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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

625暗膿-予告編- ◆8Ke0JvodNc:2007/12/18(火) 21:08:35
彼らにとって、石の話は決してまことしやかに語られる噂話などではなかった。
厳密に言えば「身近な話だが蚊帳の外」といった具合だろうか。
他の事務所や他の芸人はどうだかわからないが、
彼らにとっての石とはそういう存在だった。
その点は人力舎という事務所柄が多いに関与している。
大っぴらに石を使って行動する先輩やら、突如奇怪な行動をとったと噂される先輩やら、
白のユニットや黒のユニットと呼ばれる者達の攻防やら。
人数が少なく厳しい上下関係があまり存在しない人力舎内において、
不思議な石とそれを持つ人々の能力、そして彼らの戦いは後輩達に筒抜けだった。
中には実際に石を使っている現場を目撃した者までいる始末だ。
ただし、話を耳にした後輩達の感想は様々である。
ある者は芸人たる証である石が欲しいと望んだし、
ある者は面倒事に巻き込まれたくないと感じた。
そして、ラバーガールは二人とも間違いなく後者であった。

そんな二人が仮定の話で、と石についての方針を決めたのはもうずっと前のことである。
方針、といってもそんなに大そうなものではない。
あくまで「もしも」の話を、ぼんやりと話し合ったにすぎない。
能力が開花する時期はともかく、一方にだけとても早く石が渡ることはないだろうし、
一方が勝手に動いても絶対互いの関係がギクシャクする。
石のために石を手に入れるきっかけとなった芸事を疎かにするのもどうかと思うし。
石にまつわる噂話が徐々に熱を帯びて飛び交い始めた頃二人が話し合って決めた方針は、
「石が実際に手に入ってから改めて話し合うが、手に入るまでは無関心・無知を装う」というものだった。
それから二人は何年もの間、興味の無いふりを徹底した。
実物を持っていなかったから特に意識をせずにできたし、
石についての話を持ちかけられても何度か敬遠してやれば、
次第に話し相手に選ばれることはなくなった。
けれどそれはあくまで「装う」だけであって、
耳に入って来た情報や石・能力に関しての知識は徹底的に収集した。
いつかやってくるかもしれないその時、身の振り方を決めやすいように。
これを続け、今。
とうとう自分達の元にも石がやってきてしまった。
他人事だったものが自分達にも関わりのある話になってしまう恐ろしさ。
これからのことを考えると、二人はただただ憂鬱で仕方ない。
「一か月前、起きたら枕元にあってさ」
「そんなに前からかよ。少しは言ってくれてもいいんじゃないの」
「いや、できればこのままなかったことに出来ればいいと思ってたから」
面倒、と言いながら大水は紙ナプキンに手を伸ばす。
そしてグラスなど周囲のものをどかしナプキンを広げると、
飛永のノートに挟んであるペンを抜きだし何かを書き始めた。
2本の縦線で区切られた3つの空間に、少しずつ文字が書き込まれていく。
飛永は眉を寄せながら字を見つめ、どうにか書かれている内容を理解した。
本来書く用途に使われる紙でないこと、飛永から見ると逆さに見えることを差し引いても大水の字は汚く読みづらい。
例えばそれが見慣れた名前でなかったから読むことなど出来なかっただろうと、飛永は心の中で苦笑する。
大水が書き込んでいたのは芸人達の名前だった。
3つに分けられているのは「白」「中立」「黒」なのだろう。
事務所の先輩、ライブや番組で見知っている芸人、舞台上以外でも親交のある芸人、様々な名前が書き込まれていく。
少しの時間を要し書き終えた大水は満足げに息をつくと、右手で氷が溶けきって水だらけになったグラスをあおり
左手でナプキンを反転させ、飛永に見せた。
飛永はもう既に大体の内容を把握している紙を律儀にもう一度確認すると、へえ、と声をあげる。
相方ながら、よくぞここまで調べ上げたものだ。
飛永は感心しながら字を追い、ふとした疑問が浮かんだ。
それは、お互い公私ともに親交のあるコンビのこと。
「ギースは?」
「ギース?わかんない。まだ持ってないんじゃない?この前もそういう素振りなかったし」
「まーね」
最近、この2組は合同ライブを行っていた。
その時は稽古・楽屋・本番・打ち上げ等、相当な時間を共に過ごしたが、
彼らの石の目撃もしなければ特に話題としてのぼることもなかった。
元々石への関心が無いように装っていたので気を遣って話をしなかっただけかもしれないが。


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