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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

633 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:05:32
気が付くと人気の無い川べりまで来ていた。精一杯走ったものだから息が上がっていた。
川は東から西に向かって流れていて、下流を見やると黄金色に輝く夕日が映った。
押見は泣き出したかった。何もかもが虚しいものに思えた。
自分が笑いに対して抱く感情や、石を使う事に関する憧れ、果ては存在意義まで、明瞭なものは一つもなかった。
乱れた呼吸を押しとどめようともせずに、押見はコートのポケットをまさぐった。
尖った石の先が、押見の指を傷つけた。構わなかった。
震える手で乱暴に引っ張り出して、その姿を一瞬だけ確認する。
石は朱を注いだように光っていた。

左目の端から涙が零れた。押見は石を持ったまま、水面を見据え、右腕を大きく振りかぶった。


手首を冷たい感触が襲う。

「捨てる位なら譲って下さい」


押見の背筋が凍りついた。横目で見ると、何物かが自分の手首を掴んでいた。来訪者の姿は見えなかった。
恐ろしくなって振りほどこうとしたが、強く握り締められていてなかなか自由にならない。

「いぃっ! 嫌だあっっ!」

絶叫し、身体を大きくよじって身をかわした。とっさにあいた方の手で突き飛ばすと、不意をつかれた男は尻餅をうった。
押見の奥歯がカチカチうち合わさった。男は自分より若く見えたが、目は空ろで、倒れた時も、立ち上がる時も、視線を押見から離さなかった。
さては黒のユニットの手先か。
本能的な恐怖にあてられた押見はようやく、自分が巻き込まれた戦いの壮大さを悟った。

男が一歩、また一歩、押見の傍へ近寄ってくる。
その時間は、押見にとって、尋常ではない長さに感じられた。

「来るな、来るな、来るなあっ!」

押見は石を体の前にかざし、身を守るように振り回した。
だが、男がダメージを受けた様子はまるでない。
心臓が爆発したように感じられて、気が遠くなっていく。もう駄目だ、と、焦る気持ちの中絶望した。

馬鹿だなあ、意味の無いうたを唱えないと。

そう、くすぐるように呟いたのは、分析的な自分だった。
突然の忠告に押見は当惑したが、すがるとすればこの言葉しかなかった。


「分かってるけど困っちゃうなあ、いつかは仔猫が帰ってくるさ」


適当に思いついた言葉を、呼吸音と勘違いしそうなほど小さな声で囁きながら、
押見は牙のような石を持ち、切り裂くつもりで振り払った。

男が歩みを止め、苦しそうに頭をかかえたのが見えた。
だが、押見はもう限界だった。
深い呼吸が出来ない。頭の片側が割れるように痛む。警報音のような高い音が聞こえて、今にも鼓膜が破れそうだ。
全部吐きたい。目の前が真っ暗になる。どうして、ここに立っているのか分からない。
思わず後ずさりすると、背後が土手になっていた。
息が苦しい。この川に飛び込んでやろうか。今の押見には、主観的で愚かな自分しか残っていなかった。
力の抜けた手から石を落とすと、少し気が楽になった。


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