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真実の……バトルロワイアル 2

799白昼のアラカルト・デュオ ◆0zvBiGoI0k:2021/05/04(火) 17:22:10 ID:IWR/fk8w0


 ◆


「三玖さん、大丈夫かな」
「姉妹があんな殺され方をしたんだ、無理もないだろう」

 立香が気絶した三玖を個室に寝かせて看ている間、ミクニと猛田は玄関前に出ていた。
 外の見張り。大声が出たわけじゃないがそれなりに騒いだし、宥めるにも同性の方が適してるだろうという、合理的判断あってのことだ。

 言ってから記憶から消去しておきかった、惨殺体を目にした脳裏に蘇ってきてしまって、猛田は後悔した。。
 シーツをかけて隠してあるが、あの死体は今も置かれている。嗅ぎたくもない異臭を漂わせて。
 換気や清掃はしてあるからって、ホラー映画に出てくるクリーチャーじみた変死体が壁一つ隔てたところにあるなんて、想像しただけで気が滅入る。
 この時の猛田は一分一秒でも早くこの家から離れたかった。外に出てるのはそういう意図もある。気絶してる三玖など放置して先に行きたいくらいだ。
 中野三久という女は、高校生なだけあってかつての「キープ」より遥かに上物だったが、ああなっては使い物になるまい。
 しかしそれはミクニも、そして立香も許すまい。かといって自分だけ出奔するのも自殺行為だ。お人好しと行動するデメリットを差し引いても、単独行動はリスクが高かった。

「どうした猛田、顔色が悪いぞ」
「っ当たり前だろ。あんな死体を見たら……」

 ああ。本当に、あんな死体さえ見つけなければよかったのに。
 心の中で毒づき、ますます気分を曇らせる。

「ああ、許せねえな。人を、三玖さんの妹をあんな風に殺すだなんて……いったい誰がやりやがったんだ」
「……は?」

 自分が抱く気持ち悪さとはまったく別種の意味で同意を示したミクニに、思わず間抜けな声が出てしまった。

「は? ……ってなんだよ猛田。ジロジロ見て気持ちわりいな」
「……いや、何でもない。それよりあまり喋らないほうがいいだろう。俺達が騒いで敵をひきつけたら本末転倒だ。殺人者だって戻ってくるかも……」
「じゃあまずお前が黙れ! ったく……」

 その場に座り込むミクニ。猛田も同じように座りそれ以降口を閉じて押し黙った。
 考えたい事があり、自分一人で思考する時間が欲しかったからだ。


『お前が死んでからも、ラブデスター実験は続いていたんだよ』


 立香達と接触するまでの道すがら、猛田が死んだ後の実験の推移をミクニは語って聞かせた。
 月代とは違うもうひとつのラブデスター実験が行われていた、敬王大学付属中等部からの刺客による誘拐。
 もうひとりの試験管、お見合い制度による告白、そこで巻き起こる事件の数々。
 敬王から帰還した後にも、残された月代生徒が疑心暗鬼の末ほぼ全滅という惨事。
 続く豪華客船でのイベント「キスデスター」。

 それが終わった時点で生き残ったのは、ミクニやジウらを含めて二十人にも満たないという。
 かつて用済みとして「排除」しようとしたらみ、配下にしていた熊本や美円は生還したようだが、そこは今はいい。

 無関係の百何人が死のうと、どうでもいい。
 別の学校の生徒なら尚更だ。同情するにも値しない。
 だが常にその中心に位置し、荒波に揉まれながらも生き残ったミクニに対しては―――少なからず衝撃だった。

 そんな目に遭ってもなお、こいつはあの時と変わらぬ正義感を発揮していた。
 そして再会した猛田にさえも、変わらず手を差し伸べてきた。
 そうした善人面は隠れ蓑には好都合で、そう計算してたからこそ同行を申し出た。
 実験場での行いを洗いざらい暴露されたのには肝が冷えたが、それでも予定通りの流れだ。
 だというのに、この気持ち悪さはいったい――――――

「おい、猛田!」
「なんだ、黙ってろと言ったのはお前……」
「そうじゃねえって、上を見ろ!」

 煩わしい声が割り込んできて考察が散り散りになった苛立ちは、ミクニが指差す天上を見て霧散した。

「何だ、鳥か、飛行機か……?」

 空を一直線に横切る、黒い影。
 暗がりであるのとその速さで禄に見きれなかったが、蝙蝠を人間サイズまで拡大したようなシルエットであった。

「近くに降りたみたいだな。よし、見てくるぞ」
「ば、あんな明らかに危険物に近付こうだなんて正気か!?」
「ほんの少し様子を見るだけだ。危ないと思ったらすぐ引き返せばいい。なんならお前は残ってりゃいいだろ」

 忠告も聞かず、ミクニは着地地点へと向かって行く。
 猛田は暫し憔悴した心持ちでそれを眺め、自分に言い聞かせるように吐き捨てて後を追った。

「―――クソッ。今お前が死んだら俺の立場が危うくなるからだぞ!」

 結局答えを出す時間は与えられなかった。
 そこからは中野姉妹が集まってきて騒がしくなり、沖田総司に刀を詰められ、目の前でミクニがジウに殺されてと、さんざ精神をかき乱されて、放置した疑問を取り出す暇もなかったからだ。


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