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真実の……バトルロワイアル 2

790鬼神爆走紅蓮隊・凛 ◆0zvBiGoI0k:2021/04/21(水) 08:40:20 ID:4zUlIlqM0



 命令が正確に実行できないとみて、躊躇いなく累の脳を遠隔で爆破した。
 支配操作から抜け出た駒に用はない。
 反逆者なぞ生きているだけで気分を害する邪魔者へと意義を貶める。糸を切るのを何ら咎める材料はなかった。
 こと生き延びるという一点のみに全存在を費やしているからこその、損切りに関する恐るべき判断の早さだった。 

 だが、この場限りではそれは裏目に出た。
 たとえ即決の判断の、数瞬でしかない意識の分割でも。
 深淵から目を逸らすべきではなかった。
 目の前の怪物との戦いに集中を散らすことだけは、してはいけなかった。



「『千紫万紅・神便鬼毒』」

 

 血に艷やかに濡れた唇から、奇跡を喚起する名が紡がれる。
 瓢箪の酒を注いだ盃からこぼれ落ちた玉虫色の雫が、地面に広い波紋を起こす。
 落ちた地点から間欠泉よりも勢いのある噴出が一面に水面を広がって全員の足を濡らす。
 水面に映るのは色とりどりの花が咲き乱れる、酒の肴になるほどの甘美なる情景。

 真名解放。
 サーヴァントの真髄。物理の壁を逸脱した超常を起こす貴き幻想。ノウブル・ファンタズム。
 酒天童子のそれは酒の瓶蓋を開け垂れ流すもの。
 幻想種の骨さえ溶かし、対象を文字通りの骨抜きにして、比喩抜きに酒に呑まれる対軍宝具。

 毒物───。
 目の前で展開されいち早く性質に気づいた無惨だが、その顔に焦りが増すことはない。
 あらゆる毒に耐性を持ち、短時間で解毒を可能にする体質の無惨にとっては毒など恐るるに足らない。
 それよりも、時間が経つ毎に当たる範囲を広げる陽光から逃れることこそが何よりも優先するべき事項だ。
 足止めにもならない水溜りの中を駆けて壁を目指す。兎にも角にも日の当たらない場所を確保しなければならない。
 触手の先端を爪から拳状に変化させて掘削して穴場を作る。そうして彫り続けて完全な暗闇に身を潜める。
 敵に背を向けて逃げ去る、土竜の真似をしてでも生き延びようとする。恥を恥とも思わない撤退だが、それだけに逃げられてはどうしようもない。
 『逃げ』の姿勢に回った無惨を再度捉えるのは二度とないといえるほど困難だ。

 それが『責め』の姿勢を崩さなかった酒吞との応酬に、明確な差を生んだ。

「『百花繚乱・ 我愛称(ボーン・コレクター)』」

 壁に向かって一目散に走る無惨の頭上から降った両の爪が、肩口に深々と突き刺す。
 貫通し脇を抜けたところで、無惨と対面になるよう身を乗り出して脚で固定する。
 両脚を腰に絡ませた妖艶な態勢。唇が触れ合う近さで酒吞の表情もまた、情事の際と変わらず艶めかしく。
 立ち込める酒気と逸らしようのない眼に、吐き気がこみ上げる。
 消し去ってやると身体を変形させ───何故かそこで膝をついた。
 意に反する落地に怪訝に目を下に向けると、すぐに疑問は氷解した。
 
 足が、無い。
 無惨の膝から下、水に沈んでいた部位は骨ごと溶かされていた。
 それは、予想よりも水の勢いが強く講堂を沈めつつあるということであり。

”水攻めだと……!?”

 判断を間違えたと気づいた時には、もう遅かった。
 腰元まで酒に浸された体は乾物を水で戻すようにふやけて、骨から剥がれていく。
 対軍宝具の全開解放は、さしもの無惨の再生力でも無視できるものではない。
 すぐ後ろの村山に貸与した時とは比較にさえならない濃度の溶解液が、波濤の勢いで空間内を満たしていった。

「何のつもりだ、これは……!!」
「ん? なにって、もう、見ての通り。
 鬼の前で鬼ごっこなんて、おかしなことするもんやから。逃げられんようこうしてきつうく抱き締めてあげんと。
 まあ。ああほら、あれやあれ。
 身の着ひとつで夜逃げした果てに、仲人連れての、身投げ?」


 ────────────────────思考が、凍りつく。


 一体、何を、言っている?
 意見など求めていないはずなのに、なおも脳髄にねじ込ませられる。
 意味不明なまま、足先からとぐろを巻きつけられる。

 これこそが鬼。
 人の世、人の生の根本から外れた魔にして呪。
 殺人を愉しみ略奪を楽しみ陵辱を嬉しみ、自らの死を夢見心地に笑う。
 人と交わればありと汎ゆる総てを棚置いて恐怖と混乱を呼び起こす『相容れない為の』系統樹。
 目の前の男に。背後の少女に。全身全霊を捧げて謳い知らしめているのだ。


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