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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

644本71現637:2008/07/07(月) 00:48:00
「大丈夫?大丈夫、矢作さん?」
山崎は、地面にうずくまって咳き込んでいる弱々しい先輩の背中をさすってやっていた。
「ちょっと山崎君、俺の心配もしてよ」
「小木さんは大丈夫でしょ、ピンピンしてんじゃん」
同じく隣でへたり込み不平を漏らす大きな先輩を軽くあしらい、右手を休めないまま夜空を仰ぐ。
屋上までは相当な高さがあり、てっぺんは闇にかき消されて見えない。すぐに首が痛くなった。
(あんな高いところ、仕事でだって飛び降りられないや)
心で呟き、目線を先輩たちに戻す。どちらも疲労しきった様子だ。
その二人の後ろには、巨大なトランポリンが頼もしく佇んでいた。


あの時。
後藤の能力が及ばず、小木と矢作の落下速度が元に戻り始めていた、あの時。
山崎は、携帯片手にスタジオを奔走していた。
電話の相手は、渡部。彼に指示されるまま、訳も分からず目的地に向かっていたのだ。
詳細は分からなくても、受話器越しに事の重大さは伝わってくる。
そうして着いた場所は、局の外。冷たい夜風。
上空からは、今まさに後藤の力が届かなくなる寸前だったおぎやはぎの影。――その事実は知らなくても、今自分のすべきことは理解できたので。
静かに携帯を切り、息を吸い込むと、
「あんたらはアレだ、飛び上がって死ね!!」
この場に適した「キーワード」を、大声で叫ぶ。次の瞬間、人影の真下のアスファルトに大きなトランポリンが出現して。
待ち構えていた丈夫な布に無事着地した二つの影は、それぞれ反動で何度か跳ね上がる。
走り寄る山崎がその影の正体を確認できる距離にまで達したときには、すっかり反動も落ち着いていて。
トランポリンの上には、憔悴しきった様子で横たわる矢作と、味わった恐怖を取り乱しながら訴えてくる小木。


そうして今に至る、というわけだ。
「矢作、歩ける?」
小木が立ち上がり、相方に手を伸べる。だが、彼自身もまだ落下の際の恐怖を拭い去れていないようで。
「いや膝大爆笑じゃないすか、小木さん」と山崎がツッコミを入れる。
「…うるさいなもー!本当に怖かったんだって!」
「っつか紐なしバンジーとか馬鹿でしょ!体のでかさに脳みそ追いつけてないし!」
「なんてこと言うかな!俺未熟児なのに」
「気ぃ使うわ!っつかネタじゃなかったんすか、それ?」

山崎と小木とのやりとりを見て、今まで黙りこくっていた矢作が、小さく、しかし楽しそうな笑い声を上げた。
それに気づいた二人は言い合いを止め、ほぼ同時にきょとんと矢作の方を見やった。

「…ごめんな。小木、山崎、」その真っ直ぐな瞳に、先ほどまでの怯えは微塵も無くて。
「もう二度と紐無しバンジーなんかしねえからさ、俺」
そう言って、再び俯き、笑った。

命の極限に身を置かれたことが、皮肉にも彼にとっては立ち直るための大きなきっかけになったのだ。
不安と絶望の闇が、さあっと霧散していく、感覚。


(――俺は、生きている。俺には、頼れる大事な仲間がいる。だったら、まだ他にやることがいっぱい、あるはずだ)


「矢作…、」小木からも笑みがこぼれる。「よかった、“いつもの”矢作だ」

「…えー、矢作さんって普段こんな悟ったみたいな人でしたっけ?」
「そのテの感想は俺がいないときに言ってくれよ」
異議を唱える山崎に、淡々と矢作がツッコんで。今度は三人同時に、笑い声を上げた。


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