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真実の……バトルロワイアル 2

533打々(蝶々)発止 ◆0zvBiGoI0k:2020/02/09(日) 21:34:57 ID:tHjlpQeg0

 

「―――――――――」

 気配の察知に、瞬時に思考が引き締められた。
 既にそこにあるのは不確かな未来に期待を抱く少女ではない。鬼殺隊蟲柱・胡蝶しのぶの顔が表に顕す。
 研ぎ澄ました感覚が捉えたのは、生憎他の参加者ではない。少なくとも、既にその資格は喪失してるであろう。
 任務の中途での限りない経験で嗅ぎ慣れた、血臭に死臭。死の気配だ。

 羽音を立てず舞う蝶の如く無音の足運びで気配の先を目指す。やがて行き着いたのは入院中の患者を寝かせる病室の一室だ。
 扉は開かれている。適度な緊張と弛緩に精神を留め、慎重に中に足を踏み入れる。

「……」

 眼下の死体は、しのぶの予想も想像も越えない冷たい現実に仰臥していた。
 首から上の本来あるべき箇所を何処かに忘れてしまった不格好なヒトガタの前で、しのぶは腰を下ろして骸を検める。
 体の硬直具合からいって、死後からおよそ六時間。そして記憶が刻まれて新しい、見せしめの処刑に選ばれて犠牲者と同じ制服を見て、概ねの経緯を把握した。
 悪趣味としか言いようがない玩弄に腸が煮えくり返る思いを抱く。
 首から先がないのは、わざわざ体だけ此処に飛ばしたからか。殺されたのすら理不尽の極地であるのに、死体まであえて放置する辱めを受けるなど。
 鬼であるかは不明だが、残酷さにかけてあのBBという少女は鬼以上だ。改めて許せないという怒りが装填されていく。
 見つけるのが自分で良かった。異常馴れしていない一般人であれば、見ただけで肝が潰れかねない。
 惨劇の種を摘み、死者に安寧を捧げる為にも丁重に弔ってやりたい。善逸の時と違い此処は病院だ。遺体を安置出来る部屋もあるだろう。
 
「これは……」

 辺りを見回した目線が、室内に残されたもうひとつの異物の存在を発見した。
 無造作に放り捨てられていたのは、参加者共通に支給されている謎の容量を持つ鞄だ。
 蓋は、開いていた。

 言い知れない不穏を感じ鞄を手に取って入ってる品を出していく。地図や名簿など基本的な物品の他、無造作に配られた道具もあった。
 下部を翻すと名札が封入されている。日本語で記された四文字を、しのぶは正確に記憶した。
 遠くから諍いの音が聴こえたのは丁度その時だった。
 
「今のは、広斗さんですかね。危ないと思ったら逃げるよう言っておいたのに、まったく」

 溜め息を尽き、立ち上がる。 何フロアも隔てた先だが、柱の感覚は聞き逃さない。
 同僚の水柱ほどでないが、広斗もあれでいらぬ誤解を受けそうな質をしている。別れてからいい時間が経ち、純粋に身が心配でもある。
 自前のとでふたつになった鞄をひょいと持ち上げ、発つ前に一度だけ亡骸に振り返る。
 
「すみません、藤原さん。弔うのはもう少しだけ待ってくださいね」 
 
 たんっ、と軽やかな音をひとつ立て、しのぶの姿はかき消えた。
 後にはもう、何も残らない。熱が引いていく部屋で、冷えた死体だけが転がっているだけだった。




 ◆


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