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真実の……バトルロワイアル 2

727FILE■■■■■■■■【序章・鏡面異界深話】 ◆0zvBiGoI0k:2020/09/14(月) 21:06:17 ID:p2F40R1k0



 肘が顎を掠めた。
 拳骨が人中を打った。
 脚が喉を叩き、膝が肋骨を割り、胃を蠕動させ、心臓を響かせ、脳を撹拌させる。
 大気が爆発するが如く。一息で繰り出した連撃は、美麗なまでに全撃全霊に叩き込まれた。


「いい加減、ビックリ人間ショーに驚くのも飽きたんだわ。俺、そういうキャラじゃないし!」

 鬼やアマゾンとの戦闘を経て、雅貴は彼らが構造が人体と大差ない事を把握していた。
 確かに人間より圧倒的に強靭だ。しかも四肢を失っても瞬く間に再生するほど耐久性、継戦力が高い。
 だがそれは人間の延長線上の強さだ。骨があれば脳も臓器もある。それへのダメージ自体は入る。すぐ回復するだけだ。
 人が成ったものだからなのか、素を人にしているからなのか、それはわからない。それでも造りは雅貴が幾百千と打破してきた感触を残していた。

 なればこそ、雅貴の戦闘技術は通用する。打撃系を中心に、痛みより直接の損壊で動きを止めるよう狙いを合わせる。
 相手が狙いを理解して顔を守ろうとする、あるいは無視してカウンターを狙いに突っ込んでくれば、瞬時に四肢の末端の払いに切り替え、態勢が崩れたところで全力の重い蹴りを見舞う。
 禰豆子、クラゲアマゾンらに比べれば遥かに動きが劣るのが幸いした。戦いを通して雅貴の目は超常に慣れ、専用の組み立てを考案する時間があった。

 だからといって、ここまで完璧に応用が叶うとは限らない。
 敵は未知であり、未知の生態、未知の手段、未知の能力を備えている。
 裏社会に身を置くとはいえあくまでも雅貴は現実の住人。神秘も知らなければ鬼にも会ってはいない。
 それを、数度見ただけで自身の技術を調節し、実戦で適用させてみせるなど不可能にも等しい。
 だが、それを可能にしてこその雨宮兄弟────────!



 鬼が堕ちる。連続的な損傷に一時的な行動不能に陥った。
 泥と辛酸を舐め続けた顔は痛みよりも屈辱に染まりきっている。まさに鬼の形相だった。
 手応えでいえば、肋骨四本、右鎖骨、右脚の大腿骨は折れている。その他全身細かな箇所にも罅を入れた。内蔵だって何個か潰した感覚がある。
 見た目、少年に対しての仕打ちに流石に心が痛むが勘弁してねと心中で謝る。実際もう再生して立ち上がってきている。本当に効果がないらしい。
 徹底したのは、反撃されないのも勿論だが、考える時間を与えたかったからだ。
 ここまでされれば頭も冷え、我武者羅に向かってこようとはしなくなる。その内に、こっちで確かめておきたい事があった。
 今は医務室で休ませてあるお嬢様から聞いていた、探している知り合いについてを。

「ちょっとは落ち着いたか? じゃあ今からお兄さんの言う事をよく聞けよ? 一回しか言わないからな?
 君の名前って、ひょっとしてしろ────うぉまたかよぉ!?」

 またしても途中で遮られる。どこまでも格好がつかない雅貴であった。
 轟音と共に壁が破れ、中からふたつの影が出てくる。
 ひとつは突き破った勢いのまま積まれていた荷物の小山に突っ込んだ。硝子が砕け落ちる音が鳴る。
 力強く地に降り立った方は、初見の雅貴でも一分の隙も見えない構えをしていて───。

「づ、ぐ──────!」

 長年の身についた経験と勘だけが強襲に対応できた。
 目で追えたのは現れた男が振り向いて見せた鬼面の表情のみ。
 気づいた時には雅貴は煤けた屋根を見上げていた。
 両腕が、まるで電流を浴びたかのように痺れている。
 起きた変化を受け止めて、そこで自分は吹き飛ばされて倒れてるのだと理解が追いついていた。

「地力はあるようだな。だが、鍛練が足りん」

 全身に刺青が入った青年の姿。
 乱入した鬼は開口一番、そんな風に雅貴に添削を下してきた。

「……効いてねぇよ、ぜんっぜん」
「強がりはよせ。俺の拳を受け止めて骨が折れてないのは大したものだが、軋みは聞こえているぞ。
 呼吸も使えない人間ではそこが限界だ。武を修める者として実力差は理解できているだろう」

 走る痛みと事実に、憮然と押し黙る。
 たった一撃。測るには十分すぎた交わし合いだった。地を這う自身と見下ろす鬼がそのまま開いた明確な差だ。
 
「一撃受けた返礼に教えておこう。俺の名は猗窩座。お前の名は?」
「男に教える名前はねえ」
「そうか。ああ、実に残念だ。このような地でなければお前も素晴らしき鬼になれたろうに」

 上げられた拳が雅貴の頭に定められる。距離がそのまま断頭台の刃が落ちる時間だ。
 最後まで生きる事を諦めない。ただでやられる気はないと、雅貴も応じて痺れた腕を構える。

 覚悟を決めた雅貴と猗窩座との間に、パラパラと光の粒子が降り注ぎ、印象的な二枚模様が舞った。
 愛用の半々羽織に、幾つもの鏡の破片が突き刺さったまま雅貴に背を見せて降り立った義勇だ。


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