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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

630 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:01:31
自分自身でも意外な事に、事実と直面してからも押見は冷静だった。取り乱したり大きな声を出したりしなかった。
そのかわり、非常に高い熱を持った何かが頭の中を猛スピードで侵食していき、同時に、自分の中のもう一人の自分がそれを俯瞰し始めた。
押見はしゃがんだまま、埃の中で呼吸していた。
石を巡る戦いについては、知らないという訳ではなかった。
先輩に可愛がられるタイプでないから直接話を聞いたことは皆無だし、周囲の芸人らもそういう事とは無縁な奴ばかりだった。
それでも、吉本という入り組んだ組織に属する以上、情報はそこここから入ってくる。

そして押見は、それら情報に関して、人一倍敏感だった。
持ち前のプライドの高さから、人前でその好奇心を発揮する事は伏せていたが、本当は知りたくて知りたくて仕方がなかった。
誰と誰が戦っているんだろう、石の力ってどんなものだろう、この戦いはいつから始まったのか、そもそも石の正体とは何なのか……
だが非関係者でしかない押見に伝わってくる情報といったらどれもこれも断片的なものと不明瞭なものばかりで、彼の底知れない知識欲を満たすには不足だった。
せいぜい、白や黒といった勢力の名前と、石を持つ芸人の名前をいくつか聞く程度。
それが今や、この手の中に石があるのだ。押見は石を持った右手を閉じ、少し力を込めた。上を向いた口角がさらに大きく吊り上がる。
俺は当事者になったのだ。今はまだ希望しかないが、これからどんどん現実が押し寄せてくるに違いない。
そして優越感――石を持つものと、持たないものの間に生まれる圧倒的な格差が、自分にとって有利なものに転換したのだ。
次第に鼓動が早くなっていく。

と、その時不意に、あの俯瞰的な自分が高揚感に水をさした。

馬鹿みたい、石ころに振り回されて、惨めなくらいに迷妄的だ。

『うるさいうるさいうるさい丸くなって踵をかえせば?』

いつもの癖で無意識に、意味の無いうたが脳内を反響した。
すると、にわかに手の中の石が熱をもって、ほんのりと赤く光り出した。
押見は手を開き、吸い寄せられるように石を見つめた。
重たい耳鳴りがし、軽い目眩で体勢が崩れる。押見はどっ、と腰を落とした。
石の事が分かる自分がいた。
全部ではない、まだ名前すら教えてくれないが、力量を確信するには十分すぎる程の情報量だ。
石の力や発動条件といった未知の知識が、押見の脳へとおぼろげに流れ込んでくる。
押見は立ち上がり、いける、と小さく呟いた。


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