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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

423oct ◆ksdkDoE4AQ:2006/03/14(火) 22:18:50
「情けねぇよ俺は」

 ビル群特有の風に、白いシャツの裾が大きくはためく。それを気にも留めず、今仁は屋上の
手すりから身を半ば乗り出して、自分が居るビルと隣のビルとの谷間を見下ろしている。だか
ら彼の声は風に千切れていて、少し離れた吉野の耳には切れ切れにしか届かない。

「え?何?」

 単なる問い返しに過ぎない吉野の言葉がやる気のないそれに聞こえたのだろう、今仁は軽く
眉をひそめて振り返り、「情けねぇ!」と声を荒げた。しかし吉野は、今仁の尖った声に動じ
る様子もなく、「ふーん」と相槌にもならない声を漏らしただけで、星も月も見えない暗い夜
空を見上げたまま。
「…どうした?とか、何が?とかねぇのかよ!リアクションほとんどナシか!」
 今仁はあっという間に焦れる。そういう今仁の分かりやすい所が、美点でもあり欠点でもあ
ると吉野は思う。
「…どうかした?」
 自分で振らせておいて話し始めるのって楽しいのかな、とちらりと思ったが、今仁には云わ
ない。吉野が言葉を飲み込んだことなど、今仁は知るよしもない。

「おまえの石、戦うのに全然使えねぇのな。俺の石も戦闘力ねぇし。俺ら二人ともすげぇ情け
ねぇなと思ってさ!」
 磯山さんのとかすげぇぜ?と続けて、肉体強化に石を使った磯山がいかに強いかを語る今仁
の表情を見ながら、吉野は無表情に頷く。
 聞き流してはいない。きちんと聞いてはいる。けれど彼の思いは今、別のところにある。

(こんなに、いつも通りの表情に見えんのにな)

 吉野の心の声を打ち払うように、今仁は磯山の様子をジェスチャー付きで解説する。
「磯山さんがこうやって殴ったらさ、敵が3mくらいブッ飛ぶの!マンガか!って俺叫びそう
になったわ」
 拳を架空の敵に向けて振り切る。その今仁の右手首には、白いリストバンド。手首側、ワン
ポイントのように黄色いガラスのようなものが付いていて、ふいにキラリと吉野の目を射た。

(サルファー、だっけ)

 それが、今仁の石の名だ。より耳なじみのある言葉に云い代えれば、“硫黄”。鮮やかな黄
色をしていて、最初にそれを見た瞬間、今仁が「何か美味そうな石だな」と云ったのが、元々
食の細い吉野には理解不能で驚いた。


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