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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

1名無しさん:2004/11/25(木) 19:54
「自分も小説を書いてみたいけど、文章力や世界観を壊したらどうしよう・・・。」
「自分では面白いつもりだけど、うpにイマイチ自信がないから、
読み手さんや他の書き手さんに指摘や添削してもらいたいな。」
「新設定を考えたけど矛盾があったらどうしよう・・・」

など、うpに自身のない方、文章や設定を批評して頂きたい方が
練習する為のスレッドです。

・コテンパンに批評されても泣かない
・なるべく作者さんの世界観を大事に批評しましょう。
 過度の批判(例えば文章を書くこと自体など)は避けましょう。
・設定等の相談は「能力を考えようスレ」「進行会議」で。

464[バカルディ・ゴールド(1)] 三村:2006/07/10(月) 02:48:10


…新年あけましておめでとうございます、1998年がやってまいりました。

とはいえ新しい年だから明るい話題、とそうそう上手いこといくもんでもない。
虫入り琥珀は手放したものの、すぐさまもう一度階段を上れるわけでもなく。
年初はあまり仕事もなかったが、時がすぎるとともに少しずつ状況はいい方へ。
大竹の出た連ドラが放送されてみたり、俺が感謝祭で優勝してみたり。
それでもテレビでの露出はまだまだ多くない、本日はちょいと営業へ。
少しずつ上がってゆく気温とともに、ゆっくりゆっくりと雪解けの季節を迎えている気分。

そんな風にひとつひとつ、積み重ねる途中で入ったのが黒の仕事だった。
大竹と別れて家路についた俺の前に、緑のゲートが開いてのそりと現れた目つきの悪い男。
俺たちが黒に寝返ってから、最初の指令は土田を通じて伝えられた。


「どうも、面倒なこと頼みにきてすいませんね」
「おう、すーっげぇめんどくせぇぞ」


思いっきりめんどくささを前面に押し出す俺に、土田は眉をひそめる。


「…そういわれても俺の責任じゃないんですけどね」


まあそうだ、土田が襲撃を決めたわけじゃないんだろう。
とはいえ前のこともある、こいつが面倒事を運んでくる使者のように見えてくるのも仕方ない。
少々うんざりしつつ、土田から話を聞いていく。


「まず、ターゲットは猿岩石」
「ああ、あの電波少年の」
「それです、ま、あいつらうちの後輩なんですけども…」
「じゃあお前が行けよ」
「ダメなんですよ、顔も人となりも知れてるもんで」
「なんだそりゃ?知られてるとなんかあんのか?」
「有吉は他人の石の能力を知ることができるんです、特に知ってる相手は暴かれやすい」
「…石の力知られるってマズいか?」


知られたからといって何も変わらない気がする、俺の場合。
大竹だって知られても結局、力が使えなくなるわけじゃないし。
そう思っていると土田がうっとおしそうに言った。


「有吉の力で能力の判明した石を森脇が一時的に封印できるんです」
「…それ、すげえめんどくせぇじゃねえか」
「めんどくさいですよねえ」
「俺らがやんなきゃなんねえのか?」
「やんなきゃならないんですよねえ」


…めんどくせぇ。

なんでそうよく知ってもいない、恨みもない相手をわざわざ襲わなきゃなんねーんだろう。
まあ前みてーに毎日襲われるよりはマシなのかもしれねえけど。
やっぱりめんどくせぇよな、黒でも白でも結局…でもやんなきゃなんねーなら、しょうがねえか。


「じゃあそいつらの石を貰ってくりゃいいのか? それとも黒に勧誘すんの?」
「どっちでも、お好きなように」
「まあいいや、とりあえずどうにかするわ」
「ええ、大竹さんにも話して下さい、それじゃあ失礼します」
「…おう」


そう言ってきびすを返したはいいものの、少しばかり困ってしまう。
今、大竹はライブのためにネタを書いている真っ最中なのだ。
今日だって営業のあと、寄り道もせずにさっさと家に帰っていったのはそのためだった。
おそらく後日、それを見ながら二人で練っていく手はずになる。

もちろん自分だって一緒にネタを練るわけだが、ベースを書く大竹の方が負担は多い。
特に今回は少し趣向を変えたから、いつも以上に面倒な作業が続くはず。
こんな時に後輩を襲撃するなんていう面倒はごめんこうむりたいだろう。

まあ確かにこっちだってそれなりに忙しいし、ピンでの仕事は自分の方が多かったりもする。
それでも「バカルディ」の屋台骨、ライブのために頭をフル回転させる大竹を邪魔したくはなかった。

余計なことで煩わせたくない、という俺の考えは多分本人に言えば否定されるんだろう。
それでも何となく、大竹に言い出さないままに時が過ぎたのには多少の理由がなくもない。

半年ほど前、「バカルディ」は俺の都合で、白から黒へと鞍替えした。
大竹はそのことを決して責めなかったし、むしろ俺よりも先に俺の家族のことを思いやってくれた。
照れくさいからそれについて礼を言うつもりはないし、この先触れるつもりもない。
それでもまだ、小さな罪悪感が自分の中にあるのは確かだった。
自分勝手な都合だとわかってはいても、けじめをつけておきたい思いがあるのは否めない。

数日後に俺が出した答えは、一人でできることは一人でやっちまおう、というものだった。

465[バカルディ・ゴールド(2)] 有吉:2006/07/10(月) 02:49:26


「いきなり悪ぃな、邪魔しちまって」
「いえ、そんな…」


広島での仕事から新幹線で帰ってきた俺らの前に現れたのは、バカルディの三村さんだった。
事務所も違うし、ほとんど話したこともない人ではあるが、俺らにとってはかなり上の先輩だ。
芸人になる以前にテレビで見たことだってあるような相手を前に、ちょっと緊張してしまう。

…まあ、緊張したのはそれだけが理由じゃない。

プライベートで、単なる帰り道でこんな風に、先輩とはいえよく知らない人に声をかけられる。
それが何を意味するかなんて、石を持っている人間ならある程度予想のつくことだ。
しかもちょっと便利なこの石は、結構魅力的らしくて敵を呼びがちなのだった。


「それで、お話っていうのは?」
「あー…すげえめんどくせえんだけどさ、」


そう言ってぽりぽりと頭をかいた三村さんは、まるで何でもないことのようにこう続けた。


「…お前らの石をとってくるか、黒に勧誘するかしろって言われてんだよ、どっちがいい?」


傍らの森脇の、ごくりと唾をのみこむ音が聞こえた気がする。
背筋に流れる冷たい汗を感じて、俺も急激に気が引き締まった。

…そんなの、どっちもよくないに決まってる。

466[バカルディ・ゴールド(3)] 三村:2006/07/10(月) 02:50:09


…どっちがいい、なんて聞いたって、どっちもよくないって答えることくらいわかってる。

猿岩石は白でも黒でもないらしいが、どっちかと言えば白寄りなのだと聞いた。
それだからこそ黒が襲撃をかけないといけないんだろうが、こちらとしては一応戦闘を避けたいのだ。
基本的にめんどくせぇから闘いたくないし、闘う理由なんて本当はなかった。


「…やっぱ、どっちも嫌だよな」
「「嫌に決まってるじゃないっすか!」」


呟くと猿岩石の二人がユニゾンで答え、ぎっ、とこっちをにらんできた。
ああ、こういう目をむけられるような人間になっちまったんだなあとちょっと寂しくなる。
でももう後戻りなんてできないから、悪役も演じきらなけりゃならない。


「んじゃ、悪いけど貰うわ、お前らの石」


台詞とともにとりだした石は、静かな顔で手におさまっている。瞬間、有吉が叫んだ。


「くそ、三村さんは攻撃系ってのしか100円じゃわかんねえ、森脇500円ねえか?」
「ねえよ、漱石1枚と100円と10円しかねえ」
「札どっかで替えてもらってきてくれ」
「何でだよ、お前の使え!」
「アホ、俺は札なんか持ってねえよ!」
「…威張んなよ…しゃあない、行ってくる!」


そう言って森脇はダッとその場から走り出す。

500円、ね。そういえば土田に聞いたら言ってたな、小銭で能力がわかるんだっけか。
金額が大きくねえと細かいことはわからねえんだっけ?はは、めんどくせえな。


「いいのか?相方行かせて」
「…アイツが帰ってくるまでくらい、どうにかするっすよ」
「そっか、ならいいや」


…心おきなく、石使えるじゃねーか。

467[バカルディ・ゴールド(4)] 有吉:2006/07/10(月) 02:51:05


三村さんのことはほとんど知らない、おかげで100円使ってもこのざまだ。
この程度の情報じゃ森脇に力を使ってもらうこともできない。
アイツが500円を持って帰ってくるまで、せめてこの場を逃げ切らなければ。
そう思って空を見る、ありがたいことに夜空には雲がぽかりと浮かんでいた。


「とう!」


勢いをつけてその場で飛び上がる、足の下には雲が滑り込んできた。
キント雲に乗った孫悟空気分。如意棒もあれば楽なのに。
そのまま雲を走らせ、三村さんにぶつかっていく。


「うおっ!あっぶねえ…」
「くそっ!」


三村さんは器用に地面に座り込み、俺の雲の突撃を避けた。
どうするかと一瞬迷っているうちに、三村さんの握っていた石からふわりと光が漏れる。


「フレーッシュ!」


その言葉とともにざわざわと木々が揺れた。
冬の、葉を落とした枯れ木にすさまじい勢いで緑の葉がついていく。
呆然とそれを見ていると、三村さんが叫んだ。


「おし行けっ!」


椿のような厚い大きな葉が巻き上がり、一本の帯のようになって襲いかかってくる。
慌てて雲でその場を離れようとするが、葉の帯に足をとられ、ぐらりと身体が揺れた。


「うわっ!」


落ちる、そう思った瞬間、あたりに響いた森脇の声。


『落ちんな、耐えろ!』


その声で俺の身体はバランス感覚を取り戻し、真っ直ぐに雲の上に立ち直る。
力を込めて雲を森脇のもとへと走らせれば、緑の葉の帯はざざっと下へと落ちて、枯れ葉の山になった。


「おら、500円!」


森脇はひょいっと硬貨を投げ、すぐに俺の後ろに飛び乗る。
その左手には煙草の箱が握られており、どうやら煙草の自販機で札を崩したらしいと予測がついた。


「おし!」


500円をポケットに入れ、三村さんを見つめる。
その手に握られた石の情報が頭に流れ込んでくると、すぐに俺は声を上げた。


「…木の葉の化石!枯れ木に葉をつけてそれを動かして防御と攻撃をする、使えるのは3回程度!」
「おっしゃあ、『木の葉の化石』、封印!」


森脇が鈍く光るの鉱物をとりだし叫ぶと、三村さんの石から光が消える。
とたんに地面に落ちていた枯れ葉の山も姿を消し、その石の気配は跡形もなくなった。


「諦めて下さい、もうその石しばらく使えないっすから」


そう森脇が言うと、三村さんは自分の手の中の石を見やってコン、と指先ではじいた。
そんなことをしても意味はないのだが、石の様子を確かめているようだ。


「へえ、ホントに使えなくなるんだな」


これで攻め手がなくなったはずの三村さんは、なぜかちょっと笑ったように見えた。

468[バカルディ・ゴールド(5)] 三村:2006/07/10(月) 02:52:10


砂の固まったような地に、茶色い木の葉の姿が浮き上がる化石。
黒の余り物の石だけど、それなりに役には立った。

攻撃力も高くないし、あまり使えるもんでもないので、下っ端に持たせていたと土田からは聞いている。
スケープゴートにはもってこいの、地味な石を借りてきたのには理由があったのだ。


-- 猿岩石の能力、知ってること全部教えてくれ
-- 大竹さんは?
-- いいんだよ、今回は俺一人で行くから
-- …まあ、いいですけどね


襲撃の前、土田に連絡を取って細かいことを聞いた。
そのとき、森脇が封印できる石は一度につきひとつだと知って、この作戦を考えついたのだ。
封印できるのがひとつなら、まず別の石を封印させてしまえばいい。
これで森脇が封印を解けるようになるまでの10分は自由に攻撃できる。
見事にハマった作戦に、いたずらが成功した時のような喜びを感じつつ、フローライトをとりだした。


「ホントの石は、こっちなんだけど」


…多分、結構悪役っぽく笑えてたんじゃねーかと思う。
有吉と森脇の顔色がみるみる変わっていくのを見ながら、自分の石を強く握りしめた。


『キント雲かよっ!』


ビシリと指差した有吉の足の下の雲は、ピューッとどこかへ飛んでいく。
有吉はズデン、と漫画のような音を立てて地面に落ちた。
それを見て真っ青になる森脇と、おかしな格好で地面に落っこちた有吉を見ていたら何か笑えてきた。
はたから見ればちょっとコントみてぇな状況だろうな、コレ。

ぐるりと周りを見回す、目についたのは塀の上の黒猫。
指差すと猫はびくりと肩をいからせる。悪いけどちょっと飛んでくれ。


『黒い!』


ブニャーッ!!!と猫は叫びながら転がっている有吉にむかって一直線。


「ぎゃーーー!」
『ニャーーー!』
「うわーーー!」


有吉の顔面に猫の凄まじい引っ掻きが入り、縦縞がその顔を飾る。
その猫を有吉から離そうとして今度は森脇が引っ掻かれ、ちょっとした惨事になった。
なかなかマンガチックな状態だが、実はわりと可哀相だ。


「い、痛い…」


赤のペンシルストライプが描かれた顔で、有吉はふらふらと立ち上がる。
小さくジャンプしたその足の下にはまたも雲が滑り込んできて、キント雲になった。
森脇もどうにか猫を引きはがし、立ち上がるとその雲をちぎって思いっきり振りかぶって投げてくる。


『っ、雲かよっ!』


さすがに疲れてきたが、ここでやられるわけにはいかない。
投げられた雲の玉にツッコミを入れると、ちょっと噛んだせいかポーンと上に飛んでいく。
そこにさらにもう一つ雲の玉が飛んできて、避けようと体勢を変えたところに有吉がキント雲で突撃してきた。
思いっきり当たられて、後ろにふっ飛ばされる。結構痛いじゃねえかちくしょう。
倒れた俺の隙を見て、有吉が森脇を連れて雲で逃げようとする。
…残念、逃がしてやるわけにはいかねえんだよな。


『たてじまっ!』


有吉に少し力を込めたツッコミを入れると、その身体がボールのように飛んでいく。
後方の塀に有吉がたたきつけられ、それと同時に森脇が雲から転げ落ちた。
有吉は背中をおさえてうなっているが、ぐったりと動かない。森脇もぶつけたところをおさえている。
とはいえそろそろ俺も限界が近いし、時間もいっぱいだ。ここで決めなければ。


『…灰色っ』


有吉の手の中に見えた石に軽ーくツッこむ、その小さな石はひゅっと飛んでいった。
それを走って追いかけて、拾う。これで有吉の石はいただき。
もう俺の方も身体が言うことを聞かない。体中がぐったりと重くなる。


「…森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」


そう声をかけると、森脇は悔しそうに唇を噛んだ。

469[バカルディ・ゴールド(6)] 有吉:2006/07/10(月) 02:54:40



たたきつけられた背中と引っ掻かれた顔が痛い。
手から自分の石がすり抜けていったのは気づいてた。
でももう、雲に乗りすぎたのもあって足が動かない。


「森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」


そう三村さんが言うのも聞こえてた。
それでももう、これ以上何もする気にはなれない。俺は力つきた。すまん、森脇。


「すんません、渡せません」


…っておい、森脇お前まだ抵抗するのかよ、俺、もう石持ってねえのに。
しかもまだあの化石を封印したままで、三村さんの石のことも不明だから、お前の真鍮も使えないのに。
何でだ、抵抗したってもう何にもかわんねーじゃねえか。


「森脇、もう無理だ」
「おう無理だ…おし、もう10分経ったな」


そう言った森脇は自分の石をとりだして、呟いた。


「…『イーグルアイ』、封印!」
「な…森脇お前!」


三村さんの手の中で、俺のイーグルアイが、静かに光をなくす。
俺の石を封印した森脇は、少し笑って三村さんに自分の持つ鉱物、真鍮を見せた。


「この封印、俺の意志がないとずっと解けませんから」
「…」
「俺が望まない限り、これもイーグルアイも、もう使えません」


言い切った森脇の目には何か、強い決意の光があふれていて。
前に相方のそんな姿を見たのは一体いつだったろうなんてつまらないことを考えた。
ぼんやりとその横顔を見つめていると、また森脇は口を開く。


「…三村さん、俺はもう嫌なんですよ」
「何がだよ?」
「この石をめぐる闘いが」
「気ぃあうな、俺も嫌だぞ」
「でも三村さんはその石で闘えるでしょう、俺はダメだ」
「…」
「自分じゃ何も変えられない、それなら俺はこんな石なんていらない」


そう吐き捨てた相方が、ギリ、と歯を食いしばるのを俺はただ見ていた。
数々の襲撃を退けてきた裏で、森脇はそんなふうに考えていたのか。

なあ森脇、確かに真鍮はそれだけじゃ闘えない代物だ。
でもいつもお前の助けがあったからどうにか乗り越えてきたんじゃねえか。
そんなことも伝わらないほど、俺たちは遠かっただろうか。

すまん森脇。お前がもう闘いたくないって知っても、俺は。


「俺は、石を手放すなんてしたくねえ…!」


絞り出すような俺の声に、森脇がふりむく。
右頬の下のアスファルトは、まだ夏を迎える気配も見せずに冷たかった。
悲しそうに俺を見る相方、それでも俺は執着を捨てられない。
この闘いへの、この石への、そしてこの世界への。
這いつくばったままの俺に視線を向けて、森脇が静かに口を開く。


「なら有吉、お前、黒に行け…俺の真鍮が手土産なら、邪険にはされねえだろ」
「そりゃ、俺一人で行けってことか」
「…10分たったらイーグルアイの封印を解く」
「おい森脇、」
「そしたら黒に行けよ、このままでいるよりマシだ」
「っ、だから!お前はどーすんだよ!」
「…もう俺はこの闘いに意味なんか見つけられねえ」
「それは…俺一人で闘えってことか」
「お前は、闘える」
「…」
「闘えるじゃねーか」


…ああ、きっと俺の言葉はもう、森脇には届かない。

森脇を殴ってやりたい気持ちにかられて、立ち上がろうとした足はやっぱり言うことをきかなかった。
そのまま地面にぐしゃりと崩れる自分の身体に、いらだちばかりが募る。
それでも地面に突っ伏したままでいるうちに、頭が少しずつ冷えてきた。

そうだな、きっと俺は一人でも闘える。森脇がいなくても。
負けるときもあるかもしれない、それでも、俺が無抵抗でやられることはないだろう。
相手の力がわかるならどうにか反撃はできるだろうし、雲に乗って逃げることだってできる。
そうだな、多分、闘えてしまう。お前にはできないことができてしまう。

…だけど、お前のいない闘いなんて考えたこともなかった。

470[バカルディ・ゴールド(6続)] 有吉:2006/07/10(月) 02:55:34


「有吉」
「…はい」


俺たちの会話を静かに聞いていた三村さんに名前を呼ばれる。
声の方へ向きなおって返事をしようにも身体が動かずに、首だけ回して答えた。
どうやらもう三村さんも疲れているらしく、地べたに座り込んだままの格好で俺を見ている。


「お前、どーすんの?」
「…どーしたらいいんすかね」
「真鍮とイーグルアイ持ってお前が黒に来るんなら、こっちは文句ねーよ」
「俺、何かもう、わけわかんないんすよ」
「…俺も疲れてわっけわかんねえ感じになってきてるけどな」
「『わっけわかんねえ』ままいったん退いてもらうとか無理っすかね」
「あー、それはできねーわ、俺も色々あんの」
「色々ですか」
「おう、色々な」


強引に事を進めようとはしないが、退く気もなさそうな三村さんに溜息をつく。
どうしても俺はここで身の振り方を考えなければならないらしい。
森脇をちらりと見れば、奴は奴で疲れ切った顔でアスファルトにだらしなく胡座をかいていた。
そうだな、もう答えなんか出てるんだろう。俺は一人で闘うんだ、これから。


「…俺、やっぱ石手放したくないっすわ」
「来るか、黒」
「よろしくお願いします」

「…何だ、一件落着しちまってんじゃねーか」


突如として今までその場になかった声が耳に響く。
驚いて声の方に首をむけると、そこにはバカルディの大竹さんがいた。
そしてその後ろにのそりと立つ大きな影。
よくよく見ればそれは、事務所の先輩である土田さんだった。

471[バカルディ・ゴールド(7)] 三村:2006/07/10(月) 02:56:41



「お、大竹っ?!」


突然現れた相方の姿に混乱する、なんでこんなところにこいつが?!
パニックを起こしていると、大竹は憮然とした表情で続けた。


「せっかく来てやったっつーのに無駄足じゃねーか」
「や、つーか、何でお前ここにいんの?」
「土田に聞いたんだよ、ここんとこお前様子おかしかったし」
「…」
「まー、なーんか挙動不審でよー、わっけわかんねえ」
「いや、その、だから…」


しどろもどろになる俺を不満げに見て、大竹はふっと溜息を一つつく。
しょうがねぇな、とでも言いたげな表情がこちらにむけられた。


「お前アレだろ、何か変な気ぃ使っただろ」
「…」
「バーカ!バーカ!カバみてぇな顔しやがって!」
「カバ!?」
「コラ、お前石…!」
「あ」


石を持っているのを忘れて思わずツッこんでしまったせいで、ポンッと空中にカバが現れて飛んでいく。
ただ、そのカバは疲れのせいか、本物ではなくとても小さなぬいぐるみのような姿をしていた。
スピードもほとんどなく、弓なりに飛んでいったそのカバは、大竹の手におさまって消える。


「…ちっちぇーの出たな」
「…ちっちぇーの出ちゃったな」


ミニサイズなカバを見たら、何かホントにバカみてぇだと思った。
こんなん出るまで頑張っちまったぞ、俺。


「ま、あれだ…次から俺も呼んどけ、じゃねえとちっちぇーの出ちゃうから」
「おう、ちっちぇーの出ちゃうからな…」


…そうだな、ちっちぇーの出ちゃうもんな。
大竹いるんだから、んで大竹は闘うつってんだから、いいんだよな。
別にいいんだ、二人で。それでいいんだ、俺らは。
何だか本当に下らないことにこだわっていた自分に気づいて、ちょっと笑った。
それを見ていた大竹も、何だか少し笑っているように見える。

472[バカルディ・ゴールド(7続)] 三村:2006/07/10(月) 02:57:30

そんなおりに、急にガサッとむこうから聞こえてきた音にびくっと肩が動く。
音がした方を見ると、ちょうど土田が有吉に手を貸して助け起こしているところだった。


「土田さん、黒だったんですか…」
「まあね」


少しだけ身体を起こした有吉が土田を見上げながらぼそりとこぼす。
問われた土田は、顔色一つ変えずに短く答を返した。


「…俺は、黒でいいんすかね」
「こっちは来てもらう方が都合いいけど」
「黒、楽しいっすか?」
「俺はそれなりに楽しんでるとこもあるよ、俺の石は黒の方がしっくり来るみたいだし」
「石が?」
「…まあ、それはおいおいな」


有吉は土田の肩を借りてどうにか立ち上がる。
土田は有吉を支えつつ、空いたもう一方の手を森脇に差し出した。


「おら、お前も疲れただろ」


森脇は土田を見上げて、少し泣きそうな顔で言う。


「…そうっすね、疲れました」


その言葉と、俺の手の中で光を取り戻した有吉の石が多分、この闘いの終わりの合図だった。

473[バカルディ・ゴールド(8)] 有吉:2006/07/10(月) 02:59:47



疲れた体を固い駅のベンチに沈めた。
横には黙ったままの相方がいる。
俺の手の中では、イーグルアイが灰色の光を放っていた。
真鍮はとりあえず土田さんに預けてある。
黒に誰か使える奴がいるのか、それとも誰もいないのかはわからない。

土田さんの石の力で、駅の近くまで送ってもらった。
お互いそう近くに住んでいるわけではないが、使う路線は同じだ。
終電に近い電車を待ちながら、森脇に声をかける。


「なあ」


森脇は無言で、俺の方を見た。
それを返答の代わりにして、俺は続ける。


「お前が石を捨てても、まだ俺らは猿岩石なんだよな」


その言葉に、森脇は少し笑って答える。


「おう、まだ猿岩石だよ」


その返事に満足して、軽くうなずいた俺を強烈な睡魔が襲ってきた。
ふぁ、と大きなあくびをしたところで、森脇に電車が来たら起こしてくれるよう頼んで眠りにつく。



…それから数十分後、森脇まで寝たせいで終電を逃すはめになったのはまた、別の話。


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