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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

273 ◆TCAnOk2vJU:2006/01/22(日) 01:51:32
 そう言った瞬間、男がガバッと顔を上げた。あまりにも突然のことだったので、福田は「うわっ」と声を出して二、三歩後ずさった。
 男は二十代後半といった感じの顔立ちで、表情を見れば明らかに怒っているようである。二人が知っている若手芸人にも、スタッフの中にもこんな人はいない。誰やねん、という疑問を口から発する前に、男の方が二人の方を向いて口を開いた。
「この二人はお人好しやから、すぐに石渡してくれるって聞いたのに……話が違うやないか」
「な、なんやねん、いきなり」
 福田が多少驚きつつそう言うと、男はふんと鼻を鳴らした。
「まあええわ。こうなったら、力ずくでも石を渡してもらわな、な」
 そう言うなり、男は一番近くにいた福田の方に飛びかかってきた。福田はなんとかそれを食い止めたが、徳井は慌てて立ち上がり、福田の方にかけよった。
「福田! ……お前、何すんねん!」
「ちっ、こいつ石持ってへんみたいやな……ほんならお前からや!」
 男は福田に乗りかかりながら一人でそう吐き捨て、今度は徳井の方を睨んだ。
 徳井は今、手にあの石を持っている。力一杯握りしめているせいか、石にこもっている熱がより一層増して感じられた。
「福田、お前も石、出しとけ」
 横で倒れている相方にそう囁き、福田が頷いたのを確認して、徳井は立ち上がって男を睨み返した。男は徳井を睨んだまま動かない。
 自分の隙を窺っているのかもしれないと、徳井は用心しながら後ずさりした。福田が自分の鞄から石を取り出す時間稼ぎをするつもりだった。
 男の後ろにいる福田は、ゆっくりと自分の鞄に向かって動いていた。徳井はそれでいいと小さく頷き、男に視線を戻した。
「なんや。いきなり俺らの楽屋に入ってきて、挨拶もなしにこれか」
 我ながら冷たい口調だ、と思いながら、徳井は改めてキッと男を睨む。男はそれでも動かない。視界の端で、福田が鞄からそろりそろりと石の入った袋を出すのが見え、徳井は再び声を発した。

「どこの誰か知らんけど、『人の楽屋に挨拶もなしに入ってくんな!』」

 その瞬間だった。


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