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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

377 ◆vGygSyUEuw:2006/02/27(月) 18:06:29
そもそも誰が笑ってくれるというのだ。敵か?
敵も芸人だ。敵も命がけだ。しかもそれどころではないような状況にいるだろう。
嘲り笑いならいただけるかもしれないが、それは多分腹が立つだろう。
結論、判子は却下。
そう寒さのせいで薄ぼんやりとしたとりとめのない思考が結論づいたあたりで、丁度待ち人がやってきた。
とはいえ、色気のあるものではない。石をポケットに突っ込む。
「どうも。」
軽く会釈すると、よ、という短い返事が返る。
「今日も寒いな。」
「そうですね。」
会話とも呼べないような他愛もないやりとりをして、男が鞄を開けた。
「ほらよ、いつもの。」
「…どうも。」
出て来たのは、いつも通りの黒い紙袋。
もっと違うものであればいいのに。
ぼんやりと思うが、具体的に何がいいとも浮かばない。
要はこれでさえなければいいのだ。そうであれば。
…言い換えよう。「これは嫌だ。」
浮かんだ言葉も思考の波に流れて飲み込まれ、声に出すこともないまま何事もなかったように消えていく。
ずしりとした黒い袋を受け取る。どうせ中身もいつもの黒いものだ。
黒に黒、というのはいかがなものかと思う。別に外見が何色であってもそのものの本質は変わらないのだが、人間はごまかしが好きなものだ。
袋を渡して、名前も知らないいつもの男は去っていった。
いや、毎回違うのかもしれないが、そんなことお互い気にも留めないので分からない。
どこかのスタッフなのかもしれないし、見知らぬ芸人かもしれない。
しかし待たせておいて、あっさりとしたものだ。…いや付き合わされても困るので別にいいのだが。
袋はじゃらりと、小さく硬いものがいくつもぶつかる音を立てて揺れる。
中身をそっと確認する。いつものように、といっても未だ慣れない禍々しい黒がいくつも入っていた。
ぶるりと震え、袋を鞄に突っ込むとさっさとその場を離れる。
これがまた誰かを狂わせるのだろう。触れた手や鞄まで汚れたような気がした。
いや実際汚れている。使ったことはないにせよ、今こうして関わっているのだ。
けれど、どうすることもできないではないか。
知っている親しい誰かが苦しむかも、死ぬかもしれなくても。
己には何もできない。痛いほど分かっている。弱いから従っている。駄目な自分だ。
割に広い道は人とすれ違うこともない。平日の午後一時、町はどうにも力が抜けていた。
ふと、ポケットで揺れる軽い重さに、布越しに手を触れる。
こいつはまだ白いままだ。いつか黒ずむのかもしれないが、まだ何も言われていない。
…そういえば、まだあの黒いもの―正式な名前も知らないが、あれはどうやって使うのだろう。
袋の中に石を入れる。白地にじわりとまわりの黒が広がっていく。
想像をしただけで寒気がして、今すぐ象牙を乱暴に磨き上げたくなった。
拒否反応が出るということはまだ迷っているのだろう。
黒に。いや、そもそも石に。
戸惑いがあった。善良とは言えないにせよ、ただの一市民だ。
…少々自分勝手ではあるにせよ、ただ人を笑わせるのが好きな男だ。


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