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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

327名無しさん:2006/02/10(金) 15:59:44
収録の合間の楽屋、男が一人と女が二人、座って弁当を食べていた。
全員この教育番組内での役柄の衣装をつけたままなので、少々異様である。
「もうそろそろ再開っすねえ」
時計を見上げながらくだけた調子で話すのは北陽虻川。
「…いつもながら、お弁当食べるの早いわねえ。」
その虻川の食欲に呆れているのは、相方の伊藤である。
「だってしょーがないじゃん、腹減ってんだもん」
虻川があっさり返すと、伊藤はため息を一つついてペットボトルのお茶に手を伸ばした。
ありふれた楽屋の光景である。…彼女たちの足首で密かに光る石を除いては。
「そーだお前ら、…ここ最近、黒はどうだ?」
世間話をするように、しかしそれよりは幾分周囲を気にするように声を潜めて、男…上田が言った。
「あたしらは大丈夫っす、石もちゃんとありますし。」
その存在を示すように太ももをぽん、と叩いて虻川が答える。
「若手の中ではちょくちょく聞きますけど、わたしたちは別に…」
声を落とせ、と虻川に身振りで指示しながら、伊藤が小声で続く。
今、楽屋には彼らしかいないのだが、習慣づいてしまったのか…それとも「どこに敵がいるか分からない」という警戒のためか。どのみち関係する人間にしか分からない、隠語のような会話だが。
「そうか。…でも用心しろよ。最近は若手の中でも病院送りになってる奴もいるらしいからな。やっこさんたち、白を引き込んだり何だりに躍起になってっから…ちょいと手荒になってるみてえだ。」
「上田さーん、その台詞全然カッコに似合ってないっすよお」
と虻川がにやにや笑って茶化す。
二人を気遣っての台詞に水を差されて、上田はほっとけ、と渋い顔で茶を飲んだ。
そんなやりとりを見て、伊藤が楽しげに笑っている。
と、その時。ばたん、とドアが開いて、三人は一瞬体をこわばらせた。
「どうもー。」
軽く挨拶をして入ってきたのは、江戸むらさきの二人。
三人は仲間と分かっている連中だと、ほっと緊張を解いた。
「もー、おどかさないでよ。」
「ああびっくりしたあ、噂をすればかと思ったじゃーん。」
「すいませーん」
北陽の二人が笑って言うのを聞いて、野村が苦笑して謝る。
「どこもピリピリしてっからな。そのうち楽屋は合い言葉制になるかもしれねえぞ」
と笑うと、上田は江戸むらさきにも同じ質問をした。
「俺らも最近は別に。」
「なあ。…あ、でも」
何だ、と上田が聞くと、磯山が辺りをはばかるようにそっと言った。
「…ちょっと、気になる人が。」
「誰、だれ?」
虻川が言う。
「……俺の勘違いかもしれないんすけど…」
磯山が言ったその名前の主は一人、隣の部屋で壁にコップを押しつけ、彼らの会話を盗み聞いていた。
滑稽な行動に似合わずその顔は厳しく、そしてどこかもの悲しさがあった。

「………、です。」

その聞き慣れすぎた響きを聞き届け、彼はそっと立ち去る。
それと入れ違いのようにスタッフが上田たちを呼びに来た。
この会話がその後どれだけの騒動を招くことになるかは、彼らは想像もしていなかった。


収録も終わり、上田と江戸むらさき、そして北陽の五人は帰途についていた。
白の芸人は用心のため、なるべく大人数で行動することにしているからだ。
駅までの道を並んで歩いていくと、料理店の多い通りにさしかかる。
「上田さん、ご飯おごってくださーい!」
「俺ら金ないんすよお」
「今日、俺がんばったじゃないすかー」
「あたしもがんばりましたよー!」
ここぞとばかりに「飯をおごれ」の要求がうるさいぐらいに重なる。がんばった、というのは番組中のゲームの内容だろう。
根負けしたのか、上田は渋々、といった風情で頷いた。
「わーったわーった。…で、何がいいんだ。」
「やった、お寿司!」
「肉!」
「牛の肉!ぶあついの!」
「しゃぶしゃぶー!」
途端に四人の目が輝く。好き勝手な注文に、現金な奴らだ、と上田は呆れた。
「ぜーたく言うな。ここ近くにファミレスあったろ、そこにすんぞ。」
「ケチー!」
「上田さんの守銭奴!」
たちまちブーイングが飛び交う。寿司ステーキしゃぶしゃぶ、の合唱が始まった。
その光景に、道行く人々がときどきくすりと笑う。


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