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(゚、゚トソンムジナのようですミセ*゚ー゚)リ
15
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 01:23:06 ID:DuRoxIkYO
おっさん乙
16
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 02:23:45 ID:Mkcur08U0
乙
17
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 08:16:48 ID:agHH1q6cO
乙
ミセリカッコいいな
18
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 09:59:35 ID:6/ev4sxQ0
乙
いいねえ
19
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 12:32:57 ID:e.8azJN20
これって連載なの?だったらめっちゃ期待してるわ。
20
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:06:54 ID:FUwnuIG.0
Place: 草咲市 須赤二丁目 56-1付近 駅裏の小さな公園
○
Cast: 流石兄者 素直クール 松前ショウジ 咲名プギャー 色眼鏡の女 帽子の女
──────────────────────────―――────────
21
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:09:20 ID:FUwnuIG.0
死というものに実体が、人としての姿があるのならば、きっと冷たいほどに美しい女なのだろう。
誰もが抗えず、恐れながらも、どこかで惹かれ、目が合っただけで息を止めてしまう。
そうでなければ、人はもっと容易く生を永遠にする方法を見つけているはずだ。
「そろそろ観念したらどうだ」
「ま、待ってくれ、頼む。二度としねえから」
男は叫ぶように、醜い命乞いして見せた。
両手と額を地面にこすりつけ、必死に慈悲を待つ。
残念ながら、その後頭部に浴びせられるのが聖なる鉛の銃弾であることを俺は知っている。
「つ、つーかよ、俺はあの女から血を買っただけだろ。殺したわけでも、無理やり奪ったわけでもねえ
それが何で、あんたらに狙われなきゃならねえんだ。あの女だって、了承の上だ。公正な取引じゃねえか」
「流石君、なぜだと思う?私は上手く言葉に出来ないのだが」
銃口と視線を男の頭から離さず、彼女は俺に話を振った。
常に気を付けていなければ、いつ話しかけられたかのかわからない。
最重要の事柄以外について話すとき、彼女の言葉は無為な雑音に似たやる気の無さを持っている。
「そうですね。金に困っている家出娘に財布をちらつかせてホテルに誘う中年の下種親父に近い嫌悪感を覚えたから、でしょうか」
「成程。概ね同意できる意見だ」
22
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:12:43 ID:FUwnuIG.0
炸薬が爆ぜるにしては、いくらかくぐもった湿り気のある音。
銃身が白い煙を吹き出したのに気付いたころには、男の肩から血が噴き出していた。
男は傷を抑え、叫び声をあげる。
せっかくのサプレッサーもこれでは意味がない。
「夫が借金を抱え頼る身内も無い主婦にはした金を渡し、血を啜る。
さて、これは公平な取引だろうか。私には相手の足元を見て、不等価の交換を行う悪しき所業に思えるが」
再び銃が跳ねる。
男は先ほどとは逆の肩から血を吹き出した。
手で傷を抑えることが出来なくなり、地面に体を転がす様は針でつつかれ身もだえする芋虫のようだ。
クールはそれを無感情な目で見下ろしている。
彼女の言葉を、勘違いしてはいけない。
あれはただの音だ。
大きく深い洞穴を風が流れる時に、呻きのような音が鳴るのと大差ない。
感情は存在せず、脳のうわべで思いついた適当な文句を、薄い唇の隙間から吐き出しているだけだ。
義憤も嫌悪も存在しない。
適当な理由を垂れているだけ。
人間であることを失った彼女が人間のふりをするために身に着けた特技でしかないのだ。
この吸血鬼を嬲り殺し出来ることに興奮して、やや饒舌になっている節はあるが。
「素直さん。それくらいにしとかないと。生かしておいたのには理由があるんだから」
「おっとそうだった。おい」
引金にかかった指が、素早く動く。
放たれた銃弾は、仰向けに悶える男の太腿に穴を穿った。
23
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:15:12 ID:FUwnuIG.0
「お前、地雷女を知っているか」
クールの質問は簡潔であった。
YESかNOのどちらか一つを選べばよい。
より詳しい話はそのあとからだ。
しかし、男はのたうち回って聞く耳を持たない。
だから、むやみに撃つなと言ったのだ。
俺はこめかみを人差し指で二度掻いてから、足を後ろに振り上げた。
人工皮の靴で、男の顔面を思いっきり蹴り抜く。
頑丈なこいつらのことだ。これくらいでは死にはしない。
ただ、鉛を仕込んだ爪先は、歯を折るくらいは容易く出来る。
「あ、あがっ」
「質問に答えろ。地雷女を知っているか」
「いいね、流石君。悪役ここにありといったところだ」
男の口から歯が二つ零れた。
人間のものと似て非なる、長く鋭い犬歯。
折れた歯の痛みは、撃たれた傷よりも鮮烈だったのか、男が狼狽した目で俺を見上げる。
「地雷、女」
初めて聞いた、と言わんばかりのトーン。
どうやら、俺たちの望む答えは持ち合わせてい無いようだ。
24
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:17:55 ID:FUwnuIG.0
「この街にいる吸血鬼なら、知っていると思ったんだがな」
やれやれ、とクールは男の頭部に二発、心臓に二発弾丸を撃ち込んだ。
男は、何をされたか理解できなかったのか、突然消えた体の痛みに戸惑った表情のまま、絶命する。
あっけない。俺は携帯端末を取り出し、担当者に簡潔なメールを送った。
「奴らの中では、それほど有名でもないのか」
「此奴がよそ者なんじゃないですか。この街の吸血鬼なら、個人で血の取引をするような杜撰なマネはしないと思います」
「ま、なんにせよ結局収穫はゼロというわけだ」
たった今吸血鬼の屠殺に成功したことは収穫では無いらしい。
道に転がる小石を蹴って避けた程度のことでしかないということだ。
「処理班は?」
「もう呼んでおきました。エミナさんですし、すぐに来るかと」
「流石、流石くんなだけはある」
言葉は満足気。
しかし表情とトーンは相変わらずの無感動。
彼女の下について三か月。やっとこのちぐはぐな感覚になれた。
25
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:19:59 ID:FUwnuIG.0
クールは背広の内側、脇に取り付けられたホルスターに銃を収めた。
街中で銃を扱う機会の多い俺たちのために作られた、サプレッサーをつけたまま収納が可能な特注のもの。
銃も本来よりも銃身を切り詰め、消音機を取り付ける前提の元で設計されている。
吸血鬼を殺す武器と言えば、杭が印象的であると思う。
現に俺たちも杭と呼ばれる剣を扱うことが多々ある。
しかし、あくまで主力となる武器は銃だ。
文明の利器。神が非力な人間に与えた、悪鬼から身を守るための漆黒の撃鉄。
実際、杭持ちという組織の発足から最も吸血鬼を屠ったのは、杭では無く鉛の弾丸なのである。
「さて、手がかりがさっぱりなくなってしまった。新しく情報を持っていそうな吸血鬼でも探してみるか」
「崎山がやられた件は、吸血鬼の界隈にも広がっているはずです
我々が動くことは向こうも想定して動いているでしょうし、まず捕まらないでしょうね。
仮に捕まえられたとしても、吸血鬼のコミュニティから締め出されたコイツ程度の無能くらいかと」
「まったく、身内を殺されたというのに歯がゆい話だ」
先ほど駅前のロータリーで受け取ったポケットティッシュでクールは靴に着いた血を拭った。
人間の者よりも黒が濃く、彼らが異種であることが一目でわかる。
臭いも、人間の物とは少々異なる。生臭さは弱く、代わりに鉄の臭いが強くなるのが特徴だ。
26
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:22:19 ID:FUwnuIG.0
「ったくよぉ、クーちゃん、街中で殺すなって言ってんだろ。車が寄せられねえじゃねえか」
「君たちがそんなことを我々に要求するから、『杭持ちは街中では殺しをしない』などという
莫迦らしい噂が吸血鬼の間ではやるんだ。一発撃ち損じて見ろ。奴らは必ず市街地へ逃げる」
「だから、逃がす前に殺せってんだ。またこんなに無駄弾ぶち込みやがって」
折りたたんだ担架を担いだその男は、クールの顔を見るなり眉間にしわを寄せてそういった。
死体処理の専門班、咲名プギャー。
男としてもかなりの大柄で、武器を持たせれば俺よりも吸血鬼殺しが似合いそうな見てくれをしている。
咲名が現れたのはクールが吸血鬼に止めを刺してから5分ほど経ってからのこと。
言葉の通り業務用の車両を傍まで乗り入れることが出来ず、用具を持って走ってやってきた。
汗をかき僅かな息切れを見せながらの、手馴れた作業。
死体を真っ先に専用の袋に入れ、担架で運び。
地面に着いた血は土ごと削り取り除染。
舗装された地面は専用の薬剤を使って洗浄し特殊なポリマーで吸着、箒で掃き集めて袋に詰める。
いつ見ても感心する速さだ。凄惨な殺人現場だった公園は、すっかり元の長閑な空気を取り戻している。
「次はもっと楽な所で殺せよ」
「ああ、君たちの部署まで連れて行ってから弾をぶち込むようにしよう」
悪態に皮肉を返され、ケッと唾を吐き捨て咲名は去って行った。
巨体がずんずんと地面を歩くその姿は、洋画でみた巨大ロボットが闊歩するシーンに似ている。
27
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:25:33 ID:FUwnuIG.0
「さて署に戻りますか?」
「あそこは居心地が悪い。今日は涼しいし、しばらく街を捜索してみよう」
「捜索、ですか」
それは散策、ではないのか。
「見給え流石くん。ロータリー向かいのクレープ屋がカップルで100円引きだそうだ」
クールが見せたのはポケットティッシュの袋に織り込まれた小さな広告。
手作り感のあるそれには、確かに「木曜日はカップルDay(ハート)」と書かれていた。
既にある一定水準の幸福を得ているアベックにさらに幸福を与えようとは。
たかが菓子の露店風情が中々業深い。
「行くんですか」
「もちろん。私は甘いものには目も耳も口も無いからね」
「口は残しておきましょう。食えなくなる」
「君はもう少し減らず口を控えたまえ」
28
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:28:22 ID:FUwnuIG.0
俺を置いて、クールは歩き出す。
機械のように冷徹かと思えば、突然少女じみたことを口走る。
ただ、いつ何時聞こうとも、録音した機械音声が再生されるような無機質さであることには変わりない。
「素直さんが行っても、100円引きはされませんが」
「君は、分かった上でそういう嫌味を言うのが悪い癖だな」
「いや、だって」
クールの言外に込められた意図は、確かに読んでいる。
俺に恋人のふりをしろというのだ。
別段抵抗はない。ズルではあると思うが、顔をしかめて注意することでもないだろう。
ただ、恐らくクールは気づいていない。
誰もが思いつく程度のズルなど、すでに前提にして条件を付けていることに。
「正規の値段で買う気にはならないが、100円引きとなれば別だな」
これから会議に向かうのかというほど機微とした足取り。
低いが堅い踵がタイル張りの地面を叩き、堅い音を立てる。
几帳面に一定のリズム。録音すればメトロノーム代わりにもつかえそうだ。
29
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:29:45 ID:FUwnuIG.0
「素直さん」
「なんだね」
「見てください。このチラシの隅」
クレープ屋の前には、それなりの待ち人が並んでいた。
そもそも人気なのだろう。時刻が夕方であることもあり、学生らしき姿が多く見られる。
列の最後に着いてひと息をついてから、俺はティッシュのチラシをクールに差し出した。
疑問の表情であったクールも意味に気づいたのか、表情がなおさら硬くなる。
「ふむ。随分な難題だ」
「だから言ったんです」
「提案がある」
「聞きましょう」
「普段からそういう嗜みをしているということにして、私が思いっきり君を殴る。
そして君は恍惚の笑みで店員を見る。よだれを垂らすなどすればさらに真実味が増すね。どうだ、完璧だろう」
「いやです」
「いけずめ」
30
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:32:03 ID:FUwnuIG.0
「そもそも、意地が悪い。気づいているのなら、早めに言い出すべきだ」
「どんどん先に行ったのは素直さんじゃないですか」
俺たちの後ろには、既に別のアベックが並んでいた。
ここで列を離れるのは、少々みっともない。
100円引きを不当に獲得しようとし、その条件を知ってすごすご帰る。
犯罪ではないが、人に後ろ指をさされても文句は言えないだろう。
「割引してもらえない100円分は君が出したまえ」
「いやです」
「死ね」
一度クレープを食べると決めたからか。
それとも並んだ列から離れがたくなってしまったか。
クールはぶつくさと文句を垂れながらも、財布を取りだした。
黒皮の、ブランド物。
こんなものを使っていながら割引狙いというのも少々情けない。
正直愉快だった。
この女に隙があるとすれば、こういうところだけだ。
感情を表さなくとも、悔しい文句を吐いているだけで十分面白い。
財布から取りだした千円札。列はまだ前に三組残っている。
気が早い。どれだけ楽しみにしていたというのだ。
31
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:33:53 ID:FUwnuIG.0
「私たちレズカップルなんで100円引きお願いしまーす」
「ちょっと、恥ずかしいからそういう適当を大声で言わないでください」
正当な金額を支払う覚悟を決めたクールと、内心笑いの止まらない俺の耳に、そんな声が聞こえてきた。
注文にこぎつけた、二つ前の組み。
大学生ほどの女が二人。店員は意外にもそれほど困った顔はしていない。
なるほど。100円をケチろうとする浅はかな思考回路は、何もクールばかりでは無い。
店員もそういった手合いになれているのだろう。
そしておそらく、そういった単純な客に条件を突きつけ困らせることに、楽しみを見出してすらいる。
「へー、条件とかあったんだ」
「だから言ったんですよ」
「別にいいじゃん」
賑やかな二人組についつい目を惹かれて、ぼんやりと眺めていると。
快活な、サングラスの女がもう一人の帽子の女の首に手を回した。
「あ」と声を漏らしたのは、俺と、前後の客の数人か。
タイミングは見事に一緒だったと思う。
32
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:38:21 ID:FUwnuIG.0
大声が影響して衆目が集まる中、サングラスの女がもう一人に顔をよせ、やや強引に唇を重ねる。
「レズカップル」という発言を詭弁だと捉えていた店員は(俺もだが)いかにも驚愕した表情で硬直していた。
サングラスの女が横目でそれを確認したのが見えた。
面白がるように唇と下でもう片方の唇をこじ開け、舌を這いずりこませる。
抵抗を見せた帽子の女だが、動揺が大きいのか動くことが出来ず手がおろおろしている。不憫だ。
周囲も、どよめいている。
並んでいる間に見ていたが、実際のアベックも精々唇で小突き合う程度の口づけばかりだった。
衆目の前で舌を絡めるというのは、交際事実の有無以前の問題だろう。
「はい。これでおっけーだよね」
「バカですか、あなたは。100円以上の損失ですよ、こんなの」
ともあれ、彼女らは店の出した「店員の目の前でキスをする」という条件をクリアしたわけだ。
クレープと引き換えに確りと100円引きされた代金を支払い、二人組は、特に帽子の方は逃げるように去って行った。
唐突なことで、カメラで写真を撮る者こそいなかったが、恐らくどこかしらに書き込みはされるだろう。
現に、まるでスクープを掴んだ週刊誌の記者かと思うほどの必死さで携帯電話を操作している者が見られた。
下世話さで言えば、記者なんぞよりもさらに下等な趣味かもしれない。
俺が素性知らぬ帽子の彼女に同情していると、クールがするりと列を抜けた。
目が、仕事中のものに戻っている。
「どうしたんです、素直さん」
「君はバカか、さっきの色眼鏡の女。あれは地雷女だ」
「えっ」
33
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:39:38 ID:FUwnuIG.0
終り。
長文が読めない人用三行
キッスの
価値は
100円です
34
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 14:46:41 ID:1c/ps3k.0
自分キマシ展開期待していいっすか?
35
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:09:18 ID:FUwnuIG.0
Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
○
Cast:都村トソン 都村ミセリ
──────────────────────────────────
36
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:13:25 ID:FUwnuIG.0
チチチと、蛍光灯が鳴いた。
人工的な光が部屋を照らし、生活感の薄い様子が露わになる。
ミセ*´д`)リ 「最悪ーッ!普通あそこで「杭持ち」に遭遇するかよー」
(゚、゚トソン 「ミセリが騒いで注目集めるからじゃないですか。隠遁生活している自覚あるんですか?」
ミセ*゚ー゚)リ 「まーいいじゃん、何とかやり過ごせたし」
(゚、゚トソン 「お蔭で何もできずに夜ですけど」
私は持っていた荷物を置いて、カーテンを閉める。
八畳一間の、二人暮らしには少々狭い部屋。
私が転がり込んだ時には
ミセ*゚ー゚)リ 『いいじゃん、三畳一間なんかよりはるかにマシだよ』
そう言って、ミセリは受け入れた。
現に生活はそれほど不便は無い。
何より五月蠅い両親がいないのだから、私にとっては快適ともいえる。
(゚、゚トソン 「さて、さっさとご飯にしましょうか」
ミセ*゚ー゚)リ 「はいよー」
私がキッチンへ移るとミセリは照明を消してベッドに倒れ込んだ。
疲れたのだろう。一昨日のように手傷を負うことこそなかったが、中々厄介な二人だった。
37
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:15:23 ID:FUwnuIG.0
鶏むね肉をパックから出し、水で軽く表面を洗う。
皿に乗せ、ラップをかけ電子レンジへ。
適度な時間を設定し、温めを開始する
次に丸ごと買ってきた大根の葉を落とす。
さらに半分よりも短く切り分け、皮を剥く。
ミセリは、吸血鬼だ。
話によれば吸血鬼の中ではそれなりの地位にあるらしい。
実際に、彼女を血眼で追い回す杭持ちを見ればそれが嘘でないことはわかる。
皮を剥いた大根を、繊維に添って縦に薄くスライスする。
彼女は他の吸血鬼と同じく人の血肉を喰らう。
だから、杭持ちや世間は吸血鬼は人間の敵だと考える。
それは妥当であり、現実だ。
実際に吸血鬼による殺人は一向に減らず、中には組織化して効率的に人を襲う者達もいるらしい。
スライスした大根を、千切りにしてゆく。
だけれど、ミセリは違う。少なくとも私の前では。
私は彼女に血を、あるいはその他の体液を提供している。
無理やりに吸われたことも、体に負荷がかかるほど大量に飲まれたことも無い。
私の知らないところで、浮気男のようにこっそりと他人の血を吸っていない限りは、比較的善良な吸血鬼なのだ。
切りおえた大根を水にさらす。
次に、水菜を水洗いし、大根と同じ長さに切り分ける。
38
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:17:52 ID:FUwnuIG.0
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、考え事しながら包丁使ってたら、指がとれちまうよ」
(゚、゚トソン 「大丈夫です。ちゃんとやってますから」
ミセ*゚ー゚)リ 「嫌だかんね、私。トソンの血は好きだけど、流石に指食う趣味は無いわ」
(゚、゚トソン 「はいはい。で、どうしたんです?」
ふらりと、ミセリが私の背後にすり寄ってきていた。
気にせず、あえて気にせず、私は夕飯の準備を続ける。
切った水菜を、大根と一緒のボウルにいれ、水にさらす。
丁度ここで電子レンジが音を鳴らす。
鶏肉に火が通ったらしい。
ミセ*゚ー゚)リ 「なぁ〜〜トソ〜ンちゃ〜ん」
(゚、゚トソン 「ダメですよ」
ミセ*゚ー゚)リ 「そんなこと言わないでさぁ」
ミセリが私の腰に腕を回し、背後から絡みついてくる。
わざと邪険に払いのけて電子レンジの中の鶏肉を取りだす。
ラップを開くと湯気が立ち上り、肉の香りが穴をくすぐった。
皮を引き剥がし、真ん中の一番厚みのあるところに竹串を刺す。
穴から溢れてきたのは、透明な肉汁。
どうやら火の通りに問題は無いようだ。
39
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:18:58 ID:FUwnuIG.0
ミセ*゚ー゚)リ 「だってさぁ〜〜すっげえいい匂いすんじゃ〜ん」
(゚、゚トソン 「つまみ食いはダメです」
ミセ*゚ー゚)リ 「硬いこと言うなよ〜〜」
裂き身にしたいので、鶏肉は一旦放置。
アパートの狭いキッチンではどこに置いても邪魔になるので、部屋のテーブルに置き、虫よけのネットを被せる。
行って来てをする私の後ろを、ミセリはだらだらとついてきた。
餌をねだって足に絡みつく猫のようだ。
ミセ*゚Д゚)リ 「トーソーンーお腹空いてしぬぅーー」
(゚、゚トソン 「30分くらい死んで大人しくしててください」
ミセ*゚Д゚)リ 「ぐわああああ」
演技臭い動きでミセリが床に倒れた。
ちらりちらりと目線がこちらを向いているが、無視。
小鍋に薄く水を張り、火にかける。
お湯が沸くまでの内に、小ぶりの茶碗に乾燥ワカメを一つまみ。
適量の水を注いでこれも放置。
次に冷蔵庫から玉ねぎを取りだす。
昨日使った残りだ。皮を剥き、半分にしたものをラップに包んでおいた。
これを薄くスライスしてゆく。小さな玉ねぎだ。残り全部使っても問題ないだろう。
40
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:20:01 ID:FUwnuIG.0
(゚、゚トソン 「ミセリ、邪魔です。寝るなら部屋に行ってください」
ミセ*゚Д゚)リ 「はいはーい!抗議抗議ィー!!ノリ悪い上に邪険にし過ぎだと思いまーす!!」
(゚、゚トソン 「邪魔です」
ミセ*゚ ,゚)リ 「トソンよぉ〜初めの頃の戸惑いと初々しさをよぉ〜忘れないでよ〜」
(゚、゚トソン 「邪魔です」
ミセ*゚ -゚)リ
(゚、゚トソン 「さて、と……」
ミセ*゚ ,゚)リ 「まあでもクレープ屋でちゅーした時の反応は中々可愛かったけどな」
(゚、゚トソン
ミセ*゚ー゚)リ ニヤッ
(゚、゚トソン
∠二=と l スッ
(゚、゚トソン 「まずは心臓でしたっけ。殺す手順って」
ミセ;*゚ー゚)リ 「オッケートソン。話し合いの精神って大事だと思わない?」
41
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:23:21 ID:FUwnuIG.0
吸血鬼と言っても死の概念は存在し、致死域でない負傷でも痛みを感じるのだそうだ。
心臓であったり、頭を損傷すれば生きてはいられない。
今でこそ冗談交じりではあるが、包丁は人間と同じく、吸血鬼にとっても十分に凶器足りえる存在らしい。
ミセ*゚ー゚)リ 「でもさ〜よかったじゃん、100円引き」
私の邪魔にならないよう、部屋の傍まで退いたミセリ。
腕を組み、壁に体を預ける。
小柄で、見てくれだけは10代の彼女でも、その立ち姿は年を重ねた気配を醸していた。
(゚、゚トソン 「割に合いません。あの場に知り合いがいないことを切に願います」
ミセ*゚ー゚)リ 「気にしすぎだっつーに」
ボウルの野菜を笊で引き揚げ、上下に揺すって水を切る。
これだけでは不十分なので、ボウルに重ねて、しばし水が落ちるのを待つ。
鍋の縁から湯気がぽふぽふと吹き出し始めた。
出汁の粉末をスプーンで掬い入れ、まな板放置していた玉ねぎも投入する。
あとは、弱火にして火が通るのを待てばいい。
まな板を軽く洗って、先に切り落としておいた大根の葉を軽く水で洗う。
雑に水を切って、これまた雑に切り分ける。
(゚、゚トソン 「ミセリ、そっちの鶏肉持ってきてください」
ミセ*゚ー゚)リ 「あいよー」
42
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:25:27 ID:FUwnuIG.0
(゚、゚トソン 「冷めてますよね」
ミセ*゚ー゚)リ 「いや、結構熱いけど」
(゚、゚トソン 「じゃあ冷ましてください。ついでに裂き身にしてください」
ミセ*゚ー゚)リ 「トソンさ〜私の体なんだと思ってんのよ」
(゚、゚トソン 「特段思うところはないですが、まあ便利だなと」
ミセ*゚ー゚)リ 「まじさ〜一家に一台吸血鬼じゃないんだからさ〜」
文句を言いつつ、ミセリは手を洗って鶏肉を手に取った。
湯気は収まっているが、まだ熱が残っているのは見た目にも何となくわかる。
それが急速に冷やされていく。
冷凍庫のような、ゆったりとしたものでは無い。液体窒素に浸すような急速さだ。
(゚、゚トソン 「凍らせないでくださいね」
ミセ*゚ー゚)リ 「わかってるって」
(゚、゚トソン 「この前」
ミセ*゚ー゚)リ 「あーはいはい、申し訳ござんした」
43
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:29:21 ID:FUwnuIG.0
身の方をミセリに任せ、剥しておいた皮を細く刻む。
切り分けを終え、鍋とは別のコンロにフライパンをかける。
少量のサラダ油を熱し、そこに細切りの鳥皮、黒胡椒を入れ、中火で炒める。
鳥の皮に焼き目がつく間での時間に、鍋の火を止め、味噌を溶き入れた。
玉ねぎがちょうどいい按配だ。香りも中々よい。
いい具合に鳥の脂が出たフライパンで大根の葉を炒める。
水が油に弾かれ跳ねた。バチバチという音が、五月蠅いながらもどこか心地よい。
(゚、゚;トソン 「いぎひぃ?!」
真剣に炒め物に向き合う首筋に、おぞましい感触が這いずった。
何をされたのかはすぐに理解したが、あまりに唐突だったので少なからず驚く。
ミセ*゚ー゚)リ 「終わったよー」
(゚、゚トソン 「……一々人の首を舐めないでください」
ミセ*゚ー゚)リ 「だってめっちゃいい匂いすんだもん」
(゚、゚トソン 「……火や刃物を扱ってるときは変なことしないでください」
ミセ*゚ー゚)リ 「もし怪我しても直してやるって」
(゚、゚トソン 「そういう問題じゃありません」
44
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:30:57 ID:FUwnuIG.0
なんだかんだありつつ、無事に夕飯ができあがった。
さして豪華でもない、いつも通りの食卓だ。
私も、クレープを食べたものの、そのあとに走り回ったのでお腹は空いている。
タイマーでセットしていたご飯も丁度良く炊き上がり、いそいそと箸を取った。
(゚、゚トソン 「いただきます」
ミセ*゚ー゚)リ 「召し上がれ」
(゚、゚トソン もぐもぐ
ミセ*゚ー゚)リ 「おいしいの?」
(゚、゚トソン 「食べてみます?」
ミセ*゚ー゚)リ 「バーカ、食べ物粗末に出来ねえよ」
(゚、゚トソン 「確かに」
45
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:32:42 ID:FUwnuIG.0
ミセ*゚ー゚)リ 「それ何?」
+(゚、゚トソン 「鳥皮と大根の葉の炒め物です。余分な物同士で作られたとても経済的なメインディッシュです」
ミセ*゚ー゚)リ 「そっち」
+(゚、゚トソン 「大根と水菜の鶏サラダ。梅ドレッシングでさっぱりさをアピール」
ミセ*゚ー゚)リ 「それ」
+(゚、゚トソン 「玉ねぎとワカメの味噌汁。玉ねぎの甘みと辛み、程よい触感がナイス」
ミセ*゚ー゚)リ 「これは」
+(゚、゚トソン 「工場生産のカッパ漬けです。箸休めにも、これだけでご飯のおともにもと、万能です」
ミセ*゚ー゚)リ 「食べ終わるのまだ?」
(゚、゚トソン 「あと30分くらいです」
ミセ*゚ ,゚)リ 「マジで飢え死ぬんだけど」
(゚、゚トソン 「我慢してください」
ミセ*゚ ,゚)リ 「……」
46
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:36:46 ID:FUwnuIG.0
(゚、゚;トソン 「……ちょっと、何してるんですか」
ミセ*゚ー゚)リ 「いやもう、我慢限界だし」
(゚、゚;トソン 「ちょ、私まだご飯」
ミセ*`Д´)リ 「うっせー!さっきからいい匂いぷんぷんさせやがって!誘ってんのか!」
(゚、゚;トソン 「それはそっちが勝手に……」
抱き着く、というには強引。
座って食事する私を後ろに引き倒し、腕で押さえつける。
元からひ弱な私な上に、人よりも力の強い吸血鬼のミセリ。
抵抗も虚しく、私はミセリの懐に抱きしめられた。
とりあえず、手に持っていたご飯茶腕をテーブルに残すことには成功する。
ミセ*゚ ,゚)リ 「いただきます」
(゚、゚;トソン 「ちょっみゅぎっ!」
首筋に、ミセリの舌が這う。
ほんのりと冷たい唾液の感触に、背筋に痺れが走った。
47
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:39:57 ID:FUwnuIG.0
唾液を塗り付けられたそこ。
ミセリの鋭い犬歯が、優しく突き刺さる。
ハーモニカを吹くように、少しスライドし傷口を広げた。
( 、 トソン 「ッ」
痛いのは、最初だけだ。
唾液が皮膚に沁み込むと、次第に感覚がぼやけて、何も感じなくなる。
少しすれば傷口から血が流れ出る熱い感触だけが、ぼんやりと意識の中で脈を打つ。
吸血鬼が血を啜るというと、歯を剥いて人の肉に噛みつく画を想像されるかもしれないが、ミセリは少々違う。
傷を作ると赤ん坊が母親の乳房を一所懸命に吸うように、唇で優しく血を吸い出す。
唾液で痛覚と意識がぼやけはじめると、倒錯もあって、懸命に血を吸い出すその姿が愛おしく思えるほど。
(゚、゚トソン 「……もう。今日は簡単にお昼を済ませたから、薄いですよ」
ミセリは答えない。
どんな表情をしているか見ることはできないが、きっといつもの通り目を細めて幸せそうな顔をしているのだろう。
肩ごしに手を回し、頭を撫でる。
あまり長くないミセリの髪は猫のように柔らかで、ますます赤ん坊のようだ。
(゚、゚トソン 「……ちょっと、ミセリ」
私を羽交い絞めにしていた腕が、するりとほどけた。
体を這うように指が移動し、私の胸元で止まる。
嫌な予感がする。たぶん当たる。
48
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:41:35 ID:FUwnuIG.0
優しく、ゆっくりと、手の平が私の胸を撫で始めた。
逆の手は背中。下着のホックをぷちりと外す。
( 、 トソン 「っう」
傷口に、痺れを感じる。
次第に体の力が抜けて、のぼせたように頭がぼうっとし始めた。
唾液を注射された、と気付いた時にはもう遅い。
ミセ*゚ー゚)リ 「へへへ……焦らされ過ぎてノってきちゃった」
(゚、゚トソン 「お腹が膨らんだらエッチって、猫かウサギですか」
ミセ*゚ー゚)リ 「勝手にするからマグロでいーぜ」
(゚、゚トソン 「マグロも何も、力入んないし」
体を支えられながら床に倒される。
覆いかぶさるミセリの目は、逆光の影の中で青く輝いていた。
唇の間で舌が横に滑る。
服の中に滑り込んでくる手はやっぱり冷たい。
49
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:44:35 ID:FUwnuIG.0
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、やっぱりかわいいな。食い散らかしたい」
(゚、゚トソン 「うれしくない」
ミセ*゚ー゚)リ 「この身体がいつか男を受け入れて、熟れて腐り始めるのかと思うとたまんねーな」
(゚、゚トソン 「あなたが居るうちは恋人なんかできませんよ」
ミセ*゚ー゚)リ 「まるで私がいなきゃ恋人作れるみたいな言い方だな」
(゚、゚トソン 「人並みには」
ミセ*゚ー゚)リ 「よく言うよコミュ障の癖に。…………ま」
手際良く服を剥がれ、上半身をさらされる。
恥じらいが無いわけでは無い。
恥じらったところでミセリを喜ばせるだけなので、表には出さない。
ミセ*゚ー゚)リ 「この身体に寄ってくるゴキブリは山ほどいそうだけどな」
(゚、゚トソン 「……」
ミセ*゚ー゚)リ 「安売りすんなよー。それなりの男に売らねえと、もったいないぜ」
(゚、゚トソン 「…………買い叩いてつまみ食いしているあなたが言いますか」
50
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:46:40 ID:FUwnuIG.0
(゚、゚トソン 「せめてベッドに行きたいんですが」
ミセ*゚ー゚)リ 「たまには、こういう行儀悪いのも燃えね?」
(゚、゚トソン 「背中痛いんですけど」
ミセ*゚ー゚)リ 「却下」
着ていたシャツを脱ぐミセリ。
下着を嫌う彼女の体は、それだけで露わになった。
白い肌。青い不健康さでは無く陶磁器のような、無機質でなめらかな、「白」。
綺麗だ。
細く、しなやかで、張りがあって、それなのに弛んでいる。
世には吸血鬼に憧れ自ら身を落とす人もいると聞くが、理解できなくはない。
ミセ*゚ー゚)リ 「電気消す?」
(゚、゚トソン 「……はい」
白い身体に薄く伸びる筋肉の陰。
伸びた手が紐を引き、照明が素直に輝くのをやめる。
「……へへ」
「…………まったく」
51
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 20:48:30 ID:FUwnuIG.0
終り。
三行。
なんか
たべたり
たべられたり
52
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:18:20 ID:FUwnuIG.0
Place: 草咲市 空木町安芸 字 小間下103 城宮大学内 静かな講堂の隅
○
Cast: 都村トソン 伊藤ペニサス
─────────────────────────────────────
53
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:20:41 ID:FUwnuIG.0
φ('、`*川 カリカリ...
φ(‐、‐トソン カリカリ...
φ('、`*川 カリカリ...
φ(‐、‐トソン カリカリ...
φ('、`*川 カリカ...
('、`*川 ガササ......トントン......
p| |||q゙
φ(゚、‐トソン チラッ
ε= ('、`*川 「ふぅ」
φ(゚、゚トソン 「終りですか?」
('、`*川 「一応ね。見直ししないと」
φ(゚、゚トソン 「参りました。まだ八割も行ってません」
('、`*川 「ゆっくりやりなって。急ぎでもないし」
φ(゚、゚トソン 「はい」
φ(‐、‐トソン カリカリカリ...
54
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:21:27 ID:QQQiBS0c0
とってもいいと思います、はい
55
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:21:41 ID:FUwnuIG.0
φ(‐、‐トソン カリカリカリ...
('、`*川 「…………」
φ(‐、‐トソン カリカリカリ...
('、`*川 「ちょっくら飲み物買ってくる」
φ(‐、‐トソン 「はい」 カリカリ......
('、`*川 「なんか要る?会館のカフェだけど」
φ(゚、‐トソン ピタッ
('、`*川 「おごりでは無い」
φ(゚、‐トソン
('、`*川
φ(゚、‐トソン 「カフェモカをお願いします」
('、`*川 「サイズ」
φ(゚、‐トソン 「おごりならLで」
('、`*川 「わかった、Sね」
56
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:22:54 ID:FUwnuIG.0
('、`*川 ,,, テクテク......
('、`*川 ピタッ
*〜 (‐。‐トソン 「ふぁ……」
(‐、q゙トソン クシクシ
φ(-、‐トソン カリカリカリ...
ε=('、`*川
―――― ―‐ − ‐
φ(‐、‐トソン カリカリカリ...
凵⊂('、`*川 「はい、カフェモカ」 コトッ
φ(‐、‐トソン 「ありがとうございます」
φ(゚、‐トソン
φ(゚、゚トソン 「これMじゃないですか?」
('、`*川 「Sサイズ分は払ってよ」
(゚、゚トソン 「太っ腹なのかケチなのかわかりませんね」
('、`*川 「うっせーよ」
57
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:23:54 ID:FUwnuIG.0
('、`*川 「ってーかさ」
φ(‐、‐トソン 「はい?」
('、`*川 「……バイトとか始めた?」
φ(゚、‐トソン
φ(゚、゚トソン 「いいえ」
('、`*川 「そ」
φ(゚、゚トソン 「なんでです?」
('、`*川 「最近、妙にお疲れっつーか。隈あるし、顔色よくないし」
(゚、゚トソン
(P、qトソン モニモニ
(゚、゚トソン 「そんなに濃いですか」
('、`*川 「まあ、普段よりは目立つよ。あんた化粧しないし」
(゚、゚トソン 「……特に何かあるわけでは。ちょっと、遅くまで読書を」
('、`*川 「……そ」
58
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:25:54 ID:FUwnuIG.0
φ(‐、‐トソン カリカリ...
('、`*川
o「]qヾ タンッ...スッ...
φ(‐、‐トソン カリカリ...
φ(‐、‐トソン カリッ...カリカリ...
ε=('、`*川
('、`*川 「ちょっと、一服してくる」
φ(゚、‐トソン 「……あれ、さっき吸って来なかったんですか?」
('、`*川 「忘れてたの。しばらくここにいるっしょ?」
φ(゚、‐トソン 「はい」
('、`*川 「荷物よろしく。すぐ戻るから」
φ(゚、‐トソン 「はい」
('、`*川
φ(‐、‐トソン カリカリカリ...
ε=('、`*川
59
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:26:50 ID:FUwnuIG.0
終り。
三行
これ
くらい
よもう
60
:
名も無きAAのようです
:2014/02/16(日) 22:36:18 ID:6/ev4sxQ0
ペース速いな乙
61
:
名も無きAAのようです
:2014/02/17(月) 10:34:41 ID:ep4LCeuI0
素晴らしい
素晴らしい
62
:
名も無きAAのようです
:2014/02/17(月) 15:17:53 ID:074qjfpU0
非常にいいと思うおつ
トソンかわいいななんか
63
:
名も無きAAのようです
:2014/02/17(月) 21:18:44 ID:4CydhiJQ0
これくらいよもう吹いた
64
:
名も無きAAのようです
:2014/02/18(火) 18:56:41 ID:C1xcQuVEO
地の文がすごく好み
おつおつ
65
:
名も無きAAのようです
:2014/02/19(水) 03:53:49 ID:rEwhmWBg0
ふぅ…
66
:
名も無きAAのようです
:2014/02/22(土) 15:37:03 ID:.ziEzgF20
ミセ*゚ー゚)リ(゚、 ゚トソン
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1497.jpg
( ´_ゝ`)川 ゚ -゚)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1498.jpg
文章の雰囲気と話の進め方とキャラの喋り方が最高に好き
67
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 12:50:23 ID:9kpWy5VI0
Place: 草咲市 須赤一丁目 33-31付近 飲食街の外れ
○
Cast: 志納ドクオ 賤之女デレ 大天福ショボン 天主堂モララー
──────────────────────────―――────────
68
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 12:53:58 ID:9kpWy5VI0
(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福(だいってんっぷく)ハピ☆ネス大先生のォ!!吸血鬼狩りタァイム!!」
('A`) 「……」
( ・∀・)っy=━ 「先生、声が大きいです」
細く薄暗い路地に杭持ちの大声が響き渡る。
ロングコートを着込み人目を避けるような姿とは逆に、その男の態度は大仰で、横柄で、目障りだった。
「杭」と呼ばれる武器を持ち、袋小路の出入り口に立ちふさがる。
強い。意味の分からない顔面でありながら、杭持ちの中でも上位の実力者だ。
( ・∀・)っy=━ 「志納(しのう)ドクオだな。神の御名のもとにさばきを」
もう一人の青年は、大天福に反し物腰は静か。
両手で構えた銃の用心金にはおなじみの十字架が光っていた。
彼もまた、強い。大天福の弟子ではあるらしいが、能力は十分に一人前だろう。
('A`) 「……お前らに、聞きたいことがある」
( ・∀・)っy=━ 「なんだ?」
(´†ω゚`) 「命乞いなら冥土でやれィ!!」
_,
( ・∀・) 「先生黙って」
(´†ω・`) 「ハイ」
69
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 12:55:02 ID:9kpWy5VI0
('A`) 「地雷女と呼ばれている吸血鬼を知っているか?」
( ・∀・)っy=━ 「……それが?」
('A`) 「居場所を知っているなら教えろ。あの女は俺が殺す」
青年は黙った。
話すかどうか思案しているというよりも、こちらの真意を探っているといったところか。
銃口は一切ぶれない。紛らわしい行動を取ればすぐさま銃弾が放たれるだろう。
( ・∀・)っy=━ 「俺たちは、地雷女の居場所は知らない。こちらが教えてほしいくらいだ」
('A`) 「……チィッ、杭持ちの無能さは相変わらずだな」
( ・∀・)っy=━ 「そして仮に知っていたとしてもお前はここで死ぬ」
('A`) 「そして話の通じなさもまた猿並か」
くぐもった銃声が響く。
放たれた弾丸はドクオの耳元を掠め、壁にめり込んだ。
続けて銃身が跳ねる。
射線を見切る余裕があった。
躱せるところをあえて腕で受ける。
瞬きの間に生み出された銃創から、鮮血とは言い難い黒い液体が噴き出す。
重畳だ。上手く静脈を破壊してくれた。
流れ出る血を拝む形で両手に付ける。
70
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 12:56:35 ID:9kpWy5VI0
(´†ω゚`) 「モララー、わざと傷を作ったぞ!血刑に気をつけろ!!」
( ・∀・)っy=━ 「言わなくたってわかるって……」
車一台ほどの幅の路地。左の壁いっぱいに弧を描いて大天福が迫る。
その間も青年、モララーは銃撃を止めない。
わざと射線を右に寄せ、大天福の方へ誘導している。
なるほど。師弟だけあって息はあっている。
(´†ω゚`) 「大天福スラァッッシュ!!」
大天福の、杭による斬撃。
ドクオはこれに血まみれの手を差し出した。
路地に反響する金属音。
大天福の杭はドクオの手の平に受け止められている。
ドクオは刃を握りしめ、大天福は無理やりに押し込もうと力を込めた。
モララーは銃撃を一旦中止。弾倉を交換する。
組み合ってしまったため大天福が邪魔で銃が使えないのだ。
( ・∀・)っy=━ 「……血の硬化程度はできるようだが、やはり雑魚か?」
ドクオは、大天福にやや押されていた。
吸血鬼になれば女子供でも大の男に押し勝つ力を得る。
杭持ちとして鍛え抜かれた大天福が相手とはいえ、単純な力比べで吸血鬼が負けるなど珍しい。
71
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:00:09 ID:9kpWy5VI0
(´†ω゚`) 「大天福キィィッック!!」
杭をあっさりと離し、大天福はドクオの腹に足の裏を突き出した。
唐突な転換にドクオの反応は間に合わない。
吹き飛び背後の壁に叩き付けられ、口から唾液が漏れる。
(´†ω・`) 「モララー」
( ・∀・)っy=━ 「はい」
(´†ω・`) 「雑魚と侮るな。こいつ何かあるぞ」
( ・∀・)っy=━ 「先生が言うなら、そうなんでしょう」
地面にずるりと落ちながら、ドクオは舌を打つ。
モララーの方はもう少しで油断を誘い出せたはずだが、この男中々侮れない。
('A`) 「……地雷のことを知らねえお前らに、用はねえんだが」
(´†ω・`) 「この大天福、屠ると決めた吸血鬼をみすみす逃がすなど出来る男ではない」
大天福は、着ていたコートを脱いだ。
下は白のワイシャツと、ガンベルトらしき黒い帯。
ただし、銃のホルスターの姿は無く、代わりに肩口から杭の柄らしきものが覗いている。
('A`) 「……外人の観光客が喜びそうだな」
72
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:02:03 ID:9kpWy5VI0
背中に手を回し、大天福が取りだしたのは通常よりも長い杭。
鞘に収まるその姿は拵えの無い刀のようだ。
杭を抜き、鞘を捨てる大天福。
趣は杭に同じであっても、武器としての立ち位置はやはり日本刀に近いものだろう。
(´†ω゚`) 「モララー。援護は任せたぞ」
( ・∀・)っy=━ 「……必要かなぁ」
受けに回っては不味い。
ドクオは尻餅の状態から、上半身の勢いで大天福に飛び掛かる。
(´†ω゚`) 「大天福抜き胴スラァッシュ!!」
獣の如く食い掛かったドクオの脇を、大天福は歩むように通り過ぎる。
手に持った杭が滑らかに、音も無く、ドクオの腹を滑った。
鋭い痛み。
零れた血を硬化させて鎧替わりにしていたが、それでも斬り裂かれた。
血が少なかったのもあるが、大天福の技の切れが上回ったのだ。
( ・∀・)っy=━ 「浅いか」
よろめくドクオに、モララーの銃撃。
咄嗟に頭と胸を庇ったが、彼の狙いは初めから膝だった。
鉛に撃ちぬかれ、崩れ倒れる。
体の下にじわりじわりと血溜りができてゆく。
73
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:03:12 ID:9kpWy5VI0
(´†ω゚`) 「大天福フライングフィニッシュスピネイドォ!!」
宙に飛び上がる大天福。
杭を逆手に振り上げ、着地と同時に心臓を貫くつもりだ。
ドクオは渾身の力で横に転がり逃げる。
血が少ないためこれだけで頭が朦朧とした。
( ・∀・)っy=━ 「先生、血に触れては!」
(´†ω゚`) 「噴!」
血だまりに着地した大天福は言われるまでも無かったとばかりにすぐさま飛びのく。
靴を蹴る様に脱ぎ捨て、靴下で地面に立つ。
判断が早い。伊達に吸血鬼殺しを生業にしていないわけだ。
( ・∀・)っy=━ 「先生、危険なので近づかないでください」
言葉尻に被さる銃声。
狙いはドクオの頭だ。
座り込んだ状態で、何とか手で受ける。
衝撃に揺らぎただの一発で地面に倒れた。
( ・∀・)っy=━ 「先生の勘違いか?」
倒れたドクオの頭へ、ゆっくりと狙いをつける。
仮に血の能力、『血刑』を使われても距離があるから大丈夫、ということか。
74
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:05:25 ID:9kpWy5VI0
('A`) 「……やっぱ、おまえら、ダメだァ」
( ・∀・)っy=━ 「?」
狙いを定め、引金を引く寸前、モララーは異変に気付いた。
照準に目を当てているほんの数秒に、何かが変わっている。
大きな変化だ。だが、具体的に何か把握出来ない。
( ・∀・)っy=━ 「……!血が、無い!」
('A`) 「おせえって」
ドクオがふらふらと立つ。
身に着けているカーキのパーカーにも、青いジーンズにも。
塗りたくった手にも、溜まりになっていた地面にも。
何処にも、ドクオの血が見当たらない。
( ;・∀・)っy=━ 「何をしたところで!」
モララーが銃を撃つ。
くぐもった銃声の連続。最後にはスライドが開きっぱなしになる控え目な金属音が重なる。
そこまで撃ってなお、ドクオには一発も当たっていない。
( ;・∀・)っy=━ 「なに、が」
75
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:07:39 ID:9kpWy5VI0
(´†ω・`) 「モララー下がれ!コイツの血刑は毒だ!」
( ;・∀・) 「……ッそうか!」
モララーが袖で口元を抑え、大きく飛びのく。
着地と同時によろめいて尻を着いた。
実感が伴わないまま平衡感覚を失っているのだ。
狙撃が悉く外れたのもその影響である。
大天福もモララー同様、むしろより近くにいたせいで毒のダメージを受けていた。
内股で前かがみで小型犬の如くプルプル震えている。
杭を杖代わりにして倒れることは耐えているが、今にも崩れ落ちそうだ。
('A`) 「チッ……二人いっぺんに殺すのは無理か……」
塞がらないドクオの腹の傷からは滾々と血が湧き出ているが、一滴も地面には落ちない。
腰元まで垂れたところで蒸発し、黒い霧となって立ち上る。
すぐに拡散し目に見えなくはなるが、空気中を移動し、確実に杭持ち達の体を蝕んでいた。
(´†ω゚`) 「……しかしこの大天福、ただではやられん!!」
目を真っ赤に充血させた大天福。
唇を噛む痛みで意識の明晰を僅かに取戻し、立ち上がる。
その手に光る、鈍色の杭。
ドクオは出血多量で動けず、今攻撃を受ければ身を守る術は無い。
76
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:09:14 ID:9kpWy5VI0
(´†ω゚`),´∴ 「行くぞ!大ッ天ッ福オリジナルアルティメットンァァァアア!」
( ;・∀・) 「先生ェ!!だから技名はシンプルが良いってあれほど!!!」
杭を振り上げ叫ぶ途中で大天福は血反吐をまき散らして卒倒した。
零れる血は口の端で泡になっている。
放っておけば十数分で死ぬだろう。
( ;・∀・) 「く、こんな間抜けな負け方……!」
モララーが震える手で上着の内側に手を滑り込ませる。
取りだしたのは、簡易の注射器。
フィルムケースのような円柱状で、体に押し付けると針が出て薬剤を注射できる。
内容は、抗吸血鬼化薬。
吸血鬼化を抑制するのが目的のものだ。
解毒効果は無いが、この毒は吸血鬼の血が由来なのである程度は期待できる。
いくらか効果があったことを自覚し、モララーは大天福に駆け寄った。
素早く指で肋骨の隙間を突き、完全に意識を奪う。
これで今以上に毒を吸入することは無い。
( ;・∀・) 「志納ドクオ、次は必ず殺す」
モララーは手早く大天福を担ぎ、走り出した。
崩れ落ちる勢いを利用するかのように、路地を出てゆく。
あとはまあ、救急車でも呼べば、あの毒ならば五分五分で生き延びるだろう。
77
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:10:47 ID:9kpWy5VI0
たっぷりと溜めて、舌を打つ。
あのままモララーがドクオを殺しに来ていれば、もっと強力な毒で殺すことが出来た。
吸血鬼殺しより仲間の救出を優先したのが、少々意外でもある。
('A`) 「……クソ、便利さなんてかけらもねえじゃねえか、この血刑」
血を変異させ操る吸血鬼の態、血刑。
特性故に血を流さねば使えず、血は流し過ぎれば仮死状態に陥ってしまう。
上手く使おうにも、最近血刑を使えるようになったドクオは毒を作り出すのに多くの時間を要する。
もっとさっさと強力な毒を生み出せていれば、組み合った時点で大天福は殺せていた。
('A`) 「……帰らねえと、血が、足りねえ……」
よろよろと立ち上がり、すぐに崩れ落ちる。
血刑に血を使いすぎた。
応援を呼ばれてる可能性がある。早く逃げなければならないというのに。
('A`) 「……クソ、せっかく、バカどもを、追っ払ったのに」
傷は全て塞がった。
しかし体の中を巡る血が足りない。
苦々しい顔をしながら、ドクオは薄汚い壁に体重を預ける。
78
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:12:30 ID:9kpWy5VI0
ζ(゚ー゚*ζ 〜 ♪
ζ(゚ー゚*ζ´ 「あら?」
目を閉じ、朦朧としていたドクオの耳には、その音は聞こえていなかった。
その少女は仮死に陥りかけているドクオへ歩み寄る。
79
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:13:31 ID:9kpWy5VI0
ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、おじ様?お兄さん?」
('A`) 「……あ?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「可哀想。お腹が空いているのね」
('A`) 「なんだ、てめえ」
ドクオの朦朧とした視界にも、少女が映り込んだ。
栗色の髪に、ゴシックなデザインの人形のようなドレス。
整った顔に浮かぶ笑顔は、どこか作り物を思わせた。
ζ(゚ー゚*ζ 「ちょっと待ってね」
('A`) 「おい、何をする気だ」
胸元に付けられた、鮮やかな青い石のブローチ。
少女の小さな手が楕円形のそれを捻ると、カチリと音がして台座の金細工が開き、石が外れた。
摘まみあげられたその宝石の裏には、爪の先ほどの小さな刃物が仕込まれている。
('A`) 「おい」
ζ(^ー^*ζ 「今私の血をあげるね」
80
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:15:19 ID:9kpWy5VI0
少女は首元のボタンを外し、服を大きくはだけさせた。
露わになった鎖骨のやや下。
健康的な色の肌に石を強く押し付ける。
ドクオが驚く暇もない。
石は鎖骨をなぞる様に滑り、過ぎ去ったそこには血を膨らませる赤い傷口が生み出された。
ζ(゚ー゚*ζ 「さ、どうぞ、おじ様」
(;'A`) 「……」
抱擁を求めるように、手を広げ誘う少女。
ドクオは動かない。
滴る少女の血は赤く、自然に喉が、腹がなる。
だが、突き上げる衝動をドクオは必死に抑えた。
ζ(゚、゚*ζ 「どうしたのおじ様?早く吸わないと、血がもったいないわ」
(;'A`) 「……俺は、人の、血は、吸わねえ」
ζ(^ー^*ζ 「でもおじさまは吸血鬼でしょう?吸血鬼は人の血を吸うのが普通でしょう?」
(;'A`) 「……」
この娘は、何者だ。
81
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:17:33 ID:9kpWy5VI0
なぜ吸血鬼と知って平然と近づいてくる。
なぜ自分の血を飲ませようとする。
ドクオの背を、寒気が痺れさせる。
命を奪いに来たあのふざけた二人の杭持ちよりも、この少女にこそ恐怖を覚えた。
ζ(゚、 ゚*ζ 「もう、仕方ないわね」
少女は滴る血を指で掬い取る。
指にねっとりと絡んだそれを、小鳥に餌付けする優しさでドクオに差し出した。
(;'A`) 「……ッ」
顔をそむける。
甘い匂い。生臭い誘惑。
一口でも触れたら、欲求に負ける。
必死に拒むドクオの頭を、少女は血を掬ったのとは逆の手でそっと抑えた。
少々さびしそうな、困った笑顔でドクオの唇へ血を運ぶ。
ζ(゚、 ゚*ζ「ごめんなさい。おじ様のお口には合わないかもしれないけれど、このままではおじ様死んでしまうもの」
(; A )
82
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:20:34 ID:9kpWy5VI0
違う、口に合わないなんてことが無い。
今まで嗅いだどんな香りよりも素晴らしく、唾液が溢れる。
心のすべてを奪われそうになる。
だからダメだ。やめてくれ。
この血を舐めたら、人間に戻れなくなる。
ζ(゚ー゚*ζ 「さ、観念なさって」
( A ) 「グッ」
薄く空いた唇に滑り込む人差し指。
噛みしめ、閉じた歯を一つ一つなぞる様に血を塗り付けていく。
歯の隙間を抜けて、口の中に広がる少女の血の味。
やっぱりだ。匂いで全部わかってたんだ。
甘い。
ほら、甘い。
美味い。
旨い。
感動が、電流になって、背骨の髄まで溶かし解してゆくようだ。
83
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:21:23 ID:9kpWy5VI0
( ゚A゚) 「ッ゙!」
ドクオは、鎖の千切れた猛獣の如く、少女の傷にしゃぶりついた。
あまりに突然で少々驚いた少女は、すぐに穏やかな笑顔に戻る。
胸元に頭を押し付け、無心に血を啜る彼を優しく抱きしめた。
小さな手で髪を撫でるその姿は、まるで母親のようですらある。
ζ(゚ー゚*ζ 「よほどお腹が減っていたのね。どうぞ、好きなだけ飲んで」
傷口に舌を差し込み、広げる。
あふれ出た血を、吸い込み飲む。
死にかけていた体がみるみる生き返ってゆくのがわかった。
ζ(゚ー゚*ζ 「あら、もう大丈夫?」
いくらか欲求が満たされたところで、ドクオは少女を解放した。
まだ飲める。もっと飲みたいと体が軋む。
だが、これ以上は少女を殺しかねない。
ドクオを見返す少女は相変わらず笑顔であったが、いくらか血色が悪くなっていた。
84
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:26:25 ID:9kpWy5VI0
(;'A`) 「すまない、俺は……」
ζ(゚、 ゚*ζ 「おじさま、口の周りが汚いわ。ちょっと待ってね」
少女はドクオの顔を白いハンカチで拭う。
唾液と血を拭き取り、満足げに笑った。
食欲を誘う人間の臭いが、彼女が妖艶な女であるような倒錯を起こさせる。
少女はハンカチを丁寧に畳んでしまい、地面にちょこんと座り込んだ。
路地は汚い。
綺麗な服が埃に汚れるが本人は全く気にしていないようだった。
ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、おじ様。私、お願いがあるの」
(;'A`) 「……?なんだ」
ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様、私を飼ってくださらない?」
(;'A`) 「……は?」
ζ(゚ー゚*ζ 「私を、娘として、飼ってくださいな」
ドクオは、少女が何を言っているのか理解できない。
戸惑いの視線の先、微笑む彼女の美しさは、やはり作り物の様であった。
85
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 13:27:42 ID:9kpWy5VI0
終り。
三行
大天福
大先生
大失敗
>>66
( ゚д゚ )
( ゚д゚)
( ゚д゚ ) とても素晴らしく思います。喜びに満ちた投下です。
86
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 17:33:39 ID:9uUDVpmw0
おつ!
87
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 19:34:19 ID:IS1PCLhk0
ミセリとトソンといいドクオとデレといい吸血鬼と人間の関係性が好みすぎる
大好きだ
88
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 20:10:50 ID:52HoOqTsO
乙
登場人物が魅力的で引き込まれるわ
89
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 21:43:16 ID:JobO5qas0
乙
ショボンのキャラ好きだ
90
:
名も無きAAのようです
:2014/02/23(日) 21:51:55 ID:mbTjdYho0
乙
ζ(゚ー゚*ζと(´†ω・`)のキャラ素晴らしく良い
91
:
名も無きAAのようです
:2014/02/24(月) 00:23:42 ID:qK3C3XvUO
ω・)久々おもしろい作品キター
92
:
名も無きAAのようです
:2014/02/24(月) 00:43:28 ID:C2iai.a60
>>91
よお久しぶりだな
元気にしてたか?
93
:
名も無きAAのようです
:2014/02/24(月) 17:33:28 ID:7a3LisK20
期待
94
:
名も無きAAのようです
:2014/02/27(木) 22:09:37 ID:Lf/as6qA0
wktk
95
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:05:30 ID:jHk0pOPc0
Place: 草咲市 時糸町 字 輪区68-5 寂れた卸売団地の一角
○
Cast: 流石兄者 素直クール 庄梅ハンジョイ 棺桶死オサム
──────────────────────────―――────────
96
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:06:53 ID:jHk0pOPc0
「流石くん、意地悪をせずそろそろ暗視スコープまたはそれに類する秘密道具を出したまえ」
「残念ながら俺の腹にポケットは付いていませんね」
「まったく流石でないな流石くん」
広大な倉庫だった。
かつては物流の要として利用されていたのだろうが、
今となっては照明一つ無いゴーストハウスと化している。
目を凝らしても、隣にいるクールの顔すらはっきりと見えない。
あまりに暗い。頼みの月明かりも今は雲の向こうだ。
吸血鬼は、この闇の中で俺たちの首を狙っている。
右に物音。
クールが動いた気配と同時に、くぐもった銃声が鳴る。
薬莢が落ちる音。それに紛れて足音らしきものが正面へ移動する。
再びの銃声。連続しているが、適当に乱射するような間では無い。
一度一度、引金を引く毎に狙いを定め直している。
暗中で音を頼りに銃を撃つにしては落ち着き過ぎだ。
「君も撃ちたまえ」
「無理です」
97
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:09:36 ID:jHk0pOPc0
俺はクールのように音だけで相手の位置を特定などできない。
もし狭い路地でなどであればある程度推測はできるが、残念なことにここは廃市場の倉庫跡。
広く障害物も少なく、だが周囲を囲む壁と天井が反響を生むせいで音が明確さを欠く。
この状況で適当に引き金を引いたところで、当たるわけがないのだ。
試しに一発撃ってみたが、まったく落ち着かない。
クールが弾倉に残った最後の弾を放った。
何かが壊れる音が響く。今は使われていないとはいえ過失物損だ。
書かねばならない書類が一つ増えた。頭が痛い。
「ああ、くそ。弾が切れた。流石くん君の弾を寄越したまえ」
珍しく苛立った声色でクールが叫ぶ。
いかにも怒っているという気配で空の弾倉を地面に投げつけた。
らしくない。だからこそその意図を読む。
俺たちは常に予備の弾倉を持ち歩いている。
クールなぞは自分の乱射癖を自覚しているため、通常の二倍も申請しているほどだ。
確かに襲撃を受けてからかなりの弾を無駄にしているが、弾切れはまだ遠いはず。
ならば彼女の狙いは。
「ダメですよ素直さん。俺の弾はここに来る前の戦闘で全部使ってしまいました」
出来る限り焦りと狼狽をにじませて、返す。
わざとらしい大きさにならないようクールよりも控え目にはなったが、十分聞こえただろう。
少々説明的過ぎたのは反省だ。
98
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:12:01 ID:jHk0pOPc0
「流石、流石くんだ」
小声の呟き。
これは恐らく向こうには聞こえない。
「そもそも君が匿名のリークを疑いもせず信用するからこんなことになるんだ」
スライドの開いた銃を握ったまま、クールは俺の胸倉を掴んだ。
演技はまだまだだ。本来の無感情で平坦な声の名残が強い。
「罠なのはわかり切っていたのに」
叫びながらクールは俺の胸のベルトから予備弾倉を引き抜き、銃に差し込む。
「とりあえず会ってみよう言ったのはあなたじゃないか」
女に噛みつかれ困り果てる男。それが今の俺だ。
宥め、腕を引き離そうとするふりをしながら、素直の銃に手を触れる。
「なんだ、私のせいだというのか」
俺を揺さぶるクール。
銃に触れた俺の手がスライドを引き、弾が薬室に装填された。
聞こえる足音。
忍ばせてはいるが、速い。
駆け寄ってきている。
当然だろう。向こうにとっての好機に他ならないのだから。
だが、少々焦り過ぎだ。
99
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:13:54 ID:jHk0pOPc0
「流石くんは」
怒りが最高潮に達したと言ったところか。
掴んでいた襟を離し、俺を突き飛ばすクール。
足音は俺を逸れた。
向こうの狙いはクール。
動転している愚かな女。
無論、愚かなのは。
「本当に流石だ」
こんな大根の演技に騙される莫迦な吸血鬼。
見えないが見える。
クールの薄い唇は今、笑みを湛え。
死神の持つ鎌のように、弧を描いている。
100
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:14:29 ID:lsoQf6VM0
いいねいいね
支援
101
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:15:07 ID:jHk0pOPc0
銃声。
その瞬間に雲が抜け、天井付近の窓から月明かりが降りそそいだ。
なるほど、これに気づいたから焦って接近してきたのか、とぼんやり思う。
俺はもう銃を撃つ気が無い。
今から撃っても、それこそ無駄玉なのだから。
「ぐぶっ」
足音の主、吸血鬼の男は胸から血を吹き出した。
飛び掛かろうとしていたところに、音でその位置を特定したクールに鉛玉を撃ちこまれたのだ。
距離と反響のある中ですら把握できていた彼女だ。
接近してくる、近距離の相手に撃つなど容易いことだろう。
俺は真似しろと言われてもできないので、男がクールを狙ってくれて助かった。
男が勢いのまま前へ倒れ込んだ。
クールは冷静にその脇をすり抜け、銃口をその背中へ向ける。
一発目は心臓に当たったようだが、これだけでは不十分。
心臓を破壊しても、精々出血多量に因る仮死状態に陥るだけ。
殺すには心臓を破壊され血の流れが滞った頭部の破壊が必要だ。
102
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:17:44 ID:jHk0pOPc0
「良いことを教えてやろう」
銃声。
這いずって逃げようとした膝の関節を撃ち抜く。
潰れた悲鳴が上がる。
血刑を使う余裕は無い様だ。
そもそも使えないという可能性もあるが、今となっては関係ない。
「私と流石くんはもみ合って喧嘩するほど仲が良くない」
銃声に合わせて血飛沫が二つ上がる。
腰骨を砕いた。これで歩くことはおろか振り向くことすらできないだろう。
まだ、殺さない。此奴には聞きたいことがある。
「さて。お遊びに付き合った分、きっちり話をしてもらおうか」
「痛え、痛えよお」
「流石君どうする。話にならんぞ」
「素直さんは撃ち過ぎなんです」
俺は腰の後ろに差した杭を抜く。
これを吸血鬼殺しに使うことはほとんどないが、便利ではある。
拷問というのは、使われる道具が原始的であるほど、口が回りやすくなるものだ。
103
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:21:05 ID:jHk0pOPc0
「そろそろ黙れ」
先端を、背中に押し当てる。
心臓の裏。骨を抜けて一突きに出来る場所だ。
「痛がるふりをして心臓を再生する時間を稼ごうとしても無駄だ。
それ以上続ければ、杭で完全に心臓を破壊する」
腰はともかく、心臓の傷は粗方回復が済んでいるはずだ。
なかなか悪知恵が働くようではあるが、残念ながら誤魔化されるほど愚かで居てはやれない。
「地雷女はどこにいる」
男は呻きこそあげなくなったが、代りに黙り込んでしまった。
望まぬ兆候だ。此奴は頑なに秘密を守ろうとしているのではない。
本当は自分が何も知らないことを悟られたくないがために黙っている。
愚かだ。全く持って反吐が出る。
仕方ないので、肉の中に杭の先を潜り込ませた。
「言え。地雷女の居場所を知っていると話しを持ちかけてきたのは貴様だ」
「あ、う」
潜り込んだ先端を、90度捩じる。
血が細く吹き出す。
吸血鬼はまた悲鳴をあげた。
104
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:26:28 ID:jHk0pOPc0
「ゆ、許してくれ。本当は」
「碌なことを知らないんだろう」
クールがため息を吐く。
銃を持ってはいるが撃つ気は無い様子。
気だるさの見える顔と立ち姿で、吸血鬼に目を向けている。
「俺たちが本当にお前の罠にかかったと思ったのか。その幸せな脳みそを少し分けてくれ」
刃で肉をくり抜くように、杭を回転させる。
鳴き声混じりの呻き。半不死とはいえ、この傷は痛かろう。
「地雷女を餌に釣りを仕掛けたということは、貴様らの中でも我々が地雷を狙っていることが伝わっているということだ。
ならば、何かあるだろう。貴様らだからこそ耳にする情報が。
お前のような、名を上げたいがために力量差も測れぬまま勝負を挑む莫迦であっても、噂くらいは聞くはずだ」
「言ったら、助けてくれるのか」
「有益な情報であれば考慮はされる」
吸血鬼は少々悩んだのち、首だけでクールを睨みつけた。
滑稽だ。余りに情けないので、ついつい脳天に銃弾を数発撃ちこむところだった。
対するクールは一切揺らぎの無い顔で吸血鬼を見つめ返す。
目では無い。穴だ。あの奥にあるのは視神経脳でなく、光の届かないしじまの闇だ。
105
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:28:57 ID:jHk0pOPc0
「地雷女は、この街に現れてから、吸血鬼を探していたんだ。たしか、『乙鳥ロミス』とかいう」
クールの視線。
俺は杭を左手に持ち替え右手で捜査用の携帯端末を取りだす。
専用のページを立ち上げ、検索フォームに聞いた名前を入力する。
結果はすぐに出た。
該当者は一人。聞いた通りのまま『乙鳥ロミス』。
「ロミスは、俺らにも得体の知れねえ気味の悪い奴だったんだが、地雷女はあいつを殺したがっていた」
ロミスの情報にアクセス。
身体的な特徴等、いくつかの情報があるが、あまりに少ない。
脅威度は最低レベルだ。
データ上はよく名前が記録されていたものだと驚くほどの小者である。
「ロミスという吸血鬼は、実在したみたいですね」
「した、というと」
「二か月ほど前に、死体が上がっています。状況を鑑みるに、同族殺しですね」
惨殺、というにふさわしい状況だ。
文面から想像するだけで人間が殺したものでないと分かる。
一部の杭持ちを除いて、銃や兵器を使わずに吸血鬼を殺せる人間など存在しない。
106
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:31:49 ID:jHk0pOPc0
「となると、地雷女は目的を既に果たしたと」
「此奴の言葉を信じるなら、そうなります」
「しかし、まだ奴はこの街にいる。他にも目的があるということか」
地雷女は拠点を作らぬ根なし草。
今まで居ついた街も、俺たちに存在を知られるとすぐに姿を消していた。
それが、この草咲の街にはかれこれ三か月ほど滞在している。
『乙鳥ロミス』という吸血鬼を殺すことが目的だったのならば、既に出て行っていてもおかしくはない。
俺たちに存在を察知され、居所を探られながらも離れられない理由があるということか。
「そもそも、本当なのだろうな。その話は」
「本当だ。この状況で身内でもねえあのビッチを庇う理由がねえ」
「流石くん。どう思う」
「嘘では無いかと思いますが。参考程度に信じるならば問題はないでしょう」
男の言葉に偽りの気配は無い。恐らくは真実なのだろう。
問題は此奴にとっての真実が、事実と異なっている可能性があるということだが、大きな問題でも無い。
少し調べれば裏は取れるだろう。
「他に地雷女に関わる情報はあるか」
「俺は、知らねえ。ロミスのことだけだ」
107
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:35:26 ID:jHk0pOPc0
「調べてみる必要はありそうですね。まだ目的があるなら、そこをついて漁夫の利を狙える」
「やれやれ、この間の帽子の女もそうだし、調べることばかりが増えていくな」
わざとらしいため息。
相変わらず感情は見て取れない。
そもそも俺に全て押し付けるつもりなので、むしろ無感情なのが自然ともいえる。
「流石くんは、流石だからな。調べ物は君を頼りにしているよ」
表情を読まれたのか、クールが口の端を上げた。
この女に任せていると、言葉を聞き出す前にj情報源の相手を永眠させかねないのは事実だが、やはり腑に落ちない。
俺もどちらかと言えば前に立つ側の人間である。
捜査仕事も苦手では無いが、何も考えずに銃を握っている方が楽だ。
クールと組んでからは、引金を引くよりも書類に印鑑を押すことの方が増えた。
しかも、問題の事後処理の類がほとんどだ。
今までこの女とコンビを組んだ杭持ちが軒並み薄毛に悩まされているのは、恐らく偶然では無い。
「他に地雷女について知っていることは本当に無いのか」
「それだけだ。あとは、あんたらの仲間があの女に殺されたせいで、警戒が厳しくなったとか、そんな」
「予想以上に実りが無かったな」
「だから言ったでしょう。どうせ役には立ちませんって」
この男からの嘘の情報提供があった際、俺は確かに反対した。
罠であることは明白で、態々掛かってやるほどの利益も見込めない。
しかし、それを押し切りクールはここに来た。
僅かな可能性にかけたなどというものでは無い。
ただ単に、挑んできた吸血鬼を返り討ちにせずにいられなかっただけだ。
108
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:41:22 ID:jHk0pOPc0
「さて帰ろう流石くん。残業代は二時間分しか出ないからな」
「わかりました。エミナさんには俺から連絡しておきます」
「流石だな、流石くん」
杭を引き抜き、立ち上がる。
同時にクールが引金を引いた。
銃声は四つ。吹き出した血しぶきも同様。
傷みから解放されると安心を見せた吸血鬼の顔が、絶望に歪んだ。
極僅かな時間ではあったが理解したのだろう。
自分は殺された、と。
「帰りは俺が運転しますよ」
「そうか、悪いね」
処理班の咲名プギャーが大きな体と、念仏のような愚痴を引っ提げて現れたのは約10分後。
適当に彼を言い負かし、死体を回収するのを見送って、俺たちは車に乗り込んだ。
車自体はクールの私物だ。
しかし、俺は誓ったのだ。ここに来るとき、帰りは俺が運転すると。
自分の命は自分で守らねばならないと。
車が走り出す。スムーズな走りだ。シートも深く乗り心地がいい。
なぜ、この車があれ程に恐怖を生み出せるのか、俺には理解できない。
109
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:43:16 ID:jHk0pOPc0
「なんだ、随分と大人しく走るが、故障が治ったのか」
「ええ、一番致命的な故障が今は助手席に移りましたからね」
「それはどういう意味かな」
「そのままです」
やや不満げな顔を見せたクールを無視し、車を走らせる。
やるべき仕事は多い。
地雷女と共にいた、帽子の女の調査。乙鳥ロミス死亡に関しての裏取り。
そのほか、地雷女が狙っている吸血鬼の有無などなど。
もちろん地雷女にだけ構っていられる身分でもないため、他にも加算される。
家に帰ってゆっくり寝る、というのはしばらく先になるだろう。
「流石くん、帰ったら訓練場に付き合いたまえ。思いのほか張り合いが無かったからいまいち撃ち足りん」
「素直さん、戻り次第調べ物をすると、言っておきましたよね」
「そうだった。なら私一人で行ってくるか」
ワザと路面の荒れたところにタイヤを落とす。
車体が跳ねクールが窓に頭をぶつけた。
痛がっている。愉快だ。
「もっと気を付けて運転したまえ」
生返事を返し、アクセルを踏み込む。
俺の目は少し先の、捲れたアスファルトを見ている。
110
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 00:45:11 ID:jHk0pOPc0
終り。
三行
なんか
ロミス
しんでた
111
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 01:11:07 ID:WG4Nep1k0
乙
112
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 01:52:45 ID:QX.pJ6.g0
乙
113
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 06:58:56 ID:J9YZ3A56O
乙
このコンビ好きだなー
114
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 06:59:59 ID:J9YZ3A56O
乙
このコンビ好きだなー
115
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 07:52:32 ID:is1D/whk0
名無しの吸血鬼マジカワイソス(´・ω・)
116
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 23:47:14 ID:jHk0pOPc0
Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
○
Cast:都村トソン 都村ミセリ
──────────────────────────────────
117
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 23:51:07 ID:jHk0pOPc0
(‐、‐トソン 「……」
l⌒l⌒l
ミセ*゚ ,゚)リ 「……
(‐、‐トソン 「……」
l⌒l⌒l
ミセ*゚ ,゚)リ 「……トソンチャーン。トソンチャーン」
(゚、‐トソン 「……なんですか」
ミセ*゚ ,゚)リ 「ミセリさんとってもお暇なお姉さん」
(゚、゚トソン 「散歩でも行って来たらどうです」
ミセ*゚Д゚)リ 「もぉー。杭持ちに見つかるから出るなって言ったのトソンじゃん!」
(゚、゚トソン 「無精しないでちゃんと変装すればいいんです」
ミセ*゚ ,゚)リ 「サングラスじゃだめ?」
(゚、゚トソン 「この前それでばれたでしょう」
ミセ*゚ ,゚)リ 「むー」
118
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 23:53:17 ID:jHk0pOPc0
(゚、゚トソン 「ってゆうか、吸血鬼らしく昼間は棺桶にでも入って眠っていてくださいよ」
ミセ*゚ ,゚)リ 「トソンに合わせて夜寝てるから眠くないんだよ〜」
(゚、゚トソン 「……そもそも日光の下に出て大丈夫なんですか。今日日差し強いですよ」
ミセ*゚ ,゚)リ 「日焼け止め塗って厚着して帽子かぶってサングラスすれば大丈夫」
(゚、゚トソン 「100%目立つからやめてください」
ミセ*´Д`)リ 「ひぃーまぁー!遊んでよー!」
ミセリに抱き着かれ、ため息を一つ。
私は読んでいた文庫をテーブルに置いて、彼女の頭を撫でた。
犬か猫の感覚に近い。しかもちょっと馬鹿な類の。
(゚、゚トソン 「遊ぶって、何するんです」
ミセ*゚ー゚)リ 「せっかくトソン早く帰ってきたんだからさ、どっか行こうよ」
(゚、゚トソン 「一分前の話を忘れたんですか」
ミセ*゚ ,゚)リ 「杭持ちに見つかったってちゃんと処分すれば大丈夫だって」
(゚、゚トソン 「それがいけないといってるんです」
119
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 23:54:28 ID:jHk0pOPc0
最近、杭持ちの活動が活発だ。
理由はとても単純で、ミセリを見つけ出して殺すため。
杭持ちは、何も吸血鬼であればすぐに探して殺すというわけでは無いらしい。
彼ら独自の「脅威度」を設定し、把握している吸血鬼に優先順をつけているのだそうだ。
人間にとって危険な存在を予め排除し、それを見せしめとして吸血鬼たちの動向を抑制する。
狙いは刑法と同じだ。罰を与えることで、罪そのものを犯させないないようにする。
ミセリは、この優先度の中で、かなりの上位に入っている。
私は彼女の過去を知らない。だからなぜ彼女が執拗に狙われるのか分からない。
知りたいと思う反面、ミセリが隠そうとしている仄暗い部分に踏み込むようで、今まで聞くことが出来ずにいる。
ただ、私と出会ってからも何度か杭持ちを返り討ちにしているため、濡れ衣でないことは確かなのだろう。
(゚、゚トソン 「あちらも躍起なんですから、もう少し慎重になってください」
ミセ*゚ ,゚)リ 「……」
(゚、゚トソン 「本当に追い込まれたら、この街、出ていかなきゃいけなくなっちゃうんでしょう」
ミセ*゚ ,゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ 「え?トソンちゃん今めちゃくちゃかわいいこと言った?私と離れたくない的なニュアンスを込めた?」
(゚、゚トソン 「言ってませんし込めてません」
120
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 23:55:41 ID:jHk0pOPc0
ミセ*゚ー゚)リ 「でもさ、実際私がこの街出るって言ったら、トソンどうするー?」
(゚、゚トソン
ミセ*゚ー゚)リ 「私は別に、別にこだわりは無いんだけどさ、トソンとも離れたくないんだよね」
(゚、゚トソン 「私は、大学、ありますし」
ミセ*゚ー゚)リ 「……へへ」
(゚、゚トソン 「なんですか」
ミセ*゚ー゚)リ 「そんな本気で拗ねるなよ。仮の話なんだから」
(゚、゚トソン 「別に。ミセリが居なくなったら実家に戻らなきゃならないから、それが嫌なだけです」
ミセ*゚ー゚)リ 「へぇー〜」
ミセリの意地の悪いにやけ面に腹が立ったので、無視して本を手に取る。
久々に趣味で買ったものだ。古本だけれど状態が良く、今のところは内容も気に入っている。
座布団に座り直し、ベッドに背を凭れて、しおりを挟んだページをめくる。
ミセ*゚ ,゚)リ 「トソン、膝かして」
(゚、゚トソン 「なんですか」
ミセ*゚ ,゚)リ 「トソンが連れないから、寝る」
121
:
名も無きAAのようです
:2014/03/01(土) 23:58:12 ID:jHk0pOPc0
(゚、゚トソン 「ベッドに行けばいいじゃないですか」
ミセ*゚ ,゚)リ 「嫌がらせだし」
強引に頭をねじ込まれ、仕方なく懐を開けた。
伸ばした太腿に頭を乗せ、お腹に腹を埋めて眠る。
冷たい。カーテンを閉め切った部屋は、さほど暑くは無いのだけれど、それでも心地いい。
文庫を片手で持ち、ミセリの頭を撫でる。
少し癖のかかった、柔らかな髪。長毛の猫のようだ。
するすると指を抜けて行く感触が心地よい。
(゚、゚トソン 「……」
ミセリがこの街に来た理由は、ぼんやりとではあるが聞いたことがある。
そして私と出会ったのはその目的を果たした後であることも知っている。
だけれど、この街に未だ残る理由を聞いてはいない。
それが、私なのだろうか。
正直なところ、私はミセリにとって都合のいい人間でしかないのだろう。
食糧であり、玩具であり。
あれば便利だが、命を賭して守るほどの存在では無いとそう自分では思っている。
だから時々、狂おしいほど不安になる。
あっさりと壊れるこの日常を、ふと思い浮かべてしまったりする。
ミセリの冗談めいた言葉は、私に安心を与えるものには足りえないから。
122
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 00:00:21 ID:bl7l.k5Q0
私とミセリは友人だ。
だけれど、それ以前に人間と吸血鬼。
食物と捕食者だ。
この関係は絶対に覆らない。
血と住処の交換でギブ&テイクの対等な関係に見せかけているけれど本質は変わらず。
あくまでミセリの、捕食者側の厚意で成り立っているだけの張りぼてだ。
奥の方に隠すことはできても、真実というのは必ず居座り続ける。
この街にミセリが残る理由が本当に私だとして。
あの十字架を掲げる集団の、鋭く光る杭が、彼女の命に届きそうになった時。
ミセリはこの街を出てゆくのだろうか。
私は彼女について行くのだろうか。
(゚、゚トソン
ミセ* , )リ
私たちの間には、それほど強い絆があるのだろうか。
敏感で弱く、それ故に心地よい場所に触れた彼女の指に、私は確かに甘えているのだけれど。
それは絡ませあった舌が引いた唾液の糸のように、瞬く間に堕落する、脆弱な関係なのでないのだろうか。
考えても分からない。望む答えに繋がる道が見つからない。
だから、慎重にしなければいけない。
答え合わせの時間が来ないように気をつければ、私たちは正誤不明の優しい答えを、ただただ大切にしていられる。
123
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 00:03:06 ID:bl7l.k5Q0
ミセ*゚ ,゚)リ 「なあ、トソン」
(゚、゚トソン 「なんですか」
ミセ*゚ ,゚)リ 「車でさ、美布まで行けば大丈夫だよね?」
(゚、゚トソン 「まあ、この街よりは警戒はされて無いかもしれませんが」
ミセ*゚ ,゚)リ 「それなら、良い?」
(゚、゚トソン 「……だって、ミセリ車苦手じゃないですか」
ミセ*゚ー゚)リ 「ちょっとくらいなら平気だし」
(゚、゚トソン 「もう夕方だし、着くのも遅くなりますよ」
ミセ*゚ー゚)リ 「明日日曜日じゃん?ついでに向こうでホテルにでも泊まってさ」
(゚、゚トソン 「……」
ミセ*゚ー゚)リ 「いつもとは少し違う場所で!」
(゚、゚トソン 「結局そこに回帰するんですね」
ミセ*゚ー゚)リ 「吸血鬼っつーのは単純なんだよ、結構ね」
124
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 00:04:40 ID:bl7l.k5Q0
(゚、゚トソン 「変装します?」
ミセ*゚ー゚)リ 「するする!」
(゚、゚トソン 「まあ、車なら、杭持ちの警戒もそれほどひどくは無いでしょうし」
ミセ*゚ー゚)リ 「うんうん」
(゚、゚トソン 「その代り、車がばれたらアウトなんですからね」
ミセ*゚ー゚)リ 「うん。気を付ける」
(゚、゚トソン 「そこまで行きたいんですね」
ミセ*゚Д゚)リ 「行きたいっすよ!このままじゃ私キノコ生えちゃう!」
(゚、゚トソン 「わかりました。私も、そろそろ帽子の替えを買いたかったので」
ミセ*゚ー゚)リ 「やった!すぐいこ!」
(゚、゚トソン 「せめて着替えくらいは準備しましょう。あと、酔い止め」
ミセ*゚ー゚)リ 「おっけー」
ミセリが勢いよく起き上がる。
さっきまでの湿気たやる気の無さは既に無く、今は遊ぶことを心底楽しみにしているようだ。
確かに、単純。
こうなると、吸血鬼が羨ましくもある。
125
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 00:05:36 ID:bl7l.k5Q0
(゚、゚トソン 「言っておきますけど、騒がないでくださいね」
ミセ*゚ー゚)リ 「ダイジョブだって心配性」
(゚、゚トソン 「あなたが雑すぎるんですよ」
私が実家からかっさらってきた軽自動車に小さくまとめた荷物を積んだ。
ミセリは助手席。吸血鬼に効くのかは分からないが、少し多めに酔い止めを飲ませておく。
上機嫌にステレオを弄っているが、走り出せばすぐ気分を悪くするだろう。
(゚、゚トソン 「吐くときは外にしてくださいね」
ミセ*゚ー゚)リ 「今日は一滴も飲ませてもらってないので平気ですけど?」
(゚、゚トソン 「ホテルに入る前に、ドライアイス買いましょうか」
ミセ*゚ー゚)リ 「いいの?」
(゚、゚トソン 「まあ、お預けしてましたし。せっかくの遠出ですから特別です」
ミセ*゚ー゚)リ 「なんだよトソン、気前良すぎて気持ち悪いぜ」
目一杯上機嫌にさせたミセリを乗せて、美布を目指して発進する。
ミセリが一発目の嘔吐をダッシュボードに解放したのは、その6分後のことだった。
126
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 00:06:22 ID:bl7l.k5Q0
終り
三行
みせり
きのこ
はえそう
127
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 00:21:53 ID:gb0jk8EY0
乙
128
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 00:21:55 ID:.DFN5gSU0
乙
129
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 00:31:23 ID:oUiXo42AO
乙
乗り物に弱すぎわろた
130
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 09:43:52 ID:thMYih2s0
キマセンデシタ
131
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 13:49:53 ID:7xhashpA0
おつ
雰囲気がすごい好きだミセリかわいい
132
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:24:31 ID:bl7l.k5Q0
Place: 美布市 仁方町 州井団 字 久木 77-35 下世話なホテルの一室
○
Cast: 都村トソン 都村ミセリ
──────────────────────────────────
※閲覧注意
133
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:26:26 ID:bl7l.k5Q0
ミセ*゚ー゚)リ 「痛かったら我慢するなよ」
ミセリが、私の手を取る。
差し出された手の甲に舌を伸ばし、薄く唾液を塗り付ける。
麻酔が沁みていく輪郭の無い輪郭の無い冷たさ。
背筋が痺れ、体の奥に火が点る。
ベッドサイドに置かれた箱にミセリが手を伸ばす。
指に摘まんだのは、保冷剤として売られている、ドライアイスの欠片。
滾々と白い霧が生み出され、ベッドに落ちて広がってゆく。
ミセリはそれを、優しく私の手の甲に押し付けた。
水の、揮発する音。急激に凍らされた皮膚の悲鳴。
鋭い痛みだ。痺れるようで、突き刺さるようで。
ミセリの唾液の効力を超えて私の感覚を浸食する。
丸を描くように、ドライアイスが皮膚の上を滑る。
跡は白く凍り、健全な色を失う。
ミセリは丹念に、じっくりと私の手の甲を焼き、そこに十円玉ほどの凍傷を作った。
ミセ*゚ー゚)リ 「大丈夫だった?」
(゚、゚トソン 「まあ、なんとか」
134
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:27:44 ID:bl7l.k5Q0
ドライアイスを床に捨て、ミセリが私の頬に触れる。
冷たいが、労わる優しさを感じる。
私たちは顔を寄せ唇を合わせた。
少し開いた私の口を置き去りに、ミセリの唇は私の目元を摘まむ。
自然に、体が触れあった。
素肌が擦れる、むず痒くもどかしい感覚。
ミセリの吐息が耳元を抜けた時、私の薄く空いた口から、無意識の声が漏れた。
耳をくすぐったミセリの舌は、顎の輪郭に沿って、少しずつ下へ。
首筋を唇で噛み、時々弱く吸われる。
痛みとまでは呼べない、小さな刺激。
自分の息が、僅かずつ早くなるのを感じる。
鎖骨を啄まれ、横に撫でられた。
柔らかい感触が、くすぐったいの一つ向こうの感覚を帯び始める。
腕が背後に回され、そっと抱き倒される。枕に背を着く。
脇を降り、ミセリの舌が脇腹に達した。
思わず、自分の指を噛む。
ミセリは舌を伸ばしたまま、上目で私の顔を見る。
目線から逃れるため、そして体が反応するままに、私は体を逸らせる。
執拗に、腹部が攻めたてられた。
体を抱いていた手が浮き、指を立てて背筋を上る。
指を噛むのを忘れ、息が声に変わった。
前と後ろ、舌と指先の二つの刺激。
体の芯に着いた火が、意識に燃え移って、ジリジリと脳幹にまで熱を伝える。
舐められた体の彼処が、疼くようにもどかしいのは、吸血鬼の唾液のせいだけでは無い。
135
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:28:55 ID:bl7l.k5Q0
臍からまっすぐ上へ。
ミセリも興奮しているのがわかる。
肌を吸う回数が増えている。
舌が、胸の谷間を舐め上げた。手は背中から帰り、付け根を滑って太腿へ。
声を、我慢するのが煩わしくなる。
ミセリの頭を抱いた。
ふわりとした髪の毛の一本一本が、肌に心地よい。
思わず、ミセリの頭を強く抱き、髪に顔を埋めた。
吐き出した喘ぎが、熱になってはね返る。
谷間を粘つくように嬲っていたミセリが、突然胸に噛みついたんだ。
先端に唾液を絡めつけるように、まどろっこしく捏ね回される。
ジンジンと、痺れる。
太ももを弄っていた手が、中心に触れた。
濡れている。自覚はある。
周囲を、体毛を、撫でられているだけで、独りでに腰が浮き上がった。
(、 トソン 「ミセリ」
ミセリが、乳房から顔を離す。
出伸ばしたままの舌先から、唾液が糸を引いた。
言葉が続かない。
口が半端に開いて、漏れ出す呼気は、あまりに湿っている。
136
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:29:50 ID:bl7l.k5Q0
ミセ* ー )リ 「ふふ」
普段は少年のようですらある、ミセリの、艶やかな笑み。
卑怯だ。目から脳に駆け上がった衝撃が、すぐに快感であると分かった。
右手は性器に触れたまま、左手が私の顔に添えられる。
顔が近づく。胸が高鳴った。
抵抗なんてしない。
意識するまでなく口が開いて、舌が歯の裏から這い出る。
絡み合った。
唾液が混ざる。
口蓋や頭蓋骨なんて存在していないようだ。
ミセリの舌の柔らかさが、冷たさが、火照りを射抜いて、脳に突き刺さる。
私の正しい意識が死んでゆく。
体の底から噴き上げた息がミセリの口の中に。
唾液が泡立つ。体から、一切の力が奪われてゆく。
ミセリの指が、秘部の芽に触れた。
彼女も、堪えきれなくなっている。
嬲りつける指先は、それまでの優しさを忘れ始めて。
虐めるかのように、上下に、左右に捏ねる、つまむ。
電流だ。痺れる。悶える。耐えられず目を閉じる。
瞼の裏は、激しいスパークの白。
137
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:30:34 ID:bl7l.k5Q0
体を支える布団ですら、邪魔だ。
ミセリの体以外が全て不要なものに思える。
抱きしめていた腕をほどき、私もミセリへ手を伸ばす。
中指が触れただけで生ぬるい愛液が指を伝う。
そのまま、奥へ。
ミセリの体が震え、一瞬動きを止めた。
唇が離れる。
ミセリは上気した顔で、私を見下ろす。
綺麗だ。魅入られている自覚がある。
ミセ* ー )リ 「随分、ノリノリじゃん」
(、 トソン 「あなただって」
ミセ* ー)リ 「トソンに、乗せられちゃったかな」
(、 トソン 「もっと、乗せてあげます」
私は、凍傷になった手の甲を差し出す。
ぷっくりと膨れ、水が溜まっている。
頃合いだ。ミセリの舌がずるりと横に、唇を舐めた。
大きく開けた口で、幹部を包み込んだ。
水を絞り出すように口を窄ませ、歯で噛みきる。
皮膚と真皮の間に溜まった体液がミセリに吸い取られてゆく。
ミセリの目が細くなった。血よりも、美味しそうに飲む。
138
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:31:15 ID:bl7l.k5Q0
最後の一滴まで吸い出して、ミセリは身を震わせた。
起こした体をよがらせて、その味を喜ぶ。
跨いでいる私の足に、冷たいものがポタポタと落ちた。
ミセ* ー)リ 「ホント、トソンの水は、媚薬みたいだ」
(、 トソン 「あなたの唾液には負けます」
ミセ* ー)リ 「もう、止まんないぜ」
(、 トソン 「それは」
「私も」と続けようとしたが出来なかった。
ミセリの指が秘部に触れ、器用に撫で回す。
背骨をどうしていいかわからない。ただただくねらせて、快感の波に耐える。
手が離れた。ほんの少しの休憩。
足がぐいと開かれた。力が入らない。抵抗する気も起きない。
ミセリの口が、私から直接、愛液を啜りとった。
痺れる。ぼやける。火花が飛び散って、意識がバラバラになってしまう。
舌が私の中に潜り込んできた。
冷たいのに、熱い。唾液が中に沁み込んで、ますます頭が明晰を失ってゆく。
激しい。むしゃぶられる。
私はもう、息とか、喘ぎというより、叫んでいたかもしれない。
全身から注がれた吸血鬼の唾液は、淀みなく私を狂わせる。
139
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:32:27 ID:bl7l.k5Q0
太ももで、ミセリの頭を挟む。
止まらない。体が、ミセリと一体化して別の生き物になったようだ。
悶える。背を何度も、ベッドに打つ。
自分の唾液が、頬を伝って落ちるのを拭うことすらできない。
壊れる。飛び散る汗が、私の歯車だ。
ミセリにバリバリと貪られて、私は壊れている。
体の奥に沁み込んでゆく唾液の冷たい感覚は、私の境界を奪っていく。
湧き上がってくる。奥の奥から、水とも電流ともいえない、何かが。
(、 トソン 「……ッぅ!」
目の前が、白い炭酸に飲み込まれてゆくよう。
音も光も匂いもどこかへ飛んでいく。
その一瞬だけ、私の体は確かにこの世界から消えていた。
ミセ* ー)リ 「……トソン、可愛い」
(、 トソン 「…………」
呼吸を荒げるしかできない。
憎まれ口を叩いて、その甘い声を突っぱねたいのに、できない。
体に沁み込んで、ジンジンと痺れに変わる。
ミセ* , )リ 「ね、トソン」
ミセリが私の手を、自分の秘部へ誘う。
先ほどよりも濡れている。私を一方的に攻めたてていただけなのに。
140
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:33:23 ID:bl7l.k5Q0
ミセ* , )リ 「は……、ぁっ」
潜り込む、私の指。
躊躇いに反して、難もなく肉を掻き分ける。
弾力のある、反発。力を込めてさらに押し返すと、ミセリの口から愛らしい声が漏れた。
指を蠢かせる。すぐにふやけてしまいそうだ。
ふるふると腰を震わせるミセリの姿が愛おしい。
(、 トソン 「ミセリ、キス」
手に乗り、腰を振っていたミセリが、倒れ込む。
唇が重なる。歯が少しぶつかった。
痛いけれど、気にしない。
指の腹で、ミセリの内側を擦りあげる。
口移しで、嬌声が頭に響いた。
振動に溺れて死んでしまいそうだ。ミセリを掻きまわすのとは逆の手で、自分に触れた。
好きなように弄り回す。そこにミセリの手が重なる。
私の指が開いて、ミセリの指が内を舐る。
ミセリの中は私の指を咥えて、蕩けさせて、私たちは比喩でなく一つになっていく。
ミセ* , )リ 「あたしの、言葉なんて、嘘くさいかもしんないけどさ」
(、 トソン
ミセ* , )リ 「私は、あんたおいてどっかに行ったりしないよ」
141
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:35:06 ID:bl7l.k5Q0
離れ言葉を吐いたミセリの唇を追って、再び舌を吸う。
中に潜らせる指を、三本に増やした。
少し乱暴に、捩じって、広げて、引っ掻いて、突く。
ミセリの声も、大きい。
それが愛しい。
夢中になって、互いの体を奪い合った。
すべてが入れ替わって混ざり合ってしまうよう。
不安すらも形を変えて、つなぎとめる糸に代えるよう。
どれくらい経ったか。私は二度目の、ミセリは一度目の臨界を迎えて、ベッドに倒れ込んだ。
言葉が出ない。考えられない。頭の中で水分が湯だって弾けて煩わしい。
互いの6℃も違う体温を感じながら、互いの体に縋りついて、息を調える。
ミセ;* ー゚)リ 「……へへ、やっぱ、たまには、違うとこでやるとさ、燃えるね」
( 、゚トソン 「雰囲気とか、考えて、そういうこと言ってく」
ミセリが、私を黙らせるために口を寄せる。
手が乳房を弄る。
私も彼女を受け入れて、背筋を撫でる。
心地よい。性的な部分でもそうでない部分でも。
この日常が。せめてこの夜が、永遠に明けなければいいのにと、思ってしまう。
無理だと分かっているから、求めてしまう。
そうして、閉め切った窓の隙間が日光を溢し始めた頃、
私とミセリは、長く短い夜を終えて多幸の疲労と共に眠りに就いた。
142
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 15:36:04 ID:bl7l.k5Q0
終り。
三行。
とかく
悩み
躊躇った
143
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 18:26:34 ID:ObGzntUc0
激しく乙
今回は百合要素濃厚で面白かった
144
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 18:48:54 ID:ePU4A9uA0
乙
ほう…
145
:
名も無きAAのようです
:2014/03/02(日) 18:58:18 ID:rhfh9Kno0
乙
ふぅ…
146
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:20:49 ID:Rci4aPFU0
Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 志納ドクオ 賤之女デレ
──────────────────────────────────
147
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:22:41 ID:Rci4aPFU0
ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、おじ様は、なぜ血を吸いたくないの?」
柔らかなベッドの上に、その少女は横たわっていた。
外出用らしいドレスを脱ぎ捨てた、キャミソールの下着姿。
細い四肢が力無く垂れる。
ただ一つの窓から差し込む長方形に切り抜かれた陽光の中。
淡く輝いて見えるその姿は、人と異なる何かを思わせた。
('A`) 「俺は、人間だ。人の血は飲まない」
男は、その広い部屋の奥。
皮張りの、黒いソファに腰を掛けている。
上半身に服は無く、下半身には白いタオルを巻いていた。
髪が湿気っていることからも、風呂上がりであることがわかる。
光は、彼の元までは届かない。
不健康な体色のおかげもあり、彼の姿は闇に溶けかけているようにも見えた。
ζ(゚、 ゚*ζ 「でも、おじ様はやっぱり吸血鬼よ」
('A`) 「……」
志納ドクオは黙り込む。
同じ問答を何度も繰り返した。
この家に連れてこられた時からずっとだ。
彼女が老婆になるまで続けても、恐らく彼女は納得しない。
何かが欠落している。ドクオが彼女に抱く印象のほとんどはそれであった。
148
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:24:23 ID:Rci4aPFU0
ζ(゚ー゚*ζ 『私の名前は、賤之女(しずのめ)デレ。でも、気に入らないなら、おじ様が好きな名前を付けてくださいな』
ζ(゚ー゚*ζ 『今の名前は、前のお父様が付けてくださったのだけれど、今はおじ様が父様ですから』
少女の名前は、賤之女デレ。
事情を察するに、孤児らしいことはわかっている。
そしておそらく、ただ単純に親を失った子供でないことも。
('A`) (恐らく、お父様ってのは、吸血鬼だ)
デレは『お父様』と呼ばれる存在が彼女を庇護し、共に暮らしていたことを真っ先に話した。
父様が死に、遺産こそあれ子供だけでは生活が困難になってしまったことを次に説明した。
そして最後にドクオに死んだ『お父様』の代りになることを望んだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「ねえ、おじ様。そちらに行ってもいい?」
('A`) 「……」
ζ(゚、 ゚*ζ 「沈黙は肯定」
('A`) 「来るな」
ζ(゚ー゚*ζ 「嫌よ嫌よも好きの内」
ベッドを降り、デレが駆け寄る。
勢いのまま、ドクオの首に抱き着いた。
ドクオは受け止めるでも、避けるでもなく同じ姿勢のまま。
ただ、さっきまで日の光の中にいたデレの体温が、熱い。
149
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:25:55 ID:Rci4aPFU0
ζ( ー *ζ 「おじ様に、何をしてほしいわけでは無いの。ただ、一緒に暮らして、私の血を吸って。
夜に同じベッドで寝てくだされば、それで」
耳元で囁かれた声の音色は、蜜に似たねっとりとした甘さがある。
姿を見ていなければ、少女であることを忘れてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ 「それに」
絡めていた腕をほどき屈むデレ。
床に膝を突き、ややうつむいた姿勢のドクオを下からのぞき込む。
流石に身を起こして距離を取ると、そのままドクオの足に張り付くように凭れかかった。
デレの皮膚が、吐息が痛みを感じるほどに熱い。
ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様が望むなら、私、なんでもしてあげられるわ」
デレの小さな手が、ドクオの足を這い、その付け根へと昇ってゆく。
太ももを裏から内へ撫で上げ、指先は蛇蝎の如くタオルの中へ。
やはり熱い。羽毛のように軽い手つきが、その熱を別の感触として皮膚に伝えてくる。
ζ(゚、 ゚*ζ 「おじ様?」
ドクオの反応を伺うために、デレが顔を覗き込む。
同時に笑みが消え、手も止まった。
不思議そうな顔はドクオが初めて見た彼女の素直な表情だったように思う。
150
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:27:40 ID:Rci4aPFU0
ζ(゚、 ゚*ζ 「なぜ、そんな顔をしているの?」
鏡は無いが「そんな顔」の予想は出来た。
酷い顔だろう。
怒りよりも、狂気の笑みよりも、人の精神に突き刺さるのは多分、悲しみなの顔なのだ。
ζ(゚、 ゚*ζ 「私、上手では無かったかしら」
不安げなデレ。ドクオに触れるのをやめタオルの中から手を引いた。
ドクオは、その華奢な体を掴み、抱え上げる。
ζ(゚、 ゚*ζ 「おじ様?」
予測外の行動であったはずだが、デレはさほど動じている様子は無い。
そのまま下着姿の彼女を脇に抱え、窓際のベッドへ。
直接の陽光があたらないギリギリの場所で足を止め、小さな体をベッドに放り投げる。
('A`) 「……」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……」
ずっと考えていた。
血を与えれれ、命を救われたその時から。
この少女が何者なのかを。
その答えは、予想の範囲を出ないが、恐らく、分かった。
151
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:29:05 ID:Rci4aPFU0
('A`) 「お前を、飼ってやらんことも無い」
ζ(゚ー゚*ζ 「本当?」
('A`) 「だが、いくつか条件がある」
ζ(゚ー゚*ζ 「?」
吸血鬼には、血を媒介に奇跡を起こす「血刑」のほかにも、人間には無い力がいくつかある。
その内の一つが、「暗示」だ。
いわゆる催眠術に近い。信じられぬものを信じさせ、意志と異なる行いをさせる。
ドクオも少しならば使うことが出来る。吸血鬼の身分を隠すには使い勝手のいいものだ。
そして、数いる吸血鬼の中には、洗脳と呼べるほど強力な暗示を使う者がいる。
嘘を信じさせるであるとか、小手先の誤魔化しでは無い。
相手の人格を、意のままに改ざんしてしまう。
例えば、少女を攫い自分を慕わせ、血液確保のための家畜にしてしまうようなことも可能なのだ。
確証はないが間違いない。
この少女は、『お父様』に洗脳されている。
元の人格を失うほどの、人としての生き方を忘れるほどの、強く深い暗示を。
であれば、彼女の行動にも説明がつく。
吸血鬼を全く畏れぬことも。自ら血を差出すことも。
売女の真似事を、平然と行うことも
すべてが、吸血鬼にとって都合のいいことだ。
デレは作り物の“よう”だったのではない。
この美しい肉の容れ物の中身は、まさに作り物で、紛い物だったのだ。
152
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:30:12 ID:Rci4aPFU0
('A`) 「まず第一に、前の父様のことは忘れろ」
ζ(゚、 ゚*ζ
('A`) 「いきなり全てとは言わん。だが、今の父様は俺だ。言うことは聞けるな?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はぁい……」
不満げな顔をしながらも、デレは了承した。
いくらか思い入れがあるはずの昔の『父』よりも新しい『父』が優先。
彼女を飼っていた吸血鬼は、自分自身では無く吸血鬼そのものに依存するように彼女を洗脳したのだろう。
一体何のためにそんな回りくどいことをしたのか、まったくわからない。
都合の良い家畜にするならば、自分に従うよう調教すればそれで十分だったはずだ。
('A`) 「次に、俺に不用意に触れるな」
ζ(゚、 ゚*ζ 「何故?」
('A`) 「何故も糞もあるか。嫌だからだ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「私はおじ様にもっと触れていたいのに」
('A`) 「……」
こめかみを揉む。
とことん媚びるように教育されているようだ。
意識していても、揺らぎそうになる。
元々甘ったれな子供だったのだろう。名残のせいか他の言葉よりも人間味があり、その分辛いものがある。
153
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:32:22 ID:Rci4aPFU0
('A`) 「ダメなものはダメだ」
きっぱりと遮断し、ドクオは日陰へ引き上げる。
ソファには座らない。部屋のドアへ向かった。
ζ(゚、 ゚*ζ 「どこに行くの?」
('A`) 「寝る。昨日からお前に粘着されて疲れた。部屋は勝手に借りるぞ」
ζ(゚ー゚*ζ 「あ、じゃあ!」
デレがいそいそと駆け寄ってくる。
また、抱き着こうとしたが、言いつけを思い出したのか数歩手前で急激に立ち止まった。
少々つんのめるが、転ばずに踏みとどまる。
一度念を押しただけでこの従順さだ。
楽でいいが、この素直さを単純に喜ぶことは出来なかった。
ζ(゚、 ゚*ζ 「私も、まだ寝ていないから、ご一緒しても……?」
('A`) 「……お前のベッドはあれだろう」
ζ(゚、 ゚*ζ 「どれが誰のとは決まっていないの。あれは、そう。決まってない」
('A`) 「……」
しばしの逡巡。
洗脳されていても子供だ。一人で寝るのが寂しいのは仕方あるまい。
だが、だからと言って昨日今日会った男と共に寝るのはいかがなものか。
154
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:35:13 ID:Rci4aPFU0
ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様が望むなら、夜伽の相手も……」
('A`) 「それはいらん。むしろそれが要らん」
ζ(゚、 ゚*ζ 「えっと、じゃあ……」
('A`) 「血も要らない。昨日貰った分で十分だ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「…………」
吸血鬼のために作られた人格だ。
そこには常に奉仕の意志があり、何かをねだるには対価を支払うという常識がある。
甘ったれだが、純粋に甘えることが出来ない。
多くの子供が当たり前に赦された権利を、この娘は義務と奉仕を果たすことで得てきた。
自分が支払える対価のすべてを拒絶されては、甘えることすらできなくなってしまう。
前言撤回。楽では無い。面倒だ。
('A`) 「俺はさっき言った二つ以外何も求めない」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……」
('A`) 「だから、勝手にしろ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……?」
('A`) 「一緒に寝たいなら、勝手に来い」
ζ(゚ー゚*ζ 「……」
155
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:37:45 ID:Rci4aPFU0
ζ(゚ー゚*ζ 「地下のお部屋を使いましょう。暗くて涼しくて、とても心地いいの」
('A`) 「どこだ」
ζ(゚ー゚*ζ 「こっちよ」
ドクオの歩速に合わせ、小走りで先行するデレ。
キャミソールの肩紐がずり落ちるのを直す動作は、やはり少女離れしている。
一々艶めかしい。初潮を迎えているかも怪しい少女に、『お父様』は一体何を求めたのか。
予想は簡単に出来る。湧き上がる嫌悪感を抑え込むことは難しい。
二階へ上がる階段の下、一見ただの壁に見えるところに、扉があった。
開けると、冷たい空気と、ほんのり黴の臭い。
手入れはされているようで埃は無いが、長く時代を経た建物独特の香りだ。
明りを点け、石組の階段を下りていく。
はだしの足に冷たさが伝わってくる。ドクオは平気だが、人間のデレには辛いはずだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「ね、素敵でしょう」
もう一枚の扉を開けた先にあったのは六畳ちょっとの小さな部屋。
燭台を模した照明が壁に四つ備えられていたが、部屋全体に行き届くほどの光量はなく、薄暗い。
真ん中に置かれた、棺桶を模したベッドが四角い影の塊に見える。
('A`) 「ベッドが一つしかないぞ」
ζ(゚ー゚*ζ 「はい」
('A`) 「……」
156
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:39:50 ID:Rci4aPFU0
文句を言う気も失せ、ドクオはベッドへ。
羽毛の布団が掛けられている。体温を維持する必要のない吸血鬼には無用のものだ。
ここも、少女と共に寝るための床ということか。
いくらかの嫌悪感を飲み、布団の中へ。
ゴミ袋を枕に、ゴキブリの足音を子守唄に眠ったことに比べれば、いくらかマシだ。
目を閉じる。
小まめに手入れしているのだろうか。
布団からは特別他者の臭いがしない。
いい具合に眠気が襲ってきた。
思えば吸血鬼になってからしばらく、布団で落ち着いて眠ったことは無かったように思う。
もう少しで眠りに落ちる寸前、意識が少し覚醒する。
デレが入ってこないことに気づいたのだ。ベッドが一つしかないことにかこつけ、来るものだと思ってたが。
少し顔を上げて、周囲を見た。
視野の中に姿は無い。暗いとはいえ、夜目の利くドクオが見逃すということは無いはずだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「どうしたのおじ様」
('A`) 「……何をしている」
ζ(゚ー゚*ζ 「出来るだけ傍で、寝ようと思って」
声は、下から聞こえた。
ベッドの傍ら、冷たい石の床にデレは横たわっていた。
下着のみの薄着のままで、体は少し震えている。
157
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:41:23 ID:Rci4aPFU0
('A`) 「……来い」
ζ(゚、 ゚*ζ 「でも、一緒のベッドに入ったら、おじ様に触ってしまうかもしれないわ」
('A`) 「……良いから、来い」
おずおずと、デレがベッドに這い上がる。
ドクオは彼女のためのスペースを空け、布団を捲って迎え入れる。
昨日、ドクオに血を飲ませ、ただでさえ貧血のはずだ。
その体で床で寝るなど、緩やかな自殺でしかない。
ζ(゚ー゚*ζ 「おじ様、ありがとう」
('A`) 「良いから寝ろ。ガキが隈なんて作ってんじゃねえ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「ごめんなさい」
二人の間に意図的に開いたスペース。
デレは寝返り一つで落ちそうなほど端に寄り、体を丸めて眠っている。
胎児のようだ。目を閉じ、眠りに堕ちようとしているこの姿が、最も生きているように見える。
しばらく彼女の寝顔を見ていたが、ドクオも背を向け目を閉じた。
静かな時間だ。眠気が優しく頭に靄を満たしてゆく。
158
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:42:14 ID:Rci4aPFU0
「ねえ、おじ様」
デレの声。
まだ眠っていなかったのか。
「なんだ」
目を閉じたまま、眠気に惚けたまま応える。
少し、動く気配がした。
「お父様って、呼んでもいいの?」
「……」
「おじ様は、お父様のことを、嫌っているように見えるから。でも、私は」
「勝手にしろ」
「ありがとう、…………お父様」
「……いいから、寝ろ」
「はい、お父様」
159
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 22:43:23 ID:Rci4aPFU0
終り。
三行。
ドクオ
脅威の
賢者タイム
160
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 23:04:42 ID:RV1em2Xc0
デレがかわいすぎて死にそう
161
:
名も無きAAのようです
:2014/03/05(水) 23:18:44 ID:NFWcmFXM0
どくおさんまじぱねぇっす
162
:
名も無きAAのようです
:2014/03/06(木) 06:55:18 ID:cF6.ekro0
おつ
163
:
名も無きAAのようです
:2014/03/06(木) 06:56:45 ID:cF6.ekro0
おつ
ドクオさんマジかっけえ
164
:
名も無きAAのようです
:2014/03/06(木) 11:45:52 ID:nM/a3ti20
このドクオさんは間違いなくイケメン
165
:
名も無きAAのようです
:2014/03/06(木) 23:25:01 ID:YVwiZyCo0
おつ
デレ…ドクオに惚れる
166
:
名も無きAAのようです
:2014/03/08(土) 06:51:39 ID:p/RlzpRYO
ドクオかっけえな
167
:
名も無きAAのようです
:2014/03/08(土) 15:50:40 ID:kBJhFtnw0
めちゃんこ読みやすい
168
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:30:40 ID:tv9rkfP60
Place: 草咲市 須赤三丁目 31-1付近 薄暗いガード下
○
Cast: 内藤ホライゾン 津雲ツン 狂小屋アヒャ 子子子ギコ 子子子シイ
──────────────────────────────────
169
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:32:27 ID:tv9rkfP60
ξ*゚⊿゚)ξ〜♪
黒いセーラー服の、若者にしては長いスカートを靡かせて、ツンは上機嫌に鼻歌を歌っていた。
腕に抱いているのは、何とも不気味なアニメキャラクターのぬいぐるみ。
巷では人気らしいが、僕はよく知らない。
女子高生と男子高校生は、同じ場所で生活しながら全く別の分化を築いて生きている。
学年が違えばなおさら。僕には分からぬ流行というのが、彼女生きている世界にはある。
( ^ω^) 先輩、それとるのにいくら使いました?
ξ゚⊿゚)ξ 二千円。
( ^ω^) 普通に雑貨屋で買った方がよかったんじゃないですかお?
ξ゚⊿゚)ξ 分かってないわね、ブーンは。私は「イトーイぬいぐるみ」が欲しかったんじゃなくて、
あのクレーンゲームのケースの中、潤んだ目でこっちを見ていたこの子が欲しかったのよ。
( ^ω^) はぁ。
つい気の無い返事を返す。
よくわからぬことであるけれど、クレーンゲームで取ったというのが彼女としては重要なのだろう。
「わかればいいのよ」とツン勝ち誇った笑みを浮かべた。
それが子供のようで愛らしく、まあいいかと、僕を諦めさせるのだ。
170
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:33:38 ID:tv9rkfP60
ξ*゚⊿゚)ξ 〜♪
( ^ω^)=3
ぬいぐるみを抱く彼女、津雲ツンは僕の一つ年上だ。
同じ学校に通う彼女を僕は「先輩」と呼んでいる。
同じ学校に通う僕を、彼女は「ブーン」と呼ぶ。
小さい頃からのあだ名だ。
恥ずかしいのでやめてほしいと頼んだことが幾度とあったが、彼女はこの通り。
僕の頼みなど、聞いてくれたためしがない。
ξ*゚⊿゚)ξ 早くいきましょ、ブーン。暗くなっちゃうわ。
( ^ω^) ゲームセンターで時間を食ったのは、先輩じゃないですかお。
ξ゚⊿゚)ξ 細かいこと気にしない。
( ^ω^) はいですお。
ツンは、身長が低く、私服でいると中学生に間違われるほどだ。
故に、歩みは自然と僕の方が速くなる。
勝手に先に行くと、彼女はひどく怒るので、僕はゆっくりついていくのが常だ。
その上で急ぐとなるとこれがまた中途半端な速度になって、中々疲れる注文である。
僕たちは、線路のガード下に差し掛かった。
急なカーブの先、窪地のようになっているので見通しが悪く、人通りが少ない割によく事故が起きる。
立地のために昼間も暗く、いつも不気味な気配が漂っていた。
171
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:35:19 ID:tv9rkfP60
黄色と黒のテープが張られたガードレールが歩道と車道を分けている。
その、僕らの行く歩道に、一人の男が立っていた。
薄手のようではあるが、コートを身に着け、帽子を目深に被っている。
いかにも、怪しい。
警戒心と緊張で、体が強張るのが自分で分かる。
だけれどツンは、全く怖気る様子なくずんずんと先へ行ってしまった。
慌ててついていく。彼女に何かあっては耐えられない。
( ゚∀゚ ) なあ、君たちちょっといいか。
男は、近づいた僕たちを見つけると、笑顔で声をかけてきた。
手にはポケットサイズの地図を持っている。
道を聞かれるのだろうな、とぼんやりと察した。
( ゚∀゚ ) 杭持ちの「正十字協会」へ行きたいんだけど、道わかるかな?
ξ゚⊿゚)ξ 十協?
( ゚∀゚ ) ああ、仕事で用があるんだけど、土地勘が無くてね。道に迷ってしまった。
なるほど。
地図をのぞき込むツンのすぐそばで、僕は少し感嘆する。
協会に行く、というのは、中々上手い理由だと思う。
172
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:37:13 ID:tv9rkfP60
ξ゚⊿゚)ξ ここからだとちょっと遠いですよ。この道を……。
( ゚∀゚ ) え?どの道?
男が地図を差し出して、ツンはそれに指を伸ばしました。
二人が重なる様に、地図を覗き込みます。
僕は、鞄をちらりと見下ろしました。
ξ゚⊿゚)ξ 今いるところが、ここだから……。
( ゚∀゚ ) うんうん。
熱心に、ツンの説明を聞いている、などということは、無かった。
男の、地図を持つのとは逆の手が、ツンと僕の死角から、ツンの首へ振るわれた。
鋭い爪。人間の物ではない。
この男は、吸血鬼。
( ゚∀゚ ) ありがとなァ!
狂気の笑みを見た。
その瞬間に、僕のスイッチは確かに切り替わる。
( ;゚∀゚ ) ?!
男の手は、大きく空振り。
爪で切り裂かれるはずだったツンの体は、低く地面に伏せている。
それだけでなく、ツンは男の右足を掴んだ。
見計らうまでも無く、僕は鞄に手を入れ、中身を握って振り抜いた。
173
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:38:22 ID:tv9rkfP60
( ; ∀ ) ガッ!!
鞄から飛び出したのは、鉄製の、手斧。
先端に備わった鈍色の刃が男の胸元に食い込み、鎖骨のあたりを割り砕く。
ツンが足を掴んで居たので、男はなす術なく後ろに仰け反って倒れた。
後頭部を打ったのだろう。硬い音が、ガード下に反響する。
ξ゚⊿゚)ξ ちょっとブーン、イトーイに血がついたらどうするの。
( ^ω^) そこですかお、問題。
鞘代わりにしていた鞄を捨て、僕は斧を両手で持つ。
小ぶりで扱い易いとはいえ、片手ではコントロールが効かず、パワーも乗らない。
おかげで一撃で仕留めるつもりが、中途半端なところを砕くだけに終わってしまった。
( ;゚∀゚ ) てめェ、まさかァ!
ξ゚⊿゚)ξっy=━ 遅いっつー。間抜け。
ツンがスカートの内側に隠していた銃を抜いて、両手で構える。
発砲。唇をかみしめて耐えているが、反動が辛いのだ。
二発打ったところで手をプラプラとほぐし始めまる。
( ;゚∀゚ ) こんな、ガキがァ?!
ツンの放った弾丸は男の血に弾かれた。
竹とんぼのような状態に形を変えた血が、クルクルと三つ、飛翔している。
見た目は玩具のようだが、銃弾を弾いたのだ。侮れない。
男はそのまま機敏に距離を取る。やはり、いまいち浅かった。
174
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:39:25 ID:tv9rkfP60
僕はポケットからスプレーを取り出し、斧と服に吹きかけた。
この程度の量であれば、これで血の機能を停止させられるはずだ。
試作段階の品なので、あまり信用するべきではないけれど。
( ;゚∀゚ ) だが、残念!俺をそこらの雑魚と一緒にするなよ!
斧に着いた血がうぞうぞと動き半端に刃の形になったが、そのままぽとりと地面に堕ちる。
男の顔を見るに、斧に着いた血を操って奇襲するつもりだったんだろう。
なるほど、中々役に立つ。
( ;゚∀゚ ) あ、あれェ?!
ξ゚⊿゚)ξ ブーン、アレなにやってんの?
( ^ω^) きっと其処らの雑魚と一緒にしてほしいんですお。
シャツのボタンの2つ目を外して、僕が前へ。
ツンは自分のカバンをごそごそと探ってる。別の銃を探しているんだ。
だから、整理整頓は普段からちゃんとしておくようにと言っていたのに。
( ;゚∀゚ ) 何をしたかしらねえが、だが俺にはこの『ブラッドレッドスライサー』があるぜ!!
ξ゚⊿゚)ξ (うわだっさ) ボソッ
( ^ω^) (大天福さん未満のセンスですお) ボソッ
175
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:42:30 ID:tv9rkfP60
しかし、敵の周囲を飛び回る刃というのは中々厄介だ。
真正面から切り込めば、囲まれて刻まれてしまう。
なら、やるべきことは決まっている。
( ^ω^) 先輩。ありましたかお?
ξ゚⊿゚)ξ おっけーおっけー。あったわ。
ツンが拳銃の代りに取りだしたのは、銃身を切り詰めたショットガン。
小さな銃ですら手を痺れさせる彼女に使えるのかと疑問に思われるかもしれないけれど、
むしろ、だからこそ散弾であるほうが扱えるのだ。
僕の脇を抜けて、ツンが突撃した。
銃は腰元に、抱えるように持っている。
散弾ならば狙いを定める必要性が他のよりも低いから、体全体で耐衝撃出来るのだ。
男はツンの銃を見てぎょっとした。
銃把にヘンテコなキーホルダーがついていることを除けば、拳銃よりも威圧感を感じるのは当然だろう。
必然的に、血のプロペラはツンヘ。3つあるうちの、2つが彼女を襲う。
狙い通りではあるんだけど、急がなければツンが刻まれてしまう。
僕は斧を振りかぶり、思いっきり投擲した。
176
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:44:46 ID:tv9rkfP60
( ;゚∀゚ ) へっ?!
斧を、殴りつける武器だと思いこんでいたのだろう。
男は回避も防御もできず、間抜けな声と入れ替えに斧刃を受け止めた。
位置は心臓。直接で無いとはいえ、確かな手応え。
骨が砕け肉の潰れる音が反響する。
ツンに飛ばされた2つの刃は、制御を失ってアスファルトとガードレールを抉った。
中々の切れ味。人体に触れれば容易く刻まれてしまう。
恐ろしい。幸だったのは、使っていたのが間抜けな吸血鬼だったということか。
バカとハサミは使いようという言葉があるけれど、バカにハサミを持たせても役には立たないようだ。
ξ゚⊿゚)ξ ほっ
辛うじて立っている男に、一切の減速無くツンが接近する。
そして急ブレーキと同時、抱えていたショットガンを片手に持ち替え突き出し、銃口を男の頭へ。
( ;゚∀゚ ) あっ
男の声は、銃声と散弾に飲まれた。
飛び散る脳漿と骨片。頭の三割ほどが吹き飛ぶ。
脳幹が残っているのでまだ殺しきれていない可能性もあるけれど、ツンならちゃんとやるだろう。
ξ;゚⊿゚)ξ いったぁ〜もうマジ無理。
手をプラプラとさせながら、瀕死の男に近づくツン。
今度はちゃんと両手を添えて、腰元から散弾を放つ。
砕けた肉片と骨が、飛沫となって舞い散った。
これで終い。周囲を見渡して、ついついため息が出てしまう。
諸先輩方であれば、もう少しスマートに出来たかもしれない。反省は多い。
177
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:45:39 ID:yJ2nmYSE0
きたきた
178
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:46:28 ID:tv9rkfP60
ξ;゚⊿゚)ξ ブーン、連絡ー。
( ^ω^) ハイですお。
僕が処理班へ連絡する間、ツンは使った武器の片づけをしていた。
相変わらず雑だ。備品は丁寧に扱ってと言っているのに。
ポケットから仕事用に与えられた携帯端末を取り出し、処理班の番号を探す。
いかんせん登録している番号が多いので、中々見つけられない。
何より、普段使いの物とは異なるので、余計に扱い難く感じてしまう。
(*゚ー゚) あらあら、これはまた随分派手に散らかったのね。
戦後処理で油断しきっていた僕とツンはその時酷く驚いていた。
ガード下は薄暗く、確かに見通しがいいとは言えない。
だからと言って、気付かないはずがないんだ。
肩に手を触れられるほどの距離に、人が近づいてきていたことに。
ツンは咄嗟に銃を構えた。
僕は、背後数歩の距離にいたその人から飛びのき距離を取る。
美しい人だった。
妖艶さを持ちながら、どこか幼い少女のようで。
赤みがかった頬には、右にだけえくぼが出来ている。
散切りにした、女性にしてはあまり長くないが、優しい風に吹かれさらさらと靡いた。
正直を言えば、僕は見とれてしまっていたのだ。
彼女が、吸血鬼であると理解しながらも。
179
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:47:57 ID:tv9rkfP60
(*゚ー゚) ちょとだけ、待ってもらえる?
彼女は、ためらいの一つ無く、僕に近づき、手から携帯端末を抜き取った。
僕は動かなかった。いや、動けなかったのだ。
金縛りだ。体が石のようにいうことを聞かず、首から下がどこかに消えてしまったようですらある。
ξ#゚⊿゚)ξ ブーン!下がりなさい!!
ツンが、女性の頭に狙いを定める。
僕は彼女の命令に従って、咄嗟に飛びのいた。不思議と、体が動いた。
金縛りは恐らく、吸血鬼の持つ暗示の力を応用した物だったのだろう。
こちらの意志が勝てば破ることはできる。
虚しいのは、自分の意志でなく、ツンの命令が切っ掛けだったということだろうか。
ξ#゚⊿゚)ξっy=━ こんの!
射線から僕が外れた瞬間に、サイレンサー付きの銃口が火を噴いた。
くぐもった、行き場を失った空気が鳴らす汚い音。
ツンは、貧弱ではあるけれど、射撃の腕前は中々だ。
放たれた銃弾は、確かに女の眉間を軌道にしている。
しかし。
180
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:48:38 ID:tv9rkfP60
(*゚ー゚) 慌てない慌てない。
(,,゚Д゚) 最近の杭持ちは、挨拶もできねえのか。
これまた唐突に現れたもう一人の男。
女の脳を穿つはずの銃弾は、彼の手に収まっている。
(*゚ー゚) ギコさんありがとう。
(,,゚Д゚) 子供とはいえ、武器を持った相手だ。迂闊をするなよ。
男の手から銃弾が落ちた。
僅かに血がついている。
少し安心した。無傷であったらいくらなんでも銃の存在意義が無い。
とはいえ人間の僕たちで言う、針で間違って指を刺した、程度の傷でしかないんだけれど。
ξ#゚⊿゚)ξっy=━ なめんな!
(,,゚Д゚) ……。
男の姿が消えた。
目にも留まらぬ速さで、ツンヘ間合いを詰めたのだ。
僕の頬を風が撫でる。すぐ傍を通ったはずなのに、全く反応が出来なかった。
振り返る。既に、男がツンの背後に回り、手刀を振り下ろすところだった。
181
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:49:55 ID:tv9rkfP60
首元を叩かれ、ツンが白目を剥いてグラついた。
男はすかさずその体を支える。手から落ちた銃が、硬い反響を生んだ。
( ;^ω^) 先輩!!
(,,゚Д゚) 少し寝て貰っただけだ。案ずるな。
( ;^ω^) ……。
確かに息はあるようだ。
でも、白目を剥いて気絶しているのを見て、案じないなんてことはできない。
どうしようもできない僕を尻目に、男は吸血鬼の死体をのぞき込んでいた。
僕らよりも、こっちが目的だったと言わんばかりだ。
(*゚ー゚) ギコさん、どうですか?
( ;^ω^) (ギコ……ギコ?)
(,,゚Д゚) 顔が吹っ飛んでて判別がつかんな……。
(*゚ー゚) もっと上手に殺さなきゃ。ね、新人くん
( ;^ω^) (ギコ……そうか!)
182
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:51:36 ID:tv9rkfP60
男の名前と、その尋常でない強さにつながる資料が、頭の中に眠っていた。
子子子(ねこし)ギコ。脅威度B。
血刑は不明だが、高い身体能力を利用した徒手空拳による戦闘は、吸血鬼の中でも群を抜く。
純粋な戦闘に置いては、AA相当であるとされるが、吸血鬼の集団を自治し、
人間に不要な害を与える吸血鬼を粛清するなど、人間に対し友好的な態度を貫いているため
脅威度は数段控えた値に設定されている。
となると、もう一人女性は、子子子シイ。
彼女については名前と、ギコの伴侶または身内らしいということ以外は判明していない。
体感するに、今僕が再びかけられたような、暗示の能力に長けてるようだ。
(,,゚Д゚) まあ、狂小屋に違いは無いだろう。
ギコは、指に着いた吸血鬼の血を嗅いで眉間にしわを寄せる。
ご明察。僕らが狙い、罠にかけて仕留めたこの男は狂小屋(きちがいごや)アヒャ。
脅威度はギコに同じくBとされているものの、その力の差は現状を見れば明らかだ。
(*゚ー゚) そっか。ね、あなた名前は内藤くん?津雲くん?
( ;^ω^) ……。
(*゚ー゚) 内藤くん、のほうか。私たちに名前を教えたくないのはわかるけど、なら、徹底しないとね。
にこりと無垢な笑顔を作りながら、シイは僕の胸をつつく。
学校指定の名札。白地のプラスチックに、黒で「内藤」と彫られている。
もどかしい。掌の上で踊らされているような居心地の悪さを感じる。
183
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:52:34 ID:tv9rkfP60
(*゚ー゚) ありがとうね内藤君。アヒャは、ちょっと最近悪ふざけが過ぎたから、私たちも探していたの。
(,,゚Д゚) 俺たちは吸血鬼の間じゃ名が売れているからな。警戒されて中々捕まえられず、困ってたんだよ。
( ;^ω^)…… いつから、僕らを?
(*゚ー゚) えっと、四日前くらいかな。君たちを、アヒャの狩場で見かけて、そこで興味を持ったの。
僕らが丁度、狂小屋を狙って、出没地域をうろつき始めた頃だ。
(*゚ー゚)調べてびっくり。あなたたち、現役の高校生で杭持ちなのね。
杭持ちの情報は、できうる限り漏えいしないようにされている。
特に僕たちはいわゆる囮専門なので、なおさら厳しく管理されていなければならない。
少なくともそこらの吸血鬼が少し調べただけでわかるほど安易な扱いはされていないはず。
なのに、彼らにはわかってしまったのだ。
実力に見合わない脅威度も含め、もしかしたら杭持ちに何かしらのつながりがあるのか、と勘繰りを覚える。
(,,゚Д゚) んで、まあ。自分たちを疑似餌として奴をおびき出そうとするお前たちを、俺たちは餌として使おうと思ったわけだ。
(*゚ー゚) あなたたち、普段があまりに普通だから、ガセかと思っちゃった。
光栄だった。
僕たちは戦闘よりもそちらの訓練を重点的に行わされているので、それ以外に価値を認められてはいない。
184
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:53:43 ID:tv9rkfP60
(,,゚Д゚) っつーわけで、此奴の死体はもらっていくぜ。
( ;^ω^) ま、待て!それはさせないお!
僕は、反射的に拳を構えた。
斧はさっき投げ、死体に食い込んだまま。
予備の杭は目立たぬよう脛に備えているので、取って斬りかかるには時間を食いすぎる。
とはいえ、この男相手に徒手空拳は無い。
間抜けすぎて自分にため息が出そうだった。
実際はため息の代りに脂汗がにじみ出た。
(,,゚Д゚) お前はいくらか賢そうだ。戦うまでも無く、分かるだろう。
そう、僕は絶対にこの人には勝てない。
完璧に隙をついた奇襲でも三割以下の勝率と予想する。
僕が弱すぎるんじゃない。ギコが強すぎるんだ。
(,,゚Д゚) 俺たちは、お前たちと無暗に敵対する気はない。ほれ、お姫様を連れてさっさと帰れ。
放り投げられたツンの体を、お姫様抱っこで受け止める。
ツンは、細くて軽い。といっても、投げら慣性のついたその体は、僕をよろけさせるのに十分な重さを持っていた。
片手とお尻を地面に突く。ツンは相変わらずの白目。
涎が垂れているが、拭いてやる余裕は無い。
185
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:54:42 ID:tv9rkfP60
(*゚ー゚) じゃ、内藤君。少しそこで、目をつぶってじっとしていてね。
しいが僕の顔を覗き込んで、笑った。
その瞬間、瞼が急に重くなり、体が再び縛られたようにいうことを聞かなくなる。
また暗示だ。やはり、自分の意志では破れない。
抵抗虚しく、僕の体は瞼を閉じて、僕の意識を闇へ閉じこめた。
ギコさん、大丈夫?
気にするな。
はやくいきましょ。きっとみんな待ってるわ。
ああ
足音が遠のいていく。
必死でからだを動かそうとするが、やはり無理。
腕に抱えたツンの髪がふらふらと腕を撫でるばかりだ。
( ;^ω^) ……くそっ
やっと目を開けられたのは、数分ほど経ったのち。
そこにギコとしいの姿は無く、僕たちが仕留めた狂小屋の死体も綺麗に失せてしまっていた。
186
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 18:56:19 ID:tv9rkfP60
おわり
三行
白目剥き
涎をたらす
女子高生
187
:
名も無きAAのようです
:2014/03/09(日) 19:15:57 ID:hrk8mp3Q0
徒手で戦うキャラはいいね、乙
188
:
名も無きAAのようです
:2014/03/10(月) 01:24:20 ID:qb9yCy4UO
乙
どんどんキャラが増えていくな
189
:
名も無きAAのようです
:2014/03/10(月) 10:00:18 ID:KIRYljgY0
オツカレー
190
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:19:58 ID:MIBYgXtM0
Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
○
Cast:都村トソン 都村ミセリ
──────────────────────────────────
191
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:22:27 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「……ただいま」
扉に備えられたナンバーロックを外し、扉を開ける。
私たちの巣穴。慣れた臭いが鼻をくすぐる。
私の持ち込んだ化粧品の類の甘い匂いの中に、別の臭いが混じっている。
ミセリの匂いだ。花のような、甘さの中にほろ苦い渋みがある。
(゚、゚トソン 「ミセリ、いないんですか?」
いつもなら眠っていても起きて返事をしてくる。
靴を脱いだ。ミセリの靴は全部ある。
だけど一組、朝出た時とはつま先の向きが変わっている靴があった。
恐らくどこかに出かけていたのだろう。
好んで履くパンプスやサンダルで無くスニーカーであったことが気になった。
(゚、゚トソン 「……寝ている」
ベッドの上にミセリはいた。
丸まり膝を抱いて、それでいて足は伸びている。
柔らかい。猫みたいだ。
鞄を置いてシャツを壁のフックにかける。
それなりに物音を立てたはずだけれど、起きる気配が無い。
ある程度息を吐ける恰好に着替え、私は床に座り込んだ。
ベッドに凭れ、ミセリの顔を覗き込む。
少女のようだ。
本人曰く数世紀は生きているらしいが、この寝顔からはそんな年季を感じられない。
192
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:25:16 ID:MIBYgXtM0
顔にかかった前髪を撫でた。
相変わらず柔らかい。指でつまんで少し擦る。
しゃりしゃりとした感触。
汗の混じった脂の湿りもある。
甘い臭いがほんの少し鼻に香った。
(゚、゚トソン 「何を、していたんだか」
ショートパンツから伸びた足を撫でる。
冷たくて、滑らか。吸いつくような潤いと張りに満ちた手触り。
一昨日、あれほど私から搾り取ったのだ。
肌艶が良くなるくらいでなければ困る。
ミセ*゚ , )リ 「……トソン?」
(゚、゚トソン 「おはようございます」
ミセ*゚ー )リ 「おかえり。学校、どうだった?」
(゚、゚トソン 「特どうということも。そちらは、どちらかへお出かけで?」
ミセ*゚ー゚)リ 「私も特にどうってことは無かったよ。ちょっとした散歩さ」
ミセリの手が伸びて来た。
頬に触れ、もみあげを撫でる。
冷たい。帰路で火照った体に心地よい。
193
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:27:33 ID:MIBYgXtM0
ミセ*゚ー)リ 「おいで、トソン。一緒に寝よ」
(゚、゚トソン 「……」
ミセ*゚ー)リ 「あんたも眠いっしょ?同じくらいまで起きてたんだから」
(゚、゚トソン 「それはそうなんですが、その……」
ミセ*゚ー)リ 「ん?」
(゚、゚トソン 「こないだ、無茶した時から、ちょっと腰回りが辛くてですね」
ミセ*゚ー)リ 「……ぷふっ……大丈夫だって、眠るだけだよ」
(゚、゚トソン 「そういって、いつも襲うんですよ、あなたは」
ミセ*‐ ,‐)リ 「今日は、本当に眠いからさ……」
(゚、゚トソン 「……」
ベッドへ上がると、ミセリが胸元に頭を埋めてきた。
本当に眠いんだ。私は彼女の頭の下に腕を回して柔らかく抱く。
すぐに寝息が聞こえてきた。私のキャミソールを掴む手から少しずつ力が抜けてゆく。
血は十分に足りていたはず。なぜこんなに疲れているんだろう。
どうってことなかった、とは言っていたけれど、やはり何かあったんじゃないだろうか。
杭持ちに追い掛け回されたとか、まったく無いとは言い切れない。
血をねだってこないところを見るに怪我をしたりはしていないんだろうけど、やはりちゃんと聞き出すべきだった。
194
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:28:41 ID:MIBYgXtM0
気になって眠ることが出来ず、まどろみの中でミセリの寝息を聞いていた。
カーテンの隙間から洩れる陽光が少しずつ赤に。
いい時間だ。そろそろ晩御飯を準備しないと。
(゚、゚トソン 「ミセリ」
起きる気配が無い。
ただ、私が離れることだけは阻止したかったのか、服を掴む力は少し強くなった。
何度か、起こさないよう引き離そうとしてみたが無理だ。
(゚、゚トソン 「……たまには、コンビニのごはんでいいか」
ミセリは謎の資金源があるらしく、衣料費や私の食費、家賃などは不自由なく賄えている。
普段私が節約しているのは、あくまでそれに甘えきらないため。
でもたまには、楽をしても罰は当たらないはずだ。
私が怠惰に敗北してから、みるみる空が暗くなってゆく。
日が沈むのが遅くなってきたとはいえ、夜は来る。
応じて、私の瞼も重みを増してきた。
暗くなった途端に眠くなるのだから、私もずいぶん動物らしい。
( 、 トソン 「30分くらいなら……」
ミセリを抱きしめて、目を瞑る。
すぐに、意識を繋ぐ糸がフツフツと切れ始めた。
眠る。そう感じたのもつかの間、私の意識は暗転した。
195
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:29:49 ID:MIBYgXtM0
どれくらい寝ていたのか、自分でも分からない。
真っ暗になった部屋で目を覚ました。
陽光が差し込んでいたカーテンの隙間からは、月明かりが零れている。
体が、変だ。まるで、誰かにまさぐられているような。
(゚、゚トソン 「……ミセリ、いくらか前に自分で言ったこと、忘れました?」
ミセ* , )リ 「あの時は、眠いからって言ったんだよ?今ミセリさん眠くないし」
(゚、゚トソン 「この、猿」
ミセリが、私のキャミソールをめくりあげ、下着を外し、肌に吸い付いていた。
血を吸っているのではない。
性的な意味で、私の肌を刺激している。
だから腰が辛いんだって、と少し腹が立つ。
寝起きのせいもあって、丹念な愛撫も快感を催すには遠い。
私は、やや強引に、ミセリを引き離そうとした。
(゚、゚トソン 「……ミセリ?」
顔に触れた指先が、濡れた。
唾液とは違う、もっと水に近いもの。
頬を撫で、その水の出所をなぞっていく。
指がたどり着いたのは、目じり。
途中で気づいてはいたけれど、これは、涙だ。
196
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:31:04 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「どうしたんですか」
ミセ* , )リ
答えはない。
強引に持ち込んで誤魔化すつもりだ。
残念だけれど、この程度で流されてしまう私では無い。
(゚、゚トソン 「……」
ミセ* д )リ そ 「痛い?!」
拳骨を握り、ミセリの頭を叩く。
こちらの手が痛い程度には、力を込めた。
ミセリが私から離れる。頭を押さえているのが薄暗闇の中に見えた。
ミセ;*゚д゚)リ 「何すんのさ!」
(゚、゚トソン 「だからエッチする気無いって言ってるじゃないですか」
ミセ;*゚ ,゚)リ 「そこは何かあったと察して受け入れてくれるところじゃないの?」
(゚、゚トソン 「知りません。そうそう都合よく押し切られてたまるもんですか」
ミセ;*゚ ,゚)リ 「ちぇー……厳しいなトソンは」
流石に諦めたのか、ミセリが完全に身を起こした。
私はベッドの枕元に置いてあった照明のリモコンを手に取る。
ボタンを押す。人工的な白い光が部屋を照らす。
ミセリは眩しそうに顔をしかめた。
197
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:32:25 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「で、何があったんです」
ミセ*゚ ,゚)リ 「別に、大したことじゃないんだけど」
(゚、゚トソン 「ならさっさと吐きなさい」
ミセ*゚ ,゚)リ 「ちょっと昔のこと思い出しただけだってば」
ミセリがだるそうに、私の腹に抱き着いた。
再び発情する様子はないので、放っておく。
私は下着のホックを止めなおし、捲れた服を元に戻す。
ミセ*゚ ,゚)リ 「だから、なんも心配されるようなことないよ」
彼女の過去を私は知らない。
吸血鬼になった経緯を含め、ミセリは話したがらないのだ。
だから、昔のことがなぜ涙に繋がるのか分からない。
ただ単に懐かしんだのか、それとも、何か悲しい記憶が眠っていたのか。
心配するなと言われても無理なのだ。
普段は余裕綽綽で腹が立つにやけ顔をしている彼女が、拗ねたような寂しい顔をして涙を流しているなんて。
雷が落ちてくる方がまだ平静を保っていられる。
(゚、゚トソン 「じゃあ、心配されないような振る舞いをしてください」
ミセ;*゚ー゚)リ 「それは横暴だぜトソンちゃん」
198
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:33:37 ID:MIBYgXtM0
ミセ*゚ー゚)リ 「それより、お腹空かない?晩御飯どうすんのさ」
そして、やっぱり昔のことは話してくれないのだ。
無理に聞き出しはしない。ミセリが嫌がって逃げるのが目に見えているから。
だから自然に彼女の口から零れるのを待っているのに、そんな機会は一生来そうにない。
(゚、゚トソン 「コンビニで済ませようかと。ミセリの せ い で 何もできてないので」
ミセ;*゚ー゚)リ 「トソンさん、ご機嫌ななめ?」
(゚、゚トソン 「別に」
ミセリが「ななめ?」に合わせて体を斜めにした。
困ったような笑顔も合わさる。
負けてはならない。今の私は不機嫌だ。
ミセ;*゚ー゚)リ 「……」
(゚、゚トソン 「……」
ミセ;*゚ー゚)リ 「……」
ε=(゚、‐トソン
ミセ;*゚ー゚)リ 「?」
負けた。そもそも、ずっと腹を立てているのは性に合わない。
不満が消えたわけでは無いけれど、今のところは勘弁してあげることにする。
199
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:35:50 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「ミセリ」
ミセ*゚ー゚)リ 「ん?」
ミセリに凭れかかる。
何とも言えない表情。
(゚、゚トソン 「……晩御飯、買いに行きますけど一緒に行きますか?」
ミセ*゚ー゚)リ 「行く行く!」
(゚、゚トソン 「じゃ、早く準備してください」
ミセ*゚ー゚)リ 「そこの川沿いさ、ちょっとお散歩したり?」
(゚、゚トソン 「……どうせなら、外で食べますか。今日は風がありますし」
ミセ*゚ー゚)リ 「いいねぇ、こんな月夜だ」
(゚、゚トソン 「あなたの食事は帰ってきてからですが」
ミセ*゚Д゚)リ 「えー!たまにはお外でしたりしたいー」
(゚、゚トソン 「……一度杭持ちに殺されてしまえばいいのに」
ミセ*゚Д゚)リ 「冗談でもそう言うこと言うなよー!」
200
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:38:19 ID:MIBYgXtM0
サンダルをつっかけて、家を出た。
歩いて10分もかからないコンビニ。
ミセリを雑誌のコーナーに待たせ、適当な夕飯を選ぶ。
いざ楽をするといっても、沁み込んだ貧乏性は抜けきらないもので、何とも地味な品々になった。
ミセ*゚ー゚)リ 「何買ったの?」
(゚、゚トソン 「サンドイッチと、野菜ジュースです」
ミセ*゚ ,゚)リ 「もっと栄養あるもの食えばいいのに。お金の心配なんかしないでさ」
(゚、゚トソン 「人のお金で贅沢するほど私は図々しくありません」
ミセ*゚ ,゚)リ 「だから、私がもらってる血やらなんやらの対価なんだから、堂々と受け取れっての。頑固だな」
解せない、と表情でぼやきながら、ミセリが先を行く。
ミセリにはわからない、私の小さな意地だ。
彼女との関係を飼い主と家畜然としたものから、少しでも遠ざけるための最低限の抵抗。
少しだけ離れたミセリとの距離を、小走りで詰める。
見た目こそ、私と同じくらいの小柄な少女だけれど、仮にも吸血鬼だ。
力では筋骨隆々の男を簡単に組み伏せるし、走力では、原動機付自転車くらいならたぶん勝てる。
彼女自身は普通に歩いているつもりでも、私にはかなり速いペースなのだ。
ミセ*゚ー゚)リ 「ん、ごめん、速かった?」
(゚、゚トソン 「少しだけ」
息が切れ、体に汗が滲むのがわかった。
風が心地よい。それ以上に、空気が温い。
201
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:39:23 ID:MIBYgXtM0
コンビニからさらに10分弱歩いて、川沿いの道に出た。
朝夕、ランニングに励む人を良く見かける土手の上の道。
車道とは完全に隔てられていて、煩わしいライトの光に目を潜める必要が無い。
街燈の類がほとんど無くこの時間はどうしても暗いが、今日は月があるので幾分視野がある。
(゚、゚トソン 「そこのベンチにしましょうか」
土手から川の方へ下ると、もう一段舗装された川原になっている。
ベンチがいくつかあり、昼間に生きているのか死んでいるのか分からないお爺さんが良く座っているところだ。
その内の一つに、私とミセリは腰をかけた。
川の潺が、耳に優しい。この音の中でなら、遠くから聞こえる車の音も、気にならなかった。
水の傍のお蔭か空気もひんやりとしている。ここで食べることにして正解だった。
ミセリにくっついていても、部屋にこもって過ごす初夏の夜は、暑い。
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン」
私が食事を初めて数分経った頃、ミセリが呟く。
独りごとのようで、自分が話しかけられたのだと気づくのに時間がかかった。
ちらりと横を見る。体ごと仰け反って、月を見上げていた。
半開きの口から、続きの言葉が出てくる様子は無い。
(゚、゚トソン 「なんですか」
ミセ*゚ー゚)リ 「……あー、いや、ごめん。なんとなく呼んだだけ」
(゚、゚トソン 「……?」
ミセ*゚ー゚)リ 「月ってのはさー―……いいよな。こう、頭が、静かに、冷たく狂っていく感じがする」
202
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:41:39 ID:MIBYgXtM0
(゚、゚トソン 「はぁ」
つられて、私も空を仰ぎ見る。
雲の無い空に、藍の天幕をくり抜いて穴をあけたような、明るい月。
惜しくも満月では無いけれど、十分すぎる光を持っていた。
たしかに。
言葉や動作には出さず同意する。
月の持つ不思議な魅力は、太陽とはまた違ったエネルギーを持っているように思えた。
ミセ*゚ー゚)リ 「これで、もう少し青いと、たまんないんだけどな」
(゚、゚トソン 「十分綺麗ですよ」
ミセ*゚ー゚)リ 「……」
ミセリの体が、近づいた。
月を見上げていたので、反応が遅れる。
気づいた時には、ミセリの舌が、私の首筋を舐め上げていた。
(゚、゚トソン 「ちょっ」
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、汗かいたな。さっきから、すげえ、良い匂いする」
(゚、゚;トソン 「もう、人に見られますって。夜でも人は結構通るんですから」
203
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:52:50 ID:MIBYgXtM0
ミセ*゚ー゚)リ 「良いじゃん、私は気にしないし」
押し倒される形。
抵抗する間に少し唾液を打たれた。
夕方とは違う。本気だ。完全に食べるつもりで来ている。
(゚、゚;トソン 「杭持ち通報されたら、不味いから言ってるんです。こんな家の近くで……!」
ミセ*゚ー゚)リ 「じゃあいっそ、することしちゃう?そうすれば、少なくとも杭持ちは呼ばれないよ?」
(゚、゚;トソン 「ああ、もう、アホ」
抵抗するのをやめた。
どうせ体に力が入らなくなってきている。
下手に長引かせるよりも、さっさと吸わせて済ませた方がいい。
ミセ* ー )リ 「じゃ、いただきます」
鋭い歯の感触と痛み。血の抜けていく脱力感。
時折漏れるちゅう、という空気の漏れる音。
やけに少量ずつを、時間をかけて飲む。
たぶん、お腹が空いていた、というわけじゃなかったんだろう。
(゚、゚トソン 「もう、さっさと済ませてくださいよ」
反応は無し。私はため息を吐きながら、空をまた見上げた。
月が、少しだけ眠そうに、空に居座っている。
縋りついてきたミセリに腕を回す。もう一度ため息。
服の下に伸びてきた冷たい手を払い退けられ無かったのはきっと、あの光り輝く穴のせいなんだ。
204
:
名も無きAAのようです
:2014/03/15(土) 23:55:25 ID:MIBYgXtM0
おわり
とくに
しんてんは
ない
205
:
名も無きAAのようです
:2014/03/16(日) 01:11:46 ID:Mb.jlXhQ0
おつ
206
:
名も無きAAのようです
:2014/03/16(日) 18:33:53 ID:3boErWk60
乙
207
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 18:22:19 ID:fqS3T7Es0
( ・∀・)< エロいな
208
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:36:11 ID:WoQAy0kw0
Place: 草咲市 須赤二丁目 18 黴の臭い漂う路地裏
○
Cast: 天主堂モララー 大天福ショボン 喜瀬キナコ 小豆オグラ 磯部ノリ
──────────────────────────―――────────
209
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:38:47 ID:WoQAy0kw0
(´†ω・`) 「やはり、おかしい」
いつにない神妙な顔で、大天福はそう呟いた。
手にはいつもの長杭。刀身には今殺したばかりの吸血鬼の血がべっとりとついている。
黴と血の臭いの中、彼の汚れ一つない白いシャツが、むしろ不気味なものに見えた。
(´†ω・`) 「あまりにも、多い。雑魚ばかりではあるが、それでも」
( ・∀・) 「確かに、今日だけでもう三件目ですからね」
僕と大天福が、志納ドクオに敗走してから三日。
休養が開けて初めての仕事は、中々忙しい。
言葉にした通り、三件の吸血鬼討伐。時刻はまだ昼の2時だ。
僕らだけでこれなのだから、他の杭持ちを加えれば相当な数になるだろう。
草咲市はもとより吸血鬼が多い町として知られている。
しかし、それは『子子子ギコ』、『鴨志田フィレンクト』等の、有力な指導者の元に吸血鬼が集っているから、だ。
彼らは無暗に人を襲うことはせず、ひっそりと生きることで杭持ちとの衝突を避けている。
今日僕たちが屠っているのは、そういった組織からあぶれた吸血鬼ばかり。
元々存在しないわけでは無いが、日に何度も殺さねばならないほどでは無かった。
(´†ω・`) 「例の、毒の吸血鬼といい、ここ最近の草咲は、嫌な気配が漂っている」
( ・∀・) 「地雷女の謎の滞在もありますからね」
(´†ω・`) 「……」
210
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:41:24 ID:WoQAy0kw0
一先ず、死骸の片づけをするために、端末を取りだす。
しかし、僕の手は大天福の手に止められる。
その視線は路地の先。
三人の人影。昼の強い日差し、うだるような暑さの中に、黒いレインコートを着込んで立っている。
間違いなく、吸血鬼。
僕はため息を吐いたが、大天福は静かに杭を構えた。
(゚ぺキ ナ 「大天福ショボンと、天主堂モララーだな」
(´†ω゚`) 「いかにも!」
三人が、歩み寄ってくる。
うち一人、僕たちに名を尋ねた女は見たことがある顔だ。
ギコ、フィレンクトのどちらの傘下にも入らず活動している、脅威度Cの吸血鬼。
喜瀬キナコ。凶暴性は低く、自ら杭持ちに接近するようなものでは無かったと記憶していたが。
ノ小ヽ
( `豆´) 「……こいつが、姐さんを」
ノリノ・ _・リ 「オグラ、抑えなさい」
なるほど。ぼんやりとだが事情は読めた。
僕らへの、主に大天福への復讐だろう。
よくあることだ。
僕らの役割上、恨みを買うのは必然ではあるが、少々面倒だ。
211
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:44:23 ID:WoQAy0kw0
吸血鬼は一種の害獣ではあり、人間と同じく意志を持つ動物でもある。
これが厄介だ。害獣は駆除されても人を恨まない。
吸血鬼は恨む。友を仲間を殺されれば、杭持ちに報復に現れる。
元は人間だ。当然ではあるが、害獣には過ぎた感傷であるとも思う。
(゚ぺキ ナ 「臼杵モチコ、は知っているな」
(´†ω・`) 「……」
(#`豆´) 「なぜ、姐さんを殺した。姐さんは……ッ!!」
ノリノ・ _・リ 「オグラ、キナコに任せて」
(#`豆´) 「むぐぐ」
(゚ぺキ ナ 「……モチ姐さんは、群れにあぶれた私たちを、助けてくれた。
血を与えてくれて、寝床も、服も、全てを面倒見てくれた。
あんたたちにむやみやたらと喧嘩を売ったことも無い、善良な吸血鬼だった」
(´†ω・`) 「……」
(゚ぺキ#ナ 「何故、殺した。姐さんは、お前らに殺されるようなことを、何一つしていなかった!」
一歩前に出た、ショートカットの女。
少女と呼んでも差し支えないだろう。
他の二人も、高校生程度の年齢に見えた。
社会的にも経験の浅い彼らが吸血鬼として生き延びるのは難しかったはずだ。
212
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:45:49 ID:WoQAy0kw0
(゚ぺキ#ナ 「答えろ大天福!!」
(´†ω゚`) 「……どれだけ善良であっても吸血鬼は吸血鬼」
(゚ぺキ#ナ
(´†ω゚`) 「大天福は、常に正義でなければならぬ!」
(゚ぺキ#ナ 「それが、答えか……ッ。オグラ!ノリ!」
(#`豆´) 「応!!」
ノリノ・ _・リ 「……」
初めから、大天福の答えなどどうでもよかったのだのだろう。
三人の吸血鬼は自らの腕に爪を立て、大きく切り裂いた。
吹き出す血液。すぐさま意志を持って固まった。
(゚ぺキ#ナ
吉瀬キナコは両手の指を延長するような長く鋭い爪を。
(#`豆´)
オグラは腕に鮫の鰭のような刃を。
ノリノ・ _・リ
ノリは両の手の甲に、四角い板のような盾を。
213
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:48:31 ID:WoQAy0kw0
(´†ω・`) 「モララー、下がっていろ。俺一人で十分だ」
( ・∀・) 「大丈夫ですか?」
(´†ω・`) 「リハビリだ」
仮にも三人全員血刑使い。
子供ではあるが、ちゃんと吸血しているのならば膂力は僕たちを軽く凌駕する。
決して弱い相手では無い。
例え雑魚であっても二対一の状況を維持するのが基本であると考えれば、大天福の言葉に従うわけにはいかない。
ただ。
( ・∀・) 「わかりました。ただし、無様な姿を見せた時点で加勢します」
正義を謳う大天福は決して曲がらない。
なら僕は、彼の弟子として大人しくその背中を眺めるしかない。
(#`豆´) 「舐めやがって!!」
腕を振りかぶり、オグラが大天福に飛び掛かった。
愚かな。人数の理を活かすには、もっと連携を図るべきだ。
(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッ!!」
大天福が前へ。杭の切っ先を引きずる様に体を先行させる。
速い。目で追うのがやっとだ。
214
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:50:54 ID:WoQAy0kw0
(´†ω゚`) 「スワロォォォウッエェェッッジ!!!」
(゚ぺキ;ナ 「オグラ!」
キナコが援護しようとしたが遅い。
大天福は、振り下ろされるオグラの腕を斬り上げ弾いた。
そのまま脇を抜け、振り返りながら背中に一太刀。
切り裂かれた体が血を吹く。
流水のような、あるいは翻る燕のような無駄のない動き。
余計な心配は不要のようだ。
(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッブレェェェェッド!!」
ノリノ・ _・リ 「……」
大天福は一呼吸と置かず、背後にいたキナコへ。
振り向きざま、切り上げの片手居合切り。
間に割って入ったノリが腕の盾で受け止めた。
金属音が鳴り響く。中々の硬度だ。
キナコは仲間が斬られたのに動じ、反応が遅い。
ノリがいなければ、体が二つになっていただろう。
ノリノ・ _・リ 「……」
吸血鬼と力比べは賢い選択では無い。
大天福は後退。ノリは拳闘の構のように、盾で体を守る。
居合の一太刀を受けたところを見るに、硬度はかなりのものだ。
血刑の性能自体は彼女が最も高いかもしれない。
215
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:53:15 ID:WoQAy0kw0
だが、大天福を倒すならば、もっと奇抜な武器を持たねばならなかった。
それこそ、志納ドクオの『毒』や地雷女の『火薬』など。
血を硬化し、武器として扱うだけの血刑は、大天福には通用しない。
(´†ω゚`) 「ぉぉ……ッ」
服の上からでも、背なの筋肉が隆起するのが分かった。
大天福は上段の構。
振り下ろしの一撃は、恐らく大天福が出せる最大の威力だろう。
ノリノ・ _・リ 「キナコ、私が受け止めたら腹を裂きな」
(゚ぺキ ナ 「……わかった」
ノリノ・ _・リ 「オグラもまだ死んでない。ちゃんとしなさい」
(゚ぺキ ナ 「うん」
(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッ!!」
舗装された地面を抉るほどの、蹴り。
刹那の肉薄。この力を活かした振り下ろしの一撃は、相当の重さを持つ。
大天福は素直に、真上から、ノリに向かって杭を振り下ろした。
が。
216
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:54:32 ID:WoQAy0kw0
ノリノ _ リ 「うぐっ」
( へ キ ナ 「え、ぁ?」
大天福が突如力を失い、ふらりと、キナコとノリの間をすり抜けた。
急激な転換。僕も一瞬思考がついて行かなかった。
誰もが、剛剣と血の盾のぶつかり合いを予測したはずだ。
それが脈絡なく消えた。
客観できる僕ですら、大天福の体が消えたように見えた。
目の前で構えた二人には、未だ何が起きたかわかっていないだろう。
(´†ω・`) 「……大天福ファントム」
ノリの脇腹と、キナコの首が血を吹いた。
脇、肋骨の隙間から心臓を突き破壊。
首は動脈をでは無く、椎骨を大きく削りに行った。
即死せずとも、これだけで戦闘不能だ。
大天福が、杭の血を払う。
それに合わせたかのように、二人が膝から崩れ落ちた。
( へ キ ナ 「そんな、こんなに、つよ、い」
ノリノ _ リ 「……毒で、死にかけたってのは、デマ、か……」
デマでは無い。本当だ。
医者が回復したことを異常と評価したほど、彼は死の淵に追いやられていた。
今も決して万全ではないだろう。
それでも彼女らが負けたのは、力の差があったとか、そんな単純な話ではない。
217
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:55:45 ID:WoQAy0kw0
( ・∀・) 「……大天福は、正義でなければならない」
僕の呟きは、口元に零れたところで、雄叫びにかき消される。
戦闘不能かと思われたオグラが、立ち上がった。
背中と切断された腕から、三日月のような血の刃を生やしている。
もう失血で仮死に陥っても不思議では無い。
良く立ったものだ。それほど深い恨みを持っていることを、哀れに思う。
どれだけ憎み恨んでも、その刃は届かないのだから。
(#`豆´) 「死ねェェ!大天福ゥゥ!!」
(´†ω・`) 「……大天福エンドロウル」
長く、伸びのある片手突きが、オグラの眼窩を穿つ。
切っ先は脳を、頭蓋を貫き後頭部に表れる。
意識を失うオグラ。勢いづいたまま前へ崩れる
大天福の手を離れた杭が地面に当たり、より深く突き刺さってゆく。
( ぺキ ナ 「おぐ、ら……」
大天福は、腰裏に備えている通常の杭を引き抜き、倒れたオグラの背中に突き立てる。
心臓を突いた。刃を少し横へ動かし、確りと破壊。
そこまでする必要はないが、彼なりの礼節なのだ。
218
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 22:59:11 ID:WoQAy0kw0
( へ キ ナ 「……クソ!なんでだよ!なんでなんだよ!!」
(´†ω・`)
( へ キ ナ 「私たちだって!好きで吸血鬼になったんじゃない!!それなのに!それなのに!!!」
ノリノ・ _ リ 「キナコ……」
( へ キ#ナ 「畜生!畜生!恨んでやる!呪ってやる!!畜生!!畜生!!」
ノリノ・ _ リ 「……」
( へ キ#ナ 「私たちは、悪いことなんてしてない!!姐さんも!オグラも!ただ、普通に!!!」
(´†ω・`)
( へ キ#ナ 「人間だった頃のように、生きたかっただけなのに!!」
( ‐∀‐) 「……それが出来たら、どれだけ良かったろうね」
大天福が、そっと杭を振り上げる。
喜瀬キナコの口からは、止めどない呪詛が吐き出され過ぎている。
頸椎を断たれ、体を動かせない彼女に出来る唯一の攻撃だった。
(´†ω・`) 「大天福は、正義でなければならない」
杭の切っ先が、キナコの後頭部に突き刺さる。
体重をかけて刺しこまれた刃がその脳幹を断つまで、響き渡る呪詛が止まることは無かった。
219
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 23:00:18 ID:WoQAy0kw0
おわり
大天福
大先生
大復活
220
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 23:37:42 ID:24ornE7k0
乙
221
:
名も無きAAのようです
:2014/03/17(月) 23:42:16 ID:8wAonVOY0
おつ
222
:
名も無きAAのようです
:2014/03/18(火) 00:42:14 ID:vgIvtSlg0
乙
先生は病み上がりでもテンションが高いが決めるときは格好いい
223
:
名も無きAAのようです
:2014/03/18(火) 00:52:36 ID:IvRs5xyE0
乙
美味しそうな名前の吸血鬼ですね
224
:
名も無きAAのようです
:2014/03/18(火) 11:20:01 ID:B3ltWjXM0
大天福復ッ活ッ!
225
:
名も無きAAのようです
:2014/03/19(水) 19:32:24 ID:fPJkzclk0
乙
面白い
226
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:08:02 ID:lSl8DXgg0
Place: 草咲市 十日町 1‐103 マンション『シャンデリゼTOKA'S』屋上
○
Cast: 志納ドクオ 本田蕪太郎 鈴木バーディ 長岡ジョルジュ
──────────────────────────────────
227
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:10:16 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……明るいな」
路地裏から眺めるよりも空が近い。
近辺で最も高いマンションを選んだのは正解だった
満月に近い月から眩いほどの光が屋上に降り注いでいる。
('A`) 「……来てもらって早速で悪いんだけどよ。地雷女の居場所を知っているか?」
対面する二人の杭持ちは、表情一つ変えなかった。
油断も、驕りも無い。むしろ、ドクオに対し緊張しているようですらあった。
大天福を下した結果は、思っていたよりも大きいらしい。
目撃情報から杭持ちの派遣までの速度を見るに、「脅威度」もかなり高めに設定されているのだろう。
(=゚@゚)
〈+^@^〉
加えて、毒に備えてのガスマスク。
この装備が、全ての杭持ちに配られているとは考えにくい。
恐らく、一定数の対ドクオ要員が配備されているとみていいだろう。
('A`) 「……ダメか、やっぱ、ちゃんと止めを刺せなかったのはまずかったな」
血刑を見せた上で逃がしてしまったために、かなり動きにくい状況になってしまった。
これまでのように、気軽に人探しをすることはできないだろう。
228
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:12:35 ID:lSl8DXgg0
(=゚@゚) 「……神の御名の元に」
〈+^@^〉 「裁きを!」
一人が前へ。杭を構え、身を低くする。
もう一人が持っているのは、散弾銃だ。
相変わらず十字架がついている。あれを見ると胸やけがする。
('A`) 「…………」
人間から吸血鬼への変貌は、多くのエネルギーが必要となる。
大半の者はその消費が生み出す極度の「渇き」に抗えず、人を食らってしまうのだ。
だが、ドクオは鉄の意志でその衝動を抑えた。
代償に体はやせ細り、力を失い、およそ吸血鬼とは思えないほど貧弱な体となっていたのだ。
それはあくまで、大天福と戦うまでの話。
ドクオは賤之女デレと出会い、血を喰らい、体は完全に吸血鬼となってしまっている。
('A`) 「……気に食わねえ」
(=゚@゚) 「なに?!」
生み出される膂力は、以前の比にならない。
229
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:16:51 ID:lSl8DXgg0
身軽な、素早い動きで肉薄した杭持ちを飛び越える。
戸惑う二人の杭持ち。
事前に情報を掴まれているというのは、悪いことばかりでは無いらしい。
恐らく、血刑以外は畏れるに足らないと判断されていたのだろう。
〈+^@^〉 「だからって!!」
銃を構えなおす杭持ち。
躱すも守るも厄介な散弾だ。
だが、少し反応が遅かった
('A`)σ 「……」
親指の爪で、人差し指を切る。
血が零れ、瞬く間に針の形に変化。
形が定まるのも待たず、その針を放つ。
ドクオはこの一連の動作を、跳躍から着地、杭持ちの銃口が自分を向くまでに済ませていた。
〈+^@^〉 「!」
小さく細い血の針が、杭持ちの首筋に刺さった。
ドクオの毒は、何も揮発吸引させるだけでは無い。
マスクをしていようが、傷を与えることさえできれば十分だ。
230
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:18:17 ID:lSl8DXgg0
〈+;^@^〉 「あっぐ……」
杭持ちがふらつく。
銃口がぶれ、膝が下がる。
即効性は中々。ただし、致死性はいまいち。
まだ毒の生成には改良の余地がある。
('A`) 「……」
指先に、長い爪程度の血の刃を作り、毒にあえぐ杭持ちへ。
もう一人の方は、無視する。
〈+;^@^〉 「くそっ!」
震える銃口がドクオを向いた。
まだ撃たない。この期に及んで、否、狙いを定められない今だからこそ、ギリギリまでひきつけようとしている。
〈+;^@^〉 「!!」
銃声。
跳ねる銃身と、眩い火炎。
吐き出された複数の弾丸が、肉を貫き骨を砕く。
(= @ )、´ ∴ 「ぐぶっ」
〈+;^@^〉 「あ」
ただし、当たったのはもう一方の杭持ちに、であるが。
231
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:20:43 ID:lSl8DXgg0
引金にかかった指の動きを見切り、ドクオは素早く身をかわした。
反射的に杭持ちはその動きを、追い、発砲。
それでもドクオの速さには間に合わず、弾丸はドクオを外れ。
銃の射線を避け、曲線を描きながら迫っていたもう一人の杭持ちに命中したのだ。
距離が開いたため弾がちり、胸から足にかけて数か所、血を吹き出している。
戦闘不能は明らか。
狙い通りだ。思いのほか上手くいった。
あとは、味方を撃って動揺する残りの一人を。
('A`) 「……」
〈+; @ 〉 「かっっ」
殺して終りだ。
喉に深々と突き刺さる血の爪。
毒でなくとも、ほぼ即死だろう。
('A`) 「……今日も、収穫は無し」
死んだ二人の杭持ちを見て、ドクオは独り言ちた。
杭持ちを殺すことは目的で無い。
彼らが持つかもしれない地雷女の情報、それが欲しいのだ。
232
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:23:11 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……このやり方、そろそろ辞めるか」
ドクオは、吸血鬼になる前、ごく一般的な家庭にあった。
吸血鬼たちの情報を仕入れる幅広い情報網も無ければ、調査して人を見つけ出すようなノウハウも無い。
杭持ち相手になれない捜査をしているが、争いになるばかりで一向に進展しないままだ。
おかげで悪名ばかりが広まり、窮屈さが増すばかり。
('A`) 「……できれば、避けたかったが……あいつらに頼るしかねえか」
ドクオの脳裏に浮かぶ、二人の吸血鬼。
男と女の、この界隈で吸血鬼を滑る自治組織のリーダーだ。
杭持ちとは別の方面で、情報には鋭い。
だが、気がかりもある。
二人は争いを好まぬ、平和主義者。
目的が報復であるドクオに協力してくれるかどうかがそもそも怪しい。
('A`) 「……ん?」
来ているパーカーのポケットが震えている。
携帯電話に着信があったようだ。
取りだして画面を見ると、発信元の名前は『賤之女デレ』。
数秒迷い、ため息を吐いてから通話のボタンを押す。
233
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:25:45 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……なんだ」
『……ごめんなさい、お父様。本当は、電話なんてしたら嫌かと思ったのだけど』
('A`) 「別にいい。なんだ」
『いえ、特に何かあったわけでは無いの。ただ、お帰りが遅いから、ちょっと心配で』
('A`) 「……」
『ほら、最近は怖い人たちがたくさんいるでしょう?もし、何かあったら大変と思って……』
('A`) 「……用事が長引いただけだ。もうしばらくで帰る」
『……わかりました。お風呂沸かしておきましょう』
('A`) 「要らない気を使うな」
『私がしたいんですもの。それでは、くれぐれも気を付けてくださいねお父様』
('A`) 「……ああ」
通話を終え、画面を眺める。
シンプルな構造、デザインの電話だ。
洋館に数台あったものの一つを、デレに持たされた。
これも前の『お父様』の仕込みだろう。
何とも言えない気持ちにはなるが、あれば便利だ。
ドクオが個人で所有していた物は、吸血鬼になった日に壊して捨てた。
234
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:28:10 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……帰るか」
件の吸血鬼に会いに行くことも考えたが、今日は一先ず帰ることにする。
デレにもうしばらくと言った手前、あまり時間を浪費することもできまい。
携帯電話を入れているのとは逆のポケットから小さな紙の箱を取りだす。
煙草だ。銘柄は「ECHO」。人間だった時分からずっと吸っていたが、金がなくなって以来やめていた。
('A`)o-~~
喉が焼けるように痛む。
煙は肺を蹂躙し。独特の辛みが、鼻の奥をツンとさせた。
不味い。銘柄のせいでは無い。
吸血鬼になり、煙草や酒が苦手になった。
感覚が鋭敏すぎるのだ。
その上含まれる毒性への依存は一切なくなるので、もはや吸う意味は一切ないのだが。
煙草を咥えたままフェンスを飛び越えた。
立ち入り禁止になっているが、関係ない。
人が来ないという意味ではむしろ便利だ。
とはいえ、今回二人殺したので、しばらくは避けた方がいいだろう。
非常階段を降り、マンションの裏手から路地へ。
ショットガンの銃声が人を呼び寄せていないかだけが気がかりだったが、どうやら杞憂のようだ。
よくよく考えれば、この街で銃声が鳴るのは珍しいことでは無い。
そして、銃声が鳴り響くところに野次馬根性で顔を出すのは愚か者のすることだ。
235
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:29:23 ID:lSl8DXgg0
路地をしばらく行くと、遠くからギターの音色が聞こえてきた。
ストリートミュージシャンの類だろうか。
時折見かけるが、繁華街から離れた場所にいるのは珍しい。
姿が見えた。男だ。
黒いジャケットに、金属製のアクセサリ。
耳だけでなく、唇にもピアスをつけている。
パンク、あるいはメタルの趣。
少なくとも抱えているアコースティックギターにはあまり似合わない。
_
( ∀ )´
男がドクオに気づいた。
が、特に何かするわけでも無く、先ほどからの曲を弾き続けている。
聞けば、小声で歌も歌っていた。
高いが男っぽさのあるしゃがれた声。
この歌は、随分昔にいくらか流行ったロックバンドのものだ。
_
( ゚∀゚) 「――― ―― ――――………♪」
ドクオが目の前に差し掛かり、曲が終わった。
男と目が合う。少し伺うような目をした後、少しの驚きを湛えたように見える。
だがすぐに、うれしげに細まった。表情の変化の激しい男だ。
_
( ゚∀゚) 「……俺の歌、どうだった、“お兄さん”」
無視しして通り過ぎようとしていたので、やや面を喰らう。
236
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:30:27 ID:lSl8DXgg0
('A`) 「……少し耳に入っただけだ。何か言えるほど聞いていない」
_
( ゚∀゚) 「なら、もう一曲どうよ」
('A`) 「そう言うのは、他の奴にやってくれ」
_
( ゚∀゚) 「ちぇー、ノリが悪いな」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「あ、ちょっと待ってくれよ」
('A`) 「なんだ」
_
( ゚∀゚) 「……煙草、一本貰えねえか。切らしちまってよ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「へへへ……ありがてえ。しかし、吸血鬼もヤニを吸うんだな」
('A`) 「……ッ!」
あまりにも自然に紡がれた言葉に、ドクオの反応は遅れていた。
咄嗟に、親指の爪を人差し指の爪に突き立てる。
当たり前のように、ドクオが吸血鬼であることを見破った。
あるいは、知っていた。敵か味方か、少なくとも杭持ちではなさそうだが油断はできない。
237
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:33:00 ID:lSl8DXgg0
_
( ‐∀‐)o-~~ 「フー―……、そんなに驚くなって」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「志納ドクオ、毒物を扱う要注意吸血鬼……」
滑らかな口調だった。
何かを暗記しているといったところか。
_
( ゚∀゚) 「駅前の掲示板に、手配書が張ってあったんだ。お前、自分で思ってるより顔が広まってるぜ」
手配書。そうか。
大天福を倒し、杭持ちに名が広まったということはつまり、そう言った対応もされているということだ。
ドクオは名前がばれている。虚しいことに名前にも特徴があるので、身元はあっさりとばれただろう。
となれば、手配書にはほぼ間違いなく本人の写真が使われている。
すれ違った人間に、吸血鬼とばれてもおかしくは無い。
_
( ゚∀゚) 「おっと、通報する気も、どうこうする気無いからさ、変な気を起こさないでくれよ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「……つーか、ここまで来てまだ気づかないのか?」
('A`) 「何がだ」
_
( ゚∀゚) 「あれー?それなりに仲良かったつもりなんだけどな……」
238
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:35:48 ID:lSl8DXgg0
_
( ゚∀゚) 「……覚えてない?俺なんだけど」
('A`) 「……………………………???」
_
( ゚∀゚) 「ジョルジュだよ。中学校で一緒だった長岡ジョルジュ」
('A`) 「…………?」
_
( ゚∀゚) 「ほらよ、高速道路下のトンネルで一緒にエロ本をあさって読んだ!」
('A`) 「……あ!」
思い出した。十年以上昔のことなのですっかり忘れていた。
確かに、昔そんな頭の悪いことをしていた時期があった。
一緒に誰かいたが、確かにナガオカとかそんな名前だったと思う。
('A`) 「まさか、十円禿を「組織の奴にやられた」と拙い演技で語っていたあの……?」
_
( ;゚∀゚) 「やめて!」
('A`) 「常におっぱいおっぱい騒いで女子にゴミ溜めを見る目で見られていたあの……?」
_
( ;゚∀゚) 「やめて!」
('A`) 「女子の着替えを覗いて両親が学校に呼ばれたあの……?」
_
( ;゚∀゚) 「やめて!!めっちゃ覚えてるじゃんおまえ!!」
239
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:36:44 ID:lSl8DXgg0
思いのほか懐かしい再会に、気分が少し上がる。
だが、すぐに自制した。
ドクオは、吸血鬼だ。人間では無くなった。
その上今人を殺したばかりだ。
呑気に旧友との出会いを喜べるような状況では無い。
何より、長岡が話しかけてきた理由が分からない。
_
( ゚∀゚) 「いやーしかし、思いのほか早く見つけられたぜ」
('A`) 「……あ?」
_
( ゚∀゚) 「いやさ、手配書見てさ、探してたんだよ、お前のこと」
('A`) 「……懸賞金稼ぎでもする気か?」
_
( ゚∀゚) 「おいおい、ダチ公売ったりしねえよ
長岡が頭を掻く。言葉を選んでいるようだ。
旧友とはいえ、手配されている吸血鬼を探す目的とは何だ。
懸賞金の類なら可能性はある。顔見知りであることを利用して、油断をつこうとしているとか。
_
( ゚∀゚) 「あのさぁドクオ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「俺のこと、吸血鬼にしてくれねえか?」
('A`) 「……………………は?」
240
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:37:45 ID:lSl8DXgg0
おわり
三行
_
(*゚∀゚)∩
⊂彡
241
:
名も無きAAのようです
:2014/03/22(土) 23:46:34 ID:phSuwnGY0
乙
見事に三行で収まるな
242
:
名も無きAAのようです
:2014/03/23(日) 00:03:09 ID:sMv5T2p.0
乙
243
:
名も無きAAのようです
:2014/03/23(日) 00:44:45 ID:7k6zEjKQ0
乙乙
三行ワロタ
244
:
名も無きAAのようです
:2014/03/23(日) 01:29:05 ID:mbwa.w5Q0
おつ
245
:
名も無きAAのようです
:2014/03/23(日) 15:00:00 ID:ixBuhj6M0
乙
246
:
名も無きAAのようです
:2014/03/24(月) 02:57:13 ID:fAksANss0
次回も気になるな
乙
247
:
名も無きAAのようです
:2014/03/24(月) 08:57:59 ID:R4ayzcoM0
おつぱい!おつぱい!
248
:
名も無きAAのようです
:2014/03/24(月) 14:11:29 ID:qjuLdh2M0
三行ワロス
('A`)カッコいいな
249
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:33:04 ID:gpa8a09A0
Place: 草咲市 東芒二丁目 14 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 流石兄者 素直クール 美麗な少女たち
──────────────────────────────────
250
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:34:40 ID:gpa8a09A0
「これは、吸血鬼が住むのにおあつらえ向きなところですね」
草咲市の市街地の外れ。隣市である井谷市との境にその洋館はあった。
旧国道から少し外れ、最近開発の進んだ住宅地を抜けるとぽつりと突然現れる。
一つだけ明らかに年代が違う。
外観は、ほぼ廃屋同然。
敷地をぐるりと囲む鉄柵には、鉄線で「危険」の看板が括られている。
「行こう、流石くん」
「はい」
鉄格子の扉を封じていた鎖を、銃で断つ。
立派な住居侵入罪だが、やむを得ない。
所有者と連絡が取れないのだ。
そもそも、ちゃんとした管理人が存在するのかも怪しい。
いくらか調べていたが、それらしい人物が見当たらなかった。
相続の過程で漏れてしまったのか、それとも、意図的に所有者を不明な状況にしたのか。
ここが吸血鬼の根城であった、という話が真実味を帯びていく。
「二階のガラスが数枚割れているようだ」
「石ころや何かで割った、という感じでは無いですね」
251
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:37:41 ID:gpa8a09A0
洋館の入口にも、やはり鍵がかかっていた。
南京錠では無く、扉に備え付けの鍵だ。
受け継がれる上で改修を行わなかったのか、趣を重視して変えなかったのか。
洋館同様、鍵もかなりの年代もののようだ。
「流石くん」
「大丈夫です」
俺は専用の工具を、鍵穴に差し込む。
最新の錠は難しいがこれだけ古いものなら俺でも外すことが出来る。
鍵の職人がよほど凝ったことをしていなければ、10分もかからない。
予想通り、数分で閂が重い音を立てた。
ドアノブを慎重に捻ってみる。開いた。
各部の取りつけは、見た目の割にはしっかりしているようだ。
「流石流石くんなだけある。空き巣もお手の物だな」
「身に着けろといったのは素直さんでしょう。付け焼刃ですよ」
「いやいや。真剣に鍵穴を覗き込む姿は、熟練の盗人のそれだったよ」
無機質な、一定のトーンで冗談を言う。
ラジオの未選局ノイズの方がもう少し起伏と面白味に富んでいる。
俺は反論を辞め、工具の代りに取りだした懐中電灯で屋内を照らした。
252
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:39:01 ID:gpa8a09A0
中は、想像よりもいくらか綺麗に保たれている、ように見える。
床に埃が積もってこそいるが、掃除すればすぐにでも住めそうなほどだ。
一歩、踏み込む。
埃が舞い上がり、電燈の光の中で靄に変わった。
これが、『乙鳥ロミス』が生前隠れ家にしていたという屋敷。
「住人がいなくなってから数か月、といったところか」
ゆっくり奥に進む俺の後ろ。
埃を指で掬い取り、クールが呟く。
本当ならば事前に得た情報と合致する。
埃のつもり具合で推測した物なので断定はできないが、大よそ間違ってはいないだろう。
俺も、同じような感想を持った。
今のところ何かが潜んでいる気配は感じない。
埃からして、実際に何かがいるということも無いのだろう。
それでも慎重に歩を進めるのは、ここがあくまで吸血鬼の根城であったとされる場所、だからだ。
吸血鬼が、一国一城の主になるなど、普通は不可能だ。
そう言った手合いは底抜けに運が良いか、狡猾で賢く非常に用心深いかのどちらか。
後者であった場合、杭持ちに侵入された際に備えて罠の一つや二つしかけていてもおかしくは無い。
「こういった場所は、俺より素直さんが前に出た方がいいんじゃないですかね」
俺も人より五感が優れているつもりだが、クールには負ける。
クールは、六感まで含めて獣に近い感度を持っている。
罠の類を見破るなら、彼女の方が確実性が高い。
253
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:41:17 ID:gpa8a09A0
「もし私がうっかり罠にかかった場合、私が辛い思いをする。死ぬことすらあるだろう」
「はい」
「流石くんが罠にかかった場合、私は君に「間抜けが」と飽きれるだけで済む」
「はい」
「そう言うことだ」
成程確かに。言い得ている。
俺も、この場に部下がいれば先に歩かせて安全確認に使うだろう。
鉱山における小鳥のようなものだ。
彼女の意見には、賛同せざるを得ない。
俺のすることは一つ。罠があったら回避。
あわよくば、後ろに続くクールだけがその餌食になれば大変に愉快だ。
「さて、どうします?」
期待に反し、罠らしきものは無かった。
玄関ホールから続く広い空間。
左手にはダイニングらしいテーブルと椅子の置かれたスペースがある。
奥には恐らくキッチンがあるのだろう。
正面には二階へ続く階段。右手には客間らしい扉があった。
純粋な洋館というより、どこか日本建築の匂いを感じる。
元の主の趣味だったのだろうか
254
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:42:44 ID:gpa8a09A0
「二階へ行ってみよう。あのガラスの割れていた部屋が気になる」
「そうですね。」
これだけ調えられた内装で、ガラスだけを放置していたとは考えにくい
昔から割れていたのならば、きちんとした補修していたはずだ。
家主と仮定する、『乙鳥ロミス』が地雷女に殺されたという情報を信じるならば。
その現場はあの割れガラスの部屋である可能性が大いにある。
本人が殺された、あるいはそれなりの手傷を負い、ガラスを直す余裕が無かったのだろう。
もしこの予想があっていれば、他にも何か、手がかりがあるかもしれない。
階段下から二階を照らす。
白い、円形の光に照らされたそこを見て、俺とクールは顔を見合わせた。
登ってすぐの壁に、大きな血の跡がある。
それだけでない。壁のみならず階段の手すり、天井にまで破壊された痕跡があった。
埃を払えばすぐにも使える一階とは、大きな違いだ。
まさに天と地獄。地獄の方が上にあるあたり、なかなか面白い。
「行こう流石くん」
「吸血鬼が潜んでいて襲われるなんてことは」
「何を言っているんだ流石くん。居たら素直に殺せばいいだろう」
「流石ですよ、素直さんは」
255
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:43:38 ID:gpa8a09A0
一段登るたびに軋む階段。
左手で懐中電灯を逆手に持ち、その甲に銃を持った右手を置く。
何かがいるとは考えにくいが、念の為だ。
後ろには同じく銃を構えるクール。
この女のことだ。ついうっかり引金を引きたくなって俺の背中に発砲してくる危険性もある。
急がなければ。
二階も、一階と同じく埃が積もっている。
戦闘を行った形跡がある以外は下と同じだ。
「どう思う、流石くん」
「破損の状態から見て、爆発物ですね。が、焦げた臭いはしない。
それにこの壁や地面に張り付くような独特な発破痕。恐らく地雷女で間違いないかと思います」
「概ね同意見だ」
「ただ、少し疑問が」
「なんだね」
「地雷女がこれだけ血刑を駆使して戦った相手は、本当に乙鳥ロミスだったんでしょうか。
この状況を見るに、地雷女はかなりの苦戦をしています。
ほぼ無名同然の乙鳥ロミスにそこまでの能力があったとは思えません」
通称で「地雷女」と呼ばれる吸血鬼は、非常に高い戦闘能力を有することで知られている。
血刑もさながら、本人の膂力も高い。
過去には、仮死寸前の状態で五人の杭持ちを殺したという記録もある。
最近でこそ大人しいが、まぐれで善戦できる相手では無いのだ。
256
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:44:43 ID:gpa8a09A0
「では、地雷女と戦ったのは別の誰かであると、君は思うのかい」
「地雷女の目的が乙鳥ロミスであったことは、聞き込みの結果からして確実です。
何らかの情報を仕入れ、ここにたどり着き、ロミスと戦闘になった。そこまでは納得がいきます。
しかし、それにしてもこの有様に繋がる物でしょうか。
資料に辛うじて名前が載っていた程度の吸血鬼が、地雷相手にそこまで善戦できたというのがどうにも腑に落ちない」
資料のみならず、吸血鬼たちへの聞き込みでも、ロミスが力自慢の吸血鬼で無かったことはわかっている。
常に杭持ちや人間の迫害を恐れ、人目を避けて歩く。
それが多くの口から語られるロミスのイメージだ。
謎が多く、それらの情報が全てではないだろうが、武闘派であるような印象は一切無かった。
「よほど巧妙に力を隠していたか、別の協力者がいたか、あるいは」
言葉を切る。
クールの目が鈍く光った。
「既に名の知れた吸血鬼が偽名を騙っていた、と」
「可能性は無いことも無いかと。ただ、乙鳥ロミス、という「人間」は実在しました。
回収された死体は、乙鳥ロミスが吸血鬼化したものであると確認されています。
なので、実在する乙鳥を隠れ蓑にしていた別の吸血鬼が居た、と言ったところでしょうか」
「少々突飛な発想の気もするが。乙鳥が隠れた実力を持っていたと考える方が自然じゃないか」
「ええ。ただ乙鳥ロミスは3年前に吸血鬼になったばかりの、新参です」
窓ガラスが割れていた部屋へ。
やはり荒れている。
257
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:46:08 ID:gpa8a09A0
「地雷女と渡り合う力を、噂一つ立てずに隠しきれるものでしょうか」
壁には、爆破による破砕の他に刃物を突き刺したような創がある。
断面に擦れたような血の跡。血刑によるものだろう。
地雷女も血の硬化はできたはずだが、発破に大量の血を利用している。
これは『乙鳥ロミス』の物であると考えるのが妥当だ。
「この屋敷を手に入れた手際からして、異常だとは思っていたんです。
それに加えてこの有様。乙鳥ロミスには何かある気がしてなりません」
「ふむ、流石くんがそこまで気にかけるのならば、洗い直してみようか」
「ええ。基本的に俺一人でやる羽目になるんでしょうが」
「安心したまえ流石くん。コーヒーくらいは淹れようじゃないか」
眉間を揉みながら部屋を出る。
結局、「激しい戦闘があった」以上の情報は得られていない。
他の部屋も巡ってみるが、結果は同じだ。
「また空振りか。どうにもうまく進まんね、地雷の捜索は」
「地雷女と乙鳥が接触していたことを確認できただけでも重畳だと思いましょう」
258
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:47:21 ID:gpa8a09A0
この屋敷を見つけるまでにはそれなりの時間を食った。
正直、それに見合うだけの情報は得られていない。
表で破壊した鎖の事後処理も残っている。
骨折り損のくたびれ儲けとはよく言ったものだ。
得たものと言えば精々乙鳥ロミスの存在に対する不信感程度。
「なんだこれは」
最後に回った、戦闘の形跡が無い一室。
諦めて部屋を出ようとする俺の背後で、クールが呟いた。
振り返ると、部屋の隅にあったクロゼットを開けている。
そう言えばあのクロゼットはまだ見ていなかった。
他の部屋のものは、乙鳥が着ていたらしい紳士服の類ばかりで、特に価値は無かったのだが。
「これは、どういうことですかね」
覗き込んだ俺も少々驚いた。
クロゼットの中には、服がずらりと並んでいる。
ただし、これまでのような紳士服の類とは異なる。
子供服だ。様々な色の、鮮やかなドレス類。
どう見ても乙鳥ロミスが着られるサイズではない。
「どうやら、ただの趣味では無いらしい」
クールが下段の引き出しを開く。そこにも、衣類が詰まっていた。
ただし、ほとんどが下着だ。どれも子供用のサイズ。
ショーツとキャミソールはあるが、ブラジャーが無いところを見るに、10代前半か、未満の女児向け。
259
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:48:47 ID:gpa8a09A0
「どう思う流石くん」
クールの質問に、推測したことを素直に答えた。
「そうか」と答えた後、クールが意味ありげに俺を見る。
「流石は流石くんだ。女児の下着事情をそこまで推測できるとは」
「歳の離れた妹がいるんです。ずっと世話をしていたから、見慣れているんですよ」
「安心した。もし君に怪しい趣味があるとなると、さしもの私も少々戸惑うからね」
別の引き出しを開けるクール。
この女が戸惑うならば、少々異常性癖を騙ってもよかったかも知れない。
「見給え流石くん。ここ二つ分、引き出しに下着が入っていない」
「上のハンガーも、よく見ると一角が不自然に空いています」
「誰かが、服を持って行った」
「恐らくは」
「こんな服を持って行く人間がいるとすれば」
「変態か、使っている本人でしょうね」
「流石くん。ロミスの死に関して、保護された人間はいたか」
「資料には特に記載されていなかったかと」
260
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:49:51 ID:gpa8a09A0
乙鳥ロミスは、路上で死体が発見された。
運び捨てられたのではなく、逃走中に殺害されたとみられている。
故に、ロミスがこんな屋敷に住んでいたことも、今回調査を始めて初めて発覚したのだ。
杜撰に見えるかもしれないが、杭持ちが抱える吸血鬼の事件は多い。
脅威度も設定されていないような無名の死体に時間をかけてはいられないのだ。
「該当する時期に子供が保護されていなかったか、警察にも問い合わせてみましょう。
跡形も無く食い殺されていない限り、何か手がかりを持っている可能性もあります」
「そうだな。大穴で、その少女が君のいう乙鳥に隠れた吸血鬼と言いうこともあり得る」
「まったくもって、絞り込めない情報ばかりが増えますね」
「ぼやくなよ流石くん。一つずつ調べてゆくしかない」
その調べごとをほぼ俺一人で行っているのが問題なのだ。
眉間に寄った皺を伸ばしながら、一階へ。
地雷女の足跡は期待できそうにないが、今は乙鳥ロミスが気にかかる。
既に死んでいるので空振りだった場合非常に無意味なのだが、そうも言っていられない。
吸血鬼が潜んでいる気配は無いため、クールと二手に分かれて部屋を回る。
主な居住は二階で行っていたのだろうか。
まったく使われていないか、物置代わりになっている部屋ばかりだった。
最後に調べたダイニングで、日用品の備蓄を見つけた。
歯ブラシが、二種類ある。
大人向けの硬めのものと、小児向けの柔らかめのもの。
やはり、乙鳥の他に子供がいたことは間違いない。
万が一に人形趣味の可能性もあったが、予備の歯ブラシまで準備するとなると少々異常が過ぎる。
261
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:53:10 ID:gpa8a09A0
「流石くん、来たまえ」
ダイニングの調査を打ち切り、呼ばれたままクールの元へ。
彼女がいたのは、階段裏の廊下。
一見して何かがあるようには見えないが、熱心に壁を探っている。
「ここ、恐らく隠し扉になっている」
「本当だ。床板と壁に妙な隙間がありますね」
「開けられるか」
「こういうのは、見つけるのは難しくても仕掛け自体は簡単にしてあるのが定石なんですが」
壁の下部に、何やら頻繁に擦ったような、すり減った跡がある。
恐らくこれだろう。問答無用で蹴りつける。
閂が外れるような重い音がして、壁にまっすぐな線が入った。
仕掛けが外れたようだ。手をかけて引くと、扉となって地下への入口が現れる。
「流石だな流石くん。君に大泥棒の称号を与えよう」
相変わらず抑揚も感情も存在しない言葉を口から垂らしながら、クールが階段を下り始めた。
黴の匂いがする。肌に触れる空気も冷たく、中々吸血鬼の根城らしい空間だ。
クールの履くヒールが、高質な音を立て、響く。
深さは地下1.5階相当といったところか。階段を降り切ると、もう一枚扉があった。
木の板に、鉄製の輪の付いた古風なものだ。
262
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:56:09 ID:gpa8a09A0
「行くぞ」とクールの唇が動く。
俺は銃と懐中電灯を構え、頷いた。
クールが扉をゆっくりと開け、俺が銃を差し込むように中へ。
まず見えたのは石造りの壁と、壁に飾られた造花。
階段よりもさらに冷たい空気が、頬を撫でる。
背筋が震えた。単純な寒さでない何かを感じる。
現在視認できる範囲には誰もいない。
クールが勢いよく扉を開け、自分も銃を構えた。
二人で銃と懐中電灯を突き出し、部屋をぐるぐると見渡して、同じ一点で動きが止まる。
「流石くん、どう思う」
「まず真っ先に、悪趣味だな、と」
地下室は、壁を飾る造花だけでなく、床には派手な色の絨毯が引かれていた。
所々、真鍮の冷たさを造花で隠した燭台が置かれている。
そうか。ここは。俺は、胸の内で納得する。
同時に、どこかぼやけてはっきりしない乙鳥ロミスという存在の片鱗を見た気がした。
電燈の光の先には、棺を模した、小さなベッドが二つあった。
模した、というのは、この場合不適切になるやもしれない。
そこには、各一つずつ、白骨化した死体が寝かされている。
263
:
名も無きAAのようです
:2014/03/29(土) 23:58:11 ID:gpa8a09A0
まぎれも無く、人の骨だ。しかも子供。身長は推定で130未満。
幼年期の骨格からは性別の判断が難しいが、恐らくは少女だったのだろう
頭には長い髪の鬘がかぶせられ、体にはドレスを着せられている。
標本と同様の加工を施され、艶のあるアイボリーに輝くそれぞれの骨。
被せられた鬘は人間の髪の毛だ。本人の髪から作ったものと推測される。
死後いくら時間が経ったのかは分からないが、瑞々しさを失わず、電燈の光に輝いている。
「異常性癖にしても少し行き過ぎているな」
「悪意は感じませんが、なおさら悍ましいですね」
「クロゼットの主は、この二人だと思うか」
「仮にそうだとして、クロゼットの中身を持ち去った人間が他にいることになりますが」
少女の首に、ロケットが下がっている。
卵を半分に割った形の、写真を収納できるものだ。
クールに目配せして開く。中にあったのは、少女の写真。
生前の彼女だろうか。美しい。幼いが、人の目を惹く魅力がある。
ロケットの裏側には、「愛しき娘、ここに眠る」と彫られていた。
なるほど、これが墓標代りというわけだ。
「攫ってきた娘を洗脳し飼い殺しにしていたといったところかな」
「被害者は二人以上。少なくとも乙鳥の犯行とはばれていなかった」
「どうやら乙鳥への認識を改めなければならないようだ」
264
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:00:13 ID:yFy/OhgA0
乙鳥は恐らく誘拐した少女を家畜として飼っていた。
成人した女であれば色恋の感情を利用することも出来ただろうが、少女となれば別。
一時的に丸め込むことはできても、そう長くだまし続けることはそう簡単では無い。
ほぼ確実に、暗示の能力で洗脳したのだろう
長期的に暗示にかけるとなると、相当に強い能力だったと予測できる。
乙鳥の付いての情報が少ないもの、強力な暗示の能力で存在をごまかし続けてきたと考えれば辻褄は合うのではないか。
「流石くん、一旦戻ろう。地雷に含めて乙鳥の調査となれば、人手が要る。上に掛け合うぞ」
「動員してもらえますかね」
「そもそも地雷の捜索の人員が足りていない。意地でもさせる」
珍しくやる気だ。クールも、この件の不気味さに気づいている。
資料に記載されていた、脅威度の低い貧弱な「乙鳥ロミス」は偽りの姿だ。
別の個が存在していたのか、真の実力を隠し通してきたのかはまだ確定できないが、後回しに対処して良い存在では無かった。
地雷女が乙鳥ロミスを狙った理由はそこに起因する可能性がある。
さらに言えば、今現在草咲に留まる理由も。
「行くぞ、流石くん」
「ちょっと待ってください」
乙鳥をさらに調べるにあたって、この二人の少女についても調べなければ。
誘拐されたならば、警察に捜索願が出ているはずだ。
胸の墓標のロケット。写真だけで無く裏には名前も彫ってあった。
控えておけば役に立つだろう。そう思い名前をメモする俺の手が、二人目で止まった。
265
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:01:17 ID:yFy/OhgA0
「どうした、流石くん」
「いえ。ロケットに記されていたこの綴り、名前かと思ったんですが」
「違うのか」
「二人とも同じなんです。『Dere Shizunome』。ロケットのメーカーでしょうか」
「それも含めて、戻って調べるしかあるまいね」
足早に階段を上がるクールに続き、俺も地下室を出た。
散々彷徨った屋敷を、まっすぐ玄関へ突っ切る。
不法侵入についてどう言い訳しようか。
屋敷を出て扉を閉めた時に、思い出す。
吸血鬼の一匹でもいれば、始末するために侵入したと言い訳が立つのだがそうはいかない。
結果として収穫は悪くなかったが、むしろだからこそ上司にはねちねちと説教を受けるだろう。
無意識にため息が出る。
「どうした流石くん」
「いえ、有能な上司を持つと大変だなと」
「流石の私も嫌味だと分かるぞ、流石くん」
相変わらず無感情な言葉。
分かっているなら、少しは改めて欲しいものだ。
眉間の皺を揉みほぐしながら、俺はクールと共に件の屋敷を後にした。
266
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:02:00 ID:yFy/OhgA0
おわり
三行
ホーン
デッド
マンション
267
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 00:10:37 ID:TTI6h67o0
乙
無機質なやり取りがいいね
268
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 01:39:11 ID:dpkZv5eo0
色々繋がってきたな
乙
269
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 10:34:51 ID:tEDCmOiM0
おつ
270
:
名も無きAAのようです
:2014/03/30(日) 13:32:00 ID:mn9bRbd.0
激しく乙
二人のキャラが面白いね
271
:
名も無きAAのようです
:2014/04/01(火) 12:22:33 ID:lsKCHDgk0
乙
272
:
名も無きAAのようです
:2014/04/02(水) 21:36:59 ID:YtyGnbik0
おつ
273
:
名も無きAAのようです
:2014/04/03(木) 15:46:47 ID:JQARjULAO
乙
ロミスは何者なんだ
274
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:11:39 ID:bz.gAPiE0
Place: 草咲市 戸津釜町 字上弦 122-119
○
Cast: 内藤ホライゾン 津雲ツン 南茂ネーノ 大天福ショボン 天主堂モララー
──────────────────────────────────――
275
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:12:30 ID:bz.gAPiE0
ξ,゚⊿゚)ξ あんたもおかしいと思うでしょ、ブーン。
何のことだか、全く分からなかったが、僕はとりあえず「はい」と返事をしておいた。
いつものことだ。分かっても分からなくても間違いでも関係ない。僕はどうせ「はい」としか言わない。
もし仮にここで僕が「でも」なんて口走ったらツンはみるみる不機嫌になって唇を尖らすだろう。
彼女がご機嫌でいる。僕が守るべき正義は、その一つだけだ。
ξ,゚⊿゚)ξ 私らの目的ってさ、密かに殺人を犯してるやつらのおびき出しじゃない?
なんでこんな、巡回の真似事みたいなこと……。
( ^ω^) 仕方有りませんお。緊急事態なんですから。
ああなるほど。合点がいった。
杭持ちと一言で言っても、仕事にはいくつかの種類がある。
僕たちが今応援に出されているのは、街中を警邏し、通報や目撃証言にその場で対応、吸血鬼を撃破する「警邏」。
吸血鬼と対する機会が多く、一般に「杭持ち」というとこれに当たる。
本来僕たちは、密かに吸血鬼の情報を集めあぶり出す「特務」。
直接真っ向から吸血鬼と戦うのには慣れていない。
ツンは、そこに不満があるのだ。「こんなのは私たちのやり方じゃない」と憤慨している。
( ^ω^) 先輩、まだそいつ生きてます
ξ,゚⊿゚)ξ ああ、もう、しつこい。
276
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:13:39 ID:bz.gAPiE0
ツンの足元には、一人の吸血鬼が倒れている。
背中に大きな傷。僕が斧で殴ったものだ。
頭は半分が抉れている。これはツンが散弾で撃った。
運が良かったのか悪かったのか、まだ辛うじて息がある。
ここからの蘇生は無理だろうが噛まれて血を吸われては大変だ。
ツンは面倒くさそうに、弾丸を一発、残った頭部に撃ちこんだ。
ξ,゚⊿゚)ξ ブーン、清掃呼んでおいて。
( ^ω^) もう連絡しておきました。5分くらいかかるそうです。
ξ,゚⊿゚)ξ はー、もう、最悪。
( ^ω^) あ、先輩。
ξ,゚⊿゚)ξ 何よ。
( ^ω^) 顔、血がついてます。
ξ,゚⊿゚)ξ マジ?
( ^ω^) あ、手で擦っちゃダメですお。じっとしててください。
僕はポケットからハンカチを取りだして、ツンの頬に就いた返り血を拭い取る。
大人しく顔を差し出したツンは憮然として、明後日の方向を見ていた。
( ^ω^) ウェットティッシュもありますけど。
ξ゚⊿゚)ξ いらない。帰ったらすぐにシャワー浴びるわ。
277
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:15:18 ID:bz.gAPiE0
吸血鬼の血は、凶器だ。
硬質化して武器にする者から、遠隔操作する者。
最近では、毒を作り出す吸血鬼も現れた。
今回の相手は硬質化すらできない雑魚だったから、特別害は無いだろうけれど
やはり血がついたのをそのままというのは気分がよくない。
( ^ω^) まだ戻れませんし、一応拭いておきましょう。
ξ゚⊿゚)ξ いいって、もう。しつこい。
どうにもご機嫌が斜めなようだ。
これ以上何を言っても無駄だろう。
仕方なく、僕は使った武器類(特にツンが散らかした薬莢)の片づけを始めた。
放っておいても清掃の方々が処分してくれるが、そこまで世話になるのはちょっと申し訳ない。
ξ;゚⊿゚)ξ げえ、シャツにもついてる。買ったばっかなのに。
( ^ω^) 仕事に新しいの着てくるから……。
ξ゚⊿゚)ξ 仕事用に買ったんだもん
( ^ω^) じゃあ別にいいじゃないですかお。
ξ゚⊿゚)ξ 良くないの。それと汚れるのは別なの。
よくわからない。
もしかしたら彼女の言葉に納得できたことの方が少ないかもしれない。
278
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:16:41 ID:bz.gAPiE0
やってきた清掃班にいつものように文句を言われながら、僕らはその場を後にした。
清掃班と一緒に居る姿を見られるのは好ましくない。
子子子ギコ達には存在がばれてしまったけれど、あくまで僕らの仕事は「釣餌」なのだから。
裏路地を抜けて、比較的広い通りに出た。
人はまばら。吸血鬼には慣れているこの街だけれど、やはり日が沈むと皆外出を控えるようになる。
見かける人も、どこか不安げで、足早に目的地を目指しているように見えた。
ξ゚⊿゚)ξ ……どうする?
( ^ω^) 何をですか?
ξ゚⊿゚)ξ 正直、一人狩ったし、もう戻ってもいいでしょ。
( ^ω^) ……そうですね。僕らは、仮にも未成年ですし。
警察官に見つかると、厄介だ。
吸血鬼から街を守っているのは杭持ちだけでは無い。
直接的な実力行使はできないものの、警察各位もまた、各々の仕事の範囲で市民の保護に努めている。
奴らの活動が活発になる夜間にどう見ても未成年の僕たちが歩いていれば、確実に声をかけてくるだろう。
僕らは正式でありつつも、本来表に出る杭持ちでは無い。
身分を証明すれば警察の補導を突っぱねることが出来るが、その分存在が明るみに近づくことになる。
既に一部にばれたとはいえ、開き直るにはまだ早い。
279
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:17:59 ID:bz.gAPiE0
ξ゚⊿゚)ξ ……結構前から、思ってたんだけど。
( ^ω^) はい?
ξ゚⊿゚)ξ なんであんた、私たちが杭持ちってバレるのそんな嫌がるの?
( ^ω^) いや、僕らは正体ばれたら仕事になりませんし。
ξ゚⊿゚)ξ そうだけど。後輩は順調に育ってるし、仮にばれても問題ないじゃん。ぶちょーもそこまで厳しく言ってないしさ。
( ^ω^) ……。
確かに、そうだけれど。
僕たちの代りは、既に数組育成が終わり、試用段階に入っている。
そして餌の任が終われば、僕たちは先人と同じく、堂々と杭持ちを名乗ることになるだろう。
今回、警邏に回されたのは、そう言った先を見据えてのことだと、僕は睨んでいる。
だから、だから問題なのだ。
仮に餌の任を解かれるとして、その最後は正体を明かされる形であってはならない。
( ^ω^) だって、先輩だって警邏の仕事嫌がってるじゃないですか。
ξ゚⊿゚)ξ 畑違いだから嫌なだけ。ちゃんと任命されれば、ちゃんと訓練して、文句言わずにこなすわよ。
「あんた、私のことどんだけ舐めてんのよ」と、ツンは僕の足を優しく蹴りながら付け足した。
あなたがそういう人だから、僕がこんなに気を使ってるんです。
喉まで出かけた言葉を引っ込める。僕の正義は、彼女のご機嫌を保つことだ。
280
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:18:57 ID:bz.gAPiE0
( ^ω^) 部長に連絡して、指示を仰ぎますか。
ξ゚⊿゚)ξ そうして。もう、足がパンパンよ。
( ^ω^) つか、いい機会なんでちゃんと体鍛えてくださいよ。
ξ゚⊿゚)ξ うっせ、ブーンの癖に生意気。
端末を操作して部長への電話番号を探す間、ツンが執拗に僕の脇腹を殴る。
僕は警邏の先輩に混ざって日頃から訓練しているので、ツンに小突かれたところでまったく平気だ。
まあ、ツンも僕が痛がらないのを分かってやっているのだけれど。
( ^ω^) ―――――失礼します。内藤です
呼び出し音が止まり、女性の声が応えた。
部長だ。僕は空いている手でツンを制し、現在の状況と、今後の行動の指示を仰ぐ。
しつこいのでツンに背を向けた。少しして攻撃が止む。
気が済んだらしい。
( ^ω^) ――――――はい。わかりました。ありがとうございます。
部長との通話を終える。
一先ず部屋に戻ってもいいらしい。
( ^ω^) 先輩、部長から許可が出たので帰りましょ……う。
振り返った視線の先に、ツンの姿は無い。
サラ金のチラシが張られた電柱があるだけだ。
僕の背筋を、電流とも冷気とも取れない何かが駆け巡った。
281
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:20:20 ID:bz.gAPiE0
( ;^ω^) 先輩!
ツンは、たしかにバカだ。
聞き分けが無いし、我ままだし頑固だし自分勝手だ。
けれど、トイレであろうとなんであろうと、僕に一言も告げず姿を消したことは今まで一度も無い。
そうなれば、可能性は一つ。
( ;^ω^) 糞ッ
端末を取り出し、操作。
地図を起動して、ツンの端末情報を入力する。
( ;^ω^) いた!まだ遠くない!
いかにも杭持ちな仕事をしていたせいで、失念していた。
僕たちは他者から見て「普通の」、「どこにでもいる」、「ちょっと頭の悪そうな」、「高校生」だ。
不審者や、吸血鬼には、絶好の的。
通話に集中する僕と、それにちょっかいを出すツンは、いい獲物に見えたはずだ。
油断していた。愚かだった。
一体吸血鬼を狩り、いつもの癖でつい仕事を終えた感覚になってしまっていた。
( ;^ω^) これだから、僕は!
鞄を開け、すぐにでも斧を取りだせるようにして、ツンを追う。
僕らは常にGPS付きの端末を持ち歩いている。
ツンが攫われたのなら、その反応をたどれば追いつける。
282
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:21:22 ID:bz.gAPiE0
セオリー通りに、裏路地へ入ってゆく。
旧家の間を縫うように道が走り、さらに隙間を埋めるようにビルや新興住宅が立ち並ぶ草咲市街外円。
まさに意図せず作られた都市迷路だ。吸血鬼が好む理由の一つだろう。
相手は、この地形に慣れているようだ。
小柄とはいえ人一人抱えて移動しているのに、全く追いつけない。
ツンも杭持ちの端くれ。むざむざ殺されたりはしないはずだけど、こうも大人しく引っ張られているとは。
何かされているのか?
地面を見る。暗くてはっきりしないが、血痕は無い。
手傷は負っていないと期待しよう。
路地の向こうから、けたたましい音が聞こえた。
自転車が倒れた音、だろうか。
端末を見る。敵方の動きが止まった。
チャンスだ。
車一台通るかどうかの細い路地をまがった先。
自転車と、それに乗っていたと思しきサラリーマンが倒れている。
塀の壁に消えるツンの足を見た。
やっぱり誰かに抱えられている。
斧を引き抜く。
自転車を飛び越える。
角を曲がる。
見えた、ツンを肩に担ぎ、走る男。
283
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:22:38 ID:bz.gAPiE0
( #゚ω゚) こんっ
斧を横に振りかぶる。
( #゚ω゚) のっ!!
地面すれすれを、這うように投擲する。
回転しながら飛んだ斧は、男のアキレス腱に直撃した。
血が吹き出し、男が倒れる。
ツンの体が投げ出された。地面を転がる。力が無い。意識を失っている。
僕は足を止めず、立ち上がろうとした男の背中に、
( #゚ω゚) どっせ!!
跳び蹴りを叩き込む。
力強い感触。男は倒れたが、僕も蹴り抜くことはできず、反動でやや後退する。
だが、勢いを止めるつもりはない。
空中で後転し着地。屈んだまま、裾から僅かに除く金属に手を伸ばす。
引き抜いたのは、短杭。
通常の杭よりもやや短く、隠し持つのに優れている。
僕は杭を逆手に持ち、再び男に迫った。
狙いは背中。肋の隙間から心臓を突く。
284
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:23:58 ID:bz.gAPiE0
( # ω ) ッ!
完全に決まると油断した僕の腹に、男の左足が突き刺さる。
咄嗟に筋肉を固めたが、余り効果が無い。
喉の奥に酸性の臭いが込み上げた。
その隙に。男は腕で体を支え上げる。
カポエイラ。あるいはストリートダンスのように体を回転。
振り回した足で僕の顎を蹴り抜きに来る。
躱せない。
蹴りを見切り、足の直撃する寸前、頭を自ら横へ流す。
衝撃。ダメージは軽減できたが、それでも直撃には変わらない。
ふらつきながら、下がる。
体の力が、一瞬、眠りに落ちるあの瞬間のように消えた。
すぐに取り戻すが、杭が手から落ちかける。
( `ー´) ……本当に厄介な街じゃネーノ。まさかガキの杭持ちがいるなんてナ。
よろりと、男が立ち上がった。
上下そろいの黒のジャージ。
足の傷は、既に血が止まっている。
( #^ω^) ……ツンを返せ。
( `ー´) つってもガキはガキじゃネーノ。大人しく下がれば見逃してやるんじゃネーノ?
( # ω ) ……聞こえなかったのか。
285
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:25:45 ID:bz.gAPiE0
( #゚ω゚) ツンを返せ!
( `ー´) んべぇ
ふらつく足を無理やり動かし、踏み込む。
男の顔が、笑顔に歪んだ。
しまった、と思った時には遅い。
僕の突き出した杭は空を切り、すり抜け間を詰めた男の手が、顔面に迫る。
迅い。堅い掌が、鼻を、頬骨を押しつぶす。
男の手は、そのまま僕の頭を鷲掴んだ。
頭蓋を締め付ける、骨ばった長い指。
抗いがたい痛みが意識を支配する。
( `ー´) 俺が逃げたのは、あくまで悪目立ちしねえためよ。お前にビビったわけでもなんでもねえ。
( ω ) が、ぐ……。
( `ー´) あんま舐めんなよ。お前程度の雑魚が俺に食いつくこと自体が間違いなんだぜ?
足が地面から離れた。
頭を締め付ける力がより強くなり、意識が赤と白に明滅する。
口が閉まらない。涎が顎を伝って落ちるが、僕の手は男の腕を掴む以外の動きをできない。
( `ー´) まあ、斧で足を狙ったのは正解だよ。お前が真面に戦って俺に勝てていたならな。
286
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:26:38 ID:bz.gAPiE0
男が、僕を軽々と振り、民家のブロック塀に叩き付けた。
衝撃。体を伝って聞こえた何かの砕ける音は、壁か僕の骨か。
痛みで意識が濁る。堪えることすらできず、はね返るまま地面に倒れた。
( `ー´) つか、お前と一緒に居たってことはこの娘も杭持ちか?随分起伏のねえ旨そうな体してるんだが。
ツンの体に起伏が無いのは狙ったものだ。
過度に筋肉や脂肪をつけた人間を吸血鬼は嫌う。
餌としての使命を全うするため、ツンは少女然とした細くも太くも無い体型を維持している。
なので当然戦闘力は下がる。
故に多少筋肉質でも違和感のない男の僕が、護衛兼戦闘役として付き添っていたというのに。
( `ー´) ま、いいや。とりあえずお前は死ね。
男の爪が伸びる。
コイツ、膂力の高さと良い、血刑よりも身体改造に秀でたタイプ。
格闘戦を挑んだのは失敗だった。未熟な僕が単体で挑んで何とかなる相手じゃない。
( `ー´) 安心しな。お前の相棒は、俺が吸い殺して、ちゃんと吸血鬼に作り替えてやるからよ。
男が腕を振り上げた。
日が沈みきり、点灯した街灯が、その鋭い人外の腕を黒い影に代える。
体に力が入らない。
悔しさに歯を食いしばることすら、できない。
287
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:28:21 ID:bz.gAPiE0
「 大 天 福 ト ル ネ ー ド ! ! 」
.
288
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:29:49 ID:bz.gAPiE0
死を覚悟した僕の目の前、何かに驚き横を向いた男が、慌てて大きく飛びのいた。
長い杭を振り回し入れ替わりに現れた別の人影は、僕に一瞥もくれず男の後を追う。
( ;^ω ) お……?
何が起こったのかを理解したのは、
( ・∀・) 大丈夫かい内藤君
天主堂モララーの優しい笑顔を見た時だった。
彼は腕にツンを抱き、僕の前に屈み込む。
( ・∀・) 間に合ってよかった。怪我は……動けるかい?
( ;^ω ) モララーさん?どうして、ここに?
( ・∀・) 君の叫び声がね、聞こえたんだ。うちの先生はそこらの獣より五感が優れているから。
視線で、もう一人の人影を追う。
見覚えのある背中。最強と名高い杭持ち、大天福ショボン。
吸血鬼と格闘戦を行って圧倒する、数少ない強者の一人だ。
( ・∀・) ここいらの路地は不慣れで、辿り着くのに時間がかかってしまった。申し訳ない。
( ;^ω ) あの、モララーさん
( ・∀・) なんだい?
( ;^ω ) ツンは、僕が預かりますから、大天福さんの援護に……
( ・∀・) 今の君じゃ無理だろう。それに…………
289
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:30:32 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 必要ないよ。援護なんてね
( ;^ω ) で、でも、あの吸血鬼たぶんA級並の……ッ
言いかけた僕の目に映ったのは、いたるところから血を吹いて立ち尽くす吸血鬼の姿と。
杭に付いた血を払いながら既に背を向けている、大天福の姿だった。
(´†ω・`) ……大天福アイアンメイデン。
男は全身に無数の刺し傷があった。ただ乱雑に刺したわけじゃない。
人体の前面にある急所の一つ一つ、そして動作の起点となる腱や筋を的確に断っているのだ。
心臓と脳は避けているが、これではいくら生命力の高い吸血鬼でも身動きが取れない。
男が白目を剥いて崩れ落ちた、。既に意識が無い。血刑を持っていたとして、これでは使えないだろう。
速い。あの男は、確実に強かった。
仕事上B級の武闘派を狩ることもあるからわかる。あいつはそれ以上だったはずだ。
それを一人で。
しかもこの短時間に、こうも正確に。
(´†ω・`) ……無事かホライゾン。
( ;^ω ) あう、はい。
(´†ω・`) よくやった。恐らくあれは最近の吸血鬼頻出のカギを握っている。この段階で捕らえられたのは重畳。
( ;^ω ) ……。
(´†ω・`) お前は元来の囮の役目を果たし、俺をこの場へ呼んだ。それで十分よ。
290
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:31:31 ID:bz.gAPiE0
そんなことは無い。僕は、ツンをみすみす攫われ、役目を見失って単独行動に走り、結果負けた。
大天福さんたちが傍にいたのは運が良かったに過ぎない。
もし彼らが居なければ、僕は殺され、ツンも死に、吸血鬼は意気揚々と逃げ延びていた。
( ; ω ) ……申し訳、ないです
(´†ω゚`) 大天福は正義でなければならない!! ド ン !!
( ;^ω^)そ ビクッ
(´†ω・`) 大天福に救われることを恥じることも感謝することも必要ない。
( ;^ω^) ……
(´†ω・`) お前が自分の正義に反したと自覚するならば、それは俺に謝ることではないだろう。
( ; ω ) ……はい。
(´†ω・`) モララー。回収班に生体捕獲の連絡を。
( ・∀・) しておきました。入り組んでいるので時間はかかるでしょう。
(´†ω・`) 咲名か?
( ・∀・) はい
(´†ω・`) ならすぐに来るだろう。ここは俺に任せて、お前はホライゾンと津雲を病院へ連れて行け。
291
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:32:37 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 動けるかい内藤君。さすがに、君と津雲ちゃんの二人を運ぶのはちょっと難しい。
( ;^ω^) ハイ……なんとか、大丈夫です。
( ・∀・) 近くに僕の車がある。そこまで辛抱してくれ。
モララーさんに手を取られ、何とか立ち上がった。
肋骨の、背中側が痛んだ。恐らく折れているのだろう。
鈍く耐え難い痛みが、深い呼吸を阻害する。
( ・∀・) 無理はするんじゃないよ。救護班を呼んでも構わないんだから。
( ;^ω^) 大丈夫です、動けます。
ツンを軽々と抱えるモララーさんの後ろを、ゆっくりとついて行く。
呼吸を調え、痛みを緩和しようと試みるけれど、むしろ痛みが増す。
モララーさんの車は、僕にとっては酷く長い道のりだったけれど、確かに近くにあった。
杭持ちが借り上げている月極駐車場。
普段警邏の人たちの移動車の駐車や、救護、処理班の待機場としても利用されている。
ツンを助手席に座らせて、モララーさんは僕のために後部のドアを開けてくれた。
292
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:33:35 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) 病院までそうかからないだろう。もうしばらくの辛抱だ。
( ;^ω^) あの、モララーさん。
( ・∀・) ん?
( ;^ω^) ツンは、一体、何をされたんでしょう。
( ・∀・) ああ、恐らく、吸血鬼の催眠術で意識を封じられたんだろう。
( ;^ω^) それは……。
( ・∀・) 大丈夫、と迂闊には言い切れないけど、しばらくすれば目を覚ますと思うよ。
( ;^ω^) そう、ですか。
( ・∀・) だから君は、自分の身を案じていたまえ。度合いで言えば君の方が重体だ。
( ;^ω^) ……はい。
車は細い路地を抜け、比較的広い道に出た。
時々路面が荒れたところで車が跳ね、息が詰まるほどの痛みが襲う。
歯を食いしばるが、それすら痛みに繋がる。
多少慣れてきて、痛みの発生元が分かってきたが、左の肋が折れている。
恐らく二本。完全に断裂しているというよりは、罅が入っている感覚だ。
293
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:36:34 ID:bz.gAPiE0
( ;^ω^) ……すいません。ご迷惑を、おかけして。
( ・∀・) そうだね。キミがもう少し慎重に行動していれば、同じ結果をいくらか少ない代償で得られただろう。
( ;^ω^) ……。
( ・∀・) 僕は先生と違って、そこは厳しくさせてもらうよ。一応、君に戦闘技術を教えている立場でもあるし。
( ;^ω^) はい。
( ・∀・) 足を潰したのは、良い判断だ。お蔭で、敵は先生相手でも逃走という選択肢を選べなかった。
( ;^ω^) ……。
( ・∀・) だけど、それだけだね。キミのことだから、津雲ちゃんを攫われて頭に血が上ったんだろうけど。
( ;^ω^) ……はい。
( ・∀・) 常々言っているように、吸血鬼と相対したら誰よりも冷静でいなければならない。
どれだけ奮起しても、激昂しても、根っこの思考回路は冷たくあらねばならない。
君にとって、津雲ちゃんが特別な存在であることはわかるけれど、だからこそ、それを忘れてはならない。
( ;^ω^) はい。
( ・∀・) 津雲ちゃんを、守りたいなら、ね。
294
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:37:45 ID:bz.gAPiE0
( ・∀・) なんて、君は賢いし、素直だから態々こんなことを言わなくても自分で反省できるだろうけど。
( ;^ω^) えっと……
( ・∀・) それに、僕らも人に偉そうな説教言える身分でもないんだよね。こないだは油断して死にかけたし。
モララーさんの口調が、柔和なものに戻る。
そこからは、他愛のない世間話だけになった。
学校はどうか、とか。友達とは上手くやっているのか、とか。
モララーさんは、所属こそ違え、僕とツンに非常に世話を焼いてくれている。
杭持ちとしての訓練はもちろん、私生活の相談にも乗ってもらったことが何度かあった。
僕に斧を使うように指示したのも、ツンに精密な射撃の腕を仕込んだのもモララーさんだ。
病院に着くと、すぐに診察室に通された。
杭持ちが多大な寄付をしている病院で、融通が利くのだと、モララーさんに教えてもらったことがある。
僕はやはり肋骨に罅が入っていた。
幸いにして骨にずれは無く、内臓の損傷も無いため、数日の入院で済むとのこと。
ツンも、モララーさんの予想通り、速ければ今日の内にも目を覚ますだろうとのことだった。
近くに僕がいたこと。そして杭持ちの警戒が高まっていたことから、十分に催眠をかける余裕が無かったのだろう。
今は、僕とは別の棟で眠っていると、後から来た部長に知らされた。
モララーさんは、僕が診察を受けている時点で大天福さんの元へ戻った。
事後処理などもあるのだろう。よく、ぼやいているのを聞いたことがある。
295
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:38:49 ID:bz.gAPiE0
( ^ω^) (そう言えば)
深夜の病室。僕は肋骨の痛みで上手く眠ることが出来ず、カーテンを開けて外を見ていた。
月が出ているので、かなり明るい。五階にあるこの病室からは、ある程度街を見下ろすことが出来る。
( ^ω^) (大天福さんは、アイツを最近の吸血鬼頻出事案のカギだと言っていた……)
( ^ω^) (あの、リストにすら載っていない無名のことを……なぜだ?)
自慢では無いけれど、僕は吸血鬼のリストをすべて頭に入れている。
脅威度が低い者たちについてはうる憶えであることは否定しないけれど、B以上となれば絶対に間違いは無い。
どんな敵がいるのかを把握しておくことは、僕たちにとって最上の護身術になるからだ。
でも、今日のあの吸血鬼は、そのリストの中には存在しなかった。
だから僕は下等な吸血鬼と思い込んで、応援を呼ばず自ら追跡した。
言い訳では無いけれど、もし初めからB以上と分かっていれば、その段階で応援を要請している。
そんな、リストに乗らない、把握されていない吸血鬼が「カギ」。
( ^ω^) (いや、むしろ、だからこそアイツが鍵であると予想が立つのか?)
( ^ω^) (突如現れた無名の想定脅威度Aクラス。確かに、異常の原因であると睨むのは間違った解釈じゃない)
( ^ω^) (けど……)
既に把握されている吸血鬼たちへの捜査もまだ4割すら進んでいないと聞く。
その中で大天福さんは「無名でありながら脅威度の高い吸血鬼」が原因であると断定しているようにすら見えた。
彼は、少し抜けているところこそあるけれど、モララーさん込みで考えれば下手な思い込みなどしないはず。
あの人間離れした動物的直感によるものだろうか。なんにせよ、なんだかはっきりとしない。
296
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:39:51 ID:bz.gAPiE0
( ^ω^) (子子子ギコが僕らを知っていた件もあるし、なんだか、きな臭いな……)
( ^ω^) (杭持ちを悪い組織だとは思わないけれど、でも、やっぱり僕は……)
ガラス窓越しに、遠い銃声が聞こえる。
やっぱり、まだ吸血鬼との戦闘はあるんだ。
今回は何とか助かった。でも、次はどうなる。
僕が油断せず、実力をつけていけば、何とかなるのだろうか。
本当に僕は、ツンを杭持ちにさせてしまっていいのだろうか。
< コンコン
( ^ω^)´
外の明るさとは対照的に、陰りはじめた僕の思考を止めたのは、か弱いノックの音だった。
看護師の巡回、にしてはなんだか気配が違う。そもそも、足音がまったくしなかった。
僕は反射的に枕の下に手を伸ばした。
「武器が無いと不安でしょう?」と上司が置いて行ってくれた銃と短杭を取りだす。
傷には確実に響くが、有事に何もできないよりはいい。
扉が、ゆっくりと開いて、金色の髪が、差し込む月光の中で揺れる。
|⊿゚)ξ ブーン、起きてる?
( ;^ω^) センパイ?!どうして!
ξ;`⊿´)ξ ちょ、しーっ、しーっ、
b
297
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:40:54 ID:bz.gAPiE0
「病室を抜けだしてきた」と簡潔かつ理解しがたい言葉を吐いてツンは僕のベッドに腰を掛ける。
顔を見て安心した。催眠を受けた後遺症のようなものは一切無い様だ。
むしろぐっすり眠って元気いっぱいですらある。
ξ゚⊿゚)ξ 正直記憶は飛んでるんだけど、枕元に部長の置いてったメモがあったから大体は把握しているわ。
そう言って、ツンは僕の鼻に、自分の鼻を突きつける。
どきりと心臓が跳ねて、傷がずくりと痛んだ。
ξ゚⊿゚)ξ 怪我の具合は、どうなの?
( ;^ω^) 大したことは無いみたいです。激しい運動しないでいれば、一か月かそこらで治るって。
ξ゚⊿゚)ξ ……そう。
安心したように、ツンは僕から離れる。
心配してくれていたのだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ 悪かったわ、迂闊にも吸血鬼に攫われるなんて。
( ^ω^) それは、僕のセリフです。むざむざ先輩を危険な目に……
ξ゚⊿゚)ξ それでも、怪我をしてまで助けてくれたじゃない。
「怪我をしたのは自業自得だし、そもそも真の意味であなたを救ったのは僕では無く大天福さんです」と、言わなかった。
少しだけ、彼女に感謝されるという、あり得ない恩恵を味わいたい欲が出た。
彼女の言葉は僕を締め付けていた後悔と自責の念を、次へ繋がる力に変えてくれる。
298
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:44:59 ID:bz.gAPiE0
ξ゚⊿゚)ξ でも、こんなんじゃ、私たち囮役失格かな。
( ^ω^) そんな……
ξ゚⊿゚)ξ だって、囮として吸血鬼を釣って殺すのが仕事なのに、本当に攫われてんのよ?
( ^ω^) まあ
ξ゚⊿゚)ξ 相手が所構わず殺しをするような奴だったら、きっと私は死ぬだけで終わってた。
( ^ω^) ……
そろそろちゃんと覚悟決めないとね。
あまりに小さい声だったけれど、ツンは多分そう言った。
そんな必要はない。
子子子ギコたちにしか顔を知られていない今なら、まだ。
ξ゚⊿゚)ξ じゃ、戻るわ。バレて騒ぎになっても嫌だし。
( ^ω^) そうですおね。
ξ゚⊿゚)ξ あんたはちゃんと怪我直しなさいよ。あんたいないと私のこと守る奴いないんだから。
( ^ω^) 分かってますって。
ツンが部屋を出てゆく。
僕は何も言わずそれを見送って、布団にもぐりなおした。
そうだ。早く怪我を治さなくては。
僕の仕事は、知恵熱で頭を湯立たせることでは無く、彼女の傍で、彼女を守ることなのだから。
299
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 18:46:06 ID:bz.gAPiE0
おわり
三行
拉致昏睡
惨敗骨折
乱入圧勝
300
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 19:02:23 ID:8Xlh0aGk0
乙
杵持ちメインの話は健全だな
301
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 19:19:58 ID:SO5cxzy60
大天福先生はださかっこいいな!
302
:
名も無きAAのようです
:2014/04/29(火) 21:50:02 ID:PACmpjDwO
ω・)乙。流石は大天福先生
303
:
名も無きAAのようです
:2014/04/30(水) 02:52:36 ID:uCDPBYDg0
乙でした
大天福先生は格好いいんだか悪いんだか
304
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:52:11 ID:D90ZIRLo0
Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ205号室
○
Cast:都村トソン 都村ミセリ 棺桶死オサム
─────────────────────────────
305
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:53:19 ID:D90ZIRLo0
扉が開いて閉まる音で、目が覚めた。
静かにしようという心はは感じられたが、周囲があまりに静かなので嫌でも耳につく。
どこか覚束ない足音。妙な胸騒ぎがして、体を起こした。
ミセ* ー )リ 「もしかして、起こしちゃった?悪いな、トソン」
薄暗く顔がよく見えないが、間違いなくミセリだった。
息が荒い。努めて明るくしているようだけれど、強がりなのが寝ぼけた頭でもすぐに分かる。
(゚、゚トソン 「どこ行ってたんですか?こんな夜中に」
ミセ* ー )リ 「ちょっと寝付けないから、散歩にね」
嘘だ。
寝付けなくて散歩に行ったならば、私に声をかけるはずだ。
急にいなくなれば私が無暗に心配することを、彼女は理解しているから。
ミセ* ー )リ 「悪いついでに、一口、飲ませてくれね?渇きが、辛いんだ」
半ば倒れ込む形で、ミセリがベッドへ。
返答を待たず手を私の肩へと伸ばす。
余裕が無い。いつものように、ただ空腹になったという風には感じられなかった。
そもそも、昨日の晩、寝る前に少し多めに飲ませていたはずなのに。
(゚、゚トソン 「……私も貧血になってしまうから、あまり飲まないでくださいよ」
本当であれば、抜け出していた理由を含め、色々と事情を聴きたいところだったけれど、
あまりに辛そうなので血を飲ませることを優先した。
苦悶の中に、安心を滲ませた表情で、ミセリが私に凭れかかる。
パジャマの胸元をはだけさせ、ミセリの牙を、そこに受け入れた。
306
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:54:13 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン (体が、いつも以上に冷たい)
一度だけ、この体温に触れたことがある。
初めて会った時だ。
そして、血を多く失っていた時の温度だ。
(゚、゚トソン 「ミセリ、何をしたんですか」
ミセ* ー )リ 「何もしてないって言ったら、信じてくれる?」
(゚、゚トソン 「いいえ」
ミセ* ー )リ 「トソンは、厳しいからな」
思考に薄い靄がかかり始めた。
寝不足や病による衰弱とは少し違う脱力感。
少しづつだけれど、かなりの血を飲まれている。
(゚、゚;トソン 「ちょっと、ミセリ」
ミセ* , )リ 「……悪い飲み過ぎた」
(゚、゚;トソン 「いや、そうじゃなくて、そんなに血が要るって、本当に……」
ミセリが離れ、そのままベッドに倒れ込んだ。
驚いたが、眠っているだけのようだ。
ただ、あまりにも死体じみていて安心できない。
307
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:55:06 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン 「……また、蚊帳の外ですか」
ミセリをちゃんとベッドへ引き上げる。
動かしても起きる気配が無い
血を失って、疲労して、本当に何をしてきたというんだろう。
とりあえず服を着替えさせなくては。
外出着のままでは寝疲れしてしまう。
(゚、゚;トソン 「……なに、これ」
一番上に着ていたパーカーを脱がせて、手が止まった。
中のキャミソールには、いくつも血の斑がついている。
よく考えたら、このパーカーは初めて見る服。
きっと、この血の跡を隠すため、それまでの服を捨て、代わりに盗むか何かして身に着けたんだ。
恐る恐るキャミソールを捲りあげる。
いつも通りの、白くて滑らかな、綺麗な肌。
滲んだ血が擦れた跡こそあるけれど、怪我は無い様だ。
少しほっとした代りに、また別の不安が沸いてくる。
(゚、゚;トソン 「返り血……?」
ミセリの血でないのなら間違いなくそれだ。
308
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:56:52 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚;トソン 「……」
キャミソール脱がせ、とブラを外す。
肌に付いた血は、ウェットティッシュで拭った。
血の跡は、キャミソールの下以外にもあった、
恐らく目立つ部分は帰る前に洗ってきたのだろうけれど完全には落せていない。
爪の間にもこべりついている。
戦ったんだ、きっと。
相手が杭持ちか、同族のどちらかは分からないけれど。
(゚、゚;トソン 「……」
最近、ミセリは無暗に戦わず逃げることに専念するようにしている。
杭持ちを返り討ちにするほど追跡は酷くなるし、何より血を消耗する。
基本的に私以外の血を飲まない今のミセリにとって、血を使って戦うのは自殺行為に近いのだ。
それでもミセリが戦ったとするなら。
きっと、何か大事な理由があったんだ。
たとえば、この街に残っていた本当の理由、とか。
(゚、゚トソン 「一体、何をしているんですか、あなたは」
疲労の色が濃く浮き出る頬を、指でなぞる。
少し体温が戻ったようだ。貧血になった甲斐がある。
309
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:57:42 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン 「……」
寝る前に、サプリメントを飲まなければ。
ミセリとの生活は貧血との戦いだ。
日に少量とはいえ、毎日与えていれば当然血は足りなくなる。
もちろんサプリメントで補ったところで焼け石に水なのだけれど、なにもしないよりははるかに体調が良い。
ベッドから降りる。
サプリはテーブルの上だ。
寝る前に飲んだ時、放置しておいてよかった。
これなら、貧血でも何とか手が届く。
水も、夜に飲んだミネラルウォーターが残っているからそれで間に合うだろう。
身を起こす。
その時点で、頭がくらくらとし、意識が朦朧とする。
不味い。この状況で意識を失ったら、そのまま昏睡してしまいそうだ。
ベッドに這いつくばって耐える。
今日は講義を諦めよう。
元々受講科目は少ない日だし、真面目に受けてきたので出席に欠けは無い。
友人がいるからあとでノートを見せてもらうこともできるはず。
何より、この状態で家を出ても死ぬか病院送りだ。
( 、゚トソン 「ぅく……今までで一番辛い……」
動こうとすればするほど、力が抜けていく。
意識を保つのが精いっぱいだ。
せめてサプリを飲めば、そのまま眠って回復を待てるんだけれど。
310
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 21:58:58 ID:D90ZIRLo0
【+ 】ゞ゚)つ日 「大丈夫かい、お嬢さん。ほら、これが欲しいんだろう」
日と( 、゚トソン 「あ……ありがとうございま……」
【+ 】ゞ゚) 「いやいや、困っているときはお互い様だ」
( 、゚トソン
【+ 】ゞ゚)
( 、゚;トソン 「ッだれですかあな……」
【+ 】ゞ゚) 「静かに、大人しくしたまえ」
いつの間にか、あまりに唐突に現れたその男は、穏やかな面持ちのまま私の目を見据えていた。
深いグレーの瞳。自然と言葉が詰まる。
私の体は、私の反射的な意志よりも、この男の言葉に従った。
【+ 】ゞ゚) 「体が辛いのだろう。早くその栄養剤を飲みたまえ」
(゚、゚;トソン 「……」
やはり、体が勝手に動く。
ゆるんでいた蓋を開け、普段よりも多くのサプリを手に溢す。
腹這いのまま、口に含んで軽くかみ砕き、水で流し込んだ。
不思議と貧血が辛くない。
実際は相変わらず意識が朦朧としているのだけれど、自分で考える必要も無く動くので、比較的楽に感じる。
311
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:00:42 ID:D90ZIRLo0
【+ 】ゞ゚) 「水は全て飲んでしまいたまえ。脱水を起こしては意味が無い」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「よし、飲んだね。今から君に発言を赦すが、いきなりまくしたてて、貧血を悪化させるようなことはしないように」
(゚、゚;トソン 「あ、あ」
【+ 】ゞ゚) 「改めましてお初にお目にかかるお嬢さん。私は棺桶死オサム。突然の訪問、失礼するよ」
(゚、゚;トソン 「つ、都村トソンです。こんな姿勢で申し訳ありません」
【+ 】ゞ゚) 「いやはや、こちらこそ申し訳ない。本当は娘の顔をちらりと見て帰るつもりだったのだがね、
君があまりに辛そうだったので、つい余計な節介を焼かせてもらったよ」
(゚、゚;トソン 「……娘?」
【+ 】ゞ゚) 「ああ、そこで涎垂らして寝ているアホ娘の、父に当たるのが私なのだよ」
(゚、゚;トソン 「……」
朦朧としていて、驚くこともできなかった。
いや、驚いていたのだけれど、驚き過ぎて今の脳みそでは発するべき言葉が思いつかなかった。
ミセリの父。この人が。
312
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:01:48 ID:D90ZIRLo0
無礼を承知でまじまじと顔を見る。
後ろに撫でつけたグレーの髪と、同色の瞳。
目じりは優しげに垂れ、年齢を思わせる深い皺が刻まれている。
服装は、礼服にコート。
どちらも高級そうだ。夏場にも関わらず暑苦しい印象を覚えないのは彼の表情の涼しさゆえだろうか。
老紳士。形容するにあたって最もしっくりとする。
ただ、そこらにいる老人とは異なる、強い精力のようなものを感じた。
眼力であったり、穏やかながら覇気のある声であったりから、ひしひしと伝わってくる。
【+ 】ゞ゚) 「ああ、吸血鬼における親子というのは、人間のそれとは異なる」
【+ 】ゞ゚) 「我々は生殖の能力は持たないからね。あくまで、私が彼女を吸血鬼にした、という意味だ」
それは、ミセリから聞いて知っている。
吸血鬼は人間の名残で生殖器は持っているが、それを繁殖のためには使わない。
代わりに、吸血し殺すことで(正確にはいくつかの条件をクリアして)、人間を同族に変えるのだ。
彼が、ミセリの父。吸血鬼としての祖。
私が知らない、ミセリの過去を知る人物。
【+ 】ゞ゚) 「先に言っておこう。私は君にこれ以上何かをするつもりはない。
元々娘に会って、あわよくばいくらか言葉を交わせればよいと思ってきただけだからね。
なにより、君に下手なことをすれば、私の頭がこの子に吹き飛ばされかねない」
カラカラと笑う、棺桶死オサム。ミセリとは別のベクトルで、食えない人格だ。
本心を語っているようで、全くそうでは無く、かといって裏の真意が透けて見えるようなことも無い。
敵対したくないけれど、心から信用することはできない、そんな感じだ。
313
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:02:36 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚;トソン 「あ、あの」
【+ 】ゞ゚) 「なにかね?」
(゚、゚;トソン 「ミセリは、何をしようと、何をしているんですか?」
【+ 】ゞ゚) 「……」
(゚、゚;トソン 「今日だって、血を失って、血まみれになって……」
【+ 】ゞ゚) 「娘は、それを君には話していないのだね?」
(゚、゚;トソン 「はい」
【+ 】ゞ゚) 「なら、私の口からは言えないね。申し訳ないが」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「……戦っているのだよ。倒さねばならぬ者とね。私に言えるのは、それだけだ」
(゚、゚;トソン 「……そうですか」
【+ 】ゞ゚) 「手前勝手な頼みであると承知でお願いするが、どうか彼女を信じてやってくれたまえ」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「この子は、他者と深く長く交わることが苦手でね。人間の番を持つのは、とても珍しいのだ。
君を傍にぽくということは、それだけ君に信愛を覚え、信頼を置いているのだろう。
ならば、きっと君に不義理を立てるようなマネはしない。
事情を君に話さずにいるのは、己の中でそれが君の為であると信じているからだと私は思う。」
314
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:03:35 ID:D90ZIRLo0
そんなことは、分かっている。
ミセリが私を悩み苦しませるために秘密を持っているわけでないことくらいは。
それでも心配だから、知りたいのだ。
私のことは、確かにミセリが守ってくれるのかもしれないけれど、ミセリのことは誰が助けてくれるのか。
知らないどこかで、彼女が流星のように飛び去り消えてしまうことを、私は何より畏れている。
【+ 】ゞ゚) 「さあ、今は眠り、体を養いたまえ。私もそろそろ行かねばならない」
(゚、゚;トソン 「……」
まただ。オサムの言葉に、体が勝手に従ってゆく。
瞼が重くなり、意識がぐにゃりぐにゃりと歪み始めた。
元から、眠気は強かったからなおさらだ。
抵抗することもできず、意識が深層に沈んでゆく。
【+ 】ゞ゚) 「さらばだ都村君。君がこの子とある限り、いずれまた会うこともあるだろう」
細まる視界の中で、棺桶死オサムの体が蝋燭の火のようにふっと消えた。
代わりに灰色の霧がたなびき、エアコンの中へと吸い込まれてゆく。
「君たちのこれからに、淀みなき幸があらんことを」
何処からか聞こえた、その言葉を最後に、私は深い深い眠りに落ちた。
315
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 22:04:20 ID:D90ZIRLo0
三行
女二人暮らしの部屋に
不法侵入する
自称お父さん
316
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 23:03:58 ID:jqfrCaEA0
乙!次回も楽しみにしてる
317
:
名も無きAAのようです
:2014/05/11(日) 23:58:43 ID:QM.lLUkw0
乙 傍にぽく…?
318
:
名も無きAAのようです
:2014/05/12(月) 01:14:22 ID:bZ0CIlCEO
乙
安定した面白さだな
319
:
名も無きAAのようです
:2014/05/12(月) 08:03:09 ID:O5/ByOWE0
乙
>>317
おく のタイプミスじゃないかな
320
:
名も無きAAのようです
:2014/05/12(月) 18:16:48 ID:sZbO2taI0
おつ
321
:
名も無きAAのようです
:2014/05/12(月) 20:30:31 ID:aVjOnblE0
更新来てたのか
おもれえ乙
322
:
名も無きAAのようです
:2014/07/10(木) 08:50:19 ID:nGnrTQxEO
続きが待ち遠しいな
323
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:26:55 ID:UfHVjZBo0
Place: 草咲市 宗郷一丁目 1 正十字協会草咲支部地下資料室
○
Cast: 棺桶死オサム 流石兄者 素直クール 大天福ショボン 天主堂モララー
──────────────────────────────────――
324
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:28:05 ID:UfHVjZBo0
「これはこれはクール嬢。熱烈な歓迎を感謝するよ」
その男は、白い歯を見せ、笑って見せた。
初老の紳士だ。夏場であるにも関わらず、礼服にロングのコートを羽織っている。
室内は確かに冷房のため肌寒いくらいではあるが、冬服を着込むほどでは無い。
「何をしに来た、棺桶死」
対するクールの声は、珍しく熱を持っているように聞こえた。
困惑と焦りと、ほんの少しの畏怖、と言ったところか。
滲ませる程度とはいえ、この女が感情を露わにするのは珍しい。
てっきり、感情の類を一切失っているのだとばかり思っていた。
だが同時に、この状況では仕方ないと納得もしている。
「流石くん、人を呼べ、ベストは大天福とモララーだ。最悪杭持ちなら役職者でも管理者でもなんでもいい」
「すいません、クールさん。もう暗示で動けません」
「今日の流石くんはあまり流石ではないな」
硬直する俺の目の前。
クールは、倒れた老紳士に馬乗りになり、その眉間に銃を突き付けていた。
脅しでは無いのが、銃を握る手からも伝わってくる。
むしろ乱射癖のある彼女が良く撃たずに我慢しているものだ。感心する。
325
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:30:11 ID:UfHVjZBo0
「いやはや、どうもクール嬢には嫌われてしまっているね」
かっかっかっと、木を打ち合わせたような笑い声。
老齢であり、穏やか。日当たりのよい趣のある喫茶店の店主などが似合いそうだ。
しかし、銃口を目で覘きながらの態度では無い。
クールがいつになく取り乱すわけだ。
棺桶死オサム。現存する中では最古とされる吸血鬼。
その能力、脅威度はその他の比にならず、俺たちの資料の中でもただ一人特別な扱いをされている。
「もう一度聞く。何をしに来た、棺桶死」
「なに、クール嬢も草咲にいるというから、茶でも一杯やろうかとね」
棺桶死オサムは、署の資料室に篭っていた俺とクールの前に霧を纏って颯爽と現れた。
少なからず動揺し、驚いた俺をしり目に、クールは機敏に反応。
銃を抜き棺桶死に躍りかかると、全体重をかけて押し倒し、今に至る。
俺が暗示によって金縛りを喰らったのは、恐らく倒れる最中だ。
一瞬目が合い、その瞬間に体が動かなくなった。
どうやらクールは無事のようだが、どうにもこちらが有利には見えない。
引金を引けば、確実に弾は棺桶死の頭蓋を貫く。
両の腕はクールの膝に抑えられているため、いくら吸血鬼でも俊敏に動かせはしないだろう。
それでもなお、この場の優位は棺桶死にある。
「そろそろどいてくれんかね。ここからの眺めも悪くは無いが、床が硬くてね。年寄りには辛い」
「貴様を目の前にして、銃口を逸らすと思うか」
「なら、なぜ今すぐにでも撃たないのかね」
326
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:31:52 ID:/kKWDpNY0
帰ってきた……だと……
支援
327
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:32:06 ID:UfHVjZBo0
クールが黙り込む。
一方の棺桶死は自らが訊ねた言葉への返答を、聞くまでも無く理解しているようだ。
穏やかに、悪ぶる子供を見つめるような目でクールを見ている。
圧倒的優位を自覚してい無ければ、こんな態度は取られないだろう。気分が良いものでは無い。
「あまり手荒な真似は控えたいが、やむなしか」
その時、俺は目を疑った。
俺の、金縛りによって固定された視野には、倒れる棺桶死と、馬乗りになるクールが写っていたはずだ。
それが、ほんの瞬きの間に逆になっている。
腕を逆手に取られ、うつ伏せで抑え込まれるクールと。
その腰に足を組んで座る棺桶死。
一体何が起きたのか、全く分からない。
ただ、この男が俺たちよりもはるかに上位に立っていることだけは、確認が出来た。
「やあ、流石くんと言ったかな」
「はい。お初にお目にかかります、ミスター」
「どけ、棺桶死」
「クール嬢の相棒には何人か会ってきたが、君は中々見込みがありそうだ」
「それはどうも、複雑な心境ですね」
快活に笑う棺桶死。
その下でもがくクールの姿はいつになく滑稽なのだが、状況が状況なので嗤えない。
328
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:34:20 ID:UfHVjZBo0
「金縛りを解いていただいてもよろしいですか。安物しかありませんが、何か淹れさせてください」
「ふむ」
「この期に及んで、貴方に銃を向けるつもりはありません。そんな無様を晒すのは嫌ですし」
「クール嬢、中々よい片腕を見つけたようだね」
「ああ、肝心な時に役に立たないことを今確認したがな」
酷いことを言う。
そもそも、杭持ちの中では棺桶死オサムに対する手出しは無用、と暗黙の内に定められている。
彼を本格的に敵に回した場合、太刀打ちする手段が無いからだ。
仮に何とか討伐したとしても、俺たちにその他の吸血鬼と戦い続ける余力は残らない。
つまり問題行動を起こしたのはクールの方であり、俺はむしろ正当な応対をしているのだ。
己のミスで窮地を招いた際は、個々に責任を取り、もう一方はは自身の任務を全うする。
それが俺とクールの間で契られた数少ない掟の一つ。
今の俺に、彼女を救う責任は無く、むしろ少なからず気分を害した恐れのある棺桶死をもてなさなければならない。
結果的にクールに無様で愉快な姿を晒させ続けることにはなるが、致し方あるまい。
いやはや、実に心苦しい。
329
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:35:51 ID:UfHVjZBo0
「どうぞ。安物ですので、お口に合うかは分かりませんが」
「いやいや。元々私は農民の出でね。それほど舌が肥えているわけでないから、気にせんでくれ」
「素直さんもどうぞ」
「流石くんは本当に流石だな」
コーヒーを淹れ、棺桶死に渡す。
一応クールの分も注いだので、動けずにいる顔の前に置いた。
安物とはいえ、香りは悪くない。
資料室に篭ると決めた時点でコーヒーの準備をしておいて正解だった。
「それで、今日はどういったご用件で」
「ああ、娘のことでね」
娘。その一言で、俺も背筋を正す。
吸血鬼は生殖を行わない。
代りに、吸血行為によって同族を増やす。
彼の言う娘とはつまり、彼が吸血鬼化させた女ということ。
俺とクールが追う、「地雷女」のことに相違ない。
「君たちは、私の娘にどこまでたどり着いているのかね」
クールの目を見ると、視線で白を切れと言う指示を受けた。
大人しく従い、返答はしない。
俺の胸中を見透かしたように、棺桶死の口元が笑みを湛えた。
330
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:38:45 ID:UfHVjZBo0
「その様子では、まだあまり具体的なことはわかっていない様だね」
図星だ。
乙鳥ロミスの屋敷を捜索してからしばらく、人員も増やし調査を行っているが、進展はほとんど無い。
人間だったころまで遡っても、地雷女とロミスの間にどんな因縁があったのかは不明だ。
「地雷女は、一体なぜ、この街にいるのでしょう」
「それを私が答えると思うかね」
「いえ。ですが、何らかの目的を持って現れたのならば、こちらの要求も多少は聞いていただけるかと」
「クール嬢。本当にいい拾い物をしたな。どうだ、この男と娘をこさえて、私に養子として差し出してみないか」
「あいにくだが、私はこれでも乙女な気質だ。好きでもない男と、吸血鬼にさせるための子供なぞ作らん」
「乙女」のあたりで棺桶死がまた快活に笑った。
当のクールは、無様な姿のまま平常時の無感情さを取り戻している。
目の前のコーヒーが妙な構図だ。
もう少し余裕があれば父の形見の銀塩を持ち出してシャッターを切っていただろう。
「いいだろう流石くん、君の質問に答えよう」
棺桶死はコーヒーを一口啜る。
旨そうにも見えないが、吸血鬼が血以外の物を口にしているのを初めて見た。
「娘は、ある吸血鬼を殺そうとしている」
「それは、乙鳥ロミスですか」
331
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:41:26 ID:UfHVjZBo0
「そうだ。だが違う」
「それはどういった意味合いでしょうか」
棺桶死オサムは答えない。
相変わらずの笑みだが、少しの逡巡が見えた。
何かある。やはり、乙鳥ロミスに目をつけたのは間違いでは無かった。
「乙鳥ロミスは死んだ。しかし、娘が乙鳥ロミスを殺したかった理由は、死んではいない」
「意味が通らん。乙鳥ロミスが何か、地雷女の求めるものでも持っていたというのか」
「流石だなクール嬢。大よそ、その考えで違いはないよ」
「それは」
オサムは、指で自分の口を横になぞる。
口にファスナーをかけるようなその動きと同時に、俺の口は真一文字に結ばれた。
言葉が出せない。これ以上の質問には答えないということか。
「流石くんあっさり暗示にかかりすぎだ」
「んんんんんんっんんーんんんんんんんんん」
「何を言っているかまったくわからん」
俺も暗示に対抗する訓練は受けているし現に暗示にかかったことなど無いのだが、棺桶死のそれには全く通用しない。
抵抗する間も無いのだ。俺の能力以前の話である。
332
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:45:07 ID:UfHVjZBo0
「私が言えるのはここまでだ。これ以上は、娘に怒られてしまうからね」
棺桶死がクールから立ち上がる。
解放された我が上司は海老のように体を弾けさせ棺桶死から距離を取った。
俺の目が追いついた時には既に銃を構えている。
しかし、長時間腕を取られていたためだろう。腕が震え銃口がぶれている。これでは弾が当たらない。
「兎角、娘の目的は君たち人間にとって害となるものでは無い。むしろ益になると考えて貰って構わんだろう。
であるからして、二人には少しの間娘を見逃してやってほしいのだ。今日はそれを頼みに来た 」
「そんな要求を、私たちが聞くと思うか」
「聞かんだろうね。むしろ私がこう言うことでむしろムキになって娘を探すだろう」
余裕のある笑み。
気のいい老人の皮に騙されてはいけない。
この男は俺たちの思考の外で何かを画策している。
「ま、用は済んだ、そろそろお暇させてもらおう、か」
棺桶死の指が鳴る。
白樺の細枝のような、骨ばったしかし美しい指だ。
そこから発せられた音を聞くと同時に、縫い合わされたかのように動かなかった口が自由になる。
「ではな、クール嬢。別れの挨拶くらい、銃を仕舞っておくれ」
扉の前に立ち困ったように笑う棺桶死。
俺はその瞬間に、気付きの声を漏らしそうになった。
閉めていたはずの扉が開いている。丁度、人一人がなんとか通れる程度に。
333
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:47:54 ID:UfHVjZBo0
俺がそれを認識した瞬間に、棺桶死の胸から杭が生えた。
素早く、されど血が噴くような荒々しさは無く。
するりという音が似合うほど滑らかに、棺桶死の体が貫かれている。
「大天福シノビブレード」
棺桶死の陰から聞こえた声に、俺は状況を把握する。
彼ほどの吸血鬼に杭を突きつけられる人間は、そうそういない。
杭が横に滑る。
伴って肉が切り裂かれ血が噴出する。
肋骨の間を縫った、的確な捌き。
棺桶死は「今気づいた」と言う風に自身の体を見て驚く。
「大天福エッジエンド」
風の鳴る音と共に、無数の光線が煌めいた。
それは振るわれた杭の斬撃であり、洗練された殺意の閃き。
棺桶死の体に幾重もの線が走った。
それが血の飛沫に変わったその時、棺桶死の体は細切れの肉片となる。
しつこく漂う血煙の向こう。立っているたのは一人の杭持ちだった。
黒いスーツを着込み、右目を塗りつぶすように黒い十字架の刺青を入れた、面妖な出で立ち。
血に塗れながらもなお冷たく輝く杭が、彼の人の領域を抜けた雰囲気を強調していた
大天福ショボン。
優秀過ぎる杭持ちの一人として数えられる、奇人である。
334
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:49:49 ID:UfHVjZBo0
「大天福さん、いらしたんですか」
「素直の端末から着信があった。一切の会話はできなかったが、状況を察するには十分だ」
なるほど。棺桶死が話す間、自由だった腕の方で端末を操作していたということか。
棺桶死からの情報収集と、クールの滑稽さのあまり気づかなかったが、素直に見直すべきだろう。
「というわけで僕もいます」
扉の隙間から顔立ちの整った、いかにも好青年が顔を覗かせる。
天主堂モララー。大天福の弟子であり、相棒でもある。
俺より二年後輩だが、恐らく実力では俺よりも上だ。
「遅いぞ大天福、せっかく呼んだのだからさっさとこい」
「すぐに来たが、お前があまりに愉快な格好をしているので笑いをこらえるのに苦労した」
大天福の目は、未だに肉塊と化した棺桶死に向けられていた。
死体は慣れているが、流石にこれほど刻まれたものは初めてだ。
キュビズムの絵画のような半端に残る原形が余計に不気味さを生んでいる。
完全に形を失う分、榴弾や散弾で吹き飛ばされた方がまだマシな見てくれをしているだろう。
335
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:51:28 ID:UfHVjZBo0
「流石、下がれ。まだ終わりでは無い」
「やあ、久しいな大天福」
大天福の言葉に答えたのは、俺では無く棺桶死だった。
繋がっていない上の唇と下の唇が同時に動き、血で溺れる肺から声が聞こえる。
「ますます腕を上げたようだね。ここまで私を壊せるのはお前か百々(どうどう)くらいのものだろう」
棺桶死の死体が動いた、と思った時には、大天福の体が吹き飛ばされていた。
背後にいたモララーを巻き込み、扉を叩き開けて資料室から退場させられる。
「いやあすまんね流石。君は賢いので手を出す気は無かったのだが、私にも面目がある」
落ちていた棺桶死の腕が俺の喉に掴みかかる。
腕だけの力とは思えない。
体が浮き上がり資料棚に叩き付けられた。
暗転する視界に火花が散る。
落ちてきた資料の高質な角にしこたま体を打たれ、流石に気が滅入った。
「いえ。所詮人と吸血鬼ですし、こうなるのは必然でしょう」
「哀しいな。哀しいが、その諦めの早さは羨ましくもある」
細切れの肉塊が人に成る様を始めて見た。
両の腕を残し、目の前で棺桶死オサムが組み上がって行く。
白い霧を伴うその体は、服まで含めて元のままだ。
336
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:53:58 ID:UfHVjZBo0
一陣の風の如く、大天福が再び中へ。
音速の剣技。しかしその刃は全て目に見えぬ力に防がれ、逆に横殴りの衝撃波を受け吹き飛ばされる。
俺よりも激しく資料棚に突っ込んだが、まだ動けるようだ。
落ちた杭を取ろうとした大天福の腕に棚の鉄柱が絡みつく。
そのまま軋む音を立てて大天福の体を巻き込み、完全に動きを封じる。
この隙に扉に体を隠し銃を撃つモララー。
弾は命中するが、霧に変化した棺桶死を素通りする。
白樺の指が横に動くと同時、銃が弾かれ、モララーは廊下の壁に打ち付けられた。
「やれやれ。まあ、これで斬られて何もせずに帰ったなどと言う噂は立たんだろう。な、クール嬢」
クールが棺桶死を睨む。
その手の中の銃は、既に限界まで分解されていた。
「私も難しい立場でね。侮られては意味が無いのだ。分かっておくれ」
腕が離れ、俺も解放された。
脳がうっ血しているのが分かる。全身の感覚が鈍い。
「ではな、杭持ちの諸君。娘のことを、くれぐれもよろしく頼むよ」
棺桶死の体が霧の如く消えた。
ため息が漏れる。
身体的にダメージを受け。予定していた作業は著しく妨害され。
挙句の果てにはこの有様だ。あの上司のことだから始末書で済めば運が良いくらいだろう。
「素直さん。減俸になったら、毎昼食奢ってくださいね」
「流石くん、君はもう少し動揺というものを覚え給え」
337
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 22:55:24 ID:UfHVjZBo0
おわり
長い文章が読めない人用の三行
|::::l †:::|ゞ^) 舐
|::::|┃([:::::〉 め
|::::|:::::::|::イ プ
338
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 23:02:03 ID:G6Vn5Z0o0
おつ
最強ポジションだった大天福さんがボコボコにされてた・・・
339
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 23:05:55 ID:/kKWDpNY0
オサム強え
乙
340
:
名も無きAAのようです
:2014/07/15(火) 23:15:17 ID:pHqRz.Ik0
更新来てまじで嬉しいぜ
だんだんと結びついていく感じがたまらん
乙
341
:
名も無きAAのようです
:2014/07/16(水) 03:31:30 ID:9lzwrwzc0
乙乙 流石だなオサム
342
:
名も無きAAのようです
:2014/07/16(水) 05:58:55 ID:HtiT7I5AO
流石な回だったな
343
:
名も無きAAのようです
:2014/07/16(水) 12:30:13 ID:S/0nf7/E0
乙
これで舐めプとか強いな
344
:
名も無きAAのようです
:2014/07/18(金) 18:12:46 ID:ELJgwkwg0
乙!
345
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:23:08 ID:JUgNWWnY0
Place: 草咲市 灰木町 字 祇路 166-3 とある橋の下。
○
Cast:子子子ギコ 志納ドクオ 間アザム 久部ギヤン
──────────────────────────────────――――――
346
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:24:52 ID:JUgNWWnY0
空には、うっすらと雲がかかっている。
子子子ギコは橋の下で川の流れを眺めていた。
主要な道路の通る、大きな橋だ。
舗装された川原はそれなりに広い。
しかし、暗く湿った空気と、こびり付くような黴の臭いが人を寄せ付けない。
周囲はそれほどでもないが、昨日から今朝にかけて降った雨の痕跡がまだまだ濃く残っていた。
ギコは人を待っていた。
自分から呼び出したのだが、相手がギコの連絡に応じるかどうかは分からない。
なにせもう三日ほど待っている。
携帯電話などの連絡先も知らないので仕方のないことだ。
それに、特別急いで生きている身でもない。
たった数日の待ち人など、苦にもならなかった。
頭の上を車が過ぎてゆく。
そこに、質の違う足音が聞こえた。
ただ急ぐのとは違う、忍ばせた駆け足。
ギコは息を吐いて立ち上がる。
待ち人が来た。もう少し待つかもしれぬと思ったが、案外に早かった。
(,,゚Д゚) 「久しいな。急に呼び出してすまなかった」
橋から直接飛び降りてきたその男には、黒い服で全身を覆っていた。
トレーナーに備えられているフードを目深に被っているので、顔をはっきりとは見えない。
いかにも不審者だ。日陰者の身ではあるが、流石にらしすぎる。
('A`) 「……あんな伝言で、来ると思ったのか」
(,,゚Д゚) 「来なかったらそれまで、だな。こちらから出向いても良い話ではあるし」
347
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:26:50 ID:JUgNWWnY0
彼は志納ドクオ。ギコと同じく吸血鬼だ。
歴は非常に浅いが、どうやら才能があったらしい。
本人からの連絡は無くとも、噂は嫌と言うほど耳に入る。
('A`) 「どうやって俺の居場所を知った」
(,,゚Д゚) 「簡単な話だ。お前が居そうな場所に目星をつけ、仲間に張り込んでもらった。
幸いお前の顔は既に有名になっているし、見つけるのは簡単だったと聞いている」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「外歩きする際は、もう少し気を付けた方がいいだろう。杭持ちに見つかれば住処ごとやられるぞ」
('A`) 「……俺を態々呼び出した要件はなんだ」
前置きに飽きたらい。
ドクオの視線は嘘や誤魔化しを一切許さぬという気迫があった。
(,,゚Д゚) 「……順を追って話そう。まず、今のお前の現状についてだ」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「お前の脅威度が、AAに設定された。この意味は、分かるか?」
('A`) 「……ああ」
杭持ち……対吸血鬼のための武力組織、正十字協会は吸血鬼に脅威度を設定している。
単純な話だ。この脅威度が高ければ高いほど危険とみなされ、討伐を優先される。
そしてAAというのは、事実上最高の脅威度。
ギコが知る限りで、吸血鬼化から半年も立たずにここまで引き上げられた者はいない。
348
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:29:10 ID:JUgNWWnY0
実質の最高位であるAAは未満のランクに比べると杭持ちの対応が大きく異なる。
細かく挙げれば多々あるが、吸血鬼としてもっとも厄介なのが、『追跡者』の存在だ。
『追跡者』とは読んで字の如く、対象の吸血鬼を専属で付け狙う杭持ちのことだ。
地雷女に対する素直クール、棺桶死オサムに対する百々クックル、鴨志田フィレンクトに対する盛岡デミタスなどが該当する。
彼らは戦闘集団である杭持ちの中でも特に実力を認められた猛者達だ。
当然その他の杭持ちとは格が違い、人と吸血鬼という種族の差を容易く埋めてくる。
そんな超人たちが、土地も選ばず延々と追いかけてくるのだからたまったものではない。
過去、凶悪性だけでAAに認定されたような実力不足の者たちは、蝋燭を吹き消すより容易く殺された。
('A`) 「……俺に当てられる杭持ちは誰か分かっているのか?」
(,,゚Д゚) 「流石にそこまではわからん。が、追跡者足りうる杭持ちで今手が空いているのは……」
ギコは、スラックスのポケットから、数枚の写真を取り出し、ドクオに渡す。
映っているのは枚数と同数の杭持ちの写真。
この中の誰かがドクオの追跡者になる可能性が非常に高い。
(,,゚Д゚) 「その写真はやろう。予め頭に入れて、見かけたらすぐに逃げろ。下手に戦おうと思うなよ」
('A`) 「そんなにヤバい奴らなのか」
(,,゚Д゚) 「人間と思わない方がいい。血刑がばれ、対策を練られた状態で勝ち目は薄い」
('A`) 「……わかった、忠告はありがたく受け取る」
349
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:30:17 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「で、だ」
ドクオの目がギコを見据えた。
疑りと言うよりも確信を持っている。犯人を問い詰める探偵のようだとギコは苦笑する。
('A`) 「何故、俺にここまでする?あんたは確かに親切屋ではあったが、それ以上に平和主義者だ。
杭持ちと諍いを起こしている俺に親身になるほど状況の読みができない奴では無いと思ってたが」
そうである。
脅威度AAというのは単なる強さでは無く、凶悪性を込みにした物。
人間に協力することで安全を確保しているギコにとっては最も避けるべき存在だ。
彼に情報を流していることが杭持ちに知られ、仲間であると判断されれば危険はギコの仲間にも及ぶ。
人の信頼を得、今の立場にたどり着くには相応の苦労があった。
些細なことで失って、笑って済ませられることでは無い。
('A`) 「それに、だ。この街の、仲間の吸血鬼の安否を気遣うあんたに取っちゃ、脅威を招く俺は邪魔なはずだ。
なぜ、逃走を促さない?あんたの言葉尻には、俺をこの街に留めようという意識さえ感じたぜ? 」
(,,゚Д゚) 「やれやれ、勘のいい男だとは思っていたが……」
('A`) 「……今、この街に起きている異常か?」
(,,゚Д゚) 「そうだ。お前の力を、借りたい」
できればギコに優位な流れで話したいことではあったが、やむを得ない。
ギコは居直って、ドクオに事情の説明を始めた。
350
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:31:46 ID:JUgNWWnY0
現在、草咲市ではいくつかの異常が起きている。
特別大きな案件では無い。一つ一つはこの街では比較的当たり前に起きることだ。
ただし、それが同時に、平時よりも明らかに多い頻度で起きている。
(,,゚Д゚) 「今、この街で意図的に吸血鬼を生み出している奴がいる」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「人の生殖機能を失った吸血鬼にとって、同族を生むことは性欲に似た強い衝動を孕む。
俺ですら、時々衝動に駆られるからな。野良生活で孤独に怯えるものが子を作ろうとするのは珍しくは無い」
('A`) 「だが、それにしては数が多すぎると」
(,,゚Д゚) 「そうだ。ほとんどの事案で、手口が似ていることから、犯人は同一犯だと思っていた。
俺たちも、杭持ちもな。だが…… 」
数日前、一人の吸血鬼が杭持ちに捕らえられた。
杭持ちの吸血鬼リストから洩れた、想定脅威度A並の異分子。
実力、強力な暗示で意識を奪ってから攫うという手口、判明した住処の状態から、犯人はその仮想Aであると半ば断定されていた。
しかし、仮想Aが捕らえられた翌日に、また同様の事案が発生する。
それも数件だ。一安心していた杭持ちを嘲笑うように粗悪な吸血鬼が量産され、人を襲った。
('A`) 「模倣犯、か」
(,,゚Д゚) 「ああ、だが、少し様子が変なのは、お前も分かるだろう」
('A`) 「『強力な暗示の力』……ね」
351
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:33:22 ID:JUgNWWnY0
吸血鬼には多少の暗示能力が必ず備わっている。
だが、瞬く間に相手の意識を奪うレベルとなるとかなり希少だ。
普通の性能では精々自分をから意識を逸らさせる程度が限界。
それ以上しようとすれば面倒なプロセスが必要となる。
だから、大概の吸血鬼は吸血後に記憶を飛ばしたり、意識を逸らして目撃者を減らすため程度にしか使わない。
(,,゚Д゚) 「一瞬で相手を意のままに出来るとなると、相当に強力な能力でなければならない。
一人目だけならばまだ分かるが、もう一人現れるというのはいくらなんでも違和感がある」
('A`) 「確かにな……」
(,,゚Д゚) 「正十字も人員を増やす動きはあるようだが、そこにお前に差し向けられる追跡者も加われば
少なくとも犯人も迂闊はできないはずだ。現に一人目が捕まった直後に数人を吸血鬼化した後、
杭持ちの警戒が高まるのに準じて被害は抑えられている 」
('A`) 「……俺に、その話に乗る旨みがあると?どっちかと言えば、逃げた方がお得なわけだが」
(,,゚Д゚) 「……この件には、地雷女も絡んでいるようだ」
地雷女、の名を聞いた瞬間に、ドクオの気配が変わった。
これがあるから、ギコは素直に事情を話したのだ。
きっと乗る。彼にとって、彼女との関わりは何よりも得たいはずだ。
しばしの思案、ドクオが顔を上げた。
言葉を聞かずとも答えが分かる。
乗ってくれるようだ。内心安堵の声をあげると同時に、ギコはドクオの言葉を制する。
('A`) 「?」
(,,゚Д゚) 「しまったな……少々油断したか」
352
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:34:50 ID:JUgNWWnY0
ギコの視線は川の中へ向けられている。
増水気味のやや濁った水の中。明らかに周囲とは違う点が二つ。
目立たぬよう、近場を仲間に見張らせていたがまさかそこから来るとは。
ギコは息を吐く。厄介なところを見られてしまった。
(,,゚Д゚) 「出てきたらどうだ。息もそうもつまい」
('A`) 「……?」
ギコの言葉に、少々遅れて水面が応えた。
ブクブクと泡が立ち、水が爆ぜる。
水の中から現れたのは二人の男だった。
どちらも黒いスーツを着て、顔にゴーグルとシュノーケルを被っている。
杭持ちだ。それも、中々厄介な。
( ‐=ll=-) 「……流石は『親猫』と言う訳か」
〈 十〉 「しかしまあ、偶然見つけた『蠍』をつけて巣穴を探ろうと思えば、面白い状況に出会えたものだ」
ギコは舌を打つ。
ドクオと関係性があることがばれてしまった。
他の低脅威度の者たちならともかく、AAのドクオとだ。
下手な言い訳は立つまい。
ドクオがただただ危険な吸血鬼でないことは確かなのだが、杭持ちはそう思ってはいない。
彼らからすれば親人間派のギコはドクオと敵対して当然であるし、こうして同盟を結ぶような行為は裏切りに等しい。
353
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:35:40 ID:CtMjQLN60
更新きてる!
支援
354
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:36:08 ID:JUgNWWnY0
( ‐=ll=-) 「待て、早まるな『親猫』」
〈 十〉 「会話の内容は聞いている。『蠍』を庇おうというような発言は問題だが、
それもあくまでこの街の異変を憂いてのことと理解している。同じく、貴様の微妙な立場も、な」
( ‐=ll=-) 「まだ、我々は貴様を敵とは認識していない。故に貴様に手を出すようなマネはしない」
〈 十〉 「我々の狙いは『蠍』の志納ドクオ。直接的に庇う真似さえしなければ、われわれの盟約は保たれる」
つまりは、今からドクオを殺すが邪魔するな、ということだろう。
既に何らかの連絡をされている可能性もある。
この二人を屠ったとして、仲間の安全を保てるとは限らない。
いざとなれば策はある。ここは一応杭持ちに従う態度を見せておいた方がいいだろう。
ギコはちらりとドクオを見た。
彼は草臥れた顔で唾を吐く。
('A`) 「勝手に変な名前付けて、勝手に話進めやがって」
ドクオは自分の首の後ろをおもむろに親指の爪で刺す。
杭持ち二人が構えた。
後頭部付近から流れ出た血はそのままヒモのように伸び、2m弱の長さで空中に留まる。
先端は爪状の刃になっており、これを鞭や触手のように操って戦うのだろう。
丁度いい。
この短期間に最高脅威度に認められたその力、一度見て見たいとは思っていた。
355
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:38:35 ID:JUgNWWnY0
( ‐=ll=-) 「ギヤン、血刑には気をつけろよ
〈 十〉 「分かり切ったことを」
一人が構えるのは短機関銃。拳銃よりも連射性に優れ、近接戦闘に置いては驚異的な優位性を誇る。
吸血鬼が人間よりも頑丈とはいえ、あれを格闘戦に盛り込まれると非常に辛い。
もう一方、ギヤンと呼ばれた方が背中から引き抜いたのは、剣のような長杭。
通常の杭と異なり、肉厚の両刃。鍔が椀状の西洋のサーベルを思わせる拵えだ。
逆の手には、丸いブリキ張りの盾を備えている。吸血鬼狩りと言うよりも剣闘士のようだ。
どちらの装備も杭持ちの標準とは異なる。
こういった装備が許されるということはつまり、この二人がそれだけ実力を認められているということ。
〈 十〉 「行くぞ、『蠍』!!」
水から飛び出すギヤン。
抵抗の大きい中から飛んだとは思えぬ大きな跳躍でドクオに飛び掛かる。
腕を畳んだ構えから、鋭い突きを放つ。
ドクオは大きく後退して回避。
しかし、その体を銃弾の群れが襲う。
二発がドクオの腹を穿った。腹筋で止め出血は微小。
衝撃で体がよろける。
着地したギヤンは、水で残像が出来るほどの速さで前へ。
盾を前に出し、反撃を封じながらの突進だ。
ドクオは倒れるように横へ逃れる。
地面に手を付き、覗き込むような形から、血の触手をギヤンの脇腹へ。
356
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:39:33 ID:JUgNWWnY0
飛び掛かる蛇の如くであったが、追ってきた盾に弾かれる。
追撃の暇も無く、ドクオは転がってその場を逃れた。
激しい銃声と共に舗装のコンクリートが爆ぜる。
(,,゚Д゚) 「……」
ギコは手を出さずに離れた。
ドクオの協力は確かに欲しいが、杭持ちとの無用な対立は避けなければならない。
申し訳なく思うが、自分の撒いた種だ。自身で何とかしてもらうほかあるまい。
短機関銃の銃口がドクオを追う。
数で圧倒するのがミソの火器であろうが、無駄玉は使っていない。
外れた弾も回避されているだけでなく、誘導の意志をもって使われている。
ギコであればいくらでも対応できるが、元々戦闘技術など持たないドクオがどれだけ出来るのか。
味方の銃弾が飛ぶ中を、再び突進するギヤン。
流れ弾を恐れる様子は無く、銃手信頼度の高さが見える。
ドクオは後退で距離を保ちながら、触手を上方から回り込ませた。
盾が引きつけられれば、空いた胴を狙うつもりだったのだろう。
しかしそれはギヤンも読んでいた。前傾姿勢で体を捩じり、杭で触手を弾く。
そのまま螺旋を描いて回転。
うつ伏せる状態に戻ると同時に地面を蹴って、自らの体をミサイルのようにしてドクオに飛び掛かる。
回避が間に合っていない。
盾による突進で体を突き飛ばされ、尻を付くドクオ。
ギヤンは膝立ちで耐え、完全に体勢を崩すことは避けている。l
弾かれた位置から、咄嗟の判断でギヤンを狙う触手。
しかし、それも半ばから斬り飛ばされた。ドクオは唯一の武器を手放すことになる。
357
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:41:32 ID:JUgNWWnY0
無防備なドクオ。
片足をギヤンの下半身の下敷きにされ、逃れることも難しい。
盾を作るような量の血を急に流すほどの余裕も無い。
ギヤンが小さく剣を振り上げる。
頭か心臓か、一旦首か。
瞬殺は出来なくとも、自由を奪うだけでも十分だ。
〈 十〉 (貰った!!!)
突き出される剣。
激しい音と共に、その切っ先が。
(,,゚Д゚) 「!」
〈 十〉 「?!」
コンクリートの地面に弾かれる。
ドクオが躱したのではない。ギヤンの攻撃が外れたのだ。
戸惑うギヤンを、ドクオは封じられていない足で蹴り飛ばした。
後ろに転がされすぐさま立ち上がろうとするギヤン。
しかし、膝から下を失ったかのように地に伏せた。
神経系の毒が回っているのだ。こうなっては真面に戦闘の継続は出来ない。
〈 十〉 「なッ、呼吸は止めていた!どうやって毒を……!」
確かに、血の触手は当たってはいないし、ドクオは血の毒を揮発させていたわけでもない。
358
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:42:31 ID:JUgNWWnY0
〈 十〉 「くッ……アザム!なにをしている!!」
( ‐=ll=-) 「……済まない、ギヤン……」
〈 十〉 「何ィ?!」
川の中から銃撃による後方支援をしていたもう一人、アザムが銃を落とす。
どこか不安定な視線と、川の流れの中立つのが精一杯の下半身。
ギヤンと同じ毒のようだが、症状はより進んでいる。
〈 十〉 「いつの、間に……!」
('A`) 「……」
立ち上がり、服に付いた汚れを払うドクオ。
勝負はついたのだ。解毒剤を持たなければ、この状態からの回復は不可能。
偶然見かけて追跡していたのならば、そんな物は持ち合わせていないだろう。
('A`) 「……御大層に『蠍』なんてあだ名をつけてくれたんだ。使わねえ理由はねえだろ」
そう言いながら、ドクオは自分の指を舐めた。
爪で浅く切り裂いた跡がある。唾液が触れたことですぐに塞がったが、周囲には血が残っていた。
('A`) 「杭持ちに対策を練られてるのは、自覚していた。だから、ちょっとブラフを立てさせてもらった」
〈 十〉 「……そう言う、ことか」
ギヤンが歯ぎしりを立てた。
理解したのだろう。自分たちがそもそも勘違いさせられたことに。
359
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:43:55 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「お前らはきっと、ここ数回俺が逃した杭持ちの話から、あれが俺のスタイルだと思ったんだろ?」
('A`) 「だから、『蠍』。毒の尻尾っぽいしな。お役所派生にしちゃセンスあるよ」
ドクオは、いかにも目立つ触手を囮に、僅かな隙を狙って毒針を撃っていたのだ。
針は極小。致死性とは縁遠いものだが、戦闘不能にするには十分な量だった。
見ればギヤンは剣を持つ親指の付け根に、アザムは顎のすぐ下に、虫刺されのような跡がある。
('A`) 「過去に針で殺した奴はいないしな。触手で戦う吸血鬼と勘違いしてもらえてうれしいよ」
ドクオは切り落とされ、地面にこべりついた血に人差し指をつける。
渇いておらず、酸化もしていない一部の血だけを集め、指先に長い爪を作り出す。
('A`) 「……ここまで話したし、ま、話すまでもなく気づいただろうけど、もうしばらく俺に楽をさせてくれ」
〈 十〉 「くッ……」
もはや剣を持つことすらできなくなったギヤンにドクオが近づく。
撒いた餌の効果を維持するには、針に気付いた者は殺さねばならない。
(,,゚Д゚) 「待て、志納」
('A`) 「……さっきの話、乗ってやる。がお前の傘下に入るわけじゃない。命令は聞かん」
(,,゚Д゚) 「分かっている。だから礼代わりにここは俺に任せてくれ」
360
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:44:56 ID:JUgNWWnY0
ドクオに歩み寄っていたギコの姿が唐突に消えた。
風が吹き抜け、小さな打撃音と共にギヤンが白目を剥く。
アザムが驚きの顔を見せたが、数秒遅れて彼も意識を失った。
水面を水切石の如く走ったギコが、鞭のごとき手刀で首筋を打ったのだ。
崩れ水に沈みそうなアザムの体を担ぎ上げて、ギコが川原へ戻る。
(,,゚Д゚) 「解毒剤は作れるのか?」
('A`) 「……どうするつもりだ」
(,,゚Д゚) 「介抱して、回復したならばしいに記憶を改竄させる。杭持ちはしいがそこまでの暗示を使えることは知らん」
('A`) 「……」
(,,゚Д゚) 「俺とお前の関わりも誤魔化せるし、お前と戦った内容もいくらでも改竄できる」
('A`) 「……なら、いい」
ドクオはパーカーのポケットから栄養ドリンクのビンを取りだした。
茶色いピンの中には半ほどまで粘度の高い液体が入っている。
('A`) 「俺の血で作った中和剤だ。そもそも死ぬようなもんでは無いが、回復を早めることは出来るだろう」
(,,゚Д゚) 「恩に着る」
361
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:45:39 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「代りと言っては何だが、俺からもアンタに頼みがある」
(,,゚Д゚) 「内容によっては引き受けよう」
('A`) 「コイツのことを調べてほしい」
ドクオが差し出した写真に映っているのは、彼と同居している青年だった。
男らしいはっきりとした顔立ちで、体型もしっかりしている。
日陰者の代表格のようなドクオとはあまり接点が無さそうに見えたが。
('A`) 「名は長岡ジョルジュ。俺の昔の友人なんだが、最近になって接触してきた
そいつの周辺を出来る限り洗ってもらいたい 」
(,,゚Д゚) 「……無礼なことを承知で答えるが、その男の身辺は一通り洗った。杭持ちや裏の討伐屋の類では無いぞ」
('A`) 「それはわかってる」
ドクオはギコに詳しい事情を話す。
写真の青年、ジョルジュが吸血鬼にしてくれと頼み込んできていること。
その理由をまったくと言っていいほど話そうとしないこと。
('A`) 「何か事情があるようなのは確かなんだが。このまま放っておくと、他の吸血鬼に体よく利用されかねん」
(,,゚Д゚) 「分かった。早急にとはいかんが手を回してみよう」
362
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:46:22 ID:JUgNWWnY0
('A`) 「何かわかった時には、ここに連絡をくれ」
ドクオは番号のかかれたメモを渡すと、パーカーのフードを目深に被り直し橋の下を出ていった。
念のため、近隣にいる仲間に連絡し彼が街を去るサポートに当てた。
(,,゚Д゚) 「……さて」
とにかく志納ドクオを味方につけることには成功した。
重要な戦力だ。危うい男ではあるが、十分に役に立つ。
(,,゚Д゚) 「早く、原因を見つけ無ければ」
二人の人間を軽々担ぎ、ギコはアジトへと足を向けた。
やるべきことは山ほど多い。
彼らの願う人と吸血鬼が殺しあわずに済む世界は、まだ遠いのだから。
363
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 21:48:21 ID:JUgNWWnY0
三行
三 OOてゝ
三 O カサカサカサカサ
三 ヾハハ'A`)へ
364
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:16:54 ID:b7zmQcHs0
乙!
蠍ドクオAAワロタ
365
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:40:25 ID:JUgNWWnY0
Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 賤之女デレ 長岡ジョルジュ
──────────────────────────────────
366
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:41:56 ID:JUgNWWnY0
ζ(゚、 ゚*ζ (お父様、どこへ行かれたのかしら)
ζ(‐、 ‐*ζ (また戦ってらっしゃるのかしら……血を失っても、中々飲んでくださらないのに)
デレは憂いの漏れ出した表情で、ベッドに寝そべっていた。
お父様がいない時はいつもそう。
することが思いつかなくて、ベッドの上でただただ待っていることしかできない。
前のお父様の時は、待っているのも平気だったのに。
今はなんだか寂しくてたまらない。
何もしないでいると、頭の中が暗くなる。
自分でも知らない何かが、虫のように蠢いて、とても苦しくなる。
< でれちゃーん、でれちゃーん、ご飯出来たぜー―!」
ζ(‐、 ‐*ζ (お父様、早く帰ってらっしゃらないかしら)
< でれちゃーん、寝てるー―?」 ドタドタドタッ
ζ(‐、 ‐*ζ
_
( ゚∀゚) 「でーれーっちゃんっ!」 ヒョコッ
ζ(‐、 ‐#ζ (……五月蠅い)
367
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:44:16 ID:JUgNWWnY0
_
( ゚∀゚) 「つーかさ、ドクオのやつ遅いよな。日焼けするくせにこんな昼間から何やってんだか」
この無礼で不躾で無遠慮で無神経で不愉快な男が屋敷に住まうようになって一週間が経った。
お父様が連れてきた友人であるし、吸血鬼の敵では無いらしいので大目に見ていたが、そろそろ堪忍袋の限界だ。
初めて会って一時間で緒は三度ほど切れていたのだけれど、このままだと堪忍袋ごと炸裂してしまう。
デレは元々、こういう男が嫌いだ。
大嫌いだ。
同じ空間で呼吸をしているのすら不愉快だ。
何より腹が立つのは、デレですら呼んだことの無いお父様の名前を呼び捨てにしていること。
自然に尖る唇が戻らない。
こんなのは、前のお父様が教えてくれた淑女の立ち振る舞いではないのに。
だから余計に頭に来る。全部この畜生が悪い。死ね。
いっそ、護身用に隠し持っているデリンジャーで眉間をぶち抜いてやろうか。
向かいの席で食事を勧める男の顔を睨みつける。
こんなやつ。
お父様の言葉が無ければとっくに追い出していたのに
368
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:45:48 ID:JUgNWWnY0
_
( ゚〜゚) 「どうしたの?我ながら結構美味いと思うぜ?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「…………」
目の前に置かれた深めの皿に目を落とす。
山に盛られた白米と、とろりと覆うひき肉のあんかけ。
茄子やトマト、ピーマンなどの刻まれた夏野菜が入っており、甘くも酸味のある香りが食欲をくすぐってくる。
さらに真ん中には目玉焼き。
黄身は半熟で今にも崩れ出しそうで、白身の端はきつね色にこんがりと焼けている。
すぐさまスプーンで割ってしまいたい衝動に駆られる。
否、やはりまずは卵無しの味を楽しんでから……。
_
( ゚∀゚) 「熱いから、火傷しちゃダメだぞ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……匂いだけは、美味しそうですけれど」
スプーンで縁のごはんと餡を掬い取る。
立ち上る湯気。香りがさらに濃くなって、自然に口の中が濡れる。
呼気で湯気を飛ばして、口の中へ。
369
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:46:54 ID:JUgNWWnY0
ζ(゚、 ゚*ζ 「……」
口の中に広がるトマトの酸味。
噛むほどに絡んで、白米の甘さが合わさり、たった一口で味が次々に変わってゆく。
たまらず次を、今度は具もしっかり掬って口へ。
実を含むことでより濃くなったトマトの味わい。
噛むほどに茄子から旨みがしみ出してくる。餡とは違う瑞々しいスープだ。
飲み下した後に残る、ピーマンの苦み。これが妙に爽やかで嫌味が無くむしろ心地よい。
_
( ゚∀゚) 「少し豆板醤入ってるけど、辛くない?」
三口目で、その言葉の意味を理解した。
舌先がほんの少しだけピリピリとする。子供のデレでも痛いと感じない程度の辛さ。
野菜の甘みが強くて気にならなかったが、これのせいで余計に食欲が促されているのだ。
時々話しかけてくる男を完全に無視して、デレはあんかけご飯を食べ進めた。
半分に差し掛かるころに目玉焼きの黄身を割る。
トロリと流れ落ちる黄色の幸せを、零れ落ちないように掬い取って絡めて、食べる。
少ししつこく感じ始めていた肉餡の角が瞬く間にまろやかになり、食欲が復活する。
白身のカリッと、プリッとした触感も相まってさらに美味だ。
370
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:48:25 ID:JUgNWWnY0
気づけば、少しも休むことなく、食べ終えてしまっていた。
体が熱くなって、額には汗がにじむ。
ふぅ、と胸から息を抜いたデレを見て、男が笑った。
彼はまだ皿に2割ほどの残している。
なんという敗北感。
途中からこの無神経男が作った料理ということを忘れて食べてしまった。
しかもデレは元々辛い物やピーマンが苦手だったのに。
ζ(゚、 ゚*ζ 「……あまりじろじろと見ないでくださいまし。失礼ですわ」
_
( ^∀^) 「いや、ごめんよ。でもよかったぜ、気に入ってもらえたみたいで」
ζ(゚、 ゚*ζ 「ま、まあ。あなたのような人が作ったものにしては、ええ」
食べきっておいて不味いとは言えない。食材にも無礼になる。
現にもう少し食べたいと思うくらいには美味であった。
悔しいし不愉快だが認めないわけにもいかない。
_
( ゚∀゚) 「デレちゃん、パンとかインスタントばっかりだろ?だからたまにはこういうのも食べさせないとさ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「ちゃんとサプリメントも飲んでいますし、問題ありません」
_
( ゚∀゚) 「でもさ、良くないと思うぜ。伸び盛りの子供が、そう言う食事しかしないってさ」
371
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:49:51 ID:JUgNWWnY0
確かにデレの食事は今も昔も、インスタント食品や缶詰、惣菜のパンのような物ばかりだった。
最優先すべきはお父様のお食事、つまり血液だ。
サプリメントやドリンクでバランスを保ち、良質な血を作ればそれで良い。
デレ自身の満足など不要だ。
せめて空腹が紛れればそれで充分であった。
でも。
_
( ゚∀゚) 「ネタバレすっとさ、ドクオに頼まれたんだよね。デレちゃんに美味い物食わせてやってくれってさ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「お父様が……」
_
( ゚∀゚) 「んで俺も、デレちゃんの食事はどうかと思ってたのもあって、一肌脱いだってわけ」
_
( ^∀^) 「だから、これは俺からじゃなくてドクオから、だからさ、俺が作ったとかは気にせず食いなよ」
そんなことを言われては、もったいなくて逆に食べられない。
お父様は、優しすぎる。
ぶっきらぼうで、触れることすら滅多に赦してくれなくて、面と向かって手を差し伸べてくれることなどほとんどないのだけど。
デレが何もしてあげられずにいる中で、いろんなことをデレにしてくれている。
最近、やっとそれに気付けた気がする。なぜ気付けなかったのか分からないけれど、最近はちゃんと分かる。
だから、怖いのだ。
自分の存在価値がまったく無いような。
お父様に対して何もできていないこの現状が、手足がしびれるほど恐ろしい。
幸福なのに恐ろしい。この体の中で起きる矛盾の軋轢が、デレの憂鬱を強く大きなものとしている。
372
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:51:06 ID:JUgNWWnY0
_
( ゚∀゚) 「どした、デレちゃん?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「……なんでもありません。寝所に戻りますので、滅多なことが無ければ来ないでください」
_
( ゚∀゚) 「あいよ。あ、でも寝るんだったら歯磨きはしておきなよ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「言われるまでも、ありません」
食器をキッチンの流しに置いて、デレは洗面所へ向かう。
長岡の料理は幸福であったが、だからこそ、早く洗い流してしまいたかった。
_
( ゚∀゚) 「あ、そうだ。買い出しも頼まれてるんだけど、追加で必要なものとかある?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「特にありませんわ」
食事を終えた長岡も流しへ食器を持ってゆく。
そのまま洗うようで、蛇口をひねって水を出した。
デレは、入口で立ち止まり、振り返る。
ζ(゚、 ゚*ζ 「……長岡さん」
_
( ゚∀゚) 「ん?」
ζ(゚、 ゚*ζ 「…………。…………ごちそうさまでした。お食事、…………美味しかったですわ」
_
( ^∀^) 「おう、そう言ってもらえると、俺もうれしいよ」
373
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 22:51:49 ID:JUgNWWnY0
三行
餌
付
け
374
:
名も無きAAのようです
:2014/08/08(金) 23:59:54 ID:qLxwpwV6C
デレ人間味でてきたな
375
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 00:19:51 ID:8GTfCoNU0
乙
飯テロ
376
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 01:12:42 ID:zRfOhjf6O
確かに、読んでるコッチも腹が減った
377
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 03:17:58 ID:apgD84y.0
乙
378
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 12:36:08 ID:MUoPrkJM0
乙
379
:
名も無きAAのようです
:2014/08/09(土) 14:24:59 ID:3aejSDtI0
乙 デレがツンデレだった
380
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:30:47 ID:vmDd.ruE0
Place: 草咲市 空木町安芸 字 小間下103 城宮大学内 講義館正面玄関
○
Cast: 都村トソン 伊藤ペニサス
─────────────────────────────────────
381
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:33:16 ID:vmDd.ruE0
ミー――……ン ミー―ン ミンミン ミー―――…………ン
('、`*川 ……あっつ
(゚、゚トソン 市内の最高気温、35℃だそうです
('、`*川 なにそれ、ほぼ体温じゃん
(゚、゚トソン はい。
ミー――……ン ミー―ン ミンミン ミー―――…………ン
('、`*川 どうする?帰る?
(゚、゚トソン 教授いないんじゃ、いる意味も無いですし。
('、`*川 失敗したわ。今日ならいると思ったのに。
(゚、゚トソン 明日来るらしいですから、明日また来ましょう。
('、`*川 はー……めんど。
(゚、゚トソン 前期中にレポートを出さなかったあなたが悪いのでは。
('、`*川 はー、真面目ちゃんは連れないわ〜
382
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:34:19 ID:vmDd.ruE0
(゚、゚トソン せっかく来ましたし、会館でちょっと休んでいきますか? テトテト......
('、`*川 開いてんの? コッコッ......
(゚、゚トソン 教授とか、実験で泊まり込みしてる人のために開けてるらしいですよ。品物は少ないみたいですけど。 テトテト
('、`*川 じゃ、ちょっと涼んでこか。 コッコッ
( ‘∀‘) ……いらっしゃいませー―……
('、`*川 何飲むの?
(゚、゚トソン アイスオレで
('、`*川 食べ物は?
(゚、゚トソン なにありますかね
('、`*川 ……わかんない
(゚、゚トソン じゃ、とりあえずロールケーキで
('、`*川 なかったら?
(゚、゚トソン なしで
383
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:35:12 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 お待たせ、はい。
(゚、゚トソン ありがとうございます
('、`*川 今日は食べ物置いてないんだって
(゚、゚トソン やっぱり
('、`*川 ま、これしか人いないのに真面な営業なんてしないわね
あゆみちょっとおそくなーい?>
ライン既読になってないし、寝てんじゃないの?>
('、`*川 ……ああいう頭も股も緩そうなかっこ、無理だわ……
(゚、゚トソン 似合いそうですけど
('、`*川 他人から見てどうってより、自分が想像してダメ
(゚、゚トソン はあ
('、`*川 あんたこそ、その野暮い恰好何とかなんないの
(゚、゚トソン あいでんててーなので
384
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:36:07 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 つか、アンタ実家帰らないの?
(゚、゚トソン はい?
('、`*川 最近家出たんでしょ。実家に帰ってんの?
(゚、゚トソン ……んー―――…………
('、`*川 ……あえて聞かなかったけど
(゚、゚トソン はい
('、`*川 喧嘩でもしたの
(゚、゚トソン はい。
('、`*川 それで家出?
(゚、゚トソン はい。
('、`*川 子供かよ
(゚、゚トソン 残念ながら。
385
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:36:58 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 ……何処に住んでんの
(゚、゚トソン 従姉の部屋です。家事を手伝う条件で住まわせてもらっています。
('、`*川 ふーん……
(゚、゚トソン チュー
白
('、`*川 ……
(゚、゚トソン ……冷房、強いですね。
('、`*川 そう?これくらいでいいわ
(゚、゚トソン 私、脂肪少ないので。
('、`*川 ケンカ売ってんのか。
(゚、゚トソン いえ、羨ましい肉付きだな、と。
('、`*川 ……
(゚、゚トソン すみません。不快だったら謝ります。
('、`*川 ……いや、悪意が無いのはわかるし、いいわ
386
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:38:05 ID:vmDd.ruE0
<あ〜っごめ〜〜〜〜ん!
ちょっとあゆみおそ〜い>
どしたの?心配したんだよ>
なんか〜、吸血鬼が出たとかいってさ〜>
(゚、゚トソン
えっ、マジ?大丈夫だったの?>
よくわかんないけど〜、もう死んじゃってたみたい。マジビビった〜>
(゚、゚トソン
やだね〜、昼間にもいるのかよって感じ>
どんな吸血鬼だったの?>
よくわかんなかったけど、女だったみたいだよ>
(゚、゚トソン ガタッ
387
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:38:58 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 どした?
(゚、゚;トソン ……いえ……
('、`*川 ?
(‐、‐;トソン スッスッ......ペタ......ペタ......
日と
('、`*川 ……
(゚、゚;トソン ソワソワ
ε=('、`*川
(゚、゚;トソン すいません、ペニサス
('、`*川 帰るんでしょ?
(゚、゚;トソン えっ、あ、はい。ちょっと急用を思い出しまして。
('、`*川 私も午後から用あるし、気にしなさんな。
(゚、゚;トソン では、すいません。 タタッ
388
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:39:52 ID:vmDd.ruE0
('、`*川 ……
ε=('、`*川
pirrrrrrrrrrrrr.......
('、`*川 ´
('、`*川 …………
日c
pirrrrrrrrrrrrr.......
('、`*川 …………
日c
ε=('、`*川
r('、`*川 …………もしもし……
389
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 14:40:56 ID:vmDd.ruE0
おわり
三行
夏
休
み
390
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:01:31 ID:vmDd.ruE0
Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ 205号室
○
Cast:都村トソン 都村ミセリ
──────────────────────────────────
391
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:02:28 ID:vmDd.ruE0
慌てて帰った部屋に、ミセリの姿は無かった。
靴が一組と、彼女が好んで着るブラウスとそれに似合うウィッグも無くなっている。
テーブルの上には、メモを破った置手紙があった。
『トソンへ。日用品の買い出しに行ってくる。昼までには帰る。』
間違いなくミセリの字で、走り書きされていた。
彼女のことだ、一度家を出ようとしてから思い出し、慌てて書いたのだろう。
電話をかけてみる。
無機質な電子音が、ベッドの枕元から鳴り響いた。
(゚、゚;トソン 「……携帯電話を、携帯しなくてどうするんですか……!」
電話を切って、一旦ベッドに座る。
落ち着こう。
ミセリがいつの間にか部屋を空けるなんていつものことだ。
置手紙をしていっただけいつもよりもマシとすら思える。
いや。
(゚、゚;トソン (……普段しないことを、なんでこういう時に限ってするんです)
余計に不安が煽られる。
大学のカフェで聞いた、殺された女の吸血鬼の話。
それがミセリである可能性は低いと思う。ミセリは、そう簡単に殺されるような吸血鬼では無い。
でも、頭をよぎるのはいくらか前の、血を失い、仮死寸前まで消耗した彼女の姿。
392
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:03:12 ID:vmDd.ruE0
最近のミセリは、常に何かをしていた。
そしてそれは、少なくとも今のミセリの手には余ることなのだ。
だから、もしかしたら。
あの時のような消耗状態で、杭持ちに出会ったとしたら。
(‐、‐;トソン (……物事を悪く考えすぎるのは、私の悪い癖ですね)
大丈夫だ。
自分に言い聞かせる。
彼女のことだから、こっちが心配でどうしようも無くなっていても、ひょっこりと帰ってくるのだ。
(‐、‐;トソン (………………)
無理だった。
もとより、不安症の妄想癖だ。
悪い想像ばかりが頭を過って仕方がない。
だんだん苛立ちが混じって来た。
部屋にこもった熱が体を汗ばませて、頭の中がとにかく知っちゃかめっちゃかだ。
393
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:04:41 ID:vmDd.ruE0
するべきことが分からなくなって、とりあえずテレビをつけた。
興味の湧かない情報番組を三十秒だけ見て、もしかしたらと思いチャンネルを回した。
名の売れた吸血鬼ならば、討伐された際に報道されてもおかしくは無い。
十秒程度ずつ見て、チャンネルを切り替える。
どの局も、ゴシップまがいの番組ばかりだ。
時間も時間なので地方局の放送などなく、私が知りたい情報は得られなかった。
(゚、゚;トソン 「……」
テレビを消し、意味も無く部屋を見回す。
いつも通り。特に変哲は無い。
もう一度見渡す。自分でも何を探そうとしているのか分からない。
部屋の中にミセリが居ないのはわかり切っている。
(゚、゚;トソン 「…………暑い」
冷房のスイッチを入れる。
小さい唸りと共に口が開いて、風が出始める。
(゚、゚;トソン 「……」
汗が滲む。
胸の内に、何ともしがたい不安がじわじわと染みて広がる。
少しでも体から追い出したくて、ため息を吐いてみるけれど、憂鬱はむしろ濃く重くなる。
394
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:05:37 ID:vmDd.ruE0
頭の中を何度も、学校で聴いた見知らぬ誰か達の言葉が回った。
女性の吸血鬼と言うのは、この街にどれくらいいるのだろう。
ミセリは一体、何分の一の存在なのだろう。
(‐、‐;トソン
もし、ミセリが居なくなったら、私はどうするのだろう。
あり得ない話じゃなかったのだ。元々。
ミセリがふらりといなくなってしまうことも、杭持ちに殺されてしまうことも。
私が考えなかっただけだ。
考えたくなかっただけだ。
緩やかに、生ぬるく流れ日常に、甘えきっていただけだ。
きっと、この部屋には残られないだろう。
もしかしたら、私も吸血鬼の関係者として摘発され、今までのようには生活できないかもしれない。
なんにしても、両親は今度こそ私を見捨てるだろう。
でも。
そんなことよりも、それももちろん嫌で不安で怖いけれど。
(‐、‐;トソン
ミセリが居なくなってしまったことを想像するだけで、頭と胸の奥が冷たくなる。
目が暗くなって、思考が鈍って、どうしようも無くなってしまう。
私は、いつの間に、こんなにも、彼女に傾倒していたのだろうか。
395
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:06:57 ID:vmDd.ruE0
いてもたってもいられず、立ち上がった。
探しに行こう。
日用品と言うのだから、ミセリが買いに行く範囲はたかが知れている。
携帯電話を置いて行ったことも含めてそう遠出するつもりはないはずだ。
気まぐれで奔放で後先を考えない彼女のことなので、思い付きで意味不明なところへ向かった可能性もあるけれど。
このまま部屋の中で、暑さに蒸され不安に息苦しくなっているよりはマシなはずだ。
ミセリの携帯電話を、テーブルの上に置きなおす。
帰るかどうか迷った時に電話すれば、ミセリが家にいるかどうかの確認が取れる。
(゚、゚;トソン (……あり得るのは、すぐそこのコンビニ……)
帽子を鞄に突っ込み、玄関へ。
鍵を閉め忘れていたことを思い出しながら、ドアノブに手を伸ばす。
その瞬間に、ドアノブから金属音が響く。
鍵を差し込む音。
ガチャガチャと、一度回して錠を掛け、もう一度回転して扉が開く。
小さく、本当に小さく「あれ、閉め忘れてたっけ」という呟きが聞こえた。
ミセ*゚ー゚)リ 「お、トソン帰ってたんだ。お帰り。言ってたより随分早いじゃんか」
開いたドアの向こうにいたのは、長い黒髪のウィッグをつけたミセリ。
何の変哲も無く、買い物袋をブラさげて、部屋に上がる。
ミセ*゚ー゚)リ 「あんた心配しそうだから、先に戻ってくるつもりだったんだけどな。なんかあった?」
(゚、゚トソン
396
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:07:45 ID:vmDd.ruE0
「あちー」とウィッグを外しながら、ミセリが奥へ。
私は咄嗟にその腕を掴む。
腰が抜けそうだった。自分でも驚くくらい安堵していた。
ミセ*゚ー゚)リ 「どした?」
ミセリの顔を見た瞬間に、泣き出しそうだった。
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン?」
( 、 トソン 「なんでも、ありません」
しばしの沈黙。
ミセリを掴んでいる手が震えていることに気づく。
なにがなんだか分からない。
自分がこんなにも怯えて、安心していることが、ただただ戸惑いだった。
ミセ*゚ー゚)リ 「なんか、あったのか?」
がさりと音がして買い物袋が床に。
振り返りながら、ミセリに抱き寄せられる。
事情を答えようとして、まともに息が吸えなくて。
ミセリの着るワンピースの脇を握って胸に顔を押し付ける。
ミセ* ー )リ 「なんだよ、そんなに心配だったのか」
子供を落ち着かせるような手つきだった。
ミセリの手が、私の背中を撫でる。
情けなくなって、余計に息が乱れた。
みっともなくて、脆弱すぎる自分に、嫌気がさす。
397
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:10:30 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「ごめんな、置手紙したから平気かと思ったんだけど」
静かな声。
少しかすれた響きが、体の中の巡り廻る。
ミセ* ー )リ 「そらそうだよな、私の言葉なんか、信用できるわけないか」
首を振る。
ミセリが悪いのではない。
( 、 トソン 「……学校で」
ミセ* ー )リ 「ん?」
( 、 トソン 「学校で、女性の吸血鬼が殺されていた、という噂を聞いたんです」
ミセ* ー )リ 「……それが、私だと思った?」
( 、 トソン 「…………だって、ミセリ、最近なんだか、様子が変でしたし」
ミセ* ー )リ 「……そうだな。ごめん」
( 、 トソン 「……いえ。帰ってきだけで、良いです」
ミセ* ー )リ 「…………」
ミセリが腕の力を緩め、体を離す。
くっついたままでいようとしたけれど、体を撫で這ったミセリの手に肩を抑えられる。
意図が読めずに顔を上げると、唇が重なった。
398
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:12:33 ID:vmDd.ruE0
優しく触れあうだけの口づけ。
僅かに戸惑って、でもすぐに目を閉じた。
ミセリの舌が、私の唇の隙間を撫ぜる。
背筋が痺れた。
口の力が緩む。
滑り込んできた冷たい舌に、自分の舌を合わせる。
口の中をくすぐり合う。
ミセリの唾液で、舌が敏感になってゆく。
絡み合う。
唾液の水音が直接頭に響いて、体の芯がピリピリと疼く。
口蓋を撫で上げられて声が漏れた。
抜けかかっていた腰にさらに力が入らない。
ミセリに縋りついて堪える。
ミセリが体を引く。
舌が離れて、名残惜しかった私は、口を開いて舌を伸ばす。
唾液の糸が引いた。ミセリは、自分の唇をぺろりと舐める。
ミセ* ー )リ 「トソン、いいよね?」
耳元でささやかれ、体が震える。
女性の割に低く出された声が、神経を通じて全身を侵す。
触れるか触れないかの距離で、唇が首筋を下ってゆく。
胸元の汗を舐めとられた。喉の奥で、きゅっと、声が出る。
399
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:16:16 ID:vmDd.ruE0
キャミソールに手が潜り込んできた。
指の先が、羽毛のようにもどかしく背中を撫でてゆく。
喉の奥から息が漏れる。
いつもよりも、頭が痺れるのが早い
理性が効かなくなってきて、縋りついたまま、ミセリの耳を食む。
ミセ* ー )リ 「ベッド、行く?」
( 、 トソン 「……ここで、してください」
少しも我慢したくなかった。
ミセリが熱っぽいため息を漏らして、私の首筋に歯を立てた。
突き破られる皮膚。
沁み込む唾液が痛みをぼかして、血が流れ出る感触を心地よさに変える。
甘い触れ方で、背中を焦らしていた指先に、余裕がなくなってきていた。
呼吸が荒い。
まだ、ミセリには何もしていないのに、興奮している。
ミセ* , )リ 「トソン」
( 、 トソン 「?」
ミセ* , )リ 「お前、今日妙に可愛いぞ」
右手で私の履くショートパンツのホックを外しながら、左手の中指を舐るミセリ。
粘度の高い唾液が指に絡んで、糸を引いた。
そのまま指は下着に潜り込み、私の中へ。
400
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:17:45 ID:vmDd.ruE0
少し苦しい。でも痛みは無い。
まだ硬い肉をよけて、指がより深いところへ。
内から沁み込む唾液の感覚が、もう何度も味わっているからこそ、下半身の理性を奪ってゆく。
無理に動かすことなく、指が引き抜かれた。
唾液に変わって私の中に居た指を、ミセリが見せつけるように舐める。
何度も舌を絡め、吸い、長し目で私を見た。
脳まで裸にされるようで、顔を背ける。
ふふ、と艶のある息が、見えないところで嗤った。
下着ごと、ショートパンツを下げられる。
抵抗しない。たぶんもう、待ち望んでいた。
邪魔になって、途中から自分で脱ぐ。
足を開いた時に、内腿に感じたのは、汗では無くて。
視線が絡むまま、再び唇を重ねる。
唾液で溶けて、舌が混ざり合う。
ミセリの手が腰へ。尾てい骨を撫でてさらに下へ。
( 、 トソン 「っ?!」
唾液の付いた指が、後ろの穴へ触れた。
反射的に身を捩ったのを、抱きしめられて拘束される。
逃れられない。
唾液を塗り付け、解すように指が入口を刺激する。
401
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:19:37 ID:vmDd.ruE0
( 、 ;トソン 「そこは、きたな……」
ミセ* ー )リ 「力抜いて。痛いの嫌だろ?」
口を離して拒否するも、ミセリは有無を言わせない。
一度戻した指先に、たっぷりと唾液を滴らせ、再び背後へ。
もう一度拒否することもできたかもしれない。
でも、私の体も頭も既に、唾液に、感情の高ぶりに狂わされていた。
( 、 トソン 「っ……ぅ」
初めての感触だった。
柔らかい指なのに硬く感じる。
唾液のせいで痛くは無いけれど、変な心地がして、呼吸が止まって。
指先が入っているだけなのに、切ないくらいに苦しい。
ミセ* ー )リ 「どう?」
( 、 トソン 「なんか、変な感じで、気持ち悪いです」
意地悪に笑って、キス。
体ごと押し付けられて、冷蔵庫に凭れかかる。
八畳一間の、細い廊下。
熱と湿気が篭って頭がどんどん正常さを失う。
もう一方の手が、前に触れた。
唾液の催淫効果で歯止めが利いていない。
自分でも驚くほど、先ほどよりも抵抗なく、ミセリの指を受け入れる。
切ない。もっと先の触れあいを、体が、意志よりも強く求めている。
402
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:21:25 ID:vmDd.ruE0
ミセリの歯を舌で撫でる。
犬歯を探り当てて、強く押し付けて横に滑らせた。
痛みと、自ら感じる血の香り。唾液の中だ、すぐに直ってしまう。
ミセリが、すぐに私の舌を強く吸った。
不安や、憂鬱ごと血が吸い出されていくみたいだった。
私の脳は、チーズかバターのようになって、もう溶け出している。
胎の中で蠢く指の愛しさが堪らなくて、ミセリの体を抱きしめた。
私の中身を挟んで、ミセリの両手が触れあおうとする。
痛みに限りなく近い、快感。
反射的に歯を食いしばったせいで、自分の舌を噛んでしまう。
( 、 トソン 「ミセリ、それダメ……っ」
ミセ* ー )リ 「コレ?」
潰される蛙のような声が出た。
味わったことが無い、こんな感触。
抵抗したいのに体が言うことを聞かない。
ずるりと、後ろの指が引き抜かれた。
力が入っていたせいで、内側が引きずられる。
ほんの一瞬だけ、心地よい。
完全に指が抜かれても、穴が元に戻らないようなもどかしさがあって、物足りなくも感じる。
( 、 トソン 「指、汚い」
ミセ* ー )リ 「私にとっちゃ、全然汚くないんだけど」
403
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:24:29 ID:vmDd.ruE0
右手も私の中から出て行って、私を抱え上げる。
流しに座らされた。
右手で抱き留められ、舌を貪り合って。
左手は蛇口を捻って、私で汚れた指先を洗っている。
私は腰掛けた姿勢のまま、落ちないように足でミセリの腰を挟む。
左手が水を払って、背中から服の中へ。
脇の下を撫でて、胸に触れる。
優しい手つきで掴まれる。
自分で分かる、痛いほど硬くなった先端。
周囲を優しく揉まれ、さすられ、声になり切らない息が、合わさった口の隙間から抜ける。
窮屈で、煩わしいと感じたのと同時にミセリが離れる。
どちらのかなんてわからなくなった液体が蜘蛛の糸のように伸びて。
向かい合う。足で抱えたまま、右手を腰に回したまま、互いの顔を見ていた。
ミセリが笑う。
吸血鬼らしくない上気した頬で、少女のようでも少年のようでも、妖艶な女性でもある綺麗な笑顔。
のぼせてしまう。触れあう以外、まじりあう以外、どうでも良くなってしまう。
余りに煩わしくて、キャミソールを脱いだ。
下着もすぐに外して床に落とす。
ミセリもワンピースを脱いだ。
胸は下着をつけていなかったようで、既に露わになっている。
ミセリの両手が、私の胸を挟むように触れた。
掌で捏ねるように、先端だけは避けて刺激される。
もっと触れてほしいけれど、このまま温いふれあいのままで脳を焼かれていたい。
404
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:28:46 ID:vmDd.ruE0
ミセリの指が、胸の先を、同時に摘まんだ。
急に変わった強い刺激に体が跳ねて、バランスを崩してミセリの肩を掴む。
優しい愛撫から、激しく引っ張られ、痛いのに、甘さを込めた息を吐いてしまう。
ミセリの頬が頬に触れた。
擦り付け合う。匂いを移しあうように、愛しさを表すような頬ずり。
少し油断したところで、耳に息を吹きかけられた。
体が強張る。そのまま、ひだから穴まで舐められて、堪える余裕なく声が出た。
執拗に、胸と耳を責められる。
快感で痺れて、足の力が抜けそうだ。
不安定な場所の、ハラハラで、快感に身を委ね切ることが出来ず。
もどかしくて、欲求が焦れて、もっと、もっと欲しくなる。
( 、 トソン 「ミセリ、ミセリ」
ミセ* ー )リ 「ん?」
( 、 トソン 「触れて、ください。もう、切なくて」
ミセ* ー )リ 「…………いいよ」
流しから降ろされて、立たされる。
自分で思っていたより足に力が入らなく、尻餅を付きそうになったのを、ミセリが支えてくれた。
ミセリが屈み、私の右足を持ち上げる。
左足は腕で抱え支えられる。
愛液に塗れた足の付け根が露わになった。
見られている。でも、恥じらいよりも、触れてほしい思いが勝った。
405
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:32:48 ID:vmDd.ruE0
ここがアパートの一室であることも、もう関係が無かった。
声が上がる。性器の硬いところにミセリが吸い付く。
電流。皮膚が毛羽立つ。私の体からミセリ以外の感覚が吹き飛ばされた。
両手でミセリの頭を抱える。
さらに強く吸わる。取れてしまうそうなほどだ。
充血して過敏になったそこに舌が触れる。
悲鳴が喉を裂いて出た。脳みその中にある大事な糸が残らず引き千切られていく。
束ねた二本の指が、私の中に入ってくる。
刺激が二重になる。鋭い刺激の隙間を埋めるように粘度の高い快感が頭を埋め尽くす。
欠けていた部分が、丁度良く満たされた、充足感。
涎がだらしなく零れる、
吸血鬼の唾液でこの上なく敏感になった体は、もう私のものでは無くなっている。
体が痙攣するのに伴って、シンクがギシギシと軋みを立てた。
空いている左手の指が、口に変わって肉の芽を摘まむ。
場所を譲った口が、挿入を繰り返す指に合わさって、入口を舐め嬲る。
指がお腹の裏側を撫で上げて、掻きだした愛液を、舌が啜りとる。
指先が、私の弱いところを執拗に捏ねる。引っ掻く。舌を入れて舐めまわす。
やめてほしいけれど、やめてほしくない。
永遠に続けてほしいけれど、死んでしまうかもしれないくらいに頭が白くなる
しばらく、一体どれくらい貪られたか分からない。
何度、脳幹が焼け飛んだかも分からない。
廊下はサウナのように暑く、私とミセリは互いの汗にまみれきっている。
私は立っていることができず、床に倒れ込んで。
ミセリは私の足の付け根を、優しく、しつこく、舐り続けた。
お腹の中の栓が緩んで弛んで、汚い水音と共に、愛液が零れ出る。
体が痙攣する。ミセリの手が止まってゆっくりと引き抜かれた。
ミセリは、死体のような私の体を力強く体を抱き抱える。
406
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:34:16 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「指がふやけちゃった」
( 、 トソン 「そう言う、こと……」
冷たい床にへたり込みながら、舌を絡める。
心地よい気だるさ。
根拠のない安心感に満たされて、瞼が重くなる。
ミセ* ー )リ 「なあ、まだする?していい?」
( 、 トソン 「……好きなだけ、どうぞ」
ミセリが私を抱え上げ、ベッドへ。
押し倒すように乗せられ、ミセリは押入れの方へ。
散々弄ばれた名残で、ぼんやりとミセリを待っていると、さほどせずに戻ってきた。
ミセ* ー )リ 「……じゃ、いくね」
( 、 ;トソン 「…………なんですか、それ」
ミセ* ー )リ 「通販で買った」
ミセリが舌を這わせて居たのは、男性のそれを模した、何かだった。
当然ながら指よりも太く、腕ほどに長く、凶悪さがにじみ出ている。
ベッド膝を付き、ミセリが私の足を開く。抵抗は、したものの無駄だった。
( 、 ;トソン 「ちょ、ちょっと、ミセリ?」
ミセ* ー )リ 「………好きなだけって、言ったもんね」
( 、 ;トソン 「待ってください、そんなの入ら―――」
407
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:35:04 ID:vmDd.ruE0
時間で、二時間弱程度だろうか。
気付かぬ内にカーテンの隙間から覗く陽光がさらに強くなっている。
乱れに乱れたベッドの上で、私とミセリは抱き合っていた。
ミセリが腕を出してそこに私が頭を乗せて、抱えられているようなものなのだけれど。
シーツが湿気ている。替えはあるけれど、好感する気力なんてなかった。
冷房の吐き出す空気の冷たさが心地いい。
熱を持って静まらない体が、少しだけ癒される。
ミセ* ー )リ 「ごめんな、無茶しすぎた……?」
( 、 トソン 「吸血鬼のあなたに、本気出されたら、死んじゃいますよ」
ミセ* ー )リ 「……今日は、ダメだ。がまんが利かなかった」
( 、 トソン 「……」
ミセ* ー )リ 「…………あの時、出会ったのが、トソンで良かったよ」
( 、 トソン 「……」
応えるべき言葉が思い浮かばなくて、とにかく触れていたくて足を絡める。
ダメなのは、私も同じだった。
一線を引いたつもりでミセリと過ごしてきていた。
体を許しても、所詮人と吸血鬼なのだから、心を完全に預けるわけにはいかないと。
けれど。
408
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:36:51 ID:vmDd.ruE0
( 、 トソン 「……今日、本当に貴方が死んでしまったかもしれないと思ったら」
ミセ* ー )リ 「うん」
( 、 トソン 「他の何を失うより怖ろしいことだということに、気付いてしまいました」
ミセ* ー )リ 「……」
( 、 トソン 「おかしいと思いますよね。女同士で、人と吸血鬼で」
ミセ* ー )リ 「ああ、おかしいな。おかしいけど」
( 、 トソン
ミセ* ー )リ 「悪くない」
ミセリが、私の頭を抱きしめる。
胸が顔を圧迫して苦しい。苦しいけど、このままが良い。
ミセ* ー )リ 「正直なことを言うよ。初めてあんたに会った時、私はあんたに催眠術をかけた」
( 、 トソン 「……そうだろうとは思ってました」
ミセ* ー )リ 「血を貰ってあとは解放するつもりだったんだ、でも」
家出して、何も持たず行くあても無く、途方に暮れていた私をミセリは憐れんだ。
憐れんで、連れ帰った。血を代償に私に居場所をくれた。
409
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:37:56 ID:vmDd.ruE0
ミセ* ー )リ 「だから、あんたが私に好意を持っていても、それは暗示のせいだった、はずだったんだ」
( 、 トソン 「違いますよ」
ミセ* ー )リ 「うん」
( 、 トソン 「絶対に違います」
ミセ* ー )リ 「…………おかげで、あんたを愛しいとしか思えなくなった」
絆されていく。
互いに超えるべきでないと分かっていた線が、気付いたら後ろにあった。
もうだめだ。自覚してしまったら、自認してしまったら、きっともう戻れない。
吸血鬼の時間は悠久で、人の時間はそれに比べれば酷く短い。
交わったところで、いつかずれてすれ違って、終わってしまうと分かっている。
でも、だからと言って触れあったことを無かったことにはできない。
希望の無い沼の深みでも構わないんだ。どうせ、望む未来なんて、そもそもないんだから。
ミセ* ー )リ 「…………後悔するなよ」
( 、 トソン 「さっき散々したので、大丈夫かと」
静寂。夏なのに、蝉の声すらない。
時計の針の音が聞こえた。カチカチと、時間を刻んでいる。
( 、 トソン 「……だから、教えてください。最近躍起になっている、何かについて」
ミセ* , )リ 「…………ああ」
410
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 15:40:03 ID:vmDd.ruE0
おわり
三行
真
昼
間から
411
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 16:02:38 ID:NPi1OaP.0
乙
話が動いて来たね
412
:
名も無きAAのようです
:2014/08/24(日) 22:17:18 ID:PJBGs4hk0
乙
エロい
413
:
名も無きAAのようです
:2014/08/25(月) 03:05:11 ID:ZvHbLskU0
乙
414
:
名も無きAAのようです
:2014/08/28(木) 21:01:57 ID:2xGyhTZw0
乙
話も面白いし、ゆりゆりも最高だし
415
:
名も無きAAのようです
:2014/08/28(木) 21:57:31 ID:jMn5.vQM0
すごく面白い乙
何度も読んでしまう
416
:
名も無きAAのようです
:2014/09/22(月) 04:00:21 ID:fqLLkRjU0
そろそろかな?
417
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:47:43 ID:rlK3C6BQ0
Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 志納ドクオ 賤之女デレ 長岡ジョルジュ
──────────────────────────────────
418
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:50:46 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「……体の力を抜け」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はい」
('A`) 「恐れることは無い。俺に全て任せろ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はい」
椅子に座らせたデレが、緊張した面持ちで唇を結ぶ。
ドクオは膝をついて目線を合わせ、真っ向から彼女の瞳をのぞき込む。
綺麗な瞳だ。透き通り、見ているこちらの方がすべてを見透かされている気分になる。
ドクオは、一度大きく息を吸って、目に力を込めた。
じくじくと眼窩が独特の熱を持つ。
暗示の力が働いているのだ。
自分で見たことは無いが、他人にはドクオの瞳が発光して見えるらしい。
おずおずとドクオと見つめ合っていたデレの顔が、惚けたようなものに変わった。
頬が紅潮し、薄い唇が桃色に染まる。
上手くかかったようだ。
ドクオはこの催眠術の真似事がどうにも得意になれないので、今回も失敗するかと内心は心配していた。
('A`) 「お前の名前は?」
ζ( *ζ 「……しずのめ……でれです」
('A`) 「他に名前はあるか?」
ζ( *ζ 「……ありません」
419
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:52:13 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「わかった。一先ず、デレと呼ぼう」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「デレ、お前はどこの生まれだ?」
ζ( *ζ 「そうさくし です」
('A`) 「両親の名前は?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「お父さんと、お母さんの名前は?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「……思い出せないか?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「……質問を変えよう。お前はどこの小学校に通っていた?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「…………今の年齢は?」
ζ( *ζ 「9さい です」
('A`) 「……性別は?」
ζ( *ζ 「おんな です」
420
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:53:23 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「趣味はあるか?」
ζ( *ζ 「ほんを よむのが すき」
('A`) 「好きな本は?」
ζ( *ζ 「しあわせの あおいとり」
('A`) 「なんでその話が好きなんだ?」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「……好きな人はいるか?」
ζ( *ζ 「おとうさま」
('A`) 「それは、誰のことだ?」
ζ( *ζ 「…………おとうさま」
('A`) 「……俺はお前にとってのなんだ?」
ζ( *ζ 「おとうさま」
('A`) 「俺のほかにも、お父様が居たな?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「それは誰だ」
ζ( *ζ 「おとうさま」
421
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:54:30 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「……逆に、嫌いな人はいるか」
ζ( *ζ 「くいもち」
('A`) 「なんで嫌いだ?」
ζ( *ζ 「おとうさまを ころそうとする」
('A`) 「……お父様は死んだか?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「俺は生きているが、お父様は死んだか?」
ζ( *ζ 「おとうさまは あたらしいおとうさま」
('A`) 「おとうさまは杭持ちに殺されたか?」
ζ( *ζ 「わからない」
('A`) 「前のお父様の遺物を持っているか?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「……それはどこにある」
ζ( *ζ 「…………どこか」
('A`) 「どこだ」
ζ( *ζ 「……どこか」
422
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:55:25 ID:rlK3C6BQ0
半覚醒状態のデレに、他愛ない質問と、核心を探る質問をまぜこぜにして問う。
他愛ない方には答えが返ってくるが、核心に迫る物はダメだ。
ドクオの術にかかり、本人の意志は全く働いていないはずなのだが、それでも答えようとはしない。
知らない訳ではないのだ。知らないことには知らないとはっきり答えることからも分かる。
その後十数分に渡り、質問を続けて見たが成果は得られなかった。
分かったのは、今のデレの人格を形成している「おとうさま」の暗示の能力は、ドクオより数段上だということだけだ。
('A`) 「……もう一度聞く。おとうさんとおかあさんのことを覚えているか?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「…………わかった。そろそろ終わりにしよう」
('A`) 「最後に、俺に言いたいことはあるか」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「何でもいい。ゆっくりでいい。どんな他愛ないことでも構わない」
ζ( *ζ 「…………なにもありません」
('A`) 「……」
ζ( *ζ 「……なにもありません」
デレの頬を、一筋の涙が伝った。
423
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 21:56:52 ID:rlK3C6BQ0
術を解く。
完全に気を失い、倒れかけたデレの体を受け止めた。
少女然としていて軽く、小さい。
しかし、年齢を考えれば、もう少し成長していてもおかしくないはずだ。
やはり、吸血鬼に定期的に血を与えるというのは、少女の体には荷が重いのか。
ドクオはぐったりとした彼女の目じりを指で拭ってやる。
('A`) 「ジョルジュ、すまん。デレを寝室に連れていく」
_
( ゚∀゚) 「あいよん」
部屋の隅で大人しく気配を消していたジョルジュが小走りで部屋の扉を開けた。
ここは一回の奥の物置部屋。今はジョルジュに貸し与えている場所だ。
デレは、今も死に失せた「お父様」の呪縛に囚われている。
出来るだけ、その名残の無い場所で術による干渉を行いたかった。
('A`) 「……どう思った」
_
( ゚∀゚) 「どうもこうも、本当にがっつり洗脳されてんだな、って感じ」
('A`) 「ああ」
_
( ゚∀゚) 「上辺だけをキャラ漬けされてるってレベルじゃないもんな。正直やった奴を殴り倒したいわ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「まあでも、希望はあるんじゃねえかな。最後のは、なんか、本人が呪縛と戦おうとしていた感じあるし」
('A`) 「だと、良いんだがな」
424
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:00:04 ID:rlK3C6BQ0
地下の寝室に降り、ベッドにデレを寝かせる。
洗脳されている部分に干渉したせいで消耗したのだろう。
ぐったりと眠って、起きる気配が無い。
('A`) 「最近は、少し人間味を取り戻してきていたようだったから、期待したんだがな」
_
( ^∀^) 「焦りは禁物ってな。状態が改善してる兆しはあるんだしよ、無理しないでいこうぜ」
('A`) 「……ああ」
デレの額を撫で、乱れた髪を調えてやる。
こうして寝ていると、本当にただの少女だ。
起きている時の所作言動の薄気味悪さが嘘のように思える。
_
( ゚∀゚) 「つかさ、なんでそこまでデレちゃんのこと気にかけてんのさ」
('A`) 「……お前も色々してくれてるだろ」
_
( ゚∀゚) 「そりゃ俺も並の善意?みたいなもんあるし。でもさ、ドクオはなんかこう、もっと必死というか、マジというか」
('A`) 「…………コイツは、洗脳されての行動とはいえ、俺の命の恩人だからだ。それ以外に理由は無い」
_
( ゚∀゚) 「ふーん……」
いまいち納得していないという顔ながら、ジョルジュはそれ以上続けなかった。
嫌われているのを自覚して、あまり接近しないようにデレを覗き込む。
_
( ゚∀゚) 「まあ、でも。目をつけたのがドクオだったってのが、この子のなけなしの幸運だったと俺は思うぜ」
('A`) 「……俺がどうかはともかく、他のゴミに同じように懐こうとしたかも知れないと考えると肝が冷える」
425
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:01:02 ID:rlK3C6BQ0
あらかじめ寝間着を着させておいたので、このまま寝付かせて問題ないだろう。
ドクオは布団をデレに被せてやる。
小さな、しかし少し荒い寝息が聞こえる。
以前に一度、暗示をかけた時もこうだった。
その時は、ドクオの暗示で無理やりに元の人格を引き出そうとしたが失敗。
術が解けたと同時にデレは意識を失い、そのまま数時間眠り続けたのだ。
悪夢を見ているかのように魘されている彼女の姿には、簡単に干渉できない何かがあった。
今回は多少気を使ったつもりだが、それでも夢見は悪いらしい。
もう一度額の汗を拭ってやる。
デレが少し反応した。閉じていた瞼が開き、うるんだ目でドクオを見上げる。
ζ( 、 *ζ 「お父様……?」
('A`) 「……負担がかかっているはずだ。もう少し寝ていろ。」
ζ( 、 *ζ 「……?」
術にかかる前後の記憶があいまいなのか、自身の状況が把握できてい無いようだ。
今、あれこれと説明しても無意味だろう。
ドクオは頭を撫で、一先ず寝かしつけようとする。
ζ( 、 *ζ 「お父様……」
('A`) 「なんだ」
ζ( 、 *ζ 「……傍に……いてください」
426
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:02:10 ID:rlK3C6BQ0
小さな手が布団から現れて、ドクオの指を掴む。
デレはそのまま瞼を閉じて、寝息をたてはじめた。
少し引いてみたが、寝ている割にはしっかりと捕まっている。
_
( ゚∀゚) 「よっぽど怖い夢でも見てんのかねえ」
('A`) 「……甘ったれなだけだ」
_
( ゚∀゚) 「ドクオも一緒に寝たら?昨日もロクに寝てないだろ?」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「色々考えてるのはわかるけど、無理は良くないって」
('A`) 「……そうだな。俺も少し寝る。上のことは任せていいか」
_
( ゚∀゚)b 「おうよ。家事もろもろとデレちゃんの夕飯は俺に任せな」
('A`) 「すまん、いつも世話になる」
_
( ^∀^) 「ま、無職の俺の方が世話になってんだけどな」
地下を出てゆくジョルジュを見送って、ドクオも布団に潜る。
ジョルジュの言っていた通り、ここ数日真面に睡眠をとっていなかったので、常に睡魔に襲われ続けている。
ついでに腹も空いているが、こちらはいつものことだ。
二日前にいくらかデレの血を吸ったので、まだまだ耐えられる。
427
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:04:44 ID:rlK3C6BQ0
デレをなるべく中央からどかさぬよう。端に寄って眠る。
仕方ないので、指はデレに捕まれたままだ。
暗示をかけて負担をかけたのはこちらなのだから、この程度のわがままは許してやっても罰は当たるまい。
目を閉じる。
デレの寝息だけが聞こえる。
最近では、すっかり耳に馴染んでしまった。
一度、同じ床に入ることを赦した時点からデレは必ずドクオと共に眠る様になった。
寝付くまでの数分を、会話して過ごすことも増えた。
デレが、少しずつ年相応のらしさを取り戻すのと同時に、ドクオもようやっと彼女に慣れ始めている。
( A ) 「…………」
ζ( 、 *ζ 「ん……」
( A ) 「…………おい、離れろ」
ζ( 、 *ζ スャー......
( A ) 「…………チッ」
手を抱くようにすり寄ってきたデレを、少しだけ押し戻し。
ドクオもまた、深い眠りに就いた。
428
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:05:33 ID:rlK3C6BQ0
眠い人用三行
デレの洗脳
解けず
とりあえず添い寝
短いですが明日か明後日また投下します
429
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:09:43 ID:Lr4GRp020
ムジナまってたよ!!しえん!
430
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:10:37 ID:Lr4GRp020
っておわってたwwおつ
次に備えて今日のぶんいまからよんでくる
431
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 22:11:19 ID:ZOZNalQA0
乙
どう収束していくのか毎回気になるぜ
432
:
名も無きAAのようです
:2014/10/19(日) 23:33:40 ID:scZKMryM0
乙!
本当に文章力があって、キャラの立て方も上手いよ
完結したら現行で見たあと
まとめでもういっぺん一気読みしたいぐらい
433
:
名も無きAAのようです
:2014/10/20(月) 01:45:29 ID:nVrxe7Es0
乙!
434
:
名も無きAAのようです
:2014/10/21(火) 22:38:21 ID:wnH.c6X.0
ζ(゚ー゚*ζ
http://i.imgur.com/lgNMzMZ.png
キャラの掛け合いも面白いし背景の描写も密でわくわくする
続き楽しみです
435
:
名も無きAAのようです
:2014/10/21(火) 23:00:15 ID:rWRoTenY0
>>434
クオリティすgeeee
436
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:38:46 ID:tDoD0cvc0
Place: 草咲市 とあるビルの屋上
○
Cast: 棺桶死オサム 百々クックル 小山内リリ
──────────────────────────────────
437
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:43:01 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「吸血鬼の生涯に、孤独はつきものだ」
その男は、屋上の縁に立ち月を見上げていた。
背に負った棺桶が黒いシルエットを歪にし、一目では人の姿とは分からない。
【+ 】ゞ゚) 「元は人であるから人を愛してしまうが、人にとって吸血鬼は恐れ忌むべき捕食者に過ぎない」
【+ 】ゞ゚) 「稀に受け入れる者が現れても、やはり長くは続かない」
大きく、輪郭のはっきりとした満月。
雲のない夜空にその光を遮るものはなく、街は夜とは思えぬほどに明るい。
いつもは眩しいネオンライトも、今日はどこか控え目だ。
【+ 】ゞ゚) 「故に、吸血鬼は愛されることに飢える。野良の吸血鬼が同族を生み出してしまう大きな理由はここにあるだろうね」
男、棺桶死オサムはくるりと振り返った。
月の逆光で表情は見えないが、恐らくいつも通りの腹立つ笑みを浮かべているのだろう。
【+ 】ゞ゚) 「悲しいことに、同意の下で吸血鬼化させたとしてもそう言った関係は割合すぐに破たんすると相場が決まっていてね」
【+ 】ゞ゚) 「有限の時間だからこそ尊く愛した相手でも、永遠に共にあるとなれば別であるから、必然ともいえるのだが」
棺桶死は、少し高く作られたそこから屋上の側へと降りる。
巨大な箱を背負っているにも関わらず、足音一つない。
黒い影に塗りつぶされたシルエットの中、その双眸だけが紅く怪しく輝いている。
【+ 】ゞ゚) 「これは、吸血鬼に与えられた罰なのだろう。人でありながら、人を喰らう、その業に対する、ね」
438
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:45:36 ID:tDoD0cvc0
棺桶死は屋上の端をなぞる様に横へ。
月明かりのあたりが変わり、体が徐々に闇から現れる。
穏やかな笑み。街ですれ違えば少々身分の高い老紳士にしか見えないだろう。
相対するは、長身の男と少女。
男は黒いスーツで全身を固め、少女は背中にランドセルに似た四角い皮の鞄を背負っている。
【+ 】ゞ゚) 「久しぶりだね百々、小山内。前に英栄で一戦交えて以来かな?」
( ゚∋゚) (……我らの前に進んで姿を見せるとは、何を企んでいる、棺桶死)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「いやさ、態々草咲まで君らが来てくれたのだ。一戦、相手してやらねば義理が立たんと思ってね」
( ゚∋゚) (その余裕。今日こそ捻りつぶす)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ^) 「受けてたとう。アレが引退してから、どうにも退屈でたまらんからね」
( ゚∋゚) (…………ほざけ)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
長身の男、百々(どうどう)クックルは両手に杭を備えた。
巨大なメリケンサックに、短杭の刃を生やした特注品。
便宜上、「拳杭」と名付けてはいるのだが、杭持ちの間では「百々杭」と呼ばれている
扱いが直感的で単純な半面、膂力が物を言うため百々以外に使う者が居ないからだ。
439
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:48:57 ID:tDoD0cvc0
百々の隣に立っていた少女、小山内(おさない)リリはテコテコと屋上の入口付近まで下がる。
それを合図に、百々は前へ。
長く逞しい足を活かし、瞬く間に棺桶死に肉薄。
走る勢いを殺さぬまま拳と杭を叩き付ける。
打撃と、金属を引っ掻くけたたましい音が連続する。
棺桶死は背負っていた棺桶を前に出し、百々の杭を受けたのだ。
百々は続けて逆の拳を、あえて棺桶に打ち込む。
剛力に蓋が軋み、棺桶死の体が僅かに揺らいだ。
この一瞬の隙に百々は横へ体を潜り込ませる。
見えたのは棺桶死の脇腹。
がら空きのそこへ、フックの容量で拳を振るう。
杭の先端が棺桶死の肉を捉えるかと思ったその寸前、棺桶死の身体が霧散した。
黒い霧の塊へと変貌した棺桶死は、百々から距離を取った位置で再び人の姿へ戻る。
【+ 】ゞ゚) 「やれやれ……流石、人間とは思えない」
棺桶死が手放していった棺の蓋は、大きく窪んでいた。
鉄製である。
そう簡単に歪むものでは無い。
【+ 】ゞ゚) 「大天福や素直嬢とは全く違う強さだ。彼らは人間的な部分をより特化しているが、君は」
言葉の途中で銃声が鳴り響き、棺桶死の頭が横に弾かれた。
耳のやや上から血飛沫が吹き出し、夜空に立ち上る煙となる。
440
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 14:50:39 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「…………余裕を持ちすぎかと思われますが」
血飛沫の原因は、屋上入口の陰から半身だけを露わした小山内リリ。
その腕には小さな体に見合わぬ厳つい小銃。
銃口から登る細い煙が風に吹かれて靡いている。
一発目の命中によって生まれた棺桶死の停止に、さらに引金を引く。
銃口の消炎器が、十字に火を噴いた。
地に伏せ、かなり独特な体制で銃身を抑えながらも狙いは正確。
放たれる弾は悉く棺桶死の体を貫いてゆく。
この射撃の間にも、百々は棺桶死に迫った。
拳の間合いへ到達すると同時にリリの銃が哭き止む。
( ゚∋゚) !
大きな踏み込みから、棺桶死の胸部に杭を叩き込む。
三本の杭が肉を断ち、骨を砕いた。
振り抜いた拳の勢いのまま棺桶死の体が宙に浮く。
百々は軸足を入れ替え、体重を移動し、逆の拳で頭部を殴り払った。
深く食い込んだ杭が、硬い音を立てながら棺桶死の顔を四分割する。
血と脳漿が吹き出し百々の体を濡らすが、それでも巨漢は止まらない。
さらに切り返しの拳。
捻りが咥えられた並列する三本の刃が棺桶死の胸を抉り、吹き飛ばす。
軽々と浮いた棺桶死は放物線を描き貯水タンクへ。
仰け反った姿勢で頭部から衝突し、跳ねて地面に伏せる。
441
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:01:44 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「クックルちゃん!」
手りゅう弾のピンを口で外し投げつけるリリ。
貯水タンクに跳ねたそれは、起き上がろうとしていた棺桶死の頭へと落ちる。
そして。
静かな月夜に似合わぬ轟音が鳴り響く。
リリは腕で顔を庇い、百々は彼女の小さな体の前で自らの肉体を盾とした。
ぱらぱらと、舞い上げられた瓦礫の落ちる音。
百々とリリはすぐに離れ、それぞれの得物を構えながら、棺桶死の居た場所を睨みつける。
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「はい。これくらいで奴が死ぬとは思えません」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「一応大天福ちゃんにも連絡はしておきました。彼のことだからすぐに来てくれると思います」
手りゅう弾によって破損した屋上の床。
そこには棺桶死の身体、流れ出た血すらも存在しない。
「やれやれ、やはり君らは容赦がないね」
後ろからの声に、咄嗟に振り返る二人。
が、棺桶死の姿を視認することが出来ず、リリが横に吹き飛ばされた。
コン.ク.リートの床を転がり、縁の段差に背中を打ちつける。
口から唾液が零れ、苦しげに身を丸めた。
442
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:03:19 ID:tDoD0cvc0
リリを心配する余裕も無い。
百々は僅かに見えた棺桶死の攻撃を腕で捌く。
すさまじい衝撃にスーツの内に仕込んだ特殊繊維のプロテクターが軋みを上げた。
次々と襲い来る棺桶死の攻撃。
月明かりの中、百々は硬く握られた白い拳を視認した。
ただし、その数が妙に多く感じる。
棺桶死が早いとか、薄暗い中で残像が見えるとか、そんな甘いものでは無い。
実際、棺桶死の手は左右合わせて六つ存在していた。
棺桶死の身体は、大半が霧に変化したまま。
実体化しているのは胸部と顔、そして複数に増えた腕のみだ。
その状態から、人間には再現不可能な速度と力の連撃を放っている。
【+ 】ゞ゚) 「よく耐える。……だが」
連続する打撃を受け切れず、いくつかの拳が百々の体を捉えた。
内臓が揺さぶられ、骨が痺れる。
絞り固めた筋肉の防御も余り役には立たない。
こじ開けられた腕の防御の隙間を抜けて、百々の顎が打ち上げられた。
巨体が浮き、そのまま受け身も取らず地面に落ちる。
【+ 】ゞ゚) 「速さだけなら大天福だね。アレは私より僅かに速い」
霧を纏い完全な実体へ戻る。
腕は二本に戻り、受けた数々の傷は一つも残っていない。
軽く埃を払い襟を正すさまは銃弾爆薬鋼の剣が煌めく戦闘の後とは思えぬほど穏やかだ。
443
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:04:47 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「おや、死なない程度に意識を飛ばしたつもりだったのだが」
⌒*リ´・-・リ 「…………う、くっ」
【+ 】ゞ゚) 「相変わらず見かけに寄らない頑丈さだ」
⌒*リ´・-・リ 「……棺桶死、あなたはなぜ、この街に来たのです」
【+ 】ゞ゚) 「……特に理由は無い。娘の顔を見ようかと思ってね」
⌒*リ´・-・リ 「……」
リリは小銃を杖代わりに立ち上がった。
やや覚束ないが、気丈に棺桶死を睨みつける。
⌒*リ´・-・リ 「…………ハインリッヒ高岡とは何者なのです」
【+ 】ゞ゚) 「!」
⌒*リ´・-・リ 「先日、私たちの元に、あなたの居場所をリークする電話がありました」
⌒*リ´・-・リ 「それは、あなたが私たちをおびき出すため、素直ちゃんたちの前に姿を現す以前の話です」
【+ 】ゞ゚) 「……」
⌒*リ´・-・リ 「信憑性の無い情報でしたので、一先ずは裏取りをしていたのですが、結果として正しかったということになります」
444
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 15:39:51 ID:tDoD0cvc0
※私用にて中断します
445
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 16:08:17 ID:oAXzoo4c0
おま……!乙……!
446
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 16:13:46 ID:9jQR.3h.0
くぁ……!
乙
447
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:14:42 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「私たちですら正確な居場所のつかめないあなたの、一時の隠れ家までを暴いて見せたその男が名乗った名」
⌒*リ´・-・リ 「それが、ハインリッヒ高岡」
【+ 】ゞ゚) 「……」
⌒*リ´・-・リ 「疑問に思った私たちは、とりあえずその男の名を調べました。
偽名である可能性も考慮し、近しい意味合いを持つ名前までを徹底的に」
【+ 】ゞ゚) 「そして、見つかったかね?」
⌒*リ´・-・リ 「いいえ。少なくともここ十数年の記録からは、それらしい人物を特定できませんでした」
棺桶死はごく小さな声で「そうだろうね」と呟いた。
やはり関係者なのだろう。
⌒*リ´・-・リ 「と、本来ならばここで「ハインリッヒという名は偽名である」と結論付けて終わりなのですが……」
頭の片隅に置く程度に留めていたその名を、リリたちはこの街に来てもう一度聞くことになる。
ここ、草咲市市街は最近妙に吸血鬼絡みの事件が頻発している。
今までにない規模での吸血鬼の量産。それに伴う数々の凶行。
杭持ちたちは全力で原因の解明に当たっており、僅かずつであるが進展も得られている。
その中に、あったのだ。
ハインリッヒという名が。
⌒*リ´・-・リ 「大天福ちゃんが、一連の事件の要因に関わると思われる吸血鬼を捕らえたのですが、
その吸血鬼が取り調べの中で唯一口にしたのが『ハインリッヒの意志』という一言だったそうです」
448
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:16:05 ID:tDoD0cvc0
⌒*リ´・-・リ 「……なにか、繋がってくる気がしませんか?」
⌒*リ´・-・リ 「地雷女。棺桶死オサム。吸血鬼事件の異常な頻発。その他にも、いつになく草咲市は賑やかです」
⌒*リ´・-・リ 「この、きなくさ〜〜〜い感じ、全て偶然でしょうか?」
【+ 】ゞ゚) 「…………そうか。奴はついにそう言う手段に出たか」
⌒*リ´・-・リ 「やはり、御存じなのですね」
【+ 】ゞ゚) 「ああ。だが、語らんよ。奴のことは、出来るだけ私たちだけで片付けたいからね」
⌒*リ´・-・リ 「よく言います。私たちを招くようなマネをしたのは、この件に少しでも戦力を巻き込みたかったからでしょう」
【+ 】ゞ゚) 「……察しが良くて助かるね」
⌒*リ´・-・リ 「貴方の思惑通りに私たちが動くと?」
【+ 】ゞ゚) 「私の思惑では無い。人を救いたい君たちの意志が、私の利と一致するだけさ」
⌒*リ´・-・リ 「腹の立つ言い方だ。……と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「!」
棺桶死の背後、気絶していたはずの百々が立ち上った。
わずかな間もおかず、そのまま熊が爪を振るうように、棺桶死の体を薙ぎ払う。
素早い反応を見せたため深く抉ることはできなかったが、血が地面に跡を残す。
449
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:18:07 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「む?」
( ゚∋゚)
相変わらず冷静さを見せた棺桶死だったが、少しして眉をしかめた。
切り裂かれた傷の修復が遅い。
霧への変化すらもどこか鈍っている。
【+ 】ゞ゚) 「おやおや。これは」
( ゚∋゚) (我々がいつまでも貴様に振り回されるだけだと思うか?)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「ふむ。確かに油断してもいられないようだ」
棺桶死の血が糸のように伸び傷口を縫合してゆく。
折角の有効打もすぐに回復されてしまったが、止むを得まい。
血刑の糸による縫合は飽くまで応急処置。
これまでのように時間を巻き戻すかの如く復活されるよりはマシになったと思うべきだ。
【+ 】ゞ゚) 「気絶したふりをして、杭に何か仕込んだか」
( ゚∋゚) (抗血刑剤。かねてから研究されていたが、ようやっと実用レベルに達したというところだ)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「…………旭の遺産か。死んでもなお仇を成す者とは、どこにでもいるものだね」
450
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:19:20 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「…………さて、頃合いだ。そろそろお暇させてもらうとしようか」
( ゚∋゚) (逃げるつもりか棺桶死)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「……これ以上は戯れでは済まなくなるだろう。まだ君らを殺すときでは無い」
( ゚∋゚) (我らがこの好機をみすみす逃すと思うか?)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
【+ 】ゞ゚) 「好機……?はて……」
棺桶死が顎に手を当て小首を傾げる。
同時に、百々の杭の刃が根元から全て折れた。
咄嗟に構えたリリの小銃も、弾倉が地面に落ち込められていた弾が一つ残らず取り外される。
どちらも、装備して居たそれぞれは何の操作もしていない。
【+ 】ゞ゚) 「いくら君でも、素手で私とやり合うのは無理があるのではないのかな、百々」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「……本当に、忌々しい人」
【+ 】ゞ^) 「止むをえまい。私は人類にとっても、吸血鬼にとっても最大の怨敵でなければならないからね」
451
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:20:25 ID:tDoD0cvc0
【+ 】ゞ゚) 「では、また会おう百々、小山内。その日まで、健やかで居ておくれよ」
棺桶死の体が文字通り霧散した。
黒い靄は瞬く間に空気に融け消えて、彼の放っていた強烈なプレッシャーも綺麗に消え去る。
⌒*リ´・-・リ 「……結局、核心事は煙に巻かれてしまいましたね」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「ええ。腹立たしいことですが、今は棺桶死の思惑に乗るしかないでしょう」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「はい。まずは装備を新調しなければ。私の銃は何とかなりますが、クックルちゃんの杭は時間がかかりますし」
( ゚∋゚)
⌒*リ´・-・リ 「水臭いことを言わないで、クックルちゃんのサポートをするのが、私のお仕事だもの」
( ゚∋゚)
棺桶死が一度去った場所に再び戻ることは滅多にない。
二人は手早く戦闘の痕跡を清掃し、屋上を去った。
人のいなくなった屋上は煌々とした月の明りの中で、時が止まったように、静寂を取り戻した。
452
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:21:21 ID:tDoD0cvc0
.
453
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:22:16 ID:tDoD0cvc0
ダッ!
ダッ!!
ダッ!!
ダッ!!
ダッ!!
454
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:24:18 ID:tDoD0cvc0
_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> <
> 大 天 福 大 参 上 ! ! ! <
> <
´ ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
三 ∧_∧
三⊂(´†ω゚`)つ
三 〈 バー―――z___ンッ!!
(_/⌒J
(´†ω゚`) 「またせたな百々!!!この大正義大天福が来たからには―――――ッ!!」
(´†ω゚`)
(´†ω゚`)
(´†ω・`)
.
455
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 18:25:56 ID:tDoD0cvc0
おわり
間が空きましたがあけましておめでとうございます。今年も滞りつつ続けてゆきます
三行
( ゚∋゚) (棺桶死殺す)
∨ ̄
⌒*リ´・-・リ 「と、申しております」
>>434
遅くなりましたが、大変に素晴らしいです
イメージの中にあったデレそのものを描いていただき非常に喜ばしく思います
456
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 19:24:43 ID:Q5B5v9ls0
乙、このぐらいの間は訓練されたブーン系民には一日と変わらない。
オレは更新されたのをみて狂喜乱舞したけどな
457
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 19:54:09 ID:P5VBhslg0
乙乙
大天福先生が大天福すぎてとても良い
458
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 20:35:05 ID:TcjWcj5o0
乙!
459
:
名も無きAAのようです
:2015/01/03(土) 21:40:40 ID:oAXzoo4c0
乙 オサムかっけぇ〜〜〜
460
:
名も無きAAのようです
:2015/01/04(日) 09:05:34 ID:wiiJefkc0
キテタ!
毎回三行が秀逸過ぎる
461
:
名も無きAAのようです
:2015/01/04(日) 13:19:20 ID:42G6Detw0
おつ
462
:
名も無きAAのようです
:2015/01/19(月) 21:47:37 ID:7UVWQIYA0
乙!
やっぱムジナが個人的に一番面白いわ
463
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:13:40 ID:fIZnY.bU0
Place: 草咲市 幸寿町 辺丹州 字 戸六 35-7 穏やかな音楽の流れる喫茶店
○
Cast: 流石兄者 素直クール わかばを吸う女
──────────────────────────────────――――――
464
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:18:49 ID:fIZnY.bU0
その女は、既に席に座り煙草を燻らせていた。
窓際の角の席。
入口に背を向けるその姿は若い女のようにも、老いた老女にも見える。
「あれだ」
そう一言だけ呟き、クールは席に向かう。
ハイヒールの鳴らす硬質な音が、静かな喫茶店の中に響いた。
先ほどまでテーブルを拭いていた店員の女がいそいそと駆け寄ってきたが、
一瞥もしなかったクールの態度にやや戸惑っている。
「二人。あちらと待ち合わせで」
「あ、はい、いらっしゃいませ」
俺に頭を下げ店員はいそいそとカウンターへ戻る。
カップを拭いていた店長らしき老人と目が合ったが、逸らされた。
服装で俺たちが杭持ちだと見抜いたのだろう。
客に対するには、少し鋭さの過ぎる警戒心が見て取れた。
「流石くん、早くきたまえ」
「はい」
先に女の向かいに腰を下ろしたクールに呼ばれ、俺もテーブルへ。
数秒悩んで、クールの隣に間を空けて腰掛けた。
465
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:21:34 ID:fIZnY.bU0
「良い雰囲気の店ですね」
「でしょう。気に入ってるの、暴れたりしないでね」
俺の述べた社交辞令に、同じく社交辞令然とした返事をする女。
初めて正面から顔を見た。
世間一般で言えば、美人な部類か。
気だるげな表情がむしろ艶となっている。
「紹介しよう。部下の流石くんだ」
「流石兄者です、初めまして」
クールが相変わらず無感情な声で俺を紹介しる。
最近やっとこの、「これはペンだ」と言うのと同じトーンで名を伝えられることに慣れた。
初めの頃は紹介されていると気付けず、反応が遅れてしまったものだ。
「初めまして。私は、そうね」
女は少し悩み、テーブルに置いてあった煙草の箱を手に取った。
薄い緑の地にシンプルなロゴとデザインが描かれている。
喫煙者でないため詳しくは無いのだが、ひらがなで名前が書かれた煙草は初めて見る。
「仮に、『わかば』とでもしときましょうか」
「偽名ですか」
「そうね。だけれど気を悪くしないで。普段使っている名前ですら、私の本来の名前じゃないから」
466
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:22:35 ID:fIZnY.bU0
互いの紹介を終え、落ち着いたところに丁度店員が現れる。
俺とクールの前に水とおしぼりを置き、伝票にペンを構えて注文を取る姿勢になった。
特に何かを頼むつもりでも無かったため、目でクールを窺う。
「経費は落ちる。良識の範囲で好きなものを頼みたまえ」
「じゃあ、俺はブレンドを」
「私もブレンドおかわり。それとガトーショコラ一つ」
「私はアイスラテを。と、ショートケーキを二つ」
「俺は要りませんよ」
「何を言っている。二つとも私が食べるに決まっているだろう」
苦笑する店員を戻らせ、わかばの女は咥えていた煙草を灰皿に押し付ける。
吸殻はこれを含めて三本。
珈琲も二杯目であるし、少々待たせてしまったようだ。
遅れてきたわけでは無いのだが、はるかに早く彼女はここに着ていたのだろう。
「それで、話しってのは何」
「率直に言おう。君の力を借りたい案件がある」
予測できていたのだろうか。
わかばの女はため息を吐き、器に残ってた珈琲を飲みほした。
467
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:23:52 ID:fIZnY.bU0
「私が出張んなきゃいけないような緊急事態なわけ」
「そうだ。でなければ連絡などしない」
いかにも乗り気でないという風に、わかばの女は唇を尖らせる。
「いいわあ、一応話くらいは聞きましょう」
「そう言ってもらえると重畳だ」
「でも、期待はしないでよ。私は、今の生活ぶっ壊してまで協力するような義理は無いから」
「ああ、分かっている」
二人の女の会話を、水で喉を潤しながら聞く。
優位性を持っているのは、わかばの方で間違いないだろう。
こちらは依頼する側なのだから当然と言えばそうだが、それだけでない何かが感じ取れた。
「わかば」がどういった存在で、クールや十字協会とどういった関係があるのか、俺は一切教えられていない。
一応尋ねてはみたのだが、「今は顔だけ覚えておけ」という返答しか得られなかった。
協力を仰ぐといった時点で無認可の吸血鬼狩り屋の類かと予想していたのだが、どうにも空気が違う。
468
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:25:03 ID:fIZnY.bU0
「流石くん、細かい話は君に任せる」
「わかりました」
「あなた、良くこれの部下なんてやってられるわね」
「異動の願いは散々出しているのですが、認められなくて困っています」
「ふうん。なんだか嫌にタフそうな相棒で良かったわね、クーちゃん」
「タフ過ぎて困っているところだ。あと部下の前でクーちゃんはやめろ」
「いいじゃない。私にとってはいつでもどんなときでもクーちゃんはクーちゃんよお」
「流石くん、さっさと話を」
「はい」
わかばが、煙草を一本抜き取り、口に咥える。
ライターを構えたところで、思い出したように俺を見る。
「煙草、吸っても」
「俺は構いませんが」
「ありがと」
ライターが火花を飛ばし、細い火が点る。
煙草の先端が燃え、軽い明滅を起こす。
一度大きく吸い込んだ煙を、俺たちにかからぬよう、少し開けた窓に吹くわかば。
その目が俺を流し見たのを確認し、俺は口を開いた。
469
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:28:56 ID:fIZnY.bU0
「現在、草咲市に棺桶死オサム『始祖の吸血鬼』が姿を現していることはご存じで」
「いいえ。そう、あのおじいちゃんまた来てるの」
「はい」
棺桶死オサム、そして吸血鬼に対する認識はある程度共有できているようだ。
これならば、いちいち説明せずに済む。楽でいい。
「まさか、あのおじいちゃんを殺すの手伝えってんじゃないでしょうね」
「正確には、それも視野に含めて、複数の状況に対する遊撃的な立場を取っていただきたいと、上は考えています」
「遊撃的、ねえ」
「我々のみでは手に負えない状況が発生した際の援護、ということになります」
「ねえ、クーちゃん」
「なんだ」
相変わらず顔を窓側に向けたまま、わかばは視線のみをクールに移動する。
やはりわかばの用いる呼称が気に入らないのか、普段よりもいくらか不満げに見えなくもない。
面白い。今度隙を見せた際に俺もクーちゃんと呼んでみよう。
そのためにも普段から防弾ベストを着込んでおかなければ。
470
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:31:54 ID:fIZnY.bU0
クールの反応を無視し、わかばが煙草を咥えたまま向き直る。
軽く握った状態両手を目の前に差し出し、言葉に合わせ一本ずつ立ててゆく。
「荒巻、渋澤、百々、大天福、増井、盛岡、横堀、咲名、的間。今挙げた杭持ちのうち何人がこの街に来てるの」
「現時点では四人だ。ただし、咲名は今杭を持っていない」
「それぞれの子分は」
「百々は小山内。大天福には天主堂、盛岡には権藤がついている」
「ちなみに親猫のおにいさんやラスイチのおじさんとの協力体制は」
「子子子ギコ、鴨志田フィレンクト両陣営共に、一応は約束されている」
クールの返答を聞き、わかばは眉間に皺を寄せた。
煙草の煙が沁みた、というわけでもないのだろう。
「あのさ、あんた含めて、十協の戦力トップ10が五人もいて、それぞれ子分も真面に揃ってて、
加えて親人間派吸血鬼の二大勢力が共に協力的なのよね。普通ならそれだけでオーバーキルだってのに、
その上で私を引っ張り出すってさ、それどんな異常事態なのよ。
吸血鬼満載したジャンボジェットが突っ込んで来るってレベルじゃなきゃ納得しないわよ」
「近い状態にあると、言っても過言ではありませんね」
「飽きれた。世の中腐ってるわ。No futureだわ」
言葉通りの心底呆れた顔から煙が吹き出された。
クールに見慣れてきた今、こちらの方が大げさな反応に見えて仕方ない。
何はともあれ、この意見には同意だ。今の草咲市は異常が過ぎる。
471
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:33:22 ID:fIZnY.bU0
現在、草咲市で俺たちを振り回す事案は主に三つ。
棺桶死オサム、『地雷女』両名の不自然な滞在。
好戦的な新生吸血鬼、仮称『蠍』こと志納ドクオの出現。
高危険度吸血鬼の不自然な大量発生。
どうやらそれらには関連性があるようだが、一体どんな裏があるのかがまだ見えていない。
つい最近新たに得られた情報では「高岡ハインリッヒ」などと言うこれまた聞き覚えの無いワードまで登場している。
一切の明度を得られぬまま、断片の情報ばかりが手に入り、解決にはほとんど繋がらない。
結局それぞれに部分的に対応しなければならないため、労力体力がすり減るばかりだ。
三つめに上げた大量発生の件は特に人手を食い、俺たちまでそちらに駆り出されかねない状況になっている。
「それで、私なのね」
「はい。解決の糸口が見つからないからこそ、せめて目の前の事件には応対しなければなりませんから」
「一応聞くけど、人員はもう余裕無いのよね」
「辛うじて、あと数名回してもらえるとは言われていますが、そうですね。それ以上は望めません」
「ま、いくらここが激戦区って言ったって、他を無視するわけにはいかないもんねえ」
「はい」
わかばは幾分減った煙草を灰皿に捩じりつけ、何度目か分からないため息を吐く。
どうやら受ける気にはなってくれたようだが、やはり乗り気とはいかない。
472
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:37:40 ID:fIZnY.bU0
「報酬は出すと、上は言っています」
「報酬ったってあんた、私はそもそも十協に養われてる立場だもの」
「十協なくなられても困るしねえ」と呟き足す。
俺が話す間に届けられたコーヒーを、そっと唇に運んだ。
慎ましい嗜み方だ。隣で二つ目のケーキを食い散らかしているクールにも見習ってほしい。
「わかったわ。どれくらい手伝えるか分からないけどとりあえずはね」
「そう言っていただけると助かります。素直さん」
「ちょっと待ちたまえ。今大事なところだ」
残しておいた二つ分のいちごをたっぷりと味わうクールを待つ、俺とわかば。
反撃に銃弾さえ飛んでこなければ、横っ面を全力で殴っているところだった。
無論、俺が殴りかかったところでこの女はあっさりと躱すだろうが。
「これを。連絡用だ。必要な番号とアドレスは全て入力してある」
「あらあら、随分準備がいいこと」
「お前はごねるこそするが、こちらの依頼を断ることはないからな」
「あんたたちが断り切れない話ばっかり持って来るからでしょお。そろそろ勘弁してよね」
473
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:39:27 ID:fIZnY.bU0
「じゃ、要件が済んだなら、私は帰るわよ」
一通りの話が済み、荷物を手早くまとめ、立ち上がるわかば。
ハイヒールのせいもあってか、思っていたよりも身長が高い。
「ああ、応じてもらって感謝する」
「感謝してるなら、もっと媚びた声出してもらえないかしら。せっかく可愛い顔してるんだから。ね」
「ね、と言われましても」
不意に話を振られ、ついクールの顔を見た。
俺に他人の顔面をとやかく語る美的な感性は存在しないが、ほとんどの人間がこの顔を美しいと賞する。
中身を知っている俺にとっては、外面などどうでもいい。
いくら美しい拵えが施されていようと、刃物は刃物。
肉を裂き魂を刈り取る死神の鎌に「可愛い」などとのたまわれるほど、俺は剛毅な質でない。
「素直さんが他人に媚びるところは見て見たい気もしますね」
じろりと、クールの視線が刺さる。
白を切ってわかばに目を戻すと、いかにもわざとらしいため息が聞こえた。
続いて、決心したように深く息を吸い込む音。
「ありがとお、わかばちゃあん」
一瞬、俺とわかばの動きが止まった。
たまたま見合わせていた彼女の瞳孔が開くのが分かる。
恐らく俺も同じような状態だろう。
474
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:41:05 ID:fIZnY.bU0
「お望み通り媚びてやったぞ」
反射的にクールを見た。
こともなげに、ストローに口をつけ残りのアイスラテをじゅるじゅると鳴らしている。
相変わらずの無表情ではあったが、こちらを向かないという頑なさだけは感じ取れた。
「今の聞いたよね、流石っち」
「ええ、幻聴だと思いたいところではありましたが」
「そうね、そう。私まだ鳥肌が収まらないわ」
わかばが腕を見せた。
触れるまでも無く肌が粟立っているのが分かる。
「俺も三年くらい寿命が縮んだかも知れません」
「大概にしたまえよ流石くん。わかばについてはやむなく大目に見るが」
「だってねえ。あんた、そんな甘ったるい声も出せるんだ」
「末の妹の真似だ。私や他の妹共と違って、奇跡的に一般的な人格なのでな」
「今の、他の人たちの前でもやってもらっていいですか」
「四肢に一発ずつ、頭と心臓に四発ずつ鉛をぶちこませてくれるならば考えてやる、流石くん」
「脳天に一発ならば悩むところでした。諦めましょう」
「仲良いのねえ、あなたたち」
475
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:43:19 ID:fIZnY.bU0
「さて、どうしましょうか。これから」
「どうするもこうするも、上からの命令には従わねばなるまい」
わかばが去った後の喫茶店。
クールが追加でモンブランを注文したために店を出られなくなり、俺は斜向かいに座り直す。
「警邏の応援に入るんですか」
「不満ではあるがな」
「俺の勘では、地雷と吸血鬼の大量発生は関連性があります」
「それは私も分かっている」
「蛆のように湧く吸血鬼を狩るより、地雷の周辺を浚う方が速いかとは思いますが」
「同意見ではあるが、現状は手詰まりだ。せっかくもらえた増援も、全て向こうに取られては捜査も進まん」
素直クールにしては異様に聞き分けが良い。
撃つなと言っても撃ち、壊すなと言っても壊し、行くなと言っても向かうこの女が命令を聞くなど気色悪いにもほどがある。
何かに感づいているのだろうか。
「そう訝しがるなよ流石くん」
モンブランの頭頂に乗った栗の甘露煮を丁寧に掬い取り、頬張る。
続けて何かを喋ろうとしている気配はあるが咀嚼が終わらない。
俺は氷の溶け切った水を、少しだけ口に含む。
476
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:44:50 ID:fIZnY.bU0
「人手を失った今、乙鳥や賤之女デレについて調べるのは骨だ。
本来地雷にたどり着くための糸口に過ぎなかったと考えればむしろここに執着するのは無駄ですらある」
「それならば少しでも甲斐のある方に行くと」
「そうだ」
「正直に言ってはいかがですか」
「なんだ」
残っていた大きなケーキの塊を、クールは口に押し込んだ。
まるで子供だ。
口の端に付いたクリームを指で拭い、咀嚼途中の舌で舐めとる。
俺は親では無いので一々注意する義理も無いが、これの隣に居る俺が恥をかくのでは無かろうか。
「久々に思い切り引金を引きたいだけでしょう。最近はフラストレーションの溜まる場面が多かったですから」
クールの表情に当然変化は無く、膨らんだ口を黙々と動かし、モンブランを味わっている。
両頬を挟み叩けばさぞ愉快だろう。
その場合、正面では噴出した脂と糖と唾液の混合物を浴びることになるので、立ち位置は重要だろうが。
ぼんやり殴る角度を色々想定している内に、クールは全てを飲み下した。
すすぎとばかりに残していた水を飲みほして、立ち上がる。
「流石は流石くん。そこまで分かっているならば、さっさと弾薬の追加申請をしてくれるとさらに流石なのだがね」
「ついでに、また異動願いを出しておきます」
「構わんが、資源を無駄にするのはあまり流石でないと、私は思うよ流石くん」
477
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 02:46:04 ID:fIZnY.bU0
おわり
三行
「率直に言おう。君の力を借りたい案件がある」
「わかったわ。どれくらい手伝えるか分からないけどとりあえずはね」
「ありがとお、わかばちゃあん」
478
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 06:07:04 ID:hz3Zpf.60
おつおつ
このコンビの掛け合いも大好きだ
479
:
名も無きAAのようです
:2015/01/25(日) 20:30:10 ID:U1rYcqMMO
ω・)乙。大天福先生の他にも強い杭持ちがいるのな
480
:
名も無きAAのようです
:2015/01/26(月) 00:43:36 ID:fQk3VuFw0
おつ
481
:
名も無きAAのようです
:2015/01/26(月) 08:10:29 ID:uNY7hUJE0
乙
482
:
名も無きAAのようです
:2015/05/27(水) 17:15:00 ID:n3hJY36.0
いつまでサボってるんだ?
さっさと続き!
483
:
名も無きAAのようです
:2015/08/11(火) 22:38:41 ID:i.gb1g5I0
楽しみに続きを待っております
484
:
名も無きAAのようです
:2015/09/09(水) 05:25:26 ID:FSizOkdU0
まだかなー
485
:
名も無きAAのようです
:2015/11/16(月) 05:16:49 ID:r5itCX7k0
モチベーションなくなっちゃったのかな…
486
:
名も無きAAのようです
:2016/01/27(水) 13:40:25 ID:qby..1f60
待ってる
487
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:36:34 ID:K0Dfv0VQ0
Place: ―
○
Cast: 都村ミセリ 都村トソン
──────────────────────────────────
488
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:37:23 ID:K0Dfv0VQ0
幸福な微睡だった。
頬に、腕に、胸に感じる、自分とは違う体温。
はっきりしない意識で、少し強く抱きしめる。
静かに続く寝息に、「んん」と声が混じった。
もぞもぞと動く。
これ以上ないというくらいにひっついているのに、さらに近づこうとする。
肌が擦れ合う。堪らなく愛おしく、彼女の頭に顔を押し付けた。
人の臭い。
シャンプーの残り香と、汗と皮脂の混じった、ほんのり塩気と苦みのある甘い香り。
幸せが胸の中にじわじわと広がってゆく。
薄い毛布が一枚。
少し肌寒い、雨模様の夏の朝。
服を纏わない互いの体の熱が、めまいがしそうなほどに心地いい。
掌で体を撫でてやる。
瑞々しい肌。触れているこちらの方が気持ちよくなってしまう。
この柔らかい幸せの塊を、壊さないよう、傷つけないよう優しく。優しく撫でる。
孤独を融かし尽くして、柔らかな日だまりを思い出させてくれる彼女を、
自分からすれば刹那の間に老い朽ちる彼女を、少しでも長く傍らに置けるよう。
「ミセリ」
小さな声が、胸元で紡がれた。
寝ぼけている。軽やかな鈴のような声に少女の甘さが混じっている。
489
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:38:17 ID:K0Dfv0VQ0
「どうしたんです?」
「なんでもないさ。なんとなくだよ」
この心の穏やかさを、なんと言葉にすれば伝わるだろうか。
心臓の拍動のほんの少し横で、一緒になって脈を打つ、愛しさの感情。
惜しみなく注いで良い。躊躇わず受け取ってよい。
怯えた野良猫の心はもう消えた。
孤独を感じる必要などもう失せた。
首輪の要らない、代償の要らない、愛していい人を見つけたのだ。
「…………したいんなら、良いですよ」
「まだ朝だよ」
「本来、貴方にとっては夜みたいなものでしょう」
耳を澄ます。
鼓動が体を伝わって聞こえる。
窓の外で、しとしと雨が降っている。
なんて明るい夜だろう。
なんて怖くない夜明けだろう。
490
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:39:13 ID:K0Dfv0VQ0
吸血鬼になってからずっと、なる前からも。
夜明けは一人でいることが普通だった。
どれだけ人を騙して連れ帰っても。
ホテルの一室で、男女問わずに床を共にしても。
夜が明ければ独りだった。
光が全てを明かしてしまえば、何もかもが終わりだった。
時には、吸血鬼と知ってなお離れていかない者もいた。
しかし捕食者と肉という関係性は、人の精神を容易く疲弊させる。
結局、それまでのようにはいかずに、ほどなくして破綻した。
いつも一人だった。
心の凍えに、ぬるま湯をかけて温めてやるけれど、すぐに冷めて余計に寒くなる。
「……あんたにとっちゃ朝でしょ。もう少し寝な、私も寝るし」
「実を言うと」
「ん?」
「あなたに触られていたら、なんだか、その……」
「……」
「したく、なってしまいまして」
491
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:40:57 ID:K0Dfv0VQ0
「昨日したばっかりなのに?」
「昨日、貴方が途中で寝ちゃうから」
恥ずかしげな声で、胸に顔を押し付ける。
頭を撫でてやる。腰に回された手の力が強くなる。
体を剥して、顔を見た。
昨日半端にして眠りに落ちたせいか、髪が乱れたまま。
恥ずかしげに、うるんだ目でこちらを見上げてくる。
心臓が焼け付いてしまう。
堪らなくなって、顎に指を添え、顔を寄せた。
驚きを見せるが、すぐに目を閉じて受け入れようとする。
「あ、やっぱりだめです」
触れる寸前で顔を逸らした。
ちくりと寂しくなる。この程度で寂しがった自分に、少し戸惑う。
「嫌だった?」
「嫌っていうか、寝起きですし、口臭いかも……」
強引に唇を奪う。
最初は拒もうとしたが、すぐに舌が柔らかくなる。
492
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:41:52 ID:K0Dfv0VQ0
「いつものトソン」
「……まったく」
本当は、頭が惚けているだけで、今回もほどなくして終わっていしまう温もりなのかもしれない。
絡み合っているのが依存心ばかりだということは、自覚している。
欠けている自分の何かを都合のよい誰かに求めているだけ。
お互いを摺りつけ合って摩耗して行くだけの関係性。
楽で、怠惰で、温かくて、震えるほどに満たされている。
いつか来る淋しさばかりの終焉など気にならないくらい。
これで良い、と思える過ち。
このままがいいと願う誤り。
冷静なフリをする脳みそは、きっともうすでに熱にうなされている。
元々冷たいこの身体に、彼女の体温は愛し過ぎる毒だから。
「ねえ、トソン」
「はい」
「たまには、トソンにリードされたい」
「…………」
「だめ?」
「いいでしょう。頑張ります」
「ほどほどにな」
493
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:42:51 ID:K0Dfv0VQ0
いつか彼女に、別れを告げる日も来るだろう。
永遠に一緒に居るなんて、迂闊なことは言えないから。
それでも、今は共にある。
触れあい。舐めあい。侵しあい。赦しあう。
刹那で去ってゆくこの時間を、悔いの一片も残さずに貪りつくす。
「…………どう、ですか?」
「……そうゆうこと、一々聞かないの」
「仕方がありません。あなたがお手本なんですから」
「…………っ」
「声、上げないんですか」
「生意気」
頭の中に咲いた白い花の香りに酔いながら、掌に触れる髪を撫でて。
あばらの檻に閉じ込められた心臓が打つ鼓動を数えて。
擦れ合う肌から一つに融けるような錯覚に惚けて。
この空気に、心地に、干渉に酔って溺れる自分たちの体を強く強く結びつけ合う。
依存してしまうことを恐れない。傷つけあうことも恐れない。
血流にのって全身を侵すこの麻薬のような感傷を受け入れる。
どうせ足掻いたところで、絡まった糸が解れることはないのだから。
共に抱いた蓮の花が散るまでの短い生涯を、精々美しく生きるしかないのだから。
494
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:44:00 ID:K0Dfv0VQ0
三行
多分
再開
します
495
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 02:58:27 ID:YVITkghk0
よおおおおおおっしゃあああああああああまってたあああああ
乙
496
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 03:21:16 ID:3Un72ygg0
よく帰ってきてくれた
乙
497
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 04:30:58 ID:ZYwiS2MA0
おつ
待ってたよ
498
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 08:02:29 ID:XdhD2tMk0
まってた
499
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 08:09:03 ID:7UXDrI3A0
嬉しい、これ大好きだ
乙
500
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 11:54:29 ID:fs1L/VkU0
初めて読んだけど面白いなこれ
乙
501
:
名も無きAAのようです
:2016/02/21(日) 12:29:37 ID:VUrSRkhw0
待ってた
乙乙!
502
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 00:43:01 ID:B84YVr1c0
乙
大天福先生はよ!
503
:
名も無きAAのようです
:2016/02/22(月) 10:50:42 ID:.3fMkTNA0
きたーーーー!
504
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:24:27 ID:f3BgqBeU0
Place: 草咲市 戸津釜町 字上弦 122-32 品のあるホテルの一室
○
Cast: 本能寺ビーグル 戸景リザ 鈴木タムラ
──────────────────────────────────
505
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:25:44 ID:f3BgqBeU0
その女の腰には、蜥蜴のタトゥーがあった。
四つん這いで身をくねらせ、尻尾を「6」のように丸めている。
趣味のいいデザインでは無かったが、シンプルさには好感を持った。
トカゲというのがいい。あるいはイモリや、ヤモリの類かもしれないが、似たようなものだろう。
∬* ヮ ) 「ねえ」
女が首に手を回し付き湿度の高い声を吐く。
身に着けた香水よりも甘い。
鼻と耳の奥、脳幹にじりじりと痺れるような痛みを覚える。
∬* ヮ )「あなた、吸血鬼なんでしょう」
頬が紅潮している。
目じりを下げ、細めた目は潤んでいる。
少々幼い印象は受けるが美人。あるいは艶のある女である。
ただ少し、頭が悪い。
自分が賢いと誤解し、あざとい企みを隠す。
こういう女は、案外好きだ。
吸血鬼に限らず、男というのは、いくらかバカな女を抱いてる方が気楽でいられる。
対等な個人として付き合うには気が滅入るが、床の中ではこれくらいの方がよろしい。
506
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:26:42 ID:f3BgqBeU0
▼・ェ・▼ 「よくわかったな」
とりあえず話を合わせてやる。
吸血鬼であるとばれたところで問題は無い。
既にここはホテルの一室。鍵の閉じられた密室だ。
仮に既に通報されていたとして、どうとでもなる。
いま、この街の杭持ちは些事に構う余裕はない。
売女まがいの女の通報で駆け付ける人員など、下っ端の雑魚程度だろう。
∬*‘ ヮ‘) 「むかし付き合ってた男が杭持ちでさ、教えてもらったのよ、吸血鬼の見分け方」
▼・ェ・▼ 「ほう。どこをどう見る?」
∬*‘ ヮ‘) 「見るってより、感じるの。吸血鬼に会うと、首筋のあたりがぞっとする」
なるほどな、と納得する。
人を襲う獣は数あれど、人間を主食とし、人間を襲うことを生業とする獣はそういない。
本能が、感じるのだろう。目の前に立つ“捕食者”の脅威を。
すべての人間に備わった感性では無いのだろうが、それの分かる種がいるのはむしろ自然だ。
▼・ェ・▼ 「わかっていてついてきたのか」
∬*‘ ヮ‘) 「この街の人間ならみんな知ってるわ。吸血鬼は確かに怖いけれど、無為に人を殺したりしない。そうでしょ?」
▼・ェ・▼ 「……最近はそうでないものも多いがな」
∬*^ ヮ^)「貴方がそんな“理性的でない”吸血鬼だとは思えないもの」
507
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:27:31 ID:f3BgqBeU0
女は、思いのほか品よく笑った。
確かに、吸血鬼は人の血を吸う。
金などの代償に血を買うことが出来なければ襲って食うこともあるだろう。
ただし、だからと言ってそう簡単に殺しはしない。
人が家畜の乳牛をそうそう殺さないのと同じ理由だ。
殺すよりも生かしておいた方が得が多い。
実際、吸血鬼と遭遇した時に反抗せず大人しく血を吸わせて済まそうとする人間もそれなりにいる。
この女のように、気付いておきながら密室までついてくる者は、珍しい例だが。
∬* ヮ )「それに」
女が頭を引き寄せる。
目を閉じ、顔を少し傾け、口を重ねた。
舌の交わりは浅い。唾液に、酒の残り香がある。
女の口蓋を、舌で撫で上げる。
腕の中にある肉付きのよい身体が震え、喉の奥から、息の音が漏れた。
口を離す。
伸びた唾液の糸に、オレンジ色の照明がちらと映えた。
508
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:28:43 ID:f3BgqBeU0
∬* ヮ ) 「似てるのよ、その感じ。いい男に出会った時の感覚と」
▼・ェ・▼ 「そうか」
∬* , ) 「……ねえ」
▼・ェ・▼「なんだ」
∬* , ) 「もう。吸血鬼とキスをした女がどうなるかなんて、知ってるでしょ?」
触れた。
すんなりと指が入る。
女は待ちかねていた、と言った風情の声をあげる。
これは吸血鬼の唾液にしては効果が早い。
さきにしていた愛撫も、さほど丹念に行ったわけではなかった。
そもそも好きなのだろうこの女は。吸血鬼に体を貪られることが。
自身を圧倒的に蹂躙されることを、望んですらいる。
生ぬるい指先をうごめかせた。また声が上がる。
この調子ならば、人間の女だからと気遣う必要も無いだろう。
509
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:29:42 ID:f3BgqBeU0
女の腕が解け、掌が頬を撫でるように挟む。
中身に比べて冷たい手だ。
だらしなく口を開いている。喉の奥の暗がりがみえた。
何かを飲み込むことを期待して、蠢いている。
口からはみ出して伸ばされた舌は、溺死した蛙のようだ。
▼ ェ ▼ 「……」
口を開けた。
肉体の反射というべきか、女を抱くと自然に唾液の分泌が多くなる。
口から口へ。吸血鬼から人間へ、唾液がとくとくと滴り落ちる。
少し外れ、泡立つ透明の媚薬は女の頬にかかった。
不満げに、しかし甘い声をあげながら女は唾液に舌を伸ばす。
舐めとり、受けて止め、溜めてから呑み込み。背筋を震わせる。
しばらくの時間、中身に触れ続けた。
唾液が回ってきたのだろうか。徐々に、確女の目が惚けて行く。
指で、これまでよりも強めに擦りあげた。
一段低い、雄叫びじみた声を出す。手を止めず、執拗に中身を掻きまわした。
女は、シーツを掴み、悲鳴を上げる。
入口を、奥を、順に、時には順を変え、指の腹で、凹凸のある肉壁を隅々まで探りまわす。
溢れる液体が、指を伝って、外にまで漏れ出していた。
陰毛は短く整えられている。好印象だ。愛液に塗れ内腿に張り付く黒い毛は、酷く醜い。
手を止めずにかき回す。
女は吠えながら、腰を暴れさせた。もはや人間では無い。
唾液に頭をやられている。
510
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:31:06 ID:f3BgqBeU0
∬*; д ) 「ねえ、ねえ、もう!」
肩に女の爪が食い込んだ。
手を止め、引き抜く。
指の間に糸が張った。口に含み、舐めとる。
悪くない味だ。
血ほど腹は膨らまないが、嗜好品としては上等だろう。
∬*; ヮ )「ねえ、もう、いいでしょう?」
息を荒げながら、女が腰元に縋りつく。
熱い。暑苦しい。
女の舌が皮膚の上を這い、性器にたどり着く。
まだ、“足りていない”。
女が口を開けた。いくらか持ち上がっていた先端を一口に頬張り、血の滞留を促すように軽く吸う。
また、熱い。
舌が絡みつく。泡立つ唾液は、人の体温だ。
自身ですらさほど愛着の無いそれを、女は愛おしげに舐めまわした。
喉の奥まで咥え頭全体を前後させ、一度吐き出して、頬ずりでもするように、唇と舌で撫でまわす。
硬さが増すのを自覚する。仕方がない。これも肉体の、本能の反射だ。
511
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:31:48 ID:f3BgqBeU0
女を寝かせ、足を開かせる。
白いくびれが左右に揺れる。
▼・ェ・▼ 「……」
熱だ。熱だ。
この體になった時に失った、体温の熱さだ。
動く。
女が声を出す。
意味は無く、行為の結果としての、肉体の反応だけがある。
吸血鬼が他者を抱くことに、生物的に明確な理由は無い。
正確には、しなければならないという必然性は無い。
吸血鬼の生殖機能はそうなった辞典で失われている。
生殖器は人間の名残であり、あるいは主食である人間を誑かすための道具だ。
性的な快感が失われるわけではない。
かつてのように衝動的な欲求は失われるが、行為のもつ享楽性は残るのだ。
だから、こうして、本来の目的とは別に、多少興じることも可能である。
角度を変える。
反応を見る。
律義な女だ。
感触の良し悪しを怠けず反応で示してくる。
遠まわしな要求でもあるのだろう。
大人しく従って、好ましい場所を中心に、深く触れさせる。
512
:
>>511ミス 辞典× 時点○
:2016/04/20(水) 18:33:54 ID:f3BgqBeU0
▼・ェ・▼ 「口をひらけ」
∬;‘ ヮ‘) 「え?」
▼・ェ・▼ 「口をひらけ」
溜めた唾液の塊を、女の口に落す。
女はその危険性に気付き拒否しようとしたが、既に遅い。
口で口に封をし、強制的に喉の奥へ送り込む。
女の手が拒絶の意志を表すように、肩を押す。
気にせず、舌を絡め、口蓋の撫で上げた。
怯えているのが、体のこわばりから伝わってくる。
そうでなくてはならない。
例え“理性”によって守られていたとしても“本能”の恐怖を忘れさせることは許されない。
先端が、女の奥に触れていた。
僅かに硬い、弾性のある部位を、執拗に嬲る。
ベッドに突いた腕に、女の手が絡みつく。
その程度の爪では、吸血鬼の皮は引き裂けない。
悲鳴である。
舌を絡めた接吻の時点で媚薬としては十分な効能がある。
それをここまで飲んだのだ。
この女がいくら好きもので吸血鬼の唾液に慣れていたとしても、関係ない。
だらしなく開いた口に、出るだけ唾液を落とし続ける。
女は鳴きながら、泣いていた。涙がこぼれ、目元の化粧が溶けている。
全ての栓が壊れてしまったらしい。
よろしい。実に、よろしい。
これでこそ興が乗る。
513
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:34:59 ID:f3BgqBeU0
人間の時分と違い、絶頂があろうと精液を消耗するわけではない。
半透明の体液を放出するが、精液と異なり生成に時間を要さないため、さほど時間を取らず回復する。
途中吸血を挟めば、休憩を取る必要が無い程に。
どれほどの時間、抱いていただろうか。
十分だ。満足した。性器を引き抜くと、女の腹から透明な液が流れ出る。
充血が酷い。
この様子では、途中からは痛みの方が勝っていただろう。
女は完全に意識を失っている。
唾液を飲ませ過ぎたか。
行為自体には手心を加えたはずだ。
髪は散らかり、化粧はまるで抽象画。
滑稽である。
これに懲りて、行きずりの吸血鬼と行為に及ぶ愚かさを学べばよいが。
とはいえ、その学習を活かす機会は、二度と来ないので、別に構いはしない。
▼・ェ・▼ 「タムラ、いつまで隠れている。さっさと出て来い」
ベッドを叩く。
しばし待つと、下方からもぞもぞと布を擦る音が聞こえた。
覗き混む。ベッド側面の飾り板がパカリと外れ、そこから一人の女が顔を出した。
鈴木タムラ。
山村から出てきたばかりのおぼこ娘のようななりをしているが、一応は吸血鬼である。
514
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:36:02 ID:f3BgqBeU0
爪*∩∩) 「……おわりでありますか?」
▼・ェ・▼ 「見れば分かるだろうが」
爪*∩∩)「……見てないから分からんであります」
▼・ェ・▼ 「音でわかるだろう」
爪*∩∩) 「……途中から耳を塞いでいたであります」
▼・ェ・▼ 「なんのために隠れてたんだ、お前は」
爪#゚〜゚)「少なくとも本能寺さんの情事を見学する為ではないであります!!」
タムラはベッド下からはい出し、立ち上がったが、ベッドの方を見ようとしない。
服の埃を払うふりをして一瞬視線を向けるも、すぐに逸らす。
これだから面倒なのだ。男も知らず吸血鬼になったような女は。
▼・ェ・▼ 「はやくしろ。お前の為に態々失神させたんだ」
爪*;゚〜゚)「早くって、そもそもこんなことしなくとも、普通に首筋ブッ叩けばよかったのでは?」
▼・ェ・▼ 「それでは、俺がつまらない」
爪*'〜`)「自分は地獄でありましたよ……」
▼・ェ・▼ 「いいから」
爪∩〜`)´、「やります!やるでありますから、服を着てください、本能寺さん!」
515
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:37:37 ID:f3BgqBeU0
▼・ェ・▼ 「そんなこと言っているから、人間を捕まえることすらできんのだ」
爪*'〜`) 「当たりまえのようにナンパする本能寺さんの方が異常なんでありますよ……」
文句が多い奴だ。無能な奴ほどそういう傾向にある。
一応下だけ服を着て、タムラの尻を叩く。
間抜けな声を上げ、こちらを睨むので、顎で指示を出す。
ぐぬぬ、という顔をした。屈辱の表情のパターンの豊かさは褒めてやってもいい。
爪*゚〜゚) 「では、失礼して、いただきますであります」
人
手を合わせてから、タムラが女の首筋に噛みつく。
人間の皮膚は脆い。鼻で笑う程だ。
タムラの丸い牙にでさえ、容易く破られ血を溢す。
女は傷を負っても反応しない。
それを確認し安心したのか、タムラは小さく音を立てながら血液を呑み始めた。
いつ見ても、子供じみた吸い方だ。乳臭くてかなわない。
もう少し色気をつけて男を誑かせるようになれば、態々こうして獲物を狩ってやる必要も無くなるというのに。
516
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:40:16 ID:f3BgqBeU0
▼・ェ・▼ 「タムラ」
爪*゚Q゚) ,「…………ぷあ、なんでありますか?」
▼・ェ・▼ 「抱いてやる。早く終わらせろ」
爪*゚〜゚)「……なに血迷ってんでありますか?自分の体に性的興奮を覚えるようなロリコンだったんでありますか?」
▼・ェ・▼ 「阿呆か。お前が男の絞り方憶えれば手間が減る」
爪*゚〜゚) 「仮に今後の為に男を覚えるとしても、本能寺さんだけはお断りであります」
▼・ェ・▼ 「……」
爪*゚ワ゚) 「初めてなんでありますよ?もっと紳士的な優しい殿方に甘くリードされ痛いッ?!」
拳が出たのは反射だ。
頭を軽く小突く程度に威力を抑えたこと、さらには血刑を使わなかっただけでも賞賛されるべき寛容さだ。
前言撤回。面倒が多すぎてコイツを抱くなどこちらからお断りである。
爪。゚〜゚) 「拒否されたから暴力なんて。本当にろくでなしであります」
▼・ェ・▼ 「もうそれでいいから早く済ませろ」
517
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:42:28 ID:f3BgqBeU0
爪*'〜`)=3 「ふう」
タムラがひとしきり吸血を終え、口を離した。
枕元のボックスからティッシュペーパーを数枚とり口元を拭う。
あんなにちびちび吸っておいてどうしてこうも汚れるのだろうか。
不器用という性質は全く理解しがたい。
▼・ェ・▼ 「おい」
爪*゚〜゚) 「大丈夫であります。自分が満腹になったくらいじゃ死なないでありますよ」
▼・ェ・▼ 「違う。いい機会だ。愛液の味も憶えておけ」
爪*;゚Д゚)「はあ?!」
▼・ェ・▼ 「嗜みだ」
爪*;゚Д゚)「そんな嗜みいらないであります!それに!」
タムラがちらりと女の下半身を見た。
すぐに顔を逸らす。赤面でもすればらしいが、あいにく吸血鬼。
車に酔ったような表情だ。つくづく魅力が無い。
爪*;゚д゚)「女性のそこの味なんか覚えたって……」
▼・ェ・▼ 「吸血鬼に男女の区別などあってないようなものだ。食いはぐれたくなかったら、男でも女でもまず人間の抱き方を覚えろ」
爪*;'〜`)「吸血鬼って言うか淫魔であります、それじゃ」
▼・ェ・▼ 「最も確実で安全なのが、人間の性欲に取り入る方法だと言っているだろう。上手くやれば血刑も暗示もいらん」
518
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:43:27 ID:f3BgqBeU0
言外に「こんな風にな」と追加する。
実際この女をここに至らせるのに、血刑も暗示も用いていない。
本当に狩りの上手い吸血鬼は、特有の力を無暗矢鱈と使わないものだ。
爪*゚〜゚) 「わかりましたけど、それはまた今度にするであります」
▼・ェ・▼ 「ったく」
爪*゚〜゚) 「いいから、本来の目的の方、果たすでありますよ!」
▼・ェ・▼ 「ああ、早くしろ」
爪*゚〜゚) 「前置き無駄に長くしたのは自分のくせに……」
拳を肩まで待ちあげる。
ぶつくさと文句を垂れていたタムラは、慌てて口を紡ぎ女に向き直った。
女を抱くのも、血を吸って腹を満たすのも、あくまでついでだ。
本来の目的はこれからにある。
わざわざタムラを連れてきたのは、腹立たしいことに、此奴の方がその目的に見合った技能を持っているからだ。
519
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:44:36 ID:f3BgqBeU0
爪*‐人‐)「では、お命頂戴」
几帳面に眼前で手を合わせてから、タムラは女の首を爪で切り裂いた。
的確に頸動脈を断っている。
血が吹き出し、瞬く間にシーツに染みを広げていく。
吸血した分と合わせて考えれば、間もなく死ぬだろう。
▼・ェ・▼ 「おい」
爪*゚〜゚) 「安心してくださいであります。プロでありますから」
女の血の勢いが弱まり始めた。
タムラは自分の指を食いちぎる。
零れた血は落ちることなく、糸のように伸びて空中に留まった。
タムラは、女の胸に耳を押し付ける。
心音を聞いているのだ。
良く理解できないが、タイミングが重要らしい。
爪*゚〜゚) 「……」
女が、死んだ。
血の流出はほぼ止まっている。
ここからが、タムラの本領だ。
520
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:46:07 ID:f3BgqBeU0
吸血鬼の誕生は、想像以上にシビアな条件を揃えなければ起こらない。
吸血鬼に殺された人間が吸血鬼になる。
大まかにはそうだ。
何も考えずに吸血鬼が人間を殺して回ればそのうち吸血鬼は出来るだろう。
しかし、これは効率的な方法では無い。偶然に縋る博打の行為だ。
同族を生み出したいと考えるならばきちんとした手順を踏まなければならない。
爪*゚〜゚) 「人間を吸血鬼にするには、吸血鬼の細胞に人の体組織を乗っ取らせなければならないであります
ですが、吸血鬼の細胞というのは、吸血鬼の体外においては存外弱い存在なのであります。
生きた人間の体内に侵入しても、体温の差で機能が落ち、免疫に喰われて終わり。
仮に非常に弱った人間であっても、生きてる限りはそう吸血鬼になることはないであります」
タムラの血が女の体内に侵入する。
傷口から、動脈を通り、脳と心臓へ。
女の血液がほぼ抜けていることもあり、血管の動きでどこまで侵入しているかがわかる。
爪*゚〜゚) 「そうなると、やはり吸血鬼になるのは死者なのでありますね。これは古から変わらないであります。
ただし、死後時間が経ちすぎていれば、今度は人間の細胞が死滅してしまっていて乗っ取れません。
つまり、免疫が失われつつも、細胞が完全に死滅する前に、吸血鬼の細胞を送り込まなければならないのであります」
指先を動かし、精密に体内への侵入を進めながら、タムラは解説を続ける。
誰に向けてではない。癖なのだ。マニアとしての。
こうすると気分が乗るのだと、初めて組んだ時に言っていた。
気色悪いが、実際便利なので放っている。
521
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:46:55 ID:f3BgqBeU0
爪*゚〜゚) 「ところがどっこい。いくらタイミングがよくとも、傷口から血を流しこんだだけでは、不十分なのであります。
吸血鬼化に偏りができた場合、重要な器官の乗っ取りが済む前に、周辺組織を食い散らかしてしまうでありますから。
そうなると、いくつかの組織が欠損した状態で吸血鬼化してしまうのであります。
いくら吸血鬼が並ならぬ再生能力を持っていても、最初から無いものを再生は出来ないのであります。
だから、吸血鬼化は満遍なく、特に重要な器官は優先して行う必要があるのであります」
一々長いが、要はタイミングよく、満遍なく血を逃しこまなければならない、ということだ。
こんなことをその都度意識している吸血鬼はそういない。
大概は出来る限り血を抜いてから、自分の血を流しこむ、程度の認識が精々だろう。
この場合、タムラの方が異常なのだ。
吸血鬼化させる前から吸血鬼について詳しく、知識量で言えば下手な杭持ちよりも優秀だった。
それが面白いと、あの男が吸血鬼化させてつれて来たのだ。
爪*゚〜゚) 「そこで自分があみだしたのが……」
▼・ェ・▼ 「優先的に心臓と脳を乗っ取って吸血鬼化させているんだろう。心臓と脳が生きていれば何とかなるからな」
爪*゚д゚) 「ちょっと本能寺さん!いいとこなんでありますよ!」
▼・ェ・▼ 「毎度毎度聞かされて口上を覚えたこちらの身にもなれ。もう終いだろう、さっさと済ませろ」
爪*゚ 3゚)「あーあ、本能寺さんのせいで仕上げに失敗するかもしれないであります〜」
▼・ェ・▼ 「殴る」
爪*'〜`)「本能寺さんは早めに“理不尽”って言葉を覚えてほしいであります」
522
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:47:35 ID:f3BgqBeU0
タムラが、指から自身の血を切り離す。
終わったようだ。あとは、様子を見て待つだけ。
▼・ェ・▼ 「上手くいったのか」
爪*゚〜゚) 「恐らくは。我々の望み通りの吸血鬼になるかは分からんでありますが」
しばらく眺めていると、女がハッと目を覚ました。
高所から落ちる夢でも見ていたかのように体を大きくゆらし、強張らせる。
∬* , )「わ、私……あ……ああ?」
混乱している。
一応は成功したが、まだ吸血鬼化の最中だ。
脳の改変も不十分であるし、意識も不明瞭なままだろう。
爪*゚〜゚) 「あとはお願いするであります、本能寺さん」
▼・ェ・▼ 「お前も暗示は使えるだろうが」
爪*゚〜゚) 「餅は餅屋。女を誑かすなら本能寺さんであります」
523
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:48:16 ID:f3BgqBeU0
▼・ェ・▼ 「おい」
∬* , )「……?」
まだ惚けている女の顔を手で向き直らせる。
目と目があう。
女の瞳に、目の朱く光る吸血鬼の顔が映り込んでいた。
女に、暗示をかける。
洗脳と言ってもいい。
決まった文言を、決められた通り、順を追って女に植え付ける。
吸血鬼化して間もない、今だからこそやらなければいけない手順だ。
これが長く、手間になる。
事前に抱いて多少発散して置かなければまだるっこしくて耐えられない。
▼・ェ・▼ 「………………いいな」
∬::::::ヮ‘)「……ええ」
洗脳を開始して10分。
すべての工程を終えた時点で、女の目は人間から、吸血鬼のそれに代わっていた。
返答もしっかりしている。此方でしてやれることはすべて上手くいった。
ここからはもう、この女次第である。
524
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:49:01 ID:f3BgqBeU0
∬*‘ ヮ‘) 「私は、これから何をすれば?」
▼・ェ・▼ 「一先ず一週間、自力で生き残れ。方法は問わんが、同族を作ることだけは許さん」
∬*‘ ヮ‘) 「生き残ることが出来たら?」
▼・ェ・▼ 「こちらから迎えに行く」
∬*‘ ヮ‘) 「わかったわ。それと」
▼・ェ・▼ 「なんだ」
∬*‘ ヮ‘) 「そちらのお嬢さんは、貴方の本命?」
▼・ェ・▼ 「そう見えるか?」
∬*^ ヮ^) 「もしそうなら、変わった趣味だと思うわ」
爪*゚Д゚)「ちょっと、後輩の癖に失礼であります」
女は、人間の時と同じく、思いのほか品の有る笑いを浮かべた。
想定される人間としての戸惑いなどは洗脳段階ですべて排除したとはいえ、落ち着きが良い。
男を誑かすのも慣れているようだし、タムラよりも優秀そうだ。
爪*゚〜゚) 「なんでありますか、本能寺さん。まさか本当にそう言う目で自分を見ているでありますか?」
▼・ェ・▼ 「……まあいい。そろそろ行け、腹も空いているだろう」
∬::::::ヮ‘) 「そうね。ペコペコ」
爪*゚〜゚) 「無視でありますか?」
525
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:51:03 ID:f3BgqBeU0
∬*^ ヮ^) 「それじゃあ、またね“本能寺さん”」
女は人間の頃の服を着て、部屋から出て行った。
服を翻すその後姿は中々どうして絵になる。
このちんちくりんを常に傍に置いているせいで、ああいったメリハリのある女を惜しむ癖が出てきた。
爪*゚〜゚) 「どう思うであります?」
▼・ェ・▼ 「何がだ」
爪*゚〜゚) 「あの人、生き残ると思うでありますか?」
▼・ェ・▼ 「見込みはありそうだと思って選んでいる」
爪*゚〜゚) 「あんな頭も股も緩そうな女でありますよ?」
▼・ェ・▼ 「ああいう手合いは、吸血鬼としては優秀なんだ。お前みたいな頭でっかちのガキと違ってな」
爪*゚〜゚) 「むむ、ちゃんと働いた後にそういわれるのは不満であります」
不満げに頬を膨らませるタムラの頭を叩き、服を着る。
部屋を借りている時間はまだあるが、ここに居残る理由はもう無い。
爪*゚〜゚)´ 「あ、シーツとかどうするでありますか?血まみれでありますよ」
▼・ェ・▼ 「ホテルのシーツに血がつくなんてよくあることだろう」
爪*'〜`) 「夜の戦場にも程ってもんがあるでありますよ」
526
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:52:14 ID:f3BgqBeU0
タムラと共にホテルを後にする。
料金は先払いしてある。限度の時間よりも早いため追加の金も必要ない。
フロントに鍵を返しながら、天井にある監視カメラにちらと視線をやる。
直接顔を合わせる必要は無いが、あれでこちらの様子は見えているのだろう。
伴う女が先に出て行った上、別な女を連れていることに気付かれると面倒だと思ったが、どうやら問題ないらしい。
フロント係もそこまで注視はしていないのか。
爪*゚〜゚) 「戻るでありますか?」
▼・ェ・▼ 「ああ」
爪*゚〜゚) 「……いつまでこんなこと続けるんでありますか」
▼・ェ・▼ 「知らん。俺たちに分かることでは無い」
爪*゚〜゚) 「あの人は、優秀な吸血鬼を作って集めて何をするつもりなんでありましょう」
▼・ェ・▼ 「知るか。だがそれが“ハインリッヒの意志”なんだろう」
爪*゚〜゚) 「ハインリッヒの意志……」
▼・ェ・▼ 「……急ぐぞ。日の出が来る」
爪*゚〜゚) 「ああっ、ちょっと。まって欲しいであります、本能寺さん!」
527
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:53:44 ID:f3BgqBeU0
以上。
三行
とてもよくわかる爪*゚〜゚) よくわからないけれど「〜〜であります」口調。総合生まれ。
よくわからないけれど軍オタ(作中では吸血鬼マニア)で妄想癖があるらしい。
よくわからないけれど何となくかわいい。
次話は来月の頭ころまでに。
528
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 18:59:48 ID:oX.hZ21Y0
乙!
ずっと待ってたよ
タムラ可愛い
529
:
名も無きAAのようです
:2016/04/20(水) 19:03:37 ID:rebYZkyY0
キターー
待ってました
相変わらず素晴らしい濃厚エロシーン
530
:
名も無きAAのようです
:2016/04/21(木) 14:43:13 ID:ZFbnhcV20
やっぱりおもしろい
おつ
531
:
名も無きAAのようです
:2016/05/01(日) 22:40:12 ID:JSxdbC8E0
おつおつ!
532
:
名も無きAAのようです
:2018/09/12(水) 09:03:01 ID:uX033SGc0
ショボン良いキャラしてんのに勿体ない…
533
:
名も無きAAのようです
:2019/02/18(月) 16:56:47 ID:pDt2g8Ik0
滑り込み100選入りする為にも完結をだな
534
:
名も無きAAのようです
:2019/03/03(日) 18:53:57 ID:bv4PDBOg0
待ってるんだよ
535
:
名も無きAAのようです
:2019/03/20(水) 17:49:37 ID:IrSMRHFQ0
ファ板に移転して続きをだな
536
:
名も無きAAのようです
:2020/06/21(日) 14:29:02 ID:glyRoOI20
続きを頼むよ
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