぶっ殺すぞ」
 太田さんは力なくそう叫ぶ。空間の効果はまだ持続しているが、本人自体の物理的体力も限界らしい。いくら自分の思い通りに事が運ぶフィールドを作り出せるとは言え、本人がこうではダメなようだ。
 「あーあ」
 設楽は感情を込めず、そう呟いた。
 小林が俺に照準を合わせる。その目は、冷たい。しかしその奥に、焼けるような物が見えた。
 ……ところで、俺はここで終わるのか? あっけないようで、そうでもないかもしれない。
 「……仕方が、ないんです」
 さっき設楽が散々口にしたその言葉を、今度は小林が呟く。
 仕方がない、仕様がない。人の命は、それで片付くのか。
 覚悟を決めた、そのときだった。
 「あどでー、ぼくでえ〜」
という、なんともこっけいな声。俺はこの空間の空気が正常になったのを感じた。そしてその次の瞬間。
 「――?!」
 目の前にいたはずの小林が、いつの間にか吹っ飛んでいなくなっている。
 俺は上半身を無理矢理起こして、入り口を見た。
 見間違えようのない、恐ろしく特徴を持った二人。
 片桐仁と、日村勇紀。

64佐川優希 ◆EI0jXP4Qlc:2005/06/24(金) 22:57:52
 「日村さん?! なんで、片桐まで……」
 ご都合主義を通り越した彼らの登場に設楽はただただ唖然としている。
 俺も、ただ焦った。どう考えても小林を吹っ飛ばしたのはこの二人。仲間じゃ、ないのか?
 小林は、座り込んだまま片桐を睨みつけた。側に落ちていた大きな粘土の塊。どうやら片桐が放った物らしい。
 「仁、何故、邪魔をした」
 小林は静かにそう言う。ブチギレて怒鳴り散らしたときより、何倍も怖い。それに怯まず、片桐は叫んだ。
 「俺、賢太郎のことすっごい信じてるし、だから、あえて何も言わなかった。でも、でも! 人を、人を殺すことだけは、人殺しだけは、お願いだから、止めてくれよ!!」
 小林も叫ぶ。
 「仕方がないんだよ! エメラルドは俺たちにとって、脅威なんだ。 破壊しなければならないものなんだ! お前はそれを、……分かっててくれたんじゃないのか?」
 石そのものを壊すこと、つまりそれは、それを持つ物の命を破壊する。片桐もそれを知っているのだろう。
 「分かってるけど、でもダメだ! 俺やだかんね! 誰がなんと言おうと、賢太郎に人殺しなんかさせないんだかんね!! 俺が死んでも殺させないからね!!」
日村は言った。
 「設楽よぉ、俺、お前が何してるのか、ほんっっっと、わからねえけどさ。でも、こういうのは、ヤバイだろぉ?! いや、お前自体やばいのかもしれないけど、でもさ、俺、お前が心配なんだよ。バナナマンじゃなくなるのは、ほんと、嫌なんだよ」
 設楽は、ただ黙っている。
 日村と片桐のでたらめな論理。それでも、俺は嫌いになれなかった。
 俺はよろよろと立ち上がり、
 「おい、まだ、何かする気?」
とだけ、やっとの思いで言った。
 「いえ、見てのとおり、設楽も、小林君も、こんな状態ですし、俺らは「黒いユニット」じゃないですから、安心してください。俺も、片桐も、自分の相方が心配な、だけですから。このままおとなしく、かえり、ます」
 と、日村はそう言った後ドタっと大きな音を立てて倒れた。
 「日村?!」
 片桐が駆け寄るのより先に、設楽が無言のまま駆け寄った。日村は言う。
 「あぁ、〜久々に力使ったからよ。ふへへ、みっともねえな」
 「本来なら、日村さんが俺を担いでいかなきゃいけないのに」
 日村に向けた設楽の表情は、さっきとは打って変わって、穏やかな物に変わっていた。
 「わりぃな、設楽ぁ」
 片桐はそれを見て安心したのか、小林のほうへと歩み寄った。
 「……賢太郎、ごめん、痛かったでしょ」
「……大丈夫だ」
 片桐が手を差し伸べる。小林は、迷うことなく、その手を取った。そしてそのときに片桐は、小林にノートを渡す。「大事な物だろう」、と……。
 「今回は、このような結果になってしまいましたが……、次は上手くやりますよ」
 設楽がそういい残し、彼ら4人は劇場を後にした。

65佐川優希 ◆EI0jXP4Qlc:2005/06/24(金) 23:01:52
 俺は頭がぼーっとしたまま、舞台上で未だ横になっている太田さんを呼びかける。俺は、生きているのだろうか。それすら危うい。
 「太田さん、太田さん?」
 「っるせえな、起きてるよ」
 本当に疲れているようだ。声が不機嫌そのもの。
 「太田さん、本当に舞台から降りなかったんだね」
 「そう言っただろうが」
 「……小林と設楽もすごかったけど、片桐と日村もすごかったね。太田さんが作った空間に入って来れたんだから」 
 俺が心底感嘆したようにそういうと、太田さんは「ふっふっ」と、声を立てて嗤った。
 「え? まさか……太田さん、それも全部、謀って……」
 「コンビの愛の力かも知れねぇぞ。俺らにはない、すばらしい物さ」
 太田さんはそう言って茶化そうとしたが、俺は誤魔化されなかった。太田さんは観念したようだ。
 「あいつらが作るような完全に計算しつくされた物語はすごいんだろうが、俺からしてみれば、でたらめに転がっていく物語ってのも、いいもんだよ」
 太田さんは横になったまま、俺に自身の握りこぶしを差し出した。そして、その手をゆっくりと開く。
 俺は、驚愕した。
 太田さんが持っていたのは、「黒い欠片」そのものだ。あまりのことに声を出せない俺に、太田さんは言う。
 「これはさっき、この操られた人間から拝借したんだ。でも、ほんと、いらねえんだ。こんな黒い欠片。何せ俺は他人の運命をもてあそんで、飽きたら放り出す、まさしく悪魔としか言いようがない心の持ち主だからなぁ。持ってようが持ってなかろうが、なんも、変化がない」
 俺はその欠片にそっと触る。欠片は音もなく砕け散り、消えた。
 「まぁ、何が言いたいのかって、お前の力はそのぐらいすげえってことだ。お前の一番近くにいる俺、勿論お前自身も、黒い欠片に汚染されることはない」
 俺は黙って太田さんの手のひらを見つめた。太田さんは語る。
 「あの黒い奴らが狙ってくるのも当然だ。これほど強大な力。そんなものを、お前が持ってること自体が、もう、吐き気ものだね。何でお前? みたいな。だがな、俺は、お前を失うわけにもいかない。お前無しじゃ、俺が成り立たない。それはもう、分かってんだよ。嫌な位。だから、どんな手を使ってでも、奴らを、玩んで、蹴散らしてみせる」
 そういって、太田さんは再び嗤った。俺はそんな彼に、尋ねる。
 「これから、どうする。俺がエメラルド持ってるのばれてるし。この際、白い方に行く?」
 「いいや、それは御免だ。喩え白のユニットに行ったとしてもだ、お前が武器として扱われてしまうのが目に見えている。そんな気は毛頭無い」
 「じゃあ……?」
 「俺たちは俺たちなりに進んでいくだけだ。まぁ……」
 太田光は、嗤う。
 「俺からしてみれば何もかもがくだらねぇから、白も黒もぶっ潰して、忌々しい現実を全部ひっくり返すって言うのも、大アリなんだけどな。
行く宛も無くあふれ出すお前の哀れな力と、それによって増殖する俺の悪意と生来の黒い魂で、ね……」
 Let sleeping dogs lie。……俺はその諺を知っていて、よかったと思った。

 【OutletTheater】is "Quod Erat Demonstrandum".(証明終了)

66佐川優希 ◆EI0jXP4Qlc:2005/06/24(金) 23:04:32
以上で「アウトレットシアター」は終わりです。
予想以上に長くなったこの話に付き合っていただき、
真にありがとうございます。

実際、いかがだったのでしょうか。
反応を、ください。いつでも必死なんです、私。

67名無しさん:2005/06/24(金) 23:52:56
乙です!
いや・・・すごかったです。
すごく良く繰り込まれてて読んでいてドキドキしました!
どうにか残したいので本スレ投下もご検討ください。

68佐川優希 ◆EI0jXP4Qlc:2005/06/25(土) 00:58:26
>>67
レスありがとうございます。
名無しのこの土地において、名を名乗り物を書いていることに恐怖を感じつつも、
やはり、そのお褒めの言葉は、何よりの励みになります。
本スレ投下はまだ踏ん切りがつかないので、時間をください。

69ジーク ◆e1pN4M1XZc:2005/07/04(月) 19:50:57
久しぶりに続きの方投下したいと思います

70ジーク ◆e1pN4M1XZc:2005/07/04(月) 19:53:09
ゴーイングマイウェイで行こう③

 ━襲撃から数日後━

ルミネでの出番も終わり、帰りの支度をしている俺に誰かが声を掛けてきた。

「藤原、久しぶりに飲みに行かんか?」
「ん?‥‥‥ああ中川さん!」

かつて同じ劇場で一緒にやっていた、ランディーズの中川さんが背後に立っていた。今日は出番でルミネに来ていた。

「どうすん?」
「そうっすね‥‥‥」

一瞬悩んでしまった。
時期が時期だけに、ヒョイヒョイ着いて行くのは如何なものか?
中川さんが黒やない保証は無い‥‥。

「‥‥悩んでる言う事は、ひょっとして石の件か?」
「‥‥‥‥」

ズバリ言われ思わず体がビクッとなる。

「判りやすいやっちゃな〜」
「あ‥‥」

自分の反応を見た中川さんに思いっきり笑われてしまい、ただ照れるしかなかった。
「あ〜‥‥オモロイわぁ‥‥安心し、とりあえず俺は黒側の人間ちゃうで。」
「えっ?!じゃあ‥‥」
「まぁ‥‥一応白側にはなるんかな?俺達も黒側に狙われてる立場やし。」

ニカッといつもの人の良さそうな笑顔を浮かべる。とりあえず、他人の放つマイナスの感情に敏感に反応する俺の石が反応しないところを見ると大丈夫そうや。

「分かりました、中川さんの事信用しますわ。」
「ありがとうな。したら行くか?」
「ハイ!」

71ジーク ◆e1pN4M1XZc:2005/07/04(月) 19:55:07
ゴーイングマイウェイで行こう④

「さてと‥‥帰るか‥‥」

帰り支度をしていた俺に、意外な人が訪ねてきた。

「井本〜まだ居るか〜?」
「あっ‥‥高井さんやないですか!僕に何か用ですか?」

先輩のランディーズの高井さんだ。

「あ‥‥いや、中川知らんか?」
「いえ‥‥どうかしたんですか?」
「ん‥‥ちょっとな。実は、石の件で黒の奴らに俺ら狙われてるんよ。やからバラになって行動するんは控えろ言うてるんやけど‥‥」
「にも関わらず中川さんは‥‥」
「居らんねん‥‥‥」

何の変わりのない二人の先輩に思わず笑みをこぼしてしまう。

「いや、笑い事ちゃうから‥井本‥‥」
「すんません。‥‥そういやウチの相方も見えないんで、良かったら一緒に探しましょっか?」
「悪いな、迷惑かけるわ。」


正直、藤原が居らんのが不安だった。

あいつの持つ石━ユナカイト━はマイナス思考(悪意を含め)に反応するから簡単に敵味方の判別がつく。
だが今はあのアホは居ない、ったく‥‥

高井さんの持っとる石の能力が何なんかは知らんが、とりあえず今は信用して一緒にお互いの相方を探すしかない。

「‥‥そういや何でお二人は黒側に狙われてはるんですか?」
「まぁ‥‥いろいろあってな‥‥ジブンらは?」
「僕らは‥‥奴らにはうっとい存在みたいで、石共々狙われてるんですわ。」
「そっちも大変みたいやな‥‥」

互いの相方を捜し歩きながらとりとめなく会話をしているうちに、大阪のかつての仲間がエライ事になってる事や、しかもそれは俺達も良く知る人物によって引き起こされている事。
それを高井さんは俺に呟くように語ってくれた。

「まぁ、そういう事や‥‥」
「‥‥‥‥」


何も言えずただ、沈黙しか出来なかった。

♪〜♪〜


その時、いきなり誰かの携帯が鳴り出した。

「ん?俺のか‥‥たーちんからやん!はい、もしもし‥‥」

『高井か?悪い!今から言う場所にすぐ来てくれや!‥‥うわっ!!』

「おいっ?!どーしたん?」
「どうかしはったんですか?」
「たーちんに何かあったみたいや‥‥おいっ!もしもし!!‥‥」
「‥‥‥」

72ジーク ◆e1pN4M1XZc:2005/07/04(月) 19:59:01
とりあえず今回はここまでを投下したいと思います。

なお、ランディーズの二人及びこの後出てくる$10の二人の石&能力は、後程石スレに書き込みします。

73ジーク ◆e1pN4M1XZc:2005/07/06(水) 21:51:27
すみません、ちょっと手直ししてから投下したいと思いますので、本スレ投下は少し延ばさせていただきます。

74名無しさん:2005/07/16(土) 19:40:02
投下してもよろしいでしょうか…

75名無しさん:2005/07/16(土) 20:34:29
>>74
カモォン!!Щ(゚Д゚)Щ

76「ガラスの部屋」 ◆jReFkq.CTY:2005/07/16(土) 21:13:56
薄暗い路地裏、妙な音楽が携帯から流れている。一人佇む男は携帯を操作し、それを止めた。
男――ヒロシは、ため息をついて辺りを見回した。足元には、「黒」のユニットに属する超若手達が横たわっている。彼等の目にもう戦意はない。寧ろ何処か悲しげに見える。
数日前に道で「石」を拾ってから、これを狙う奴らが毎日襲いかかってきた。その度に石の力で追い払っているのだ。
なんとなく、手の中の石を見つめてみる。
カンラン石、―ペリドットとも言う―の能力は、「相手の悲しい記憶を呼び起こし、悲しい気分にさせる」こと。

77「ガラスの部屋」 ◆jReFkq.CTY:2005/07/16(土) 21:15:01
うまく行けば敵の戦意を喪失させ、逃げることができる。あまり好戦的でないヒロシにとって、有り難い能力だった。
が、力を利用することによる跳ね返りも結構なものだった。相手の悲しい記憶を呼び起こすと同時に、自分の悲しい記憶も呼び起こされるのだ。結構へこむ。
一回一回なら大したことはないが、ここ最近毎日連続で使用しているため、ヒロシの精神は相当参っていた。敵を追い払う度、悲しい―彼女にフラれただとか―事を思い出すのだから。

もう一度ため息をついて、とりあえずスタジオへ向かうため歩き出した。

78 ◆jReFkq.CTY:2005/07/16(土) 21:16:38
とりあえずここまでで。
短くてすみません…
投下初めてなんで添削お願いします。

79名無しさん:2005/07/17(日) 22:17:53
乙です!
いや〜短いのぐらいいいですよ〜
面白かったです!

80 ◆jReFkq.CTY:2005/07/19(火) 00:36:06
ありがとうございます(*´∀`)

81「¥1」 ◆uIwU8V3zEM:2005/07/20(水) 14:12:08
能力スレで中山さんとネゴさん提案した者です。
お二人の話が書きたくなったので、ちょっとプロローグ的な話を投下させてもらいます。


ある日のローカルテレビ局。
先ほどまで収録していたバラエティ番組の司会と思しき若手芸人が、
番組の企画でデザインした自作のTシャツを着て鼻歌交じりに廊下を歩いている。
今日は一日平和だった。石盗り芸人も来なかった。
相方のドッキリもなかったし、楽屋で食べた弁当もおいしかった。
きっと明日も平和だろう、と彼は証拠もなく確信していた。
…しかし、曲がり角を曲がった瞬間。
彼の心の平穏に、微妙にというか彼にとってはそれは大いにケチがついた。

それは異様な光景だった。
百円玉が浮いている。
いや、正確には、
百円玉を乗せた一円玉が、人間の腹部あたりの位置をゆっくりと飛んでいる。
自分より一回りほど大きな硬貨を、やはり重いのか時折ふらつき上昇下降を繰り返したりしながら運ぶ姿はどことなく哀れみを誘うものだった。

82「¥1」 ◆uIwU8V3zEM:2005/07/20(水) 14:17:43
彼は、これはただ糸で釣ってるだけで相方や他の芸人の悪戯なんじゃないかとか、
仕掛け人がどこかから自分の様子を見て笑っているんじゃないかとか、
そういったことも全く考えずに、ただぽかんと口を開けてそれを見ていた。
一円玉は百円玉を背負ったままのろのろと飛んでいる。
…えーっと、これは、なんや?
それを眺めながら、頭上にハテナマークを飛ばす。
が、当然のようにそれに答えてくれる者はいない。
おーい一円、がんばれー。
なぜか心の中でアルミの硬貨に声援を送りながら、頑張って考えを巡らせる。
しかし、驚きのあまり固まった思考はなかなか思うように働かない。
やがて一円は自動販売機の前にたどり着くと、百円玉を投入口に滑らせた。
そのままさっきより軽やかな動きでボタンに体当たりをする。
がこん、と缶ジュースが落ちる音がして、一円玉は取り出し口にひらりと飛んだ。
そこで一円玉は、跡形もなくふっと消えた。
彼は、はっと我に返った。
今の光景は幻だったのか、いや、そんなはずはない。
体中に悪寒が走り、季節はずれの鳥肌が立つ。
彼は思った。
今の、あのなんか勝手に物動くやつやろ。
てことは、考えたないしよくわからんし何か知らんけど、
…ここぜったいなんかおる。
導き出された結論に、自分で震え上がる。
そして。
「…わ、わ、わわわ…。」
………出ーたーーーー!!!
彼はそう子供のように叫ぶと、一目散に走り去っていった。
さすが肉体派芸人といったところか、逃げ足はやはり速い。
後にはただ、奇怪の現場となった自販機だけが立ち尽くしていた。

……彼、八木真澄がやっとあの怪異が誰かの石の能力によるものだと気づくのは、
逃げ帰った楽屋で帰り支度をしていた相方に泣きつき、どうにか落ち着いた後のことである。

83「¥1」 ◆uIwU8V3zEM:2005/07/20(水) 14:35:48

…八木が猛スピードで去ってから数分後のこと、
静まりかえった廊下に人影が見えた。
今日の番組にも出演していた関西の若手ピン芸人、中山功太である。
彼はすたすたと件の自販機に向かい歩いていくと、迷いなく取り出し口に手を突っ込んだ。
そこに先ほど一円玉が「購入」した缶コーヒーがあることを、知っていて当然だという風に。
「あー、やっぱりまだ往復はでけへんか。」
買いに行かすことはできても、取りに行かなあかんのやったら意味ないねんけどなあ。
彼はそう独りごちながら、缶を開けてコーヒーを飲み出した。
「…ぬるなってるし。」
文句を言いつつものどが渇いていたのかすぐ飲み干すと、空き缶をゴミ箱に投げ入れる。
…今日この後暇やしなあ、誰か誘って飯でも行こかなあ。
まさか、今日一緒やった人らの中なら黒の奴おらへんやろしな。
ぼんやりとそんなことを考えながら、中山は楽屋へと帰って行く。
彼のポケットの中に、じゃらじゃらと音を立てる小銭と、
白い貝の埋まったいびつな小石が、ひとつ。

彼はまだ知る由もない。
不用意に石の能力を使ったことで今日の共演者に狙われるきっかけを作ってしまったことと、
その所為でこれから自分と、とある芸人仲間が厄介事に巻き込まれることを。
手に入れたばかりの石と踏み込んだばかりの戦いは、確実に彼を非日常の世界に導き始めていた。

とりあえず、石を知らない若手の間で今日の出来事が微妙な怪談話となって出回ることは、また別の話。


以上です。ローカルネタがちらほらあってすいません…。
ご指摘、添削等あればお願いします。

84名無しさん:2005/07/20(水) 23:44:23
乙です!
面白かったです。番組がなんなのかはわかりませんが(田舎なので)
八木が面白すぎです(笑)

85名無しさん:2005/08/09(火) 13:24:19
作成依頼スレ4とは、関係ないかもしれませんが、(…少し関係あるかな?)
ケンドーコバヤシの、石との出会い編を考えてみたのですが、
添削御願いしたいので投下しても宜しいでしょうか?

86色々不安です… ◆XksB4AwhxU:2005/08/09(火) 16:16:12
>>85ですが、
試しに投下してみないと解らないですよね。
時間があるので投下してみます。

「絨毯雲」

やけに風の強い昼だった。
軽快な足取りで、パチンコ屋から出てきた男は満面の笑みで財布を見つめた。
いつもはぺちゃんこになっている筈のその財布は、やけに大きく膨らんでいる。
たまたま座った台が良かったのか、珍しく早起きして開店前から並んでみたのが良かったのか、普段とは比べものにならないくらい当たったようだ。
ムフ、と含み笑いをしてその財布をポケットに仕舞い直すと、横断歩道で立ち止まった。
信号機は、青が点滅していた。
いつもの彼なら点滅くらいでは立ち止まらないが、ふと何かを思いだしたのだ。

こう…当たりすぎるのも、何やな…

最近の、身の回りの違和感には何となく気付いていた。
パチンコの調子が良いとき、悪い事が起こるのは昨今の彼の回りでは増えていたからだ。
彼−小林友治は大きく一度溜息をつき、又青になった信号を見て横断歩道を渡った。

ふと、軽く見上げた空には、小林友治の無意識のうちの不安を纏うように灰色の雲が満ちていた。

87色々不安です… ◆XksB4AwhxU:2005/08/09(火) 16:36:23
>>86続き

近場までバイクを使うほど横着者ではない彼だが、今日だけはバイクを使わなかったことを少しだけ後悔した。
いつもなら素通りしてしまうような公園横の通り。
なにやら前の方で子供が騒いでいる。
気になってはいたが、いつもバイクに乗っている時のように我関せずに素通りしようと思った。
目の前を通るまでは。

「やめとけや」
また、自分の意識とは関係なく、その子供の集団のなかのリーダーといえる一人の子供の肩を叩いていた。
子供ははっと気付くと回りの子供を引き連れ逃げていった。
足元を見ると、傷ついたランドセルが落ちていた。
柄にもなく懐かしさを感じながら傷ついた蘭だセルを持ち上げる。
その横に、正にランドセルに背負われているのか、と言うくらい、小さな少年が蹲っていた。
「…お前も、やられっぱなしやったアカンで」
体に付いた砂をはたいて、頭を撫でると少年は小林友治を見上げた。
なんや?
口には出さずに目で返すと、少年はポケットから何かを取り出した。
「僕これを守ってたんだ」
抑揚のない、形式的な言葉を放った少年は、取り出したそれを小林の掌に乗せた。
「おい、これ…」
全て聞き終える前に少年は今までのその少年では無いかのように、素早く立ち去った。

88色々不安です… ◆XksB4AwhxU:2005/08/09(火) 16:46:12
>>87続き

一人、取り残された小林友治は、掌の石を見た。
専門の店に出せば、もしかしたらそれなりの値が出るかも知れないその石は何故か、小林友治の手にしっくりときた。
その石を一度、又握りしめる。

…何かを思いだした。
その”何か”が解ったような気がした。
最近、楽屋や廊下から漏れ聞こえる”石”を主語にした会話。
その会話をしている人達の尋常とは言えない雰囲気。

そして何となくだが、その先のことがこれからどんどん
解ってくるような予感を、小林は感じていた。

89色々不安です… ◆XksB4AwhxU:2005/08/09(火) 16:52:31
>>88続き

石を財布の中に仕舞ってとりあえず、
今日は帰ろうと思った。
今度はさほど気にもしていない様子で溜息を短くつき、煙草に火を点けた。
そして、遠い目で先刻よりいっそう黒さを増した空を見た。
その表情は、この先小林友治が突き当たる大きな苦悩を予感しているようだった。



…以上なのですが、
じつはコバ氏の石の力をあまりかんがえていませんorz
まだ使う前の話でしたもので…
どうでしょうか?

90名無しさん:2005/08/09(火) 17:23:13
いいです乙です!
台詞とか雰囲気とかしっかりケンコバさんらしくて、あと文体が好きです。
これから陣内さんと絡めていくんでしょうか?

91 ◆XksB4AwhxU:2005/08/10(水) 01:55:43
>>90
ありがとう御座います。
陣内智則との絡みは進行スレで相談していきたいなぁと考えています。
もし他で陣内智則が暴走して其れを誰かが止めて…と言う話を考えている肩が居ないので有れば、小林友治にそれをしてもらいたいなぁ、と自分は考えていたので。
ただそんな話を自分が書けるのかに多大な不安がありますが

92名無しさん:2005/08/10(水) 05:41:11
関西圏以外はあまりコバを見る機会がなく詳しい情報がないので、
どこかに「小林友治ことケンドーコバヤシ」みたいな文を入れてもらえると助かる。
重箱隅スマソ

93名無しさん:2005/08/10(水) 23:27:17
すごくいいと思います

94「¥1000」 ◆uIwU8V3zEM:2005/08/14(日) 11:32:12
>>81の続きというか、本編投下します。
ちょっと長くなるかと思います。

舞台終了後の楽屋。
仕事を終え満足げな若手芸人たちがちらほらと帰りはじめる中、
中山功太はパイプ椅子に腰掛け、じっとてのひらに収まった小ぶりの石を見ていた。
その石は一見すると路傍に転がっている石ころとあまり変わりないようなものだったが、
中山がそれを手の中で転がすと、白い二枚貝の貝殻が埋まっているのが見えた。
持ち上げて蛍光灯の光にかざしたり、貝と石の境目の部分を指でつついてみたり、
そう子供のようなしぐさを繰り返す中山の目は、妙にぼんやりしていた。
「あれ、まだ帰んないの?」
その声にはっと顔を上げると、既に帰り支度を済ませたネゴシックスこと根来川が立っていた。
「ん…ああ、一緒に帰ろか?」
中山は少し遅れて、やや逸れた返答を返した。
「え、っていうか飯行かない?」
根来川は一瞬きょとんとしたものの、すぐにそう提案する。
「この前いい焼き肉の店見つけたって言ってなかった?
 そこ行こうよ。安いんでしょ?」
「ええな、行こか。」
そう言って立ち上がると自分の鞄を取り、ズボンのポケットに石を突っ込んだ。
「あれ、何それ?」
「…え?ああ、これ?」
その不自然な物体に気づいた根来川が声を掛ける。
中山は石をポケットから出すと、はい、と根来川に渡した。
「…石?」
「なんちゃら言う貝の化石。こないだ露天商で見っけた。」
「へえ、そんなのもあるんだ。」
根来川は石を手の中で転がしてまじまじと見ている。
「…そこな、ちっちゃいババアがやっとったんやけど。」
「うん」
「売っとんのなんや石ばっかで、おもろいな思て見てたらオレにこれ買え買え言うて、
 そんでオレも結構気に入ったし安うしてくれたから、置物代わりにそれ買うたんやけど…」
そこで中山は一呼吸置いた。
中山の様子に、根来川は視線を石から中山に移す。
「…その石、変やねん」
その言葉に根来川は、不思議そうに目を瞬かせた。
「…変?」
「そう」
「…どんな風に?」
「……笑わん?」
「笑わん笑わん」
「うそーありえへーんとか言わん?」
「言わない言わない」
「…絶対?」
「うん、絶対。」

95「¥1000」 ◆uIwU8V3zEM:2005/08/14(日) 11:33:59
その言葉に中山はやっと「誰にも言わんといてな」という前置きつきで話し出した。
根来川の目つきが真剣になる。
「……こないだな、その石な、」
「うん」
「ピカって光って、五円玉浮かしてん」
「ウソォ!!?」
根来川はそう大仰にも見えるリアクションを返すと、手中の石と中山を訝しげに見比べた。
一方の中山は、「言わへんて言うたやん…」とぶつぶつ言っている。
「…ごめん、でも、ありえんない…?」
「ありえへんも禁止ー。」
「いや、でもそうだって」
なおも訝る根来川に文句を言う中山。
そのやりとりをもう少し続けた後、中山がため息をついた。
「ほんまやって、見たんやから。」
「…五円玉浮くとこ?」
「うん。石いじっとったら光って、たまたま机にあった五円玉、浮いてん」
「………ほんと?」
「ホント。」
「…うそお」
「うそちゃうて。」
その応酬も何度か続き、中山は焦れたように頭を掻いた。
「……そんなの、あるの?」
「…ある…んちゃう?あったし。」
そういうと、二人は黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙の後で、根来川が口を開いた。
「…その売っとったおばさんのとこ…行った?」
「うん。行ったんやけど、もうその公園にはおらんかった。」
またも少々の沈黙。
手持ち無沙汰そうな根来川は、また石を観察しはじめた。
「…その五円玉どこ行ったの」
石を見ながら言う。
「オレがパニクっとう間に消えた。」
「消えた?」
「…消えた。」
勘ぐるような根来川の目つきに、中山はまたため息を吐く。
「信じてくれへんのー?」
お前やから言ったのに。
特に根来川からの催促があったわけでもないのだが、中山はそう言ってむくれてみせた。
「いや、だってそんなの…」
その反論は、途中で途切れた。

96「¥1000」 ◆uIwU8V3zEM:2005/08/14(日) 11:42:50
…バタンッ!
そう大きな音を立てて、ドアが壁に打ち付けられるように開いた。
それと同時に、空を切るように振るわれた鞭の、ビシッという短い音が響く。
「…無防備すぎやで」
その台詞と共に、男が一人入ってくる。
「へ…?」
根来川は間の抜けた声を上げ、きょとんとした目で男を見つめた。
よく見知った顔。確か、今日の舞台には出ていなかった、筈。
「…っ、畜生」
やっぱり来るんか。
途端、中山の顔つきが変わる。
半ばやけくそのような、戦いの顔。
まだ状況のつかめていない根来川は「え?え?」と二人を見比べた。
がらんと広い室内には中山と根来川、それと男の三人だけが立っている。
「アカンよ、こんな所で石の話なんかしたら」
男がじりじりと、中山と根来川に向かって進み出ていく。
その異様な雰囲気に、思わず逃げるように椅子から離れ後ずさる二人。
だが、すぐ壁際に追い込まれてしまう。
男は口角を意地悪く上げると、ほんの少しだけ悲しそうな目をした。
しかしその色は一瞬で消え、真っ黒い底知れぬ目に変わる。
「えっ…」
根来川はその一瞬の色に気づいた。
「まだ、あんま知らへんねんな。気ぃつけた方がええよ。」
男がその雰囲気に不似合いな助言を皮肉げに呟く。
「…ネゴ、石、貸して」
「えっ、あ、うん」
中山はそれに舌打ちすると、隣の根来川にやっと聞こえるような声でそう伝え手の平を向ける。
この状況に混乱しているものの、その言葉に条件反射的に石を渡そうとする根来川。
男はそんな動作を見逃さなかった。
「狙われるから」
オレみたいなんに。
そう言い終えるか否か、男が黒い光と共に手をかざす。
「…逃げえ!ネゴ!!」
中山が思わず叫んだ。
男の手から伸びる黒い鞭が、根来川にまっすぐ向かっていく。
…黒い長い、人に牙を剥く蛇のように。


一旦ここまでです。
ネゴさんの言葉とか不安な所があるので、添削お願いします。

97 ◆jReFkq.CTY:2005/08/21(日) 23:38:40
前にヒロシの話を投下した者です。大分推敲したんで再&続き投下します。

   〔〔黄昏の翠玉〕〕

薄暗い路地裏に、妙な音楽が流れている。一人佇む男が携帯を操作し、その音を止めた。
男――ヒロシは、顔を上げて誰も居ないことを確認し、ため息をついた。
足元には黒の若手達が倒れていた。彼等の目にもう戦意はなく、寧ろ何処か悲しげに見えた。

手の中の石を見つめる。
少し前この石を拾った――それが発端だった。

98黄昏の翠玉 ◆jReFkq.CTY:2005/08/21(日) 23:39:50
「黒に入りませんか?」
ある日、『黒のユニット』と名乗る若手(名前も知らない男だった)に呼び出された。
「…どうして」
「中立でいたってどうしようもないでしょう。どっちかに付いた方が楽ですよ?」
男は笑みを浮かべ、石を手の中で転がしながら言う。
ポケットの中の石が、熱くなった気がした。ヒロシは、それを握りしめながら昨日の事を思い出していた。


コツン。
「……ん?」

道を歩いていたら靴に何かが当たった。何だろう?と下を見ると、綺麗な石が転がっていた。
(宝石?)
拾って眺めてみると淡い黄緑色が煌めいた。石が手に馴染むような妙な感覚がした。
ふと、ある考えが浮かんだ。ひょっとして、これ、噂の…
(あの『石』か?)

99黄昏の翠玉 ◆jReFkq.CTY:2005/08/21(日) 23:41:27
「まさか、なぁ」
そう呟いてちょっと迷って――石をポケットに入れ、歩き出した。
――予感は的中したようだ。

『石』のことは噂で知った。最初は、正直冗談だと思った。
だが、『石』にまつわる噂(あの部屋で誰と誰が戦ったらしい、だの、石が汚れてる奴は危険らしい、だの)が耳に入ってくるようになり――次第に、あれは本当の話なのかと思い始めた。
今、男の持つ、黒く妖しく光る石を見て確信した。あれは本当の話だったのだ、と。

石を見つめ、男は笑っている。
「石はこんなに素晴らしい力を与えてくれるのに、白はこれを封印してしまう…もったいないと思いません?」
陶酔したような表情。
「貴方だって力が欲しいでしょう?損はありませんよ、こっちに」「嫌です」
男の言葉を遮って言い放った。そのままお互い睨み合う。
男は笑みを崩さない。

100黄昏の翠玉 ◆jReFkq.CTY:2005/08/21(日) 23:42:17
『白のユニット』と『黒のユニット』の噂を聞いた時、もし『石』の争い(本当だったらの話だが)に巻き込まれたら――どっちに付くべきだろうと少し考えたことがある。
どっちに付いてもややこしそうだから、中立がいいなと思った。今もそう思っている。

「なら、力づくで行きますよ」
男が笑いながら言った。
と同時に、男の手から糸が何本も出て、辺りに広がる。
「なっ!?」驚いて周りを見る。
「あぁ、びっくりしました?」
俺の能力ですよ、と男が笑う。糸が迫ってくる。

どうすればいい?
ヒロシは内心焦っていた。

糸が腕に絡み付く。降りほどく。

101黄昏の翠玉 ◆jReFkq.CTY:2005/08/21(日) 23:43:07

(まだ石の力にも目覚めてないのに)―どう戦えと?
もう一度絡み付いてくる。今度は払ってもほどけない。

この石を渡して見逃してもらうか?どうにかして戦うべきか?
…降伏した方が、

糸が体中に巻き付き、あっという間に取り押さえられた。
――とっさに、ポケットの中の石を手の中に握りしめた。


いつもここからの菊地は苛立っていた。上に与えられた指令が原因だった。
どうして俺にヒロシの監視を命じるんだ、と。
この人と自分の相方・山田が仲がいいことくらい、上だって知っているだろうに。

102黄昏の翠玉 ◆jReFkq.CTY:2005/08/21(日) 23:44:05
…いや、知っているからこそ、か。
山田にバレたら面倒臭いことになるだろう。彼の友人が襲われているのを、黙って見ているのだから。それは避けたい。
それに、もしも、ヒロシが山田と一緒にいる時に黒に襲われて、万が一、敗れてしまったら。
自分に与えられた命令は監視だ。山田を助けようとしても、それは上の命令に逆らった事になる。

牽制のつもりなのか。俺に『裏切るな』と言っているのだろうか。苛立ちが増す。持て遊びやがって。
ふと見ると、ヒロシが取り押さえられていた。冷ややかな目でそれを眺める。

103黄昏の翠玉 ◆jReFkq.CTY:2005/08/21(日) 23:50:50
あの若手は単純な奴だが、あの調子だと心配はないだろう。…うっかり、殺しでもしない限り。
その場合、あのシナリオライターが先に止めている筈だから、心配は無いと思うが。
だが、この任務が解せない。黒に入れるだけなら、自分の監視など必要無いのに。
まぁ何か考えがあるのだろうと思い、監視に集中することにした。


今日はここまでです。長くてすいません(;-Д-)
何かミスがあったら教えて下さい…m(_ _)m

あと、山田さんとヒロシさんが何て呼びあってるか知ってたら教えて下さい…。

104 ◆jReFkq.CTY:2005/08/22(月) 00:02:08
忘れてたΣ(´Д`)

男の能力:手から糸を出す。何本も出したり、操ることも可能。
糸が多く太く長い程、体力を消耗する。力を解除すると、糸は消える。


大量スレ消費、すみませんでした…orz

105名無しさん:2005/08/23(火) 13:05:54
乙。続きが気になる…

106 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/23(火) 20:04:25
廃棄小説スレにいた者です。こっちに続きを載せる事にしました。


「な…何これ…」
大木は首を傾げた。
紙には見知らぬ横文字が殴り書きで書かれてあった。指でなぞりながら一字一字ゆっくり読んでいく。               
「うー…汚くて読めねえよ…えーっと…せ、ら、ふぃ、な、い、と…“セラフィナイト”…?意味わかんね」
何となく可愛らしい響きの、聞いたこと無いようでどこか聞いたことがある名前。宝石か何かの名前なのだろうか。
何にせよ少し声に出して読むのが恥ずかしい。

言い終わった途端、大木の目の前に転がっていた石が緑色の光を放ち始めた。
石を拾いかけていた男達はそのまばゆい光に目が眩み、石を取り落とす。
石の光が消えると同時に、ひゅるるる…という風の音がして、木の葉がくるくると舞う。
そして、大木の背後から明るい声がした。

「堀内ケン、あ、参上〜っ!しゃきーん!!」

3人の視線が、一点に集中する。
茶髪の男―――ネプチューン堀内健の姿が、そこにあった。
「え〜何何?もうピンチになっちまったワケ?だっらしねーなあ!」
「…はあ、すみません」
堀内は大木の腕を引っ張り、身体を起こさせた。落ちているリュックも拾ってやる。
「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせよーぜ。この後収録なんだよ。泰造と潤ちゃん待たしてっからさぁ」
くるりと男達の方へと向き直り、小馬鹿にしたような口調で挑発する。

そしてまんまとその挑発に乗った血気盛んな若手は、相方と思われる男の制止を振り切り、目の前の大物先輩に向けてその赤い光線を放った。

107 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/23(火) 20:05:30
常人より遙かに運動神経の良い堀内は身体を器用に折り曲げて光線を交わす。だがその光線は大木のときと同じようにぐにゃりと反転し、再び堀内に向かって襲いかかってきた。
それに気付かない堀内に大木が声を荒げる。
「ちょ、堀内さん、後ろ!」
「お、何ボンス。“志村後ろ!”みたいなこと言っちゃって。……ありゃ」
堀内の唇が「やべっ」と動いたのを大木ははっきりと見た。
「“やばい”ってアンタ…」
その瞬間、真っ赤な光が堀内を包み込んだ。

あまりにもあっけなさ過ぎる展開に、大木はもちろん、光線を放った男も目を丸くしている。だが直ぐにそれは笑みに変わった。
「驚かせやがって!やっぱり堀内さんは原田さん達が居ないとてんで使えませんね!」

「何の話してんの〜?俺にも教えてくれねえ?」
「えっ…」
背後に人の気配を感じた時には、もうすでに堀内が小泣き爺の如く男の背中に負ぶさるようにのしかかっていた。
隣では相方が口を開けて固まったまま突っ立っている。
男は堀内の重さによろけてうつ伏せに倒れ込んだ。堀内は男の頭をこんこんと叩く。
「良いね〜その台詞。久しぶりに本気で頭に来たかもよ?」
段々と声が低くなってくる。どうやら本気で怒ってしまったようだ。
「こ、の…!」
相方の男が木材を横に振り回し、堀内の頭を狙った。確実に避けることの出来ない間合いだった。だが、
「くそっ……また…!?」
振り切った木材は宙を切った。同時に、堀内に乗っかられていた男の背が急にふっ、と軽くなる。
「何だよ!何が起こったんだ!」
慌てて男が起きあがり、相方に詰め寄った。
「消えたんだよ…一瞬で」
「消えたって…」
「まるで…風みたいに、ふわっと…」

108 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/23(火) 20:06:38
顔を青くして会話をする男達を、大木は少し離れたブロック塀から覗き込んでいた。
今までくりぃむしちゅーや川島が言っていたことは、ただの冗談だと思っていたのだが。
目の前でこんな光景を見せつけられてしまっては、認めざるを得なくなってしまった。

「つーか堀内さん、どこ行ったんだ?」
ぽつりと呟く。
すると、背後からひゅるるる…と緩やかな旋風が巻き起こり、その中央からふわりと音もなく堀内が現れた。
それに気付かない大木にそろそろと近寄り、思い切り肩を叩いてやる。
「う、うわッ…」
心臓が飛び上がり無意識に叫び声が出る。堀内は自分と大木の口元に人差し指を当て、笑いを堪えながら(しーっ)と言った。
「くーっ、どう?かっけぇだろ俺!忍者みてーだろ!」
「忍者って言うよりお化けですね」
「まあとにかく!」
堀内は大木の眼前に手を突き出す。
「お前に怪我させた奴らを許すわけにはいかねー。俺も何か馬鹿にされたし。一発くらい殴っても文句言われねーだろ」
「でもあいつのビームみたいなの追いかけてくるんですよ?」
大木の言葉を無視してぱきぱきと肩を鳴らし、

「さあ、駆け出し若手君の前座は終了でーす。そろそろ本番行っちゃいましょー、3秒前〜、2、1…」
口元に手を当て、芝居がかった口調で聞こえよがしに叫ぶ。
ゼロ。
そう言ったと同時に堀内の身体に一瞬、テレビがぶれた時のように青黒っぽい影が掛かる。
そして一秒も経たない内に姿が完全に消えた。
「いくら追いかけて来るビームでもさぁ、当たんなかったら意味ねぇよな〜」
わざと遠くに堀内が現れると男が光線を放つ。
光線はしつこく堀内を追いかけ回すが毎回ぎりぎりの所で堀内は消え、倉庫の屋根の上など様々な場所に姿を出す。

109 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/23(火) 20:07:49
「あー疲れた。そろそろ終わりにすっか。…っとその前に、痛い目に会ってもらうぜ」
「えっ…うわあ!」
「ボンスの仇、覚悟!」
あろう事か男達の頭上に現れた堀内は、重力に任せて二人の身体をどすんっと地面に叩き伏せた。
「ごめーん、痛かった?不意打ちには注意しねえと」
けたけた笑いながら、気絶して起きあがれない男達の上から一瞬で大木の隣へ移動する。

「…瞬間移動?」
大木が言った。
「そっ。もう気付いてると思うけど、これ全部石の力だから」
「堀内さんの瞬間移動も、あの若手の光線も?…じゃあ俺は…」
「お前のはそのー…あれだ。“呼び寄せ”ってやつ。お前紙読んだろ?セラフィナイトって。俺の石の名前だよ。“天使のお守り”だって。かーいいだろ」
堀内は鼻の下を擦りながら胸を張った。
少し違和感はあるが、まさに「永遠の中2」の彼にはうってつけの石かもしれない。
「魔法みたいですね…」
「マホー?そんな綺麗なもんじゃねーって。まあ詳しいことはそのうち話していくから」
すると、大木の石が光り始めた。
「え、なんか光ってますよ?」

「あー残念、時間切れだ。じゃあ俺、泰造と潤ちゃんのとこ戻るから。シュワッチ!」
石がぱっと強く光ると、堀内の姿も完全に消えた。辺りを見渡してみたが、堀内の声は聞こえない。今度は瞬間移動したわけでは無いようだ。
「…ああ〜何か分かんないけど、これから大変そう…」
大木は夕焼けの空を見上げて、ふーっと溜気を付くのだった。



ばたばたという足音と共に、楽屋のドアが勢いよく開けられる。
「健!お前どこ行っとったんや!」
「俺ずっと此処にいたよ」
「もう本番はじまっとるんやぞ、早よ来い!」
怒鳴る名倉をまあまあ、と原田がなだめる。

スタジオに向かう途中の老化でこっそりと原田が尋ねた。
「ケン、本当は何処行ってたの?」
「ん?ちょっと恩を売りにね……」

110 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/23(火) 20:08:05
堀内健(ネプチューン)
石:セラフィナイト [羽のような模様がある。黄緑+白]
能力:瞬間移動。半径100メートル以内の空間ならどこでも移動可能。
条件:一瞬で移動するので長い間姿を消しておくことは出来ない。
   連続で使えるが、使うたびに移動範囲が狭まる。
   自分以外の物も瞬間移動させられる。

111 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/23(火) 20:08:57
長々とすみません。ここで終わりです。

112 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/23(火) 20:13:24
間違い
老化→廊下

113名無しさん:2005/08/24(水) 21:28:24
長編乙です!爆笑・くりちゅー・ネプのボキャブラ御三家が揃いましたね。
ホリケンの少年漫画っぽいキャラがこの設定にピッタリで、バトルも軽快で面白く、
楽しませて頂きました。

114名無しさん:2005/08/25(木) 08:31:53
乙。
面白かったよ。ホリケンはやっぱ白なのかな?
本スレにも投下キボン

115 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/25(木) 17:51:21
白か黒かは考えて無かったりします。
くりぃむが白、爆笑が中立と来たらやっぱネプは黒かなーとは
思ってますが。
他の人はそこんとこどうしたいのか意見欲しいです。

116名無しさん:2005/08/25(木) 18:45:01
本スレ投下に一票ノシ

117 ◆8Y4t9xw7Nw:2005/08/25(木) 19:35:36
大木を襲ったのが『黒』の若手っぽいし(『白』だったら、浄化するにしても
他人の石を無理に奪おうとはしないでしょう、多分)『白』かなとは思うのですが。

118名無しさん:2005/08/25(木) 20:54:31
恩を売るって言葉から黒のホリケンが下っ端を使った狂言って可能性も…
ってこれは◆BKx〜さんが決めることであってこっちが深読みすることじゃないね。
とりあえず乙です。

119 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/25(木) 23:14:13
じゃあ本スレ投下にあたって、ホリケンが白か黒か考えておきます。
その為に所々直したり書き加えたりしてからの投下になります。

120 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/27(土) 01:41:40
書き加えすぎた…。ここで終わりとか言っておきながらネプサイドの続き
あるんで、こんな設定で良かったら本スレにまとめて投下します。


楽屋では堀内がカチカチと携帯をいじっている。
「ケン、“恩を売った”って誰に?」
静寂を破って、原田が尋ねた。
「さっき、新入りの若手から連絡あったんだ。“せっかく大木さんの石を奪いかけたのに”」
「のに?」
「“堀内さんに邪魔された”だってさ」

一瞬の沈黙。
「あ、れは…邪魔っていうかねー、友達の危機を救っただけだよ。それにまさかあいつらが黒の若手だと思わなかったんだって」
「それ、ホンマか?」
その時、隣で見ていただけの名倉が原田の肩に手を置き、言った。

「泰造、こいつきっと“白”の間者やで」

「はっ…?」
「まっさか!考えすぎじゃない?ケンが俺たちの敵な訳ないでしょ」
「当たり前じゃん!ひっでえよ潤ちゃん!」
堀内は笑いながら名倉を叩く。
「原田さん、名倉さん。スタジオの方お願いしますー」
スタッフの声だ。原田と名倉が振り向き、堀内はどこかホッとした表情を浮かべる。
「…いや、すまんな健。冗談やって」
申し訳なさそうにそう言って名倉は先に出て行った。
原田がジャケットを羽織りながら話しかけてきた。

121 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/27(土) 01:44:25
「そうだ。大木の奴も石持ったんだろ?」
「そうだけど…」
「あいつも黒に引き込んでやろっか。そうだな…明日ロケで一緒になるし」
「あし…!!?…や、いや。そっかあ、頑張ってな〜あはは…」

パタン―――扉が閉められ、楽屋には堀内一人のみになる。だがその数秒後、
「あ、ごめん忘れ物………ケン〜?」
再び原田がドアを開けた時には、堀内の姿は無かった。



「もしもし?大木、お前今すぐ上田と有田んとこ行け。“白いユニット”に入れてもらうんだよ!…いいか、助けてやったんだから俺の言うこと聞けよ!」
誰が見ても一方的過ぎる電話だった。相手が出るやいなや一息で捲し立てるとまた一方的に電話を切る。
伝わったかな?大丈夫だろ、あいつああ見えて物解り良いからな。
携帯をぱたんと閉じ、フェンスに背を預けた。
堀内は一階から一気に誰も居ない屋上まで移動していたのだ。

「…あーびっくりした…」
堀内は白のユニットの人間だが、黒である原田と名倉と共に行動している。いわゆる“スパイ”だった。他の二人が黒であるということから自然と自分も黒の人間だと信じ込ませていた。
もちろん原田と名倉も例外ではない。
「黒は嫌いだけど…俺が白って事が泰造たちにばれるのも色んな意味で嫌だなー…。はあ、俺ってばカワイソ。身の振り方考えなきゃなあ〜」

堀内は何度目かもわからない溜息を吐いた。

122 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/27(土) 01:48:00
泰造と名倉が黒で、ホリケンは黒のふりしながら二人と一緒に居る
…みたいな感じで。
多少の矛盾は目をつむって欲しい。

123名無しさん:2005/08/28(日) 21:43:38
投下お願いします

124名無しさん:2005/08/30(火) 03:48:57
何となく思いついたけど、元の流れと繋げられる自信が無いので此方に落としてみます。
まだちゃんと決まってない設定もあるのでそこら辺は最後に説明しておきます。


「僕等はただの人形だ」
うし君は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
「僕等はただの人形だった」
それを聞いたカエル君は強い口調でその言葉を否定した。
「僕等はただの人形だ」
違う違う、と頭だけでなく身体全体を横に振ってうし君はその言葉を否定する。
「今の僕等はただの人形じゃない。意思がある…自分達の意思があるんだ!」
声がするのは一箇所で、それは自分達の口から発せられているものではない。
だがしかし、彼等は実際自分達の意思で動いていた。
自分達の姿を見れば確かに、足の無い胴体の下から伸びているのは人間の腕。
この腕がなければ、中に入っている手がなければ自分達は動けないただの布と綿の塊。
壁に寄り掛った格好で床に座り、ぐったりと項垂れているのはその腕の持ち主。

「じゃあ、彼は何?」
紺の覆面をし、黒ずくめの服を着ている人間を指してうし君は訊ねる。
「元・僕等」
自分達のついている腕だけを地面と垂直に保ったまま動かない人間を見て、カエル君は答えた。
「元?じゃあ今は?」
未だに混乱している様子のうし君は、不安げな声で相方に訊ねる。
「今は…僕等が彼だ」
自信たっぷりにそう告げたカエル君はさらに言葉を続ける。
「そこに居る男の頭の中に僕等は居た。僕等は彼だった…彼が僕等だった」
自分の腕全体を使って、俯いたまま言葉を話す男を指す。
「彼の思ったようにしか動けなかった。彼の思うがままに操られているだけだった」
うし君に反論させない勢いで、カエル君は話し続けた。
「だけど、今僕等はこうして自分の好きな事を…彼の口を通してだけど、好きなだけ話せる!」
覆面の男は項垂れたまま、カエル君の台詞を嬉しそうな声で喋っている。
「僕等は彼に操られてるんじゃない。僕等が彼を操れるようになったんだ!!」

「…そんなの、やっぱおかしいよ」
黙ったままで―彼等はどちらかが話しているときはもう片方は黙っているほか無いのだが―相方の言葉を聞いていたうし君がようやく口を開いた。
「だって僕等は人形で、そんな…魔法みたいなことがあっちゃいけないんだよ」
うし君はあくまでも元の彼の、人間としての常識を持ち合わせているようだった。
だが一方のカエル君は違った。大勢の人間の前で自分達が生きているかのように振る舞い、喋っていたという記憶が強かった。
「僕等は沢山の人と喋って、沢山の人に見られて、お笑いコンビ・パペットマペットとして世間に認められていた」
「違う、それは違うよカエル君…だって僕等は人形で、人間達は僕らを人形としてしか見ていない!」
「家畜の分際で煩いんだよ。そんなに言うならずっと黙ってて。僕は僕のやりたいようにやるから」
そう言いながらカエル君がうし君の頭を強く叩いたとき、うし君の頭から黒いガラスの欠片の様な物が抜け落ちた。
「…頭にノミ飼ってるなんて。さすが家畜だね」
カエル君は床に落ちたそれを見て皮肉を言う。いつもなら何らかの返事をしてくるはずの相方は黙ったままだった。

125名無しさん:2005/08/30(火) 03:53:23
「…なんで黙ってんの?反論しなきゃ面白く無いじゃん」
カエル君はそれっきり動かなくなった相方を突付いたり叩いたりしていたが、突然何かに気付いたように大きく手を叩いた。
「そっか、これが原因か」
床に落ちている黒い欠片を拾い上げ、試しに相方の綿の詰まった柔らかい頭に突き刺した。
「…あれ?今僕どうしてた?」
突然動き出した相方を見て、カエル君は理解した。
カエル君の頭の部分…その中に入っている覆面の男の手には、黒い欠片の感触がある。
「これのお陰…ってことか」
カエル君は自分の本来の身体である人形ではなく、
後ろの男の方に意識を集中すれば彼の手でだけではなく身体全体を動かせることに気付いた。

「あっちゃいけない魔法みたいなこと…嫌なら君は黙ってて良いよ」
「何言ってるのカエルく…」
いつまでも煩い相方の後ろにまわって、彼の頭からはみ出している黒い欠片を引き抜いた。
動かなくなった相方の体を、後ろの男の方に意識を集中して動かしてみる。
手を動かすだけで、うし君の身体は簡単に彼の思い通りに動いた。
「ふーん…いつもこんな感じで僕等を動かしてたんだ」
呟いた彼は男の手から相方の体を引き剥がす。
そして同じように、元・自分の身体をも相方の体の中から出た人間の手を使って引き剥がした。

「…僕は、僕だ」
そこから現れた手を見て、彼は呟く。
「操られたりしない。僕は僕の好きなように…」
その掌には黒い欠片。それから流れ込む力を感じたカエル君は、拳を握ってニヤリと笑った。
彼の意識に連動して男の表情が変わる。
彼の…カエル君の心は今まで自分を操っていた男を逆に支配している、という優越感でいっぱいになる。
「この欠片があれば…僕は僕で居られるんだ」

126名無しさん:2005/08/30(火) 03:56:49
説明
<何故人形が意思を持ったか>①人形に意思を宿らせる能力者の仕業。
②パペットマペット自身の石の能力が欠片で歪められて。のどちらか。

カエル君が欠片に魅入られて黒に〜というような感じの続きを何となくですが考えてます。
添削お願いします。

127名無しさん:2005/08/30(火) 13:59:23
乙です!面白かったです。
意思を持った理由は1番でも2番でも面白そうですね。それぞれ動かしがいがあって。
自分パペマペの能力投下した者なんで、お話読めて嬉しいです。

128名無しさん:2005/09/02(金) 00:22:36
>>127
レス有難うございます。他の人の感想が聞けて嬉しいです。
パペマペの能力面白そうだったので①の方にしようと思います。
②だと能力変えなきゃいけないのでそれは勿体無いですから。
少し手を加えて、あと能力者の能力と人間も考えて…話がまとまったらまた来ます。

129名無しさん:2005/09/09(金) 11:31:48
ピースの話を書いてみました。
一応今の時点では矛盾しないように書いたのですが、
やはり今ピースが出ている小説が終わるのを待った方がいいですか?

130名無しさん:2005/09/09(金) 15:57:12
>>129
ここは添削だけなので投下だけならいくらでもどうぞ。
期待して待ってます。

131129:2005/09/09(金) 21:40:34
ありがとうございます。
お言葉に甘えて投下させてもらいます。


それはある日のこと。ピースの2人がまだコンビを組んで間もない頃の話である。
劇場で行われる笑いの戦いを征し、見事今日をもって500円芸人の肩書きを手に入れた
2人は楽屋にいた。周りの後輩芸人には「おめでとうございます」と祝ってもらい、先輩
芸人には「今日はおごってやる」と声をかけてもらった。
「やったなぁ!マタキチ!」
綾部もちろん上機嫌だ。いつものうんさくさい笑顔を全快にしている。
「やったな。」
又吉は言葉少なく返した。
「なんだよマタキチ。やっと勝ったのに。どっか具合でも悪いのか?」
綾部は相方のいつにも増した無口さに心配して顔をのぞきこんだ。
フイとバツの悪そうな顔をして又吉はそっぽを向いた。その顔を見て綾部に嫌な予感が走った。
「もしかしてお前昨日また石を・・・!」
そう綾部が声を荒げた瞬間だった。楽屋にいる芸人達が一斉にこちらを見た。
そして空気はピンと張り詰めた。若干睨んでいる人間もいるような気がする。
「いっ石を・・・持って帰ったのか〜?しかもそのへんに転がってるなんの変哲もない石を!
マタキチはホントに変なもの集めるなぁ!」
綾部は苦し紛れにうわずった声で意味のわからない言い訳をした。周りの芸人がそれで治
まるとは思えない。しかし芸人達はまた自分達の話に戻った。
張り詰めた空気は作られたなごやかさに変わった。
「アホか。こんなところで、石について大声出すなや。」
「ごめん。で・・・また昨日、石を使って戦闘したんじゃないのか?」
又吉はまた目線を逸らした。
「えぇやんけ別に。俺は白や。黒が襲って来てもしゃーない。
それに白として戦わなあかんやろ。」
「あのなぁ・・・!」綾部はまた声を荒げそうになったが、
我に返り一息ついて小さな声で言った。
「俺は石持ってねぇから白とか黒とかよくわかんねぇけどさ・・・お前が怪我したりすん
のは嫌なんだよ。」
お前を助けることも出来ないんだ。続けて小さくつぶやいた。
又吉はうつむいたまま黙った。
綾部は石を持っていなかった。又吉と同じだけ芸人として活動してきたが、自分に石は
やって来なかった。それは運のいいことだと思っていた。しかし相方や仲間の芸人達が戦
い傷つくのを指をくわえて見ていなければならなかった。

戦いに巻き込まれたくない。

でも大切な人達を守りたい。

132129:2005/09/09(金) 21:50:23
そのとき楽屋のドアがノックされた。そして入って来たのは又吉の元相方、原だった。
その楽屋にいた芸人達は驚いて原に駆け寄った。
原はある程度芸人達と挨拶を交わしたあと、2人の方へやって来た。
「おめでとう。」
「見に来てたんか。」
又吉はしかめっ面で原を見た。原はにこやかに又吉を見下ろしている。
「今日は綾部に用があって来たんや。」
「えっ、俺?」
思わぬ言葉に綾部は驚いた。
「あ、でも今日は先輩におごってもらったりするんやろ?なら終わった後お前の家の近く
に公園があったよな?そこに来てくれへん?」
「・・・おっおう。」綾部は原の言葉に疑問を感じつつも、その誘いに応じた。
話があるなら携帯で電話したっていいし、メールだってできる。同期なのだから
特に隔たりもない。
又吉も原がなにを考えているのかを不審に思っているようだ。眉間にしわが寄っている。
その場はそのまま別れた。
先輩と飲みに行っている間もあれやこれやと呼び出された理由を考えたが思い当たる節がない。
約束どうり、綾部は原に指定された公園に行った。その公園は広いくせに外灯が少なく
真っ暗に静まっていた。まだ原は来ていないようだ。
綾部はまだ呼び出された理由を考えながら原を待っていた。すると黒い人影が現れ、
こっちに近づいてきた。誰だろう?原だろうか。暗くて見えない。と目を凝していると、
急に横からも人影サッと自分の目の前に現れた。
又吉だ。又吉は綾部に背を向けて少し遠くに見える影を睨みながら
石の力を開放した。
「おっおいっ!何してんだよ!」
綾部が驚いて聞いたが又吉はすでに黒い人影に向かって物語を語り始めていた。

公園は少ない外灯に照らされ真っ暗だ。人影などどこにもない。

又吉は公園には誰もいないという物語を語った。あの人影に捕まってはいけない。絶対に。
又吉はこの物語を続けながら綾部の方を振り返った。しかしその場所に綾部はいない。
まさかと前を見直すと黒い人影が消えている。
しまった・・・!
そう思った瞬間又吉の腹に鈍い衝撃が走った。その衝撃で又吉は自分の作った物語から
抜け出し、そのまま倒れこんだ。
「又吉!!」
綾部がしゃがみ込み抱き起こす。綾部には何が起きたかわからない。
又吉は気を失ってしまった。
そして黒い人影が目の前に立ちはだかった。
綾部が見上げた瞬間、背後からヒュッと風が通り抜けたと思ったその刹那、人影は後ろに吹っ飛んだ。
「こっちだ!今のうちに逃げろっ!」
背後から叫んだのは呼び出した張本人の原だった。
綾部は無我夢中で又吉をおぶって原と一緒に走り出した。
これが石をめぐる戦いか・・・。今まで経験したことのない緊張感、そして危機感。
綾部は一心不乱に走った。そして暗い路地を見つけるとそこへ入った。
又吉を降ろし、ヘタリと座り込んだが、原がまだ来ていない。路地から注意深くのぞくと、原がフラフラと走っ
てくるのが見えた。
「原っ!お前大丈夫か!?どっか怪我したのか?」
原に肩を貸し、路地へと入った。
原はハァハァと息を切らしながらなんとか言葉を発した。
「・・・ちょっと貧血になっただけや・・・これが俺の・・・石の能力の代償や。」
息も絶え絶えに原は話した。
「本当は一回でこんなにダメージくらわへん・・・でもコンビを解散して、芸人をやめて
も石をねらってくるやつらがおって、そいつらに対抗してたんやけど、どんどん石の力が
弱くなっていって・・・。今までどうりの力出そうと思ったらどんどんと代償もでかなっ
ていった・・・。さっきの攻撃も相手に尻餅つかせた程度やろ。」
「・・・じゃあこの石は芸人じゃないと力を発揮しない・・・?」
「いや、笑いへの情熱や・・・。」
ふうと一息ついた原は自分の首からペンダントにして吊っていた石を綾部に突き出して言った。
「又吉は相変わらず戦ってるんやろ?平和がほしいとかゆーてさ。
あいつ人が傷つくのとかめっちゃ嫌がるからな。アホや・・・。」
原はふっと鼻で笑った。
「あいつの石は攻撃には向かへん。そんでそれを助けていた俺にはもう力はない・・・。
だから頼む、この石をもらってくれへんか?危険なことに巻き込むのはわかってる。
でもお前の相方守ってやってくれ!このとおりや・・・。」
原は必死に頭を下げた。しばらく綾部は黙ったが、意を決してその石を受け取った。
「俺・・・仲間を・・・マタキチを守りたい。俺だって平和がほしい!」
原は微笑んだ。
「・・・ありがとう。」
パチパチパチ・・・
手を叩く音が路地の入口から聞こえた。

133129:2005/09/09(金) 22:05:04
>>132
「バナナマンの設楽さん・・・?」
「チッ・・・。」
原は舌打ちをした。
「黒の一番上の人間や・・・気をつけろ。」
綾部はゴクリと喉を鳴らした。
「綾部くん。原くんから石を譲り受けたところ悪いんだけどさ、黒に入らないかな?
もちろん又吉くんも一緒に。」
「嫌です。この石は仲間を守るために使うと決めたんです。人を傷つけるために使いたく
ないんです!」
するとその言葉に反応するように石も光った。設楽はふふっと笑うだけだ。
「綾部その石はな・・・」
原が言い終わる前に綾部は動いた。
何故だろう使い方がわかる。誰だ?俺に話しかけてくるのは。
自分の足下にあるコンクリートに触れ、大きな龍を放った。
「くっ・・・!」
狭い路地だったのが災いし大きな龍は動きずらそうだ。
設楽は龍が自分に激突する瞬間になんとかしゃがみ込んで避けた。
しかし、完璧に避けられるわけもなく傷を負った。しかしかすり傷程度ではない。
「くくくっ・・・さすが・・・すばらしい力だ・・・!」
傷を負ったにも関わらず、設楽は不気味に笑っている。
そしてゆっくり立上がりると同時に石が光り出した。
「綾部君・・・。君は黒の事をどうやら勘違いしているようだ。
少し僕の話を聞いてくれないかな?平和的に話し合いで解決しようじゃないか・・・。」
綾部は応じた。話し合いで解決できるならそうしたかった。
これが罠だということも知らずに・・・。

134129:2005/09/09(金) 22:05:54
>>133
長くなりました。次で最後です。



又吉はうっすらと目を開けた。ぼんやりと3人の人間が見える。2人の人間は
対峙していて、手前の自分を守る様に立っている人間の後ろには壁にもたれかかって
もう一人がいた。だんだんと対峙している2人の声が聞こえてきた。
「・・・どうかな。分かってもらえたかな?」
「はい・・・。」
だんだんと意識がはっきりしてきた。
「君の相方も起きたようだね。」
向こう側にいる男が言った。
設楽・・・!
又吉の目が大きく見開かれた。
その言葉を聞いた手前の男・・・綾部がゆっくりとこちらを振り返った。その時。
「原・・・。」
設楽が原に目で合図を送った。すると原はひそかに手元に準備していた鉄パイプを
にぎり、綾部の後頭部を一撃・・・ガツンッ。
「綾部っ・・・!」
又吉は瞬時に起き上がり倒れこんだ綾部に駆け寄った。さっき殴られた腹がズキンと痛ん
だが、そんなこと気にしてられなかった。
「綾部!おいっ綾部!」
必死に揺り起こそうとするが全く動かない。
「安心しろ。ちょっと眠ってもらっただけや。」
原が鉄パイプを肩に担いで冷たい目で又吉を見下していた。
「今度は又吉くんと話がしたかったからね。いやあ君の相方達は本当に信じやすい
いい人達だね。君とは違って。」
設楽はニヤリと笑う。
「まさか・・・また・・・。」
又吉に嫌な過去が蘇った。
「君は知ってたんだね。原が芸人でなくなれば石は力を失うと。だから原とのコンビを
解散した。それが原を助ける方法だと信じて。本来、白であった君達の片方が黒に変わってし
まってケンカは絶えなかっただろう?僕は又吉君が折れて黒に入ってくれるのを期待して
たんだけどね。」
又吉はキッと設楽を睨み付けた。瞳には過去に負わされた傷が写っている。
「俺はどうしてもその石がほしいんだよ。アトランティスの力を持つエレスチャルの力を。
全く又吉君、君は手間をとらせてくれたね。」
「原だけじゃなく綾部まで・・・!」
「“説得”させてもらった。もう彼は黒の一員だよ。」
冷たい瞳に又吉が写った。
「大丈夫。綾部君が次起きても、綾部君は変わらず君の事を好きだよ。
でも石に関してはどうかなぁ・・・?」
「うるさいっ!!」
設楽の挑発的でふざけた言葉に又吉は声を荒げた。
もうあんな思いはしたくない。
「もう・・・あんな思いはしたくない・・・。たった一人の相方・・・
もう失いたくない・・・。」
うつむいて、綾部の顔を見た。
「随分と仲がよろしいことで。」
原は鼻で笑った。
又吉はそっと原を見上げ、
「お前だって失いたくなかったんや。お前だって助けたかった・・・。」
原の顔に動揺が走る。原の瞳に過去が写る。
「お前に何がっ・・・!」
原が怒鳴ろうとするのを設楽が制した。
「又吉君。黒に入って黒に染まったフリをして綾部君が人を傷つけないように見張ればいいじゃないか、
“説得”を解けるようにいつも一緒にいたらいいじゃないか。それをやって見せてくれよ。
それが出来れば2人とも抜けさせてあげるよ。」
設楽が本当にそんなことを思っているわけがない。自分の石を破られない自信があるのだ。
「わかった・・・。」
又吉は小さく言った。
「やっと又吉君にも“説得”が利いたかな?」
ふふふと笑い背を向けて設楽は歩き出した。
「言っとくけどな、お前の石なんかにハマった覚えはないで。俺は綾部の目を覚まさせる
ためだけに黒に入るんや。」
設楽は原を従えて去って行った。
取り残された又吉は綾部の顔を見ながらつぶやいた。
「ごめんな・・・ゆうちゃん・・・。」
設楽の高笑いだけが聞こえる。

135129:2005/09/09(金) 22:11:02
すみません。本当にすごく長くなってしまいました。
読みにくいところもありますので、
もし読んでいただけたら感想をください。

136129:2005/09/18(日) 21:55:25
今気づいたのですが、この話矛盾してますねorz
ごめんなさい。

137本スレ224:2005/09/24(土) 01:03:15
本スレで言っていたさまぁ〜ずの番外編を落としにきました。
黒ユニットに分類されているコンビですが、ごく軽い話なのであまり黒っぽくありません。
でも黒でも白でも日常は結構ほのぼのしたところもあるんじゃないかと思って書いてみました。

石は能力スレにあるさまぁ〜ずのもの(もともと能力スレにさまぁ〜ずの設定書き込んだのも自分です)。
能力を使用しているのは三村のみです。

138本スレ224@鈴虫1:2005/09/24(土) 01:05:34
いつも通りの朝、いつも通りの日常。
自分の車の助手席でボーッとしながら相方の家に着くのを待つ。

窓からのぞく空は灰色の雲に薄く覆われていて、それを通して降りそそぐ朝の陽光はにじむように柔らかい。
今日はスタジオでの仕事だから、スッキリ晴れてくれてもよかったんだけどなあ、などと思いつつ、あくびを一つ。
あいにく、薄曇りの空にできた光の筋に美しさを感じるような感受性は持ち合わせていない。

かぶった赤いキャップのつばをぐい、と左手でひっぱって、視界を遮断する。
昨夜の酒が微妙に残っているので、少し休みたくなって目をつぶった。最近どうにも飲みすぎだ。


「うぃーす」


しばらくすると車はある路地で静かに停まった。
でかい荷物を肩にかけた相方が適当な挨拶とともに後部座席に乗り込んでくる。
とりとめもなく、たわいもない会話を車内に流しながら、テレビ局へと車はむかう。
ここまではまったくもっていつも通り、かわりばえのしない朝の光景。

…それがほんの少しばかりイレギュラーなものになったのは、二人が局の楽屋に入った後だった。

139本スレ224@鈴虫2:2005/09/24(土) 01:06:45
扉に貼りつけられた「さまぁ〜ず 三村マサカズ・大竹一樹 様」の文字をちらりと確認して中に入る。
撮りが始まるまでにはまだ余裕があるので、腰をおろした二人はのんびりと行動を開始した。
思い思いにペットボトルに口をつけたり、スポーツ新聞に目を通したりして時間を過ごす。

…そのとき、大竹が何か思い出したようにつぶやいた。


「あー…しまった」
「ん?」
「クーラー消すの忘れた」
「…帰ったらさみぃな」
「さっみぃな」
「高橋は?」
「さっき何かちょっと外すとかっつって出てった、…っと、あれ、どこだ…」


言いながら大竹はカバンをさぐり、タバコをとりだして火をつけようとする。
しかし百円ライターはチチッ、と火花を発するだけで、いっこうに炎が出ない。


「切れてやがる、お前の貸して」
「あー…ちょっと待って、今出す」

140本スレ224@鈴虫3:2005/09/24(土) 01:08:25
そう言ってジーンズのポケットをまさぐった三村だが、出てきたのはひしゃげたタバコの箱のみだった。
いつもなら減ったタバコの隙間に入っているのだが、今日に限って目当てのライターはない。
どうやら昨晩飲みに行った店にでも置いてきてしまったようだ。


「…入ってねぇわ」
「入ってねえって…どーするよ」
「高橋…って今いねえんだった」


ヘビースモーカーとまではいかないが、タバコが吸えないとそれなりに困る二人は顔を見あわせた。
タバコそのものなら自販機に買いに行けばいいが、ライターとなるとちょっと面倒だ。
しかたなく、廊下でスタッフにでも声をかけてみるか、と立ち上がろうとした三村に大竹が言う。


「お前アレは?アレで何とかなんねーの?」
「アレ?あー、石?」
「おー、アレで『ライターかよ!』とかってツっこめばいいんじゃね?」
「…お前、そのツっこみができるボケしろよ?」
「無理」
「じゃあ俺も無理だから、っていうかピューって飛ぶぞライター、ピューって」
「軽めに言えばいいだろ…あ、『秋の夜に 鳴いてる鈴虫 焼いてみる』は?」
「『なんでだよ!なんで焼いたの?焼かないでよ〜鈴虫を〜』…いや、これ『ライター』とかねえから」
「それ『なんで焼いたの?ライター?』とかにすればいいんじゃね?」
「あー、けどその『なんで』は『何使って』って意味じゃなくて『どうして?』の意味だけどな」
「細けぇよ、いいよ、いけるよ」
「…しょーがねーなー…」

141本スレ224@鈴虫4:2005/09/24(土) 01:09:43
三村は、ごそごそと財布の中から緑と紫と白が縞模様をつくる美しい石をとりだした。
手の中に石を握り込んで意識を集中させると、それはほんのりと淡く光る。


「おし、準備できた」
「んじゃいくぞ…『秋の夜に 鳴いてる鈴虫 焼いてみた』」
「『なんでだよ!なんで焼いたの?ライター?…


三村が『ライター』と口にしたとたん、ヒュッと空中にライターがあらわれ、大竹めがけて飛んでいった。
至近距離だったせいかライターの速度が意外に速かったため、大竹は「うぉっ!」と小さく叫んでのけぞる。
正面からぶつかるのは避けたものの、ライターは肩に当たってコロリ、と机に転がった。


 …焼かないでよ〜鈴虫を〜』」
「ってお前!バカ!」
「へ?」
「おわぁ!」


三村が思わず最後までツっこみきってしまったせいで、今度は空中に一匹の鈴虫があらわれる。
これまた結構な速度で大竹にむかって飛んでいく鈴虫を見送って思わず三村はつぶやく。


「あ、鈴虫…」
「『あ』じゃねえ!」


…鈴虫は見事に大竹の伊達眼鏡のふちにぶち当たり、へろへろと緑茶のペットボトルの中に落ちて討ち死にしたのだった。

142本スレ224@鈴虫5:2005/09/24(土) 01:10:30
その後大竹は「鈴虫くせえ…」などと微妙な悪態をつきつつ眼鏡を手入れし、タバコに火をつけ。
三村は「ゴメンゴメン」などとあまり反省もなく謝りながら石をしまい、またもとのようにのんびりと時間が動き始めた。

5分後、先ほどのことを忘れてペットボトルに口をつけた三村は、ブフッ、と派手な音を立てて緑茶とともに鈴虫を吐き出すだろう。
大竹は「汚ね!」と後ろに飛びすさり、机の上が大…いや小惨事になり、楽屋は二人の笑い声やらうめき声やらでまた少しばかりにぎやかになる。



…そんなちょっとした、日常の話。

143本スレ224@鈴虫(設定他):2005/09/24(土) 01:18:51
三村マサカズ
石:フローライト(螢石)
集中力を高め意識をより高いレベルへ引き上げる、思考力を高める
力:ツッコミを入れたもの、もしくはツッコミの中に出てきたものを敵に向かって高速ですっ飛ばす。
(例1)皿に「白い!」とツッコんだ場合、皿が飛ぶ。
(例2)相方の「ブタみてェな〜(云々」などの言葉に対し「ブタかよ!」とツッコんだ場合、ブタが飛ぶ。
条件:その場にあるものにツッコむ場合はそれほど体力を使わないが、
人の言葉に対してツッコむ場合は言い回しが複雑なほど体力を使う。
また、相方の言葉に対してツッコむ場合より、他の人間に対してツッコむ場合の方が体力を使うため、回数が減る。
ツッコミを噛むとモノの飛ぶ方向がめちゃくちゃになる。ツッコミのテンションによってモノの飛ぶ速度は変わる。
飛ぶものの重さはあまり本人の体力とは関係ないが、建物や極端に重いものは飛ばせない。


今回は(例2)の方で能力を使わせてみました。
石の身につけかたに迷ったんですが、原石のまま持ってる方がらしいかと思ったので、
財布の中にしまってることにしてみたんですが、加工品の方がよかったでしょうか。
なにぶん初めてなので、ビシバシ添削していただけるとありがたいです。

144本スレ224@鈴虫:2005/09/24(土) 01:21:59
あ、文中の「高橋」はさまぁ〜ずの後輩兼マネージャーの高橋氏です。

145名無しさん:2005/09/24(土) 01:54:59
ほのぼのしてていいですね。こういうの好きです。
本スレ投下問題ないと思いますよ。

146名無しさん:2005/09/24(土) 13:28:36
乙。
三村の能力の使い方面白いですね。
本スレ投下大丈夫だと思います。

147本スレ224@鈴虫:2005/09/25(日) 00:15:07
>>145-146
ありがとうございます。本スレ行ってきます。

148 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/02(日) 16:34:51
こんにちは、以前◆BKxUaVfiSA というコテハンでホリケンと大木の話を書いた
者です。事情があってトリップ変わっちゃいました。佐久間一行とあべこうじの
話書いてみたんですが、添削頼みます。

149 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/02(日) 16:37:23
困ったなあ、などと呑気に考えながら梯子をよじ登る男が一人。
服装は先ほどまで舞台に立っていたということで、随分奇抜な格好だった。
薄いTシャツに手拭いを首に巻いており、何重にも折り込まれて短くされた緑色のズボンからは健康的な脹ら脛が覗いている。少年のような形だ。
彼の困った、と言うのは、今複数の男に追いかけられている事ではなく、家で待っている200匹のペット兼家族への餌があげられないという事の方が強い。
きっとお腹空かしてるな、死んじゃったりしないかな、と心配事は尽きなかった。

登り切ってたどり着いたのは廃工場の塗炭屋根。所々雨の所為で鉄骨が錆び付き、穴が開いている。
腕を地面と水平に広げ、トントン、トン、と穴を飛び越しバランスを取りながら渡っていく。その後ろから若い男が二人、同じように走ってくる。
決して丈夫とは言えない薄い屋根に、三人もの大の男が乗っていると、さすがに思い切り暴れる、なんて事は出来ない。
屋根の左端と右端にそれぞれが立ったまま対峙する。
「つっかけだけで良く此処まで速く走れましたね、佐久間さん」
一人が、少し慎重に足を踏み出す。塗炭が嫌な音を立てて軋み揺れ、佐久間は「おっとっと…」とバランスを崩しそうになる身体を中腰になり必死に手をばたつかせて整える。
そして揺れが収まったところでゆっくりと身体を起こし、ほっと息を吐いた。
「…う〜ん、見逃せない?」
「無理です。逃がして怒られるのは俺たちなんですから」
ダメ元で尋ねてみると案の定否定された。
「見逃して欲しいなんて言ってきたの、佐久間さんが初めてですよ」
今まで戦ってきた者たちは、どうやら正義感、責任感に満ちあふれ、石の力を駆使して向かってきたらしい。
「黒に入ってくれるなら、何もしませんから、ね?僕らも簡単に人を傷つけたくないんですって」
男たちは、戦いを心からは望んではいないようだった。上の命令なのだろうか。お願いしますよ、彼らは懇願する。

150 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/02(日) 16:39:04
「そういえば、佐久間さんザリガニいっぱい飼ってるんですよね」
「それが何?」
「黒に来てくれないと、あなたのザリガニを…」
「何する気だよ…!」
嫌な予感がし、額に冷や汗が浮かぶ。
「全部食べます」
何だって?それはゆゆしき問題だ…!
佐久間は少し困ってしまった。
自分は喧嘩は好きではないし、戦って勝てる自信も無い。相手が二人もいるなら尚更だ。
何より愛するザリガニたちが食べられてしまう。
とりあえずここから劇場はそう遠くはないし、ポケットに携帯も入っている。助けを呼ぶことは不可能では無かった。
相手に気付かれないようそっと携帯を取り出し、手を後ろに回したまま勘でリダイヤルのボタンを押す。
画面が見えないから誰に掛けているのか分からないがとりあえず三回押した時の相手に掛けてみようと思っていた。
カチ、カチ、カチ。丁度三回押したところで手探りで真ん中の決定ボタンを押す。

「何をしてるんですかっ!」
その時、一人の男が小さな火の玉を指先から出現させ、佐久間に向かって飛ばした。
「あわわっ、喧嘩は止めようって〜痛いだけだから…」
ふわり、と佐久間の手の平が火の玉に向けて翳される。
「この想い、伝われぇ〜っ」
ギリギリまで近づいて来た火の玉は、ポン、と可愛らしい音をたて、一輪の真っ赤なバラに変化し佐久間の手に落ちた。
自分には似合わないな、と佐久間は照れ笑いを浮かべる。男たちは頭の上にクエスチョンマークを浮かべているような間抜けた顔をしている。
その時、
『もしもーし、もしもーし?さっくん、どーしたぁ?』
癖のあるテノールボイスが携帯を通して小さく聞こえた。
(や、ったー)
佐久間は小さくガッツポーズをした。親交もあり、何より石の能力者であるあべこうじこと阿部公二に電話が繋がったのはラッキーだった。
「よそ見するな!」

151 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/02(日) 16:40:15
一瞬携帯に目を捕られてしまった佐久間は(しまった)、と顔を上げる。
次の瞬間、目の前に男の拳が迫った。ああ、殴られるな。と他人事のように思った瞬間、頬に鈍い痛みが走り、視界が反転した。
あまりにも見事に顔面ヒットしたので、殴った男の方も、しまった、みたいな顔をして小さな声で「あっ…」と声を漏らした。
はね飛ばされた携帯はガチャン、と斜めの屋根を回りながら滑り落ちていく。
手を伸ばしたが後一歩遅く、携帯は重力に引っ張られ屋根から落下していった。
そして、地面に衝突し、跡形もなく消える―――筈だった。
高い屋根から落ちてきた佐久間の携帯を、下に立っていた誰かが片手で、上手いこと壊さないようパシッ、と軽い音を立ててキャッチする。
もう一方の手には、先程まで使っていたのだろうか、開いたままの彼の携帯が。
佐久間が殴られた顔を押さえながら、上半身を起こして下を覗き込んだ。


「落とし物」
彼――あべこうじは、屋根を見上げ、にっこり笑って携帯を振ってみせた。

152 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/02(日) 16:44:57
佐久間一行
エンジェライト(天使を意味する石。マイナス思考の払拭)
能力…平和の念を掌に込め、危険な物を安全な物へと変える。
   例)爆弾→クラッカー  ピストル→水鉄砲 
条件…「つたわれ」で発動。
   危険かどうか、自らの判断が必要

153 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/02(日) 16:48:11
まだ続きは考えてないですが、評判良ければ書きますんで。

154名無しさん:2005/10/02(日) 17:54:57
おっつっつー。
人間が描かれてていい感じですね。
でもエンジェライトはホリケンの石じゃなかったっけ?

155名無しさん:2005/10/02(日) 23:41:19
ホリケンはセラフィナイトで、これとエンジェライトは別物らしいので大丈夫。
さっくんのほのぼの感が良いですね。

156名無しさん:2005/10/04(火) 00:38:46
乙です!
さっくんは石の力まで平和的ですね。彼にとてもあっていると思います。
あべこうじナイスなタイミングで登場ですね!
続きお願いします!

157名無しさん:2005/10/04(火) 00:41:36
129さん
乙です!一気に読んでしまいました・・・
誰か又吉を助けてやれないものでしょうか・・・
続き、楽しみにしてます。

158 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/24(月) 21:02:55
>>151から

「あべさん…!」
「挨拶もなしに急に居なくなるもんだからさぁ、あははっいやー探しに来てよかったよーホントねぇ」
ひらひらと手を振る阿部は格好付けたように眉を顰め、何とも綺麗な早口でまくし立てる。
「ほら、逃げっから降りといで」
佐久間はその言葉にたちまち笑顔になった。はいっ!と元気よく返事をし、屋根からダイブする。固い地面に頭から落ちていくような体勢に、二人組はわっ、と短い悲鳴を上げて届かない制止の手を伸ばす。
地面に激突する寸前、佐久間は手を前に突き出す。柔らかな光に照らされ、ふかふかのクッション状になった土は落ちてくる身体の衝撃を優しく吸収する。
屋根の上から二人が見下ろしているのが見えた。え〜、とかすっげえ〜、とか若者らしい率直で素直な感想を述べている。
「うわ、さっくんすげー鼻血…!」
え?と手の甲で鼻の周りを触ってみると生暖かい真っ赤な液体がまとわりついた。阿部が言うには、顔半分がその血で染まってまるでスプラッター映画のようらしい。
近くで風船を割られたような、そんな衝撃が強く、痛みというものはあまり感じなかった。だから大したことはないと思っていたが、阿部の引きぎみな表情を伺う限り今の自分は、よっぽど見るに堪えない酷い顔なんだろうなぁ。と佐久間は思った。
「大丈夫ですよー。ね?ほら、骨は折れてないみたいですし」
「ほ、骨…」
目眩を起こしそうになっている阿部を尻目に、ポケットからウェットティッシュを取り出して顔をごしごしと擦る。
血を拭き取りすっきりした顔を見せてやると、阿部もほっとした表情を浮かべた。

159 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/24(月) 21:03:33
そして気を取り直すようにパンッ、と一度手を叩く。
「よし、じゃ逃げるか。ダッシュね、ダッシュ!かけっこには自信あるよ、俺」
格好付けたように変なところで語尾を上げるのは彼のちょっとした癖だ。そういうときは大抵彼の心は自信に満ちている事が多い。佐久間は妙な安心感を覚え小さく笑い「そっすね」と返事をすると、つっかけを履き直し阿部の後ろを付いて走っていった。
ぺたん、ぺたんというつっかけ独特の平たい靴音を鳴らしながら、後ろを振り向いた。
思った通り背後からは屋根から下りた男たちが追いかけてくる。
一応昔テニスはやっていたし、体力にも足の速さにも自信はある。運動馬鹿な訳ではないが、久しぶりの本気の走りに、自然と佐久間は口元を緩ませた。
「ついてこれるもんならぁ、ついてこぉーい!」
走りながらくるりと一回転。
「何テンション上がってんの、ほらこっち!」
息を切らした阿部が佐久間の襟首をやや手荒に掴み、狭い路地裏に逃げ込む。ゴミバケツや空き瓶が散乱している所為でスピードが出せないのを佐久間は不満に思った。何しろ汚い所は大嫌いだった。全力で走るには先程の綺麗な広い道路の方が良かったのだが、何にせよその道路は長く続く一本道だ。万が一こちらが先に疲れるような事があれば捕まってしまう。

160 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/24(月) 21:03:55
そう思えばこういう入り組んだ細い路地は相手を捲くにも有効なのだ。
思った通り向こうも追いかけてくるのに苦戦しているようだ。更に引き離すように足でバケツを倒し、積み重なった木箱…その一番下の段を思いっきりダルマ落としの要領で蹴り飛ばす。バランスを失った木箱の山はガラガラと崩れ落ちた。中身が入ったままだったビール瓶が幾つもその中から転がり出て、雨あられと降り注ぎ敵の進行を防ぐ。
「危ない危ない危ない〜っ」
勢い余って自分たちの方にまで振ってくるガラスの欠片に、手を引かればたばたと前に突き進む。
ガシャン、バリン、と近くに雷が落ちたときにも似た感覚が鼓膜を襲う。佐久間と阿部が通った跡は汚い埃がそこら中に充満した。
煙の向こうから追ってくる声は、もう聞こえない。
「………、やりいっ!」
後ろを振り返りながら尚も走り続け、二人でハイタッチを決めた。

161 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/24(月) 21:05:25
本スレ過疎気味なんで投下しても大丈夫ですか?

162名無しさん:2005/10/24(月) 22:54:40
文章的にも全然大丈夫だと思いますよと一書き手の意見。
過疎なのは投稿が少ないからか…お笑いブームの衰退か…

163名無しさん:2005/10/26(水) 16:05:22
芸人をキープしたまま話の途中で戻ってこない書き手がたくさんいるのも原因だとオモ

164名無しさん:2005/10/28(金) 14:38:05
>163
こういうことにならないように一芸人=一書き手ルールがないとはいえ、
話の根幹に関わる事件がストップしてたりするからなあ
せめて続きが書けなくなったら放棄宣言がほしいわな

165クルス ◆pSAKH3pHwc:2005/10/28(金) 17:27:32
>>129
本スレでハロバイ編書いてた者です。
ピース編、読みました。凄く良いと思います。
ハロバイ編終わりましたし、本スレ投下しても良いんじゃないかと。

166名無しさん:2005/10/29(土) 17:51:18
乙です!
あべさく、というかさっくんがいるとほのぼのでいいですねv
ただ血は怖いな・・・顔見れないとはいえよく平気ですね。そして冷静(笑)

167129:2005/11/02(水) 23:56:14
遅レスすいません。

>>157
ありがとうございます。うれしいです。
また思いついたら書きたいと思います。

>>クルスさん
本スレ投下しても大丈夫でしょうか・・・。
クルスさんの話に支障が出てしまったのではないかと心配しています。

168クルス ◆pSAKH3pHwc:2005/11/03(木) 17:09:30
>>129
大丈夫ですよ。
私は元々3話で終わらせる予定でしたし、問題は無いです。

169129:2005/11/04(金) 09:48:03
では本スレに投下したいと思います。
本当にありがとうございます。

170 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:47:44
どうも、以前さまぁ〜ずの番外編書いた者です。
気になることもあったので進行会議スレなどで質問してたんですが、
話がもうできてしまったのでとりあえず投下します。
ご意見等よろしくお願いいたします。

本編扱いで次長課長中心です。やたら長いですが、完結してます。

171[タイトル未定−1] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:49:24
…ことの始まりは「石」だ。

井上にとってそれは、朝、玄関で履いた新しい靴の中に転がっていたせいで自分の足の裏に軽く刺さった、
金色の小さなものだった。
井上はその小さな塊を手にとって眺める。
ちょっとぼこぼこしていて、混じりけのない金色がとても綺麗だし、これがこのおろしたての靴の中から
出てきたことも不思議だ。買ったばかりの靴の先にこんなものが入っているなんてこと、あるんだろうか。
ちょっと面白いから河本に見せてやろう、と考えてジーンズのポケットにつっこんで家を出る。

河本にとってそれは、朝、仕度を終えて袖を通したマエ濯屋返りのジャンパーのポケットの中で指先に触れた、
淡い色の小さなものだった。
河本はその小さな石を手にとって眺める。
つるつるしていて、薄い橙色と白がつくる縞模様がとても綺麗だし、これがこのジャンパーのポケットから
出てきたことも不思議だ。洗濯屋でこんなものがまぎれこむなんてこと、あるんだろうか。
ちょっと面白いから井上に見せてやろう、と考えてもういちどジャンパーのポケットに戻して家を出る。

そして2人は楽屋で顔を合わせて、お互いが手にした不思議な石のことを知ることになる。
同じ朝に自分たちのところにやってきたその小さなものが、どんな運命をもたらすかはまだ、知らぬままに。

172[タイトル未定−1] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:50:20
自分が石を手にした瞬間は特に何も思わなかったのだが、楽屋で井上が金色の塊を見せてきたとき、
そしてその石が自分のものと同じように、奇妙な経緯で井上のもとにやってきたと知ったとき、
河本はふとあることに思い当たった。最近芸人の間で石を持つことが流行っている、というのを
どこかで耳にした覚えがある。その石には何か力があるとか、それで何か一部でもめてるとか、そんな話も。
超常現象の類はあまり信じない質だったので、その話を聞いたときは石の力なんて随分うさんくさい、
と思った程度で特別気にしていなかったのだが、あれはひょっとして、この石と関係があるんだろうか。


「聡、変な石の話って知っとる?芸人の間で流行っとるとかいう…」
「あ、何か変な力がどうとかの…」
「そうや」
「詳しいことはよう知らんけど、聞いたことある」
「なあ、この石ってひょっとしてそれと関係あるんちゃう?」
「これが?」
「おかしいやろ、いきなりこんな偶然、俺らんとこ来るなんて」
「んー…そやね」


井上は何か考え込むように、指先で小さな金色の塊をもてあそんでいる。
河本から見てその欠片の色は、メッキされた金属の放つ金色や、何かが着色されて光る金色ではなく、
金という鉱物がもつ本来の色であるように感じられた。

173[タイトル未定−1] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:51:35
もしこの推測が当たっているなら、あの小さな塊は、それなりに高価なもののはずだ。
あまり物欲がなく、金銭への執着も薄い井上のもとにそれがやってきたのはやはり運命と言うべきか。
もし自分だったらどこぞに売りにいったかもしれないが、井上はそれを綺麗な玩具程度にしか思っていない。
だからこそ、売ったりして手放そうなどとはきっと思わないだろう。

楽屋のテーブルの上、金色の塊をちょん、とおはじきのようにつつきながら井上が口を開いた。


「…これも、何か力あるんかな」
「どうやろ、俺のも何かあったりしてな」


河本は言いながら、テーブルに転がした自分の石をじっと見つめる。
綺麗な縞模様は何も伝えることなく静止したままで、答えなど出そうになかった。
見ているだけではどうにもならないので、とりあえずしまっておこうと手を伸ばす。
石を軽く手の中に握り込んだとたん、河本の拳の隙間から淡い光が漏れだした。

174[タイトル未定−1] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:52:22
「な、何?」


驚いて手を開き、乱暴にテーブルの上に石を放り出す。それは橙色の光を放ちながらころころと転がった。
転がった先にあった井上の金色の塊は、河本の石にぶつかったと同時に、内側からふわりと光を放つ。


「うわ、光った!」


2人はしばし呆然と石の放つ光に見とれたが、輝いていた石はほんの30秒もするとその光を失い、
もとの姿に戻ったのだった。お互い無言のまま、石と相方の顔を交互に見やること数回、そして同時に言う。


「「…これ、何かヤバいで!」」


もはやここにある2つの石が、何か特別なものであることは疑いの余地がない。
だがしかし、これがどう特別なものなのかわからない2人はそのまま出番までの時間を悶々と過ごし、
本番中もそれを肌身離さず持ったまま、収録を終えて楽屋へと戻ったのだった。

175[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:53:20
…収録後の楽屋を、訪れる影2つ。


「よお」
「ちょっと邪魔するよ」


軽い挨拶とともに楽屋に入ってきたのは、2人が先ほどまで出演していた番組のMCであるくりぃむしちゅーの
有田と上田だった。最近共演する機会が増えてはきたものの、彼らがコンビで自分たちの楽屋を訪れるのは珍しい。


「どうもおつかれさんです」
「おつかれさんですー」


ふたりは少しばかりいぶかしく思いつつも、多くの番組を持つこの先輩コンビに礼儀正しく頭を下げた。
有田と上田はそれに「おう」などと簡単に応じる。その後、すばやく話を切り出したのは有田だった。


「あのさ、単刀直入に聞くんだけど」
「はい?」
「ひょっとして、石持ってねえか?」

176[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:54:19
見事と言うべき素早い切り込みに、返事をした河本は一瞬あっけにとられた。あまりといえばあまりに直接的な
質問だったので、返答に困ったのだ。石に何か特殊な力があるなら、簡単に持っていると答えてしまうのも
まずいんじゃなかろうか、と思った河本が迷っている間に、井上が代わりに答えてしまった。


「持ってますー」


のんびりした口調だが、これは重大な告白だ。河本は『ちょっと待たんかい!』と思いつつ相方を見やるが、
井上は何ら悪びれたところなく、いつも通りのきょとんとした表情で椅子に腰かけている。
返答を聞いた有田の方も、そう簡単に肯定の言葉がかえってくるとは思っていなかったらしく、ちょっと驚いた顔だ。
上田に至っては頭を抱えている。おそらく有田のバカ正直な質問で慌てたところに、さらにバカ正直な井上の返事が来て
打ちのめされたのだろう。河本はエ?、、に上田に共感した。


「上田、ほらやっぱ持ってるってよ!さっき共鳴したもんなー」
「…おう」
「何?何暗くなってんだよ?」


無自覚な有田とそれに疲れる上田に苦笑しつつ、河本は有田の言葉尻をとらえる。
『共鳴』とはいったい何のことだ?自分たちが石を持っていることが有田たちには伝わっていた理由は?

177[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:55:35
「あの、有田さん、『共鳴』って?何で俺らが石持っとるってわからはったんですか?」
「それはあれだ、俺らも石持ってるから。光ったんだよ」
「?は?」
「ああもう、有田代われ!…悪いな、ちゃんと説明するから」
「はあ…」


ため息まじりに有田を制した上田は、自分の石をとりだし、有田にも2人に石を見せるよう促して、
まず自分たちの石について簡単に語り始めた。河本の基本的な質問から、2人が石を手に入れたばかりで
何も詳しいことを知らないと察したらしい彼に、河本と井上は自分たちのもとに石がやってきた経緯を話す。
上田はそれにじっと耳を傾けてから、はじめは石の共鳴と力について話し、それから白のユニット、
黒のユニットについての説明をして、最後に自分たちが白のユニットに属していることを告白した。


「もしお前らの石の力が使えるものだったら、黒の奴らは自分たちの側にお前らをとりこもうとするだろうし、
 それができなきゃ倒して石を奪おうとするだろう。俺らはお前らに『今すぐ白に入れ』とか強制する気はないけど、
 できればお前らと戦うようなことは避けたいと思ってる。だからこうして話をしにきたんだ」

178[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:56:29
その言葉に河本は大きく頷いた。上田の話を聞いたところで、今すぐ白につこうとまでは思わないし、
逆に黒につこうとも思わない。わけもわからず戦闘に巻き込まれるのはまっぴらごめんだし、この2人の敵になる気も
さらさらない自分にとって、上田の言葉は至極受け入れやすいものだ。隣で井上も小さく縦に首を振っている。
そんな2人の様子を見て上田の話が終わったと判断したのか、今まで黙って話を聞いていた有田が、『待ってました!』
…とばかりに口を開いた。


「なあなあ、そんじゃさ、まだ2人は自分の石の力がどんなんだかわかってねえの?」
「はい、さっぱりですわ」
「なー、何なんやろな?」


河本は肩をすくめ、井上は河本と顔を見あわせて首を傾げる。石を巡る芸人たちの状況は理解したが、
自分たちの力がわからないことには何をどうすればいいのかさっぱりだ。そんな2人に有田は言う。


「まあでも、黒の奴ら来たら嫌でもわかるよ…ってお前らの力が戦闘に使えなかったらマズいな」
「もしどっちもそうだったら、攻撃系の奴に襲われたらひとたまりもないぞ」
「そっか、そーだよなあ…何か能力わかる方法とかねーのかよー上田」
「んなもん俺が知るか!…うーん、今までの奴らって大体みんなその場で石が発動してたしなあ」

179[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:58:06
有田と上田の2人は後輩の身の上を案じ、戦闘に巻き込まれる前に石の力を特定する方法はないかと考えを巡らせる。
そのとき、有田が突然「あっ!」と小さく叫んだ。


「お前の能力でこいつらの石の記憶読めばいいじゃねーか!」
「おいおい、俺の石じゃ記憶は読めても能力は…いや、前に持ってた奴が使った記憶があるかもしれねーか」
「そうだよ、石が覚えてるかもしれねーだろ」
「けど俺いくらなんでも見ただけで石の名前なんてわかんねーぞ?しかも蘊蓄まで言わないとなんねーし…」


ぶつぶつ言いながら上田は河本と井上にむきなおる。


「ちょっと見せてもらってもいいか?」
「あ、はい」
「どーぞ」

180[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:58:57
差し出しされた2つの石をしげしげと見つつ、上田は「あれ?」と小さく声を上げた。


「この井上のって、ひょっとして金じゃねーか?」
「あ、上田さんもそう思わはります?」
「…え、俺のって金なん?石やないんや」
「ああ、多分。まあこれも鉱物っちゃあ鉱物だしな…よし、こっちだけなら何とかなる」


そう言って上田は井上の金の粒に触れ、蘊蓄を脳裏から引っぱりだす。


「えー、金といえばみなさん、指輪やネックレスなどの装飾品としてお馴染みの貴金属ですが、
これはおそらく人類が装飾に使った初めての金属だろうと言われています。古代エジプトの
ヒエログリフでも金についての記述があるくらいでして…」

181[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:59:26
よどみなくつらつらと言葉を並べながら、小さな欠片に残った記憶を読みとっていく作業に入った。
その欠片の記憶は今朝の井上家の玄関、おろしたての靴の中から転がり出て井上とご対面したところまで戻ると、
それ以前は急に真っ暗になる。ただ、真っ暗な中で一瞬、誰かの右手が石にむかって伸ばされ迫る場面が、
映画のワンシーンのように閃いた。男の左手には何か、茶色い大きなものが握られている。
そしてその男の顔がノイズのようにさし込み、消えた。

…その顔は自分の記憶の中にある顔のひとつに重なる。とたん、男が左手に握っていたものの見当がつき、
上田はふっと笑った。石から手を離し、能力の代償である激痛が背中を走り抜けていくのに耐えてから、言う。


「ほとんど真っ暗だったけど、一瞬だけこの石に手を伸ばした奴の顔が…多分アイツ、何か知ってる」
「…アイツ?それ誰だよ上田」
「…ギター持ってた。波田陽区だ」

182[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:01:07
すいません、>>176
>打ちのめされたのだろう。河本はエ?、、に上田に共感した。

>打ちのめされたのだろう。河本はおおいに上田に共感した。
です。文字化けしました。

183[タイトル未定−3] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:01:52
…さて時は数日前にさかのぼる。


その夜ギターケースを小脇に抱えた小柄な男は自宅前で、もはや幾度めかわからない黒の襲撃を受けた。
もっともその日の刺客の連中は、かなり強力な石を持っていたにもかかわらず、本人たちの実力が
石に見合っていなかったため、途中で石の力が本人たちにはねかえって自爆したので戦闘は早々に終了している。
さらに襲撃の場所が場所だったこともあって、波田は最後の力を振りしぼり、どうにか我が家の扉のむこうに
滑り込んでから力つきて気絶したのだった。

…そしてまさに今、玄関で自分の靴にまみれて目覚めたところだ。

玄関で倒れたせいであちこち打った体が痛かったが、まずはとにかく先ほど刺客から回収して握りしめたままだった石を
しまっておかないと、と手を開く。その手のひらには小さな石が1つのっていた。

…1つ?

おかしい。自分はさっき、3人に襲われたのだ。そしてそいつらは1つずつ石を持っていた。
ならば回収した石の数は3つであるべきなのに、1つしかない。まさかうっかり回収し忘れたのだろうか?
いや、そんなはずはない、確かに自分は連中から石を回収したはず…と、そこまで記憶をさかのぼったところで、
波田は自分の記憶の異常に気づいた。

184[タイトル未定−3] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:02:21
そうだ、自分はこの手の中にある石をまず拾って、それから次の石に手をのばしたはずだ。
そのあと…そのあと、どうなったのだろう?おかしなことにその先の記憶がすっぽり抜け落ちている。
どうやって自分はこの玄関までたどり着いたのか、それもなんだか曖昧だ。

手の中に残ったのは、変わった光を放つ透明な石のみ。ひょっとしてこれが何か力を発したのだろうか?
かるく握ってみると、何となく自分と波長が合うのを感じる。これを拾ったとき、まだ自分の石、ヘミモルファイトの力が
切れていない状態だったから、波長の似ていたこの石の力を自分が引きだしてしまったのかもしれない。
光にすかしてみると、透明な石の中でちらちらと虹色の光が踊る。戦闘の際に刺客がこの石を使っていた様を
思い出してみようとするのだが、この記憶にもまた靄がかかっている。

波田はあきらめのため息をつき、あまり成果を見ることのなさそうな思索に終止符を打った。
この石を持ち歩くのは気が進まない。かといって自宅においておくには敵の多い身だし、まさか捨てるわけにもいかない。
気休めにしかならないが、今まで回収してきた他の石とは分けて布に包み、持ち歩くことに決めた。

185[タイトル未定−4] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:03:15
井上と河本は珍しく、2人並んで帰途についていた。


それなりに仲はよくとも、普段はプライベートを異にしている2人がこうして一緒に帰ることにしたのは、やはり今日楽屋で
聞かされた話が気にかかったからだ。結局2人の石の力は不明なままだったが、だからこそなおさら襲撃を受けたときの
不安が大きい。上田と有田が波田陽区に連絡をとってみると言っていたので、近日中に少しは事態が進展するだろうが、
今現在心細いのに変わりはない。2人いれば運良くどちらかが戦える能力を持っているかもしれないし、少しは
マシだろうということで今に至る。

夕暮れの陽がさし込む局の廊下をとぼとぼと歩きながら、河本がぽつりとこぼした。


「…どーなるんやろな、これから」


井上はそれに答える言葉を持たなかったので、2人は無言のまましばらく廊下を進み、エレベーターに乗り込んだ。
他に誰も乗っていない小さな動く密室の中、井上はやっと口を開く。

186[タイトル未定−4] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:03:42
「なあ」
「ん?」
「この先な、どーなるかわからんけど」
「…おう」
「何かな、俺ら頑張ったらええと思う」
「…」
「それでええと思う」


河本は少し黙って、それから、


「…そうやな」


と小さく笑って呟いた。

187[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:04:22
ここは都内のとある居酒屋の個室、顔をつきあわせているのは2コンビ1ピン、計5人の芸人だ。

くりぃむしちゅーと次長課長とギター侍。つまりは有田、上田、井上、河本、そして波田。
有田と上田が波田に渡りをつけて実現した顔あわせである。



運良く井上と河本が黒のユニットに襲われることはいまだなく、石の能力も不明のまま2日がすぎていた。
波田の手元に残った例の石もその後特に発動することはなく、抜け落ちた記憶も戻っていない。
井上たちにはこの会合に顔を出す以外、選択の余地がなかったし、波田も上田たちの話を聞いて自分の拾った石と
何か関係がありそうだと思い、気になってここに足を運んだのだった。3人それぞれがぼんやりとした不安を抱えたまま、
有田の言葉で会合が始まる。


「んじゃ始めよーぜ…まず波田、聞きてーことがあんだけど」
「はい」
「井上が持ってる石の記憶を上田が力使って探ったら、お前がそん中に出てきたんだと」
「ええ、聞きました」
「お前はとりあえずアレだ、井上の石について何か知ってんの?」

188[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:05:00
あいかわらず単刀直入な有田の質問に、横の上田は苦笑している。
波田は自分のほうをうかがっている河本と井上の様子をそっと確かめながら、さりげなく井上の石の確認を要求した。


「あの、井上さんの石ってのは…」
「井上、見せてみ」
「あ、はい」


井上は手の上に金の粒をのせる。それをのぞき込み、もとより心当たりがなくもなかった波田は、その石に自分の姿が
記憶されていたわけをはっきりと理解した。


「…これ、俺が何日か前に拾おうとしたやつですね」


そう、井上の石は波田があの夜、2番目に拾おうとしたものだったのだ。
だが、その石がなぜ井上のもとに行ったのかまではわからない。

189[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:05:41
波田は諸々の状況から、この場での自分の立ち位置に関して判断を下すことにする。
白にも黒にもくみせずひとり動いてきた彼は自然に、過ぎるほどの用心深さを身に付けていた。
今日も収録もないというのに、不測の事態に備えて自らの武器となるギターを抱えてこの場に表れたほどだ。

 上田さんや有田さんは白ユニットに属している。彼らは井上さんの石のことで自分に声をかけるとき、
 自分たちの能力を隠そうとしなかった。こちらが黒ではないかと疑う様子のなかったところから考えて、
 おそらく自分が石を回収し、ふさわしい人間に配って回っていることは誰かから聞き知っているはずだ。
 話の出所はきっと川島さんあたりだろう。かといって白に勧誘しようという気もなさそうだし、河本さんと
 井上さんが自分の石の能力も知らないような状態である以上…

“この場で詳しいことを話したとして、自分が不利になったり、危害が加えられたりする可能性は低い”という結論を
出した波田は、あの夜に拾った透明な石をとりだして見せ、自分が黒いユニットに襲われたときの一部始終を
話して聞かせる。その話を聞いて少し考え込む様子を見せていた上田は、波田の持ってきた石を手にとって言った。

190[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:06:36
「話を聞く限りじゃやっぱり、この石が何か力を発揮したとしか思えないな。もしかして波田、お前が拾えなかった
 もう1個の石って河本のじゃないか?」


その言葉で河本がポケットからとりだした石に、波田は確かに見覚えがあった。上田の言う通り、これは波田を襲った
3人組の1人が持っていたものだ。


「間違いないですね、これは俺を襲ったもうひとりが持ってた石だ」
「…となると、お前が拾った石ってのは他の石を飛ばす力があるんかな?」
「他の芸人のところに、ですか?」
「多分、わざわざ井上と河本のとこに来たのはこいつらと波長が合ってるんだろ」
「言われてみればそうですね。俺、自分の石のせいか何となくその人にふさわしい石ってわかるんです。この2つの石は
 お2人とぴったり波長が合ってる…」


波田はそこまで言ってふと思った。この石は自分の望みを叶えたとも言えるかもしれない、と。
自分の望みは悪意を持って石を使う人間からそれをとりあげ、ふさわしい人間に渡すことだ。
井上と河本が持っている石は、もしあのとき自分が普通に拾っていたとしても、いつかどこかでこの2人に渡すことに
なっていただろう。それは自分の胸元のヘミモルファイトの意志でもある。

191[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:07:17
「けどさ波田、お前、戦闘のときの記憶もまるまる抜けてんのか?だったらこいつらの石がどんな力持ってるかは
 結局わかんねーままだな」


有田はちょっと残念そうにそう言ったが、波田はそれを否定した。


「いえ、記憶全部抜けてるわけじゃないんですよ。覚えてる部分もあります。少なくともこっち、井上さんの石は
 攻撃用じゃないです。戦闘中に後ろに下がってたから…ただ、そいつ確かこの石を発動しようとして失敗してたはず
 なんです。何だっけな、何かおかしなこと言ってたんだけど…」
「おかしなこと?」
「ええ、発動が失敗したときに…えーと、『凍る』とか何とか…」
「『凍る』…?何だそりゃ、何か冷やす系の能力なんかな?」
「さあ、そこまでは…。河本さんの石の方はちょっとよく覚えてないんです、すみません」

192[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:07:48
記憶が混乱している波田の話は要領を得なかったが、覚えていないものは仕方ない。
有田と波田のやりとりを聞いていた上田が、少し真剣な顔をして言った。


「波田、お前を襲った奴らが力足らずでこの石の発動に失敗して自爆したっていうなら、これは多分それなりの力が
 ある石だ。だとしたら黒の奴らはきっと回収のためにまた襲ってくると思うぜ。まさか石がこいつらのとこに来てることまでは
 わからないだろうから、お前がまた襲われる可能性は高いと思う。気をつけろよ」


上田の、自分の身を案じる言葉をありがたく思い、波田はうなずく。
こうしてそれほどの進展も見せることなく会合は終わり、5人は酒と肴に手をつけたのだった。

193[タイトル未定−6] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:08:38
珍しい酒席をそれなりに楽しんで、5人は店を後にし、ほろ酔い加減でタクシーを拾おうと歩き出した。

有田はすっかりご機嫌で、首を軽く右腕でキメたような状態で上田を引きずり、長州の『パワーホール』を
大音量の鼻歌で歌いながら前を歩く。上田は今にも倒れそうになりながらよたよたと相方に連れて行かれた。


「…離せ!首キマッてる!相方不慮の事故で殺す気か!」
「ふんふんふふ〜ん♪ ふふふふふふふふ♪ ふんふんふふ〜ん…」


…先の角を曲がったらしく姿は見えないが、ここまで響いてくるほど2人の声は大きい。

残りの3人はなんとなく固まって歩いていたが、スニーカーの紐が解けた井上は、皆から少し遅れる。
今日の集まりに使った居酒屋は奥まったところにあるので、街道に出るまでが暗いせいか、前を行く相方と波田の背が
わずかに闇に溶けてぼやけていた。吹きすぎた冷たい風に、冬が近いなと思いながら上着の襟をかきあわせる。

そういえば自分の石を使っていた奴が、『凍る』とか言ってた、と波田は話していた。
こんな季節にそない寒々しい力ってのも何やなあ、と小さくごちて、ポケットの中の金の粒に触れてみる。
その瞬間、何となく指先から石の波動のようなものが伝わってきた気がして、慌てて井上はそれをとりだした。

194[タイトル未定−6] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:09:21
…光っている。

これは例の『共鳴』という奴だろうか、それにしてはこないだと違う、何か嫌な感じがする。


「…準一!」


とっさに井上は前にいる自分の相方の名前を呼んだ。そのただならぬ声の調子にふり返った河本が今度は叫ぶ。
井上の後ろに凄まじいスピードで何かの影が迫って来ていたのだ。


「聡、伏せろ!」

195[タイトル未定−6] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:09:49
それに反応して井上はバッと身を伏せた。凄まじいスピードでその上を人影が飛び越える。
人影はしなやかな低い姿勢でアスファルトの上にズザッ、と急ブレーキをかけて着地し、地面を見つめたまま言った。


「…ちぇっ、ラチるの失敗しちゃったよ二郎ちゃ〜ん」


ちょっと拗ねたようにこぼした言葉は、その声の調子と裏腹にまるで穏やかでない。
しかしその声と彼が呼びかけた名前に井上は耳を疑い、河本も目を見開いて硬直した。


「駄目だろ松田、もっと静かに近づけよ」


呼びかけに答えてのっそりと表れたのは、金髪の横に大きな男。
暗闇にまぎれて近づいたのは、東京ダイナマイトの松田と高野だった。

196[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:10:43
松田は黒く闇に溶ける道の上、片膝をついて腰を沈めた体勢のまま、くしゃりと笑って言う。


「井上くん久しぶり。元気にしてた?」
「…」


その口調は親しげなものだったが、井上はとても松田のその問いに軽く答える気にはなれない。
目の前の人物は自分を背後から襲い、拉致しようとしていたのだ。いくらそれがよく知る相手であったとしても、
恐怖と不信感は消えなかった。

一人離れたこの状況はまずい。そう判断した井上は、松田の様子をうかがいつつ河本の傍まで走った。
河本の横につくと、その後ろでは波田がいつの間にかギターをとりだして襲撃者の方を睨んでいる。
その様子を松田はつまらなそうな顔で一瞥し、ぐい、と体に力を入れて立ち上がり、服の埃を払った。


「おい、二郎…!こりゃ一体何のマネや!」


井上が自分の方に走ってくるのを見てハッと我にかえった河本は、前々からの友人である高野にむかって
悲痛な叫びをあげる。しかし高野は闇の中、いつもの笑みを崩さない。人好きのするそれが今に限っては
ひどく酷薄なものに感じられた。

197[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:11:32
「…井上くんの持ってる石に用がある。この間そっちのギターの彼を襲いに行った下っ端に誰かが
 持たせちまったらしくてさ。使えねえ奴がいい石持ってもしょうがねえってのに…。
 そいつらが失敗したとき回収されたもんだとばっか思ってたけど、今見たら井上くんが持ってんのな。
 もしお前がレインボークォーツとかサードオニキス持ってんならそれも渡してもらうわ」


高野が普段通りの口調でそう言うのを聞いて、河本は理解したくないことをやっと理解した。
この2人は黒のユニットに属していて、自分たちの持つ石を回収しにきたのだ。
高野が『サードオニキス』と口にしたとき、自分の持つ石の名前がそれであることを河本はなぜか悟ってしまった。
レインボークォーツというのはおそらく、波田の拾った石の名前だろう。

198[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:12:02
高野たちと戦闘など、間違ってもしたくはない。だが、先ほどの松田の行為はあまりにも乱暴すぎる。
たとえ友人とはいえ、自分の相方を襲おうとした2人を許すわけにはいかない。素直に石を渡すなどもってのほかだ。
河本はスッと自分のサードオニキスを掲げてみせ、言った。


「これは渡されへんで。聡ラチろうとするような奴に簡単に渡してたまるかい!」
「まあそう言わないでさ…ほら、何なら黒に来たらいいじゃん、河本も」
「…こんな物騒な奴の仲間になる気なんざあらへんわ」
「そう、じゃあしょーがねえな」


ニコニコと笑ったまま、高野はオレンジ色をした自分の石を指先でもてあそんでいる。
そんな様子に焦れたのか、先ほどからずっと黙って立ったままでいた松田が口を開いた。


「二郎ちゃん、やっちゃっていい?」
「…まず井上くんのを盗ってこい、使われるとメンドクセーから」
「…あーい」

199[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:13:20
問われた高野は動じることなく答え、松田はまたも恐るべき速さで井上に飛びかかる。
井上は避けようとしたが松田のスピードの前にそれはかなわず、すぐさまマウントをとられて体の自由を奪われてしまった。
だが井上が手の中に握り込んでいた石を奪いとるのに手間どったせいでわずかに遅くなった松田の動きが
どうにか河本の目にうつった瞬間、河本は松田を指さし、頭の中に浮かんだ言葉を思いっきり叫んだ。


「そうは酢ブタの天津どーーーーん!」


とたんに松田の体はピタリと動かなくなり、井上の手から石を奪いとったまま、固まってしまった。
その上に空から酢ブタと天津丼が思いっきり降ってきて、松田の頭にドンブリと皿が直撃し、ガツーンといい音をたてる。
幸い割れなかったドンブリと皿から溢れ出した中身がびしゃびしゃとかかって、松田はあまりの熱さにパニックを起こした。


「痛っつーーーーだあぁうあっっちいぃいいい!!!!!!」
松田に馬乗りされた状態の井上まで酢ブタと天津丼のとばっちりを受け、松田の体を突き飛ばす。
「あっつーーーー!!!何すんの準一ぃい!!!」
「あ…すまん聡…」

200[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:14:10
天津丼のアンまみれで地面をごろごろ転がる男前の相方に小さく謝って河本は駆け寄る。
その様子にあっけにとられた高野を後目に、今度は波田が動いた。いつものギターの音が鳴り出す。


「拙者、ギター侍じゃ…」
「松田、ソイツのギターを奪え!」


そのフレーズに高野はハッとした叫び、まだヘルニアの後遺症がある体をひきずって井上たちに近づいた。
高野の声にどうにか立ち上がった松田が飛びかかろうとするそのとき、波田は次の台詞を叫ぶ。


「…残念!! 松田大輔ッ… 「真剣白刃どりーーーーっ!!!」 …ぃり…っ!」


ギターが日本刀に姿を変え、松田に向かってふり下ろされようとしたが、松田の両手がギリギリで刀を
白刃どりしたことに気を取られ、波田が台詞を言い切れなかっため、松田の動きを封じるには至らない。
そのまま石の力同士がぶつかりあった波田と松田は互いにはねとばされ、地面に叩き付けられた。
完全に力を発動できなかった分波田の方が分が悪かったか、松田は何とか受け身をとったが波田は
そのまま気絶したらしく、動かない。

201[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:14:59
その激しいぶつかり合いのさなか、地面に転がったまま戦いに気をとられていた井上と、その横にしゃがんでいた
河本のすぐ近くまで高野が迫っていた。


「…つかまえた」


静かに高野の声が河本の耳元に響く。肉厚の手のひらが河本の肩をがっちりと掴んでいた。


「河本、お前のサードオニキスちょうだい。あとレインボークォーツを多分波田が持ってるから、奪って俺に返して」


その言葉とともに高野の石が光を発する。河本はビクリ、と反応して握っていた石を高野に差し出し、立ち上がった。
その様子に慌てて井上も立ち上がり声をかけるが、河本は振り返りもせずにまっすぐ波田のもとへと走っていく。


「無駄だよ、今の河本には聞こえない」


高野は笑みを含んだ声で井上に言った。井上はバッと高野の方を向いてその笑い顔を睨む。

202[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:15:38
「俺の言うこと聞くってさ、河本は…しっかしアイツの石にはびっくりしたよ、サードオニキスは持ち主の個性で
 能力が変わるって聞いてたけど、酢ブタと天津丼はねえよなぁ」


くっくっ、と愉快そうに笑い声を漏らした高野の襟首を、井上がグイ、と引っぱって言う。


「…二郎ちゃん、準一に何したん」


静かに、だが激しく怒る井上の吊り上がった目にも高野はちらりとも動揺を見せない。それどころか、自分の首元を
しめあげている井上の手首を、生まれついての握力をフルに使ってぎりぎりと握りつぶそうとした。
あまりの痛みに井上が顔を歪めて高野の首から手を離すと、高野も井上の手首を離す。


「…ちょっと言うこと聞かせただけだよ。ほら、もうすぐ終わる」


言いながら高野は顎で、波田の荷物をさぐっている河本を示した。井上は相方のその姿に愕然とし、駆け寄って
河本の背中に手をかけ、揺すぶる。

203[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:16:21
「準一、何してんねん、波田くんの石あいつらに渡したらあかんて!」


河本はうるさそうに井上の手を突っぱね、波田の持つレインボークォーツを探しつづけた。
それでも止めようと井上が河本をはがい締めにしようとすると、河本は井上を力一杯突き飛ばした。
体勢を崩して尻餅をついた井上は、呆然と自分の言葉の通じない河本の背中を見やる。
ひどく悲しい気持ちで井上はのろのろと立ち上がり、ふと、すぐそばの地面に光るものを見つけた。

…金だ。

おそらく松田が波田の刀を防いだとき、手から転がり落ちたのだろう。松田はまだ背中をおさえたまま倒れている。
高野はきっと、松田がこれを落としたことに気づいていない。だから河本に「金を返せ」とは言わなかったのだ。
井上は祈るような気持ちで金に手を伸ばした。この石の使い方は知らない、だがもしこれが自分のものだというなら、
きっとこの状況をなんとかしてくれる。そう思って井上は必死で小さな金の塊を握りしめた。

とたんに光り出す石に導かれたように、井上は伸ばした両手を頭上で固くあわせ、その中に石を包んだまま、
思いっきり地面にダイブする。井上の体は高野の目の前まで勢いよく滑っていき、その足下で止まった。

204[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:17:00
「しまったっ…!」


高野の声が響き、その手の中にあった石が光を失い、凍りつく。その瞬間、河本が正気を取り戻した。
その手にはちょうど波田のギターケースから見つけたところだったレインボークォーツが握られている。

一体自分が何をしていたのかわからず、河本は周囲を見回す。そこにはやっとのことで立ち上がろうとしている松田と、
目一杯体を伸ばしたままで高野の前に倒れている井上、そしてただ立ち尽くす高野の姿があった。


「聡っ?!」


動かない相方の姿に思わず河本は叫び声をあげる。見たところ怪我のないのに安心したものの、状況が
わからないのはそのままで、とっさに河本は自分の石のことを思った。ふと手の中を見ると、そこにあるのは
自分の石のサードオニキスではなく、波田の拾ったレインボークォーツだ。サードオニキスがどこにもないことに気づき、
やっと河本の記憶がよみがえってきた。そうだ、自分は高野にあの石を渡してしまった…!

205[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:17:40
「…それちょうだい」


河本がその小さな声に振り返ると、目の前には鬼の形相の松田が立っていた。まだふらふらしている体で
松田が河本に襲いかかる。もはや松田は石の力を使えてはいなかったが、死にものぐるいで河本の手から石を
奪おうとしていた。その執念とも言うべき力に河本は必死であらがう。体勢を崩して倒れ込んだ2人の後ろから、
それまで忘れ去っていた人物の声が聞こえた。


「河本、大丈夫か!」


先に行ってしまったものだとばかり思っていた有田だった。少し遅れて上田も走ってくる。その状況を見た高野は、
すぐに松田に声をかけた。


「松田、石はいい、逃げろ!」


その声に松田は河本からはなれ、高野のもとへと走ろうとしたが、もはや石の力の反動で体がまともに動かない。
地面を這うようにして自分のもとに向かってくる松田の手をとろうと高野は必死で走り寄るが、腰に爆弾を抱えた体では
限界があった。それでも何とか松田を助け起こし、その場を去ろうとする。

206[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:18:17
しかしそのとき河本が立ち上がり、レインボークォーツを握りしめたまま叫んだ。


「ふざけんなや、俺の石返していかんかい!!!」


…その叫びが闇に響き渡るとともに、河本の手の中で石が虹色の光を発する。その眩しさに全員が目をひそめた。

207[タイトル未定−8] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:19:22
それからどのくらいの時間が経ったのかはわからない。


気づくと河本のもう一方の手の中には、サードオニキスが再び握られていた。
だが、河本にはなぜその石が再び自分のもとへやってきたのかさっぱりだ。


「うう…」


小さなうめき声に振り向くと、波田が起き上がろうとしていた。その横でなぜか正座した状態になっていた有田と
いつのまにか尻餅をついたままだった上田も気がついたのか、頭を振って目をぱちぱちさせている。
その様子を見ていて井上のことをすぐ思い出した河本が、彼の倒れていたはずの場所を見やると、そこには
体育座りで縮こまって震えている相方の姿があった。

208[タイトル未定−8] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:21:14
「聡!大丈夫か!」


河本は井上に駆けより、異常な状態の相方に声をかける。すると井上は、紫色の唇でぽつりと呟いた。


「寒い…」


その手には金の粒が握られており、河本はこの井上の状態がおそらく石の力の反動であろうと察する。
確か波田を襲った刺客が『凍る』とか言ったと聞いた、これのことだろう。しっかりしろ、と井上の背中をさすり、立たせてやる。


「井上、コレ着とけ」


その様子を見ていたらしい上田が寄ってきて、侠気にあふれる発言とともに自分の上着を差し出した。


「…いやー上田さんオットコマエですねえ、ナーンにもしなかったくせに」
「…お前もだろ!大体お前が俺の首キメたまま歩ッてったからこいつらが襲われたの気づかなかったんじゃねーか!」
「いやいや上田さん、気づいてても貴方は戦闘の役には立たねえし同じですから〜!…残念!」
「有田さん、それ俺のネタです…」
「有田お前、大概にしとけよ…?」

209[タイトル未定−8] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:22:25
有田の襟首をつかもうとして逃げられた上田はおちゃらけまくった相方を怒り心頭で追いかけ回す。
波田は松田との戦いでネックの折れてしまったらしいギターを拾いつつ、その様子をおろおろと見ている。
結局上田の上着を羽織ることにした井上と、その横に立つ河本は、何て緊張感のない人たちだろうと
この先輩たちに軽く尊敬すら覚えて覚えていた。


「…そういや、襲ってきた奴ら、どうしたんだ?」


有田を追いかけ回して疲れたらしい上田が、今度は逆に自分が相方の首をキメながら戻ってきて聞く。
有田は「ギブ!ギブ!」と叫んで上田の腕を叩いているが、解いてやる気はさらさらないらしい。


「あれ、そういやどしたんやろ…」


河本はぽつりと呟いて周りを見てみるが、松田と高野の姿はない。そして河本の脳裏からは、レインボークォーツが
光った後の記憶が全て消えていた。

210[タイトル未定−8] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:23:30
「俺も松田さんとぶつかった後の記憶がないんです」
「ああ、気絶しとったからやろ」
「俺もこの石、拾った後の記憶がないわ…マグロになったのは確かやねん」
「は?マグロ?」
「うん、何かな、マグロやらなあかん気がして、滑ってったんよ、そしたら二郎ちゃんとこ着いて…そうや、二郎ちゃんの
 石の力、多分俺の石ん中に凍ってる」
「二郎の力?」
「この石、きっとそういう力があんねん」
「…」


しんみりと井上の手の上の金の粒を皆が見つめる中、有田の弱々しい声が聞こえてくる。


「う…えだ…、し、し…ぬ…」
「…っ、すまん有田!」


…石に気を取られて力の調節を忘れていたらしい上田の腕に首をキメられまくっていた有田は、軽く絶命寸前だった。

211[タイトル未定−9] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:24:05
「二郎ちゃん、腰大丈夫?」
「おー、何とか…お前足とかもう平気か?」
「んー、しばらく無理っぽい」


有田が相方の手で死にかけていた頃、東京ダイナマイトは少し離れた公園でぐったりしていた。
実はレインボークォーツが光り、高野の手からサードオニキスが失われた瞬間、彼らの前に赤いゲートが現れていたのだ。
そう、彼らを助けたのは黒の重鎮、土田だった。ゲートの中から土田が手を伸ばし、力一杯引っぱり込んで
この公園までつれてきたのだ。土田は一言「…疲れさせんなよ」と言い残し緑のゲートで去っていった。


「…今回は俺らの負けか」
「だねえ…悔しいけどさ」


松田と高野は顔を見合わせる。そしてつい吹き出した2人の笑い声が夜中の公園に響く。
どこぞのマンションの窓から「うるせえぞ!」と怒られ、また笑い、ひとしきり笑ってから公園を後にした。



…彼らの戦いもまた、終わらない。

212 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:28:08
次長課長
井上聡
石:金(確実な助言と力)
能力:
その場にいる石を持っている人間の中で、もっとも自分にとって危険な存在を特定し、その能力を封じられる。
「築地のマグロ」になった井上が滑ってたどり着く先が最も危険な存在と特定され、その能力が井上の中に冷凍される。
例)1つの部屋の中に井上以外にAB2人の石の能力者がいたとする。
A:井上とその仲間への害意がある、石の力は弱い 
B:井上とその仲間への害意がない、石の力が強い
この場合は、あくまで「自分にとって」危ない存在を特定するので、Bの力が冷凍される。
また、肉体的な害、精神的な害どちらにも反応する。
条件:
危険な人物に特攻していく形になってしまうというリスクがある。しかも井上自身は完全に冷凍マグロと化すので、
いっさいの攻撃/守備ができなくなり、その場にマグロの姿のまま放り出される。一回の戦闘につき一回の、捨て身の技。
能力を解除した後、冷凍の後遺症でしばらくの間寒くてたまらなくなる。また、その場の戦闘がすべて終わると
自然に井上は元に戻るが、井上の中に冷凍された能力は、次に井上が他の人間に能力を使うまで使えなくなる。

213 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:32:00
河本準一
石:サードオニキス/別名:赤縞瑪瑙(人間愛、夫婦愛。個性を引きだす。内臓への活力。)
能力(1):例の顔マネと「お前に食わせるタンメンはねえ!」の台詞とともに中華料理屋の扉が出現、攻撃をはね返す。
能力(2):「そうは酢ブタの天津丼!」の台詞とともに指さした敵の行動を10秒止め、頭上に酢ブタと天津丼をおみまいする。
条件:
扉のサイズ以上の範囲はカバーできない。出現するのは横にひいて開ける2枚扉でのれん付き。街の中華料理屋や
ラーメン屋に多い磨りガラス製の扉。強度は銃弾を通さない強化ガラス程度。反射できるのは物理攻撃のみ。
また、台詞をかんだり顔マネが中途半端だったりすると扉の強度が下がる。1日に3〜4回くらいが限度。
酢ブタと天津丼は火傷するほど熱い。また、止められる行動は人間の運動行為のみで1人の敵につき1回が限度。
つまり「走り出そうとしている人」「人を殴ろうとしている人」「何か投げようとしている人」などを止めることはできるが、
「その場で動かずに何かおこなおうとする人」「頭の中で何か考えている人」「人が投げた物体」を止めたりはできない。
全能力を使いはたすと、河本は朝から晩まで休みなく厨房で働いたくらいの疲労感におそわれ、まともに動けなくなる。


*ちなみにサードオニキスは「個性を引き出す」とのことですので、持つ人によって違う力を持つという設定をつけてみました。

214 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:32:52
波田が拾った石
石:レインボークォーツ(七つの光が願いを叶える)
能力:
持ち主の、他人に関する害意のない望みを叶える。ただしもとの状態以上に他人の能力を引き上げたり、
存在しないものを作り出して他人に与えるような力はなく、使用者自身に関する望みも叶わない。
つまり、「仲間の怪我を治したい」「遠くにいる仲間に自分の持っている傘を武器として与えたい」は叶うが、
「自分の怪我を治したい」「仲間の力を限界より強くしたい」「仲間にバズーカ砲を作り出して与えたい」は叶わない。
条件/代償:
他人に害を与えることを望む場合には、同等の害が使用者自身にももたらされるため注意を要する。
「敵に動けなくなるほどの怪我を負わせたい」という願いは叶うが、同時に自分も動けなくなるほどの怪我を負う。
叶えられる望みの大きさは「使う人間の実力」「石とどの程度波長が合うか」に左右される。
また、石を使用した際、その石に関することを中心に、使用者とその場にいたものの記憶が曖昧になる。
望みの害意のあるなしに関わらず、石が叶えた望みが大きければ大きいほど、記憶の損傷は激しい。

215 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:39:46
おしまいです。河本の能力(1)を設定しておいて使えなかったのが心残りです。
あとレインボークォーツの行方をもうちょっとくらましとけば良かったと思いました。
この先も河本が持ちっぱなしってことはないと思います。
土田ももっと出したかったのですが、東京ダイナマイトとの接点が見つからず中途半端に…。

ちなみにこの話、ごく最近のことです。
次課長とくりぃむの共演番組は『くりぃむナントカ』あたりのつもりで書いてました。

やたら長い話になってしまいましたが、ご意見いただけると嬉しいです。
直すべきところや誤字脱字、設定の問題点などあったら教えてください。

216 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:43:03
あと、江戸の者なので関西弁/岡山弁はおかしいところ多々あると思います。
その点も教えていただけたら嬉しいです。

217名無しさん:2005/11/18(金) 13:22:55
大作乙、超乙!
能力も単体だと何かとみんな面白いのに、戦闘の緊迫感が凄かったです。
そして戦闘とおちゃらけの使い分けがすげー!
自分はそんな風に書けないからめっちゃくちゃ尊敬します。
自分はこれをまんま投下でも大丈夫だと思いますよ。

218名無しさん:2005/11/19(土) 10:22:47
スピワとピースって何か共演したことありますかね?
ちょっとその二組で思いついたんで・・・

219名無しさん:2005/11/19(土) 14:16:26
心の底から乙!大作堪能しました。リアルに映像が浮かんできました。
しかしくりぃむしちゅーはどの方の作品でも緊張感ないなw

ところで、>200の5行目は
>そのフレーズに高野はハッとした叫び、
は、「ハッとして叫び」ですかね?細かくてすみません。
自分もこのまま投下で大丈夫かと思います。

220 ◆yPCidWtUuM:2005/11/19(土) 16:26:56
>>217
感想ありがとうございます。河本の能力はおちゃらけすぎかと不安だったので
そう言っていただいてホッとしました。ちょっと手直しして投下してきます。
>>219
感想&指摘ありがとうございます。ご指摘の部分、その通りです。
やはり夜中に書くと凡ミス出ますね。自分でも何カ所かおかしいところを
見つけたので、ちょこちょこミスを直したり細かい書き足ししたりして
投下することにします。多分今晩か明日あたり。

徹頭徹尾緊張感のあるくりぃむをそのうち書いてみたいw
おちゃらけゼロだけどそれらしいあの2人ってかなり難しそうですなw

>>218
たぶんしてないと思うけど、自分で調べてみたほうがいいかも。

221名無しさん:2005/11/20(日) 11:52:41
>>220有難う御座います。調べてみます。
ところで名前欄の英語はどうやってだすんですかね…?
宜しければ教えてください。

222 ◆bZF5eVqJ9w:2005/11/20(日) 12:31:07
>>221
名前欄に半角#と
その後ろに好きな文字を八文字入れるだけですよ。
ちなみにトリップと呼ばれています。

223 ◆/KySNfOGYA:2005/11/20(日) 19:16:33
>>222
成程。トリップと言うんですね。ご親切に教えていただいて有難う御座います。

224ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/14(水) 23:34:20
ちょっとばかし入院してました。
久しぶりに投下する前に、こちらに落とします。

225ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/14(水) 23:46:29
中川の電話から約20分程前の事


「…で、アイツ理不尽な理由でキレるんすよ〜!」
「大変そうやな…」

雑談しながら歩くうちに、人通りの少ない路地に入る二人。

「人通りが少ないとこに来てもうたけど、飲み屋とかあるんか?」
幾分心配になってきた中川が後輩に尋ねる。

「……多分、道間違えたかも知れないっすね。」
「おいおい…頼むからしっかりしてくれや〜?」
自信なさげに答える藤原に、情けない声を出す中川。

引き返そうと後ろに振り返ると、今まで自分達以外は誰も居なかった筈なのに、いつの間にか二人の男が背後に立っていた。


「中川…奇遇やんなぁ。」
黒のシャツに黒のレザーパンツを履いた細身の男が、中川に話し掛ける。

「お前ら……いつの間に……」
全く気配を感じられなかった中川は、二人の姿を目にし驚愕の声を上げる。

「あれ?……浜本さんに白川さんやないですか!お久しぶりです!!」
藤原の前には、かつて大阪に居たとき世話になった、先輩の10$の浜本と白川がそこに居た。


「久しぶりやんなぁ〜藤原。元気しとったか?」
人の良さそうな笑顔で藤原達の方に歩き出す浜本。

「………来んといてや。」
今まで見せた事の無い険しい表情で、浜本に言い放つ中川。
「中川さん?」
明らかに先程とは違う中川の雰囲気に、子を困惑する藤原。
「……穏やかやないなぁ…中川。」
中川の態度にニヤリと笑う浜本。
その目にはどこか狂気の光が宿っている。

『な…何なん?何がどうなってんねんな?!』
今の状況に思考がついて行けず、混乱し始める藤原。

その時、混乱した藤原の思考を醒ます様に、藤原の持つ石『ユナカイト』が熱を帯びながら輝き始める。



「熱っ!!」


主の危機を知らせる石はますます強く光り輝く。

「藤原、何なんその光は?」

服越しでも分かるほど石は輝き、その光のあまりの強さに中川は驚きながら藤原に問い掛ける。

226ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/14(水) 23:47:47

「……ましょう。」
「は?」
「逃げましょう!中川さん!!」

中川の手を引きつつ、浜本と白川に背を向け全速力で走り出す藤原。

「逃げれへんぞ藤原。俺らからはな………白川!」
「………」

虚ろな目で白川は手にはめたリングをかざして念じる。

すると、何かはっきりとは見えない力場が辺りを包み始め、藤原と中川の前にも見えない何かが立ちはだかる。

「なっ!!」
「しまった!閉じ込められたか!!」

先へ進もうとする藤原が、例えるなら見えない壁に邪魔されている。
そんな感じだった。
「逃げれへんぞ〜2人共〜」
クスクス愉しげに笑いながら2人の背後に迫る浜本。

「……闘り合う気ぃですか?」
恐る恐る尋ねる藤原。
その手にはユナカイトが握り締められ、臨戦態勢だ。

「別に、石を置いてこの場から居らんくなってくれるんなら、こっちも手ぇは出さへんで?」

笑みを貼り付けたまま返答する浜本。

227ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/14(水) 23:53:39

「なら答えは……」藤原の意志に同調するかの様に光を放ち出し
「ドンマイ!俺!!」
力強く藤原が叫ぶとよりいっそう強く光を放ち、石の力が発動する。

「気をつけろ!藤原っっ!!」
中川もキーホルダーに付けた自分のエリスライトを握り締め戦闘態勢を取る。


「……やっぱりそう来なきゃな…?」

狂気の光を目に宿し浜本は胸元で黒く輝くブラックスターを握り締めた。

228ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/16(金) 21:42:42
ここまでと書くの忘れてました。

とりあえずここまでを投下しようかと思います。

229名無しさん:2005/12/17(土) 11:56:55
ブラックスターはさまぁ〜ずの大竹さんとかぶってますよ。

230ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:05:25
はねる編七話ができましたが、久しぶりなので先にこちらに投下させてください。

<<Jamping?>>--07/願い人はかく語りき


「何してんの」
いきなり背中に声をかけられ、その女はびくりとした。
彼女はあわてて、声をかけてきた相手に振り返る。
「い、いやいや!別に!」
焦った声が聞こえてくる。
本当に?と念を入れて聞き返すと、「ほんとに!」と返ってきた。
あまりに一生懸命に言い訳しているが、まあいいかと聞いた主―――虻川は思った。
彼女に限って、そんな疑わしい動きをするわけがない。そう分かっていたからだ。
分かっていたのではなく、信じていただけなのかもしれないが。
まだ首をかしげている相方を見て、もう一人の女・伊藤はどきどきしていた。
―――今知られたら、まずい事になる・・・。
伊藤は苦そうな顔をして、それから虻川から顔を逸らした。
そして、手元の自分の携帯電話に集中した。画面に映るのはメール。
「・・・」
伊藤は唇の端をおもむろに噛んでいた。少しだけ、じんわりと赤く染まっていた。

231ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:05:45
「あの、さ」
その日の収録終わりに、急に伊藤は帰ろうとしていた西野に声をかけた。
「ん?どしたの伊藤ちゃん」
西野がやんわりした声とともに振り返る。人気のない廊下は、冷たい空気を吐いていた。
「この間の、話」
言い辛そうに伊藤がその言葉を口にした。西野が微かに反応する。
この間の話とは、2人で連絡を取り合った時の話だった。
『はなわは黒だった』と言う一連の話と、山本の異変。
特に山本に関して伊藤はかなり心配しているようだったが、インパルスの言葉からも何も分からない。
それで西野が調べたのだが、『白』とコンタクトが殆ど取れないキングコングの情報は少なかった。
そして今もまだ、十分に情報が無い。
インパルス経由で情報を集めるのが早いのだろうが、西野は何となくそれを躊躇っていた。
「・・・あぁ、何やったっけ?」
西野はその一連の流れを知らない振りをして、話をはぐらかした。
「そういう風にしないで、真剣なの」
「・・・ごめん」
伊藤はいつも以上の剣幕で、西野を責めた。それから、目を逸らす様にして下を向いた。
―――やるしかない。やらないといけない。私が。そう、誰でもなく私が。
西野に聞こえないように、伊藤が短く呟いた。
フラッシュバックするのはさっきまで見ていたメール。
見知った相手からの、メール。
伊藤は決意を固めた。ゆっくりと足元の石に力を注いでいく。
戻れないとしても、戻して見せよう。またみんなで笑おう。だから・・・。
「西野君・・・」
伊藤が小さく西野を呼んだ次の瞬間だった。
西野は、何やねんと返事する間も無く伊藤の石の光を受けていた。
その時の西野の表情を、伊藤ははっきりと見た。
何故仲間であるはずの自分に能力を行使したかが理解できないと言った顔。
ごめん、と謝った言葉は西野には届かなかった。

232ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:06:03
それからの記憶は、はっきり言って西野の中では曖昧だった。
何だか沢山の事を喋っていた様な感覚はあるが、内容を覚えていない。
ただ何となく、今知っている『白』の情報を引き出されていたような気がした。
伊藤も知るとおり、西野が知りうる事はごくわずかに過ぎなかったのに。
「・・・んん・・・?」
西野がきちんとした記憶を取り戻したのは、伊藤と話していた廊下だった。
気がついた時には、その場に棒になったように立ち尽くしていた。冷たい風が床をなめて行く。
それから、今までのことを思い出そうと西野は努力しながら頭を振った。
しかしどうしても、桃色の光を見たところまでしか思い出せない。
それから先が、何だか靄がかかったように曖昧になっている。
伊藤の石には、そんな力があったのだろうか?と西野はその場で首を捻った。
「西野!どこほっつき回ってんねん!」
そんな中廊下の向こう側から、愛すべき相方の、梶原の怒鳴り声が聞こえてきた。
その後ろに、ロバートやドランクドラゴンもいるようだ。
「ほっつき回るって言うても・・・」
西野は困惑した表情を浮かべて、走ってきた仲間達に向けた。
ずっとここにいた、と言う言葉は勢いで飲み込んでしまった。
「アホ!お前がそう悠長なことしてるから、また・・・!」
「・・・また?」
今度は梶原が苦しそうな表情を見せる番だった。
かなり険しい顔で、アンクレットを光らせ続けている。
「またインパルスが『黒』の下っ端に絡まれとんねん、今や今」
その言葉を聞いた西野の顔つきは、険しくなっていく。

233ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:06:25
ちょうど板倉と山本が対峙した公園で、インパルスの2人が『黒』の下っ端と争っていた。
帰り際の板倉を狙い仕掛けてきた連中と、追いかけっこでここまできたのだ。
それを見つけた堤下が板倉を助けにやってきていた。しかし形勢は一向に悪い。
「ちっ・・・」
板倉が舌打ちをする。見れば相手は大勢、こちらは2人。
暗くなり始めている公園の中に、街灯の蛍光灯はちかちかと点滅していた。
そして、点滅の光がまだいるであろうか、その他大勢の顔を照らしている。
「どいつもこいつも・・・、覇気がないんじゃないの?」
『黒』の人間に追われるのが面倒臭くなり始めた板倉が、苛立って呟いた。
そのすぐ隣で困り果てたような表情をしている堤下が、板倉の言葉に
「いや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!相手が多すぎるよ・・・」
と弱気に突っ込んでいた。
そんな覇気の無い顔が、2人の周りを包囲している。小さな息と迫る足音が砂を掻いた。ざっ、と靴底が擦る音がする。
街灯はいまだちかちかと弱々しい点滅を繰り返していたが、不意にそれが消えた。
一瞬その空間すべてが、黒く塗りつぶされたように感じた、その刹那。
―――ばちっ。何かが爆ぜた。
「俺ね、あんまり手荒なことしたくないんだ」
いつもと変わらない、冷静な声色が聞こえる。
堤下は、それが隣の板倉だと分かっていたが、何やら嫌な予感がしてそちらを向けなかった。
辺りが謎の音と共に瞬間的に明るくなる。その光の元は多分板倉の頭上だろう、と堤下は気づいていた。
電流が街灯から奪われて、それは生き物のように板倉の周りに集合していたのだった。
「でも、来るんならこっちもやるよ」
相変わらず、板倉から放たれる言葉には変化は無い。
周りの群れが、凝視するかのように板倉と彼のアンクレットを見た。
風が冷たく公園を貫いた。
「簡単に石はやらねーぞ」
最後に板倉が、吐き捨てるように言ったのを堤下は聞き逃さなかった。
その言葉が合図だったかのように、ついに男達が爆発して迫ってきた。
拳を振りかざし、唸るように、鋭い眼差しで板倉を目掛けて猛烈に突撃してくる。
しかし、彼らの拳が板倉を捉えるよりも前に、板倉と男達の間に巨大な電撃の束が落ちた。
―――ずどん!

234ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:06:51
おおそろしない音が空気を震わせ、衝撃的な電光が目を眩ませる。
驚いて後ずさりして行く下っ端を、板倉が負けず劣らずの冷たい瞳で睨み付けた。
その時一緒に少し唇の端が歪んでいた。
「俺怒ったら怖いよ?」
「・・・そうそう、板倉さんあんまり怒らせないほうがいいって」
黙っていた堤下がちょこっとだけ、しかもなぜか小声で喋った。
しかし、それに対する返答は
「知るかよ」
「さっさと石をよこしてくれませんか?」
「電気を扱うなんて、かなり強いみたいだからな」
と言う、一切話を聞いていない言葉ばかりだった。
「・・・・・・」
板倉は、それを聞いて一瞬だけ黙ったが、それは本当に一瞬で。
「じゃー、こいつで焼け死んでも知らない」
さらりと言ってのけ、次の瞬間にはまたしても電撃が公園中を駆けていた。
そこら中に光の柱が地面に目掛けて突き刺さっている。
電光が空を走り、体を捻り、時に二股に分かれ、男達の降り注いでいた。
「い・・・、板倉さん!あんまりやると周りに迷惑が・・・」
「関係ねーよ、今は」
「電気なんか当ててほんとに死んだりなんかしたら・・・」
「そんなわけ無いだろ、俺だって手抜くよその位は」
「それより!こいつ等俺達を襲う気あるのかな?」
「だっていきなり俺を襲ってきたんだよ、その気はあるだろ」
「そうだけど・・・おかしくない?」
「何が!」
電撃操作に精神を集中している板倉が、自分に話しかけてきた堤下に苛立ちを覚えた。
しかし堤下は、そのまま言葉を紡いだ。
「だってこいつ等、よく見たら減ってるよ?」
「逃げてんだろ?『黒』に洗脳された石の力を使えない下っ端だから、反撃できなく・・・」
言いかけて、板倉はようやく気がついた。
いつの間にか自分の周りにいた下っ端集団が公園の外へ走っていく。
しかしどうもおかしい。逃げるのとは違う、何か急いでいるように見える。
「板さん!」
その時2人は聞き覚えのある声が公園の外からしたのを聞いた。
目を向けると、公園の入り口に向け走るキングコング・ドランクドラゴン、そして秋山と馬場がいた。
板倉に、何となく嫌な予感がしたのはこの時だ。なぜかは分からない。
ただ、次の瞬間には先ほどまでの『黒』の下っ端が、標的を西野に変えていた。

235ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:09:40
とりあえずここまでです。

今回はキンコンの2人が『白』と特に接点がないと言うのが前提です。
(あるとすればインパルス経由か関西方面の『白』)
それから、伊藤ちゃんの謎の行動については次回以降に繋げようと思います。

236 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 00:53:18
エレキ今立さん周辺のちょっとした話を思い付きました。
重要な展開ではないので全体の流れを邪魔することは多分ないと思いますが、
保守がてら投下しようかと思ってるので、
何か問題がありましたらご指摘くだされば幸いです。

237 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 00:55:11
トゥインクルスター ★



その日、エレキコミック・今立進は朝から上機嫌だった。
左足の靴紐が何回となくほどけても、目の前で電車が行ってしまっても、レジ待ちで強引に自分の前に割り込まれても、その買い物の結果財布の中に1円玉がやたら増えようとも、怪訝な顔の相方に顔に締まりがないと指摘されても、とにかく、彼のテンションは高いままだった。

なんたって翌日には恒例の「ゲーム大会」が控えている。
それは、今立を筆頭としたゲーム好きの芸人同士が集まって、舞台上でひたすら古今のゲームに興じるというオールナイトのイベントのことだ。
はたしてそんなものに入場料を取っても大丈夫かと最初は思ったけれど、やってみた限りでは観客もなかなか楽しんでくれたようで、以来時間と余裕とメンバーの予定が合った時には開催されるそのイベントの日が訪れるのを、彼はずいぶん前から待ち望んでいたのだった。

238 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 00:56:41
それぞれの仕事を済ませた後参加メンバーが集合し、軽い打ち合わせと最終確認、ついでに飲み会。
あまりの嬉しさにやや飲み過ぎてしまった今立はメンバーの一人、東京03・豊本明長と談笑しながら夜道を歩いていた。

「もう帰ったらすぐ寝ようと思ってさ!明日のモチベーションを高めとかないと、」
「ダチくんもう十分だと思うけどなあ」
「こんなもんじゃないよ俺は!」

酒のせいでさらに上がったテンションを抱え、駅へ続く道を曲がる。そこからだと少し近道になるのだ。細い路地で街灯の数も少ないようだが大の男二人、特に怖がる理由もないだろうと。
だが彼は大事なことを忘れていた。彼らの日常が今はすっかり様相を変えていて、なんの落ち度がなくとも不意に襲われる可能性を十分に秘めていることを。

「………え、」

気が付けば前後の道をいかにも怪しげな男達に塞がれていた。

239 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 00:59:00
前に3人、後ろに5人。

その中に見知った顔はなかったし、一様にぼんやりと曇った目をしていたからおそらくは、黒側の末端を構成する超若手の面々が上の思惑で動かされているのだろう。よくある話だ。
自分の石に目立った変化は感じられないので相手方が石を使った攻撃をしてくることはなさそうだが、恵まれた体格と腕力のありそうな男が多いのが気にかかる。
高まってゆく緊迫感とは対照的に、道に沿って続く植え込みでは張り巡らされた大小のイルミネーションがチカチカと陽気に点滅を続けていた。家主の趣味なのだろうか、白に青に水色に色を変えて輝く様は光が行く先を先導してくれているようで、こんな状況でなければなかなかロマンチックな雰囲気だったのかもしれない。

(さて、どうしたもんかなあ)

豊本は眼鏡を中指でくい、と押し上げて小さくため息を吐いた。
この陣形と場所では少々のすったもんだは免れそうにない。しかも自分の石は少数へのかく乱が精々で、こういう状況では基本的に無力だ。となると今立に頼ることになるのだが、彼が能力を使ったあとの代償を考えるにそれはちょっと言い出しにくい希望である。

(みんなでまとまって帰るべきだったかー…闘えそうな人もいたし…)

不注意を悔いたものの後の祭りだった。他に選択肢が増える気配はない。
仕方なく隣の様子を伺うと、人工的な光に頬を照らされた今立が酔いの回り切った目で前方を睨み付けたまま(だから残念なことに威圧感には欠けていた)淡々と言葉を並べはじめた。

「…あのねぇ豊本くん、俺ものすごく楽しみにしてんだ、明日の」
「うん、知ってる」
「なんだったら最近のアンラッキーを全部笑って流せるぐらい」
「ああ…さっき居酒屋でダチくんの頼んだのだけ3連続で来なかったけど全然笑ってたもんね」
「…メイン主催者がゲームにひとっつも触れないってどう思う?」
「超不憫」
「………」

その時豊本は確かに今立の目が据わるのを、見た。

240 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 01:00:42
石が震える。
やはり自身の石とそれぞれの身体能力で突破するべきか、そう考えはじめた豊本の思考が思わず途切れた。

(…え、ダチくん?)

この共振の元は間違いなく今立だ。しかもかなり、攻撃的な。
冷静に考えたなら明日の為に少しでも使用は控えるべきなのだが、酔っているせいか本人曰くの『最近のアンラッキー』が相当溜まっていたのか、こんな不条理な形で自分の楽しみが妨害されることに対し彼は相当腹を立ててしまったらしい。
気の毒だとは思いつつ、この怒りが下手に拡散するとやっかいなので今立に全てを任せることに決めた。
−でも確か、彼の能力には制約があったはず…

「…イオナズン打ちてえ…」
「いや危ないから」
「じゃあメテオ…やっぱメラゾ−マ…いや団体だからべギラゴンの方が…」
「殺す気だねえ。全部却下。てか無理でしょ?そういうの」

そう、彼は怒りを発散する攻撃の能力は使えないのだった。どうするの?という豊本の視線を感じ取ったのかどうか、今立は不意に「上手く避けてね」と言い放つと、傍らできらめく星の形をしたイルミネーションを引きちぎり、真上に投げた。
電力を断たれたそれは当然瞬時に輝きを失い、ただの透明なプラスチックに戻る。
しかし、その星が重力に引かれはじめる前に、今立のシャツのポケットから眩く白い光が溢れた。

「………!!」

途端に前後の集団がざわめき、距離を詰めようと駆け寄ってくる。
何か効果的な能力を発揮される前に数で押し切り、石を奪ってしまおうという考えだったのだろう。
しかし彼らの手が今立に伸びる寸前、ウレクサイトの白光はひときわ強く瞬いたかと思うと、シュン、と真上に移動した。
打ち上げられた先には落下してくる星型のプラスチック。

−光が吸い込まれる。造りものの星が再び、輝きを取り戻す。
キラキラと光の粒をまき散らしながらゆっくり落ちてくるその星にはなぜか懐かしいような既視感があった。
そう、確か、それを取ればどんなピンチも切り抜けられる…

「…無敵のスターだ、」

豊本が呟くのと星の光を身に纏った今立が前方の集団に向かって体当たりを仕掛けたのは、ほぼ同時。

241 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 01:02:11
「……っ、はあ…多分この辺やと思うねんけど…」

今立の石が光ってまもなく、その場に駆け付けた男がいた。アメリカザリガニ・平井善之だ。
同じくゲーム大会の参加メンバーであり飲み会のあとコンビニに立ち寄っていた彼は、黒い欠片と憶えのある石の気配がどこか近くで弾けるのを感じ、何やらよからぬことが起きたのではないかとその気配を追いかけてきたのだ。
戦うことも考えて咄嗟に買った小さなミネラルウォーターのボトルを片手に弾んだ息を落ち着かせ、路地に踏み込む。
しかし平井は、「うわ、」と思わず声を漏らして足を止めてしまった。

視線の先で若い男が、勢いよく宙へ吹っ飛んでいく瞬間だったから。

「 へ ?」

事情を把握できずその場に立ち尽くす間に、その男は派手な音と共に道路に落下する。
気付けば似たような雰囲気の男達がすでに幾人も、その場に折り重なって倒れていた。
ただ一人立っているのはこちらに背を向け肩を上下させる人物−なぜか漫画の特殊効果のように身体の周囲にキラキラと星を散らせていた−で、その背格好からしてそれはつい数十分前まで一緒だった今立に違いなかった。

「−今立、くん?」
「…やっちゃったぁ………」

呼び掛けに振り返った今立はとろんとした目でどこか悲しげに呟くと、ゆっくりその場に崩れ落ちる。
−静寂。

「…何やったんやろ…」
「…………あ、終わった?」

後には展開に追い付けないままの平井と傍らの電柱の陰でなんとか嵐をやり過ごした豊本だけが残された。

242 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 01:03:39
「…うん、だからスターでもうちぎっては投げちぎっては投げ」
「うわぁ…無茶したなあ。止めた方よかったんと違う?やって明日、」
「だってダチくんキレてたし無敵だしさあ、吹っ飛ばされるのがオチじゃん」
「そらそうやけど。えーと…8人?これ全部やっつけたん?」
「うん。見事1up」
「1upて…」

全員仲良くノックアウトされていた男達を車に轢かれないように道路の端っこに並べる作業を終え、平井が「こいつ重いわー」とうんざりした顔で一番体格のいい男を小突いた。ついでにポケットに入っていた黒い欠片を浄化して消し、一応俺来た意味あったかなあ、とため息を吐いて苦笑する。

「平井くんこれからさらに役立つよ。俺一人じゃダチくん運べないし、」

最近この人丸っこいからね。豊本はそう言って座らせておいた今立を覗き込む。

「…どう?」
「大丈夫じゃないかな、エネルギー使い果たしただけだよきっと」

そらよかった、と平井は言いかけたが、この出来事のせいで明日彼がどれだけ不幸な目に合うのかを想像して、言葉にするのをやめた。
そう、明日はなんたって−日付が変わってすでに今日だが−“今立進杯争奪”ゲーム大会、なのだ。

豊本と平井に両肩を支えられ立ち上がった今立はむにゃむにゃと何か言っているようだった。そのうわ言はどうもレトロゲ−ムのタイトルのような気がしたが、あえて聞かなかったことにして2人は駅へと歩きはじめる。

「不憫な子やなあ」
「ほんとにねえ」


…今立がそのイベントでゲームを楽しめたかどうかは、彼の心情を考慮して割愛する。

243 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 01:09:20
以上になります。
「ゲーム大会」は他にバカリズム升野さんや火災報知器小林さん、18KIN大滝さんあたりをメインメンバーに、度々行われているイベントです(内容は本文通り)
以前、自分の名が冠に付いていたのに、ほぼ他の人のゲームを見ているだけで終わった回があったという話を耳にしたので、その辺を参考にしました。
「相手を攻撃する能力」は使えないのですが、スター効果で触れた人が勝手にやられていくのならいいかなあ、と思い。

それでは失礼致しました!

244名無しさん:2005/12/20(火) 01:14:28
マリオキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!
以前から、エレキの能力かなり面白いのに、作品投下が無くて残念だったところなので、
最高に楽しめました!乙です!!

245名無しさん:2005/12/20(火) 15:59:47
今立さんがあまりに不憫すぎで申し訳ないけどテラワロタ。
乙です!

246 ◆1En86u0G2k:2005/12/21(水) 01:22:09
>>244-245
ありがとうございます!
投下してこようと思ったら本スレにめっちゃかっこいい話が…!
ちょっと尻込みしつつ行ってきまーす

247ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/21(水) 07:21:37
>>229
本当ですか?!
ちょっと手直ししてから出直します…

248 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:08:38
長井秀和さんの話を書きました。
本スレに投下出来るか分からないので、見てやってください。

249 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:12:31

「いたいた。おい長井、」
今となっては聞き慣れた、鼻にかかったようなその声にピン芸人・長井秀和は口に入れようとした牛丼を寸前で止め、面倒くさそうに振り返った。
「今回も『ビジネス』持ってきたぞ」
「謹んでお断りさせて戴きます」
男が言い終わらないうちに、長井は態とらしいとも取れる態度で深々と頭を下げた。
「オイ待てよ。報酬払ってやってんだろうがよ、いっつも」
牛丼の器を持ち上げ楽屋から出ようとする長井を男は慌てて袖を掴んで制止した。
ドアの前へ回り込んで肩に手を置く。
「やりません。面倒くさいんで」


男が『仕事』を運んでくるのはこれで三回目だ。数日前、うっかり目の前で能力を使ってしまった所為だ。
長井の能力は男にとって利用しない手はないものだった。
いい加減にしてください、と長井は男の手を払い、すたすたと楽屋を出て行く。
男は一瞬困ったような顔つきになるが、廊下へ一歩飛び出し長井の背中に向かって叫んだ。

「じゃあ二倍ならどうだ!?」

長井の足が、接着剤を踏んだかのようにぴたりと止まった。
そして次の瞬間には既に男の目の前まで戻って来ていた。

「…好きだねえ、お金」
「ええ。そりゃあもう」
皮肉混じりの男の言葉を知ってか知らずか、長井は俯いたままあっさりと受け止めた。
金の入った封筒を受け取り、慣れた手つきで中身を確認する。
「…で、今回は?」
「最近黒い破片をあちこちにばらまいてる野郎がいんだよ。うっとーしいからそいつ懲らしめて欲しいんだけど」
「それこそお二人がやれば…、太田さん達だって石持ってるでしょう」
「何で俺が!トロい白の代わりに戦うなんてまっぴら御免だ。お前が石を全部スってくれれば早い話だろうがよ。あとはうちの相方が何とかするから」
理不尽な言葉を投げかけてくる男…爆笑問題の太田光に、長井は今回の仕事がどれだけ面倒くさいかを悟った。

「やっぱりやりません。お金は返しますから…」
「不可。返金は認められねえよ!」
してやったりな表情を浮かべそう言うと太田は廊下の角を曲がりあっという間に走り去ってしまった。

直ぐにでも追いかけようとしたが、長井は片手に持った冷め気味の牛丼にちらりと目をやり、しまった、と呟いた。

250 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:14:21

長井はとある建物の駐車場の屋上に立っていた。
太田の話によれば、この真下の場所によく現れるらしいのだが。
(ったく、俺もお人好しだな)
いっそ金だけ持って逃げてしまおうか、とも考えたが、さすがにそんな真似が出来る訳もなく。
長井は鼻水をずずっ、とすすり赤くなった鼻の頭を擦った。寒風が厳しく吹き付ける中、じっとターゲットが現れるのを待つのは、張り込み中の刑事を思わせる。

「よく言うよお前」
斜め下の方から少し高めの声がした。
小さな体をいつも以上に小さく丸めて、寒さでがたがたと体を震わせているのは、仕事を承諾するともれなく付いてくる、太田の相方でもある田中だった。
思っていることをうっかり声に出してしまったのだろうか。
長井はさっと口元を手で押さえ、ふふっと笑った。


「…おっ、ビンゴ!来ましたよ」
ふと、下を見ると。一人の若手芸人が複数に囲まれているのが見えた。
街中で見かけるような不良の喧嘩とはまるで違う、その場に居る者にしか分からないびしびしとした嫌な空気が伝わってきた。
「俺があいつらから黒い破片を盗って来るんで、田中さんはそれを破壊してくださいね」
「おう、がんばれよ」
「何言ってるんですか。一緒に降りるんですよ」
「は!?馬鹿お前、そんなもんギューンて行ってピューンて戻ってくりゃあ良いじゃねえかよ!」
ジェスチャー付きで叫ぶ田中。その腕を無理矢理掴み、丁度フェンスの途切れている所から片足を宙に出す。
「悪いですね、戻るには階段使うしかないんで」

田中は悲鳴を上げる間もなく、暗闇の中に投げ出された。勿論その手はしっかり長井が握ってくれているのだが。
命綱のないバンジージャンプに、思わず気絶しそうになるも、何とか意識を繋ぐ。対照的に長井は、全身に風を受け何とも気持ちよさそうな顔をしていた。
「今日は良い風吹いてますねえ!」
うるせえ馬鹿!と言いたかったが、風圧で口を開くことも出来なかった。

その間にも、もの凄い早さで地面が近づいてくる。
ぶつかる!
そう思った瞬間、長井の黒いコートが大きく広がった。それは瞬時にコウモリの様に、黒く尖った骨格に薄い皮が張り付いた大きな翼へと変化し、二人の体を浮き上げた。
浮き上げた、と言ってもそれほど高度は高くない。
ぶつかる直前に羽根を地面と水平に広げ、ブレーキを掛けることなく、直角に地面すれすれを猛スピードで飛んでいった。

251 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:16:25

男たちの中で、大きな黒い影が目にも留まらぬ早さで自分たちの目の前を通りすぎたのを確認出来た者は少なかった。

「あ、長井、通り過ぎた!止まれって!」
「やべっ、ブレーキ効かねえ…」
その直後、バキバキと木の枝が折れる音、バケツが吹っ飛ばされる派手な音が響いた。
二人が突っ込んだのは丁度木々が植えられ土の軟らかい場所であり、枯れ葉が衝撃で大量に舞い上がった。
つかの間の低空飛行体験は、少々の打撲と擦り傷と共に終わったのだった。


茂みの中から長井が、頭を押さえながら現れた。
上着やズボンの所々に枝が刺さり、至る所に鍵状のヌスビトハギの実…俗に言う「くっつき虫」がびっしりと張り付いている。
長井は慌ててコートを脱いでバサバサと力一杯はたくが、ウールにしっかりと絡まったさやはなかなか外れようとしない。
「くそっ、俺の一張羅が…」
自慢の服がすっかり雑草まみれになってしまい、長井はがっくりと項垂れた。
「着地はまた失敗か…いってえ…」
茂った草の中から田中がはい出してくる。
「つい調子に乗って…。でもほら、その代わりに」
長井が手をグーにした状態で、田中の目の前に突き出す。
ゆっくりと手を開くと、バラバラと黒ずんだ小さな石が、建物から漏れるライトの明かりを反射し、田中の手に落ちていった。
男たちは「まさか」と呟くと、慌ててポケットの中身を探る。

「あ、石が無い!?」
「俺もだ!」

全員の視線が長井に集まる。
長井は、うっひゃっひゃっ、と小馬鹿にしたように笑いながら、腕を組むと人差し指で頭をとんとんと突いた。
「何時の間にスッたんだ」
と、田中が手の中の石と長井を交互に見ながら尋ねた。
「さっき、こいつらの前を通り過ぎたときに盗ったんです」
翼による低空飛行とスリの能力を兼ね備えた長井の石は、黒琥珀。
黒玉とも呼ばれ、その場にあるどの石よりも深く、濃い黒色をしていた。
「にしても、きったねー石だな。いらね」
手の中に持って最後の濁った石は、空になった空き缶のように後ろに投げられた。慌てて田中がそれを追いかけてキャッチする。

252 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:17:47

パキン、と乾いた音が響くと、田中の手の石から炭が剥がれ落ちるように、黒い欠片が浮き上がった。
それは空気中にさらさらと流れ、ついには消えて無くなった。
それと同時に男たちは目が覚めたようにハッと顔を上げ、元の目の輝きをとり戻したのだ。
黒い欠片の呪縛から解かれ、石に関する記憶を失った男たちは自分が何をしていたのかも覚えていない。
丁度目に入った田中と長井にとりあえずお辞儀をすると、首を傾げながら街のイルミネーションの中へと消えていった。

「おーい、やったじゃねえの!儲け儲け!」
石を一気に大量に手に入れ、テンションの上がった田中は石を手の中でじゃらじゃら転がしながら長井に向き直った。
「…まだですよー」
くっつき虫を丁寧に一つ一つ外しながら、長井が言った。
田中を抱えて飛んだ為に、全員の石を盗む事が出来なかった。
残ったのは、二人。目を細めてその姿を凝視する。
「ん〜…誰、だ…?」
逆光と暗闇で顔が見えないが、明らかに動揺しているのが分かる。片方が隣の男(相方だろうか)にひそひそと耳打ちする。

「なあ、もう逃げようって、長井さんに勝てるわけないだろ」
(ん…?)
微かに聞こえたその声に長井はひどく聞き覚えがあった。
もしかして…。顔を確かめようと一歩踏み出す。
すると、二人の男はぎくっ、と肩をすくめ猛ダッシュで逃走し始めた。
「ちょ、待てこらぁー!」
田中が怒鳴るが、それで止まる人間が居るはずもない。むしろ逆にスピードを上げてしまう位だ。
長井のコートには未だくっつき虫が付いており、羽根を広げられる状態ではない。
「おいちょっと、逃げちゃうよ、逃げちゃう!」
「うーん、任務は失敗と言うことで…」
「そうは行くかっ!」
田中は長井からコートをもぎ取ると、ぷちぷちとくっつき虫を外し始めた。
乱暴に外すと上等な生地がほつれる、と長井が言ってきたが、そんなことは田中にとってどうでも良い事だった。むかついたのでわざと糸が飛び出すようにむしってやった。
あっというまにくっつき虫を全て取り除き、長井にコートを着せる。
「よっしゃ、行け長井―っ!」
「俺は的士じゃないんですよ…」
ブツブツと愚痴りながらも、長井は田中の両脇に腕を差し込み、背中から持ち上げる体勢になった。

253 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:19:25

真剣な顔つきになり、標準を合わせる為に意識を高める。無駄な動きは御免だ。真っ直ぐ、奴らの背中へ。
次の瞬間、二人の体がぶわっと浮いたと同時に、長井は羽根を大きく羽ばたかせ前進した。
地面との距離は、それほど離れていない約二メートル。
冷たい風を顔に受け、逃げる二人組めがけて一直線に向かっていく。

「今だ!」
「え?…ぎゃっ!」
長井は二人組にぶつかる直前に、頭の上を跨ぐようにぐん、と急上昇した。

「低空ミサイル!」
同時に田中を支えていた手をぱっと離す。
二人組は真上から降ってきた田中を避ける余裕もなく。
二人…いや、三人はもつれるように地面に叩きつけられた。

「…1…2…」
地面に降り立った長井が腕時計を見ながらカウントする。
「…3」
三まで数え終わると、ぱりんと黒い欠片がはじけ飛んだ音が小さく響き、田中の下敷きになったまま気絶した二人の手から、浄化された石が転がり落ちた。
石は長井の革靴に当たり、それ以上転がるのを止めた。
「あだだだっ…」
田中が頭を振りながら起きあがる。
「痛えよ…」
もう怒鳴り散らす元気も無いのだろうか。ぽつりと呟くと、ぶつけた頭をゆっくりと撫でた。
それを見て少し反省した長井はスミマセン、と浅く頭を下げたのだった。

「早くどいてあげた方が良いんじゃないすか?」
「え?ああ、そうそう。誰なんだよこいつら…」
哀れ、下敷きになって気絶した二人の顔を覗き込む。
田中は声を上げた。それは、良く見知った顔だった。


「…で、説明して貰おうか?猿橋、樋口」
額に絆創膏を貼り、花壇の縁に座っているのは田中や長井と同じ事務所「タイタン」に属するコンビ、5番6番の猿橋と樋口だった。
自分たちの利益の為だけに悪いことをするような人間では決してないことは、二人を可愛がっていた田中にも分かっていた。
「俺たち、石拾ったのはいいものの…直ぐに黒の奴らに捕まっちゃいまして…」
「操られたくなかったら、黒い欠片どんどん他の奴らに渡せって…」

254 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:20:45

「つーか、大体猿があそこでこけなかったら逃げ切れたんだぞ!」
「なんだとー!」
勝手に喧嘩を始める二人を諭し、やっと理由の分かった田中はふう、と息を吐いた。

「もう大丈夫だって。破片も破壊したし、今度何かあったら俺んとこ逃げてこい」
怒られると思っていたのか、今まで顔を強ばらせていた猿橋も、樋口も、その頼もしい言葉にほっと胸をなで下ろした。

「今度こそ、仕事お終いっと」
長井はコキコキと首を鳴らし、煙草を取り出そうとした。
その時。

〜♪
携帯の着信音が乾いた夜空にけたたましく鳴り響いた。
長井はうざったそうに携帯を開き、耳に当てる。
「はい、もしも…し…、…っ!」
目が開かれ、分かりやすいくらい顔が引きつって行くのが分かった。
長井のそのただごとでは無い様子に、田中たちの間に緊張が走る。

「どうした?」
「……女房です…」
「は?」
錆び付いたロボットのように固まったまま首だけ向け、長井が言った。
「連絡を入れるのをすっかり忘れてた…!」
「…ご愁傷様」

離れていても長井の妻の怒った声が聞こえる。
慌てながら必死に「ごめん」「違うって」「そうじゃない」と弁解する長井に相方の姿を重ねながら、爆笑したい気持ちを抑え、猿橋と樋口と共に祈るように手を合わせるのだった。

5番6番の二人からは石を取らず、浄化された石のみを小さな袋の中に入れる。
この石たちを誰に渡すかは実はまだ考えていない。
同じ事務所なら、そうだ。橋下弁護士にでもあげちまうか?
などと下らない冗談を考えながら、新しい主を求める色とりどりの石を見詰めた。


時刻は、既に午後10時。
長井が妻に怒られるのは、可哀想だがどうやら確実のようだ。

255 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:24:16
長井秀和
石…黒琥珀(黒玉)
能力…黒い服をコウモリのような翼に変え飛行する
   また、相手とすれ違う瞬間に持ち物を一つだけ盗む事ができる。
   飛行は、もの凄く速く飛べるがその分ブレーキや旋回が困難。
条件…黒い服を着ていないといけない。酷い汚れが付いていたりすると飛行できない。

256名無しさん:2006/01/10(火) 17:35:28
乙!おもしろかったです。
長井さんもバクモンもよくキャラが出てるなあと思いました。
本スレ投下OKだと思いますよ。

257kzd34:2006/01/20(金) 23:11:10
初めまして。私も、皆さんの小説を読んでて書きたくなりました・・。
『午後三時のハイテンション』の続き?っぽくしたいのですが・・(汗)           
白ユニットも、本格的に『メンバー集め』をする?と言う感じです。
殆どアンガールズが目立つと思いますが、が・・頑張って書かせて頂きます。

258kzd34:2006/01/20(金) 23:37:30

『とにかく今は、こっちもメンバー集めて力を溜めるしかねえからな…』

数日前、『白ユニット集会』で言っていた上田の発言は正論だった。
こうしている間にも・・・『黒ユニット』は確実に仲間を増やしている。
今のままでは、お世辞にも『黒ユニット』に勝てるとは思えない。

そこで、田中と山根は…新しい『メンバー』を捜そうと外に出た・・のだが。

「ふぅ・・・山根ぇ、案外良い人って居ないもんだねぇ…。」
「うん。て言うより・・・周りが『黒』ばっかりなんじゃない?」

途中で『黒ユニット』と戦ったり、持っている『石』を狙われたり。
挙句の果てには、『黒に入って貰う』と脅されそうな所を逃げ回ったり。

かなり体力を消耗したので、今日は辞めようか。 そう思った、その時だった。

「?・・・アレ?ねぇ、田中さん。ちょっと・・・あれ見て。」
何か不審な事に気付いたのか、山根はしきりに田中の腕を引っ張る。
「・・ちょっと。俺疲れてんだからぁ!・・・ったく、一体何っ・・・!?」

文句を言っていた田中も、山根が指差す『不審な光景』に気付いた。
…『黒ユニット』の奴等だった。しかも、2人もよく知っている人物。    

3人の『芸人』に囲まれている、白い服の『女性』が見えた。

259kzd34:2006/01/21(土) 00:05:50

芸人の方は、見覚えが有った。『エンタの神様』で何度も共演している。

・・・だが。もう1人の『女性』の方は、2人も初めて見る人物だった。
見つからない様に、用心して『4人』の方へ近付いて様子を見てみる。

『芸人』の方は…『POIZUN GIRL BAND』と『いつもここから』の菊池だった。
『女性』の方は…少なくとも『女芸人』の中には居ない。 誰だろう?

180cm以上はある身長。少なくとも、2人の身長と同じくらい有る。
かなり細身な身体を包む、真っ白なカーディガンとズボン。真っ黒な肌着。
白い肌によく生える、鮮やかな紅茶色の髪。白い帽子を深めに被っている。
『男性』か『女性』かの性別の判断が難しいが、おそらく『女性』だろう。


胸元には、華奢なチェーンに通した…淡い紫色の『宝石』。 …『宝石』?  

2人は…否。その場に居た全ての『芸人』が、これを感じた筈だ。


その『宝石』は…明らかに、自分等『芸人』の持つ『石』と同じだった。

260kzd34:2006/01/21(土) 00:10:19
…(完全燃焼)こ、今回の投稿は、ここまでにさせて頂きます。
感想・苦情・批判!何でも良いので…この作品に対する言葉を下さい!!
皆さんが『読みたい』と言って下されば、続きを書かせて頂きます…。。

261名無しさん:2006/01/21(土) 02:03:11
乙。話が短い、からもう少し読みたい。
全体としてはいいと思うけどちょっと短いから分からない。

それと山根ちゃんってOFFでは田中さんの事『卓志』って呼んでるって聞いた事ある。
思い過ごしだったらごめん。

262kzd34:2006/01/21(土) 14:42:18
…あ、有難う御座います!参考になります…。(メモを取っている)
確かに、少し遠慮しすぎて話を短くしすぎましたね…スイマセン!!
山根さんはオフでは『卓志』って言うんですか…分かりました!!(再びメモ)
今は出来ませんが、・・・後でまた話を進めさせて頂きます!!

263名無しさん:2006/01/21(土) 14:48:02
ごめん、小説自体は好きだけどその話し方は直したほうがいいと思った。
時によっては叩かれそうだから・・・ここなら結構大丈夫そうだけど。
他の部分は好きだし今後も期待してる、頑張ってください。

264名無しさん:2006/01/21(土) 18:17:43
乙です。続きがもっと読みたいです!
あと正しくは
POISON GIRL BANDです。
POIZUNになってますよ

265kzd34:2006/01/21(土) 19:58:22
…(恥ずかしい) 修正感謝です!!! 有難う御座いました!!
自分の文章力の無さに自己嫌悪…orz 
でも、読んでくれている皆さんに一番にお礼を言います! 
後でまた書かせて頂きますので…。 (書き直したい…(涙))

266kzd34:2006/01/21(土) 21:01:28

「卓志。…あの石、何か変じゃない?」「…急に呼び方変えないでよ…。」

逸早く、石の違和感に気付いたのは山根。言われて、田中も気付いた様だ。
明らかに『普通の宝石』では無い。自分達が持っている石と『同類』だった。
…だが。あの『石』は、本来自分達『芸人』が持っている筈なのに。

と言う事は、あの女性も『芸人』なのか? …謎は深まるばかりだ。


「・・・失礼ですけど、その『石』は何処で拾ったんですか?」

先に沈黙を破ったのは…『POISON GIRL BAND』の一人、吉田だった。
声色に、少なからず動揺の色が見られる。…当然といえば当然だろう。

当の本人は、質問には答えない。しかし『拾った』訳ではないらしい。
自体は分からない筈なのに、石を手で包み込む。…守ろうとしているのか?

「…その『石』は、本来俺達『芸人』が持つ物なんです。」 
質問に答えない相手に苛立ったのか、次第に『苛立ち』が混じる。
「…もし、貴方が『芸人』なら…『黒ユニット』に入って貰います。」

『黒ユニット』 この言葉を聞いた途端、彼女は『石』から手を離した。
「…逃げるのかな?」「…多分ね。あの3人…結構強いらしいから。」
2人は『石を渡して逃げる』と予想を立てたが、見事に外れてしまった。

彼女は逃げなかった。…それどころか、3人の方へ一歩近付いて行った。

267名無しさん:2006/01/21(土) 21:34:42
あんまり長々と反省文書かないほうがいいとオモ。
自己嫌悪もほどほどに。

268 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:45:10
「新しい石の能力を考えよう」スレで、チュートリアルの石の設定を投下した者です。
チュートリアルの二人の短編を書いてみました。他の芸人さんは名指しでは出てません。
二人が石を手にしてから、徳井さんの能力が目覚める時のお話です。
初めてで不安なので、こちらで添削していただけると嬉しいです。

269 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:46:24
 徳井義実は今、まさに仕事を終えて帰路につくところだった。
 今から飲みに行くからお前も来いよ、と言った相方の福田の誘いを断り、徳井は夜の街を一人で歩いていた。時折人にぶつかりそうになるが、上手くそれを避けながら歩く。
 道沿いのとある店の前で、徳井はきらりと光る石の存在にふと気が付いた。店の中の明るさのせいで、その石は特に目立って輝いている。徳井はそれに興味が湧き、拾い上げて手の中で転がした。
「きれいな石やな」
 ぽつんともらした、石に対する感想。石は透き通ったグリーンで、その色はマスカットを連想させる色であった。女性が身につけるアクセサリーとしてもよく見かけるような、少し大きめの石である。道端に転がっていたのだが、この石の運が良かったのか一つも傷がついていなかった。
「まあ、持っといても悪うないやろ」
 徳井はそう呟いて、石についたほこりを息で飛ばした。その瞬間、微量についていた砂のようなものを吸い込んでしまったが、全く気にかけずそれをさっとジーンズのポケットに入れた。太股に石が入っている感覚があるなあ、と当たり前のことをぼんやりと思い、徳井は再び自宅に向かって歩き始めた。

270 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:47:41
「昨日な、きれいな石見つけてん」
 徳井は次の日に早速、相方の福田に昨日拾った石を見せた。福田はふうん、と言い、それをしげしげと見つめていた。
「ほんまにきれいやなぁ。どっかで買うたん?」
「いや、道に落ちてたから拾っただけやねんけどな」
 そう言うと、福田は苦笑した。
「なんや、ほんなら汚いやん。さっさと捨ててまえよ」
「え。昨日、家帰ってからちゃんと洗ろたんやけど」
「そういう問題やないやろ。たかが落ちてた石に執着心持つやなんて、変な奴やなぁ」
「うるさいわ」
 いちいち突っ込んでくる福田をかわし、徳井はそれを再びポケットにしまった。しまう時、その石が不思議と熱を帯びているように感じられたが、特に気を留めることもなかった。


 その後、楽屋で髪型を整えていると、そうや、と思い出したように福田が呟いた。
「石ゆうたら、昨日俺ももらったわ。ファンの子のプレゼントの中に、一つてごろな大きさの石があってん。まあ相手は小っちゃい子なんやろな、『きれいだったからあげます。がんばってください。』なんて手紙が一緒に入ってて」
 福田はそう言うと、自分の持ってきたバッグの中を探し、徳井の目の前に出した。徳井はそれをしげしげと見つめ、ふうん、と言った。
「お前のも緑色やな。それにしてもグレーのふが入ってたりして、なかなかセンスええやん」
「そやろ? 俺あんまりアクセサリーとかつけへんけど、これはなんかお守りとかになりそうやから、袋に入れて持ち歩くことにしてん」
「ほう」
 どういう風の吹き回しなのやら、と徳井が笑いながら呟くと、福田は拳を振り上げて叩くような仕草をしたが、彼も徳井同様笑いをこらえきれない様子だった。
 そこで改めて福田の持っている石を見つめる徳井。福田の石はまろやかな緑色で、先程徳井も自分で言ったとおり、グレーのふが入っている。形も質感も違うが、同じ緑っぽい色の石ということで、徳井は不思議な親近感を持った。
 徳井はしばらく眺めてから福田に石を返し、再び鏡の前に立って自分のみだしなみを整えることに集中した。
 ――自分の“石”がますます熱を帯びていることに、全く気づかぬまま。

271 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:48:53
「はいっ、どうもチュートリアルです」
「よろしくお願いしまーす」
 いつもの挨拶で始まった漫才。二人の登場で観客が沸き、二人はいつもの調子でネタを始める。
 そう、最後までいつもの調子でできていたはずだったのだ。
 徳井がズボンのポケットの中に、何か熱いものを感じるまでは。
 ――ん?
 一瞬顔をしかめる徳井。その後、そういえば拾った石を入れたままだったなあと思ったが、何故それが熱く感じるのかまでは説明できず、徳井は一瞬ネタを続けることを忘れた。
「なんや、どないしたん徳井くん?」
 相方の福田にツッコまれ、徳井ははっと我に返る。福田は苦笑しながら、続けてツッコんできた。
「また変な妄想でもしてたんちゃうやろな?」
「いや、ちゃうねん。だからお前がな――」
 相方のフォローに感謝しつつ、徳井はネタを続ける。観客はそれもネタの内なのだろうと思っているようで、気に留めることもなく二人のやりとりに笑っていた。
 自分たちの出番中、徳井はずっと熱いのを感じたままだった。ネタが終わってから石がどうなっているのか確かめよう、と思いながらネタを終わらせ、舞台のすそに引っ込んだ。


 出番が終わってから、徳井は案の定福田に先程のことを訊かれた。
「ほんまにどないしたん? 急に喋んのやめたから、びっくりしたで」
「いや……」
 徳井はそう言いながら、ズボンのポケットに入れていた石を出した。手のひらに載ったその石はやはり熱を帯びていて、徳井は首を傾げた。ずっとポケットの中に入っていたから熱い、というような熱さではない。石自身が熱を発しているようである。
 福田は不思議そうに石を見ている徳井を覗き込んだ。
「なんやお前、こんなもん入れてたん? さっきの石やないか」
「うん……なんかこれな、熱持ってるような気がすんねんけど」
「え、熱? お前のズボンの中で温められてたんちゃうん?」
「いや、そういう熱さやないねん」
 そう言って徳井は石を福田の方に向けたが、福田はまだ信じられないといった様子だった。
「どれ、ちょっと貸してみ」
 福田がそう言うので、徳井は福田に石を渡した。福田は石を受け取って手のひらで転がしていたが、すぐに首を傾げて徳井に石を返した。
「俺は別に、なんも感じひんねんけど……」
「えぇ? 俺の手の感覚がおかしいんかな」
 徳井に返されたその石は、確かに今も熱を帯びている。徳井の手の中では熱く感じるのに、福田はそれを感じないとは。全く訳が分からない。
「まあ、その石のことは後にしよ。考えて分かるようなことちゃうみたいやし」
 福田がそう言うので、まあそうやな、と徳井も同意し、二人は楽屋へ戻ることにした。

272 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:50:20
「なぁ。その石、まだ熱い?」
「ん、ああ、まだ熱持ってる。焼け石ほど熱くはないけど……まあ、カイロぐらいの熱さやな」
 楽屋に帰るなり、福田はその石のことを話題に出した。徳井の手に握られた石は、まだ熱を保ったままだ。少しも冷たくなるような気配を見せない。
 徳井の返事を聞いて、福田はふうん、と言いながら、どこか腑に落ちないといった顔を見せた。
「なんか変な石やなぁ。やっぱり捨てた方がええんちゃう?」
「そうかなぁ。でもな、なんか捨てたらあかんような気がすんねん……」
 徳井がそう言うと、福田は再び苦笑した。
「変な奴やな。別にそんな石、持ってたって何の得にもならへんやん。お前の場合、誰かからプレゼントされたとか、自分で買ったとかでもないし」
「うーん……」
 福田の説得は確かにそうだと納得させられたのだが、徳井はまだこの石を捨てる気にはなれなかった。勿体ないからとか、そういう理由ではない。何故か、これは自分の手元に置いておくべきものだという気がしたのである。
 座ったまま考え込む徳井、その隣で徳井の反応を窺う福田。そうして二人の間に、沈黙が流れた時だった。


 コツコツと、楽屋の扉がノックされ、二人は同時に扉の方を振り返った。
「どなたですか?」
 福田がそう答えると、相手はくぐもった声でこう言ってきた。
「すいません、ちょっと中に入ってもいいですか?」
「はあ、別にいいですけど」
 いきなり何やろう、と徳井にだけ聞こえるよう呟き、首を傾げながら、福田は立ち上がって扉を開けた。外には見たことのない男が立っていて、顔を隠すようにうつむいていた。
「僕らに何か用ですか?」
 福田が訊くと、相手の男はうつむいたまま言った。
「石、貸してくれませんか?」
 徳井と福田は一斉に顔を見合わせた。石と言われて思い当たるのは、徳井が今手にしている透き通ったグリーンの石である。二人は怪訝そうな顔をし、福田は男に再び問いかけた。
「石なんて、何に使うんですか?」
「いいから、早く貸してください。説明は後です」
 男は苛立ちを隠せない口調だった。名も名乗らない人物からそんなふうに言われ、福田もさすがにカチンときたようだ。不機嫌そうな顔をしながら、同じく苛立ちのこもった口調で返した。
「もう何なんですか、いきなり石を貸してくれなんて。理由もないのに、そんなもん貸せませんよ」

273 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:51:32
 そう言った瞬間、男がガバッと顔を上げた。あまりにも突然のことだったので、福田は「うわっ」と声を出して二、三歩後ずさった。
 男は二十代後半といった感じの顔立ちで、表情を見れば明らかに怒っているようである。二人が知っている若手芸人にも、スタッフの中にもこんな人はいない。誰やねん、という疑問を口から発する前に、男の方が二人の方を向いて口を開いた。
「この二人はお人好しやから、すぐに石渡してくれるって聞いたのに……話が違うやないか」
「な、なんやねん、いきなり」
 福田が多少驚きつつそう言うと、男はふんと鼻を鳴らした。
「まあええわ。こうなったら、力ずくでも石を渡してもらわな、な」
 そう言うなり、男は一番近くにいた福田の方に飛びかかってきた。福田はなんとかそれを食い止めたが、徳井は慌てて立ち上がり、福田の方にかけよった。
「福田! ……お前、何すんねん!」
「ちっ、こいつ石持ってへんみたいやな……ほんならお前からや!」
 男は福田に乗りかかりながら一人でそう吐き捨て、今度は徳井の方を睨んだ。
 徳井は今、手にあの石を持っている。力一杯握りしめているせいか、石にこもっている熱がより一層増して感じられた。
「福田、お前も石、出しとけ」
 横で倒れている相方にそう囁き、福田が頷いたのを確認して、徳井は立ち上がって男を睨み返した。男は徳井を睨んだまま動かない。
 自分の隙を窺っているのかもしれないと、徳井は用心しながら後ずさりした。福田が自分の鞄から石を取り出す時間稼ぎをするつもりだった。
 男の後ろにいる福田は、ゆっくりと自分の鞄に向かって動いていた。徳井はそれでいいと小さく頷き、男に視線を戻した。
「なんや。いきなり俺らの楽屋に入ってきて、挨拶もなしにこれか」
 我ながら冷たい口調だ、と思いながら、徳井は改めてキッと男を睨む。男はそれでも動かない。視界の端で、福田が鞄からそろりそろりと石の入った袋を出すのが見え、徳井は再び声を発した。

「どこの誰か知らんけど、『人の楽屋に挨拶もなしに入ってくんな!』」

 その瞬間だった。

274 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:53:00
 バン、と何かが破裂したような音が響き、徳井を睨み付けていた男は楽屋の外に吹っ飛ばされた。徳井も一瞬、何が起こったのか分からずぽかんと口を開けていた。
 男はくそっ、と言いながら立ち上がり、再び二人の楽屋の中に入ろうとしたが、何故か楽屋の中に一歩踏み出すだけで外に吹っ飛ばされていた。
 徳井は慌てて自分の手の中にある石を見ると、石からは光がこぼれていた。相変わらずじんじんと熱さは伝わってくる。まさかと思いながら、徳井は石をじっと見つめていた。
 相方の福田も自分の石を持ったまま立ち上がり、徳井の方を信じられないという目つきで見ていた。
「なんや……何が起こってん?」
「俺にも、さっぱり分からへんねんけど」
 徳井は首を横に振った。その間にも男は何度も楽屋の中に入ろうとしていたが、その度に何かに吹っ飛ばされていた。まるで扉に、何かの結界が張ってあるかのようだった。
 二人が首を傾げて男を見つめている間に、男はここに入るのは無駄だと悟ったのか立ち上がり、
「く、くそっ、覚えてろよ!」
 お決まりの捨てぜりふを吐いて、その場を立ち去っていった。
「な、なんやったんや、一体……」
 二人が同時にそう発した時、外から他の芸人の声がした。
「おっす! なんかあったんか?」
 その芸人はきょとんとした顔で二人を見つめ、二人が驚きで固まっているのを見て、苦笑した。
「なんや二人とも固まって。お化けでも見たような顔してるぞ?」
 そう言い、二人の楽屋に足を踏み入れる。
「あ、入ったら――」
 あの男のように見えない結界のようなものにはじかれるのではないかと思い、徳井は咄嗟に声を出したが、その芸人は難なく二人の楽屋に入ってきた。
 二人はきょとんとし、顔を見合わせる。さっきのは一体何だったのだろう、と。
 とにかく、楽屋に入ってきたその芸人を何でもないと言って追い返し、二人は楽屋の扉を閉め、一気にため息をついた。
「な、なんか知らんけど、疲れたな」
「ほんまに何やったんや、あれ」
 二人はそう言いながら、手の中にある石を見つめる。徳井の石は先程までの熱が失せ、すっかり冷たくなっていた。福田の石は以前と全く変わりがない様子である。

275 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:53:36
 石の確認が終わったところで、徳井がぽつんと呟いた。
「俺が『挨拶もなしに人の楽屋に入ってくるな』って言うた途端、あいつ吹っ飛ばされたよな?」
 そうやな、と福田は頷く。それを確認してから、徳井は続けた。
「でもさっきのあの人は難なくここに入ってこられた……なんでや?」
「うーん……ようわからんなぁ」
 福田が首を横に振って分からないという顔をしたので、徳井もがくりとうなだれたが、その後すぐにがばっと顔を上げ、そうや、と叫んでいた。
「あいつ、挨拶したよな? 『おっす!』って、ちゃんと」
「あ、ああ、してたけど……まさか、挨拶したからここに入ってこられたって言うんとちゃうやろな?」
「まあ、とりあえず試してみたらすぐ分かるやろ」
 そう言うなり、「おい!」と叫ぶ福田を無視して、徳井は楽屋を出て後輩の芸人を連れてきた。連れてこられた後輩芸人は怪訝そうな顔をして、徳井を見つめていた。
「とりあえず、何も言わんとここに入ってみ?」
 徳井は後輩芸人にそう命じた。後輩芸人は何を言っているか分からないという顔をしながら、言われたとおりに楽屋に足を踏み入れた。
 その途端、後輩芸人は後ろに吹っ飛び、ちょうどそこにいた徳井に受け止められた。
「な、なんなんですか、これ」
 後輩芸人は驚いている。徳井はははっと笑うと、今度は挨拶をしてから楽屋に入るよう命じた。後輩芸人は頷き、「失礼します」、と言ってから、おそるおそる楽屋に足を踏み入れた。
「あ、あれ? 入れる……」
「ほんまや、入れるやん」
 後輩芸人と福田が同時に言葉を発し、徳井はまたははっと笑った。
「やっぱりな。……あぁ、時間とって悪かったな、もうええで」
「は、はあ」
 後輩芸人は何が何だか分からないという顔をしながら、徳井に言われたようにその場から立ち去った。徳井は楽屋に再び入り、福田に向かって得意そうな笑顔を見せた。
「やっぱりそうやったな。多分俺の言ったことに反応して、ここに挨拶せん奴は入ってこられへんよう、結界でも張られたんちゃうか?」
「まあ、そうみたいやけど、なんでや? この石がそうしたんか?」
 福田の問いに、徳井は頷いた。
「多分そうやと思う。その後、この石光ってたし、後で熱も冷めてきたし……この石、なんか不思議な力があるみたいやな」
 ふうん、と福田が納得したようなしてないような表情を見せ、頷いた。
 徳井はその石をズボンのポケットに大事そうにしまうと、立ち上がって福田の方を向いた。
「まあ、とにかく一件落着や。後で飲みに行くか?」
「おっ、ええな。昨日みたいにつれないこと言うなよ?」
「もちろんや」
 福田も鞄の中に石の入った袋を大事にしまい、二人はいそいそと帰る準備を始めた。
 福田の石がじとりと熱を持ち始めていたのを、二人は知るよしもなかった。

276 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:56:53
これで終わりです。短編というには長すぎたかもしれません…
ご指摘等ありましたらよろしくお願いします。

277名無しさん:2006/01/22(日) 10:25:05
乙です。
徳井の石って、能力スレにあったやつ?

278 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 10:55:46
>>277
そうです。能力スレの290にあるのがそれですね。

279kzd34:2006/01/22(日) 15:10:06

予想外の行動を取った『彼女』は、吉田の目の前まで近付いた。

「…『黒』に入ってくれるんですか? それとも、『石』を…?」
言葉の変わりに、首を横に振った。…つまり『否定』した事になる。
この返事に苛立ちが頂点に達したらしく、感情を押し殺した様な声で言った。


「そうですか。それなら…力づく、と言う事で良いですよね?」

そう言うと、手首に巻かれていた『包帯』をゆっくりと解いた。
傷口から滴り落ちる『血液』は、地面には落ちず『空中』に集まった。
血液で鋭利な『ナイフ』を作り出す。それを、彼女の首筋に宛がった。

「…恐くないんですか?もしかしたら、死ぬかもしれないのに。」

首筋から少量の血が滴り落ちる。それは、白い服に『赤い染み』を作った。
ナイフを避ける事も逃げる事もせず、帽子に隠れた顔は相手を見続ける。                                                                  
「…コレくらいで痛かったら、この『石』は守れませんよ。」
初めて彼女が発した『声』は高くも無いが低くも無い。
だが、表情が見えない分『声色』が…彼女の『感情』を表している。

『石』を守ろうとしている。 そんな『守護心』が、彼女から伝わる。

吉田は、血液を『液体』に戻す。そして、新たな『武器』に作り変えた。
「初めてですよ。俺がここまでしても、少しも恐がらないなんて…。」
「やっぱ『石』の持ち主だから?」「…それは関係無いと思うけど。」「そう?」
阿部との短い会話を終わらせ、また彼女の方へ『武器』の矛先を向けた。

「…後悔しても、知りませんから。」 彼女の『石』が、淡い光を放った。

280kzd34:2006/01/22(日) 15:54:15

紫色の『光』が、彼女の身体を取り囲む。暫く立つと…『光』は消えた。
否、消えた訳では無かった。彼女の『両足』に、淡い紫色の輪が見えた。

「この石は『アメジストドーム』。…意味は『気の浄化・強い洞察力』…」
「…見た所、対して強そうな石に見えませんけど?」「そして、もう1つは…」

言い終わる前に、吉田は彼女の身体に血で作った『ピアノ線』を放った。
捕まえた筈だった。数秒前までは、彼女は『吉田の目の前』に居たのだから。

それが何故、彼女は『吉田の後ろ』に立っているのだろうか?

「…『冷静な判断力』。貴方の攻撃を、全て『見させて』貰いました。」
冷静に言い放つ彼女に、隙を作らせないほどの速さで『攻撃』を仕掛ける。
だが、彼の『ピアノ線』は地に落ちた。すぐ隣には、彼女の姿が有った。
「…『見える』んです。相手の放った攻撃の『未来の動き』が、全て。」
そう言い放ち、彼女はゆっくりと振り向く。彼は軽い『怪我』をしていた。

「…捕まえようとしても無駄ですよ?相手の動きは、全て『お見通し』ですから。」
彼女が一呼吸整えると、紫の輪は消えた。どうやら『石の力』を解いたらしい。
「…自分は、芸人じゃ有りません。…でも、石の事は知り尽くしています。」

吉田の顔に『傷』が有る事に気付くと、彼女は『紫の光』で傷を癒した。

「…『黒』でも『白』でも無いけど、この戦いには『参加』させて頂いてます。」
そう残して去ろうとする彼女。 だが、その動きは菊地によって封じられた。

腕を捕まれていたのだ。その腕からは…僅かな量の『血』が流れていた。

281名無しさん:2006/01/22(日) 19:47:06
◆TCAnOk2vJU さん乙です!チュートキター!
本スレに投下してもいいんじゃないでしょうか。

282 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 20:52:45
>>281
ありがとうございます。
もう一度推敲してから、本スレに投下したいと思います。

283名無しさん:2006/01/24(火) 19:29:02
>>279
自分の杞憂だったら悪いが
まさかのオリキャラとやらではないよな?

284 ◆mXWwZ7DNEI:2006/01/24(火) 20:07:05
チュート徳井の能力みて一部の人にしかわからないような話書いたんだけど
投下よい?

285名無しさん:2006/01/24(火) 20:09:52
>283
自分もそれ思った。
自分が知らないだけかとも思ったんだけど、
「180cmを越える長身の女性芸人」が思い当たらないんだよね。

286名無しさん:2006/01/24(火) 20:57:56
>>279
それより何よりあんまり小出し小出しにしないで欲しい。
一気に読みたいんだが、出来たなら出来た時にやってくれよ。

で、その女性自分も分からないんだが…。

287 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/24(火) 20:59:07
>>284
是非読ませて頂きたいです。投下お願いします。

288名無しさん:2006/01/24(火) 21:14:53
>>279
>自分は、芸人じゃ有りません
と言ってるな。この台詞がどうしても引っかかった。
女性の正体次第では『芸人じゃないと石を使えない』という全体の設定を
台無しにしてしまうぞ。

289名無しさん:2006/01/24(火) 22:24:07
>>285,286
さっきふと気付いたんだが。
あの元女子バレー選手の人じゃないか?
あくまでも自分の予想だけど。

290 ◆mXWwZ7DNEI:2006/01/24(火) 22:25:07
>>284です。
添削よろしくお願いします。

某有明のスタジオの楽屋にて

集合時間は11時。
大阪から毎度通う2人はいつも早めに到着し楽屋でおもいおもいの時間を過ごしていた。
「極上のエロスやぁ〜」
そう呟く徳井が見てるのはエロ本でも何でもなくTVのニュースでやっているどこかの祭りの風景。
「はぁ〜」
ちらっと横目で徳井を見てため息をつく福田。
「お前な?最近やたらとエロスエロスって真昼間から勘弁してや。」
「お前かて巨乳巨乳真昼間から言うとるやんけ!」
「アホ!巨乳好きは常識じゃ!」
ついていけへんとさっき東京駅で買ったおはぎを福田は口に押し込めた。

291 ◆mXWwZ7DNEI:2006/01/24(火) 22:26:07
>>290続き
「ん?ええこと思いついた。」
「常識」「おはぎ」という言葉で何かひらめきニヤリとする徳井。
そしておもむろにポケットから石を出した。
瞬間嫌な予感がする福田。これから徳井がやろうとしていることは幼馴染の勘・・・
・・・否この流れからいってだいたい察しがつく。
「ちょっやめぇ!なに考えとんねん。」
時すでに遅く石は光を放ち始めた。
「よっしゃ!いくでぇ!『おはぎはエロスです!!!』」
チャチャーーーーーーン!!
少なくとも福田にはいつもの効果音が聞こえた。
おはぎ自体の見た目は全く変わっていない。
ただ何かが違う・・・
そう、おはぎを見てると何故かムラムラしてきた。
「うわっやってもうたぁ」
甘いものが苦手だかなんとなく気分でおはぎを買ってしまった自分を軽く恨んだ。

292 ◆mXWwZ7DNEI:2006/01/24(火) 22:26:42
>>291続きラスト
「おはようございます!・・・てあれ?」
そろそろ11時。人が集まりだす頃だ。真っ先に楽屋にきたのは綾部。
「先生!今日も気合入ってますね!エロスの台頭『おはぎ』をわざわざもってきて
 本番前に眺めるなんて!いやぁ〜さすがおはぎ!もうオーラが違いますよねぇ。」
おはぎを見て興奮する綾部。
徳井は満足そうに微笑み、福田はあきれ返った。
すると又吉も到着した。
あの又吉がどんな反応をするのか期待に満ちた目で徳井は見ている。
しかし又吉は挨拶して特におはぎのことは触れずに着替え始めた。
もう石の効果が終わってしまったのかと安心しかけた福田は見てしまった。
又吉の頬が赤く染まっていることに・・・
そんなこんなで打ち合わせも終わり本番が始まった。
ただエロスなものとなったおはぎは誰も手をつけずに楽屋でエロスオーラを放っていた・・・

そうして1日5回のリミットをすべてしょうもないものをエロスな物にかえることに
消費していく徳井だった。

293 ◆mXWwZ7DNEI:2006/01/24(火) 22:30:55
以上です。もう終わってしまった番組ですが思いついたので。
ただ気がかりなのが今他の書き手さんのところにピースがでているのに
こっちでも出してしまったことです。
たいした出番じゃないからよいかなぁと。
添削よろしくお願いします

294名無しさん:2006/01/24(火) 23:40:49
>>289
世界の大林はついに芸人になってしまったのか・・・

295名無しさん:2006/01/25(水) 00:07:32
>>290->>293
乙です!ワイワイワイキター!もう終わった番組でも番外編てことで本スレ投下OKだと思いますよ。又吉の反応にワロタw

296名無しさん:2006/01/25(水) 01:33:03
◆mXWwZ7DNEI さん
乙です!
うわ〜懐かしいですね!
わたしも番外編だったらいいと思います。
というかぜひ投下してほしいです!

297 ◆mXWwZ7DNEI:2006/01/25(水) 17:13:43
>>295>>296
クスです!
後半が適当になってたのでちょっと文章をたしてから
本スレに番外編として投下させていただきます。
ただまだ題名がorz
タイトル決めたら投下しますわ

298kzd34:2006/01/29(日) 00:12:54
今日は頑張って書きます!ここで・・・『彼女』の正体?が明らかになります。


捕まれた腕からは、ダラダラと『血』が流れて地面に落ちる。
彼女は表情を変えない。それどころか、菊地の腕を振り払おうともしない。

菊地の能力は『水操作』。・・・なら、『水の針』を造る事も可能だろう。
だが、彼女の腕が冷たいのは・・・自分の『水』だけの所為では無い。
掴んだ腕からは、人間の『体温』が全く無かった。・・・鼓動も感じない。

それは・・・『死体』と言うよりも、まるで『生きてない』無機質の塊。

血を流しても、顔色1つ変えず『痛い』とも言わない。『涙』も流さない。
不気味に思った菊地は、力を解く。彼女の腕は・・・水と血が混じっていた。
例の『石の力』で傷を癒す。彼女の白い服は、転々と赤い模様が付いている。
「忠告しておきます。・・・私には『痛い』と言う感情が無いんです。」
だから何にも感じません、と付け加えるが完全に信じられる訳が無い。
4人の間に沈黙が走る。傍で隠れている2人は、嫌な空気を感じ取った。

「・・どうすれば良いんだろう・・?」「な・・・何で俺に聞くんだよ・・?」
だが、この場を放っておく訳にもいかない。2人は必死で答えを探す。

彼女は『芸人』では無いと言いながらも、必死で『石』を守っている。
2人は『芸人』であり『白ユニット』として、必死で『石』を守る。

『石を守ろうとしている』 それは、彼女も2人も同じ理由だった。

299名無しさん:2006/01/29(日) 00:34:51
>>298
小出ししすぎ
メモに纏めてから投下しろ
アンガールズ主役か?それ
女訳ワカラナス
それからsageろよ

お前に言いたいのはこれだけだ。
厳しく言っとくが書くならきちんとやってほしい。
作品が良いだけに更にがっかりだから。

300kzd34:2006/01/29(日) 00:53:14

2人は決断した。「・・失敗、するなよ?」「・・お前に言われたくないよ。」

『彼女を安全な場所へ移す』 ・・・些細だが、優先するべき事だと思う。
「・・・で、誰が連れ出す訳?」「卓志。」「じゃぁ、お前は・・?」「後で行く。」
簡単な作戦を立てる。・・・後は、それを実行出来る『チャンス』を待つだけ。
立ち止まる彼女の前へ、吉田が1歩近付いた。手には、血で出来た『武器』。
1歩。・・・まだだ。 2歩。・・・まだ早い。 3歩。・・・もう少し。 4歩。『今だ!』

合図と同時に田中が飛び出し、山根が隠れた場所で『石』を光らせた。
目晦ましには丁度良い『白い光』は・・・案の定、吉田の視線を一瞬外した。

「コッチです!!」 その一瞬の『隙』を逃さず、彼女を連れて走る。
彼女の手の冷たさに一瞬驚きながらも、必死で離さない様に握った。
彼女の方は多少驚いた物の、田中の手を握っているのに必死な様子。
「待てっ!!」 後ろから声がする。それでも、振り返らずに前へ進む2人。
よく分からない通路を、右や左・・・とにかく。逃げる事で精一杯だった。

走る事数分後、後ろから声はしない。・・・どうやら、逃げ切ったらしい。
田中は疲れ切っている様だが、彼女からは息切れや動機は感じられない。

「だ・・・大丈夫っ、ですか?」「・・・ハイ。それより、貴方の方こそ・・・。」

息をするのが苦しい。彼女の『紫の光』が当たると、不思議と呼吸は楽になる。
一呼吸すると、彼女へ礼を言った。彼女の方も、丁寧に言葉を返してきた。
「・・・さっきから傍に隠れていましたよね?」「えっ!?ぁ・・・あの「田中〜!!」
田中の言葉を掻き消す声。・・・山根だった。どうやら、無事だったらしい。
安堵の息を吐いた田中に「お前、足速すぎだって・・・」と山根の駄目出しが入る。

「はっ・・・走れって言ったのお前だろぉ!?」「限度って言うのを知れよ・・・。」

目の前で始まった痴話喧嘩に、彼女は何も言葉を言わずに黙って見ていた。

301kzd34:2006/01/29(日) 01:04:07
名無しさん!厳しいお言葉有難う御座いました!(sageって何ですか?)
明日、ちゃんと文章を勉強します。なので、今日はここまでにさせて頂きます。
本当に勝手でスイマセン。少しでも、皆さんが楽しめる分を書きたいからです。
ここまでの感想・厳しい言葉!覚悟しているので宜しくお願いします!!

302名無しさん:2006/01/29(日) 09:35:30
sageるには、E-mailの欄に「sage」と入力すればいい。
あと、『痴話喧嘩』の使い方間違ってるよ?辞書引いてみ。

303名無しさん:2006/01/29(日) 15:36:41
kzd34さんへ
三点リーダー「…」の代わりに中黒「・」を使うことの是非はあえて置いておくとして
せめて一つの話の中ではどちらかに統一して欲しい。
「…」自体も使い過ぎ。なんとなく雰囲気で使ってない?
文章を推敲して本当に必要なところだけに使うようにしないと読みづらいよ。

あと既に指摘があったけど
石の使い手の女性が「自分は芸人ではない」と話した点について
これから投下する話できちんと説明されるのかな。
もし全体の設定を引っくり返すような展開になるとしたら
この先を投下する前に進行会議スレで相談したほうがいいと思う。

304 ◆TCAnOk2vJU:2006/02/01(水) 21:26:03
まだ途中までではありますが、チュートリアルが主人公の話を
書いてみましたので、プロローグ部分のみですが載せたいと思います。
本スレに投下しても大丈夫か、チェックお願いします。

305 ◆TCAnOk2vJU:2006/02/01(水) 21:28:40
 とある土曜日、チュートリアルの二人は関西ローカル番組「せやねん!」の収録のた
め、朝早く、収録の二時間前から楽屋入りしていた。
 何故二時間も前に来たかというと、この間の土曜日の収録で二人揃って遅刻してしま
い、他の出演者たちに怒られたためである。もちろん、この時間に楽屋入りというのは普
通の感覚で言えば早すぎるので、他のメンバーはまだ一人も来ていない。
 自分たちの楽屋でめいめい好きなことをしてくつろぎながら、二人は同時にあくびをし
た。
「やっぱり、いくらなんでも早すぎたかなぁ」
「そやな。まだ誰もおらへんしな」
 福田のため息混じりの言葉に答えながら、徳井はいつものようにズボンのポケットに入

れている自分の石を取り出した。徳井の持つ石はプリナイトと呼ばれるもの。その透き
通ったグリーンの色は、果物のマスカットを連想させる。つい先日徳井はこの石を手に入
れ、能力に目覚めたのであった。部屋の光に透かして石を眺めている徳井を見て、福田は
再びあきれたようにため息をついた。
「ほんまに好きやな、その石」
「はは、そう見えるか」
 徳井は笑いながらそう返し、手に持った石をもてあそび始めた。
 福田はそれをしばらく見つめていたが、自分の鞄の中をごそごそとやりだし、自分も徳
井が持つのと同じような石を取り出した。色は徳井と同じグリーンだが、白いふが入って
いてまろやかな肌触りを持つ石である。徳井は福田が石を取り出したのを見て、お、と
言った。
「お前の石な、どんな石かわかったで」
 え、と言う福田に、徳井は言葉を続けた。徳井はインターネットを駆使して、自分の石
や福田の石のことも調べてきたらしい。
「名前はヴァリサイト。物事を冷静に見つめる助けを促すて書いてあった。まあお前には
ピッタリの石なんちゃうか?」
「どういう意味やねん。俺、そんなに冷静でないように見えるんか」
「たまにテンパってる。ツッコミやのにな」
 徳井がそう言って笑うと、福田はうるさいなぁ、と言いながら、さほど不快ではない様
子だった。こういうやりとりは二人の間では日常のことである。幼なじみだから、遠慮な
くこういうことが言い合えるというのもある。そんなやりとりを終えた後、福田は自分の
石に視線を落とした。

306 ◆TCAnOk2vJU:2006/02/01(水) 21:29:23
「そやけど、まだようわからへんなぁ。お前の能力のことも、俺のこの石のことも」
「まあな。俺も自分の能力は把握したけど、この石が一体何なのかまでは掴めてへん」
 石はある日突然、二人の元へやってきた。徳井は道端に落ちていたのを拾い、福田は
ファンからのプレゼントとしてもらったのである。そこから徳井は、二人の楽屋に突然
襲ってきた男を撃退するのに石の能力を使ったことで、能力に目覚めたのであった。
 無論、二人とも最初は石を気味悪がった。あの能力を使えたのは現実的に考えて有り得
ないことであったし、目の前で起きたこととはいえ、とても信じられる話ではなかったか
らだ。
 しかし捨てる気だけはしないという、二つの異なる気分に挟まれた末、二人は今もなお
石を手元に置き続けている。徳井はズボンのポケットに、福田は小さな袋の中に入れて常
に鞄の中に。徳井はそのせいで、ズボンのポケットの中に手を入れて石を触る癖がついて
しまったらしい。
 石の能力に目覚めてから、徳井は自分の石のことについて調べ、また自分で使ってみる
ことで能力を把握した。彼はどうやら、人の記憶や何かの定義、常識などを自分の思うと
おりに書き換える力があるようだった。
 いつだったか飲み会で、とある芸人に冗談を言われ、ズボンのポケットにある石を握り
締めながら「お前俺のこと、なんも知らんのとちゃうか」と言った瞬間、その芸人は徳井
に向かって「誰?」と言い出し、他の芸人が徳井のことをどれだけ話しても、全く思い出
さないという異常な事態が発生したことがある。
 徳井はこれは石の能力だと思い、もしかしたら彼は一生自分のことを思い出さないので
はないか、と危惧したが、何時間かするとだんだんと記憶が戻ってきていた。効果はいつ
までも持続するわけではないということも、ここで分かった。
 一方相方の福田は、石を持ってはいるものの能力の類を発揮できたことがない。福田は
それでもいい、と常に言っていた。これはファンからもらったものなのだから、そんな変
な魔力が封じ込められているわけがないと。そう何度も何度も語る様子は、まるで福田自
身に言い聞かせているかのようにも見えた。
「まあ、別にええんちゃうか。知っても知らんでも、生活に支障はなさそうやし」
「まあな。今んとこ何も起きてへんしな」
 それは事実だった。徳井が能力に目覚めたあの時以来、二人の身の回りで変わった事件
などは起こっていなかった。二人がそう言って、安心するのも当然といえた。
「……おっと、もうそろそろスタンバイする時間ちゃうか」
「ほんまやな。ほんなら行こか」
 いつの間にか時間が過ぎていたことに気づき、二人は腰を上げて楽屋を出て行った。

307 ◆TCAnOk2vJU:2006/02/01(水) 21:30:43
 「せやねん!」の収録は無事に終わった。前回の遅刻に突っ込まれることもなかった。
 二人はそのことに胸をなで下ろしながら、自分たちの楽屋へ戻ろうと廊下を歩いていた
時だった。
 共演者の一人・ブラックマヨネーズの小杉が二人の前に現れたのだ。とても慌てている
様子だったので、気になって徳井は声をかけた。
「小杉、そんな慌ててどうしたんや?」
 小杉は徳井と福田に気づき、おう、と言ってから、心配そうな表情を見せた。
「いや、ちょっと……俺の持ち物がなくなったんや」
 言葉を濁すような言い方だったので、福田は首を傾げた。
「持ち物って、何なくしてん?」
「いや、それがな」
 とても言いにくそうにしている。いつもの彼からは考えられない態度だったので、徳井
は少し笑いながら言った。
「そんなに言いにくいモンて何やねん」
「ほんまや。お前キョドりすぎやぞ」
 福田もつられて笑う。小杉はまだ迷っている様子だったが、ついに観念したように言っ
た。
「……実はな、育毛剤やねん」
 その答えを聞いた瞬間、二人は笑いをこらえきれず、ぶっと言って笑い出してしまっ
た。小杉はやっぱりな、という顔をして顔をしかめている。ひとしきり笑った後、福田は
言った。
「お前、そんなもんなくすて……やばいんちゃうんか」
「いや、ほんま冗談やなくてマジでやばいんやって。お前ら知らんか?」
 そう言って、小杉はとあるメーカーの育毛剤の名前を挙げた。二人はさあ、と首を横に
振り、小杉はそうか、と肩を落とした。
「実は吉田も肌に塗るクリームなくしたって言うてんねん。なんかおかしいわ」
「二人ともなくしたんか? しかもめっちゃ大事なモンやのに」
 福田が訊くと、ああ、と小杉は頷いた。チュートリアルの二人もさすがに笑うのを止
め、一緒に探したろか、と申し出た。小杉は助かるわ、と頷き、二人を自分たちの楽屋に
連れて行った。

308 ◆TCAnOk2vJU:2006/02/01(水) 21:31:28
 部屋の中には小杉の相方である吉田がいて、必死な様子で部屋の中をかきまわしてい
た。小杉が呼びかけると三人の方を振り向き、おう、と手を上げた。
「どうや吉田、見つかったか?」
「いや、全然や。鞄の中とか、全部見たんやけど」
 そうか、と言って小杉は軽くため息をついた。そんな二人の様子を見ていた徳井があっ
と思い出したように言った。
「もしかしたら盗まれたんちゃうか?」
 他の三人はその発言にはっとしたようだったが、すぐに福田がそれはないやろ、と否定
した。
「第一、盗む理由が分からへん。財布とかやったらまだしも、育毛剤と肌のクリームやで?」
「そこなんやけどな。でも、二人とも他の場所に持っていった記憶とかないんやろ?」
 徳井が訊くと、ブラックマヨネーズの二人は同時に頷いた。
「ずっと鞄の中に入れてたはずやねん。やから部屋の中を必死に探してたんやけど」
 ふむ、と徳井だけは納得したような表情を見せる。他の三人はまだ腑に落ちないといっ
た様子で、首を傾げていた。
 その時、突然外から声がかかった。
「おい、小杉、吉田! これお前らのとちゃうんか?」
 四人はその声に反応し、びくっと楽屋の外の方に振り向いた。そこには共演者の一人で
あるたむらけんじ、通称たむけんがいつものにやにやとした顔で立っていた。徳井はため
息をつき、たむらに咎めるような視線を送った。
「もう、驚かさんといてくださいよたむらさん」
 たむらはあはは、と気にも留めていない様子で笑った。
「悪い悪い。それよりこれ、小杉と吉田のモンとちゃうか?」
 たむらがそう言って手に持ったものを差し出してきた。四人が一斉に注目し、一瞬の後
にブラマヨの二人はあっと声を上げる。
「それ! それですわ、俺の!」
「やっと見つかった、良かったわ……」
 二人は安堵したようにため息をついて、たむらからそれぞれの持ち物を受け取った。
「なんか本番が終わってから楽屋に帰ったら、机の上に置いてあってん。こんなん持って
るのは小杉と吉田やろうなあと思って、ここに持ってきたんやけど」
「いやぁ、ありがとうございます」
 こんな物を持っている、とさりげなくからかわれたにも関わらず、小杉と吉田は本当に
たむらに感謝したような顔をしていた。そのからかいに気づいた徳井と福田は、今更突っ
込むわけにもいかず傍らで苦笑していた。
 たむらは二人の嬉しそうな様子を見て、うんうんと頷いた。
「良かった良かった。ほんならまたな。今日はお疲れさん」
「あ、はい! ありがとうございました!」
 慌てたように小杉がそう言って、吉田と同時に頭を下げた。
「まあ、これで一件落着、か?」
 福田が言うと、傍らの徳井がそうみたいやな、と頷いた。
「良かったな二人とも。ほんなら俺らもこれで」
「おう、ありがとう」
 吉田が礼を言い、小杉も軽く頷いた。徳井と福田は手を振ってそれに応えた後、ふうと
ため息をついて、自分たちの楽屋に帰っていった。


 これが全ての始まり。
 とある、土曜日の出来事だった。

309 ◆TCAnOk2vJU:2006/02/01(水) 21:32:39
とりあえずこの辺りでいったん切ります。
ご意見ありましたら遠慮なくお願いします。

310名無しさん:2006/02/01(水) 22:21:44
乙です。
面白いと思います!
本スレ投下は大丈夫だと思いますよ?

311名無しさん:2006/02/01(水) 23:18:04
乙です。面白かったです!てかぜひ本スレ投下してください!

312 ◆TCAnOk2vJU:2006/02/02(木) 00:30:39
>>310 >>311
レスありがとうございます。
今見直したら文章のおかしいところを二、三見つけたので、
もう一度推敲して、明日辺り本スレに投下したいと思います。

313名無しさん:2006/02/03(金) 19:04:23
小説作成依頼スレの45です。
オリラジの話、途中までですが投下。

314名無しさん:2006/02/03(金) 19:05:58

一匹のネズミが排水溝から飛び出してくる。ピタリと立ち止まり、赤い目を光らせながら頻りに鼻の頭を動かしている。
小さな耳は敏感に人間の気配を感じ取り、ネズミは再び排水溝の中へ、枯れ草を蹴散らしながら戻っていった。
カビ臭く湿った路地裏は、街の電光も月明かりも届かない。
唯一の明かりと言えば、大通りを忙しく通り抜けていく自動車のライトのみだろう。
それでも、車が一台通り過ぎる度に、また一瞬だけ真っ暗になる。


そんな塀に囲まれた寂しい場所に小さく響いた、鈍い打撃音。
それと同時に、どさっ、と人が倒れた音が重なる。

派手に倒れたのは未だ若々しさの残る印象の男だった。
衝撃に体を丸めて転がっていたが、殴られた頬を押さえようともせず、がばっと体を起こすと目の前の男を見上げた。
そんな若者の様子が気に食わなかったのか、殴った方の男はあからさまに眉を顰めた。
「お願いします。」
倒れたときに切ったのか、口の端にうっすらではあるが血が滲んでいる。
それでもはっきりした強い声で、若者…オリエンタルラジオの中田敦彦は自分を見下ろす男に縋るように懇願した。
男はそんな中田を嘲り冷たく笑う。
「お前ら、石持ってんだって?大した経験もネタも積んで無い駆け出しの癖に何でだろうなあ。」
ああ、流石“売れっ子”は違うな。と皮肉たっぷりの言葉を浴びせられると、中田の表情が一瞬だけ曇った。
異例の速さで世間に出るようになったことは、確かに喜ばしい事でもあったが、また逆に不安な事でもあったのだ。
中田は怒り出すような真似はせず、再び強い視線を向ける。
クソ面白くない。男は少しむっとした顔を造り、何だよ、とそっぽを向いて口を尖らせた。
「お願いします、慎吾を返してください。」
黒っぽいコケや泥水の散乱する地面に膝と両手を付いて、しっかりと相手を見据えたままもう一度言う。

315名無しさん:2006/02/03(金) 19:08:13
中田の相方である藤森は、自らの持つ石に妙な力があることを知った途端、キラキラと眼鏡の奥の瞳を輝かせ何度も「凄え!」と言って喜んだ。
特別な能力を授かった事が嬉しくて堪らないようだった。
有名大学を出ているのに、と言えば偏見になってしまうが、魔法みたいな力を目の当たりにすれば誰でも舞い上がってしまうのだろうか。
とにかく石を使いたくて仕方がない様子の藤森を、中田は何度となく諭してきた。

慎吾、という名指しに男は一瞬首を傾げたが、直ぐに眼鏡を掛けた青年の顔が思い出される。
暫く考え込んだ後、男は意地悪く微笑んでみせた。
「“ガラクタ”一人でも立派な戦力だからな。」
黒に入ったばかりの、盾代わりにしか使われない下っ端や石を持たない者たちは“ガラクタ”と呼ばれている。
知らないうちに黒の誘惑に負けてしまった藤森もその内の一人に過ぎない。
居ても居なくても関係ないが、居ないよりは居る方が良いに決まってる。と男は言った。

中田からしてみればそんな事が納得できる筈もなく。男の進路を塞いだまま尚も引き下がろうとしない。
「お願いします。」
「口で言って分かんねえなら…、」
男がポケットから取り出した濁った石がボンヤリと光り始めた。
中田は俯き、固く目を閉じた。
その瞬間。

短く潰れた声を漏らし、男が蹲った。


薄く目を開くと、男がしゃがみ込んでいるその後ろに、人影が見えた。
逆光の暗闇でも見間違えるはずもない、見事なまでのアフロヘア。
「早く逃げろって。」
「…藤田さん?」
腕をコンビニの袋に通し、その両手をポケットに突っ込んだまま、トータルテンボスの藤田が片足を上げて立っていた。
男の背中には土が足跡の形にスタンプされている。見たところ、どうやら背中から蹴り飛ばしたようだ。

316名無しさん:2006/02/03(金) 19:09:32
石の能力でも何でもない、何とも野蛮な攻撃方法ではあったが。
背後からの不意打ちキックというものは意外と効くらしく、男は苦しげに咳をする。
「うちの大事な後輩いじめてんじゃねえよ。」
藤田は太い眉をぐっと眉間に寄せ、男を威圧した。
喧嘩はそれ程強くはないが目力だけはある彼に凝視されると、普通の人間なら蛇に睨まれた蛙のように一瞬で戦意を失ってしまうだろう。

男は無言で素早く起きあがると、中田と藤田に目を向けることも無く、早歩きで去っていった。

「誰だあいつ…?おい、大丈夫かよ。」
自分の記憶にない男の姿が消えるのを見届けると、向き直り藤田が口を開き手を差し出す。
「え?…あっ、はい。」
尊敬する“藤田兄さん”が現れた事で呆然としていた中田はその声にハッ、と目が覚めたように顔を上げ、差し出された手を取った。
「あの、いつからそこに?」
「さっきの奴が石取り出した所から。俺が偶然気付かなかったら危ねえとこだったぞ?」

ということは、男との会話は聞かれていないと考えて良いだろう。
中田はホッと息を吐いた。
「危ない所をありがとうございます。」
「お前の方が道路側だったろ。何で逃げないのかねぇ。」
「ち…ちょっと腰が抜けてて…。」
冗談めいた口調でぎこちない笑みを作る。
変な奴だな、と藤田は白い歯を見せて笑った。

317名無しさん:2006/02/03(金) 19:11:00
路地から一歩外に出ると、打って変わってイルミネーションの眩しい景色が目に飛び込んできた。
いきなり明るいところへ出た事で黒目が急速に小さくなるのを感じ、ぱちぱちと瞬きする。
泥が付いた手や服が少しみすぼらしく感じた。

「そうだ。これ、これやるよ。」
突然藤田が声を上げる。
ガサガサとビニール袋の中をかき回し、取り出したのは一本のチューハイだった。
「これから大村と二人で遊ぶんだけどよ。買いすぎちまって。」
返事もろくに聞かず、半ば強引に手に握らせる。
急ぎなのか時計を気にしだし「じゃあな」と手を挙げると早々に踵を返した。
「あ、あのっ。」
つい反射的に呼び止める。
藤田が振り返る。藤森の事を話した方が良いだろうか、と思ったが。
頭の中で必死に選んで出てきたのは「お酒…、どうも。」という言葉だけだった。



結局、先程の男は何処かへ行ってしまい、藤森を取り返す方法も見失ってしまった。
二年ほど前までは普通の大学生であり芸歴も極端に短い上、石を手に入れて間もない自分たちが知っているのは、
まだ先輩から聞かされた「白」「黒」という二つのキーワードのみだ。
所々取り付けられている電灯が道を照らしているだけの住宅街を歩きながらチューハイの缶を取り出した。
「いい人だなあ。」
小さく笑ってポツリと言葉を漏らす。
いつの間にか、その顔からぎこちない笑みは消えていた。

318名無しさん:2006/02/03(金) 19:12:25

「―――ホントにね。」
背後から聞こえた高い声に、表情筋が引きつった。
相方である藤森が電柱にもたれかかり立っていた。
「敦彦、ケガ大丈夫?」
「慎吾…。」
目敏く口元の傷を発見した藤森が心配そうに顔を覗き込んでくるのに対し、中田は一歩退く。
いささかショックを受けたのか、藤森は引き留めようとした手をゆっくり降ろし、それ以上近づかなかった。
「…あのさ、俺相方をこんな形でケガさせたくないのね。だからさ…。」
「黒には入らねえ。」
「何でだよ、あっちゃーん!」
言い切らない内に拒絶され、ネタ中と同じ大げさな口調と仕草で不満の声を上げる。
藤森にビシッと言い聞かせるチャンス。中田は身体ごと向き直った。
「何でも、だ。お前もいい加減…、」
目ぇ覚ませ。そう続けようとしたが。
タン、と軽い靴音が聞こえ、離れた所で石の気配が近づいてくるのを感じた。
だが一秒と経たない内にその気配はあっという間に至近距離までやってきたのだ。
その瞬間、振り向く前に一瞬首筋に鈍い衝撃が走り、中田は地面に崩れ落ちた。
チューハイの缶が転がり落ちる。
「敦彦、敦彦!」
驚いた藤森が慌ててその背中を揺さぶるも、気絶しているのか、中田が返事をすることは無かった。
「あーあー、死んでねえから騒ぐんじゃない。慎吾。」
酷く特徴的な声が降ってくる。その声色は落ち着いていて、いかにこのような状況に慣れているのかを理解させる。

319名無しさん:2006/02/03(金) 19:14:28
“オトナの魅力”が漂う、東京ダイナマイトの松田は「よっこらしょ」と中田の上体を持ち上げる。
意識がある時と比べ、気絶した人間の身体は何倍も重く感じる。
成人男性の全体重がのしかかってくるものだから、壁にもたれかかせるだけでもさすがに骨が折れた。

「お前は、こいつと敵対したく無いんだろ?」
もちろん、と藤森が素直に即答する。
ふう、と一息吐き、松田が小さな黒い破片を取り出した。
「これ使えよ。そうすればこいつはずっとお前の味方だ。」
「本当ですか?やった!」
嬉々として破片を受け取る。
お子様のように笑う藤森に対し、松田の表情は相変わらず複雑なままで。

さっそく藤森はなんとか頑張って中田の口に破片を押し込む。
固形から液体へ変わった破片は勝手に喉の奥へ入り込んでいった。
相方を操ることに抵抗は無いのか?と半ばあきれ顔で松田が眉を顰めるも、口には出さなかった。
取りあえず、よかったな、とだけ言ってやった。

特に藤森は悪いことをしようとは思っていない。面白そうだからという単純な理由で黒に入っただけだ。
彼らの若さ故の過ちとでも思っておこう。松田は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
その前に一つ、藤森に言っておきたい事があった。

「慎吾、お前、自分の力を過信しすぎるなよ?」

「…はい?」
「あー、何でもねえよ。…またな。」
二回言うのも面倒くさい。松田は欠伸をしながら適当にはぐらかし、藤森と別れた。



携帯の着信が乾燥した夜の空気に良く響いた。
「どうしたー二郎ちゃん。……何?任務?…そんなの明日だ明日。」
どうやら『裏のお仕事』の命令らしい。
話を聞いたところ、白の芸人の石を奪うという、いつもの命令だった。
別に今日じゃなくても良い。松田は携帯を閉じ、う〜ん、と背伸びをしながら帰路についた。

藤森と中田のことは出来るだけ考えないように、鼻歌など歌いながら。

320名無しさん:2006/02/03(金) 19:16:51
ここまで書きました。10カラットって番組見たこと無いんで、
バラエティ番組などを見たときの印象のみで書きました。
添削お願いします。

321名無しさん:2006/02/04(土) 14:59:41
面白い。本スレ投下しても全く問題無いはず。
一つ思った事は、慎吾に黒の欠片を渡す芸人を東ダイ松田じゃなくて
東京吉本の先輩にした方がいいんじゃないか?(ポイズンとか)
松田を使うなら藤森の名前を呼ぶ時「慎吾」より「藤森(君)」の方が
自然だと自分は思う。

322名無しさん:2006/02/04(土) 19:05:55
「慎吾」にしてみたのは前に松田が藤森の事を名前呼びしてたので…。
でもやっぱ吉本芸人の方がしっくりきますかね。
今本スレでド修羅場中のポイズンですが、それより以前という設定で
投下してみます。

323314〜319:2006/02/04(土) 19:29:14
一通りスレを見直したところ、2丁拳銃が今どの作品にも出ていないので
こっちを出しても大丈夫ですか?

ちなみに>>322も自分です。

324314〜319:2006/02/05(日) 12:31:30
アワワ…三連続。↑ですが、藤森に黒い破片を渡すのを2丁拳銃に変更したいけどおk?
って意味です。

325 ◆y6ECaJm4uo:2006/02/06(月) 11:39:24
ok。

326名無しさん:2006/02/10(金) 15:57:38
芸人キボンスレの86です。
天才ビットくん話、まだ前半までですが添削お願いします。

327名無しさん:2006/02/10(金) 15:59:44
収録の合間の楽屋、男が一人と女が二人、座って弁当を食べていた。
全員この教育番組内での役柄の衣装をつけたままなので、少々異様である。
「もうそろそろ再開っすねえ」
時計を見上げながらくだけた調子で話すのは北陽虻川。
「…いつもながら、お弁当食べるの早いわねえ。」
その虻川の食欲に呆れているのは、相方の伊藤である。
「だってしょーがないじゃん、腹減ってんだもん」
虻川があっさり返すと、伊藤はため息を一つついてペットボトルのお茶に手を伸ばした。
ありふれた楽屋の光景である。…彼女たちの足首で密かに光る石を除いては。
「そーだお前ら、…ここ最近、黒はどうだ?」
世間話をするように、しかしそれよりは幾分周囲を気にするように声を潜めて、男…上田が言った。
「あたしらは大丈夫っす、石もちゃんとありますし。」
その存在を示すように太ももをぽん、と叩いて虻川が答える。
「若手の中ではちょくちょく聞きますけど、わたしたちは別に…」
声を落とせ、と虻川に身振りで指示しながら、伊藤が小声で続く。
今、楽屋には彼らしかいないのだが、習慣づいてしまったのか…それとも「どこに敵がいるか分からない」という警戒のためか。どのみち関係する人間にしか分からない、隠語のような会話だが。
「そうか。…でも用心しろよ。最近は若手の中でも病院送りになってる奴もいるらしいからな。やっこさんたち、白を引き込んだり何だりに躍起になってっから…ちょいと手荒になってるみてえだ。」
「上田さーん、その台詞全然カッコに似合ってないっすよお」
と虻川がにやにや笑って茶化す。
二人を気遣っての台詞に水を差されて、上田はほっとけ、と渋い顔で茶を飲んだ。
そんなやりとりを見て、伊藤が楽しげに笑っている。
と、その時。ばたん、とドアが開いて、三人は一瞬体をこわばらせた。
「どうもー。」
軽く挨拶をして入ってきたのは、江戸むらさきの二人。
三人は仲間と分かっている連中だと、ほっと緊張を解いた。
「もー、おどかさないでよ。」
「ああびっくりしたあ、噂をすればかと思ったじゃーん。」
「すいませーん」
北陽の二人が笑って言うのを聞いて、野村が苦笑して謝る。
「どこもピリピリしてっからな。そのうち楽屋は合い言葉制になるかもしれねえぞ」
と笑うと、上田は江戸むらさきにも同じ質問をした。
「俺らも最近は別に。」
「なあ。…あ、でも」
何だ、と上田が聞くと、磯山が辺りをはばかるようにそっと言った。
「…ちょっと、気になる人が。」
「誰、だれ?」
虻川が言う。
「……俺の勘違いかもしれないんすけど…」
磯山が言ったその名前の主は一人、隣の部屋で壁にコップを押しつけ、彼らの会話を盗み聞いていた。
滑稽な行動に似合わずその顔は厳しく、そしてどこかもの悲しさがあった。

「………、です。」

その聞き慣れすぎた響きを聞き届け、彼はそっと立ち去る。
それと入れ違いのようにスタッフが上田たちを呼びに来た。
この会話がその後どれだけの騒動を招くことになるかは、彼らは想像もしていなかった。


収録も終わり、上田と江戸むらさき、そして北陽の五人は帰途についていた。
白の芸人は用心のため、なるべく大人数で行動することにしているからだ。
駅までの道を並んで歩いていくと、料理店の多い通りにさしかかる。
「上田さん、ご飯おごってくださーい!」
「俺ら金ないんすよお」
「今日、俺がんばったじゃないすかー」
「あたしもがんばりましたよー!」
ここぞとばかりに「飯をおごれ」の要求がうるさいぐらいに重なる。がんばった、というのは番組中のゲームの内容だろう。
根負けしたのか、上田は渋々、といった風情で頷いた。
「わーったわーった。…で、何がいいんだ。」
「やった、お寿司!」
「肉!」
「牛の肉!ぶあついの!」
「しゃぶしゃぶー!」
途端に四人の目が輝く。好き勝手な注文に、現金な奴らだ、と上田は呆れた。
「ぜーたく言うな。ここ近くにファミレスあったろ、そこにすんぞ。」
「ケチー!」
「上田さんの守銭奴!」
たちまちブーイングが飛び交う。寿司ステーキしゃぶしゃぶ、の合唱が始まった。
その光景に、道行く人々がときどきくすりと笑う。

328名無しさん:2006/02/10(金) 16:00:05
「おごってもらう分際で文句言うな、ったく…ん?」
「どーしたんすか?」
上田は眉根を寄せ、声を低く落とした。
「…誰か尾けてきてんな、一人だ。」
「えっ…」
場数を踏んだためか、上田はいつしか芸人には不必要なほど気配に鋭くなっていた。
うろたえる後輩たちに、落ち着いた様子で言葉を重ねた。
「騒ぐな、一旦さっきみたいに馬鹿話してろ。
 さすがにここじゃ仕掛けてこねえだろ、どっかで巻くぞ。」
「…分かりました。」
野村はそう言うと声の調子を素早く切り替え、明るく振る舞う。磯村や北陽の二人もそれに続いた。
「あ、財布忘れたとかなしっすよお?」
「そんなせこい真似したら、番組で言いふらしちゃいますからねー。」
「観念して、お寿司!お寿司!」
「上田さんは可愛い後輩に肉もおごってくんないって奥さんにチクってやるーっ」
「るっせえよお前ら、ぐだぐだ言うとコンビニ飯にすんぞ。」
「あーそれ嫌だ!」
「もう食い飽きました!」
演技にしては自然な会話をしながら、曲がり角で上田は不意に目配せをした。
「(行くぞ!)」
五人は追跡者を振り切るため走りだす。
後方で電柱の陰に身を潜めていた男は、慌てて追いかけた。
角を曲がり、路地を走り、次の角へさしかかる――
「うわあっ!」
男の腹に、勢いよく何かがぶつかっていく。
衝撃で後ろへ倒れた体へ、そいつが唸り声と共にのしかかる…ように男は感じた。
「うわ、何だっ、なに、わあああっ!」
男はパニックを起こし、振り払おうとめちゃくちゃに暴れる。
が、それはびくともせず、男の肩口に噛みついた。
痛みにもだえわめく男の姿を、五人の目が冷静に見つめていた。
「…やっぱアンタだったんだ。」
虻川が悲しそうな顔で呟く。その目には涙さえたまっていた。
「きくりん」
彼は何も言わず、ただ眼鏡越しに虻川を睨み付けた。

329名無しさん:2006/02/10(金) 16:04:25
一旦ここまで。
ちなみに天才ビットくんは教育テレビで金曜にやってる子供向け番組です。
ゲストなどで意外と芸人さんの出演が多いです。江戸むらも前出てました。

330名無しさん:2006/02/10(金) 16:26:41
>>326-329 乙です!
一人で行動する上田さんは珍しいですね。
続きを楽しみにしてます。

331名無しさん:2006/02/10(金) 16:40:24
>>326-329
ビット君キター!そういえば今日放送ですね。
あの衣装で語らう三人を想像したら…wwww
しかも上田「やっこさん」てw
リアルに言いそう、と言うより言ってるから楽しめました。
続き期待しております!

332 ◆LHkv7KNmOw:2006/02/11(土) 00:12:53
廃棄スレ>361の続き

ついカッコつけて廊下に飛び出したものの…。
さて、何処に行けば良いのか。
宮迫は楽屋の前で腕を組んだ。
後ろでは蛍原が「どうするの?」と期待に満ちた表情で立っている。
(まずは、人に聞くのが妥当か)
とりあえず頭の中に浮かんだのは、今日同じ番組で共演した芸人達。
その中でも真っ先に浮かんだ男に会いに行くため、歩みを早めた。


「蛍原さんの携帯ですか?」
丁度着替えている途中だったのかDonDokoDon山口は随分素っ頓狂な格好をしていた。

「あ、持ってますよ」
意外な返答。
にこやかに言う山口と対照的に、雨上がりの二人は目を丸くした。
山口はテーブルの上に置いてあった小さな携帯をヒョイと持ち上げ、差し出した。
蛍原は山口と携帯を交互に見比べると、やっと口を開いた。
「え、え?何でぐっさん持っとんの。まさか…」
盗人扱いされると感づいたのか、慌てて山口が「違いますよ!」と手を振った。
「置き忘れてたんじゃないですか、蛍原さんが!」

一瞬の沈黙。
「置き忘れた〜?はぁ、なーんやアホらし」
不謹慎だが、ちょっとした“事件”を期待していなかったと言えば嘘になる。
宮迫はどこか残念そうに頭を掻きながら肩を落とした。
溜息を吐き、時折肩越しに蛍原に厳しい視線を向ける。
ちくちくと刺さるような錯覚を頭を揺らして振り払い、
携帯を受け取ろうと手を伸ばした。
その時、

333 ◆LHkv7KNmOw:2006/02/11(土) 00:14:54
「ぁあー!無い!」
蛍原の金切り声が廊下中に響き渡った。
宮迫と山口もそのいきなりの大音量にビクッと肩を竦め、耳を塞いだ。
能力を使ったわけでもないのに、耳の奥できーん、と音がする。
「これ、これ見て!」
宮迫の眼前に携帯を突き出す。
その携帯に付けられているストラップ用の細い紐。
その先に取り付けられていた筈の石が、無かった。
よく見ると紐は途中で引きちぎられたような跡がある。
視線が、今度は山口に向けられた。
あ〜あ、と山口は再び眉を下げる。

「ぐっさん」
と、蛍原が詰め寄る。
「だから、違いますって!」
山口はうんざりした様子で手を挙げ、後ろに下がる。
その後ろで何処ぞの探偵のように顎に手を当て、宮迫が神妙な顔をする。
「ぐっさん、ちょっとその携帯…何処で見つけたん?」

「一階のトイレですよ」
「ちょお待てって。俺今日一階のトイレ行ってへんぞ?」
「おーおー怪しいな。…何かおもろい事になりそうや」
にやり、と宮迫は口端をつり上げる。

石を手に入れたのは良いが、自分たちの周りではまだ何も起こっていない。
毎日戦っていて生傷の絶えない者すら居るというのに、
自分には特に生活で変わったことがないのだ。
せっかく石を拾ったんだ。
ちょっと位この平和が乱れないものか、と今思えば何とも馬鹿な事を考えていた。

334 ◆LHkv7KNmOw:2006/02/11(土) 00:18:22
誰かが蛍原の携帯を盗み、石だけを引きちぎって携帯の本体はトイレに置いていった。
と思って良いだろう。


「じゃあ蛍原、この近くに自分の石の気配は感じんか?」
その言葉に応えるため蛍原は固く目を閉じ、う〜ん、と集中し始める。
宮迫も山口も息を殺して、瞬きもせずに目を凝らした。
不意に、蛍原が「んっ?」と上ずった声を上げた。
目を閉じたままキョロキョロと小動物のように辺りを見渡す。
その動きに合わせて二人の目も動く。
「…ん〜?」
眉を寄せて、ゆっくりとした歩調で歩き出した。

「宮迫さ…」「しっ、」
静かに、と口元に人差し指を当てる。
身体は微動だにせず、首から上を動かして目線で蛍原を追った。
相変わらず蛍原は唸りながら少しだけ上体を屈めて歩いている。
目を瞑っているからゴミ箱に足を引っ掛け、壁に頭をぶつけたりしていた。
その度に宮迫と山口は目を細めた。

蛍原が曲がり角に差し掛かり、二人の視界から消えた。
顔を見合わし無言の合図をする。
慌ててその後を追いかけた。

どんっ

「うおっ」「あだっ」「わあっ」
丁度曲がりきった所で、三者三様の短い悲鳴が上がった。
角を曲がって直ぐの所で立ち止まっていた蛍原の背中に、勢いよく走ってきた宮迫が、
更にその後ろに芸人にしてはがっしりした体型の山口が立て続けにぶつかったものだから、
一番前の蛍原は吹っ飛ばされるように前方に転んだ。
その上に宮迫が重なって倒れ込む。
下で「うぐっ」、とくぐもった声が聞こえた。

「痛ったい!何すんねん!」
「や、やかましいわ。もっと前におる思ったんや!」
蛍原の頭に強かに打ち付けた顎をさすりながら、宮迫が怒鳴る。
「どうしてこんな所で?」
全くダメージのない山口は二人の前にしゃがみ込み、冷静に尋ねた。
その言葉にはっと我に返り、蛍原が言った。
「そ、そう。向こう!向こうの方から俺の石の気配が…!」
未だ宮迫の下敷きになったまま、前方を指差す。
三人の視線が同じ方に向けられた。
廊下の向こう側で、スタッフと思われる男が歩いているのが見えた。

335 ◆LHkv7KNmOw:2006/02/11(土) 00:21:38
その懐で、自らの石のものと思われる光が、きらりと漏れたのを、
蛍原は見逃さなかった。
「あ、あいつ!俺の石持っとる!」
声を張り上げると、そのスタッフは蛍原に気付いたのか、
顔を見るなり血相を変えて逃げ出した。

「決定的、やな」
「追いかけましょう!」
いつの間にか立ち上がっている宮迫と、山口が走り出す。
おーい!と一声。
蛍原もようやく起きあがり、ばたばたと後を追っていった。


距離は一向に縮まらない。
自分たちよりはるかに若いスタッフは、軽い身のこなしで廊下を駆け抜けていった。
三十代後半に差し掛かった雨上がりの二人や、体の大きな山口はなかなか追いつくことが出来ない。
(やばっ、逃げられる…!)
そんな思いが頭を過ぎった、その時―――

あっ、とスタッフが声を上げた。
前から歩いてきたのは、ガレッジセールのゴリこと照屋俊之と、相方の川田。
こちらも山口と同じコント用の派手な服とメイクだった。
全速力とも言えるスピードで走ってくる宮迫たちに驚いた二人は立ち止まり、
何だ何だ?と壁際に避けた。

「ゴリ、川田!そいつっ、そいつ捕まえろ!」
宮迫は二人に向け大声で叫んだ。
「はい?」
「そいつ通すな言うてんねん!」
そいつ、とは。
今こっちに走ってきているスタッフの事だろうか。
訳が分からないが、先程の必死な声を聞くとただ事ではなさそうだ。

「……おりゃあっ!」
本能的だろうか。
ピンクのひらひらのミニスカートをなびかせながら照屋が助走を付け、飛んだ。
照屋の華麗なドロップキックを見事に食らった男は、
廊下を二メートルほど転げ、動かなくなった。

336名無しさん:2006/02/11(土) 15:44:16
乙!おもしろかったです。続きが楽しみ。
ゴリエのドロップキック…w

337名無しさん:2006/02/11(土) 16:10:12
>>326-329の続き。


「戻っておいで」
虻川が指示すると、秋田犬の亡霊がきくりんの上から退いた。
半透明の体を揺らしながら、虻川の元へ行き座る。ご苦労だったね、と頭を撫でてやると、わん、と一つ鳴いて姿を消した。
きくりんは予想外だった犬の襲来に、噛まれた肩を押さえて呆然としていたが、五人の視線を感じたのかやがて静かに口を開いた。
局を出たときには夕方だったのに、もう既に日も暮れとっぷり暗くなっていた。
人気のない路地裏、ビルの窓から漏れる光だけがかすかに闇を照らす。
「…気付いていたんですか」
「ああ、巻こうかとも思ったんだがな。気が変わった」
「相手がアンタなら、改心してもらわないと。」
上田の台詞の後半部を、まだ悲しげな顔の虻川が引き受ける。
「…おとなしく石を出しなさい。」
「痛い目見ねえうちにさっさと降参しろよ。」
「五対一じゃ勝ち目ねえだろ、ほら。」
後輩たちの声に、どっちが黒だかわかんねえな、と上田は苦笑する。
まあちゃっちゃと浄化しねえとなあ、と呟き、石を取り出したその時だった。
「…くっ…はは、ははははは」
余裕ありげな五人を座り込んだまま見上げ、何を思ったか…きくりんは笑い出した。
「面白い、本当に面白いですねあなた方は…」
「はあ?何言ってんだ。
 ほらさっさとしろ、あんま怪我させたくねえんだよ…」
一番戦闘向きではない能力を持っているにも関わらず、上田が言う。
「ですが、もう楽しんではいられませんよ。」
しかしそれすらも遮り、きくりんが立ち上がる。声は小さく、半ば独り言のように思えるほどだ。その目はうつろで、しかし物騒な光をたたえていた。
ズボンのポケットに手を入れ、何かを取り出す。途端に発せられる黒みがかった青色の輝きから、それが石であることは五人には明らかだった。
そしてそれが、汚れた悪しき石であることも。
「この…僕の能力の前に、あなたがたは屈服するのだから」
不敵な台詞とは裏腹に、きくりんの体は小刻みに震えている。だがその表情は楽しげに歪んでいて、上田は眉をひそめた。
…ヤバいな、こいつ…
その呟きは口に出る前に消えた。
石がひときわ強く、まばゆく輝いたからだ。
その光は目潰しとなり、五人はうわ、と叫んで腕で目を覆った。
そして次に目を開けた時、きくりんの手には白い…スケッチブックがあった。
「何だよ、今この状況でネタでもやんのか?お前。」
言葉だけは余裕ありげに、上田が笑う。
光の強い衝撃にまだ痛む目をしばたかせる。頬に冷や汗がつたって落ちた。
首もとのホワイトカルサイトが警告で小さく瞬くのをなだめるように押さえて、思考を巡らせる。
相手の能力は不明、仕掛けてくるのを待つか…いや、強力なものだった場合…。
こちらの即戦力は磯山と虻川のみ、野村と伊藤は補助、自分は戦闘では役に立たない…。
他の四人の間にも緊張が走る。かすかに笑ったままこちらを凝視するきくりんだけが異様だった。

338名無しさん:2006/02/11(土) 16:14:08
「磯山、虻川、とりあえず先手必勝だ!」
上田が叫ぶと同時に、虻川の傍らに犬が二匹現れ、磯山が紫の光を腕にまといきくりんに飛びかかる。
「おりゃあっ!」
腕力強化済みの突きは、しかしきくりんの体には当たらず空をかすめた。
きくりんがその姿からは想像もできない軽い身のこなしで磯山の後ろをとる。
スケッチブックがひとりでにめくれ、得意の漫画的な絵が浮かび上がった。
自動筆記のようにさらさらと描かれていくそれは、デフォルメされた磯山だった。
「今までのあなたは白でした…」
きくりんの抑揚のない声が響く。
磯山は横手に飛び退り、間合いを詰めてもう一度殴りかかった。だがまたも空振りに終わる。
風に揺れる柳のように磯山を翻弄しながら、また一枚、勝手に紙がめくれる。
「そこでこれからは私の手先になってもらいましょう」
言うか言わないかの内に、藍色の光が磯山を捕らえる。
「磯山!」
野村が叫ぶも、もう遅かった。
光が消え、磯山の表情が消える。紙の中の姿と同じように生気がない。
「…邪魔だ!」
そのまま虻川の召還したポメラニアンを蹴りあげる。半透明の体に足は突き抜け地面をかすめるだけだったが、太ももへ噛みつくのを振り払い、もう一匹、愛らしいパグの頭へもかかとを振り落とした。
「磯山、やめろ!」
上田の制止の声も聞こえていない。亡霊を相手にしてもらちがあかぬと考えたか、今度は伊藤へ向かい拳を振り上げた。
「きゃああっ!」
悲鳴とともに、伊藤の足首からピンクの光が吹き出る。
「いや、やめて磯山くん!わたしよ、さおりよ!」
その声にすんでの所で磯山の動きが止まる。二つの力がせめぎあっているようだ。
びくりと体が跳ね、耐えられなくなったのか、やがてゆっくりと倒れた。
「磯山くん!」
彼の恋人になりきっている伊藤が、磯山の体を膝の上へ抱き起こす。
慌てて野村が駆け寄り、急いで二人がかりでビルの陰へと磯山を運ぶ。
これで今戦えるのは、上田と虻川の二人のみとなった。
「おや、まあ…いいですよ。いくらでも手はありますから。
 …それに、そちらにとっても大きなダメージでしょう?」
きくりんが微笑んだ。白い紙がうっすらと藍色に点滅する。ぐしゃぐしゃと殴り書きが見え、また消える。
「…まずいな、あんな能力だったとは…」
上田の表情に焦りが出る。人数的にはこちらが圧倒していたのに、戦力が一挙に三人も消えたとなってはまずい。残る頼りは虻川の犬だけだ。
夜気と寒風と、ビルの空調熱がまじりあった空気が、やけに重い。
「…てっきりただの偵察役かと、よほど弱いだろうと踏んでたのになあ」
挑発するように上田が言う。それが気に障ったか、きくりんは眉を顰めた。
「あなたは戦闘向きじゃないことは分かってるんですよ、上田さん。さっさと石を渡してもらえませんか。そうすれば…そうすれば…」
後半は壊れたラジオのようになって、そしてまた薄ら笑いを浮かべる。
「ふん、言ってろ。お前がどういういきさつで黒に入ったかは知らねえが…所詮お前は弱いまんまだよ。」
余程癪に障ったと見える。上田の言葉に、きくりんが豹変した。
「うるさい、黙れ、だまれえー!!!」
ありえないほどに激高し、武器であるスケッチブックも放り出して上田につかみかかる。
目の色が赤く変わっているように見えるのは石の作用か、怒りによる充血か。
「が、はっ…」
身長はそう変わらないはずなのに宙高く締め上げられ、上田が苦しげに顔を歪める。息が詰まり、肺が痛む。更に強い力がかかり、首がぎりぎりと言った。

339名無しさん:2006/02/11(土) 16:14:39
「こらあ、上田さんを離せー!!」
虻川の叫び声に合わせて、きくりんの背中にドーベルマンが飛びかかる。
「うわっ…」
大型犬に体当たりされ、きくりんは上田を下敷きにし、転げる。
上田はどうにかそこから這い出すと、激しく咳き込みぜえぜえと荒い呼吸を繰り返した。
「おいこら…俺まで殺す気か…」
解放された喉元をさすりながら、力なく呟く。
虻川はすいません、と短く謝ると、悲しみに顔を歪め、更に犬を呼んだ。
「わたしは負けるわけにはいかない…あなたたちに…お前らなんかに負けるわけには…」
きくりんは立ち上がるとぶつぶつとそう繰り返し、焦点の定まらない目で虻川を見ていた。
ズボンのポケットを探ると、何かをつかんで口に放り込んだ。二、三回咳き込んだが、顔を上げると引きつった顔で笑う。
虻川はその行為に不審そうに眉を顰め、数匹の犬を従えて、無言のままきくりんを睨み付けた。
「いっけーお前らー!」
様々な犬種の犬が、一斉に駆けた。
きくりんの石が光り、また新たなスケッチブックを出す。
「今までの犬は獰猛でした…そこでこれからは、全員おとなしくしてしまいましょう!」
藍色の光が犬たちを包む。
途端に、ごろりと寝転がる者、欠伸をする者、仲良くじゃれあう者…。
虻川は舌打ちをしてすべての犬を消した。新しく二匹ほど呼ぶも、それもまたやる気がなくなっている。
「ちくしょ…」
犬を封じられ、為す術がなくなった。
上田は未だ倒れ伏したままで、必死に考える。
「これで終わりですよ。」
きくりんの声がどこか遠くに聞こえる。
「今まであなたがたは石を持っていました」
どうすれば、どうすれば…
「しかし、たった今からは」
頭が巡らない。首が痛む。…くそ、いわゆる『絶体絶命』だ。
「その石は僕の手に――」

「困ったときのっ、」
きくりんの言葉を遮り、突然に声が響いた。

「スーパーボール!!」

淡い紫の光が辺りを包み、弾け、大量の小さな球体となって落下する。
「わ、あ、ああああああっっ!!!」
どどどどどどどどどどどどどどっ……!
狙うはきくりんただ一人だ。
滝のように落ちていき、雪崩のように凄まじい音を立てて命中していく。
ぎゃあああああ、と断末魔が響き、そして途絶える。
上田と虻川は、突如現れたスーパーボールの大群を見て呆然としていた。
「やった、成功!」
「よっしゃ、名誉ばんかーいっ!」
その声に二人が振り返ると、医者の格好をした野村と、立ち直ったらしい磯山が立っていた。
「上田さーん、お寿司おごってくれますよね?」
それに、笑顔の伊藤も。
上田はあまりにもあっけないと言えばあっけない結末に肩をすくめると、
「…まわる奴で勘弁しろ。」
と言って、気が抜けたように笑った。

340名無しさん:2006/02/11(土) 16:19:28
一応これで終わりです、添削お願いします。
…余談ですが、きくりんは本名表記にしといた方が緊張感出たと今気付いたw

341名無しさん:2006/02/11(土) 17:55:34
雨上がり編もビット編も面白いです!
どっちも本スレに投下キボン。

342名無しさん:2006/02/11(土) 20:58:14
◆LHkv7KNmOwさん、>>337-340さん乙です!
本スレ投下して大丈夫だとおもいますよ。
それと>>337-340さん、トリップ付けたほうが良いと思いますよ。

343 ◆LHkv7KNmOw:2006/02/11(土) 22:47:56
ありがとうございます。本スレに落としてきます。

344 ◆vGygSyUEuw:2006/02/12(日) 10:19:03
337です。アドバイス通りトリップつけました。
ありがとうございます、本スレ行ってきます。

345 ◆1En86u0G2k:2006/02/18(土) 01:19:06
こんばんは。よゐこがメインのゆるい話を考えてみました。
添削していただけるとありがたいです。

346 ◆1En86u0G2k:2006/02/18(土) 01:21:08

 あるバラエティー番組が収録されている某テレビ局のスタジオ。
 各自がそれぞれの仕事をこなし、順調に進んでいたはずのその進行に異変が起きたのは、ちょうど撮影スケジュールを半分ほど過ぎたころだった。

 「…で、その辺有野さんは…。……えっ?」
 「…………」
 「……、一旦止めます!」

 司会を務める女子アナウンサーの声が戸惑いを残して中途半端に消え、場に不自然な空白が空いた。
 スタッフが慌てたように指示を飛ばす。芸人のやりとりに笑いが起きていた舞台裏が、急にどたばたしはじめた。
 それというのも、番組に出演しているはずのよゐこの大きい方こと有野晋哉が、なぜか突然その場から消えたのだ。しかもさっきまでは(積極的に前に出ているわけではなかったが)確かに何度か発言もしていたはずなのに。
 「有野さんは?有野さんどこ行っちゃったんだ!?」
 大勢の目が集まる収録中に姿を消すことなど普通に考えればできるはずがないのだが、現に有野の姿は見当たらない。
 予想外の事態に混乱するスタッフをちらっと見て、ぽつんと取り残された格好の有野の相方・濱口優は困ったように頭を掻き、自分の左側へ顔を向けた。

 「…やっぱりおかしなことになってるで」
 「……うん…」

 彼の言葉に返事をしたのは今目下捜索されているはずの、有野だった。

347 ◆1En86u0G2k:2006/02/18(土) 01:23:54
 状況を説明するには数時間前までさかのぼる必要がある。
 黒側の連中に襲われたので、石を使って撃退した。
 話はそれだけなのだが、「石を使った」ことが有野にとっては誤算だった。本当はそんなもん使わんで逃げたらよかった、というのが本音だ。数で攻められ、濱口の能力だけでは対応しきれなかったというやむを得ない事情からだったが−ともかく有野は自分の能力を使い、襲ってきた人々にすみやかにご退場を願った。
 最後の1人が気を失うのを確認し、ふう、と息をついた有野は、すでに身体を覆う不快な倦怠感に嫌な予感をつのらせながら、念のために濱口にこう尋ねた。

 「………どう?」
 「…うん、薄い」
 「………」

 有野の能力は影を操ること。
 そしてエネルギーの消費による負荷は、文字通り「影が薄くなる」ことだった。


 時間を現在に戻そう。
 つまりはじめから椅子に座ったまま一歩も動いていない有野は、存在感の極端な欠如によって、いなくなった、と周りに思い込まれているのだった。
 途中まではなんとか目立たない程度で済んでいたものの、微妙に収録が長引いたせいで気力がさらに減少したのか、彼の気配は今、それはもう見事に消えていた。何度か「ここにいますけどー」と呼び掛けてみたが、その声もどうやら認知されていないらしい。濱口は有野の石のことをよく知っていたし、それになにより相方であるから本当はそこにいるのだと正しく認識できていたが、さすがにこの妙な状況を解決する手段までは持っていなかった。
 有野が「見つからない」こともあり(この知らせを聞いて有野の両肩がガクンと下がったのを濱口は見た)収録はそのままなし崩し的に休憩時間に入った。
 共演者の1人が事情を飲み込めない顔のまま濱口に「相方どうしちゃったんだろうねえ」などと声を掛けてくる。濱口はねえ、と曖昧に笑い、傍らの有野にこっそり合図を送ってスタジオを抜け出した。

348 ◆1En86u0G2k:2006/02/18(土) 01:27:46
 
 「…アカンなぁ、完っ全にお前の気配消えとるわ」
 「もぉ…腹立つわー、人の目の前で『有野さん?有野さん!?』て…俺ここにおるっちゅうねん!」
 「ははは」
 「いや、笑わんといてよ…どうしよかなぁ」

 スタジオの突き当たりにある人通りの少ない廊下。相方の心底困った声とぐったりした横顔に、濱口はようやく笑いを飲み込んだ。
 確かに何の断りもなく番組中に「いなくなった」と思われているのはあまりいい状況ではなかった。番組の進行云々だけでなく責任が問われる話にもなる。
 有野の目の前で有野がいなくなったことに関して自分だけが怒られている情景が頭に浮かび、濱口はややこしくなってきたな、と眉を寄せて呟いた。

 「どうしたらええの?それ」
 「うーん、もうちょっと気力戻ったら多分、みんなに気付いてもらえるぐらいにはなると思うねんけど」

 有野は自分の言葉に自分で傷付いたような表情を浮かべる。
 と、揃ってため息をついた彼らに声を掛ける者がいた。

 「おう、何やってんだ?2人して」
 「カトさん…」

 2人の目の前には深夜からゴールデンに至るまでずっと共演してきた仲間であり付き合いの長い男、極楽とんぼの加藤浩次が立っていた。

349 ◆1En86u0G2k:2006/02/18(土) 01:32:49
 「そっか、お前らこっちで収録やってんのな」

 聞けば加藤は隣のスタジオで別番組の収録に参加しており、偶然そちらも休憩に入ったところらしい。
 相変わらず慌ただしいスタッフの出入りを不思議そうに眺める彼に、濱口がここまでの状況を簡単に説明する。

 「…あー、石か。有野のあれ、そういう意味じゃ一番きっつい副作用だよなあ」

 冗談じゃねえよな正当防衛だっつうのに。
 乱暴だが気遣うように声をかけてくれる加藤の目がちゃんと自分の姿を見ていることに安堵しながら、有野は僕どうしたらいいっすかね、と途方に暮れた声を出した。

 「このまんまやったら2人とも絶対怒られるんですよね」
 「えー、おかしいって!有野ここおるやんけ!」
 「そりゃ納得いかねえわなあ…よし、ちょっと待っとけ」

 加藤はバタバタとスタジオの方へ駆け出していくと、ほどなくして手に紙コップを持って戻ってきた。
 「気力が戻りゃいいんだろ?ちょっと強引だけど、多分これで元気は出るから」
 そう言ってポケットから何かを掴み出すと、目を閉じて意識を集中する。
 すると手の中で濃淡のある灰色の光が輝いた。2人の持つそれぞれの石に波動が伝わる。

 「「あ」」
 濱口が目を丸くし、有野がカトさんも持ってたんや、と呟く。
 光が収まると加藤はコップの中身を確かめ、よし、と頷いてそれを有野に差し出した。

 「…何すか?これ」
 「俺の能力。液体なら何でも酒になるんだ。飲みゃ気力も体力も回復する。飲んどけ」

 収録中に酒入れるのはあれだけど、この状況なら仕方ねえだろ。加藤はそう続ける。
 有野はおそるおそる中の液体を少しだけ飲み、「わっ、ほんまに酒や」と驚いて目を見張った。

 「マジで?すごいやん、カトさん!有野ちょっと俺にも飲まして!」
 「バカ、やめとけ!お前酒弱えだろ、飲めない奴には逆効果なんだよ!」

 あわてて止められた濱口が不服そうな表情を浮かべる中、有野はコップに入った分をすべて飲み干し、はあ、とひとつ息を吐いた。身体の中を液体が通っていく感じに続いて、そこから確かにエネルギーが全身へ浸透していくような感覚が広がる。
 まとわりついていた独特の疲労感は次第に薄まり、やがて消えていった。

350 ◆1En86u0G2k:2006/02/18(土) 01:35:47
 「あ…なんか効いてきた。ありがとう、カトさん」
 「おう。多少存在感出てきたぞ」
 「マジっすか。早いなあ」

 有野が苦笑するのと同時に、「あーー!!」と大声がその廊下に響き、3人は思わずビクっと身を固くする。
 何事かと振り返ってみれば、スタッフの1人が有野の方を指差してわたわたと叫んでいた。

 「あ、有野さん!!どこ行ってたんですか!?探したんすよお!」
 「え、いや、俺どこにも行ってへんよ?」
 「うわーよかったあ!有野さん見つかりましたー!確保しましたーー!!」

 有野の声など耳に入っていない様子のその若いADは、興奮した声で報告しながらスタジオへ走っていく。

 「…確保されてもうたな」
 「まあ、これで大丈夫だな」
 「俺犯人ちゃうわぁ…」

 うんざりした顔で呟く有野を横目に、濱口と加藤は思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
 「再開しまーす!」
 活気に満ちた声がスタジオから聞こえる。3人はじゃあ、と挨拶を交わし、それぞれの仕事場へと戻っていった。


 共演者やスタッフに適当な理由を説明して頭を下げ(しかし濱口にだけ聞こえる声で有野は「理不尽や」と呟いた)、その後は何のトラブルも起きることなく、収録は終了した。
 余談だがその番組が放送されたころ、それまでいつも以上に地味だった有野がある地点から急に目立ち始め、いつになく積極的に発言も重ねていたので、笑いつつも「珍しいこともあるもんだ」と首を傾げた視聴者も多かったという噂だ。
 最も彼がなぜ唐突にそんな存在感を発揮したのか−アルコールが入ると有野はたまにとても活発になるのだがーその理由は本人たちと加藤しか、知り得ないことなのだけれど。

351 ◆1En86u0G2k:2006/02/18(土) 01:38:31
有野晋哉
石:テクタイト(隕石の衝突によって生じた黒色の天然ガラス。石言葉は霊性)
能力:自分の影を実体化(多少なら変形も可)させて操る。または影と同化して移動する(※気力を大幅に消費する)。
条件:自分に影ができていること。影の濃さは強さと比例し、その時の影の長さで伸ばせる範囲の限度が変わる。
同化しての移動はあくまで平面的なものに限られ(空間は移動できない)他の大きな影に入ったりすると解除される。同化と同時に影の操作は不可能。
自分の完全な同意者であれば、他者の影を使用したり一緒に影と同化することができる。
石を使って減った気力の分、吐き気・頭痛など体調が悪化するほか、存在感が薄れ他人に認知されなくなる(いてもいないと思われるので、結果的に無視されたような状態になる)。
ただし有野と近しい人物はその影響を受けにくい。

廃棄スレで投下されていた能力をベースに、負荷などを追加してみました。
(98さん、丁寧なお返事と詳細設定、ありがとうございました!)
加藤さんは能力スレで挙がっていたものを参考にしています。
話の構成上濱口さんの能力を使うシーンが出てこなかったので、とりあえず有野さんの分を。
改悪になっていなければよいのですが…
ご指導よろしくお願いします。

352小説作成依頼スレ62-65:2006/02/18(土) 09:11:08
添削続きですが見て頂けると幸いです。




篠宮は息を吐いた。右手に持つ緑の石が、低く唸る。中心には黒い筋。
「やってもうた」脳裏によぎる言葉が空しく頭に残る。
息を吸うたびにじわじわと毒素が回るようにその石に眼を奪われ、それに比例するように脈拍は乱れた。これが…黒の欠片の力か。

数日前、東京の撮影の合間。現場に光る石を見つけた篠宮は、導かれるようにそれを手にしていた。
相方の高松に見せれば、「きれいな石やなぁ」なんてノンネイティブな発音で微笑まれた。
手にしたときに、なんとなくわかっていたのだ。これが噂に聞く、『力を持つ石』なのだと。
先輩や周りから噂は耳にしていて、それなりの情報は得ていたつもりだった。だったのだ。
手にした自分の石が、黒に飲まれる前までは。

きっかけは単純すぎて笑えないもの。「もっと露出を」ただ、それだけだったのだ。
触れれば崩れてしまうような脆さをもつ石−フィロモープライトというらしい−は、その自ら放つ緑の中に、闇色の光を見せ付けていた。
気づいたのが遅かった。
情報はいくらでも頭にあったのに。
いや、むしろ。
自分が思い描いたように、自分の憧れのあの戦隊物のヒーローになれるのだと、
無意識に信じて疑わなかったのに。

「ちっく、しょ…」
フィロモープライトを持つ手は、まるで金縛りにあったかのように開くことはできず、握りこんだその石に、だんだんと思考を侵されていく。
ー奪え。
ーー壊せ。
ーーー殺せ。
考えたくない思考に篠宮は激しく頭を振ると、その手を離す事に集中した。
左手で押さえ、指をはずそうと…しかしまるでもともとの形であったかのように、その指は動くことはなく、逆にかざした左手からも生気を奪われる感覚に恐ろしくなり、勢いよく手を引く。
ふいに視界が明るくなり、意識は遠のいた。

353小説作成依頼スレ62-65:2006/02/18(土) 09:11:53
「篠宮?」
聞きなれた声に眼を開けると、心配そうに覗き込む高松が立っていた。
「こんなところで何してん。風邪でも引いたらしゃれにならんで」
ほら、と差し出された右手に、自分の右手を出す。
「ん」
「何や」
「篠宮、そんな指輪、しとった?」
言われてから自分の右手の人差し指にはめられた指輪を眺めた。緑の石に、それを覆うように装飾された、黒のリング。
その造りのよさになんだか笑いそうになるのを堪えながら、篠宮は立ち上がった。
「してたわ。つか、そないなとこいちいちチェックすんなや」
「見えたから言うただけやろ」
苦笑する相手を見ながら、妙にはっきりする意識を張り巡らせた。…なかなか、悪くない。
「せや」
部屋を出て行こうとした高松が振り返り、まるで悪戯をしかけた子供のような笑顔で篠宮を見た。一度辺りを見回し、そそくさと相手に近づくと、耳元で囁く。
「俺、聞いてもうたんやけど…どうやら、アメザリさん達、『白』らしいで」
『白』という言葉に体の神経が張り付くのがわかった。そして同時に噴出すような闇色の憎悪。
「おまえの石も、なんや正義っぽいような意味やったやん?せやからな、多分、俺のもそっち寄りちゃうかなーて」
へらへらと笑う相方にあわせ愛想笑いをすれば、自身の指に光る緑の石が鈍く光るのを感じた。
(壊せ)
(奪え)
(白などすべて)
口に出してしまいたい衝動にかられながら篠宮は笑った。
「せやな。俺らも『白』として頑張れるようにならんと」
嘲笑するように光る指輪を押さえながら、出来るだけ丁寧に、出来るだけ正確に『白』の自分を演じてみせた。
『黒』の中で押さえ込まれた自我に、誰も気づかないうちに、すべてを『壊す』そのときまで。

今は。

354小説作成依頼スレ62-65:2006/02/18(土) 09:17:46
以上です。
序章として考えてました。
篠宮は表向き白/実際黒のスパイとして考えてました。いかがでしょうか?

355 ◆yPCidWtUuM:2006/02/18(土) 12:51:30
>>345-351
乙です。よゐこの話面白かったです!

戦闘後の話を中心に書かれているのが何だかすごく
彼らののんびりした空気にあった感じで楽しく読めました。

実は能力スレに極楽の能力落としたの自分なんですが、
こういう形で使ってもらえてとても嬉しかったです。
>>352-354
乙です。続きが気になります!

356名無しさん:2006/02/18(土) 16:41:00
どっちも本スレ投下キボン。

357 ◆Oz7uzxju6Q:2006/02/18(土) 16:49:46
能力スレの323です。千原兄弟の話、冒頭だけできたので、投下します。

358 ◆Oz7uzxju6Q:2006/02/18(土) 17:25:03
ーBrotherー



「浩史。バイト持って来たぞ。」
「え?バイト?なんの?」
「お前の石の能力を使えば簡単に出来るバイト。」
「・・・。」
兄・千原靖史に振り回される事は多々あったが、バイトを持ってきたのは初めてだった。
「行きたくない」
「お前が行きたくなくても行くの!」
そう言われて強引に連れてこられた場所はテレビ局の近くにある倉庫だった。
暗くて狭い変な場所。何でこんな所でバイト?
「俺は別の仕事があるから、それが終わったらまた此処に来るからな。」
「じゃがんばれ!」
そういうとどこかに行ってしまった。
・・・兄ちゃん一人だけで仕事なんて珍しいな。
そう思いながら千原Jrこと千原浩史は一人で倉庫にいた。
「そういえばバイトってなんやろ?」

359 ◆Oz7uzxju6Q:2006/02/18(土) 18:11:41
いくら待っても兄は帰ってこないし、バイトも始まらない。
イライラしてきた千原はその場で地団駄を踏んだ。
その後しばらく待っていたが誰も来ない。
帰るか。そう思ったときだった。
入り口から、誰かが入ってくる。
にごった色の石を持っているところを見ると黒の若手だろう。
「石をよこせ。」
「いやや!」
「なら倒す!」
相手が闇をまとって突進してくる。
千原は精神統一をし始める。
「相手の攻撃を受け流して、その勢いを利用してぶん投げる!」
不意打ちされ床にたたきつけられた相手は、気絶している。
やれやれと千原は肩をなでおろす。
その後、待ってみたが結局何も無かった。
そして、兄が帰ってきた。そして、待っているときの事を話した。
「結局、バイトってなんだったんや?」
「・・・。」
兄は答えなかった。バイトを持ってきたのは兄だから知っているはずなのに。

360 ◆Oz7uzxju6Q:2006/02/18(土) 18:13:21
千原Jr


石:チューライト(霊的な感性に恵まれて、直観力、洞察力を高めるとされる)
能力:反射神経が数倍になり、相手の攻撃を避けやすくなってカウンターが出来るようになる。
条件:神経を研ぎ澄まさなければならない。研ぎ澄ますまでは無防備。
疲労が大きいため、1日10回出せればいいところ。(その日の体調で回数が減ったりする)

361 ◆Oz7uzxju6Q:2006/02/18(土) 18:16:33
途中寝てしまい途切れてしまってすみませんでした。

362352-354:2006/02/18(土) 18:58:33
能力未定(石は確定)のまま出すのはダメなんでしたっけ?
一応テンプレには「新しい能力が〜」とあるので、
出てきても能力を使ってなければこのまま投下する
(最後に能力説明を入れず)のがありなのか悩みまして…。

36398 ◆hfikNix9Dk:2006/02/18(土) 23:06:48
>>345-351
乙です!3人のやり取り、何だかカワイイw
「影が薄くなる」という負荷、非常にいいと思います。一気に有野らしさが増した感じですねw
また機会がありましたら是非よゐこ話書いてくださいませ。

364名無しさん:2006/02/19(日) 12:53:14
◆Oz7uzxju6Q さん
面白そうです。是非本スレに!

365 ◆1En86u0G2k:2006/02/20(月) 00:06:51
コメントありがとうございました!
2人の雰囲気をなんとか出したかったので嬉しかったです。
それでは、本スレに行ってきます!

366 ◆9BU3P9Yzo.:2006/02/20(月) 12:28:07
コメント頂いたのに御礼が遅くなりすいません。
感想いただいてありがとうございます。

オジオズは能力が固まり次第、本スレに投下させていただきます。

367 ◆9BU3P9Yzo.:2006/02/20(月) 17:13:54
連投すいません。バッドボーイズ編一通り出来たのですが、
福岡弁&PGBとの会話が不安なので投下させていただきます。


轟音と閃光が響いた。「石」を持つもの同士の戦いというのは、こういう物か。
佐田はため息をつき石を握りこんだ。
『相手の能力を掴めんと無駄死にすんぞ』
「わーっとる!」
脳に直接響く大溝の声ににやりと笑うと、走っていた足を止め真っ向から轟音の元を睨みつけた。
「おまえの力はそんなもんか!遊びにもならんわ!」
相手を挑発しながらそっと自分の石を握りこむ。相手が挑発に乗ってきたらこっちのもの。案の定顔を赤くした相手が自分をめがけ突進してくるのを確認すると、握りこんだ石に念を送る。シベライトと呼ばれる彼の石が低く唸ると、赤紫の光が彼の右手を覆う。近づく相手が間合いを取り石の力を発動させようとしたその時、佐田の右手が相手を手招く。
「ふざけるのもいい加減に―…!」
「ちょっと来て―」
妙に軽いのに威嚇まじりのその言葉が聞こえると、バランスを崩しながら佐田に引き寄せられた。
「な…!」
まるで絡め取られるように力任せに引き寄せられ、状況を把握し逃れようと顔をあげた瞬間。
「遅いんじゃ」
佐田の右手が相手に向かい振り下ろされた。

368 ◆9BU3P9Yzo.:2006/02/20(月) 17:14:34
「喧嘩なれしてへん奴がこんな危ないもんもっとったらいかんけんねー」
たった一撃で相手を気絶させながら、少し上機嫌に鼻歌交じりにしゃがみ込むと、倒れた相手から黒く光る石を発見した。同じように自分のジーンズのポケットからお守り袋のようなものを取り出すと、今手にした石も放り込む。
「さすがは元総長、やな」
のんびりした口調で草陰から出てきた大溝に、佐田は明らかなしかめっ面で答えた。
「なんね、たまにはお前も働きや」
「戦闘用じゃないっちゃね、怪我ばせんよう見張るしかできん」
立ち上がり袋を見せると、じゃらり、と低く鳴る。今みたいに、暴走している相手を見つけては、力ずくでその石を奪い、そしてどうする事もできずに持ち歩いていた。石は増える一方。その分、襲われる回数が減るのかと言えばそうではない。減らないのだ。一向に。中には石を持たず、破片のようなものしか持っていないものもいて、佐田は相手を殴るたび、頭を悩ませていた。

「黒い石はよくないもの。黒い石は浄化しなければならない」
まるで子供が教科書を音読するように、佐田は呟いた。芸人の中で囁かれている力を持つ石の噂。その話はしっていたし、自分にも持っていたし、意外と身近に感じていた。しかし、簡単に「浄化してー」と頼めるような相手もいなければ、「お前浄化できるか?」と簡単に口にしてはいけない気がした。相手が白ならそれでいい。しかし、黒なら、せっかく集めていた『悪いもの』をあっさり相手に渡してしまうようになるのだ。
とはいえ、人の気持ちを汚染し、操るこの石たちを、いつまでも持っているわけにもいかないだろう。そんなつもりはなくても、自分はおろか周りに毒素を撒き散らしている

369 ◆9BU3P9Yzo.:2006/02/20(月) 17:15:31
「だれか…いないもんかね…」
袋をポケットにねじ込むと大きなため息をついてバイクに跨った。
「じゃあ気ぃつけて帰りや」
「おう」
軽く手をあげエンジンをふかし、バックミラー越しに相方の背中を見送る。ふと進行方向に視線を移すと、ヘルメット越しに見覚えのある姿が見えヘルメットをはずした。
「よー、そんな所おったら引くぞ?」
冗談交じりに笑いかけ、手でどけるよう指示するが、目前の相手は一向に動く様子がない。少しだけ感じる違和感に眉をしかめながら、佐田はもう一度声をあげた。
「聞こえとらんか?どけっっちゅーねん」
「できません」
端的に答えると相手は手をあげ指先を佐田に向ける。
「吉田…?」
POISON GIRL BANDの吉田。知っている顔なのにその眼に含む恐ろしさに気づくと、佐田はバイクから飛び降りる。その瞬間吉田の指先から「何か」がバイクに向けて飛んできた。当たり所が悪く、骨に響く低音をあげバイクが炎上する。
「な…!」
急な出来事に普段使いなれない頭をフル回転させる。あいつは間違いなく吉田。でも、違う。あれは。
「石の力…!?」
気づいて顔をあげると吉田は手に鋭くとがった物を持って佇んでいた。それは禍禍しい赤に黒光りし、今にも飲み込まれそうなそれが、「血」であることを理解するのに時間はかからない。
「佐田さん…それ、持ってても邪魔ならくださいよ」
すっと指を指し佐田のジーンズをさす。思わず隠すようにポケットを押さえながらゆっくりと立ち上がった。
「わかるんすよ…同じ波長だから」
にやりと口角をあげ微笑む姿に佐田は背筋が凍るのを感じる。現役の時はそれこそ刺し違えれば死ぬような喧嘩もしてきた。だが、今回ばかりはケタが違う。本能が「あいつはヤバイ」と危険信号を打ち鳴らす。震える口をようやく開き、言葉を発した。
「お前……黒、か」
「そうです」

370 ◆Oz7uzxju6Q:2006/02/20(月) 17:16:03
途中出てきた黒の若手の能力を書き忘れてました。


石:未定
能力:闇を作り出し、そのまま突進する

371 ◆9BU3P9Yzo.:2006/02/20(月) 17:18:46
返事を聞くか聞かないか、その瞬間走り出す吉田を目で捉えると佐田は本能的に攻撃をかわす。吉田が振り上げた刃が髪をかすり、はらりとリーゼントが崩れた。
「あっぶね…」
「ちゃんとよけないと、総長の名が汚れますよ」
挑発交じりの言葉に小さく舌打ちすると体勢を立て直し間合いを取るように後ろへ飛んだ。乾いた土を踏みつけながら、呼吸を整え相手を見据える。相手の武器はあの刀だろう。とすると自分の石の力を使えたとして、それを回避できるか…。頭の中で、今までの経験と照らし合わせながら行動を予測する。喧嘩なれとはこういう事だ、と自負しながら、じりじりと相手の隙を伺う。しかし吉田は何をするでもなく、ふいに血を体内へと戻した。
今だ。
そう思い相手の懐に飛び込んだその瞬間。
「甘いんですよ」
言葉が聞こえ眼を見開くと、背中に鈍い痛みが走る。
「…ぁ!」
鞭のようなものを手中に収めながら、吉田はおかしそうに笑った。攻撃を受けた佐田は背中に走る焼けたような引き裂かれたような痛みに、自分のうけた傷が酷いものであると察した。その場に崩れ膝をつき、ぜぇぜぇと息を吐く。
「もう、やめましょ。負けるのは眼に見えてるじゃないですか」
動けない相手を確認すると、草陰から阿部が姿を見せた。
「石、ください。持ってても苦しいでしょ」
「あほか…そんなん、聞けんわ!」
無防備に近づく阿部に勝機を見出し、シベライトを握り込み阿部を見つめにやりと笑う。
「あ、ばか!」
「ちょっときてー」
ちちち、とネコでも呼ぶように手招きすると、重力に逆らうように阿部の体が浮いた。
「わ!」
油断した体は簡単に浮き上がり、佐田の下へ引きずられる。それをヘッドロックで押さえ込み、佐田は吉田を睨みつけた。
「おら、相方がどうなってもええんか!」
阿部の左腕を掴み、逆側へ引く。怒りのあまり手加減が出来ないのか、それだけで阿部は小さく悲鳴をあげた。
「ちょ、それ、どっちが悪役だよ!」
「先にやったんはお前じゃボケ!」
啖呵を切るも、佐田の背からじわじわと流れ出す血が、意識を朦朧とさせる。ここに大溝がいなくてよかった、と、今更ながら心配し、苦しげに息を吐く。
「はよ選べ、このまま阿部の腕を折るんは簡単じゃ」
「くそ…!」
相手に隙を見せないよう、佐田はできるだけ悪づいた。少しの沈黙のあと、吉田は腕を組みながら鞭をしまい、ため息をつく。
「離してください」
「吉田!」
「離して…攻撃しようもんなら…」
「わかってます、今日は引きますよ」
はらはらと苦しそうに顔をあげる阿部に対し、吉田は淡々と答える。武器がないこと、相手が本当に戦意を失ったことを確認すると、乱暴に阿部を離し、吉田の方へ投げ返した。
「石は渡さんぞ」
「次に狙われても…そう言えればいいですね」
確認するように睨み付ける佐田に対し、吉田は小さく笑いながら阿部の手を引いた。阿部が立ち上がるのを確認すると、唐突に襲うめまいに膝を落とす。
「吉田!」
慌てて支える阿部を見ながら、大きなため息をつき佐田は背を向けた。
じりじりと痛む傷。自身の持つ石が静かなのに対し、浄化もしていない黒い石たちが、二人の持つ石に反応して共鳴を繰り返す。その怨念がましい、まるで細い悲鳴のような音に耳を貸すことなく、ゆっくりとその場を離れた。


これを狙いやってくる相手はまだまだいるだろう。
そしてそれらに対抗するのに自分ひとりでは厳しいことぐらい、佐田自身が気づいていた。
まずは情報を集めないと。
倒れそうになる体を引きずりながら、進むべき道を見出した。
中空に輝く月が、その影を濃く映し出す――――。

372 ◆9BU3P9Yzo.:2006/02/20(月) 17:23:16
以上です。
大溝さんの能力が変わる予定なので、始めの辺りは若干変える予定です。
(今はテレパシーになっているので)
ご指摘宜しくお願いします。

373名無しさん:2006/02/20(月) 19:51:31
9BU3P9Yzo. 氏乙!!!!
自分元福岡民ですがほとんど問題ないとおもいます
「喧嘩なれしてへん奴がこんな危ないもんもっとったらいかんけんねー」
→「喧嘩なれしとらん奴がそげん危ないもんもっとったらいかんよー」
「戦闘用じゃないっちゃね、怪我ばせんよう見張るしかできん」
→「戦闘用じゃないけん、怪我ばせんよう見張るしかできんもん」
「聞こえとらんか?どけっっちゅーねん」
→「聞こえとらんか?どけっって言いよーと!」(これは変わりすぎかな?)
「はよ選べ、このまま阿部の腕を折るんは簡単じゃ」
→「はよ選べ、このまま阿部の腕を折るんは簡単っちゃけん」
福岡はなれて3年たつから微妙かも。
字にするとおかしいな・・・

374 ◆9BU3P9Yzo.:2006/02/20(月) 20:22:15
>>373さま
ご指摘ありがとうございます!
やはり方言だけは誤魔化しきかないですねー。
以上のセリフを直しつつ、手を加えてから投下しようと思います。
ありがとうございました!

375 ◆Oz7uzxju6Q:2006/02/21(火) 19:12:13
>>364
コメント貰ったのに返すの遅くてすみません。
本スレ投下はもうちょっと書けたらにします。

376 ◆vGygSyUEuw:2006/02/27(月) 18:05:48
ハローさんの話。添削お願いします。


手の中に、つるりとした固形状の感触がある。
なめらかで冷たくて無機質なような有機質なような、そういう触感だ。
つい先日手に入れたものだ。欲しくもなかったが。
それが高価なのも、最近知った。
そして、何かしらの力を秘めていること…は、大体勘付いていたか。
ともかく、どちらかといわずとも歓迎できない部類の贈り物だ。もっとも突っ返そうにも送り主は不明なのだが。
ため息をつきかけて、ふと頭に浮かんだ迷信にそれを躊躇し、結局飲み込んだ。
信じてはいない。けれど、皆不意に出て来ることはあるだろう。
北に枕を置くと駄目だとか、夕暮れ時は魔物が出る、だとか。
方便としての活用だけで、毒にも薬にもならない、いわゆるそういうものだ。
右手を開く。待ち構える左手にすとんと収まる。自然な落下だ。
どうやらこういう不可思議な石も引力や重力に逆らうことはないらしい。
白、というかごく薄いクリーム色の、硬質なもの。
石にも大きめの飴玉のようにも見えるが、これは象の牙だ。
つまり、今この手中にあるものの後ろには、一頭の象の死がある。
それだけならまだしも、と思い、一呼吸置く。
「…厄介な。」
それだけ一言つぶやく。後を追うように息が出て行き、はたと苦笑する。
ため息は幸せを一口分連れて逃げ、うっすらと白く消えた。

しかし、この寒い中屋外で人を待つのも辛いものだ。
電柱に寄り添うようにして往来に突っ立っていると不審人物に間違われないかと心配なのだが、幸い人通りも少ない。
二十分ほどここにいるが、その間犬を連れた爺さんが一人通っただけだ。
見回すとすぐそばに喫茶店が見えたが、そこでぬくぬく待っていたら怒られそうな気がする。待ち合わせるならもっと時節も考えてほしい、とひとりごちた。
手持ち無沙汰となり、何の気なしに象牙をつまみあげて観察する。
簡素な白は、ただ磨かれただけで少々寂しい。
判子にでもしてしまうか、と思ったが、ふと考える。これは戦闘用だ。
ハンコ片手に戦う。…滑稽だ。いや、芸人たるもの面白くないよりは面白い方がいいのだが、下手を打てば死ぬような場面で無理して笑いを取るのもどうかと思う。
「山崎」と彫ろうと「ハロー」と彫ろうと、馬鹿馬鹿しいことにあまり変わりはない。
第一、割と芸風と違う。

377 ◆vGygSyUEuw:2006/02/27(月) 18:06:29
そもそも誰が笑ってくれるというのだ。敵か?
敵も芸人だ。敵も命がけだ。しかもそれどころではないような状況にいるだろう。
嘲り笑いならいただけるかもしれないが、それは多分腹が立つだろう。
結論、判子は却下。
そう寒さのせいで薄ぼんやりとしたとりとめのない思考が結論づいたあたりで、丁度待ち人がやってきた。
とはいえ、色気のあるものではない。石をポケットに突っ込む。
「どうも。」
軽く会釈すると、よ、という短い返事が返る。
「今日も寒いな。」
「そうですね。」
会話とも呼べないような他愛もないやりとりをして、男が鞄を開けた。
「ほらよ、いつもの。」
「…どうも。」
出て来たのは、いつも通りの黒い紙袋。
もっと違うものであればいいのに。
ぼんやりと思うが、具体的に何がいいとも浮かばない。
要はこれでさえなければいいのだ。そうであれば。
…言い換えよう。「これは嫌だ。」
浮かんだ言葉も思考の波に流れて飲み込まれ、声に出すこともないまま何事もなかったように消えていく。
ずしりとした黒い袋を受け取る。どうせ中身もいつもの黒いものだ。
黒に黒、というのはいかがなものかと思う。別に外見が何色であってもそのものの本質は変わらないのだが、人間はごまかしが好きなものだ。
袋を渡して、名前も知らないいつもの男は去っていった。
いや、毎回違うのかもしれないが、そんなことお互い気にも留めないので分からない。
どこかのスタッフなのかもしれないし、見知らぬ芸人かもしれない。
しかし待たせておいて、あっさりとしたものだ。…いや付き合わされても困るので別にいいのだが。
袋はじゃらりと、小さく硬いものがいくつもぶつかる音を立てて揺れる。
中身をそっと確認する。いつものように、といっても未だ慣れない禍々しい黒がいくつも入っていた。
ぶるりと震え、袋を鞄に突っ込むとさっさとその場を離れる。
これがまた誰かを狂わせるのだろう。触れた手や鞄まで汚れたような気がした。
いや実際汚れている。使ったことはないにせよ、今こうして関わっているのだ。
けれど、どうすることもできないではないか。
知っている親しい誰かが苦しむかも、死ぬかもしれなくても。
己には何もできない。痛いほど分かっている。弱いから従っている。駄目な自分だ。
割に広い道は人とすれ違うこともない。平日の午後一時、町はどうにも力が抜けていた。
ふと、ポケットで揺れる軽い重さに、布越しに手を触れる。
こいつはまだ白いままだ。いつか黒ずむのかもしれないが、まだ何も言われていない。
…そういえば、まだあの黒いもの―正式な名前も知らないが、あれはどうやって使うのだろう。
袋の中に石を入れる。白地にじわりとまわりの黒が広がっていく。
想像をしただけで寒気がして、今すぐ象牙を乱暴に磨き上げたくなった。
拒否反応が出るということはまだ迷っているのだろう。
黒に。いや、そもそも石に。
戸惑いがあった。善良とは言えないにせよ、ただの一市民だ。
…少々自分勝手ではあるにせよ、ただ人を笑わせるのが好きな男だ。

378 ◆vGygSyUEuw:2006/02/27(月) 18:07:19

紙袋に大量に詰まった黒いものの欠片を指定されたテレビ局の控え室へ届けて、トイレへ行って手だけ洗って出て来た。迷信と同じく、意味はない、まじないのようなものだ。
弁当の紙袋の隣に放ってきたアレは、きっとスタッフが分配するのだろう。
我も我もとたかってくるのだろうか。それとも自分のように迷いがあるのだろうか。
あってほしいと思う。まだ引き返せると。
可能動詞と実際にできうることは別物だと知っていて、それでも。
つい他人事のように見てしまうのは、そう切羽詰まっていないからだろうか。
断って危害を加えられるのが怖いから、黒に入っただけだ。大それた野望も欲望もない。
完全に長い物に巻かれている。情けなくはあるが、怪我をしたくはなかった。
まだあのおぞましい欠片も直接もらってはいない。それもそうか、運び屋が薬漬けになっては困る。許されればずっと運び屋でいたい気分だ。
象牙を取り出して握りしめると、少し落ち着いた。
手が震えていたことに気付く。それほどあの欠片が嫌なのか。
…お前は、どうだ。いつか「黒」になる時が来たら、受け入れてくれるか。
もちろん石が喋りかけてくれるはずもなく、ただしんと白くそこにあるだけだった。
俺は嫌だ、と思う。
きっと流れには抗えないけれど。

トイレの前で十分近く固まっていたのは、幸い誰にも見られていなかったようだ。
前は大丈夫だったのに。…今回は特に量が多かったからだろうか。
額から汗が一筋垂れるのを袖で拭うと、さっさと歩き出す。
今はただ帰りたかった。忘れたかった。どうせ逃れられないのだから。
局の正面玄関を出て、駅への道を行きかけ…ふと立ち止まる。
石の気配を感じた。少々不穏な、でも攻撃的ではない。
さっと振り向くと、テレビの中で見慣れた人が立っていた。
広めの額にしゃくれた顎に目の下の隈、人を食ったようなにやにや笑い。

379 ◆vGygSyUEuw:2006/02/27(月) 18:07:57
「…有田…さん?」
唖然となって呟いた。
そんなような表現が正しいように思える。
「やー、どうも。ハローくん、だっけ?」
ひらひら手を振ると、にこにこ笑って近づいてきた。
焦って思わず身構える。攻撃には適さないことを忘れて、掴んだ石をかざす。
「おっとっと、ちょい待ちちょい待ち。
 別に手荒な真似はしないってえ。今日はお話…っていうかお取引に来たから」
「…取引?」
「そそ、悪い話じゃない。俺も仕事あるし、手短にすますけど」
ますます怪しい。白の幹部が、黒の下っ端に何の用だというのか。
有田さんが話を続ける。顔中ににやにや笑いが広がっている。
「実はさあ、ちょっと手伝ってほしいことがあんのよ。
 ちょっと前つかまえた黒の奴から聞いたんだけどさ、君の能力」
後輩か。自己紹介程度に能力を教えていた奴はそこそこいた。
「や、白に来いとかそんなんじゃなくて。ただ、ちょーっとボランティアにご協力。」
「…具体的に、どんなことについて?」
知らず声が固くなる。そんなことを言われて、信じられるはずがなかった。
にや、と大きく相手の口が歪む。
「目には目を大作戦。」
「…は?」
皮肉ではなく、純粋に問い返す。
「あ、この呼び方じゃわかんないか」
わかるはずがない。復讐、としか目星もつけられなかった。
こっちに話を持ってきたということは、自分の能力が何かしら役立つ部類のものか。
「んー、ちょっと話すと長いんだけど…」
そう前置きされた話の内容に、嘘臭い点は見あたらない。(話し方は冗談のようだったが)
象牙を見ても、警戒の光はなかった。どうやら信じられるらしい。
「どう?」
協力してくれる?とにっこり笑う相手に、
「わかりました」
と了承の返事を返す。
「…その代わりといっては何ですが、俺も白に入れてくれませんか。」
続けて自然とこぼれた言葉に、耳を疑った。いやこの場合は口か。
何を言っているんだ、正気か。我ながら思う。だがもう溢れ出た言葉は喉には戻らない。
そして、本心であった。ずっと願っていたことが向こうから来たのだ。
脱けたかった。どうやらここには耐えられなかったらしい。石も俺も。
誰かがきっかけを作ってくれれば、とずっと思っていた。
やっと踏ん切りが付いたのだ。
覚悟を決めた。戦う。たとえ、険しい道でも。
事務所違いの先輩は思わぬ収穫に驚いたのか目を見開くと、満足げに笑み、
「んじゃ、一応石浄化しとかないと。」
と象牙に手を伸ばし、曇り一つないその姿にまた驚いて、
「…本当に黒?」
ときょとんとした目で聞いてきて、俺を久々に笑わせたのだった。

380 ◆vGygSyUEuw:2006/02/27(月) 18:10:04
ここまでです。ビット編から次の話までのつなぎ話。
ハローさんの言葉遣い等不安なので、ちょっと見ていただけるとありがたい。

381 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 13:58:38
>>376-380
乙です。
ハローさんのことはあまり詳しくないから言葉遣いとかはわからないんですが、
話自体は続きがとても気になる感じです。すごく面白そう!


廃棄スレで言っていたバカルディの話を書いてみました。

バカルディ・ホワイトラム(97年末)
バカルディ・151プルーフ(97年末)
バカルディ・ブラックラム(00年末)

という形で、バカルディからさまぁ〜ずにいたる三部作を書きました。
もう何かいい加減にしろってくらい長いです。
とりあえず今日「ホワイトラム」を落としていきます。

最終的に
バカルディ・エイト(05年末〜06年)
で現在までもってくる予定ですが、まだ書き終えてません。

382 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:00:16
[バカルディ・ホワイトラム<1>(side:三村)]


「すいませ〜ん!」


どさ回りの営業の帰り道、声をかけてきたのは女二人組。

大きな胸に大きな目。そろって小柄な童顔の女が目の前で笑っている。
見てくれはちょっと可愛い。通りで「普通に」声をかけられたら悪くないかもしれない。

…まあ、俺にはカミさんがいるし、どう考えても「普通」の状況じゃねぇわけだ、今は。

三村は頭の中で状況を整理している…のだが。
正直、それより何よりものすごく気になってしまう部分があったりする。

…こいつらもやっぱり芸人ってくくりだったのか。

三村マサカズ30歳。職業、お笑い芸人。
もうすぐ芸歴も10年という長さになるのに仕事のお寒い我が身のせちがらさよ。
目の前にはグラビアから芸人の領域に身体一つ、いや乳四つで殴り込みに来た女が二人。
寄せた胸だけで一気にスターダムへと駆け上がるパイレーツを遠い目で見る今日この頃。

そんな女たちの明るい笑顔とうらはらに、胸元の鮮やかな赤い石には黒い影がさしている。
それを見ただけでむこうの用事も想像がつくというものだ。


「石、渡してもらいに来ましたぁ」
「…逆ナンってわけじゃねぇんだ、やっぱり」


甘ったるい声が耳に響く、全く最悪だ、女にも襲われるんだからやってられない。

383 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:01:12


「あー…女と闘うとか、俺、ねぇわ…」
「俺もねぇな、100ねぇ」


ぼそりと嫌そうに呟いた大竹に、三村も同調する。
今をときめくパイレーツの胸の谷間にはそんなに興味ねぇから、おとなしく帰って欲しい。
何でこんな目にあわなきゃなんねーんだ、いい加減にしてくれ。


「「…せーの!」」


そんな我が身の不幸を嘆いている間に、女たちが攻勢に転じてしまった。
赤黒い石は次第に光り始め、二人揃ってあのポーズをとる…ああ、猛烈に嫌な予感。


「「だっちゅーの光線!」」


声があたりに響くとともに、強烈な赤色の光線が放たれる。
だが凄まじい勢いで襲ってきたその光は、透明な壁に当たって霧散した。
よく見ればブラックスターが大竹のジャケットの左ポケットで光っている。
どうやら状況を見て素早く石を使っていたらしい。

勢いに乗った女たちは光線をさらにもう1発、連発してきた。
それはどちらも大竹の「世界」の前に散ったが、大竹と三村の頭には一抹の不安がよぎる。


「…大竹、どんくらいもちそうだ?」
「そんなに長くねぇぞ、俺いま疲れてるし」
「だよな、俺もだ」
「どうすっかな」
「どうすっかってお前…どうしょうもねぇよ」

384 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:02:10
男二人の会話からは解決策の生まれる気配もない。
しかしこちらからも攻撃をしないことにはどうにもならないと気づき、互いに呼吸を合わせる。
大竹が三村の顔をちらりと見て言うのはおなじみのあの台詞。


「お前ってよく見るとブタみてぇな顔してんな」
「ブタかよ!」


これまたおなじみのツッコミとともに、ピンク色の生きたブタがビュッと飛んでいく。
非常に間抜けな光景ではあるが、当たったら本当に痛いし怪我も免れない技だ。ブタは重い。
パイレーツ二人は慌てて「だっちゅーの光線」で応戦し、ブタと光線が正面衝突して相殺される。
「ブヒィーーー!」と断末魔の叫びが悲しく響き、どこから呼び出されたのか謎なブタは姿を消した。

三村は次のボケを促すように大竹を見たが、大竹は視線を返すだけで言葉をつむがない。
相方が「世界」の維持にかなり疲れているのを見てとった三村は、何かツッこめる物をと探しだす。
しかし、あいにくアスファルトの上には小石一つ見当たらず、徒労に終わった。

その間に、パイレーツも新しい動きを見せる。
好未が肩に下げたカバンの中をさぐり、透明な中に虹色の光のまたたく石をとりだした。

襲撃にむかうにあたって、黒の上層部がこの石を「補助に」と二人に与えたのだ。
『この石を使えば少しなら体力や怪我の回復ができるし、小さな願い事ならかなう』
…そんな風に彼女たちに石を渡した男は話していた。


「…はるか、これ使うよ!」


声とともに、七色の光が石を握ったその手からあふれ出すように広がって、はるかの身体を包んだ。
光線発射に体力を使ったのか肩で息をしていたはるかは、活力を取り戻したように背筋を伸ばす。
それを見た好未ははるかに石を渡し、今度は逆に自らの回復をしてくれるよう頼んだ。


「すごい、効くねこれ」


呟きながらはるかは透明な石を握りこみ、精神を集中させる。
好未のときよりは弱かったが、はるかの手の上の石から放たれた光は、好未の身体を包んだ。
元気を取り戻した女二人は、またも攻勢に回る。


「えーいもう一回…「「だっちゅーの光線!」」


明らかにマズい状況だ。この調子で連発されては確実にブラックスターの限界が遠からずやってくる。
三村の隣で、大竹は光線が発射される度に必死に精神を集中させて「世界」を保っているけれど。

…これは長期戦になりそうだ、最高に分が悪い。
そう思った瞬間、はるかが今度は別の台詞を叫んだ。


「だっちゅーの超音波!」

385 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:02:51
…何だそれ、もしかして新ネタか?

言葉とともにショッキングピンクの衝撃波らしきものが飛んでくる。
聞き覚えのないネタに集中力を削られたのか、それとも石の効力が薄れてきたのか。
「世界」を守る透明な壁は完全には機能せず、衝撃が部分的に伝わって耳がキィンと痛んだ。


「くっそ、痛ぇ…」
「…すまん三村、無理、もうぜってぇ無理…ボケとかする暇ねぇ」
「マジかよ!」


だっちゅーの光線…いや超音波恐るべし。この威力をなめてはいけなかった。ここまでとは予想外。
…しっかしホントどうかと思う戦闘風景だな、間抜けなのに追い込まれてるなんて…。
三村は鬱々としてくる気持ちをどうにかおさえようと身体に力を入れる。

とはいえこのままでは何一つ解決しない、何か打開策を考えなければ…。

そんな気持ちで大竹の方を見やれば、額には大粒の汗が浮いている。
少しでも防御するために最大限集中しているんだろう、確かにこの状況でボケを望むのは酷だ。

しかもこういうときに限って道ばたに物は落ちてねぇし。
さすがに電信柱なんて飛ばせねぇぞ、何か小さいもんないのか。


「あーくそ、何か落ちてねぇかな…」
「…おい、アレ」
「あっ!」


大竹の指差した先、道の端のくぼみには、見覚えのある缶が。

386 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:03:49

[バカルディ・ホワイトラム<2>(side:大竹)]


アスファルトのくぼみに隠れるように転がっていた空き缶。
三村がビシッ! と指差して全力で叫べば、立派な飛び道具になる。


「むらさきっ!」


飛んでいったおなじみのファンタグレープの缶は、好未の額にガッコーンと当たった。
もはや容赦する気もないらしい三村の高速ツッコミは結構な衝撃だったらしく、好未はぐらりと身体を傾がせる。
それを見ていたはるかが、「負けない!」と石を握り込んだ。


「だっちゅーの光線!」


はるかが三村を見据えて叫ぶ。胸元では黒い影の走る赤い石がきらめいた。
サァッ、とその石の真っ赤な光が三村に襲いかかってくる。

咄嗟に大竹は自分の石で「世界」を作り出し、相方を守ろうとした。
しかしもはや戦闘の中で力を使いすぎたためにその光は三村まで届かない。
もろに石の力を受けた三村は、「うああっ!」と叫びをあげた。

両手で眼を覆ってその場に倒れ込む三村に、さらに追い討ちをかけるようにはるかが叫ぶ。
それはもう限界をこえている身体からむりやりに絞り出すような声だった。

387 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:04:33


「だっちゅーの…超音波っ!」


その声を聞いても、もう大竹の石は微弱にしか反応しない。
耳にさすような痛みを感じたが、何の防御もできていなかった三村はもっとひどい状態なのだろう。
耳をおさえて転げ回る相方の姿。唇をゆがめて笑う豊かな胸の持ち主に対して強い怒りを覚えた。
けれども、怒りのせいで逆に冷静になってしまえば、あの胸から出てくる光線やら超音波で
苦しむ自分たちの滑稽さに気づいてしまって少し悲しくなる。

…くっそ、なんつー嫌な感じの戦闘風景だ。

だが、三村にはバッチリ効いてしまったし、これじゃあ攻撃もできない。
さらに好未が息を吹き返し、自らの石を手にはるかの体力を回復しようとする。
ブラックスターはもはやうんともすんとも言わない、根性ねぇ石だチクショウ。

…絶体絶命。

もう切り札のあの石を使うしかない。
ここのところ明らかに使いすぎだとわかってはいたが、目の前の危険を回避するにはこれしかなかった。


「…めんどくせっ!」


疲れた声で吐き捨てながら、とりだしたのは虫入り琥珀。
ありったけの集中力を動員して、蜂蜜色の石に力を注ぎ込む。
放たれた強力な衝撃波は、襲撃者パイレーツを完全に打ち倒していた。

388 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:05:22


三村から視覚と聴覚を奪ったはるかは、すっかり意識を手放している。
好未が、みぞおちあたりを押さえながらひとりこちらを暗い目で見上げてくるのでにらみ返した。
土をなめた女の憎しみの籠った目にも、もう動じることもない。


「あっ、大竹! お前虫入り琥珀使っただろ!」


はるかが気絶したせいか、わずかずつ感覚が戻ってきたらしい三村が薄目で状況を見て叫ぶ。
が、大竹の方はまだ耳が聞こえにくくなっており、三村が何と言ったのかいまいちわかっていない。
おそらく虫入り琥珀を使ったことを責めているのだろうが、今回はああするしかなかった。

…今回はああするしか、って何回言ったかもう覚えてねぇけどな。
そんなふうに心の中でつけ加えて、石の代償の重さに頭を抱える日々。


毎日毎日毎日…じゃねえこともあるか。

けど、とにかくもういい加減にしろ、と言いたくなる。
あまりの黒からの襲撃の多さに、そろそろ頭がプツッといきそうだ。

何でか知らないが、最近黒の奴らに俺らの石は大人気。
特に俺のブラックスターは妙に人気があるらしく、やたらに狙ってくる奴が多い。
確かにこいつは防御には相当有効だけど、そんなに人のもんばっかり欲しがることもねぇだろうよ。

389 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:06:04

うんざりしながら、その場を後にしようとして三村を見やる。
目蓋やら耳やらを引っぱっている相方に、多分それ意味ねぇと思うぞ、と心の中でツッコミを入れた。
石の影響は一生モンじゃないんだし、ほっとけば数時間で元に戻るだろう。

それよりむしろ今は、自分の石の反動のものすっごい倦怠感が問題だ。
もう即帰宅。ガンガンに引きこもっていく。けど腹減った。けど寝たい。どれをとれっつーんだ。


「三村ぁ、とにかく帰ろうぜ!」


多分まだあまり聞こえていないだろう三村の耳もとで怒鳴る。
三村がこちらを向いて頷き、向きを変える。
そのつま先がこつん、と何かを蹴り、俺の足下までそれは飛んできた。


「何だ…石じゃねえか」


疲れた身体にむち打って拾い上げればそれは、好未が使っていたあの石で。
体力を回復させられるなんて便利だし一応もらっとくか、とポケットにしまいこむ。

それを三村は一瞬見とがめたようだったが、耳と眼が不自由な状態で会話するのも面倒だからか、さらりと流した。


「アレだっ、飯でも食ってくかぁ?!」


結局空腹をとることにした俺の怒鳴り声にもう一度三村が頷いて、二人で夕暮れの道を歩いていく。
オレンジの光の中、ひきずる二つの影が長くアスファルトに伸びた。

390 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:09:54
以上です。まだ白のバカルディを書いてみました。
設定は97年末、まだバカルディも冬の時代ということで。
続く「バカルディ・151プルーフ」でこの襲撃の後の話を書いてます。

バカルディ時代の彼らのことはDVDや当時のTVなどで少し知っている程度で、
あまり詳しくないので矛盾点が出ていたら教えて下さい。

391 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:14:34
すいません、パイレーツの能力書くの忘れてました。

パイレーツ(西本はるか/朝田好未)

石:クロコイト(紅鉛鉱)二人で一つの石をわけあい、ペンダントヘッドにしている。
性的な苦手意識を癒す。創造性や生殖に関連した生命力そのものを示すチャクラを活性化させる。
性的なトラウマを持つ人、創造性が欠乏した人に有効。
能力:
二人で胸を寄せる決めポーズとともに「だっちゅーの光線!」と叫ぶと胸元から赤い光線が出る。
また、「だっちゅーの超音波!」と叫ぶと胸元から赤い環状の目に見える音波が出る。
ちなみに、光線を浴びると目に激しい痛みを感じて一時的に盲目の状態になり、
超音波を浴びると耳に激しい痛みを感じて一時的に耳が聞こえなくなる。
条件:
二人で使用した場合、一度に打てる回数は三発が限度。
はるか一人でもこの技は可能だが、回数は同じでも威力が弱くなる。
代償:
一発打つごとにネタを後ろから忘れていく。また、体力が削られるため疲労感を覚える。

あと、レインボークォーツは以前「東京花火」で出したのと同じものです。

392 ◆yPCidWtUuM:2006/03/01(水) 14:16:13
あと、>>385

>言葉とともにショッキングピンクの衝撃波らしきものが飛んでくる。



>言葉とともに赤い環状の音波らしきものが飛んでくる。

に変更し忘れてます。すいません。

393名無しさん:2006/03/01(水) 17:52:44
乙!面白かったです。
バカルディ時代の二人にはあまり詳しくないのですが、とても自然な感じですよ。
さまぁ〜ず好きなんで、続き楽しみにしてます!

394 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:00:33
>>393
ありがとうございます。とりあえずここまで本スレに落としてきます。
そのあとで続きの話をこちらに落としに来ます。

395 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:32:56
三部作の二番目、「151プルーフ」落とします。

アホかってくらい長いのでまず半分。
こちらも設定は97年末、「ホワイトラム」の数日後です。

396 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:34:21
[バカルディ・151プルーフ<1>(side:三村)]



あの襲撃から数日後。
久々に入った早朝ロケのあと、自宅に帰って愕然とした。

おいてあった靴が踏みつけられ、不自然に散らばった玄関。
明らかに土足で荒らされた跡のある床。

こんな金のねぇ家に泥棒か?
背筋を冷たいものが駆け上がる。
まず浮かんだのは妻と娘の顔。

…そうだ、落ち着け。
今日彼女は、幼い娘をつれて自分の実家に行っていたはず。
母の得意料理を習ってくると笑っていた。
大丈夫、二人は大丈夫。


少しだけ安心して、人の気配がないことを確認し、家の中へ踏み込んだ。
侵入者の靴跡は居間に続く扉の前で止まっている。
はやる気持ちを抑えつつ、半開きで放置されていた扉を開けはなつ。
やはり居間には誰もおらず、ただフローリングの床にところどころ土がついている。
まわりを見回して、テーブルの上に置いてある紙切れに気付く。それを乱暴に引っ掴んだ。


「…『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡してください』…?!」


思わず声をあげて読んでしまった文面は石に関するもので、俺はやっと事態を理解した。

397 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:34:57

[バカルディ・151プルーフ<2>(side:三村)]


これは明らかに黒の連中の仕業だ。

けど、ブラックスターはいいとして、もう一つのレインボークォーツって何だ。
もしかしてあれか、大竹がこないだ拾った石の名前か?

それにしても何で俺のところに奴らは来たんだ?
『大竹さんへ』って何だそりゃ。俺は三村だ。
しかもブラックスターがあいつのだってことは知ってるはずなのに。
…っていうか俺のフローライトに用はねえってか。それはそれで腹立つな何か。

いやそれどころじゃない、大竹だ。
俺のとこに何もないってわかったら大竹が危ないじゃねえか!


自分のものでない石のことで家に押し入られた理不尽さに一瞬苛立った。
が、石がこれに絡んでいるのだとすればそれよりも何よりも相方の身が心配だ。
こうしている間に、あいつが黒の奴らに襲われていたりしたら…!

駅で別れた大竹は早朝ロケにかなり疲れた様子だった。
まだ昼過ぎなのに帰って寝るなどと言っていたから、無事なら自宅にいるはず。
ひどく震える指を電話器のボタンに伸ばす。
そらで言えるほどかけ慣れた番号なのに、焦りと不安でなかなかうまく押せなかった。

よく考えてみれば石を持っている相方はなおさら危ない立場だ。
石をめぐって戦闘にでもなっていたら大変なことになる。
ブラックスターは防御用だし、レインボークォーツはあの戦闘後、大竹が回復に使おうと試して失敗している。
持ち出した虫入り琥珀は攻撃用だが、仕事が減った今使うにはリスクが大きすぎる。

どうか無事でいてくれと祈りながら、通話口に親友で相方の男が立つのを待つ。
ほどなくして受話器からは緊張感のない大竹の声が聞こえた。


「もしも〜し」
「…タケ!」
「あ?何だ、お前か。どうしたよ?」
「タケちゃん、いやアレだ、大竹お前、お前無事だな?」
「…無事だけどよ、おい三村、何があった?」
「あの、アレだ、その、黒だよ!」
「落ち着けバカ、アレとか黒とか意味わかんねぇだろ、ツッコミじゃねんだからよ」
「家に紙があって、お前の石がアレだ、いやお前のだけじゃね〜けどあの、アレ…」


…くそ、何も言葉出てこねぇ…。

398 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:35:24

[バカルディ・151プルーフ<3>(side:大竹)]


「…あーもうわかった、今からお前んち行くから大人しく待っとけ、な」


要領を得ない三村の言葉から辛うじて「三村の家」「自分の石」「黒いユニット」というキーワードをつかみ、
鞄にしまいこんでいた三つの石を持って家を出る。

あの三村という男は昔から、興奮すると混乱して話ができなくなるのだ。
いい加減付き合いも長いが、そういう所はまるで変わらない。
全く困ったもんだ、と溜息をつきつつ、三村家へと道を急ぐ。
電車代も馬鹿にならないし、黒の連中に交通費でも支給してもらいたいもんだ。
小さく一人ごちて、最寄りの駅の券売機のボタンを押す。


電車を降りて数分後、マンションにつくと、わざわざ下まで降りて入口で待つ三村の姿があった。


「三村」
「あー大竹、こっちこっち!」


声をかけると相方は早くついて来いと目でうながしてくる。
それに誘われるように小走りであとを追って、辿りついた三村家の玄関と床はひどい有様だった。


「…なんだこりゃ」


呟いた後絶句した俺に三村は言う。


「帰ってきたらこうなってて…居間にこれが」


手渡された走り書きの置き手紙に目を見開く。

『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』 
…おいおいおいおい。探偵の真似事でもしろってか、コンチクショウ。

399 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:36:00

[バカルディ・151プルーフ<4>(side:大竹)]


…とにかくだ、どう考えてもおかしい。

何よりまず、三村の家に置かれたこの手紙が『大竹さんへ』で始まってることがおかしい。
もしこれが『三村さんへ』の書き間違いだとしたら、今度は石の選択がおかしい。

黒の奴らはブラックスターが俺の石だと確実に知っている。
レインボークォーツがこの間拾った好未の石のことだとすれば、あれを俺が持っていることも知っている。
意識があった好未は、俺があれを拾ったのをしっかり見ていたはずだ。

だが、この状況には明らかにもっと根本的なおかしさがある。

大体、家を襲う事自体がおかしいんだ。
だってそうだろう。普通みんな、石は肌身離さず持ってる。
それなのに何で三村の家にあがり込まなきゃならないんだ。直接本人を襲えばいいのに。


…本人を、襲えばいいのに?


「おい、三村…」
「うん?」
「確か今日は嫁さんと子供、お前の実家に行ってるってロケん時話してたよな」
「ああ、そうだけど…」


…なんてこった。

最悪の事態に気づいてしまって頭を抱える。
どうしたらいいんだ、この状況。


「なあ、どーしたんだよ、大竹…?」


眉をハの字にした戸惑い顔の相方がこちらをのぞき込んできた。
…相変わらずよく見るとブタみてぇなツラしてんな。
この間の戦闘の時も使ったフレーズが頭に浮かぶ。
口に出したらまた、すぐさま三村お得意のツッコミが入りそうだ。


「あー…、まあアレだ、とりあえず床の土、拭いとくか?」


わりぃ、今はまだ、俺が完全に整理するための時間が必要だ。

400 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:36:29

[バカルディ・151プルーフ<5>(side:三村)]


…床の土拭いとくかって。

まあそりゃ拭いとくけどよ。
嫁さん帰ってくる前に綺麗にしとかないと、警察とか呼ばれたら困るし。
でも大竹お前、そういうんじゃないだろ? 何でそんな辛そうなツラすんだよ。

雑巾をとりだして水に浸しながら、もう一度相方に問いかけてみる。


「なあ、アレか、お前何かわかったとか?」
「…」
「おい、大竹…」
「とにかくコレ拭き終わるまで待っとけよ」
「…」
「めんどくせぇけど、頭ん中まとめってから、今」


少し苦い笑顔で大竹は雑巾を受けとり、床を拭きだす。
こいつがそう言うなら、俺は待つだけだ。

黙ってフローリングに散った土を拭きとっていく。
自分が被害者なのに、犯人の残した証拠を消しているように感じて、少し気が滅入った。
それでも自分の家族の平穏のためには、侵入者の形跡を残しておくわけにはいかないのだ。

守るべき大切なものを持って闘いに身を投じるのは結構辛い。
それでもこの世界からトンズラする気がないなら、やるしかない。
キュッと唇をひき結んで作った真剣な顔は多分、大竹には見えていないだろう。

汚れた床をこする手に、知らず知らず力が入る。
おろしてからそう日も経っていない雑巾はまだ白かったが、土がそれを黒く染めていった。

玄関まで全て綺麗にして、洗った雑巾を干す。
すえた匂いの移ってしまった手をゆすぎながら、大竹が話すのを待った。


「なあ三村」


俺に何かを伝えるための言葉が、大竹の口からやっと出る。
無言で続きを促すと、予想外の言葉が耳に飛び込んできて、唖然とした。


「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」

401 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:36:59

[バカルディ・151プルーフ<6>(side:大竹)]


掃除ってのは実のところ、単純作業だ。

安いフローリングの木目を眼で追って、土を拭きとる。
その作業を無心にくり返しながら頭の中を片付けていく。

…三村にきちんと説明できるように、整理していかねぇと。

俺の言葉を、黙って三村は待っている。
だから、めんどうだと思っても考えることを放棄したりはしない。
絡まった糸をほどくように、ひとつひとつ状況を確認して答えを出そうとする。

まず、何よりも誰よりも、自分自身を落ち着かせる必要がある。
冷静に、冷静に。三村にできないことは、イコールで俺がやるしかねえことだ。


誰もいない三村家に、土足で上がり込んで置き手紙を残した連中。

『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』

この一見不自然に見える文面は、一言で言うなら「脅し」だ。
それも、見事に俺たちの弱点を突いた、これ以上ない方法の。

三村自身はまだ気づいていない。というよりこれでは気づけないだろう。
それでいいんだ。三村に気づかせることが目的じゃない。奴らの本当の目的は俺に気づかせること。
そう、俺は気づいてしまった。今、本当に危ないのは三村じゃない。俺でもない。

…三村の家族、だ。


ロケのとき、三村は皆の前で家族の話をした。
今日彼女たちが家をあけていると知っている人物は、あのロケに参加したほぼ全員だ。
その中に一人や二人、黒の奴がまぎれてたっておかしくはない。

誰もいないことを知っていて、わざと三村家に入り込んだのは、デモンストレーション。
「お前の家に入り込むのなんて雑作もない」、そう伝えるための。
最初から家族のいるときに押し入ったらそれこそ警察沙汰だ。
「でもいざとなったら自分たちにはそれができる」、そうはっきり脅しにかかってきている。

『三村さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』
こう書けばわかりやすかったのにそうしなかったのは、目的の石が三村のものでなかったから。

『三村さんへ 大竹さんの石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』
こうしなかったってことは、こいつの性格をよくわかってる奴が黒にいるってことだ。

三村の性格からいって、どう考えても自分の家族のために俺の石を黒に渡せなんて言いだせるはずがない。
かといってそのままにもできないから、俺に石を自分が預かろうとか言うだけ言ってみるんだろう。
多分三村のことだから適当な理由なんて思いつかなくて、俺は応じない。

そのうちこいつがなんでそんなことを言いだしたのかわかれば、俺は今の状況と同じ選択を迫られる。
でもそれじゃ余計な時間がかかってしまう。てっとり早いやり方が他にあるのにそんなことする必要はない。

こうやって三村の家に押し入っておいて、俺宛に手紙を書けば話はもっと簡単だ。
『大竹さんへ 石を渡して下さい』
これはそのまま、
『大竹さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の相方の家族を襲うだけの力があります』
っていう意味だとしか思えない。


「なあ三村」


…最悪だ。何もかもこれを書いたやつの思惑通り。


「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」


気づいてしまった以上、俺はこの脅しを決して無視できないんだから。

402 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:38:56

[バカルディ・151プルーフ<7>(side:三村)]


「な…に言ってんだよ、お前…」


『黒に入った方がいいかもしれない』 ?
何でお前がそんなこと言うんだよ。わけわかんねぇよ。
っていうかホント意味わかんねえ、何で? 何でだよ!

俺はすっかりパニックを起こし、言葉も何も出てこなくなった。
そんな姿を動じることなく眺めながら、静かに大竹は言う。


「白にいるより、安全かもしれねぇ、多分」
「ふざけんなよ! 俺は絶対嫌だぞ、こんなことする奴ら!」
「じゃあコレやった奴探して復讐でもすっか?」
「いや、そこまですんのは…ああでも目の前に現れたらやるけど、でも…!」


大竹の言葉に一瞬激さずにはいられなかった。
しかし、「復讐」などという言葉は自分の性にあうものではなくて。
かといってすんなり大竹の言う通り、黒に鞍替えするというのも腹に据えかねる。
自分の気持ちを伝える言葉を見つけることができずに、ただ悲痛な思いで大竹を見た。
そんな俺を知ってか知らずか、大竹は諭すように言葉を続ける。


「あのな三村、例えば犯人が目の前に現れて、倒したとすんだろ」
「…おう」
「それで終わりじゃねーんだぞ、コレ」
「え?」
「この先ずっとこーいうの、いや、もっとひでぇこと続くかもわかんねえぞ、白にいる限り」
「…」
「嫁さんとか、ちっちぇーのとか、嫌な目にあうかもしんねえ」
「それは…!」
「お前がそれ、嫌だったら、黒入るしかねぇだろ」


大竹の滅多に見られない真摯な表情に、何も言えなくなる。
こいつが黒に入ることを勧めた理由は俺の家族にあったなんて。

…愛しい妻と娘。この先彼女たちを危険にさらすような真似は、とても自分にはできない。

だが、本当にそれでいいのだろうか。
この男を、自分の家族のために黒に屈させていいのか。
自分の都合だけで、大竹の進む道を勝手に曲げてしまっていいのか。
何か、大竹に言うべき正しい言葉を探そうと俺は必死になる。
その努力は実を結ぶことなく、何一つ言えないままうつむくしかなかった。

視界に入る足先を見つめていると、大竹はぽつりとこぼす。


「俺は嫌だぞ、お前がそーいうめんどくせぇことになんの」


…バッカ、大竹。そんなくっせぇ台詞、お前アレだろ、言う奴じゃねぇだろ。

心の中でそんなツッコミを入れながら、相方の方をちろりと見てみれば。
言っておいて恥ずかしかったのか、大竹はこちらを見ずにあらぬ方向を向いている。
そんな大竹の姿に少し笑いながらも、呟いた言葉には苦みが走った。


「俺がめんどくせぇ真似、お前にさせちまうじゃねーかよ…」
「…うるっせ! うるっせお前! 『させちまう』 っとか、言ってんじゃ、ねぇ! 言ってんじゃ、ねぇ!」


重くなりそうな俺の言葉を無理矢理切り落とすように、大竹はふざけて言う。


「…二度言うのかよ! しつっこい!」


それにいつものツッコミを入れながら、三村は相方のひねくれ気味の優しさに心から感謝した。

403 ◆yPCidWtUuM:2006/03/03(金) 23:40:15
とりあえず本日ここまでです。また後日続き落としに来ます。

404名無しさん:2006/03/04(土) 12:00:50
乙です!さまぁ〜ずらしさがすごい出てます。
大竹さんカコイイ!

405 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/09(木) 16:43:38
オジオズ編、本編です・

言い逃れるつもりもない。ただ、それがそこにある真実。

Corpse Hero /ver.01

ざわついた楽屋で、きらりと光る石に目をやる。
黄緑が映える、黒の装飾。気になって石の事を調べた俺は、あまりにも自分に似合いすぎる石に優越感を隠すことはできなかった。
力をつかったことはないが、きっと正義のヒーローのように強くなれるんだろう。この中の誰よりも。いや、石を持つ誰よりも。
笑い出したい気持ちを抑えながら台本に目をやり、自身の出番を確認する。
「篠宮くん」
視線をあげれば丸い顔に眼鏡、美人ではないが愛嬌のある顔─ハリセンボンの近藤春奈─が微笑んでいた。
「あっちにね、差し入れのお菓子あるから、みんなで食べないかって」
指差す先のテーブルに、言われたようにたくさんのお菓子が並んでいる。外見に似合わずよく気を配る彼女は、一人でいる人を見ていられないのだろうか。
そんなことを思いながらもひとつ頷き、軽く片手をあげ相手を制した。
「今はええわ。後でな」
短く答えると、近藤はそう、とだけ呟いてまたいつもの輪に入っていく。
にぎやかしく楽屋で輪をなす「吉本」という繋がりに思わず視線を向ける。
10カラット内での吉本のメンバーは、オリエンタルラジオ、バッドボーイズ、ハリセンボン、コンマニセンチ、アームストロング、プラスマイナス…過半数を占めている。
他所属だから馴染めない、というのは少し子供じみてるだろう。現に自分の相方の高松はすんなりとあの輪に入れるし。
何か欠けているのは俺だけかもしれない。
じわり、と石が熱を持つのに気づく。負の感情を吸い取り、喜んでいるようだ。

あの日「黒い意志」に飲み込まれた俺は、話に聞いていたように「のっとられる」でも「暴走する」でもなく、ただ単純に、ひどく素直に「順応」していた。
頭が割れるような頭痛も、のどを焼くような吐き気もなく、むしろ目覚めてからは怖いくらいに体調も気分もよくて、不思議に思っていた。
ただ確実な変化もある。
───地の底から湧き上がるような悪意。
ああ、きっとこれに負けたやつが暴走したりのっとられたりするんだ、なんて納得しながら、自分の石を見る。
フィロモープライトは心の強さを表すらしい。
正義のヒーローにはうってつけの石。この石が自分を選んだ理由もよくわかる。
自身の意思だけは何者にも折られることはないし、自分の選んだ選択は、間違っているとは思わない。
そう、俺の正義は間違っていない。
蹴落として、血反吐を吐こうが、昇りつめたものが持つものこそが栄光なんだから。

406 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/09(木) 16:44:24
「篠宮、新幹線何時やったっけ」
「あー…よう覚えとらんわ」
「お前…」
苦笑する高松をよそに、同じように大阪に向かう新幹線のホームでさきほどまで見た顔を発見する。プラスマイナスの二人が、やはり同じように地元行きの新幹線を待っている。とくに声もかけずにいたのだが、それはあっさりと破られた。
「おー、めずらしいやんか」
岩橋がこちらに気づき手招きしながら近づいてきた。それにつられるように兼光。
「あーお疲れ」
相方が軽く笑いながら手を招く。
近づく二人から、鈍い共鳴を感じ、相方越しに二人を見る。
楽屋のように楽しげに会話を弾ませる三人をよそに、火傷するんじゃないかと思うくらいに、フィロモーブライトが熱を持ち始めた。
奪え。
黒い声が、脳に響くのを振り切り高松の腕を取る。
「新幹線、来とるで」
「お?おお、じゃ、またな!」
プラスマイナスの二人に手を振り、その場を離れる。奪うのは簡単だ、奪うのは。
でも。
「ちょ、どないしてん?一言もしゃべらんと…」
「なんもない」
相方に見られたら終わりだろう。
相方にだけは見抜かれてはいけない。
一番に信じさせて、何もわからないまま事の終わりに立ち合わせて、それで。
俺は正しかったと、証明してもらわなければ。


「あ、そういやあの二人の石、どんなんやろ」


何気ないその言葉に背中から引き裂かれたように息が詰まる。
そう、こんな何気ない言葉でさえ今の俺には毒だ。
「石」
「うん、今日なちょっと見せてもらってん。仲間やったら、協力せなあかんやん?」
「…仲間?」
顔を上げずにただ淡々とオウムのように繰り返しながら、ぐらぐらと脳が煮え、脳内に直接あたる洞窟のような反響音が、吐き気を覚えさせる。
───奪え
──全て
─壊せ!!!
目を見開き息を吸う。
瞬間ベルのなる新幹線に高松を押し込み、発車したのを見送りホームに膝をついた
警鐘を打ち鳴らし、それに呼応するように石は黄緑の光を増し、胸の詰まるような苦しさに肩で息をしながら、ゆっくりと顔を上げる。一度、二度。瞬きと深呼吸を繰り返すと、ゆっくり立ち上がり、先ほど二人がいたであろう場所を見つめる。

息を潜め、目を閉じ、微かに、でもはっきりと感じる石の共鳴に、無意識に口角はあがる。
黒も白もない。
正しいのは俺だ。
それ以外の石など何も、いらない。

407 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/09(木) 16:45:21
とりあえず戦闘の前までですが。
宜しくお願いします。

408名無しさん:2006/03/09(木) 20:20:04
◆9BU3P9Yzo.
凄く面白い。本スレに落としても問題ないと思います。

409名無しさん:2006/03/09(木) 23:07:14
>>405
面白いです。ちょっと気になった点↓

春奈→春菜
あと春菜は篠宮のことは「さん」付けだと。

410 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/09(木) 23:14:42
>>408,409
ありがとうございます!
やはり一度ここに投下すると自分の抜けっぷりが見えていいですね。
御指摘ありがとうございます!

411 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:16:13
>>404
レスが遅くなりましたが、ありがとうございます。
時間ができたので続き落とします。

412 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:18:28

[バカルディ・151プルーフ<8>(side:大竹)]


十字の光が入った黒い石。透明で虹色の光がちらつく石。
ポケットからとりだしてテーブルの上ではじく。


「『ブラックスターとレインボークォーツを渡せ』、ね」


居間で相方と顔を突き合わせつつ石を眺めてみる。
確かにこの2つがあれば、使い方と相性次第でそれなりに誰でも身を守れるんだろう。
まあ、俺にはレインボークォーツは使えないんだが。

…渡せ、と言われておとなしく渡すつもりはなかったんだけどよ。

ちょっと心の中で呟いてみる。でも三村にそんなことは言わない。
結構真に受けるところのある相方に、よけいな心配をさせる必要もないだろう。
要は優先順位の問題だ。今は俺のプライドより三村の家族の方が重い。


「でもあれだろ、俺らが黒に入るんならお前の石、わざわざ渡すことねぇだろ」
「まあな、ブラックスターは現状維持だろうけどよ」
「レインボークォーツは黒の上の奴に渡すとかか?」
「かもな、コレ使えたら結構強力だし、持っていきてぇだろ」
「けど使うと記憶消えるんだよなあ」
「あ、そうか、お前こないだコレ試したもんな」
「おう、お前はダメだったけどな」
「ああ、ダメだったなー…つうかアレだな、琥珀はいらねぇんだなアイツら」
「リスキーすぎんだろ、アレは…もう事務所に返してこいよマジで」


そんなふうにぽつりぽつりと会話を続けていると、玄関のチャイムが鳴る。
嫁さんか? と三村に視線で尋ねると、軽く首を傾げて出ていった。


「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』
「…誰だ、お前」


玄関から聞こえてきたやりとりに嫌な予感がして顔を出す。
三村が剣呑な表情で扉の向こうと会話していた。


『黒のモンです、開けて下さればわかりますよ』


その台詞を聞いて扉を開けようとした三村を見て、とっさに石を握り込む。
ぐっと手に力をこめると、無色透明の「世界」が広がって、三村ごと周囲を包んだ。
次の瞬間に玄関扉が開き、立っていた人物の姿がはっきりと目にうつる。


「どうもこんばんは、お久しぶりです」


扉の向こう、悪びれない様子で話しかけてきたのは見知った顔。


「…土田」


U-turnの土田晃之が、そこには立っていた。

413 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:19:18

[バカルディ・151プルーフ<9>(side:三村)]


大竹と話している最中に、玄関のチャイムが鳴った。
妻と娘が帰宅したのかと一瞬思ったが、もう少し遅くなると言っていた気がする。
いったい誰だ? といぶかしみながら応対に向かう。


「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』


聞いた覚えのある声。でも、確証が持てない。
ただ、どう考えてもコイツは今、招かざる客だ。


「…誰だ、お前」


少し低くした声で問うと、扉の向こうで少し迷うような気配があった。
しかし結局名乗る気はないらしく、返答は微妙なものだった。


『黒のモンです、開けて下さればわかりますよ』


その言葉に覚悟を決めて扉を開こうと手を伸ばす。
後ろで大竹の石の気配がして、ああ、使ったな、とぼんやり思った。


「どうもこんばんは、お久しぶりです」


…そうか、お前も黒だったんだな。


「…土田」


同じく家庭持ちの男がそこにいて、なぜか少し悲しくなった。

414 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:20:04

[バカルディ・151プルーフ<10>(side:大竹)]


「すいませんね、いきなりお邪魔して」


意外と礼儀正しい大柄な男は、軽く会釈をする。
襲ってくるような気づかいもないので、石を使うのもやめにした。


「お前、黒なんだな?」


三村が割に落ち着いた態度で尋ねる。


「そうです」
「俺んちに押し入ったの、お前か」
「…半分ハイで半分イイエ、ですね」
「どういう意味だよ」
「お二人の現場のスタッフに黒の奴がいましてね…」


…ああ、やっぱりな。
予想通りの展開だ、と胸の内で呟く。
ロケの時の三村の言葉、聞いてやがったんだ、畜生。


「そいつから連絡受けて俺が家の中に入れるようにお膳立てしました、実際入ったのはもっと若手の奴らです」
「…何でそんなマネしやがった?」
「俺にも家族がいるんです、って言ったら猾いですか」
「…」
「本意じゃなかったんですよ、信じてもらえるかわかりませんけど」


相変わらず、どこかしらけた態度で話す土田の言葉からはそれでも、嘘は感じられなかった。
三村は静かに土田の言葉を聞いている。俺はその背中が小さく震えるのをじっと見ていた。


「土田」


三村の背中越しに、客人に声をかける。
土田は視線を少しだけ上げてこちらを見た。


「あの文面考えたの、お前か?」
「…すいません」
「ありゃ完璧だな、今二人で黒入る相談してたとこだ」
「…」
「入ったら石は渡さなくても構わねぇか?」
「『黒に入る』って聞いた場合はレインボークォーツだけ回収するように言われましたけどね」
「そーか、んじゃやるよ」


ポイッと投げて渡すと、慌てたように土田はそれをキャッチする。


「ちょっ…何、いきなり投げないで下さいよ」
「持ってけよ、さっさと」
「えっ?」
「さっさと行け、三村が…」


「切れる前に」、と続ける前に、三村の怒りが爆発した。

415 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:20:49

[バカルディ・151プルーフ<11>(side:大竹)]


…これは間に合わない。御愁傷様。

早くも諦めが入り、その場で土田にむかって手をあわせる。
三村のポケットに中にあったらしい石が強烈な光を放ち始めていた。
その光の眩しさに思わず目をつむると、三村の怒号が響く。


「土田お前…お前、この、『駄馬がっ!』」


そう三村が叫んだとたんに土田は、凄まじいスピードで三村家の玄関から吹っ飛ばされた。


「 『駄馬が!』 ?!」


…『駄馬が!』って三村、それ土田へのツッコミなのか?!
フローライト、お前の解釈ではツッコミだったんだな? お前三村かよ!

駄馬がピューッと空を飛んでいくならまだしも、土田が空を飛ぶということはそうとしか思えない。
一般的には絶対ツッコミに分類されないだろう言葉に一瞬状況を忘れて逆にツッこんでしまった。
…本当にうちの相方は、ツッこみどころの多いツッコミだ。

その間に、土田はマンションの外に面した廊下の柵を越えてすっ飛び、空中に投げ出された。
大柄な土田の身体は、重力に逆らわず急速に落下をはじめる。

…そう上階から落ちているわけではないが、このままでは骨折程度は免れない。
慌てて駆け出して、土田を追って階段を降りようと手すりに手をかける。


「土田っ…!」


叫び声が響くマンションの前、地面すれすれで土田の身体は突如現れた赤いゲートに呑み込まれ。
そして緑のゲートでもう一度現れると、玄関前の廊下に背中から落ちてきた。


「いっ…てぇ…」


腰をしこたま打ちつけたらしい土田はコンクリの上でうずくまる。
これがあの場所から普通に落下していたら、と思うとぞっとした。
三村の力は一見間が抜けているが、使いようによってはかなり強力で、恐ろしいものだ。
普段は意識していないが、こうした爆発的な力を見ると嫌が応にも気づかされてしまう。


「おい三村、気ぃすんだか」
「…」


自分よりもだいぶ大柄な男を吹っ飛ばした相方のほうを見やれば、放心状態だ。
凄まじい勢いでツッこんだせいでかなり体力を消耗したらしく、その場に座り込んで呆然としていた。


「三村」
「あ…」


二度目にかけた声でやっと正気に戻ったらしい三村の目に光が戻る。
きょろきょろとあたりを見回し、うずくまる土田に気づくと近よって言った。


「土田、怪我ねぇか?」


…それお前が聞くのってちょっとアレじゃねぇ?
またも微妙にツッコミを入れてしまいつつ、とりあえず土田を家に上げてやるよう三村に促した。

416 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:21:28

[バカルディ・151プルーフ<12>(side:三村)]


腰を打ったらしい土田を家に上げてやる。
あの手紙が置かれていた居間のテーブルに、三人でこしかけた。

さっきはつい怒りのあまり石の力で土田を吹っ飛ばしてしまったらしい。
頭が真っ白になっていたので細かい記憶がない。

犯人と言うべき相手を目の前にしてみたら、やっぱりビックリするほど腹が立った。
ただ、一度ガーッと怒りが発散されたからか、今はもう正直、少し落ち着いてしまったところだ。
多分、土田にも黒を選ぶ理由がそれなりにあるのだろう。自分たちがこうなったのと同じように。
何となくそう感じてしまったので、これ以上責める気にもなれなかった。


「なあ、黒入ったからって今日からいきなり何かすっげえ変わるとかじゃねぇんだろ?」


大竹が問うと、土田は首を縦に振る。


「ええ、まあたまに指令が来たりして面倒ですけど…毎日のように戦闘とか、そういうのは逆にないですから」
「俺らを襲ってきてたのも、もっと若手の奴らが多かったもんな…ある意味、今までより楽ってことか」
「そうなりますね…自分の意志で黒を選ぶなら、そう嫌なことばっかりでもないと思いますよ、俺はね」


する前までは禁忌だと思っていた変わり身が、やってみれば意外に大したことでないのだと知る。
むしろ面倒が減るのだと思えば、それはそれで悪くはないのかもしれなかった。
ただ、胸に残るわだかまりと妙な後ろめたさだけが、白から黒へと鞍替えした自分をちくりと責める。


「これでとにかく、お前を通じてか何かわかんねぇけど、黒の連中に俺らが主旨替えしたことは伝わるんだな?」
「はい、俺が伝えときますんで…明日からは襲われるようなこと、なくなりますよ」
「…そうか」


少し安堵したように大竹が小さく息を吐いた。

そうだな、少し疲れていたかもしれない。毎日のように襲撃を受ける生活には。
大竹の石の力や俺の石の力、それに虫入り琥珀の力でどうにかここまで怪我もなくすごしてきたけれど。

…正直に言えば、結構限界が近かったのかもしれない。
フローライトを指先でもてあそびながら、そんな風に思った。


「そういえばお前の力って何なの? 何か赤と緑の出ただろ、さっき」
「ああ、俺のは空間移動なんですよ、あれは空間のゲートで…赤ゲートから緑ゲートに移動できるんです」
「じゃあ空中でゲート出して移動したってことか?」
「まあそうなります、ただ咄嗟のことだったんで体勢をとりなおせなくて背中から落ちましたけど」


…なるほど、それで俺の家入れたんだな。
今の大竹と土田の話から、やっと自分の家への侵入経路を理解できた。

そういう力の石もあるってことか、あんまり見たことなかったな、襲ってきた奴はみんな攻撃系ばっかりだったから。
直接襲撃するなら別にそういう力の奴にやらせる必要ねえもんな。まあ全くその通りの話だ。

石の力の代償でぐったりと疲れた身体を椅子に沈めて黙ったまま、そんな風に二人の客人の会話を聞いていると。
突然電話が大きな音で鳴って、急いで受話器をとった。


「はい、三村です」


電話の相手は最愛の妻で、ほっと溜息をつく。
もうすぐ帰るから、という言葉になぜかとても胸が温かくなって、笑顔で受話器を置いた。

417 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:22:10

[バカルディ・151プルーフ<13>(side:三村)]


電話を機に、大竹と土田を送り出す。
どうせなら妻と娘を迎えに行ってやろうと俺も一緒に家を出た。
ずいぶんと時間が経っていたようで、西の空がすっかり赤に染まっている。
夕暮れの街の景色はあの襲撃の日と何も変わらなかった。

土田は方向が違うので、大竹と俺が使うのとは別の駅へと向かい、別れる。
相方と二人、駅への道すがら話すのはこれからのこと。


「大竹」
「あん?」
「変わんねぇんだよな、結局、この先も」
「同じだろ、ちょっと立場が違うだけでよ」
「…そうだよな」


…そうだ、何も変わらない。

大竹と二人、この世界でやっていくのだから。
立場が変わっても、大事なところだけは曲げないでいればいい。


「まあ、襲撃がなくなんのはありがてぇな」
「それはホント、助かるな」
「アレだな、もういいな、虫入り琥珀」
「そうだよ、いらねぇだろ、早く事務所返してこいよ」
「そーするわ」


ポケットから出した蜂蜜色の石を、大竹が夕陽に透かす。
隣からのぞき込んだそれは、小さな羽虫を呑み込んでとろりと固まっている。
この柔らかな光をたたえた石は、長い長い時の流れの中で、一体どれだけのものを見てきたのだろう。

この石がなければ切り抜けられなかった闘いもたくさんあったけれど。
もう俺たちには必要ないし、この先に続く道では邪魔になるだけだ。

白でも黒でも、どのみち闘っていくしかないけれど。
こっちが襲撃者になるなら、これを使うような背水の陣じみた闘い方はしなくてすむ。
たとえそれで良心が痛んでも、もう立ち止まるつもりもない。
ここからは俺の石と、大竹の石があれば、それで進んで行けるはず。


「そんでアレだ、大竹」
「何だよ」
「もう一回売れて、俺ら、…とれるよな?」


…何を、とは口にしなかった。
でも多分、伝わったんじゃねぇかと思う。


「…バーカ」


大竹は笑いながら答えて、虫入り琥珀をもう一度しまう。
ふざけたように言った「バーカ」の後ろに、きっと隠されている言葉。


『とれるに決まってんだろ、”天下”』


自分だけに聞こえる声を聞いた気がして、白っぽい駅舎を染めるオレンジ色の光の中、小さく笑った。

418 ◆yPCidWtUuM:2006/03/11(土) 15:29:58
これで「151プルーフ」終わりです。
土田の能力、バカルディ(さまぁ〜ず)の能力は以前から出ているものと同じ。
天下とるとかって話は当時のインタビューでの彼らの言葉からいただいてます。
土田とバカルディの関連がよくわからず、この時期に絡ませていいものか
正直悩んだんですが、土田は当時ボキャブラ出てたし、一応知られている若手に
なるのかなと思って顔見知りの設定にしました。
ただ、ひょっとして土田が結婚をまだ公表してない時期だったような気もして
不安なので、その辺り詳しい方いらっしゃれば教えていただけると嬉しいです。

419名無しさん:2006/03/11(土) 17:42:10
乙!笑えるとこも切ないとこもあって、読むのが楽しかったです。
…石は持ち主に似るのかw

420名無しさん:2006/03/12(日) 02:26:48
乙でした。すごく本人達の雰囲気が出ていてよかったです。
ところで土田の結婚のことですが
ボキャブラ当時はネプチューンや海砂利水魚などの
ごく親しい人にしか話していなかったという話を聞いたことがあります。
でもホリケンと有田は口が軽いので彼らには内緒にしていたとか。
結婚を公表した時期については自分にはわかりませんでした。すみません。

421 ◆yPCidWtUuM:2006/03/13(月) 12:33:48
>>419
感想ありがとうございます。
ペットとかみたいに石が持ち主似だったら面白いかなとw

>>420
感想と土田の結婚についての情報ありがとうございます。
その部分ぼかして書き直して、本スレに投下してまいります。

422oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:17:47
以前、トータルテンボス篇書いていた者です。
どのくらい需要があるものか読めませんが、
ホリプロコム若手のビームとオキシジェンが出る話を途中まで投下させてください。
(とりあえず前篇のような扱いです)
おかしい表現や、ほかの作品との齟齬などあったら教えていただけると嬉しいです。

423oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:18:50
「情けねぇよ俺は」

 ビル群特有の風に、白いシャツの裾が大きくはためく。それを気にも留めず、今仁は屋上の
手すりから身を半ば乗り出して、自分が居るビルと隣のビルとの谷間を見下ろしている。だか
ら彼の声は風に千切れていて、少し離れた吉野の耳には切れ切れにしか届かない。

「え?何?」

 単なる問い返しに過ぎない吉野の言葉がやる気のないそれに聞こえたのだろう、今仁は軽く
眉をひそめて振り返り、「情けねぇ!」と声を荒げた。しかし吉野は、今仁の尖った声に動じ
る様子もなく、「ふーん」と相槌にもならない声を漏らしただけで、星も月も見えない暗い夜
空を見上げたまま。
「…どうした?とか、何が?とかねぇのかよ!リアクションほとんどナシか!」
 今仁はあっという間に焦れる。そういう今仁の分かりやすい所が、美点でもあり欠点でもあ
ると吉野は思う。
「…どうかした?」
 自分で振らせておいて話し始めるのって楽しいのかな、とちらりと思ったが、今仁には云わ
ない。吉野が言葉を飲み込んだことなど、今仁は知るよしもない。

「おまえの石、戦うのに全然使えねぇのな。俺の石も戦闘力ねぇし。俺ら二人ともすげぇ情け
ねぇなと思ってさ!」
 磯山さんのとかすげぇぜ?と続けて、肉体強化に石を使った磯山がいかに強いかを語る今仁
の表情を見ながら、吉野は無表情に頷く。
 聞き流してはいない。きちんと聞いてはいる。けれど彼の思いは今、別のところにある。

(こんなに、いつも通りの表情に見えんのにな)

 吉野の心の声を打ち払うように、今仁は磯山の様子をジェスチャー付きで解説する。
「磯山さんがこうやって殴ったらさ、敵が3mくらいブッ飛ぶの!マンガか!って俺叫びそう
になったわ」
 拳を架空の敵に向けて振り切る。その今仁の右手首には、白いリストバンド。手首側、ワン
ポイントのように黄色いガラスのようなものが付いていて、ふいにキラリと吉野の目を射た。

(サルファー、だっけ)

 それが、今仁の石の名だ。より耳なじみのある言葉に云い代えれば、“硫黄”。鮮やかな黄
色をしていて、最初にそれを見た瞬間、今仁が「何か美味そうな石だな」と云ったのが、元々
食の細い吉野には理解不能で驚いた。

424oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:19:39
「おい、聞いてんのかよ?」
「うん…聞いてる聞いてる」

 曖昧に頷いて、吉野は屋上の端に立つ今仁へと近付いていく。

「それより、そろそろ時間」
「…あー」
 彼らがここでこうして、ビル風になぶられながら話しているのにも理由がある。
「俺らの石はあんま今仁好みじゃないかもしれないけど、でもまぁこうやって設楽さんからの
命令も受けてんだしさ、捨てたもんじゃないと思うよ」
「…まぁな」

 吉野が今仁の隣に並んで立ったところで、タイミングよくこの屋上への扉がキィ…と軋んで
開いた。

「来た」
 今仁が明らかに目にキラキラしたものを宿して呟く。

 ドアの影からひょこりと顔を出したのは、眼鏡をかけた小柄な男と、茶色い髪をした中肉中
背の男。きょろきょろと屋上を見渡し、並んで立っているビームを見つけると、両方が軽く首
をかしげてから顔を見合わせた。
「…今仁さんと吉野さん」
「だな」

 見るからに不審がっている彼ら二人に声を掛けたのは今仁。
「オキシジェンのお二人ー、いらっしゃーい」
 陽気なその声に、眼鏡の男…オキシジェン三好と、茶髪の男…オキシジェン田中は、見合わ
せていた顔を再び事務所の先輩へと向ける。
「え?俺ら呼び出したのって…ビームさんなんですか?」
「うん」

 人影のないビルの屋上。しかも時間は夜。こんな所にこんな時間に呼び出されて不審がらな
いわけもなく。
 特に、昨今は石を巡る戦いとやらで事務所内のみならず芸人の世界全体に緊張が満ちている
ことを、若手といえどオキシジェンの二人も知っている。

425oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:20:31
「…何の、御用でしょう」
 三好は、警戒心を隠しもせずに尋ねる。
「うん、まぁ小手調べっていうかさ」
「は?」
 あくまでも明日の天気でもするかのような気楽さで吉野が応じる。身にまとったジャージの
影、手首の辺りでキラリと何かが光ったことに三好も田中も気付いてはいない。
「オキシジェンって、石持ってるんでしょ?」
「…誰に聞いたんですか?」
「誰だっていいじゃん」
「や、よくないですし」

 ドアの影から一歩も動こうとしないオキシジェンの二人に、今仁と吉野は一歩ずつ近寄って
いく。二組の間にピシリと緊張が走る。

 先手を打ったのはオキシジェンだった。
 彼らは若い。特に、舞台上では三好がプロレス技を繰り出しては田中を振り回す、アクロバ
ティックなコントを見せている。つまり身体能力には自信があるのだ。…それは裏を返せば力
に頼り過ぎているということにもなる。
 お互い石の能力が分からないこの状態ならば、できるだけ自分の能力を隠しておくことが肝
要だと吉野は思っていたし、今仁にもそれは伝えてある。
 猛然と吉野の方へと走り寄ってきた三好が、目前でタァン!と屋上の床を蹴って飛び上がっ
た。
 つられて吉野の視線も上がるが、数瞬後には飛び上がった三好の足が自分の身体に絡んでく
るのだろうとほとんど本能的に察知した。そういうプロレス技があることは、オキシジェンの
コントを見ていて知っている。確か…三好が田中の首を両足で挟むようにしてそこを軸にぐる
りと回り、遠心力で田中を床に引き倒すのだ。

 三好の足の動きを見ながら、吉野はその痩身をかわす。

 …はずだった。

 次の瞬間、何が起こったのか咄嗟に吉野には分からなかった。「視界」が変わった。まるで
スタジオのカメラを、スイッチして切り替えたように。
 三好を正面から捉えていたはずが、一瞬後には飛び上がる三好を後ろから見ており、そのま
た次の瞬間には元の視点…いや、そこから三好の足技によって地面に引き倒された視界となっ
たのだ。

「吉野!」
 今仁の声が聞こえる。夜空を見上げたまま、「何があったんだろう?」と吉野は考える。背
中が痛い。三好はヒットアンドアウェイとばかりにすぐにまた離れていったらしい。
「吉野、おい、大丈夫か」
「…まぁなんとか」
「くっそー、俺ならかわしてやんのによう」
 プロレス好きの今仁が少しわくわくしているらしいので、冷めた目線を投げかけるに留めて
おいて。
 吉野は上半身を起こしながら考え込む。

426oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:21:05
(さっきの角度…)

 切り替わった角度の時、三好の後ろ姿が見えた。それだけではない。その先に見えたのは…。

(…俺?)

 そうだ。飛び上がった三好の向こうにいたのは、吉野自身。

 更に、見間違いでなければ吉野の顔は、吉野の視点と目を合わせてニヤリと笑った。ややこ
しいことだが、「吉野の目」がどこかに移り、「吉野の顔をした何か」と目が合った…と云う
べきだろうか。

 立ち上がって辺りを見渡し、位置関係を確かめる。間違いない。

 吉野。吉野の隣に今仁。少し離れてこちらを睨む三好。更に向こうにいる…田中。
 三好の背中を見られるのは、田中だけだ。

(田中と俺が入れ替わった?)

 そこまで考えた時に、吉野と目が合った田中がニヤリと笑った。それはまさしく、「吉野の
顔をした何か」と同じ表情。

「大体、おまえ、三好の足技ぐらい避けろよ。ぼーっと立ち尽くしちゃって」
 今仁の台詞も、吉野の考えたことを証明している。間違いない。

「今仁。俺、分かった」
「あ?」
「田中の石の能力が分かった」

 じりじりとオキシジェンから後退りながらも、吉野はにやにやとした笑いを失わない。怪訝
そうに眉を寄せる今仁のシャツの背中をひっぱり、吉野が口早に耳打ちする。

「俺と田中の体の中味が入れ替わった。一瞬だけ、田中と視界が入れ替わったんだよ。体の感
覚も、田中のもんだった。そういう能力」

 吉野の考えた通り、田中の石の能力は、誰かと体の中味を入れ替える、というものだ。ネタ
の中で何度も三好の技に対する受け身を練習している田中ならば、三好の技を効果的に受ける
術も分かっているということ。避けようとする人物の体を田中が一瞬乗っ取ることで、確実に
三好が技を仕掛けられる…そういうコンビネーション。

 吉野の説明で理解できたらしい今仁は、少し考えて「あぁ」と声を漏らす。

「吉野。それなら、お前の石使えば一発じゃん」

427oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:24:19
とりあえず、前篇ここまでです。。
これはホリプロコム内の白黒構図が確定する少し前の話ということで
ご料簡いただければと思います。

428名無しさん:2006/03/15(水) 17:05:55
乙!面白かったです。
田中さんの能力はこういう風に活かされるのか、と感心しました。
全然問題ないと思いますよ。

429 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/30(木) 18:13:23
篠宮編続きを投下します。




「ちょっと早すぎたんちゃう?」
「あー…あと二本後か」
だらだらと駅内を歩きながら、チケットと携帯を何度も見比べた。一瞬、わずかな瞬きに兼光は携帯につけた石を見つめた。
「どないしたん?」
同じように岩橋が覗き込むとその視線の先に先ほど見送ったはずの姿が見え顔をあげる。
「なん…今のちゃうん?」
もう誰もいないはずのホームに佇む姿に思わず車掌の身振りで相手を指差し笑った。そのジェスチャーに乗せるように声をかけると、反応のない相手に目を凝らす。

430 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/30(木) 18:14:06
「篠宮?」
兼光が携帯を持ったまま近寄り、軽く相手の前で手を振った次の瞬間。
「兼光!」
相方の声に振り向くとそのまま後方に倒れこんだ。
「…っ!?」
あまりの速さに物事を理解できずにいたが、頬を切る風と殴られた痛みに自分が『攻撃された』事実をぼんやりと飲み込む。そして違和感。
「あれ…」
「だいじょ…おま、携帯!」
携帯につけていたはずの緑色の石─パイモルファイト─がなくなっている。駆け寄った岩橋に指摘されようやく視線を移し、殴られた反動でぐらぐらとする頭をゆっくりと篠宮に向ける。
その視線に気づくと篠宮はにっこりと微笑んだ。
「これっすか、兼光さんの石」
ふーん、とさして興味なさそうに石を眺めるとそのまま握りこみポケットにしまう。一歩ずつ、歩みながら、ひどくゆっくりとした動きで右手をかざした。

「俺の石の方が、キレイや」
喉元で笑うと一瞬石が光り、二人が瞬きをした瞬間姿は消えた。
「あ…あれ…?」
「どこ行ったんや…」
ざわざわと嫌な風に吹かれながら、岩橋は自身の携帯から石を外し、用心のため握りこむ。幾層にも重なる褐色が鈍く光りながら熱を持つ。
石同士が共鳴しているという事は、近くにいるのだろうか。
「ったく、アホちゃうか?なんでわざわざ石見せとんねん」
「なんでや、故意に見せたわけやなし」
「言うても取られとるやん、力使えへんやん、能無しやん」
「怪我しとる相方にそこまでいうか」
今にも喧嘩に発展しそうな会話をしながら、無意識に背中合わせに立ち上がる。まるでそこだけを切り取られたかのように、しんと静まり返るホームで、どこから攻撃がくるかわからない状態で、二人はただ息を潜めるしかなかった。
「でも…」

431 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/30(木) 18:14:33
ふいに浮かんだ疑問が、兼光の口からこぼれる。
「高松は、白や言うてたやん」
高松─その言葉が響いた空間がゆらりと揺れた。
「!」
岩橋が石の力で作りこんだ球を、とっさにその歪み目掛けて投げつける。何も無いはずの空間に弾かれ、衝撃波が砕け、轟音とともに閃光を放つ。
「やった!」
「クリーンヒットや!」
相手に当たったと核心し思わずその方向に視線を向けた、たった一瞬の気の緩み。ふいに岩橋の視界が外れ、地面に叩きつけられた。
背中に圧し掛かり、片腕を逆に折り固めた篠宮が、にこりと兼光を見つめる。
「あんなんが『ヒーロー』に効くわけないやろ?」
「何が…っ、ヒーローじゃ…!」
苦しげに呻きながら岩橋が毒づく。
相方を抑えられ、石も持たない兼光は篠宮の楽しそうな笑顔に圧倒されながら動けないでいた。
「お前…白、ちゃうんか」
ようやく出てきた言葉に、篠宮は一瞬あっけに取られたような顔をすると、声をあげて笑い出した。心底おかしそうなその姿に、何故だか言いようの無い気味悪さを覚え、二人は戸惑うように視線を合わせる。


ぴたりと、笑い声がやむ。

急にしんと空気が凍るような気がして背筋を振るわせた。
「黒も白も関係ないわ。俺が頂点になる」
低く、貫くような声に、息を飲む。
「そのために、邪魔な石は全部壊す。手始めに──」

432 ◆9BU3P9Yzo.:2006/03/30(木) 18:15:24
一応ここまでで一話区切りです。
差し支えなければ前回のと同時に本スレに投下します。

433名無しさん:2006/03/31(金) 13:13:02
乙!面白かったです。
篠宮コワス…。

434名無しさん:2006/04/01(土) 03:24:01
プラマイはオジオズにタメ口使ってたっけ?
一応オジオズの方が先輩だから岩橋が高松に敬語使ってるのは見たことあるけど

435名無しさん:2006/04/01(土) 15:28:54
>>434
年齢は篠宮より岩橋、兼光が5つも年上だけどな。
プラマイは10カラットメンバーのほとんどに敬語を使ってた
気がする。タメ口で話してるのは上木とオリラジぐらいじゃないか?
詳しくは分からないが。

436名無しさん:2006/04/02(日) 19:34:00
岩橋はオジオズ2人に対して兄さん扱いで敬語使ってる。
兼光も後輩だから敬語使ってるんじゃないか?

437 ◆9BU3P9Yzo.:2006/04/03(月) 00:46:24
敬語…そうですね、見落としてました。
ご指摘下さりありがとうございます!

438 ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:22:07
おひさしぶりです。バカルディ→さまぁ〜ずの三部作の最後落としにきました。
今回大竹の石にある設定をつけています。白が黒側につけいる隙になりうるかなと。
でももしマズいようなら指摘お願いします。

439[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:23:22


「冬なのにっ「「さまぁ〜ず!」」


間抜けな感じの決めポーズ。名前も変わって気持ちも新たに仕事仕事。
やっと来はじめた波は小さくても逃すな。全て丁寧に乗っていけ。
これを乗り切って画面に定着しなけりゃなんねぇ。同じ轍は二度踏まないと決めている。

あれからやっと3年だ。
三村と話した「アレ」をとる日はまだまだ遠い。
それでもあの頃から比べれば、少しは近くまで来たんだろう。

今一つ目の収録を終えて、次に向かう最中だ。
正月特番の撮りだめは気力と体力がいる。
斜め前の席からは三村のいびき、アイツの方がピンも多いし、相当疲れてる。

…そういえばさっき、後輩からもらった飴があったな。元気が出るとかいう。
思い出して口に放り込んでみる。効いたらあとで三村にもやるか。

ロケバスに揺られながら目をつぶる。
だが俺は眠りに入れず、むしろ精神がきゅうっと集中していった。
まぶたの裏、暗い世界でちらりと光る十字の星。
じわり、と響く声に耳を傾けた。


 …よう、お疲れさん
 『お疲れさん、じゃねえよ』


笑い含みの声に頭の中でだけ、答えを返す。
我ながらこれは人には知られたくない習慣だ。
脳内の会話の相手は、俺のポケットの中の無機物。
少し前からたまにこうして話しかけてくるようになったのだ。
ブラックスターに意志があるなんて、思いもよらなかった。

440[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:24:19


 思いもよらない、ねえ…お前の相方の石も多分こんなんだと思うぞ
 『…ぜってぇフローライト、三村似だろ』
 さあな、けど何だかんだで持ち主と似てるとこあんだよ、俺らは
 『…めんどくせぇ』
 ああ俺もめんどくせぇ、気ぃ合うじゃねえか
 『そうだな、こうやって話しかけてくるくせにお前、特にアレだろ、俺に希望とかねぇしな』
 んなもんねぇよ、めんどくせぇだろ
 『そうだな、めんどくせぇわ、大体のことは』
 でも全部めんどくさいわけじゃねぇよな、俺と違って
 『…』


…そうだな、全部じゃねぇよ、俺は。
お前は全部めんどくせぇのか、んじゃ何で俺に話しかけてんだ?
わざわざ話しかけるとか、かなりめんどくせぇだろ。


 お前は全部じゃねぇから、余計めんどくせぇ…でもちっと手ぇかしてやるかっつー気になった
 『へぇ、そうかよ』
 んで、今話しかけたのは、だ…お前、後輩からもらったその飴あんだろ
 『ああ、何か疲れとれるとかいう黒いヤツな、うまくねぇなこれ』
 俺はそれ、生まれつき効かねぇけど…あんまいいもんじゃねぇからやめとけ
 『どういうことだ?』
 相方にやったりすんのもやめろよ、そいつは「黒い欠片」だ、わかるだろ
 『…これが?』

441[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:25:03
舌の上で転がしていた塊に意識をやる。
飴、のはずのそれは、早くも形態をほとんど失っており、どろりと液状に変形していた。
「黒い欠片」の存在は知っているが、あまり関わらずにきたのでよく知らないのだ。
黒に入って回ってきた仕事で、この欠片を自分たちが扱う機会は一切なかった。
…そう、まるで故意にそれから遠ざけられているかのように。

途端に気味が悪くなってペッ、とちり紙に吐き出す。
それは薄い紙の上でさらさらとした小さな結晶のあつまりに姿を変えた。


 お前を操りてぇって奴がいるのさ、昔もこんなことあっただろ
 『そういや、黒い粉薬みてぇのもらったこともあんな…気味悪ぃから捨てたけど』
 これが効かねぇからお前、昔襲われまくったってのに…まだ渡す奴がいるんだな
 『なんだそりゃ、そうだったのか?』
 そうだよ、欠片が効かねぇ石はあんまりねぇからな…俺の意志とお前が使う力のせいだ
 『…攻撃は効かねぇし、許可がなきゃ中には入れねぇ、ってことか』
 そういうこと、俺は欠片の侵入なんざ許可しねぇ、だから連中は一旦諦めて、お前を仲間に引き込んだ


…それはまた、すっっげぇ、めんどくせぇ話だな。
あんだけ毎日のように襲われてた理由が今になってわかるっつーのも皮肉なもんだ。


 俺たちは黒にとっちゃ、厄介なんだ…敵でも味方でも、どっちにしろ支配できねぇ
 『何だ、俺らがめんどくせぇヤツってことか』
 その通り、自分の立場ってヤツをよく覚えとけ、そんで使え…お前がめんどくさくねぇモンのために
 『…りょーかい』


ブラックスターの声が、遠くなり薄れていく。
この石と俺はうまくやっている。これからも多分そうだろう。
ポケットから飴に模した黒い欠片をひっぱりだして、全部捨てた。

白でも黒でも、めんどくせぇことはそれなりにある。
みんな、めんどくさくねぇモンのために、めんどくせぇ日常を送るのだ。
うっすらと開いた目の端っこで、三村は相変わらずだらしねぇツラで爆睡している。


…まあ、そういう、めんどくせぇ日常。

442[バカルディ・ブラックラム(side:三村)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:26:01


「あー、背中痛ぇ…」


寝ぼけ眼をこすりながら伸びをして起き上がる。
ロケバスのシートは身体をゆったり沈めるにはあまりにも小さい。
ばりばり言う身体をほぐすついでに少し後ろを振り向けば、大竹がうつむいて舟をこいでいた。
ああ、大竹も疲れてる。俺も疲れてるけど。

次の収録は何だったっけ、聞こうかと思ったが何となくやめる。
少し離れて座るマネージャーにスケジュールを問うには、結構な大声を出さねばならない。
眠っている相方を起こすのはどうにも忍びなかった。


窓の外の、流れる風景に目をやる。見覚えのある看板がひとつふたつあった。
ここから収録をおこなうスタジオまであと恐らく15分というところだろう。
何だか退屈してしまって、横の座席に置いてあったペットボトルに手をのばす。
雑誌も待ち時間にほとんど目を通してしまったし、やることがない。

何とはなしにポケットの中で石に触れて、握りこんでみる。
手のひらから何か、流れこんでくるような感覚。
最近よく感じるけれど、うまく核心を捉えることができないままでいる。
何かが伝わってきそうになるのだけれど、それをどうとり込めばいいのかがまだわからない。
いい加減この石とのつきあいも長いけれど、全てはまだ理解していないんだろう。


そっと手の中に包み込んだ石をのぞきこんでみた。
緑、紫、白。色の流れが混じりあい、透明な部分と半透明な部分がまだらになって光る。
いわゆる宝石のような輝きはないけれど、やわらかく落ち着く淡い光。
この石の光は何一つ変わらない、あの頃からずっと。

443[バカルディ・ブラックラム(side:三村)] ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:26:44


正月特番に呼んでもらえて、しかも撮りだめするだけの仕事があって。
少し前まではそんなことありえなかった。徐々に状況は好転し始めている。
あれからたったの3年で、俺と大竹をとりまくものは随分と変化した。


「冬なのにっ、「「さまぁ〜ず!」」


このつかみの台詞とポーズ、一体この冬、何度使っただろう。
とっくに三十代に突入して、芸歴も若手とは言いきれなくなってきたってのに、この調子だ。
まあでも、それはそれで悪くない。そう思えるようになってきた。

長年親しんできたコンビ名が変わってしまって、それを定着させるのに今は必死だ。
ピンでの仕事も多いけれど、少しずつ俺の後ろに控えている大竹が見えるようになればいい。
わずかずつでも、上へ昇るための細い糸をたぐり寄せられるなら、それでいいから。


あのとき、黒を選んで、虫入り琥珀を手放した。
それは決して間違った選択ではなかったと今なら思える。

ここまで来る間に、同業者を襲撃するようなめんどくさいことも何度かやったけれど。
それでもきっと、自分たちの本来の力を純粋に評価される場所に立ち得たことは幸せなことなのだ。

大竹がいて、フローライトがあって、それでこの世界に生きている。
それに不満はひとつもない。ただ、まだ上があると思う。

「アレ」をとる日はまだ遠い。一生来ないかもしれない。それでもひとつひとつ昇っていく。
そんなのも悪くない…、と誰にも聞こえぬように呟いて、もう一度目をつむった。


視界が暗くなり、ぼんやりとした意識がどこかへ連れていかれる。

 …おい、聞こえるか?
 おいお前、コラッ!
 あ、寝やがったチクショウ…

…遠くから何か声が聞こえるような気がしたけれど、捉える前に意識を失った。

444 ◆yPCidWtUuM:2006/04/06(木) 03:28:42
以上です。3年の間にあった話もいつか書いてみたいです。

445名無しさん:2006/04/06(木) 14:52:34
乙!ブラックスターの設定、面白かったです。
大竹さんらしくていいと思いますよ。
…なんかこの二人だと石の声が持ち主の声で再生されるなあw

446 ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 13:53:53
始めまして。
次課長の話を書いてみたんですが、添削お願いします。

447ひろいもの ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 13:57:10
「おーい準一!なんか綺麗なもん拾った」
「こっちはネタの練習してるんだから話しかけるなや!」
明々後日はルミネ公演の日。なのに何もしない相方に河本は腹を立てた。
だが練習しろ言っても聞かないのでほっといた。
「なんや!つれないなあ」
と言って井上は帰ってしまった。
(まったくもう・・・)
相方の勝手な態度に河本はさらに腹を立てた。

翌日。
河本は信じられないような変な話を聞いた。
昨日、井上が怒ったように自分の影を殴り続けていたという話だ。
もしかして昨日の事を怒っているのだろうか?
そう思った河本は帰り道に井上に聞いてみた。
「なあ・・・昨日自分の影を怒りながら殴ってたって本当か?昨日の事怒ってるならあやまるからそんな事すんなよ。」
「いや、最近シャドーボクシングにはまってるんや。」
「・・・そっか。」
河本は井上が気を使っている事が分かった。
(別に気を使う必要なんて無いのに・・・シャドーボクシングの意味も違うし)
と言うのはやめて、河本は家に帰った。

448ひろいもの ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 13:58:47
その日の夜。
河本の家にマネージャーが訪ねてきた。
「なんや?明日の打ち合わせか?」
「いえ、違うんですよ。今日、打ち合わせをしようと井上さんの家を訪ねたら、プラスチックの欠片が散らばってまして」
「プラスチックの欠片?」
「で、奥に行くと井上さんがフィギュアをぶっ壊してんですよ。怖くなって逃げ出してきました。」
「え!?」
いつも温厚な井上が物、しかも大事なフィギュアを壊す。
本当はそんなに怒っていたのか?それとも何か別のこと?
どちらにしろおかしい事には変わりない。
そう思った河本は井上の家へと向かった。

「!?」
河本が井上の家に着いたころには部屋全体がめちゃくちゃになっていた。
井上は部屋の真ん中で倒れていた。
「!??」
死んではいないようだが、井上の体はとても冷たかった。
こちらにも寒さが回ってきそうな気持ち悪い冷たさ。
とりあえず河本は井上に毛布をかぶせて家に帰った。

449ひろいもの ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 13:59:21
翌日。何事も無かったかのようにテレビ局にやってきた井上を見て河本は安心した。
だが、今日の井上はいつもと少し違っていた。
人の目を見て話さない。話しかけても答えてくれない。
河本は休憩時間に井上に聞いてみた。
「なあ、今日の井上、何か変や。なにあったん?」

「・・・うっさい!なんでもないわ!」
そういうと井上は楽屋を出て行ってしまった。

その日の収録はなんだか集中できなかった。

収録が全部終わり、楽屋に帰ると井上の姿は無かった。
荷物も無いので、先に帰ったのだろう。

ふと、テーブルを見ると、井上の持ち石、というか持ち鉱物である金が置いてあった。
(置き忘れ?そそっかしいなあ)
届けてやろうと、帰り道に井上の家に寄った。

450 ◆szc.4YA2w2:2006/04/08(土) 14:02:01
途中ですが今回はココで終わりです。
続きは今書いてます。

451 ◆yPCidWtUuM:2006/04/09(日) 23:26:37
>>445
ありがとうございます。本スレ行ってきます。

452 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 08:14:21
能力だけでまだ石はまだ決まってないんですが
サカイスト、ハイウォー、カナリア話を投下します。ハイウォーだけは石も能力も決まっているようなのでそれを使わせて頂きました。
芸人が多いのと文章力が皆無なので長くなりそうですが、その辺は暖かい目で見てもらえたら幸いです。

453 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 08:17:34



もう戻れないのは分かっていた。

でもあと少しだけあの頃を思い出しても良いだろ?

―Border Line―

不思議な力を持つ石。黒と白。それに伴う哀れな抗争。
毎日が可笑しくなったのはいつからだっけ。つい最近の事なのに遠い昔のようにも思える。
弟でもある相方から「黒にだけは入らん」と宣言され、言われるがままに白に入り、時折襲ってくる同業者を何とか倒してきた。
しかし、攻撃にも守備にも向いていないうえに、能力に気付くのが遅かったせいで使い勝手もよく分からない石を持つ自分が戦闘に役立ったことはまだ1度も無い。悲しくも常に弟に守ってもらっている日々。この戦いがいつ終わるとも知れないのに、これ以上弟に頼り続けるのは如何なものか…。
そんな思考を巡らせながら、ホストを思わせるスーツ姿に身を纏わせたサカイスト・酒井 伝兵は石を手の中で弄んでいた。
静けさを知らないルミネの楽屋は考え事をするには不向きだ。出番までまだ時間があるのを確認して漫画喫茶に移動しようと席を立つ。
その瞬間、石が今までにない熱を帯びた。
「熱っ…!?」
驚いた彼の手からカランと乾いた音を立て石が床に落下。慌てて拾おうと石に手を伸ばすと、それはある人物によって妨げられた。
「ダメじゃないですか、こんな大事なモン落としたら」
そう言い放った人物が自分の足元に転がってきた石を拾い上げる。見知った顔に伝兵が苦笑いを浮かべ「ワリィ」と手を差し出すと、彼は拾い上げた石を伝兵の手に戻そうとして動きを止めた。
「…健太郎?」
呼ばれたその人物、カナリア・安達 健太郎は無表情に石を握り締める。
「どうした?」
いつもと違う後輩の様子に戸惑いを隠せず、嫌な仮説が頭を駆け巡る。
「けんたろ」「この石…僕にくれませんか?」
遮られた言葉に耳を疑いたくなった。安達の目は真剣そのもので、当たってほしくなかった仮説が実説となって脳裏をチラつく。
安達ガ黒?戦ウノカ?今?ドウヤッテ?
…ドウスレバ良い?
張り詰めた空気が辺りを覆う。背中に冷や汗が伝った気がした。
どうしたら…。
「嘘です」
「…えっ?」
瞬時にいつもの不適な笑顔になった安達が差し出された伝兵の手に石を投げ渡す。
「ほんまに誰かに取られたら、どないするんですか?大事にしとかなダメですよ」
「あっ、あぁ…うん」
間抜けな程に放心状態な先輩に助言を残し何事も無かったかの様に去っていく安達。
未だ放心状態から抜け切れず確かに熱を持った石をぼんやり見つめる伝兵。

初めて石の力に気付いた時に感じた…いや、それ以上の熱を放った。黒と思わざるをえない安達の言動がフラッシュバックする。
安達が近くに来たときに熱を帯びたなら、石が警告してくれたのか?
自分と相性最悪な気がしてならないこの石が?
それにしても…安達が黒かもしれないこの事実をどう伝えるようか。自分よりも安達の面倒を見ている弟に、不安と絶望の入り交じった思いを馳せながら楽屋を後にした。

454 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 10:05:09

舞台へと続く廊下はネタ合わせをする芸人の格好の練習場所だ。だが一歩、階段の踊り場へと足を運べば静けさに包まれる。

安達は先程見た伝兵の驚愕した表情につい苦笑しながら煙草をポケットから取り出した。

もう…自分は戻れない場所まで来てる。

煙草に火を点けようとライターに手を伸ばす。
「何してるんすか?」
その静けさには相容れない明るい声に安達は刹那、振り向くのを躊躇った。
「折角、デンペーさんの石を奪う良いチャンスだったのに」
いつも芝居がかった様な話し方に胡散臭さを思わせるピース・綾部の姿が視界に入る。
ライターも煙草もぶっきら棒にポケットへ押し戻した。
「何であんな絶好のチャンス手放しちゃったんです?」
相方のボンより大きいにしても、やはり自分より15センチは小さい綾部を見下ろす。
「どけ、邪魔や」
屈託のない笑顔に退くよう言ってはみるが、一筋縄で行かないのがこの男の特徴らしい。
「その言い草はないでしょう…“黒”の自覚、足りないんじゃないんですか?」
「どけ言うてるやろ」
聞く耳を持たない安達の対応に綾部の眉間にも皺が寄る。呼応するかのように互いの持つ石が淡い光を放ちだした。
いくら黒同士と言えど白とは違う。話して分からないのなら力ずくでも。それが黒のやり方だ。安達もそれは十分理解している。
だが、自分には自分のやり方がある。指図を受ける気は毛頭ない。
「やっぱり、この件は溝黒さんに任せた方が良いんですかね?」
「どけ」
綾部の脅しとも取れる挑発。相方の名に反応しつつも無視を決め込んだ安達。
「黒は確実に役に立つ人材を求めてるし、貴方の様に中途半端な黒は不安材料でしかないんです…よ…っ!?」
言い切る前に綾部が胸元を強く押さえる。
石の力と気付いた時には遅く、地面に引き寄せられるように崩れ落ちた。

455 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 10:07:19
「どけ、言うたやろ?」
「安…達さんっ!?」
こんなにも躊躇なく石を使われると思っていなかった。
油断していたとはいえ安達の力で呼吸もままならない綾部が見上げた彼の表情は完全な“無”だった。怒りを通り越した冷静さから生まれる“無”。まだ罵声をあげられた方が対処の使用があるのに。
石の力を発動させようと体を動かそうとはするが強い痺れがそれを許さない。
…殺される?
言い様のない恐怖と侵蝕し続ける体全体の麻痺を感じながら、ただどうする事も出来ず安達を睨み付ける。
しかし、安達はその表情を変えようとしない。
「何してんだよ」
何処からか現れた突然の来訪者を苦しいながら懸命に確認する。
そこには面倒臭そうに2人を見るハイキングウォーキング・松田の姿があった。
「松田さん」
「安達、もう止めとけ」
名を呼ばれ罰の悪そうな表情をしたかと思うと安達の石が光った。
それと同時に綾部の体から少しずつ麻痺が薄れていく。
「こんな事して…良いと思ってるんですか…?」
消えていく麻痺に安堵の表情を浮かべた綾部が喋りだした。
「貴方が黒…に…入ったのは…何のためで…す?」
麻痺が治り切らない口でそれでもなお、安達を挑発する。
「ボンに何かしたら…次は知らんからな」
「さぁ、どうで…しょうかね」
悪戯に含み笑いをする綾部を見やる。
なんとか体を起こしているが、すぐには反撃出来ないだろう。
「お疲れさん」
吐き捨てるように安達が労いの言葉をかけると松田と共にその場を離れていった。
綾部は2人を見送りいなくなったのを確認すると、階段の上の方を見上げる。
「マタキチー」
声を掛けると、いつもと変わらぬ様子でピース・又吉が顔を出した。
「佑ちゃん、大丈夫なん?」
「お前、もうちょい心配するとか駆け寄るとかしろよ」
自分のもとにのんびり歩いてくる又吉に呆れながらゆっくり体を動かす。
やっぱり…
「やって、安達さん手加減しとったやん」
又吉の言葉を聞き流しながら安達の顔が頭をよぎった。
…此処で完全に「黒」にしなければ、あの人は優しすぎる。
「マタキチ…行くぞ」
何かを決意したような綾部は又吉を連れルミネを後にした。

456 ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 10:11:28
安達 健太郎(カナリア)
石は、まだ未定。(良いのあったら教えてください)
能力:自分の周り、半径3メートル以内の空気中の水分を様々な毒(麻痺や睡眠薬、精神に何らかの影響をもたらす催眠剤等)に変える事が出来る。一度に何種類もの毒を撒き散らすことも可能。また、その毒の解毒剤に変えることも出来る。
毒に変わった水分は空気中に浮遊しているため見ただけで毒かどうかは判断不可。敵が安達の半径3メートル以内にいれば毒によるダメージを与えることが出来る。
ただし、毒に持続性は無く常に力を発動させていなくてはならない。
それから特定の人物にのみダメージを与えることがもきないので3メートル以内に味方がいた場合、味方にもダメージを与えてしまう。
湿気が多い場所であればある程、安達自身の負担も軽く毒の力も強くなる。
もちろん乾燥した場所では人工的に水を撒くなどしなければ使えない。

石を使った後は倦怠感や頭痛、長時間使用すれば体力を消耗したりする。その度合いは使う毒(睡眠薬<致死量の毒)によって違う。

457一  ◆i.38Tmcw2g:2006/04/14(金) 10:12:59
一応、ここまでです。
指摘とか合ったら言ってください。
続きは現在、作成中です。

458名無しさん:2006/04/15(土) 12:44:24
サカイストキタ!好きなんで続きが楽しみです。
安達の石はフレッシュウォーターパール(淡水真珠)はどうですか。

459名無しさん:2006/07/06(木) 15:51:14
THE GEESE短編いってみます。
戦いの描写もないし、酷く短いですが。

石を放棄してはいけない。
(僕らは戦うべきなのだ)
石に呑まれてはいけない。
(僕らは強く在るべきなのだ)

"意思"を持たなくてはいけない。
(僕らは強き心を持つべきなのだ)



攻撃されたから自己防衛をしたまでのこと。
肩で息をする茶髪の端正な顔立ちの青年――THE GEESEの高佐一慈は石を"解放"したばかりだった。
足元には輝きを失った石を持つ黒の男達が転がっていた。
高佐を黒に引き込もうとした彼らは高佐の力によって返り討ちにされたばかりであった。

「(…何なんだ…)」

「(何なんだ、この、力は…)」

ピリピリと軽く手が痺れている。美しく穏やかな光。優しく、強大な力。
高佐は確かに、その石に魅せられていた。


高佐が力に目覚めた頃、尾関は石のことについて調べていた。
不思議な力を持っているであろう、この石。
高佐が石を見つけた時と同時期に尾関も石を拾っていた。
蜘蛛の巣を被ったような柄の石。蜘蛛の巣ターコイズというらしい。
尾関はその石をネックレスに加工して、ポケットにいれて常備するようにしていた。
手で石を握るとビリビリと空気が揺れているように感じた。
まるで、相方の危機を教えているように、強く、揺れて。
「高佐は…大丈夫、なのか?」
尾関は急に不安な気持ちに駆られ、石をポケットに入れ、携帯電話を持って家を飛び出した。
(たかさ)
(どうか、どうか、無事でいてくれよ。)


「ふふ…お見事、だねェ。」
パチパチ、と軽い拍手。高佐は背後からした声に過敏に反応して、後ろを振り向く。
穏やかで、優しい重圧のかかる声。そこにいたのは、



「設楽、さん…。」



ニッコリと微笑んで設楽は高佐に近づいていく。
ポン、と肩を叩いてそっと耳元で呟いた。

「黒に、入らない?」



――尾関が到着するまで、あと少し。

460名無しさん:2006/07/06(木) 21:28:26
どうですかね…?
プロローグのプロローグ的な感じで。

461名無しさん:2006/07/07(金) 20:35:08
>>460
いいんじゃない?
でもこれだけ投下するのも物足りなすぎる希ガス。

462名無しさん:2006/07/08(土) 18:55:46
㌧です。
ではもう少し色々考えてまた投下させていただきます。

463 ◆yPCidWtUuM:2006/07/10(月) 02:45:44
どうもお久しぶりです。

98年夏前頃のバカルディと猿岩石の話を落としにきました。
性懲りもなく古いもんばっかり書いててすみません。
もうこれでネタがいったん出尽くしたので古い話は終わりにします。
またもクソ長いですが、少々おつきあいいただけると嬉しいです。

464[バカルディ・ゴールド(1)] 三村:2006/07/10(月) 02:48:10


…新年あけましておめでとうございます、1998年がやってまいりました。

とはいえ新しい年だから明るい話題、とそうそう上手いこといくもんでもない。
虫入り琥珀は手放したものの、すぐさまもう一度階段を上れるわけでもなく。
年初はあまり仕事もなかったが、時がすぎるとともに少しずつ状況はいい方へ。
大竹の出た連ドラが放送されてみたり、俺が感謝祭で優勝してみたり。
それでもテレビでの露出はまだまだ多くない、本日はちょいと営業へ。
少しずつ上がってゆく気温とともに、ゆっくりゆっくりと雪解けの季節を迎えている気分。

そんな風にひとつひとつ、積み重ねる途中で入ったのが黒の仕事だった。
大竹と別れて家路についた俺の前に、緑のゲートが開いてのそりと現れた目つきの悪い男。
俺たちが黒に寝返ってから、最初の指令は土田を通じて伝えられた。


「どうも、面倒なこと頼みにきてすいませんね」
「おう、すーっげぇめんどくせぇぞ」


思いっきりめんどくささを前面に押し出す俺に、土田は眉をひそめる。


「…そういわれても俺の責任じゃないんですけどね」


まあそうだ、土田が襲撃を決めたわけじゃないんだろう。
とはいえ前のこともある、こいつが面倒事を運んでくる使者のように見えてくるのも仕方ない。
少々うんざりしつつ、土田から話を聞いていく。


「まず、ターゲットは猿岩石」
「ああ、あの電波少年の」
「それです、ま、あいつらうちの後輩なんですけども…」
「じゃあお前が行けよ」
「ダメなんですよ、顔も人となりも知れてるもんで」
「なんだそりゃ?知られてるとなんかあんのか?」
「有吉は他人の石の能力を知ることができるんです、特に知ってる相手は暴かれやすい」
「…石の力知られるってマズいか?」


知られたからといって何も変わらない気がする、俺の場合。
大竹だって知られても結局、力が使えなくなるわけじゃないし。
そう思っていると土田がうっとおしそうに言った。


「有吉の力で能力の判明した石を森脇が一時的に封印できるんです」
「…それ、すげえめんどくせぇじゃねえか」
「めんどくさいですよねえ」
「俺らがやんなきゃなんねえのか?」
「やんなきゃならないんですよねえ」


…めんどくせぇ。

なんでそうよく知ってもいない、恨みもない相手をわざわざ襲わなきゃなんねーんだろう。
まあ前みてーに毎日襲われるよりはマシなのかもしれねえけど。
やっぱりめんどくせぇよな、黒でも白でも結局…でもやんなきゃなんねーなら、しょうがねえか。


「じゃあそいつらの石を貰ってくりゃいいのか? それとも黒に勧誘すんの?」
「どっちでも、お好きなように」
「まあいいや、とりあえずどうにかするわ」
「ええ、大竹さんにも話して下さい、それじゃあ失礼します」
「…おう」


そう言ってきびすを返したはいいものの、少しばかり困ってしまう。
今、大竹はライブのためにネタを書いている真っ最中なのだ。
今日だって営業のあと、寄り道もせずにさっさと家に帰っていったのはそのためだった。
おそらく後日、それを見ながら二人で練っていく手はずになる。

もちろん自分だって一緒にネタを練るわけだが、ベースを書く大竹の方が負担は多い。
特に今回は少し趣向を変えたから、いつも以上に面倒な作業が続くはず。
こんな時に後輩を襲撃するなんていう面倒はごめんこうむりたいだろう。

まあ確かにこっちだってそれなりに忙しいし、ピンでの仕事は自分の方が多かったりもする。
それでも「バカルディ」の屋台骨、ライブのために頭をフル回転させる大竹を邪魔したくはなかった。

余計なことで煩わせたくない、という俺の考えは多分本人に言えば否定されるんだろう。
それでも何となく、大竹に言い出さないままに時が過ぎたのには多少の理由がなくもない。

半年ほど前、「バカルディ」は俺の都合で、白から黒へと鞍替えした。
大竹はそのことを決して責めなかったし、むしろ俺よりも先に俺の家族のことを思いやってくれた。
照れくさいからそれについて礼を言うつもりはないし、この先触れるつもりもない。
それでもまだ、小さな罪悪感が自分の中にあるのは確かだった。
自分勝手な都合だとわかってはいても、けじめをつけておきたい思いがあるのは否めない。

数日後に俺が出した答えは、一人でできることは一人でやっちまおう、というものだった。

465[バカルディ・ゴールド(2)] 有吉:2006/07/10(月) 02:49:26


「いきなり悪ぃな、邪魔しちまって」
「いえ、そんな…」


広島での仕事から新幹線で帰ってきた俺らの前に現れたのは、バカルディの三村さんだった。
事務所も違うし、ほとんど話したこともない人ではあるが、俺らにとってはかなり上の先輩だ。
芸人になる以前にテレビで見たことだってあるような相手を前に、ちょっと緊張してしまう。

…まあ、緊張したのはそれだけが理由じゃない。

プライベートで、単なる帰り道でこんな風に、先輩とはいえよく知らない人に声をかけられる。
それが何を意味するかなんて、石を持っている人間ならある程度予想のつくことだ。
しかもちょっと便利なこの石は、結構魅力的らしくて敵を呼びがちなのだった。


「それで、お話っていうのは?」
「あー…すげえめんどくせえんだけどさ、」


そう言ってぽりぽりと頭をかいた三村さんは、まるで何でもないことのようにこう続けた。


「…お前らの石をとってくるか、黒に勧誘するかしろって言われてんだよ、どっちがいい?」


傍らの森脇の、ごくりと唾をのみこむ音が聞こえた気がする。
背筋に流れる冷たい汗を感じて、俺も急激に気が引き締まった。

…そんなの、どっちもよくないに決まってる。

466[バカルディ・ゴールド(3)] 三村:2006/07/10(月) 02:50:09


…どっちがいい、なんて聞いたって、どっちもよくないって答えることくらいわかってる。

猿岩石は白でも黒でもないらしいが、どっちかと言えば白寄りなのだと聞いた。
それだからこそ黒が襲撃をかけないといけないんだろうが、こちらとしては一応戦闘を避けたいのだ。
基本的にめんどくせぇから闘いたくないし、闘う理由なんて本当はなかった。


「…やっぱ、どっちも嫌だよな」
「「嫌に決まってるじゃないっすか!」」


呟くと猿岩石の二人がユニゾンで答え、ぎっ、とこっちをにらんできた。
ああ、こういう目をむけられるような人間になっちまったんだなあとちょっと寂しくなる。
でももう後戻りなんてできないから、悪役も演じきらなけりゃならない。


「んじゃ、悪いけど貰うわ、お前らの石」


台詞とともにとりだした石は、静かな顔で手におさまっている。瞬間、有吉が叫んだ。


「くそ、三村さんは攻撃系ってのしか100円じゃわかんねえ、森脇500円ねえか?」
「ねえよ、漱石1枚と100円と10円しかねえ」
「札どっかで替えてもらってきてくれ」
「何でだよ、お前の使え!」
「アホ、俺は札なんか持ってねえよ!」
「…威張んなよ…しゃあない、行ってくる!」


そう言って森脇はダッとその場から走り出す。

500円、ね。そういえば土田に聞いたら言ってたな、小銭で能力がわかるんだっけか。
金額が大きくねえと細かいことはわからねえんだっけ?はは、めんどくせえな。


「いいのか?相方行かせて」
「…アイツが帰ってくるまでくらい、どうにかするっすよ」
「そっか、ならいいや」


…心おきなく、石使えるじゃねーか。

467[バカルディ・ゴールド(4)] 有吉:2006/07/10(月) 02:51:05


三村さんのことはほとんど知らない、おかげで100円使ってもこのざまだ。
この程度の情報じゃ森脇に力を使ってもらうこともできない。
アイツが500円を持って帰ってくるまで、せめてこの場を逃げ切らなければ。
そう思って空を見る、ありがたいことに夜空には雲がぽかりと浮かんでいた。


「とう!」


勢いをつけてその場で飛び上がる、足の下には雲が滑り込んできた。
キント雲に乗った孫悟空気分。如意棒もあれば楽なのに。
そのまま雲を走らせ、三村さんにぶつかっていく。


「うおっ!あっぶねえ…」
「くそっ!」


三村さんは器用に地面に座り込み、俺の雲の突撃を避けた。
どうするかと一瞬迷っているうちに、三村さんの握っていた石からふわりと光が漏れる。


「フレーッシュ!」


その言葉とともにざわざわと木々が揺れた。
冬の、葉を落とした枯れ木にすさまじい勢いで緑の葉がついていく。
呆然とそれを見ていると、三村さんが叫んだ。


「おし行けっ!」


椿のような厚い大きな葉が巻き上がり、一本の帯のようになって襲いかかってくる。
慌てて雲でその場を離れようとするが、葉の帯に足をとられ、ぐらりと身体が揺れた。


「うわっ!」


落ちる、そう思った瞬間、あたりに響いた森脇の声。


『落ちんな、耐えろ!』


その声で俺の身体はバランス感覚を取り戻し、真っ直ぐに雲の上に立ち直る。
力を込めて雲を森脇のもとへと走らせれば、緑の葉の帯はざざっと下へと落ちて、枯れ葉の山になった。


「おら、500円!」


森脇はひょいっと硬貨を投げ、すぐに俺の後ろに飛び乗る。
その左手には煙草の箱が握られており、どうやら煙草の自販機で札を崩したらしいと予測がついた。


「おし!」


500円をポケットに入れ、三村さんを見つめる。
その手に握られた石の情報が頭に流れ込んでくると、すぐに俺は声を上げた。


「…木の葉の化石!枯れ木に葉をつけてそれを動かして防御と攻撃をする、使えるのは3回程度!」
「おっしゃあ、『木の葉の化石』、封印!」


森脇が鈍く光るの鉱物をとりだし叫ぶと、三村さんの石から光が消える。
とたんに地面に落ちていた枯れ葉の山も姿を消し、その石の気配は跡形もなくなった。


「諦めて下さい、もうその石しばらく使えないっすから」


そう森脇が言うと、三村さんは自分の手の中の石を見やってコン、と指先ではじいた。
そんなことをしても意味はないのだが、石の様子を確かめているようだ。


「へえ、ホントに使えなくなるんだな」


これで攻め手がなくなったはずの三村さんは、なぜかちょっと笑ったように見えた。

468[バカルディ・ゴールド(5)] 三村:2006/07/10(月) 02:52:10


砂の固まったような地に、茶色い木の葉の姿が浮き上がる化石。
黒の余り物の石だけど、それなりに役には立った。

攻撃力も高くないし、あまり使えるもんでもないので、下っ端に持たせていたと土田からは聞いている。
スケープゴートにはもってこいの、地味な石を借りてきたのには理由があったのだ。


-- 猿岩石の能力、知ってること全部教えてくれ
-- 大竹さんは?
-- いいんだよ、今回は俺一人で行くから
-- …まあ、いいですけどね


襲撃の前、土田に連絡を取って細かいことを聞いた。
そのとき、森脇が封印できる石は一度につきひとつだと知って、この作戦を考えついたのだ。
封印できるのがひとつなら、まず別の石を封印させてしまえばいい。
これで森脇が封印を解けるようになるまでの10分は自由に攻撃できる。
見事にハマった作戦に、いたずらが成功した時のような喜びを感じつつ、フローライトをとりだした。


「ホントの石は、こっちなんだけど」


…多分、結構悪役っぽく笑えてたんじゃねーかと思う。
有吉と森脇の顔色がみるみる変わっていくのを見ながら、自分の石を強く握りしめた。


『キント雲かよっ!』


ビシリと指差した有吉の足の下の雲は、ピューッとどこかへ飛んでいく。
有吉はズデン、と漫画のような音を立てて地面に落ちた。
それを見て真っ青になる森脇と、おかしな格好で地面に落っこちた有吉を見ていたら何か笑えてきた。
はたから見ればちょっとコントみてぇな状況だろうな、コレ。

ぐるりと周りを見回す、目についたのは塀の上の黒猫。
指差すと猫はびくりと肩をいからせる。悪いけどちょっと飛んでくれ。


『黒い!』


ブニャーッ!!!と猫は叫びながら転がっている有吉にむかって一直線。


「ぎゃーーー!」
『ニャーーー!』
「うわーーー!」


有吉の顔面に猫の凄まじい引っ掻きが入り、縦縞がその顔を飾る。
その猫を有吉から離そうとして今度は森脇が引っ掻かれ、ちょっとした惨事になった。
なかなかマンガチックな状態だが、実はわりと可哀相だ。


「い、痛い…」


赤のペンシルストライプが描かれた顔で、有吉はふらふらと立ち上がる。
小さくジャンプしたその足の下にはまたも雲が滑り込んできて、キント雲になった。
森脇もどうにか猫を引きはがし、立ち上がるとその雲をちぎって思いっきり振りかぶって投げてくる。


『っ、雲かよっ!』


さすがに疲れてきたが、ここでやられるわけにはいかない。
投げられた雲の玉にツッコミを入れると、ちょっと噛んだせいかポーンと上に飛んでいく。
そこにさらにもう一つ雲の玉が飛んできて、避けようと体勢を変えたところに有吉がキント雲で突撃してきた。
思いっきり当たられて、後ろにふっ飛ばされる。結構痛いじゃねえかちくしょう。
倒れた俺の隙を見て、有吉が森脇を連れて雲で逃げようとする。
…残念、逃がしてやるわけにはいかねえんだよな。


『たてじまっ!』


有吉に少し力を込めたツッコミを入れると、その身体がボールのように飛んでいく。
後方の塀に有吉がたたきつけられ、それと同時に森脇が雲から転げ落ちた。
有吉は背中をおさえてうなっているが、ぐったりと動かない。森脇もぶつけたところをおさえている。
とはいえそろそろ俺も限界が近いし、時間もいっぱいだ。ここで決めなければ。


『…灰色っ』


有吉の手の中に見えた石に軽ーくツッこむ、その小さな石はひゅっと飛んでいった。
それを走って追いかけて、拾う。これで有吉の石はいただき。
もう俺の方も身体が言うことを聞かない。体中がぐったりと重くなる。


「…森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」


そう声をかけると、森脇は悔しそうに唇を噛んだ。

469[バカルディ・ゴールド(6)] 有吉:2006/07/10(月) 02:54:40



たたきつけられた背中と引っ掻かれた顔が痛い。
手から自分の石がすり抜けていったのは気づいてた。
でももう、雲に乗りすぎたのもあって足が動かない。


「森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」


そう三村さんが言うのも聞こえてた。
それでももう、これ以上何もする気にはなれない。俺は力つきた。すまん、森脇。


「すんません、渡せません」


…っておい、森脇お前まだ抵抗するのかよ、俺、もう石持ってねえのに。
しかもまだあの化石を封印したままで、三村さんの石のことも不明だから、お前の真鍮も使えないのに。
何でだ、抵抗したってもう何にもかわんねーじゃねえか。


「森脇、もう無理だ」
「おう無理だ…おし、もう10分経ったな」


そう言った森脇は自分の石をとりだして、呟いた。


「…『イーグルアイ』、封印!」
「な…森脇お前!」


三村さんの手の中で、俺のイーグルアイが、静かに光をなくす。
俺の石を封印した森脇は、少し笑って三村さんに自分の持つ鉱物、真鍮を見せた。


「この封印、俺の意志がないとずっと解けませんから」
「…」
「俺が望まない限り、これもイーグルアイも、もう使えません」


言い切った森脇の目には何か、強い決意の光があふれていて。
前に相方のそんな姿を見たのは一体いつだったろうなんてつまらないことを考えた。
ぼんやりとその横顔を見つめていると、また森脇は口を開く。


「…三村さん、俺はもう嫌なんですよ」
「何がだよ?」
「この石をめぐる闘いが」
「気ぃあうな、俺も嫌だぞ」
「でも三村さんはその石で闘えるでしょう、俺はダメだ」
「…」
「自分じゃ何も変えられない、それなら俺はこんな石なんていらない」


そう吐き捨てた相方が、ギリ、と歯を食いしばるのを俺はただ見ていた。
数々の襲撃を退けてきた裏で、森脇はそんなふうに考えていたのか。

なあ森脇、確かに真鍮はそれだけじゃ闘えない代物だ。
でもいつもお前の助けがあったからどうにか乗り越えてきたんじゃねえか。
そんなことも伝わらないほど、俺たちは遠かっただろうか。

すまん森脇。お前がもう闘いたくないって知っても、俺は。


「俺は、石を手放すなんてしたくねえ…!」


絞り出すような俺の声に、森脇がふりむく。
右頬の下のアスファルトは、まだ夏を迎える気配も見せずに冷たかった。
悲しそうに俺を見る相方、それでも俺は執着を捨てられない。
この闘いへの、この石への、そしてこの世界への。
這いつくばったままの俺に視線を向けて、森脇が静かに口を開く。


「なら有吉、お前、黒に行け…俺の真鍮が手土産なら、邪険にはされねえだろ」
「そりゃ、俺一人で行けってことか」
「…10分たったらイーグルアイの封印を解く」
「おい森脇、」
「そしたら黒に行けよ、このままでいるよりマシだ」
「っ、だから!お前はどーすんだよ!」
「…もう俺はこの闘いに意味なんか見つけられねえ」
「それは…俺一人で闘えってことか」
「お前は、闘える」
「…」
「闘えるじゃねーか」


…ああ、きっと俺の言葉はもう、森脇には届かない。

森脇を殴ってやりたい気持ちにかられて、立ち上がろうとした足はやっぱり言うことをきかなかった。
そのまま地面にぐしゃりと崩れる自分の身体に、いらだちばかりが募る。
それでも地面に突っ伏したままでいるうちに、頭が少しずつ冷えてきた。

そうだな、きっと俺は一人でも闘える。森脇がいなくても。
負けるときもあるかもしれない、それでも、俺が無抵抗でやられることはないだろう。
相手の力がわかるならどうにか反撃はできるだろうし、雲に乗って逃げることだってできる。
そうだな、多分、闘えてしまう。お前にはできないことができてしまう。

…だけど、お前のいない闘いなんて考えたこともなかった。

470[バカルディ・ゴールド(6続)] 有吉:2006/07/10(月) 02:55:34


「有吉」
「…はい」


俺たちの会話を静かに聞いていた三村さんに名前を呼ばれる。
声の方へ向きなおって返事をしようにも身体が動かずに、首だけ回して答えた。
どうやらもう三村さんも疲れているらしく、地べたに座り込んだままの格好で俺を見ている。


「お前、どーすんの?」
「…どーしたらいいんすかね」
「真鍮とイーグルアイ持ってお前が黒に来るんなら、こっちは文句ねーよ」
「俺、何かもう、わけわかんないんすよ」
「…俺も疲れてわっけわかんねえ感じになってきてるけどな」
「『わっけわかんねえ』ままいったん退いてもらうとか無理っすかね」
「あー、それはできねーわ、俺も色々あんの」
「色々ですか」
「おう、色々な」


強引に事を進めようとはしないが、退く気もなさそうな三村さんに溜息をつく。
どうしても俺はここで身の振り方を考えなければならないらしい。
森脇をちらりと見れば、奴は奴で疲れ切った顔でアスファルトにだらしなく胡座をかいていた。
そうだな、もう答えなんか出てるんだろう。俺は一人で闘うんだ、これから。


「…俺、やっぱ石手放したくないっすわ」
「来るか、黒」
「よろしくお願いします」

「…何だ、一件落着しちまってんじゃねーか」


突如として今までその場になかった声が耳に響く。
驚いて声の方に首をむけると、そこにはバカルディの大竹さんがいた。
そしてその後ろにのそりと立つ大きな影。
よくよく見ればそれは、事務所の先輩である土田さんだった。

471[バカルディ・ゴールド(7)] 三村:2006/07/10(月) 02:56:41



「お、大竹っ?!」


突然現れた相方の姿に混乱する、なんでこんなところにこいつが?!
パニックを起こしていると、大竹は憮然とした表情で続けた。


「せっかく来てやったっつーのに無駄足じゃねーか」
「や、つーか、何でお前ここにいんの?」
「土田に聞いたんだよ、ここんとこお前様子おかしかったし」
「…」
「まー、なーんか挙動不審でよー、わっけわかんねえ」
「いや、その、だから…」


しどろもどろになる俺を不満げに見て、大竹はふっと溜息を一つつく。
しょうがねぇな、とでも言いたげな表情がこちらにむけられた。


「お前アレだろ、何か変な気ぃ使っただろ」
「…」
「バーカ!バーカ!カバみてぇな顔しやがって!」
「カバ!?」
「コラ、お前石…!」
「あ」


石を持っているのを忘れて思わずツッこんでしまったせいで、ポンッと空中にカバが現れて飛んでいく。
ただ、そのカバは疲れのせいか、本物ではなくとても小さなぬいぐるみのような姿をしていた。
スピードもほとんどなく、弓なりに飛んでいったそのカバは、大竹の手におさまって消える。


「…ちっちぇーの出たな」
「…ちっちぇーの出ちゃったな」


ミニサイズなカバを見たら、何かホントにバカみてぇだと思った。
こんなん出るまで頑張っちまったぞ、俺。


「ま、あれだ…次から俺も呼んどけ、じゃねえとちっちぇーの出ちゃうから」
「おう、ちっちぇーの出ちゃうからな…」


…そうだな、ちっちぇーの出ちゃうもんな。
大竹いるんだから、んで大竹は闘うつってんだから、いいんだよな。
別にいいんだ、二人で。それでいいんだ、俺らは。
何だか本当に下らないことにこだわっていた自分に気づいて、ちょっと笑った。
それを見ていた大竹も、何だか少し笑っているように見える。

472[バカルディ・ゴールド(7続)] 三村:2006/07/10(月) 02:57:30

そんなおりに、急にガサッとむこうから聞こえてきた音にびくっと肩が動く。
音がした方を見ると、ちょうど土田が有吉に手を貸して助け起こしているところだった。


「土田さん、黒だったんですか…」
「まあね」


少しだけ身体を起こした有吉が土田を見上げながらぼそりとこぼす。
問われた土田は、顔色一つ変えずに短く答を返した。


「…俺は、黒でいいんすかね」
「こっちは来てもらう方が都合いいけど」
「黒、楽しいっすか?」
「俺はそれなりに楽しんでるとこもあるよ、俺の石は黒の方がしっくり来るみたいだし」
「石が?」
「…まあ、それはおいおいな」


有吉は土田の肩を借りてどうにか立ち上がる。
土田は有吉を支えつつ、空いたもう一方の手を森脇に差し出した。


「おら、お前も疲れただろ」


森脇は土田を見上げて、少し泣きそうな顔で言う。


「…そうっすね、疲れました」


その言葉と、俺の手の中で光を取り戻した有吉の石が多分、この闘いの終わりの合図だった。

473[バカルディ・ゴールド(8)] 有吉:2006/07/10(月) 02:59:47



疲れた体を固い駅のベンチに沈めた。
横には黙ったままの相方がいる。
俺の手の中では、イーグルアイが灰色の光を放っていた。
真鍮はとりあえず土田さんに預けてある。
黒に誰か使える奴がいるのか、それとも誰もいないのかはわからない。

土田さんの石の力で、駅の近くまで送ってもらった。
お互いそう近くに住んでいるわけではないが、使う路線は同じだ。
終電に近い電車を待ちながら、森脇に声をかける。


「なあ」


森脇は無言で、俺の方を見た。
それを返答の代わりにして、俺は続ける。


「お前が石を捨てても、まだ俺らは猿岩石なんだよな」


その言葉に、森脇は少し笑って答える。


「おう、まだ猿岩石だよ」


その返事に満足して、軽くうなずいた俺を強烈な睡魔が襲ってきた。
ふぁ、と大きなあくびをしたところで、森脇に電車が来たら起こしてくれるよう頼んで眠りにつく。



…それから数十分後、森脇まで寝たせいで終電を逃すはめになったのはまた、別の話。

474 ◆yPCidWtUuM:2006/07/10(月) 03:02:50
すいません、トリップ消えましたが>>464-473は自分です。
以下は猿岩石と新しく出した石の能力です。

猿岩石(有吉弘行)
石:イーグルアイ
インターナショナル(世界を見る目)
能力:
空に雲の浮かんでいる状態でジャンプすると白い雲が足の下に現れ、これに乗って移動できる。
また、ポケットに小銭の入っている状態で石を使うと、自分の頭に浮かべた人物の持つ石が
どんな能力を持っているか、小銭の数だけ知ることができる。
条件:
空に雲のない日や、雨の日には雲に乗れない。雲の基本速度は有吉の全力疾走時のスピード程度。
自分の意志でこれ以上速くはできないが、遅くはできる。意外と固い。
この雲に乗ったりさわったりできるのは有吉と森脇のみ。
小銭1枚につき石ひとつの能力がわかるが、金額によってわかる度合いが違う。
500円玉ならば石の能力全てを知ることができるが、1円玉でわかるのは攻撃系か防御系か程度。
名前と顔が一致しなかったり、ほとんど人となりを知らない相手の力は500円以外ではほぼ不明。
逆によく知っている相手は少ない額でも能力を暴くことができる。
代償:
雲に乗る力を使いすぎると、足の筋肉が極度に疲労して歩けなくなる。
能力を知るために使った小銭はなくなる。また、ポケットに小銭が入っていない状態では使えない。


猿岩石(森脇和成)
石:真鍮
どの石とも調和し、石の効果を増す
能力:
完全に名前と能力が判明している石を一度にひとつだけ封印できる。
封印を解くタイミングは森脇の意志次第だが、ひとつ封印したら最低10分経たないと解けない。
ひとつの石の封印が解けるまで、次の石の封印はできない。
1日に封印できるのは石2個まで
また、有吉に応援や忠告の声をかけることで、有吉の行動を少しだけサポートできる。
条件/代償:
ほとんどが有吉がいないと使えない能力で、一人では攻撃も守備もできない。
また、石の名と能力を知らないと封印の力は使えず、一度封じた石は二度と封じられない。
他人の石を封印した時間だけ、その後自分の石がまったく使えなくなる。
さらに、石を限界まで使用すると、極度の疲労感に襲われる。


木の葉の化石
先祖の守り、説明のできない事柄から身を守る力
能力:
枯れ木に葉をつけてそれを動かし、防御・攻撃をする。
条件/代償:
使えるのは1日に3回程度。近くに枯れ木がない場合、石が使えない。
枯れ木に葉がつくところを想像し、葉を動かす際にも形を想像しなければならないため、
限界まで使うと想像力に支障をきたし、物事の状況や言葉の意味が想像できなくなる。

475名無しさん:2006/07/10(月) 17:31:00
乙です!
「ちっちぇーの出ちゃったな」が二人らしさ出てていいですね。

476名無しさん:2006/07/10(月) 21:24:24
いつも言葉遣いがリアルで面白いです。
ぜひ本スレに投下を!

477 ◆yPCidWtUuM:2006/07/10(月) 23:15:02
>>475,476
ありがとうございます。本スレ行ってきます。

478 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:19:02
アンガールズの短編書いてみましたので、落とします。
時間的には◆IpnDfUNcJoさんの「鍛冶くんじゃ…ない?」のちょっと後辺り。
山根の言葉遣いとかちょっと怪しい点がありますので、チェックしていただけると嬉しいです。

479 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:20:04
「山根〜」
気の抜けるような上滑りした高い声で、田中が俺を呼んだ。
「なに」
「俺たちさあ、どうすんの」
「どうするって」
「白とか黒とかさあ」
「ああ、…田中はどうしたいんよ」
「どうしたい、って言われてもね〜」
「俺も一緒だって」
「…あっそ」
少し前に石を手に入れ、それに何やら弱いながらも不思議な力があると知って、
しかもそれを巡る同業者の戦いがあるそうだとかそういうガセのような話まで聞いて、
自分たちは身の振り方を決めかねていた。
どうやら、白と黒、というごくシンプルな対立があって、白はヒーロー、黒は悪の組織らしい。
大まかに言ってしまえばそういうことで、何も自分から悪の道へ進もうなどと考える人はごく少数だと思うのだけど、それだからか脅しや強制が黒の中では横行しているらしい。
伝え聞いた話をどこまで信用していいのかもよくわからないのだけど。
第一、そんなヒーローものの特撮みたいな話が本当に現実にあるんだろうか。
こんな疑問を抱く芸人は自分たち以外にも星の数ほどいて、だからこそそれは愚問なんだろうが。
「意味わかんないよね」
「…黒?白?」
「どっちも。もう白でいいんじゃないの」
「でも、戦うとかできないじゃん、俺ら」
「あー…」
能力は、二人とも似たりよったりで「沈静」だ。
争いごとがそこまで好きではない自分たちとしてはありがたい話だが、いざ面倒なことに巻き込まれた際に身を守れないのは辛い。
「いや、だからさ、白の人に助けてもらおうよ」
「え?」
「強い人の陰に隠れとけばだいじょぶでしょ」
「え、そんな単純なあ…」
「面倒なことに巻き込まれたくないし、白の方がまだ戦わんで済むと思うよ」
「…そうかな」
「そうそう」
田中を半ば強引に説き伏せて、そうと決まればくりぃむさんの所でも行こうか、と立ち上がりかけた俺たちに、言ってるそばから面倒なことが降りかかってきた。
がしゃーん。
鋭利な音が聞こえて思わず振り返った。
三階にある楽屋の窓から乱入してきた影は、さしずめ格好つけの怪人だろうか。

480 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:20:50
「…どうすんの」
「どうするって」
とりあえず反射的にドアから逃げ出して、廊下をひた走る。
後ろから足音が聞こえるがもう振り返ってる暇もない。
弱っちい俺たちは既に二人して息も絶え絶えで、きっと着実にその距離は狭まってるだろう。
振り切ってしまえたら、近くの楽屋へ逃げ込めたなら、とは思うけれど。
「どうもできんよ」
「…そだね」
目下敵から逃げているにしては暢気な会話を打ち切って、半ば諦めてそれでも往生際悪く走る。
ああ、もっと若さと体力と運動能力があれば、なんて考えてる余裕もそろそろない。
廊下が果てしなく長く長く思えた。
運動会だったら倒れれば棄権させてくれるけど、今倒れたら確実に餌食だ。
隣でもう必死にめちゃくちゃ走ってる田中に、滑って転ぶなよ、と思う。
ああ、喉がひゅーひゅー言うし横腹も痛いし膝も痛いけど、
とにかくもうちょっと、走れ、俺!
「!」
健闘虚しく、角を曲がった所で遠く前方、廊下の端に二つの影を発見する。
…挟み撃ちか。ああ、終わりだな。
せめて殺されないことを祈ろうと心中で手を合わせかけた俺に、声がかかった。
「何やってんだあ、お前ら!」
察しろよ。
なんて言いたくなるようなことを言ったのは、インパルス板倉。
隣にいる男は、もちろん堤下だった。
と同時に後ろの気配もどんどん近づいてきてることが背中に伝わる殺気で分かって。
追われてる。
そう言おうとしてももう声にも出せなかったが、もう論より証拠だ。
こっちを追ってくるギラギラした目の男が、二人にも見えたことだろう。
どんどん近づく板倉の指から発された青い光が、ばちばちと自分たちの間をかすめていった。

481 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:21:24
「…なんだ、ザコじゃん」
板倉が伸びてる男に蹴りを入れる。
心臓とかは大丈夫なのかと思ったが、その辺は上手く加減してやるんだろう。
田中は消耗しきって床に倒れ伏している。
こっちも似たような感じで、座り込んでぜーはー言っている。
「大方黒の下っ端だろ、こんぐらい自分たちで何とかしろよ。」
「…大丈夫?二人とも」
「うわ、ジジイがマラソン走りきったみてえな面してんな…」
何とでも言え。
もう死にそうだ。水が欲しかった。
「こんぐらいでへばってたら戦えねえぞ」
「俺たちは攻撃系じゃないんだよ…」
「じゃ、二人でぼけーっとしてんなよ」
カラカラの喉から絞り出した反論は一蹴される。
悔しいけどその通りで、でももうちょっと言い方ぐらいあるだろう。
「はい」
堤下が俺たちの前にスポーツ飲料の入ったペットボトルを置いた。
「あ、ありがと…」
「いえいえ」
ありがたくごくごくと飲む。生き返るようだった。
田中ものそのそと起き出して飲んでいる。
「…おい、助けてもらっといてこっちには礼もねえのかよ」
板倉が憮然とした顔で腕を組んでいる。
「…ありがとう。」
「棒読みかよ」
何かつくづく面倒くさい奴だな、と助けてもらって何だが思う。
「気持ちこめろよ」
「いいじゃんもう、疲れた…」
「はあ!?…むっかつく…」
「ま、まあまあ」
慌てて堤下が板倉をなだめる。
その背中の陰で、何かがのそりと動いた。
…ここに寝てた奴といえば、勿論。
「動いた!」
声を上げる。全員が一斉に注目した。
名前も知らない、多分芸人であろう男の目は、赤く濁ってさっき以上に鋭くなっている。
「…嘘だろ、こんなすぐ起きれる筈ねえぞ」
板倉が呆然としている。堤下が動いた。
「おら!」
かけ声と共に頬を一発殴る。
堤下は痛そうに顔を歪めたが、相手は平然としている。
「うら!」
更に一発。しかし効いてはいないようだ。
「堤下、引け!」
板倉が今度は携帯を掴んで、直に拳を当てる。
ばちぃと音がしたが、男は倒れない。
「…うっそだあ」
板倉がまた言った。
「埒があかねえ…逃げるぞ!早く」
「おお!」
インパルスの二人が駆け出す。
「大丈夫だって」
「…へ?」
板倉が走る態勢のまま、きょとんとした顔で振り返る。
俺はできるだけ刺激しないようにゆっくりと男へ歩み寄って、やわらかく声を掛けた。
「あ、先輩先輩」

482 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:21:53
「…お前、そんな手あるんだったら逃げてねえで端っから使えよ…」
「……だって、これすごい疲れるんだよ…それにさっき急だったし…」
呆れた顔で言う板倉の足下で、俺はへばっていた。
あの男はコントに引き込んで落ち着けた後、田中の能力で大人しくなった。
どうやら男の能力は少しの間だけ防御力を高めるようなものだったらしく、しばらくしてから痛い痛いと転がっていた。
さっきの板倉の攻撃が効いていたのは不意打ちだったかららしい。
拍子抜けするぐらい弱々しい男の姿に、板倉はビビって損したと悪態をついた。
転がっている間に石を浄化すると、憑き物が取れたようになって、心当たりのない痛みに首を傾げながら去っていった。
そして今に至る。
「…つっかれたあー…」
力を使いすぎてまだ動けない。
まだ残っていたスポーツ飲料を一気飲みすると、少し楽になった。
「白、来んの?」
「…行く、けど」
「けど?」
「戦うのはヤだな…。弱いし。黒怖いし」
「けっ、ビビリ」
返す言葉もないが、言い過ぎな気もする。
堤下は同じく寝転がっている田中の隣にいる。
板倉が腕時計を見た。
「あ、おい堤下、時間」
「あっ、そっか」
「つーわけで、じゃーな。いつまでも廊下で寝てんなよ」
「お疲れ」
「おつかれー…」
「おつかれ…」
インパルスの二人はすたすたと去っていく。
「どうするー…?」
「…とりあえず、くりぃむさん所いこっか」
「え、今から…?」
「じゃあいつ行くの」
「…行こう」
疲れた体を引きずりながら、来た道を戻っていく。
「ついでに襲われたって言おうか」
「ああ、そうだね。一応」
「…今回一人だったけど、何人もいたら無理だろうな〜」
「そりゃね…俺ら力弱いもん」
「…もし、あそこにインパルスいなかったらさあ、」
「うん」
「どうする気だった?」
「お前を差し出して逃げた」
「や〜ま〜ね〜」
上滑りの声で抗議するように呼ばれて、俺は思わず笑った。
「冗談だよ」
「あーもーびっくりしたあ…」
「…何、信じたの」
「そういうわけでもないけどー…」
体を落ち着けるように、のろのろ歩く。
でも走っていた時のように半端なく長くは感じなかった。
余裕があるからだろうか。追われていないからだろうか。
「…あんな、戦いがさあ」
「うん」
「ずーっとあるんだよね」
「うん」
田中の言葉に淡々と相づちを打つ。
能力を使ったせいか頭が微かに痛む。
我慢できない程ではないけど、不快だ。
「終わらせたいね」
「どうやって?」
「…ずーっと肩ぽんぽんしていけばいいじゃん」
「石構えて真っ赤な目してる人の列を?」
「うん」
無理でしょ、と思ったが口には出さなかった。
代わりに出て来た言葉は、
「じゃ、俺はその横で敵さんとコントしとくよ。」
なんて、お気楽なものだった。
自分でも何でこんな台詞が出て来たのかよくわからなかったが、隣で田中が体を折り曲げて笑いをこらえているので、まあいいか、と思った。
こんな能力も、芸人としては決して悪くない。
まだ笑っている田中を置いていくように歩を進めると、慌ててついてきた。
「ねえねえ、敵がいっぱいいたらどうすんの」
「お前に任せる。」
「ひどっ。
 …あ、でもジャンガジャンガぐらいならできるんじゃない?」
「みんなで?」
「うん。」
「あー、それいいね」
「でしょ。みんな緊張感なくすよ。」
「味方もなくしちゃわない?」
「…うーん。」
じゃあもういっそ、黒も白も自分たちのぐだぐだした色で染め上げてしまおうか。
なんて格好つけたような微妙につけられていないようなことを言うのは、普通に恥ずかしいのでやめた。
「戦わずして勝つ、みたいな感じでかっこいいんじゃない?」
「無血革命、って感じ?」
「そうそう」
無難な言葉でお茶を濁して、ふと「ああそれは穏便でいいなあ」と思う。
どうにもぐだぐだふにゃふにゃした自分たちに一番向いていると思う。
そうこうしてる内に目指す楽屋が見えてきたので、「白に入れてくださーい」と気の抜けた声で言うためにドアを叩いた。

483 ◆vGygSyUEuw:2006/07/27(木) 18:34:24
以上です。
一応襲ってきた男の能力↓

石:未定
能力:一時的な防御力の上昇や痛みへの耐性。
条件:持続は最長で二、三分。能力が解けると、抑えていた痛みが一気に戻る。
   耐性がつくのは肉体への攻撃のみ。

484名無しさん:2006/07/28(金) 22:18:57
アンガールズいいと思います。
その後も読みたいと思いました。

485 ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:13:53
こんにちは!
よゐこの話を濱口さんメインで考えてみました。
何かアドバイスを頂ければ幸いです。

486here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:15:11
 「−そっち行ったぞ!囲め!」
 「とりあえず出口押さえろって!」
 木々の隙間から聞こえる、怒声。眠っていた鳥が慌てた羽音を残して飛び立ってゆく。
 深夜1時をまわった公園。小さなブランコやすべり台で遊ぶ者はいない。
 それに甘えているのか単なる偶然か、公園を照らすはずの街灯が今にも消えそうに点滅している。
 声の原因である男たちの数は10人前後。
 20代そこそこの若さに見える彼らは一様に、焦点の微妙に曇った目で必死に何かを探していた。

 さて、色鮮やかに塗られたジャングルジムの奥には、背の低い木々が植えられている。
 そこにいたのは何事かと怪訝な顔で男たちを見つめる野良猫と、1人の芸人。
 「うわ、めっちゃ数おるやん…どうしよ………」
 彼らのターゲット、よゐこの濱口優だった。

487here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:16:25
 仕事を終えた帰り道、不意に迎えた大ピンチ。
 何かと物騒な噂を耳にしていたから、事情を説明してもらえずとも相手の目的に検討はつく。
 咄嗟に公園に逃げ込んだ濱口はついさっき別れたばかりの男に大急ぎでメールを打った。
 この状況をすんなり理解できて頼りになる者。迷いなく浮かんだのが少々悔しい気もする。
 自分を追う声は確実に包囲網を狭めていた。
 このままだと見つかるのは時間の問題なのだが、こう人数が多いと不用意に動けない。
 東京の夏としては珍しく涼しい夜なのに、緊張と焦燥のせいで背中を嫌な汗が流れていく。

 と、手の中で携帯電話が低く振動した。できるだけ音をたてないように注意して、画面を覗きこむと−
 『なんとかならへんの?』
 暗闇に浮かんだのは呑気な返事。
 思わず力が抜け、電話を落としそうになる。
 『ならへんから言うてんねん#』
 いつもの癖でつい絵文字を入れてしまった。怒りを示す赤いマークがひどく間抜けだ。
 『絵文字打てるぐらいやったら大丈夫なんちゃう?』
 わあ、やっぱり指摘されるか。
 そういうとこばっか鋭いねん、体勢を低くしてそろそろと移動しながら最後のメッセージを打つ。
 『たすけて!』

 なぜそれが最後になるのかというと、数秒後に追っ手の一人が彼を見つけてしまうからで。
 携帯電話の液晶は律儀に送信が完了したことを報告していたが、濱口にそれを確認する余裕はなかった。

488here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:17:49
 「−殺さない程度にやれよ!」

 仲間らしい別の男の、物騒な指示が聞こえる。
 隣にいた猫が走っていく。座り込んだ地面の砂の感触。振りかぶる拳がスローモーションで見えた。
 当たれば殺されずとも気絶は間違いなさそうだ。そしてこの距離では避けられない。
 取れる策はひとつだった。その軌跡をしっかり見据え、意を決してキーワードを叫ぶ。
 「『獲った』…けど、返すわっ!!」
 言い終わった瞬間、濱口の首元で白い輝きが弾ける。
 次いで鈍い、何かがめりこむような重たい音が響いた。

 「…っ、………!?」
 フラッシュに似た光が収まった時、困惑と苦痛を混ぜたような表情を浮かべていたのは
濱口ではなく彼に攻撃を仕掛けたはずの男の方。
 倒れこみ動かなくなる仲間の姿に、集まってきた面々は事態を把握できずに硬直する。
 濱口はその隙に体勢を立て直し、地面を蹴った。

489here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:18:47

 追われてるし、捕まりたくないし、暗いし、しんどいし。
 様々な事象が恐怖に直結し、喉元に込み上げてきて吐きそうになる。

 濱口の石が最初に光ってから10分。
 人数差の不利はあまりにも大きく、公園からの脱出は果たされぬまま
絶望的にユーモアの欠けた真夜中の鬼ごっこは続いていた。
 現在数は7対1。既に2人には先程と同じくカウンターで自らの攻撃に沈んでいただいたのだが、
そろそろその代償すらも濱口を追い詰めはじめている。
 心臓が痛い。激しくなるばかりの動悸が容赦なく脳を叩き、息を継ぐのもままならない。
 単に運動不足のせいだけではなかった。
 石を使えば使うほど臆病になる−限界値を越えるまではそうきつい制約でないはずの副作用はしかし、
こうして激しい動作に絡まると途端に厄介な足枷と化す。
 タイミングの悪いことに、弱々しくも頑張っていた公園内の街灯がバチっと音を立てたきり沈黙し
 ほぼ完全な暗闇の中で駆け回らなくてはならなくなった。
 ぼんやり浮かぶ遊具や木々。環境すべてがなにか恐ろしいイメージの元に見える。
 「嘘ぉ、」
 思わず漏らした嘆きは完璧に震えていた。
 背中にぶつかる相手の忌々しげな文句にも必要以上に臆してしまう不本意な現状に加え
 頭の中では昼間聞いた稲川淳二印の怪談がリピートで流れはじめる始末。

490here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:19:46
 だからこれ使いたくないねん、首元で慌てたように揺れるセレナイトを恨みつつ
 いじめられっ子の代名詞「のび太」にも勝る切羽詰まった顔で、
 濱口は必死に黒の追っ手御一行と暗闇と脳内の稲川淳二から逃げ回った。
 ジャイアンがいっぱいおったらこんな感じになんねや。感心する余裕もすでにない。
 あかん、涙出てきた−
 いよいよ体力より先に精神がくじける頃。視界の先、路地の明るみから聞き覚えのある声が響く。

 「…飛んで!」

 鋭い声。彼の「ドラえもん」が何を意図したのか考える暇もなく、濱口はその指示に従った。
 目減りする精神力は一旦踏み止まってくれたらしい。こういう時単純な性格でよかったと思う。
 出口を塞ごうと車止めの方へ回りこむ数人の動きを横目にそのまままっすぐ走り、
 大きく息を吸い込んでもつれかけた両足を跳ね上げ、公園と道路を隔てた垣根を飛び越える。
 左足がわずかに葉を掠った。
 「あだっ、!」
 バランスを崩し、中途半端な飛び込み前転のような格好で地面に転がる。
 ぬるいアスファルトの感触でどうやら成功したことはわかったものの
急な動作で無理に伸びた腰や膝から、早くも痛覚が駆け上がってきた。
 (え、言われた通り、道に出たけど…、それからどうにもならへんのとちゃうか!?)
 背後に追いすがる人の気配はしっかり残っているし、こちらは気力を使い果たしたらしく動けない。
 痛みと街灯の眩しさ、それからこの後の悲惨な展開を予想して思わず固く目を閉じた。
 (…なんやねん!意味ないやんけ俺の大ジャンプ!)

491here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:20:44

 声に出さなかった文句がどうやって彼まで届いたのか、どこからか穏やかな声が応じた。
「いやいや。ちゃんと意味あるから、そこに居って」

 次の瞬間、街灯の光の下に伸びた濱口の影がだしぬけに膨らんだ。
 大きさは子どもの背丈ほど、ゆらりと揺らいだそれが、追っ手と濱口の間に立ち塞がる。
 男たちは垣根を乗り越えて我先にと濱口に手を伸ばすところだった。
 うちの一人が奇妙な気配と理由に気付いたらしく、慌てて周辺に視線をめぐらせる。
 大通につながる道の先。手の中で瞬く石を握る者。
 目の合ったそれが−ー有野が、笑う。

「待っ…!」
 男が仲間に何か告げようとしたが、神経伝達より速く飛んできた影の一閃−
横薙ぎの重いボディブローが集団ごと、彼の意思と意識を黙らせた。

492here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:21:48
 再び公園周辺に戻った、穏やかな夜。
 どこかに避難していたらしい野良犬が(やれやれ)と言いたげな表情で2人の前を横切っていく。

 「大丈夫か?立てる?」
 「うー…大丈夫やけど、もうちょい待って…」

 疲労と安堵、それから石を使ったことによる倦怠感。濱口はその場にへたりこんだままだ。
 影はもう地面におとなしく張り付いている。
 「やっぱり焦ってると加減がうまくいかへんなあ」
 有野は足でちょいちょいっと倒れた男たちをつつき、
大して心配していないような声で生きてるか〜、と問うた。うめき声が聞こえたので恐らく大丈夫だろう。
 強風で飛ばされた洗濯物のごとく植え込み廻りに散らばっていた男たちのシャツを
片っ端から中途半端にめくってやった。

 「腹冷やしてもうたらええねん、なあ。…あれ、濱口くん?」
 「…なんか俺腰抜けたみたい…」
 「ぇえー」

 世話焼けるわあ、ぼやきながら有野が脇に屈みこむ。
 その肩を借りてどうにか立ち上がりながらふと(こいつよく間に合ったな)と思った。
 濱口の影を使った分少しはましなのだろうが、よく見ればけっこうしんどそうな顔をしている。
 もしかしたらメールの文面とは裏腹に、急いで駆け付けてくれたのかもしれなかった。

493here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:22:30

 「…たすけつ、って何?」
 「へ?………あっ」
 「メールでも噛むねんなあ」
 「ええやんけ、伝わってんから」

 感謝の言葉はそれでうやむやにしてしまったけれど、こっそり濱口は心中で誓う。

 (いつかお前がピンチになったら、颯爽と助けに行ったるわ)

 そして、うまいこと逃げ出してみせるのだ。手に手を取って一目散に。
 格好よく事が運べばありがたいけれど、まあ。
 それはこの際二の次でも。

494here,there. ◆1En86u0G2k:2006/08/10(木) 15:23:26

濱口優(よゐこ)
 石:セレナイト(透石膏、無色透明。石言葉は洞察力、直感力)
能力:向けられた攻撃を無効化させる。
条件:攻撃が自分に影響を及ぼすと想定できること(他者への攻撃を止めるには間に割り込む必要がある)。
攻撃に対し「獲った」と言うと攻撃に含まれるエネルギーを石で吸収し、ダメージを受けずに済む。ただし体力や気力には変換できない。一定量を超えるとそれまで止めた分が周囲に炸裂する。
精神攻撃にも有効だが、基本的に耐性が低い(ドッキリに弱い実績から)。また消耗は大きくなるものの「逃した」「返す」「いらん」等の言葉を続けるとその攻撃を相手に反射できる。
気力を消耗するほど勇気や度胸が減ってへたれてしまい(特に野外での)無茶な行動が苦手になる。最終的には行動不能に。
笑うことで攻撃の意思自体を削ぐこともできるが、自分も相手もしばらく笑いが止まらなくなる。


間が開いてしまいましたが、前回と同じく98さんの提案した能力を参考にさせていただきました。
めちゃイケでの「笑う男」のトランスっぷりが強く印象に残っているのでそのへんも加えています。
ご指導、よろしくお願いします。

495名無しさん:2006/08/10(木) 16:39:06
乙です!
おもしろかったです。有野さんカコイイ!
濱口さんの能力いいですね。使い勝手よさそう。

496名無しさん:2006/08/11(金) 01:33:36
乙です。おもしろかった!
画が浮かびますね。
灯に照らされた有野がにやっと笑うとことか、キタキタって感じでワクワクしました
続きが読みたくなりますね。
能力も良いんじゃないでしょうか。
石の能力が「向けられた攻撃を無効化させる」だから
笑うことによって相手の攻撃の意思自体をそぐ事も出来るってわけですね。
なるへそです。
若干一文の長い部分があるような気がしないでもないですが、
そんなに気になりませんでした。
GJです!

497元金持ちピン芸人の話:2006/08/11(金) 11:08:31
はじめまして。
以前からかいてみたいと思っていた功太さんの小説を投下したいと思います。
批評おねがいします…

498元金持ちピン芸人の話:2006/08/11(金) 11:12:31
ここはbaseよしもと
「そんじゃ、先輩方。お疲れ様でしたー」
baseよしもとのピン芸人、中山功太はそう言うと建物を出た。

「あー、疲れたわー。さっさと家帰りたい」
ブツブツ言いながら歩いていく彼の後ろに一つの影が近づいていく

「あの、」
「うわっ!びっくりしたわー。何?」
声をかけてきたのは名もよく知らない若手芸人だった。

その芸人は中山の目をじっと見つめながらボソリとつぶやいた。

「…あなたはどっちなんですか?」

前にもこんなことがあったのでちょっと嫌な予感がした。

まったく物騒な世の中になったもんやな。
このお笑いの世界はどうなってしもうたんや。

「別にどっちでもええわ。どっちもあんまり変わらんやろ」
「僕にとっては重要なことなんですよ。石を奪っていいのか悪いのかわからないでしょう?」
「お前も石目当てか」
「そうですよ」
「別に俺はこの石、守る必要ないねん」
「じゃ、大人しく渡していただけませんか」
「でもなー、石の力借りてまで有名になろうとしてるお前らに腹立つねん」
「…じゃあ、力づくで取らせて頂きます」
「やる気マンマンか…!」
うわ、めんどくさいわー。っていうかこの状況でこんなん考える自分サイコー。

「僕の能力、教えましょうか?」
そう言った途端にその若手の手のひらの石が輝き、
足元に何かが集まってきた。
その集まってきた何かはー
虫。
さまざまな種類の虫がぞわぞわと集まっていた。
女の子ならとっくの昔に悲鳴をあげていただろう。

「さあ、虫たち!行け!!」
足元に群がっていた虫たちは若手の指示を聞くやいなや一斉に中山へ向かってきた。

「…しゃあないな…」
マジで、こんな戦いに意味あんのか。

499元金持ちピン芸人の話:2006/08/11(金) 11:15:38
スッと息を吸い込んでー

「チェケラー!虫たち行けーって言われて簡単に行くんかー、人に動かされるのは何も考えてない虫の脳の小ささ故です!」

この真面目な場面で普段やっているようなネタをやる中山。

「…真面目にやらないと…そいつらが襲ってきますよ!!」
「…んー、しばらくの間それは無いなあ」
「なっ、何を言って………?!」

虫たちを見た若手は驚いていた。
先ほど自分が命令した虫たちが動きを止めていたのだ。

「な、何を…」
「チェケラー!『な、何を…』!そう言われてすぐに教える奴いるかー、よく考えー」
「こ、このっ…!」

怒りをあらわに若手はすぐ近くにいる中山を掴もうとする。
しかし、体が思うように動かない。
頭の中は怒りのほかに何故、と言う疑問と能力がわからない恐怖でいっぱいであった。

「な、何で体が…動かせないんだ…!」
「チェケラー!普通気付けー、今石の取り合いしてるんだから石の力に決まってるだろうがー」

中山の手からオレンジの光がこぼれんばかりに輝く。
石の力を使っている証拠。

「くそっ…くそっ…!なめるなあーー!!僕は…僕は…有名になるんだーー!!!」
それはもはや声にもなっていない叫びだった。

「…あーあ」

確かに自分も売れたいと思ったときがあった。でも、気付いた。

売れるのが目標やない。

別に売れなくても、自分のネタを気に入ってくれた人が笑ってくれればそれでいい。

芸人に大切なのはその気持ちとちゃうんか?

この石の取り合いでそういうことを忘れた奴らを見ると腹が立つ。

だから、俺は自分に向かってくる奴はとにかく倒す。

白も黒も関係ないわ。

とにかく倒す。


ー虫もコイツも、そろそろ動くかなー

その通りだった。
若手が動くのと、虫たちが動き出すのは同時だった。
ザザザザザザザザ…………ッ!!!!
「消えろーーーー!!!!!」

アイツが動けへん間に帰ればよかったわ。
「…石が力を失えば虫も止まるか?」
うーん、やってみるしかないか。
ホンマ疲れてんのに。めんどくさっ。
時計をチラリと見る。まだ15分たってへんな。

「チェケラー!『なめるなあー』!お前は笑いの世界をなめてますからー、石でどうこうできる世界じゃないから。

…シーユーバイ」

そのツッコミを言った途端にその若手の表情がなくなった。
それと同時に石の輝きが消えー
若手の手の中から滑り落ち。
虫たちは止まりー
一斉にどこかへと散らばっていった。

それからどれぐらいたったのだろうか
「ふー…、危なかったわ…」
そう言うと手のひらの中の石を眺めた。
「自分の攻撃系じゃないから大変やわ…」

そうつぶやくと、地面に落ちている先ほどの若手の石を拾い。
家路へと向かうのだった…。

「この石はあとで田村さんにでも渡すか…。
あーあ、これでしばらくネタ作れへん」

あーあ、どないしよ。
この石のせいやで、まったく。

家につくまでそのつぶやきは止まらなかった…

500元金持ちピン芸人の話:2006/08/11(金) 11:21:30
中山功太
石:レッドアベンチュリン
(自分が計画した事柄をまるで壮大な絵を描くかのように進めることができる)

能力:
①「チェケラー」と言った後に、対象へツッコミを入れると発動。対象の動きを一定時間、完全に停止することができる。

②15分以内に3回、①の能力を同じ相手に使うと、石に関する相手の記憶を無くすことができる。
ただし、一時的な作用であり、何かの拍子に思い出す可能性もある。
①の能力を3回発動させた後に「シーユーバイ」と付け加えなければ、この②の能力は発動せず、①の能力を3回使っただけになる。

代償:洞察力が使う程、ガタ落ちする。(相手にツッコミが入れれなくなる。)

なお、②の能力は三日間で二人までしか使用できない。

新しい石の能力を考えようの>405から頂きました。
前には石が違う中山さんの話がありましたが私はこちらを書いてみました…

おそってきた若手の石
石 ?
能力 周りに虫を集めあやつる
条件 虫がいないところでは使えない
   使った後は家の中にゴキブリやムカデがたくさん増える

あんまり深く考えてなかったんです…ホントにすいません…

501名無しさん:2006/08/11(金) 12:47:41
乙!面白かったです。
やる気ないのが中山さんらしい。

502名無しさん:2006/08/11(金) 13:07:21
過疎気味の本スレの為に是非投下を。

503 ◆1En86u0G2k:2006/08/11(金) 13:34:54
>>497さん
消極的ながらも信念のある感じが素敵でした。
虫の能力と代償が恐ろしいw

>>495-496さん
コメントありがとうございました!
文章が続いて止まらない癖には毎回悩んでいるので、
徐々に直していきたいです。
本スレ、保守がてら行ってきます!

504名無しさん:2006/08/13(日) 00:33:26
>>497
乙です!面白かったです
何か一匹狼でっぽくて良いキャラですね。
「チェケラー」のネタが中山功太口調で聞こえました。
勝手に言うだけですが、もう少し長い話が読んでみたい気がしました。
話が広がる感じの(他と絡んだりとか)
中山功太良い感じだと思います。GJです!

505名無しさん:2006/08/24(木) 09:17:28
提案スレの405です。

まさか、あの案を使っていただけるとは思っていなかったので非常に嬉しいですw

元々、中山を一人で戦わせようと思っていなかったので、あのような補助系の石の能力にしています。
(ネゴと組ませた話を考えていたので)


そんな使いにくい設定で単独で使っていただきありがとうございます!!話も中山らしさがすごく出ていてGJです!!!続きがあるなら、楽しみに待っています!!!!

506 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:43:24
はじめまして
麒麟の川島と次長課長の井上の話をかいてみました。
時期的には麒麟の田村が石の力に目覚めた直後
まだ井上が石を手にしていない頃の話です。
添削お願いします。

507 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:45:35
「…井上さん」
「しゃべっとらんと手ぇ動かしぃ」
「いや、あのすいません、これ途中で終わらせてくれませんかね?」
川島の手にはゲーム機のコントローラー
目の前にあるテレビの画面には2次元のキャラクターが肉弾戦を繰り広げている。
たまに、手から炎が出たり竜巻が起こったりするのは
ここ数ヶ月間自分の目の前で似たようなことが起こってるなというのをどこかでぼんやり思った。
「そうやな、お前が俺を超えたら終わらせたるわ」
「無理です、井上さん強すぎます。」
「何やの、お前最近付き合い悪いから絶対自宅でゲーム特訓しとるもんやと思ってたのに…
むしろ前より弱くなっとるやん」
「まぁ、最近別件で忙しくって…ろくにゲームも触れてなかったんで」
「だから、俺が今ここでその弛んだゲーム根性叩きなおしたる」
「それって叩きなおすものですか?」
苦笑を浮かべながら川島は先ほど井上から課せられた対コンピューター100人抜きの37人目の対戦相手に必殺技をくらわせた。
「そういや、河本もぼやいとったわ。『最近みんな付き合い悪ぅなって飲み会誘っても誰ものってこん』て」
「そう、ですか」
「何なん?そういうの最近流行ってるん?」
その質問に対して川島は曖昧に笑ってかえすしかできなかった。

508 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:47:07
次長課長の井上は彼らがまだ大阪にいた頃大変世話になった人物である。
相方である田村の次に川島に声をかけてくれて極度の人見知りであった川島を変えてくれた大きな要因だ。
以前は仕事で東京に来た際には、ほぼ毎回といっていい程井上とこういったゲームで遊んでいた。
しかし、黒水晶を手にして以来、黒ユニットの芸人に幾度となく襲われ
否が応にも戦いに巻き込まれる事となって彼らの周りの環境は一変した。
どうやら思っていた以上に「石」は芸人の間に広がっているらしいが
幸いにもこの先輩はまだ石を持っていないらしい。
こんな無意味な戦いに自分にとって大切な人達を巻き込みたくない。
だからしばらく相方である田村にも「石」の事は語らなかった。
しかし、その相方も石の力に目覚め「一緒に戦う」と力強く言ったのはつい最近の事だ。
だが、一方で川島は考えていた。
田村の石が完全に覚醒した今ならその力を封印できるのではないかと。
今からでも遅くない、戦うのだけは自分だけでいい。
あまつさえ田村の石を覚醒させるに至ってしまった自分に少し憤りさえ感じていた。

509 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:50:51
そんな中東京での仕事を終えた川島達の楽屋前に突然現れた井上に驚き
「川島、ちょっと来い」の一言を投げかけられた
ついていった先は久々に訪れた井上の自宅。
そして自分もまだ購入していないゲームをいきなりやれと言われ、
100人抜きという課題を与えられといわれ現在に至るという。
いくら突拍子な言動をする井上の事とはいえ、いきなりすぎないか…
そんな事を思い返しながら、慣れないキャラを動かしていると急に目の前の画面が一時停止した。
ゲームを停止させた張本人、井上は頭をかきながら目を泳がしながら何かぶつぶつ呟いた後川島の方に向き直った。
「川島お前や、昔っから厄介ごと一人で抱え込むんクセやな」
「えっ?」
「別にそれが絶対にアカンって言っとる訳やないけどや…
お前が思っとる以上にお前の事心配してる奴おるんやから…」
「心配…俺なんかの…ですか?」
「なんかとか言うなや。お前いっつもそうやって自分卑下して…今後そういう態度禁止!これは先輩命令や」
「いや、これはまぁ、性格上の問題なんで…まぁ極力改善していくようにはしていきますよ」
「じゃあ、今ここでお前が何を抱え込んで悩んでるんかをさぁ、言え、今すぐ言え」
「今すぐって、何ですか?刑事と犯人のコントやないんですから」
笑いながらも内心川島は焦っていた。
妙な所で勘のいい井上に誤魔化しがきくだろうか。
だからといって正直に全てを話すという事もできるはずがない。
川島が思考の海に沈みかけた時だった。

「石…の事?」

井上の口からその単語が飛び出た瞬間川島は自分の心臓が一際はねたのを感じた。
心臓の脈打つ音が耳元で大きく聞こえる。
石の噂が芸人の間で広まっているならそれが井上の耳に入っていてもおかしくはない。
だが、川島に対して石の事を切り出すという事はすなわち少なからずとも川島の現状を把握した上での事。
川島はポケットに忍ばせている黒水晶を握る。
だが黒水晶は共鳴すらもせずひたすら沈黙を守っている。
石をもっていない、しかし黒い欠片に操られている気配すらない。

510 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:52:33
「どうして、いきなりそんな事聞いてきはるんですか?」
一気に乾いた喉から出る声は弱冠かすれてはいたが、極力平静を川島は装った。
「どうしてって、どうしても川島が何もいわんかったらこう言えって田村が…」
「は?田村?」
「あー、そういや俺の名前は出さんで下さいーみたいな事言うとったな…
でも、もう言うてもうたし…別にえぇか」
井上の口から飛び出た田村の名前に先ほどまでの井上の行動に合点がいき
一気に緊張感がとけ笑いがもれてしまう。
「ははっ、はははっ…あー、そういう事ですか…アイツに頼まれたんですか?」
「まぁ…川島が元気ないから励ましたってくれって…」
「やっぱりな…すいません井上さん。いらん迷惑かけて。」
「迷惑とかこっちは思ってへんよ。俺かて最近お前の様子おかしいとは思っとったし…
何とかしたいとも思ってたんはあったし」
「ほんま下らん事先輩に頼むなやアイツ」
ぼそっとつぶやいた川島の一言に井上は叫んだ。
「下らん事ちゃうわ。田村はお前の事本気で心配しとったんやで!」
突然の剣幕に川島は言葉を失う

511 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:54:30
「なぁ、相方ってのは何でも話せて、心から信頼しあって、
どんな時でもお互いの事を気遣って支えあう存在ちゃうん?
俺にとってはそれは河本で、川島にとってのそういった存在が田村やろ?」
そんな井上の言葉にいつだか田村のいった言葉が蘇る。

『俺ら二人で麒麟やろ!』

「信頼…」
川島の脳裏に二人で戦った時の記憶が蘇る。
何も言わなかったのにお互いわかりあえて、ただ側にいただけなのにどこか心強かった。
一人の時には感じなかった安心感。
どこかでわかっていたはずなのに気づこうとしなかった。
それを気づかせてくれたのは目の前の先輩の言葉。
川島は改めて井上の何気ない偉大さを思い知った。

「とにかく俺が言いたいんは、もっと田村とか俺とかbaseの奴らとか、
そういった人らを頼っても全然構わへんねんで」
「いいんですか?頼ったりして」
「おう、いつでも大歓迎や」
「ありがとうございます。」
川島のそのセリフは目の前にいる先輩に対してそして、
おせっかいにも余計な気を回してくれた相方に対しても
心の中で同様の言葉を投げかけた。
そう言っただけで川島は自分の中の渇いていたものが急速に潤っていくのを感じた。

512 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/26(土) 23:57:45
「井上さん」
「ん?」
「今はまだ、何も言えません…でも、全部終わったら必ずなんもかも話します」
「それって、いつになるん?」
「そうですね…ちょっと前まではまだかなりの時間がかかる思ってましたけどでもこれからは相方を、
田村の事を頼るんでそんな遠い事やありません。」
今までは先の見えない戦いだったはずなのにどこかそんな事を思えるようになった。
「ほっか…川島、お前さっきよりえー顔しとるで」
「井上さんのおかげです。いつか、全部終わったら話しますからそれまで待っててください」
いつか全部、黒や白の争いがなくなりこの戦いが終わった後
全てが笑い話で話せる時が来ることを信じているから、その時に全て。

「ところで井上さん、俺明日、朝一番の新幹線で大阪帰らなあかんのですよ。やからもう帰ってええですかね?」
「川島、お前下段の攻撃に甘いねん、ほら」
「えっ?途中乱入?!てか終わらせてくれないんですか?」

しかし戦いの波は容赦なく全てを飲み込んでいく。
その波が井上を巻き込んでいく事をこの時の川島はまだ知らない。

513 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/27(日) 00:05:21
以上です。
井上の持つ石の言葉が「確実な助言」だったので
それを意識してみました。
ご指導の程よろしくお願いします。

514名無しさん:2006/08/27(日) 00:32:21
>506
いい話だ…GJ!

515名無しさん:2006/08/27(日) 08:50:51
乙です!
いいこと言ってるけどちゃんと井上らしさも出てるw

516名無しさん:2006/08/28(月) 18:03:23
>>506
本スレに投下してもいいとオモ。

517 ◆L2gLDbsqeY:2006/08/29(火) 21:46:14
>514-515さん
感想ありがとうございます。
そう言っていただけるとは思わなかったので心底嬉しいです。

>516さん
ありがとうございます。
お言葉に甘えて本スレに行ってまいります。

518廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/17(金) 00:32:14
はじめまして。能力スレの515です。
お話が(途中ですが)出来たので、アップしてみます。

519廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/17(金) 00:33:08




 それはある日の、事だった。

 人気のない公園に、ぶらぶらしている二人がいた。
 収録も終わった後、マネージャーを待つ時間が余りブランコに座り込む。
 爆笑問題の二人には、その椅子はかなり小さいようだった。―――子供用なのだから、仕方ないが。


 「暇だな、田中」
 つぶやいた太田の視線の先には、空がある。
 もう昼とは言いがたい時間だが、かといって夕方ともいえない空だった。
 金属同士がきしむ音がする。それよりも若干大きな声で、田中が同意した。
 「そーだね」
 余りに簡単な回答に、太田からため息が漏れた。こいつは芸人ではないのか。
 「おまえさぁ・・・もっと、気は利かないわけ? 『じゃあ俺がケツにバラを踊るよ』とかさ、」
 「踊るか! そんなもん。もっと別の例えはないのかよ」
 太田は比較的真剣に言ったのだが、田中にはふざけているとしか捉えられなかったらしい。突っ込みを入れられた。

 その声の後ろ側に、人の気配がした。

 太田の視線は自然にそちらへ向く。気配の正体は、六人の男たちだった。年齢層で言えば、二十代前半から三十代後半だろうか。
 その中から比較的若い、めがねを掛けた理知そうな男が歩み寄り尋ねた。
 「爆笑問題の、・・・太田光さんと田中裕二さんですね?」
 「さぁ?」
 「太田さん、『さぁ?』じゃないの。・・・で、そうなんだけど、何の用?」
 若干のボケや突込みを交える。そうでもしなければ、雰囲気が重ったるくて仕方がない。

 「僕たちに・・・石を頂きたいなぁと思いまして」
 「お前たちが石を持っているのはわかりきってるんだよ!」
 「ちょ、おま、その態度・・・」
 青年達の言葉は、余りに直接的かつ分かり易いものだった。勢いのまま、太田は怒鳴った。
 「やらねぇよ、ばぁっか!!!」
 「太田さん挑発しすぎ!」
 それは、田中にとっては呆れる要素にしかならない。そのため息とともに、笑顔を顔面に貼り付けたような男が笑った。
 「じゃあ、容赦は無用という事で・・・」
 その言葉を聞いた青年は、よほど残念なのだろう、眉根を寄せた。
 「残念ですが、そのようですね」
 「イエーイ、これで俺たちも・・・えへへ」
 子供のように、一人の青年が笑う。きっと、純粋に名誉を得たいのであろう。その純粋さを、『笑い』に転換してくれたら良いのに。

 その中で、一人だけ黙っている男が居た。
 「・・・・・・」
 誰も気づいては居なかった。が、その男の顔色は、悪かった。

520廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/17(金) 00:34:01


 そのころ、若手芸人コンビの二人が太田たちを呼ぶために探していた。
 5番6番の片方、樋口が目当ての二人を見つけ、立ち止まる。
 「あ、」
 「何、樋口?」
 立ち止まった樋口に寄って、猿橋が問うた。聞かれた樋口は公園のブランコのほうへ指す。
 「太田さんと田中さん、二人とも見つけた」

 「あ、ほんとだ」
 乗り出して迎えに行こうとする猿橋を、樋口が止める。とたん、猿橋の機嫌が悪くなった。
 「何だよ」
 それに気づいているのかいないのか。樋口は呟く。
 「様子がおかしい。とりあえず待ってようぜ」
 だが、やがてそれも無駄なことになってしまう。

 子供のような青年は、猿橋と樋口に気づいた。
 「ピッコーン! 石持ち芸人あと二人発見!」
 「おう、ようやったな」
 「えへへ、誉められちった」
 壮年の男性に誉められ照れている様子は、もう小学生にしか見えない。
 そして、ほかのメンバーにもばれたのであろう。6人とも、樋口たちが隠れている茂みに注目した。
 「誰です、そこにいるのは。隠れてないで出てきなさい」
 投げかけられたのは、冷静な声。だが、次の声が5番6番の緊張を促す。

 「出てこねぇならたたき出すまで・・・」
 そいつは、砂で銃を作り、樋口と猿橋のいる茂みを狙って撃った。
 狙われた二人は、茂みの外側へと転がり出る。そこで、田中は二人の正体に気づいた。

 「お前ら・・・樋口に猿橋じゃねーか」

 「へぇ、5番6番ですか・・・大体太田さんと田中さんを呼びに来た・・・といったところでしょうか」
 「いいじゃんいいじゃんそんなの思いださなくったって。どうせ邪魔者は排除するんだろ?」

 悪魔のような声。
 死神のような言葉。狙われた二人は青ざめた。
 その中に、猿橋は小さな声を聞く。
 「で、でも殺すのはやっぱりいけないと思う・・・」
 彼の発言は、みんな聞いてない。

 ―――誰か聞いてやれば良いのに。
 自分もろくに聞こえていないのに、猿橋はそう思った。

521廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/17(金) 00:35:49

 まず狙われたのは、樋口だった。
 「まずはお前だ!」
 壮年の男性は、腕をゴリラのように変形させ樋口を襲う。
 「樋口!」
 太田が駆け出すが、間に合わない。ちなみに、猿橋はちゃっかり逃げていた。
 受け止めるように、樋口は顔の前でガードする。樋口の腕にゴリラ腕の拳が触れた、その瞬間。
 樋口の腕のブレスレットの石―――詳しくはその中の、半透明で白い丸い石が―――柔らかい白に光る。
 その光は時計の文字盤の図形を描き、ゴリラ腕の拳にぴたり、とくっついた。
 そのゴリラ腕は、動きを止めた。
 反動がないことに安堵しつつ、樋口は不思議に思い腕をはずす。
 「あれ・・・?」
 襲っていたはずの拳が、まったく動かない。まるで、『時が止まった』様に。
 そして、目の前の壮年の男は混乱していた。
 「なぜだ、なぜ動かねぇ・・・!」
 その腕を見ると、白い光で描かれた時計の絵が張り付いている。そして、その時計は針を進めていた。
 時計の針の進み方に危険を感じた樋口は、よける。そして、精神を落ち着けた。

 時計の針が、『ⅩⅡ』を指す。
 『時が進み』、おっちゃんはバランスを崩してこけた。

 樋口はその足をつかむ。そして、腕の白い石に意識を集中した。また、柔らかい白の光が時計を描いた。
 今度はしっかり時が止まる。ものすごく無様な格好で、ゴリラ腕を持つ男は停止した。

522廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/17(金) 00:36:23
樋口 和之
石:スノークォーツ(白石英)  半透明で真っ白な水晶。ほかの、特別な能力の無い石のビーズとともにブレスレットにしている。
落ち着きを得る。個性が出すぎてしまうときに周囲とのバランスを取る。こだわりを開放する。新しい気持ちで再出発するエネルギーを得る。
力:直接触れたものの時間を止める。物体や体の一部分はもちろん、触れられるので影もOK。
条件:直接触れていなくてはいけない。だから空間の時間を止めることは不可能だし、炎も風も止められない。
集中している時間に比例して、止められる時間が増える(例:とっさの判断→30秒程度<1分集中→5分ぐらい)
代償:体力を使う力なのでそんなに多くは使えない。簡単なものでも、一日6回が限度。そして樋口の目がかすむ。

523廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/17(金) 00:37:16
壮年の男
石:未定
能力:腕をゴリラの腕にする。
代償:効力が切れると、腕がろくに動かせない。そして、ゴリラの性質に近くなっている。


やられ役なんで、テキトーです。

524名無しさん:2006/11/17(金) 18:06:37
乙!独特で面白い。

525廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/29(水) 00:44:50
>>524サマ
ありがとうございます!
面白いといわれて、ありがたいです。

今日は続きを投下してみます。

526廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/29(水) 00:50:42
『俺達の3時4時  後』


さて、樋口が怪物の腕を持つ男と対峙しているとき。猿橋の感覚に、異常が発生していた。
触覚が、敏感になっているような気がする。

何かが猿橋に『触れた』。それは気持ち悪いとしか言い様がなく、触れた本人に嫌悪感しかもたらさない。

「うわっ! 何だこれ、気持ち悪・・・」
腕をなぎ払い振り払おうとしても、次々とそれに『ぶつかって』しまう。
猿橋は、払うことに躍起になっていた。

足の『時』を止められ、無様な姿をさらす男を一瞥し、馬鹿にする、理知そうな男。
「馬鹿ですね・・・」


「さぁ、田中さん」
彼自身の仲間を馬鹿にした彼が、田中に詰め寄る。先手を打つように、田中の口が開いた。
「何だよ・・・エメラルドなら渡さねーぞ」
敬語を繰り出す彼の口から、ため息が漏れた。
「何も言わないうちから交渉決裂ですか・・・」
「決まりきってるだろおめーらの言うことは! とにかく、太田さんとついでにゴーロクの二人連れて、帰るから」
怒鳴る田中に、理知そうな男がにやりと微笑んだ。そして、気持ち悪いものに夢中になっていた猿橋も、田中の異変に気づく。
「田中さん!」
猿橋が田中の近くに駆け寄る。敬語の出る唇が、大きく歪んだ。
「逃げられませんよ・・・私が居る限りねぇっ!」
その瞬間、猿橋の手に、さっきまでとは違う何かが触れる。猿橋はそれを、無意識に両手で包んだ。


ちょうど、バク天で卵を温めた、あの形のごとく。

527廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/29(水) 00:51:26

―――次に猿橋の手が感じたのは、針が突き刺さるような痛み。

「何!?」

攻撃を繰り出した相手は動揺した。絶対あたると信じていた攻撃が、効かない。
猿橋はその手を開く。次に、うめいた。
「いっでぇ・・・」
「おいおい大丈夫か?」
そんな猿橋が心配になって、田中が訊く。
「あ、ハイ大丈夫です」


「そんな、まさか、あれが・・・効かないなんて」
敬語を繰る青年は、動揺していた。
田中はその隙に、立ち上がって一斉に浄化をはじめる。

浄化したのは、怯える無口の青年を除いた五人。

「・・・あ、と一人、」
その一言を残して、田中は倒れた。疲れから来るものだった。
「田中?」
太田が田中に駆け寄る。

「全部・・・力、見たこと、ある、」
無口な青年は恐怖に怯えながら、ずりずりと後ずさりする。
「レピドライドに、スノークオーツ、チャロアイトやエメラルドまで・・・揃ってたら勝ち目なんて・・・」
トン、と、猿橋にあたるの背中。猿橋は再び気持ち悪いそれに触れる。そして、その後何かが吸い出される感覚に陥った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
敬語の男
石:未定
力:精神攻撃っぽい。
混乱を引き起こすような力を持った針を相手に埋め込む。

528廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/29(水) 00:54:20
一分後、無口は一人一人を起こして立ち去った。先輩芸人である太田に、挨拶を残して。5番6番の二人は、呆然とそれを見送った。
その二人に、太田が話し掛ける。
「大丈夫か、二人とも」

その言葉に安心した。
樋口は安心したとたん、足に力が入らなくなってしまい、その場に座り込んだ。
「大丈夫かよ樋口!?」

「・・・すっげぇ疲れた」
樋口はそれを言ったきり、俯き黙り込んでしまった。
猿橋は振り向いて太田に問う。
「一体どうしちまったんですか!?」
問いの答えは簡単なものだった。

「『代償』だよ」

「『代償』・・・? まさか、石の力と何か関係があるんすか?」
再び猿橋が訊く。問いを投げかけられた男は大げさに頷いた。
「おぅおぅ、大アリだ。力を使うとその代償に、樋口みたいに体力奪われたり精神力奪われたり、後は面白いやつだと・・・そうそう霊に取り付かれるやつもいるなぁ」
「・・・・・・」
猿橋は不安になって黙り込んだ。俯くと、タンブルホルダーに入った自分の石が見える。

どことなく、石は歪んでいた。

「!?」
「・・・どうした?」
驚いた猿橋に、太田はそっと聞く。猿橋の口は、もううまく回らなくなっているようだ。
「あ、あの、石がゆゆ歪んでるんですけど・・・ッこれって・・・」
「・・・『代償』だな」
太田がにやりと口端を上げると、猿橋の混乱は頂点へ達した。
「どどどどーすればあqせxふぇgd」
「落ち着けサル。俺は知らねぇ」
「そんなぁ!!」
太田の一言に、猿橋は肩を落とす。
どうしようと頭を回転させていると、ふと、最近調べたパワーストーンの浄化方法を思い出した。

「そーだ、浄化すれば・・・土で浄化する? だめだココ家から遠いし。塩? ・・・駄目だ個人的にヤだ。水・・・そうだ水だ!」

茂みに突撃し、猿橋はバッグをあさる。バッグの中から封をしてあるミネラルウォーターを取り出した。
チャロアイトをタンブルホルダーから外し、その中に入れる。
「・・・ちょっと不安になってきた」
そういいながら蓋をし、バッグにそれを戻した。
自分のバッグとついでに樋口のバッグを担ぐ。そして、太田のところへ向かった。

「どうだった?」
太田の問いに、猿橋は樋口のバッグを下ろす。
「・・・まだちょっと不安です。」
「回復してる感じはすんの?」
今度は太田が問うた。猿橋が首をかしげながら、答える。
「それはあります。ちょっとですけど・・・」
「あるんだったら正解じゃねぇの?
「は、はぁ」
「じゃ、俺は田中つれて帰るから。猿橋も早く帰れよ」
それだけ言って田中を担ぎ、太田は立ち去った。


人の居なくなった公園で、猿橋は樋口を見下ろし、訊く。
「樋口、歩ける?」
「なんとかな」
「仕方ねーなぁ。お前の荷物持ってやるから、自分で歩けよ」
猿橋は笑いながらおろした樋口の荷物を、再び担いだ。
「わりぃな」
苦笑いする樋口。担いだその腕で、猿橋は手を合わせる。

「だから、2万もうちょっと待って」
「珍しく優しいなと思ったらそれか!」

軽く漫才のような会話をし、そして二人は歩き出す。
空を見上げて、猿橋が呟いた。
「うーわー、空真っ赤」
「だな。もう夕方かぁ」

紅い、重い陽が5番6番を、照らした。

『その赤は、俺達の選択を急き立てるようで、とても不安になったんだ』

529廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/29(水) 00:55:14
猿橋 英之
石:チャロアイト  紫系のまだら。丸い石をペンダントトップ用のバネみたいな入れ物?にいれてペンダントにしてる。
清く正しい考え方をしたい時に持つと良いとされる石。
精神と感情のバランスを保ちながら両者を融合させ、互いに高めながら発展させる力がある。
浄化にとても優れた石で、持つ人を純粋で優しい気持ちにさせ、心身の働きを正常にする力がある。
力:1)直接触れられないものに触れる。炎も風も、空間や感情、感覚さえ触れて動かすことが出来る。
 2)触れた石の、(黒いかけらなどで)穢れた部分を吸い出す。
条件:1)防衛、または何らかの補助でしか使えない。
 2) 1)を使った状態で無ければ発動しない。無意識に発動。
代償:1)触れられる分だけダメージが増える。気力を(樋口の体力ほどではないが)大幅に使う。使いすぎると眩暈のち、昏倒。
 2)吸い出すと、猿橋の石が歪む。使いすぎると壊れる(ミネラルウォーターに一日漬け込むと直る)。また、黒いかけらは浄化不可能。

共通として、猿橋自身のチキン度がアップ。

530廃墟病院 ◆ubhTcKtmc.:2006/11/29(水) 00:56:47
このお話はココでおしまいです。

531名無しさん:2006/11/29(水) 23:30:43
お疲れ様です!ゴーロク格好いいですね。
ぜひ本スレ投下お願いします。

532名無しさん:2007/02/05(月) 11:33:42
能力スレ562の者です。
まとめのロザン・ザ・プラン9編をベースにさせてもらいました。

途中までで、タイトル未定

「なぁ、宇治原」
「何や?」

宇治原はカタカタとパソコンを打ち鳴らしながら
耳をかたむけた

「次にコッチに入れる人やねんけどさ」
「あぁ」
「・・・・この人、どお?」

菅に差し出された写真の人物を見て宇治原はニヤリと笑った

「・・・・ええな。」









♪〜

「・・・・久馬?」

コンビを解散し、仕事でも殆ど会わなくなった
元相方からの突然の電話に後藤は首をかしげた

「はい。もしもし、何?」
ーお前、変な石渡されてへんか?ー
「へ?石って何?どういう石?」
ー持ってないんやったら、ええわー
「何の事?話がわからんのやけど?」
ーええか?誰かに石

コンコン

「ごめん。誰かきたみたいや。その話はまた今度な」
ーあ、ちょっと、ごとー

後藤は電話をきり、ドアを開けた

「・・・・なんや、ロザンか。どないしてん?」
「はい。実は後藤さんにお話があって」
「入っても・・・ええですか?」
「あぁ、別にかまへんよ」

彼はロザンを部屋に入れた。・・・・それが大きな誤算とも知らず

533 ◆UD94TzLZII:2007/02/05(月) 15:01:45
名前忘れてました。↑と申します

534ジェット ◆UD94TzLZII:2007/02/05(月) 15:03:31
失敗。これが名前です。
すいません、何回も。

535 ◆UD94TzLZII:2007/02/11(日) 22:02:49
やっぱりこの名前で。

「後藤さんに渡したいものがあって」
「何?」
「これです」

差し出されたのは黒い石

「石?」
「はい」
「そういえば、さっき電話で久馬が石がどうのって言うてたなぁ。これ何の石?」
「「え・・・?」」

二人は唇をかんだ。先をこされたか。
しかし、こんなことで宇治原はひるまない

「なんていってました?」
「いや、なんか変な石もらわんかったか?って聞かれたわ」

ならば。と宇治原は薄く笑った。まだきちんとした存在を知らないのであれば
・・・・いける。

「これ。お守りなんですよ、きっと久馬さんもこれを後藤さんに薦めようとして・・・」
「そんな感じやなかったけどなぁ」

しぶとい後藤に宇治原は最終手段を使った

「実はですね・・・・」

宇治原は今起きているこの石の騒動を簡潔に後藤に話した
もちろん、自分たちに都合の良いように。

「じゃあ、久馬は・・・・」
「はい。後藤さんをそっちに引き込もうとしてるんですよ」
「そんな・・・久馬が・・・」
「ですから、この石を持って僕らと一緒に戦いましょう」
「せやな」
「よろしく、お願いしますね」

菅が後藤に石を手渡した

「あぁ。頑張るわ。それで久馬が救えるなら・・・」

そして後藤は黒い石を手にした





「こんなに簡単にひっかかるとは・・・予想外やな」
「俺は予想通りや。あの二人が今でも仲ええのは有名やからな」

菅は楽しそうに笑った

「ありがとな」
「何言うてんねん。後藤さんなんて単なる通過点、やろ?」
「せやな」

今度は二人でより一層楽しそうにわらった。




「ところで、後藤さん。調子はどうですか?」
「最高の気分や!これで、俺は・・・!」
「そうです」

宇治原はこれから起こる出来事を想像し、微笑んだ

♪〜

後藤の携帯に電話が。

「あ、ちょっと、ごめん」
「はい」
「もしもし・・・・久馬?」
「久馬さんやと・・?感付かれたんか?」
「どないすんねん?宇治原」
「・・・・こっち来るように言ってもらえますか?」
「あ、あぁ・・・」

そして後藤は久馬を呼び出した。

「どないしたん?急に呼び出したりして?」
「あぁ。ちょっと用があるんや」
「・・・後藤、お前石持ってるやろ?」

一瞬、後藤は硬直した

「え。何の事や?」
「黒い石、持ってるやろ?」
「持ってへんって、そういえば前にそんな話しとったなぁ」
「ごまかしたって無駄や」

鋭い眼光が後藤に向けられた

「・・・さすがやな。そうや、石は持っとる」

そこから少し離れた場所で二人はその話を聞いていた。

「ばらしてええんか?」
「あぁ、計画通り。もっと久馬さんには後藤さん追い詰めてもらわな」

菅は反論しなかったが宇治原の考えてる事がわからないらしく、不満げな顔をした

「せやから・・・」

宇治原は菅に耳打ちした

「・・・そういう事かいな」
「そういうことって。お前が見つけたんやろ?」

菅は納得した表情で改めて相方の頭の良さに感服した

「久馬、お前が持ってるんは悪の石や。誰にもらったんか知らんけどすぐに捨てた方がええ」
「それは出来ひんな」
「なんでや?」
「俺が持ってるのは悪の石とちゃう。お前が持ってるんが悪の石や」
「何を言うてんの?」
「お前その石、宇治原にもらったやろ?」
「だったらなんや」
「あいつはその石に操られてんねん」
「・・・何、言うてん?訳わからん・・・」

「もう少しや・・・もう少しで・・・・」

離れた場所で見ている宇治原はほくそ笑んだ

「その石は絶対に使ったらあかん!その石は人間の意識を・・・」
「待って・・・・頭痛い・・・頭・・・おかしなりそうや・・・」

後藤は苦しそうに頭をかかえ、石は赤い光を放った
しかしその手はすぐにブラリと下がってしまった

「・・・しい。」
「え?」

後藤は小さく呟いた

「俺は・・・正しい」

そういうなり、後藤は久馬に攻撃をしかけた

536 ◆UD94TzLZII:2007/02/11(日) 22:08:36
「成功や。」

宇治原は呟いた。

「さすが、宇治原やんな」
「あぁ。あとは、久馬さんを倒してもらうだけや」
「残酷やなぁ、お前は。元コンビ同士で戦わせるなんて」

菅はクスクスと笑った

「・・・・褒め言葉か?」
「当たり前やん」

そして二人で笑った。こんなに楽しいことはないといわんばかりに

「じゃあ、俺らは高みの見物といこか」
「せやな」



「後藤!やめろ!」
「うるさい。・・・お前は敵や。正しいんは、俺らや」
「後藤!」

久馬の石が光を放った

「俺、知ってんねんぞ。お前のその石、単体やと何の意味もないんやってなぁ?」
「くっ・・・・」
「さぁ、おとなしく観念せぇや」

後藤は雷をおこした
そしてそれを久馬に放り投げた

「ぐぁ!」
「痛いやろなぁ・・・。どうや?元仲間から受ける攻撃は?」
「っく・・・」
「もう一発いくで〜」

次々に久馬の身体に雷を放り投げた。その光景を後藤は楽しそうに見つめる
しかし、10発目で雷が落とされようとした時

「・・・・っあ!!」
「・・・あ〜ぁ。よけてもうたか。もうちょっとで黒焦げやったのに」

後藤は至極残念そうな顔をした

「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ」
「もー終わりか?久馬?」
「ごと・・・っ」

久馬は立ち上がろうとするが力が入らないようで再び地面に伏した

「ふん。弱いな。」

そう言うと、後藤はその場を去った

「よっしゃ。後藤さんとこ行くで」

二人も後藤の後を追った

「ごとーさん。ぴったりみたいですね。その石。」
「あぁ」
「その調子でほかの人もお願いしますね。こっちは人数増やしときますんで」
「あぁ、次に襲うんは・・・」

後藤は膝から崩れた

「え〜。気失うとるやん」
「・・・使いすぎ、ってとこやな」
「そっか」
「このまま放っとこ。目覚めてこれ見て、また発動するかもしらんしな」
「せやね」

二人はその場を去った





「う・・・。あれ、俺?」

目が覚めた後藤は久馬を探した

「久馬!」

後藤は倒れている久馬を見て悟った、自分がやったのだと。

「ごめん、でもお前を助ける為や。」
「ご・・・と?」
「きっとほかの仲間も持ってんのやろ?」
「ち・・・が」
「お前の石は俺が持ってる。」

後藤は久馬の手から石を取り出した。なんだか、酷く熱くて火傷しそうだ。

「・・・俺が救ったるから」

こうして、後藤は間違った正義へ一歩を進めた

537 ◆UD94TzLZII:2007/02/11(日) 22:18:55
終了です。

後藤秀樹
アラゴナイト(霰石)
心にたまった負担による心と体の不調を取り去り、心を穏やかにする。
力:混乱を治め、自分に対しての悪に攻撃をしかける。
自分が正しいと思えば思うほどその力は強くなる。
条件:何が正しいのかわからなくなり、混乱した時。
混乱が最大要因なので、使いすぎると頭と心の整理が付かなくなり、所持者が狂う。
そして、混乱の原因は戦いの後にすぐ忘れる。戦いにおいて、それが混乱をよぶから。

538名無しさん:2007/02/15(木) 17:12:19
添削スレなのでアドバイスさせていただきます。

空白行が多過ぎて読み辛いので減らしたほうが良い。
場面が変わる時とかに使うだけにした方が読みやすくなると思う。
あとはもっと句読点を使ったほうが良いと思う。特に行の終わり。
会話文と会話文の間に登場人物の動きを挟むともっと臨場感が出ると思う。
文体をできるだけ一つにした方が良い。
例)
>後藤は久馬の手から石を取り出した。なんだか、酷く熱くて火傷しそうだ。
 (前は「第三者から見た語り調子」後ろは『本人の語り』)
統一するならこんな感じで。
「後藤は久馬の手から石を取り出した。それは何故か酷く熱く、火傷をしてしまいそうな程だ。」
『俺は久馬の手から石を取り出した。何故か酷く熱くて、火傷しそうだ。』

話自体は本スレに落としても問題ないと思われます。では

539 ◆UD94TzLZII:2007/02/16(金) 20:44:27
レスどうもです。

句読点つけないのは癖です。すいません、読みにくいですね。
基本的に3人称得意じゃないんですが、本スレの話とかはこれが多いんでその方がいいのかと。

いろいろ手直し出来次第本スレ投下させてもらいます。

540 ◆RIz.umiCEo:2007/02/26(月) 23:05:52
能力スレの558です。
ハリセンボン編を書いてみたのですが、評価お願いいたします。


ーone caratー 前編


あるテレビ番組の収録前の楽屋。
女芸人コンビ――ハリセンボンの近藤春菜は眠気覚ましの飲み物を飲んでいた。
こういう飲み物は大抵不味い。
近藤は渋い顔をしながらそれを飲んでいる。
「……。」
突然、近藤はポケットからピンク色の石を取り出した。
「…春菜、もしかしてまた、あれ使うの?」
近藤は頷いた。そして呟いた。

『この飲み物、まあまあの味かな?』

ピンク色の石が光る。

光が飲み物のビンを包んでいく。

そして光が消えた。
ビンに変化が見られなかったが、「味」の方は確かに変わっているらしかった。
さっきとはうってかわって、近藤は飲み物を渋い顔一つせず飲み干した。
そんな近藤を見て、近藤の相方、箕輪は苦笑した。

541 ◆RIz.umiCEo:2007/02/26(月) 23:07:44
(手に入れた時期は同じくらいなんだけどな…。)
同じ時期に二人で手に入れた同じような石。
相方は、石を手に入れてすぐ能力が目覚めた。
今では相方なりの使い方をして、使いこなせるまでになっている。
自分の方は、目覚める気配すらない。

やっぱり、こういうのも気持ちの問題なんだろうか。

相方は比較的前に出て行く方で、積極的だ。
自分は比較的後ろへ下がる方で、消極的だ。
石の事も、相方は興味を示していたが、自分はあまり興味がなかった。
相方の石の能力が目覚めたときも、余り気にしていなかった。

ただ、最近の周りの状況から、石の事を気にせざるをえなくなってきた。
だけど、無理に気にする必要はない。まだ、焦る必要は無いはず。―――たぶん。


「何ボーっとしてんの?収録おくれるよ!」
「え?あ!」
時計を見ると収録開始まであと3分しかなかった。
石についてはまだ焦る必要はなかったが、彼女自身は、焦った方が良さそうだった。

542 ◆RIz.umiCEo:2007/02/26(月) 23:08:41
近藤 春菜

ピンクコーラル(女性にとってのお守りであり、不安を取り除き愛情豊かになると、伝承される。)
能力:「まぁまぁの○○かな?」と投げかける事で○○の中に入った言葉が「まぁまぁ」になる
(例 まぁまぁの料理かな?→どんなに美味しいor不味い料理でも「まぁまぁ」の味になる)

条件:まぁまぁの定義が曖昧なので良くなるか悪くなるかは本人にもわからない。
  (ただし良い物は悪く、悪い物は良くなる傾向性がある)
   力はあまり消費しないが、1日30回ぐらいが限度。
   また、力が切れると手首が痛くなる。

543 ◆RIz.umiCEo:2007/02/26(月) 23:11:26
前編終了です。
後編はまだ書き途中なので後日投下いたします。

544名無しさん:2007/06/16(土) 09:14:46
age

545 ◆xNBhsxtsB6:2007/07/07(土) 13:00:56
初めまして。小説作成依頼スレの156です。
千原兄弟の話を書いたので、添削お願い致します。
次から投稿します。

546 ◆xNBhsxtsB6:2007/07/07(土) 13:01:28
「ほんま、迷惑な奴らやな」
完全に気を失い倒れている二人の若手芸人を見ながら、一人の男がつぶやいた。


不思議な力を秘めた石なんて、自分には縁の無い話だ。
以前はそのように考えていた千原ジュニアこと千原浩史だが、
ほんの一月ほど前に石を手にしてから、あっという間に石による争いに巻き込まれてしまった。

それからは、名前も知らない若手芸人達に襲撃される事が多くなった。
彼らは、突然襲撃してくる事から、全員黒側の芸人だったと思う。
幸い浩史の石―チューライトは戦闘に適したものだったので、その都度、返り討ちにしていた。
今も、彼の石を奪おうとした若手芸人を倒したところである。


「あー…しんど」
石を使ったことによる疲労を覚えつつ、浩史は家路に着いた。

547 ◆xNBhsxtsB6:2007/07/07(土) 13:02:03
数日後、ルミネtheよしもとの楽屋にて。
楽屋には、浩史の他に、相方であり兄である千原靖史がいた。
浩史はふと靖史のほうへ目をやった。
靖史は、何やら熱心な様子でコンパクトミラーを覗き込んでいる。
「靖史お前、なに鏡なんか見とんねん。ブサイクな顔しとるくせに」
「ブサイクは余計や!…別にええがな」
浩史は「ふーん」と生返事をし、特に気に留めない事にした。


舞台が終わった後、浩史はいきなり誰かに呼び止められた。
見ると、プライベートでも仲の良い後輩がそこにいた。
「これからジュニアさんの家に行ってもいいですか?」
「ええけど…どないしたん?急に」
「ちょっと相談したいことがありまして…」


その後、浩史は、その後輩を連れて、自宅へと向かった。
相手の緊張をほぐそうと、酒を振る舞ったりもしたが、
相手は、なかなか話を切り出そうとしない。
「なんか今日のお前、おかしいで。何かあったん?」
すると、後輩は、ようやく話し出した。
「石を……貸してくれませんか?」

548 ◆xNBhsxtsB6:2007/07/07(土) 13:02:36
浩史は嫌な予感がした。以前も、このような事があったのだ。
「何でお前に石貸さなあかんねん」
浩史は後輩の申し出を断ったが、後輩はなお「本当に少しだけでいいんです!」と、しつこく頼んでくる。
これには浩史もさすがにイライラした。そして、とうとうブチ切れてしまった。
「あーー!もう、何やねん!お前もう帰れ!!」
すると後輩は黙り込んだ。そして、
「ジュニアさん……。…すいません!」
後輩は、いきなり浩史に襲いかかってきた。
(…こいつも黒側かいな。うっとうしいわー)
浩史は舌打ちをしつつも、精神を集中し始めた。ポケットの中のチューライトが光り出す。
そして、後輩の攻撃をぎりぎりで交わし、相手の顎にパンチを喰らわせたのだった。


殴られた後輩は、そのまま床に尻餅をついた。
その拍子に、彼の懐から黒いガラス片のようなものがこぼれ落ちた。
「黒い…欠片?」
以前噂で聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだった。
「これは…えーと、ある人が貸してくれて…それで、えっと」
後輩は、かなりしどろもどろな様子で答えた。
「それでそいつが『俺の石奪って来い』って言うたんか?」
「……」
「誰の指示でやったんや!言うてみい!」
後輩は、ほとんど泣きそうな表情を浮かべ、こう答えたのだった。
「…せ、靖史さんです……」


浩史は、ひとまず後輩を帰らせた。黒い欠片は、ゴミ箱に捨てた。
後輩の前では平静を装っていた浩史だったが、内心、かなり動揺していた。
(…まさか靖史が、俺を襲わせただなんて。ひょっとしたら、あいつ……)
その時、浩史の携帯電話が鳴った。番号を確認したが、見たことの無いものだった。
「はい」
『おージュニアか!俺や!』
「靖史!?お前、何で俺の番号…」
『マネージャーから聞いといたわ。それより、さっき家で後輩に襲われたやろ?』
「!」
『今から劇場近くのファミレスに来い。そこで色々と話がある』
じゃー後でな、と言うと、靖史は一方的に電話を切った。
ひょっとしたらワナかも知れない。しかし、今あった事を靖史から聞き出さなければならない。
(…まあ、襲われそうになったら石の力使えばええか)
浩史は、ファミレスへと向かった。

549 ◆xNBhsxtsB6:2007/07/07(土) 13:03:11
ファミレスには、既に靖史の姿があった。
浩史は、靖史の向かいの席へ座った。
「…一体何のつもりや。後輩使って俺を襲わして。あと何でお前、俺の様子知っとんねん」
浩史は、靖史を睨みつけながら言った。
「とりあえず落ち着け。順番に説明するわ。
まず理由やけど、単純にお前の石が欲しかっただけや。
あの後輩使ったのは、仲のええ芸人のほうがお前が油断するかと思ったけど、失敗してもうたわ」
「な…!?」
浩史は耳を疑った。やはり、靖史は……
「……黒側の人間か」
「おう」

「…何で、黒に入ったりしたんや!」
浩史は声を荒げた。
「…まあ、黒のほうが色々と面白そうやったからな」
浩史は、靖史がほんの少し悲しそうな表情を浮かべた事に気付いた。
今の質問は、聞いてはいけない事だったかもしれない。
浩史はひとまず落ち着いて、次の質問をした。
「じゃあ、俺の様子知っとったのは…」
「ああ、それな、俺の石の力や。
俺の石な、『こいつの様子が見たい』って思った奴を、鏡で見れんねん。
普段は黒の若手の様子を見とるけど、今日はお前の事を見てたわけや」
「そーいう事か」
浩史は、ルミネにいた時の靖史の行動を思い出していた。
他にも、靖史は黒ユニットについてを事細かに説明した。

550 ◆xNBhsxtsB6:2007/07/07(土) 13:03:32
「ところでお前…黒に入る気無いんか?」
いきなり、靖史が尋ねてきた。
「入るわけないやろ」
浩史は、うんざりしながら答えた。
「しゃーない。今日のところは見逃したるわ。お前の石もいらん。
もし黒に入りたくなったら、いつでも俺に言え」
「…誰が言うか。ボケ」

「じゃー俺は帰るわ」
そう言うと、靖史は立ち上がった。
「待て。最後に、もう一つ聞きたい事があるわ」
「ん?何や?」
「…何で俺に黒の事色々と説明したんや」
「お前、白側につくつもりも無いやろ。だからや」
図星であった。実際、白と黒のユニットの争いには興味が無かったのだ。
「せいぜい、他の黒の芸人には気ぃ付けや」
そして靖史は、ファミレスを後にした。

551 ◆xNBhsxtsB6:2007/07/07(土) 13:03:51
翌日、浩史は家で煙草を吸っていた。
昨日あった様々な事を、ぼんやりと思い返しながら。
浩史にとって、最も身近な人間が黒だった。
もう今までと同じようにはいられないだろう。靖史が、吉本の後輩をけしかける事がまたあるかもしれない。
(…ったく、しょーもない兄貴やな)
それでも、白側に付くつもりは全く無い。
靖史の事は、必ず自分でケリを付ける。相方として。弟として。
そんな事を思いながら、浩史は、二本目の煙草に火を点けた。

552 ◆xNBhsxtsB6:2007/07/07(土) 13:04:22
千原せいじ
石:ブロンザイト(偏見の無い公正な洞察力)
能力:持ち主が今様子を見たい物(人・動物・物)の様子を鏡に映す。
その物が居る(ある)場所までは分からないが、近くだと鮮明に、遠くだと
ぼやけて映る。
条件:持ち主が鏡の近くにいて、「○○の様子を見たい」と念じなければならず、
念じる力が大きければ広範囲が見れるが、疲労も大きくなる。


千原ジュニア
石:チューライト(霊的な感性に恵まれて、直観力、洞察力を高めるとされる)
能力:反射神経が数倍になり、相手の攻撃を避けやすくなってカウンターが出来るようになる。
条件:神経を研ぎ澄まさなければならない。研ぎ澄ますまでは無防備。
疲労が大きいため、1日10回出せればいいところ。(その日の体調で回数が減ったりする)

2人の石の能力は、能力スレの323と333から持ってきました。

553 ◆wftYYG5GqE:2007/07/07(土) 13:07:18
以上です。後半は会話だらけになってしまいました。
一応靖史を黒ということにしましたが、問題無いでしょうか。
ご指導、宜しくお願いします。

554名無しさん:2007/07/07(土) 13:08:18
あれ、トリップおかしいですね…orz
一応、553=554です。

555 ◆wftYYG5GqE:2007/07/07(土) 13:19:15
552=553でした…何度もすみませんorz
今度からは、このトリップにします。

556名無しさん:2007/07/07(土) 20:06:34
乙!
面白かったし本スレ投下していいと思う

557 ◆wftYYG5GqE:2007/07/08(日) 11:35:56
>>556
ありがとうございます。
近いうちに、本スレに投下しに行きます。

558ヴィクラモールヴァシーヤ ◆XNziia/3ao:2007/07/28(土) 05:20:52
【序曲】

右手を掲げ、ふと手首にぶら下がっている石を見つめる。
ライラック色の美しい石には陽の光が差し込み、高佐は思わず目を細めた。
美しくも、どこかに魔力を感じる、そんな石。
『常時身に着けてなくてはいけない』そんな気持ちにさせる力が、この石にはある。
最初は気味が悪かったし、何度も捨てた。だが、気がついたら鞄に入っていたりと、自分のもとへ戻ってくるのだ。
それが彼にはこれから起こる不幸の予兆のような気がしてならなかったのだが、
折角こんな綺麗な石がタダで手に入ったのだからと思い直し、業者に頼んでブレスレットにしてもらったのだ。
その業者によるとこの石はクリーダイトと言い、ライラック色はその中でも人気が高いものなのだそうだ。
高佐はそれを聞いて尚更手放す気はなくなった。
「(…そういえば、オジェは?)」
尾関は、石を持っていないのだろうか?そんな疑問が高佐の頭に浮かぶ。
気がついたら高佐は枕元に置いてあった携帯電話を開いていた。

ルルルルル ルルルルル
ガチャ
『んーどしたー?』
「あのさ、オジェ。ちょっと聞きたいことあるんだけど。」
『ネタのこと?』
「いや、違う。最近、誰かから石貰ったりしなかった?」
『石ぃ?何でまたそんなこと』
「いいから!」
『あぁ、貰ったよ。石…つーかブレスレット。ファンの人から貰ったんだけどさー、超綺麗なの。』
「…そう、そうか。うん。わかった。有り難う。明日、ネタ合わせ遅れないでね。」
『こっちのセリフだっつの。じゃあな〜』
プツッ

―−偶、然?いやそれにしちゃ出来すぎてないか?
誰かが仕組んだ?いや、そんなの、無理だろ。そこまでして単なる石を持たせる必要性って?
「…単なる、石じゃなかったら?」
ボソリと呟く。石になんか不思議な力でも、あるっていうのか。
「(そういえば)」
そんな話、聞いたことある気がする。
不思議な石の力を使って先輩の芸人さん達が、戦っているとかいないとか。
御伽噺や嘘話の類かと思い聞き流していたが…。
「(いよいよ、信じなきゃいけない感じかな)」


薄暗い部屋で、数人の男が話していた。
一人は知的な雰囲気を漂わせ、ノートにペンを奔らせている。
「調子はどう?『シナリオライター』。」
「…」
「あぁ、そうだ、力を使っている間は話しかけても夢中だったんだっけ。」
クスクスといやらしい笑い声をあげる男。
それを無愛想な顔で見つめるガタイの良い男性。
先程までペンを奔らせていた男は、ピタリと書くのをやめ、ペンを置いた。
「おっ、終わった?」
「えぇ。まぁ、とりあえず、は。」
「どうよ?出来のほうは。」
そう問われ、男はふっと笑う。
ノートをパタンと閉じ、
「なかなかの出来じゃないでしょうかね。」
それを聞いて安心したように男は良かったと呟く。
「…ちゃんと彼らを引き込めるんだろうね、『こちら側』に。」

「えぇ。…設楽さん、土田さん。」

559ヴィクラモールヴァシーヤ ◆XNziia/3ao:2007/08/02(木) 13:39:57
申し訳ないですがこれで一応ひと段落です
スマソ 名無しに戻ります

560ふしぎなくみあわせ:2007/08/04(土) 21:32:52
思いついて書いてみました。
なんだか不思議な組み合わせです。

561ふしぎなくみあわせ:2007/08/04(土) 21:33:09
東京の片隅、いわゆる「隠れ家」的なバー。

深夜と呼ぶにはもはや遅すぎる時間帯だ。高い位置にぽっかりと空いた窓から見える空はもう白み始めている。
閉店時間が迫っているせいもあり、カウンター座っている二人の男以外に、客はいない。
二人の男は、何も話さなかった。黒いシャツを着た男は青い色のカクテルを呷り、眼鏡をかけた男はウーロン茶を飲んでいた。
カクテルを飲み干した男は、空になったグラスを脇にどけた。店員は何も言わずにグラスを取り、店の奥へと消える。
それを見送り、黒シャツの男は傍らの男に話しかけた。
「あのね、是非こちら側に欲しい子がいるんだよね。」
眼鏡の男は何も言わない。俯いたままウーロン茶をまた一口飲む。
話を聞いているのかどうかわからない。ずっと、美味しくなさそうにちびちびとグラスに口をつけるだけだ。
「結構頭いいからね、きっと役に立つと思うんだ。力もね、こっち向きなんだよ。今は向こう寄りではあるんだけどさ、まだ完全にくっついたわけじゃあないみたいだし。」
お構いなしに、黒シャツの男は続ける。どこか芝居かかった口調は、酒のせいもあるのだろうか。
「それにね、そいつの相方、詳しく言えばその相方の力がね、こちらとしては手に入れたらだいぶ有益だと思うんだよね」
そこで初めて、眼鏡の男は顔を上げた。青白い顔を照明が照らす。
やっと興味しめしてくれたね、と黒シャツの男は笑う。
「それは、誰だ?」
探るような言い方で、眼鏡の男は問う。
「協力してくれんなら教えてもいいよ。『シナリオライター』さん。」
「…いいだろう。」
ついでにその呼び名はやめてくれ、と眼鏡の男…小林は引き攣ったような苦笑いをする。
鞄からシャーペンとスケッチブックが取り出し、スケッチブックのページをめくる。
しかし黒シャツの男、設楽の口から出た名前に、その動きは止まることになった。
「麒麟。麒麟だ。」

562黒猫:2007/08/06(月) 15:48:53
医者に日本語力が無いと言われましたが、頑張って書いてみた。

なんかアドバイスください!

563黒猫:2007/08/06(月) 15:49:11
ますだおかだ短編


「増田ぁ。」
「なんや。」
「週明けって特に用事ないよな。」

突然の岡田からの質問。
2人は前の仕事を終え、次の仕事に向かっていた。
岡田は車から見える外の景色を眺め、俺は新聞を読んでいた。

Piririririri

突然岡田の携帯がなった。
どうやらメールらしく、しばらく画面と向き合い俺に尋ねたのだ。

「特に無いはずやけど・・・なんで?」
「いやな、俺さ、この間のイベントであのロザンの宇治原呼んだやん。」
「あぁ、呼んどったなぁ。」
「でな、その宇治原からな、今度お互いの相方も連れて4人で会いませんか?って来たから。」
「ふ〜ん・・・まぁ、用事もないしええけど。」
「ん、分かった〜。」

そう言ってまた画面と向き合い返事を打ち始める。

「・・・大丈夫なんか?」
「んっ、何が?」
「何がって・・・・【石】の事や。」
「・・・・・・あぁ〜。」

そう言って岡田は自分の首につけてるネックレスの無彩色と暗い青の石を、俺も携帯につけてるストラップの淡い青の石に手をやった。


今芸人の間で流れている【石】の話。
持ってると不思議な力が使える、それを巡って芸人同士が白と黒とに別れ争っている等・・・。
もちろん、俺らも例外ではなく・・・


「疑ってるんか?」
「いや・・・まぁな。」
「大丈夫やろ。あの子頭エェし、それくらいの事は分かるやろ。」
「そうか・・・。」
「ま、いざって時は増田さん頑張って。」
「俺頼りかい!」
「やって、俺の石2つとも攻撃に向いてへんもん。」
「お前なぁ・・・。」
「だってホントの事やん。」
「そりゃそうやけど・・・。」

そう、俺の石『ブルーレースメノウ』は攻撃系、一方岡田の石『コランダム』と『ピーターサイト』は防御・補助系の能力を持つ。

「ええやん、お前の事頼りにしてるって事なんやから。」
「ふ〜ん・・・・、まぁそれなら岡田さんも補助やらいろいろ頼むよ。」
「お〜。」

まぁ、岡田さんがそういうなら信じますか。

「ますおかさ〜ん、もうそろそろつきますよ〜。」
「「は〜い。」」

564黒猫:2007/08/08(水) 14:40:59
岡田圭右(ますだおかだ)
石:1・ピーターサイト(理想の石・目標に近づくための方法を持ち主に感づかせ、実現させる力を与える)
  2・コランダム(鋼玉。多結晶の塊は加工して研磨材などに使われる)
能力:1・岡田が向いている方向にシャッターを作りだし、石の能力を無効化する。
     シャッターの有効時間は5秒程度。
     一定時間経つと、がらがらと開く。
  2・触れた物の表面の摩擦係数を少なくする。(スベリまくるようにする)
     力の調整しだいで、スベりやすさは変わる。(床に使えば「うまく立っていられない程」にも「走ろうとすると転ぶ程度」にも出来る)
     対象は無生物に限り、複数の物に使うことも可能。
条件:1・真っ直ぐ立った状態から「閉店がらがら」をする事。
    ポーズを取った時岡田が向いている方向にシャッターが出るため
    ポーズ前に方向転換し、シャッターの場所は変えられるが、ポーズ中・ポーズ終了時に方向転換をしてもシャッターの場所は変わらない。
    また、連発は出来ず最低20秒程の間隔が必要。
  2・「パァ!」のフレーズで発動。「閉店ガラガラ」で効果を消す。
     岡田の意思で取り消さない限り効果は持続するが、意識が無くなるか体から石が離れるとすると、その時点で消える。
     一日に合計20㎡程度が限界。
代償:1・発動後しばらく石で受ける影響が大きくなる。(説得を受けやすい、治療されやすい等)
    一度だけ面白いギャグを言ってしまうオプション付き。


増田英彦(ますだおかだ)
石:ブルーレースメノウ(どこかの国で、神の石と崇められてる)
能力:投げる力を増幅する。
  とにかく、持ったモノを投げる力が上がる。
  野球で言うと、160km/分位の早さ。
条件:片手で持てる大きさのモノに限る。
   また、使用しすぎると腕に大きな負担がかかる。
  投げたモノが投げた瞬間の力を持続できるのは、3秒。

【提案】新しい石の能力を考えよう【添削】に書かれていた物で考えました。

565名無しさん:2007/08/08(水) 23:26:03
皆さん乙。だれもいないようなので添削。


>>558
表現がすごくいい。ただ構成があっさりしてるからもっと細かく書いてくれると読み応えがでると思う。
あと、気になったんだが2人の口調ってそんな感じだった?あまり聞く機会ないけど。

>>561
まとまった文章で光景が目に浮かぶようだった。続きあるのかな?

>>563
台詞がリアルだから文章に入っていけた。状況とかはわかるんだけど、増田の語りなのに文章が簡単すぎる。もっと心情とかが欲しいと思った。



えらそうに書いたが皆さんに期待。

566ヴィクラモールヴァシーヤ ◆XNziia/3ao:2007/08/09(木) 22:20:10
>>565さん
添削ありがたいっす。
一応何回か御話させていたのとライブで軽く話しているのを
聞いて、自分なりのものを作っていったつもりです。
やはりまだ露出の少ない人はむずいですねorz

567名無しさん:2007/08/10(金) 06:57:09
>>566
自分があまりフリートーク聞いたことがないから違和感があるだけかもしれない。
>>566がそういう口調だと思ったのならおそらくそちらの方が正しい。すまんが添削の口調についてはスルーしてください。

ギース好きなんで話読めて嬉しかったよ。

568561:2007/08/10(金) 10:31:07
>565
添削ありがとうございます。
一応続きは考えているのですが、麒麟は他の書き手さんがまだ使っている(とは言ってももう一年前くらいになりますが…)のと、
麒麟が黒の上層部と出会うという大きな局面であるので続きを投下していいものか…。
というか、悩むんだったら廃棄スレに行けばよかったんですよねorzすみません

569黒猫:2007/08/11(土) 12:27:45
>>565
添削ありがとうございます。
そうですよね、自分でも増田さんならもっと・・・って感じがします。
もうちょっと頑張ってみます。
はぁ・・・考える力が欲しい。

570名無しさん:2007/08/15(水) 21:37:03
>>568
よければ続きが読みたい。確かに本編ってことにすると不都合が起きそうだが、>>568の言うとおり短篇って形で添削スレか廃棄スレに投下すれば問題ないと思う。この過疎りっぷりだし、本編の進行の話し合いもできないだろう。
期待して待ってるよ。

>>569
えらそうかもしれないけど、何回か客観的に読み返してみてわかりにくいかなーとか増田だったらこんなこと考えるんじゃないかなーとか思う所を書き足してみるといいかなと。あと、どんな状況かも書いてくれると読みやすい。

571561:2007/08/22(水) 02:37:06
>570
どうもありがとうございます。
とりあえず番外編(パラレル?)として、廃棄スレに投下することにしました。

早く前みたいにたくさん人が戻ってきてくれると嬉しいんですけどね…orz

572名無しさん:2007/08/27(月) 00:05:28
>>571
期待。
過疎ってるけど人はいるようだし、あくまでネタスレだからヒッソリマッタリやるのもいいとおも。

5731/2   ◆s8JDRQ.up6:2007/08/30(木) 15:15:46
ギースの短編です。
書いたくせにお二人の性格と口調がよくわかりません。
それも含めて添削おながいします。



*****



石を、拾った。

道端に落ちているはずのない石を。
装飾品をあまり付けない男の部屋にあるはずのない石を。
ジーンズのポケットに気付かないうちに入っているはずのない石を。
幾度となく捨てても気が付けば自分の元へ戻ってくる『宝石』を。


奇妙な事だと左手首のブレスレットを蛍光灯へかざす。
銀の冷たい輝きのなか、穏やかな色彩は芯のある強さを訴えているような気がした。

例えるならば
砂塵が丁寧に洗い流された雨上がりの空を、蜘蛛の糸で絡めとった欠片。
無機物でありながら、意志を持つかのごとく俺の生活に入り込み、その青に俺は瞳を奪われたのだ。

5742/2 ◆s8JDRQ.up6:2007/08/30(木) 15:18:48
『クモの巣ターコイズ』というものだと教えてられたのはつい最近の事だった。
どちらも調べてみたんだけど俺はクリーダイトっていう石だったんた、と装飾品のライラック色の石を俺に見せた男は、茶色の頭を傾げていた。

「やっぱり、あの話は本当だったんだ。」

目を伏せため息を吐く相方は、不健康な痩せ方のせいか不安と困惑を隠し切れないように見えた。

「芸人の間で出回っている不思議な力を持つ石なんて、誰かの冗談だと思ってた。」

俺はその時、噂に聞いた芸人の原因不明の負傷を思い出しながら、そうだねと言ったと思う。

特異な力は時に不幸を呼ぶからだ。


俺たちもいずれ何かしら人間の力を超えた能力に目覚める事になるんだろう。

それは修羅場に堕ちた能力者たちを、空へ引き上げる蜘蛛の糸なのだろうか。
石はその糸を俺の目の前に垂らしたということか。



もし、私欲のため切れてしまったら。



「尾関、そろそろネタ合わせ始めよう。」

「・・・あぁ、うん。」



まだ石は沈黙を続ける。




******

以上です。切れてないといいな。

575 ◆s8JDRQ.up6:2007/08/30(木) 15:22:34
誤字ハケーン

×→教えてられた
○→教えられた

576①高佐編/ヴィクラモールヴァシーヤ ◆XNziia/3ao:2007/08/31(金) 13:55:21
追いかけてくる

何かが

恐ろしいほどに禍々しい

何かが

俺は必死に逃げていた。何かからかは分からない。
ただ恐ろしい"何か"。必死に、必死に、逃げていた。
それに手首を掴まれ、俺は振りほどこうとする。だが、手首を掴む恐ろしい力は離れない。
せめてそれの正体を見てやろうと俺は振り返る。そこにいたのは―−

『何で逃げるんだよ、俺?』

間違いなく、そこにいたのは自分だった。

そこでプツリと何かが途切れた。


高佐は夢から醒めた。シャツは汗でぐっしょりと濡れ、先程の夢を思い出させた。
起き上がり、自分の頭をくしゃりと撫ぜた。
「(今の、は)」
こんな恐ろしく奇妙な夢を見たのは初めてだった。
二度とあんな夢はみたくない。そう思いながら今は何時かと携帯電話を開いた。
「…はぁ。」
早朝五時十五分。眠りについてからおよそ三時間であった。
ふと右手首にぶら下がる美しいそれを見る。ぴん、と左手で弾く。
「…お前のせいか?」
もう一つ溜息を吐き、高佐は初めて無機物を恨めしく思った。


今日は尾関とネタ合わせ。自分が遅れるな、と言ったので遅れるわけにはいかない。
高佐はしかたなくそのまま起きていることにした。とりあえずぐっしょりと濡れた寝巻きを何とかしよう。
「(汗かいてるし風呂はいろ)」
妹を起こさぬように息を潜め、こっそりと風呂に向かったのは余談である。


風呂に入りながら、高佐は考えていた。
ネタの事、妹のこと、アルバイトのこと。そして、石のこと。
あの美しい色の石にはどんな力があって、自分達にどんな運命をもたらすのか―−。
少し前に聞いた御伽噺としか思えない話を思い出した。

石は持ち主を選び、その石を手にした人間は必然的に戦いに巻き込まれていく
持ち主は芸人が殆どで、芸人達は各々の信念で『白』になるか『黒』になるか、『灰』になるかを決める
なかには無理やり引き込まれる人間もいる

もし、自分がどこかに入らなくちゃいけなくなったら?
「…だとしたら、迷わず」
灰を選ぶだろう。正義でもなく、悪でもない『中立』。
だがそれはあくまで誰にも干渉されなかった場合の意見。もし、尾関や妹を人質にとられたら
「(でもそこまでするのか?)」
いや、するのか、という疑問は大したことじゃない。する可能性はなくはないのだ。

(尾関がいなくなったら俺は、多分、コントを出来なくなる。)
(俺は書けないわけじゃない)
(でも、アイツの台本で演じたい)
(どこまでのしあがれるのか、そう考えただけでワクワクする)
(――この厳しい世界で)

右手をグッと握る。先程までとは違う。もう、迷いはない。
「(アイツがどうしたいのかちゃんと聞こう)」
「(それで俺の意見も言って、それから二人で考えればいい)」



――俺達はコンビなのだから

577①尾関編/ヴィクラモールヴァシーヤ ◆XNziia/3ao:2007/08/31(金) 13:59:14
昨日、彼の様子がおかしかった。
俺が言うのも何なのだが、本当におかしかったのだ。
声は微かに震えていて、ネタに関する質問なのかと思えば最近石をもらったか、だとさ。
正直言って彼がおかしくなると困るのだ。ストッパーがいなくなる。
「…(まぁ、いいや、そんなこと。)」
しっかりとした、アイツのことだ。すぐにペースを戻すだろう。
尾関はそう考える。話題にあがった石を見つめた。光が綺麗に透き通る石。
ふとこの石はなんと言う名前なんだろう。そんなことを考えた。
「高佐に調べてもらお」
携帯電話で写真をとり、メールを作成。
「(ちょ っと な ま え し ら べて お い て !)」
送信ボタンを押して携帯電話を閉じる。
やや乱雑に携帯電話を放って、尾関は布団に倒れこんだ。


「(そういえば)」
何であんなに必死だったんだ?
疑問が一つ浮かび上がる。見たところただの綺麗な石。何か変な噂でもあるのか。
…まぁいい、気に留めるほどのことでもないだろう。
今日はネタ合わせだ。あんなに必死になった理由と、石の名前を教えてもらおう。


待ち合わせの時間まであと四時間。尾関はアラームをセットして、眠りについた。

578ヴィクラモールヴァシーヤ ◆XNziia/3ao:2007/08/31(金) 14:00:17
ここでひと段落的な感じで。

>>573
いい感じだと思いますよー。
ギースさんは仲良しなんでそんな感じかと

579ヴィクラモールヴァシーヤ ◆XNziia/3ao:2007/08/31(金) 14:00:51
とりあえず本スレのほうに序曲投下したいのですがおkでしょうか?

580名無しさん:2007/09/01(土) 20:53:11
ぜひ!本スレもしばらく停滞中なんで、盛り上げてほしいねえ

581名無しさん:2007/09/04(火) 01:39:43
はじめまして。アンジャの話書いてみました。
多分アホみたいに長くなりそうですが、投稿してみてもよろしいでしょうか?

582581:2007/09/04(火) 01:41:42
↑すみませんさげ忘れ…最悪だ…!!

583名無しさん:2007/09/04(火) 04:25:07
いいですよー

584581:2007/09/04(火) 14:26:55
ありがとうございます
ではとりあえず書けた分だけ投下します…

585581:2007/09/04(火) 14:27:22
しまった、と思う時には、すでに遅すぎる。
何でもっと早くに気付けないんだろう。
今となっては、それも無意味な思考かもしれないけれど。


とある日。児嶋は、楽屋の椅子に腰掛けて一人紫煙を燻らせていた。
タバコを咥えたまま、ジーパンのポケットから銀色のゴツいブレスレットを取り出す。
トップに埋め込まれているのは、綺麗な宝石。名前は知らない。
「…怪しいよな、やっぱ」
ぼそりと独りごちる。右手でチャラチャラ弄んでみるも、意味は無かった。

先日、差出人不明の小包が届いた。中身は、この高そうなブレスレット。
熱狂的なファンからのプレゼント?なんだか悪いなあ。
送り返そうにも宛先は謎だけど。
母親からのプレゼント?宛名ぐらい書けっての。
電話で確認してみたが、違った。謎かよ。
じゃあ悪徳商法か、何かか?クーリングオフとか効くのかな。
いや会社の住所は謎なんだけどさ。

586581:2007/09/04(火) 14:31:00
(…渡部、遅いな)
とりあえず思考を逸らした。考え続けたところで、どうせ答えは出ないだろうから。
壁時計を見上げ、自分が早く来すぎていることにやっと気付く。
手元の灰皿にねじ込まれた吸殻が多すぎることにも気付き、目を見開く。それ程の量だった。
児嶋は一旦タバコを置き、再びブレスレットを摘み上げた。
トップの石が白い輝きを放ちながら揺れている。
角度を変えると、何色もの色が輝いた。虹色。やっぱ高そうだな、と思う。
じいっとそれを見つめていると、児嶋は、なんだか自身が透けていくような錯覚に襲われた。

途端、すうっと雑音が消えていく。静寂。
背景に溶け込んだ自分を、かき消すように紫煙が通り抜けて――

そこまでイメージした所で、思い出したように瞬きをした。
石は、相変わらず澄ました顔でぶら下がっている。無視されている気分になり、少し苛立つ。
(…渡部なら訪問販売のバイトとかやってたらしいから、何か分かるかもしれないな)
しっかり者の相方が、しかし時間にはルーズであったことを思い出す。
早く来てしまった分、待ち時間は相当長くなりそうだ。大げさに肩を落として。
ともあれ気を紛らわそうと、さっきのタバコを咥えた。
不安混じりの溜め息は長くて、白かった。

587581:2007/09/04(火) 14:40:44
楽屋へと向かう渡部の足取りは、軽やかだった。
Tシャツの中に隠しているが、細身のシルバーペンダントはそこに存在している。
トップには水晶。透明な光は、すべてを浄化してくれるような気さえした。

不思議な「石」については、聞いたことがあった。
芸人たちの滾る情熱が結晶として具現化されたものだ、といっても過言ではない、それ。
最近若手芸人の間で出回り始めたらしいが、まさか自分の元にも来ようとは。

「どんな能力なんだろう…」
わくわくして独りごちる。服の上から胸をなでると、石の存在が実感できた。
渡部はその性格上、こんなに夢のある話を黙っていたくなかった。
(言いふらしたい。先輩、後輩、同期。いや、素人の友達でも、いっそ犬でもいいや)

だがもちろん、それが利口な行動でないことは知っている。
自分の石の情報を知る者が増えると、それだけ危険も高まる。
知られた自分も、場合によっては、知った相手にも害が及ぶかもしれない。

本能、というより、冷静な”もう一人の自分”が、そう理解していた。
故になんとか気を紛らわせるべく、親指の爪を、噛んだ。

588581:2007/09/04(火) 15:58:00
とりあえず一旦ここまで…また書けたら投下します
愛あるツッコミやアドバイス、よろしくお願いします

589581:2007/09/05(水) 11:38:31
おっす。後ろから声を掛けられ、渡部は振り向いた。設楽だ。
そういえば、今日はバナナマンと同じ番組に出るんだった。そう思い出す。
渡部も挨拶を返し、二人は並んで歩き出した。
「あれ、なんか嬉しそうじゃない?」と設楽。
何だ、ばればれなのか?ともあれ口から爪を離して。
「そうでもねえよ。あ、統は…、」思わず石のことを尋ねそうになり、しかし口をつぐんだ。
「ん、何?」
いや、こいつなら仲良いから別にいいかな。いいよな。
「その…聞いたことあるか、『石』のこと」
とはいえ当たり障りのない質問にした。自分が石を持っていることは漏らすべきではない。
…と思う。多分。
「あー、芸人の間に出回ってるってやつね」
都市伝説じゃねえの、と軽く笑われる。当然かもしれない。
渡部は、ところがどっこい、という台詞を必死に飲み込んで、続けた。
「いやさ、もし本当だったらカッコイイなーと思って」
「ああ確かにね。めちゃくちゃ欲しいもん、俺」
「お、マジで?」
「そりゃーそうでしょ。こう…”選ばれし者”みたいな?」
「ははは、漫画読みすぎだって!」
「そっちがフッたんじゃなかった?」
他愛無いやり取り。こいつは持ってないんだな、と何故か安心する。

くだらないことで笑い合ううちに、目的地の目の前まで来ていた。
番組は同じでも、それぞれ楽屋は違った。渡部は左、設楽は右の部屋へ。
ありふれた日常の、ほんの1ページ。
…と思う。多分。

590581:2007/09/05(水) 11:43:33
楽屋のドアが開き、児嶋は、待ってましたとばかりに顔を上げた。
目線の先には、はたして渡部の姿があった。親指の爪を噛んでいる。
相方のいつもの癖だったが、今日は、なんだかいい事でもあったかのように見えた。
尋ねてみると、渡部はすぐに口から爪を離した。
…まあともかく、相談するには良いタイミングだろう。
「あのさ、ちょっといいか」児嶋は、思い切って話を切り出した。
渡部は、何だ改まって、と荷物を降ろしている。やっぱり機嫌は良さそうだ。ラッキー。
そうして児嶋の向かいの椅子に座ったところに、例のブレスレットを見せてやった。
「…要らねえよ、気持ちわりいな」
「お前にじゃねえよ」
あからさまに嫌悪を示されたので、ツッコミを入れる。
「で、何よそれ」渡部はまだ眉をひそめたままだ。
「送られてきたんだよ、こないだ」
「マザコンめ」
「いや、差出人不明なんだって」
そう言うと、渡部の顔つきが急に真剣みを帯びた。
「ちょっと貸して」
言われたとおりそれを手渡す。ああ、やはり心当たりがあるのか。
まさか、その筋では有名な詐欺だったりするのだろうか。
児嶋は緊張しながら、いまや鑑定士となった相方を不安げに見つめた。

591581:2007/09/05(水) 11:47:59
ブレスレットのトップにある綺麗な宝石を見て、渡部は確信した。
これは「石」だ。都市伝説なんかじゃない、あの「石」だ。違いない。
「…オパールだな」
渡部は、それだけ呟いてブレスレットを返した。
「やっぱ高そう?」おそるおそる、児嶋。
「ああ、本物っぽいからなあ。大事にしろよ」
「って、大丈夫なのか、そのなんていうか、法的に…」
「心配ねーよ、…っていうか、お前も芸人だったんだな。忘れてた」
「はああ!?」
さっぱり分からない、という様子で聞き返される。
(フツーに何にも知らなさそうだな、こいつ)
溜め息をつくと、渡部は説明を始めた。
「『石』って聞いたことあるか?」

簡単な説明を受けた児嶋は、怪訝そうな表情を浮かべ腕組みしていた。
「つまり…俺とお前は”選ばれし者”ってことか?」
そう言って自身のオパールと渡部の手元に置かれた水晶を交互に指差している。
「うーん…じゃ、そういうことでもいいか」
適当に頷く。こいつも漫画の読みすぎだな、と苦笑が漏れる。
「どんな能力なんだろう…」
心配そうに独りごちて石を覗き込む児嶋。渡部と正反対のリアクションだった。

592名無しさん:2007/09/05(水) 20:26:58
なんか反応がアンジャッシュらしくて、考え方とかもリアルでいいなあ
続き期待

593581:2007/09/06(木) 00:28:31
うおお、ありがたき幸せ!
これからもちょっとずつ投下していきますのでご指導よろしくです

594581:2007/09/06(木) 00:42:11
渡部が自分の能力に気づいたのは、その日の収録終わりだった。
自販機前の長椅子に座り、右手の缶コーヒーを一口。熱くて苦い。
そこに「お疲れさん」と呼びかけてきたのは、上田だった。
その右手には缶ジュース。見たことのない派手な柄だった。何味なんだろう。
「お疲れ様です…最近忙しそうっすねえ」
苦笑混じりに、渡部。皮肉ではなく、心からの労いだった。
おかげさんでな、と笑んで、上田は缶の封を切った。シパッ、と清々しい音。
「あの、上田さん」
隣に腰掛けた先輩に再び口を開く。何か話さなくては。ええと。
「何だ」
「…あー、どうです最近」
「アバウトだな」
円周率か、と呟きジュースに口を付けている。それにしてもカラフルな缶だ、と思った。
「もうちょい具体的に聞いてくれよ」
「そうっすね、じゃあ…味とか?」
「うは、何じゃそりゃ!中身吹き出すとこだったぞ、はは」
「何だちょろいな…」
冗談めかして呟くと、くしゃくしゃの笑顔に額をはたかれた。

595581:2007/09/06(木) 00:56:44
「…で、どうなんです?味」
再び問う。適当に質問したことだったが、一応答えは得ておきたかった。
「おう、果物だってのは分かんだけどなあ」
そう呟き、上田は首をひねりながらもう一口含んだ。しかしますます眉を寄せて。
「…あれー?何の味だっけこれ!分かりそうで分かんねえぞ」
「缶には書いてないんすか?」
「『トロピカル』…って広いな!結局何味だよ!」缶にまでツッコむ先輩に感心。
じゃなくて。うわ、気になる。どんな味なんだろう。当ててやりたい。

俺も、飲んで味わってみたい。

そう考え、渡部は冗談半分に目を閉じ、念じてみた。気分は超能力者。
すると。
途端、口いっぱいに甘酸っぱい感覚が広がる。
閉じたはずの目の前には、カラフルな缶。「トロピカル味」と書かれている。
その缶を握る右手には、確かに冷たい感触。缶コーヒーはどこへ消えた?
これじゃあまるで、

俺が上田さんになってしまったみたいじゃ、ないか?

596581:2007/09/06(木) 01:07:46

「この状況で寝たフリってあるかいっ」
豪快な笑い声と共に頭をはたかれ、渡部はハッと目を開けた。
自分の感覚が戻ってくる。コーヒーの苦い後味。右手に握っている硬い熱。
瞬きを繰り返す。辺りを見回す。視力は正常だった。
どうした、と不思議そうに自分を見つめる上田に向き直って。
「パインと、…マンゴーあたりっすかね」
自信はあった。
上田は少し考えて、「それだ!」と顔を輝かせた。「お前すげえな」、と。

結局それから少し会話を楽しんだ後、上田は次の仕事のため立ち上がった。
「じゃ体に気をつけろよ」と言って去ろうとする先輩に、
「むしろそちらが」、と笑った。
仕事の量は、圧倒的に上田のほうが多いに決まっているので。

残された渡部は、缶コーヒーを一気に飲み干した。ぬるくて苦い。
甘酸っぱい後味は、もう無かった。

597581:2007/09/06(木) 01:21:12
その日を境に、渡部は石の能力を小出しに使用し、実験するようになった。
そうして分かったのが、自分は目を閉じて念じることで他人と「同調」できるらしいこと。
対象人物一人の見るもの、聞くもの、味わうものなどを共有できるらしいこと。
つまり、相手の五感を探る事ができる、ということ。しかも、本人に気付かれずに、だ。
あと、どうやらそれは自分の目の前にいない人物でも可能だということ。
また、同調している最中は自分の体が全くの無防備状態になってしまうという、こと。

「…なあって!」
不意の大声に驚き、「同調」を解く。
目を開けると、児嶋がバックミラー越しに自分を睨んでいた。
今は、児嶋が運転する車で仕事に向かう最中だった。
一人後部座席に揺られる退屈を紛らわすべく、さっきまで山崎に「同調」していたのだ。
居酒屋らしきところで仲間と飲んでいた後輩は、相変わらず大声で喋り散らしていた。
店の熱気と喧騒から帰ってきた今も、耳に違和感。相方のせいではない。
「寝るなよ、人が話してる時に」苛立った様子で、児嶋。
「寝かせろよ、退屈なんだから」
「退屈ってあるかい、相方が喋ってんだよ!」
「わりいわりい」魂を込めずに謝ると、渡部は窓から遠くを眺めた。
何でさっさと焼き鳥食わねえんだよ、と山崎のおしゃべりな性格を、恨んだ。

598581:2007/09/06(木) 10:42:32
ありがたいことに氏ねって言われてないし、
なんかアイディアも湧いてきたので一気に書いちゃいます!

599581:2007/09/06(木) 10:58:52
児嶋は、局内の喫煙コーナーに足を踏み入れた。
濁った独特の空気の中、タバコを咥え、一人思考する。
(渡部の様子が、おかしい)
最近相方が頻繁に居眠りをすることには、とっくに気付いていた。
ほぼ毎日。しかも、時にはこちらが話している最中にさえも、目を閉じている。
おかしい。一体どうしたのだろう。極度の疲労なのか?
そういえば、顔色も悪くなった気がする。気のせいだと思いたいけれど。

…いや、実は、心当たりがあった。
「石」だ。
俺は馬鹿だけど、頭が悪いわけじゃあない。
あいつは何も言わないけど、もしかして何か能力が目覚めたんじゃないか?
その能力を使った反動で、疲れが出ているんじゃないか?
……。

「…って、漫画の読みすぎかなあ」
ぼそりと呟く。もちろん独り言だ。
左手を掲げると、チャラ、とチェーンの擦れる音がした。白と虹色が揺れている。
本当に選ばれたのか、俺は。
そう石に問う。
返事が無いのは、もちろん独り言だ。

溜め息が白くないことで、ようやく火をつけ忘れていたことに、気付いた。

600581:2007/09/06(木) 11:07:06
局の外に出ると、渡部は深呼吸した。禁煙中なので、タバコは見たくもなかった。
都会独特の空気の中、空を見上げ、一人思考する。曇り空。
(近頃、体がだるい)
首に下げていた石を手に取った。相変わらず透明だな、と思う。
疲労の原因は分かっていた。能力の多用だ。タダで使える力なんてこの世には無い。

程度こそあれ、物事はいつだって何かと引き換えなんだ。知ってんだ、俺。

渡部が毎日のように石を試すのには、目的があった。
一つは、自分の能力をよく知るため。
使い慣れていないと、いざというときに困るだろうから。
すっと自然に「同調」できるようにしておくことは、今後役立つだろうから。
一つは、能力を磨くため。
何度も力を使ううちに、精度が上がるかもしれないから。
今は五感だけだが、いつか精神さえも共有できるようになるかもしれないから。
(…できるようになって、どうするんだ?)
自分の不安な心が干渉してくる。うるさいな、なっといた方がいいんだよ。
(何に使うんだ、その力を)
悪いことには使わない。他人の心まで覗かなきゃいけない日が、いつか来る。
(「いつか」って、いつのことだ?)

「…一生来て欲しくない日のことだろ」

声に出す。何故か、全ては”もう一人の自分”が理解していた。知ってんだ、俺。

601581:2007/09/06(木) 11:18:39
とある日。渡部は楽屋のソファに腰掛け、台本を確認していた。
児嶋は、他の芸人の楽屋に遊びに行っている。暢気なやつだな、と思う。
一通り確認した台本を閉じる。そろそろ、「練習」しなくては。
今日のターゲットは、設楽に決めた。理由なんて無い。なんとなく。いつもの事。
渡部はおもむろに目を閉じた。「同調」の体勢だ。
普段の練習のおかげで、「同調」に至るまでの作業は幾分スムーズかつ精確になっていた。
気分はコンピュータ。遠くの対象に素早くアクセスし、情報を読み取る。

真っ先に得たのは、視覚。漫画を読んでいるようだった。不気味な絵だな、と思う。
続いて、触覚。左手で頬杖を付き、右手はページを掴む。肌と紙の感触。
「で、そっちはどう?」
そして聴覚。設楽の、気の入っていない、緩い声が届く。
いわゆる骨伝導のせいか、普段の声より少しくぐもっている気がした。
「…いえ、全然。設楽さんみたいに大胆には聞き出せませんよ」
穏やかな声。聞き覚えがある。誰だっけ、ええと。
「はは、俺そんな大胆かなあ」
軽く笑い、右手がページを一枚繰る。本当に独特の絵柄だ、と思う。
「大体、聞いたところでそう簡単に教えてくれますかね」
「そりゃーもう。お前誠実そうだし、大丈夫だろ」
「っていうか、話聞いてます?」
相手の一言に、視点がゆるゆると漫画から人物に移る。
ああ、そうだ、こいつの声だったか。
「大事な話なんですよ」諌めるような口調で、ラーメンズ・小林はそう続けた。

602581:2007/09/06(木) 11:26:44
「わーかってるよ。先公かっての、もう」設楽の右手が、渋々漫画を閉じて。
(大事な話だからこそ、漫画読みながらでも聞けるのにさ)
心で呟く。これは、しかし渡部の心中ではなかった。
ということは。

今一瞬、設楽の精神に同調できたのでは、ないか?

逸る気持ちを抑え、渡部は再び感覚を研ぎ澄ました。
読み取ってやる、もう一度。来い。

「いいか、」とのんびりした声は、設楽。
「人間っていうのはな、誰だって不安なんだよ」
はい、と真剣な声は、小林。
「誰だって、最初っから自分のことペラペラしゃべらねえよ。分かるだろ?」
「…はい」
「でもさ、相手がすげえ気の合う奴だったり、頼れる奴だったらさ、ほら。
自分から喋りたくなっちゃうんだよ。共有してもらいたくなるんだ、全部」
「いや、だからそこが難しいんですって、」真面目な声が頭を掻いた。
「設楽さんと違って、人を誘うのに向いてないんですよ、”僕の”は。」
”僕の”が修飾しているであろう名詞は、省略されていた。何だろう、顔か?
「それ、『シナリオ』に頼りすぎ。俺だって、毎回『説得』するわけじゃねえもん」
(…それにしても、随分真剣にナンパ論を語るんだなあ)
心で呟く。これは、しかし渡部の心中であった。

603581:2007/09/06(木) 11:37:20
(やっぱり、変だ)
児嶋は、ソファに座ったまま動かない相方を、ドアの隙間越しに観察していた。
実は、他の芸人の楽屋に遊びに行くフリをして、楽屋の入り口にじっと潜んでいたのだ。
もちろん、渡部の挙動を探るためだった。
一人になれば、「石」を使うかもしれないから。

渡部が台本を閉じたとき、いよいよか、と身構えた。
が、期待に反し、どうやらそのまま眠ってしまったようで。肩を落とす。
…でも。
居眠りなら、普通身じろぎの一つぐらいしていいんじゃあ、ないか?

そうして観察を始めてから5分が経過しようとした時。
渡部の胸の辺りから、微かに透明の光が漏れていることに、やっと気が付いた。
(…いつから光っていた?最初からだったか?一体何が光っている?)

そうだ。「石」の疲労で居眠りが増えたんじゃあない。
多分、「石」の使用が居眠りに見えていたんだ。
そんな頻度で石を使っていたならば、そりゃあ体調だって悪くなる、はずだ。

答えが分かった瞬間、児嶋は勢いよく相方の元へ駆け出していた。
力を使うのを、やめさせるために。

604581:2007/09/06(木) 11:49:13
渡部は、急に「同調」の精度が落ち始めたのを感じた。
かろうじて視覚は残っているが、いまや触覚と聴覚が完全に奪われつつある。
接続した自分の意識が、設楽の中から徐々に追い出されていくような、感覚。
必死に視覚だけでも保とうとしたが、それも上手くいかない。
(そういえば、設楽の中に入ってから、どれぐらい経った?)
普段は、安全のために3分程度に留めていた。
しかし今日は、とっくに5分ぐらい経っていそうで。
(限界か、くそ)

両肩を掴まれているのを感じた。触覚。
次いで聴覚。何度も名前を呼ばれている。聞こえてるっての。
ゆっくり目を開ける。うろたえまくった表情は、相方だった。視覚。
割と何度も両肩を揺さぶられていたのだろうか、前後の方向に眩暈を感じた。
「…何だ、居たのかよ…」
平静を装うも、内心は焦りに満ちていた。自分の能力については、隠していたので。
やられた。いつから見られていた?ばれただろうな、さすがに。
だがここで、急に瞼が鉛のようになった。とても目を開けていられない。

しまった、と思った時には、すでに遅すぎた。
何でもっと早くに気付けなかったんだろう。
今となっては、それも無意味な思考かもしれなかったけれど。

児嶋の顔や声が一気に遠のき、渡部の意識は、ついに途切れた。
気分はコンピュータ。強制終了。

605名無しさん:2007/09/06(木) 14:37:48
面白いです。ストーリーに引き込まれる。
今までの設定もちゃんと生かせているし、ぜひ本スレに投下してください。

ただ一つだけ苦言を呈しておくと
投下の合間の581さんのコメントはもうすこし落ち着いてほしい。
あんまりテンション高いと気になる人もいるから。

606581:2007/09/06(木) 21:39:56
ありがとうございます、嬉しいです
そしてすみません、まさかそっちで叱られるとは…w
まだ少し続くので、もうしばらくお付き合い願います

607581:2007/09/07(金) 23:53:05
(――今、何時だろう)
目を覚ました渡部の、最初の思考だった。

重い瞼を無理やりこじ開ける。頭が痛い。
どうやらベッドで眠っていたようだ。自分のベッドでないことは分かった。
布団にくるまれている感覚を再認すると、また意識が遠のきそうになった。まだ眠い。
目だけで辺りを見回す。もちろん、自分の部屋でないことも、分かった。
なぜここに居るのかは把握できなかったが、場所には見覚えがあった。確かここは…
「お、いけるか渡部」
ドアから、声が近づいてくる。苦労してそちらに目をやると、眠気が飛んだ。
「…有田さん?」
そうだ、昔よく遊びに来たっけ。
渡部が上半身を起こそうとするのを、しかし有田は冷静に制した。「無理すんな」、と。
言葉に甘え、再び枕に頭を落とす。確かに、まだ体は本調子ではない。
「あの、」と渡部。「何で僕、寝てんすか、有田さん家で」
覚えがなかった。最後の記憶を必死に辿ってみる。台本しか思い出せない。
「そうそう、それね。楽屋で倒れたんだよ、お前」
さらりと言ってのけると、有田はドアの向こうに呼びかけた。
「おーい、やっと起きたぞ」
えっ、という弾んだ声の後、どたどたと騒がしくやってきたのは、山崎だった。
「ああよかった、大丈夫ですか?」渡部を覗き込み、満面の笑みだ。
渡部はというと、与えられた情報を消化しきれずに、呆然と頷くだけだった。

608581:2007/09/08(土) 01:44:39
山崎から水の入ったコップを受け取り、一気に飲み干す。
その渇きの具合から、気を失っていた時間が長かったことを、悟った。
「…どれぐらい寝てました、僕」気になっていたことを尋ねてみる。
有田は腕時計を見やり、今は1時前だなあ、と噛み合わない返答。
「1時…ってことは…?」
「ああ、夜中のですよ」山崎が補足する。いや、うん、そこじゃなくてさ。
「冗談冗談。11時間ちょっとだよ。仕事の方は田中がなんとかしてくれたから」
当たり前のような口ぶりで有田。しかし、どうしても意味が飲み込めない。
「…田中…?」
「ああ、アンガールズのですよ」山崎が補足する。いや、うん、そこじゃなくてさ。
改めて有田に問う。「っていうか、田中が何をしてくれたんすか?」
「収録を来月に延期するよう、プロデューサーさんに頼んでくれたんだよ」
「ほら、石ですよ。田中さんの能力、相手を納得させるやつなんです」
山崎の補足。今度はありがたかった。
(…って、石、だって?)目を見開く。
田中が石を持っていること以上に、有田と山崎がその能力を把握していることに驚いた。
「あれ、石、知りません?渡部さんだって持ってるじゃないすかあ」
「っていうか、力の使いすぎでダウンしたんだろ、お前」
「いや、その…」どう答えていいか分からない。
「聞いたぞ、児嶋から。何で隠すんだよ」不機嫌そうに、有田。
「そうですよ、水臭いなあ、」山崎も、軽く笑って便乗する。「仲間でしょ、俺ら」

――『仲間』。

月並みな単語だが、その一言で幾分心が軽くなった気が、した。

609581:2007/09/08(土) 01:55:55
直後、携帯の電子音が鳴り響く。急な物音に心臓が跳ね上がった。
「あ。わりい、俺だわ」と有田。のそのそと応答して。
何やら親しげに会話を交わしたあと、それを渡部に差し出してきた。
「…え、」
「上田。替われってさ」
よく分からないまま携帯を受け取り、もしもし、と呼びかけてみる。
『おう、どうだ、よく寝られたか?』
「…はは、おかげさまで」受話器越しのジョークに、力なく笑んだ。
『ったくよー、自販機前で忠告しただろ?”体に気をつけろ”ってさ』
叱られた。何だ、そういう意味だったのか、あれは。
「って上田さんも知ってたんですか、石のこと」
『まあな。大体あれだ、お前が寝たフリしてた時、光ってたぞ、石』
「……」
『児嶋からお前が倒れたって聞いたときは、まあピンときたね』
「…すみません」
『病院に担ぎこむのも、ややこしいしな。
それにその症状じゃ周期性傾眠症とか言われるのがオチだろうから、
とりあえず児嶋には、車で有田ん家に運ぶよう指示しといたってわけだ。この俺が』
「あー…」倒れるまでの記憶が蘇ってくる。石。設楽。同調。以降闇のち現在。
『うお、じゃあな、後で柴田にも礼言っとけよ!』
そう言い残すと、上田は慌ただしく電話を切った。
仕事の合間に、わざわざ電話をくれたのだろう。その心遣いが嬉しい。
渡部は、やっぱりこの人のほうが忙しそうだな、と改めて思った。

610581:2007/09/08(土) 02:24:52
「柴田の石はですね、」と突然口を開いたのは、山崎。
「回復とか手助けに役立つ能力なんです」
渡部と有田は同時に声の主を見つめた。
「…ああ、そうそう。柴田が介抱してくれたおかげなんだぞ、今お前が動けるの。
仕事があったから、もう帰ったんだけどな。心配してたぞ、あいつ」
思い出したように有田が説明する。
それによって渡部は、先刻の上田の台詞を理解した。
山崎が続ける。
「僕の能力は召喚で、有田さんの能力は、ええと…弱点エグリです」
「もっと言い方ってあるだろ」
有田は苦笑し、あとの台詞を引き継いで。
「上田はサイコメトラーだ。いちいち薀蓄言わないと駄目とかで、うっとおしいけど」
「ほんと、なんか偉そうで腹立つんですよねえ」
「な、生理的にきもいよな」
そう言い合って、からからと二人笑っている。
渡部は、終始ぽかんとしていた。

611581:2007/09/08(土) 02:32:41
「ほら、渡部さんも。教えてくださいって、能力」
「そうそう、秘密はみんなで持った方が、楽だろ。荷物は軽いに限るんだって」
脳が、だんだん巡り始めてくる。

確かに一人よりも、『仲間』同士で助け合った方が、楽だ。
だがその結果、その大切な『仲間』まで危険に巻き込んでしまうと、したら?

また、”自分”の声。そんな事分かってる。
…だけど、その時は。

(――その時は、俺が責任を取れば良いから)

そうして慎重な”自分”を押さえ込んで。
覚悟を決めると、渡部は自分の能力について、ゆっくりと話し出した。


『でもさ、相手がすげえ気の合う奴だったり、頼れる奴だったらさ、ほら。
自分から喋りたくなっちゃうんだよ。共有してもらいたくなるんだ、全部』

心の中で、”自分”に言い訳。
設楽のナンパ論も的を射ているな、と自嘲気味に笑んだ。

612581:2007/09/08(土) 02:44:22
それから二日後。児嶋は、自分の楽屋に向かう途中だった。が。
「おざーっす!」と元気の良い挨拶に背中をぴしゃりとぶたれ足を止めた。
びっくりして振り返る。にこにこテンションの高いのは、柴田だ。
「いてえな、もう…」叩かれた箇所をさすりながら苦情を漏らす。
「今日は、ネタ番組ですか?」って先輩殴っといてスルーかい。せめてイジれよ。
頷いてやると、「よかったですね」、と返される。どうも柴田との会話は、ちぐはぐだ。
「…ほらあ、渡部さんですよ。もう元気になったんですよね?」
「ああ、昨日会ったらピンピンしてた。人騒がせな奴だよ、まったく」

これも上田の機転と、柴田の石、そして有田・山崎のフォローのおかげだろう。
あと、半日弱もの睡眠といったところか。羨ましい。自分だってたっぷり寝たい。
児嶋はというと、渡部を有田の家に運んだ後は、離れた地でそわそわしていただけだった。
だって田中には仕事の件のお礼に奢ってやりたかったし。
大体、別にあの場に居ても何の役にも立てなかったろうし。

「で、やっと教えてもらったんでしょ、渡部さんの能力」
「…っつうかさ、あいつ慎重すぎだよな。偉そうなくせに、てんでビビリなの。
もし俺だったら、自分の能力分かったら、まず皆に自慢して回るって、はは」
「ってまだ分かってないんすか、自分の能力!?」
「そこかい」
何だ、やはり間の抜けたことなのか。恥ずかしくなり、自分の頭を乱暴に掻く。
「まあ、でも大丈夫ですよ、いつかは分かるもんですから」
「『いつか』っていつだよ?」
「そりゃあ、一刻も早く来て欲しい日でしょうよ」そう言うと、柴田は満足げに去っていった。
何じゃそりゃ。後輩の適当な返しに呆れ顔になった。

613581:2007/09/08(土) 02:48:08
児嶋は楽屋のドアノブを捻った。
正面の壁時計を見て、また早く来すぎたことに気づく。

どうせ今日も、渡部は遅いんだろうな。
どうせ今日も、タバコ吸いまくる羽目になるんだろうな。
そう考え、苦笑を浮かべた。


児嶋の期待する『いつか』は、この日から三週間後の、とある日。

渡部の危惧する『いつか』は、既に動き始めている。

614581:2007/09/08(土) 02:52:34
これで一応終了です、長々と失礼いたしました
もともと見切り発車だったので強引な展開になってしまいましたが…
みなさんからのツッコミ、意見などいただければ嬉しいです

615名無しさん:2007/09/08(土) 08:07:23
乙!白は暖かいな
渡部が設楽と同調してるのにすれちがってる辺り面白い
本スレ行っていいと思う

616名無しさん:2007/09/08(土) 12:09:17
>>614
面白かった。
展開も別に強引さを感じなかったよ。
本スレ行きに賛成。

617581:2007/09/08(土) 15:21:45
褒めていただけて嬉しいです、ありがとうございます
めっさ長いですが、本スレにそのままコピペで投下しちゃって大丈夫でしょうか…

618名無しさん:2007/09/08(土) 20:21:30
別にいいと思う 本スレ盛り上がるし

619581:2007/09/09(日) 00:13:36
よかった、では今から投下してきます

620名無しさん:2007/09/13(木) 01:01:48
ga

621名無しさん:2007/10/28(日) 19:49:40
age

6224696 ◆2sdZ4rmEDQ:2007/12/07(金) 18:23:09
NON STYLE編の冒頭だけ書いてみました。
評価いただければ続きを書いたり本スレ投下してみたりするので、よろしくお願いします。



 石。
 ベッドの中に棲んでいた見覚えのないそれが、手になじんだ感触はこの上ない快感のように心が揺らいで、小さな体を全体で抱きしめた。手の中からじんわりと感情に共鳴するように温まる感触には、緩やかに心が安らいでいく。
 手の中のきらめきはかすかに己に力を与えるような強さを持って、その中の闇に紛れたような黒ずみが、不思議に心を吸い込まれるような、ともすれば怖ろしい閃光を放っている。何度も見返してしまう鮮烈な美しさは、心臓に直接入っていくような激しい一体感を感じた。
 久々に憶える、子供に似通った純粋で激烈な愛に、手が勝手に黄色い石をポケットに入れた。

「お前」
「何やそれ」
 二人で楽屋にいた。井上が手の中で石を弄んでいると、石田が聡くそれを見つけ出し、井上の手の中の石の美しさに惚れ惚れしていた。
 井上が何も言わずもったいぶった風の含んだ笑みをこぼすと、手を強く握り締め、黄色い輝きは手の中に収まって見えなくなる。
「めっちゃ綺麗や! くれ!」
「無理や」
「なんで!」
 石田の声が炸裂する。井上が大口を開けて笑うと、伸びきった前髪をめくり、ゆっくり目を細めた。
 「気に入ったから」
 できれば一緒に寝たいくらい愛しかった。わずかに黒ずんだ輝きが髪の先から足の爪先まで掴んで離さない。
 すべてを魅了された。
 もしかしたら偏執的に見えるくらいこの石コロに触っている。体温で熱くなってきた石を握り込んでは開放すると、命あるもののように鼓動を打って反応を返すのが、脳が溶けかけるほど気持ち良かった。狂ったように静かに応酬する様子を見ると胸を押しつぶされるが。
「……石田」
「もしかしたら俺、お前みたいになるかもしれん」
「どういう意味?」
「石に話しかけるヤツになるかもしれんって事」
「……ハァ?」

623名無しさん:2007/12/09(日) 03:43:41
これだけじゃまだ解らんけれども、楽しみです
続きキボン

624暗膿-予告編- ◆8Ke0JvodNc:2007/12/18(火) 21:04:56
はじめまして、能力スレにラバーガールの能力案を募っていた者です。
ずっと読み専だったので色々とおかしな点もあるだろうし
いきなり本スレというのも気が引けるので、予告編として投下します。

そういえば、石。
自分達とバイト店員以外はいないモスバーガーで大水が何の気なしに呟いたのは、
ちょうどネタをつくっている最中のことだった。
それが今までネタの案を挙げていた口調と全く同じに呟かれたものだったので
反射的に「石」と書いてしまった飛永はその一文字に取り消し線を引きながら顔を上げた。
「石?」
「とうとう来ちゃったよ」
そう言いながらゴソゴソと取り出した大水は、石をテーブルにコロンと転がす。
テーブル上を落ち着きなく転がりまわる球体の石は紺色の絵の具に白を混ぜたような深い青で、
透き通ってはいないかわりにしっかりと磨かれ、キラキラと輝いていた。
石の様子を目で追う飛永に、アベンチュリンっていうらしいよ、と大水は告げる。
「アベ…なに?」
「アベンチュリン。別名はインド翡翠。あ、でも翡翠では無いんだって。
翡翠に似てるからそう呼ばれているだけで。
似てるって言われるだけあって大抵は緑のものが多く出回っているんだけど、
こういう風に青いのは珍しいんだって。それで…」
「ちょ、ちょっと待って」
止めなければいくらでも話し続けそうな大水を一度制して、飛永はノートを閉じた。
こういう話はついで感覚でするものじゃないし、何より聞きたいことがたくさんあったからだ。
飛永は石をつまみあげると大水に渡してしまうよう促し、きちんとしまったところで口を開いた。
「なんで種類とか知ってるわけ?」
「調べてもわからなかったから、持って行って聞いた」
しれっと答える大水に、飛永は驚きと呆れを隠せなかった。
ひくりと顔がひきつったのが自分でもわかる。
大水の口ぶりから石を手に入れたのはここ数日の出来事なのだと勝手に解釈していたが、
もっとずっと以前から大水は既に石を手に入れていて自分に黙っていたのではないか。
嫌な予感を否定してくれるようにと、飛永は祈るような思いで言葉を続ける。
「ちなみにその石で何が出来るかわかってるとか言わないよね」
「いや、もうわかってるけど」
頼みの綱も簡単に切られ、飛永は頬杖をつくと大きなため息を吐きだした。
噂を聞く限り、石を手に入れた者が能力に目覚めるのは個人差があるという。
石を手に入れた瞬間反射的に能力に目覚める人もいれば、
何かの拍子に発動して初めて能力を知る人もいる。
大水のことだから手に入れてすぐに能力を…という仮定も出来ないことはなかったが、
そういう人はごく少数だそうなので、多分石を手にしてからある程度経っている可能性の方が高い。
別に自分に言わなければならないという決まりごとはなかったが、
石については散々二人で話していたことだったのだから
手に入れていたのならすぐにでも教えてくれたっていいだろう。
飛永は恨めしげに大水を睨むと、もう一度深いため息を吐いた。

625暗膿-予告編- ◆8Ke0JvodNc:2007/12/18(火) 21:08:35
彼らにとって、石の話は決してまことしやかに語られる噂話などではなかった。
厳密に言えば「身近な話だが蚊帳の外」といった具合だろうか。
他の事務所や他の芸人はどうだかわからないが、
彼らにとっての石とはそういう存在だった。
その点は人力舎という事務所柄が多いに関与している。
大っぴらに石を使って行動する先輩やら、突如奇怪な行動をとったと噂される先輩やら、
白のユニットや黒のユニットと呼ばれる者達の攻防やら。
人数が少なく厳しい上下関係があまり存在しない人力舎内において、
不思議な石とそれを持つ人々の能力、そして彼らの戦いは後輩達に筒抜けだった。
中には実際に石を使っている現場を目撃した者までいる始末だ。
ただし、話を耳にした後輩達の感想は様々である。
ある者は芸人たる証である石が欲しいと望んだし、
ある者は面倒事に巻き込まれたくないと感じた。
そして、ラバーガールは二人とも間違いなく後者であった。

そんな二人が仮定の話で、と石についての方針を決めたのはもうずっと前のことである。
方針、といってもそんなに大そうなものではない。
あくまで「もしも」の話を、ぼんやりと話し合ったにすぎない。
能力が開花する時期はともかく、一方にだけとても早く石が渡ることはないだろうし、
一方が勝手に動いても絶対互いの関係がギクシャクする。
石のために石を手に入れるきっかけとなった芸事を疎かにするのもどうかと思うし。
石にまつわる噂話が徐々に熱を帯びて飛び交い始めた頃二人が話し合って決めた方針は、
「石が実際に手に入ってから改めて話し合うが、手に入るまでは無関心・無知を装う」というものだった。
それから二人は何年もの間、興味の無いふりを徹底した。
実物を持っていなかったから特に意識をせずにできたし、
石についての話を持ちかけられても何度か敬遠してやれば、
次第に話し相手に選ばれることはなくなった。
けれどそれはあくまで「装う」だけであって、
耳に入って来た情報や石・能力に関しての知識は徹底的に収集した。
いつかやってくるかもしれないその時、身の振り方を決めやすいように。
これを続け、今。
とうとう自分達の元にも石がやってきてしまった。
他人事だったものが自分達にも関わりのある話になってしまう恐ろしさ。
これからのことを考えると、二人はただただ憂鬱で仕方ない。
「一か月前、起きたら枕元にあってさ」
「そんなに前からかよ。少しは言ってくれてもいいんじゃないの」
「いや、できればこのままなかったことに出来ればいいと思ってたから」
面倒、と言いながら大水は紙ナプキンに手を伸ばす。
そしてグラスなど周囲のものをどかしナプキンを広げると、
飛永のノートに挟んであるペンを抜きだし何かを書き始めた。
2本の縦線で区切られた3つの空間に、少しずつ文字が書き込まれていく。
飛永は眉を寄せながら字を見つめ、どうにか書かれている内容を理解した。
本来書く用途に使われる紙でないこと、飛永から見ると逆さに見えることを差し引いても大水の字は汚く読みづらい。
例えばそれが見慣れた名前でなかったから読むことなど出来なかっただろうと、飛永は心の中で苦笑する。
大水が書き込んでいたのは芸人達の名前だった。
3つに分けられているのは「白」「中立」「黒」なのだろう。
事務所の先輩、ライブや番組で見知っている芸人、舞台上以外でも親交のある芸人、様々な名前が書き込まれていく。
少しの時間を要し書き終えた大水は満足げに息をつくと、右手で氷が溶けきって水だらけになったグラスをあおり
左手でナプキンを反転させ、飛永に見せた。
飛永はもう既に大体の内容を把握している紙を律儀にもう一度確認すると、へえ、と声をあげる。
相方ながら、よくぞここまで調べ上げたものだ。
飛永は感心しながら字を追い、ふとした疑問が浮かんだ。
それは、お互い公私ともに親交のあるコンビのこと。
「ギースは?」
「ギース?わかんない。まだ持ってないんじゃない?この前もそういう素振りなかったし」
「まーね」
最近、この2組は合同ライブを行っていた。
その時は稽古・楽屋・本番・打ち上げ等、相当な時間を共に過ごしたが、
彼らの石の目撃もしなければ特に話題としてのぼることもなかった。
元々石への関心が無いように装っていたので気を遣って話をしなかっただけかもしれないが。

626暗膿-予告編- ◆8Ke0JvodNc:2007/12/18(火) 21:14:13
疑問がいったんの解決を見せたところで、大水は本題とばかりに指でナプキンを叩く。
下のテーブルがコンコンと音を立てたのに反応して、飛永は視線を再びナプキンへと戻した。
「知ってるのはこれだけだけど、大体は白に偏ってる」
「そうだなぁ…人力内の情報がほとんど、ってのが原因だと思うけどな」
「っていうか黒の情報が少ない」
「黒は簡単に尻尾出さないだろ。それに人力内で黒側って相当勇気必要じゃない?」
「確かにね」
皮肉るように笑いながら、大水はペンで真ん中の空間を指した。
「出来れば、希望はここなんだよ」
「あくまで出来れば、な…難しそうだよ」
「そう。おぎやはぎさんならともかく、下っぱの俺らがずっと中立でいられるかって言うと微妙だし」
「協力しろって言われたらしなくちゃいけないだろうし、もしもが無いとも言い切れない」
「矢作さんのこともあったし。どんなに抵抗したって、やられる時はやられるよ」
「となるとやっぱり白かぁ」
戦うの嫌だなーと頬杖をついていた方の手で頭を掻く飛永を見て、大水が声を抑えて笑う。
それに気づいた飛永がわけがわからないといった表情で見てくるので、
大水はからかい交じりに飛永に腹のうちを告げた。
「まだ石持ってないのに、って思って」
「どうせそのうち来るでしょ」
「万が一の時のために使える力だと良いね」
「…そうだ、力だ力。どんなことできるの、それ」
出来れば自分達を守るのに少しでも有利な力の方が良い。
飛永の問いかけに、大水は少し考えてから、実際にやってみようか、と言った。



以上です。あくまで予告編なので、一旦ここで切りあげておきます。
普段の口調というものが定かでないのも不安要素です。
能力は能力スレに堂々と書いてしまっていますが、
今のところまだ出てきていないので伏せたままにしておきます。
本スレに耐えうるものであるか、もしくはそうなれるか。
添削よろしくお願いします。

627名無しさん:2007/12/19(水) 08:35:16
ラバーガールは詳しく知らないけれど、本スレでも大丈夫だと思いますよ。
続きが楽しみです。

628632:2007/12/19(水) 22:32:58
おお〜乙です!
まったりした雰囲気が本人っぽいですねー。続編も期待してます。

629 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:00:25
はじめまして、新登場スレや能力スレで犬の心について書いていたものです。
ラバーガールの書き手さんと同じく、ずっと読み専で、かつ二次小説初挑戦なもので
不安な点が多々あります。皆様の意見を取り入れて、本スレに投下できるような作品や
連作を書けるようにしていきたいと思っております。石能力と合わせて、添削宜しくお願いいたします。



今日は何の日かと聞かれれば、天皇誕生日だと答える気で居たが、誰とも遭わなかったし電話もかかって来なかった。
午後三時だというのに部屋は薄暗くて、かといって照明を付ける気にもならずに、窓際に立ち尽くす押見は力無くカーテンを揺さぶった。
恨めしかったのだ。
誰が? もしくは、何が? 答えを出すつもりはなかった。ただ、敗者復活戦が行われる大井競馬場へ赴くだけの強靭な精神力を押見は持ち合わせていない。
野外会場では、音が篭らないという事を分かっていたからである。
自分を破った強者達を笑う声が、か弱く虚空に掻き消えるのを聞きたくなかった。
M-1だけがお笑いじゃないとか、公正さを疑って喜んでみたりとか、酸っぱい葡萄を引き合いに出すまでもない。

受動的にうな垂れると冷たい床が見えた。靴下を履こうかと考えた。
もういい加減、子どもじゃないんだから、誰に要請まれた事でもないのに、そんな嘲笑が頭の中で反響した。
意味も無く裸足でいるのは自尊心のためだと、皆にからかわれる度にいじらしい気持ちになる。
その瞬間、ああ、俺を翻弄したあいつも、俺より大分歳を下回るあいつも、今西日を背に受けて戦っているんだという悪い考えがよぎった。
嵐のような不快感。押見は大股で部屋を横切ると、小さくて赤色の、古ぼけたテレビを蹴飛ばした。
精密機器であるはずのその箱は思いのほか軽く、床にぶつかって鈍い音を立て、あっけなく横倒しになった。
しかし押見はテレビには目もくれず、さっきまでテレビが置いてあった黒色の台を見下ろした。
表面には細かい埃が溜まっていた。蹴打の衝撃で舞い上がった塵の粒子が、目線の高さまで上がってくる。
聖夜を控えたというのに、孤独で、負け犬で、何もかもが腹立たしい。押見はもう一度、今度はテレビ台の側面を、力いっぱい蹴たぐった。
ガサ、と重いものが擦れ合う音と共に、一層の埃が宙に繰り出した。
吸い込まないよう、息を止めた押見の目に、飛び込んでくるものがあった。

乳白色の三角形。

はじめは、取るに足らないゴミだろうと思った。ソファーの下や物置の隅などに、見覚えの無いゴミが落ちているのは珍しい事ではない。
だからこれも、いつか知らぬ間にテレビと台の隙間に潜り込んだ、正体の不明瞭なゴミだろうと、推測したのである。
触りたくなかった。箒とちり取りを持ってこよう、と思ったその時、掃き溜めと化したテレビ台の上でその三角が一つ二つ輝いている事に気が付いたのである。
半ば混濁する意識の中、押見はしゃがみこみ、ためらわずにそれを手にとった。
重量感が噂と直結する。

「石だ」

630 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:01:31
自分自身でも意外な事に、事実と直面してからも押見は冷静だった。取り乱したり大きな声を出したりしなかった。
そのかわり、非常に高い熱を持った何かが頭の中を猛スピードで侵食していき、同時に、自分の中のもう一人の自分がそれを俯瞰し始めた。
押見はしゃがんだまま、埃の中で呼吸していた。
石を巡る戦いについては、知らないという訳ではなかった。
先輩に可愛がられるタイプでないから直接話を聞いたことは皆無だし、周囲の芸人らもそういう事とは無縁な奴ばかりだった。
それでも、吉本という入り組んだ組織に属する以上、情報はそこここから入ってくる。

そして押見は、それら情報に関して、人一倍敏感だった。
持ち前のプライドの高さから、人前でその好奇心を発揮する事は伏せていたが、本当は知りたくて知りたくて仕方がなかった。
誰と誰が戦っているんだろう、石の力ってどんなものだろう、この戦いはいつから始まったのか、そもそも石の正体とは何なのか……
だが非関係者でしかない押見に伝わってくる情報といったらどれもこれも断片的なものと不明瞭なものばかりで、彼の底知れない知識欲を満たすには不足だった。
せいぜい、白や黒といった勢力の名前と、石を持つ芸人の名前をいくつか聞く程度。
それが今や、この手の中に石があるのだ。押見は石を持った右手を閉じ、少し力を込めた。上を向いた口角がさらに大きく吊り上がる。
俺は当事者になったのだ。今はまだ希望しかないが、これからどんどん現実が押し寄せてくるに違いない。
そして優越感――石を持つものと、持たないものの間に生まれる圧倒的な格差が、自分にとって有利なものに転換したのだ。
次第に鼓動が早くなっていく。

と、その時不意に、あの俯瞰的な自分が高揚感に水をさした。

馬鹿みたい、石ころに振り回されて、惨めなくらいに迷妄的だ。

『うるさいうるさいうるさい丸くなって踵をかえせば?』

いつもの癖で無意識に、意味の無いうたが脳内を反響した。
すると、にわかに手の中の石が熱をもって、ほんのりと赤く光り出した。
押見は手を開き、吸い寄せられるように石を見つめた。
重たい耳鳴りがし、軽い目眩で体勢が崩れる。押見はどっ、と腰を落とした。
石の事が分かる自分がいた。
全部ではない、まだ名前すら教えてくれないが、力量を確信するには十分すぎる程の情報量だ。
石の力や発動条件といった未知の知識が、押見の脳へとおぼろげに流れ込んでくる。
押見は立ち上がり、いける、と小さく呟いた。

631 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:02:00
押見は石をローテーブルの上に置いて、その前に座って観察を始めた。
石は既に光るのをやめており、はじめ見たときと同じように、ひどく不透明な乳白色をまとっていた。
片手で握れる位だからあまり大きくない。しかし不恰好にごつごつしていて、牙のように尖っている。
押見は腕を背後に投げ出すと、ぼんやりと、これからどうするかについて思案した。

黒に入るのは嫌だった。否、怖かった。
善悪の問題ではなく、伝え聞いた噂から判断し、目的のためには手段を選ばない団体に属するのはリスクが大きすぎると考えたのだ。
切り捨てられ、石だけ盗られてポイ捨て、なんて事になったら目も当てられない。
かといって、白に入る気にもならなかった。
ひねくれ者の性格が鎌首をもたげ、正義の味方を気取るなんて、と否定的な事をいうのだ。
それに黒にせよ白にせよ、自分が先輩との関わりが薄い事を考慮すれば、飛び込むのには勇気が要った。
と、すれば、無所属。
しかし――静観するのは心が許さない。
何故だろう。大して積極的でもない自分が、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。
押見は首を折り、天井へ視線を移した。

戦いに関与したい。
目的の下で動きたい。
そして何より、石の力を使いたい。

俯瞰的な自分によれば、押見は暴走していた。まさしく力に振り回されようとしていた。
それを踏まえた上で、押見は、石を巡るこの戦いをめちゃくちゃにしてやりたいと望んだ。
自分を散々置き去りにしておいて、今更歯車になれなどと言われても、従えるはずがなかった。
暴走しよう。迷妄しよう。
そして押見は、この石にならそれが出来ると確信していた。

池谷はどうしよう?

この疑問が、今の今まで浮かんでこなかった事の方が不思議なのかもしれないが、それはある意味仕方がなかった。
押見から見て、相方であるこの男は、どうしようもなく能天気で、平和ボケで、戦いや諍いには結びつかない存在だったからだ。
石についても、池谷は押見と違って、さほど関心を示さないでいた。実物も、恐らくまだ持っていないだろう。
自分が石を手に入れた事については黙っておいて、この計画には相方を巻き込むべきでないのかもしれない。
そういう正常な意見を、押見は否定した。
合理的に考えて、異能者だらけのこの戦いをかき回そうと思うなら、池谷に協力させない道理はない。
体力、身の軽さ、意志の強さ……いつか池谷の元へ来るであろう石の力を度外視しても、計画に池谷を巻き込む価値はあった。
反射的に携帯電話を探る右手を意識しながら、押見は、相方を数値化する自分の合理性を嘆いた。
感情的な自分と理知的な自分が争っていた。心地よさに任せて暴走などしなければよかったと後悔した。
それでも、身体は自然に立ち上がるし、指はぎこちなく携帯のボタンを探る。左手は石をポケットにしまう。
家を出ようとしていたが部屋を片付けるつもりはなかった。

「――あ、もしもし池谷? 今どこよ? ふーん、バイト中か……ちょっと、話したい事あるからさ、そっち行っていい?」

倒れたままのテレビが、押見の背中をじっと見ていた。

632 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:02:26
駅前に馬鹿でかいクリスマスツリーが輝いていて遠くの景色が見えなかった。
時刻は五時前、そろそろ日が傾いていく頃だ。ツリーの電飾が一つずつ灯っていく。
押見は広場の隅の方を通った。若々しい中高生や足を弾ませて歩く人々の中で、
真っ黒なコートに身を包んで眉間にしわを寄せる押見はほんの少し浮いていた。
電車の中で隣に座った二人組がM-1の下馬評をするのを聞いてしまったのだ。
せっかく石を得た恍惚のおかげで忘れかけていたというのに、甲高い声で喋る彼女らのせいで、色々と思い出してしまったのである。
悔しさや恥ずかしさで胸が一杯になった。
それでも、頭の中はまだ幸せだった。
石を操って、これから自分がどう振る舞うか、という予想図が次から次へ浮かんでくる。
それらは全て――「犬の心」の予想図でもあった。
空が白い。気温が下がってきた。

店の前の舗道を掃除していた店員に事情を説明すると裏口から入れてくれた。
厨房は細長く、騒がしく、暖かかった。料理人が二、三人いた。池谷は部屋の一番奥におり、熱心に魚をさばいていた。

「池谷」

戸の後ろに隠れるようにして押見は呼ぶと、右手を挙げて手招きをした。
それに気付くと、池谷は包丁を扱う手を止め、早足で押見の方へ近づいてきた。
料理人らしい真っ白な服を着ていて、押見は自分の格好とのコントラストを覚えた。
そして、どうか池谷に石があれば、それは黒色であってほしいと唐突に願った。

「どうしたの、押見さん」
「何作ってんの? まだお客さん来てないみたいだけど」

押見は質問に答えなかった。腕組みをして、さっきまで池谷が立っていた辺りを眺めた。

「仕込みだよ。今日はクリスマス直前だから、忙しくなると思うんだよ」
「ふーん……」
「聞いてくれよ。今日はいい鰆が入ってさあ」
「またその話? 言っとくけど、お前が思ってるほど魚って面白くないから」
「それは押見さんが鰆の事を知らないからだって! それにそれだけじゃなくて。クリスマスは鶏肉ばっかりちやほやされるけど、魚料理もまた乙なんだよ」
「別にちやほやはしてないでしょ」

押見は自分の脈の音を聞いた。それはだんだん大きくなってくる。
押見の目は料理人としての池谷を見た。押見の耳はクリスマスという単語を聞いた。
その時、押見は、世界は途方もなく広がっているという事――つまり、芸人どうしの世界、
さらに言えば、石を巡る戦いの周りにある世界なんて、吹けば飛ぶような小さい世界ではないかと思えてきたのだ。
そして次に浮かんできたのが、羞恥心――M-1の結果に落ち込んだ自分や、反動ででもあるかのように石を歓喜した自分、
静止のきかない妄想の末、練り上げた計画――それら全てをもう一人の自分が俯瞰し、あざけった。

押見は前を向けなかった。じっとりと汗をかいてうつむくと、床が鏡のように反射して赤くなった顔が見えた。

「押見さん? 具合、悪いの?」

前触れもなく黙った押見を案じて、池谷が声をかける。
また押見は返事をしない。深呼吸をして、池谷と目を合わせた。

「頭冷やしてくる。邪魔して、ごめん」

引き止めて何か言おうとする池谷を放り出すと、押見は店を駆け出た。

633 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:05:32
気が付くと人気の無い川べりまで来ていた。精一杯走ったものだから息が上がっていた。
川は東から西に向かって流れていて、下流を見やると黄金色に輝く夕日が映った。
押見は泣き出したかった。何もかもが虚しいものに思えた。
自分が笑いに対して抱く感情や、石を使う事に関する憧れ、果ては存在意義まで、明瞭なものは一つもなかった。
乱れた呼吸を押しとどめようともせずに、押見はコートのポケットをまさぐった。
尖った石の先が、押見の指を傷つけた。構わなかった。
震える手で乱暴に引っ張り出して、その姿を一瞬だけ確認する。
石は朱を注いだように光っていた。

左目の端から涙が零れた。押見は石を持ったまま、水面を見据え、右腕を大きく振りかぶった。


手首を冷たい感触が襲う。

「捨てる位なら譲って下さい」


押見の背筋が凍りついた。横目で見ると、何物かが自分の手首を掴んでいた。来訪者の姿は見えなかった。
恐ろしくなって振りほどこうとしたが、強く握り締められていてなかなか自由にならない。

「いぃっ! 嫌だあっっ!」

絶叫し、身体を大きくよじって身をかわした。とっさにあいた方の手で突き飛ばすと、不意をつかれた男は尻餅をうった。
押見の奥歯がカチカチうち合わさった。男は自分より若く見えたが、目は空ろで、倒れた時も、立ち上がる時も、視線を押見から離さなかった。
さては黒のユニットの手先か。
本能的な恐怖にあてられた押見はようやく、自分が巻き込まれた戦いの壮大さを悟った。

男が一歩、また一歩、押見の傍へ近寄ってくる。
その時間は、押見にとって、尋常ではない長さに感じられた。

「来るな、来るな、来るなあっ!」

押見は石を体の前にかざし、身を守るように振り回した。
だが、男がダメージを受けた様子はまるでない。
心臓が爆発したように感じられて、気が遠くなっていく。もう駄目だ、と、焦る気持ちの中絶望した。

馬鹿だなあ、意味の無いうたを唱えないと。

そう、くすぐるように呟いたのは、分析的な自分だった。
突然の忠告に押見は当惑したが、すがるとすればこの言葉しかなかった。


「分かってるけど困っちゃうなあ、いつかは仔猫が帰ってくるさ」


適当に思いついた言葉を、呼吸音と勘違いしそうなほど小さな声で囁きながら、
押見は牙のような石を持ち、切り裂くつもりで振り払った。

男が歩みを止め、苦しそうに頭をかかえたのが見えた。
だが、押見はもう限界だった。
深い呼吸が出来ない。頭の片側が割れるように痛む。警報音のような高い音が聞こえて、今にも鼓膜が破れそうだ。
全部吐きたい。目の前が真っ暗になる。どうして、ここに立っているのか分からない。
思わず後ずさりすると、背後が土手になっていた。
息が苦しい。この川に飛び込んでやろうか。今の押見には、主観的で愚かな自分しか残っていなかった。
力の抜けた手から石を落とすと、少し気が楽になった。

634 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:05:57
情緒不安定な押見の様子が気になって、あの後池谷は店を出た。
勘と聞き込みを頼りにようやく探し当てた押見は、しゃがんで憔悴した男を背にして川べりに立ち、淀んだ目で水面を見ていた。
ぱっと見ではよく分からない状況だったが、押見が正気で無い事だけは誰が見ても確かだった。

池谷は押見の元へ走った。
そして、持てる力の全てを込めて、押見のコートの首根っこを掴むと、思いっきり引き落とした。
ほぼ惰性で立っていた押見は簡単に倒れると、そのまま意識を失った。

次に池谷は男の傍へ駆け寄った。
そして、手に持った、黒地に白い星が散りばめられた蜻蛉玉を指先で撫でると、男の両目を力強く覗き込んだ。
しばらくすると男は生気を取り戻し、きょとんとして、何気なく横になったままの押見を見た。
少しの沈黙の後、男は池谷を振り払って立ち上がり、一目散に走り去った。

「じゃあ、帰ろうか、押見さん」

池谷は暖かい溜息を一つつくと、安らかに呼吸する押見の身体を持ち上げ、来た道を引き返していった。


押見泰憲(犬の心)
ドッグトゥースカルサイト(犬歯型のカルサイト、サイキックな手術に使われる強力な石)
能力 石を手に持って切り裂くような動作をすることによって相手の精神力を削り取り、神経不安を呼び起こす。相手の精神を大きく傷つけることがあり、不安定な能力。
条件 使用している間は、意味の無いうたを唱え続けなければならない。また、能力の反動で自分自身が混乱することもある。


池谷賢二(犬の心)
星柄の蜻蛉玉(依存心を払う・多種多様)
能力 不安や混乱で判断力を失った相手を立ち直らせ、冷静な状態に戻す。また鎮静効果もあり、激情した相手や号泣している相手を鎮めることもできる。
条件 相手が池谷と三秒以上目を合わせること。



以上で終りです。乱文・長文失礼しました。
M-1の行われた12月23日の設定で書いています(本当はhypeをやっているはずなのですが)
気が付いたら暴走して、しかもかなり会話が少なくなってしまったと反省しております……
口調や雰囲気は∞一部でのトークを参考にしました。
未熟な点、見苦しい点など多いかと思いますが、皆様の意見を取り入れて、少しでも読むに堪えうる作品にしたいと思います。
添削宜しくお願いいたします。

635 ◆8Ke0JvodNc:2007/12/27(木) 02:53:57
>>627
>>628
米おそくなりました、そう言ってもらえて嬉しかったです。
ありがとうございました。
もう本スレには投下しましたが、続きも今執筆中です。

>>634
乙です、同じ読み専だったとは思えない心理描写の巧みさ。
ぐっと引きこまれました。犬の心好きなのもあり、続きが楽しみです。
本スレ行って大丈夫だと思いますよ。

636 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/27(木) 15:31:10
>>635
ありがたいお言葉感謝します。
635さんのラバーガール編も続きを楽しみにしています。

本スレを盛り上げていけるように、
少しでも尽力したいと思います。
635さんも頑張ってください。

637名無しさん:2008/06/23(月) 23:18:48
本スレの>>71に書き込んだ者です

リチャホ編の話が気になりすぎて続きを書きそうになっているのですが、私は作者さん本人ではありません
もし作者さんが見てくださっているなら「やめてくれ」「別にどっちでもいい」などご意見ください
もし作者さんからのお返事がいただけなければ、ここの住人さんにご意見を伺いたいと思い書き込ませていただきました

スレ違いでしたら、廃棄の方に投下いたします

638名無しさん:2008/06/24(火) 01:12:17
問題ないと思う
あの話のオチ見たかったし、個人的に期待しております

639名無しさん:2008/06/24(火) 21:23:34
自分もいいと思います

640本71現637:2008/06/25(水) 19:45:12
ご意見ありがとうございます
ただし皆さんのご期待に添える形になるかは自信がありませんが…
もしかしたら作者さんがいらっしゃるかもしれないので、一応来週まで待ってみます

641名無しさん:2008/06/27(金) 00:10:59
楽しみにしてるノシ

642本71現637:2008/07/06(日) 02:03:57
こんばんは
とりあえず今日からぼちぼちと、かなりのスローペースで投下していこうと思います
展開に無理があったり矛盾があったりする場合、厳しくも愛のあるご指摘をよろしくお願いいたします

作者さんの了承を得ることが出来なさそうなので残念です…

643本71現637:2008/07/06(日) 02:12:11
人は、失って初めて、ものの大切さを知る、というけれど。
ならば「奪う」ということは、案外「教える」行為に通じるところがあるのかもしれない。
だからといって、「白」の連中に石や相方の大切さを教えて回る気など、毛頭ないわけで。


状況に反して哲学的な思想が浮かび、柴田は右手で頭を乱暴に掻きむしった。
今、彼は土田の楽屋にいる。苛立ちながら、忙しく部屋中を歩き回っていた。
というのも、本来なら同局の屋上で矢作が転落死するのを見届けているはずだったのだ。
しかし、予定外の土田の登場に加え、階下からは「白」の奴らのやって来る、気配。
さすがにその場に留まれなくなった柴田は、土田の能力―瞬間移動―に助けられ、窮地を脱することができたのだった。
…おそらく、矢作は死んでいない。局内の平和な静寂が破られていないからだ。

「まあ落ち着けって、」淡々とした声にたしなめられた。土田だ。ゆったりとソファに腰掛けている。
「お前さ、焦りすぎだよ。別に殺す必要はないじゃんか。大体、矢作さんは白じゃないんだし」
「何言ってんだよ。甘ぇぞあんた、」
すかさず柴田が噛み付く。とはいえ、今の柴田は、柴田であって柴田でなかった。
つまり、黒い欠片に思考を乗っ取られている状態であり、彼自身の健康的な意識は闇に沈んでいたので。
「白かどうかは関係ねえよ。黒じゃない時点でそいつは敵だ!敵は居ないに限るだろ」
「…短絡的だな」
「お前らが慎重すぎなんだ、くそ!」
依然として鼻息荒く歩き回っている後輩に、土田は溜め息を吐いて。
「慎重にもなるって。死人が出たりして、事が表沙汰になったら、色々と面倒だろ?」
そんな“シナリオ”、今は組み込まれてないんだぞ。
そう付け足す。幹部の意思をほのめかされて、多少頭が冷えた柴田は、ようやくその足を止めた。
「…じゃあ、ほっとけっていうのかよ、このまま」
不満をあらわにして土田を睨みつける。せっかく精神の極限まで追い詰めた獲物を諦めることなど、まっぴら御免だったので。
「いいか、矢作さんに限らず、白の奴らにだってそうだ。俺たち黒は、別に殺しが目的なんじゃあない。石だ。奴らの石を奪って無力化させること。
それだけに心血を注げばいい。もちろん、『シナリオ』に注意しながらな」
そう宥める先輩の向かいにあるソファに腰を下ろして、口を尖らせる。
「白の奴らの石だけを、かよ?」
すると、

「…白かどうかは関係ねえよ。黒じゃない時点でそいつは敵だ。敵は居ないに限るだろ」

聞いた台詞を吐き、土田はにやりと笑んでみせた。
どっちが短絡的だよ、と柴田も苦笑を返した。

644本71現637:2008/07/07(月) 00:48:00
「大丈夫?大丈夫、矢作さん?」
山崎は、地面にうずくまって咳き込んでいる弱々しい先輩の背中をさすってやっていた。
「ちょっと山崎君、俺の心配もしてよ」
「小木さんは大丈夫でしょ、ピンピンしてんじゃん」
同じく隣でへたり込み不平を漏らす大きな先輩を軽くあしらい、右手を休めないまま夜空を仰ぐ。
屋上までは相当な高さがあり、てっぺんは闇にかき消されて見えない。すぐに首が痛くなった。
(あんな高いところ、仕事でだって飛び降りられないや)
心で呟き、目線を先輩たちに戻す。どちらも疲労しきった様子だ。
その二人の後ろには、巨大なトランポリンが頼もしく佇んでいた。


あの時。
後藤の能力が及ばず、小木と矢作の落下速度が元に戻り始めていた、あの時。
山崎は、携帯片手にスタジオを奔走していた。
電話の相手は、渡部。彼に指示されるまま、訳も分からず目的地に向かっていたのだ。
詳細は分からなくても、受話器越しに事の重大さは伝わってくる。
そうして着いた場所は、局の外。冷たい夜風。
上空からは、今まさに後藤の力が届かなくなる寸前だったおぎやはぎの影。――その事実は知らなくても、今自分のすべきことは理解できたので。
静かに携帯を切り、息を吸い込むと、
「あんたらはアレだ、飛び上がって死ね!!」
この場に適した「キーワード」を、大声で叫ぶ。次の瞬間、人影の真下のアスファルトに大きなトランポリンが出現して。
待ち構えていた丈夫な布に無事着地した二つの影は、それぞれ反動で何度か跳ね上がる。
走り寄る山崎がその影の正体を確認できる距離にまで達したときには、すっかり反動も落ち着いていて。
トランポリンの上には、憔悴しきった様子で横たわる矢作と、味わった恐怖を取り乱しながら訴えてくる小木。


そうして今に至る、というわけだ。
「矢作、歩ける?」
小木が立ち上がり、相方に手を伸べる。だが、彼自身もまだ落下の際の恐怖を拭い去れていないようで。
「いや膝大爆笑じゃないすか、小木さん」と山崎がツッコミを入れる。
「…うるさいなもー!本当に怖かったんだって!」
「っつか紐なしバンジーとか馬鹿でしょ!体のでかさに脳みそ追いつけてないし!」
「なんてこと言うかな!俺未熟児なのに」
「気ぃ使うわ!っつかネタじゃなかったんすか、それ?」

山崎と小木とのやりとりを見て、今まで黙りこくっていた矢作が、小さく、しかし楽しそうな笑い声を上げた。
それに気づいた二人は言い合いを止め、ほぼ同時にきょとんと矢作の方を見やった。

「…ごめんな。小木、山崎、」その真っ直ぐな瞳に、先ほどまでの怯えは微塵も無くて。
「もう二度と紐無しバンジーなんかしねえからさ、俺」
そう言って、再び俯き、笑った。

命の極限に身を置かれたことが、皮肉にも彼にとっては立ち直るための大きなきっかけになったのだ。
不安と絶望の闇が、さあっと霧散していく、感覚。


(――俺は、生きている。俺には、頼れる大事な仲間がいる。だったら、まだ他にやることがいっぱい、あるはずだ)


「矢作…、」小木からも笑みがこぼれる。「よかった、“いつもの”矢作だ」

「…えー、矢作さんって普段こんな悟ったみたいな人でしたっけ?」
「そのテの感想は俺がいないときに言ってくれよ」
異議を唱える山崎に、淡々と矢作がツッコんで。今度は三人同時に、笑い声を上げた。

645本71現637:2008/07/08(火) 00:34:55
目を閉じる。

自分は独りじゃないという安堵感。
自分は生きているという充実感。

矢作の胸の中が、そういった前向きな感情に満たされているのを確認すると、渡部はほっと胸を撫で下ろし目を開けた。

「同調」が解除され、自分の感覚に素早く切り替わる。
彼は今、スタジオの倉庫前に立っていた。この時間帯は人通りがない場所なのだが、しかし油断はできない。
力を使っている間は、全くの無防備状態なので。「矢作を自殺寸前にまで追い込んだ人物」が、いつ現れるか分からないので。
その「人物」にはプロテクタのようなものが掛かっていて、同調で動向を探ることが困難なので。

――先ほども柴田に同調を試みたが、やはり普段より体力の消耗が激しく、うまくいかない。
ただ、証拠としてはその事実だけで十分なので。(信じたくは、ないけれど。)


自分の能力が戦闘向きでないことを、渡部は承知していた。
できることといえば、予め敵の思考を読み取り、危機を回避すること。あるいは、いち早く仲間のピンチに気付き、他の仲間に助けを求めること。
ちなみに、あの時山崎に向かうよう指示した場所は、矢作を含む現場の芸人たちに素早く同調し、それぞれの視覚が認識している風景から割り出した予想落下地点だった。
幾分ゆっくりだったとはいえ、落ちる感覚には肝が冷えた。「仕事でも無理だ」、という山崎の思考に全く同意する。

…自分の能力では、それぐらいしかできない。攻撃することはできないし、急な襲撃にあった時には「同調」する暇すらない。
肝心の「思考」まで精確に読み取るためには、最低でも5秒は同調できないと意味がないのだ。
ほんの0.5秒の判断が命取りになる戦闘において、それはあまりに痛い。

(俺にできること。事前に敵を予測して“常に”見張りつつ、仲間に危険が及んでいないか“常に”確かめること)

そう、これはあくまで理想論。そんなことを“常に”行なっていれば、己の身がもたない。
今自分が倒れてしまっては、じわじわと侵食するように迫り来る危険を、誰が察知できるというのだ。


無理をするのと責任を果たすこととは、絶対に違う。
でも。いつか無理をしてでも責任を果たさなきゃいけない日が来る。これは予感でなく確信だった。

今はまだ、立っていなければ。


その思考の一瞬後に、携帯のバイブ音が鳴り響いた。画面には、さっき自分が呼び出した山崎の名前。
軽く深呼吸し、気持ちを切り替える。ともあれ、矢作は助かったのだ。改めて心の底から歓喜が湧き上がってくる。

「…おう、よかったよー間に合って!ありがとな、お疲れさん」開口一番、後輩を労ってやる。
『はい!…って何で知っ…?ああそうか、“使った”んすね!』
受話器の向こうで山崎の声が感情豊かに移り変わっている。
『えっと、一応報告しときますけど、矢作さんも小木さんも、二人とも無事ですよ!』
「本当ありがと。今まだ外だよな?三人で俺の楽屋向かって。児嶋居るし」
『え?』
「ほら、“飴”だよ。みんな疲れてるみたいだし、一個食べるだけで大分違うぜ」
『…はいっ、あざっす!』
心の底から嬉しそうな後輩の返事に、渡部は思わず笑みをこぼした。

ある日ビッキーズの須知がくれた、体力回復効果のあるキャンディ。(自家製、らしい。)
彼らは芸人としての活動を辞めてしまったが、今も白の味方で、時々飴を送ってくれている。
黒に知られてしまうと危険に巻き込んでしまう可能性があるので、飴は白を代表して児嶋のもとに送られることになっていたのだ。
これは白の中心ユニットの中で最も影が薄いから、という理由の人選で、当の児嶋はそうとも知らず得意げにしている。

『あ、渡部さんは今どこです?今後のこととか色々相談したいんすけど』
「4階の倉庫前。…分かった、俺も戻るわ。楽屋で会おうぜ」
じゃあ後でな、と短く添えると、電話を切った。正直なところ、渡部自身もこれ以上は“飴”がないと限界だった。

「――『今後のこと』、か」
山崎の言った一言を、噛み締める。
きっと彼は知らない。矢作を追い詰めたその「人物」の正体を。
きっと小木も、他の仲間たちも、誰も知らないだろう。

――そして、きっとそのほうがいい。
世の中には皆で背負った方が良いものとそうでないものとが、あるから。知ってんだ、俺。


もう一度だけ柴田に同調してみようと目を閉じたが、やはり激しい眩暈がしたので、やめた。

646名無しさん:2008/07/08(火) 07:07:37
オパール編続き読みたかったので、乙です!
でも、ちょっと気になる部分が。

>>645で、ビッキーズの描写がありましたが、オパール編は
2004年〜05年あたりの話、という設定なので、
ビッキーズが07年に解散したのと矛盾してるな、と思いました。

なんだか口やかましくてすみません…。
でも「芸人の活動を辞めてしまったが」という描写を抜かせば大丈夫だと思いますよ。

647名無しさん:2008/07/08(火) 07:09:01
>>646ミスです。

×芸人の
○芸人としての

648本71現637:2008/07/08(火) 10:39:27
>>646
的確なご指摘ありがとうございます
時系列を今と完全に混同してしまっていました
おっしゃるとおり「芸人としての〜」のフレーズはカットします、すみません

そして全体的につじつまを合わせようと必死すぎて中身が疎かになっていないか心配です…

649本71現637:2008/07/15(火) 12:07:34
「おい、もういいよ。これ以上無理すんなって」
真剣な表情でそう言う有田に肩を借りながら、上田は黙って屋上のドアを見つめている。
一陣の夜風が、二人の髪をゆらりと駆けた。

先ほど山崎から有田に着信があり、小木と矢作の無事が分かった時、屋上は歓喜に沸いた。
その後、後藤も上田も力を使いすぎているので、一旦全員楽屋に戻ろうという流れになったのだけれど。(実際、岩尾と後藤は既に下へ降りていた。)

「みんな無事だったんだから、今日はもういいじゃん、な?」
もう一度宥める。相変わらず上田の目はじっとドアを見据えていて。
左半身に相方の重みを感じながら、有田は溜め息をついた。

また“使う”気なんだ、というのはすぐ分かった。
ここに駆けつける際、既に上田は石を使用している。それも、通常の比にならない激痛と引き換えに。
だからこそ、彼は今、一人では立つこともままならない状態だった。ダメージは、まだ確実に残っているのだ。

「――俺は、見たんだ、記憶の中で、あいつを、」
うわごとのように、上田が呟く。「さっきまでは、ここに、居たはず、なんだ」
「…そうとは限らねえだろ」
「有田…もし俺があいつなら、矢作が死ぬとこ、見たいと、思うよ、この目で」
「やめろよ、そういうの」
「自分で、追い詰めた、獲物だしな。それに、本当に死ぬか、どうか、見張らないと、不安だ」
「……」

そんなことは、有田にだって分かっていた。あいつは、――柴田は、確実に屋上に居たはずだ。
しかし。
例の激痛は柴田に関する記憶を探ったときに襲い掛かるようだった。
大げさでなく、これ以上痛みが蓄積したら、本当に命に関わるだろう。

「…馬鹿じゃないんだからさ、頭冷やせよ、なあ。それで死んでちゃあ意味無いだろって」
あえて厳しい口調で返す。何としても、今上田に力を使わせてはいけない。そう思った。

「――えー、皆さんご存知でしょうか、」
「…やめろっつってんだろ!」
発動条件である薀蓄を語ろうとした上田の胸倉を引っつかむ。
たったそれだけの動きで、上田は酷く痛そうに呻き、顔をしかめた。
「ほら見ろ、そんな体でもつわけねえだろ」
「……覚悟は、してる」
「そんなに死にたいのかよ」
「後悔、したくない、だけだ」
その真っ直ぐな目を見て、有田は返す言葉に詰まってしまった。
こうなると、頑固な上田はてこでも動かないのだ。
溜め息を吐き、しかし最終手段を決意した有田は、相方を掴んでいた手をそうっと離した。
ゆっくりその場にひざまづいた上田に向かって、自分の石をかざして。

「じゃ、俺もお前に使うけど、いいか」

予想外の展開だったのか、上田は目を丸くしている。
明らかにさっきまでの勢いが萎れていくのが見て取れたので、有田は石をしまうと、
「…独りでやるのは、漫才とは呼ばないよ」
歯を食いしばって俯いている相方に、そう言った。

650本71現637:2008/08/17(日) 13:52:45
諸事情によりパソコンを開けない日々が続き、大変長い空白になってしまいました…ごめんなさい
続きをまた少しずつ投下していきたいと思っていますが、ひき続き矛盾点等のご指摘をよろしくお願いします

651本71現637:2008/08/17(日) 14:00:16
しかも急ぐあまり下げ忘れてしまい重ね重ね申し訳ありません
次回から気をつけますorz

652本71現637:2008/08/17(日) 14:04:43
前ぶれなく楽屋の扉が開いた。
「おっす、大変そうだね」
まもなく設楽が軽い調子で入ってきた。真剣な面持ちの小林がその後ろに続く。
土田と柴田は会話を止め、そちらを見やった。
そのままどっかりと隣に腰を下ろす設楽に、土田は表情も変えずに「早かったな」とだけ言った。

柴田は「いつの間に連絡したんだ」と聞こうとして、やめた。幹部3人がここに居るという事実は、どのみち変わらない。

「まあね、ちょうど近くまで来てたし。いやー、たまたま小林も一緒だったからさ、」
「設楽さん。そんなことより…」
小林が厳しい口調で諫める。彼としては早く本題に入りたいようで。(ちなみに彼はソファーの横にしゃんと立ったままだった。)
はいはい、と面倒くさそうに頭を掻くと、設楽は呆然と突っ立っている柴田をちらりと見上げた。
「やってくれるよなぁ。お前が派手に暴れてくれたおかげで、シナリオ狂っちゃったんだけど」
「…何だよ、俺のせいだってのかよ」
と柴田。突然の展開に戸惑いながらも、媚びる様子のない強気な口調だった。
「シナリオ上、矢作さんは『心労による入院』になるはずだった、」淡々と小林が言葉を紡ぐ。
「自殺を図るまでに追い詰めたせいで、シナリオが本来のものとズレ始めているんだ」
「知ったことかよ。俺はこいつの悪意を増幅させただけだぜ。俺のやり方にケチつけるってのかよ」
「っていうかさ、」
突然土田が口を開いた。皆の視線が集まる。
「もう限界なんじゃないの、あんた」
そう言って、柴田の胸――Tシャツの下にあるファイアオパール――を指差した。
「それってどういうこと?」動じる様子もなく、設楽が尋ねた。

「亀裂が入ってる。多分、『石』自身の悪意が強すぎて、持ち主の柴田が耐え切れてないんじゃないの」

653本71現637:2008/08/17(日) 14:10:14
土田の言葉を聞いて、柴田の顔色が変わる。
「馬鹿な…」
「ああ、やっぱり気づいてなかったんだ、」土田は尚も続ける。
「多分さ、柴田は根が良い奴すぎるんだよ。普段抱かない感情を無理やり、それも急激に増幅させられたせいで、予想以上に暴走してる。
真っ直ぐすぎる性格ってのも相まって、あんたの影響もろに受けすぎちゃってんだと思うけど」
柴田は悔しさに身を震わせながら下を向いた。その邪悪に満ちた眼は、本来の柴田には似つかわしくなく、無理やりはめ込まれた宝石のようだった。
「…このままじゃ、もたないんじゃない?あんたも、持ち主も」
追い討ちをかけるような一言に、柴田は弾かれたように顔を上げた。
「ふざけるな!6年前の復讐を果たすまで、消えてたまるか!」

土田、設楽、小林の三人に緊張が走った。楽屋には奇妙な沈黙が、流れる。

「――『ミサの日』のことか?」
ようやく口を開いたのは、土田だった。
「はっ、愚問だな、」怒りの色の混じった声で、柴田。
「『俺』はお前らなんかよりずっと鮮明に覚えてるんだぜ。まあ、なのに何でコイツが何にも覚えてないのか甚だ疑問だがな」
コイツ、とはファイアオパールの持ち主である柴田自身を指す言葉だった。


6年前に起こった事件。白と黒とが一旦“ミサ(解散)”を余儀なくされた、あの事件。
ほとんどの芸人はその日を境に石に関する記憶を全て失っているのだが、完全には忘れていない者たちも一部おり、はたして黒の幹部3人はその中に含まれる。
彼ら3人の記憶は他の者たちに比べると色濃いものだったが、しかしそれでも断片的で漠然としたものでしかなかった。

(やっぱり、無機物の方が記憶を刻むのには適しているんだろうか)
詩人じみた考えを浮かべ、しかし小林はすぐにそれを脳の片隅に追いやった。今思考すべきことではない、と。

654本71現637:2008/08/17(日) 14:13:50
―驚くね、お前がそこまで執着してたとは。
土田の石・ブラックオパールが、ここで初めて言葉を発した。
「…ともかく、コイツには死なれちゃ困るんだよ。俺まで消えちまう。なあ、なんとかならねえのか?」
柴田、いや正確には柴田の体を借りたファイアオパールは、いつの間にか弱気な口調になり始めていた。
「そう焦んなよ。要は、お前が暴れすぎなきゃいいだけじゃん、」
相変わらず軽い調子で設楽が宥める。
「俺たちは『白を潰す』って目的が一致してるんだからさ。もっと仲良くやろうぜ」

「…君の目的を中心に置いたシナリオを書くよ。それで問題ないんじゃないかな」
小林が穏やかな口調で提案した。言いながら横目でちらりと設楽、土田の顔を窺う。
「ああ、俺ならいーよ、」と設楽。「じゃさ、ついでに前のシナリオで達成できなかった辺りとかクリアできない?」
「分かりません。ただ、どちらも叶えるとなると、それなりに複雑なものになってしまうかと」
「要は失敗しやすくなるってことでしょ?」土田が口を挟む。
「その確率は多少上がることに…どうします、どちらかの確実な成功を取るか、一気に2つ片付ける賭けに出るか」

「後者だろ」
冷静な声は、意外にも柴田だった。
「上手くいくときはいくし、いかないときは何やっても上手くいかねえんだよ。確率なんざ問題じゃねえ。
ただ言えるのは、あんたのシナリオで上手くいかないなら、俺は何をやったってどっちみち消える運命にあるってことだ」

「…いいね、そーいうの」
少しの間を経て、設楽が楽しそうに笑った。
「オーケイ、決まりな。賭けに出ようぜ。失敗したら、そういう運命なんだよ」
「でも…」
小林は何か言いたげな様子だった。堅実に事を進めたい彼としては、危険な橋は渡りたくなかったので。
「俺もいいよ、後者で」
土田もそう言って手をひらひらやった。早くやってくれ、と言わんばかりに。
3人をそれぞれ見つめた後、小林は胸ポケットから手帳とボールペンを取り出した。
「…失敗しても俺のせいにしないでくださいよ?」
不満げに呟いた小林に、「そんなことするわけないじゃん、したことあった?今まで」と設楽。

しれっとしたその様子を見て、どの口が、と言い掛けるが、ともあれ彼はボールペンを1回、ノックした。

655カンナ:2013/03/15(金) 13:40:15
ekt663D/rEさんの邪悪石編の続き書かせていただきました。
及ばないところもありますが、ご容赦ください。
まだ途中ですが、添削よろしくお願いします。



【23:12 都内・居酒屋】
その気配に最初に気づいたのは誰だったのか。今となっては知る術もないが、島田が『それ』を察したときにはまだ居酒屋に変化はなかった。
手にしていたグラスを置き、代わりに白珊瑚を取り出す。肝試しと宴会で得た高揚感はもう、完全に吹き飛んでいる。
急に黙り込んで石まで取り出した後輩に、日村が心配げに声をかけた。

「ど、どうした島田?」
「・・・日村さん、気づきません?」
「は、」
何のこと。そう思ったのだろう、そして実際そう言いかけたのだろう日村の口は、言葉を発する前に動かなくなる。口だけではない。ぴたりと音が聞こえそうなほど、すべての行動が一度に停止した。唯一、島田の奇行に訝しげに細まっていた瞳が、大きく見開かれる。
開いたままだった口から、『それ』の正体が漏れる。
「・・・これ、石?」

656カンナ:2013/03/15(金) 13:40:45

そう、『それ』は知らない石の気配だった。が、気配を感じること自体は別に大したことじゃない。強い力を持った石が近くで発動すると、石の使い手はそれを察知する。姿も見えないような距離から気配がわかるほど強力な石は珍しいものの、全く存在しない訳ではない。過去の号泣の行動指針上、強力な石は幾つも見てきただろう。それは敵のものだった時もあれば味方のものだった時もあり。石を持ちたての若手ならばともかく、いくつもの修羅場を潜ってきた彼らはちょっとやそっとのことじゃ動揺しない度胸が身についていた。
しかし、『それ』は明らかに今までの石とは毛色が違う。悪意なんて言葉じゃ生温い。まるで全てを憎み、破壊するためだけが生きがいだとでも言うような、身も竦むような負の感情に溢れている。

「分かりましたか?」
「お、おう。でも、え、え、なにこれ?え!?」
「いや僕が聞きたいぐらいですよそんなの!日村さん心当たり無いですか!?」
「ないないないない!え、つーかこれやばくね?」
一転、焦り丸出しの表情で泣きつく島田と、それに感化されたか一緒ぐらい慌てる日村。周囲からの不思議そうな視線に気づく様子もなく、わたわたと話し始めた。

657名無しさん:2013/03/15(金) 20:45:09
おお、乙です!それでこちらからの注釈ですが、

職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
 <トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>

をやっていただく事をお勧めします
あと小説のタイトルも(この話は『Phantom in August』ですね)名前欄などに入れていただけると
後の方が読みやすくなるかと このスレや廃棄小説スレの書き込みとか、参考にしてくださいませ
まあ他人の話の続き書かれてる方はすぐ上の「本71現637」さんもいる事だし、これによって
またここが盛り上がるといいなあ
あともう一つ、依頼スレの内容、また見ていただけますかね?あれからいろいろ見てて時間軸の
把握とか変化がありましたので、X−GUNについては章内での土田に近い感じで「過去の記憶を
取り戻したキャブラー大戦経験者」といった描写をそれとなく(名前を伏せるのも可)織り込むように
していただけるとありがたいです

658 ◆u.6gZGoSVk:2013/03/16(土) 21:50:53
書き込み途切れちゃってすみません。フリーズしてました。
>>653さん、まだ途中だったのにありがとうございます。トリップってこういうことでしょうか?
何かしらの反応もらえたのがすごく嬉しいです。

ちょと手違いで書いてた小説消してしまったので、しばらく書き直そうとしてましたが
まだちょっとかかりそうです。中途半端なところですみません。

659名無しさん:2013/03/17(日) 14:38:29
ああ、トリップはそれでいいですよー
なんかいろいろ大変なようだけど頑張ってくださいませ
んで、自分も今から短編投下しちゃいます
小沢さんが石を拾った時の、スピワ編のプロローグ的話で
タイトルは「仮面ライダーウィザード」の「指輪の魔法使い」を踏まえてたり

660青い石の魔法使い:2013/03/17(日) 14:40:37
時は2004年5月。
とあるテレビ局の楽屋で、一組の若手芸人コンビが次の番組出演に備えている所だった。
そのコンビの名はスピードワゴン。前々年のM−1グランプリ2002で、敗者復活枠で決勝に
進んだ事がきっかけで頭角を現し、今や全国区の人気と知名度を持つ売れっ子の一組にまで
出世を遂げた若手の出世頭の一組である。
そんな彼らの本番前の一時、黒髪の青年―小沢一敬は、テーブルに頬杖をつきもう一方の手で
何かをつまんでひっくり返したりしながら眺めている。彼は後の石を巡る激闘において
「白ユニットの作戦参謀」と称され数々の活躍をする事になるのだが、それはまた後々の話。
彼の手の中にあるそれは、わずかに緑がかった青い透き通った石。その石を、彼は先刻から
指で弄びつつ飽きもせずに眺めているのだった。
そんな様子に、傍らで雑誌か何かを読んでいた、少しくすんだ色の金髪をトサカのように立てた
青年―井戸田潤が声をかける。彼もまた、後の石を巡る激闘で常に白ユニットの先頭に
立って数々の活躍をする事になる者である。
「さっきから何眺めてんの?ずいぶんきれいな石じゃんそれ」
「うん、これね…昨日、鞄からポロッて出てきたの。なんかきれいだから気に入っちゃって」
「ふーん。そういう物気に入るなんてなんか小沢さんらしいな」
「そう思う?」
ここで井戸田が壁の時計を見て、本を閉じつつ小沢に声をかける。
「いい時間になったし、そろそろネタ合わせすっか?」
「そうだね」
小沢は弄んでいた石を胸ポケットに入れ、井戸田と同時に立ち上がるとネタ合わせに入った。

661青い石の魔法使い:2013/03/17(日) 14:41:15
いつものように小沢が何か甘い言葉を囁いてパチンと指を鳴らし、それに井戸田が
「甘―――――――――い!」と叫ぶというネタの形式。その時小沢が口にしたのは
「君は僕の可愛い子猫ちゃんだから!」という言葉。
それに続けてパチンと指を鳴らした時、彼の胸ポケットから一瞬淡い青緑の光がこぼれた。
とここでいつもなら井戸田の「甘―――――――――い!」の叫びが入るはずなのだが、
この時は違った。小沢が指を鳴らしその胸ポケットから青緑の光がこぼれるや否や、
井戸田はいきなりその場にしゃがんで四つ足で歩き出したり手で顔をゴシゴシこすったりゴロゴロ
喉を鳴らしたりと、まるで猫のような挙動を始めたのである。
「ちょちょっと、潤 !? どうしたの !? 」
小沢が慌ててその体に手をかけて揺さぶると、井戸田は我に返ったらしくすぐに立ち上がった。
「ビックリしちゃったよもう…いきなり猫の真似なんか始めるんだもん」
「え、俺そんな事してた?」
「自分でわかんないの?何してたか」
「うん、今小沢さんが指鳴らしたろ?そしたら小沢さんのポケットが青く光って…そっから先は覚えてない」
「え、これ?」
その言葉に、小沢は胸ポケットからかの青い石を取り出す。しばらくの間何か考え込むような
表情で石を眺めていたが、やがておもむろに鏡の前に置かれた生け花の花瓶に指を向け、一連の
動作をやってみる。
「ミツバチが、君を花と間違えて集まってきちゃうだろ?」
すると指を鳴らす音と同時に手の中の石が青緑の光を発し、さらにどこからかミツバチの群れが
飛んできて花に群がり始めた。その光景に、2人は目を丸くする。

662青い石の魔法使い:2013/03/17(日) 14:48:10
「おおお !? 」
「何これ !? 何これ !? 」
続けてまた少し考え込んだ後、小沢が目をつけたのはテーブルの隅に置かれた灰皿。それに向けて
「君を手に入れる事によって一生分の運を使ってしまったんだから!」と一言発しつつ指を鳴らすと、
灰皿は青緑色の輝きに包まれてその場から消え、次の瞬間には小沢の手元にあった。
「うわ !? 」
また驚きの声を上げる井戸田の隣で、小沢は手の中の石と井戸田の顔を何度も交互に見ながら言う。
「ねえねえ潤、すごいよこれ!俺魔法使いになっちゃったかも !? この石のおかげで!」
その時の小沢の表情は、目を輝かせ無邪気な子供がはしゃぐようだった。
どうやらこの青い石には、口にした言葉を何らかの形で具現化させる力があるようなのだ。
「ああ、小沢さんそういうの好きだからねー。魔法とかファンタジーとか」
苦笑いを浮かべる井戸田の横で、小沢はこの不思議な石を手にしたまま楽しげにはしゃいでいる。
「ああそうだ、はしゃぐのもいいけどネタ合わせ…」
「あ、そうだね忘れてた」
「それと、本番の時はその石、置いてかなきゃな」
「あーそうだ、確かに」
そんな楽しげな会話が繰り広げられる楽屋の光景。

この不思議な石が後に彼ら2人を過酷な戦いに誘う物である事を、彼らはまだ知らない―。

663名無しさん:2013/03/17(日) 14:54:52
以上です
興味のある方、感想お待ちしてます

664名無しさん:2013/03/17(日) 15:33:37
幸せそうでいいですね!小沢さんカワイイww
力に気づいた経緯がこんな平和的な感じの人って意外と少ないですよね
なんかほっこりとさせてもらいました

665名無しさん:2013/03/17(日) 15:51:54
>>664
おお、感想どうもです
潤さんの方は廃棄小説スレに途中までのとその後のプロットが出てるけど、
なんかすごく劇的な物になりそうな感じだなあ
相方が死にかけた時に目覚める力、てな感じで

666Phantom in August続き ◆u.6gZGoSVk:2013/03/22(金) 01:15:18
【22:22 渋谷・シアターD】

「っく・・・!」
背中にくらった衝撃で、平井の口から呻き声が出る。辛うじて両足を踏ん張るが
、続けざまにきた二発目、三発目にたまらず膝をついた。

「平田!後ろにも気ぃつけ!」

同じく不意打ちを受けたであろう松丘の苦しげな声に首だけ振り向くと、
彼の目に飛び込んできたのは到底認めたくないような光景だった。

「・・・嘘だろ!?」

ついさっきまで何もない殺風景な路地だった場所が、いつの間にか前方と同じく、白い球体で埋め尽くされていた。
前後左右上下どこへも動けないこの状況では、相手を止めるどころか防御すらままならない。
数メートル向こうにある大通りにもこれではいける訳もなく、退路すら完全に塞がれた形となった。

咄嗟に頭を回転させ、この状況を打開する方法を探ろうとする。
が、周囲を見渡せど、視界に入るのは目の前で無表情に立っている『白い悪意』と、彼をじっと睨みつけている松丘。
そして、相変わらずシューティングゲームのように隙間なく散らばった球体だけ。
一気にひっくり返った優位を取り戻せそうなものは何も見当たらない。
それでも彼は、僅かなものも見逃さないよう、目を皿のようにして、きっかけとなりうる何かを探してしていた。

その時、平井の思考を遮るように『白い悪意』が一歩踏み出す。
即座に構え直した二人には目もくれず、その視線は持ち主に呼応するように輝きを増した二つの石に注がれていた。

不意に口元がにぃっとつり上がる。

「おや?さっきまでの威勢はどうした?」
向けられた言葉に込もったあらかさまな侮蔑と挑発。それに気づかぬほど二人も馬鹿ではない。
が、二人がそれに反応する前に、涼しげだった表情が突然大きく歪んだ。


「・・・これだからお前らはっ!」



ここまで書いてちょっと先が思いつかなくなったので、とりあえず投稿します。
時間かかった上短くてグダグダ&特に進展もしてなくてすみません。
批評お願いします。

667眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:47:22
どうも。かつて、眠り犬と名乗っていた書き手です。
当時、リア厨だった私はトリップの付け方が分からず、最終的には逃亡してしまいました。
私の作品を呼んで下さった方全てに、申し訳ないと思っています。
まだ石スレに住人がいることを知り、自分の作品を完結させたいと思ったので、投下させて頂きます。

668眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:47:55
『ゆびきりげんまん 4』

 それは、南海キャンディーズが襲われる数日前のことだ。

 とある女性芸人が、ファンを名乗る男から一通の黒い封筒を手渡された。
 女性芸人は事務所の一室で封筒を開けたのだが。
「……何、これ……」
 女性芸人の唇からは、彼女らしくない、弱々しい声が漏れた。

 封筒に入れられていたのは、数枚の写真。撮影方法は分からないが、
『女性芸人が写っている人間を元相方だと認識出来る』写真だ。要するに、顔が映っていた。
腹部が破れた、血で濡れているTシャツ。憑依されたような、表情の無い顔。爛々と光る、翠色の瞳。
 女性芸人は、直感と石から伝わるエネルギーで、写真から事件を読み取った。
どこかの駐車場らしき場所で、元相方と、きっと、彼の今の相方も戦った。

 そのせいで、石が暴走したんだ……!

 『黒』の封筒には、日付の示された某テレビ局付近の地図が、同封されていた。

669眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:48:35
 意を決した山里の表情に、高野は気付いていた。それでも悠然と構えていられるのは、彼の石の能力と、
何より元来持ち合わせている『自信』のおかげだ。対する山里も、考え無しに高野に向かって歩いている訳ではない。
山崎と松田の戦いを自分と同じように、ただ見ていた高野の石の能力も、攻撃向きではないと確信していた。

「うおりゃあー!!」

 雄叫びを上げて、山里は全速力で駆け出す。タックルをかまして吹き飛ぶ相手ではないことは百も承知。
しかし、日本人女性として規格外の体を持つ相方の隣にいるから目立たないものの、
自分だって、決して体が小さい男ではないのだ。高野から石を奪える可能性はゼロではない。多分。
 そんな山里の行動に一番驚いたのは、もちろん山崎である。
「あのアホ、何してんねん…!」
 ただでさえピンチなのに。珍しく焦っている彼女へ、松田は石を使わずに近付いた。
「もう疲れたっしょ。石渡すの、ヤだろ。俺らもヤだったし。で、提案なんだけど『黒』に入らない?」
「断ります。私らのことナメんといて下さい」
 言うや否や、振りかざされた山崎の拳を止めるのに、松田の一言は充分過ぎた。

「山里はもうすぐ石を手放すぞ」

 渾身の体当たりを喰らい、高野はアスファルトに転ぶはめになった。腰が痛むが、余裕は崩れない。それどころか。
「サンキューな。…手間が省けた」
 厚い手が覆い被さった山里の手首を掴み、空いている手はポケットから取り出したオレンジ色の石を握る。
「ハウライトトルコを俺に――」

670眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:49:28
 スペサルタイトが橙の光を発しかけた、まさに、その瞬間だった。

「ちょっと待てーッ!!」

 女の怒号。それも、テレビでおなじみの。全ての視線は一点に注がれる。

「何やってんのかしら、松田君?」
「青木!?」

 元相方、青木さやかの登場に愕然としている隙をついて、山崎は羽ばたき、松田との距離を置く。
「どこ見てんのよ!」
 松田を睨んで言霊を放った青木は、四人の視界から姿を消した。
「……消えた…」
 山崎が呟いてから十数秒経った頃だろうか。見えない手により、山里はずるずると何メートルも
引きずられ、高野から引き剥がされた。山里を山崎の足下に置いた青木は、松田の目の前で石の力を解く。
「アンタほんっと馬鹿ね!ばーか!」
「るせぇな!一体何の話だ、バカ!」
 バカバカと怒鳴り合う元・温泉こんにゃくアクロバットショーを見て、山里がごちる。
「何なんだろう…痴話喧嘩ですか」
「男と女ってだけでそういう風に思われんのは嫌やろうな。私も嫌やねん」
「おう、悲しいけれどウチの場合そういう風に思う人はいないぜ?」
 芸人の性か。危機的状況でもジョークを忘れない南海キャンディーズである。

671眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:50:09
「石が暴走して『黒』に加担するはめになるなんて、馬鹿の極みじゃない」
 一転して、落ち着いた青木の声が、高野と松田の顔色を変えた。
「誰から何を聞いたんだ、お前」
「あら、『黒』からご丁寧に証拠の品を渡されたんだけど?」
「…何だと?」
 皆が青木に気を取られている間に、のそりと高野が起き上がった。
背後から青木へ歩み寄る。南海キャンディーズが疲労で動けないことを分かった上での行動だ。
 青木はすうっ、と大きく息を吸い込み、『黒』への宣戦布告のように、叫ぶ。
「お望み通り、私がぶっ飛ばしてやるわよ!」
「それは嫌だな」
 太い手が細い手首を掴んだ。今度こそ、橙の輝きが高野の手の中に溢れる。

「『白』の加勢を呼んだのかどうかだけ、俺に教えて」

 その能力は――『洗脳』。抗えず、青木は問いに答えていた。
「波田君に、相談した」
 中立の立場にいる人気ピン芸人の姿が、高野の脳内で忠実に描かれる。
「…波田陽区か」
 スケジュールの都合でこの場には来られなかったのだろう。波田が『白』に協力を頼んだ可能性は否めない。
「――あれ? 私…今…?」
 我に返った青木は呆然としている。高野はすぐ傍の相方の肩をぽんと叩いた。
「逃げんぞ、松田さん。糞みてえな『シナリオ』に付き合う筋合いねーわ」
「だけど!」

672眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:50:47
 作られた状況は『南海キャンディーズと加勢に来た芸人を仕留めろ』という、無茶な命令に他ならない。だが。
「指示に無いことする筋合いはねえし、ペナルティ科せられる筋合いもねえだろ」
「……それもそっか」
 幸いなことに、彼らは操り人形ではなかった。俺達が『黒』を選んでやった。少なくとも高野はそう思っている。
「ちょっと待ちなさいよ!」
 立ち去ろうとする東京ダイナマイトを呼び止める必死の声。
「青木」
 振り返った松田は、青木の心を見透かしたように言う。
「俺達がお前に手を出さないと思って一人で来たんなら、大間違いだぜ」
 大きく目を見開いて硬直する青木を見た松田と高野は、ふっと笑い、彼女とすれ違うように、歩みを進めた。

「た、助かったぁ……」
 実は青木に引きずられた辺りから腰を抜かしていた山里が、よろよろと立ち上がり、笑顔を見せる。
「青木さん、ありがとうございます!」
「私は何もしてないわよ」
 そう言った青木の表情は、苦悩に満ちていた。
「何も出来なかった」
「私らが助かったんは、間違いなく青木さんのおかげです。ありがとうございました」
 俯く先輩に、山崎も笑みを見せて、深々とお辞儀をする。
「…どういたしまして」
 山崎の言葉に救われた青木も、ようやく微笑んだ。

673眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:51:20
 収録の時刻に遅れてしまったが、不思議と怒られることはなかった。
それどころか、収録前にスタッフが「大変ですね」と言って、ペットボトルの水とタオルを手渡してきたのだ。
石を巡る芸人の戦いは、裏方の人間をも巻き込んでいる。二人は実感した。

 そして、収録後の楽屋。

「決めた」

 会話の無い楽屋で発せられた、唐突な山崎の決意表明。山里は尋ねる。
「何を?」
「あんたがまた頭のおかしいことになったら、ぶっ飛ばしてでも正気に戻したるわ」
「……それはそれは恐ろしい……」
 相方のシャドーボクシングに本気で脅えながらも、山里は笑った。
「俺は意地でも正気を保つことに決めたよ」
「小指、出し」
 言葉の意図を理解した山里は、先程とは違う種類の笑いを滲ませる。
「あら。しずちゃんにも可愛いところあるじゃない」
 言われた通りに小指を出して、山崎のそれと絡めた。

「ゆびきりげんまん」

 山里は子どもの頃を思い出していた。懐かしい。
「嘘ついたら〜♪」
「自分、何歌ってんの。気持ち悪いな」
「今の状況さ、映画とかドラマだったら結構良いシーンだよ?そのツッコミ絶対必要ないってー」
「気にせんでも、今日の出来事はノンフィクションや」

 小指と小指が、この言葉のやり取りが出来る幸せを守っていこうと、誓い合った。

674眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:51:58
登場芸人能力一覧

山ちゃん(山里亮太)
ハウライトトルコ(青く着色してトルコ石(ターコイズ)に模倣したハウライト。心を清らかにさせてくれる。
人間関係の良化、感情トラブルの回避、安全の約束。危険を察知、幸運を呼び込む)[ストラップ]
一定時間一流の追跡者(…ストーカー?)に変身し、相手に見つからず尾行/追跡できる。
解除後、使った時間分異常に悪目立ちする(周囲からやたらキモがられる)。  

しずちゃん(山崎静代)
ファイアアゲート(「情念/スムーズなアクセス」)[ペンダント]
背中から翼を生やし飛行できる。発動中は運動能力が通常の10倍となる。また、口笛で鳥を操ることもできる。
発動時には感覚が鳥に近づくため、暗闇では視力が極度に低下する。口笛使用では鳥に好かれるが、
翼が生えている時は鳥に怖がられるので、二つの能力は同時に使用できない。
パワーが少ない時に発動させると、野生動物のように暴走してしまう(数分経てば治まる)。
暴走している間の記憶は無い。

675眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:52:29
松田大輔
デマントイド(「疾走」。ダイヤモンドの光沢を放つ稀少な石。明るいグリーン)[ブレスレット]
爆発的に動作が速くなる。
走る時に使えば目にも留まらないほどの速度で走れるし、相手を殴る時に使えば威力が増す。
連続/長時間の使用後は、使った箇所が痛むのでまともに動かせなくなる。
 
ハチミツ二郎(高野二郎)
スペサルタイト(「忠実/従う心」。別名:マンダリン・ガーネット。オレンジ)
自分が言った事を相手にその通り実行させる。いわゆる洗脳。第三者が洗脳されている事を当事者に教え、
強く説得しなければ洗脳は解けない。もちろん、高野の意思で解くことも出来る。
相手の体、もしくは石に触れる事。持ち物や服は駄目。使用回数は一日一回のみ。
対象者が(黒い欠片などに)操られていても発動できる。だが、極度な興奮状態の人間には発動できない。

青木さやか
マラカイト(「危険を察知し、不思議な力で身を守る」濃いめのエメラルドグリーン)
「どこ見てんのよ!!」と相手を睨みながら叫ぶことで、自分の姿を消すことが出来る。
自分の石によって姿を見えなくするだけだったり、物理的にも存在を消したりと調節可能。
ちょっとした物理攻撃ならば衝撃や裂傷から身を守ってくれる。
言葉を発しなければ能力は発動しない。
姿を消す度合いにより、パワーの消費量が変わり眩暈がしたりする。

676眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/09(火) 17:52:48
以上です。昔の文体に近づけようとして苦労しました。
後日、東京ダイナマイトが黒に入ることになった話を投下したいと思います。

677名無しさん:2013/04/09(火) 20:45:33
>>676
おお、眠り犬さんだ
もう続きが読めないと思ってたから素直に嬉しい

相変わらず本人たちの空気感が出ていて、東ダイ青木は男前で……

とにかく乙!

678名無しさん:2013/04/09(火) 20:59:48
おおお、これはお久しぶりで!
また素敵な文章ありがとうです!せっかくだから、ここの各スレに出されている
プロットとかについて意見や感想お寄せいただけるとうれしいです
これで他の書き手さんもどんどん出てきてくれたら…
あと、石の参考になりそうな資料をいくつか…
なんでもアパタイトには感染症に対する抵抗力を強めたり心中の負の感情を
取り除く働きが、
シトリンには毒や呪いを跳ね返す働きがあるのだとか
この辺から、スピワが共に黒い欠片に拒絶反応を起こした裏づけができそうな?
あと余談だが小沢=ブルースウィートハート、井戸田=ゴールドサンシャイン
なんて通り名が浮かんでしまったw
なんかの形で話に入れたらかっこいいかも知れないw

ttp://stones.karakaraso.com/
ttp://aora.jp/gemcards.html

679眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:08:24
>>677
>>678
温かいコメントありがとうございます!

申し訳ありませんが、私が投下した話は「戦いの核心」に迫るものではないため
(要するに、他の書き手さんの議論を見るだけで、自分は何も考えていなかった)
大掛かりな展開に関してご協力出来ることは少ないと思います。すみません。

そんな奴がこんなこと書くのもなんですが、議論や設定ももちろん大切ですが、
古参新参問わず書き手に小説を書いてもらうことが何よりも大切なんじゃないかと…。
2ちゃんでスレが賑わっていた頃を思い出して、そう感じました。

とにかく、石スレが完結することを願っております。

680眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:09:03
東京ダイナマイト編を投下します。流血表現がありますので、ご注意を。

『限りなく灰色に近いブラック』

 2004年、秋、東京。会場には、集まった大勢の人間の数に相応しい、尋常ではない
緊張感が張り詰めている。M-1グランプリ予選第二回戦が、ここで行われていた。

 出番を終えたプロのコンビに、とあるアマチュアのコンビが声を掛ける。
「お疲れ様です」
 プロの――東京ダイナマイトの松田は、キャップ帽を被った見知らぬ男の声に戸惑った。
「えっと…」
「アマチュアでお笑いやってるもんです」
 帽子の男の相方の、黒縁眼鏡を掛けた男が自己紹介をした。

 事件は、ここから始まる。

「石、持ってますよね」
 心の底から面倒臭そうな顔をした高野(ハチミツ二郎)は、ふぅと溜め息を吐いた。
「だったら何。おたくらも持ってるんだろ、勘で分かる」
「俺達は、ハチミツさんと松田さんの石が欲しいんですよ」
 まるで当然のことのような口ぶりで帽子の男が言い、眼鏡の男が続ける。
「ここじゃ戦えませんし、僕の車でドライブに行きませんか」
 高野は「お前ら頭おかしい」という本音を心に留めて、相手を追い返そうとする。
「『白』とか『黒』とか俺達キョーミねえから、悪ィけど」

681眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:09:48
 今はM-1に集中したい。ユニットに所属する漫才師であっても、そう思う時期だ。
しかし、長身でやや威圧感のある高野と松田に睨まれても、中肉中背のコンビは引かなかった。
そして、帽子の男の駄目押しの一言。
「別の日に、いきなり襲われるよりはマシだと思いませんか」
「…二郎ちゃん、どーするよ」
「めんどくせえけど行くしかねェだろ、ドライブ」

 アマチュアコンビが戦いの場所に選んだのは、小さな廃ビルの地下駐車場だった。
 車から下りた四人は二対二で向かい合い、対峙する。
「ちょっと待ってて下さい」
 眼鏡の男が、石を握った拳を天高くかざした。淡い光が辺り一帯を包んで、消える。
「これで一般人はここに来ません。石持ってる人には効果無いですけど」
 帽子の男は、筆ペンとメモ帳サイズに破られた半紙を、ジャケットのポケットから取り出した。
半紙を地面に置き、筆ペンを使って『刀』と書く。かなりの達筆だ。書道が彼の特技なのだろう。
目映い光を発する半紙。次の瞬間には半紙が置いてあった所に、時代劇に出てくるような日本刀が存在していた。
今まで何度か『正当防衛の喧嘩』をしてきた東京ダイナマイトも、これには目を丸くする。
「じゃ、始めますか」
 刀を鞘から抜いた帽子の男の目は虚ろでありながらも、鋭い殺意が宿っていた。
からんと鞘が落ちる音。現実味が無さ過ぎるせいか、思わず笑ってしまう高野と松田だ。
「全然面白くないよ、そのボケ。人殺しになりたいのか?」

 問い掛ける松田に、アマチュアコンビは嬉しそうな笑みを返した。

「はい。なァ、この人達を殺したら、俺らプロの芸人になれるんだよな?」
「『手加減しなくていい』って言われたろ。殺しても、何とかしてくれるって意味だ」

682眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:10:35
 高野と松田は顔を見合わせる。恐怖や呆れるという感情を通り越して、二人は冷静になっていた。
「二郎ちゃん。ひょっとしなくても、こいつらクスリやってるよ」
「つうかアレだろ。『黒い欠片』。まァ、お前なら刀相手でも勝てるって。後は俺が言うこと聞かせっから」
「俺は少年漫画みてェなバトルするために芸人になったわけじゃねえぞ、糞ったれ」
 そう言いつつも松田が腹をくくると、腕に付けているブレスレットの石、デマントイドが光輝いた。

「うおあああ!!」
 刀を振り上げて帽子の男が走り出す。石の能力で補助された松田の足も地面を蹴る。
「う!」
 帽子の男の鳩尾に、速度を上げた肘打ちがヒットした。呻いて刀を振り下ろすが、松田が退く方が速い。
「何やってんだよ! 斬れ! 斬っちまえよ!」
「がああ!」
 眼鏡の男の声に圧されるように、帽子の男は一歩踏み出し、刀を横一線に薙ぎ払う。
デマントイドで動体視力は強化されないため、反応が少し遅れたが、松田はしゃがんでそれを躱した。
斬られた黒髪が数本、宙を舞う。地面に手を付いた松田は、帽子の男の脛に蹴りを喰らわせる。
バランスを崩した帽子の男は、そのまま硬い地面に倒れ込んだ。
「はい。お前らの負け」
 立ち上がった松田が、持ち主の手から落ちた刀を拾う。その様子を見ていた高野は、ふと思いついた。
「松田さん。そのままソレ持ち上げて『刀持って来た』って言ってみて」
 咳払いをした後、松田は『イイ声』を使い、高野の言う通りにしてみた。
「刀持って来たぞーぃ!」
「…うん。ちょっと面白えわ」
「何だよそれ」

683眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:11:23
 アマチュアコンビの心に、どろりと憎しみが満ち溢れた。本来ならば、それは憧れという感情のはずだ。
こんな時でもネタのことを考えている。石の戦いなど下らないと、一蹴するかのように、笑っている。
「「ぶっ殺してやる」」
 微かな呟きは同時だった。帽子の男が、再び取り出した筆ペンでアスファルトに文字を書き殴る。
 石の波動と人の立ち上がる気配を察した松田は、振り返ることさえ、出来なかった。

「……いっ、てぇ……」

 自分の腹から生えた銀色は、自分の赤色で濡れていて。薄れゆく意識の中で、マジかよ、と呻く。

「松田!!」

 刀を引き抜かれる激痛に耐えられるはずもなく、相方が自分の名を叫ぶ声を遠くに聞きながら、どさりと崩れ落ちた。
「松田!! オイ…返事しろ、松田!!」
「相方の命よりも、自分の命の心配をしたらどうですか?」
 『黒い欠片』で増幅された悪意に支配されている眼鏡の男は、高野に歩み寄り、小柄なナイフを突きつける。
「……死ね」

”死なせはしない”

684眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:11:47
 突然、芝居掛かったような、厳かな女の声が、高野とアマチュアコンビの脳内に響いた。
”二郎と言ったな。案ずるな。私はお前も、宿主のこの男…大輔も死なせはしない”
 声が途絶える。すると、腹部に重傷を負っているはずの松田が、刀を握り締めて、ゆらりと立ち上がった。
「てめえ、どうして…!!」
 言い掛けて、帽子の男は息を呑んだ。自分が刺した男の光彩が、翠に染まっていたからだ。
”ああ、この肉体は若くて良い。前の宿主よりも活力に満ちている”
 松田の唇が動く度、先程の女の声が周囲の脳にダイレクトに伝わる。
松田の手が自身のシャツの裾を捲り、腹部を見せた。そこにあるはずの傷が、消えていた。
”細胞の『動きを速めて』、負傷箇所を癒した。残念だったな。芸人を名乗るには未熟すぎる者達よ”
「ざけんな…たかが石コロの分際でッ…誰が未熟だぁ!!」
 帽子の男が刀を振るう。松田の体を借りたデマントイドは、いとも容易く剣撃を受け止めた。
何度も刀と刀の交わる音が駐車場に響き渡る。だがそれも長くは続かず、帽子の男の刀は弾き飛ばされた。

 そして。

「ぐあああっ!!」
 肩を斬られた帽子の男が、血の噴き出す傷口を押さえ、のたうち回る。今度は、眼鏡の男が
帽子の男の名前を叫んでいた。持ち主の気力が弱まったことで、二本の刀は消失していく。

685眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:12:21
「やめろ。やりすぎだ」
 これ以上、相方の体を使って凶行をされては堪らない。高野はデマントイドを制止する。
”何を焦っている。致命傷ではないだろう。さて、もう一人……”
「やめろっつってんだろ!!」

 主の感情に呼応して、ポケットのスペサルタイトが力強い光を放った。

 眼鏡の男がナイフを落とし、ふらふらと地面にへたりつく。高野はスペサルタイトを取り出した。
松田に視線をやると、瞳の色は日本人特有の茶色いソレに戻っていた。どうやら元に戻ったらしい。
普段は、体か石に直接触れなければ発動しないスペサルタイトが、高野の思いに応えたのだ。

”――私は、笑いに『忠実』な宿主を守る石……”

「うわっ、どうしたんだコイツ!?」
 のたうち回っているうちにトレードマークが取れてしまった帽子の男を見て、松田が驚いている。
「ていうか、俺…思いっきり刺されたよな」
 血まみれの破れたシャツと上着が、夢では無いことを物語っている。
「自力で回復したんだぞ、お前。石の力で。そんでソイツのこと斬ったんだから」
「マジ? ……全然記憶無いのが怖ぇよ…。そんなことより、救急車!」

686眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:12:55
「記憶が無いなら、画像で説明してあげるよ」

 やけに淡々とした声音に二人が振り返ると、そこにはカメラを持った男、土田晃之がいた。
「コレ、最新型なんだけど、めっちゃ高性能なんだわ。『石の研究のために持って行け』って言われてさ」
 その土田の背後にいるのは、東京ダイナマイトと親交のある、吉本興業のコンビ――。
「よう」
「災難だったな」
 ダイノジの大地と大谷だ。
「……見ない、組み合わせですね」
 高野の眉間に皺が寄った。世間話やお笑い論を交わしに来たわけではないだろう。松田が尋ねる。
「いつからいたんすか」
 土田はあっけらかんとした口調で答えた。
「君が刺された辺りから。あの状況じゃ、俺達の気配に気付かなくても不思議じゃないかな」
 そして、アマチュアコンビを見遣る。
「酷いケガさせちゃったな。こんなつもりじゃなかったんだけど」
「一般人と大差ない学生アマチュアに、石を渡した幹部さんが悪いですよね」
 大谷はそう皮肉を言うと、東京ダイナマイトの二人に真っ直ぐな眼差しを向けた。
「お前らの石、浅草キッドさんから譲り受けたんだろ。だから今まで大切に守り抜いてきた。偉いよ」

687眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:13:16
 大地の口から、高野と松田が予想もしない――いや、本当は予想していたのかもしれない――台詞が発せられる。

「なあ。二人とも、『黒のユニット』に入ってくれないか?」

 『黒』の芸人らしくない、頼りになりそうな、明るい微笑みを、大地は携えていた。
「強力な石をコントロールして、なおかつ、『白』にその石が封印されることを防ぐためにさ!」
 今日の戦いは、スペサルタイトとデマントイドの力を測るために仕掛けられたのだろうか。
想定されていたのか否かは分からないが、どちらの石も、通常時を超える能力を発現した。
「俺達も、東京ダイナマイトが仲間になってくれると心強いしな!」
 大地の言葉に大谷が付け加えると、そこに土田もわざとらしく一言付け加えた。
「あー、『黒』に入ってくれたら、あいつの大怪我はウチの奴に治させるから」
 暫しの沈黙の後、高野と松田は目と目を合わせて、お互いの意志を確認し合う。

「俺は二郎ちゃんについてくよ」
「ま、ヒール役も悪くねえかな」

 そう。どこに属していようが、彼らは何も変わらない。

688眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/04/10(水) 20:14:03
以上です。昔考えていたプロットとはだいぶ違うものになってしまいました。
「ダイノジの2人は黒が正しいと思い込んでいる」という設定をお借りしています。
稚拙な文章を読んで下さり、ありがとうございました。

689名無しさん:2013/04/10(水) 21:38:57
また投下乙です
これに触発されたんですが、進行会議スレ>343の書き込みを踏まえて…
時間設定は04年秋ごろくらい

・ダイノジの2人は黒が正しいと思い込んでいる。ある日、プライベートで親しい
 スピードワゴンが白のユニットのメンバーであり、「石の力を全て封じ、自分たちだけ
 で石の力を独り占めしてその力で他の芸人たちを支配しようとしている」
 と黒の誰かに吹き込まれる
・ダイノジはその話を信じ、石の力に呑まれた(と吹き込まれた)スピワの目を覚まさせ
 るために2人を呼び出し、スピワVSダイノジで甘いVSモテル対決のような感じに
・対戦中、先走ったか何かした黒の者が2組が共倒れになるよう仕向けて石をせしめようと
 横槍を入れ、それに気づいた小沢がダイノジを庇って負傷
・それがきっかけでダイノジは「全ての石たちとその持ち主を黒の力から守る」というスピワの
 意志を知り2組は和解。力を合わせて横槍を入れた者を撃退し、ダイノジは白に回る事を決意する

690名無しさん:2013/04/10(水) 22:08:09
>>679-688
乙乙!

黒でも白でも同じ、確かにそうかもと思わされてしまった
タイトルも凄く好きだ
それにしてもデマンドイド女なのかw



>古参新参〜
完結に関係ない話でいいなら書いてみようかと思うんだけど、
やっぱり設定が最近だと厳しいかなとか白黒勝手に決めて良いのかってので躊躇する
完結時期によっては完全に矛盾するし

691名無しさん:2013/04/17(水) 10:06:39
>>690
それならまずどういう話を書きたいか、誰を使いたいか大まかな案を
ここのスレのどれかに提示してみてはいかがでしょう?
廃棄小説スレに出してみるのも一つの手かと
それで、周りの意見次第で手直しして本投稿とかも可能だし

692名無しさん:2013/04/17(水) 21:25:55
>>691
ありがとう
よく考えたら廃棄スレなら注釈入れれば大丈夫そうだし、完全な番外編として書いてくる

今月中に投下…できるといいなあ

693名無しさん:2013/06/06(木) 15:40:16
スペサルタイトとデマントイドがかつて浅草キッドの石だったとあるけど、
その時はどんな能力立ったのかちょっと気になる今日この頃
あと比喩的に意識操作や脅迫などで芸人を黒ユニに属させるのを「黒き鎖」と
称し、それから石たちとその持ち主を解放する白ユニの人たちを「鎖を解く者」
と表現するくだりがあってもいいかなと思ってみたり

694眠り犬 ◆XU22gipAH.:2013/06/08(土) 15:52:08
>>693
個人の自己満足設定なのでいくらでも変更して貰って構いませんが…

スペサルタイトを博士が、デマントイドを玉ちゃんが持っていました。能力は変わっていません。
浅草キッドは、「白と黒の抗争を観察したい」という博士の好奇心を軸に行動していた無所属です。
東京ダイナマイトの能力は石言葉に合わせて決めてしまったため、後付けになりますが、
人間観察に長けた博士&人望の厚いハチミツが「洗脳」の能力を持つのはアリかと。
「忠実」「疾走」の石言葉も、たけしを慕うオフィス北野の芸人に相応しいのかもしれません。
石が女か!wというツッコミを頂きましたが、男臭い事務所の石が女でもいいじゃないか!w

「限りなく〜」の導入で、浅草キッドが東京ダイナマイトに石を渡すシーンを
入れようかと考えたのですが、玉ちゃんの口調・性格をよく知らないため省略してしまいました。
ちなみに、最後の一文はコンビの吉本移籍に掛けていたりします。

695名無しさん:2013/06/08(土) 18:55:24
>>694
おお、お返事どうもです
ちなみにあくまで当方の私案ですが、スピワの石は前はX−GUNの物だったとか
思案しとります、詳しくは進行会議スレ参照ですが
西尾がアパタイトでボキャ天のデブフレーズかオバサンダーで能力発動、
嵯峨根がシトリンで「最初はグー、シャンパンポーン!」で石の光を噴水のように
放って当たった物をしばらく(酔っ払わせて)無力化するとか
ただX−GUNは石との波長のシンクロ率が低めで、そのため石の力を完全には
引き出せていない、みたいな感じかなと
んで石とのシンクロ率が歴代の持ち主中最高なのが今の持ち主であるスピワでは、とか
またアパタイトの人格は穏やかで優しい女性、シトリンの人格はやんちゃでやや口数の
多い少年とかイメージしとります
さらに廃棄小説スレ>>388-390を踏まえてスピワvs東ダイみたいな話もできないかなとか思ってみたり
ハチミツが黒に入った事でなく腰に持病あるのに無茶する事を怒る小沢とかw
んでその中で、>>693に出てきた「黒き鎖」と「鎖を解く者」という表現使えたらなあ、とか
またその話に出てくる小沢の友達ってのは「東京花火」を踏まえて次長課長の井上では、とか
解釈しております

「俺には見えるよ、2人をどこかに繋ぎ止めている黒い鎖が。その鎖、必ず俺が解いてあげるから。
…いつになるかはわからないけど」

696名無しさん:2013/08/16(金) 16:01:31
ちょっとダンディな小沢さんが描きたくて書いた短編です

「お節介焼きのスピードワゴン」

2005年1月、とある冬の夜の路地の中。
一人の若手芸人が、数人の男たちに追いかけられて懸命に逃げていた。
石を巡る2つの芸人たちの組織─白ユニットと黒ユニットの抗争が本格化し、
双方とも勢力の拡大に火花を散らしていたその頃である。
この若手芸人もまた力ある石を手にしていて、それを追っているのは黒の側の者。
双方とも白い息を吐きながら、懸命に走っている。狙いは彼の石か彼を味方に
引き込む事かは定かではないが、とにかくこの若手を追っているのだった。
そんな様子がしばらく続いたその時、突然路地の片側の壁に青緑の光が迸ったかと思うと
そこから数十本はあろうかという材木が現れ、道をふさぐように倒れかかってきた。
「うわっ !? 」
「なんだこれは!」
追われていた若手は前へ、追っていた黒の者は後ろへ、それぞれ飛び退いて、広がった
両者の間に材木の束は崩れ落ちる。そして轟音と共にもうもうと土埃を舞い上げ、両者の間の
視界を完全に遮った。その様子に気づいた若手はすぐに前方へ駆け出し、少し先に見える
横道を見つけるとそこを目指す。
(なんかよくわからないけど、今のうちに奴らを撒くんだ!)
そして横道に駆け込んでやや奥まで行ったところで足を止め、両手を膝に置いて乱れた呼吸を
整えていると、前方から掠れた声がした。
「危ない所だったね」
その声のした方を見ると、腕組みをした人影が壁にもたれかかっている。
「あ、あなたは…小沢さん !? 」

697名無しさん:2013/08/16(金) 16:02:29
その人影、すなわち掠れた声の主は、スピードワゴンの小沢一敬だった。
「でも、俺が来たからにはもう大丈夫」
小沢はそう言って静かに壁から離れ、若手の方へ向き直る。
「じゃあ、さっき倒れてきた材木は…」
「そう、俺の能力で出したの」
若手の問いに、小沢は微笑みつつ返す。一方路地の方からは、かの追っ手たちが見失った
目標を懸命に捜している様子が伝わってくる。
「くそ、どこへ行った !? 」
「しらみつぶしに捜せ!横道も片っ端から当たるんだ!」
「追っ手はまだその辺にいるようだな、ちょっと待ってて」
その様子に気づいた小沢は若手に一言告げ、路地の方へ進んでいって様子を確認すると、
おもむろに言霊を紡ぎ指を鳴らす。
「そんな事より、踊らない?」
すると路地の両側の壁に青緑の光が迸り、次の瞬間にはいくつもの横道がズラリと
並ぶように現れた。
「な、なんだこりゃあ !? 道が増えたぞ !? 」
「ええい、こうなったら一つずつ徹底的に捜せ!なんとしても捕まえるんだ!」

698名無しさん:2013/08/16(金) 16:05:51
明らかに混乱し、動揺している追っ手たちの声に続き、壁にぶつかる音や短い悲鳴が
立て続けに聞こえてくる。今現れた横道の大半は壁の上に映し出されたただの映像
なのだから、入ろうとすれば壁にぶつかるのは当然な訳で。
小沢はその様子を見届けると若手の下に戻り、告げる。
「これで当分は追ってこれないだろうね。今のうちにここを離れるとしようか。それじゃ…
 そんな事よりパーティ抜け出さない?」
指を鳴らす音がしたかと思うと2人の姿は青緑の光と共にその場からかき消えた。

次の瞬間には、2人はその若手の自宅の前に立っていた。
「あ、ここは俺の家 !? わざわざ送り届けてくれたんですか !? 助けてくれたばかりか
 こんな事まで…本当にありがとうございます!」
「お礼ならいいよ」
「でも…小沢さんは石を悪い事に使う奴らと戦ってる、白いユニットの中核にいるほどの
 人なんでしょう?そんな人が、なんで俺みたいな無名のペーペーをわざわざ助けて
 くれるんですか?」
「俺はただ…黒の犠牲者を、石のせいで苦しむ人を、これ以上増やしたくない。それだけだよ」
「小沢さん…」
そう語る小沢の表情は、穏やかに微笑みつつもどこか切なげで辛そうに見えた。

699名無しさん:2013/08/16(金) 16:07:30
聞いた所では、その若手は最近石を手にしたばかりで、能力についてもハッキリとは把握
できていないらしい。2つのユニットの事や小沢の立場も、話として聞いていたという。
「なるほどね…でも、黒の奴らがお前を襲ったという事は、その石が強い力を持ってるか
 黒が『役に立つ』と見たって事だ。黒の奴らはあの手この手で勢力を広げようとしてる…
 今黒に属してる人の中には、脅されたり騙されたり、無理矢理黒い欠片を飲まされたりして
 引き込まれた人もいっぱいいるんだ。それでたくさんの人が辛い目に遭ってる…」
小沢は悲しげに語る。
「だから俺は白の先頭に立って黒の奴らと戦ってるんだ。黒の犠牲者を、石のせいで苦しむ
 人を、これ以上増やさないために。そして俺の石もそう願ってる」
「……」
「俺としてはできる限り助けてあげたいけど、手が回らない事だってあるし、だから自分自身
 でもこれから黒の奴らには気をつけてほしいんだ。わかった?」
「はい…」
「じゃ、俺はこれで。そんな事よりパーティ抜け出さない?」
その言葉と指を鳴らす音を残し、小沢の姿は青緑の光と共に消える。小沢が去った後の
玄関前の空間を、その若手はしばらくの間何か考え込むような顔で眺めるのだった。

700名無しさん:2013/08/16(金) 16:10:58
「ただいまー」
一仕事終えた小沢は、相方の井戸田が待つとあるテレビ局の楽屋へ戻っていた。
「いつ戻ってくるかヒヤヒヤしながら待ってたよもう。本番までそんなに時間ないのに
 いきなりどっか行っちまうんだもん。ま、どうせまた黒の奴らに襲われた奴を
 助けに行ってたんだろうけどさ」
そう言う井戸田の言葉からは、どこかある種の諦めみたいな物が感じられる。
「あ、わかる?」
「わかるよ、もう毎度の事なんだから。小沢さんって本っ当に、困ってる奴をほっとけないんだよな」
「だって俺はほら、『お節介焼きのスピードワゴン』だからさ」
「言うと思ったよ、それ」
そんな2人の他愛ない会話が流れる楽屋の一時。この一時が少しでも長く続いてくれる事を、
小沢は内心願うのだった。


以上です、感想お待ちしてます

701名無しさん:2013/08/27(火) 20:02:49
「ブルースウィートハート」

その夜、小沢は夢を見ていた。
彼は緑がかった青い光に満たされた空間にいて、そこで何かが語りかけてくる。
その声は、穏やかで優しい女性の声だった。
”お願い、私に力を貸して。今、石を濁らせそれを手にした人を狂わせる、『黒い力』が
 動き出している…それを食い止めなければならないの”
「黒い力?」
”そう、その力は石の力を暴走させ、その持ち主の心を歪ませ狂わせる恐ろしい力。
 ここで食い止めなければ、多くの石や人たちが傷つき苦しむ事になるわ。私はその黒い力
 から他の石たちや人々を守りたい。そのためにはあなたの協力が必要なの”
「俺の?」
”私の力を使って、黒い力に呑まれた石たちと人々を助けてあげて。あなたならきっとできるわ…
 優しく強い心を持ったあなたなら、必ず”
「え、ちょっと待って!あなたは一体…」
”これだけは忘れないで。私はいつもあなたのそばにいるから…”

ふと目が覚めると、そこは自室のベッドの中。いつも通りの静かな朝だった。
「なんか妙な夢だったな…黒い力とかなんとか」
起き上がって何気なく枕元に目を向けると、そこに置かれたアパタイトは朝日の光を受けて
キラキラと光り輝いている。それを見て、先ほどの夢の事に思い至る。

702名無しさん:2013/08/27(火) 20:07:47
そうだ、夢の中で見た光の色はこの石の色と同じ─という事は、あの声は今目の前にある
アパタイトの声なのだろうか。
「そうだ、そういえば…」
小沢は、昨日くりぃむしちゅーの二人から聞いた話を思い出す。
白と黒のユニットの話、石の力に呑まれたり石の力を悪用する者がいるという話。夢の中の
声が言った「黒い力」は、それらと関わっているのだろうか。そうだ、きっとそうに違いない─
小沢はおもむろに石を手に取り、語りかける。
「あの声はあなたの声だったんですね?あなたの想い、しっかりと受け止めました。
 これから一緒に戦いましょう…黒い力から全ての石とその持ち主を守るために」

青く優しき力を持つ石と、その想いに応えた優しく強い心を持つ芸人。
黒に染まった石を封印する白の側に立つ者が、また新たに生まれた瞬間だった─


小沢が白の側に立つ経緯の話、軽く書いてみた
もし「ここから話を膨らませたい」とか希望する方がいるなら加筆・改変して
いただいても構いませんよー

703名無しさん:2013/09/27(金) 17:24:10
★ある時の白ユニット集会
「…これで、俺からは以上です。あと皆さんも、引き続き黒のメンバーや能力に関する
 情報がありましたら俺やくりぃむまで報告してください。では上田さん、最後お願いします」
白ユニットの各メンバーがそれぞれの状況の報告や今後の方針などについて話し合う集会の
最後、一通り話し終えた「作戦参謀」こと小沢が席に着くと同時に、上田が締めの挨拶にかかる。
「取りあえず今回の集会はこれでお開きだな、後はみんな楽しく飲もうか」
その言葉が終わるや否や集会は親睦の場となり、あちこちから歓声が飛ぶ。
「よっ、待ってましたああ!」
「ヒューヒュー!」
この集会の舞台となっているのは、メンバーの知り合いが経営しているそこそこ大きな居酒屋。
今回は特別にこの店をまるまる一店貸し切りにして、白ユニットの集会を行っているのだった。
いつぞやの黒ユニット集会の舞台となった神楽坂の高級料亭に比べればだいぶん質素で庶民的
ではあるが、ある意味今や一つの目的の下に強い絆で結ばれた彼らにはふさわしいのかも知れない。
乾杯の合図から程なくして場内には楽しげな声が満ち溢れ、時折怒声や呂律の回らない様子の
声もする。テーブルは酒類・ソフトドリンクの瓶やら注文した料理やら、さらに厨房に飛び入りして
きた腕に覚えのあるメンバーの手料理で埋め尽くされ、皆それらに舌鼓を打った。その様子に
感慨深げなのはハイキングウォーキングの松田だった。
「白の皆さんは本当にいつも和気藹々としてて…これが人間らしい本来の姿ですよね」
「ああそうか、お前黒の集会も見てたんだっけな」
松田の語る所によれば、黒ユニットの集会に来ていた者たちは多くが目は虚ろで本人の意思が
働いているのかさえわからない、ただ命じられる事を淡々とこなす操り人形のような状態だったり、
自我を残していて時折怯えたりしながらも洗脳された相方や友人の行動に同調していたりとそれは
悲惨な様子だったという。一見楽しく盛り上がっているように見えてもどこか機械的で操られた
わざとらしさが垣間見え、松田は自我を持ってはいたが生きた心地がせず、普段口に入る事は
ないような高級な料理や酒を味わう余裕もなかったのだった。その話を聞いた白のメンバーたち
は、皆青くなって震え上がったり今この場にいられる事を安堵したりといった反応を見せた。

「まあ、ここがいっぱしの組織らしくなったのもお前らのおかげだろうな」
小沢と井戸田にそう語るのは劇団ひとりだった。
彼は前に有田の主導で行われた事実上最初の白ユニットの集会に参加していたのだが、
その時は実のある話もほとんどできないまま実質ただの飲み会と化してしまったという。
「まあ中核があんな人たちだし仕方ないかなと思ってたんだけどさ、でもやっぱ緩すぎだよな。
 『ここらへんは黒を見習ってほしい』と思ったもん」
「……」
二人の表情が若干引きつったように見えたのは気のせいだろうか。
とその時、けたたましい物音と怒声、それに石の能力によると思われる雷の音が聞こえた。
「あーっ、喧嘩はダメっ!」
血相を変えて仲裁にすっ飛んでいく小沢と井戸田の後ろ姿を見ながら、ひとりは思う。
(確かにだいぶ組織らしくなったけど、やっぱ根っこは変わってねーのな…いいんだか悪いんだか)
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―繋がれし者と鎖を解く者―
ハチミツ「小沢さん…?」
小沢「俺には見えるよ、二人をどこかに繋ぎ止めている黒い鎖が。その鎖、必ず俺が解いて
    あげるから。…いつになるかはわからないけど」
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渡部「いつもいつも悪いな、俺らの能力がもっと直接戦闘に向いた物だったらお前らにこんなに
    負担かけずにすむのに」
井戸田「それは言わねー約束だろ?メンバーそれぞれが持ってる物を存分に活かしてお互いの
     足りない所を補い合う、それが俺ら白ユニットじゃねーか」
児嶋「ほら、例のビッキーズの飴だ。オザが頑張ってるから早く行ってやれ」
井戸田「お、これはありがてえ!じゃあもう一頑張りしてくっか!」
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小木「もともとこの争いに関わる気はなかったが…矢作があんな目に遭わされたとなっては話は
    別だ。黒の連中を、俺は絶対許さない」
秋山「はなわを狂わせ、俺らはねトびメンバーの絆を傷つけた事もな」

704名無しさん:2013/09/30(月) 17:09:04
―作戦参謀―
小沢の話は続く。
「黒に対抗するには、ただメンバーの数を増やすだけでは不充分なんです。それぞれがもっと
 石の力を引き出せるよう努力する、それが不可欠だと俺は思います。黒の方は人の負の
 感情を増幅し、石の力を暴走させる黒い欠片を持ってます。それに対抗するには、ここに
 いる皆さんが仲間を信じる、自分と自分の石の力を信じる、石の可能性を引き出す、それが
 重要な要素だと思うんです」
話を聞きつつ、井戸田は呟く。
「そういや島田が言ってたっけな、『力は外から得る物じゃなくて自分の内側から自ら
 導き出す物だ』って。自分の持ってる物をどう活かすかを考える…石の事と芸人としての
 あり方って、根っこは一緒なんだな」
黒に属する者の中には、自分の石が戦うのや身を守るのに使えない弱い石だと嘆いたり、
早く自分の使える石が欲しいと焦るあまり「黒に入れば強い力が手に入る」との甘言に乗って
引き込まれた者もかなりの数に上るらしい―ビームがそうだったように。
そういう点に目を向けてみると、号泣が、自分も一度わずかながら興味を持った虫入り琥珀に
手を出した理由がわかろうという物だ。「自分の『存在』を削る」というリスクを冒してでも
相手を有無を言わさず捻じ伏せられる力が欲しい―それがその時の、彼らの心理だったのなら。
そこまで考えて、井戸田は一つ息を吐きつつ顔を上げた。
「潤の石はどっちかというと防御向きだし、俺の石だって様々な形で周りに干渉はできるけど
 基本的に直接攻撃する力はありません。それでも自分なりに工夫を重ねる事でいろんな形で
 石の力を引き出し、暴走した石に呑まれた人や石を悪用する人とも互角に戦う事ができたん
 です。皆さんの石にも、きっとそれだけの物はあると思うんです」
そう、スピードワゴンは最初に石を手にした時から自分の石の力をどう活かすかを考え、実践
し、少しずつその可能性を引き出してきた。「石の力を引き出せるかは使い手次第」そう意識
せずとも、彼らは「自分の持つ物をどう活かすかを考える」理念を石の扱いにおいても応用
し、実際に効果を上げてきたのだった。この辺は、小沢の旺盛な探求心の賜物でもあった。
そして小沢はさらに言う。
「有田さん、上田さん、お願いがあります。俺はこうした石の可能性を引き出す手助けがしたい
 んです、黒と戦うために。つまり…白の皆さんの能力を解析し、能力を最大限に引き出せる
 連携や使い道や役割を考案する、そういう役割をしたいんです。底知れない規模と力を持つ
 黒ユニットと戦うためには、そうした役割が絶対に必要だと思うんです」
その発言に、その場の全員が目を丸くした。これまでずっと他の者を巻き込みたくないがために
一人で、あるいは相方と二人だけで戦い続けてきた小沢が、今は他の者たちと積極的に関わ
ろうとしているのである。こうした行動も、今この場に来て設楽の事を他の白のメンバーに教えた
のも、「これ以上犠牲者を出さないように黒の侵攻を止める」という決断による物だった。
また草野球チームの監督もやっている自分ならこうした人選や起用のノウハウも持ち合わせて
いるから、この役割もきっとうまくできるはずという思いもあったのだった。
しばしの後、上田が口を開いた。
「そうか…お前自身がそう思うならその役割、お前に任せよう。児嶋が言ってたけど、お前は
 麻雀やってても自分だけでなくその時の対局者全員の大まかな配牌や流れを、見て覚えて
 られるらしいからな。黒の奴らは今聞いた設楽を含めて頭のいい奴が多いようなんだが、お前
 のそれだけの記憶力や観察力なら、奴らに対抗できるかも知れん…ま、とにかく頼むぞ」
「はい…ありがとうございます」
その言葉と共に小沢は席に着く。

これが後に知られる「白ユニットの作戦参謀」誕生の瞬間だった―。

705名無しさん:2013/09/30(月) 17:10:19
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緊急集会の後、渡部は小沢と井戸田を呼び、話し始めた。
「俺、自分の石の力に気づいた時から時々能力の訓練してたんだよ、いろんな人に同調して。
 少しでも石の可能性を引き出そうと思ってさ。その結果、わずかながら五感だけでなく心の中も
 見れるようになった」
「どうしてそんな事を?」
小沢が驚いて問う。
「その時から思ってたんだよ、『いつかこの力が必要になる時が来る』って。今思えばこれは
 決して思い過ごしなんかじゃなかったんだ。そしてその中で統に同調する機会があってさ、
 そこであいつはラーメンズの小林と話してた。で、話の中に『説得』とか『シナリオ』ってな
 単語が出てきたんだよ」
「え、まさか…それって…!」
次に驚きの声を上げたのは井戸田だ。
「そう、その時は何の事かよくわからなかった。でもさっきのお前の話で全てつながったよ。
 『説得』とか『シナリオ』ってのは、あいつらの能力の事だったんだ」
「『説得』は設楽さんの能力だから…じゃあ『シナリオ』はコバケンさんの?そういや彼って、
 コントの脚本とか書いたりしてるからね」
「うん、たぶんそうだろうな、あいつの能力は『シナリオ』とか『脚本』にまつわる物なんだろう。
 それでこれはここだけの話なんだが…あいつが能力とかの件で統と話してたって事は…」
「…!」
「たぶん、小林も黒の幹部じゃないかと思うんだ。まだ断言はできないけど」
ここまで話して、渡部はふと思う。目の前の二人は、前に自分の「石の声」を聞いた事があった
という。ひょっとして、これまでに何度か接した「もう一人の自分」の正体は、自分の石・クリアクォーツ
の声だったのではないか?と。
(あれが俺の石の声だとしたら、ずいぶん慎重というか心配性なんだな、あれは…)
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(黒の誰か)「お前がそんな目に遭うのもみんなそいつのせいだ、いつも損な役回りばっかりだろ?」
井戸田「どんな目に遭ったっていい!俺は小沢さんと一緒にいたいんだ!」
小沢「それが潤の優しさだ、相方の俺が一番わかってる!」
(黒の誰か)「わかってる?一人ぼっちのお前に何がわかる?仲間など見捨てて逃げればいいのに」
小沢「俺は決して逃げないし、諦めないし、誰も見捨てたりしない!」
井戸田「小沢さんは一人じゃない、俺もみんなもいる!一人ぼっちになんか、絶対にさせねえよ!」
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「あいつらの事、心配か?アパタイトよ」
”…ええ、確かに心配だったわ”
かつて自分と共に戦った石と、西尾は話していた。
”でも、あの人は一人じゃない”
「そう、俺らの時とは違う。あいつらは幸せや、絆ほど強い力はないからな」
”止めようとは思わない?”
「思わんな、あいつらが望んだ事やから。今度は俺らが見守る番や」
”それなら私は…『彼』の相手をする。あの時のあなたと相方さんのように”
そう語る石の声に、西尾はそっと微笑みかけた。
「そうか。そうやな、あいつらに託そう、絆の光と希望の光を」

706名無しさん:2013/09/30(月) 17:11:53
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―闇の鎖を焼く太陽―
シトリンの光の照り返しの中、井戸田は静かに語りかける。
「この輝きは太陽の光だ。太陽の光はこの世のあらゆる物に分け隔てなく光とぬくもりを与える
 もんだ。だから俺も、この輝きでお前らに勇気と希望を与えてやる。自分の意志で黒の鎖を
 断ち切る勇気と、黒の支配から逃れて自由の身になれるという希望をな」
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―処刑人―
「出番だ、パニッシャー。今度はこいつだ」
「…はい…」
設楽の言葉に応じて抑揚のない声で返事を返すのはどことなく地味な風体をした若い女芸人。
人形のような生気のない表情、鈍く光る虚ろな瞳。完全に自我を奪われ「黒の操り人形」と
なっているのは間違いないだろう。その手に握られた石―天然ガラスの一種であるリビアングラス
が黒く濁った輝きを放つと、そこから黒いローブを纏った小ぶりな死神が現れ、目的の相手に
憑くべく飛び去っていく。なんらかの失策や造反を働いたと思われる、その相手に裁きを下すべく。

707名無しさん:2013/10/13(日) 19:40:02
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西尾「俺の考えが正しいなら、石ってもんは波長の合う芸人に共鳴して導かれ、その芸人の物
    になる。失くしても捨てても自力で持ち主の下へ帰ってくる、『つながり』が切れない限り
    はな。前に俺らが石の記憶を失くした事で自分の石との『つながり』は切れ、後になって
    その石はお前らの物になった…よりふさわしい持ち主を、石自身が見つけたんやな」
-------------------------------------------------------------------------------
小沢「俺は誰も傷つけたくない。みんなを守れればそれでいい」
-------------------------------------------------------------------------------
―月の虜―
「川島はどこや!川島をどこへやった !? 」
田村の怒りに満ちた声が響く。
「眠ったらあかん、石に呑まれたらあかん!諦めるな、自分をしっかり持つんや!」
礼二が懸命に呼びかける。
「お前が石の力に溺れたら何もかも消されてまうんやで、お前の大切なもんも何もかもや!
 それでもええんか !? はよ目覚めぇや、そうすれば…!」
そうすれば、踏みとどまれる、手遅れになる前に。「自分の嫌いな物を全て消し去ってくれる」という
ムーンストーンの見せる甘い夢から目を覚まして、強い心で石の力を制御するんだ―陣内は
おぼろげな意識の中、大切な仲間たちの声を聞いた。
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―抜擢―
その石との戦いでキーマンとして小沢が選んだのは、アンガールズの二人だった。
石の力が持ち主の感情の高まりに応じて増大するならば、感情を鎮めれば力も弱まり、
封印しやすくなるはず―そう考えたのだ。そしてそれに適した能力を持つとして選ばれたのが、
他でもない彼らだったのである。
「でも俺の力って、相手の方が強いと自分に跳ね返ってきちゃうんですよー」
「それにあんなの、近づくのさえ難しそうだし…」
「だから自分と自分の石を信じるんだ。『必ずあれを抑える』という強い想いを以て当たれば
 負ける事はないはず。いざとなったら俺やみんなも援護するから」
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―決着の後で―
床に横たわる設楽は、若干荒い息の中で言う。
「オザ、俺の負けだ。お前が正しかったのかも知れん…。すまんな…俺は様々な人を苦しめ、
 傷つけ、迷惑をかけた」
「あなたはただ自分の信念を貫いただけなんでしょう?それは俺だって…同じなんですから…」
傍らに腰を下ろし答える小沢だったが、たちまち声は潤み、幾筋もの熱い流れが頬を伝い始める。
その隣の井戸田も涙をこらえている様子だ。
「お前ら…こんな俺のために涙を流してくれるのか?俺が憎くないのか?」
「そんな、憎いだなんて…あなただって…苦しかったんでしょう?今までずっと…」
「あんた、日村さんを守りたかったんだろ?『傷つくのは、泥かぶるのは自分だけでいい』って思って
 たんだろ?それなら小沢さんと一緒だよ」
小沢は静かに設楽の手を取り、両手でそっと包むように握った。その感触に、設楽は短く心中を語る。
「これが人の絆のぬくもりというヤツか…しばらく忘れていたよ…」
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708名無しさん:2013/10/13(日) 19:41:33
―秘密基地―
仕事などで顔を合わせる機会も多いとはいえ、周囲の目をはばからず石の事やユニットの事を
話せる場所がないのもまた事実であった。そこでくりぃむらの主導で白ユニットとしての活動拠点
を設ける事になり、都内の近代的なアパート一軒を丸々借り切って「秘密基地」としたのである。
表向きにはネタ作りや稽古の場としてあり、各部屋には質素ながら炊事・洗濯・休息・沐浴と
いった生活のできる場が設けられ、うち一室は各自の能力を磨くためのトレーニングルームと
された。また負傷者が出た時のために救急箱や医薬品の類も置かれ、そして全体は白の
メンバーの力を結集した結界で覆われ、黒い力を持つ者を寄せつけないようにされていた。
また関西にも、大阪市内にこれと同規模の秘密基地を設ける予定となっていた。
自分たちの秘密基地の完成に、誰もが大なり小なり持っているヒーロー願望や童心を
くすぐられた白のメンバーたちは口々に声を上げる。
「なんかますますヒーローっぽくなってきたんじゃね?」
「かっこいいよな、秘密基地って!」
そんな無邪気な声をよそに、くりぃむの二人は別な会話を交わす。
「これで思ったんだけどさ、黒の方にはこういう基地みたいなのってあるのかねえ」
「小沢たちの情報を始め断片的になんだが、いろんな話は出てきてるな。なんでも高級旅館の
 一フロアを貸し切りにして拠点にしてるんだとか。今をときめく売れっ子の芸人とか、一度は
 仕事を頼みたいと思わせるような構成作家とか、俺らが仕事で共演する事もままならないような
 大物芸人とか、そういう人たちを軽く洗脳してスポンサーにしてるらしいぞ。その財力で旅館を
 借り切ってそこの仲居や従業員なんかも一時的に洗脳して、グラビアモデルの女の子なんかも
 連れてきて身の回りの世話とかさせてるって。そのスポンサーになった人たちには『旅館を借り
 切り若手やスタッフを楽しく豪遊させてやった』ってな記憶しか残らないし、仲居や従業員たち
 にも『いつも利用してくれている常連客』程度の記憶しか残らないから、情報統制も完璧と」
「え、なんだよそれ!俺らよりずっと豪華じゃねーか!」
有田の脳裏に真っ先に浮かんだのは「酒池肉林」という単語だった。
上田は内心「突っ込む所そこかよ…」とぼやきつつも話を続ける。
「で、その旅館てーのがまだどこなのか特定できてないんだよな、情報量が少なすぎて。おそらく
 は黒い欠片を生み出す『本体』に当たる物もそこに潜伏してる可能性が高いと思うんだ。そして
 芸人以外の奴に持たせる熔錬水晶の指輪を作ってる所もどこかにあるはずなんだが」

709名無しさん:2013/10/15(火) 17:27:11
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不思議な力を持った「石」。
それを巡って、「白いユニット」と「黒いユニット」が対立している、という程度の事は
彼らも知っていた。ただ、自分たちはどちらに味方するつもりもない。
石を持つ者として、取りあえず降りかかる火の粉は払わねばならないと襲ってくる者には
立ち向かうが、それ以上の事はしない。この苛烈な争いになるべく関わらないようにして
己の本業に専念したい、それが彼らの思いだった。
白にも黒にも入らない―それが、二人して決めた雨上がり決死隊の立場だった。
そう、ずっとそのつもりだった、初めのうちは。

だが―この間の一連の出来事が、彼らの意識を変えた。
ペナルティのヒデに襲われて石を濁らされ、その相方のワッキーの力に救われた事。
そのヒデもまた、黒い欠片に思考を操作され自身の「黒い感情」を引き出された犠牲者だった事。
欠片の力から解放されたヒデが、自身の罪を償うべく率先して黒いユニットと戦うと誓った事。
そして、事情を知る小沢が、「ヒデさんを許してあげてほしい」と懇願してきた事―

「今、何考えとん?」
最初に口を開いたのは蛍原だった。
「オザの事や。あいつ、あんな一生懸命やっとんのなって」
「そやなあ。それ見ると、俺らこれでええんかなって気になった」
そう、石を持つ者の中には率先して黒いユニットと戦おうとしている者が確かにいた。
それは二人もよく知る、可愛がっている後輩。彼らは自ら渦中に身を投じてでも、例え周りを
敵に回そうとも、平穏で一生懸命バカができる日々を取り戻そうとしている―
そんな一生懸命な者たちがいるのに、自分たちはこのままでいいのか?
「なあ…オザの力になってやりたいと思わへんか?あんなに頑張っとるあいつの」
「それって白に入るっちゅう事?」
「ま、そういう事になるなあ。俺らの力がどこまで役に立つかはわからんけど、取りあえず何か
 できる事はあると思うんや、あいつのためにな」
「そやな。こっちでもたむけんとかチュートあたりが動いてるって話やし、そいつらに話してみるか?」

こうして、雨上がり決死隊もまたこの争いに終止符を打つべく動き出した。
一部を除き烏合の衆同然だった白いユニットの様相は、大きく変わり始めていたのである―
「蒼き絆の光」を手にした一人の芸人によって。

710名無しさん:2013/10/18(金) 19:45:18
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小沢「確かに俺は痛いのや怖いのは嫌だよ。でも…逃げるのはもっと嫌だ」
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小沢「俺の考えは甘いかも知れない。でも俺は、あの石の持ち主も、他の人もみんな助けたい
    んだ。誰一人見捨てはしない、見捨てたくない」
井戸田「それでこそ小沢さんだよな、その優しさが弱さだとしても俺は小沢さんについてくよ」
小沢「…ありがとう。潤が俺を必要としてくれているなら、俺はどんな痛みも苦労も乗り越えられ
    る…そんな気がするんだ」
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―誘惑―
黒く濁った手の中の石が、彼に向かって語りかけてくる。
”お前は力が欲しいか?『黒いユニット』に来ればお前の望む力が手に入るぞ”
「…力?黒いユニット?」
”そうだ、敵対する者を叩きのめし捻じ伏せる力だ。お前は弱い自分が嫌なんだろう?
 情けないんだろう?強くなりたいんだろう?”
「…そうだ。俺は強い力が欲しい…戦える力が欲しい…」
”ならば今から俺の言う通りにすればいい。『黒い力』に身を任せるなら、お前には素晴らしい
 力が与えられるだろう…”
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―闇を払う漆黒の影―
「ああっ !? 」
その芸人が影の中に吸い込まれるという思いがけない光景に、小沢と井戸田は思わず叫ぶ。
だが川島は冷静に返した。
「大丈夫や、こいつの黒い力を取り除いたってるだけやねん」
少し経つとその芸人はポンと影から吐き出されてきた。意識を失っているが命に別状はないよう
で、確かめてみるとつい今し方まで感じられた「黒の気配」も消え失せている。
「俺は今まで何度かこのモリオンの強大な力に呑まれ、自我を失くしてもうた事があった。それに
 目ぇつけた黒の奴らに引き込まれそうになったりもした。でもこの力を、今ようやく完全に物に
 できたんや…田村の助けもあってな」
「川島くん…」
そういえばモリオンという石は、魔除けや邪気祓いの効果がある石の中でも最強の力を持つと
いう。その強い力故にしばしば持ち主の心を呑み込み暴走する危険性があるというのは、石の
使い手ならば誰もが理解できる事だろう。そんな力を、川島は様々な苦難の末に完全に己の
制御下に置く事ができたというのだ。
「そう、それでこの石の真の力をも引き出す事ができた。人を影に呑み込む事でその黒い力を
 清めるという…浄化の力や」

711名無しさん:2014/01/27(月) 19:29:36
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―歴戦の勇士―
「それよりお前ら、手当てしなくて大丈夫か?」
心配する上田の言葉に、井戸田は渡されたウェットティッシュで額の擦り傷から流れる血を拭い
ながら若干荒い息遣いで応える。
「大丈夫っすよこれくらい、まずはあれを片づける方が先でしょ」
小沢の方も、やはり頬の切り傷と口元に滲む血をウェットティッシュで拭いつつ無言で頷く。
(痛いけどみんなのために頑張らなきゃ…今ここには他にまともに戦える人がいないんだから)
口中にほのかに広がる鉄っぽい味を、そんな思いと共に飲み込む。
これまでにない強大な石の暴走との対戦で、二人は満身創痍と言っていい状態だった。
傷はいずれも小さな擦り傷や切り傷や打ち身程度で深い物ではないが、体のそこかしこから
血を滲ませている姿はやはり見ていて痛々しい。しかしそれでも二人の闘志は全く衰えを
知らず、一息ついた所で再び相手に向かうべく駆けだしていった。そんな後ろ姿に、有田が呟く。
「すげーなああいつら…あれだけのもんにも一歩も引かずに向かってっぞ」
それに答えるのは上田だ。
「ああ、俺の知る限りあいつらは白の中でも一番多くの相手と戦ってきてる…あんな風に暴走
 した石とか、化け物みたいに強い相手とも何度も渡り合ってるんだろうな。そんな経験がある
 から、今でもいつも率先してあんな強い相手にも向かっていけるんだろう」
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(黒の誰か)「ふん、そんな子供のオモチャみたいな能力しか持たないお前に何ができる?」
劇団ひとり「こんな俺にだってできる事は必ずある…小沢たちがいつも言ってた!」
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―禁断の石―
力ある石の大半は自我や意志と呼ばれる物を持っているが、中にはあまりにも力が強大であったり
意志が邪悪・凶悪な物だったりという理由で黒ユニットの者でさえ恐れをなし、勝手に使用されない
よう厳重な管理下に置いている物もあるという。そうした物は強大な力を以て持ち主に選んだ者の
心身を支配し、自分の意のままに動く操り人形にしてしまう事が多く、それ故「禁断の石」と称され
ているのである。他の石も力が暴走した時などに持ち主の意識を呑み込んでしまう事があるが、
この「禁断の石」は(黒い欠片の影響如何を問わずに)特にそうした現象を引き起こす危険性の
高い石なのである。もちろん、持ち主の精神が黒い欠片の働きで妬み・憎しみなどの負の感情を
強められていれば、より強く石の力が引き出されるのは言うまでもない。
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「もしお前が石の力で他人を傷つけたりしたら、その時はどんな手使ってでもお前を倒しに行く」
石の力に目覚めた芸人たちに対していつも必ず言うその言葉を、上田はその時だけはなぜか
言わなかった。目の前の小沢は既に石の力に目覚めていはたが、その姿には石に呑まれている
ような危険さは感じられず、またアパタイトから伝わる波動にはどこか穏やかで、優しさや慈愛と
いった物が感じられたからだ。そして何より、小沢は「石の力を悪用する者がいる」といった話を
聞いたその直後に、「こんな魔法みたいな力を悪い奴に渡す事はできない」と力強く言い切った。
それを見て上田は確信したのだ―「こいつなら大丈夫だ、少なくとも石を悪用する心配はない」と。
             *             *             *
小沢の覚悟と決意を聞いた井戸田は、シトリンを収めた手を突き出して力強く言い切った。
「なら俺はこの石の力で小沢さんを助ける!一緒に戦う!あいつの事、絶対一人にはさせねえ!」
まだ自分の石の力がどんな物なのかもわからないうちに、である。石の力は千差万別だ―戦う
どころか身を守る事すらままならない弱い物かも知れないし、あるいは見境なく人を傷つけてしまう
ような危険極まりない物かも知れない。それでも井戸田は相方を助けたい、力になりたいと言った。
そこにあるのは「この石はきっと自分たちを助けてくれる」というある種の自信―根拠のない自信と
いえばそうだが、まさに太陽のような明るさやポジティブさを感じさせた。その姿に上田は言う―
「小沢は本当に幸せだよ。お前みたいな奴を相方に持ててな…」

712名無しさん:2014/06/02(月) 16:21:32
2丁拳銃とスピードワゴンは笑金の05年正月特番でコラボユニットやったりしてるので、
その辺踏まえて>>693>>703で出てる「黒の鎖に繋がれた者」と「鎖を解く者」との
話とかやったら面白そうだ
そこで>>706のシーン・小ネタ集にあった「闇の鎖を焼く太陽」のセリフを入れたいな

713名無しさん:2014/08/18(月) 19:33:47
>>689
大谷にとって小沢は芸人になって初めての友達だそうだから、 「大切な友達が石に呑まれて
悪い事をしてるなら、自分が目を覚まさせてやらなければ」との強い使命感に燃えてても
おかしくはなさそうだな
それで自分を庇って傷を負った小沢を見て「目を覚まさなきゃいけないのは俺たちの方
だったんだ」と泣きながら小沢に謝ったりして名

714取扱注意-ある本番前の光景-:2015/11/16(月) 16:08:14
ageついでに、コメディタッチの短編を投下させていただきます。
時期的には、以前の書き込みによると第5次お笑いブームの沈静化と共に白黒抗争が
一段落するとされる、2006〜07年ごろのホリプロライブかラママの楽屋を想定しております。
あと一昨年にはここや他スレにいろいろ短いのを投下しましたが、それらの感想もいただけると
ありがたいです。
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「ああああぁぁぁぁ !!! やってもうたああぁぁぁ !!! 」
とあるお笑いライブ本番前の喧噪に満ちた大きな楽屋に、突如女の叫び声が響き渡った。
その声に驚き、一斉に声のした方に目を向ける他の出演者たち。
そこにはスピードワゴンの井戸田潤が放心したように座り込んでおり、そのすぐそばでは
先ほどの叫び声の主であるクワバタオハラのくわばたりえが慌てふためいていた。
「ちょっとどうしたの !? あー!潤!」
そこに駆けつけるなり叫び声を上げたのは、井戸田の相方の小沢一敬だった。
「潤!しっかりして!もうすぐ本番なんだから!」
そう言いつつ井戸田の体を揺すったりしてみるが、井戸田の方は全く反応を示さない。
くわばたはオロオロしながら小沢に事の次第を話す。
「あああの、今潤さんがちょっとした事で他の人と揉めて…それで仲裁せな思ったんやけど、
 うっかりこれしてたの忘れとっててそのまんま潤さんに触ったら…」
そう言ってくわばたは自分の左手中指にはまったチタナイトの指輪を見せる。
相方の小原が持つジンカイトのブローチ共々、ファンからのプレゼントとしてもらった物だという。
この石の能力は、「周りの者の怒りの感情を吸い取り、それを緑の光弾にして撃ち出す」と
いう物だった。そしてこの石に怒りの感情を吸い取られた者は、しばらく放心状態になり
何もできなくなってしまうのだ。この事態には、さすがの小沢も狼狽を隠せなかった。

「どうすんのこれ、本番までもう30分しかないのに!あっそうだ、あれが使えるかも!」
そう言うなり傍らのテーブルに置かれた自分の鞄から小さなポーチを取り出し、そこからさらに
自分の石であるブルーアパタイトを取り出す。そして石を片手に収めてもう片手を井戸田に
向けると、軽く意識を集中させて言霊を紡ぎつつ井戸田に向けた手の指をパチンと鳴らした。
「夜は寝る時間じゃない。愛が目覚める時間だぜ!」
手の中のブルーアパタイトが一瞬緑がかった青い光を放つと、放心状態だった井戸田は
即座に我に返り、何度も瞬きをしたりキョロキョロ周りを見たりし始める。
「あ、あれ…俺今何してた ?? 」
「あーよかったー!一時はどうなるかと思ったよ!気をつけてよ、ホントにもう」
「ごめんなあほんま、次からは気ぃつけるから」

715取扱注意-ある本番前の光景-:2015/11/16(月) 16:09:52
安堵の溜め息と共に石を元通りしまいつつ、小沢は思う。
数年前からだろうか、芸人たちの間に不思議な力を持つ石が出回ってからというものの、
ちょっとした不注意やら何やらで石の力を「暴発」させてしまい、後始末やら場を取り繕う
手間やらで騒動になるといったトラブルがチラホラ起こっていたのだ。
今の件もまた、そうした暴発事故の一つといえる訳で…これが芸人だけの場ならまだしも、
一般人の目にも触れるライブやテレビでの本番中に起こってしまったら目も当てられない。
(まあ、幸いにも俺たちの石は暴発の危険は少ないけどね…でも油断は禁物だな)
そう、スピードワゴンの2人の石は共にあるキーワードによって力を発動させる性質であるため
暴発の危険は少ないが、それでもうっかり石を持ったままネタをやってしまったらと
思うと気が気でない。小沢は改めて、石の取り扱いには気をつけねばと肝に銘じた。
このちょっとしたトラブルはあったものの、ライブの方は滞りなく開始を迎える事ができたのだった。

2時間後、ライブは大盛況のうちに幕を下ろし、出演者たちはこの後の打ち上げ会に向かうべく
楽屋で着替えやら何やらに入り、楽屋内は楽しげな話し声に満ちていた。その中心にいたのは
スピードワゴンの2人で、周りには若手や中堅など多数の芸人がいる。
「それでさぁ、その時の動きがおっもしろいの。まるでゴキブリみたいでさあ」
「アハハハ、そうなんだー」
その場にはライブのスペシャルゲストとして来ていたさまぁ〜ずもおり、その一人の三村マサカズ
は、自分の石のフローライトを片手で弄びつつ小沢たちの話に加わろうとする。
「おいおい、ゴキブリはねえだろゴキブリは〜」
「ん !? 」
その時、三村の手の中のフローライトが一瞬輝きを放ったのを、井戸田は見逃さなかった。
「ちょっと三村さん、石!」
「へっ !? 」
「うわああああぁぁぁぁぁ !!! 」
「きゃあああぁぁぁぁぁぁ !!! 」
小沢の顔面めがけて飛んできた一匹のゴキブリのせいで、その場がちょっとした惨事になったのは
言うまでもなかった。

END

716名無しさん:2015/11/17(火) 16:46:58
>>714-715
投下乙です。小説練習スレだからきついことも言うよー。
前の投下した短編等についてはトリップがついてなかったから多分この辺の作品群だろうという推測で書きます。
違う人の作品に関する感想が混じってたらごめん。
これからはトリップを付けてくれると助かる。

前に投下された短編はかなり読みづらくて感想を持つまでに至らなかった。目が滑るというか。
あと 人名「セリフ」 という形式はやっちゃだめ。それだけで読む気がなくなる人も多いよ。
それから自分は珊瑚編やファントム編のスピードワゴンが好きだったから
あなたの書くスピードワゴンはキャラが変わりすぎててそれであんまり受け付けなかった。
あと周りの人間がスピワを(特に小沢さんを)持ち上げすぎ称えすぎ。
書き手の嗜好が強く出過ぎて、読み手をシャットアウトする作品になっちゃってたと思う。

でも今回の楽屋編はそういうのがあまり出てなかったし話も面白かったよ。
文章も前のに比べたら上手になってると思う。読みやすくなってる。
まだちょっと説明的な文になってるところがあってテンポを悪くしているので
もっと時間をかけてプロットを練ったり推敲したりしていくといいんじゃないかな。

717名無しさん:2015/11/17(火) 17:17:19
>>716
どうもありがとうございます
当方の場合、「全体のストーリーとかは浮かばないけどこのシーンを書きたい」とか
「この人にこのセリフが似合うだろうな」的な物が多かったので、箇条書き的に
人の目に触れる形にしてみた次第でして
あと人名「セリフ」 という形式についてですが、上記の事情もあって短い内容の中で
誰がどのセリフを言ってるのかをわかりやすくするためにやった訳です
ビデオゲームの会話のあるデモシーンをイメージしていただけたらと思います
まあ当方の脳内のプロットとか大まかな流れみたいな物をお伝えできればと思いまして…

718名無しさん:2015/11/21(土) 01:41:14
>>704
小沢が参謀というのに激しく違和感。
「石の可能性を引き出すために能力を解析して連携や使い道や役割を考案する」というのはいいとしてもそれを小沢ができる気がしない。
小沢はその場での状況判断や対応の能力に優れていると思うけど
参謀に必要なのはどちらかというと「情に流されない冷静な判断力」とか「緻密な作戦立案能力」なわけで。
現時点ではくりぃむが指揮官と参謀を兼ねているからそもそも参謀を立てる必要を感じないけど
どうしてもというなら小沢より渡部でしょ、適性的に。

719名無しさん:2015/11/21(土) 11:17:25
>>718
その辺なんですけど、進行会議スレ>326及び感想スレ>461の内容から発想した物なんですけどね
ブルーアパタイトが古来から「信頼・信念」を示す石とされてた点を踏まえて、
「立場を明確にして戦ってる芸人は意外と少ないし、黒みたいに全体をまとめている
リーダーもいない」という白ユニの欠けたピースがスピワの合流によって埋まり、本格的に
組織としての形を成すようになるという流れをイメージしてたらああいう物ができました
あと小沢は、児嶋の麻雀サイト「こじまーじゃん」によると「記憶力や観察力がとても高く、
自身だけでなくその時の対局者全員の大まかな配牌や流れを記憶している、つまりその場の
全員の状態や心境を把握できている」んだそうで
その辺からある意味適任かなと思った訳なんですよ
この辺については、他の人(特に小蝿さん)の話も聞いてみたいんですけどね

ttp://ginoh-news.blog.so-net.ne.jp/2015-06-28-1

720名無しさん:2015/11/21(土) 12:05:42
まあ、「作戦参謀」という肩書きではありますが、実質的には前線指揮官に近い
位置づけかなと
黒の誰か(設楽?)がそう呼び始めた、みたいな感じでもいいかも知れませんね

あとついでにですが、ピースの過去編について…
ピースの結成は2003年10月だそうなので、設楽(というか黒の枢軸)だけは
一足先に石が覚醒していた、的な感じになるのかな?
原(又吉の前の相方)は設楽の前のソーダライト所持者が黒に引き込んでて(2001年ごろ?)、
それを設楽が何らかの形で知って…みたいな形が自然かなと


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