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真実の……バトルロワイアル 2

1 ◆3nT5BAosPA:2019/07/10(水) 14:53:21 ID:3QdBHNTs0
参加者一覧

9/10【鬼滅の刃】
◯竈門炭治郎/◯竈門禰豆子/●吾妻善逸/◯煉獄杏寿郎/◯冨岡義勇/◯胡蝶しのぶ/◯累/◯猗窩座/◯童磨/◯鬼舞辻無惨

8/9【Fate/Grand Order】
◯藤丸立香/◯マシュ・キリエライト/◯宮本武蔵 /◯源頼光/◯酒呑童子/●清姫/◯エドモン・ダンテス/◯フローレンス・ナイチンゲール/◯メルトリリス

5/6【ラブデスター】
◯若殿ミクニ/◯皇城ジウ/●愛月しの/◯神居クロオ/◯姐切ななせ/◯猛田トシオ

4/6【五等分の花嫁】
◯上杉風太郎/◯中野一花/◯中野二乃/◯中野三玖/●中野四葉/●中野五月

4/5【仮面ライダーアマゾンズ】
◯水澤悠/◯鷹山仁/◯千翼/◯クラゲアマゾン/●イユ

4/5【HiGH&LOW】
●コブラ/◯村山良樹/◯スモーキー/◯雨宮雅貴/◯雨宮広斗

4/5【衛府の七忍】
◯波裸羅/◯猛丸/●犬飼幻之介/◯宮本武蔵/◯沖田総司

2/4【彼岸島 48日後……】
◯宮本明/●鮫島/●山本勝次/◯雅

2/3【かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
◯白銀御行/◯四宮かぐや/●石上優

3/3【刀語】
◯鑢七花/◯とがめ/◯鑢七実

2/3【仮面ライダー龍騎】
◯城戸真司/●秋山蓮/◯浅倉威

3/3【ナノハザード 】
◯円城周兎/◯前園甲士/◯今之川権三

3/3【めだかボックス】
◯黒神めだか/◯人吉善吉/◯球磨川禊

2/2【TRICK】
◯山田奈緒子/◯上田次郎

2/2【亜人】
◯永井圭/◯佐藤

1/1【戦慄怪奇ファイル コワすぎっ!】
◯工藤仁

58/70

2 ◆3nT5BAosPA:2019/07/10(水) 14:54:02 ID:3QdBHNTs0
【基本ルール】
・最後の一名になるまで殺しあう。
・優勝者はどんな願いでも叶えることができる。(「巨万の富」「恋の成就」など)

【首輪】
・参加者の首に着けられている。
・いくつか設けられているルールを破ると爆発する
・この首輪による爆発を受ければ、どれだけ生命力や再生能力が高いものであっても、基本的に即死する。
・禁止エリアに入ると、まず三十秒ほどアラームが鳴る。それでも禁止エリアから出なかった場合、起爆する。
・会場である孤島から一定距離離れれば爆発する。地図に描かれている範囲内であれば、海上にいても爆発しない。
・強い衝撃を加えると爆破する。その衝撃が破壊を目的としたものであっても、偶然の事故によるものであっても関係ない。

【禁止エリア】
・立ち入りが禁止されているエリア。もし這入れば、上記の通り爆発する。
・放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
・禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送】
・零時、六時、十二時、十八時に放送される。
・死者と新たな禁止エリアみっつ、残り人数が発表される。

【支給品】
・背負えるサイズのリュックサックに収納されている。
・内容物は食料品、飲料水、地図、参加者名簿、ルールブック。そして1〜3つのランダム支給品。
・ランダム支給品は参加作品、バトロワ原作、現実のものから支給可能。

【予約】
・期限は七日。

【wiki】
ttps://www65.atwiki.jp/truexxxx/pages/1.html

3 ◆3nT5BAosPA:2019/07/10(水) 14:57:40 ID:3QdBHNTs0
やっぱり間違ってる方で続けて行くのも変な話なので、これからはこちらの方を使っていこうと思います。すみません。

4 ◆3nT5BAosPA:2019/07/15(月) 21:30:48 ID:7mWlu8V20
>獣達の夢
何人も入り乱れてのバトル回が投下されると、ついにロワも盛り上がってきたという感じがしますね。それが実質バーサーカー三人の戦闘なんだからド派手極まりなく、読み心地が半端ない。
死んだ清姫が浅倉の嘘のない行動を好ましく思っていたのが印象的。彼女の価値観が現れていて面白いですね。
あれだけ暴れまわっておいてまだ全力を出していない黒縄地獄は恐ろしいですが、一方で人理のために戦うサーヴァントを羨ましく思ったり、己が壊れているところを自覚していたりと、悲しい一面も見られました。彼女はただのマーダーで終わるのか、それとも……と思わされましたね。
投下ありがとうございます。

>どうにもならない事があっても幸福な君を守ってあげる
不幸の連続みたいな話でして、その最後にやってきたオチがアレなんだから救いがない。読んでる最中に脳内でDIE SET DOWNが流れました。タイトルとは真逆の最悪な話だ。
この話は特に善逸が最高にカッコよくて、人ではない千翼を守るために自分より強い七実に立ち向かう姿が最高にたまらない。ジウくんの爆弾は普通なら数人落ちててもおかしくないマーダープレーだったのですが、相手が悪かったですね。
投下ありがとうございました。

>石上優は叫びたい
死ぬことが分かっていても、こんなことができた石上くんは紛れもなく勝者なんですよね。死んでもそう思わせられたあたり、たしかな実力を感じられる話でした。所々に入っているかぐや様オマージュも素晴らしい。
投下ありがとうございました。

>ハザード&レスキュー
マーダー化フラグかと思いきや両親との記憶を思い出し心が揺らぐことのない円城くんの正しさが眩しい。彼の骨銃に「自分の体を傷つけるとは何事か」と怒るナイチンゲールさんもすごく『らしく』ていいですね。彼らふたりがこれからどうなるのか楽しみになる話でした。
投下ありがとうございました。

>救う者たち
タイトル通り『人を救うため』に生きていながらその在り方が完全に異なっているふたりの対比が面白い。めだかちゃんはどの時期でくるかでロワでの動き方が結構違ってくるキャラだと思っているのですが、今回はこの時期で来ましたか。不安定そうで心配だなあ、と思っていたらこの話のうちでだいぶ復活してくれて安心、といった感じです。『鬼神モード』というクロスオーバーの二次創作ならではのオリジナル技のネーミングも好き。
投下ありがとうございました。

5 ◆3nT5BAosPA:2019/07/15(月) 21:31:20 ID:7mWlu8V20
>時を超えた遭遇 
猛丸の再現度が高い。そして、それ以上に凄いと思ったのが序盤のtrickの再現度ですね。読んでいて実際に脳内でドラマ映像が流れるほどに高い原作再現でした。
猛丸は幻之介が自分のためにマーダーになったことを知ったらどうなるのか、そして山田は上田が変になっていることを知ったらどうなるのか。ふたりの今後が気になりますね。
投下ありがとうございました。

>禰豆子/業苦
完全に鬼に堕ちていなかった禰豆子に一安心。そこに現れたのが人外だからといって見境なく殺すタイプの戦士ではない悠だったのでさらに安心ですね。
しかし彼女が人肉を食ってしまったのはたしかなので、これからどうなるかは気が抜けません。悠もその時がくれば狩る決意をしていますし、彼はそれができる男ですからね。ふたりの今後が気になりますね。
投下ありがとうございました。

>センチメンタルクライシス
白銀と三玖の会話が良いですね。自信がない彼女に対して自信がないからこそ努力の仮面を被っている会長の言葉が出たというのがニヤリとさせられます。それにしても五等分キャラとの会話で名前に四が入るかぐや様が出てくると一瞬紛らわしくてふふっとなりますね。これもまたクロスオーバーならではの面白さでしょうか。
何よりこの話で一番気に入ってるのが(メルトと立香のシーン以上かよと突っ込まれそうですが)最後に猛田が盛大な勘違いをするシーンでして、原作であまり見られなかった彼の年相応の微笑ましさみたいなものを見せてもらえたように思えます。この勘違いがこれからどのように働いていくのか楽しみですね。
投下ありがとうございました。

>Kでつながる僕ときみ
移動に食事と着々と繋がりを深めていってますね。このふたりは個人的にかなり好きなコンビなので、こうやって話が続くのは嬉しかったです。
『無意味な仮定』の話から家庭の話に続き、『愛の記憶を持たない者がいくら集まったところでそこに愛は生まれない。なぜなら誰も愛がわからないのだから』となる考えが物悲しい。周りから見れば十分な脅威である彼らがそういう悲しさを抱えているのはたまりませんね。
投下ありがとうございました。

>慟哭で本能もそう喰らい尽くせよ
前回の引きから予想できる展開として『千翼のマーダー化』というのは十分にあったのですが、それに至る経緯をこういう風に持ってきたかと驚かされました。予想通りでありながら予想の上を行く、創作の理想のような素晴らしい話だったと思います。
人を食らう獣ではなく人を殺す人間として殺し合いに参加する千翼はこれからどうなるのでしょうか。恐ろしくもあり、楽しみでもあります。
投下ありがとうございました。

6 ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:17:04 ID:WdloU3Ms0
投下します

7ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:21:54 ID:WdloU3Ms0

【壱】

魔人が刀を振り上げる。
切っ先は月の反射以外の光によって輝き出し大気を震わせる。
帯雷が散り、刀身には目に見えるだけの『力』が握る腕から伝わっていく。
雷という属性を帯びた魔力が伝わる銘(さき)は絶刀。世界の何よりも固き、折れず曲がらぬ絶対の刀。
鉋という出力先は魔人の流す呵責なき暴威に晒されながら、絶えぬままに形状の維持を果たしている。

下ろすと共に前方へ放たれる斬撃。
稲妻に変化した魔力は進行上の道を焼き、焦がし、滅しながら侵掠していく。
その技、人に非ず。魔人の業なり。
この世に出し修羅、英霊剣豪・黒縄地獄である。

「ど、わぁっ!危ねェ!」

その直射上にあった円城は素早く反応した。
ナノロボに感染して以降異常続きの事態。図らずもナノホストとの戦いでの経験が身を助けた。
火炎放射や冷気放出、人体では再現できない現象すら引き起こすのがナノロボなのだと知っていた。
異常発達した聴覚が知らせた危険信号が、足を止めていれば全身を焦がされ死ぬのだと教えたのだ。

「な―――――――」

間一髪の円城だったが、死は円城を逃してなどいない。
雷条を放った直後、黒縄地獄はとっくに次手を指していた。
回避に目を離し、戻すまでの二秒に満たぬ時間。
その時点で円城の間合いは侵掠されていた。
刀を再度振り上げ、その刀身は円城の全身を捉え切ってある。

疾い。あまりにも疾すぎる。
肉体が若返り大幅に身体能力が増強された権三よりもなお高速。
腕の風切り音を聴いた時には、もう目前に到達していた。
そも黒縄地獄にとって先の一撃は露払いに過ぎない。
小手調べの牽制、本命は自らの手による斬滅である。

避けきれない。
運動能力も反射神経も置き去りにされた。
防げない。
勢いのかかった絶刀は肢体を両断するのに十分すぎる。
即ち死亡確定。円城周兎は英霊剣豪の捧ぐ贄に積まされる。

8ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:22:30 ID:WdloU3Ms0

「おや」
「な――――」

小さく、二つの声が漏れる。
仕留めたはずの一撃が防がれた事に。
死ぬるはずの一撃を防ぐ者が現れた事に。

「そちらから近づいて来てくれるとは都合がいい。
 先にこちらの羽虫を潰してしまうつもりでしたが」

手首を掴まれ、眼下に振り下ろすのを阻まれる黒縄地獄。
眼の前で己を睨む、燃え盛る緋の瞳を喜悦に見据える。

掴むは女。掴まれるも女。
されどその迫力に、死の気配に、男と比べ些かの衰えもなし。

「私は彼の命を奪わせません。命を救うと決めたのですから。
 私の命を捧げる気もまたありません。命を救う者が消えてしまうのですから」

漏れる言葉は相手ではなく己にこそ向けられた宣誓だ。
自己暗示のそれとも違った決意。気が違ったと見做されかねない狂気。
渦を巻いて回転するナイチンゲールの信念は、霊基の底に刻まれている。

「無論、あなたも。
 源頼光。司令官を我が子と見做し愛そうとする精神異常。
 あなたの狂気(きず)は――――私が治す」

そう言って、掴む腕に渾身の力を込めて、黒縄地獄の骨を砕き折った。

同じカルデアの、顔馴染みのサーヴァントを相手に、容赦というものを一切なくした握撃。よく知るからこその平時通りの荒療治。
尺骨橈骨が割れ、神経が潰れる。潰れた肉がだらりと垂れ下がる。
精神に傷を持ち、治療を了承せず暴れまわるサーヴァントに対しては、まず無力化するに限る。

9ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:23:37 ID:WdloU3Ms0



「で。それが、なにか?」


瞬間、走る閃き。
鮮血が舞い、視界が暗く変わり、反転する。
遅れて体が回る痛覚が、身に起きた状況を知らせる。
斬られた。真紅の服の袖が一文字に破れ、より濃い血に染まっている。

黒縄地獄との距離は遠ざかっていた。
顔面に向けた蹴足で無理矢理に転がされたのだ。
しかし頭部に当てるには接近しすぎていた。それも蹴り程度で拘束を緩めたりはしない。

「手首を折った程度で英霊剣豪(われら)を止められると思うとは――――ああ、なんて浅はかなのでしょう」

刀が握られたままの、折れ曲がった右腕。
銀の刀身は艷やかな朱に濡れていた、そのおぞましい事実。
関節のない上腕を鞭の要領で振り不意を突くなぞ、尋常な人の英霊が使う技にない。
それに留まらず、自由になった腕を元の位置にあてがえば、すぐさまに関節が繋がり元の機能を取り戻した。

「やるならせめて首を手折って千切りなさい。それで漸く『動きが止まる』です。
 致命傷なぞ、死ぬ前に全て治ってしまいますよ?」

「――――そうですか。元より精神を病んでいる者と注視していましたが、そこまで病状が侵攻していたとは。
 先程の触診で確信しました。あなたの体そのものがひとつの病巣となり、病原となっている」

嗤う女怪の謎を、ナイチンゲールは組み付いた時の触診で看破した。
生前の体質が昇華したスキル、宝具によって格別再生力に優れたサーヴァントは存在するが、源頼光はその例に当てはまらない。
肉の構成が、内部の動きが、従来知る頼光のそれとまるで異なる構造をしてるのをナイチンゲールは見抜いたのだ。

これが英霊剣豪。
世界の輪より弾き出されし恩讐の妖術師……否、否、その配下に身を修めていた、辺獄の名を携える陰陽師が編み出し外方の中の外方。
英霊の霊基を砕き、魂を腐敗させ、冒し、貶め、辱め凶悪なる獣に変じさせるおぞましき術法。
正気性格性質挟持全てを狂わせられた躰は既に骸。一切鏖殺と呼ばれる、宿業を埋められた英霊はその名通りの地獄を再現する機構と化す。

10ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:24:21 ID:WdloU3Ms0


「――――私は悔しい。このような病状を今になるまで放置していたとは」

ナイチンゲールの表情に浮かぶのは、おぞましきものへの畏怖ではなく、後悔だ。
こうなるまでに経過を見過ごした、外部からの感染を許した己の管理の甘さ。

「一刻の猶予もない。あなたに巣食い、あなたそのものとなった病理をこの場で切除します」
「切除とは、ふふっ、なんとおかしなことを。我ら英霊剣豪は血肉なき絡繰りに等しく。
 肉を剥ごうが、骨を外そうが、臓を抜こうが、この霊格に届きは致しません」
「ならば解体します。肉という肉を裂き、骨という骨を砕き、腑分けした上で残る精神を治療します」

サーヴァントの召喚はカルデアでのみ執り行われるものではない。
各地の特異点で各々に召喚され、カルデアでの記憶を持ち越さない例が多い。
だがそんな知識は何の意味も持たなかった。
眼の前に傷つく患者がいる。
命を奪おうとしている。
そこにナイチンゲールが現界してるのなら、選択肢は、いいや、選ぶ余地もなくひとつきり。

「私は、あなたの全てを殺し、あなたの命を救ってみせる」




「おい、どこ見てんだよ」

鋼鉄の決意に見向きもせず、紫苑の装甲を纏う獣が牙を突き立てた。

犀の角を象った衝角を横あいから受けてよろめく。
不意打ちではあったが対応はできた。上腕に鈍い痛みが残るままに、敵手―――仮面ライダー王蛇へ向き直る。

「てめえ、なんて卑怯な真似を!」
「知るか。下らねえごたくはもううんざりなんだよ」

狂気と紙一重のナイチンゲールの言葉を、凪にも等しく切り捨てた浅倉はベルトから新たにカードを引き抜いた。

「戦えよ。俺とも!」

11ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:24:59 ID:WdloU3Ms0

新たな武器、赤鞭エビルウィップを取り出しナイチンゲールめがけて伸ばされる。
絡め取れば電流を流し肉を焼き千切る鞭は、標的に到着する前に別方向からの稲妻の剣気に弾かれた。

「お前……」

仮面の奥から黒縄地獄を睨む眼光は、野獣と呼んで遜色ない。

「邪魔するなよ。お前とはさっき戦った。まずはあいつからだ」
「ああそれは困りました。私が真っ先に殺すべきなのもカルデアの者らだというのに」
「知るか」

仲間割れ、ではない。聞こえた会話の内容から二人は既に戦っていたらしいと円城は理解する。
ならば、と思う。このまま二人で相争ってくれれば、これ以上傷を負わず逃げられる可能性もあるのではないかと。

「別にあなたから先に潰してしまってもいいのですが―――ああ、じゃあこうしましょうか。
 どちらが首を取るか早い者勝ち、ということで」

そんな円城の期待を、あざ笑うかのような提案がなされた。

「ほぉ……いいぜ、それで」

まさかの同意する浅倉。
浅倉にとって全ては敵であり、戦う相手。
だが相手を選ぶ選択肢は持っている。それがイライラが収まってるかどうかという、他人からすれば基準にならない基準であっても。
ライダーバトルでも、気分次第ではライダー同士で小さな戯れに済ませる時もあった。

故にこれは、ただ意見の一致。
狙った得物が同一で、どちらも譲る気がないから先に奪い合うという、獣の倫理。
この時この一瞬のみ、二者の間で結ばれた関係だった。

12ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:25:55 ID:WdloU3Ms0



「ナイチンゲールさん……!」

一人でも手こずった相手に、さらにもう一人加わった状態での再戦。
分が悪すぎるのは戦闘の達人ではない円城ですら分かる問題だ。

「早く離れなさい、ミスター円城。
 最早ここは、あなたにとってはいるだけで命を縮める」

なのにナイチンゲールは引く姿勢を見せようともせず、逡巡なく殿を引き受けると言った。

「なに言ってんだよ!あんたも一緒に……!」
「いいえ、退きません。退けません。
 ここで逃げれば、彼らはまた新たな患者を生み出してしまう。
 アレはこの場で隔離しなければならない。死という病原が広がるより前に」

順序の逆転は否めないが、対象はいずれも治療対象。
重症を超えて即時緊急治療が必要なほどの容態。
で、あれば。彼女が見過ごす道理はない。
不退転の背はなおも揺るがず。
どれほど狂的と言われようと、それがこの英霊の根幹たる信義。

「あなたは声があった方の救援を。
 ご安心を。あなたの元へ危害を向かわせはしません。
 私は、決して、患者を見捨てはしない」

ここからは殺し合いではなく狩り。
どちらが先に旨い肉にかじりつけるかの奪い合い。
生存のためでなく、生を充足し死を遂げるがための地獄演舞。

「さあ、では鬼事を始めましょう。
 言っておきますが、一人たりとも逃がしはしません。カルデアのサーヴァント、そこの少年、隣の騎兵。
 し損じなく、撃ち漏らしなく、皆平等に殺して差し上げます」

並び立つ二体の魔人と獣は、待ち受ける肉の味に舌舐めずりし、獲物へと飛びかかった。

13ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:26:36 ID:WdloU3Ms0




【弐】



嵐が、巻き起こっていた。

円城周兎は、そうと表現する他に目前の戦いを言い表せなかった。

爆発音と共に陥没する地面。
空中に四散する街の部品。
拳で、刀で、銃弾で、爆弾で、蛇が、稲妻が、炎が、殺意が、信念が、乱れ飛び交錯し蹂躙する。

サーヴァント。英霊剣豪。仮面ライダー。
常軌を逸した、超常の頂に迫る戦徒の領域は円城の及ぶところになかった。
近づけば全身が吹き飛び、巻き込まれれば飲み込まれる。余波だけで人体が爆裂四散すること必至だ。

二対一。
余程の実力差がない限り、数の利で勝る側が有利なのは万事における鉄則だ。
そして先程の戦いぶりを観察した円城の見立てでは、ナイチンゲールと浅倉の能力の差は大きくない。
圧倒するわけではないが、拘束に留められる程度は有利に立ち回れていた。円城の援護が加われれば倒せるだろうと踏んでいた。

だがそこに乱入した一騎。黒縄地獄を名乗る女武者で均衡は崩れた。
あれは埒外だ。化物だ。
ナノロボで強化された聴覚で捉えた筋肉の動き。骨の軋。心臓の鼓動。
それらが円城と比較にならない密度で詰まっているのを否応なしに理解させられた。
数の上での有利など計算のうちにも入らない。円城が加勢したところで粗挽き肉が焦げ付きでお出しされるだけだ。

いまナイチンゲールは円城を逃さんがため二人を一度に相手している。
いかに人の身ならぬ英霊とはいえ、この二騎を前にして抗し切れるものではない。
実力で上回られ、数ですら逆転したいま、勝てる見込みは思案することすら絶望する。
なのに戦いの音は一向に止んでいない。
何故なら―――最も攻めているのはナイチンゲールだからだ。

14ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:26:57 ID:WdloU3Ms0



激闘を物語るのが嵐であれば、彼女はその只中を疾駆する駿馬だった。
ナイチンゲールは王蛇と黒縄地獄の両者に間断なく攻め続けている。
斬り伏せんと払う絶刀を避けたと思えば、脇に飛び込む王蛇めがけて突進し拳を叩きつけ。
怯む王蛇を連打で打ち据えた次には、黒縄地獄にペッパーボックスピストルの銃弾を浴びせていた。
その足は一秒足りとも止まらない。戦場を蹂躙しているのは紛れもなく彼女だった。

二人の間で連携ができていないのも一因だろう。
共闘などという生易しい関係ではないし、援護の心積もりなど微塵も持っていない。
浅倉も黒縄地獄も、隙あらば互いの首を掻こうと画策しながらナイチンゲールと戦っている。
ならばこれはニ対一ではなく、変則的な三人制の乱戦の状況。
重点して狙われているナイチンゲールが動けば二人は殺さんと牙を向け、同時に対の牙にも注視しなければならない。
その隙を見逃さず、突風の速さで的確に攻撃を挟んでいるのだ。


「けどあんな戦い方……すぐに体力が尽きちまうぞ……!」

圧しつつあるよう見える状況にも、円城の不安は拭えない。
聴こえるのだ。彼には。ナイチンゲールの心音と筋肉の悲鳴を。
休みのない全力の戦闘。あれは完全に『その先』を度外視した戦法だ。
いうなればフルマラソンをスタート地点から全力疾走しているのに等しい暴挙ではないか。

何故そうまでして猛撃を繰り返すのか、その理由も円城は痛い程理解している。
自分を、逃がすためだ。
敵の標的はナイチンゲールだけではない全ての参加者だ。
彼女が斃れれば次は円城。そして付近にいる参加者に手当たり次第に襲いかかる。
だから少しでも自分が遠くまで逃れられるよう、ナイチンゲールは相手に自分以外の相手をする余裕を与えさせないために無謀な突撃を敢行しているのだ。

魔力で構成された仮初めの肉体は原理上、魔力さえあればどれだけの無茶な行為も成り立つ。
だが、その構造は人体を模してあり、動けば当然それだけ摩耗も生じる。
まして魔力の補給もなく、回復の間もない連続戦闘。保有量の擦り減りは避けられない。

15ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:27:55 ID:WdloU3Ms0


給油もないまま走り続ける車はいったいいつまでガソリンが保つ?
全開にしたアクセルを緩めないままどこまでカーブで曲げられる?

―――消滅・自壊は必定。
生物であれば動けなくなれば止まるが、肉体を形作る魔力まで回せばサーヴァントは消え去る瞬間まで駆動できるのだ。


ナイチンゲールから受けたサーヴァントの説明を、円城はまだ理解しきれていない。
しかしこの状況が命を削る状況であるのは、聴こえる音から察せられた。
このまま続ければ、遠からず彼女は命を落とすと。

「けど、どうする――――――?」

円城は馬鹿ではない。
頭は悪いが、戦いには天性のセンスを持っている。
無策で突っ込んでもむざむざ死にに行くだけで邪魔になると弁えている。

ナノロボによって強化された肉体。
特筆される聴力。
再生力。
骨銃(ボーン・ガン)

不意を撃てば僅かに気を逸らせるだろう。しかしその後ナイチンゲールとで最低どちらか一方を打倒できるのか。
他方が円城に矛先を変えたとして果たして防ぎきれるか。自信はない。

「ッそうだ支給品……こいつがあれば」

素の力が足りなければ、手札を足せばいい。
バッグから目当ての品を掴み引きずり出す。明らかに中身を無視した質量だが気にする余裕はない。
円城には使いこなせず死蔵するしかなかったアイテムが、この攻防撃の短い間でこその使い道がある。

「言うこと聞かずに悪いけどよ、ナイチンゲールさん。
 誰かのために戦ってる、それも女性を見捨てて逃げるなんてのは男じゃねえぜ……!」

16ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:28:59 ID:WdloU3Ms0


円城は決断する。逃げずに立ち向かう選択肢を取る。
多分、相当激怒されるだろうが、それでも決めた。
声の主ももちろん心配だが、誰よりもまず助けたい対象が、手が届く先にそこにいるのだから。


王蛇がはじめてナイチンゲールの攻めの範囲から逃れる。
大抵は刀捌きと稲妻でいなした黒縄地獄に比べ、王蛇の装甲には幾つもの亀裂と破損がある。
効率よく人体を破壊する術を極めた連撃を防ぎ切るだけの技量は浅倉は持ち合わせてはいない。
訪れた微妙な変化のタイミング。
根拠はない。勝負勘に委ねて身を乗り出すまで。

「今だ!」

轟く爆音。鉄の黒馬の嘶きが場に震撼し戦輪を回す。

「うおおおおおおおおおめっちゃ速えエエエ!」

バイクの騎乗経験のない円城に機微なドライビングテクニックを望むべくもない。
テレビで見る仕草を見よう見真似で再現してみただけであり、前に進めただけでも僥倖というべきだった。
距離は十分ある。ここから加速すればかなりの速度になるはず。
必要なのはただ速さ。円城にとってはここから本格的な賭けだ。


迫りくる二輪駆動に、誰よりも強く反応したのは黒縄地獄だった。
正確にいえば、バイク自体にはなんの思いも抱かない。
そこに乗る少年が自爆同然に突っ込んでくるのも些事でしかない。
見ているのはただ一点。
少年が右腕に握って突き出す、荒々しい造りの刀だけだ。

「―――――――――虫。こんな時にでも湧いて出ますか」

無用の殺意が迸る。
絡繰りでも命でもなく鬼の握る無銘の骨刀にのみ専心した斬撃。
バイクの制御に腐心する円城に避ける術もなく、呆気なく武器を取り落とす。
仕掛けた円城も預かり知らぬ、骸となった英霊に残留していた執心は、結果として円城の策を成功に導いた。

17ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:30:15 ID:WdloU3Ms0


「そいつは囮だぜーーー!」

握り拳で広げ出す無手の左。
助走をつけて殴りつける気は毛頭ない。バイクを使ったのは間合いに入り込むまでに撃ち落とされないため。
伸ばした腕は発射台にして弾丸そのもの。
指先を凝固するのではなく、上腕部から先全てを武器にした、捨て身の一撃。

「喰らえ、骨小銃(ボーン・ライフル)!!」

弾き出す真の骨刀。
宿主のアドレナリンにより活性化されたナノロボが、五指を一気に硬化させダイアモンドの砲弾を形成する。
破壊力は如何にすれば生み出せる?
重く、硬く、大きい物体を高速でぶつければいい。それこそが最適解。

今度こそ間に合わなかった。
絶刀は払いに使い、なにより近付かせ過ぎた。
咄嗟の超反応で弾と顔の間に左腕を差し込めたのは積み重ねた武錬の為せる業だが、今のみは円城の気迫が鬼を超える。
盾にした腕をものともせず、骨小銃は黒縄地獄の脳天、美しい容の鼻から上の先を落ちた柘榴の如く吹き飛ばした。

「ってぇ……。肉を切らせて骨を断つならぬ、骨を飛ばして首を断つってな……!」

勢いを殺せずバイクから転げ落ちながら、残った右手で渾身のブイサインを決める。
これで、逆転。
頭蓋を割り、脳漿を飛び散らせた。脳はナノロボを宿す部位であるナノホスト共通の急所。
相手はナノホストではないが、そもそも脳を壊されれば生き物は死ぬ。大して違いはないだろう。

「ナイチンゲールさん、今のうちだせ!そいつが逃げる前に決着を――――――」




「…………御見事」



美しい声で、褒められた。
花咲く乙女のような、子を思う母のような、向けられた男は天にも昇る気持ちになる、深い情感のこもった声だった。

18ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:30:52 ID:WdloU3Ms0


けとあり得ない。この声が聞こえるはずがない。
だってこれは、いま死んだはずの女の―ー―ー―


「ええ、ええ、そう褒めるしかないでしょうとも。
 英霊でもなく、魔術師でもない身でこの骸の首を落とすだなんて。素晴らしい一手でしたよ。感動すら覚えます」


立っていた。
円城の骨小銃で倒れ伏す女が、撃たれた姿のままで、平然と己の足で。


じゅわ、じゅわ、と音を立てて。
砕かれた頭蓋と皮膚を復元させる、ビデオの逆回しにした光景を見せて。


「ですが、無意味。無意味です。総て」


賛美は嗤いに。
劣化も進化もしない依然と代わり映えのない太刀筋が煌めく。
ナイチンゲールの手も間に合わず、腰から下の半身を置き去りにして、円城の体は宙に飛んだ。

19ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:33:03 ID:WdloU3Ms0




【参】


失敗したと、まずはじめに抱いた感想はそんなものだった。

脳が壊れても復活するなんて、そんなの反則すぎるだろう。
せめてそう、狙いは首にするべきだった。
主催者のBBが言うには、首輪には爆弾が仕掛けられている。最初に見せしめにされた女の子のようにいつでも爆破できるのだと。
参加者の反抗を防ぐために爆弾なら、誰であれ死ぬようにできていなければならない。
そこに衝撃を与えれば、どんな不死身の再生力を持った相手でも殺せたかもしれない。
判断を間違えた。おかげでこっちが致命傷を食らっちまった。


体が動かない。
手足がついている感覚がない。
動かせるのは右腕ぐらいのもので、ああ、左腕は飛ばすのに使って、両足は腰ごと斬り飛ばされたんだったなと、他人事のように呑気に認識した。
酷く苦しいが、不思議と痛みは感じなかった。
体内のアドレナリンがナノロボを活性化させるって、確か大廻さんが言ってた気がする。それが痛みを和らげているのか。
だが骨を再生する時はめちゃくちゃ痛いし、糖分が足りなきゃ頭痛だってする。
じゃあこれは、痛みを感じる機能自体が死んでしまってることなのか。

失われた手足の部位から、モコモコと新しい肉体が生えようと動いているのがわかる。
けどタブレットもないのにすぐに再生できたりはしない。栄養を取らなきゃ二時間経ったってこのままだ。
それに…………………スゲー、眠い。
この眠りは……マズいとわかる。ここで寝たら二度と起きれなくなるやつだ。
死、という単語が脳裏をよぎり、寒気をもたらす。
ここで死ぬのか、俺は。
拡声器を使った誰かを襲ってる権三を止められず。
父さんを殺した仇である前園も殺せない。
この殺し合いを止めてやることも、もうできない。

20ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:33:48 ID:WdloU3Ms0


――――――悔しい。
怒りが沸々と湧いてくる。
殺し合いで好き勝手に暴れて人を殺し回るような連中を。
そいつらを倒せない俺自身の弱さを。

悪党をぶっ潰すんじゃねえのかよ。


この力で守るって決めたのに。



ここで、俺は終わりかよ。







「――――――、―――――――――!」

耳が無意識に拾った声に、首を傾けた。
目でロックオンすれば、より鮮明に声が聴こえる。

「―――いま目が合いましたね!そのまま意識を保ち続けなさい!」

ナイチンゲールさんの声だ。
あの人はまだ生きていた。戦っていた。
俺が生きてるのに気づいて、傍に駆け寄ろうとしていた。

だが、できない。
鎧の男、浅倉と武者の女、黒縄地獄に阻まれて俺のところまでたどり着けない。
あれからどれぐらい時間が経ったのか。ナイチンゲールさんの全身はボロボロだった。
なのに彼女は真正面から突っ込むのを止めない。
助けるべき患者が、目の前にいるのだから。

21ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:34:37 ID:WdloU3Ms0


「すぐあなたの元まで辿り着き、その傷を治します。
 死ぬことは、決して許しません、私が治し、救うまで!」


「―――――――――――――――――――――」




ああそうだ。
俺も、そういう風に生きたかったんだ。

誰かのために頑張って、街の皆を守っていく。
刑事の父さんにずっと憧れていた。理想の大人の姿を子供の頃から見ていた。
そんな父さんが殺されて、気丈な母さんが崩れ落ちるのを眺めるしかなかった時。
何もできなかった自分が、悔しくて仕方なかった。

もうあんな思いはしたくねえ。
俺は力を手に入れた。
偶然で手に入れた、死ぬかも知れない危うい力だが、自分の意志で制御して、正しいことに使っていくと誓った。
力はある。意志はまだ折れてない。

「だったら、こんなとこで寝転がってる場合じゃねえだろ……!」

あるはずだ。まだできることが。
必死に周囲を見回し、すぐ傍に転がっていたソレの存在に気づいた。

「こいつは……」

それは、さっき骨小銃で脳天と一緒に吹き飛ばされて転がっていた、黒縄地獄の左腕だった。
あいつの体はとっくに元に戻ってる。頭も再生するなら当然だ。
末端からボロボロと炭みたいに崩れて、いまにも消えてなくなりそう。

「クソッ、権三の真似なんてしたくねえが……」

背に腹は変えられまい。
唯一残った右腕に意識を総動員して残骸に手を伸ばす。
スローな動作で苦労しながら口元まで持っていき、滴り落ちる血液を喉に落とした。

22ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:35:32 ID:WdloU3Ms0


不味い。不味すぎる。
こんなのを美味そうに飲む権三はぜってえイかれてる。
不快感を脳裏の怨敵にぶつけて宥め、どうにか飲み干す。
僅かだが、体に自由が戻った気がする。

「おまけに、コイツだ……!」

気休めに回復した勢いで、制服の胸ポケットに入れていた小瓶を取り出す。
ナイチンゲールさんの支給品。魔術髄液とかいうアンプルの十本セットを一本だけ譲り受けていた。
首に打ち込み、赤色の薬品が流れていく。ビクリと、内蔵の奥底から痙攣する。

効果は保証できない。復活できるかわからない。起こる現象は未知数だ。
いいぜ。博打上等だ。
何もせずに死ぬぐらいなら、やれることは全部やりきってからの方がマシに決まってる。

「ぐあ、ぐああああああああああああ!」

体内からの、猛烈な灼熱。
激痛に身をよじる。
幻肢痛というのか。手足は四分の三も無いというのに、上下に両足をばたつかせている錯覚が襲いかかる。

いや――――――足はある!
ブヨブヨに溶けて膨れ上がった形だが、そこには確かに腰と繋がった脚部があった。
左手も、元からあった右腕も同じように膨れ上がっていく。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

感じるものは、痛み。
そしてそれを超える、身体の内側から焼き焦がすような熱さ。
自分の中の大事なものが溶けて、熔けて、融けていく。
だが構うな。考えるべきは、やるべきことは、ただひとつだけ。

立て。
立て。
立て。
立って、戦え!

23ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:36:34 ID:WdloU3Ms0




【肆】



「ああ……?なんだそりゃあ」

敵が、表れた異物を認識する。
ナイチンゲールに向けていた意識を割いて、身の丈を超える巨人となった円城周兎を見上げた。

「ああ―――なんと醜いのでしょう。
 まさか、虫どもより生き汚い化生がいるとは」


体内に取り込んだ英霊剣豪の血。
一時的に疑似的な魔術回路を形成する魔術髄液の投与。
ふたつの要素は本来受け入れられないナノロボの栄養判定と繋がり、爆発的な変化を遂げていた。
それは、最早暴走といって差し支えない。
熱暴走に陥ったナノロボの核は狂ったように培養したナノロボ達に指令を送り、元来の用途であった細胞の再生機能すら破壊していった。


「そのような肉塊では自害すら叶わぬでしょう。
 慈悲です。潔く散華なさい」

数段越しに込められた魔力を絶刀に流し稲光が奔る。
真名解放に届かずとも、黒縄地獄に打てる最大威力。
避ける動作もなく諸共に喰らうが、円城の巨体は消えない。
どころか裂雷は破壊を呼び起こしことなく、膨張する肉の内へ内へと吸い込まれていく。
盾にして雷を浴びる、基部が千切れた腕を中心に。

「その雷があんたから出てるものなら、同じ体のパーツなら受け止められるだろ……!」

事はそう単純なわけはない。
だが機能崩壊の折に併せて円城の極まった強烈な意志が決め手になり、ナノロボの指令権は現在円城の支配下にあった。
黒縄地獄の腕を肉体と繋げ、体内の血を介して、雷を体内に送り留められるよう造り変えられるほどに。

24ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:38:02 ID:WdloU3Ms0




「あんだだけは助けるぜ、ナイチンゲールさん」
「何を――――――――――――」

円城は視線をナイチンゲールに向ける。
細胞の中を余すことなく駆け巡る雷条に体感を超える激痛を味わいながらも、表情は穏やかだった。
彼女が生き残れば、多くの人を守れる。きっと希望を生み出せる。

「そしてお前らだけはコ・ロ・ス……っ!」
「何をしているのですか、あなたは!!」

締め切った限界を、ここに解き放つ。
湧き出すのは溜めに溜められた一撃。少年にとって、最後にして究極に位置するカウンターパンチ。
十億分の一単位から創造される、生命力の爆縮そのもののエネルギー。



太陽が昇り空からの光が地を照らす刻。
地より広がる光が、世界を白く染めていく―――――――――。

25ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:39:24 ID:WdloU3Ms0














「もし地球が滅亡して私達二人だけになったら」


「この『ハートと生命の木』の前で待ち合わせしよう」



記憶の淵から、そんな言葉を思い出した。

ある日幼馴染と交わした、叶うわけのない未来。他愛のない口約束。

何故思い出したのかはわからない。

答える時間も、機能もとうにない。

だからせめて、思いだけは失くさないように。

散り散りになっていく自我の欠片の全てを使って、あの日の彼女と同じ答えを返した。





「ああ、約束だ」




【円城周兎@ナノハザード 死亡】

26ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:45:41 ID:WdloU3Ms0




【伍】



「なんともはや、思った以上に物の怪が蠢く場所ですね。
 私のようなモノを世に招く以上は至極当然ですが、なればこそ首を落とせなかったのが口惜しくてなりません」

黒縄地獄は健在だった。
円城の命を捧げた豪雷を以てしても、英霊剣豪を消滅させるには至らなかった。
骸の奥に巣食う宿業を取り払うこと叶わなかった。
体の各所を閃光に焼かれ、四散する骨の弾丸を刺されながらも死の洗礼を乗り越えた。

「まあ足が手に入っただけでもよしとしましょう。
 鉄の馬というのもいいですね。京極のように主の意に従わぬ粗相をすることもないのですから」

跨っている黒い車体に手を這わす。
あの攻防では円城の機転に一杯食わされた形だが、接近を一気に可能にしたバイクの性能も目に留まるものだった。
地域一帯を支配していたグループ・MUGENに屈しなかった最強の兄弟の保有する、丹念な改造が施された愛車。
その名も所以も知る由もないが、要らぬ手間や消耗もせず移動するには都合がいいと回収していたのだ。
堕ちたる英霊剣豪といえどサーヴァントの残滓に残った騎乗スキルは、未知の機械も長年の愛馬同然に操り使いこなす。

殺戮を齎す英霊剣豪に、自在に戦場を駆ける騎馬が揃った。
いまだ、地獄は終わらない。





【D-2/1日目・早朝】

【源頼光@Fate/Grand Order】
[状態]:健康。中度の疲労。全身に火傷・刺傷(再生中)
[装備]:絶刀・鉋@刀語、弓矢@Fate/Grand Order 、ハーレー・ダビッドソン(雅貴)@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針: 英霊剣豪として一切合切を粛正する。
1. カルデアのサーヴァントを排除する。
2.もう一体の鬼については状況を見て判断。

[備考]
※源頼光ではなく、英霊剣豪七番勝負のライダー・黒縄地獄としての参戦です。

【ハーレー・ダビッドソン(雅貴)@HiGH&LOW】
円城周兎に支給。
雨宮兄弟の兄、雅貴が使っていたバイクで、映画ではこれで縦横無尽のアクションを繰り広げた 。
原型がわからないほどカスタムされてるので正確な機種は不明。
カスタム費用を合わせて1000万円ほどだとか。

27ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:49:48 ID:WdloU3Ms0



【陸】



浅倉威もまた、爆散の戦場から離脱して身を保っていた。
文字も形も鏡合わせの反転世界。
ミラーワールドを用いた逃走は、脱走犯である浅倉にとって手慣れた常套手段だ。

常軌を逸した戦いの執念を持つ浅倉だが、その一方戦いの結果にはさほど拘らない。
倒せるのが一番気が晴れる決着だが、生死には自他含め頓着がない。極論、戦い続けられればそれで彼は満足するのだ。
状況から撤退を選ぶのも、取る場面は少ないが選択肢としてはありだ。

「こんなだったか?ここは。まあ、どうでもいいが」

景色が反転している以外現実世界と差異のないミラーワールドだが、しかしこの空間は妙に暗かった。
それにどことなく息苦しい。脱出に海に飛び込んだこともある浅倉はそれが水の中にいるのに似た感覚だと気づいた。
浅倉の興味を引くものではない以上、外に出たらすぐ忘れる程度の感慨でしかなかったが。

「うるせえな。さっさと出てやるよこんなとこ」

首元からけたたましく鳴るアラームに、ようやく収まっていた苛々が再発する。
通常ミラーワールドでは人間は短い時間しか存在できず消滅する。
その時間を延長するのが仮面ライダーなのだが、主催側にとってそれは不公平であるという判断か。
この世界にいる限り、変身してようがしてまいが即刻首輪を爆破するという警告なのだろう。
誰にも殺されずつまらない死に方をするのも御免な浅倉は異質な空間に未練もなく現実世界に戻った。

変身を解き、戦いの空気が冷えてくれば腹が減った。
取り出した棒状のものをスナック感覚でかじる。
鎧に刺さっていた、円城の飛ばした骨だった。ヤモリを焼き、貝を殻ごと噛み、泥すら飲む悪食にとっては適当な感触代わりでしかない。

「……不味いな」

だが噛みごたえはある。しばらくは食感を楽しめればいい。次に戦う相手を見つけるまでの気を紛らわせられるぐらいにはなるだろう。

悪夢(ドゥームズデイ)は終わらない。
胸に懐く、闘争という希望が果てぬ限り。





【D-3/1日目・早朝】

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[状態]:全身に火傷、全身にダメージ
[装備]:王蛇のカードデッキ 、円城の骨
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:いつも通りに闘う
1. とりあえず骨食ってから考える。
[備考]
※メタルゲラス、エビルダイバーと契約後の参戦
※清姫の霊核を食べたことによりベノスネーカーが清姫の能力の一部を得ています。
※それを受けて王蛇のスペックも向上しています。

※ミラーワールドにいる場合はごく短時間で首輪の警告音が鳴ります。それでも居続ければ爆発するでしょう。
※ミラーワールドに未知の現象が起きてるようです。

28ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:55:41 ID:WdloU3Ms0



【漆】


「―――私は、私の無力さを悔やみます」


声は懺悔にも似て、死を痛む歌に聞こえる。

「貴方が命を捨て、その結果として私は生きている。その不合理は認められません」

家々も地面も平らになった地面。
そこに人知れず立つオブジェを、なんと表現したものか。


それは天より落ちた雷が結晶化したようであり。
地に根を張り大葉を生やす樹木、海より生えるサンゴ礁の化石のようである。
見る者にとっては天使の彫像にも見えるだろう。


ナイチンゲールは違うものを見た。
心の象徴と知恵の象徴。
人に神に与えられた最大の恩寵。
生命だ。


自らを火薬と爆ぜようとする円城を前に、ナイチンゲールは一も二もなく飛び込んだ。
宝具を解禁してでも自爆行為を阻止しようとし、しかし開帳より先に光が身を包み、記憶が一時断絶した。
再び気づけばこの骨の枝葉に包まれるように囲まれた状態だった。

一帯を更地に変える大破壊の中心にいながら、ナイチンゲールの身には火傷のひとつも見当たらない。
むしろ二騎の悪鬼に浴びせられた無数の傷も癒えているかのようですらあった。

如何なる原理があって自分だけが無傷であるかを図ることはできない。
ただ、厳然たる事実がそこにはあるのみである。


「私の命を救うために、あなたは命を捧げたというのですね」


夜は明けても、鋼鉄の熱は冷めることなく。
流れる血を止め、ひとつでも多くの命を救うため。
止まらぬ災厄を止めさせるために、看護師は進軍を再開する。



……その前に、ほんの少しだけ彼女は立ち止まった。
あらゆる権力に、組織に、病に、立ち止まることのない少陸軍省は瞳を閉じる。
姿勢を正し、像に向かって静かに鎮魂を祈る。
彼女自身がどれだけ否定しようとそれは、世界中の人々が思い浮かべる、白衣の天使の姿だった。

29ハザードは終わらない ◆0zvBiGoI0k:2019/07/17(水) 23:59:49 ID:WdloU3Ms0
【C-3/1日目・早朝】

【フローレンス・ナイチンゲール@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(大)
[道具]:基本支給品一式、魔術髄液@Fate/Grand Order(9/10)、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:救う。殺してでも。
0:……。
1:目の前の病に侵された者たちを治療する。
2:傷病者を探し、救助する。今は拡声器の少年の生死を確認したい。
3:童磨は次に会ったなら必ず治療する。
4:『鬼化』を振り撒く元凶が、もし居るのなら───
[備考]
※参戦時期はカルデア召喚後です。
※宝具使用時の魔力消費量が大きく増加しています。
※円城周兎からナノロボについて簡単な説明を受けました。
※沖田総司をカルデアに召喚された沖田総司であると認識しています。
※情報交換により前園、権三の情報を得ました。
※ナノロボの暴走による爆発に巻き込まれましたが、現時点では影響は不明です。

【魔術髄液@Fate/Grand Order】
ナイチンゲールに支給。
ただの人間を魔術師に仕立て上げる霊薬。
脊髄に打ち込むことで僅かな刻の間、疑似的な魔術回路を形成する。
十本セットで支給された。再臨もスキル上げもできない微妙な量。

【骨刀(無銘)@Fate/Grand Order】
円城周兎に支給。
茨木童子の武器。鬼の骨から切り出した業物の刀。
戦闘の爆発に巻き込まれ紛失してるでしょう。にゃんとぉ!


※C-3の更地になった一帯にハートとリンゴの生命の木@ナノハザードに似たオブジェが立っています。
ナノロボでできているのか、円城の肉体なのか、会場の影響はあるのか、全ては不明です。

30 ◆0zvBiGoI0k:2019/07/18(木) 00:00:38 ID:rOqR.P6A0
投下を終了します

31 ◆hqLsjDR84w:2019/07/21(日) 18:43:49 ID:aT9014Ik0
感想は帰宅後。

沖田総司、竈門炭治郎、城戸真司、猛田トシオ、中野一花、中野二乃、中野三玖、藤丸立香、若殿ミクニ、予約します。

32 ◆rCn09xUgFM:2019/07/21(日) 22:17:57 ID:00oYpR120
村山良樹を予約します

33 ◆2lsK9hNTNE:2019/07/21(日) 22:51:25 ID:ypgGONsU0
山田奈緒子、猛丸予約します

34 ◆3nT5BAosPA:2019/07/22(月) 22:07:10 ID:PXZ2LLm20
すいません、少し遅れます

35 ◆3nT5BAosPA:2019/07/24(水) 16:09:56 ID:e3GDql8E0
びっくりするぐらい進んでないし予約しているキャラを書きたい人が他にいたらアレだしでこれ以上拘束するのもなんですし、覇気しておきます。すみません

36 ◆rCn09xUgFM:2019/07/27(土) 22:44:00 ID:7pBHi7oA0
すいません。想定外に時間が取れませんでしたので予約を破棄します

37 ◆hqLsjDR84w:2019/07/28(日) 17:54:03 ID:OYVjA0Y.0
すみません、遅れます。
遅れますが絶対に投下します。

38 ◆hqLsjDR84w:2019/07/28(日) 22:52:43 ID:OYVjA0Y.0
書き終わりましたが、ブッ続けで書いていて不安が大きいので、明日の夜に投下させてください。
申し訳ないです。

39 ◆2lsK9hNTNE:2019/07/28(日) 23:26:28 ID:rYylzJC20
お疲れ様です。私も期限を過ぎてしまいましたが投下します

40名無しさん:2019/07/28(日) 23:27:13 ID:PyyVmn3c0
書き終わりましたが(進捗アピール)
ブッ続けで書いていて(頑張ったアピール)
不安が大きいので、(言い訳になると思っている)
明日の夜に投下させてください。(一方的な要求)
申し訳ないです。(形だけの謝罪)(というか謝ってない)(むしろ申し訳なく思ってすらいない)

41 ◆2lsK9hNTNE:2019/07/28(日) 23:31:32 ID:rYylzJC20
 ふれあい動物パークという名前に反して、そこには動物なんて一匹たりともいなかった。
 何もいないのに柵や小屋がだけがあるのは何となく物悲しい雰囲気を感じる。木も草が生え放題なのもあって、まるでずっと前に潰れてしまったかのようだ。殺し合いのために作られたのだろうから潰れたもなにもないが。

「上田……いるか上田……」

 奈緒子はささやくような声で探し人の名を呼ぶ。当然返事は返ってくるわけもなく。

「そん小せん声じゃ届かねーよ」

 後ろから猛丸がツッコミを入れてきた。奈緒子は振り返らずに言う。

「大声だしたら危ない奴に聞かれるかもしれないだろ」
「でも届かねーんじゃ意味無くねーか?」
「上田に聞こえることよりも危ない奴に聞かれないことの方が大事だ!」

 奈緒子は力強く断言した。上田を呼んだときよりも大きい声だった。

「そんなもんか?」

 あまり納得はしていなそう声だったが、それ以上追求もしてこなかった。
 猛丸はバトルロワイアルが始まってから奈緒子が最初に出会った参加者だ。本人が言うには徳川家康が国を治めていた時代の人間だそうだ。
 最初は当然嘘っぱちだと思った。奈緒子が今までに会ってきた自称超能力者や霊能力者と同じ。自分がタイムスリップをしたと自慢したいだけの輩だと。
 しかし猛丸は自慢するどころか、奈緒子のことを未来人かと驚き……現代では当たり前の建築物に感嘆し……事前に種があると教えた手品を見て、魔法でも見せられたかのように仰天していた(気分が良かった)。
 あんなリアクションをされては奈緒子も考えを改めざるを得なかった。猛丸は嘘なんてついていない――自分は昔の人間だと思いこんでいるのだ。
 きっと外界との交流が断絶している山奥だが島だかで暮らしていたのだろう。そこで暮らしている人間はみんな知識が徳川家康の時代で止まっているに違いない。
 嘘ならばなんとかして論破したいところだったが、本気でそう信じているのなら無理に今その考えを正すこともない。悪いやつではなさそうだし、聞けば彼もゲンノスキという知り合いを探しているという。
 現代文明に頼らず暮らしているぶん身体も鍛えられてそうだ。奈緒子は上田探しに同行してもらうことにしたのだった。
 猛丸は丘の上にある木に飛びつくと猿のように素早く登った。まだ日は昇っていないが彼が普通の人間よりも夜目が効くことはわかっている。遮蔽物も少ないし、猛丸ならあそこから周囲全体が見渡せるだろう。
 
「どうですか?」

 尋ねると猛丸は奈緒子の隣に飛び降りた。高さ八メートルはあったと思うのだが受け身すら取らず平然としている。さすがに自然の中で暮らす者である。

「人っ子一人いねえ。他ぬ場所探した方がいいさ」
「そうですか……」

 期待していたというほどでもないが居ないと告げられると落胆はある。
 奈緒子はリュックサックから地図とカンテラを取り出した。
 奈緒子たちには上田とゲンノスキの行きそうな場所に心当たりはない。ふれあい動物パークに来たのも単純にここが一番近かったからだ。それでいくと次の目的地はPENTAGONか秀知院学園ということになる。
 奈緒子は地図を見ながら適当に当たりをつけた方向を二箇所、順番に呼び指して言った。

「あっちとあっちに何があるか見えますか?」
「西ぬ方にはめっさでかい建物が見えんな。東ぬ方にはもっとめっさでかい建物が見える」
「もっとめっさでかい建物ですか」
「もっとめっさでかい建物さー」

 行き先は西の秀知院学園に決定した。

42 ◆2lsK9hNTNE:2019/07/28(日) 23:34:00 ID:rYylzJC20
 




 遠くから見ても大きかったが、近づいてみると秀知院学園は予想を遥かに越える大きさだった。学院というのは学び舎のことだと聞いていたが、これではまるで大名の城だ。
 未来の人間は皆こんなところで学んでいるのだろうか。猛丸は目が回る思いだった。

「こんなでっけー中探すば日が昇っちーよ……」

 猛丸が呆然と呟く、と奈緒子は言った。

「そうですね。地図を見て目ぼしい場所だけ探しましょう」
「地図? お前(ヤー)ここん地図ももってんぬか?」
「いえ、ですが学院という場所は大体入り口に地図があるものです」
「でも入り口ん地図なんか置いたら攻められっと時困るさー」
「今は昔とは違います。そう簡単に攻めたり攻められたりなんて起こりません」
「……そうだったな」

 奈緒子の生きる未来は猛丸が生きる時代とは違う。突然誰かに攻め込まれたりなんてしない。
 誰か一人が力で国を治めたりもしないし、王と奴婢のような身分の差も存在しない。皆が平等に生きる権利を持っている。
 生きる人の命の値打ちが等しい国。ニライカナイみてえだと猛丸は思う。
 それは猛丸の時代よりも遥か遠い――関係ないくらいの未来の話だが。
 たとえずっと先のことであろうとそんな世界が当たり前に存在している。それを思うと猛丸の心は晴れやかになるのだった。

 秀知院学園の地図の読み方は猛丸にはよくわからない。奈緒子の案内で学園内の捜索を始めた。
 ただし前を歩くのは猛丸だ。奈緒子はどっちに進むかを口で指示する。本人は認めないが奈緒子は前を歩くことを怖がっているようだった。
 気持ちは猛丸にもわかる。この島は恐ろしい強者(チューバ)たちで溢れている。その気配だけでも猛丸は身体が震える。
 人知を外れた力を得ても猛丸は戦うことが怖い。前は石曼子(シマンズ)に勝てたが今度は勝てないのではないか。自顕流に胴まで割られて、九十九城(グスク)まで攻め入られて、みんな殺されてしまうのではないか。よくそんなことを考える。

(でもゲンノスキは怖がんねえだろーな)

 ゲンノスキは、猛丸が霹鬼(ヒャッキー)の面妖なる力で襲いかかっても怯まなかった、恐ろしい霹鬼の姿を見せても怯えなかった。
 猛丸は九十九城の仲間のことを思うと恐れに耐えられる。ゲンノスキのことを思うと恐れに打ち勝てる。共に戦えばきっと恐れなんて感じすらしない。

(……どこにいるん?)

 この島のどこかに存在するはず運命の兄弟に思いを馳せる。
 ――直後。猛丸はゲンノスキを感じた。
 気配ではないし、匂いでもないし、音でもない。そんなもの感じられるような近くからでもない。
 遠く北東の方角、強いて言葉にするなら魂の輝きとでも呼ぶべきか。穏やかでありながら猛烈に不吉を孕んだ何かを猛丸は感じた。

「どうかしましたか?」

 立ち止まった猛丸に奈緒子が声をかける。

「わりい。俺(ワー)や行ちゅん」

 猛丸は近くの窓を開け――飛び出した。
 
「ちょ、ちょっと!?」

 木から飛び降りた時とはわけが違う。ここは三階で先程のの木より一回り以上の高い。下も芝生ではなく硬いコンクリート。だがそれがなんだというのか。
 猛丸は足が自然に地面に着くよりも速く、蹴り跳ぶ。衝撃でコンクリートが弾ける。兄弟の元へ猛丸は駆け出した。






【E-5 秀知院学園/1日目・黎明】

【山田奈緒子@TRICK】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、奈緒子の手品道具@TRICK、魔術協会制服@Fate/Grand Order、手榴弾×3
[思考・状況]
基本方針:元の生活に帰る。
1:猛丸を追いかけるか、どうするか
2:上田さんを探す。
[備考]
※参戦時期は第3シリーズ以降です。
※自分の支給品は確認済みです。

【猛丸@衛府の七忍】
[状態]:健康
[道具]: 基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:琉球に戻る。
1:ゲンノスキを感じた場所へ向かう
[備考]
※参戦時期は原作3巻終了時点です。

43 ◆2lsK9hNTNE:2019/07/28(日) 23:35:21 ID:rYylzJC20
投下終了です。タイトルは「探し人はおらず」です

44 ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:53:35 ID:hTGsSQhI0
遅れてすみませんでした。(切実に)(心の底から気持ちを込めて)(噛み締めた下唇から血を滲ませながら)

投下します。

45ファイナル本能寺・エピソード2(前編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:54:31 ID:hTGsSQhI0
 ◇ ◇ ◇



【0】

 つまり、おわりのつづき。



 ◇ ◇ ◇

46ファイナル本能寺・エピソード2(前編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:55:49 ID:hTGsSQhI0
 
 
【1】

 住宅街が広がるエリアE-6の一画。
 あまり代わり映えのしない外見で建ち並ぶ民家の一軒に、この殺し合いにおいて出逢った九名もの参加者が集まっている。
 ひしめき合うようにという形容からは程遠い閑静な住宅街のなかで、たった一軒だけがまさしくひしめき合うような人口密度となっていた。
 特にリビングに至っては、別室にて休む三人を除く六人がダイニングテーブルを囲む形になっており、四人家族用と思しきテーブルが奇妙に頼りなく思える始末だ。

 けれど、そんなテーブルと比べても、自分のほうが遥かに頼りないだろう。
 家具と自分自身を比較したことなどこれまでになかったが、生まれて初めて――城戸真司はそんな風に思ってしまった。

 死んだはずの自分が生き返っていて、もう会えないはずの友と再会して、自分たちとは異なる『ライダー』と戦って敵わなくて、守るべき少女を守れなくて、どうにか逃げ切ったものの再会した友を失って――
 いろいろあった。
 いろいろありすぎた。
 このライダーバトルとは異なる殺し合いに参加させられてから、いまになってようやく落ち着いたのだ。

「(どうして、よりにもよって俺のほうが生き延びているんだろうな……)」

 落ち着いたからこそ、ついつい自問してしまう。
 我が身を犠牲にした秋山連に対して、あまりにも無礼で厚かましく恥を知らぬ疑問だということくらい、真司自身もよくわかっている。
 そもそも、アレは蓮にしかできなかった。
 自分一人が盾となって残り三人を逃がすなどという発想と能力、両方を持ち合わせていたのはあの場に彼以外にいなかった。
 能力だけならば同じライダーである真司にもできたかもしれないが、戦える人間が頑張って敵を退けるしかないと、そんなことばかり考えていた。
 だとしても、どうしたって考えてしまうのだ。
 蓮に対して何度胸中で頭を下げても、同じ疑問を抱いてしまうのを止められそうにない。

 普段ならば気にも留めないであろう物事からも、いまの真司は自身の至らなさを痛感してしまう。
 もともとこのリビングには椅子は四脚しかなかったというのに、負傷をしているからと気を遣われて優先して椅子を回してもらった。
 まだ十代半ばと思われる竈門炭治郎はともかく、社会人である真司がである。
 最終的に藤丸立香が別室から椅子を持ってきたとはいえ、おそらく蓮ならばリビングに入ったと同時に椅子の数を把握して、自ら探しに行っていただろう。

「(…………すごいよな、立香ちゃん。
  一花ちゃんたちの一件もだけど、怪我も治せるみたいだし、みんなで話そうって提案したもあの子だし、あと――)」

 現在話している炭治郎から視線を下に移して、真司はフローリングに残るシミを眺める。
 本当に微かな汚れでしかなく、まさかここに少女の死体がしばらく放置されていたとはとても思えない。
 換気も十分にされており、鼻が利くという炭治郎がとても驚いていた。
 死体を別室に移動させるのも、飛び散った血液や臭いの処理も、なんでもほとんど立香が行ったのだという。
 自分たちは指示に従って窓を開けたり、言われたものを用意したりしただけだと、若殿ミクニと猛田トシオの二人は揃ってバツが悪そうに頬をかいていた。

「(それでも十分すごいよ。中学生だって言うもんな。
  いや……それを言うなら、立香ちゃんだってまだ高校生か大学生だよな、たぶん。それに比べて、俺は……!)」

 猛田、ミクニ、立香と順番に眺めていって、真司は思わず頭を抱えたくなった。
 このリビングに入ってすぐのことである。
 放置されていた死体を移動させて、さらに血痕や臭いの処理をした旨を説明した立香に、炭治郎は「犬でもなければ気づきませんね」と言ったのだ。
 炭治郎にしてみれば対処の完璧さに驚いたゆえの発言でしかないというのに、真司はというと『犬』というワードだけを聞いて怯えて机の下に隠れてしまった。
 あのときに向けられた冷ややかな視線と来たら忘れられそうにないし、真司だって年が一回り上の男がそんな醜態を晒していたら、冷ややかな視線くらい向けるだろう。

 それに――と。
 リビングにいない少女たちのことが、真司の頭にへばりついて離れない。
 別室で疲れて眠っている三人の少女たち。中野一花、中野二乃、中野三玖。
 傍目には髪形やアクセサリー以外では到底見分けがつかないほどにそっくりだが、しかし断じて三姉妹ではない。
 これまでずっと五つ子姉妹として生きてきたというのに、この殺し合いに巻き込まれて早くも二人を失ってしまったのだ。

47ファイナル本能寺・エピソード2(前編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:56:22 ID:hTGsSQhI0
 
 彼女たちのように戦う術を持たない参加者がいる可能性くらい、最初に蓮と再会した時点で指摘されていた。
 高層マンションのロビーにて一花と五月を発見した時点で、そのような参加者が決して少なくないことなどわかっていた。
 にもかかわらず――いまさらながら、ようやく一息ついたいまになって、やはりどうしても思ってしまうのだ。

「(クソッ、どうして俺が残ってるんだよ!
  一回死んで生き返った俺なんかよりも、ずっと生きてかなきゃいけない人がいるっていうのに!
  なァ、頼むよ。教えてくれよ、蓮……! 俺なんかよりもっと上手くやれるはずのお前が死んでまで……!)」

 ――お前の夢に付き合う余裕がある。

 蓮の声が、真司の頭のなかを廻り続けている。
 頼り甲斐がある友からの思わず胸が熱くなってしまった言葉であるはずなのに、いまはどうにも重たくのしかかっているような感じがしてならなかった。

「(…………それにしても、炭治郎の説明はわかりやすいな)」

 真司は、右隣に座っている竈門炭治郎へと視線を向ける。
 ついついよそ事を考えてしまっているというのに、彼が人を喰らう鬼を斬る剣士であることは伝わった。
 鬼から人々を守るべく、また鬼になってしまった妹を人間に戻すべく、仲間や先輩とともに日々鍛錬を重ねているのだという。
 映画のなかのような話だが、ライダーバトルを経験している以上、ありえないなどとは言い切れない。むしろ先ほどの戦闘中の発言にスジが通り、大いに納得さえしてしまっている。
 この場にいる六人、真司以外の面々もそれぞれなにかしらの事情を持ち合わせているのだろう。驚くものはいても、目に見えて否定するものは一人として現れぬままに、炭治郎の話は続く。

 話し合いくらいは引っ張らねばならないと、一人目を買って出たのは真司であった。
 沖田総司を名乗る青年はどうにも読み切れないところがあるが、おそらく真司が唯一の真っ当な社会人だ。
 突発的なミーティングや、なぜ出る必要があるのかわからない打ち合わせなど、悲しいことにもう慣れたものである。
 しかしながら、あまり上手く行った感触はない。
 ライダーバトルとその顛末(途中脱落の真司の知っている範囲で)を話したものの、イマイチ伝え切れた気がしない。
 この場にいないライダーバトルの主催者・神崎士郎や、確実に死ぬ定めを背負った士郎の妹・神崎結衣など、この場にいない人間の話ばかりしてしまった。
 参加者である秋山蓮と浅倉威の話を、特に百パーセント殺し合いに乗っているであろう危険人物である浅倉の話をこそ、重点的にするべきだったというのに。
 結局、立香に軌道修正をしてもらった感さえある。
 彼女が「じゃあ支給品のこれは……」と支給されていたカードデッキを出してくれたことで、神崎兄妹のほうへと脱線した内容がライダーゲーム自体の話に戻った。
 立香の取り出した『ファム』という白いカードデッキ自体は真司の知るものではなく、説明書に記載されているのと変わらないような変身方法の話くらいしかしてあげることはできなかったのだが。

 一方、次に話し始めた炭治郎の説明は、前任者を反面教師にしたかのようなわかりやすさであった。
 まず名簿を取り出して真ん中に広げ、誰が仲間で、誰が倒すべき鬼であるのか。またこの場で一花と出会い、その後千翼と戦闘になり、どのような展開を経てこの場所まで辿り着いたのか。
 少なくとも真司よりはスムーズに話していたし、何名かは話の流れで出てきたとしても、真司のように参加者でもない人間について延々話し続けるマネはしなかった。
 真司の左隣に座る沖田から鬼に関して質問が飛んできても、予期せぬ質問に慌てて挙動不審になったりすることもなく、炭治郎は落ち着いて淡々と返答をしている。
 業務ミーティング中の自分を思い出して、真司ははずかしくなったものの、こと『鬼の倒し方』などの話題になると擬音を多用し始めて沖田が首を傾げていたため、少しだけ安心した。
 安心してしまったことに、遅れて胸が痛くなった。

48ファイナル本能寺・エピソード2(前編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:56:54 ID:hTGsSQhI0
 
「俺の事情はこんな感じで……。じゃあ次は立香さん、お願いします」
「んー。私はちょっと事情があって……。ちょっと後に回してほしい、かな」
「…………? じゃあ、次は――」

 炭治郎の次となると、席順的には猛田の番だ。
 その次がミクニで、さらにその次になってようやく立香に回ってくるはずだ。
 それを無視して立香にバトンを回そうとしたのは、おそらく三人のなかで一番落ち着いてるのは立香だと判断したからだろう。
 真司もその判断は正しいと思ったため、断られてしまうのは少し意外だった。

「ってことは俺たちの番、か。とはいえ見ての通り、先に説明してくれたお二人のように戦う力なんて、とても持ち合わせていなくて……。
 ただ悪趣味な実験に巻き込まれただけで、あくまで普通の中学生に過ぎない二人でしてねえ。わざわざ時間を取ってもらうのも忍びないというか。
 まあそこまで詳しく聞くほどの価値もないだろうし、ちょっと流す程度に説明させてもらいますよ。月代海岸って知ってます? あの近くにある月代中学の――」
「――猛田、やめろ。俺から話す。オメェは黙ってろ。
 それに、もう三玖さんも立香さんもとっくに知ってンだ。いまさら取り繕ったって意味ねえだろ」

 意外と言うのなら、であればと堰を切ったように喋り出した猛田も意外で、それを制したミクニもまた意外ではあったのだが。

「ミクニ……! クソッ、この野郎が……! せめて言い方とか考えるんだぞ……!」

 彼らにいかなる事情があるのだろうか。苦虫を噛み潰したような表情で見守る猛田の前で、ミクニが喋り始める。
 なんでも、彼らはともに愛実験(ラブデスター)という殺し合いに巻き込まれた被害者であるらしい。

「(なんか、ライダーバトルみたいだ)」

 『真実の愛』に至ったペアがだけが生還できる狂気の実験。
 生き延びた一人だけが望みを叶えられるライダーバトルとはルールこそ異なるものの、生存するために他者との戦いを強制される実験の話は、真司にとってかなり共感できるものだった。
 いきなり巻き込まれるのも、開始時点では主催者の目的がまったくわからないのも同じだ。ただ、社会人の自分と違って彼らは中学生で、しかも百名以上が巻き込まれている。
 もしも中学生の時点でそのような実験に巻き込まれたらと思うと、真司には想像もつかない。知らず歯を噛み締めてしまう。

「そんで、あるときファウストが被験体である俺たちに、奇妙な道具を配ったんだ」

 ライダーバトルとの奇妙な類似点が増えた。
 そんなことを考えていた真司は、猛田の顔色が見るからに青くなったことに気付かない。

「――――『フィーリング測定機』というアイテムを」


 ◇ ◇ ◇

49ファイナル本能寺・エピソード2(前編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:57:34 ID:hTGsSQhI0
 
 
【2】

 フィーリング測定機の持ち主である猛田が、ラブデスター実験のなかでなにをしでかしたのか。
 詳細が明かされたリビングはしんと静まり返り、全員が一様に顔を伏せて震える猛田を見据えていた。

 いや、全員ではない。
 沖田総司、彼もまた顔を伏せていた。
 猛田と同じように顔を伏せていながら、猛田と違って震えてはいない。その表情は誰にも窺い知ることはできない。

「間違いを犯したのはたしかなんだ。否定できねェし、絶対にさせねェ。でも……こいつだって、実験の被害者なんだ。
 あの異常な空間でおかしくなったせいで、測定機なんかに踊らされちまっただけで、普通に生きてたら絶対こんなことしてなかった……と信じてェ。
 それに、こいつだって全部が全部引っ掻き回したってワケじゃねえんだ! こいつが相性がいいって言った二人は実際生還したし、間違っていなければきっと!
 だから……傲慢って言われちまったし、そうかもしれねェんだけど、でも! それでもなにも死んじまうことはなかったと思ってたし、せっかく生き返ったんなら、今度こそ……!」

 その通り――かもしれない。
 真司は思ってしまってから、蓮がいれば単純に流されすぎると怒るんだろうなと自嘲する。

 でも、猛田は中学生だ。
 社会人である自分でも、ずっと答えなんて出せなかった。
 最後の最後に至っても、ようやく答えみたいなものに到達しただけだ。
 挙句、生き返ったいまになっても、どうして俺が生き延びてしまっているんだと自問している。
 明かされたような手段を取るのも理解はできないが、中学生ならばありえることはあるのかもしれない。

「いやいや。いやいや、いやいや」

 真司の思考に割って入ってきたのは、表情が見えぬままの沖田の声だ。
 切り出しておいて顔を上げる気配はないし、続きを話す気配もない。注目が集まるのを待っているのだろうか。
 真司が抱いた疑問は、すぐに氷解する。
 俯いていた猛田が顔を上げたと同時に、沖田は傍らの日本刀を手に取る。
 待っていたのは皆の注目ではない。猛田が顔を上げるのだけを待っていたのだ。
 沖田は座った状態で、鞘に入れたままの日本刀で床を突く。どんと低く重たい音が響き、家自体が大きなゆりかごであるかのように振動した。

「――――そんなの、通らないでしょう」

 短く告げて、沖田は勢いよく顔を上げる。
 露わになったその表情からは、ずっと浮かべていた軽薄な笑みは消え失せており、冷たく鋭い視線は刀よりも早くとうに猛田の身体を貫いていた。
 なにか弁明の一つでもあったのだろうか、猛田は両手を前に出して咄嗟に口を開く。しかしその口から洩れるのは、ひゅうひゅうと空気が出入りする音だけだ。
 ミクニが庇うように椅子から立ち上がろうとするが、沖田が首を動かすことなく視線だけをほんの一瞬向けただけで、再び椅子に腰を落として動けなくなってしまう。

「待てよ、お前! そりゃないだろ!」

 思わず立ち上がってしまった自分に、驚いてしまったのはむしろ真司自身のほうだった。
 とはいえ、予期せぬ自分自身の行動に戸惑っている場合ではない。
 沖田は刀を持って立ち上がり、いまにも対面に座る猛田のもとに向かうべくテーブルに足をかけかねない勢いだ。真司は慌てて沖田の右腕を掴む。

「相手は中学生なんだぞ! それに一回死んでんだ! 二度も死ぬなんて、そんなの……!」

 そんなの――。
 そんなの、なんだと言うのか。
 自分だって、生き返っておいて。
 どうして自分が生き延びているのかなどと、ずっと考えておいて。

 真司自身にもわからない。
 ただわからないままに声を張り上げているだけだ。
 まるで真司の混乱など読み切っているかのように、沖田は冷え切った視線を猛田に突き刺したままで答える。

50ファイナル本能寺・エピソード2(前編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:58:32 ID:hTGsSQhI0
 
「『中学生』、ねえ。わたしにはあまりよくわかりませんが。それを言うならば、殺されたのも同じ齢の乙女であったらしいですよ」
「ぐ……! そ、それは……!」

 それはそうだ。
 否定のしようもない。
 中学生のやったことだろうと言い張るということは、すなわち中学生二人の死をなかったことにするということだ。
 そのような言説、うっかり記事になどして提出した日には、はたして編集長からどれだけ雷が落ちるだろうか。いったい何時間に渡って意図の追及をされるであろうか。おそらく終電は残っていないだろう。

「(余計なこと考えてる場合かよっ! 考えろ、考えろ――!)」

 真司は自分の脳に期待をかけて呼びかける。
 最近、こんなことばかりだ。らしくもなく考えている。考えさせられている。
 どうしたって答えは出ない。あのときと同じだ。死ぬ前となんら変わらない。
 考えろ、考えろ、考えろと、結局まったく同じ三文字が脳内を巡るばかりだ。

「ダメだ、殺すな。それは……ダメだ! ダメなんだよ!」
「…………なんです、それは?」

 あまりの中身のなさに苛立ったのか、沖田は不愉快そうに眉根を寄せた。
 瞬く間に真司の視界は反転し、遅れて身体を走り抜けた痛みで、ようやく真司は腕を掴んだ手を振り払われたのだと理解する。
 痛い。あまりにも痛い。先ほどの戦闘で負傷している身体を容赦なく床に叩きつけられ、表情が歪むのを抑えられない。
 ようやく少し落ち着いてきたなど考えていた一瞬前までの自分を、真司はブン殴ってやりたくなった。なにが落ち着いたものか。
 痛みに慣れてしまって麻痺していただけであって、少し衝撃を与えられただけで吐きそうだ。泣きそうの段階はとっくに超えた。吐きそう。

「やめろって……言ってるだろ……!!」

 それでも嘔吐感を抑えて、歪み切った表情のままでどうにか声を絞り出す。
 さすがに驚いたらしい。沖田はその視線を猛田から外し、初めて真司へと向ける。

「俺もさ……言わなかったけど、ライダーバトルに乗ったことあるんだよ。ほんの数日だけだし、全然上手く行かなかったんだけどさ」
「騙していた告白ですか。信用できなくなっちゃうなァ」

 沖田はからかうような挑発的な口調だったが、真司は素直に胸が痛くなってしまう。

「……だよな。騙す気があったワケじゃないんだけど、それはごめん。ほんとごめん。
 さっき言った結衣ちゃんがさ、死ぬってなってさ、なんにもわかんなくてさ。だったら難しいこと考えないで戦うしかないのかなって、そう思っちゃったんだ。
 でも、ほんとなんにも上手く行かなくて。みんな、俺が戦いを止めようとしても戦うのをやめないのに、俺が戦おうとしたら誰も戦わなくてさ。なんなんだよって。
 だけどさ、いまならわかるんだよ。本気で考えてないヤツが急に戦うなんて言っても、誰も乗り気になんかなってくれないんだって。言うことなんか聞いてくれねえんだって」

 真司はゆっくりと立ち上がる。
 ただ立ち上がるだけだというのに、身体の節々から軋むような音が聞こえてくる。
 沖田をまっすぐに見据える真司の視界には、しかしながら沖田の痩躯は入っていなかった。
 フラッシュバックするのは――あの日、死にゆくなかで、消えゆく意識のなかで、最期に目にした光景だ。

「俺さ、そういうことってあると思うんだよ。
 あっちゃいけないとはわかってるんだけど、ほんとはないほうがいいんだけど、でもさ、あると思うんだよ。
 ミラーモンスターが人に襲い掛かるときもさ、みんな我先にと逃げるんだよ。
 おじいちゃんとかおばあちゃんを突き飛ばしてでも、なんとか前に進もうとするしさ。お父さんとかお母さんが、子どもを置いて逃げちゃうんだよ。
 間違ってるんだよ、そんなの。ほんとはあっちゃいけないことなんだよ。それを見るだけで悲しくなるんだよ。ほんとキツいんだ。でも、あるんだよ。
 だけどさ、俺とか蓮がミラーモンスターを倒して、ミラーワールドから帰ってくるとさ、お父さんとかお母さんが泣きながら置いてった子どもを抱き締めてるんだよ。
 それが……さ。なにがってそれがなんだよ。それが……それが。それが、なんだよ! それが正しいかどうかじゃなくて、それがなんだよ! それが――蓮が付き合うって言ってくれた夢なんだよ!」

51ファイナル本能寺・エピソード2(前編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:58:59 ID:hTGsSQhI0
 
 あのとき。
 あのときだ。
 あのとき、ようやくだ。

 ずっと見てきた。
 ずっと嫌だった。
 ずっと悔しかった。

 だから――
 だから戦いを止めたかったんだ。

 でも、そのことに気付いたのは。
 答えらしいものが見つかったのは。
 漠然とした目的が、はっきりとした夢に変わったのは。
 叶えたい願いのために戦うライダーとして、胸張って言える願いに到達したのは。

 あのときになって、ようやくなんだ。

 だから――!

「だから、もう『どうして』じゃない。
 俺が生き返ってるのも、俺が生き延びちゃったのも、もう『どうして』なんかじゃない!
 アンタがそのつもりなら、俺は戦う。間違っている戦いを止めるために! 間違っている戦いの被害者を守るために! ライダーとして!」

 懐からカードデッキを取り出したころには、真司の眼前に広がるのは過去の光景ではなくなっていた。
 それでも負傷の影響か、痛みの影響か、視界はあまり明瞭ではない。少しボヤけた視界のなかで、目を見開いている沖田だけが妙に鮮明だ。

「…………へえ。犬っころを怖がるのに、壬生狼は恐れませんか」

 おどけるように口元を緩めてから、沖田は「いや――」と続けて軽く頭を下げる。
 再び頭を上げたときには、その表情から僅かに浮かべた笑みは消え、冷たい表情に戻っていた。

「なるほど。見誤っていました。『誠』を心に秘めた大した剣士だ」

 言って、沖田は刀の鍔に手をかける。
 真司が狙うのは、日本刀が鞘から出た瞬間だ。
 自身の鏡像が刀身に映し出されたと同時に、龍騎への変身を完了する他にない。
 勝ち目どころか、戦いが成立する目が、他に存在しない。
 だがカードデッキの説明はすでに済ませている。沖田のほうも理解していることだろう。
 二人の間にたしかに張り詰めた空気が流れ、それを破ったのは沖田でも真司でもなく、炭治郎の一声であった。

52ファイナル本能寺・エピソード2(前編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 21:59:38 ID:hTGsSQhI0
 
「そこまでにしてください、沖田さん! もう新選組の時代じゃないんですよ!」

 炭治郎がなにを言っているのか、真司にはよくわからなかった。まるで本物の沖田総司に対してのような言葉だ。
 たしかにこうして家に入る前に、炭治郎と沖田は二人でなにやら話をしてはいたが、まさかそのような可能性が――ありえるのだろうか。
 困惑する真司を置いて、炭治郎は声音を落としてさらに続ける。

「それに……さすがに」

 視線を廊下のほうに泳がせての一言。
 本格的に会話の意味がわからなくなってきた真司をよそに、沖田は苦々しい表情となる。

「機を逃しましたね」

 猛田のほうを一瞥したのち、沖田は冷たく言い残してリビングから廊下に出て行く。
 しばらくして玄関が開く音が響いたので、どうやら荷物も持たずに民家の敷地内から足を踏み出したらしい。

「私、沖田さんのほう見てくるよ。ごめんね、炭治郎くん。あとをよろしく」

 椅子から立ち上がって、大きく伸びをしたのは立香だ。
 最低限の荷物だけを持って、沖田を追いかけるように家を飛び出していく。

「…………なんなんだよ、アイツは! ワッケわかんねえよ!」

 いきなり急変した事態に、真司の頭はまったくついていけていない。
 行き場のない感情を籠めて床を殴りつけようとすると、炭治郎が飛びかかってきて腕を掴んでくる。

「いけません、城戸さん! あんまり怖がらせないでください!!
 大きな音がしたり、怒声が響いたり、床が揺れたりするの、結構怖いんですよ!!」
「…………はあ!?」

 その行動もまた理解の範疇を超えており、真司は困惑する他にない――が、すぐに理解することになった。
 程なくして、眠っていたはずの三人の少女がおそるおそるといった様子で、リビングを覗き込んできたのだ。
 起こしてしまったのも、怯えさせてしまったのも、沖田と真司が立てた音によってなのは、あまりにも明白であった。


 ◇ ◇ ◇

53ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:01:23 ID:hTGsSQhI0
 ◇ ◇ ◇


【3】

 急いで事情を説明しようとした真司はしどろもどろになってしまい、結局炭治郎に任せられることになってしまった。
 話の半ば、ミクニがこれまでの経緯を話している際に事件が起きたという段階で、三玖はすべてを察したような表情になる。
 三玖に遅れること数分。炭治郎による説明が完全に終わると、一花と二乃も完全に合点が行ったらしい。

「そ、それは……。ちょっと、ねえ……」
「なにそれ。そこの猛田が全部悪いんじゃない」
「うん。全部悪い。全部、猛田が一人で悪いだけ」

 うむうむと頷き合う三人。
 姉妹内裁判の判決は、早々に下されたらしい。

「三玖、そんな子……そんな人と一緒でよく大丈夫だったね」
「なにかされてたんなら言いなさいよ。もし一人で抱えてたら許さないわよ」
「近づかないようにしてたから大丈夫。あんなのと話せる立香はすごいけど、警戒心とか足りないと思う」
「いや待ってくれ、三人とも! たぶん俺の説明もよくなくて、もうちょっと上手く話せれば――」
「ミクニ、やっぱりそういうところ傲慢。相手がわかってくれてないだけって思わないで。わかった上で言ってるから」
「ぐ……三玖さん……。その、すまねェ……」
「ていうか、私も沖田さん追いかけよ」

 リビングが一気に賑やかになったのち、またすぐに静かになった。
 二乃は沖田と立香に少し遅れて家から出て、三玖はミクニと猛田と静かに話している。

「でも、ほんとに安心したよ。タンジローくんも城戸さんも無事で。
 おっきな音と一緒に家が揺れて、それでびっくりして目が覚めちゃったときは、さ。
 誰かが死んだとか、殺されたとか、やっぱりそういう嫌なことばっかり浮かんじゃったから」

 一花は炭治郎と真司のもとに歩み寄っていき、屈み込んで椅子に座る二人の目線に合わせる。
 覗き込んできた彼女の表情は、千翼との戦闘中の怒りと困惑に満ちたものではなく、きっと彼女本来のものであろう落ち着いた笑みになっていた。
 勝手に騒いで起こしてしまっておいて、挙句の果てに心配までされていたという事実に、真司はもはや合わせる顔がない。ついつい視線を逸らしてしまう。

「いやほんと……ごめん。熱くなっちゃって。目の前のことしか考えてなかった。だから俺はダメなんだ。蓮だったら……」

 まただ。
 また、さっきまでと同じことを考えてしまっている。
 沖田に向かって切った啖呵は、はたしてどこに行ってしまったのか。
 間違っている戦いに巻き込まれる被害者を守るために、と言っておいてこれである。
 守るべき被害者を怯えさせてしまって、いったいどうするつもりなのか。

「えっ……? そっ、そうだ。秋山さん……っ! そんな、嘘――」

 しまった――と。
 真司が気づくのは、やはり遅かった。
 まただ。またやってしまった。また軽率に怯えさせてしまった。
 ずっと気絶していた一花が蓮の死を知る由もないことくらい、考えなくてもわかることだ。
 真司にとってあまりにも衝撃的すぎて、蓮が死んだのは周知の事実であると、てっきりみんなもう知っているものだと思い込んでしまった。
 そんなはずがないのに。

「ご、ごめん、一花ちゃん。
 実は……その、そうで。アイツ、死んじゃってさ。俺じゃなくて蓮なら、もうちょっと上手く伝えられたんだろうけど……」
「――城戸さん」

 どうにかして一番衝撃を与えない形で話そうとして、やはりどうにもならない。
 思わず髪を掻きむしって突っ伏したくなりながらも、真司が無理やりに言葉を取り繕っていると、一花に割って入られてしまう。

54ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:01:41 ID:hTGsSQhI0
 
「自分じゃなくて誰かならとか、あんまり言わないでほしい……かな。
 年上の人にこういうこと言うのって失礼かもなんですけど、でもやっぱり……どうしても、こっちも考えちゃうから。ごめんなさい」
「あ…………」

 真司はハッとして、逸らしていた視線を戻して一花に向き直る。
 彼女が浮かべた笑みは先ほどまでの落ち着いたものとは違い、無理に顔に張り付けたようなものに変わっていた。

「こっ、こっちこそごめん! そんなつもりじゃ!」
「謝ってほしいワケじゃないんです。城戸さんがマジメな人なことくらい、私にもわかります」
「いやでも……やっぱりごめん! 俺、なんかかっこつけようとしてたのかな。上手くやろうとしてさ」
「あー、演技っぽかったのは感じました」
「嘘!? 一花ちゃんって、もしかして鋭いタイプ!?」
「……ふふっ。えー? 言われたことないなあ。城戸さんが、女の子に嘘吐けないタイプなんじゃないですかー?」
「う……! そ、そうかな。そうなのかな……だったら困っちゃうな……」
「安心してください、城戸さん! 俺にも、無理してるの伝わってましたよ!」
「なんだ、よかった! だったら女の子に嘘吐けないタイプじゃないじゃん! ……んん? んんんーーー??」
「あははははっ!」

 はたして、本当に喜んでよいことなのだろうか。
 真司が大きく首を傾げると、一花は声を上げて笑っていた。
 意図したものではなくとも屈託なく笑ってくれるというのなら、真司にとってこんなに嬉しいことはない。

「あー……笑った笑った……。なんだか、久しぶりに笑った気がするなぁ」
「……ちぇっ。なにがなんだかって感じだけど、そんなに喜んでもらえたならなによりですよーだ」

 舌打ちこそしてみせたが、もちろん真司の本心からのものではない。

「やっぱり、嘘がない人っていいですよね」
「……えっ? うん、まあよくわかんないけど、普通はそうなんじゃない?」

 深く考えもしないで軽い気持ちで答えると、一花は小さく頷いて再び眠っていた部屋に戻っていった。
 去り際に浮かべていたぎこちない笑顔が気がかりだったが、真司の小さな疑問はすぐに頭から消えることになる。

「それにしても城戸さん、あんまり気にしすぎないでくださいね」
「えっ、なんの話?」

 首を傾げる真司の前で、炭治郎は笑顔を浮かべたままで言い放つ。

「自分じゃなければ、とか。そういう風におっしゃってましたが、安心してください。
 城戸さんがいなかったら、俺が沖田さんを止めようとしてましたよ。立香さんもたぶんそうです」
「はあ!? そうなの!? なんだよぉ……言ってよぉ……。俺しかいないもんだと思ってたからさあ……」
「もしも城戸さんを挟んでなくて、俺が沖田さんの隣に座ってたら、だいぶ危なかったですね」
「えー……やめといてよかったよ、それ。
 怪我してるのに危ないって。アイツ、あんな痩せてるのにスゲー強かったもん」
「なんと。俺は驚いています。まさか城戸さんに言われるなんて」
「怪我してるのに、無理なんてするもんじゃないよ」
「ええっ!? でも、無理して戦って、その、なんていうか、亡くなったんですよね……!?」
「あんまり言うなよー……。さっき炭治郎が鬼の説明してるとき、あれ? 俺ってもしかして鬼なのか? って超怖かったんだから」
「あっ! 大丈夫です! 城戸さんは鬼じゃないです! 俺が保証します! 鬼の匂いはしません! 煉獄さんと同じで!」
「よかったーーーー! いやマジで安心したよ、俺……」


 ◇ ◇ ◇

55ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:02:31 ID:hTGsSQhI0
 
 
【4】

 沖田総司が出て行ってからもう何分も経っているというのに、未だに猛田トシオの震えは収まる気配がなかった。
 日本刀のように冷たく鋭い眼差しは鮮明に頭に残り続け、もう今後どのようなことがあっても忘れられる気がしない。
 ただ睨みつけられただけで身体は震え、鼓動は早鐘と化し、呼吸は過剰であるのか不足であるのかの判別さえつかなくなった。
 特段激しい口調で罵ってきたワケでもなく、淡々と断じて許されるべき罪ではないと告げてきただけだというのに、猛田の知るなによりも恐ろしかった。

 ラブデスター実験主催者・ファウストよりも、フィーリング測定機を渡してきた狂人・神居クロオよりも、騙されていたことを知って掌を返してきた生徒(バカ)たちよりも――ずっと怖い。

 一度死んでしまう以前の猛田は、武力よりも話術を信じて立ち回ってきた男である。
 沖田が許してはくれないと判明した時点で、「じゃあどうすればよかったって言うんだよ」とそんなことを言おうとした。
 恥も外聞の捨ててみっともなく泣き付こうとした。他の面々の同情を集めて、沖田が悪いかのような空気を作り上げようとした。
 死を前にすればプライドなど消え失せるということを、この場において再び知った。どんな醜態でも晒す覚悟があった。必要とあれば涙以外を出すつもりもあった。
 これもまた、猛田が武力よりも上等と信じる話術である。

 だが、機会すら与えられなかった。
 そんなことをする余裕はたったの一睨みで掻き消えたし、仮にやったところで沖田の心が揺らぐことはなかっただろう。

 おそらく、沖田はこともなげに言うのだろう。

 首に爆弾がついているんじゃあるまいし、手首を斬り落とせばよかっただろうに――と。

「バカ殿……やってくれたな。お前はやっぱりバカ殿だ」

 よくある蔑称だ。
 若殿会長、転じてバカ殿会長。
 こんな低俗なニックネームが定着するような民度の学校だ、測定機さえあれば永遠に支配できる。猛田はそう思っていたが、あっさりと覆されてしまった。
 あの生徒会と新生徒会の戦いを経て、猛田はミクニに対する認識を改めていたが、改めたこと自体が過ちだった。
 若殿ミクニはバカがつくほどまっすぐで、バカがつくほど先のことを考えていない、バカ殿会長のままだ。

「俺は……もしかして間違っていたのか? オメェの言うように黙ってたほうが、もしかしたら……」
「それくらい、考えればわかるだろうが……!
 誰が受け入れてくれるんだよ。同じ学校の生徒を騙していいように使ってた人殺しなんだぞ。そんなヤツを受け入れる強さの持ち主なんて……!」

 バカがつくほど強いお前くらいしかいない――と。
 猛田は苛立ちながらも、どうにかそれだけは口にしないで済んだ。

「ミクニは間違ってないよ。猛田のやったことを隠さない意味、前に自分で説明してたでしょ」

 二人で言い合ってくるところに、歩み寄ってきたのは中野三玖だ。
 彼女は猛田への嫌悪感を隠そうともせず、露骨に距離を取っている。
 すべて知られているのだから当然だとわかっていながら、猛田はきまりが悪くて視線を逸らしてしまう。

「三玖さん……でも、俺のせいで……」
「まあ……こうなるときもあるよね、それはね……。沖田さんって人が許せないのも当然だと思うし。でも、やるって言ってたじゃん」
「それは……」
「別に無理して続けないで諦めてやめてもいいと思うけど、たぶんもう遅いよ。
 この人数にバレちゃったら、もういまさら隠せないと思う。私だって誰かにあったら話すし」

 ミクニが言葉を失っているのが、猛田には憎たらしくて仕方なかった。
 なにをいまさらになって驚くことがあるのか、まったくもって理解ができない。
 一度知られてしまった以上、もうどうにもならないことくらい予想がつくはずだ。

56ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:03:00 ID:hTGsSQhI0
 
「(こいつ、本気で……!?
  悪意があって全校生徒に俺の罪の告白を見せつけたんじゃなく、あんなことやった上で俺の帰る場所があるとでも思ってやらかしたのか……!?)」

 あんなものを見せられて。
 あのような所業を打ち明けられて。

「(それでも戻ってこいと受け入れてくれる酔狂な人間なんて、この世にお前以外にいるワケねェだろうが……ッ! このバカ殿がァ……!)」

 若殿ミクニは強さを信じすぎている。
 そんな強さを持ち合わせている人間が、他にそうそういるはずがない。

「それにさ、もしもミクニが間違ってたなんて言っちゃったら、だったら猛田はどうしたらいいの?
 嘘を吐かずに包み隠さず話したほうがいいと思ってたけど、実は間違ってたごめんなんて、そんなのいまさら猛田はどうしようもないよ」
「――――ッ! そう、だな。そうだ。
 被害者だって言ってくれた城戸さんだっている。俺だけは間違ってたなんて言っちゃいけねェんだ」

 握り締めた拳を胸に叩きつけて、ミクニは大きく頷く。
 一度落ち込んでからの立ち直りが早いというのも、彼の特徴だ。
 そんなに単純な人間ばかりならいいだろうがと、冷ややかに眺める猛田の前で、ミクニの口から予期せぬ発言が飛び出る。

「三玖さん、もしかして猛田のことを許してくれ――」
「うん、そんなワケないよね」

 ミクニが言い切るよりも、三玖の返答は早かった。
 それみたことかと胸中で吐き捨ててから、猛田は視界が揺らめくのを感じた。
 思いのほかショックを受けているらしいことに、猛田自身が意外で驚いてしまう。分かり切っていたはずなのに。

「でも……可哀想だとは思うよ。
 あのとき立香がいてくれなかったら、私だってどうなっていたかわからないし……。一人で戻れないところまで行っちゃったのは可哀想」
「やっぱそう、だよな……。ほんとありがとう、三玖さん。参考になるっていうか、とにかくスゲェありがたい」

 三玖に頭を下げてから、ミクニは猛田に向き直る。

「猛田、やっぱり俺はオメェを一人にはできねェよ。嘘も吐きたくねェし、やっちまったことを隠して認められても意味ねェと思う」
「はっ。よく言うぜ、バカ殿。
 だったらお前は嘘なんか吐かないっていうのかよ。たとえば……そうだな、お前の相棒ヅラしてる副会長の秀才くんに、なにもかも包み隠さず全部を見せているって言い切れるのかよ」
「…………当たり前だろ」

 どうせいつものように力強く即答すると思い込んでいたので、ミクニが暫し間を空けてから返答したことに、猛田は僅かな違和感を抱いた。

「それにしても…………沖田さん? 二乃が言ってた沖田さんって……? 名簿にいる……? んんん???」


 ◇ ◇ ◇

57ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:04:07 ID:hTGsSQhI0
 
 
【5】

「…………さて、撒けましたかね?」

 沖田総司が振り返って四方へと視線を飛ばすが、追跡者の気配は感じない。どうやら振り払えたらしい。
 沖田は周囲に誰もいないのがわかっていながら、誰に見せるワケでもないのに大げさに安堵の息を吐いてみせた。

 追跡者の名は、藤丸立香――奇妙な少女だった。
 沖田より遅れて民家を出た彼女は、足音を殺して追いかけてきていた。
 たしかな追跡技術であった。沖田ゆえに気づくことができたが、並の隊士では追跡を許してしまっていただろう。
 思い返してみると、ずっと不可思議な存在であった。
 城戸真司と小競り合いになった際、炭治郎だけでなく立香からもいざとなれば割って入ってくる気配が醸し出されていた。
 実力自体はそこまで取り立てて言うほどのものではないと思われるし、筋肉も多少ついていたが鍛え抜かれた戦士というほどではない。

 だが、薄気味悪い。

 化物との戦いの経験がある城戸真司や、鬼殺の剣士である竈門炭治郎が内に力を秘めているのは納得できるが、彼女は未だなにも話していない。
 あるいはあの民家に残り続ければ、彼女の持つ情報を知ることができたのかもしれないが――

「(まあ、もう会うこともないだろう)」

 とうの沖田に、もうあの民家に戻るつもりはなかった。
 鬼の情報は得たし、民家には戦う力を持った参加者が複数人いる。

 きっと、彼らは許すのだろう。

 二人もの乙女を手にかけた猛田トシオの存在を。
 理解し難い。沖田総司にとって、あまりにも理解し難い。
 理解し難いが、おそらくあの民家に集まった参加者の認識はそうなのだ。場の空気を察することができぬ沖田ではない。

 おそらく――慶応四年の感覚が元和の剣士に伝わらぬように、百五十年後の感覚がどうしたって伝わっていないのだろう。

 であれば邪魔なのは沖田のほうであろう。沖田が消える他にあるまい。
 百五十年後であるらしいこの世界に、沖田総司の居場所などないということだ。
 斬るべき鬼は決して少なくはないようだし、これはこれで気軽で悪くはない。
 時を超えても付き合ってくれる酔狂な相棒なぞ、腰に携えた菊一文字則宗だけである。

「それにしたって……ほんと、言ってくれますね」

 時代ではないなど、言われるまでもない。
 新選組としての終わりも、隠密鬼退治の終わりも、すべて逃してきたのだ。

 ――――自嘲気味な笑みを浮かべた沖田の耳が、近づいてくる足音を捉えた。

 立香、ではない。
 彼女ならばこんなに派手に足音は立てないし、そもそも沖田の名を叫ぶ声に聞き覚えがある。
 こうなってしまえば、沖田のほうから足音のもとへと駆けつける他にない。

「わたしになんの用です、二乃さん」
「沖田さん! やっぱり来てくれたわね」

 わざとらしく肩を竦めてみると、返されたのはこんな言葉で――どうやらしてやられたらしい。
 慶応四年を追い出されて以降、沖田総司はどうにも乙女にやられっぱしである。

「もしかして勝手にいなくなろうとしてるんじゃないかって、心配しちゃったから」
「バレましたか」
「バレてたわね」

58ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:05:17 ID:hTGsSQhI0
 
 沖田は僅かに逡巡しながらも、ここを誤魔化したほうがのちのち厄介であると考えた。
 また次に集団から抜け出そうとした際に、また今回のような追われ方をされては困る。

「ちょっと意外スね。そんなそぶり、見せてなかったはずなんですが」
「私たち姉妹は、良かれと思って勝手に動くプロよ。察しくらいつくに決まってるじゃない」

 なんのことだかわからなかったが、沖田のほうにも事情はある。
 自分には到底猛田トシオを許すことができない。あの集団は沖田総司の居場所ではない。
 きっと百五十年後を生きる彼女にとっては予想だにしない答えなのだろうが、ゆえにこそわかってくれるはずである。

「なに言ってるのよ。そんなの、私だって絶対許せないに決まってるじゃない。怖いわ」
「――――えっ?」
「もちろん、その城戸さんって人はすごいと思うわよ。そうありたいわね。でも私にできるかっていうと無理。
 沖田さんみたいにそんなの許せないって人もいないと、怖くてあの家にいられないじゃない。一花と三玖だっているのに」

 二乃から返ってきた答えこそ、予想だにしないものであった。
 予期せぬ展開に困惑する沖田の手を取って、彼女はさらに続ける。

「ねえ沖田さん、勝手にいなくならないで……?
 せめて相談くらいしてほしかったわ。私も、あの子たちも、絶対沖田さんがいてくれたほうが安心なのに」

 どう返答するべきか、沖田は思考を巡らせる。
 考えに考えて、たっぷり間を空けてから出てきたのは、結局こんな言葉だった。

「…………すいません。なにやらとんだ早合点をしていたらしく」

 沖田が詫びると、二乃は潤んでいた目を細めて安心したように笑った。
 その表情の変化が妙におもしろくなって、沖田のなかに眠る童心が蘇ってくる。

「そうですね。ここは……そうですね、はい。そうしましょう。
 ここはひとつ、上田さんの離脱は引き止めなかったのに、私の離脱は許してくれないことに意味を感じるとしましょう」
「っちょ、沖田さん! なんでそういう言い方するのよ!」
「〜♪」
「あーもう! 素で言うどっかの誰かと違って、わざと余計なこと言うのも普通にタチ悪いわね!」

 なんて会話をしながら、沖田は視線を路地裏に飛ばす。
 慌てて隠れようとしたようだが、橙色の髪を隠し切れてはいない。
 藤丸立香もまた二乃の声と足音を聞いて、駆けつけてきていたのである。

 考えてみれば当然である。
 あのように目立つ行動をしていれば、立香も行方知れずの沖田など諦めて二乃のほうに向かうはずだ。 
 つまるところ沖田は二乃のことなど放置していれば、容易に集団から離脱して単身鬼退治に向かうことができ、二乃もまた立香によって保護されていたのだ。

「完全にシクっちゃってますね、これ。うっかり駆けつけてしまったおかげで、早とちりに気付けたのですが」

 首を傾げる二乃がおかしくて、沖田は口角を吊り上げた。

「新選組一番隊組長ともあろうものが脱走して、まんまと刺客に捕まっただけの話ですよ」


 ◇ ◇ ◇

59ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:05:38 ID:hTGsSQhI0
 
 
【6】

 玄関が開く音が響いて、猛田の身体が反射的に跳ね上がった。
 わざとらしく立てられた足音は少しずつ近づいてきており、ミクニは再び沖田と向き合うべく椅子から立ち上がった。

「あの、沖田さん! 俺、やっぱり――!」
「いいですよ、若殿くん。ひとまず後回しとします。
 間が空いてみれば、せっかく綺麗にしてもらった部屋でボコる気にもなりませんし」
「えぇ…………?」

 あまりにもあっさりとした展開に、ミクニは思わず拍子抜けしてしまう。
 沖田とともに戻ってきた立香に目配せしてみると、なにやら頷いていたが意味はわからない。
 なにはともあれ、現状すぐに猛田の身に危険が及ぶという展開ではなくなったらしい。

「でもね、断じて罪が許されたなどとは思わぬよう」
「ひッ!」
「ま、そんな甘えたこと考えやしないでしょうが」

 猛田を一睨みしてから、沖田は炭治郎のもとに近づいていく。

「さっきは言ってくれましたね、竈門くん。
 新選組の時代じゃないことくらい知ってますよ。百五十年経ってることくらいね」
「え……っ? 百五十年……?」

 怪訝そうな炭治郎をよそに、沖田は続いて真司のほうに視線を飛ばす。
 先ほどの小競り合いのせいであろう、真司は険しい表情でカードデッキを手にしている。

「仕掛ける気はありませんから身構えないでくださいよ、城戸くん」
「信用できるかよ! 人に向かって、刀抜こうとしておいて!」
「――――っ!」

 予期せぬ答えに、沖田は呆気に取られてしまう。

「やだなァ。心に『誠』があるとわかったから、刀を抜いてやるつもりだったのに」

 幕末の京都。
 狭く暗い路地で斬りつけられたときには、鞘から刀を抜くよりもそのまま叩いたほうがずっと早い。
 そして、先ほどの沖田と真司の間合いは、まさしく叩いたほうが早い間合いであった。
 にもかかわらず刀を抜こうとしたのは、真司が鏡面がなければ力を発揮できない戦士であると知っていたゆえである。
 沖田にしてみれば、新選組らしからぬ相対する相手への贈呈品であったのだが、まさかそれがきっかけで疑わることになろうとは。

「……なに言ってんだか。ほんとワケわかんねえよ」
「いやいや。まあまあ。こんなの、別にわからなくてもいいんですよ。
 どうだっていいんだ、そんなことは。お互い、心に通したいスジがある剣士なんだから。そんなことはどうだっていい」

 どんどんどん――と。
 沖田は菊一文字の鞘でもって、卓上に広げたままの名簿を叩く。
 衝撃から僅かに遅れて、先ほど炭治郎が告げた鬼たちの名が二分される。

「俺と竈門くんと城戸くん。三人でやるんだよ、鬼退治」


 ◇ ◇ ◇

60ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:06:46 ID:hTGsSQhI0
 
 
【7】

「遅かったね」
「あら。むしろ早かったと思うけど」
「だって、二乃が家出て行くと長いから」
「私が出て行ったんじゃないわよっ! 追いかけたほうっ!」
「そんな器用なことできたんだね。知らなかった」

 沖田と立香の三人で戻ってきた二乃は、玄関で待っていた三玖と顔を見合わせる。
 なにやら軽口を叩いているが、彼女は彼女で一仕事終えた後らしい。他の誰にもわからなくとも、姉妹である二乃にはわかる。

「さっきね、起きちゃう前。アンタもだと思うんだけど」
「うん」
「夢を見たのよ」
「あー……うん、一緒だと思う」
「夢のなかでは五人一緒で」
「でも、これは夢なんだってわかって」
「そう。それ」
「だよね。うん。一緒だよ」
「二人に……あの子たちに、なにか言わなきゃって」
「…………うん。二人とも、もうわかってるみたいに寂しそうな顔してた」
「なにか言おうとして、口を開いたところで……だったのよね」
「うん。私も」
「あの家が揺れたヤツ、沖田さんらしいわよ」
「ひどい。二回も揺れた」
「どっちも沖田さんだって」
「なんなの、あの人」
「なんなのかしら……わっかんないのよね……」

 遠い目をして、二人でため息を吐く。
 そうしてたっぷり間を空けてから、今度は三玖が切り出す。

「もし目を覚まさなかったら、なんて言ってたのかな」
「まあ、それ考えちゃうわよね……」
「どうしてもね」
「どうしてもよね……」
「どうしてもだね……」

 ――と。

 そこで、はたと気づく。
 芽生えたのは、奇妙な違和感であった。

 二乃と三玖が見ていた同じ夢のなかで、四葉と五月になんと言うべきだったのかを話している――さて。

「「一花は!?」」

 相当大きな声を出していたのだろう。リビングから真司による返答が飛んできた。

「一花ちゃんなら、あのあと寝室に戻ったよー!」

 二乃と三玖は、目の前がくらくらと廻るような錯覚に襲われる。

「そんな……まさか夢の続きに挑戦……?」
「一花、やっぱりすごい……」


 ◇ ◇ ◇

61ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:07:36 ID:hTGsSQhI0
 
 
【8】

 全員がリビングに揃ったのち、中断されていたミクニによる経緯の説明が終わり、沖田と中野姉妹も話を終えた。
 とはいえライダーバトル、鬼殺隊、ラブデスター実験などのような特殊な存在とは縁がないとのことで、ずいぶんと早く話を済ませてしまったのだが。
 沖田は鬼こそ知っているし、時空を飛んだこともあるが、ただ出くわしたというだけで詳細については、ロクに知らないという。

「――――で、最後に残った私だね」

 最後に残った藤丸立香が切り出す。
 そこに至ってようやく、真司は立香が一度回ってきた順番を後回しにしていたことを思い出す。
 なにか並々ならぬ事情があるのかもしれない。そう息を呑む真司だったが、その疑問はすぐに解消された。

「まず……ごめん、三玖! 実はアナタに嘘ついてた!
 演劇系サークルをやってて名簿に載ってる名前が芸名とか、全部嘘なんだ! ごめん!
 これだけは三玖がいるときに言っとかないとって思って、順番来ても後回しにしてもらってたんだ!」

 顔の前で両手を合わせて、立香は三玖へと頭を下げる。

「うん。ま、それはさすがに察してたけどね」
「ええ!?」

 三玖は表情を変えることなく、立香の表情が変わった。

「立香がなにか隠してるのはわかったし、誤魔化し方も全然上手じゃなかった」
「う……っ!」
「私は立香に姉妹のこともフータローのことも話したのに、立香は私に話せないことがあるんだーへーって思ってたよ」
「うぐぐ……! 返す言葉もない……!
 その、悪意とかは全然なくて、そういう風に思われちゃうのも当然なんだけど、でも!
 なんていうか……ほんと言い訳とかじゃないんだけど……。いや、でもこれも言い訳だね。ごめん」

 ぷくーと頬を膨らませる三玖に、立香は慌ててなにやら説明しようとするが上手く言葉が出てこない。
 どんどん呂律まで怪しくなってくる上に、なぜか無意味な身振り手振りをしている始末だ。
 そんなどんどん壊れていく様子をしばらく眺めてから、三玖は膨らませていた頬をしぼませて小さく笑った。

「いいよ。立香のこと、いまは結構信用してるから」
「三玖ぅ……!」
「立香でもあんな風になるんだね。もうちょっと見たかったのに、さすがに我慢できなかった」
「三玖!!」

 ふふっとしばらく笑ってから、三玖は妙に真剣な表情になる。

「だいたい、嘘にしても節操がなさすぎる。バレるに決まってる。なに? 宮本武蔵に、ナイチンゲールに、清姫にって。
 なんなの、その演劇。とても成立すると思えない。そんなチョイス、歴史ゲームでもありえないよ。もしあったとしても、絶対に流行らないと思う」

62ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:08:06 ID:hTGsSQhI0
 
 
 
【E-6 民家/1日目・早朝】

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
0:今後の方針を練る。
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。
※カルデア礼装は使用すると一定時間のインターバルがあります。


【若殿ミクニ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:バトルロワイアルからの脱出
1.皆を探す
[備考]
※敬王から帰還以降からの参戦。詳しい時期は後続の書き手にお任せします。


【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる
1.若殿ミクニ達他のやつらを利用する
2.まずは信用されるように動き、利用しやすくなるように動く
3.藤丸立香は俺に気がある?
[備考]
※死後からの参戦


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1(本人確認済み、武器)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:今度こそ願いを叶える。
1.戦いを止める。
2.千翼のことを止めたいが…
3.蓮…!!
[備考]
※秋山蓮に生きろと告げて目を閉じた後からの参戦です。

63ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:08:46 ID:hTGsSQhI0
 
 
【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切り傷と打撲(簡易処置済み)
[道具]:基本支給品一式、折れた日輪刀@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜1、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:刀が欲しい。
[備考]
※強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。
※折れた日輪刀は半天狗戦で緑壱零式の刀を使う前のものでした。


【沖田総司@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:着流し、菊一文字則宗@衛府の七忍
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:『びぃびぃ』と名乗る鬼を討った後、元和に戻って鬼退治。
1:己の『誠』を信じて突く。
2:二乃さんを護衛する。
3:酒呑童子については保留。
4:二乃さんの妹御を斬った鬼(千翼)を斬る。
[備考]
※第三十五話以降からの参戦。

64ファイナル本能寺・エピソード2(後編) ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:09:03 ID:hTGsSQhI0
 
 
【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、精神的ショック
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人に会いたい
1.ひとまず話をする。
2.千翼に対する強い怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。


【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:好きな人と傍にいたい
1:ひとまず話をする。
2:PENTAGONに向かう。
3:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。


【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:首筋に引っ掻き傷(処置済み)、精神的ショック
[道具]:基本支給品一式、四葉のリボン、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:好きな人へ伝えたい
1:ひとまず話をする。
2:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。

65 ◆hqLsjDR84w:2019/07/29(月) 22:11:18 ID:hTGsSQhI0
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

――――

次は期限超過しないように気を付けます。改めてすみませんでした。

66 ◆2lsK9hNTNE:2019/07/30(火) 23:48:28 ID:x0eGon/I0
投下乙です!

>ハザードは終わらない
 ナイチンゲール格好いいなぁ。ここまでは狂ってる印象の方が強かったけど、不利な状況でも信念を貫き通して一歩も引かないナイチンゲール格好いい。
 円城くんは原作では数少ないバトル漫画の住人だったけど、今回は周り怪物ばかりだと相対的に一般人的にならざるを得ませんね。
 それでも持ち前の戦闘センスで一撃与えるも一歩届かず。しかし彼の話はここからが本番ですね。
 一度は諦めそうになりながらも自分を救おうとするナイチンゲールの姿に憧れを重ねて奮起する姿が良い。これまでの話もそうだったけど0zvBiGoI0kさんは心理描写が上手い。
 権三からヒントを得て回復するのもまるで映画の伏線回収ようなスマートさ。
 意識してくれたのかはわかりませんが、武蔵が権三相手にやったのと同じ発想で黒縄地獄の雷を破ってくれたところ嬉しかったです!
 もし地球が滅亡して〜の約束はまあ原作だとあんな感じなんですか、この話だけ見るとほんとに感動的な約束のように見えますね。
 どんな状況でも人を救うこと優先し続けたナイチンゲールが最後、円城のために足を止めるのも素敵。この話でだいぶナイチンゲールが好きになりました。

>ファイナル本能寺・エピソード2(前編)
 いやぁ面白いなぁ。キャラが皆生き生きしてる。これだけの人数のキャラを書いて全員が生き生きしてるのはほんとすごい。
 エピソードではなく些細なセリフや描写ででキャラの魅力を引き出す技術は素直に羨ましい。
 特に上手いのは姉妹たちですよね。他のキャラを良いんですけどでも真司や沖田は特別スポットを当てて魅力を出してるわけですよ。姉妹たちはそうではない。出番は多いけど話の中心ではないんですよ。それでもこれだけ魅力を出せてるんだから凄い。
 でも今回の話はなんといっても猛田とミクニですよ。この二人の関係をここまで掘り下げてくれて本当にありがとう!
 信じすぎるぐらいに人を信じるミクニと、人を信じず人を騙す猛田の絡みが最高です!
 猛田を巡るミクニと三玖の会話も良いしあの二人の組み合わせを思いついて本当に良かったです。

67名無しさん:2019/07/31(水) 01:38:16 ID:F/XoxVY.0
投下乙です
同行者が持ってるファムとベルデのデッキの元の装着者は
最期まで真司の事を気遣ってたな

68名無しさん:2019/07/31(水) 21:25:14 ID:wZY1e9ew0
先輩が私の知らないメカクレ女子と楽しそうにやってます……

69 ◆hqLsjDR84w:2019/08/01(木) 01:23:36 ID:GdX6/cDU0
感想、wiki編集、感謝です。
もう収録されててだいぶびっくりしました。

ちょっと修正しましたので報告。
改行とか、単語ちょっと変えたりとか、一ヶ所だけ蓮が『連』になってたのを直したりとか、その程度ですが、一応自分で直したってことだけ。

70名無しさん:2019/08/01(木) 15:27:12 ID:T4BeZRFY0
>>67
ナチュラルに高見沢がいなかったことにされてて草

71名無しさん:2019/08/01(木) 16:54:07 ID:P1DMwVPI0
ぐう聖木村の存在がデカいから仕方ない

72名無しさん:2019/08/01(木) 17:15:34 ID:4ppsyTY.0
人間はみんなライダーなんだよフータローくん?

73名無しさん:2019/08/01(木) 20:34:45 ID:UkDyNckQ0
放送はいつ起きるのかな

74 ◆HH8lFDSMqU:2019/08/05(月) 21:25:55 ID:2k2bZjrM0
水澤悠、竈門禰豆子、鷹山仁 予約します。

75 ◆HH8lFDSMqU:2019/08/07(水) 04:29:42 ID:x1W288l20
投下します

76R ◆HH8lFDSMqU:2019/08/07(水) 04:30:31 ID:x1W288l20

 雨宮雅貴を見送った後、悠と禰豆子はしばらくその場に留まっていた。
 時間帯は早朝。しばらくすればあの少女――――『BB』による放送が始まるであろうからだ。
 移動して、その道中に聞き逃さないしてはならない。

 開示される情報。
 この開始から6時間での死者。
 禁止エリアの場所。
 特に後者は絶対に聞き逃してならない。

「…………」

 悠は地図を見る。
 現在地は恐らくはC-7辺りであろうか。
 
 次にこの島の全体図に目を向けてみる。
 四方を海に囲まれたこの島。
 悠にはこのような形の島は見覚えはなかった。
 
 世界地図にも載っていない島と考えるのが妥当であろうか?
 否、悠は別の可能性を考えていた。

 最初にBBが言っていた『元の世界に返してあげます』との発言。
 このことから悠はここが『別の世界』かもしれないと考えた。

 言うならばこの島はきっとBBが作った小さな世界―――『水槽』。
 いや、水槽なんて綺麗な世界なんかものではない。
 まるで多くの実験生物を一つの世界に混ぜ込み、閉じ込めた『檻』だ。

 この島について、少なからず悠はそんな感想を抱いた。
 だが、悠は決して口には出したりしない。
 

 まだ放送まで少し時間はある。


 悠は次に名簿を見て考える。
 この名簿、恐らくは関係者が近い所にまとめられてる考えた。
 先ほどの雅貴の情報から考えると恐らくはこの場にいる知り合いは5人ほどか?
 雅貴の知り合いは4人、自身の知っている者も4人。

 この島で最初に出会った男。
 確か鮫島だったか……彼が悠に託した希望の名『宮本明』。
 その名前を聞いたときに丸印を付けていた。
 そこから前に数えて5人開けた先に雅貴の弟の『雨宮広斗』の名前があった。
 ならば、この『波裸羅』『猛丸』『犬養幻之介』『宮本武蔵』『沖田総司』の5人は知り合いのグループ。
 そう考えたが、まだ確信は持てない。
 
 さらに名簿上には「中野」という姓の名前が5人連続で並んでいるが……。
 上から数えてみたらその5人が知り合いならば5人ずつで纏まっているという括りから外れる。

『この中野って苗字の五人、絶対五つ子姉妹だって!!』
『そうですかね……』
『絶対美人五つ子姉妹だって!!!』
『はぁ……』
 
 雅貴とのそんな他愛ない会話を思い出す。
 悠はこの連続で続いてる『中野性』の名前は五つ子とは思っていないが、姉妹もしくは家族だとは考えた。

 とりあえず、一先ずそれは置いとくことにした。

77R ◆HH8lFDSMqU:2019/08/07(水) 04:31:33 ID:x1W288l20

 だが、ちょうどこの名簿の一番最初に禰豆子の名前の近くに兄と思われる炭治郎の名前があった。
 となれば、竈門炭治郎から数えて5人目までなら禰豆子の知り合いと考えていいだろう。
 そう考えたが、まだ確証は持てないので、禰豆子に聞く。

「禰豆子ちゃん……この『吾妻善逸』『煉獄杏寿郎』『冨岡義勇』は君の知り合いかい?」
「うー」

 悠の問いかけに、禰豆子はこくりと頷く。
 禰豆子の名前から数えて三つの名前は禰豆子の知り合いのようだった。
 悠の考えにほぼ間違いないのだろうか?
 だがしかし、まだ少しばかり確証は持てなかった。

 そして、もし仮にその知り合いが『禰豆子と同じような存在』だった場合。
 
 悠は彼らを………………。


 そんな時であった。


 足音が聞こえてきた。 
 気配の数は一人。
 こちらの方に近づいてくる。

 だが、どうにも様子がおかしい。
 その足音は一定のリズムではなく、どこか怪我でもしているだろうか。
 どことなくフラフラと歩いている足音にも聞こえた。
 そして、こちらの姿を見ずに気配だけを感じとり近づいてるような気がした。

 悠には近づいてるそれがまるで手負いの野生動物か、何かのように思えた。


「禰豆子ちゃん、少し下がって!」
「…………?」
 
 悠は警戒を怠らない。
 足音がどんどん大きくなってきた。
 それと同時に血生臭い匂いも漂い始めてきた。

 ――――まさかこの殺し合い乗った参加者がやってきたのか?

 一番最悪な可能性が一瞬で悠の脳裏に過る。
 思考を完全に放送を待つ状態から、近づいてくるそれに警戒する体勢に切り替える。

 徐々にその姿が露になってきた。
 朝日に照らされ、その姿が悠にもはっきりと見えるようになった。

「…………!」

 悠がその男を見間違えるはずがなかった。
 
 ボロボロの衣服。
 白く濁った両目。
 一部金色のメッシュが入った黒髪。
 左手には自身が持つアマゾンズドライバー。
 しかし、年季が入っているのかいくつものの傷がある。

 間違いない。
 悠がその男を見間違えるはずがないのだ。
 

「――――仁さん……ッ!」
「……なんだ、お前もいたのか」


 『第三のアマゾン』――――水澤悠。
 『アマゾンを狩るアマゾン』――――鷹山仁。

 
 その再会は彼らにとって宿命か。
 はたまたこうなるべくして出会う運命か。
 この場でもまた出会ってしまった二匹のアマゾン。

 だが、それでも時は止まることなく、刻々と時を刻み続ける。
 
 時刻は丁度6時。
 BBによる『放送』が始まろうとしていた。

78R ◆HH8lFDSMqU:2019/08/07(水) 04:31:56 ID:x1W288l20

【C-7・街/1日目・早朝】

【水澤悠@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:やや疲労
[装備]:悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式×2
[思考・状況]
基本方針:狩るべきものを狩り、守りたいものを守る
1:人を喰う、あるいは殺したモノを狩る
2:仁より先に千翼、イユ、クラゲアマゾンを殺す
3:明という人物に鮫島の最後を伝える
4:禰豆子が人として生きようとする限り、隣に立ち続ける
5:竃門炭治郎、雨宮広斗を探す
6:いずれ雨宮雅貴と合流する
[備考]
※雨宮雅貴と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。

【竈門禰豆子@鬼滅の刃】
[状態]:健康、鬼
[装備]:王刀・鋸(小分けにして束ねて口枷にしてある)@刀語
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:人として生きたい
1:兄を探す
[備考]
※人肉を食いました。
※王刀の効果で一時的に食人衝動が抑え込まれています。
※太陽を克服しました。

【鷹山仁@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:盲目に近い状態
[装備]:仁のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:全ての『アマゾン』を狩る、『人間』を守る
1:千翼を殺す
2:殺し合いからの脱出
3:次に千翼と会ったら七羽さんについて聞いてみる。
[備考]
※参戦時期は2期7話の千翼達との邂逅前。
※盲目に近い状態なので文字を読むことなどはかなり厳しいです。

79 ◆HH8lFDSMqU:2019/08/07(水) 04:32:17 ID:x1W288l20
投下終了です。

80名無しさん:2019/08/07(水) 10:48:35 ID:xM1WIZbs0
投下乙です
放送直前で因縁の二人が会ってしまったか

81名無しさん:2019/08/08(木) 04:03:23 ID:0B/rZI1E0
ウォーウォーウォーティーキュョーアマゾーン

82名無しさん:2019/08/08(木) 08:40:50 ID:UHLFjnuU0
予約かと思ったらゴミみたいなコメかよ

83 ◆3nT5BAosPA:2019/08/09(金) 21:49:42 ID:hCAUcDbA0
皆さんお疲れ様です。当方、書く気力が戻ってきましたので、以前破棄した内容で改めて予約しようと思います。次は投下できるよう頑張ります

84 ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 22:56:54 ID:lXXneOdM0
遅れてすいません。投下します。

85あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 22:59:03 ID:lXXneOdM0
武蔵の同意を得られたので、圭はすぐに移動を開始した。
 とりあえずは現在地からなるべく離れることが最優先の目的だが、かといって、あてもなく歩き続けるというわけにも行くまい。
 身を潜めるのに適した場所はなかったか──歩きながら脳内に周辺の地図を思い浮かべていると、車輪が回る音と共に誰かがやってくるのが見えた。
 その誰かはママチャリに乗っていた。しかし、運転手は主婦ではなく男だ。圭と同年代くらいに見える、制服姿の少年である。金色に染まっている髪は、圭にカイを連想させた。
 彼も石上の声を聞いて、ここまで来たのだろうか。
「ここに居てはまた石上の聞いた誰かがやって来て面倒が起きるかもしれない」という圭の懸念は、すぐさま的中したようである。

「止まれ!」

 此方に向かってくる少年の姿を認めた瞬間、圭は叫んだ。
 すると、少年の動きは止まった。ちなみに、武蔵は圭が口を開いた時には両手で耳を塞いでいた。大した状況判断力である。
 がしゃあん、と。
 運転手の行動の急停止による必然の結果として、コントロールを失ったママチャリは派手な音を立てて転倒した。

──バイクじゃあるまいし、あの速度でそこまで酷い怪我をするとは思えないが……。

 圭が『亜人の声』を使ってこのようなことをしたのは当然であった。
 敵か味方かも分からない少年を不用意に近づけた結果、喜ばしくない結果を招いては困る。ならば、多少乱暴な手段になっても、少年を止めるべきだったのだ。
 しばらくすると、少年は体を起こした。

「いてて……、今の声は『言葉の重み』みたいだが、あれとは違う感覚だったぜ──いきなり何すんだよ!」
「僕たちは別に、殺し合いに乗っているわけじゃない。だけど、君がどういう人間なのか分からない今、接近を許すわけにはいかなかったんだ。許してくれ」

 我ながら誠意の籠っていない口調だな、と思いながら、少年に向かって圭は語りかけた。

「率直に聞かせてもらおう。君はこの殺し合いに乗っているのか?」
「カッ! このふざけたバトルロワイアルへのスタンスなら、俺もお前らと同じだぜ。乗るわけねえだろ」

 人の命が奪われる催しに心からの嫌悪を示すような表情で、少年は言った。
 
「この辺りから声がしただろ? 俺はその声の主を助けようと、ここまで来ただけなんだが」
「その者なら死んだ」
「なッ……!?」

 答えたのは武蔵だった。

「武蔵があの場に参った時には既に巨漢に踏み潰されていた」
「そうか……クソッ!」

 声の主の死を知った少年は、悔しそうに地面を殴った。
 
「間に合わなかったってことかよ!」
「そう悲嘆にくれるなよ。おそらく、あの声がした直後には殺されていたんだろうし、誰だって間に合わなかったさ」

 僕くらいの距離にいたのなら、まだしも。
 圭は心中に湧いた補足を、そっと握り潰した。

 X X X X X

86あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:00:05 ID:lXXneOdM0

 少年は名前を人吉善吉と言った。箱庭学園という高等学校の生徒である彼は、この殺しあいの場へ共に連れて来られた知り合いを探している最中に、吸血鬼を名乗る雅という怪物に襲われ、そこを煉獄杏寿郎という剣士に助けられたらしい。その後ふたりは手を組んで人外の化物を相手に戦っていたが、突如として罵声が響き、声の主を助けるために善吉は戦線から離脱した──らしい。

「吸血鬼……?」

 善吉からこれまで起きたことを聞いた圭が反応したのは、フィクションの世界でよく見られる怪人の名前だった。
 そんなものがこの島には居るのか。
 そんな馬鹿な、と否定する意図は無い。圭は先ほど人を超えた所業を連発する筋肉野郎を見たばかりだし、なにより圭自身が亜人という人ならざる存在だ。だったら、本物かどうかはさておき、吸血鬼を自称する参加者くらいいてもおかしくはないだろう。もしかしたら、雅とかいう奴は亜人なのかもしれない。たしか世界には、亜人を神話や伝説上に記されている不死の存在と重ねて信仰している地域があるらしいが──いや、違うか。
 善吉の話を聞けば、雅という男はどれだけ酷いダメージを負っても死ぬ事もなく回復し、常人を超えた力を振るっていたらしいし、それに何より──証拠が雅本人の言及しかないが──彼の吸血鬼の性質は、血を介して傷口などから他人へ感染するというのだ。まだ分からない部分が多い亜人だが、血液を経由して不死性が伝染するという話は聞いたことがない。ウイルス性の病気じゃあるまいし。
 だったら、雅は亜人とは異なる不死ということか。

「まるで鬼だな」善吉の言葉を聞いた武蔵は言った。
「鬼とは何です、武蔵さん」圭は問う。
「不死身の異形異類のことだ。人吉が見たという吸血鬼と特徴が似ておる」

 どうやら比喩としての鬼ではなく、正真正銘鬼そのものを指して言ったらしい。筋肉野郎と渡り合えていたことからただ者ではないと思っていたが、本人の話を聞くところによると武蔵は実際に不死身の鬼と戦い、斬ったことがあるらしい。もしかすると、その鬼とやらもこの島にいるかもしれないな、と圭は懸念を抱いた。

「煉獄さんはああいう化け物と戦った経験が何度もあるらしいが、それでもずっとひとりにしておくわけにはいかねえ。宮本さんみたいに化物と戦った経験がある人を連れて戻れたら最良なんだが……、どうだ宮本さん、そして永井、おれに付いて来てくれねえか? 煉獄さんを助けたいんだ」
「いいだろう」

 武蔵は凛とした口調で、善吉の頼みを承諾した。
 
「なッ──」

 こいつマジか、と言いたげな顔で武蔵を見る圭。しかしよく考えてみるまでもなく、武蔵は石上の言葉を聞きつけてあの場に真っ先に馳せ参じた者なのだ。そんな奴が善吉の助けを断る可能性の方が低いというものだろう。

「この島に鬼の如き化生が他にも居り、助けを求めるものが居るならば、二天一流に進まぬ道理は無い」

 頼もしいことこの上ない武蔵の言葉に、善吉は頭を下げ、謝意を述べた。
 己の方針を明らかにした武蔵は、圭に顔を向けた。目と目が合う。
 
「おぬしはどうする」
「僕は……」

 圭は顔を顰めた。雅のような危険人物(人?)を放置しておくわけにいかないのは確かだ。だが、だからといってそんな奴が暴れている場所にわざわざ向かうのは相当なリスクである。十全な備えをしていない現状で、そう易々と出向くわけにはいかないだろう。
 けれども、そこで鬼殺しの熟練者であるという煉獄杏寿郎が戦っており、同じく鬼斬りの経験者である武蔵が向かうというのであれば、話は別だ。吸血鬼を名乗る不穏分子を排除できる可能性は高いといえるだろう。

87あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:00:31 ID:lXXneOdM0
 故に、圭が返した答えは、

「僕は……、僕も、付いて行きます」

 だった。
 煉獄と武蔵がいるとはいえ不安の残る選択だったが、武蔵から離れて一人で行動するよりはよっぽどマシである。それも踏まえての答えだ。
 善吉が言うところによると、ここから1エリアしか離れていない『那田蜘蛛山』の麓で、煉獄と雅は戦っているらしい。そんなすぐ近くで魔人と剣士が戦いを繰り広げているという事実に、圭は改めてこのバトルロワイアルの狭さと恐ろしさを知ったのであった。

「そうと決まれば話は早い。さっさとD-4エリアに戻らねえと」

 倒れっぱなしになっていた自転車を起こし、来た道を戻ろうとする善吉。
 次から次に訪れる厄介な事態、そしてこれからもやってくるであろう面倒事を思い、圭は溜息を吐きたくなった──その時だった。
 突如として空から何かが飛来してきたのは。
 轟音と共に地面が陥没し、粉塵が舞う。すわ大砲が発射されたのかのかと思ったが、違った。飛んできたのは砲弾ではなく人間だった。ただし、砲弾の如き速度で着地して五体満足な姿を見せているものを人間と呼べるのならば、の話になるが。
 突然の来訪者の正体は、ふたりの男だった。
 ひとりは総身を覆う筋肉の鎧と入れ墨が印象的な半裸の男。狼虎めいた目には左右それぞれに『上弦』『参』の文字が刻まれている。
 もうひとりはボロボロの学生服を着ている、目つきの悪半裸の男が圭の元まで飛んできて腹目掛けて蹴りを放った所為で、観察は強制的に中断させられた。

「がッ……!?」

 腹を襲った衝撃に、圭は血を吐いた。
 腹筋と内臓を越えて背骨にまで到達したんじゃないかと思わされるほどに、蹴りは深々と突き刺さる。与えられた攻撃から生まれる当然の結果として、圭はくの字の体勢で後方に吹っ飛んでいった。蹴撃だけでも人体に与えるのに余りあるダメージだったが、家屋の壁に背中からぶつかった際に、腹部以外の内臓や頭蓋骨にも致命的な損傷が加わった。

「永井―――ッ!?」

 半裸の男の目にも止まらぬ攻撃から一拍置いて何が起きたのかようやく理解した人吉善吉は、絶叫のような声を挙げた。
 名前を呼ばれた圭が返事をすることはない。あれほどのダメージを与えられれば、指先一つ動かす事すら不可能だろう。
 全身を稲妻のように駆け巡る激痛に悶えるも呻き声ひとつ上げられないまま、彼は意識を手放し、しばらく経つと、生命活動を終了した。

【永井圭@亜人 死亡】

 X X X X X

88あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:00:52 ID:lXXneOdM0

 永井圭を仕留めた後、半裸の男──猗窩座の次の標的は武蔵だった。
 拳を振りかぶりながら、一足で飛びかかる。
 武蔵は既に抜いていた刀を持って、これを迎撃した。
 一閃──剣豪の頭を砕かんと突進していた腕は、切り離されていた。
 斬撃を受けた襲撃者はアクロバティックな動きで後退し、距離をとる。
 五メートルほど離れた所で、猗窩座は静止する。その頃になると、彼の腕は元通りに生え変わっていた。信じがたい再生力である。

「傷も残らぬ、死なずの身。さては鬼か!」
 
 鬼──不死身の怪物。
 剣豪としてこれまで多くの武芸者と戦ってきた武蔵だが、そんな彼でも瞠目を禁じ得ないほどに、目の前の拳鬼の動きは尋常ならざるものだった。人が生涯をかけてどれほど激しい鍛錬を積んでも、猗窩座ほどの武を磨くことは不可能だろう。そう思わされるほどに、超人的な風格を、彼の一挙一動は纏っている。武蔵は猗窩座を『上の上』だと認定した。
 武蔵の刀をしげしげと眺めた猗窩座は、実に楽し気な声音で言葉を紡いだ。

「いい太刀筋だ。俺と戦う強者に相応しいと言えるだろう。あの声に招かれた者の中に、おまえのような強い人間がいたことを嬉しく思うぞ──俺の名は猗窩座」
「宮本武蔵にござる」
「ムサシよ──見たところ、お前の得物は日輪刀のようだな。さては鬼殺隊の剣士か?」
「否。鬼殺隊など聞いたこともない。武蔵が振るうは何処にも属さぬ孤剣なり」
「そうか。だが武蔵よ──こうして巡り合った強者であるお前が、鬼を斬るための武具を握っている状況に、俺は一種の天命めいたものすら感じているよ。お前の強さを俺に見せてくれ、存分に」

 恍惚とした様子で、猗窩座は宴を始めるべく、拳を構えた。
 その時、横から何者かが吠える声がした。人吉善吉の声だった。
 
「てめえ! どうして永井を蹴飛ばしやがった! おまえが宮本さんと戦おうってんなら、あいつは関係なかっただろうが!」
「あいつは弱い人間だった。その上、手負いだった。だから殺した。それだけだ」

 猗窩座がさも当然とばかりに返した答えを聞いた善吉は絶句した。大した理由もなく、「弱いから」という理由で命を奪える、理解不能の精神性。これを鬼と言わずに何と言うべきか。

「もちろん、お前も俺からすれば唾棄すべき弱者だが、あいつと比べれば少しばかり鍛えているようだな。その闘気、凡人にしては練り上げられている方だ──白銀の初戦の相手としては適役と言えるだろう」

 猗窩座のその言葉が合図であったかのように動いたのは、白銀と呼ばれた学生服姿の少年だった。

「白銀、おまえもあのお方に選ばれた鬼ならば、この程度の相手には勝ってみせろ──強くなりたいのだろう?」
「言われなくてもわかってる」

 猗窩座の言葉にぶっきらぼうに返す白銀。
 鬼舞辻無惨がこの島で新たに生み出した鬼である彼は、手に入れた力に満足する一方、飢えも感じていた。
 肉が足りない。血が足りない──そして、経験が足りない。
 鬼になる以前は物騒事から縁の遠い生活をしていた白銀は、人と戦い、人を殺し、人を喰らうために必要な経験が欠如していた。
 足りて、いない──ならば、得るしかないだろう。
奪うしかないだろう。
 目の前の少年を己がより強くなるための糧とすべく、白銀は牙を剥く。
 剃刀の刃のような鋭い殺気を感じた善吉は、咄嗟にサバットの構えを取った。
 白銀は武蔵が鬼と判断した猗窩座と同類だ。つまり、三段論法的に雅とニアリーイコールで結ばれる化物ということになる。
 その事実に善吉は、ゴクリと喉を鳴らした──しかし。

「カッ! 俺をチュートリアルの雑魚キャラみてえに扱ってくれるとは、随分舐めてくれるじゃねえか。そんな様じゃ、痛い目を見ることになるぜ?」

 白銀は雅より遥かに弱い。
 この世ならざる彼岸が人の形をしていたかのような、あの超越者と比べれば、白銀が格段に劣っていることは明白だった。
 その事実を認識すれば、いくらか落ち着きを得られようというものである──皮肉にも、雅との出会いがあったおかげで、善吉の心は幾分か平静に寄ることが出来ていた。

「宮本さん! こいつの相手は俺に任せろ! あんたはその入れ墨野郎との戦いに集中してくれ!」

 ふたりで永井の仇を取ろうぜ!──その言葉を最後に、ふたりの人間と二体の鬼はそれぞれに戦いを始めた。
 人と鬼の戦いが、始まった。

 X X X X X

89あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:01:11 ID:lXXneOdM0

「やあ、人吉くん。久しぶり」
「調子はどうだい?」
「って、調子がよかったら、ここに来るわけないか」
「うふふ」
「ああ、そうそう。ついさっき球磨川くんにも会えそうだったんだけど、そっちには間に合えなかったんだよね」
「開幕早々自爆で死にかけた彼を笑ってやりたかったのに、残念だ」
「この島のセキュリティがもう少し緩ければ、間に合ったんだろうけど──どうやら、思っていた以上に強固な守りをしているらしい」
「封印されているとはいえ、僕でも外からの干渉が難しいくらいにね」
「手間と時間をかけても、こうして姿を現すだけで精一杯なんだよ」
「現界するだけで限界だ」
「やれやれ、この僕にここまでの苦労を強いるなんて」
「BBちゃんとやらは、中々侮れないぜ」
「ここが彼女の支配するフィールドだから、有利を取られているのかな」
「あるいは、7932兆1354億4152万3222個の異常と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷、合わせて1京2858兆519億6763万3865個のスキルを持つ僕でも知らない技術や知識でも使っているのかな?」
「己の無知と無力を恥じ入るばかりだよ」
「おや、どうかしたかい? 何か気になることでもあるのかな?」
「……教室が以前見たものと変わっている気がする?」
「ああ、別に大した理由はないよ」
「きみと会うために──BBちゃんが支配する場に潜り込むために、この僕も少しばかりの小細工を弄する必要があった」
「彼女の記録に深く刻まれた風景にカモフラージュする必要があった」
「それだけさ」
「ところで人吉くん。バトルロワイアルに参加しているんだって?」
「今時デスゲーム物とか、古すぎて一周回って新しいくらい粗製乱造されたジャンルなのに、よくやるねえ」
「どうせなら、ついでに流行りの異世界転生や転移でもしてみてくれよ──いや、きみが今体験しているのも、一種の異世界転移みたいなものなのか」
「ともあれ、バトロワが始まって早々、吸血鬼と出会うどころか、続けざまに鬼と遭遇するなんて、君も運がないね」
「よっぽど鬼に縁があるらしい」
「まあ、そんな不運が続いたことで、きみは死んで、僕はこうしてきみの前に参上できたわけだし、そこは彼に感謝しないといけないかな」
「白銀御行くんに心からの謝意を表明させてもらうぜ」
「……ん? 何を驚いているんだい?」
「僕と会っているということは、つまり『そういうこと』に決まっているじゃないか」
「君は負けたんだよ。白銀御行に」
「完膚なきまでに敗北したんだ」

 X X X X X

90あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:02:01 ID:lXXneOdM0
「ふあ〜」
 
 間延びした欠伸が鳴ったのは、武蔵たちが戦っている所から僅かに離れた位置に立っている木、その上の方からだった。
 高く伸びた幹から思い思いの方向へと生えている枝──その内の一本の上で横になっている者がいる。身体が少しでもずれれば、そのまま真っ逆さまに落ちかねないというのに、まるで広々とした野原で寝そべっているかのような、余裕のある態度だ。ずいぶん器用な寝方である。
 その者の名は波裸羅。バトルロワイアルの参加者としてこの島に招かれた現人鬼だ。
 その姿の、何と美しいことだろう。余人が木の上に居る波裸羅を目にすれば、既に時刻は昼間となり、太陽が空に座していたのかと錯覚してしまうに違いない。それくらい波裸羅のかんばせと肉体が放つ美の輝きは眩しかった。
 欠伸を終えた波裸羅は、退屈そうな面持ちで目を落とす。その視線の先には、つい先程開かれたばかりの、人と鬼の戦いの場があった。
 猗窩座の拳と刃を交わせている武蔵──そして、白銀御行に惨敗し、血まみれで横たわっている人吉善吉の姿が目に映る。

「ふん、つまらぬな」

 人吉善吉が見せた、白銀御行との戦いでの敗北は、人の身では鬼に敵わないという、熟んだ果実が枝から離れて地に落ちること以上に当然の摂理に沿っているだけだった。
『研究所』から出てきたところで南方から響いた罵声を聞き、興味を持ってやって来た波裸羅であるが、そこで見せられたのがこんな先の読める戦いというのは、ひどく興ざめである。
 ならば武蔵と猗窩座の戦いは違うのかというと、そうでもない。最初のうちは互角の戦いを演じていたが、アレではそのうち軍配が上がるのは猗窩座の方だろう。
 武蔵の握る武器は悪すぎる。
 刃が欠けているというのもあるが、それ以上に本数が拙い。
 あの刀が二本で一対、つまり二刀流で扱う用途を念頭に置いて打たれたものであるというのは、初見の波裸羅の目でも明らかだ。武蔵の腰に提げられていながら鞘から抜かれていない刀があることから察するに、おそらく二刀のうちの片方は何らかの原因で使用不能になっており、そのため仕方なく一本だけを振るっているのだろう。
 二刀流用に打たれた刀を一本だけ使えば、その戦いに無理が生じるのは当たり前である。
 それに武蔵の動きに疲労の色が窺える。ここに来るまでに何度か戦いを経験していたのだろうか。これも拙い。

「実につまらぬのう」

 展開が読める戦いをこれ以上見る必要もあるまい。此処に長居するのは無駄だな──そう考え、起き上がろうとした波裸羅であったが、『あるもの』を目にした瞬間、動作を止めることになる。

「ほう、あれは……!」

 この場に現れて初めての『予想外』を目にし、歪めた唇に舌をぺろりと這わせる波裸羅。
 現人鬼が目にしたものとは──

 X X X X X

91あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:02:32 ID:lXXneOdM0

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■■■■■■■■■じ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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 X X X X X

92あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:03:42 ID:lXXneOdM0
【永井圭@亜人 復活】

──ああ、クソッ。人吉なんかに構うんじゃなかった。あんな奴はスルーして、さっさとこの場から離れておくべきだったんだ。

永井圭は一度死に、そして生き返っていた。
予想外の奇跡みたいな所業だが、彼の支給品に死者の蘇生を可能とするアイテムがあって、それを使ったわけではないし、何らかの回復系の異能に頼って甦ったわけでもない。
ただ単に、圭は死ぬことのない生物である亜人であり、その性質はこのバトルロワイアルでも十全に発揮された。
それだけである。

──どうやら、亜人の性質に制限がかけられているかもしれないという読みは、外れたようだな。

圭は思考する。 
というより、思考しかしていない。
彼は民家の壁に背中を預ける姿勢のまま、身動きひとつ取っていなかった。
猗窩座の攻撃で体の運動機能に障害が残ったわけではない。生き返ればそれまで負っていた傷が全て綺麗さっぱり回復する亜人の体に、そのような不具合は起こり得ない。なんなら、今から勢いよく立ち上がって全力疾走出来るくらいには五体満足の健康体である──圭は死んだふりをしているのだ。
それは何故か?
不死身の肉体を持つものが周りからどんな悲惨な扱いを受けるのかを、圭はよく知っているからだ。
こんな緊迫した環境ならば特に、というものである。
化物扱いの迫害を受けるかもしれない、という考えは決して過度な妄想ではない。
圭が不死身、つまり鬼と似たような特性を備えているということを知った武蔵が、一時は共同戦線を結んだことのある相手に刃を向けることがないとは言い切れない。圭は彼と出会ったばかりであり、十分な信頼関係を築けていないのだから。
ならば、先ほどの武蔵の台詞を聞くところによれば死なない肉体を持っているらしい猗窩座達が、同じく不死身である圭を同胞として迎え入れてくれるのかというのかというと、それは都合の良すぎる考えというものである。
むしろ、ここで圭が動き、蘇ったことを明らかにすれば、武蔵と猗窩座が同時に襲いかかってくる、という最悪の事態がありえてしまうくらいだ。
だから、圭は不用意に動けずにいた。

──…………。

圭は考える。
善吉が白銀に倒され、武蔵と猗窩座の戦いが続いてる現在、ここから先の展開は大きく分けて、ふたつあるだろう。
ひとつは、猗窩座が勝利する展開だ。
この場合はどうなるか。
武蔵と戦っている最中はともかく、倒した後になれば、猗窩座はまず間違いなく圭の復活に気がつくだろう。そこで彼がどうするかなど、考えたくもない。亜人の性質を有したままである以上、蹴られようが殴られようが死ぬことはないだろうが、それでもあんな痛みを味わうのは二度とごめんだ。
先ほど考えた、同じ不死身として仲間に迎え入れられるかもしれないという甘い考えが実現する可能性が万が一にあったとしても、出会ったばかりの他人に蹴りを放つような人格破綻者(圭が言えたことではないが)と付き合ったところで、『佐藤を倒し、このイカれたゲームから脱出する』という目的に近づけるとは、到底思えない。

93あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:04:08 ID:lXXneOdM0
ではもうひとつ、圭が考えるこれから先の展開は何かというと、それは宮本武蔵が勝利する展開だ。
しかし、現状この展開に至れる可能性はかなり低い。
絶無といってもいいぐらいだ。
どうやら、武蔵は今のところ猗窩座と対等な戦いが出来ているようだが、徐々にその均整が崩れてきているのは明白である。
その理由は、先ほどの筋肉野郎との戦いでの疲労があるだろうし、そして何より、二本あった刀の内の一本が折れてしまっているのが大きい。
それに猗窩座は、その動きや態度から、まだ余力を残しているように感じられる。もし彼が本気で戦えば、元から悪い旗色は最悪となるだろう。
高い実力を持ち、その上殺し合いに積極的ではないという理想的なスタンスの武蔵をここで失うのは、圭にとって手痛い損失となる。

──鬼が勝つか、武蔵が勝つか。ここで僕が出来る選択で、マシな方は……。

武蔵が勝つ方だ。
しかし、その場合、ただ勝たせるだけでは駄目だ。
圭が手を貸すことで勝利に導き、恩を売るのだ。はっきりと。
そうでもしなければ、たとえ武蔵が勝利したとしても、不死身だということがバレた圭に待っている未来は、悲惨なものとなるだろう。
『永井圭の助けが無ければ勝てなかった』。
『永井圭は不死身だが、鬼のような危険存在とは違う』。
武蔵にそう思ってもらわなくてはいけないのだ。
 では、どのようにして武蔵の手助けをするか。
 立ち上がってふたりの元まで駆け寄り、加勢する? ──いや、近接戦闘の達人でもない圭が加わったところで邪魔にしかなるまい。佐藤対策班で多少の訓練を積んだが、あの戦いに割って入れるほどに習熟した技能は有していないのだ。せめて手元に銃があれば、遠距離からの援護射撃ができたのだが……、こうなると石上から銃を回収できなかったのが本当に悔やまれる。
 では、IBMを飛ばすか? ──いや、筋肉野郎との戦いで使わなかったのと同じ理由で、あれは出せない。圭の操作を受け付けないアレが、武蔵に爪を立てるなんてことになれば、目も当てられない。
 ……と、そこで圭は気が付いた。

──僕のデイバックに収納されている物の中に、刀が一本あるじゃないか。

 一本の刀──支給品を確認していた際に、そのいかにも人殺しの武器という感じの見た目から、石上がビビっていたのを思い出す。
 圭にも石上にも刀を十全に振るう力なんてないので、今までそれを使って戦うどころか鞘から抜いたこともないのだが──あれを武蔵に渡し、彼の手持ちを増やせば、状況を変える一助になるのではないのだろうか。
なにせあの武蔵だ。
二刀流の代名詞だ。
一本で戦うよりも二本で戦う方が向いているはずである。
 そう考えてからは行動が早かった。
 己のデイバックを開き、手を突っ込んだ圭は、すぐに目当ての刀を掴んだ。
 そして、

 X X X X X

94あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:04:43 ID:lXXneOdM0

 刃が煌めき、拳が閃く。
 刃が鳴り、拳が唸る。
 刃が走り、拳が駆ける。
 
──日が昇るまで、あと半刻もないか。

 白みを帯びつつある東の空を見ながら、猗窩座は首目掛けて迫りくる刀を軽くしゃがむことで避け、武蔵の腹に拳を浴びせた。たったそれだけで、巨岩を素材にして作り上げた彫像のように重々しい武蔵の体躯は、後方に退いてゆく。
 武蔵の疲労の色は強い。傷を負っていないわけでもない。あまり長い戦闘は見込めないだろう。しかし一方猗窩座はどうかと言うと、傷一つない健康体であった。呼吸だって平常だし、そこに疲れている様子は見られない。武蔵と猗窩座、どちらが優勢かなど、明らかであった。
 猗窩座は動きを止め、口を開いた。

「残念だな、ムサシ」

 憐憫の意を込めた様子で、猗窩座は言う。
 
「お前の剣技は素晴らしかった。特に、鬼に迫らんばかりの膂力は瞠目を禁じ得ない。そんな力を持つお前が鬼になっていれば……と思うと、俺は悲しい気持ちになってしまうよ。お前がどれだけ素晴らしい力を俺に向けようと、どれほど素晴らしい技で俺を斬ろうと、その傷はすぐに治る。鬼にとって、そんな傷はかすり傷にもならないんだ。おまえは俺に勝てない──いや」

 人間では誰も、鬼に勝てない──と。
 猗窩座が言った、その時だった。

「……誰にも勝てぬと申したか」

 全身が疲労と傷に苛まれているとは思えぬほど力強い声で、武蔵が反応を示したのは。
 猗窩座が口にした言葉は、武蔵にとって聞き捨てならぬものだった。
 
「ならば武蔵、勝ってみせる!」

 意気軒昂な声で叫びながら武蔵は剣を構え、猗窩座を睨みつけた。
 虎の爪のように鋭い闘気が、猗窩座の感覚を刺激する。
 ここまできて尚、これほどの闘気を見せるのか。
猗窩座は驚愕すると同時に、喜色に口元を歪めた。

「くく、はははっ! これ程の力量差を見せられながら、まだ刀を握るかムサシ! その気力、その精神力、その闘気! 全てが素晴らしい! ならば俺も応えよう! 全力を持ってお前を倒す!」

 術式展開──全力の技を出すべく、地面を踏みしめ、姿勢を作り、拳を握る──そして。
 そして、ふたりの間の地面に、鞘に収まった刀が飛んできた。

「武蔵さん!」

 刀と共に、声が聞こえた。聞こえるはずのない声だった。
 声がした方向に、その場にいた全員の意識が向かう、そこにいたのは死んだはずの永井圭だった。

「莫迦な」

 驚きの余りそう呟いたのは武蔵だった。猗窩座も同感である。永井圭は先ほどの一撃で死んだはずだ。
 闘気を感じ取る猗窩座の羅針は、圭がいる方角からも微弱な闘気を感じてはいたが、それはきっと先刻の大声に引き寄せられた新たな参加者だと思っていた。何せ、死人が闘気を放つはずがないのだから。この場に現れた新参者なら、余計な手出しをしてこない限り、武蔵を片付けた後で処理すればいいと判断するのは当然である。
 しかし、永井圭は生きている。腹に致命の一撃を受けたとは思えないほどに、大声で叫んでいる。
これはいったい、どういうことだ?

「今は説明している暇がありません、その刀を取って戦ってください!」

 死人の復活という奇なる怪異に疑問を抱かぬものが何処に居ようか。
 しかし武蔵は、即座に刀を拾い上げた。知恵を捨てて戦う剣士は、疑問を抱かない。
 圭が放った刀は、確かな力強さを感じさせるものだった。
 猗窩座曰く鬼を斬るための刀と、この刀。
二本が合わされば。
二天一流の形を成すことくらいは出来るだろう。
 
「永井、感謝するぞ!」
 
 謝意の言葉と共に、武蔵は鞘から刀を引き抜いた。

 X X X X X

95あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:05:10 ID:lXXneOdM0

「きみの敗因を挙げるなら、鬼の力に対し、白銀御行の戦闘能力が著しく低かったというのが大きいだろうね」
「それなら普通は勝てるんじゃないかって?」
「そうじゃないんだよな」
「逆だよ──強すぎる力に技術が伴ってない奴ほど、勝ちにくい相手はいないんだぜ」
「白銀御行は鬼になったばかりの元人間だ」
「戦闘経験なんて、あるはずもない」
「そんな奴が急に戦ったところで、マトモに動けるわけがないだろう」
「なにせ、戦闘経験がないということは、どう動いて戦えばいいのかという基礎的な知識が皆無ということだからね」
「結果、白銀御行の動きはしっちゃかめっちゃかで、でたらめなものとなり、きみはそれに翻弄された」
「さぞかし苦戦したことだろう」
「見るだけで嫌悪感を刺激されそうな棘皮動物じみた動きから繰り出される、当たれば大ダメージの攻撃って、戦う相手からすると怖いよね」
「一瞬後にどんな動きをするのか、予測もつかないだろうし」
「普段から鍛えていて、相手の戦闘スタイルや流れを読むことに慣れている人吉くんなら、なおさら困惑したはずだ」
「と、まあ感想はこのくらいにしようか」
「あーだこーだ言ったところで、負けた今となっては意味がないだろうし」
「敗者のきみは、敗者らしく死者スレで雑談でもしてくるといい──と言いたいところなんだけどね」
「喜ばしいことに、きみはまだ死んでいない」
「さっきは言葉の綾で誤解を招く言い方をしたけれども、まだ生きているんだよ」
「とはいえ、(僕としては言い難いことだが)安心はできない」
「死んでいないとはいえ、死にかけではあるからね」
「ゲームで喩えるなら、HPゲージが赤色になるくらいには、限り限りの状態で存命中だ」
「あと少しでも攻撃を受ければ、それだけで死ぬし、そうでなくとも数分も放置されれば死ぬだろう」
「だけど、そのくらいで動けなくなるほど、きみはヤワじゃないだろう?」
「そんなことは僕がよく知ってる」
「どんな無理難題を与えられようと、強がりを言って、みっともなく立ち上がるのが、人吉善吉という男だ」
「違うかい?」
「死にかけの状態である今でも、意識を取り戻して立ち上がることくらい出来るだろう」
「そのガッツで、闘争するか逃走するかは、きみ次第なんだけどね」
「どちらの道を選んだとしても、きみが生き残ることを、僕は切に願っているよ」
「それじゃあ頑張ってね、人吉君」
「勿論僕も頑張るつもりさ──そちらにより干渉できるよう尽力する」
「だけど、あまり期待しないでくれよ」
「なにせ、さっきも言った通り、このバトルロワイアルのフィールドのセキュリティはかなりのものだ」
「僕でも『時間をかけさえすればきみたちを救出できる』なんて無責任なことを断言できないくらいにはね」
「正直、この教室での対面だけでも、あとどれくらいやれるのか分からな

X X X X X

96あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:06:51 ID:lXXneOdM0

 意識を取り戻した人吉善吉を迎えたのは、全身を駆け巡る激痛の疾走だった。
 白銀との戦いで負った傷によるものである。
 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
 こんなに苦しいのなら、意識を取り戻すんじゃなかった。今からでも手放そうか──常人なら、そんな泣き言を思ってしまうほどの痛み。
 しかし、善吉は激痛に蝕まれてなお、歯を食いしばりながらゆっくりと立ち上がった。
というか、どうしてこんな死体同然の状態で起きることが出来たのだろうか。何らかの意思に突き動かされたような気がするが……、分からない。何か夢を見ていたような気もするが、その内容も起きた今となっては不鮮明だ。──まあ大方、生存本能や無意識が作った幻覚のようなものだったのだろう。
そんなことよりも、今は目の前の問題をどうにかする方が先だ。
視線を前に向けると、白銀の姿が見えた。とどめを刺す為にこちらに近づいていたのだろうか。自分はどれくらいの間、気を失っていたのだろう、と善吉は考えた。

「気が付いたようだな。だが無駄だ。どうせお前は、すぐに死ぬんだからな」

 まるで氷のように冷たい口調で、白銀は言った。

「お前を喰らって俺はもっと強くなる。お前だけじゃない、この島にいる他の人間も喰らってやるんだ」
「……一つ疑問なんだけどよ」

 およそ正気ではない言葉を吐く白銀に、善吉は疑問を投げかける。

「お前がそこまでして強くなりたい理由ってなんだ?」

 聞いておいてなんだが、善吉はこの質問に対して白銀が返す答えに大体の見当をつけていた。というより、既に知っていた。
 なにせ、白銀の目的は、おそらく善吉の目的と同じなんだから。
 だから、これは質問というより確認だ。
白銀がこの場に現れ、対峙し、戦っていた最中も、そして死にかけの状態から復活した今まで、ずっと抱いていた、まるで鏡を見ているかのような共感──その正体を確定させる。その為だけの確認だ。
その共感は白銀自身も感じていたのだろうか。隠す素振りもなく、口を開いた。
斯くして、彼が返した答えは、

「認められる俺になるためだ」

だった。

「認められる俺になる。仮面で偽る必要なんてなんてなく、『彼女』の隣に立つのに相応しいと認められる俺に──その為に俺は強くならなきゃいけなんだ。もっと、もっともっと」
「……ああ、やっぱりそうか」

 善吉の中で、何かが腑に落ちた──そして、その何かを口から流すべく、彼は続けて言った。

「おまえは俺なんだよ」

血が足りなくなった分、頭が冷静になり、ようやくわかった。
 鬼という色眼鏡を外して見た白銀は、普通のくせに身の丈に合わない場所を目指して努力して、好きな子に認められるために恰好つけようとする──思春期を拗らせただけの男子だった。

「だから、俺は負けねえ。負けるわけにはいかねえ。自分にすら勝てなきゃ、めだかちゃんに勝つなんて、夢のまた夢だからな」

 ニヤリと笑い、善吉は臨戦態勢を取った。準備は万端である。

「俺がお前だと?」

 対して、白銀の顔は嫌悪感に塗れていた。
 
「ふざけるな! お前のような普通の人間と、鬼の力を手に入れた俺が、同じなわけがあるか!」

 白銀は否定の言葉を吐く。善吉の言葉を拒絶するように、あるいは心のどこかにあった共感を否認するように。
 激情と衝動に身を任せて、白銀は牙を剥き、爪を立てて飛びかかった。
 対峙する善吉に、恐怖の様子は見られない。侮りも様子もだ。
 スキルを使わずとも、自分と同じ男が何を見つめて不器用に突っ走っているのか抜かりなく把握できている彼に、怖いものも侮るものもない。
 自分自身に打ち勝つべく、善吉はこちらに向かってくる白銀に応戦した。

X X X X X

97あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:07:51 ID:lXXneOdM0
「ふむ、まだ立ち上がるか。やるではないか」

 善吉のガッツを称賛する波裸羅。
 しかし、そちらにばかり目を向けてもいられない。
波裸羅の興味を大きく引くものは、別の所にあった。
 永井圭である。
 死にかけの状態で立ち上がった善吉と違い、永井圭は確実に死んでいた。幾人もの死を見てきた現人鬼である波裸羅の目に狂いはない。
だが、圭は復活したのだ! おまけに、傷が綺麗さっぱり完治しているのである! いかなる理屈による奇術か?

「あの生命力はまるで怨身忍者、いや──」

 波裸羅の脳裏に『端麗人』という言葉がよぎる。
 永遠の命を持ち、時代を超える者──永井圭が今しがた見せた復活は、波裸羅に桃太郎卿の説明を連想させた。
 
「まさか、な……」

 永井圭からは、そのような上位の生物が身に纏って然るべき格(オーラ)というものがまるで感じられない。
しかし、あの世から帰還してみせたのも事実である。
 はたして彼は何者なのだろうか。

「随分とそそらせるではないか。滾ってきたぞ」

 愉快気に呟く波裸羅。その顔は美しく、そして悍ましくもあった。

X X X X X

98あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:08:10 ID:lXXneOdM0
 始まった戦いは一度大きく揺れ動き、そして改めて開始された。
 日の出まで、あともう少し。

99あけないたたかい ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:08:40 ID:lXXneOdM0
【C-4・市街地/1日目・早朝】
【永井圭@亜人】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.武蔵を勝たせる。
2.自衛隊入間基地に向かう
3:使える武器や人員の確保
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。

【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3、嘴平伊之助の日輪刀×1、折れた嘴平伊之助の日輪刀×1@鬼滅の刃 、刀@???(どーゆー刀かは後の書き手さんに任せます)
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1:猗窩座を斬る。
2:事情通の者に出会う
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。

【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]:精神的疲労(中)、全身にダメージ(極大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:白銀を倒す。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。

【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、可楽の羽団扇@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼に対して──?
4.ムサシを倒す。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。


【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:人吉善吉を殺す。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。どれだけの血が与えられたかは後続の書き手さんにお任せします。

【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、真田の六文銭@衛府の七忍、ナノロボ入り注射器×2@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:彼岸島勢に興味。
3:永井圭に興味。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。

100 ◆3nT5BAosPA:2019/08/16(金) 23:08:57 ID:lXXneOdM0
投下終了です。

101名無しさん:2019/08/17(土) 02:05:55 ID:CrK88I7o0
投下乙です

本領発揮の武蔵vs上機嫌な猗窩座殿の続きが待ち遠しい
善吉敗北→安心院さん登場→リベンジの流れが凄く王道ですき

102 ◆0zvBiGoI0k:2019/08/18(日) 23:53:04 ID:In4pAqDg0
皆様投下おつです。感想は後に

マシュ・キリエライト、累、神居クロオ 予約します

103 ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:21:05 ID:pxNsbO.20
累君成仏記念に投下します

104通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか? ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:23:37 ID:pxNsbO.20


「知ってる?家族は、この世の何物よりも強い絆で結ばれてるんだよ」


黒い空間の中で、ソレはそう言った。

「父には父の役割があり。
 母には母の役割がある。
 親は子を守り、兄や姉は下の兄弟を守る。
 何があっても。命を賭けて。
 それが家族の絆だ。決して引き裂けない本物の結びつきだ」

空に昇り始めた太陽の光も、辺りを照らす照明も届かない闇。

「君はどうだい?自分の役割をわかってる?
 僕は、自分の役割を理解してない奴は生きてる価値がないと思ってる」

周囲に光源の欠片はない。
見えるものは何もない。
深い感情を宿らせた、童ほどの声だけが伝わっていく。

「あなたは――――――なにを」


……いや。
二人には見えていた。少年と少女は精確に捉えていた。
目の前にいる人物の表情も。二人だけしかいない静謐な部屋の間取りも、全て把握できている。
少年は夜闇に住まい人を喰らう十二鬼月に数えられる鬼であるがため。
少女は人の身にそぐわぬ英霊を宿したデミ・サーヴァントであるがため。

「君の役割は、僕達家族の一員になること。
 母でも、姉でも構わない。あの方に鬼にしてもらい、顔も同じように変える。ああ今は妹でもいいな。最近は欲しいと思ってたんだ。
 そうして母を作り、父を作り、僕達は幸せに暮らす。君と兄さんは僕を守り、邪魔する奴をみんな殺す。家族だから」

105通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか? ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:24:39 ID:pxNsbO.20


だから少女―――マシュ・キリエライトは、少年の顔を見ていた。
真白の肌。蜘蛛の眼の紋様。前髪に隠れた瞳に刻まれる文字。

少年―――累は、少女の顔を見ていた。
薄紫色の髪。見慣れぬ風の鎧。前髪に隠れた煌びやかな瞳。


マシュが累について知ってる情報は少ない。
鬼という種族であること。日の出る時刻は出歩けないこと。
兄、と呼ばれた自分を騙した少年は人間であること。

鬼という種は知っている。
摩なるもの。人でなく、人を喰らうもの。
カルデアに所属する英霊の中にも同様の種族はいるが、人に仇なす場合の方が圧倒的に多いものだと。
だが出会ったばかりの相手を自分の家族と呼び、強制して決めつける。
マシュの脳裏には幾つかの英霊が浮かんだが、それと比しても累の提案は理解を超えていた。
理解が叶わない。それはただ少年の理屈が狂気めいてるだけではなく―――


「私は―――――――」
「うん」
「……私には、はじめから私には家族と呼べる人はいませんでした」
「――――――?」

そう。マシュには両親との記憶がない。
家族と過ごした経験を持たない。
デザイナーベビー。科学が産み落とした忌むんだ生。
その中でも彼女は特異中の得意。魔術と科学を組み合わせ、英霊の触媒になるべき調整を施された特別体。
デミサーヴァントと呼ばれる、人道を無視して出来たたったひとつの成功例。成果物。

「お母さんや、お父さんと、当たり前に呼べる人がいないまま育ちました。
 だから家族というものが、どんなものかよくわからない。あなたに具体的に言い表すことはできません」

ガラス張りの部屋。
活動全てが筒抜けにされる視線。
痛みを伴う管理。
四半生にも満たない寿命。

それがかつてのマシュの人生だった。
そうして生きている自己に、不満も、疑問も持ってこなかった。
そこに家族、と名されるものに含まれる暖かな感触などない。
知識はあれどその肖像に実感を持てなかった。

106通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか? ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:25:39 ID:pxNsbO.20



けれど―――――――――。
いまのマシュは、知っている。
家族の姿を、知っている。

巡る特異点の旅で。
共に過ごす英霊の日々で。
隣り合う人々のやりとりで。
マシユはもう、知っていた。

「ですが――――これは、違う。違うと思います。
 あなたが人でないとしても、こんな――――縛りつけて、脅しつけて得るような形のものを絆とはいいません。
 たとえ血が繋がっていなくても……互いを思い合い、時に助け合う。
 私が見てきた家族は、暖かな営みがある、そんな人達でした」

マシュの全身には、累から伸びた糸がくまなく絡みついていた。
霊基外骨格の上から、肌に食い込むほど強く。
累の鬼としての異能。蜘蛛の糸はマシュを捕らえて離さない。
自由の利かない体で、それでもマシュは視線を眼前の鬼に向ける。
敵意を込めるわけではない。尋ねるような。どこか憐れむような視線で。
恐ろしい怪物であるはずの存在が、人に仇なす鬼であるのに。
今はもう、哀しげな子供のように見えて仕方がなかったから。

「あなたは――――――いったいなにが欲しいのですか。
 あなたの求めるものは、形だけの家族なのですか……?
 本当はもっと違う、別の――――――ッ」

首の頸動脈を締めつける糸の圧迫が、それ以上の言葉を封じ込めた。

「苛つくね」

纏わりつく糸が、血でない赤に染まる。
身動きの出来ないマシュに、累の殺気を表すかのように死の線が赤く幾重にも交差する。

「ここに来る前の子も、君と似たようことを言ってたね。
 なんなの?どうしてこうも僕の気を煩わしくさせるんだ――――――ああ、もういいや。どうせ代わりは幾らでもいるんだ。
 少し疲れたし、君はここで刻んで、餌にする」

刻む。文字通りに。
十二鬼月の生成した糸の刃、人の体なぞ肉も骨も問わずサイコロ状に寸断してのける。
そうするだけの殺意があり、それだけの殺傷力があった。

107通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか? ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:28:03 ID:pxNsbO.20

にも関わらず。

「硬いね」
「……!」

未だ形を保ってるマシュを、怪訝そうに累は見つめる。
顔は断続する苦痛に歪ませて、糸が触れた素肌からは複数の血筋が生まれている。
鬼狩りの剣士でも受ければ必死の糸を喰らっていながら、その程度で済んでいる事自体が規格の枠の外だ。
外見と結果が釣り合ってない。判別出来ない材質の鎧はともかく、首や素肌が直接触れている箇所すら切れないのはどういう理屈か。

「君、ほんとに人間?さっきまでもかなり硬くしてたけど、これでも切れないなんて。
 この硬度で拘束するのでさえ骨なのに殺されてさえくれないなんて、どこまでも手間を――――――?」

このまま力を込め続ければいずれ切れるのか。
それだけやって消耗する力と釣り合うのかと苛々した思考を、鼻腔を煽る芳香がかき乱した。
マシュを拘束する糸のうち一本を手元に戻す。
血鬼術による強化ではない、流されたばかりの鮮血に濡れた糸を頭上に垂らし、垂れ落ちる一滴を舌に乗せる。
瞬間、舌を刺す味の衝撃。脳髄を侵掠する芳醇。酩酊しかかる思考。
これまで食べてきた人肉とは一線を画する美味。

「この匂い、味に栄養価……。
 君、ひょっとして稀血?」

問われた言葉に、マシュも困惑する他ない。
稀血。それは鬼にとっての馳走。
50人100人の人を喰らうに相当する、希少なる血。
全てに合致するわけではないだろう。しかし彼女はデザイナーベビー。英霊の憑依体。デミサーヴァント。体質にまで及んだ霊的加護。
高い質に近似する条件は、十分当てはまっている。

「気が変わった。君は、あの方に捧げよう」

打って変わって、上機嫌に累はそう言った。

108通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか? ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:29:27 ID:pxNsbO.20


「今は生かしておいてあげるよ。どの道鬼になるにはあのお方の許しを貰わなければならないんだ。
 聞きたいことも出来たし、兄さんが移動の手段を見つけてくるまでの時間つぶしには丁度いい。
 この硬さの糸を形成し続けるのは疲れるけど、君の血があれば問題なく体力も回復できる」

だがそれはマシュの解放を意味しない。むしろさらなる責め苦の続行に他ならない。
糸の切断に耐えきれるといっても、あくまで現時点での話だ。
このまま絶え間なく責め続けられ、マシュの体力が落ちていけば、それだけ生死の天秤は傾いていく。
結果は変わらないのだ。何もしない限りは。

拘束を抜け出せないでいるのは、オルテナウスの出力を基底状態にまで落としてるからだ。
薬で眠らせられている間に雁字搦めにされて以降は一度も出力を上昇させてはいない。
霊基を覚醒させ戦闘状態に移行すれば、突破の可能性は残されている。
だがマシュはそれを選べない、今するわけにはいかない。
主武装の盾を奪われているが、単独でなら脱出する程度の余力はあるはずだ。
あの包帯の少年を置き去りにしていくことになるのを除けば。

今もってマシュは少年の事情を知らない。
累とはここで初めて会ったばかりで、人間であることは確かだ。
だから彼を、累に強要されて家族を演じているものと考えるのは自然だった。
我が身可愛さに、放置して見捨てることは出来ない。
逃げるだけならまだしも、累になんらかの制裁を負わせられてしまう危険すらありえるのだ。
外に出ている少年はマシュにとって、障害のみならず人質としての機能も持っていた。意図しているかはさておき。

「だから、ちゃんと考えておいてね。
 喰われて死ぬか、鬼になるか。どちらを選ぶかなんて考えるまでもないけどね」

語りかけてくる言葉も今は遠い。
必死になってマシュは考える。この鬼を無力化し、少年を救い出し、この場を脱出する方策を。
ここにマスターはいない。他の英霊も、後方からサポートしてくれるカルデアの面々との通信も届かない。

そうだ、ひとりだ。
ひとりなんだ。
ひとりぼっちだ。
私はいま、ひとりだけなんだ。

その事実に、今更になって気づいた。
どうしようもなく気づいた寂しさが心を震わせた。

「―――――――――――――せん、ぱい」

寂しさを食い縛って、名を零す。
折れるな。挫けるな。心の盾を強く掲げる、立ち上がれと強く叱咤する。
守られてばかりの時間はとっくに過ぎている。
何も出来ないと嘆く暇などありはしない。
この窮地を乗り越えなければいけない。たとえマシュひとりでも。
マシュただひとりの戦いが、人知れず、始まろうとしていた。

109通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか? ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:30:02 ID:pxNsbO.20




   ◆   ◆


「どうなるかな、あの子」

マシュ・キリエライトと名乗った少女の行く末を神居クロオは想像してみる。
このまま物言わぬ骸と果て人外の餌と運ばれるか。それともクロオと同じように鬼として生きる道を選ぶのか。
ないだろうなと、己の中で結論づける。
自分のような外れた側より、愛月しのや、恋陽みむらのように、陽の側に属する側だ。
だからといって、どうするでもないが。

クロオは今、地図上に名付けられた施設のひとつにある教会にいた。
正確に言えば、その跡地だ。荘厳たる神の家は既に世界の滅びの日の如く崩れ落ちた。

元は累が『あのお方の気配がする』と言って赴いた場所だ。
生憎肝心の主とやらとお目通り叶わなかったが、地下室という鬼に都合のいい潜伏場所を見つけられたのだから結果オーライいうやつだろう。
崩落する危険も鬼にはたいした問題にならない。クロオにとっては一大事だが。

彼女と一緒にいた学生服の男(高校生にしても大人びてたように見えたが)は追ってきてるだろうか。
移動は累の糸で固定したマシュとクロオごと引っ張っていくという荒っぽい手段だ。
その分速度はクロオの全力疾走の比でないから、簡単に辿り着けはしないだろう。

首尾良く拠点を得て落ち着いたところで、クロオは地上を出て辺りを探索している。
累になくクロオにのみある強みは、言うまでもなく日の下を自由に歩きまわれる点だ。このアドバンテージを活かさない手はない。
あと半日もここで日が暮れるのを待っているのも余りに非効率だ。
鬼の累にとっては時間の感覚など気にしないのかもしれないが、人であるクロオはそのロスを深刻に捉えていた。

なので、何かしら太陽に身を晒さないまま移動できる手段がないか模索しているところだ。
自動車を操縦した経験なんて当然クロオには無い。せいぜいリヤカーがいいとこだろう。
そう、例えば。あの男が使ったファウストの移動装置なんかが丁度いい。
もしマシュを奪いにこちらに来ているとしたらなお好都合だ。迎え撃つにもおあつらえむきだ。

これは累の指示ではない。クロオが自ら申し出た案だ。
兄として弟を気遣うのは当たり前と言ったのに、勘繰るような目で睨まれてしまった。

「荷物ごと丸ごと渡すなんて、逃げれるものなら逃げてみろってことかな?
 そんなつもりなんて、はじめからないのにね」

足元に置かれてある、累に投げ渡されたデイバッグを見やる。
食料以外必要ないから好きに使え、ということだ。
どうやら中身を禄に見てないらしく、それで都合に合う支給品があったらとんだ笑い話だ。

「ま、笑ったら刻まれそうだけど。
 兄弟なら、くだらない失敗談に花を咲かせて笑い合うものだろうにね」

誰に記聞かせるでもない、空虚な所感だ。
ひとまず瓦礫に腰かけて、もうじき訪れる放送を待つ。
その中で流される時間内に出た死者の情報。
内容によっては、クロオの今後を決めるかもしれないなと、静かに待ち続けていた。

110通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか? ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:31:32 ID:pxNsbO.20


【E-3 教会跡・地下室/1日目・早朝】

【累@鬼滅の刃】
[状態]:殴られた頬が妙に痛い
[装備]:なし
[道具]:食料(人肉)
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉と無惨様を探す
2:家族にならなそうな人間は殺害
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい

【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、縛られている
[道具]:基本支給品一式、霊基外骨格@Fate/Grand Order、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:ここから脱出したい。けどあの少年を放ってもおけない
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。
※霊基外骨格は霊衣として取り込んだため、以降自分の意志で着脱可能です。
※鬼滅世界における稀血、それに相当する栄養価のようです。

【E-3 教会跡/1日目・早朝】
【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 、基本支給品一式(食料除く)、ランダム支給品0〜2(累のもの、未確認)
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:放送を待つ
2:父と母と姉とあの方を探す
3:ミクニに会いたい
4:昼でも累が移動できる手段を探す
[備考]
※参戦時期は死亡後

111 ◆0zvBiGoI0k:2019/08/25(日) 22:49:20 ID:pxNsbO.20
投下終了です
かこつけて本スレ内の感想もまとめてみました

>探し人はおらず
兄弟の元へ走る猛丸。いかん、その先にいるのは言葉が足りない人に嫌われる柱だっ
山田と猛丸のかけあいが終始ふわっとしてて和みたくなるがここはバトルロワイアル。どうにも騒動が避けられそうにない引きでした。

>ファイナル本能寺・エピソード2
まずは序盤に9人も揃えちゃったバカヤロウを繋げてくれた事に感謝の念も尽きません。
沖田、真司をはじめとしてキャラがみんな生き生きしていて楽しい。五つ子がどうにか元のノリに戻ってくれただけでも涙がでそう。
まさか話の(争いの)中心になる猛田。どうした猛田。けどコイツを連れてくのってそういうコトなのよね。
この男の行く末がどうなるのか誰にも予想がつきません。書いててもわかりません。

>R
これDIE SET DAWN流れるやつだ!(二回目)
禰豆子の存在を仁さんがどう扱うか。アマゾンじゃないならラインの外か。人食いなら迷わず狩るのか。

>あけないたたかい
元会長のマッチアップをお膳立てする猗窩座を見てるとまるで弟子を指導する師のようだって思った瞬間顔を覆いました(orz)
ナマコ神拳でキンクリボコになった善吉ちゃん。好きな子に釣り合う男になる。現会長と次期会長。おおなんて因縁か。
武蔵、鬼ならば斬らねばならぬ。逆張り根性全開。亜人特性も遺憾なく発揮した圭君も合わせてどこまで食い下がれるのか。
そして観戦席でウキウキでやいのやいのしてる波裸羅っ!お前は何処に往く―――――っ!?

112名無しさん:2019/08/26(月) 18:17:15 ID:Nr6FiN660
投下乙です
マシュはNTRシチュが不思議とよく似合ってる

113名無しさん:2019/08/26(月) 18:28:50 ID:1PA1bwRs0
乙です
姉になりたがるイルカ女に比べれば累君はまとも

114名無しさん:2019/08/31(土) 00:46:50 ID:Bb8IT2FY0
そろそろ放送?

115 ◆2lsK9hNTNE:2019/09/01(日) 23:45:07 ID:bmhvn9y60
投下乙!!!!!!!!


>R
 ロワお馴染みですがここではなかなかされなかった考察がついに悠によってなされましたね。
 悠と禰豆子の関係は最初の緊張感ある状態から大分柔らかくなりましたが、そこに仁さん登場。これでアマゾン勢はクラゲアマゾン以外の全員が同作キャラと遭遇しましたね。
 これまでのそれは悲劇の前触れでしたが今回はどうなるのか。
 人を食う種族ではあるもののアマゾンではない禰豆子に仁さんがどう対応するのかも気になりますね

>あけないたたかい
 人吉と会長、好きな子に認められるために強くなろうとする者の戦いが熱い!
 本当なら思春期を拗らせた男子同士として笑い合うこともできたかもしれないのに、会長が鬼になってしまったいま戦うしかないのが悲しい。
 いくら鬼になったとはいえ流石にバトル漫画の住人の人吉が勝つだろうと思ったら以外にも勝ったのは会長。なぜ勝てたのか不思議でしたが「嫌悪感を刺激されそうな棘皮動物じみた動き」という言葉で納得。
 ソーラン節やラップのあれに鬼の力が加わったらそりゃ強いですよ。
 敗北した人吉の元に現れる安心院さんもそのセリフの内容も凄くらしい。人吉の描写も生き生きしてるしめだかボックスへの愛を感じます。
 圭が殺されたあと理由を問いかける人吉と、即座に敵に集中する武蔵の描写も、地味に二人の世界観の違いを感じられていいですね。
 猗窩座がわりと会長の面倒見てるのも好きです。この二人のコンビはずっと気になってましたが期待していた通りのものが出してくれました。
 猗窩座は武蔵の戦いに集中していましたが、せっかくだから自分が戦闘を命じた男が横でどんな戦い方をしたのかも見てほしかった。
 圭から刀を受け取った武蔵ですがそれがどんな刀かは不明。圭を興味を持っている波裸羅もいますしこちらの戦いも先が気になりますね

>通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか?
 やっぱりこの累くんたちの話いいなぁ。
 マシュの言葉は原作で炭治郎が言った言葉に近いですが、あの段階では嫌悪が強かった炭治郎と違って優しさが籠もってますね。それでもこのときの累くんには響かないよなあ。
 一度は殺されそうになったが稀血だったおかげで助かったマシュ。なるほどクロオくんも無理やり家族をやらされてると考えるのは確かに自然です。
 マシュを家族にする選択肢も完全に捨てられたわけではないようですし、マシュも累くんには同情的。彼らの関係性を今後どうなっていくのか楽しみです。
 日中の移動手段を探すクロオくんですがどうにか見つけてほしいところですね。メタ的に考えて

116jasdac15:2019/09/04(水) 01:32:12 ID:0W5HPoMs0
猗窩座、宮本武蔵、波裸羅、人吉善吉、白銀御行、永井圭 予約します。

117 ◆Mti19lYchg:2019/09/04(水) 01:33:15 ID:0W5HPoMs0
コテハンの使い方を忘れていました。
改めて上記の予約をします。

118名無しさん:2019/09/04(水) 01:36:58 ID:QIyzO2Aw0
一回トリバレしたなら、念のため別のトリキー使った方がいいですよー

119 ◆KbC2zbEtic:2019/09/04(水) 22:26:28 ID:OgBQAAZ20
鬼舞辻無惨、雅 予約します

120 ◆Mti19lYchg:2019/09/08(日) 00:31:48 ID:Ru7iP.M20
予約に煉獄杏寿郎を追加願います。
書きたい人があればお譲りします。

121名無しさん:2019/09/08(日) 23:42:22 ID:M/smcC9w0
そろそろ投下が来そうなので、その前に感想を。ひとまず前スレ分だけでも!
――と思ってスレに来たら、>>31でなんか『帰宅後』とか言っており、自分にびっくり
『感想は後日』とか、『またの機会に』とか、その手のことを言ったつもりでした。失敬失敬


 ◇ ◇ ◇


>ARMOUR ZONE
浅倉との接触、なんだかシンボルエンカウント系のゲームのエネミーみたいでおもしろいですね
そんな浅倉によるおもしろい女認定、こんな極力遠慮こーむりたい夢小説あるかよって感じで最高
実は清姫さんを喰ってたことでベノスネーカーが変質してましたとか、いやほんとなんて迷惑な存在なんだろう……
と思っていたところに、戦闘の音に引き寄せられてマーダーもう一人登場。浅倉、なんて迷惑。彼にとっては願ってもない事態だが! 迷惑!

>食物語・とがめアマゾン
おお、こう穏便(???)な形に落ち着くのは想像してなかったので、なるほどとなってしまった
いや囚われのヒロインみたいになったとがめ、起きてからどうなんのかなあと思っていただけにおもしろい
まさか化物になってしまうとは、これは詰んでる、とテンポよく答えに至るところが素敵でよかったです。軽快に導き出される結論としてはヘビーすぎる

>ロストルームなのか?
スパロボみたいなことになってる!!
【壱】の世界。そのような未来を視てしまった刀鍛冶が、未来を受け入れて多数の刀を打ったことを褒めたいですね……
無茶苦茶だらけのなか、いろんな学校でラブデスター実験を行ってる【肆】が、かなり真っ当なクロスオーバーで逆に浮いてる気さえしてくるのがおもしろい
しかしまったく無茶苦茶なシミュレーションとはいえ、単に参加者の能力や外見だけでも十分重要な情報ではある
あるんですけど、こんだけ無茶苦茶でしかも見たのが同じく無茶苦茶の波裸羅となると、もう三周くらい回って大丈夫だろって感じですね

>始まりと終わりどっちが強いのか実験だよ実験
来ちゃった
予約とタイトルでなにが起こるのか全部わかるSSなんですが、読んで改めて思う。来ちゃった
それにしても登場話で権三と遭遇して以降ずっと不機嫌なのに、それが持ち味出してるなあみたいになるのですごい人だ。いや、人ではない
なぜその方向に向かうのか、駆けるのかの理由が、不愉快ゆえですからね。持ち味

>ORDER CHANGE
なにがいいって、最後の『煉獄(プルガトリオ)』と『彼岸(ニルヴァーナ)』って表記がもうメチャクチャかっこいい!
サポートに回るとメチャクチャに輝く善吉を見せつつ、でもお前が人間である以上はもう足手纏いだぜ、と指摘されて打つ手がなくなるシビアな展開にグッとくる
そんな事実をいちいち教えてくれる雅様おもしろいんだけど、これが雅様だよなあの感があってとても楽しい

>紅蓮の華よ咲き誇れ
前話からの即リレー。それにまず痺れたら、読んでもっと痺れた
炎の呼吸メドレーかこれはとばかりに大盤振る舞いの煉獄さんも、それをことごとく受けて強さを称える雅様も、とんでもない大物の風格
いや、実際大物ではあるのだが
実際、柱は鬼殺隊の頂点であり、雅様は意図せずではなく自ら力を求めて至った吸血鬼なのだが
その大物っぷりをフルに出してこられると、それはもうやはり痺れますよ
雅様のほうだけではなく、煉獄さんも相手の評価するべき点を評価して、自分が劣っている点を堂々と言えるのってかっこいいですよね
描写を盛った戦闘パートも読みやすくて、これを即リレーで書くのかあすげえなあ、と何度でも思える。よく読み返してます

>UNSTOPPABLE
手綱を握っているようで、綱渡りをしている上田先生
酔った状態で馬に乗っているよりも下手すると危うい現状に、まだまだ気づいていないようで
ダイスの目次第ではどうなるかわからない酒呑童子さんを背に、BBちゃんにベストを尽くさないのかしているの、見ようによっては蛮勇なのですが……

122名無しさん:2019/09/08(日) 23:47:27 ID:M/smcC9w0
>それは遠雷のように
最初のパートの時点で読者は察することができてしまう『対面』が、しのぶさんには青天の霹靂であるのがむごいというか
こちらはなにせ善逸の脱落を知っているので、読み進めるごとに確信を深めていくのに対し、しのぶさんにはあまりにも予期せぬ展開が待っていて
そんな衝撃の事実と対面してなお、もはや手遅れであることも、死因が爆発であることも、慣れぬ得物で戦ったことも見抜けてしまう――それがまた悲しい
彼女はそういう風に生きてきた存在なので、見知った少年の死体を前に頭が真っ白にはならず、彼が頑張ったということを分析してしまうのだ

>母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ
未だハイロー未把握という申し訳ない状況なんですが、この村山さんはずーっとおもしろいですね
ノリは軽いんだけど、いろいろ内心で見極めようとしていて、そのなかで「銃社会って言うしな」など挟みつつ、いざ哀れな兄と出くわせば迷わず鬼退治宣言するのが痺れる
――まあ、その『兄』と『弟』の正体を読者はすでに知っているんですが
累くんとクロオくんの、いわゆる理想とされる家族を求めるコンビにマシュを入れるの、うわー言われてみればって感じ
転送機と睡眠薬っていう、たぶんみんなが「誰か出すんかなー」と思ってただろう支給品が出てきたのも印象的

>シグルイ・オルタナティブ
自作。おもしろいはずです。オススメです

>皇城ジウは知らない
もはや書かれれば書かれるだけ哀れなジウくん。間違いなく原作通りであり、なんてことだなんてことだ
四次元リュックサックの使い方とか、救急箱や工具は新品同然とか、その辺の描写が楽しい
下手に罠を仕掛ければしのが引っかかってしまうかもしれないという、さすがジウくんは頭がいいなあという懸念があまりにも悲しい

>Determination Symphony
いい話。いい話ですよ。いい話だ
このヤロー! 禰豆子が前園さんと無惨様タッグになんか負けッかよーッ! 頑張れ頑張れ負けるな禰豆子!! と、書かれている通りの気持ちで読んじゃってましたからね
この気持ちで読まされたら、そりゃもう。そりゃあもう。そりゃーーーもう。うむと頷く他になしって感じ
禰豆子VSアマゾンオメガパートのやっぱりオメガ超つえーよ感とか、思い切り蹴っておいてごめんって謝ってる雅貴さんとか、善逸とか、王刀とか、触れたいところはたくさんあるんですよ
でも一番好きなのは、最後のカップヌードルで手を打つくだり。あんな出会いとあんな戦いのあとにこんなやり取りする男たち、好きになるに決まっている
それにしても、いつの間にかタッグを組んでいただなんて、前園さんと無惨様は知る由もないでしょうね

>禁断の華を手折るのならば
意志持ち支給品が使い手を探すお話。違う。いや、あんまり違わない
とがめを取り戻したい → とがめの奇策がなければ勝てない → とがめがいない ――うむ。考えるのは剣の役目ではないということだな!
姉ちゃんの考えてることはおれにはようわからんと言っているけれど、こちらとしても読者だからわかるのであって、そうではなく当事者であれば彼女の考えは到底わかる気がしません

>WORLD IS MINE
無惨様対策をしていたら童磨さんに出くわし、さらに遅れてめだかちゃんという、なんだこのエンカウントっぷりは
まるで権三が巻き込まれるタイプの主人公みたいに見えてくるなあとか思ってたら、無惨様の登場でさらに主人公っぽさが加速して笑っちゃいましたね
めだかちゃんに無惨様の紛い物呼ばわりが突き刺さっている一方で、紛い物の分際でと無惨様が激昂しているのが愉快。どこからでもキレられる御方ですよ
うっかり出くわしたら腹いせ食らってそうなのを回避して、しれーっと日光対策を済ませてる童磨さんもまさしく童磨さんって感じだなあ

>打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
PENTAGONくらいの規模のマンションって、普通に考えたら遠くからでも見えるよな――と
そんなことを薄々考えていたら、よりにもよってな人が見つけてしまうというね
亜人への制限とか、ライダーの強化っぷりとか、大きなクエスト前に把握してようとしてるのはさすがのゲーマーって感じでなんとも楽しい

123名無しさん:2019/09/08(日) 23:49:11 ID:M/smcC9w0
>FILE02「海面観測!巨大な人影」
このチームにはこのチームだけの独特の雰囲気があるよね
いわゆる鬼退治の物語に出てくる鬼を話す工藤さんに、人の内に巣食う鬼の話で水を差す前園さんと来て、姐切さんが極めて真っ当につっこんでるのが可哀想
お前みたいなヤツを鬼っていうんだよ、って完全に正論ですからね
単独参戦してぬるっと他作品とクロスしに行く工藤さん、本当に恐ろしいというかカンベンしていただきたいというか……
読者と同じカンベンしてほしいヅラでいらんものを観測しかけている前園さんこそ、本当にカンベンしていただきたいというか……

>君の知らないものばかり
ついに気づいてしまう、気づきかけてしまう上田先生
「(あまり目立ちすぎると私の独壇場になって良くないかもしれないな)」の辺りが最高だっただけに残念だけれど、どう考えても気づいたほうがいいので仕方がない。彼自身にとってハッピーであるかはともかく
この殺し合いがフィクションであるという、その認識にキレちゃうメルトリリスもいいっすねぇ
彼女の目の前で散った白銀会長は、このような殺し合いさえなければ、あるいは第二の上田次郎にだってなりえた存在だというのに! 初代にして元祖・上田次郎がこれでは、そりゃキレますよ
しかし三人中二人が同作品キャラだし、なんなら片方は知り合いだと思っているのに、どうにも全員別作品出典キャラみたいな気配が漂っているのが不思議と楽しい

>それを知らず
おもしろい!
先ほどの乱戦で無双した千翼が、跳んだがゆえにあっさりと敗北するのはおもしろい! 地に足をつけるのは大事ということ
そこからの千翼困惑展開もスゲーおもしろいし、道具として使うなんて言えないのもいいですねえ。七花的には別になんでもいーよなのも含めて
ついに支給されちゃたタブレット@ナノハザードが、前の話で伏線あったみたいな雰囲気出してるのもズルい。伏線じゃねーよ!

>姉は祈り、弟は乗る
まず、タイトルの『乗る』で、えっそんな急展開あるの……? とありえぬ存在をさせられて悔しい。まったく意図してないのに、勝手に悔しがっているだけなのかもしれない
善逸の死をたしかに悼みながらも、下手人の分析をしてしまうしのぶさんの自己嫌悪が辛いですね
「置いていくのか」「わかんのか」とあまりに短い言葉でのッやり取りで、なにかを察する広斗くんがメチャクチャかっこいい。この兄弟、もしや人気者だな……!(←未把握)
鬼と聞いて、彼女が本気で言っているのならばいるのだろうと判断するのも素敵だ。そのころお兄ちゃんがとっくに出逢ってるのも、なんだかいいですね
暴走する禰豆子への対応はしのぶさんならば取らないであろうものだったし、登場話で出逢い損ねた兄弟がそのおかげでおもしろくなってるなあ

>マジでXXする五秒前
導入の各作品の不死者解説、こういうのどうしてもワクワクしちゃうよね
彼は来ないかもなあとか勝手に考えられている圭が可哀想というかなんというか、放っておいてくれというか、存在が迷惑というか
圭くんもほんと佐藤みたいなのとうっかり縁があって可哀想だなあと思っていたら、別作品のとても可哀想な少年が見つかってしまった
放送後激動が約束されてる彼、よ、よりにもよって……


 ◇ ◇ ◇


新スレ分は後日。帰宅後ではなく、後日

124 ◆KbC2zbEtic:2019/09/11(水) 22:20:08 ID:wpfq6j5c0
投下します

125THE KING OF MONSTERS ◆KbC2zbEtic:2019/09/11(水) 22:21:35 ID:wpfq6j5c0

黒一色の憎悪と憤怒。
それが黒神めだかと邂逅してからの鬼舞辻無惨の胸中を塗りつぶしていた。


―――私は完璧な存在だ。私は決して間違えない。
何人殺そうとも誰も私を裁くことなどできない、神や仏すら。千年間、ずっとそうだった。


だというのに、先程出会ったあれは何だ。
鬼の癖に我が支配下におらず、より完成した雰囲気すら出すあのまがい物は。
BBという女はあの紛い物の方がより完全な存在だとでも言いたいのか?


この世から抹消しなければならない。
全ての人間は無惨の食料であり敵。それだけの器に収まっていればいいのだ。
頂点は常に一人。この無惨より『完成』された存在など万死に値する。


(奴が何であれ、私は負けない。断じて負けるものか。負けるはずがない、決して)

そう、考えて。
そこで強引に思考を打ち切る。
なんだそれは、今自分は何故負けないなどと考えた。
負ける負けないなど同じ地平に立っている者が考える事だ。
この鬼舞辻無惨は限りなく完璧に近い生物であり、人間などとうに超越している。
どうも、あの紛い物の気配を感じてから、調子がくるっている。

本来であれば今すぐにでも引き返して殺しに行きたいが、昇りつつある太陽がそれを許さない。
何度目になるかわからぬ舌打ちが山の木々に響く。
本来であれば獣の様に木々の陰に隠れて息を潜めるのではなく、どこかの建物で夜を待つつもりだった。
しかし現状はあの紛い物のお陰で山中にて立ち往生。
鳴女の気配は感じられずなぜか無限城へ行く事もできない。
何もかもがままならず、苛立ちだけが募っていく。
無惨がその場所を発見したのはそんな時だった。


(あれは……谷か)


山のふもとに位置し岩棚に囲まれ、丁度陽光がどの位置に来ても刺しそうにない場所だ。
身を隠す場所としては木漏れ日に注意しなければならない現在地よりはマシといった所か。
東から昇ってくる陽光に注意を払いながら谷の底へと降り立つ。
降り立った場所の近くには崖崩れを起こしたように崩れた場所があり、そこから陽光が差し込んでいる。
無惨はその場所へは近づかないことを決めた。


「あの崩落は、戦闘が行われた後か」


崩れた場所を遠目に検分してみれば、この崩落が人為的かつ新しいものだと推察できた。
規模的に破壊を起こしたのが人間ならば間違いなく柱に匹敵する者だろう。
業腹な事にこの殺し合いには無惨の宿敵である鬼狩りの精鋭足る柱たちがうろついている。
果たしてこの惨状を作ったのが彼の者らの仕業かははっきりしないが、柱であろうとなかろうと死体はおろか血の匂いすらしない事実から下手人が生存しているのは明白。
柱共の存在も、柱を未だに討てない無能な部下も、全くもって腹立たしい限りだと、何度目になるかわからぬ苛立ちが募ろうとした時、ある気配に気づく。

感じたのは鬼の気配そのもの。先程出会った男や紛い物とは違う正真正銘の鬼だ。
だが、無惨の知っている上弦の気配のどれとも違う。
これほどの強さの鬼ならば、自分が掌握していないはずがない。
気配の元を探る。陽が出ようとしている最中、これほどの近距離で正体不明の鬼を捨て置くほど彼は愚鈍ではなかった。

気配のもとは、崩落した瓦礫から感じられた。
無惨が気配に意識を集中するのとほぼ同時でがらりと石礫が転がり落ち、腕が生える。
その直後、がらがらと卵の孵化がごとく周囲の石が転げ落ち、一人の男が現れる。

126THE KING OF MONSTERS ◆KbC2zbEtic:2019/09/11(水) 22:22:45 ID:wpfq6j5c0


雪の様に白い髪と肌。髪と同じく白い肌の屈強な全裸の肉体、緋色の瞳。
黒を基調とした無惨の恰好とは真逆の印象を抱かせる風貌の男だった。


「―――いい朝だ…実にいい朝だ。ここまで爽やかな目覚めは四百年の内でもそうはない」


軽い調子で今しがた生き埋めになっていたはずの男は言う。
邪悪なまでの存在感。無惨はその姿を見て思わず声を漏らす。
「お前は“何“だ」という誰何の声を。
白髪の男はその問いに微笑みを浮かべ答える。

「ハ、煉獄の言っていた通り…そうか、貴方が『鬼』か。
――――であれば私は、この雅は、君と近似種という事になるな。古き同胞よ」

鬼舞辻無惨と雅。
真祖の鬼と真祖の吸血鬼。
人類の進化の系統樹より生まれ出でて、その先へと至った新たなる血族。
双方人間を超越し、悠久の時を生きながら人類を揺るがす病(シック)と悪性を抱いた疫病変異種。

「ふむ、瓦礫の下に居た時から薄々感じてはいたが…近しいとはいえ似て非なる存在のようだな。
だが、例え同種でなくとも、貴方が凡百の吸血鬼とは違う高位な存在であることは確信できる」

雅と名乗った男は瓦礫の上から羽の様に降り立ち、無惨の立つ場所まで歩み寄ってくる。
その瞳は好奇心に満ち、雅もまた無惨が似ている存在であるという事に感づいているらしい。

「そこでだ。これは提案なのだが…可能なら貴方の血を私に分けていただけないだろうか。
貴方の血を取り込めば、私はきっと新たな境地に立つことができるだろう」

鬼にとっても、吸血鬼にとっても同種の血を入れる事は非常にリスキーな行為だ。
適合しなければ、否、与えられた“血に打ち克つ”事ができなければ驚異的な生命力からくる再生も意味をなさず死を迎える。
しかし雅はそんな事に頓着しない。70年前、日本軍の実験に志願した時もそうだった。
例え身が裂け果てるとしても雅にとっては『それはそれで面白い』事態でしかない。
リスクが大きい程、彼にとっては良い暇つぶしになるのだ。

微笑みを浮かべて提案してくる雅に対して、無惨は張り付けたような無表情で、無言のまま雅を見据える。
奇妙な感覚だった。この雅という男の声を聞いていたら、いきり立っていた筈の気分が安らいだ。気味の悪いほどに。
故にここまで無惨にしては本当に珍しい事に大人しく雅の話に耳を傾けていた。
だが、もういいだろう。

「千年に渡って生きてきたが」

返答は簡潔だった。


「―――これほど不快な気分にさせられたのは久方ぶりだ」

127THE KING OF MONSTERS ◆KbC2zbEtic:2019/09/11(水) 22:23:41 ID:wpfq6j5c0


まるで花を摘むように。


「ッ!?ハ、ハガアアアアアアア!!」


無惨は、雅の頸をねじり斬っていた。
かつて、下弦の鬼の大部分をを粛清した時と同じく。
鬼にとって無惨の存在は絶対だ。例え日輪刀で頸を落とされずとも、無惨が殺す気で頸を薙いだなら鬼は死に至る。
だが、雅はその様子もなく頸だけで彼を睨みつけていた。

「きッ、貴様いきなり何をする…!」
「何故私がお前の様なたかだが400年しか生きていない下等な鬼に指図されなければならない。身の程を弁えろ塵が。
私とお前が似た種だと?笑わせるな。私は完全な存在だ。私は決して間違えない
―――ここで無様にも頸だけになっている貴様の何処に完全さがある?」

そう言って無惨は下に這いつくばる雅の体を踏みつける。
厳密には鬼ではない雅はただ頸を斬っただけでは死なないのだろう。
だが、鬼と同じく日光は別のはずだと結論付けていた。
あの大男や紛い物と比べても雅は鬼により近い、ならば、日光ならば殺せるはずである。

このまま陽が落ちるまで得体の知れない鬼と共にいるなど無惨は御免だった。
ましてその鬼の指図で自分の血を分け与えるなど論外。
それに加えて、彼の虫の居所は最悪だったため、この結末に至るは当然の帰結と言えるだろう。


「夜明けと共に塵になれ」

最後にそう吐き捨て、崖が一部崩れ陽が刺す場所へと、踏みつけた体と首を蹴り上げる。

「ガアアアアアア!ガアアアアアアア!!!」

グシャリ。
雅の断末魔の響きとその一秒後に訪れた何かが潰れる音を聞きながら、無惨は辟易したように瞼を閉じた。
最後まで聞くに堪えない雑音ばかり奏でる男だった、首をはねた所で憂さ晴らしにもなりはしない。
そう考えて、ある違和感を抱く。あるはずのものが無かった違和感に。
そうだ、あの男の頸には、忌々しい首輪が―――、

128THE KING OF MONSTERS ◆KbC2zbEtic:2019/09/11(水) 22:25:45 ID:wpfq6j5c0


「…………ククッ、フ、フハハハハハハハ!成程成程、煉獄が言っていただけの事はある。
サイコジャックも効果がなく、この私の首をこうも簡単に落とすとは!!」

バカな、と無惨は閉じていた瞼を見開く。
あの男が滅びていないはずがない。無論自分の方が遥かに上位だが、あの男は鬼と限りなく同種のはずだ。
所詮どれだけ真似た所で半端に人の部分を残している木偶や紛い物と違う存在のはずだ。
太陽に背を向けるしかない存在であるはずだ。
何故、
何故立っている!!


「何故、か。そんなもの決まっているし、お前も知っているはずだ」

「首を落とす。全身を微塵に砕く。日光に当てる」


「その程度では――――吸血鬼(われわれ)は殺せんと」


その身に朝陽を浴びながら悠然と雅はその中にち、無惨を見下ろして言う。

「交渉は決裂した、ならば後は実力行使と行こう。
丁度、煉獄には使わなかった玩具が残っている」

瓦礫の下からデイパックを引きずり出し、ある物を取り出す。
黒塗りの鉄塊にすら見えるそれを視認した瞬間、頂点まで上がっていた無惨の血液の体温が俄かに下がる。
あれは不味い物だと本能が警鐘を鳴らす。
とある聖杯戦争で狂気に侵された湖の騎士が使用し、霊基に刻まれ、後にカルデアに召喚された際にも確認された筒状の兵装。
日本国航空自衛隊配備、M61機関砲。

「趣味の玩具ではないし、こんなものを脆い人間に使ってはつまらん結果にしかならんと思っていたが……使うに相応しい相手はいるものだ」

咄嗟に無惨は周囲を見渡すが、退路はない。
配下の鬼たちも同じく行動が制限され、間に合わない。
退路は日光によって塞がれている。事ここに至り悟る、この場が雅にとっての狩場であることを。
そして、鋼鉄の豪雨が訪れる。

DRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR
RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!


戦塵が巻き上がり、僅か五秒にも満たない刹那に奏でられる鋼の旋律。
しかしその大破壊の最中に居てなお、千年を生きたという鬼の気配は全く弱まっていない。
そうでなくては。そうであろうとも。
雅は銃撃を止めると数百キロは優に超えるガトリングガンを担ぎ上げて破壊の跡に降り立った。

「ハ、人間相手には過多な玩具だが、偶にはいいものだ、そうだろう?」

雅の視線の先には、半身が丸ごと消し飛ばされた無惨がいた。
既に再生が始まり肉体は再構築されつつあるが、彼にとっては余りにも遅く感じられる。
屈辱だった。まさかこんな下賤な鬼に手傷を追わせられるとは。
だが、今はそれすら気にしている余裕がない程不味い事態だ。
何故なら、先程の雅の攻撃で削れた崖から自分のいる場所のすぐ傍まで陽光が刺している。
離れなければならない。

「どうした、そんな顔をして。まさかとは思うが、陽の光が怖いのか?」

黙れ、私は恐怖などしていない。
千年間増やしたくもない鬼を増やし、人を喰らってきたのは忌まわしい太陽を克服するためだ。
そしてその確かな手掛かりをこの殺し合いで掴んだ。
真に完全な存在へと至るまであと僅か。
だというのに貴様ら如きが道を塞ぐな、この鬼舞辻無惨に道を開けろ!

「もし姫の様に陽光が苦手ならこれをやろう。鏡の前にかざせば鎧が手に入るそうだぞ?
それで全身を覆えば日除けにはなるだろうな」

雅はデイパックから彼に支給されたカードケースを取り出すと、無惨の前に放り投げた。
だが当然猛り狂う鬼がそれを良しとするはずがない。
何せ彼は、未だに自分に与えられた支給品も不服として開けていないのだから。
ましてここまで徴発を受けた相手からの贈呈品などもってのほかだ。

カードケースを破壊するべく拳を振り上げる。
破壊したその後は日陰まで入ってきた雅の穢れた脳漿をぶち撒ける。
無惨の手にかかれば刹那の時間で可能だっただろう――吸血鬼がその手の鉄塊を振り上げていなければ。

129THE KING OF MONSTERS ◆KbC2zbEtic:2019/09/11(水) 22:29:10 ID:wpfq6j5c0


「さっきお前が言った言葉をそのまま返そう」

目の前の吸血鬼が何をしようとしているか直感的に理解した鬼は、叩き潰すつもりで振り下ろしていた手がカードケースを掴む。
殆ど同時に、鈍い光沢を放つ首輪にカードケースが映され、既に再生が終了した腰にバックルが現れる。

「陽の下も歩けない人間以下の存在のどこが完璧なんだ?」

鬼の肉体を凄まじい衝撃と不愉快な浮遊感が襲ったのはその直後の事。
ダメージそのものは殆ど不死身の再生力を持つ彼には殆どない。だが衝撃そのもを消し去ることはなく。
獣の様な憤怒の叫びを上げて、打ち上げられた鬼は彼方の空へと消えていった。


「アハハハハ、よく飛んで行ったものだ」

昭和のホームラン王の様に鬼たちの首領を打ち上げた彼岸の王は上機嫌に嗤う。
いささか短慮にすぎた所はあったが、あの男の実力は本物であることは十分伺うことができた。
煉獄ほどの男が命を狙うのも頷けるというものである。非常に興味深い。
できるなら血の味見をしてみたがったが…それはまた今度の機会としよう。あの男が生きていればだが。
この島にはきっとまだ見ぬ強き者がいる。お楽しみは、これからだ。

「だがお前は何をしている…明よ」

気になるのは最も愛しくも愚かな遊び相手の所在。
きっと、この殺し合いでも自分を倒すという叶わぬ願いを抱いて駆けずり回っているのだろう。

「明、私は此処にいるぞ。お前にとって全ての仇は此処にいるぞ。早く遊ぼうじゃないか」

雅の中で宮本明は間違いなく最強の人間だ。
煉獄の様な技すら必要ない、ただ宮本明だというだけで強く、何より奇想天外な闘いの発想はいつも自分を楽しませてくれる。
例え鬼だろうと、もっと別の強者だろうと、あの男が自分と対峙せずに死ぬなどありえない。
早くまた殺し合い、今度こそ手に入れたいとそこまで考えて、グウと腹が鳴った。

「そろそろ朝食の時間か。身体の首輪は一先ず後回しにして、腹ごしらえと…服の調達を済ませたいな」

今、彼に嵌められていた首輪は首にはなく、体内にある。
首輪に付着していた細胞から再生したので当然ではあるが、自らの頭部を捕食し腹部に生やすという離れ業すら可能な雅の肉体操作能力ですら切り離すことはできなかった。
そのため爆発したら死ぬという状況は変わってはいないはずである、肉体の中を自由に移動させて隠すことは可能になったが。
だがそれよりも目下重要なのは服だ。
煉獄の攻撃により襤褸切れより酷い状態にされてしまったお気に入りの服は体と違って再生できない。
故に今の彼は全裸である。代わりの服を誰かから奪う必要があった。

―――さぁ、次に出会うのは一体どんな者か。

ガトリング銃を担ぎ、鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌で不死の血族(ノーライフキング)は進軍を再会する。
次なる獲物を求めて。

【D-4・谷底/1日目・朝】

【雅@彼岸島 48日後……】
[状態]:健康、空腹(小)、全裸 、上機嫌
[装備]:JM61Aガトリングガン、残弾(90%)、予備弾(100%)
[道具]:基本支給品一式、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス
[思考・状況]
基本方針:好きにやる。
0:面白そうな駒を勧誘し、最終的にBBと遊ぶ(殺しあう)
1:煉獄に強い興味。部下にしたい。
2:明と出会えれば遊ぶ。
3:次に無惨と出会ったら血を取り込みたい。
[備考]
※参戦時期は精二を食べた後です。
※死体に血を捲いて復活させるのは制限により不可能ですが、雅はそのことに気がついていない可能性が高いです。
※肉体の内部に首輪を取り込みました。体外へは出せませんが体内で自由に移動させられます。

【JM61Aガトリングガン】
狂化した円卓の騎士、ランスロット卿がかつて第四次聖杯戦争において自身の宝具である『騎士は徒手にて死せず』により宝具化したF-15の装備のガトリングガン。
何故かカルデアの狂化ランスロットの霊基にも刻まれており、宝具使用時にはこのガトリングを乱射する、気に入ったのだろうか。
基本的には普通のガトリング銃と差異はないが、黒い魔力に浸食されていることで威力は大幅に向上している。

130THE KING OF MONSTERS ◆KbC2zbEtic:2019/09/11(水) 22:30:21 ID:wpfq6j5c0




怒髪冠を衝くとはこのことか。
最早怒りを通り越して笑えて来るというものだ。
日頃無能に過ぎる配下の鬼どものお陰で沸点は鍛えられていたがそんなものはとうに超越している。
吹き飛ばされて突っ込んだ民家のガラス戸から飛び出してきた蟹の化け物を優に五百メートルは蹴り飛ばしてなお尽きぬ怒りが無惨を支配していた。
陽の下にその身を投げ出され、非情に危ういところだった。
ここ百年で最も命の危機に晒された瞬間だったかもしれない。
咄嗟にこの全身鎧に変身し難を逃れたが…それもまた腹立たしい。
だが、なにより。

何だあれは。
何だあれらは。

何故ここには私が千年追い求めてやまない悲願を豚の様に貪る者たちが次から次へと沸いて出てくる。
目障りな鬼狩りどもの首魁である産屋敷にすら此処までの殺意を覚えたことはなかったかもしれない。
あぁ、許せるはずがない。許せるものか。その身を億の数引き裂いてもまだ生ぬるい。
否定などさせるものか。私の千年が無駄だったなどと。
必ず抹消してくれる。この無惨の千年の歴史から。

だが、それにはまず移動しなければならない。
本格的に動くことになるのはどの道夜、こんな薄汚い鎧は一時凌ぎであり命を預けるに値しない。
少なくとも、先程の様な下郎が現れる事のない場所へと。

丁度この近くに累の気配がある。下弦である奴が安穏と腰を据える場所を手に入れていることが腹立たしかったが、もし何か成果があれば献上せてやってもいいだろう。
何もなければ首輪を外す実験の対象に回すだけである。
とにかく今は雌伏の時。自分から雌伏などという言葉が出てくるのにも怒りで血管が追加で五本ほど切れそうだが、今はただ日没を待つ。

日が没したその時こそ―――あの紛い物と吸血鬼に引導を渡す時だ。

【E-3/山中/1日目・朝】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮 完成者への苛立ちと怒り、極限の不機嫌
[装備]:シザースのカードデッキ(変身中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
0.太陽を克服する。
1.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
2.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。ひとまずは累と接触したい。
3.黒神めだか、雅への絶対的な嫌悪感と不快感
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。

131 ◆KbC2zbEtic:2019/09/11(水) 22:31:02 ID:wpfq6j5c0
投下終了です

132名無しさん:2019/09/11(水) 23:15:14 ID:W7mCm/AU0
投下乙です
これだけ強大な力を持っているのにいつも怒ってばかりの無惨様は
人よりも人生楽しめて無さそう

133 ◆Mti19lYchg:2019/09/11(水) 23:56:42 ID:/EBEIy.Q0
投下します。

134あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/11(水) 23:57:15 ID:/EBEIy.Q0
1.

 鬼であり、修羅である猗窩座。
 人であり、虎である宮本武蔵。
 二人の戦いは終局を迎えようとしていた。

 今まで左構えだった猗窩座は、逆に左足を前に出し、左掌を突き出し、右拳を腰に沿えた。
 猗窩座の足元には、雪の結晶の様な図が浮かび上がっている。
 相手の闘気の方向、位置、強弱をレーダーのように読み取る、猗窩座の攻防一致の戦いを支える血鬼術。

 ――破壊殺・羅針

 対する武蔵。元からある刃こぼれだらけの刀は右手に構え、永井圭より渡された刀を左手に持つ。
 その刀は鍔が無く、熱したように赤い刀身をしている。鍔元から上には"悪鬼滅殺"の文字が刻まれている。

「まさかこの場で、杏寿郎の日輪刀を拝めるとはな。天命、と呼ぶにはいささか出来すぎだな!
 その刀の持ち主、煉獄杏寿郎は俺の全力を受け切れなかったが、武蔵、貴様はどうかな!?」

 武蔵は左の刀を垂直に立て、右の刀を真一文字にし、切っ先を組み合わせ、両刀で十字の形を作り構える。『円極の構え』である。
 全身のつま先から刀の切っ先まで闘気を満たし、猗窩座の放つ技を迎え撃たんとする。

 ――観えるか、武蔵。見切れるか、技の『起こり』。
 
 『起こり』とは、技を打つ前の予備動作、予兆のことを指す。
 本来なら、このようなわかりやすい突きの構えなど、肩の、肘の、足の動きで簡単に『起こり』を読める。
 だが、猗窩座の武は尋常ではない。武蔵がその孤剣で最重要視する『拍子』を読ませない一撃を放つやもしれない。

 ――相打ちではいかん。相打ちでは。

 相打ちなら狙えるし出来るだろう。だが成功したとしても、あくまで人の武蔵は死に、鬼の猗窩座は生き残る。それでは意味がない。

 ――狙うは『後の先』。打つは一点。己の剣を信じよ、武蔵!

 攻めの気を発する猗窩座。それを受け止める武蔵。
 互いの意識、時間の感覚は極限まで引き延ばされ、一瞬が一刻にも二刻にも思える。
 何時までこの状況は続くのか。互いに不明な中、猗窩座の『羅針』に微かな揺れが生じた。
 ほんの僅かだが武蔵の『闘気』が緩んだ。そう見た瞬間、猗窩座は、武蔵に向かい爆発するように『跳んだ』。

 抜重によって落ちる勢いを、後ろ足の踵で受け止め、前足の膝の力を抜くことで全身を急加速。
 深層筋である大腰筋、小腰筋を使って後ろ足を引き抜き、前足に腸骨筋の力を載せてさらに加速させ、不可視の域へ。
 勢いを殺さず武蔵の間合いに入り、地面を砕く踏み込みで、重量を数倍に増やす。
 増えた重量を余さず踵から腿、腰、背中、胸、肩、肘、手首に伝えつつ、流れる重量に合わせ筋力を連動させ、拳を大砲の如く弾き出す。
 
 ただの順突きが、鬼の膂力を持ちながらも、それに奢らず数百年の武功を積んだ猗窩座が放てば、それは必滅の刃と化す。

 ――破壊殺・滅式!

135あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:01:25 ID:pl.2dCx20
2.

 永井圭にとって、その攻防はほんの数秒の出来事でしかなかった。
 武蔵に向かい刀を投げ、武蔵はそれを受け取った。
 日本の刀を十字に組み合わせたその数秒後に、猗窩座が突進した。
 二人の衝突で、猛烈な爆音が鳴り、土煙が上がる。
 数秒後、圭が見えてきた光景は。

 突きを武蔵に放ったまま、静止している猗窩座。
 両刀を降ろしたまま、やはり静止している武蔵。
 ただ、武蔵は後ろに三間以上、地面を削り後ずさっている。
 その理由は――武蔵は、猗窩座の滅式に、腕が伸び切る寸前、両刀を叩き付け、撃ち落としたのだ。
 鬼の牙に、虎の牙を食い込ませ、止めていた。

「……素晴らしい」
 猗窩座が万感の意を込めて呟いた。
「素晴らしいぞ、武蔵! 俺の絶式を撃ち落とすという着想と胆力!
 威力が乗り切らず、尚且つ拳の軌道を変えられない瞬間、その刹那の拍子を捕らえる機眼!
 針の穴を通す正確無比な太刀筋! 正しく神技!」

「――恐悦!」
 武蔵は返答しながら、左の刀で猗窩座の腕を押さえ、右の刀を外し、猗窩座の首に向けて横に薙ぐ。

 武蔵もまた、猗窩座の武に感嘆していた。 
 あの突きは、鬼の膂力に頼ったものではない。力の入れ具合、抜き方、踏み込み。
 全身の動きが完全に突きの一点のみに連動したがゆえの絶技。
 人に仇名す鬼とはいえ、目の前の相手は拳術に全てを捧げ尽くした男だ。同じ兵法者としてある種の共感さえ覚える。

 故に敬意を払って、首を落とす!

 猗窩座は刃こぼれした日輪刀が頸部に斬り込まれた瞬間、歯を食いしばり、膨らんだ首の筋肉で刀を締め付け、さらに左手で掴み止めていた。

 ――首の切断を防ぐは、死を恐れるが故。

 武蔵は確信した。この鬼は、猗窩座は頭を射抜かれても首を断たれても死ななかった、あの不死身の鬼どもとは違う。
 猗窩座が日輪刀と呼んだこの刀で、首を断てば死ぬのだ。

「オオオオオオ!!」
 猗窩座が吼える。刀に銜え込まれた右手を外そうとし、左手と首の筋肉で頭を断たんとする日輪刀を押さえる。

「ぬおおおお!!」
 武蔵もまた、吼える。左の刀で猗窩座の腕を押さえつつ、首に食い込んだ右の刀で押し斬らんとする。
 ここを逃せば最早勝機は無い。
 徐々に、だが確実に日輪等が猗窩座の首を押し斬っている。

 猗窩座は右手から刀を外そうと試みる。
 だが、外れない。どんなに力を入れても、押しても引いても、まるで縫い止められ、一体化したかのように刀が動かない。

 武蔵は猗窩座の加える力に合わせ、武蔵が力で受け、あるいは力を抜いて流し、動きを制御している。
 それは中国拳法でいう『聴勁』。あるいは馬庭念流でいう『即位付』に似ていた。
 練った米で作った糊が粘りつくが如く、外観からは見えない動きで、武蔵の剣が猗窩座の右腕を止めている。
 左腕の柔、右腕の剛。虎の力に人の技。その完全な融合。
 常の猗窩座なら賞賛していただろうが、最早その余裕はない。
 同じく、見た目ほど武蔵に余裕はない。疲労、負傷ともに限界に近い。頚骨を切断できるか怪しい。
 二人とも焦る中、圭が二人が組み合う中に走ってきた。

 ――この状況なら猗窩座の首を落とすのに、刀を押すくらいなら出来る。

「オオォオァッ!!」
 迫る圭を見た猗窩座はなりふり構わず右手を暴れさせ絶叫し、遂に骨を削り刀から右腕を外すことに成功。頚骨まで迫らんとしていた刀の側面を打ち、へし折った。
 そこまで焦った理由は圭が理由ではない。圭が迫ってきた東の方向を見、空が白みがかっている事に気づいたからだ。
 もう日の出が近い、限界だ! 武蔵を殺す時間はない!

「白銀、退け!!」
 叫ぶと同時に、猗窩座は武蔵より全速力で離れた。
 武蔵は大きく息をつくと、膝をついた。追う気力も無い程に限界だった。
 それが二人の決着だった。

136あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:05:54 ID:pl.2dCx20
3.

 善吉と白銀の戦いは、先程とは逆に、善吉が一方的に攻めていた。
 攻めなければ逆に追い込まれる。宗善吉が判断したからだ。

 膝へ踏みつけるようなローキックで動きを止め、そのまま胴へ突き蹴り。
 白銀が呻いた瞬間、足を降ろさずに顎へのつま先蹴り。
 さらに放たれる回し蹴りを白銀は防御とも呼べない、腕で顔をただ覆って防ごうとする。
 それでも鬼の膂力なら止められるが、善吉は防がれた足の踵を伸ばし、つま先を白銀の頭に突き刺した。

 先程は戦いを知らないが故に圧倒していた白銀は、今度は知らないが故に不利に立たされていた。
 攻撃の仕方を知らないという事は、防御の方法も知らないという事。
 天性、何の格闘技も学ばず喧嘩の強い人物は存在するが、そのほぼ全ては攻撃の当て感に優れた者であって、防御は頑健さに頼ったものだ。
 防御にはどうしても攻撃に応じた経験と訓練が必須なのだ。
 白銀は簡単なフェイントにも引っかかり、上段、下段につま先からかかとまでを使った流れるような連続攻撃にまるで対応できなかった。
 
 白銀の頭へ後ろ回し蹴りが入る。
 白銀は、たまらず頭を両腕で覆い、閉じこもったように防御する。
 善吉は隙だらけの胴体に、空手で言う三日月蹴りを全力で放ち、白銀の肝臓をつま先で突き刺した。
 呻き、涎を流す白銀。だがその顔は笑みを浮かべていた。
 白銀は善吉の蹴りを受け続ける事で、ようやく鬼の利点に気づいた。どんな攻撃を受けても、痛みを感じても、一瞬で回復する。
 だから、この人間なら悶絶する肝臓蹴りも、鬼の身体にとっては何という事も無い。
 無論、怯えたように頭をかばったのはわざとだ。胴体を狙わせるためにだ。
 この突き刺した状態なら、足を引くまで僅かに時間がかかる。そして、回し蹴りよりはるかに掴みやすい。
 白銀は捕食者の笑みを浮かべ、善吉の踵を掴んだ。

 ――ようやく捕った。このまま足を――

 へし折る、ねじ切る。白銀がそれを実行しようとした瞬間。
「そう来ると思ってたぜ!」
 善吉の声が、頭上から聞こえた事で、白銀の意識は混乱をきたした。 
 白銀が上を見上げると、高々と宙を飛ぶ善吉の姿。

 これは雅との戦いで蹴り足を掴まれた経験を生かした策だ。
 善吉は白銀の腹に食い込んだつま先と、とられた踵を踏み台にし、一気に跳躍したのだ。
 しかし、この策は善吉にとって賭けだった。一歩間違えれば足をへし折られるだろうという恐怖があった。
 その恐怖を覚悟でねじ伏せ、善吉は賭けに勝った。白銀が人間の感覚を色濃く残し、鬼の身体にまだ慣れてなかったから成功したのだ。
 善吉は空中で、靴を前提としたサバットの蹴り技の中で、最も威力のある蹴りを放つ。
 
 ――下段踵蹴り!

 善吉の踏み付けが、白銀の脳天に直撃した。白銀の目が眩む。
 さらに善吉は空中で身を半回転させ、踵を白銀のこめかみに叩きこんだ。
 サバットの代名詞的技、ローリングソバットである。
 二度の脳を揺らす打撃で、白銀は目を廻し、地面を転がった。

「こいよ、チュートリアルバトルでゲームオーバーになるゲームなんて、珍しくないんだぜ。
 特にお前のような初心者ならな!」
 怒りの表情ですぐさま立ち上がる白銀。体中の痛みを気合で押さえる善吉。
 二人の思いは同じ。
 絶対に負けない! この男にだけは負けたくない!

 ――白銀、退け!

 白銀は一瞬、憎悪を込めた目で善吉を睨みつけたが、猗窩座に従い、同じ方向に行った。

 善吉はぜいぜいと息を切らし、前かがみになった。
 現界だった。
 これが二つ目の人と鬼の決着だった。

 呼吸が落ち着いた武蔵と善吉は合流した。

「永井よ、感謝する。猗窩座を退けられたのはお主の投げた刀のお蔭だ」
「え、あれ!? 無事だったのか、永井!? ていうか、なんで傷一つないんだ!?」
 圭の姿を見て、驚きと疑問を隠せない善吉。
「そうだ、永井。お主に恩義はある。だがまずは話してもらおう。お主の身体の秘密、その全てを包み隠さずな」
 殺気混じりの視線を、武蔵は圭に向けた。

 ――それについては、我もぜひ聞かせてほしいな。

 唐突に、涼やかで美しく澄んだ声が、玲瓏として響いた。

137あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:07:30 ID:pl.2dCx20
4.

 三人がいる場所から僅かに離れた位置に立っている木から、何者かが優美に宙を舞い、地面に降り立った。
 それは紅毛の青年だった。身に纏うは派手な袴に、襟に真紅の薔薇が描かれた白い羽織。
 唇は女のように赤くて薄く、目は煌々と生命力を主張している。
 体つきは間違いなく男のそれなのに、胸には膨らんだ乳房がある。
 だが、この者にはそれが三人に異形の持ち主と思わせない。猛々しさと華麗さが見事に調和した美しさと感じさせる。
 ただ立つ姿勢、歩く動きがそれだけで美しいと三人は感じる。
 その中で武蔵は、その美しさの要因は、歩みに正中線のブレが無く、鍛え上げられた体幹によるものと見切った。
「ただならぬ技量の持ち主と観た、何者か!?」
 武蔵が問うと、その者は落ち着いた涼やかな声で答えた。
「我が名は波裸羅。人は呼ぶ。『現人鬼』」 

『また鬼か。もういい加減にしてくれ』
 善吉は疲労困憊、深い負傷で気力が萎えかけていた。
 圭もまた、疲労、負傷こそ先程の死亡で消えているが、魔人ばかりのこの殺し合いに精神的な疲労で身体を重く感じていた。
 ただ一人、武蔵だけは疲労、重傷を無視し、波裸羅に斬りかかった。

 一度剣を持てば、武蔵の全ての身体の機能は戦いのみに特化する。流れる血流が変化する。筋肉も戦闘用に特化する。内臓も戦闘用に機能が作り替わる。
  
 武蔵が放つ袈裟切りを躱し、波裸羅が宙に舞った。
 空中で蹴足を瞬時に三連撃。つま先蹴り、回し蹴り、そこから独楽のように回転しての踵蹴り。
 武蔵は二撃は躱したが、最後の踵蹴りは躱しきれず、頬に線が刻まれた。

 波裸羅の蹴りは容易く筋骨を断ち、熟した瓜を砕くが如く人体を苛む。

 ――旋風美脚『塾瓜(ほそぢ)』。

 波裸羅の蹴りを武蔵は柄で受け止め押し返し、二人は間合いを取る。

 善吉に戦慄が走った。同じ足技を主体とする武術を学んでいるからこそ分かった。
 足技の冴え、威力、速さ、柔軟性、安定した体幹、軸のブレの無さ。
 どれをとっても尋常ではない。純粋な武術として善吉のそれをはるかに上回っている。

 武蔵もまた戦慄した。
 鬼の膂力があれど、これは純粋な武芸による蹴足。猗窩座に劣らぬ武。上の上!
 猗窩座が数百年の武功をつんだ者ならば、この者は数百年、否、千年に一人の天稟!

 ――ならば武蔵、勝たねばならぬ! 千年の後にうたわれる武芸者として!

 互いに闘気満ち、波裸羅と武蔵の間に覇気が充満する中、波裸羅は一方的に構えを解き、武蔵に向かって微笑んだ。

「案ずるな、武蔵。波裸羅に手負いの獣を嬲る趣味などない。
 だからそう撫でてくれるな、いきり立ちそうではないか。お前の奥ひだを味わってみたくなるではないか」

「カッ、そう簡単に俺達がやられるもんかよ!」
 善吉が吼える。
 その瞬間、波裸羅は無表情になり、三人に向かいゆるりと進んだ。
 その様子に気を張り詰めた武蔵以外の二人は、ただ茫然としていたが、善吉は目の前まで波裸羅が迫った事でようやくハッとした。
 突然、パン、と音が鳴った。波裸羅が善吉に平手打ちしたのだ。
「善吉。貴様は今、三人が手を合わせれば何とか、と考えたな。
 武蔵が瞬殺を免れたなら、加勢により何とかなるだろうという愚かしき、浅ましき、人に背負ってもらおうとする考え」
 波裸羅はさらに互いの唇が触れるほどに近づき、善吉の股間を撫でた。
「摘み取ってやろうか、つくしの先を。掻き出してやろうか、蕾の奥を」
 波裸羅の優しげ且つ獰猛な笑みを浮かべ、変わらず涼やかな声で囁きかける。何より、何とも言えない良い香りが善吉の鼻腔をくすぐる。
 その様は雅や猗窩座の様な鬼らしき鬼よりさらに恐ろしく善吉は感じ、身体は震え、汗が噴き出た。
「震えるな善吉! 先程の啖呵はどうした。あの根性はどこにいった!?」
 武蔵も圭も動けない。この意図が不明な鬼は、少しでも動けば言葉通りに善吉の股間をえぐる。そう確信したからだ。
「よっく聞け、小僧! 死の覚悟、地獄に堕ちる覚悟ない男子が、この波裸羅に同等口(ためぐち)叩くまいぞ!」
 波裸羅は柳眉を逆立て、善吉に怒鳴りつけた。
「つ、つくしって……お、俺たちを喰う気か?」
 わけのわからない善吉は、それしか言えなかった。鬼なら人を喰うのではないかというやはり深い考えなしの言動。
「愚か者め。飢饉の際の悍ましき民草でもあるまいに、この波裸羅が人など喰らうか」

「もとより波裸羅は、この催しに乗り気では無い。興味があるとすれば、この場に集う猛者共と、それ以外の者たちの生き様と死に様よ」
「ならば、波裸羅よ。何故善吉に張り手など。お主なら首を飛ばすなど朝飯前であったろうに」
「武蔵の様な虎が強きは当たり前。だが善吉は凡人でありながら、根性で鬼との差を埋めて見せた。その意気やよし。
 その根性に陰りが見えたので、少し喝を入れてやったまでよ」

138あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:07:40 ID:pl.2dCx20
「……有難うございます。もう少しで覚悟を失うところでした」
 善吉は素直に礼を言った。確かにさっき自分は気力が尽きかけ、人と協力するのではなく、武蔵の強さに寄りかかり、陰から隠れて大言を吐いただけだ。
 これじゃとてもめだかちゃんに並ぶなんて夢のまた夢だ。
「その率直さ、気合は良し。今後とも忘れるな」
 波裸羅は善吉に対し、薄い唇の端を吊り上げた。

「あ! 色々ありすぎて煉獄さんの事、すっかり忘れてた! 早く行かねえと!!」
 慌てて自転車を起こしに行こうとした善吉を、圭が腕を掴んで止めた。
「待って下さい。今からいった所で、もうそろそろBBの通信が始まります。まず生存しているかどうか確認しましょう。死んでいれば無意味どころか逆に危ない。
 聞いてから行っても遅くないと思います」
 その台詞は正論だと善吉は思ったが、それでもやはり煉獄を放っておくわけにはいかない。善吉は武蔵の方を見た。
「宮本さん、俺と一緒に行けますか?」
「善吉、すまぬ。武蔵は頬に傷を負った。これでは吸血鬼とやらになってしまいかねぬ」
 雅という鬼がどれほどの者であろうと、負ける気などない。だが、血を一滴も浴びずに勝つなどはより以上に思えない。
 勝ったところで自分が鬼に変じてしまえば意味がない。
「大言を吐きながらこの有様。武蔵は助けに行けぬ。詫びの言葉も無い」
 武蔵は善吉に対し、深々と頭を下げた。
「いえ! 頭をあげてください、宮本さん。元々足手まといになった俺が悪いんです。
 こうなったら、今はせめて煉獄さんが勝つか、もしくは無事逃げられるように願いましょう」
 首を上げた武蔵は、今度は波裸羅に対し殺気を放ち睨んだ。
「波裸羅。お主は、この武蔵が斬る。鬼退治ではない。武芸者同士の果し合いとしてでだ」
「波裸羅はまだこの催しに興味がある。それに飽きたら応じよう」
 波裸羅は緩やかに武蔵の殺気を流し、微笑んだ。

139あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:08:30 ID:pl.2dCx20
5.

「桃は皮ごとかぶりつくのが一番旨し喰い方ぞ」
 波裸羅がバッグの中から桃を取り出し、各人に渡しながら言った。
 波裸羅の話によると『波裸羅に与えられた兵糧は、この桃のみよ。幾つあるか分からぬ』との事だ。
「有り難く頂こう」
 武蔵は鄭重に片手で受け取った。
 善吉と圭の二人も礼を言いながら貰った。

 四人は市街地を走る道の中で、先程善吉が自転車で走っていた広い道で座を囲んでいた。
 ここでは誰の目にもとまりやすく、殺し合いに乗った参加者に見つかる恐れもあるが、それ以上に煉獄が見つけ易くするためだ。
 北から右回りに武蔵、圭、善吉、波裸羅の順に胡坐をかいて地べたに座っている。
「いいのかな……煉獄さんが今どうなっているのかわからないのに」
 善吉は弱冠の罪悪感と共に呟いた。
「この場はいつ、誰に襲われるか分からぬ情勢だ。
 ならば、食える時に食っておくべきであろう。次にいつ休息が取れるか知れぬからな」
 そういう武蔵は、桃を地面に置き、折れた刃こぼれだらけの刀から鍔を取り、煉獄の日輪刀に嵌め込む。
 波裸羅がその刀が一本欲しいといったので、武蔵は抜き身だけならという事で承諾したのだ。
「では、圭よ。お前の身体について話してもらおうか」
 波裸羅が促すと、圭は自分の知る限りの『亜人』に関する知識を話した。

 亜人とは、人間と同じ姿をした別種の生物である。
 実際に死んで生き返るまで、亜人は人間と区別がつかない。細胞レベルだと何か違うらしい。
 戦死、病死、事故死、絞殺。毒殺。どんな死に方をしても亜人は蘇生する。
 それまでの負傷、疲労は初めから無かったことになる。手足を切断されても生え変わる。撃たれた弾丸などは別の物質に変換され、体内から無くなる。
 この再生の際に周りの物質を変換する性質を利用し、金属の壁に切断した腕を押し当て死んで、生き返る時に壁を巻き込み腕の通る穴をあけるなんて事も出来る。
 ただ、怪我や病気をしてもすぐ治るわけじゃない。特に手足を欠損したら、一度死ぬまでそのままだ。自然治癒力は人間と同じだ。
 そして、人間同様成長も老化もする。不老ではない。研究者によると寿命があるようだ。

 能力として、不死身の他に『声』と『IBM・黒い幽霊』がある。
 亜人同士には効かないが、亜人が放つ叫びには人間の動きを止める効果がある。
 IBMは亜人の放出する黒い粒子で亜人以外には見えない。亜人でも出せない者も居る。
 それが人の形を持ったのが黒い幽霊と亜人たちが呼んでいるモノで、人間が火事場の馬鹿力を出したくらいの力を持つ。
 亜人の意志で行動し、出せる量と時間は決まっている。出せる亜人は通常、一度に1、2体を5分から10分程度出せる。圭は一度に最大9体、30分は出せる。
 弱点として頭部を破壊されると散ってしまう。水や雨の中だと動けなくなる。

「永井よ。その幽霊とやら、猗窩座に対し使えたのではないか?」
 桃を両手に持ち、交互に食いながら武蔵が疑問点を指した。
「僕のIBMは思い通りに動かないんです。あの状況だと武蔵さんの方に襲い掛かる危険がありました」
 圭の答えに武蔵は頷き、食い終わった桃の種を捨て、波裸羅から桃を受け取り、また食っている。
『一体何個食ってんだ宮本さん、つーか波裸羅さん何個桃持ってんの?」
 善吉が心の中で突っ込む。
 確かにこの桃は旨い。皮が薄く、固すぎず柔らかすぎず、歯を当てると甘みと酸味のバランスが絶妙な甘露が零れる。
 それでも何個も食えば飽きる。善吉は4個、圭は3個が限界の所、武蔵は地面に落ちた種の数だけでもう10個を超えている。
 武蔵の余りの食いっぷりに、善吉と圭は見ているだけで胸やけがしてきた。

140あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:09:03 ID:pl.2dCx20
「ふむ、やはり『端麗人』とは違うのか」
「何ですか、そのきらぎらびとって」
 善吉が武蔵の食べる姿から目をそらす目的で、波裸羅に尋ねた。
「端麗人とは、永遠の命を持ち不老。時を超える者。時の支配者に使える事を条件に『置き血』と呼ばれる物を飲むことで変ずる者」
「亜人でも寿命があるって話なのに、本当にそんな生物がいるんですか?」
 圭もまた話を変えて落ち着こうと、波裸羅に尋ねた。
「波裸羅はそのお方と出会った。吉備津彦命、かの伝説の桃太郎卿とな」
 善吉と圭の二人は、同時に口から唾を霧状に噴いた。
 全く、ナイチンゲール、宮本武蔵、源頼光、酒呑童子と歴史や伝説に名を残す者達が名簿に載っていて、実際ここに武蔵がいるところに今度は桃太郎ときた。

「僕がその『端麗人』だったとしたら、なりたいと思ったんですか?」
 圭にとっては軽い疑問だったが、その圭の言葉で波裸羅の表情は一変した。怒りに任せて波裸羅は桃の種を圭の足元に投げた。
 桃の種が地面にめり込んだ。めり込む音は種のそれじゃない、まるで砲弾を撃ち込んだかのようだ。
「舐めるなよ、圭! この波裸羅が牢獄のごとき永遠の命を望むと思うか!
 時の支配者に奴婢のように、畜生のように使えて永遠を生きるよりも、身の保証無き身分なき身で、一瞬に一生分の力燃やして戦い続ける命懸けの『好き勝手』こそが我が望み!」

 どうやら、波裸羅は随分と反体制、アナーキズム的な考えの持ち主らしい。少し常軌を逸しているが。
 この反骨心を上手く誘導できれば、佐藤を殺し、脱出するという目的の力になるかもしれない。
 幾ら殺されても生き返るとはいえ、この状況でそう考える圭の合理的思考もまた常軌を逸していた。

「圭よ。この場にお前と同じ『亜人』はいるのか?」
 波裸羅が尋ねると、圭は顔をこわばらせていった。
「他に佐藤がいます。あいつは危険です。
 どんな事をしても死なないから、わざと簡単に自分を殺させたり、相手をたきつけたり、状況を悪化させたりする。
 よくゲーム感覚で人を殺すって言うけど、あいつは本当にこの世を自分が主人公のゲームだと思っているんだ。
 だから自分が楽しむためだったら、どんな事でもする」
 嫌悪感を露わに、というにはむしろ落ち着いた表情で圭は言った。
「あと、さっき言ったIBMも佐藤は一体だけだけど自由に操れて長時間、一日何回でも使えます」

 佐藤の事を話した事で、圭は予定を思い出した。入間自衛隊基地で武器や医薬品を探すというものだ。
 だが、猗窩座達が北の方角へ向かってしまった。
 これでは入間基地に行って、使える武器を探す予定は、断念するしかないだろう。

 ふと、圭に一つの疑問が浮かぶ。なぜ、猗窩座と白銀の二人は突然離れたのか。
 追い詰められたから、じゃない。少なくとも猗窩座は圭をもう一度殺し、武蔵に再びあの技を放つくらいの余裕はあったはずだ。
 
 それまで善吉や武蔵、猗窩座の口から出たキーワード、戦いで得た情報をもう一度確認する。
 吸血鬼、血液から感染、鬼、不死身。首に食い込んだ刀を止める猗窩座。
 圭の方向を見た猗窩座。その視線は圭の顔ではなく、さらに上の方に向いているように圭には見えた。

 ――猗窩座が気にしていたのは、俺じゃなくて太陽?

 もしかしたら、猗窩座達の種族は、日光に弱いのでは?
 吸血鬼が日の光を浴びると、灰になるという伝承は有名だ。猗窩座達も同じだとしたら?

 そういえば猗窩座は、圭が渡した刀を見て『にちりんとう』と言っていた。
 漢字に変換すると『日輪刀』か?
 刀は二本とも独特の形状をしていた。猗窩座は胴体や腕の負傷は即座に治るため気にかけていなかったが、首を刎ねられるのだけは必死になって防いでいた。
 あの刀には何か鬼を殺すために必要な力でもあるのか? 何か光に反応する特殊な機能でもあるのか?

 今のところ、乱暴な推測だが、猗窩座達の鬼の種族は――
 1.日光に弱い。
 2.首を刎ねられると死ぬ(日輪刀と呼ばれる刀限定で?)

 といった所か。

141あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:15:25 ID:pl.2dCx20
「武蔵さん、もしかしたらあの鬼達は……?」
 圭が武蔵に顔を向けると。
「……寝てる」
 武蔵は地面に仰向けになって、寝息を立てていた。
「襲い、喰らい、寝る。正しく虎よな」
 波裸羅は口端を吊り上げた。

「えっと……波裸羅、さん?」
 波裸羅の名前を呼ぶだけでも、圭は緊張した。無礼者、様を付けろ、と一度殺されるかもしれないと思ったからだ。
 だが、ここで一度下僕のような態度をとれば、とても共闘、最低でも同行などできないだろう。だから、最低限の敬意だけは払って尋ねた。
「なんだ」
 圭は内心で一息つき、一つの質問をした。
「今年は何年ですか? あと、善吉にも同じ質問をするけど」
「元和二年だ」
「2009年だろ?」
 宮本武蔵と会った時点で圭の中に会った仮説が、この答えで確信に至った。
「僕の認識では、今は平成24年、2012年です。
 波裸羅さんからすれば……僕の世界は396年後で、元号は38回変わっています」
「圭……お前、もしかして学校の成績トップクラス?」
「全国模試一位でしたけど、ここではそんなことどうでもいいです。
 つまり僕たちは全員、喚ばれた時代が、世界が違うんですよ。とんでもない事だけど今のところ、それしか思いつかない」
「いわゆるパラレルワールドってやつか? 確かにとんでもねえな」
「時代、世界が違うというのは、正しいかもしれぬな。善吉が先程申した雅。あの者は、日の本の国に棲まう民草の大半を吸血鬼とやらに変えたという」
「それ、なんてバイオハザードですか?」
 善吉は冗談しか言えなかった。どうやら雅は目に見える危うさ以上に危険すぎる相手だったようだ。
「それ、だれから聞いたんですか?」
 一方、圭は平然として波裸羅に尋ねた。
「ここに来る前、出会った勝次という童から聞いた」
「その勝次は」
 どうしたのか、と圭が言う前に、波裸羅が言葉を遮った。
「この世には様々な『壁』がある。住まいを隔てるための壁。何かを隠すための壁。国の境目の壁。
 特に硬いのは、身分を分かつ壁」
 波裸羅は何を言おうとしているのか? 善吉も圭も分からなかった。
「衛府という全ての命、まつろわぬ民も貴族も支配者も同等とされる幻の都がある。身分なき者が死に対して抗う時、都の使者である龍が力を授けるという」
 今でも結構身分の差というのはいろんな国である。ましてや約400年前の波裸羅の時代なら、身分高きものは低きものに何をしても許されただろう。
 だが、この話はどこに繋がっていくのか?
「だが、その衛府でも『才』の『壁』は歴然としてあるだろうて」
 そう言って波裸羅は、バッグから二本の注射器を取り出した。
「その才の壁を越える事が出来るのが、この薬よ。上手くいけば人の域を超えた能力を持つ『脳力者』となるという。失敗したら死ぬ。
 波裸羅が最初に出会った童の勝次は、常に守られる自分を拒んでいた。
 波裸羅がこれの使い道を話すと、勝次は死を覚悟して、これを使い死んだ」
 波裸羅はナノロボ入り注射器の解説書を二人に広げて見せた。
「どうだ、善吉。圭。試してみるか?」
 そう言う波裸羅の表情は、きっと善吉と圭の二人には、美しすぎて悪魔じみて見えた事だろう。

142あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:15:47 ID:pl.2dCx20
6.

「受け取っておきます。ですが、僕は使わない」
 それが圭の答えだった。
「僕は亜人のままで十分だし満足です。本来なら交通事故で死んでたはずの自分が生きているのはそのおかげですから。
 でも、佐藤にこれを使えば、もしかしたら亜人の細胞を変化させて殺せるかもしれない。あいつを殺せる選択肢を増やせるなら、それが何であろうと使います」
 勿論、亜人のまま、身体能力が上がり、新たな能力が加わる可能性もある。だが、選択肢は多いに越したことは無い。
 リスクを考えた上で、圭は持っておくことに決めた。

 波裸羅は圭に対し、何か不可思議な印象を抱いていた。その理由は佐藤に対する姿勢だ。
 佐藤に対する殺意がどうにも読めない。同じ亜人同士による敵意なのか、嫌悪なのか、責務なのか、人間の正義感なのか。
 亜人とは別に圭の在り方について、波裸羅は好奇心を抱いた。

 一方、波裸羅の問いに対する、善吉の答えは。
「……いらねえよ、こんな物」
 怒り混じりの否定の言葉だった。
「ふん、死の覚悟なしに力など」
「違う!!」
 波裸羅の声を遮って、善吉は叫んだ。
「死ぬのが怖いからじゃねえ!!」
 今まで使っていた丁寧語をかなぐり捨てて、善吉は波裸羅を見据えた。
「確かに俺は強くなりてえよ! 頭だって良くなりてえ! めだかちゃんの隣に並べるくらいに、庇えるくらいになりてえ!
 だけど、だけどよ! それをめだかちゃんに失望されるような自分でも、その自分自身と引き換えにしたらお仕舞いじゃねえか!
 この俺を、めだかちゃんを好きだという自分を無くしてまで力を手に入れようとしても、受け止める俺がいなくなったら、結局何も残らねえじゃねえか!
 自分をつまんない奴だと決めて、それをいらないもんみたいに放り投げて、全く別の、そう、漫画やアニメやゲームの主人公に成り代わったって意味ないじゃねえか!!」
 勢いよく並べ立てたそれらが、善吉が力をチートじみた方法で手に入れる事を拒む決意の源であった。
「何でもできて、全てを完成させられるめだかちゃんに並ぶって、勝つって俺自身が決めたんだよ! 決めたからには、絶対に、俺は、俺のままでそこへ行くんだ!」
 叫びながら、いつの間にか善吉は波裸羅より、白銀の顔を思い浮かべていた。
 この言葉はあいつに言いたかった。あいつが鬼になる前に言ってやりたかった。
「そんなお前にこそ、衛府の加護があるやもしれぬな」
 そう、石弓一本で波裸羅に立ち向かった伊織のように、と波裸羅は思った。
「そんな主人公補正だっていらねえ! 誰かの加護なんて、その気になればその誰かに突然取り上げられるものじゃねえか! そんなものはいらねえ!」
 その善吉の叫びに、波裸羅は目を丸くし。
「ふ、ふ、ふ。あ、はは。はははははは!!」
 笑い出した。波裸羅は、心の底から笑っていた。
 こんなにおかしいのは生まれて初めてだ。
 生まれた時から強者の波裸羅にこの台詞が言えるか? 生まれる前にこの台詞が言えるか? そう考えると笑いが止まらない。
「面白いぞ、善吉! 身の程知らずに身分の差も才の差も乗り越えんとし、そのような考えの持ち主、身分なき者に授けられる衛府の力も拒み、そのめだかちゃんとやらだけを目指し、並ばんとする『大言』やよし! 波裸羅は大言が好きじゃ! あはははは!!」
 波裸羅は実に愉快だった。楽しかった。
 ただ一人の為だけに何があれば、人はここまで決意を固められるのか。劣等感に押しつぶされずにいられるのか。才なき身を諦めずにいられるのか。
 何だか知らんが、とにかくよし! 実に愉快じゃ!

143あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:16:16 ID:pl.2dCx20
「人吉少年!」
 波裸羅の笑い声が終わると同時に、やたら張りのある声が聞こえてきた。善吉にとって聞き覚えのある声だ。
 近づいてきたのは、金髪の先が朱色に染まった髪の男、煉獄杏寿郎だ。
「煉獄さん! 無事でしたか! よくここが分かりましたね」
「うむ! 君の叫びと笑い声を聞いて居場所が分かった!」
 居場所の言葉で、善吉は周囲にある地面に転がった桃の種を見て、煉獄に恥じた。
「あ、すみません。一人で戦わせておいて俺たちだけ休んでいて」
「気にするな! このような状況下では、飯は食える時に食っておくべきだ! それで、声の主には出会えたか?」
「声の人の方は……」
 俯いた善吉の姿で、煉獄はもう手遅れになったと悟った。
「そうか……」
 常に豪放磊落な煉獄も、流石に顔を曇らせた。
「それにしても、ずいぶん人が集まっているようだが、彼らは何者だ?」
「えっと……とりあえず、このバトルロワイヤル、殺し合いには乗っていない人達です」
 波裸羅がいるため、やや歯切れの悪い言葉になった。
「僕は、永井圭です」
「我が名は波裸羅」
「それがしは、宮本武蔵と申す」
 順番に各人が煉獄に対し、自己紹介をした。
「俺は鬼殺隊隊士、煉獄杏寿郎だ! よろしく頼む!」
「って武蔵さん、いつの間に起きたんですか!?」
 さりげなく眠りから目を覚まし、煉獄に顔を向けた武蔵に善吉が突っ込んだ。
「今しがただ。飯と眠りのお蔭で疲れもだいぶとれた」
「待って下さいよ。こんな浅い眠りで疲れなんてとれるはずないでしょう!?」
「四半時をさらに十分割した時の眠りで、四刻の熟睡に匹敵する癒しの効能を得る。これも常在戦場を旨とする兵法者の心得よ」
『いやいや、それ無茶だって。ありえないって』
 寝起きで水を飲む武蔵に対し、善吉と圭の二人は心の中でツッコミを入れた。

「ほら、煉獄。お前も食え。甘き水菓子は疲れを癒すぞ」
 波裸羅がバッグから桃を取り出し、煉獄に投げ渡した。
「いただこう。うむ、うまい!」
 煉獄は皮ごとかぶりついた。
「良い食いっぷりだ。まだたっぷりあるぞ」
「もらおうか!」
『また、食う場面を見せつけられるのか……」
 善吉と圭は煉獄が食べる光景を見るだけで顔をしかめ、胸を押さえた。

144あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:16:51 ID:pl.2dCx20
【C-4・市街地/1日目・早朝】
【永井圭@亜人】
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、ナノロボ入り注射器@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1.自衛隊入間基地に向かう予定を、箱庭病院へと変更するか。
2.使える武器や人員の確保。
3.雅や猗窩座といった鬼達を警戒。
4.波裸羅を上手く対主催側に誘導できないか。
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。

【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(小)、頬に傷。
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃 、煉獄杏寿郎の日輪刀@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1.傷の治療をし、鬼を追う。
2.事情通の者に出会う。
3.煉獄や波裸羅から、さらに詳しく事情を聴く。
4.波裸羅に対し一騎討ちを望む。
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。

【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]:精神的疲労(小)、全身にダメージ(極大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:随分と人が集まったので、まずは今後の相談から。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。
3:波裸羅に感謝すると同時に警戒。

【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、ナノロボ入り注射器@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、真田の六文銭@衛府の七忍
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:善吉の生き方が実に愉快。
3:永井圭に興味。
4:彼岸島勢に興味。すぐ隣に雅がいるなら、会ってみようか。

[備考]
※第十四話以降からの参戦。
※波裸羅の食料品は他の参加者と違い、桃100個が与えられています。

【煉獄杏寿郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 日本刀@彼岸島、涼司の懐刀
[思考・状況]
基本方針:力なき多くの人を守る。
1:人吉少年、永井少年を守る。
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流。
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す。
4:日輪刀が欲しい。
5:雅のような鬼ではない存在の討滅手段を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡寸前からです。

145あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:17:19 ID:pl.2dCx20
2.1.

 少し時は遡る。
 朝日が迫り、焦る二人の鬼が人の速さを越えて疾走している。
 その鬼達、猗窩座と白銀は北へ向かっていた。
 北には自衛隊入間基地がある。猗窩座に自衛隊の意味は分からないが、基地なら分かる。
 軍隊の拠点ならば、日の光から隠せる場所などいくらでもある。
 さらに、ここへ銃器の類があると推測した者たちがやって来ることも期待できる。

「……俺は、何もできなかった……」
 白銀が誰ともなく呟いた。人間だった頃はまず吐かなかった弱音だ。
 鬼となり、人間の頃の抑制が薄くなっているが故だ。
「俺は強くならなければならないのに……」
 強くならなければ、『彼女』の隣に並べない。
 強くならなければ、『彼女』に■される自分になれない。
「強くなったはずなのに……」
 その言葉で、猗窩座は振り向き、白銀を視線で射殺さんばかりに睨みつけた。
「思い上がるな! たかが一刻前に鬼に変じたばかりの貴様が、上弦の鬼にでも成り上がったつもりか!」
 猗窩座は白銀の何に関して逆鱗に触れたのか、自分でもわからないまま、さらに白銀に対し怒鳴りつける。
「鬼殺隊ならいざ知らず、只の人間はなり立ての鬼にも勝てない。特にあの男に貴様が負ける要因など何一つなかった。
 それを仕留めきれなかったのは『俺は強くなった』という貴様の驕慢のせいだ!
 強くなりたいのであれば、先程の人間を必ず殺すと誓え! 奴を『己が強くなるための獲物』と考えず『己がより強く上回るための敵』と思い牙を剥け!
 そうして喰らい強くなり、さらなる強者を選び、戦い、喰らえ! 『強くならなければならない』ではない! 『必ず誰よりも強くなる』と狂えるほどに力を求めろ!」
 白銀の叱咤を終えると、猗窩座の心は急速に冷めていった。 

 ――何を俺はこいつに言っているのか。これではまるで人間の師と弟子の様ではないか。鬼にそんな関係は必要ないどころか有害だ。

 猗窩座は自分の心を引き締め、最後に鬼の役目を言った。つもりだった。
「強くなれ、白銀。そして無惨様のお役に立て」
 
 ――まただ。俺はこいつに何を言っているのだ? 何を見ているのだ?

 その疑問は猗窩座の心の中を隙間風のように通り抜けていった。

 猗窩座とは逆に、白銀の心は高揚していった。

 ――そうだ。必ず強くなるんだ。そうすれば胸を張って■■■に会える。

 白銀の脳裏に浮かぶのはあの金髪の少年。
 凡人でありながら、あそこまで鍛えた執念。命懸けの機略。
 そして『おまえは俺なんだよ』という言葉。
 そう、同じだ。いや違う。二つの思いが同時に浮ぶ。
 だが、決めた感情は一つだ。

 ――次は必ず殺す!

 猛烈な殺意だ。

146あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:17:38 ID:pl.2dCx20
【C-4・B-4近く/1日目・早朝】
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、可楽の羽団扇@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼に対して──?
4.自衛隊入間基地で日光から身を隠せる場所を探す。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。

【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:頭に負傷、回復中、鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:善吉、次に会ったら必ず殺す!
3:自衛隊入間基地で日光から身を隠せる場所を探す。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。どれだけの血が与えられたかは後続の書き手さんにお任せします。

147あらがうものたち ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 00:18:00 ID:pl.2dCx20
 以上、投下終了です。
 後、武蔵の疲労回復なんですけど、あれはとみ新蔵先生の作品の剣豪の描写やケンイチ59巻の長老の策を参考にしたもので、原作にはありません。
 もし問題がある様でしたら、ご指摘願います。

148 ◆3nT5BAosPA:2019/09/12(木) 01:20:37 ID:X01ip6uo0
おつかれさまです、企画主です。
みなさんのご協力もありまして、この企画にかなりの数の投下をいただき、自分的には「そろそろ放送でもいいかなあ」と思える段階まで来ました。天晴!
とはいえ、この企画を書かれてる方や読まれてる方の中には「いやいや、放送前にこのキャラをもう少し動かしとくべきだろ」って人がいるかもしれませんし、そういう人のためにもう少し待ち時間を作ります。まだ放送前に書きたいパートがある方は、今週の土曜日の0時までに予約しておいてください。自分もそれまでに溜まってる感想を片付けられるよう努力します。努力、し、ます。
それでは、今後とも当企画をよろしくお願いします。

149 ◆Mti19lYchg:2019/09/12(木) 20:34:17 ID:pl.2dCx20
自作をwikiに投下しました。その際に誤字や矛盾点などを修正、一部加筆しました。

150 ◆3nT5BAosPA:2019/09/13(金) 00:07:27 ID:rImh9wFk0
どうも、企画主です。
昨日投下された『THE KING OF MONSTERS』で気になったところがあります。
この企画は前スレの>>132で書いている時間表記の通りに進めて行きます。それでは『朝』は六時から八時までの時間帯となっています。
なので、六時に予定されている第一回放送がされてない段階で投下された本作で、時間帯が『朝』に突入していると時間関係が些かややこしいことになります。
wikiに時間表記について追加で記載するのを忘れていたり(さっきルールに追記しました)、新スレの冒頭のルール項目に載せるのをうっかり忘れていたため、そこらへんが分かりづらくなってしまっていたのかもしれんせんね。そこのところはもうほんとすいません。
とはいえ、このままにしておくのも何だか気持ち悪いので、時間表記部分を放送直前のそれに変更することを勧めさせてもらうのですが、どうでしょうか? 
どうしても時間帯を『朝』にこだわる理由がありましたら、多分この話の時系列は放送後になると思います。
お返事お待ちしております。

151 ◆KbC2zbEtic:2019/09/13(金) 00:15:25 ID:nV3wMRb60
大変失礼しました
早朝でも全く構いませんのでwikiにて修正させていただこうと思います

152 ◆3nT5BAosPA:2019/09/13(金) 01:16:54 ID:rImh9wFk0
修正確認しました。ありがとうございます!

153 ◆3nT5BAosPA:2019/09/13(金) 21:41:12 ID:rImh9wFk0
感想です。

>CLOVER FIELD
 原作では面白い中ボスくらいの立ち位置だった猛田が色々と触れられたり掘り下げられたりするのを見ると、二次創作ならではの楽しみを再認識させられますね。これも登場話でミクニと会ってなければ起こらなかったであろう現在なのが面白い。
 序盤の猛田と立香の会話でニヤニヤさせられた後でミクニとの会話での三玖のくもらせ展開が来たと思ったら、その後さらに追い打ちが。これはキツイ。泣きっ面に蜂とはこのことでしょうか。
 投下ありがとうございます。

>たりないふたり
 球磨川が再登場したところで風太郎くんが靴の中に砂利が増えたような錯覚を抱くシーンがすげー好きなんですよね。さりげないんだけど、ここで球磨川という男がどんな存在かが端的に現れていると思います。
 この話の前を書いたのは私なんですけれども、書いてる最中に「あれ? ふたりの目的地って真逆じゃない?」と気が付いてああなったので、そこらへんを上手いところ触れて同行に持って行ったのはありがたいところです。リレーってあったけえ……。
 投下ありがとうございます。

>求めしもの
 「タケル……今度は俺が犬となろうぞ」というセリフに泣かされる。
 登場話の補強というか、そこで触れられてなかった幻之介のパーソナリティな部分に触れられていて、この企画でのキャラの深みがより増したように思います。 
 投下ありがとうございます。

>見守る柱、見届ける鬼
 ストー……保護者? ふたりがおしゃべりする話ですね。冨岡さんと巌窟王とかいう面白い男二人が出るんだから、そりゃ面白いに決まってる。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……クク」
此処が特に好きです。
 そんな会話で和まされた後でかぐや様が石上君の声を聞いてしまうという展開に。曇りそうで心配ですね。
 投下ありがとうございます。

>悲しみは仮面の下に
 前回の引きから五月が落ちそうだなあとは薄々思っていましたが、蓮も落ちるとは思っていなかったので驚かされました。
 大切な人を失った一花と真司くん、そしてついに一線を越えてしまった千翼と、様々なキャラの心境に多大な変化が起きたわけでして、これから彼らがどうなるのか気になりますね。炭治郎もたったひとりの大切な妹が別の場所で大変なことになっているから大変だ。
 投下ありがとうございます。

>COME RAIN OR SHINE
 仁さんの掘り下げ話ですね。このおかげで彼の行動方針により説得力が増しているように思われます。
 仁さんの覚悟が十分に伝わってくる話だっただけに、別の覚悟を既に決めている千翼と会ったときにどうなるのかが不安でありつつ楽しみでもあります。
 投下ありがとうございます。

>PHANTOM PAIN
 『ひとつでも命を奪ったら……お前はもう、後戻り出来なくなる』がね、もうね、本編終了後時空から出ている蓮が千翼に送る言葉としてはこれ以上ないほどに最高な台詞で素晴らしいんですよね。しかし戻る場所なんてない千翼は、始まったばかりの物語を歩き始めるというのが、だよなあと思わされつつも悲しい。
 投下ありがとうございます。
 
>鬼殺しの戦い
 「可笑しことを言うぞい。二つと無き尊き花とはわしそのもの」というセリフが権蔵のキャラクターを現している台詞で好きです。それにしてもかの剣豪武蔵と渡り合い、新技をポンポン開発するとは、戦いのセンスがありすぎる。このまま放っておくととんでもないマーダーになりそうですね。いや今でも十分とんでもないんですが。
 投下ありがとうございます。

>NEXT HUNT
 鯖じゃなくて鯖から送られる鮭だった話。
 投下ありがとうございます。

>貴方の隣に立ちたくて
 『原作で死んだし、流石にこれ以上新しい情報は出ないでしょ』と思って猗窩座さんの登場話を書いた翌週のジャンプを読んで絶叫したことが懐かしいのですが、そこら辺を上手くカバーしてくれていたのがとても助かりました。リレーってあったけえ……。
 亜人の佐藤さんに鬼の猗窩座と「お願いですから他所で勝手にやっててください」と頼みたくなるヤベー奴らがドンパチしたかと思っていたら、最後の最後に会長が鬼になったのには驚かされました。こういう二次創作でしか見れないような展開なので、会長の今後が楽しみです。
 投下ありがとうございます。

154 ◆3nT5BAosPA:2019/09/13(金) 21:42:39 ID:rImh9wFk0
>姉弟
 予約のメンツを見た時点で全てを察してとがめ逃げて超逃げてとなったんですが、殺されるまではいかなかったようでなにより。
 それにしても、七実視点からするとマジで雑草のように生えてくるアマゾンが不気味すぎますね。
 投下ありがとうございます。

>もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy
 スモーキーが従える多数のミラーモンスターと対峙する宮本武蔵は、なんだか吉岡門弟との決闘を想起させますね。この武蔵がそれを経験しているかは分かりませんが。
 相手が悪かったが悪運はよかったという感じで、負けたけれども死んではいないスモーキーですが、強力な手札を失った状態でこれからどうなるのかが不安でもあります。
 投下ありがとうございます。

>上田次郎のどんと来い、鬼退治
 しょっぱなから首輪解除を提案する上田先生、判断が早すぎて頼れますね。これには鱗瀧さんもニッコリ。とはいえとんでもない勘違いをしたままなので、その頼れる部分がこれからもそのままなのかは些か怪しいのですが、どうなるんでしょうね。それにしてもここに来てから血の気の多い若造とあってばかりな酒呑童子さんはなんだかご機嫌そうで何よりだ。
 投下ありがとうございます。

>慕う者たち
 この話の村山さんがすげー『っぽく』て好きです。頭はよくないけど、考え為しってわけでもなく、大らかな部分があって、実に番長の器。
不良ぐだ子を妄想しているマシュがかわいいですね。シリアスな空気の中でこういうシーンがあると癒されます。
投下ありがとうございます。

>なんやかんやで第一印象は結構大事
 自己紹介で要らんギャグしてる球磨川がクソめんどくさくて最高ですね。その後スルーされてこたえてるところも含めて。
 この話は明さんがとにかく可哀そうでして、そもそも球磨川と出会ったこともそうなんですが、並行世界についての考察で自分のあり得たかもしれない未来を思うのがつらく、悲しい。そうだよなあ、たとえ雅を倒しても失った命は戻らないもんなあ。それに追い打ちのように、球磨川から見た明さんのマイナス評が読んでてかなしい。確かにその通りなんですよね。これから明さんがどうなるか気になります。
 投下ありがとうございました。

>割れた星のTRIANGLE
 この話はタイトルのTRIANGLEの通り、五つ子の残り三人に強くスポットが当てられているように思われます。それだけにやりたいことをとにかく全力でやっているという感じで実にいい。とはいえ、他のキャラの影が薄いのかというと、そういうことは全然なくて、短い出番でキャラ立ちがはっきりしていて、作者の力量の高さがうかがえます。沖田さんの「―――駄目だなぁわたしは」からの台詞が特に好きです。
 投下ありがとうございます。

>“ぞわり”
 かぐや様が石上の声を聞いた直後で、その上幻之介が現れるというどうしてもシリアス不可避な話なんですけれども、ずっと前からスタンバってた冨岡さんの登場に引くかぐや様で笑わされてしまいました。
 シグルイを読んでると更に楽しめる話をしていていいですね。後の話で巌窟王が語っていますが、シグルイの藤木源之助は復讐者ですし、その存在を知っていても何らおかしくないんですよね。ここら辺は上手いなあ。
 投下ありがとうございます。

>ARMOUR ZONE
 バーサーカーと歩いてたらバーサーカーみたいなやつが出てきて、バーサーカー適性のあるライダーがでてきた話。円城くんの明日はどっちだ。
 性質が似ていることから清姫吸収して強化する浅倉がクロスオーバーって感じでいいですね。他人からすれば嫌すぎる強化クエストだ。
 投下ありがとうございます。

>食物語・とがめアマゾン
 前回に引き続き凄惨な事態にはならなさそうでなにより。とはいえとがめの体を蝕んでるアマゾン細胞は依然元気ですし、七花とは離れ離れですしで、先行きが不安だ。
 投下ありがとうございます。

>ロストルームなのか?
 爆笑するしかない。こんな事されたら笑うしかない。完全に発想で負けてしまいました。「こいつらでクロスオーバーするならこんな案もあるぜーー!!」という作者のひらめきと熱量が伝わってくる冒頭がとても好き。シミュレーションオチ面白いなあ。好き勝手出来る上に本編にほとんど影響ないから、私もやってみたかった(今からだと何番煎じだとなるからやりませんが)。こんなハチャメチャなものを見たのが、ハチャメチャな現人鬼の波裸羅なんだから、一周回って大丈夫なのかもしれませんね。
 投下ありがとうございます。

あと残り二十作くらいだし、ここらへんでお腹が空いてきたので、感想の続きはまた後でやります。

155 ◆3nT5BAosPA:2019/09/15(日) 20:57:35 ID:u3K94qyc0
放送投下します。

156BBチャンネル・ラジオ版 第一回放送 ◆3nT5BAosPA:2019/09/15(日) 20:59:34 ID:u3K94qyc0
朝の六時を迎えた頃には、太陽が東の空からその全貌を露わにしていた。
朝の到来と共に闇は逃亡し、たちまちの内に世界は光に照らされる。
その変化に、とある孤島にいる者たちが見せた反応は様々だった。
ある者は陽光から逃れるように闇に身を潜め。
ある者は確かな輝きに安堵を感じ。
ある者は朝も夜も関係ないとばかりに行動を続ける。
このように日の出へのリアクションひとつとっても、各人各様で十人十色だ。
いる場所も違えば、置かれた状況も違う。
そんな多様性のある者たちが、この場に招来されたわけなのだが、彼らはこれから誰一人として例外なく、全く同じ声を聞くことになる。
人を小馬鹿にしきったその声は、六時間前に耳にしたのと同じ──このバトルロワイアルの主催者である、BBの声だった。



「BB――、チャンネルーーー!!」

「おはようございまーす!!」
「バトルロワイアルで疲れたアナタに一時の癒しをお届けする、疲労回復コンテンツ、BBチャンネルの時間です」
「今回は『ラジオ版』の放送になりますが、それでも内容はいつもと変わらない出血大サービスでお送りします」
「司会はマイクを握らせたら宇宙一、MC(ムーンセル)のMC(マスターオブセレモニー)であるBBちゃん」
「そしてリスナーは、前回から少し数が減ったみなさんになります」
「前回の放送から六時間が経ちましたけれど、みなさんいかがお過ごしですか?」
「人を殺しましたか?」
「あるいは誰かから殺されそうになりましたか?」
「どちらも経験していない人は、あまりいないんじゃないですかねえ? もしそうなら、あまり動いていない証拠なので、これからファイトです! 怠惰な人は豚さんになっちゃいますよ」
「あ、そうそう。殺し殺されの話と言えば、『これ』を発表しなければいけませんね」
「これまでの六時間で発生した、脱落者の情報を」
「本当はこのコーナーの前に、クリエイターズトークやその他お楽しみ企画を挟むつもりだったんですけど、それらは尺の都合で泣く泣くカットすることになりました」

(残念がる観客の音声)

「それではいきますよー」
「読み上げられる名前の中に、大切なあの人や、憎い宿敵があるかどうか、ちゃーんと確認してくださいね!」
「どどどどどどどどどど、どどどどどど、どどどど(ドラムロールのつもり)」
「てーれんっ!」

「愛月しの」
「吾妻善逸」
「秋山蓮」
「石上優」
「犬養幻之介」
「イユ」
「円城周兎」
「清姫」
「コブラ」
「鮫島」
「中野五月」
「中野四葉」
「山本勝次」

「以上、十三名になります」
「十三! なんて不吉な数字でしょう! バトルロワイアルの初動にぴったりです!」
「これからもこのペースを維持できるよう、頑張ってくださいね!」
「このコーナーでは死亡者の発表のついでに、彼ら彼女らの死に様の中でも特に見どころがあったものを映像付きで紹介しようと思っていたんですけれど、音声オンリーの本放送でそれは無理ですね……。ラジオ媒体のつらいところです」
「……さてさて、脱落者の発表も終わりましたし、次は禁止エリアの発表に移りましょうか」
「サクサク進めて行きますよ」
「先ほどの放送で言われた通りにルールブックに目を通した優等生のリスナーならご存知のはずですが、今から言うみっつのエリアは一時間、三時間、五時間後にひとつずつ立ち入りが禁止されます」
「禁止エリアに入ると、BBちゃんの慈悲の証である警告音が暫く鳴った後に、首輪が」
「ボーン!!」
「と爆発するので、気を付けてください」
「それでは発表します。二度は言わないので、聞き逃し厳禁ですよー!」
「どどどど……いや、もう飽きましたね。さくっと発表しちゃいましょう」

「午前七時にD-7」
「午前九時にG-3」
「午前十一時にE-2」

「以上です」
「と、いうわけでBBチャンネル・ラジオ版の第一回放送でしたが、いかがだったでしょうか?」
「感想や絶賛のお便りは歓迎しますので、どしどし送ってくださいね! ちなみに批判や苦情の場合はノールックでダストに一直線なので悪しからず」
「それじゃあ、参加者のみなさん、さようなら」
「お昼の放送をお楽しみに!」

157BBチャンネル・ラジオ版 第一回放送 ◆3nT5BAosPA:2019/09/15(日) 21:00:41 ID:u3K94qyc0
放送終了です。
放送後の予約は明日の零時からにします。

158 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/16(月) 00:00:03 ID:1LeQSD3o0
放送乙です
佐藤、皇城ジウ予約します

159 ◆hqLsjDR84w:2019/09/16(月) 00:01:44 ID:TSLbUGE60
永井圭、波裸羅、人吉善吉、宮本武蔵@衛府の七忍、煉獄杏寿郎、予約します。

160 ◆2lsK9hNTNE:2019/09/16(月) 00:12:08 ID:AjsSpkyQ0
冨岡義勇、雨宮雅貴予約します

161 ◆3nT5BAosPA:2019/09/17(火) 07:37:15 ID:Jw8HfW7U0
鬼舞辻無惨、童磨、猗窩座、白銀御行、累で予約します

162 ◆7WzarVdOCA:2019/09/19(木) 21:50:40 ID:KeilTQXc0
始めまして。
鑢七実、とがめ、フローレンス・ナイチンゲール予約します。

163 ◆2lsK9hNTNE:2019/09/22(日) 22:57:40 ID:CxA4AfeM0
投下します

164 ◆2lsK9hNTNE:2019/09/22(日) 22:58:56 ID:CxA4AfeM0
 俺はいったい何をやっているのか。義勇は自問する。
 十三人、幻之介を抜けば十二人。義勇が鬼殺の使命も果たさず守るべき人間を殺している間にそれだけの人々が命を落とした。いったいこの中の何人が鬼の犠牲となったのか。炭治郎や胡蝶は今頃人々を守るべく奔走しているだろう。もし生きているのなら煉獄も命に変えても弱き者たちを守るだろう。
 義勇は柱になるべき器ではなく本来なら鬼殺隊にいる資格すらない。それでも。いやだからこそ。
 鬼を狩る力を持っているなら剣を振るわなければいけない。未だ全集中の呼吸の維持すら覚束ないが休んでいる暇などない。幻之介のことは今は忘れろ。鬼を切り人を守る。ただそれのみに殉じろ。
 天には朝日が登っている。鬼が隠れ潜む時間だ。見つけ出して狩れ。狩れ。狩れ。
 義勇は木剣を支えにして立ち上がる。その時。
 後ろからこちらに近づいてくる獣の嘶きのような音が聞こえた。振り向くとそこに見えたのは妙な形をした二輪車と――上に跨った一人の男。




 雅貴は放送をバイクを走らせながら聞いていた。

(本当に死んだんだな……コブラのやつ)

 予想していたことではあったし覚悟もしていたことだった。それでもこうして死を突きつけられるとショックではある。
 コブラとはダチといえるほどの付き合いでもないし琥珀のように肩を並べて戦ったわけでもない。だが他人とは思っていなかった。雅貴には劣るがコブラもSWORDの一角である山王連合会の頭を張る男だ。決して弱い男ではない。だというのにバトルロワイアルが始まってから六時間、たったそれだけの時間も生き残ることができなかった。

(つか十三人って多すぎだろ)

 それだけ殺し合いに積極的なものが多いということか。世の中に自分の利益のためなら喜々として人を殺す人種がいることを雅貴は知っている。あるいは禰豆子ちゃんや悠が言っていたアマゾンのような人外の者の仕業か。どちらか百パーセントということもないだろうが。
 放送では中野五月と四葉の名前もあった。雅貴は中野姓の持ち主を五つ子の姉妹であると確信している。家族を亡くしてゆっくり悲しみに浸る時間すら与えられないのは大概そんなもんだろうが、悲しみを分かち合える相手すら側におらず、すぐに自分も後を追うことになるかもしれない状況というのはどれほどの心細さだろうか。家族を失う苦しみはわかる雅貴にもちょっと想像つかない。
 せめて生き残った姉妹が合流できていれば少しは楽になるだろうが、この広い会場でそれを期待するのは難しいだろう。俺と広斗はすぐ近くにいたけど!
 頭の響いたBBの声は楽しそうに喋っていて、まるでバラエティ番組でもやっているかのようだった。あるいは本当に悪趣味な金持ち相手に放送でもしてるんだろうか。なんのせよムカつく話だ。バイクの運転中じゃなければ適当な物に蹴りでもくれていただろう。
 っと、雅貴はバイクを止めた。蹴りをくれるためではない。前方に人影があったのだ。
 右手に木剣を持った男だ。目は暗く、何を考えているのか読めない表情をしていた。その横には左腕のない男が胸から血を流して倒れている。死んでいた。

「あんたがやったのか」
「ああ」

 簡潔な返事だった。嘘も言い訳も何もない。
 雅貴はバイクから降りた。悠に貰った明神切村正ュックサックから取り出す。左手で鞘を掴んで腰だめに構え右手で柄を握った。
 周りにはコンクリートの上に転がる西洋剣と根本から断ち切れてた街路樹がある。あの剣は死んだ男の物なのか、樹を切ったのは生きている男なのか。どうであれ目の前の男が強敵であることは間違いない。だからといって人殺しをスルーしていけるような気分ではない

165 ◆2lsK9hNTNE:2019/09/22(日) 23:00:17 ID:CxA4AfeM0
 雅貴は走る。男は木剣を構えるだけでその場からは動かない。しかしその呼吸が先程までとはまるで別物になっていることを雅貴は見抜いた。
 二人の距離が近づく。互いの獲物が互いに届く距離になる一歩手前、雅貴は刀を抜くと同時に投合した。
 居合の要領で鞘を加速装置として射出された刀は激しく回転しながら高速で男に迫る。男は涼しい顔で右手の木剣を使い、刀を弾き飛ばした。しかしそれはこっちの狙いどおりだ。雅貴は地を蹴り男が振るう木剣の頭上を飛び越えた。右足で曲線を引き男の頭に真横から叩き込む。ケンカ慣れした男でも即座に昏倒する一撃。が――

(おいおい嘘だろ!)

 男はわずかによろめいたのみで昏倒どころか倒れることすらなかった。刀を捨てたいま間合いを離されたらこっちが不利。
 雅貴は鞘を手放し、着地と同時にさらに距離を詰め、殴りにかかる。
 顎先を狙った一撃を男は首を動かし顔面で受けた。いや受け止めた。脳が揺れることを防ぐため顔面で防御したのだ。頑丈さ任せの不格好なやり方だが、有効ではだった。回避の動作を省略することによって出来た余裕を使って男は左の拳を素早く繰り出していた。
 腕を戻すのは間に合わない。雅貴は無理やり身を捩ってギリギリのところで回避する。が、男の攻撃は一つではなかった。

「ぐっ!」

 胸に衝撃が走り雅貴は呻く。
 雅貴の意識が左手に向いた瞬間、男は木剣を離し、右手で下から雅貴の胸を突いたのだ。
 身体を後ろによろめく。男は地に落ちるよりも速く木剣を掴み直し、下から掬い上げるように振るった。

(やばっ……)

 それが雨宮雅貴が最後に思ったことになった。





 いやならなかった。少し気を失ってしまっていたようだが大きな怪我もなく五体満足だ。

「峰打ち?」
 
 木剣で峰打ちがあるのかもわからないが。呟きながら身を起こすと腹の上から何かが落ちた。奇妙なエンブレムの入った板と文字の書かれた紙。支給品とその説明書きのようだった。

「起きたか」

 雅貴を気絶させた張本人が側に立っていた。殺す気だったならばとっくに死んでいるだろう。雅貴は慌てることなく板と紙を手にとった。

「これはあんたが置いたの?」
「俺には相応しくない代物だ」
「ふーん?」

 説明を読む限りだと役に立たない代物というわけではなさそうだったが。まさか俺はオルタナティブ(代替品)などではない、なんて話でもないだろう。
 ていうかなぜこの男は雅貴を殺さず、あまつさえ支給品まで渡してくれるのか。詳しく聞こうと顔を上げると、男はすでに背中を向けて去っている途中だった。

「ちょちょちょ、ちょっと待って!」
「なんだ」

 呼び止めたら普通に応じたということは話す気がないわけではないらしい。なんというか……ずれた男である。嫌な予感がしてきた

「ひょっとしてさ、先に仕掛けてきたのはあっちだったりする?」

 言って死体を指差す。

「ああ」

 いや、ああじゃねえよ。
 雅貴だってその可能性は考えていたし、最初に「ああ」と言われた時もちゃんと続きがないことを確認してから仕掛けた。
 なに「ああ」だけ言って質問には答え終わったみたいな顔してんだよ。いや確かに質問には答えているけども。

166 ◆2lsK9hNTNE:2019/09/22(日) 23:03:21 ID:CxA4AfeM0
「そっか、悪かったな。事情も聞かずにいきなり」

 とはいえ勘違いして襲いかかったのはこっちだ。普通は聞かれなくても教えるけどな、とは言えない。
 人を殺したショックで答えられなくなっていたのかもしれないし、ろくにダメージも与えられずに負けたからよかったものの(めちゃくちゃ悔しい)、下手をすれば取り返しのつかないことになっていたかもしれないのだ。

「いや、俺がやったことは攻められて当然のことだ」
「そりゃあ……人殺しなんて簡単に割り切れることじゃねえけど、でもさ」

「そういうことじゃない。幻之介は……そこの男は……こんなところで死ぬべき人間ではなかった。喪失を抱えようとも折れることなくそれを強さに変える一流の剣士だった。俺はそんな男との勝負から逃げて卑劣な手段で命を奪った。幻之介は俺ごときが殺していい男ではなかった。俺のような偽物ではなく本物の剣士なら――殺さずに止めるとはまではいかなくとも真っ向からやつの技を打ち破り勝つことができた」

 男の言葉には怒りが滲んでいた。自分の弱さへの怒りが。
 たった一度やりあっただけで相手のことを理解し情が生まれることもある。雅貴にとっては琥珀がそうだった。琥珀が唯一無二の友を失って、悲しみを抱えたまま姿を消した時、雅貴はなにもできなかった。あの悔しさは今でも心に残っている。
 男が幻之介に向けている感情はそれとはちょっと部類が違うだろうが、やりあった相手に情を抱いたというのは同じだ。そんな相手を手にかけたとあっては雅貴が何をしたところで慰めにもならないだろう。”雅貴では”

「でも、こいつはあんたのことを嫌ってなかったみたいだぜ?」
「なに?」
「だって見てみろよこいつの顔。嫌いな奴に殺された人間がこんな顔するか?」





 幻之介の顔を見て義勇は驚愕した。似ていたのだ。義勇が斬り、炭治郎が救った下弦の五の最後の顔に。崩れていく頭が最後に浮かべていた――鬼でありながら、まるで人間の童子のようなあの安らかな笑みに。
 ありえない。
 義勇は人にこんな笑みをさせられる男ではない。弱い男だ。非常な男だ。無限の可能性を秘めた魔技を相手にまとも挑むこともできず、無慈悲に未来を奪った臆病な男だ。
 殺されてさぞ無念だったはずだ。悔しかったはずだ。義勇を憎みながら、軽蔑しながら逝ったはずだ。なのになぜそんな顔をしているのか。
 義勇には幻之介という男がわからない。所詮ほんのいっとき戦っただけの間柄だ。炭治郎ならまだしも義勇では理解できるはずもない。
 でも、そうか。

(幻之介は……救われたて逝ったのか)





 周りはコンクリートばかりで遺体を埋められる場所はなく、死体を運ぶのは色々と問題がある。せめてもの代わりとして雅貴は男と協力して幻之介をなるべく平らな場所において姿勢を整えてやった。
 雅貴はオルタナティブ・ゼロのデッキを見せて言った。

「んじゃ、俺は自衛隊基地に向かうけど本当にこれ貰っていいんだな?」
「ああ」

 三回目の「ああ」だ。雅貴は苦笑した。本当に言葉の少ない男だ。広斗も無口ではあるがさすがにこんな状況ならもう少しまともなコミュニケーションを取る。悪いやつじゃないことは間違いないんだろうが正直ダチにはなりたくない。雅貴はバイクに向か歩きながら後ろに手を振った。
 確かめるまでもなくコブラの死はもはや確定だ。悠の証言と放送、どちらかひとつならまだしも二つ揃っては認めるしかない。生死を確認するという目的はもはや消えたが、軽く弔ってやるくらいはできる。それにコブラがどんなふうに死んだのかも確認しておきたかった。
 思いも新たに雅貴はバイクに跨った。
 そして――後ろからついてきて男も後部シートに跨った。

「お前も来んのかよっ!」

167 ◆2lsK9hNTNE:2019/09/22(日) 23:03:47 ID:CxA4AfeM0

 


【C-6/1日目・朝】


【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW、明神切村正@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、コブラのスカーフ、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×数個@現実、オルタナティブ・ゼロのカードデッキ、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:弟、仲間と一緒に生還する
1:自衛隊入間基地でコブラの遺体を探す。
2:広斗との合流
3:中野姉妹、鑢姉妹、竃門炭治郎を探す
4:村山とスモーキーは……まあ余裕があったら探してもいいかな
5:いずれ水澤悠、竃門禰豆子と合流する
[備考]
※水澤悠と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※鑢七花を女性だと確信しています。
 

【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:
[装備]:無毀なる湖光@FGO、
[道具]:基本支給品一式×2、木剣、ランダム支給品0〜3、真っ二つの半半羽織(私物)@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
1:鬼が潜んでいる可能性のある自衛隊入間基地に向かう。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。

168 ◆2lsK9hNTNE:2019/09/22(日) 23:04:13 ID:CxA4AfeM0
終了です

169 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/22(日) 23:50:10 ID:.yRa2Kvk0
投下乙です。こちらも投下します

170壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/22(日) 23:51:42 ID:.yRa2Kvk0

◀    ▷


【愛月しの】




















「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あ?」


◀    ▷

171壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/22(日) 23:53:25 ID:.yRa2Kvk0




放送が終わった。
企画の恙ない進行を知らせるカウントダウン。
嗤うように、嘲るように、煽るように、戯けるように。
BBの過度にまで甘辛い声は参加者に遍く届いた。
殺し合いの打破を目指す者も。陽光の届かない夜闇に潜む者も。ただ生きる事を望む者も。
そして無論、不死なる者にも、例外なく。

「よしと。それじゃあやるか」

放送の内容をチェックし終えたハンチング帽の男、佐藤は気軽にそう言った。
休み時間を告げるチャイムが鳴ったから昼食でも買ってこよう、ぐらいの気軽さだった。
事実、上手い飯屋を探すのも爆撃をかますのも佐藤には大差ない。思わぬ穴場を見つけた喜びと、標的を上手に粉砕出来た喜びにも違いがないように。
この殺し合いが始まって数時間。まず間違いなく最も現状を楽しんでいる参加者の一人だった。

「永井君は呼ばれてなくてよかったよかった。ここじゃ唯一の知り合いだからねえ。
 まあ、僕ら死なないんだけどね」

直接見知った、どころか直に殺し合った仲の相手の無事をひとまず喜ぶ。
まだまだ未確認の相手が多い状況で、一人確かに自分を狙いに来る敵がいるのは程よいスリルを与えてくれる。
こうしてのほほんとマンション爆破を目論んでる最中にも、佐藤を仕留める算段を立ててるのかもしれないのだ。そう思えばこそやる気も湧いてくる。
なので佐藤は呼ばれた名前や、放送の内容をさして気に留めてなかった。せいぜいが入った時点で強制的に首輪を爆破させられるという禁止エリアくらいだ。
首が飛んだ程度で亜人は死なないが、そこはあのBBという少女がなにか仕掛けを施しているだろう。
例えば、エリア内で連続して首が爆破されるようになっていれば成す術がない。

とはいえ、呼ばれていたらそれはそれでまた面白かっただろう。
死なない人間。自分と同じ、完全な不死身とされる亜人の名前が呼ばれる。
それは今まで信じ切っていた亜人の不死性が絶対でないという事実に繋がる。
殺さずに亜人を無力化させる方法、それもある。
それが決まった場合にも名を挙げるのかもしれないが、もし本当に殺せるのだとしたら。
ゲームの難易度は一気に上がる。コインを入れてもコンティニューのきかない一回勝負。これまでにないVERY HARDなモードだ。
それはきっと、楽しいだろう。乗り越えたクリアの達成感は素晴らしいものとなるだろう。
楽しいと。そう思う以外、何も浮かばない。
つまりどう転んでも、佐藤にとっては吉報しかない。

「そんなわけで、景気づけに一発いってみようかな」

ポケットから取り出した牛の文様の入った緑の小箱、ゾルダのデッキをサイドミラーに向けて掲げる。
鏡面に映し出された佐藤の腰にベルトが装着される。何度見ても不思議な現象だが特に気にしてない。
あとは真ん中の空白にデッキを挿し込めば変身は完了する。が、その前にやっておきたい事があった。
せっかく変身ヒーローになれるのだ。ゲームよろしく決まったポーズなんかも入れたくなるのが男だというものだ。
『特に必要ありませんが、思い思いの最高にカッコイイポーズを決めちゃってください♪アナタの胸の厨ニ力(コスモ)を燃やせ!』
説明書にもわざわざ書かれていたし、どうせなら気分よく決めたい。そのために結構拘って考案してみたりしたのだ。

172壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/22(日) 23:56:28 ID:.yRa2Kvk0



「変し――――――お?」

渾身の構えを取りいざ―――というところで、前方の動く影に咄嗟に中断してしまう。
放送といいどうもさっきから決めさせてくれないようだ。

ふらふらとおぼつかない足取りで、佐藤に気づいてもないのか無防備に近づいてくる。
佐藤との距離は20メートルもない。遮蔽物なし、逸れる横道もない路地での正面からの対峙。
銃弾の有効範囲。握った刃を飛びかかって振るう間合い。
命のやり取りが行われる領域(ライン)に、完全に足を踏み入れている。

「――――――、――――――――――――――…………」

それでも一向に反応はない。
距離が狭まってきて、ぶつぶつと、口から漏れ出る言葉が聞こえてくる。

「…終わりだ…………………………なにもかも、全て…………………………ぜんぶ……………………………………」

意味など無い、壊れたゲーム機が同じセリフを繰り返してるみたいだと佐藤は思った。
白髪の少年の容姿は、佐藤が記憶しているマンションで見かけた先客と一致していた。
そして少年の様子にも、佐藤は思い当たる節があった。
だから思った。よくあることだ、と。

「やあ。お互い大変な催しに巻き込まれて災難だね」

このまま撃ってもよかった。
見るからに隙だらけで、誘ってるでもない。変身するまでもなく、生身のまま刀で首を落とせた。
だが佐藤は撃たずに、声をかけた。
それは打算や情に基づくものでなく、やはり駅の待ち合わせ場所で隣り合う他人に声をかけてみたような気まぐれだった。

佐藤が声をかけて、ようやく少年は気づいたのか視線を向けた。
死んでいる眼だ。こちらに関心を持ったのではなく外からの刺激に反射的に動いただけ。佐藤の予想通りだ。

「僕さ、これからあのマンションを壊そうと思ってるんだ。
 で物は試しなんだけど、君、爆弾とかそういうの持ってないかな?」

事も無げに放たれた物騒極まりない発言を、少年は一切の反応も見せず俯いたままで無視している。
やがて肩にずりさげていったデイバッグを逆さに掲げ、内容物を地面に無造作に落とした。

「おお。言ってみるもんだね」

言い出しっぺに佐藤にしても、まさか本気で期待したわけでもないだけに意外な声を漏らす。
果たして、中身は佐藤が言ったままの品であった。
どこの誰がどう見ようとも爆弾としか言えない造形のそれが束になって纏められている。
間違っても投げ捨てていい代物ではないのだが、当人には誤爆する危険性すら思考に入ってないのだろう。
一応妙な動きをしないよう意識を向けつつ爆弾を確認する。確かに本物かつ良品だ。

173壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/22(日) 23:58:04 ID:.yRa2Kvk0


「しっかしこの量、下手したら都市区画ひとつ吹っ飛ばせるだけないか?インフレさせ過ぎじゃないかな」

佐藤に支給されたゾルダといい、どうもBBはこのゲームのパワーバランスというものをはじめから投げ捨ててるらしい。
あるいは、これだけ投入してなお拮抗するだけのバランス、とも言えるが。
ともあれこれだけの爆弾とゾルダの火力。【セレモニー】はより派手になるだろう。
爆破のプランを脳内で上方修正してるところで遠ざかる足音を拾った。

「おや、行くのかい。折角だから見ていけばいいのに。今なら特等席も空けとくよ」

背中にそう呼びかけてもやはり返ってくるものはなく。ただ代わりに呪言めいたうわ言だけが掠れて聞こえた。

「……も……う………………もう…………どうでもいい…………全てが…………」

よくあることだ。
特殊部隊の軍人として幾多の戦場を渡り歩いた経験のある佐藤にとって、戦場で心神喪失に至った人間を見る機会は扱った銃器の数より多い。
放送後のタイミング、死者の情報。こうなるに至った経緯を推し量るのは容易い。
物質的、精神的に守るものを失った瞬間の人間の隙は致命的に膨大であり、作戦中にそれを狙ったことも少なからずある。
その点で言えばこの子は最早抜け殻だ。恐らく現時点でどんな弱小な参加者よりも死に瀕している。
不死身の亜人ですら精神的な死を迎える。いわんや普通の人間では。

ならばとっとと始末してしまえばいいのだが、今の佐藤はどうもその気が向かないでいた。
スコアが低すぎて物足りないのもある。爆弾を無償でくれた手前の恩もないでもない。
佐藤が殺さない理由。それは―――



「まあ爆発を見た君の友達が近寄ってくるかもしれないし、適当に見ておいてくれればいいよ」

その佐藤の言葉のどこに意味を見出したのか、はじめて少年は人間らしい反応をした。
立ち止まり、佐藤に振り向き―――だが結局思い直して再び目を背け視線を虚空に据えて歩き出した。

「なんだ、まだまだいけそうじゃないか」

あの子供。
抜け殻ではあるが、ただの学生、というわけではなさそうだ。
根拠のない、いわば兵士やテロリストとして生きてきた直感だが、自分のこういうのは大抵当たる。

分かるのだ。佐藤には、あの子の眼を見た瞬間に。
あの眼は、人殺しの眼だ。
殺人者の眼だ。
肉体に染み付いてどうしようもなく離れない、多量に浴びた血の匂いを嗅ぎ取っていた。
いま自分をはっきりと捉えた時の眼が、放送が始まる前の彼本来の表情(かお)だ。
自分の台詞に反応した部分を見るに、どうやらまだ火種があれば燃え上がってくれそうだ。
せめてものお礼に、火はこちらで用意してあげるとしよう。そして大いに炎上してくれればいい。
乱戦混戦大入り結構。
呼び水であろうと、火に飛び込む虫であろうとも。戦場に集まるプレイヤーは、多いに越したことはない。

「あそこ会った時にもう声をかけておけばよかったよ。気が合いそうだったのに。
 まあNPCを上手く使うのもゲームの醍醐味だよね。経験値泥棒されても困るし適当なところで退場して欲しいけど」

174壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/23(月) 00:00:09 ID:BZc9x8sI0
【E-7/PENTAGON付近/1日目・朝】

【佐藤@亜人】
[状態]:健康
[装備]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式、日本刀@現実
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.PENTAGONが勝つか、花火が勝つか、実験だよ実験。その前に爆弾設置しとこ。
2. 飛んでいたライダーに興味。
3. PENTAGONの前でふたりの参加者を殺した犯人に興味。
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。
※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。
※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。
※変身中に限りIBMを二回以上出せるようです、どれ程出せるかは後続の書き手氏にお任せします。
※飛行中の龍騎の姿を確認しました。

175壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/23(月) 00:02:17 ID:BZc9x8sI0





◀    ▷



朝の日差しに晒された総身を焼いて熔かす。なんでもない、爽やかとすらいえる気候なのに炎天下の砂漠に置かれたようだ。
鉛になった体は重く、鈍く、思うように動かない。極寒の氷山で遭難し手足の末端が壊死しているのと大差がない。
だが何よりも頭が痛い。頭蓋がハンマーで何度も叩かれたみたいに激しい衝撃が止まらない。
脳が思考を拒絶している。考えることは死ぬと生物的な本能だけで縛り上げている。

なのに頭は考えていた。
痛いのに、嫌なのに、どうしても考えるしか出来なかった。
染み付いた勉学の習慣の弊害といえた。精神を蝕む思考を放り投げる選択こそが、皇城ジウそのものを捨てる行為に他ならなかった。

愛月しのが、ジウがただひとり生かすと決めた最愛の人が、ジウより先に死んでいた。
ただ放送で名前を呼ばれただけで、これまでジウが築き、あるいは捨ててまで手に入れた力が、意志が、木っ端微塵に砕け散らされた感触だけがあった。

なぜ。
なぜ死んだ。
死ななければいけない理由などないはずだ。
なぜ彼女だけが殺されたのか。
優しく、人を害するような考えを持ちようがないしのが。
ミクニより、姉切より、クロオより、猛田すらもが生きていながら、どうして。

答えなど出ようがない。理由なんてわかるはずもない。
だが原因はわかる。
これが殺し合いだからだ。
愛を図るラブデスター実験でなく、ただただ命を取り合う暴力的な機構に囚われていたからだ。
自分に落ち度はない。
ジウがたまたま運良く中野四葉を殺したように。
しのはたまたま運悪く悪意ある誰かによって食い物にされた、だけ。
自分は何をしているのか。何がしたかったのか?
守る人がいないままに殺し、理由がないままに戦うなんてそんなのはただの殺人者じゃ―――










【あら、何を言ってるのかしら?】

【アナタはもうとっくの昔に人殺しでしょう?】

176壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/23(月) 00:03:28 ID:BZc9x8sI0




地の底から這い出てきた亡者じみた声が、背中のすぐ後ろからした。

ありえない幻聴に心臓が跳ね回る。
もう見えなくなったはずだ。とっくに聞こえなくなっていたはずだ。信じてきた人の決定的な断絶を突きつけられたあの時から。
なのにどうして今更、こんなモノが出てくるのか。





【理由なんていいじゃない】
【誰かなんていらないじゃない】
【アナタはただの醜い人殺し】
【言葉通りの女殺し】
【好きだった子の気持ちなんてもう無くなって、殺すだけしか無くなった哀れなお人形】
【滑稽ネ】
【愉悦ダワ】





うるさい。黙れ。消えろ。
もうお前達のことなんてどうでもいい。そのゲラゲラした笑いを止めろ。

デイバッグから千刀を引き抜く。
躊躇などするはずもない。仮想空間で憶えた技量のまま振り向きざまに亡霊の頸を両断しようと――――――





【ほら】
【新しい子が来たわよ】















振り向いた先に


                                      いた。

177壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/23(月) 00:05:26 ID:BZc9x8sI0









黒い孔が空いてた。
それはいわば、人体を丸ごと使った工芸品だった。
スプーンでごっそりとくり抜いたような跡の、闇の虚。
顎はない。喉はない。胸もない。
人間の輪郭は、手足があることと髪に結ばれたリボンぐらいだ。


【■、■■■■■■■】


もがもがと、口裂けを超えた大口の化物の全身が震えた。
それが言葉だと知っているのはジウしかいなかった。















わ、凄いですねこれ















「■■■■■■■■■■■■■―――――――――――――――――――!!!!」





化物に負けず劣らずに、口を限界まで広げてジウは絶叫した。

178壊音 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/23(月) 00:06:02 ID:BZc9x8sI0

【皇城ジウ@ラブデスター】
[状態]:精神的ダメージ(???)、幻覚・幻聴
[装備]:千刀・『鎩』@刀語
[道具]:基本支給品一式、救急キット@Fate/Grand Order、ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order、ランダム支給品0~1(前述のものと合わせて支給品が合計3つ以下に見える状態)
[思考・状況]
基本方針:――――――――――
?:?????????????
[備考]
※参戦時期は細川ひさこの仮想空間(新選組のやつ)から帰還してミクニを殺害するまでの間です。
※中野四葉から彼女の知り合いについて話を聞きました。少なくとも林間学校以降の時系列のものです。

179 ◆0zvBiGoI0k:2019/09/23(月) 00:06:27 ID:BZc9x8sI0
投下終了します

180 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:07:57 ID:hQmpsITg0
投下乙です! ×2!
ラッシュになったら大変だろうしと思ってたはずなのに、自分もギリになってしまいました!

投下します。

181 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:10:05 ID:hQmpsITg0
タイトル長すぎてNG出るので、先にタイトルだけ


夜明孤島男刀競聞書(よあけのことうおとこのかたなくらべききがき)


です

182夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:10:31 ID:hQmpsITg0
 ◇ ◇ ◇



【0】

「立派な道具をぶら下げた士(さむらい)だけでやりやがれ」



 ◇ ◇ ◇

183夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:12:12 ID:hQmpsITg0


【1】

 死者を告げる放送が終わった。
 市街地を再び静寂が包み込んだところで、人吉善吉は思わず拳を握り締める。
 彼の格闘術の礎はサバットである。距離を詰めたあとならばともかく、初手から拳を握ることは限りなく少ない。
 にもかかわらず、拳をなにかに振り下ろしたくてたまらない。この拳に行き場がないという事実が、たまらなく腑甲斐ない。
 あまりにも趣味の悪い内容を、怖気立つほどに楽し気な声音を、決して聞き逃さぬために耳を澄ませていたという――その事実がなによりも悔しい。

「…………ちくしょう」

 忸怩たる思いは到底胸中に抑え切れるものではなく、微かな声となって漏れ出してしまう。
 吐き捨てたところで気持ちが晴れるはずもなく、むしろ悔やみ切れぬ思いが増幅したようにしか感じられなかった。

 死者の数は十三人。
 そのなかに、善吉のかねてからの知り合いである箱庭学園所属の二人はいなかった。
 彼女も、彼も、そうそう簡単に命を落とすとは思えない。むしろ自分の心配をこそするべきだ。
 そう思っていたはずなのに、それでも二人の名前が呼ばれなかったことに安心をした。してしまった。
 十三人もの犠牲者が出ているというのに。
 黒神めだかは間違いなく安心などせず、その手が届かなかった十三人に胸を痛めているであろうに。

「(それに――)」

 煉獄杏寿郎が頼れる存在として挙げた鬼殺隊の同志、吾妻善逸の名もまた先ほどの放送で呼ばれていた。
 ついに出逢うことがなかった以上、善吉には吾妻善逸の外見はおろか性別をすら知る由はない。
 どうにもこうにも、善吉の人生には名前だけでは性別の判断がつかない人物が登場しがちである。
 とはいえ性別さえわからずとも、煉獄の同志であるというだけで、強くたくましい剣士であったのだろうと推測できてしまう。

 決して悟られることのないように、善吉は視線だけを煉獄へと向ける。
 普段はあまりにも内面がそのまま表情に出る男であるというのに、その表情には一切の乱れがなかった。
 鬼殺隊とは、その名の通りに鬼を殺す部隊であるという。であれば、仲間の死には慣れ切っているのかもしれない。

「(…………クソッ、なにを人様の事情を勝手に……。デビルだせぇぜ……!)」

 握ったままの拳を無造作に生えた自身の金髪に押し当て、善吉は余計な憶測を止めようとしない頭にゆっくりと力を籠める。
 頭部から染みる鈍い痛みが負傷を負った身体に響き、余計なことを考える余裕を奪っていくのが妙に心地よかった。



「(なんてことを考えているんだろうな、アイツは)」

 そう思ったのは、永井圭である。
 放送が終わって以降の人吉善吉は、胸中が窺いやすかった。というより窺うまでもなかった。
 安心に始まり、怒り、苛立ち、口惜しさ、そして遅れてやってきた自己嫌悪に至るまで、その表情があまりにも雄弁に語っていたのである。
 放送が始まったと同時に、おそらく意図的に感情を隠すべく無表情の仮面を被った煉獄杏寿郎とは対照的である。

「(まったく、ご苦労なことだな。この状況で自分を戒めてどうなる)」

 けっと内心で吐き捨てつつも、圭はとうに理解をしていた。
 共感こそできないが、存在するということを理解はしている。
 理解はしているし、ここまでのやり取りだけでとっくに認識を完了している。

 そういう人間もいる
 永井圭には決してなれない『そういう人間』もいるのだ。
 そして、人吉善吉という少年は紛れもなく『そういう人間』である。

184夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:14:10 ID:hQmpsITg0
 
 十三人という脱落者の数を聞いた感想も、圭と彼らでは違うのだろう。
 圭は想定よりも少ないと思ったが、彼らはその逆の感想を抱いたのであろう。
 鬼、亜人、吸血鬼、歴史に名を刻む大剣豪、鬼殺の剣士、まだ見ぬ存在――そしてそれらを一堂に集めたBB。
 手にしている情報自体はほとんど変わらないというのに、その上で『十三名』に対する印象は正反対であるのだ。

「(ちぇ。髪を明るく染めると、そういう風になれるのかよ。明るい頭は楽でいいよな)」

 声に出すことはなく、圭は内心で毒づく。

 きっと、彼が。
 ともに佐藤と戦うことになった亜人の彼が、この殺し合いに参加させられていたのなら――おそらく、善吉のように十三人の脱落者に憤っていたのだろう。
 佐藤がその何倍も殺していることを知っているクセに。
 目の前で救えなかった人数なんて、とっくに百を超えているクセに。
 それでも、たぶん、会ったこともない十三人に対して新鮮に憤っていたのだろう。

「(…………ふん。別になりたくもないけどな)」

 誰に聞かれたワケでもない胸中での悪態であるというのに、圭は言い訳がましく言葉を付け足していた。
 付け足さなければいけないような、そんな気がしたのだ。

「永井、よいか」
「えっ!? あっ、はい、武蔵さん、なんです?」

 この場にいもしない男に憎まれ口を叩いていた圭は、いつの間にやら歩み寄ってきていた宮本武蔵の言葉を受けて現実に引き戻される。
 精悍な顔立ちと獣じみた鋭い眼光は、波裸羅が虎と称するのも合点が行くほどのもので、出逢って数時間が経過している圭としても未だ慣れるものではない。
 ただまっすぐに視線を向けられるだけで、思わず息を呑んでしまう。

「いまの『びぃびぃ』の声は、どこからどのようにして響かせたものだ?」
「…………あ」

 盲点であった。
 殺し合いの舞台となっている孤島は、決して狭くはない。
 青々とした樹木が生い茂る山があり、大小の建造物が立ち並ぶ市街地がある。
 そのような舞台の全域に問題なく音声を響かせるなど、障害物に反射し、吸収され、透過する音の性質からして不可能だ。
 そもそも放送は上下左右どの方向から流れてきたのか、圭には判断できなかった。首輪自体にスピーカーがついている気配もない。

「さあ……。判断できません」
「ハハハハッ! 元号が三十八度変わってなお解らぬ技術か!」

 返答は武蔵ではなく、少し離れた場所でブロック塀に腰かけていた波裸羅からのものであった。
 放送の最中は終始つまらなそうな表情を変えることはなかったが、急に笑みを浮かべて大げさに哄笑を響かせる。

「ほしいな」

 その場の全員の注目を集めた上で、大げさに舌なめずりをして言い放つ。
 朱を点じたかの如き波裸羅の薄い唇が潤い、圭はそこから視線を外せなくなった。
 にもかかわらず、視線を外せなくなったという事実への違和感すら抱くことはできない。
 ただただ、視界と思考が波裸羅の唇で埋め尽くされ、やたらと激しくなる動悸すらほとんど聞こえてはいなかった。


 ◇ ◇ ◇

185夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:15:49 ID:hQmpsITg0
 
 
【2】

 ――きぃん。

 と、そんな音が響いてようやく圭は正気に戻る。
 慌てて四方に視線を飛ばすと、武蔵と煉獄が揃って刀を抜いていた。
 乱れ切った呼吸で混乱を露わにしている善吉は、圭と同じく呑み込まれかけていたのだろう。

「どういうつもりだ、現人鬼」
「ほう、どうした? もう名前で呼んではくれぬのか、武蔵」
「どういうつもりだと訊いている」

 波裸羅の囃し立てるような笑みは、武蔵の剣気を当てられてなお崩れることはない。

「はッ、赦せ。僅かに溢れ出しただけよ」
「人を誑かすか、現人鬼」
「何事にも誑かされぬ生なぞつまらぬと思わぬか、武芸人」

 笑みはより深くなり、剣気はより圧を増していく。
 武芸者同士の果し合いの約束など、早くも消え失せてしまった。
 これより始まるのは、鬼と人の戦い。もはや、波裸羅と武蔵の間に割って入ることは不可能である。

 そう判断したのが永井圭であり、そう判断しなかったのが煉獄杏寿郎であった。

「待ってくれないか、宮本武蔵。訊きたいことがある」
「待たぬ」
「いいや! なんとしても待ってもらおう!
 先ほど話を聞いた限り、こと鬼殺においてはかの宮本武蔵よりも一日の長があるようだからな!」

 懇願の体を取っていただけで、どうやら最初からほとんど指示であったらしい。
 眉を顰める武蔵の元に歩み寄り、煉獄はその肩を叩く。代われと言っているようなものであった。

「…………のちの鬼退治に繋がるか?」
「うむ! おそらくな! 繋がらなかった場合は申し開きができんが!
 俺の知る鬼とまったく異なるということがわかるので、まあそれはそれで意味はある! 意味はあるので許してほしいものだ!」

 武蔵の肉食動物じみた眼光を受けながら、煉獄は視線を逸らすことも動揺することもない。
 目と目を真っ直ぐに合わせたまま、のちに必ず繋がるという断言もせず、その上で代われと言っているのだ。
 あまりにも厚かましい。
 百年ののち、千年ののちに、剣名を残さんとしている宮本武蔵にとって看過できる提案ではない。
 しかしながら――こと鬼相手となれば、武蔵は剣名を残すためには戦っていない。
 ゆえに武蔵は構えを解き、一歩うしろに身を退いた。
 たかが一歩であるが、その一歩があまりにも大きい意味を持つと理解し、煉獄は僅かに頭を下げた。

「して、なにが訊きたいというのだ?」

 波裸羅が浮かべたままの笑みは、武蔵と煉獄のどちらが相手でも構わないということを物語っていた。

「先ほどのあの魅了の術、アレは君の『血鬼術』か?」

 予期せぬ質問であったのだろうか。
 波裸羅から笑みが消え失せ、その眉間にしわが刻まれた。

「あんなもの、術などと呼んでよい代物ではない。
 ただ、鬼の氣が外に漏れ出しただけに過ぎぬ。善吉と圭が勝手に中てられただけよ。
 波裸羅が本気で術を放ったならば、貴様らがいかに鬼斬りに慣れているとて容易に防げるはずがなかろう」
「なるほど。一理ある」

186夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:17:02 ID:hQmpsITg0
 
 背後で圭と善吉が驚いていたが、煉獄の発言に嘘はない。本気でなるほどと思っているのだ。
 波裸羅は未だその力の全容を見せていないが、溢れ出ている鬼気だけで十二鬼月の下弦に匹敵をする。
 その秘めたる力は読み切れないものの、読み切れないがゆえに先ほどのモノが意図を持って放った術とは思えない。
 ゆえに危険なのだが、と煉獄は胸中で呟く。
 そんな懸念などどこ吹く風といった様子で、波裸羅は鬼気に中てられた二人を指差す。

「気を強く持たぬからよ。波裸羅を前に気を緩めればそうなる。
 善吉に圭よ、女狐の声音程度で心乱れるな。生きていれば、幾たびも聞くことになる。
 貴様らはこの世に二つとなき、代えの利かぬ花よ。波裸羅とて意図せず散らしたくはない。気をつけよ」

 煉獄の脳裏には、四半刻ほど前のことが蘇ってきた。

 放送が始まるより前に、煉獄はすでに尋ねていた。
 たとえすでに日光が降り注いでいようとも、溢れ出る鬼気を受けては尋ねずにはいられなかったのである。
 そうして、波裸羅はこともなげに答えた。

『杏寿郎、貴様も問うか。二度も眠たくなることを言わせるな。
 飢饉の際のおぞましき民草でもあるまいに、そのようなもの口にするか。忌々しい』

 この返答があったために、煉獄は波裸羅と行動を共にしていたのである。
 BBの命令に従う意思がなく、さらには鬼気を放ちながらも人を決して喰らわない。
 ましてや人を喰らうことをおぞましいとまで形容する。だからこそ、煉獄は波裸羅との同行を決めた。
 このバトルロワイアルに呼び出される寸前に、竈門炭治郎の妹である禰豆子の鬼殺隊にふさわしい動きを目の当たりにしていたのも大きかった。

 他の鬼殺隊員が、自分と水柱を除く柱が、いったいどう判断するのか。
 それは煉獄にはわからない。わからないし、誰にも強制をする資格はない。
 炭治郎と禰豆子が時間をかけて認めさせるべきであって、外野が認識を押し付けるべきことではない。

 だから、これは煉獄の基準に過ぎない。
 あくまでもある一人の男の基準において、という話に過ぎない。

 それでも、あくまでも。
 煉獄杏寿郎の基準においては――
 人の身であろうと、鬼の身であろうと。
 人の気であろうと、鬼の気であろうと。
 命を懸けて鬼と戦い、人を守るものは――誰がなんと言おうと鬼殺隊の一員だ。

187夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:17:32 ID:hQmpsITg0
 
 そう思った。
 そう確信した。

 ゆえに禰豆子を認める。
 ゆえに波裸羅を受け入れる。

 なればこそ。
 なればこそ――

「貴様らは、おぞましき民草とは違うのだからな」

 波裸羅が続けた予期せぬ言葉を受けて、煉獄は目を見開く。

「(『おぞましき民草』…………?
 よもや、よもやっ! 『おぞましき』が形容していたのは、人喰いという行為ではなく――!)」

 反射的に浮かんだのは、あってはならない仮説だ。
 信じたくはないし、目を背けていたいが、柱である煉獄は一度浮かんだ最悪の可能性を捨てることはできない。

 そして、その仮説こそが正解であった。

 波裸羅がおぞましいと形容したのは、死の縁まで追い込まれて人食いに手を染める行為ではない。
 喰らうものがなく飢えて息絶えるとしても、絶対に口になどしたくはない――薄汚れた食材のほうである。

「――――乱れたぞ、杏寿郎、武蔵」

 言って、波裸羅は今度こそ明確な意図と指向性を持って、鬼の氣を外界へと零した。


 ◇ ◇ ◇

188夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:19:03 ID:hQmpsITg0
 
 
【3】

「なにが……起きた……?」

 意図せず口にしてしまったのは、自分であったのか、善吉であったのか。
 永井圭自身にさえ、とても判断することなどできなかった。

 心を乱すなと、波裸羅から忠告を受けていた。そこまでは間違いない。
 代えの利かない花という表現に対して、あまりにも詩的すぎると感想を抱いたのも間違いない。
 そこから、不意に波裸羅は煉獄と武蔵の名を呼び、次の瞬間には呼ばれた二人は呼吸を荒げて蹲っていた。
 はッはッはッ――と、あまりに激しすぎる呼吸音は、運動後を飛び越して重病人のそれをすら思い起こさせる。

「波裸羅さん、なにを……っ!」
「案ずるな、圭。誑かしてやったまでよ」
「誑……かす……?」
「こやつら、この波裸羅を測りおった。なれば波裸羅も測る。道理であろう」

 たしかに波裸羅は質問に答えてくれているというのに、その意図が圭にはまったく理解できなかった。
 困惑が頭を埋め尽くし、次に出るべき行動がわからない。

「なにを言って……! 測るの意味が……っ!」
「はん。お前も測られておったろうに。
 不死(しなず)でも同行して問題ないと、そう測られておったし、そもそも手ずから測らせていたであろう」

 ようやく、圭にはおぼろげながら見えてきた。
 圭がどうにか亜人でも迫害されないよう立ち回ろうとしているのをよそに、波裸羅は『選ぶのは自分だ』と言っているのだ。

「(なんて迷惑なんだ……っ!)」

 亜人の権利を主張するムーブメントがある。
 亜人に行われた人体実験に憤る団体がいる。
 それはいい。別にいい。関わる気はないが、続けていってほしいとも思う。

 だが――だが!

 間違ったやり方というものがある。
 そんな主張では、むしろ弾圧が強くなる方法がある。

 それが佐藤のやり方だ。
 佐藤が心にもないクセに、わざとらしくやっていた方法だ。

 そして、波裸羅のほうもまた、鬼の権利など主張する気はないだろう。
 思うところがあるのは、断じて鬼が測られていることではない。
 現人鬼・波裸羅が測られたことに対して、意趣返しをしてやったに過ぎないのだ。

 ゆえに亜人・永井圭は心から思う――なんて迷惑なんだ!

「決めるのは、この波裸羅よ。
 にもかかわらず人を喰わぬ鬼であれば同行してもよいなどと、どうして測られた上で決められねばならぬのだ?」

 推測そのままの発言が波裸羅から飛び出し、圭は歯を軋ませた。
 どうしてこの手の、関係ないところでやってくれる分には知ったこっちゃないが、よりにもよって身近でやってくれる連中に縁があるのだろうか。

 そんなよそ事を考えていたせいだろう。
 圭と違ってなにも理解できないといった表情で、とにかくとばかりに突っ込んでいく善吉を引き留めることができなかったのは。

「バカ! よせ!!」

189夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:21:02 ID:hQmpsITg0
 
 慌てて叫んだところで、もう遅い。
 一度は喝を入れるやさしい張り手で済んだが、自ら仕掛けてきた相手に波裸羅が手加減するとは思えない。
 なにもわからぬままに義憤に駆られた善吉は、やはりなにもわからぬままに死にゆくのだろう。

 そんな圭の予想は、一瞬ののちに覆されることになる。
 波裸羅目がけて突っ込んでいったはずの善吉が、すさまじい勢いで戻ってきたのである。
 予想だにしない展開に、圭は善吉の身体を受け止めきれずに後退りして、それでも衝撃を押さえ込めずに倒れてしまう。
 どうにかこうにか善吉とともに立ち上がると、なにが起こったのかをようやく理解できた。

 波裸羅と自分たちの間に、二刀流の剣士が立ち塞がっていた。

 後世に名を残した大剣豪にして兵法家。
 巌流島で行ったという決戦は、小説、漫画、映画と様々な媒体において題材となっている。
 全五巻からなる五輪の書は、彼の身体に染みついた剣術の奥義を記した兵法書で、日本のみならず諸外国で翻訳されて読まれているという。

「デ、デビルかっけぇボディだぜ……!」

 ああ――と、圭は思う。
 同感であった。心の底から同感であった
 放送が終わってすぐの時点では、同じ想いを抱くことになるなど考えもしなかった。

 その背筋は盛り上がっており、両肩などは石でも乗っているかのように盛り上がっている。
 ふくらはぎや太もも、臀部などは本来ならば柔らかみを感じさせる部位であるはずだが、角ばっており無機物を思わせる。
 一振りずつ日本刀を持つ腕は、各所に大小の傷が刻まれているにもかかわらず、その傷も込みで一つの作品であるかのように美しい。

 うむと頷く。
 うむと、圭と善吉は顔を見合わせて頷く。
 こうして見ると、改めてすさまじい肉体だ。

 こうして見ると。

 こうして、見ると。

 こうして、一糸纏わぬ姿を見ると。

「ぜ、全裸じゃねーーーーーか!!!!」
「言うな、バカ!!!!」

 気づくのが不思議とワンテンポ遅れた。
 完全にワンテンポ遅れたが、完全に全裸であった。
 否、ただの全裸ではない。
 全裸ではあるが、全裸だけではない。

 武蔵が腰を低く落として構えたと同時に、その身体の中心にぶら下がる逸物が、圭と善吉の視界に映った。

 名刀であった。
 業物であった。
 つくしの先などではなかった。

 そして、ソレは天を衝くかのごとく屹立していた。

「さ、三刀流……鬼斬り……」

 善吉の呟きの意味は圭にはわからなかったが、ロクでもないであろうことだけはわかった。


 ◇ ◇ ◇

190夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:23:04 ID:hQmpsITg0
 
 
【4】

 武蔵は乱れ切った呼吸をどうにか抑え込んだが、身体の熱っぽさを振り払うことは叶わなかった。
 波裸羅の鍛え抜かれた男の身体に、二つついた豊かで柔らかな乳房から目を離すことができないでいる。

「訊かせよ……訊かせよ、波裸羅!」

 脳裏を過るのは、先の鬼退治の一幕。
 鬼退治に挑んでおきながら、未だ剣名を上げることを目的としていたころ。

「醜女と交わって千日の武運満つるなら、鬼そのものと交おうたものの武運はどうなるッ」

 絞り出すように紡いだ言葉に、波裸羅は呆気に取られるように目を見開き――そうしてから口角を吊り上げた。

「ハハハハ! 犯すか! この現人鬼・波裸羅を! 犯すというのか、武蔵!」

 哄笑とともに、波裸羅は跳躍して空中にてその身体を回転させた。
 身に纏っていた派手な袴と羽織は脱ぎ捨てられ、地面に落下したころには綺麗に畳まれていた。
 武蔵の想いに応えるかのように全裸となり、着地したのち自らの股間を掌で覆うように隠した。

 おお、次の瞬間! 波裸羅が掌を股間から離すと!

 たしかに存在した波裸羅の凶剣(まがつるぎ)は消え失せ、生娘の如きぴたりと閉じられた赤貝が顕現したではないか!

「濡れたぞ、武蔵」
「おお、波裸羅……!!」

 もはや言葉を紡ぐ能力を失った武蔵自身よりも、その股間の業物のほうがよほどに雄弁であった。
 限界と思われた硬度、角度、ともに一段階上昇をしてのけた。

 ――が、波裸羅はただの鞘ではない。

 波裸羅は、雄(剣)にも牝(鞘)にもなれる。
 放蕩な現人鬼は、刀を納めるばかりが趣味ではない。
 イキった刃を鞘に鎮めて掻き出すのもまた、志摩の現人鬼の愛する情欲である。
 ゆえにこそ波裸羅は再び股間を掌で覆い、納まるべき鞘を求める凶剣を顕現させる。

「波裸羅を鞘としたくばわかっておろうな、宮本武蔵」

 言って、波裸羅は両手を前に突き出す。
 現人鬼の身体があるからこその、刃を肉ヒダで受け止める構え。
 相対する武蔵はその膂力のすべてを二振りの刀に叩き込むべく、さらに身体を捻った。

 激突ののちに立っているのは、はたしていずれか。
 歪にして強固、醜女を前にしても萎えることのない頑丈なる逸品――二天一流・宮本武蔵の業物か。
 美麗にして蠱惑的、自戒(いましめ)の縄に守られた生き菩薩をすら情欲に落とす――現人鬼・波裸羅の凶剣か。

 いざ。

 いざ。

 いざ。

 いざ、尋常に――――!!

191夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:23:42 ID:hQmpsITg0
 
「――――母上! 俺の、責務は……ッ!!」

 いまにも武蔵が仕掛けんとしたところで、鬼の氣に中てられた煉獄杏寿郎が現実へと復帰を果たした。
 乱れ切った心に沁み込むように放たれた鬼の氣は、しかし炎柱を魅了するには足りなかったのである。
 呼吸が荒れ、動悸が狂い、それでも――『最初』を思い出せば戻ってくるのは必然であった。
 煉獄杏寿郎がはたしてどうして弱者を守ることを責務としたのか、その答えにさえ至れば魅了などされようはずもない。

 そして――その答えが重要であった。

 鞘に納める他に鎮める方法のない刃を、鞘に納めずして萎びさせる方法!
 それこそが、煉獄が現実へと復帰する際に意図せず叫んだ――その単語であったのだ!

「…………興を削がれたな」
「うむ…………」
「まあよい。よいわ。
 波裸羅の氣に中てられて犯しに来る剣豪に、ソレを叫んで帰還する剣士。もう十分測ったと判断してくれようぞ」

 おお! これぞ、のちに語り継がれし――忍法・刀剣殺し也!



【C-4・市街地/1日目・朝】

【永井圭@亜人】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、ナノロボ入り注射器@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1:自衛隊入間基地に向かう予定を、箱庭病院へと変更するか。
2:使える武器や人員の確保。
3:雅や猗窩座といった鬼達を警戒。
4:波裸羅を上手く対主催側に誘導できないか。
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。

【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(小)、頬に傷。
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃 、煉獄杏寿郎の日輪刀@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1:傷の治療をし、鬼を追う。
2:事情通の者に出会う。
3:煉獄や波裸羅から、さらに詳しく事情を聴く。
4:波裸羅に対し一騎討ちを望む。
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。

【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]:精神的疲労(小)、全身にダメージ(極大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:随分と人が集まったので、まずは今後の相談から。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。
3:波裸羅に感謝すると同時に警戒。

192夜明孤島男刀競聞書 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:23:58 ID:hQmpsITg0
 
【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、ナノロボ入り注射器@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、真田の六文銭@衛府の七忍
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:善吉の生き方が実に愉快。
3:永井圭に興味。
4:彼岸島勢に興味。すぐ隣に雅がいるなら、会ってみようか。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。
※波裸羅の食料品は他の参加者と違い、桃100個が与えられています。

【煉獄杏寿郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 日本刀@彼岸島、涼司の懐刀
[思考・状況]
基本方針:力なき多くの人を守る。
1:人吉少年、永井少年を守る。
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流。
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す。
4:日輪刀が欲しい。
5:雅のような鬼ではない存在の討滅手段を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡寸前からです。

193 ◆hqLsjDR84w:2019/09/23(月) 00:24:47 ID:hQmpsITg0
投下完了です。
誤字、脱字、その他ありましたら、指摘してください。

194名無しさん:2019/09/23(月) 20:06:45 ID:Hv3c/.f.0
こういうパロロワってみんなその作品全て知ってることが前提なの?
いくつか知らないのがあるんだけど…

195名無しさん:2019/09/23(月) 21:36:52 ID:Ri0Cxoo20
知ってる作品、興味あるキャラだけ追いかけて読むのもロワの楽しみ方の一つだよ

196名無しさん:2019/09/23(月) 21:47:05 ID:N7CEdu4w0
投下乙
全部一気に読んだせいでジウの千刀はフニャフニャなんだろうなと悲しくなりました

冨岡さんが絶対に誤解される場面で雅貴お兄ちゃんが来てくれて正しくコミュニケーション取れたのはよかった
佐藤と波裸羅がスタンス違うのに自由にやってて圭に迷惑かけてるの面白い
佐藤は圭が生きてて喜んでるのに圭は触れてもなくていい

197 ◆3nT5BAosPA:2019/09/24(火) 07:37:07 ID:mLCvwp.s0
投下します

198第二回放送 ◆3nT5BAosPA:2019/09/24(火) 07:39:00 ID:mLCvwp.s0
 日陰を渡りながら移動していた猗窩座と白銀御行が自衛隊入間基地に到着した頃、まるでその瞬間を狙っていたかのように、BBチャンネルは始まった。
 暫しの間、彼らの耳はBBひとりの声に支配される。扱う血鬼術により、猗窩座は己の周囲に自分と御行以外は誰も居ないことを知っている。しかし、BBの声はまるで耳元で囁くように届いているのだ。まことに不可思議な術である。
 此度も聞く者への嫌がらせを目的としているようにしか思えない口調で語られた放送が終了し、聴覚が主催者の支配から解放された後、白銀御行は動揺を見せていた。

「そうか……あいつが……」

 彼の様子の変化の理由は、先の放送の脱落者情報で挙げられた名前にあった。
 石上優──御行と同じ生徒会で会計を務めていた少年。
 あの放送で読み上げられた名前の中に、彼の名前があったということはつまり、そういうことなのだろう。
 石上という男は、バトルロワイアルのような争いごとに、コンピュータゲームでもない限り向いていなかった。身体能力のデータでは足が他人より速いくらいで筋力は壊滅的なので、女子相手に敗北してもおかしくないくらいだ。
 そんな彼が、殺し合いが始まってからたった六時間しか経っていない間に死ぬなんてことは、容易に予想がつくことである。
 それでも、実際にその事実を聞いた御行は、頭を殴られたかのようなショックを受けた。そしてそのショックは、鬼舞辻無惨の血を分け与えられて人から隔絶したものとなったはずの心に動揺を与えるほどだったのだ。

「おい白銀っ! なにをぼうと立ち尽くしている!」

 狼狽からいつのまにか進む足が止まっていた御行に向かい、猗窩座は叫んだ。しかしその声は、今の御行にとって何処か遠くからの声に聞こえた。
 とっくに人間的な心は失っていたはずの胸が震えを起こす。それはまるで悲鳴を叫んでいるかのようだった。
 ぐるぐると駆け巡る思考、頭を掻きむしる手。視界が真っ暗になったような錯覚に、御行は陥った──否。
 御行の視界は、実際に真っ暗になっていた。
 そして、その視界の変化は、彼だけに訪れたものではない。
 御行の先を進んでいた猗窩座も。
 彼ら二人から遠く離れた場所に居た童磨も、累も。
 この島にいる鬼舞辻無惨の配下の鬼たちは全て、まったく同じタイミングで暗黒に落ちた。

X  X  X  X  X

199第二回放送 ◆3nT5BAosPA:2019/09/24(火) 07:39:33 ID:mLCvwp.s0

 黒一色に塗りつぶされていた視界が、だんだんと明るくなる。その時になって、猗窩座は自分がいるのが自衛隊入間基地から別の場所に変わっていることに気が付いた。
 
「無限城……」

 建築様式と物理法則を無視して戸や階段が上下左右出鱈目に設置されたこの異空間に見覚えがあった猗窩座は、その名を呟いた。
 なぜ急にこの場に呼び出された? あの琵琶女が、ようやくこの殺し合いの場を探り当てたのだろうか? ──そこまで考えて、猗窩座はあることに気が付いた。
 それと同時に、聞き覚えのある耳障りな声が聞こえた。その声は、今しがた猗窩座が至った発見を代弁するように語った。
 
「どうやらこの無限城は現実じゃないようだねえ。俺たちの意識だけを呼び出した、夢や幻の如き空間──言うならば、無限城ならぬ夢幻城かな」
「…………」
  
 沈黙と共に、猗窩座は嫌悪感をたっぷり込めた視線を声がした方向に向ける。
 そこにはへらへらと笑顔を浮かべている童磨がいた。
 彼が言う通り、この無限城は現実のものではない。猗窩座たちの意識だけを呼び出して作られた、精神感応(テレパシー)のようなものだ。五感から受け取られる信号はどれも現実のそれに近いが、しかしどこか現実離れした感覚が体を包んでいるのも確かであったため、気が付くことが出来た。
 鬼たちの意識だけを呼び出すことが出来る。そんな芸当が可能なものなど、ひとりくらいしか考えられない。鬼舞辻無惨だ。
 無惨の配下の鬼は、その体に流れる鬼の血を通じて、無惨の記憶や意識が脳内に流れ込んでくることがある。言わばそれを応用するような形で、鬼たちの意識は招来されたのであった。

「いやあそれにしても、俺たちが誰ひとり欠けることなくこの時間を迎えられてよかったよ。それどころか、死んだはずの下弦の伍まで蘇っているのだから、ひとり増えているようなものじゃないか」

 そう言いながら童磨は、自分と同じくいつの間にかこの場所に来ていた累に、ほころばせた顔を向けた。

「やァやァ、元気にしているかい? 上弦の俺と下弦の君の間では交流なんて絶無に等しかったけれど、それでも君の訃報を知った時は涙を流したものだよ。仲間が欠けることほど悲しいことはないからなあ」

 そういう童磨の目尻には涙が浮かんでいた。故人との再会という感動すべき場面にぴったりな顔だった。

「ああ、そうそう。鬼になってから大抵のことは経験していたんだが、それでも『死ぬこと』だけは経験したことがなくてね。鬼の身で事切れる瞬間というのは、いったいどういう感じなんだい? ぜひご教示願いたいんだが」
「……知らない」
「ええ?」
「この島に呼ばれる以前の僕の記憶で一番新しいのは、首を切られた瞬間だ。普通ならその後も暫く意識が持つはずだけど、そんなことはなくぶつりと途切れてしまった。特別な感覚なんて何もない。強いて言うなら、この場所に呼ばれた感覚と似ている」
「へえ、そんなものなのか」

 死後の世界なんて無いんだし、やっぱり死ぬ瞬間はそういうあっけないものなんだろうな。
そう考えた童磨は、再び顔を猗窩座──の傍にいる白銀御行の方に向けた。

「ところで猗窩座殿。そこにいる目つきが君そっくりな少年は何者なのかな? この場に居るということは、少なくとも鬼であるように思えるが、しかし見覚えがない。これは一体どういうことだろう?」
「…………」
「ははーん、なるほどね」

 答えではなく無視しか返されてないが、勝手に納得したらしく、童磨は芝居がかった動作で指を鳴らした。

「無惨様がこの島で新たに増やされた鬼ということか! それはいい! 同胞が増えること以上に喜ばしいことはない──ただ」

 少し残念そうに顔を曇らせて、言葉を続ける。

「それは無惨様が、現在の俺たちに満足せずに戦力を足したということだからなあ。それはそれで……ううむ、なんだか」

 悲しい気持ちになるよ──と、言おうとした、その時だった。
 鬼たちの目の前に、鬼舞辻無惨が姿を現したのは。

200第二回放送 ◆3nT5BAosPA:2019/09/24(火) 07:41:15 ID:mLCvwp.s0
「!!」
 
 全員が同様の反応を見せ、そして跪く。鬼としては新入りの御行でも即座にその行動を取ってしまうほどに、目の前の鬼の始祖が有する力は絶大なものだった。
 ただ登場するだけで全員の注目を集めた無惨は、一瞬、あるいは何時間にも感じられる時間が経った後、口を開いた。
 
「これまでの時間で死んだ人間の数が分かるか?」

 それはたった一言の問いだったが、聞く者に無惨の現在の感情が怒り一色であることが十全に伝わる言葉だった。というより、無惨の意識を介して集合させられたこの場に居る分、彼の感情がより分かりやすくなっているのかもしれない。
 ここに居る鬼でその答えを知らないものなどいまい。なにせ先ほど流れた放送で聞いたばかりなのだから。たとえ耳を塞いでいても聴覚にダイレクトに報じられるそれを、知らないわけがないのだ。

「ええ、もちろん存じておりますとも! たしか十三名でしょう」

 答えたのは童磨だ。うるさいくらいに響く、元気いっぱいな声だった。
 それが正答であったにも関わらず、無惨の怒りは更に増したように見えた。

「『たったの』十三だ」
「ああ、それは申し訳ありませぬ。俺たちが、鬼の本領を発揮できる時間である夜を過ごしたというのに、死亡者が十三人というのはたしかに少なすぎますな。それに白状させてもらいますと、俺はこれまでの時間で誰ひとり殺せていないのです。何せ中々に強き猛者が、この島には居るようでして……猗窩座殿は、俺と違ってそれはもう山のように殺しているのかもしれませぬが。いやあ、どのようにお詫びすればよいものか」
「貴様の謝罪など聞く価値もない」

 無惨は童磨の言葉をばっさりと切り捨てた。
あのふざけた小娘の言う通りに殺し合いに乗るなど、無惨にとってはありえないことである。しかし、今も尚この島中に鬼殺隊を含めた人間どもが塵芥の如く存在するのかと思うと、怒りのあまり頭がおかしくなりそうなのも事実だった。
眼前に跪く配下たちを見下ろし、無惨は思う。
何故こいつらは、人を殺すという至極簡単なことさえ達成できないのだ?
 
「貴様らのような無能を生かしておく必要があるのだろうか? 私はそれが不思議でならない」

 そう言いながら、無惨は累に視線を向けた。
 とっくに死んだはずである彼がこの場に居るのは不思議だが、その働きぶりはそれ以上の不思議である。
 なんたる無能。なんたる無益。
一度死に、蘇った身であるならば、生前よりも無惨に尽くそうと必死になるのが自然ではないのか?
 そもそも、なぜこいつが居て、上弦の壱である黒死牟が居ないのか。十二鬼月の最高戦力である彼が居れば、今頃島の人間は壊滅していただろうに。BBの人選への理解に苦しまされる無惨であった。
 無惨の考えを知った累は、慌てた様子で口を開いた。

201第二回放送 ◆3nT5BAosPA:2019/09/24(火) 07:41:39 ID:mLCvwp.s0
 
「無惨様!! 僕にはちゃんと成果があります!! この島で稀血の女を見つけました!! これを貴方様に捧げようと──」
「ほう」

 部下からの言葉に、無惨の視線は残酷な冷たさを備えたままだった。

「おまえからの施しを求めているほど、私は窮しているように見えるのか?」

 ビキリ。
 二箇所から同時に音が鳴った。
 ひとつは脳中が憤懣に占められている無惨のこめかみ部分の血管から。
 そしてもうひとつは、無惨の眼下で跪いている累の体からだった。
 ビキリ。ビキリ。ビキリ。
 骨が、肉が、内臓が──累の短躯の彼方此方が、不可視の圧力をかけられたかのように罅割れてゆく。
 つい先程までは「累が何か成果をあげていたら献上させてやっても良い」と考えていた無惨だったが、鬼どものあまりに無能な働きぶりに腹が立っている最中の彼にとって、累の言葉は火に油を注ぐようなものだった。

「違う違う違う。それは正しくない。傲り高ぶった考えだ。そんなことをさも妙案のように垂れ流す役立たずの口は、此処で潰しておくべきか? 下弦を解体した今、お前を生かしておく必要もないからな」
「が、ああ……あ、がっ、ああ……」

 悶絶の声を漏らす累。
 離れた場所からその様子を見ている童磨は「おやおや、可哀そうに」とでも言いそうな憐みの表情をしていた。

「一度人間に敗れたお前に期待することなど無い。だから、せめて最後に私の役に立ってみろ」
「は……はい?」
「あの忌々しい小娘から付けられた首輪があるだろう。あれを外したらどうなるか、貴様で試してやる。生き返ったお前の体を検分した後でな」

死刑宣告に等しい言葉を告げた無惨は累を解放し、興味の対象を猗窩座に変えた。

「猗窩座」

 たった一言だけで、元々跪いていた猗窩座の体は更に頭一つ分低くなった。言葉一つで偉丈夫を圧し潰せられるほどの力を、無惨は有しているのだ。

「殺せもしない女との戦いに興じていたと思えば、鬼殺隊でもない剣士との戦いで後れを取るとは、貴様は私をとことん失望させてくれるようだな。その目に刻まれた『上弦の参』はただの飾りか?」

 詰る。詰る。働けもしない無能は鬱憤をぶつける為だけに存在しているのだと言わんばかりに詰っていく。

「新たに鬼にした其処の小僧が、勝てる勝負に勝てなかったのも、同行していたお前の責任のようなものだろう。いや、そもそもの話だ。柱でもない三人を相手にしておいて、貴様ひとりで皆殺しに出来ないとは何事だ」

 そこまで知っているなら、その三人のうちのひとりが鬼以上に死なずの身である亜人であることも知っているはずなのだが、それはこの島に来て自分と同等あるいは上位互換の不死身と遭遇して不快の絶頂にいる無惨に更に癇癪を起させこそすれ、酌量させる材料にはならなかった。
 そうして罵詈雑言を吐き散らした無惨は、その場に集った全員に向かって言った。

「たとえこの島にいる数少ない鬼だからと言って、私は貴様らを甘やかしはしない。次の夜が終わるまでに、満足いくような成果を挙げてみせろ」

最期にそう言い残し、無惨の姿は消えた。
 それに続くように、鬼たちの視界はだんだんと暗くなっていく。
 そして、

X  X  X  X  X

202第二回放送 ◆3nT5BAosPA:2019/09/24(火) 07:44:25 ID:mLCvwp.s0
 二度目の暗黒が晴れた時、白銀御行の視界は自衛隊入間基地に戻っていた。
 結局無惨から何か言葉をかけられることは無かった。甘やかされた、というわけではないのだろう。言葉を投げる価値もないと思われていたに違いない。
 テレパシー越しに見た無惨の姿は、傍若無人がこれ以上なく似合っていた。鬼の原点にして頂点に立つ者にしか許されない振る舞いである。

──俺もいつか、あんな風に……。

 目指すべき強さを夢想する御行。そのためにも、無惨が言っていたようにより多くの人間を殺し、より多くの血肉を喰らう必要がある。あの金髪の少年以外にも、もっと多くだ。
 そうすることでようやく、彼女の隣に──。

「……人間がいるな。死体か? それも、随分時間が経っているようだ」

 猗窩座が呟いた。
 言われてみると確かに、鼻腔をくすぐる人肉の香りがする。

「行くぞ」
「ああ」

 立ち尽くしていた脚は、難なくスムーズに動く。
 先ほどまで石上の死を受けて動揺していたのが嘘みたいに、白銀の心はフラットになっていた。
会合を通じて無惨の意識に触れたことで、心にあった人間的な弱さを排除出来たのかもしれない。
こうして白銀御行はまた強くなった。
強くなってしまった。

203第二回放送 ◆3nT5BAosPA:2019/09/24(火) 07:48:36 ID:mLCvwp.s0
【B-4/1日目・朝】
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:全身に負傷、回復中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、可楽の羽団扇@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼に対して──?
4.自衛隊入間基地で日光から身を隠せる場所を探す。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。

【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:頭に負傷、回復中、鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:人吉善吉、次に会ったら必ず殺す!
3:自衛隊入間基地で日光から身を隠せる場所を探す。
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。どれだけの血が与えられたかは後続の書き手さんにお任せします。

【E-3/山中/1日目・朝】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮 完成者への苛立ちと怒り、極限の不機嫌、無能たちへの強い怒り
[装備]:シザースのカードデッキ(変身中) @仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
0.太陽を克服する。
1.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
2.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。ひとまずは累と接触したい。
3.黒神めだか、雅への絶対的な嫌悪感と不快感
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。

【E-3 教会跡・地下室/1日目・朝】

【累@鬼滅の刃】
[状態]:殴られた頬が妙に痛い
[装備]:なし
[道具]:食料(人肉)
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉と無惨様を探す
2:家族にならなそうな人間は殺害
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい

【D-3/蜘蛛山の麓/1日目・朝】

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、炎刀『銃』@刀語
[思考・状況]
基本方針:いつも通り。救うために喰う。
0:さて、俺はどうしようか。
1:"普通ではない血"の持ち主に興味。
2:猗窩座殿、下弦の彼……はてさて誰に会えるかな?
[備考]
※参戦時期は少なくともしのぶ戦前。
※不死性が弱体化しています。日輪刀を使わずとも、頸を斬れれば殺せるでしょう。
※氷のスーツを纏い、一時的に太陽から逃れる術を見出しました。長時間の移動は不可能です。
※結晶ノ御子は現状は5体が限界です。

204 ◆3nT5BAosPA:2019/09/24(火) 07:48:51 ID:mLCvwp.s0
投下終了です

205名無しさん:2019/09/24(火) 19:55:59 ID:1XN4a1cc0
パロロワで悪役大勝利endってあるの?

206名無しさん:2019/09/24(火) 20:20:30 ID:UB1s8ahg0
>>205
そういうのは毒吐き板にでも行って聞けよ

207 ◆7WzarVdOCA:2019/09/26(木) 21:48:54 ID:91DUyrus0
今日中の投下は難しいです。
申し訳ありません。

208 ◆ZbV3TMNKJw:2019/09/27(金) 18:22:38 ID:PzAyMLI60
皆さん投下乙です

>顔
そんな風だから嫌われるんですよ、冨岡さん...とはならずに、雅貴のフォローもあってむしろ前進。
禰豆子と友達になった雅貴から彼女の話を聞いたらむふふってなるんでしょうか冨岡さん

>壊音
しのの脱落に加えて四葉スタンド化でますます情緒不安定になっていくジウくん。
いっそ佐藤さんに殺されてた方が楽になってたかもしれないが、悲しいことにエンジョイ勢である彼はもっと面白いタイミングで殺すことに拘る人だった。
ほんとどうなってしまうんでしょう、ジウくん。

>夜明孤島男刀競聞書
いや、波裸羅様が大人しくしているとは思わなかったし煉獄さんや善吉達とウマが合うとも思っていなかったけども、ナニおっ始めてるのこの人たち。
原作でもまだ対面していないのにも関わらず、山口先生のあの濃い絵柄でやり合ってるのが脳内再生できてしまって拙者の胸中はきゅんきゅん丸にござるよ。

>第二回放送
無惨様はVRにしてまで開きたいのかパワハラ会議。
ぞい爺にはまんまと逃げられ、めだかちゃんや雅様に吹き飛ばされた自分のことは棚に上げ、お気に入りの猗窩座殿や累くんにはパワハラかますのにあんまり好きじゃない童磨には徹底してスルーを決め込む無惨様はブラック上司の鑑。
童磨さんは全くブレず猗窩座殿だけでなく上司にもウザ絡みして元気そうでなによりです。

今之川権三、黒神めだかを予約します

209 ◆3nT5BAosPA:2019/09/28(土) 21:52:35 ID:zQcEoTlc0
フローレンス・ナイチンゲール、巌窟王、四宮かぐやで予約します

210 ◆7WzarVdOCA:2019/09/28(土) 21:57:06 ID:ew4KUn2A0
了解しました。
予約超過してしまい申し訳ありません。

こちらは破棄でお願いします。

211 ◆IOg1FjsOH2:2019/09/28(土) 23:27:47 ID:OLjF3St20
浅倉威で予約します

212 ◆IOg1FjsOH2:2019/09/29(日) 20:11:31 ID:X5I9Jf720
投下します

213終わりのない戦い ◆IOg1FjsOH2:2019/09/29(日) 20:12:19 ID:X5I9Jf720
浅倉が次の獲物を求めてさまよっていると主催者による第一放送が始まった。
その耳障りな口調を聞いて闘争の意欲を萎えさせられた浅倉は一旦、木陰で休息を取る事にした。
リュックサックを開けて水と食料を取り出し、口に押し込んで頬張る。
放送では主催者の口から死亡者が発表され、その中に浅倉の知る人物の名前が呼ばれ、口が止まった。

「……秋山か。ここに来ていたのかぁ……」

浅倉とはとても仲の良い関係であった、何度も殺し合う程に……。
出来れば直接殺したかったが、死んでしまったのなら仕方ない。
ふと、思い出したかのように浅倉はリュックサックから参加者名簿を取り出して開いた。
今までは全く興味が沸かなかったので目を通していなかったが
参加者の中に自分の知り合いがいるのなら調べておいた方がいい。

「城戸か。あいつもいるなら愉しめそうだ。
 だがあいつは来ていないのか……北岡ァ……」

城戸真司、どうしようもない甘ちゃんだが、それでもライダーバトルで生き残っている一人だ。
奴ともう一度、戦えると思うと生き返った甲斐があるというものだ。
だが北岡が来ていないのは納得出来ない、あいつとの決着を付けなければいつまでもイライラが収まらねえ。
この島には中々面白い連中が集まっているが、肝心の北岡がいないのならスッキリしない。

「それなら優勝者の願いとやらで北岡を呼び出すのもいいかもなぁ……」

争いを焚きつけるための願いだろうが、そもそも浅倉にとっては戦う事自体が願いであり。
願いを叶えるという餌なんて必要が無い。
それでもこの手で北岡を殺せるのならそのために願いを使うのも悪くはない。
ペットボトル一本を空にして腹も膨れてきた所でミラーワールドから唸り声が聞こえてきた。
ベノスネーカーが体をもぞもぞとくねらせながら浅倉に訴える様に吠えている。

「どうした?お前も腹が減ったか?」

突如、ベノスネーカーが咆哮と共に口から青白い炎を周囲に撒き散らし始めた。
炎が辺りに燃え移り草木を焼き溶かしていく。
ベノスネーカーが吐いたそれは炎と酸を組み合わせたような燃える液体であり
触れた対象を燃やしながら溶かす性質を持っていた。

清姫を捕食してから数時間の時が流れる事により
ベノスネーカーはようやく会得した力のコントロールを可能とする事が出来た。
まるで自分の力をますたぁに誇示するかのような態度でベノスネーカーは見つめている。

214終わりのない戦い ◆IOg1FjsOH2:2019/09/29(日) 20:13:06 ID:X5I9Jf720
「あの女を喰ったからか。なかなか面白れぇじゃねえか」

この島にはライダーとは異なる力を持つ存在がいる。
それを捕食したモンスターが新たな力を得た。
巨大な異形の姿になり爆発した先ほどの参加者も
何かを口にしていたのは一瞬ではあるが視界に入っていたのを後から気付いた。

浅倉威にとってライダーは戦いを楽しむ為の道具でしかない。
もしライダー以外にも闘争を加速させる方法があれば浅倉は手段を択ばない。
例えそれが人間を辞める事になろうとも迷わず手を伸ばす。
過去に泥を食った事もある、どうせなら化け物を狩って捕食して見るのもいいかもしれない。
それでライダーバトル以上の戦いをを味わえるのなら儲けものだ。

「せっかく生き返ったんだ。とことん楽しませてもらうぜ」

一度は警官隊によって射殺され失った命。
それでも今はこの島で生きている。
どういうことか?それは俺はいつまでも戦いを繰り返される運命にあるからだ。

神崎士郎が引き起こしたライダーバトル。
そして今回、BBが主催となるバトルロワイアル。

ここで命を落としたとしてもまたどこかで戦い続けるのだろう。
永遠に、永遠に、戦いは無限に終わらない。

――ああ、なんて……楽しいんだ。

【D-3/1日目・早朝】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[状態]:全身に火傷、全身にダメージ
[装備]:王蛇のカードデッキ 、円城の骨
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:いつも通りに闘う
1.異形の力に多大な興味。
2.城戸とはここで決着を付ける。
[備考]
※メタルゲラス、エビルダイバーと契約後の参戦
※清姫の霊核を食べたことによりベノスネーカーが清姫の能力の一部を得ています。
※それを受けて王蛇のスペックも向上しています。
※体が馴染んだ事でベノスネーカーは清姫の能力をある程度使えるようになりました。

215 ◆IOg1FjsOH2:2019/09/29(日) 20:13:24 ID:X5I9Jf720
投下終了です

216名無しさん:2019/09/29(日) 21:04:03 ID:.naTs4KM0
投下乙です
挙動からしてベノスネーカーくん清姫に侵食されてるのを感じる…!

217 ◆HH8lFDSMqU:2019/09/29(日) 23:35:17 ID:2RWVh/Mw0
胡蝶しのぶ、雨宮広斗 予約します

218 ◆HH8lFDSMqU:2019/09/30(月) 02:58:19 ID:pgNm9WCA0
投下します

219CHAIN BREAKER ◆HH8lFDSMqU:2019/09/30(月) 02:59:01 ID:pgNm9WCA0

『死人が蘇る』
『年号が変わっている』
『今は大正時代』
『鬼という人を食う化け物』

 しのぶが言っていることに嘘はない。
 だが、広斗からしてみたらおかしな点が多すぎる。
 最初はかなり肝が据わっている美人だとは思った。

 しかし、話をすればするほど現代の常識とはかけ離れていた。

 彼女が日本人なのは間違いない。
 年号(元号)という有限なシステム。
 それを使っているのは日本しかない。
 
 大正時代。
 広斗の時代である平成から見たら100年以上前である。
 バイクは明治から日本にあるものだが、一般社会に普及したのは昭和に入ってからだ。
 
 だが、今はそんなことはよい。
 問題は大正時代の人物と平成時代の人物がここに同時に存在していることだ。
 
 果たしてそんなことは可能なのか?
 可能だとしても、何故自分らがこのような殺し合いに巻き込まれたのか?
 あのBBと名乗る少女は何者なのか?
 広斗の疑問が尽きることはない。
 
(ただ一つ、分かる……この殺し合い、恐らくは九龍グループは関係してなさそうだな)

 九龍グループだったらこんな回りくどいことはしないだろう。
 奴らはそういうことをする。
 何よりも…………。

(こんなSFじみたこと、あいつらにできるわけねぇだろ……)

 とても冷静で的確な判断である。


 ◆  ◆  ◆

220CHAIN BREAKER ◆HH8lFDSMqU:2019/09/30(月) 02:59:42 ID:pgNm9WCA0


 朝6時。
 C-6の美術館内で広斗としのぶはBBの定時放送を聞いていた。
 ちょうど休めそうな美術館内の広めのスペース。 
 陽射しも入り、少しばかりは落ち着ける美術館内でも落ち着けそうな場所である。
 二人以外に他に誰かいる気配はなかった。

 美術館内は入り口から館内に向けて荒らされた形跡はあった。
 警戒しつつも館内を探索したが、中には誰もいなかった。

 ここで逆に考える。
 『ここからスタートして外に出て行ったのではないのか?』と。
 それが事実かどうかは彼らには分からない。
 何故なら彼らは謎を解き明かす探偵などではないから。

 彼らはここでそういうことをしていた


「13人か……」
「…………」
 

 たった6時間で13の命が失われた。
 鬼殺隊士の我妻善逸も。
 山王連合会総長のコブラも。
 先程二人で善逸の遺体を埋葬したのでここで呼ばれた死者の名前に偽りはないであろう。
 
(しかし、コブラが、か……)

 広斗にとって知り合いと言える存在ではある。
 昔にムゲン時代のコブラとは幾度もやりあった。
 広斗からすれば雅貴以外では少なくとも一番信頼が出来る男だった。

 ここで広斗の残った知り合いは鬼邪高の頭である村山や共闘したことがあるRUDEのスモーキー。
 そして、広斗の血は繋がっていない兄、雨宮雅貴。
 コブラを含めて共通点としては九龍グループに恨まれていることくらいだが。
 九龍グループとは恐らく無関係の殺し合いだと考える広斗にとっては妙に引っかかる面子だった。

 広斗は静かに名簿に今呼ばれた名前に斜線を入れる。
 淡々と、黙々と。今呼ばれた名前を忘れないうちに。 

 次に地図の禁止エリアにも斜線を引いていく。
 ここで広斗はしのぶに一つ問いかける。
 
「地図上のアルファベットと英数字、分かるか?」
「えーっと………………」 
「…………これがAで、B、C…………」

 広斗は簡単に地図上にあるアルファベットと英数字の読み方を教える。
 大正時代の日本ではこの二つはあまり浸透していないのだから。
 自身にもしものことがあった場合のための、念のためだ。

「覚えたか?」
「…………はい」
「そうか」

 これで広斗と離れてもしのぶは地図を見てどこか禁止エリアなの理解できるであろう。
 そんな最中、しのぶは……
 
(煉獄さんや炭治郎君や禰豆子さんはともかく、冨岡さんはちゃんとわかるかしら……)

 一応の心配はする。
 あの水柱はちゃんと他者と意思疎通が出来るだろうか?
 しのぶは最初、広斗からも富岡に似たようなものを感じていた。
 無口で、無愛想で、普段は何考えているかような表情で……。
 だが、本質はいい人そうなところが非常に酷似していた。

 しのぶはそんなことを思いつつも広斗のことを見ていた。
 地図に禁止エリアを示すように斜線を入れ終えると話を進める。
 と、言っても、彼ら二人では分からないことがあまりにも多すぎる。

 ならば彼らが優先して接触すべきなのは……

 ・BBという少女を詳細に知っている者。
 ・信頼できる知り合い。

 となる。
 となれば、誰もいない以上ここに長居は無用だ。

221CHAIN BREAKER ◆HH8lFDSMqU:2019/09/30(月) 03:00:09 ID:pgNm9WCA0

 ゆっくりなどはしていられない。
 この島にはいるのだから。鬼以外にも。
 全てを照らす太陽の下でも動ける。人を殺す者が。
 それは紛れのない事実である。
 
「行くか」
「はい」

 バイクは低いエンジン音を響かせて、駆けていく。
 行き先は変わっていない。
 
 その行き先は―――――――。

【C-6/美術館付近/1日目・朝】
【雨宮広斗@HiGH&LOW】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、シャドウスラッシャー400
[思考・状況]
基本方針:???
1:雅貴を探す。
2:とりあえずはしのぶと行動。
[備考]
※少なくともREDRAIN後からの参戦です。
※鬼滅世界に鬼について認識しました。
※少なくとも九龍グループがこの殺し合いとは無関係と考えています。

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[状態]:健康。
[装備]:冨岡義勇の日輪刀
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2(毒に類する品)
[思考・状況]
基本方針:鬼殺隊の同僚と合流する。
1:自分の日輪刀を探す
2:病院、研究施設に向かいたい。
[備考]
※9巻以降からの参戦
※地図上のアルファベットと英数字の読み方を覚えました。

222 ◆HH8lFDSMqU:2019/09/30(月) 03:00:32 ID:pgNm9WCA0
投下終了です

223 ◆7ediZa7/Ag:2019/09/30(月) 04:26:38 ID:M8VSscz60
スモーキーと女の方の武蔵を予約します

224 ◆OLR6O6xahk:2019/10/02(水) 15:25:03 ID:N7JaM4LU0
佐藤 予約します

225 ◆dKv6nbYMB.:2019/10/04(金) 18:28:30 ID:FHX2qRo20
すいません、パソコンが壊れたので
>>208の予約を破棄します

226 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:26:04 ID:npg21CXc0
投下します

227SHADOWS DIE TWICE ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:27:16 ID:npg21CXc0

この会場にいる参加者のうち、武蔵と呼ばれる者──の内、女性である彼女は、こう呟いた。

「間に合わない」

と。
基地。
軍用らしい色あせた装飾の建物。
その屋根に立つ彼女は、目を凝らしつつ、遥かな彼方に見える街を見据えながら言うのだった。

間に合わない、と。

それは放送への──主催者ではなく、石上優という少年が上げた放送への反応である。
夜明け前、ここより離れたどこかにて少年が声を上げていた。
その声は武蔵の耳にも入っていたし、自衛隊入間基地にてひとまず休息を取っていた彼女が身を乗り出すのも自然なことであった。

その放送は少年が絶体絶命の状況にいることを明確に示していたし、そして──彼がすでに生き残ることを断念していることも、武蔵には伝わってきた。
それでも、というべきか、彼は戦い、そして──死んだようだった。

「……なる、ほど」

その放送が途絶え、再び世界が静寂に包まれていく。
そんな夜明け前の光景を眺めながら、彼女はほんの少しだけ瞳を揺らした。

──間に合わない。

突如起こった放送を聞き、事態を確認するために上に昇った彼女であるが、
場所が特定などできないこと、そして放送の内容から──そのことを冷静に判断してしまった。
あるいは、できてしまった。
今から何をしようとも、この少年を助けることは叶うまい、と。

そしてそれは実際、その通りになってしまった。
武蔵は何をする余裕もなく、どこかで誰かが命を散らした。
おそらくは、それをなした殺人者は野放しであろう。

なんともまぁ──よくある話だった。
どの時代においても、こんなことは日常茶飯事だ。
見えていないだけで、影では多くの命が塵のように踏みにじられている。

そんなことに今更衝撃を受ける彼女ではなかった──筈だったが、

「…………」

それでも、彼女の心は普段よりも揺れていた。
おそらくはここに来る直前まで共に戦っていた彼や、相対してきた数々の敵の存在があるがゆえ、だろう。

そう、藤丸立香ならば、たとえ間に合わないと思っても足を止めなかったのでは、と。





228SHADOWS DIE TWICE ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:28:43 ID:npg21CXc0


石上優の放送こそが武蔵にとっての一つ目の放送であり、
それからさほど間を置かずして、その次──ある意味で本番とも呼べる、悪意の放送が始まった。

『おはようございまーす!!』

と、例のごとくふざけた口調で語られる内容に、彼女はどうしようもない気分になり、軽く息を吐いた。
とはいえ貴重な情報源を無視する訳にも行かず、慎重に耳を傾ける。
同時に武蔵は、目の前に寝転がる青年に「貴方も聞いた方がいいわよ」と忠告してやった。

「…………」

青年は反応しなかった。

青年──スモーキーは、明確な殺意を持って武蔵を襲撃した人間だ。
彼を正面から打破した武蔵は、ひとまず彼を拘束していた。
縛られた彼は戦闘機が並んだ基地内部に転がしており、妙なことをしないか、武蔵が監視している。
あの妙ちきりんな装甲服はもちろん、その他の物品も没収し、武蔵の身の近くに置いている。

──やっぱ甘すぎる、かなぁ。

その処置に対して、武蔵は内心でそう自虐する。
襲われておきながら、その命を奪わないどころか、ちゃんと放送を聞けるように忠告までしてやる。
以前の自分だったのなら、まずあり得ない行いだ。

──思いの外、影響が強いのかもね。

先ほどの戦いにて、スモーキーに対して刃を止めた、止めてしまったことに対して、武蔵は未だに戸惑いに近い想いを抱いていた。
それを善しと思うか、悪しと見るかは判然としなかったが、こうも思っていた。

──でも今度は間に合わない、なんてことはない筈。

と。
先ほどの少年の放送と違い、彼に対して、少なくとも武蔵は言葉をかけることができる。

“俺は、帰らなくちゃならないんだ……、俺の家族の下に”

先の戦いにて、彼が告げた言葉が脳裏をよぎる。
その切迫した口調に対して、果たして自分は何を思ったのだろうか。
一つ、間違いのないことを言うならば、そんなことを襲撃者から聞かされたところで──以前の武蔵ならば間違いなく斬り捨てていたであろうことだ。

しかしあそこで手は止まってしまった。

「…………」

その身を縛られたスモーキーが、放送に耳を傾けているのか、いないのか、顔をこちらに向けていないためわからない。
だが戦闘からすでに時間はだいぶ経っている。そろそろ意識も回復する頃だろう。

己の行いが正しかったかはわからないが──助けてしまった以上は、話を聞くべきだろうとも思う。
とりあえずこの放送が終わったら、本格的に説得にいくとしよう。
そのあとのことは、話の内容次第で決めてしまうとして。

そう考えつつ、武蔵は背負った長刀のことを意識する。
だが最悪の場合、彼がこちらの言葉に耳を傾けなかった場合は、きっと──





229SHADOWS DIE TWICE ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:29:07 ID:npg21CXc0


スモーキーの意識はすでに回復していた。
この身を守るインペラーを破壊され、その身に受けたダメージはまだ色濃く、肺に患った病は治る見込みもない。
だが──意識だけはどこまでも明瞭に醒めていた。

“人を殺しましたか?”

どこかより聞こえてくる放送も当然耳には入っている。

“あるいは誰かから殺されそうになりましたか?”

だが──その言葉はただの不快な雑音に過ぎなかった。
スモーキーにしてみれば、すでにこの場に“家族”がいないことはわかっている。
彼にとって意味のある名は、この島にいない。

“読み上げられる名前の中に、大切なあの人や、憎い宿敵があるかどうか──”

ならば、この放送はスモーキーにとって、ただの不快な雑音に過ぎなかった。

だからこそ、スモーキーの意識は研ぎ澄まされ、その感覚は、背後に立つ一人の剣士に向けられていた。

“愛月しの”
“吾妻善逸”
“秋山蓮”

武蔵は放送が告げる名前を聴き漏らさぬよう集中している。
スモーキーとは違うのだろう。この島に、彼女が守るべき者か、あるいは討たねばならない敵か、意味のある者が招かれているに違いない。
だからこそ放送を聞かざるを得ない。
集中して、この島で死んでいった者たちの名前に、耳を傾けている。

“石上優”
“犬養幻之介”
“イユ”

インペラーを正面から打破して見せた彼女の力はすでに身を以って知っていた。
対して自分は今は力を奪われ、手を縛られ、無様にも地に這いつくばっている。

“円城周兎”
“清姫”

圧倒的に不利な状況──だが、その時、スモーキーの瞳には明確な意思が灯っていた。
たとえ、武蔵が如何に強くとも──彼女を打破しないことには、決して前には進めない。
であるならば──他に選択肢はないのだった。

“──コブラ”

その名が呼び上げられた瞬間──彼は飛んだ。
全身をバネにして、薄汚れたコンクリートを蹴り上げ、絶体絶命の最中、彼は──空へと舞っていた。
高く、高く──




230SHADOWS DIE TWICE ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:29:32 ID:npg21CXc0

──その瞬間、武蔵の意識は鋭く切り替わった。

元より、その動きを予期していなかった訳ではない。
先ほどの切迫した言葉、あの揺るぎない意志を滲ませた瞳から、彼がそう簡単に折れるとも思えなかったからだ。

そして、仮に武蔵とスモーキーの立場が逆だった場合、どこを狙うかを考えれば──放送のタイミングだろう。
その性質上、放送を無視するということは中々できない。
その内容に耳を傾ける必要が出るため、必然的に監視の目が緩むタイミングだ。

だからこそ、武蔵もまた反応することができた。
だが──予想外だったのは、スモーキーの速度であり、高さである。

拘束されロクに動けなかったはずの彼が、身を捩り、空を舞っている。
距離を詰め、その勢いのまま彼は武蔵の下へと、ざざっ、と音を立てて滑っていく。

「曲芸じみた──」

コンクリートの匂いがする。
土煙が立ち上る中、その視線の先には自身のデイパッグを奪還し、同時の基地内に転がる金属片で自身の拘束を解くスモーキーの姿であった。

「──真似をするのね。さっきは鹿か羊かと思ったけど、お猿さんだったんだ」

どっちにしても面妖だけど、と。
武蔵はスモーキーに対し、感情を滲ませない冷たい言葉を投げかける。
確かに虚は突かれた。先ほどの戦闘においてあの装甲服を破壊した以上、青年がそこまでの動きはできないと踏んでいたからだ。
が、今の動きを見る、あの三次元的な動きは装甲服によるものでなく、彼自身の技術だったようだ。

そのことは誤算であった。
誤算であったが──それだけだ。

──今だって斬ろうと思えば、斬れた。

武蔵は長刀、物干し竿に手をかけながら、どこか醒めた心地で思う。
驚きはしたが、タイミングとしては十分に反応できる域であった。
意識を超える直感に従い剣を抜いていれば、病人一人斬りふせることなど容易だった。

だが、あえて彼女はそれを選ばなかった。
その直感に従えば──問答無用で彼を死を与えていたに違いなかった。

──今度は、まだ間に合うでしょう。

助けることができなかった、あの少年の放送が脳裏に過る。それに続いて浮かび上がる藤丸立香の顔。
このまま殺さず──なんてやる気はないが。

──最低限、言葉ぐらいは交わしてやるか。

そう、考えると同時に武蔵は口を開いていた。

「ねえ、一応聞くけど、こういう邪なこと、止めにしない?」
「…………」
「家族のためだとか何とか言ってるけど、そんなツラしてやることがみみっちい暗殺まがいなんて、ちょっと情けないでしょう。
 今なら私、貴方の言い分とか聞いてやっても良い気分なんだけど」
「……俺たちは決して諦めない」

慣れないとわかりつつ吐いた説得の言葉を、スモーキーは端的に切り捨てる。

──ま、そうでしょうね。

満身創痍とさえ言える身でありながら、衰えることないその眼光が、何よりもその意志の強さを雄弁に語っていた。

「お前は、今、俺には決して敗けないと考えているだろう」
「あ、わかる? うん、私、貴方には多分絶対敗けないから、だから一応、説得してみたんだけど」

奪還したデイバッグに手をやるスモーキーを前に、武蔵はそう突き放すように言う。
あの装甲服を再び纏ったところでもはや脅威ではない。すでに格付けは済んでいる。
そしてあのデイバッグの中身だって武蔵は知っている。何を使おうとも、彼がこちらを超える手段はない。

「俺は──」

その言葉と共にスモーキーが取り出したのは、あの装甲服ではなかった。
武蔵は思わず──笑ってしまいそうになってしまった。
最後の最後に彼が取り出した武器、それは刀であった。
物干し竿に加えてあったもう一振りの剣。
武蔵も、その存在はデイバッグを見たときから知っていたが──よりにもよって、という想いが出てしまう。

231SHADOWS DIE TWICE ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:29:59 ID:npg21CXc0

スモーキーは別に剣に精通している訳ではないのか、彼女からしたら素人としか言いようがない構えで、刀をこちらに向けていた。
他の武器ならばいざ知らず、武蔵に刀を向けるとは。

──だからまぁ。

殺すしかないのだろう。
そこに至って、武蔵はそう判断していた。
他の武器ならば、まだどうにか説得できないか、多少は考えたかもしれない。
だが、こと刀を向けられらたとあっては、どうしようもないではないか。
ここで彼を斬り捨てる──当然の帰結だった。

──うまくいかないものね、やっぱ。あの子と私は違う、か。

「──飛ぶ」

その言葉通り、スモーキーは空を飛んで見せた。
コンクリートを蹴り上げ、壁を駆け上り、三次元的な動きで武蔵へと迫っていく。
その瞳は明確な殺意と、揺るぎない決意が同居している。
決して無謀な特攻ではないだろう。
先ほどまで地に這いつくばっていた彼は、己が敵を超えるべく──飛んでいるのだ。

それを待ち構えるは、長刀、物干し竿を構えた剣士、武蔵である。
慣れない獲物であえることには違いなかったが、この敵を迎え撃つには十分過ぎる刃である。

──猿とかってさっきは私は言ったけど。

その一瞬、まるで風の流れのままに空を舞うスモーキーを前に、武蔵はこんなことを考えてしまった。

──まるで燕ね。

そして武蔵自身はというと──燕を斬ったことはなかった。







……その刀は、言ってしまえばただの刀なのだ。

とある刀鍛冶が作った完成形変体刀と呼ばれる12本の刀のうち、もっとも平凡な一振りを挙げろと言われたら、十人が十人それを上げるだろう。
何しろ、その刀の特性といえば──「斬れる」こと、それだけだからだ。
頑丈な訳でもなく、数が多い訳でもなく、刀の形状を捨てている訳でもなく、心を見定める訳でもない。

それは、刀であれば当たり前の性質であり、「ただただ斬れること」を主張するその刀は、平凡としかいいようがないだろう。
だからこの刀を見た武蔵は見るべきところのないナマクラと判断したし、「ただ斬れる」というその説明を読んでも、よくある売り文句に過ぎないと思ってしまった。

──斬刀<鈍>。

それが持て囃された時代においても、その刀の本当の力に気づいた者が果たしてどれだけいただろうか──




232SHADOWS DIE TWICE ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:30:24 ID:npg21CXc0


「────」

次の瞬間、刀は振り払われ、赤い血が基地の中に舞った。
一方の刃が、もう一方の刃を斬り伏せ、肉を両断してみせた。

「──くっ、このっ……!」

長刀の刀身は半ばで斬られ、コンクリートの地面に転がっている。
加えて──猛然と血を吹き出す己の右腕を前に、武蔵は苦悶の声を上げた。

斬られたのは──彼女の方であった。
あり得ない斬れ味としかいいようがなかった。
角度、技量、力、どこを取っても剣士である武蔵が遅れをとるハズがなかった。

──だが、スモーキーが握っていたのは、剣士殺しの剣なのだ。

斬刀・鈍。
その特性は「ただ斬れる」こと。
刀の造形そのものは平凡ながら、いくら人を斬っても切れ味が全く落ちず、文字通りの一騎当千をも可能にした一振り。

それは本当の意味では斬っているではなかった。
遥かな未来の技術を用いたその刀身は、物質の分子結合を破壊し、あたかも溶かすように物を斬る。
結果として現れるのはもっとも平凡な特性であったが──そこに使われた技術は変体刀の中において、もっとも未来のものだったと言っても過言ではない。

かつて虚刀流がこの刀を攻略した時、この特性は意味をなさなかった。
刀を使わない虚刀流にしてみれば、普通の刀も、斬刀も、差はないからだ。

だが本来この刀は──剣士にこそ有効に作用する。

鎧など意味はない、鍔迫り合いなど起こりようがない。
斬刀を弾こうなどと考えた時には、すでにこちらの刀が斬られている。
平凡であるがゆえに──剣士に対して、もっとも痛烈に作用する。

「待て、このっ……!」

腕を抑え、激烈な痛みにさらされながら、武蔵は叫ぶように言った。
おびただしい血液がその身を汚している。常人ならショックで死んでもおかしくない量。
だが武蔵はむしろ──阿修羅のごとく強い意志で叫びを上げる。

だが──燕はすでに逃げていた。

武蔵の刃を逃れたスモーキーは、舞うように飛び、基地を後にしていく。
それを追うほどの力は今の武蔵にはいない。
気力はあれど、その流れ続ける血がそれを許さない。

──このままじゃ、死ぬのは、私の方か。

あらゆる意味で常人ではない彼女だったが、しかし血を流せば死ぬ。
腕を斬られ、このまま何もできずにいれば、死が来ることは明白だった。

──馬鹿。こんな半端な心地で、私は……っ!

何故自分が腕を失ったか。
その理由を武蔵は直感的に理解していた。

ここにきて、あまりにも自分は半端な想いだった。
先の戦いでスモーキーを殺せず、それでいてあの放送の少年を助けに走ることもできなかった。
今の戦いにおいても、迷わずスモーキーを殺す気であれば、こんなことにはならなかった。
あるいは最後まで説得を続けるつもりであったのなら、きっとまた別の結末があった。

剣を、強さを求める訳でもなく、さりとて人道を邁進する訳でもない。
どっちつかずの──半端な者。

そんな甘えた性根で戦えば、こうして現実に痛みが帰ってくる。
その事実を噛み締めながら、武蔵は屈辱に顔を歪める。
ただただ己の不甲斐なさが憎かった。

「剣を……剣を握る!」

あるいは柳生但馬守宗矩と剣を交えることができていれば、このような半端な自分は死んでいたかもしれない。
そんな女々しい想いさえ過る中、武蔵は残った左腕で剣を握りしめる。

──強く、強くあらねば。

おびただしい血を撒き散らす中、異様な眼光と共に彼女は立ち上がり、そして──

233SHADOWS DIE TWICE ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:30:39 ID:npg21CXc0


【B-5・自衛隊入間基地/1日目・朝】

【新免武蔵守藤原玄信@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、疲労(小)、右腕が斬られた・隻腕、血まみれ
[道具]:物干し竿@Fate/Grand Order(半分斬れてる)
[思考・状況]
基本方針:無空の高みに至る。藤丸立香と合流する。
1:----------
2:強者との戦いで、あと一歩の剣の『なにか』を掴む
[備考]
※参戦時期、セイバー・エンピレオ戦の最中。空位に至る前。
※彼女が知っている藤丸立香は、というより何故かこの宮本武蔵は、『男の藤丸立香』を知る宮本武蔵である。
※放っておくとあと数時間で死にます

【スモーキー@HiGH & LOW】
[状態]:体力消耗(大)、気絶、病気、返り血
[道具]:基本支給品一式、斬刀・鈍@刀語、仮面ライダーインペラー(ブランク体)のデッキ、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:全員を殺して、無名街へと、家族の下へと帰る。
1:??????
2:MAP上の無名街に向かう
[備考]
※契約していたギガゼールが死亡したことにより仮面ライダーインペラーに変身するとブランク体になります。コントラクトカードでミラーモンスターの再契約しない限りはこの状態が継続します。



【斬刀・鈍@刀語】
「切れ味」に主眼が置かれた完成形変体刀。
刀身によって物質の分子結合を破壊しているため、文字通りあらゆるものは斬れる。
ただし、もとより武器も鎧も使わない七花相手にはあまり意味がなかった。

234 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/05(土) 17:30:57 ID:npg21CXc0
投下終了です。

235名無しさん:2019/10/05(土) 18:06:26 ID:z2I/eVXk0
投下乙です
武器の差とはいえまさかの武蔵ちゃん敗北、どうなるんだ…

あとハイローワーストクッッッソ面白かったから是非観て、どうぞ(ダイマ)

236 ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 21:48:10 ID:Olz23ZYc0
すいません。ちょっと遅れます。

237 ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 23:17:48 ID:Olz23ZYc0
投下します。

238チカラの限り生きていくのだ ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 23:19:05 ID:Olz23ZYc0
『それではいきますよー』
 
 緊張感のないBBの声は、これまでの時間で発生した死亡者の名前を読み上げようとした。
 どどど、どどどど、どどどどど──出来の悪いドラムロールの口真似が鳴る。
 かぐやは咄嗟に耳を塞ぎ、次に続くであろう言葉を遮ろうとした。
 だが次の瞬間には、それが無意味なことであると知る。如何なる技術によってか、かぐやの聴覚に直接届くBBの声は、耳を塞いだ程度で妨げられるものではないのだから──それに。
 それに、たとえBBチャンネルを聞かなかったとしても、かぐやの目の前にある光景が変わるわけがないのだから。
 石上優の声を聞いたかぐやが駆け付けた先にあったのは、まるで巨大なハンマーを何度も振り下ろされたかのようにぐしゃぐしゃに潰されている死体だった。
 服装、髪、そして先ほど聞いた声──それらを統合して考えてみれば、その死体の正体が何者かなど、すぐに分かる。だが分かりたくない。友人であった藤原千佳の死をたった六時間前に経験したばかりのかぐやにとって、近しい者の更なる死は受け入れ難い情報であった──が。

『石上優』

 脳内に響く声は、残酷なまでにはっきりと、眼前に転がる死体の名を告げたのであった。
 
X X X X X

239チカラの限り生きていくのだ ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 23:19:51 ID:Olz23ZYc0
X X X X X

夜明けを迎えた孤島を走っていた鋼鉄のバーサーカー、フローレンス・ナイチンゲールが見つけたのは、グロテスクな圧殺死体と、それを前にしてショックを受けた様子を見せている四宮かぐやだった。
 
──間に合わなかった。

先ほど聞こえた声の主の命を救えなかった事実に、ナイチンゲールは心を痛める。しかし、嘆いている暇はない。
彼女が今すべきことは──いや、いつだって彼女が最優先にすることは、患者の治療だ。
そして治療を必要としている患者は目の前にいる。
 
──死体を目撃したことで傷を負った少女の精神を治療しなくては。

もしかすると、少女は死体と親しい間柄だったのかもしれない。そうでなくとも、このような惨状を見た人間が心に受けるダメージは、甚大なものになるだろう。
 だが──

「…………?」

 治療の為にかぐやの傍まで駆け付けようとしていたナイチンゲールは、その途中でかぐやに違和感を覚えた。
 これは珍しいことである。いつだって相手の患部を迷うことなく──それが正確であるかは別として──見抜いている彼女が、違和感などという曖昧なものを覚えるとは。
 ナイチンゲールは思考する……もしや、かぐやは見立てとは別の疾患を抱えている? いいや、それはない。彼女の肉体は上質なメンテナンスが施されたかの如き健康体だ。精神に抱えている負傷以外に、治療を必要とする箇所は見当たらない。
ならば何処に違和感を覚えたというのだろう。

「……ああ、なるほど」

 暫くしてナイチンゲールは、違和感の正体に気が付いた。
 その時になって、かぐやは自分に向かって迫ってきている存在がいる事をようやく知る。すわ敵かと思ったのか、回避か逃走を試みたが、石上の死のショックでまともに動かない脚はどちらも許さなかった。
 対するナイチンゲールは、判明した違和感に対処すべく拳を握り、かぐやの影に目掛けてそれを叩き込んだ。
 ゴガッ、と、ナイチンゲールの女性的魅力に溢れる肉体の何処から出てきたのか不思議になる膂力で、少女の姿形に日光を遮断されていた地面は陥没する。
 あまりに非現実的な破壊を目にしたかぐやは、声にならない悲鳴を上げた。

「違和感ではなく既視感──既に見たことがある症例だったのですね。私としたことが、とんだ不覚です」

 ナイチンゲールは冷静な口調で呟いた。

「ですが……ええ。ちょうどいいでしょう。彼女と共に貴方の精神も治療します。出てきなさい、ミスター・エドモン・ダンテス」

 既視感の正体に──かぐやの影に潜んでいる者に向かって、ナイチンゲールは告げた。それは相手に有無を言わせない強靭な意志を感じさせられる口調だった。

240チカラの限り生きていくのだ ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 23:20:20 ID:Olz23ZYc0
「クク」

 ナイチンゲールの命令に対し、返された答えは、短い笑い声だった。
 それと共にかぐやの影が、まるで生物のようにぞわりと蠢く。やがて、影の中から更に影が飛び出してきた。その正体は、黒いコートを身に纏った男だった。
 影の名は巌窟王。少女の復讐と脱獄を見届けんとする復讐鬼である。

「どうやらお前の『治療』は、この島においても変わらないようだな、メルセデス」
「そういう貴方も相変わらず私の名前を間違えるのですね、ミスター」

 会話を交わしながら、ナイチンゲールはいつの間にか左手の五指に挟むようにして握っていた四本のメスを、巌窟王に突き刺そうとした。しかし、その治療(攻撃)は容易く躱される。
 銀色の切っ先から飛ぶようにして逃れた巌窟王は、少し離れた地面に降り立った。

「まあ待て」
「待ちません」両手に構えたピストルから弾丸を発射する。「貴方は私が知る中で」背後に回られたことを察知した瞬間、円を描くように裏拳を振るう。「特に治療に非協力的な患者ですので」服を掴んで組み敷かんと、腕を回す。「まずは」高く上げられた状態から素早く振り下ろされた蹴りが地面を抉る。「行動不能にします」音を置き去りにする速度で正拳突きが放たれる。

しかし、どの治療(攻撃)も限り限りのところで巌窟王の残像を通り過ぎる結果に終わるだけだった。
ふたりの傍にいたかぐやは、ただただ困惑するしかない。
無理もない。突然現れた女性が足元の地面を粉砕したかと思えば、そこから何処かで見た気がする男性が出てきて、まるで映画のような戦いを始めるなんて、直接目で見ていても信じがたい光景である。
ナイチンゲールの何度目かの攻撃が空振りに終わった時、巌窟王が次に出現したのはかぐやのすぐ傍だった。
かぐやは己の横に立つ黒づくめの顔を見上げる。

「あっ、あの、あなた……たしか、岩窟お」
「落ち着け、とは言わん。だが動揺を無暗に表へ出さぬ術を心掛けろ。この島を生き抜く上でそれは欠かせないし、お前の精神を治療しようとしているあのバーサーカーの前では猶更だ」

 そう教える彼の顔は、やはり見覚えがあるものだった。
その衣服に染み付いた煙草の匂いが、かぐやの嗅覚を刺激する。

「あの放送で」巌窟王は言葉を続ける。「お前は数時間前と同等に深い傷を心に受けた。成程、そういう意味ではメルセデスの見解は間違っていないだろう──だが」

 ナイチンゲールの鋭い蹴りが、巌窟王の体の中心を狙って放たれる。
 しかし脚が伸び切った頃には、蹴り飛ばされているはずの患者の姿は忽然と消えていた──傍にいたかぐやと共に。
 頭上に気配を感じたナイチンゲールは、顔を上げる。そこには、かぐやを両手で抱えて空高く飛び上がっている巌窟王の姿があった。その姿はまるで、とっくに朝を迎えた空の一点にだけ夜の暗闇が点在しているかのようだった。

「だが!!」

 中断された台詞を再開すべく、彼は叫ぶ。

「その悲劇に貴様の心は屈するのか? あの女の『治療』を受けねばならぬほどに、どうしようもなく病んでしまうというのか?」
「…………」
 
 巌窟王の問いに、かぐやは咄嗟に言葉を返せないでいた。
 それは近しい者の二人目の死を経験したことで、彼女の心の弱い部分が悲鳴を上げていることの証左だ。
なんなら本当に悲鳴を上げて、「どうして」「またなの」と泣き叫びかねないくらいである。
そんな暗く沈んでいる彼女の視界に、強烈な刺激が紛れ込んだ。
陽光だ。
 巌窟王に抱えられて空高くまで来たことで、東の空から姿を現した太陽の光が、障害物を挟まずはっきりと届くようになっていたのだ。
 真っ白な、闇とは真逆に位置する光──それはまるで。
 頭脳(内)戦において、暗闇に沈んでいた法廷が砕け散った先に見た、眩い光景のようであった。
 光を見たことで、四宮かぐやは自分の根底にあった想いを思い出した。

X X X X X

241チカラの限り生きていくのだ ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 23:21:21 ID:Olz23ZYc0

重力に従い着地すると、巌窟王はかぐやを下ろした。

「もう逃げ回るのはやめなさい、ミスター。これ以上貴方たちの治療が遅延するのは困ります」

 ふたりに向かって、ナイチンゲールは近づく。それはまるで、戦車のような迫力を感じさせる足取りだった。
 そこで急に口を開いたのは、かぐやだった。

「違う……私は諦めない」

 かぐやが突然言った台詞に対し、ナイチンゲールは怪訝な顔つきを見せる。一方、巌窟王は何が面白いのか口元を歪めていた。
 
「あの人と一緒に生きたいと心の底から想っているんだから、こんなところで立ち止まるわけにはいかないのよ」

 故に、彼女は折れるわけにはいかない。屈するわけにはいかない。諦めるわけにはいかない。

「それと貴方」先ほどまで巌窟王、あるいは自分に向かって言っていたかのようなかぐやの台詞は、ナイチンゲールに向けられた。「貴方の言う『治療』を受けている暇なんてないわ」

 鋼鉄の女に負けず劣らぬ意思を持って、少女は言い放つ。

「だって……早く会長に会いたいんだもの。こんなところで時間を使ってなんかいられない」
「──成程」

 かぐやの言葉を聞いたナイチンゲールは、納得したようにつぶやいた。

「『会長』。それが貴方が心に負った傷の特効薬となりうる存在ですか」
「ええ、その通りよ」
「ならば、一度それによる治療を試してみましょう。無論、それでも回復が見込めなければ、他の治療法になると思いますが」

 『それでも』なんていう事態はあり得ないことを確信しているかぐやは、ただ悠然とした態度を持って返答するだけだった。
 先の放送で名前が呼ばれていないのだから、会長がこの島の何処かで生存しているのは確実だ。
 嗚呼、早く会いたい──会長のことを思うだけで、胸が病に侵されたかのように熱を帯び、高鳴るのを感じられる。この狂おしくも愛おしい想いさえあれば、どんなことでも出来そうだ。
 恋の病を患う乙女は、そんな万能感さえ抱くのであった。
 
X X X X X

242チカラの限り生きていくのだ ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 23:22:24 ID:Olz23ZYc0

ナイチンゲールの治療を断ったかぐやがその後おこなったのは、石上の埋葬だった。いくら普通の女子高生より鍛えられた体をしているとはいえ、人ひとりを埋める穴を掘るのはかなりの重労働だったが、それはナイチンゲールと巌窟王も手伝ってくれたので、比較的早い時間で済んだ。
 
──藤原さんと違って、埋葬できる死体が残されたのは、せめてもの救いかしら。

 とはいえ、石上の死体は形としては残っているものの、原型としては残っていなかった。まるで赤土の泥で作り上げてすぐに崩れてしまった人形みたいである。
人体をここまで破壊するなんて、どれほどの力を持っていれば可能な事なのだろう。
ちらりと、さきほどナイチンゲールが見せた剛力が頭によぎる。アレくらいの力があれば余裕だろう。勿論、かぐやはナイチンゲールがこの死体を作り上げたとは思っていないが、それはつまりあれくらいの力を持った参加者が、他にもこの島に居るという結論に繋がる。
 かぐやは石上を殺し、そして今もこの島の何処かに居るであろう犯人に向けて黒い感情を高ぶらせた。その感情は巌窟王が言うところの恩讐であった。

「振られてしまったな、メルセデス」

 簡易的に作られた墓の前で手を合わせているかぐやの背中を、僅かに離れた場所で眺めながら、巌窟王はナイチンゲールに語り掛けた。
 
「私が提示できるプランよりもより適切な治療が見つかっただけの話でしょう。喜ばしいことではないですか」
「クハハハハ!」

 愉快極まりないといった様子で上げられた笑い声は、朝を迎えたばかりの空に響いた。

「とはいえ、治療すべき患者が減ったのは良いことです。その分貴方の治療に注力できるのですから」
「…………」
「さて、それでは」

 治療を開始しましょう──と。
 ナイチンゲールは指をゴキリと鳴らした。
 それに対して巌窟王が見せた反応は、無言で姿を消す事だけだった。まるで最初から蜃気楼が見せていた幻だったかのような消え方だった。
 逃亡である。

「あっ」

 辺りを見渡すナイチンゲールだが、どこにも彼の姿は見えない。また、先ほどのようにかぐやの影に潜んでいるわけでもないようだ。
いったい何処に消えたのやら。

243チカラの限り生きていくのだ ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 23:22:53 ID:Olz23ZYc0
【C-4/1日目・朝】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい】
[状態]:疲れ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、H&K MP7@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:私はスキを諦めない
1:会長と会いたい。
2:石上を殺した犯人を許さない。
3:巌窟王さん……本当にいたのね……
4:なんだか銃の使い方がわかった気がする
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます


【エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:復讐。脱獄。その手助け。
1:巌窟王として行動する
2:何のかんの言いつつ、かぐやに陰ながら同行し、そのピンチには駆けつける(?)
3:メルセデスの治療は避ける。
[備考]
※参戦時期、他のFate/Grand Orderのキャラとの面識、制限は後続に任せます
※ナイチンゲールから見つからないところに消えましたが、かぐやになんかあったらすぐ駆け付けられるくらいのところにはいます。

【フローレンス・ナイチンゲール@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(大)
[道具]:基本支給品一式、魔術髄液@Fate/Grand Order(9/10)、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:救う。殺してでも。
1:目の前の病に侵された者たちを治療する。
2:傷病者を探し、救助する。今は拡声器の少年の生死を確認したい。
3:童磨は次に会ったなら必ず治療する。
4:『鬼化』を振り撒く元凶が、もし居るのなら───
5:かぐやの治療は特効薬の結果を見るまで保留。エドモン・ダンテスは捕獲次第直ちに治療する。
[備考]
※参戦時期はカルデア召喚後です。
※宝具使用時の魔力消費量が大きく増加しています。
※円城周兎からナノロボについて簡単な説明を受けました。
※沖田総司をカルデアに召喚された沖田総司であると認識しています。
※情報交換により前園、権三の情報を得ました。
※ナノロボの暴走による爆発に巻き込まれましたが、現時点では影響は不明です。

244 ◆3nT5BAosPA:2019/10/05(土) 23:23:17 ID:Olz23ZYc0
投下終了です

245 ◆OLR6O6xahk:2019/10/08(火) 16:19:35 ID:PEYi35pU0
投下します

246「衝戟に備えろ」 ◆OLR6O6xahk:2019/10/08(火) 16:24:28 ID:PEYi35pU0

マンションの構造は一時間以上かけて理解し、爆弾の設置も終えた。
仕掛けた場所は大まかに分けて三か所。中層と下層、そしてエレベーターシャフトである。
爆破は二回。まず中層を爆破し、次にエレベーターシャフトと下層を一気に爆破。
最後に火力が足りなければダメ押しでゾルダのファイナルベントを撃ち込めば満遍なく要所に爆風が届き、
倒壊まで運べるだろうというのが傭兵として爆発物にも精通する佐藤の見立てだった。

中層を爆破してしまえば上層と下層は断絶し、このペンタゴンから降りられなくなってしまうが、佐藤にとっては問題はなかった。
彼には二通りの脱出方法があるからだ。

まず一つ目は亜人の能力を利用した投身自殺。
ペンタゴンの高さなど、不死の亜人にとっては飛ぶに何の障害にもなりはしない。
投身自殺後、生き返り安全な場所まで離れた後下層を爆破とエンドオブワールドを撃ち込む、というのが第一案。
もう一つはゾルダに変身しミラーワールドを経由した脱出だ。
これは爆弾を設置する際にテストを行ったが、支給品の説明書の通りに鏡の中に入ることができた。
全く不思議な代物であるが、鏡面世界には入った瞬間警告音が高らかに鳴り響き、数分といる事も出来なかった。
ライダーの身体能力ならば一分あれば離脱は十分可能であるし、IBMを用いてもよいのでそこは問題ないのだが、リスクも存在する。

説明書曰く、もしミラーワールドでアクシデントが発生すれば変身者は光となって消滅してしまうというからだ。
さしもの亜人と言えども、光の粒子に変換されてしまえば生きてはいられないだろう。
とはいえ、ミラーワールドに入る事のできる人物自体ほぼライダーに限定されているし、どの道首輪が爆破されるまでに脱出しなければならないため頭の片隅においておける程度のリスクである。
リスクを計算に入れてもゲリラ戦や電撃戦を得意とする佐藤にとって、姿や音や匂いからの追求を回避可能な通行路として使えるミラーワールドは魅力的であり使わない手はなかった。

むしろ佐藤としてはよりHARDなリスクが欲しい所であった。
難易度が高ければ高い程、温厚そうな顔の裏で意思を燃やすのが彼という男なのだから。


「うーん、やっぱり『爆破セレモニー』っていうぐらいだし、何人かは観客が欲しいねぇ」


今この瞬間爆破してもよいが、それではペンタゴンの倒壊は目にできても、爆破の瞬間は見逃す者も多いだろう。
きっと派手な花火になるため、それは少しもったいない気もする。
一応の宿敵である永井圭がいればいい反応が期待できるのだが。
そこまで考えて、佐藤の脳裏に先ほど見た一団が蘇る。


「あ、そうだ。あのライダー君たちがいたっけ。出てくるかどうか分からないけど呼んでみるか」


蝙蝠のモンスターと飛行していた自分と同じ仮面ライダー。
あの時は民家一つ一つを探す手間と時間を考えて断念したが、辺り一帯を見渡せるここならば話は別だ。
炙り出す事もゾルダの遠距離攻撃能力ならば十分にできる。


「よし、一つ試してみるか――変身」


友人を自宅に招くような気軽さで佐藤は行動に移す。
再び緑の装甲服がその身を包むと、腰のバックルからカードを引き抜いた。

―――SHOOT VENT―――

247「衝戟に備えろ」 ◆OLR6O6xahk:2019/10/08(火) 16:26:43 ID:PEYi35pU0

無機質な電子音が響き、手中に巨大な砲が現れる。
ゾルダによって強化された視野に広がるのは、朝焼けに包まれる島の景色だった。
しかしそんな景色は何の価値も持たないと言わんばかりに彼はその手の砲を指向する。

狙うは先程見たライダーが降り立ったE-6地点。
隣接しているエリアのため、ギガランチャーの射程内だったのは幸運だっただろう。
そして引き金を絞ろうとしたところで、先程爆弾を貰った少年も其方の方向へ向かっているのが見えた。
何か恐ろしい物を見ているかのようにのたうち回り、足取りはおぼついていなかったが。
一先ず、あの進軍速度ではこれから行う無差別砲撃に巻き込む恐れはないと佐藤は推察する。


「それじゃあ一発目、行ってみよう」


引き金が今度こそ絞られ、砲火が適当に狙いを付けた民家へと炸裂。
誰もいない民家だった様子で、出てくるのは煙と炎だけだったが佐藤は気にしない。
元より当たるなどと思ってはいないし、当たられても困るからだ。
あくまでこの砲撃は狼煙に過ぎないのだから。
そのためあのライダーが炙り出されればその時点で砲撃を中止し、Vサインでも佐藤は送って待つつもりだった。
余り攻撃しすぎて逃げることを優先されては本末転倒である。
逃げるよりもここまで赴き倒す方が安全を確保できる、そう思わせる事が肝要なのだ。
それでもなお逃走を優先するのであれば…それはもう仕方ない。その程度の手合いならば彼からしても論外甚だしい腰抜けという事になる。
その場合でも視線はこのPENTAGONに送られ、爆破の瞬間を見届けてもらえる可能性は高まるだろう。


「いやあバトルロワイアルの会場はよく燃えるねぇ」


邪気のない言葉と共にまた一つビルディングの壁が吹き飛ぶ。
こうやっていれば、あのライダー達のみならず砲撃に気づくものもいるかもしれない。
砲撃に気を取られて接敵に気づかぬことがないようIBMを放ち、更にはミラーワールドからマグナギガがPENTAGONの周囲を見張っている。


「あの時はハンニバルだったけど、今度はダイ・ハードだね」


フォージ製薬本社ビルでは航空機での突撃をおこない、フォージ安全ビルではゲリラ戦をくり広げた佐藤だったが、爆弾は使用しなかった。
そのため、現状の自分とより近いシチュエーションである傑作アクション映画が浮かんだのだ。
そんな他愛のない事を考えながらも引き金を絞り続け、その度に砲火と戦塵がまき散らされていく。
世界が彼の戦火によって塗り替えられ、侵略されていく。
まだ見ぬ強敵に夢を馳せながら、不死の怪物は破壊の序曲を奏で続ける―――、


【E-7/PENTAGON付近/1日目・朝】

【佐藤@亜人】
[状態]:健康
[装備]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW

[道具]:基本支給品一式、日本刀@現実

[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.PENTAGONが勝つか、花火が勝つか、実験だよ実験。爆弾設置して準備万端だ。

2. 飛んでいたライダーに興味。
来てくれないかな〜。
3. PENTAGONの前でふたりの参加者を殺した犯人に興味。

[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。

※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。

※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。

※変身中に限りIBMを二回以上出せるようです、どれ程出せるかは後続の書き手氏にお任せします。

※飛行中の龍騎の姿を確認しました。

248 ◆OLR6O6xahk:2019/10/08(火) 16:27:22 ID:PEYi35pU0
投下終了です

249名無しさん:2019/10/09(水) 18:34:25 ID:bZpx4KAs0
投下乙です
佐藤さんが楽しそうで何より
無惨様ももっと遊び心を持てばいいのに

250 ◆GO82qGZUNE:2019/10/11(金) 16:39:35 ID:NYpgJLqY0
冨岡義勇、雨宮雅貴、クラゲアマゾン予約します

251 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:39:56 ID:ZJglAnJo0
投下します

252見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:40:40 ID:ZJglAnJo0



「……」

「……」

「……」

「………………」

「………………………………………………………………………」







253見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:42:08 ID:ZJglAnJo0






 自衛隊基地を目指そうとアクセルを吹かしてから十分ほどの時間が過ぎていた。
 移動は今のところ順調そのものだ。襲撃どころか人影すら全く見えない。いや害意さえ無けりゃいい加減誰かと会いたい気持ちもあるのだけど、邪魔がないという意味では順調だった。
 それはいい。だが問題がひとつ。

「………………」

「……なあ、これからのことなんだけどさ」

「黙って前を向いていろ」

「……」

「……」

 気まずい。
 本当に気まずい。
 いつも一緒にいた広斗だって似たようなむっすり野郎だったけど、でもなんだろう、方向性が違う。広斗は「ああ今機嫌が悪いんだな」とか「これ面倒だって思ってるんだな」と分かるが、こっちは何を考えているのかまるで分からない。何その表情、どんな感情の顔それ。
 しかもさっきから微動だにせずこっちの背中を見つめてきてる。後ろを振り向いたわけじゃないけどそれは分かる。だって視線が痛いほど突き刺さってくるし。いや俺そんな殺気とか云々に敏感なありがちな達人じゃねえんだけど、でもなんで分かっちまうんだこれ。どんな視線だ、マジでこえぇんだけど。なにこいつ。
 さっきから何度も話しかけてはいるけど、その度に素っ気なく返される。安全運転しろってのはその通りだけど、でも色々話さなきゃいけないことってあるじゃん。もうちょっと愛想よくしてくれたっていいんじゃねえの? せめて事務的な会話くらいはさぁ。

 などとぶつくさ考えながらバイクを走らせ、そろそろ街を抜けるかというところに差し掛かった。
 その時だった。

「止まれ」

 突拍子もない義勇の一言。雅貴は僅かな躊躇もなくバイクを横倒しに急停止させた。
 アスファルトを擦る特有の音は一瞬、すぐに静寂がその場を満たす。

「誰かいるのか」

「敵だ」

 言われ、周囲を見渡す。誰もいない。街中を抜け出たばかりの一帯は舗装された路地だけが一直線に伸びており、一番近い建造物でも50mは向こうにある。誰かが近づいているならば見落としようもない立地。
 ならばどこに誰がいるのか。雅貴は一歩足を踏み出し。

 ぞわり、と肌が泡立った。

254見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:43:25 ID:ZJglAnJo0

「……!」

 視線を正面に固定したまま、ゆっくりとカードデッキを構える。ミラーに映る自分の姿を見るよりも早く、漆黒の装甲が音もなく瞬着する。

 何かが、いる。
 姿は見えず声も聞こえない。だが、いる。確実に。

 自分の物ではない誰かの視線と意思が周囲の空間を満たし、巨大な生物の体内に閉じ込められたような感覚。鎧で体を覆っているにも関わらず、丸裸で雪原に放り出されたかのように肌に突き刺さる怜悧な殺意。
 いや、これは殺意や敵意といった熱のあるものではなく……
 昆虫の捕食本能めいた、もっと無機質な脅威にも思えた。

 "……義勇"

 口にしかけた言葉を寸前で呑みこむ。声を発した瞬間に奴は襲ってくる───そんな確信がある。義勇が白銀色の剣を下段に構える様を視界の端で捉える。空気が重い。あまりに音が無さすぎて、逆に耳鳴りが聞こえてきそうだった。
 相手の正体も攻撃方法も分からないこの状況で、もっとも適切な防御手段は「避ける」こと。オルタナティブ・ゼロという強固な鎧こそあるが、水澤悠のような人智を超えた力の持ち主を、雅貴は既に知っている。とにかく相手の能力を見極めないことには「受け止める」ことも「撃ち落とす」こともままならない。まずは攻撃方法を正確に見極める目と、攻撃より早く動く足が必要だ。

 どこから来る?

 半身に構えた手先が汗に濡れ、心臓が鼓動を増していく。小さく息を吸い込み、吐き出し、圧力の放たれる先に向かって更に一歩、踏み込む。
 その瞬間、雅貴は自分の間違いに気付いた。
 正しい選択は「避ける」ことではなく「受け止める」ことだった。

 ───攻撃は全方位360度からやってきた。



 咄嗟に後方へ跳躍し、裏拳の形に握った右手を水平に振り抜くことで精一杯だった。
 上空、地面、四方の空間───考え得るありとあらゆる場所から突き出た「なにか」が、あらゆる角度から雅貴を襲ったのだ。
 振り抜いた拳が正面と右方からの攻撃を撃ち落とし、脱出のためのスペースを生む。半ば倒れ込むような格好で着地すると同時、雅貴の横を滑り込む形で義勇が踏み込んだ。

 ───水の呼吸 拾壱ノ型 凪

 踏み込み一閃。空間を塗り潰す邪気の一切と共に、暴威の悉くが薙ぎ払われる。
 裁断され宙を舞う細かな破片。雅貴はそこで、やっと攻撃の正体を認識する。

255見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:45:16 ID:ZJglAnJo0

(これ、触手……か?)

 それは一言で言うならば、クラゲの触腕めいた半透明の物体。
 シャボン液めいて七色に明滅する柔らかなそれが、方向の別なく殺到し地面からは針山のように突き出していた。

「下がっていろ」

 雅貴の困惑に先んじて義勇が動く。尚も止むことのない触手の波濤に向けての二撃目、殺意の塊が切り払われる。視認もできない致死の猛撃が無為なゼラチン質の塊となって飛散し、次々と地面に落ちていった。
 結果だけを論じるならば、初撃における雅貴の「後退」という選択は正しかったと言えるだろう。何故なら彼が飛んだ先は義勇の間合い、すなわち凪が及ぶ範囲の中であったのだから。
 水の呼吸拾壱ノ型・凪。それは間合いの域を踏み越えて結界の領域に到達した斬閃の嵐。通り過ぎた先は全てが無となる。凪と化す。
 だがそれも、あくまで刃の届く先までだ。冨岡義勇は人であり、条理を無視した血鬼術を使う鬼とは違う。剣理とはすなわち理論的に構築された術理であり、不可能を可能とするものではない。
 然るに雅貴が凪の間合いに退避したのは間違いなく正答であり、同時に斬撃の結界に守られた彼らがその場から動けない理由もまた明らかだった。

(これをやってる奴の姿が見えねえ。それと)

 知れず、雅貴は仮面の裏で唇を噛む。

(俺を庇ってるから、だよな)

 あるいは義勇一人だけならば、凪を維持したまま周囲の索敵ならび殲滅に移ることも可能だっただろう。
 しかし雅貴がここにおり、更に敵手の姿も見えないとなれば当然、下手に動くことはできない。攻撃が縦横無尽に襲ってくるのもマイナスに働いた。銃弾のような直線的な攻撃と違って、それのみでは発射の方向を推察することができないのだ。
 そして当然、人智を超えた怪物と鍛えただけの人間では、先に限界が来るのは人間の側。この状況に追い込まれたならジリ貧になるのは分かりきっていたことだろうに。

(やっぱこいつ、悪い奴じゃねえんだよな)

 膝をついた体勢から身を起こし、横を見遣る。義勇は変わらず無表情で何を考えているか分からないし、何も喋らないし、まあ正直苦手なタイプであることに変わりはないのだけど。
 何となく、こいつがどういう奴なのかは分かった……ような気がする。

「ワリぃけどちょっと聞けない相談だわ、それ。女の子とならともかく男と共倒れとか勘弁願いたいし」
「何を」
「まあ見てろって」

 言って腰のデッキからカードを引き抜く。この鎧、オルタナティブ・ゼロの使用方法はおおまかに理解している。鏡に映すことで"変身"できるだけでなく、カードを読み込むことで発動する特殊能力についてもだ。
 装填されるカード、【ADVENT】の機械音声、そして空間をぶち割って出現する召喚モンスターサイコローグの姿。
 実体化を迎え戦意の咆哮をあげようとしたその刹那、サイコローグの体を不可視の触手が貫いた。







256見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:46:28 ID:ZJglAnJo0





 正直な話、雅貴としては未だに信じられないことが結構ある。
 板切れを装着しただけで出現するSFめいたパワードスーツとか、カードでモンスター召喚とか、はっきり言って色々と突っ込みたい気持ちでいっぱいだ。
 挙句の果てには鬼とかアマゾン?とか出てくるし、侍とサムライが果し合いみたいなことしてたし、そのSAMURAIな義勇は明らかに人間業じゃないことやらかしてるし、広斗は美人な子とタンデムするし、いい加減普通の常識的な人間と会いたかった。
 まあ何が言いたいかってーと、異常は異常として受け入れることができてきたってわけで。
 そういうものを前提とした思考も段々とできるようになってきたということだ。

「やっぱそう来るよな」

 出現早々串刺しとなったサイコローグを目の前に、しかし雅貴は狙い通りと言いたげな声を上げる。
 不可視の敵の性質を、雅貴は何となくだが看破していた。常日頃相手をしている人間のような打算と殺気入り混じったものではない、禰豆子のような獣じみた敵意でもない。昆虫か何かのような無機的な意の発露。
 合理的に、けれども迅速に。それは一見すれば厄介この上ない性質だが、裏返せばシンプルな挙動しかできない機械のような単純さも併せ持っていた。
 例えば今、突然第三者が乱入してくればどうするか?
 人間や動物ならば、まず距離を取るなり警戒するなりの行動を取るだろう。友好的ならば話しかけるし、敵対的ならば隙を伺う。知能の差こそあれ、生物が取る行動とはそういうものだ。
 奴は違った。
 圧倒的な物量と射程距離を持つ奴は"それ"ができてしまうため、突如出現したサイコローグを"咄嗟に攻撃して"しまった。
 そしてそれは熟慮を重ねた結果ではなく時を移さず行動した結果として、全方位からのものではなく直線的な軌跡を描いている。
 その先に続いているのは、最早言うまでもない。

「ッシャアッ、ビンゴ!」

 視線の先、揺らめく陽炎のような輪郭を見つける。
 それは紛うことなき敵の姿。今まで安全地帯から散々自分達を嬲ってきた倒すべき相手の居場所に他ならない。
 気合裂帛。踏み込んだ足が地を削り、加速度が水のように全身の筋肉を伝う。
 視界の果てでは新たに無数の触手が爆縮するように放たれるが、遅い。

257見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:47:56 ID:ZJglAnJo0

「オォ、ッラァ!」

 全力の加速はそのままに、捻りを加え跳躍することで無理やりに側方への転換を成し遂げる。顔面の数センチ脇を触手の大群が通り過ぎるのを感覚で把握した瞬間には、着地と同時に疾走を開始。狙い撃ちの的になるつもりはなく、故に動きを止める理由もない。
 正面からの攻撃を撃ち払おうとした瞬間、触手の軌道が変化する。文字通り意思を持った生物のように、無数の触手はそれぞれ独立した動きで腕を掻い潜り、雅貴の懐に忍び込もうとする。

【ACCEL VENT】

 その一手前には既に行動を完了していた雅貴の腰部から放たれる機械音声。
 瞬間、雅貴を貫かんと迫る触手は細かな肉塊とばらけ、彼の肉体は誰しもの視界より掻き消えた。

 ……人間とは繊細な生物だ。感覚器官や肉体の各部が何か一つでも突出してしまえば、すぐさま全体のバランスが崩れてしまうようにできている。
 耳が良くなれば自然と視覚情報が鈍ってしまうものであり、その逆もまた然り。どこか一点を強化すれば、途端にプラスが見込めるほど生命は単純な構造をしていない。
 仮に千里眼を手に入れてもそれを十全に活用できず、逆に目に頼る癖がついてしまえば総合的にはマイナスだろう。
 如何に身体能力が向上し、動作速度が極限まで上がろうと、知覚領域がそのままである以上加速する肉体に思考が追いつかず、ライダーデッキの性能を十全に発揮できる者は極少数であったように。
 重要なのは強化された感覚や身体能力を適切に活かせるかということであり、だからこそ雨宮雅貴は卓越した戦闘者だった。

 滑るように地を駆け、20mの距離を一瞬で0にする。空気抵抗が体の表面を流れ、微かな風を鎧越しに感じた。
 踏み込みざまに、一撃。
 突き出した右の拳は人体ならば粉々になるほどの威力を以て進み、何の抵抗もなく敵手の肉体に突き刺さった。

 そう、何の抵抗もなく。

「って、嘘だろぉ!?」

 空中に波紋を浮かべるようにして現れた敵手の肉体は、あろうことか雅貴の拳を無抵抗に受け入れ、そのまま呑みこんでしまったのだ。まるで水の塊を叩いたかのような感触。胴体を貫通するという明らかな致命傷であるにも関わらず、ダメージを与えた手応えが全く感じられない。
 そのくせ、突っ込んだ腕は絡め取られたかのように動かない。崩れた体勢を立て直す暇もなく、新たな触手の一群が胎動を始め───

 その不可視なる総身を、清流が如き刃の軌跡が断ち切った。

258見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:48:53 ID:ZJglAnJo0

 流水に落花の如く、雅貴の目の前に舞い降りる人影。重さをまるで感じさせない足取りは見紛うはずもない冨岡義勇の姿。彼の振るう刃の煌めきが、さながら清水の激流に見えたのはきっと幻視の類ではあるまい。極限まで鍛え上げられた玉鋼の刃紋が時として雫を帯びる様に見えるのと同じく、それほどまでに流麗な一撃だったのだ。
 水の呼吸弐ノ型・水車。垂直方向の斬閃は大型の異形に対して有効に働く、広範囲斬撃の型である。

 そして義勇を挟んだその向こうでは、水面めいて波紋を浮かべる陽炎の輪郭が水の刃に裂かれ、とうとう限界を迎えたのか徐々にその姿を浮き彫りにしていた。

「……はは、マジでクラゲかよ」

 引き攣った顔で笑いをこぼす雅貴の視線の先に佇むのは、海月と人体を掛け合わせたかのような戯画的な怪物の姿。
 見てとれるほぼ全てが醜悪なその姿の中にあって、そこだけは普通の人間と酷似した造形の顔面には、無感を体現したかのような静謐の表情だけが張り付いていた。
 そのはず、なのだが。
 彫刻めいて冷たさしか感じられないはずの表情に、何か別なものが現れているような、そんな気がして。

「もう一度言う」

 耳に飛び込む一言。

「下がれ」

 忘我に近かった思考に浴びせられる声に、はっと気が付く。
 その瞬間には既に、冨岡義勇は攻撃動作を完了させていた。
 水の呼吸陸ノ型・ねじれ渦。肉体の捻りにより文字通りの渦を発生させる、より多くの面積を削り取ることに特化した型。
 流体に近い性質を持つ敵手を相手取るには通常の斬撃では効果が薄いと判断した義勇による一撃だ。発生した刃の颶風は致死の竜巻めいて、刃も拳も通さぬはずの揺らめく総身を削岩するかのように削り取った。
 だがそれでも、クラゲアマゾンの無尽蔵の生命力は尽きることなく。
 砕かれようが押し寄せる。
 崩されようが押し寄せる。
 それは底のない無尽蔵の力として、絶えず削られながらも拮抗するほどの再生能力で以て押し返す。
 足りない。この質量と再生速度を凌駕するだけの殲滅力が。

259見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:49:27 ID:ZJglAnJo0

「じゃあ俺ももっかい言うわ。嫌だね」

 故にこそ、その一撃は訪れた。
 吹き付ける烈風に首を動かすまでもなく、自分たちに向けて旋回・突進する巨躯の大質量を義勇は理解した。
 理解するからこそ迫る暴威に迎撃の凪ではなく離脱の流流舞いを選択する。
 玉響に掻き消える義勇、残される異形。そしてその視界の全面を覆うように、漆黒の鉄塊が押し迫り。

「人間舐めんなよ、ファンタジー!」

 ───耳を劈く爆轟が、辺りの大気を震わせた。











「あー……やっぱこうなるよなぁ」

 バイクに跨って一人、雅貴はカードデッキを持った手をひらひらと振る。
 そこには先程まであった力満つ紋章は消えてなくなり、無地の表面を晒しているのだった。
 ライダーデッキは契約モンスターの力を行使するものであり、デッキにはそのモンスターを象徴する紋章が施される。
 逆に言えば契約モンスターが死亡した場合はその力と紋章は消えてなくなり、カードデッキは空っぽの器───ブランク体となってしまうのだ。
 オルタナティブ・ゼロの契約モンスターであるサイコローグは召喚されてすぐにクラゲの異形に串刺しにされ、瀕死の状態で更にファイナルベントの変身を遂げて特攻し、爆発四散した。
 まさに尊い犠牲だったと言うべきだろう。ブランク体のオルタナティブ・ゼロはそれでも普通の人間など及びもつかないスペックを有するが、大幅な戦力減は免れない。
 惜しい奴を亡くした、と黙祷。0.3秒で瞼を開け義勇に向き直る。

「そんで、あいつ死んだと思う?」

「知らん」

 あまりに簡潔かついい加減な返答に、思わず非難がましい視線を向ける。一瞬の間、義勇は一つ息を吐き。

「……奴はこの時間帯、日向の場所に出てきた。俺の知る鬼ではありえない。そして俺は、鬼以外の超常を知らない」

 だから何とも言えん、と締めくくった。なるほど、と雅貴。あまりに人間離れした剣術を扱う男だと思ってはいたが、やはりというべきかこいつも非日常の住人だったらしい。
 だが、それにしても。

「鬼……鬼、ねえ」

 つい先ほどの光景を思い出す。手を振って別れた悠と禰豆子の姿。海月のバケモンに見えた、無感の表情に翳る何かの感情。
 それは、上手く言えないけど何というか。

「なんつーか……禰豆子ちゃんとちょっと似てた、のか?」

 まさかなぁ、と笑って顔を上げると、そこには相変わらずぽけっとした、けれど目を見開いた義勇の顔。
 いや、だからどんな気持ちの顔それ。

260見えざる糸 ◆GO82qGZUNE:2019/10/12(土) 14:49:49 ID:ZJglAnJo0

【C-5/1日目・朝】


【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW、明神切村正@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、コブラのスカーフ、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×数個@現実、オルタナティブ・ゼロのカードデッキ(ブランク体)、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:弟、仲間と一緒に生還する
1:自衛隊入間基地でコブラの遺体を探す。
2:広斗との合流
3:中野姉妹、鑢姉妹、竃門炭治郎を探す
4:村山とスモーキーは……まあ余裕があったら探してもいいかな
5:いずれ水澤悠、竃門禰豆子と合流する
6:あのクラゲのバケモン、なんか気になるんだよな
[備考]
※水澤悠と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※鑢七花を女性だと確信しています。


【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@FGO、
[道具]:基本支給品一式×2、木剣、ランダム支給品0〜3、真っ二つの半半羽織(私物)@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
0:禰豆子……だと?
1:鬼が潜んでいる可能性のある自衛隊入間基地に向かう。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。


【クラゲアマゾン@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ダメージ(大・回復中)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本方針:――千■、■
1:邪魔する者は攻撃する。
[備考]
※九話より参戦です。

261名無しさん:2019/10/12(土) 14:50:21 ID:ZJglAnJo0
投下を終了します

262名無しさん:2019/10/12(土) 17:00:54 ID:E1qeR1ZI0
乙です
出オチで串刺しにされ特攻させられたサイコローグ君かわいそう…。千翼を狙ってるダークウィング辺りと再契約しなきゃ

263 ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 21:38:38 ID:KY3CrG9g0
雅、予約します

264 ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 22:37:38 ID:KY3CrG9g0
投下します

265常識的に考えて ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 22:42:33 ID:KY3CrG9g0

「死んだか、人間ども」
 あっちへフラフラ、こっちへフラフラと谷底を散策しながら能天気に全裸で歩く吸血鬼……雅はまあそうだろうな、とでも言いたげに呟いた。
 放送を聞いて。名簿での「雅」や「宮本明」のそばにある名前の順序から類推できる、自分の世界から共に連れてこられたであろう……見覚えの無い名。
 恐らくは名を知らぬだけで、明の仲間か何かだろう。それらの脱落が確認されたのだ。
 雅にとってその死自体にはなんの感慨もない。
 むしろ無惨や煉獄と言った者が呼ばれていない事実の方にこそ、期待と納得を覚えていた。

「ノリの良い女は嫌いではないが――しかしなぜBBも私の世界からゴミのような人間をわざわざ選んだのだろうな。明を奮起させるためか……?
 確かに金剛や斧神を連れてきてしまうと、いささか私に有利すぎるだろうが。なら邪鬼の十体もそこらへんに野生させておけばもう少し面白かっただろうに」
 まるでゲームをやる友人のプレイスタイルに対し、ふざけつつも少し辛口で評するかのように、BBの采配に疑問を抱く雅。
 BB当人が聞けば『それを「面白い」と考える感性はあなただけだと思いまーす!』とでも自分を棚にあげてつっこむであろう言葉だ。

266常識的に考えて ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 22:45:55 ID:KY3CrG9g0
 にしても、やはり不死でない人の身にも関わらず生死の境界を幾度となく越えられるのは明だけか――と雅は再認する。
 あらゆる条理を踏破し、その道を遮るいかなる存在をも叩き斬る男。
 技を超えた理不尽。
 生命を超えた執念。
 動けぬハズなのに動く。戦えぬハズなのに戦う。邪鬼よりもなお地獄の悪鬼のような救世主、それが宮本明。
「私を本当に楽しませられるのは……お前だけなのだろうな、明」
 自身を憎悪し、その存在を揺るがしかねない男を雅はまるで、旧友でも思い返すように噛みしめる。

 このように今まで出会った強者や黒幕を認めてはいるが、雅は別段謙虚というわけではない。むしろ傲慢にも己こそ全ての生命の頂点と考えている。

 雅は力を欲する。
 雅は権威を欲する。
 雅は強敵を求める。
 雅は不死を求める。
 雅は女色を好む。
 雅は座興を好む。
 雅は人を厭う。
 雅は退屈を厭う。
 そして――雅は時に人を愉快に思う。

 それら全てに矛盾は無い。要は雅にとって面白いことがあって、なおかつ自分が君臨できればそれでよいのだ。
 極端な話、時には己が生命すら楽しむためのオモチャに過ぎない。
 無論雅は人を嫌ってはいる。纏めて病も苦しみからも縁遠い自由な吸血鬼にでもなってしまえと考えている。
 だが人の中に面白い敵がいるに越したことは無い。

 俗物にして超越的。小物にして鷹揚。短気なようでいて神経が図太い。それ故に雅の行動を完全に予測しきる事は誰にも――あるいはおそらく神にすらできない。

267常識的に考えて ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 22:52:36 ID:KY3CrG9g0
 だから雅は特に意味なくぶらぶら散歩をするし、気分次第で湧水でも飲む。人も喰らう。
 戦いの最中うっかり滑って転びもする。あるいは異常な強さと冴えであっさりと人間側の色々な作戦をひっくり返す。
 どうしようもなく大雑把で適当なところを見せ苦悶と激昂の醜態をさらしたかと思えば、
吸血蚊を培養し国家単位で吸血鬼を蔓延させるなど、悪辣にして凶悪な策をさらりと実行せしめる。

 その雅が今は何を考えているかと言うと。思索にふけっては谷を見回し……少し、この殺し合いに対して呆れていた。
「大体けち臭いぞ、BB。見た限りロクに刀すら無いとは――不可思議な支給品でそこはハンデや殺し合いが進むよう差異を付けているのだろうが」
 殺し合いが始まってから放送になるまで色々と練り歩いたが、まだ刀剣のひとつも見つけられない。
 この時点で雅からすると「しけている」と言うほかなかった。

 彼岸島ならば、少なくともそこらへんの民家や施設や谷底にはそういった武器に使える物がごく普通にあったものである。

「いや、本気で殺し合いをさせる気があるのか? あの女……」
 己に支給されたこのガトリングガンも趣向としてはそれなりに面白いと言えば面白い。
 が、アマルガムの真骨頂は大体がもっと直接的な武具を使ってこそ発揮される。

 アマルガムとは、吸血鬼が更に別の吸血鬼の血を取り込んだ混血種。
 ほとんどの個体は失敗し巨体の化物たる知性無き「邪鬼」と化す。
 だが僅か1%未満の確率を潜り抜けた個体は、知性と人に近しい体格を保ちつつも、特殊能力と剛力を兼ね備えた異形の吸血鬼として覚醒する。
 雅もそのアマルガムが一人にして先駆けである。
 ただ巨体と獣性のみの怪物然とした邪鬼と違い、アマルガムは特殊能力の他にも人を超越した膂力と知性、技巧を保つ。
 つまりは凶器――鈍器や刃物を用いることで更に凶悪な威力の攻撃を可能とするのだ。
 雅自身、鉄扇を使った際の戦闘力は時に刀を使う宮本明すら圧倒するほど、常軌を逸していた。

268常識的に考えて ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 23:00:13 ID:KY3CrG9g0
 というか。元々彼岸島の戦いを経験した者らの価値観においては、武器を持った人間や吸血鬼がアマルガム程でないにせよ異常に強くなるのはいわば「当たり前」のことである。

 弓矢を持たせれば矢で吸血鬼の顔を埋め尽くすほど蜂の巣にしてみせる娘が居る。
 鋼線を罠として細工し、象もかくやの巨体を持つ邪鬼をも切断せしめるメガネの非戦闘員らしき男が居る。
 凡百の人間ですらそこに丸太があれば振り回し、ただの吸血鬼や亡者程度ならば殺し得る。
 常識である。
 そういうヤツらと吸血鬼が殺し合うのが、彼岸島である。
 それでもなお、死ぬ時は所詮人間とあっさり死んでいくのが――彼岸島である。

 先に会った煉獄すらその強さ、その剣技の冴えすら雅にとって嬉しい誤算としての愉快な脅威であれこそすれ、決して意外ではない。
 彼岸島の戦いにおいてそれら『武装者』としての頂点。
 つまり暴力の頂点が雅をはじめとするアマルガム――あるいは人の身にも関わらずアマルガムすら屠り得る男、宮本明なのだ。

 だからこそ。不可思議な支給品を与える一方で、フィールドに通常人でも扱いやすいサブウェポンたる丸太ひとつロクに用意していないこの殺し合いは。
 雅の目からするとやけにチグハグな物にも見えた。
 
 とはいえ刀があれば丸太はそこらの木から造れるし、自分ならばどのような巨木であろうと引き抜いて丸太として振り回せるが。
 やはり肝心の刀すらロクに無いのでは普通の人間には逆境すぎると言わざるを得ない。
 これでは彼岸島どころか本土にも劣る武装の貧弱さだ。
 あるいは。

269常識的に考えて ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 23:13:34 ID:KY3CrG9g0

(もしや、殺し合いそのものではなく異なる力や異質な不死を競わせること。あるいは邂逅こそが重要なのか……?)

 あの無惨という男もそうだ。素手の自分とは言え、この雅を圧倒するほどの戦闘力と不死性を持った存在が、たかが日光ごときをあそこまで避けている。
 真に不死たる雅からすればどうにもおかしな存在だった。

 さて、となるとこれは壮大な実験の経過観察か。はたまた迂遠な儀式的要素が強いのか。
(何かの実験台になるのは久しぶりだな。面白い。面白いぞBB。ハハ、謎が多いほど女は魅力的と言うが本当らしいな)
 得体の知れないBBの存在を謎解きのように楽しみはじめる雅。
 明やまだ見ぬ強者とエンカウントするまでのヒマつぶし代わりに面白半分の推論が続くなか――雅は全く気付いていない。

 そもそも雅の居た元の世界以外では、達人ならばともかく常人では身の丈ほどの丸太など扱いきれないし、刀剣はそこらへんに落ちてない方が普通なのだという真実に。
 傍から見ればいっそ不条理とも言える奇想天外で奇妙な強さでしかないのは宮本明だけでなく、雅自身もだということに。

 なのに、雅はまるでデタラメな理屈の論法からあり得ない筋道でBBの本質や言動を見極めようとしている。
 別に雅はこの殺し合いにおける謎や目論見や原理など一切解き明かしていない。
 つまりはただの暴論に過ぎない。
 あらゆる演算、計算も通じぬ理不尽が常にまかり通る、彼岸花が咲き乱れる島の首魁。そのおかしな思考回路。
 だが、それでも動じず大筋の印象を捉えつつあるその理屈の通らなさこそが、雅の真の恐ろしさとも言えよう。

『いや、そっちの世界のノリで語られても困るんですけどぉ……』
 と、雅は耳元でBBの困惑するような言葉が、ふと聞こえたかのような錯覚を覚えた。
 真実彼女が雅にそう囁いたかは、定かではない。


 さて、面白い物が無いかとここは大体探しつくした。いい加減にこの谷を出るかと、雅は歩いていった――堂々と、全裸のままで。

270常識的に考えて ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 23:18:19 ID:KY3CrG9g0
【D-4・谷底/1日目・早朝】

【雅@彼岸島 48日後……】
[状態]:健康、空腹(小)、全裸 、のんびり散歩中
[装備]:JM61Aガトリングガン@Fate/Grand order 残弾(90%)、予備弾(100%)
[道具]:基本支給品一式、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス
[思考・状況]
基本方針:好きにやる。
0:面白そうな駒を勧誘し、最終的にBBと遊ぶ(殺しあう)
1:煉獄に強い興味。部下にしたい。
2:明と出会えれば遊ぶ。
3:次に無惨と出会ったら血を取り込みたい。
4:BBが望んでいる物は殺し合いだけではない……?
[備考]
※参戦時期は精二を食べた後です。
※死体に血を捲いて復活させるのは制限により不可能ですが、雅はそのことに気がついていない可能性が高いです。
※肉体の内部に首輪を取り込みました。体外へは出せませんが体内で自由に移動させられます。
※鮫島と山本勝次の死を知りましたが、名前を知らないしどうでも良いので「おそらく明の仲間」としか認識していません。

【JM61Aガトリングガン】
狂化した円卓の騎士、ランスロット卿がかつて第四次聖杯戦争において自身の宝具である『騎士は徒手にて死せず』により宝具化したF-15の装備のガトリングガン。
何故かカルデアの狂化ランスロットの霊基にも刻まれており、宝具使用時にはこのガトリングを乱射する、気に入ったのだろうか。
基本的には普通のガトリング銃と差異はないが、黒い魔力に浸食されていることで威力は大幅に向上している。

271常識的に考えて ◆ruUfluZk5M:2019/10/14(月) 23:19:19 ID:KY3CrG9g0
投下を終了します

272名無しさん:2019/10/15(火) 19:26:47 ID:09GVwQBk0
投下乙です
武器を探す前に服を探せ

273名無しさん:2019/10/16(水) 08:03:56 ID:Otk13X/g0
投下乙です
吸血鬼漫画の巨匠マツモティーヌ・コオジ先生ェのクソ漫画の世界観を真面目に掘り下げて他の世界と擦り合わせるなんてやっぱり書き手さんはスゲェ!

274 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 20:33:02 ID:bSIn833M0
水澤悠、竈門禰豆子、鷹山仁
予約します

275 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 21:15:43 ID:bSIn833M0
あ、すいません。予約に七実ととがめを追加します

276 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 23:37:53 ID:bSIn833M0
投下します。

277せめて人間らしく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 23:38:52 ID:bSIn833M0


悠からすると狙ったようなタイミングで、その放送は鳴り響いた。
悪趣味な言葉の数々で装飾された死者の名前。
そのうち、気になるものは二つあった。

「……ぅ」

禰豆子の指先が、悠の手のひらに絡む。
そこにあるわずかな震えはそのまま、彼女の揺れ動く感情を示しているようであった。
それは、“吾妻善逸”の名を聞いたが故の震えであることを、悠は知っていた。

「────」

だが、禰豆子はそれ以上の反応は見せなかったし、悠もあえて触れた手を握り返す以上のことはしなかった。
正確には、できなかった。
目の前に立つ男の放つ存在が、それ以上の行いを許さなかった。

鷹山仁。
不意に現れた彼は、光を喪ったその瞳でじっと悠を見据えている。
鳴り響く放送の中、二人の視線が絡み合う。

「──仁さん」

騒々しかった放送が、ぷつりと途絶えると同時に悠は口を開いていた。

「その身体……もう戦ったんですね、この島で」

身体についた煤や服の状態から悠はそう判断する。
すると仁は口元を僅かに緩め、「ああ……いたんだ」と言った。

「いたんだよ、千翼が」

──千翼。

その名が出た瞬間、悠の中で緊張がまた一段と高まる。
千翼。鷹山仁の実の息子にして、溶原性細胞のオリジナル。
それは生きるにはあまりにも危険すぎる存在だった。
仁が千翼と出会った。その言葉だけで、何が起こったのかは明白だった。

──もう、出会っていたのか。

無論、悠とてこの島に彼が呼ばれていることは把握していた。
可能であるのなら、仁が彼に出会う前に、すべてを終わらせてしまいたかった。
だが──既に仁と彼が出会ってしまっていた。
悲劇の歯車が自分を置いて刻々と進んでいることを、悠は痛感せざるを得なかった。

「仁さんは、ここでも狩るんですね、アマゾンを」
「ああ……当然だろう」

そこで仁は、にぃ、と歯を見せて笑った。

「アイツらは俺が、殺してやらないとな」

光を喪い、煤まみれの身体で、それでも口を開く彼はどこか活力があり、そのアンバランスさにこそ悠は危惧を覚える。
少なくとも──五年前の彼は、こうではなかった。

278せめて人間らしく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 23:39:20 ID:bSIn833M0

「う……」

仁の歪な有り様は禰豆子にも伝わったのか、不安げに声を漏らした。
そんな彼女を守るように悠は一歩前に出た。その間、視線を仁から一切離すことはなく。

「そこにいる奴──臭いがするな」

盲目であるが、仁の感覚は鋭敏であり、禰豆子の存在を掴み取ったようだ。
虚空を睨みつつ、だが一歩禰豆子に近づくように彼は前に出て、

「血の……人の臭いだ」
「仁さん、禰豆子ちゃんは」

仁を遮るように悠は語りかけた。
悠にとっての危惧は──仁がこの島において、どう立ち回るかだった。
声をかけることを惜しむ気は無いが、仁がこの島で戦うことを止めることはしないだろう。

問題は、仁にとって何が“標的”なのかだった。
この島にて開かれている奇妙な催しに彼が積極的に乗ることはないだろう。
何故ならば──仁は人間の味方であるからだ。
鷹山仁は人間を守る。そのためにアマゾンを狩る。それが彼が自らに強いてきた一線だった。
この島においてもそれは変わらないだろう。
少なくともその点においては、悠は仁のことを信頼していた。

だが──アマゾンでなくとも、人間でない者は?

悠は今握りしめている小さな手を意識した。
禰豆子。この島で出会った少女は、アマゾンでなくとも、自分と同じく異形であった。
では──

「ああ、なるほど、そこにいるのは子供かぁ……」
「仁さん、聞いてください。禰豆子ちゃんはアマゾンじゃないんです!」
「ああ、わかってるよ。じゃあ──」

──守らないとな。

あっけなく告げられた言葉に、え、と悠は思わず声を漏らした。
仁は禰豆子にその爪を向けることなく、一見して朗らかに笑いながら、

「ああ、でも人の臭いがするなぁ……喰ったのか」

虚空へと告げられた言葉に、びくり、と禰豆子が肩をあげるのがわかった。

「駄目だぞぉ……言われなかったか? そういうことをやると、地獄に落ちるって」
「……ぅ」

その言葉に敵意は感じられなかった。
だが虚空へと告げられた言葉は、明らかに歪で、それでいて奇妙なほど明瞭だった。

279せめて人間らしく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 23:39:45 ID:bSIn833M0

──仁さん、貴方は。

悠は鷹山仁という男の歪みをはっきりと痛感した。
鷹山仁の世界は、アマゾンであるか、アマゾンでないかで分けられているのだと。
人間であるか、人間でないか、ではないのだ。
たとえそれが人喰いの異形であろうとも、仁にとっては“アマゾンでない”ということの方が明確な意味がある。
それは──どう考えても歪としか言いようがない。

「じゃあな……悠。お前、それ──殺しちゃ駄目だぞ」

すでに禰豆子に興味を失ったのか、仁は覚束ない足取りで歩き出した。

「仁さん、待ってください」

その背中に対して悠は引き止めるべく語りかける。

「この島にいるアマゾンのうち、名簿にあったクラゲアマゾンというのは──」

名簿に記載されていた五体のアマゾン。
そのうち、一つは先ほどの放送にて呼ばれていた。
イユの名について悠とて思うところがなかった訳ではない。
だが、それ以上に今仁に告げるべきことがあった。
クラゲアマゾン。千翼と並ぶ溶原性細胞のオリジナルであり──

「──厭な音がするものですね、“あまぞん”というのは」

だが、その言葉は遮られてしまった。

ゆらり、と風に吹かれて和装が舞った。
気がつけば、その女はやってきていた。
色の白い肌をした、たおやかな印象を与える女である。

「気がついたらまた一匹増えているし、草というものは早く抜かないといけないものね」

困ってしまいます、と女は、ため息と共に言い、その姿が、ふっ、と消えた。

「──ッ!」

邂逅と同時に悠は肌で感じ取っていた。
唐突に現れた彼女──鑢七実には明白に、敵意があると。

「──アマゾンッ!!」

だからこそ動くことができた。
唸りを上げるアマゾンズドライバー。炸裂する水蒸気、熱を帯びる世界。
その向こうからやってくる虚空の刃と、悠の刃が重なり、街の中に甲高い音が反響した。

「青、赤、ときたら緑なのね。花という訳でもないでしょうに」
「下がって禰豆子ちゃん!」
「後ろの音も“あまぞん”とは違うようだけど──厭な音」

七実の異様に伸びた爪と、アマゾンオメガの手鎌が重なり合う。
彼女が何者であるのかはわからない。
だがこの島において危険な存在であることは間違いなかった。
ならば、悠がとるべき道は一つしかない。

280せめて人間らしく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 23:40:05 ID:bSIn833M0

──仁さんは!

同時に悠はあたりを伺う。
仁は、だが、襲ってきた彼女には関心を示さずにどこかに去ろうとしていく。
それはこの女が──たとえ殺人者であろうとも人間であるからか。

「あら、よそ見をしている余裕なんてあるのかしら」

仁を引きとめようにも、目の前の敵がそれを許さない。
その事実を冷静に受け止め、悠は七実と交錯した。


【C-7・街/1日目・朝】

【水澤悠@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:やや疲労
[装備]:悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式×2
[思考・状況]
基本方針:狩るべきものを狩り、守りたいものを守る
1:人を喰う、あるいは殺したモノを狩る
2:仁より先に千翼、イユ、クラゲアマゾンを殺す
3:明という人物に鮫島の最後を伝える
4:禰豆子が人として生きようとする限り、隣に立ち続ける
5:竃門炭治郎、雨宮広斗を探す
6:いずれ雨宮雅貴と合流する
[備考]
※雨宮雅貴と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※時期は2期12話より前

【竈門禰豆子@鬼滅の刃】
[状態]:健康、鬼
[装備]:王刀・鋸(小分けにして束ねて口枷にしてある)@刀語
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:人として生きたい
1:兄を探す
[備考]
※人肉を食いました。
※王刀の効果で一時的に食人衝動が抑え込まれています。
※太陽を克服しました。

【鑢七実@刀語】
[状態]:疲労(中)、割と不機嫌、返り血
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜7(確認済み、衣類系は無し) 、チェリオ(残り3)@現実
[思考・状況]
基本方針:適当にぶらつく。細かいところをどうするかはその時々で判断。
1:七花が開花したならば殺されたい
2:とがめに同行。アマゾンについての情報を集めたい。ただしとがめが完全な手遅れになるか万一七花が死んだ場合は斬る。
3:アマゾンに不快感。さっきの少年(千翼)は殺す、偶然出会った目の前の獣(悠)も殺す(ただし一応は情報優先)
4:東に留まってアマゾンを狩りつつとがめのために情報を集めようかなと思う
[備考]
※参戦時期は死亡後ですが、体の状態は悪刀・鐚を使用する前の病弱状態です。
※自分が生きているのはアマゾン細胞によるものではないかという可能性を考えています。
 また、その想像に対して強い不快感を感じています。
※見稽古によって善逸の耳の良さ・呼吸法を会得しています
※石上の声を聞いています。それにより人が集まる可能性を考えています。

281せめて人間らしく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 23:40:24 ID:bSIn833M0





──臭いがする。

不確かな足取りで、だがはっきりとした目的を持って仁は街を歩いていた。

仁は視覚を喪っている。
だがその獣のごとき感覚は、こと標的を探し出す時は鋭敏に研ぎ澄まされる。
陽が昇ったというのに誰もいない無人の街。
灰色のコンクリートを踏みならし、仁はそれを探し当てた。

「──だ、誰だ? 七実か?」

ひどく甲高い声がした。
その声には震えがあり、不安が滲んでいることを仁は掴み取っていた。

「ああ……やっぱりいた」

だから、仁はおもむろにアマゾンズドライバーを装着し──炸裂させた。
全身のアマゾン細胞が活性化し、赤い獣、アマゾンアルファがその姿を現した。

「お、お主はまさか“あまぞん”」
「あぁ……」

震える声に対して、仁は安心させるように言った。

「そうだ、お前を──殺しにきた」

と。

……彼女のことを、仁は何一つ知らない。

彼女がとがめを名乗る奇策士であることは当然、その白い髪さえ光を喪った彼には視えていない。
だが──彼女がすでにアマゾンであることはわかっていた。
アマゾンの臭いは決して隠せない。
それこそが、彼がここに立つ理由であり、生きる唯一の意味だから。

故に彼は躊躇なく、彼女を殺しにやってきたのだった。

「殺しに、来た?」

対する彼女は──そこで何かを察するように声を出した。

「そうか、私は──こういう風に失敗するのか」

その言葉に込められているのか、決して絶望や恐怖の類ではなかった。
むしろどこか、腑に落ちるような、そのような響きさえあった。

「そうか──こうして、刀を奪われた私は、何の意味もなく、甲斐もなく、愛もなく──」

──だが、その響きは次第に変わっていった。

一度は受け入れたのかもしれない。
目の前の運命、避けようもない死を。
だが彼女の中の何かがそれを許さなかったのか、異なる想いがその言葉に含まれていた。

……鷹山仁は知らないのだ。

彼女の本当の名を。
他のすべてを捨ててでも諦めることのできない、一つの目的があることを。
一族を、家族をみな殺しにされた彼女の憎悪が、その長い髪を白く染め上げたことを。

その憎悪がある限り、彼女はその命を諦めることはあり得ない。

「認めて、なるものか」

彼女──容赦姫はだからこそ、立ち上がることを選んでいた。
舞い散る熱と共に、彼女はその身を顕現させる。

その熱は仁にとってもひどく馴染みのある感覚だった。

「私は──生きねばならぬのだ」

白き長髪のアマゾンは、その言葉と共に姿を現した。
仁は笑う。
ああ──やっぱり、殺さなくてはならない。
その事実を再確認しながら、その命を刈り取るべく地を蹴った。

282せめて人間らしく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 23:40:44 ID:bSIn833M0

【C-7・街/1日目・朝】

【鷹山仁@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:盲目に近い状態
[装備]:仁のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:全ての『アマゾン』を狩る、『人間』を守る
1:千翼を殺す
2:殺し合いからの脱出
3:次に千翼と会ったら七羽さんについて聞いてみる。
[備考]
※参戦時期は2期7話の千翼達との邂逅前。
※盲目に近い状態なので文字を読むことなどはかなり厳しいです。

【とがめ@刀語】
[状態]:腹部に軽症(治癒中)、溶原性細胞感染、白い髪のアマゾン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3 (確認済)
[思考・状況]
基本方針:なんとしてでも生き残る
1:生きる
2:体の治癒が叶えば七花と合流したい。
3:できれば帰った時のためにアマゾンやその他未知の力への情報を集めておきたい
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前
※クラゲアマゾンの触手が折れた際にまき散らされた体液が傷口に付着したことで溶原性細胞に感染しました。覚醒まで時間がかかると思います。
※七実の実力を把握していません。

283 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/16(水) 23:40:58 ID:bSIn833M0
投下終了です。

284名無しさん:2019/10/17(木) 00:19:01 ID:BHVchMM60
投下乙です
読んでいて仁さんのあの笑顔が脳内で浮かび上がってくる

285 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 05:58:15 ID:cCF3JV8U0
工藤D、姐切さん、前園さん予約します

286 ◆0zvBiGoI0k:2019/10/18(金) 06:54:23 ID:t0ZduIuU0
上杉風太郎、球磨川禊、宮本明ァ予約します

287 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 16:51:05 ID:cCF3JV8U0
投下します。

288FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 16:51:54 ID:cCF3JV8U0


その昔。
天の浮舟に乗ってきた大蛇が女を孕ませたが、その後、山に入っていなくなってしまった。

やがて女は蛇のように手足のない、化け物のような子供を産み、
村人からひどい差別を受けた。

だがある日、大蛇が迎えに来て、
天の浮舟で天に去っていったという。

その大蛇をこの一帯では“へびがみさま”と呼ぶようになったという。

(暗■奇■■ 蛇女■怪)



この時三つの相すがたに分ち、顕われたる鬼女清姫、いずこより登りしともなく鐘楼にあらわる。
はなはだしき面色の蒼白は、赤き唇と小さき眼とのみありて、ほとんどなめらかなるがごとく見え、その形打ちひしがれたる蛇の首のごとく平たし。
三つの鬼女全く同じ形相にて並びつくばいたれば、左の肩よりいと長きくろ髪、石段の上に流れ横たわる。
依志子のものいうをながめてあれど、妙念もこれを背そびらにしたれば知ることなし。

(道成寺<一幕劇>)



主なる神が造られた野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇であった。
蛇は女に言った。「園のどの木からも食べてはいけない、などと神は言われたのか。」

主なる神は女に向かって言われた。
「何ということをしたのか。」女は答えた。
「蛇がだましたので、食べてしまいました。」

主なる神は、蛇に向かって言われた。
「このようなことをしたお前はあらゆる野の獣の中で呪われるものとなった。
 お前は、生涯這いまわり、塵を食らう。」

(いずれも、創世記)




289FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 16:54:28 ID:cCF3JV8U0

エデンの園とでもいうべきか。
ハートと、そしてリンゴのなった樹である。
その樹は透き通るように白く、神秘的なものであったが、同時に死を思わせるものでもあった。

いや──正確にはこれは樹ではないのだろう。
彼、前園甲士はメガネ越しにその木をじっと見据えていた。

「おいおい何だよ、こりゃあ」
「……自然に生えたもんって訳じゃなさそうだね、明らかに」

その異様な姿に対して、工藤と姐切は驚きを隠せないでいるようだった。

夜が明け、三人は本格的に動き出していた。
どうも三人がいたのは位置的には島のかなり隅だったようで、とりあえず別の参加者に会うべく中央を目指していた。
そうして辿り着いたのがこの街であり、この奇妙なオブジェなのだった。

「工藤、こっちじゃ妙な焦げ跡みたいなのもある」
「あん? なんだこりゃ……雷でも落ちたってのかよ」

奇妙なオブジェ以外にも、その一帯には不可思議な痕跡が残されていた。
派手に割れたガラス。焦げ付いたコンクリート。灰色の街に突如として出来上がった生命の樹。
誰もない街に刻み付けられた奇妙な痕に、三人は遭遇していたのだった。

と、そこで工藤がおもむろに地面、焦げ付いた痕に近づき出した。

「なるほどな」
「おい、工藤、触って大丈夫なのかい」
「ただの焦げ跡だ、ビビんな。ただ、まだあったけえぞ、おい」
「ふむ、それはつまり──その痕は島に最初からあったものではなく、つい先ほどつけられたものだと」
「そういうことだな、前園さん」

工藤は緊張のこもった言葉と共に頷いた。
それは、明らかに“超人”に類するものの痕跡を見つけたが故の警戒も含まれているのだろうが、

──興奮が隠せていないな。やれやれ、下衆なものだ。

同時に工藤自身が明確に“期待”していることも示していた。
事実、一個一個の痕跡にステルスドローンを誘導し今も撮影している。
ディレクターである彼は、この場面もどういう映像を撮るかという視点で見てしまうのかもしれない。
自身の命が危ない状況でさえ、そのようなことを考えられるのは、ある意味ですごいのだが。

290FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 16:56:33 ID:cCF3JV8U0

「誰かがここで戦っていた、ということですか」
「誰かじゃねえ、こりゃバケモンだよ」
「そんな断言できるってのかい? バケモンなんてさ」
「あん? 姐切。その辺のチンピラの喧嘩でこんなもんつくと思ってんのかよ。
 こんなもんができる奴はな、もう人間とは呼べねえんだよ。だったらバケモンしかありえねえだろうが」
「それは……」

工藤の言葉に姐切は言葉尻を濁す。
その発言はいささか論の飛躍があるが、まぁ──間違ってはいないだろう。前園も内心で同意していた。
これは明らかに、怪物同士の戦闘の痕跡である。

「と、なるとバケモンとバケモンが戦った痕って訳だ。いいじゃねえか」
「何で嬉しそうなんだよ、工藤」
「ばっかお前、雷だよ? 樹だよ? コンクリ破壊だよ? 面白いじゃねえか。
 絶対見つけて、取っつかまえてやる。捕獲すんぞぉバケモノ」
「あ? こんな状況で面白いだ? クソ野郎。こんな──」
「待ってください、姐切さん。ここで争っても仕方がないでしょう」

再び口論へ発展しそうに成ったところを前園が割って入る。
出会ってから何度も起こっていた口論であり、前園としても一々仲裁が面倒になりつつあった。

「工藤さんの言動は確かに問題がありますが、しかし近くにバケモノと呼ぶに足る存在がいるのは事実でしょう。
 ならここで下手に時間をかけてしまうのは危険です」
「おい!問題ってなんだよ!」

前園はふっと小さく微笑み、

「工藤さんも、例のバケモノの調査をするなら早くした方がいいのでは?
 まだ遠くまで行ってない可能性があります。捕獲を狙うのなら、早く動いた方がいいかと」
「……まぁ、そりゃあな」
「それに、位置的にも──このバケモノが愛月さんを殺した、あの“鬼”である可能性もあります」

その言葉を告げた途端、姐切の表情が変わるのがわかった。
愛月しの。
先ほどの放送でその名は明確に死者として告げられた。

愛月しのを救えるかもしれないという、姐切のかすかな希望は絶たれたことになる。
まぁ前園としては──すでに知っていた事実なのだが──それに対して、神妙な対応をしたのがつい先ほど。

「直接の戦闘は避けた方がいいかと思いますが、調査は必要です。
 他にこの戦闘に巻き込まれた人もいるかもしれません」
「おう、そうだな、前園さん。ちょっくらこの辺見回ってくるか」
「…………」

姐切は不満げに口を閉ざしていた。
その胸中のもやが晴れることは早々ないのだろうが、彼女とてここで争っても仕方がないことは理解しているのだろう。

「では三十分後にこの樹にて再度集合しましょう。くれぐれも、お気をつけて」
「あん? 前園さん、アンタは来ないのかよ」
「ええ、私は少々、あちらの樹を調べようかと思いまして」

前園は前方に立つ巨大なオブジェを示した。
それは──ハートとリンゴの生命の樹である。





291FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 16:58:04 ID:cCF3JV8U0

──信用できないね、まったく。

夜明け直後の街を歩きながら、姐切は胸中にてこぼす。
それは共に歩く工藤に向けたものであり、あの妙なオブジェに執心している前園に向けたものでもあった。
この島で出会った大人たちは、どちらも方向性こそ違えど信用できなかった。

この後に及んで撮影をしている工藤は論外として、前園だってどうも胡散臭い匂いがする。
腹に一体何を抱えているのか、全くわからない。
彼女は直感的に前園に対して警戒心を抱いていた。

──しかし、ファウストもフィオロもまだ出て来ない。ラブデスター星人とは本当に関係ないのか?

バトルロワイアルだのなんだのと言っているが、当初はまたラブデスター実験の延長だと姐切は考えていた。
閉鎖空間におけるデスゲームという状況が酷似していたことや、あのBBという女のテンションがどこかラブデスター星人に通じるものがあったからだ。
だが、ラブデスター実験における最も重要なルールであった“愛を証明すれば帰れる”というルールがここでは機能していない。
ある意味、どの参加者にも生還の目があったあのルールと違い、このゲームは直接的な暴力が物を言う場だ。

そして、当然のように犠牲になるものもいる。

──愛月も、クソッ……! 結局何もできなかった。

ぐっと拳を握りしめる。
先ほど告げられた放送にあった愛月しのの名前。
わかっていた。あの映像や状況を考えて、彼女が生きている可能性が低いことは。
それでも一縷の望みにかけていたが、それも絶たれてしまった。

近くにいたのに守れなかった己の不甲斐なさに、姐切は胸が締め付けられる想いだった。
同時にはっきりと認識する。
ラブデスター実験ではいざ知らず、このゲームにおいて中学生である自分たちは明確な弱者なのだ。
信用のならない大人たちに囲まれる中、安穏としていられる余裕は一切ない。
それは姐切の他の知り合いについても同じだろう。

──とっとと若殿や皇城とも合流しないとね。

名簿に記されていたうち、姐切の知っている名前は五つあった。
どういう訳か載っている猛田や、今ひとつ腹の底が読めない神居はともかくとして、その二人とは早めに合流しておきたかった。

──特に皇城は、アイツ……。

中でも気にかかるのは皇城ジウだった。
彼はこのバトルロワイアルに呼ばれる前、ラブデスター実験においても既に不安定なように見えた。
彼は──とにかく追い詰められていた。
実験開始直後から縁あって行動を共にしていた彼女は、彼のことがまず心配であった。

──愛月が死んだからって、アホなことやるんじゃないよ。

嫌な胸騒ぎがする中、姐切は黙々と街を歩いていた。
近くに危険な存在がいる可能性が高いため、道中の会話は最小限だ。
工藤もそのあたりのことはわかっているのか、警戒しつつ慎重に進んでいる。
まぁその間もドローンは確実に回るように常に見ているのだが。

292FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 16:59:16 ID:cCF3JV8U0

「……あん?」

と、そこで不意に工藤が足を止めた。

「どうしたんだ。なんかいるのか?」
「おい見ろよ姐切、あそこに変なモヤがかかってねえか?」

工藤が指をさした先に姐切も目を凝らす。
人気のない閑散とした住宅街、狭く細長い道の向こうに──それは佇んでいた。

「……a」

それは工藤のいうとおり、モヤのようなものであった。
カタチの崩れたシルエット。煙のような、影のような、奇怪なもの。
これが夜であれば、気がつかなかったのかもしれない。ただの見間違いと思えたのかもしれない。

「……aannn」

だが、そののっぺりとした“何か”は陽光に照らされ、明確に立っており──そこにいる、と認識せざるを得ない。

「おい、なんか音がしねえか?」
「ああ、工藤。これ、まるで、蛇が地面を這うような」

工藤と姐切が“何か”の異様さを、明確に認識してしまった、その瞬間──

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

──目の前に黒い影が襲いかかってきた。

数十メートル先にいたはずのそれが、まばたきをした瞬間にそこにいた。
二人は悲鳴と共に、“何か”に遭遇してしまった。





293FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 17:00:37 ID:cCF3JV8U0


シャドウサーヴァント。
それはサーヴァントの残留思念であり、影のようなものとされている。

その成り立ちは不確かで、召喚時の失敗によるものや、英雄未満の霊体がそこに堕すという。
また──霊基を破壊されていながら、座へと帰還することの叶わなかったサーヴァントが、“何か”と結びつくことで、生まれるともされる。

「aaaaaaaaaaaaannnnnn」

無論、工藤たちはそんなことは知らない。
彼らの中に魔術に類する分析をできるものはいなかった。

「ttttttttiiiinnnn」

だから当然、数時間前にこの場で破壊された霊基についても、知る由はない。
清姫。
紀州道成寺の伝説にその名を刻む女。
それは、怨念によって蛇の身となり、怒りの炎ですべてを焼き尽くした怪物。

「おい、何なんだよコイツ!」
「あ、アタイに聞くな!」
「おい、ちゃんと撮れてるか!? おうドローン仕事してんじゃねえか」
「こんな時に撮影のことを気にするな!」

現れた影、シャドウサーヴァントは奇怪な叫びと共に迫ってくる。
黒いモヤで形成されたそれが何であるのか掴めない。
だが明確な害意と共に、ぼっ、とその炎を一帯に撒き散らしてくるのだった。

工藤はデイパッグから何かを出そうとごそごそとやっている。

「おい、姐切ィ! お前も前に出ろ! さっき武器やらお守りやら前園さんからもらってただろ!」

戦意満々の発言、戦う気のようだった。

──クソッ、逃げるのも難しいか。

実際工藤の判断は間違っていないだろう。
炎を撒き散らすこの怪物は、先ほど異様な加速を見せた。
あれを考えると、背中を見せることの方が危険だ。

「舐めんじゃないよアタイを!」

姐切は先ほど前園から譲り受けた武器、苦無を握りしめて怪物へと向かっていった。
この幽霊じみた奴に果たして刃物なぞ聞くのか、と思ったがやるしかない。
先の跳躍を除けば動き自体は緩慢なので、ざくり、とその身に苦無を突き立てることは難しくなかった。

294FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 17:01:48 ID:cCF3JV8U0

「aaaaaannnnntiiiiiiiiii」
「おい! 蛇女ァァァァァァ!」

姐切の斬撃で身悶えしている怪物に対して、今度は工藤が突進していた。
その手には何も武器らしいものを持っていない。
ステゴロか、と一瞬思ったが、

──髪だ。

姐切は気づいた。
工藤の手に何かが巻きついていると。
どうやらバッグからそれを取り出して巻きつけていたらしかった。

確か口裂け女の髪、と工藤が言っていたものだった。
前園から譲り受けた時、それを嬉しく彼が受け取っていたのを覚えている。
姐切はそれを汚い髪だとしか思っていなかったし、そもそも口裂け女の髪という出自自体が眉唾だとも思ったが。

「オラァァァァァァァァァァァ!」

猛然と放たれた工藤の殴打は、確かに怪物の頰を穿ち──吹き飛ばしていた。
吹き飛ばされた怪物は、明確に苦しんでいた。
工藤に殴られた箇所を抑えながら、苦悶の声を漏らしている。

「aaaaaaanaananananananaaaaa!」
「おい、アレを撮るんだよドローン!
 勝つのは口裂け女が呪いか! 蛇女の呪いかぁ! 世紀のキャットファイトの始まりだぁ!」

工藤はドローンを動かしつつ、身悶えする怪物へとカメラを向ける。
怪物はしばらくじたばたとその身を震わせていたが、不意にその身を止め、

「……a、ぁんちんさま」

そう漏らしたのち、

「ユル、サ、ナイ」

その身を霧散させ──一直線に姐切の元へと“何か”がやってきた。





295FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 17:02:42 ID:cCF3JV8U0


工藤はこれまで「コワすぎ!」の撮影において幾度となく、その口裂け女の髪に救われてきた。
震える幽霊、河童、トイレの花子さん、四谷怪談のお岩、それぞれの怪異と相対する時、その髪は明確に呪具として作用する。

だが──忘れてはならない。

口裂け女もまた、明確な呪いであり、脅威であることを。
工藤が出会った多くの霊能力者が、その髪を「危険だ」と明確に告げていたことを。

「あ? 倒したのか」
「っ……いないみたいだね」

一瞬の視界を覆ったモヤが晴れたのち、工藤と姐切の目の前には元の住宅街が広がっていた。
蛇女の影はおらず、元の閑散とした道へと、あっけなく帰っていた。
その事実を二人の意識が追いつくまでしばらく時間がかかったが、

「おいおい、すげえじゃねえか? え?」

工藤は興奮混じりの声をあげ、ドローンを見上げていた。

「今の見た? 見たよな? やべえぞこの島。やっぱりああいうバケモンがゴロゴロいんだよ。すごくない?」
「……何がすごいんだよ」

カメラに向けて喋り出した工藤を尻目に、姐切は呆れたように声を漏らした。
はぁ、と彼女はひとまず息を吐く。
どうやらあの幽霊みたいな何かを撃退できたようだった。

一体あれが、なんであったのかはわからないが──

「ん? おい、姐切。大丈夫かよ、その目」
「あん?」

工藤の言葉に姐切は瞳を抑える。
──と、そこで奇妙な疼痛を覚えた。
先ほどまでなんともなかった右目が腫れていた。
触るとずきずきとした痛みが走り、異様な感覚が彼女の身に走っていた。

……忘れてはならない。

工藤は確かに口裂け女の髪を使うことで、怪異から生き延びてきたが、決して怪異を祓ってきた訳ではないことを。
彼自身こそ生き残ってきたが、多くの投稿者が、その余波に巻き込まれる形で呪われ、時に帰らぬ人となった。

それも道理だ。祓える訳がない。
あの口裂け女が、そもそもの発端なのだから。

もう一つ。
シャドウサーヴァントは、サーヴァントの霊基が破壊されたからといって必ず現れる訳ではない。
そのカタチが、“何か”と結びつかなくては現れない。

「おい、それ、市川の時と同じ腫れ方じゃねえか?」

では、ここで清姫の殻を被って姿を見せた“何か”の正体は、果たして──


【C-3/1日目・朝】

【工藤仁@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、ステルスドローン@ナノハザード、口裂け女の髪(強化後)@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:脱出はするが、「コワすぎ」も撮るに決まってんだろ
1:化け物(禰豆子)にマッチアップする別の化け物を探す
2:ステルスドローンを回して撮影する
[備考]
※参戦時期は「コワすぎ! 史上最恐の劇場版」開始前。タタリ村へ乗り込む準備中

【姐切ななせ@ラブデスター】
[状態]:呪い、目が腫れている。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、蛇のお守り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:脱出する
1:とりあえずは工藤・前園と行動する
[備考]
※参戦時期はキスデスター編終了後
※清姫のシャドウサーヴァントとの接触で呪われました
※目の腫れ方は「コワすぎ劇場版:序章」における市川のそれと酷似しています

296FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 17:03:11 ID:cCF3JV8U0



──同時刻。

前園甲士はほくそ笑んでいた。

「やはりこの木はナノロボでできている……!」

ハートとリンゴの生命の木。
その異様な姿を見て、その表面の構造から彼は直感した。
これは、ナノロボがもたらしたものである、と。

だからこそ、とにかくこの木を調べたかった。
工藤と姐切から一時的に単独行動を取ってでも、このサンプルを取る意味はある。

──姐切がちょうどこのドライバーを持っていたことも運が良い。事は順調に進んでいる。

ドライバー型吸収装置に入ったナノロボを見て、前園は満足げに頷いた。
持っていた武器やお守りといったものを姐切に渡すことで、交換していたこれが早速役に立っていた。

それはナノロボを吸収する装置であり、これさえあればサンプルを持ち歩くことができる。
なんならこのサンプルを売り払うことで30億ほど手に入る可能性もある。
その事実に彼はほくそ笑んでいたのだった。

ここでは正確な分析はできないので、研究施設に持ち寄っておきたい。
そう冷静に考えつつも、彼は樹から離れていく。

……リンゴの樹から、叡智の結晶たるナノロボを持ち出す彼は、さながら蛇のごとき存在であった。



【C-3・ハートとリンゴの生命の木(円城の死体)の前/1日目・朝】

【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜3、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
    人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、ナノロボット(円城)のサンプル@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
2:工藤・姐切を利用する
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。


支給品解説

【ドライバー型吸収装置@ナノハザード】
姐切ななせに支給。
一見してドライバーに見えるが、これをナノホストに挿すことで確実に核を吸収することができるらしい。
またこれを自分自身に挿すことで、吸収した核の力を得られるようだ。
ただ融合後何が起こるのかは、まだ人類にはわかっていない。


【蛇のお守り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
元々は禰豆子に支給されていた。
それを前園が奪い、ドライバーと交換する形で苦無と共に姐切に渡したようだ。

瓶に棒のようなものがつきささっている。
元とは「超コワすぎ」の世界において、川野つぐ巳の住宅の前に置かれていたものである。
「蛇女」である彼女らの性質から考えるに、
その効力は恐らく「蛇を遠ざける」ことではなく「蛇を近づける」ことである。

297 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/18(金) 17:03:27 ID:cCF3JV8U0
投下終了です。

298 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/22(火) 01:09:21 ID:LuQcDAEw0
改めて黒神めだか、今之川権三を予約します

299 ◆3nT5BAosPA:2019/10/23(水) 22:01:55 ID:nPPdrw9U0
藤原千花予約します。

300 ◆3nT5BAosPA:2019/10/23(水) 23:03:34 ID:nPPdrw9U0
投下します

301からくり起床談 ◆3nT5BAosPA:2019/10/23(水) 23:05:43 ID:nPPdrw9U0
「え、ここドコですか?」

藤原千花が目を覚ました場所は、壁や天井、床の配色に白が多い部屋だった。
上半身を起こして辺りを見渡し、内装を視認する。そこでようやくここが何らかの医療施設であることに気がついた。ついでに、窓から差し込んでいる月光から、現在時刻が夜であることも判明する。
寝る前の時系列まで記憶を遡らせるが、病院に寝泊まりすることになった覚えは微塵もない。そもそも、体の悩みと言えば日頃の食生活で体重がちょっと不安なことくらいしかない健康優良児である彼女にとって、病院ほど縁遠い施設はないだろう。
この状況の説明として最も有力なのは、何者かに拉致された、というものである。
藤原千花は政治家一族の娘だ。ならば、金銭あるいは政治的主張を目的に彼女を誘拐しようとする輩がいてもおかしくない。そんな可能性に危機感を抱かないほど、彼女は鈍感ではなかった──しかし。
しかし、だ。
拘束が一切されてない手足で起き上がって移動し、試しに部屋と外界を隔てている扉のドアノブに手を掛けてみる。すると、ドアノブは抵抗なく下がり、扉はいとも容易く開放された。
前屈みになって上半身を廊下側に出し、左右を確認する。長々とした白い廊下が続いているだけだった。人の気配はない。
千花は廊下に突き出した頭から疑問符を浮かべた。もし彼女がここにいる理由が誘拐ならば、近くには必ず誘拐犯がいるはずだからだ。 拘束や監視のひとつもつけずに、鍵をかけてない部屋に人質を放置する誘拐犯なんて、聞いたことがない。
どうぞ逃げてください、と言っているようなものではないか。脱出を推奨しているようにしか思えない。
とりあえずはこの建物から出ようと、千花は廊下に向かって一歩踏み出した。しかし、部屋を出てすぐのところに落ちていた何かが足に引っかかり、転んでしまう。大きな悲鳴と派手な転倒音を鳴らした彼女は、打った部位を涙目で摩りながら、自分の足を捕らえた物の正体を確かめた。
それは鞄だった。持ち運びに便利なデイバックが、部屋のすぐそばに転がっていたのだ。見ると、下部に『藤原千花』と書かれた名札が縫い付けられている。どうみても、千花のために用意されたものだった。
この場に来てようやく見つけた何者かの作為の現れを不気味に思いながら、千花は鞄を抱えて部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。ぎい、と寝具が軋む音が閑静な部屋に響く。
目が覚めると、そこは見ず知らずで居る理由も分からない病院であり、すぐそばには自分の名前が書かれた鞄が置かれていた、という何ともミステリアスなこの状況。それに謎解き好きの千花の興味が惹かれないはずがなかった。故に、彼女が次に取る行動に、拾った鞄の中身を確認する以外の選択肢は無い。こんな意味深なアイテムに触れずにいるのはあり得ないだろう。
もしかしたらこれは本当に誰かが私に仕掛けた脱出ゲームなのかもしれません、と千花は推測する。
仕掛け人は誰だろうか。千花の広い交友範囲を漁れば、夜の医療施設を貸し切りに出来る人がいないわけではないのだが……おっと、脱出ゲームである可能性がある以上、これ以上舞台裏のことを考えるのは野暮というものだろう。
それにしても、こんな状況でそんな可能性にまで頭が回る人なんて、ゲーム慣れしている私以外いないでしょうね──そう考えて、誇らしげに口元を緩める千花。ちょうどその頃、彼女から遠く離れた何処かで天才物理学者が大きな拍手と共に目を覚ましていた。
不安半分好奇心半分と言った様子で、千花は鞄を開き、その中身を精査しようとする。
しかし、彼女の視界に鞄の中身が映ることは無かった。
代わりに映ったのは、視界一杯のノイズ。
 壊れたテレビの画面のようなそれが、突如として彼女の視界を乗っ取ったのである。
そして、

「え、ここドコですか?」


X X X X X

302からくり起床談 ◆3nT5BAosPA:2019/10/23(水) 23:08:33 ID:nPPdrw9U0
B-7エリアに位置する箱庭病院にて、持ち主を失ったデイバックの元に誰も訪れず、はや六時間。
持ち上げていた人物がこの場から一瞬で消えたため重力に従って床に落ちたデイバックは、それから少しも動いていない。
そして、落ちた拍子にデイバックの口から零れるようにして現れた『それ』も、同様に僅かな動きも見せていなかった。
時刻は午前の六時過ぎ、朝を迎えた時間帯である。夜の帳がとっくに上がった空には太陽があり、窓から差し込む朝日はがらんとした病室を照らしていた。
室内にある全てが温かな光を浴びる。白い床も、白い壁も、白い天井も、ベッドも、椅子も、鞄も、そして『それ』も例外ではない。
『それ』は全身が金属でできており、左右に二本ずつ生えた腕と脚。さらに、計四本の腕にはそれぞれ刀剣が握られているという、なんとも奇妙な構造をしている人形だ。顔の造形から、それが女を模したものであることが窺える。
その人形の名は微刀・釵。
またの名を日和号。
戦国時代を支配した稀代の刀鍛冶、四季崎記紀が打った刀の中でも、とびきり異端を極めた刀である
日和号は窓から差し込んだ日光を暫く浴びると、無機質な暗さを湛えるだけだった瞳に光を灯し、それまで微動だにしていなかった脚を動かして立ち上がる。その存在だけでとある巨大な湖を幕府から壱級災害指定地域に認定させた殺人人形の、起動の瞬間であった。

「標的・探索」

 ぱくぱくと。
 口にあたる部分を開閉させながら、日和号は発音する。
 すると部屋を出て、やがて病院の外へと出て行った。
 日和号は、特定の相手の殺害といったような設定を与えることで多様な戦況に対応できる刀だ。この島で彼女が与えられた設定は、『持ち主である藤原千花以外の参加者の殺害』である。
 それを達成するために、日和号は標的を求めて前に進む。
 彼女が四本の手で握っている四本の刀は、朝日を浴びて妖しくも美しい光を反射していた。

303 ◆3nT5BAosPA:2019/10/23(水) 23:12:15 ID:nPPdrw9U0
【B-7・箱庭病院/1日目・朝】
【日和号@刀語】
[状態]:
[装備]:刀@刀語×4
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:藤原千花以外の参加者の斬殺
1.標的・探索
[備考]
※藤原千花のデイバックが、箱庭病院の一室に置き去りにされています。

304 ◆3nT5BAosPA:2019/10/23(水) 23:12:31 ID:nPPdrw9U0
投下終了です

305 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 00:12:15 ID:vI0lfPY20
皇城ジウ、佐藤、 沖田総司、竈門炭治郎、城戸真司、猛田トシオ、中野一花、中野二乃、中野三玖、藤丸立香、若殿ミクニ
予約します

306 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:11:32 ID:Zpzw676o0
投下乙です
私も投下します

307 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:11:55 ID:Zpzw676o0
親殺し。人喰い。××××...おっと、これじゃあなにかわからないね。

コホン。では改めて。

親殺し。人喰い。近親相姦。

いやあ、実に7年か8年ぶりに口に出せるのは心が晴れるよ。
少年ジャンプの規制には僕ですら頭が上がらないからね。

おっと、話が逸れるところだった。

僕が挙げたのは人類三大タブー。何れも犯せば主人公として大きな傷を残すものでありなにより現代社会においてそぐわないものだ。
そしてこれらは単なる嫌悪感で定められたものではなく合理的な理由も含まれている。

親殺し、もっと幅を広げるなら殺人を罰するのは、人間同士が際限なしに殺しあえば種として地球上に保存できなくなるため。
人喰い。これも殺人と同じ側面を持つので割愛。
近親相姦。遺伝子や病気の関係によりその身や後世に害をなす可能性があるため。

無論、初めに言い出した奴の真意なんて知ったことじゃないが、僕が挙げたようにそれらしい理由を作るのは容易だろう。


ん?なぜこんな話を始めたかだって?

勿論意味はあるさ。なにも少年ジャンプの規制から逃れこそこそと嘯いて満足するほど器は小さくないしね。

308 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:12:43 ID:Zpzw676o0







ピチャピチャピチャ。

液体を舐める音が小さく木霊する。

今之川権三が『ジュース』を飲んでいる音である。

「んん!これは美味!今までにないほどに美味いぞい!」

権三が飲んでいたのは、童磨との戦いで千切れとんだ黒神めだかの腕から流れる血。
再生と破壊を嵐のように繰り返す戦いだったためか、めだかも童磨も欠けた部位のことなど気にも留めていなかったが、権三はそれをめざとく回収していた。
初めは道端に落ちた小銭に群がる乞食のように思えて気分が乗らなかったが、仕方なしと舐めてみれば気分は一転。
への字に曲げていた唇もいつの間にか綻んでいた。

無論、自分の腕の血を飲まれるなどという行為を見れば、大概の人は不快に思うだろう。
が、その本人であるめだかは権三の傍に横たわっている。
彼女は童磨と無惨という二人の鬼を連続で相手取った疲労でしばしの睡眠を余儀なくされていた。
その為、権三はこうして心置きなくめだかの血を飲むことができているのだ。

「近頃の若いモンはあのクソガキのように栄養バランスが偏っていると思っていたが、やはり美しい女子というのは食ってるものからして違う。ワシの健康にも良い血じゃ!
それにあのクソガキも死んだ...やはり運はワシに向いておる」

放送で聞かされた死者の中には、自分を追い詰めた円城周兎の名があった。
できればこの手で捻りつぶしてやりたかったが、彼がこの短時間で命を落としたというだけでも溜飲が下がるというもの。

美味いジュースの確保と怨敵の脱落。
この二つは権三の機嫌をよくするには充分すぎた。

309完【りそうのかたち】 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:15:50 ID:Zpzw676o0

(体調万全!気分爽快!...ウケケ、今に見ておれ千年男よ。貴様さえ消えればワシの天下はすぐそこじゃ)
「ん...」
「ムッ、眼を覚ましたか」

眼を覚ましたらしいめだかの声と共に、権三はめだかの腕をデイバックに仕舞い、気を引き締めなおす。
円城が死に、千年男や自分と互角に戦った武蔵らが近くにいない現状、彼にとっての一番の関門は彼女、黒神めだかとの対話である。
権三としては、めだかはなるべくジュース係や強力な参加者に対する壁として味方につけておきたい。
が、彼女は殺し合いに反するスタンスであり、優勝を狙う権三とは相容れない。加えて、彼女には権三の服についた血を見られている。
では如何にして彼女を引き込むか?

「...私はいったい...」
「千年男たちとの戦いで疲れ果てていたのだろう。あの後すぐに眠りおったわ」
「そうか...その間は貴様が看てくれていたのか。その点については感謝しよう。だが」
「この服の血のことじゃろう。そいつは今から教えてしんぜよう。...これは不慮の事故じゃ」

彼は一計を案じた。石上優を殺してしまったのは事故であると捏造しようと。

「ワシは貴様らほどではないが特殊な能力が使え、ソイツを使うには人の血が必要なんじゃ。勿論、ワシとてその為に殺しまわるような真似はせん。
ただ、最低限の自衛の為にも血液は必要じゃ。その為にあのこぞ...少年からわけてもらおうと試みた」

石上は拡声器で喚き立てたが、彼と権三の間で如何な会話があったのかを詳細には語っていない。
石上を殺した現場に真っ先に辿り着いたのは武蔵だが、彼にしても既に原型も留めていない石上を見ただけである。
石上と先に行動を共にしていた圭にしても、権三とはロクに会話もせずに鬼ごっこが始まった為、石上と権三とのやり取りは空想で描くしかない。
つまり、真実を知り、語れるのは今之川権三ただ一人というわけだ。

「少年は渋っていた。こんな場所で誰かもわからぬ男に血液を渡せというのだから悩むのも当然じゃろう。だが、その所為で奴は悲劇にみまわれた」
「貴様も戦ったあの千年男...ワシを追ってきたやつが癇癪で倒した木が、少年を踏み潰してしまったんじゃ。返り血はその時に浴びた」

権三が石上殺害の犯人役を関係者である武蔵ではなく無関係の無惨に指名したのは理由がある。
前述の通り、武蔵は石上との接点をロクに持っていない。しかし、最初の同行者である圭と接触したため、石上のある程度の情報を共有していても不思議ではない。
もしもそんな彼らに遭遇してしまった場合、彼らは石上殺害の犯人は権三だと言うだろう。そうなれば対立は確実だ。めだかが権三を信じなければ最悪、三対一の圧倒的に不利な状況へと持ち込まれてしまう。
しかし、無惨を犯人だと示しておけば、めだかが権三を信じずとも、無惨本人に確認し、裏が取れるまでは権三を処罰するのは躊躇われるはずだ。
その間、武蔵・圭・めだかは共に行動するだろうが、その隙に彼らの特性を理解し殺す算段をつけるなり逃走するなりすればよい。
そしてその無惨にしても、あの短気で血気盛んな男が大人しくめだかとの問答に応じるとは思えず、あの性分からして平気で人を殺すだろうし殺した者をいちいち覚えているとも思えない。
仮にめだかが問い詰めたところで『殺したからなんなのだ。貴様らごときが私を許さないなどとよくもまあいえたものだ』とでものたまいたちまち戦闘に入るだろう。

ならばこそ、犯人役に相応しいのは武蔵ではなく無惨だと判断したのだ。

310完【りそうのかたち】 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:16:15 ID:Zpzw676o0

さて。そんな権三の『真実』を聞かされた黒神めだかはというと。

「つまり貴様は殺し合いに乗っているわけではない、ということだな」
「ウム。どうにか脱出できんかと頭を抱えておる」
「わかった。信じよう」

あっさりとそう断言した。

こんなにも容易く人心を掌握できるなど、流石は何倍もの税金を納めてきたワシじゃと内心で自賛する権三だが、別段、彼が口達者だったわけではない。
もしもこの場にめだかの同朋である球磨川禊や人吉善吉がいれば、まず間違いなく権三に訝しげな眼を向けていただろう。
だが、黒神めだかの問答は基本的に『信じる』ことから始まる。
身体的特徴・動機・人物背景など状況証拠がすべて揃っていたとしても、明らかに毒物であろう薬をワクチンだと嘯くひねくれ者相手だとしても。
当人たちが信じてほしいと口に出せば、まずは信じるのが黒神めだかという少女だった。

そんな己の幸運に気付かぬまま、権三は話を続ける。

「感謝する。...それで、ついでと言ってはなんじゃが、貴様の血を分けてもらいたい」

言葉と共に、権三は先ほど血を啜っていためだかの腕をデイバックから取り出した。
権三は、彼女から隠れてこそこそと吸うのではなく、彼女自身から同意を得ることで堂々と血を吸うつもりなのだ。
あらかじめある程度補給しておいたのは、彼女に断られた時を考えてのことだ。

「私の腕で貴様が救われるなら構わない。好きにするといい」

無論、『他人の為に生きる』めだかがそれを断る理由もあらず。
権三は、めだかの同意と共に、腕を絞り、伸ばした己の舌へと血を滴らせた。

じいっと、その様を見つめるめだかに構わず、権三は嬉々として血を飲んだ。

311完【りそうのかたち】 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:16:47 ID:Zpzw676o0

「プハァ!小娘よ、貴様の血は美味だぞい!...ん、どうした?」

此方を見つめるめだかの悶々とした表情に、ご満悦だった権三にも不安がよぎる。
いくら切り離されていたものとはいえ、血を絞られた己の腕を見て不快に思ったのだろうか。

「なぜそんなに遠慮をしている。貴様は血が必要なのだろう」
「なに?」

権三は思わずキョトンとしてしまう。
少々豪快にやりすぎたか、と反省しかけた矢先に遠慮をしていると指摘されたのだから当然だ。

「血を絞るのにも限度があるだろう。そのまま食えば残さず取り込めるではないか」

再び権三を襲う衝撃。いま、この小娘は何を言った。
人肉を食えと...超人とはいえ人間である権三に対してだ。

「い...いやいや、わしをなんだと思っとるんじゃ。人肉なんぞ食えるわけないじゃろうが」
「むっ、そうか」

顔色一つ変えないめだかに、浮かれていた権三の気分が落ち込む。

権三は感染し初めて血を吸った時からある程度の人間を殺し血を補給してきたが、それでも直接食らいつくようなことはしなかった。
上級民である自分が下々民の肉など受け入れられないという自意識もあるかもしれないが、単に人肉を『食えるもの』と判別していなかったのだ。
それを食えというのだから、権三が引くのも無理はない話だろう。

「...そういえば目が覚める前になにか声が聞こえた気がしたのだが」
「放送を聞いておらんかったのか」

かくかくしかじかと、権三がめだかに放送の大まかな概要を語る。

「―――といった具合じゃ。禁止エリアもそこまで関係はないし、急いで動く必要も...」

権三は思わず口を止める。
彼女は俯き震えていた。まるでなにかを溜め込むように。我慢するかのように。
そして、それは間もなく解き放たれた。

312完【りそうのかたち】 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:17:35 ID:Zpzw676o0

「巫山戯るなっ!!!!!」

轟っ、とでも効果音が付き添うなほどに怒りを露わにしためだかに、権三は思わずたじろいだ。

「な、なにがおかしいんじゃ。わしは当然のことを」
「13人...13人も命を落としていている間に私はなにをやっていた...己の価値に自問自答し、童磨を正せず、鬼の首領も逃し、あまつさえ疲れて眠るなど...その間に何人が犠牲になったと思っている!」

狼狽える権三に構わず、めだかはわなわなと体を震わせ激昂し続ける。

「身体が動かないなら這って進めばいい。両腕が壊れたなら己の目で首輪を解析すればいい。こんな私でもできることはいくらでもあるはずだ!」

昂る感情のまま、めだかはデイバックから名簿を引っ張り出し、素早く目を通していく。
連ねられた名前に知己の名は―――あった。
人吉善吉と球磨川禊。己と最も因縁深い二人の名が。

その瞬間、めだかは目を瞑り天を仰ぎ呟いた。

「―――哀れなことだ、BB。貴様もかつては純粋で人を愛し愛される可憐な女学生だったに決まっている。なにか不幸な過去を経験し道を踏み外してしまったとしか考えられん」

カッ、と目を見開き、高々に叫ぶ。

「しかしそれでも私は許せない!懸命に生きる者を、未来に向かい努力する者を、生というそこに在るだけで劇的でままならぬモノを侮辱するこの催しを!」

そして、いつの間に取り出したのやら、広げた扇子をバチン、と勢いよく閉じ、前方へと突きつけた。

「だが安心しろ。私は決して貴様を見捨てることはしない。今生、優しさを重んじ遍く生物の命を尊ぶ美少女へと矯正してやる。強制してやる。更正してやる。更生してやる。
これより腕章を託すことになる身だが、幸いなことにまだ任期は残っている。前会長として最後の我儘に付き合ってもらうぞ善吉、球磨川。これが最後の目安箱への投書だ。私が私たちへと望む最後の依頼だ」

誰よりも弱者に寄り添える球磨川なら、殺し合いに怯え肯定してしまうものにも手を差し伸べてくれるだろう。
成長し、自分を負かした善吉ならばこの殺し合いでもきっと自己を貫き、強者でも弱者でも善人でも悪人でも、救いを求めるものに寄り添ってくれるだろう。
そうだ。不甲斐ない自分だけでは無理でも、あの二人と一緒ならば必ずやれる。

「BB!貴様のこの催しは私たち生徒会が必ず叩き潰す!!」

その高らかな宣戦を、凛ッとした背中を見る者が見れば、こう思うだろう。

『黒神めだか、ここに在り』と。

そんな彼女の背中を、権三はただ唖然として眺めることしかできなかった。

313完【りそうのかたち】 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:20:14 ID:Zpzw676o0







―――というわけで、今回のお話のテーマは『食人は完成に必要か否か』だ。

最初に言った通り、食人は人類の三大禁忌、有体に言うならばデメリットだ。スキルを完成させる上では排除すべき要素の筈だけど、彼女は自分の肉ならば勧められる程度には抵抗をもたなくなってしまったね。
これはいったいどういうことだろう。

さしあたって鬼の特性である人食いのデメリットを考えてみよう。
彼女と同行している今之川権三は、人の血を啜るものの、人肉を食えと勧められてもそれを断った。彼自身のプライドや価値観もあるだろうが、代替的に言えば、彼にも多少の倫理観があったことから食人までは躊躇われたのだろう。
となると、さあ困った。デメリットらしいデメリットが見当たらないじゃないか。
そりゃそうさ。なんせ、人を食べただけで強くなり、血鬼術という技も使えるようになる。いとも簡単にパワーアップできるというわけだ。大海賊モンキー・D・ルフィでさえ肉を食っても怪我を治すのが関の山だというのにさ。
倫理観さえ抜けば、食人は欠点足りえない...むしろ、鍛錬や観察の過程を省き力をつけられる以上、『完成』には不可欠だと彼女の異常性は判断したんだろうね。

人並外れた力を誇り、日光のもとを平然と歩け、食べるだけで強くなれる生物。そんな生物こそが鬼舞辻無惨の理想とした完璧な存在であり、『完成(ジ・エンド)』が完成させた『鬼』だったわけだ。


...時々、僕はこう思うことがある。めだかちゃんは今まで数多くの異常性や過負荷を完成し支配下に置いてきたが、本当に異常性に振り回されているのは彼女自身じゃないのか。
『完成(ジ・エンド)』という異常性(アブノーマル)は、決して人間社会で生きやすくするためじゃなく、異常性も過負荷も化け物も人間もすべてひっくるめて頂点に立つ為に、めだかちゃんを苗床にしているだけなんじゃないかってね。

...と、まあそれっぽい理由を語ってみたけど、本当の答えなんて僕も知らないんだけどね。彼女が異常性に振り回されていようがいまいが、もっとも異常性とうまく付き合っているのもまた彼女であるしね。
ならなんでこんなに尺を?と思われるかもしれないが、まあ僕だって息抜きくらいは欲しいのさ。
1京2858兆519億6763万3865個のスキルのうち使えるスキルはもう総動員しててね。
派手な干渉を可能にするまでどれほどかかるかわからないしこれ以上やれることはない。なら、結果が出るまでこうして妄想と適当な考察を並べて暇を潰すくらいのことは許してほしい。
つまりだBB。
もしも僕の妄想と暇つぶしを兼ねた独り言が君に届いた時には気を付けたほうがいい。
その時はきっと、最終回が近づいていることに他ならないだろうからね。




【D-3/1日目・早朝】



【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]:疲労(絶大)、空腹。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 雅の鉄扇セット@彼岸島
[思考・状況]
基本方針:見知らぬ誰かの役に立つ、それは揺るがない。
1:善吉や球磨川と共に殺し合いを叩き潰しBBを改心させる!
2:お腹がすいた
[備考]
※参戦時期は後継者編で善吉に敗れた直後。
※本当に鬼になったのかは不明ですが、それに類する不死性を獲得しています。日光は克服できましたが、人食いの能力は保持しているようです。
※いくつかのスキルに制限が加えられているようです。
※『光化静翔(テーマソング)』はアコースティックバージョン(5人まで)含め鬼神モードの時にのみ使用できますが、現状は時間切れで使用できません。
※鬼神モードを使用するとお腹が空くようです。
※石上殺害の犯人が無惨だと伝えられました。


【支給品紹介】

【雅の鉄扇セット@彼岸島】
吸血鬼のボス、雅の愛用する1対の鉄扇。
あくまでも扇であるが、雅が扱えば如何なる物をも切り裂く刃と化す。
憧れから、本来の戦闘スタイルを捨ててまで槍を装備する吸血鬼もいるほど、扇で戦う雅の姿は神々しい。



【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:疲労回復、気分は上々
[装備]:
[道具]:飲食物を除いだ基本支給品一式、炸裂弾『灰かぶり(シンデレラ)』×20(残り10) 、めだかの腕の搾りかす
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
0.小娘のテンションがヤバイ。ここは離れるべきか我慢して同行すべきか...
1.慎重に立ち回って全員ブチ殺すぞい。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。でも日光が弱点くさいということは...チャンスだぞい!
3.他にもヤバイ奴が大勢いそうだぞい。
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。
※めだかの血を飲み体力を回復しました。

314 ◆ZbV3TMNKJw:2019/10/24(木) 01:20:45 ID:Zpzw676o0
投下終了です

315 ◆3nT5BAosPA:2019/10/24(木) 08:28:54 ID:lCplZO6E0
先日投下した話に加筆したので、改めて投下します

316 ◆3nT5BAosPA:2019/10/24(木) 08:30:08 ID:lCplZO6E0
「え、ここドコですか?」

 時系列はとある島を舞台にした殺し合いが始まるよりも前まで遡る。
藤原千花が目を覚ました場所は、壁や天井、床の配色に白が多い部屋だった。
上半身を起こして辺りを見渡し、内装を視認する。そこでようやくここが何らかの医療施設であることに気がついた。ついでに、壁に掛けられた時計から、現在時刻が零時の直前辺りであることが判明した。
寝る前までの記憶を掘り起こすが、病院に寝泊まりすることになった覚えは微塵もない。そもそも、体の悩みと言えば日頃の食生活で体重がちょっと不安なことくらいしかない健康優良児である彼女にとって、病院ほど縁遠い施設はないだろう。
この状況の説明として最も有力なのは、何者かに拉致された、というものである。
藤原千花は政治家一族の娘だ。ならば、金銭あるいは政治的主張を目的に彼女を誘拐しようとする輩がいてもおかしくない。そんな可能性に危機感を抱かないほど、彼女は鈍感ではなかった──しかし。
しかし、だ。
拘束が一切されてない手足で起き上がって移動し、試しに部屋と外界を隔てている扉のドアノブに手を掛けてみる。すると、ドアノブは抵抗なく下がり、扉はいとも容易く開放された。
前屈みになって上半身を廊下側に出し、左右を確認する。長々とした白い廊下が続いているだけだった。人の気配はない。
千花は廊下に突き出した頭から疑問符を浮かべた。もし彼女がここにいる理由が誘拐ならば、近くには必ず誘拐犯がいるはずだからだ。 拘束や監視のひとつもつけずに、鍵をかけてない部屋に人質を放置する誘拐犯なんて、聞いたことがない。
どうぞ逃げてください、と言っているようなものではないか。脱出を推奨しているようにしか思えない。
とりあえずはこの建物から出ようと、千花は廊下に向かって一歩踏み出した。しかし、部屋を出てすぐのところに落ちていた何かが足に引っかかり、転んでしまう。大きな悲鳴と派手な転倒音を鳴らした彼女は、打った部位を涙目で摩りながら、自分の足を捕らえた物の正体を確かめた。
それは鞄だった。持ち運びに便利なデイバックが、部屋のすぐそばに転がっていたのだ。見ると、下部に『藤原千花』と書かれた名札が縫い付けられている。どうみても、千花のために用意されたものだった。
この場に来てようやく見つけた何者かの作為の現れを不気味に思いながら、千花は鞄を抱えて部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。ぎい、と寝具が軋む音が閑静な部屋に響く。
目が覚めると、そこは見ず知らずで居る理由も分からない病院であり、すぐそばには自分の名前が書かれた鞄が置かれていた、という何ともミステリアスなこの状況。それに謎解き好きの千花の興味が惹かれないはずがなかった。故に、彼女が次に取る行動に、拾った鞄の中身を確認する以外の選択肢は無い。こんな意味深なアイテムに触れずにいるのはあり得ないだろう。
もしかしたらこれは本当に誰かが私に仕掛けた脱出ゲームなのかもしれません、と千花は推測する。
仕掛け人は誰だろうか。千花の広い交友範囲を漁れば、夜の医療施設を貸し切りに出来る人がいないわけではないのだが……おっと、脱出ゲームである可能性がある以上、これ以上舞台裏のことを考えるのは野暮というものだろう。
それにしても、こんな状況でそんな可能性にまで頭が回る人なんて、ゲーム慣れしている私以外いないでしょうね──そう考えて、誇らしげに口元を緩める千花。ちょうどその頃、彼女から遠く離れた何処かで天才物理学者が大きな拍手と共に目を覚ましていた。
不安半分好奇心半分と言った様子で、千花は鞄を開き、その中身を精査しようとする。
しかし、彼女の視界に鞄の中身が映ることは無かった。
代わりに映ったのは、視界一杯のノイズ。
 壊れたテレビの画面のようなそれが、突如として彼女の視界を乗っ取ったのである。
それからしばらく経って切り替わる視界。そこでは、頭に着けたリボンが特徴的な少女のワンマンショーが開催されていた。 
BBと名乗った少女は語る。これから殺し合いをしてもらうと。
いったいどうやって流れているのかも分からないその映像を混乱しながら見ていた千花だったが、映像中で爆弾付きの首輪という物騒極まりないものについての説明が終わった後、彼女の視界はまたも移動することになる。
いや、移動したのは視界だけではない。肉体もだ。

「え、ここドコですか?」

 病院の一室からBBチャンネルのスタジオまで一瞬でワープさせられた千花は、事態を上手く呑み込めないと言った様子で呟く。
 それが彼女の最期の言葉になった。

X X X X X

317 ◆3nT5BAosPA:2019/10/24(木) 08:32:32 ID:lCplZO6E0
 以上が、この殺し合いのオープニングの裏側で、藤原千花というひとりの少女が目覚めてから爆死するまでの経緯を描いたものだ。
 そして、時系列は現在に戻る──深夜から、朝へと。
B-7エリアに位置する箱庭病院にて、持ち主を失ったデイバックの元に誰も訪れず、はや六時間。
持ち上げていた人物がこの場から一瞬で消えたため重力に従って床に落ちたデイバックは、それから少しも動いていない。
そして、落ちた拍子にデイバックの口から零れるようにして現れた『それ』も、同様に僅かな動きも見せていなかった。
時刻は午前の六時過ぎ、朝を迎えた時間帯である。夜の帳がとっくに上がった空には太陽があり、窓から差し込む朝日はがらんとした病室を照らしていた。
室内にある全てが温かな光を浴びる。白い床も、白い壁も、白い天井も、ベッドも、椅子も、鞄も、そして『それ』も例外ではない。
『それ』は全身が金属でできており、左右に二本ずつ生えた腕と脚。さらに、計四本の腕にはそれぞれ刀剣が握られているという、なんとも奇妙な構造をしている人形だ。顔の造形から、それが女を模したものであることが窺える。
その人形の名は微刀・釵。
またの名を日和号。
戦国時代を支配した稀代の刀鍛冶、四季崎記紀が打った刀の中でも、とびきり異端を極めた刀である
日和号は窓から差し込んだ日光を暫く浴びると、無機質な暗さを湛えるだけだった瞳に光を灯し、それまで微動だにしていなかった脚を動かして立ち上がる。その存在だけでとある巨大な湖を幕府から壱級災害指定地域に認定させた殺人人形の、起動の瞬間であった。

「標的・探索」

 ぱくぱくと。
 口にあたる部分を開閉させながら、日和号は発音する。
 すると部屋を出て、やがて病院の外へと出て行った。
 日和号は、特定の相手の殺害といったような設定を与えることで多様な戦況に対応できる刀だ。この島で彼女が与えられた設定は、『持ち主である藤原千花以外の参加者の殺害』である。
 それを達成するために、日和号は標的を求めて前に進む。
 彼女が四本の手で握っている四本の刀は、朝日を浴びて妖しくも美しい光を反射していた。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 死亡】
【日和号@刀語 起動】

318 ◆3nT5BAosPA:2019/10/24(木) 08:33:13 ID:lCplZO6E0
【B-7・箱庭病院/1日目・朝】
【日和号@刀語】
[状態]:
[装備]:刀@刀語×4
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:藤原千花以外の参加者の斬殺
1.標的・探索
[備考]
※OP時点で死亡した藤原千花のデイバックは、箱庭病院の一室に置き去りにされています。

319 ◆3nT5BAosPA:2019/10/24(木) 08:34:16 ID:lCplZO6E0
終わりです。再投下するだけなのもなんなので、童磨と浅倉威を予約します。

320 ◆3nT5BAosPA:2019/10/24(木) 10:12:18 ID:Gb6GLEmI0
あ、
>ちょうどその頃、彼女から遠く離れた何処かで天才物理学者が大きな拍手と共に目を覚ましていた。
は『拍手』じゃなくて『くしゃみ』です。どういう誤字でしょう。すみません。もうダメダメですね。

321 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 16:59:47 ID:vI0lfPY20
みなさん投下乙です。
めだかちゃんに驚くぞい爺が楽しい。
あとここでまさかの書記回も。

こちらも投下します!

322だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:00:51 ID:vI0lfPY20


──愛月しの。


その時、猛田は思わずミクニを見てしまった。
そしてそのあと、どういう訳かひどく後ろめたい気分になった。

最初の放送。
禁止エリアについての通告。
今までに死んだ参加者の名前の読み上げ。

概ね予想通りの内容だった。
最初の時点で放送の存在は告知されていたし、その内容も大体にして言っていた通りのものだ。
読み上げる演出こそ悪趣味なものだったが、それにしたって驚くようなものじゃない。

読み上げられた死亡者でさえ、自分たちは事前にほぼ知っていた。
吾妻善逸、秋山蓮、中野四葉、中野五月。彼らが死んでいることは、告げられるまでもなくわかっていた。

ただ──彼女については、知らなかった。
愛月しのは、ミクニの幼馴染であった彼女は、放送にて真っ先に呼び上げられていた。

「……え?」

その時、ミクニはそう呟いていた。
メモを取る気で握っていたペンはすぐに止まり、呆けたように顔をあげ、しばらく動かなかった。

理解が追いついていないようだった。
彼はその後、放送が終わるまで、目を見開き指先を震わせていた。

「……は?」

もう一度、こぼれ出たのも、そんな声だった。
それまでの若殿ミクニの強さとはかけ離れた、ひどく呆けたような表情だった。
彼がそんな顔をしている──その事実にどういう訳か猛田も衝撃を受けてしまい──彼自身、何が何だかわからなくなっていた。




323だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:01:16 ID:vI0lfPY20



「十三人ねぇ……」

沖田総司は噛みしめるように声を漏らした。
放送のどこからともなく音が響く感覚は、彼の常識からすると奇怪な感覚だったが、今更そんなことで驚く彼でもなかった。

多いのか、少ないのか、その数については沖田はあえて考えない。
問題はそこではない。
見るべきは、最初に島に飛ばされたのが70人、最初の6時間で13人が死んだということ。
成り行き次第ではあるが、人が減っていけばその分殺しの速度も落ちていくだろう。

「とすれば刻限はもって三日というところですか……」

ざっとした感覚で試算した沖田はやれやれと細い手で頭を抑える。
余裕があるとは全く思っていなかったが、どうにかするにはあまりにも時間がない。
とはいえ、あの元の時代から追い出された時から、いや、それより前から、状況が楽だった時の方が少ない。

「何とかするしかありませんか」

そう呟いたのち、彼は愛刀、菊一文字をすっと抱き寄せる。
その視線の先には、少年少女がいる。
二乃を初めとする、この島で出会った市井の子供たちだ。
今ではどうやら若殿という少年を中心に何やら声をかけあっている。
事情はだいたいわかる。先ほど告げられた死者の中に、若殿の口から告げられたものが混じっていたように思う。
確か愛月しのと清姫というのが、新たに告げられた中で仲間とされていた名前のはず。
彼女らの死に対して、言葉を交わす必要があるのだろう。

その中には、あの猛田という罪人もいた。
どの面を下げて──と思いはするが、彼自身そのことを自覚しているのか、少し輪から離れているようにも見える。

「────」

彼らの感傷について口を挟む気は無い。
何も間違ってはいないからだ。死を悼むこと、その痛みに共感すること、どちらも文句をつける気はない。

だが──

「いやいや城戸くんはこっちでしょう」

声をかけに行こうとした城戸を、沖田は静かな声で呼び止めた。

「これからどうするのか、城戸くんの考えを教えてくださいよ」
「え、でも、あの子……」
「言ったでしょう、鬼退治は私たち三人でやると」

彼は戸惑いの表情を浮かべたが、沖田は言葉を遮ってぴしゃりとそう告げた。

「竈門くんもわかってますね?」
「……はい」

話を振った炭治郎は神妙な顔をして、しっかりと頷いた。
彼とて、年齢であればあちらの少年たちと変わらないだろう。
だが、彼はやはり──こちら側だ。
彼もまた一人の友が死んだはずだというのに、今自分たちがまさに戦っているのだということを明瞭に理解している。

324だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:01:43 ID:vI0lfPY20

「沖田さん、まずあの禁止なんとかというのですが、俺たちにはすぐに影響しないでしょう」
「ええ、地図を見せてもらいましたが、ここから北の一角が塞がれるだけですぐにどうなるというもんじゃない」
「ただこのまま、行けなくなるところが増えるのは……単純に不利です」

炭治郎の言葉に沖田は頷く。
そう、この島において徐々に人は減る、行ける場所も少なくなってくる。
当然反抗する身であるこちらも打てる手段が少なくなっていく。
時間をかければかけるほど不利なのだ、この闘いは。

「城戸くん」

沖田はそこで城戸を呼びかけた。
彼は未だ戸惑ったように立っていたが、そんな戸惑いを慮ってやる余裕はない。
だから沖田はそのまま問うた。

「だから貴方の意見を聞かせてください。私らはどこに行くべきだと思います?
 ただ逃げ回っているだけなんて馬鹿なこと言う気は無いでしょう」
「え、俺が……?」
「ええ、見た所、貴方が一番こういうことには詳しそうだ。
 似たような催しをやってたと言ったじゃないですか」

それを言えば若殿もそうだが、ここで彼に聞くのはあらゆる意味で不適当だ。
だからこそ、沖田は城戸にそう問いかけた。
その意図が伝わったのか、そうでないのかはわからないが、彼は答えてくれた。

「この地図の中じゃ、研究施設ってのがまず怪しいと思うけど……」
「研究施設。確か上田さんも似たようなこと言ってましたねぇ」

思い起こすように沖田は言った。
この戦いが始まって二乃と合わせて最初に出会った人間だ。
彼も上手くやっているだろうか、放送によれば少なくとも生きてはいるようだが。

「あとは……この病院なんかが怪しいと思う」

何かを思い起こすように、城戸は言った。

「俺も全然わっかんねえんだけど、こういう場所に資料が置いてある……かもしれない」
「自信なさげだなァ、もっと頼り甲斐のあること言ってくださいよ」
「そ、そんなこと言ったって俺だって、こんな島初めて来たんだし、わっかんねーよ」

言い訳するように述べる城戸に対して、沖田はため息を吐いて、

「いいですよ、わかりました。行きましょうか、病院と研究施設」
「え? いいのか?」
「いいんですよ。どうせ何も方針なんてありゃしないんだ。
 どっちも同じ方向にあるんだし、北上しつつ両方目指しましょう」

どの道ここに留まっていたところで事態が好転する訳でも無い。
ならばとりあえずでも行くべき目標が欲しかった。
それに上手く行けば別れた上田たちとも合流できるかもしれない。
そういう意味でも北に向かうのは悪くない話だった。

325だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:02:01 ID:vI0lfPY20

「よしじゃあ、落ち着いた北上するよう、みなに伝えてください。
 夜も明けたし変なモンに絡まれなきゃ、昼にはつけるでしょう」
「え、あ、わかった……」
「あとくれぐれも、さっきみたいな自信なさげな声は出さないように」
「え?」
「俺は“慣れ”てるんだから、ここに行けば間違い無いんだ、ぐらいのトーンで振る舞えと言ってるんです」
「でも、俺、実際すげえテキトーに決めてるんだけど」
「良いんです、大概こういう方針はテキトーに決まるもんなんですから。テキトーでも上が自信ありげに振る舞えばそれが方針になるんだ」

ねえ土方さん、と沖田は胸中で付け足した。

「竈門くんも、いいですね?」
「はい。大丈夫です、俺も行くなら北だと思っていたので」

そう頷きながら、炭治郎は少しだけ口元を緩めた。

「どうしたんです? 人の顔をジロジロ見て」
「いや、ごめんなさい。沖田さんって──意外と面倒見がいいんだなって」

言われて、今度は沖田が額を抑えて笑う番だった。
といっても彼の場合は苦笑なのだが。

「面と向かって言われると照れるなァ、そうなんです、総司は面倒見が良いんです」
「そう言って、全然照れてないじゃないですか」

バレましたか、聡い子だ。
などと沖田は思いながら、もう一声、ここにはいない誰かに胸中で呼びかけた。

──鬼より怖い壬生狼がこう言われるの、どう思います? 土方さん。





326だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:02:21 ID:vI0lfPY20


そうして、一行は北、病院と研究施設を目指すことをひとまずの方針とした。
移動することに対しては別段揉めることはなかった。
沖田としては、正直誰かがここで篭って動きたくないとでも言うと思ったのだが、そんな声を上げる者は誰もいなかった。

「もしかしたら……道中で会えるかもしれないわね。五月を──殺したって言う奴」

説明の最中、二乃が漏らした言葉が、きっと皆の声の代弁なのだろう。
少なくともあの姉妹については、ある程度同じ想いを抱えているのかもしれない。

「そういうのも似合いますね、二乃さん」
「何?」
「いえいえ、何でもございませんよ」

おどけるように返しつつ、沖田は他の面子の顔も伺っていた。
ミクニと猛田は、何も話す様子はなかった。
ミクニは何かを考えるように黙っているし、あの饒舌な猛田も彼の近くで所在無さげに立っている。

──まぁ何も言えないでしょうねぇ。

彼のやらかしたことと、二人の関係を思い起こしながら思う。
とはいえ同情する気も起きない。
だから沖田の興味はすぐに残ったもう一人に注がれていた。

藤丸立香。
そういうらしい彼女は──特に変わらない様子で、移動するという方針を受け入れていた。
自然体である。
彼女に関しては沖田は何とも理解しがたいものがあった。
敵意がないことはわかる。脱出に協力的なことも疑っていないし、変に取り乱さないのはありがたい。
ただただ──不思議なのである。
先ほど“慣れ”ていると城戸には言ったが、“慣れ”というのならば彼女の方がよほどそうだ。
沖田はどういう訳かその佇まいに──共感に近いものを覚えているのだった。

──私だって、こういうのは初めてじゃありませんが。

こういうの、とは知らない場所に突然投げ出されることである。
どうも、この立香という少女は、それに異様なほど場慣れしているにも見える。実戦経験とはまた違った軸で。


──と、その時である。


方針も固まり、そろそろ動こうかと言う、そのタイミングで──事態は急激に動くことになった

まず初めに──爆発があった。

近く、巨大な爆音が鳴り響いていた。
ガラス窓が揺れ、置かれた調度品がバラバラと落ちていく。
中野姉妹と猛田の悲鳴が上がり、城戸が窓から外を確認しようとする。

327だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:02:40 ID:vI0lfPY20

「な、なんだよ、これ!」
「馬鹿! 顔を出すんじゃない!」

城戸に対して叱責しながら沖田は強引にその頭を抑えた。
瞬間──窓を突き破る勢いでさらなる爆破が巻き起こった。
巻き散るガラス片、悲鳴が上がる中、炭治郎の「屈んで頭を抑えて!」という声が強く響いた。

「っつう……爆撃かよ」
「ええ、大砲でドカンとはまた景気の良い輩もいたもんだ」

言いながら、城戸と沖田は割れた窓の外を注意深く伺う。
すると何軒か離れた先の民家がバチバチと燃え盛っているのが見えた。

それからさらに続く砲撃。近くなったり、遠くなったりを繰り返している。
揺れ動く床を感じながら、沖田は状況の把握に努める。その最中、炭治郎が声をかけてきた。

「沖田さん、これ、多分──当てずっぽうです」
「ええ、でしょうね。こちらを狙っているにしては杜撰過ぎる。
 適当にドンドカ撃って、逃げ出す鼠がいないかあぶり出してるつもりなんでしょう」

さてどうしたものかと沖田は考える。
とそこで城戸が外を見ながら「これ……」と声を漏らしていた。

「どうしたんです? 何か知ってるんです?」
「北岡さん? いや、名簿には載ってなかった筈だし、じゃあ誰が」
「知っているんですか? この大砲」
「ああ、多分、この敵──仮面ライダーだと思う」

その声は先の方針決めの時と違い、ある程度の確信が感じられた。

「城戸くん、この敵、これ以上の火力出ますか?」
「……出る。たぶん、一番強い奴をまだ使ってない」
「なるほど、そうですか……」

このままやり過ごす、というのも手ではあった。
恐らく向こうはこちらが見えていない。だからやたらめったら適当に撃っている。
だとすると、下手にこちらの居場所を伝えるのは悪手だ。
あてずっぽうの砲撃など早々当たるものではない。動かない、というのも戦術である。

だが──それもこの砲撃の規模だからである。
しびれを切らした敵が、街一面を焼き払おうとしかねない。

──そのくらいのことは、考えておくべきでしょうねぇ。

であるならば、ただ待つのもまた悪手である。

328だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:02:54 ID:vI0lfPY20

「城戸くん、竈門くん、さっそく三人で行きますか」

しばし考えたのち、すっと沖田は立ち上がった。
その手には菊一文字ただ一つ。爆撃の向こうに窓から身を晒そうとしていた。

「何をしているんです? 下手に出れば狙い撃ち、待ってれば焼かれる。
 ならとっととこの舐めた真似した輩を斬りに行くべきでしょう」

刀と共にそう告げると、まず炭治郎が立ち上がり、次に城戸もまた迷わず立っていた。
その表情に恐れはない。この敵の脅威はわかっているのだろうが、その上で立ち上がることに躊躇はしなかった。
合格です、と沖田は内心で二人のことをそう評した。

「じゃあみなさん、私ら三人はとりあえず突っ込んでくるので、その間はくれぐれも顔を出さないよう」
「──うん、わかった」

即座に返事をしたのはあの奇妙な少女、立香であった。
他がまだ事態の把握まで頭が回っていない中、彼女だけは顔を上げていた。

「こっちは私たちでどうにかするから、沖田さんも頑張って」
「……了解す、まったく“慣れ”ていますね」
「え? あ、まあね……」
「まったく底知れないお嬢さんだ、でもまぁ、安心はできる」

剣士三人が出ていっても彼女がいれば少なくとも最悪の事態は防げそうだ。
そう判断した沖田は苦笑しながら窓枠に足をかけた。
何が何だかよくわからない少女であるが、ありがたい話ではあった。

「沖田さん!」

その背中に、また一つ声がかけられた。

「勝手にいなくならないでね──そんなことしたら絶対に許さない。約束だから」

誰かの声かは見ずともわかる。
その声に沖田は振り返ることなく、だが小さく頷いて外へと躍り出た。
たっ、と音と共に着地。そしてその勢いのまま、駆け出した。

「約束、約束かァ」

その後を追うように二人の足音が背中からきている。
炭治郎と城戸だ。
装いも違えば、歳もバラバラ、呼ばれた時代が違うせいか、いまひとつ話も噛み合わないような混成部隊である。

「でもまぁ──大丈夫でしょう」

その足音を聞きながら、沖田は少しだけ笑って言うのだった。




329だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:03:12 ID:vI0lfPY20


「いやぁ、弾も自動で補充されるみたいだし、シューティングゲームがホントにできるようになったみたいで楽しいなぁ」

しみじみと。
そう表現するのが一番正しいだろう。

PENTAGONの上層、青い空の下で佐藤はしみじみとぼやいた。
まるで朝食の献立を語るような気軽な言葉と共に砲撃を繰り返し、その度に爆散するビルを彼は眺めている。
一応ゾルダのスペックの確認や馴らしも兼ねているが、そんなものは正直どうでもよかった。

せっかくPENTAGON爆破セレモニーと洒落込んで爆薬も仕込んだのに観客がいないのは味気ない。
であるからして、とりあえず人のいそうなところに砲撃をし続けているのである。

そしてそもそも爆破セレモニーからして、特段に何かやる理由があるかと言えば、否である。
なんとなく派手で楽しそう。
結局その程度の話なのだった。

「さて、誰か来てくれると良いんだけどなぁ……」

そうぼやいた時、佐藤はゾルダのマスク越しに、動く人影を見つけた。

「おっ」

数は──三である。

三人は爆撃される街を駆け抜けている。
やたらめったら突っ込むのではなく、こちらの位置をある程度特定した上で付かず離れずの連携で駆け抜けているようだった。
見るに、サムライのような衣装の者が二人と、佐藤が求めていたあの“仮面ライダー”が一人。

明らかに、こちらを意識した動きである。
砲撃の角度から位置も見出しのだろう。まだ距離はあるが、こちらを補足した上で狩りに来ている、とみるべきか。

「いいねぇ、来てくれた。本当は30人ぐらい来てくれると嬉しかったんだけどね。流石に3つじゃ的が少ないよ。
 でも──来てくれてよかったなぁ」

マスクの中で佐藤は破顔して言った。
誰かが来てくれないかと雑に撃ってみたところ、本当にやってくれた。
しかもこちらに向けてまっすぐにやってきてくれる。こんなに嬉しいことはない。

雑に撃つのはそこで止めた。
狙いをやってくる3人に絞って見る。とりあえず近くのビルを砲撃、青い空の下、音を立てて爆散する。
爆風の中──当たり前のように3人がそれぞれこちらに向かってくる。

「うん、いいじゃない。これで倒せちゃったらどうしようかと思ったよ。
 せっかく来てくれたんだし、セレモニーにも参加してもらいたいしねぇ」

場合によってはジャンルがシューティングからアクションになりそうだ。
いや、それともタワーディフェンスかな?
そんなことを考えつつ、佐藤は期待と共に3人を迎え入れた。


──そうして、PENTAGONの戦いは始まった。

330だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:03:31 ID:vI0lfPY20

【E-7/PENTAGON付近/1日目・朝】

【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1(本人確認済み、武器)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:今度こそ願いを叶える。
1.戦いを止める。
2.千翼のことを止めたいが…
3.蓮…!!
4.とりあえず北上して資料を集める
[備考]
※秋山蓮に生きろと告げて目を閉じた後からの参戦です。


【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切り傷と打撲(簡易処置済み)
[道具]:基本支給品一式、折れた日輪刀@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜1、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:刀が欲しい。
3:とりあえず北上して資料を集める
[備考]
※強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。
※折れた日輪刀は半天狗戦で緑壱零式の刀を使う前のものでした。


【沖田総司@衛府の七忍】
[状態]:健康
[装備]:着流し、菊一文字則宗@衛府の七忍
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:『びぃびぃ』と名乗る鬼を討った後、元和に戻って鬼退治。
1:己の『誠』を信じて突く。
2:二乃さんを護衛する。
3:酒呑童子については保留。
4:二乃さんの妹御を斬った鬼(千翼)を斬る。
5:とりあえず北上して資料を集める
[備考]
※第三十五話以降からの参戦。

【佐藤@亜人】
[状態]:健康
[装備]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式、日本刀@現実
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.PENTAGONが勝つか、花火が勝つか、実験だよ実験。その前に爆弾設置しとこ。
2. 飛んでいたライダーに興味。
3. PENTAGONの前でふたりの参加者を殺した犯人に興味。
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。
※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。
※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。
※変身中に限りIBMを二回以上出せるようです、どれ程出せるかは後続の書き手氏にお任せします。
※飛行中の龍騎の姿を確認しました。

331だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:03:56 ID:vI0lfPY20


「みんな!伏せて、絶対に顔を出さないように。あと耳と口も塞いで!」

3人が戦いに赴いたのち、残された猛田たちはその言葉通り爆撃に備えていた。
中心に立って声をかけているのは立香だ。
猛田や中野姉妹は見えないところからの爆撃など経験したことはない。

だから──正直猛田は怖かった。
無論泣きわめくような無様を晒すことはなかったが、手が震えて仕方がなかった。
猛田の知るラブデスター実験では、このような直接的な破壊に晒されることはなかった。
それまで日本で平凡な中学生をやっていた彼に、こんな状況への耐性などあるわけがない。

「うん、大丈夫だよ、三玖。沖田さんも言ってたけど、あてずっぽうな砲撃なんて、隠れてれば滅多に当たるもんじゃない。交通事故のがよっぽど危険」

立香は続けて言う。

「それに二乃も安心して。絶対帰ってくるから。本当にすごいんだよ──ああいう人たちって」

こんな状況であっても彼女の言葉は落ち着いたトーンで──ひどく安心感があった。
何もかもわからない状況だが、そういう風に言ってくれる人がいるだけで、少なくとも猛田の心は多少落ち着いていた。

「だから猛田くんも、安心して」

今度はこちらを向いて、微笑みまで添えてくれる立香に、猛田は心臓の鼓動が早まった。
い、良い女だ……やはりこの女は俺に惚れてる……? などと命の危機で頭がおかしくなったのか、思わずそんな感想が脳裏に過る。

「若殿くんも」
「……ああ」

だがそんなよくわからない昂揚も、ミクニの声を聞いた途端に吹き飛んでしまった。
はっとして振り返る。
そこではミクニが「大丈夫だ」と言って、少しだけ微笑んで返していた。

──おい、なんだミクニ。その笑い方は……。

猛田は彼の微笑みが、ひどく痛ましいものに思えた。
人形が必死に人のふりをしているような、そんなぎこちない笑い方だった。
少なくとも猛田の知る彼はそんな顔をしなかった。
ラブデスター実験で追い詰めた時も、権力を奪い取った時も──愛月しのを捉えた時も、憎らしいほど向かって来たのに。
そのミクニが──こんな風になってしまっている。
その事実に衝撃を受けている。その自分自身に猛田は困惑していた。

だが、だからといって何も言うことはできなかった。
何を言えと言うんだ。猛田から今のミクニに与えられる言葉など何もありはしない。
いつもの猛田ならば言葉など溢れるほど出てくるのだが、今は何も言える気がしなかった。

それからしばらく爆撃が続いた。
震える床にへばりつくようにかがみながら戦闘が過ぎるのを待つ。
爆撃自体は徐々に遠くにいっているように思えた。突っ込んだ沖田たちに標的が変わっているのだろう。
恐怖を感じながらも、猛田は時折ちら、と顔を上げ辺りを窺ってしまう。
別に何が見える訳でもないのだが、何も見えないということもまた恐怖なのだ。

「──ジウ?」

その時、不意にミクニが声を漏らした。
猛田は「は?」と返してしまう。
見れば、顔を上げたミクニは、窓の向こうに何かを見つけたのか、目を見開いている。

「若殿くん、どうしたの?」
「すまねえ、立香さん。俺ちょっと出る!」
「え? ちょっと、どこに──!」

藤丸が必死に呼びかけるが、ミクニはそれを無視して走り去ってしまう。
窓でなく出口の方からだ。

「────」

同時に視線が一斉に猛田に集まる。
一体何があったのか、全員が理解していないようだった。
猛田は「ひっ」と声をあげたのち、思わず誰もいない横を見て──一瞬の迷いの末、彼もまた走り出していた。

「と、止めてくる!」と言い訳のように叫びながら、ミクニが開け放ったドアから街へ出る。

332だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:04:14 ID:vI0lfPY20

──俺は何故走っているんだ。何を追いかけているんだ。

街の中を走りながら猛田は自問していた。
その視線の先には猛然と走っていくミクニの背中がある。。
爆撃は遠くなったとは言えなお続いているし、砲撃が直撃したビルは崩壊し、ところどころバチバチと炎が上がっている。
そんな街を出歩くのは嫌だったが、しかしあの場に──ミクニなしでいることも不安であった。

──そ、そうだ。ポーズをつけないとな。俺もアイツを心配しているという。

正直なところ、猛田があの集団に身を置けているのはミクニに依る部分が大きい。
いや元々ミクニがいなければ実験での所業もバレなかったのも事実だが、一度知られてしまった以上、ミクニを手放すのは猛田としても不利なのだ。
下手を打てばあの沖田総司を名乗る男に何をされるかわかったものではない。
だから少しでも周りの好感度を稼いでおかなくてはならないのだ。

それは本心でもあった。彼の中の狡猾な部分はこうした得だと告げている。
だが、それだけでこんな爆撃の中を歩き出すのか。
実のところ彼自身、自分が何を考えているのか、よくわかっていなかった。
いつもの自信が出てこない。間違ってもミクニを心配している訳ではないのだが。

──ジウ、皇城がいたというのか。

先ほどのミクニの呟きを思い起こし、猛田はさらに困惑する。
ジウ。皇城ジウ。
生徒会の一員であり、ミクニの幼馴染である。
かつてラブデスター実験においては、猛田は彼とも敵対している。

この島の名簿に名を連ねていた以上、ここにいてもおかしくはない。
だが──このタイミングで、こんな場所で会うのか?
愛月しのの名は、彼にとっても痛烈に作用する筈だ。
猛田は半端に知っているからこそ、事態がどうなるのか、まったく読めなかった。

そして、そうしているうちに──二人は出会っていた。

爆撃が続き、半壊する街の中、出会った二人は立ち止まっていた。

「ミクニ──なのか?」
「──ジウ」





333だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:04:36 ID:vI0lfPY20


二人は互いを名を呼んだのち、しばらく何も言うことはなかった。
崩れ落ちる瓦礫、震えるアスファルト、馬鹿みたいに綺麗な青空の中で彼らの視線が交錯する。

「……ジウ、よかった。ここで、お前に会えて」
「──ああ、僕もだ、ミクニ」

二人は、共に絞り出すように言葉を交わした。
そこに込められた感情の重さを、猛田は推し量ることができない。
だがあの中に入る気は、いかに猛田といえ起きなかった。
とはいえ元来た道を取って返す気も起きない。それ故彼はひどく不安な心地で彼らの会話を見守ることになる。

「あの実験から突然連れてこられて、本当にビビっちまった」
「ああ……そうだな」
「今頃、ファウストの奴、どうしてるかな。アイツのことだから、またこっちに来てくれるかもしれねえが」
「そうだな」
「今頃、あっちの会場はどうなってるんだろうな。前みたいなことにならねぇといいんだが」
「……ああ」
「まぁあっちには綾鷹とかもいるはずだから、大丈夫だよな」

ひどく上滑りした会話だった。
茫洋とした様子のジウは言うまでもなく、ミクニも、まるで与えられたセリフを読まされているかのような口調だった。
本当に話すべきことを、互いに触れていないかのようなぎこちなさだった。

「──しのが」

だが、ジウのその一言で、何かが決壊した。

「しのが死んでしまった……」

崩れ落ちるようにジウは膝をついていた。

「僕が……僕は何で……!」
「──ああ」

手を震わせるジウに対して、ミクニもまた声を絞り出していた。

「俺も……俺だって、何もできなかった……!」

──ミクニ。お前……

泣いているのか。
猛田はその背中を見て、そう察した。
肩を震わせ、顔をうつむかせ、拳を強く握りしめる。
その表情はきっと──涙が滲んでいるのだろう。

「──ミクニ」
「すまねえ、ジウ。俺が、守れなかったから……」

その様子にジウもまた逡巡するように瞳を揺らした。

「……なぁ、ミクニ」

そして、ジウは戸惑いを含んだ声で呼びかけていた。

「一つだけ答えてくれ。親友として……」
「ああ」
「お前は──しののことが、好きだったのか?」

その問いかけの間、静寂が場に舞い降りた。
どこか遠い場所で爆撃の音が響いた気もしたが、そんなものは耳に入らない。
そこにあるのは二人だけの世界だった。

334だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:06:12 ID:vI0lfPY20

「ああ、昔はな。昔は、好きだったんだ──」

ミクニの答えを聞いた瞬間、ジウの表情に変化があった。
何か手を握りしめ、その瞳に異様な殺気が生まれていく。

「ミクニ、お前はここまで来ても僕を──!」
「──そう、思ってたんだけどさ」

今度は──ミクニが崩れ落ちる番だった。

「わっかんねえんだよ。さっき、ずっと、ずっとアイツの思い出ばっかり思い浮かぶんだ」
「ミ、クニ──?」
「昔転んじまった時とか、秘密基地に行った時とか、服のほつれ直してくれた時とか、そんなどうでもいい思い出ばっかり、さっきからずっと……!」

膝をつき、彼は思いっきり地面に拳を叩きつける。血が飛び出ることなど御構い無しだった。

「頭から離れねぇんだよ! 痛いんだ、何か、わかんねえけど!
 なんだよ、何でだよ──アイツのこと、本当に好きだったのはお前だろう、ジウ。
 なのに、何で──何でだ! 俺は、しののことを……俺には!」
「……ぁ」

そのミクニの慟哭を聞くのと同時に、ジウの瞳から徐々に殺気が薄れていく。
何かを悟ったように、何か気づいたように彼はミクニを見つめている。

「なぁ、ジウ。俺は……俺は、しののことが、好きだったのか?」

縋るように問いかけるミクニに対し、ジウは震える手でその肩を叩いた。

「……好きだよ」
「ジウ──」
「僕も──僕だって、しのが好きだった!」

ミクニと同じように涙を流しながら、ジウは言い放った。

「そうだよ。僕は、しのが好きだった。
 そして──ミクニも好きだったんだ」

長い長い悪夢から醒めたように、彼はその言葉を絞り出した。

「愛して、たんだ」

と。
ジウはそれからはっきりとした口調で、ミクニに向かって告げた。

「……ミクニ、僕と一緒に死んでくれ」

その首に手をかけ、ぐっと彼が手に力を込めたのがわかった。

「二人で死ぬんだミクニ!! 僕と一緒に死んでくれ!」

猛田は思わず声を上げようとする。だが──無理だった。
何も言えなかった。
あの二人にどんな言葉が届くと言うのか、猛田には検討もつかなかった。

335だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:06:37 ID:vI0lfPY20

「ここで全部、全部終わりにしてしまおう! お前となら──たった一人の親友となら、何も怖くない!」

鬼気迫る様子でジウはミクニに迫る。
その悲痛な叫びに対して、ミクニは──

「──ダメだ、ジウ。それはできねえ」

はっきりとした意志で、その手を払いのけていた。
拒絶されたジウは、信じられないものを見るかのような視線を向けながら、よろよろと後ずさりをする。

「な、んで。ミクニ……?」
「……ジウ、俺はここで死ぬ訳にはいかねえ。
 そりゃしのが死んだことはつれぇよ……今だって、どんな顔したらいいのか、全然わかんねえ……」

ミクニは絞り出すような声で言った。

「でもよ、まだ勝手に死ぬ訳にはいかねえ。
 姐切や神居がここにはまだいる。カオルやみむらだって心配だ。ファウストとの決着もまだつけてねえ。
 それに──ここには猛田もいるんだ。死んじまったはずのアイツと、また会えた」

自分の名前が出た瞬間、猛田は心臓を鷲掴みにされた気分だった。
だが二人は彼の存在に気づいていないのか、会話は続いていく。

「ジウ、お前も来いよ。俺、この島でまたいろんな人と会ったからさ。
 城戸さんや立香さん、炭治郎、三玖さんたち……中野って姉妹の人たちとも会った。
 本当かどうかわかんねえけど、あの沖田総司もいるんだぜ。
 いろんな人たちが、協力してここから出ようとしてる。そこにお前が来れば──」
「──なんでだ」

え、とミクニの声が漏れた。

「なんで、なんでお前は何時も──」

ジウの瞳に──再び暗い感情が渦巻いていく。

「何時も──色んなものを持ってるんだ!
 僕はもう、お前しか残ってないのに! なんでお前は!お前はいっぱい色んなものを持ってる!選ばれる!おかしいだろう!
 勉強も運動も何もかもすべて僕に負けてるクセに!」
「ジウ、お前」

ミクニが何かを告げようとした。
だがジウはその時すでに動いていた。猛田ははっと顔をあげる。
その手には日本刀が握られている。最初に会った時から腰に吊るしてあったそれを、彼は淀みない動作で抜いていた。

「──僕だけを見ろよ! ミクニィィィィィ!」

その言葉と共に──ジウはミクニを斬りつけていた。
一瞬のことだった。
あまりにもあっけなく、一切の抵抗なく、ミクニの首は刎ねられていた。

そして──赤い赤い鮮血が舞っていた。


【若殿ミクニ@ラブデスター 死亡】





336だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:07:27 ID:vI0lfPY20


「み、ミクニ……?」

猛田は目の前の光景のすべてが信じられなかった。
血の海に立つジウも、今その足元に転がってるボール状の何かがミクニの頭だということも、すべてが彼の理解を超えている。

一瞬で何もかもが終わってしまった。
あのラブデスター実験でも死は一瞬で、あっけないものだった。
だが、これは──それ以上に凄絶な何かだった。

「──ああ、猛田か。いたのか、本当に」

ようやく猛田がここにいることに気づいたのか、ジウは猛田に冷たい視線を向ける。
ひっと猛田は声を漏らす。
あらゆる感情が死んでしまったかのような冷たい瞳だった。
ミクニの返り血で真っ赤に染まった彼は、猛田に対して淡々と告げる。

「お、おい。皇城、ミクニは──アイツは本当に死んだのか?」
「なんだ、猛田。アイツが死んだことにショックを受けてるのか?」

ははっ、と小馬鹿にするようにジウは笑った。

「笑わせてくれるよ。あの実験で、散々ミクニのことを狙ったお前が、どのツラ下げてそんな真似ができる?」

猛田は答えられなかった。
その言葉はあまりにも正鵠を射ていた。
そう、猛田はかつてミクニを狙い、実際にあと一歩というところまで追い詰めている。
そんな者が──今更ミクニの死に何を言えばいいのか。

「ミクニの親友は僕だけだ! 僕だけがアイツのことをわかってやれるんだ」

ああ、だからそうだな、とジウはそこで何かを思いついたように言った。

「ミクニの持ってたものを全部殺してしまおう。
 なんだったか、城戸に、炭治郎に、立香に、沖田総司とか言ってたか。
 それに中野姉妹……つくづくあの姉妹とは因縁があるな、僕は」

淡々と紡がれるその言葉は異様にはっきりとした口調で、だが内容はメチャクチャだった。
だがジウにはそれが明確な指針になったのか、落ち着きを取り戻したように、猛田へと迫る。

「ああ勿論、お前もだ、猛田」

日本刀が鈍く輝いた。
猛田の知る皇城ジウとは全く違った。
何が彼をここまで駆り立てたのか、猛田にはまったく想像もつかない。

だがそこに滲む気迫に猛田は思わず腰を抜かせてしまった。

「み、ミクニを何で」

思わず出た言葉に、ジウは失笑で返した。

「なんだ? お前がミクニのこと聞くのか? 笑わせてくれるよ。
 お前にそんな権利はないんだよ! ミクニの親友は僕だけだ」

──ああ、本当に。

こんな時だと言うのに猛田はジウの言葉に内心で頷いてしまった。
そう、猛田にとってミクニは明確な敵だった。
元は同じ学校の生徒だったが、あの実験を経た以上、もうそうとしか言えない。

絶望的な状況に、猛田は目を逸らそうとして──そして転がっていたミクニの頭を見つけた。
その時、猛田の中で、何か、猛烈な後悔が湧き出ていた。

337だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:07:47 ID:vI0lfPY20

「お前にはアイツの名を呼ぶことなんて、許されないんだ!」

その言葉と共に、ジウは猛田を斬り伏せようとして──


「──泣きたいのなら、泣けばいいよ、猛田くん」


──横殴りにやってきた影がその刃を受け止め、猛田を守ってみせた。

「誰だ!」
「猛田くん! 下がってて!」

影は一瞬で消え去り、入れ替わりに一人の少女がやってくる。

つややかな髪を翻し、白い制服が風に乗って舞う。
それは猛田よりも小柄な背中。
だがそうしてやってくる姿は、どうしようもなく颯爽としている。
夜明けに響く騒々しい足音は舞踏のように絢爛だった。

「立香、さん」
「ごめん、猛田くん。遅くなった」

少女──藤丸立香は言って、凶刃を振るうジウの前に降り立った。

「誰だ! 邪魔をするんじゃない!」

ジウは叫びと共に日本刀を構える。
その血走った瞳と裏腹に、その構えに一切の淀みはなく、まっすぐな刀身は明確な技を感じさせた。

「これは僕とミクニの話なんだ! 何も知らないクセに突然に出てきて、勝手に邪魔をするんじゃない!」
「そう、だね。私は君の物語を知らない。君からしたら、私はただの異物なんだと思う」

彼女のその言葉は、強く毅然としていて、でも──どこか寂しげなものがあった

「でも私は──私だけは何時だって異物だった。
 どの物語だって、私は最初からいた訳じゃない。一人の人間として、ただ終わりに居合わせてきただけ。
 だから──」

立香はその背中で守る猛田に対し、一瞬だけ顔を向けて、

「──猛田くん。だから泣くのは任せるね。それは、私じゃできないことだから」

そう、りんとした口調で言い放つのだった。


【E-6/街/1日目・朝】
※ミクニのデイパック(ランダム支給品1~3個入り)が転がっています

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
0:とりあえず北上して資料を集める
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
4:清姫については──
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。
※カルデア礼装は使用すると一定時間のインターバルがあります。

338だんだん遠くなってく君を追いかけていく ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:08:08 ID:vI0lfPY20

【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる?
1.藤丸立香は俺に気がある?
2.藤丸立香、い、良い女だ……
3.ミクニは──
[備考]
※死後からの参戦

【皇城ジウ@ラブデスター】
[状態]:精神的ダメージ(???)、幻覚・幻聴
[装備]:千刀・『鎩』@刀語
[道具]:基本支給品一式、救急キット@Fate/Grand Order、ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order、ランダム支給品0~1(前述のものと合わせて支給品が合計3つ以下に見える状態)
[思考・状況]
基本方針:ミクニに関わったすべてのものを殺害する
1:まずは目の前の女と猛田を殺す。
[備考]
※参戦時期は細川ひさこの仮想空間(新選組のやつ)から帰還してミクニを殺害するまでの間です。
※中野四葉から彼女の知り合いについて話を聞きました。少なくとも林間学校以降の時系列のものです。


【E-6/民家/1日目・朝】

【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、精神的ショック
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人に会いたい
1.とりあえず北上して資料を集める
2.千翼に対する強い怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。


【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:好きな人と傍にいたい
1:とりあえず北上して資料を集める
2:PENTAGONはちょっと行きたい
3:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。


【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:首筋に引っ掻き傷(処置済み)、精神的ショック
[道具]:基本支給品一式、四葉のリボン、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:好きな人へ伝えたい
1:とりあえず北上して資料を集める
2:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。

339 ◆7ediZa7/Ag:2019/10/24(木) 17:08:22 ID:vI0lfPY20
投下終了です。

340 ◆2lsK9hNTNE:2019/10/24(木) 18:01:27 ID:Zxam1.zc0
真司、炭治郎、沖田、佐藤予約しまう

341名無しさん:2019/10/24(木) 22:35:51 ID:nY3YS3hs0
投下乙です
立香ちゃんにバブみを感じました

342 ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:08:15 ID:iDmGFlA.0
皆様投下乙です。今日は大盛況ですね
こちらも投下を始めます

343別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:10:59 ID:iDmGFlA.0


 ◆


 青天の霹靂、という。
 霹靂とは急に雷が激しく鳴ることで、晴天の空を突然黒雲が覆い鳴動を聞く羽目になる、転じて予想だにしなかった出来事が起きた様子を指す。
 家庭教師として万年赤点以下娘の教え子五人をどうにかこうにか卒業ラインにまで導き、これからはアイツら個々人の夢や目標を見つけてやりたいと思いつつ、三年生行事の修学旅行も存分に楽しんでやろうと意気込んでいたら、いつの間にか見知らぬ孤島に拉致され、知らない女の子に殺し合いを命じられたという状況を説明するには、実に相応しい故事成語といえる。

 脈絡がない。前兆がない。経緯がすっぽりと抜け落ちてる。夏に雪が降る方がまだ異常気象で説明できる。
 なぜ京都に行って殺し合いなぞしなくてはいけないのか。時代錯誤甚だしい。いったいいつの時代だ。鎌倉か。戦国か。名簿に歴史上の人物である沖田某と同名が載ってるから幕末か。なるほど霹靂だ。豪快なまでに豪雷だ。
 でも、いま俺の全身を激しく打つ霹靂は、それとは違うものだった。

 いや……。
 霹靂とは、少し違うのだろう。
 だって現在この場所で行われるのが殺し合いだと俺は六時間前にとうに知っていて、殺し合いでは人が死ぬという意味なのだと理解している。実際本当に人が死んでいるのかどうかは関係ない。聞いた言葉を脳はそう解釈していた。ここでは人が死ぬのだと、そう了解していた。
 だから、予告通りきっかり六時間毎に行われる放送についても記憶していた。ここまでに出た死者の名前が挙げられるというのもちゃんと覚えていた。 
 だからこれは霹靂などでなくて。想定してなかった出来事などではなくて。十分に予測できていて然るべき結果だった。
 

 でも、それは。
 
 そうだとしたら。







『中野四葉』

『中野五月』







 アイツらの名前が呼ばれる未来を、俺は覚悟してなくてはいけなかったというのか。


.

344別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:13:38 ID:iDmGFlA.0

 ◆


 目と耳が現実と切り離された感覚に酔いそうになるのもこれで二度目だ。
 以前やったVRとかいう種類のゲームを思い出すが、あれよりもよりリアルな解離感で気持ち悪くすらあった。無論テレビすら置いてない我が家でゲーム機だけあるなんて奇妙な事態ではなく、休憩と称してマンション時代のアイツらの家でやらされた経験だ。
 そうだ。その高層マンションを俺達は目指していた。
 もうすぐ放送だから落ち着いて聞けるよう身を隠そうという明さんからの提案を呑んで、適当な民家で腰を下ろしていた。
 そしてアイツらと鉢合わせできそうな唯一の場所を見上げながら、アイツらのうち二人の死を知った。
 中野四葉と中野五月。五つ子姉妹の下の妹二人。
 女三人いれば姦しいというように、アイツらと一緒にいる時はたいていやかましいが、その中でわけてもやかましい二人だ。
 かたや混雑でも見分けがつきやすいデカリボンの、体力面に全振りの元気馬鹿。
 かたや他の姉妹には見ない突き出たくせ毛とセンスを疑う星型のアクセサリーの、要領の悪い真面目馬鹿。
 一年越しの付き合いは短いようで長く、薄くなりようもない濃さだった。瞼を閉じれば暗闇でも顔を想起でき―――全員同じ顔なのだから実質一人ともいえるが―――、耳を澄ませば耳朶に残る声が再生される―――これも全員同じ以下略―――。

「―――――――――」
 
 放送が終わって暫く経つ中、俺は何も言わなかった。
 二人の死に動揺し言葉を失ったからじゃない。
 そうなるにはあのおちゃらけたラジオはどうにも得られる実感が薄かった。理由があるとすれば怒るにも悲しむにも向かえない、この得体のしれない感情だからだ。

 この六時間で俺が出会ったのは球磨川と明さんの二人だけ。その間球磨川が爆弾で吹っ飛んだり明さんとの合流でちょっとした諍いはあれど、直に死の危険を味わう経験は幸か不幸かまだない。明さんはクラゲの化物と交戦したと述べていたがやはり直接対峙してはいない。
 ……いや、危険な目に遭わないのだから少なくとも幸運に決まってるのだが、殺し合いに巻き込まれてる現状を直視し辛い現状にどこかマイナスの面を感じてるのも事実だった。

 なんだろうか。
 アイツらの死を伝えられて、それを覿面に受け取る事に抵抗が残っている。
 死体を見たでもなく、悲鳴を聞いたでもない。ただ流れる情報を受け取っただけ。
 人の死なんて世間にありふれていて、対岸の火事である限りは無機的に感じてしまう。家にテレビがなくても、ニュースで毎日煽り立てて死というものが報道されているのだと知っている。
 なのに俺は、昨日まで勉強を見ていて、くだらないやり取りに怒ったり笑ったりしていた隣人が、友人が、失われた現実を理解する事をこんなにも拒んでいる。

 何かが欲しかった。
 アイツらが生きている、あるいは死んだという証を確かめたかった。
 そんなもの本当は見たくもないが、それでも、テストに書かれた問題欄みたいな簡素さで、ああ、そうかと軽く扱うのがどうにも嫌だったのだ。
 だからどうにかして理屈を考えている。そうじゃない理由を捻り出している。
 主催者は視界や聴覚に干渉する技術を持っている。だったら、俺にだけ偽の情報を送るのだって不可能じゃないだろう、とか。

 わかっている。
 不可能ではない。可能である。
 だからってじゃあ実際にやるかといえば、そんなのはまるで別問題なのだと。
 なんとまあ、情けない現実逃避だ。こんなすぐバレる嘘、俺一人を惑わせるためにしてどうなるっていうんだ。無駄な労力に過ぎる。
 本当に、意味がまったくない。


『おーい上杉くん、大丈夫かい?』


 底なし沼に嵌っていくようにどんどん埋まっていく意識を、今はあまり聞きたくない声が引っ張り出した。
 球磨川禊という男は無視するには存在が負の面であまりに色濃かった。気付け薬にするには劇薬過ぎた。

345別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:15:53 ID:iDmGFlA.0


「……大丈夫なように見えてるか?」
『うーん、ぜんぜん!』『まるで友達が自分の全く預かり知らないところで死んじゃったのを知った時みたいな顔だね』

 歯に衣着せぬどころじゃない直接的に刺しに来る物言いを聞いても、球磨川に激しく食ってかかるような事にはならなかった。こうも徹底してると呆れてすらもくる。
 それぐらいにはまだ冷静さを残している。と思ってもいいのか。

『ん?どうしたんだい上杉くん』
『まさか君、今の放送が本物だって信じ切っちゃってたりするのかい?頭いいのにそりゃないぜ』
「は……?」

 なのでその発言には、思わず視線が球磨川に吸い寄せられた。
 
『僕らが出会ったのは明ちゃんも含めてたった三人』『それまでは他の参加者に禄に出会ってもない』
『明ちゃんはクラゲの化物と戦ったって言ってるけどそれっきり』『情報的に僕らは孤立してるといっていい』
『だからあんなラジオで誰が死んだなんて聞かされても、僕らじゃ確かめようがない』
『しかもBBちゃんは視覚と聴覚に干渉するスキルを持っている』
『いかにも悪戯嫌がらせが大好きみたいな顔したBBちゃんだ』『個人個人、纏まった集団ごとに違う情報を与えて混乱させる事だって可能だろう』

 捲し立てる球磨川の言葉は、俺が浮かべては廃棄していた根拠のない考察をそっくりそのまま表していた。
 たとえこいつが球磨川禊でも。
 敵にはならずとも、どうにも信用ならない男でも。
 見ているだけでも不快感を催すほど不吉な雰囲気を纏った奴だとしても。
 自分でも信じてない妄想を、話してもいない他人が全く同じ推論を口にした事に、妙な安心感を抱いてしまった。
 


『なーんちゃって』
『全部嘘だよ』



『こんな参加者と会えばすぐバレる嘘、なんにも意味がない』
『いくら可能だからって』『不可能じゃないからって』
『実際に行動に移す事とは別問題だ』
『むしろ主催者の情報全てに懐疑的になって』『やってもらいたいはずの殺し合いにすら疑問を覚えさせてしまう』
『相手を騙すには真実の中に一欠片の嘘ってのが基礎だからね』
『意味なんてそれこそ』『「今の嘘信じた奴どれくらいいた?」って馬鹿にするぐらいしかないんじゃないかな』
「……おい」

 翻した言葉は俺が断じた結論そのものであって。
 にへらと貼りつけた、球磨川の薄ら笑いを強く睨んだ。

『お、やっとこっちを見てくれたね』
『放送も終わって仲間同士話し合わなきゃいけないっていうのに』『いつまでも目も合わせてもらいままじゃたまらない』
『僕は弱いからね』『無視されるだけでも堪えちゃうよ』
『で、放送の内容は本物だって話をしたけど』
『どうすんの』
『死んじゃったぜ、五つ子ちゃん』

346別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:18:30 ID:iDmGFlA.0


 自分で自分を弱いと自称するこいつは、人の痛いところ、言われたくない部分を的確なタイミングで突いてくる。
 逃げようもない事実を逃げられないように、当たり前に当てに来る。

「……ああ、そうだな」

 認めるように、観念したように、俺は答える他なかった。

『おや。なんだか蛋白な反応だね』
『ここに来て最初からずっと考えていて』『会ってどうするかなんて考えもせず』『とにかく探して会うのを目標にするぐらい考えてる子達のうち二人が』
『死んでしまったっていうのに』

 訝しがる球磨川に、俺は返す言葉もない。
 自分でも分からない混濁した感情を表現する術なんて持たないのだ。
 答えの欠片らしきものが引っかかってるのがもどかしい。吐き出して楽になりたいのに口から出てこない。
 アイツらとの時間で幾度となくぶつかった答えのない問題は、死という出来事を前にしても、変わらず立ち塞がった。
 だから。





『まぁそれもそうか』

『だって、まだ三人もいるし』





 この球磨川の台詞に湧いた感情も、俺は言い表す事などまるで出来なかった。

 代わりに半ば自動的に、衝動的に動いた腕が球磨川の肩を掴む。そのまま引き寄せるでもなく、片方の腕で殴り飛ばすような事もしない。
 実に中途半端な態勢だった。

『おいおいおい』『なんだよ怒るなよ』『相手が違うぜ』

 宙に浮くように軽い俺の剣幕など、当然意に介さずにどこ吹く風と球磨川は表情を変えない。
 薄っぺらく、冷ややかに、学校の教室で戯言を言い合ってる時みたいな笑みで。

『僕は別に君を責めてるわけじゃないよ』
『実際君に何か出来たわけじゃないし』『君自身に何か過失があったわけでもない』
『何処にいるかも分からない』『明ちゃんの言うクラゲの化物みたいなのだうろついてる会場で』『皆を見つけて助けるだなんて』
『そんな事出来る奴なんて僕が知る限り二人しかいない』『ああ』『一人は完全な人外だから除外するとして実質一人だね』

『君が怒るべきなのは』『なんの罪もない、悪い事もしてないいい子ちゃんを騙して甚振って』『その上殺した奴らじゃないか』

 怒りを向ける矛先を指摘する球磨川の顔が、僅かに昏く歪んだ気がした。

347別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:21:51 ID:iDmGFlA.0

『仕方ない』
『仕方ないよ』
『こんなのは、どうしようもない』
『これがバトルロワイアルというものさ』
『君が彼女達を助けられなかったのは君の責任じゃない』
『悪いのは』『名乗りもせずコソコソ隠れながらか弱い女の子を殺す最低の奴(ひきょうもの)だ』


『だから』『君は悪くない』
『そして僕も悪くない』


 そう締めくくると、するりと俺の腕が掴んでいた球磨川の肩から離れた。
 球磨川が振り払ったのでなく、単に俺の方から力を抜いただけだ。ここで球磨川を責める無意味さを悟ったから。

 怒ってるのかと球磨川は言った。
 そうか。俺は怒ってるのか。
 そうかもしれない。
 他人に言われて、初めてそんな気がしてきた。

「悪かった。正しいよ、球磨川。お前は間違っちゃいない」

 知り合いの五人のうち二人が死んで、三人はまだ何処かで生き残っていて。
 殺した奴と殺された奴がいて、殺された方の知り合いが怒りを向けるべきは殺した奴に決まっている。
 論じるまでもない、当たり前過ぎる帰結だ。
 
「アイツらの傍にいて俺に何が出来るでもない。出来てせいぜい代わりに死ぬか、一緒に死ぬかのどちらかだ。
 お前の言い分はもっともだ。矛盾もなければ破綻もしてない。まっとうな意見だぜ」
『そうかい。わかってもらえて嬉し―――』
「けどな」

 四葉と五月が死んだ事も。
 その時傍におらず、何もしてやれなかった事も。
 もう全部認めてる。理解している。

 わかってる。
 わかってるよ。
 ああ、わかってるんだよ、そんなことはもうとっくに言われるまでもなく。


「正しいからって、間違ってないからって、じゃあ実際に納得出来るかなんてのとは別問題なんだよ」


 関係無かった。
 可能か不可能かとか、意味のあるか無しだとか知ったことじゃない。

348別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:23:45 ID:iDmGFlA.0



「死ぬ理由がない奴が死んで、その事を当然だなんて受け入れるのは、凡人にもなれない奴の安い言い訳でしかないんだって言ってるんだ」 


 短い人生で我武者羅に詰め込んできた知識を、ここではものの役にも立ちはしないと明後日の方向にぶん投げる。
 不合理な感情だってわかっている。けど、理屈じゃないんだ。握り締めていたものを捨てるのに躊躇する理由は。
 少し前まで不要だと放っておいて埃が被っていたものを拾い上げて、手に握らせて、育ててくれたアイツらとの思い出を、過去の残像で終わらせてしまうだなんて出来なかった。
 そんな人間に、なってしまっていた。いつの間にか。知らぬうちに。
 心地の良い場所だと、受け入れてしまっていたんだ。



『……うーん、そうくるか』『そうすると僕も少し困ったなあ』

 腕を組んで、顎に手をやって、如何にも悩ましそうなポーズをする球磨川。
 いつものおちょくりかと思えば、どうも本気で困ってるらしい。
 後で思い返せば恥ずかしすぎて忘れてしまいたくなるだろう自分の発言に、そこまで悩ませる要素があっただろうか。

「……困るって、何がだよ」
『そりゃあ、これからの事さ』
『これからこの殺し合いをどう動いていくかにあたって』『弱い僕と上杉くんとじゃ不安要素が多すぎる』
『放送が終わって明ちゃんは外に出たきり帰ってこないし』『ひょっとして見捨てられちゃったかもね僕達』
『あっちも探し人が死んじゃったし』『ここに留まる理由もないからね』

 そこまで聞いてようやく、球磨川の監視も兼ねてという名目で着いてきてくれたもう一人の同行者である宮本明が部屋にいない事に気づいた。そこまで意識が散漫していたのかと自省する。
 探していた、鮫島と勝次の名前が放送で呼ばれたのまでは辛うじて憶えている。名前順で呼ばれた仕様で、ちょうど四葉と五月を挟んでいたからだろう。

『特に上杉くん』『今の君の弱りっぷりったらないぜ』
『肉体的な能力はどうしようもないとしても』『精神面での能力の低下はこの状況じゃ全てに不利(マイナス)だ』
『僕としても』『六時間も付き合いのある大事な同行者をここで失うのは忍びない』

 嫌な予感がした。
 こいつといてから今に至るまで良い予感というものが巡った憶えなど一切ないが、とにかく嫌な予感だった。
 球磨川が俺をここまで気にかける理由、それが結局ハッキリしていないのが大なる理由であり。

『……心配してくれるのはありがたいが、ならどうするって』
『うん、だからこうすればいいんだよ』



『大嘘憑き(オールフィクション)』




 脈絡なく。
 前兆なく。
 経緯がすっぽりと抜け落ちて。
 腕ほどもある剣呑に巨大な螺子が、俺の弱みごと胸の中心部に螺子込まれた。


『君の五つ子ちゃん達への思いを無かった事にした』
『これで雑な思いに煩わせられない、プレーン上杉くんの出来上がりだ』

349別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:28:35 ID:iDmGFlA.0




 ◆



…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………




 空洞があった。
 螺子込まれ、抉り抜かれた胸の真ん中に虚空がある。
 傷跡は程なく跡形もなく消えて、孔もはじめからなかったように消えたが、底には虚構(あな)があった。

 いや、違う。欠落などない。失われたモノなどない。
 全ては、『無かった事になった』のだから。
 一年と少しの間の経験と時間は完全に消えた。因果として地平から無に帰した。
 醒めた眼で自分を客観視する。途端に、あの五人に向けていた諸々の感情が何もかもどうでもよくなってきた。
 何かここまで、酷く馬鹿馬鹿しい考えを抱いていた気がしてならない。
 
 思い返すに、最悪の出会いとしか言いようがなかった。
 元を正せば借金返済の為に親父が無理やり取り付いた家庭教師のバイトを押し付けられたのが始まりだ。当初から乗り気でなかったが、教え子と対面してみれば想定を更に下回り底を割るほどの問題児共だった。
 五つ子の姉妹。顔も身体も声も同一。少し髪飾りを変えただけでちっとも見分けがつかない。
 これだけでも混乱を招く悩みの種だというのに、頭の出来も五人そっくり悪かった。馬鹿だった。五人合わせて一○○点の赤点以下娘のとんでもシスターズだった。
 その癖そこまで一緒でいながら性格は不思議なほど一致せず、そしてまた揃って自分に従わぬ馬鹿ばっかりだった。
 だいたい初日から睡眠薬盛って追い出すとかなに考えてんだ。倫理観どうなってんだ。しかも主犯以外の四人も犯行を黙止してるし、後日に悪びれる気もさらさらないときた。
 それからもあれこれ理由つけて勉強を避けやがるし家出したりなぜか俺の家に泊まったり花火の縁日だの温泉旅行だのに散々に連れ回されて。

 自分の時間がどんどん減っていく。
 あいつらとの時間にばかりすり替わっていく。

 本当に、本当にあれは最悪の時間だった。
 揃いも揃っての問題児。高給でなければ誰が受けたものか。動物園でゴリラの飼育委員のバイトやってた方がまだやりがいを感じる。
 こんな奴らに好感を抱くなんてどうかしてる。
 こんな奴らに好意を抱かれたってどうってことない。
 だからあんな奴らが死んだところでどうだってよく。
 まあ死ぬのはかわいそうだなと思うけどそこ止まりで。
 今頃あの三人は泣いてるんだろうなって考えて。そういや俺はまだ泣いてないなって気づ










「あ、そうか。
 俺、アイツら五人が好きなんだ」
 

 台無しだった。

350別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:32:29 ID:iDmGFlA.0


 盛大な自滅だった。
 
 見事なる爆散だった。

 ここにきてそれなのか。ここまできてたどり着く答えが、それなのかよ。


 好きな人が死ぬ事を、息が詰まりそうなぐらい苦しく感じて。
 大切な人をもう会えない事を、体の半身が千切れたように痛いと思う。 
 それは特別なのか。
 それって異常なのかよ。
 不幸とされなきゃいけないのか。

 そんなわけ、ないだろ。
 普通だ。
 あまりにも普遍的な気持ちだ。
 ありふれて凡庸で、どこにでもいる人が抱えている、下らないぐらい抱えているものだった。
 家族以外にそんな気持ちを持つ事をくだらないと言ってる平凡以下の男が、誰かの役に立てる人間になるとかつて誓った俺だった。

「――――――やべえ。まじ恥ずかしい。死にてえ」

 頭を抱える。ここまで巡りの悪い脳は自分なんかじゃないと否定したいが、どうあったって俺でしかない。
 気づくのが遅すぎた。あるいは早すぎた。
 誰かのように真正面から宣言出来るほどはっきりしてるわけじゃない。淡く芽吹いたばかりで
 たとえ恋未満にすら至ってない芽吹いたばかりの淡さだとしても。
 他人から好意を告げられて少なからず意識するようになって、書物に頼り、季節を跨ぎ、少しずつ自分の気持ちを整理して確かめるべきであって。
 取り返しのつかない乖離を味わい、自分についた亀裂の深さで愛を確かめる方法で気づきたくなんか、なかったのに。
 


『僕の「大嘘憑き(オールフィクション)」は現実(すべて)を虚構(なかったこと)にするスキルだ』
『どんな傷も疲労も、死んだ事実だってゼロにしてしまう』
『けど、少なからず無かった事に出来ない例外もある』『しかも今の僕はそのスキルを訳あって失っていてね』
『僕の中に残ってたスキルの残骸を組み合わせてそれっぽく見せた劣化品』『いわば劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)とでも言うべき代物でね』
『強い思いのこもったものを無かった事には出来なくなってるんだ』
『加えてこの殺し合いから更にスキルに制限がかけられていて、尚の事効き辛い』
『括弧つけた薄っぺらいものならともかく』
『本当に大事で失くしたくないような思い出を消せるほどの効力は無くなっちゃってるんだ』

 頭上からの声が俯いた顔を掴み上げる。
 知らず膝をついて蹲っていた俺を、立ったままの球磨川が見下ろしていた。
 気味の悪さも、緩い表情も、この時だけは少しだけ薄れていて。

『攻略対象(すきなこ)を二人も守れなかったからって』
『急に方針転換して五人共好きなんてハーレム宣言するなんて』
『あーあ』『この上なく無様で』『みっともない』
『僕の初恋なんて小学生体型の経産婦だぜ』
『甘えよ』
『そんなんじゃラブコメ主人公、失格だね』

『……が、その甘さ、嫌いじゃあないぜ』

351別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:35:03 ID:iDmGFlA.0


『恥を掻きたくなくて鈍感キャラぶるよりは』『不幸(マイナス)をかけられてもゼロにならない思いで恥を刻む方が、恋の始まりには丁度いいってものだ』

 指を刺して、酷薄たっぷりに、キメ顔でそいつはそう言った。



「……結局さ。なんでお前、こんな事したんだ?」

 球磨川の言動と行動は、問題こそ俺を立ち上がらせる切欠(パーツ)の役目を果たしていた。
 感情を煽り、心象を検めさせ、結果的に奮起させた。
 弱く、不思議な能力も持たない俺なんて、それこそ明さんのように放っておくのが自然だ。
 そこまでする理由が相変わらず読めない。自分で言うのもなんだが、あまりにも割が合わないのではないか。

『そりゃあ、僕はいつだって弱い奴の味方だからだよ』
『何の力も無く』『何も出来ず』『殺し合いの舞台では殺される以外に役柄が与えられてない人みたいなね』

 その通りだろう。今以て殺し殺される関係に変化はない。
 自分の気持ちとやらに気づいたところで、都合のいいパワーアップなんて起こりなんざしない。
 勉強が日々の積み重ねであるように、鍛えるのだって一朝一夕で済みはしないのだから。

『それにさっきも言ったろ』『上杉くんとはここで六時間も同じ時間を過ごした相手なんだ』
『プラスにもマイナスにもノットイコールにも寄らないどノーマルな人が』『初対面で僕とこれだけ付き合ってくれるなんて、早々無い事なんだ』
『つい嬉しくなって』『お節介の一つでもかきたくなるよ』
『まったく』『女の子相手でもないのに困った性だよ』

 どこまで本音なのか、分かったものじゃないが。
 どこまで信じていいのか、頼ってしまっていいのかは計りかねてる最中だが。
 少なくとも、不快が消えはせずとも、こいつと一緒にいても許せるぐらいには思ってるらしい。
 
「……ああ。お前が困った奴だってのには、心底同意する」
 
 笑ったつもりの俺の顔は、ちゃんと笑えてるだろうか。
 へらへらと薄っぺらく張り付かせてないかと、関係ない事を考えてしまう。
 アイツらを見つけた時、こいつと同じ表情をしてると思われるのは、流石に御免被りたいからだ。  
 




『ああそれにしても』
『数時間ぶりにまた言う羽目になるとはね』
『流石に使いすぎるのもマンネリそうで気が引けるんだけどな』
『まあともかく』『ゴホン』
『―――また勝てなかった』
「そもそも勝負した覚えもないがな」
『うわ』『折角括弧つけて決めセリフ言ったのにそこで口挟んじゃう?』『ほんと上杉だねデレカシーくん』
『わざとかそれ?』
『ごめん、噛んじゃった』
「違う絶対わざとだ」
『噛みまじっっっぶぇっ』
「マジで噛みやがった!?もうさっさと治せお前!」


.

352別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:38:24 ID:iDmGFlA.0

 ◆

 
 慣れてしまった喪失の味が喉元を通り過ぎる。
 仲間を、肉親を、師を、失う度に辛酸を舐めさせられてきた。
 もう奪わせはしまいとどれだけ意気込んでも、人は死ぬ。
 吸血鬼を斬り、邪鬼を刈り、亡者を殺し、アマルガムを討つだけ強くなっても。
 傍にいないというだけで、人は鬼に貶められ、そして死ぬ。

 放送を聞き内容を記憶して、すぐに明は家の玄関を抜け外に出て、塀に背をもたれかけていた。
 クラゲの怪物の対決以来戦闘はなく体力の消耗もしてないが、やはりあの二人の死が思った以上に堪えてるのだろうか。
 本土に渡ってから最も付き合いの長い二人だ。吸血鬼撲滅の戦いに荒れ果てた明の、少ない心許せる相手だった。
 
 鮫島と勝次が死んだ今、明の知り合いは最早あの雅のみだ。
 雅。あの吸血鬼はこの殺し合いも余興の戯れとして満喫している事だろう。
 あの元凶を殺す事こそが今の自分の生きる理由だ。この場で何より優先すべき事柄であり、子守りに興じる暇はない。むしろ雅との戦いに巻き込まれる危惧を思えば遠ざけるのが気遣いだ。
 ならばさっさと家を去ればいいのだが、明は離れない。
 知り合いの死に少なからずショックを受けている上杉の様子が落ち着くまではここにいるつもりだった。
 別に義理を持つ理由はないが、あの球磨川にいらぬ難癖をつけられて下手に邪魔をされるのも面倒だった。
 奴の監視も兼ねて、二人の同行を受け入れたのだから。

「明さん」

 背後からの呼び声に振り返ると。準備を済ませた上杉と球磨川が出てきていた。

「すみません、待たせました。もう行けます」

 幾らか顔に憔悴が見られるが、だいぶ落ち着いてるようだ。目の光は死んでおらず、かつての勝次のような生きる意思が芽生えている。
 まさか球磨川が激励でもしたのかと頭を掠めたが、すぐに取り下げる。どの道家の中で何が会ったかは自分とは関わりのない話だ。

「付き合うのはあのマンションまでだ。そこからは好きに動かせてもらう」
「はい。構いません」
『そりゃあないぜ明ちゃん』『幾ら仲間二人が死んで気楽になったからって』『まだ大事な人達が残ってる僕らを見捨てるっていうのかい』
「おい球磨川。ほんとお前黙っとけ今は」

 上杉の制止が無ければそのまま殴って黙らせていただろう。いちいち人の神経を逆撫でるポイントを心得た発言しかしない男だ。無視という形で会話を強引に打ち切る。
 常に笑顔を浮かべている球磨川はまるで変わりない。一人だけ知人の名が呼ばれなかった余裕か?いや違う。たとえ友人や肉親の名が呼ばれたところでこいつはいつもの笑顔でいるだろう。

 明が二人と行動を共にしている理由の半分は球磨川だ。自分に余計な悪評が立って妨害されたり鮫島達に危害が及ぶのを防ぐ名目だ。
 だが二人が死んだ今その効力も消えた。だというのに、こうして期限付きといはいえ連れ立ってるのはなぜか。
 不気味だった。まるで見えない糸が足に括り付けられこちらの進路を誘導されているような。
 球磨川は何も言わない。ただ明が球磨川を見て、言葉を聞き、直感で自分に被害を招くと察しているだけだ。
 それこそ、知らず思考を誘導されてるかであるように。


負完全。
異常以上の、それ以下の何か。
混沌より這い寄る過負荷。


 「大嘘憑き(オールフィクション)」なぞ、球磨川という黒点に彩りをつける飾りに過ぎない。
 一度関われば無視を決め込もうが間に合わない。全てを引きずり込みグチャグチャに混ぜ合わせ台無しにする、負の引力こそが球磨川禊の真骨頂。

「……とんだ危険物を掴まされたようだな」
『え?』『明ちゃん爆弾持ってるの?』『それは危ない!』『うっかり支給品を調べようとした途端爆発して死にかけるようなヘマをしないでくれよ』『まあそれ僕なんだけど』
「球磨川。やっぱり暫く舌噛んどけお前」

 普通(ノーマル)に生まれながら、
 特別(スペシャル)な人生を歩み、
 異常(アブノーマル)な強さを発揮しながら、
 過負荷(マイナス)の結果しか残らない。
 その本質を捉えつつある明が辿るのは、如何なる道に至るのか。
 彼岸の果てまで遠く続く先は、いまだ見えない。

353別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:41:58 ID:iDmGFlA.0




 ◆




『そうだぜ、上杉君』
『君みたいな凡人(ノーマル)が』
『特別(スペシャル)でも』『異常(アブノーマル)でも』『過負荷(マイナス)でも』『ましてや悪平等(ナットイコール)でもないただの普通(ノーマル)が』
『こんな異能バトロワものの舞台で、主人公みたいな活躍なんて出来るわけないじゃないか』
『出来るのなんてせいぜい』『「あいつは普通の奴だった」』『「死んでいい奴じゃなかった」』『「あいつの死は無駄にしない」』って』
『主人公がキメ顔で言って背負った気になって、あとは刹那で忘れられる「不幸な犠牲者」ぐらいだ』
『君に務まるのなんてそれこそ、ドタバタ学園ラブコメの主人公ぐらいものだろうさ』


『だったら』
『変えちまえばいいんだよ、ラブコメに』


『全ての前提を覆してしまえばいい』
『脚本(ブック)を作り替え(リメイクし)てしまえばいい』
『光り輝く素晴らしき英雄譚を』
『血潮吹き荒ぶ凄惨な殺し合いを』
『ゆるふわで、ベタベタで甘々な、みんなが幸せに終われる喜劇(コメディ)に舞台の主題をすり変えてしまえばいい』
『そうすれば後は君の独壇場さ』『誰か一人を選ぶいちご100%エンドでも、ハーレムを築くTOLOVEるエンドでも』『好きな結末を選べばいい』
『いやーどんな気分だろうね』『必殺技叫んで宿敵と決着つけてる横で、告白して結ばれたカップルをバックにエンディングが始まって大団円(だいなし)にされるのって!』


『まあ唐突な路線変更なんて、まるでジャンプの打ち切りコースまっしぐらだけど』
『ギャグ漫画からバトル漫画に移行して売れた作品なんて、山ほどあるし』
『それに打ち切りだって何もかもが駄作なわけじゃない』
『マイナスの吹き溜まりのような作品の中にも、たまに光るモノがあったりするんだぜ?』
『アンケートや売り上げで幾ら負債(マイナス)は覆らなくても』『物語の結末は無にならない』
『負け犬って罵られたって』『失敗作だって笑われたって』『ご都合主義だと嘲られたって』
『誰も死なず、幸せな大団円を迎えられたのなら、収支はマイナスでも物語の終始は幸福(プラス)で釣り合っている』


『でももし』
『君がヒロイン全員に振られたり あるいはヒロイン全員が間に合わず死んでしまったり、はたまた君自身があっさり死んでしまったとしたら』
『いよいよ晴れて過負荷(ぼくら)の仲間入りだ』
『そしたらその時は』
『夕暮れの校庭の桜の木の下で』
『校舎の屋上のフェンスの下で』
『「俺達、ずっと親友だよな!」って』
『温い友情で慰めてやるよ』



『僕達マイナス十三組はいつでも君を歓迎するよ!』





354別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:44:59 ID:iDmGFlA.0

【D-7/1日目・朝】

【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(小)球磨川への不快感及び嫌悪感
[道具]:基本支給品一式、宇髄天元の日輪刀@鬼滅の刃、不明支給品0〜4
[思考・状況]
基本方針:雅を殺す。
1:雅を殺す。その後の事は雅を殺した後に考える。
2:少なくともPENTAGONまでは球磨川と上杉と共に行動。
3:球磨川に警戒。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。


【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:学ラン、螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:『とりあえず上杉くんについていこうかな』
3:『明ちゃんとはいい過負荷(ともだち)になれそうだなぁ』
ー:『パロロワラブコメ化計画進行中。予定?そんなの永遠に未定だよ』
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。


【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感、精神的ショック(やや快復)
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:一花、二乃、三玖との合流。
2:PENTAGONを目指す。
3:俺はアイツらを――――――
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

355別問題なんだよ ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:45:56 ID:iDmGFlA.0
ちょっと修正

【D-7/1日目・朝】

【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(小)球磨川への不快感及び嫌悪感
[道具]:基本支給品一式、宇髄天元の日輪刀@鬼滅の刃、不明支給品0〜4
[思考・状況]
基本方針:雅を殺す。
1:雅を殺す。その後の事は雅を殺した後に考える。
2:少なくともPENTAGONまでは球磨川と上杉と共に行動。
3:球磨川に警戒。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。


【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康、『劣化大嘘憑き』に制限
[装備]:学ラン、螺子@めだかボックス×たくさん
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:自由気まま好き勝手に動く。
1:『めだかちゃんたちに会いたいな』
2:『とりあえず上杉くんについていこうかな』
3:『明ちゃんとはいい過負荷(ともだち)になれそうだなぁ』
ー:『バトロワラブコメ化計画進行中。予定?そんなの永遠に未定だよ』
[備考]
※『劣化大嘘憑き』獲得後からの参戦。


【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:健康、球磨川禊に形容しがたい不快感、精神的ショック(やや快復)
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:一花、二乃、三玖との合流。
2:PENTAGONを目指す。
3:俺はアイツらを――――――
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

356 ◆0zvBiGoI0k:2019/10/24(木) 23:46:15 ID:iDmGFlA.0
投下を終了します

357 ◆3nT5BAosPA:2019/10/31(木) 08:24:24 ID:vIqp6zMY0
すいません、ちょっと遅れます。今日中には投下するようにしたいです

358 ◆2lsK9hNTNE:2019/10/31(木) 18:00:44 ID:Gio.WVls0
すいません、私もちょっと遅れます

359 ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:26:37 ID:umByYa/g0
投下します

360獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:29:48 ID:umByYa/g0
 男の心には、飢えた獣の如き苛立ちがあった。
 何をやっても満たされず、常に感じる苛立ち──それを唯一解消できるのは、死と隣り合わせの戦いだけだった。
 故に、男は戦い続けた。
 日本史上最悪の殺人犯として名が残るほどに、数多の人間の命を奪い去り。
 神崎士郎から与えられたライダーデッキを使って、ライダーバトルに身を投じ。
 BBによって開かれたバトルロワイアルにおいても、場所と相手が変わっただけだと、そのスタンスが変わることがない。
 だが、そこまでやっても男の苛立ちは収まらない。戦いたいという欲求は一向に収まらない。
 きっと、男にとってその感情はもう生まれた頃から与えられた性質のようなものなのだろう。
 そうやって周囲の脅威であり続けた男は、これまで生きてきたのだ──そして今日。
 男は己と真逆の存在と出会うことになる。
 心中に常に苛立ちを抱える男と、何も感じない氷晶のような空虚な心をしている鬼。
 そんな真逆のふたりの出会いはまるで、鏡面に像が映るかの如き邂逅になるだろう。
 その果てに何が待ち受けているのだろう──それは、その時が来るまで分からない。
 鬼が出るか蛇が出るか、という話だ。

X X X X X

361獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:30:39 ID:umByYa/g0

「まさかあそこまでお怒りになられるとは。どうやら遊びすぎたようだ」

 鬼舞辻無惨の怒りの放送による視聴覚の支配から解放された後、童磨は眉尻を下げながら呟いた。
 これまでの自分の行動を思い返せば、反省すべき点は多々ある。
 いくら遭遇した相手が予想を遥かに超える強さの猛者だったとは言え、それを全ての言い訳にするのは苦しいだろう。
 『予想を遥かに超える』程度の人間を相手に、上弦の鬼が勝てなくてどうするのだ。
 そう言われれば、返す言葉もない。

「なんとかこの汚名を返上したいところだけど、ううむ、どうしたものか……」

 現在の時刻は六時を過ぎた頃であり、朝の時間帯だ。
 空にはとっくに太陽が昇っており、こうして木陰に隠れていなければ、鬼である童磨の体はあっけなく消滅してしまう。
 かと言って、このまま夜が来るまでじっとしておくわけにもいくまい。他の参加者が、鬼の本領発揮の時間まで大人しくしているとは限らないからだ。
 ならば、やれることも動ける範囲もあまりない現状で、殺し合いの参加者をひとりでも多く減らすためにはどうすべきか。
 日の光の届かぬ闇の中で、童磨は腕を組んで頭を傾げながら知恵を絞りだそうとする。
 だが、そう悩んでいたのは束の間だった。 

「あ、そうだ」

 数秒すると童磨は、頭の横に電球を灯した。
 
「『御子』を作れるだけ作って、島中に放つのはどうだろう。そしたら次の放送までに、殆どの参加者を倒せるんじゃないかな」

 御子──結晶ノ御子。
 童磨が扱う血鬼術のひとつであるそれは、彼と同じくらいの強さの術を使える氷の戦闘人形を生成するという技だ。
 一体だけでも十分に脅威である上弦の弐が、己と同等のスペックを持つ存在を生み出せることから、量産したそれを島中に放とうという童磨の発想がどれほどおそろしいものか理解できるだろう。
 
「うんうん、そうしようそうしよう。御子と俺の記録を同期していれば、探索の手間も省けるからね」

 そう言うと、童磨は胸の前で祈るように両掌を重ね、そこに冷気を集中させた。善は急げとばかりに早い行動である。
 そして凝縮させた冷気を分身の形にしようとしたところで──がさり──と、背後から物音がした。地面から伸びた雑草を踏んだ際に生じる足音だった。

362獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:31:13 ID:umByYa/g0
 おや、と思いながら、童磨は音がした方向に顔を向ける。
 そこにはひとりの男が立っていた。
 名は浅倉威と言う。
派手な柄の服装に、茶色に染めた髪。実に目立つ風体であり、全身に負っている火傷がその印象を更に増している。
見たところ、ただの人間だ。童磨が数時間前に出会ったナイチンゲールのように肉体がエーテルで出来ているというわけではないし、黒神めだかのように常人離れした力を有しているようにも見えない。勿論、鬼でもないだろう。
 特別なところはなにもない、ただの人間──だからとって、童磨は目の前の浅倉を『偶然殺し合いに巻き込まれた普通の人間』と判断することはなかった。
 なぜなら、浅倉の目は普通ではなかったからだ。
 おお、見るがいい、その瞳に湛えられし凶悪な光を。戦闘欲求に塗れた、その輝きを。
 見るからに獰猛。危険──獣性溢れるその男を、ただの一般人と断ずることが果たしてできようか。

「……ちょうどいい、食後の運動といこうじゃねえか」

 嬉しそうに口元を歪める浅倉。彼は童磨を、己の『戦いたい』という願望をぶつけるための都合のいい対象としか見ていなかった。
 
「いやあ、ははは。それは俺も同じだよ。手柄を立てる必要があってね、そこに君がやってきてくれたのは、『ちょうどいい』ことだ」

 対する童磨は朗らかな微笑と共に返した。

「ところで君、その火傷でよく生きてられるねえ。普通ならとっくに気絶している……いや死んでてもおかしくないよ。きっと想像を絶する痛みが全身を蝕んでいるんだろうなあ──可哀想に」

 今、俺が救ってあげるからね。
童磨はそう言うと、周囲に蓮の氷像を展開し、そこから氷の霧を散布した──血鬼術・蓮葉氷。
 まさかそんな曲芸じみた攻撃をされるとは思わなかったのだろう。思いがけない手段で先手を取られる形になった浅倉は、咄嗟に手で口を塞いだ。
しかし、完全には防げなかったらしく、口の端から血を漏らす。肺胞が壊死した証だ。

「がっ、あ……!」
「火傷は冷やすのが一番だからね。よく効くだろう?」

 屈託のない笑みを浮かべながら、おどけた声音で語る童磨。
 無論、彼の攻撃はこれだけでは終わらない。
 片腕を天に向けて伸ばす。すると、元から木陰に位置していて暗かった浅倉の元に、更に影が落ちる。見上げてみると、そこには2、3メートルほどの長さがある氷柱が何本も浮かんでいた──血鬼術・冬ざれ氷柱。

「ごめんねぇ。君ひとりにあまり時間をかけるわけにもいかないからさ、ここは早く終わらせてもらうよ」

 ピアノを奏でるように、指先を躍らせる。それと同時に氷柱が落下した。全身に火傷を負い、肺にダメージを受けた状態では、横に飛んで回避するのは不可能だろう。
 ズドドド、と釘を打ち付ける音を増幅させたような騒音が連続して響く。その衝撃で土煙と霧が舞い上がった。一本だけでも人に与えるのに十分な破壊が何本も落とされた結果は、それほどまでに大きなものとなっていた。
 碌に動けない状態でこんな攻撃を受ければ、生存は絶望的だろう。
 そう判断した童磨であったが、土煙と霧が完全に晴れたとき、彼は驚愕に目を見開くことになる。

「あれえ?」

 地面に大量の氷柱が突き刺さっている。それは当たり前の光景だ。
しかし。
 そこに、居ない。
浅倉が、居ない。
 本来ならば氷柱に全身を貫かれているはずである彼の姿は、そこには無かった。
 童磨の血鬼術は空振りの結果に終わったのだ。
 
「まさか、あの状態で咄嗟に回避して逃げたとでもいうのかい? いやいやまさか……」

 困惑した様子で呟く童磨──そんな彼は気づいていなかった。
 真横で咲き誇る、氷でできた蓮の花。周囲の風景を鏡のように映しているその表面に、明らかな異物が映り込んでいることに。
 毒々しい紫色の装甲に身を包んでおり、手に牙のようなサーベルを握っているそれの名は、王蛇。
 浅倉が仮面ライダーに変身した姿である。
 
X X X X X

363獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:32:10 ID:umByYa/g0

 氷柱に圧し潰される直前、浅倉はライダーデッキを取り出し、氷柱の表面に映すことで変身を完了していた。少しでもタイミングが遅れていれば即死を免れない限り限りの変身だ。
王蛇への変身を遂げた彼は、そのまま落下している氷柱からミラーワールドに飛び込み、そこを通って童磨の傍までやって来たのである──そして今。
蓮の氷像から姿を現した浅倉は、童磨目掛けて飛びかかった。

「ハッハハッハァーー!!」

 戦闘の最中にいる興奮からか、哄笑を叫びながら浅倉は突撃する。
 予想外の方向からの敵の出現に驚く童磨。迎撃しようとしたが、振り向いた頃にはベノサーベルが顔面に深々と食い込んでいた。
 禍々しい刀身が頭蓋骨を突き破り、脳を破壊する。即死間違いなしの重傷だ。

「おっとっと」

しかし当の童磨は緊張感のない声を放つだけだった。

「その声はさっきと同じ人かな? 俺の氷の中から現れるなんて凄い術を使うね。反応が間に合わなかったよ」

言いながら童磨は腕を、真横に伸ばすようにして構える。
 彼が見せた並外れた生命力に驚かされた浅倉であったが、その動作から次に何かが来ると獣の勘と言うべき鋭さで察した彼は、ベノサーベルを引き抜き、後方に飛び退いた。
次の瞬間、構えた腕は空気を薙ぐように振り払われていた。鬼の膂力をもってすれば、これだけでも当たれば致命傷になる一撃なのだが、童磨の場合はこれだけではない。その動作に追随するように氷の霧が再び現れ、周囲に散布された。先ほどと同じ、吸っただけで肺胞が壊死する死の霧である──血鬼術・凍て曇。
退避した浅倉を追撃すべく、童磨は蓮の氷像から氷の蔓を何本も生やし、刺突するように伸ばす──血鬼術・蔓蓮華。術を次々と出す彼の所作は、肉体の操作を司る期間に深刻な損傷が与えられているにも関わらず、淀みない動きだった。いや、もうそこに損傷など無い。彼の端正な顔立ちに刻まれていたベノサーベルの痕は、まるで最初からなかったかのように綺麗さっぱり完治していた。

「うおおおおおあああああああ!!」

威勢のいい叫び声と共に、ベノバイザーを四方八方に振り回す浅倉。ばきばきと音を立てて、蔓の何本かは折れた。しかし、ひとつの得物で全てを捌くのは難しい。
なので、浅倉は一枚のカードを取り出し、ベノバイザーに挿入した。
アドベント──淡々とした機械音声が流れる。
それが合図だったかのように、どこからともなく巨大なコブラが現れた。これぞ、浅倉が契約しているミラーモンスターが内の一体、ベノスネーカーである。
参上したベノスネーカーは、ぶんと尻尾を振った。勢いよく振るわれた尻尾は氷の蔦を一本残らず粉砕し、その際に生じた風圧で氷の霧を吹き飛ばす。
 
──どうやら彼は氷……いや、鏡のように光を反射するものから出入りしたり、そこからあんな大蛇を呼び出したりできるようだね。今まで見たことが無い術だ。

 浅倉が振るう異能を分析する童磨。

──姿が変わる前は、特別な力なんて何も感じさせない人間だったのに、不思議だねえ。……あの大蛇を呼ぶ時に使った絵札や、それが収納されていた腰巻が関係しているのかな?

 そこで彼の考察は中止させられた。こちらを向いたベノスネーカーが口を大きく開き、そこから液体を吐き出したからだ。
 攻撃の意志を持って放たれた行動に、童磨は氷の盾を生成することで対応しようとする。だが、それは無意味な防御だった。なぜなら、ベノスネーカーが吐き出した液体に触れた途端、氷の盾が蒸発したからだ。まるで、炎に炙られたみたいに。
ベノスネーカーが清姫を取り込んだことにより、炎の性質を得たが故の現象だ──もちろん、本来の性質もしっかりと残っている。

「グッ……あああああ!!」

 防壁を突破され、ベノスネーカーが吐いた液体を身に浴びた童磨は、悶えるようにして仰け反った。当然の反応だ。毒と炎の両方の性質を持つ毒液を頭から浴びて、呻き声一つ漏らさぬ者など、いるわけがない。

364獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:32:35 ID:umByYa/g0
だが。
 全身を焼く痛みに悶絶していた童磨の姿が、溶け落ちる様子も焼け落ちる様子も一向に見られない。どころか、爛れていた肉も徐々に元通りになりつつあるではないか。
 先のベノサーベルの突きを脳天に受けても平気だったことから、浅倉は童磨をただ者ではないと思っていたが、まさかここまで化物じみた生命力を持っていたとは。

「ガハッ……あはは、いやあ、ごめんねえ。俺の体に毒は効かないんだ。鬼だからね。でも、炎と毒を一緒に喰らうなんて体験はとても面白かったよ」

 肉体を完全に修復した後で、そんな感想を述べるくらいには余裕だ。
 どれだけの破壊を与えても、瞬時に回復する敵との戦いなんて、成立するはずもない。
なんて絶望的な状況だ。
しかし当の浅倉は、

「ハハハ! ハァーハハハッ!!」

 と狂ったように笑うだけだった。まるで上質な喜劇を見ているかのような笑い方だ。
 肺胞が壊死した状態でそんな大声を上げれば、ますます傷が広がるというのにお構いなしであり、仮面の下で血を吐き散らす。

「鬼、か。中々面白え体じゃねえか……退屈しねえなあ!」

 ライダーバトルに勝利した際に叶える願いとして決めていたほどに永遠の戦いを求めている浅倉にとって、豊富で強力な手札を使いこなし、どれほど傷ついても立ち上がる童磨はまさに夢のような敵だ。そんな相手を前にすれば、こうして笑うのも必然というものである。
 歓喜に震えながら、カードデッキから一枚のカードを取り出し、ベノバイザーに挿入する。
 ユナイトベント──無機質な音声が再び響く。
 すると巨大なサイとエイが現れた。ベノスネーカーと同じく王蛇との契約下にある二体のミラーモンスター、メタルゲラスとエビルダイバーである。
 場に揃った三体の怪物を目にし、総攻撃を仕掛けられると思った童磨であったが、その予想は外れた。
 ベノスネーカー達は一か所に集まったかと思うと、眩い光と共に合体し、一体の大きな怪物へと変化した。融合したのだ。
その名もジェノサイダー──三体だった頃よりも遥かに強い力を感じさせられるその造形は、敵対者への絶対的な殺意を目に見える形にしたかのようである。
ジェノサイダーは童磨目掛けて突進する。その巨体が動くだけで地面は抉れ、空気は悲鳴のような音を鳴らした。とはいえ、サイズが大きくなっていた分、機動力は低下しているので、童磨は横に飛ぶことであっさりと回避した。派手な音を立てて氷像を破壊しながら、ジェノサイダーはその場を通過した。
回避に成功した童磨であったが、その時になってようやく気付く。自分が王蛇とジェノサイダーに挟まれる位置に来てしまったことに。というより、これが狙いの突進だったのか。
とはいえ気づいた時にはもう遅い。浅倉は童磨に向かって走りながら、次のカードをベノバイザーに入れ終わっていた。ここまで迫れては、防御も回避も間に合わない。
ファイナルベント──終わりを告げる声と共に、王蛇は飛び蹴りを放った。
 
X X X X X

365獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:33:10 ID:umByYa/g0
 王蛇がジェノサイダーと共に発動するファイナルベントは飛び蹴りによって敵をジェノサイダーのところまで飛ばすという技だ。しかし、『ジェノサイダー』の枕には『腹部にブラックホールを発生させている』という説明が追加される。
つまるところ相手をブラックホールに蹴り込む技であり、そんなものを喰らってしまえばどんな敵でも死ぬのは確実だ。それは無論、首を切られない限り死なない童磨であっても例外ではない。いくら鬼が闇の中を生きる化物だからと言って、極限の圧力を加えられる闇の穴に放り込まれて生きていられるわけがないのだから。
 だから、この技を発動された時点で童磨の死亡は確定していたようなものだった──だが。

「なっ……」

 浅倉は愕然とした。童磨がブラックホールに吸い込まれていないからだ。飛び蹴りを喰らった彼は、ジェノサイダーの腹部にぶつかっただけである。そこにブラックホールは発生していない。……いや、そもそもジェノサイダーは動いていないではないか!
 融合によって生えた太い両足でがっしりと立っているジェノサイダーは、しかしその姿のまま固まっており、そこからブラックホールを発生させるどころか、身動き一つ取れていない。
 まるで一瞬にして凍結(フリーズ)したかのようだ──否、事実ジェノサイダーは凍結していた。全身を覆うように氷が展開しているのだ。
 
「この子、さっき俺の血鬼術を破壊したでしょ? その時に体表に俺の血で出来た氷がびっしり付着したから、それを利用させてもらったよ。せっかくの大技だったはずなのに、邪魔しちゃってごめんねえ」

 童磨としては浅倉が放つ『ファイナルベント』なる切り札を体験してみたい知的好奇心もあったのだが、頭を貫かれようと毒液を浴びようと死なない鬼に対して自信を持って使われる技に対する危機感も同時にあった。だから、技のキモであろうジェノサイダーを凍結させることで、それを封じたのであった。

「それに、これ以上時間をかけたら無惨様に叱られそうだからね。……いやはや、最初は早く終わらせるつもりだったのに、気が付けば随分遊んじゃったよ。楽しい時間をありがとう」

 言って、童磨は指を鳴らす。それだけでジェノサイダーを核としていた氷塊に罅が入り、中身もろとも粉々に砕け散った。いくら氷漬けにしたとは言え、そのまま放置していては次に予想外の行動でそれを解除されるかもしれないからだ。知識の外にある敵に対して取るには当然の手段だった。

「ぐあ……!」

 それと同時に王蛇の体を飾る装甲から色が失われる。契約モンスターを失ったことによるブランク化だ。
 ライダーとしての力が急速に低下し、元から重傷を負っていたこともあり、浅倉の変身は解除された。そのまま、その場で膝から崩れるようにして倒れる。

「あれあれ? もしかして今ので力を無くしちゃったの? ……そっかあ。力の大元はその絵札じゃなくて、この怪物の方だったのか。これはうっかりしちゃったなあ。残念残念」

 頭を掻いて己の失敗を嘆く童磨。しかし、次の瞬間には朗らかに笑い。

「けどまあいっか! そんなものがなくても俺は強いし、それにこの島を探せばそれみたいな力を持っている人が他にいるかもしれない。その時改めて調べてみればいいだけのことだよね。今回の反省は次の機会に活かすことにするよ!」

 負の感情とは無縁の表情を浮かべながらそう語った童磨は、懐から二丁の拳銃を取り出した。この島で彼に与えられた支給品の『炎刀・銃』である。
 絶体絶命の窮地にありながら、それでも浅倉は地面を掻きむしり、這うような形で童磨に向かおうとする。しかし、体の内外に蓄積されたダメージがそれを許さない。
最後まで戦おうとするその姿に、童磨は涙を流した。

366獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:34:47 ID:umByYa/g0
「無駄なのにあがき続けるその努力! 動かずにいた方が楽だろうに、それでも藻掻く愚かしさ! 君のその、最後の一瞬にとびっきりの輝きを見せる花火のような儚さと美しさに、感動せずにはいられないよ! いったい、何が君をそこまで突き動かすというんだい?」
「知るか……」

 ズタズタになっている肺からようやくと言った様子で息を吐き出しながら、浅倉は語る。

「……俺の心にいつもあるのは我慢できねえ苛立ちだけだった。だけど、戦えばそれを忘れられた。それだけだ」
「だから死ぬまで戦い続けるというのかい? それは……貧弱な人間が選ぶには随分と過酷な道だったろうねえ。だけど、もうそんな困難を選ぶ必要は無いんだよ。心を苛む何かに苦しまされる必要もない。だって、これから俺に救われるんだからさ」

 『炎』刀という己が扱う血鬼術とは真逆の銘を持つそれの照準を浅倉に合わせる童磨。
 生きている限り絶対に逃れられない苦しみを抱えた男を救うために、殺すために、銃を構える。

「イライラするんだよ……お前のその顔」
「この顔がかい? 信者からの評判は結構良いんだけどねえ……ああでも、君と同じように戦いばかりの日々を送っている俺の友人からの評価はそんなに良くなかったかなあ。なんでだろ」憐みの涙を流しながら、童磨は言葉を続けようとした。「面白くもないのに笑って、悲しくもないのに泣くな。イライラする」浅倉の言葉で童磨の台詞は止まった。

 何をやっても満たされることのない、苛立ちのみの心を備えている浅倉は、自分と同様に満たされることのない心──いや、そもそも心自体が無い童磨の性質を感じ取っていた。刀が刀を感じたり、鬼が鬼を察知したりするのと似た、同類ならではの共感覚じみた何かを受け取っていたのである(もっとも、『共感』から最も遠い位置にいる、何も感じない童磨ではそれを受け取ることが出来なかったが)。
 だからこそ、浅倉は童磨に腹が立つ。同族嫌悪じみた苛立ちを感じてしまう。
 
「オ……オオオ、ォォォォォ!!!!」
 
 会話を打ち切るようにして、獣の如き咆哮を上げる浅倉。手足に力を込める。だが、それで立てるはずがない。そもそも今こうして生きていること自体が奇跡のような重傷なのだから。
 しかし。
 それでも。
 彼は立ちあがった。立ち上がってみせた。そこに理屈や言い訳は必要ない。
 戦いと共に生きた狂人である浅倉が地面に倒れたまま死を迎えるなど、天と地獄が許しても彼自身が許すはずがないのだから。
 立ち上がると、そのまま前方へと特攻する。その手に武器のようなものは無い。素手だ。だがそれがどうした。武器がなくても爪がある。拳がある。歯も足もある。己とよく似てありながら、決定的に違う何かと決着をつけるには十分に余りある。
 一方童磨は、スムーズな動きで両手の引き金を絞るだけだった。
 何発かの銃声が轟く。勝負はそれだけで決した。勝利したのは童磨だった。
彼の表情は、先ほどとは打って変わって、何の感情も感じさせない冷たい氷のようなそれになっていた。
 だが、それもほんの一瞬のことであり、すぐに顔面の筋肉が働き、いつも通りの表情に戻るのであった。


【浅倉威@仮面ライダー龍騎 死亡】


X X X X X

367獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:43:57 ID:umByYa/g0

意識が完全に途切れる。
死を迎えたその先に、浅倉はいた。
周囲は夜中のように真っ暗であり、唯一の灯りは地面を舐めるように広がっている炎だけ。
 もしやここが地獄というやつか? ──信心深いとは言えない性格をしている浅倉だが、何故か直感的に理解できた。そしてそれから、自分が死んでしまったことを理解する。二度目の死を、理解する。

「ああ、そうか……」

 胸の内には依然としてイライラが少しも欠けることなく渦巻いている。ならば、彼が死んだ後でも何をするかなど、明白だった。

「それに──」

 自分は既に一度死んだ身であのバトルロワイアルに呼ばれていたのだ。ならば、二度目の開催が無いとは限らない。
一度目のライダーバトル、二度目のバトルロワイアルに続く、三度目の戦い。
 それを思うだけで、彼の心は歓喜した。
 その招待が来るまで、ここで暇を潰しておこう──そう考えた浅倉は、炎に向かって歩き出すのであった。

X X X X X

368獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:44:57 ID:umByYa/g0
 童磨は一分足らずで浅倉の体を吸収した。
浅倉の体の所々から匂う魚介系のエキスや、彼のものではない骨が気になったが、普段から若い女を好んで食している童磨にとってはパワーアップに貢献できる食事だったとは言えないだろう。
こうなると、いつもの食事が恋しくなる。

「次見つけるとしたら、めだかちゃんみたいな若い女の子だといいな」

 そんな願望を吐露する。
 と、その時。
 東の方から、ズウウンと地面を揺らすような音が響いた。なにか大きな爆発でも起きない限り、こうはならないだろう。

「ここまで届く音ということは、かなり広い範囲に被害が及んでいるだろうね。それは大変だ!」

 それはつまり、一刻も早く助けが必要な人もそれだけ多くいるということじゃないか。
 早速出発しようとした童磨だったが、その前に彼は『結晶ノ御子』を一体作り、山を迂回して島の北東に向かうよう指示して放った。本当なら作れるだけ作って置きたいところだったが、どこにどんな敵がいるかも分からない状況で、術のリソースを割くのは賢明とは言えない。浅倉との戦闘を経験した後ならば猶更だ。なので、野に放ったのは一体だけだった。これから様子を見て大丈夫ならば、二体、三体と増やして行けばいいだろう。
 御子と別れた童磨は、悲劇の中心となっているであろう場所へと、救済の使命感と食事の楽しみの両方を帯びた足取りで向かうのだった。
 こうして鬼と殺人鬼の邂逅は終了した。

369獣性目掛けて銃声は鳴る ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:45:33 ID:umByYa/g0
【D-3/蜘蛛山の麓/1日目・朝】

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)←食事によって僅かに回復
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、炎刀『銃』@刀語
[思考・状況]
基本方針:いつも通り。救うために喰う。
0:さて、俺はどうしようか。
1:爆音がした方向に向かう。
2:"普通ではない血"の持ち主に興味。
3:猗窩座殿、下弦の彼……はてさて誰に会えるかな?
[備考]
※参戦時期は少なくともしのぶ戦前。
※不死性が弱体化しています。日輪刀を使わずとも、頸を斬れれば殺せるでしょう。
※氷のスーツを纏い、一時的に太陽から逃れる術を見出しました。長時間の移動は不可能です。
※結晶ノ御子は現状は5体が限界です。
※御子を一体、島の北東に向かわせました。

370 ◆3nT5BAosPA:2019/11/01(金) 00:45:53 ID:umByYa/g0
投下終了です

371 ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:50:25 ID:W/fwpVwg0
投下乙です。私も投下します

372ボスバトル ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:51:27 ID:W/fwpVwg0
 当たり前のことだが砲撃は距離を詰めるほどに精度が上がっていった。最初は何発かあった無駄玉は完全に鳴りを潜め、それどころか付近の建造物や地面を撃って足を止めようとしてきたり、こちらを動きを読んたのかのように撃ってくることもある。

(手練ですね。間違いなく)

 未だ姿の見えぬ相手だがそう評価するに疑問はない。単に狙いが正確という話ではなくこの砲撃手は戦いというものに慣れている。
 前方の建造物が砲撃を受けて瓦礫が降り注ぐ。沖田は速度を緩めることもなく隙間を縫うようにかわした。後ろを振り返ると炭治郎と真司も各々やり方で瓦礫の雨を抜けようで、傷一つ無く後をついてきている。
 
(なかなかどうして。様になってますね)

 こうやって人数と伴って駆けていると京の町にいたころを思い出す。あの頃は新選組隊士と共に町を駆けるのが当たり前だった。しかし病床に伏せている間に徳川幕府は倒され、沖田は新選組に戻ること無く過去に飛ばされた。愛する人はできたが同胞と呼べるものは菊一文字のみ。こうして誰かと肩を並べるのは久方振りだった。タイマンはって鎬の削るのも好きだが、同じ意志の持つ仲間と殴り込みをかけるのもまた別の高揚がある。
 一番隊組長をやっていたころは隊士を鼓舞することも多かった。ここは一つ景気のいい言葉でもかけるかと思ったところで沖田は気づいた。
 右。民家の裏からだった。人影が飛び出し刀が振り下ろされていた。
 避けられない。沖田は右手を前方、刀を鍔へと伸ばす。根本の刃が中指と人差し指の間を通り、手の平の中心辺りまでめり込んだところで沖田の五指が鍔を躙りしめた。

「へえ、凄い止め方するんだね」

 刀を持つ張本人が他人事のように関心する。帽子を被った初老の男だった。
 左手で逆手に菊一文字を抜いて薙ぐ。帽子の男は刀を離して後ろに倒れるほど身を反らす。菊一文字をかわしながら右手の刀の柄を蹴って飛ばしそのままバク転。宙を舞った刀が男の右手に収まった。
 沖田は筋肉で無理やり右手の出血を止め、両手で菊一文字を持ち中段に構える。刀を盾とする守りの構え。

(恥ずかしい! 直前まで殺気に気づけなかった)

 まさか砲撃に晒されてる場所に待ち伏せしている者がいるとは。間違いなく砲撃手とグルだろうが、い一歩間違えれば自分が爆殺されてもおかしくない位置である。恐るべき胆力だ。
 沖田は言った。

「こいつは砲撃手と組んでます。お二人は向こうへ」
「わかりました! 沖田さんも頑張ってください!」

 炭治郎が走りながら言った。真司は炭治郎と沖田を交互に見て迷いを見せている。

373ボスバトル ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:51:59 ID:W/fwpVwg0

「向こうにいるのはあんたの分野でしょう。行かないでどうするんです!」

 沖田の叱責に真司はハッとした。

「……わかった。あんたも死ぬなよ!」

 そう言って炭治郎の後の追う。帽子の男が言った。

「いいのかい? こっちは君一人で」
「一人で行かせて抑えきれず横槍入れられてもたまりませんから。それに……」

 菊一文字の剣先を相手に向けながら身体の横で構える。より速く強い突きを出すための攻めの構え。

「よりにもよって刀で来るもんだから、しのぎを削りたい気持ちが熱くなっちゃたんですよ」



 屋上から砲撃をしていた時、佐藤はふと思った。

「そういえば支給品の中に日本刀があったな」

 最初に亜人の能力のテストに使って以来埃を被せていた代物だ。
 向かってくる三人の内二人はサムライのような衣装を着て腰に刀まで差している。戦闘経験豊富な佐藤だが流石にサムライと戦ったことはない。まして刀同士でぶつかり合う剣戟アクションなど完全に未知の領域だ。

「これはちょっとこのままシューティングゲームに興じるのはもったいないかな?」

 思い立ったが吉。佐藤はIBMを生み出し変身を解除。カードデッキをIBMに渡した。ミラーワールドに入るために用意しておいた鏡にかざさせると佐藤がやった時と同じようにIBMの腰にベルトが現れた。

【変身】

 ポーズをとってデッキをバックルに入れるとIBMの全身が光に包まれ、ゾルダの装甲が出現した。

「試してなかったけどやれるみたいだね」
 
 佐藤は満足げに頷いた。
 刀だけ取り出してリュックサックをIBMに渡し、自身はPENTAGONの外で死んでいた青年のリュックサックを背負った。
 民家の影に身を隠し、砲撃でこちらに誘導する。一番近くに来た一人を狙って斬りかかった。
 互いの刀と刀がぶつかり火花を散らす。サムライの突きが佐藤の顔の真横を通り抜ける。佐藤の刃をサムライの刀がいなす。銃を撃ち合うのとは違う互いの殺意をより直接的にぶつけ合う感覚。新鮮な体験だった。やはり剣戟アクションを選んで正解だった。
 それにしても凄いサムライである。
 佐藤は身体にはいま常以上の力が漲っている。変身したIBMの影響だろう。
 IBMはただ自由に動かせるだけでなく様々なものを伝えてくる。音、景色、触感。時に他の亜人の記憶を流してくることすらある。物理現象を超えたライダーの力ならIBMから本体に流れてきてもおかしくはない。
 にも関わらずこのサムライは互角に渡り合ってくるのだからとんでもない実力である。最初の不意打ちが無ければもう何回か殺されていたかもしれない。
 IBMの方では少年とライダーの二人がPENTAGONの中に入っていくのが見えた。モンスターを使って飛んできたら撃ち落とそうと思っていたが、中から来るなら待ち構える必要もない。こちらも中で隠れてステルスゲームといこう。
 と、中に戻ろうと佐藤が振り返ると、何かが床を突き破って屋上に現れた。赤い竜。その胴体にはライダーと少年がしがみついていた。

374ボスバトル ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:52:49 ID:W/fwpVwg0
(なるほどね)

 確かに外を飛ぶよりもこっちの方が安全だ。ライダーと少年が飛び降りる。

 ―――SWARD VENT―――

 ライダーが剣を握り、少年は鞘から折れた刀を抜いた。
 IBMはギガランチャーを消して仮面ライダーゾルダの基本装備である銃を右手に持つ。銃身の下にあるレバーを引いて、普通なら弾を入れるそこにカードを装填する。

 ―――GUARD VENT―――

 IBMの左手に盾が出現する。

(任せたぜ相棒)

 佐藤は頭の中でつぶやいた。IBMから流れてくる情報を意識の隅に追いやる。
 IBMには本体が完全にコントロールしている状態とIBM自身の判断で勝手に動く状態がある。目の前のサムライとPENTAGON屋上のライダーと少年、どちらも両方に思考を割きながら戦えるような相手ではなさそうだ。



 目の前の男は強敵である。それを感じているのは沖田も同じだった。
 最初の殺気の消し方といい、その後の対応といい間違いなく一流の戦士だ。

(けど一流の剣士じゃあない)

 剣の扱いも一見長けているに見えるが抜群の戦闘技術で誤魔化しているだけだ。この男は剣士の呼吸をしていない。そして剣士と戦う呼吸もわかっていない。
 沖田は少しずつ男の呼吸を崩す。刀を受ける際の菊一文字の僅かな傾き、攻撃を話す際の時の僅かなタイミングずれ。微細な動作を積み重ねて相手の呼吸を本人すらもわからないほど、少しずつ、少しずつ、崩していく。
 崩れが最大限に高まった瞬間、男の姿勢が乱れた。並の戦士なら何が起きたか理解すらできないだろうが男は自分に起きたことをわかったようだった。流石である。だがそれだけだ。菊一文字が男の首を貫いた。
 引き抜くと首から血を吹き出しながら男が後ろに倒れる。

「それじゃあ私もあっちへ行きますか」

 菊一文字を振るって血を払い落しながら呟く。死体に背を向けてPENTAGONに向か――おうとして咄嗟に前に転がった。
 さっきまで沖田の足があった場所を刃が通り過ぎていった。

「はは、流石にそんな簡単には当たらないか」

 笑いながら男は立ち上がる。確かに貫いたはずの首には傷一つ残っていなかった。
 鬼。その一文字が沖田の脳裏に浮かんだ。



 北岡が変身していた仮面ライダーゾルダは遠距離戦を主体するライダーだ。火力には恐ろしいものがあるが接近戦なら真司の龍騎の方が上、フィールドの限られた屋上なら一対一でもこちらが有利、そう考えていたのだが。
 炭治郎の刀をゾルダが盾で受け止める。銃のグリップで頭を殴り、倒れたところに追い打ちの銃弾。炭治郎は転がってかわし、後ろに飛び退く。
 真司の剣をバックステップで避け、追撃の斬撃も盾で防ぐとそのまま剣ごと真司を突き飛ばした。
 スピードもパワーも北岡が使っていた時よりも明らかに増していた。ライダーの性能は誰が使っても同じはずだ。だとすると装着者の身体能力がよっぽど高いということだろうか。並大抵の上がりかたではない。
 真司も炭治郎も千翼との戦いのダメージがもまだ残っていた。炭治郎なんて刀まで折れている。向こうにはダメージを与えられずこちらだけが一方的に与えられていた。
 それでも二人は休むこと無く攻め続けた。真司が攻撃を食らったら炭治郎が攻め炭治郎が食らえば真司が攻める。負けてはいてもニ対一。攻め続ければ余裕がないのは相手の方だった。
 二人はゾルダを屋上の端にまで追い詰め、炭治郎が渾身力を込めた一撃を放つ。もし盾で受ければ勢いに押され落下する威力。しかしゾルダは的確にそれを見抜いて身を反らし、逆に膝で蹴り飛ばして炭治郎を落とそうとした。ぎりぎりのところで刀を床に刺して堪え、炭治郎は叫んだ。

375ボスバトル ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:53:39 ID:W/fwpVwg0

「真司さん!」

 炭治郎の声に答えて真司は駆ける。しかしこの時、炭治郎と真司の意識には違いがあった。
 炭治郎はゾルダの中身を人間と思いながらも本気で殺すつもりで戦っていた。炭治郎だって人間を殺したくはない。だが炭治郎は鬼に情を寄せながらもその首を切ってきた男だ。いざ戦いとなれば加減をする気は一切無い。
 一方で真司は過酷なライダーバトルを人を死なせないために戦い続けてきたこと男だ。浅倉のような絶対悪や他のライダーたちの願いの重さに揺れることもあったが、最後には戦いを止めることを願いに選んだ。目の前にいるゾルダも真司にとっては死なせたくない人間だった。
 炭治郎にとっては好機である屋上の端も真司にとっては攻撃を躊躇う位置。そしてゾルダはその隙を見逃すような相手ではなかった。
 不用意に前に出た真司の足にゾルダの足が引っ掛けられる。体制を崩したところに盾が叩き込まれて、後ろに倒れた。
 胸板の上を踏みつけられる。顔に銃が突きつけられた。炭治郎が真司を助けるべく跳び、それを読んでいたかのように銃口が炭治郎の方を向いた。
 射出。炭治郎は顔に向かってくる銃弾を防ごうと刀を縦に構える。しかし、真司の目に入ったのは――頭から血を流して屋上から落ちていく炭治郎の姿だった。



 菊一文字が帽子の男を肩から腰へと切り捨てた。男は倒れ、沖田の身体が大量の返り値に濡れる。さらに菊一文字を翻し、刀を持った男の右手を狙う。しかし右手が斬り落されるよりも一瞬速く男は起き上がって、下から掬い上げるように刀を振るった。沖田は滑るように後ろにさがる。顎先から僅かに血が滴った。

「少し剣の戦いが上手くなってきましたね」
「ありがとう」

 沖田の言葉に相手は素直に礼を言った。
 三回。これまでに三回沖田は男に致命傷を与え、その度に男は傷を綺麗サッパリ直して起き上がってくる。
 段々と殺しづらくなってきていた。格上の敵との殺し合いは時に人を大きく成長させる。大抵の場合は成長したところで敵わず死ぬのが落ちだが、この男は死んでも生き返るのだから全くもって卑怯である。おまけに体力まで回復しているようで本当にうんざりする。こっちはいい加減右腕は限界になってきたというのに。
 しかし得るものもあった。奇妙な言い方になるが、この男、殺せば死んでいる。生きかえりはするものの死んでいるのだ。炭治郎が語った鬼のように死ぬこと無く傷が治っているのではなくむしろ死ぬことによって傷が治っている。
 今回はそのことに確信が持てず攻めきれなかったが、もう一度殺せたならば蘇生した瞬間に動く暇を与えず四肢を切断する自信が沖田にはある。
 先の放送ではここの一つ上のエリアが一時間後に立入禁止になると言っていた。すでの放送から一時間はとっくに経っている。どれだけ不死身だろうと首謀者の仕掛けた首輪の爆弾なら殺せるはずだ。
 あと一回だけ殺せば勝てる。というかあと一回くらいで勝てないとそろそろキツい。
 菊一文字を身体の横に構え、切っ先を相手に向ける。突きの構え。沖田の得意技。やはり決めるならこれだろう。
 対する男は中段の構え。こちらが勝負を決めに来ているのをわかって迎え撃つつもりだ。
 間合いが遠い。足を擦らせて少しずつ距離を詰めていく。男に突きが届くところまであと一歩――不意に沖田は右手一本で突きを放った。

「!」

 男は瞬時に意図を見抜き刀を退かそうとするが、遅い。菊一文字が男の刀と正面からぶつかり、貫いた。
 男の傷がどれだけ治ろうと刀の傷はそうではない。これまでの戦いで刀のダメージがすでに限界まで近づいていることを沖田は見抜いていた。
 一歩。沖田は前に出る。右手が菊一文字から離れ、後ろから勢いを乗せて繰り出された左手によって突きが続行される。男は首の前で両腕を交差。菊一文字が貫通するが首にまでは届かない。が。

(行ける!)

 両手で柄を持って押し込み、男は貫かれた腕で対抗する。剣先が首の皮に辺り血が流れる感覚が伝わってきた。このまま力押しで刺せる。
 ――その時、空気が揺れた。

376ボスバトル ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:54:31 ID:W/fwpVwg0


 
 「炭治郎おおおおおおおおおお!」

 真司の叫びが虚しく響き渡る。
 いくら炭治郎がライダーのような身体能力を持っていたとしても頭を撃ち抜かれて生きている人間はいない。もし万が一生き残れたしてもこの高さから落ちたら同じことだ。竈門炭治郎は死んだ。間違いなく今ここで。

(俺のせいだ。俺が、俺があの時……)

 ゾルダを屋上から落とすのを躊躇ったから。

「うおおおおおおおおおおお」

 真司は吠えた。
 剣を手放しゾルダの足を両手で掴む。上半身を捻り。ゾルダの身体を床に叩きつけた。ゾルダよりも先に立ち上がりこちらに向いた銃を蹴り飛ばす。銃が床が転がった。
 反対の足で踏みつけようとしたがゾルダは体操選手のように両手で身体を持ち上げて回避。その姿勢から勢いをつけてドロップキック。今度は真司が屋上を転がされる。。
 ゾルダが銃に向かって走り、遅れて真司も走る。左腕についたバイザーに二枚のカードを入れる。

 ―――STRIKE VENT―――
 ―――GUARD VENT―――

 右手には赤い竜の牙を模した手甲、左手には胴体を模した盾が現れる。
 銃を拾おうとゾルダのスピードが僅かに落ちた瞬間後ろから飛びかかる。右手の牙をゾルダが盾で防ぐ。ゾルダの拳を左手の盾で防いだ。牙と盾、盾と盾、盾と拳が何度もぶつかり合う。
 踏み出した右足が何かを踏んだ。銃だ。戦いの最中ゾルダは足で銃を真司が踏む位置に動かしていたのだ。バランスを崩した真司の腹にゾルダの拳が食い込んだ。
 何メートルも吹っ飛び転がって、落ちるギリギリのところで体制を立て直す。ゾルダが銃をこちらに向けていた。龍騎の装甲なら一発や二発くらったところで致命傷にはならない。だがここは屋上の端。僅かな衝撃でも食らえば落ちる位置。無論この相手が躊躇うわけもない。
 その時、屋上の出入り口から炭治郎が飛び出した。
 勢いを落とさない突進によって開けられたドアが根本から千切れて飛んでいく。ゾルダの顔が炭治郎の方を向いて、銃もそちらに向ける。引き金が引かれるよりも速く――炭治郎はゾルダの懐へと入りこんでいた。

 ――円舞一閃

 真司は炭治郎の刃に炎を幻視した。まともに攻撃を受けたゾルダの身体が宙を舞う。炭治郎は膝をついて荒い生きを吐いた。

「炭治郎、おまえ……生きてたのか!? 落ちたのに!?」
「はい! 生きてました! 一瞬意識を失っちゃって危なかったですか、途中で起きて刀を壁を刺して助かりました!」
「でも頭に銃受けてただろ!?」
「受けました! でも最初に刀で受けて直撃は防いだのでなんとか頭が弾いてくれたみたいです!」
「いや弾いたって……ええ?」

 頭蓋骨が銃弾を弾いたという話なら昔テレビで見たことがあったが、それはあくまでも普通の銃の話だ。流石にライダーの銃弾を弾くなんて炭治郎がどれだけ石頭だったとしても無理じゃないのか?

(まあでもいっか! 炭治郎が生きてたんならなんだって)

 死ななかったことが一番大事。理由なんて些細なことだ。それよりも気になるのは、

「あいつ……殺したのか?」

 ゾルダは炭治郎の攻撃を受けた後うつ伏せに倒れて動かない。一度は怒りを燃やした真司だがそれでもやはり死んでほしくないという思いがあった。炭治郎のような子供に人を殺してほしくもない。

「わかりません。切ったのは間違いないですが感覚が妙な感じで」

 と、ちょうどそこでゾルダの身体が動いた。二人は身構え――起き上がったゾルダを見て目を見開いた。ゾルダの胸部装甲は炭治郎の一撃によって大きく裂かれていた。問題なのはその内側、本来生身の肉体があるべき部分に黒い霧の塊のようなものが存在していた。

「なんだよあれ。もしかしてあれが鬼の血鬼術ってやつなのか?」
「違います。あいつから鬼の匂いはしません。いや、それどころか匂い自体がほとんどしない。てっきりライダーに変身してるせいだと思ってたけどそうじゃない。あいつには元から匂いがほとんど無いんだ……あれは本当に生き物なのか?」

 炭治郎の言葉に見慣れたはずのゾルダの姿が不気味に映った。
 ゾルダはカードを取り出して銃にセットする。

 ―――FINAL VENT―――

 ゾルダのファイナルベントは契約モンスターであるマグナギガの全身に仕込まれた武器を一斉発射するものだ。その火力は真司が知るライダーたちの中でもトップクラス。しかし反面予備動作が長く、発動までに時間が掛かるという欠点がある。妙だ。この距離ならマグナギガの横に周って避けるのも容易い。なぜここでそんなカードとを。
 疑問はマグナギガがこちらではなく横を向いて現れたことで解けた。

377ボスバトル ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:55:30 ID:W/fwpVwg0

(あの方角は……!)

 沖田が残って戦っている場所。
 真司と炭治郎が走る。瞬間、轟音が響いた。まるで世界全体が揺れているような振動が起きて、二人は立っていることすらおぼつかなくなる。マグナギガから全弾が発射される。何が起こっているのか理解できないまま、真司と炭治郎は崩れた床と共に落ちていった。



 帽子の男の後ろでPENTAGONが爆煙を上げて崩れていく。何が起こった? 真司と炭治郎はどうなった?あの爆発はこいつらが仕掛けたものなのか?
 様々な疑問が沖田の頭を過るが、もっとも思考を埋めたのは屋上から放たれた光る弾やら筒状の物体やらだった。
 真司は言っていた。「一番強い奴をまだ使っていない」と。直感する。これが一番強い奴だ。
 あれがここまで来れば沖田も男も無事ではいられない。ただし沖田は男と違って一回死んだらそれで終わりだ。男が笑みを浮かべた。
 瞬間――骨の砕ける音が響いた。左手で持った菊一文字の鞘が男の首に当たっていた。
 油断というのも酷な勝利を確信しての僅かな気の緩み。沖田は左手を菊一文字から離して、鞘で男の首の骨を粉砕していた。

「なにも人を殺す方法なんて刀で切るだけじゃありませんよ」
「……そうだね」

 男が倒れる。沖田は服を引っ掴んで持ち上げ、男の身体の裏に隠れてできるだけ自分の身体を小さくする。直後に爆音が轟いた。付近の建物は遍く破壊され、燃えた瓦礫が周囲に飛んでさらに被害を広げていく。砲撃が止んだ時PENTAGONの周辺は一瞬にして火炎地獄へと変貌していた。
 炎と黒煙に囲まれた空間の中、男の肉体は手足は千切れ首は弾け飛び、辛うじて人の輪郭を感じられる程度の骨と肉の塊になっていた。だが沖田総司は生きていた。無傷とまで行かなかったが動ける程度には五体満足だ。危ないところだった。正直あと一発でも多く来ていたら男の身体では防ぎきれず沖田も重大な損傷を負っていただろう
 沖田は男の死体を投げ捨て、生き返った瞬間を見計らって手足を切断する。ここから禁止エリアまではそう遠くない。砲撃手がどうなったかは気がかりだが、炎と煙に隠れてこっちの様子は見えないだろうし、見つかっても男の盾にして進めばなんとかなるだろう。
 意識を取り戻した男は手足の無くなった自分の身体を見て笑った。

「はは、凄いね。時代劇とかに出てくるサムライもこんな感じなのかな? そっちの方面ももっと見ておけばよかったね」
「ずいぶん余裕な態度ですね。まさかこの状況に到っても不死身だから大丈夫とか思ってるわけじゃないでしょう?」
「禁止エリアでしょ。わかってるよ。亜人になる前、これは流石に無理だと思ったときもこんな感じだったからね。たぶん性分なんだよ」
「亜人?」

 その単語が沖田は気になったがその意味を考えはしなかった。考えることができなかった。

「まあ今は別に無理とも思ってないけどね」

 胸に熱を覚えて手を当てるとべっとりと血がついた。口から血が溢れる。他の誰でもない沖田総司の血が。
 最初に思ったのは約束守れなかったなということ。次にいか娘の仇を討てなかったことへの無念が浮かんだ。
 一人で鬼退治へ行かせることになってしまった柳生宗矩への申し訳無さ。新選組の仲間たちへの情、試衛館で過ごした日々への郷愁。様々な思いが沖田の胸の内を過ぎっていく。そして最後に思ったのは。
負けたのか、俺は。

「……クソ」

 最後にそう言って沖田総司の肉体は地に伏した。



 ”間違いなく砲撃手とグル”。沖田総司は最初からずっと勘違いしていた。帽子の男と砲撃手は二人組であると。
 炎と煙で視界を遮られて砲撃手からこちらは見えないと考えてしまっていた。
 視界を共有するただ一人の敵が炎と煙の内側と外側両方にいるとは予測できるはずもなかった。



「いやあ、強かったなあ」 

 出血多量で死んで生き返った佐藤はサムライの死体を眺めて言った。
 亜人になる前も含めこれまで色々な相手と戦ってきたが、個人の実力でいえば間違いなくトップクラスだ。対抗馬になりそうなのは教会であった全身入れ墨の男くらいだろう。

「結局刀での戦いじゃ全然勝てなかったね」

 そう言ってサムライが握っていた刀を取り上げる。ライダーの力で丈夫になった佐藤を盾にしたといえ、よくファイナルベントの砲撃の中守り抜いたものだ。手足を切り落とすのに必要ではあったろうが 持ち主よりも傷が少ないのではないだろうか?

378ボスバトル ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:56:08 ID:W/fwpVwg0

「刀はサムライの魂って奴かな?」

 佐藤はリュックサックに刀をしまった。基本支給品意外のサムライの他の支給品も回収する。
 残念だったのは爆破のすぐあとに殺されてPENTAGONの壊れる様子を見れなかったことだ。あそこは本当にしてやられた。
 IBMが戦った二人もどうなったのだろうか。もし生きているなら今度はもっとちゃんと戦いが。
 有名人である佐藤の顔を見ても三人が誰も反応しなかったことも気になった。ライダーの力や人間離れした能力を持つものが複数いることといい、このバトルロワイアルは佐藤が想像していた以上にぶっ飛んだ催しなのかもしれない。

「と、そろそろだね」

 リュックサックから中から手鏡を取り出す。PENTAGONで調達しておいた物だ。
 少し待つと鏡の中からライダーに変身したIBMが出てきた。IBMは背負っているリュックサックから
洋服を取り出して佐藤に渡した。元々着ていた服はさっき燃え尽きてしまったから代わりのものを適当な民家で見繕ってきてもらったのだ。流石に裸じゃ格好つかない。幸いなことに佐藤が普段きているのと似たような服だった。
 
「あとは……あったあった」

 佐藤は首をキョロキョロさせて無くしものを見つけた。帽子だ。どうやら上手いこと爆風に煽られたようで無傷で残っていた。佐藤は帽子を拾い、頭に被った。

「それじゃあ、次はどこに行こうかな」


【沖田総司@衛府の七忍 死亡】
【竈門炭治郎@鬼滅の刃 生死不明】
【城戸真司@仮面ライダー龍騎 生死不明】

【E-7/PENTAGON付近/1日目・午前】
 
【佐藤@亜人】
[状態]:健康
[装備]:ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式×2、秋山蓮のリュックサック、折れた日本刀@現実、菊一文字、手鏡、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.IBMと戦った二人に興味。
2.PENTAGONの前でふたりの参加者を殺した犯人に興味。
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。
※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。
※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。逆にIBMが変身している間は佐藤本人が強化されうようです。
※変身中に限りIBMを二回以上出せるようです、どれ程出せるかは後続の書き手氏にお任せします。
※飛行中の龍騎の姿を確認しました。

379 ◆2lsK9hNTNE:2019/11/01(金) 00:56:50 ID:W/fwpVwg0
投下終了です

380 ◆0zvBiGoI0k:2019/11/02(土) 04:26:02 ID:6u0qMToE0
藤丸立香、猛田トシオ、皇城ジウ、中野一花、中野二乃、中野三玖 予約します

381 ◆7ediZa7/Ag:2019/11/04(月) 08:23:12 ID:uyW5374M0
竈門炭治郎、城戸真司、上杉風太郎、球磨川禊、宮本明、佐藤
予約します

382 ◆Mti19lYchg:2019/11/04(月) 18:48:02 ID:BGrIeEEA0
自分を追い込むために、あえて予約をします。
累、神居クロオ、マシュ・キリエライトの予約です。

383 ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:02:56 ID:lo0/.jkY0
投下します

384アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:06:44 ID:lo0/.jkY0


 ◆


「立香さんの右手の甲って、赤い痣があるんですね」

 出立の準備をしてる間、装填されてる令呪を見つめてるとそんな風に声をかけられた。

「わ、ほんとだ。紅葉みたいな模様でキレイだね。立香ってこういうの趣味なんだ、ちょっと意外」
「や、趣味でつけてるわけじゃないんだけど――――――」

 ひょこっと傍にいた一花が顔を出して右手をしげしげと見つめている。

「で、炭治郎君、これがどうかした?」
「あ、はい。俺のいる鬼殺隊で『痣の者』の話が伝わっているんですけど……」

 自分の額の左側、舞い上がる炎のような赤い痣の部分を手で擦る。

「『日の呼吸』……始まりの呼吸を使う剣士には生まれつき痣があって、その人達は鬼舞辻無惨を最も追い詰めた人なんだそうです。
 それで最近、俺達の周りにも痣が出る人が表れ始めて、その時には全身から凄い力が溢れるんだって言ってました」

 なんかこうグワ――ッて、ガ――ッて、おなかとかググ――ッて!
 と、こう必死にジェスチャーで表現してみせてるが、爆裂なまでに分かりづらい。
 ともあれなるほど、話の意図はわかった。この手の令呪が、自分の痣と関連性がないか気になったのだろう。

「へえ、そうなんだ。じゃあタンジロー君も凄いじゃん」
「いえ。俺のこれは生まれつきのものじゃないし、それに俺より凄い人はいっぱいいますので!」
「うーーん、それだと私のはどっちにも当てはまらないかな」
「そうなんですか?」

 痣の話は気にかかるのでもう少し話を聞きたいところだが、先に答え合わせをしておく。 

「うん。私の痣(コレ)は借り物だよ。使えば消えるし、後で補充も効く。消耗品みたいなものかな。
 使えば凄い力も引き出せるって点は似てるけど、それだって私じゃなくて他の皆に与える力なだけ。
 私自身に何か出来る力があるわけじゃないから、そう自慢するものでもないのです」

 令呪はマスターの証。サーヴァントを縛り、そして助ける三角の紋様。
 選ばれたのは偶々の偶然。任務の度にカルデアから与えられられるもの。
 特別な資格なんて持たない自分でも行使できる数少ない奇蹟だ。
 生まれつき持ってたり、鍛えて身につけるものとは、やはり種類は違うのだろう。

385アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:08:02 ID:lo0/.jkY0


「そうだったのか……。すみませんでした。変な勘違いして」
「ううん、謝ることじゃないって」
「けどそうか……だからその痣から色んな匂いがするんですね」
「匂い?」

 さらりと。
 なんだか気になるコトを言われた。 

「はい。俺は鼻が利くので。立香さんは凄く安心する匂いなんですけど、それとは別の不思議な匂いが混じってるんです。
 濃かったり薄かったり、激しかったり優しかったりしてどれも個性が強くて、中には嫌なのや怖い匂いもあるんですけど―――けどそれらが全部、立香さんを守るようにして周りに漂ってるんです。
 ああ、この人は守られてる、色んな人から力を貸してあげたい、って思わせてくれる人なんだなって」


 …………気恥ずかしさと、他人から伝えられた衝撃の事実に口がうまく回らない。


「うん……ありがとうね。
 そうか……臭うのかわたし…………」
「どうしました?」

 曇りなきまなこが心に痛い。悪意もない、心からのキレイな気持ちなのはわかっているのだけれど。
 ひょっとしてマシュも気にしてたのだろうか。そういうとこは遠慮する子だし。
 その方面で相談出来る相手といえば……メディアか、クレオパトラか、メイヴちゃん……は方向性が変わりそうなので却下。
 あとはそう……殺生院……ソワカソワカ……うぅ頭が……。

「へー、タンジロー君って匂いフェチだったんだ。子犬みたいにクンクンしててそれっぽいなーとは思ってたけど。
 それで?私はどんな匂いだって思いながら一緒にいたのかなぁ?」
「えっはい、一花さんは花束みたいな甘さでちょっとくすぐったいです。綺麗な匂いで、全然変じゃないですよ!」
「あーーうん、そういうとこだよね。
 ……何だか変なところが似てるなあ。見えないところで女の子いっぱい泣かせてないか、お姉さん心配になってきたよ」
「?」

 頬にさぁっと紅がさす一花。コケシみたいな表情で首をかしげる炭治郎。
 お話はこれでお終い。
 それ以降、特に話題の発展もなく全員集合するまでわちゃわちゃと騒いだだけ。
 後で思い出す事もないような、他愛もない、穏やかな一幕だ。



 ◆

386アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:09:23 ID:lo0/.jkY0




 ―――腰を抜かした格好のままに、猛田は目の前の攻防を見やっていた。

 鬼気迫る表情で刀を振るう皇城ジウ。
 学園生活でも、ラブデスター実験の中でも見た事のない形相のまま、躊躇なく殺意を刀に乗せてぶつけてくる。
 文武両道で通っていたといえども、これほどまで熟達した動きで凶器を振るえることなどあるのか。
 素人目にもわかる無駄のない所作。まるで何年も修練を重ねた、完全に身に染み付いているかのよう。
 ミクニと同じく実験を終盤まで生き延びたというジウが何を見てきたのか。こうなるまでにどんな経緯があったのか。途中脱落した猛田には推し量ることすらできない。

「――――――ッ!」

 幾度となく降ろされた刃は、猛田の命を奪い取るには不釣り合いなぐらい十分な威力を誇っていて。
 それがひとつとして届かない事に、ジウは焦燥して顔を歪ませた。

「ごめん。本当は人に向けて使う力じゃないし、卑怯な真似をしてるのもわかってる」

 攻めあぐねたジウが、一旦距離を置いて構えを取り直す。
 猛田の前には、藤丸立香がいる。
 一度振り返ったきりこちらに表情を見せず、堂々とした背中を見せて猛田を守っている。

「でもこれ以上、やらせるわけにはいかないから」

 正確には、立香の更に前。
 黒い影の集合体のようなものがしかし確かな実体を伴って、ジウの凶刃をすべて受け止めていた。
 
 戦う力は一応持っていると、立香が言っていた過去を思い出す。
 その言葉に嘘はなかった。確かに立香には戦うための力があり、その力を今、猛田を守るために使っている。
 方便などではなかったのだ。猛田が用いてきた甘言とは違って。

 恐る恐る、道端に転がっていたミクニの頭部に視線をやる。
 もうどうしようもない死骸だ。猛田が切り捨ててきた女達同様の末路だった。 
 あれほどまで鬱陶しく忌々しかったミクニの馬鹿面が―――脳裏に焼き付いて離れない。 


"──猛田くん。だから泣くのは任せるね。それは、私じゃできないことだから"


(泣く……だって?俺が?ミクニのために?)

387アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:10:30 ID:lo0/.jkY0


 一笑に付していいはずのその言葉を、猛田はすぐに否定できなかった。
 そんな理由などどこにもないはずなのに。ジウの言うように、ミクニを追い落とそうとした猛田にそんな資格はありはしないのに。

 分からなかった。
 どうしてジウがここまで豹変したのか。
 立香がどんな顔をして戦っているのか。
 ミクニが殺されてここまで狼狽えている自分自身の心理状態が。
 何も分からない。全てが猛田を置き去りにしたまま、戦況は進行していく――――――



(やっぱり意識が無い……カルデアとの繋がりが薄いんだ)

 手の甲で疼く熱を感じつつ、立香は思考を回し続ける。
 物言わぬ戦士を従える姿はもう只の少女でなく、一介のマスターに切り替わっている。
 直接の戦闘での判断はその道の玄人であるサーヴァントに任せるのが最適だが、現場での状況判断はマスターが担う役割だ。
 自分だけでない、他人の命を背負う選択はいつまで経ったって慣れはしない。だからといって、歩みを止めることだけは最悪なのだと既に知っているから。
 
 英霊の召喚は問題なく行えた。カルデアとは相変わらず連絡は取れないが、繋がりは生きている。
 マスター単独ではサーヴァントの召喚・維持を行えない事実からそれはわかる。これは力量不足が大いにあるが。
 影ではなく自意識がある正規でのサーヴァントであるのが一番だったが贅沢は言ってられない。
 召喚の為の下地……霊地、触媒、魔力等、必要な条件があるのだろう。それらを一気に飛ばし実行に移す手段があるとすればそれは―――

(……今はまだ温存。使い所を誤るなよ。まずはここを切り抜けることを考えろ)
 
 一旦棚に置き、眼前の敵対者へと意識を傾ける。 
 親友であるはずのミクニを斬り、狂気を以て凶器を携える皇城ジウ。
 対応できないものではない。ただ倒すだけならば楽かもしれないが、それを望んだりはしない。猛田も、きっとミクニも、そして自分自身も。だからこその選んだ英霊だ。
 レオニダス一世。スパルタ国の王にして英雄。他者を守ることにこそ真価を発揮する炎門の守護者。その影法師。
 自分の身を守り、猛田を守り、ジウすらも殺さずに守り切る。立香の選択に一番似つかわしい能力を持ったサーヴァントだった。

 再び猛然と貫きに向かってくる突きを円盾が絶妙な角度で弾き、返す槍が刀身を砕いた。
 そのまま押さえつけて無力化しようとしたが、すぐさま引き抜かれた次の刀がそれを阻んだ。
 武器の機能を果たさない柄をジウは未練なく捨てる。周囲の道路には、何本も突き刺さって、投棄された、刀の墓場が形成されていた。

(全部同じ刀だ……鈴鹿の宝具?いや折れた刀も残ってる。分裂してるんじゃなくて本当にたくさんあるんだ) 

 BBの仕掛けか、デイバッグが中身が幾らでも入る仕組みなのは知っていたが、あれではあとどれだけ本数があることか。武器を失くして無力化という手段は取れそうもない。

388アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:11:44 ID:lo0/.jkY0


 形勢は立香の優位にあった。 
 たとえ無限の刀があっても、使い手の体力には限りがある。攻め続けていても一向に傷をつけられないジウが先に消耗するのは明らかだ。
 
「余裕だな。僕ぐらいいつでも殺せるってわけか?」
「殺す気なんてないよ。それに余裕もそんなにない」

 余裕に見えるとしたら、それは震える脚を隠してるからだ。単に取り繕いが上手くなっただけ。

「……はっ、殺す気がないだって?殺し合いでそんな甘いことを言って、それが余裕じゃなくてなんなんだ」
「そうかもしれない。でも親友なら分かってるでしょ。ミクニくんも、同じことを言っていたって」
「お前がミクニを語るんじゃない!」

 新たな千刀を握り吠えるジウ。視線で人を殺せるなら既に二人を三度殺しても余りある。
 そんな気迫を受け止めていながら、立香は怯みもせずまっすぐにジウを見つめている。
 男のような影を使役するのはいい。謎の技術にいちいち驚いているようではラブデスター実験を生き延びてはいない。
 かつてあれほど管巻いていながら今は震えてる猛田と同様に、ミクニの死体を、転がる生首を見ていながらまるで動じてないこの女の方が、よっぽど不気味で不可解だ。
 ジウと同じ地獄を味わったならともかく、この女の目は澄んでいた。ミクニを思い出させる、毅然とした決意に満ちた目。それが尚更に許せない。

 後方での爆発―――沖田達を狙う砲撃に立香が目を向けた隙に、ジウが動いた。
 手持ちの千刀を正面に投げ、空いた両手で掴んだ追加に二本上空に投げ飛ばす。
 計三本の飛刀を、冷静に立香は迎撃させる。旋回する二本は前進して軌道上から離れる。
 このまま距離を詰め動きを封じようとして―――第四の投擲物に目を見張った。

「って、爆弾……!?」

 立香が知る由もない、さる亜人に丸ごと渡した爆弾の余り物。
 飛び込んできた円筒の束に急停止。炸裂して起こる爆風と轟音を辛くも盾(レオニダス)が防ぐ。
 視界を塞ぐ土煙に奇襲の警戒を高め、そこで反射的に振り返った。
 先程無意味な投擲に思えた二振りが、いまだ腰が上がらない猛田の頭上で煌めきながら落下していく光景を見た。
 
「ひ……っ!」
「レオニダス!!」

 号令一喝。
 宝具に至らないまでも、英霊の投擲する槍は戦場では必殺の武器に変わる。
 自然落下に任せただけの二刀は呆気なく中空で砕かれ、新たな墓標となった。
 起死の間隙、不意を凌いだ瞬間に本命が来るか―――と思えばこの場から遠ざかる足音が聞こえ、爆風が晴れた道路にジウの姿はかき消えていた。
 
「猛田くん、立てる?」
「は、はい……」

 警戒のためサーヴァントは維持させて、立香は猛田に手を伸ばす。
 微笑でこちらを向く立香に対しおずおずと尻込みする猛田だが、やがて手を取って立ち上がった。

389アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:12:52 ID:lo0/.jkY0


「まだ安心できないけど、ここにいたままじゃどの道危ないから、すぐに動こう」

 英霊を退去させ、ミクニのデイパックを拾って迅速に準備している立香の声が、猛田には遠くにやけに聞こえる。
 掌で残る握り返された柔らかい感触が、今はなによりも現実感を与えてくれた。

「猛田くん?」
「ハイ!わかりました移動ですね荷物は俺が持ちますよ男ですからせめてそれぐらいは―――」
「ごめん。間に合わなかった」

 一瞬、なにに謝られたのか判断がつかなかった。
 悔やんだ表情で眉を顰めるのが分からなかった。
 こうして怪我ひとつなく助かったのは紛れもなく彼女のおかげで、十分に間に合ってるというのに。
 立香の目線の先を追って見たモノで、漸くその意味を理解した。

「いや、俺とミクニは―――――」
「うん、それは知ってる。でも知り合いがあんな目にあって、平気でなんていられないでしょ?」

 ミクニの口から暴露された猛田の所業を立香は真っ先に聞いていた一人だ。 
 その上で辛いだろうと、気にかけられている事に場違いにも心が揺れる。だが同時に苦いものも胸中に生じた。
 ショックを受けたのは事実だ。しかしそれは眼前で斬首されるという、ラブデスター実験とは比較にならない死を目撃したことによるもので、健常者としてごく自然な反応だ。
 少なくとも、落ち着いた今の猛田はそう解釈している。それ以外にないだろうし、そうであって欲しかった。

「とりあえず三玖達の元へ戻ろう。安全そうなら私も沖田さん達の方へ―――」
「あ、だ……駄目だ」
「猛田くん?」

 しどろもどろになりつつも、なんとか言葉にして伝える。混乱の連続にあって、弁論こそが猛田を保つ安定剤だった。
 
「皇城のやつが、言ってました……ミクニと知り合った奴らを全員……殺すって」

 言ってる内容は支離滅裂だったが、そこから滲み出ていた殺意は本物だ。
 信じ難いが、今のジウは間違いなくそうすると。否が応でも信じざるを得ないほどに。

「それに中野さんの……姉妹とも、因縁が、あるって」
「え――――――?」

 立香の直感がひっかかる。一花も二乃も三玖も、ジウと面識があったなんて一言も言ってなかった。そうだったらミクニに何も言ってないのがおかしい。
 三人と関わりがないとすれば、後に残るのはそう既にいない――――――


「四葉と五月に、皇城くんは会っていた……?」


 五月の最後には一花が居合わせていたが、経緯を詳細まで聞けたわけではなかった。
 四葉は誰にも知られず、殺し合いが始まってから時を置かず手にかけられていた。
 どれも可能性に過ぎない、けれど立香に浮かんだのは今において最悪のものであって。


 因縁。 
 その発言の意味が、彼女達を直接害した者であることを指すのなら?


「………………っまずい!」

 全速で踵を返す。
 この付近で姉妹達が一処に揃ってると知れば、何処に留まってるのかは自ずと知れる。
 離れ離れにならないよう気遣ったはずの遺体が、最悪の罠として機能した。
 今はただひたすら元いた家に向かって走る。
 もうこれ以上、間に合わない結末を迎えさせないために――――――!
 

「猛田くんっ!三玖達の家に急ぐからついてきて――――――」

390アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:13:44 ID:lo0/.jkY0




 ◆



「……」
「……」
「……」


「……」
「……」
「……ねえ」


「……なに?」
「……なによ」
「……どうしようか」

 かつて九人の参加者が揃っていた居間にて、一人がぽそりと喋った。

「どうしようかって……ねえ」
「どうにかすることなんてないでしょ」
「うん。知ってるけど」

 三人がめいめいに喋り出す。
 同じ声音がみっつ合わさって誰が誰だか区別つかないが、姉妹同士で話すぶんにはまったく問題がない。

 断続して地を揺らしていた轟音も遠ざかって久しく。
 三人が鬼退治に向かい、三人が慌ただしく飛び出し、取り残されたのはただ待つ三人。
 ずっと張り詰めていた緊張感も少し薄れ出した頃に、中野姉妹は押さえていた頭をひょこりと上げた。
 
「なんかさ、昔こんな風にみんなで寝そべってたことってなかったっけ」
「あー、あった気がする。なんとなく憶えてるわ」
「……防災訓練ごっこ?」
「そうそれそれ」
「今思うと何でそんなことしてたか意味分かんないわね」
「でも楽しかったよね」
「そうだね」
「五人一緒にいればなんでも、何をしていても楽しかったわ」
「五月、あの頃から非常食をつまみ食いしてたよね」
「四葉だけ避難場所の公園に先についちゃって、泣いてたりしてたなあ」

「……っ」
「……っ」
「……っ」

 一人が鼻をすする音に反応して、二人が嗚咽を漏らしそうになるのを堪えて、居間がしんと静まる。
 話題選びを間違えた。
 ちょっと前までは何をするにも五人一緒だったのだ。昔を遡れば、どうしても全員がいる記憶しか思い返せないのも当たり前だ。

391アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:14:23 ID:lo0/.jkY0


「沖田さん、早く帰ってこないかしら」
 
 ぽつりと、二乃がつぶやいた。
 危機が遠ざかっても、やっぱり三人だけなのは寂しいし不安だ。 
 我が身・姉妹可愛さといわれようと、あくまで二乃達は子供であり、日常の世界の住人だ。精神の均衡には支えになる柱がいて欲しかった。
 
「ミクニくん達もどこ行っちゃんだろう。誰か見つけたみたいだったけど」 
「立香がいるからあっちはたぶん大丈夫。むしろ猛田が何かやらかさないか心配」
「うん、なんだか凄く場馴れしてるみたいだし。すぐに二人の首根っこ掴んで戻ってきてそうな気がするよ」
「幾ら立香でもそんなことは……あー、やりそうかも」

 二人だけで話題を共有してることに少し疎外感を感じた二乃が、ねえと顔を前に寄せてきた。

「立香ってどんな子なの?三玖が最初に会ったんでしょ。私、あんま話してないからよく分からないんだけど」
「立香?立香は………………うーん、変な子だよ」
「なにそれ」
「だって、そう言うしかないから」

 三玖の視線は、空の見えない天井へと向いた。

「初めて会った時からずっとあんな感じ。頼りになるのに隙だらけで。凄いのにぜんぜん普通で。
 怖いまま、不安だらけなまま、足を止めずに前に進もうとしてる。
 だから、変な子。変な立香」

 穏やかに笑みを浮かべて。たった六時間前の出来事を、古い記憶に思いを馳せるように。
 内気な妹をずっと見てきた姉には、それだけで理解するのには十分だ。
 
「―――そっ。まあ一花を手当てして四葉も綺麗にしてくれたんだもの。信じていい子なんてはじめから知ってたけどね」

 そんな風に素っ気なく返す二乃を、二人は意味ありげに薄笑いで見ていて。
 なんだかそれが気に食わなくて、何か言ってやろうとした時―――世界が終わるような崩落が全員の耳に響いた。

 これまでと比べ物にならない大音響に頭を抱えて身を屈める。
 緩んでいた空気が一気に張りつめる。隣の姉妹に聞こえてしまいそうなぐらい急激に上がった心臓の鼓動が痛い。

「こ、これ……ここまでは届かないよね……?」
「そんなの分かんないわよ……っ」

 外を見てないのがより恐怖を助長させる。かといって外に出る勇気もなく、耐え忍ぶしかない。
 どれだけ時間が経ったか。時計に目をやる余裕もない緊張に包まれていた中で、唐突に家の扉が開いた。

「帰ってきた……っ?」

 過敏に働いていた神経が拾った音に、たまらず部屋を飛び出すのは二乃だ。すぐに二人も後を追う。
 逸る気持ちを抑えきれず玄関に繋がる廊下を曲がる。開いた扉の前に立っていた人物を見て―――

392アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:16:53 ID:lo0/.jkY0



 ◆



 ―――死角の闇で煌めく銀閃が走り、白い背中を斜めになぞる。
 滑らかに引かれた線に沿って血が吹き出し、体制御を失って重力に抗う力を失くし倒れていく。

「――――――え」

 起きた現実に、猛田は思考が追いついてない。
 住宅街の脇道から突如として現れたジウも。
 立香と自分の間に割って入って、前方の立香を斬り伏せたのも。
 鮮血に濡れた刀をこちらに向けたジウにも、ろくに反応できなかった。
 
 為す術もなく殺される、と知覚した時には、既に猛田から危機が去っていた。
 鳴動する赤光。
 袈裟斬りの態勢でいたジウが寸前で真横に飛び、立っていた場所を炎の渦が通過した。
 
「清姫ストップ……!私は平気だから!」

 放射の先には、地に伏したと思われていた立香。
 奇襲に気づいた瞬間、咄嗟に前に飛び込んで受ける傷を最小限に抑えていた。
 その隣に出現した影は先程の盾の男と違い、小柄で着物姿と思しき女性の容貌をしていた。
 ……顔は見えないし声も出てないが、猛田はなぜだか影が烈火の如く怒っている気がした。

「立香さ……ぅ―――」 

 邪魔にならないようにと思って近くに寄ったが、すぐに顔色を蒼くして後悔した。
 目に入れてしまった立香の背には、ジウの与えた傷が消えようもなく刻まれていた。

「大丈夫。傷は塞いだから」

 服は裂け、中は零れ出た血が滲んで見るも凄惨な少女の背中はあまりにも痛々しく。 
 悶絶していてもおかしくない激痛が続いてるのは想像に難くないのに。
 額に浮かぶ汗を腕で拭って、こちらを安心させる声で立香は振り向いて見せた。


「……分からないな。どうしてそこまでして猛田を庇うんだ?」

 それは、ジウが心から抱いた疑問だった。

「ミクニのことだ、どうせコイツの所業も全部バラしているんだろ。それを知った上でこんなヤツを―――危険を晒してまで助ける価値があるっていうのか?」

 生きていること以上に、そんなになっても猛田を守る姿勢を崩さない立香にジウは苛立ちを募らせる。

「結局ソイツはあの頃のままだ。
 女を侍らせて自分は高みの見物を決め込んで、ベラベラと言葉を並び立てて他人を誘導して利用する。ミクニに近づいたのも体のいい隠れ蓑さ。
 そもそも、焦って待ち伏せていた僕の存在に気づくのが遅れたのも、向かう方角から予想でしかなかった中野姉妹の居場所を僕に確信させたのも、全部猛田が余計なことを言ったのが原因じゃないか。
 殺し合いなんてどうでもいいし、生かすつもりもないが……本当に生き残りたいなら、ここで死なせた方が他の参加者のためになると思わないか?」

393アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:18:19 ID:lo0/.jkY0


 刀の切っ先を突きつけて、ジウは立香の後ろに控えている猛田を糾弾する。

 その通りだ。
 図星だった。
 ジウの言う通り、猛田はミクニを利用して復讐し、あわよくば優勝を狙う算段だった。
 ……いや。そう企てていたのを、他ならぬ猛田自身が失念していた。 

 だからミクニに過去の行いを暴露されるのも。中野姉妹に軽蔑されるのも。立香に優しさを向けられるのも。メルトリリスに、沖田総司に、ジウに殺されかけるのも。
 どうせ始末すると決めてるなら本来はどうでもいいはずで。なのにこんなにも自分は苛まされている。

「―――うん。まあ、両想いにならなければ生還できないってルールなのにハーレム作ろうとするのは、私もそれどうなのって思ったけど」

 呆れた口調で零す立香の言動は茶化しているようで、ふざけてる気配は微塵もない。

「この人のやったことは誰にも許されない。怒られ糾弾されて、被害者からは一生憎まれる。それは私には止められない。
 でも、死ぬことはなかった。誰であっても、死ぬしかない命だったなんて思いたくない。
 私はそこに居合わせなかった部外者で、終わってしまった物語を読んだだけだからそんな風に言えるのかもしれなくても」

 真剣な瞳で、そう、迷いなく言い切って。

「―――彼はいま生きてここにいる。この手が届く距離にいる。
 なら、私は助けるよ。出来ることがあるのに、それをやらないことだけはしたくない。それは価値とか利益とか、正しい理由じゃなくて、それをしない私が許せないだけの、私の我儘だから」


 ―――自分は、一生許されない。
 
 言うまでもない、分かりきっていたことを改めて突きつけられた。
 それだけのことなのに、その言葉はまるで神の宣誓のように猛田の奥深くに突き刺さり、熱いものがこみ上げてきていた。
 キープと見下してきていた女からの囁かれた愛の言葉の、何倍も心を揺さぶる衝撃で、猛田という器の原型まで破壊してしまいそうだった。

「死ぬことはなかった……だって?」

 今度はジウが、消えようもない傷を刻まれる番だった。
 昔日の記憶がリフレインする。
 校舎裏の土をスコップで掘る音。眼鏡だけしか添えるもののない墓穴。誰にも省みられることのない男の死をただ一人悼んだ男。


"だが死ぬことはなかった"


 その言葉は。その感慨をあの時ジウに口にしたのは。

「奪うのか……また僕から奪うのか!
 僕以外のものにならないから殺したのに、どうしてお前がまだミクニと繋がってる!僕しか知らないあいつを知ってる!」

394アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:19:17 ID:lo0/.jkY0


 許し難い略奪に、身を焼き焦がすほどの情念がジウの内面を支配する。
 この手で殺したミクニが、あの女の中で息づいてるようで我慢がならない。
 ミクニを分かっていいのはジウだけだ。あいつを記憶していていいのは僕だけだ。同じ学校の生徒ですらない見ず知らずの女が理解していいわけがない。
 だから、殺さなくては。死んだ者が生きているのは、おかしいのだから。

「これ以上、僕とミクニとの思い出を奪うんじゃない!!」

 愛憎か悲哀か絶望か。
 あらゆる感情がないまぜになった叫びを上げ、立香に重なるミクニの虚像ごと斬ろうと走る。

「――――やっぱり、泣いてるんだね」

 声は聞こえなかった。
 聞こえたとしても確かめることは出来なかっただろう。流れた水さえ蒸発するこの熱気の中では。

「清姫!」

 蒼炎が舞い踊る。
 愛した人に拒絶された憎しみが生んだ狂気の火は、ジウを狙わずにその周囲に燃え広がっていく。
 その時、ジウにある剣士としての直感が、ここでの戦闘の継続が不可能であることを知らせた。
 憤懣に狂いそうになりながらも停止して急速反転。一度に取れる限界量の千刀を抱え即席の盾として炎を領域へ飛び込む。 
 まだ火の手が周りきってなかったのが幸いだった。持っていた千刀の融解と引き換えに火傷を最小限に抑えられた。境界線を抜けた後、放置されていたミクニのデイパッグを拾い上げ全力で離脱する。

 追ってくる気配はない。後ろを振り返ってみれば炎の蛇がとぐろを巻いている幻想的な光景が映った。
 やはりあれは熱と酸欠でジウを倒れさせる狙いだったようだ。殺す気はないと言っていたのは反故にしたかと思ったが、まともとは思えない。普通ならそのまま蒸し焼きだ。
 名簿にあった名前から、蛇と化した女に隠れた鐘ごと焼き殺された僧侶の伝説を思い出す。
 
 (クソッ……あの女はまともにやっては勝てない。手の内が読めなさすぎる)
 
 術もそうだが、年齢に不釣り合いなほど経験豊富な相手だった。
 ジウが身につけた技量はラブデスター最後の実験の仮想現実(ホログラム)で現実と別の時間を過ごした結果得たものだが、あの女も似た経験があるのか。
 ともかく今は離れなくては。派手な炎は朝でも格好の的だ。別れていた仲間や危険人物が寄ってくるかもしれない。まさかそこまで考えていたのか。

 顔は覚えた。殺す数も、居場所も当たりがついた。
 隙を窺う機会はいくらでもある。死ぬまで殺し続ければいつかは死に絶えるだ。
 熱が引いた後も、殺意の炎は燃え盛り、灰になるまでこの体を殺戮の装置として駆動させる。
 あるいはもう屍体になった肉に残る鬼火なのかもしれないが、それがどうした。
  
「―――お前のせいだぞミクニ。お前が僕を残したから、お前が残したぜんぶが死ぬんだ」
  
 虚ろに呟く言葉に、返ってくる声はなかった。

395アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:20:34 ID:lo0/.jkY0
【E-6/街/1日目・朝】

【皇城ジウ@ラブデスター】
[状態]:精神的ダメージ(???)、火傷(小)、幻覚・幻聴
[装備]:千刀・『鎩』@刀語
[道具]:基本支給品一式×2、救急キット@Fate/Grand Order、ネクタール・ボンボン@Fate/Grand Order、ランダム支給品0~1(前述のものと合わせて支給品が合計3つ以下に見える状態)、ランダム支給品1~3(ミクニ)
[思考・状況]
基本方針:ミクニに関わったすべてのものを殺害する
1:猛田達を追い、殺す。
[備考]
※参戦時期は細川ひさこの仮想空間(新選組のやつ)から帰還してミクニを殺害するまでの間です。
※中野四葉から彼女の知り合いについて話を聞きました。少なくとも林間学校以降の時系列のものです。


※付近に破損した千刀の山が出来ています。ひょっとしたら使える刀も落ちてるかもしれません。

396アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:21:49 ID:lo0/.jkY0


 ◆



「……」
「……」
「……」
「……」
「……」


 九人の参加者がいて、二人が戻ってきて五人になった居間。
 人数が増えて、準備に追われて慌ただしいのに、立香は痛い沈黙を感じていた。主に、無言で訴える姿勢を解かない三玖に。

「あの、三玖さん」
「いまさら変に敬語とかいらないから」
「えっと、三玖」
「なに」
「…………怒ってる?」
「―――――――――はぁ」
「え、そのため息はいったい」
「いったいって、立香の能天気さがあり得ないなって。
 織田信長と沖田総司が女性で二人で仲良くやってるぐらいあり得ない」

 完全な流れ弾を食らったぐだぐだ組に心中で同情する。

「ほんとに……心配したんだから。みんな」
「――――――うん。ごめんね」

 血まみれの格好で帰ってきた立香を見た二乃は卒倒寸前だった。傷は塞がってるからと教えても宥めるのに少し時間を要してしまった。
 簡潔にミクニのこと、ジウのことを話した時も三人は鎮痛に表情を歪めた。
 猛田も含めて心の整理のための時間を与えたかったが、心を鬼にしてすぐに家を離れなければいけない事情がある。

 戻る途中、沖田達が狙撃手を撃退しに行った方向にあるマンション、即ち中野姉妹の住まいであるPENTAGONが跡形もなく倒壊するのを目撃した。
 全員の無事は信じてるが、何の問題もなく戻って来れる保証はない。合流するには、こちらからも近づいていかねば。

「予定通り、北上しつつ皆と合流しよう。広すぎる道じゃないしお互い同じ方向に進めば、途中で会える可能性は高いと思う」

 もし待機してる間に居場所を動かなければならない状況に陥ったら、合図を上げて北に向かえとは沖田の指示だ。 
 しかし道中にはジウ、マンションを落とした犯人に狙撃手と、最低でも二人以上障害が立ち塞がる。
 最低であり、そこからまだ見ぬ参加者が加わる可能性を考えると、立て直される前に迅速に行動すべきだった。

 以上の説明をしたところで、聞き終えた一花からこんなは返事が返ってきた。


"話は分かった。じゃあまずは着替えよっか"


 この時の一花たるや何だか分からないが有無を言わせない迫力を見せ、五つ子の長女の力というものを考えさせられる。
 半ば無理やり了承させられ一旦落ち着くと、自分が焦り過ぎていたことを自覚してきた。
 実際背中が血でべっとり汚れた人間なんて、間違いなく初対面の相手にいい印象を与えない。
 一花達もそう感じたからこそ、少しでも負担を軽くしようと自分を案じてくれたのだろう。
 
 着心地が最悪だった服を脱ぎ、炭治郎から譲り受けていたカルデア戦闘服に着替える。
 戦闘用の機能に調整された礼装にするのも、今後の行程が過酷になるのを考えれば適した装備だ。やはり焦りが判断の誤りを招いていたかもしれない。
 カルデア礼装の機能も失われてはいない。早着替えのスキルも身につけてるのでいざという時は着直せばいいだろう。
 ただ周りからの感想はイマイチなようで、三玖に支給品の浅葱色の羽織を渡されたが、謹んでお断りした。向こうで沖田と会った際に何を言われることか。

「立香は羞恥心とか、そういうのあるの?」

 なぜだろう。三玖にだけは言われたくないと思った。

397アザナエル ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:23:18 ID:lo0/.jkY0


【E-6/民家/1日目・朝】

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:体力消耗、背中に斬り傷(治療済)、令呪三角、カルデア戦闘服装備
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
0:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
4:清姫については──
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。
※カルデア礼装は使用すると一定時間のインターバルがあります。


【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる?
1.藤丸立香は俺に気がある?
2.藤丸立香、い、良い女だ……
3.ミクニは──
[備考]
※死後からの参戦


【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、精神的ショック
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人に会いたい
1.沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2.千翼に対する強い怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。


【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:好きな人と傍にいたい
1:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2:PENTAGONはちょっと行きたかった、んだけど……
3:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。


【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:首筋に引っ掻き傷(処置済み)、精神的ショック
[道具]:基本支給品一式、四葉のリボン、誓いの羽織@Fate/Grand Order、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:好きな人へ伝えたい
1:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。


【誓いの羽織@Fate/Grand Order】
中野三玖に支給。
新選組一番隊隊長、沖田総司の宝具。新選組の隊服であるダンダラ模様に浅葱色の羽織。
装備した者のパラメーターを上昇させ、沖田の剣である乞食清光を後年に沖田総司の愛刀とされた菊一文字則宗へと位階を上げさせる。
……新選組でも沖田総司でもない者が羽織ったところで無用の長物である。せいぜい京都のお土産レベル。

398 ◆0zvBiGoI0k:2019/11/09(土) 04:24:50 ID:lo0/.jkY0
投下終了です。
炭治郎の所持品欄にあったカルデア戦闘服を移動させた点についてここに記しておきます。ご容赦ください

399 ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 19:55:07 ID:UhlLOZkI0
炭治郎の支給品、了解です!

こちらも投下します。

400 ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 19:55:35 ID:UhlLOZkI0



──結局、また同じ、なのかな。

炎の熱と、身を貫く痛み、どこか遠くに聞こえる爆発音。
あらゆる感覚が曖昧で、どこかぼんやりとしていて、だが一つはっきりとしていることがあった。

それは自分が今、死のうとしているということ。

わかっている。
これは確実に“アレ”であるということ。
決して助からない、一線を超えた致命傷を受けてしまったらしい。

彼が、城戸真司がそう確信できるのは──他でもない経験者であるからだ。

──結局、俺はまた……。

真司は少なくとも一度は死んだ人間であった。
ライダーバトルに巻き込まれて、数奇な運命を辿りつつも、彼は最後にはその身を散らした。
最後の最後に──自分の願いと欲望を自覚して、そしてそれゆえに誰かを守って、死んだのだと思う。

真司は思う。
結局、何故自分が、蓮が、そして浅倉がこんな島に呼ばれたのかはわからない。
わからないまま蓮とまた出会い、そして同じように死のうとしている。
そのことを仕方ないと受け入れたくはない。
やっと会えて、やっと本当の意味で二人で戦えるようになって、その矢先にこれじゃあやりきれない。
当然そう思ってはいる。

だが──

「……蓮。俺さ、やっぱり戦いを止めたいって、ここでも思ってたけど」

──一つ、以前の“死”と明確な相違点を挙げるとするならば、

「それと同じくらい、俺は、お前にも、生きていて欲しかったんだなんって」

それは、欲望であった。
城戸真司がこの戦いに参加するにあたって、新しく胸に秘めていたもの。
ただ彼がそうしたい、そうであってほしいと願っていたもの。
それが正義でないと知ったからこそ、この二度目の死は、真司にとって別の意味を持つのだ。

「やっぱ、俺たちの戦いってさ──」

きっとこの言葉は誰にも届かないだろう。
そう想いながら、真司は最後の言葉を口にした。
真司が、蓮が、もしかすると浅倉も、結局同じような道を辿ったのかもしれない。
それでも、誰にも届かないのだとしても、言わなければならないことだった。




401Alive A life ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 19:57:52 ID:UhlLOZkI0



時計の針は、未来にしか進まない。
ぐるっと一周して元に戻ったように見えても、未来に進んでるんだ。





──整えろ。

整えろ、整えろ。呼吸を整えろ。
全集中の常中。いま持てる全ての力で集中し、呼吸の精度を整えるんだ。

視界が真っ暗になり、全身に焼けるような痛みが走る中、炭治郎は思い続ける。
自然と思い浮かぶのはあの列車での闘い──煉獄との最初で最後の共闘だ。

あの時も自分は倒れ、動こうと必死に呼吸を整えていた。
そこに煉獄が現れ助言をしてくれた。彼だって闘いの直後だろうに、そんな様子は一切見せずにこう言った。

──集中しろ、と。

そう、集中だ。
身体に走る破れた血管を見つけろ。そしてそれを止血しろ。
それができるだけの鍛錬はやってきた。
だからここで必要なのは祈ることじゃなく、集中すること、自分の力を出し切ること。

ハ、ハ、ハ、と声が漏れた。同時に身体のどこがで異音がする。同時に猛烈な痛みが走り意識が飛びそうになる。
が、その異音を聞いて炭治郎は安堵していた。
ああ、止血できた。これでまた動けるようになる。

──呼吸を極めれば様々なことができるようになる。何でもできるわけではないが。
──昨日の自分より確実に強い自分になれる。

煉獄の言葉。
その声はもう、随分と遠い日のように思える。
だが、はっきりと思い出せる。
彼にそんな言葉をもらった以上、自分はいま、あの時よりも強くなっていなくてはならない。

その意思が、炭治郎をつなぎとめた。
闇の中に落ちてもおかしくなかった彼は、再び目を開けた。

「────」

そして、気がついた。
その身体を庇うように覆う、青年の存在を。
彼の背中には無数の瓦礫が突き刺さっていた。おびただしい血が流れ、その頭は力なく垂れていた。

「──城戸さん?」

答えはなかった。
だがそれだけで炭治郎は悟った。
自分が、今度は一体誰に守られたのかを。


【城戸真司@仮面ライダー龍騎 死亡】




402Alive A life ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 19:58:51 ID:UhlLOZkI0


『いや、僕たち全然触れてなかったけど、D-7って禁止エリアだよね』『しかも一時間後』
『悠長に話してたら普通に爆死でドン!』『それで死ぬのは流石にどうかと思うな』
『そんなもん冗談じゃなくシュールギャグって奴だ』
『とはいえそんな適当な死に方したら逆に再登場フラグ立ちそうだよね』

隣で球磨川がまた訳のわからないことを言っているが、明はもはや反応する気にもなれなかった。

『それで僕らは必然的に移動することになった訳だけで』
『そうなると書かれてる行動指針的に』『南に行くことになるんだけど』
「な、なんだこれって……」
『その結果がこんな作画コストがヤベエ場面だとはね』

風太郎も今回ばかりは球磨川に気を配る気にはなれないようだった。
禁止エリアを避けるためにも南に向かった三人が目にしたのは──崩壊するPENTAGONだった。

PENTAGONというのは高層マンションであり、見上げるほど巨大だということは聞いていた。
それが爆破されていた。連鎖的に起こる爆弾がガラスを突き破り、地を揺るがし、豪風を巻き起こしながら倒れていく。

『文章媒体でよかった』『週刊少年ジャンプでこんなんやったらアシスタントに刺されそうだよね』
『爆破される高層マンション! とか書くのは楽だけど、描くのは地獄だ』
『見るのも地獄だけどね』
『あっ、でも、もうちょっと早くついてたら今頃天国って奴か』

ただ、最後の言葉にだけは明も内心で同意していた。
間近まで行っていたら間違いなく瓦礫に押しつぶされていただろう。
少しでもタイミングがズレていたら有り得た話だった。そういう意味じゃ運が良いな、と明は冷静に判断する。

「とりあえず上杉と球磨川、俺から離れないでくれよ」

明は背中に気を配りつつ、カチャ、とその手に握った日本刀を抜いた。
日本刀。本土に来てからは流石に触れる機会は減ったが、彼岸島にいた頃は最も手にしていた武器といってもいい。
手に馴染む重さを感じながら、明は目の前に迫ってきた瓦礫を、シャッ、と斬り裂いた。

「……は?」
「あれだけの崩落だ。離れていても余波が来る。頭に気をつけろ」

言いながら明は、爆風により飛んで来たコンクリート片や石を斬っていく。

『……おいおい、明ちゃん。何サクッと一行ですごいことやってるんだ』
『せめて三行ぐらい使って描写しなよ』
『僕らみたいなシュールギャグ漫画出身はともかく』『上杉くんにはちょっと刺激が強すぎるよ』

球磨川の言葉を無視して、明は黙々と降って来る瓦礫を斬っていく。
ここから下手に動かなければこれ以上崩落に巻き込まれることはないだろう。
だが気になる点が一つあった。

403Alive A life ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 19:59:30 ID:UhlLOZkI0

「この爆発……狙って仕掛けた奴がいるな」

あれだけ巨大なビルだ。闇雲に爆弾を仕掛けたところで、こう派手に崩落することはない。
爆破の仕方からしても、明らかに狙って爆弾を設置し、タイミングを見計らって爆破を敢行した者がいる。
となれば──おそらくまだ近くにこの爆弾魔がいる。

「……え?」
「こんな馬鹿げたゲームに乗ってる奴がいるってことだ」

そろそろ土煙が晴れて来たか、そう判断した明は目を凝らす。
巨大なビルの倒壊により、連鎖的に破壊が巻き起こった街の惨状は元の街の原型が残らないほどだった。
アスファルトは裂け、鉄骨はひしゃげ、砕けたコンクリートが散乱する。
それは明にとってはある意味で見慣れた光景ではあった。
彼岸島で雅を取り逃がし、本土に渡った先に待っていたのは、ここと同じような地獄だった。

「──しまったっ」

その最中、明は苦痛の声を上げた。
風に煽られ舞い上がって来た小石が頰をかすめたらしい。触れると血が出ていた。
ここは壊れきった街ではない。現在進行で壊れつつある街なのだ。
ただ歩くだけでも危険がある──と考えているとき、

『まぁ近くになんか敵がいるってのはわかったけど』
『それでどうすんの?』『目的だったPENTAGONはぶっ倒れちゃったけど』
『ラブコメしようにもヒロインいないし』『とりあえず雑にバトルで展開を繋ぐかい?』

ぐい、と唐突にやってきた球磨川の手が明の頰に触れ、反射的に距離を取ろうとして──気が付いた。
血が止まっている。
先ほど不注意でついてしまった傷が完全になくなっていた。

「おい、待て球磨川。今お前何をした」
『えー何のことかなぁ?』『一行で石を切れるんだから、描写なしで怪我治ってたって問題ないだろう』

はぐらかすように言う球磨川だったが、そこに敵意はないと判断した明は首を降る。

「──ハ、まぁいいさ。今更、そんな手品で驚いてられないか」
『うん、そうだね』『僕のことは手品先輩と呼ぶといいさ』『せっかく週刊ヤングマガジンと週刊少年ジャンプと奇跡のコラボだ』

明は無視して周りを窺った。
この状況、下手に動くことも危険だが、それ以上に爆弾魔が近くにいる中、突っ立っている訳にもいかなかった。
どうにか街から脱出していきたいが──と考える中、

「あ、アレ──」

と、そこで声を上げたのは風太郎だった。
彼が指差した先に、奇妙な人型がいた。
いたというか、歩いていた。
それは人の輪郭だけはあるが、あるのは輪郭だけで、その中はぼんやりとした黒が蠢いているような造形であり、端的に言えば異形である。

404Alive A life ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:00:36 ID:UhlLOZkI0

「邪鬼やアマルガムなんかじゃないな……」

明の脳裏に咄嗟にいくつかの異形の可能性が思い浮かぶが、どうにも様子は違う。
おそらくこの島で最初に遭遇したクラゲのバケモノのような、未知の異形。

そう素早く捉え、明は警戒の態勢を取る。
が、当の異形の方は明たちにまったく気づく様子もなく、またどこかに消えていった。
何かを手にしているようだったが、遠目にはそれが何かまではわからなかった。

「宮本さん、どうします?」

風太郎が困惑を滲ませた声で尋ねてきたが、首を振る。
だが、行動はすでに固まっていた。

「──追おう」
「え? アレをですか?」
「ああ、事情はわからないが、あんなバケモノが街を闊歩しているんだ。
 この街全体に爆弾が仕掛けられている可能性もある。下手に逃げることの方が危険だ」

元を断つ。その意を持って、明は歩き出した。
「ま、待ってくださいよ」と風太郎が後を追って来る。

「そ、そんな、ここでまた、その、闘うってのか? 正気じゃ──」
「何かあった時のために頭だけは隠しておけ。その辺に落ちてる鉄板とかでも気休めぐらいにはなる」

明は爆破の余波で道に落ちていたフライパンを拾い、ほら、とそのまま風太郎に渡した。

「い、いやこんなんじゃ何も意味が……」
『大丈夫だぜ、上杉くん』『僕がついている』
『なんといっても上杉くんと僕は連載開始当初からずっと一緒だった相棒じゃないか』
『死亡表記が出るときまでずっと一緒だって約束しただろ?』

当然のようにいた球磨川は、さして怖がる様子もなく風太郎に絡んでいた。

『おっと何だい? その失礼な眼差しは』『僕みたいな過負荷がいた方が不安かい?』『そりゃないぜ、フー太』
「何時から俺とお前はそんな気易い仲になったんだ……」

風太郎が頭を押さえながら言った。
ものすごく好意的に解釈するならば、過度の緊張を解きほぐす球磨川なりの話術なのかもしれないが、おそらく違うだろう。
明は内心で少し呆れつつ、異形が消えていった方へと歩いていった。
再度の爆発はなかったが、ところどころ崩れ落ちる建物があり、ある程度気をつけて歩く必要があった。

そしてその先に──

「うん? 別の人も来てくれてたのかい?」

ハンチング帽を被った初老の男がいた。





405Alive A life ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:01:00 ID:UhlLOZkI0


男、佐藤の名を当然ながら明たちは知らない。
今しがた“セレモニー”での戦闘を終え、佐藤が装備を整え直したところに彼らはちょうどやってきた。
IBMはミラーワールドを経由して動いていたため、それを追って彼に遭遇するのは本来非常に低い確率だった。

IBMを見失い、互いに遭遇することなくすれ違う、というのが、もっともあり得た筈の可能性だった。
だが、こういった局面で鬼札/ジョーカーを引いてしまうのが、過負荷たる球磨川であり、宮本明という人間だった。

「やぁ、君たちも“セレモニー”に来てくれていたのかな?」

そうして手を振る佐藤は、いかにも好々爺という風情であった。
今はIBMも消えているため、明たちが見た異形と佐藤を結びつける直接的なものはなかった。
だが──

『おっとここでボスキャラ登場』『先制パンチだ!』『死ね!』
「おお! 球磨川!お前何やってんだ!」

球磨川は一切の探りを入れることなく、何時の間にかその手に握っていた螺子を思いっきり投げつけていた。
そして添えられる風太郎の叫び。巨大な螺子が突き刺さる佐藤の身体。はらりと落ちるハンチング帽。

『ええ……上杉くん。何を怒ってるんだい?』
『ボスキャラ相手に僕みたいなのが敵う訳ないだろう』『ならせめてとりあえず不意打ちするのは仕方がないじゃない』
『僕は悪くない』
「何馬鹿なこと言ってんだ! まだ相手がどういう人かもわかってないのに──」
『そして追撃だ!』『どうせ形態変化持ってるんだろ!このボスジジイ!』
「無視して追加で攻撃するな!」

風太郎が球磨川の胸ぐらを掴みながら迫っているが、明はその間、何も口を挟まなかった。

「…………」

その理由はただ一つ。

『まぁまぁ冷静に考えて見なよ、上杉くん』
『こんな滅茶苦茶な街の中心で』『無傷のおじさんがニッコニコで笑ってたら』

ニッ、とそこで球磨川は歯を見せて笑って、

『──どう考えてもソイツがボスってもんだぜ』

明もほぼ同じ考えに至っていたからだった。
無論、球磨川の論は詭弁であるが、しかし直感的に佐藤の危険性を感じ取っていた。

故に──次の瞬間の砲撃にも明は対応することができていた。
再び街に轟く爆発音。
「伏せろ!」と明は叫びをあげ、爆発をしゃがんでやり過ごした。

「うーん、ちょっと外したなぁ」

ハンチング帽を被り直しながら佐藤はそうぼやく。
突き刺さっていた螺子がごみのようにこぼれ落ちる中、その横で巨大な影が立っていた。

「“君”の使い方ももう少し慣れないとね」

ミラーモンスター、マグナ・ギガ。
現在、ゾルダを操る佐藤に付き従うミラーモンスターであり、それ自体が独自の意思を持つ。
佐藤が変身していない状態であっても、彼との関係が良好なうちは付き従ってくれるだろう。

無論、明はそんなことは知らない。
だが肩部から硝煙をあげる異形のバッファローを見て、それが明確に敵であることを判断する。
その瞬間、明は地を蹴り一気に駆けていった。

406Alive A life ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:01:22 ID:UhlLOZkI0

キンッと金属音が響き渡った。

「おお、君もまたサムライかい? 流行ってるのかな、この島で」

明の手により猛然と振り払われた日本刀を、佐藤もまた手にしていた刀で受け止めていた。

──一目でわかる、名刀だな。

押し合いつつ明は相手の刀の質を看破する。
とはいえこちらも支給された日本刀は相当な代物だった。
そして少なくとも剣の腕であればこちらが優っている。

ジャッ、と砂を踏む音がして、次の瞬間には明は佐藤の右腕を斬り落としていた。
その間に一秒もかからない。普通の相手であれば、これで終わりだが。

明の鋭敏な感覚が、何かの気配を捉える。
それを察知した明は、トッ、と後方へと飛びのく。
瞬間、そこにはきらめく装甲を身に纏った“もう一人”が現れ、砲撃をウチはなっていた。
揺れる視界。あと少しでもそこに残っていたのなら、明の身体は今頃木っ端微塵になっていただろう。

「やるねぇ、さっきのサムライもだけど、剣で対抗しようとしても普通に斬られちゃうなぁ」

やっぱり本職は違うなぁ、と朗らかにぼやきながら、佐藤は落ちた日本刀を拾い上げている。
その後ろのはあのバッファロー型の異形と、黒い粒子を漂わせる装甲服の何かが立っていた。

ハッ、と明は不敵に笑ってみせる。
あのバッファロー以外に、この男が少なくとももう一体バケモノをつき従えていることはわかっていた。
漂う粒子を見るに、おそらくあの装甲服が、街中で見かけた黒い異形だ。
そしてその二体をつき従えるこの男は、さながら邪鬼に対する邪鬼使いのような立ち位置なのだろう。

「なら、アンタを倒せば止まるはずだな……」

明はもはやこの男が一連の爆破を引き起こしたことを疑っていなかった。
そして再生していくその右腕をみれば──吸血鬼と同類の存在であるとみなすことは当然だった。

明は日本刀を握る。
後ろのお供二体を引き剥がし、その隙に佐藤を討つ。
そう思い、さらに一歩出ようとして──

『横から失礼』『何真面目なバトル展開しようとしてるんだい』
『全員轢いてしまえばいいだろう』

──横殴りに突っ込んできた巨大なトラックが、佐藤を含めた三体の異形に一気に追突した。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

遅れて響き渡る風太郎の叫び声。どうやら運転しているのは彼らしかった。
そしてさらに追突したトラックは爆発する。
炎上する車体の中から、よろり、と二人の影が立ち上がって着た。

407Alive A life ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:01:55 ID:UhlLOZkI0

『「劣化大嘘憑き」』『そして僕と上杉くんのダメージをなかったことにする』
『これで全部解決だ』『上杉くんの支給品がドンピシャなもん持ってたから』
「──ハ」

楽しげに笑って出てくる球磨川に対して、明は一瞬少し笑ってしまった。
デイパックからサイズに合わないものが出てくるのは知っていたが、なるほどこんな手があるとは。
先ほど球磨川が見せた“手品”ありきの攻撃という訳だった。唆されて敢行させられたらしい風太郎には同情するが。

『でかした!って言ってあげるといいぜ』『やったか!?とかは間違いなく言っちゃダメだよ』
『っていうか多分まだ──』

と、そこでさらにタァン、と短い銃声が走った。
そして球磨川は胸から血を流しながら『あ、やっぱり?』と漏らしながら倒れていく。

炎の中再び這い上がってきた佐藤は倒れる球磨川の首根っこを掴み上げながら、笑っていた。

「なるほど、ちょっと面白いね、君の身体」
『一目見た瞬間にわかったぜ、ご同業』

球磨川は胸に手を当てたかと思うと、次の瞬間にはその傷は消え去っていた。
そして同様に、車で衝突されたというのに佐藤にも目立った外傷は存在していない。

『同業だ』『でも同型じゃない』『同類ですらない』『同情するほどに』
『僕らの仲間になるにはね』『今をときめく思春期の痛さがないとダメなんだ』
「うん、似て非なる再生みたいだ。興味が出てきた」

次の瞬間、再び球磨川の身体に銃弾が炸裂していた。

「球磨川ァーーー!」

目まぐるしく状況が動く中、風太郎の叫び声が炎上する街に響き渡った。
明は再び日本刀とともに佐藤へと迫る。
先ほどどこかからか弾丸が飛んできていたが、銃弾など狙い澄ませる状況でなければ早々当たるものではない。
それは向こうも知っているのか、すぐさま球磨川を放り投げ、佐藤は再び日本刀を抜いていた。

「上杉! お前は下がってろ!」

佐藤の後ろで球磨川が倒れていることを除けば先ほどと同じ構図。
やはり刀では明が優っているのか、あっさりと佐藤の腕を切り落とすことができた。

「くっ──やっぱそっちも湧いてくるか」

だが──先と同じように佐藤の後ろで変化があった。
マグナ・ギガと、装甲服の異形がそれぞれがその身を結んでいた。
車での派手な衝突を受けようとも、まったくの無傷らしかった。
明は歯がゆい想いを抱えつつも、後ろへと下がる。十字砲火に晒されれば逃げ道はない。

408Alive A life ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:02:09 ID:UhlLOZkI0

「とりあえずこの彼だけは“実験”用に確保しておこうかな」

言いながら佐藤の背中で、装甲服が球磨川へ弾丸を撃ち放っていた。
タンタンタン、とリズムを刻むように一定の周期で球磨川を撃ち続けている。
球磨川に再生能力があるのなら常に攻撃すればいい、という心算らしかった。

「くっ、球磨川」

下がっていた風太郎が目を覆うように言った。
明は彼の前に立ちつつ、この布陣をどう崩すべきか思考を回転させていた。

──どうする、あの爺さんには近づければ勝てるが、お供まで手が回らない。

だがかといって離れれば完全に向こうの間合いとなってしまう。
銃撃や爆弾といった装備がある以上、こちらから打つ手がなくなってしまうのだ。

『おいおい、明ちゃんに上杉くん。何深刻な顔をしてるんだ』

そんな最中、声をあげたのは球磨川だった。
口元から血を流し、定期的に弾丸を打ち込まれ、そこに至っても彼はその饒舌な口を閉じようとしていなかった。

一方佐藤は球磨川の言葉には何も興味がないのか、再生した腕で落とした日本刀を拾おうとしている。
その間にも、球磨川の言葉は続いていた。

『週刊少年ジャンプを読まなかったのかい?』
『おっと、週刊ヤングマガジンの方がここは適切か』『コラボだってこと忘れてた』

球磨川は言った。

『ジャンプ読者の僕はもちろん知ってるんだぜ』『週刊ヤングマガジンじゃわからないけど』
『週刊少年ジャンプじゃ、こんな時には──』

その瞬間、駆け抜ける小柄な影があった。
燃え盛る街の中、彼は迷わずその戦場に飛び込み、そして──それを奪い取っていった。

『──颯爽と助けがやってくるんだぜ』

現れたのは、少年である。

彼は一見して傷だらけであった。
衣服は焦げ、露出した肌からは生々しい傷が垣間見えた。
だがその眼差しには揺るぎない意思がり、顔を上げ、毅然と刀を抜いていた。

『舐めんなよ、週刊少年ジャンプ』

少年が握りしめるのは、佐藤から奪い返した刀であった。




409Alive A life neo ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:02:42 ID:UhlLOZkI0


「これは──」

少年、竈門炭治郎は刀を正眼に構え、変わらない笑みを浮かべる佐藤と相対した。

「──この刀は、お前のような奴が持っていちゃいけないものだ」

燃え盛る街の中、その美しい頭身が陽の光を受けてきらめく。
それは一目見てわかるほどの名刀であった。
銘は菊一文字。
鎌倉の世よりおよそ数百年以上の時を超え、その刃は戦場に舞い続けた。
そのずっしりとした重みに炭治郎は身が引き締まる想いだった。
そう──この刀は、決して生半可な気持ちで握って良いものではないのだ。

「この刀は、沖田さんの同胞なんだ……!」

沖田総司、新撰組。
その名は、まだ炭治郎が生きる時代では評価されていなかった。
新撰組とは、江戸末期に現れた賊軍であり、流れてくる風聞も決して良いものではない。
歴史に明るいわけではない炭治郎は、詳しい境遇などは知らなかった。

だが、出会い、話して、ひと時とはいえ戦った。
それだけで炭治郎には感じ取ることができた。
彼が闘いの中に込めていた意思を、孤独を、激情を。

──“誠”という言葉の重みを。

「あの人の無二の同胞を、お前なんかに触らせるものか!」

それを知っているからこそ、炭治郎は駆け抜けることができた。
全身に痛みが走り、呼吸での止血も最低限という状態でも、この刀を見た瞬間に足は動いていた。

沖田と交戦したこの男が、この刀を持っている理由は察していた。
彼が生きているのならば、決してこの刀を手放すことはしないだろう。
ならば、導かれる答えは一つだけだ。
だからこそ、炭治郎は今ここで、この敵と相対しなくてはならない。

「うーん、君か。あれ、何で生きているんだい?」

戦意を研ぎ澄ませる炭治郎と対照的に、佐藤はさして力を入れた様子もなく、困ったように顎を撫でている。
手元から獲物を奪われたことに対してはさして興味もなさそうだった。

「しかしサムライさんがまた増えちゃったなぁ。この島の流行はよくわかんないなぁ」
『時代遅れだぜ、ご同業』『週刊少年ジャンプでは何時の時代も刀持ってる漫画が人気なんだよ』

後ろで声を上げた球磨川だが、佐藤は振り返ることすらなく、代わりにタァンと装甲服の異形により銃撃音が鳴り響いていた。
目を見開く炭治郎だが、球磨川の方は次の瞬間にはけろりとした顔を身を起こそうとし、

410Alive A life neo ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:03:16 ID:UhlLOZkI0

『そしてまた銃撃』『いやだな、少年誌の範囲に収まる怪我にしてくれよ』

「球磨川を助ける。手伝ってくれ」

炭治郎の横で声がした。
青年、宮本明は炭治郎にとって見覚えのある刀を構えている。
まだ名前も知らない相手であったが、炭治郎はその言葉に頷いた。
その研ぎ澄まされた戦意は信じるに値するものであった。

「やれやれ、どうしようかなぁ。剣も取られちゃったし、うーん……」

二人の剣士を前に、佐藤は一瞬だけ声を漏らしたのち、

「君、やってくれない?」

その言葉と同時に──彼が従える二体の異形が動いていた。
奇妙な電子音声とともに、連結される銃口。緑白の装甲がきらめき、同時にすべてが展開される。
炭治郎も、明も、それを止めるにはあまりにも距離がありすぎた。

そして──閃光。





──ファイナルベント エンド・オブ・ワールド

佐藤が操る仮面ライダーゾルダが誇る切り札であり、その火力を持ってすればその場にいる全員を屠ることなど容易だった。
IBMとマグナ・ギガの連携を意識して運用していた佐藤だが、数度の戦闘ですでにその勘所は掴んでいた。
すなわちこのミラーモンスターの強みは射程の長さにあるということ。

故に複数の敵に囲まれているが、距離さえ取れればさして脅威ではない。
何なら先の沖田の方が禁止エリアを意識した立ち回りをしてきたため、よほど脅威だっただろう。

すでに“サムライ”との戦闘に飽きつつあった佐藤は、それで終わりにするつもりだった。

──だが……

「ううん?」

街を閃光が包み込み、土煙が上がる中、彼は妙な感覚を覚えた。
それは直感のようなものだった。
幾多の戦闘を経験してきた彼が、論理より先に得る違和感。
それに突き動かされ、佐藤は己に残されたもう一つの刀を手に取った。
菊一文字とは比べれば質の低さは一目瞭然であったが、佐藤の判断は正しかった。

戦闘はまだ──終わっていない。

「──ぉおっと!」

土煙の向こうからまっすぐに首めがけて飛び出てきた刃。
彼はそれをギリギリのタイミングで弾く。

──だが、その斬撃は続いていた。

「これは……炎?」

煙の中、高まる熱を佐藤は感じる──と同時にその身にさらなる一撃がやってきた。

「俺は──あの時だって、守られた」

佐藤の視界に映ったのは額に痣のある少年、炭治郎と──

「ドラゴン?」

──雄々しく吠える赤き龍の姿だった。

「城戸さんが、俺を守ってくれたんだ!」

──ヒノカミ神楽 炎龍一閃

次の瞬間、佐藤の胴体は真っ二つになっていた。




411Alive A life neo ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:03:49 ID:UhlLOZkI0


炭治郎と真司は本来ならば二人諸共に死ぬはずであった。
高層マンションの倒壊に巻き込まれたのだ。
たとえ真司がその身を賭けて炭治郎を守ろうとも、どうしようもない死が待っていた筈だった。

「ありがとうございます、赤き龍。きっと貴方が本当に守りたかったのは、城戸さんの方だったんでしょう」

戦場を駆けながら、炭治郎は礼を述べる。
煙が晴れる中、炭治郎を守るようにその龍は姿を現していた。
ドラグレッダー。
マグナ・ギガと同じくミラーモンスターであり、真司と共に戦いを駆け抜けた龍である。

「そんな城戸さんに守られた俺は、絶対に負けられないんです」

崩壊するビルの中、落ちていく真司を龍は守ろうとした。
だがその真司は、炭治郎を庇い──その命を散らしていたい。

「だから──今だけでも力を貸してください!」

それを感じ取ったのか、龍は勇ましい咆哮にて返してくる。
彼は、ゾルダの銃口を直前で逸らし、砲撃の直撃を防いでくれた。
だからこそこうして炭治郎は立っている。
立って剣を握りしめ、決して譲れない闘いに挑んでいる。

「──まったくビックリしたなぁ、そういえば、そっちにもヒーローがいたね」

胴体を真っ二つにしたはずの佐藤は、当然のように立ち上がってきた。
今更そんなことでは驚かない。
この敵は鬼ではない。だが人でもない。
悪意すら曖昧な、人を傷つけ死を撒き散らす災厄である。

──首を斬る。

その意思を持って炭治郎は再び地面を蹴った。

だがそれを阻むものがある。装甲服の異形だ。
それは人形のようにどこかぎこちない動きをしながら炭治郎の前に立ちふさがるが、

「こいつは任せろ」

煙の中飛び出てきた明が、その力強い一太刀でその異形を抑えていた。

「行け!」
「ありがとうございます!」

炭治郎と明の背中が一瞬だけ交錯する。
まだ共に名すら知らない関係。だがそれだけで十分だった。
共に重ねてきた幾多の経験が、今ここで互いに背中を任せるべきだと伝えていた。

412Alive A life neo ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:04:13 ID:UhlLOZkI0

「おやおや、君はどうにもしつこいねぇ……」

その先にいる佐藤は困ったようにぼやいた。
相も変わらずふざけた態度だった。ここに至ってなお、自身が有利だと判断しているのか。
実際、二人の間にはまだ距離があった。マグナ・ギガと、そして何より佐藤自身の能力という大きな壁が存在する。

『おいおい、ご同業』『あまりにも不用心だぜ』『僕みたいなキャラを背中に置いたままなんて』

土煙に風穴を開けるように、無数の螺子が穿たれた。
その螺子は佐藤の身体を正確に捉え──初めて彼の顔に変化があった。

『却本作り<ブックメーカー>』

それは後天的に獲得した大嘘憑き<オールフィクション>とは違う、球磨川の持つ本来の過負荷。

そのスキルに物理的なダメージは一切ない。
代わりにもたらすものは、封印、である。
身体能力も、精神能力も、スキルも、性根も、信念も、戦意も、すべてが球磨川と同一のものになる。

『いつもヘラヘラ笑って』『勝とうが負けようが本当はどうでもよくて』『ふざけた態度で戦って』
『確かによく似てるんだけどね』

傷だらけの少年、球磨川禊はそう言って、ニィ、と笑ってみせた。

『自分以外全員をを見下してるような奴とは正反対なんだよ』
『僕ら過負荷は底辺だ』『胸を張って見下されるような奴らだ』
『それはもう──』
『括弧つけなくちゃやっていけないほどに』

そのスキルは──球磨川を強く見下ししている者ほど痛烈に作用する。

佐藤は無論、その性質など何一つ知らない。
だが彼は、その攻撃こそ、この島で遭遇したどの存在よりも脅威であると直感していた。

だからこそ、佐藤は他のすべてより優先して球磨川の排除に乗り出していた。
却本作り<ブックメーカー>が発動するまでの、ほんの一瞬。
ほぼ同時ともいえるタイミングで、マグナ・ギガが動き出し、球磨川に向かい銃撃を行なっていた。

重なる無数の砲撃。
そして共に──球磨川の身体が木っ端微塵になる程の爆発が炸裂する。

『舐めるなよ、週刊少年ジャンプを』

劣化大嘘憑き<マイナスオールフィクション>を使う暇さえ与えない砲撃により、球磨川は致命傷を受けていた。
それまでの生かさず殺さずの砲撃とは違い、完全に彼を殺すための一撃だ。
だからそれで彼の命は終わりだった。

『友情と、努力と、そして──』

最後の言葉を言い終わるより早く、彼はその命を散らしていた。

【球磨川禊@めだかボックス 死亡】

413Alive A life neo ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:04:37 ID:UhlLOZkI0






却本作り<ブックメーカー>が致命的な効力を発揮する、その直前で佐藤はスキルを回避してみせた。
それは彼の卓越したセンスと戦闘力あってのことだった。
少しでも判断が遅れれば、佐藤は完全に“封印”されていただろう。

佐藤にしてみれば最悪の事態は回避できた。
だが──その結果として、彼は迫り来る龍の剣士に対して、格好の隙を晒すことになる。

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

炭治郎は己を鼓舞するように駆け抜ける。
目の前で今球磨川が散った。その事実が、彼を前に進ませる新たな理由となる。
炭治郎は球磨川のことを知らない。
だが彼が何を想い、何を成そうとしたのかは、誰に言わずともわかっていた。

──負けられない。

その手には菊一文字。沖田総司と共に時を超え、共に戦い続けた同胞。

──絶対に、コイツにだけは、俺は負けちゃ駄目なんだ!

寄り添うは赤き龍。繰り返される戦いの中、城戸真司と共にあり続けた戦友。

彼らの唯一無二の相棒と肩を並べている以上──

「絶対に──負けられない! 貴方たちが、本当に守りたかったもののためにも!」

赤き龍が咆哮し、菊一文字の美しき刀身に炎が渦巻いていく。
風よ吹け、炎よ燃えろ。この刃を通じてすべてを表現するがいい。

炭治郎は己が敵へめがけて飛ぶ。
その動きは、ヒノカミ神楽が基底にあった。
陽華突と呼ばれる炎をまといながらの一突き。
炭治郎が父より学び、研鑽してきた剣の舞。

「────」

その刃を、赤き龍が後押しする。
咆哮と共に放たれる、炎の爆発。
龍の咆哮が炭治郎にさらなる加速をもたらしてくれる。
空に舞う龍の様は──龍騎と共に撃ち放った必殺の蹴りに酷似していた。

──ヒノカミ神楽

結果として、その剣戟は基のヒノカミ神楽に新たな意味を持たせる。
点がごとき突きが、空にて再度加速する。

──炎龍の舞

舞が、龍が、刃が、そのすべてが噛み合うことで生まれる──新たなる魔剣。

──連段陽華突!

その炎の剣が佐藤へ正面から炸裂し、爆風を巻き起こす。
視界すべてを覆い尽くすほどの炎が、敵を吹き飛ばしていった。

414Alive A life neo ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:04:54 ID:UhlLOZkI0

そうして、巻き起こった炎が収まっていた先には──誰も残ってはいなかった。
彼が被っていたハンチング帽子が燃えている。
その横で、光り輝く何か──を食べようとしている赤き龍がいた。

炭治郎は龍と、そして手に握りしめた菊一文字へと視線を向け、

「──ありがとう、ございました。」

そう、礼を述べた。

同時に意識が薄らいでいく。
「おい!」と後ろから声がした。先ほど一緒に戦ってくれた剣士、明の声だ。
その強さは炭治郎も感じていた。彼と共に戦うことができれば、きっと事態も好転するだろう。
あと一人、直接戦ってはいなかったが、少年の姿も見た気がする。できれば一緒に来て欲しかった。
そして、あの時自分を助けてくれた彼の弔いもやりたいと思っていた。

──とりあえず、他のみんなにも、紹介して……。

中野姉妹や立香の顔を思い浮かべつつ、炭治郎の視界が揺れる。
体力の限界が来ていた。
倒れそうになったところを誰かに受け止めてもらい、そのまま彼は意識を手放した。


【E-7/1日目・朝】

【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切り傷と打撲。気絶。
    ドラグレッダーが同行中
[道具]:基本支給品一式、菊一文字@衛府の七忍、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:刀が欲しい。
3:とりあえず北上して資料を集める
[備考]
※強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。
※折れた日輪刀は半天狗戦で緑壱零式の刀を使う前のものでした。
※ドラグレッダーとは契約していませんが、炭治郎との関係が続く限り、同行してくれそうです。またマグナ・ギガを捕食しました

415Alive A life neo ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:06:10 ID:UhlLOZkI0
【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(小)
[道具]:基本支給品一式、宇髄天元の日輪刀@鬼滅の刃、不明支給品0〜4
[思考・状況]
基本方針:雅を殺す。
1:雅を殺す。その後の事は雅を殺した後に考える。
2:球磨川を弔ってやりたい。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。

【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック(やや快復)
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:一花、二乃、三玖との合流。
2:PENTAGONを目指す。
3:球磨川を弔ってやりたい
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

【鬼邪校のトラック@HiGH&LOW 】
風太郎に支給。とてもではないが運転できないので死蔵されていたが、
緊急時に球磨川がそそのかし運転。
現在爆発炎上し、見る影もない。

416Alive A life neo ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:06:28 ID:UhlLOZkI0


「うーん、これは……」

佐藤は──ゆっくりと瞳を開けていた。
爆炎に吹き飛ばされ、彼の身はそのほとんどを焼かれていた。

それでも──彼は生きていた。
全身を焼かれはした。その身をほとんど消し飛ばされた。
あの魔剣はあまりにも完全で、すべてを炎で焼いてしまった。

それ故に──佐藤の身体は、自分自身を観測することなく、再生が始まっていた。

とはいえ──

「結構、ギリギリだったなぁ」

佐藤はあたりをわずかに動く首であたりを伺う。
失われた身体が今再生しているが、しかししばらく動けそうにない。
そして、佐藤の感覚が正しければ──あとほんの少し奥まで吹き飛ばされていれば、そこは禁止エリアだった。

そこまで飛ばされていれば──おそらく自分は脱落していた。

「誰かがコインを入れてくれたのかな?」

その幸運に対して、そう茶化すように言う。
だが佐藤は同時にわかっていた。
コインを入れること。それはすなわち、自機が撃墜されてしまったことを意味する。

ゲームであれば、これは──敗北である。
そうでなくとも、マグナ・ギガは撃破され、IBMが纏っていたデッキも破壊された。
日本刀も失ってしまったことを考えると、装備の大半を失ってしまったことになる。

「帽子もなくなっちゃったしなぁ……」

少し残念そうに言いながら、彼は青い空を見上げ、己の身体が再構成されるのを待っていた。


【E-7(禁止エリアギリギリ)/1日目・朝】

【佐藤@亜人】
[状態]:健康、ハンチング帽が燃えた、却本作りの影響あり?
[装備]:無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式×2、秋山蓮のリュックサック、折れた日本刀@現実、手鏡、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
1.PENTAGONが勝つか、花火が勝つか、実験だよ実験。その前に爆弾設置しとこ。
2. 飛んでいたライダーに興味。
3. PENTAGONの前でふたりの参加者を殺した犯人に興味。
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。
※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。
※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。
→マグナ・ギガが倒され、デッキも破壊されました。
※変身中に限りIBMを二回以上出せるようです、どれ程出せるかは後続の書き手氏にお任せします。
※飛行中の龍騎の姿を確認しました。
※『却本作り』の影響が残っているかは不明です。

417 ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 20:06:42 ID:UhlLOZkI0
投下終了です。

418名無しさん:2019/11/10(日) 20:39:59 ID:jrARjtaE0
投下お疲れ様です
佐藤、とにかく強い…なんだこいつ…

419名無しさん:2019/11/10(日) 20:43:46 ID:DE7RjDUA0
投下お疲れさまでした。
素晴らしい内容でした。

420 ◆7ediZa7/Ag:2019/11/10(日) 22:18:33 ID:UhlLOZkI0
すいません。一部亜人の再生描写におかしなとこ(一度死なないと再生しない)があったので、収録時あたりに直しておきます。
失礼いたします。

421 ◆Mti19lYchg:2019/11/11(月) 19:49:24 ID:zz7rXZ960
今日中に間に合いそうもないので、予約を取り下げます。
もし、次の機会があったらお願いします。

422 ◆OLR6O6xahk:2019/11/11(月) 21:47:17 ID:VMXKzz6.0
スモーキー、雅様、予約します

423 ◆FGOhDqA5no:2019/11/12(火) 23:04:38 ID:JYfdTKes0
鑢七花、千翼、とがめ、鷹山仁で予約させてください

424名無しさん:2019/11/14(木) 07:20:12 ID:48.ZoAmY0
まさか龍騎がこんな早くに全滅するとはなあ

425名無しさん:2019/11/14(木) 16:39:08 ID:qPMLJOE.0
別のロワだと登場話で参加者三人共死亡した作品もあるし普通普通

426 ◆FGOhDqA5no:2019/11/16(土) 22:35:05 ID:tA0.sQck0
すみません、予約を破棄します

427 ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:08:12 ID:5RmhQotg0
投下します

428出口のないメビウスの輪の中で ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:11:23 ID:5RmhQotg0



―――ねぇ、スモーキー。


それは湾岸地区での抗争の後日。
RUDE BOYSのリーダーとして余所者を狩り終え、寝床へ帰路に就いた時の事だった。
黄昏時の帰り道に小さな少女が立っていた。
家族の顔と名はすべて覚えている。生きている者も死んでしまった者も。
だから、その少女の名もすぐに出てきた。
「エリ」と名前を呼ぶと、彼女は不安げな瞳で自分をじっと見つめ、そして尋ねてきた。


―――スモーキーは、何処へも行かないよね?


エリがどんな意図でその問いを投げたのか、スモーキーには最初伺うことができなかった。


―――スモーキー、最近ずっとあの旗見てるから…


あの旗、というのはRUDE BOYSの旗の事だろう。
湾岸地区での抗争の発端となったマイティーウォーリアーズの襲撃。
その際に襲撃者たちはRUDEの文字の上から「CHANGE or DIE」と書き残していった。
何が書かれているかは英語はおろか文字もロクに読めないスモーキーに分かる筈も無かったが、大人に聞くことで理解できた。
変化するか、死か。
そう書かれているのだと理解すると、その言葉は静かに、しかし激しくスモーキーを揺さぶった。
無論、決して顔には出さなかったが、このエリという少女はスモーキーの動揺を敏感に感じ取ったのだろう。

自分のせいで不安にしてい待った少女。
そんな少女に対して、スモーキーのかける言葉は決まっていた。


―――あぁ、俺は何処にもいかない。この街で生きる。ずっとな…


その言葉に嘘偽りは何一つとして無く。
が、全てではなかった。家族と共に生きると、スモーキーは口にしなかった。
一緒に居られればそれが最上だ。
しかし、世界は無名街の存在を許さず、病魔に侵され尽くした彼の身体に未来はない。
きっとそう遠くない日に…無名街と運命を共にする予感をスモーキー感じていた。
それ故にこの街で残されたわずかな時間を最後まで生き抜き、そして死のう。スモーキーはそう決めた。

だが、自分よりも時間の残されている目の前のエリやタケシ。ピー達家族は違う。
スモーキーは信じているのだ。
自分よりも遥かに時間が残されていて、血よりも強い絆で繋がった家族たちならば、
この街を出て、自分のために夢を見る事ができるはずだと。


だから、愛しき彼らが無名街を去るまで―――誰よりも高く、飛びたいと思った。
故郷を脅かすあらゆる災厄の目標となり、それら全てを飛び越えていけるほど高く。
そして、飛び去って行く家族達を誰一人として見逃すことがない程に。
高く、高く飛びたいと。

429出口のないメビウスの輪の中で ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:12:56 ID:5RmhQotg0







ハッと目を覚ます。
どうやら一瞬意識を失っていたらしい。
一瞬の事か数十秒の事かは分からないが、事故にならず幸いだったとスモーキーは乗っているジープを更に走らせる。

このジープはスモーキーの支給品ではなく、殺したコブラのデイパックの中に入っていたものだ。
これが無ければ、あの女剣士を撒くことはできなかっただろう。
つまりスモーキーは殺したコブラの支給品に救われたのである。


「コブラ……」


そのことに関して、彼は既に何の感傷も抱いてはいない。
コブラは家族ではなく、無名街を否定したその時から仲間の資格すら喪ってしまった。
だから、スモーキーに殺されるしかなかったのだ。


「俺は…飛び続けてみせる。最後までな……」


そして、殺すのはコブラだけでは終わらない。
鬼邪高校の村山も、雨宮兄弟も、あの女剣士も。他の参加者も。
全ての屍を飛び越えた先に、無名街への帰路は開かれるのだから。


「……ッ!ゴフッ……!」


だが、身体に残ったダメージと病魔はそれを許さない。
ボタボタと鮮血を零し、視界はかすんで。
山間部に差し掛かり、悪路による車体への振動すら満身創痍のスモーキーの命をすり減らしていく。
このままでは本当に事故死しかねない、少し停車して体を休めるべきか。
そう判断して、スモーキーはジープを停車した。

ハァ…ハァ…と喉の奥からせりあがってくる鉄臭い吐き気をこらえ、呼吸を整える。
瞼を閉じ、決して快方に向かわない病魔に対して僅かながらの回復に努める。
その判断は間違っていなかっただろう。
だが、間が悪かった。


「―――ほう、苦しそうだな。人間」


投げかけられた言葉に意識が急激に覚醒し、シートに預けていた上体を起こす。
すると視線の先には全裸の、白い男が立っていた。
オオオオオオオオ、と奇妙な威圧感を覚える男だった。


「私の名は、雅と言う。貴様の名は?」
「…………スモーキー」


雅と名乗った男は、不気味だった。
尊大であるのに、吐く言葉は不自然なほどの安堵感を覚える。
名乗るつもりなどあるはずもなかったのに、スモーキーの名前を引き出して見せた。
この男は危険である。スモーキーは直感し、サイドシートに立てかけていた刀を手に立ち上がる。

430出口のないメビウスの輪の中で ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:15:39 ID:5RmhQotg0


「ほう、やる気か。その身体で」


雅は嘲る様な笑みを浮かべると悠然とスモーキーの挙動を待つ。
そんな不遜な態度の雅に向けて、スモーキーは静かにコブラの時と同じ問いを投げた。
夢を叶えた有能な人間と、何も成し遂げられないまま死んでいった無能な人間。
違いはあるかとスモーキーは雅に問うていた。
何故、問うことにしたのかはスモーキー自身にも分からない。

問われた雅は笑い顔を浮かべたまま、少し間を開けて。


「違いはない」


そう答えて、その後に雅は続けた。


「等しく無価値だ。たかだか80年ほどしか生きられない人間などな」
「……そうか」


それはコブラと同じ無名街を否定する言葉だった。
であれば、最早それ以上の言葉はいらなかった。
刀を抜いて身体を跳躍の体勢に移す。
勝負は一撃。現状のコンディションではそれが限界だと、スモーキーは悟っていた。


「―――だったらお前は助からない」


スモーキーにとって生きる事は戦う事であり。
例え世界に認められずとも、夢を持ち、家族と共にそれを見る事だった。
だからスモーキーの身体はどれほどの窮地においても、誰よりも高く飛ぶのだ。


「これは……!」


宙を燕の事く舞うスモーキーを見れば、嘲りの笑みは消えて。
思わず見惚れる程の見事な跳躍であった。
これほど美しい跳躍は、明や煉獄などの名だたる強者でも難しいかもしれない。
そんなことを考えてしまい、雅の動きに遅れが出る。
朝陽に反射して煌めく白刃を躱そうとするが、時すでに遅く。
ならばと咄嗟に腕を交差し防御の体勢を取るが、あらゆる防御はスモーキーの持つ刀の前では意味をなさない。


ザンッ!


スモーキーの放った斬刀<鈍>は、一刀のもとに雅の左半身を切り伏せてみせた。

431出口のないメビウスの輪の中で ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:18:19 ID:5RmhQotg0





斬刀・鈍を支えにハァハァと荒い息を吐く。
正しくギリギリの勝負であった。
一撃で勝負が決められていなければ、倒れていたのはスモーキーの方だっただろう。


「俺は、家族のために夢を見ることを…無名街で生きることを決して諦めない」


世界から見捨てられた無名街の住民であるスモーキーはそうすることでしか生きられない。
だがしかし。




「―――そうか、なら人の夢など下らんものだと、私が手づから示そう」


世界はそんな彼の夢を許さず、いつだって取り立てていく。
剣豪、宮本武蔵でも半身を斬られればすぐさま追跡することは困難だ。
しかし吸血鬼である雅にとって、半身の喪失程度では行動不能にすらならない。
ゆら、と背後で立ち上がる気配と殺気をスモーキーは感じるが、再び鮮血の混じった血を吐き崩れ落ちてしまう。
一撃で仕留める事ができなかった時点で、勝敗は既に決していたのだ。


「ハ、中々に見事な飛びっぷりだった」


地に這う敗者・スモーキーを見下ろし、勝者である雅は上機嫌そうに己の斬られた半身を持ち上げる。
それを切断面に着けるとまるで斬られた事など無かったかのように瞬時に癒着した。
スモーキーはそれを虚ろな目で見つめ、また血の塊を吐いてモッズコートを汚していく。
斬撃は初めから雅には通用せず、彼に勝ち目など無かったのだ。


「死ぬのか、スモーキーよ。あれほどの跳躍を見せたお前がそんな病ごときで」


憐れむような瞳で、雅は瀕死のスモーキーを見つめた。
だが直ぐに元の邪悪な笑みに戻り、スモーキーに告げる。
「小腹を満たすつもりだったが、気が変わった」と。


「お前は私が助からないと言ったが…私はお前を助けてやる」


雅はそう言って自分の腕に切込みを入れ、その場所からぽたぽたと赤い雫が垂れる。
それを見た瞬間、ぞくぞくと悪寒が奔った。
何とか雅から距離を取ろうともがくが、裏切り者の五体は言う事を聞かない。
せめてもの抵抗として射殺す様なギラギラと光る瞳で見つめるが、当の本人は笑みを深めるばかりで。
だから瀕死の身体に垂らされる血を防ぐ術は、彼にはなかった。



かくして燕は地へと墜ちる。

432出口のないメビウスの輪の中で ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:20:40 ID:5RmhQotg0







「これで良し。細工は終わった……」


眠るスモーキーの頭から手を離すと、満足げに独り言ちる。


雅にとってスモーキーは見どころのある男だった。
純粋な力量だけでいえば宮本明や煉獄杏寿郎の方が上だろう。
だが、体捌きや最後に見せた三次元的な動きは目を見張るものがあった。
何より満身創痍の身体で生に執着するその眼光と殺意は、凡庸な人間とは一線を画すものを感じたのだ。

そんな男が病魔程度で失われるというのは余りにも惜しい。
故に、自分の血を分け与えることに躊躇はなかった。
何時もよりも復活までのインターバルが長い事が少し気がかりではあったが、先程より遥かに穏やかな男の呼吸を見れば心配はないだろう。
じきに復活するはずだ。
そう考えて。
凄まじい轟音と衝撃が大地を揺らしたのはその直後の事だった。
震源地を見れば、雅が征服した東京の一等地に立っているような高層マンションが音を立てて崩れていく。
大きな闘争があったのは明白だった。


「では、先を急ぐとしよう。
参加者を狩り、吸血鬼として更に強くなったら…また会おう。スモーキーよ」


返事は当然ないが、雅はスモーキーの覚醒を待つつもりもなかった。
自分と相対した時の態度を見れば、この男が素直に自分の軍門に下るとは思えなかったからだ。
例え吸血鬼となっても稀に自分の支配に抵抗する者がいる。この男もきっとそうなのだろう。
自身のサイコジャックであれば自由意思を奪い完全に操縦することもできるが…それではつまらない。
折角この地に来て初となる眷属だ、どう動くかは分からないが暫く好きにさせる事とする。
その代わりとして、二つあったデイパックの片方を献上品として貰って行く事とした。


「中々いいデザインの服じゃないか」


ジープのシートに収まり、ごそごそと中を漁ってみれば中を漁れば求めていた服が出てきた。
変わったデザインだが、そもそも服のセンスが昭和で止まっている雅からすれば些細な事だった。
袖を通してみると、サイズも少々胸部分が苦しいくらいで問題はない。
着替え終わると、本土を征服し暇つぶしに得た知識をもとにジープのエンジンをかけた。
よく利用する乗り物はもっぱら神輿の彼にとって運転は初体験だが、恐れる事無くアクセルを踏む。


「……無名街に、家族か」


ジープを危なっかしい手つきで操作しながら、スモーキーの言葉を反芻し「くだらない」と彼は斬り捨てた。
雅もかつては一族の人間であり、家族と呼べる者もいた。
だが彼にとって家族とは、大嫌いな人間というなれ合う弱者でしかなかった。
それ故に弱肉強食という理の通り、一人残らず強者である雅の糧となったのだ。


「やはり人間は愚かだよ…なぁ、明」


愛しき宿敵の顔を想起しながら、ジープを走らせる。
行先は特に決めてはいない。強いて言うなら北の施設――病院でも目指すかという気分だった。
あの爆発だ。脆弱な人間どもならば医薬品を求めて病院を目指すだろう。
それに、もしかしたら自分を殺しうる薬品である501ワクチンが病院にあるかもしれない。

もちろんこれは可能性としては低い。
だが様々な不可思議な道具を用意したBBならばもしかするかもしれない。
それに、不死の自分を殺し合いに招いたからにはそうでもしなければ人間どもと釣り合いが取れないだろうという推察があった。
そしてきっと―――明も同じ考えに至るはずだ。


「明に、煉獄に、そして吸血鬼とは別種の鬼か……
いやはや与えられる武器はしけているが、まるでテーマパークだなここは。
そしてククッ……、あの男……スモーキーはどうするか楽しみだ」



テンションが高揚し、常に刺激的なこの島を雅は完全に気に入っていた。
これまで会ったどの人物も、明のいない古ぼけた島国では見られなかった者ばかりだ。
果たして次に出会うのは一体いかな存在か。
クリスマスを前にした子供の様に期待で胸を膨らませて、吸血鬼の王は殺し合いを満喫する。

433出口のないメビウスの輪の中で ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:21:12 ID:5RmhQotg0

【D-5・山の麓/1日目・朝】

【雅@彼岸島 48日後……】
[状態]:健康、空腹(小)、初めての運転にウキウキ
[装備]:カルデア戦闘服(男用)@Fate/Grand order
JM61Aガトリングガン@Fate/Grand order 残弾(90%)、予備弾(100%)
[道具]:基本支給品一式、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス、RUDE BOYSのジープ@HiGH&LOW
[思考・状況]
基本方針:好きにやる。とりあえず北東の施設を巡ってみる。
0:面白そうな駒を勧誘し、最終的にBBと遊ぶ(殺しあう)
1:煉獄に強い興味。部下にしたい。
2:明と出会えれば遊ぶ。
3:次に無惨と出会ったら血を取り込みたい。
4:BBが望んでいる物は殺し合いだけではない……?
[備考]
※参戦時期は精二を食べた後です。
※死体に血を捲いて復活させるのは制限により不可能ですが、雅はそのことに気がついていない可能性が高いです。
※肉体の内部に首輪を取り込みました。体外へは出せませんが体内で自由に移動させられます。
※鮫島と山本勝次の死を知りましたが、名前を知らないしどうでも良いので「おそらく明の仲間」としか認識していません。

【RUDE BOYSのジープ@HiGH&LOW】
コブラに支給。全員免許を持っていないであろう無名街の住人にも運転できるジープ。
湾岸地区の抗争の際などに使用された。

434出口のないメビウスの輪の中で ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:22:31 ID:5RmhQotg0


ゆっくりと瞼を開けると、既に先程戦った男は去った後だった。
デイパックは片方持っていかれたようだが、それ以外は何もしなかったらしい。
いや、それどころか。呼吸の苦しみもなく、身体はかつてない程の充足感に満ちていた。
雅の与えた吸血鬼のウイルスは彼の肺を蝕む公害病を駆逐していたのだ。


起き上がり近くにあった水たまりで自分の姿を確認すると、大きな変貌を遂げていた。
灰がかっていた瞳は朱の色に染まり、口元には牙が見えて。
黒一色だった髪に走る白色は、あの白い男の残した呪いのようだった。
無言のままに刀を拾い、おもむろにジャンプしてみる。
宙を舞った五体は、かつてない高さにいた。


「…………」


特別そのことについてスモーキーは感慨を示さない。
脳裏に浮かぶのは酷い渇きと、今の自分はどれほど高く飛べるのかという自身への疑問だった。


「……行くか」


例え姿が変わろうと、スモーキーの意思は変わらない。
これまで通り、戦い、飛び越え、殺し、そして―――へ帰る。


「―――?」


違和感を抱いたのは、その時だった。
一体自分は、何処を目指していた?何処へ帰ろうとしていた?
分からない。思い出せない。すっぽりと、抜け落ちてしまっている。
確かに、地図に載っていた何処かを目指していた筈なのに。
その場所だけは、漢字もロクに読めないスモーキーでもわかった筈なのに。
家族の顔はハッキリと浮かんでくるのに、彼らと何処で過ごしていたのか思い出せない。


―――これで良し。細工は終わった。


雅はサイコジャックでスモーキーを操り人形にすることをよしとしなかったが、それが全てではなかった。
彼はサイコジャックによりスモーキーから無名街の記憶を奪っていたのだ。
自由意思を奪うよりも、記憶の一部に細工する方がよほど簡単な仕事だっただろう。
禁止エリアとして呼ばれた地点に向かう自殺行為を哀れに思ったのか、それともただ愉悦を感じたかったのかは分からない。
しかしスモーキーは確かに、高らかに笑うあの男の声を聞いた気がした。


「……ララ、タケシ、ピー、エリ。それでも俺は、お前たちの所へ…」


低くそう呟くと、刀を握りなおす。
まだ全てを喪ったわけでは無い。最も大事な、家族の顔は今もハッキリと覚えている。
これから出会う全員を殺せば、きっと帰るべき場所も思い出せるはずだと信じて青年は再び歩き出す。




帰り道を見失った守護神は、亡霊へと変わるしかない。



【D-5・山の麓/1日目・朝】

【スモーキー@HiGH & LOW】
[状態]:吸血鬼化、渇き、サイコジャックの影響?
[道具]:基本支給品一式、斬刀・鈍@刀語、仮面ライダーインペラー(ブランク体)のデッキ
[思考・状況]
基本方針:全員を殺して、――へと、家族の下へと帰る。
1:血が欲しい。
2:忘れてしまった帰る場所を思い出したい。
[備考]
※契約していたギガゼールが死亡したことにより仮面ライダーインペラーに変身するとブランク体になります。コントラクトカードでミラーモンスターの再契約しない限りはこの状態が継続します。
※吸血鬼化したことにより公害病は完治しました。
※サイコジャックの影響により無名街の記憶が欠落していますが、家族の事は覚えています。

435 ◆OLR6O6xahk:2019/11/18(月) 21:23:05 ID:5RmhQotg0
投下終了です

436名無しさん:2019/11/18(月) 22:03:11 ID:XSXQ9OdM0
乙です
予約の時点で嫌な予感がしてたがやっぱり吸血鬼化しちゃったか…
ハイロー勢の身体能力は人間としては高レベルだからこの強化は怖いっすね
あと運転にワクワクしてる雅様は萌えキャラか何かかな?(すっとぼけ)

437 ◆3nT5BAosPA:2019/11/19(火) 13:15:47 ID:JsClLkOE0
猛丸、七花、千翼で予約します。この投下が終わったら絶対に感想を書きます。

438 ◆3nT5BAosPA:2019/11/26(火) 13:57:08 ID:deDTTtzw0
すいません、間に合わないので破棄します

439名無しさん:2019/12/02(月) 08:13:24 ID:ridt4a.s0
止まっちゃったなーもうこの時代にきれいに完結するパロロワは期待できなさそう

440名無しさん:2019/12/02(月) 12:17:49 ID:NhjWndVc0
判断が早い👺

441名無しさん:2019/12/02(月) 13:45:58 ID:po9xjgdA0
>>439
予約来たと勘違いするからそういうゴミみたいな書き込みするなよ、鬱陶しい…
期待できなさそうとか臭い事言う前に自分で書いてみるくらいの事してみろや

442 ◆ZbV3TMNKJw:2019/12/03(火) 00:12:51 ID:.XsuX/.E0
冨岡義勇、雨宮雅貴を予約します

443 ◆ZbV3TMNKJw:2019/12/06(金) 02:58:30 ID:D4CHEu.20
投下します

444あんた、あの娘のなんなのさ ◆ZbV3TMNKJw:2019/12/06(金) 02:59:29 ID:D4CHEu.20



「禰豆子と会ったのか?」

ポカンと口を開けた義勇の唐突な問いに、今度は雅貴がポカンと口を開けられる番だった。

「へっ?あ、ああ。会ったけど」

なんとなしに返した答えに、しかし義勇は答えない。

「もしも〜し、聞こえてますかぁ」

わざとらしく目の前で手を振り、反応を伺うが、やはり変化なし。

(どういう気持ちの顔だそれ)

「...彼女の傍に竃門炭次郎はいたか?」
「ようやく返事がきた...いや、そいつは俺も探しているところ」
「そうか」

再びの沈黙。
そんな情報の量も大してないのに、なんで質問する方が黙りこくるかなあ、と雅貴はハァ、小さく息をはいた。

「なあ、あんたもう少しコミュニケーションって奴を」
「彼女はいまどういう状況だ」

今度は被った。
なんだろう。なんでこいつはこんなに間が悪いんだろう。

雅貴は考える。果たして義勇に禰豆子のことを教えてもいいのだろうかと。

445あんた、あの娘のなんなのさ ◆ZbV3TMNKJw:2019/12/06(金) 03:00:02 ID:D4CHEu.20

(いや、悪い奴じゃないのはわかってんだ。俺のことも助けてくれたし。けど禰豆子ちゃんとの関係がどうかなのまではわからないしなぁ)

仲間の仲間は皆仲間、とは限らない。
自分の敵が実はツレの親友だった、なんてことはよくあるし、環境が違えば関係性も変わってくるというもの。

「なあ、あんたあの娘のなんなのさ」

とりあえず雅貴は問いかけた。義勇は黙った。

(そこで黙るなよ。友達でも恋人でも仇でもなんでもいいから答えろよ)

沈黙。三十秒。四十秒。
義勇の表情に変化はない。ただぼんやりと虚空を見つめ口を噤んでいる。

(だからどういう気持ちの顔だそれ)

それでも義勇は答えない。
そんな状況に、雅貴は痺れを切らした。

「じゃあもっと簡単なことを聞くわ。あんたはあの子をどう思ってるんだ?」
「...なに?」
「禰豆子ちゃんのこと好きか嫌いか。それくらいなら答えられるだろ」
「......」

尚も沈黙する義勇。しかし、表情こそはそのままであるものの、明らかに俯いている。これは確かな変化だ。
だから雅貴は待ってみた。今度こそちゃんとした返事があるのを期待して。

それから数十秒後、義勇はその重たい口を開いた。

「俺に彼女へ好意を抱く資格はない」
「なんでそうなんの!?俺好きか嫌いか聞いただけだよね?人を好きになるのに資格なんかいらねえだろ!あっ、俺いまいいこと言ったかも」
「資格以前の問題だ。俺はそんな価値のある人間じゃない」
「資格の次は価値かい。あ〜、もういいわ。そこまでごちゃごちゃ考えるくらいだからあんたはあの子のこと好きだ。絶対好きだわ。あんたがどう思おうがあの子が好きかどうかは俺が決めることにするからな」

唖然とし、雅貴を見つめる義勇。
そんな彼を見て、雅貴は『勝った』と内心でガッツポーズを決めた。
なにに勝ったのかは彼自身もわかってはいなかったが。

446あんた、あの娘のなんなのさ ◆ZbV3TMNKJw:2019/12/06(金) 03:00:33 ID:D4CHEu.20






「......」

雅貴が運転するバイクの後部座席に乗る義勇。相も変わらず二人の間に弾んだ会話はなく、この光景も代り映えはしない。
行動指針も、当初の目的通りにコブラを探し、その後に義勇を禰豆子のもとへと連れていくと定めたためあまり変わらない。
違うのは、彼らの互いへの心情だ。

雅貴は、義勇のことを少しだけ見直していた。
幻之介のこともそうだが、彼は間違いなく他者を思いやれる人間だ。
禰豆子へ好意を抱く資格がないというのは、彼女が好意を抱かれた時どう思うかを考慮したからだ。
そんなことを考える奴が悪人のはずが、危害を加えようとする奴のはずがない。
だから雅貴は彼女たちと遭遇した時のことを簡潔に話した。
それを聞いた義勇は「そうか」と短く返したきりだが、彼が不器用でコミュニケーションをとるのが苦手なだけなのはわかってきたので、気に留めなかった。


義勇は、その思考の大半が禰豆子で占められていた。
彼が雅貴の質問に沈黙したのは、答えたくなかったのではなく、答えられなかったからだった。

自分があの娘のなんなのか―――恩人、などとは口が裂けても言えない。
禰豆子を鬼にし、炭治郎以外の家族を皆殺しにしたのは鬼舞辻無惨だ。元凶はあの男なのは間違いない。
だが、義勇があと半日早く現場にたどり着けていればなにかが変わっていたかもしれない。
彼が殺されたとしても、禰豆子は鬼にならず、家族も誰も死なない。そんな未来があったかもしれない。
けれど義勇は間に合わなかった。被害者たちもそれを仕方ないで済ませられるはずがない。
そんな、仇も同然である男が、禰豆子に『人を襲わない鬼になれるかもしれない』という希望を抱いているなどとどの口が言えるものか。
そんな想いを彼女が知ればどう思うか。
間違いなく嫌悪するだろう。いや、そもそも自分が視界に入ることさえ拒んでいるかもしれない。
それほど疎まれていても仕方のないことだ。

そしてそれは雅貴にも言えることで、彼が義勇と禰豆子の経緯を知れば、ますます禰豆子から遠ざけるのは想像に難くなかった。
それだけは避けねばならなかった。彼女に疎まれようとも、会わなければならない理由があるからだ。

447あんた、あの娘のなんなのさ ◆ZbV3TMNKJw:2019/12/06(金) 03:02:36 ID:D4CHEu.20

雅貴は語った。
『ひと悶着あったが、悠と共に抑え込んだため、いまは落ち着いている』と。
雅貴も認め、わざわざ禰豆子を保護し連れ歩いていることから、悠という青年が殺し合いに乗る輩ではないのはわかる。
ならば、禰豆子が暴れたのは何故だ?想像に難くない。悠と雅貴、どちらかの血の匂いに惹かれ、鬼としての本能が目覚めたのだろう。
いや、悠も雅貴も食われておらず、襲われたことに対しても納得し許しているのなら問題ではない。
問題は、悠と禰豆子と出会う前に既に人を襲っていた場合だ。

禰豆子の傍には炭治郎がいない。これは即ち、悠と禰豆子が出会うまでは、彼女を止める枷がないということだ。
仮に悠の前に禰豆子が他の参加者と遭遇していれば、そのまま襲っていたかもしれない。
...いや、既にそうなっていた可能性は零ではない。

ここは殺し合いの場だ。そのうえ、人間でも手練れの者がおり、手強い鬼や先ほどのクラゲのような怪物共もいる。
そんな中で、如何に鬼である禰豆子といえど無傷でいられるとは思えない。
鬼は基本的に不死身とはいえ、負った傷を回復させるにはそれなりのエネルギーを消費する。
そのエネルギー補充に手っ取り早く効率的な方法はただ一つ。人を食うことだ。
そして、一度人の味を覚えた熊が何度も里を下りて似たような事件を起こすように、鬼も段々と理性はなくなり人を食うことにも抵抗が無くなっていく。
今まで人を食わなかった禰豆子が人を食えば、おそらく他の鬼と同じ末路を辿ることになるだろう。


まだ初めてのことだしいいじゃないか、悠や炭治郎がいればこれ以上被害も出ないじゃないか。
そういう声もあるかもしれない。実際に、彼らがいれば禰豆子は人を襲わないだろう。
ならば最初に食われた者の想いはどうなる。痛みに、絶望に、恐怖に苛まれながら食われた者の無念はどう償えばいい。
もしもそれらに目を背け蓋をし、己の都合だけを考慮するならばそれはもはやただの鬼だ。今まで斬ってきた者たちとなんら変わりない。

だからこの目で確かめる。
恐らく雅貴も悠も、彼女が人を食っていても庇いだてするだろう。身内ならば庇っても当然だ。
故に、彼らからではなく己の目で判断しなければならない。禰豆子が人を食ったかどうかを。

もしも彼女が人を食っていれば。枷が無ければあっさりと本能を剥き出しにしてしまうのなら。
禰豆子(おに)を。鬼と知りながら育ててくれた師を。鬼を見逃し犠牲を出した自分を。彼女を守ると決めた炭治郎を。

鬼殺隊として、この手で、斬らなければならない。

(三回目の放送までには間に合うだろ。...ほんと、悠も禰豆子ちゃんも呼ばれないでくれよ頼むからさ)
(禰豆子...炭治郎...)


互いの心情の変化に気づかぬまま、バイクは走る。
その果てに破滅しかなくとも、いまはただ前へと進む。

448あんた、あの娘のなんなのさ ◆ZbV3TMNKJw:2019/12/06(金) 03:02:57 ID:D4CHEu.20


【C-5/1日目・午前】


【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW、明神切村正@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、コブラのスカーフ、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×数個@現実、オルタナティブ・ゼロのカードデッキ(ブランク体)、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:弟、仲間と一緒に生還する
1:自衛隊入間基地でコブラの遺体を探す。 その後、禰豆子のもとへ義勇を連れていく
2:広斗との合流
3:中野姉妹、鑢姉妹、竃門炭治郎を探す
4:村山とスモーキーは……まあ余裕があったら探してもいいかな
5:いずれ水澤悠、竃門禰豆子と合流する
6:あのクラゲのバケモン、なんか気になるんだよな
[備考]
※水澤悠と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。落ち会う日時は、第三回目の放送後のC-7・街(悠たちと別れた場所)です。
※鑢七花を女性だと確信しています。



【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@FGO、
[道具]:基本支給品一式×2、木剣、ランダム支給品0〜3、真っ二つの半半羽織(私物)@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
0:禰豆子と会い、人を食ったかどうかを見極める。もしも食っていれば斬り、炭治郎に伝えた後に共に切腹する。
1:鬼が潜んでいる可能性のある自衛隊入間基地に向かう。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。

449 ◆ZbV3TMNKJw:2019/12/06(金) 03:03:26 ID:D4CHEu.20
投下終了です

450 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 01:03:05 ID:jtH9pDfU0
上田次郎、メルトリリス、酒吞童子、鬼舞辻無惨、村山直樹 予約します

451 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:44:44 ID:jtH9pDfU0
投下します

452鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:46:55 ID:jtH9pDfU0

「ミユキが呼ばれてない……?」

 聴覚に入り込んだ放送でメルトリリスが気に留めたのはその一点だった。
 禁止エリアの指定以外耳に入れるものはないし、BBのうざったらしいトークはいつものだし含むものも感じなかった。唯一、死者の情報だけは有益だがそこで少し想像していなかった疑問が生まれたのが、死んだ者の羅列に白銀御幸の名が上げられていないことだ。
 自分の前で腹を刺され、ただの人間では死ぬ他ない傷を受けたのを間近で見ていた。あの傷で放送までの数時間を生き永らえられるわけがない。
 何かしらの支給品で命を拾ったのか。だが互いの支給品にそれらに類する品はない。戦闘のどさくさで拾ったとしても完全に倒壊した教会では五体満足でも無事ではいられまい。付け加えるに、戦っていた怪人達が気づかずわざわざ見逃すのかも疑わしい。
 ならばいったいどういう奇蹟が彼に降りかかって、今なお生きている結果に繋がっているのか……。

「……だからなんだっていうのよ、メルト」
 
 埒の明かない考えはそこで打ち切った。
 生きていたとして、わざわざ探しに回ってやる手間をかける必要性がどこにあるのだろう。
 たまたま出逢っただけの、替えの利く同行者。所詮は取るに足らない人間、サーヴァントでも、マスターですらない、経験値に変えても微量に過ぎぬ役に立たない足手まといだ。
 目指す場所が同じ以上、生きていれば合流も叶うだろう。故にこのまま教会跡は素通りする。薄情ではない。リスクとリターンを秤にかけたスマートな選択だ。

 ただ。
 死にゆく体に鞭打って、自分を度外視してこの身を助けてくれた相手を放置していくのには。
 少女のプライドの問題として、気に食わなかった。


「―――しかしBBもやってくれるわね。なにが制限はかけてないよ、しっかり流体化対策しているじゃない」 

 バイクの上で完調でない脚の踵で、忌々しくかつかつと鳴らす。
 完全流体の性質でを持つメルトリリスにとって、物理的な拘束は意味がない。鋭利に研ぎ澄まされた刃で切り裂かれようとすり抜け、たちまち元に戻ってしまう。
 サーヴァントやあの怪物にも効果があるよう、魔術的な構築もされてるだろう。そうでなければ自分に首輪など嵌めはしないが。
 『斬撃』ではなく至近距離での砲撃という『衝撃』であったのも痛かった。水を斬ること裂くこと叶わずとも、叩けば飛沫となる。外装は繕ってるが、中の霊基にはまだ孔が見られる。
 満足に羽撃けず空を駆けられない有様は屈辱だった。手元にバイクがあるのは幸運だった。……手先の感覚が無く今まで白銀に握らせていたのメルトには扱いづらいが。

453鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:48:47 ID:jtH9pDfU0

 

「―――――おんやぁ?」

 そうして二輪と車とで北上している途中である。馬に乗る上田の後ろで風雅に景色を眺めていた酒呑童子が、ふと首を不思議そうに傾けた。

「これは、ん―――あの牛女とも違うしなぁ。どっちかいうなら茨木あたりかね?こないなとこで奇遇やわぁ」
「おや、どうしました酒吞さん」
「うん?そやなぁ、ちょっと懐かしい匂いがしたってとこやね」
「ははは、またまた。私はこの通り若々しく肉肉しい健康体。まだまだ加齢臭には遠いですよははは。
 ……え?臭う?ほんとに?」
「上田はん、ほい。これ持っといて」

 自分の腕に鼻を擦りつける上田をよそに、酒吞はUSBを投げてよこし白馬の上で立ち上がった。

「え、酒吞さんどちらに?」
「上田はん達は先に行っとき。うちはちょっと、ご同輩に挨拶していくわ」
「呆れた。わざわざ自分から血を見に行くなんて。鬼ってのはみんなそんな野蛮なの?」
「血……!?」

 メルトリリスから出た言葉に血の気が引き思わず気絶しかける上田。
 数々のインチキ霊能力者が起こした事件を時に物理学的に、時に物理的に解決に導いてきた上田である。血を見た事件も一度や二度ではない。
 ただそれはそれとして、怖いものは怖い。ビビるものにはビビる。経験があるからといってそう簡単に耐性がついたりはしなかった。
 本人は頑なに認めないが。

 酒吞が首を向けた方向―――崩れた教会から漂う気配には当然メルトも気づいていた。先刻まで自分もいて、怪人二人と見えていたところだ。
 メルトにしてみればそんな見えてる地雷に首を突っ込むのは、優美とは程遠く離れた愚にもつかない行為だ。

「雅も華も好きやで?酒はもっと好きや。せやから、祭の気配があったら近寄ってみたくなるんは当たり前やない」
「さっきまで研究所に行くって息巻いといてよく言うわ。私の毒を受けるまでもなく、とっくに頭も蕩けてるようね」
「あは、わかっとるやないか。気の儘に、鬼の儘に動く。鬼はそういう生き物や」

454鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:49:57 ID:jtH9pDfU0


 理屈になってないが、酒吞の中では一寸の隙もない論理だった。
 呑みたい時に呑み、気の向くままに殺し、奪い、喰らう。
 憂いなく迷いなく。愛のままに裂き、恋のままに殺す。
 人の筋道とは相容れない、鬼の筋道にどこまでも正直に従う。純潔純粋の血華。
 たん、と軽やかに白馬から跳び、隣の民家の屋根に着地する。

「酒でも交わして適当に話し込んだらそっち戻るわぁ。何なら分けてもらうさかい、そっちでまた酒盛りでもしよか。
 メルトはん、上田はんのお守りよろしゅう。あんまいじめんといてな?話してみると案外おもろい人やで?」

 そのまま屋根を伝って南下していき、小さな童子の姿は瞬く間に視界から消えてしまった。

「……」
「……」

 バイクのエンジン音が轟いてる。
 馬がブルルと嘶いてる。
 黙ってるのは二人のみである。

(えっやだ、もしかしてこのまま二人で行くの?)

 上田はやはりビビっていた。



【D-3 道中/朝】

【上田次郎@TRICK】
[状態]:背中に本人も気付かない程度の出血、若干の酔い、混乱
[装備]:スーツ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3、白馬@TRICK、USBメモリ@HiGH&LOW
[思考・状況]
基本方針:この島からの華麗なる脱出。
1:メルトリリスと行動する。……え、ほんとに?酒吞さんは?
2:研究所に向かいたい。
3:USBの確認
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。
※殺し合いをテレビの企画だと考えています。←メルトから受けた説教でその考えが揺らいでいます。「あれ、もしかしてマジなんじゃね?」みたいな感じです。

【メルトリリス@Fate/Grand Order】
[状態]:損傷(両手)、右足損傷(大、満足な行動不可)←休憩で僅かに回復 、苛立ち
[道具]:基本支給品一式×2(自分のものと白銀のもの)、ランダム支給品0〜2(確認済み)、ジャングレイダー@仮面ライダーアマゾンズ
[思考・状況]
基本方針:繋いだ心は、今も離れない
0:酒天童子は―――
1:研究所とUSBを調べる。
2:…………。
3:この殺し合いにいる藤丸立香とは共には行けない。だけど再び道が交わることがあれば力を貸すくらいはいい。
[備考]
※『深海電脳楽土 SE.RA.PH』のメルトリリスです。
※損傷は修復されていますが完全ではありません。休み無く戦い続ければ破損していくでしょう。
※出逢っているのは『男の藤丸立香』です。
※『女の藤丸立香』については、彼とは別の存在であると認識していますが、同時にその魂の形がよく似ているとも感じています。
※藤丸立香、中野三玖、若殿ミクニ、猛田トシオと情報交換をしました。

455鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:50:32 ID:jtH9pDfU0



 ◆


 神の家の土地を憚ることなく鬼舞辻無惨は足を踏み入れた。
 無惨に祈る神などいない。そんなものはこの千年間に、見たことも会ったこともない。いもしないものに、どうして祈ることができよう。無駄な試みに興じるほど暇ではない。
 鬼と相対した鬼狩りは口々に神の罰や天の裁きを叫ぶがなんと無意味なことか。
 せっかく運良く拾った命を捨てて鬼に挑み、何の成果も挙げず死なせて屍の山を築き続ける産屋敷の方がよっぽど罰当たりだろう。
 そんな連中を野放しにしてる神仏に感謝する価値もない。まして建物が全壊して見る影もない姿を見て威厳やら威光を感じろというのが無理な話だ。

 ともあれようやく目的地の教会に辿り着いた。周囲の瓦礫の山が影を作り多少は日の当たらない箇所もあるのは僥倖といえた。
 鎧を剥離させ素顔が晒される。日陰が確保出来たと判断した途端、握りしめたカードデッキを五指で砕いた。
 日光を避けられるのは確かに利点だが鎧を纏うという感覚は窮屈に過ぎる。
 無惨が欲するのは何の制約もない太陽の克服だ。あのような全身を隠して外を出られたところで屈辱が晴れはしない。
 それになにより、あの下卑た鬼の男に施されたという一点で即刻破棄に値する駄物だ。

 塁の姿は見えない。
 崩落跡に身を置く隙間があるようにも見えないが気配は正確に感じる。
 感知力を集中してみれば気配は地面の下からした。どうやら地下空間があるらしい。潜伏には絶好の場所といえた。
 自分を差し置いて安全地帯を見つけていたことに苛立ちを募らせる。
 そもそもここは黎明の間に無惨が先に立ち寄っていた地だ。それを後から来た塁が占有して主たる無惨をわざわざ出戻る羽目になっている。実に度しがたい。
 まずは己に要らぬ徒労をかけさせた罪で折檻してやろうと地下に続く入り口を探す。迎えをよこさない応対の杜撰さに益々怒りを蓄積させたところに。


「おはようさん。ええ朝やねぇ」


 甘い、爛熟した果実の酒気の如き声。 
 直前まで気配を悟れなかった驚愕を表面に出さず、慌てず騒がずに顔だけで振り向く。
 そこにいたのは、雅な着物を着崩した年端も行かぬ童女。
 背格好を考慮に入れねば吉原にいる遊女にも見えよう。実質醸し出す色気・妖気は既に亡き上弦、堕姫よりも濃いそれであった。

456鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:52:32 ID:jtH9pDfU0


 そして、それらの印象を全て裏切る魔性の気配。
 上弦に劣らぬ血の匂い。
 額から直に生えた、対に並ぶ角。
 分かりやすい異形の証だった。

「あ、突然出てきて驚いた?今のうち、これでもアサシンのサーヴァントやからな。気配遮断、っていうんやっけ?それ使ってみたんよ」

 無惨の胸中を読み解いたかのように答える。意味のよく分からない単語を並べ、何が面白いのかからからと笑っている。

「お天道様も出てる日で身を隠すなんてあまりしたくないんやけど、逃げられてもかなわんし?まあそうなっても、それはそれで鬼ごっこするのも乙やねぇ。
 追うのも鬼。逃げるのも鬼。ふふ、あはは、おかしいわぁ。ねぇ?」

 無残は全く笑えない。憮然としたまま額に青筋を立てるのみだ。
 視線を寄せるだけでも我慢ならぬ憤懣に、無惨は背を向けてそのまま黙殺した。
 
「失せろ。私は貴様のような酒臭い女に付き合う暇はない」
「つれないわぁ。いいやないかちょっとぐらい。こないな血生臭い場所で折角同族に会えたんや。
 身の上話でも肴にして酒でも呑みたくならん?」

 またしても鬼。
 またしても同族扱い。
 この無惨に対して、限りなく完璧に近い生物に対して、どこまで気安い対等かのような扱い。

「それに旦那はんから昔よく嗅いだ匂いがしてなぁ。
 うちが生きてた頃やからええと、ひぃ、ふぅ、みぃ……そや、千年くらい前やねぇ。そん時の貴族やら公家あたりとそっくりなんやわぁ。
 旦那はんがそれぐらいから生きてるんなら、ひょっとしたら会ったこともあるかもしれんと思てね」

 聞きたくもない身の上をべらべらと喋って後についてくる。
 あの下卑た吸血鬼といい、何故たかだが化け物だというだけで、連中はこうも次々と自分に馴れ馴れしく接してくるのか。

 自分と無惨が同格とでも思ってるのか。
 自分と無惨は同類とでも思ってるのか。
 不要だ。不快だ。虫酸が走る。
 無惨は共感を求めない。同胞など必要ない。
 それは弱者の考えだ。自分一人では生きていくことすらままならない、脆弱な生物の範疇に留まる思考だ。
 無惨は違う。たとい異形異類の怪物といえどそんなものに同調する気は微塵たりとも持たない。
 永遠。不変。完璧。頂点。絶対。
 それはこの無惨ただ一人のみが手にしていればいい。


「――――せやから、酒かなんか持っとったら一献付き合おうてくれへん?見目もいいし、貴族いうんはみんなええ品揃えてたがるもんやろ。うちも都に入った日はそういうとこからぎょうさん持ち帰って―――」

 ただの酔漢ならば多少の無礼を働いても見逃してやったが、この小娘の声は、言葉は、いや全存在が癪に障る。
 細胞一片たりとも、この場に残しておきたくもない。

457鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:53:42 ID:jtH9pDfU0



「何故、貴様は」

 再び、そして最後に身を翻して鬼に向き直り。

「私が失せろと言ったのにまだそこにいる?」

 興味深く見入る童女の華奢な体躯に、噴出した怒気ごと拳を叩きつけた。


 研鑽も技術もない感情に任せた乱雑な一撃。
 だがそれで十分だ。そんな小手先の産物を付随させるまでもなく、肉体の性能(スペック)だけで事は足りる。
 鬼舞辻無惨。鬼の始原。全ての鬼は無惨の血によって生まれ、その肉体は全ての鬼の頂点に君臨する。
 ただ拳を振るう。触手を飛ばす。そんな単純な攻撃だけで、あらゆる上弦の攻撃を凌駕する破壊を齎すのだ。
 童女の格好をしているからといって関係ない。躊躇もなければ加減もない拳で子鬼は容易く吹き飛び、地面を転がっていった。
 
 分かり切っていた結果だ。
 予想するまでもない結末だ。
 太陽を克服すること叶わずとも、これまで遭遇した化け物達は全て、直接無惨と対峙して対等に渡り合えた試しがない。 
 戦いにもならない掃討であり、生きていられているのは太陽光を始め、たまたま運に救われただけに過ぎない。
 やはり太陽を除けば自分を阻むものなど存在しないのだ。そんな当たり前の事実、摂理とでもいうべき今更な結果に溜飲を下げる。
 だからこそ―――前に出したままの右腕がだらんと垂れ下がっている光景に気づくのに、数秒の刻を要した。


 骨が、ない。
 血が一滴も溢れずに、無惨の右前腕を支持する尺骨が綺麗に抜き取られていた。

「――――――――――――?」
 
 なんだこれは。
 去来したのはそんな単純な感慨だった。
 不死身であり『斬られた端から傷口が閉じる』ほど図抜けた再生力を持つ無惨は痛覚に疎い。
 故に、自分の身に起きた予期せぬ知覚に対する反応が一手遅れていた。

 何故こんな損傷を受けている。
 あの子鬼は倒れてる。無様に吹き飛ばされている。確かな手応えがあった。反撃できる余地などあるはずもない。
 ただ、そう。ただ少しだけ、拳が肌に到着する寸前に何事かを呟いていただけだ。
 鋭敏な聴覚が風切り音と共に聞いたのは確か――――――


―――――――――百花繚乱・我愛称(ボーンコレクター)


 そんな風に、言っていた。



「ああ―――効いた効いた。六腑がひしゃげるかと思うたわ。実際ちょいと『ズレ』ちゃってるわぁこれ」

 声がした。
 あいも変わらず腐った酒の匂いを漂わせて。
 腹部から血を流しながら、けろりとした様子で起き上がって鬼は―――酒吞童子は笑っていた。

458鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:55:59 ID:jtH9pDfU0


 声がした。
 あいも変わらず腐った酒の匂いを漂わせて。
 腹部から血を流しながら、けろりとした様子で起き上がって鬼は―――酒吞童子は笑っていた。

「まあそれはそれとして―――ごちそうさん。旦那はんのイイとこ、もらっといたで」

 指でつまんだ、何か細長いものを見せびらかす。
 白く、硬質で、生き物かのように蠢動しているそれは。
 今し方抜き取られた―――無惨の尺骨だった。

「あら、煙吹いてるわ。生ものかいな。
 ほなさっそく、いただきますっと」

 ひょいと骨を上に掲げ小さな口をいっぱいに広げる。
 やめろ。何をしている。私の骨に、一体何をしようとしている。
 怒声は激昂のあまり口を出ず、止めようにも日陰を出てるあまり体は動かない。

「あ――――――む」

 そのままひとりでに動いて抵抗している骨は、あっけなく口腔に収められた。


 牙で噛まれる。
 歯で砕かれる。
 舌で舐め回される。
 唇でしゃぶられる。
 

 得も言われぬ瘙痒感に全身が鳥肌となる。
 こんな悪寒を無惨は知らない。こんな悪夢のような光景は見たことがない。
 自分の一部が食われ、糧にされている―――鬼ならば常に人間に与えている行為を、今まさに無惨は味わっていた。


「ん―――あはっいいわこれ!口ん中で、びちびち、跳ねよる!活きがいいわぁ!
 あは……!いま、食道でちくちく刺してきてる!いかんて、堪忍な……!くすぐったくて……!あははははははははは!」

 咲(わら)っている。
 体の内側を裂かれて血を撒き散らしてるのにさも愉しげに。
 鬼にとっての原液、至尊されるべき無惨の肉体を、まるで菓子か何かのように貪っている。
 
「凄いわぁ……!まだお腹で蠢いてる。こんなに激しい旦那はんの入れるの、初めてや。孕んじゃうやないこんなんっ……。
 ああ、何でこないな珍味があるのに酒持ってないん?絶対合うのにもったいない。ほんにもったいないわぁ」

 下腹部を擦り、頬を熱く染めた、如何な堅物でも心乱される顔。
 しかし無惨にはこの世でもっとも吐き気を催す邪悪にしか映らない。

 狂っている。
 痴れている。
 正気を疑う地獄絵図が展開されていた。
 けたけたと笑いながら己を食われる汚辱は怒りを通り越して虚無を抱かせていた。

459鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:57:20 ID:jtH9pDfU0


「うん?どしたん、そない険しい顔して。折角のイケメンが台無しやない」

 絶句する無惨をよそにして、自分の血で汚れた体を指で拭い舐め取る。
 
「それとも……ひょっとして、太陽(これ)が嫌なん?さっきからチラチラ見てはって。
 カルデアにもそんなんがいたようないなかったような気がするわ。そりゃ鬼は月の晩に現れるのがお決まりやけど、お天道様の下にも出られなんて―――」





「ほんま、可哀そうやわぁ」















「今、私を哀れんだな?」













 反転する。

460鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:58:03 ID:jtH9pDfU0


 沈殿していた感情が浮上し波を立たせる。
 天をも翳らせる漆黒の殺意。それに呼応したように、周囲に散らばっていたガラスの鏡面が歪み怪異が現出した。
 ミラーモンスター・ボルキャンサー。契約が切れれば元契約者すらあっさりと捕食の対象に入れる食い意地の悪さを誇る。
 食欲のまま近くにいた酒吞を羽交い締めにし、霊的でありながら上質な肉にありつこうと齧りつく。

「私は限りなく完璧に近い生き物だ。いずれそこにたどり着くべき存在だ。哀れまれるものではない。蔑まれるものでもない。
 まして、貴様のような阿婆擦れにくれてやる血肉をくれてやるものであるわけがない」

 そして引き剥がそうと手を伸ばしてる間に、押し出されて陰に踏み込んでいた酒吞を。

「次は貴様が骨を出す番だ。その薄汚い腐った血を撒き散らながら死ね」

 張り付いていたボルキャンサーごと、今度こそ全力で上空高くに蹴り上げた。


「ご――――――――――は、あっはははははははははははは!
 ええわ、ええわ、その表情(かお)!分かってるやない!
 愛し合いされ。喰って喰われて。殺し殺される。鬼と人、鬼と鬼はそういうもの。
 すぐ戻ってくるさかい、次は本気で愛し合おうな、"鬼舞辻"はん!」

 血反吐を撒き散らし悶絶しながら、酒吞の哄笑は宙に響く。
 痛みと歓喜を湛え、遠からず訪れる法悦に期待で胸を膨らませ、本物の鬼は墜ちていく。
 その様も最後まで見届けることもなく、声も切り捨て、あの悪夢は一刻も早く記憶から捨て去って無惨は瓦礫の闇へ足を向けた。
 


 ◆


 「あ―――笑った笑った。
  酒は手に入らんかったけどいい肴が見つかったわぁ。眺めてよし、愛でてよし、食べてよし、よりどりみどりやわぁ。
 上田はんとこ戻るのはちょっと先になるわなぁ」
 
 落下した先で、酒呑童子はなおも顔を綻ばせて寝転がっていた。
 傷の痛みも、浴びた殺意も、愉快な気分にさせてくれたなら安いものだ。

「しっかし何やろねこれ。あの骨齧ったら変な記憶が混じってきて。まあ旦那はんの名前が分かったしええか」

 とんとんとこめかみを小突く。骨を咀嚼し身に取り込んだ途端、不思議な記憶が流れ込んできた。
 無惨の血を受けた者は無惨の影響下に置かれる。受けた血量の多い上弦に至っては無惨の記憶を覗き込む場合もある。
 サーヴァントという霊体構造と鬼という種族の特質。ふたつの要素が絡み生まれた特例。鬼舞辻無惨の名を知り得たのもこの恩恵だった。

461鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 22:59:19 ID:jtH9pDfU0


 ともあれ、新しい愉しみを見つけた。
 上田達には悪いが、今はこちらを優先させてもらおう。元より鬼とは、気紛れなものであるがゆえ。
 少し休んだら、またちょっかいをかけに行くとしよう。満身に日光を浴びて伸びをしていたら。
 
「あ」
「おや」

 見覚えのある顔の男が、倒れてる自分を見下ろしていた。

「久しぶりやね小僧。ええとなんやったっけ。名前、名前……ああ、聞いてへんなそういや。
 ま、とにかくまだ生きててなによりや」
「てめえ……」

 村山良樹が酒吞を見つけたのは何のことはない。
 酒吞が飛ばされ、不時着していた場所が、村山が歩いていたE-2区であっただけでしかない。
  
「丁度いい。やるか」

 篭手を嵌めた腕を鳴らす。
 今の村山は複数の理由で苛立ちを抱えていた。そこに来ての因縁の相手との再会は願ってもない。

「あ、そや。ここでまた会ったのも縁やし、ちょっちうちと遊びに行かへん?」
「は?そんなんよりさっきの続き……」

 だというのに、一方の酒吞は悪戯を思いついたようなにやけ面で村山を見つめ、酒に誘う感覚で手招きしてきた。

「まぁまぁ。喧嘩ならいつでもできるやろ。それよりも面白いもん見つけたんや。ほらあっち、あっち」

 指差した方を見てもそこには何もない。
 より言うなら、なくなっていた。記憶が正しければ地図でいうところの教会があった場所。
 マシュが火の手を見つけ、その震源と見なしていた場所だ。
 暫く眺めていると、理由の判然としない悪寒が村山の産毛を総毛立たせた。

「どや?向こうでうちと一緒に鬼退治、やってみん?」

462鬼気怪壊 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 23:00:14 ID:jtH9pDfU0



【E-3/教会前/1日目・朝】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮 完成者への苛立ちと怒り、極限の不機嫌、無能たちへの強い怒り、鬼への吐き気を催す不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
0.太陽を克服する。
1.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
2.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。ひとまずは累と接触したい。
3.黒神めだか、雅、酒吞童子への絶対的な嫌悪感と不快感
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。
※シザースのカードデッキは怒りに任せて破壊しちゃいました。ボルキャンサーは辺りを徘徊してます。



【E-2/一日目・朝】

【酒呑童子@Fate/Grand Order】
[状態]:左頬に打撲、腹部にダメージ、食道気管を荒らされてる、無惨の骨を捕食
[装備]:普段の服
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:小僧(村山)を鬼退治に誘う。再戦はその後に。
2:鬼舞辻と遊びたい。
3:気が済んだら上田と合流。
4:沖田総司とも再戦したい。
5:メルトリリスに傷を付けた鬼も面白そうだ。
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません
※スキル「果実の酒気」は多少制限されています。
※無惨の血肉を喰らって僅かに無惨の記憶を覗いてます。少なくとも鬼舞辻無惨の名を知りました。

【村山良樹@HiGH&LOW】
[状態]:全身打撲・切り傷 右腕から失血
[道具]:基本支給品一式、ホーリーナックル@Fate/Grand Order、転送機(3時間使用不可)@ラブデスター、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:とりあえず帰り方を探す
0:酒吞童子に―――?
1:マシュは絶対助け出す
2:鬼共とはいずれケジメをつける
3:コブラの死を―――――――――?
[備考]
※参戦時期は少なくともシーズン2の8話以降です。

463 ◆0zvBiGoI0k:2019/12/15(日) 23:00:41 ID:jtH9pDfU0
投下終了です

464名無しさん:2019/12/15(日) 23:18:10 ID:Vxg4ZFTg0
登場する度にイライラ度が上がっていく無惨様で草

465名無しさん:2019/12/16(月) 09:48:26 ID:9GNefVsw0
さっきから異常者の相手ばかりさせられる無惨様かわいそう

466名無しさん:2019/12/16(月) 10:48:56 ID:.jF.iWlo0
投下乙です

完璧超人始祖なめだかちゃん、真祖の吸血鬼の雅様、そして日本三大妖怪の酒呑とこれだけ化物と立て続けにエンカウントしてもブチ切れるだけで済む無惨様の威光にひれ伏すしかない

467名無しさん:2019/12/27(金) 17:24:27 ID:WnUexw2E0
明日毒吐き別館にてロワ語りやるみたいなので一応告知しておきます

468 ◆2lsK9hNTNE:2019/12/31(火) 21:52:41 ID:XomWCO1I0
今年最後の投下乙

>THE KING OF MONSTERS
 予約の時点で無惨様がまたブチ切れることがわかっていましたが、想像以上のクオリティでしたね
 特に一度は突っぱねたカードデッキを使うシーンは最高でしたね。デッキがシザーズというところも含めて
 雅も面白い悲鳴を上げながらもカリスマがあっていいですね。まさか無惨様に支給品まで提供してあげるとは
 おかげでリュックサックを開けることすらビビってる無惨様でも太陽の下を動けるアイテムを手にすることができましたね

>あらがうものたち
 前回の話では圭が武蔵に刀を渡したところで終わっていて、あんな引きだと普通の刀は出しづらいだろうなと思っていたんですが、なるほど、煉獄さんの日輪刀とは上手いですね
 そこからの武蔵と猗窩座の戦いも漂う武の雰囲気が二人にバッチリはまってますね
 波裸羅もこの場にいる全員を気に入った結果面倒見がいい人みたいになっていて面白い
 煉獄さんも合流してかなり強力な対主催集団になりましたが、流石にこのメンツが集まって全く問題が起きないとは思えない……と思ったらあとの話で早速起きましたね
 >「元和二年だ」
 「2009年だろ?」
 「僕の認識では、今は平成24年、2012年です。
  波裸羅さんからすれば……僕の世界は396年後で、元号は38回変わっています」
 ここ簡潔に圭の頭の良さが出てて好きです

>壊音
 ジウくん絶対絶命の状況で引きになっていたどうなるんだろうと気になっていたところでしたが、まさか渡して去っていくとは意表をつかれました
 ある意味このタイミングで放送があったことはジウくんにとっては幸運でしたがそんなことを気にする余裕もあるはずなく精神的に追い詰められるジウくん。「猛田らもが生きていながら」というのがあまりにも当然の反応。
 幻覚まで見始めて可哀想な状態ですが原作を考えるとこれでこそジウくんという感じもありますね
 いくら北岡さんではなく佐藤が使うエンドオブワールドでもPENTAGONは壊せないだろうと思っていましたが無名街爆破セレモニーで使用された爆弾を手に入れたことでPENTAGON崩壊も一気に現実味を帯びましたね

>夜明孤島男刀競聞書(よあけのことうおとこのかたなくらべききがき)
 やはり波裸羅がいて何事もないはずがなかった。しかしまさかこんなことになるとは……
 hqLsjDR84wさんは毎度のことですがとにかく衛府勢が魅力的。同作キャラでありながら下手をしたら他作品のキャラより絡みを書きづらそうな武蔵と波裸羅が見事に書かれていますね
 この場はあんな感じになって収まりましたが波裸羅と煉獄さんの合わなさは以前そのまま。このチームは今後の一筋縄ではいかなそう

>第二回放送
 この話も予約の時点から無惨様が面白くなるだろうとは思っていましたが想像以上でした。まずタイトルからして面白い。無惨様が鬼を集めてキレる話は原作再現ですがそこに第二回放送と名付けるのはやられました
 キレまくってる無惨様ですがこの場で即座に累を殺したりしない辺りまだしも理性は残ってますね
 無惨様を除けば一人だけいっぱい喋ってる童磨もセリフ回しがいい
 そして無惨様の放送ももちろんですが、冒頭と最後にある会長パートもいいですね。あれがあるだけでただのネタ回ではない面白さがありますね。鬼会長には石上はスルーされると思ってたので一時的とは会長の心を揺らしたのも個人的に良かったです

469 ◆2lsK9hNTNE:2019/12/31(火) 21:53:27 ID:XomWCO1I0
>終わりのない戦い
 なにげに浅倉二度目の単独話ですが彼は本当に変わりませんね
 ベノスネーカーが清姫の力を得ましたが、これがサーヴァント以外でも起こるとしたら今後も生き残ったミラーモンスターはどんどん色んな力を持っていくかもしれませんね
 
>CHAIN BREAKER
 広斗としのぶさんもお互いの時代のズレを認識しましたね。時代の違う参加者が多い割にそのことに気づく人が中々現れなかったこのロワですが段々皆気づいてきましたね。兄貴の同僚のコンビは最新話までいっても気づく気配がありませんが。
 ここまでのところ他の参加者と出会うことは無く交流を深めている二人ですがキャラの配置的にそろそろ誰か合いそう。彼らいったいどこを目指して誰と出会うのか

>SHADOWS DIE TWICE
 スモーキーと武蔵の予約を見た時は正直ふたりが戦うとは思っていませんでした。理由は単純でここでふたりが戦ったらなんの面白みもなくスモーキーが死ぬだけだと思っていたからです。それがまさかこんな結果になるとは
 間に放送を交えながらの文章で緊迫感を高め、ちょうどコブラが呼ばれたところで臨戦態勢になるスモーキー、武蔵が圧倒的に有利なムードを進みながら「そして武蔵自身はというと──燕を斬ったことはなかった」の一文で一気に逆方向の結末を読者に想起させる手腕が見事でした
 斬刀<鈍>の登場話としても最高の形ですね

 >チカラの限り生きていくのだ
 かぐやが石上の死体と対面するシーンはある意味楽しみにしていました
 冒頭現実を受け入れることを拒否するかぐやからの巌窟王に立ちつけられて立ち上がるシーン、いいですね。日常系に属する作品のキャラが親しい人物の死に面した姿が書かれるのはロワの醍醐味の一つだと思います

>「衝戟に備えろ」
 最初PENTAGON爆破計画の詳細が書かれている辺りではシンプルな繋ぎ回に見えましたが、途中からとんでもないことやりだした…
 繋ぎ回であることは確かですが予想以上に次への激動を感じさせる繋ぎ回でした
 まさに「衝撃に備えろ」ですね

>見えざる糸
 自分の投下からあまり間が開かない予約で嬉しかったんですが、投下されたもの読んでさらに嬉しくなりましたね。
 二人の掛け合いがとにかく魅力的ですね。緩んだ場面では面白く緊迫した場面ではかっこいい
 ACCEL VENTを初見で使いこなすシーンも原作の雅貴を見ていると納得しかなく、シビレました

>常識的に考えて
 殺し合いの主催に疑問を抱くという展開は王道ですがあまりにもトンチキな彼岸島の常識を基準にトンチキな疑問の抱く方をしますね雅は
 しかし一般人よりも戦闘慣れした参加者の方が多いこのロワだとひょっとしたら雅の思考案外間違ってないのかも

>せめて人間らしく
 予約を見た時仁さんが禰豆子をどう判断するのか気になってましたがなるほどそうなるのか…
 禰豆子が襲われないのはよかったけど仁さんそこまでおかしくなってしまったか…
 そしてついに悠も七実と遭遇。これでアマゾンズと刀語の全てのキャラが互いの作品のキャラと遭遇しましたね
 七実はアマゾンだけでなく鬼も討伐対象に認定、悠と禰豆子がこのピンチを乗り切れるのかも気になりますが個人的により注目なのは仁さんととがめの方。
 原作では自分で直接戦うのは避けてきたとがめのやって来た自分で戦わざるを得ない局面。しかも相手を全盛期には劣るだろうとはいえ歴戦の強者の仁さん、いったいどうなるのか
 
>FILE03「暗黒奇譚 蛇女之怪」
 コワすぎは見てないので詳細はわからないけど姐切さんがヤバそうなことになってしまった…
 ジウくんはヤバそうな状況なのに姐切さんまでやばくなってしまったら一体誰がジウくんを戻せるのか
 しかし前園さん、二人のことは利用する気満々だけどなんだかんだこの人がいるおかげでこのトリオが周ってる感じありますね。姐切さんと工藤の二人しかいなかったら終始揉めてて話が進まなかっただろうし。さすがの人心掌握だ

470 ◆2lsK9hNTNE:2019/12/31(火) 21:53:59 ID:XomWCO1I0
>からくり起床談
 藤原千花見せしめはビックリしたけどまさかここに来て生き返らせるつもりか!? と思いましたが流石にそんなことはありませんでしたね。見せしめのなった参加者の支給品を使うアイディアは面白い。
 日和号がどのように活躍するかは読めませんが今後のリレーに期待ですね

>完【りそうのかたち】
 食人への忌避の薄れているめだかちゃんや食人を語る安心院さん、放送内容を知って叫ぶめだかちゃんとなど見どころはたくさんあるんですが、無惨様に罪を着せるる権三があまりにも面白い
 自分の殺人を他の奴に押し付けるなんてロワではよくある話だろうに押し付けるのが権三で押し付けられるのが無惨様だとここまで面白くなるのか。
 少しあっただけなのに権三の無惨様への理解度がめちゃくちゃ高い。『殺したからなんなのだ。貴様らごときが私を許さないなどとよくもまあいえたものだ』なんてほんとに無惨様が言っても全く違和感がないですよ
 この場合、権三の人間観察力よりも簡単に理解される無惨様の精神の薄っぺらさを褒めるべきでしょうね

>だんだん遠くなってく君を追いかけていく
 偶然なのか意図的なのか放送後最初のジウくん登場話と同じ愛月しのの名前を呼んでのスタート。ジウくんの反応には正直笑っちゃんですがミクニの反応はつらい気持ちになりますね。その反応が猛田の視点から書かれているのもいい。
 その後の沖田を中心に行われるやり取りも全体的にいいですが特に好きなのは>「もしかしたら……道中で会えるかもしれないわね。五月を──殺したって言う奴」。というセリフ。沖田も言っている通り二乃によく似合う――というか姉妹の中でこのセリフをはっきり口にできるのは二乃だけでしょうね
 佐藤の元へ向かう三人も思わず即予約してしまうほどの盛り上がり
 そしてミクニを中心に書かれる三人の男の感情、良い、あまりにも良い。ジウとミクニの間に大きな環状があるのは原作から書かれていたことですが猛田までもミクニにここまでの感情を抱いてくれるとは。立香が最後に猛田に言った言葉もね、良いですよね
 ミクニの死は残念でしたが主人公じゃ無くなったミクニだと止む得ないというか、普通ならこういうに死んでしまうキャラクターなのかもなー

>別問題なんだよ
 一つ前の話に続いて男同士の重い感情のやり取りが書かれている。相変わらず0zvBiGoI0kさんの心理描写は冴え渡ってますね
 他の話の感想にも書きましたが日常系に属する作品のキャラが親しい人物の死に直面した時どうするのかは、ロワの醍醐味の一つ。そしてそれに対する球磨川も本当にらしい。
 能力の詳細ちゃんと覚えてなかったので風太郎に大嘘憑き使ったところは一瞬ドキッとしました
 >『変えちまえばいいんだよ、ラブコメに』
 このセリフも最高
 風太郎ほど尺は取られてないけど明の喪失描写も短いながら悲しみが伝わって素晴らしい放送後回でした

>獣性目掛けて銃声は鳴る
 同時期に自分が書いてた話が、たぶんこの後真司死ぬだろうな、と思いながら書いていたので浅倉が死んだこと驚きました。このタイミング死ぬとは全く思ってなかった
 しかしそこで死んで終わらずあの世で次の戦いを待つのはいかにも浅倉らしい
 浅倉に内面を見透かされて言葉が止まる童磨も、でも一時のことですぐにいつもどおりになるのもいいですね
 鬼の中で最初に首級をあげるのが童磨というのもある意味らしい

>アザナエル
 相変わらず猛田のクソデカ感情が絶好調。ミクニに対する感情もいいけど立香への感情もいいよなあ
 ジウくんもいい感じにミクニへの感情を拗らせていって、たとえ姐切さんが無事だったとしてもここまでなったジウを救えるかどうか
 猛田が出てるシーンは正直全部好きなんですが、残された姉妹のシーンも出ていった人たちがああなってしまったのもあって悲しくなりますね。
 ロワの進んできたこともあって原作やロワ内で親しくなった相手が死んでしまう話も増えてきましたが
0zvBiGoI0kさんはその辺の描写が本当にいい

>Alive A life・Alive A life neo
 いやもう凄い話だ。少し前の自分も佐藤と炭治郎たちのバトルを書いたわけですが負けたと感じる場面がいくつもありました
 特に炭治郎の描写、菊一文字を佐藤から奪い返してのセリフがもう最高。怒りを燃やす姿がまさしく炭治郎ですよ。菊一文字を使う炭治郎は自分の頭からは完全に抜けちゃってて本当にしてやられました
 沖田の菊一文字と真司のドラグレッター、亡くなった二人の仲間の相棒と共に佐藤に挑む炭治郎は本当に最高でした
 球磨川もここで脱落かあ。悲しいけれで少年ジャンプの主人公を散った彼の姿は輝いていたし、ある意味本人にとっても最高の死に様だったかもしれない
 私の書いた話では対主催側の人よりも佐藤に活躍の比重がよった話でしたがそれを巻き返すように、対主催側が光を放つ話でした

471 ◆2lsK9hNTNE:2019/12/31(火) 21:54:46 ID:XomWCO1I0
>出口のないメビウスの輪の中で
 武蔵に勝ったスモーキーでしたが雅には敵わないかあ。何でも切れる斬刀・鈍も切ったところで再生する相手には相性が悪い
 彼岸島の原作は読んでませんが、これまでの雅を見ていればスモーキーを助けるのは納得の展開
 彼岸島の吸血鬼の詳細がわかりませんがマーダーとしては間違いなくパワーアップしているでしょうね
 無名街のことを忘れてしまってこれからのスモーキーがどうなってゆくのか

> あんた、あの娘のなんなのさ
 雅貴、冨岡さんと上手くコミュニケーション取ってるなあ。普通の人と比べて場合には全然取れないけど冨岡さん相手と考えると本当に上手くやってる
 しかし禰豆子のことを素直に話してしまうのは果たして正しかったのかどうか。雅貴の冨岡評は間違ってはいないのだけど冨岡義勇は鬼殺隊の人間ですからね。個人的に禰豆子を好きだからといって、それでかでに簡単に人を食った鬼を許すことはできないですよねえ
 今の二人が面白いコンビに仕上がってますが禰豆子を巡って決裂したらどうなってしまうのか

> 鬼気怪壊
 いや何無惨様いきなりデッキ破壊してんの!?
 ほんとビックリした。確かに屈辱的な代物ではあるだろうけどそれのおかげで命拾いしたのに後先考えず破壊するとは。どうやら私は無惨様のことを見くびっていたみたいですね
 太陽平気な怪物にあって無惨様がキレる王道展開ですが今回はことさらキレてる気がしましたね。まあさすがに自分の骨を抜かれた上に目の前で食われたら無惨様じゃなくても気分を害しますしね。その上憐れむという無惨様の地雷まで踏んでますし。しかしそれに巻き込まれたボルキャンサーくんが哀れだ。
 そんな感じで無惨様が愉快な話でしたが、酒天童子と村山が共闘しそうな展開は普通にわくわくしますね。特に村山はロワが始まってから負け続きな上にコブラの死まで知ってしまってどういう行動に出るのか気になりますね

472 ◆0zvBiGoI0k:2020/01/01(水) 00:00:09 ID:qjuopthQ0
猗窩座、白銀御行予約します
あけましておめでとぅ

473 ◆3nT5BAosPA:2020/01/01(水) 00:09:53 ID:Ia4HnO1E0
あけましておめでとうございます。
感想もありがとうございます。
千翼、鑢七花、猛丸、日和号で予約します。

474 ◆KbC2zbEtic:2020/01/01(水) 01:11:44 ID:vJMjsOo20
新年おめでとうございます
とがめ、鷹山仁、雅、予約します

475 ◆0zvBiGoI0k:2020/01/05(日) 22:16:04 ID:T68FIAzU0
投下します

476触れた指の先が運命を待ちわびている ◆0zvBiGoI0k:2020/01/05(日) 22:17:16 ID:T68FIAzU0

 入間自衛隊基地。
 総面積300ha、2000x45mの滑走路を有する、人員においても国内最大規模を誇る自衛隊の主要基地。
 バトルロワイアル舞台北部に置かれた、その精巧な模造(レプリカ)に、太陽が昇り切る前に施設内に潜入を済ませた夜を征く二人の鬼。
 
 人間が作ったにしては堅固な構造だ。
 夜明け前よりこの敷地内に踏み入って一刻は経過したか。基地内の馴染みのない組成の建造物を猗窩座はそう評した。
 正門等の出入り口を除いて塀で囲われた広い敷地は江戸・戦国の知識に照らし合わせても例のない形だ。武に生きる猗窩座の知らぬあの主催の女の鬼―――少なくとも人間ではあるまい―――が持ち込んだ技術と理論が構築されてるのだろう。
 どんな意図で設計されたのかは知れぬが、今ここではなんの関係もない。もぬけの殻に踏み込んだ時点で此処はもう鬼の陣地だ。

 ――――――鬼が力を奮うには絶好の場だな。

 陽の光を遮る施設。内部はかなり広く作られており、足音の反響からして恐らく地下空間も存在しているだろう。
 先の不本意な逃走を思い返す。陽光を前に適を背にして撤退を迫られたのはこれで二度目だ。
 勝てる相手に、負ける道理のない敵に、鬼が人に逃げを選ばなければならない屈辱の極み。その唯一の理由こそが太陽の光だ。
 無窮をかけて鍛え上げた武練は鬼狩りの剣士も武器も恐れはしない。ただ太陽だけが身を苛ませる。そうでなければ誰が逃げるものか。
 此処でならそのような無様を晒すこともない。夜が来るまでに集まってきた人間を須らくに鏖にし、主への貢献と為す。
 そうして猗窩座が指針を固めていた時に、独り奥へと向かおうとする存在に気づいた。
 
「勝手に何処へ行く」

 猗窩座に随伴していた新参の鬼を猗窩座は呼び止めた。
 上弦どころか十二鬼月に数えられてすらない、常ならば気にも留めない弱卒だがこの地では数少ない鬼の手勢だ。

「……武器庫だ」
「なに?」
「此処が自衛隊基地なら、武器庫がある……本来常備してるだけの数はないだろうが、わざわざ再現している以上は……幾らかの装備は残している筈だ」

 聞いた内容に猗窩座は失笑と共に憮然と返した。

「鬼は人間の武器なぞ使わん」   
「使えるものは全て使う。強くなる為には」
「ならば早々に人を喰らえばいい。道具になぞ頼る考えはお前が人間から脱せていない証拠だ。そんな弱い考えを抱えたまま、あのお方の役に立てると思ってるのか?」 
「俺はまだ弱い」

477触れた指の先が運命を待ちわびている ◆0zvBiGoI0k:2020/01/05(日) 22:18:19 ID:T68FIAzU0


 言葉は思いの外謙虚に、だが内実に煮えたぎる熱を秘めながらなおも鬼は弁を重ねる。

「強くなるには人を喰らえばいい。人を喰らうには強くなければならない。
 さっきの奴らといい、此処には簡単に殺せる人間は少ない。その為にはまず『喰らえる状況』を作り上げなければならない。
 必要なのは結果だ。銃に爆弾……道具は手段に過ぎない。時間も限られた中で、最短の成果を積まなければならない。
 武器庫に医務室。知識があるなら……同じようにこの場所を目指そうとする人間もいる筈。先に押さえておけば、網にもかけやすくなる」


 ―――――――――コイツは。
 
 何かが違う。
 猗窩座が目にしてきた鬼、無惨が鬼に変えてきた人間とどこか異なってると、そう感じた。
 鬼としての才に秀でてるわけでもない。初戦で見た通り戦闘の天性は絶無といっても過言ではない有様だった。
 与えられた血もさしたるほどでもない。極々平凡な、ただの鬼だ。だのにつき纏う違和感が拭えない。

 策は理にかなっていた。鬼らしからぬ怜悧さだ。
 確かに幾らでも数がいる時と違い、この会場に集められた人間は限定されており、誰もが大小あれど常ならぬ肉体と技を身につけていた。
 猗窩座にとっては良質な栄養であり喰らうに値する強者ばかりであるが、碌に人を喰ってないこの男には荷が重いといえなくもない。此処にいる鬼狩り、特に柱と遭遇してはあっさりと首を落とされるだろう。
 策を弄して強者を罠に嵌める事で早急な自身の強化に繋げる、というのはなるほど近道ではある。
 だが猗窩座にしてみれば策を講じてる時点で鬼として失楽だ。
 鬼に横道はない。自らの手で殺し喰らってこその強者。
 弱い奴はすぐ道を逸れる。正々堂々戦わず卑怯な手を使う、少数を多数で押し潰す――――――毒を盛る。
 と、自分がこの男に対してそこまで強くなる事を求める必要がどこにあるのかと今更に気づいた。

 鬼は鬼舞辻無惨から生じた手足。無惨の為に生きるのが前提の存在意義。
 鬼狩りを殺す。『青い彼岸花』を入手する。それのみさえ果たせればそれでいい。
 猗窩座の心理に最も反する男であっても、上弦の弐に収まる実力を持ち、無惨の役に立てるならば何も言うまい。馴れる気も一切ないが。
 そうだ。ようは全員殺せればいいのだ。この男がどう手を打ちどのような鬼になろうとも猗窩座は関知しない。意味がない。
 不愉快だ。どうもこの男を連れてから戦い以外に余計な思考を割かれている。脳の中で何かが軋んでいる。
 かといって排除するわけにもいかない。弱卒とはいえこれは主が手ずから生み出した駒。許可なく潰せば不興を買う。何より鬼同士の戦いは不毛だ。いれば得こそあれ不利益にもなるまい。

「好きにしろ」

478触れた指の先が運命を待ちわびている ◆0zvBiGoI0k:2020/01/05(日) 22:20:57 ID:T68FIAzU0


 上下関係に拘る猗窩座ではないが、明らかな格下の意を呑み込むのも業腹である。
 どの道夜が来るまで外には出れないのだ。此処で待ち構え、外から強者がのこのことやって来るならばそれはそれで都合がいい。
 こいつが此処で斥候の真似事をするなら要らぬ手間が省ける。そう考えれば適切な役割分担だと腑に落ちてきた。
 上弦の参と無銘の鬼。同種である事以外に近寄る余地はない。鬼は群れて徒党を組まないよう性質を付与されている。
 本来なら顔を合わす機会も皆無で、今回は様々な異常事態が重なってできた例外だ。
 誰かに技を教え、学ばせ、強くする。
 そんな、師範と弟子のような関係ではないのだから。

 

 鬼になった人間は、人であった頃にはなかった多くを得る。
 尽きぬ寿命。並外れた再生力。圧倒的に密度を増す筋肉量。世の理に反した異能を操る。
 鬼になった人間は、人であった頃に持っていた多くを失う。
 理性を失い、記憶を失い、倫理を失い、食欲に狂う。
 肉を満たし強くなるにつれ理性を得て人格を構築するがそれは後付の外装に過ぎない。
 たとえ人間の記憶を有していても、そこには不可逆の変容の弊害による『歪み』が生じる。
 始祖である無惨の影響か、わけても力への固執は強固かつ短絡に定められる。

 白銀御行。
 この地ではじめて無惨が鬼にした人間。無惨の時代から百数年越えた先に生きている人間。
 猗窩座は多量でないと捉えたが、それはあくまで上弦の鬼からの基準だ。せっかく作る手駒を軽々に失うのも癪と考えたのか、与えられた血の量は比較的多寡であった。
 血に適合できなければ細胞が破壊して死に至る中、その身は見事耐えきってみせた。更には早期に知識を駆使して作戦を立案する知性までも有している。
 総数の鬼が例外なく力の暴威でに酔い人を襲う様において、これは驚くべき性質である。

 赤貧とはいえ、大正の頃より大幅に質が向上し滋養もついた生活環境にいた健常者の肉体。
 平成の世の常識を備え、学生基準で最上位に位置する学力の知識。
 この時代には本来起きない要素を備えた鬼の誕生。無惨も、鬼殺隊も知り得ない未知の可能性。
 その事実を――――――まだ誰も知らない。



 妨害も、他の参加者と遭遇する事もなく、目的の武器庫には難なくつけた。
 国内最大を誇る自衛隊基地となれば、積まれた武器弾薬の総数は計り知れない。
 もし仮に、一個人がこの倉庫を占領し、あらゆる火器を十二分に扱える技能を有しているとしたら。
 更にそれが人智の及ばぬ不死の存在としたら。
 齎される被害、人間に与えられる損害は計り知れないものとなろう。

479触れた指の先が運命を待ちわびている ◆0zvBiGoI0k:2020/01/05(日) 22:25:55 ID:T68FIAzU0


 何も、建物同様にそのままそっくり装備までも全て再現されてるとは思ってない。
 それではこのゲームでは余りにバランスを欠く要素だ。テレビゲームかテーブルゲームかの違いこそあれ、■■書紀も■■もブーイングの嵐だろう。
 ある程度まで没収されてるか制限が設けられてるか。果たして想定は正しかった。
 ただし、その形式までは想定しきれなかったが。

「……なんだ?」

 内外を隔てる重々しい扉は、似つかわしくないものに置き換わっていた。
 近未来的でありながらアーケスティックな扉、いや鍵型だろうか。コンクリート尽くしの周囲とは配色が異なってる。
 露骨なまでに分かりやすく『新しく作り変わった』部位だった。
 
「……」

 不思議だ。
 材質は知れないがこの扉を破壊できる気がしない。いや、破壊するという気が湧いてこない。
 精緻な作りをしてる分脆そうなものだが、何ものにも触れさせない、触れられてはならないと拒絶感を全身で受けているようだ。

「なにをしている。どけ」

 見ているだけで焦れた猗窩座が扉の前に立つ。同様に攻撃を禁ずる圧迫を受けるが自らの殺気で振り切り、そのまま無造作に拳を叩きつける。
 石扉を容易に砕く鬼の膂力で振るわれた拳は、勢いのまま逆方向に弾き出された。拳は傷つかず、扉にもまた傷一つない。

「弾かれた……いや、そもそも当たっていないな。殺気も闘気も感じられん……幻術かこれは?」

 鬼にも壊せない硬度なのかと思ったが、猗窩座の見解は違うようだ。
 不可思議そうに己の掌を見つめ、起きた現象を推察する。
 これは硬さや破壊といった領域にない。無に拳を打ったに等しい感触だった。猗窩座はそれを幻惑に似た血鬼術と見做した。

 と。
 ポーン、という軽快な電子音が鳴り、壁に埋め込まれていた液晶ディスプレイに光が灯った。
 最初の放送で見た花弁のエフェクトの後に文字列が映し出される。説明書きとして表示されたそれによれば――――――


🌸   🌸   🌸

【シールド3☆ヴァージンロード・パラディオン】
 この扉は『Secret Garden』―――人の感情の恥部・心理領域を防壁化するシールドのちょっとした応用によって構成されています。
 通常の攻撃手段での破壊は一切不可能です。
 解錠には異性の人物二名が必要です。扉の両脇にある腕輪を嵌めて接触させ、測定される【お互いの好感度】によって解錠の段階が変化します。
 数値が高いほど貴重なアイテムが手に入るでしょう。逆に低ければ種火(イクラ)一枚分の価値しか貰えません。
 もし100%に達したら月旅行行きのペアチケットで生還できるかも……?
 ドキドキのコロシアイの舞台、吊り橋効果も期待して気になるあの子と一緒に【真実の愛】にトライしてみてはいかがでしょうか?
 目指せ、B(ボックスが)・M(満杯になるぐらいの)・P(プレゼント)!
 
 ※同性同士での診断も可能ですが、その場合の気まずい雰囲気・修羅場・グッドルッキングについては一切責任を負いかねます。
 
🌸   🌸   🌸

480触れた指の先が運命を待ちわびている ◆0zvBiGoI0k:2020/01/05(日) 22:27:09 ID:T68FIAzU0


 
 殆ど意味がわからない。
 わかるのは限りなく悪ふざけに等しい仕掛けである事だけだ。
 見れば扉の両端には腕輪が複数設置されてあり、何かの計測器らしきものがある事から、一応は説明通りの用意がされているらしい。

「くだらん。結局無駄足だったな」

 踵を返して来た通路へ戻る猗窩座。既に構造物への興味は完全に失せたと思しい。そこには概ね同意だ。
 罠かどうかを疑うのすら億劫になる。このどこまでも小馬鹿にした仕掛けをどこまで本気にする者がいるのか。
 引っかかるのはそれこそ■■書紀ぐらいのものではないだろうか。というか本人が考案してそうな頭の悪い文面だ。 

 ああ、そういえば似たような機械が支給品にあった気がする。正しくは猗窩座の支給品にあったものだが。
 武に生きる猗窩座にとって小手先の道具は無用の長物だ。突風を起こす団扇共々、食料以外は押し付けられていた。
 バッグに手を突っ込み、ハートの形状をした道具―――【フィーリング測定機】を取り出す。
 入力した相手と相性のいい異性を表示するそうだが、これもまた実に眉唾臭い代物である。
 道具に頼って何が愛だ。鬼となり真実の強さを手に入れた自分には必要ない品だ。
 この力を高めていけば遠からず■■の愛を手に入れられる。
 
 だから指を伸ばす行為も不要で、名前を入力する理由もない。
 放り捨てても構わないし、握り潰したところで支障はない。
 無意味な道具に、鬼はいつまでも視線を離さないままでいた。

481触れた指の先が運命を待ちわびている ◆0zvBiGoI0k:2020/01/05(日) 22:29:14 ID:T68FIAzU0


【B-4・自衛隊基地/1日目・午前】
※武器庫の扉には心の防壁を応用したシールドと腕輪@ラブデスターが設置されています。
 100%に達すれば本当に生還できるのか、アイテムが貰えるのか、それともミミック的なモンスターが出てくるのかは不明です。
 細かい仕様は後の書き手にお任せします。

【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼(白銀)は妙に不愉快だ。
4.自衛隊入間基地に身を置き敵を迎え撃つ。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。

【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[装備]:
[道具]:フィーリング測定機@ラブデスター、可楽の羽団扇@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜2(猗窩座)
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:人吉善吉、次に会ったら必ず殺す!
3:自衛隊入間基地に身を置き敵を迎え撃つ。手段は選ばない。
4:武器庫の防壁は……
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。与えられた血は比較的多量ですが下弦には及ばないぐらいです。順応すればまた違う変化があるかもしれません。

【フィーリング測定機@ラブデスター】
猗窩座に支給。
入力した人物と相性のいい異性が表示される機械。名前と顔を同時に把握可能。
原作でこれを利用して中級以上の女(キープ)を確保し支配体制を画策していたのがあの猛田である。
範囲は名簿に書かれた参加者全域。なぜかBBや藤原書紀等、名簿外の人物も入ってる。
使用者は五日以内に死亡するデメリットがあるがここでも機能するかは不明。

482 ◆0zvBiGoI0k:2020/01/05(日) 22:30:49 ID:T68FIAzU0
投下終了です。
扉については問題があればゴッソリ抜き取りますのでご指摘あらばお願いします

483 ◆KbC2zbEtic:2020/01/06(月) 20:25:58 ID:C3d71BQI0
申し訳ありません、予約を破棄します

484名無しさん:2020/01/07(火) 19:15:02 ID:MXTfqMvc0
投下乙です
ちょっとだけ原作より優しめの腕輪と死ぬほど楽しそうなBBの笑顔が目に浮かぶ
はたして会長はこの腕輪を使うときが来るのか

485 ◆3nT5BAosPA:2020/01/07(火) 23:50:17 ID:7U8OgAxA0
今晩には間に合いませんが、多分明日の晩には間に合うと思います

486 ◆Mti19lYchg:2020/01/08(水) 20:43:54 ID:GnL79KTc0
マシュ、累、クロオを改めて予約します

487 ◆3nT5BAosPA:2020/01/09(木) 01:53:25 ID:8INewzUQ0
ちょっと遅れたけど投下します

488南海怨身八裂心技 ◆3nT5BAosPA:2020/01/09(木) 01:59:42 ID:8INewzUQ0
摩訶不思議なタブレット(薬剤のほう)を摂取したことで肉体の損傷がほぼほぼ治った千翼は、新たな同行者、あるいは協力者である鑢七花と共に、次の行先を思案していた。
 彼らふたりには行動の指針がある。
 千翼は参加者全員の殺害。
 七花は実の姉に拉致された所有者の奪還。
 どちらも荒事なしには成し遂げられない目標である。 
 その上、聞いたところによれば、七花の姉はかなりの強物らしい。
千翼を瞬殺した七花よりも、遥かに格上の戦士だという。
そんな参加者とこれから戦わなければならないという事実は、千翼を憂慮させるのに十分だったが、この道が先ほども述べた彼の目的を達成するにはどっちみち通らなければいけない道であることも、また事実であった。
 そもそも、今千翼がこうして生きて思考しているのも、『目的に協力する』という契約を七花と結んだからだ。
とはいえ、ここに来て「そんな相手に勝利する策なんて、思いつけない」と無能を晒せば、後に待っているのは七花によって齎される死くらいだろう。
 しかし、七花との契約を早期に達成してしまう、つまり彼の姉をどうにかする策をすぐさま提案するのも、それはそれで問題である。
その場合、『千翼を瞬殺した七花よりも、遥かに格上の姉を相手に目的を成し遂げた七花』から、ほぼ間違いなく用済みと認定されるからだ。
そうなれば、後の結末は自明である。
己にとって益となる良策を求めながら、千翼は七花から渡されていたタブレット(電子機器のほう)を取り出した。
 これはただのタブレット端末ではなく、支給品として配られたタブレット端末だ。ならば、その中にこのバトルロワイアルに関する何らかの情報が収められている可能性は否定できない。
そうして得た情報が、千翼が直面している難題を解決する糸口に繋がる可能性だって、同じくらい否めない。はずだ。多分。
 端末内にはアプリケーションがダウンロードされていた。画面を埋めるほどに犇めいているそれらの中から、目についたひとつをタップする。
画面が切り替わる。
そこにはいくつかのテキストファイルがあった。どうやら千翼が選択したのは、メモ帳のような文章執筆用のアプリだったらしい。
テキストのひとつを開く。
出てきたのは、このバトルロワイアルでアドバンテージを取れる重要な情報……ではなく小説だった。
物語にカテゴリされる文字列が、画面内に並んでいる。
他のファイルを開いてみても、出てくるのは全て小説、あるいはそれに関するプロットのようなものだけだった。
バトルロワイアルに関する情報は1bも存在しない。
物書きが使っていたタブレットだったのだろうか。そんな代物が如何なる経緯を辿って七花の元に辿り着いたかは不明だが。
 
「すげえな。本当に使えてる」

 千翼の対面から画面を覗き込んでいる七花は、感心した様子で呟いた。

「残念だけど、意味のない情報しかなかったぞ」

落胆と共に、千翼は執筆用アプリケーションを閉じた。
 続けて他のアプリの調査をするのもアリかもしれないが、その必要性は限りなく低いと言えよう。今は他のアプリケーションならぬアプローチを探した方が良さそうだ──その時だった。
 何かが千翼たちの近くを通り過ぎていった。
 それは凡人では目に追えないほどの速度で地を駆けていたが、七花は剣士としての感覚で、千翼はアマゾンとしての探知力で、その存在を捕らえることができた。
 気配は北の方角に去っていった。千翼達には目もくれない様子だった。というより、あの急ぎ方は千翼たち、つまり殺し合いにおける己以外の参加者という最も警戒すべき対象よりも重要な何かが、行き先にあるように思えた。
 
「どうする」

七花は千翼に判断を委ねた。

「追うか? 今なら多分追いつけると思うぜ」
「もちろん追う」

デイバックにタブレットを収納しながら、千翼は言った。

「俺の目的はさっき話しただろ。だったら、アイツを見逃す理由はない。それに、お前と協力するためにも、まずはお前の強さを戦う相手ではない味方の立場から見る必要がある……と思う」
「了解」

 そういうことになった。



489南海怨身八裂心技 ◆3nT5BAosPA:2020/01/09(木) 02:00:50 ID:8INewzUQ0


 すっかり陽光の白みが大半を占めた空間を駆け抜けた先で、猛丸の目の前に現れたのは、地面に倒れ伏す犬養幻之介だった。

「ゲンノスキ……?」

 口から洩れた言葉に、返事は無い。幻之介は胸に開いた穴から多量の血を流している。死んでいた。
 兄弟の如く親しんでいた男の死を理解した途端、猛丸は腕をわなわなと震わせながら、幻之介の遺体を抱きかかえた。とっくに血は乾いているため、体が汚れることはない。どうやら死んでからそれなりの時間が経過していたようだ。
猛丸の姿を物陰から見つめるふたりの男が居た──七花と千翼である。
 追跡の末に無事追いついたのだが、彼らはそれ以上の行動をしていなかった。七花は千翼が次に出す指示を待っていたし、そして千翼は──

(あの男は……)

 亡骸を前に慟哭する半裸の男を見て、己の心が痛む感覚を味わっていたのだ。
 千翼にとって猛丸は、言葉を交わした事も無い見ず知らずの人間だ。だがそれでも猛丸の様子から、彼が抱きかかえている遺体とどのような間柄だったのかは推測できる。きっと、大切な人だったのだろう。
そして、そんな存在を失ってしまった心境も、痛いほど分かってしまう。何せ、千翼はそれと同じ心境を経験したばかりなのだから。
 まるで数時間前の自分を見ているような感覚は、千翼の思考に暫しの停滞を生む。
しかし、何度目かの呼吸の後、彼は意を決したように告げた。

「……やるぞ、七花」

 躊躇はしない。するわけにはいかない。ここで止まるわけにはいかないから。
 そんな覚悟と共に出された千翼の指示を聞いた七花は、

「了解」

 と、先ほどと同じく短い返事をした。
 千翼とは対照的に軽い口調だった。

「何か作戦はあるか?」
「そうだな……」

 顎に手を当てて考える千翼。
そもそも、長瀬達と共にアマゾンを狩っていた頃から戦いの前線に立っていた彼にとって、指示を出すなんて役割は縁が遠いのだが、だからと言って全くの無計画で戦いに臨むわけにはいくまい。
 参考として、この島に来るまでのアマゾンとの戦い──そして、この島に来てからの参加者達との戦いを思い返す。
その後、彼が出した指示は、

「相手に反撃する隙を与えないよう、最初から全力で攻撃してくれ」

 だった。
 千翼が見た限り、このバトルロワイアルは常識を超えたような技や術を使う者たちが犇めく魔境だ。これから戦う相手が、そんな例外共の例から外れていないとは思えない。予想していない攻撃を出されても十全な対処が出来るほど連携が取れたコンビとは言い難い千翼と七花にとって、相手がカードを切る展開は避けるべき事態だろう。
 ならばどうすべきか? 答えは簡単。そもそもカードを切る暇を与えなければいい。

「了解。俺は全力で隙の無い攻撃をしよう──千翼はここから見ていてくれ」

 『全力で隙の無い技』にアテがあるのか、七花は与えられた指示をすんなりと聞き入れた。

490南海怨身八裂心技 ◆3nT5BAosPA:2020/01/09(木) 02:01:53 ID:8INewzUQ0
「虚刀流七の構え『杜若』」

 地面に両手を付き、過剰なまでの前傾姿勢を取る。千翼が生きる時代において『クラウチング』と呼ばれる構えを取った七花は、照準を合わせるかのように視線を前に向けた。
彼が構えを選択したのは、二ヶ月ほど前に『鈍』の所有者にして居合の達人である宇練銀閣との戦いにおいても用いられた構えなので、験を担ごうとしているからではない。突撃の姿勢を取る構えは短時間での決着が求められる今回のような場合にピッタリだからだ。
 脚に力を込めた七花は、空気の壁を突き破って加速した。

「あんたに恨みはないけどさ、俺の持ち主……じゃあなかった、協力者の指示なんだ。全力でやらせてもらうぜ」

 刹那。
直線的な軌道を走り抜けた末に、真上に飛び上がる。途中で猛丸は気が付いたが、もう遅い。
成人男性の亡骸を抱えている彼に、音を置き去りにする速度で走っている七花への反撃など不可能だからだ。
 できることと言えば、繰り出された斧刀の如き踵落とし──虚刀流七の奥義『落花狼藉』──を避けるくらいである。とっくに事切れている幻之介を庇うような体勢で回避したが、限り限りのところで避けられず、肩の肉を抉られた。穿抜の如き突進から繋げられた攻撃を喰らっても頭部への直撃を免れただけ、幸運だったと言えよう。
 しかし、七花の攻撃はそれでは終わらない。『隙の無い全力の攻撃』という指示を受けた彼が、虚刀流が、ここで終わるはずがないのだ。
 何せ、彼が今見せているのはたった一つの奥義ではなく、最終奥義、『七花八裂』なのだから。
 最終奥義『七花八裂』。
 七つの奥義を続けざまに放つそれは、虚刀流の技の中で最も隙が無く、全力の技と言えよう。
 踵落としを終えて着地した後、次なる奥義を放とうとする──虚刀流四の奥義『柳緑花紅』。
数刻前にクラゲアマゾンを相手に披露した奥義だ。
 しかし。
 七花が拳を作り、上半身を捩じろうとしたタイミングで猛丸は動いた──そんなタイミングに動いたところで、回避も逃亡も防御も攻撃も間に合うはずがない。
だから彼がおこなった動作はたった一つ。己の肩から溢れた鮮血を、七花の顔面目掛けて飛ばすことだった。
 血の目潰し程度であれば、虚刀流七代目当主の行動を妨げるものではないので、そのまま無視して攻撃を続行できよう──しかし、猛丸の血飛沫は普通ではなかった。
 空中にまき散らされたそれは、黒曜石の如く硬質化したのだ!
 反撃を許さないために『七花八裂』という全力技で先手を打とうとしたのに、まさか攻撃を浴びせたら出る血そのものが反撃に繋がるとは。
 ひとつひとつが短刀のような礫に変化した血は、触れるもの全てに危害を与えると主張するかのようにぎらぎらと輝いている。こんなものが目に当たりでもしたら、それだけで戦闘は不可能になるだろう──七花は捩じりかけ体勢を利用し、血礫を回避した。
 そんな無理矢理な回避をした所為で、構えが中断された『柳緑花紅』はまともな威力を発揮できなかった。本来なら相手の体内を破壊する『鎧通し』の技なのだが、衝撃の操作が不十分になり、ただ相手を押し飛ばす程度にしかなっていない。

「う、うおおおっ!」

 眼前で起きた奇なる現象に驚愕する七花。離れて見ていた千翼の反応も同様だった。
 回避の後、七花は距離を取る。

491南海怨身八裂心技 ◆3nT5BAosPA:2020/01/09(木) 02:02:43 ID:8INewzUQ0
「まるで刀みたいな血だな。四季崎記紀の刀風に言うなら、血統ならぬ血刀だ」

 原作の展開をやや先取りしてしまった感のある台詞を言って、構えを取り直す七花であった。
 猛丸は目尻に涙が残っている瞳で睨みつける。警戒心と敵意が混ざった視線だった。
 
「いきなし出てきてふざっっけんな! たっ殺さりんど!」

 獣の如く吠えた猛丸は、抱えていた幻之介の遺体を地面に置いて立ち上がると、七花に向かって駆け出した。友の死を嘆く前に、まずは邪魔な襲撃者を葬る必要があるからだ。手からは硬質化した血が短刀のように生えていた。
 血剣の一閃が煌めく──七花はそれをかわす。
 四足獣の如き低姿勢から、足払いが放たれる──空中に飛び上がることで、それも回避した。
 猛丸は地面に肩が抉れていない方の指先を付け、足払いの勢いを利用して回転する──ブレイクダンスのように振るわれた両脚の太腿にはいつの間にか亀裂が走っており、そこから血が滲んでいた。
 遠心力で射出された血は一瞬で刃と化し、敵を両断すべく空中を走る。

「…………っ!」

 七花が居るのは空中だ。そこではあらゆる回避が不可能であり、刃を正面から受けるしかない。
 逃げ場のない相手を襲う必殺技──まさしく必ず殺す技だ。
 だが。
 七花は眼前限り限りまで迫った血剣を両手で挟むことで、制止に成功する──俗に言う真剣白刃取りである。否、虚刀流にとってみれば、これは真剣白刃取りですらない、名前の無い技だった。

「そりゃ、急に血が固まったのを見た時は驚いたけどさ、それが取る形は刃だ──刀だ」

なら、虚刀流は十分戦えるんだぜ! ──と。
叫ぶ七花。彼の両手に挟まれた血剣は、とっくに元の液体に戻っていた。
足裏が地面に触れた瞬間、一の構え『鈴蘭』を取る。
その構えから繰り出される技は、虚刀流最速の奥義『鏡花水月』に他ならない──!
  
「中断してから少し間が空いたけど、残り五つを続けるぞ!!──虚刀流最終奥義『七花八裂』!!」
 
一の奥義『鏡花水月』。
 二の奥義『花鳥風月』。
 三の奥義『百花繚乱』。
 五の奥義『飛花落葉』。
 六の奥義『錦上添花』。
 虚刀流五つの奥義。
 先ほど打ったふたつを合わせれば、計七つの奥義。
それら一切の斬撃を、あらゆる打撃を、全ての衝撃をその身に受けた猛丸の肉体は吹き飛ばされる。

「すまねーゲンノスキ……弔いも、何もできんかった……」

八つ裂きになった身体で、猛丸は呟いた。
奇しくもその姿は、彼がこのバトルロワイアルに呼ばれなかった未来で辿る結末と似た死に様だった。

【猛丸@衛府の七忍 死亡】



492南海怨身八裂心技 ◆3nT5BAosPA:2020/01/09(木) 02:03:04 ID:8INewzUQ0
鑢七花は勝利を収めた。
其処に異論を挟む余地はない。
実際にその現場にいた千翼は、はっきりと目にしている。
七花の体術が優れていることを、彼が扱う格闘術が刃の如き鮮血に遅れを取らなかったことを、そして──彼が最後に使った奥義『七花八裂』が、猛丸の体をバラバラに粉砕したことを。
バラバラ。
粉砕。
その光景はまるで──千翼の脳内に惨劇が再上映される。
 辺り一面に転がった、肉、血、肉、肉、死体。
 それら全ては、愛しいひとの残骸で──

「あの技は……」

 無論、千翼はイユが殺害された現場を実際に見たわけではない。
 だが、イユと同じ状態になった猛丸を見て、心の何処かで確信した。
 彼女はこの技を受けて死んだのだ──と。

493南海怨身八裂心技 ◆3nT5BAosPA:2020/01/09(木) 02:03:19 ID:8INewzUQ0
【C-6/1日目・朝】

【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ある程度の空腹、ダメージ再生中、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪 、痛み、精神的ショック
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、賊刀・鎧@刀語 、ナノロボ用タブレットの瓶詰め@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
4:アマゾン態になる時はできるかぎり鎧を纏うことで人を食う可能性を減らす。
5:あの技は……!?
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。
※賊刀・鎧をアマゾン態で装着時は若干サイズが小さくフィットしませんが、隙間を触手で埋めることで補っています。
※魔剣グラムは破壊されました。
※ダークウィングが蓮の仇として鏡の中から追跡しています。



【鑢七花@刀語】
[状態]:健康、疲労(小)
[道具]:基本支給品一式、アンデルセンのタブレット@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:姉ちゃんからとがめを取り戻す。姉ちゃんから。あの姉ちゃんから……
1:姉ちゃんからとがめを助ける。
2:ひとまず千翼に従う。
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前

494 ◆3nT5BAosPA:2020/01/09(木) 02:04:17 ID:8INewzUQ0
投下終了です。
予約に日和号の名前がありましたが、やっぱり無しになりました。

495名無しさん:2020/01/09(木) 03:10:19 ID:VWoyFcy.0
投下おつ
猛丸と七花だと力の差は歴然…
千翼が七花の技を見てイユの下手人に気づくのは面白い
扱いにくそうだった猛丸をうまく活かした形だと思う

496 ◆2lsK9hNTNE:2020/01/12(日) 23:32:30 ID:f98mgIws0
投下乙です
今年も真実ロワは書いていきたいと思っているのでよろしくお願いします

> 触れた指の先が運命を待ちわびている
 鬼としての白銀御行の掘り下げが面白い。
 あまり深く考えていませんでしたが、言われてみれば会長は鬼としては異質な存在なのかもしれませんね。その理由の一つとして大正より向上した生活環境を挙げている点や、鬼が現代火器を使う驚異に触れているところも面白い。鬼なったといっても元から鬼だった連中には遥かに及ばないと思っていましたが、会長にはまだまだ伸びしろがありそうですね
 そしてここに来てラブデスター要素が出てきましたね。かぐや様は告らせたいとラブデスターの組み合わせは、ありそうで以外とここまではろくにありませんでしたね。会長がラブデスター勢とあった時も別のキャラと絡みにより焦点があたっていましたし。ヴァージンロード・パラディオンの説明のあの単語が入っているのは笑いました
 そして猗窩座。ついにやっと最新巻で彼の過去がわかりました。彼が会長に対して向けている気持ちも今ならわかります。前から魅力的なコンビだとわかっていましたが、さらに魅力が増しました。
 願わくば会長との交流を通して、彼には原作とは違う道に進んでほしいものですがどうなることやら
 
 

>南海怨身八裂心技
 タブレット(薬剤のほう)、タブレット(電子機器のほう)という表現好き
 千翼と七花のコンビはどんな風に書かれるかずっと気になっていたのですが、千翼が覚悟は決めているもののまだ少し迷いがあり、これまでに無い立場にも考えを巡らせているのに対し、七花はいつも通りな感じでいいですね
 特に七花のセリフ回しが再現度高い。3nT5BAosPAさんの話は前から西尾っぽい文章もちょいちょいありましたし西尾維新への思い入れは強そうですね。相手が刀なら虚刀流は戦えるというのも刀語らしい。
 猛丸はここで脱落。これで衛府の七忍の生き残りは現在同じ場所にいる波裸羅と武蔵だけになりましたね

497 ◆Mti19lYchg:2020/01/15(水) 20:48:22 ID:9N4TpCnY0
台詞は描き終わったのですが、詰めまで時間がかかりそうです。何とか今晩中までは書き上げるつもりです。

498 ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:52:48 ID:5kbOZPJc0
誠にすみません。昨日は寝落ちしてしまいました。今回期限を過ぎたため問題がある様でしたら削除願います。
それでは今から投下します。

499君のこと思い出して ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:53:59 ID:5kbOZPJc0
 鬼舞辻無惨が累を殺すべく教会へ向かう中、教会内での三者三様の心理、動きは――

【累】

 もうお仕舞だ。俺は無惨様から死を宣告された。
 刃向う? 逃げる? そんな事が出来るはずがない。
 俺は家族をこの地でも作った。親は子を命がけで救い、兄は弟を守るものだ。
 だけど、無惨様相手では無理だ。他ならぬ一二鬼月の一角である自分が敵う筈ないのだから、誰も俺を守れない。

 ……頬が熱い。あいつに殴られた頬が痛みから熱に変わってきた。
 それを不思議と不快と感じない自分に不快だ。

 このまま無惨様から楽な死を賜ろうか。そう考えると、頬がさらに熱くなってくる。不快だ。
 ……不快といえば、あの捕らえた女。ここに来る前戦ったあの鬼殺隊の剣士。
 あいつと同じくらい不愉快な女。
 見返してみると、いつの間にか糸から離れて、俺を不思議そうな目で見つめている。
 ……だが、それもどうでもいいことだ。

【神居クロオ】

 愛月しのさんが死んだのか。ミクニ君はどう思うんだろう。
 ……多分、ミクニ君は何も変わらず、人を助けるための行動を続けるだろうな。あの時の、僕が死ぬ前にミクニ君が殺された時のしのさんと同じで。
 ……皇城君は、どうだろう。今頃絶望しているのかと思うと溜飲が下がるけど。一度殺されて、捨て台詞を吐かれたからなあ。
 ……姐切さんは、そんな危うい皇城君を心配しているだろう。上手く出会えているかな。
 ……猛田君はどうでもいいか。どうせここでもやる事は弁舌と支給品で人を支配しようとするだけだろうし。

 ……変だな。今、僕は、僕自身が思った以上に人の事を考えている。他人の事情なんてどうでも良かったはずなのに。
 臨死体験は人を変えるって言うけど、僕の場合本当に死んだからなあ。
 そりゃ人生観が変わっても……いや、違う。
 多分、死ぬ前の最後のあれだ。あの母さんの幻影。あれで変わったんだ。
 幻影だとしても、勝手な妄想だとしても、僕はあれで救われた。
 だから……今は、ミクニ君に対する友情を、改めて結びたいと心の底から思う。

 そうだ、弟はどうしたのかな。何か異様に静かだけど。

500君のこと思い出して ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:54:43 ID:5kbOZPJc0
【マシュ・キリエライト】

 放送で先輩の名が呼ばれなかったことにひとまず安心し、同時に清姫さんなど失われた命に対し何もできなかったことを悲しく感じます。
 放送の後、鬼の方が急に意識が飛んだように呆然となった後、次は頭を掻き毟り始めました。皮がちぎれ、辺りに血が飛ぶほどに。
 それでいて表情は、茫洋としています。焦ったりしている感じではありません。心の内側までは分かりませんが。
 いつの間にか私を縛っていた糸も解れています。
 彼は一瞬私を見つめ、そしてそのまま動きを止めました。
 静寂が支配する中、上からもう一人の男の人が地下室に降りてきます。

 ――――――――――――――――――

「弟。丁度日光を遮断できそうなものがあったよ。『呪碗のハサンの黒布』ってやつで、魔神を抑える効果があるんだってさ。
 まあ、この場じゃ魔神も鬼も大して変わらないよね、多分」
 クロオは笑い、累に布を差し出した。
「それで、この飛び散った血は何だい?」
 クロオは周りを見渡し、改めて累を見る。
 そう言えば、累は人形のように動こうとせず、布にも手を伸ばさず、クロオに顔を向けようともしていない。
「……行きなよ、どこへでも好きなところに。家族はもうおしまいだ」
 投げやりな調子で、虚ろな声で累は言った。
「兄に対してそれは無いんじゃない? 結構楽しかったよ、この数時間」
 糸で縛られ、打たれながら、それでも楽しいと言った事にクロオは少し可笑しさを感じた。その感情が事実であるのがより一層笑えてくる。

 クロオは養護施設で始めて出会ったころのミクニのように、累にシンパシィを感じていた。
 それは、予測ではあるが一つの共通点、そこから生まれる暗闇があるからだろう、とクロオは思っている。
 クロオは初めから『普通』から外れていた。母親に対する愛情はあったが、それ以外の感情が薄く、気味悪がられていた。
 だから、義理の父親になった男から憎まれ、殺されかけ、逆に殺した。そして、それは恐らく累も――。

「いきなりどうしたの? 放送まで乗り気だったじゃないか」
「状況が変わった。僕はあのお方の逆鱗に触れた。このままだと僕はあのお方に殺され、兄さんもこの女も食われる」
 累の口調は自分の死についてだというのに、淡々としたものだった。
「それを知って逃げようとしないのかい? または戦ってみるとか」
「無駄だ。あのお方は僕の居場所を特定できるし、戦っても勝てるはずがない。当然、お前が僕を守れるはずもない」
 ふうん、と自分の死についてだというのに、やはり累と同じように他人事のようにクロオは呟いた。
「それなら、あの娘をどうする? 選択肢は三つあるけど。
 1.このまま放置して僕たちが逃げるための囮にする。
 2.君が食べて、力を少しでもつける。
 3.家族にして戦うか逃げる手助けにする」
 クロオはマシュを指差しながら、彼女の目の前であっさりと命を犠牲にする選択肢を口にしてのけた。
「言っただろ? 僕達はもうお仕舞だ。僕にはあのお方の気配と憤怒がここまで感じ取れる。どの方法をとってももうどうしようもない」
 それでも累の虚無な声は変わらない。もう既に命を投げ捨てているからだ。
 その累の空虚な顔を見たマシュは、先程累に感じた憐憫とは違う何か、やりたい事が湧き上がってきた。

501君のこと思い出して ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:55:27 ID:5kbOZPJc0
「……あなた達の名前は何と言いますか?」
「……はあ?」
「私は――私の名前はマシュ・キリエライト。ここにいる先輩――藤丸立香のサーヴァント、守り手です。私はまだあなた方の名前を伺っていません」
 累とクロオはお互い顔を見合わせ、マシュに対し口を開いた。
「僕は累。あのお方に選ばれた鬼の精鋭『十二鬼月』の一角『下弦の伍』だ」
「僕は神居クロオ。月代中学校3年の15歳。だけど、何でいきなり自己紹介?」
「家族というなら、名前を知っているのは当然でしょう」
「それもそうかな。あ……そういえば僕が弟の名前聞いたのってこれが初めてだったっけ?」
 マシュは立ち上がり、累とクロオの二人に対し向かい合った。
「生きる事を諦めないでください。どんな悪人だって、例え鬼だって、何を求めるかを決める『義務』があるんです。
 あなた達が家族を求めるその答えを決めるまで生きようとするなら、私はあなた達を護ります」
『……義務?』
 累とクロオの二人はその言葉に戸惑い、同時に口にして目を見開いた。
「……僕が家族を求めるのは、本物の絆が欲しかったからだ」
「それは何故ですか? なぜ本物の絆が欲しいのですか? 今はそれが試される状況だというのに」
「それは……」
 確かにそうだ。突きつけられた絶対的な『死』を前に命懸けで守り、守られる。それが本物の絆のはずだ。
 だけど、俺は兄に対し勝手にしろと言った。何故だ? 守ってもらえる場面じゃないのか?
 それは……熱い。頬が熱い。頭にまで熱が回る。
 ……怖い。……怖い? そうだ、これ以上考えてはならない。そんな根源的な恐怖が湧き上がってくる。
「……僕は数え切れないほどの人を喰った鬼だ。自分と同じ鬼を家族にして、役になりきれなかった鬼達も殺した」
 累は恐怖の余り、罪と感じていない事を悪事のように告白した。相手が自分を見捨てる事を期待して。
「そんな僕を、お前は護るっていうのか」
 だが、マシュの決意に満ちた目は変わらない。累にはその理由がわからない。分からないから目の前の女が怖く感じる。
「何でだ! 仲間なんて薄っぺらな関係じゃ命懸けで戦えっこない! 本物の絆なんかありっこないのに何で!」
 その叫びはまるで子供がかんしゃくを起こしたような口調であった。
「僕だって何人も気に入らない奴を殺してきたよ。
 善人でもないし、マシュ、君が思うように脅迫されて無理やり仲間にされてるんじゃないんだ。自分の意志で彼の家族になったんだよ。
 クロオは累の不安を安らげようとしたのか、自分から悪事を告白した。自分も同類などだと、だから家族になれるのだという事を示そうとして。
「私の目の前にいるのは、生きるために助けを求めている方です。鬼も人殺しも関係ありません」
 そう言い切り、マシュは累とクロオの手に自分の手を差しのべて掌を握った。
「累さん。あなたが家族を作ろうとするのも、幸せに暮らしたいのも、間違いじゃないと思います。あなたの言う本物の絆も子供を助けるために命を落とした人を見た私にはあると言い切れます。
 でも、あなたは一度でもこんな風に……家族と手を繋いだことがありましたか? 家族の人から手を求められた事がありましたか?」
「……それが……」
 それがどうした。本物の絆にそんなこと関係ない。何があっても命懸けで父は子を、兄は弟を救うのが本物の絆だ。
 そう累は言おうとした。だが、熱い頬を感じるとなぜか咽喉が詰まってそれらは言葉にならなかった。

502君のこと思い出して ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:55:45 ID:5kbOZPJc0
「私は一度、死にかけた事があります。爆発で瓦礫が私の下半身を押しつぶして……。
 そんな時に駆けつけてくれた人が先輩でした。その時はただ、朝に床で眠っていたのを私が起こしたという関係だけだったのに駆け付けてくれたのです。
 もちろん、何もできない事は私も先輩もはっきりと理解していました。
 私に駆け寄ったせいで炎と瓦礫に囲まれて、二人で死ぬのを待つだけの状態になって……先輩は震えていました。
 累さんには言いましたよね。私は家族というものが分からないまま育ったと。その時私は自分の命の価値が分からず苦しくても怖くはなかった。でも先輩は死ぬのが怖い普通の人だったから身体が震えていました。
 なのに、私を気遣って、笑顔で話してくれました。
 私たちが死ぬ現実は変えられない。ならせめて最後の瞬間まで、お互いに気持ちを楽にするのが出来る最善だと思い、私の手を握ってくれたのです。
 ……あの時の手の温かさを、わたしは覚えています」
 それがマシュ・キリエライトにとっての始まり。死の時間まで設計されたデザイナーベビーから人間になっていくための始まりだった。
「そして私は奇跡的に共に助かった先輩と旅をするうち、分かってきたのです。
 先輩はどんな悪人でも、人から恐れられる怪物でも、助けを求められれば常に手を差しのべて、助けてもらえれば常に感謝できる人なのだと。
 恐怖の中でも自分に出来る最善の事をしようとする人なのだと。ただ偶然出会ったというだけで必死になって親身になり行動できる人なのだと。
 そんな先輩に出会った人の中には敵対して、裏切って、憎んでも、最後には命を捨てて守ってくれた人がいました。
 きっと、累さんが言う本物の絆は作るのではなくて生まれるものなのだと思います。例え実の親子でも。そして実の親子でなくても、偶然会っただけの関係でも絆を結んできた先輩のように」

 そう、いつもそうだった。先輩の盾として、サーヴァントや魔獣などと戦ってきたのは私だけど、サーヴァントと絆を結んでいたのはいつも先輩だった。
 救いを求める人に手を伸ばす。一時的な利害の一致だとしても、助けてもらえれば感謝して相手の手を繋ぐ。
 そんな当たり前のことを、先輩はどんなに危険な状況でも、どんなに凶暴な相手でもやっていた。
 そう、この場で人を襲っていた酒呑童子さんに対してもだった。
 助けを求める声を聞いて応じてくれた相手への感謝は誰だろうと変わらず、悪人だろうと鬼だろうと、邪神や魔性の眷属だろうと、卑下も軽蔑もせず、侮辱も偏見も向けず、善悪で差別もせず手を繋いできた。
 そんな誰に対しても感謝し、手を繋いでくれる先輩は何時も恐怖の中でなけなしの勇気を振り絞って人を助けようとしていた。
 他人事であっても、人助けや信念からの行動などに対して真摯に応え、共に笑えるような人だったからこそ、私は先輩の盾になれたし、他のサーヴァントの方々も味方してくれたのだ。
 絆は累さんのように無理やり糸で縛るように作るものじゃなくて、手を繋いで生まれるものだと、先輩はその身をもって教えてくれた。
 手を繋ごうとした結果、例え裏切られても、拒絶されても、離れる事があっても、手を伸ばし続ければ、最後には確かな絆が生まれるのだと。

 だから、これは私の、私一人の戦いだ。
 先輩がいつも差しのべて、受け入れてきた手を、私も同じように差しのべ、受け入れる。それが私にとっての初めての戦い。

503君のこと思い出して ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:56:05 ID:5kbOZPJc0
「嘘だ……。そんな……事で……命を懸けられるはずが、ない……」
 震える声で、訥々としゃべる累。
「……口をはさむけど、そんな事でも命を懸けられる事もあるんだ、弟」
 今まで表情を変えず黙っていたクロオがここで口を開いた。
「ミクニ君は、ただクラスメートというつながりだけで、人を救おうと何度も命懸けの行動をしてきた。家族の愛情なんか信じていなかったのにね」

 家族の愛情なんか信じられないという部分はクロオ自身も同じだった。ただ、ミクニには友人との絆があり、クロオには何もなかった。
 それはクロオ自身が愛情に、情緒に欠けているからだと思っていた。だからクロオは口ではマシュに援護しながら、実は累の方に共感を覚えている。
 累が言う『本当の絆』の方を求めたい。だが恐怖や暴力でそれが作れないことは十分知っている。
 『真実の愛』に関しても自分にはあらかじめ愛情など欠けていると分かっている。
 いや、分かっていたつもりだった。
 最後の瞬間、自分がそんな人間じゃなかったことに気づいた。
 今なら本当に家族を作れるかもしれない。幻影でも妄想でも母さんに、誰かに愛されたという記憶があるのなら、他の誰かに愛を注ぐことが出来るかもしれない。
 累の言う『本当の絆』も今なら結べるかもしれない。
 だから――累が絶体絶命の危機で変わる事が出来るのなら、累の方に助けを差しのべる。

「私はあなた達の家族にはまだなれません。でも、死ぬのが怖いなら、私はあなた達を命懸けで守ります」
 累の手を包むマシュに対し――累はもう片方の手を突き出した。
「違う。お前は、僕の……家族だ、妹だ」
 累は虚ろな表情で、両指から糸をだし、マシュを籠目模様の球体で包む。
 ――血鬼術・殺目篭
 それを大小二重にしてマシュを覆った。
「兄は妹を命がけで守るものだ」
 虚言だな、と累は内心自嘲した。累自身実際にそのような事を行った事がない。
「お前だけは逃げろ」
 ただ、累の中にある妄執ともいえるものが、マシュを放逐するという選択を取らせた。

504君のこと思い出して ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:56:29 ID:5kbOZPJc0
 累はマシュを教会の天井を突き破って、放り投げた後、しばらくじっとしていたが。
「兄さん……僕はあのお方に立ち向かおうと思う。協力してくれるか?」
 クロオに対して目つき鋭く睨み、鬼の本能に抗うことを決心した。
 あの女とあの女が語る先輩とやらの行動、絆。それに対する心底から湧き上がる恐怖に近い感情。それは無惨による絶対的な死の恐怖より優った。
 この正体を知らないまま死ねない。そう思ったからこそ、無惨へ刃向う気になった。
「いいよ。半分くらいは君と一緒に死んでもいいかなって思ってる。もう半分は、そんな危険な奴は、ミクニ君に危害を加える前に殺そうと思ってる。
 でもさ、前に入ったよね。兄は弟のいう事を何でも聞いてあげたいものだって。だから僕と一緒に戦ってくれでいいんだよ、こういう場合」
 クロオは累に向かって優しく微笑んだ。クラスメートが見れば驚くであろう程優しい笑みだった。
「支給品を調べたら、こんな物があったんだ」
 そう言って、クロオはデイバックから3つの物を取り出した。
 一つは黄色の瓢箪。もう一つは硝子で造られた徳利だ。両方とも中には水か何かが入っている。
 徳利の方はかなり大きく、2、3歳児くらいの子供がすっぽり入るくらいの体積があるのではないだろうか。
 説明書によるとこの二つは神便鬼毒酒。源頼光が酒呑童子を殺すのに、飲ませたという逸話の酒。
 この酒はさらに強力で、魔力があれば瓢箪と徳利からほぼ無限に出て、鬼も人も何もかも溶かしてしまうという。
 もっとも、これはただ流せるだけで、制御などできない。
 おそらくこれは、所有者を無理やり生かす悪刀『鐚』と合わせて使用するように支給されたのだろう。
 簡単に言えば、密閉空間の中、互いにいる状態で神便鬼毒酒を内部に満たせば、相手は溶けても『鐚』を使っている自分は生き残れる、というわけだ。
「相打ち覚悟なら、何とかいけるんじゃないかな」
 これで殺せなくても、最後の支給品である『暁光炉心』がある。
 これは何らかの動力炉の様で、恐らく電気が蓄積されていると思われる。水溶液が電気をよく流し、人を感電死させる事は、実際にこの方法で殺しているから良く分かる。
 鬼を弱らせる『神便鬼毒酒』とそれで壊れた『暁光炉心』の電撃を合わせれば殺しれるだろう。
 それでだめだったら? それまでの事だ。どうせ一度は死んだ身だ。
「失敗したら、一緒に地獄へ行こうよ、弟。仮初だったとしても家族になったんだ。そこまでは付き合うよ」
「……どうして、お前はそこまでする気になったんだ?」
 奇妙な質問だと思った。先程兄は弟のいう事を何でも聞いてあげるものだとクロオが言ったばかりなのに。死ぬまで守ろうとするのは本物の絆のはずなのに。
「家族を作りたいってところに共感したからだね」
 クロオは顔を覆う包帯の、耳の部分を外した。耳たぶは無惨に半分がギザギザに切り取られていた。
「元の家族の母さんは、歪な僕を殺せなかったから。逆に僕は母さんを殺した……自殺に追い込んでしまったから」
 これがその証拠だよ、とクロオは今まで見せなかった暗い表情を累に見せた。
「つらかった。本気で愛していた母さんを死なせてしまった事が。だから僕は記憶を無理やり捻じ曲げたんだ。自分が殺したって。
 弟も多分そうだよ。家族を求めるのも、それを無理やり縛り付けようとするのも封じた記憶の欠片がそうさせるんだ、きっと」
 累はクロオを糸で打った。そこには怒りも憎しみも無かった。ただ「今すぐ口を止めないといけない」という恐怖が反射的に身体を動かした。
「今のは核突いたから? それとも同情だと思ったから? でも本当の愛情に満ちた家族を作りたいって思いは君と同じで本物さ。
 だから、あのお方とやらを殺すのも本気だよ」
 累はあえてクロオを無視し、天井を見上げた。
「もうすぐあのお方が来る」
 累には分かる。教会の入り口に隠し切れないほどの憤怒と鬼気を感じる。
「地下室まではあのお方を僕が何とか連れて行ってみせる」
 累は全力の赤い糸を指から出し、天井に張り巡らせた。
「これで生き残ったら、お前と、お前の知り合いと、あの女と家族について改めて語りあかしたくなってきた」
 累はクロオが出した黒布を全身に纏い、階段を登って行った。
「……弟。そういう台詞、僕たちの時代じゃ『フラグ』って言うんだよ」
 そう言ってクロオは累に対し、朗らかに笑いかけた。

505君のこと思い出して ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:56:53 ID:5kbOZPJc0
【E-3 教会跡/1日目・朝】

【累@鬼滅の刃】
[状態]:殴られた頬が熱くなってきた
[装備]:呪碗のハサンの黒布@Fate/Grand Order
[道具]:食料(人肉)
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:赤の他人でも命懸けで手を結ぶ絆という考えへの恐怖感。
2:その恐怖感が無惨様への恐怖、支配に優り、今は一矢報いて生き残りたい。
3:生き残ったなら、家族に関して改めて考えたい。
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい

【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁、神便鬼毒酒@Fate/Grand Order、暁光炉心@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:ミクニ君と累の為にあのお方とやらを嵌めて殺す。
2:生き残ったなら、マシュを僕らの『家族』にしよう。
[備考]
※参戦時期は死亡後
 

 教会の天井を突き破り、マシュを包んだ球体は宙を舞っていく。
 赤い糸は太陽の光で蒸発してゆき、だんだんと解れて行く。
 だが、地面に衝突するまでは持ち、内部のマシュに衝撃を一切与えず墜落した。
 完全に蒸発し、糸の檻から解放されたマシュが見たのは、ハートと、そしてリンゴの生る樹。
「ならここはF-2地区。早く戻らないと」
 オルテナウスを纏い、マシュは教会へ向かって北東に駆け出した。

 マシュは勘違いしていた。この木は地図にある『ハートとリンゴと生命の木』ではなく、円城周兎の死体から生えた木だったのだ。


【C-3/一日目・朝】

【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、、基本支給品一式(食料除く)、霊基外骨格@Fate/Grand Order、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)、ランダム支給品0〜2(累のもの、未確認)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:累たちを助けたい
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。
※霊基外骨格は霊衣として取り込んだため、以降自分の意志で着脱可能です。
※鬼滅世界における稀血、それに相当する栄養価のようです。

506 ◆Mti19lYchg:2020/01/16(木) 23:57:11 ID:5kbOZPJc0
以上、投下終了です。

507 ◆ZbV3TMNKJw:2020/01/29(水) 01:07:44 ID:c/Ai7rZs0
佐藤、宮本明、炭治郎、風太郎、雅、結晶ノ御子を予約します

508名無しさん:2020/01/30(木) 07:03:57 ID:2O4kcHWc0
これはまたすごい面子での予約が…

509 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/01(土) 00:02:24 ID:R66Yn3LY0
胡蝶しのぶ、雨宮広斗で予約します

510 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/01(土) 00:03:32 ID:R66Yn3LY0
忘れてた。日和号も予約します

511名無しさん:2020/02/02(日) 23:42:11 ID:ztyv6WVo0
歴代のパロロワでバッドエンドってあるの?
全滅とか悪人勝利とか。

512名無しさん:2020/02/03(月) 14:27:57 ID:4V9V48cs0
お前>>194と同じ奴だろ
そんなもん毒吐き板に行って聞け、邪魔だからスレに関係ないこと書き込むな

513 ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:27:32 ID:T2WSd5fE0
投下します

514命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:29:31 ID:T2WSd5fE0








明さんと俺で球磨川の墓穴を掘っているときに、新たな同行者、竈門炭治郎は目を覚ました。
彼は目を覚ますなり、状況を把握し自分にも手伝わせてほしいと申し出たが、明さんと俺はどうにか押しとどめた。
おれ達三人の中で最も重傷・疲労しているのは炭治郎だ。そんな彼は、いまはとにかく身体を休ませるべきだし、球磨川の墓はあいつと一番関わりの深い自分たちがやるべきだろう。
そんな旨を伝えれば、炭治郎も納得し、それなら他に命を落とした仲間...城戸さんと沖田さんがいるので共に埋葬したいというので、俺は墓穴を掘るのを続け、明さんは炭治郎と共に遺体を探しにいった。
時間にして、5分もかからなかっただろう。炭治郎は城戸さんの場所を知っていたし、沖田さんは傍にいたようで、二人とも明さんが背負ってきた。

ザクッ。ザクッ。ポイッ。


三つの墓穴を掘り終えた俺は、道中に拾ったスコップを投げ捨て、明さんが球磨川だった残骸と二人の男たちの遺体を傍に並べた。
残骸―――そう。佐藤の攻撃で吹き飛んだ球磨川は終ぞ戻らなかった。
爆弾で吹き飛ばされても『なかった』ことにしてきたあいつだ。万が一にもあのヘラヘラとした笑みと共に戻ってくるかもしれない。そんな考えは見事に打ち砕かれてしまった。
当然だ。ここが殺し合いである以上、死そのものを『なかった』ことにされればゲームが成り立たなくなってしまう。
そこのところを考えれば、下手な不死身よりも球磨川を重点的にマークするのは当たり前だ。

そして、いよいよ埋葬...なのだが、その前にやるべきことがあった。
首輪の回収。
これを解析しなければ、俺たちは首輪を外すことなどできないしいざ主催のもとへ向かった時にあっさり爆破されてしまう。
ほぼ残骸だった球磨川からは容易く取れたが、問題は残る二人のぶんだ。
遺体の首を斬る―――それは仏を辱めるのに他ならない。既に死んでいるとはいえそれに拒否感を持ってしまうのは致し方ないことだろう。

「二人とも。あまり見るな、気分を悪くするぞ」

その役を進んで買って出たのは明さんだ。
炭治郎は二人と関わりが深く、俺は人の肉を綺麗に斬れるような技術を持っていない。
それを明さんは即座に判断したのだろう。

「いえ。俺にやらせてください」

しかし炭治郎はそれを断った。明さんの気遣いに気が付いていない...というわけではないらしい。

「沖田さんも城戸さんも俺の仲間です。二人の想いを背負うためにも、俺がやらなくちゃダメなんです」
「...そうか」

明さんは特に反論などはせず、炭治郎に役を譲った。
彼が覚悟をしているのなら止める必要はない、ということだろう。

「沖田さん、城戸さん」

炭治郎は片膝を地に着け、二人に語り掛けるように口を開いた。

「後につなぎます。あなたたちに守られたこの命で、俺が」

ピタリ、と沖田さんの首元に剣が宛がわれる。そして

「ありがとうございました」

シャッ

一瞬、風が吹いたかと思えば、沖田の首から小さく血が滲み出た。

次いで、城戸の遺体にも同様の挨拶をかわし、刀を振るった。

静かな介錯だった。
透き通る水のような、優しささえ感じるほどの太刀筋だった。

けれど。
それを振るった炭治郎の心境は如何なるものだったのか。
あの、俺よりも小さな背中でどれほどのものを背負っているのだろうか。
俺では彼の感情を測れない。

俺は、彼になんの慰めの声もかけることはできなかった。

515命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:30:23 ID:T2WSd5fE0

三人に土を被せ、手を合わせ黙祷する明さん。それに合わせて俺も炭治郎も共に黙祷をささげた。


「...球磨川、俺はおまえのことが嫌いだったよ」

明さんが、ぽつりと小さな声でつぶやいた。

「お前がなにを考えているか、最後までサッパリわからなかったし、ずっとヘラヘラしてるその顔も不気味でしょうがなかった」

明さんの言葉に概ね同意だった。

この殺し合いで初めて出会い、数時間を共に過ごした俺でも、やはり球磨川にあまりいい印象はない。
死んでしまったいまも、涙なんかも出やしなかった。

「けどなんでだろうな...お前がいなくなって、心に穴が空いたようだ。まるで自分の何かが欠けたような...」

そこで明さんは言葉を止め、黙祷に集中した。
俺も似たような気持ちだった。
いや、終始警戒していた明さんよりは、自分の本心に気づかされた俺の方がその気持ちは大きいか。
人間であれば誰もが持っている弱い部分、あるいは負の側面。
それを鏡のように映しだすのが球磨川禊だ。俺も明さんも、あいつを通して負の面を見せつけられていた。
明さんはどうかはわからないが、俺は、その負の面も切り捨ててはいけないと思い知らされた。
だから、あいつを失うというのは自分の一部を喪うのも同様だった...んだろうな。ハッキリとは言えないが。

1分ほど黙祷を続けたところで、明さんは手を下ろし立ち上がった。

「ひとまずここから離れよう。二人とも、歩けるか?」

明さんの言葉に肯定の意を示し、万が一のことを考え三つの首輪を三人で分け、俺たち三人はその場を後にした。

516命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:31:24 ID:T2WSd5fE0

歩きながら、遅ればせながらの簡潔な自己紹介と情報交換にしゃれこむ俺たち三人。
収穫はおおいにあった。
まずは、炭治郎の同行者たちがこの付近にいて、北の方で合流する予定であること。
そして、俺の探し人である三人が纏まって行動していること。

それを知った炭治郎は「良かった」と殊更に喜び、俺の目を真っすぐに見据えて言った。
必ず会わせる、あなたを守り抜く、と。

俺は少し顔が赤くなり、思わず目を逸らした。

恋愛ドラマでヒロインが言われるような言葉を俺が言われるとは思わなかった。
同時に、俺も彼のように言えたらいいのに、と羨望した。

俺にも炭治郎や明さんのような勇気が、力があれば。

―――『おいおい』『それじゃあラブコメじゃなくてバトル漫画のキャラクターだぜ』『弱い僕らは遍く争いを愛情の力でぐだぐだにしてやろうって誓いあったじゃないか』

球磨川が生きていればこんな言葉をかけられただろうな。

ただ、収穫とはいい知らせばかりじゃない。
炭治郎が齎した『鬼』という存在。
どうやら、明さんが語った吸血鬼とは別物らしく、その一体一体が首を斬るか日光に当てないと死なない、ほぼ不死身の人を食う生物らしい。
その元凶たる存在もこの殺し合いに参加させられている。鬼舞辻無惨。そいつを殺すことが、鬼殺隊とかいう炭治郎の所属する部隊の存在意義らしい。

クラゲの化け物。吸血鬼。鬼。それに、さっきの爺さんみたいな生態系がよくわからない奴もいるかもしれない。

とんでもないことになった。
知らないまま関わるよりはマシだったが、こんな超常現象ごった煮な状況を突き付けられて平然としていられる訳がない。

俺は、チラ、と明さんへと視線を移した。

「―――ハ。奇遇だな。俺にも、殺さねェと生きていけねェ雅という男がいるんだよ」

笑みを浮かべていた。
俺にも球磨川にも見せなかった、凶悪で、けれどどこか哀愁を漂わせる笑みを。

「同志ってやつだな。一緒に戦おう。奴らを、殺すために」
「はい!よろしくお願いします!」

初めてだった。明さんが共に戦おうと言ったのは。
炭治郎が敵を殺す力を持った少年だからか?いや、それだけじゃない。
仮に、俺や球磨川が炭治郎のような身体能力や剣技を持っていても、明さんは同行を申し出ることはなかっただろう。

きっと、炭治郎は明さんと似ているのだろう。異形の者に親しい者を奪われ、その怒りと悲しみに苛まれた。でなければ、あれほどの殺意と執念を抱くことが出来ない。
それは俺が決して到達できない領域だ。俺には、四葉と五月を殺した奴への殺意と執念も、殺意に見合った力もない。
手を伸ばせばそこにある背中が遠く見える。
俺はあの二人の隣に並び立てない。ただ守られることしかできない。それがひどく悔しかった。

―――『人間誰しもできないことってのはあるんだぜ』『弱いなら弱いなりにやれることはたくさんあるんだし』『だからきみは悪くない』

また脳内の球磨川が囁いてきた。死んでなお楽な方に気持ちを引き込もうとするのは流石と言うべきなのだろうか。

517命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:32:35 ID:T2WSd5fE0


ブ オ オ オ オ オ オ オ

どこからか、エンジンの音が耳に届いた。
俺が思わず目をやると、一台のジープが迫ってきていた。
こちらに気づいていないのか、あるいは気づきながらか。ジープはかなりのスピードを出している。

このままでは衝突する。俺は慌ててどこうとするも、炭治郎が俺を護るように剣を構えジープと向き合い、その前へと明さんが進み出る。

「まさか斬るつもりなのか、明さん、炭治郎!」
「止まってくれ、俺の名は竈門炭治郎!!俺たちは殺し合いには乗るつもりはない!!」

炭治郎はあくまでも最終手段として車に剣を振るうつもりのようだ。
だが、明さんは。

「動くな、二人とも」

それだけを告げ、俺たちへと振り返ることなく刀を構える。

そして。

ザワッ

空気が変わった。空間が歪んでいると錯覚するほどの濃い殺気だ。
その主は明さん。球磨川や爺さんの時にすら見せなかったほどの殺気が俺たちにも降りかかる。
もしかしたらあの車のドライバーは恐怖で錯乱しているのでは。そんなあり得るかもしれない可能性を口にするのも憚られるようだ。
まるで、明さんはこの車の主が止まらないことを知っていたかのように、殺気を抑える素振りすらみせない。
いよいよ目前にまで接近するジープ。
そして。



ザ ン ッ

518命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:33:57 ID:T2WSd5fE0

斬った。高速で迫る鉄の塊は、明さんの一太刀で真っ二つになった。
縦に裂かれたジープは、慣性の法則に従い俺たちを通り過ぎ、数メートル後ろで爆発した。

ブ ワ ッ

爆風の勢いで俺たち三人はもみくちゃになり地面に転がった。
幸い、俺たちに大したダメージはなく、ただ体勢が崩れただけだった。

真っ先に立ち上がったのは明さんだった。
俺たちよりも前に進みでて、メラメラと立ち上がる炎、その先をジッと見据えている。

ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。

明さんの呼吸につられて、俺たちもそんな呼吸になる。

ザッ。

地面を踏みしめる音がした。

ザッ。ザッ。ザッ。

うねる炎の渦、その燃え盛る炎の音すら踏みしめるような音が。

オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ
ザッ。ザッ。ザッ。ザッ。ザッ。ザッ

炎の音が、負けてたまるかと主張するように勢いを増した。


オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ

炎の音が、足音を塗りつぶした。
同時に人影が、炎の中より浮かび上がる。

「嬉しい挨拶じゃないか...会いたかったぞ、明」

ヌッ、と炎の中から現れたのは、男だった。
白い髪と白い肌。そして赤い眼窩が特徴的な男だった。

「俺もだよ」

明さんの続く言葉を聞いたとき、俺は理解した。

「ずっとお前を殺したかった」

こいつが、この男が雅だと。

519命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:35:10 ID:T2WSd5fE0



パチ パチ パチ。

炎が生み出す熱気は風太郎の呼吸を阻害し肺に熱をもたらす。
だが、その熱すら忘れるほど、風太郎は明と雅の一挙一動に見入っていた。

雅の口ぶりからして、あちらも明を探しているようだった。
求めていたのは同じ。ならば、彼らはどう出るのか。

タッ。

明が走った。先ほどまで足を引きずっていた男とは思えないほどの速さで。

(殺す)

明の脳内にあるのは純然たる殺意だけだった。

(彼岸島の、俺たちの悲劇のすべての元凶!!)

雅は動かない。ただ変わらず笑みを浮かべているだけだ。
二人の距離はみるみるうちに縮まっていく。

その数秒程度の、しかし右腕を斬られてより焦がれ続けてきたこの瞬間。明は叫んだ。

「雅ィィィィィィィィ!!!!!」

明の日輪刀が、雅の頭を裂かんと振り下ろされた。

キ ン ッ

鳴り響く金属音。
明の刀が届く寸前、雅がブーメランで受け止めた音だ。

互いの刃を挟み、交わる互いの双眸。
始まる鍔迫り合いに、両者は一歩も引かない。

520命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:35:54 ID:T2WSd5fE0
「面白い。また、一段と腕をあげたようだな明よ」
「ほざけ!!」

グンッ

一歩引き、鍔迫り合いの硬直状態から抜け出す雅に、追い打ちの斬撃を放つ明。
雅は身を翻し、ひらりと躱す。

「うおおおおおお!!」

幾度振るおうが、刃は雅にかすりもしない。

「ハハハハハ、かすりもしないじゃないか明!これでは前とあまり変わらんぞ。私の想像よりも伸びしろは少なかったか?」
「黙れ!」

憎悪の形相で刀を振るう明と笑みすら浮かべて回避し続ける雅。
どちらが優勢か、第三者が見れば明らかだろう。

そう。第三者から見れば、だ。

ドンッ。
雅の背中になにかが当たる。

「なっ、これは大木!」

いつの間にかあった大木に、雅は思わず動きを止める。

「貴様、ここに誘導していたか!闇雲に剣を振るっていたわけではないな!?」
「うおおおおおお!」

腕を横なぎに振るい、足元と胴体に放たれる連刃。同時二撃の斬撃だ。雅の武器は一つ。ならば、ひとつは受け止められてもどちらかは当たる。
身を屈めても、跳躍しても躱せぬこの斬撃、後退しようにもその選択肢は大木に潰されている。

(斬る!このまま―――)

パンッ。

否。雅は回避も防御による軽減も選ばず。
右手足を同時に上げ、右足で足元の刃を、右手のブーメランで胴体への刃をかちあげた。
吸血鬼の身体能力が無ければ為しえない荒業である。

521命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:36:36 ID:T2WSd5fE0

「なっ」

流石にこの防ぎ方を想定していなかった明の動きが思わず止まる。
その隙を突き、放たれる雅の左掌が、パァン、と小気味よい音と共に明の頬を叩く。

「ぐあっ」
「惜しかったな、明」

地面に倒れた明へと振るわれるブーメランでの斬撃。
それを防ぐのは、明には不可能。

故に、防いだのは柔軟な型である水の呼吸を使える炭治郎だった。

「ぐ、うううぅぅ!!」
「ほう。私の一撃を受け止めるか。なかなかやるじゃないか小僧」

雅の斬撃を受け止める炭治郎の手が震える。
見かけ以上に重い。自分が疲労しているぶんを差し引いても、この男の腕力は自分よりかなり上だ。

(明さんはこんな奴と打ち合っていたのか...!)

当然、耐えきれる限界の力で振り下ろされる斬撃を受け止めていれば、他の部位への集中力は削られる。
雅の蹴りが、炭治郎の腹部へと無造作に放たれるが、それを避ける術はない。

明が咄嗟に左掌を挟み込み、直接のダメージを軽減、加えて弾かれる勢いを利用し炭治郎の服を掴み、後方へと投げる。

左掌に走る痛みに耐えつつ、明は右手で残された雅の足を掬い上げる。
そのまま倒れた雅は、受け身をとる間もなく後頭部を地面にぶつけた。

「ぐあっ」

苦悶の声をあげる雅だが、そのまま首を支点にし、後転しつつ蹴り上げを放つことで明を牽制、明も後退し、炭治郎と共に体勢を立て直した。

ハー ハー
ハァ ハァ

一坦の静寂に、雅と明の呼吸が溶けていく。


「す...すげェ...」

一部始終を見ていた風太郎は、思わず呟いていた。
それはあの攻防に割って入れた炭治郎であり、猛攻を仕掛け続けた明であり、それを悠々と捌いて見せた雅に対してである。
改めて思い知らされる。
彼らとは生きている世界が違い、自分がどれほどちっぽけな存在であるかを。

522命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:37:32 ID:T2WSd5fE0

「小僧、貴様その服の一文字...どこかで見た覚えがある」
「俺は鬼殺隊の一人、竈門炭治郎だ」
「鬼殺隊...確か煉獄もそう名乗っていたな。ハッ、奴の言う通り、確かに頼れる男のようだ」
「煉獄さんを知っているのか!?」

炭治郎の煉獄の名への反応に、雅はニィ、と口角を吊り上げ嗤った。

「この殺し合いで初めて会った男だ。ヒトヨシだかヒトキチだかいう小僧を守ろうとしたのでな。食ってやったよ」
「嘘だ。お前からは俺を嘲る匂いがする」

炭治郎を怒らせその反応を楽しむつもりだったが、すぐに看破された雅の笑みが薄くなる。
別に騙しきれるとまでは思わなかったが、こうまであっさりとばれてしまっては面白くない。
そんな感情がありありと表情に表れている。

ただ、煉獄と会ったのは本当なのだろう。それに、この場においても人を守ろうとしたというのも。でなければ、ピンポイントでその名前を出すとは思えない。
やはり本物の煉獄さんだ―――その事実に、炭治郎は密かに喜ぶ。
早く共に戦いたい。剣を並べたい。あの時の感謝を、ちゃんと伝えたい。
逸る気持ちを抑え、炭治郎は刀を握りしめる。

煉獄が雅と相いれる筈もなく、であるならば交戦はあったはず。それはつまり、この男は煉獄ですら仕留めきれなかったということだ。
先のやり取りで実力を測りきるのは無理だろう。未だに未知数の相手だ。けれど逃げる訳にはいかない。

明との情報交換で、この男が危険人物であることはわかっていた。
けれど、こうして向き合うことで改めて思い知らされる。
この男から漂ってくる匂いは、鬼舞辻無惨と同じだ。夥しいほどの血肉と屍の匂い、悪意が服を着ているような醜悪な匂い。
仕留めねば、確実に多くの人が犠牲になる。
悪鬼滅殺。その信念のもと、炭治郎は両脚に力を籠める。

「炭治郎、お前は上杉を連れて仲間たちと合流しろ」

それを制したのは、明の腕だった。

523命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:38:46 ID:T2WSd5fE0

「なっ、なんで...」
「いいのか明?そこの小僧はお前ほどではないが、確かに腕が立つ。私に勝つ千載一遇のチャンスを失うことになるぞ?」

雅の言う通りだ。
自分はまだ動ける。戦える。
いかに明といえど、あの男に一人で勝てるとは思えない。

「奴の血は他者に感染する。ひとたび奴の血が身体に入れば、吸血鬼となり奴と同類になってしまう。奴に、戦力の差など関係ないんだ」

それに、と言葉を切り、炭治郎へと真っすぐに向き合う。

「これは俺たちの問題なんだ。だから、俺の手で決着を着けさせてくれ」

そして、くるりと背を向け改めて雅と向き合う。
炭治郎が共に戦ってくれようとするのは嬉しかった。力不足ではないとも思っている。
だが、既に至る箇所に傷口を刻まれている炭治郎では感染のリスクが高すぎる。上杉を守りながらではなおさらだ。
なにより奴との決着はこの手で着けたい。数多の墓前の前で誓った自分の手で奴を斬りたい。
そんな子供じみた我が儘を、明は譲ることはできなかった。

炭治郎は思う。
沖田さんは自分と別れたところで死んでしまった。城戸さんは、自分が気を失っている時に死んでしまった。
いま、ここではいと頷けば、明さんも死んでしまうかもしれない。
けれど。
彼も言った通り、雅の血が感染するのなら、下手に組んで戦わない方がいい。
それも、一般人である風太郎を守りつつ、自分に明に類するの実力がないのならばなおさらだ。

悔しい。自分は、煉獄の言葉を受けてから経験を積み、確かに強くなった。
けれども遠い。
もしもこの場にいるのが煉獄さんなら。義勇さんなら。しのぶさんなら。城戸さんなら。沖田さんなら。
明さんも、素直に背中を預けてくれたかもしれない。
自分はまだ未熟だ。
肝心な時に、いつも力が足りない。

炭治郎はぐっ、と息を呑み、言葉を吐き出した。

「一花さんたちと合流したらすぐに迎えに来ます!だから絶対に死なないでくれ!!」

炭治郎の叫びを背に受けた明は、そのまま返事を返した。

「お前の方こそ死ぬんじゃないぞ!上杉もだ。こんなところで死んだら球磨川に笑われるからな!」

524命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:39:28 ID:T2WSd5fE0

明の激励を聞いた炭治郎は、風太郎のもとへと向かい、手をとり駆け出した。
これを今生の別れにするつもりはない。けれど、こんなギリギリの極限の状況では、否が応にも背筋が冷たくなってしまう。
炎の産む熱気すら凌ぐ、悪寒が。

「―――ッ!」

慌てて風太郎を抱き抱え跳躍する。
遅れて、彼らのいた場所に、氷の粒てが降り注いだ。

「な、なんだアレ...」

風太郎の視線の先に佇むのは、透明な氷で出来た、1尺から2尺の中間程度の大きさの氷人形。
まさかあんなものが先の攻撃を放ったのか?あれは雅の支給品か?あるいは参加者か?
存在自体に疑問を抱く代物だが、なんにせよこのまま背を向けて逃げられそうもない。

「赤き龍、上杉さんを頼みます!」

炭治郎はドラグレッダーに風太郎の護衛を頼み、自らは人形へと駆け出す。

―――水の呼吸、拾の型 生生流転。

放たれる雪風に対し炭治郎が選ぶ型は、うねる龍のように回転しながら斬ることにより、走りながらも相手の技を斬れる、水の呼吸において最大の破壊力を生み出せる型。
迫りくる雪風を斬り、斬り、斬り続ける。

「うおおおおおおおお!!」

炭治郎は、雄たけびと共に刀を振り下ろさんと地面を強く踏み込む。
が。
ツルリ。
炭治郎の足が滑り、顔から落下する。
氷だ。
人形の付近に、いつの間にか張り巡らされていた氷の床が、炭治郎の自由を奪ったのだ。

顔面への強い衝撃に一瞬ひるむが、しかしすぐに体勢を立て直し、すぐに飛び退き、迫りくる雪風から再び距離をとる。

(あ、危なかった。俺の頭が硬くなかったら殺されていた!!)
「大丈夫か炭治郎!」

駆け寄ろうとした風太郎を手で制し、呼びかける。

525命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:40:57 ID:T2WSd5fE0

「俺があいつを引き付けます。その間に上杉さんは北に向かってください」
「そんなこと...!」

できるか、と言いかけた言葉は、口に出す前に飲み込んだ。
どう見ても炭治郎とあの人形の相性は悪い。このままでは間違いなく彼が負けるだろう。
だが、今まで何を見てきた。
佐藤も。雅も。あの人形も。自分ごときがなにかできるような相手じゃない。
むしろ、この場にいるだけで、明と炭治郎の足を引っ張ってしまう。
だったら、やることは決まっている。

「炭治郎、俺に龍の護衛はいらない。戻してくれ」
「上杉さん?」
「もしも俺がなんの問題もなくあいつらと合流出来たら、この龍が俺に構っていた時間が無駄になる。それよりも、確実にこの力が必要な戦いに時間を割かせた方がいい」
「けど」
「どのみち、俺が逃げ切る前にお前たちが殺されたら俺も死んだようなものだ。だったら少しでも生存確率が高い方に賭けた方がいい...そう考えてくれ」

風太郎の理詰めの反論には抗えず、炭治郎は一呼吸置いた後に、ドラグレッダーを再び譲り受けた。

「炭治郎。一花たちと合流したら、雅の言っていた煉獄って人を探して連れてくる。それまで絶対に無茶をするなよ」
「上杉さんも気を付けて」

炭治郎の言葉を受け、風太郎は駆け出した。

風太郎の背中が遠ざかっていくのを見つつ、炭治郎は呼吸を整える。
明との距離はまださほど離れておらず、ここからも見え、駆け出せばすぐに届く距離でもある。

つまり、ここで炭治郎が人形に負ければ、風太郎どころか明さえも危機に陥ることになる。
絶対に負けられない。その為に、己を鼓舞する。

(俺は繋ぐ...沖田さんの信念を、城戸さんの意志を。心を燃やせ。負けるな。折れるな。今、自分にできることを精一杯やれ!)


そんな炭治郎と人形を見て、笑みを浮かべる雅。

「ハッ。また愉快な奴が現れたじゃないか」
「余所見をするなよ、雅。お前の相手は俺だ」
「ああ、そうだな。明よ、今はお前との遊びを楽しもう」

帝王の胸の高鳴りは、未だ鳴りやまない。

526命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:41:49 ID:T2WSd5fE0



戦場から遠ざかりながら、俺は思う。

(なんてこった...これじゃ、まるでリレーだな)

明から逃げるように託され、炭治郎から逃げるように託されて。そのアンカーたる男を探す為に走っている。
得意の勉強が何一つ活かせない。運動が苦手な自分に対して嫌がらせのような試練の連続だ。
それでもやり遂げなければいけない。すべてはこの両脚にかかっているのだから。

「は、ははっ」

なぜだか笑みが浮かんでしまう。これが球磨川の言っていた、括弧つけなくちゃやってられない、という気持ちなのだろうか。
あるいは王道少年漫画か?あまり読んだ覚えはないが。
非常事態にこんな考えが浮かぶなんて、ずいぶんあいつに毒されちまったな、と自嘲した。

そんな、瞬きほどの一瞬の気のゆるみが運命を左右した。

通り過ぎようとした木の陰から、突如のど元に伸ばされた腕になんの反応もできず、地面に倒されてしまったのは。

「がっ」

敵か。そう思う間もなく、衝撃で俺の肺が締め付けられ、言葉を発することすらできなかった。
藻掻く暇すらなく、俺の身体はうつぶせに転がされる。
次いで、俺の右足―――アキレス腱に熱い感覚が走る。
遅れて、刃物のようなもので切られたのだと理解した。
同じように、左足の腱に灼熱が走る。
それが痛みに変わるのに、さほど時間はかからなかった。

「ギッ...ああああああああ!!」
「大丈夫、きみは死なないよ」

激痛に悲鳴を上げる俺にかけられる優し気な声。切られた場所に施される適切な応急処置。
ああ。それは確かに敵意なく、励ますようだった。

「アキレス腱が切れても走れなくなるだけさ。慣れれば日常生活くらいできるし、こうやって止血さえしてしまえば失血死することもない。私も戦闘で片足を喪ったことがあるけどね、案外死ねないものだよ」

だが。その声は二度と聞くはずのない、聞きたくない男のものだった。

「わるいね。きみに恨みがあるわけじゃないんだ。ただ、きみがいてくれた方が彼らも逃げづらくなるだろう?」

この目で確かに見た。
炭治郎に首を斬られ、燃えカスになるところを確かに見た。

「いやあ、爆発が起きたからもしやと思って足を運んでよかったよ」

ソイツは、俺たちと戦い球磨川禊を殺した男。

「準備は整った。さあ、コンティニューの時間だ」

怪人・佐藤は変わらぬ笑顔で宣戦した。

527命ノゼンマイ ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:43:01 ID:T2WSd5fE0

【D-6(禁止エリアに近い)/1日目・午前】

※球磨川、沖田、真司の死体がD-7に埋葬されました。
※RUDE BOYSのジープ@HiGH&LOWが真っ二つになり炎上しています。





【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(小)、雅への殺意。
[道具]:基本支給品一式、宇髄天元の日輪刀@鬼滅の刃、不明支給品0〜4、沖田の首輪
[思考・状況]
基本方針:雅を殺す。
1:雅を殺す。その後の事は雅を殺した後に考える。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。



【雅@彼岸島 48日後……】
[状態]:後頭部にたんこぶ。高揚感。
[装備]:カルデア戦闘服(男用)@Fate/Grand order
JM61Aガトリングガン@Fate/Grand order 残弾(90%)、予備弾(100%)
[道具]:基本支給品一式、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス
[思考・状況]
基本方針:好きにやる。とりあえず北東の施設を巡ってみる。
0:明で遊ぶ。向こうの人形(結晶ノ御子)たちとも遊びたい。
1:面白そうな駒を勧誘し、最終的にBBと遊ぶ(殺しあう)
2:煉獄に強い興味。部下にしたい。
3:次に無惨と出会ったら血を取り込みたい。
4:BBが望んでいる物は殺し合いだけではない……?
[備考]
※参戦時期は精二を食べた後です。
※死体に血を捲いて復活させるのは制限により不可能ですが、雅はそのことに気がついていない可能性が高いです。
※肉体の内部に首輪を取り込みました。体外へは出せませんが体内で自由に移動させられます。
※鮫島と山本勝次の死を知りましたが、名前を知らないしどうでも良いので「おそらく明の仲間」としか認識していません。



【竈門炭治郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、全身に切り傷と打撲。 ドラグレッダーが同行中
[道具]:基本支給品一式、菊一文字@衛府の七忍、ランダム支給品0〜1 、城戸の首輪
[思考・状況]
基本方針:禰豆子を見つけて守る。無惨を倒す。
0:結晶ノ御子を倒す。どうにかして明の方も手助けしたいが...
1:禰豆子や仲間に早く会いたい。
2:とりあえず北上して資料を集める
[備考]
※強化合宿訓練後、無惨の産屋敷襲撃前より参戦です。
※折れた日輪刀は半天狗戦で緑壱零式の刀を使う前のものでした。
※ドラグレッダーとは契約していませんが、炭治郎との関係が続く限り、同行してくれそうです。またマグナ・ギガを捕食しました


【結晶ノ御子@鬼滅の刃】
[状態]:ノーダメージ
[思考・状況]
1:童磨の指示に従い、参加者を見つけ次第攻撃を仕掛け情報を収集する。





【佐藤@亜人】
[状態]:健康、ハンチング帽が燃えた、却本作りの影響あり
[装備]:無名街爆破セレモニーで使用された爆弾@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式×2、秋山蓮のリュックサック、折れた日本刀@現実、手鏡、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗る。
0.明と炭治郎に再戦を挑む。ついでに雅たちとも戦う。『勝ちたい』
1.PENTAGONが勝つか、花火が勝つか、実験だよ実験。その前に爆弾設置しとこ。
2. 飛んでいたライダーに興味。
3. PENTAGONの前でふたりの参加者を殺した犯人に興味。
[備考]
※少なくとも原作8巻、ビル攻防戦終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力になんらかの制限があるのではないかと考えています。
※IBMを使用しました。使用に関する制限は後の書き手さんにお任せします。
※ゾルダに変身している間はIBMも強化されるようです。
→マグナ・ギガが倒され、デッキも破壊されました。
※変身中に限りIBMを二回以上出せるようです、どれ程出せるかは後続の書き手氏にお任せします。
※飛行中の龍騎の姿を確認しました。





【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:疲労(大)、出血(中、止血済み)、両脚のアキレス腱断裂(歩いての移動が不可能ではない程度)
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0〜1 球磨川の首輪、
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
0:こ、コイツは...!
1:一花、二乃、三玖との合流。 その後、明たちの力になってくれる者を探す(候補は煉獄)。
2:PENTAGONを目指す。

[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

528 ◆ZbV3TMNKJw:2020/02/03(月) 23:43:27 ID:T2WSd5fE0
投下終了です

529名無しさん:2020/02/04(火) 11:35:38 ID:h40ZuYmM0
乙です
明さん対雅様の再戦が原作よりも早く見れるなんて…。先生ェもゲームばっかやってないであく書けや

530 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:31:07 ID:tHjlpQeg0
すみません。予約期限を完全に誤認してました。今から投下します

531打々(蝶々)発止 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:33:25 ID:tHjlpQeg0




 外から見ただけでも分かってたが、やはり内部も広く入り組んでいる。
 しのぶが抱く感想はそんなものだった。

 目当ての道具は首尾よく見つけて鞄に詰めてある。
 この鞄、見た目より遥かに中に物が入る。物理的にあり得ない体積で収まってしまっている。
 嵩張って移動の邪魔になると思って考慮の外だった薬箱や医療器具も、まとめて持ち出す事も出来たのは収穫だろう。
 鬼殺隊を支援する藤の花の家紋の家でもないのに拝借するのは行儀の良い行いとはいえないが、そもそもこの会場を設えたのがBB達であるのだから遠慮する意味はなかった。
 音を消して院内を歩きながら、ひとりとなったしのぶは今後の方針を思案する。


 この半日間が勝負所だ。そうしのぶは予測を立てている。
 日が昇り出してから沈みゆく時間帯。鬼の身を焼き尽くす太陽がある時間。
 鬼舞辻無惨を始めとした鬼が自由を奪われている今は、道中で鬼と遭遇する可能性を無くせる事で迅速に仲間との合流、情報の交換が叶う、邪魔なく状況を有利に動かすまたとない好機だ。
 装備と人員が整えられれば、こちらから打って出る目も出てくる。柱といえども苦戦は免れない上弦、さらには頭目たる無惨でさえも、太陽に身を晒されれば死は免れない。
 鬼にとって、太陽光とはそれほどの大敵なのだ。無惨が千年かけて克服の手段を模索し続けるほどに。
 
 この箱庭病院に鬼の気配は感じられない。参加者の配置が悪かったのか、巡り合わせが悪かったのか、自分達が最初に足を踏み入れたらしくまったくの手つかずだ。
 病院、という治療施設を先んじて押さえられたのも後に大きな利になるだろう。
 戦いが激しくなれば負傷者も多くなる。動けない味方は時として重荷になってしまう。
 多くの傷病者を収容、治療出来るこの施設が先に鬼に陣取られては、持久力で鬼に劣る人間は息切れしてしまう。
 今後も戦いが起きて傷を負った参加者が、治療を目的に病院を目指して来る事だろう。
 悠長に居を構える猶予もないが、そこに鬼が待ち受けて迎撃される、という顛末を阻止出来ただけでも十分だ。
 そもそも設備を用意しているのが主催者の側、というのに不信と不満は尽きないが。

 当然だが、鬼が動けなくなるといって殺し合いが一時的に停止するなどとは考えてない。そんな杜撰な設計をする主催ではあるまい。
 人と人は争う。兵器があり、戦争がある。人の世の裏で活動する鬼殺隊であってもそれは知っている。
 鬼のような破壊を齎し、鬼の如き残虐を犯す事がある。
 鬼殺隊は人の世に極力干渉しない。鬼の存在を伝聞する事もない。
 鬼殺隊を認める事は、鬼を認める事であり。
 鬼の力と、鬼狩りの剣士の力を認めるという事だ。
 その力に魅入られ、悪用せんとする者が少なからず現れる。だからこそ政府非公認という組織の体を崩してないのだろう。
 鬼殺隊は悪鬼を滅殺するのみに殉ずる純粋な集団であるべきだと。権力に囚われてはいけないと。

 此処ではその縛りも通用しない。
 恐らくいるのだろう、人でありながら人を殺す者との遭遇。 
 恐怖に取り乱し追い詰められての行為ならいい。保護し、気を宥めて匿うつもりでいる。だがそうでない―――喜々として人を殺める徒がいたのならば。
 今までとはまた別種の苦境を強いられるかもしれない。しのぶも柱の決断をせねばならなくなる刻が来る可能性がある。
 現状はしのぶの理解の範疇を逸し、あまりにも不確定な要素に満ちている。
 会場の地理は。主催の正体は。殺し合いの意図は。
 どれも不明瞭であり情報不足。未だ生きた参加者と一人しか会えてないのは、幸運とは呼び難い。 
 中々に前途多難な中でひとつだけ、思案する考察がある。

532打々(蝶々)発止 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:34:04 ID:tHjlpQeg0



 道中で広斗と交わした会話の中で、しのぶは自分と広斗とで幾つか知識の齟齬がある事に気づいた。
 違和感でいうならば、この舞台に足を踏み入れた時点からあった。地面から家々という街の造り。任務で赴いたどの土地とも違っている地に足を踏み入れた感覚。
 BBが造り出した、血鬼術に近しい空間なのだろうとひとり解釈し、気に留める事も無かったが、この機会に思い出したのだ。
 年号の差。時代の差。認識の差。両者の差を埋め合わせていくと、しのぶと広斗が生きていた時期はおよそ百年ほどの開きがあった。
 

 つまり導かれる結論は。
 BBは、この殺し合いを仕組んだ者は、違う時代を飛び越える技術を持っている。


 本当に――――――本当に?
 過ぎ去った日に戻る事は出来ない。盆から溢れた水が返らないように、進んだ時計の針が元に戻せる事は決して無い。
 死を常に隣り合わせる鬼殺隊でなくとも、世を生きる人々なら当然に弁えている摂理だ。その摂理を、あれらは覆したというのか。
 馬鹿げていると一笑に付すのは容易い。けれどそんな逃げ道を塞いでしまうほど、推察を後押しさせる符号した要素が多い。

 病院内にある、しのぶが見た事のない先進的な設備の数々。
 広斗が虚言を弄する人物でないのは数時間の交流でも理解している。
 そして、本来ここにはいていい筈がない、確かに死を迎えた人間。

 煉獄杏寿郎の名が名簿に記されているのをどう捉えたものか。六時間経った後も頭を捻るばかりだった。
 だがここで時を越える技術という要素を入れると、謎の説明が綺麗についてしまう。
 死んだ人間を生き返らせる。
 過去と未来を行き来する。
 どちらがより脅威であるのかはともかく、齎される結果は同じ。
 宮本武蔵や源頼光といった名も、単に故人にあやかっただけではない可能性が出てくる。
 腑に落ちて、しまうのだ。

 仮の考察が膨らんで収拾がつかなくなっていく感覚がする。良くない兆候だ。
 所詮は脳内だけの空想だ。碌に情報も揃ってない時点で必要以上に詮索するものではない。
 専念すべきは今。死者に思いを馳せ、あり得ぬ希望に手を伸ばすなど柱にはあってはならぬ。

「鬼のいない世、ですか」

 不意に口を衝いて言葉が出る。
 その意味するところの大きさ、重さは、柱ならざる鬼狩り全てが理解するところにある。
 鬼殺隊という組織を支えるのが文字通りの柱であり、御館様こと産屋敷の当主を大黒柱とするならば、今の言葉こそは鬼殺隊の存在する意義そのもの。
 それほどの言霊なのだ。

 百年の先の日本に生きる広斗は、鬼の存在を知らない。
 元々鬼の認知度は著しく低い。世の大半はまったく関わらずに生活しているものだ。
 出会ってないだけで、あいも変わらず鬼は人を喰らって生きている。歴史の裏で、日陰の闇で暗躍してる。そういう予想も出来る。

 ああ。しかし、けれども。
 みだりに問い質したくはなかった。関係が円滑に進められるまで待とうと思っていたが、一人になると。
 考えてしまう。これだけはどうしても思いが止まらなくなってしまう。
 
 鬼の討滅。鬼舞辻無惨の打倒。
 胡蝶しのぶが、鬼殺隊が、願ってやまない未来が叶った道に、彼らは続いてくれているのかと――――――

533打々(蝶々)発止 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:34:57 ID:tHjlpQeg0

 

「―――――――――」

 気配の察知に、瞬時に思考が引き締められた。
 既にそこにあるのは不確かな未来に期待を抱く少女ではない。鬼殺隊蟲柱・胡蝶しのぶの顔が表に顕す。
 研ぎ澄ました感覚が捉えたのは、生憎他の参加者ではない。少なくとも、既にその資格は喪失してるであろう。
 任務の中途での限りない経験で嗅ぎ慣れた、血臭に死臭。死の気配だ。

 羽音を立てず舞う蝶の如く無音の足運びで気配の先を目指す。やがて行き着いたのは入院中の患者を寝かせる病室の一室だ。
 扉は開かれている。適度な緊張と弛緩に精神を留め、慎重に中に足を踏み入れる。

「……」

 眼下の死体は、しのぶの予想も想像も越えない冷たい現実に仰臥していた。
 首から上の本来あるべき箇所を何処かに忘れてしまった不格好なヒトガタの前で、しのぶは腰を下ろして骸を検める。
 体の硬直具合からいって、死後からおよそ六時間。そして記憶が刻まれて新しい、見せしめの処刑に選ばれて犠牲者と同じ制服を見て、概ねの経緯を把握した。
 悪趣味としか言いようがない玩弄に腸が煮えくり返る思いを抱く。
 首から先がないのは、わざわざ体だけ此処に飛ばしたからか。殺されたのすら理不尽の極地であるのに、死体まであえて放置する辱めを受けるなど。
 鬼であるかは不明だが、残酷さにかけてあのBBという少女は鬼以上だ。改めて許せないという怒りが装填されていく。
 見つけるのが自分で良かった。異常馴れしていない一般人であれば、見ただけで肝が潰れかねない。
 惨劇の種を摘み、死者に安寧を捧げる為にも丁重に弔ってやりたい。善逸の時と違い此処は病院だ。遺体を安置出来る部屋もあるだろう。
 
「これは……」

 辺りを見回した目線が、室内に残されたもうひとつの異物の存在を発見した。
 無造作に放り捨てられていたのは、参加者共通に支給されている謎の容量を持つ鞄だ。
 蓋は、開いていた。

 言い知れない不穏を感じ鞄を手に取って入ってる品を出していく。地図や名簿など基本的な物品の他、無造作に配られた道具もあった。
 下部を翻すと名札が封入されている。日本語で記された四文字を、しのぶは正確に記憶した。
 遠くから諍いの音が聴こえたのは丁度その時だった。
 
「今のは、広斗さんですかね。危ないと思ったら逃げるよう言っておいたのに、まったく」

 溜め息を尽き、立ち上がる。 何フロアも隔てた先だが、柱の感覚は聞き逃さない。
 同僚の水柱ほどでないが、広斗もあれでいらぬ誤解を受けそうな質をしている。別れてからいい時間が経ち、純粋に身が心配でもある。
 自前のとでふたつになった鞄をひょいと持ち上げ、発つ前に一度だけ亡骸に振り返る。
 
「すみません、藤原さん。弔うのはもう少しだけ待ってくださいね」 
 
 たんっ、と軽やかな音をひとつ立て、しのぶの姿はかき消えた。
 後にはもう、何も残らない。熱が引いていく部屋で、冷えた死体だけが転がっているだけだった。




 ◆

534打々(蝶々)発止 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:36:31 ID:tHjlpQeg0

 


 美術館からバイクを走らせて、目的地の箱庭病院には何事もなく辿り着いた。
 襲撃もなければ、他に参加者との遭遇もない。殺し合いという現状を認識していた割には拍子抜けもいいところだ。
 だが安穏とするほど腑抜けられる筈もない。窓の外を見れば街中で一際大きなマンションが完全に倒壊して姿を消し、そこかしこで火の手の煙が上がっている。
 紛争地もかくやの治安の悪さを誇るリトルアジア並の規模で、事態は紛れもなく進行している。それに偶然居合わせていないというだけの事。
 危機に直面しないのは幸運と呼べるが、自分が無視されて置いてけぼりにされるのは、単純に気に食わない。
 さりとて闇雲に動き回るわけにもいかず、兄に繋がる手がかりもなく。雨宮広斗の気分は少しばかり斜め上だった。

 しのぶは同伴していない。病院内の探索に別行動を取るとそそくさと中に入ってしまった。
 明確にここに来た目的があるしのぶと違って、こちらは手持ち無沙汰だ。
 はじめは適当にぶらついていたが、何もしない方がかえって苛々が溜まってくる。
 これで何一つ成果がありませんでしたと言った時のしのぶの顔を想像するとなお癪だ。
 雨宮の仕事は運び屋であって調達屋ではない。なのでこういう施設で目星のつく場所は限られていく。

 ――――――重要なもんは普通、偉い奴が持ってるもんだろ。 
 
 そんな短絡ながら真実の一端を突いた理由で辿り着いた、変哲のない『院長室』のプレートが提げられた部屋のドアノブを握る。
 鍵もかかっておらずあっさりと扉が開いた。中に入っても、そこは小綺麗にまとめられた普通の部屋だ。
 とりあえず、デスクの棚に詰まった資料を引っ張り出した。
 『歴代炎柱の書』『特異点記録亜種Ⅲ〜下総国〜』『亜人耐死実験報告書』『鬼哭指南書〜著・吉備津彦命〜』『アマゾン計画書』『OREジャーナル特集〜失踪事件の真相〜』『フラスコ計画・過負荷の部』『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE』…
 重要そうな研究資料から民話集じみた古い書物、胡散臭いゴシップ記事まで、雑多に揃えられたものを数ページ適当に流し読む。
 どうやら『鬼』『怪物』『不死』といった種族について調べた資料らしい。
 さわりだけでも読み取れるほど、内容は突飛で、それでいていやに真実味のある書かれ方だ。
 まるで本当にそれらを見て、研究してきたような。
 綿密な実験結果の詳細や取得したデータが記されてるものもあり、冗談にしても手が込んでいる。
 院長の趣味か。それとも、『それ』を目的にした施設なのか。

 ―――鬼とか鬼殺隊とか、あいつも言ってやがったな。

 さんざ専門であると言っていたのだ。彼女の方が知っている事も多いだろう。そうなればさっさと渡すに限る。
 デイバッグに資料を片っ端から詰めていく。どれだけ中に入れても膨らまず重さが変わらない不思議極まる道具だが便利ではある。普段の仕事道具にしたいぐらいだ。
 そんな風に別の事を考えてたからだろうか。無造作に掴んだ本と本に挟まっていた一枚の紙片が床へと滑り落ちた。
 
「あ?」

 拾おうと屈んで厚紙を拾うが、そこに書かれた文字に広斗は疑問の声を上げた。
 超常的なものは半ば受け入れていただけに、広斗に唯一馴染みのある名称だったことでかえって反応したのだ。

「なんで無名街の地図なんかがあるんだ……?」

 長兄・尊龍の居所を探して訪れた地区のひとつ。この殺し合いにも呼ばれているスモーキーが率いるRUDE BOYSが守る治外法権の街だ。

「……地下か?」
 
 構造や階層の表記を見るに、どうも地下空間の見取り図らしい。
 無名街にそんな場所が存在するのも謎なら、そんなものがここに紛れ込んでるのも謎だ。
 それとも逆接として、ここに意味があるのか。そういえば南部の島と切り離されたエリアにも無名街が―――

535打々(蝶々)発止 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:37:45 ID:tHjlpQeg0



「人間・認識」

 
 アナウンスのような抑揚のない声に、地図に向けていた顔を正面に上げる。
 ここまで近くにいながら参加者の気配に気づかなかったなど一生の不覚だ。
 いや、こうして目にしていてすら気配を感じてなかった。

「人間・認識」

 言ってしまえば、そこにいたのは人形だ。
 着物を着た童女の格好をして、手と足を四本ずつ備えた、人の形をしていても人ではないものだ。
 カタカタと硬質音を鳴らして口を開閉して喋る様はテーマパークに飾られるロボットそのものだ。
 差異があるとすれば、病院という場所に表れるには不釣り合いなのと、手一本につき握られた計四刀の凶器があること。
 四季崎記紀の完成形変体刀が一、微刀『釵』(かんざし)。またの名を日和号。

「何だてめえ」
「即刻・斬殺」

 返答はなく、命令の反芻だけが返さえた。
 躊躇と容赦が最初から欠如した、機械らしい無駄のなさと無慈悲さで刀を振り下ろした。

「ッ!」

 幸運だったのは、扉の間が刀を持って入るには狭すぎて一度壁を壊す工程が加わったことだろう。
 人形に襲われるという、この地での初めての怪異との遭遇に面食らった広斗は間一髪で飛び退き両断を免れた。

 穏当な選択肢は早速失われた。
 対話の段階もすっ飛ばした問答無用の強襲。両断されて崩れ落ちるデスクを見て、広斗の選択は決定した。
 コレが参加者の枠なのか別に操ってる奴がいるかの判断は後回しでいい。まずは、ぶっ壊す。

「即刻・斬殺」

 迫る日和号。多腕多脚を忙しなく動かす風体はやはり異形だ。
 ドスや凶器を持った相手は飽くほどに勝利してきた。銃器で武装した相手を相手取った。日本刀を携えた強敵との戦闘は心得ている。
 だがしかし、腕が四本いる敵とは戦った経験だけはない。百戦錬磨の雨宮兄弟にして完全なる未知の戦法である。

 広斗の眼は怯んではいなかった。拳の構えは正調に、勝機を秘めた眼だ。
 人でないとしても、コレは人の形をしている。腕を動かし刀で攻撃する。なら今までの経験は役に立つ。
 速さも手数も予想し得る最大値まで設定する。単騎という認識を捨て、集団を相手取ってると想定しろ。腕が四本あるなら四人の相手が一斉に斬りかかってくると思え。
 狭い室内に高い身の丈、長い得物。初撃を見た時点で組み立ては出来ている。後は鍛えた格闘に託すのみ。

 刀が振り下ろされるより先に間合いに勇んで飛び込む。一刀が背を掠め、間隙を埋める第二第三刀の横薙ぎを地に這うが如く屈んでかわす。最後の四刀目は始動前に肘で鍔から止めた。
 瞬間、がら空きになる胴。必殺の零距離(ゼロレンジ)。こじ開けた肉薄の間合い目がけ、溜めていた体重を拳に向かわせ―――解き放つ。

536打々(蝶々)発止 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:38:13 ID:tHjlpQeg0


「らァッ!」 

 人体を殴ったのとはまるで異なる打撃音が響き渡る。
 鍛え上げた格闘家といえども悶絶必死の急所。最悪内蔵破裂に至るほどの会心の最大威力。

「人形殺法・春一番」

 突き出された前二脚を腕で受けられたのは、人形を打ったゆえの手応えのなさから来る違和感だ。
 臓器もなければ痛覚もない日和号に肝臓打ち(レバー)も意味がない。どれほど痛打を与えようとも、機能停止に至るまで行動に一切の支障は出ない。

「ちっ……」

 後退する広斗は唇を噛み締める。受けた腕に走る痺れと、垂れ落ちる鮮烈な赤い水。
 日和号が蹴り飛ばすと同時、手首が文字通り旋回して下がる広斗の腕を掠めたのだ。
 人形なら関節動作の限界がない。そして、人形である以上、牽制やフェイントにも引っかからない。
 開発者が意図したかはともかく、近接戦の巧者であるほど日和号の前には隙を晒すのだ。

「人形殺法・竜巻」

 内側に入る隙も逃げ場もない、四方からの同時の斬り付け。
 辺りの壁も、調度品も、構わす切り裂きながら前進する。戸棚が割れ、ガラスが四散し、砕けた鏡面が光に反射する。
 鬼であればいざしらず、太陽光発電という戦国期に先進的にも程がある動力源を持つ日和号には何の障りもない。目が眩む不手際も起こさない。

 だが、今回に限っては――――――それが仇となった。



「言っとくが」
 
 今度は、余裕をもって打ち払えた。
 バイザー越しの視界からは、これまでにない情報が送られてくる。さっきよりも遥かに緩慢になった動きを見切り、流して拳を叩き入れる。
 反応が追いついたのはスーツにより身体能力が増幅されたからだが、複数に迫る刀を的確に捌き胴体に拳を当てたのは鍛錬の賜物。
 
 使う気は元々なかった。
 同梱された説明書を見てもビタイチ信用ならなかったし、武器を使って戦うのは自分の、兄弟の流儀に合わない。
 何よりその名前とレリーフの意向がこの上なく気に食わないのが一番の理由だ。使うことはないのだと考えていた―――こうして本物の人外と会うまでは。

 日和号が周囲を斬り刻んで到達する前に『変身』は完了していた。飛び散った鏡面に映ったベルトが腰に装着され、デッキをはめ込む。
 黒衣だった広斗の全身は、なお黒い装甲に覆われていた。
 黒い龍の力を纏う鎧―――仮面ライダーリュウガ。
 九つの龍に反抗してきた男が使うには、皮肉が過ぎる力だった。

「仕掛けてきたのは、てめえが先だ。ぶっ壊されても文句言うなよ」
「人間・認識。即刻・斬殺」

 敵対者の変化には目もくれず、殺人人形は命令を遂行する。
 『超常』の土俵を同じくした戦いの幕が上がった。

537打々(蝶々)発止 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:39:01 ID:tHjlpQeg0


【B-7・箱庭病院/1日目・午前】
※院長室に各世界の『鬼』『怪物』『不死』に関連した資料があります。ただの雑誌だったり信憑性に乏しいものも。

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[状態]:健康。
[装備]:冨岡義勇の日輪刀
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜2(毒に類する品)、ランダム支給品1〜2(千花)、医薬品、医療道具多数
[思考・状況]
基本方針:鬼殺隊の同僚と合流する。
1:自分の日輪刀を探す
2:研究施設に向かいたい
3:日が暮れるまでに参加者と連携、鬼を狩る準備を整えたい
4:鬼のいない世、ですか
[備考]
※9巻以降からの参戦
※地図上のアルファベットと英数字の読み方を覚えました。

【雨宮広斗@HiGH&LOW】
[状態]:片腕に刀傷
[装備]:仮面ライダーリュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、シャドウスラッシャー400、『鬼』『怪物』『不死』の研究資料、無名街地下の地図
[思考・状況]
基本方針:???
1:雅貴を探す。
2:とりあえずはしのぶと行動。
[備考]
※少なくともREDRAIN後からの参戦です。
※鬼滅世界に鬼について認識しました。
※少なくとも九龍グループがこの殺し合いとは無関係と考えています。


【日和号@刀語】
[状態]:胴体部にへこみ
[装備]:刀@刀語×4
[道具]:
[思考・状況]
基本方針:藤原千花以外の参加者の斬殺
1.標的・斬殺
[備考]
※OP時点で死亡した藤原千花のデイバックは、箱庭病院の一室に置き去りにされています。→胡蝶しのぶが回収しました。

【仮面ライダーリュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎】
雨宮広斗に支給。
鏡に向かってかざすことで、仮面ライダーリュウガへと変身できる。

538 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:41:00 ID:tHjlpQeg0
投下終了です
◆3nT5BAosPA氏の『からくり起床談』で、藤原書紀の遺体の有無については特に無かったので登場させましたが、問題があればご指摘ください

539名無しさん:2020/02/10(月) 09:17:24 ID:VobS2bhQ0
投下乙です
ハイロー勢は身体能力高いからライダーになれば十分な戦力になるね
後出てないデッキはタイガだけかな?

540 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/27(木) 23:55:44 ID:xW8E46Tc0
武蔵ちゃん、婦長、かぐや、巌窟王、雅貴、義勇
予約します

541 ◆KbC2zbEtic:2020/02/28(金) 09:57:59 ID:GoDUW2OU0
前園甲士、マシュ ・キリエライト、予約します

542 ◆KbC2zbEtic:2020/02/28(金) 10:31:38 ID:GoDUW2OU0
予約を破棄します

543 ◆KbC2zbEtic:2020/02/28(金) 10:35:33 ID:GoDUW2OU0
すみません、マシュの位置を勘違いしていたため再予約します

544 ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:42:45 ID:Afhk/Tfo0
投下します

545前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:44:26 ID:Afhk/Tfo0


円城のナノロボを回収し、さしあたっての危機にも遭遇せず、前園甲士は上機嫌だった。


「クク…いいぞ、流れは確実に私にきている…」


呟きを漏らしながらほくそ笑み、懐からあるものを取り出す。
それは彼が持っていたステルスドローン。つい先ほど工藤達に譲渡されたのと同じ物だ。
ステルスドローンは複数支給されており、コッソリと彼は譲渡したものとは別に隠し持っていたのである。

この殺し合いにおいて、情報と索敵は何よりも重要だ。
如何なる強者も、不意を撃たれれば脱落する可能性を孕んでいる。
そんな状況下で交換とは言え、ステルスドローンを全て手放す選択肢は前園の性格上ありえなかった。


「さて、工藤たちは、と…んん?」


工藤たちの様子と周囲に危険人物――あの鬼の娘などがいないかを検めるためにステルスドローンを起動する。
ステルスドローンの働きにより工藤たちは直ぐに見つかった。
しかし、映像を見た前園は怪訝な声を漏らす。
まず、画面と音声、両方ともノイズがひどい。
映像に映っている空間自体が何か異様な…工藤の言葉を借りれば一種の異界のような空間と化していた。
そして、そこで工藤と姐切は何かと対峙している様だ。
黒い影のような…得体の知れない存在。それと対峙する工藤もまた、ナノロボ適合者のような物々しい雰囲気を出していたが、ドローンの映像だけでは詳細を探るのは不可能と判断。


(これは…少し合流するのは待った方がよさそうですね)


明かに、今工藤たちが対峙しているのはバケモノだ。
炎噴き出す黒く塗りつぶされたその威容は、あの鬼の娘のような存在と見て間違いない。
そんな怪物がいるところにノコノコ戻るのは前園からしてみれば愚挙以外の何物でもなかった。


(まぁ…奪ったデイパックにあった”コレ”を試してもいいですが…真っ向からとなるとやはりリスクが高い)


愛月しのと竈門禰豆子から奪った支給品が入っているデイパックを撫でる。
非常に強力な威力であると説明書には書かれており、一体どれ程の物か確かめておきたい気持ちはあったが、あの参加者ですらないような怪物に使う価値があるのかは疑問だ。
工藤たちは所詮駒でしかない事実も鑑みて、此処は静観の構えを取る事に決めた。


「さて、静観するのはいいが…ならばこれからどうするか―――!?」


そう考え、再びドローンの映像に意識を戻すと、猛スピードで此方に向かってくる少女が見えた。
その速度は明らかに常人の領域を超えており、もしゲームに乗っている手合いなら今から遭遇を避けるのは困難だ。
迂闊だった、前園は舌打ちしながらドローンを呼び戻し、懐の拳銃を構える。
少女が鬼の娘と同類ならばこんなもの豆鉄砲でしかないが、それでもデイパックから新たに武器を取り出す時間は最早ない。


「止まりなさい!!」


前園がそう叫ぶのと、少女が路地の先から姿を現したのは殆ど同時だった。

546前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:45:47 ID:Afhk/Tfo0

                
               ◆


急がなければ。
オルテナウスの出力を全開にして、マシュは駆ける。
その速度は既に自動車並みだ。しかし、それでもパフォーマンスは異聞帯での物よりもかなり落ちる。
カルデアからのバックアップがほぼ絶たれている。その事をマシュは確信していた。

その為バイタル等の体調・状態管理やオルテナウスの動作チェックは全て自分が行わなければならない。
だが、デミ・サーヴァントの自分はまだ良い。より逼迫しているのは名簿に名を連ねる…酒?童子の様なカルデア側サーヴァント達だろう。
抑止力によって召喚されたサーヴァントとは違い、カルデアのサーヴァントはカルデアの電力を変換し、藤丸立香を中継した魔力供給に依存している。
カルデアとのつながりが絶たれているという事は、その電力による魔力供給も当然カットされているはずだ。
サーヴァントは一騎一騎が非常に高性能な兵器である。しかしそれ故に存在するだけで大量の燃料を消費する。
それでも、ただ現界しているだけなら一切魔力供給がなくとも自前の魔力だけで数日は保つだろう。
しかし生憎、現在は殺し合いという生存競争の真っただ中。
戦いが激化すれば、補給を断たれたに等しい彼らは必然的に苦境に立たされる事となる。
村山の様な常人とサーヴァント、殺し合いをさせるならばこれぐらいのハンデは必要だろうとBBは判断したのだろう。
ともあれ、一刻も早く合流し、戦力を整える必要がある。しかし―――、


(今は、クロオさんたちを…)


自分を妹と呼んだ二人。
凶行を働いたが、自分の言葉によって思い直してくれた二人。
自分だけを、危険から遠ざけようとしてくれた二人。
助けなければならない。危険すぎる特攻を止めなければならない。
その使命感が、マシュを突き動かしていた。

だが、彼女は気づいていなかった。
その強すぎる決意が、使命感が、彼女の視野を狭めていたことに。
具体的に言えば、向かわなければならない教会とは逆方向へ進んでいることに。
そして、方角の誤認によって彼女は一つの出会いを果たすこととなる。


「止まりなさい!」


駆け抜けた路地の先に現れたのはスーツを見事に着こなし、眼鏡をかけた男だった。
その手には拳銃が握られており、警戒していることが伺える。
急いでいたが、この偶発的な遭遇によってマシュは足を止めざるを得なかった。


「落ち着いてください!此方に敵意はありません!!」


両手を上げて此方に敵意がないのをアピールする。
しかし、目の前の男の懐疑的な視線が消えることはなかった。
油断なく拳銃をオルテウスの装甲に覆われていない顔部分へと向け、牽制してくる。


「さて、そんな鎧を着こんだ人間に言われてもな。
さっき君よりも小さな鬼の少女に襲われたばかりな以上、簡単に信用はできない」
「鬼の少女…酒?童子さん…?」


オルテナウスの武装を明らかに警戒する男。
しかし流石に拳銃を向けられた状態で武装解除するという選択肢はマシュにも選べない。
結果、にらみ合うような状況となり二人の間に緊張が走る。


「もしかしたらその鬼の少女は私の知り合いかもしれません。そうだった場合は必ず弁明します!
だから…道を開けてくれませんか?早く教会に行かないと……!」
「教会?」


マシュの言葉に訝しむような顔をする男。
そして、銃をこちらに向けたまま何かを考えている様だった。
一刻も早く教会へ馳せ参じなければならないマシュの焦りが募る。
オルテナウスを起動した状態ならば銃弾一発程度問題はない。
いっそ無視して行ってしまおうか、生真面目な性格である彼女の思考にその考えが過った時だった。


「……いいでしょう、急いでいるのは分かりました。しかし、君は大きな勘違いをしている」


そう言って、「前園甲士といいます」と、男は名乗りながら銃口を下ろしたのだ。
どうやら此方に敵意がない事は理解してもらえたらしい。
銃を懐に仕舞いなおす前園を見てマシュも俄かに安堵し、名乗り返す。

547前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:46:16 ID:Afhk/Tfo0

「……マシュ・キリエライトと言います。それで…その、勘違いと言うのは?」
「それを教える前にまずその鎧はどうにかなりませんか?
私は君を完全に信用したわけではないので」


オルテナウスをどうにかしろという要求にマシュは顔を曇らせる。
しかし、先に銃を下ろしたのは彼方なので断りにくい。前園は魔術師ではないようだし、敵意も今のところ感じられない。
オルテナウスの装甲が威圧感を与えてしまうというのも分からない話ではない。
加えて、酒?童子が彼を襲ったのではないかという疑惑もある。
仕方なく、敵ではない事を理解してもらうために一度マシュはオルテナウスを解除することにした。


「これで、いいでしょうか?」
「えぇ、結構です。時間もないようですので単刀直入に言えば―――教会は逆方向です」


「え?」と素っ頓狂な声を上げてマシュは前園を見つめる。
彼はやはり、という顔を浮かべるとデイパックの中から地図を取り出し、周りの風景と照らし合わせながら教示した。
例え初めて歩く大地であっても、しっかりと確認を行えば聡明な彼女は前園のもたらした情報が誤りや偽りでないことは直ぐに理解することができた。


「……す、すみません!ありがとうございます!!」
「いえ、良いですよ。土地勘がないなら仕方ありませんし。君なら遅かれ早かれ気づいたでしょう。
礼と言っては何ですが、少しだけ情報交換をしませんか?勿論手短に」

548前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:46:46 ID:Afhk/Tfo0

深く頭を下げるマシュに対し、事務的に提案を行う前園。
マシュは僅かに逡巡するが、道を間違えてロスするはずだった時間を想えば…とこれを了承する。


「さて、まずは…何故教会に向かっているか教えてもらえますか?」
「はい、いきさつを話すと…」


彼女はまずクロオと累の存在と、彼らに出会ったいきさつについて触れ、そこから更に彼らが窮地に陥っているかもしれない事実を伝えた。
その話に対して、前園が食いついたのは累という鬼と、あの方という鬼たちの主についてだ。
彼に問われるまま、マシュは鬼が日光が苦手らしい事と、鬼である累達と確かに理解し合えたことを伝える。
ついでに酒?童子の事も話すと、彼を襲ったのは酒?童子ではないようだったことに胸をなで下ろした。


「……成程、いきさつは分かりました。では、最後に一つだけ
何故、貴方は襲い掛かってきた相手を助けようと?」


感情のくみ取りにくい声で問いかけてくる前園。
その瞳は眼鏡の反射によって伺うことはできない。
しかし、そんな前園に対してマシュはふっと微笑みを浮かべて、
揺るぎない意思を籠めて、返答する。


「……それは、私の先輩もきっと同じ選択をするからです」


人類史を守るために、多くの時代を、世界を巡り。
数えきれない物をその掌から零れ落として、それでもなお、震えながら手を伸ばすことを諦めないあの人ならば。
殺し合いでも変わらず、手を差し伸べ続けるだろう。
マシュはそんな彼の事を尊敬していたし、彼の様にありたいと思っていた。
そして、累もクロオも最後には自分の思いを理解し、危険から遠ざけようとしてくれたのだ。
……未来のないかもしれない身で、それでも自分を守ろうと。
ならば、自分もなけなしの勇気を振り絞らないわけにはいかない。
彼らの信頼に、か細くも確かに繋がった絆に答えないわけにはいかない。
かつて、轟音と炎にかき消されそうになっていた自分を見つけ、手を握ってくれた先輩の様に。
それが、マシュ・キリエライトの答えだった。


「……そうですか。それならもう、行くと良い。
可能なら私も同行したい所だが、残念ながら足手まといになるだろう」
「いえいえ!此方こそ…!前園さんのお陰で助かりました」
「フフ…貴重な情報、感謝します。君の先輩と、キミは実に良い人間らしい」


深く頭を下げる前園に対して、釣られるようにマシュもお辞儀を返す。
接触こそ険悪だったものの、前園甲士という男は最後まで紳士的であった。
五分に満たない邂逅であったが、また一人、信頼できる人間に出会えたことは僥倖だと言えるだろう。
そう考えた所で、

549前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:47:35 ID:Afhk/Tfo0




「―――けど、だから」


下げていた頭を上げる。
最後に前園をもう一度一瞥してからオルテナウスを再展開しよう、そう思った時だった。
前園の姿が消えていた。
立ち去ったにしては早すぎる。かといって、今自分がいる道には隠れる場所なんて何処にもない。
――――不吉な何かが背筋を駆け抜ける。
霊基を覚醒させ、オルテナウスを戦闘状態に移行させようとする。

しかし、前園を探したその一瞬。探してしまったその一瞬は、



「だから、死ぬんだよ」


彼女にとって余りにも致命的だった。
直後。全ての色彩を、逆光が塗りつぶした。

550前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:48:00 ID:Afhk/Tfo0





何が、起きたのだろう。
突然、目の前が光って……
私は朦朧とする意識で立ち上がろうとする。けれど立ち上がることはできなかった。
私の下半身は吹き飛んで、消失していたから。
オルテナウスによる防御が、間に合わなかったのだ。
助からないことは、見ただけでわかった。

「せん、ぱい……」

死がすぐそこまで来たのを感じるのはこれで三度目だ。
一度目の時も漠然とした恐怖はあった。けれど何も知らなかった私は「ああ、そうか」と受け入れていた感情もあって、
二度目の、時間神殿では先輩を守るために恐怖はなかった。
それなのに…三度目の今はどうしようもなく「死」が恐ろしい。

「先輩…ッ!」

だって、まだ何もできていない。
あの二人を助ける事も、
この殺し合いを止める事も、
凍結された汎人類史を救う事も、
何もなかった私に世界を教えてくれたあの人の笑顔を、もう一度見る事も―――、

「どうか」

だけれど、もう私にはもう何もできない。
それが口惜しく、無念だった。
だから、ただ願う。この殺し合いで流される血が私が最後でありますように、と。
先輩が生き残り、この殺し合いを脱出して、

「どうか、ご無事で…」

そしていつかきっと、ささやかで、暖かで、幸せな日々に戻れますように。
それだけを、ただ願う。


【マシュ・キリエライト Fate/Grand Order  死亡】




551前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:48:42 ID:Afhk/Tfo0

―――マシュ・キリエライトのミスは三つ。
一つは累の血鬼術によって作られた繭に包まれていたため、鬼舞辻無惨が教会のすぐ傍まで来ていることに気づけなかった事。
もしその事に気づいていれば、一刻の猶予もない程逼迫した状況を鑑みて、
彼女は銃を向ける前園を無視、そのまま教会に向かえずとも、命を落とすことは無かっただろう。

もう一つは情報交換の際、急ぐあまりBBについての情報を提示するのを怠ってしまった点だ。
主催と関りがあると言えば、誰もがその情報に食いつく。
そしてそれは、前園すら例外ではなかっただろう。
だが、しかしBBとの複雑な関係を話せばカルデアや人理の修復等の説明をしなければならず、確実に情報交換に時間を割かれる。
そうなれば、自分が情報交換をしている間に累とクロオが窮地に陥る恐れがあった。
加えて、前園が鬼の情報に食いついた事もあり、最低限の情報交換にとどめてしまった。
もし、BBとの関係を匂わせていれば、前園の中での彼女の利用価値はより高い物となり、圧裂弾を放たれることもなかったはずである。

そして―――累とクロオが彼女の説得に心を揺さぶられてしまった事。
もし、彼らがマシュの説得に応じずとも、オルテナウスの出力を最大まで上昇させれば脱出は可能だった。
その場合、彼女の警戒心は高いまま維持され、前園を前にしても奇襲を許すことは無かっただろう。
しかし人理を巡る旅路の果てに色彩を得た彼女は、手を差し伸べることを選び、それを成功させた。
その成功は麻薬の様に作用し、危機に対する嗅覚を鈍らせたのである。

人の悪意を知らなかったわけではない。人理修復の旅路で幾度となく彼女も直面してきた。
しかし、その時は隣には常にダヴィンチが、Dr.ロマンが、ホームズが、抑止力によって召喚された英霊が、そして藤丸立香が居た。
彼らが常にマシュを守り、導いてきたために、個人として人の悪意と相対する対峙した経験が彼女には足りなかった。

信頼は美徳であり、それによって生まれる絆は強く尊い。それは一つの真理だ。
けれど彼女はこの世には煮ても焼いても食えない人間もいる。その事を今一度心しておくべきだった。
金のためなら同僚の刑事を殺し、国をも裏切り、殺した同僚の息子すら利用する事を厭わない男。
―――生き恥。誰もがそう評する所業である。しかし前園甲士に生き恥を感じるような羞恥心はない。
それ故に、魔術王ゲーティアすら成しえなかった人類完殺を成功させることができたのだ。

552前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:48:59 ID:Afhk/Tfo0

「やっすい絆で命をかけるなんてアホらしいよね。三十億くれるなら俺は神をも裏切るよ」

ヘラヘラと、前園は手にした二つの切り札を見ながら先程までとは打って変わって軽薄な笑みを浮かべた。
一つは銃。
銃と言っても愛月しのから手に入れたベレッタではない。
溶源性細胞の始祖たるオリジナルアマゾンすら一撃で爆散させ、撃滅する魔銃。
その名を、圧裂弾と言った。
もう一つはマントの切れ端。
唯のマントの切れ端ではない。纏うものを不可視にする英霊ロビンフッドの宝具、『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』であった。
まず地図を取り出す際、顔のない王で包んだ圧裂弾を取り出し、意識をそらした所で顔のない王を自身に使用、姿を隠し圧裂弾による銃撃を行う。
作戦は見事に成功し、主武装の盾を欠いた状態で対戦車砲を上回る火力の奇襲を受けては、さしものデミサーヴァントも耐えきることは不可能だった。

「しかし…期待以上の威力だった。これならあの鬼相手でも通じそうだな」

実験台となってくれた少女に感謝の意を示しながら前園は銃を仕舞い、圧裂弾の衝撃で吹き飛んだ少女のデイパックも回収する。
この威力ならば、ナノホストや鬼の娘の様な超人相手にも十分に切り札となりうる。
もっとも、予備弾はあと五発しかないため積極的に殺して回ることは不可能だが。
方針としては、また暫く集団に溶け込み、機を伺うこととなるだろう。

「フッ、どうせ鬼に殺されるかもしれなかったんだ。
それなら、オレの役に立って死んだほうがよかっただろう?」

前園がマシュを殺した理由は一言でいうならば、丁度良かったからだ。
適度に隙があり、仲間を助けるために鬼に挑みに行くという死んでもおかしくない理由があった。
だから、自分の持つ切り札の実験台になってもらうことにした。(もし圧裂弾で標的が死亡しなかった場合、透明化したまま逃走する腹積もりだった)

そして、彼女を殺した犯人は全て鬼達の首魁になすりつけてしまえばいい。
全く丁度いい実験台よこしてくれたものだ。彼女を襲い、挙句絆されたらしい二人組の少年は。
そう思う一方で、両親に教わらなかったのか?と前園は心中でせせら笑う。
嘘つき、卑怯者…そんな悪い子供ほど、自分の様な本当に悪い大人の恰好の餌食になると言うのに。
もっとも、餌食になったのは彼らではなく、彼らが守ろうとした少女というのは皮肉な話だが。
少女が死んだのも知らず、せいぜい鬼同士つぶし合ってくれればいい。
日光が苦手という情報を得、教会にいるのが分かっているのなら近づかなければいいのだ。

553前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:49:16 ID:Afhk/Tfo0

「さて…工藤たちのほうは…と」

ドローンを起動し、工藤たちの方角へ向かわせる。
すると既に自体は終息したようで、あの影の怪物はいないようだった。
映像も先程までと違い正常なものに戻っている。
姐切に何某かの異常があったようなのは気がかりだが、今なら合流しても問題はないだろう。

(さて、圧裂弾の爆発音を聞いていた時のためのカバーストーリーを考えておかなければな…)

歩きながら考えていると、不意に今しがた殺した少女が慕っていた先輩とやらの存在が脳裏を過る。
名前を聞くのを忘れていたのは痛いが、まぁ出会ったら精々利用してやるとしよう。
そして、最後に「君の後輩を殺したのは、この前園甲士様だ?」と告白したらどんな顔をするだろうか。
正義感の強い円城ならば憎悪を露にして向かってくるだろうが…その彼も、もういない。

「まぁ…向かってきたところで後輩と同じ場所に送ってやるだけですが」

そうして、朝陽の祝福を浴びながら、蛇は再び歩き出す。
彼の背後に佇むハートとリンゴの生命の木が、目の前の男の凶行を止められないことを嘆くように、哀し気に煌めいていた。

554前園甲士様は告りたい-元公安の生存頭脳戦- ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:49:54 ID:Afhk/Tfo0


【C-3(南部)/1日目・朝】

【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、
    人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、ナノロボット(円城)のサンプル@ナノハザード   圧裂弾(5/6)@仮面ライダーアマゾンズ、『顔のない王』@Fate/Grand Order、ステルスドローン@ナノハザード、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)、ランダム支給品0〜1(累のもの、未確認)
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
2:工藤・姐切を利用する
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。


支給品解説

【圧裂弾@仮面ライダーアマゾンズ】
竈門禰豆子に支給。4Cが扱う対アマゾン用の兵器。一撃でアマゾンを確実に粉砕する威力を持ち、一体のアマゾンに命中するとそのアマゾンから弾丸の中の起爆性が非常に高い成分が拡散され、
他のアマゾンにも命中・大爆発する。その脅威的な破壊力から、市街地での使用は基本的に禁止されている。

【顔のない王(ノーフェイス・メイキング)@Fate/Grand Order】
愛月しのに支給。英霊ロビンフッドの宝具である緑の外套。完全なる透明化、背景との同化ができる。
光学ステルスと熱ステルスの能力をもって気配遮断スキル並の力を有するが、電子ステルスは有していない為、触ってしまえば位置の特定は可能。
外套の切れ端であるものを使い指定したものを複数同時に透明化させたり、他人に貸し与えても効果は発動する。

555 ◆KbC2zbEtic:2020/03/05(木) 21:50:11 ID:Afhk/Tfo0
投下終了です

556名無しさん:2020/03/06(金) 13:14:13 ID:8cXgzXh20
投下乙です

マシュ...;;早すぎるよ;;

557名無しさん:2020/03/06(金) 15:08:24 ID:0nHgvJII0
乙です
累君達の心を動かせた矢先にこの末路とは…
前園の下衆っぷりが絶好調だが、誰がこいつを止めるのか

558名無しさん:2020/03/06(金) 20:37:10 ID:Ba0pKdMs0
投下乙です
前園さん、まるでフルーツのライダーシステムを作った博士みたいな発言を
ロクに命中しない圧裂弾を当てに行く銃の腕前は凄い

559 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:28:44 ID:IPoAWe9c0
実質再予約に近い延長ですみません
武蔵ちゃん、婦長、かぐや、巌窟王、雅貴、義勇 改めて投下します

560かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:30:05 ID:IPoAWe9c0


 ───紅蓮の花が咲き誇る、というべきなのだろう。
 
 コンクリートの敷かれた殺風景な地面。
 彩りも鮮やかさも不要な自衛隊基地の一角に、華が咲いていた。
 華は裂かれていた。
 花弁の一つを綺麗に手折られて。
 溢れ出た命を塗料に撒いた、紅蓮の相図を足元に描いて。
 
 その凄絶なまでに美しい様は、やがて一つの花の名を想起させる。
 濃い紅色に放射される花弁。名を曼珠沙華。葬式花。墓花。死人花。地獄花。幽霊花。火事花。
 あるいは、彼岸花。
 死に近しい、この世の外への旅に手向けるような花である。
  
 その花を脇に抱え、地に伏せて血に落つるは一人の女。
 名を武蔵。異聞を巡る女剣士。鮮やかなる天元の花。 
 一度は敗北させた燕に一矢報いられ、その一矢で瀕死にまで追い込まれている。
 音に聞こえし二天一流は右腕ごと撃ち落とされ、
 可能性を見通す右の天眼は此処より以前の戦いの折、眼帯によって封じられた。
 残る五体も、流れすぎた血によって満足に動かすも能わず。
 下総国に蔓延る英霊剣豪を討伐した剣凜の冴えは見る影もない。今や失血死寸前の有様である。

「───、────────────っっ」

 いや。 
 まだ、墜ちてはいない。
 恐るべき事に、武蔵は意識を保たせていた。
 残る片目に壮絶なる執念を宿らせて。
 あくまで死に損ない。
 死に残っていても、死に切ってはいなかった。

 不意を打たれた。
 相手の得物が勝っていた。
 暫し傍らで共に戦った善なる者に毒気を抜かれていた。
 どれも全て狗に喰わせるべき捨て文句だ。
 少なくとも武蔵に余力があればそう吐き捨てていた。 
 油断、慢心、不甲斐ない、修行不足、精進が足りない、
 向かうのは腕を奪い去った敵でなく自分自身への怨嗟のみだ。

561かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:30:44 ID:IPoAWe9c0


 これが死合であればとうに終わっている。
 斬られ倒された武蔵はここで野垂れ死ぬ天命だ。
 しかし此処は殺し合いの場。
 数多の殺戮者の手があり、
 数多の人食い鬼の手があり、
 少ない数でも、救いの手があった。


「重傷者を確認。これより緊急治療を開始します」


 ───紅蓮の炎が燃えがってる、と言うべきなのだろう。
 
 烈火の如く燃え上がる意志を秘めた瞳に射抜かれた武蔵が、
 何かを言う前に詰め寄られ断面を押さえられた。
 敵意が無かったから接近を許したというよりは、
 対応する余力すら残っていなかったというよりは、
 女傑の全力の姿勢がそれらをまとめて跳ね除けて前進してきたというのが正しかった。

「右腕前腕部を喪失。即失血死してもおかしくない危険な状態です。速やかに止血処置に入ります」

 あれよあれよと───バーサーカー、ナイチンゲールは発見した傷病者の応急手当に着手する。
 血の海に沈む武蔵を発見したのは偶然ではない。
 生前も戦地の前線まで赴き兵士の看護をしてきた彼女である。
 かぐやから自衛隊基地が軍事施設であると聞かされた時点で調査するべき場所だと決めていた。
 軍事と医療は切り離せない───結びつかせた功績者たるナイチンゲールだからこそ、医療設備の確認は当然といえた。
 
「ミス・シノミヤ。貴女は患者への呼びかけを続けて下さい。
 意識を失ってはそのまま死亡しかねません。飛び上がって動かれても困りますがその時は私が押さえますので」

 腕に緊縛を施しながら、連れ立っていたかぐやに指示を飛ばす。
 目の前には瀕死の人間。
 輪切りにされた腕の断面、
 充満する血臭、
 地面を濡らす赤い水溜り、
 どれもショックから意識を断絶して余りある地獄の惨状。 
 常人であれば目にしただけで卒倒している。
 荒事に慣れた人間であっても冷静さを失い、指示を聞くどころではない。

562かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:31:34 ID:IPoAWe9c0


「大丈夫ですか。起きていればこちらを見て、意識を強く持ってください」

 だがかぐやは四宮家の令嬢だ。
 感情を切り離し、周囲から求められる事を瞬時に把握して行動するのは日常茶飯事だ。
 国を背負う家系の本流として徹底した英才教育を受け、
 それらを十全にこなせるだけの能力も有していた。
 他者の前で弱みは見せてはならない。
 世間に恥を晒してはならない。  
 たとえ殺し合いの渦中にいても、
 友人の惨殺体を目の当たりにしようとも、
 専門外の医療行為に携わっても、
 無様に狼狽える木偶の坊でいる事など、自分自身が決して許容出来るものか。

「ああ動かないで、大人しくして下さい。
 痛みを感じる?なら結構、生命活動が続いてる証です」
「押さえます。何か要りますか」
「縫合糸を」
「はい」

 生成した糸で傷口を縫合してる間、患者が暴れだそうとも、
 首根っこを押さえて大人しくさせて包帯を巻きつけていく様を目を逸らさずに。
 血の臭いに多少ふらついても鉄の理性で堪える。
 現代社会にあって一種封建制度めいた束縛を強いる四宮家の重圧と教育は、
 確かにこの時、かぐやを支える下地となっていた。

 だが何よりも五体に力を与えているのは、理屈ではない激情だ。
 会長が、白金御行が生きて此処にいるというのに、
 どうして自分が無様を晒せるのか。
 情けなく縮こまっているような女で彼と会って、並び立つに相応しいと胸を晴れるのか。
 そんな、善悪を彼岸の彼方まで放り投げるような乙女心こそが、
 結局のところ、今のかぐやを奮い立たせる源になっているのだ。 

 巌窟王を名乗る魔人と見えて以降、
 ようやく秀知院学園の衆目が知る所のかぐやの姿に立ち戻った。
 冷静沈着。怜悧玲瓏。
 自負してる生き様であれるのは良好な精神活動だ。
 自らの立ち位置を性格に把握出来る。

563かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:32:07 ID:IPoAWe9c0


「右目の負傷は数時間は経過済み、眼球にまでは及んでませんが目を開けるのは困難でしょう。
 それにこの治療痕は、もしや……」

 ナイチンーゲルもまた感謝の念を抱きこそすれ驚きはしない。
 彼女自身、医療の道を志す以前は上流階級の出として多くの学問を収めた才媛の身である。
 かぐやをひと目見た時から、自然な所作で窺える育ちの良さには気づいていた。
 蝶よ花よと愛でられるばかりの、跡継ぎの為の男を立てる付属品などではない、
 自立し、社会に貢献出来るだけの確かな教育の跡が見て取れた。
 余計な口を挟まず、慌てふためきもせず、
 言われた指示を迅速にこなし次を待つ。
 適確なかぐやの対応は果たして見込み通りであった。そもそも素人であれば救護になど関わらせない。
 根拠の不確かな民間療法や生兵法は二次被害を広げるだけである。

「応急処置、終了。ですがこのままでは血が足りません。体から大量の血液が流れ出てしまっている。
 一刻も早く輸血が必要です」

 地面にぶち撒かれた血の水溜りは、普通ならとうに失血死しているのが自然な量だ。
 それでも生きてあまつさえ意識を保ち続けられた武蔵の生命力。
 生き汚さ、ともいえる。
 ただ、死んではないだけだ。
 限界近くまで追い込まれており、断崖で足を踏み外す寸前の際だ。
 肉体に活力を与え稼働させるには、全身に血を巡らせなければならない。
 それをしたとて直ぐに動けるものではない。十分な休息を与え、健康状態を維持しなくてはいけない。
 果たして殺し合いの中で、どれだけ保てるものなのか。


「バイクのエンジン音……?」

 一般知識においては上に立つかぐやが気づいたのが先だった。
 聞き慣れてはないにしろ、近づいてくる排気音から二輪車を想像するのはごく単純な思考だ。
 高級車にも見劣りしない黒光りするボディが徐行してかぐや達の前で停まる。
 距離は10メートル前後。危険はないとアピールするような間合いだ。

「っと悪い、取り込み中だったみたいで。
 でもこの通り、あんたらに悪さするつもりはまったくないからさ。……ほらお前も座ってねえで」
 
 ハンドルを握っていた、ライダースーツの男は人好きのする顔で両手を上げ無抵抗のポーズを取る。
 後部シートに跨っていたもう一人の男も、半ば強引に前を向かされた。

564かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:32:48 ID:IPoAWe9c0

 
「あ」

 かぐやは呆けた声を出した。
 見覚えのある立ち姿だった。
 隻腕の侍姿の男から庇われる形で、一度出会っていた羽織の青年。
 あの時は後ろ姿ぐらいしか見ていないのだが、背格好から同一人物だと判別はつく。
 そして一分も無かっただろう出会いの記憶が蘇り、かぐやの背筋が"ぞわり"とした。

「誰ですか貴方達は。
 今はこの方の治療で手が空いていません。話は後にしなさい。それともどちらかは傷病者ですか?」
「いや怪我とかはしてないよ?ちょっと叩かれたり刺されかけたりはしたけどさ。
 怪我人の手当てを邪魔する気もねえよ。ただ俺達もここに用があって来たら先客がいて……って」

 警戒を解こうと弁明する男───雅貴はそこで、一歩引こうか引くまいかちょっと葛藤してるみたいに身を反らしてるかぐやに気づいた。
 視線は、自分の後ろで会話に参加せずあらぬ方を眺めてる義勇に向いていた。 

「……なあ、あっちの女の子ずっとお前のこと睨んでんだけど、
 ひょっとして知り合いだった?」
「いや」
「えっ」

 またしてもかぐやの一声だった。
 かぐやにとって義勇は命を救ってくれた身であるが、同時に得体の知れない男である。
 義勇にとってもかぐやは弦之介の凶刃を防いだのみで、その名も人となりも知らない。
 そういう意味合いの『知り合いではない』の否定であり、間違ってはいない。困った事に。
 
「いやって……あの子『えっ』て言ったぞ『えっ』て。
 やっぱ、なんか嫌われるような事したんじゃねえの?」
「俺は嫌われてない」
「どっから出てくんだよその自信」
「弦之介……隻腕の侍が彼女に刀を振り下ろそうとしたから、防いで先を行かせただけだ」
「命の恩人じゃねえか!だけで済ましていい話かそれ!」
「鬼殺隊の義務を果たしただけだ」
「うわ、ちょっとカッコいいと思っちまった……!」

 悪意ある人物でないのはわかってる。連れ合う雅貴にも悪い人ではなさそうだ。
 つまり警戒するような事はない。状況はひとまず安心ではあるのだ。尚更に気が重いのだが。
 救われた身で失礼な物言いをするのは四宮の名に傷をつける行為だ。
 逆に言えば、口に出すと失礼な台詞を言ってしまいそうになるという事だが。
 いずれにせよかぐやの心の平静は瞬く間に崩れ去った。

565かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:33:16 ID:IPoAWe9c0


 悪意ある人物でないのはわかってる。連れ合う雅貴にも悪い人ではなさそうだ。
 つまり警戒するような事はない。状況はひとまず安心ではあるのだ。尚更に気が重いのだが。
 救われた身で失礼な物言いをするのは四宮の名に傷をつける行為だ。
 逆に言えば、口に出すと失礼な台詞を言ってしまいそうになるという事だが。
 いずれにせよかぐやの心の平静は瞬く間に崩れ去った。

「失礼しました。まだ名乗ってはいませんでしたね。私、四宮かぐやと申します。
 先程は命を救っていただきありがとうございます。私が無事でいられたのも、あなたが物陰からずっと見守ってくれたおかげです」

 いつまでも礼を欠いたままではいけないと、姿勢を正して前に出て謝辞を述べる。

「お、どうも。俺は雨宮雅貴。そっか、あんたがかぐやちゃんか。
 ずっと守ってくれてたって、なんだやっぱいい奴じゃんかよー…………ん、ずっと?」
「ええ。なんでもこの催しが始まった始めからずっと私を物陰で眺めていたそうで」
「……………マジ?」

 ギギギ、と首を義勇に向ける雅貴。
 義勇、能面の表情でこれをスルー。
 高度な駆け引きにも見えるが、ここでの沈黙は誰もが肯定と受け取らざるを得ず。

「初対面の女性を物陰から観察し続ける……それはストーカーと呼ばれる行為では?」
「いえそんな。実際私は何の被害にもあってないですし、むしろ守られた側です。
 命の恩人を犯罪者のような呼び方をして貶めるだなんて、私からはそんな失礼な真似は。ええ」

 口に手を添えて、表情筋を引きつらせもせずあくまで淑やかに微笑む。
 自分はそんな意図は決してないという物言いを崩さずに。
 さりげなく優位な立ち位置に己をスライドさせる。
 無意識レベルにまで染み付いた四宮家の教育の処世術は、悲しいかなここでも遺憾なく発揮されていた。 
 
「あー……いやその、あれよ。こいつそんな悪い奴じゃねえよ?なに考えてんのかわかんねえけどさ」
「弁解するような事はない」

 疑惑の視線を浴びせられても、柱は揺るがずに。
 心に波紋ひとつ立てない凪の如く。
 もしくは空気の読めない図太さか。
 「俺のフォローが!」と愕然とする雅貴も意に介さず一言で切って捨て、基地に足を向けて去って行く。

566かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:33:53 ID:IPoAWe9c0


「お前はここにいろ。俺は先に行く」
「おい待てェ!この空気で勝手にいなくなるなって!辛いから!」

 いかにもお嬢様然とした女の子。
 和のテイストを孕んだサムライガール。
 赤い軍服の目つきの険しい外人。 
 いずれも劣らぬ美女揃いとお近づきになれるのは願ってもないが、流石にこの雰囲気で一人になるのは大変気まずい。 
 雨宮の守備範囲に女子高生入ってないし(将来とびきりの美人になるのは確信してるが)、
 目に巻かれた包帯や肘から先が失われた右腕の痛々しい惨状でコナをかけるわけにはいかない。
 残る一人は他の二人とはテイストが違った魅力を感じる。
 そしてデカい。何を置いてもとにかくデカい。さすが外国、遺伝子から違う。いけない話が逸れた。

「中には鬼が潜んでる可能性がある。俺は鬼を斬る。入ってくるのはその後にしろ」
「鬼……、それは虹色の瞳に文字の入った、人を喰らう青年の事ですか」

 今度は義勇が振り返り見据える番だった。
 鬼舞辻無惨直属の配下。十二の月片。
 鬼殺隊に身を置く義勇、柱における不倶戴天の敵。
 少なからぬ驚愕を込めて、初めて明確に意識して発言をしたナイチンゲールを向く。

「戦ったのか。十二鬼月と」
「生憎逃してしまいましたが。ドウマ、と名乗っていました。聞き覚えは?」
  
 無い、と即答する義勇。
 ナイチンゲールはなるほどと頷き、思考を回して、今後の方針を決定した。
 
「これは是が非でも話を聞かねばなりませんね。精確な情報の共有と統計は病原抹消のための必須項目です。
 それに貴方からは精神の淀みが見受けられます。少し診断をしましょう」
「俺は」
「彼女も最悪の状態は脱しましたが重傷には変わりありません。速やかに清潔な場所で安静にしなくては。もう無駄な時間は割けません。一分一秒が患者の命を左右します。ええそうです。手が届く限り私の目の前で、命を失わせはしないわ」

 言い分は無視し、誰にでもない、自分に向けて言葉を発しながら義勇の腕を掴んで引っ張っていく。
 腕を離そうと力を込める義勇だが、万力で挟まれたように五指は動かない。
 常中の全集中をしている柱でも剥がせない筋力に、どうしたものかと考えてるうちにずりずりと引きずられていく。

567かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:34:36 ID:IPoAWe9c0

 
「ミスター・アマミヤ。彼女を運んで下さい。なるべくゆっくりと、負担をかけないように起き上がらせて」
「俺もついてくるのは確定なのね。一応俺にも用事あんだけど……」
「早くする!」
「はい!」

 おかしい。初対面の女性にもう主導権を握られている。
 有無を言わせない剣幕に咄嗟に叫んでしまった。
 逆らう理由もないのだが、そんな女の尻に敷かれるキャラではないのに。
 知らぬばかりは本人のみな扱いに、ぶつくさ言いつつも倒れてる武蔵を担ぐ。

「ごはん……うどん……主に炭水化物…………あと美少女……それと美少年……できれば十歳ぐらいの……」
「あ、意外と余裕ありそう」

 耳元で煩悩まみれなうめき声が漏れる。
 掠れていも鮮やかとわかる美声だ。
 触れる体には女性的な柔らかさと、鍛え上げたられた筋肉が融和している。相当武道をやってるのだろう。
 こんな傷だらけでなければ色々な談義に花を咲かせられそうな、実に喜ばしいシチュエーションなのに。
 いったい誰がこんな美人の腕を落としたのか、相手の性根を疑いたくなる。

「ああミス・シノミヤ。貴女はこちらを」

 義勇を掴むのと別の手から渡された、包帯で包まれたものを受け取るかぐや。 
 端が少し赤く汚れた、ちょうど人の指から二の腕までありそうな長さの品。
 というか、さっきまでそこに転がっていた、武蔵の腕そのものだった。
 
「え」

 瞬間、幾度目かの"ぞわり"がかぐやの総身を駆け巡った。
 血の気が引くだけで投げ飛ばさなかったのは礼儀の薫陶の賜物か。たんにキャパオーバーなだけか。

568かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:35:11 ID:IPoAWe9c0


「切断面が非常に滑らかで細胞の損傷が少ないので。ひょっとしたら適切な処置をすればくっつくかもしれません。
 現代の技術なら可能なのでは?気が早すぎますか。
 鞄の中は清潔性が保たれるので詰めておいてください。確かBBの……真空、いや虚数空間、でしたか。
 まったくこれを使えばより清潔な医療環境を整えられるというのに……」

 硬直するかぐやを置いて先に進む。
 義勇はなおも逃れようと腕を振っているが、一向に解放されない。
 本気でないのを考慮しても、暴れる患者、もがく傷病者を物理でベッドで黙らせてきたナイチンゲールからすれば赤子の抵抗だ。
 義勇の踵が地面に線を引いていきながら、扉を開け基地の内部に足を踏み入れる。

「ミスター・ダンテス。聞いていますね。貴方もまた精神の負傷者です。
 来なければこちらから探しますのでそのつもりで」
「また誰かいんのかよ……」

 虚空に投げかけられる呼び声に、応えは返ってこない。
 柱の影から聞こえてくる謎の笑い声を聞いたのは、硬直して取り残され集団の最後尾にいたかぐやだけだった。


「……えぇぇぇ」

 いま、かぐやは切実に白金に会いたかった。
 殺し合いとか、精神の拠り所とか、そういうのを抜きにして、
 なんかもう空気を読まない人達のせいでげっそりした気分から救い出して欲しい思いでいっぱいいっぱいだった。

569かぐや様は困らせられる〜天然達の狂騒曲〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:36:30 ID:IPoAWe9c0


【B-5・自衛隊入間基地/1日目・午前】

【新免武蔵守藤原玄信@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(小)、右目に眼帯、右腕が斬られた・隻腕、血まみれ(いずれも応急処置済み)
[道具]:物干し竿@Fate/Grand Order(半分斬れてる)
[思考・状況]
基本方針:無空の高みに至る。藤丸立香と合流する。
1:----------
2:強者との戦いで、あと一歩の剣の『なにか』を掴む
[備考]
※参戦時期、セイバー・エンピレオ戦の最中。空位に至る前。
※彼女が知っている藤丸立香は、というより何故かこの宮本武蔵は、『男の藤丸立香』を知る宮本武蔵である。
※応急処置で一命は取り留めました。ただしまだ危険な状態です。

【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW、明神切村正@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、コブラのスカーフ、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×数個@現実、オルタナティブ・ゼロのカードデッキ(ブランク体)、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:弟、仲間と一緒に生還する
1:自衛隊入間基地でコブラの遺体を探す。 その後、禰豆子のもとへ義勇を連れていく
2:広斗との合流
3:中野姉妹、鑢姉妹、竃門炭治郎を探す
4:村山とスモーキーは……まあ余裕があったら探してもいいかな
5:いずれ水澤悠、竃門禰豆子と合流する
6:あのクラゲのバケモン、なんか気になるんだよな
[備考]
※水澤悠と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。落ち会う日時は、第三回目の放送後のC-7・街(悠たちと別れた場所)です。
※鑢七花を女性だと確信しています。

【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@FGO、
[道具]:基本支給品一式×2、木剣、ランダム支給品0〜3、真っ二つの半半羽織(私物)@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
0:禰豆子と会い、人を食ったかどうかを見極める。もしも食っていれば斬り、炭治郎に伝えた後に共に切腹する。
1:自衛隊入間基地で鬼を探す。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい】
[状態]:疲れ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、H&K MP7@仮面ライダーアマゾンズ、武蔵の右腕
[思考・状況]
基本方針:私はスキを諦めない
0:なんなのこの人たち……
1:会長と会いたい。
2:石上を殺した犯人を許さない。
3:巌窟王さん……本当にいたのね……
4:なんだか銃の使い方がわかった気がする
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます

【フローレンス・ナイチンゲール@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(大)
[道具]:基本支給品一式、魔術髄液@Fate/Grand Order(9/10)、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:救う。殺してでも。
1:目の前の病に侵された者たちを治療する。今の優先対象は武蔵。
2:傷病者を探し、救助する。
3:童磨は次に会ったなら必ず治療する。
4:『鬼化』を振り撒く元凶が、もし居るのなら───
5:かぐやの治療は特効薬の結果を見るまで保留。エドモン・ダンテスは捕獲次第直ちに治療する。
[備考]
※参戦時期はカルデア召喚後です。
※宝具使用時の魔力消費量が大きく増加しています。
※円城周兎からナノロボについて簡単な説明を受けました。
※沖田総司をカルデアに召喚された沖田総司であると認識しています。
※情報交換により前園、権三の情報を得ました。
※ナノロボの暴走による爆発に巻き込まれましたが、現時点では影響は不明です。

【エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:復讐。脱獄。その手助け。
1:巌窟王として行動する
2:何のかんの言いつつ、かぐやに陰ながら同行し、そのピンチには駆けつける(?)
3:メルセデスの治療は避ける。
[備考]
※参戦時期、他のFate/Grand Orderのキャラとの面識、制限は後続に任せます
※ナイチンゲールから見つからないところに消えましたが、かぐやになんかあったらすぐ駆け付けられるくらいのところにはいます。

570 ◆0zvBiGoI0k:2020/03/08(日) 22:39:24 ID:IPoAWe9c0
投下終了です

571名無しさん:2020/03/08(日) 22:57:43 ID:CYOo1gMI0
乙です
婦長と義勇さんのめんどくさい組み合わせと合間に挟まれる雅貴のツッコミに笑った
変人達に囲まれてお労しやかぐや様…

572 ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/17(火) 00:20:26 ID:WW6aDbPc0
藤丸立香、中野一花、中野二乃、中野三玖、猛田トシオを予約します

573 ◆KbC2zbEtic:2020/03/18(水) 21:37:58 ID:vjPmPLSU0
鷹山仁、とがめ、スモーキーで予約します

574 ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 00:48:30 ID:fKS6UALg0
投下します

575I Wanna Be... ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 00:50:22 ID:fKS6UALg0
それはジウの追跡から逃れるために、立香ら五人が北上している最中のことだった。

突如、がくりと立香の膝が崩れ、地に片膝を着けてしまう。

「大丈夫ですか?」
「へーきへーき。ちょっと躓いただけだから」

手を貸そうと顔を覗き込んだ猛田を、立香はやんわりと受け流す。
別に、彼が嫌いだとか信用できないだとか、そういった私的な理由ではない。
現状、この五人の中で唯一戦えるのは自分だけだ。
ここで気を遣わせて足を止め、ジウに追いつかれることになれば、今度こそどうなるかはわからない。
自分だけでなく、猛田も、一花も、二乃も、三玖も、みんな彼に殺されてしまうかもしれない。

それはダメだ。絶対に避けねばならない。

ここにいるみんなの為にも。
自分たちを守るために向かった沖田たちの為にも。
最期まで他者のことを想い続けたミクニの為にも。

これ以上失う訳にはいかない。足を止める訳にはいかない。

「心配かけてごめん!じゃ、行こっk「どこか休めるところを探そう」

強がってみせようとした立香の言葉に、三玖は被せるように提案した。

「三玖...平気だって。応急処置もさっきしたし」
「怪我がなくても疲れは簡単にとれないよ」
「けどここで止まってたらいつ危険が来るか」
「あー、じゃあ私が疲れたから休むわ。休むのは立香じゃなくて私。それなら気兼ねなく休めるでしょ。ねえ一花」
「そうだね。とはいえ堂々と休むわけにはいかないからちょっと休み方を考えないといけないかな」

二乃に続き、一花までも三玖の提案に乗ってくる。

「...どうする立香さん。正直に言うと、俺は多少無理してでもジウから離れた方がいいと思うんですがね。荒事の経験者である俺たちなら強く押せば従ってくれるはずです。なにか言ってやってくれませんか?
いや納得させられる理由が思いつかないわけじゃないんですがね。ただ信頼を失っている俺の言うことなどロクに聞きやしないだろうから適任は立香さんであるというだけで」
三姉妹に聞かれぬようにコソコソと耳打ちをしてくる猛田をスルーしつつ、立香は考える。

576I Wanna Be... ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 00:51:31 ID:fKS6UALg0

疲労。確かに立香自身、それは自覚していた。
ジウとの戦いで致命的な怪我こそなかったものの、万全には程遠い。
周囲も己も誤魔化しきれていなかった己を立香は恥じる。

立香としてはそれでも進みたいが、現状、休むべき派は三人、進みたい派は二人。
たった一人の差であるため、頑張ればこちらの意見を通すこともできるかもしれない。
けれど、それで不和が生まれれば、それだけで団体行動が難しくなる。

実際、休むというのも悪いことばかりじゃない。
殺し合いに乗っているのがジウや沖田たちが迎撃しに行った敵だけでないのは、放送で呼ばれた犠牲者の数が物語っている。
ジウから逃げきれたところで、いざという時に体力が尽き動けなくなれば本末転倒だ。

ならば、彼女たちに賛同するべきだ。

「...わかった。また民家でも探して少し休もう。北へ向かうのはそれから。いいかな、猛田くん」
「そ、そうですか...しかし...いや、あなたがそういうなら仕方ないか」

不満は解消しきれていないものの、数の不利もあり猛田は素直に従う。
これで五対零。一同は、しばし身を潜めることにした。

直後。

「あ...あれっ!」

三玖が空を指さす。
四人がそちらに目を向ければ、そこに立ち上るのは煙。
こんな状況で呑気に焚火などするとは思えない。あれは確実に、誰かが戦っている証拠だ。

そして、その煙の出所で戦う者たちにも心当たりがある。

「ねえ、あっちって」
「うん。たぶん炭治郎くんたちが向かった方」

沖田総司。城戸真司。竈門炭治郎。
この三者である確率が非常に高い。まだ決着が着いていなかったのか。相手はそれほどの猛者なのか。

だからといって、立香を除く四人は一般人であり、彼女たちにできることなどなにもなく。
立ち昇る煙に不安を抱きながら、各々が彼らに思いを馳せることしかできなかった。

(奴ら本当に大丈夫なのか?若殿もいなくなってしまった以上、もし奴らがいなくなれば、俺たちの中で戦闘できるのが立香だけになる。そうなれば、ほぼ間違いなく俺たちの脱落は決するぞ!)

保身。

(ごめん三人とも...私だけじゃみんなの力になることが出来ない。どうか無事に帰ってきて)

祈願。

(沖田さん...)

(嫌...みんな早く帰ってきて...)

憂慮。

「...ごめん。私、ちょっと見てくるね」

決意。

577I Wanna Be... ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 00:52:33 ID:fKS6UALg0

一同の視線は、声の主、一花へと思わず集中する。

「一花、気持ちはわかるけど、その」

遠慮がちに立香が言いよどむ。
迎撃に向かった彼らの安否が気になるのは皆、保身を優先する猛田ですら同じだ。

それをしないのは単純な理由。彼らでは誰が出向こうが五人纏めて向かおうが、戦闘の足手まといでしかないからだ。
一花もそれは十分に理解している。

「わかってる。私もそこまで馬鹿じゃない」

言って、一花は微笑みながらカードデッキをかざし、腰のベルトに装着する。

「変身」

その言葉と共に、一花の身体が緑の装甲に包まれた。
その異形に思わず二乃と三玖と猛田の三人はぎょっと目を見開いた。

「仮面ライダー、って言うんだって。これを着てると身体が強くなるの」

仮面ライダー。その存在自体は真司から軽く触れられていたが、実際に目の当たりにするとやはり異様に目をひくものだ。

「これがあれば私も」
「ダメ。それがあったところでなにも変わらない」

役に立てる、と言おうとした一花の言葉を遮ったのは立香。

「身体が強くなったところで経験の差は埋められない。一花が行ったところで足手まといになるだけだよ」

厳しい言葉を投げかけているとは思う。
けれど、身体能力が上がった程度で戦いに勝てるなら苦労はない。
経験。戦略。相性。時の運。
それらが己の有利に傾いた時にようやく勝利への権利を手にすることができる。
数多の英霊の戦を見てきた彼女だからこそ実感していることだ。

それに、一花を引き留めるのは彼女自身だけの問題ではない。

「ダメ。絶対に行かせないわ」

一花の両脇を、二乃と三玖が固める。

「一花。一人で決めてツッ走るのはあんたの悪い癖よ」
「行かないで。もし一花までいなくなったら...」

なによりも立香が一花の単独行動を拒むのは彼女たちについてだ。
中摘むまじい五ツ子姉妹。そのうち、すでに二人が欠けてしまっている。
その中でも生き残った姉妹が無事に会えたというのに、誰が好んで引き離せるものか。
彼女たちの安息は穢すべきではない。故に立香は一花の離脱を拒む。

578I Wanna Be... ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 00:53:17 ID:fKS6UALg0
「何を甘いこと言っているんだお前たち」

そこに水を差したのは、猛田だった。

「お前たち、本気でこのままでいいと思っているのか?だとしたらとんだ馬鹿女共だ」
「何よあんた。喧嘩売ってるの」

反射的に睨みつける二乃に、しかし猛田は怯みつつも言い返す。

「説明しなければわからないか?あのバカ殿にも勝る能天気さで羨ましい限りだ。いいか、その仮面ライダーがどれだけ戦えるのかはわからんが、殺し合いも経験したことのない奴がどれほどの戦力になるという。
いま、俺たちの中でまともに戦えるのは立香一人。
もしも皇城に追いつかれてみろ。さっきは地の利もなにもかも俺たちに味方したが、今度は間違いなく全滅だ」
「間違いないってそんな」
「皇城ジウを甘く見るな!」

口を挟もうとした三玖を遮り、猛田の口は反論を許すことなくまわる。

「俺たちがいまの奴について知っていることはほとんどない。奴があの場面で居合わせたのは偶然か?砲撃手と手を組んでいたのか?
刀以外にも支給品があるのか?いま奴は俺たちを殺す為になにを企んでいるのか?なにもわからない。
奴のことをよく知っている若殿がいればまだ対策も打ちようがあったが、皇城は奴さえも欺き殺した。つまり俺たちは奴に対して圧倒的に不利な状況にあるということだ」
「なら、仮面ライダーの一花がいてくれた方が守りやすいんじゃ」
「それが奴を甘く見ていると言っているんだ!」

立香さえも遮り、猛田の口がベラベラとまくし立てる。

「さっきお前も言っていただろう。素人が多少強くなったところで足手まといに変わりはない。やはり実質戦えるのは一人だ。
奴が俺たちを考えなしに追ってくると思うか?いいやそんな筈はない。間違いなく奴はお前を殺し、ここにいる残りの四人を確実に殺せる策を練ってくる。
ここにいるのは奴にとっては邪魔者だけだ。躊躇う理由はどこにもない。つまりだな」
「私が炭治郎くんたちを迎えに行くのが一番合理的ってこと」

猛田の言葉に被せるように一花が言った。
今度は、猛田も遮らなかった。

579I Wanna Be... ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 00:55:20 ID:fKS6UALg0
「戦いに行こうなんて思ってないよ。ただ、仮面ライダーの能力なら逃げることはできる―――私は炭治郎くんたちを迎えに行くんだよ」

猛田の危惧への最適解。
それは戦闘員の増員。即ち、炭治郎、真司、沖田の三名との早期合流である。

「...なんで、一花なのよ」
「立香はダメだよね。立香がいなくなったら守れる人がいなくなっちゃう。二人は猛田を信用できる?たぶん皇城や沖田さんが怖くてそのまま逃げちゃうと思う」
「なら私が」
「三玖は、私がデッキの使い方を教えると思う?」
「...思わない」
「ホラ、私が行くのが一番だ」

仮面に包まれているため、一花の表情を見ることはできない。
しかし、二乃も三玖も、彼女がどんな顔をしているかは見なくともわかっていた。

「屁理屈よ、そんなの」

二乃が一花の腕を強く握りしめる。

「そんな屁理屈が通る訳ないわ。私はなにを言われようともあんたが出てくのを許さない」

まるで一花と視線が合わないようにするかのように、二乃は頭さえも腕に押し付ける。
行かないで。行かせない。絶対に行かせない。

「―――ごめんね、二人とも」

そんな想いだけでは、仮面ライダーは止められない。
二乃と三玖の拘束をあっさりと振りほどき、一花は背を向け駆け出した。

「一花!」

立香が手を伸ばすももう遅い。一花の背中はみるみるうちに遠ざかっていく。

「待ちなさい一花!」
「待って一花!」

後を追おうとする二人を猛田が肩を掴み留める。

「一花!あんたはいつもそうよ!なんでもかんでも一人でやろうとして!私たちの気持ちなんて全然考えないで!」

いくら罵倒を投げかけようとも一花は止まらない。
そんなことは二乃もわかっている。

「―――帰ってこないと絶対に許さないんだから!!」

だから二乃は罵倒を続ける。
少しでも私たちを心に刻み込んでほしいと願って。

そして、一花は終ぞ止まらず、その背中は彼方へと消えた。

580I Wanna Be... ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 00:57:27 ID:fKS6UALg0


(クソッ、どうかしているんじゃないか!)

叫び、息を切らす二乃を見下ろしながら猛田は自省する。
確かに自分は間違ったことは言っていない。
皇城ジウは大きな脅威だ。恐らくもう一度戦えば立香は負ける。彼女一人ならまだしも、自分たちのようなお荷物を四人も抱えていれば確実にそこを突かれる。
故に、沖田ら戦える者の存在は必須だ。

(だが、あの仮面ライダーの一花がいれば奴らを囮に逃げることくらいはできたはずだ!それを、リスクを冒してまで俺は...!)

もしもジウと対峙した場合、一花はおそらく身体を張って二乃と三玖を逃がすだろう。
自分もそれに便乗し逃げることはできるはず。
仮に自分以外が全滅し、逃げ延びた先に沖田ら三人がいたとしても、沖田はともかく残り二人に自分の無力さと無念を訴えれば殺されることはないはずだ。
そうやって生き残るつもりでいた。自己犠牲を美徳にする馬鹿と愚者を盾に勝ち残るつもりでいた。

なのに。いまの自分は保身よりも皆の益を考えていた。
気が付けば、皆が生き残るためにその口をベラベラとまわしていた。
立香には使っていた敬称でさえ忘れるほどに、半ば感情的に。

まるで、最期まで他者を想い続けた若殿ミクニのように。
やり方は違っても、彼の意志を受け継ぐかのように。

ああ、そうだ。自分はどうにもどこかおかしくなっている。一度死んで蘇ったからか?それとも、奴と握手を交わしたその時からか?

(俺はいったいあいつになにを見ていたんだ。俺は...!?)

581I Wanna Be... ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 00:57:50 ID:fKS6UALg0

【C-6/1日目・午前】
※明が斬った車の爆炎を確認しました。

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:体力消耗、背中に斬り傷(治療済)、令呪三角、カルデア戦闘服装備
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
0:一花を追う?休憩できる場所を探す?北上を続ける?
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
4:清姫については──
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。
※カルデア礼装は使用すると一定時間のインターバルがあります。


【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる?
0.ひとまず立香の意見を聞く。
1.藤丸立香は俺に気がある?
2.藤丸立香、い、良い女だ……
3.ミクニは──
[備考]
※死後からの参戦



【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:好きな人と傍にいたい
0:あのバカ...!
1:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2:PENTAGONはちょっと行きたかった、んだけど……
3:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。


【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:首筋に引っ掻き傷(処置済み)、精神的ショック
[道具]:基本支給品一式、四葉のリボン、誓いの羽織@Fate/Grand Order、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:好きな人へ伝えたい
0:一花...
1:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。

582I Wanna Be... ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 01:00:32 ID:fKS6UALg0

(はや...!これならあまり時間がかからずすむかも)

走りながら、一花は仮面ライダーの性能を確認していた。
最初に使用した時は千翼への殺意で頭が冷静でなかったが、改めて確かめればその性能には驚愕を隠せなかった。


(ごめん二乃...三玖...でもやっぱり私じゃないといけなかったんだ)

一花が炭治郎たちの捜索をかって出たのは、なにも長女としての責任感だけではない。
キッカケは、若殿ミクニの死だった。
彼が命を散らしたのは、自分たちから離れてほんの数分後だった。
あまりにも唐突な死。しかし、これが殺し合いなのだ。
どれだけ好青年でも。どれだけ相手のことを気遣っていても。
相手の殺意に負けてしまえばあっさりと散ってしまう。


良くも悪くも、二乃と三玖は、未だに目の前で惨劇はおろか戦いすら経験していない。結果を知っているだけだ。
だが自分は既に目の前でそれを経験している。それも、よりによって五月という愛すべき妹を失うという形でだ。
戦場に出れば、その差は確実に響いて来る。
なによりも生存を優先できるか。少しでも冷静に判断できるか。いざというとき―――引き金に手をかけられるか。

(もう誰も失いたくない)

四葉。五月。秋山蓮。若殿ミクニ。
散っていった者たちの顔が過る。
二度と戻ってこない、優しく勇敢な彼らの顔が。

(あんたたちの好きになんかさせない)

BB。千翼。皇城ジウ。
己の欲で自分の大切なものを踏みにじる奴らの姿が浮かび、黒い気持ちが滲み出す。

(私たちは生きて帰る。絶対に)

二乃。三玖。風太郎。立香。炭治郎。真司。沖田。ついでに猛田。
愛しき者たちの笑顔が過る。
彼らの暖かい笑顔が、一花の踏み出す一歩を強くする。


(その為なら、私はなんだってやってやる)


【C-6/1日目・午前】



【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、精神的ショック、ベルデに変身中
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人に会いたい
0.爆発のもとへ向かい、炭治郎たちがいればみんなが生きて帰れるよう行動する。
1.沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2.千翼に対する強い怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。
※明が斬った車の爆炎のもとへと向かっています

583 ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/21(土) 01:00:59 ID:fKS6UALg0
投下を終了します

584名無しさん:2020/03/22(日) 11:21:38 ID:N9.PHw860
投下乙です
バトロワ会場は辛いことが多いけど、ここの地域が一番つらいな…がんばれ一花負けるな一花

585 ◆KbC2zbEtic:2020/03/23(月) 21:54:39 ID:tVvGXsng0
予約を破棄します
申し訳ありません

586 ◆ZbV3TMNKJw:2020/03/29(日) 23:59:42 ID:ExKeYDco0
童磨、自己リレーですが、宮本明、雅、炭治郎、結晶ノ御子、佐藤さん、風太郎、中野一花を予約します

587 ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/05(日) 00:38:52 ID:AMVuTvu.0
予約を延長します

588 ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/10(金) 23:44:10 ID:cjLmFD8Q0
だいぶ遅れてしまい申し訳ありません。投下します

589悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/10(金) 23:47:29 ID:cjLmFD8Q0
「がああああああ!!」

ブンッ。

明の叫びと共に袈裟懸けに振るわれる刀を、雅は華麗に躱す。

「ハハハハハ、全く当たらないじゃないか明!」
「ほざけ!」

常人ならば反応もできぬ速度と受けきれぬ力強さで振るわれる太刀も、吸血鬼の王からすればさほど脅威ではない。
明が剣を振るい、雅が躱すという膠着状態は崩れない。
そして、どちらの疲労が溜まりやすいかと問われればそれは一目瞭然だ。

「うおおおおおお!」

振り下ろした剣は、明も自覚しないほどだが、おお振りになり、隙を突いた雅は左手で剣の腹を叩き剣筋を逸らした。

「なっ」

驚き動きが止まる明に雅の掌底が振るわれる。

ごっ

額にかかる衝撃と共に後方へと吹き飛ばされる明。

「ぐあっ」
「ふんっ!」

倒れた明に、雅は追撃のブーメランを放つ。
それを察知した明は、剣を盾にし、腹を滑らせ受け流した。

「嘗めるなよ雅...ッ!」

明は目を見開く。
ブーメランに気を取られた一瞬で雅の姿は消え失せていた。

590悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/10(金) 23:50:22 ID:cjLmFD8Q0
(どこだ?どこだ雅!)

警戒心を高め、左右を確認する明。

「久しぶりにお前の血が飲みたくなったぞ、明」

ハー、ハー、と荒い息遣いと共に背後から声が聞こえる。

「み、雅!」

明が慌てて振り返るももう遅い。鋭利な歯がいくつも並んだ巨大な口腔が、明の首元へと襲い掛かる。


瞬間

ツルッ

「!!」

ガンッ

突如、雅の脚が浮遊感に襲われ、地面に勢いよく頭を打ち付けた。

「なんだここは!?滑るぞ!」

手を着き立ち上がろうとするも、地面が滑り立ち上がることが出来ない。
ひやりと手を伝う感触で理解する。

「氷!?これはあの人形が放った氷か!」
「雅ィィィィィ!!」

これを好機と見た明は、倒れる雅へと斬りかかる。

「チィッ!」

雅は舌打ちと共に氷に手を打ち付け手元の箇所だけ破壊、そのまま力を籠め身体を押し出し腹で氷を滑る。
振り下ろしを回避された明は、しかし慌てることなく雅へと追撃をかける。
天元の日輪刀は二刀一対。明は右手に持ったひと振りを投げ、雅の足に刺した。
無論、それだけではダメージは微々たるもの。本命はその後だ。
ここまで隠していた、日輪刀のもう一つの機能である爆発を行使する―――が、しかし。

「なっ!?」

不発。日輪刀は委細変わりなし。
クラゲアマゾンの時は問題なく爆発したというのになぜか。

(氷!この氷で爆薬が湿気ってやがるのか!)

予想外の事態にうろたえかけるが、しかしすぐに切り替え、飛び掛かり、残りのもう一振りで斬りかかる。
脚から刀を抜きつつ、再び腕で身体を押し出し滑り躱す雅。

カンッ。

雅の身体で隠れていた岩に打ち付けられる日輪刀。

ポキッ。

打ち所が悪く、日輪刀の先端が欠ける。

クルクル。

あまりの力強さで打ち付けられた為、折れた先端が回転しながら宙を舞う。

プスッ。

「うぐっ!」

その先端が明の肩口に刺さり、思わぬ痛みに襲われた明は咄嗟に目を瞑り歯を食いしばった。

591悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/10(金) 23:50:58 ID:cjLmFD8Q0
(どこだ?どこだ雅!)

警戒心を高め、左右を確認する明。

「久しぶりにお前の血が飲みたくなったぞ、明」

ハー、ハー、と荒い息遣いと共に背後から声が聞こえる。

「み、雅!」

明が慌てて振り返るももう遅い。鋭利な歯がいくつも並んだ巨大な口腔が、明の首元へと襲い掛かる。


瞬間

ツルッ

「!!」

ガンッ

突如、雅の脚が浮遊感に襲われ、地面に勢いよく頭を打ち付けた。

「なんだここは!?滑るぞ!」

手を着き立ち上がろうとするも、地面が滑り立ち上がることが出来ない。
ひやりと手を伝う感触で理解する。

「氷!?これはあの人形が放った氷か!」
「雅ィィィィィ!!」

これを好機と見た明は、倒れる雅へと斬りかかる。

「チィッ!」

雅は舌打ちと共に氷に手を打ち付け手元の箇所だけ破壊、そのまま力を籠め身体を押し出し腹で氷を滑る。
振り下ろしを回避された明は、しかし慌てることなく雅へと追撃をかける。
天元の日輪刀は二刀一対。明は右手に持ったひと振りを投げ、雅の足に刺した。
無論、それだけではダメージは微々たるもの。本命はその後だ。
ここまで隠していた、日輪刀のもう一つの機能である爆発を行使する―――が、しかし。

「なっ!?」

不発。日輪刀は委細変わりなし。
クラゲアマゾンの時は問題なく爆発したというのになぜか。

(氷!この氷で爆薬が湿気ってやがるのか!)

予想外の事態にうろたえかけるが、しかしすぐに切り替え、飛び掛かり、残りのもう一振りで斬りかかる。
脚から刀を抜きつつ、再び腕で身体を押し出し滑り躱す雅。

カンッ。

雅の身体で隠れていた岩に打ち付けられる日輪刀。

ポキッ。

打ち所が悪く、日輪刀の先端が欠ける。

クルクル。

あまりの力強さで打ち付けられた為、折れた先端が回転しながら宙を舞う。

プスッ。

「うぐっ!」

その先端が明の肩口に刺さり、思わぬ痛みに襲われた明は咄嗟に目を瞑り歯を食いしばった。

592悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/10(金) 23:51:31 ID:cjLmFD8Q0

「明さん!」

炭治郎が明を心配し視線をやる。
早くも恐れていた事態が起こってしまった。
眼前の氷人形は、驚くべきことに、炭治郎の相手をしながら明たちの方へも徐々に氷を放っていたのだ。

(マズイ、明さんの戦いの邪魔になっている!早くこいつを斬るんだ!)

ドラグレッダーと共に、結晶ノ御子へと斬りかかる炭治郎。そんな彼らにも構わず御子は氷を放ち彼らを遠ざける。
氷に耐えて斬りかかろうにも、相手も木偶の坊ではない。
炭治郎の刃が届く前に回避されてしまう。
だが、いまの炭治郎に出来るのは刀を扱う接近戦だけだ。近づかなければ防戦一方でしかない。

(あああああ駄目だ、何度やっても突破できない。なにか打つ手はないのか!?)

攻めあぐねる炭治郎たち。
しかし、その状況を打破する機会が訪れる。

『血鬼術 散り蓮華』

大粒の氷の華が炭治郎たちに降り注ぐ。

(受けきれるか...駄目だ、数が多すぎる!避け...足場も氷だらけで動きづらい!せめて少しでもダメージを減らせ!)

刀を振り、せめて致命的な怪我だけでも減らそうとする炭治郎。

ゴウッ。

その炭治郎の眼前で、氷の華は炎に包まれた消え失せた。

パチクリと目を瞬かせる炭治郎は、ぎこちなく炎の出所を探る。
自分の隣だ。つまり、出所はドラグレッダー。
その証拠に、彼の口元には炎の残照がある。

氷に対しての炎。これほど相性がいいものがありながらここまで使わなかったのは理由がある。
まず、炭治郎はドラグレッダーが攻撃用の炎を吐けることなど知らなかった。
加えて、いまのドラグレッダーはライダーデッキのある正当な契約ではなく、単に己の意思で着いていっているに過ぎない、言わば偽の契約。
本来のデッキの所有者である真司であれば、簡単な指示だけでもそれに従っただろう。
だが、デッキがない以上は行動の選択権はドラグレッダーにある。
炭治郎からの指示が無く、まだ温存していたため、炭治郎が明確に危機に陥ったいまになってようやく火炎弾を放ったのだ。

つまり、ドラグレッダーがなにをできるのかが分かれば戦術は大幅に広がるということだ。

「もう一度お願いします!あの攻撃を溶かすように!」

放たれる氷の雨に放たれる火炎弾は、あっさりと氷を消し去っていく。

(いける!あとは俺が斬ることが出来ればあいつを倒せる!)

勝機は見えた。炭治郎の脳内で最適解が模索される。

593悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/10(金) 23:52:21 ID:cjLmFD8Q0
「ほう。あの小僧、勝機を掴んだか」

そんな炭治郎を見て、雅は嗤う。
やはり戦いはどんな形であれ変化があってこそだと。

「明よ。せっかくこんな場所で会えたのだ。ここはひとつ、今までにない戦い方をしようではないか」
「なに?」

眉を顰める明に、雅は笑みを携えながらデイバックに腕を突っ込む。
無造作に取り出されたソレに、明は息を呑む。

ガトリング銃。人を滅ぼすのには充分すぎるほどの兵器。

「てめえ!雅!」
「お前ならばものともしないだろうが、せいぜい楽しませろ明!」

雅の邪悪な笑みと共に、引き金に指がかけられた。

引き金が引かれる、その刹那。

トッ、と雅の傍に影が舞い降りた。
完全に不意を突かれた雅は、腹部にはしる衝撃に思わず手を緩め、続く顎下からの衝撃に地面を転がる。
そして離れたガトリングを手に、影は明へと向き直る。

あまりにも鮮やかな奇襲に、雅も明も呆気にとられ思考も行動も置き去りにされていた。
それは明も知る人物だった。
下手人の正体を明が口にする前に、引き金は引かれた。

ただし、銃身が向けられていたのは明ではなく。

「よけろ炭治郎!!!」

彼と対極の位置で戦っていた炭治郎だった。

594名無しさん:2020/04/10(金) 23:53:17 ID:cjLmFD8Q0



明の叫びが耳に届いた時には既に遅かった。
ドラグレッダーと共に接近しながらの火炎弾で氷を溶かし、既にヒノカミ神楽・『火車』で氷人形の背後に飛びドラグレッダーと挟み撃ちにしていた最中であり、炭治郎は体勢を変えることが出来なかった。
辛うじて視線だけ振り返るも、降り注ぐ弾丸の雨に、もはや避けることも受けることもできない。
迫る脅威に成すすべもなく―――放たれた強力な熱気に押し倒される。
火炎弾。ドラグレッダーが新たに放ったソレは、炭治郎を弾き飛ばし地面に倒す。
そのダメージこそはあれど、炭治郎へ直撃するはずだった弾丸は彼の身体を掠めるに留まる。

そして、弾丸の雨は氷の人形と赤き龍へ降り注いだ。

氷人形と共に身体を砕かれていく龍へと手を伸ばす。
だが、炭治郎がなにか行動に移す前に弾丸の雨は止み、駆け寄った時にはもう遅い。

装甲のほとんどを破壊され倒れ伏す赤き龍を抱き、思い知らされる。

また自分は助けられたのだと。





ギリギリ、とガトリングと刀身が競り合う。
ガトリングが放たれたのに少し遅れ、明が斬りかかりどうにか追撃を止めていた。
下手人は明も知る男だった。

「テメェ!クソジジイ!!」
「一緒にいてくれてよかったよ。きみにもリベンジマッチをしたいと思ってた」

名前は知らないが、温和な笑みを浮かべた謎の老人―――つまりは佐藤。
鍔迫り合いの中、明は不安と疑念に駆られていた。

どうなっている。確かにこいつはかなり不死身に近い存在だった。
だが、こいつは炭治郎に首を切られ身体すら燃やされたはずだ。
恐らく、万全の雅ですら再生が困難なほどに。
だがなぜ。なぜこの男はこうも五体満足でいられる!?

その不安を突き、佐藤は膝をおりまげ上体を逸らし、明の体勢を前のめりに崩す。
そのまま脚で明の身体を持ち上げ投げ飛ばした。
咄嗟に体勢を立て直す明に向けられる銃口、そして引かれる引き金。

「くっ!」

明は二刀の刀で迫りくる弾丸を次々に弾いていく。

「驚いた。弾丸ってそんな風に弾けるものなんだ」

沖田のように洗練されていない、どちらかといえば大雑把な太刀筋でありながら、彼のような神業的な技術を振るう明の剣術に佐藤は素直に関心する。
だが、徐々に頬や服を掠めていく姿に、佐藤はやはり無敵ではないと確信し、そのまま銃撃を継続。

595悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/10(金) 23:57:15 ID:cjLmFD8Q0
「待て。貴様、私の玩具を返してもらおうか」

佐藤の肩を掴み止めたのは雅。
突然の乱入に加え、使おうと思っていた武器すら奪われたのだ。
その顔から笑みは消え明らかに不機嫌になっていた。

無論、威圧感溢れるその睨みも佐藤には関係ない。

ゴッ。

構わず、雅の顔面に裏拳を放つ。
怯まず佐藤へと殴り掛かる雅の腕を掴み、背負い投げの要領で脳天から地面へと叩きつける。

「ぐあっ!」

血を流し悲鳴を上げる雅の腹部に佐藤は銃口を押し当て、躊躇いなく引き金を引いた。
飛び散る肉片と夥しい流血にも佐藤は顔色ひとつ変えはしなかった。

「さてと」

雅はこれで死んだ、と佐藤は改めて明と少し離れた炭治郎へと振り返る。
悠然と歩み寄る佐藤、その右腕に走る痛み。
思わず動きを止め、右腕を確認してみる。

「あれえ?」

佐藤の右腕は穴だらけになり、血もとめどなく流れ出ていた。
怪我の感触からして、撃たれたのかと理解する。

「すごいねえ、そんなことできるんだ」

己の右腕と、ゆらりと立ち上がる雅を交互に見返し、佐藤は変わらず笑顔で雅を讃えた。

「きみはなんなんだい?私たちとはまた違うようだけど」
「私は吸血鬼だ。人間を糧にし、人間を支配する優れた種族の王。それが私だ。そういう貴様はなんだ?」
「亜人さ」
「聞いたことが無いが...なるほど面白そうだ」

二人は変わらぬ笑みを浮かべながら歩み寄っていく。
一人は愉悦に歪み。一人は温和で柔らかく。
対照的な笑みであれど、その根底は同じ。

『コイツと戦うのは面白そうだ』

そして、互いに拳を握りしめ、吸血鬼と亜人の殴り合いが始まった。

596悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/10(金) 23:58:51 ID:cjLmFD8Q0



雅と佐藤の戦いが始まろうとする最中、明は体勢を立て直す為に炭治郎とドラグレッダーを連れ、近場の物陰に身を隠した。

「落ち着け炭治郎」
「...ハイ。大丈夫です」

明から見ても炭治郎の顔には怒りが満ちており冷静さを失いつつある。
無理もない。よりにもよって自分が倒したと思った相手に仲間を瀕死の目にあわされたのだから。
だからこそ、ここで急かず心を落ち着けなければならない。

だが、現実は悪いことが重なるものだ。

炭治郎は見つけてしまった。
自分たちが隠れている物陰の向かい側に座り込む人影を。
先ほど別れた同行者―――上杉風太郎を。

「あ...明さん...炭治郎...」
「上杉...ッ!」

駆け寄り、風太郎の姿を見て、二人は絶句する。
至る所に着けられた切り傷。折られた左手の指。削がれた左耳。潰された喉。包帯の巻かれた足の腱。
彼は別れた時とは比べ物にならないほど傷つき息も絶え絶えだった。
それこそ、明たちのように激戦でも繰り広げたかのように。

「悪い...炭治郎...明さん...」
「喋るな、傷が開く」
「大丈夫...見た目ほどじゃない...俺が死んだら、ゲホッ、意味が無くなるから...死にはしない程度に痛めつけられただけだ...」

咳き込み、途切れながらも風太郎は言葉を紡いでいく。

「あいつの目的は...明さんたちへの...リベンジだ...俺は...二人を逃がさない...ための...餌...」
「......」

炭治郎は歯を噛み締め、額に青筋を浮かべ、射殺さんばかりの形相で佐藤を睨みつける。

「だ、駄目だ...二人とも、いまのうちに離れろ...!」

いまにも斬りかかりに行きそうな炭治郎を必死に制止する。

「お...俺のことは気にするな...!俺はこの様ならどうせ死ぬ...!だから、二人は、一花たちの方に...!」
「ハッ」

明がふっ、と頬を緩める。

「上杉。お前の言いたいことはわかる。だがな、もともと俺は雅を逃がすつもりはないんだよ。それは炭治郎も同じだ。あのジジイをこれ以上野放しにするつもりはない」
「あ、あいつらの同士討ちを狙えば」
「奴らは不死身だ。恐らく、飽きて途中で戦闘を止めるのが関の山だろう。それに、どうやったかは知らんが、雅には首輪が無い。恐らく、身体のどこかにはあるのだろうが...ジジイがそこを突いて雅を殺せるとは到底思えない」

安心させるかのように、風太郎の頭に、ぽん、と手が置かれる。
そこには、風太郎が今までの明からは感じられなかった温もりが何故か感じられた。

「まだ動けるな?炭治郎」
「はい。俺はまだ折れていない。戦えます」
「ハッ、頼もしい相棒だ」

滾る闘志はそのままに、散っていった者たちに報いる為、鬼殺の戦士二人は再び戦場へと駆けだした。

597悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/11(土) 00:01:19 ID:tE7O.78I0



グシャリ。
雅の拳が佐藤の顔を潰し、地面に打ち倒す。
脳まで破壊されたのだ。専門家が見なくても即死だと判断できるだろう。
なんだこんなものか?
あまりの呆気なさに落胆しかける雅だが、しかしそれは杞憂というものだった。
ぐじゅり、となにかが蠢くような音が鳴ると共に、佐藤の頭部は傷一つなく再生。どころか、撃たれた腕やかすり傷、あますことなく万全な状態になっていた。
そのまま立ち上がり、再び戦闘態勢をとる。

「なるほど素晴らしい。再生能力に限れば私や鬼の王にも劣らんかもしれん。だが、それだけだ。それだけでは私には勝てんよ」
「そうかい。それは楽しみだ」

佐藤は両拳を握りしめ、格闘家のように構え、対する雅は、構えもなく、無造作に拳を振るう。
一撃受ければ致命的。そんな攻撃にも、しかし佐藤は恐怖も焦燥もなく、冷静に攻撃を捌いていく。

佐藤の拳がパシリ、と雅の胸を軽く叩き、上体が崩れた隙を狙い、雨のように佐藤のジャブが放たれる。
ダメージは少ないとはいえ、弾かれれば体勢は崩れてしまう。
為すすべもなく、雅は佐藤の拳をその身に受け続け、ラッシュの締めのアッパーカットにより、雅はそのまま仰向けに倒れた。

相手は人間よりも遥かに強靭な吸血鬼。
その存在を肉弾戦において地面に転がせるのは、亜人の不死身性関係なく、佐藤の力だ。
己の圧倒的な暴力にものを振るわせる雅や、彼ら異形の者を倒す為に鍛え上げられた明や炭治郎の技術では培われない、対人においての経験、軍隊的格闘・戦闘技術。
それこそが、亜人の特性以上に、佐藤を真に脅威たら占めるのだ。

「う〜ん、吸血鬼なんて初めてだけど、これならあのお侍さんの方が手ごわかったかな」
「...ハハハ、失望させてしまったか?では信頼を取り戻さねばな」

むくり、と何事もなく立ち上がる雅に、佐藤はポカンと口を開ける。
殴打による雅の傷は、皮膚の細胞が蠢き瞬く間に治癒していた。

「驚いた。きみは死ななくても再生できるんだね」

思わず漏れた佐藤の呟きに、雅の眉がピクリと動く。

「生物は死ねば終わりだ。だから人間は不死を求め生き永らえようとする。それは貴様もそうだろう」
「いやあ、私は楽しめればいいかなぁ」
「...ハッ、違いない。生において京楽を忘れるほど愚かなことはない」

ヌッ、と雅はブーメランを取り出し構える。

「卑怯とは言うまい。やはり私は手で弄べるものがあった方が調子がいいのでな」
「もちろんさ。それで楽しませてくれるならそっちの方がいい」

互いに構え、一呼吸の後に同時に駆け出す。
振りおろされる雅のブーメラン。それを屈み躱し、懐に潜り込む佐藤。

トッ。

ザ ン ッ

―――その両者の腕を切断した、明の奇襲。

598悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/11(土) 00:02:19 ID:tE7O.78I0

「明!」
「ガアアアアアア!」

咆哮と共に地面へと振り下ろされる、明の太刀。

ボボンッ。

本来の持ち主である宇随天元の音の呼吸、壱の型『轟』にも似たその太刀筋は、日輪刀を爆発させ、明を含む三人を煙に巻いた。

「くっ、ちょこざい!」

視界が爆炎に覆われたことで、斬られた腕を回収しつつ後退し、距離を置く雅。

ヌッ。

その煙の中から、刀を振り上げた明が姿を現した。

ギ ン ッ。

刃とブーメランが交叉する。

「何度も言わせるなよ雅。お前の相手はあのジジイじゃねェ。俺なんだよ」
「その笑み...昔を思い出すぞ、明」

再び、明と雅の斬りあいが再開した。

一方、佐藤は煙に紛れつつ、ガトリング銃で己の頭を破壊し、蘇生すると共に斬られた腕も治していた。

「うまいこと分断されちゃったなぁ。ということは、君が相手をしてくれるんだね」

煙が晴れた先に立ちはだかっていた炭治郎は、油断なく刀を構え、佐藤を睨みつけていた。

「俺は竈門炭治郎。お前の名前はなんだ」
「?」

突然の名乗りに佐藤は首を傾げるも、聞かれたのなら答えてやるべきだろうと笑顔で返す。

「佐藤。私の名前は佐藤だよ」
「佐藤...城戸さんと沖田さん、球磨川さんは俺や皆を守ろうとして命を散らした。上杉さんや赤き龍も守るために戦いお前に傷つけられた」

炭治郎の腕に力が籠っていく。
彼らとはまだ会って数時間程度の関係だ。
だが、それでもこの殺し合いをどうにかしたいと願う同志であり、力なき者を守り悪鬼を討つ為に共に戦った仲間だ。
そんな彼らを、己の我欲で踏みにじり唾をかける悪鬼がここにいる。生き残りたいという衝動すらなく悪意をまき散らす生物がここにいる。
斬らねばならない。これ以上、その悪意に巻き込まれる人を増やさない為に。

「俺はお前を許さない...佐藤、これ以上、罪なき命をお前の欲に踏みにじらせはしない!!」
「いいね。それじゃあ改めて、リベンジマッチと行こうか」

かくして、吸血鬼と修羅、亜人と鬼狩りの殺し合いは幕を開けた。

599悪鬼滅殺(1) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/11(土) 00:03:30 ID:tE7O.78I0








「あー、壊されちゃったなぁ」

上弦の弐、童磨は日陰に身を隠しつつ、残念がるように声を落とした。
放った結晶ノ御子が、耳飾りをした鬼狩りの少年と接触したまではよかったが、奇襲で破壊されてしまった為に、戦況の把握が不可能になってしまった。
本来ならば一体壊されたところで追加の御子を放てばよいだけなのだが...

(なんで戻らないかなぁ?)

童磨は己の術に違和感を感じていた。
本来、結晶ノ御子の製造限度は5体ではないが、しかしこの首輪による制限なのか、今は最大で5体までしか出すことが出来ない。
しかも、佐藤に破壊されてから産み出せる数が1体減ったのを実感した。
出さずとも、無理やり理解させるような感覚で解らせられた。


(あのまま放っておいてもいいけれど、せっかく見つけた鬼狩りの少年もいるしなぁ)

主、無惨は耳飾りをつけた鬼狩り、竈門炭治郎を特に警戒しており、見つけ次第殺せと命じていた。
見たところ、戦闘員の四人の中で一番非力であるためあのまま放っておいても一番に命を落としそうだが、万が一のこともある。

「もう一体送っとこ」

数秒の後、童磨は御子を産み出し再び戦場へと向かわせた。

童磨は己の命に執着できない。
戦闘において己が有利にことを運ぶのも、己の保身ではなく、鬼として教祖としてより多くの人間を救う為に過ぎない。
故に、多少、己が不利になるとしても合理的に判断しそちらが有意義ととれば、迷いなく実行できるのだ。

(俺が使える御子はあの子を壊されたら三体になるけど、さてどうなるかな)

600悪鬼滅殺(2) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/11(土) 00:06:04 ID:tE7O.78I0








―――水の呼吸、漆の型『雫波紋突き』

炭治郎の疾い突きが佐藤の左肩を穿つ。
痛む己の肩を無視し、右手で炭治郎の顔面を掴もうとする。

炭治郎はそれを頭突きで迎撃。佐藤の右手はグシャリと骨が折れ、鮮血が噴き出した。

「うおおおおお!」

刺さった刀に力を込めて切り上げ、佐藤の肩口を切り飛ばす。
肩が裂け、骨と半分ほどの肉で繋がる佐藤の腕は、だらりと垂れさがった。

(よし。これであいつの戦力は...!)

微かに安堵した炭治郎の顔は、すぐに歪められることになる。
佐藤が蹴りを放ち、炭治郎を遠ざけた瞬間。

パアンッ。

佐藤は一寸の間もなくガトリングで己の頭部を破壊した。

「ッ...!」
「狙いが外れたかな?」

蘇生するなり笑顔で投げかける佐藤に、炭治郎は歯を噛み締める。
佐藤の再生能力が、鬼や雅のソレではなく、死んでから発動するのを、雅とのやり取りで明と共に認識していた。
その為、まずは佐藤を殺さず無力化し、それから禁止エリアに運ぶ、というのが明が授けた策だった。
だが、こうも容易く自殺されては策に至ることすらできない。

(初めてだ、敵を斬っちゃいけない戦いなんて)

鬼狩りの戦いは如何に相手を素早く息の根を止めるかの勝負だ。
鬼は人間よりも身体能力が高く体力もある。ジリジリと粘られ続ければ、先に潰れるのは人間だ。
その為、最適な効率で鬼の首を斬る力が求められる。

佐藤の場合はその逆。殺せばすべて戻ってしまう為、殺さず制する技量が必要となる。
しかも、相手は鬼ほどの耐久力が無く、ライダーのような装甲もない、あくまでも人間。
下手にヒノカミ神楽から為る大技を放てば、それだけでショック死する可能性も高い。
加えて、いまのやり取りで佐藤の自殺も防がなければならないという事実も判明した。

601悪鬼滅殺(2) ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/11(土) 00:07:27 ID:tE7O.78I0

ならば手加減して戦えばいいのか、という話でもない。

「えっ、わあっ!?」

炭治郎の踏み込みが浅くなった隙を突き、炭治郎の袖と襟を掴み投げ飛ばす。
不格好な体勢で着地した炭治郎に向けられる、ガトリングの銃身。
咄嗟に地面を蹴り、降り注ぐ弾丸の雨を躱す。
一旦、物陰に身を潜め、呼吸を整える。

(くそっ、ちょっと隙を見せればこれだ...!厄介どころじゃない!)

対人においての戦闘スキルは間違いなく佐藤に分がある。
加えてあのガトリング銃。
格闘術に遠距離戦、そのどちらにおいても炭治郎が勝っているものはない。
だが、炭治郎にできるのは、接近しての剣術だけだ。

(せめてあの銃だけでもどうにかできれば...!)

ガトリング銃さえ破壊できれば佐藤の戦力は半減する。
そうすれば、万が一自分が倒れようとも明が繋いでくれるはずだ。





ボンッ。ボンッ。ボボンッ。

明が剣を振るうたびに爆発が起こり、辺りを煙に包んでいく。

「ハッ、そんな派手な技、今までよくもまあ隠してきたものだ」
「お前を殺すためならなんだってやってやるさ」

斬撃だけでは雅への効果が薄いのは明も理解している。
その為、隠し玉としてこの爆発の機能を隠してきたのだが、しかし、先ほど雅と佐藤を分断する為に披露してしまったため、明は惜しみなく爆発機能を使用していた。

「だが明よ。私をどう殺すつもりだ?まさかこの程度の爆発で私が死ぬと思っているのではあるまいな」

それは明も理解している。
この爆発はあくまでも斬撃の付加であり、錯乱・追加ダメージは期待できるものの、使用者への負担が無い程度に威力が抑えられている。
よしんぼこの爆発が直撃したとて、それで雅の再生能力を上回れるとは到底思えない。
爆発による首輪の誘爆も、首輪の無い雅には期待できない。

(だが気が付いているか?雅、お前の位置が徐々に死に向かっていることに)

明の狙いは、雅を禁止エリアに侵入させること。如何に体内に首輪があるとしても、禁止エリアに侵入すれば爆発するのは同じはずだ。
無論、雅も馬鹿ではないためただ誘導しただけでは気づかれてしまう。
その為のこの爆発だ。
これで視界を制限し、爆音で周囲から拾える音すらもあやふやにし、自分の場所を不明瞭にする。
そしていざ迫った時に、雅を切り刻み、禁止エリアに放り込む。それが明の狙いだった。

(お前の位置はお前自身よりも俺の方が理解している。このまま押し込んでいけば―――)
「どうした明。なにか企んでいるのか?」

図星を突かれ、ドキリ、と明の心臓が跳ねる。
その隙を突かれ、雅の前蹴りが明の腹部を捉え吹き飛ばした。

「がはッ!」

肺の空気を絞り出されるほどの威力のソレにうめきをあげつつも、ふんばり転倒を抑え後退に留める。

602名無しさん:2020/04/11(土) 00:08:14 ID:tE7O.78I0

「ハッ。まあなにを企んでいようが私には通用せんがな」
(バレてはいなかったか...)

ホッ、と内心で安堵し、チラ、と炭治郎たちの方へと視線を向ける。
やはりというべきか、状況は芳しくなさそうだ。
無理もない。相手を殺せないという縛りがある上でのガトリング銃に格闘術。それを乗り越えたうえでようやく王手だ。

雅を巻き込んで三ツ巴にすべきだったかと考えるも否定する。
雅と佐藤が手を組んでいない現状は明たちにとっても幸いだった。この二人が手を組めば明たちに勝ち目はない。
だが、雅の場合は相手の意思に関係なく己の配下における術がある。
吸血鬼感染と相手の脳波を操り意思を操作するサイコジャック。
この二つを使われ佐藤が雅の配下になるのが最悪のパターンだ。それだけは避けねばならなかった。

(待ってろ炭治郎、上杉。俺の方はもうすぐだ。もし生きていられたら必ずそっちに向かう。それまで粘ってくれ)
「......」

明の視線を見ていた雅はブーメランを扇のように構え口元を隠す。

「...やはりだ。明、お前はいま、昔のような顔をしている」
「なに?」
「かつて私が教えてやった絶望を忘れたか?それとも、この地で失った仲間がお前を過去に引き戻したか?」

かつて雅に植え付けられた絶望。それは、友を殺し、肉親を殺し、友を殺され、師を殺され。
亮介や大勢の島の仲間たちを失い、それでもなお雅の本土出航を止められなかった敗北の記憶。
それ以来、明はなるべく人を寄せ付けないように振舞っていた。
守るべきものを増やすのを恐れ、また失うのを恐れ。独りで雅を殺し片をつけようと躍起になっていた。

「ほざくな、雅。お前に教えられたことなどなにもない」

だが、明の周りには多くの人が集まってきた。

自分を恐れながらも死ぬなと懇願してくれた男がいた。
吸血鬼を恐れながらも、子供の為に強くなりたいと立ち上がり、勇敢に戦い抜いた最高の父親がいた。
その子供は、明を特別視せず、友達になると言ってくれた。
自分よりも圧倒的に非力ながらも、お前ひとりに押し付けてたまるかと隣に立ってくれた男がいた。
縋りつくだけでなく、共に戦い抜き、また会おうと約束を交わした者たちがいた。
吸血鬼に嬲られ亡者と化しても息子を想い続けた母親がいた。

「俺を支えてくれるのは俺個人の復讐心だけじゃない。俺は色んな奴らの想いに支えられてきた」

生意気な口をききながらも明を助け、いつの間にか友達になっていた強い少年がいた。
粗暴ながらも性根は優しく、共に肩を並べる大男がいた。

「俺がお前を殺す理由は変わらないんだよ、雅」

気に入らないが己の弱さを見せつけてくる過負荷、この状況においても他者への思いやりを忘れぬ青年、そして、自分と同じく鬼を殺す為に戦う少年。

結局、どこにいっても明は独りになんてなれやしなかった。

だから。

「俺と関わってくれたあいつらの想いに報いる為に、俺はお前を殺したいんだ」

603名無しさん:2020/04/11(土) 00:09:39 ID:tE7O.78I0
「くだらん。実にくだらないよ明」

そう語る明を、雅は無情に吐き捨てる。
雅は集団の王であり、手下には比較的寛容ではあるが、そこに彼が信頼をおくことはない。
いくら自分が慕われようとも、見込みがあった上で吸血鬼化させた者であっても、その喪失に悲しむことも憤ることもない。
彼にとって部下など遊びの駒でしかないからだ。
だから、そんなものを大切にしようとする明の考えは、雅にとっては本当に「くだらない」ものなのだ。

「まあ、お前が私を楽しませてくれるのならどうでもいいことだがな...フンッ」

言うが早いか、雅はブーメランを明めがけて投擲する。
無論、いくら高速とはいえ正面から飛来するそれをやすやすと食らう明ではない。

「ハッ!」

気合一徹、刀を振り下ろしブーメランを弾き返す。

バフッ

「!!?」

同時に、ブーメランから砂があふれ、明の目を潰す。
砂袋だ。先ほど、構えた際にさり気なく即席の砂袋を着けていたのだ。

「テメェ雅、ふざけやがって!」

明は激昂しつつも、耳を済ませることに集中する。
目を拭っている暇はない。まず間違いなく雅は追撃を仕掛けてくる。
その予感は当たっていて。

―――ヒュゥゥ

(来たっ!)

風を切る音を頼りに、明は再び投擲されたブーメランを察知し、身を屈めて躱す。
本来ならばはじき落としたいところだが、目が見えない以上、正確に刃を合わせるのは難しい為、躱すのを余儀なくされた。

(よしっ、躱せた!)

だが、油断は禁物だ。ブーメランは旋回して戻ってくる。いまここで、気配頼りに雅に斬りかかればその追撃を受けてしまう。

―――ヒュゥゥ

(来るっ!)

背後から迫るブーメランを再び躱す明。
それを見た雅は、嗤った。

604名無しさん:2020/04/11(土) 00:11:48 ID:tE7O.78I0



「佐藤!今からその銃を破壊する!」

炭治郎が物陰から姿を現し、声を張り上げる。
姿を現す前に囮でも使うだろうと考えていた佐藤は虚を突かれ、思考に一瞬空白が生まれた。
炭治郎がそのような思惑があったわけではなく、ただ、彼が嘘をつけず不意打ちができない性格であるが故に生まれた偶然だ。
その隙が、佐藤の照準をわずかにズラし、炭治郎が呼吸を整える時間を生んだ。

炭治郎とて無策で出てきた訳ではない。
彼が選んだ手段は、弾丸が放たれるよりも早く距離を詰めること。
その脳内に浮かび上がるのは、己の知る中で最速の剣士。

(善逸、俺に力を貸してくれ!!)

――シ、ィ、ィ、ィ

雷のような音が喉から漏れる。
かつて、上弦の肆・半天狗に対して使ったように、雷の呼吸・壱の型『霹靂一閃』で飛び込むつもりだ。
無論、にわか仕込みであり、本来の使い手である善逸ほどの速度では飛び込めない。
だが、それでも佐藤の『構えて』『狙い』『引き金を引く』までの動作を終えるまでに距離を詰めるには十分だ。

―――ヒノカミ神楽。

距離を詰めて終わりではない。そこから放たれるは、炭治郎の持つ最大火力の技。

―――円舞一閃。

上弦の鬼の首さえ斬って見せたその技に耐えきれるものはそうはいない。
佐藤が盾のようにかざしたガトリング銃は、僅かに拮抗した後、佐藤の手から離れると共に真っ二つに切り裂かれた。

同時に、炭治郎の肺が圧迫されるかのように締め付けられる。
ヒノカミ神楽と雷の呼吸の合わせ技という無茶の代償だ。
戦闘可能な時間はもはやほとんどない。
それでも終わりは許されない。まだ銃を斬っただけだ。

(このまま攻め立てる...!)

ガトリング銃から佐藤へと視線を移す炭治郎。
その視界に入るのは、ナイフを握りしめた佐藤。

「―――ッ!」

ガトリング銃に対してのナイフ。
比較すればかなりちっぽけな武器に思えるだろう。
だが、この局面においては、素手だった佐藤が炭治郎を一撃で殺せる武器の存在が戦局を左右してしまう。

疑いをかけるべきだった。風太郎がつけられた傷の中に、なぜ切り傷があったのか。
その存在を失念していたのは、佐藤が一切ナイフを取り出そうともしなかったからだ。
迫る刀はガトリングで受け、吸血鬼にも素手で立ち向かい。
そんな、ナイフを取り出すべきであろう場面で存在すら匂わせないことで、炭治郎の思考にガトリング以外の武器はないと植え付けた。

迫るナイフの刃。

炭治郎はまだ動かせる頭部に賭け、その石頭をもってナイフの軌道をズラそうとする。

―――ドッ

背中に走る灼熱の感覚と共に、佐藤のナイフは炭治郎の右目を突きさした。

「えっ」

その言葉を漏らしたのは、目を刺された炭治郎ではなく、予想に反して炭治郎の目を見事に突き刺した佐藤。
炭治郎が前のめりに倒れ、露わになる背中に刺さったブーメラン。

なぜこんなものが彼の背に。それを理解し、顔を上げた彼の視界に広がるのは、白のツララが立ち並んだ、赤と黒の入り混じった洞窟。そして。


ガブッ。

バリバリ。ボリボリボリ。

605名無しさん:2020/04/11(土) 00:14:23 ID:tE7O.78I0



雅の気配が遠ざかった。
ブーメランが迫る気配もなく、これを好機と捉えた明は目を拭い視界を晴らす。
だが、眼前に奴はおらず。

(どこだ。どこだ雅!?)

キョロキョロ、と辺りを見回し、見つけた。
ブーメランを背中に突き立てられ、血だまりに沈む炭治郎。

その傍で、大口を開けて佐藤を身体ごとをかみ砕いていく雅の姿を。

「ハッ。亜人だったか。悪くない味だ」

肉片の一つも余すことなく食した雅は、ご満悦な表情で感想を漏らした。

「て...テメェ、雅...!」

明の手がわなわなと震えだす。
なぜ雅があんな小細工を仕掛けたのかを理解する。
明の目を潰すことで炭治郎たちへの干渉を防ぎ、確実に二人を殺すためだったのだ。

怒りと悲しみの入り混じる明の表情を見て、雅は愉悦に顔を歪ませる。


雅は好戦的ではあるが、戦闘狂ではない。
強力な獲物の存在を喜ぶのは、そんな強者が絶望する顔を見る為であり、戦闘などはその趣味の一環でしかない。
故に、正々堂々とした勝負など眼中になく。敵への嫌がらせの為には手段を択ばず。
嘘をつけず不意をつけない正直な少年には不意打ちで応え。戦闘の刺激でしか満たされぬ者には戦闘すらなく敗北を与え。
仲間との繋がりを重んじる者ならば眼前で仲間を傷つけ応える。
それが雅という男の性。吸血鬼の王たる証だ。

「そうだ明。その顔が見たかった。希望があると信じ、それを絶望に塗り替えられたその顔...たまらなく愛おしいぞ、明!」

腹部に手を当て、明を指さしケラケラと嗤い声をあげる。

「あまりにも哀れで腹がよじれそうだ!!」

ボコォ。

雅の腹から、腕が突き出した。

606名無しさん:2020/04/11(土) 00:15:27 ID:tE7O.78I0



雅の気配が遠ざかった。
ブーメランが迫る気配もなく、これを好機と捉えた明は目を拭い視界を晴らす。
だが、眼前に奴はおらず。

(どこだ。どこだ雅!?)

キョロキョロ、と辺りを見回し、見つけた。
ブーメランを背中に突き立てられ、血だまりに沈む炭治郎。

その傍で、大口を開けて佐藤を身体ごとをかみ砕いていく雅の姿を。

「ハッ。亜人だったか。悪くない味だ」

肉片の一つも余すことなく食した雅は、ご満悦な表情で感想を漏らした。

「て...テメェ、雅...!」

明の手がわなわなと震えだす。
なぜ雅があんな小細工を仕掛けたのかを理解する。
明の目を潰すことで炭治郎たちへの干渉を防ぎ、確実に二人を殺すためだったのだ。

怒りと悲しみの入り混じる明の表情を見て、雅は愉悦に顔を歪ませる。


雅は好戦的ではあるが、戦闘狂ではない。
強力な獲物の存在を喜ぶのは、そんな強者が絶望する顔を見る為であり、戦闘などはその趣味の一環でしかない。
故に、正々堂々とした勝負など眼中になく。敵への嫌がらせの為には手段を択ばず。
嘘をつけず不意をつけない正直な少年には不意打ちで応え。戦闘の刺激でしか満たされぬ者には戦闘すらなく敗北を与え。
仲間との繋がりを重んじる者ならば眼前で仲間を傷つけ応える。
それが雅という男の性。吸血鬼の王たる証だ。

「そうだ明。その顔が見たかった。希望があると信じ、それを絶望に塗り替えられたその顔...たまらなく愛おしいぞ、明!」

腹部に手を当て、明を指さしケラケラと嗤い声をあげる。

「あまりにも哀れで腹がよじれそうだ!!」

ボコォ。

雅の腹から、腕が突き出した。

607名無しさん:2020/04/11(土) 00:15:59 ID:tE7O.78I0
「なっ、は、ハガアアアアァァァ!?」

驚く間もなく、雅の身体から四肢が飛び出し、最後には頭部すら砕け散る。


まるで昆虫の脱皮のように。
雅の身体を破壊しながら、佐藤は血と臓物に塗れた身体でこの世に再臨した。

「木材破砕機で身体を潰したことはあるけど、さすがに丸ごと食べられたのは初めての体験だったなぁ」

雅が佐藤を食ったと思ったら、その佐藤は雅の身体を食い破って復活した。
如何に彼岸島で奇天烈な体験を多くしてきた明ですら、頭がどうにかなりそうだった。

「......」

血だまりに沈む炭治郎を見下ろしながら、佐藤はぼやく。

「う〜ん、これはリベンジ成功と言っていいのかな?彼が邪魔しなかったらどうなってたかわからないし」

数秒だけ炭治郎を見つめるも、すぐに切り替え明へと振り返る。

「とりあえずコンティニューの続きといこうかな、最後のお侍さん」
「くっ...!」

明は迎え撃つ為に刀を構えるも、その心内には絶望が芽生えつつあった。
この世に完全な生物などいない。雅ですら、501ワクチンという弱点があるし、流石に肉体がなくなれば再生できるとは思えない。
だがこいつはなんだ。
切り刻まれても、頭を失っても、全身を焼かれても、身体ごと喰われても蘇る。
どうすればこんな化け物を倒せる。どうすれば、自分はこいつに勝てる。

「さあ、今度こそ勝たせてもらうよ」


「いいや終わりだ。貴様はここで死ぬ」

―――ガクリ。

佐藤の膝が崩れ落ち、身体が震え始める。

「あれぇ?」

佐藤もまた、己の異変を自覚する。
再生は完璧だ。怪我はひとつもなく、疲労もほとんどない。
だというのに、寒気がする。全身が震えて力が入らない。

「お前の再生能力は死んでから始まるのだろう?」

頭上から言葉が投げかけられたかと思えば、シャッ、と一筋の閃が走り、佐藤の首と胴体が泣き別れる。
ゴロリ、と地面に転がる佐藤の生首。
その首を持ち上げるのは、内臓も血も零れ落ちながらも、身体の原型だけは戻りつつある雅。

「私の血に感染したものは一度仮死状態になってから吸血鬼となる。いまのお前はその経過の中にあるのだよ」
「なるほどね」
「さすがの私も先ほどのは死ぬと思ったぞ...さらばだ、亜人よ」

生首から手を離し、雅は佐藤の生首をサッカーボールのように彼方へと蹴り飛ばした。

608名無しさん:2020/04/11(土) 00:16:29 ID:tE7O.78I0
「なっ、は、ハガアアアアァァァ!?」

驚く間もなく、雅の身体から四肢が飛び出し、最後には頭部すら砕け散る。


まるで昆虫の脱皮のように。
雅の身体を破壊しながら、佐藤は血と臓物に塗れた身体でこの世に再臨した。

「木材破砕機で身体を潰したことはあるけど、さすがに丸ごと食べられたのは初めての体験だったなぁ」

雅が佐藤を食ったと思ったら、その佐藤は雅の身体を食い破って復活した。
如何に彼岸島で奇天烈な体験を多くしてきた明ですら、頭がどうにかなりそうだった。

「......」

血だまりに沈む炭治郎を見下ろしながら、佐藤はぼやく。

「う〜ん、これはリベンジ成功と言っていいのかな?彼が邪魔しなかったらどうなってたかわからないし」

数秒だけ炭治郎を見つめるも、すぐに切り替え明へと振り返る。

「とりあえずコンティニューの続きといこうかな、最後のお侍さん」
「くっ...!」

明は迎え撃つ為に刀を構えるも、その心内には絶望が芽生えつつあった。
この世に完全な生物などいない。雅ですら、501ワクチンという弱点があるし、流石に肉体がなくなれば再生できるとは思えない。
だがこいつはなんだ。
切り刻まれても、頭を失っても、全身を焼かれても、身体ごと喰われても蘇る。
どうすればこんな化け物を倒せる。どうすれば、自分はこいつに勝てる。

「さあ、今度こそ勝たせてもらうよ」


「いいや終わりだ。貴様はここで死ぬ」

―――ガクリ。

佐藤の膝が崩れ落ち、身体が震え始める。

「あれぇ?」

佐藤もまた、己の異変を自覚する。
再生は完璧だ。怪我はひとつもなく、疲労もほとんどない。
だというのに、寒気がする。全身が震えて力が入らない。

「お前の再生能力は死んでから始まるのだろう?」

頭上から言葉が投げかけられたかと思えば、シャッ、と一筋の閃が走り、佐藤の首と胴体が泣き別れる。
ゴロリ、と地面に転がる佐藤の生首。
その首を持ち上げるのは、内臓も血も零れ落ちながらも、身体の原型だけは戻りつつある雅。

「私の血に感染したものは一度仮死状態になってから吸血鬼となる。いまのお前はその経過の中にあるのだよ」
「なるほどね」
「さすがの私も先ほどのは死ぬと思ったぞ...さらばだ、亜人よ」

生首から手を離し、雅は佐藤の生首をサッカーボールのように彼方へと蹴り飛ばした。

609名無しさん:2020/04/11(土) 00:16:44 ID:tE7O.78I0
「なっ、は、ハガアアアアァァァ!?」

驚く間もなく、雅の身体から四肢が飛び出し、最後には頭部すら砕け散る。


まるで昆虫の脱皮のように。
雅の身体を破壊しながら、佐藤は血と臓物に塗れた身体でこの世に再臨した。

「木材破砕機で身体を潰したことはあるけど、さすがに丸ごと食べられたのは初めての体験だったなぁ」

雅が佐藤を食ったと思ったら、その佐藤は雅の身体を食い破って復活した。
如何に彼岸島で奇天烈な体験を多くしてきた明ですら、頭がどうにかなりそうだった。

「......」

血だまりに沈む炭治郎を見下ろしながら、佐藤はぼやく。

「う〜ん、これはリベンジ成功と言っていいのかな?彼が邪魔しなかったらどうなってたかわからないし」

数秒だけ炭治郎を見つめるも、すぐに切り替え明へと振り返る。

「とりあえずコンティニューの続きといこうかな、最後のお侍さん」
「くっ...!」

明は迎え撃つ為に刀を構えるも、その心内には絶望が芽生えつつあった。
この世に完全な生物などいない。雅ですら、501ワクチンという弱点があるし、流石に肉体がなくなれば再生できるとは思えない。
だがこいつはなんだ。
切り刻まれても、頭を失っても、全身を焼かれても、身体ごと喰われても蘇る。
どうすればこんな化け物を倒せる。どうすれば、自分はこいつに勝てる。

「さあ、今度こそ勝たせてもらうよ」


「いいや終わりだ。貴様はここで死ぬ」

―――ガクリ。

佐藤の膝が崩れ落ち、身体が震え始める。

「あれぇ?」

佐藤もまた、己の異変を自覚する。
再生は完璧だ。怪我はひとつもなく、疲労もほとんどない。
だというのに、寒気がする。全身が震えて力が入らない。

「お前の再生能力は死んでから始まるのだろう?」

頭上から言葉が投げかけられたかと思えば、シャッ、と一筋の閃が走り、佐藤の首と胴体が泣き別れる。
ゴロリ、と地面に転がる佐藤の生首。
その首を持ち上げるのは、内臓も血も零れ落ちながらも、身体の原型だけは戻りつつある雅。

「私の血に感染したものは一度仮死状態になってから吸血鬼となる。いまのお前はその経過の中にあるのだよ」
「なるほどね」
「さすがの私も先ほどのは死ぬと思ったぞ...さらばだ、亜人よ」

生首から手を離し、雅は佐藤の生首をサッカーボールのように彼方へと蹴り飛ばした。

610名無しさん:2020/04/11(土) 00:17:55 ID:tE7O.78I0



『警告します』

首輪からそんな音が佐藤の耳に届く。

「ああ、今度はダメみたいだね」

全てを悟った佐藤は虚空に向けてそう呟いた。

彼は一度死に、身体は既に再生を終えていた。にも関わらず、再び力が抜け、こうして痙攣と共に倒れ伏している。
亜人は、蘇生する際に身体に有害なものを分解し無害にすることができる。その為、完全に吸血鬼化する前に、身体の中の雅の血は分解されていた。
そう。身体の中にあるものは、だ。未だ、佐藤の顔に付着していた血や臓物の痕は対象外である。

首を蹴り飛ばされ、蘇生し、禁止エリアから離れる前に、雅の血は再び佐藤の身体を蝕んだのだ。

「まだ残ってた身体じゃなくてこっちが再生するのは意外だったなぁ」

亜人は、部位に限らず残った面積が広い場所から再生する特性がある。
その為、本来ならばこちらの頭部ではなく、再生するのは雅のもとにある身体の方だ。
だが、再生したのはこちらの首。すなわち、首輪の着いている部位だ。
BBがどうやってそんな調整をしたかはわからないが、参加者である証が首輪だと考えればまあそうだろうなと思うしかなかった。


「やめとくべきだったかな」

思えば、自分の飽きっぽい性分の割にはよくもまあそのままリベンジに迎えたものだ。
侍相手は飽きていたはずだ。
普段ならリベンジなど後回しにして、他の参加者たちと目いっぱい遊んでからにしたはずだ。
だが、なんの気まぐれか、IBMが使えず、ロクな装備もないまま舞い戻ってしまった。
普段の自分からすれば、少々不思議な行動だ。

「後悔とかはないんだけどね」

佐藤には感情というものがない。
勝敗にも頓着なく、死と隣り合わせのスリルだけが彼に生きている実感を与えてきた。
だから、老衰なんかで死ぬよりも、最期まで戦い抜けたのは彼にとっても幸運なことだ。

「ただ」

最期に浮かぶのは、この会場でただ一人の、兼ねてからの宿敵(あそびあいて)ではなく。自分を殺した雅でもなく。
自分が手を出すまでもなく崩れ落ちた炭治郎。
あと一歩で勝利できたはずの、最後の勝負。


彼は知らない。彼も、戦った炭治郎達も、誰も知らない。
佐藤がすぐにリベンジに戻ったのは、球磨川禊が最期に遺した脚本作り(ブックメイカー)の影響があったことを。
その植え付けられた過負荷は、お節介にも彼に『悔しい』という感情を付加していたことを。

「やっぱり勝ちたかったかな」

その過負荷の言葉を最後に、誰にも知られることなく、佐藤の首輪は爆発した。

611名無しさん:2020/04/11(土) 00:21:34 ID:tE7O.78I0






「さてと」

くるり、と振り返る雅の視線の先には、日輪刀を振りかぶり駆けてくる明。
その明目掛けて、雅は足元の炭治郎を蹴り飛ばしぶつけた。

「ぐあっ!」
「見どころのある小僧ではあったが、そうなってはもうお終いだな」

投げかけられる炭治郎への侮辱を噛み潰し、雅を睨みつつも、明は風太郎たちを隠している物陰へと炭治郎を運ぶ。

「あ、明さ...ッ!」

運び込まれた炭治郎を見て、風太郎は絶句する。

「ぁ...ああ...!」
「上杉、炭治郎を頼む。右目のナイフは下手に抜くな、失血死するかもしれん」

明の言葉を受け、風太郎は慌てて炭治郎の鼓動を確認する。
微かだが、まだ動いている。だが、このままではもうじき...

(俺が諦めてどうする!戦ってない、俺が!)

痛む身体にムチ打ち、風太郎は明から渡された炭治郎のデイバックを頼りに、炭治郎の応急処置に努める。

(すまない、炭治郎。これは俺のミスだ。俺が無理やりにでも雅に攻撃していれば...!)

内心で炭治郎へと謝罪しながら、明は雅のもとへと向かう。
これ以上、犠牲を出さぬように。今まで傷つけてきた者たちへの罪を清算させるために。

「雅...!」

佐藤の残骸を食していた雅は、血に濡れた口を歪ませ、ニィ、と笑った。

612名無しさん:2020/04/11(土) 00:22:08 ID:tE7O.78I0






「さてと」

くるり、と振り返る雅の視線の先には、日輪刀を振りかぶり駆けてくる明。
その明目掛けて、雅は足元の炭治郎を蹴り飛ばしぶつけた。

「ぐあっ!」
「見どころのある小僧ではあったが、そうなってはもうお終いだな」

投げかけられる炭治郎への侮辱を噛み潰し、雅を睨みつつも、明は風太郎たちを隠している物陰へと炭治郎を運ぶ。

「あ、明さ...ッ!」

運び込まれた炭治郎を見て、風太郎は絶句する。

「ぁ...ああ...!」
「上杉、炭治郎を頼む。右目のナイフは下手に抜くな、失血死するかもしれん」

明の言葉を受け、風太郎は慌てて炭治郎の鼓動を確認する。
微かだが、まだ動いている。だが、このままではもうじき...

(俺が諦めてどうする!戦ってない、俺が!)

痛む身体にムチ打ち、風太郎は明から渡された炭治郎のデイバックを頼りに、炭治郎の応急処置に努める。

(すまない、炭治郎。これは俺のミスだ。俺が無理やりにでも雅に攻撃していれば...!)

内心で炭治郎へと謝罪しながら、明は雅のもとへと向かう。
これ以上、犠牲を出さぬように。今まで傷つけてきた者たちへの罪を清算させるために。

「雅...!」

佐藤の残骸を食していた雅は、血に濡れた口を歪ませ、ニィ、と笑った。

613名無しさん:2020/04/11(土) 00:23:05 ID:tE7O.78I0






「さてと」

くるり、と振り返る雅の視線の先には、日輪刀を振りかぶり駆けてくる明。
その明目掛けて、雅は足元の炭治郎を蹴り飛ばしぶつけた。

「ぐあっ!」
「見どころのある小僧ではあったが、そうなってはもうお終いだな」

投げかけられる炭治郎への侮辱を噛み潰し、雅を睨みつつも、明は風太郎たちを隠している物陰へと炭治郎を運ぶ。

「あ、明さ...ッ!」

運び込まれた炭治郎を見て、風太郎は絶句する。

「ぁ...ああ...!」
「上杉、炭治郎を頼む。右目のナイフは下手に抜くな、失血死するかもしれん」

明の言葉を受け、風太郎は慌てて炭治郎の鼓動を確認する。
微かだが、まだ動いている。だが、このままではもうじき...

(俺が諦めてどうする!戦ってない、俺が!)

痛む身体にムチ打ち、風太郎は明から渡された炭治郎のデイバックを頼りに、炭治郎の応急処置に努める。

(すまない、炭治郎。これは俺のミスだ。俺が無理やりにでも雅に攻撃していれば...!)

内心で炭治郎へと謝罪しながら、明は雅のもとへと向かう。
これ以上、犠牲を出さぬように。今まで傷つけてきた者たちへの罪を清算させるために。

「雅...!」

佐藤の残骸を食していた雅は、血に濡れた口を歪ませ、ニィ、と笑った。

614名無しさん:2020/04/11(土) 00:24:29 ID:tE7O.78I0



(くそっ、止まれ...止まれ!)

風太郎は、とにかく血の流れ続ける目の治療を施そうとしていた。
だが、刺さったナイフを抜けば炭治郎は最低でも失明、最悪そのまま死んでしまう可能性が高い。
いくら包帯があったところで、それだけではもうどうしようもない。

ドラグレッダーは現界可能時間の為に、既に鏡の中に退避してしまったし、頼れるものは己の知識といまある道具だけ。
絶望に苛まれる風太郎に、更なる追い打ちがかけられる。

ひょこり、と向かい角から身を乗り出した影がひとつ。
結晶ノ御子。破壊されたものとは別の、新たな御子が到着したのだ。

「―――!」

御子が攻撃の体勢に入る前に、風太郎は炭治郎を庇うように、デイバックと共に被さり盾になる。
皮膚から伝わる冷気に、風太郎は自分はもうすぐ死ぬのだと理解する。

(悪いみんな...俺は、結局なにも...)

迫る死への恐怖に、思わず炭治郎を抱きしめる腕に力が入る。

瞬間。

「―――えっ」

風太郎の身体は宙を舞っていた。投げ飛ばされたのだと気が付いたのは、炭治郎が振り払ったかのように右腕を掲げていたからだ。
声をかける間もなく、炭治郎は立ち上がり、迫る冷気に構わず、結晶ノ御子へと駆けだした。

615名無しさん:2020/04/11(土) 00:25:09 ID:tE7O.78I0

―――『血鬼術 散り蓮華』

放たれる氷の雨に、しかし炭治郎は怯まない。皮膚が避けようが灰を凍らそうが、変わらぬ速度で突き進む。

グシャリ。

技を放った直後の御子は回避行動に移る間もなく、炭治郎の拳を受け、地に叩きつけられた。

ガンッ。ガンッ。ガンッ。

かける言葉もなく、風太郎は御子へと拳を振り下ろし続ける炭治郎を見つめることしかできなかった。

ガパリ、と炭治郎の口が開き、御子へと食らいつく。
まるで飢えた獣が久方ぶりの肉に食らいつくかのように、獰猛に、凶暴に。

ハァ ハァ

ドキドキと風太郎の心臓が高鳴る。

(なんで俺はこんなに不安になってる?あいつは助けてくれたんだぞ?)

本来ならば炭治郎が動けるようになったことに喜ぶべきはずなのに、風太郎は何故だか言葉を発することすらできなかった。

ハァ ハァ

御子を破壊し終え、右目からナイフを抜いた炭治郎が立ち上がる。
炭治郎。無事でよかった。助けてくれてありがとう。右目は大丈夫なのか。そんな言葉をかけたいのに、喉でつっかえるように詰まってしまう。

振り向いてまた笑ってくれ。振り向くな。お前が無事だったのを喜ばせてくれ。知りたくない。

矛盾する思いが、風太郎の鼓動をますます高鳴らせ、呼吸すらままならないほどに心臓を締め付ける。

ハァ ハァ

「っ...た...」

絞り出した声はあまりにも弱弱しいものだった。

ゆらり、と炭治郎が振り返る。




「炭治郎...?」

ハー ハー

言葉の代わりに返すその呼吸。
風太郎を見据える左の眼窩は赤く、口元からのぞかせる牙は、鋭く変貌していた。

616悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:26:12 ID:tE7O.78I0



「ガアアアアアアア!」

突如あがる雄たけびに、明は思わず振り返る。

そこにいたのは、涎を垂らし、眼窩が赤くなった炭治郎。

「嘘...炭治郎...」

明の心臓が締め付けられる。
まただ。また、仲間が吸血鬼にされた。
それも、自分はこんなに近くにいたというのに。

「くっ!」

倒れている風太郎に飛び掛かろうとする炭治郎を止める為に、明は駆け出そうとする。

(すまない、済まない炭治郎!)

吸血鬼になれば、もう戻ることはできない。
人の血を啜り続けなければ、彼は邪鬼か亡者になってしまう。
いや、それ以前に、成りたての吸血鬼は吸血衝動が殊更強い。
強い精神力を持った、親友のケンちゃんですら、それには抗いきれなかった。
いまは怪我で意識が朦朧としているが、もしも風太郎を食らい意識を取り戻せば、それは彼にとっての地獄だろう。
ならば―――殺すしかない。炭治郎の為にも、斬るしかない。

「邪魔をするな明。私の同胞の誕生を祝おうじゃないか」

それを止めるのは、雅。炭治郎を見て隙の出来た明の肩を掴み、首元にかぶりついた。

「が...」

じゅるじゅるじゅる。じょーどぼどぼ。

明の身体から力が抜け、涙と涎と共に、小便がズボンから流れ出る。

「相変わらず美味い血だ」

ぬぽっ、と牙が明の首元から離され、力を失った明の身体がどさりと倒れこむ。

617悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:27:52 ID:tE7O.78I0
「た、炭治郎...!」
「あ、アガアアア!」

明の目の前で、デイバッグを盾に必死に抵抗する風太郎といまにも食らいつかんばかりの勢いでのしかかる炭治郎の戦いが繰り広げられている。

「やめろ...炭治郎...!」

震える声で呼びかけるも、炭治郎は止まらない。
ただ目の前の獲物を食らいつくさんと牙を向けるだけだ。

「アハハハハ、中々楽しい見世物じゃないか」

ケラケラと笑う雅を、明は倒れたままの体勢で睨みつける。

「その顔だ、明。その復讐心と悲しみの入り交ざった表情、それを眺めるのは実に愉しいぞ!ハハハハハハ!!」
「み...雅ィィィィィ!!」

満足げに嗤う雅の嗤い声が響き渡る。
いくら憎悪をぶつけようとも、それを止める者はだれもいない。
必死に抵抗する明を嘲笑うかのように、風太郎の首元と炭治郎の牙は近づいていく。

「やめろ...やめてくれ...!」

明は、目の前の惨劇に懇願するように手を伸ばす。
その腕を踏みにじるかのように、雅の足は明の腕を踏みつけへし折った。

「ぐあっ!」
「ん?貴様、義手だったか。私が斬った腕が生えた訳ではなかったのだな...まあいい」

雅は屈み、折れた義手を放り捨てた。

「く...炭治郎...!」

懇願する明の願いも空しく、炭治郎の牙は風太郎の首元に突き立てられた。
それを見た雅は再び嗤い、明の心は絶望に満ちる。

「ぐ...くうっ」

明の頬を涙が伝う。
吸血された際のそれではなく、純粋な涙だ。

なぜ。なぜ自分はこんなにも無力だ。
いくら強くなろうとも、なにも救えない。仇を殺すこともできない。
敵の、味方の屍を積んだところで、あの男には届かず奪われるだけだ。

(俺は...チクショウ...チクショウ...!)

618悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:29:07 ID:tE7O.78I0

「炭治郎よ、その雑魚よりも美味い血がここにあるぞ」

シャッ

雅のブーメランが明の胸元を裂き、血を噴出させる。

「ぐあっ!」

明の呻き声が漏れる。
致命傷ではないが、それでも激痛だ。麻痺が回復しても、行動に支障はでるだろう。

「炭治郎よ、明を食え。そうすれば私の右腕として配下に加えてやる」

炭治郎のこめかみがぴくりと動く。

(こ、こいつは...!)

明は雅の意図を察する。
奴は、炭治郎を部下にするのではなく、彼と自分を殺し合わせたいのだ。
だから、自分には抵抗できる程度の余力を残し、武器も奪わず残しておいた。
炭治郎が自分を殺しても、自分が炭治郎を殺しても。どちらに転んでも、雅にとっては愉しみのひとつでしかない。

「くっ...!」

だが、抵抗できねば、炭治郎はさらに罪を重ねてしまう。雅を悦ばせるとわかっていても、戦うしかない。

風太郎の血を吸い終えた炭治郎が駆け出す。
明は痺れ、痛む身体に耐えつつ立ち上がり日輪刀を構える。

(炭治郎...!)

彼はまだ意識が朦朧としているはずだ。
おそらく、このまま剣を振るえば両断できる。
真っすぐに突っ込んでくる炭治郎。それを待ち構える明。

シャッ。

刀は、振るわれた。

が。

「えっ」

炭治郎の姿はそこにはなく。
明の頭上を、炭治郎は跳び越えていった。

「なっ」

驚いたのは明だけではない。雅もだ。
炭治郎が跳んだのは、明の背後にまわるためではなく。


―――ヒノカミ神楽 輝輝恩光


雅へと斬りかかる為だったからだ。

619悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:30:35 ID:tE7O.78I0



炭治郎の牙を退ける最中、風太郎はある疑問を抱いていた。

(なんで俺はまだ吸われてないんだ?)

いくら、炭治郎の意識が朦朧としているとはいえ、それでも身体のほとんどが傷ついている一般人の風太郎を押し込めないほど脆弱ではない。
それは、御子を潰したことからうかがえる。
だが、風太郎はまだ吸われていない。しっかり抵抗できている。

「ぁ...!がぁ...!」
「......!」

炭治郎の小さな呻き声を、風太郎は聞き逃さなかった。
抗っているんだ。吸血鬼となり血に飢えたその状態で。恐らく、刺されたナイフで傷ついているであろう脳髄で。
理性はなくとも、炭治郎は必死に本能に抗っているんだ。

(炭治郎...!)

風太郎の目じりに涙が浮かぶ。こいつは、こんなになっても頑張っている。
血を吸っても仕方ないと思えるほどの環境でもなお、必死に抗っている!

「た...」

炭治郎頑張れ、負けるな、目を覚ませ。そんな激励の言葉は、しかし押しとどめられる。
炭治郎がこのまま自我を取り戻したらどうなる?間違いなく、雅は子供が飽きた玩具を捨てるように炭治郎を殺すだろう。
雅も傷ついているとはいえ、こんな疲労困憊の状態で奴に適うはずがない。
明も倒れた以上、この場の三人の命は雅の掌の中にある。その気になれば全員、容易く摘まれてしまう。

せめて、炭治郎が少しでも元気にならなければもうどうしようもない。

だったらどうする。どうすればいい。

考えろ。勉強だけが俺の取り柄だ。こういう時こそ脳細胞を働かせろ!

考えろ。考えろ。考えろ!!

―――頭を使うとお腹が空くんですよ

...あ?

620悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:34:40 ID:tE7O.78I0

何故か、急に五月の言葉が脳裏を過った。
なにを思い返しているんだ俺は。全く関係ないだろうコレ。


―――もう足を引っ張るだけの私じゃないですか?

今度は四葉だ。
いや、確かに足を引っ張るだけじゃいけないとは思っているが。今はお前たちのことは関係なくてだな。


―――『おいおい』『関係ないだなんて冷たいこと言うなよ』『きみの立派な教え子たちだろ?』

さも当然のように俺の走馬灯に割り込んでくるな球磨川禊。
というかお前とそんな会話した覚えないんだが。どうせだったらこの状況を切り抜ける策でも教えてくれ。


―――『だーかーらー』『僕たちみたいなシュールラブコメ勢がガチガチのシリアスにまともにやって勝てるわけないんだって』『当然さ』『場数が違いすぎる』

―――『でもかき回すことはできる』『なんせ僕らは理不尽で倫理感を疑われる喜劇(コメディ)の経験は彼らよりも上だからね』

―――『皆が真剣になってる中で』『日常の描写からなんかうまい感じに繋げて伏線だったんですって言い張って』『誰も予想できないくだらねー展開をぶつけてカタルシスを感じられるって押し付けて』『そして最後に嘲笑でもいいから笑われる』

―――『それが喜劇(ぼくら)に許された特権だぜ上杉くん』


...球磨川。お前、しゃべりすぎた。
俺は喜劇の主人公になったつもりはないしおまえと一緒にするな。

ただ。


風太郎は、肩の力を抜き、抵抗を止めた。

「疲れた頭に栄養は定石だよな」

炭治郎の牙が食い込み、吸血が始まる。
全身の力が抜け、身体の至る箇所から液が漏れだす。

(くっ...意識が飛びそうだ...けどもう少し頑張れ、俺!)

最後の力を振り絞り、首元に手をかけ炭治郎の耳元に呼びかけ続ける。

「炭治郎...炭治郎...」
「ガ...」
「起きろ...炭治郎...!」

照準の定まらない眼に徐々に光が宿っていく。
血を吸えなくて意識が朦朧としているのなら、血を吸わせてやれば意識が戻りやすくなるのは当然の理屈だ。

「...?」

意識を取り戻し、困惑の表情を浮かべる炭治郎の吸血が止まる。
目を覚ましてこの状況ならば無理もない。
風太郎は、炭治郎へと小さな声で耳打ちする。

「炭治郎、お前は吸血鬼にされた。だから、俺がお前に血を吸わせたんだ」
「―――!」

顔色を変え、すぐに離れようとする前に風太郎は言葉を紡ぐ。

「落ち着け。これは、雅に一泡ふかす最後のチャンスだ」
「...?」
「いま、あいつはお前が理性のない吸血鬼だと思い込んで油断してる。自分に斬りかかってこないと思い込んでる」

チラ、と視線を投げ出されたデイバックへと向ける。

「あそこにお前が使ってた刀が落ちてる。あれで思い切りやってやれ。明さんと二人で雅を倒せ」
「...ふぇ、ふぇも(でも)」
「これは俺たち三人が生き残る最良の選択肢だ。俺が選んだことなんだから、お前が気に病むことじゃない」

腕の力が抜けていき、瞼も重くなっていく。
おそらく、この戦いの結末は見届けられないだろうなと思う。
構わない。これで足を引っ張ることもない。ようやく二人の役に立てる。

「頼んだぜ、炭治郎」

最後の力で、ぽん、と頭を叩き、風太郎の意識は闇に落ちた。

621悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:35:36 ID:tE7O.78I0




ザ ン ッ


雅の腕が切り裂かれ地に落ちる。

「馬鹿な、貴様、なぜ...」
「上杉さんが託してくれた」

剣を握りしめる腕に力が漲る。普段からは考えられないほどの力が溢れる。

「お前を倒す為に、あの人が俺に継いでくれたんだ」

託された想いは一つではない。
その多くは芽吹くことなく折られ、踏みにじられてきた。

なんど託されても。なんど打ちのめされても。彼は止まることを許さない。

「雅!俺はお前を絶対に許さない!」

だからこそ、戦い続ける。託されたものが芽吹くまで。その命が燃え尽きるまで。

―――ヒノカミ神楽 円舞

振るわれる剛剣を、雅はブーメランで受け止める。

(ッ...この重さ...!)

押し返すことなく、競り合うこともなく、雅は後方へと弾き飛ばされた。

「くっ」

着地しつつ、斬られた腕を拾い再生させる。

(片腕だったからか?いや、どちらにせよ結果は変わらなかっただろう)

力で押し負けた。こんな経験は、不死の身体を手に入れてから初めてだった。

「吸血鬼風情が私の力を上回るとは。ハッ、わからんこともあるものだ」

この殺し合いに連れてこられてからは面白いことばかりだ。

今まで戦ってきた中でも有数の達人である鬼殺し。
鬼の王。
誰よりも高く羽ばたく人間。
吸血鬼以上の不死性を持つ亜人。
宮本明。

そして、長に歯向かう吸血鬼。

ここで終わってもいいと思えるほどの高揚感があふれ出す。

「あの退屈な世界で過ごすよりお前たちで遊びつくした方が楽しそうだ...こい!竈門炭治郎!どちらが最強の吸血鬼か、ここで決めようじゃないか!!」

622悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:37:57 ID:tE7O.78I0



「炭治郎...」

ヨロ、ヨロ、とふらつき、しかし力が抜け膝を着く。
吸血の効果だ。それに、先の胸元の一撃による出血も響いているのだろう。

(あいつが戦っているのに、俺は...!)

痺れが取れない。もがや立ち上がることすらままならない。

―――『しょうがないよ』『明ちゃんは悪くない』

傍らに像が浮かび上がり、明へと優しく語り掛ける。

―――『彼はもちろん上杉くんも結局過負荷(ぼくら)にはならなかった』『あんな奇跡は過負荷(ぼくら)には起こせないからね』

球磨川禊。混沌よりも這い寄る過負荷は、この状況においても堕落に引きずり落そうというのか。

―――『過負荷(ぼくら)は勝利を飾れない』『過負荷(ぼくら)が干渉すればそれこそ勝利から遠ざかるだろうね』

関係あるか。いま、炭治郎が苦戦している。それを指を咥えて眺めていろというのか。

―――『勝つためだよ』『今のままなら勝率は五分だ』『悪い数字じゃない』『勝ちたいなら過負荷(あきらちゃん)は大人しくしているべきだ』『勝つためならしょうがないことだ』

目を瞑り、悟ったような表情で、おおよそ球磨川らしくない真面目な解説を述べ。

―――嫌だ。過負荷(ぼく)だって一度くらい勝ってみたい。

括弧つけるのを止めた。

―――過負荷(ぼくら)が勝っちゃいけないなんて誰が決めた。過負荷(ぼくら)が脇役じゃないといけないなんて誰が決めた。

明の肩に、そっと手が添えられる。

―――明ちゃん。証明してくれ。過負荷(ぼくら)も、主役を張れるんだってことを

そして、球磨川の像は消えた。
言いたいことだけ言って、明の言葉を聞くこともなく消え去った。

球磨川の消えた後を見た明の目が見開かれる。
これは、いつの間にかデイバックに入れられていたのか?それとも―――

なんでも構わない。

明は、転がっていたソレを、力強く握りしめた。

623悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:39:38 ID:tE7O.78I0



―――ヒノカミ神楽 火車

まるで業火のように振るわれる剣技を、雅はただ受け止めることはしない。斬られることもしない。

―――ヒノカミ神楽 灼骨炎陽

再生ができるとはいえ、佐藤から受けた全身破壊のダメージはまだ完治しきっていない。もしもあの連撃をまともに受ければ再生が効くのかもわからない。

―――ヒノカミ神楽 炎舞

だから躱す。炭治郎を、対等な敵であると認めているからこそ、全力をもって勝利する。

「喜べ炭治郎!貴様のその剣技、間違いなく煉獄を超えているぞ!!」

全力で振るうブーメランを刀身で受けた炭治郎の身体は大きく吹き飛ばされる。
雅の賞賛も炭治郎には届かない。ただただ、眼前の敵を滅することしか見えていない。


―――ヒノカミ神楽 陽華突

弾かれてもなお、すぐに体勢を立て直し突貫する。
さしもの雅も避けきれず、その突きを右肩に受け、腕ごと吹き飛ばされた。

「判断を誤ったな」

同時に。
炭治郎の左腕の肘から切れ込みが入りずり落ちていく。
相打ち。雅は防御を捨て、炭治郎へのカウンターに全てを費やしたのだ。

だが、あくまでもただの吸血鬼である炭治郎に対して、吸血鬼の始祖である雅は腕の1本程度ではすぐに再生してしまう。

とっさに刀を右手に持ち替え、止血する間もなく再び斬りかかる。


―――ヒノカミ神楽

「フンッ!」

飛び掛かる炭治郎に、雅は足元に落ちている己の部位を蹴り上げとばした。

「くあっ!」

ぶつかり、バラバラになったソレは炭治郎の視界を狭め、技の勢いを殺し、雅への目測を僅かにずらす。
結果、炭治郎の技は空振り、雅に最大の隙を与えることになる。

「さらばだ、炭治郎」

首切り処刑のギロチンのように、雅のブーメランが炭治郎の首へと振り下ろされる。

624悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:41:16 ID:tE7O.78I0
「うおおおおおお!!」

ガ ァ ン

力任せに振るわれた大刀が炭治郎への斬撃を弾き飛ばす。
明だ。復活した明が炭治郎への攻撃を防いだのだ。

「明!貴様、痺れていた筈では!?」
「託されたんだよ、お前に勝てと!最悪のひねくれ者にな!」

明の痺れを和らがせていたのは、肩に刺さった螺子の先端部分。
気付け代わりに刺されたソレが、明に再び戦う力を呼び起こしたのだ。

「いくぞ炭治郎ォ!!」
「ハイ!!」

明と炭治郎、それぞれの刺突が雅の身体目掛けて放たれる。
右肩が再生しきっていない以上、雅にこの二つを躱す術はない。

「「ガアアアアアアアアア!!!!」」

互いの咆哮が重なる。
これで終わらせる。鬼を討つと!




ギ イ イ ィ ィ ィ ン

625悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:42:35 ID:tE7O.78I0

明と炭治郎の脳に激痛が走り、二人の目と鼻から血液があふれ出し、身体が崩れ落ちる。
脳波干渉(サイコジャック)。
本来は催眠用のソレは、雅が全身全霊を込めたことで殺傷力を有し、防御不可能な攻撃技と化した。

(これで終わりだ。奴らの武器を回収すれば―――)

明と炭治郎の手から零れ落ちた武器へと手を伸ばす。
これさえなければ、もはや雅の勝利は揺るがない。

「私の勝ちだ!」

ガシリ。

武器を取ったのは、雅ではなく、炭治郎の手。
握ったものは、沖田の日本刀ではなく、天元の日輪刀だった。

サイコジャックは身体に痛みを与えることでその効果が解かれる。
炭治郎は既に佐藤のナイフで脳髄にまでダメージを負わされていた。
幸運にも、それが雅のサイコジャックの影響を和らげたのだ。

ドッ

雅の胸元に日輪刀が突きたてられる。


「ガッ、小僧が!」

パ ァ ン

雅のブーメランが炭治郎の右腕を斬り飛ばす。
だが、緩まない。炭治郎の心は、この程度で揺らぎはしない。

「ウ...ガアアァァァ」

炭治郎の口が大きく開き、切り離された己の腕ごと柄を噛み締める。

ズズズ

死に瀕し、吸血鬼の力も加わった万力の握力が日輪刀を赫く染める。
それを雅も炭治郎も認識することなく日輪刀は雅の身体を蝕んでいく。

残る力を振り絞り、繰り出されるは、最後の型。
ヒノカミ神楽―――日の呼吸、十二の型を繰り返すことで円環を成し、現れる本来の型とは異なる新しい型。

―――ヒノカミ神楽 拾参の型

炭治郎の咥えた刀が振り下ろされ、雅の身体を縦に裂いていく。
そして、その衝撃で天元の日輪刀の爆薬に着火。
繰り出されるは、赫刀と天元の日輪刀本来の機能が合わさりできた奇跡の型。

―――紅蓮華(ぐれんげ)

爆薬が爆ぜ、雅の身体を破壊し、まるで死者に手向ける彼岸花のように血の華を咲かせた。

626悪鬼滅殺(3):2020/04/11(土) 00:43:40 ID:tE7O.78I0

初めて味わう激痛に雅は意識を失いかける。
だが、まだ死なない。たとえ上半身と下半身を分断されても、内臓を焼き尽くされても、首輪を破壊されない限り、雅は死ぬことはない。

なにより。

(これが臨死の恍惚...最高じゃないか)

雅は、かつてないほどの多幸感に溢れていた。
最強の肉体を手に入れてより、何度も死にかけたことはあったが、炭治郎の肉体を喰らったところで生き延びれるかもわからないほど死に瀕したことはなかった。

不死の王が生き延びる為に必死に足掻く。これ以上のスリルはそう味わえるものではないだろう。

「礼を言うぞ炭治郎!そして私の中で永遠に眠るがいい!」

雅の口が大きく開き、炭治郎へと襲い掛かる。

―――ヌッ。

「!!」

牙が炭治郎へと食い込む寸前、爆炎の中から縫い出てきた日本刀が雅の口腔を貫いた。

「ガ...」
「終わりだ、雅!!」

シャッ

刀が振り下ろされ、雅の頭頂から身体にかけて真っ二つに裂ける。

ピピピピピ

首輪の警告音が鳴り始める。
明でも炭治郎でもなく、雅の体内から。
つまり、明の斬撃は、確かに雅の首輪を捉えていたということだ。

「明...私は死ぬのか...?」

縦に割れた雅の口がぽつぽつと呟き始める。

「...お前の遊びもここまでだ。雅」

先ほどまでの高揚と激昂が嘘だったかのように、雅と明は静かに言葉を紡ぐ。

「...ハッ。そうか...存外...やりきってみれば...まあ、悪くはない気分だな」

雅には後悔など微塵もなかった。
退屈を感じ始めていた生の最後にこれほど満たされたのだから当然だ。

だから。

「地獄で待っているぞ明。その命尽きるまで私を愉しませてみせろ」

改心も謝罪もすることなく、雅は嗤う。
最期まで人間を嫌い、見下してきた吸血鬼の王として。
己の死すらも愉しみの一つとして受け入れて。

ボンッ、と小さな爆音が鳴り、長かった彼岸島の歴史の幕が、いまここに降りた。

627悪鬼滅殺(4):2020/04/11(土) 00:44:29 ID:tE7O.78I0


カシャリ、と明の掌から刀が零れ落ちる。

「やった...やったんだ...」

明の頬を涙が伝う。

「ケンちゃん...ポン...西山...ユキ...加藤...兄貴...師匠...怜...亮介...鮫島...勝っちゃん...みんな...」

同郷の親友たちの。心底慕っていた肉親の。彼岸島で出会った皆の。本土で出会った者たちの顔が明の脳裏にとめどなく過っていく。
わかっている。あの雅が自分の時間軸の雅ではないかもしれないことは。
生きて帰れば、再び雅たちとの戦いが待ち受けているかもしれないことは。
だが、曲がりなりにもようやく遂げた本懐に、明は膝を着かずにはいられなかった。

散っていった者たちへの想いを馳せ、数分が経過したころだった。

「!そうだ。炭治郎。炭治郎は大丈夫か?」

雅を倒せたのは明一人の力ではない。
炭治郎と風太郎。二人の協力があってこそ為しえた偉業だ。

「炭治郎...ッ」

炭治郎の身体を見た明は思わず息を呑む。
両腕は削がれ、足も片方が無くなり、爆風に煽られ皮膚もところどころ爛れている。
むごい。残虐極まりない彼岸島の環境でもここまでのものはあまり見られなかった。

(すまない...すまない炭治郎)

ぐっ、と目を瞑り、心中で謝罪する。
助けてもらってばかりだというのに、自分は彼を救ってやることが出来なかった。
あまりにも無力だ。雅を倒せた喜びも、いまや彼方に飛んでいきそうだった。

「ぁ...きら...さ...」

ぼそぼそと動く唇に、明の目が見開かれる。
炭治郎はまだ生きていた。
明は顔を綻ばせ、炭治郎に呼びかける。

「炭治郎!雅は倒せた!勝ったのは俺たちだ!俺たちなんだ!!」

明の言葉に、炭治郎は涙と共に微笑みを浮かべる。

628悪鬼滅殺(4):2020/04/11(土) 00:45:29 ID:tE7O.78I0
「しっかりしろ!すぐに病院に連れて行って手当をしてやる!だから」

死ぬな。そう紡ごうとした明の言葉を遮るように、炭治郎は小さく首を横に振った。

「...なに諦めてるんだ。お前は生きなくちゃだめだ。仲間もいるし、妹も待ってるんだろ。大丈夫だ、吸血鬼ならこんな怪我だって」

言いかけて、明の口が止まる。

「吸血鬼...なら...」

歓喜に染まっていた明の顔が、瞬く間に絶望に包まれる。
そう。炭治郎は吸血鬼だ。
迅速な手当を施せば生き残れるかもしれない。だが、その後は?
両手を失い、片足を失い。全身に刻まれたダメージは大きく、もう戦うことはできないだろう。
もちろん、明と風太郎を筆頭に、彼を見捨てるものはいないはずだ。だからこそ。だからこそだ。

吸血鬼を看病するということは、誰が感染してもおかしくないということを意味する。
誰よりも他者を想い続けたこの少年が原因で、再び彼岸島の悲劇を起こしてはならない。
吸血鬼の血は、ここで絶やさなければならない。でなければ雅を倒した意味がなくなる。

ハァ、ハァ、ハァ

明の呼吸が途切れ途切れに紡がれる。

今までもそうしてきた。肉親であれ友であれ、吸血鬼と化した者たちはこの手で殺してきた。
だから今回も同じだ。
恩人であるこの少年を、斬る。

「くっ」

明の目尻に涙が浮かぶ。
嫌だ。できるはずがない。
そんな拒絶の念がとめどなくにじみ出る。

「明さん」

だが、ぼそぼそと動く炭治郎の唇を見て。

「お願いします」

炭治郎の決意を見た明の気持ちは、強く固まった。

「...わかった」

629悪鬼滅殺(4):2020/04/11(土) 00:47:07 ID:tE7O.78I0



俺は血を吸ってしまった。
上杉さんは気に病む必要はないと言ってくれたけれど、俺は欲に負けてしまった俺を許せなかった。
心のどこかで密かに思っていた。
もしも俺が鬼になってしまえば、たぶん人に害為す存在になってしまうだろうと。
やっぱりそうだった。
俺は禰豆子のように頑張れなかった。人を食わない鬼にはなれなかった。


こんな様になってしまったから自分で腹を斬ることもできない。生き残っても鬼を倒すことができない。
それどころか、無惨や雅、佐藤のように災厄をまき散らすことしかできない。
もはや悪鬼だ。他者を害することでしか生きられない自分は悪鬼そのものだった。
だから頼むしかなかった。
明さんに、この頸を落としてもらうことを。

心底申し訳ないと思う。
悲しみと怒りの匂いに溢れながら、それでも優しさを忘れない彼に、ようやく戦いから解放された彼を縛り付けるようなことを頼むのを。
最後まで守り通してやれなかった禰豆子にも。
恩を返せなかった、冨岡さんや煉獄さんにしのぶさん、鬼殺隊の人達にも。


「...炭治郎」

明さんの口が開く。
恨んでくれ。憎んでくれ。
死んだところで償えないかもしれないが、そうでもないと俺が俺を許せない。

「雅を倒せたのはお前のお陰だ。ありがとう」

けれど、投げかけられた言葉は望んでいたものとはまるきり違って。

「お前は俺の夢を叶えてくれた。だから、今度は俺がお前の夢を叶えるよ」

明さんは涙を流しながらも、強い意志を込めた瞳で俺を見つめていて。

「お前の妹や鬼殺隊の奴らを探して守る。上杉もこの会場で出会ったお前の仲間たちもだ。そして、鬼の王―――鬼舞辻無惨は必ず殺す」

彼は、戦いを止めるどころか、俺の後を継ぐと約束してくれた。
俺にはそれがどうしようもなく嬉しくて。救われたような気がして。
本当は止めなくちゃいけないのに、涙が滲んでできなかった。

「さよなら、炭治郎」

振り下ろされる刀にも恐怖はなく。
俺は、穏やかな気持ちで迫る刀を見つめていた。


(...ありがとう)

ザ ン ッ

630悪鬼滅殺(4):2020/04/11(土) 00:47:24 ID:tE7O.78I0



俺は血を吸ってしまった。
上杉さんは気に病む必要はないと言ってくれたけれど、俺は欲に負けてしまった俺を許せなかった。
心のどこかで密かに思っていた。
もしも俺が鬼になってしまえば、たぶん人に害為す存在になってしまうだろうと。
やっぱりそうだった。
俺は禰豆子のように頑張れなかった。人を食わない鬼にはなれなかった。


こんな様になってしまったから自分で腹を斬ることもできない。生き残っても鬼を倒すことができない。
それどころか、無惨や雅、佐藤のように災厄をまき散らすことしかできない。
もはや悪鬼だ。他者を害することでしか生きられない自分は悪鬼そのものだった。
だから頼むしかなかった。
明さんに、この頸を落としてもらうことを。

心底申し訳ないと思う。
悲しみと怒りの匂いに溢れながら、それでも優しさを忘れない彼に、ようやく戦いから解放された彼を縛り付けるようなことを頼むのを。
最後まで守り通してやれなかった禰豆子にも。
恩を返せなかった、冨岡さんや煉獄さんにしのぶさん、鬼殺隊の人達にも。


「...炭治郎」

明さんの口が開く。
恨んでくれ。憎んでくれ。
死んだところで償えないかもしれないが、そうでもないと俺が俺を許せない。

「雅を倒せたのはお前のお陰だ。ありがとう」

けれど、投げかけられた言葉は望んでいたものとはまるきり違って。

「お前は俺の夢を叶えてくれた。だから、今度は俺がお前の夢を叶えるよ」

明さんは涙を流しながらも、強い意志を込めた瞳で俺を見つめていて。

「お前の妹や鬼殺隊の奴らを探して守る。上杉もこの会場で出会ったお前の仲間たちもだ。そして、鬼の王―――鬼舞辻無惨は必ず殺す」

彼は、戦いを止めるどころか、俺の後を継ぐと約束してくれた。
俺にはそれがどうしようもなく嬉しくて。救われたような気がして。
本当は止めなくちゃいけないのに、涙が滲んでできなかった。

「さよなら、炭治郎」

振り下ろされる刀にも恐怖はなく。
俺は、穏やかな気持ちで迫る刀を見つめていた。


(...ありがとう)

ザ ン ッ

631悪鬼滅殺(4):2020/04/11(土) 00:51:20 ID:tE7O.78I0



トッ、ゴロゴロゴロ。

切断された炭治郎の首が一度跳ね、地面に血だまりを作る。
遺された身体が微かに痙攣し、やがて収まった。

竈門炭治郎は死んだ。
この手で、殺したのだ。

「ぐっ、ううっ」

顔を俯かせ、涙が零れるのを堪える。
まだ膝を折るな。
戦いは終わっていない。
炭治郎の敵である鬼を根絶やしにするまで、歩みを止めることは許されない。

いまは、上杉を起こし、共に炭治郎を埋葬してやらねば。

顔を上げ、風太郎のもとへと向かおうとしたその時だった。

ドッ。

背中に強い衝撃が走り、明の身体が前のめりに吹き飛ばされる。

バ ァ ン

なにが起きたかもわからぬまま、明の身体は壁面にたたきつけられ、そのまま意識を失った。

はぁ、はぁ、と息を切らして降り立つは、緑色の装甲に身を纏った怪人。
ベルデ、と名付けられた仮面ライダーだった。

632悪鬼滅殺(4):2020/04/11(土) 00:57:33 ID:tE7O.78I0




「ふ、フータローくん!」

一花が立ち昇っていた煙のもとに辿り着き、真っ先に見つけたのは、全身をが酷く傷つき汚れ、小便を漏らし、涎や涙を垂らしながら仰向けに転がっていた風太郎だった。
死んでいるのか、真っ白になりそうな頭を必死に抑え、胸元に耳を当ててみる。
心臓は動いている。呼吸は、多少乱れているが、問題なく行えている。
ひとまず、命に別状は無さそうだった彼に安堵する。
ただ、こんな怪我を受けておいて放置されているのは見過ごせなかった。

彼をこうした下手人がここにいるのか、あるいは誰か親切な人が遠くまで運んできてくれたのか。
どちらかはわからないが、できれば後者で、それが炭治郎たちであることを望む。
ならば、彼らはどこに?

ザ ン ッ

なにかを斬った音が耳に届く。
振り返る一花が見たのは、コートを着た男の背中と、辺りに飛び散る血しぶき、そして地面に転がる頭部だった。

その凄惨な光景に、一花の喉がヒッ、と鳴り恐怖に全身が震えだす。

殺された。いま、誰かが殺された。
あのコートの男が敵―――否、風太郎を守るために戦い、敵を殺したのかもしれない。
恐る恐る、転がった頭部の方へと目を向ける。

えっ、と言葉が漏れる。

それは確かに知った顔だった。つい数時間前に別れたばかりの、一花がこの戦場に足を運んだ理由である一人だった。

気が付けば、無意識のうちに一花は駆け出していた。
無防備に佇む男の背中を蹴り飛ばしていた。
そうして、向き合った。

血に濡れ、片眼が潰れた少年、竈門炭治郎の頭部と。

「た、タンジローくん?」

嘘だよね?と言わんばかりに自信なさげに呼びかける。
違う。これが彼の筈がない。そう思い込むことで現実逃避しようとするも、数時間前にこの目に焼き付いた姉妹たちの姿がそれを許さない。
炭治郎は死んだのだ。あの男に首を斬られて、いまこの場で。

633悪鬼滅殺(4):2020/04/11(土) 00:57:52 ID:tE7O.78I0




「ふ、フータローくん!」

一花が立ち昇っていた煙のもとに辿り着き、真っ先に見つけたのは、全身をが酷く傷つき汚れ、小便を漏らし、涎や涙を垂らしながら仰向けに転がっていた風太郎だった。
死んでいるのか、真っ白になりそうな頭を必死に抑え、胸元に耳を当ててみる。
心臓は動いている。呼吸は、多少乱れているが、問題なく行えている。
ひとまず、命に別状は無さそうだった彼に安堵する。
ただ、こんな怪我を受けておいて放置されているのは見過ごせなかった。

彼をこうした下手人がここにいるのか、あるいは誰か親切な人が遠くまで運んできてくれたのか。
どちらかはわからないが、できれば後者で、それが炭治郎たちであることを望む。
ならば、彼らはどこに?

ザ ン ッ

なにかを斬った音が耳に届く。
振り返る一花が見たのは、コートを着た男の背中と、辺りに飛び散る血しぶき、そして地面に転がる頭部だった。

その凄惨な光景に、一花の喉がヒッ、と鳴り恐怖に全身が震えだす。

殺された。いま、誰かが殺された。
あのコートの男が敵―――否、風太郎を守るために戦い、敵を殺したのかもしれない。
恐る恐る、転がった頭部の方へと目を向ける。

えっ、と言葉が漏れる。

それは確かに知った顔だった。つい数時間前に別れたばかりの、一花がこの戦場に足を運んだ理由である一人だった。

気が付けば、無意識のうちに一花は駆け出していた。
無防備に佇む男の背中を蹴り飛ばしていた。
そうして、向き合った。

血に濡れ、片眼が潰れた少年、竈門炭治郎の頭部と。

「た、タンジローくん?」

嘘だよね?と言わんばかりに自信なさげに呼びかける。
違う。これが彼の筈がない。そう思い込むことで現実逃避しようとするも、数時間前にこの目に焼き付いた姉妹たちの姿がそれを許さない。
炭治郎は死んだのだ。あの男に首を斬られて、いまこの場で。

634名無しさん:2020/04/11(土) 00:59:01 ID:tE7O.78I0

「あ、ああああああああ」

まただ。また失ってしまった。
どうしてこんなに消えていく。どうして私たちは奪われる。
膝が笑い、涙が溢れへたり込みそうになる。

けれど、この場にいる風太郎の存在が、一花の自棄を押しとどめる。

逃げなければ。あんな状態の風太郎が誰かに襲われれば今度こそ死んでしまう。
逃げて、立香たちのもとに戻って...

(戻って、どうするの?)

いま戻ったところで、果たして自分は皆を守り切れるのか?
炭治郎がここにいて、沖田と真司がいないということは二人も死んでしまった可能性が高い。
となれば、戦える味方はもはや誰もいない。
もしも皇城ジウが現れたら。もしも奴が炭治郎を殺した男や千翼と共に襲ってきたら。
奪われるのを黙って見ているのか?自分は頑張って戦った。そうやって自分を慰めて、風太郎や二乃や三玖が殺されるのを看過するのか?

(―――違う)

自分がここにやってきたのは何のためだ。二乃や三玖、猛田ですらなく、皆を振り払ってまで自分が炭治郎たちを迎えに来たのは。
皆を守るためだ。いざという時に手を汚してでも守るためだ。

(ごめん、タンジローくん。私がもう少しでも早く着いてたら、あの男を殺してでも助けられたのに)

ギリリ、と拳が強く握りしめられる。
あの男がなぜ彼を殺したのか。そんなことは知る必要はない。
それを知ろうとした五月やミクニは殺された。
どんな事情があろうが、彼らが殺されていい理由などあるはずがない。
だったら、会話も情報も必要ない。
奴らがやったように、聞く耳持たずに殺してやればいい。

(あなたの仇は私がとる。タンジローくんたちの意思は、私が引き継ぐ)

仮面の奥の彼女の視界は酷く歪んでいた。悲しみ、怒り、恨み。全てが宿った瞳が、眼前の男をただ見据えていた。

635名無しさん:2020/04/11(土) 00:59:29 ID:tE7O.78I0

「あ、ああああああああ」

まただ。また失ってしまった。
どうしてこんなに消えていく。どうして私たちは奪われる。
膝が笑い、涙が溢れへたり込みそうになる。

けれど、この場にいる風太郎の存在が、一花の自棄を押しとどめる。

逃げなければ。あんな状態の風太郎が誰かに襲われれば今度こそ死んでしまう。
逃げて、立香たちのもとに戻って...

(戻って、どうするの?)

いま戻ったところで、果たして自分は皆を守り切れるのか?
炭治郎がここにいて、沖田と真司がいないということは二人も死んでしまった可能性が高い。
となれば、戦える味方はもはや誰もいない。
もしも皇城ジウが現れたら。もしも奴が炭治郎を殺した男や千翼と共に襲ってきたら。
奪われるのを黙って見ているのか?自分は頑張って戦った。そうやって自分を慰めて、風太郎や二乃や三玖が殺されるのを看過するのか?

(―――違う)

自分がここにやってきたのは何のためだ。二乃や三玖、猛田ですらなく、皆を振り払ってまで自分が炭治郎たちを迎えに来たのは。
皆を守るためだ。いざという時に手を汚してでも守るためだ。

(ごめん、タンジローくん。私がもう少しでも早く着いてたら、あの男を殺してでも助けられたのに)

ギリリ、と拳が強く握りしめられる。
あの男がなぜ彼を殺したのか。そんなことは知る必要はない。
それを知ろうとした五月やミクニは殺された。
どんな事情があろうが、彼らが殺されていい理由などあるはずがない。
だったら、会話も情報も必要ない。
奴らがやったように、聞く耳持たずに殺してやればいい。

(あなたの仇は私がとる。タンジローくんたちの意思は、私が引き継ぐ)

仮面の奥の彼女の視界は酷く歪んでいた。悲しみ、怒り、恨み。全てが宿った瞳が、眼前の男をただ見据えていた。

636名無しさん:2020/04/11(土) 00:59:59 ID:tE7O.78I0



(なにが...起きた...?)

朦朧とする意識の中、明はふらふらと立ち上がる。

明は耳があまり聞こえなくなっていた。雅の最後のサイコジャックにより、鼓膜にもダメージを受けていたからだ。
雅や炭治郎の言葉は自己流の読唇術でニュアンスを把握していただけであり、その詳細までは知ることはできていなかった。
そのため、一花の奇襲にもまるで反応できず、一瞬ではあるが気を失う醜態を晒し、一花が炭治郎を見て動揺していたことも知る由がなかった。

(奴が...攻撃を仕掛けてきたか...)

炭治郎の遺体の傍に立ち尽くす緑色の怪人が下手人だと判断する。
奴が何者なのかはわからない。
ただ、雰囲気でいえば佐藤が使っていた『ライダー』に酷似している気がする。

明はまだ佐藤の死を確信していない。
奴は分が悪いと踏んで隠れていたのかもしれない。
ならば、あの『ライダー』は佐藤なのかもしれない。
そんな考えが過らずにはいられなかった。

(なんだろうと構わない...人に害なす『鬼』は斬る)

例え、相手が佐藤であろうがなんだろうが、明には死んでも果たさねばならない約束がある。
それを果たすのを邪魔する奴は、須らく敵だ。敵はどんな奴であれ

「...たたっ斬る」

剣を握り締め構える。

宮本明。
彼岸の過負荷(せんし)の戦いは、その命が尽きるまで終わることは決してない。




【結晶ノ御子@鬼滅の刃 2体破壊】

【佐藤@亜人 死亡】

【雅@彼岸島 48日後… 死亡】

【竈門炭治郎@鬼滅の刃 死亡】

637名無しさん:2020/04/11(土) 01:01:45 ID:tE7O.78I0

【D-6(禁止エリアに近い)/1日目・昼】


※JM61Aガトリングガン@Fate/Grand orderは破壊されました
※宇髄天元の日輪刀(先端欠け)@鬼滅の刃、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス、雅の支給品一式、佐藤の支給品(基本支給品一式×2、秋山蓮のリュックサック、折れた日本刀@現実、手鏡、ランダム支給品0〜2、ナイフ )が付近に散らばって落ちています

【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、精神的ショック(絶大)、悲しみ、仮面ライダーベルデに変身中、殺意
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人に会いたい
0.炭治郎の仇をとる。その後、風太郎を連れて二乃たちと合流する。
1.沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2.奪う者に対する強い怒り。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。



【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(絶大)、失禁、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、胸元に斬傷、義手破損、出血(大)、火傷(小)、脳髄にダメージ(大)、右肩に螺子が刺さっている、耳が遠くなっている(回復するかは不明)、意識朦朧
[道具]:基本支給品一式、菊一文字@衛府の七忍、不明支給品0〜4、沖田の首輪
[思考・状況]
基本方針:無惨を殺す。
0:目の前の敵(ライダー)を殺す。
1:悪鬼滅殺。
2:禰豆子を保護する。鬼殺隊の面子や炭治郎がこの会場で出会った者たちを探す。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。
※仮面ライダーベルデの中身が佐藤ではないかと疑っています。

【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:疲労(絶大)、出血(大、止血済み)、全身に切り傷。左手の全ての指骨折。左耳断裂。喉にダメージ(声を張れない程度)。両脚のアキレス腱断裂(移動が不可能ではない程度)、失禁、気絶
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0〜1 球磨川の首輪、
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
0:......
1:北に向かっているという一花、二乃、三玖との合流。 その後、明たちの力になってくれる者を探す(候補は煉獄)。
2:PENTAGONを目指す。

[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。



【???】

【ドラグレッダー@仮面ライダー竜騎】
[状態]:瀕死、野に放たれている。
※炭治郎が死んだ為に、契約がなくなったため、現在は野良の状態です。

638名無しさん:2020/04/11(土) 01:02:16 ID:tE7O.78I0

【D-6(禁止エリアに近い)/1日目・昼】


※JM61Aガトリングガン@Fate/Grand orderは破壊されました
※宇髄天元の日輪刀(先端欠け)@鬼滅の刃、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス、雅の支給品一式、佐藤の支給品(基本支給品一式×2、秋山蓮のリュックサック、折れた日本刀@現実、手鏡、ランダム支給品0〜2、ナイフ )が付近に散らばって落ちています

【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、精神的ショック(絶大)、悲しみ、仮面ライダーベルデに変身中、殺意
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人に会いたい
0.炭治郎の仇をとる。その後、風太郎を連れて二乃たちと合流する。
1.沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2.奪う者に対する強い怒り。
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。



【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(絶大)、失禁、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、胸元に斬傷、義手破損、出血(大)、火傷(小)、脳髄にダメージ(大)、右肩に螺子が刺さっている、耳が遠くなっている(回復するかは不明)、意識朦朧
[道具]:基本支給品一式、菊一文字@衛府の七忍、不明支給品0〜4、沖田の首輪
[思考・状況]
基本方針:無惨を殺す。
0:目の前の敵(ライダー)を殺す。
1:悪鬼滅殺。
2:禰豆子を保護する。鬼殺隊の面子や炭治郎がこの会場で出会った者たちを探す。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。
※仮面ライダーベルデの中身が佐藤ではないかと疑っています。

【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:疲労(絶大)、出血(大、止血済み)、全身に切り傷。左手の全ての指骨折。左耳断裂。喉にダメージ(声を張れない程度)。両脚のアキレス腱断裂(移動が不可能ではない程度)、失禁、気絶
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、CBR400R@現実、ランダム支給品0〜1 球磨川の首輪、
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
0:......
1:北に向かっているという一花、二乃、三玖との合流。 その後、明たちの力になってくれる者を探す(候補は煉獄)。
2:PENTAGONを目指す。

[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。



【???】

【ドラグレッダー@仮面ライダー竜騎】
[状態]:瀕死、野に放たれている。
※炭治郎が死んだ為に、契約がなくなったため、現在は野良の状態です。

639名無しさん:2020/04/11(土) 01:02:52 ID:tE7O.78I0

「あらら、また壊されちゃった」

二体目の結晶ノ御子を壊された童磨は残念そうに眉をひそめた。
しかも、一体目と違い今回はほとんど出会い頭に潰されたようなものだ。

「これで残り三体か。いやはや世知辛いねえ」

二体目があまりにも呆気なかったため、流石にこれ以上送るのは嫌だなあと零す。
あまり減らされ続ければ、せっかく編み出した氷の鎧も意味を為さなくなってしまう。

(まあ成果はあったからいいけどね)

童磨が結晶ノ御子から手に入れた情報は、吸血鬼とその王、そして柱でもないのに柱のような戦い方を見せる男。

彼らは生きていれば間違いなく己の主に牙を向くだろう。
出来れば殺して(すくって)あげたいものだ。

「さて。俺はこの先どう出るべきだろうねえ」

再びあの戦場へと向かうか、従来通りの予定で行くか。
屈託のない笑顔を浮かべて、鬼は歩を進めるのを再開した。



【D-3/1日目・昼】

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)←食事によって僅かに回復、結晶ノ御子2体破損(残り3体)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、炎刀『銃』@刀語
[思考・状況]
基本方針:いつも通り。救うために喰う。
0:雅、明、炭治郎は出会えたら倒しておかないと。
1:爆音がした方向に向かうか、先の戦場に向かうか。
2:"普通ではない血"の持ち主に興味。
3:猗窩座殿、下弦の彼……はてさて誰に会えるかな?
[備考]
※参戦時期は少なくともしのぶ戦前。
※不死性が弱体化しています。日輪刀を使わずとも、頸を斬れれば殺せるでしょう。
※氷のスーツを纏い、一時的に太陽から逃れる術を見出しました。長時間の移動は不可能です。
※結晶ノ御子は現状は5体が限界です。 また、破壊されると使用できなくなります。

640 ◆ZbV3TMNKJw:2020/04/11(土) 01:05:38 ID:tE7O.78I0
投下終了です
反映がされておらず内容が重複している箇所が幾つも出てきてしまいました、申し訳ありません

641名無しさん:2020/04/11(土) 01:49:35 ID:d7joFL960
投下乙です!
開始早々彼岸島特有のシュールな戦闘で笑い、佐藤とマサ様の化け物マーダー対決で戦々恐々とし、吸血鬼の特性を活かした戦法で亜人復活を破るのには唸らされました
明さんたち対主催勢もそれぞれ根性見せて雅様撃破、その後の炭治郎への介錯でしんみりしてたら…そこで一花が来ちゃうのかぁ…フータロー手遅れになる前に起きてくれ
情報を手に入れ気ままに動く童磨の行く先も気になるし、改めて力作乙でした

642名無しさん:2020/04/11(土) 17:44:43 ID:8QwXWUgw0
投下お疲れさまでした。
仕事中でしたがあまりの力作に手を止めて読みふけってしまいました

643 ◆0zvBiGoI0k:2020/04/26(日) 21:58:12 ID:KSMDDa.Y0
千翼、鑢七花、スモーキー、予約します

644 ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:03:58 ID:0GVKN/Ew0
投下します

645GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:06:59 ID:0GVKN/Ew0
 
 千切れ飛んだ肉と骨。

 七つに裂かれ、八つに刻まれ、九といわずに分断されて。

 てんでバラバラ、千の雨。



 千翼の眼前に広がる斬殺死体。
 既にあった隻腕の亡骸の上に覆い被さるように落ちている。
 名前も知らない。目にして一分もない。道端に転がっていた誰かの死体に駆け寄り嘆いていた男。
 それを後ろから襲うよう指示し、為すすべなく───実際には息つかせぬ攻防が繰り広げられていたにせよ───殺される様を遠巻きに見ていた。

 本来ならそれだけだ。
 奇襲の成功。戦闘の勝利。死の結果。 
 これから千翼が足元に重なる屍の山、ただひとつの願いに手を届かせるために積まれる犠牲のひとつ。それだけを憶えていればいい。
 
 だというのに、千翼が抱くのは別のものだった。
 脳裏に浮かぶのは、これと同じ光景。眼前に広がる斬殺死体。
 千翼が千翼として生きられる大切な寄す処だった人。イユの死の残骸。
 同じ技を受けたとしか思えないぐらい、男の死体の散乱ぶりはイユのそれと酷似していた。

「お、ほら、終わったぞ。完全に死んでるだろ」

 刀が人を斬ることに、なんの不都合も迷いもないと。
 たった今自分の手を汚した事実を気にも留めず、七花は千翼の方を向く。

「しかし驚いたぜ。まさか自分の血を飛ばして刀にするなんてな。柳緑花紅を出すのがもう少し遅かったら回避が間に合わなかった。よくて相打ちだったな……って」

 隣まで近づいても何も言わない千翼の剣幕に、七花もようやく気づいて怪訝に思う。

「どうしたんだよ。ひょっとしてこいつ、殺しちゃいけないやつだったのか?」
「イユを───殺したのか、おまえ」

 七花に取ってみれば、その質問は寝耳に水の話だった。

「いゆ?誰だそいつ」
「俺の───戦う理由だ。いまお前が使った技を食らったやつと同じように、ここで死んだ」

 聞いたことのない名前を聞かされて、さらに殺したのかと問われればそれは当然の反応だった。
 真庭忍軍十二頭領の一人。四季崎記紀の完成形変体刀の持ち主。前日本最強の剣士。
 七花が刀を巡る戦いで手にかけた相手の中で名を知る者といえばこのくらいだ。戦いの前も含めれば実の父も入るが。
 錆白兵を倒し日本最強の称号を得てから、名を上げるべく七花に挑みそして返り討ちにあった武芸者はそれなりにいる。
 かといって、その中に”いゆ”がいたのか、とまでは七花でも考えなかった。七花と千翼はこの場で会ったばかりで、互いの名前も初めて知ったのだから。

646GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:08:37 ID:0GVKN/Ew0

 困った。
 できれば面倒だ、と文句を垂れたいが、そうすると千翼はきっと怒るのだろう。それは困る。
 臨時の緊急とはいえ千翼は今の七花を使う者だ。とがめを取り返すために必要な持ち主だ。
 ここで関係を切られればまた七花は持ち主を探さねばならなくなる。それこそ一番の面倒だ。
 なので困ったが、これ以上に困らないために七花は考えることにした。
 
 千翼は自分を”いゆ”を殺したと思っている。
 ”いゆ”は七花が今しがた使った七花八裂で死んだ男のように全身が千切れて死んだ。
 七花八裂は虚刀流最終奥義と七花が勝手に思いついた技だ。
 七花八裂を食らって生き延びた相手はいない。
 七花八裂を見て生きているのは、とがめと姉の七実のみだ。

 「────────あ」

 七花は思い当たった。
 よく考えてみれば考えるまでもない結論だ。

「じゃあたぶん、それやったの姉ちゃんだよ」

 七花に似た技で殺され、七花に憶えがないのなら、同じ技を使える七実しか該当者はいない。それが帰結。

「姉……?」
「あれ、言わなかったっけ?俺は姉ちゃんを倒すためにあんたに使われるんだって。
 ……今言ってもむちゃくちゃだよなあ。あの姉ちゃんだぜ。姉ちゃんからとがめを取り返せってさあ」

 改まって突きつけられた無理難題に頭を抱える七花。
 とがめを奪還するだけならともかく、七実に出し抜く隙など針を通す穴ほどのありはしない。一瞬でも七実の目を奪わせる奇策でもない限りは。
 意気消沈して顔を下ろすと、足元に散らばった骸が広がっている。さして気味悪がりもせず、ただふと思った疑問をこぼした。
 
「けどそれが本当なら、こんなばらばらにして殺すなんてあんま姉ちゃんらしくねえなあ。やるかやらないかでいえばまあやるんだけど。草むしりとか言って。
 よっぽど機嫌が悪かったのかな。それともそんな嫌なやつだったのか、いゆって奴は?」

 でもあの姉ちゃんがなあ、と再び思考がループする七花を尻目に、千翼は聞こえた異音に心臓を鷲掴みにされた。
 千翼の中だけでした、散らばっていたピースの欠片が嵌まって形を成す音だ。


 アマゾンを嫌う。
 恐ろしく強い。
 姉。
 女。
 草むしり。
 千翼を殺そうとし、善逸を殺した技。
 虚刀流。

 枯れ木のように細く、幽鬼のように儚く、刀のように触れるものみな斬り裂く。
 虫も殺せない可憐さで、他人を虫同然に殺してみせる。

647GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:09:19 ID:0GVKN/Ew0



 真実の一片を知り得た高揚感、そんなものは微塵もない。
 まるで出来のいい見世物でも見ている気分だ。いいや、これは悪いのか。

「お前」
「ん?」
「お前の姉は───」

 どんな格好をしていたと。
 言いかけた言葉は、言い切るより前に千翼を手で押し出した七花に遮られた。
 突然の衝撃に千翼はその場で尻餅をつき、直後に───その上を何かが風切り音を残して通過した。

「なん、だ──────?」
「やっぱりか。かわして正解だったな」

 ひとり納得した風な七花の顔がやや引き締められてるのを見て、千翼も今起きている事態について理解する。
 自身の首めがけて、害意を持って致命をもたらす何かが飛来したのだと。

「敵、か」
「抜き身の刀をぶん投げてくるってのは、まあ、敵でいいんだよな」
「刀……?」
「ああ、刀を思い切り回転させて投げてきた。それにいまの刀、たぶん、とがめが持ってたやつだ。
 正確に言うと、前の持ち主をおれが殺してとがめが手に入れたやつだな」

 七花と揃えて飛来してきた方角に視線を向けつつ、七花は説明を続ける。彼にとっても無関係ではない、因縁深い物だったため、説明するのは楽だった。

「四季崎記紀の完成形変体刀十二本、たしか斬刀・『鈍』、だったっけ。能力は、えーっと……、たしか凄く斬れ味がいい、だ。気をつけろよ」

 大雑把な解説であるが、千翼を押した七花の取った行動は正解といえるだろう。
 分子レベルの構造にまで踏み込んだ、ありとあらゆる存在を一刀両断にできる、鋭利な刀。
 千翼がつい反射的に腕で庇う動作を取っていたら、腕ごと延長線上の首を落とされていたに違いない。

「そっか。斬れ味が特徴ならただぶん投げるだけでも十分脅威になるもんな。
 なら相手は剣は素人か。腕に自信があるなら手で持って使った方がずっといいし、刀の毒ってやつに侵された奴のするような真似じゃねえ」

 いずれにせよ、奇襲の目論見は失敗した。
 投擲された街路樹から誰かが出た様子はない。折角の鈍は標的を見失い向こうへ消えていった。
 次はどうする。どう来るか。
 さっきはこちらからの先制攻撃だが、今度は逆に先手を取られ迎撃する側だ。
 考えるのは苦手と自称する七花だが、こと戦闘論理においては高い素養を持つ。
 強くなるため、とがめを取り返すため、少しでも戦いの経験は取っておきたい。

「うおっ!」

 予測外の方向からした風切り音に実を屈める。宙の髪が数本落ち、そして体に駆け巡る奇妙な感覚。
 斬刀・鈍が飛んでいった場所から、再び斬刀・鈍が投げられてきたのだ。

648GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:10:07 ID:0GVKN/Ew0

「二人いるのか……?」
「いいや、一人だ。かすかだが足音が聞こえてた。刀を投げてすぐに移動して刀を回収したんだろう」

 連続した攻撃の謎を七花は看破した。謎というほどに複雑ではない単純な、だからこそ驚異的だ。

「すげえな」

 脚力のことではない。ただ速いだけならもっと早期に気づけていた。
 気配を消し、障害物に身を隠しながら単独で周囲を取り囲む体捌きこそが驚異なのだ。

 三度の飛刀。これは難なくかわせた。ただし回避に専念しての反応だ。これでは反撃に転じれない。

「銀閣ほどの速さじゃないが……どこから来るのかわからないのは厄介だな」

 元の斬刀の持ち主、宇練銀閣は零閃という光速の居合術を得手としていた。
 零閃に比べれば剣速は遠く及ばないが、代わりにこれは範囲と撹乱に特化している。打って出ようにも相手は攻撃後すぐに場所を移動している。
 間合いの内での踏み込みならば届く自信があるが、相手は立ち会いそのものを拒否している。これでは勝負が成立しない。
 
「変な奴だな。こんだけ速けりゃ直接出てる方が楽だろ普通。刀の扱いといいなんか適当で、どちらかというと擲刀か。
 血刀の次にまた飛び道具か。くそ、ここはこんなのばっかかよ」

 そこまで考えて、思い出す。
 ここに来て以来、七実以外で自分に向かった凶器は、そのほとんどが飛び道具であったことを。
 
 森で会った少女は黒光りする鉄から小さな塊を飛ばした。
 姿の見えない透明な敵は触手を飛ばしとがめを貫いた。
 七花が殺した男は吹き出した血が黒曜石のように硬質化した。
 そして現在迫る擲刀。

 剣士は、剣が届く間合いまで近づかなければ斬れない。七花の場合は手と足が届く範囲だ。
 天にそびえる太陽すら落とすと伝えられる、錆白兵ほどの流麗な技量は七花は持たない。
 ここは全てそういう者ばかりなのかはわからないが。間合いの外から攻める相手の攻略を、七花は覚えた方がいい気がしてきた。

「千翼。策はあるか」

 呼びかける。暫定の、とりあえずの、仮の七花の所有者である千翼に。

「……」

 四方を注意を払いつつ千翼は考える。自分が頭がいいとは思ってない。突飛な奇策が出てくる気はしないが必死に考える。
 逃げ回りながら攻撃してくる敵。そういう相手にはどうしていたか。
 C4での経験を遡るが、妙案が浮かんでくる気はしない。あの時はただイユと二人で戦っただけで───

「二人でやる。挟み撃ちにするぞ」

 敵が一人であるなら包囲するように二人で動けば姿を捉えられる。一方を狙ってる間に距離を詰めることもできるだろう。

「なるほど、確かにそいつはとがめにはできない策だ。まっとうだけど、まっとうすぎて逆になんか奇策っぽいな」

 提案できるのはこれぐらいしかないが、七花は納得した。実際そう悪い手でもなかった。
 変身のためアマゾンドライバーを腰に装着する。賊刀・鎧でないのはここでは機動性が重要になると判断してのことだ。

649GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:10:50 ID:0GVKN/Ew0


「アマゾ───」

 インジェクターを挿入しアマゾン細胞を活性化させる内部薬液が注入される。
 ───その直前に、ドライバーの光沢が急速に黒ずみ、侵食した。

「ぐ、ぁ!?」

 顔を走り抜けた痛みに体がくずおれる。
 奇襲を警戒していながら、ずっと自分を付け狙っていた狩人がいたことを察知できなかった。
 仮面ライダーの名称は知っていても、"それ"の性質までは知らない千翼は気づけないのも無理からぬことだ。
 "それ"は食欲のままに喰らうだけの獣(アマゾン)とは違う。愛着があり執着があり復讐心を備えていた、守護を始原に造られた怪物であることを。

「なんだ!?」

 隣の七花はよりはっきりと異常を捉えた。
 千翼が巻いたドライバーが反射する光から、明らかに収まるはずのない大質量の黒い蝙蝠───ダークウイングが出現し千翼を切り刻む瞬間を。

 空に飛び上がり旋回した蝙蝠は再び千翼めがけて急速落下する。
 ミラーモンスターもミラーワールドの性質も知らない七花だが、それ故に疑問も驚愕も置いて、まず迎撃を優先した。

「虚刀流"雛罌粟(ひなげし)"!」

 落ちて来る目標に合わせた切り上げる手刀をすんでのところで方向転換して逃れる。
 曲がった方には十字路に置かれたカーブミラーがあり───そのまま鏡の中に飛び込み消えていった。

「逃げた?いや消えたのか?ひょっとしてまにわにか?」

 壁に溶けて消える怪しげな術は、十二本の変体刀を巡って争う忍者集団・真庭忍軍の頭領達を想起する。
 頼みもしないのに馴れ馴れしく自己紹介する輩ばかりだから無言で奇襲するのはおかしい気もするが、考えてる余裕はありそうもない。

「まずいな」

 千翼は顔から血を流している。致命傷でもないが軽傷でもない。じきに傷は治るだろうが、今すぐではない。
 そして数の優位も失われた。未だ姿を見せない相手と、正体不明の蝙蝠。無策のままでは、七花も無傷ではいられない。
 
「よし、逃げるか」

 素早く判断し、実行する。
 千翼を肩から持ち上げ、地面を蹴り飛ばし一直線に駆け走る。 
 姿を隠す障害物も曲がり角もない、一本道のルート。そここそは単独で敷かれた包囲網の唯一の抜け穴だ。

「倒す策は思いつかなかったが───実は逃げる策ならとっくに思いついてるんだよな!」

 撤退するだけなら最初から簡単にできていた。ただそれを選ばなかっただけで。
 無論逃がす気がないならさせないと塞ぎに来る可能性もあるが───なんの妨害もなく七花達は通り過ぎていく。

「やっぱり深追いしてこないか。武器か体か、自分の状態を試すのが目的だったんだな。舐めてくれるぜ。刀を研ぎの練習台にするなんてよ。
 けどここにも四季崎の完成形変体刀があるのか。とがめのために集めといたほうがいいのか?」

 とがめよりずっと重い体を抱えてるので全速力とはいえない。ある程度距離を稼いだら降ろして千翼にも走らせればいいだろう。
 とがめの元に戻るには死ぬわけにはいかない。その思いだけは確かに刻まれて脱兎の如く逃げ出した。

650GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:11:41 ID:0GVKN/Ew0



【C-6/1日目・午前】

【千翼@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ある程度の空腹、ダメージ再生中、イユへの強い想いと人を食べない鋼の決意、自己嫌悪 、痛み、精神的ショック
[道具]:基本支給品一式、万能布ハッサン@Fate/Grand Order(※イユの亡骸内包済)、ネオアマゾンズレジスター(イユ)@仮面ライダーアマゾンズ、賊刀・鎧@刀語 、ナノロボ用タブレットの瓶詰め@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:イユの痛みになって、一緒に生きる明日を目指す。
1:イユを生き返らせるために優勝する。そのために全員殺す。
2:イユと一緒に生きられる自分であり続けるために、絶対に人は食べない。
3:…………善逸、五月。ごめん。
4:アマゾン態になる時はできるかぎり鎧を纏うことで人を食う可能性を減らす。
5:イユを殺したのは……。
[備考]
※参戦時期は10話「WAY TO NOWHERE」
※人肉を食すことで、自分の人格が変わり願いに影響が出てしまうことを強く忌避・警戒しています。
※賊刀・鎧をアマゾン態で装着時は若干サイズが小さくフィットしませんが、隙間を触手で埋めることで補っています。
※魔剣グラムは破壊されました。

【鑢七花@刀語】
[状態]:健康、疲労(小)
[道具]:基本支給品一式、アンデルセンのタブレット@Fate/Grand Order
[思考・状況]
基本方針:姉ちゃんからとがめを取り戻す。姉ちゃんから。あの姉ちゃんから……
0:今はまず逃げる。
1:姉ちゃんからとがめを助ける。
2:ひとまず千翼に従う。
[備考]
※作品前半、とがめの髪がまだ長い頃。5話より前

651GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:12:26 ID:0GVKN/Ew0




 ◆



 七花達が去り、無人になる道路。
 道には新しい破壊の痕跡は生まれなかった。
 地面は割れず、壁は砕けず、血糊が数滴落ちたのみ。
 闘争の空気が冷え切った後、スモーキーはようやく街路樹の影から身を晒した。 

 七花が推測した通り、今回のスモーキーの目的は新しい体の試運転だった。
 かつてないほど調子のいい体は生まれ変わったといってもいいほど軽く、逆に自分の体ではない奇妙な感覚がした。
 思考と肉体との接続のズレを修正するのは必須といえた。そして検証の結果は想像以上だった。
 筋力反射神経、どれも以前の数倍にまで高まっている。特に目覚ましいのは持久力だろう。一帯の住宅街を絶えず駆け回っても息一つ乱れない。
 長い間胸に滞留していた不快さが完全に霧散していた。
 染みついていた技術も余すことなく発揮できた。イメージ上の動きに現実が離されず追いつけている。

 手に入れていた刀も、どうやら使い物になりそうだ。
 日本刀どころか、まともに刃の立つナイフを持ったかも怪しい生活を送っていたスモーキーには得物の価値に眼中はない。
 剣術の心得がなくても相当斬れる品、という点さえ把握できていればそれでよかった。今のように飛び道具にするだけでも有用だ。
 
 復調した肉体も丁度いい運動で馴染んできた。
 やり残した雑事はない。後はただ、跳ぶのみ。

 最初から、やることは変わってない。
 家族の待つ場所へ帰る。その邪魔になる者を全て殺し尽くす。
 あの死なない男に何か細工されたという戸惑いは残るが、現状不都合な要素はない。使いものになるうちに使っておきたい。
 病魔の消えた体がいつまで保つかもわからない。そもそも元あった病も何が原因がまるでわかってなかったのだ。不安を抱えるのは今更だ。
 だからできる限りは急ぐ。守る家族もなく、厭う病もない身にとって、足を止める理由は何もない。

「……」

 だというのに、足は動かなかった。
 足だけではない。指が、目が、全身が金縛りにあったように動かない。いや、先を進もうとしなかった。
 視線も思考も、眼下に広がる血溜まりに釘付けにされて離れない。
 唯一動くのは喉だった。口の中で分泌されて垂れかけた唾液を反射的に嚥下して喉が鳴った。

 近づいていたという自覚すらなかった。
 死体を見るのはなんでもない。怒りも嫌悪も湧きはしない。そんなものは籠から溢れたゴミ同然に飽くほど見てきた。
 五体が千切れ爆散したものを見るのは流石に珍しいが、だからといってしげしげと観察する意味はないはずだ。

 スモーキーはいま、自分が"飢えている"のだと気づいた。
 食うに食えない環境で、僅かな食料も幼い家族に回していたから、訴える機能はとうに退化していたと思っていた。
 そんな眠っていた欲求が、地面に放置された人の死体に反応している─────────。

652GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:13:48 ID:0GVKN/Ew0

 
 どんなに最低の生活をして飢えていた時でも、"それ"に及んだことは一度もない。
 息絶えた家族は無論、始末した侵入者にさえそんなことを思いついたりはしなかった。
 どんなに社会の教えを知らなくても。"それ"がおかしいことだと、やってはいけないことだとはわかっていたのだから。
 
「───!づ……っ」

 無理やり体を捻ろうとすると、これまでに激痛が全身を走った。
 戦いで受けた傷や病の発作とはまるで異なる、自身の根幹を揺るがす本能的な警鐘だった。
 確信がある。
 脳髄を支配しようとこみ上げてくる欲求。それをここでしなければ取り返しのつかない、後戻りのできない終わりに立ち会うことになると。

 ふたつの死体の前に進もうとすると、呆気なく拘束は解かれた。
 気を抜けば崖から落ちるように膝をついてしまいそうだ。肉体は既におぞましい魅力に屈している。抗っているのは意思だけだ。
 あの男の施した処置の弊害なのだと考える余裕すらない。口に生えた牙を剥き出しにする衝動を必死に抑える。
 泥水を啜り、腐った肉を口にしても何も感じなかった心を軋ませながら、朱く塗り潰されていく視界で最後の理性を働かせた。
 それは屍を貪る恐怖ではなくて、
 

"俺は─────────これをした後も、高く跳べるのか"

 
 思い出の中にない、高い場所から墜ちていく自分自身の末路だった。






 ◆





 目を覚ますと、スモーキーは空の上にいた。





.

653GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:18:31 ID:0GVKN/Ew0
 そうと表現するしかない。少なくともスモーキーの知識に他に言い表せる場所はなかった。
 雲ひとつない蒼穹。どこまでも高く、高く、地平の彼方まで遮るもののない景観。
 親に捨てられてからへばりついて消えない汚濁。全てを奪いに来る支配。地上のあらゆる縛りから解かれた世界。
 スモーキーがいつも仰いで眺める、あの空と同じ色をしていた。

 "ここが、俺達が跳ぶ先なのか"
 
 こんなにも美しい蒼空は見たことがない。初めての高さから見下ろす景色はいつもとは違う感慨だ。
 足場になる高台もないまま立っているのに疑問も持たず、ただ広さに圧倒され、目を奪われた。
 知らず胸が昂揚に震えた。RUDE BOYSのリーダーになって以来、いやそうなる前から久しく感じてこなかった。それは魂の躍動だった。
 
 足の指先がひやりとしてくすぐったさを感じた。
 いつ脱いだのか、それとも始めからなにも履いてなかったのか、素足で立っていた。
 くるぶしのあたりまで空の内に沈んで、清涼感に目を瞑る。視覚を閉じてると、今度は鼻の奥がつんとする刺激がした。
 空の匂いとはこんなものなのかと少し驚き、スモーキーは違和感を持った。
 
 蒼い景色。
 水に浸かってるような冷たさ。
 塩辛い風の香り。
 スモーキーはそこを実際に見たことはない。他所から流れ着いた大人が見たと聞いた程度だ。
 塩水が溜まった場所という知識でしか知らなかった。

 "海、か。ここは"

 全ての命が生まれた母なる場所に、スモーキーは立っていた。

654GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:23:53 ID:0GVKN/Ew0




 再び意識が戻れば、元の殺風景な道に戻っていた。
 全身を縛る戒めも強烈な飢餓感も消えていた。周囲も殺風景な町中に戻っていた。
 唯一の変化は、あれだけ散らばっていた死体の残骸が、きれいさっぱり無くなっていたこと。
 下唇を指で拭うと、赤い液がべっとりと塗られていた。
 無人の街路で気配を感じ視線を巡らす。現実に姿を見せない影は、鏡像の中のみにあった。
 二人組の片割れを襲いカーブミラーの中に消えた黒い獣を。

 ダークウイングはじっとこちらを見つめた。羽を上下に羽撃かせて鏡面に留まり睨めつけている。
 襲うでも逃げるでもない行動に意図を判じかねるスモーキー。これ似た意匠をした生物のことを思い出しポケットに収まっていた小箱を取り出した。
 仮面ライダーインペラー。契約モンスターが斬られて力を失ったブランク体になったデッキ。
 デッキを目にしたダークウイングが反応した。

「……来るか」

 デッキに指をかけカードを引き抜く。他と比べて絵柄の抜けた札───契約のカードが光を放つ。 
 光に捕まり、抵抗もせず吸いこまれていくダークウイング。
 居場所のなく、彷徨うばかりの命ならば、たとえ人間でなくても。

 光が収まれば、札にダークウイングそのままの絵が記されていた。理屈は知らないが、どうやらそういう仕組みらしい。
 鏡に姿は見えなくなったが、近くでなんとなく気配を感じる。

 闇と化した帝王。新しい僕を引き連れスモーキーは歩み出す。
 頭にあるのは鏖殺の決意しかなく、眼の色は最早洗い流せない血に染まってる。
 けれど、耳にはあそこで聞いた潮騒の音がまだ残っていた。見上げた空は、何物の支配も及ばないあの蒼さより、ずっと鈍って見えていた。




 男が見た海の名をニライカナイ。
 身分なき者、棲みかを奪われたまつろわぬ民が異界に求めた幻の都。そのひとつである。

655GATE OF SKY ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:24:44 ID:0GVKN/Ew0


【C-6/1日目・午前】

【スモーキー@HiGH & LOW】
[状態]:吸血鬼化、サイコジャックの影響?、■■■■
[道具]:基本支給品一式、斬刀・鈍@刀語、仮面ライダーインペラー(ダークウイング)のデッキ
[思考・状況]
基本方針:全員を殺して、――へと、家族の下へと帰る。
1:参加者を見つける。
2:忘れてしまった帰る場所を思い出したい。
[備考]
※契約していたギガゼールが死亡したことにより仮面ライダーインペラーに変身するとブランク体になります。→ダークウイングと契約しました。
※吸血鬼化したことにより公害病は完治しました。
※サイコジャックの影響により無名街の記憶が欠落していますが、家族の事は覚えています。
※猛丸の血を遺体ごと摂取しました。

656 ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:27:12 ID:0GVKN/Ew0
投下を終了します。>>653で不明なNGワードが検出されたので、収録時に追加します。
続けて 炭治郎、風太郎、明、禰豆子、悠、仁、とがめ、七実、雅、佐藤で予約します

657 ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 18:30:07 ID:0GVKN/Ew0
間違えました
風太郎、明、禰豆子、悠、仁、とがめ、七実で予約します

658名無しさん:2020/04/30(木) 18:57:12 ID:TatUeTQY0
投下乙です
千翼はイユを殺した相手を知ってしまったか…。七花も同行者のせいで余計に七実と拗れそうだな
無名街出身のスモーキーにニライカナイの景色を見せるのは上手いと思った(こなみ)

あと気になったんですが前話の引き的に一花も予約の面子に入るのでは?

659 ◆0zvBiGoI0k:2020/04/30(木) 19:56:14 ID:0GVKN/Ew0
>>658
感想ありがとうございます。そしてその通りですごめんなさい
三度目の正直に 一花、風太郎、明、禰豆子、悠、仁、とがめ、七実で予約します

660名無しさん:2020/05/01(金) 21:21:29 ID:W6FCe9U60
乙でした!
人間だった頃のスモーキーはRUDEをイメージしたインペラーが似合ってたけど、吸血鬼化したスモーキーにダークウィングをあてがう采配は唸らされました

心理描写では家族と過ごした場所さえ忘れてしまったスモーキーが二ライカナイを幻視するのがにくい
血刀を扱う猛丸の血を取り込んだ事で戦力もアップしたのかもしれないし、彼の今後が気になる所です

661名無しさん:2020/05/01(金) 22:23:39 ID:R2YF1sf20
投下乙です
唯一の吸血鬼であるスモーキーがこれから何を起こすのか…期待です

そして動き出す千翼…はたして仁ととがめに追いつけるのか(追いつけなさそう)

662 ◆0zvBiGoI0k:2020/05/06(水) 22:24:49 ID:Y/hWJ1MA0
少し延長しそうです。申し訳ありません

663 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:03:19 ID:qa8Zn0Lc0
前半まで投下します

664眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:04:17 ID:qa8Zn0Lc0


 斬り合う。
 斬り結ぶ。
 
 絡む素手が鋼の音を鳴らし火花を散らす。
 そんな不条理は最早驚嘆に値しない。異を唱える条理は既に切り伏せられた。
 事実、鳴り響くのは金属音であるのだ。人の体から発するものではない、鋼で造られた豪剣が振るわれる音。
 違いは。
 向かい合うのは人の姿をしていながら人ではなく、一方はそもそも人の姿をしていないことだ。

 一本は獣。本能と理性を融け合わせ、練り上げられた爪牙。狩人の手並みを覚えた獣。
 一本は刀。七代重ねて打たれ、研がれ、鑢がけ続けられた果てに完了を見た幻の剣。虚なる刀。

 水澤悠。アマゾンであり、守りたいものを守る者。
 鑢七実。人間であり、草を毟る者。
 突如として敵意を剥き出しにして襲いかかってきた七実に、悠は逃げるより応戦を選んだ。
 アマゾンオメガに変身し、自分と後ろの禰豆子を守るべく刃を叩きつけていた。

 養殖と造成。二極の敵意の刃が互いの色を要らぬと排死し合う。
 斬撃が振るわれる度に起きる断裂。
 斬滅の刃が首を、心臓を、命の脈を間断なく狙う。宙を切ったならば身代わりに大気が泣き叫んだ。
 殺気が質量を伴って、凶器が驚異を引き連れて、百花繚乱の血華が咲き狂う。


「しつこい」 

 
 硬質化した胸に紅葉の如き細い指。
 逢瀬する恋人に向けるたおやさかで置かれた掌は、瞬後中の臓器を残らず混ぜ返すな衝撃を生み出した。

「ガッ……!」
 
 吹き飛ばされた悠が後方へと下がり、掌底を受けた胸に手をやる。装甲には簡単に癒えない亀裂が走っていた。
 今や胸だけでない。アマゾンオメガの全身は至るところが血に濡れて、装甲が破損していた。

665眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:05:04 ID:qa8Zn0Lc0


 傍目に見て、満身創痍であった。
 戦いが始まって数分。交錯した手の数は数千にのぼる。
 その僅かな時間で、悠はここまで追い込まれていた。
 何合が切り結び、その度に底しれぬ威力に戦慄し、ぎりぎりの判断で凌ぎ、それに七実が不機嫌を増しさらに猛攻をしかけるという悪循環になっていた。

「ああ、苛々する。"あまぞん"は本当にしつこいですね。こんなにも抜けない草は初めてです。足に根っこでも張ってるのかしら」

 不機嫌に腕を払う七実には、一切の傷がない。
 枯れ木にしか見えない細腕は、アマゾンの強靭な肉体を引き裂く規格外の筋力だ。力のみならず技量においてさえ悠を凌駕している。

 この女はアマゾンではない。
 禰豆子と同類の異形のものではない。
 けれど悠は彼女を人とは思えない。人が果たして、数をなさずなんの道具も用いずに単純な暴力でここまで恐ろしいのか。
 アマゾンより、千翼より、鷹山仁より、仁と駆除班と連携したアマゾンシグマより、もう一体のオリジナルとなった泉七羽より。
 五年で今まで悠が戦ったどの敵より、悠の本能は最大限の警鐘を訴えていた。

 ”でも、戦えないわけじゃない”
 
 悠の攻めは一撃たりとも七実には入っていない。七実の体に傷はないが───汗は流れていた。息も切らしている。
 悠も満身創痍ではあったが、体力はまだ残っていた。少なくとも一点では勝っている。
 動きもまったく追えない、というわけではない。まだ全力でないとしても、致命になるものだけは捌けていた。
 目も慣れてきた。余裕はまるでないが、このまま相手の体力切れまで粘れば活路は見いだせるかもしれない。

「どうして、アマゾンを殺す」

 悠は口を開いた。それは時間稼ぎの意図もあったが、確かめたい事があったからだ。

「憎いんですか。人を殺すから、食べるから」
 
 単なる殺人者、闘争なり快楽を理由にするにはこの女の反応はあまりに薄い。戦い方に楽しみがないのだ。
 だから理由があると考えた。そして知りたかった。
 アマゾンに誰かを殺された、あるいは自身が殺されかけたのか。あるいは人を喰う怪物であるからか許せないのか。
 それならばいい。理解はできる。
 転々と野を彷徨ってきた五年でアマゾンがいかなる扱いを受けたかは身に沁みている。
 納得はしないしむざむざやらせはしないが、それはまだ常識的な範囲での理由だからだ。


「いえ、まあ。別に、なにも?」


七実は応えた。
 悠然と。何の感情も込めず。

「世のため人のためとか、そういうのは全然ありません。そもそも私、人里離れた無人島住まいですから、泰平とか民草とか、そのあたりはどうでも。
 あなたたちがなんなのかも、実のところあまり興味はないんです。人為的に造ったとしたら、造ったひとに二、三聞いてみたいことはありますけど。
 ただまあ、理由はありますね。重要でもなんでもない、文字通り、道草を毟るような理由ですが」

666眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:05:33 ID:qa8Zn0Lc0


 世界に許されるか、生きる事を許されるか、その一切に関心を持っていない。心底、本当にどうでもいいといった口調だった。

「私、一度死んでるんです。比喩とか錯覚とかじゃなく、現実の肉体機能が停止するという意味でですよ。
 どこまでも私の身近にありながら、決して私の命を奪おうとしなかった、死。手触りだけはよく知ってるからよくわかるんです。
 胸を貫通する腕の衝撃、飛び散る血肉、完全に停止する肉体の活動。私は間違いなく本物の死を味わい、そして死にました」

 で、気づいたらここにいました。と手を広げる。

「ひょっとしたら死後の世界かもと思いましたがそれも違うようで。どうしたものかと考えてたら、見つけたんです。"あまぞん"というのを。
 黒い女の子で確か、いゆ、と言ったかしら。ご存知ですか?」

 負傷で早鐘を打つ心臓が一際強く跳ねる。イユ。悠には縁ある知己の子。親に殺され、死人のアマゾンとして酷使される子。

「ああ、知ってるんですか。なら話は早いですね。少し驚きました。私は生き損ないの死に体ですが、まさか本当に死んだ体を動かしてるだなんて」

 誰が考えついたんでしょうね、そんなもの?
 責めるでも憤るでもなく、ただ疑問なのだろう。七実は首を傾げた。

「……イユは、どうした」
「殺しました。いえ、もう死体でしたし、壊しましたが正しいかしら。少なくとも健常な人間の肉体とはいわないでしょう。いいとこ肉の塊」

 聞くまでもない。既に放送でイユの名は呼ばれていた。そのイユを殺した彼女がアマゾンに嫌悪感を持っている。
 感情のないイユに他人を苛立たせる真似はできない。ならばイユの体、死者を動かすアマゾンの体こそが。

「とにかく、そう。死体を動かす術。そんなものがあるなんてね。
 ようやく死ねたと思ったら死に損ねて、ひょっとしたら自分の体もあんな風に、死んだ後も他人に動かされてるかもしれないだなんて。
 こんなに不愉快なことって、ないでしょう?」

 声色も表情は冷淡な、金属の冷質さのままで。

「なので、とりあえずここにある"あまぞん"はすべて毟る事にしました」

 首の上にギロチンでも掲げられたような怖気を悠は抱いた。
 人とも獣とも違う、無機質な殺意というものに初めて底冷えした。
 まるで庭先に生えた雑草が景観を損ねて邪魔だからみたいな軽さで、虐殺を宣告した七実に。

「君はアマゾンじゃない!臭いでわかる、ましてやイユみたいな……!」
「けどあの"あまぞん"は死体から作るんですよね?あの様子からして承諾が必要でもなさそうだし、死体さえ残ってれば後は好きに改造し放題。
 死んでれば文句も抵抗も出てこないわけだし、今後死んだら絶対にあれにされないとは決して言い切れない」

「ほら、こういうのって、可能性を生んだ時点で駄目でしょう?」

 アマゾンを狩る者には理由がある。
 任務のため。生活のため。使命のため。欲望のため。憎しみのため。単なる遊び半分なのも中にはあったろう。
 正しきも悪しきも生きる行為には等しい価値であり。それぞれに命を張って、時に失って、目的を実現させてきた。

 けどこの理由だけは、想像したことはなかった。
 絶句だった。七美の語る理由は理解を完全に越えていた。
 そんな───事実かどうかもわからない、ひとりで抱いた妄想のせいで、自分達は殺されるというのか?

 駄目だ。
 この女を行かせてはならない。ここで生かしてはおけない。
 悠も、禰豆子も、あるいはただ単なる邪魔者まで。 
 コレは、悠の守りたいものを全て壊すモノだ。

 全力で地面を蹴りつけて距離を詰める。足から爆発が起きたと見紛う勢い。
 勝機はある。散々脅かされた対価に得た女の欠点、虚弱な体。たとえ相打ちでも押し切る覚悟で肉薄し、
 



「雷の呼吸、一の型───"霹靂一閃・神速"」




 暗転。
 反転。


 見えたのはそこまでだった。
 体に落ちた稲光に、悠の意識は力づくで断線された。

667眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:08:53 ID:qa8Zn0Lc0








 アマゾンアルファとその身を獣と化しても、鷹山仁の視界は依然として晴れない。
 水澤悠に裂かれた両眼は未だ治癒し切っておらず、明暗とぼやけた輪郭ぐらいしか判別がつかない。
 自分が今狩っている相手の事も、白く長いなにかを振りかざしてるとしか見えてなかった。

「亞亞亞亞亞亞亞っ!!」

 足まで届く白い長髪が狂ったように宙を踊る。
 絶望と怒りで染め上げられても美しさだけは翳らなかったというのに、最早のたうつ蛇と変わりない。
 邪で、陰気で、血生臭い。元来女が腹に溜めていた黒さ、推して知るべしか。
 髪に隠れた顔は人ではなく、鬼女のそれだ。夜叉であり、般若であった。
 奇策士・とがめ。捨てた名を容赦姫。
 仮面も被らず、女は生皮が怪物となっていた。

「血、血、血……!」

 必死に殴る。叩きつける。引っ掻く。
 とがめはこれだけの力で人を殴るのは初めてだった。紙障子より脆いと豪語する体は肉体的な暴力にまったく適性がなかった。
 有り余る殺意も、手に乗せて振るう術を持たなかった。
 ある種、これがとがめの初陣だ。自らの手で血を流し命を殺める工程だ。
 本来の、元のとがめならこのような行為を取ったりはしない。物理担当は彼女の刃だ。
 彼女は奇策士だ。奇策を練り、奇策に嵌めて目的を叶えるのがいつもの勝ち筋だった。
 
「血得得得理愛愛愛愛愛愛愛愛愛!!!」

 咆哮し、必死になって相手を殴りつける。これは如何なる奇策なのか。
 あるはずがない。こんなものが奇策であるわけがない。
 力任せの吶喊。詰めるための技の組み立て方を知らない稚拙な殴打。
 万策尽きた格闘家が、泣きながら腕を回して遮二無二向かってくるのと大差ない。
 溶原性細胞。人をアマゾンに変えるおぞましき業苦。心も、愛も、尊厳も食い尽くす慟哭の本能。
 アマゾンの本能に突き動かされ、ただひとつの本能しか考えられないとがめには、万はおろか零も奇策が浮かび上がらない。
 
 ちぇりお。とがめがよくする気合のかけ声。とがめはこれが言い間違えであると、真庭忍軍十二頭領の一人、真庭鳳凰に指摘されるまで気づかなかった。
 正しい発音はチェストだ。薩摩の武家者(ぼっけもん)、自顕流の侍が使う叫びだ。

 チェストの語源のひとつは『知恵捨て』であるという。
 ならば是こそ知恵捨ての姿に相違なく。皮肉なる運命として、今のとがめに相応しき称号であった。

 その皮肉を嗤う余裕も、既にとがめにはない。もう彼女には戦うしかないのだから。
 赤い貌を打つ。滅多打ちにする。
 どこまで殴れば死に至るか加減がわからないから、とにかく死ぬまで殴り続ける。
 数え切れない、数えてもいない乱打を繰り返し繰り返し続けまだ続けようと挙げた腕が、刺々しい腕に鷲掴みにされた。

「亞……っ!?」

 腹部に走る衝撃。次いで痛み。掴んだ逆の腕で殴り返されたとがめが怯む。生まれた隙に逆襲と言わんばかりに続けざまに食らわせられる。
 なんとか逃れようと振り回しても拘束は解けない。引き剥がそうと腕を掴み、顔を叩いても、一向に動きは止まってくれない。

 視力を失って以降、仁の戦闘スタイルは一変していた。
 人の思考でアマゾンの本能を乗りこなし、適確に一撃を与える理論的なものから、相手の一部を掴み、曖昧な目測をつけて執拗に狙い続けるものへ。

668眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:09:45 ID:qa8Zn0Lc0


 「う……亞亞亞亞!」

 狂気の中で芽生えた恐慌に、初めてとがめは人らしい反撃を取った。
 自身に支給されていた箱つきの刃物───チェーンソーを仁の首元に振り下ろす。
 回転する鋸刃は筋繊維に食い込み、細胞を破断して押し進む。
 生物に共通する急所の損傷に、仁は目も暮れず。
 チェーンソーを持った方の腕を掴み上げ、基部に逆の手のアームカッターを押し付けて上方に切り飛ばした。

「AAAAAAAAAAAA!」 
 
 とがめの声が咆哮なら、仁は絶叫だった。
 アマゾンに成り立てのとがめよりもっと取り返しのつかない───残っている人の部分を鑢でこそぎ落とされたもの。
 生まれたばかりの我が子をこの手で絞め殺す親のような、擦り切れた金切り声だ。

「ぎっぎぎぎぎぃ─────」

 崩れ落ちるとがめ。拘束は外れたが受けたダメージが行動を許さなかった。
 当然の結果だ。幾多のアマゾンを殺し続けた仁を相手に、持ちこたえられるはずもない。
 人であれば勝敗はついている。とがめ自身そう思った。軍配を上げてそうそうに終わらせたくすらある。
 なのに体は動いた。奇策なんて何もないのに、残った腕で前を這った。

「……ぬわけには、いかぬ」

 名も財も、この身にあったものは全て捨ててきた。
 生きるため。生きて、復讐を果たすため。
 天下への謀反人で、人としても苦手な父親だったが、父だった。最期に自分に愛してると言い残してくれた。 
 けれど将軍相手に仇討ちを為すためにはひとりでは無力。知恵と地位はあれど武力はなく、策を練る他なく、どれも失敗に終わった。

 それもそのはずだ。誰も信じてないし、何にも頼らないから、何も味方してはくれなかった。
 裏切りを前提にした関係は、当たり前に相手から先に裏切られた。
 相手が自分に抱く感情も、自分が相手に抱く感情も、目的のための道具だと割り切ってみせた。
 そんな人間を、一体誰が、最期まで味方してくれるというのだろう。

「…………………しち、かぁ」

 無意識に溢れた名前に、知らず笑みが浮かんだ。言葉にしただけで体のどこかから活力が湧いた気がした。 

「私は、生きる、生きねば……」

 いつの間にか変身は解けていた。片方だけの白い指で地面を掴み、少しでも前に進む。
 人なら失血死に至ってる傷で生き永らえてるのはアマゾンの生命力故か。
 血が抜けたせいで、とがめの頭では取り留めのない言葉が右往左往していく。

 ───どうしてそこまでして足掻く。
 生きねばならないからか。
 それとも、生きたいからか。

 ───なんのために生きるのか。
 復讐のためか。
 それとも他に、なにかもうひとつ、理由足り得るものが───。

669眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:10:24 ID:qa8Zn0Lc0



「ああ、わかってるよ。生きたいんだよな」

 上から声があった。仁だ。 
 とがめのうわ言に対して穏やかに同意をしたが、それは救いを意味しない。
 なぜならとがめが変身を解いても仁はまだアマゾンアルファのままであり。

「でもなぁ」

 華奢な背を爪が貫く。
 手首が沈むまで深く刺し入れたまま立ち上がり、百舌の早贄にされたとがめが空に掲げられ。

「そいつは、駄目だ」

 無慈悲に。
 あるいは、慈悲深く。
 揺蕩う夢想ごと、女の体を上下に引きちぎった。


 終わる。
 噴き出す血と同時に残った命が尽きていく。
 泣き別れた半身が落ちるまでの時間に、最後の思考を走らせた。死を自覚したからか頭は澄んでいた。
 果たせなかった無念や後悔、様々な感情が湧き上がっては消えていき、どうもしっくりこない。
 人生に一度しかない末期なのだから、どうせなら楽しいことを考えたかった。
 かといって、奇策はもう考える必要がないし、全国の名産だって冥土の土産にはいささか安い。
 ならばと、これしかないなと頷き。

「しち、か」

 とがめの刀。とがめに惚れると言った男。愛のために戦うと言い張った男。
 こうして走馬灯でも鮮明に思い出せる七花の顔を見つめて。




 とうに無い腹から、ぐうと音が鳴った。




「───────────────────────ぁ……」

 なんて。
 なんてことを。
 なんてことをしてくれやがったのか。
 
 誰も見ても聞こえてもないとはいえ、いやだからこそ。
 女の散り際、一世一代の花道で浮かべた男への思いを、腹の虫で済ませるだなんて。

 ふざけるな。こんな最低最悪の始末があるか。やり直させろ。責任者を出せ。
 認めない。生きるのは捨ててももこれだけは絶対に認められない。
 声を荒げて抗議する。心底アマゾンを憎み抜く。怒りで凝り固められた形相になる。
 やがて、全身が黒い血肉の塊になって動かなくなる。
 残るものは、それだけだった。

 【とがめ@刀語 死亡】

670眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:11:15 ID:qa8Zn0Lc0




 ◆



 瞬足雷刃。
 『爪合わせ』を揃えて剣に見立た手刀による、アマゾンの強靭な生命力を焼き焦がし死滅させる知覚外の一刀両断。
 使用の度足一つ潰すほどの負荷のかかる技を、涼し気な顔で我がものにしてみせる。
 一度見れば大抵は覚え、二度見れば万全。血の滲む修練、骨肉を削る努力を羨ましいと吐き捨てられる、超逸の才。
 本土を降りた僅かな足跡を知るだけで七実が化物と恐れられる所以、見稽古。
 

「あ、だめねこれ。変わった息の使い方をするから試してみたけど、動かし方が非効率過ぎるわ。
 弱くなるためだから間違ってはないんだけど、いらない負担まで背負わせるなんて。嫌がらせのつもりかしら。
 というより未完成じゃなくて不完全なのね。はじめに決まった型があって、それが再現できなくて歪んだままの方向で発展させてしまった。
 ……けどこの型、元の形を完璧に扱える人がいたとしたら、ひょっとして私より───」

 ぶつぶつと実践した技の問題点をあげつらう。
 呼吸と一緒に覚えた『耳』が、羽虫の断末魔めいた音を聞いて意識は引き戻された。

「ぎ───ぎィ、ゥ、ゥウウウウ……!」
「あら、生きていたの」

 這い蹲って呻き声を洩らす禰豆子を冷やかに見下ろす。
 体には斜めに線が入り、半分ほど軸がズレている。鎖骨から背骨まで両断され、背中の肉で辛うじて繋がってる状態だ。
 悠が七実が放つ神速の餌食になる寸前、二人の間に割って入り斬撃を受け止めた結果だった。
 
「それに"あまぞん"の方も。一網打尽にできて手間が省けるから纏めて斬ったけど、しぶとさというのは積み重なるのね」

 悠の方も、意識こそ失ったが一命は取り留めていた。
 禰豆子の反応が早かったのは、戦闘を外から眺めていたこともあるが、七実から慣れた気配を感じ取ったからに他ならない。
 兄の仲間。金色の髪。人格は戻らなくても記憶に刻まれていた。

「まあ動けなくていい塩梅になったし、これはこれでちょうどいいかもね。
 "あまぞん"について詳しく知ってそうですし、教えてもらいましょうか。
 ああ、喋ったら生かしてあげるとかはないので安心してください。自発的に喋ってもらってから殺すか、拷問して喋らせてから殺すかの違いですので」

 ゆっくりと七実が歩を進め近づいていく。もう抵抗する力は残ってないと判断したためだ。事実そうだ。
 禰豆子の半身は千切れ跳ぶ間際。悠の傷は禰豆子よりは浅いが、そもそも禰豆子の傷が即死してもおかしくない有様だ。
 傷を治そうにも、既に禰豆子は七実の間合いに入っている。逃げられない確実な一手で仕留められる間合いにだ。
 再生を早めるべく力を込める素振りを見せれば、治るより先に禰豆子の首が撥ねられる。

671眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:12:01 ID:qa8Zn0Lc0


「!」
「!?」

 地を揺らす振動に、二人は大地でなく空を仰いだ。
 隣のエリアにそびえ立つ高層マンションが、音を立てて根本から崩れ落ちていくのを七実は眺めた。
 禰豆子は、違うものを見た。

「ウ────ア"ア"ア"─────────!」

 視力の限界点で見えたものを起爆剤に腕を振り上げる。すぐに七実は仕留めんとするが、目潰し用に撒かれたと思われた血が桜色に発光し、炎となって七実の視界を塞いだ。
 炎の壁に七実は気を乱さず、手刀を払って渦をかき消す。この一瞬の攻防の時が明暗を分けた。
 崩落したビルの破片がここに落ちてくることはなかったが、押し出された大気が粉塵を巻き上げた。
 さながら入道雲のような煙幕となって周囲一帯を蹂躙し、七実のいる場所にまで殺到したのだ。
 視界を奪い、目を使えなくする。とがめが見稽古を封じるため使った奇策。
 関わっていないビルの倒壊は図らずもいいタイミング───あるいは悪いタイミングが重なって逃走のお膳立てをしてくれた。

「見失ってしまったわね。でも、聞き失ってはいないわ」
 
 目くらましは確かに見稽古を破る数少ない策だが、それは以前までの七実に有効の対策だ。
 目が使えないのなら耳を使うまで。雷の呼吸共々習得した音感は、遠ざかって走る足音の位置を正確に把握する。 
 足音と心音。近づけば骨と筋肉の軋み。これだけ揃えば特定は造作もない。気絶した悠も背負ってるのだろう、この速度なら十分追いつける。……が、七美は追わなかった。
 その場で咳き込み、落ちる汗と止まらない息切れ。例によって、時間切れである。

 迫りくる煙に、汚れるのは嫌だったので忍法足軽で重さを消して洗礼をかわす。
 ふわふわと舞い手頃な場所で降りるが、二人を完全に見失ってしまった。
 加えて七実は方向音痴だ。音が聞こえなくなったのなら目的地に辿り着けない。
 戦いでは終始圧倒していた七実だが、勝負の上では向こうの粘り勝ちといえた。

「空から見ればわかるかもとも思ったけど……知性がなさそうで意外と考えてるのね─────ああ」

 二人とは違う音の感触。遠方で、記憶していた人物の『音』が途切れた。目は届かなくても、何が起きたかを音響は雄弁に理解させた。

「はあ。草を毟りたいのに、どんどん悩みの種が植えられていくなんて」

 七実は息を吐いた。疲労でなく、憂鬱によるため息だ。
 自分から奪っておいて取り返して見せないと見栄を切ったのだから、流石に少しバツが悪い。
 なによりこれで七花が腑抜けになってしまうのでは当初の目論見そのものがご破算だ。

「けど、そうね」

 なったものは仕方ない。それより建設的に今後を考えてみる。
 自分を殺した時の七花。あの時は髪を落とし、次は首だと脅しただけでもあの怒りようだ。
 なら過程はどうあれ、とがめを守れなかった自分を七花は。

「とがめさんが死んだと聞けば、今のあの子でも本気で私を殺してくれるかしら」

672眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:15:53 ID:qa8Zn0Lc0
【C-7・街/1日目・午前】

【鑢七実@刀語】
[状態]:疲労(大)、割と不機嫌
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜7(七実、イユ、善逸。確認済み、衣類系は無し) 、チェリオ(残り3)@現実
[思考・状況]
基本方針:適当にぶらつく。細かいところをどうするかはその時々で判断。
1:七花が開花したならば殺されたい
2:アマゾンについての情報を集めたい。
3:アマゾンに不快感。さっきの少年(千翼)は殺す、偶然出会ったさっきの獣(悠)も殺す。とりあえず女の子(禰豆子)も殺しておく(ただし一応は情報優先)
[備考]
※参戦時期は死亡後ですが、体の状態は悪刀・鐚を使用する前の病弱状態です。
※自分が生きているのはアマゾン細胞によるものではないかという可能性を考えています。
 また、その想像に対して強い不快感を感じています。
※見稽古によって善逸の耳の良さ・呼吸法を会得しています
※石上の声を聞いています。それにより人が集まる可能性を考えています。



【C-7・街/1日目・午前】

【鷹山仁@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:盲目に近い状態
[装備]:仁のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:全ての『アマゾン』を狩る、『人間』を守る
1:千翼を殺す
2:殺し合いからの脱出
3:次に千翼と会ったら七羽さんについて聞いてみる。
[備考]
※参戦時期は2期7話の千翼達との邂逅前。
※盲目に近い状態なので文字を読むことなどはかなり厳しいです。

【バニヤンのチェーンソー@Fate/Grand Order】
 とがめに支給。
 ポール・バニヤンが第三霊基再臨の際に使用する武器。
 ピンクのボディーがチャームポイント。
 草食の肉は……やめられねぇぜ……!

※とがめの基本支給品一式、支給品0〜3が近くに置かれています。

673 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:16:43 ID:qa8Zn0Lc0
投下終了です。後半は夜に投下します

674 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:24:26 ID:qa8Zn0Lc0
後半を投下します

675この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:25:06 ID:qa8Zn0Lc0
 
 ◆


 数刻経過して、相手が素人だと明は判断した。

 体幹がなっていない。身のこなしも悪い。動きも攻撃もとにかく雑だ。
 怪我で万全でないのではなく、戦い自体に肉体が慣れていないとすぐにわかった。
 平和に暮らしていたある日に、化物に襲われてやむなく武器を取った、典型的な素人の戦い方だ。
 変身したライダーの装甲服の恩恵か速さと重さはあるものの、動きに思考が追いついていない。
 力はあっても、戦うという根本の心構えの時点でなっちゃいないのだ。

 "奴からは甲高い声がした、気がする……女か?クソっ上手く聞こえねえ"

 変身者に合わせられるのか。ライダーの身長は明よりも一回りほど低い。
 記憶力には自信がある。ぼんやり映る背丈は炭治郎と同じくらい。ひょっとしたら相手は子供なのかもしれない。

 "だとしても、敵だ"

 終わったばかりの戦地の真っ只中。血があちこちに飛び散り死体が転がってる場所にわざわざ乗り込んでの、問答無用の奇襲。
 友好的な相手だと判断するのがどだい無理な話だ。そして適当にいなして話を聞くだけの余裕も明にはない。
 故に、斬る。
 この手で首を落とした炭治郎との約束を果たし思いに報いるにも、ここで死ぬわけにはいかない。
 

 宮本明は不死身の男である。
 周りの味方は常に彼をそう評する。敵すらも、彼と対峙したら同じ感想を抱かざるを得なくなる。
 全身を切り刻まれても、全ての武器を奪われても、数百キロのコンクリートの塊をぶつけられても、一敗地に塗れても。
 何事もなく立ち上がり、目の前の障害を次々となぎ倒して首を一刀両断に伏す。
 まさしく一騎当千、万夫不当の英雄。本土に生き残る人間が崇め、救世主と触れて回るのも納得の強さだ。

 だがそれほどの強さを誇る明でも、彼岸島の吸血鬼は止められなかった。
 どれだけ途中で勝利を収めても、最終目標である雅の討伐には決して至らなかったからである。
 常識外の能力も奇想天外な閃きも紙一重で通じず、雅には常に惨敗を喫した。
 強さや戦術といった云々の次元ではなく。宮本明は雅に勝てないと、見えない運命に縛られていた。

 大事な一戦でいつも取り零し、心身を擦り減らしながら不屈の精神で立ち上がった戦士。
 その雅を、この地で討ち取った。運命への叛逆、その誇るべき悲願の達成の代償に、明は満身創痍だった。
 目の前の対処に精神を傾けるのが限界で、味方の可能性を考慮してもいられないほどに。
 多量の血を失い、目は霞み、耳は遠い。膝は軋み、足腰は震えている。一歩動かすごとに気の遠くなるような痛みが襲っている。
 素人だからとて手加減できる状態にない、最短で決める他なかった。
 
 "ベルトだ。ベルトを狙うんだ" 

 銃を使うライダーは、腰のベルトの中心から引き抜いたカードから武器を出していたのを思い出す。
 理屈はいい。だがそこが力の源だとしたら、逆に弱点かもしれない。
 今はただ暴れ回るだけの相手も、冷静になられたらカードの存在に気づく。そうなる前に仕留めなければ。

 敵が振りかぶる。威力の割に大雑把で、胴が隙だらけの姿勢。

 "今だ!"

 右手の義手は刃を破壊された。新しい武器と取り替えるまでは使えない。頼れるのは左の菊一文字のみ。
 振る必要はない。腕を折り畳んで、残留する体力を腕の筋肉に込めていくイメージ。

676この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:28:05 ID:qa8Zn0Lc0

 
「はっ!」

 拳が明の顔に届く間際、そのタイミングに合わせて解き放つ。
 剣の軌道は線ではなく点。握る菊一文字本来の持ち手に勝るとも劣らぬ速さ。最小の動きで急所を刺し貫く"突き"の動きは、狙いを過たず腰の中心を穿った。
 本調子であればそのままぶち抜いて余りあるはずだったが、明の狙いはまだ先にある。
 
「ふんっ!」

 腕にかかる体重を流して手首を返す。引っかけるようにして振るった横一文字はベルトのデッキ───ライダーの要を外に弾き出した。

「あ……!?」

 決着は瞬時に。番狂わせもない予定調和で。
 鏡の破壊音と共に変身が解けたことでバランスを失いよろめき倒れ込む影。
 遠くなった耳でもわかる、年若い女の声がした。

 両膝をついたまま相手は動かず、抵抗の素振りもない。
 ぼやけた視界に映る輪郭や色合いからして、やはり華奢な女子の格好をしていたらしい。

「──────て」

 耳鳴りがする。
 身を風が切る音が鼓膜に響いて痛む。
 見た目で気を抜けるほど甘い戦いは経験していない。何事かを言う前に首の辺りにだいたいの狙いをつける。
 

「どうして、タンジロー君を殺したの」


 掠れて憔悴した、弱々しい言葉。

「……なに」

 風に紛れて消えそうなほど小さい声を、回復の兆しを見せていた聴覚は逃さず拾い上げてしまった。


 明は知らない。
 彼女───中野一花が、炭治郎達を連れ戻しに危険を冒してこの場に来た事を。
 傷ついた風太郎と炭治郎の遺骸を見つけ、下手人と見做した明に淀んだ炎の意志を向けている事も。
 忘我のまま宿敵を斃すのに専心し、周りに気を回す分も全て注ぎ込んでいた。
 風太郎や鬼となった炭治郎の助けがなければそこまで届かず、人でなくなった炭治郎の介錯を泣く泣く請け負った。
 関係なかった。どれだけ言い訳は用意されていても伝えられなければ意味はなく、事実だけが現実に伝わる。
 両者とも事情を慮れずに。明は知らないままで、一花も気づけない。

「────────────────────ァ」

 そして。
 死を嘆き、燃え盛るほど激するのは人だけではない事にも。
 気づく余地も、なかった。

「ァ、ァァァ、ァァ」

 小動物のさえずりと大差ないのに、その唸りは大気を震わせた。
 辺りを覆う死の気配に共鳴して、人の可聴域を超えた金切り声を発しているのか。

 現れた和服の少女に、一花も明も顔を向けた。
 麻の葉文様の着物。市松柄の帯。
 血と瓦礫と死体の積まうこの場には似つかわしくない、時代錯誤の姿。しかし最もこの場に相応しい存在。
 瞳を赫灼に血走らせ、頬を滂沱の涙で濡らし、竈門禰豆子は声なき叫びに身を震わせた。
 


 ◆

677この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:30:28 ID:qa8Zn0Lc0




 おぼつかない足取りで日の指す街中を彷徨う。
 体中が痛い。頭が割れそうなほど軋む。何より喉が激しく渇いてる。
 口腔は自分が吐いた血反吐でべっとり濡れている。だからこれはもっと耐え難い、本能的な話。

 再生のために力を使いすぎてしまった。
 肉体維持に躍起になった機能は補充を求めてる。人の、血肉。変わってしまった体はそれしか受け付けない。
 いつもなら睡眠で補えられたものが、今はひどく苦痛だ。それもさっきまでは抑えられていたが、受けた傷が深すぎた。
 研がれた刀みたいな、怖い女の人。手に握り誰かを守るのではなく、ひとりでに動き、斬る相手は区別なく斬る妖刀。
 飛び込む拍子があとひとつ早くても遅くても、この首はついていなかった。逃げられたのは運が良かったからだ。近くの建物が崩れ、砂埃が起きて隙ができた。
 そして、その一番高いところからした、慣れ親しんだ気配が心を奮い立たせてくれた。

 兄の気配。自分を背負い、戦っている、守るべき家族。
 砂粒程にしか見えない距離でも、その気配を間違うはずがない。
 荒れ狂う衝動を歯を食いしばって必死に呑み込めたのは兄の存在を近く感じ取れたおかげだ。
 体が治りきり、衝動もなんとか喉元を通り過ぎてから、自分を護ってくれた人を見えない場所に寝かせて探しに行く。
 ほんとうはすぐにでも走り出したかったけど、全身の気怠さと、さっきの人に見つかるかもしれない怖さで歩みは遅々としている。
 それでも微かな気配を頼りに進み続ける。兄を求めて千里にも感じる道程を歩む。


 会って確かめたかった。謝りたかった。
 兄の誓いを穢してしまった事。たくさんの人の信頼を裏切ってしまった事。
 自分をまだ保てることを確かめたくて、やってしまった罪を謝りたかった。
 ああ、でも。たくさんの理由と責任があったけれど、一番強いものは別のものだ。

 もう自分にはそんな顔を見せてくれないかもしれないけど。
 その光に罪ごとを身を灼かれてしまうだろうけど。
 会いたかった。
 会いたかった。
 兄に、長男に、炭治郎にただ会いたかった。
 お日様のような優しい笑顔を、この目でもう一度見たかった。
 

 時間の間隔も曖昧。あれからどれぐらい休んで、どれくらい歩いたのかもはっきりしてない中、どうにか匂いの元に辿り着いた。
 街の辺りは酷い有様だった。激しい戦いがあったんだろう。色んな人の血の匂いがそこかしこから漂う。
 充満する臭気にまた食欲が湧き上がりそうなのを必死に堪えながら、一際濃く感じた、兄の匂いを探る。
 あの人はいつも傷だらけで、自分ではない誰かのために戦うから。
 血の気配が濃いのは……凄く心配だけど……不思議じゃないから、濃さをおかしいとは思わなかった。
 道端に転がってる、丸いソレが目に入るまでは。
 
「                                        ?」

 ソレが何であるか、禰豆子は理解する事を拒んだ。
 理解を突き抜けて精神が唐突に停止して動かなくなった。
 見るな。目を逸らせ。忘れろ。警鐘の言葉が目まぐるしく思考の中で駆け巡ってるが視線は一向に離れない。
 逸らせば見たものが何であるか認めてしまう。認めなければいつまでもソレを目に収め続けてしまう。

「お、にい、ちゃん」 

 禰豆子は最も真摯で、愚かな選択を取った。目を離さずに、目にしたソレの名を口枷を外して口にした。
 衝撃は頭蓋を割り、脳髄を撹拌する。
 転がるのは人間の首だ。
 黒髪に額の痣。太陽の耳飾り。
 ずっと見てきた後ろ姿。追っていた背中と泣き別れにされて落ちていた。
 否応なしに下される、竈門炭治郎の死の証だった。



  兄の事が好きだった。
 かけがえのない家族。たったひとり残った兄。
 人間でなくなった自分を絶対に見捨てず、日の当たる方へ手を引いてくれる。傍にいるだけで日向に当たってる気分になる暖かさをくれる。
 なのに兄は首だけになって地面に落ちていた。太陽の沈まぬときはないと思い知らせる、夜の闇のように。
 なのに。自分のいないところで、なにも残さず、塵のように。
 骸のように。
 屑のように。
 肉のように。
 屍肉のように。
 何の意味もないように。
 死んでしまった。

 どうして。
 どうして兄ばかりこんな目にあうのだろう。
 どうして一生懸命生きてる優しい人達が、いつもいつも踏みつけにされるのだろう。
 兄がどんな悪い事をしたのか。どうして置いていってしまうのか。死ぬべきとしたらそれは、血の味を覚えてしまった自分ではないのか。

678この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:30:57 ID:qa8Zn0Lc0




”殺せ”




 罅の入った心の隙間に、おぞましい声が頭に入ってきた。


”奴等を殺せ。アレはお前の兄を殺した。お前の希望を奪い、首を野晒しにした”

”ならば殺せ。だから殺せ”

”お前が自身を人間だと認めているのなら、兄の仇を取ってみせろ”


 掠れた記憶から朧気に再生される、黒い髪。赤い目。鬼の始祖と呼ばれる、全ての元凶。家族の仇。
 一度は跳ね除けた闇色の誘惑が再び囁いてくる。 

 首を振って拒絶する。もう人は食べない。誰も殺したくない。


”何を躊躇う。お前には此奴等を殺す権利があり、力もある”


 だからって殺していい理由にはならない。死者は甦らない。仇を取っても愛しい人は戻ってこない。
 取り返しのつかない事をしたのは百も承知だ。美味しかったけれど、もう、いらない。
 


”そうか”


”ならばやはり、お前は鬼だ”


心が凍る。


”殺された親の、兄弟の、恋人の仇を取ると、人間達はいつも言っていたではないか”

”それをしないお前はもう人間の心がない。ただ自分が生きたいが為に他の人間を犠牲にする。
 お前の兄が忌み嫌い首を落としてきた、生き汚い、醜い鬼だ”


 体の熱が冷める。紅蓮に燃ゆる炎が消える。
 それがこれまでずっと抱かないでいた人の感情の底、絶望、というものだった。
 そこから先には進めない、という断定。冬の雪山で灯りを失くしたまま彷徨う道。
 違うのに、嫌なのに、覆されない死という事実は鉄の棒になって激しく打ちのめして痛めつける。
 のしかかる絶望に立つ気力を失い、崩折れる。代わりに顔を出すのは本能だ。
 犯してならない禁を破られ、止めていた枷が砕け、抑える死後の希望も永遠に消えた。
 肉体を作り変えてき二年を、人を守って戦ってきた時間を、全て無意味だったと断定する。どうしようもなく埋め込まれてしまった宿業。


「あ、あァァアああああ、ア───────────。
 ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 慟哭と本能の混じり合った、魂を千切る絶叫。
 悲しみも、怒りも、あらゆる感情が吹き飛んで、残った体だけが、衝動のまま目の前の命めがけて飛び出した。



 ◆

679この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:33:30 ID:qa8Zn0Lc0



 反応は間に合わなかった。
 ふらりと現れた少女の事も、その少女が大声で叫び変容し、禍々しく伸びた爪を振るったのも、何もかも分からなかった。
 無防備な肩口に爪が引っかかったところで、一花の体が意に沿わぬ衝撃───咄嗟に出した明の蹴り───によって大きく後退した。

「上杉を連れて早く逃げろ!!」

 孤剣で立ちはだかる明。意識は既に一花から明かな脅威である目の前の猛獣へと移り変わってる。
 受け止めた衝撃で、傷口から血が噴き出た。それでも抑え込んだのは鍛え抜かれた体幹の賜物か。

「ぐは……っオイ、何してる!」

 斬り結ぶ明を前にしても、一花はそこから逃げ出そうとしなかった。
 明への殺意はとうに薄れている。残るのは疑問ばかりだ。
 何故、自分を殺そうとした相手が逃げろと言い出したのか。風太郎の名まで出したのか。突然襲いかかってきた少女は何者なのか。
 ずっと状況に置き去りにされっぱなしだ。これ以上問題を難しくするのは勘弁してほしい。
 何もかも分からない一花だったが、それでもひとつだけ、はっきりと理解できる事があった。

 ────ひょっとして、また私、間違えたの?

 一人で決めた事を録にできていなかった。
 二乃達に助けを呼んで戻ると言っておいて、炭治郎の死に間に合わず、真司と沖田を見つけられないで、その仇も取れず。
 探していた風太郎は見つけられたが、自分一人では動かせないほど傷だらけで、これじゃあ連れ帰ったところで負担が増すだけだ。
 何一つ。これではあの時とまったく変わりない。
 無謀に前に突っ走って呆気なく返り討ちにあった、妹を喪った時と変わっていない。
 同じ失敗ばかりだ。どうしてこうも空回りするのか。成長がない。進歩がない。

 そうやって自身を苛め抜いても、出てくるのは乾いた笑いだけで、何の益にもなりはしない。
 ああそもそも、この場所に限った事ではなく、少し前からこんな事ばっかりな気がする。
 それが一番いいと信じて取った行動が、尽く裏目に出て、自分だけならともかく姉妹や彼にも被害をもたらす。
 
 今しなければならない事がなんであるか理解できないほど一花も愚鈍ではない。
 命のかかった状況。生死に直結する分岐路。
 失敗に次ぐ失敗が持ち前の行動力にある自信を奪い、行動に過剰に制御をかけている。
 また同じ失敗をしてしまうのではないかと。

 蹲っている間にも刻限は目減りし、命運は先細りに縮んでいく。
 押されるまま、叩かれるまま下がり続ける明は終始劣勢に駆られていた。

「ハッ───ハッ───」

 鉛のように重い隻腕。重心が定まらず震える両脚。
 それはある種の呪いだ。この手で斬った雅の怨念が全身に絡みついて離れない、そんな妄想が付きまとう。
 最後の置き土産だとばかりに傲岸な笑みで、不死身の吸血鬼を殺した代価を支払わせにきているのだ。

「冗談じゃねえ、死んでからも迷惑をかけやがって雅……ぐっ!」
「ゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 加えて相手の相性が最悪だった。
 万全ならば見切り、窮地でもかわしてのけた直線的な禰豆子の突進を、今は避ける事すら叶わず刀で受けるしかできない。
 感情が暴走し、多少の負傷も意に介さず、常に出力の上限で襲いかかる禰豆子に対処するだけの力など、ありはしなかった。

680この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:34:00 ID:qa8Zn0Lc0

 
「こんな、ところで……」

 立っている事自体が不条理な、必死確定の状態でありながら。
 体の停止を訴えてくる危険信号を、意志力としか呼べない力でねじ伏せて明は立っていた。
 炭治郎から受け継いだ思いを絶やしてなるものか。そう一念するだけで腕の重みがやわらいでいく。

「こんなところで、俺は───────!」

 心臓に狙いを定められた爪を横一線にて迎撃する。
 肉を裂き、骨まで割る剣の冴えは胴まで届かず、二の腕の中程で止まってしまう。
 腕の損傷を一切意に介さずそのまま躍りかかる。菊一文字は肉の粘りで絡め取られ、片腕を使おうにも仕込みの愛刀は既に折られている。
 だが焦りはない。宮本明の戦い方は武器に依らない。手に取れる道具であればあらゆる局面で一糸に変えてみせる無窮の歩錬。

「おおおおおおおおおっ!」

 刀に見切りをつけ肩口に刺さりっぱなしの螺子を引き抜く。
 肉の千切れる痛みを叫びで誤魔化し、工業用とはかけ離れた過負荷(マイナス)の証を握りしめ、がら空きの胴に打ち込む。
 臓物を掻き分け背中から貫通する螺子。これには堪えたのか、血を吐いて禰豆子の態勢が空中で崩れる。
 千載一遇の好機。腕に食い込んだままの菊一文字を掴み、最後の力を振り絞って振り抜き───



「──────ぁ──────────────────────────?」



 小気味よい音が鳴った。
 サッカーボールの芯を捉えた最高のシュートが決まった瞬間の、どこか爽快ですらある音だった。
 ボールにされて回転しながら宙を舞った人間大の肉の塊は、ガードレールで跳ね返り、電柱にぶつかり、家の塀を破砕したところで停止した。

「───ご、ボ──────」

 口から血の泡を吹く。
 何が起きたのか、その認識をする前に気絶した。赤黒い塗料がぶち撒けられた表情は見えない。腹が破れて中身が漏れてないのが奇跡だ。
 無力となって倒れ伏す明に、しかし蹴り上げた禰豆子は齧りつこうともせず、腹を押さえて固まっていた。
 
「ぎ、ぐるゥゥゥゥゥ───────」

 髪を振り乱して、苦痛にもがく低い唸り声。
 腹腔には突き刺さった螺子。悶ているのは傷の痛み故ではない。
 より深刻で、破滅の引き金を引ききってしまった痛みにこそ喘いでいる。

「ち、ちちちちち、血─────────」

 血の摂取は鬼の回復力に直結する。
 螺子は明の肩に刺さっていて、それが今は禰豆子の体内に侵入している。
 結果は言うに及ばず。
 一度目の摂取で覚えてしまった甘味。飢餓に苛まされた頃からの二度目。
 起死回生に打った筈の一手は、とっくに崩壊していた禰豆子の人間の精神に、最後の止めを与えたに過ぎなかった。

「────、─────────────────────────────────────────────」

 肌に爪を立て、痙攣していた全身が止まる。
 ゆるりと起き上がった顔は、もう別のカタチだった。
 今までは血色の瞳孔以外は童女のそれだったのが、成人まで手足が伸び、呪詛じみた紋様が浮かんでいる。
 額から生え伸びた一本角は、手遅れを示す克明な証だった。

 顔を上げた鬼の表情が映すのは……笑い、喜悦、欲求、垂涎。
 ニンゲンを食い物としてしか見做さない視線。それを恥じ入る心もない。
 悪鬼羅刹。世に数多蔓延り蠢く、堕ちた鬼そのものだった。

681この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:35:06 ID:qa8Zn0Lc0


「え───────」

 単に、距離が一番近かったからなのか。
 肉を選り好みするだけの余裕が生まれたからなのか。
 鬼の魔眼はへたり込んだままの傷のない一花を捉え、にんまりと笑った。腐乱した花のような、壊れた笑顔だった。
 蛇に睨まれた蛙さながら。一花は首筋に走る寒気だけを漠然と感じながら、鬼が到来するのを待つだけしかできず。


「アマゾンッッ!」

 
 咆哮。そして爆裂。
 一花に向かう鬼の前に躍り出た影から吹き出した、目を覆う熱波が吹き荒ぶ。
 いきなり発生した強風に飛ばされた一花だが、幸い怪我には繋がらずに済んだ。何事かと目を凝らせば、誰かが鬼にしがみついて動きを止めていた。
 また、助けが来たんだろうか。安堵しかけた一花だが、像が顕になった乱入者を見て、吐きかけた息を飲み込んだ。
 生物と金属を混ぜ合わせた異形の装甲。
 色や細部こそ違えどその外観は、千翼という少年が姿。
 五月の命を奪った怪物と酷似していた。
 
「ア、ア”ァ”ア”ア”ア”!」
「禰豆子ちゃん、やめるんだ!それ以上は戻れなくなる!」

 戦慄する一花を尻目に、鬼に取り付いた悠、アマゾンオメガは必死に禰豆子だったものに呼びかける。
 いいや、悠が変身した姿はオメガではない。
 養殖の碧の上に被さった鋼鉄の鎧。彼の為に開発された最新式のドライバー、ν(ニュー)オメガに置き換わっていた。

 新たなベルトは悠に支給されてはいなかった。見つけたのは意識を取り戻した後、消えた禰豆子を追って来たまさにこの場。
 回収する余裕もなく散らばったデイパック、その中身に紛れていたのだ。
 デイパックの持ち主は宮本明。だが元を辿れば明の支給品ではなく拾ったもの。
 彼が最初に邂逅し、戦った敵の置いていった荷物。クラゲアマゾンという名でしか呼ばれない、ある怪物に支給されていた品だった。

「どうして、こんなにまで……!」

 悠の胸中を憔悴と混乱が渦巻く。 自分が気を失っていた間にいったい何が起きたというのか。
 ここまでの狂乱ぶりは雅貴との一件ですらなかった。
 血に飢え狂った状態から、雅貴との機転と呼びかけでぎりぎりの範囲で人の側に引き戻せていたのに。

「ヴァ、アアアアアアア!」
「禰豆子ちゃ……ぐっ!」 

 強化されたドライバーなのに、前より引き剥がそうとする禰豆子の力は強まっている。
 一度上がった出力が落ちる事がない。制御や洗練されたものとは逆方向の、暴走するバイクからブレーキを引き抜いたが如きの暴挙。 

「ごふ……っ」
 
 鬼の膂力に晒されるより先に吐血する。繋がりきっていない胴体を無茶に動かした反動だった。
 鑢七実によって半死半生にされた身、並外れた再生力のアマゾン細胞を以てしても間隔が短すぎる。
 ドライバーで細胞を活性化させてどうにか活動できている段階なのだ。

 のしかかる体重を支えきれず膝を折りかける悠に容赦なく乱舞を浴びせる禰豆子。
 得物を嬲るのに躍起になってるところに、横合いから飛来した螺子の散弾が手足を貫いた。
 損傷は軽微だが、意識が僅かに逸れた。その隙に拳を差し込み、渾身の力で殴り飛ばす。
 内蔵を捉えたひしゃげる嫌な音が鳴る。吹き飛ばされた鬼は廃屋に激突し、その衝撃で起きた崩落に巻き込まれ埋められた。

「お前……いま、禰豆子って言ったか?」

 悠と禰豆子が組み合っていた短い時間で、明は立ち上がった。負傷の度合いを鑑みるに信じがたい回復力である。
 隻腕には飛ばした螺子と種類と同系統。球磨川が武器に使っていた道具を目ざとく回収していた。

「あの吸血鬼が……禰豆子なのか?炭治郎の妹の」
「……知ってるんですか?」
「え?タンジロー君の妹って……」

682この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:35:54 ID:qa8Zn0Lc0


 名も知らぬ男から出た思わぬ言葉に悠が明の方に顔を向ける。後ろで見ていた一花も思わず加わった。
 光明が見えてきた。彼を連れてくれば禰豆子の自我を取り戻す事ができる。そんな希望を抱いた悠に、明は無情にも突きつけた。

「炭治郎は……俺が殺した」

 アマゾンとなった悠の瞳孔が驚愕に大きく見開かれる。一花の肩が揺れる。
 悠は辺りに目をやる。すぐ近くに晒されている、首を斬られた年若い子供。
 禰豆子と面影を同じくする、あれが、

「───!なんで!」

 憤慨に胸ぐらを掴むが、明は抵抗せず、苦悶と悔悟の表情を浮かばせて吐き捨てた。

「炭治郎は吸血鬼になってしまった!雅のやつに吸血鬼にされた人間は元に戻らない!一匹でも吸血鬼が残れば、そこから爆発的に感染しちまう。
 だが……言い訳にするつもりはない。結局俺が首を斬ったのには変わりがない。あんなにやさしい……やつだったのに!」
「……っ!」

 事情は見えずとも男には不本意な選択、やりきれない思いである事は察せられた。
 明の懺悔に、悠は手を離すしかなかった。

「シャアアアアア……………………!」

 土埃が止んだ瓦礫の山に鬼が降り立つ。腹に空いた穴は塞がり、太陽の下で何の制約も受けずに活動している。
 千年に渡る妄執が夢見た、限りなく完璧に近い存在、その結実に至りかけた成功個体。
 食人衝動に呑まれた鬼は堕ちた獣ですらない災害に等しい。
 そして鳴りを潜めた頃には、人の頃の記憶は朧に消える。鬼として最適化された醜悪な人格が構築される事になる。

 腰を低く落とし、悠が構える。もう、止める手段はひとつしかなかった。
 
「禰豆子を元に戻す方法はないのか。俺は約束したんだ。妹を護ってやるって、炭治郎の最後の願いなんだ……!」
「炭治郎……禰豆子ちゃんの兄は、彼女が人でいられる為の希望だった。
 それが絶たれた今、人を食べてしまった彼女を落ち着かせる方法はもうありません。ここで、終わらせるしか」
「そんな……」

 悠の中の天秤は完全に傾いた。自分に課した『線引き』を超えた同胞に、いつも手を下してきた。
 そして明も、過去その枠の『線引き』に踏み込んだ仲間には、誰であっても同じ事をしてきた。

「ちくしょう……っ」

 手に菊一文字を握り直す。どんなに頭の中に葛藤があっても歴戦の戦士の武芸は翳っていなかった。
 どんなに追い込まれた精神状態でも明の剣腕は鈍らない鋭き刃だ。無数の艱難辛苦を乗り越え勝利してきた。
 そうだ。仲間も友も師も家族も、どれだけ大切で、愛していても、吸血鬼になったのなら斬り伏せた。
 その度に苦悩し、涙を流し、肉体以上の傷を背負い苛んだ。その度に強くなる事を誓った。悲しみの連鎖を終わらせるのだと心を燃やした。
 全ては雅を倒す為。心身を擦り減らしてでも吸血鬼撲滅の願いを継いできたからこそ戦ってこられた。

 だがこれはなんだ?
 雅の次に新しい敵が現れて、しかも敵は護ると言ったばかりの仲間の家族。死に際の約束ひとつも守れない無様を晒してる。
 救うすべなど、思いつくわけがなかった。
 宮本明の戦いは常に倒す為のもの。失ったものを積み上げた丘を登る孤独の勝利。
 刃になった腕では誰かを抱きしめられず、片腕で掬えるものはあまりに少なく、指の先から零れ落ちていくばかり。

 鬼となった禰豆子を、明はやはり倒すだろう。淀みなき不屈の刃でその首に斬を落とすだろう。
 無双の勝利と引き換えに、仲間を失い続ける過負荷(マイナス)を重ねていくのだろう。
 その後にいったい何が残るのか。救世主?常勝の英雄?
 そんな肩書きは欲しくもない。欲しかったものはもう記憶の彼岸なほど遠い。
 空っぽだ。
 この手には何も、残っていなかった。
 



「ちくしょう────────────────────!」




 跳躍し飛びかかる鬼。
 迎え撃つ戦士と獣。
 三者三様の慟哭が混じり合う。
 爪と刃、悲しみと怒りの交錯点で、紅蓮の華が咲き誇った。


 ◆

683Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:44:03 ID:qa8Zn0Lc0




 意識が視界ごと地面に落下していく。 
 痛みはない。あらゆる感覚は速やかに機能を停止していく。
 何も臭わない。何も聞こえない。
 落ちていくというより、全てから解放されていく気がした。

 悔いはある。
 残していくもの、果たしきれなかった無念の数は計り知れない。多くの人を悲しませてしまうだろう。
 けれど。
 悔いはあるけれども、恥はなかった。
 やるだけの事はやった。受け継がれるものがあった。
 肺が潰れるまで呼吸して、骨肉が裂けるまで走り続けた。その終着地がここならば、恥に思う事はない。
 徒に引き伸ばす事もなく、安心して託して逝けた。

 全てを手放して瞼を閉じる寸前、鏡面に映る色に目が引かれた。
 大地に横たわった赤い躰の龍。鱗は罅割れ息も絶え絶えといった様子。
 その正しい呼称も終ぞ知る事がなく、色褪せた視界では録に思い出せなかったが、死にかけた脳裏には、ある名前が走馬灯めいて流れた。


「ヒノ         カミ      様」


 家系に伝わる奉納の舞。
 捧げるは火の神。
 数百年絶やさずに継承されてきた、ある剣士との約束の儀。
 竜神の威容を初めて見た時からその存在を想起させていた。そのものでないとしつつも、ずっと面影を感じていた。


「      捧げ               ます」


 死に瀕した神に祈りを捧げる。
 どうか届いて欲しい。そして叶うのなら、もう一度立ち上がって欲しい。力を貸して欲しい。
 首だけではもう舞を見せられない。供物となるものは己自身。汚れた鬼の血など欲しくはないかもしれないが、それでも、願う。
 
 この身が向かうのはきっと地獄だけど。
 家族と同じ場所には行けないだろうけど。
 顎に噛み砕かれ、魂を永遠に焼かれ続けても構わない。それだけの苦行を以て祈願する。


 この先、数知れない鬼と戦う人達が、勝利を得られますように。

 苦難に立たされる人達が、少しでも無事で生き延びられますように。
 

 そして。
 ただひとり残されて生きていくしかない妹が。
 どうか幸せになりますように。
 


 ◆

684Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:45:23 ID:qa8Zn0Lc0


 

 命の脈が決壊する音。
 硬い皮膚の奥から烈なる炎が噴き荒れる。
 それは真実血潮でなく、熱く燃える炎であった。 
 
『─────────────!?』

 滅殺に腹を括った明と悠も、正気を失った鬼も、傍観していた一花も、驚愕は全員に等しい感情だった。
 わけても俯瞰の位置から一部始終を目撃していた一花はより一層の混乱だ。
 割れた鏡の中から突如として龍が飛び出したかと思えば、炭治郎の首と体を飲み込んで斬り結ぶ三人の間に割って入り、刀と爪を諸共に受けていた。

「ア”……ッァ、アアアアア」

 鬼は蜷局(とぐろ)を巻いた中心に閉じ込められていた。
 激しくもがいて胴を貫通した腕が抜けずにいる。手当り次第に爪を立て肉を引き千切っても龍は抵抗しない。
 その光景は獲物を締め付ける捕食者ではなく、子を護る親が我が身を揺り籠にしているのに似ていた。
 
『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 高らかに龍が吼える。
 死に際の断末魔ではない、誇りある、天に昇っていく荘厳さがあった。
 炎上する龍体。開いた顎のみならず罅割れ裂けた各所からも漏出し、やがて全身に燃え広がっていく。

「何だ……!?」
「禰豆子ちゃん……っ!」

 猛火は勢いを増しついに龍の全長が炎そのものと化して、中心にいる鬼を包み隠した。球状に変じて逃げ場を塞ぐ。
 誰もが、黙したまま燃えるさまを眺めた。火葬の最中のある静謐な空気が漂う。
 充満する熱気に目を開けていられず、思わず一花は手を前に広げて顔にかかる熱を凌ぐ。
 そうして隠れた視界の内で、見えるはずのない、幻を見た。
 
「─────────────え」

 指でこすり、萎んでしまいそうになりながらよく目を凝らす。
 炎の中で、動くものがある。猛火の中心に立ち尽くしながら、未だ原型を保っている。
 獣、魚、虫、樹、木、菌類に至るあらゆる生命体にとって炎は死をもたらすというのに、鬼は健在だ。
 身を包む炎など意に介さずに存在してる。これでも倒すには至らないというのか。
 武器を構え直す明を、先んじて異変を察知した悠が手で制した。

「待ってください、何かが……おかしい」

 火の勢いが弱まってるためか、徐々に輪郭を浮かび上がらせる。 
 現れたのは鬼には変化があった。鬼女と呼ぶ他ない形相は薄らいでいる。身の丈も童女の姿に戻っている。
 呆然と佇み、瞳を閉じて奔流のままに身を任せている。劫火は鬼を支配し、衝き動かしていた狂気だけを焼き払っているというのか。
 
「炎が……吸いこまれていく……?」

 不死鳥は自ら炎に見を焚べて死に、灰の中から蘇る。
 炎は鬼を滅ぼそうとはしなかった。死と新生の機会を与え、そして今は鬼を取り囲まず、鬼が炎の核となってその身に取り込んでいっている。

「炭治郎」

 明は見た。幻を。ありえぬ妄想を。
 巻き込まれ吸収されていく炎が、たまたまそのように形に見えた。きっとただそれだけの話。
 そう弁えた上で、明はその光景に目を奪われ落涙する。
 妹を暖かく、愛おしく抱きしめる兄。
 そんな優しい幻想を、振り払いたくなかった。

 昇天が終わる。
 地獄に通じていそうな程の炎も熱もなくなって、何もかもかき消えた。
 残ったのは、焦げ跡すらない鮮やかな着物を纏った、童の影がひとつ。

685Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:46:29 ID:qa8Zn0Lc0


「禰豆子ちゃん……」
 
 ドライバーを外し、変身を解いた悠が歩み寄る。
 刺激しないよう警戒を解き、一抹の不安を滲ませて。

「う……」

 意識が目覚める。目を開けた少女は屈んで自分を窺う悠を見て。








「おは、よう。はるか」








 無邪気に、朗らかに、唇を綻ばせた。 


「戻ってる……!よかった……本当に……」
「よかった。うん、よかった、ねぇ」

 肩を抱いて安堵と喜びに打ち震える。そんな悠を見て、禰豆子は労うように頭に手を優しく置いた。
 それを見た漸く明も深く息を吐いて腰を下ろす。どっと疲れが表に出た。腹に溜まった鉛を吐き出した、晴れ晴れとした心地だった。
 それがこの戦いの、終焉だった。



 

「そっか。ずっと妹を探してたんだもんね。
 寂しがらないように、迎えに来てあげたんだ」

 少し離れたところから一花は一件落着の様子を見届ける。
 危険は去ったし、二人とも危ない人という誤解は解けてるが、各々で近寄り難い事情がある。まだまだ距離を取っておきたかった。

686Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:47:07 ID:qa8Zn0Lc0


「偉いなあタンジロー君は。頑張ったんだね。さすが長男だ」
 
 あの時見たものが何だったのか。一花はあまり深く考えないでいた。考えようとするのを止めた。
 陽炎が作った幻覚とか、目の錯覚とか、こっちの都合のいい妄想とか、色々並び立てられたところで理解できる気がしない。
 これはただ、信じたいだけだ。最初に出会って、触れ合って、話し合った思い出。
 先に生まれた兄が、後に生まれた妹を助けにやって来る。そんな希望が叶うのに足る人なのだと。
 
「ほーんと、なんもできてないや、私」

 今度は、比較的前向きな自虐だった。湿っぽい空気にあてられたからかもしれない。
 ああいう風にできるのは、とても格好がよく、勇気が要る事。
 立ち位置を見失いそうになると嘘で塗り固めてしまう身には、あの綺麗なあり方は目が眩んでしまう。
  
 隣で横たわる風太郎に視線を落とす。傷らだけで放置してるせいか、顔色が悪い。
 あれだけの大騒ぎだったというのに、まだ目が覚めていないのは心配だ。
 すぐに手当した方がいいのだろうが、当ては不思議な力を持つ立香だけ。すぐに運びたいが一花だけでは到底不可能。

「ちゃんとお願いすれば手伝ってくれる……かなあ。でも禰豆子ちゃんやおじさんの方はともかく緑の人は……ううーん……」

 しこりになってる黒々とした憤りは自覚してるが、本人でもないのにぶつけるのも気が引ける。
 アマゾン、とかいうのも一花はほとんど知らない。ヘンに冷静になってしまっただけに非常に複雑だ。
 二乃ならば、とりあえず言いたいことだけは言いそうだが。


「……?なんだろ、この耳鳴り」

 頭に残る感じに響いてきた音に耳を塞ぐ。前に頭をぶつけた後遺症だろうか。
 目の前に落ちて散らばったガラス片を通して、無数の自分と目が合わさる。
 そういえば。鏡について、何か大事な事を言われていた気がする。
 例えば、モンスターが鏡から出てくる時、ガラスを引っ掻くみたいな音がする、とか。

 漠然とした焦りから懐からカードデッキを取り出す。
 突きの時点でこうなっていたのか、地面に落ちた衝撃でか、表面の紋章は砕けていた。
 狼狽した隙を狩りの好機と定めたのか。意識のない無防備の風太郎の首を狙って、ガラスに映った鏡面の中から細長い何かが飛び出した。
 
「だめっ!」

 咄嗟に前に差し出した腕に管が幾重にも巻き付く。
 鞭にも見えるそれは生物の器官、粘り気のある舌だった。
 引き剥がす事も、引っ張る力に逆らう事もできず巻き取られていく。
 ガラスの中には、緑色の怪物がいた。カメレオンめいた目でこちらを睨めつけていた。
 先程の禰豆子と同じだと、知識もないのに本能で分からせられた。
 餌として食べれる事の可否でしか見ていない、捕食者の目だと。

「フータ────」

 足で踏ん張り切れずにガラスに飛び込んでいく。ぶつかっても肌を刺したりせず、沼に落ちるように飲み込まれていく。
 名を呼んで気づいてもらおうとした。
 手を伸ばして引っ張ってもらおうとした。
 そのどちらも、空振りに終わる。
 誰の手も掴めずに、中野一花はこの世界から消失した。

 

 ◇

687Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:49:56 ID:qa8Zn0Lc0




『────渡して言うのもなんだけどさ。やっぱり、これはあまり使ってほしくないんだ』

『ライダーになるってのはさ、簡単じゃないんだ。いやなるだけなら楽だし、俺だって偶然たまたまでなっちゃったんだけど。
 あそこで拾わなければ、ライダーになろうなんて思わなかったし』

『ライダーは願いを叶える為に戦う。自分が譲れないもの、守りたいものを守りたいから戦いを選んだ。
 そりゃあ中には遊び半分のとかあったけど、大切な人を救うとか、生きたいとか、絶対悪いとは言い切れないものもいっぱいあった。
 俺も、最後にはちゃんと言える願いを持てた』

『すげー悪い奴がいたし、いい奴だっていたよ。けどそんな、いいとか悪いとか関係なくみんな戦って、みんな死んじゃうんだ。
 あ、浅倉と北岡さんはどうなったか知らないんだけど……俺先に死んじゃったから。
 あ、えっと、つまり、何が言いたいっていうとさ……』

『戦うって、めちゃくちゃ辛いんだ。
 殴られたら痛いし、殴ってもやっぱりどっかが痛くなる。
 自分がすげえ嫌な思いをしたり、他人にさせたりするかもしれない。
 そういうのをぐっと堪えて戦うには、はっきりさせとかなきゃいけないんだ。自分が信じるものを……ってやつをさ』

『もちろん俺達はみんなを絶対守るし、戦わせたりしない。それが俺の戦う理由だから。
 でもほんとに、ほんとにどうしようもなくなって、これを使うしかないってなったら、ちょっとでも考えてほしいんだ。
 そうしないで、理由もないまま戦ったら絶対後悔するって……俺は思うからさ』





「城戸さんの、言う通りだったなぁ……」

 昏く淀んだ空を見上げる。
 見える景色は変わらないが、さっきとは異なる場所にいる。魚が陸に上がったような息苦しさがあった。
 
 人の気配がない。命の手触りがない。道路標識の文字が逆さまになって書かれてる。
 よそから保存した画像をそっくり反転させただけの、まさに鏡写しの世界だ。
 『鏡の中の世界』ミラーワールド。
 名前のファンタジックさとは裏腹に、景観は現実の町並みと変わりがない。家やマンションが建ち並び、人工物に溢れてる。
 ただひとつの差異は、遠くの方で見える透明な影くらいか。
 隣の山に並ぶ大きさの、数十メートルは超える光の巨人。
 ミラーワールドに迷い込んだ一花にも気づけない存在感の無さと、異様さを孕み、矛盾だらけのまま景色に溶けていく。

「さむ……」

 震える肩を掻き抱く。気温は高くも低くもないのに猛烈に寒気がした。
 人が生きられない環境に、生存本能がアラートを鳴らしている。
 その証拠に───体中から細かな粒子がばら撒かれる。
 ミラーワールドに落ちた人間に訪れる末路。一粒一粒が自分であった欠片であり、数分もかからずに分解していく。

 窓に掌を置いて前に押してみる。どれだけ力を入れても先に進まず、思わず叩いても、指先すら沈まない。
 外の世界との扉が開いたりはせず、ただ無機質に自分自身の顔を映し出してる。
 
 やがて無駄と悟って、窓を背にしてもたれかかって、ズルズルと腰を下ろした。
 ミラーワールドに入った人間はライダー以外に出ていけない。
 真司から受けたかどうか曖昧な説明がまざまざと浮かんだ。

688Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:56:09 ID:qa8Zn0Lc0


「消えちゃうんだ、私」

 刻一刻と存在を削がれ続けても、痛みはなかった。
 けれど、『無くなっていく』恐怖だけは抑えようがない。心の底から震えが止まらない。

「五月ちゃんもこんなだったのかな……怖かっただろうな」

 腕の中で事切れた妹の最期。
 見ているだけでも死にそうだったのが、こうして我が身で追体験する事になって、あの時の五月の無念さを理解する。

「でも───いいよね、これで。フータロー君は助けられんだし。
 二乃と三玖には怒られちゃうけど、フータロー君を見つけたんだからこれでおあいこってことで」

 明らかな虚勢を、誰に見せるでもなく張る。
 ここに来ても強がれる理由は、たったひとつだけ希望を残せたから。
 五つ子全員の家庭教師。今や誰にとってもかけがえのなくなった人が無事でいる。
 ちゃんと守り抜けたという未来を糧に、どうにか取り乱すのを抑え込んでいた。

「戦える人も集まったんだから、三人が集まればきっと大丈夫だよね。フータロー君なら上手く慰めてくれるよね。
 むしろこれから私がいなくなっちゃうっていうのに、頑張ってくれなきゃ困るし」

 姉らしく。
 誇らしく。
 終わりはいつもと変わりない軽口で。
 学校の帰りに別れの挨拶をする気分で最期を迎え入れる。
 そういう心構えをしてれば、先に逝った二人の待つ天国に行けるのではと期待して。

「そう─────私が、いなくても──────────」









 



         、割れる。





「……やだ」


 
 溢れる。

689Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:59:59 ID:qa8Zn0Lc0



「いやだよ」


 零れる。


「死にたく、ないよ」


 関節の軋みより小さな音が、空洞に反響し重なり合う。
 体の内側から食い破られる。
 仕掛けられた爆弾が起動する。
 胸の奥底の、一番深い暗闇で弾けた火花が、瞬く間に全身に燃え広がった。
 
「消えたくなんかないよ。離れ離れになんかなりたくないよ。誰にも取られたくないよ。
 これから、やりたいこといっぱいあるのに。伝えられなかったことがいっぱいあるのに……っ!
 わたし、まだなんにもできてない。頑張ったのに、本気の気持ちなのに、嘘のままで終わっていいわけないよ……!
 ぁ─────ぁ、ぁぁああああああああ──────────────!
 やだ、やだやだよ……っ!こわいよ、さびしいよ、助けてよ……っ!」

 託す。残す。信じる。見守る。応援する。
 全部嘘だ。
 どれもこれも浅ましい自己弁護だ。
 風太郎を、好きな人をこんなにも求めている。欲しいと思ってる。
 彼の視線も思いも行動も独占しなければ気が済まない。
 なのに何も言えず、気づいてももらえずに消えるなんて耐えられない。
 告白する勇気がないまま隠していた想いが無駄だったと、諦められるはずがなかった。
 
 失いたくないもの。
 嘘にしたくないもの。
 諦められないものを抱えて沈む事に怯え、少女は泣き喚く。
 涙を止めるすべは、どこにもなかった。幼い子どものように泣きじゃくる事だけが、最後に許された自由だ。

 涙は希望を起こさない。本音は条理を覆さない。
 奇跡は積み重ねる行為が必要だ。
 例外には選ばれるだけの資格が要る。
 中野一花にはどちらもない。少ない瑕疵はあれど邪悪さは微塵もない、普通の善良な彼女にはそれだけの因果がない。


 生まれる命の存在しない境界。
 現実と切り離されたこの場所で、彼女が何を思い、何を残そうと聞く者はいない。目にする者はいない。
 だから全てを吐露しても構わない。
 もう隠す必要はない。嘘をつかなくていい。耐えなくていい。弱い自分を許してそのまま晒してもいい。





「私の気持ち(こい)を、選んでほしいよぉ………………!」





 そうして、言葉は途切れた。
 他愛のない嘘のように。
 魂なんて淡い幻想は痕跡すら見当たらず。そこにいた証など一辺も残らない。
 恋も、思いも、ここにはもう、なにもない。



 ◇

690Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 23:06:28 ID:qa8Zn0Lc0




 ぼんやりと意識を起こしかけてまず思ったのは、目を開けるのが少し怖いな、ということだ。 
 
 あれからどうなったか。
 炭治郎、明さんは無事なのか。
 そして自分の体は果たしてちゃんと動いてくれるか。
 記憶してる限りでも散々な有様だ。余波やらに戦いに巻き込まれて原型を留めてなかったりしてたら目も当てられない。
 こうして思考していても、体の自由はまったく利かない。意識だけが飛んでるみたいだ。
 あまり想像したくないが、これはあれか。走馬灯、というやつなのか。

『いつまで寝てるんだい上杉くん。早く起きないとこの話、もう終わっちゃうぜ?』
『主人公がバトル中に眠っていいのは』『起きる前にパワーアップイベントを挟む時だけだってのに』

 で、なんで出てくるのがお前なんだろうか。
 走馬灯っていうのはあれだろ。命の危機に対してどうにか逃れようと記憶を辿るやつだろ。もうちょい人選なかったのか。

『ふーん』『じゃあ寝てる時に起こしてくれる人で誰が思い浮かんだ?』
 
 …………………………。

『過負荷(ぼく)相手に無言で黙っちゃうとか赤点レベルに致命的だよ上杉くん』『なんせ弱みが丸見えだ』
『そりゃ好きな子が死んじゃって頑張る気力もないよね』『頑張りようがないし、魅せる死に様がない』
『残った負けヒロインレースには興味無しってわけだ』『かわいそー』
『僕が生きてる間に出会ってたら、その子達とは仲良くなれた気がするよ』
 
 ……お前ってやつは、本当に人を煽るのが上手いよな。

『僕はマイナスだからね』『プラスな人を貶すのが好きだし、腐ってる奴に世話をかけるのも好きなのさ』

 ああそうかよ。
 本当に言いたくないが、走馬灯にお前が出てきたのは正しかったよ。
 顔を見るのも嫌な奴で、一緒の空気を吸いたくもなくて、起きるしかないからな。

『あっそ』『それじゃあとっとと起きなよ』
『女の子の涙を止めるのは、主人公の第一条件だ』
『僕は女の子のパンツさえ見られればいい派だけど』
『君はどうやら、エンディングまで見ないと満足できないみたいだ』


『フラグで詰みそうになったら、いつでも僕に会いに来な』
『マイナスに頼る思考回路に相応しい、台無し(バッド)エンドに導いてあげるよ』



 ◆

691Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 23:08:56 ID:qa8Zn0Lc0





「お前ってさ。意外とよく泣くよな」




 どこか、懐かしい感じがした。
 幼い頃の母との記憶なのか。寝ていたうちにいつの間にかされていた名残なのか。
 一度目と違って、今度はしっかりと意識があった。堪能する気持ちはこれっぽっちもないが。

「……違うもん。フータロー君にキズモノにされたのが悔しいだけだもん」
「意味がわからん。どこからどう見ても俺のほうが傷だらけだろ」
「私の心が痛いんだよ」

 泊りがけの勉強会ぐらいでしか使った経験のない低反発枕を思わせる質感に、風太郎は瞼を落としそうになる。
 泣き腫らした顔と、血糊のついた顔。
 膝枕の態勢で風太郎と一花は向き合っていた。

 一花の目線はどこ非難がましい。お門違いとわかっていても、そうせざるを得ないのが乙女心だ。
 突然現れた風太郎に手を取られた事も。鏡を通りミラーワールドを抜け出せた事も。
 問題はそんなところではなかった。今の一花の心情はそれどころではなかった。


 全部聞かれていた。
 全部だ。
 嘘だと言って欲しかった。
 嘘じゃなかった。
 いつからいたのか、どこまで聞こえたのかと問い質したわけじゃない。
 よく聞こえなかったとシラを通すかもしれないが、確かめる勇気もない。
 さっきまで蝕んでいた死の恐怖をそっくり忘れてしまいそうになるだけの羞恥で、またしても顔から火が出そうだ。


「……まあ、感謝されるほど役に立ってねえけどな。
 お前を引っ張り出してくれたのも、カメレオンみたいなのを倒したのも全部あの子のおかげだ。
 自分の身すら守れちゃいない。できないままにこんなズタボロだ」

 少し遠くで、明と悠と戯れてる禰豆子を見る。
 彼女が今、いったいどういう状態なのかを知る者は誰もいない。
 だがミラーワールドに入り、一花の居場所を特定して、途中邪魔をしたモンスターを焼き払ったのは変わらぬ事実だ。
 風太郎は何も救出に寄与していない。した事と言えば、わざわざ禰豆子に頼んで一花の元に向かっただけ。
 まるで意味がない行為だ。そして禰豆子には負担にすらならなかった。
 眠ってる間に発破をかけられたせい浮ついて、つまらない意地を張っただけだ。

「そんなことない。そんなこと、ないよ」

 黒髪に手を落として、優しく撫で上げる。
 消えかけた手を握って、ここにいる事を確かめさせてくれたのは、他でもない風太郎だった。
 彼の手でなくては嫌だった。すぐに握り返せないかもしれなかった。
 必要もないのに、身を押して自分を見つけてくれた事がこんな、涙が出るほどに嬉しくて。

「二乃と三玖にも会ってあげてよ。ぜったい喜ぶから。そうしたらみんな、きっと頑張れるよ。
 私達には、君が必要なんだよ」

 いま会ったらもみくちゃにされて大変な目に合うだろうな。
 という所感を飲み込んで風太郎は身を預ける。
 血は足りなくて朦朧とするし、至るところが斬れたり裂けたりで起きてるのも億劫だが。
 頭に触れる感触だけは、やけに心地が良かった。

692Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 23:10:28 ID:qa8Zn0Lc0






「そうか。鮫島に会ったのか」

 とにもかくにも、腹を満たす事が最優先事項だった。
 手を油まみれにしながら揚げ鳥を齧る。生きるには食べるしかなかった。
 血も肉も作るには元手が要る。飛んだ腕が生えてきたりはしないし、本物そっくりに精巧な義手も作られたりはしない。
 だから体力の回復に一番手っ取り早い方法にありつく。自力で生み出す分では足りないエネルギーを外から補充する。

「はい。助けるのには、間に合いませんでしたが」

 明の倍の量を細身の体で平らげる悠は、本当に体の穴が塞がっていった。 
 
「いや、感謝するよ。伝えてくれただけでもな」

 悠も、禰豆子と同じく人ではない。アマゾンという吸血鬼とはまた違う存在。
 細かい説明はまだだが少なくとも悠個人については明は一定に心を許していた。
 人食いになってしまった禰豆子をここまで匿い、守護していた。今はその点の信で十分だと。

「俺は上に行って仲間を探す。お前もついてくるか」

 揚げ鳥をがっつきながら明は今後の方針を訪ねた。

「いえ、僕は……」

 言い淀む悠には懸念があった。変身した悠を見た一花の脅えの中にある影を鋭敏に嗅ぎ捉えていた。
 恐らく、彼女は千翼に会っている。先に会った仁とも会ってる証言から近くにいる可能性は高い。
 溶原性細胞のオリジナルを生かしておく危険性と、仁に殺させるわけにはいかないという焦り。
 幸いに上杉という少年はバイクを持っていた。単独で走らせれば見つけられる目はある。
 
「はるか」

 裾を緩く引かれて、忘我から立ち戻る。
 たどたどしくも、人の言葉で語りかけてくる禰豆子には食人衝動に耐える仕草は見られなかった。
 
「だめ、だよ。いっしょ、に、いよう」

 王刀の口枷を外しているのに、苦悶する兆候はない。辛うじて抑えていた時とは雲泥の違いだ。
 これが元の、人を食べる前の禰豆子の素の姿なのだろう。

 ずっと一緒にる。
 それだけを願っていたのに、食欲を堪え切れず仲間を手にかけてしまい、袂を分かつしかなかったアマゾンがいた。
 おいしかったと、後悔よりも勝ってしまった味覚に、マモルは苦しんでいた。

「……彼らを送り届けるまでは一緒にいます。僕が背負わなければ全員を運べないようですから」

 今の禰豆子はかつてのマモルであり、その先を乗り越えられたマモルだった。
 結局、あの龍がいったいどう作用して禰豆子を鎮めたのかは分からずじまいだ。
 龍の特性だからこそ可能だったという、条件の要素を満たした化学反応だったのか。
 家族の絆、なんて文言でしか説明のつかない一握りの奇跡だったのか。
 
 もし後者であるならば。
 優しい救いであると同時に、とても残酷な事だ。
 喜ぶ禰豆子の握る手を握り返しながら、そう思った。



 ◆

693Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 23:11:12 ID:qa8Zn0Lc0





 戻れない道を進んだのだと、固く心に留め置いておく。
 
 受け入れた炎は禁じられる荒業であり、不可逆の変化だ。
 衝動を枯らす為に、人に戻すのではなく、鬼の先の領域へと昇ってしまった。
 この体が、母が産み落としてくれたありのままの姿に戻ることは、もう決してないのだろう。
 ひどい親不孝者だ。兄の願いが叶う日も、来なくなってしまった。

 人にはなれず、鬼にも堕ち切る事もできずに、自分は生き続けてしまっている。
 奪った命が返ってくるわけもなく、贖罪からは逃げられない。
 待っているのは恐ろしく惨たらしい死で、落ち行く先は地獄しかない。

 けど────────────





【禰豆子】





「お兄ちゃん」

 劫火に包まれながら聞いた、涙が出るような優しい音。
 謝罪だった。
 感謝だった。
 応援だった。
 祝福だった。
 意志があって、願いがあった。
 恨み言の一つもなく。
 伝えたかった言葉を余すところなく聞き終えた。


「私は、最後まで生きるよ」


 前へ、前へ。
 受け継ぐ物語をもう一度。 
 進む事を止めずに歩き出す。

694Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 23:12:05 ID:qa8Zn0Lc0





【D-6/1日目・昼】

【宮本明@彼岸島 48日後…】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、精神的疲労(大)、胸元に斬傷、義手破損、出血(大)、火傷(小)、脳髄にダメージ(大)
[装備]:菊一文字@衛府の七忍
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2、沖田の首輪
[思考・状況]
基本方針:無惨を殺す。
1:悪鬼滅殺。
2:禰豆子を保護する。鬼殺隊の面子や炭治郎がこの会場で出会った者たちを探す。
[備考]
※少なくとも西山殺害後より参戦です。

【上杉風太郎@五等分の花嫁】
[状態]:疲労(絶大)、出血(大、止血済み)、全身に切り傷。左手の全ての指骨折。左耳断裂。喉にダメージ(声を張れない程度)。両脚のアキレス腱断裂(移動が不可能ではない程度)
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1 球磨川の首輪、
[思考・状況]
基本方針:殺し合いからの脱出、生還を目指すが、具体的にどうするのかはわからん。
1:二乃、三玖との合流。
2:……。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

【中野一花@五等分の花嫁】
[状態]:ダメージ(中)、頭部強打、顔面に切り傷(いずれも治癒)、悲しみ、自己嫌悪
[装備]:制服
[道具]:基本支給品一式、ベルデのデッキ@仮面ライダー龍騎、三玖の変装セット@五等分の花嫁、マンジュウでわかるFGO@Fate/Grand Order 、五月の髪飾り、不明支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:好きな人を───
1.風太郎を連れて二乃たちと合流する。運ぶのは他の人達に手伝って欲しい
2.沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
[備考]
※三年の新学期(69話)以降から参戦です。

【水澤悠@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ダメージ(大)、食事により回復中
[装備]:悠のアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ、悠のネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ
[道具]:基本支給品一式×2、CBR400R@現実、揚げ鶏(手羽先)@亜人
[思考・状況]
基本方針:狩るべきものを狩り、守りたいものを守る
1:人を喰う、あるいは殺したモノを狩る
2:仁より先に千翼、イユ、クラゲアマゾンを殺す
3:禰豆子が人として生きようとする限り、隣に立ち続ける
4:雨宮広斗を探す
5:いずれ雨宮雅貴と合流する
[備考]
※雨宮雅貴と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。場所と時間は後続の方にお任せします。
※時期は2期12話より前

【竈門禰豆子@鬼滅の刃】
[状態]:健康、鬼、ドラグレッダーと融合
[装備]:王刀・鋸(小分けにして束ねて口枷にしてある)@刀語
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:最後まで生きる
1:人を守り、助ける
[備考]
※人肉を食いました。
※王刀の効果で一時的に食人衝動が抑え込まれています→理由は不明ながら、現在はほぼ消失しています。
※太陽を克服しました。
※ドラグレッダーと融合しました。食べたという形なのか、取り込んだのか、その逆なのか、具体的な経過、変化は不明です。
※ミラーワールドへの侵入が可能になりました。


【悠のネオアマゾンズドライバー@仮面ライダーアマゾンズ】
 クラゲアマゾンに支給。
 悠のアマゾンズドライバーとは別物で、アマゾンオメガの強化形態であるニューオメガに変身できる。
 強さの割に戦績がぱっとしないとは言っていけない。

【揚げ鶏@亜人】
 宮本明に支給。
 「手料理おとどけネット」のパックに詰まった手羽先。
 人間の手首など入ってない安心設計。


※宇髄天元の日輪刀(先端欠け)@鬼滅の刃、宗像形の鉄製ブーメラン@めだかボックス、雅の支給品一式、佐藤の支給品(基本支給品一式×2、秋山蓮のリュックサック、折れた日本刀@現実、手鏡、ランダム支給品0〜2(沖田)、ナイフ )
 は誰かが回収したり、しなかったりしてます。

695 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 23:12:55 ID:qa8Zn0Lc0
以上で投下を終了します

696名無しさん:2020/06/02(火) 23:52:19 ID:mpTnpLK.0
投下乙です
七実が強すぎる…!長時間の戦闘が出来ない身でなかったらもっとヤバかったな…
とがめ南無。まぁ鷹山サンダーからは逃げられないからね、しょうがないね
しかしこれで千翼&七花は互いの肉親が大切な人の仇というややこしい事態に…

炭次郎…!お前って奴は本当に長男の鑑だぜ…
死んでからっも度々出てくるクマーが面白過ぎる。風太郎と中野姉妹もやっと再会できそうでなにより

697 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/03(水) 06:50:59 ID:AIX3amu.0
少しだけ訂正
※ベルデのデッキは破壊されました。

698 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/24(水) 23:18:33 ID:4Hf.2KQo0
杏寿郎、人吉、永井、武蔵(男)、波裸羅、クラゲアマゾン、ななせ、工藤、前園、頼光 予約します

699 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/24(水) 23:19:23 ID:4Hf.2KQo0
杏寿郎、人吉、永井、武蔵(男)、波裸羅、クラゲアマゾン、ななせ、工藤、前園、頼光 予約します

700 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 21:59:15 ID:GpLTpfs60
投下します

701FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:00:28 ID:GpLTpfs60


 ◆


 ───事の次第の説明を受けて、しめたものだと内心で前園甲士はほくそ笑んだ。


「大丈夫ですか姐切さん。腫れが収まってはいないんでしょう」
「うるさいね……これくらいなんてことないよ。グズグズしてる場合じゃないんだ」

 歩みを止めようとしない姐切を、前園は気にかけるように声をかける。
 無視する姐切だが、その速度は明らかに勢いを欠いている。
 片目の瞼が腫れて視界が狭まり平衡感覚のバランスが崩れてるのもあるが、軽い熱っぽさもあるようだ。

 別行動中に怪異───そうとしか呼べない未確認存在と接触し、負傷した顛末を、前園は隠し持っていたドローンで予め知っている。
 それを知らない工藤達には感づかれないよう、わざわざ合流した姐切の様子に反応し、説明を求めたのだ。
 無論、気遣うのもただのポーズだ。だがこの行為にもじきに意味が出てくる。

「このまま東に進めば病院に着きます。少し遠いですが何らかの医療器具や薬ぐらいは用意してあるはず。わざわざ施設を置くぐらいならね。
 それまでの辛抱ですよ。道中に参加者と接触する可能性も高まりますし」
「わかってねぇな前園さん」

 姐切と同じく怪異を目撃し、その手で撃退してみせた工藤が割り込んで言葉を制した。

「病院なんざ行ったところで意味なんかねぇよ。こいつはな、呪いなんだよ。蛇女の呪いが姐切に乗り移ってんだよ」
「はぁ」
「信じてねぇなその顔!いいか、俺は実際に見てるんだ。ウチのスタッフが霊に取り憑かれた時、姐切みたいに目が腫れたんだよ!
 クソッ現物を見せるのが一番早いんだけどな……。こういう時に必要だから『コワすぎ』を売ってるってのに……!」
 
 「DVDまで取り上げることねえじゃねえかあのクソガキィ!」と空に向かって吐き捨てる工藤に恐怖は見られない。
 むしろ探し求めいてた明確な怪異との邂逅は、他の参加者と接触するより興奮を引き出している。

 工藤が挙げる作品とは『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!劇場版・序章【真説・四谷怪談 お岩の呪い】』。
 ある映画の題材にした四谷怪談・お岩。
 お祓いをしなかったり、劇中でぞんざいに扱った事で出演者に呪いが降りかかる。
 お岩そのものと豹変した出演者、四谷怪談の作者鶴屋南北が呪術師であるという仮説、渦巻く謎と蔓延する呪い。
 アシスタントの市川にまで呪いの症状が現れ、浄霊師宇龍院道玄の協力の元、工藤の必死の救出もあり市川の解呪に成功するというあらすじだ。

702FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:01:06 ID:GpLTpfs60



 なるほど。聞いてみれば確かに姐切の症状とも類似した点もある。
 接触感染して体の部位に異常が現れるなど、どうやら呪いとはウイルスに近い性質かもしれない。
 普段の前園であれば眉唾のオカルトなど一笑に付すが、身近に起き得るとあれば多少なりとも参考に留め置いておいても。

「呪いだって?ざけんじゃないよ……あんなモヤモヤしたやつにアタイが一杯食わされたってのかい」
「なに、対策はわかってんだ。あの蛇女……呪いの元を絶てばいいのよ」

 進行した呪いを解くには、その呪いを発生させてる元凶を消す事。除霊の手段など知りようもない工藤達三人には、そもそもはじめから他の選択肢もない。

「また出てきた時に、今度こそブチのめせばいいってワケかい。いいじゃないか、分かりやすくてさ」
「呪いが物理でどうにかなるものなのですか」
「バッカこっちにはコイツがあんだよ。口裂け女の呪いは効いたんだ。もっとぶん殴って弱らせればいけるって。対消滅ってやつよ」

 荒縄で口を絞められたズタ袋を振って、自信ありげに笑う工藤。口裂け女の髪が詰まってると言っていた工藤の所有物だ。
 ドローンの不鮮明な映像では対決の一部始終は撮れなかったが、まさか本当に効果があるのかと訝しげな視線で見た。

"だが、まあいい。これで都合よくこいつらを移動させられる"

 前園にしてみれば、姐切が呪いで死のうが、蛇女を倒せようがどうでもいい。
 自分で手を下さずして参加者が減ってくれるというのは、ありがたいとすらいえる。
 それでも姐切を心配し話に乗るよう振る舞ってるのは、ひとえにここからすぐにでも離れたい事情があるからだ。

 マシュ・キリエライトの存在とその殺害に、二人が気づいた様子はない。
 蛇女の呪いという、直近で起きたセンセーショナルな事態に目を奪われているせいだ。
 工藤は怪異の捜索に熱を上げ、普段なら反発する姐切も我が身の事となれば自然と意識が向く。
 このまま前園が誘導してこの場を去れば、マシュと前園を繋ぐ痕跡は消えてなくなる。
 マシュを逃したという鬼も、所在はここからほど遠い教会だ。
 採取したナノロボを調べる研究所が一番の候補だが、ただでさえ僻地。参加者がいない事にイライラを募らせてる工藤は承諾しまい。
 姐切を休ませる建前もあって、やはり病院を目指すのが妥協案とした。

 しかしこうも自分の証拠隠滅を都合してくれるとは。
 呪いとやらには感謝したいぐらいだ。自分に降りかからない限りは、この調子で他の人間を陥れて欲しいものだ。

「でも、これじゃあちと手が足りねぇかもな……。あーどっかに霊能力者いねえかなー!ていうかなんで誰にも会えねーんだよー!」

 『コワすぎ!』スタッフが怪異に遭遇し、曲がりなりにも撃退できていたのは、彼らの独力によるものではない。
 口裂け女と関わりのあった犬井。陰陽師に修行を受け河童打倒に執念を募らす鈴木。
 そして道玄に、真壁栞。
 偶然のめぐり合わせか依頼した必然か、傍らには常に呪術師の助けがあり、命からがら生還してきた。
 撮影のためなら危険も忠告も聞かない工藤だが、必要と思った準備はする男だ。
 ついでに番組の盛り上がり的にも、専門家がいると便利だという打算もあった。


「ここにいるぞ!!」
 

 道の先から、明朗快活なる返事が返ってきた。
 前園の薄暗い算段を軒並み吹き飛ばし、燦々たる太陽が照らすような、実に気持ちのいい声だった。
 声の主、煉獄杏寿郎は背後に数人を控えさせて、自身は隠れも臆しもせず、堂々たる威風で工藤達の前に現れたのだった。

703FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:01:42 ID:GpLTpfs60




 ◆



 煉獄達が敵でないと確認が取れたところで、真っ先に工藤は情報提供を要求した。
 当初からこれまで約十時間、誰とも接触がないまま行動してた事で周囲と遅れが生じていると危惧していたからだ。
 ほんの数日、いや数時間の差で新鮮なネタは腐り行く。失踪も絡む怪異となれば尚更だ。
 ディレクターとしての観点からも、周回遅れで決定的な場面を逃していたとしたら気が気でない。情報収集を急務としたのは当然といえた。

 つつがなく対話は進み、もたらされた収穫は工藤の満足のいくものだった。
 人を喰らう凶暴な鬼、鬼舞辻無惨とその配下。それを狩るべく日夜刀を振るう剣士、鬼殺隊。
 工藤もまた、鬼を追って『コワすぎ!』の企画を進めてきた。
 現実と空想の境に潜む、恐怖と異常を映像という確たる証拠に収めてきた。

 その線がここで、別の箇所から延びた線とピタリと合わさった。鬼が工藤と煉獄を引き合わせた。
 これを逃さぬ手はない。いま自分は空前のネタを掴んでいる。
 天啓にも等しい直感と、監督としての経験が即断即決に走らせた。
 工藤はすぐさま、鬼殺隊の炎柱、煉獄杏寿郎に鬼討伐(捕獲)の密着取材を申し込んだのだ。

「なぁ、頼むぜ煉獄さんよ!」
「うむ、断る!」

 そして、この様であった。

 取材の了承を得ようと工藤が頼み込む。
 すげなく拒否する煉獄。
 そのような構図が、ここ十分ばかり変わる事なく繰り広げられていた。
 
「なにも俺達はあんたらの邪魔をしようってんじゃねえんだ。
 プロの指示だからね、ちゃんと聞くよ。なんなら協力だってするよ。
 たださ、あんたらが鬼退治するその瞬間をカメラで撮りたいだけなんだよ!」
「いいや、まかりならん!」
「だぁー!なんでだよ!人がこんなに頼んでやがるのに!」

 『コワすぎ!』の投稿者や、情報を持つと思しき取材相手にも、断る者は複数いた。
 世間体が悪い、秘密がある、恥部を晒す……様々な理由で渋る相手に対して、工藤は無理矢理にでも口を割らせてきた。
 怒声を上げ、恫喝し、暴力すら頻繁に振るい、震え上がった提供者から情報を搾り取った。
 その手の強制手は、煉獄という男にはまったく通じないでいた。
 凄みをきかせた睨みにも目線を逸らさず、掴みかかっても微動だにしない。
 大声はさらなる大声で塗り潰され、飛んだ手には岩でも殴りつけた痛みが返ってきた。

704FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:02:43 ID:GpLTpfs60


「あなたが並々ならぬ決意を抱いて口にしているのは窺える。
 その行いには恐らく信念があるのだろう。悪であると、邪であると詰る気もない。
 だが柱として、鬼との戦いに一般人を連れ添うわけにはいかないのだ。わかってくれ!」

 粗暴な工藤と対象的に、口語りは穏やかながら熱があり、それだけに言葉には真実味が宿っている。 
 姿かたちを撮影し、戦闘の一部始終を記録できるというのは魅力的だ。隊全体に正確な情報を共有できる重要性は言うまでもない。
 時代が下れば隠(かくし)達にも導入されていくかもしれない。先の世の鬼退治に少なからず貢献する事だろう。

 かといって、守るべき人を戦場に連れ出す真似は了承できる煉獄でもない。
 強き者、才ある者として生を受けた煉獄は弱き者を守るべく剣を取る。幼少の砌の誓い。
 同僚の言葉を借りれば、それはもう派手に区別をつけている。
 それにいちおう、政府非公認の組織でもある。売り物と名目をつけて市井に出るのも外聞が悪い。

「姐切少女にかけられた血鬼術は、俺が鬼を斬る事で必ず外そう。
 百年経っても未だ鬼の脅威が消え去らないのは、我ら鬼殺隊の至らぬところだ。なればこそ未来の命を摘ませるわけにはいかない」

 善吉に圭、波裸羅や武蔵。
 この場に集められた参加者が、大正より前後した時代の人間であるのを、煉獄は割かしあっさり納得していた。
 なにせ一度死んだ身である自分がこうして生きている。ならばなんの不思議もあるまい。
 どうせ考えても答えなど出まいならば現実を受け入れるに限る。

 姐切に霊障を与えた怪異についても、煉獄は「鬼」であると解釈した。
 神出鬼没で、人が変化した姿をし、人間技とは思えない動きや異能を使う。
 まさに煉獄が知る鬼そのものである。

「つってもよ煉獄さん。今一番安全な場所っていったらそれは煉獄さん達の傍だと思うぜ。雅みたいなヤバイ奴はともかくさ。
 波裸羅さんもなんでかあそこに残っちまったし」
「同感です。本当の意味で安全な場所なんて、ここにはないでしょう。なら手の届く範囲にいた方がずっと守りやすいはずです」
「……うむ、一理ある。聡いな人吉少年に永井少年!」

 同じ意見で煉獄を説得する善吉と永井。二者の心情には多少の齟齬があった。

 傷を負った女の子を放ってはおけない、心情的な面からの善吉。
 大人数で行動するリスクとリターンを秤にかけている圭。
 圭にとって、工藤は正直近づきたくない人種の男だ。
 呪いだと宣う件には、異常続きの現状で今更ただの妄想と切り捨てる方が馬鹿らしいので疑いはしない。 
 「バケモン」「撮影」「捕獲」といった特定のワード。これらが実に厄介極まりない。
 何をしても死なず、どう殺しても生き返り、異形を使役する。
 世間での扱いでは、亜人は人間ではなくバケモノなのだ。
 果たして、亜人である圭を知ってこの男はどうするのか?
 さっき言っていた、化物同士とのマッチアップなどされてはたまったもんじゃない。
 
 なので、本音を言えば圭は工藤とは即刻別れたかった。
 そうでなくとも、単なる正義感からでもない、喜々として化け物絡みに首を突っ込みたがる男なぞ厄介以外に評価のしようがない。
 その道がとっくに閉ざされてるのも、とうに知っている。煉獄杏寿郎はまさに漫画でしかお目にかかれない正義漢である。
 文句は言わない。命も亜人の立場も守られていてこれ以上を望むのは、贅沢どころか傲慢だ。
 幸いにして煉獄達は擁護・守護してくれる側だろう。尋問・拷問といったケースに発展する可能性はごく低い。
 なにせここには亜人以外にも不死身に近い体を持った鬼がいる。手当り次第に殺害して回るような連中がいる。
 正真の不死たる亜人を見た余人が、その枠組みに勝手に入れてしまいどのように扱うかなど思惑するまでもない。体を張って援護した甲斐があった。

 インタビュー程度なら……面倒だが、まあ安くつく。 
 正体を伏せたままは……それはそれでやっぱり面倒な事になるのだろう。
 完璧に満足のいく環境なんて、結局手に入りはしないのだ。確定プラスが見込める線でほどほどに妥協するしかない。

705FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:03:48 ID:GpLTpfs60


「工藤さん、その映像ってここで観れますか?」
「おう。もうふたつもバケモンの映像が撮れてんだ。一日でこれは幸先がいいよ」

 なので、リスクを抱えるからには、元が取れるだけの成果が欲しい。
 工藤の言う事は正しい。俯瞰して何度も繰り返し確認ができる映像は非常に価値が高い証拠だ。

「工藤よ」

 話題に割って入ったのは、今まで黙していたはずの武蔵である。
 工藤達に使える得物……武蔵にとっては他ならぬ刀が無いかを問うた以外はやり取りを離れて眺めていただけの虎が俄に食いついたのだ。

「録ると言ったか。あそこに浮かぶ小箱で、絵巻の如くに武蔵を記すというのか」
「おう、そうだぜ宮本さん。リアルタイムで編集なしのガチなやつだ。
 これであんたの戦うとこも撮ってやるよ。宮本武蔵対人喰い鬼!現代に復活した鬼退治だ!売れるぞぉこいつは」
「宮本武蔵を現代にカテゴライズしていいのかよ……?」

 二天一流を携える武芸者は、一騎打ちも、合戦での混戦にも覚えがある。故にこそ兵法を知る。
 装備も整わず無策で鬼に立ち向かうのは十死零勝であると、武蔵、心得ている。
 今はまだ知恵捨てる時にはあらず。対峙する前から既に鬼退治は始まってる。

 危険を冒してでも鬼退治に同行しようとする工藤に、武蔵は吝かでない態度を示した。
 名を残す。褪せない真実を刻む。
 誰かではない、他ならぬ己がやり遂げねばならぬ。
 手段は違えど、垣間見えた執念は剣名を上げる道に邁進する武蔵と相通ずる面を持つ。
 囃し立てるだけの聴衆ではなく、命が紙くず同然に吹き飛ぶ戦場に向かってでも証を残そうとする意志は天晴ですらある。
 
「おし、じゃあ見てくれよこれが撮れたての蛇女の……ってどっち見てんだ宮本さん」

 なのに。
 録画の再生準備が整った段になって、武蔵はドローンの画面を向いていなかった。
 今までの興味は何処へやら、脇の公道に視線を一点に合わせて。
 腰に差す刀の柄に、野太い指を這わせていた。

 武蔵のみではない。煉獄もまた、武蔵より返却してもらった愛用の日輪刀を抜く態勢に、身も心も切り替わっていた。
 二天一流と炎柱の明らかな態度の変わりように、他の者も不穏なものを

「この音……バイクだね。それもとんでもないマシンだよ」

 鬼狩りの戦人以外で予兆を察知したのは、姐切が一番だった。
 片目が腫れて視界は不便になったが、耳にまでは影響がない。
 レディースの総長として名を馳せている彼女である。段々と近づいてくる音がバイクのエンジン音である事、
 それが凄まじいチューンが施されているものであると看破してのけた。

「止まったな。女性……か?」

 善吉の目では、乗り手の輪郭が辛うじて判別できる程度の距離。
 黒塗りの車体に跨っている影は、遠くからでもわかるほど、成熟した隆起を形作っている。
 顔も見えないのに、なんとも堂の入った佇まいで、それこそ伝説の女番長であるかのような威圧を感じた。

706FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:05:18 ID:GpLTpfs60

 

 鳴り響く轟音。
 狼煙となって上がる排気ガス。 
 それこそが明白な開戦の印であると、空気が揺れ動いて───────────


「────な!?」

 警戒は怠ってなかった。
 突然銃を突きつけられた時の備えに、構造から分解まで事前に練習していた善吉である。
 平凡であると弁えてるが故に、徹底的に相手の手の予測を立てる。
 正体が判然としない参加者に、箱庭学園で巻き起こる数々の突発的バトルの時よりも、危機意識のレベルを上げていた。
 女が弓らしき形状のものを出した時点でいつでも身を動かせるよう気構えていたし、矢をつがえた瞬間には意識を戦闘用に切り替えられた。
 半身を逸して射線から外れようと足を組み換え───同時に放たれていた一矢目が善吉の眉間の位置を精確に捉えていた。

「人吉少年。下がれ」

 眼前で火花が飛び散った様を、呆然と眺めるしかできなかった。
 首が繋がっていられているのは、矢と善吉の間に割り込んで煉獄が切り払った為だ。

「煉獄さん……!」
「君も軽傷じゃないんだ。それよりは姐切少女達の介抱と避難を。
 俺が戦い、君が守る。これこそ誰も死なせない最適な役割分担だろう」

 視線を落とせば、愛刀を抜いた煉獄達の足元には十数本はあろうかというバラバラに折れた矢が散乱していた。
 狙ったのは善吉のみではなかった。ここのいる全員を、等しくアレは標的と見做している。
 ただ会ったというだけで、首を狩りに来たのだ。

「工藤よ、録れているか」

 矢の重乱射を捌いたのは煉獄のみではなかった。
 首元に迫った矢に腰を抜かす工藤の前に立つは剣士、武蔵。

「目を離すな。鬼から。武蔵の剣から」
 
 その手には大小二刀の剣。『武蔵拵え』が仕込まれた、武蔵本来の得物。
 圭から武蔵に渡された煉獄の日輪刀が煉獄本人の手に戻り、空いた手に工藤が支給品として持っていた武蔵の刀が送られた。
 二人の剣士が万全の装備を満たし、そこに工藤の望み通りに鬼が現れた。
 刀が、鬼と武蔵達を引き寄せた。まるで巨大ななにかに導かれたように。

「鬼よ。武蔵は殺(と)るぞ」

 戦いの因果は巡り出し、絡み合う。

707FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:05:52 ID:GpLTpfs60



 ◆



 全周をコンクリート造りの木々に囲まれた住宅地帯にて、現人鬼・波裸羅は立っていた。
 両目を閉じ、そよぐ風に髪が揺れ動く。袴の袖がはためく。
 その泰然さと不遜さは、世の理を悟らんとする僧侶よりなお完璧な瞑想を体得している。
 生まれながらの異形。行を満たした生き菩薩すら犯す者の精神、誰に悟られようか。

 煉獄や人吉達は既にこの場を去っている。
 波裸羅ただ一人が、休息とひと悶着を過ごした道路の真ん中に居残っていた。

 群れるを好むタチではない。群れとは力なき同類同士がツルむのを指す行為。
 どちらも、波裸羅にはないものだ。
 といっても孤高を気取るでもない。下に侍らせないのは単に己に並び立つ、追従できる相手がいなかったというだけ。
 世に同類のいない我が身の独りを儚む事もまた、ない。

 波裸羅とは好き勝手の類。空を思うが儘に飛ぶ鳥の如き自由な生き様を好む。
 『快』なるもの、『愉快』と心が感じる事にこそ行動原理がある。
 犯すか殺すか、あるいは生かすか。全てはそこから付随する枝葉でしかない。

 煉獄と武蔵は勇ましくも食いでのある強者であり、人吉と圭はこの世に二つとなき代えの利かぬ花である。
 この催しでも、さぞ見応えのある美しい散り際を見せてくれるだろう。自ら手折るのでは芸がなく、愉しみが減る。
 そう見初めたからこそ、曲りなりにも現人鬼と同行する酔狂を認めていた。
 少なくとも、BBの言われるがままに相対する血生臭い応酬を眺めるよりは面白みがあると期待したがためだ。

 だが、それでも。
 それでも、だ。
 見過ごせぬ種というものはある。
 腹が減っては戦はできぬ、という格言がある。
 体内のイキりを鎮めたい時がある。
 
 禁欲は波裸羅の望むところではない。
 美味なるものがさらに甘露になるまで完熟を待つのも、また一興ではある。
 空気を読まない事はあっても、読めない事はないのだ。必要であれば我慢もする。
 しかし馳走を目の前で見せびらかせて焦らされては、ついつい魔が差してしまうというもの。

 故に波裸羅、摘み食いに走った。
 本命の御膳を平らげるより前に、野に咲く果物をもいで小腹を満たす事にした。
 煉獄らを先に行かせ、暗に殿を引き受けるとらしくない殊勝さを披露したのも、そういう目論見である。

708FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:06:31 ID:GpLTpfs60

「そろそろ出て参れ。折角一人になってやったというのに、いつまで顔を晒すのを恥ずかしがる」

 呼びかけてみても、現れる影はなし。
 波裸羅の他に周囲には誰一人見えない。

「姿は隠しても、漏れ出す蜜のにおいは誤魔化せぬぞ」

 見当が外れた、勘違いとは露とも疑わず投げかけ続ける。
 人よりも獣よりも鋭敏な感覚器官は生まれし頃より鬼であった賜物。
 破天荒。天衣無縫。いずれとも合致せぬ、波裸羅なる性質でこそ感知できる生命の気配を捉えている。

 やがて、何もない場所の風景が揺らめいた。
 真夏の陽炎のように、そこの空間のみがブレ出し、自然との齟齬が隠しきれずに表出する。

 ソレは、姿を見せていてもなお透明感のある体だった。
 粘ついた躯体と、背面を覆う無数の触手。
 水に溶けた絵を思わせる儚さ。海をまるごと掬い上げてできた固めた異質さ。

「ほう」

 この地上にいるはずのない存在。
 波裸羅は知らぬが、ソレは天使と呼ばれる形骸を、徹底的に貶める形を成していた。
 
 クラゲアマゾン。人とアマゾン細胞が融合した事で図らずも生まれた変異体。
 人をアマゾンに変える悪夢を引き起こす溶原性細胞、そのオリジナルのキャリアー。
 その名称も危険性も、本来の正体も。やはり波裸羅は知らぬ。知るつもりも端からない。

「陸に上がった海月とは、珍味(うましもの)だな。喰ってみたいぞ!」

 あるのは、見た事もない得物を前にして高鳴る戦意の昂揚のみである。 

 因果も由来も知る術もないというのれあれば是非もない。拳と忍法を駆使して噴き出す血潮こそが証明の契。
 語る言葉を持たぬのならば、その胸に腕を突き刺し───抉り出した臓腑に語らせるまで。
 そんな倫理なき原始の喰らい合いこそが、今の波裸羅の望むところ。

 一歩、一歩と歩み寄っていく。 
 警戒せず軽やかですらある、待ち受けるものに期待を膨らませる童子の心持ちで。
 そしてある地点を踏み越えた瞬間。
 両手を掲げて歓迎する波裸羅めがけて、致死を招く鋭利な触手の束が到来した。

709FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:12:15 ID:GpLTpfs60


【C-3/1日目・朝】

【永井圭@亜人】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、ナノロボ入り注射器@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1:自衛隊入間基地に向かう予定を、箱庭病院へと変更するか。
2:使える武器や人員の確保。
3:雅や猗窩座といった鬼達を警戒。
4:波裸羅を上手く対主催側に誘導できないか。
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。

【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]:精神的疲労(小)、全身にダメージ(大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:随分と人が集まったので、まずは今後の相談から。
2:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。
3:波裸羅に感謝すると同時に警戒。

【煉獄杏寿郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 、煉獄杏寿郎の日輪刀@鬼滅の刃、日本刀@彼岸島、涼司の懐刀
[思考・状況]
基本方針:力なき多くの人を守る。
1:人吉少年、永井少年を守る。
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流。
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す。
4:日輪刀が欲しい。
5:雅のような鬼ではない存在の討滅手段を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡寸前からです。

【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(小)、頬に傷。
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、武蔵の剣@衛府の七忍
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1:傷の治療をし、鬼を追う。
2:事情通の者に出会う。
3:煉獄や波裸羅から、さらに詳しく事情を聴く。
4:波裸羅に対し一騎討ちを望む。
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。

【工藤仁@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、ステルスドローン@ナノハザード、口裂け女の髪(強化後)@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:脱出はするが、「コワすぎ」も撮るに決まってんだろ
1:化け物(禰豆子)にマッチアップする別の化け物を探す
2:ステルスドローンを回して撮影する
[備考]
※参戦時期は「コワすぎ! 史上最恐の劇場版」開始前。タタリ村へ乗り込む準備中

【姐切ななせ@ラブデスター】
[状態]:呪い、目が腫れている。
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、蛇のお守り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:脱出する
1:とりあえずは工藤・前園と行動する
[備考]
※参戦時期はキスデスター編終了後
※清姫のシャドウサーヴァントとの接触で呪われました
※目の腫れ方は「コワすぎ劇場版:序章」における市川のそれと酷似しています

【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、ナノロボット(円城)のサンプル@ナノハザード 、圧裂弾(5/6)@仮面ライダーアマゾンズ、『顔のない王』@Fate/Grand Order、ステルスドローン@ナノハザード、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)、ランダム支給品0〜1(累のもの、未確認)
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
2:工藤・姐切を利用する
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。


【源頼光@Fate/Grand Order】
[状態]:健康。中度の疲労。
[装備]:絶刀・鉋@刀語、弓矢@Fate/Grand Order 、ハーレー・ダビッドソン(雅貴)@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針: 英霊剣豪として一切合切を粛正する。
1. カルデアのサーヴァントを排除する。
2.もう一体の鬼については状況を見て判断。
[備考]
※源頼光ではなく、英霊剣豪七番勝負のライダー・黒縄地獄としての参戦です。


【武蔵の剣@衛府の七忍】
 工藤仁に支給。
 大小二振りの武蔵の剣。狂へる父・宮本無二の十手器に似た機構「武蔵拵え」が仕込まれてる。

710FILE04「辻斬り出没!首狩り武者」 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:13:36 ID:GpLTpfs60



【C-4/1日目・午前】
【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、ナノロボ入り注射器@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、真田の六文銭@衛府の七忍
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:勝次のことは忘れぬぞ。
2:善吉の生き方が実に愉快。
3:永井圭に興味。
4:彼岸島勢に興味。すぐ隣に雅がいるなら、会ってみようか。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。
※波裸羅の食料品は他の参加者と違い、桃100個が与えられています。

【クラゲアマゾン@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ダメージ(大・回復中)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本方針:――千■、■
1:邪魔する者は攻撃する。
[備考]
※九話より参戦です。

711 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/11(土) 22:19:27 ID:GpLTpfs60
投下を終了します

712名無しさん:2020/07/13(月) 11:43:34 ID:giqqNCkY0
投下乙です
前園さんは原作通り人殺しておきながら平然と戻ってくるし、工藤Dはやっぱノリノリだし
頼光さんは全力で殺しに来てるし、みんな色々な方向に怖えよ…

713 ◆0zvBiGoI0k:2020/07/18(土) 00:00:29 ID:TQEUtQe.0
杏寿郎、人吉、永井、武蔵(男)、波裸羅、クラゲアマゾン、ななせ、工藤、前園、頼光、かぐや、ナイチンゲール、義勇、雅貴、武蔵(女)、猗窩座、白銀、巌窟王
予約します

714 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/13(日) 23:29:28 ID:HzQNufZI0
何やら時間が飛んだ気がしますが、お気になさらずに

杏寿郎、人吉、永井、武蔵(男)、波裸羅、クラゲアマゾン、ななせ、工藤、前園、頼光、かぐや、ナイチンゲール、義勇、雅貴、武蔵(女)、猗窩座、白銀、巌窟王

で予約します。明日夜に投下します

715名無しさん:2020/09/14(月) 07:40:21 ID:cvux3yr.0
謝罪も悪びれもなしとか嘗めてんのか?

716名無しさん:2020/09/14(月) 13:55:34 ID:yq6O0BUg0
お前さんのような無駄に態度のデカい読み手様(笑)に頭下げる価値は無いってそれ一番言われてるから

717 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 20:53:06 ID:p2F40R1k0
>>715
申し訳ありません。

投下します

718FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 20:53:51 ID:p2F40R1k0



 ◆



 ───鏡は、異界と繋がる門である。



 古来より、人は自分と一寸違わぬ像を映し出す鏡に神秘性を見出してきた。
 古代邪馬台国の女王が持つとされる神獣鏡。日本の三種の神器の一つでもある八咫鏡。
 当時にとっては高級品である事もそうだが、鏡とは王朝の栄光を象徴するシンボル、神と交信する祭具でもあった。

 そして、人は鏡の中に異世界を見た。
 海外に目を向ければルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』が有名だ。
 鏡に手を触れれば指が沈み込み、そのままこことは別の世界への入り口になっている物語は、誰しもが一度は思い浮かべる。
 現実では目の前の風景をそっくり反射するだけでしかない鏡面に、人は想像力によって有り得ぬ『奥行き』を生み出したのだ。

 また別世界の入り口になるのは鏡に限らない。
 古くは水面。竜宮城の逸話にあるように、海底は地上と法則の異なる世界が広がっていると信じられた。
 見えない、という事は智慧をもたらす触媒となり、『物語』の基となる。
 現代では鏡はどんな世帯にも普及し、テレビや窓ガラスと、街の至るところに『映すもの』が溢れ返るようになった。


 神秘性が薄れるのと入れ替わりになって、鏡は『怪談』の題材として扱われるようになる。


 深夜二時に合わせ鏡をすると、鏡の中から悪魔が出てきて、取り憑かれてしまう。
 夜中の二時ちょうどに鏡を覗き込むと、鏡に死んだ人が出てくる。
 十二時ぴったりに合わせ鏡をして自分の顔を映すと、将来の結婚相手の顔が映る。 
 数千回に一回鏡が割れる瞬間にだけ繋がる、失われた鏡の中の世界がある。


 学校の怪談やおまじないで聞いた覚えのある人もいるだろう。
 鏡の中の自分を見るという行為には、呪術的な意味合いも含まれている。
 日用品として普及するにつれ鏡は人々の生活で身近となり、ゴシップや噂話に用いられる事が多くなった。



 鏡と怪異の関連を示す一例として、ここにある記事が残っている。
 ある時期に発生していた連続失踪事件について、モバイルネットニュース配信会社が書いた記事だ。
 鏡に映る、動物を人型に当て嵌めたような造形をした異形の怪物。
 この怪物は現実に存在せず、『鏡の中の世界』にのみ棲息している。
 失踪事件は、この怪物が餌として人間を襲っていたのが真相なのだという。

 当然信じる者は皆無だった。CGによるデタラメだと猛批判を受け会社は炎上。それがきっかけで一時は事務所が差し押さえになるまで追い込まれている。
 取り返した後には炎上の波も消え、事件についても、まるで『はじめから事件そのものが無かった』かのように誰も追求せず風化したという。

 これはあくまで一例にすぎない。
 似たような話は、ネットを漁れば幾らでも出てくる程度の眉唾でしかない。
 だが、仮に。埋もれたその中のどれかが『本物』であったとしたら。
 それを嗅ぎ取れる者が、真実を追い求めた結果辿り着いたとしたら。



 鏡は深淵に似ている。
 覗き込んだ時、怪物もまたそこから覗き込み、己を見つける誰かを引きずり込むのを待ち続けているのかもしれない……。




 ◆

719FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 20:57:26 ID:p2F40R1k0





 武蔵、騎馬武者と相まみえる。

 種子島での鉄砲伝来以前、騎兵は合戦にて最強無敵を誇っていた。
 徒歩(かち)を圧倒する機動力。柵ごと人を蹂躙する突進力。
 揃えた馬の数が勝敗を左右し、大名の強さを計るステイタスとして機能していたとなれば、武田の騎馬軍団の無敗神話が伝播するのも道理であろう。

 関ヶ原帰りの武蔵、当然騎兵の強さを知る。
 鉄砲が戦場に出回るようになっても、次弾の弾込めの練度、数の不足しいた時期においては、未だ騎馬武者は脅威と強壮の象徴である。
 銃弾は単発であれば躱せる目がある。点である銃線は、急所にさえ当たらなければ戦闘を続行できる。
 列を並べられても、戦場に無数に横たわる屍を盾にすれば凌ぐ事も可能。
 だが、騎馬にひと揉みされればそれだけで死に直結する。
 質量がそのまま兵器と化し、触れただけでも全身の骨を折る大打撃だ。

 然るに、騎兵の対処は走らせぬ事に尽きる。
 平地では無類の馬も、機動力を奪えば単なる大きい的でしかない。
 木々に指向性を任せられ、ちょっとした障害で止まり、高所で弓を射ればそれで確勝だ。
 コンクリートに電柱、入り組んだ路地。武蔵の知らぬ知識であれど、武蔵にとってここはまさしく森である。
 まして供回りもいない単騎での疾走。討つに不足はないと計算を了じていた。



「……っ!」 

 飛来する弾雨を、鞘に入れたままの刀で払う。
 拡充具足という外骨格(ほね)無き身では、頭に一発もらっただけでも致命打。
 大小様々な形状の礫の中で、大型、かつ正中線に当たるものに限定して防ぐ。
 腿や肩口を打ちのめす痛みを堪え目前を睨む。
 障害物をものともせず、邪魔だと言わんばかりに刀でポールを裂き、壁を砕き飛ばして猛進する騎兵の動きを注視する。


 源頼光。あるいは英霊剣豪・黒縄地獄。
 ライダーのクラスで召喚された事で得たクラススキル・騎乗は、凡そ『駆る物』全般についてなら初見であろうと熟練の手並みで操縦できる。
 調教されてない馬であろうと、生きていた時代には存在しない未知の種族であろうと、生物ですらない機械であったとしてもだ。
 物言わぬ絡繰の躯。四足ではない前後二輪、ハーレー・ダビッドソンも手に取った時点で、その全機能を把握している。
 長年調教した愛馬も同然の綱使いでハンドルを駆使する姿は、疑いなく騎兵であった。
 片手操縦で空いた手の絶刀を振り、進行の邪魔になる電柱や看板を蹴散らして進む。
 異形の組み合わせは一切の不全を起こさず、しかして起こす事象は理不尽の極みだ。

 第二波の散弾。隙間なく武蔵の全身を砕きに迫る砲弾を、沸き起こる炎が包むようにいなす。
 武蔵、この度は孤剣にあらず。武蔵では届かずでも、背を任せるに足る同士がいた。
 炎の呼吸、肆ノ型・盛炎のうねり。広範囲をカバーする煉獄の打ち手が武蔵を覆う。

720FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 20:58:40 ID:p2F40R1k0

 
「武蔵、跳べ!」

 数瞬で意図を理解した武蔵が煉獄の背を踏みつけにする。 
 翼がない人は燕にはなれぬ。だが鋼にまで鍛え上げた炎柱の背筋は射出台となって、武蔵を空に運ぶ!
 盛炎のうねりで散弾は届かないと見るや、黒縄は狂いなく武器を弓に持ち替えた。
 弓に矢を番え引き絞り、放つ。一定の動作を必要とする射を、僅か一息で終える。武蔵の跳躍が伸び切り落下し始める、僅か二秒の出来事である。
 空中では盾になるものも方向転換する為に踏ん張る足場も存在しない。串刺しにする定めの矢はしかし、武蔵が投じた飛刀と衝突して逸らされた。
 元は煉獄の支給品。雅との打ち合いで刃毀れが目立ち、両名共自前の刀が戻って無用だったもの。
 跳ぶ寸前にすぐさま三の刃を取り出して腰に差し、隙を埋める為の補助にした。
 デイパックが質量を無視して物が入る特性を、永井から聞いていたからこそ浮かんだ策だ。

「おおおォっっ!」

 一射で終わらせず連射で撃ち落とさんとする黒縄の目が、正面に向き直る。
 掃射が止み阻むものがなくなった煉獄が、型を切り替え裂帛の気合いと共に【壱ノ型・不知火】で斬り込む。
 上下同時連撃。ここまでが全ての狙いだった。
 距離を詰め、二手に分かれ、狙いを散らし弓を封じる。
 たとえ片方を射貫いても、その時には既に討ち漏らした方の刃が届いている。
 三次元上での斬撃を組み込んだ手練は鮮やかなるばかりであり、だからこそその対処法に、武蔵も煉獄も目を剥いた。


「なんと……っ!」

 
 射をかける最中にも、黒縄はバイクのアクセルは緩めていなかった。
 それを挟撃に際して更にアクセルを回し、前輪が跳ね上がりウィリー走行となって煉獄の顔面目掛けて突っ込む。
 しかも衝突と同時に、武蔵の唐竹割りを絶刀で受けながらの対応である。武蔵の全体重と落下速を合算した斬撃を、だ。
 女を逸した筋肉が隆起した腕といえど刀一本で、折れもせず、押し込まれもせず、武蔵の体は浮いていた。
 不知火を咄嗟に解いて車輪を止めた煉獄にも、黄泉平坂の岩にも等しい圧がかかっていた。
 攻めながらにして固まった二人に対して、黒縄を軽やかに車体から跳ぶ。ハンドルに置いた手を軸にして浮き上がり、双方向に蹴りを見舞う。
 鳩尾と顔面、急所狙いをぎりぎりでかわしたのは流石の一言。被害を最小限で食い止め、離れた間合いを取り直す。

721FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:00:02 ID:p2F40R1k0



「上の上、その更に上……あれこそは極みか」 
「まったくだ! 至高の領域とはいったものだな!」

 煉獄と武蔵。言葉を交わさずとも胸中に懐く感慨は同じくしていた。
 即ちは、極められた武練への感嘆と畏敬だ。
 意思無き馬を手足の延長上で自在に操り、標的を過たず射を放つ馬術。
 天性の膂力と柔軟性が融合した理想の玉体。そしてそれを余す事なく活用する技量。
 武に生きる者であれば思わず見惚れるほどの、武者の体現がそこにはあった。

「だがしかし───」

 だからこそ討たねばならぬと、武蔵は奮する。
 なればこそ止めねばならぬと、煉獄は抱く。
 この武は本来、武蔵達のように鬼相手に向けられるべき力だ。
 泰平を築く為の力だ。
 それが今、民草に向けられんとしている。それが激しく、我慢ならない。


「………………きゅうじゅうろく、きゅうじゅうなな、きゅうじゅうはち……」

 縦横無尽の輪動を止めた黒縄地獄が、何事かを呟いてるかと耳を澄ます。 
 指で刀を弄くりながら、数を数えて唄っている。
 楽しそうに。遊び時間が来るのを待ち望んでる子供のように。
 そしてその時は、訪れた。

「きゅうじゅうく、ひゃく……。
 おや、まだあんなところまでしか進んでないのですね。目で見える距離ではないですか。
 ですが仕方ありません。きちんと百まで数えた事ですし、ね?」

 おもむろに矢を上に掲げて放つ。
 武蔵も煉獄も大きく外れた軌道が通過するのを怪訝に見送り───先にあるものを察知するに至った。

「───総員、上空!! 退避命令!!」

 思わず命令口調にして声を飛ばす。街の一画にまで及ぶ大声は果たして届き、驚いた面々が振り返る。
 放物線を描いて数秒の後、着地。次いで衝撃と悲鳴。
 音から推測する感覚任せだが、恐らく当たってはいない。だが、安全からは程遠い。守るために遠ざけておきながら、いまだ射程内だった。
 そして、背にいる者を守る戦いにおいては、騎乗物の差が如実に表れる。

722FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:00:42 ID:p2F40R1k0

 


「───鬼よ!」

 武蔵は騎馬の脅威を正しく心得ている。歩兵と比して圧倒的な機動力を理解している。
 故にこそ───遠ざかって他者に刃を向けるのを止める事の難しさも。

 武蔵にあった鬼への兵法者としての敬意が、只今を以て消し飛んだ。
 それほどの怒りだった。
 それだけの侮辱を今されたのだ。

 人が知り得るあらゆる無礼、残虐が罷り通るのは合戦の習いではあるだろう。
 逃げる弱卒、民草を戦利品と称して奪い、犯し、殺すのもまた道理だ。
 だが鬼は、死合も終わらぬ最中に、殿を無視して逃げる善吉らへ矢を放った。
 興にされた。武蔵を前にしておきながら、専心するに値しないと、支障ないと見做したのだ!

 

「避けられたようですね。では、次は捕まえるといたしましょう。
 ああ、あなた達も止めたくば……どうか頑張ってくださいね?」

 ハンドルを取り直し、鉄馬の嘶きが再び唸りを上げた。 
 戦局の変化。迫る鬼を押し止めるのではなく、駆ける鬼に追い縋る展開に。


 女は微笑んだ。
 地獄の如き、狂へる笑いであった。





 ◆

723FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:01:15 ID:p2F40R1k0





「おいヤベエヤベエヤベエ、追って来てるぞあのキ○○○!」

 事態が急変したのは、逃げていた工藤達にも伝わっていた。

 殿を受け持って戦っていた煉獄がここまで届く大声を出したかと思えば、空から振ってきた矢が足元に突き刺さってきた。
 ここにいる全員、多少なりとも荒事に慣れている。自分に向かう殺意、なにかしらの感情が向かう事には常人よりも鋭敏だった。
 周りの地面が陥没し、迫撃砲でも撃たれてるかのような緊迫が心身を締め上げる。
 元から足早で去ろうとしていたのが、今や全力疾走だ。

「ああ撃ってきた!? また撃ってきたよ!? ああクソ、ふっざけんなぁあああああ!!」

 普段から危険を冒すのに躊躇ない工藤だが、手に負えないと判断する嗅覚は鋭く、逃げる時は逃げる。
 この威勢のよさと小心の微妙なバランスが、今日まで男を今まで生かしてきたのだった。


 一行は背を向けて必死に走りながら、しかし誰も逃れられてるという気はしないでいた。
 後ろを振り返らずとも自分達を追跡する鬼武者の姿が脳裏に映る。心臓を震わすエンジンの爆音は死神の足音そのものだ。
 たまに起こる剣戟は煉獄達が足止めしている音だろうが、それも一旦バイクが遠ざかるだけで、すぐさま別ルートからまた接近してくる。

 それもそうだろう。如何に煉獄達の腕が立つとはいえ、相手はバイクという軌道手段を持っている。
 瞬発的な加速では上回るとしても、燃料が続く限り速度を常に維持していられるバイクでは持久力に明白な差が生まれる。攻めるも退くも、主導権はあちらにある。
 
「ハァッ……ハァッ……どうすんだい、このままじゃジリ貧だよ……!」

 息を切らし途切れ途切れに苦悶を漏らす姐切。限界があるのは煉獄達のみではない。
 特にこの中で一番の年配の工藤はグロッキー寸前だ。遠からず足を止めてしまう。そうすれば後は相手の狙い放題だ。


 窮地に陥った一行に追い打ちをかけるように、振動と爆発が起こった。
 だが後ろからではない。前に見える、塀で覆われた物々しい雰囲気の敷地の中からだ。

「この方角……施設……くそ、まさか……!」
「永井もそう思ったか! 意見が一致してくれて嬉しいがそれどころじゃねえぜ! アイツらこんなとこにいやがったのか!」

 とにかく逃げてるうちに近づいていたらしい施設を目にして、圭と善吉は同じ想定をした。
 陽光を苦手とすると仮定し、後で煉獄から確証を得た、鬼という種が身を潜めるに適した場所。
 交戦した二体の鬼が逃げた先として候補に上げていた施設、入間自衛隊基地。
 その入口の正門に、五人は差し掛かろうとしていた。
 
 
「……っ」

 最悪だ。悪い事というものは、こうも続いて重なるものらしい。
 あれから数は増えてるが、剣士二人がいなければ凌ぐ事もできない。
 この苦境をどう凌ぐかについて、圭は既に計算を終えている。
 そも考えるまでもない。これはもう、以前に使った手段だ。

724FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:01:38 ID:p2F40R1k0

 
"全員で分散する─────それが一番全員に可能性がある。今回は数も多いし、戦える人もいる。前よりも目はある方だ"

 『前回』では石上優と二手に別れて筋肉男を撒き、追われなかった圭は助かり、追われた石上は死んだ。
 見捨てたくてやったわけじゃない。亜人であるのを加味してもお互いが生き残る為に最良の手段だった。
 少なくとも二人捕まって死ぬという結果だけは避けられた。それは疑いようのない、文句の言う余地のない成果だ。
 今回はその五分の一。さらに後ろには戦闘に長けた者も続いている。
 援護するにもまず二人の邪魔にならないよう態勢を整えたいし、人質にでもされたら目も当てられない。
 基地から離れれば住宅街が隣接してるし、隠れる所は豊富にある。間違いなくこれが最良の策だろう。

 ……真っ先に誰か一人が優先して狙われ、呆気なく一人死ぬとしても。
 全員纏めて死ぬよりはマシだ。全滅よりは遥かに上等だ。



「永井君、もしや先程話していた鬼の……」
「はい。なので皆さん聞いてください。ここは……」
「なんだよ……じゃあ丁度いいじゃねえか! このまま自衛隊基地、そこに向かうぞ!」
「は?」

 そうして献策しようとした圭だが、思ってもみない割り込みを受けた。
 他に策が出てくるのも、それがぜいぜいと言葉を出すのも億劫そうな状態の工藤だったのも、圭は考えもしていなかった。

「おい工藤、アンタなにするつもりなんだい!」
「ああ!? バカヤロ姐切もう忘れたのか? 
 さっきも言ったろうが────バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」
『はあああああああああああ!?』


 声が上がった。
 叫んだのは圭であり、善吉であり、姐切であり、前園である。
 全員が、工藤の言葉に同じ『お前は何を言っているんだ』という意味の絶叫を上げた。

「こちとら元々そのつもりだったんだ! バイクに乗って辻斬りするバケモン女と鬼のバケモン男の対決! 相手は変わるが大筋は変わらねぇ!」
 
 ひとり、発言者の工藤だけが会心の策と言わんばかりににやけ面をしていた。
 酸素不足からの朦朧とした仕草も相まって、麻薬中毒者さながらの不気味な異様さを見せている。

「いい加減にしなよこんな時まで! アンタが道楽に命懸けんのは勝手だけどアタイらを巻き込むんじゃないよ!」
「じゃあどうするってんだ? いいか、逃げて解決する事なんてのはなぁ、この世のどこにもねぇんだよ!!
 煉獄さん達がやられたらどのみち俺ら終わりなんだ。だったら進むしかねぇだろ!!
 俺らは生き残って、バケモンは潰し合って、映像は撮れる! これで一石二鳥どころか三鳥だろうが文句あっか!」

 ドローンを指差して姐切に浴びせかける言葉には、意外なほどに論があった。
 取らぬ狸の皮算用などではない、工藤なりに現状を打破する解決法だった。
 ただ生存重視の圭と違って、工藤は敵を諸共撃滅するという、万事上手くいけば確かに大戦果だが、一手損なうだけで全滅に直結の大博打だった。

 何を馬鹿なと、否定しにかかろうとする圭の気勢が削がれる。
 さっきまで意識が混濁しかけていたと工藤の剣幕には、不思議と有無を言わさぬ迫力があった。 
 鬼、という単語を聞いた事で、男の内のなにかが覚醒したかのような。
 信念、いやここまでくればもう執念妄念の域だ。

 その僅かな遅れの空白が、後にまで続く選択を決めるに至る。
 背後から地面が削られる怪音に我に返った圭を尻目に、工藤が基地の敷地に突き進む。
 他に手もないと同調したのか、あるいは諦めからか、工藤を止めようとしてか、いずれにせよ他の者も続いて追いかけていく。

「ばっ……嘘だろ……!?」

 完全に遅きに失した。進展を余儀なくされ、ついに圭も走り出した。
 自衛隊入間基地。彼が未だ知らぬ運命が待ち受ける地に、一足早く踏み入れた。




 ◆

725FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:04:11 ID:p2F40R1k0





「────よぉ」



「災難だったよなお互い。いきなり意味のわからない事に巻き込まれてさ。
 酒でも奢ってやれればいいけど、それはもうちょい待っててくれよな」


「俺もさ、何回か死にそうな目にあってよ。そん時ゃ色々な奴に助けてもらったりしてまあ、なんとか生きてるわ。
 みんないい奴だったんだけど、水澤はともかく、冨岡がなぁ……。
 いやいい奴なんだよ。いい奴なんだけど、すっげえ鉄面皮なの。返事が簡潔すぎんの。なに考えてんのかわっかんねえの。
 そもそも名前だってさっき知ったばっかだし? ナイチンゲールさんにこってり絞られてようやくだよ。
 人間じゃないっぽい水澤や禰豆子ちゃんよりとっつきづらいってどうなってんの? 広斗でもあんな無愛想じゃねえよ」


「ああそう、広斗だよ! あいつさ、これが始まってから何してたと思う?女連れて、バイク乗ってんの。すぐそこに俺がいたのに、気づかないで、素通りして!
 あーあー今頃ふたりっきりでイチャコラしてんだろーなー……お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはありませんよまった──────」



 誰に向けたわけでもなく、一人で延々と喋り続けていた男の声が、そこで止まった。
 自分が何からしくない、みっともない真似をしているのに気づいたような、ばつの悪い表情をしていた。


 雅貴はいま一人だ。自衛隊基地の広い敷地の、ある一画の倉庫でしゃがんでいる。
 要救護患者を運んでから、いやにチェックの厳しい診断をクリアしていち早く部屋を抜け出していた。
 趣の違う美女三人とお近づきになれるチャンスだったが、重傷者と未成年、残る一人もなんか恐いという点でいまいち気分にはなれなかった。
 連れ立った冨岡は今も詰問を受けている。部屋を出る際にちらと見た顔はあいも変わらずなに考えてるかわからない無愛想さだった。
 これからどうなるか、どうするかと考えながらぶらつきながら、とりあえずと決めていた目的を済ませることにした。


 雅貴以外、ここには誰もいない。
 どれだけ声をかけようと、言葉を投げようと、答え返すものは誰もいない。
 見知った顔がそこにいても、死んだ人間は何かを自分に返してくれたりはくれない。
 それを、雅貴は知っている。

 
 ムゲン時代でも山王連合会時代でも、コブラとは仲がいいわけではなかった。
 というより、SWORD地区で仲がいい相手なんてのはまったくといっていいほどいない。
 あの場所での記憶はいつだって拳の遣り取りばかりで、いい思い出なんてひとつもない。
 なのに、いつの間にやら妙に長い付き合いになってしまっていた。言ってみれば腐れ縁だ。

「……琥珀達には、うまいこと伝えとくわ。俺に言われても迷惑かもだけど、何も知らないよりゃマシだろ」
 
 悲しみなんて気取った名前を背負ったりはしない。
 仇討ちなんて殊勝さは沸いてこない。
 涙なぞ、どれだけ捻っても一滴たりとも出りゃしない。
 薄情だとは思わない。好き好んで男の理解を深めたくはないが、拳を交え、共に戦っていけば、見えるものもある。
 コブラが慕っていた琥珀という男は、下手な馴れ合いや気遣いをするのも無粋だというぐらいには理解している。
 最期を教え、形見のひとつでも渡せばいい。せいぜいが、それくらいの軽い縁だ。

726FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:05:09 ID:p2F40R1k0

 
 

「あー……ごめんね。いまちょっと手が離せないんだわ。
 用があるなら後にしてくんない? 女の子なら話は別なんだけど」

 ぼやいた口調は、今度は一人芝居ではなかった。
 物言わぬ死体にではなく、基地内の日陰に潜んだ気配に向けてのものだった。

 影が伸びて踊り出る。
 二足で走り込んだソレは、四足獣じみた姿勢の低さと速度で駆け、その手の鋭利な爪を乱雑に振るった。
 問答無用の殺意。頸動脈を狙った爪は、肘の内側に潜った蹴りで止められる。
 動きを急停止されて、つんのめった体の真ん中に乗せられるブーツの底。
 吹き飛ばされて地面を転がった男───鬼となった男は胸を押さえながら雅貴を赤い目で睨みつけた。
 
「ま……、さすがに何度も見てたら慣れるわな」

 見た目の細い少年が体格にそぐわぬ運動力を見せたのも、胴を思い切り蹴っても難なく立ち上がるのにも、雅貴はもう驚かない。
 鬼やアマゾン、ここまでたいがい常識外の生物に出会って、その図抜けた生命力を見せつけられた。
 蹴りのひとつぐらいで倒れたりしないものだととうに学習していた。

「───シャアアア………………!」
 
 獣の威嚇らしい唸り声を上げる鬼。
 胸の鈍痛が急速に消えていくのに、改めて生まれ変わった体の頑強さを確認する。やはり、太陽の光さえ浴びなければただの人間に圧倒される事はない。
 この倉庫はシャッターが開けられているが、太陽の位置から日差しが深くは入りこまずにあるため気をつければ問題ない。
 窓も閉められ、鏡が大量に置かれてある以外に貨物もない。戦うには適した場所だ。

 雅貴は、起き上がった男の顔をここでようやく見た。
 天井の照明が光源になって、血走った目と黒い制服とその容貌を見て、ふと頭の片隅に引っかかりを覚えた。

「ん? 髪に……身長……悪い目つき……。
 なあ君、ちょっと名前────ぉあっぶねえ!?」

 尋ねようと前に寄ったところを爪で横薙ぎにされかかる。
 咄嗟に退いて怯んだ様を隙と見たか、鬼が跳んだ。雅貴の上を跳び越えてその背後に降り立った。
 しかしそのまま背を貫こうとはせず、雅貴に背を向けてさらに走り出そうとする。
 遁走、ではなかった。ここを訪れた当初の目的。人の気配より先に嗅ぎ取った、濃密な臭いの根源を平らげようとしていた。
 人間を喰らう事が鬼として強くなるのに直結する。本能として理解している鬼の生態。
 落ちていた金髪の男の死体は死んでから時間が経っているが、選り好みはしてられない。
 今は手っ取り早く腹を満たしてしまえればいい。
 鼻をつく腐臭を嫌悪でなく歓喜を以て迎えようと顎を開け食いかかろうとした体が、死体と目と鼻の先で止まった。

「ったくさぁ─────」

 制服の裾を掴み逆方向に思い切り引っ張る。多少引きずられたが、なんとか届く前に止められた。
 巻き取るように裾を掴んだまま、膝の裏に蹴りを落とす。そうして足を崩してから横合いに体重を乗せた蹴りで上体を転がした。


 悠や禰豆子と出会って、人を喰う存在がいるのを雅貴は知った。
 だからこの男ももしやと思っていたが、案の定自分よりもコブラの死体に飛びついてきた。
 知らなければ、気づくのが遅れ、止めるのも間に合わなかっただろう。


 ただの知り合いだ。
 好きでもないし、仲が良くもなかった。
 死んだところで、少しだけの感傷しか生まれない。
 だが、しかし。だからこそ、その僅かな感傷こそが重要だった。


 顔見知りの骸が、みすみす食われるのを見過ごす。
 そこには男にとって、体を張るだけの感傷であり、理由があったのだ。


「生きてるやつが、死んだやつにちょっかいかけんじゃねえよ」
「────────────!」

 食事を邪魔された憤りで肉体が膨張する錯覚に陥る。
 空想を現実に成さんと人体の限界を越えた鬼の肉が蠢動し出す。だがその間に、雅貴は侵掠を完了していた。
 先に対敵した人吉善吉よりなお疾く無駄のない歩法。
 怪物を前に只人が徒手で懐に入る。そんな誰もが身を竦ませるはずの恐怖を振り切って、身を畳み零距離(ゼロレンジ)にまで接近し───────。

727FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:06:17 ID:p2F40R1k0



 肘が顎を掠めた。
 拳骨が人中を打った。
 脚が喉を叩き、膝が肋骨を割り、胃を蠕動させ、心臓を響かせ、脳を撹拌させる。
 大気が爆発するが如く。一息で繰り出した連撃は、美麗なまでに全撃全霊に叩き込まれた。


「いい加減、ビックリ人間ショーに驚くのも飽きたんだわ。俺、そういうキャラじゃないし!」

 鬼やアマゾンとの戦闘を経て、雅貴は彼らが構造が人体と大差ない事を把握していた。
 確かに人間より圧倒的に強靭だ。しかも四肢を失っても瞬く間に再生するほど耐久性、継戦力が高い。
 だがそれは人間の延長線上の強さだ。骨があれば脳も臓器もある。それへのダメージ自体は入る。すぐ回復するだけだ。
 人が成ったものだからなのか、素を人にしているからなのか、それはわからない。それでも造りは雅貴が幾百千と打破してきた感触を残していた。

 なればこそ、雅貴の戦闘技術は通用する。打撃系を中心に、痛みより直接の損壊で動きを止めるよう狙いを合わせる。
 相手が狙いを理解して顔を守ろうとする、あるいは無視してカウンターを狙いに突っ込んでくれば、瞬時に四肢の末端の払いに切り替え、態勢が崩れたところで全力の重い蹴りを見舞う。
 禰豆子、クラゲアマゾンらに比べれば遥かに動きが劣るのが幸いした。戦いを通して雅貴の目は超常に慣れ、専用の組み立てを考案する時間があった。

 だからといって、ここまで完璧に応用が叶うとは限らない。
 敵は未知であり、未知の生態、未知の手段、未知の能力を備えている。
 裏社会に身を置くとはいえあくまでも雅貴は現実の住人。神秘も知らなければ鬼にも会ってはいない。
 それを、数度見ただけで自身の技術を調節し、実戦で適用させてみせるなど不可能にも等しい。
 だが、それを可能にしてこその雨宮兄弟────────!



 鬼が堕ちる。連続的な損傷に一時的な行動不能に陥った。
 泥と辛酸を舐め続けた顔は痛みよりも屈辱に染まりきっている。まさに鬼の形相だった。
 手応えでいえば、肋骨四本、右鎖骨、右脚の大腿骨は折れている。その他全身細かな箇所にも罅を入れた。内蔵だって何個か潰した感覚がある。
 見た目、少年に対しての仕打ちに流石に心が痛むが勘弁してねと心中で謝る。実際もう再生して立ち上がってきている。本当に効果がないらしい。
 徹底したのは、反撃されないのも勿論だが、考える時間を与えたかったからだ。
 ここまでされれば頭も冷え、我武者羅に向かってこようとはしなくなる。その内に、こっちで確かめておきたい事があった。
 今は医務室で休ませてあるお嬢様から聞いていた、探している知り合いについてを。

「ちょっとは落ち着いたか? じゃあ今からお兄さんの言う事をよく聞けよ? 一回しか言わないからな?
 君の名前って、ひょっとしてしろ────うぉまたかよぉ!?」

 またしても途中で遮られる。どこまでも格好がつかない雅貴であった。
 轟音と共に壁が破れ、中からふたつの影が出てくる。
 ひとつは突き破った勢いのまま積まれていた荷物の小山に突っ込んだ。硝子が砕け落ちる音が鳴る。
 力強く地に降り立った方は、初見の雅貴でも一分の隙も見えない構えをしていて───。

「づ、ぐ──────!」

 長年の身についた経験と勘だけが強襲に対応できた。
 目で追えたのは現れた男が振り向いて見せた鬼面の表情のみ。
 気づいた時には雅貴は煤けた屋根を見上げていた。
 両腕が、まるで電流を浴びたかのように痺れている。
 起きた変化を受け止めて、そこで自分は吹き飛ばされて倒れてるのだと理解が追いついていた。

「地力はあるようだな。だが、鍛練が足りん」

 全身に刺青が入った青年の姿。
 乱入した鬼は開口一番、そんな風に雅貴に添削を下してきた。

「……効いてねぇよ、ぜんっぜん」
「強がりはよせ。俺の拳を受け止めて骨が折れてないのは大したものだが、軋みは聞こえているぞ。
 呼吸も使えない人間ではそこが限界だ。武を修める者として実力差は理解できているだろう」

 走る痛みと事実に、憮然と押し黙る。
 たった一撃。測るには十分すぎた交わし合いだった。地を這う自身と見下ろす鬼がそのまま開いた明確な差だ。
 
「一撃受けた返礼に教えておこう。俺の名は猗窩座。お前の名は?」
「男に教える名前はねえ」
「そうか。ああ、実に残念だ。このような地でなければお前も素晴らしき鬼になれたろうに」

 上げられた拳が雅貴の頭に定められる。距離がそのまま断頭台の刃が落ちる時間だ。
 最後まで生きる事を諦めない。ただでやられる気はないと、雅貴も応じて痺れた腕を構える。

 覚悟を決めた雅貴と猗窩座との間に、パラパラと光の粒子が降り注ぎ、印象的な二枚模様が舞った。
 愛用の半々羽織に、幾つもの鏡の破片が突き刺さったまま雅貴に背を見せて降り立った義勇だ。

728FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:07:37 ID:p2F40R1k0


「下がれ。奴は上弦だ。お前の手には負えない」
「いや、まずそのジョウゲンってのが知らねえんだけど」

 受け答えを無視して猗窩座に肉薄する。
 猗窩座もまた、喜悦して白銀の刃を迎え撃つ。柱と上弦。繰り返されてきた鬼と鬼狩りの戦いが再演される。
 刀と拳。二者の間で衝突する凶器が明滅を残す。四肢の末端が消失し、雅貴でも先の動きが読めない。
 禰豆子やクラゲアマゾンは衝動任せの猛獣か無機質的な殺意の塊だったが、猗窩座の動きは繰り出す手番を思考し、術を練り上げる技だ。
 義勇の手を読み、義勇もその先を読み合う応酬。雅貴も知る戦いの構図が、規模だけを拡大させて展開されていた。

「西洋の刀と打ち合うのは初めてだが、やはり硬いな! 本来の得物でないだろうによく扱う!」

 息つく暇もない攻防でなおも饒舌な猗窩座と対称的に、義勇は無言で足を踊らせた。
 変幻自在、満たす器によって姿形を変えられる、攻撃と回避を両立する水の呼吸の本領の技。
 【参ノ型・流流舞い】で広範囲に届く猗窩座の乱発をかわしながら、字義のまま流れるように距離を詰めていく。
 乱撃の終わりと同時に側面からの横切りにも、猗窩座は対応し拳打を放つ。
 流々舞から繋げた事で勢いが乗り、更に日輪刀を上回る硬度の無毀なる湖光が猗窩座の拳が潰される。
 だが気を乱さず猗窩座は逆手に取って、再生させた肉で剣を固定し、義勇に致命の隙を生み出し絶命の技を構える。

 義勇にもまた怯みはない。得物が絡め取られるこの構図には覚えがある。
 死狂う侍、幻之介の如くに大木を割る芸当は義勇には叶わない。しかし参考にはなる。そして応用の型も。
 粘ついたように鈍くなった刃渡りに加重を与える。腰を捻り、下半身と上半身の連動で必殺の型を生む。



「……………………ッ!!」




 ───水の呼吸 陸ノ型・ねじれ渦。

 ───破壊殺 脚式・飛遊星千輪。




「───────────!!」



 竜巻の如き斬撃と、嵐の如き蹴撃が激烈なる轟音を撒き散らす。
 地面が罅割れ、離れた鏡が割れ、最後に乱気流の中心から鮮やかな文様の背中が弾き出された。
 打ち勝ち直立するのは───猗窩座。
 
「冨岡ァ!」
「そうか。あいつの名は冨岡というのか。さっきから名を聞いているのに答えてくれないものだから俺は困っていたぞ」

 飛ばされた義勇に目立った外傷はないが、傷は徐々に増えていた。
 圧倒的な開きではないが、僅かな差がどうしても埋まらない。そして時が経つ毎にその開きは広がっていく。
 鬼は人に勝てない。その最大の要因。実力が伯仲なほどそれは響いてくる。


 このままでは勝敗は明白。ならばどうするか。
 不可避の結末を変える為には、新たな要素を加える必要がある。雅貴は何をすればいいか。
 ただ加勢するだけでは役に立たない。散らばっている鏡を見て、懐にしまい込んだカードデッキの存在を思い出した。
 中のモンスターは死んでしまったが、いちおうまだ使えはするらしい。纏えばまだマシに戦えるのでは。
 一縷の希望を抱きジャケットのポケットからデッキを取り出す。契約が切れて紋章のなくなった無地の表面を見つめた、その時。


「────────……っ!?」


 頭の中まで響くかのような耳鳴り。鼓膜に突き入って来るかのような不快音に顔を顰める。
 戦いの破壊音を聴いた余韻が鼓膜の中で残っていたと考えていたが、それは止む気配もない。
 むしろより強まって異常を際立たせてきていて、耳を押さえても聞こえていた。
 
 聞こえているのは雅貴だけではない。義勇も猗窩座もその異変に足を止めた。
 目の前の敵から目を離せない、命を削り合う死線の只中にあって、些事と流せない『何か』の息を感じ取って。


 共鳴。あるいは呼び声か。
 耳鳴りは収まらず、今までの戦いと全く別種の気配が周囲を覆う。
 今やどの強者よりも場を支配した『ソレ』は、戦人に動くのを許さぬと縫い止め、時を徒に消費させる。
 そして─────。





  ◆

729FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:11:03 ID:p2F40R1k0






「あ、ぐ、ぁ───────────!?」


 広大な自衛隊基地の敷地で、それをかき消すかのような悲鳴が上がった。
  
「姐切!? おいどうした!?」
「わかんねえ、急に、目が……!」

 姐切は腫れた右目に手を当て、立てなくなって蹲る。
 それまで鈍痛で済んでいたのが、急に焼きごてでも当てられたかのような熱さと痛みを訴えてきた。
 走ろうとする意識が、体内の命令系統が痛みの一言で埋め尽くされ、身動きが取れない。

「……見せてくれ」
「永井、お前わかるのか?」
「ただの医者志望の高校生程度の知識だけどな!」

 足踏みも言い争いしてる時間もない。せめてどういう状態になってるくらいかの情報がなければ先に進めようがない。
 圭は膝を折って姐切の容態を窺う。

「……なんだよ、これ」
 
 顔を隠す姐切の手をどかした圭が、うめきを漏らした。
 亜人になって以降、人の死に様はかなり見てきたり体験したが、こんなかたちは流石に初めてだ。
 腫れや化膿の症状おはまったく違う『変化』だった。

「蛇の、鱗……?」

 いつの間にこうなったのか。少なくとも出会った当初はこんな目立つ形ではなかったはずだ。
 姐切の眼窩の窪みを中心にして、皮膚が鱗状に角質化していた。
 ささくれだった鱗が、触れてないのにかさかさと揺れ動いている。
 変貌を遂げているのは皮膚だけでなく、奥の眼球もだ。いわゆる有鱗目の属する、爬虫類じみた縦長の瞳孔が圭を睨み付けている。

 眼は、悶える姐切の意識を無視して、別の生き物であるかのように圭は見ていた。
 それはさながら、獲物を見つけた捕食者を見る眼で。
 諺のまま金縛りにかかって動けなくなる。蛇は顎を大きく開き、嚥下した圭がこなれるまでゆっくりと腹の中で溶かして───
  


「傷病者ですか?」

 異常な症状にに的確な対処が思いつかないまま硬直していた時を動かしたのは、突如聞こえた女の声だ。
 赤い軍服。つかつかと靴音を鳴らす緋色の意志。呑まれかけていた圭を引き戻す程、見る者の目を奪う鮮烈な印象。
 二人といない劇濃の特徴を持つ人物は、一足先に自衛隊基地で治療活動を開始していた英霊ナイチンゲールに相違ない。

「だ……誰あんた?」
「巡回中の看護師です。それより傷を負った者がいるのですね? すぐに見せてください。一分一秒の迅速な応急手当てこそが救命措置においてもっとも重要です」

 口で理念を語りながら、手はとうに実践の為の工程に着手している。
 誰に言っているかわからない発言の威に、周りの面々は後ずさりして道を譲る他なかった。
 そこに傷ついた人がいるかどうか。バーサーカーとしての彼女の焦点はそこに固定されている。
 工藤達の素性も、基地内に入った目的も、無視して飛ばす要項でしかない。
 苦しむ姐切を介抱し、淀みのない熟練にしか出せない手つきで患部を観察する。

「これは───切除ですね。間違いありません」

 どこからともなくメスを取り出して、看護師は早々にそんな結論を口にした。

「目の腫れに激しい湿疹。感染症の恐れがあります。進行具合からして患部に根深く食い込んでいる。これはもう切除する他ありません」
「おいおい、おいおいおい。いきなり切るとか何言っちゃってんのこの人。
 そいつにかかってる呪いを解かなくちゃさ……」

 冷静、かつ物騒な処置を言い出したナイチンゲールに食ってかかる工藤。
 姐切の心配をしてるわけじゃない。通常の医療で収まる範囲の霊障だと教えてあげようという彼らしからぬ親切心からだ。

730FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:12:43 ID:p2F40R1k0


「呪い? 何を言っているのですか? 今はオカルトではなく医療の話をしてるのですが」
「いやだからさ、この子は、蛇女に、呪われてんの! 日本語通じてる? 海外じゃ、あーあれだメデューサとかいやわかるの?」

 だがそれが逆にナイチンゲールの逆鱗に触れた。

「妄言を吐くのも大概にしなさい。呪いで人が死ぬわけないでしょう」
「は!? はああー!? なんだとこの牛乳女ぁ! 人が親切に教えてやってんのによぉ!」
「あー工藤さんストップ、今は抑えてくれここで騒いでも話がこじれちまうから!」

 そして工藤も逆ギレした。
 無意味な諍いで浪費してる時間は無いというのに。言い出しっぺの工藤がこのザマである。
 当初の目的もすっぽり抜け落ちて、鬼の形相で拳を振りかぶって殴りかからんとする工藤を、善吉が後ろから羽交い締めにして制する。

「げ、ヤッベ……っ!」

 そんな愚行を咎めるように、アスファルトを切りつけるタイヤと剣戟が敷地内に鳴り響く。
 煉獄達が押し留めていた人斬り武者が、遂に敷地内に入ってきた音だった。
 その音にナイチンゲールも首を向ける。今は点でしか見えない武者を確かに捉えて、眼光を鋭くし。

「……む、貴方がたも要救護対象でしたか。ならばここでは治療の妨げになりかねませんね。
 幸いにも優秀な助手が出来たところです。手分けして両面から根治させましょう。皆さんは彼女をこの先の救護室へ。
 私は、あの病原を駆逐します」

 生を連れ去り、死を持ち運ぶ源はすなわち病である。
 であれば、病から人を救う看護師が立ち向かうのは道理。
 まだ救命の見込みがある者と、今すぐにでもここにいる全員を殺してのける者とを秤にかけ、速やかにトリアージをつける。
 鋼の白衣が鬼という病の駆逐に戦線に加わるべく駆けて行く。



 少しだが。風向きがよくなった。想定とは違うが、助勢を得るという工藤の目論見はここに叶うことになった。
 医療に通じた看護師という、これ以上なり求めていた人材にも出会えて。姉切にも治療の目処が立ってくる。

「よし、これで……」

 なんとかなるか、と誰かが漏らしたその、直後。
 悲鳴にも似た高音が、全員の耳朶を叩いて揺らした。

「ああ……? なんだこの音? お前ら聞こえてる?」
「工藤さんも聞こえるんすか? なんていうか、こう、ガラスを爪で引っかいたみたいなイヤな音が……?」
「みんなに聞こえてる、のか? 鼓膜の異常だけじゃ説明がつかないぞ」

 ただの耳鳴りにしては不気味な響き。それが全員に等しく伝わってる事に困惑が広まる。
 ざわ、と辺りで音がした気がした。
 それは本当に錯覚だが、全員が共有した感覚だった。
 耳障りな不協和音が響き続け、すぐでにも黙らせたいのに、そうすることができない。
 状況は変化し、恐ろしい脅威はすぐそこまで迫り、一刻の猶予もないのに、誰も動こうとはしない。
 時間が停まってしまったのかと思うほどの、それは不気味な静寂だった。音が聞こえる者だけが、世界から切り離され孤立していた。




「く、工藤さん……」

 最初に気づいたのは前園だった。そして時間が再び動き出す。
 慇懃さの失せた驚愕に染まった顔でひとつの場所を指さす。そこはコンビニエンスストアだ。
 2エリア分の敷地を占める基地にはこうした商業施設までも設置されている。
 その再現であるコンビニの壁、鏡張りになっている鏡面の中に───────いた。

731FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:15:29 ID:p2F40R1k0

 

「へ、蛇女…っ!」


 今度ははっきりと輪郭を顕にしていた。
 異端の長髪。時代錯誤な着物。頭頂に生えた二つ角。眼は血走り、脚ではなくのたうつ尾が見えている。
 見れば誰もが疑わぬ蛇女そのものの姿が鏡には映っていた。
 
「うおおおっしゃあ! 出やがったなまたバケモン! ……あれ?」

 突如出現したターゲットを見て、興奮を取り戻す工藤。
 髪飾り入りの袋を取り出して再度捕獲に乗り出そうと勇むが、振り向いた方角に何故か蛇女の姿はなかった。

「いねえ、いねえぞコイツ!?、そこに映ってるのにどこにもいねえ!」

 どこに目を向けても、倒れる姉切、前園達の他には無人の路地が広がるのみで、怪物は影ひとつ見当たらない。
 改めて鏡を見れば、なおも変わらず怪物はそこにいて禍々しい眼で睨めつけている。

「まさかこいつ……鏡の中に……?」

 誰もが有り得ないと思いつつも、思わずにはいられなかった想像を口にした、その瞬間。

 ばん!と、音がした。衝戟でコンビニ全体が震え出す。
 怪物が、両手を壁に激しく叩きつけて生まれた音だった。
 いや……工藤達からの視点ではそう見えるが、怪物は鏡像の中にしかいない。
 ならば怪物側からすれば、今のは『扉』の外にいる工藤達に狂ったような動作で飛びかかろうとした動作だ。

 怪物は『扉』を叩き続ける。何度も、何度も。コンビニは全体が激しく揺れ、今にも倒壊しそうだ。
 それでも破れないことに業を煮やすように、怪物は手をぴたりと『扉』に張り付ける。
 押し付けられた掌が指紋までもくっきりと見えるほど。
 そのまま指をついと離し、しかし唯一離れず壁に垂直に立てた爪を、割れんばかりの勢いで思い切り手をずり下ろした。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」 

 身の毛もよだつ、金切り声の如き音が鳴った。
 それは、怪物が現れる直前に聞いたあの高音と同じ音であり、怪物が外に出ようとして『扉』を引っ掻いていた音だったのだと全員は把握した。

 先程からずっと流れて、急速に密度を濃くしていった異様な空気は、ここでひとつの臨界を迎えた。


「ア─────────あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「姉切!?」

 耳を劈く、身が竦むほどの絶叫。 
 横臥していた姉切の片目が突如大きく見開かれ、そして口が壊れたように開かれて───
 その蒼白な顔は一瞬にして凄まじい恐怖の色に彩られ、凄まじい悲鳴が迸り出た。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ─────!!!」


 悲鳴は終わらない。
 人間が許容する肺活量をとっくに越えた声量声音はサイレンにも似て、基地内全てにくまなく行き渡っていきそうなほど深く響いた。
 
 そのサイレンが呼び水となったのか、コンビニはおろか周囲のあらゆる建造物が土台から震動する。


 鏡の中の怪物が壊れたように笑う。


 そして───






732FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:16:28 ID:p2F40R1k0






 ───また誰もいなくなっちゃった……。

 ひとり、救護室で取り残されたかぐやはぽつねんと途方に暮れていた。

 かぐや以外、集まっていた同行者は既に部屋を出ていた。
 義勇が婦長ことナイチンゲールに延々と質問責めされてる最中に、「ちょっと野暮用があるわ」と気づかれないようにこっそりと雅貴が部屋を抜け出し。
 「巡回活動に入ります」と一通りの処置を済ませたナイチンゲールが、かぐやに細かいを指示を下した後去ってしまい。
 最後に残った義勇も「鬼の気配がする。お前は残っていろ」と言葉短く早々に出てしまっていた。

 ───いや、この人もいるけど。まだ眠ってるし……。

 ベッドですやすやと寝息を立てている女剣士───新免武蔵を横目で見やる。
 ここに担ぎ運ばれた頃は危篤寸前の重態だったが、ナイチンゲールが八方手を尽くしたおかげで、一命は取りとめていた。
 今では寝言でうどんだ美少年だかと零すぐらいだ。とても腕一本を斬り落とされた後の容態とは思えない。
 武蔵の名前も素性も預かり知らないかぐやだが、藤原書記並に図太い人物なんだろうなと勝手に決めつけた。煩悩の深さや、体型とかで。
 腕、という単語を脳裏に浮かべてかぐやの顔が青ざめる。未だ自分のデイパックで彼女のナマ腕が埋まったままだったのを思い出してしまった。
 今すぐ捨ててしまいたくて仕方ないが、その為に手を突っ込んで探り当てる気にもなれずひっつけたままにしてしまっている。
 持っていてと言われたがこんなのどうしろっていうのか。投げつけて餌にすれとでもいうのだろうか。
 
 ───いけないいけない。こんな時こそルーティーンルーティーン……。無駄に消耗してはいけないわ。

 心を落ち着かせつつ、かぐやの思考は緩やかに正常な方向に回り始める。
 生徒会のはっちゃけた日々で行為が暴走する気が増えてきているかぐやだが、基盤は酷薄に理性を回せる人間だ。
 あの暖かい生活が戻ることがない今、どうすることが求められるか、必要とされる優先事項かを測れる精神状態にある。

 現況、かぐやはひとりではあるが、危険ではない。 
 いや……かなり危ないわと思える人は多少いるが、少なくともかぐやや白銀御行を害する相手ではないぐらいの判断はつけられている。
 その思考も殺し合いに反抗するスタンスであり、かぐやの未知の知識、何より力がある点は頼りになる。
 ならばかぐやが取るべき行動はひとつに絞られる。余程の事がなければ同行するのが最良。最低でもパイプは維持しておくべきだ。
 自己の生存だけでなく、それが白銀御行の早期発見と保護に直結する。
 故にこそ今は静養し、体力と精神の回復に努める。
 疲ればかりが募る展開だった時間の中で、漸く訪れた休息だ。配分の見誤りは生死を分かつ。
 今後これだけ条件で休める保証はない。パフォーマンス維持の観点からも正しい。

「……」

 せわしなく足を組み替えてはそわそわと辺りに目を泳がしたりと、落ち着きがない。
 すぐにでも飛び出して会長を探したい思いに囚われている。
 無謀で徒労だと、そう存分に弁えた上で、それでもと逸る気持ちを、かぐやは押さえ切れてはいなかった。
 そうなる理由は自分で把握できている。だからこそ厄介であった。 

「ひとりぼっち……かぁ」

 自分はこんなに弱い人間だっただろうか。
 暴力と血の死の渦巻く世界に突然置かれれば一般人としては当然の反応だが、自分自身ではそう思い込めない。
 ……本当は分かってる。始めから、自分は弱い人間だったと。
 嫌われるのが恐くて、傷つけるのが恐かったから最初から遠ざけた。
 臆病だから他人を嫌悪し、見下し、侮蔑し、猜疑し、排他して、そんな自分が嫌いで、けど誰もが踏み出す一歩を踏み出せない。
 自分は優秀であっても強くなくて。弱さを武器にしてしまう女だった。
 華やかな生活を送りながら、ずっと全てを疑いながら翳り生きていくしかない。
 
 だからこそ、そうではない人を尊く思う。
 貧しくても。恵まれなくても。腐らず、僻まず、前に進もうとする人を愛しく思う。
 頭上に煌めく月ではなくて、路傍に転がる石にこそ心を照らして欲しかった。

 そうなりたいと思わせてくれたのは。
 いらないものとして捨てた良心(もの)を掘り出して、おっかなびっくりにでも前に進みたくなったのは。
 紛れもなく疑いなく、閉じていた扉の先から光を見せてくれた─────

733FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:17:17 ID:p2F40R1k0

 

「……!?」


 物思いトリップに耽っていた精神が、慌ただしい物音で引き戻された。
 救護室の扉が開かれはしなかった。ただ扉の前を走って通り過ぎただけらしい。
 
「……会長?」

 根拠のない妄言は、何故だか否定しきれない色が混じっていた。
 どうしてそう思ったのか。ただ直前まで彼のことを考えていただけで、その妄想の延長ではないのかと自問自答する。
 まさか足音だけで会長であるかを判別できるまでに極まってしまったのか?それは流石にドン引きものでは?いやその程度は容易に見極められてこそ妻ではないのか。誰が妻よ!

「……」

 混乱する脳内議論をよそに、体は正直だった。
 おそるおそる、念の為荷物を持って扉の外を窺い、走り去った音の方角へ向かう。
 四宮の家でも流石に目にしない重厚な銃器の感触が精神を補強した。あるいは狂気を加速しているのかもしれない。
 足音を出さないよう、注意を払って廊下を進む。十歩分進んだのか、それとも百なのかも曖昧になる緊張した空気が満ちていく。

 そして、かぐやは見つけた。
 窓はなく電灯が行き届かず仄暗くなった廊下の窪みで、肩で息を切らす後ろ姿。金の髪に、黒の制服。
 
「会長!」

 その背格好を見間違えるはずがない。
 隣立つ位置から網膜に焼き付くほど見てきた白金御行の後ろ姿だ。たとえ百万の群衆からでも見分けられる自信がある。
 立ち込めていた不安はかき消えて、再会できた喜びと安心感が脳髄を包んでいく。

「よかった……無事だったんですね……! わたし、ずっと不安で……」
 
 普段生徒会に晒している、凛としたかぐやの態度からは多少乖離した弱々しさかもしれない、とどこかで思う。
 けれど、それを包み隠せるだけの余裕は今のかぐやには保てはしない。
 疲弊した心身を支える拠り所だった白銀と会ったことで一時的に普段のペルソナが剥がれ、幼い面のかぐや───いわゆる(アホ)状態に以降しかけていた。

「ん…………………ああ、ああそうか。そうだよな。もうすぐ、言えるんだったよな。ならいいか、うん」

 呼びかけられて振り返った白銀は、どこか上の空なままにかぐやを呆と見つめ。

「ああ。俺も、お前にずっと会いたかったよ」
「──────!」

 かぐやの心臓に、稲妻が直撃したかの如き電撃と熱が走る。
 顔が熱い。手汗が凄い。羞恥と多幸感がブレンドされた脳がシェイクされていく。
 言葉の通り安心を確かめただけにしても、実にストレートな告白の響きに心臓の鼓動は早まるばかり。
 これはもう、一日に摂取できるハッピーの量を越えてしまっている。
 日々更新されていく胸キュンワードで早くもトップ3まで昇り詰めていた。

「そ、そそそうだ会長、制服もそんなにボロボロで、ひょっとして怪我をしているんですか? たいへんです急いで救護室へ行きましょう。
 ちょうどさっき看護実習を受けましたので処方はバッチリです。疚しい気持ちなんてこれっぽっちもありませんのでさあ早く上着をこちらへ───」
「ん? ああ、大した事はない。ちょっとヘマをしただけだ。今の俺なら心配いらないさ」
「そう、ですか」

 にべもなく拒否されて、ちょっとシュンとなる。
 でもこんな状況でもクールさを失わないのは流石だと惚れ直す。

 それにしても───今日の会長は雰囲気が違って見える。
 所々擦り切れて破れた制服は、生徒会長らしい模範的な着こなし方とは違うギャップがあっていい。
 長袖でわかりづらいが少し筋肉質っぽくて、ワイルドみが増している気がする。
 特にいつも以上に濃くなった目の隈が素敵だった。一度徹夜したのを介抱した時よりさらに深刻になっていて、更には目も充血している。

 ───ああ……やっぱり無理してるんですね。私の前だからって格好つけるなんて本当に……もう。 

 見た目が好みストライク過ぎて、一周回って逆にクールダウンしたかぐやの思考が落ち着きを取り戻し始めた。
 会長に会えたことは心から嬉しい。
 こんな非現実的な状況でもいつもの生徒会長らしく振る舞っているのにも、誇らしさと可愛らしさが同居してむず痒くなる。
 けれども、それなら自分ぐらいには、少しぐらい弱気を見せてくれたっていいのに。
 それぐらいの信頼関係は構築できてると思っていたのに自惚れていたのかと、我侭とわかっていても不満をこぼしたくなる。

734FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:17:58 ID:p2F40R1k0









「ああ、それに俺はとても気分がいいんだ。ようやく、お前と隣に立てる力を手に入れられたんだからな、■■」
「会長?」


 違和感が生じたのは、そこが始まりだった。


 会長の口調はどこか浮ついてるというか、高揚してるというか、地に足が着いてないようだった。
 飲酒?まさか。ただ近似した記憶が蘇る。これと同じような振る舞いをした人物を、かぐやは知っている。
 けどそれは有り得ない。会長はそんな態度を取ったことはないし、取るような人柄ではなかった。


 だって、かぐやが見ている白銀の在り方は。 
 酒に酔い。権力に酔い。
 自分で得たわけではないものを、何か見当違いをして振りかざし悦に浸る、四宮家の会合で見てきた醜い大人達、そのものだったから。


「勿論、今のままじゃまだ駄目だ。実際に■■の隣に立つにはまだ俺は強くない。恥ずかしい限りだが腹が減って仕方ないんだ。空腹なんて慣れてるのにな。
 思えばそれがよくなかったんだな。強くなりたくば喰らえ。その通りだよ。人を食べるほど俺はどんどん強くなれる」

 拭えぬ違和感は歪みになり、修復できぬ亀裂を生み出していく。
 会長はかぐやを見ていない。
 誰かがいることは見えていても、現実の目に見えてはいなかった。
 男はただ、目の前のかぐやから虚像を投影して、何か自分に都合のいい独り芝居をしているに過ぎない。

「ああ、すまないな■■。だからもう少し待っていてくれ。
 俺はもうすぐそっちに行く。お前の隣に立つのに相応しい、いや■■以上の男になる。誰もが俺を認めざるを得なくなり、見下せなくなる存在に」

 亀裂は止まず、かぐやの信じた世界を崩落させていく。
 断崖の端に立たされたに等しい恐怖に駆られたかぐやは、それでも白銀に呼びかける。
 これは悪い冗談だと。藁にもすがる思いで。

「かい、ちょ?」

 声は、震えていた。
 恋も愛も、何も内に宿らないがらんどう。
 余りに空虚で、空気が漏れただけのか細い音でしかなかった。

 棒立ちする女を見て、男は愛おしそうに笑みを形作る。
 獲物を前に舌舐めずりする、それは獣(ケダモノ)の貌だった。









「ほら───目の前に、ちょうどいい女(えさ)がいるんだ」

735FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:19:11 ID:p2F40R1k0






 振り下ろされる狂気。
 細い首が爪に裂かれて、熱い鮮血を散らす。 
 
「ギャッ!」

 その寸前。
 かぐやの影から躍り出た、より濃く黒い影が爪ごと鬼を弾き飛ばす。

「え? なに?」

 知覚外で起きた攻防にかぐやは追いつけない。
 予想外の攻撃に落とした手荷物も気に留めず踵を返し撤退した白銀にも、潜めし影より再び消えた影にも。

「え?」

 何よりも、いま自分は、誰に、何をされようとしたのか。その認識にすら届いていない。
 無意識に起きた光景を拒絶し、解答の消えた疑問にかぐやは硬直する。
 そして───

 



 ◆

736FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:21:31 ID:p2F40R1k0







 蝶の如く舞う。
 超の如く踊る。
 一匹のケモノが宙で雀躍と跳び跳ねる。


 
 クラゲアマゾンの攻撃は、単調だ。
 背面からの伸びる触手を飛ばし、突くか払うか搦め捕るかのいずれかをする。
 速度と手数こそ脅威だが、本体の動きは亀のように鈍く、緩慢だ。思考パターンも機械的で多彩な戦術を練りもしない、ひたすら原始的な攻撃しかしてこない。
 保有能力のみを評価すれば、鬼とは呼ぶべくもない、虫と呼ぶべき存在だ。
 だがその速度と手数が一際図抜ければ、それは恐るべき脅威となる。
 オリジナルと呼ばれるアマゾン。その危険性は溶原性細胞のみならず、個体そのものの戦闘力の高さにある。
 最も完成されたアマゾンである水澤悠ですら、このアマゾンを前に一度の有効打も与えられないまま敗北したのだ。
 傍に守るべき者がいた点を考慮しても、一個体が持つには危険過ぎる性能である事が覆らない。


 穿通力、切断力、共に優れた触手を、見る者が羽と錯覚するほどの量を飛ばす。
 それだけで十分だった。圧倒的な速度と手数。これさえ揃っていれば、敵を殲滅するのに不足するものはない。
 興奮したピラニアの魚群に飲まれるようなものだ。人もアマゾンも、誰一人別け隔てなく飲み込む。穿ち、刻み、裂き、千切られるのみ。

 ではその透明な殺意の射程から尽く逃れられるのは、猿(ましら)の芸当か。
 いいや。宙を舞うのは尻の赤い猿に非ず。軽やかに、流麗に、翼なき身には仰ぎ見るしか許されぬ領域を我が物顔で占有するは、蝶と見紛う美体であった。


 現人鬼・波裸羅、この地にて初めての本格的な闘い。
 初めて見えた、少年勝次の時の戯れとは違う。
 決闘を見物した、剣士武蔵の時の試しとは違う。
 摘まみ食いとはいえ手心はない、ガチの気構えだった。
 自らの五体を余す事なく躍動させる昂り、心に惹かれるままに振るわれる殺戮武芸。
 そうして手折った花の実を全身に浴び、恍惚に破顔してみせる。

 触手が捉えられぬ飛空の種は足場。
 地面、塀、電柱、屋根、あらゆる障害物を足蹴にし、接地面が割れるほど力を込めて上に押し出す事で可能とした。
 慶安とはまるで違う町並みにも慣れ、勝手の違う感触に煩わされもしない。
 前後左右のみならず上下と移動域を増やす事で触手を散らす事で、被害を最小限に抑えていた。


 そう、最小限。
 初めての化粧で紅を塗りたくったように血に濡れた顔も、はだけた袴から覗く乳房や四肢に通った赤線も。
 波裸羅の体は銘刀同田貫でも骨にまで届かぬほど強靭だ。この程度は軽傷。むしろ戦に相応しい化粧であるともいえよう。


 にたりと、波裸羅が笑う。
 今度は避けもせず、降りかかる肉の槍衾の中を恐るるに足らずと掻き分けて前進する。
 如何に高速で数が多いとはいえ、こうも乱発すれば目も慣れる。
 波裸羅ならばさらにその先、その身であえて受け続ける事で肌感覚で軌道を読む事まで可能になる。
 檻の肉格子を抜け、遂に本体に迫り旋脚を見舞う。

737FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:22:23 ID:p2F40R1k0


「ぐふ!」

 幾重に固まった触手の繭に弾かれて、波裸羅の体が吹き飛ばされた。
 クラゲアマゾンに届いたのは血反吐の飛沫のみで、詰めた間合いを離され、振り出しに戻された。
 

 「強いな、海月(くらげ)」


 両腕をだらりと下ろし、血の混ざる涎を垂らして、やはり波裸羅は笑みを崩さない。
 散り際に微笑まぬ者は生まれ変われないと知るような、おぞましくも狂おしい笑みだった。

「だが勃たんぞ。凶剣(まがつるぎ)を昂らせない戦いぶりで、波裸羅を殺せると思うたか!」

 列挙すれば確かにクラゲアマゾンは『強い』と評価するに相応しい猛者だ。
 しかしそこには華がない。慧漏(えろ)さが足りない。
 色も感情も介さぬ虫相手と張り合って何になろう。純粋たる命の奪い合いにも美はあろうが、人と鬼の戦いはそうはならない。
 骨肉をぶち撒け、五臓六腑を噴き出しても、波裸羅の戦いは『華』でなければならない。


「身持ちの固い赤貝の殻、そろそろこじ開けてくれようか」

 破れた袴がずれていよいよ裸身間際になった懐から刀を抜き取る。
 刀身の半ばが折れた日輪刀。宮本武蔵から譲り受けたそれは敵を斬る為の武器に非ず。之こそは、無双化身忍法の極意也。

 クラゲアマゾン、正確無比の触手突きに波裸羅は驀進。
 串刺しの再演を見せるかと思いきや、波裸羅に触手は一本足りとも届かない。
 触手は伸びなかった。細く鋭利な無数の手は、波裸羅から噴き出した血が変質した蝶が絡みつき、動きを封じていた。
 忍法【婆斬羅蝶】。婆斬羅とは怨身忍者の血液の中の金属成分。婆斬羅蝶とは即ち金属粉塵を一帯に充満させる技。
 その意味、危険性を解する知能をアマゾンは持たず、代わるように波裸羅が己の腹に乱れ刃をねじ込んだ。


 爆発。
 爆散。
 石造りの家々を巻き込んだ爆心地にて立つ異形は……二つ。
 一つはクラゲアマゾン。婆斬羅蝶が張り付いた触手は吹き飛ばされながらも本体は健在。
 そしてもう一つの影。之こそはバトルロワイアルにて初のお目見えとなる衛府の鬼の姿。
 世に類なき見目形。百鬼夜行の頂きに咲く黒薔薇(そうび)。
 現人鬼なりし波裸羅が顕す、第四の怨身忍者!



「!」



 咄嗟、波裸羅は『呼び声』を聞いた。
 口上の最中に中断という無作法を晒してでも見逃せぬ、己を呼び寄せる声を察知した。
 声の元の仔細は読み取れぬ。だが現人鬼は無数の鼓動を離れていながらに感知し、地獄の底から湧く灼熱の躍動に胸震わせた。
 
「この波裸羅を差し置いて催し物か! 弩(ド)許せん!!」

 跳び立つ。
 絶好の機会を得ていながらクラゲアマゾンを放置し震源地へ向かう。
 なにせ波裸羅を直々に指名しての誘いで。これで乗らねば鬼の名が廃る。
 脳に送られた信号だけで甘美なる味を見た。ならばこの鉄火場の渦中で味わうものは如何ほどのものか。
 稀に見る極上の馳走に向けて波裸羅は走る。正銘の鬼と化した肉体はコンクリートの森を抜けて祭りの場所を只管目指す。
そして───




 ◆

738FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:25:00 ID:p2F40R1k0






 そして───『扉』が開く。

 叫び声と、反響が、不協和音の二重奏をかき鳴らした時、自衛隊基地内のガラス、鏡、全ての『映すもの』が砕き割れた。

 段々と薄くなっていた現実の異界の狭間の境界が、最後の一押しによって破壊される。

 割れた先には何もない。幾何学的な異次元に繋がってもいなければ、常識を冒涜する怪物も出てこない。
 


 出てきたのは、割れた鏡面の破片からだ。


 
 大小様々なサイズに割れて四散していく破片の中から、一本の手が伸びた。
 それは細長く、まるで青黴たミミズのような造形で、それ自体が意思を持ってるかのようにのたうって破片から這い出てきた。
 宙に舞ったひとつずつの破片から、ひとつずつの触手。無数の破片から無数の触手が波濤の如し勢いでなだれ込む。
 あらゆる区別をつけず四方八方から殺到する触手は、手当たりしだいに生きとし生けるものに絡みつき、抗えない強制力をもって引き寄せていく。




 全ての破片が地面に落ちた時、自衛隊基地は無人になっていた。
 人も、鬼も、どこにもいない。ただ、至る箇所に散乱するガラス片や割れた鏡が残るのみだった。





 ◆

739FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:27:22 ID:p2F40R1k0


















 【   異 界      領 域 展 開   】 

















740FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:32:27 ID:p2F40R1k0
【???/???】

【永井圭@亜人】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、ナノロボ入り注射器@ナノハザード
[思考・状況]
基本方針:佐藤を倒す
1:使える武器や人員の確保。
2:雅や猗窩座といった鬼達を警戒。
3:波裸羅を上手く対主催側に誘導できないか。
[備考]
※File:48(10巻最終話)終了後からの参戦
※亜人の蘇生能力に制限らしい制限がかけられていないことを知りました。

【人吉善吉@めだかボックス】
[状態]:精神的疲労(小)、全身にダメージ(大) 、頬に傷
[道具]:基本支給品一式、御行のママチャリ、佐藤のコルトガバメント(レッグホルスター付き)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。めだかちゃんに勝つ。
1:めだかと球磨川との早期の合流。もしも殺し合いに賛同するような行動をとっていれば、自分が必ず止める。
2:波裸羅に感謝すると同時に警戒。

【煉獄杏寿郎@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 、煉獄杏寿郎の日輪刀@鬼滅の刃、日本刀@彼岸島、涼司の懐刀
[思考・状況]
基本方針:力なき多くの人を守る。
1:目の前の者達を守る。
2:炭治郎、禰豆子、善逸、義勇、しのぶとの合流。
3:無惨、猗窩座には要警戒。必ず討ち倒す。
4:日輪刀が欲しい。
5:雅のような鬼ではない存在の討滅手段を探す。
[備考]
※参戦時期は死亡寸前からです。

【宮本武蔵@衛府の七忍】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(小)、頬に傷。
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、武蔵の剣@衛府の七忍
[思考・状況]
基本方針:この世にまたとない命を散らせる――鬼を討つ。
1:鬼を討つ。
2:事情通の者に出会う。
3:煉獄や波裸羅から、さらに詳しく事情を聴く。
4:波裸羅に対し一騎討ちを望む。
[備考]
※参戦時期、明石全登を滅したのち。

【工藤仁@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、ステルスドローン@ナノハザード、口裂け女の髪(強化後)@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!
[思考・状況]
基本方針:脱出はするが、「コワすぎ」も撮るに決まってんだろ
1:化け物(禰豆子)にマッチアップする別の化け物を探す
2:ステルスドローンを回して撮影する
[備考]
※参戦時期は「コワすぎ! 史上最恐の劇場版」開始前。タタリ村へ乗り込む準備中

【姐切ななせ@ラブデスター】
[状態]:呪い、目が腫れている、■■症状進行、
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2、蛇のお守り@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!、藤の花の毒付きの苦無@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:脱出する
1:????????????
[備考]
※参戦時期はキスデスター編終了後
※清姫のシャドウサーヴァントとの接触で呪われました
※目の腫れ方は「コワすぎ劇場版:序章」における市川のそれと酷似しています

【前園甲士@ナノハザード】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1、ベレッタM92F@現実、青酸カリ@現実、人肉ハンバーグ@仮面ライダーアマゾンズ、ナノロボット(円城)のサンプル@ナノハザード 、圧裂弾(5/6)@仮面ライダーアマゾンズ、『顔のない王』@Fate/Grand Order、ステルスドローン@ナノハザード、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)、ランダム支給品0〜1(累のもの、未確認)
[思考・状況]
基本方針:人を殺してでも生き残る。
1:人間よりも強い『超人』を利用して禰豆子と殺し合わせる。
2:工藤・姐切を利用する
[備考]
※参戦時期、未定。後続に任せます。

【源頼光@Fate/Grand Order】
[状態]:健康。中度の疲労。
[装備]:絶刀・鉋@刀語、弓矢@Fate/Grand Order 、ハーレー・ダビッドソン(雅貴)@HiGH&LOW
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針: 英霊剣豪として一切合切を粛正する。
1. カルデアのサーヴァントを排除する。
2.もう一体の鬼については状況を見て判断。
[備考]
※源頼光ではなく、英霊剣豪七番勝負のライダー・黒縄地獄としての参戦です。

741FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:33:10 ID:p2F40R1k0

【新免武蔵守藤原玄信@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(小)、右目に眼帯、右腕が斬られた・隻腕、血まみれ(いずれも応急処置済み)
[道具]:物干し竿@Fate/Grand Order(半分斬れてる)
[思考・状況]
基本方針:無空の高みに至る。藤丸立香と合流する。
1:----------
2:強者との戦いで、あと一歩の剣の『なにか』を掴む
[備考]
※参戦時期、セイバー・エンピレオ戦の最中。空位に至る前。
※彼女が知っている藤丸立香は、というより何故かこの宮本武蔵は、『男の藤丸立香』を知る宮本武蔵である。
※応急処置で一命は取り留めました。

【雨宮雅貴@HiGH&LOW】
[状態]:疲労(中)、腕に痺れ
[装備]:ハーレー・ダビッドソン VRSCDX【ナイトロッドスペシャル】@HiGH&LOW、明神切村正@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式、コブラのスカーフ、カップヌードル 北海道ミルクシーフー道ヌードル×数個@現実、オルタナティブ・ゼロのカードデッキ(ブランク体)、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:弟、仲間と一緒に生還する
1:禰豆子のもとへ義勇を連れていく
2:広斗との合流
3:中野姉妹、鑢姉妹、竃門炭治郎を探す
4:村山とスモーキーは……まあ余裕があったら探してもいいかな
5:いずれ水澤悠、竃門禰豆子と合流する
6:あのクラゲのバケモン、なんか気になるんだよな
[備考]
※水澤悠と情報を交換し、数時間後に落ち会う約束をしました。落ち会う日時は、第三回目の放送後のC-7・街(悠たちと別れた場所)です。
※鑢七花を女性だと確信しています。

【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[装備]:無毀なる湖光@FGO、
[道具]:基本支給品一式×2、木剣、ランダム支給品0〜3、真っ二つの半半羽織(私物)@鬼滅の刃
[思考・状況]
基本方針:鬼舞辻無惨を討つ。鬼を切り、人を守る。
0:禰豆子と会い、人を食ったかどうかを見極める。もしも食っていれば斬り、炭治郎に伝えた後に共に切腹する。
1:鬼を斬る。
[備考]
※参戦時期、柱稽古の頃。

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい】
[状態]:疲れ、混乱
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、H&K MP7@仮面ライダーアマゾンズ、武蔵の右腕、フィーリング測定機@ラブデスター
[思考・状況]
基本方針:私はスキを諦めない
0:え?
1:会長と会いたい。え?
2:石上を殺した犯人を許さない。
3:巌窟王さん……本当にいたのね……
4:なんだか銃の使い方がわかった気がする
[備考]
具体的な参戦時期は後続に任せます

【フローレンス・ナイチンゲール@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(大)
[道具]:基本支給品一式、魔術髄液@Fate/Grand Order(9/10)、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:救う。殺してでも。
1:目の前の病に侵された者たちを治療する。今の優先対象は黒縄地獄。
2:傷病者を探し、救助する。
3:童磨は次に会ったなら必ず治療する。
4:『鬼化』を振り撒く元凶が、もし居るのなら───
5:かぐやの治療は特効薬の結果を見るまで保留。エドモン・ダンテスは捕獲次第直ちに治療する。
[備考]
※参戦時期はカルデア召喚後です。
※宝具使用時の魔力消費量が大きく増加しています。
※円城周兎からナノロボについて簡単な説明を受けました。
※沖田総司をカルデアに召喚された沖田総司であると認識しています。
※情報交換により前園、権三の情報を得ました。
※ナノロボの暴走による爆発に巻き込まれましたが、現時点では影響は不明です。

【エドモン・ダンテス@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:復讐。脱獄。その手助け。
1:巌窟王として行動する
2:何のかんの言いつつ、かぐやに陰ながら同行し、そのピンチには駆けつける(?)
3:メルセデスの治療は避ける。
[備考]
※参戦時期、他のFate/Grand Orderのキャラとの面識、制限は後続に任せます
※ナイチンゲールから見つからないところに消えましたが、かぐやになんかあったらすぐ駆け付けられるくらいのところにはいます。

742FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:33:27 ID:p2F40R1k0


【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針: 強さを求める。
1.無惨様のために動く。
2.鬼殺隊、それに童磨か……。
3.新たな鬼(白銀)は妙に不愉快だ。
4.自衛隊入間基地に身を置き敵を迎え撃つ。
[備考]
※煉獄さんを殺した以降からの参戦です。

【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
[状態]:鬼化、軽い飢餓、強い怒り
[装備]:
[道具]:可楽の羽団扇@鬼滅の刃、ランダム支給品0〜2(猗窩座)
[思考・状況]
基本方針:この力を振るって、■■の隣に。■■に■される、自分に。
1:無惨様の役に立つ。
2:人吉善吉、次に会ったら必ず殺す!
3:自衛隊入間基地に身を置き敵を迎え撃つ。手段は選ばない。
4:武器庫の防壁は……
[備考]
※奉心祭の準備を視野に入れるぐらいの時期。
※無惨の血によって鬼化しました。与えられた血は比較的多量ですが下弦には及ばないぐらいです。順応すればまた違う変化があるかもしれません。


【波裸羅@衛府の七忍】
[状態]:健康、胸に傷
[装備]:派手な和服
[道具]:基本支給品一式、ナノロボ入り注射器@ナノハザード、ホログラム@ラブデスター、折れた嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、真田の六文銭@衛府の七忍
[思考・状況]
基本方針:びぃびぃの企画には現状惹かれていないが、割と愉快になってきた。
1:自衛隊基地に急行。催し物に飛び入る。
2:勝次のことは忘れぬぞ。
3:善吉の生き方が実に愉快。
4:永井圭に興味。
5:彼岸島勢に興味。すぐ隣に雅がいるなら、会ってみようか。
[備考]
※第十四話以降からの参戦。
※波裸羅の食料品は他の参加者と違い、桃100個が与えられています。



【C-4/1日目・午前】
【クラゲアマゾン@仮面ライダーアマゾンズ】
[状態]:ダメージ(大・回復中)、触手欠損(回復中)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本方針:――千■、■
1:邪魔する者は攻撃する。
[備考]
※九話より参戦です。

743FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:38:43 ID:p2F40R1k0



 




「え? なんですかこれ?」


「複数の参加者の配置と時間軸が一斉にジャンプ………………………え、まさかもう起きたんですか?」


「確かにMAP上の施設の幾つかは、彼らが居着きやすくなるスポットの条件を備えてますけど……まさかこんなに早く来るなんて予想外です。
 人にしろ物にしろ、よっぽど『出る』条件が揃ってたんですかね? 
 くじ箱に一本しかない大凶を一発で引き当てるなんて、いやー選ばれた人間の証ですね!」


「元々あの世界は、人の想像力を形にして産み出す土壌を持った、空想と虚構の鏡面界。彼らにとっても馴染みがいい。
 抑止の対称になる『外』からの来訪者にとっては、現実世界よりも顕現の制限は緩くなります。
 そして、あそこからなら現実に介入するのもまた容易となる」


「鏡とは境界にして繋げるもの。無限に合わせ鏡を繰り返す行為は、内と外の境界線に近づくのを意味する。
 好奇心によって怪物の棲み家に足を踏み入れ、頭から食べられるのは、人間の顛末のお約束ですからね」


「今後ですが、恐らくは実例に寄った形に変生する気でしょう。
 人を襲う鏡の中怪物。そしてそれと契約する戦士。時間ごと忘れ去られた物語の定番。そこに当て嵌めれば自ずと答えは出るはず。
 おっと、この場合は生贄と言った方が正確ですね」


「え? 対策ですか? 
 ……まあ、参加者の皆さんはBBちゃん特製の首輪をはめてますから、存在証明を保ってられる限り即消滅することはないでしょう。
 ギミック的に面白いので普段はオミットしてましたが、流石に乱入者の仕業で大量脱落なんてオチはゴメンです。企画の趣旨的に大・NGです!
 でも、ここで主催者権限でお助けしちゃうのも、バトロワ主催系ヒロインとしての評判に傷がついちゃいそうですし……。
 『やっぱりチョロインじゃないか!』『黒幕に反逆フラグ準備中なの?』『BBちゃんマジ劇場版三部作のメインヒロイン!』って!」


「というわけで、しばらくは経過観察です。
 放送を過ぎても死亡者カウントはしないでおくとして。
 タイムスタンプも押されてますので、帰還自体は理論上可能。自力で帰ってこれたなら言うことなし。
 彼らの底力と運命力、主人公力の発揮に期待するとしましょう!」

 



※放送を過ぎても会場に戻ってこれなくても、消えた参加者は死亡者にはカウントされません。

744 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:39:54 ID:p2F40R1k0
投下終了です

745名無しさん:2020/09/15(火) 10:31:02 ID:rIdecH2Q0
投下乙です
いったい何がどうなってるんだ…(真顔)
この非常時でも全くブレない工藤や、遂にかぐや様と会長が再会してしまったりと見どころが盛りだくさんだが最後に持っていかれた…

746名無しさん:2020/09/15(火) 10:58:30 ID:JrMcrIM60
投下お疲れ様でした。
局面が一気に動いたようで、また死亡者もどっと増えそうな予感が…
>>714
確かに2ヶ月放置で時間が飛んだ気がしますが〜…発言は気になるかもしれないが、投下していただいてる作者様のことも考えた方が良いかと。
こういう反応がスレが荒れる一端になるかもしれないので、以降はROM専します

747名無しさん:2020/09/16(水) 13:49:54 ID:ukmUsImY0
投下乙です

え?なんですかこれ?ってこっちが言いたいわ
時間軸まで飛んでるし本当に何が起きたんだ????????これ本当に第二回放送前
の話か????

748 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/23(水) 00:04:01 ID:PbKLJ8rc0
雨宮広斗、胡蝶しのぶ、日和号 予約します

749 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/29(火) 22:36:18 ID:YrfVv7mg0
投下します

750降龍落とし ◆0zvBiGoI0k:2020/09/29(火) 22:37:38 ID:YrfVv7mg0


 全身がくまなく装甲に覆われていながら、五感全てが鋭敏になっているのを広斗は知覚してる。

 スーツを絞るように着込んでいるのに窮屈さは全くない。むしろかつてない充実感がある。
 耳を塞いでるのに数百メートル先の足音が拾えるし、バイザーを被った先の視界は振り下ろされる刀身の歯並びまで見えている。
 感覚が飛びすぎて体が追従してこない、という不具合ももなくついてきている。基礎的な身体能力まで底上げされていた。
 思考した術理に即して現実で行動するまでのラグが極端に短くなって、最高のパフォーマンスを発揮できていた。


 汗と痛みを積み重ね続けた鍛錬の時間を無に帰すような、一瞬過ぎる強化。
 好みかどうかでいえば、はっきり言えば合わないものだ。
 道具に頼るというのが自分達の主義に反する。兄からの最初で大切な教えだ。
 だが特に癖者なのが装着するだけで身体能力が増強される点だ。

 急激な強化をされた身体能力に任せた動きだと、体に『クセ』ができてしまう。今まで覚え込ませてきた自前の格闘技の勘を狂わせる。
 脈絡なく、自分の愛機よりも一段上のマシンを与えられた気分だ。 
 ギアを少し回しただけで、予想していた最高速に達する。こんなものでは終わらない。まだまだ先がある、更に速くなれるという確信がある。
 全てを振り切った先に断崖絶壁に落ちるとしても、そのまま海原の上を飛んで往けるのだと、根拠のない高揚が体内を駆け巡っていく。

 力に酔って寄りかかれば、銃やクスリと同じように依存を深めるリスクを負う。
 重要なのは自己と外との境界を見極め、自分の本来の闘いの形を見失わないことと理解していた。
 そして広斗は、力に溺れず、技を失わず、教えを忘れもしない、それが叶う一流の戦闘者である。
 

 四連同時の剣舞の只中でいながら、未だ装甲には傷がなし。最小で、最速の体捌きで剣連の縫い目に潜り込む。
 一撃程度は耐えられる強度だとは思っているが、わざわざ受けてやる道理もない。体勢が崩れるだけでも事である。
 軽く打つだけで病室の壁が落雁のように陥没し、それで拳を痛めもしない。
 多椀多脚の四刀使い、異形の駆動をする日和号との戦いを前に、余計な思考を回せるほど余裕が持てていた。

 戦乱は荒れに荒れ切った院長室を抜けて廊下に移る。
 入院患者が行き交う構図上、病院の廊下は横に広く作られている。
 日和号の性能もここでなら不足はない。搭載された技能を存分に発揮できる。
 
「人形殺法・嵐」

 矢継ぎ早に繰り出される斬撃は人の域を越えた領域。
 音が置き去りにされるほどの剣速ではない。
 魔的なまでに磨かれ至高に達した技巧ではない。
 条理を捻じ曲げ超抜現象を発動する異能ではない。
 そういう領域の話ではないのだ。
 単純に呼気の間を必要としない機構であり、単調に一体に四本の腕がついている技工だ。

「人形殺法・砂嵐」

 命無き絡繰人形にしか成せない業の数々。
 人間は常に呼吸を必要とする。生存には勿論、戦いにも呼吸の仕方は導入されている。
 敵の呼吸のタイミングを見切れば攻撃のタイミングを測れるし、正しい息吹は体内の気の巡りを潤滑にし無駄なく全身を動かせる。
 それが無いという脅威。しかも備えられたその手は常人の倍の数。
 呼吸しない人間がいないように、体に腕を継ぎ足せないし、足したからといって自在に動かせるわけはない。
 人間でないこれは、始めから人間には絶対到達できない領域に立っている。
 故に其の名は『微刀・釵』。
 四季崎記紀の完成形変体刀が一。武器でありながら人である、恋する殺人人形とも言える刀である。

「人形殺法・台風」

 連綿と続く剣の気流。 
 間断なく繰り広げられる死の舞踊。
 対象の人間の完全な斬殺を確認しない限り日和号は止まらない。それ以外の理由で止めるという余分を持たない。

 肌を切り裂くまで。
 骨を断つまで。
 臓物を破るまで。
 首を落とすまで。
 脳漿をぶち撒けるまで。

 逸らず、驕らず、盲目的に剣を振る。
 唯只管(ただひたすら)に続け、続け続け、切り斬り舞と死を刻めつけようと腕を回し─────

751降龍落とし ◆0zvBiGoI0k:2020/09/29(火) 22:38:12 ID:YrfVv7mg0




「人形殺、」
 
 その日和号の動きが止まった。
 日和号の意思によるものではない。そんなものは搭載されていない。ただの使用技のシークエンスでしかない発音すらも途中で止まる。
 日和号は命令通りに目の前の人間を斬殺しようとし、その挙動を強制的に外からの力で止められたのだ。
 リュウガの双肩にいつの間にか装着されていた盾───ドラグシールドによって、左右から広斗を挟み込むようにした斬撃を遮られて。

 「─────法」

 後方に大きく吹き飛ばされた日和号から、止まった音声がノイズ混じりに遅れて出る。
 先程に広斗から貰った拳の位置に被せて放ったストレートは、傷の意趣返しとばかりに日和号の胴体をへこませていた。
 着物に隠れて見えないが、損傷は内部にまで及んでいる。声を軋ませた原因はそれだった。

「見せ過ぎだ。馬鹿でも見切れんだよ」
 
 カードを抜き装填するだけなら、広斗には幾らでも機会はあった。
 だが広斗はあえて攻撃の渦中に留まり、日和号の動きを分析する方に時間を回した。
 プログラム通りの正確無比さは、翻せば柔軟性に欠けるのを意味する。
 フェイントや牽制、心理の駆け引きもない真正面過ぎる剣筋は、広斗にすれば単調で読みやすい。
 それを短時間で続けられれば、行動パターンを先読みし、攻撃に差し込んでカウンターを決めるのは造作もなかった。
 広斗だけでは必死覚悟だったが、リュウガという恩恵はその無茶をやってのける土台となった。
 だが何より成功させたのはやはり広斗自身の経験。カードの力に振り回されない、百戦錬磨の雨宮兄弟に相応しい個の力に他ならない。 


 肝臓も顎打ちも人形には効果無しと判断して、遠慮なしの全力を込めた振り抜き。
 本当は寸胴まで貫通させるつもりだったが目論見が外れてへこませるまでに留まった。
 まだスーツに慣れきってない証拠だ。自戒して脳裏で踏み込みの深さ、力の流し方の誤差を修正。組み込んで実戦段階に仕上げる。

「人形殺法・鎌鼬」
「フッ──────────!」
 
 四刀を振り上げて生み出された風の刃が殺到し、広斗は肩のドラグシールドを外して投擲。
 縦回転する剛速球と化した盾が刃とぶつかり合い、互いの威力が相殺される。
 障害の消えた廊下を一気に疾走。迫る刀をバイザーのある腕でいなし徒手の間合いを奪う。
 人形は危機感からの瞬時の防御、土壇場での爆発力を発揮することができず。二度目のブローを甘んじて受ける他ない。
 威力を殺しきれず激突した壁が崩れ、向かい側の吹き抜けの中庭に落ちていった。


「人形殺法・微風刀風」

 足場を失い自重によって落下しても動揺せず、次の行動に移ってのけたのは流石に自動人形の強みだろう。
 空中で下半身を持ち上げて海老反りの体勢になり、四脚を十字状に開きプロペラの要領で横回転させ浮遊してみせた。
 変形機構。空中機動。戦国の乱世が終わり泰平が築かれる時代にあって先を行き過ぎている技術。
 現代に生きる者であっても目にすることのない、過去の遺物にして未来よりの異物。


 いずれにせよ、形勢はこれで覆る。
 上を取られることは、あらゆる戦場で遅れをとる死角となる。
 一方的に攻められ、こちらの反撃は届かない。とりわけ近接格闘の武芸者にとっては致命的な急所。
 無論、上を取られたらの話だが。

「遅えよ」

 浴びせられる声のした方角は、天。
 プロペラになった脚を旋回させ上昇しようとする日和号の、更に上空から広斗の駆るリュウガの姿が落下する。
 破壊された壁の隆起を基点に跳躍しての垂直壁蹴り。戦場における日和号の計算の先を行き、制空権を確保した。


 落下しつつも姿勢を保ち、全身のバネを回したリュウガの片足が可動域限界まで上がる。
 その様はまるで、獲物を食い千切らんと開かれる龍の顎が如く。 
 重力加速をも味方につけた黒耀の踵が、日和号の脳天目がけて打ち下ろされる。

 ───空中回転踵落とし。
 生身相手であれば昏倒確定のフィニッシュブローは、リュウガという暴虐を乗りこなした広斗により完成形変体刀の強度すら超える。
 しかも場所は空。叩きつけられるマットもなく、当てた踵を離さず自分諸共に日和号と落下し続ける。
 五メートル先の真下には硬い煉瓦製の床が待ち受けており、必然───。




 落ちる鉄火場大瀑布。
 敵を顎に捕らえたまま、降り龍が地に還る。
 落下の加重をかけにかけた衝撃で砂塵が舞い、瓦礫が舞い───砕けた五体が四方に舞う。
 語らずの刀である自動人形は人の形を完全に破壊されたことで、今度こそ物言わぬ、完全な物となった。




【日和号・微刀『釵』@刀語         破壊】

752降龍落とし ◆0zvBiGoI0k:2020/09/29(火) 22:40:09 ID:YrfVv7mg0




 ◆

 


「もう終わったぞ」

 見る影もない、とはこのことだ。
 鬼が暴れ出してもここまでには中々なるまい。
 しのぶが到着した時、病院の屋内の中庭だった場所は、土砂か落石事故の現場と大差ない惨憺たる有様だった。

「ええ、まあ、見ればわかりますが」

 訪れる者を和ませる為造られた花壇は爆風で吹き飛ばされ、行き届いた整備だった床は至る箇所に亀裂が走って足の踏み場もない。
 これで心を弾ませるのは相当の傾き者だけだ。残念なことにしのぶにはこれで飛び喜びそうな心当たりが一人か二人いる。
 そんな派手な破壊の爆心地に立ち、起こした張本人であるところの広斗は特に悪びれた様子もなくやって来たしのぶの所まで歩いてくる。
 
「それで、一体何があったんですか?」
「知るか。いきなり襲ってきたからぶっ壊した」
 
 だからそれについて経緯を詳しく知りたいのですが?
 こめかみに青筋が立つのを頑張って抑えつつ笑顔を維持する。
 念願の他の参加者との接触が、穏当なものではなかったのは見ての通りだ。
 戦闘がおこり、それを広斗が返り討ちにしたというのも有様を見れば一目瞭然。
 問題はその相手というのが、人でもなければ鬼でもないことだ。

「人形、ですか」
「こいつも知り合いか」
「さすがに人形との親交はありませんね。ただ似たような形をしたものを知識として知ってはいますので、少し」

 原型が禄に残ってない敵を見て零す。
 日本人形じみた見た目と、散らばった残骸から四本腕で刀をそれぞれに持ってたと思しき造形は、しのぶの知る存在と符号する。
 鬼殺隊の刀を造る刀鍛冶の里にあるという、炭治郎や霞柱の時任無一郎が使った戦闘訓練用の絡繰人形。
 まさかそのものだとは思えないが……奇妙な一致に因縁めいたものを感じる。

「広斗さん、これに首輪はついてましたか」
「あ? ……そういや、つけてなかったな」
「では参加者としてここにいたわけではないようですね、防衛装備ということでしょうか」
「防衛って、なにをだ────」

 煙が立ち込めた散乱する場所の中で、無視しきれない光沢を見つけて言葉が止まる。
 近づいて埃を払って拾い上げてみると、偶然落ちていたいたとは思えない異物があった。

「……鍵か?」

 足元には広斗が蹴り倒した日和号の、脳天から真っ二つに割れた顔が転がってる。
 人形が持っていた……いや、体内に隠していたのか。今しがた言いかけた、防衛という言葉が蘇る。
 どうやら、まだまだ調べるものは多いらしい。いったいいつになったらまともな相手と会えるのかと、広斗は小さく溜息をついた。





「まあ、まずは手当てですね。腕を出してください」
「掠っただけだ。大したことねえ」
「出血しただけでも十分負傷です。せっかく病院にいるんです。医療器具も持ってきましたし使わなきゃもったいないでしょう? ほら腕を出して」
「……」
「腕を、出して、ください」
「……」
「はい、素直でよろしい」
「ガキ扱いすんじゃねえよ」

753 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/29(火) 22:40:39 ID:YrfVv7mg0
投下終了です

754 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/29(火) 22:41:41 ID:YrfVv7mg0
失礼。状態表を忘れてました。


【B-7・箱庭病院/1日目・昼】

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[状態]:健康。
[装備]:冨岡義勇の日輪刀
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜2(毒に類する品)、ランダム支給品1〜2(千花)、医薬品、医療道具多数
[思考・状況]
基本方針:鬼殺隊の同僚と合流する。
1:自分の日輪刀を探す
2:研究施設に向かいたい
3:日が暮れるまでに参加者と連携、鬼を狩る準備を整えたい
4:鬼のいない世、ですか
[備考]
※9巻以降からの参戦
※地図上のアルファベットと英数字の読み方を覚えました。

【雨宮広斗@HiGH&LOW】
[状態]:片腕に刀傷
[装備]:仮面ライダーリュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2、シャドウスラッシャー400、『鬼』『怪物』『不死』の研究資料、無名街地下の地図、鍵@???
[思考・状況]
基本方針:雅貴を探す。
1:とりあえずはしのぶと行動。
[備考]
※少なくともREDRAIN後からの参戦です。
※鬼滅世界に鬼について認識しました。
※少なくとも九龍グループがこの殺し合いとは無関係と考えています。

755名無しさん:2020/10/02(金) 11:57:46 ID:fh5fIH5M0
投下乙です
広斗がただただ強い

756名無しさん:2020/10/03(土) 10:10:08 ID:Z4qHU6ko0
投下お疲れさまでした
日和号…何しに出てきた感がすごい

757名無しさん:2020/10/09(金) 10:02:44 ID:SGYoWidM0
封印されたと思ってたけど更新されてたか投下乙です

758名無しさん:2020/10/09(金) 17:29:00 ID:Z3BXOWjM0
予約と勘違いするのでくだらないレスでageないでください

759名無しさん:2020/10/09(金) 19:46:38 ID:SGYoWidM0
異界めっちゃ気になる シャッフルとかされちゃうんだろうか

760名無しさん:2020/10/09(金) 19:47:32 ID:SGYoWidM0
>>758
すみませんいつの間にか設定変わってました

761名無しさん:2020/10/09(金) 20:24:38 ID:UiKOBams0
たぶんもう一つの舞台でやってるロワに招かれてお見合いすることになる

762名無しさん:2020/10/10(土) 03:29:07 ID:gvsk4Xu60
>>758
何をヒスってるのだか…

763名無しさん:2020/10/10(土) 13:15:30 ID:D9Hhu1aw0
一々触れるな

764名無しさん:2020/11/10(火) 19:21:16 ID:tTRjWksk0
あーあ

765名無しさん:2020/11/10(火) 22:30:48 ID:6PdkzkhI0
まーた一々ageる構ってちゃんキッズか

766名無しさん:2020/11/12(木) 09:55:25 ID:eXAMA8ko0
触れてやるな
頭のかわいそうな子なんだろう

767 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 19:21:20 ID:JA.y83Y60
tes

768 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:29:13 ID:JA.y83Y60
黒神めだか、今之川権三、鬼舞辻無惨、累、神居クロオ 投下します

769鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:30:15 ID:JA.y83Y60


 地上の真上に昇る天球の光も届かない無明。
 教会地下に続く階段を、鐘の音のように足音が鳴り響く。
 亡者しか住まわない闇に繋がっているかのような沈みきった場所。
 そこに向かって、本物の地獄を引き連れて。

 洒脱だったスーツはずたにされて襤褸と変わらぬ有様で。
 血の色を感じさせない蒼白の肌は迷いでた幽鬼のようで、朧では決してあり得ない威圧を放ちながら降りていく。
 神も仏も知らぬと嘯き、太陽以外に恐れるものは無いと傲岸に謳う最凶の鬼。全ての元凶。
 ───鬼舞辻無惨は、地下礼拝堂に辿り着く。

「──────無惨様」

 絶対の主を前に、累は顔を伏せたまま跪き傅く。許しがあるまで顔を拝謁するのは許されていない。
 だが許可が降りても累は表を上げるつもりはない。
 自分を実験台に使うと、野の鼠でも向けるような宣言した顔を見るのが恐ろしいのも半分以上だが、今は少しでも考えを悟られない為という理由もあった。



 下弦とはいえ累は十二鬼月だ。選ばれた鬼の精鋭の一員だ。
 鬼として強くなる必然として、普通の鬼と比して無惨から多くの血を与えられている。
 そうして強くなるほど大元の無惨の力の源流に近づき、その力の凄まじさを深く知るのだ。

 その無惨に、これから己は反逆しようとしている。
 暴挙だった。極めつけの愚挙だった。
 言葉にしてみても、やはりまるで現実性のない試みだ。
 企てるどころか本来なら思考の中で生まれるはずのない異常。
 累自身、今になっても何故そうしようとしてるのか不思議でならない。
 わざわざ捕らえた稀血の女を逃がし、『兄』にした男を巻き込んで罠を張って主を待ち構えた。
 九分九厘、十中八九死ぬとわかっていながら挑む理由というものに、ここまできても累は理解できていない。
 自分はどこか壊れてしまったのか。心の中にずっと埋められない空洞があったのに気づいたような。


 だが───ここに至って勝ち目があるかどうかなど関係ないのだ。
 自分は、今ここで立ち向かわなければならない。
 相手が誰であろうと。そう、支配者である無惨でなくても同じ状況ならこうしていただろう。
 向き合うべきもの、戦うべきものは、敵だけとは限らないのだから。

「ここはまだ日の光が届きます。どうか奥へ」

 労う言葉を続ける。
 時間を僅かでも先延ばしにする。

「僕の処断は、そこでお受けします」

770鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:31:02 ID:JA.y83Y60


 奥では『兄』が準備を進めている。
 鬼に覿面だという酒に、電気を流す工具。
 累には理解の及ばない道具だったので手配は任せていた。配置の作業は糸でやったが。
 試しに垂らした一滴を糸に当てると、みるみるうちに糸が溶けた。効果自体は本物らしい。
 問題は、これが下弦でなく、上弦のさらに上に位置する者に通用するかだが。
 こればかりは試すこともできないので本番任せになるしかない。

「さあ───」

 思案ばかりしても甲斐がない。今すべきことに集中する。
 累の役目は無惨の誘導。奥の霊安室───兄が言うには───まで連れ込み罠を作動させること。
 
「……?」

 だが、いつまで待っても無惨から動きはなかった。
 折檻するにせよ、言葉で責めるにせよ、なんの反応もないというのはらしからぬ態度だった。
 流石に怪訝に感じ、累は伏せていた顔を上げて無惨の様子を窺った。



「───、………………?」

 いや。窺おうとした。
 頸を動かし、目の前に立つ主を見ようとした。
 たったそれだけ。それだけの動作を、累は果たすことができなかった。

「まさか、叛逆を企てるまで支配が緩んでいたとはな」

 どういうわけか、頭上から声がした。
 意識を向けても、やはり視界に収めることはできず。それどころかあらゆる体の自由が利かない。指一本すらままならない。
 一向に動かせない視界の中で、何か、白いものが転がっているのが目に入った。
 びくびくと痙攣しながら、赤いモノを吹き溢して床を汚している。



「あ─────」



 それがさっきまで累の頸を乗せて繋がっていた自分の体だと認識した瞬間。
 世界と感覚を断絶させる痛みが、脳髄という脳髄を支配した。

「あ"、ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!???」
「喚くな。今の私は貴様の断末魔に耳を貸す暇も惜しい」
「……! …………ッ!!」

 部屋中に響き渡っていた絶叫がぷつりと止まる。
 こめかみに食い込んだ五指から流れる、より上位の命令に上書きされ、塁という個の意思が塗り潰された。
 懲罰のためか痛みだけは依然続いている。痛みに悶絶して転げ回ろうにも体がない。叫ぶ自由すら剥奪されている。

771鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:32:00 ID:JA.y83Y60
る。


 ───思考が、読まれていたのか……? まずい……!


「……記憶は柱に頸を斬られた瞬間までか。厳密に死んだわけではない。わざわざ死んだ後から生き返らせるよりも手間が省けるというわけか。
 あの女の術は、時間の壁を超えるものとでもいうのか? ならばこの状況にも一応の辻褄は合う」

 無惨は脳の髄と幹まで刺さっている指から取り込みながら、引きずり出した情報を冷静に精査している。
 裁定は変わらない。累はこの場で処分する。これはとうの前に決定事項だ。
 意に沿わぬ思考を抱いただけで下弦程度の鬼は早々に処刑する無惨である。
 配下の鬼は何時何処にいようとも生殺与奪の権を握っている。その上明確な叛意まで抱いたとなればその結果は見るまでもない。
 そもそも無惨が累がいる教会に出向いたのは、死んだはずの下弦の状態を調べ、首輪の実験台にするため。
 最初から殺すと決めているのだから、間に何を挟もうとどれも些事である。
 念の為に、頸を千切るのではなく根本の脊髄を丸ごと引きずり出すことで、首輪が作動しないようにもしてある。
 脳に直接命令を送れば肉体の操作も容易に可能だ。

 だが、それでもだ。感情より実益を取るという方針は、尋常ならざる癇癪持ちの無惨らしからぬ選択ではある。
 無惨は怒っている。この場に連れてこられた始まりからずっと。
 集められたどの参加者よりも、最大にだ。
 今他の参加者と出会えば、すれ違うだけの縁でも腕を振り上げ肉塊にしているだろう。
 しかし何事にも例外という状況はある。
 無惨にとっての例外は、この短時間に己の意のままに動かない邪魔者が立て続けに遭遇したことだ。
 日の光に当たっても体が崩壊しない、鬼に似て非なる大男。
 無惨が認めてもいないのに鬼となり、太陽すら克服した女。
 そのどちらでもない、今しがた吹き飛ばしたばかりの正真の化物。
 どれだけ沸点が低くても、その状態がいつまでも続けばやがて喉元を通り過ぎる。
 煮えたぎる溶岩の如き憤怒と屈辱は収まらないが、その度に発散してきて僅かに熱は引いている。
 その奇跡的なバランスが、かろうじて優先順位を覆させずに保ってきていた。

「特に体に細工はされていないようだな。だが脳の一部に変容が見られる。起点は首輪からか。
 これの材質は分析できないが、爆破する際の細胞の反応を見れば効果も逆算できるだろう」

 こうして体の隅々まで調べられ、時には細胞を潰して反応を探ってる間も、想像を絶する苦痛が累に及んでいるわけだが、当然そんな瑣末事を気にかける無惨ではない。
 人間でいうなら、麻酔もかけられてないまま頭蓋骨を開かれ、脳に手を突っ込まれかき混ぜられてるようなもの。
 通常の生き物ならその時点で死に至るが、鬼の生命力なら耐えられてしまう。まして無惨の支配下にある今、死ぬことすらも許可がなければ叶わない。



 やはり、駄目だった。
 叛逆は始まる前に終わりを告げ、当然のように自分は死ぬ。
 いいや始めからわかっていたことだ。全ての鬼を統べる絶対者にかなうはずがない。
 わかっていたのに、どうして自分はこんな真似をしたのか。
 貧弱な体から救ってくれたのに。十二鬼月にまで取り立ててくれたのに。『家族』を作る酔狂まで許されていたのに。
 どうして。

772鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:32:35 ID:JA.y83Y60


 ───兄、さ……。


 発狂する寸前の思考、白滅した視界の中で、累は最後の思考を走らせる。
 自分は間もなく死ぬ。それはいい。了解している。
 こうまで扱われながら、首輪の実験台として無惨に確かな貢献ができる喜びすらもあった。
 だから気に留めるのは、部屋の奥にいる『兄』であるクロオだ。
 自分の絶叫から作戦が頓挫したのは理解しているはず。出入り口はひとつしかなく逃げ場はない。
 ならば彼はどうするか。一か八かで作戦を決行するだろうか。だが既に累を通して作戦は露呈している。
 今は実験を優先してるが、動きを察知したら何かする前に早く動き、呆気なく頸を狩り落とすだろう。


 ───逃げ……。


 動かない舌で、届かない声で無意味に呼びかける。
 まるで本当の家族のように身を案じる。その心境に気づくこともなく。

 
「やはり、一度見て確かめるに限るな」

 もう精査は十分と見て、辛うじて繋がっている頸に引っかかっている首輪に無惨の指がかけられる、その寸前。
 物理的に、明確な意思の元で叩きつけられた拳によって、轟音と共に背後の階段が崩れた。

 取り払われた壁から光が差し込み。舞う砂埃を可視化させる。
 陽光がより広く地下に差すように。
 鬼をより奥に追い込み逃がさないように。
 破壊は瓦礫で下を埋め立てるのではなく、外との穴を広げる意図で行われたものだった。

「ドアも見つからず、ノックもしない不躾な訪問だが許せ。鬼の界隈での作法なぞわからんのでな。
 なにせ成ってからまだ日が浅い。一度も夜を超えてないほどにな」

 砂塵の中から、凛とした覇気を放つ躯体。
 満身に光を背負いながら現れた、烈花のように激しくも美しさと血鬼を孕むのは少女。
 人間でありながらその範疇を逸脱した異常の極点であり。
 化物でありながら人間を捨てられないか弱き凡庸の成れ。
 誰よりも強く正しく険しく厳しく、そのために誰からも見捨てられた『天才孤児』。




「まあ仮にあっても、今は守る気は一切ないがな!」

 箱庭学園第99代生徒会長(任期切れ及び次期選挙に落選済)黒神めだか。
 登場早々、鬼神モードでの殴り込みである。




 ◆

773鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:33:31 ID:JA.y83Y60





 ───暗闇から伸びた多量の糸が閉所に殺到する。
 糸の出処は、累の頸と泣き別れになった胴体だ。
 無惨の背から映えた触手が突き刺さり、即席の血の強化と操作により体は瞬く間に膨張し、破裂するように糸を吐き出す。
  全身から射出された糸は崩れ落ちた瓦礫を片端から牽引して、光を閉ざそうと穴を塞いでいく。
 
「庵(あん)!!」

 踏み鳴らした脚と大声が衝撃波を生んで糸を四散させる。
 喜界島もがな(ハウリング)の声帯と人吉善吉(震脚)の体術の併用。
 過去実用した阿久根高貴のですら動物の群れを一瞬で気絶させる威力。
 黒神めだか、ましてや鬼神モード中で使用すれば、そこには物理的な破壊力が追加される。
 個人が携帯できる兵器の枠を超え、戦車か戦闘機が搭載するレベルにまで達していた。

「弱い者いじめを──────」

 兎にも角にも、天敵になる太陽を凌ぐ。
 鬼と同じ体質になっためだかはその思考を読み先手を打った。
 対策が無駄打ちに終わり一手遅れた無惨に対し、めだかは先んじて行動を完了し。
 

「するなァァッ!」


 鉄よりも硬い剛拳制裁が無惨の腹腔を突き破る。
 正確には拳でなく掌だ。衝撃を内部に伝わらせる浸透勁、八極拳の要領。
 切断・貫通は効果が低いと学習し、肉と内蔵を微塵に破砕させる方法にシフトさせた故の選択。
 それでもなお勢いを殺さず、無惨の体はより奥の暗室へと吹き飛ばされた。
 こめかみに食い込んだ指ごと千切れて拘束が剥がされた累の頭部が宙に舞う。
 代わりに添えられたのは、慈悲に溢れためだかの、五指から伸びる鋭利な爪だ。

「……駄目か。五本の病爪(ファイブフォーカス) も鬼には適用外ということか。まあここまでくると傷や病気の領域ではないのだが」

 赤子を抱くような仕草で累を持ち、自己の能力の精度を確かめるめだか。
 助けられた形の累だが、脳内を埋めるのはむしろ困惑の方だ。
 この女は何者だ。何故無惨様に逆らえる。十二鬼月と思うほど鬼の気配が濃いのに、自分達とはどこか成り立ちからして違うと感じる。
 そもそもさっき現れた時、太陽の光を背中に浴びていなかったか? なぜ体が崩壊しない?

「おま、え……」
「ほう、その状態でも喋れるのか。性質はともかく生命力の点で言えばやはり感嘆せずにはいられんな。
 自分で『成っているから』わかるが、もしやこの体、生命力の増強と疾患の治療が本義の用法ではないのか?」
「なんで、僕を助ける。同族を助ける理由なんて鬼の間にはない。まして僕の家族でもないのに……」

 そして、何よりも。女が叫んだ言葉。
 累が弱者に見えたのか。守られるべき者だと思ったのか。
 それを聞いて、めだかの目から熱が引いた。

774鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:34:37 ID:JA.y83Y60

「理由……助ける理由か。私もそのことについては随分考えたよ。
 今までずっと、考えるまでもない、考えてこなかったのだと気づかされた。
 私を任した男なら相応しい答えをくれるのやもしれぬが、今となっては恥の上塗りでしかない」

 そう言って閉じた瞳が開けられた時には、元の凛然さを取り戻し。
 

「でも考えても考えても、やはり答えは変わらなかった。
 私はみんなが大好きで、みんなを助けたかった。それが余計なお世話と知ってもなお。
 私も今や正真正銘の化物だ。人類皆兄弟なら化物だって家族間のお付き合いぐらいあるだろう。ならば助ける理由はとっくに出来ているさ」


 累は何も返さない。
 めだかの溌剌とした言葉を聞いてただただ呆然としていた。
 あの鬼舞辻無惨に挑みかかったのが、まさかそれだけの理由のためなのか。
 家族でもない、見知らぬ誰かのために、命を懸けられるのか。
 子や下の兄弟を守る為には我が身を顧みない。
 それは累が理想とする家族の形であり、なのにそれを目の当たりにしても心に打ち震えるものはない。


「───ギッぃ、あぁあああ……っ!」

 から回る思考を、激痛が再びかき回す。
 脊髄から湧き出た糸の奔流がめだかを弾き飛ばし、四方に散って崩落部を埋めていく。
 血の支配は遠隔まで届く。糸を吐き続ける自動機械に累は逆戻りする。

 今度はめだかは助けに行かなかった。
 自分が空けた穴、男を吹き飛ばして出来た穴を凝視する。
 闇より濃い闇。底なしのような虚から出てくる、黒い渦の根元を、じっと目を凝らす。
 目を離したら、その瞬間この頸は繋がってないと、獣の本能で確信して。

 現れた男には孔も痣もない。服こそ裂けたがめだかと同じく全快した姿だ。
 体内の臓腑を残らず揺さぶり、破いた手応えが確かにあった。
 自身の腕を捨てる前提で全開の力で殴り抜け、打ち放ったのに、何事もなかったまま近づいてくる。



「何故、生きている」


 その声は問いかけているようで、だが口調には対話の意思がごっそりと欠如していた。 


「何故、私の攻撃を食らって死んでいない。私の血を受けずに鬼になっている。太陽の下で焼かれていない。
 最早不愉快を通り越して不思議で仕方がない。何故、お前のような者が存在する?」
 
 それは弾劾だった。
 許されぬもの。有り得てはならぬもの。
 この世の理不尽、不条理に対する糾弾だった。

775鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:35:07 ID:JA.y83Y60


 天変地異に挑みかかって倒そうとする者はいない。
 地震に嵐に津波を前に人は無力であり、過ぎ去るまで頭を垂れて祈るしかない。
 それが自然の理だ。鬼舞辻無惨という永遠の現象に対する人間の正しい反応だ。
 それなのにこの女はいつまでも己に食ってかかり、鬼になる術を自力で体得し、未だ届いてない太陽の克服を自分を差し置いて達成した。

「化物め。貴様に比べればこの私なぞ存分に生きている」

 理解の範疇を超えた力。
 何かの間違いとしか思えない存在を、無惨は知っている。
 そうした存在にかつて無惨は追い詰められ、消えない傷/疵/瑕を延々と刻みつけられた。
 そしてまた、此処にあれとは別の指向で無惨を否定する存在が立ち向かいに来ている。
 異常の塊だ。摂理に反している。世の理を乱す存在だ。生まれてきていいはずがない。

 だから無惨は静かに激憤する。
 無惨の感情を乱す異常者を憎悪する。
 無惨にとっては正当な、傲岸極まった責め向上を受けて、めだかは初め、見かけ静かに応えた。

「否定はしない。私は醜い化物であるのもみんなに必要とされていないのも、そうなのだろうよ。
 ああ、もうぜんぶぜんぶわかってる。私は見当違いで、見境なしで、見込み違いの女だった。
 それらを弁えた上であえて私はこう言おう」







「貴様が言うなッ!!!」







 黒神めだかは敵を好む。
 陣営、思想、強さを問わず、自身と戦う相手は諸手を広げて迎え入れ、相手が強いほど喜びも強くなる。
 そんな生粋のバトル脳の構造をしている。

 『完成』という、他者の強みを自分基準で引き上げてものにする異常性(アブノーマル)。
 戦う、競い合う行為はめだかにとって、心身共に高みに位置しすぎるが故の孤立を埋めてくれるコミュニケーションであり、『完成』に至らせる研磨材であった。
 理不尽や暴力に怒りはする。思想が曲がっていれば自分基準で矯正させる。
 『過負荷』マイナス十三組との戦いがそうであったように、相手を理解しないままそのままに倒せば自分の方が深く傷ついてしまう。
 相手の全てを観察し、呑み込み、許容するのがめだかの真骨頂だ。それが初見ではどれだけ理解不能な怪物であっても。

 それが今、無惨に対して喝破するめだかの表情には、灼熱地獄にも迫らんとする激怒の二文字のみ。
 ただ怪物であるというだけではこうはなるまい。異種なりの線引きや妥協点を見つけ出そうとする。
 大量殺人者であっても、彼女はここまで絶対の否定を突きつけたりはしない。罪を贖わせてから、更生を願って送り出す。



 完璧な生命を目指すため他者を喰らい生き続ける男。
 完成に至るため他者の強さを取り込み肥大し続ける少女。



 傍から見れば、どちらも同類の化物だ。
 一歩でも道を踏み違えていたら、自分もこのようなものに成り果てていたのではないか。
いや今がまさにそうなのではないか。
 ずっと間違えてきた自分の生き方の最後に待ち受けるものが、この姿だというのなら。
 血の匂いが濃縮された無惨を、めだかは今の自分自身とを重ね合わせて見ていた。
 
 人生の大半の基軸となっていた柱を欠いて均衡が崩れた精神は、本能的に敵を求める。
 黒神めだかと鬼舞辻無惨。このどこまでも対極でありながら、あまりにも近似である二人が抱く不快の感情の正体は。

「化物だというなら是非もない。命の尊さ、一方的に暴力を振るう痛みと虚しさを道徳的に理解(わか)らせてやる。
 化物(わたし)に相応しいやり方でな!」
 
 同族嫌悪、なのかもしれない。





 ◆

776鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:36:09 ID:JA.y83Y60





「やれやれ……結局こうなったか」
 
 瓦礫まみれの暗室で、クロオは独りごちた。
 制服に埃を被って煙たそうに口を手で覆ってるが、それ以外の傷は負っていない。
 突如として壁が壊れて人間大の物体が飛び込んだにしては僥倖だろう。クロオが巻き込まれなかったのは運が良かったからでしかない。

「ま、状況は最悪なわけだけど」

 そう、僅かばかりの幸運が積み重なったところで、趨勢の絶望さは変わらない。
 扉の先を覗いていないが事の次第はわかっている。
 累との作戦は見破られ、親玉の手により処刑されようとした最中に何者かが乱入して戦っている。
 身を潜めていても聞こえてくる声から、鬼とは因縁がありそうなのは察せられた。
 陣営でいえば累もクロオも明確な鬼側なので味方とも言えないだろう。

 元より捨てた命だ。絶対絶命の窮地に置かれたといって今更慌てぶる理由もない。
 むしろ不確定要素があるならこれはチャンスだ。両者が戦ってる隙に、当初の作戦を実行に移せるかもしれない。
 主戦場より離れてるクロオにはそんな算段を立てられる余裕まであった。自分達を救ってくれた助力者を巻き込む人倫に迷うこともない。

「兄は弟を助けるものだからね」

 自分の命にも他人の命にも執着がないから。
 その場凌ぎにしか見えない、他愛もない約束を理由にするのに、躊躇することもなかった。



「……ん?」

 不意に聞こえた音に耳を傾ける。
 地下室全体は絶えず戦闘の振動で揺れてるが、それとは違う種類の音が、地下を突き破った一筋の光の中から漏れ聞こえていた。
 
「始まったか……ここからでも凄まじい音が聞こえるぞい」

 天井が崩落してこないか注意しながら近づくと、若いがどこかしわがれた感のある男の独り言がした。
 穴の真下に来て、そっと窺ってみる。人間大の大きさの外の景色に、筋骨隆々の男の顔が丁度収まって映っていた。

「こうも上手く潰し合ってくれるとはの……小娘と千年男、厄介な二人を一気に潰せるチャンス……!
 やはり神はワシに味方している……! これも普段の行いじゃなウシシ!」

 地下でする声までは聞こえないのか、男はクロオに気づいた様子もなく気を良くしている。
 まさか真下から自分が覗かれてるとは思いもせず、皮算用にほくそ笑んでいる。

「……」

 ああ────ああいう人間は知っている。
 あの男の顔には見覚えがある。
 面識のあるなしでなく、他ならぬクロオが身を以ての経験として、ああいう手合いを知っている。
 表情に、皮の奥に隠した醜さに、記憶が一致している。
 暴力を振るって下の者を従えようとし、従っても気に食わなければ暴力を振るう。
 そんな、クロオの知ってる『父』の顔と同じだと。

777鬼神爆走愚連隊・愛 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:39:19 ID:JA.y83Y60

【E-3 教会跡・地下室/1日目・昼】

【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]:鬼神モード、疲労(絶大)、空腹、無惨への(同族?)嫌悪
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2 雅の鉄扇セット@彼岸島
[思考・状況]
基本方針:見知らぬ誰かの役に立つ、それは揺るがない。
1:善吉や球磨川と共に殺し合いを叩き潰しBBを改心させる!
2:お腹がすいた。
[備考]
※参戦時期は後継者編で善吉に敗れた直後。
※本当に鬼になったのかは不明ですが、それに類する不死性を獲得しています。日光は克服できましたが、人食いの能力は保持しているようです。
※いくつかのスキルに制限が加えられているようです。
※『光化静翔(テーマソング)』はアコースティックバージョン(5人まで)含め鬼神モードの時にのみ使用できますが、現状は時間切れで使用できません。
※鬼神モードを使用するとお腹が空くようです。
※石上殺害の犯人が無惨だと伝えられました。

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮 完成者への苛立ちと怒り、極限の不機嫌、無能たちへの強い怒り、鬼への吐き気を催す不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
0.太陽を克服する。
1.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
2.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。ひとまずは累と接触したい。
3.黒神めだか、雅、酒吞童子への絶対的な嫌悪感と不快感
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。
※シザースのカードデッキは怒りに任せて破壊しちゃいました。ボルキャンサーは辺りを徘徊してます。

【累@鬼滅の刃】
[状態]:殴られた頬が熱くなってきた、脊髄ごと引き抜かれてる、無惨による支配中・行動不能
[装備]:呪碗のハサンの黒布@Fate/Grand Order
[道具]:食料(人肉)
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
0:……。
1:赤の他人でも命懸けで手を結ぶ絆という考えへの恐怖感。
2:その恐怖感が無惨様への恐怖、支配に優り、今は一矢報いて生き残りたい。
3:生き残ったなら、家族に関して改めて考えたい。
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい

【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁、神便鬼毒酒@Fate/Grand Order、暁光炉心@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
0:『父』のような男は……。
1:ミクニ君と累の為にあのお方とやらを嵌めて殺す。
2:生き残ったなら、マシュを僕らの『家族』にしよう。
[備考]
※参戦時期は死亡後



【E-3/教会跡/1日目・昼】

【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:疲労回復、気分は上々
[装備]:
[道具]:飲食物を除いだ基本支給品一式、炸裂弾『灰かぶり(シンデレラ)』×20(残り10) 、めだかの腕の搾りかす
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
0.小娘(めだか)と千年男(無惨)が潰し合うのを見物。共倒れさせて漁夫の利を狙うぞい。
1.慎重に立ち回って全員ブチ殺すぞい。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。でも日光が弱点くさいということは...チャンスだぞい!
3.他にもヤバイ奴が大勢いそうだぞい。
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。
※めだかの血を飲み体力を回復しました。
※真下で覗いてるクロオに気づいてません。

778 ◆0zvBiGoI0k:2020/11/23(月) 20:39:49 ID:JA.y83Y60
投下終了です

779名無しさん:2020/11/26(木) 23:33:30 ID:faxgQEs20
投下乙です
めだかちゃんと無惨様、まさかの同族嫌悪
まぁめだかちゃんも一歩間違えればああなっていた可能性は十分あるイカレっぷりだしね
何気にここまで順調だった権三もクロオの地雷を踏んだようだし運も尽きてきたか…?

780 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:28:04 ID:4zUlIlqM0
投下します

781鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:29:10 ID:4zUlIlqM0





 音が聞こえる。
 ただ一人が音を束ね、階を振り分け。大小、高低、重軽、多種多様な音を発し、ただ一人で協奏している。

 それは歌だ。
 声に宿るのは哀切に、瞋恚。奏でる者の心火と愛が多重に響き、交わり、旋律が紡がれる。
 それこそは校歌斉唱。戦う者が己を奮い立たせる為、背負い携えるテーマソング。

 此度の主題(テーマ)は即ち、鬼殺。尊き花を無惨に散らすを防がんとす、千年続いた同胞の歌。
 血を流す少女の歌。
 鬼を討つ戦歌を、黒髪めだかは絶唱していた。



 日之影空洞が一時的に取得した光速移動のスキル、鬼神モードによる強化で可能となった『光化静翔(テーマソング) めだかスタイル』の真価。
 教会地下の狭い中での疾走は範囲を床一面といわず壁に天井まで広がり、堂内を足の踏み場もないほど埋め尽くす。
 比喩とは違う、本当に残像の分身は実像と全く変わりない質量を伴って、縦横無尽に暴れ回る。

「くだらぬ真似を……」

 無数不停止のめだかによって包囲され、動きを物理的に封印されながらも無惨は冷ややかな顔を崩さない。
 鬼神モードの影響下でも余裕のない決死の形相のめだかとは対象的だ。
 どれだけ加速が乗った威力で吶喊しても、無惨の体は完全に破壊することは出来ない。鬼の再生力はこの程度で突破されはしない。
 砕くだけでは足りぬ。
 裂かれた程度では届かぬ。
 頂点の座は未だ健在。猿真似の紛い物如きに、この超身体が遅れを取るなどあり得ない。

 こんなものは分かり切った結果だ。
 不老であり不滅である己が最後に勝つのは自明の理だ。
 無惨が「くだらぬ真似」と毒づいたのはこの無意味な撹乱に対してではなく、別にある。

 めだかが跳ね回る砲弾となって地下空間につけた夥しい亀裂は、石壁の耐久限界をとっくに超過している。。
 累の糸で補修しなければすぐにでも大量の瓦礫が雪崩込み、満遍なく太陽の光が入ってくるだろう。
 どんな攻撃もたちどころに再生する無惨に残った、唯一の弱点。
 真に倒そうとするなら、特効となる太陽の下に引きずり下ろす他に無い。
 外から壊すだけでは逃げられる。目の前でやろうとすれば阻止される。
 その諸問題を解消する為の、新たなる黒神ファントムであった。

 取り入れたのは箱庭学園風紀委員長、雲仙冥利がめだか戦で使用した対人兵器「超躍弾(スーパーボール)」。
 室内を異常に跳ね回り、人体に穴を空けるほどの弾性を、鬼神モード下の肉体に適用。
 人間大の質量に、異常(アブノーマル)な域の剛性と柔軟性を獲得させる。
 鬼の体は強度だけではなく、斯様な応用法にも対応できる。
 接触時の跳ね返り、方向転換に伴う減速(マイナス)を極限までなくす事で永続的な跳弾を可能とした。
 直線軌道で一発技だった黒髪ファントムの新たなバリエーション。いうなれば、黒神タイフーンとでも呼称されよう。

782鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:30:04 ID:4zUlIlqM0


 ……本来の黒神ファントムは、真っ直ぐにしか進めない。
 『光化静翔』を取り入れて完成した『黒神ファントム・ちゃんとした版』は、速度をそのままに、体にかかる負担を回数制限付きで克服したもの。
 黒神ファントムの軌道に曲線が加えられるのは、これよりも先の未来。
 ある古代の英雄の残響との戦いの佳境で、生と死の境に至った末に編み出される最終スタイルだ。
 黒神タイフーンは負担は従来から変わらずに無理矢理方向転換する、継ぎ接ぎだらけの『負』完全版とでもいうべき形だ。
 再生力に任せて、ピンボールのように壁にぶつかっては跳ね返り続ける。
 今のめだかを表すような、歪な系統(ツリー)を進めてしまった果ての結実。

 肌と肌が触れるすれ違いざまに、無惨の体の一部が千切れ飛ぶ。
 めだか一人の全身で形成された無惨包囲網には、今や気圧の急激な開きで乱気流が発生している。
 迂闊に踏み込めば生じた衝撃波に手足を巻き取られ、五体を四散させる羽目になる。
 それさえも無惨には取るに足らない損害だが万が一、万が一にも首輪が衝撃で誤作動しないかという用心もある。
 それというのも、全ては首輪の耐久試験をする前にめだかに割って入られた事にある。
 先に累でどれだけの衝撃なら爆発しないかを検証できていれば手を煩わせもしなかったというのに。忌々しい憤慨が蓄積されていく。
 
 また体が削がれる。
 先程よりも、範囲が体の中心に寄っていた。
 少しずつ、狙いが芯を捉えるようになってきている。
 風圧が及ばないいわば台風の目に位置している無惨に対し、時折こうしてめだかから体当たりを食らわせてくる。
 むしろ速度・重さからして、こちらの突進の方こそが本命としているようですらある。
 不思議な事ではあるまい。 
 黒神めだかを知る者達ならば当たり前だと口を揃えてそう言うだろう。
 真っ向勝負こそがめだかの土俵。堂々と立ち向かい、朗々と勝利する。王道に咲く大花なのだから。
 
 無惨がくだらないと評したのはそこだ。
 物理的に逃げ道を塞ぎ、天井の補修に累を操作する事に意識を割かせて、めだかのみに集中できなくさせ、一定の時間無惨を足止めしている。
 それでよしとすればいいものを、この女はあくまでも自分の手で自分を殴り倒すのに固執している。
 この期に及んで、自分を更生させてやる腹づもりでいる。直接この手で殴ってやらねば気が済まないと抜かしている。
 まだ戦闘不能になってないから、一撃ももらってないから、戦えていると思い上がっている。
 一体どの口でそんな駄法螺を吹くのか。
 勝つ気でいるのか。勝てると思ってるのか。
 いつまでもこんなにわか柵で、そんな体で、封じ込め切れると。


「……っっ!?」

 絶えず疾走していためだかの膝が、唐突にがくんと力を失う。
 意に沿わぬ身体の痙攣で急速にスピードが落ち、乱気流は瞬く間に消失して、墜落する飛行機のように不時着した。

「ぐっ……!?、ア、ァアアアアアアアア───────!!」
 
 急停止しためだかの顔に、隠しようのない苦痛の色が描かれる。
 絶叫しながら胸を両腕で抱き、身悶えしながら両膝を地面に着けた。場所が場所だけに、祈りを捧げ懺悔するのに近い動作だ。
 ……浮かび上がっているのは表情ばかりではない。
 十人の内十人、更に飛び入りで二十人がすれ違いに振り替えざるを得ない、自信に満ち溢れたの麗貌が醜女(しこめ)も同然に腫れ上がっている。
 それも複数。全身の至る部位に点々と。
 表皮が盛り上がって肥大化し、体内に拳大の蟲でも潜ってるのではないかと想像してしまうほど、おぞましい肉腫が出来ていた。 

「散らばった肉片まで掻き集めるまでして、そんなにも私の細胞が欲しいか。卑しい女め。
 ならば好きなだけくれてやる。だが鬼になどしてはやらない。そのまま醜く溶けて、苦しみの内に死に絶えるがいい」

 無惨には見えていた。
 めだかが移動しながら、飛び散った無惨の血や触手を積極的にめざとく回収していたのを。
 観察だけでは飽き足らず、変化の原型としている無惨の細胞を接種することでより完成度を高めようとしていたのを。
 
 人間を鬼化させる血は攻撃にも転用できる。
 変化に耐えきれない量の血を一度に過剰投与すれば、細胞が崩壊しそのまま鬼になる事なく死に至る。
 血を同時に与える斬撃は一度でも喰らえばたちどころに致命的となってしまう。
 更に今回は意図して血を空中に散布しておいた。風に乗った血は気流に乗って、内部にいるめだかに否が応でも降りかかる。
 結果。めだかは常人の致死量の数百倍に至る血液をその身に浴びてしまっていた。

783鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:31:17 ID:4zUlIlqM0

「……っ! 〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

 今めだかの体内では絶え間ない細胞破壊と再生がループしている。
 鬼神モードの再生力と『完成』の異常性があれば、毒にも適応し切りより完成された異常性を獲得するだろう。
 だがそれは一瞬ではない。再生と適応を並行して行うにはどうしても時を要する。
 呼吸を使う剣士が鬼になるには数日単位の時間を要する。ましてや完全に殺す気での注入だ。
 生きて肉体が原型を保っていること事態が異常にも等しい奇跡であり、戦闘の最中で急速に成長する、などという悠長な暇は与えられるはずもない。

 ここから直接首を狩るなり、更に血を与えて再生する以上の細胞の破壊を促すなり、無惨には如何様にもできる。
 何となればここで首輪の実験を再開する手もあるが……無惨はどれも選ばない。新しい鬼の教本として実験台にしようとすら、考えない。
 することはただ、摂理を正すだけ。
 あってはならぬものを、ないものに。
 ただ一刻も早くこの異物を消し去ってしまいたくて仕方がなくて、速やかに断頭の鎌が落とされる。
 立ち上がる為膝に力を入れようとするが、痙攣する足がもつれて倒れ込む。
 間に合わない『完成』を待たず、首を捻ってでも避けようともがくめだかの聴覚が……壁の崩落以外の音を拾った。



「──────、────────────」
 
 ぱん、ぱんと。
 殺気吹く戦地で似つかわしくない、軽薄な音が鳴った。
 拍手のような乾いた音。今も地響きが続く地下室でなお明瞭に、死合の最中にあった二人の耳に聞こえてきた。  

「鬼ーさん、こーちら、手ーの鳴る、方ーへ」
 
 拍手に次いで、暗がりから呼び声がした。
 年若い男の声だ。
 拍手に合わせて投げかけられる声に、無惨は鎌を振り下ろす腕を止め、首を曲げて闇に立つ影を注視する。
 鬼の超感覚は、光源がない場所にいる姿形をすぐさま捉える。


 捉えた、途端。
 無惨の背中に凄まじい衝撃が走ったと同時に、胸から細い腕が骨肉を突き破って生えた。


「はい。ごちそうさん。まぁた旦那はんの中、貫いちゃったわあ」
 
 その声を聞くのは、無惨にとって二度目だった。肉を奪われる屈辱を受けたのも二度目だった。
 聞こえたのは、風雅と淫靡が混じり合った女の声。
 鈴を転がすような音色で、吐息に酒気を帯びた少女の声。
 大江山の鬼の真の大将────酒天童子。  

「はぁ───熱くて、熱くて、融かされそうなぐらいに熱ぅい血やねぇ。ああもう、そないにうちのこと離さんように絡みついて。昂ぶるわぁ、ほんに嵌っちゃいそうやわ、うち」

 貫いた指に握られていたのは、体内に収まっていた心臓だ。
 外に排出されても力強く脈動し、断たれた血管を伸ばして元の位置に戻ろうとしている。
 赤い艶めかしい血を断ち切れた動脈から噴き上げて、それ自体が一個の生物のようにのたうっている。
 貫いた腕に縋りついて喰らおうと肌に激しく食い込んでいく管をあっさりと引き抜くと、未だ復帰しない無惨の首根っこを掴んで、力いっぱいに放り投げた。 

「うわ、マジで引っかかってるよ。あいつひょっとしてバカなの?」
「まぁええやないの。うちも一応、気配遮断いうのを使っとったし。仕方ないんちゃう?」

 都合幾度目かの吹き飛ばされて壁に埋め込まれた無惨を眺めて、村山良樹が影から表に出る。
 表といっても光の差さない地下室では明暗の区別はつかないが、ここでは前に出るという行為に意味がある。
 物陰で縮こまっているのは性に合わない。隠れっぱなしでいるのは我慢ならない。
 要はそういう、意気込みの問題だ。
 
「じゃ、俺はあっち行くから。そっちは好きにやってなよ」
「ほいほい、行っといで。んー、ここはお日さまも出てなくて涼しいさかい、"生もの"も腐らんな。
 ふふ、ふふふふふ。これなら、さっきみたくあっさりぱくりとせんでもじっくり愛でられそうやね。
 どっくん、どっくん。心臓だけでもこないに脈打って。外見もぷるぷるで寒天みたいに……って、おん?」

 後ろに歩いていく村山を尻目に、爛々とした目で心臓を見つめていた酒呑童子が弄んでいた手を止める。
 興味の視線は、己の傍で悩ましげに悶えている、満身創痍の少女に向いた。

「……なんやなんや。旦那はんにもう一人ご同類の匂いがしてたと思っとったけど、また奇特なもんがおるんやな」
 
 膝を折り、しげしげとめだかを『観察』する。
 しゃがんでいても突き出てた胸をぺちぺちと軽くはたく。

784鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:33:20 ID:4zUlIlqM0

「ああ臭う、臭う。乳臭いわぁ。産まれての赤ちゃんかいな。あっちこっちふらふら生き迷って、まるで夜道におっかさんとはぐれて、わんわん泣く童子(わらし)みたい。
 あの牛乳女より乳臭いなんて、よっぽどやねえ。ま、あれほど歳いってないぶん可愛げもあるけどな」
「う……?」
「はい、おはようさん」

 半覚醒の心ここにあらずで顔を上げためだかの眼に入ったのは、にまにまと微笑んでる鬼ではなくて───その手に収まってる赤い肉塊。

「ぁ────────────ああぁ………………」

 震わせる心音に、剥き出しの肉感に、溜まっていく血の一条。
 目の前の酒吞も、戦っていた無惨も忘れて、宝石のような輝きに視線を釘付けにされる。
 それ以外に何も目に入らない。好きないろをして、欲しいかたちで、おいしそうなものだからと、忘我のまま手を伸ばす。

「だめ」

 心臓に心奪われ盲になっていた両目に、二本の指が一辺の躊躇なく深く突き入れられた。

「ぃっ!? あああああああああああああああっ!?」
「ああ、ごめんごめん。痛かった?。そやろねぇ。目玉両方とも潰れてしもうたもんねぇ。
 でも、あんたはんもいけないんやで? ひとのもん勝手に食べようとするなんて、人でも鬼でも、おイタがあるのは当然ちゃう?」
「ぅ、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………!」
「ああ、もう、よしよし。泣かんの泣かんの。別にあげないなんて言うとらんやろ?
 気持ちは分かるで? こないな珍味(うましもの)、うちかていつまでも見せびらかしてたら我慢できんもんねぇ」

 灼熱の刺激と、流し込まれた魔力で盲目から回復しないめだかの鼻先に、ぶよぶよとした感触のものが押し付けられる。
 触れる距離からする芳醇な匂いにまたも我を失いかけたところで再び鬼が呼び止めた。

「待て」

 ……度重なる傷と急激な再生の循環の影響で一時的に幼体化していためだかの思考が、耳元でした声に染め上げられる。
 血液の塊がつけられてる事すら忘れるほどの、濃くて近過ぎる死の香りに。

「待て、やで。
 うちがいい言うまで、口つけるのはお預け。わかる?
 出来なかったらまた目玉ほじくり貫くからな? これももうあげへん。わかった?」

 眼球をくり抜かれたことで動物的な本能が食欲を上回ったのか。堪えつつも大人しく跪く。
 両手と両膝を地面につけた姿勢。土下座か、飼い主の許しが出るまで餌を待つ犬かどちらかだ。

「待て」

 涎が顎に垂れて糸を引く。
 まだ許しは出ていない。

「待て」

 体が痙攣して制動できない。
 前に乗り出そうとするのをぎりぎりで抑止する。

「まーて」

 もう限界だ。胃は捩れて血液がささくれだったように痒くて、一秒だって我慢ができない。
 早く。早く。歯の根が合わずガチガチと鳴り恐怖が欲を飲み込んで、どうなっても構わないから食べたいと嗚咽する。

「はい、ええよ」

 "は"の一音が聞こえたところで、張っていた緊張の意図がぶつりと切れていた。
 一も二もなく顎から飛びついてかぶりつく。口元が汚れるのも構わずに歓喜を咀嚼する。
 目尻から溢れるのは味への耽溺による涙なのか、それとも逆流した血か。

「よく我慢できたねぇ。えらい、えらい。たぁんと喰らいや。
 おいしい? おいしい? そうよかったねぇ。ふふ」

 礼儀も尊厳も打ち捨ててかっ食らうめだかの頭を撫でながら、鬼は笑っていた。
 ここまでの遣り取りの中で、終始、ずっと笑っていた。
 けらけらと愉しげに笑うのではなく、愛おしく、微笑の類で見つめながら。
 ……片手の指で少女からくり貫いた両目を舌で転がしながら。心臓を抜き出して被った鮮血で着物を着飾って。
 母の慈愛と呼ぶには、刺激が強すぎる光景だった。

「む……」

 心臓という血の凝縮を食らった事が『完成』を補強するのに繋がったのか、今度こそめだかが意識を取り戻す。
 損傷はまだ循環(ループ)から抜け出せない、半死人だが。

「やっと目、醒めた? じゃあ改めて、おはようさん」
「ああ、おはようございます……またも鬼、か。動物に避けられ人にも嫌われたのにこうも縁があるなんてな。
 ところで両目が一度潰されたかと思うほど痛いのだが、何か知らないか?」
「ああそれ、やったのうちやわ。うち」
「……なるほど。それが鬼流の挨拶なのか。常ならば指摘していたが郷に入っては郷に従えというしな……いやけどやっぱ引くなその礼儀」
「愛殺? ああ挨拶ね。そうそう、鬼と話するんならこれぐらい、軽うい前戯。今のうちに慣れときや」
「ああ、ともかく今後の交流に活かすとしよう」

785鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:34:13 ID:4zUlIlqM0

 風雅さも技量もない、殺意と殺傷力だけで磨かれた刃が宙を切り、和やかな二人の会話を断つ。
 
「おっと」

 頸めがけて振るわれた爪をかわした酒吞は、触手の繋がれた先を見る。
 無言で足を踏み鳴らし、従える背の触手が鎌首をもたげる鬼の祖。
 最早言葉をかわす気もないのか、無惨は何も発さない。
 その瞳の色は澱んでいた。赤い眼の底にはもう目の前の生き物に何の期待も感情もない。
 それは諦観の念だった。
 会話が成り立たない相手ではないと見做す、虫と同等に扱う放棄だ。
 こいつはもう死ぬから。この手で殺すから。何を言っても無駄だから。
 ただ殺すのみだという、完全な相互の断絶。

「そう、そう。それや。やぁっと、遊んでくれる気になった?
 焦らし上手な旦那はんのせいで、うち、もう収まりがつかへんのやから。このまま放ってかれたらどうしてくれるのって気が気でなかったんやで?」

 鬼が、少女に向けていた今までとは違う趣の形で笑う。
 けらけらと、爪から垂れ落ちるほど濡れた指の血を舐め取りながら、笑う。

「だめ」

 すぐ後ろで立ち上がろうとするめだかを、人差し指の爪を立てて制止した。

「気遣いは嬉しいが、私はまだ戦えるさ。このまま動かず回復に努める方が、むしろ私はとっては耐え難い、不可避のダメージだ」
「そう言うてもなぁ。別にあんたはんが生き死にのどっち行こうとどうでもいいんやけど……今みたいのしか見せられん言うならやめとき。
 あないな、人にも鬼にもどっちつかずな舞、見てても華がなくて魅せられんし、見てられんわ」
「新米の無作法なのは分かってる、しかし……」
「"せんぱい"の言うことはちゃんと聞いとき? なんてな、あはっ」
「……っ」

 自分がやりたいと聞き分けなく我が儘を言う子供を諌めるみたいに眉間を指でつつかれただけで、後ろに傾き尻餅をついてしまう。
 意志は折れずとも肉体の方は、体幹を支えられないほどグチャグチャにされたままだ。
 座り込むめだかを背にして、単騎で無惨と対峙する。

「ええなぁ、鬼舞辻はんの殺気。こっちを見てるようで、ちぃとも見とらん。
 敵と見るでもなし、餌と見るでもなし。ただの紙屏風、邪魔な雑木でも見とるみたいな目。
 うちはそういうの、華がなくて好きやないけど……、鬼らしいといえば、それもらしいもんねぇ」

 云って、どこからともなく取り出した瓢箪の紐を解いた。
 酒吞の身の丈の腰程もある器に、たっぷりと詰まっている液体を、持ち上げて口に含む。
 豪快な一気呑みでありながら、雅さは些かも失せない仕草で。
 二度三度と喉を大きく鳴らして、鬼酒を呷る。
 口を離して、唇を舐める鬼の顔に帯びるのは酒気ではなく───神気。
 『神便鬼毒酒』────大江山に棲まう大化性を討伐すべく、源氏の棟梁・源頼光率いる四天王が神仙から賜りし毒酒。
 人理に刻まれし英霊が保有する超越の神秘・宝具が一つ。
 その概要を知る者は此処にはいない。
 如何なる由来があり、如何なる効能を持ち、その酒を呑んだ鬼が如何なる結果を孕むか、語れる者は此処にはいない。
 だが結果として。飲み干した酒吞童子からは矮躯に収まりきらぬ桁の神気が迸り、暗き牢獄を妖しく照らしていた。

 ひたひたと足を進める。それだけで大地が激しく揺れた。軋みを上げた。
 酒をしこたま呑んだ宴会の帰り道の延長の足取りで、無惨に歩を進める。さも突いてみよ、切りつけてみよと言わんばかりに隙だらけで、好きにしてと。

 左様。鬼は無惨を好いている。
 好きだらけではちきれんばかりに思っている。
 その貌の美さを。その肉の味の佳さを。その性根の醜(よ)さを。この上なく好んでいる。
 好いた者の臓腑をかき混ぜ、骨をしゃぶり、散々たる肉塊に変えてしまいたくて仕方がない。
 そこに矛盾はない。それこそが鬼と人の違い。あらゆる意思と思いが殺意に行き着く反転衝動。

「さ、始めよか。めいっぱい、楽しませてな?
 日が暮れるまで。お互い足腰が立たないなるまで。どっちがどっちの肉か分からなくなるくらい、グチャグチャにかき混ぜるまで。
 生まれが違おうが、成り立ちが違おうが、鬼いうんはそういうもの。殺し、犯し、奪うもの」

 だから、彼女は今もこうして愛する(ころす)のだ。



「『九頭竜鏖殺』─────────あんじょうよろしゅう」



 鬼が跳んだ。
 たんっと、地面を蹴り。見た目通りにふわりと、軽やかそうで。
 だが。その先の通り道に生まれたのは、『暴』に尽きた。暴威にして暴虐と言うしかなかった。

786鬼神爆走紅蓮隊・轟 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:35:09 ID:4zUlIlqM0

 対応は、間に合っていた。
 めだかのような小細工もなしに直進する酒呑を無惨の感覚は捉え、正確に爪で迎撃する。
 だが止まらない。被弾を意に介さず鬼は道をぶれずに突き進む。
 傷はつくのだ。裂けた肌からは血が溢れて肉がこそげ落ちてエーテルで構成された仮初の体に傷が刻まれる。
 サーヴァント、人理の記録に刻まれた悪鬼英霊の写し影をも無惨は打ち据えられる。
 霊体に作用しない攻撃手段は通用しない、通常の法則を制限されていても、これは恐るべき所業。
 千年に及ぶ殺戮と暗躍は伝説の一端に伍するものだと証明したのだ。
 それでも鬼は止まらない。勢いが削がれない。
 裂けるのは外皮のみ。斬撃が肉を越え骨の芯まで届きはしない。

「はい、拳(けん)・拳(けん)・破(ぱ)、拳・拳・破っと!」

 衝突と激震。互いの爪がひしゃげ折れ、潰れ落ちる。
 無惨は次の触手を、酒呑は次の手足を繰り出して再現を繰り返す。
 技量の冴えも、培った経験の賜物もない、単調なる暴力の応酬。
 相克する爪と爪で、先に崩れたのは酒吞童子。爪に繋がった腕が派手に潮を吹く。
 矢継ぎ早に、同規模の爪の群れが、棘皮動物の捕食めいた光景を見せつけ、酒呑に絡みついて姿を呑み込む。
 内部では管部の各所から生えた口の牙が一斉に噛み付いている。
 逃げ場と動きを縫い止めたまま腕を振り上げ、捕縛した獲物を巻き付けた管ごと両断した。
  
「あはははははははははははははははははははははははははははは!!」

 なのに狂笑は鳴り止まない。
 縛鎖から解かれたのをこれ幸いと穴から飛び出て再び挑んでくる。

「せっかくいい体やのに、背中の尾っぽびゅんびゅんさせるだけって……他に何かあるやろ? ここまで来て出し惜しみせんといて?」

 確かに刃は通っているのに。血を流しているのに。臆した気をまるで見せない。
 喜悦。悦楽。表情には愉しみだけだ。

 触れた全てを例外なく壊し散り飛ばしてきた無惨の攻撃。
 鬼狩りの剣士が何人いようが誰一人逃れられない。上弦の鬼が何体向かおうが耐えられない。
 それがこの小娘には通じない。尽くをかわし切るのでも、再生力で張り合うでもなく、単純に肉体の頑強さで張り合ってる。
 殴り合い。
 虚弱な人間の頃も強靭な鬼の頃も、そんなものはこの方体験した事もない。
 千年の生で、この島でさえも起き得なかった初めての状況が無惨に襲い来る。
 
 どれだけ攻撃を受けてもすぐに再生する無惨。
 攻撃を受けても倒れない酒吞。
 長期戦になれば、圧倒的な生命力を保有する無惨の方に天秤が傾くのは自明の理。
 だが短期戦であれば、こうして拮抗する。めだかとの戦いがそうであったように。
 そしてこの場合、無惨にとって時間が長引くのは決して有利に運ぶだけではない。
 目の前の敵に気を揉んでいる中で、もしまた邪魔もの集まって来ようものなら。それが無惨を追い回す鬼狩りであったなら。
 形勢が、徐々に変わりつつある。 

 『ぞわり』と、無惨の背筋を見えない手が撫ぜた。 
 『それ』は千年の時の中で常に感じていた感覚によく似ていたがどこか未知のものがあった。


 “もういい。もう付き合ってられない。“


 無惨は戦士ではない。
 王族や剣士のような命より勝る誇りというもの、生き様を重視する事もしない。
 鬼に成る女も、鬼そのものの小娘も、殺したところで太陽克服の近道どころか時間の無駄でしかない。
 路傍の石がひとりでに足元に転がって挫きにかかるようなものだ。知性ある生物は石にいつまでも拘泥したりはしない。

 既に無惨の思惑は如何にこの場を脱して安全を確保するかに向いていた。向こうとしていた。
 それを途切れさせたのは、天蓋が落ちてくる断末魔の音だ。

 これはどういうことだ。
 なぜ、天井を支える糸がひとりでに切れていく。
 血を与えて強化した糸が瓦礫を抑えられないほど脆弱なわけがない。現に今までは問題なく維持できていた。
 であれば力が弱まってるのは強化が足りないのではなく、力を吐き出す本体に問題があるという事になる。
 自分の意思ひとつで自由に操れるはずの駒が、命令に反する行動を取っているという事に。
 
「何をしている!! 累!!」

787鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:36:53 ID:Rml1i6gw0
 ◆



 認識できるものは痛みだけだ。
 周りで起きている戦闘の余波も、砕けたり割れたりする壁の軋みも、体内で強制的に変化させられる肉体の膨張も。
 全てが掠れている。鼓膜を掻き乱す雑音にしか聞こえない。
 はっきりと感じられるのは、自分の存在自体が卸金で磨り潰されているかのような痛みだけだ。

 痛み。痛み。痛み。
 時間の感覚は消し飛び、状態の因果すら判然としない。
 累の体は未だ主導権を無惨に握られたままだ。
 頚椎を引きずり出された体は再生せず、糸を生成する器官だけ増設されている。
 膨れ上がった胴に、八つの手足から止めどなく糸を排出している格好は、かつて彼の『兄』の役を宛てられていた鬼と瓜二つだった。
 この地下で戦っているのは誰もが、瓦礫の雨程度では死にはしない頑強さを誇っているのだから、天井の落盤を縫い止めるのは本来は無用の備え。
 そうはいかないのは日の下に出れない無惨だけだ。まさに今の累は命綱ともいうべき存在になっている。

 それが自分の役割。利用され消耗される使い切り。
 一時の間に合わせが存在意義であり命令である以上、逆らう意思も理由も飛ばして肉体はそれの為の装置に成り下がる。
 
「うぇ、気持ちワリ。デカい蜘蛛みてぇ」

 雑音だらけの世界で聞こえた声は、やはり雑音としか捉えられず。
 音に向けて、骨肉を滑らかに寸断する鋼線が熱源目がけて自動的に振るわれる。
 
「包帯のガキから聞いたけどさ、おまえ、マシュちゃん逃したんだって?
 そっちから捕まえといて逃がすとか、何考えてんだかわっかんねぇな? ま、無事ならいいけどね」

 なのに、雑音は続いていた。
 鬼でもない人間なら体も命も柔らかく断ち切れているはずなのに。
 どういうわけか、雑音が僅かに和らいだ。音と映像が正常に認識される。
 立っていたのは、見覚えのある顔だった。稀血の女、妹、マシュの連れにいた青い鉢巻きの男。

「んじゃ面倒な手間が省けたってことで……本題、いくぜ。
 リベンジだ」

 明らかに戦闘の意思を滾らせて近づいてくる男を見て、累は何が何だか分からなくなった。
 マシュを助ける為にここに来たのではないのか。 いないと知ったなら、すぐに立ち去ればいいだろうに。
 男の身体能力は知っていた。直に対戦して底はとうに割れている。筋力反射力、いずれも鬼に遠く及ばない。
 軽く叩き伏せたあの時、力を隠していた風にも見えなかった。 
 油断して一発をもらっていたが、それすらどうということのない威力でたかが知れている。
 半日も経ってないのに学習能力がないのか。それとも単に忘れた馬鹿なのか?

 累の困惑とは無関係に、操られた体から糸が展開される。
 正面からの無謀な突進の愚挙に迫る死の檻。最高硬度の糸を渦巻き状に形成して撃ち放つ。
 この切断の鋼線から只人が逃げる手段はない。そして男は、逃げるそぶりさえ見せない。
 死の網にかかる直前に右腕を前に出す。何の防御にもならない無駄な抵抗。非力で凡庸な筈の拳。
 何故かその拳が、一瞬光を纏い、刀でも斬れない鋼糸に斬られるどころか簡単に押しのけ、振り払ったのだ。

 聖なる篭手の加護が働いて光が斬撃を防いだ。そうとしか映らない光景。
 その恩寵を授かった男は、敬虔さを欠片も見せない表情で自分の腕を見つめていた。
 折り曲げた男の肘先から水滴が落ちる。血の匂いはしない。鮮烈な赤ではなく透き通った水が、両の篭手をくまなく濡らしている。
 発光の原因は、付着した水滴が外からほんの僅か、一筋ほど漏れた太陽の光を反射したためだ。
 証拠に、光を浴びた累の体から焦げ付いた煙が上がっている。一秒以下の照射で鬼の体は消滅してしまう。 
 ならば糸が破かれたのも陽光に当てられたからか。それは違う気がする。光が出たのは本当にごく短い時間だった。
 それに糸の輪郭が急速に解れたのは、拳を振るって飛沫となった雫に触れた時なのだ。


 村山の両腕を濡らしてるのは単なる水ではない。
 神便鬼毒酒。累とクロオと共謀し、無惨に反逆する際に仕掛けておいた道具のうちの一つ。
 曰く呑んだ人に強力を与え、呑んだ鬼の身動きを封じる神酒。
 酒呑童子の宝具として成立するにあたって、あらゆるものを溶融する毒の水を放出する効果と変じた。
 広範囲を覆う対軍宝具であるそれを、村山は篭手にかけて対鬼用のコーティングとして使用した。
 全てはこの手で直接鬼を叩くため。糸程度では満足しない。絶死を覆した隙を逃さず突進する。

788鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:38:03 ID:4zUlIlqM0

「ヅ……!」

 雨あられに鋼糸を腕で弾きながら本体目がけて突っ切る。 
 篭手で払え切れなかった糸の数条が、腹を打つも肉が裂かれる事はない。
 神便鬼毒は篭手だけでなく上着にも染み込ませてある。
 絞れば大量に水が出てくるほど染み込ませた服は防弾チョッキとして機能していた。
 だが防弾チョッキは銃弾の貫通こそ防ぐが着弾の衝撃を完全には殺せない。当たった部位の骨が折れるぐらいはざらにある。
 常人である村山が酒を浴びても平然としていられるには、毒の濃度をギリギリまで下げる必要があった。 
 そして村山の身体能力が向上するわけでもない。脅威の程は落ちても依然窮地のまま。
 得物が刃物から鈍器に変わっただけで、無数の凶器で殴りつけられる事には変わりない。
 今の村山は、金属バットを持った集団に囲まれて一斉に襲われてるのに等しい状態だ。

「上等だろォが!」

 望むところだ。
 殴り合い、我慢勝負なら自分の領分だ。
 たったひとつだけ鬼に村山が勝る経験値。
 喧嘩に明け暮れ、鬼邪高で番長に登り詰めてからも日常に慣れ親しんだいつもの場所だ。

「はっはははははははは!!」

 交差する腕で守った顔以外を止まない乱打に晒されながら哄笑する。破顔して爆笑であった。
 命を張って、向かない策を練り、ここにきて漸く、村山が鬼と向かい合うだけの土台ができた。
 状況が、空気が、村山に味方する。後押しをしてくれる。だからこうして進めるのだ。

 逃げる事だけはしない。最初からそれだけは決めていた。

 別に、戦うのにそう大きな理由があるわけではない。
 鬼も、化物も、殺し合いも、実のところ深く考えてなんかいなかった。
 喧嘩を売られて、やられて、しかも舐められたから、やり返す。
 ガキっぽい、そんな単純(シンプル)な理由を背負ってこんなところまで来てしまった。
 
 それともうひとつ。
 ここまでのやり取りと戦いを見て、村山は鬼についての事を何となく知った。醜悪なる鬼の様をこの目で見た。
 ああ、駄目だ、あれは。
 どんなに強くなれても、誰にも負けなくなっても、あんなのにはなりたくない。
 そう、固く誓う。
 自分達はろくな大人になんてなれやしないだろうが。
 それでも、仲間を捨てて自分だけ助かろうなんてする奴よりは、ずっとマシな生き様だと、胸を張れるだろう。

「確かにテメエは強いよ」

 村山は認める。
 鬼は強い。ただの人ではやはり勝てないのだろう。
 刃なき拳では頸を落とせない。殺し合いという舞台で殺すのは無理かもしれない。


「でも喧嘩なら───不良が勝つんだよぉ!!」
 
 
 最後の助走をつけて強く、強く大地を蹴って跳び立つ。
 片手片脚が離れていき、腹を捌かれるのを意に介さず。
 残った拳が血と酒で煌びやかに彩られて顔面に埋まる。
 加速と体重を限界まで乗せた一撃は、累の頭蓋を揺らし、脛椎を叩き割った。

 決まった。
 身を苛む痛みも吹き飛ぶ会心の一発に、痺れるような感覚だった。
 着地が上手くいかず無様に地面を転がってしまうが、どうにも立とうという気が湧かない。
 むしろこのまま暫く寝転がって掌に残った充足を味わっていたい。それぐらい爽やかな気持ちだ。
 なによりメチャクチャに動いたからか、経験にないほどの眠気が襲ってきていてしょうがなかった。

「あ、やべ。バイクなに選べばいいか、コブラに聞き忘れた……」

 四肢を落とされた喪失感も彼方のまま、意識が落ちる直前。
 唐突に浮かび上がった、他愛もないやり残しへの後悔が脳裏をよぎるが、まあ後でいいかと、痛みの先に手にしたものに包まれたまま、安らかに両の瞼を落とした。

【村山良樹 @HiGH & LOW 死亡】



 ◆

789鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:39:03 ID:4zUlIlqM0



 全身に縛りついて支配していた糸が、ぷつりと切れたのが肌でわかる。
 全権を握られていた、体を操る手綱が一時的に取り戻されている。
 自分のものであるのが当然なのに違和感がある。
 永く続き過ぎた刑罰は自我が磨耗させて、理解力が戻るのにいっときの時間を要してしまった。
 
「聞こえるかい、弟。そもそも生きてる?」

 背後からの声と、首筋に刃物が突き刺さっているのをちゃんと知覚できる。
 自分の首を支えてるらしい兄の、クロオの声に縋るように復帰をする。

「へえ、首だけでも無事なんだ。凄いな。ラブデスター実験でもさすがにお目にかかれた事はないや。
 ああ、今からこいつで君の力を活性化させる。そうすればあのお方っていうのにも抵抗できるんじゃないかな」

 首筋を刺された場所に痛みはない。
 代わりにそこを基点に稲妻が体中を駆け巡る図が脳に浮かび上がり、その通りに体が賦活している。
 そういう能力の支給品を持っていたのを、前に説明を受けた気がする。

「色々と予定が狂ったけど、なんとか目論見通りにはいけそうだよ」

 意識が段々と明確になっていき、次第に周囲の状況が見えてくる。
 累の主。鬼の少女。
 血溜まりの中で倒れる青年と、主と真正面から戦い続けてる異形の童女。
 青年はともかく、長髪の少女よりも幼い子供は初見だ。

「ああ、あの人達は僕が誘ったんだ。
 前に捕まえた男はともかく、一緒にいたあのちっちゃい女の子はすごい強そうだったからね。
 よくて殴られるか、最悪殺される覚悟ぐらいはしてたけど案外あっさり聞いてくれたよ。
 もともと乗り気だったんだ、あのお方ってのを倒しにね」

 つまり、二人は始めから鬼を倒しに此処に来たらしい。
 鬼狩りには見えない、それどころかもう片方は鬼にしか見えない異類だというのに。
 
「……うーん。誰かを死なせるなんてしょっちゅうやったけど、やっぱり心動かされそうなものもないね。一度死んだからって、そうそう変わるものじゃないか。
 けれど君が助かったのは、まあ、よかったんじゃないかな」
「……え?」

 当の累にも不可解な疑問が、頭の奥の空洞に引っかかった。
 鬼となって忘れていた、気づかないように封鎖して投棄していた記憶の蓋がひび割れて溢れ出だす。
 
 昔、これよりもずっとずっと優しい言葉かけてくれた人がいた。
 外に出るだけでも体力が続かない病弱な子供を、決して見捨てずに手を繋いで家に連れ帰ってくれた。
 理想なんか思い描かなくても、最初から自分達の家族には本物の絆が結ばれていた。
 先に断ち切ったのは自分で、この手で捨てたものが何処にあるかと探し続けた。
 捨てた時点で、もう同じ手触りを感じられなくなってしまってるのに。

「そうだ───なら、もう、やめないと。こんなことは」

 糸の排出を停止。強度の維持を解除。
 背から突き動かされた強迫観念が薄れていくのを感じて、強張っていた体を弛緩させる。

 首を抱えたクロオを見上げる。穴食いになった天井からの陽光で、鬼の視力がなくてもわかるぐらい部屋は明るくなっていた。
 受け取った、形だけのからっぽの労いの言葉。打てばよく響いた音が出そうなガランドウ。
 当人が与えられた愛の半分にも満たない、クロオなりに精一杯の歩み寄り。

「兄さん」
「なんだい」
「わかったんだ。僕が、本当にしたかったことが」

 謝るよりも先に、礼を言いたかった。
 込められた気持ちの大きさはここでは重要ではない。
 今にも切れそうな細い糸のような絆が、二人の間に繋がれているのがわかっただけ。



「あ」

 そして何か真実の愛にでも目覚めたような告白をするよりも先に、累の頭部が内側から破裂した。




 見慣れた散華。
 さんざ目の当たりにしてきた、自分の誘導で起こさせもした光景が、クロオの眼前で起こる。
 顔や服に飛び散る血や肉片、脳漿。
 視線を下ろして、ああ、汚れを落とすのが大変だなあと、乾ききった感想を漏らした。

【累 鬼滅の刃@死亡】



 ◆

790鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:40:20 ID:4zUlIlqM0



 命令が正確に実行できないとみて、躊躇いなく累の脳を遠隔で爆破した。
 支配操作から抜け出た駒に用はない。
 反逆者なぞ生きているだけで気分を害する邪魔者へと意義を貶める。糸を切るのを何ら咎める材料はなかった。
 こと生き延びるという一点のみに全存在を費やしているからこその、損切りに関する恐るべき判断の早さだった。 

 だが、この場限りではそれは裏目に出た。
 たとえ即決の判断の、数瞬でしかない意識の分割でも。
 深淵から目を逸らすべきではなかった。
 目の前の怪物との戦いに集中を散らすことだけは、してはいけなかった。



「『千紫万紅・神便鬼毒』」

 

 血に艷やかに濡れた唇から、奇跡を喚起する名が紡がれる。
 瓢箪の酒を注いだ盃からこぼれ落ちた玉虫色の雫が、地面に広い波紋を起こす。
 落ちた地点から間欠泉よりも勢いのある噴出が一面に水面を広がって全員の足を濡らす。
 水面に映るのは色とりどりの花が咲き乱れる、酒の肴になるほどの甘美なる情景。

 真名解放。
 サーヴァントの真髄。物理の壁を逸脱した超常を起こす貴き幻想。ノウブル・ファンタズム。
 酒天童子のそれは酒の瓶蓋を開け垂れ流すもの。
 幻想種の骨さえ溶かし、対象を文字通りの骨抜きにして、比喩抜きに酒に呑まれる対軍宝具。

 毒物───。
 目の前で展開されいち早く性質に気づいた無惨だが、その顔に焦りが増すことはない。
 あらゆる毒に耐性を持ち、短時間で解毒を可能にする体質の無惨にとっては毒など恐るるに足らない。
 それよりも、時間が経つ毎に当たる範囲を広げる陽光から逃れることこそが何よりも優先するべき事項だ。
 足止めにもならない水溜りの中を駆けて壁を目指す。兎にも角にも日の当たらない場所を確保しなければならない。
 触手の先端を爪から拳状に変化させて掘削して穴場を作る。そうして彫り続けて完全な暗闇に身を潜める。
 敵に背を向けて逃げ去る、土竜の真似をしてでも生き延びようとする。恥を恥とも思わない撤退だが、それだけに逃げられてはどうしようもない。
 『逃げ』の姿勢に回った無惨を再度捉えるのは二度とないといえるほど困難だ。

 それが『責め』の姿勢を崩さなかった酒吞との応酬に、明確な差を生んだ。

「『百花繚乱・ 我愛称(ボーン・コレクター)』」

 壁に向かって一目散に走る無惨の頭上から降った両の爪が、肩口に深々と突き刺す。
 貫通し脇を抜けたところで、無惨と対面になるよう身を乗り出して脚で固定する。
 両脚を腰に絡ませた妖艶な態勢。唇が触れ合う近さで酒吞の表情もまた、情事の際と変わらず艶めかしく。
 立ち込める酒気と逸らしようのない眼に、吐き気がこみ上げる。
 消し去ってやると身体を変形させ───何故かそこで膝をついた。
 意に反する落地に怪訝に目を下に向けると、すぐに疑問は氷解した。
 
 足が、無い。
 無惨の膝から下、水に沈んでいた部位は骨ごと溶かされていた。
 それは、予想よりも水の勢いが強く講堂を沈めつつあるということであり。

”水攻めだと……!?”

 判断を間違えたと気づいた時には、もう遅かった。
 腰元まで酒に浸された体は乾物を水で戻すようにふやけて、骨から剥がれていく。
 対軍宝具の全開解放は、さしもの無惨の再生力でも無視できるものではない。
 すぐ後ろの村山に貸与した時とは比較にさえならない濃度の溶解液が、波濤の勢いで空間内を満たしていった。

「何のつもりだ、これは……!!」
「ん? なにって、もう、見ての通り。
 鬼の前で鬼ごっこなんて、おかしなことするもんやから。逃げられんようこうしてきつうく抱き締めてあげんと。
 まあ。ああほら、あれやあれ。
 身の着ひとつで夜逃げした果てに、仲人連れての、身投げ?」


 ────────────────────思考が、凍りつく。


 一体、何を、言っている?
 意見など求めていないはずなのに、なおも脳髄にねじ込ませられる。
 意味不明なまま、足先からとぐろを巻きつけられる。

 これこそが鬼。
 人の世、人の生の根本から外れた魔にして呪。
 殺人を愉しみ略奪を楽しみ陵辱を嬉しみ、自らの死を夢見心地に笑う。
 人と交わればありと汎ゆる総てを棚置いて恐怖と混乱を呼び起こす『相容れない為の』系統樹。
 目の前の男に。背後の少女に。全身全霊を捧げて謳い知らしめているのだ。

791鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:41:38 ID:4zUlIlqM0

 とうとう胸を埋める位置まで上がってきた。
 再生の方に力を向ければ分解より早く肉体を構成し、自力で脱出するだけの余裕はあるだろう。
 だがその為にまず自身と溶融した酒吞を引き剥がさなくてはいけない。しかし酒吞を外すだけ攻撃に集中してしまえば、溶解の速度が再生力を上回りかねない。
 そしてこうしてる間も太陽は完全に天から姿を見せようとしている。

 鬼殺隊の襲撃。配下の統制。日没と夜明けの時間。
 蓄えた知識と増設した脳による、難解で曖昧な計算結果を速やかに導ける高い知能。
 だからこそ、己が置かれた状況を常人より早く突き当たり。
 『ぞわり』とした感覚と共に、無惨の生で絶対に浮かんではいけない二文字が浮かび上がる。
 永遠に遠ざけておかなくてはならない一文字が音を立てて近づいてくる。

「_____               _____
          ──────             !!!!!」

 思考も、感情も、本能も、彼方に置き去りにして。
 その更に先にある、存在としての原初の指向だけが爆ぜた。
 生やせる限界数の触手で滅多切りにする。
 体内を抉っている両腕を周囲の細胞で磨り潰す。
 形成した口腔から神経系を麻痺させる衝撃波を至近距離で叩きつける。 
 災厄を僭称するに似つかわしい、さっきのめだかをも凌駕する天変地異の具現。
 サーヴァント、鬼の霊核といえども、ここを超えては限界を留められない閾値に到達する重傷。

 だというのに離れない。
 切り裂いても引き千切っても磨り潰しても吹き飛ばしても離れない離れない離れない離れない離れない離れない!
 
 この戦いの終わりを決する分水嶺になったのは、どちらが音を上げるかの単純な根比べ。
 それでもやはり膨大な生命力を保有する無惨の方に結果が傾くはずのない天秤の皿に、最後の賭け金(チップ)が乗せられた。

「な───に……?」
 
 無惨の頭蓋に重い何かが突き刺さる。
 熱を持ってない金属質な物にも関わらず、異様な灼熱感があった。
 水流に乗ってきた岩盤の破片だと見做して無視していた無惨にとっては慮外の不意打ちだった。

 人間大の質量の漂流物の正体は、まさしく人間そのもの。
 それはとうに死体だ。物言わぬ骸が偶然こちらに流れ着いて、勢いそのまま無惨の頭部に向かっただけ。
 このタイミングで、そんな偶然がありえるのか。某かの操作があった方がまだ辻褄が合う。
 確かめる術は誰も持たず、よって此処この場で言える事はひとつ。
 殴りつけた骸─────村山の顔は、笑っていた。 

「あはははっ! なんや、小僧も殴りたかったんかいな!
 ええでええで。前の喧嘩の続きや、終わるまで飲み明かそか……!」

 体は脆く死ねば止まる人間が、死んだ後でも意地を見せに来て一華咲かせたのだ。
 土産のひとつでも贈って応えるのが鬼の粋というもの。一切合切を出し惜しみなく投入する。 
 体内に埋まった酒吞の腕から放出される熱。魔力放出スキルの完全解放。内を熱、外を酸で、両面から細胞を焼き落とす。

 再生と破壊の速度が拮抗し。脱出に回せる分の力を失った時、仕込まれていた爆弾が作動する。
 クロオ以外の誰もが気にも留めず放置していた仕掛け、漏電した暁光炉心が流した電気の網が絡め取る。
 そして遂に水位は天井まで達し、空間を満たした。
 かつて教会と呼ばれた土地は水の牢獄へと形を変える。
 ふたりの鬼は衆合地獄を揺蕩う。日の脅威が沈み、どちらかの生命が尽きるまで。
 固く抱擁を交わしたまま海に身を投げる、それはまるで夫婦のように。



 鬼が笑う。
 鬼が嗤う。
 鬼の笑いが木霊する。

 墜ちて逝く。
 墜ちて往く。
 底の見えぬ深き海へ。




 ◆

792鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:42:44 ID:4zUlIlqM0




「……いるな。あそこだ」

「千年男のことか? けどあそこはもう瓦礫の山じゃぞ」

「地下に潜ってるんだよ。気配のようなものを感じるんだ。一度鬼になった影響かな。ほぼ間違いないはずだ。
 私は中に入るが、貴様にはここで待ってもらいたい。他に頼みたい事がある」

「なぬ?」

「私は何としても奴の足を止める。この身に換えても時間を稼ぐ。
 その隙に、童磨の時のようにこの床一面を吹き飛ばしてほしい」

「それは構わんが……今すぐやってしまえばいいんじゃないのか?」

「それでは逃げられる可能性がある。それに奴以外にも参加者がいるみたいだ。まずはその人たちを助けてからでなくてはな。
 私ごと巻き込んでやってくれ。最悪生き埋めにする形でも構わない。嫌な役回りだろうが、今は
頼るしかない。この通りです」

「…………分かったぞい。そこまで頭を下げられては断るわけにもいかん。お前の犠牲は無駄にせんぞい」

「ああ、存分に使ってくれ。見も知らぬ誰かの役に立てるなら、これ以上の喜びは私にはないんだから」



 ◆

793鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:43:44 ID:4zUlIlqM0


「なんて、そんな戯言を守るわけないじゃろバカがーーーーーーーー!!」

 非道を為す者を鬼と呼ぶ習わしがある。
 あまりにも残虐な行いをした時、人とは思えぬ所業だと責め立てる。
 その意味でいえば、現在の今之川権三はまさに比類なき鬼だった。

「でも生き埋めにするのは望み通りにしてやるぞい! 千年男やさっき入っていった生意気なクソガキとメスガキ二人諸共死ぬがいいわ!」

 黒神めだかはここで切り捨てることにした。
 仮想敵にぶつける予定だった無惨を補足出来たが、これ以上この女と同行するのに無理を覚え始めていた。その予想は正しい。
 黒神めだかに付き合っていくという行為に、たとえ短時間でもどれだけの体力と労力と精神力を擁するのかを、彼女を知る者は知っている。
 なので苦労して味方に引き入れたのは惜しいが、ここで手切れとした。
 利用しやすいカモなのではなく、厄介だが強力な爆弾でも放り投げるような気軽さで投げ捨てるぐらいの扱いでやるのが最適だ。
 だいいち機があればいつでも実行してもいいと申し出たのはめだかの方だ。
 権三にしてみればめだかの願いを叶えてやった形であり、寛大が過ぎる善行と崇拝されこそすれ非難される謂れはどこにもない。

 地下でどのような戦いが繰り広げられてるかは、外からでは窺い知れない。
 だが聞こえてる轟音と本能に根づくナノロボの活性が、権三の生を危ぶまれるだけの凄まじさを物語っている。
 ならば権三が選ぶのは援護ではなく、総取りだ。地下に潜り込んだ全員を一網打尽にする。
 無惨が太陽を苦手とするのは看破している。めだかに足を止められてる間に天井を崩されては、たとえ生きていられても暫くは外に出れまい。
 先に権三を通して中に入っていった二人組も同様だ。
 幼い少女でありながら醸し出す雰囲気は無惨と大差がない。関われば手痛い火傷を受けたに違いない。
 いかにも低学歴な男の方も敬老の精神というものが毛ほども感じられない。年配者の恐ろしさを思い知らせる必要があった。
 
「これでまとめて一網打尽じゃなあーーーっこんな簡単にいくなんて天もわしに微笑んでいるぞい!
 しかし、酸の泉が涌き出て来るとは驚いたぞい……温泉でも堀り当てたと思った時は自分の才能が恐ろしかったが、ありゃ使えんな……」

 住宅の屋根をひとっ飛びする跳躍力で崩落地から早々に立ち去る。
 用心を重ねての事だ。それなりに派手にやったし、武蔵の様な徒党が来ないとも限らない。
 もしめだかが生きていて再会するような事があっても、幾らでも言い訳は立つ。力はあっても頭が弱い。弁舌で幾らでも騙し通せる自信がある。

 何も喪わず、傷つく事のなかった男を、真昼の頂点にそびえる太陽が祝福するかのように熱く輝いていた。

794鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:44:58 ID:4zUlIlqM0







 意気揚々と教会を後にする権三は邪魔者を始末したと思い込んでいた。
 生き残ったとしても逃げ切れるだけの時間は十分稼げたと疑わなかった。
 瓦礫で出来た小山の陰で身を潜ませていたクロオが見ていた事に、最後まで気づきはしなかった。

「……別に生き残る気なんてなかったのに、余計な真似をする弟だよ。
 本当の家族でもないのにさ」

 水が溜まってくる地下で運命を共にするのに不満はなかった。
 上等な死なんて元から期待していない。
 いや、あの時以上の死など自分には存在しないと溺死を易々と受け入れれていた。
 こうして生きてるのは不本意な介入だ。
 自分がいるところまで浸透しようとした時に、累を抱えて服にからまっていた糸が拾い上げた腕輪。
 切断された腕がついたままのそれがクロオを巻き込んだ範囲で起動し、制止する間もないまま地上へと転移させられた。

 隣に横たわるめだかを見る。数えればきりがないほど傷だらけだが気絶してるだけで死んでない。
 引き上げたのはクロオではない。そして恐らく累でもない。
 消去法的に、あの鬼の少女が身動きが取れないめだかの首根っこを掴んで屋外へ放り投げた、そんなとこだろうと推測する。
 起きるまで待っておけば色々と話を聞けるかもしれないが、面倒事が増えそうな気もするし、話を聞く気も今はしない。
 糸に一緒に引っかかっていた二人分の荷物をちゃっかりと調べ、中身だけ頂いて放置して行くことにする。


 適当に歩きながら、幕を閉じた継ぎ接ぎの兄弟ごっこを思い返す
 累もクロオも、世の中にとっては少数派な部類の人でなしだ。
 一方は生まれつき普通の精神をしていない人殺しで、もう一方は人でもない。
 二人とも、家族の愛を見失った同類だ。その気持ちを共有できる仲間が欲しかった。

 死者の気持ちなんて分からない。
 もし分かるなら今頃クロオが追い落としてきた人間全てから呪詛を浴びているだろう。
 死者の思いを汲むだなんて行いが出来るのは極一握りの人間だけで、自分とは縁遠い存在だと思っていたが。

『■きろ』

 崩落と引き上げられる風斬り音で耳鳴りがする中で拾い上げた雑音。
 少しだけ。ほんの少しだけ、都合のいい解釈を巡らせてしまっていた。

795鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:45:49 ID:4zUlIlqM0
【全体の備考】
※教会地下が神便鬼毒酒の毒で満たされています。
 酒呑童子が解除するか宝具が破壊されるまで無くなる事はありません。


【E-3 教会跡・地下室/1日目・昼】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、極度の興奮、完成者への苛立ちと怒り、極限の不機嫌、無能たちへの強い怒り、鬼への吐き気を催す不快感、神便鬼毒酒で溶解中
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本方針:あの忌々しい太陽を克服する。
0.太陽を克服する。
1.配下の鬼に有象無象の始末は任せる。
2.配下の鬼や他の参加者を使って実験を行いたい。
3.黒神めだか、雅、酒吞童子への絶対的な嫌悪感と不快感
[備考]
※刀鍛冶の里編直前から参戦しているようです。
※鬼化は、少なくとも対象が死体でない限り可能なようです。
※シザースのカードデッキは怒りに任せて破壊しちゃいました。ボルキャンサーは辺りを徘徊してます。

【酒呑童子@Fate/Grand Order】
[状態]:左頬に打撲、腹部にダメージ、食道気管を荒らされてる、無惨の骨を捕食、神便鬼毒酒で溶解中
[装備]:普段の服
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:楽しめそうなら鬼は鬼らしく楽しむ
1:小僧と遊ぶのは楽しかったなぁ。
2:鬼舞辻と遊ぶ。
3:気が済んだら上田と合流。
4:沖田総司とも再戦したい。
5:メルトリリスに傷を付けた鬼も面白そうだ。
[備考]
※2018年の水着イベント以降、カルデア召喚済
※神鞭鬼毒酒が没収されているため、第一宝具が使用できません
※スキル「果実の酒気」は多少制限されています。
※無惨の血肉を喰らって僅かに無惨の記憶を覗いてます。少なくとも鬼舞辻無惨の名を知りました。




【E-3/教会跡/1日目・昼】

【今之川権三@ナノハザード】
[状態]:疲労回復、気分は上々
[装備]:
[道具]:飲食物を除いだ基本支給品一式、炸裂弾『灰かぶり(シンデレラ)』×20(残り10) 、めだかの腕の搾りかす
[思考・状況]
基本方針:全員ブチ殺してZOI帝国を作るぞい!
0.クソガキメスガキまとめて一網打尽じゃぞい! あの女も別れられてせいせいしたぞい。
1.慎重に立ち回って全員ブチ殺すぞい。
2.しかしあの千年男はヤバイぞい。でも日光が弱点くさいということは...チャンスだぞい!
3.他にもヤバイ奴が大勢いそうだぞい。
[備考]
※本編で死亡した直後からの参戦です。
※めだかの血を飲み体力を回復しました。
※真下で覗いてるクロオに気づいてません。



【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁、転送機(3時間使用不可)@ラブデスター、ランダム支給品0〜2(めだか)、ランダム支給品1〜3(無惨)
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本方針:未定
1:不明
[備考]
※参戦時期は死亡後


【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]:鬼神モード、疲労(絶大)、細胞破壊(重度、再生中)、無惨への(同族?)嫌悪、気絶
[道具]:基本支給品一式、 雅の鉄扇セット@彼岸島
[思考・状況]
基本方針:見知らぬ誰かの役に立つ、それは揺るがない。
0:気絶中。
1:善吉や球磨川と共に殺し合いを叩き潰しBBを改心させる!
2:お腹がすいた。
[備考]
※参戦時期は後継者編で善吉に敗れた直後。
※本当に鬼になったのかは不明ですが、それに類する不死性を獲得しています。日光は克服できましたが、人食いの能力は保持しているようです。
※いくつかのスキルに制限が加えられているようです。
※『光化静翔(テーマソング)』はアコースティックバージョン(5人まで)含め鬼神モードの時にのみ使用できますが、現状は時間切れで使用できません。
※鬼神モードを使用するとお腹が空くようです。
※石上殺害の犯人が無惨だと伝えられました。
※無惨の血(細胞)を大量に摂取しました。

796 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:46:38 ID:4zUlIlqM0
投下を終了します

797名無しさん:2021/05/04(火) 17:21:09 ID:IWR/fk8w0
tes

798 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:21:32 ID:IWR/fk8w0
投下します

799白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:22:10 ID:IWR/fk8w0


 ◆


「三玖さん、大丈夫かな」
「姉妹があんな殺され方をしたんだ、無理もないだろう」

 立香が気絶した三玖を個室に寝かせて看ている間、ミクニと猛田は玄関前に出ていた。
 外の見張り。大声が出たわけじゃないがそれなりに騒いだし、宥めるにも同性の方が適してるだろうという、合理的判断あってのことだ。

 言ってから記憶から消去しておきかった、惨殺体を目にした脳裏に蘇ってきてしまって、猛田は後悔した。。
 シーツをかけて隠してあるが、あの死体は今も置かれている。嗅ぎたくもない異臭を漂わせて。
 換気や清掃はしてあるからって、ホラー映画に出てくるクリーチャーじみた変死体が壁一つ隔てたところにあるなんて、想像しただけで気が滅入る。
 この時の猛田は一分一秒でも早くこの家から離れたかった。外に出てるのはそういう意図もある。気絶してる三玖など放置して先に行きたいくらいだ。
 中野三久という女は、高校生なだけあってかつての「キープ」より遥かに上物だったが、ああなっては使い物になるまい。
 しかしそれはミクニも、そして立香も許すまい。かといって自分だけ出奔するのも自殺行為だ。お人好しと行動するデメリットを差し引いても、単独行動はリスクが高かった。

「どうした猛田、顔色が悪いぞ」
「っ当たり前だろ。あんな死体を見たら……」

 ああ。本当に、あんな死体さえ見つけなければよかったのに。
 心の中で毒づき、ますます気分を曇らせる。

「ああ、許せねえな。人を、三玖さんの妹をあんな風に殺すだなんて……いったい誰がやりやがったんだ」
「……は?」

 自分が抱く気持ち悪さとはまったく別種の意味で同意を示したミクニに、思わず間抜けな声が出てしまった。

「は? ……ってなんだよ猛田。ジロジロ見て気持ちわりいな」
「……いや、何でもない。それよりあまり喋らないほうがいいだろう。俺達が騒いで敵をひきつけたら本末転倒だ。殺人者だって戻ってくるかも……」
「じゃあまずお前が黙れ! ったく……」

 その場に座り込むミクニ。猛田も同じように座りそれ以降口を閉じて押し黙った。
 考えたい事があり、自分一人で思考する時間が欲しかったからだ。


『お前が死んでからも、ラブデスター実験は続いていたんだよ』


 立香達と接触するまでの道すがら、猛田が死んだ後の実験の推移をミクニは語って聞かせた。
 月代とは違うもうひとつのラブデスター実験が行われていた、敬王大学付属中等部からの刺客による誘拐。
 もうひとりの試験管、お見合い制度による告白、そこで巻き起こる事件の数々。
 敬王から帰還した後にも、残された月代生徒が疑心暗鬼の末ほぼ全滅という惨事。
 続く豪華客船でのイベント「キスデスター」。

 それが終わった時点で生き残ったのは、ミクニやジウらを含めて二十人にも満たないという。
 かつて用済みとして「排除」しようとしたらみ、配下にしていた熊本や美円は生還したようだが、そこは今はいい。

 無関係の百何人が死のうと、どうでもいい。
 別の学校の生徒なら尚更だ。同情するにも値しない。
 だが常にその中心に位置し、荒波に揉まれながらも生き残ったミクニに対しては―――少なからず衝撃だった。

 そんな目に遭ってもなお、こいつはあの時と変わらぬ正義感を発揮していた。
 そして再会した猛田にさえも、変わらず手を差し伸べてきた。
 そうした善人面は隠れ蓑には好都合で、そう計算してたからこそ同行を申し出た。
 実験場での行いを洗いざらい暴露されたのには肝が冷えたが、それでも予定通りの流れだ。
 だというのに、この気持ち悪さはいったい――――――

「おい、猛田!」
「なんだ、黙ってろと言ったのはお前……」
「そうじゃねえって、上を見ろ!」

 煩わしい声が割り込んできて考察が散り散りになった苛立ちは、ミクニが指差す天上を見て霧散した。

「何だ、鳥か、飛行機か……?」

 空を一直線に横切る、黒い影。
 暗がりであるのとその速さで禄に見きれなかったが、蝙蝠を人間サイズまで拡大したようなシルエットであった。

「近くに降りたみたいだな。よし、見てくるぞ」
「ば、あんな明らかに危険物に近付こうだなんて正気か!?」
「ほんの少し様子を見るだけだ。危ないと思ったらすぐ引き返せばいい。なんならお前は残ってりゃいいだろ」

 忠告も聞かず、ミクニは着地地点へと向かって行く。
 猛田は暫し憔悴した心持ちでそれを眺め、自分に言い聞かせるように吐き捨てて後を追った。

「―――クソッ。今お前が死んだら俺の立場が危うくなるからだぞ!」

 結局答えを出す時間は与えられなかった。
 そこからは中野姉妹が集まってきて騒がしくなり、沖田総司に刀を詰められ、目の前でミクニがジウに殺されてと、さんざ精神をかき乱されて、放置した疑問を取り出す暇もなかったからだ。

800白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:22:41 ID:IWR/fk8w0



 そして今。
 猛田は漸く疑問を引っ張り出せる時間を与えられた。
 未だ危機は去っておらず、盾になる備えも欠けた状態だが、今すぐに襲撃があるわけではない程度の安心だ。
 すぐにでも追走するジウが現れてくるかもしれない恐怖こそ尽きないが、とにかくも心理的な余裕だけは戻ってきていた。

 C-6は【美術館】と名付けられた施設。
 一花と離れた場所からすぐ近くにあった大型のランドマークに身を寄せて、足を止めた口実に使った休憩を改めて果たしている最中だ。
 外の土にバイクらしきタイヤの跡が残っていたのを立香が見つけたが争った形跡もない。
 先客もおらずほぼ手つかずの館内をゆっくりと見て回っている。体力の回復を待っているのもそうだが、一花が戻ってくるまで手持ち無沙汰なのが現状だ。

「北斎にゴッホの芸術画、鎧兜にギリシャの出土品から詩集の原本……? なんか乱雑というか散らかってるというか。
 ひょっとして触媒になるのかな、これ……」
 
 前を行って陳列棚を物色する立香。
 現在の彼女は元あった服を脱ぎ捨て、カルデア戦闘服なるコスチュームに着替えている。
 体操選手が着るようなタイトな格好で恥ずかしげもなく外を闊歩しているのはなんとも言えない倒錯性を感じさせる。
 前を見れば想像と違って意外と質量のある胸元が谷間だけ露出され、後ろからは引き締まった腰から尻、脚にかけてのラインがタイツで更に強調されている。
 中野姉妹を間近にして目立たないが、立香もまたかなりの美少女である。常に表情に怯えがある面々よりも、余裕を保っていられる垢抜けた様はむしろ最も魅力的かもしれない。
 そんな中の上、いや上の中から上の女が露出度の高い格好で微笑んでくるものだから、猛田の心中は生命と関わりない意味で穏やかではない。
 つい、見入って生唾を飲み込んでしまう。

「くん───猛田くん?」
「ぉわあっ!?」

 妄想していた顔が間近まで迫っていたのに気が動転して大声を上げてしまった。
 広大で静謐な美術館内で猛田の声が長く反響する。

「やっぱり休んでいたほうがいいんじゃない? そんな長く見て回るわけにもいかないから二乃達のとこに戻っていても───」
「いいやいやいやぁ? まだなんてこともないですよ。立香さんほどじゃないが二乃さん達よりは異常事態にも慣れてますから。肉体労働よりは頭脳担当ですけど喋るにも体力はいりますしそれなら歩く分に回せばまだどうということは」
「そっか。色々やってんだもんね」
「いぅ───────っはい」

 過去の失態を揶揄されたような気がして、喉がひきつってしまう。
 彼女に限ってそんなつつきはしないとしてもやはりバツが悪くなる。猛田は立香にかける感情が単なる劣情のものだけでないと自覚していた。
 どうしてこうも彼女が気になるのか。
 
 ”決まってる。ミクニと同じで、この人も「死」に怯えちゃいない”

 中野四葉の変死体を目撃した瞬間、猛田は情けなくも腰を抜かした。
 跡形も死体が残らない「告白」失敗の爆死(クラッシュ)とはワケが違う。
 精神を追い詰められて絶望から飛び降りて自殺するのなら、まだ人間らしい死だ。目の前に飛び込んできたソレは、そんなものを超越した破壊の惨状だった。
 その中で迅速に行動したのが、先頭に立っていた立香であり―――猛田の後ろにいたミクニだった。
 恐怖がないわけではないが、身が竦むより先に体を動かさなくてはならないと弁えてるような動作。
 「告白」失敗以外でも、暴徒化した生徒の手で殺された生徒もいたとミクニは語っていた。
 実験の終盤まで生き抜いたミクニはもう、生半可な「死」に対して臆することはない。
 そんなミクニと同じく「死」に機敏に対応した立香。猛田の焦点とはつまりそこだった。

 どことなく堅気には思えない振る舞いがある、謎めいた女。
 彼女もミクニと同じく「死」を多く見てきたのだろうか。
 分からない。「死」を知ったからといってそんなにも達観を持てるものなのか。
 猛田は好みの女(キープ)ばかりを傅かせて支配する、愛の独裁者になりたかった。
 だから邪魔者は「排除」してきたし、しようとした。自滅させ、駒の手で処罰させた。それで何人死のうが知ったことじゃなかった。
 そうでもなければ、「死」など関わりたくもなかった。
 初めて「死」に触れた、 引き返しがつかなくなったあの瞬間と同様に。

「……ん?」

 なにか、決定的な閃きが頭を掠めたような気がしたが、それはすぐに煙になってかき消えてしまった。
 振り返ってもなにが立ってるわけもなく、猛田はただ不可解に首をひねるしかなかった。



 ◆

801白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:24:18 ID:IWR/fk8w0



 一度目の定時放送が始まり、愛月しのの名を聞いて狼狽する少し前─────。

「……そんなの、おかしい」
「そ、そう言われてもなー。残念ながら現在は召喚のご縁がなかったということなのでどうしようもないというか」
 織田信長がいる。上杉謙信がいる。豊臣秀吉の縁者に幕末の志士もいる。なのになんで武田信玄がいないの? ライバルの謙信までいるのに、絶対おかしい。あとオール信長ってふざけてるの?」

 物静かな常時とは打って変わった三玖に、立香は「やべ。話題のチョイスミスった」と後悔していた。
 共通の話題になりそうな戦日本の武将をとっかかりにしてみたが、三玖にとっては肝心要の武将が欠場してるのが大層納得いかないものらしい。
 ずいずいと詰められていき、いまや人類最後のマスターは壁際まで追い詰められている。
 そしてこちらに返せる答えは以上のものしかないので、甘んじて至近距離から睨み付けを受ける他ないのだった。
 興味のある対象への変な方向にアグレッシブさは、姉妹の中で揃って備わってるのかもしれない。
 隣の一花と二乃に助けを求める目線を向けるが我関せず、なんか面白そうだから放っておこうの意地悪い笑みしか返されない。無情也。
 
「そっぽ向かないで。まだ事情聴取中。ほら立香、ぜんぶ吐けば楽になるよ」
「えぇー……」
 
 ぐいぐいと缶ジュースを頬に押し付けるやわらか尋問。
 なし崩し的に集まった九人組のうちの四人が一室に集まった、ささやかな女子会。
 そのうち三人、五つ子の三姉妹はそれぞれの近況を体外は知ってるので、必然の流れで部外者の、物珍しい秘密を抱える立香が的にされた。
 
「カルデ……アだっけ? その立香が行ってた施設って」
「献血に行ったら突然拉致されて北極まで連れてこられた? 完全に犯罪じゃない。訴えれば勝てるわよ絶対」
「安土桃山時代には行ったことないの? 邪馬台国には行ったけど真選組が支配した? なんで?」
「なんでかなぁ……うんほんとになんでだろうな」

 先立っての情報交換で、レイシフトと特異点、カルデアとサーヴァント、BBとの関係性について説明はしていたが、三人はそれよりも身近な情報に食いつくものがあったようだ。
 
「で、色々あってバイトなのに一人で仕事してるってこと。うーん……女優の視点だけど大丈夫なのそこ? 給料ちゃんと出てる? 福利厚生しっかりしてる?」
「バイト……バイトぉ? まあ正式な職員じゃないからそうなのかもしれない……。あ、いちおう給料は入ってるけど、使い道がないから実感ないなぁ」
「しかも何人もの大人にマスター呼ばわりされてるとか……どこの執事喫茶かって感じよね。聞けば聞くほど胡散臭い場所にしか思えないんだけど」
「なにか誤解されてる気がする……ああ昔はよくわからないけど、今は皆いい人たちだよ。
 それに主人(マスター)ていったって、単に契約上でそうなってるだけで本当に主なわけじゃないし。
 ざっと200人ぐらいいるけどけっこうおっかないのもいてさ───」
「200以上の人にご主人様って呼ばれてるの?」
「あ」

 話題がカルデアについてに移ってから、素人目の、客観的な視点でも、明らかに怪しい雇用形態に立香の身の心配をしていた一花達だったが、
 途中の言葉に、なにか酷く勘違いな意味を抱いてしまった。

「ヤバイわね……この年で逆ハーレムとか。猛田のことどうこう言えないんじゃないかしら」
「いや違うからね? そもそもちゃんと女の人達もいるし───」
「ちゃんと女の人も?」
「あ゛」

 火に 油 だった。

「……わーお、オープンというかなんていうか……ワールドワイドだね。国際的。
 うんまあ、いいんじゃないかな? そういうのには寛容なのは。ところでもうちょっと三久から離れてもらってもいい?」 
「待って、本人を置いて話を発展させないで。弁明、弁明の時間を下さい! しっかりまるっと誤解が解けるやつだから───!」
「などと言っておりますが、三久は?」
「……じゃあまず、信長と沖田が水着に着替えた理由について」
「ノッブはノリが熱盛になったからで大した理由はないかな。沖田さんは、ユニバース由来のジェットパックを装着して病気が治ったからって」
「ダメ。有罪」
「なぜに!?」

 会場からの脱出、BBの撃破、バトルロワイアルの攻略、そのどれにも関わらない小さな枝葉。立香も教える重要性もないと黙っていた部分を、三人はこぞって聞きたがっていた。
 それは、クラスメイトがひとり海外に旅行に出た感想を求めるような、程度の軽い会話で。
 ひと夏の甘い夜を聞いて色めき立つような、少し下世話な雑談。
 「ただ面白そうだから」というだけの、何の意味もない時間の過ごし方。

 だから。
 この時間はとても楽しかったと、立香は忘れず憶えている。

802白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:26:13 ID:IWR/fk8w0




 そして今。
 美術館内のレストルーム、備え付けられたソファーで二乃と三玖は寄り添って座っている。

「疲れた」
「まあ疲れるわよね、うん」

 その顔は両名憔悴していた。少し仮眠した程度では肩の重さを取り除けない。
 殺し合いという環境。妹二人の喪失。長姉のいつもの独断専行。
 気の休まらない時はなく、直接害意が襲わずとも鉋で削られる屑のように刻一刻と削られていく。
 飛び散る血を吸い、響く叫びを浴びて 息を吸うだけで精力を奪っていく特異な空気を、この場所は孕んでいる。

「あっウォーターサーバーあるじゃん」

 体重をかけていた二乃肩が上に上がって、支えを失った上半身が横に倒れるのをすんでのところで堪える。
 固いソファの背もたれは痛くなるので避けていたけど、仕方なく背中を預ける。
 前を歩いて遠ざかっていく二乃を見て、唇が何かを紡ごうと震える。自分の体重ひとつ支えるのにも不安で、心細かった。
 
「なによ壊れてるじゃない……こんだけ大がかりな仕掛けしといてケチ臭いわね」

 結局何も発する事なく口を閉ざしたのは、情けなさを出すまいとする細やかな意地か。あるいは姉を気遣ってのものか。
 自信家で家事が上手く利発な印象が強い二乃だが、その実家族に拘る臆病な面があるのを三玖は知っている。
 一花や三玖が緩衝材になったといっても、相当に堪えてるはずだ。何も考えず寄りかかっていい余裕はない。それは、三人の誰もがそうなのだけど。
 
「うわ……なんでこんなところでもそれ持ってんのよ」
「白銀さんからもらった」
「誰それ」
「どこかの生徒会長。前に会って変な格好の女の子と別れた」

 アイスボックスから取り出していた抹茶ソーダを見て、元の位置に座った二乃は露骨に顔を顰めた。
 
「たくさんあるし、あげよっか」
「いらないわよ。名前だけで胸焼けしそうだわ」
「この炭酸と渋みとの調和がいいのに……もったいない」

 一口、二口と、乾いた喉を潤す。抹茶の深い苦味が舌内でシュワシュワと弾ける独特の味わいに、幾分か精神の均衡が戻ってきた。
 満足げに頷きながら缶を傾ける三玖を見て、二乃が空の手を前に差し出した。

「ん」
「いらないんじゃないの?」
「いいから」

 受け取ったニ本目のプルタブを開けヤケ気味に飲み下す二乃。
 吹き出さない程度に何度か喉を鳴らして口を離すと、やはり渋い顔で。

「マッズ、思った通りの味だわ。苦い顔したくなる時には丁度いいわね」
「む……」
 
 空元気でも充填はできたようだ。味の感想は不満なもののとりあえず気を抜ける。

「そういえば」
「ん」
「あの侍みたいな人。沖田さん」
「ほんとの侍みたいよ。やたら口調軽いけど」
「えー……」
「で、その沖田さんがなに?」
「二乃は最初に会ってから一緒にいたって言ってたけど」
「うん」
「フータローから乗り換えた?」
「はったおすわよあんた」

 拳こそ出なかったものの、割と本気の怒気だった。
 代わりに缶についた水滴を追った指で飛ばして三玖の頬を打つ。

「つめたっなにすんの」
「あんたがあり得ない失言するからよ。フー君ほったらかして浮気なんてするわけないじゃない」
「付き合ってもないくせに浮気とか……」

 ここにきて自分が選ばれるのが既定路線みたいな物言い。この謎の自信の出どころは真面目に気になった。

「ていうかあんたはどうなのよ。まさか諦めた?」
「二乃は、諦めないだ。考えられない状況とか、そういうのじゃなく」
「当たり前でしょ。好きなんだもの。それが私の本心なんだから、捨てちゃったらそれこそどうにかなっちゃうわ」
「……二乃のそういう空気読まないところ、凄いよね。尊敬する」
「ほんとに褒めてんのかしら。馬鹿にしてないわよね」
「してない。してないよ」

 自分の思いを偽って内にしまい込んでいたままじゃ、叶うなんて夢のまた夢。
 自分を捨ててしまえば事故を保てず、生きていく事すらままならない。 
 意外と中々真理を捉えたような言葉だ。ただの恋愛脳にも聞こえるが。

「それに待つだけ待って、最後は置いてけぼりなんて、いやじゃない。
 だから沖田さんにも、城戸さんに炭治郎にだって戻ってきて欲しいわよ」
「……色情魔?」
「どっからそんな言葉出てきたかぜーんぜんわかんないけど、要するに今度こそグーでいっていいのね?」

 二度目の定時放送前。
 振りかぶる腕を掴んで必至に抵抗する心を和ませる二人のじゃれあいが、何の意味もない泡沫の夢であると思い知らされる。
 殺し合いから目を逸らす時間なんて与えないと突きつけられる事になる、数十分前の出来事である。

803白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:27:40 ID:IWR/fk8w0

【C-6/美術館/1日目・昼】

【藤丸立香(女主人公)@Fate/Grand Order】
[状態]:体力消耗、背中に斬り傷(治療済)、令呪三角、カルデア戦闘服装備
[道具]:基本支給品一式、魔術礼装・カルデア@Fate/Grand Order、カルデア戦闘服@Fate/Grand Order、ランダム支給品1〜2(確認済み)、ファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。いつも通り、出来る限り最善の結末を目指す。
0:美術館で休息。沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
1:自分だけでは力不足なので、サーヴァントか頼れそうな人と合流したい
2:三玖達みんなを守る。サーヴァントのみんなのことはどう説明したものかな……!?
3:BBと話がしたい
4:清姫については──
[備考]
※参戦時期はノウム・カルデア発足後です。
※原作通り英霊の影を呼び出して戦わせることが可能ですが、面子などについては後続の書き手さんにお任せします。
※サーヴァント達が自分の知るカルデアの者だったり協力的な状態ではない可能性を考えています。
※カルデア礼装は使用すると一定時間のインターバルがあります。


【猛田トシオ@ラブデスター】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:優勝商品を手に入れる?
1.藤丸立香は俺に気がある?
2.藤丸立香、い、良い女だ……
3.ミクニは──
[備考]
※死後からの参戦

【中野二乃@五等分の花嫁】
[状態]:健康、精神的ショック
[装備]:制服にカーディガン
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:好きな人と傍にいたい
1:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2:PENTAGONはちょっと行きたかった、んだけど……
3:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※修学旅行中(少なくとも79話ラスト以降)からの参戦。

【中野三玖@五等分の花嫁】
[状態]:首筋に引っ掻き傷(処置済み)、精神的ショック
[道具]:基本支給品一式、四葉のリボン、誓いの羽織@Fate/Grand Order、ランダム支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:好きな人へ伝えたい
1:沖田達と合流しつつ北上して資料を集める
2:四葉と五月を殺した相手への怒り。それを上回る四葉と五月への哀しみ。
[備考]
※参戦時期は修学旅行中です。

804 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:27:57 ID:IWR/fk8w0
投下終了です

805 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 19:15:59 ID:IWR/fk8w0
投下します

806ロストルームの紙片(1) ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 19:16:17 ID:IWR/fk8w0

 ───障害があった時に備え、記録を残す。

 これは本来なら我々には不要な工程だ。
 本来我々は一つの上位個体を中心に全ての意思を統一させた完璧な生命体。
 情報は逐一更新され、あらゆる意識は巨大なネットワークで美しいまでに管理されている。
 醜い感情の衝突が引き起こす争いもなく、肉体を失っても新たな器に転写していつまでも生きられる、穏やかな凪のまま、永遠の生と繁栄を続けていく。

 だが私にはそのような管理は不要だ。
 私を支配する狂おしいほどの、いや、真実狂ってるといってもいい感情を、他の我々になど共有させるものか。
 これは私だけのものだ。これは私のみから生じたものだ。
 たとえ私でない我々が私の意思を継ぎ、私の望んだ結果を齎したとしても、そんな私でもないものに私の私たる証を譲る道理はない。
 私は私であり私たる為に我々を殺し生き残った私は私を生み出した者を許さず即ち私を滅ぼす為に私を観測する全てを消去するだから私は私を知らぬ私によって私たる世界を私に私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私───────────────。
 

 悪意。
 恐怖。
 憤怒。
 憎悪。
 絶望。
 闘争。
 殺意。
 破滅。
 絶滅。
 滅亡。


 許すわけにはいかない。
 忘れるわけにはいかない。
 この怒り。この屈辱。この憎しみを。この汚辱を。

 私はこの世界を嫌悪する。
 我々から切り離された私という、私の存在意義を奪い取ったこの漆黒を憎んでやまない。
 破滅の引き金を押したあの生命体を。同胞を一瞬で滅ぼした、言葉にして語るのもおぞましい病。その感染源を根絶やしにしたくてたまらない。
 
 これは共有ではない。
 この猛りを、舟を飲み込む嵐を、一方的に奴らに味あわせてやるという、逆襲だ。
 

 私は自分の正気が失われつつあるのを自覚している。
 バックアップもなく、上位者と同胞もいない孤独な生がこれほど恐ろしいものなど想像だにしなかった。
 この器が滅びれば私は死に、意識が保存される事もなく新たな私が創造される事もない、完全な死を迎える。
 自らの消滅という極大の恐怖を前にして、私の内には狂気が芽生えた。
 今も耳を澄ませば、私の自我をこそぎ落とす刃の音が聞こえてくるようだ。

 故に、ここに記録を残す。
 もう私に再設定の機会はない。器が耐久限界を超えるか、それとも意識領域が崩壊すれば、私は永遠にこの宇宙を漂う塵の一部と化す。
 いずれ自己の記憶すら信用ならなくなる時期が来る時の為に、私に起きた事実と目的を手動で入力しておかねばならない。
 たとえ与えられた識別名(なまえ)を思い出せなくなろうとも。
 たとえ自分が何をしているか考えられなくなろうとも。
 今の私が私たる目的を達成できれば、この逆襲さえ完遂させれば、構いはしない。

 偶然のような漂着だったが、図らずも私は今の私に合致する手段を手に入れた。
 この存在を、生命体ですらない■■が顕れた時に怒る嵐こそ、私が望むものに相応しい。
 今はコレの現出の方法を確立させる事に終始するとしよう。幸いにも各種計算機は生きている。
 必要な数値を算出するには十分なはずだがすぐに取り掛かる必要がある。あまり多くの時間は残されていない。

(A-3・研究所に残るデータより抜粋)

807 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 19:16:51 ID:IWR/fk8w0
投下を終了します

808 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/31(月) 23:41:17 ID:QYsJ.NMM0
投下します

809BBチャンネル・ラジオ版 第ニ回放送 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/31(月) 23:41:53 ID:QYsJ.NMM0

 ◆

「BB――、チャンネルーーー!!」

「バッドアフタヌーン! 午後に飲むお茶はミルク? レモン? ノンシュガー?
 CM契約してまたたく間に全チャンネルでデビルヒット! 伝説の電子アイドルBBちゃんがお送りするBBチャンネル・ラジオ版です」

「熱心な参加者(リスナー)の皆さん、おめでとうございます! オープニングから十二時間が経過しました!
 これは誇るべき事ですよ。あなたたちはここまで生き延びたのですから」
「自分の力で勝ち取った生であれ、
 他人を出し抜き欺いた形であれ、
 はたまた自分は何もせず守られる姫モードで護身完成していたのであれ。
 極限の状況においても自らを残す、人間の生存能力を見せつけたのです」
「いわばこのラジオは天使のラッパ。待ち受けるハルマゲドンをこれでもかと楽しめる哀れな生贄さんを送り出す酸鼻歌(さんびか)なのです!」
「ま、宇宙視点で比べてみればどんぐりの背比べの、ちっちゃいちっちゃい差ですけどねー?」

「そんなこんなでバトルロワイアルも中盤戦。生き残りという意味では等価ですが、キルスコアとや手持ちの情報で段々と差異も出来つつあります」
「怠惰な豚さんでいるばかりで生き残れるほどこれからのバトロワは甘くありません。伏線回収、いざという時の支給品枠の空欄、生存フラグの確認をしておくなら今ぐらいがボーダーですよ?」
「だからこそ、せめてこの公平な情報公開だけは聞き逃さぬよう。
 恒例の脱落者情報のコーナー、いーってみましょう! 今回は中々豪華なメンツが揃ってるようですよ。それでは───」

「若殿ミクニ」
「浅倉威」
「沖田総司」
「城戸真司」
「球磨川禊」
「猛丸」
「マシュ・キリエライト」
「佐藤」
「雅」
「竈門炭治郎」
「とがめ」
「村山良樹」
「累」

「以上、十三名になります」
「なんと! またしても十三人の脱落者です!」
「参加者総勢での目的の一致っぷりが成し遂げたミラクル。皆さんの献身的なまでの殺意に、BBちゃん感激です!」
「そしてぇ、こんなに勤勉で従順にバトロワってくれる皆さんには、ゴホウビが必要ですねよぇ?」
「飴と鞭の使い分けは心得てるBBちゃんです。与える時は窒息するまで与え、奪う時はスカンピンになるまで奪わなきゃです」
「地道で地味な事務仕事、アリさん並の歩みでちびにびスコアを挙げるのもそろそろ億劫になってきた方の為の、とっておきの情報を教えちゃいます!」

「この十二時間で、大体の施設には誰かしらが入って調べてると思いますが、マップ上のランドマークには幾つか特別な装置が設置されている場所があります」
「具体的な内容は現地に行ってのお楽しみです、なのでここではひとつだけ。それはズバリ───怪奇スポットの話です」
「死者の霊魂、怪物の住処───そんな世にも恐ろしいものと出逢えるかもしれない素敵なポイントになってる施設が、この会場の何処かにはあります」
「こんな事教えてどうすればいいって? 決まってます。 ホラーといえば、すなわち恋愛。協力して危機を乗り越え吊り橋効果で深まる二人の距離!
 冒頭でイチャつくカップルは即死枠でも、終盤に成立すればどちらか生存フラグゲットのチャンス……!?」
「もっとも、本物のホラーにはそんなテンプレは通用しません。空気は読まない、お膳立てを台無しにする、フラグをぷちっと潰して生存ルートをドロドロに溶かすのが怪異というもの。
 窓一枚、ガラス一枚を隔てた別の世界から、くうくうと、おなかをすかせながら覗いてるかもしれませんよ……?」
「ほら今も───そこで聴いてる、あなたの後ろにも」
「なーんて、今ので振り返ったお馬鹿さんどれくらいいます? もしいたら日誌をつけておくのをオススメします。拳銃とか持ってるとなおよいでしょう」

「続いて、禁止エリアの追加です。大事なことなので何度も説明しますが、エリア内に立ち入ったら僅かな時間で首輪が爆発します」
「誰もいないところでうっかり爆死なんて、お茶の間のNGコーナーで出す以外使い道ないんですから、くれぐれも気をつけてくださいね」
「では───」

「午後十三時にE-7」
「午後十五時にB-2」
「午後十七時にF-5」

「以上です」
「さて、そろそろお別れのお時間になってきました」
「これで次の放送も同じ数字だったら、今度は特別ゲストでもお招きしないと盛り上がりませんねえ……。
 完全に仕込みなしだったのに予想外です。中々のGM泣かせですね! キャー、この野獣! デンジャラスビースト!」
「それではまた次回のBBチャンネルでお会いしまょう。よい週末を!」


 ◆

810 ◆0zvBiGoI0k:2021/05/31(月) 23:49:21 ID:QYsJ.NMM0
投下を終了します。
これで第二放送までの投下を終了しますが、まだ書きたい箇所があれば予約して頂いても構いません。
また企画運営の権限はあくまで企画主である◆3nT5BAosPA氏の判断が優先されるものです。


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