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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

464[バカルディ・ゴールド(1)] 三村:2006/07/10(月) 02:48:10


…新年あけましておめでとうございます、1998年がやってまいりました。

とはいえ新しい年だから明るい話題、とそうそう上手いこといくもんでもない。
虫入り琥珀は手放したものの、すぐさまもう一度階段を上れるわけでもなく。
年初はあまり仕事もなかったが、時がすぎるとともに少しずつ状況はいい方へ。
大竹の出た連ドラが放送されてみたり、俺が感謝祭で優勝してみたり。
それでもテレビでの露出はまだまだ多くない、本日はちょいと営業へ。
少しずつ上がってゆく気温とともに、ゆっくりゆっくりと雪解けの季節を迎えている気分。

そんな風にひとつひとつ、積み重ねる途中で入ったのが黒の仕事だった。
大竹と別れて家路についた俺の前に、緑のゲートが開いてのそりと現れた目つきの悪い男。
俺たちが黒に寝返ってから、最初の指令は土田を通じて伝えられた。


「どうも、面倒なこと頼みにきてすいませんね」
「おう、すーっげぇめんどくせぇぞ」


思いっきりめんどくささを前面に押し出す俺に、土田は眉をひそめる。


「…そういわれても俺の責任じゃないんですけどね」


まあそうだ、土田が襲撃を決めたわけじゃないんだろう。
とはいえ前のこともある、こいつが面倒事を運んでくる使者のように見えてくるのも仕方ない。
少々うんざりしつつ、土田から話を聞いていく。


「まず、ターゲットは猿岩石」
「ああ、あの電波少年の」
「それです、ま、あいつらうちの後輩なんですけども…」
「じゃあお前が行けよ」
「ダメなんですよ、顔も人となりも知れてるもんで」
「なんだそりゃ?知られてるとなんかあんのか?」
「有吉は他人の石の能力を知ることができるんです、特に知ってる相手は暴かれやすい」
「…石の力知られるってマズいか?」


知られたからといって何も変わらない気がする、俺の場合。
大竹だって知られても結局、力が使えなくなるわけじゃないし。
そう思っていると土田がうっとおしそうに言った。


「有吉の力で能力の判明した石を森脇が一時的に封印できるんです」
「…それ、すげえめんどくせぇじゃねえか」
「めんどくさいですよねえ」
「俺らがやんなきゃなんねえのか?」
「やんなきゃならないんですよねえ」


…めんどくせぇ。

なんでそうよく知ってもいない、恨みもない相手をわざわざ襲わなきゃなんねーんだろう。
まあ前みてーに毎日襲われるよりはマシなのかもしれねえけど。
やっぱりめんどくせぇよな、黒でも白でも結局…でもやんなきゃなんねーなら、しょうがねえか。


「じゃあそいつらの石を貰ってくりゃいいのか? それとも黒に勧誘すんの?」
「どっちでも、お好きなように」
「まあいいや、とりあえずどうにかするわ」
「ええ、大竹さんにも話して下さい、それじゃあ失礼します」
「…おう」


そう言ってきびすを返したはいいものの、少しばかり困ってしまう。
今、大竹はライブのためにネタを書いている真っ最中なのだ。
今日だって営業のあと、寄り道もせずにさっさと家に帰っていったのはそのためだった。
おそらく後日、それを見ながら二人で練っていく手はずになる。

もちろん自分だって一緒にネタを練るわけだが、ベースを書く大竹の方が負担は多い。
特に今回は少し趣向を変えたから、いつも以上に面倒な作業が続くはず。
こんな時に後輩を襲撃するなんていう面倒はごめんこうむりたいだろう。

まあ確かにこっちだってそれなりに忙しいし、ピンでの仕事は自分の方が多かったりもする。
それでも「バカルディ」の屋台骨、ライブのために頭をフル回転させる大竹を邪魔したくはなかった。

余計なことで煩わせたくない、という俺の考えは多分本人に言えば否定されるんだろう。
それでも何となく、大竹に言い出さないままに時が過ぎたのには多少の理由がなくもない。

半年ほど前、「バカルディ」は俺の都合で、白から黒へと鞍替えした。
大竹はそのことを決して責めなかったし、むしろ俺よりも先に俺の家族のことを思いやってくれた。
照れくさいからそれについて礼を言うつもりはないし、この先触れるつもりもない。
それでもまだ、小さな罪悪感が自分の中にあるのは確かだった。
自分勝手な都合だとわかってはいても、けじめをつけておきたい思いがあるのは否めない。

数日後に俺が出した答えは、一人でできることは一人でやっちまおう、というものだった。


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