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真実の……バトルロワイアル 2

682この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:35:54 ID:qa8Zn0Lc0


 名も知らぬ男から出た思わぬ言葉に悠が明の方に顔を向ける。後ろで見ていた一花も思わず加わった。
 光明が見えてきた。彼を連れてくれば禰豆子の自我を取り戻す事ができる。そんな希望を抱いた悠に、明は無情にも突きつけた。

「炭治郎は……俺が殺した」

 アマゾンとなった悠の瞳孔が驚愕に大きく見開かれる。一花の肩が揺れる。
 悠は辺りに目をやる。すぐ近くに晒されている、首を斬られた年若い子供。
 禰豆子と面影を同じくする、あれが、

「───!なんで!」

 憤慨に胸ぐらを掴むが、明は抵抗せず、苦悶と悔悟の表情を浮かばせて吐き捨てた。

「炭治郎は吸血鬼になってしまった!雅のやつに吸血鬼にされた人間は元に戻らない!一匹でも吸血鬼が残れば、そこから爆発的に感染しちまう。
 だが……言い訳にするつもりはない。結局俺が首を斬ったのには変わりがない。あんなにやさしい……やつだったのに!」
「……っ!」

 事情は見えずとも男には不本意な選択、やりきれない思いである事は察せられた。
 明の懺悔に、悠は手を離すしかなかった。

「シャアアアアア……………………!」

 土埃が止んだ瓦礫の山に鬼が降り立つ。腹に空いた穴は塞がり、太陽の下で何の制約も受けずに活動している。
 千年に渡る妄執が夢見た、限りなく完璧に近い存在、その結実に至りかけた成功個体。
 食人衝動に呑まれた鬼は堕ちた獣ですらない災害に等しい。
 そして鳴りを潜めた頃には、人の頃の記憶は朧に消える。鬼として最適化された醜悪な人格が構築される事になる。

 腰を低く落とし、悠が構える。もう、止める手段はひとつしかなかった。
 
「禰豆子を元に戻す方法はないのか。俺は約束したんだ。妹を護ってやるって、炭治郎の最後の願いなんだ……!」
「炭治郎……禰豆子ちゃんの兄は、彼女が人でいられる為の希望だった。
 それが絶たれた今、人を食べてしまった彼女を落ち着かせる方法はもうありません。ここで、終わらせるしか」
「そんな……」

 悠の中の天秤は完全に傾いた。自分に課した『線引き』を超えた同胞に、いつも手を下してきた。
 そして明も、過去その枠の『線引き』に踏み込んだ仲間には、誰であっても同じ事をしてきた。

「ちくしょう……っ」

 手に菊一文字を握り直す。どんなに頭の中に葛藤があっても歴戦の戦士の武芸は翳っていなかった。
 どんなに追い込まれた精神状態でも明の剣腕は鈍らない鋭き刃だ。無数の艱難辛苦を乗り越え勝利してきた。
 そうだ。仲間も友も師も家族も、どれだけ大切で、愛していても、吸血鬼になったのなら斬り伏せた。
 その度に苦悩し、涙を流し、肉体以上の傷を背負い苛んだ。その度に強くなる事を誓った。悲しみの連鎖を終わらせるのだと心を燃やした。
 全ては雅を倒す為。心身を擦り減らしてでも吸血鬼撲滅の願いを継いできたからこそ戦ってこられた。

 だがこれはなんだ?
 雅の次に新しい敵が現れて、しかも敵は護ると言ったばかりの仲間の家族。死に際の約束ひとつも守れない無様を晒してる。
 救うすべなど、思いつくわけがなかった。
 宮本明の戦いは常に倒す為のもの。失ったものを積み上げた丘を登る孤独の勝利。
 刃になった腕では誰かを抱きしめられず、片腕で掬えるものはあまりに少なく、指の先から零れ落ちていくばかり。

 鬼となった禰豆子を、明はやはり倒すだろう。淀みなき不屈の刃でその首に斬を落とすだろう。
 無双の勝利と引き換えに、仲間を失い続ける過負荷(マイナス)を重ねていくのだろう。
 その後にいったい何が残るのか。救世主?常勝の英雄?
 そんな肩書きは欲しくもない。欲しかったものはもう記憶の彼岸なほど遠い。
 空っぽだ。
 この手には何も、残っていなかった。
 



「ちくしょう────────────────────!」




 跳躍し飛びかかる鬼。
 迎え撃つ戦士と獣。
 三者三様の慟哭が混じり合う。
 爪と刃、悲しみと怒りの交錯点で、紅蓮の華が咲き誇った。


 ◆


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