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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

643本71現637:2008/07/06(日) 02:12:11
人は、失って初めて、ものの大切さを知る、というけれど。
ならば「奪う」ということは、案外「教える」行為に通じるところがあるのかもしれない。
だからといって、「白」の連中に石や相方の大切さを教えて回る気など、毛頭ないわけで。


状況に反して哲学的な思想が浮かび、柴田は右手で頭を乱暴に掻きむしった。
今、彼は土田の楽屋にいる。苛立ちながら、忙しく部屋中を歩き回っていた。
というのも、本来なら同局の屋上で矢作が転落死するのを見届けているはずだったのだ。
しかし、予定外の土田の登場に加え、階下からは「白」の奴らのやって来る、気配。
さすがにその場に留まれなくなった柴田は、土田の能力―瞬間移動―に助けられ、窮地を脱することができたのだった。
…おそらく、矢作は死んでいない。局内の平和な静寂が破られていないからだ。

「まあ落ち着けって、」淡々とした声にたしなめられた。土田だ。ゆったりとソファに腰掛けている。
「お前さ、焦りすぎだよ。別に殺す必要はないじゃんか。大体、矢作さんは白じゃないんだし」
「何言ってんだよ。甘ぇぞあんた、」
すかさず柴田が噛み付く。とはいえ、今の柴田は、柴田であって柴田でなかった。
つまり、黒い欠片に思考を乗っ取られている状態であり、彼自身の健康的な意識は闇に沈んでいたので。
「白かどうかは関係ねえよ。黒じゃない時点でそいつは敵だ!敵は居ないに限るだろ」
「…短絡的だな」
「お前らが慎重すぎなんだ、くそ!」
依然として鼻息荒く歩き回っている後輩に、土田は溜め息を吐いて。
「慎重にもなるって。死人が出たりして、事が表沙汰になったら、色々と面倒だろ?」
そんな“シナリオ”、今は組み込まれてないんだぞ。
そう付け足す。幹部の意思をほのめかされて、多少頭が冷えた柴田は、ようやくその足を止めた。
「…じゃあ、ほっとけっていうのかよ、このまま」
不満をあらわにして土田を睨みつける。せっかく精神の極限まで追い詰めた獲物を諦めることなど、まっぴら御免だったので。
「いいか、矢作さんに限らず、白の奴らにだってそうだ。俺たち黒は、別に殺しが目的なんじゃあない。石だ。奴らの石を奪って無力化させること。
それだけに心血を注げばいい。もちろん、『シナリオ』に注意しながらな」
そう宥める先輩の向かいにあるソファに腰を下ろして、口を尖らせる。
「白の奴らの石だけを、かよ?」
すると、

「…白かどうかは関係ねえよ。黒じゃない時点でそいつは敵だ。敵は居ないに限るだろ」

聞いた台詞を吐き、土田はにやりと笑んでみせた。
どっちが短絡的だよ、と柴田も苦笑を返した。


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