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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

631 ◆A4vkhzVPCM:2007/12/25(火) 13:02:00
押見は石をローテーブルの上に置いて、その前に座って観察を始めた。
石は既に光るのをやめており、はじめ見たときと同じように、ひどく不透明な乳白色をまとっていた。
片手で握れる位だからあまり大きくない。しかし不恰好にごつごつしていて、牙のように尖っている。
押見は腕を背後に投げ出すと、ぼんやりと、これからどうするかについて思案した。

黒に入るのは嫌だった。否、怖かった。
善悪の問題ではなく、伝え聞いた噂から判断し、目的のためには手段を選ばない団体に属するのはリスクが大きすぎると考えたのだ。
切り捨てられ、石だけ盗られてポイ捨て、なんて事になったら目も当てられない。
かといって、白に入る気にもならなかった。
ひねくれ者の性格が鎌首をもたげ、正義の味方を気取るなんて、と否定的な事をいうのだ。
それに黒にせよ白にせよ、自分が先輩との関わりが薄い事を考慮すれば、飛び込むのには勇気が要った。
と、すれば、無所属。
しかし――静観するのは心が許さない。
何故だろう。大して積極的でもない自分が、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。
押見は首を折り、天井へ視線を移した。

戦いに関与したい。
目的の下で動きたい。
そして何より、石の力を使いたい。

俯瞰的な自分によれば、押見は暴走していた。まさしく力に振り回されようとしていた。
それを踏まえた上で、押見は、石を巡るこの戦いをめちゃくちゃにしてやりたいと望んだ。
自分を散々置き去りにしておいて、今更歯車になれなどと言われても、従えるはずがなかった。
暴走しよう。迷妄しよう。
そして押見は、この石にならそれが出来ると確信していた。

池谷はどうしよう?

この疑問が、今の今まで浮かんでこなかった事の方が不思議なのかもしれないが、それはある意味仕方がなかった。
押見から見て、相方であるこの男は、どうしようもなく能天気で、平和ボケで、戦いや諍いには結びつかない存在だったからだ。
石についても、池谷は押見と違って、さほど関心を示さないでいた。実物も、恐らくまだ持っていないだろう。
自分が石を手に入れた事については黙っておいて、この計画には相方を巻き込むべきでないのかもしれない。
そういう正常な意見を、押見は否定した。
合理的に考えて、異能者だらけのこの戦いをかき回そうと思うなら、池谷に協力させない道理はない。
体力、身の軽さ、意志の強さ……いつか池谷の元へ来るであろう石の力を度外視しても、計画に池谷を巻き込む価値はあった。
反射的に携帯電話を探る右手を意識しながら、押見は、相方を数値化する自分の合理性を嘆いた。
感情的な自分と理知的な自分が争っていた。心地よさに任せて暴走などしなければよかったと後悔した。
それでも、身体は自然に立ち上がるし、指はぎこちなく携帯のボタンを探る。左手は石をポケットにしまう。
家を出ようとしていたが部屋を片付けるつもりはなかった。

「――あ、もしもし池谷? 今どこよ? ふーん、バイト中か……ちょっと、話したい事あるからさ、そっち行っていい?」

倒れたままのテレビが、押見の背中をじっと見ていた。


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