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真実の……バトルロワイアル 2

665眠れ、地の底に ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 19:05:04 ID:qa8Zn0Lc0


 傍目に見て、満身創痍であった。
 戦いが始まって数分。交錯した手の数は数千にのぼる。
 その僅かな時間で、悠はここまで追い込まれていた。
 何合が切り結び、その度に底しれぬ威力に戦慄し、ぎりぎりの判断で凌ぎ、それに七実が不機嫌を増しさらに猛攻をしかけるという悪循環になっていた。

「ああ、苛々する。"あまぞん"は本当にしつこいですね。こんなにも抜けない草は初めてです。足に根っこでも張ってるのかしら」

 不機嫌に腕を払う七実には、一切の傷がない。
 枯れ木にしか見えない細腕は、アマゾンの強靭な肉体を引き裂く規格外の筋力だ。力のみならず技量においてさえ悠を凌駕している。

 この女はアマゾンではない。
 禰豆子と同類の異形のものではない。
 けれど悠は彼女を人とは思えない。人が果たして、数をなさずなんの道具も用いずに単純な暴力でここまで恐ろしいのか。
 アマゾンより、千翼より、鷹山仁より、仁と駆除班と連携したアマゾンシグマより、もう一体のオリジナルとなった泉七羽より。
 五年で今まで悠が戦ったどの敵より、悠の本能は最大限の警鐘を訴えていた。

 ”でも、戦えないわけじゃない”
 
 悠の攻めは一撃たりとも七実には入っていない。七実の体に傷はないが───汗は流れていた。息も切らしている。
 悠も満身創痍ではあったが、体力はまだ残っていた。少なくとも一点では勝っている。
 動きもまったく追えない、というわけではない。まだ全力でないとしても、致命になるものだけは捌けていた。
 目も慣れてきた。余裕はまるでないが、このまま相手の体力切れまで粘れば活路は見いだせるかもしれない。

「どうして、アマゾンを殺す」

 悠は口を開いた。それは時間稼ぎの意図もあったが、確かめたい事があったからだ。

「憎いんですか。人を殺すから、食べるから」
 
 単なる殺人者、闘争なり快楽を理由にするにはこの女の反応はあまりに薄い。戦い方に楽しみがないのだ。
 だから理由があると考えた。そして知りたかった。
 アマゾンに誰かを殺された、あるいは自身が殺されかけたのか。あるいは人を喰う怪物であるからか許せないのか。
 それならばいい。理解はできる。
 転々と野を彷徨ってきた五年でアマゾンがいかなる扱いを受けたかは身に沁みている。
 納得はしないしむざむざやらせはしないが、それはまだ常識的な範囲での理由だからだ。


「いえ、まあ。別に、なにも?」


七実は応えた。
 悠然と。何の感情も込めず。

「世のため人のためとか、そういうのは全然ありません。そもそも私、人里離れた無人島住まいですから、泰平とか民草とか、そのあたりはどうでも。
 あなたたちがなんなのかも、実のところあまり興味はないんです。人為的に造ったとしたら、造ったひとに二、三聞いてみたいことはありますけど。
 ただまあ、理由はありますね。重要でもなんでもない、文字通り、道草を毟るような理由ですが」


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