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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

249 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:12:31

「いたいた。おい長井、」
今となっては聞き慣れた、鼻にかかったようなその声にピン芸人・長井秀和は口に入れようとした牛丼を寸前で止め、面倒くさそうに振り返った。
「今回も『ビジネス』持ってきたぞ」
「謹んでお断りさせて戴きます」
男が言い終わらないうちに、長井は態とらしいとも取れる態度で深々と頭を下げた。
「オイ待てよ。報酬払ってやってんだろうがよ、いっつも」
牛丼の器を持ち上げ楽屋から出ようとする長井を男は慌てて袖を掴んで制止した。
ドアの前へ回り込んで肩に手を置く。
「やりません。面倒くさいんで」


男が『仕事』を運んでくるのはこれで三回目だ。数日前、うっかり目の前で能力を使ってしまった所為だ。
長井の能力は男にとって利用しない手はないものだった。
いい加減にしてください、と長井は男の手を払い、すたすたと楽屋を出て行く。
男は一瞬困ったような顔つきになるが、廊下へ一歩飛び出し長井の背中に向かって叫んだ。

「じゃあ二倍ならどうだ!?」

長井の足が、接着剤を踏んだかのようにぴたりと止まった。
そして次の瞬間には既に男の目の前まで戻って来ていた。

「…好きだねえ、お金」
「ええ。そりゃあもう」
皮肉混じりの男の言葉を知ってか知らずか、長井は俯いたままあっさりと受け止めた。
金の入った封筒を受け取り、慣れた手つきで中身を確認する。
「…で、今回は?」
「最近黒い破片をあちこちにばらまいてる野郎がいんだよ。うっとーしいからそいつ懲らしめて欲しいんだけど」
「それこそお二人がやれば…、太田さん達だって石持ってるでしょう」
「何で俺が!トロい白の代わりに戦うなんてまっぴら御免だ。お前が石を全部スってくれれば早い話だろうがよ。あとはうちの相方が何とかするから」
理不尽な言葉を投げかけてくる男…爆笑問題の太田光に、長井は今回の仕事がどれだけ面倒くさいかを悟った。

「やっぱりやりません。お金は返しますから…」
「不可。返金は認められねえよ!」
してやったりな表情を浮かべそう言うと太田は廊下の角を曲がりあっという間に走り去ってしまった。

直ぐにでも追いかけようとしたが、長井は片手に持った冷め気味の牛丼にちらりと目をやり、しまった、と呟いた。


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