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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

649本71現637:2008/07/15(火) 12:07:34
「おい、もういいよ。これ以上無理すんなって」
真剣な表情でそう言う有田に肩を借りながら、上田は黙って屋上のドアを見つめている。
一陣の夜風が、二人の髪をゆらりと駆けた。

先ほど山崎から有田に着信があり、小木と矢作の無事が分かった時、屋上は歓喜に沸いた。
その後、後藤も上田も力を使いすぎているので、一旦全員楽屋に戻ろうという流れになったのだけれど。(実際、岩尾と後藤は既に下へ降りていた。)

「みんな無事だったんだから、今日はもういいじゃん、な?」
もう一度宥める。相変わらず上田の目はじっとドアを見据えていて。
左半身に相方の重みを感じながら、有田は溜め息をついた。

また“使う”気なんだ、というのはすぐ分かった。
ここに駆けつける際、既に上田は石を使用している。それも、通常の比にならない激痛と引き換えに。
だからこそ、彼は今、一人では立つこともままならない状態だった。ダメージは、まだ確実に残っているのだ。

「――俺は、見たんだ、記憶の中で、あいつを、」
うわごとのように、上田が呟く。「さっきまでは、ここに、居たはず、なんだ」
「…そうとは限らねえだろ」
「有田…もし俺があいつなら、矢作が死ぬとこ、見たいと、思うよ、この目で」
「やめろよ、そういうの」
「自分で、追い詰めた、獲物だしな。それに、本当に死ぬか、どうか、見張らないと、不安だ」
「……」

そんなことは、有田にだって分かっていた。あいつは、――柴田は、確実に屋上に居たはずだ。
しかし。
例の激痛は柴田に関する記憶を探ったときに襲い掛かるようだった。
大げさでなく、これ以上痛みが蓄積したら、本当に命に関わるだろう。

「…馬鹿じゃないんだからさ、頭冷やせよ、なあ。それで死んでちゃあ意味無いだろって」
あえて厳しい口調で返す。何としても、今上田に力を使わせてはいけない。そう思った。

「――えー、皆さんご存知でしょうか、」
「…やめろっつってんだろ!」
発動条件である薀蓄を語ろうとした上田の胸倉を引っつかむ。
たったそれだけの動きで、上田は酷く痛そうに呻き、顔をしかめた。
「ほら見ろ、そんな体でもつわけねえだろ」
「……覚悟は、してる」
「そんなに死にたいのかよ」
「後悔、したくない、だけだ」
その真っ直ぐな目を見て、有田は返す言葉に詰まってしまった。
こうなると、頑固な上田はてこでも動かないのだ。
溜め息を吐き、しかし最終手段を決意した有田は、相方を掴んでいた手をそうっと離した。
ゆっくりその場にひざまづいた上田に向かって、自分の石をかざして。

「じゃ、俺もお前に使うけど、いいか」

予想外の展開だったのか、上田は目を丸くしている。
明らかにさっきまでの勢いが萎れていくのが見て取れたので、有田は石をしまうと、
「…独りでやるのは、漫才とは呼ばないよ」
歯を食いしばって俯いている相方に、そう言った。


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