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真実の……バトルロワイアル 2

684Alive A life〜Revolution〜 ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:45:23 ID:qa8Zn0Lc0


 

 命の脈が決壊する音。
 硬い皮膚の奥から烈なる炎が噴き荒れる。
 それは真実血潮でなく、熱く燃える炎であった。 
 
『─────────────!?』

 滅殺に腹を括った明と悠も、正気を失った鬼も、傍観していた一花も、驚愕は全員に等しい感情だった。
 わけても俯瞰の位置から一部始終を目撃していた一花はより一層の混乱だ。
 割れた鏡の中から突如として龍が飛び出したかと思えば、炭治郎の首と体を飲み込んで斬り結ぶ三人の間に割って入り、刀と爪を諸共に受けていた。

「ア”……ッァ、アアアアア」

 鬼は蜷局(とぐろ)を巻いた中心に閉じ込められていた。
 激しくもがいて胴を貫通した腕が抜けずにいる。手当り次第に爪を立て肉を引き千切っても龍は抵抗しない。
 その光景は獲物を締め付ける捕食者ではなく、子を護る親が我が身を揺り籠にしているのに似ていた。
 
『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 高らかに龍が吼える。
 死に際の断末魔ではない、誇りある、天に昇っていく荘厳さがあった。
 炎上する龍体。開いた顎のみならず罅割れ裂けた各所からも漏出し、やがて全身に燃え広がっていく。

「何だ……!?」
「禰豆子ちゃん……っ!」

 猛火は勢いを増しついに龍の全長が炎そのものと化して、中心にいる鬼を包み隠した。球状に変じて逃げ場を塞ぐ。
 誰もが、黙したまま燃えるさまを眺めた。火葬の最中のある静謐な空気が漂う。
 充満する熱気に目を開けていられず、思わず一花は手を前に広げて顔にかかる熱を凌ぐ。
 そうして隠れた視界の内で、見えるはずのない、幻を見た。
 
「─────────────え」

 指でこすり、萎んでしまいそうになりながらよく目を凝らす。
 炎の中で、動くものがある。猛火の中心に立ち尽くしながら、未だ原型を保っている。
 獣、魚、虫、樹、木、菌類に至るあらゆる生命体にとって炎は死をもたらすというのに、鬼は健在だ。
 身を包む炎など意に介さずに存在してる。これでも倒すには至らないというのか。
 武器を構え直す明を、先んじて異変を察知した悠が手で制した。

「待ってください、何かが……おかしい」

 火の勢いが弱まってるためか、徐々に輪郭を浮かび上がらせる。 
 現れたのは鬼には変化があった。鬼女と呼ぶ他ない形相は薄らいでいる。身の丈も童女の姿に戻っている。
 呆然と佇み、瞳を閉じて奔流のままに身を任せている。劫火は鬼を支配し、衝き動かしていた狂気だけを焼き払っているというのか。
 
「炎が……吸いこまれていく……?」

 不死鳥は自ら炎に見を焚べて死に、灰の中から蘇る。
 炎は鬼を滅ぼそうとはしなかった。死と新生の機会を与え、そして今は鬼を取り囲まず、鬼が炎の核となってその身に取り込んでいっている。

「炭治郎」

 明は見た。幻を。ありえぬ妄想を。
 巻き込まれ吸収されていく炎が、たまたまそのように形に見えた。きっとただそれだけの話。
 そう弁えた上で、明はその光景に目を奪われ落涙する。
 妹を暖かく、愛おしく抱きしめる兄。
 そんな優しい幻想を、振り払いたくなかった。

 昇天が終わる。
 地獄に通じていそうな程の炎も熱もなくなって、何もかもかき消えた。
 残ったのは、焦げ跡すらない鮮やかな着物を纏った、童の影がひとつ。


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