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真実の……バトルロワイアル 2

680この無常の世界は護り斬れなかったものばかりさ ◆0zvBiGoI0k:2020/06/02(火) 22:34:00 ID:qa8Zn0Lc0

 
「こんな、ところで……」

 立っている事自体が不条理な、必死確定の状態でありながら。
 体の停止を訴えてくる危険信号を、意志力としか呼べない力でねじ伏せて明は立っていた。
 炭治郎から受け継いだ思いを絶やしてなるものか。そう一念するだけで腕の重みがやわらいでいく。

「こんなところで、俺は───────!」

 心臓に狙いを定められた爪を横一線にて迎撃する。
 肉を裂き、骨まで割る剣の冴えは胴まで届かず、二の腕の中程で止まってしまう。
 腕の損傷を一切意に介さずそのまま躍りかかる。菊一文字は肉の粘りで絡め取られ、片腕を使おうにも仕込みの愛刀は既に折られている。
 だが焦りはない。宮本明の戦い方は武器に依らない。手に取れる道具であればあらゆる局面で一糸に変えてみせる無窮の歩錬。

「おおおおおおおおおっ!」

 刀に見切りをつけ肩口に刺さりっぱなしの螺子を引き抜く。
 肉の千切れる痛みを叫びで誤魔化し、工業用とはかけ離れた過負荷(マイナス)の証を握りしめ、がら空きの胴に打ち込む。
 臓物を掻き分け背中から貫通する螺子。これには堪えたのか、血を吐いて禰豆子の態勢が空中で崩れる。
 千載一遇の好機。腕に食い込んだままの菊一文字を掴み、最後の力を振り絞って振り抜き───



「──────ぁ──────────────────────────?」



 小気味よい音が鳴った。
 サッカーボールの芯を捉えた最高のシュートが決まった瞬間の、どこか爽快ですらある音だった。
 ボールにされて回転しながら宙を舞った人間大の肉の塊は、ガードレールで跳ね返り、電柱にぶつかり、家の塀を破砕したところで停止した。

「───ご、ボ──────」

 口から血の泡を吹く。
 何が起きたのか、その認識をする前に気絶した。赤黒い塗料がぶち撒けられた表情は見えない。腹が破れて中身が漏れてないのが奇跡だ。
 無力となって倒れ伏す明に、しかし蹴り上げた禰豆子は齧りつこうともせず、腹を押さえて固まっていた。
 
「ぎ、ぐるゥゥゥゥゥ───────」

 髪を振り乱して、苦痛にもがく低い唸り声。
 腹腔には突き刺さった螺子。悶ているのは傷の痛み故ではない。
 より深刻で、破滅の引き金を引ききってしまった痛みにこそ喘いでいる。

「ち、ちちちちち、血─────────」

 血の摂取は鬼の回復力に直結する。
 螺子は明の肩に刺さっていて、それが今は禰豆子の体内に侵入している。
 結果は言うに及ばず。
 一度目の摂取で覚えてしまった甘味。飢餓に苛まされた頃からの二度目。
 起死回生に打った筈の一手は、とっくに崩壊していた禰豆子の人間の精神に、最後の止めを与えたに過ぎなかった。

「────、─────────────────────────────────────────────」

 肌に爪を立て、痙攣していた全身が止まる。
 ゆるりと起き上がった顔は、もう別のカタチだった。
 今までは血色の瞳孔以外は童女のそれだったのが、成人まで手足が伸び、呪詛じみた紋様が浮かんでいる。
 額から生え伸びた一本角は、手遅れを示す克明な証だった。

 顔を上げた鬼の表情が映すのは……笑い、喜悦、欲求、垂涎。
 ニンゲンを食い物としてしか見做さない視線。それを恥じ入る心もない。
 悪鬼羅刹。世に数多蔓延り蠢く、堕ちた鬼そのものだった。


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