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从 ゚∀从二人暮らしのようです(-_-)
11
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 10:43:20 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「私もよく分からないんだ、長い時間うっすらと考えてた。
でもちょっときっかけがあって、そうしなきゃって」
( ^ν^)「んまぁ、とりあえずは分かった」
ノパ⊿゚)「うん」
( ^ν^)「悪い事は言わないから家に帰れ」
ノパ⊿゚)「え」
( ^ν^)「俺はもうお前が恋をした俺じゃない。
顔もこんなだし消防士でもない。
火も消せないし誰かを助ける事も出来ないんだよ」
俺は今やただの一般市民だ。
近くで消防車のサイレンが聞こえれば大変そうだなと思う。
火事で亡くなった記事を新聞で読めば可哀想だなとは感じる。
しかしもう俺にはどうする事も出来ないのだ。
消防士を辞めた俺にはどうする事も出来ない。
消防服がなくバケツに溜めた水を被った程度では満足に救助も行えない。
火に囲まれた世界で生きていたのに今では遠い異世界の事にように思える。
( ^ν^)「だからもうお前が恋した俺はいないんだ。 大人しく帰るんだな」
ノパ⊿゚)「でも…」
( ^ν^)「なんだよ」
ノパ⊿゚)「ニュッさんの事を好きになったのはたしかに助けてもらったからだよ。
顔もよく見えなかったしこれが恋なのかどうかも自分自身言い切れない」
けどね、と少女は続ける。
ノパ⊿゚)「だけどニュッさんが火傷をして消防士を辞めてしまっていてもそれで好きじゃなくなったりしない。
それに、その…」
( ^ν^)「なんだ」
言いにくそうだったのでじれったくなって促す。
ノパ⊿゚)「ニュッさんが火傷をしてそれを隠していても、私はそれでニュッさんに幻滅したり嫌いになったりしない」
( ^ν^)「…」
12
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 10:46:54 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「むしろだからどうした、というか、ニュッさんはニュッさんじゃないのかなって…」
人生台無しだとは言ったが婚約者が俺を捨てていったのは話さなかったはずだ。
俺はどこかでそう言ってくれる人間が現れる事を願っていた自分がいる事に気がつく。
見た途端に顔をしかめた婚約者、両親、知り合い達。
酷い火傷の顔を受け入れ、それでも良いと包み込まれるのを待っていたのではないか。
( ^ν^)「はは…」
我ながら感傷的だ。こんな子供に。
( ^ν^)「生意気なガキだな」
ノハ^⊿^)「えへへ」
( ^ν^)「褒めてねーよ。 お前名前は?」
ノパ⊿゚)「ヒート」
( ^ν^)「ヒート、な」
ノパ⊿゚)「私に何か出来る事ある?」
( ^ν^)「なんでだ」
ノパ⊿゚)「ほら、何かちょっとずつ恩返しがしたい訳だよ」
( ^ν^)「何もねーよ」
ノパ⊿゚)「晩ごはんまだ? 何か作ってあげようか」
( ^ν^)「作れるようには見えないんだが」
ノパ⊿゚)「よく言われる。 だけど見かけによらず作れるんだ」
ヒートはそう言うと台所の方へ行った。お邪魔しますと冷蔵庫を開ける。
ノパ⊿゚)「これはあまり自炊しない冷蔵庫だ」
( ^ν^)「うるせえその通りだ」
13
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 10:49:37 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「あーでもこれと、これと…よし大丈夫」
( ^ν^)「まぁいいや。 勝手にしてくれ」
ノパ⊿゚)「うん、勝手にする」
俺はテレビの電源を入れてマスクを外す。
鞄からメビウスを取り出して火をつける。
( ^ν^)「お前14じゃやっぱり中学生か」
ノパ⊿゚)「そだよ」
台所の方から返事が返ってくる。
( ^ν^)「なんで飯作れるんだ」
ノパ⊿゚)「うち母子家庭なんだ。 あの火事の一年前に病気でお父さん死んじゃって」
( ^ν^)「あぁ」
ノパ⊿゚)「それでお母さんが遅くまで働いてたから私がよくご飯作った感じ」
( ^ν^)「なるほどね」
父親を亡くして一年後に火事で家まで無くすとは災難だ。
( ^ν^)「あの団地…五軒中四軒は全焼じゃなかったか」
ノパ⊿゚)「うん、うちも全焼。 もう二人だし、結局アパートに引っ越しちゃった」
( ^ν^)「大変だな」
ノパ⊿゚)「うん、大変だった。 大変だったんだ」
ふとそれならこんな男の部屋で食事を作っていて良いものかと疑問に思う。
しかしそこまでは言うまいと深々と煙を吐く。
ノパ⊿゚)「ごめんね、身の上話なんてするつもりなんてなかったんだけど」
14
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 10:51:42 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「いいや、俺が訊いちまったんだから俺が悪いさ」
ノパー゚)「ふふ」
( ^ν^)「んだよ」
ヒートが台所からひょこっと顔を出した。
ノパ⊿゚)「ニュッさん超無愛想とか思ってたけど実は優しいよね」
( ^ν^)「うるせえ煙草投げっぞ」
ヒートが顔を引っ込める。
吸い終わってから灰皿に押し付ける。
ガラスの灰皿は暫く洗っていないので随分と吸殻が溜まっている。
ノパ⊿゚)「ご飯炊かないの」
( ^ν^)「めんどくせーし一人じゃな」
ノパ⊿゚)「ご飯食べないと大きくなれないよ」
( ^ν^)「お前はかーちゃんか。 あと成長期でもねーわ」
ノパ⊿゚)「レンジでチンするやつはないの?」
( ^ν^)「流しの下開ければある」
ごそごそと音がするが台所まで行くのが面倒だった。
まぁ見つけられなくはないだろう。
ノパ⊿゚)「あ、あった」
またがさがさ音がしたあとに聞き慣れた電子レンジの起動音がする。
設定された労働時間を終えると電子レンジはメロディを鳴動する。
暫くするとヒートが戻ってきた。
15
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 10:54:28 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「おまたせ」
ヒートが作ったのは野菜炒めだった。
冷蔵庫の中で眠っていた余りもの達だ。
ノパ⊿゚)「えーと」
またヒートが行き場をなくしていたので最近使わず閉まっていた座椅子を引っ張りだした。
( ^ν^)「まぁ座れよ」
ノパ⊿゚)「やっぱり優しい」
( ^ν^)「うるせえ」
ノパ⊿゚)「食べて食べて」
たかが中学生が作った野菜炒めだ。
それに野菜炒めなんて誰にも作れる。
そう思って期待もせず食べてみたが美味かった。
野菜も余りもので滞在時間は違えどそれぞれ冷蔵庫で眠っていたものだ。
ノパ⊿゚)「おいしい? おいしい?」
( ^ν^)「うぜえ」
ノパ⊿゚)「おいしい? おいしい?」
( ^ν^)「あーうまいうまい」
ノハ*^⊿^)「いえーい」
そういえば人の作った食事なんて久しぶりだ。
定食屋にはよく行っていたが顔に酷い火傷を負ってからは殆ど行っていない。
顔の火傷を隠しながら食事をするのは難しい事だ。マスクだって外さなくてはならない。
こうして自分の部屋で誰かが作った食事というのが恐ろしく久しぶりなのだ。
だからだろうか。いや、そんな道徳的な心は持ち合わせていないはずだ。
16
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 10:56:42 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「んだよじろじろ見るなよ」
ノパ⊿゚)「いやだって自分が作ったの食べてもらってるんだもん」
( ^ν^)「見るな」
ノパ⊿゚)「えーいいじゃん見せてよー」
顔を背けて食べるとヒートがブーイングの声をあげる。
ノパ⊿゚)「ケチ。 減るものでもあるまいし」
( ^ν^)「オヤジかお前は」
ノパ⊿゚)「中学生だよ?」
( ^ν^)「知ってるよ」
ノパ⊿゚)「全部食べたね」
( ^ν^)「そりゃあな」
ノパ⊿゚)「ごちそうさまでしたは?」
( ^ν^)「はいはいごちそうさまでした」
ノパ⊿゚)「よろしい」
ヒートが食事を片付ける。
ノパ⊿゚)「あ、灰皿溜まってる。 ついでに洗っとくね」
( ^ν^)「あぁ」
意外と気が利くやつだな、と俺は感心する。
ヒートが洗い物をしている間にまたメビウスを取り出す。
食後はやはり吸いたくなるもので全席禁煙の店は入りづらい。
火をつけようとしたところで灰皿を洗っている事に気がつく。
やむなし、取り出した一本を箱に戻した。
テレビは帯が移り古舘が神妙な面持ちで話し始める。
古舘は嫌いなのでテレビのチャンネルを変える。
( ^ν^)「そろそろ帰れよ、もう22時だ」
ノパ⊿゚)「あ、うん」
17
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:00:15 ID:KbZp5als0
洗い物を終えてヒートが台所から戻ってくる。
( ^ν^)「お前家近いのか?」
ノパ⊿゚)「んー、うん、まぁ近いよ」
( ^ν^)「なんだよ」
ノパ⊿゚)「ニュッさんっていつも同じ時間に帰ってくるの?」
( ^ν^)「あぁ、よっぽど何かなければ就業時間は基本的にいつも一緒だ」
ノパ⊿゚)「じゃあ明日また待ってるね」
( ^ν^)「マジかお前」
ノパ⊿゚)「おいしかった?」
( ^ν^)「まぁ…」
ノパー゚)「ならよし」
ヒートは満面の笑みを浮かべる。
俺は何故か好きにさせてやろうと思っていた。
今の職場までは列車通勤になる。最寄りのJRの駅まで徒歩2分なのでかなり近い方だ。
ただ最寄りJRの駅には各駅停車しか止まらず都心部の路線としては本数も少ない。
駅前も雑居ビルが少し並んでいるだけでちょっと歩けばすぐに代わり映えのない住宅地だ。
目立つ点を挙げるのならば駅の反対側に競輪場があり平日の昼間でも年配者が多いぐらいだろう。
またJRの路線に寄り添うように国道6号線が走っていて交通量は極めて多い。
住んでいるアパートもこの国道6号線に面しているのでとても静かな住環境とはならないのだ。
駅が近い割に家賃が安いのはそういう面も含めて考えられているのだろう。
帰りの常磐線各駅停車はいつも混んでいる。10両編成なのに席は空いていない。
あのような街でも一応は東京23区に属するの亀有・金町を出るとようやく少し空いてくるぐらいだ。
帰りに飲みに誘われなければ大体いつも同じ時間に帰宅となる。
それに誘われても俺は殆ど行く事がない。マスクを外で外したくない。
アパートの階段を上がるとやはりヒートは部屋の前で待っていた。
18
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:02:31 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「おかえり」
( ^ν^)「お前本当にまた来たのか」
しかも今日はしっかりとスーパーの袋を持っている。
( ^ν^)「準備万端じゃねーか」
ノパ⊿゚)「おうよ」
( ^ν^)「おうよじゃねーよ」
鍵を開けて部屋に上げる。
また近隣住民に見られてはいないだろうか。
男の一人暮らしだという事ぐらいは知られているはずだ。
そんな男の部屋の前で夜な夜な女子中学生が待っているとさすがに不審に思われるかもしれない。
ノパ⊿゚)「お腹すいてる?」
( ^ν^)「まぁな」
ノパ⊿゚)「座って待ってて、すぐ作るから」
( ^ν^)「お前は嫁か」
ノハ*゚⊿゚)「照れるなぁ」
( ^ν^)「告白したんじゃねーよ」
ソファーに座ってメビウスを取り出す。
帰ったらまず一服するのが日課だ。
ノパ⊿゚)「今日はエプロン装備です」
( ^ν^)「持ってきたのか。 つかいちいち見せなくていい」
ノパ⊿゚)「新妻感あるでしょ」
( ^ν^)「お前は形から入るタイプだな」
19
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:04:59 ID:KbZp5als0
ノパ 3゚)「つれないなぁ。 もっと感想はないの?」
( ^ν^)「調理実習みたい」
ノハ-⊿-)「くっ…」
( ^ν^)「素直な感想だ」
ノパ⊿゚)「よし、じゃあ裸エプロンとかならどうだ」
( ^ν^)「中学生には興味ねーよ」
ノパ⊿゚)「ちぇ」
諦めてヒートが台所へ消える。
俺はテレビの電源を入れる。
ちょうどロンドンハーツが始まったところだ。
ノパ⊿゚)「今ってお仕事なにしてるの?」
台所の方から質問が飛んでくる。
( ^ν^)「建築板金工」
ノパ⊿゚)「ケンチクバンキンコー?」
( ^ν^)「まぁ分かんないわな」
ノパ⊿゚)「なにか作ってる人だよね? なに作ってるの?」
( ^ν^)「今は東京のマンション」
ノパ⊿゚)「へぇーすごいね」
( ^ν^)「仕事辞めて知り合いに紹介してもらったんだよ」
ノパ⊿゚)「あー」
20
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:07:12 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「仕方ねーだろ、こんな顔じゃあよ」
顔を火傷してから俺は人と関わるのが怖くなった。
火傷を見て眉間に皺を寄せる奴ばかりだった。
とにかく見られたくなかった。隠して生きていたかった。
仕事中も通勤中も絶対にマスクを外したくはない。
同僚と一緒に食事に行く事も殆どない。
きっと職場では暗い奴だと言われているだろう。
それにマスクでも火傷は完全に隠しきれていない。
きっとその事もついでに挙げられているだろう。
ノパ⊿゚)「ごめん」
( ^ν^)「お前が謝るなよ」
ノパ⊿゚)「優しいね」
( ^ν^)「なんでだよ」
ノパ⊿゚)「この前なんかそれで追い返したじゃない」
( ^ν^)「…そんなんじゃねーよ」
きっとそれはヒートが火傷を見ても受け入れてくれたからだ。
俺はあの日わざわざ自分を探して訪ねてきたヒートを恐れた。焦った。
ヒートは火傷を負ったあの火事で助けられ、消防士だった俺に憧れていたのだ。
だから普段は絶対に見せないのに真っ先にヒートに火傷を見せた。
すんなり打ち砕かれ諦めてほしかった。
しかしヒートは受け入れた。
可哀想とも言わず無意味な励ましもしなかった。
初めての人間だった。
( ^ν^)「つーかレシート後で寄越せよ。 金は出すから」
ノパ⊿゚)「同棲してるみたい」
( ^ν^)「ほんっと中学生はマセガキばっかだな」
ノパ⊿゚)「最近の中学生は発育もいいよ」
( ^ν^)「お前は違うな」
ノパ⊿゚)「サイテーだね」
21
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:09:37 ID:KbZp5als0
フライパンで料理をしているようだった。
もう長い事使っていなかった気がする。
本当に料理器具なんて最低限のものしかない。
( ^ν^)「つーか本当に母親は大丈夫なのかよ。 中学生にしては遅い時間だぞ」
ノパ⊿゚)「あー、うん、大丈夫。 そのー、なんというかお母さん帰りすごく遅い」
( ^ν^)「はぁ…母子家庭は大変なのな」
ノパ⊿゚)「そうそう、大変なのよ」
電子レンジの低い駆動音がする。
パック白米を温めている間にヒートが食事を持ってきた。
今日は豚肉の生姜焼きだ。食欲をそそるいいにおいが部屋を占める。
( ^ν^)「味噌汁まで作ったのか」
ノパ⊿゚)「明日の朝も食べられると思って」
( ^ν^)「大したもんだな」
ノパ⊿゚)「もっと褒めていいんだよ、褒めて伸びるタイプだよ」
( ^ν^)「俺あおさ汁が好きなんだよな」
ノハ;゚⊿゚)「ひどい」
加熱したご飯を机に置いて食事が揃う。
ノパ⊿゚)「そういえば茶碗もないんだね」
( ^ν^)「ほら、このまま皿になるだろう。 サトウのごはんは優秀だ」
ノパ⊿゚)「…まぁいいや、いただきます」
( ^ν^)「いま可哀想な男だと思っただろ」
ノパ⊿゚)「すごいね、ニュッさん私の心が読めるの、超能力者なの」
( ^ν^)「うぜえ」
今日の生姜焼きも美味しかった。
やはり料理が上手なのだと思う。
きっと他にも作れる料理があるのだろう。
22
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:12:01 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「いまお嫁さんにしたいって思った? 思った?」
( ^ν^)「二度訊くあたりうぜえ」
ノパ⊿゚)「結婚する?」
( ^ν^)「冷静にツッコむとお前まだ十四だから結婚出来ないぞ」
ノハ;゚⊿゚)「はっ」
( ^ν^)「マジかお前、わりとアホの子か」
ノハ;゚⊿゚)「いやーアホじゃないし。 普通だし。 至って普通だし。 現文と英語超得意だし」
( ^ν^)「見事に文系な」
ノパ⊿゚)「でもニュッさん心配だよ、今の生活を続けるのはあんまり良くないよ」
( ^ν^)「お前はかーちゃんか」
ノパ⊿゚)「いや、ほんとに。 心配になるよ」
( ^ν^)「仕方ねーだろうよ」
ノパ⊿゚)「明日も明後日も作りに来てあげるよ」
( ^ν^)「いいよ、お前中学生だろ。 時間も遅いんだしよ、親も心配するだろ」
ノパ⊿゚)「家は大丈夫だから。 お母さん遅いから」
( ^ν^)「そこまでするかよ」
ノパ⊿゚)「するよ。 好きでしてるんだから、いいでしょ」
( ^ν^)「まぁ、な」
押し切られる形で俺は頷いた。
それからヒートと一緒にバラエティ番組を見た。
ああだこうだと言いながら一時間構成のバラエティ番組を見た。
帰る時に一応ドアまで見送るがヒートは名残惜しそうに帰っていく。
一人の部屋に戻って俺はまたテレビを見ながらメビウスに火をつける。
23
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:15:02 ID:KbZp5als0
きっと俺は無償の愛が怖いのだ。
あの婚約者のようにいつか裏切られるのではと心のどこかで思っているのだ。
素直に受け取って良いものかと困惑しているのだ。
ヒートの方はまっすぐなのに俺は捻れている。
それから次の日、その次の日、また次の日と本当にヒートは食事を作りに来た。
ああだこうだと話しながら食事を作り一緒に食べた。土曜日にもヒートはやって来た。
さすがにたいしたものだと感心してしまったし、無下にするのもどうかと思い始めた。
( ^ν^)「お前、明日ヒマか?」
二人で食事を終えヒートは皿洗いをして俺はメビウスを吸ってから一緒にテレビを見た。
テレビ・コマーシャルに入ったところで思い出したようにヒートに訊いた。
ノパ⊿゚)「ひまだよ」
( ^ν^)「遊びに行くか」
ノハ*゚⊿゚)「えっ、いいの?」
( ^ν^)「日曜日だしな」
ノハ*^⊿^)「やったー」
( ^ν^)「11時な。 駅でいいから」
ノパ⊿゚)ゞ「りょうかい!」
びしっと敬礼の真似をする。
次の日の11時に駅まで歩いていくとヒートは改札口の前で待っていた。
ただ今日も制服だ。昨日も土曜日だというのに制服を着ていた。
( ^ν^)「お前なんで制服なんだよ」
ノハ^⊿^)「えへへ」
( ^ν^)「えへへじゃねーよ」
ノパ⊿゚)「制服だと親子連れに見えるよ」
( ^ν^)「やめろまだそんな歳じゃねえ」
はぐらかされてしまったような気がする。
ヒートの分の切符を買い与え、俺はICカードで自動改札機を通る。
残高表示の画面の位置が変わってしまいまたしても残高を見逃す。
どうしてJRはあんな位置に残高表示の画面を置くのだろう。
24
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:19:15 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「どこ行くの?」
( ^ν^)「中山競馬場」
ノハ;゚⊿゚)「デートだと思ったのに」
( ^ν^)「ははは、ららぽーとでも行くと思ったか」
ノパ⊿゚)「オッサン」
( ^ν^)「オイなんか言ったか」
ホームに降りるとちょうど10両編成の列車がやって来る。
地下鉄からやって来た古いデザインの列車だ。
二つ目の駅で乗り換えるとまた陳腐なステンレス製の車両が待っている。
沿線に大型商業施設などが多く土休日という事も重なり車内は混んでいた。
ノパ⊿゚)「混んでるね」
( ^ν^)「レイクタウンとかららぽーととかあるからな」
ノパ⊿゚)「あー一回だけ行った事ある。 めっちゃ大きいよね」
( ^ν^)「俺は行った事ないな」
ノパ⊿゚)「みんなららぽーととか行くのに競馬場ねえ」
( ^ν^)「嫌か」
ノパ⊿゚)「ううん、正直行ってみたかった」
( ^ν^)「行ってみたかった? なんでだ」
ノパ⊿゚)「お母さんが競馬好きで、よくテレビで見てたから」
( ^ν^)「へぇ」
ノパ⊿゚)「毎週スポーツ新聞買っててね、携帯で馬券買ってた」
( ^ν^)「今便利だからな」
ノパ⊿゚)「有馬記念っていうの? 毎年年末になると清算だーって」
( ^ν^)「お前のかーちゃん面白そうだな」
25
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:21:38 ID:KbZp5als0
元は貨物線として敷かれた線路は踏切もなく駅も少なく郊外をかっ飛ばしていく。
車窓から住宅街が幾つも見える。ところどころに集まっている。
( ^ν^)「次で降りるぞ」
ノパ⊿゚)「フナバシホーテン?」
( ^ν^)「そう」
駅に着くと家族連れやカップルなどが車内に残り、中年ばかりが降りる。
改札を出ると長いトンネルが続き列車を降りた客はぞろぞろとそこを歩いていく。
途中には歩くエスカレーターもある。ヒートは物珍しそうにそれに乗った。
ノパ⊿゚)「すごーい、歩くエスカレーターだ」
( ^ν^)「珍しいか? 空港とかにあるだろ」
ノパ⊿゚)「そんなに飛行機乗る?」
( ^ν^)「いや、全然だな」
トンネルが終わるとそこはもう競馬場の中だ。直結になっている。
ヒートにはまず見せた方が良いだろうと思いスタンドへ出る。
ノハ*゚⊿゚)「わー、テレビで見たやつ!」
( ^ν^)「なんという感想」
スタンドからは芝とダートのコースが見渡せる。
右手にある登り坂こそがドラマを産み出す仕掛けだ。
母親が好きでもヒートは仕組みを知らないようだったので教えてやる事にする。
マークシートを一枚持ってきてヒートに見せた。
( ^ν^)「馬券はこれに記入して買う」
ノパ⊿゚)「ふむ」
( ^ν^)「まずここは中山競馬場だから中山のところを塗りつぶすんだ。 そして次は7レースだから7を塗る」
ノパ⊿゚)「なるほどなるほど」
( ^ν^)「そしてここ、まぁ分かりやすいやつだけで行こう。 まず単勝ってあるだろう、これは単純に一着の馬を予想するんだ」
ノパ⊿゚)「一位の馬ってこと?」
( ^ν^)「そう、シンプルだろう。 まずはそれで買ってみよう」
ノパ⊿゚)「うん、分かりやすい」
26
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:31:19 ID:KbZp5als0
パドックへ移動して馬を見る。
間近で見る本物の馬にヒートは少し興奮していた。
競馬場に制服を着た中学生がいるのは少し浮いているが大丈夫だろう。
馬券も自分が買えばとやかく言われる事はない。
ノパ⊿゚)「なにを見ればいいの?」
( ^ν^)「調子良さそうだな、とかやたら汗かいてるな、とか。 俺は色艶とかでも決める」
ノパ⊿゚)「あ、じゃああの馬がいいな」
( ^ν^)「あとな、馬には人気がある。 人気が高いという事は多くの人がこの馬が勝つだろうって予想しているんだ」
ノパ⊿゚)「読売巨人軍ということ?」
( ^ν^)「…まぁ、そうだな、金満クソ巨人は嫌いだがそういう事だ」
ノパ⊿゚)「逆に人気がない馬はみんなが勝たないだろうって思って買われてないってこと」
( ^ν^)「そう、そういう馬が勝つと大穴って事になるんだ」
ノパ⊿゚)「あぁ、なるほど」
表示されたオッズを見に行く。
( ^ν^)「あの数字が低ければ低いほど人気だって事だ。 勝っても安い」
逆に数字が高いと勝った時に高いお金が返ってくる」
ノパ⊿゚)「大穴狙いってやつだ」
( ^ν^)「そうそう」
ノパ⊿゚)「お母さんそれだ」
( ^ν^)「そ、そうか…買いたい馬はどうだ?」
ノパ⊿゚)「4番は…20.4倍だって」
( ^ν^)「微妙な馬だな。 最初だから100円でいいだろう。 一口最小100円で買えるんだ」
ノパ⊿゚)「じゃあ当たったら20.4倍だから2040円になる」
( ^ν^)「そうだ。 じゃあ記入してみろ。 4番がいいなら左の一着のところの数字の4を塗りつぶすんだ」
ノパ⊿゚)「うん」
( ^ν^)「そして金額は1、単位は百円」
ノパ⊿゚)「書けた」
27
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:35:13 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「よし、じゃあ買ってきてやるから待ってろ」
ノパ⊿゚)「いいの?」
( ^ν^)「二十歳未満は基本ダメだからな。 機械だけど制服で買ってたらおばちゃんが小窓から出てくるさ」
ノハ;゚⊿゚)「おばちゃん忍者なの…」
駅を出て買っておいたスポーツ新聞を見ながら自分の分も記入して馬券を購入する。
確認してから持って帰りヒートに手渡した。無料のお茶を飲みながらスタンドへ出る。
( ^ν^)「16時ぐらいまでレースが続くんだ。 それで一日楽しめる」
ノパ⊿゚)「あのテレビを見てる人達は?」
( ^ν^)「他の競馬場でもレースをやっていて、その馬券を買えるしその中継も見られるんだ。
まぁ初心者にはこうして競馬場で生のレースを見るのが楽しいんだけどな」
ノパ⊿゚)「確かに楽しそう。 結構若い人もいるんだね、もっとおじさんばかりかと思ってた」
( ^ν^)「最近はCMとかで若い人向けになるようになっただろ」
ノパ⊿゚)「うん、瑛太イケメンだよね」
( ^ν^)「競馬も競輪も競艇も凝ったCM作って若い層を取り込もうと必死なんだ。 おじさんばかりだからな」
ノパ⊿゚)「最近のCM目立つよね」
( ^ν^)「相撲とかもCMを流さないぶんTwitterやらLINEやら始めて色々やってるからな」
空いていたスタンドの席に座る。
先程までパドックを歩いた馬達が歩いてくる。
( ^ν^)「自分が買った番号を覚えておけよ」
ノハ-⊿-)「4番…4番…」
( ^ν^)「念じなくてもいいんだよ」
28
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:38:57 ID:KbZp5als0
馬が収容され間もなくゲートが開かれる。
大型モニターでその様子が映し出される。
ヒートの買った逃げ馬はさっそく先頭に立った。
良い位置をキープしながらカーブを曲がる。
ノパ⊿゚)「4番先頭? 先頭だよね?」
( ^ν^)「あぁまだ先頭だ、逃げ切れるかどうかだぞ」
馬群がカーブを曲がりスタンド正面に近づく。
一番人気の馬が外から猛烈に追い上げてくる。
逃げ馬は最内で粘り坂を駆け上がる。
中年男性の野太い罵声がところどころから上がる。
丸められた新聞が叩きつけられる。
逃げ馬は最内でそのままゴールを通過する。
すぐに追い上げた馬が通過するが勝敗は明白だった。
ノハ*゚⊿゚)「やったー!」
( ^ν^)「はー、4番勝ったな」
ノハ*゚⊿゚)「楽しいね、最後のゴール前でうわあって盛り上がるの楽しい!」
( ^ν^)「まぁ勝ったからな、ビギナーズ・ラックってやつだ」
ノパ⊿゚)「あ、ニュッさん最後に追い上げてきた馬買ってたでしょ」
( ^ν^)「うるせー」
さっそく払い戻しに行き、的中馬券を機械に通す。
払い戻された2040円をヒートに渡した。
ノハ;゚⊿゚)「なんと錬金術…これは禁忌の錬金術…」
( ^ν^)「ハマる理由が分かるだろ」
ノハ;゚⊿゚)「これはほどほどにするべき遊戯だね…」
( ^ν^)「物分りがいい中学生だ」
2040円を仕舞わせてから再びパドックへ出向く。
29
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:43:31 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「次は馬連、馬単も買ってみるか」
ノパ⊿゚)「ウマレンウマタン」
( ^ν^)「馬連は一着と二着の馬も当てるんだ。 上位二頭が当たればいいからどっちが一着でもいい。
馬単は一着と二着を順に当てるんだ。 上位二頭を着順通り当てる」
ノパ⊿゚)「馬単の方が難しい」
( ^ν^)「そう、だから馬単の方が当たったら返ってくる金が高い。
気に入った二頭がいれば馬連、絶対に一着だと思う馬がいれば馬単でもいいだろう」
ノパ⊿゚)「なるほど」
( ^ν^)「さっきみたいに感性で決めるのもいいがオッズを見て買ってみるのもいいだろう。
見方は分かるな? あの奥のディスプレイに表示されてる」
ノパ⊿゚)「ええと、4番が4.1で一番数字が小さいから一番人気の馬なんだ」
( ^ν^)「そう、他に単勝オッズが一桁の馬がいないからこの場合はかなりの人気を集めている」
ノパ〜゚)「確かにあの4番いいねぇ」
( ^ν^)「あと気に入った一頭を見つけるといい」
俺はスポーツ新聞に掲載されたデータに目を通す。
しかし俺もパドックを見て決める事が多いので参考程度だ。
いくら一番人気に推された馬だとしてもパドックを見ずには買えない。
ノパ⊿゚)「決―めた。 1番にする」
( ^ν^)「どっちで買うんだ?」
ノパ⊿゚)「馬単にしてみる。 4番から1番」
( ^ν^)「馬単だと順番が逆になった時に悔しいぞ」
ノパ⊿゚)「その時はその時だよ」
パドックを後にしてマークシートに記入を始める。
見慣れた緑のペンを持たせ今度ははじめから自分で記入させてみる。
( ^ν^)「さっき言った通りだ、中山の8レース。 馬単」
ノパ⊿゚)「中山、8、馬単」
( ^ν^)「一頭目、二頭目のところに一着、二着の順だ」
ノパ⊿゚)「一着が4、二着が1」
30
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:48:14 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「後は懸ける金額だ」
ノパ⊿゚)「じゃあさっきの2000円」
( ^ν^)「さっきは物分りのいい中学生だと言ったがお前は母親譲りのギャンブラーかもしれねーな」
ノハ^⊿^)「えへへ」
( ^ν^)「えへへじゃねーよ褒めてねーよ。 むしろ将来が心配だわ」
ノパ⊿゚)「大丈夫、割り切って遊ぶものだもの」
( ^ν^)「そういうところは大人なんだよな」
また俺が投票カードを機械に通して馬券を発券する。
二人でスタンドへ出てレースの開始を待った。
今日はGⅠが京都競馬場であるのでスタンドは無茶苦茶に混み合っているという訳ではない。
有馬記念開催時に何度か来ているがあの殺人的な混み具合ではヒートとはぐれてしまうだろう。
( ^ν^)「お、走るぞ」
レース内容は鮮やかなものだった。
一番人気の4番が大外から抜け出して一着。
更に逃げていた1番が4番の後に続き二着。
ノパ⊿゚)「やった。 馬単のオッズ何倍だっけ」
( ^ν^)「上に出るよ」
的中馬券の払い戻しの列に並びながら頭上のモニターを見る。
先程終えたばかりのレースの払い戻し結果が表示される。
馬単は2860円となっていた。
ノパ⊿゚)「2860円?」
( ^ν^)「あれは100円時での数字だ。 だから28.6倍」
ノパ⊿゚)「私がかけたのは」
( ^ν^)「2000円。 つまり2000×28.6だ」
ノハ;゚⊿゚)「おぉう…」
( ^ν^)「ビギナーズ・ラックってのは怖いな」
払い戻された57200円にヒートは困惑気味だった。
遊びのつもりだったが少し額が大きくなってしまった。
俺だったら今日はついていたと帰りに缶ビールでも買って帰るところだ。
31
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:53:31 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「じゃあ次は三連複、三連単だ」
ノパ⊿゚)「あ、じゃあ一着、二着、三着を当てるんだ」
( ^ν^)「そう、三連複は上位三頭を、三連単は一着から三着までピタリだ。
三連単的中は難しいからそのぶん返ってくる金もデカい。
何より三連単をピタリと当てた時の感覚は最高だ」
ノパ⊿゚)「うわー面白そう」
( ^ν^)「他にも色々な買い方があるがここまでがシンプルで分かりやすい買い方だ」
ノパ⊿゚)「うん、段階的で分かりやすかった」
パドックに出向き馬の様子を見る。
ヒートは真剣に馬の様子を眺めていた。
今度は時間をかけてゆっくりと観察をする。
( ^ν^)「どうだ見えたか」
ノパ⊿゚)「うん、決めた」
( ^ν^)「単勝馬単と連勝だからな、でも三連単は本当に難しいぞ」
ノパ⊿゚)「うん、難しいと思う」
マークシートの記入を始める。
もう一人で出来るだろうと思い自分の記入に専念する。
記入を終えヒートの方を見るともう書き終えていた。
はい、とマークシートと先の50000円を俺に手渡す。
( ^ν^)「マジかお前」
ノパ⊿゚)「本当はさっきの57200円と二回目かける時に余った40円全部かけたかったんだけど」
( ^ν^)「お前いいギャンブラーになれるよ」
ノハ^⊿^)「えへへ」
( ^ν^)「もうツッコむ気にもなれん」
32
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 11:58:56 ID:KbZp5als0
まぁ元々は存在しなかった金だ。
ギャンブルで一時的にそれを手に入れ、ギャンブルで消える。
これでギャンブルの仕組みを理解出来るはずだ。
はじめにビギナーズ・ラックでやたらと儲けてしまうと味をしめてしまう者が多い。
そこからギャンブル狂いとなり破滅していく者を見た事もある。
( ^ν^)「よーし50000円の三連単だ、大切に持っていろよ」
ノパ⊿゚)「ありがとー」
発券した50000円の馬券を渡す。
三連単に絡む三頭はどれも単勝オッズが一桁の人気馬ばかりだ。
そのためこの三連単のオッズも100倍を切っている。
( ^ν^)「50000円の三連単なんて地元のイカれた先輩以来に見たぞ」
ノパ⊿゚)「男気だよ男気」
( ^ν^)「お前女じゃねーかよ」
喫煙所に入ってメビウスを一本吸う。
顔の火傷を見られたくないがマスクを外せなければ吸えないので壁の方を向く。
吸い終わって喫煙所を出てから無料のお茶で一服する。
もう秋なのでパドックは少し寒く温かいお茶が美味しい時期だ。
紙コップをゴミ箱に捨ててスタンドの方へ行く。
今日のメインレースでもなく他の人間からすればなんでもないレースだ。
それなのになんだかこっちまで緊張してくる。
俺ですら一つのレースに50000円など懸けた事がない。
まして三連単だ。
( ^ν^)「始まるぞ。 番号覚えてるか」
ノパ⊿゚)「6→2→8!」
( ^ν^)「よし」
33
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:02:34 ID:KbZp5als0
ゲートが開き一斉にスタートする。そう見えた。
よく見ると一頭出遅れている。一番人気の6番だ。
悲鳴と罵声がスタンドから上がる。隣の中年男性は頭を抱えている。
ヒートも首を傾げている。完全に出遅れた6番は完全に馬群から離されていた。
しかしため息混じりのスタンドにどよめきが起こる。カーブに差し掛かって6番が馬群最後尾に追いついた。
そのまま外から最後尾をかわす。もう一頭かわし、更にもう一頭。いよいよスタンドがざわつく。
最後の直線に入り馬群が広がる。その一番外を6番が猛烈に追い上げる。
カメラから見切れてしまうようなコースを一気に駆け上がる。
先頭では三番人気の逃げ馬2番が必死に逃げていた。
ゴール目前で6番は逃げ馬2番に並ぶ。そのままゴール。
スポーツ新聞が叩かれ馬券が飛び散った。
罵声、歓声、どよめき。
ターフビジョンには着順が三着以降しか表示されない。
一着争いは写真判定だとアナウンスが流れる。
よく見るとターフビジョンに表示された三着は8番だった。
(; ^ν^)「嘘だろ…」
ノパ⊿゚)「6番が一着だといいなー」
(; ^ν^)「いやいやいや反応が軽い、軽いぞ、ヤバいぞこれ」
ノパ⊿゚)「早く出ないかなー」
やがて超大型ターフビジョンにゴールの瞬間の写真が映し出される。
大外から駆け抜けた6番が僅かに2番をかわす。ハナ差。
着順に6、2、8と表示され、確定の文字が出る。
ひっくり返りそうになった。
そこらから沸き上がる歓声に埋もれてしまいそうになった。
ノパ⊿゚)「やったね」
ヒートはけろっとした表情で振り返る。
ふらふらとした足取りで払い戻しに行く。
的中馬券を機械に入れると払い戻しが始まる。
サッサッサッサッと機械の中で一万円札が用意されていく。
それは異様に長い。その長い時間が配当金の高さを物語っている。
普段は数秒で終わるその時間がとても長い。何人の福沢諭吉が出てくるのだろう。
ようやく準備が終わり、配当金が出てくる。三連単オッズ89.4倍。
447000円とモニターに表示される。長い間掴まなかった札束だった。
そのまま二人で競馬場を後にした。これ以上レースを続けるのがどうしてか恐ろしかった。
ヒートの驚異的ビギナーズ・ラックでまだ荒稼ぎが出来たのかもしれない。
しかしそうなるともう後戻り出来ないところへ行ってしまう気がした。
それは俺もヒートもだ。見ていただけなのにおかしくなってしまいそうだった。
ヒートはまだ続けたいとも言わず帰ると告げると分かったと笑うのみだった。
34
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:06:44 ID:KbZp5als0
ノハ*゚⊿゚)「楽しかったね!」
( ^ν^)「あぁ…」
なんだか疲れた。遊びに来たはずなのに疲れた。
額が大きいから、と447000円と残りの7240円を預かった。
財布がこんなに分厚い事があっただろうか。
ノパ⊿゚)「何か美味しいものでも食べに行こうよ。 出すよ」
( ^ν^)「ありがとうございやーす」
ノパ⊿゚)「立場逆転だね」
行きと同じように家族連れやカップルの多い列車に乗り、途中で乗り換えて家を目指す。
最寄り駅からもう一つ都心方面へ進むと市内で一番大きなターミナル駅にある。
そこからタクシーに乗り焼肉屋に向かった。タクシーに乗るのですら久しぶりだ。
( ^ν^)「大丈夫か、感覚狂わないか」
ノパ⊿゚)「大丈夫だよ、元々はなかったお金だもの」
( ^ν^)「うーんやっぱりそこは大人だな」
二人でA5ランクの和牛に舌鼓を打ち、帰りはまたタクシーでアパートまで帰った。
いくら競馬で勝ってもこれほどに豪勢な帰宅は初めてだ。
明日からはまた堅実に生きようと思った。
( ^ν^)「というかお前も着いてくるのか」
ノパ⊿゚)「いいじゃない」
( ^ν^)「今日はもう夕食いいぞ」
ノパ⊿゚)「そりゃああれだけ食べればね。 私もお腹いっぱい」
( ^ν^)「まぁいいけどさ」
ノパ⊿゚)「うん」
家に帰るとやはり落ち着く。
しかし机に残ったおよそ40万円を置くと非日常が帰ってくる。
ノパ⊿゚)「あ、コーヒーあるじゃん。 淹れよっか」
35
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:09:49 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「あぁ。 ティファールあるぞ」
ノパ⊿゚)「あ、これすっごい便利だよね」
( ^ν^)「ガス使わなくても生きていける」
ノパ⊿゚)「うわぁ心配になるな」
スイッチを入れて暫くすると湯沸し器の音が部屋に響く。
その間に俺はメビウスを一本取り出して火をつける。
ノパ⊿゚)「ねぇニュッさん彼女いるの」
( ^ν^)「やぶから棒に探りを入れるなよ」
ノパ⊿゚)「いるの?」
( ^ν^)「いる訳ねーだろ。 こんな顔じゃもう無理だろうな」
ノパ⊿゚)「そんな事ないよ」
( ^ν^)「あるよ」
ノパ⊿゚)「私がいるよ」
( ^ν^)「ガキじゃねーかよ」
ノパ⊿゚)「私じゃダメなの?」
湯沸し器が沸騰を終えてスイッチが切れる。
部屋が静かになる。
ノパ⊿゚)「ダメなの」
( ^ν^)「あのな、俺は33でお前は14だぞ。 釣り合う訳ないだろうが」
ノパ⊿゚)「だけど」
( ^ν^)「ないよ。 ありえない」
ノパ⊿゚)「…分かった」
すっくと立ち上がってヒートは玄関の方へ向かう。
36
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:12:13 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「今日楽しかった、ありがとう」
だけど、とヒートは呟く。
ノハ-⊿-)「もう私にはニュッさんしか残ってない」
( ^ν^)「は?」
ヒートが玄関を出て行く。
意味深な言葉が気になって追いかけるが部屋の外には誰もいない。
階段までは少し距離があるはずなのにもういない。
次の日、ヒートは来なかった。
仕事を終えてアパートに帰ると部屋の前には誰もいなかった。
うっかり夕食を買わなかったのでカップラーメンを食べた。
迂闊だったな、と俺は反省する。自嘲気味に自分を笑ってやる。これが普通なのだ。
今までこういう生活をしていたのだ。
変な一週間だったのだ。
一人の部屋でテレビを見ながらカップラーメンをすする。
よく食べるのでスーパーカップなどを各種揃えてある。
食べ終わってメビウスに火をつけぼんやりとテレビを眺めていた。
まだ吸殻が数本しかないガラスの灰皿で軽くメビウスを叩く。
ふとテレビの電源を落としてみる。急に部屋は静かになる。
部屋の外の国道6号線を走る車の往来が少し聞こえる。
遠くから常磐線の快速列車が通過する音が聞こえてくる。
この部屋の音とはこれほどのものだ。
食べ終わったカップラーメンすら片付けるのが面倒だ。
しかし部屋に豚骨のにおいが充満している。
そろそろ寒い時期なので窓を開けたくもない。
もう一度テレビをつける。
次の日も次の日もヒートは来なかった。
もう来るつもりはないのだ、と確認する。
俺が突っぱねたのだ。仕方ないだろう。
初めて部屋にやって来た時に突き放したように。
俺はその好意を受け取れない。受け取り方が分からない。
中学生には興味がないし女性とは見られない。
それでもヒートが渡そうとしたのは無償の愛情だ。
37
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:15:58 ID:KbZp5als0
ヒートの好意が嫌だった訳じゃない。
俺みたいな人間に手を差し伸べてくれるような人がいたのはきっと嬉しいのだと思う。
しかし俺はもう随分とそういう好意に触れてこなかったのだ。
火傷を負ってから人と接するのすら避けてきた。
きっと頭のCPUがどう処理して良いものか分からなかったのだ。
そう俺は言い訳を重ねる。一人の部屋で言い訳を重ねる。
一人で生きていけると思った。一人で生きていくしかないと思った。
こんな顔を誰にも見られたくない。受け入れられるはずがない。
気持ち悪いと思われるのが当然だ。だから隠したいのだ。
仕事も最低限の報告伝達を行なっていればいい。接客する事もない。
もう誰かを救うような仕事ではないけれど建築板金工の仕事にも誇りを持っている。
携わっていたマンションなどが完成すると誇らしい気持ちになる。
今の生活で十分に生きていける。そう思っていたしこれからもそうなのだ。
( ^ν^)「…」
しかしこの空虚感は説明出来ない。
情けない。今更こんな気持ちになるなどと。
たった一週間来ていただけなのに、ヒートが来ないと寂しいのだ。
アホらしい。我ながらアホらしい。たかだか中学生にどうしたというのか。
婚約者に逃げられてこのアパートに引っ越してから誰も部屋に上がった者はいなかった。
消防士時代の同僚とは極力連絡を取ろうとも思わないし今の職場にそれほど親しい者はいない。
両親も俺を避けているし地元から少し離れているので付近に知り合いは一人もいない。
こんな顔なのでデリヘルも呼ぶ事が出来ない。誰も他者がいるはずのない部屋。
自分という存在だけで満ち溢れていたこの部屋に初めて入った他者がヒートだ。
アパートの部屋という自己の世界に他者が入ってくる。これは大きな出来事だ。
あの時は近隣住民が不審な目で見ていたので緊急事態だった。仕方なかった。
それもたった一週間、俺が帰宅する時間に合わせてやって来て帰るまで。
久しぶりに誰かが作った食事。誰かと話しながら見るテレビ。
それが懐かしいと、思ってしまっているのだ。
38
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:19:10 ID:KbZp5als0
しかし俺はヒートの連絡先など知らない。
今になって俺が悪かったと詫びを入れる事も出来ない。
そもそもヒートについて知っている事はとても少ない。
俺が火傷を負った火事が起きたあの団地に住んでいた。
父親は既に他界して母親と二人で暮らしている。
忙しい母親に代わって料理を作る事が多くその腕前はなかなかのものだ。
母親はギャンブルが好きでヒートには素質がある。
自分を助けた俺に憧れを抱いている。
その憧れは恋だとも本人は言う。
もう私にはニュッさんしか残ってない。
ヒートが最後に残した言葉を反復する。
まっすぐな性格なヒートからはまっすぐな言葉ばかりが出る。
そんなヒートの最後の言葉。ニュッさんしか。その意味は分からない。
他に好きな人がいたが失恋してしまいもう俺しかいない、だとか考えてみたが違和感がある。
中学生なので通常の生活があるだろうにヒートは月曜日から日曜日まで休まず一週間やって来た。
課題をやる時間や塾の時間があるのではと思ったがヒートは多くを語らなかった。
どうしてヒートはそこまでしたのだろう。もう私にはニュッさんしか残ってない。
まるで追い詰められたようにも見える。そもそも火事は二年前だ。
俺は入院して一ヶ月と経たずに退職を決めた。
ヒートは退院してから俺を探したがもう辞めていた。
なら何故今になってやって来たのだろう。
二年も経ってどうしてこの部屋にやって来たのだろう。
( ^ν^)「俺はあいつの何も知らねーんだな…」
39
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:21:33 ID:KbZp5als0
22時になって偏りがちなニュース番組が始まる。
古舘は嫌いだが他に目ぼしい番組もなくそのまま視聴を継続する。
まずはお決まりの政治のニュースから始まる。
もう寝ようかなと思い歯を磨きながらそれを眺める。
子供の頃はよく歯を磨いた後にジュースを飲んで怒られたものだ。
今でも歯を磨いた後に煙草が吸いたくなってどうしたものかと悩む時がある。
いくら気をつけていても煙草のにおいは服に染み付くし歯は汚れてしまう。
同棲していた頃に借りていた部屋を返す時に確認すると壁紙はヤニですっかり黄ばんでいた。
二週間ほど前に死傷者を出した交通事故を起こし逃走していた男が逮捕されたというニュースに移る。
同じ県のうえに隣の市だ。昼間に撮ったと見られる映像に切り替わる。
富川という若いリポーターが実際に現地に赴き事故のあった交差点に歩いていく。
『えー、こちら。 事故のあった鎌ヶ谷市の初富交差点です。
東武野田線と新京成線に挟まれ初富駅からすぐの場所で、交差点脇にはスーパー・マーケットもあり終日交通量が多い交差点です。
更にここで向こう側、北からやって来た国道464号線があちら側、西の松戸方面に右折していく訳ですが、
交差点の容量の問題で右折が禁止されているなど非常に複雑な交差点でもあるのです』
イトーヨーカドーをバックにリポーターが歩き高架の線路が跨ぐ交差点を示す。
『容疑者はこの交差点に信号無視をして進入、親子二人の乗った軽自動車に衝突しました。
横っ腹を押される形で軽自動車はあの奥に見えますガードレールに激突しました。
容疑者の乗ったワンボックスカーはいったん止まりましたがそのまま松戸方面へと逃走。
翌日には容疑者が乗り捨てたと見られるワンボックスカーを松戸市内で発見しましたが容疑者は姿をくらまし、今日になって東京都内で確保されました。
取り調べに対し容疑者は事故当時携帯を見ていた、怖くなって逃げたと話しているとの事です』
画面が事故後の警察の実況見分の際の写真に切り替わる。
軽自動車は潰れてしまい原型を取り留めていない。
やはり軽自動車は危険だと社会への警鐘になるだろう。
対するワンボックスカーも前面が大破しており相当なスピードを出していたと予想される。
40
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:26:06 ID:KbZp5als0
『逮捕されたのは松戸市在住、会社員のゼアフォー容疑者31歳…』
スタジオのアナウンサーが逮捕された容疑者の名前を読み上げる。
逮捕された男の証明写真らしき顔写真が映し出される。
『またこの事故では軽自動車に乗っていた親子二人が死亡しました。 亡くなったのは八千代市の会社員、シュールさんと娘で中学生のヒートさん』
歯ブラシを動かす手が止まる。テレビ画面に映し出されていたのは間違いなくヒートの写真だった。
それも毎日着ていた中学の制服姿の写真だ。毎日着ていた中学の制服姿。
土曜日も。出掛けると言っておいた日曜日にも。
俺は立ち上がった。行かなければいけない気がした。
スウェットのまま上着だけ着てアパートを飛び出した。
今から行って帰りの列車があるか分からなかった。
そんな事はどうでも良かった。
こうしなければいけないと強く思った。
列車に乗っている間は落ち着かなかった。
早く早く進んでほしかった。
現場の最寄り駅に着いて駅を出る。
小走りで交差点に向かう。ちょうど信号が青になったので横断歩道を渡る。
昼間にリポーターが立っていた場所には花束などが幾つも置かれていた。
古いものもあればまだ新しいものもある。
メッセージの書かれた紙もあったが雨で滲んでいた。
交差点の向こう側にはひしゃげたガードレールが見えた。
押し込まれるように激突した軽自動車の痕跡がある。
ぐにゃりと曲がってしまっていて衝撃の大きさを物語っていた。
ガードレールとワンボックスカーに挟まれて軽自動車は潰れてしまったのだ。
そこでヒートは
ノパ⊿゚)「ニュッさん」
振り返る。そこにはヒートがいた。
最後に見た時のまま中学の制服姿だった。
テレビに映し出された写真の制服姿だった。
41
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:33:14 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「お前…」
ノパ⊿゚)「どうしてここに」
( ^ν^)「…ニュースで見た」
そっか、とヒートは俯く。
ノハ-⊿-)「というかニュッさんまだ私が認識出来るんだね」
( ^ν^)「どういう事だよ」
ノパ⊿゚)「ここ数日でね、他の人には認識されなくなっちゃったの。
それにここから遠くには行けなくなっちゃった」
これじゃまるで地縛霊ってやつだよね、とヒートは笑う。
ノパ⊿゚)「スーパーで買い物も出来ないし料理も出来ないんだもの」
ヒートは交差点の脇まで来て、手向けられた花束の前で屈む。
メッセージの書かれた紙に手をやった。
ノパ⊿゚)「多分これ、キュートちゃんだ…でも読めないや」
( ^ν^)「お前はなんで」
ノパ⊿゚)「私もね、どうしてだろうって思った。 色々考えたよ」
ヒートは立ち上がる。管制下に置かれた交差点を指示された通りに車が通って行く。
ノパ⊿゚)「あの瞬間だって走馬灯みたいに半生が巡ったもん。
後ろの席に座ってたら横からめちゃくちゃ速い車が来るなーとか思ってたらガシャンで暗転」
あっけないね、とヒートは呟く。
ノパ⊿゚)「私が今の状態になって、まず何か未練があるんだって思った。
お母さんも一緒に死んじゃったし、お父さんももういないし。
事故を起こした犯人は逃げてるっぽいけど見つけたって自分が生き返る訳じゃないし。
友達に最後に何か言いたいってのもあったけど多分すっごい混乱させちゃうなって」
42
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:37:42 ID:KbZp5als0
( ^ν^)「まぁそういう類のストーリーはよくあるが一歩間違えればオカルトジャンルだからな」
ノパ⊿゚)「私オカルトじゃん」
えへへ、とヒートは笑う。力なく笑う。
ノパ⊿゚)「それで思い出したんだ、ニュッさんだって。 私の初恋。 忘れる事のない初恋。
ずっとそれは私の心の奥底にあって、忘れられなかった。
それが未練なんだって。
それにニュッさんは私が死んだのを知らない」
( ^ν^)「もう私にはニュッさんしか残ってない」
最後に残したヒートの言葉。
ノパ⊿゚)「うん、そういう事」
( ^ν^)「悪かった」
ノパ⊿゚)「いいよ」
( ^ν^)「言い訳するみたいだけど、俺は好意が怖かったんだ。 愛情が怖かった。
この顔になって裏切られてきたんだ。 だからすごく怖かった。
それに長い間一人でいたからどうしていいのか分からなかった」
ノパ⊿゚)「うん」
( ^ν^)「でもこの顔でも受け入れてくれたのはお前だけだったよ」
ノパ⊿゚)「だって関係ないじゃない。 ニュッさんはニュッさんだもの。
もう消防士じゃなくても、誰かを救う事は出来なくてもニュッさんだもの」
( ^ν^)「あぁ」
ノパ⊿゚)「そりゃあ中学生じゃ無理だって分かってたよ。 焦ってただけで。
いつ消えちゃうか分かんないし、実際消えかけっぽいし。
あーあ、せめて大学生ぐらいならなぁ」
( ^ν^)「おい、消えかけって」
43
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:41:46 ID:KbZp5als0
ノパ⊿゚)「んーだってニュッさん以外には認識されなくなってきてるし。
今だって事故現場に死んだ被害者が立っているんだよ」
( ^ν^)「まぁな…」
車の往来は多いが人はそれほど歩いていない。
たまに自転車が通り過ぎていくだけだ。
( ^ν^)「未練がなくなったから消えるのか」
ノパ⊿゚)「いや時間が経ったからじゃないかな。 未練残ったままだし」
( ^ν^)「未練残ったまま」
ノパ⊿゚)「そうだよ、フラれたも同然なんだし」
( ^ν^)「悪かったって」
ノパ⊿゚)「ほら、一時的にでも恋人にしてくれたなら私も安らかに眠れるんじゃないかと」
( ^ν^)「遂に一時的にとか言い出したな」
ノパ⊿゚)「いいじゃんいいじゃん」
( ^ν^)「まぁ、お前がそれで満足するなら」
ノハ*゚⊿゚)「やった」
来て来て、とヒートが手招きする。
ノハ*゚⊿゚)「さぁ抱きしめて下さい」
( ^ν^)「なんか恥ずかしいな」
ノハ*゚⊿゚)「中学生なんだから大丈夫、胸もないし」
( ^ν^)「自分で言うなよ」
そっとヒートを抱きしめてやる。
華奢な身体は今にも消えてしまいそうなほどに細かった。
わぁ、とヒートが息を漏らすのが分かる。
( ^ν^)「満足か」
44
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:45:26 ID:KbZp5als0
ノハ*- -)「ううん」
( ^ν^)「なんだよ」
ノハ*゚⊿゚)「やっぱりちゅーしてほしいな」
( ^ν^)「お前な」
ノハ*゚⊿゚)「いいじゃん、ずっと想像してきたんだよ」
( ^ν^)「お前は夢見る少女か」
ノハ*-⊿-)「夢見る少女だよ」
( ^ν^)「ったく」
俺はマスクを取る。こんな外でマスクを取ったのは久しぶりだ。
ん、とヒートは目を閉じて待っている。そういうところは一人前に大人だ。
( ^ν^)「じゃあするぞ」
うん、とヒートが頷く。
俺も目を閉じて唇を重ねる。
短いような長いような時間が経過する。
何秒経っただろうか、不意に唇の感覚がなくなる。
恥ずかしくなって離れやがったなと目を開けるとヒートはいなかった。
辺りを見渡してももう姿はなかった。交差点には車の往来しかない。
指揮者の信号が青を出すと規則正しく並んでいた車が動き始める。
俺は暫くそのオーケストラを眺めていた。
( ^ν^)「…そんなに急に消えるもんかよ」
何の余韻もなく、別れの言葉もなく。
満足してヒートはいなくなった。
45
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 12:55:11 ID:ofThv9CM0
( ^ν^)「勝手なやつめ」
俺は交差点を後にして駅の方へ歩いた。
上着を着てきたが秋の夜はスウェットでは寒かった。
駅のホームに出てベンチに座ると不意に猛烈な喪失感に襲われた。
また誰かを救う仕事がしたいと思った。
今の仕事だってやりがいを感じている。
こんな酷い火傷のある顔は極力晒したくはない。
けれどまた人を救う仕事をしたいと俺は思った。
一人でも誰かを助けたいのだ。
こんな気持ちになるなんて考えもしなかった。
自嘲気味に笑う。泣いている訳じゃない。
本当はまだどこかに隠れているのではないかと思った。
この情けない顔をこっそり見ているのではと。
だけどもうそこにはいなかった。
( ^ν^)やり残したことのようですノパ⊿゚)
46
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 13:03:24 ID:HBtdaz2.0
ほう……面白いじゃないの!
47
:
名も無きAAのようです
:2016/05/07(土) 13:10:37 ID:4qu9ploU0
乙
凄く面白いしヒートが可愛い
切ないがニュッが再び前を向けるようになって良かった
48
:
名も無きAAのようです
:2016/05/08(日) 00:33:03 ID:lpkNqOp60
千葉県民の俺としては情景が浮かびすぎてしまうな
49
:
名も無きAAのようです
:2016/05/08(日) 00:47:06 ID:r42CXgUc0
古館でチャンネル帰るあたりがニュッ君というかν速民というかっぽくて凄く好き
乙
50
:
名も無きAAのようです
:2016/05/13(金) 22:12:08 ID:/yCAQXko0
他のはいつ書くの?明日?明日だよね?
51
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 01:35:13 ID:INs3mbfI0
救いの無い話はやめろ
泣く
52
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 07:54:24 ID:BImXu.QU0
ありがとうございます。
>>49
書いたの結構前だったので投下するまでに古舘が富川さんに交代するとは思いませんでした…。
>>50
週一ぐらいでやっていきます。
53
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 07:56:28 ID:BImXu.QU0
二人暮らしのようです
京急本線大森海岸駅から徒歩3分・JR京浜東北線大森駅から徒歩9分
鉄筋コンクリート造り 築29年
2DK 家賃10.8万円(一人5.4万円)
54
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:01:27 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从二人暮らしのようです(-_-)
京急本線大森海岸駅から徒歩3分・JR京浜東北線大森駅から徒歩9分
鉄筋コンクリート造り 築29年
2DK 家賃10.8万円(一人5.4万円)
55
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:03:16 ID:BImXu.QU0
ハインは軽いよね、と言われる事がある。もっとストレートにお前はビッチだと罵られる事もある。
まぁ確かに私はよく彼氏が変わっている女だと見られているだろうしそれは事実なのだ。
最長でも一年、最短で一週間。飽きやすいし長続きしない。だけど一人は寂しい。
誰かと一緒にいたいのだ。別に二十四時間ずっと男と一緒に行動していたい訳じゃあない。
一人の時間も大切にしたいし私は拘束するのも拘束されるのも好きじゃない。
だけど夜に一人で寝る時に無性に寂しくなるのだ。人肌恋しいとかそういうのとはちょっと違う。
とにかく一人で夜を迎えるのがどうしてか寂しくてまるで自分が底なしの闇夜に溶け込んでしまう気がするのだ。
でもそういうのは男からすれば子供っぽいと感じるらしい。見た目のわりに子供なんだと。
私としては幼い子供のそれとは少し違うと思うのだけれどはっきりと言い切る材料はない。
飽きやすく長続きしないという性格は男性関係だけではなく私の人生全般にも言える事だ。
商業高校を出てふつーに就職したけど二年も続かなかった。それからはバイトを取っ替え引っ替えしてなんとか生きている。
バイトだってそれほど長くは続かない。仕事に飽きたり人間関係が面倒になるとおさらばだ〜ととっとと辞めてしまう。
せっかく就職した会社を辞める時はさすがに勇気が必要だったけどなんでもないバイトを辞めるのは簡単だ。
ハードルだって低い。こんがらがって面倒になってしまったバイト先の人間関係も綺麗さっぱりリセットだ。
なにせ私は鞄の中で誰の策略かこんがらがってしまったイヤホンを解かずに捨ててしまうほどの人間だ。
そうやって付き合った男もバイト先も面倒になればすぱすぱ切ってすっきりリセットしてきた。
きっとこれからもそうやって生きていくんだと思う。それが私の生き方だしもう今更変えられないだろう。
56
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:04:53 ID:BImXu.QU0
助かっている点とすれば親がもはや私に興味がないという事だ。もう私は息苦しい実家を就職時に出ている。
私には出来のいい妹がいる。成績も大して良くなかった私と比べるとその差は幼少時から顕著だったと言える。
勉強も出来るしお手伝いも進んで出来る、常にクラスの中心だったし友達も男女問わず多かった。それが妹だ。
学習塾にバレエ、英会話と習い事に行かせても全然やる気を見せなかった私に母は早々に見切りをつけ妹への投資に集中した。
なんでもない公立の商業高校に進んだ私と違って妹は地域トップの私立のバリバリ普通科進学校に進んだ。
特に目立たない地方の中小企業にたった数人の同期と共に就職した私とは違って妹は国内有数の国立大学へと進んだ。
母も父も妹を見ていたし私も家で必要とされていない事は分かっていた。それに自分で選び進んだ道も同然だ。
就職が決まって高校を卒業してから独立という名目で一人暮らしをすると告げた。母も父も特に止めず、むしろ喜んでいるようだった。
かくして私は家を出て一人暮らしを始めた。男もバイトもころころ変わるのと同じでその住まいもあまり長続きはしなかった。
色んな男と付き合ったし色んな街に住んだ気がする。男の部屋に転がり込んだ事もあったしその逆もあった。
今はフリーターのもやしと同棲している。フリーターのもやし。こう書くとちょっと面白いや。
そのもやしはマンガ家志望でいつもマンガを描いている。そして生きていくためにやはりバイトをする。
高校を卒業してマンガ家になるべく上京してきたのだという。根暗のくせに行動力だけは一人前だ。
私とそのもやしは同じバイト先で知り合った。第一印象はいかにも根暗なオタクでいいものではなかった。
だけどいつの間にか同棲するまでになるのだから不思議なものである。それにオタクと付き合うのも初めてだ。
バイト先で私達が付き合っていると知っている者はいないんじゃないかと思う。職場でいちゃこらするような二人でもない。
付き合い始めてからも特に職場で接し方が変わる訳でもないのだ。本当に今まで通りである。
57
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:08:11 ID:BImXu.QU0
しかしそう思うといま私は人生においてずいぶん珍しい時期にいるものだ。オタクっぽいもやしと同棲。
普段の私が見たらどーしたんだ気変わりすげーなと言ってくるに違いない。というか絶対言う。
付き合った男はいろいろだけどやっぱりヤンキーっぽいのが多い。私自身見た目はヤンキーだ。
目つき悪いし髪型もあんまり女の子らしくない。まぁ私みたいなのが女子女子してるのも似合わないけど。
夜にドンキに行っちゃう系のヤンキーと付き合う事が多かった。もちろんスウェット着用で。
たいてい中古ゼロ・クラウンとかBbとかワゴンRとかに乗っている。あれはある意味で制服に近い。
そんな私がオタクっぽいもやしと同棲してエッチまでしているのだ。私の歴史帳にデカデカと見出しが出るだろう。
もやしの名前はヒッキー。もう同棲を始めて一ヶ月半ぐらいになる。
私がヒッキーと初めて話したのはバイトの休憩中だった。休憩室には私とヒッキーの二人しかいなかった。
スーパーのレジ打ちは社員とパート、バイトの三種類に分けられる。私とヒッキーはバイトのカテゴリだった。
レジ打ちは殆ど女性だ。社員は若い女性新入社員ばかりでそのうちに仕事に向いていないだとか寿退社とかで辞めていく。
パートは出産して子育てもある程度まで行って余裕が出来たおばさんがメインだ。人間関係が一番ぎすぎすしているけどそれはまた別の話。
そしてバイトは学生が中心だ。なのでバイトが出てくるのも平日は夕方以降だしテスト期間はがっつり休む。朝から出てくるのは土休日ぐらいだ。
そう考えると平日の朝からでも出てくるフリーターのバイトはパートが休む時の代打として重宝されていた。
フリーターのバイトは私とヒッキーの二人だけだったのである。それでなんとなく同じだなぁという共通意識があった。
レジ打ちの仕事は別の先輩に教えてもらっていたし元々他の店でも経験があった。それにヒッキーは口数が少ない。
あまり人と喋っているのを見なかった。もちろんレジではきちんと話しているのだけれど、人付き合いとなれば急に口数は減っていた。
それにヒッキーは見るからにオタクって感じだった。身長は百六十もないし髪も全体的にもっさりしているキノコヘアーだ。
服も微妙にダサいしかけているメガネもオシャレ感のない細い黒フレームだけのいかにも実務的なものだ。
何が入っているのかいつもリュックサックでバイトに来る。それしか鞄がないんじゃないかと思うぐらいだった。
そんなでヒッキーにいい印象は特になかったのだけれど休憩室で一緒になってなんだか話してみたくなったのだ。
純粋な好奇心。私の好奇心は何歳になっても衰えないのだ。
58
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:11:05 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「ヒッキーさんって普段なにしてるんすか?」
携帯電話を見ていたヒッキーは驚いて顔をあげた。まさか話しかけられるとはって顔だ。
まぁ挨拶以外でこれまで話した事もないし私の見た目はヤンキーっぽいし喋り方も男っぽいし仕方ないだろう。
初対面の人に話しかけられるとビビられる事がちょくちょくある。こちらには威圧するつもりもないのに失礼だ失礼。
(;-_-)「え、えっと…」
从 ゚∀从「だってバイトでフリーターなの私とヒッキーさんだけじゃないっすか。 私は本当にただぶらぶらしてるフリーターなんすけど」
(;-_-)「あー、えっと、ぼくはちょっと訳ありで」
从 ゚∀从「訳あり?」
(-_-)「あの、マンガ家目指してるんですよ、ぼく」
从 ゚∀从「マンガ家!?」
失礼ながらちょっと吹き出してしまいそうだった。見た目通りまんまじゃねーか!
これでめちゃくちゃ萌え萌えなマンガ描いてたらもうまさしく見た目と中身完全一致男である。
(-_-)「そ、そんなに驚く事かな…」
从 ゚∀从「いやー身近にそういう人いなかったもんで。 それでフリーター?」
(-_-)「うん、マンガ家になりたくて高校を出て上京してそういう大学に入って、それで今はマンガを描きながらフリーター」
从 ゚∀从「じゃあ描いて出版社とかに持ち込んでるって事?」
(-_-)「そう、まだ全然ダメだけど」
从 ゚∀从「へぇ〜、すげーや。 やっぱり昔から?」
59
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:13:57 ID:BImXu.QU0
(-_-)「物心ついた頃から描いてたよ」
从 ゚∀从「どんなの描いてるんですか?」
(-_-)「い、色々だよ」
从 ゚∀从「じゃあ好きなマンガは?」
(-_-)「それも色々あるけど…」
从 ゚∀从「じゃあ一番」
(-_-)「一番…そうだな、キングダムっていう作品だね」
从 ゚∀从「あー前にアメトークでやってたやつ! あれ読んでみたかったんすよね」
(-_-)「あれは本当に面白いよ。 読みだすと止まらなくなる。 熱い展開と躍動感ある絵がいいんだ」
从 ゚∀从「えー面白そう。 ヒッキーさんのマンガ見てみたいなー。 一人暮らしっすか?」
(-_-)「うん、蒲田の方で」
从 ゚∀从「今度行っていいっすか?」
(;-_-)「え、あぁ、うん、いいけど」
それから数日後に本当にヒッキーの部屋に行った。そして描いているマンガを見せてもらった。
むちゃくちゃうまかった。ジャンプで連載できるじゃねーかと思ったけど、それでも受賞歴はないのだという。
いつも家でだらだらなんとなーくジャンプを読んでいたけどすごく競争の激しい世界なのだろう。富樫死すべし。
そしてヒッキーの絵柄は少し古くさいものだった。萌え萌えだと思っていたら正反対。むしろ硬派な路線をいっている。
目盛り付きマンガ原稿用紙やスクリーントーン、それを削る専用のカッターも見せてもらった。Gペンは指に刺さるとかなり痛いらしい。
それからヒッキーの家にあったキングダム一巻を読んだ。むちゃくちゃ面白かった。掴みバッチリ。すぐに一巻を読み終わってしまった。
一息ついて部屋をぐるりと見渡す。普通の1Kのアパートで、全体的に物が少ない。鞄は本当にリュックサックしかなかった。
マンガはキングダムをはじめ数作品のみで、ヒッキー曰く大量に所有しているがスペースが限られるので実家に置いてきたそうだ。
あまりのレパートリーに友達がよくマンガ喫茶代わりにやって来たと語った。キングダムは選抜された少数精鋭なのだ。
部屋は来客が来るからと焦って急に片付けた様子もなく普段からそれほど持ち物がないんだろうなと感じた。
キッチンに調味料は少なく冷蔵庫にもあまり買い置きがない。缶ビールの一つもなく二リットルのお茶が冷えていた。
袋ラーメンが幾つか置かれ四十五リットルのビニール袋には弁当の空箱が捨てられているのであまり自炊はしない方だ。
そういえばヒッキーはいつも値引き後の弁当や惣菜を買っていたなぁと思い出す。
60
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:17:03 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「なんで蒲田なんすか?」
(-_-)「その、大学が蒲田で」
从 ゚∀从「それでバイト先が大森」
(-_-)「京浜東北線で一駅だし、あそこ駅から近いし」
从 ゚∀从「なんで蒲田でバイトしなかったんすか」
(;-_-)「え、ほら、だって大学通ってた頃は知ってる顔がたくさんいた訳だし…」
そんな感じでヒッキーは人と接するのを避けていた。しかし話しかければちゃんと返してくる。
深刻なコミュ症ではなさそうだった。それに本物のコミュ症じゃレジ打ちなんか出来ないし。
その時点で私は一緒に住んでもいいかなと考え始めていた。私の住んでるアパートはバイト先からまぁまぁ近い。
一ヶ月ほど前に男と別れて2DKの部屋をまさしく持て余していた。このまま普通の部屋に引っ越してしまおうかとも思っていた。
男が出て行った一部屋は全く使っていないし一人で家賃十万八千円を払うのはちときつい。ちとじゃなくて結構きつい。
もしそこにヒッキーが住めばな。バイト先からも近くなるし。まさにウィン・ウィンってやつ。
少ししてから私とヒッキーはどちらかが告白した訳でもなく成り行きみたいに自然と付き合うようになった。
ヒッキーはやっぱり童貞だった。童貞は初めてじゃなかったけどヒッキーのファーストタッチは一番かわいかった。
腕は細いし身体はガリガリなのにチンチンだけ立派に勃起してて面白かった。
そして私の部屋に引っ越して来ないかと持ちかけるとさんざん迷った挙句にヒッキーは了承した。
ヒッキーの荷物は少なく単身パックで済んだので費用はそれほど掛からなかった。
そうして私とヒッキーの同棲生活が始まったのだ。交わした約束はマンガの邪魔をしないという事だ。
ヒッキーは私の二つ年上だった。バイトでは超先輩なんだけどももういいっしょ〜という事でタメ口になった。
バイト先で最近ヒッキー君とよく喋るねぇとパートのお局的なおばさんに言われたが喋ればいい奴なんすよと返しておいた。
まさか付き合っていて同棲までしているとは思うまい。その手の話はパートのおばさん連中が好きなので黙っておく。
そんなおもしろ話題を提供したからって私もヒッキーも何の得もしない事はアホでも分かる。黙っておくのが最善。
61
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:19:52 ID:BImXu.QU0
ヒッキーはマンガを描いては持ち込んだり賞に応募したりしていた。そして生きていくためにバイトを続けていた。
これほどうまいのに厳しいものだ。そして私はヒッキーが持ち込んだキングダムをたちまち読破してしまった。
王騎がヤバかった。王騎超ヤバい。死に様もヤバい。私も天下の大将軍ですよとか言いながら散りたい。
これまでジャンプばかり読んでいた私にとって衝撃的だった。ワンピースもブリーチも面白いけどキングダムは格別。
今では毎週ヤング・ジャンプもコンビニで立ち読みするぐらいだ。ただしキングダム以外はそれほど面白くない。じょうじ。
まずヒッキーはキャンパス・ノートに大体の構想を書く。そして試行錯誤しながらネームを描く。
シャーペンでは消せてしまうので気合を入れてボールペンでネームを描くのだ。
そしてマンガ原稿用紙に下書きをして丁寧にペン入れをする。下書きを消してベタ入れをしてスクリーントーンを貼る。
今ではパソコンでマンガを描けるしトーンの処理もマウスでぱぱっと出来るらしいがヒッキーは完全に手描きだ。
手描きの方がマンガに魂が伝わるのだという。見た目完全に文化系もやしのくせにマンガになるとヒッキーは体育会系だ。
ペン入れをしてからのベタ入れ、トーン貼りは繊細な作業だ。見ているだけでうわあああと頭を掻き毟りたくなる。
マンガ原稿用紙の上に静かにトーンを貼りカッターの刃の先でそっと切り抜いていく。するといつもマンガで見ているような絵になる。
しかしヒッキーはトーンにあまり頼らない。丁寧なカケアミをしゃっしゃっと引いていく。髪の毛もベタ塗りが多い。ツヤの部分は大変だ。
ただ素人目から見てヒッキーのマンガにケチをつけるのならば、ヒロインがあんまりかわいくないという事だ。清涼剤がないのだ。
ヒロインで思い出したのが、ヒッキーは童貞どころか女子と付き合ったも手を繋いだ事もなかった。
小学校中学校高校大学で何をしていたんだと訊くとマンガを描いていたと。ごもっとも。
正直見た目からオタクだしな〜そうだろうな〜と思ってたのでそんなに驚かなかったし世の中にはそういう人もいるんだな〜って感じ。
中学も高校もクラスにはヒッキーみたいな男子が数人いたし大体固まって教室の隅の方でアニメとかの話をしていた。
クラスでは浮いていたけど本人たちは楽しそうだった。高校を出てからオタクと接する事なんてなかったからヒッキーは新鮮。
62
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:22:53 ID:BImXu.QU0
ヒッキーにとって手を繋ぐのも身体を触るのもエッチをするのも私が初めてなんだ。この先の人生全部私基準だ。
そう思うとちょっと私で良かったのかなって思ったりもするけど胸を揉んでる時のヒッキーは幸せそうだからいいんだろう。
胸。私は自分で言うのもなんだけど胸が本当に大きい。明らかに目立つレベルで大きい。
ふつーに歩いてるだけでン万でどうとか声をかけられたりするし新宿とかでAV出てみないって嘘かほんとかスカウトされたりする。
胸が大きいだけでそういうのあり得る女って思われてるのはムカつく。見た目もあるんだろうけど。
それにン万でどうってなんでおめーが上目線で私の値段決めてんだって話。何様だっての。
そういう奴に限って週刊現代読んでそうな薄ハゲの四十代のオヤジだったりするからゲンナリする。
おめーは私で勃つかもしれないけど私はおめーじゃ盛り上がれないしン万もらっても足らない足らない。シコるか風俗行ってろ。
私の胸は小四はじめの頃までぺったんこだった。小四の夏から膨らみ始めて小六の終わりにはもう今の大きさになっていた。
毎年母が買ってきたブラジャーが入らなくなった。毎年毎年新しいサイズを買っていてどこまでいくのかちょっと怖くなった。
小学校卒業時点でFカップ。そんなもん今考えればとんでもねー事だ。私は自分の胸が本当にイヤだった。
男子はどいつもチラ見してくるし先生だってこっそり見ていた。私と話すとみんな視線が下に向くのでよく分かる。
持久走は本当に地獄だった。あれほど胸が邪魔なものはなかった。そもそも走るという行為が苦行なのだ。
男子は追い抜きざまにやっぱり見ていったし体育の先生も気づかれないように見ていた。気づいていたけど。
水泳でも当然胸の大きさは出るし、何より当時女子なんて殆ど体形が一緒だから私は余計に目立った。
ただおかげで高校では胸が大きいというだけでアホみたいにモテた。男子は本当にどいつもアホだ。
そのぶん女子の僻みがすごかったがそもそもあまり女子と仲良くグループ作りに参加するつもりもなかったしちょうど良かった。
彼氏がよく変わるというのは当時からだ。きっとあの頃からビッチだの言われていたのだろう。しかしそんな他人の評価で私という人間は変えられない。
結局のところ他人の評価は他人の評価でしかないのだ。私の体内には入ってこられないし私を変える事も出来ない。そんなものだ。
63
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:26:06 ID:BImXu.QU0
いくら胸が大きくても私はあまり目立ちたい訳じゃあなかった。確かに胸が大きければ男は本当に簡単に釣れる。
狙っている男に腕を組んで胸を当てると面白いぐらいに落ちる。おっぱいってすげーやと何度も感謝している。
でも私は普段から目立っていたいタイプではない。めっちゃ胸を露出した服を着て渋谷のスクランブル交差点とかあんまり歩きたくない。
多分注目を浴びる事を好んで快感を得ている人はそういうの気にならないんだろうけど私は知らない人にじろじろ見られるのがあまり好きではないのだ。
ヤンキーっぽい見た目のおかげで何見てんだこのおっさんと睨み返すとそそくさとどこかへ行ってしまう。おっさんの舐め回すような視線は不愉快だ。
週刊現代とか夕刊フジとか読んでそうないかにも頭は悪いけど性欲は有り余っています的な脂ぎったデブのおっさんが街にも列車にも多いのだ。
普通に社会に溶け込んでサラリーマンをやっておけばいいのに性欲だけは男子高校生なみなので本当にひく。
中学も高校もすごく楽しかったけど制服を着なきゃいけないという点では早く卒業してしまいたかった。私服なら胸が大きくても大人なんだと見られる。
けど制服でそれを押し上げるぐらいの胸だとみんな勝手にいかがわしい事を考えるのだ。いい迷惑だ。
ヒッキーのヒロインかわいくない問題に戻ると、私はヒッキーがこれまで生身の女性と接してこなかったからかわいく描けないんじゃないかと思ったのだ。
ワンピースみたいにとりあえずみんな女キャラのおっぱい大きくしときなよとまでは言わないけれど、もっとかわいく描けないものかねと。
ケチをつけようと思えばいくつも思い当たるところがある。例えば手ぶらでデートに来たりするところとかそりゃねーよ童貞って思う。
服だってとにかくダサい。まぁ本人がダサいしヒロインもダサい。私服シーンが少なく高校とかの制服でいっつも誤魔化しているのが見え見えだ。
基本のデッサンは出来ているのだ。高校ではマンガ部がなく美術部に入っていたというのでデッサン画的なのを描いてもらった。
美術室とかに置いてある彫刻像を描くみたいなやつ。いつも下描きはシャーペンなのに鉛筆を出してきてくれた。
パソコンで適当に調べて鉛筆でシャッシャッと描いてくれたんだけどこれもめちゃくちゃうまかった。
一本の鉛筆でアタリをつけて線を引いて濃紺に塗りつぶして教科書に載ってそうな絵が完成した。
けどヒッキー曰くこんなものは誰でも描けるのだという。背景なんかもみーんな当たり前みたいに上手に描けるのだと。
確かにヒッキーは背景も上手だ。山も家もビルも街も上手だ。パース?か何かもきちんとしている。
それに描いている時に迷いがない。私も見よう見真似でキャラクターを描いてみたがペン入れが緊張した。
シャーペンでの下描きはまぁまぁ満足出来るレベルだったけどペン入れは修正がきかない。
顔のラインは慎重になりすぎて随分と分厚く迷ったものになってしまった。
それに比べてヒッキーのペン入れは迷いがない。さっと描き上げてしまう。
やっぱりすごいんだな〜と感服するばかりだ。
64
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:29:47 ID:BImXu.QU0
まぁこれまで女性との触れ合いが一切なかったというヒッキーが私と一緒に暮らす事で女性を知る事が出来れば、と思う。
女性との触れ合いがなかったヒッキーの描くヒロインはリアルじゃないのだ。マンガやアニメとかで仕入れた知識でしかないのだ。
これまで恋愛の一つもやってこなかったからそういう話も書けないのだ。マンガ漬けの人生がそういうところで裏目に出てしまう。
ただ胸を揉むにしても私の生活スタイルを見るにしてもそれで何か掴めたらと思う。私自身別に女子女子してはいないけど。
まぁそれでもヤンキーっぽい私でもいっちょ前に化粧するしブランド物の鞄で出掛けたりする。当然生理も来る。しんどい日はしんどい。
男が出て行って部屋が空いてたからって理由で同棲に誘ったのだけれど、やっぱりヒッキーにとってもこの同棲をプラスにしてほしいのだ。
本当に同棲して良かった?と少しお酒を飲み過ぎて帰った日に訊いた事がある。
(-_-)「プラスだよ。 何もかもが新鮮だよ」
私には同性の友達が少ない。サバサバしている方だし、集団行動は苦手だし、言いたい事は言ってしまう性格のせいだ。
しかもバイト先も嫌になってしまえばはいさよなら!と辞めてしまうし男と別れればとっとと別の街へ住まいを変えてしまう。
それでもそんな私とでも付き合ってくれる限られた友達はいる。私にはその理解者たちがいてくれれば十分だった。
私の地元は栃木の鹿沼の方にある。最寄りの東武の駅には駅員がいなくてすぐ目の前の民家で切符を売っているぐらいだ。
そりゃあ当然東京に出てくるのは必然というものである。地元の小さい会社を辞めて私は東武線の区間快速で上京してきた。
一人でアパートを借りる余裕なんて最初はなくシェアハウスに住む事になった。そこで出会ったのがペニサスだ。通称ペニ。
ペニも田舎すぎる地元が嫌ってのもあって東京に出てきていた。なんだか気が合うし変に気遣いする必要もなく私達は仲良くなった。
彼氏が出来てシェアハウスは出てしまったけどペニとはちょくちょく連絡を取り合った。そして予定が合えばたまにご飯に行った。
今日も久しぶりにペニとご飯だ。新宿駅で待ち合わせ。京浜東北線と山手線で新宿まで出る。新宿はやっぱり都会だ。
人の多さビルの多さに圧迫される。山手線を降りて改札口へ進む通路にぶら下がる大量のサインシステムは過剰なぐらいだ。
路線がいくつもあって行き先が何個も表示されている。新幹線はないけれどどこか遠くに向かう特急も表示されている。
ここからならどこへでも行けるんじゃないかと錯覚するほどだ。改札口へ出ると待ち合わせの人でまたごった返している。
どこからこれだけ人が来てどこへ行くのだろう。しかし私もその有象無象の一人なのだ。日曜日の昼に新宿駅東口。
65
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:36:29 ID:BImXu.QU0
まだ東口は分かりやすい方だ。西口はヤバい。うっかり間違えて山手線から北通路ではなく中央通路に降りると厄介だ。
京王線と小田急線に出てしまう出口じゃない改札とかがあってなんじゃこりゃって感じだし中央西口とか出てしまうともうヤバい。
未だにサザンテラスの方に行く時は気持ちちょーっと緊張するぐらいだ。新宿駅は魔城だと思った方がいい。まだなんか作ってるし。
東口でなんとかペニと合流する。ペニは美容師をやっている。まだ経験は浅いけれど着実に夢へ進んでいるのだ。
美容師はとにかく難しく技術が必要だし、競争が激しいらしい。専門学校で本当に定員が埋まるのは美容学校ぐらいだという。
('、`*川「ハイン何ヶ月ぶりー?」
从 ゚∀从「たぶんさーん」
('、`*川「彼氏変わったー?」
从 ゚∀从「変わってまーす」
('、`*川「だよね〜〜〜」
ペニと会った時に彼氏報告をするのが恒例だ。そのぐらい毎回男が変わっている。
この前の男とはどう別れたか、今はどんな男と付き合っているか、どこに住んでいるか。
毎回それでペニは爆笑する。あんたは生きる標本だとホメてくれる。ホメられてんのか?
('、`*川「えーじゃああいつのいた部屋にそのヒッキーってやつ住み始めたんだ、わるー」
从 ゚∀从「利害の一致だよ。 ウィン・ウィンってやつ」
('、`*川「言いたいだけじゃんそれ」
从 ゚∀从「それ〜」
('、`*川「で、ヒッキーってどんなやつ? イケメン?」
从 ゚∀从「いや、ふつー。 ふつーってか、ふつー」
('、`*川「なにそれ。 何やってる人?」
从 ゚∀从「フリーター。 マンガ家目指してるの」
('、`*川「えーオタク?」
从 ゚∀从「うん、バイトにいっつも黒のリュック」
('、`*川「えー意外、ハインがそーいう人と付き合うのって超意外」
66
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:38:46 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「そりゃあ自分でもそう思うよ、オタクなんて初めてだし。 おかげでたまに一緒に萌えアニメ見たりする」
('、`*川「えぇ〜マジですごいね。 やっぱアニメ見て萌え〜とかいうの?」
从 ゚∀从「それがもう萌え〜って古いんだって。 今のオタクは全然萌え〜なんて言わないんだよ、それはステレオタイプのオタクなんだよって」
('、`*川「超必死じゃんソイツ。 じゃあなんて言うの?」
从 ゚∀从「なんだっけ、あぁー心がぴょんぴょんするんじゃーみたいなの」
('、`*川「キモ〜」
从 ゚∀从「服もユニクロ! グローバルワーク! 的なの」
('、`*川「え、チェックのシャツインとかするの?」
从 ゚∀从「いや、チェックシャツはオタクの制服だから着ない! って言ってた」
('、`*川「そこは意識高い系のオタクかい! マジでウケるね」
从 ゚∀从「でも楽しいよ、新しい世界って感じ」
('、`*川「そりゃあそうでしょうねー、向こうもそうなんじゃないかな」
从 ゚∀从「うん、童貞だったし手も握った事なかったって」
('、`*川「マジ? いくつ?」
从 ゚∀从「今年二十五」
('、`*川「へぇぇ〜スゴいね、逆にスゴい」
从 ゚∀从「でしょ〜」
67
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:41:38 ID:BImXu.QU0
('、`*川「でも本当によくハインと付き合ったねー。 全然アニメに出てこなさそーだし好みじゃなさそう」
从 ゚∀从「うん、私もそれ思う」
ヒッキーが好んでいるキャラクターはみんな物静かで大人しい女の子だ。
従順で清楚で性格も良く家事も出来る。異性と付き合った事もない。エッチなハプニングがあれば恥じらう。
私と同じところは胸が大きいところだけだ。それ以外に共通点を見つける事は出来なかった。
从 ゚∀从「でも有村架純が好きですーガッキーが好きですーって男もふつーにギャルと付き合ってたりするじゃん」
('、`*川「分かるー。 私もずっと福山雅治好きだったけど最近トレンディエンジェルの斎藤さん好きだもん」
从 ゚∀从「えー、ハゲ」
('、`*川「最近ハゲの良さが分かってきてねー1Q84って知ってる?」
从 ゚∀从「なにそれ」
('、`*川「まぁそれに出てる人もハゲ好きなんだけど分かるな〜って。 ハゲかけのハゲね」
从 ゚∀从「えー、ブルース・ウィルス?」
('、`*川「昔良かったよねー、最近のダイ・ハード見たらもうスキン・ヘッドじゃん!って」
从 ゚∀从「ペニもなんかすごいね」
('、`*川「ハインほどじゃないよ、本当にハインは飽きないんだから」
从 -∀从「自覚ありまーす」
('、`*川「本当にハインは飽きやすいしどこかに落ち着かないよね。 まぁそれが私は好きなんだけど」
68
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:44:23 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「ペニは良い理解者だよ」
('、`*川「東京とかかなりの街制覇してるんじゃない? 今どこ住んでるんだっけ」
从 ゚∀从「大森」
('、`*川「びみょ〜知らね〜行かね〜」
从 ゚∀从「第一京浜うるさいよー」
('、`*川「あの荻窪のシェアハウスからもう三年っしょ、怒涛の人生だよね」
从 ゚∀从「いつか落ち着くかな」
('、`*川「んまーいつかは落ち着くんじゃない? 案外今のオタク彼氏だったりして」
从 ゚∀从「んーどうだろうね」
('、`*川「先の事なんて分かんないよー、特にハインはね!」
きちんと自分の目標を持って邁進しているペニとは違って私には何のビジョンもない。
ただこうしよう、あぁすればいいやとボンヤリ考えてこれまで生きてきたのだ。
だから本当に、私は自分の未来なんて考えられない。想像も出来ない。
('、`*川「もし続いたらいつかオタク彼氏見せてよー、見てみたい」
从 ゚∀从「いいけどほんと電車男みたいな感じだよ」
('、`*川「電車男なっつー!」
ペニはふつーに美人だ。つーか美容師ってみんな美人。スタバ店員並にみんな美人。
もう二年ほど付き合っている彼氏がいる。彼氏も美容師。いつか結婚するんじゃないだろうか。
でもそう言うとそんなのまだまだ考えてないよ〜とペニはいつも笑い飛ばす。
ようやく美容師として歩み始めたばかりだしそういういうのはまだ先でいいんだと。
確かに結婚はある意味ではスタートだけどある意味ではゴールだ。捉え方は人それぞれだろう。
専門学校を頑張って出て長い下積みを経てようやく一人前の美容師として軌道に乗り始めたところなのだ。
別に今の時代に結婚したら仕事を辞めて専業主婦になりますっていうのはもはや古い流れだ。
だけど相手方の親がそれを求めるかもしれない。せっかく苦労して美容師になったのにそれではもったいない。
69
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:47:40 ID:BImXu.QU0
例えば高校しか出ていない私からすると女子が大学まで出て卒業してすぐに結婚ってなんかもったいないなーと思ってしまうのだ。
せっかく親がお金を出して大学まで行かせてくれたのにそのまま結婚じゃ活かされていないんじゃないかと考えてしまう。
というかお前はいい感じの男に出会うために親にお金出してもらって大学というステージというか舞台にまで行ったのかと。
もっともそれは大学まで行く女子は頭いいんだろうなーという漠然なイメージだし事実自分が学生時代つくづく頭が悪かったせいもある。
それに私の親は優秀な妹に投資を集中していたので私がもし大学に行きたいといってもおそらく取り合ってもらえなかったはずだ。
そう考えると私はどーしようもない嫉妬に近いものを抱いているのかもしれない。本当にどーしようもないししょーもないと思う。
それにしても短大に行った同級生も大学に行った同級生も髪を染めておしゃれな服を着て女子女子しているのが本当に多かった。
みーんな揃って大学デビューだ。街中で会ってもあれ誰だっけってなる。成人式で男子たちはずいぶんと苦労するだろう。
('、`*川「ハインの彼氏最長記録ってどんだけだっけ」
从 ゚∀从「一年」
('、`*川「一年か〜、今どのぐらい?」
从 ゚∀从「二ヶ月ぐらい」
('、`*川「二ヶ月か〜どうだろうね〜」
从 -∀从「わかなんないよ〜」
本当に分からない。私は未来の事なんて分からないし自分の事すら分からない。
このままヒッキーと続くのか、またいつもみたいに飽きてしまうのかなんて分からない。
この人とは続くかも、と思ってもそれは全くアテにならない。ふとした拍子にあ、いいやってなってしまう。
それは男もバイトも一緒なのだ。そうやって男もバイトも住まいもころころ変えてこの数年を過ごしてきた。
色んな男と付き合って色んなバイトをして色んな街で暮らした。それでも飽きはいつかやって来るのだ。
どの男にもどのバイトにもどの住まいにも必ず終わりがやって来て私は次へと旅立っていく。
色んな男のもとへ行ってそのたびに私は旅立っていった。いや、逆なのかもしれない。
色んな男が私のもとへやって来て私から旅立っていったのかもしれない。
ヒッキーはどうなのだろう。初めての女が私なのだ。
また私は飽きてしまうのかもしれないけれど、ヒッキーが必要としているのなら私は隣にいたい気がする。
(-_-)「ハインはさ、どうしてぼくの事を気に入ったの?」
ペニと食事に行った数日後、ヒッキーは突然切り出した。
ヒッキーはペン入れをしていて、一ページ描き上げたところだった。
インクを乾かすためペン入れが終わったマンガ原稿用紙をアルミラックの上にそっと置いた。
ペン軸からGペンを外してティッシュでインクを拭き取る。ヒッキーは主にGペンと丸ペンを使う。
70
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:50:45 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「なんだよ急に」
私はヒッキーがその前にペン入れを終えた原稿用紙のベタ塗りを手伝っていた。
ぐしゃっとなってしまわないように一方通行に消しゴムをかけて、筆ペンでベタを塗る。
それでも髪の毛との境界線付近は怖いのでそこはヒッキーに任せている。
私が受け持っているのは線付近を除くおおまかなベタ塗りだ。
興味が出てきて私も邪魔にならないぶんだけ手伝うようになった。
(-_-)「ふと気になってさ。 ぼくとハインって真逆だもの」
从 ゚∀从「オタクとヤンキーだからな。 対極的な取り合わせだ」
(-_-)「そうでしょう」
从 ゚∀从「なに、どうして自分の事をこいつは好きになったんだって気になるのか?」
(-_-)「まぁ…」
从 -∀从「はじめみんな通る道だよなぁ」
ヒッキーは初めての恋愛なのだ。経験値はそこらの高校生以下だ。
从 ゚∀从「私はさ、夢を追いかけてる人が好きなんだ」
(-_-)「夢」
从 ゚∀从「そう、夢」
私が一貫して惹かれるのは夢を持っている男だ。それはヤンキーでもインテリでも学生でもおっさんでも分け隔てない。
将来ビックになるとか社長になりたいんだとかそういう漠然としたイメージではなく明確なビジョンを持った男だ。
そういう男に惹かれて私は色んな男を渡り歩いてきた。きっと私にこれまで目立った夢の一つもなかったからだろう。
私には子供の頃からの夢だとかずっと続けている趣味だとかがない。見た目で誤魔化しているけど中身はきっと空っぽに近い。
自分にないものを他人に、男に求めているのもしれない。だから夢を、明確なビジョンを持ってそれに突き進む男を好きになってしまうのだ。
ヒッキーだってそうだ。見た目はまんまオタクだし惹かれなかった。あんまり喋らないし印象だってたいして良くなかった。
でもマンガ家を目指していると言われて初めて応募用の原稿を見た時に私はときめいたのだ。惹かれたのだ。
71
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:54:26 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「もしかして不安? 私みたいなのがヒッキーと付き合っているの」
(-_-)「まぁ、なくはないよね」
私の男もバイトも続かないのはヒッキーに話してある。正直に言っておこうと思ったのだ。
それでヒッキーが不安に感じる事があれば仕方ない。それは私が悪いだろう。
(-_-)「ぼく見た目こんなだし、普段あんまり喋らないし、マンガだけでここまで生きてきたし、女の人と付き合う事もないんだろうなって思ってたんだ」
从 ゚∀从「うん」
(-_-)「だからハインがぼくなんか気に入ってくれて嬉しかったな」
从 ゚∀从「なんだよ急に」
逆に私はヒッキーこそ私で良かったのか、と気になる時もある。これまでヒッキーは女性と巡りあう事もなかったしずっと疎遠だった。
たまたまそんなヒッキーに話しかけたのが私だったし、もはや言い方を変えれば私しかいなかった。
バイト先でもヒッキーと積極的に話している女性はいない。業務的に伝達事項を言うぐらいだ。
ヒッキーには選択肢が私しかなかった。これまで女性の選択肢が一切なかったヒッキーに初めて現れた選択肢が私だった。
まさしく受け入れるようにヒッキーはその選択肢を受け入れたんじゃないだろうか。選択肢が現れたのならば、じゃあという感じで。
初めて手を繋いで初めてキスをして初めてエッチをした。私以外でそれらを得る事はなく比較対象も存在しない。
女性ならば誰でも良かったんじゃないかと思ってしまうのだ。私である必要はなかったんじゃないかと。たまたま私だったんじゃないかと。
でもそんな事を考えだしたらキリがないし、どうして自分を好きになったのか男に訊く女なんてただの重い女だ。
それでも私はヒッキーに何かを与えられているのだろうか。手を繋ぐ、キスをする、エッチをする、それ以外に。
でも結局のところヒッキーには全てが初めてなのだし、比べる対象もないのだし、この関係を断ち切りたいと言い出さないように思える。
与えられたものを何一つ拒まず受け入れて、これでいいよ、そのままでいいよとこの関係は続いていく。
たとえば私がヒッキーのマンガ制作を邪魔しまくったりしない限りは。
(-_-)「でも逆にさ、ぼくからマンガを取ったらハインはもう見向きもしてくれなさそうだよね」
从 ゚∀从「え?」
72
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 08:58:33 ID:BImXu.QU0
(-_-)「言わなきゃいけない事があってさ」
从 ゚∀从「なんだよ」
(-_-)「今描いてるこれをラスト・チャンスにしようと思うんだ」
从 ゚∀从「なんだよ、それ」
(-_-)「実家から電話が来たんだ。 いい加減帰って来いって」
从 ゚∀从「なんでだよ、そんなの関係ねーだろ」
(-_-)「いいや、ダメなんだ。 うちの実家さ、地元じゃちょっと有名な工芸職人の家なんだ。 そしてぼくはそこの一人息子」
从 ゚∀从「それじゃ、いわゆる跡取り」
(-_-)「そう。 親はぼくが継いでくれる事を昔からずっと望んでいたんだけどぼくはどうしてもマンガ家になりたかった。 粘り強く説得して大学まで行かせてもらった」
なんとなくヒッキーが言いたい事が分かった。ヒッキーの親が言いたい事も分かった。それは世界の全てだ。
从 ゚∀从「結果」
(-_-)「そう、結果が出ていない。 大学を出してもらってフリーターになってずっと描いているのに、結果が出ていない」
从 ゚∀从「でも、まだ三年ぐらいだろ?」
(-_-)「もう三年なんだよ。 親が辛抱切らすにはじゅうぶんだ。 結果が出ないのならこれ以上いても無駄だから帰って来い、そして継げと」
从 ゚∀从「屈するのかよ」
73
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:01:24 ID:BImXu.QU0
(-_-)「ずっとまだチャンスはあるって言い続けてきたんだ。 でももう言い逃れは難しい。 確かに結果がないとダメだと自分でも思う」
从 ゚∀从「だからこれをラスト・チャンスにするのか?」
(-_-)「それぐらい自分を追い込まなきゃダメなんだ。 魂を込めなきゃダメだ。 背水の陣ってやつだよ」
从 ゚∀从「もう決心してる」
(-_-)「うん。 親にも言った。 これで最後にするって。 その代わり結果が出たら続けさせてくれって」
从 ゚∀从「…分かった」
それは私がどうこう言うべきではない気がした。今は同棲しているけどこれまでのヒッキーのマンガ人生において私は最近出てきたばかりに過ぎない。
でも、ヒッキーがもしマンガ家の夢を諦めてしまったら私はいよいよ失望するのだろう。飽きてしまうのだろう。
それにヒッキーは地元に帰ってしまうのでこの関係は破綻する。同棲なんて男女の関係を繋ぎ止めるにあたって絶対的な鎖にはならない。
私は受け入れるしかない。そして応援するしかない。微力ながら丁寧にベタ塗りをするぐらいしか出来る事はない。
暫く会話はなかった。ヒッキーは作業に戻った。ヒッキーは一ページごとに下描きをしてペン入れをするのでまた下描きからだ。
トーン貼りや細部のベタ塗りは全ページのペン入れが終わってから一気にやるのがヒッキーのやり方だ。
私はベタ塗りを終えて原稿用紙を戻した。今週のヤング・ジャンプを読み始めたがキングダムは休みだった。
テラフォーマーズもゴールデンカムイも東京喰種もパープル式部も私にとってキングダムの代わりにはならない。
ワンピースがない週のジャンプほどに喪失感に襲われる。
74
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:04:57 ID:BImXu.QU0
ヒッキーの部屋を見渡す。前の男が住んでいた時と比べると本当に別の部屋だ。
三代目 J Soul Brothersのポスターは貼られていないしプロテインを飲む容器も置かれていない。
パイロットの製図用インクのボトル、ペン軸、箱に並べられたつけペン。何本かキャップがなくなっているカラフルなコピック。
芯の折れにくいシャーペン、大きいサイズのMONO消しゴム、使用後にティッシュで拭かないと先端が固まる修正液。
細かいベタ塗りに役立つ太いサイズのマッキー。十五センチと三十センチの定規。
キングダムを筆頭にしたヒッキー激選のマンガ本。安い台湾製のノート・パソコン。
リネンシャツばかりの数の少ない服。相変わらずバイト先に背負っていくリュックサック。
デートにリュックサックはやめてくれと懇願してヒッキーがしぶしぶ買ったポーターのウエストバッグ。
私はこの部屋も好きだ。マンガを描く事だけに研ぎ澄まされた部屋だ。
ラスト・チャンスと決めた作品を賞に応募するべく送ったあともヒッキーはまた新たにマンガを描き始めた。
どうしてかと訊くとマンガを描いていないと落ち着かないのだそうだ。積み重ねってすごい。私には分からない感覚だ。
だけど今日はヒッキーのシフトが休みで。追い込む必要はないんだからどこか気晴らしに行けばいいんだとアドバイスした。
私は残念ながら朝からシフトなのだ。パートのおばちゃんが法事だという。だから今日ヒッキーは一人の休日を過ごしている。
勿論休みは一緒がいいのだろうけど、私とヒッキーが付き合っている事は知られると面倒になるので黙っている。
なのでむやみに休みを合わせられないのだ。たとえ異質な組み合わせでも休みを合わせまくっていたらそのうちバレる。
だからたまーに休みを合わせてデートに行くぐらいだ。まぁ同棲しているのだしその程度でいいと思う。過保護な高校生でもない。
それにヒッキーは見た目通りインドアな奴なのだ。休みの日にあまり外に出ない。そもそもシフトが休みの日はいつもマンガを描いている。
だから今日みたいにマンガに追われず一日の休みがあったら何をするのだろうか。ちょっとそれにはご一緒させてもらいたかったかもしれない。
バイト先の隣にはTSUTAYAがあるから何か見たかった作品を一気に見ているのかもしれない。それだったら一人の方が気楽なのかも。
75
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:12:45 ID:BImXu.QU0
私の方といえばコンディションが最悪だった。生理。くっそだるいしレジで立っているのすらしんどい。正直しんどい。
ようやく昼食休憩となりレジにカゴをタテに置いてもう閉鎖だ〜〜〜とアピールしつつ休憩所へへばるようにやって来た。
食欲あんまりない。今日はヨーグルトだけ。私は女子女子しているタイプじゃないので小食でもない。普段は普通に食べる。
だけど今日ばかりはダメだ。ヨーグルトだけ食べてあとはパイプ椅子にだらりと座る。休憩終わんなきゃいいのに。
こういう時に限って嫌いな社員と休憩が被っている。休憩室に二人だけ。黙ってテレビ見てればいいのに話しかけてくる。
私はあんまり興味ないです調子悪いですアピールをしてスマホばかり見て曖昧に返事をするが社員は懲りないのだ。
三十八歳の独身正社員。顔はイケメンでパートさんにもまぁまぁ人気があるが私は嫌いだ。自信にみなぎっているからである。
私からすればただのスーパーの正社員だろって感じだけどこいつはそれをすごいステータスだとマジで思っちゃっている。
俺ってイトーヨーカドーの正社員なんだぜって前にマジで言っててひいた。イトーヨーカドーの正社員そこまですごくねーわ。
それに女性と話している時の俺カッコいいだろ俺話上手いだろ俺モテるんだぜオーラがなんかすごいのだ。
今だって学生の頃どうやって飲みで女をおとしたかを語っている。それを私に語ってどーすんだ。
お前の全盛期には興味ないし今のお前にも興味ない。だけど一応はいはいと聞いておく。
どうせこいつもうまくいけばこの女抱けるんじゃねーのかとか思っているのだろう。
過去の栄光にすがっているだけの男には興味ない。むしろみっともないと思う。
どれだけ昔カッコよくても今がダサければダサい。それだけだ。
過去にどれだけ人気のあったアイドルでも今がダサければダサい。当たり前の事だ。
あの人は昔とてもカッコよかったんだよおと言われても今がダサければどーしようもない。
_
( ゚∀゚)「というかハインちゃん彼氏いないの?」
从 ゚∀从「いないっすよー」
言えないよねー、ヒッキーと付き合ってますなんて。職場恋愛は百パーセント面倒になる。百パーセントだ。
_
( ゚∀゚)「バイトの奴とか声かけてこないの」
从 ゚∀从「いやー? 同じ学生とかがいいんじゃないっすか、私まぁまぁ年上になっちゃうし」
_
( ゚∀゚)「えぇ〜もったいないなぁ〜」
76
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:16:16 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「だってバイトって高校生か大学生っすよ〜、私もう別モノっすよ」
_
( ゚∀゚)「そうかぁ〜」
高校生はさすがにないけど大学生と付き合うのもちょいちょいある。言わないけど。
_
( ゚∀゚)「でも俺から言わせるとバイトはみんな草食系だよね〜草食系」
从 ゚∀从「そっすか〜?」
_
( ゚∀゚)「そうだろ〜、モナーはしっかりしてるけどいかにも奥手って感じだしクックルも全然ダメそうだなぁ」
从 ゚∀从「はぁ」
_
( ゚∀゚)「あーあとヒッキーなんて論外だね! いかにも根暗って感じだしオタク丸出し」
从 ゚∀从「あ〜そうっすね〜」
_
( ゚∀゚)「ああいうのクラスに何人かいたよな〜クラスの隅の方で固まってんの。 クラス対抗球技大会じゃ戦力外。 どうせアニメとか見てるんでしょ?」
从 ゚∀从「見てるんじゃないっすかね」
_
( ゚∀゚)「ああいうオタクって何が楽しいんだろうね〜しかもあいつってフリーターでしょ、いい歳して何やってんだか」
从 ゚∀从「はぁ」
_
( ゚∀゚)「いや〜無理だね〜考えらんないわ〜。 俺が親だったらも〜勘当ものだぜ?」
从 ゚∀从「あいつマンガ描いてるんすよ」
77
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:20:24 ID:BImXu.QU0
_
( ゚∀゚)「え? マンガ?」
从 ゚∀从「ガキの頃からずーっとマンガ描いてて本気でマンガ家目指してるんです。 夢追いかけてるんすよ」
_
(; ゚∀゚)「へ、へぇ、なんか、詳しいね、ヒッキーの事。 もしかして付き合っちゃってるとか」
从 ゚∀从「付き合ってますよ」
_
(; ゚∀゚)「え」
从 ゚∀从「私ヒッキーと付き合ってますよ」
_
(; ゚∀゚)「え…」
从 ゚∀从「一緒に暮らしてます」
_
(; ゚∀゚)「え、ちょ」
从 ゚∀从「だからお前にあいつの事とやかく言われる筋合いはないと思うんすけどね。 何も知らねーくせに」
そのまま席をたつ。社員はぽかんとしている。ほんと生理死ね。イライラする。
でもイライラするのは生理だけじゃなくあの社員にもヒッキーの親にもだ。
それにヒッキーをバカにされてイラッとする私がいる。前まで同じような事思ってたのに。
だけど夢を持って突き進んでいるヒッキーの方がはるかにカッコいい。輝いて見える。
あの社員の方がオシャレだし身長高いしイケメンだしいいミニ・クーパー乗ってるけどヒッキーの方がカッコいい。
しかし、やってしまった。ヒッキーと付き合っている事を言ってしまった。どうせ広がるだろう。知れ渡るだろう。
で、思ったより情報の拡散は早かった。数時間後には私とヒッキーが付き合っている事は職場に知れ渡っていた。
あの社員は腹いせにパートのおばちゃんに喋ったのだろう。パートのおばちゃんどものゴシップ好きは異常だ。病気レベル。
まして職場内のそういう話だとLINEのグループで回してんじゃねーかってぐらいに情報が広まるのが早い。
78
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:22:47 ID:BImXu.QU0
明日ヒッキーが出勤したら問いつめられるんだろうな。可哀想に。今日帰ったらあらかじめこうなったと言っておこう。
私もパートにパートにパートに聞かれまくったけどもう面倒だったから隠さなくなった。はいそうですよ、と。
別に悪い事じゃない。堂々としていればいいのだ。どうでもいい。どうでもいい。どうでもいい。
だけど聞こえてくる。えーあのオタクの子と? 似合わないよね。 ヤンキーとオタクって正反対。
休憩所でも更衣室でもこの話で盛り上がっているのだろう。そう考えると本当に面倒くさい。
面倒くさい。また私の悪い癖が出てきてしまった。もうこの職場も面倒くさい。
あぁ、面倒くさい。
从 ゚∀从「ごめん、付き合ってるのバレちゃった」
帰ってからヒッキーにそう告げると絶句していた。これが絶句というやつだ、的な見本レベル。
暫く固まっていたので面白くなって私はわははと笑い出してしまった。
(;-_-)「バレた?」
从 ゚∀从「うん、ぜーんぶバレた」
(;-_-)「全部って?」
从 ゚∀从「同棲してるのも」
(;-_-)「えぇ…」
从 ゚∀从「あとヒッキーがマンガ家目指してるのも」
(;-_-)「えぇ…!?」
今度は崩れ落ちた。膝から崩れ落ちた。これが崩れ落ちるというやつだ、的な見本レベル。
面白すぎて私はいよいよ腹を抱えて笑う。
(-_-)「いや笑ってる場合じゃないよ…どうするんだよ…」
いや、ヒッキーが珍しくマジで怒っている。そりゃそーか。これで怒らなきゃヒッキーは聖人だ。
从 ゚∀从「ジョルジュがすげーヒッキーバカにしてさ。 イラッとして」
(-_-)「ジョルジュさん…」
79
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:26:43 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「あいつべらべら喋ったみたいでパートにもバイトにも知られちゃった。 多分明日訊かれるね」
(-_-)「ど、どうしよう」
从 ゚∀从「厄介かな」
(-_-)「厄介な感じになるんじゃないかな」
从 ゚∀从「そしたら私辞めるよ」
(-_-)「え、辞める?」
从 ゚∀从「うん」
カバンを置いてどっこいしょーと座る。
从 ゚∀从「そしたら気まずくならないっしょ」
(-_-)「だけどそんな事で辞めるなんて…」
从 ゚∀从「いいのいいの。 今までそうしてきたし」
(-_-)「だけど…」
从 ゚∀从「いいんだってば」
ヒッキーは黙った。だけど何か言いたそうだった。
珍しい事だった。ヒッキーが何かしら意見を強く持つ事は少ない。
私との同棲生活だって流されるように始めてしまったのではと思うぐらいに。
从 ゚∀从「なに?」
私が促すとヒッキーは膝立ちのまま、小さく何か言った。
从 ゚∀从「え、なに?」
80
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:32:02 ID:BImXu.QU0
(-_-)「ハインはまた逃げるの」
从 ゚∀从「は?」
(-_-)「ま、またそうやって面倒になったりしたら職場変えてハインは逃げるの」
从 ゚∀从「別に」
(-_-)「に、逃げてるじゃないか! あまり傷つきたくないからハインはそうやっていつも逃げるんじゃないか。
いつまで逃げるつもりなの、そ、ぼ僕の前からもそうやっていつか逃げるんじゃないの?」
一気にまくし立ててからヒッキーは自分の部屋へ消えていった。あんなに声を荒げたヒッキーは初めて見た。
どもるし滑舌もそんなに良くない。だけどはっきり聞こえた。そんな風に考えていたとは思わなかった。
とっさの事だったとはいえ、返す言葉がないなと思った。その通りだ。私は傷つきたくないんだ。
傷つくのを恐れて人間関係が面倒になると職場を変える。面倒になると男を別れて住まいも変える。
今までそうしてきたしこれからもそうすると思っていた。それに限界があるのも一応分かっていた。
私は逃げる。飽きては面倒になっては逃げる。逃げ続ける。いつかヒッキーからも。
ヒッキーはきっと不安だったのだ。初めて付き合ったのが私だったばっかりに。
いつか飽きて面倒になってどこかに行ってしまう私に対して不安だったのだ。
また悪い癖が出て面倒だから辞めてしまおうと思っていた私が許せなかったのだ。
ヒッキーは夢を追いかけてずっと同じバイトで同じアパートでマンガだけを描いていたのに。
夢を追いかける人が好きだと言いながら私はそれを見届ける事すら出来ないのだ。
なんて情けないんだろう。情けない。私超ダサイじゃん。
从 -∀从「はぁ」
傷つきたくない。笑われたくない。気まずい思いをしたくない。逃げたい。
私って弱い人間だ。きっと心のどこかで分かっていたんだけど仕方ないよねそれが私だからとどこかで言い訳をしていたのだ。
ヒッキーにそんな事をあらためて思い知らされるなんて。
81
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:39:15 ID:BImXu.QU0
从 ゚∀从「ヒッキー」
ヒッキーの部屋のドアまで這っていってドアに触れる。今日は開けないでおく。
从 ゚∀从「ごめん、まだあそこで仕事続ける」
私は弱い。傷つきたくない臆病者だ。
从 ゚∀从「ヒッキーを見届けるよ」
うん、とドアの向こうから聞こえてくる。今日はそれでいい。
私はラスト・チャンスと決めて描いた作品の行く末を見届けなければならない。
もしまたダメならヒッキーはマンガ家の夢を諦めなければならない。
そうすればヒッキーは実家に帰る。この同棲生活も終わる。
このまま終わってしまうのかもしれない。その先の事なんて考えられない。
でも、今それを考える必要はないのだ。私がヒッキーを信じてやらなくてどうするのだろう。
そんなダメだった時の未来なんて考えても仕方ない。私は本当に夢を叶えるヒッキーを見たいのだ。
ゲンキンな奴め、と言われればそれまでだ。けれど私は見たい。逃げずに見たい。
82
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 09:42:10 ID:BImXu.QU0
まさかのまさか。ヒッキーがジャンプで賞を取る。佳作。ジャンプ本誌に東京都ヒッキー(24)とバッチリ。
先に電話が来てヒッキーがそれを知られてくれて二人して飛び上がって喜んでしまった。
有名作者の講評も載っていた。『画力は十分。魅せる技術もピカイチ。ただしヒロインがもうちょっとかわいければ…!』
ただしヒロインがもうちょっとかわいければ…!←ほらな!意外と素人の評価も外れたもんじゃないだろう。
それにしてもすごい。まだまだ夢の第一歩なのだけれど。第一歩だけど、確実な第一歩だ。
着実に一つ階段を上がったのだ。夢へ間違いなく一段階近づいたのだ。
ヒッキーの親も結果を受けて保留だと言ったらしい。保留だって。素直じゃない。
確かに佳作を獲ったからって連載出来る訳じゃない。本当に入口が開いた程度だ。
それでも私は感動している。また新たにヒッキーはマンガを描き始めている。
同棲生活を続けて同じバイト先で働きながら私もちょこっと手伝いつつマンガを描く。
ヒロインがもうちょっとかわいくなればな、服装もオシャレになればなと思う。そうすれば多分もっと良くなる。
まだまだこの同棲生活は続く。やっぱり私はゲンキンな奴だと思う。だけど私は私なのだ。
やっぱりまた逃げたくなる時が来るかもしれない。飽きてしまう時が来るかもしれない。
ヒッキーだって、私が初めてだっただけで、そのうち他の女性を知るのかもしれない。
未来は未知数だ。どう進むのか分からない。描いている通りに軌道が進むとは限らない。
だから分からない。私はこんな人間だし分からない。今現在ではこのまま。それだけだ。
いつしか私はヒッキーじゃない男と付き合ってヒッキーの事なんて忘れてしまうのかもしれない。
いつしかヒッキーは私じゃない女性と付き合って新しい道を歩むのかもしれない。
だけど今はまだこのまま。二人で進みたいと思うのだ。
从 ゚∀从二人暮らしのようです(-_-)
83
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 10:03:52 ID:4b8UFH7g0
乙
2人の関係性いいなぁ
84
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 10:42:57 ID:DwjNKqRk0
いい
85
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 11:15:04 ID:QKNA8FjY0
いいなあ
86
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 12:36:43 ID:un4OyRpoO
おつ!好きだ!
87
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 17:08:40 ID:wUdg/Tp20
乙!前の彼氏って……
88
:
名も無きAAのようです
:2016/05/14(土) 18:07:39 ID:wMJqwi3k0
これはいい恋愛ものだ
キングダム……いや……そんなまさか……
89
:
名も無きAAのようです
:2016/05/15(日) 14:00:21 ID:Sjxu6o1c0
乙
次も楽しみにしてる
90
:
名も無きAAのようです
:2016/05/20(金) 20:11:27 ID:hVbSTSCk0
ムカデ人間を推してくるまではわからないぞ
冗談はさておき、なんか不思議な読後感がする
面白かった
91
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 16:45:27 ID:hKs1utCE0
>>87
>>88
ぐぬぬすいません元ネタが分かりません
92
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 16:53:03 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)その顔が見たかったようです川 ゚ -゚)
JR東海道線小田原駅から伊豆箱根バスで6分
最寄りバス停から徒歩2分
木造 築19年
2LDK+地下(車庫あり) 価格2500万円
93
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:02:41 ID:hKs1utCE0
これは記録だ。
この記録が誰かに読まれる頃には僕は死んでいるだろう。
何せ僕は死んでいるのだから、僕を罪に問う事は出来ない。
例え殺人者だと罵られ墓に唾を吐かれても構わない。
やはりもう死んでいるからだ。死後には何もないのだから気にもならない。
僕は最高の瞬間を味わった。もう未練はないので死ぬのだ。
この記録は僕の最高の瞬間を綴ったものである。
僕は恋をした。初めて彼女を見かけたのは五月の大型連休過ぎであった。
市内のドラッグ・ストアに勤務している僕は毎朝車で職場に向かう。
彼女を見かけたのはその出勤途中で、ぼくと同様に信号待ちをしているところだった。
向かいに自転車に乗った彼女が同じように信号を待っていた。僕はつい見とれてしまった。
見覚えのある制服で、市内の高校に通う女子高生だと分かった。スカートは折りたたまれず規定のものだった。
信号待ちをしている間、携帯電話を見る事もなくただ信号機が変わるのをじっと待っていた。
きっと真面目な性格なのだろう。聡明でありそうな印象を受ける。
信号が青になり彼女とすれ違う。美人だった。強く心に残った。
94
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:08:21 ID:hKs1utCE0
その女子高生は自分が思っていたより心の中に残ってしまった。
仕事が始まってもぼんやりと彼女の事を思い出してしまっていた。
今日は珍しく考え事をしているねと同僚にも言われてしまったぐらいだ。
僕は一目惚れをしたのだと気がついた。そんな事は初めての事だった。
多感な時期だった中学生の頃だって一目惚れなどしなかった。
次の日から注意して通勤中に彼女を探すようになった。
すると数日を経て彼女がとても規則正しい登校をしている事が分かった。
こちらが毎朝同じ時間に家を出ると彼女と必ず同じ交差点ですれ違うのだ。
きっと家を出る時間を決めていて毎朝きっかりにそれを守っているのだろう。
僕は毎朝彼女を見るのが楽しみになった。初めて見た交差点で必ず信号待ちをする。
対向には自転車に跨った彼女がやはり携帯電話を見る訳でもなく信号が変わるのをじっと待っている。
彼女の通う高校の生徒はこの付近ではあまり見ない。多くの生徒が通学に使う幹線道路はもっと東寄りにある。
恐らく彼女はこの近くの集落に住んでいるのだ。この道路は東西に伸びていて道沿いに集落が続いている。
彼女が通う高校は小高い丘を挟んだ南側にあり、丘を南北に貫く道路は存在せず避けるように進んでいくのだ。
東寄りの幹線道路を使わずこの集落を結ぶだけの道路で高校に向かうという事は、住まいはその集落なのだろう。
95
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:17:13 ID:hKs1utCE0
その集落は距離こそ近いものの僕の家からは離れている。僕の住む一軒家はどこの集落にも属さずぽつんと離れた場所に建っている。
そもそもこの一軒家は数年前に亡くなった父親の遺産だ。僕は市内のアパートで一人暮らしをしていたが相続してからはこの家に住んでいる。
平屋で築二十年ほど、随分と古臭い印象を受ける家だが地下倉庫もあって使い勝手が良い。一人で暮らすには少し広いのが難点だ。
集落から離れ、道路からコンクリートの急な坂を上がった先にある。その坂もこの家があるのみで人の往来は全くない。
背後には山が迫り畑の一つもなく、対して正面には小田原厚木道路が横切り一日中車が行き交っていて少しうるさい。
僕が独り立ちしたあとに父親はこの中古の一軒家を購入した。その後母親が他界してその後は父親一人で暮らしていた。
ただでさえ集落から離れた立地であるし気難しく口数の少ない父親に近所付き合いなどというものは皆無であったらしい。
自分が代わりに住むようになっても訪れる者はおらず、僕としてもその方が気楽だと考えられた。
彼女の事をもっと知りたいと思い、休みの日に夕方から窓を開けて道路を見ていた。彼女の下校時間を確かめたかった。
坂の上に建つ家からは道路がよく見渡せる。登校で通るのならば下校でも通るはずだ。道路の往来は少なく見落とす心配もない。
このまま道路を奥に進んでも民家はもう殆どなく、山あいに寂れた公園施設があるのみだ。今日のような平日は尚更往来は少ない。
またすぐ近くに小田原厚木道路のインターチェンジがあり信号機が設置された交差点がある。上手くいけば赤信号で止まる彼女を見られる。
出来れば日没前に見つけたかったが彼女は来なかった。日が暮れて街灯の下を通るところを見つける必要があった。
集落から離れ人気のないこの辺りは夜になると当然暗くなる。交差点の近くには街灯が設けられているがそれ以外は不気味なほどに暗い。
根気よく僕は道路を監視し続けた。すると日が暮れてから一時間以上経ってから彼女の姿が見えた。それはすぐに発見出来た。
ちょうどインターチェンジのある交差点が赤信号になって彼女の自転車が止まる。僕は身を乗り出して食い入るように彼女を見た。
闇夜に溶け込んでしまいそうな黒い髪が揺れる。姿勢良く自転車に跨がりじっと信号開通を待っている。凛としたその姿はとても美しい。
街灯がまるで彼女のためのスポット・ライトのように美しく照らしていた。僕はほうとため息をついた。そして彼女が欲しいと強く思った。
青信号に変わって彼女の自転車が進んでいく。小田原厚木道路の立体交差を越えて集落の方へ消えていった。
96
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:22:49 ID:hKs1utCE0
仕事の日は帰りが遅いので見られず、休みの日は同じ時間に窓から彼女の帰りを待った。すると彼女はやはり毎日きっかり同じ時間に家の前を通った。
下校時間から数時間が経過しているので部活動に勤しんでいるのだろう。しかし帰りの時間も毎日同じであるとやはり真面目な性格なのだと分かる。
僕にとって彼女の登下校を見るのが日課となりつつあった。そして彼女が欲しいという思いも日に日に強まっていた。
仕事中に彼女の事を考えるあまり手元が疎かになり注意される事もあった。珍しい、恋でもしているのではないかと職場で噂されているようだった。
まさかあいつに限ってと否定する者もいたらしい。しかし現実はそうなのだ。僕としてもこれほど思い込む事はこれまでなかった。
自分でもどうして良いのか分からないのだ。恋愛などろくに経験がないまま大人になってしまったためである。
父親に似てあまり人と話す事が得意ではなく学生の頃からあまり人の輪に入る事が出来なかった。
仕事で女性の対応をする事もあるがやはりあまり上手ではない。
気晴らしにパソコンの電源を投入して動画を開いた。気に入っている動画はハード・ディスクに幾つも保存されている。
そこにあるのはカテゴリで振り分けるのならば全て同じ趣向のものとして扱われるだろう。
ある動画では女性が拘束されたうえ暴行され、ある動画では女性は何人もの男に嬲られている。
ある動画では女性が当然背後から襲われ、ある動画では女性が鞭で叩かれて肉が切れていた。
僕は女性の絶望する顔が好きだ。昔からそういう類の動画を好んで見ていた。
店に訪れる女性客の顔を見るたびにこの人はどんな絶望の顔をするだろうかと想像する。
しかしアップロードされている動画の殆どが本物を装った偽物なのだ。
女性のそれは演技であり、本物の絶望の顔をしていない。こればかりは不満が募るいっぽうだ。
是非とも彼女の絶望する顔が見たい。本物の絶望の顔が見たい。
97
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:27:55 ID:hKs1utCE0
どうすれば良いだろう、どうすればこの思いを叶えられるだろう。
悶々としながら暫く僕は日々を送った。そして熟考を重ねて決断した。
とある金曜日、僕は仕事が休みだった。僕はその休みをホームセンターに行くなどして準備に充てた。
日が暮れて夜になってから僕は黒の目立たない服に着替えた。念のため顔を覆うほどのマスクもしておく。
車で家を出て彼女が通る道路を少し移動する。ちょうど生い茂る木々で隠れられるあぜ道に車を停めた。
エンジンも切って車内の照明を落とす。よほどしっかりと見なければここに車が停まっているとは気づかれないだろう。
道路は緩やかに坂が続き、下り坂から上り坂に差し掛かったところだ。自転車の速度はここで必ず落ちる。
僕は腕時計を見て、インターネットで購入した護身用スタンガンを構える。既に家で試運転も済ませてある。
もう一度腕時計を見る。家の前を通る定刻時間から逆算した通過時間まで間もなく。僕は車の影からそっと様子を伺った。
万が一車が通ったらやめよう、と決めていた。しかし幸いにも車が通る気配はない。付近には民家もなく極めて静かだった。
そして遠くの街灯で影が動く。僕は目を凝らす。定刻通り。彼女だった。自転車で下り坂を降りてくる。
僕は息を潜めた。落ち着くように努力した。
静かな夜の道路に自転車の音だけが聞こえる。
それはだんだん近づいてくる。タイミングが重要だ。
僕は護身用スタンガンを強く握った。
遂に彼女が車の前に到達する。僕は飛び出した。
彼女の脇腹目指し護身用スタンガンを突き出した。
電流が彼女の身体を駆け巡る。
彼女は自転車から叩き落とされた。
そのままアスファルトの道路に落ちる。
自転車も盛り上がった側溝の蓋にぶつかり倒れた。
彼女は意識こそあるものの身体が硬直していた。
フィクション小説のように気絶はしなかった。
しかし身動きを封じるだけで十分だった。
素早く僕は彼女を助手席に載せる。
自転車もトランクに放った。
助手席に載せた彼女の手と足を粘着テープで固く巻きつける。
口にも貼りつけ目にはタオルを縛って対処した。
手筈通りスムーズに拘束は完了した。
更に学生鞄から携帯電話を見つけて電源を落とした。
パターンの認証が必要だったが電源を落とすのに認証は不要だ。
98
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:31:19 ID:hKs1utCE0
その作業の間にも車は一台も通らなかった。幸運だった。僕は静かに車を出して家に向かった。
対向車の視線が気になったがすれ違ったのは二台だけでどちらの運転手も携帯電話を見ていてこちらに関心はないようだった。
コンクリートの急な坂を登って家に着く。車庫に入れてしまえば外から様子は見えない。それでも僕は手早く彼女を家の中に運んだ。
もう彼女は硬直から回復したようで手足を動かし抵抗したが強力な事務用粘着テープを何重にも巻いているため無駄な抵抗だった。
地下の倉庫に彼女を運ぶ。床に敷いた布団の上に彼女を置いて口のテープをゆっくり剥がし目隠しのタオルを取った。
彼女は怒りと恐怖が入り混じった顔で僕を見ていた。ようやく喋れるようになったものの何と言うか迷っているようだった。
「…なんなんですか」
彼女は震える声で僕に問いかけた。周囲を見渡し現状を確認していた。冷静だ。
「ここは地下ですか」
(-@∀@)「あぁ」
窓がない事と階段を降りる感覚でそう推測したのだろう。僕は素直に認める。その方が手っ取り早い。
(-@∀@)「だから叫んでも誰にも聞こえないよ」
ここが完全に密室であり助けを呼ぶ事は出来ないとあらかじめ宣言しておいた方が良い。
聡明な彼女は叫んだり喚いたりするといった行為が無駄であるとすぐに理解するだろう。
「何が目的なんですか」
(-@∀@)「君が欲しかった」
「私が?」
(-@∀@)「そうだ」
99
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:39:02 ID:hKs1utCE0
僕は彼女ともっとゆっくり話したかったがはやる気持ちを抑えて次の行動に出た。
自転車を積んだままの車に再び戻る。車を出して箱根方面へ向かう。
箱根登山鉄道の線路を越えて国道一号線に入り、更に旧東海道へ進む。
途中からゴルフ場へと続く脇道を登り、すれ違いも困難なほど狭い林道へ入る。
街灯の一つもなく車が一台なんとか通れるだけのコンクリートの道が続く。
随分と奥に入り込んだところでそろそろ良いだろうと車を停めて自転車を降ろした。
ガードレールもない林道の脇はまさに断崖絶壁で急斜面が広がっている。
僕はそこに彼女の自転車を放った。音をたて自転車が急斜面を転がっていく。
部品が取れて形が歪みながらも自転車は転がり林の向こうへ消えていった。
僕は車に戻って家に帰る。あとは彼女との時間だ。
帰宅してしっかりと鍵をかけて地下に降りる。
物音で分かったのか拘束されたままの彼女が身を強張らせていた。
こうして灯りのもとでよく見るとやはり彼女は整った顔立ちをしている。
(-@∀@)「名前はなんというのかな」
「答えたくありません」
僕は傍らに置いておいた彼女の学生鞄を逆さまにして床にばら撒いた。
彼女が眉をひそめるのが分かる。ようやく表情に変化が出て嬉しい。
予想していた通りばら撒いた中身から学生証が見つかる。
真面目な彼女ならば常に持ち歩いているだろうと考えていたので正解だった。
(-@∀@)「三年生のクー…君はクーというのだな」
川 ゚ -゚)「…」
100
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:42:33 ID:hKs1utCE0
僕は彼女の絶望の顔が見たい。しかし名前を知られても彼女はぐっと言葉を堪えている。
きっと自転車を捨てに行っている時間に色々と考えたのだろう。
こうして見知らぬ男に拉致されて監禁までされているというのに冷静だ。
ここが地下で声が外に届かないと分かっているため騒いだりもしない。
今や彼女の命運は僕が握っているも同然であるのに、彼女が堅牢なつくりの城に見える。
彼女の絶望の顔を見るのは難しい事かもしれないからだ。
(-@∀@)「だんまりか」
川 ゚ -゚)「貴方の名前を聞いていません」
(-@∀@)「あぁ、確かに名前を聞いておいてそれは失礼だった。 僕はアサピーだ」
川 ゚ -゚)「アサピー…」
(-@∀@)「そうだよ」
川 ゚ -゚)「アサピーさん、これは犯罪です」
(-@∀@)「はは、やはり君は強いなぁ」
地下室は階段を除いて四畳半ほどだ。彼女を寝かせている布団が一畳ほどを占めている。
元は倉庫として使われていたためがらくたなどで溢れかえっていたが彼女のために撤去した。
当然ながら窓はなく低い天井から心許ない小さい蛍光灯が照らすのみだ。
(-@∀@)「ここは見ての通り完全密室だ。 君を助けに来る者はいない」
僕は大げさに手を広げてみせる。
(-@∀@)「僕と二人きりだ」
川 ゚ -゚)「どうでしょうか」
101
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:44:42 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「僕の家は集落から離れている。 そしてこの地下はいわば隠し部屋で一見分からないようになっている。
君が行方不明であると警察に届けられて万が一この家を調べられてもきっと気がつかれないよ」
川 ゚ -゚)「どうして言い切れるんですか」
(-@∀@)「さっきも言ったようにこの地下は隠し部屋だ、初見ではまず見つけられない。 また声も届かないほどの密閉っぷりだ」
じわじわと自分の置かれた状況が極めて絶望的であると知らせていく。ゆっくり絞め殺すように。
しかし彼女の表情はなかなか変わらない。やはり手強いものだと僕は内心思う。
それではさっそく強硬手段に出るしかないのだと決意をした。
川 ゚ -゚)「私が欲しかった、と言ったけれどどうするつもりなんですか」
(-@∀@)「分かっているだろう?」
僕は彼女に近づいて頬に触れた。彼女は逃げられずそれを受け止める。
頬を撫でてから僕の指は彼女の首、鎖骨、胸、腹を辿り制服のプリーツ・スカートに達する。
(-@∀@)「ねぇ」
プリーツ・スカートをつまみ上げると彼女の下着が見える。
(-@∀@)「どうしようかな」
彼女の表情が僅かに曇る。ぎゅっと唇を噛んでいる。
(-@∀@)「ねぇ、どうしてほしい?」
川 ゚ -゚)「…家に帰して下さい」
(-@∀@)「それはダメだねぇ!」
102
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:45:57 ID:hKs1utCE0
僕は彼女を犯した。拘束されたままの彼女の思いのままに犯した。
きっとそうだろうなと思っていたが彼女に男性経験はなかった。
布団に染みこんだ血液がそれを物語っていた。
未知の感覚に彼女は悶えていた。
しかしそれでも彼女の絶望の顔を見る事は出来なかった。
僕に制服を剥がされる時も。身体を撫で回されている時も。
僕の肉棒を頬に押し付けられている時も。口の中にねじ込まれた時も。
力ずくで足を開かされた時も。純潔を破られた瞬間も。
顔にたっぷりの精液を浴びた時も。
彼女はただ歯を食いしばって耐えるのみだった。
表情は苦痛に歪んでいたものの、それは絶望ではなかった。
精液を顔に浴びても、ようやく終わったのだと理解して顔を背けただけだ。
僕はますます彼女の絶望の顔をなんとか見たいと強く思った。
正直なところ彼女を犯すのはやむを得ない強硬手段だと思っていたのだ。
それにも関わらず彼女は耐えて絶望の顔を見せようとはしない。
強い心を持った芯の強い人なのだと僕はむしろ感心してしまった。
やはりなんとしても絶望の顔を見たい。
どうすればそれが叶うのか考え直す事にした。
103
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:49:56 ID:hKs1utCE0
彼女の粘着テープの拘束をいったん解き、手錠に切り替えた。
右利きだと申告したので左腕だけ手錠をかけ、空いた方を壁から突き出した杭に繋げる。
僕が力いっぱい引き抜こうとしてみてもびくともしなかったので彼女の力ではまず逃げ出せないだろう。
彼女は僕が脱がした下着と制服を身につける。それを僕は黙って見ている。彼女も何も言わない。
見られたくはないのだろうが無反応を貫く事で彼女なりの抵抗をしているのだと思う。
排泄は脇に置いたバケツでするようにと言いつける。それでも彼女は黙ったままで顔色を変えない。
恐らく普段から表情変化に乏しいのかもしれないが、それ以上に冷静であるよう務めているのだ。
これほどに人間の尊厳を奪うような扱いをしようとしているのにじっと堪えている。
その姿がもはや愛おしい。僕はそれをなんとか崩したい。
翌日、僕は通常通りに仕事へ向かうため準備をする。トーストとコーヒーの質素な朝食だ。
また彼女の分も地下に持っていく。出勤すると夜まで帰れないので昼の分と水も置いておく。
(-@∀@)「眠れたかい」
川 ゚ -゚)「…あまり」
(-@∀@)「これは朝、あっちは昼の分だ」
川 ゚ -゚)「仕事に行くんですか」
(-@∀@)「あぁ、社会人だからね。 帰ってくるのは夜だ。 休みはシフト制だよ。 でもその情報を知っていても無意味だろう」
川 ゚ -゚)「…」
彼女は黙る。実際そうだ。僕の情報をそれだけ知ってもこの密室である地下からは逃げ出せない。
携帯電話は電源を切ったまま保管しているし声の届かない地下からは助けを呼べない。
それにもし彼女の存在が知られればここは僕の家だから疑われるまでもなく僕は逮捕されるだろう。
だから助けも呼べない彼女に隠す事もないのだ。
104
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:57:32 ID:hKs1utCE0
僕は念入りに戸締まりをして車を出す。彼女を載せた痕跡は残していない。
きっと彼女の両親は昨夜のうちに娘が帰宅しない事に気が付き警察に届け出ているだろう。
ただでさえ登下校が毎日きっかり同じ時間なほどだ。一晩帰らないというのは極めて異常な事態のはずだ。
もう外では捜索が始まっているかもしれない。パトカーが彷徨いているかもしれない。平常心を保とう。
いつもと同じ時間。しかし定刻通りにも関わらず彼女の自転車とはすれ違わない。
彼女は僕の家の地下で、自転車は箱根のゴルフ場裏の林の中だ。それを知っているのは世界で僕だけだ。
途中でパトカーに一台だけすれ違う。女子高生の家出程度にしか捉えていないのだろう。
僕はいつもの様に彼女の事を考えながら仕事をして一日を過ごした。
どうしたら彼女を追いつめられるのか。見知らぬ男に拉致監禁され犯されたのにじっと耐えている彼女を。
僕は勤務を終えてすぐに家に帰る。これほど家に帰るのが嬉しいのはそうない事だ。
市内にはパトカーをちょくちょく見かけた。僕は臆する事なく堂々と運転をする。
帰宅して真っ先に地下へ降りた。僕が引き継いだこの家は2LDKの平屋だ。
奥の洋室から地下へ続く階段が設置されているが、それは隠れている。
元々地下は物置として使われおり殆ど出し入れがなかったために両親はそこに本棚を置いていたのだ。
講談社文庫から発行された浅田次郎作品の並んだ本棚をずらすと地下への階段が現れる。
まるで秘密基地のようでもある。僕はその階段を降りる。
(-@∀@)「帰ったよ」
置いておいたバケツを見ると排泄物が入っていた。排泄を我慢する事は困難であり仕方なくといったところだろう。
食事の方を見ると手付かずのままだった。僕に嬲り殺さるのならば飢えて死んだ方が良いという意思表示だろうか。
いわゆるハンガー・ストライキだ。しかし僕は彼女に餓死してもらいたくはない。
僕は彼女の制服であるシャツの胸ぐらを掴んで頬を引っ叩いた。
(-@∀@)「ダメじゃあないか、食べなければ」
105
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名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 17:59:55 ID:hKs1utCE0
彼女の絶望の顔を見るために取るべき行動はやはり暴力であると僕は考えていた。
人を支配するのに最も有効的かつ簡単なのは今も昔も暴力なのである。
与えられた食事を拒否する、これは暴力を振るう口実となる。
川 ゚ -゚)「…」
しかし頬を叩かれても彼女は黙って顔を背けるのみだった。
動揺する訳でもなく反抗する訳でもなく、ただ静かにそれを受け入れた。
さすがに何か彼女の特殊な事情があるのではと疑ってしまう。
拉致監禁されてまだ二十四時間未満で精神が崩壊するには早い。
妙に冷静で落ち着いているのは物分りが良いからだと思っていたがそれだけではない気もする。
頬を叩かれても処女膜を破られても彼女は絶望の顔を見せる事なく堪えている。
僕は意固地になっていた。そのどちらかで望みは叶うと思っていたのだ。
また彼女の服を剥いで乱暴に肉棒をねじ込んだ。
髪を掴んで後ろから動物のように犯す。
強く突きながら尻を叩いても彼女は必死に声を漏らすまいと堪えていた。
杭に繋がれた手錠が音をたてる。足りない。まだ足りないのだ。
身体を自由に楽しんでいるだけでは足りない。
(-@∀@)「ねぇ、中に出していい?」
尻を掴んで突きながら彼女の耳元で囁いた。
(-@∀@)「君の中で射精したいんだ。 どうなるか分かるよね?」
彼女は答えない。僕は畳み掛ける。
106
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:02:12 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「ゴムつけてないし妊娠しちゃうかもね。 君は十八で妊娠しちゃうんだ。
子供が出来てお腹がだんだん大きくなる。 僕の子供を孕むんだ。
そして一緒に育てるんだよ。 どんな子供かな。 君の子供なら可愛いよね。
男の子かな、女の子かな。 女の子なら君に似ているんだろうね。
ねぇ自分の子供がどんな感じか想像した事あるのかい?
君はまだ若いから帝王切開になるかもしれないね。
痛いかもしれないけれど頑張ろうね。
あと一人っ子じゃきっと寂しいよね。
二人目も三人目も欲しいかい?
男の子だったら次は女の子、女の子だったら次は男の子がいいよね。
ねぇ、中に出していい? 君の中すごく気持ちいいよ、出すよ、出すよ」
彼女の中に遠慮無く放出する。長い余韻と共に肉棒を引き抜いて彼女の秘部を指で掻き混ぜると精液がねっとりと垂れた。
頭を掴んでそれを見せる。自分の体内から溢れ出る精液を彼女にしっかりと見せる。
(-@∀@)「出しちゃったよ、ほら、とろとろ溢れてるよ。 いっぱい出しちゃった。 一回で妊娠しちゃうかもね。 気持ちよかったから仕方ないよね」
秘部から溢れる精液を指ですくって彼女の口元に持っていく。歯を噛みしめて固く閉ざしている唇に精液を塗った。
指を押し込んで歯と歯茎に精液を這わせる。
107
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名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:02:33 ID:e/JuFkrw0
勃起した
108
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名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:03:41 ID:hKs1utCE0
川 ゚ -゚)「…」
手を離すと歯軋りの音が聞こえるほど彼女は黙って俯いていた。
それだけだった。怒る訳でもなく、泣く訳でもなく、取り乱す訳でもなく、ただ俯いていた。
もし彼女が本当に妊娠して腹が膨らんでくれば絶望の顔が見られるかもしれない。
しかし僕はそんな何ヶ月も先を気長には待てない。早く彼女の絶望の顔が見たい。
僕は困り果てた。
一週間が過ぎても僕は彼女の絶望の顔を見る事は出来なかった。
拘束した彼女に暴行したり犯したりしたが表情はやはり固いままだ。
仕事中にどうすれば良いのかを考える。やがて彼女の事をもっと知るべきなのでは、と思いついた。
彼女について僕が知っているのは名前と通っている高校ぐらいだ。彼女はあまり僕と会話をしようとしない。
それは彼女における僕へのささやかな抵抗なのだと思う。先に君が欲しかったのだと素直に伝えてしまったのが良くなかったのかもしれない。
拉致監禁して身体を好きに出来ても心までは支配出来ないぞという意思表示なのかもしれない。
僕はもっと彼女の事を知りたいのだ。そのためにはどうするかを考える。
今から彼女の心を開くのは極めて難しいだろう。
休憩時間になって、どうしようかとあれこれ思案しながら僕は携帯電話を取り出した。
社交的ではないと自覚がある僕に友人と呼べる人間は少ない。そのため頻繁に連絡をする者もいないのだ。
彼女は親しい者と一体どんな風にメッセージのやり取りをするのだろうと考えてみる。
メッセージのやり取り、そこで僕は思い出した。僕は彼女の携帯電話を持っているのだ。
そこにはきっと僕の知りたい情報がたくさん詰まっているはずだ。
ただし彼女の携帯電話はあの襲撃場所で電源を切ってからそのまま保管してある。
電源を投入すればたちまち位置情報が発信されてしまうので注意しなければならない。
109
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:05:03 ID:hKs1utCE0
当然そうなるだろうと思っていたが彼女の両親が警察に相談したのは確実であった。
昨夜遂にニュースで女子高生が行方不明だと流れたのである。早くも公開捜査に踏み切ったのだ。
彼女の顔写真と名前がテレビ画面に映し出されていた。学生証と同じ写真が使用されていた。
失踪から一週間が経っているし彼女の真面目な性格を考えると家出ではないと両親が訴え事件性が高いと判断したのだろうか。
ニュースでは携帯電話の電波通信があの襲撃場所で途切れたと伝えていた。しかし僕はあの場所に何の痕跡も残さず拉致を完遂したはずだ。
自転車も見つかっていないとアナウンサーは続けたので箱根のゴルフ場裏の林に投げ捨てたあの自転車はまだ見つかっていないようだった。
仕事が終わって家に帰る途中に今日は二台のパトカーとすれ違った。歩行者や対向車の食い入るように見ている。
幹線道路を越えると僕のよく使う道路は殆ど一本道となり、その脇に集落が伸びていく。
僕が彼女と毎朝すれ違っていたのも彼女を拉致したのもこの道路だ。
携帯電話の電波が途切れたのもこの道路となれば警察も重点的に調べるだろう。
その道路沿いにある僕の家にも当然話を聞きに来ると思われる。まして僕は平屋に一人暮らしだ。
集落から離れていて近所付き合いもなかったのでもしかするとあそこの人が怪しいのではと噂されているかもしれない。
証拠こそ残していないが容疑者として挙げられている可能性も考えておいた方が良いだろう。
僕に出来る事は努めて堂々としている事だ。何も付け入られないように振る舞う事だ。
それにあの地下への入り口はなかなか初見では見つけられないだろう。
もし警察が僕を容疑者であると断定し家に踏み込む事となってもそれはまだ先の事だろう。
110
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名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:11:13 ID:hKs1utCE0
翌日、僕は休みだったので車で山の方へ向かった。
家の前の道路を山の方へ進んでいくとどんどん道幅は狭くなる。
民家も殆どなく寂れた公園施設があるぐらいだ。更にその先へ進むと行き違いも厳しいような狭い山道となる。
それでも山を登って行くと開けた土地に霊園が広がっている。山あいの開けた場所に棚田のように墓石が並んでいる。
墓地の中にある駐車場に車を停めた。来園者は一人もおらず極めて静かであった。
僕は家に隠していた彼女の携帯電話と自分の携帯電話を取り出した。僕と彼女の携帯電話はキャリアが同じだ。
そして僕の携帯電話は圏外になっている。この墓地に到着する前からもうずっと圏外だった。
キャリアの電波エリアマップを見てもこの一帯は完全にサービス範囲外のようだった。
同じキャリアでも機種が違えば電波の取得には差が出ると聞いているがここまでエリア外ならば大丈夫なはずだ。
念のため周囲に人がいない事を確信してから彼女の携帯電話の電源を投入する。
時間をかけて携帯電話が起動する。そして認証に必要なパターンをなぞる。
このパターンを教えてもらうのに彼女の爪を三枚も無駄にした。
デスクトップはとてもシンプルなものだった。
ソニー製携帯電話のデスクトップにはアプリがあまり配置されていない。
ゲームの類は一つもインストールされていなかった。五ページあるデスクトップの中で何もないページも存在する。
さっそく無料通話アプリを開く。昔はメールなどの送受信を見るのが手っ取り早かったが今ではこちらの方がよく使用されている。
圏外の状態で電源を投入しているために新たなメッセージは見られない。恐らく行方不明となり心配するメッセージが届いているだろう。
今頃サーバに保管されているはずだが電波を受信出来る場所まで行かなければメッセージはこの携帯電話に届かない。
既存のメッセージを見て、彼女について知ろうというのが今回の一番の大きな目的だ。
数人とのメッセージのやり取りを見れば彼女について何か分かるのでは、と考えていた。
しかしそれは先頭のトーク履歴で呆気なく達成されてしまう。
メッセージの履歴の先頭にいるユーザーの名前はフルネームで登録されていた。
そのユーザーの苗字は、まさしく彼女の同じものだったのである。
111
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:14:22 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「くるう…」
僕はその名前を呟く。アイコンは誰かに撮ってもらったらしい自分の写真だ。
中学生ぐらいなのだろう、可愛らしい顔立ちでカメラに向かってピース・サインをしている。
恐らく妹なのでは、と思い僕は彼女のそのくるうという妹らしき女の子のメッセージをたどる事にした。
それは普段の彼女からは考えられないようなメッセージのやり取りだった。
くるうに対する彼女の口調は砕けたものでおちゃめなスタンプなども連発していた。
試しに他のユーザーとのメッセージのやり取りの履歴を見るとそれはいつもの彼女だった。
礼儀正しく節度を持ち顔文字の一つもなく聡明さを感じる。スタンプの連発など当然ない。
もう一度彼女とくるうの履歴に戻る。彼女のメッセージは砕けた口調、顔文字、スタンプの連発。
僕はそのギャップに慄いた。なんだこれはとすら思ってしまった。
履歴をたどると彼女からくるうに向かって好きだの大好きだの繰り返し送られているのが目立つ。
対するくるうからもお姉ちゃん大好き、などと返されている。
僕は確信した。やはりこのくるうは彼女の妹だ。そして彼女は妹を溺愛しているのだ。
絶対に僕に弱みを見せまいとしている彼女の決定的な弱点。それが妹の存在だ。
次にカメラフォルダを開いてみる。きっと妹を溺愛している彼女はくるうを撮影していると思ったからだ。
思った通りくるうと名前が付けられたフォルダがあった。それを開くとくるうを映した写真がずらりと並ぶ。
何十枚あるのだろうか、下の方へスクロールしていっても写真は続いていった。きっと日常的に撮影しているのだろう。
ソニー製の機種はカメラ機能が優秀であると聞いた事があるし彼女もそれを重視してこの機種を選んだのかもしれない。
くるうを映した写真を一枚一枚見ていく。電波は圏外状態から脱する様子はないし墓地に来園者もおらず焦る必要はない。
間違いなくくるうは中学生だろう、セーラー服を着た写真もある。室内で撮った写真もあればどこかに出掛けた時に撮ったものもある。
芦ノ湖で撮った写真もあれば伊豆下田で撮った写真もある。父親以上に彼女の方がくるうを撮影しているのではないだろうか。
112
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:17:03 ID:hKs1utCE0
僕は一枚の写真で手を止める。屋外で撮られた写真で、くるうはカメラに向かってピース・サインをしている。
注目すべきは背景だ。茶色の一軒家が映っている。自宅ではないだろうか。更に後ろには高架の道路が見える。
そこにはちょうど緑の案内看板が立っている。それは高速道路や有料道路に設置されているものだ。
最近の機種はカメラが高画質になっており拡大してみると文字がなんとか読み取れた。
そこには荻窪 小田原方面 出口500mと書かれている。その荻窪インターチェンジは僕の家の前にあるものだ。
僕の家の隣を走る小田原厚木道路はあの道路に寄り添うように北東方向へ伸びている。
彼女は同じ高校の学生の多くが使う幹線道路ではなくあの道路をわざわざ使って通学していた。
そのため僕は彼女の家があの道路沿いに広がる集落のどこかではと考えていたのだ。
彼女の携帯電話は赤外線通信機能を搭載したものであり僕の携帯電話にもそれはあった。
その写真を含めた数枚のヒントとなり得る写真を僕の携帯電話に赤外線通信で送信する。
そして彼女の携帯電話の電源を切り、鞄に仕舞ってから車を出した。
携帯電話の電波が受信出来るところまで降りてきてから僕は自分の携帯電話でグーグル・アースを開いた。
小田原厚木道路もグーグル・アースで見る事が出来る。そこであの写真に映っていた案内看板を探した。
案内看板が示す荻窪インターチェンジは僕の家のすぐ横だ。そこから五百メートルほど北上したところを表示させる。
その案内看板を見つける。その下には細い道路が横切っていた。あのいつもの道路から脇に入ったところである。
ちょうどそこに一軒家がある。僕はそれを表示させると、あの茶色の一軒家が現れた。
少し調整してみるとそれは彼女が撮った写真のアングルと完全に一致する。
僕の携帯電話に送信した先程の写真を見比べてもそれは確実である。
この茶色の一軒家が恐らく彼女の自宅なのだ。予想通りあの道路近くの集落だった。
この家から彼女の高校に通うならばあの道路を使うルートが最適だと言える。
彼女の自宅が分かった。彼女の弱点も見つけた。僕は次にどうすべきか再び考える。
家に着くと警察官が二人、僕の家を覗いていた。パトカーは近くに停まっておらず、付近一帯の聞き込みといったところだろう。
遂に来たか、と僕は気を引き締める。平常心を保ち怪しまれないように振る舞わなければならない。
仕事で身についた感情を顔に出さないという事をきちんと頭で思い浮かべる。
いつも通り、そうすれば乗りきれるはずだ。
113
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:24:30 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「あのう、すいません」
リアウインドウから顔を出して声をかける。
(-@∀@)「そこに住んでいる者ですが、何かご用ですか」
( ,'3 )「あぁ、すいません。 少し聞いて回っておりまして」
(-@∀@)「構いませんが、ひとまず車を入れてしまってよろしいですか」
( ,'3 )「はい、どうぞ」
車庫入れをしている間にも二人の警察官は車を注意深く見ていた。
行方不明の女子高生は自転車での帰宅中に消えたのだから仕方ないだろう。
実際に僕の所有するトヨタ・ファンカーゴは後部座席を倒せば自転車を積む事も出来る。
(-@∀@)「お待たせしました」
車庫入れを終え、僕は車を降りる。好青年として見られるよう努力する。
(‘_L’)「朝早くからどちらへ?」
(-@∀@)「両親の墓参りです。 この道路を登っていった先に墓地がありまして」
( ,'3 )「あぁ、久野霊園ですね。 若いのに感心です」
所轄の警察官は五十代と四十代ほどだろう。もし僕が容疑者として挙げられているのならば刑事が来るだろう。
やはり近所の家をとりあえず一軒一軒回、聞き込みに回っているのだろう。僕の家に順番が回ってきただけだ。
(-@∀@)「ところで話とは?」
( ,'3 )「あぁ、他でもない女子高生の行方不明事件についてです」
(‘_L’)「知ってますか?」
(-@∀@)「ええ、ニュースで見ました。 その女子高生が通っていると報道されていた高校もすぐ向こうですし家から近いのかなとは思っていましたが」
ごく自然な表情。近隣住民としては当然抱く興味。それを意識する。
114
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:26:57 ID:hKs1utCE0
( ,'3 )「はい、この先の集落に住んでおられる方です」
(‘_L’)「それで皆さんに話を聞いて回ってましてね、何か変わった事は?」
(-@∀@)「いえ、特には…。 静かで平和なところですし」
(‘_L’)「そうですか、行方不明のお嬢さんはそこの道路を使っていつも通学していたそうです」
(-@∀@)「へぇ、坂があるのに大変だ。 ここはインターチェンジがあるせいで狭い割には車がよく通る」
(‘_L’)「そうなんですよ、しかし目撃証言が何もないそうなんです。 何か物音とかは」
(-@∀@)「はぁ、ニュースは一昨日見たと記憶していますが、行方不明はいつからでしたか」
(‘_L’)「十日前です」
(-@∀@)「十日ですか、特に何も…。 本当に車の往来以外は静かなところですので」
(‘_L’)「そうですか」
警察官は家の方を見た。木造の平屋でクリーム色に塗られているが色褪せている。
(‘_L’)「ご家族は?」
(-@∀@)「いません、二年前に父親が亡くなり一人です」
(‘_L’)「一人でお住まいなのですか」
(-@∀@)「えぇ、平屋とはいえ一人では少し広すぎますがね」
自嘲気味に僕は笑ってみせる。
(‘_L’)「差し支えなければ中を拝見させていただきたいのですが」
(-@∀@)「えぇ、構いませんよ」
( ,'3 )「すいませんね」
(-@∀@)「いえいえ、事態が事態ですので」
115
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:31:06 ID:hKs1utCE0
僕は警察官二人を案内する。地下への階段は厚い蓋をした上から本棚できちんと塞がれている。
もし彼女が来訪者に気づき大声をあげて助けを呼んでも聞こえないはずだ。
事前に地下に大音量の目覚まし時計を置いて鳴らすテストをしてみたが聞こえなかった。
平屋は十三帖のリビングと八帖の洋室、同じく八帖の和室と風呂とトイレで構成される。
玄関からフローリングのリビングへと入り、次に和室を見せる。
(‘_L’)「和室は物置みたいですね」
(-@∀@)「ここは父親の部屋でした。 遺品を捨てようか迷っているうちにこうなってしまいまして」
(‘_L’)「なるほど」
(-@∀@)「そしてこちらが僕の部屋です」
最奥の八帖の洋室へ案内する。地下へと繋がる階段のある部屋だ。
( ,'3 )「ほう、本が多いですね」
本棚は三つ置かれている。うち一つの下に地下へ繋がる階段がある。
万が一本棚を動かされても床と同一の色の蓋が設置されている。
(-@∀@)「父親の遺品が多いです。 せっかくだから読もうと思ってこちらに移しました」
( ,'3 )「なるほど、それは良い」
どれどれ、と警察官が本棚に作者ごとに並べられた文庫本に目を通す。
( ,'3 )「あぁ、浅田次郎の天国までの百マイル。 私も最近読みましたがこれは名作ですね」
(‘_L’)「知っている作者ですか」
( ,'3 )「知っているもなにも浅田次郎は有名な作者だよ。 映画化もされた鉄道員で直木賞も受賞している」
(-@∀@)「高倉健の代表作の一つですね」
(‘_L’)「へぇ」
満足したようで二人は部屋を出て行く。風呂とトイレも覗いてご協力ありがとうございましたと頭を下げた。
116
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:34:43 ID:hKs1utCE0
( ,'3 )「何か変わった事や気づかれた事がありましたらご連絡下さい」
(-@∀@)「分かりました、早く見つかるといいですね」
僕は玄関を出て二人がコンクリートの坂を降りていくのを見届けた。
しっかりと施錠して部屋に戻り、本棚をずらして蓋を開ける。
階段を降りるが彼女は僕の方に視線も向けない。
(-@∀@)「いやぁ、驚いた。 警察が来たよ」
彼女がばっと顔を僕の方に向けた。僅かな希望を感じている。無駄なのに。
(-@∀@)「いや、帰っていったよ。 君がいるとも知らずに」
彼女が何かを言おうとして、諦める。萎んでしまったように俯いた。
(-@∀@)「だから言っただろう、この地下は完全密室だ。 君の存在は誰にも知られない」
川 ゚ -゚)「…」
また彼女は黙りを決め込むつもりだろうか。
しかし彼女は揺らいだ。僅かな希望を感じあっさり打ち砕かれたからだ。
彼女とて十代の少女だ。冷静を保っているが少女には変わりない。
そしてここで畳み掛けてみようと決める。新たに手に入れた強力なカードだ。
どこまでの破壊力を持っているかは試してみなければ分からない。
(-@∀@)「それにしてもさ」
わざとらしく、僕は切り出した。
(-@∀@)「可愛い子だね、くるうちゃん」
たった一言。たった一言だ。その影響力は僕の想像を越えるものだった。
彼女がまたばっと顔を上げた。そこには困惑と驚きが入り混じっていた。
口を開いて何か言おうとして言葉にならない。悲鳴に近い声だけがただ漏れる。
117
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:37:29 ID:hKs1utCE0
(-@∀@)「なんだい?」
川; ゚ -゚)「ど…どうして…」
(-@∀@)「え?」
川; ゚ -゚)「どうして…くるうの…」
やはりくるうは彼女の弱点だ。僕が彼女の愛する妹の存在を知っただけでこれほどに狼狽している。
絶望の顔とまではいかないが彼女はそれに近い表情をしている。知られたくなかった。隠したかった。
それほどにくるうが大事なのだ。彼女は今にも泣き出しそうになっている。
(-@∀@)「可愛いね、くるうちゃん。 とても可愛い。 欲しいなぁ、くるうちゃんも欲しい」
川; ゚ -゚)「だ、だめ、それはだめ、くるうは」
彼女が身を乗り出す。杭に繋がれた手錠が伸びてがちゃがちゃと音をたてる。
川 ; -;)「くるうは…くるうだけは、やめて、やめて」
彼女が懇願している。涙を流しながら僕に懇願している。空いている右手で僕の腕を掴み懇願している。
僕に拉致され監禁され暴行されレイプまでされたのに涙一つ見せなかった彼女が一心不乱に懇願している。
愉快だった。彼女の新たな一面をようやく見られた。くるうに関して彼女はこんなに必死になるのだ。
名前を出しただけなのに。
(-@∀@)「じゃあ、君は僕の言う事をきちんと聞かなければならないよね? 分かるよね?」
川 ; -;)「あ…う…」
彼女の頬を撫でる。指で涙を拭く。
(-@∀@)「君がちゃんと僕の言う事を聞けばくるうちゃんに危害を加えないよ。 全ては君次第だ」
川 ; -;)「わ…私次第…」
(-@∀@)「そう、くるうちゃんは、君次第」
118
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:41:05 ID:hKs1utCE0
僕は口を近づけて、舌を出した。彼女は意味を理解して、眉間に皺を寄せ、目を閉じて舌を出す。
僕はそれを絡めとる。そして彼女とセックスをした。遂に彼女との行為は一方的ではなくなった。
その日から彼女は従順になった。僕の言う事をきちんと聞くようになった。
与えられた食事は全て食べて肉棒を差し出せばおずおずと咥えるようになった。
これでようやく彼女を手に入れた気がした。それでもまだ物足りない。
やはり彼女の絶望の顔が見たいのだ。それこそが僕の一番の望みなのだ。
もし彼女の前でくるうを犯せば彼女は絶望の顔を見せてくれるだろうか。
そう考えると仕事中も勃起が収まらないようになってしまった。
川 ゚ -゚)「くるうは…可愛い妹なんです」
僕は彼女の座る布団の隣で話を聞いていた。
くるうの存在を持ち出してから彼女は僕と会話をするようになった。
川 ゚ -゚)「そして、可哀想なんです」
(-@∀@)「可哀想?」
川 ゚ -゚)「くるうは少し障害を持っています。 上手く話せなかったり、きちんと物事を判断出来ない。
それでお父さんに叩かれたりする事はよくありましたし、同級生に虐められているようなんです」
僕は彼女に妹について聞かせてほしいと頼んでみたのだ。
今ではすっかり彼女は従順で僕の言う事を何でも聞く。
川 ゚ -゚)「お父さんは身体が成長しても中身があまり成長しないくるうにいつも苛立っていました。 そしてよく手を出していたんです。
それで私が身代わりになる事もありました。 お母さんはいつも見ているだけでお父さんには口出しする事はありませんでした」
彼女の異常なまでの冷静さ、暴力に対する忍耐力。それは父親の暴力によって培われたものだったのだ。
川 ゚ -゚)「だけどくるうは私の可愛い妹なんです。 たった一人の可愛い妹…」
119
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名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:42:47 ID:hKs1utCE0
彼女は妹くるうを溺愛している。守ってやりたいと思っている。自分が犠牲になってもだ。
それは父親からの振るわれる暴力から、僕から強いられる監禁生活から。
愛する妹のために彼女は身を張っているのだ。自分を犠牲にしてでも守っているのだ。
それほどに妹を愛している。障害を持ち父親から疎まれ同級生から蔑まれる妹を。
僕は彼女を健気だと思った。そして報われないと思った。彼女こそ可哀想だとも感じた。
きっと彼女の父親は普通の事も満足に出来ない妹くるうに日常的に暴力を振るっていたのだ。
妹を庇いたい一心で彼女は父親の暴力の捌け口を引き受けていたのだろう。
彼女の極めて正確な登下校も真面目な性格だからと結論づけていたがそういう家庭状況が原因なのかもしれない。
また彼女の性格上家出ではなく事件性が高いと両親が判断したのだと僕は思っていたが逆に考えた可能性もある。
両親は、父親の暴力に耐えかねて逃げ出した彼女がその暴力を告発するのではと恐れたのかもしれない。
こういう地方の集落では悪い類の噂話はすぐに駆け巡り、狭いコミュニティでの覆しようのない世論を作り上げてしまう。
川 ゚ -゚)「だから私が守ってあげないといけない…」
あぁ、やはり可哀想だ。彼女はいつも妹を庇って生きてきたのだろう。
それなのにこんな地下に閉じ込められていてはその妹を助けられない。
守ってくれる彼女がいなければ妹は父親から暴力を受けてしまう。
まして彼女が行方不明であるため父親は気が立っているはずだ。
帰ってこない苛立ちを妹にぶつけているかもしれない。
それなのに彼女は助けられないのだ。守れないのだ。
こんな見知らぬ家の地下に拘束され好きでもない男に犯されているのだ。
なんと不憫なのだろう。僕こそが彼女を助けてやりたい。しかしそれは叶わない。
彼女は可哀想だ。彼女を助けられない。相反する両者が押し寄せ合う。
120
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:44:31 ID:hKs1utCE0
彼女の妹くるう。中学生。障害を持っている。彼女に愛されている。父親に疎まれている。
家庭内で暴力を受けている。同級生からはいじめられている。
彼女の弱点。彼女の愛する者。彼女の一番大切なもの。
それを壊せば彼女の絶望の顔が見られるだろうか。
僕は時間をかけて自然を装い彼女から妹くるうについて訊いた。
彼女の愛する者の話を聞かせてもらうのを装って訊いた。
少しずつくるうという少女の人間像が出来上がる。
写真は僕の携帯電話に転送してあるのでしっかりと記憶している。
彼女曰く、彼女の家庭は父親、母親、妹と彼女の四人暮らしだ。
父親は一般的な会社員で母親はパートをして生活の足しにしている。
裕福でもなければ貧しい訳でもない至って普通の家庭だろう。
彼女が行方不明となってから間もなく三週間となる。
精神的にも参ってしまっているだろう。仕事どころではないかもしれない。
何より妹が不安だと彼女は漏らした。それは父親から暴力を受けるのではという意味だけではなかった。
家庭において妹が心を開いていたのはまさしく彼女だけだったという。
彼女は妹を溺愛し、妹も彼女を必要としていた。依存しあっているのだ。
そのような妹の前から自分が消えてしまってはどうなってしまうのか予想も出来ないと彼女は言う。
121
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:46:27 ID:hKs1utCE0
過去に彼女が修学旅行で四日ぶりに帰宅しただけでも妹は泣いて飛びついてきたという。
半狂乱になっていても喪失状態になっていてもおかしくないと彼女は呟いた。
修学旅行で家を空けている間に妹は夜中に彼女を探して近所を徘徊していたという。
それを見つけ父親がひどく打ったが、次の日にまた彼女は探しに行ってしまったのだと。
もしかするとまた自分を探して夜な夜な歩きまわっているのでは、と彼女は涙を流した。
僕はそこで情報収集を遂に打ち切った。価値のある情報だった。
大丈夫だよ、と彼女の髪を撫でて僕は落ち着かせる。
妹に会わせてあげたい。僕はそう思う。
次の日から僕は日付が変わるあたりに自転車で出掛けるようになった。
自転車は長らく車庫の隅に置かれていたもので随分と傷んでいる。
この家は市街地から離れている上に通勤はいつも車を使う。
コンビニエンス・ストアもスーパー・マーケットも遠くて車の方が便利だ。
しかし今回は偵察であるので車は使えない。夜に車はとても目立つ。
自転車で夜の道路を走る。小田原厚木道路はこんな時間でも往来がある。
対して下を走るこの道路は人気がない。寝静まっているといった感じだ。
特定のポイントに着き、周囲を確認して自転車のライトを消した。
集落の中に車がやっと一台通れるかといったぐらいの道路が横に伸びている。
コンクリートで固められた上り坂をなんとか登っていくと間もなく茶色の一軒家が見える。
彼女の家だ。電気は点いていない。眠っているのだろう。そのまま止まらずに進む。
小田原厚木道路をトンネルで越える。街灯もない道が続く。不意に視界で何かが動いた。
自転車のライトを点けると少女の姿が浮かび上がる。僕はそのまま自転車を漕いですれ違う。
122
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名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 18:49:49 ID:hKs1utCE0
それは妹くるうだった。紛れも無く彼女の携帯電話に入っていた写真の姿そのものだった。
僕はそのまま自転車を漕いでひどく遠回りをして帰宅した。これを次の日も行なった。
その次の日も、その次の日も、パトカーに注意しながら同じ時間に自転車で走った。
くるうは毎晩その付近にいた。毎晩徘徊していた。毎晩姉を探していた。
彼女の懸念通りであった。少しずつ場所を変えながら彼女は夜中に歩き回っていた。
きっと両親は気づいていないのだろう。また気づいていてももうやめさせないのだろう。
言っても無駄だから。また次の日には出ていってしまうから。
更に行方不明から時間が経ち精神的に参って出来の悪い妹には気が回らないのかもしれない。
何より毎晩無防備に出歩いているというのは好都合だった。僕は次の行動に移る。
ここ数日と同じような時間に車を出す。日付を越え集落は寝静まっている。
車には一台もすれ違わない。パトカーの姿もない。
三週間以上経っているしこんな時間に毎日パトロール出来るほど暇ではないのだろう。
コンクリートの細い道をゆっくりと進む。ライトを消して慎重に進んでいく。
茶色の一軒家は今日も電気が点いていない。もう眠ってしまっている。
小田原厚木道路を越えるトンネルの途中で車を止める。
トンネルには蛍光灯の一つもない。月明かりすら差し込まない曇天の今夜ではまさに暗闇だ。
僕はヘッド・ライトを点灯させた。奥で人影が動いた。やはり今夜も出歩いていた。
(-@∀@)「ねぇ」
車を降りてくるうに声をかける。くるうは驚いて振り返り身を強張らせた。
(-@∀@)「こんな時間にどうしたの」
川 ゚ 々゚)「あ…うう…」
(-@∀@)「誰かを探しているの?」
警戒させないように優しく話しかける。誘導する。
123
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:03:33 ID:sl3GgMEg0
川 ゚ 々゚)「お…おね…ちゃ…」
(-@∀@)「お姉ちゃん? お姉ちゃんを探しているの?」
川 ゚ 々゚)「お、おねえちゃん、おねえちゃん」
(-@∀@)「もしかして、この人かな?」
家を出てくる前に携帯電話で撮影した彼女の写真を見せる。
従順な彼女は何に使うのか用途も聞かずに撮影に応じた。
川 ゚ 々゚)「あ、ああ! おね、おねえちゃん! おねえちゃん!」
予想以上に大きい声を上げたので僕は驚く。小さく狭いトンネルにそれは反響する。
(-@∀@)「お姉ちゃんに会わせてあげるよ」
川 ゚ 々゚)「あ…おねえちゃん」
(-@∀@)「そう、お姉ちゃん」
後部座席のドアを開けて促す。彼女は手を組んで躊躇った。
きっと知らない人には付いて行くなと言いつけられているのだろう。
不届きな不審者が増えた昨今では当然の事だ。学校でも家庭でもそう教えられる。
(-@∀@)「いいの、お姉ちゃんに会えるのに」
川 ゚ 々゚)「あっ、ああぁっ! おねえちゃ、あ」
彼女が映った携帯電話を遠ざけるとくるうはそれを追う。携帯電話を後部座席の置いてやると、ようやくくるうは車に乗った。
僕は素早くロックして運転席に座って車を出す。なんとか舗装だけされている細い道を進んでいく。
山の方をぐるりと回る形で夜の山道を走る。やはりすれ違う車は一台もない。
そのまますみやかに帰宅し、周囲に人影がないかきちんと確認してからくるうを家に招き入れた。
くるうはおねえちゃんと滑舌の悪い呟きを続けている。僕は彼女を粘着テープでくるうの手足を拘束した。
聞き取れない言葉を漏らしながらくるうは抵抗する事なく粘着テープを巻かれる。
124
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:06:15 ID:sl3GgMEg0
簡単なものだ。フローリングの床に置いたくるうを見下ろす。
目を閉じて息を深々と吐く。遂にこの時が来た。
これで僕は理想にたどり着けるのかもしれない。
彼女の絶望の顔をようやく見られるのかもしれない。
いくら冷静な彼女であろうとも。いくら忍耐力のある彼女でも。
壊れてしまうかもしれない。発狂してしまうかもしれない。
しかしそれが楽しみだ。楽しみで仕方ない。考えただけで勃起は最高潮だ。
時間を置こうと思ったが今すぐしよう。叶えよう。僕の理想。彼女の心配。くるうの望み。
僕はくるうを抱き上げて部屋に向かう。本棚をずらして床と同一に見える蓋を外す。
階段をゆっくりと降りる。彼女は眠っているようだった。もう随分と遅い時間なのだ。
川 ゚ 々゚)「お、おねえちゃ! おねえちゃん!」
彼女の姿を見つけてくるうが騒ぐ。僕はくるうを彼女の眠る布団から離れた床に置く。
眠っているなら好都合と僕はくるうをパジャマを脱がす。下着も脱がして裸にしてしまう。
まだ成長途中の身体。くるうは怯えている。僕はそれにあまり興味がない。
くるうをうつ伏せにして尻を持ち上げる。僕も服を脱ぎ裸になって肉棒にローションを塗る。
そしてくるうを押さえつけそれを秘部にねじ込んだ。
川 々 )「あ、ああああっ! いだあああああああ!」
くるうが叫ぶ。構わず僕は奥へと進ませる。何度も出し入れして奥へ奥へと押し込んでいく。
川 々 )「あああああいあああああああああ!」
痛みに耐えかねくるうが泣き叫ぶ。眠っていた彼女がようやく目を覚ます。
さぁ引き裂かれた姉妹の感動の再会だ。
125
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:08:59 ID:sl3GgMEg0
川 ゚ -゚)「えっ」
寝起きの彼女は状況を理解出来ないでいた。
数週間ぶりに再会した最愛の妹が後ろから犯されている。
地下にくるうの叫び声が反響する。反響する。反響する。
川; ゚ -゚)「え、あ、え、やだ、うそ、くるう」
川 々 )「あああっ、おねえぢゃあっ、あああっ!」
川; ゚ -゚)「やだ、くるう! くるう!」
彼女が飛び起きて駆け寄ろうとするが杭に繋がれた手錠がそれを阻む。
手錠が繋がれている以上僕のところまで届かない。見ているしかない。
最愛の妹が犯されていくのを見届けるしかない。
川 ; -;)「うそ、やめて、くるう、なんで、やめて、やめて、やめて」
これまで冷静だった彼女が錯乱している。
急に妹が現れて手を出さないと誓った男に服を剥かれて犯されている。
彼女の言葉は要領を得ず叫んでいるも同然だった。
川 々 )「あああああいだああああああああやあああああああ!」
川 ; -;)「やめて! くるうはやめて! どうして! やめて!」
川 々 )「いああああああああぐうううううううう」
川 ; -;)「やめて! やめて! くるう! くるう! くるう!」
川 々 )「ぎいいいっああああああああ!」
(-@∀@)「あーくるうちゃんいいよぉ、すごくいいぃ」
くるうを押さえつけ後ろから突きながら僕は彼女に微笑みかける。
(-@∀@)「やっと会えたね」
126
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:10:29 ID:sl3GgMEg0
それはまさに絶望の顔だった。遂に見る事の出来た彼女の絶望の顔だった。
信じた僕に裏切られ最愛の妹まで犯されて絶望している。たまらない。
僕の興奮は最高点に達し、たまらず絶頂を迎える。くるうの中に射精する。
驚きと悲しみと混乱と絶望が入り混じった顔で泣き叫ぶ彼女を見ながら長い射精をする。
紛れも無く人生最高の射精だった。かつて感じた事のない恍惚を味わった。
嬉しさのあまり笑いが漏れた。くるうの中で出しながら僕は笑った。
くるうの行方不明のニュースはすぐに世間を駆け巡った。
先に姉が行方不明となった時のニュースは小さなものだったが今度ばかりは大きくなった。
姉が失踪し一ヶ月も経たない内に妹までも姿をくらましたのだ。
ニュースでは妹には知能的に障害があった事も報じていた。
あの集落の住民が神妙な面持ちでインタビューに答えている。
小田原駅から車で十分ほどの閑静な住宅街だと紹介されていた。
出勤する際にも一時期見かけたパトカーがまた多く見られた。
道幅は広くないのにテレビ局の中継車も路上で停まっていていた。
集落の住民達は口々に心配です、早く見つかってほしいですと眉間に皺を寄せて答えていた。
しかし集落はなんだかそわそわしていてむしろ楽しんでいるようにも感じる。
127
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:12:25 ID:sl3GgMEg0
また一軒一軒警察官が訪れるかもしれない。捜査が進んでいなかったのではと批判もされている。
お昼の低俗なワイドショーではそういった警察の対応を批判する体勢を取っていた。警備もおろそかではなかったのかと。
実際くるうは夜中に一人で出歩いていたのだし、両親も気づいていたかは定かではないがそれを放置していたのだ。
怠慢だと批判されるのは両親もだと思うが世間も世論もワイドショーもコメンテーターも彼女の両親には優しかった。
両親は取材には応じられないとしてインターホンにマイクを突きつけられても黙りを決めていた。
代わりに親戚だという千葉県千倉の老夫婦がテレビ取材を受けていた。よく見つけるものだ。
老夫婦は暗い表情で早く見つかってほしい、犯人にはどうしてこんな事をするのかと訊きたいと言った。
彼女が欲しかったからだ、くるうは彼女の絶望の顔を見るためのトリガーとなるためだ。
また妹を心配する彼女の望みを叶えてやりたかったのだと僕は答える。しかしそれは呟きにしかならない。
千葉県千倉の老夫婦にも東京赤坂のワイドショーのスタジオにも届かない。テレビ放送は一方的な一方通行だ。
それに芸人をやっていたはずのこの司会者は彼女の何を知っているのだろう。知っているような顔で話しているが何も知らないだろう。
直前に読んだ台本資料だけで国民代表のような顔をしてよく話をする事が出来るものだ。一方通行に対する唯一の対抗策としてテレビの電源を落とす。
本棚をずらす。床と同一の蓋を外す。階段で下に降りる。
彼女が僕を睨みつける。その頬は涙で濡れている。飽きずに泣けるものだ。
脱水症にはならないだろうか。彼女にはきちんと水分を取ってもらいたい。ポカリスエットをもっと買ってこよう。
ポカリスエットならば僕の勤務するドラッグ・ストアで安く売っているし確かにそれはよく売れる。
川 ゚ -゚)「…くるうは」
何度目だろう。飽きないものだ。それほどに妹が大切なのだ。
128
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:14:39 ID:sl3GgMEg0
(-@∀@)「大丈夫、元気だよ」
川 ゚ -゚)「くるうをどうするんですか」
(-@∀@)「どうもしないよ」
彼女にあるのは怒りだ。裏切られた怒り。くるうのために犠牲になったのに。
初めて僕に向ける感情だ。今まで見せなかった顔だ。
僕としては悲しい。好きな人に怒りを向けられて嬉しい者はいないだろう。
出来れば彼女にそんな顔をしてほしくはない。当たり前の事だ。
(-@∀@)「僕が愛しているのは君だけだ」
彼女は答えない。彼女にあるのは怒り、憎しみ、不安、悲しみ、どれだろう。どれもそうだろうか。
それを僕は一つ一つ取り除いていきたい。取り除いてあげたい。僕は強く思う。
彼女はこんな地下から出られず可哀想だ。排泄もバケツではなく普通のトイレでするべきだ。
風呂にだって入りたいだろう。排泄用とは別のバケツに湯とタオルが用意されそれで身体を拭くだけだ。
髪をしっかりと乾かしたいだろうしトリートメントだってしたいだろう。爪を切り揃えたいだろうし無駄毛の処理もしたいだろう。
それを叶えてあげたい。叶えてあげられない。また相反する。いつも世界は相反している。対者。両者。両手。左右。1と0。
愛しているのに。笑ってほしい。応えてほしい。絶望の顔が見たい。壊したい。むちゃくちゃにしてしまいたい。
手を繋ぎたい。臼で轢き潰したい。共に歩きたい。肋骨を取り出して舐めさせたい。
世界は相反する。いつだって相反する。並行しない。対向する。
川 ゚ -゚)「くるうは本当に無事なんですか」
(-@∀@)「無事さ」
別にくるうには興味はないもの。君さえいればいいんだ。
彼女の家庭も。家庭内のパワー・バランスも。父親からの暴力も。障害を持つくるうが受ける学校での陰湿ないじめも。
テレビ取材に舞い上がり念入りに化粧をしてぺらぺらと内情と話す近所の主婦も。彼女の家庭が幸せな家庭だと信じてやまない親戚も。
彼女さえいればどうでいい。興味が無い。放り投げてしまう。むしろしがらみから解き放ってやりたい。
地下に仕舞った彼女はもう世界の誰も触れる事は出来ない。籠の中のお姫様。僕だけのお姫様。
助けてあげたい。こんな地下に入れられていては可哀想だ。救い出してあげたい。
129
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:25:06 ID:sl3GgMEg0
ちょっと中断します
130
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 19:28:59 ID:qsYpcDro0
待ってる
131
:
名も無きAAのようです
:2016/05/21(土) 20:16:34 ID:ZO0BcwBs0
読んでいてこんなにしんどいのに引き込まれる
132
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:28:54 ID:8rNJ9F560
再開します
133
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:31:29 ID:8rNJ9F560
(-@∀@)「だから安心していいんだよ」
川 ゚ -゚)「…」
僕は準備をして彼女の分の夕食を作る。きちんと食べなければくるうを殺して切り刻んで酒匂川か早川に流してしまうかもしれないと伝える。
彼女は大人しく夕食を食べる。僕とて酒匂川か早川を血で染めたくはないしどちらも目立つ川なのできっと誰かに見つかってしまう。
警察だってテレビが言うより無能ではないのでいずれは僕にたどり着くのではないだろうか。明日にも令状片手に来たっておかしくない。
一人で平屋暮らし、近所付き合い皆無、自転車も運搬出来る車を所持している、これだけで容疑者として挙げられるだろう。
更に一人ならまだしも姉妹二人が連れ去られている。解決は一刻を争う、などと考えていてもおかしくはない。
とはいえ分かっているのは行方不明というだけで誘拐されたという確固たる証拠すらない。犯行声明も出ていないのだ。
ただ姉妹が時間差で忽然と消えたのだ。誘拐と決まった訳でもなく犯行声明もなく身代金の要求もない。
自転車が見つかったとの報道もない。付近の捜索はしているだろうが箱根じゅうを調べるには時間がかかるだろう。
僕は出来ればずっとこうして二人で生きていきたいと思う。けれど彼女の絶望の顔をもっと見たいと思う。
彼女を世界から隔離した。彼女を世界から切り離した。彼女を世界から奪った。彼女を鳥籠に閉じ込めた。
このまま永遠に二人でいられればいいのにと思う。どうして永遠は存在しないのだろう。どうして永遠は手に入れられないのだろう。
いつか警察がここに踏み込む日が来るだろう。そうすれば永遠は終わってしまう。やはりそれは永遠などではなかったのだと気付かされてしまう。
彼女は保護されてあの茶色の一軒家に戻されてしまう。僕は犯罪者の烙印を押されて刑務所に送られてしまう。今の生活が続けばいいのに。
どこか彼女と二人きりで過ごせる世界があればいいのに。絶望の顔のまま彼女の一瞬を永遠に出来ればいいのに。
僕は考えた。考えて考えて、考えぬいた。
そうして僕は、彼女との永遠を見つけ出した。
僕は十八歳の時に独り立ちをして一人暮らしをしていたので自炊は出来る方だった。
だから彼女が食べてくれるのは純粋に嬉しいものだ。くるうを酒匂川か早川に流してしまうとやんわり伝えているのが効いているのだろう。
食事を取るのが彼女の本意ではないにしても僕としては嬉しいのだ。僕が作ったものを彼女が食べているのだ。
134
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:35:38 ID:8rNJ9F560
くるうの失踪から時間が経ち、ニュースで触れられる事も殆どなくなった。
ニュースも新聞も世間も忘れやすい。新たな情報や捜査の新展開がなければ新規で報じられる事もない。
世界には夥しい量のニュースがあって一つの事件をいつまでもだらだらと報道し続ける訳にもいかない。
まして凶悪な事件や規模の大きい事故災害などでもなく真相が何も分かっていない姉妹の失踪事件だ。
面白がって取り上げたワイドショーや週刊誌も特に進展が見られないために今は手もつけない。
くるう失踪から二週間近くが過ぎた。市内のパトロールの強化も最近ではそれほど見られなくなった。
集落でパトカーとすれ違う事は少なくなったしテレビ局の中継車などはもう見る事もない。
熱しやすく冷めやすい世間はすぐに忘れる。発信するものも受け取るものも誰もが無責任なのだ。
しかしそれには無自覚なのである。どうせ忘れるならばさっさと忘れてしまえばいいのだ。
僕は彼女の絶望の顔をようやく見る事が出来、満足をした。それを同時に高望みもした。
もっと、もっと彼女の絶望の顔を見る事が出来るのではないか。更なる絶望の顔を見る事が出来るのではないか。
彼女の前で愛する妹を犯し絶望の顔を見る事が出来た。その後彼女は僕に怒りの顔を見せるようになった。
明確な定義など存在しないのだけれど本当の絶望の顔とは、怒る事も悲しむ事も出来ないものではないだろうか。
彼女には憤怒、憎悪、不安、悲哀が入り混じっている。それはもしかするとそれは雑味なのではないだろうか。
純粋な絶望、混じりけのない絶望。まっさらな絶望。それこそが僕の欲するものではないだろうか。理想ではないだろうか。
彼女を絶望だけで染める。絶望以外のものを体内から追い出す。彼女の中身が絶望のみで満たされた時、遂に世界が開く。
あぁ、楽しみだ。それこそ到達点だ。終焉だ。ゴールだ。僕はそれが欲しい。それを求める。追い求める。
そのために僕は時間をかける。時間をかけて時を熟成させる。警察の捜査が進まないうちにじっくりと待つ。
彼女の前でくるうを殺してばらばらに切り刻んでみれば彼女は本当の絶望の顔を見せるのではとはじめは思った。
しかしそれではその最中に怒りや悲しみが発生する。入り交じる。僕の求める真の絶望の顔にはならないかもしれない。
仕事中に何度も考え精査してようやく僕は今日に至るプランを思いついたのだ。彼女は本当の絶望の顔を見せてくれるはずだ。
この一週間をそのために費やした。期待から出てしまう笑みを彼女の前で堪える事はとても難しい事だった。
135
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:45:29 ID:8rNJ9F560
川 ゚ -゚)「くるうに会わせて下さい…」
くるうと感動の再会を果たしてから二週間近くが過ぎて、彼女の限界は近いようだった。
毎日譫言のようにくるうの名前を呟いていた。そして無事なのかと僕に問いかけた。
あれからくるうを彼女に一度も会わせていない。会っているけれど会わせていない。
くるうに会わせてしまうとプランが台無しになってしまう。混じりけのない絶望を引き出したいのだ。
しかし彼女は心身がすり減って食事はきちんと取らせているものの衰弱しているようだった。
(-@∀@)「まず食事を取るんだ」
慎重に階段を降りてトレーに載せた食事を彼女の元へ置く。今日はビーフ・シチューだ。
川 ゚ -゚)「本当にくるうは無事なんですよね…大丈夫なんですよね…?」
(-@∀@)「あぁ心配する事はない。 いつも君の近くにいるよ」
じっくり煮込んで作ったビーフ・シチューは僕の自信作だ。時間をかけて煮込んだので柔らかい肉はとろとろになっている。
それはまるでとろけるような触感だ。極めて柔らかい肉は彼女の口によって咀嚼されていく。
(-@∀@)「君がここに来てもう一ヶ月以上になるね」
川 ゚ -゚)「…そうですか」
(-@∀@)「僕はとても幸せだったよ」
川 ゚ -゚)「…そうですか」
もう、良いだろう。頃合いだ。
(-@∀@)「ねぇ、くるうに会わせてあげようか」
川* ゚ -゚)「えっ!?」
思いがけない言葉に彼女はついスプーンを落とす。よほど嬉しいのか顔が紅潮している。
川* ゚ -゚)「いいんですか」
136
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 09:52:59 ID:8rNJ9F560
(-@∀@)「あぁ」
でも、と僕は付け加える。
(-@∀@)「くるうは君の中にもいるけどね」
川 ゚ -゚)「え?」
(-@∀@)「すぐそこにもいるんだ」
僕は階段を登る。地下へ降りる寸前にそこに置いておいたくるうを引っ張る。
分割されたそれはどすん、と音をたてて四畳半の地下に落ちた。
紐で縛っておいた足が落ちて、胴体が落ちる。
そして最後に首が落ちてごろごろと床を転がった。
冷凍庫にずっと入れていたので髪は固まっている。
川 - )「あ…あ…」
(-@∀@)「美味しかったかい? 今日のビーフ・シチュー。 尻の肉は柔らかいね。
昨日の太ももの肉も柔らかくてフライにするには少し勿体無かったかな。
あぁ、腹ははじめどう肉を剥ぐべきか試行錯誤の繰り返しで効率良く取る事が出来なかったんだ。
でも君に最初に提供したくるうは腹から取ったものだから美味しく食べる事が出来るはずだよ。
頬の肉もとても柔らかかったね。 鯛も頬の肉は美味しいけれど人も頬の肉は美味しいみたいだ。
けれど早くに傷んでしまうようだったから冷凍保存をせざるを得なかったんだ。
僕の家の冷凍庫はそれほど高性能でもないし随分と古いものだから味が落ちてしまったのは否めない。
けれどくるうをたくさん君に食べさせてあげたかったんだ。 君の愛する妹だからね。
君の中でくるうは咀嚼され消化され君の血となり肉となる。 君の中で永遠に生き続けるんだ。
君の中にくるうはいる。 これでもう離ればなれになれないし寂しい思いをする事もない。
君達姉妹はずっと永遠だ。 誰にも邪魔されずお父さんに殴られる事もなく同級生に苛められる事もなく一緒に永遠の時を過ごすんだ。
あぁなんて幸せなんだ。 君の中にくるうはいる。 美味しかったかい?」
137
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 10:00:47 ID:8rNJ9F560
川 - )「あああああああああ!」
彼女が指を喉に突っ込む。おえ、とくぐもった声がして彼女がくるうを吐き出した。
吐瀉物と共にくるうが出てくる。くるうの尻から削ぎとってじっくり煮込んで柔らかくなった肉。
(-@∀@)「無駄だよおおお君がこの一週間食べた食事は全部くるうだよ! 食べたんだ! 飲み込んだんだ! 消化されたんだ! 君の中にくるうはいるんだよ!」
川 - )「ああああああああああああああ!」
(-@∀@)「そうそうそれだそれだああああ! その顔だ! その顔! その顔が見たかったんだ! あああ、その顔! その顔おおお!」
僕は勃起した肉棒を手でしごいた。あまりの興奮にすぐ絶頂に達してしまう。吐瀉物を出し続ける彼女の顔に精液がかかる。
彼女とくるうに精液が入り交じる。絶望の顔。本当の絶望の顔。真の絶望の顔。混じりけのない絶望の顔。絶望の顔。絶望の顔。
絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の顔絶望の
彼女は壊れてしまった。僕は満足した。望みは達せられた。
もう何も望むものはないと思った。これ以上望むものはない。
地下に降りて蓋を閉めて粘着テープで内側から塞ぐ。換気口にもしっかりと貼る。
押入れにあった七輪に練炭を置き、火をおこした。
たっぷりアルコールを飲んで酩酊状態にしておく。
酒に強くないのでこれで程なくして僕は眠りにつく。
138
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 10:14:57 ID:8rNJ9F560
これで僕と彼女は永遠だ。二人きりで永遠だ。彼女は絶望の顔のまま永遠だ。
僕が明日から無断欠勤する事でいずれ職場から警察に連絡がいくだろう。
そうなれば警察が様子を見に来ていつかこの地下を見つけるだろう。
そこで行方不明の姉妹と僕の死体を見つけて事件の真相を知るのだろう。
僕と彼女は引き離されるだろう。きっと彼女は家の墓に入れられるだろう。
しかしそれは関係のない事だ。死後に僕が犯罪者として罵られる事と同じほどに興味のない事だ。
何故ならば永遠はここから始まるからだ。この覚めない眠りから僕と彼女の永遠が始まるのだ。
死体が引き離されても永遠がここから始まるのだからもう関係がない事なのだ。
全てがここに終わり永遠がここに始まるのだ。その永遠には誰も立ち入れられない。
僕と彼女だけの永遠なのだ。絶望の顔の彼女。二人だけの永遠。ようやく叶えられる。
これは記録だ。
この記録が誰かに読まれる頃には僕は死んでいるだろう。
何せ僕は死んでいるのだから、僕を罪に問う事は出来ない。
例え殺人者だと罵られ墓に唾を吐かれても構わない。
やはりもう死んでいるからだ。死後には何もないのだから気にもならない。
僕は最高の瞬間を味わった。もう未練はないので死ぬのだ。
この記録は僕の最高の瞬間を綴ったものである。
それではさようなら。
(-@∀@)その顔が見たかったようです川 ゚ -゚)
139
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 10:27:11 ID:96ffTjMo0
文章力と相まってこの展開は震えるわ
乙
140
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 14:15:41 ID:y2uLeX5w0
乙、すげーひきこまれた
一瞬姉と妹を繋げるかと思ったけどそんなことはなかったぜ!
141
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 15:00:19 ID:2ij3N.3c0
ぬ き ま し た
乙
142
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 16:00:10 ID:O6BpLbzE0
やっぱ嘘つきハートフルの人じゃん!
怖い話、グロい話するときは事前に言いなさいっていつも言ってたでしょ!
143
:
名も無きAAのようです
:2016/05/22(日) 16:12:39 ID:2DxIvkL60
なんだろうこの二郎で大の器にアブラのみ満タンな物体を完食させられたような読後感は…
144
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:01:56 ID:QihcY4Xc0
>>142
やべっバレた! お許し下さい!
145
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:16:44 ID:QihcY4Xc0
リハ*゚ー゚リ生きているか死んでいるかの境界線のようです爪'ー`)y‐
東京高速臨海鉄道りんかい線品川シーサイド駅から徒歩1分
RC16階地下1階建 築8年
2LDK+S 価格4870万円
JR予讃線詫間駅から車で20分
高松自動車道さぬき豊中ICから車で25分
木造 築49年
5K 価格550万円
146
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:19:44 ID:I1Y9ol3E0
バレバレだったから大丈夫
147
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:20:07 ID:QihcY4Xc0
私は八歳の頃まで家の地下で育ちました。
地下の物置には窓はなく空気はいつも淀んでいました。梅雨の時期などは結露する事も多く壁にはカビが生えていました。
冬には冷えるので古びた毛布によく包まって眠ったものです。薄く粗悪な毛布でしたが厳しい冬を越えるには心強いものでした。
私は地下から出される事は一度たりともありませんでした。それは私という存在は世間に知られる訳にはいかなかったのです。
私には戸籍がありません。母親は私を生んだ後に出生届を提出する事はありませんでした。私は存在していない事になっているのです。
母親は十七の時に私を孕みました。誰にも言う事なく妊娠した事を隠し続け家のトイレで私を出産しました。
そして母親はそのまま私をトイレに流そうとしましたがそこで彼女の母親、私の祖母に見つかりました。
そうして私は生まれてすぐに下水道に流される前に一命を取り留めたのです。
祖母は出生届を出すべきだと言いましたが母親は最後までそれを認めませんでした。
母親は私の父親に当たる男から日常的な暴力を受けており実家に逃げ帰ってきたところだったのです。
出生届を提出すると居場所が知られてしまうというのが原因でした。
そこは祖父がもう十年以上も前に出ていってしまい随分と貧しい家でした。
やがて祖母も数年後に病気で亡くなってしまい母親と私の二人だけになりました。
母親は出生届を出していない私の存在が明るみに出てはいけないと思い地下に隠しました。
148
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:21:36 ID:QihcY4Xc0
私は物心ついた時からずっと地下で過ごしていました。暗くて世界はよく見えないものでした。
母親は三度の食事を持ってくる時だけ地下に現れそれ以外は姿を見せませんでした。
食事も菓子パンであったり母親が食べ終わった後の弁当だったりしました。
地下には風呂もトイレもなく母親の言いつけ通り地下の隅の排水口で排泄を済ませました。
窓はないため常に地下は排泄物のにおいで充満していて食事を持ってくる母親は顔を顰めるのでした。
戸籍がなければ学校に行く事もありません。保育園にも小学校にも行く事はありませんでした。
更に母親から何か教えてもらった事も殆どなかったので文字を書いたり読んだりする事も出来ません。
それどころか私は喋る事もあまり出来ませんでした。言葉が分からなかったのです。
母親が食事を持ってくる時に言う、ごはん。地下に降りてくるといつも顔を歪ませ言う、くさい。
これが私のはじめに覚えた言葉でした。自分の名前も知らなかったのです。
149
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:22:29 ID:QihcY4Xc0
私が地下から出る転機となったのは八歳の時です。急に見知らぬ男が地下に入ってきました。
当時の私は母親しか見た事がなかったので軽いパニック状態になりました。
母親以外の他人という概念も男性という概念も存在しなかったのです。
男はとある組織の人間でした。母親は私をその男に売ったのです。
その組織が買い漁っていたのは私のような戸籍のない子供でした。
マイナンバー制度といって国民には必ず全員に十二桁の番号が割り振られています。
出生届を出さず戸籍のない人間は番号を持たず俗にノーナンバーと呼ばれるそうです。
その組織はある目的のためにノーナンバーを買い漁っていたのでした。
大概の母親はノーナンバーを持て余しており比較的安値で買えるそうです。
150
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:23:44 ID:QihcY4Xc0
母親の顔を見るのはそれが最後になりました。特に何の感情もない顔で私を見ていました。
男は汚れた私を見てずっと地下で育てていたのか、と訊きました。そうよ、とぶっきらぼうに母親は答えます。
なぜ今まで育てたんだ、と男が訊くと生まれた時にトイレに流してしまえば良かったのよ、お母さんが邪魔しなければと言いました。
大きくなるにつれて殺してしまう勇気がなくなったの、恐ろしくなったのと付け加えました。それが最後に見た母親の姿でした。
最後に男は私の名前を訊いていました。母親が私の名前を言いました。初めて呼ばれた私の名前でした。
私にも与えられた名前があったのです。
私が八年を過ごした地下のある家は古びていて散らかっていました。男に連れられ外に出ました。
生まれてから初めての外の世界でした。太陽の光は眩しく目が焼けてしまうのではと思い泣いてしまいました。
灯りもない地下と比べると世界はとても明るいのです。そしてとても広くどこまでも続いているのです。
空というものはまるで終わりがなく左を見ても右を見ても終端が見えず私はとてつもない恐怖心に襲われました。
私は世界の何も知らなかったのです。
151
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:25:02 ID:QihcY4Xc0
私が連れられたのは以前に工場として稼働していた大きな建物でした。
山奥にあり周囲には民家の一つもないような寂しいところです。
更に建物の周囲には有刺鉄線と赤外線レーザーが張り巡らされているのでした。
その建物には私と同じようなノーナンバーの子供達が百人近く集められていました。
年齢は私が最年少らしく八歳から十七歳までと若い女の子ばかりでした。
大勢の他者を前に私は再び怯えていました。何か話しかけられても私は言葉を知りません。
建物には簡易な寝床とシャワーがあり衝立で仕切られた空間が多く設置されていました。
代表らしき男が百人近くの子供を前にして説明を始めました。まずお前達は売られたのだと突きつけました。
その一言で何人もの子が泣き始めました。私は売られたという意味もその子達が泣き始めた理由も分かりませんでした。
当時は理解出来ませんでしたが代表の男は私達の今後を説明したのでした。それは私達が売春婦として育てられるといったものでした。
この世には小児愛者といって年端もいかない少女を好む男性が多いのだそうです。私達はそんな小児愛者を接待する売春婦になるのです。
表向きには出来ないながらも需要はたいへん大きいのだと語りました。お前達は少女である今こそ莫大な価値があるのだと。
152
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:26:08 ID:QihcY4Xc0
それから私達は売春婦として出荷されるべく様々な勉強を受けたのです。その建物は養成施設だったのです。
これまで普通に育てられた子供達はさっそくセックスの作法などを教え込まれていました。
施設にはたくさんの男がいて指導をします。衝立で仕切られた狭い空間で子供達は肉棒を咥えさせられていました。
私のような親の教育もなかった子供はまず初歩的な勉強から始まりました。最低限喋る事が出来なければいけないと言われました。
自分。他者。社会。世界。男性。女性。大人。子供。ペニス。ヴァギナ。セックス。フェラチオ。精液。愛液。
様々な事を学びました。とにかく売春婦として機能するようセックスに関する事柄を優先的に叩きこまれました。
私はとにかく突きつけられる情報を吸収する事に精一杯で嫌だという気持ちはありませんでした。
しかし反発する子供は少なくありませんでした。愚図る子や喚く子もいました。そうすると男に叩かれるのです。
男達は顔を傷つけてはいけないと決められているようでした。商品なのだからと代表の男が言っていました。
強く叩いたりすると静かになる子供が多かったようです。静かに泣き続ける子もいました。
お家に帰りたい。ママのところに帰りたい。そう言って子供達は泣きます。
しかし男達は冷淡に、お前達は母親に売られたのだと言い放つのでした。
帰る家はないのだと。更に逃げようと思っても無駄だと強く言いました。
施設の外には有刺鉄線と赤外線レーザーが張り巡らされています。
そして夜に寝ている間にも当直の男が見張っているのです。
だから無駄だ。それにもし逃げようとすれば厳しい罰が待っていると告げました。
153
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:27:28 ID:QihcY4Xc0
それでも脱走を試みた者が現れたのは半年が経った頃でした。
十六歳の子で就寝後に見張りの男が居眠りをした隙をついて逃げ出しました。
しかしすぐに赤外線レーザーに感知され施設じゅうに聞いた事もない恐ろしい野太いブザーが鳴り響きました。
子供達も男達もその音で飛び起きました。怒号が飛び交い十分も経たぬ内にその脱走者は連れ戻されました。
有刺鉄線を無理に乗り越えようとしたのか太ももには大きな切り傷が出来て肉が抉れていました。
どす黒い血がとめどなく傷口から溢れています。しかし手当てをされる事はありませんでした。
当直の五人の男達が私達の前で脱走者の髪を掴んで殴りました。何度も何度も顔を殴りました。
歯が欠けてリノリウムの床に落ちました。それでも殴る事はやめません。
口からも血が流れ顔はへこんで変形してしまいました。
それはまさしく見せしめだったのです。
脱走した者はこうなる。よく見ておけと男達は言いました。
また目を背けてはいけない。目を閉じたりした者もこうして殴られると忠告しました。
そして本当に目を背けていないか見張りの役を立たせたのです。私達はどれほど恐ろしくとも目を瞑る事すら叶わなくなりました。
男の一人がどこからか器具を持ってきました。それはペンチでした。脱走者を押さえつけ指先にそれをあてがいました。
すると殴られてからぐったりとしていた脱走者が獣のような悲鳴を上げたのです。そして男の手から血だらけの爪が捨てられました。
爪を剥がされていたのです。一枚一枚ペンチで爪を剥がされるたびに脱走者は金切り声に近い悲鳴を上げそれは静かな施設に反響するのでした。
親指。人差し指。中指。薬指。小指。右手の爪が剥がされた後は左手の爪も全部剥がしていきます。そのたびに施設には悲鳴が響きました。
泣いている子がたくさんいました。嘔吐する子も小便を漏らしてしまう子もしました。しかし目を逸らす事は許されません。
私は自分の爪をつまんで逆方向に力いっぱい引っ張ってみました。するととても痛いのです。涙がにじみました。
154
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:33:29 ID:QihcY4Xc0
脱走者は許して下さいと何度も懇願していました。幼さの残る顔は腫れて原型を留めていません。
男達は泣いて許しを請う脱走者を縛りました。外から錆びたドラム缶を転がしてきました。
ごろごろごろごろ静かな施設に響くその音は恐ろしく不気味でした。
ドラム缶は床に立てられ脱走者はその中に放られました。頭から落ちたらしくドラム缶の下の方からうめき声が聞こえます。
そして更に外の大きな鉄製の扉が開け放たれ車が入ってきました。私が施設に連れてこられた時に乗ったものとは異なる車でした。
車は背中に大きなタンクを積んでおりそこから注ぎ口にようにパイプが伸びていました。タンクはぐるぐると回っています。
当時は何なのか分かりませんでしたがそれは粉粒体運搬車でセメントを積んでいるのでした。
セメントがドラム缶に流し込まれると中からぎゃっと悲鳴が聞こえました。
しかしセメントが流し込まれるにつれ悲鳴は途切れやがて静かになりました。
数日後にきちんと固まったドラム缶はまた転がされて外へ持って行かれました。
あのごろごろごろごろとした不気味な音はもう聞きたくないと思いました。
それから脱走する者は一人もいませんでした。
私も初歩的な教育が終わり、今度は性教育が始まりました。ようやく最低限の言葉を話せるようになりました。
自分の名前を言えるようにもなりました。自分と他者との違いも理解出来るようになりました。
男は肉棒を出して私にこれはなんだいと訊きます。おちんちんと答えるとそうだと男は頷きました。
まず他の子供の様子を見せてもらい勉強する事になりました。その見本の子は椅子に座った男の前で跪きます。
よろしくお願いしますと頭を下げてからズボンのファスナーを下げました。肉棒を取り出して触ったりします。
そして舌を這わせてからそれを咥えました。そして頭を上下させて激しく動かします。
あらかじめ座学として私は足し算などではなく性に関する知識を教え込まれていました。
どうしたら男性が気持ちよくなるか。どうしたら嬉しいか。どこが良いか。
勃起の仕組みも射精の仕組みも学びました。射精がゴールという事も学びました。
男が苦しそうな声を上げて足をぴんと伸ばしました。それで射精したのだと分かりました。
間近で見ると肉棒は脈打ちその子の口の中で精液を放出しているようでした。
155
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:34:29 ID:QihcY4Xc0
私も実技を教えられるようになりました。歯を当てないようにするにはたいへん難しく苦戦しました。
しかし歯を当てたりすると男に強く怒られ絶対にしてはいけない事なのだと学びました。
私は初潮がまだだったのでセックスについては教えられず主にフェラチオなどでした。
売春婦となってからはそういう行為を専門にするのだと説明されました。
やがて何人かが売春婦として売りだされていきました。
この組織は若いノーナンバーの子供を買い取って売春婦に仕立て上げて売りさばく組織だったのです。
合格点を与えられた者から次々と売られていきました。補充する形で新しいノーナンバーの子供達が施設に連れてこられました。
そして施設で過ごした時間が二年に到達した頃に私も売却先が決まりました。他の子同様に皆がこっそりお祝いの言葉をくれました。
家を出る時にはなかった寂しい気持ちがありました。なんだか胸が締め付けられるのです。これが悲しいのだと最後に学びました。
156
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:35:20 ID:QihcY4Xc0
私が売られたのは会員制の風俗店でした。君は通常客には公開されない常連向けの隠しダネだと店長を名乗る男が言いました。
この店には小児愛者が集まる隠れた店だそうです。私の他にも若い女の子の姿がありました。
それでも当時の私は十歳で、こんなに若い子は初めてだと店長は喜んでいました。
味見をするよ、と店長が部下に言いました。そして私は店にある部屋に連れられました。
部屋にはベッドがあり奥にはシャワーがあります。これが一般的なスタイルなのだそうです。
裸になって二人でシャワーに入りました。店長は太っていて腹がでっぷりと出ていました。
腹には絡みあうように毛が生えてその下に肉棒が隠れているかのようでした。
私の身体を見て店長の肉棒はむくむくと大きくなります。舐め回すように身体をチェックしました。
そして私のまだ毛の生えていない秘部を撫で回しました。毛が生えていない事を店長はたいそう喜んでいました。
157
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:36:16 ID:QihcY4Xc0
私は施設で教わったように店長の許可を得てから肉棒を触りました。そして舌を這わせて咥えます。
すると店長が私の頭を掴んで激しく上下させました。肉棒が喉奥を突いて強烈な吐き気に襲われます。
しかし絶対に吐いてはいけないと教わっているのです。必死に我慢します。店長は構わず肉棒を喉奥に突きました。
根本の陰毛が鼻に入ってきます。店長の玉袋が顎に何度も当たります。私は歯を当てないようになんとか受け止めます。
店長が震えたあと射精をしました。粘っこい精液が口の中に注ぎ込まれます。それを吐き出さないよう飲み込まないよう受け止めます。
やがて射精が終わり肉棒を引き抜かれました。私は口を開けて精液を見せ、舌で回して、一気に飲み干しました。
そして口をもう一度大きく開けて空っぽになった事を証明します。そしてありがとうございましたと頭を上げました。
完璧だ、最高だよと店長が喜びました。そうすると私も嬉しくなりました。
相手が笑うとなんだか私も嬉しくなるのです。温かくなるのです。
晴れて私は売春婦としてデビューする事になりました。客は信頼できる常連に限られるそうです。
お客様達は私を見て一様に驚きました。本当に幼いと言います。そして私の叩きこまれた技術にも驚くのです。
この歳でここまで出来るなんてどんなルートを使ったのだと訊かれても店長は決して明かす事はしませんでした。
あの組織は秘密の組織なのかもしれません。私は指名される事が多くなり人気を集めていると店長に言われました。
158
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:37:29 ID:QihcY4Xc0
普通は大人の女性を好きになるもので私のような年齢の子供を性的な目で見るのは特殊なカテゴリに振り分けられるそうです。
店に来るのはそういう特殊なカテゴリに属する小児愛者ばかりでした。普段はその性癖を出す場がないのだそうです。
だからこの店は特殊なのだ、楽園なのだとお客様の一人は語りました。楽園という意味が分からず教えてもらいました。
楽園。シャングリラ。エデン。ジハード。難しくて理解出来ませんでした。しかし喜んでくれたので私も嬉しくなりました。
とても若く希少性価値があるという事で私は一回十万円と極めて高価な額で売られていたそうです。
私は店から出る事は許されませんでしたが食事と衣食住は与えられました。
それに射精をするとお客様は皆喜びます。そうすると私も嬉しくなるのです。
一日に六回ほどの仕事をこなしました。疲れるものの疑問は感じませんでした。
159
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:38:23 ID:QihcY4Xc0
やがて私は初潮を迎えてお客様とセックスをするようになりました。更に高値を払ってたくさんのお客様が来ました。
セックスをするに当たっては様々な勉強が新たに必要となりました。教習なのだと店長とも何度もセックスをしました。
初潮が来たあと、セックスの勉強をする前に一度だけお客様とセックスをしました。
初めてのセックスは極めて高い価値があるのだと私は店長に説明されました。
ただされるがままで良いのだと、そう言われて私は送り出されました。
いつもは口で受け止めている肉棒が体内に入り込んできました。とても身体が熱くなりました。
痛みと正体不明の波が押し寄せて私は混乱しました。変な声も出てしまいました。
初めてのセックスで自分の中の何かが破れた感覚がありました。これが価値のあるものなのかなと思いました。
セックスは他者との融合だと思いました。自分という絶対的な独立した存在の中に他者が入ってきます。
繋がって一つになる事なのだと考えるとヒリヒリとした痛みも次第に気持ちよくなっていきました。
口の中で舌を絡ませるのも秘部を指で掻き回されるのも肉棒を膣で受け入れるのも他者との融合なのです。
その初めてのセックスに数百万を積んだお客様は満足されたようでした。
160
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:39:51 ID:QihcY4Xc0
様々なお客様とセックスをしました。皆私の幼さに興奮して、射精をすると喜びます。
取締役社長。医師。外交官。銀行員。官僚。学校の教師。色んな方と交わりました。
家庭があり子供がいる方もいました。娘が君と同い年なのだと言われた事もありました。
やはり普段は私のような幼い子供が好きだと公言している方は一人もいませんでした。
大人が私のような子供とセックスをするのは犯罪なのだそうです。犯罪の意味は分かりませんでしたが悪い事だと教わりました。
店長に雇われてお客様とセックスをして私は暮らしています。そうする事で寝床を用意してもらい食事をいただいているのです。
それが悪い事だというのは不思議な事でした。悪い事というのは良くない事です。それでも私はそうして生きているのです。
161
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:40:35 ID:QihcY4Xc0
次の転機が訪れたのは私が十四歳の頃でした。
私の人生を大きく動かす事となるお客様はセックスにすっかり慣れた頃に初めてやって来られました。
まだ若く三十代だと自己紹介をされました。私を気に入ったそうで何度も来店されました。
必ず私を指名して店長もお得意様だと言っていました。しかし彼は他のお客様とは少し違ったのです。
彼が通い始めてから半年ほど経った時に私は君に恋をしているのだと告げられました。
私は恋というものが分かりませんでした。セックスは生活であり恋愛感情など一度も抱いた事がありません。
そもそも恋愛も愛も理解の及ぶものではないのです。セックスをするのにそのような経由地はありませんでした。
彼は私を自分のものにしたいと言いました。しかし私は店長に買われた身なのです。
それは出来ないと答えました。彼は大丈夫だと言いました。君を攫うのだと、耳打ちしました。
攫う、その意味も分かりませんでした。色んな言葉を覚えましたが私の語彙はまだ貧しいものです。
そのため私はそう告げられても店長に相談する事もありませんでした。
162
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:41:33 ID:QihcY4Xc0
彼の告白の数週間後の事でした。また彼は私を求めて店にやって来ました。
私に充てがわれた部屋で会話をしていつも通りシャワーへ行こうとしましたが彼は優しく制しました。
彼はどうしてかシャワーを浴びようとはしないのです。それにしきりに腕時計を気にしているようでした。
時間だ、と彼が言うと階下から物音がしました。続いて怒号も聞こえます。店に流れていた音楽が止められました。
彼は私の手を引き部屋を出ました。まるで構造を知っていたかのように入り組んだ通路をさっと進んでいきます。
怒号や悲鳴があちこちから聞こえていました。彼は気にせずにずんずんと進んでいきます。
そして裏口から外へと出ました。店から出る事を許されていなかった私にとっては売られてきた時以来の外の世界でした。
既に遅い時間で闇夜が街を包んでいました。店のビルの付近は赤い灯りが幾つも回転していました。
傍らに停められていた車に乗せられました。彼は車のエンジンをかけてその場からさっと離れていきます。
四年以上を過ごした店があっという間に遠くなっていきます。私は店長に何も言っていません。きっと怒られてしまいます。
しかし彼はその心配は必要ないと言いました。君はもう解放されたのだと。解放。その言葉を新たに私は学びました。
163
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:42:57 ID:QihcY4Xc0
彼は警察に店の正体を密告したのでした。そして独自のルートで警察が店に踏み込む時間を知りその混乱に乗じて私を攫ったのです。
犯罪をすれば、悪い事をすれば、逮捕され罰せられるのだという事は知っていました。きっと店長も捕まってしまうのです。
良くない事だと思いました。しかし彼は君を奴隷のようにこき使い続けた報いだと言い放ちました。
車は走り続けました。彼はそれまでの生活を捨てたのだと語りました。
私との生活のために新しい環境を用意したのだと。車は見た事のない幾つもの街を駆け抜けていきます。
夜が明けてやがて車は大きな街に着きました。そこは街と表現するべきものが何十何百も連続していました。
空まで届きそうな大きな建物が連なっていました。更に人がいっぱい歩いているのです。
男性も女性もたくさんいるのです。彼の運転する車が止まるとその人達は立ち止まっていたのに一斉に歩き出しました。
大勢の人が同じ方向に向かって歩いていく様は圧巻でした。私には異様な姿に見えました。
164
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:44:28 ID:QihcY4Xc0
更にあれほどたくさんの人がいても男性と女性のどちらかなのです。
あれだけ多くの男性もやはり射精すると喜ぶのでしょうか。
黒い服を着込んでいますがあの中には肉棒があるはずです。
あれだけ多くの女性もやはり男性の肉棒を咥えているのでしょうか。
黒い服を着込んでいますがあの中には秘部や胸があるはずです。
車がいくら進んでも大きな建物が続き、止まるたびに大勢の人が横切っていきます。
彼の用意した新しい住まいも大きな建物にありました。マンションというのだと彼が教えてくれました。
そのマンションは海沿いにありました。海というものを聞いた事はありましたが実際に見るのは初めてでした。
どこまでも永遠に水が続いているのだと聞いていましたが水の終端は比較的近くにあります。
マンションの向かいには同じようなマンションや工場が建ち並んでいました。
下を見下ろすと車がびゅんびゅん走り抜けていく道路と灰色の棒が続いています。
灰色の棒を時折長細いものが這うように走っていきます。
彼は手前が首都高、奥が東京モノレールだと順に説明してくれました。
それにこの海は厳密に言えば運河と呼ばれるものだと付け足しました。
165
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:46:41 ID:QihcY4Xc0
彼との二人だけの生活が始まりました。一日中男性の肉棒を咥える事はなくなりました。
セックスは彼とだけします。彼は朝に仕事へ出掛け夕方に帰ってくると私とセックスをしました。
私はその間彼の本を読んだりしました。彼と暮らすようになってから文字を教えてもらいました。
ひらがなから始めカタカナを学びました。そして漢字を教えてもらいました。
漢字はひらがなやカタカナと比べると種類が多く複雑であるため非常に難しいものでした。
しかし新たに知識を蓄えていく事が楽しかった私は根気よく勉強をしました。
一年ほど経ってようやく多くの漢字を書けたり読んだりする事が可能になりました。
彼が毎朝コーヒーを飲みながら目を通している新聞も読める事が出来るようになりました。
彼には文字や言葉以外の多くの事も教えてもらいました。この世の仕組み。社会構造。経済。倫理。道徳。
生と死についても学びました。母親と父親、妊娠と出産についても教わりました。
私の母親も男性の肉棒を咥えてセックスをして私を妊娠して出産したのです。
生の仕組みはたいへん不思議なものでした。また死というのも不可解なものでした。
前者は今現在私がこうして生活しているので理解が出来ました。しかし後者は違います。
死というものは実感する事が出来ません。死を迎えると虚無だと彼は言います。
何も見えず何も聞こえず誰にも会えず何も感じ取る事が出来ない。全ての終わり。
そう彼が説明すると寂しいものだと私は思いました。そうなりたくはないとも思いました。
生に至るには一つしか方法がないのに死に至るには様々な方法があるのだそうです。
事故であったり病気であったり、色んな要因で死んでしまうのだそうです。
そういえば私も人の死を見た事がありました。あの養成施設の脱走者です。
殴られ爪を剥がされたあと錆びたドラム缶に詰められセメントを流し込まれていました。
あれはきっと死だったのだと彼に言うと彼は何も言いませんでした。
166
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:48:12 ID:QihcY4Xc0
彼との生活は楽しいものでした。しかし彼も私を外には出してくれませんでした。
それはやはり戸籍がないからです。ノーナンバーである以上、私はこの国に存在していない事になります。
存在するはずのない人間が存在していたらどうなるか、と彼に言われました。外には出られないのです。
戸籍があればいいのに、と私は思いました。母親が出生届を出さなかったばかりに私は外に出られません。
私は望んで戸籍がない訳ではないのに、なんだか不条理だと思いました。
ベランダに出ては運河という海を眺めました。この運河の向こうには本当に終端の見えない海があるそうです。
いつか見てみたいと思いを馳せながら私はそちらの方を見るのでした。
彼は日中仕事をしていましたがマンションに帰ってきてからもパソコンをいつも見ていました。
画面にはグラフと数字が表示されています。彼は株の説明をしてくれましたがその説明は特段に難しいものでした。
どうやら彼はそのグラフと数字を見極める事で別の確立された収入を得ているようでした。むしろそちらこそが年収の大半なのだと。
会社でもいつもチェックしているのだ、と彼は言いました。そうする間にもグラフと数字は変動していきます。
いつか君も挑戦しているといいとどこか楽しそうに話しました。
167
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:49:13 ID:QihcY4Xc0
ある日、彼が仕事に出掛けている時の事です。私はソファーに座って本を読んでいました。
部屋のインターホンが鳴らされ見に行くと水道の点検だという男が訪ねてきていました。
作業服を来た中年の男は人の良さそうな笑顔で業務を説明しました。
水道の点検を断るよう指示を受けていなかった私は部屋に上がってもらいました。
男は部屋を見渡して君一人なのかいと尋ねたのでそうですと答えました。
すると男の笑顔が消え私に飛びかかってきました。私はソファーに押し倒されました。
男は私とセックスをしました。男は乱暴に私の服を脱がし肉棒を押し込みました。
私はそれを受け止めました。男も男性なのだから射精をすると喜ぶのだと思いました。
しかし男は射精をしても慌ただしく服を着るのみでした。そして男はそそくさと帰って行きました。
彼が帰宅してから私を見てひどく驚きました。そしてすぐに問い詰めました。私はきちんと出来事を話しました。
私は彼に頬を打たれました。じんと痛みました。叩かれるのは久しぶりでした。彼は何度も私を打ちました。
そして私を強く抱きしめました。私にはまだ倫理というものが足らなかったそうです。
168
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:51:01 ID:QihcY4Xc0
次の転機は十八歳の時です。私も少女の時期を終え大人へと変貌しつつありました。
相変わらず外には出してもらえませんでしたが多くの本を読み知識を蓄積していました。
こうして部屋から出ず家事をして主人の帰りを待つのはまさに専業主婦であると考える事も出来るようになっていました。
その日は彼の仕事が休みの日で、二人で映画を見ていました。映写機で部屋の白い壁に映画を映すのです。
映画が中盤に差し掛かったところでインターホンが鳴りました。彼がモニタで確認すると宅配業者が荷物を抱えて待っていました。
何の荷物だろうと首を傾げながら彼が立ち上がりドアを開けました。するとすぐに宅配業者が彼を突き飛ばし部屋に入ってきました。
そして荷物のように見えたポリタンクのキャップを外して中身を部屋に撒き散らします。異臭のする液体でした。
久しぶりだな、と宅配業者が深く被った帽子を脱いで言いました。それは宅配業者を装った店長でした。どうして、と彼は狼狽します。
出所したのさ、と店長は答えました。お前の居場所を調べさせたのだと。やはりこの女が目当てだったのだなと彼に言いました。
169
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:52:23 ID:QihcY4Xc0
抵抗すれば火をつけると脅し無抵抗の彼を何度も殴りました。店長が部屋に撒いたのはガソリンでした。彼はひたすらに殴り続けられます。
肩で大きく息をして店長は私を見ました。でっぷりと太っていた店長はいくらか痩せたように見えました。
大人になってしまったな、と悲しそうに店長は言いました。小児愛者は大人になってしまうと興味がなくなってしまうのです。
もう私は店長が好む少女ではなくなっていたのでした。彼は小児愛者であるはずなのに私をずっと好んでいるのだとも気付かされました。
さようならだ、と店長は言いました。火のついたライターを床に落とし部屋を去って行きました。一気に部屋は炎に包まれます。
私の身体も炎に焼かれました。血まみれの彼が叫びました。とても熱く私はのたうち回りました。
水がかけられます。しかし私の全身の熱さと強烈な痛みは消えず意識が遠のいていきました。
170
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 18:57:42 ID:QihcY4Xc0
ちょっとカバネリ見るので中断します
171
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 19:08:03 ID:I1Y9ol3E0
おい
待ってる
172
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 19:51:04 ID:7zBJRUNg0
前半の二話は読者を油断させるためのブラフだったんだな
どれも面白いけど
173
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 21:49:20 ID:rsid.5cs0
む、無名ちゃん…無名ちゃん…ウッ
再開します
174
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 21:52:21 ID:rsid.5cs0
目を覚ました場所は彼と住むマンションではありませんでした。薄暗い部屋でした。
彼の姿が見えました。少し老けた気がしました。やつれているような気もします。
私はベッドで眠っていたらしく身体を起こしました。手や足を動かしてみてくれと彼に言われその通りにしました。
手と足を動かしてみるときちんと動きます。しかしそれはまるで私自身のものとは思えませんでした。
触ってみるととても巧妙に出来ていますがそれは作り物でした。知識にあった義手なのではと彼に訊きました。
しかし彼の答えは私の予想を遥かに上回るものでした。
店長が部屋にガソリンを撒いて火を付けたあの火事で私は全身にひどい火傷を負いながらも一命は取り留めたそうです。
しかし皮膚は壊死しておりこのままでは死を待つばかりの状態だったそうです。
そのため彼は私の脳データのコピーを取り市販されている量産型アンドロイドに転写しました。
私という人格や記憶はそのままにそれまでの身体からアンドロイドに乗り代わったのです。
覚醒するまでに半年近くかかり焼けただれた身体はとうに腐ってしまったそうです。
私は彼になんとか生かされたのでした。私という記憶を全てきちんと引き継いで新たな身体を手に入れたのです。
身体は腐ってしまいましたがこうして私という人格は健在です。私は生きているのです。
私は彼に感謝しました。
175
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 21:58:18 ID:rsid.5cs0
アンドロイドという機械の身体になりましたが本物の人間の身体と遜色なく動く事が出来ます。
むしろ本物らしくするために過度な性能は抑えてあり見た目は完全に人間のようです。
おかげで私はこれまで通りの生活を送る事が出来るようになりました。
まずは歩いたり、コップを持っていたり簡単な動作確認から始めます。
それらがきちんと行われれば走ってみたりボールを投げてみたりしました。
まるで退院後のリハビリのようでもありました。
機械の身体は私の意志にきちんと答え自分の身体も同然のように感じました。
今までどおり食事も出来るしその代償としてごく普通に排泄もします。
リハビリの最後に彼とセックスをしました。機械の身体でも彼としっかりと感じる事が出来ました。
私はこれで完全に元の生活を取り戻したのです。
彼は私を連れて地方へ住まいを変えました。田舎と呼ばれるようなところです。
店長はまた逮捕されたのでもう押しかけられる事はないでしょう。
しかし放火をされ注目を集めてしまった以上はもうあのマンションにはいられませんでした。
もう私は世間体というものを理解する事が出来るほどでした。
176
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:01:21 ID:rsid.5cs0
新しく移り住むのは東京から遠く離れた四国の海沿いの街でした。
私が店から連れ出された時よりも長く車は高速道路を走りました。
およそ四キロメートルの長さがあるとても大きな吊り橋を渡り長閑な風景の中を進んでいきます。
高速道路を降りて長いトンネルを抜けます。そうするとリアウインドウいっぱいに海が見えました。
太陽の光が当たって水面がきらきらと輝いています。私は助手席から身を乗り出してそれを観察しました。
本当に水ばかりで終端が見えないのです。運河とは違います。これが本物の海というものなのです。
下り坂を降りると道路はすぐ海沿いにまで達していました。その海沿いに小規模な街が広がっています。
ここは自分の生まれた街なのだと彼が教えてくれました。生まれ故郷というものです。
既に両親は他界しており生家も駐車場になって残っていないそうです。
海沿いに車を停めてすぐ近くにまで歩いてみます。砂浜はとても歩きづらいのだと知りました。
波は寄ってきたり去ってきたりそれを繰り返します。それを見ているだけでもどこか安心します。
時折大きな波がやって来て白い波飛沫を起こしました。手ですくってみると冷たい海水が指から漏れていきます。
海はどこまでも青い色を保持しているのにすくった水は透明で不思議なものです。
177
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:02:22 ID:rsid.5cs0
彼は砂浜に座って本当はこの街が嫌いだったんだ、と話し始めました。
典型的な田舎と言えるこの街には何もない。それが嫌だった。
だから必ず都会に出るのだと幼少時から決め、実際に都会の大学に進んだそうです。
けれど今はこの何もない街に帰ってきたいと思ったのだと。
どうしてだろうね、と彼は訊きました。私は首を傾げました。
きっと君に僕が見た景色を見せてあげたかったんだ、と彼は笑いました。
海沿いの街の数少ない物件に私と彼は住む事になりました。
すぐそばに海が来ていて夜になると波打つ音が聞こえるぐらいでした。
眠る時にその音を聞くと安心して深い眠りに誘われるのです。
私はよく海を見に行きました。そのぐらいなら彼も許してくれました。
どれだけ海にいても日焼けはしませんでした。また汗をかく機能もありませんでした。
人間の身体を見た目も機能もほぼ完璧に再現したこの機械の身体も不要とみなされたものは搭載されていません。
爪は伸びず無駄な体毛もないので処理が必要ないという点ではとても楽なのです。
178
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:03:35 ID:rsid.5cs0
彼は株取引をやめました。普通に働く事にしたのです。
せっかく田舎に帰ってきたのだから都会とは縁を切ろうという事だそうです。
車もドイツ製のものから国産の軽自動車に変えました。
この田舎町にはこちらの方が似合うよと満足気でした。
海沿いの街を彼と一緒に歩きました。
彼が通った小学校、毎日歩いた通学路、よく遊びに行った公園。
そうやって彼の足跡を辿ったのです。彼をまた少し知る事が出来た気がしました。
生まれ故郷といえば私にもあったはずです。久しぶりにそれを思い出しました。
教育を受けていなかった上に連れ出されるまで地下で過ごしたのでどの街なのかも分かりません。
車に乗せられ養成施設へ連れて行かれる時に見た最初で最後の故郷の流れていく風景も殆ど思い出せません。
最後に私の名前をたった一度だけ呼んだ母親。その母親の顔も、もうぼんやりとしか覚えていないのです。
今になって寂しい気持ちになりました。私は彼の手を握りました。
179
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名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:04:48 ID:rsid.5cs0
二十年ほどが経ち、彼が病気になりました。完全治癒が極めて難しい病気でした。
彼は入院する事を断り二人で住む家のベッドで長い時間を過ごしました。
病院に入れば君に会えなくなってしまう。それにもう苦しい思いをしてでも生きようとは思わない。
彼はそう語りました。もう満足なのだ、と本当に幸せそうな顔で言うのです。
私はこれまで以上に彼に世話をしました。もうセックスをする事もありませんでした。
彼は五十代となっていて随分と老け込みました。若い頃の不摂生だなと彼は自嘲気味に笑いました。
私は機械の身体なので容姿は変わりません。十八歳の時から見た目は変わっていないのです。
そのためやはり私はあまり外に出る事は出来ないでいました。買い物は配送が基本でした。
彼だけが老いていき私だけが若い姿のまま置いて行かれるのでした。
同じ時間を過ごしているはずなのに私だけが取り残されたような気がしました。
ずっと一緒にいたのに別々の時間が経過しているような感じがしました。
しかし彼は僕が好きだった姿のままだと言ってくれました。
180
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:05:55 ID:rsid.5cs0
彼の病状は悪化しいよいよ残された時間は少ないのだと彼は言いました。
いつか彼に教えてもらった死が現実のものになろうとしています。生とは違って死は体感出来ません。
死とは無と同然なのです。そこで全てが終わるのです。その先はないのです。
その虚無に間もなく彼は行ってしまう。どうすれば良いのか分かりませんでした。
色々な事を教えてもらったのにまだ分からない事があるのです。
彼に何かやり残した事はないか、最後にしたい事はと訊きました。
すると彼は首を横に振り何もないよと答えました。君がいるじゃないかと。
せめてと彼の一番の好物を作ると嬉しそうに食べました。私が箸を使って食べさせました。
ゆっくりと咀嚼する彼はあまりにも弱々しく見えました。
静かにしていると波打つ音が聞こえてきます。
窓から海風がふんわりと吹いてきてカーテンを揺らしました。
ありがとう。彼は言いました。君がいてくれて良かった。
君に見守られながら死んでいけるのだから幸せだよ。
そう言って彼は目を閉じました。私はずっと手を握っていました。
フォックス。私は彼の名前を呼びました。しかしもう呼びかけに応じる事はありませんでした。
私はもう動かない彼を埋葬しました。盛った土の上に花を手向けました。
悲しいと思うのに涙は流れませんでした。どうやら涙という機能も不要とされ搭載されなかったようです。
181
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:06:42 ID:rsid.5cs0
彼は私に見送られて幸せだと言いました。しかし残された私はどうすればいいのでしょう。
私は結局一人になってしまいます。これからは一人で生きていかなければなりません。
彼は株取引をやめたので遺産はそれほど多くはありませんでした。
数年のうちにそれは底をつきそうになってしまいました。
働きたいのですが私にはやはり戸籍がないのです。
戸籍がなければ履歴書を出す事も出来ないのです。
容姿は十八歳のままなのでまた売春婦として働くというのも視野に入れましたがそれは不可能でした。
彼が年老いてセックスをする事がなくなったため長い時間使用しておらずメンテナンス不足だったのです。
私の膣はもう機能しないようでした。
182
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:08:35 ID:rsid.5cs0
やがて私の身体そのものが機能不良となっていきました。どうやら摩耗のようです。
本物にすら感じたこの身体も機械のものであったと再確認をしました。
定期的なメンテナンスを行わないのならば当然の事です。
思考は正常なのに身体が思うように動かなくなっていきました。
上手く歩けず遂には崩れ落ちるように膝をつきました。
ちょうどその時インターホンが鳴らされました。
きっと配送の業者です。受け取らなければ、と思い這って玄関まで行きました。
業者はそんな私を見てぎょっとした様子で大丈夫ですかと訪ねました。
調子が悪いのですか、と業者が心配してくれたのでいいえ、摩耗だと思いますと答えました。
すると業者の顔色が変わりました。主人は、と訊かれもうだいぶ前に亡くなりましたと返しました。
業者は荷物を渡さず去ってしまいました。どうしてだろうと不思議がっていると数十分後に業者は再び現れました。
しかし背後には何人もの男が控えています。その控えていた男達は私を持ち上げて部屋から運んでいきました。
外にはバンタイプのハイドロライドが停まっており私はそれに乗せられました。男の一人が合図をするとライドは発車します。
彼を埋葬した庭が、一緒に暮らした家が、終端の見えない海が遠ざかっていきます。あっという間に見えなくなりました。
183
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:10:15 ID:rsid.5cs0
どうして私を連れて行くのですか、と尋ねるとお前が主人のいないアンドロイドであるからだと返答が来ました。
主人のいないアンドロイドが一人で生活する事を禁止する法律が施行されていたのです。
アンドロイドはそもそも人の手助けをする役割を持っており単独の意志で生活する事は許されないのです。
そのため主人を失ったアンドロイドは回収されるか処分されるのだと言います。
しかしそれは人工知能を積んだアンドロイドなどに限るはずです。何故なら私は独立した人格を持っているからです。
本来の肉体は火事で焼けてしまいましたが私という人格はきちんと今日に至るまで健在なのです。
けれどそう伝えてもしかしお前はアンドロイドなのだから法律が適用されるの一点張りなのです。
車内は同じように確保されたアンドロイドでいっぱいでした。
人扱いされず荷台に放られて積まれていきました。
皆が声を上げて抗議をしました。私達は生きている。ここから出してくれ。家に帰りたい。
しかし国直属の執行業者だという男達は取り合いません。
私はもはや身体の自由が効きませんでした。もう動けないのです。
車内に乗せられているアンドロイドは全員もう動けない者達でした。
184
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:11:16 ID:rsid.5cs0
このライドはどこに向かっているのだと一人が訊きました。
処分場だと男の一人が答えました。お前達は処分されるのだと。
そんなのおかしいじゃないか。一人が声を荒げます。まだ生きているのだぞ。
お前らは人間ではない。男の一人が笑います。
見た目はそのままでメンテナンスをしっかり行えば半永久的に生きてしまう。
そんなものが人間なものか、と嫌悪感を隠さずそう吐き捨てました。
確かにその通りではあると思いましたが私の意志でこうなったのではありません。
ひどい火傷を負ってもう助かるまいとなった時に彼が機械の身体に私の脳データを複写したのです。
その経緯を訴えても男はその本体の身体が死んでいるのならばお前はやはり死んでいるのだと答えました。
それは不条理に思えました。肉体が死んでいても私という人格はずっと一貫して生きているのです。
ならば生きているのと死んでいるの境界線はどこにあるのでしょうか。
私は死んでいないのです。生きているのです。しかし聞き入れてはもらえません。
185
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:12:43 ID:rsid.5cs0
ライドが白い大きな建物へ入りました。ごみ焼却施設です。
処分場だと男は言っていましたがこれから燃やされるのです。
ライドが停められドアが開かれました。眼下にはごみが溜められた底の深いピットがあります。
横でごみ収集車が荷台を持ち上げていました。斜めになった荷台からごみがピットへ雪崩れ込んでいきます。
ああやって私達も放られるのです。やめてくれ、助けてくれ、私は生きているのだとアンドロイドは口々に叫びました。
しかし男達は気にする様子もなく次々とピットに放り込んでいきます。私も二人に手と足を掴まれ投げ込まれました。
ピットの底は深く下から見上げるとライドが停められていた場所が恐ろしく高く見えました。もう戻れないとも感じました。
生ごみも一緒に放られているのでピットはひどい腐敗臭がしました。付近には同じようなアンドロイドが多く捨てられていました。
頭上からクレーンがやって来て近くをすくっていきました。何人かのアンドロイドがクレーンに挟まれて持ち上げられていきました。
あのクレーンはすくったごみをベルトコンベアーに載せるのでしょう。そのベルトコンベアーの先には焼却炉が待っているはずです。
いわばあのクレーンこそ最終審判なのです。あれに捕まったら焼却炉に連れて行かれるのです。
クレーンが来ない事を祈りました。すぐ近くをクレーンが掴みまたアンドロイドが捕まりました。
助けてくれやめてくれと懇願するもクレーンは無情にも運んでいきます。悲鳴はすぐに聞こえなくなりました。
186
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:13:42 ID:rsid.5cs0
恐ろしい時間でした。いつ自分が処刑台に上がらされるのかも分からないのです。
しかしピットに落とされてから五時間後、遂に頭上にクレーンがやって来ました。
なんとか逃れようとしましたがもう身体は動きません。呆気なくクレーンに捉えられました。
私の下にあったビニール袋などを掴みクレーンは高く上がっていきます。
そしてベルトコンベアーの上で私を放ちました。なすすべも無く進んでいきます。
その先に真っ赤に燃える火の海が見えました。あれが焼却炉なのでしょう。
そこにあるのは死のはずです。死、無、虚無。全ての終わり。
ものすごい熱気でした。それで私は焼かれるのです。死ぬのです。
187
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:18:38 ID:rsid.5cs0
私の過ごした四十年ほどが駆け巡っていきます。
彼と二人で暮らした四国の海沿いの街。生まれ故郷。歩きにくい砂浜。寄せては返す波。
彼が通った小学校、毎日歩いた通学路、よく遊びに行った公園。彼のルーツ。
運河のほとりにあったマンション。首都高を走る車と隣の東京モノレール。
都心の摩天楼。信号が変わるたび行進をするスーツ姿の人の波。
多くの人と交わった店。でっぷりと太った店長の毛深い腹。
ベッドとシャワー。口の中に放たれる粘っこい精液。
彼が私を連れ出した時に見たパトカーの赤色灯。
何も分からなかった養成施設。何十もの衝立。
あまりにも恐ろしかった初めて見た大きな空。
目が焼けてしまうと恐怖を感じた太陽の光。
かびと排泄物のにおいが充満した地下。
暗い世界。暗闇の世界。光なき世界。
最後に一度だけ名前を呼んだ母親。
私の名前。
リハ*゚ー゚リ「アイシス」
ベルトコンベアーは進みます。視界を火の海が覆い尽くしました。
リハ*゚ー゚リ生きているか死んでいるかの境界線のようです爪'ー`)y‐
188
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 22:20:30 ID:rsid.5cs0
余談ですが今回のは去年の百物語の『縛りお題:登場人物を喋らせない』用でした
189
:
名も無きAAのようです
:2016/05/28(土) 23:20:17 ID:nZgDruis0
あとちょっとで抜けた
冗談です乙
190
:
名も無きAAのようです
:2016/05/30(月) 21:49:11 ID:heR8bfEo0
乙!
また怖い話かと思ったよ
次で最後っぽいけど怖い話グロい話するときは先にいえよ!絶対だぞ!
191
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 17:58:04 ID:bLfC7y560
>>172
5分の2が暗い話だったので明暗明暗明にしようと思ったんですが二つ目に持ってくるのもなぁ…という事で明明暗暗明になりました。
>>190
もうグロいのないです!エロだけです!
192
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:00:02 ID:bLfC7y560
「デミタスさん」
透き通るような凛とした声がぼくの名前を呼ぶ。
ぼくはゆっくりと声のした方を振り返る。
(゚、゚トソン「はじめまして、ですね」
(´・_ゝ・`)「はじめまして、だな」
ぼくは彼女を愛した。彼女を愛してしまった。彼女もぼくを愛した。ぼくを愛してしまった。
許されない恋だった。認められない関係だった。叶わない愛だった。
それでもぼく達は愛する事をやめなかった。
193
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:02:20 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)また出会うようです(゚、゚トソン
JR総武線津田沼駅から徒歩6分
鉄筋コンクリート造り 築9年
1K 家賃7.1万円
駐車場1.4万円
194
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:04:24 ID:bLfC7y560
ぼくの趣味は援助交際だ。
勿論、他人に話す事のない秘密の趣味だ。両親や親しい友人にだって話した事はない。
それにぼくが買うのは高校生ばかりだ。公言すればたちまち逮捕され社会的地位を失ってしまうだろう。
ぼくが女子高生ばかり買うのは単純な理由で、まさしく高校生が好きだからである。
それほど女子高生に執着するのは別に自分の高校時代が寂しいものだったからではない。
高校生の頃には同学年の彼女がいたし、それなりに不器用ながら充実した青春を過ごしたつもりだ。
そんなぼくが女子高生に対して特別な魅力を感じ始めたのは大学生となり成人を迎えた頃であった。
高校から大学へと進んだ同年代の女性達は化粧を覚え、酒を知り、人付き合いが上手くなり、大人になっていった。
ぼくも同じで心身ともに大人へ成長していった。時間を共にする女性もいた。しかし次第にぼくは違和感を覚える。
歳を重ねるごとにぼくは同年代の女性に魅力を感じなくなっていった。より大人になっていくと共にはっきりと自覚した。
195
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:05:42 ID:bLfC7y560
ぼくは女子高生が好きなのだ。そして制服が好きなのだ。
女子高生の中途半端な幼さ。未完成の美しさ。成長途中の子供でも大人でもない未成熟な身体。
彼女達の着る制服の可憐さ。制服は街を彩る。潤いを与える。華となる。
街で、駅で、カフェで、ショッピングセンターで、制服を見かけると目で追うようになっていた。
やがてぼくは女子高生が好きなのだと気づく。半端な幼さを包む身体に触れたいのだと知る。
自分が高校生だった頃には制服なんて何とも感じなかった。スカートの短さこそが気がかりだった。
しかしぼくはもう大人で、高校生との接点はない。何の関係性も持てない。
だからアダルト動画サイトやレンタルビデオ店で女子高生を主題とするものを探す事が多くなった。
言うまでもなく日本は児童ポルノ大国だ。そこらへんに児童ポルノが散乱している。
ゴールデンタイムのテレビ番組で制服を着用したアイドルグループが踊っている。
十代前半の女の子がテレビ・コマーシャルに多く出演している。
でもそれらは偽物なのだ。女子高生を模した偽物でしかないのだ。
196
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:06:54 ID:bLfC7y560
ぼくは本物の女子高生に触れたかった。そうして二十代の後半に初めて援助交際に手を出した。
当然それは禁止され罰せられる行為であるが、ぼくは欲求を満たせるし相手も金銭を得られる。
互いに求めているものが得られる訳で、罪悪感というものはなかった。
これまで七人の女子高生を買ってきた。続いた子もいたし、続かなかった子もいた。
飽きれば会うのをやめたし、卒業した子は打ち切った。ぼくが求めているのはやはり女子高生なのだ。
人間は必ず年を取る。女子高生も必ず大人になる。だからぼくはその度に会う子を取り替える。
そうしていれば永遠に女子高生の若さに触れられるのだ。そのループから既にぼくは抜け出せずにいた。
だからぼくは買う女子高生に恋愛感情を抱かないようにしていた。愛してしまっても、その子はいずれ大人になってしまう。
ぼくの好きな女子高生ではなくなってしまう。だから金で買える欲求の捌け口としか考えていなかった。
また相手の女子高生達も恋愛など求めていなかった。若い身体を売るのはやはり金が欲しいからだ。
だから事務的なものでしかない。ぼくとしても心置きなく欲求を満たせた。
197
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:09:00 ID:bLfC7y560
この前まで会っていた子も先月に卒業を迎えた。そしてぼくは新しいパートナーを探す事になった。
今の時代は、援助交際がむしろやりやすい。今の女子高生はほぼ全員がスマートフォンを所持し、無料通話アプリをダウンロードしている。
法規制によって厳しくなっているが、それらの爆発的な普及によって女子高生と大人のゲートはより開かれたようなものだ。
(´・_ゝ・`)「二十分前か」
ぼくはカーナビに表示された時計を見た。地下駐車場に停めたスバル・レガシィを降りる。
今から会うのはぼくにとって八人目となる女子高生だ。掲示板で見つけて無料通話アプリで暫く連絡を取り、ようやく今日に漕ぎ着けた。
ぼくが女子高生と会う時は彼女の住まいから近い駅にしている。しかし最寄り駅ではリスクが高いので付近の大きなターミナル駅が多い。
今日ぼくが選んだのもこの一帯では一番大きなターミナル駅である横浜駅だ。JRだけで一日の乗車人員は四十万人を越えるという。
改札口では人が多すぎるのでぼくは駅前ロータリーを挟んだ向かいにあるヨドバシカメラの前を指定している。
地下駐車場から階段を上がって地上に出る。土休日なので駅前は多くの人が行き交っている。
198
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:10:09 ID:bLfC7y560
四月九日、土曜日。十五時四十五分。約束の時間まで、十五分前。
女子高生が現れない事だってある。大体は初めての援助交際の前に怖気づいてしまったものだ。
たまに女子高生を騙ってくる者もいるが暫く連絡を取っていると分かる。それほどに経験がついてきていた。
今回会う女子高生も援助交際は初めてだと言っていた。だから少し心配になってしまう。
それに今回の女子高生は自身の写真を送付する事を拒んだ。それ故に顔が分からない。
会えるだろうか、そう思いながら再び腕時計を見ると
「デミタスさん」
透き通るような凛とした声がぼくの名前を呼ぶ。
ぼくはゆっくりと声のした方を振り返る。
(゚、゚トソン「はじめまして、ですね」
(´・_ゝ・`)「はじめまして、だな」
無事にぼく達は初対面を果たした。
199
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:10:49 ID:gl/2GwQk0
やった!オジサン今日も抜き抜きしちゃうぞぉ
200
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:12:50 ID:bLfC7y560
彼女の名前はトソンという。土曜日だが彼女には制服を着用して来てもらっている。
ぼくは制服こそが好きなので、女子高生と会う時は必ず制服で来てもらう。制服でなければ価値は見出だせない。
土曜日ではあるが、街を見渡せばわりと制服姿の女子高生はいるものだ。部活だったり、補習だったり、色々ある。
ぼくはといえばスーツを着ている。制服姿の女子高生と歩くのならば、スーツを着ていれば父親に見えるからだ。
私服姿の青年男性が女子高生と歩いていれば怪しまれるかもしれないが、スーツならば堂々と街を歩ける。
まだ三十代のぼくは年齢的には女子高生の父親には少し若すぎるが、親しい間柄からは老け顔だと揶揄されているぐらいなのでちょうど良い。
(゚、゚トソン「大人っぽい方なんですね」
(´・_ゝ・`)「はは、よく言われるよ」
二人で地下駐車場へと降りる。彼女を助手席に乗せ、車を出庫させる。
(´・_ゝ・`)「それに君も思っていた以上に大人っぽいね」
無料通話アプリで連絡を重ねる内に感じた印象は随分と礼儀正しいというものだった。
写真の送付は断られたので顔は分からないが真面目なタイプの、むしろ性的なものとはどこか疎遠な子を想像していた。
顔合わせをした結果、やはりイメージ通りだったとぼくは思う。トソンはそういう性的なものを感じさせない。むしろ清楚な印象を与えられる。
援助交際に手を出す女子高生というのは背伸びをしている、言うなれば遊んでいるな、という子が多い。
化粧を覚えスカートは短く折って、性的な誘惑の多い子ばかりだ。髪も爪も本来とは別の色をしている。
そもそも援助交際をするのも金が欲しいからで、一般的な女子高生の思考とは一段階違うものである。
201
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:15:27 ID:bLfC7y560
トソンはそういうぼくがこれまで買ってきた女子高生達とは逆のタイプだった。
髪は肩あたりで綺麗に切り揃えられ、全く染めていない。スカートは折り曲げず規定そのものだ。
制服は清潔で学校指定の鞄にはアクセサリーの一つもない。眼鏡でもかけていればクラスに一人はいる優等生だろう。
何より彼女の言葉遣いと凛とした話し方は育ちの良さすら感じさせる。無料通話アプリで感じた印象そのままだ。
ましてトソンの通う高校は中高一貫で県内でも屈指の私立のお嬢様学校なのだ。
(゚、゚トソン「そんな事ないですよ」
(´・_ゝ・`)「いやいや、正直驚いたぐらいだ」
車は地下駐車場を出る。向かうのはぼくが長年愛用しているラブ・ホテルだ。
建物一階に設けられた屋内駐車場から入り口に直結している上に、基本的に無人対応となっている。
何より重要なのは制服姿の女子高生を連れ込んでも事実上放任されるという点だ。これが一番大きなポイントだろう。
普通のラブ・ホテルでは制服姿の女子高生などまず入店を断られる。しかしこの店ではそれがずっと黙認されているのだ。
そのため援助交際をする者の間では知る人ぞ知る名所となっている。フロントで自分と同じように女子高生を連れる男性を何度か見かけている。
(´・_ゝ・`)「援助交際は初めてなんだよね」
(゚、゚トソン「あ、はい」
トソンは少し緊張しているようだった。初めてなのだから、無理もないだろう。
初対面の男の車に乗っているのだから尚更だ。そわそわしているのを感じ取れる。むしろトソンの初々しさは処女すら連想させた。
援助交際に手を出すのだからそれは考えられない。しかしこんな清純そうな子でもしっかりと男性とセックスをするのだと感心すらしてしまう。
こうやって車でラブ・ホテルへと向かう間、話す子もいればずっとスマートフォンを操作している子もいる。
202
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:17:01 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「あまり不安にならなくても大丈夫だよ。 すぐに信頼してくれなんて言えないけれど」
(゚、゚トソン「あ、いえ。 モララーさんなら信頼しても大丈夫だなって、LINEで感じました」
(´・_ゝ・`)「そうかい?」
(゚、゚トソン「なんだか誠実そうだなって」
援助交際を持ち掛けたぼくが誠実という印象を持たれるなどと、考えなかった。
確かにぼくは普段はごく一般的な会社員だ。普通に仕事をして普通に生活している。
それに援助交際という特殊な趣味は隠して生きている。しかしそれは他の男達だって同じはずだ。
理由はどうであれ公になれば罪に問われる行為なのだ。
(´・_ゝ・`)「着いたよ」
首都高湾岸線を走る数十分のドライブが終わり、ラブ・ホテルに着く。屋内駐車場に車を停めてフロントに入った。
(゚、゚トソン「へぇ、こうなっているんですね」
空室パネルを見てトソンが驚く。
(´・_ゝ・`)「ラブホは初めてなのかい?」
(゚、゚トソン「はい、どんなところなのか気にはなっていたんですけど」
(´・_ゝ・`)「光がついている部屋が空室で、消えている部屋は使用中なんだ」
(゚、゚トソン「へぇ…」
203
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:18:36 ID:bLfC7y560
このラブ・ホテルはバリエーションに富んでいる。
オーソドックスな部屋からプールがある部屋、アンティーク調の部屋、和風の部屋、診察台のある部屋、壁いっぱいに水槽のある部屋など様々だ。
最初のうちはオーソドックスな部屋を選ぶが慣れてくれば女子高生の好きな部屋を選ばせてやったりする。
ぼくは一般的な部屋のボタンを押す。エレベーターに乗り込んで部屋のある階へ上がる。
エレベーターのドアが開くと床に設置された光る矢印が出迎える。点滅する誘導矢印は目的の部屋まで続く。
(゚、゚トソン「すごく分かりやすいシステムですね」
(´・_ゝ・`)「初めてでも迷わないようになっているんだよ」
部屋に入って、トソンは部屋を見渡した。普通のベッドなんですね、と感想を言う。
それから行き場がないようだったのでベッドに座っていて良いと声をかけた。
トソンはまだ緊張した面持ちでベッドの端にちょこんと座る。ぼくは先にシャワーを浴びると告げてスーツを脱ぐ。
レディファーストなのではと思われるが相手が先に入ればぼくを待つ間に寒い思いをするかもしれない。これはぼくなりの心遣いなのだ。
ぼくは鞄から財布だけ取ってシャワーへ向かう。こればかりは仕方のない、盗難のリスクを避けるためだ。
ホテルで男が風呂に入った途端に財布だけ抜き取って逃げ帰る、そういう悪意を持った子はどうしても存在する。
だから初めての子の時は財布を必ず風呂に持ち込むし、報酬も後払いだ。これは徹底している。
トソンは無縁そうだが油断は禁物なのだ。用心するに越したことはない。
204
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:20:34 ID:bLfC7y560
シャワーを出て、入れ替わりでトソンが入る。ぼくはタオルだけを腰に巻いて、座って待つ。
テレビを見る訳でもなく、スマートフォンを見る訳でもない。退屈な時間でもない。
壁を挟んだ向こうからシャワーの音だけが聞こえる。間もなく彼女に触れる事が出来る。
今日はどうしようかと考える。この時間は退屈でも無駄でもないのだ。
やがてシャワーの音がやみ、トソンが出てくる。彼女はきちんと制服を着ている。
これは制服が好きなぼくが必ず指定するのだ。裸になってしまえばただの子供なのだ。
(゚、゚トソン「シャワーを浴びてすぐ制服というのは、少し変な気がします」
(´・_ゝ・`)「ごめんね、でもこれだけは譲れないんだ」
(゚、゚トソン「モララーさんは本当に制服が好きなんですね」
普通の女子高生ならば気持ちが悪いと感じるだろう。援助交際に手を出す子はこういう要望にも慣れていたりする。
わざわざ女子高生を買う大人など、制服が好きか未成熟な幼い身体が好きかのどちらかが多い。
トソンはそういう様子ではなく、不思議がっているようだった。
(´・_ゝ・`)「まだ、緊張してるかい?」
ベッドに座ったトソンの肩に手を置く。華奢な身体つきだ。
(゚、゚トソン「はい。 でもシャワーを浴びたら少し落ち着きました」
(´・_ゝ・`)「良かった」
205
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:22:28 ID:bLfC7y560
そのまま顔を近づける。トソンも目を閉じた。柔らかい唇が重なる。
何度かキスを交わしてから舌を絡ませる。トソンは健気にそれに応じた。
顔を離すとまだ舌を出したままのトソンがとろんとした目でぼくを見上げる。
(´・_ゝ・`)「キス、好きなの」
(゚、゚トソン「はい、好きです」
舌を交わらせてたっぷりとキスをする。トソンもぼくの背中に手を回す。
緊張は解けただろうか。
(゚、゚トソン「制服、触りますか?」
(´・_ゝ・`)「あぁ」
トソンの身体を包む制服に触れる。紺色を基調としたブレザータイプの制服だ。
プリーツ・スカートも同じ色で統一されている。シンプルではあるが洗練されている。
澄んだ色のストライプのネクタイが特徴的だ。
(´・_ゝ・`)「いいね、この制服」
(゚、゚トソン「私も結構気に入っています」
インターネットで何でも買える現代では女子高生の着ていた制服すら売っている。
顔を晒す事なくそういったものが手に入ってしまうのだ。一昔前と比べると便利になったものだと思う。
しかしぼくとしては、制服は現役女子高生が着ていなければ価値はない。卒業後のOBが着てもそれはコスプレの域を出ない。
女子高生が常日頃着ているからこそ、真の価値が生まれるのだ。
206
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:24:38 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「じゃあ、脱がすよ」
ぼくは制服を完全に脱がしたりはしない。あくまではだけさせる程度だ。
行為の最後まで制服を脱がしてしまう事はない。嫌がる子もいるので、あらかじめ承諾した子のみを買う。
ブレザーを脱がす。丁寧にアイロンがかけられたシャツが現れる。
制服を愛でる時も良いがゆっくり時間をかけて脱がしていく時間も至高のものだ。
真っ白なシャツのボタンを一つ一つ外していく。宝箱を開ける時のような高揚感がある。
(´・_ゝ・`)「胸大きいんだね」
(゚、゚トソン「そんな事、ないです」
ボタンを全て外したシャツをめくる。下着に包まれた豊かな胸が出迎える。
シャツの上からでも分かったがトソンの胸は同年代の中では大きい部類だろう。
包み込むようにその胸を手で覆う。あまりの柔らかさについ顔がほころぶ。
手で弄ぶとトソンが小さく声を漏らす。見れば手で口元を抑えていた。
(-、-トソン「ま、まだやっぱり恥ずかしいですね」
ぼくの視線に気づいたトソンが弁解する。可愛らしい仕草だった。
別にぼくは処女崇拝者ではないが、やはり彼女は処女を連想させる。
もっと彼女が喘ぐところを見てみたい、どんな声を出すのか聞いてみたい、そんな欲望に駆られた。
トソンをゆっくりとベッドに倒す。そして右手だけを下半身に持っていく。
プリーツ・スカートをめくると可愛らしい下着が見える。上下できちんと揃えられている。
するすると下着だけを脱がす。プリーツ・スカートはそのままだ。
スカートだけを残して秘部が露わになる。このギャップがたまらなく好きだった。
207
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:26:11 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「こういうの、好きなんですか」
(´・_ゝ・`)「あぁ。 こういうのがいいんだ」
(゚、゚トソン「変態さんですね」
処女すら連想させる風貌とは裏腹にトソンの秘部はすっかりと開発されている。
指を入れてトソンの反応を確かめる。トソンは小さく喘ぐ。
まだ恥ずかしさが残っていて、口元に手を当てて堪えている。
ぼくは意地悪がしたくなる。トソンを困らせたくなる。
わざと音をたてて激しく指を動かしてやる。
たまらずトソンは声をあげる。それは可愛らしいものだった。
やがて小刻みに震えてトソンは静かに達する。
悲鳴のような小さい喘ぎ声が一際大きく部屋に響いた。
指を離してもトソンの息は荒いままで、呼吸を整えるのに時間が必要だった。
(゚、゚トソン「…デミタスさん、意地悪なんですね」
(´・_ゝ・`)「君の反応が可愛らしいものだったからね」
(゚、゚トソン「じゃあ今度は私が意地悪をします」
トソンがぼくの腰のタオルを優しく取った。
既に充血した肉棒はぴんと上を向いている。
元気ですね、とトソンは笑ってそれを愛おしそうに撫でた。
トソンの細い指に触れられるたびに肉棒は小さく跳ねる。
ぼくが床に立ち、ベッドの上でトソンが四つん這いになる。
208
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:27:44 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「いいですか」
(´・_ゝ・`)「あぁ」
トソンの舌が亀頭に触れる。舌でゆっくりと先端を濡らしていく。
やがて唇で包み込むように優しく肉棒を咥える。
何度か時間をかけて亀頭を行き来する。
そのまま徐々に根本の方へ沈み込ませる。
限界まで沈んでから、また頭を持ち上げる。
ぼくは感嘆の声をあげる。それは女子高生には上手過ぎた。
フェラチオを覚えたばかりの一般的な女子高生とは違う。
勢いに任せて激しくするだけの風俗嬢とも違う。
ねっとりとしたトソンのフェラチオは恐らく中年男性仕込みのものだ。
性欲有り余る同世代とのセックスでは会得出来ないだろう。
じっくりと時間をかけて肉棒を咥える。激しくせずしっかりと吸い付いている。
舌が亀頭を舐めまわし手はと殆ど使わずにぼくの腿に添えられている。
確実にトソンのそれはぼくを絶頂に導きつつあった。
その事実に気づいて随分とぼくは驚いた。
(´・_ゝ・`)「トソン、ちょっと待ってくれ」
(゚、゚トソン「はい」
トソンが肉棒から唇を離す。ねっとりとした唾液が糸をひく。
209
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:28:59 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「少し休憩しよう」
(゚、゚トソン「もしかしてデミタスさんいきそうですか」
(´・_ゝ・`)「もしかしなくてもだ」
(゚、゚トソン「じゃあだめです」
今度は私が意地悪をすると言ったじゃないですか、そう言ってトソンはまた肉棒を咥える。
ぼくは我慢出来ない事を悟った。快感のあまり肉棒に神経が集中していく。
もうこのまま出してしまいたいと思ってしまった。そう考えてから絶頂はすぐにやって来た。
ぼくが射精するとトソンは更にゆっくりと頭を上下させた。精液が残らないように強く吸う。
口の中に放たれた精液をこぼしてしまわないように慎重に肉棒から唇を離す。
別にこちらが指示する訳でもなくトソンは一思いにそれを飲み込んだ。
(゚、゚トソン「あ、飲んでしまって良かったんでしょうか」
(´・_ゝ・`)「あ、あぁ」
(゚、゚トソン「それにしてもたくさん出ましたね」
トソンがぼくを見上げて微笑む。そしてまた肉棒に唇をつけて吸う。
(´・_ゝ・`)「まさか口でいくとは思わなかったよ」
(゚、゚トソン「これでおあいこですよ」
清純そうに見えてトソンの技量は相当のものだ。女子高生としては成熟しすぎていぎる。
どうやってトソンはそれを身につけたのだろう。どんな男性関係を経てここまで成長したのだろう。
訊いてみたいと思ったがそれは憚れた。ぼくはトソンを一時的に買っているに過ぎないからだ。
210
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:30:25 ID:bLfC7y560
それから少し時間をおいてトソンとセックスをした。
トソンはまた肉棒を吸って大きくしてから慣れた手つきで避妊具を取り付けた。
左手を添えて右手で無駄のない動きで避妊具をするすると根元の方へ伸ばしていった。
避妊具の装着を確かめてから唇を重ねてトソンはベッドに横たわりぼくを待つのだ。
きちんと教育されている。トソンの性に対する方面を教育した者の影が見え隠れする。
トソンに覆いかぶさっている時も彼女は背中に腕を回して足を絡ませた。
本当に身体を預けるだけの女子高生も多い。いわゆるマグロだ。
それに対してトソンはセックスに積極的だった。
むしろどうすれば男が喜ぶのかに成通していると思った。
一度射精しているというのにぼくはほどなく絶頂を迎える。
避妊具越しのトソンの中にたっぷりと射精する。
ぎゅっと身体を抱きしめながらトソンはそれを受け止めた。
(゚、゚トソン「いっぱい出ました?」
(´・_ゝ・`)「いっぱい出たね」
肉棒を引き抜くとすぐにトソンが取り外しにかかった。
避妊具を指で吊るすと精液がたっぷり溜まっている。
(゚、゚トソン「本当にいっぱい出ましたね」
(´・_ゝ・`)「二回目なんだけどな」
(゚、゚トソン「すごいですね」
(´・_ゝ・`)「普段はこんなにいかないなぁ」
211
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:32:52 ID:bLfC7y560
トソンに報酬を払い互いにシャワーを浴びて部屋を後にする。
出口で料金を清算するとドアが解錠されて外に出られるようになる。
屋内駐車場に停めてあったスバル・レガシィに乗り込んでトソンをまた横浜駅に送る。
もう外は暗くなり始めていてヘッド・ライトを点灯させた。
ホテルを出てすぐに首都高へ合流する。全線片側三車線の湾岸線は流れが良い。
羽田線への分離を過ぎると羽田空港の中央を突っ切る。トンネルの上を飛行機が横切って行く。
多摩川をくぐり浮島ジャンクションを通過すると川崎と横浜に跨る人工島に入る。
ぼくはトソンと学校の話をした。学校生活が楽しいかなどといった内容だ。
女子高生と流行りの話をしようと思ってもそれは難しいだろう。
話題のお笑い芸人ぐらいならばついていけるがそれ以外の流行りは難しい。
女子高生というのはもはや別の人種なのではと思わされるほど自分達の世界を持っている。
そこに三十代の男性が立ち入るのは極めて困難な事なのだ。いくら女子高生が好きでもそれは大変な事だ。
まして彼女達から見れば三十代男性はおじさんのカテゴリに振り分けられる事すらある。
更にトソンとはまだ今日初めて直接会ったほどなので当り障りのない程度にしておく必要がある。
しかしトソンは行きと比べて緊張は解けたようで楽しく会話が出来るようになった。
トソンの通う学校は市内の私立校でレベルも高い。トソンによく合っていると感じた。
(´・_ゝ・`)「ほら、右手が横浜だよ」
212
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:34:57 ID:bLfC7y560
大黒ジャンクションを過ぎて湾岸線は横浜ベイブリッジに差し掛かる。
右手に見えるのがみなとみらいエリアの夜景だ。
横浜ランドマークタワーや大観覧車などが見渡せる。
みなとみらいエリアは夜景が綺麗だと有名だがその通りだ。
狩場線に入るために左車線に移り制限速度そのままで走る。
(゚、゚トソン「ベイブリッジから見る横浜ってこんなに綺麗なんですね」
横浜ベイブリッジを渡り終えてすぐに狩場線へ分岐する。
いったん狩場線に入り横羽線に移って関内などの中心地を過ぎると横浜駅へのランプに到達する。
速度を落として一般道への坂を降りていく。横浜駅東口のランプで降りて地下広場へ入る。
栄えている西口と比べて東口の方は車も人も少ない。相鉄沿線に住んでいるというトソンは車を降りた。
(´・_ゝ・`)「また、いいかな」
ぼくは名残惜しさを感じていた。
女子高生を買うのは八人目だが、トソンのようなタイプは初めてかもしれない。
(゚、゚トソン「はい、お待ちしています」
そう微笑んでトソンは人混みに消えていった。
ぼくの住まいは津田沼にある賃貸マンションだ。
津田沼という地名はよく誤解されやすいが習志野市の中にあって単独の市ではない。
スバル・レガシィを所有しているが職場は錦糸町にあって毎朝総武線に乗って通勤している。
職場に駐車場はないし千葉からの都心方面は道路事情があまり良くないのもあって朝は渋滞するのだ。
賃貸マンションは駅から近いし駅前の店舗で買い物は事足りるが、それでもぼくは車を購入した。
それには訳があり車を所有していると援助交際はとても円滑に進める事が出来るからである。
車は独立した空間であり周囲の目から逃れる事が出来る。
ぼくの愛用するラブ・ホテルは車で直接乗り入れる事も可能だ。
女子高生の送迎さえ注意すれば他人の目を気にしなくて済む。
援助交際とはそうやって目立たないように行うものだ。
213
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:36:16 ID:bLfC7y560
ぼくはやはりまたトソンに会いたいと思っていた。
清楚で可憐な女子高生。しっかり仕込まれた性技。
本来は共存しないものをトソンは持ち合わせている。
興味があった。普通の女子高生とは少し違うトソンに興味があった。
育ちの良さを感じさせる話し方とスカートを折り曲げず化粧もしない姿は優等生そのものだ。
それなのに援助交際に手を出し、更に恐らく年上の男に性技を仕込まれている。
ぼくはトソンにまた会いたいと連絡をした。あれからも断続的にメッセージのやり取りをしていた。
本当は金で若い身体を買っているだけなので用がある時だけ連絡しても良いのだがなるべく普段からメッセージのやり取りをするよう心がけている。
トソンは快諾して日時の打ち合わせをした。また土曜日の横浜駅で待ち合わせをする。
住まいから横浜へは東関東自動車道と首都高湾岸線を使う。賃貸マンションの最寄りインターチェンジは谷津船橋で数年前に新設されたものだ。
付近にはららぽーとTOKYO-BAYをはじめとした大型商業施設があり増加する来店客に対応するべく後付で建設された。
実際に近くの交差点は土休日になるとすさまじい渋滞を引き起こして問題になっている。
住まいからは本当は京葉道路の方が近いのだが横浜方面に出るのならば湾岸線経由の方が圧倒的に便利だ。
214
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:38:10 ID:bLfC7y560
四月二十三日、約束の日にぼくは湾岸線で横浜へ向かう。
台場から大井を結ぶ東京港トンネル近辺が少し渋滞していたが抜けると流れは一気に良くなる。
アクアラインの渋滞情報を横目に浮島を過ぎ横浜ベイブリッジを渡る。
地下駐車場に入れるため横浜駅西口のランプで降りて一般道に出る。
今日もぼくはスーツだ。普通に振る舞っていれば怪しまれる事はない。
また地下駐車場に車を停めて地上へ出た。
ヨドバシカメラの入り口前のベンチにトソンは既に座っている。
(´・_ゝ・`)「やぁ」
(゚、゚トソン「こんにちは」
周囲の人に悟られないよう自然を装ってトソンを連れ出す。
(´・_ゝ・`)「また会ってくれてありがとう」
(゚、゚トソン「いいえ、構いません」
トソンは今日もきちんと制服を来ている。
特に化粧もせず背伸びをしている訳でもない。
本当に援助交際とは無縁の真面目な女子高生に見える。
(´・_ゝ・`)「じゃあ行こうか」
車に乗り込んで出庫させる。トソンは助手席で姿勢を正して座っている。
いつもラブ・ホテルに向かう時にはこうして女子高生を助手席に座らせるがこれほど行儀よくしているのも初めてだ。
首都高に入り湾岸線を使ってラブ・ホテルまで三十分ほどのドライブをする。
215
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:42:06 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「あの、一つ訊いてもいいですか」
(´・_ゝ・`)「なんだい」
鶴見つばさ橋を渡っているところでトソンが切り出した。
大黒を過ぎてしまうと東扇島までランプもなく特にカーブもない。
勾配はあるものの殆ど直線で三車線の走りやすい道が続く。
(゚、゚トソン「失礼な事かもしれないですが、デミタスさんは女子高生が好きなんですよね」
(´・_ゝ・`)「あぁ、そうだよ」
(゚、゚トソン「こうして女子高生を買う事はもう長く続けているのですか?」
(´・_ゝ・`)「そうだね、もう十年近くになるかな」
(゚、゚トソン「十年」
(´・_ゝ・`)「もう随分と長いだろう。 だがやめられないんだ」
下り坂に差し掛かったところで追越車線に入りアクセルを少し踏み込んで三台ほど連なっていた車を追い越す。
バック・ミラーに白い光が高速で近づいてきたので走行車線に戻るとAudi・A1が追越車線をかっ飛ばしていった。
(゚、゚トソン「きっかけってなんだったんですか」
(´・_ゝ・`)「大人になって、だんだん自分は女子高生が好きなんだって自覚していったんだ。
はじめは女子高生を模したもので満足しようとしていたんだけど我慢出来なくなった、本物が欲しかったんだ」
(゚、゚トソン「それで援助交際を始めた」
216
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:45:29 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「そう。 勿論それは犯罪だし、罰せられる事だと理解はしている。
だけどそうする事でようやくぼくは満足出来るようになったんだ」
(゚、゚トソン「なんというか、大変ですね」
(´・_ゝ・`)「そうだろう、特殊な性癖を持つと大変だ。 ぼくも普通の趣向だったら楽だったのにと思う事もあるよ」
(゚、゚トソン「でもデミタスさん、普通にすごく真面目な方に見えます」
(´・_ゝ・`)「そりゃあどんな変態も普段は真面目に仕事をして社会に溶け込んでいるのさ」
(゚、゚トソン「ふふ、面白いですね」
ぼくは煙草を吸う習慣はないがエチケットとして消臭剤を車内に設置している。
三十を過ぎてから体臭が気になるようになったのだ。認めたくないが加齢臭というものの類だろう。
十代や二十代と比べて三十代に入ると一気に身体は老いへと進んでいく気がする。
体力はなくなるし一晩たっぷり眠っても疲れが取れにくい。
オール・ナイトで遊ぶ事などもう不可能だろう。
(゚、゚トソン「すいません、変な事を訊いてしまって」
(´・_ゝ・`)「いいや、いいんだ」
歳の離れた少女と何か話せるのならばぼくの過去の話など喜んで提供する。
まず女子高生が好きで援助交際を十年以上続けている事など普段は誰にも言えない。
女子高生にならば隠す必要もないし今更取り繕って格好つける必要もさほどないだろう。
(´・_ゝ・`)「ぼくも君に訊いてみたい事があるんだ」
(゚、゚トソン「いいですよ」
217
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:50:39 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「だけどもう着いてしまうね、続きは帰りかな」
左から羽田線が合流して交通量が増える。
間もなく都心部に入る本線料金所に到達するがその直前のランプで湾岸線を降りる。
そこから行きつけのラブ・ホテルはものの数分だ。
工場群と住宅街のちょうど境界線の辺りに建っている。
周囲には高い壁が張り巡らされ中に入るとすぐに駐車場になっている。
建物自体は毳々しい感じはなくむしろ洗練されたシンプルなデザインだ。
ぼくとトソンは二度目のセックスをする。
やはりトソンのフェラチオはねっとりと吸い付くもので女子高生にしては完成されたものだ。
今度は暴発してしまわないようにぼくは気をつける。
制服に包まれた瑞々しい身体を撫でてぼくは更に勃起する。
若い身体に制服を身につけさせたままのセックスは最高だ。
制服をはだけさせてするセックスは最高だ。
ぼくは長い射精をした。
時間をおいてからもう一度セックスをした。
もう三十を過ぎたしぼくもセックスは一日に一回が基本だ。
だけどトソンは別だった。何度でも彼女と交わりたいと思った。
トソンは嫌な顔せず受け入れた。報酬を倍にすると申し出たがトソンはそれを丁重に断った。
(゚、゚トソン「ホテルのシャンプーって不思議ですよね」
(´・_ゝ・`)「そうかい?」
(゚、゚トソン「リンス入りシャンプーってあるじゃないですか。 どうして勝手に混ぜちゃうのか不思議で」
(´・_ゝ・`)「リンスインシャンプーってやつだな」
218
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:53:53 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「はい、それって横着じゃないですか。 きちんと別々にしてほしいものです」
(´・_ゝ・`)「君がそれほど強く言うのは珍しいね」
(゚、゚トソン「髪は昔からしっかりするべきだと思っていまして、あれは許せません」
(´・_ゝ・`)「はは、これは参った」
このラブ・ホテルはボディソープとリンスインシャンプーの二つが設置されているだけだ。
出来るならきちんと分かれているホテルを選びたいが女子高生を連れ込む事の出来るラブ・ホテルはここぐらいしか知らない。
清算を済まして駐車場を出る。まるで異世界のような非日常空間が広がるラブ・ホテルから一歩外へ出てしまえばそこは日常だ。
駐車場の向こうには首都高羽田線と海岸通りが走っていてどちらも車の往来がひっきりなしに続いている。
あの外は日常だ。しかしぼくもトソンも日常に帰らなければならない。
(´・_ゝ・`)「行こうか」
車に乗り込んで駐車場から出る。
ラブ・ホテルから出てくると興味津々といった様子で顔を覗き込んでくるドライバーもいるので車の往来が完全に途切れてから道路に出る。
また首都高湾岸線に入り横浜を目指す。ちょうど本線料金所を越えたばかりのところでどの車も元のペースを取り戻そうとスピードを上げている。
(´・_ゝ・`)「行きの話の続きをしようか」
(゚、゚トソン「次はデミタスさんが私に訊く番でしたね」
(´・_ゝ・`)「あぁ」ぼくはやんわりとアクセルを踏む。「どうして君は援助交際をしようと思ったんだい」
トソンは少し考えたのでぼくは付け足した。
(´・_ゝ・`)「君はとても真面目な生徒に見えるし、実際にそうだと思う。 援助交際に手を出すような子には見えないんだ」
援助交際に手を出すのは背伸びをしている子だ。お金が欲しい子。手っ取り早く稼ぎたい子。寂しい思いを抱えた子。
落ち着いた物腰と丁寧な話し方をするトソンは大人びて見せる。しかしそれは援助交際に手を出す女子高生とのは違う。
トソンは本来援助交際とは無縁の、むしろ真逆なところにいるであろう人間なのだ。
219
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:56:30 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「そうですね」
トソンは頭上のトンネルを横切るANAの飛行機を見ていた。
(゚、゚トソン「なんといえばいいか…」
(´・_ゝ・`)「いや、言いたくないのならば無理に言わなくてもいいんだ」
(゚、゚トソン「でも、私はデミタスさんの話を訊いたのにそれでは不公平になってしまいます」
(´・_ゝ・`)「いいんだ、ぼくは話したいから話したんだ。 君がいつか話したくなったら話してくれればいい」
(゚、゚トソン「すみません」
料金所の閉鎖しているゲートが赤く発光している。点滅して注意を促している。
(´・_ゝ・`)「ただこれだけは訊きたかったんだ、君は誰かにこれを強いられている訳ではないよね?」
(゚、゚トソン「それは違います、自分の意思です」
トソンはきっぱりと断言した。先程のように言い淀む事はなかった。
こればかりはぼくは安心した。援助交際をしている女子高生の中に親やそれに近い存在からそれを強いられている場合があるのだ。
金銭的な事情があり稼いでくるように言われて仕方なく援助交際をしている子は少なからず存在する。ぼくはそれを買いたくはない。
ぼくの女子高生が好きだという趣味は金で買って達成されるものだが相手のきちんとした同意がなければいけないのだ。
それはぼくのポリシーだと思う。どのみち犯罪ではあり社会的に糾弾され罰せられる事には間違いない。
それでもぼくは自分の意思で援助交際に手を出す子のみを買いたいのだ。
ぼくは女子高生が好きだという性癖を満たせるし相手は一時的に身体を自由にさせ金を手に入れる。
どちらも利益がありいわゆるウインウインの関係というものだ。援助交際はそうあるべきだとぼくは思っている。
220
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 18:58:24 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「良かった、安心したよ」
(゚、゚トソン「その、なんというか、あれですね」
(´・_ゝ・`)「なんだい」
(゚、゚トソン「当てつけ、です」
(´・_ゝ・`)「当てつけ」
(゚、゚トソン「ええ」
予想しなかったワードにぼくは考える。
(´・_ゝ・`)「それは、お父さんやお母さんかい?」
(゚、゚トソン「いいえ、そうではありません。 両親と仲が悪い訳ではなかったのです」
(´・_ゝ・`)「そうか」
それ以上はもう踏み込むべきではないと思った。ただ当てつけ、という言葉は引っかかった。
仲が悪い訳ではなかったのです、と過去形にしたのも気になった。
助手席を見るとトソンはエアコン送風口に差した車用ファブリーズをぐにぐにと触っていた。
(゚、゚トソン「デミタスさんは、恋人はいないんですか」
(´・_ゝ・`)「いる訳がないだろう、女子高生が好きなのだから」
(゚、゚トソン「でもそういう趣味を持つ人は普段は社会に溶け込んでそれを隠していると言っていたじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「そりゃあ異常性癖を隠して生活する事は可能だ。 しかし恋愛になるとその性癖は大いに左右される」
(゚、゚トソン「実際問題女子高生と付き合うのは難しい」
(´・_ゝ・`)「そう、援助交際という金で一時的に買うだけのドライな関係だから満たされる。 恋愛とは違うんだよ」
221
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:01:37 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「今まで関係を持った女子高生で恋愛感情を抱いた事はないんですか」
(´・_ゝ・`)「ないね、あくまでもぼくが好きなのは女子高生なんだ」
(゚、゚トソン「すごい、徹底されていますね」
トソンは感心したようにほう、と息を吐いた。
(゚、゚トソン「じゃあ私もこのまま続いても卒業したらお別れなんですね」
(´・_ゝ・`)「まぁ、そうなるな」
(゚、゚トソン「なるほど」
(´・_ゝ・`)「引いたかい?」
(゚、゚トソン「いいえ、面白いです。 本当に色んな人がいる。
それは当然分かっている事なんですけど、実際に接してみないと分からない」
(´・_ゝ・`)「分かったつもりが一番よくないからね」
(゚、゚トソン「本当にそう思います。 デミタスさんと話せて良かったな」
追越車線を我が物顔でベンツやAudiなど外国産の車が駆け抜けていく。
前方で粘っていた日産・セレナがベンツ・GLAに走行車線から追い越された。
三車線あるうちの真ん中の車線でぼくは湾岸線の応酬を見つめる。
外国産の車に負けじと三菱・ランサーエボリューションが坂を駆け上がっていった。
(゚、゚トソン「デミタスさん、面白い人ですね」
(´・_ゝ・`)「そうかい? あまり言われた事がないな」
謙遜ではなく本当の事だ。ユーモアセンスのある人間だと評される事は極めて少ない。
222
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:04:47 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「良かったらまた、連絡を下さい」
首都高を降りると間もなく別れのサインだ。
トソンは地下の乗降場へ続く坂を降りていくところでそう言った。
ぼくはトソンの方からそんな言葉が出るとは思っていなかったので意外だった。
(´・_ゝ・`)「あぁ、ぜひまた」
トソンは車を降りて雑踏に消えていく。こうして日常に帰ってくる。
相鉄線のどこかの駅まで列車に乗って帰る。自分の家という日常に帰る。
ぼくもトソンとの時間を終えて自分の日常へと帰らなければいけない。
また首都高に入って自分の住む賃貸マンションへ向かう。
ラブ・ホテルという異空間は非日常を与えてくれる。
女子高生に触れるという行為もまた非日常だ。
しかし非日常から日常には必ず帰るものだ。
女子高生を送り家に帰る瞬間はまさに日常に帰るものだ。
出来る事ならば女子高生をずっと手元に置いておきたい。
数週間に一度ではなく毎日女子高生を眺め触れていたい。
しかしそれは叶わない。毎日ではなく時折触れるからこそ貴重であるし満たされる。
欲望の達成にはバランスが必要なのだ。手に入れるばかりでは満足出来なくなってしまう。
帰りの湾岸線では色々な事を考える。会った女子高生を思い出し次の予定を考える。
トソンを思い出す。また、また会いたいとぼくは思っている。強くそう感じている。
彼女の方からも良かったらまたと言われた事を嬉しく思っている。
当然ながらぼくとトソンの関係は援助交際でありぼくは客でしかない。
それでもまたトソンに会いたいと感じているのだ。
223
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:06:04 ID:bLfC7y560
それはもしかすると恋なのでは、と考えるがやはりそれは違うとぼくは首をふる。
ぼくが好きなのは女子高生だ。永遠に女子高生なのだ。
女子高生の途中である一人の女の子を好きになってもいずれ女子高生でなくなってしまう。
そのためにぼくはもう何年も恋をしていないのだ。女の子を抱きたいのではなく女子高生を抱きたいのだ。
似たような感情ではあるが本質は大きく異なる。そこを履き違えてはいけないのだと思う。
トソンにまた会いたいと思うのは買う事の出来る女子高生としては異質で、完成されているからだ。
清廉さを持ち、性技を仕込まれているちぐはぐさが不思議な魅力としてトソンを彩っているのだ。
きっとトソンが女子高生であるうちは、ぼくは彼女を買い続けたいのだと思う。
ぼくはトソンと連絡を続けた。メッセージのやり取りをした。
それはまたトソンに会いたいと思っていたからだし途切れさせたくないとも思ったからだ。
援助交際は一種の一時的な売買契約みたいなものでその時だけ連絡を取ればいい。
こうして頻繁にメッセージのやり取りをするのはまるで女性と付き合う前の期間のようだ。
トソンはこれまでの女子高生とは違っていて、ぼくはそれに興味を抱いているからだ。
もっとトソンの事を知りたい。純粋にそう思えるのだ。
224
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:07:22 ID:bLfC7y560
ぼくは自分の性癖すらさらけ出しているのだし隠す事はない。
しかしトソンの事はあまり知らない。知っているのは表面的な事ばかりだ。
毎日欠かさずトソンとメッセージのやり取りをしているが概ね好印象ではないだろうか。
実際のところ三十代も間もなく終わる男と女子高生の話はなかなか噛み合わない。
会話をするに当たって女子高生は全く別の生き物だ。独自の世界観を確立している。
それでもトソンはメッセージのやり取りにおいても非常に大人びていた。
幼稚な部分は見られずしっかりとした受け答えをするのだ。
うっかりしていると女子高生なのだと忘れてしまいそうになるぐらいだ。
やはりまた会いたくなりトソンの都合を伺って、次の日程が決まる。
五月七日、また土曜日だ。ゴールデン・ウィークの終盤に当たる。
今年は憲法記念日・みどりの日・こどもの日が火曜日・水曜日・木曜日に当たる。
月曜日と金曜日が平日として残る、途中で飛んでいる不完全な大型連休なのだ。
逆にその月曜日と金曜日さえ休みを取れれば一気に十連休となる。
しかしそれは単に土休日が休みとなる者だけに限られた話だ。
自分のように土日休みでなくシフトで回っている者には関係のない事である。
ぼくは今のシフトでは金曜日と土曜日が休みなのだ。勿論休日出勤があれば別である。
勤めている会社は交通インフラ関係なので曜日で左右されない。
225
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:10:18 ID:bLfC7y560
トソンを迎えに行く前にスバル・レガシィをきちんと洗車する。
昨年のガラス・コーティング施工の効果がまだ残っているので水を流せば汚れは大体取れる。
しかしぼくはハイヤーの運転手のように念入りに汚れが残っていないか確かめる。
たっぷりと自動車用洗剤を希釈した水をスポンジに含ませて車体に滑らせる。
水でしっかりと流してからマイクロファイバークロスで拭きあげる。
一周してからよし、と満足してぼくは洗車を終えた。
いつも通り谷津船橋のインターチェンジから東関東道に入る。
左手には京葉線が並走する。ラインカラーであるワインレッドを身に纏ったステンレス製の車両とすれ違う。
あの列車は東京ディズニー・リゾートや幕張エリアへの輸送を任されている。
いつも車内は混雑しているように見えるが湾岸線が渋滞しているとさっと追い抜かされてしまうのでその時ばかりは恨めしく思う。
湾岸線に寄り添っていた京葉線は新木場で一気に右に進路を変えて都心方面に向かっていく。
京葉線を跨ぐとすぐ左手に今度はりんかい線が現れてまた湾岸線と並走を始める。
東雲の駅を過ぎるとりんかい線は地下に潜ってしまいいよいよ湾岸線のパートナーはいなくなる。
晴海線と分岐する東雲ジャンクションの付近はタワーマンションが建ち並び近未来的な光景が広がる。
有明と台場の臨海副都心を通過すると車線変更が禁止され東京港トンネルへ突入する。
前のトヨタ・シエンタが下り勾配になってから何度もフットブレーキを踏んでいるので車間距離を多めに開ける。
土休日の高速道路には不慣れなサンデー・ドライバーが多いものだ。余計な事故に巻き込まれるリスクは減らす必要がある。
どのみち東京港トンネルは車線変更が禁止されているので前に遅い車がいても逃げられない。車線ごとに一蓮托生なのだ。
226
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:15:30 ID:bLfC7y560
横浜駅に着いて地下駐車場に車を停める。ルームミラーでネクタイを締め直して車を出た。
土曜日の横浜駅は混み合っている。バスロータリーには横浜市営バスや神奈中バスがひっきりなしにやって来る。
今日もヨドバシカメラの前のベンチにトソンはいた。手には読みかけの文庫本がある。
いつもと様子が違うのは二人の男子高校生に何か話しかけられているところだ。
トソンは読んでいたであろう文庫本を膝に置き少し困った顔をしていた。
知り合いではないな、と考えて努めて明るくトソンの方へ歩いていった。
(´・_ゝ・`)「いやぁトソン、おまたせ。 そちらは友人かな?」
(゚、゚トソン「あ、いえ」
(´・_ゝ・`)「どうも、トソンの父です。 娘が何か?」
二人の男子高校生はぼくとトソンを見比べて気まずそうに去っていった。
特に目立つ要素のないありきたりな公立高校の生徒だ。
トソンはお礼を言って読みかけの文庫本をしまい立ち上がった。
(´・_ゝ・`)「明らかに困っていたからね」
(゚、゚トソン「すいません、あまり慣れていないんです」
(´・_ゝ・`)「女子校では仕方がないよ」
トソンが通うのは私立で中高一貫の女子校だ。県内屈指のお嬢様学校として有名である。
彼女自身は相鉄線沿線に住んでいていつも横浜まで相鉄線で出てきて学校のある大船までJRで向かうのだそうだ。
(´・_ゝ・`)「君の学校の制服は有名だし目立つからね」
(゚、゚トソン「そうなんでしょうか」
それは本当の事だ。しかしそれ以上に目を引くのがトソンの胸の大きさだ。
トソンは整った顔立ちをしているし髪も流れるように美しいが、目立つようなタイプではない。
何よりも目立ってしまうのがよく育った胸なのだ。冬制服の上からでもはっきりと分かってしまう。
薄着の夏の制服になればいっそう目立つのではないだろうか。そしてそれは否応なしに男の目を引くものだ。
中高一貫の女子校では男子生徒はいないが学校の外に出てしまえば男性など幾らでもいる。
227
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:17:35 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「でもぼくとは普通に話せるし、男性が苦手という訳ではないんだろう」
(゚、゚トソン「それは勿論です、でもデミタスさんとはずっとメッセージのやり取りをしているからです」
(´・_ゝ・`)「何者かも分からない男性に急に話しかけられるのは困ると」
(゚、゚トソン「そういう事なんです」
援助交際に手を出すほどの女子高生が街中で男に声をかけられて困ってしまう。
掲示板で出会って実際に会うまでにメッセージのやり取りを何度もしたが、どうしてそれでトソンはぼくに心を許したのだろうか。
そもそも身体を提供する一時的な契約をして援助交際を行っているだけで、トソンが本当にぼくに心を許しているのかも分からない。
まるで彼女に恋をしているように、ぼくはそれについて知りたいのかもしれない。
(´・_ゝ・`)「行こうか」
(゚、゚トソン「はい」
横浜駅は言うまでもなくエリア最大のターミナル駅だ。
相鉄線沿線に住むトソンが来やすいという理由で指定しているが長居はしない方がいいだろう。
トソンの高校は鎌倉市に位置するが広大な土地を持つ横浜市からほど近い。
生徒も半数ほどは横浜市から通学しているそうで、当然この横浜駅を使う者も多いのだ。
今日は土曜日であるし人の多い横浜駅ではまず見つかる事はないだろうが用心するに越した事はない。
援助交際をする女子高生は基本的にそれを周囲に隠しているものだ。特別な事情のある者以外は親にだって言っていない。
また援助交際で欲望を満たす男としてもそれを知られる訳にはいかない。それは明確な犯罪行為であるし社会的地位も失墜する。
そのために車という独立した空間を持つアイテムを所有している者が多いのだ。
(´・_ゝ・`)「女子校だとやはり男子の知り合いは少ないのかな」
(゚、゚トソン「人それぞれだと思います、他校の男子の知り合いが多い人もいます」
228
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:25:10 ID:bLfC7y560
私は殆どいないんですけどね、とトソンは言った。階段を降りて地下駐車場に出る。
出掛ける前に念入りに拭いたので車体は綺麗だ。蛍光灯の灯りがくっきりと反射している。
車に乗り込んで地下駐車場を出て首都高に乗った。
(´・_ゝ・`)「じゃああまり男子と付き合うっていうのは少ないだろうね」
(゚、゚トソン「共学の学校と比べれば少ないと思います」
(´・_ゝ・`)「トソン自身は今までには?」
(゚、゚トソン「ないですよ、男子の知り合いも殆どいないので」
(´・_ゝ・`)「そうか」
トソンには交際経験がない。しかし男子と付き合った事もない女子高生に男性経験があるはずがない。
ましてあれほどの男を悦ばせる技術を身に着けているはずがない。そもそもそれは同年代のとセックスで身につくものでもない。
トソンは一体どうやってぼくと援助交際をするに至ったのだろう。それはトソン自身から話してくれるまで待つしかない。
狩場線から湾岸線に入るとまた追越車線での応酬が始まる。
湾岸線は横浜の幸浦から始まるが本牧ジャンクションより東から一気に交通量が増える。
住宅地を走る二車線の横羽線と比べると湾岸線は全区間三車線で線形も良く非常に走りやすい。
特に本牧から浮島までの工業地帯をひた走る区間はランプの設置も最低限で分離や合流もない。
まさしく都市のサーキット場であり制限速度を大幅に越えたスピードで走り去っていく。
湾岸線には自動速度取締機オービスの設置が少ないのも原因の一つだろう。
土曜日なので大黒パーキングでは走り屋の集会でもやっているだろう。
大体左の走行車線には遅いトラックが走っているので中央の走行車線を走る。
追越車線を走っていくのは外国産のセダン車や国産のスポーツ・カーだ。
スピードメーターが百八十までしかなさそうなミニバンも頑張ってそれに追随する。
ホンダ・S-MXが逃げるが後ろからBMW・3シリーズに煽られて走行車線に逃げる。
湾岸線の応酬は自らの限界と引き際を知る事も大事なのだ。
再びS-MXは追越車線に戻っていくがすぐにミニ・クーパーが詰めていく。
応酬に下手に巻き込まれないよう車間距離を取りながら羽田空港を過ぎる。
いつものランプで降りて大井競馬場の横を通り右折するとラブ・ホテルが見えてくる。
229
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:28:07 ID:bLfC7y560
このラブ・ホテルに入れば非日常だ。直前でウインカーを出してさっと入庫させる。
壁は高く外から覗き込めないように少し入り組んでいてもう目線を気にする必要はない。
今日も部屋はトソンに選んでもらう。せっかくなのでとトソンはまた違う部屋を選択した。
このまま関係を続けていれば二人で全ての部屋を制覇するかもしれない。
土休日料金なので最大四時間の休憩料金は少し高めの設定になっている。
更に部屋は様々な形態のものが用意され部屋ごとに料金が変動する。
オーソドックスな部屋なら五千円程度で豪華な部屋ならば一万円ほどする。
(゚、゚トソン「プールのある部屋というのも面白そうなんですが水着がないですからね」
(´・_ゝ・`)「裸で入ればいいんだよ」
(゚、゚トソン「そういうものなんですか」
(´・_ゝ・`)「中高一貫女子校じゃあ知らないかもしれないが男子は女子が出て行ってから裸で入る事もある」
(゚、゚トソン「えぇ、どうしてそんな事を」
(´・_ゝ・`)「裸で泳ぐ開放感はとても良いものだからだよ。 もう二、三十年も前の話だし今の子はやらないかもしれないけど」
(゚、゚トソン「その、裸で開放感があるという事は泳ぐのは速くなるんですか」
(´・_ゝ・`)「いや、水着を履いていた方が速いよ」
ぼくとトソンはたっぷり時間をかけて三度目のセックスをする。
完全密室のラブ・ホテルでは誰も邪魔する者はいない。
二人の関係を咎める者もいない。自由に伸び伸びとしていられる。
まるでこのラブ・ホテルの部屋だけが世界から切り離されたようだ。
この部屋の中でならばぼくとトソンは交わる事が出来るし何も偽装しなくていい。
普段は物静かなトソンがベッドの上で乱れる。制服を掴んだままぼくは射精する。
トソンはぼくの首に腕を回してそれを受け止めた。
ずっとこの時間が続けばいいのにとすら思う。一番幸せなこの時間が。
230
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 19:30:13 ID:bLfC7y560
シャワーを浴びて部屋を出て清算をする。屋内駐車場に出ると外から車の往来が聞こえる。
海岸通りと首都高羽田線の往来。聞こえてくるそれは待ち構える日常の証だ。
ぼくは寂しいと思う。トソンはどうなのだろう。この帰り道をどう思うのだろう。
(゚、゚トソン「あの」
空港中央を過ぎたところで不意にトソンが切り出した。
(´・_ゝ・`)「なんだい」
(゚、゚トソン「今日、もうちょっとお話出来ませんか」
(´・_ゝ・`)「ゆっくり話が出来るところがいいかな」
(゚、゚トソン「出来れば、そうですね」
(´・_ゝ・`)「いいよ」
左の車線に寄り浮島ジャンクションで湾岸線から離れる。
幾重にも続くカーブを経て大師から来た本線へ合流するとすぐに下りトンネルへ突入する。
東京湾アクアラインの半分以上を占める海底トンネルはほぼ一直線に続き先が見通せる。
途中には巨大な換気口があり頭上にぽっかりと大きな穴が空いている。
長い上り勾配の先には光が見える。東京湾の真ん中に浮かぶ海ほたるに着く。
本線を別れ大きくカーブして反転するとようやく海ほたるの全景が見えてくる。
海ほたるはまるで戦艦のように海上に浮かんでいる。
橋から続く道路がそのまま戦艦の腹の中へ飛び込んでいく。
まるで大きく開かれた口に車達が吸い込まれていくかのようだ。
駐車場に車を停めてエスカレーターを上がる。
施設に入ったところにスターバックス・コーヒーがあってカウンターの近くは混雑している。
しかしカウンターを離れた場所は空いていて一人掛けの単独のソファーが並べられていた。
それぞれ好みのコーヒーを購入してそのソファーに座る。
231
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 20:11:01 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「我儘を言ってすいません」
(´・_ゝ・`)「いや、構わないよ」
大きなウインドウの向こうは夕陽が沈みかけている東京湾だ。
左手には木更津と君津の工場群があり、右手にも横浜と川崎に跨る工場群が見える。
(゚、゚トソン「この前お会いした時に、こういう事をしているのが当てつけだと言ったのを覚えていますか」
(´・_ゝ・`)「あぁ、覚えている」
援助交際をする事が自分の意思か尋ねた時に不意にトソンが漏らした言葉。当てつけ。
それも両親にではない。ぼくが引っかかり、そしてそれ以上は踏み込めないと思った言葉だ。
(゚、゚トソン「デミタスさんに隠し事をしたかった訳でもありません。 しかし今となっては説明する必要があります」
(´・_ゝ・`)「うん」
(゚、゚トソン「当てつけ、それは私の後見人に対してです」
(´・_ゝ・`)「後見人」
それは両親のいない者の証だ。
両親と仲が悪い訳ではなかったのです。トソンは過去形でそう語っていた。
(´・_ゝ・`)「未成年後見人という事か」
(゚、゚トソン「はい。 私の母親は私が九つの頃に急な病でこの世を去りました。 私は父親に育てられたのです」
トソンはトールサイズのスターバックス・ラテを手に持ったまま、少し考えていた。
話す言葉を順序立てて整理しているようだった。ぼくはカフェ・アメリカーノを飲んでそれを待った。
急かそうなどとは思わなかった。トソンが自身について話してくれるようになった事をむしろ喜んでいた。
それだけで、トソンにほんの少し近づけたような気がするのだ。
いくらトソンを抱いても心の奥にたどり着ける訳ではない。
ましてぼくとトソンは金銭授受で成り立つ契約関係だ。
今現在トソンのセックスはビジネスに他ならない。
232
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 20:12:39 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「先々月、三月の終わりに父が亡くなりました。 仕事中に脳卒中で倒れてそのままもう目を覚ましませんでした」
トソンはまた区切る。二ヶ月前に父親が亡くなった女子高生が援助交際をしている。
その事実だけが急に浮かび上がってぼくは混乱してしまう。
(゚、゚トソン「父は実家を十八で出ており、親からも勘当されていたそうです。 私は父以外に身寄りはありませんでした」
(´・_ゝ・`)「お父さんは何を?」
(゚、゚トソン「秘書をしていました。 その父が担当していた先生とは家族ぐるみの付き合いをしていて、その方が私を引き取ってくれる事になったのです」
(´・_ゝ・`)「ではそのお父さんが秘書をしていた先生が君の後見人」
(゚、゚トソン「はい、そうなります。 今はまだ後片付けもあるという事で父と暮らしたマンションに住んでいますが、間もなく先生のお宅へと住まいを移す事になります」
トソンはまさに激動の人生のまっただ中にいる気がした。しかしまだ援助交際に繋がる要素は見当たらない。
ここでトソンはいったん口を閉ざした。口はきゅっと結ばれ、また何か考えているようだった。
トールサイズのカップを指でなぞっていた。トソンの細い指が円を描く。
(゚、゚トソン「まず」ようやく口を開く。「私と父の関係から」
(´・_ゝ・`)「関係?」
(゚、゚トソン「私と父は一緒に寝る事がありました」
(´・_ゝ・`)「一緒に」
そこまで言って、その言葉の意味に気がつく。とんでもない事を言い出そうとしている。
周囲を見るが近くには誰もいない。
233
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 20:14:34 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「それは」
(゚、゚トソン「私と父はそういう関係にありました」
(´・_ゝ・`)「その、実の親子なんだろう?」
紛れも無く、とトソンは表情すら変えずに答える。
(゚、゚トソン「十四の頃からそういう関係になりました。 母は早い内に亡くしました。 父は多忙であったし、私も父のためならと思って応えました」
(´・_ゝ・`)「それでお父さんに、色々な事を教えられた」
(゚、゚トソン「はい」
女子高生としては完成されたねっとりとしたフェラチオも絡みつくようなセックスもトソンの父親から仕込まれたものだ。
初めてトソンに咥えられた時に同年代とのセックスで覚えたものではなく中年仕込みのものに思えたのは間違いではなかった。
トソンの性に関するルーツは父親にあるのだ。
(゚、゚トソン「当然ながら私と父の関係は秘密のものです。 私は今の今まで誰にも話さなかった」
ですが、とトソンは繋げる。
(゚、゚トソン「あの人、私の後見人となるあの人は、その事を知っていた。
そしてそれを私に求めてきました。 後見人となる代わりに」
(´・_ゝ・`)「では、君に住まいを提供し親代わりとなる代わりに身体を提供しろと?」
(゚、゚トソン「そこまで直接な表現ではありませんが、そういう解釈で間違いありません」
(´・_ゝ・`)「それでは善意で君の後見人になったのではなく下心があったからではないか」
(゚、゚トソン「いえ、善意もあるのだと思います。 父と先生は長い付き合いです。 私自身可愛がってもらいました」
234
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 20:16:14 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「だが身体を寄越せというのは横暴過ぎる」
(゚、゚トソン「はい」
トソンは頷いた。そして視線を遠い海の向こうにやった。
(゚、゚トソン「私にはもはやあの人しか身寄りがありません。 断る余地はなかった。」
だけど。そう言ってまたトソンは暫く黙る。
(゚、゚トソン「私は父を愛していました。 父として、男性として。
父に求められて、両方の思いから応じました。 関係を続けました」
トソンはぼくの方を見る。
(゚、゚トソン「私は交際した男性の人もおらず、父としか関係を持った事がありませんでした。
あの人に身体を差し出すのは、父との思い出まで奪われてしまう気がした」
(´・_ゝ・`)「当てつけ…」
(゚、゚トソン「はい、当てつけです。 あの人に身体を差し出す前に、誰か他の知らないような人に身体を明け渡してしまおう。
そう思いました。 それが当てつけです」
(´・_ゝ・`)「それなら、それなら、どうしてぼくだったんだ」
(゚、゚トソン「正直最初は本当に誰でも良かったんです。 自分自身自暴自棄になっていました。
だからああいう掲示板に書き込んで連絡を待った。 何人も来ました。 その中でデミタスさんが一番誠実そうな感じだった」
(´・_ゝ・`)「援助交際をするような男だぞ」
(゚、゚トソン「それでもメッセージのやり取りを続けるうちに誠実そうな人だと思ったんです。
そして実際に会って、やはり感じた通り誠実な人だと」
235
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 20:18:49 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「そうか」
トソンは後見人への当てつけを果たしたのだ。その後見人に抱かれるぐらいなら見知らぬ他人に抱かれてやろうと。
それがたまたまぼくだった。援助交際を繰り返し新たなパートナーを探していたぼくだった。
(´・_ゝ・`)「どうしてそれを話そうと思ったんだ」
(゚、゚トソン「来週に、あの人の家に引っ越します。 ずっとなんとか引き伸ばしにしていましたが、ゴールデン・ウィークが終わったらという話になっていました」
来週。そんなものすぐだ。二週に一度ぐらいで会えればいいとぼくは呑気にそう考えていた。
(゚、゚トソン「きっと会うのは難しくなります」
東京湾の向こうに夕陽が沈んでいく。夜の帳が下りる。日付が変わって定められた未来に近づいていく。
(´・_ゝ・`)「君は、嫌なんだろう、その後見人に引き取られるのが。 その後見人に抱かれるのが」
(゚、゚トソン「長い間お世話になっている人です。 良い人です。 その人が後見人になる事で私はこの先の未来に安心する事も出来たぐらいです。
今の学校もこのまま通えるし大学にも進ませてくれるそうです。 だけど」
だけど、もう一度トソンは繰り返す。
(゚、゚トソン「抱かれるというのは違う。 何も対価を払わず満足な生活を手に入れようというのは都合の良い話だとも分かっています。
しかし私の中でそれは父と繋がる特別な意味を持つものでした。 だから当てつけとしてデミタスさんと会った」
(´・_ゝ・`)「じゃあ、君はこれでいいのか」
トソンはぼくの方を見て、微笑む。
(゚、゚トソン「初めて父以外の人に抱かれて、私の中で徐々に何かが変わっていったのです。
デミタスさんは面白い方ですし、私の知らない事を幾つも教えてくれる。
優しく、相手を尊重し、とても気遣ってくれます」
まだ会ったのは今日で三回目なのに変ですよね、と自嘲気味にトソンは呟く。
236
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 20:48:48 ID:LKSIJcuI0
トソンの背景が思いの外重かった
たまにデミタスの事をモララーと呼んでいるがデミタスでいいのかな?
エロいがそれ以上に面白い
237
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 21:40:38 ID:bLfC7y560
>>236
ぐおお本当だ
元々モララーで書いていておっさん感が足らないのでデミタスに書き換えたんですが漏れがあるみたいです
238
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 21:48:28 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「いつからかデミタスさんだったら良かったのに、と思い始めている自分がいました」
またトソンは窓の向こうの海に視線を戻す。
夕陽を失った海はすっかり暗くなり、寂しく感じられる。
遠くを何機もの飛行機が飛び交い、海上をタンカーが横切って行く。
(゚、゚トソン「でも、もう来週には引っ越しです。 だからデミタスさんにはきちんと話しておかなければならないと考えていました。
私がそういう反逆心を持ってデミタスさんと会った事も謝りたいと思っていました」
(´・_ゝ・`)「いいんだ、そんな事は」
そんな事は大した事ではない。それよりもトソンが望まない方向に流れてしまう事だ。
(´・_ゝ・`)「その後見人には何とか言えないのか。 他の人に訴え出たり、後見人にも奥さんだとかがいるだろう」
(゚、゚トソン「無理だと思います」
トソンは首を振る。
(゚、゚トソン「あの人は巨大な権力を持っています。 大きな家の人です。 強欲で自分が手に入れたいものを全部手にしてきました。
父はそんな人の下だからこそ恩恵を受けてきたのです。 あの家であの人に逆らえるものは一人たりともしません。 奥さんでさえも」
(´・_ゝ・`)「その後見人というのはそれほどの人物なのか。 秘書を持っているほどの」
(゚、゚トソン「国会議員です。 平成新党党首ロマネスク衆議院議員」
ぼくは天を仰いだ。言うでもなく大物議員だ。神奈川県横浜エリアを地盤に持ち衆議院議員七期目。
自民党時代には大臣も経験し離党後に平成新党を立ち上げ現在では野党第二位の勢力を誇る。
自由奔放な発言が多く大臣時代にはマス・メディアに随分と叩かれたがその饒舌ぶりは今でも健在だ。
むしろ切れ味の良い発言がある程度の評価を得ておりそれが彼の最大の特徴でもある。
(゚、゚トソン「邸宅は山手にあって、その中での出来事など外に出る事はありません。 あくまでも、その中での出来事です」
239
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 21:53:24 ID:bLfC7y560
それはまるで諦めてしまっているニュアンスのように感じられた。
これまでで一番諦めの色の強い言葉だった。
(´・_ゝ・`)「君は、本当にそれでいいのか」
(゚、゚トソン「はい」
そうするしかない。そうするしかないのだ。
父を雇っていた男について行けば、金銭面でも住環境でも苦労する心配はまるでないのだ。
この先もこれまで通りの学校生活と進路が用意され約束されているのだ。案じる事はない。
ただその男に身体を差し出せばいいだけで、その未来が約束されるのだ。
(-、-トソン「今までありがとうございました」
それは諦めと別れの言葉だ。しかしぼくには遮る事が出来ない。
ぼくに何が出来るというのか。
ただの会社員で、三十代終盤にも関わらず未婚で、貯蓄もそれほど多くない。
まして女子高生が好きで援助交際を繰り返す社会的にもどうしようもない男だ。
トソンを引き止める事も出来ないし引き止める術もない。
ただ援助交際でトソンとセックスしただけの男が出しゃばる場所などない。
そもそもトソンとは連絡し始めてから一ヶ月ほどだ。
会ったのもたった三度だ。
ぼくには何も出来ない。まるで何も出来ない。
絶望感と無力感に襲われる。
自分は何とちっぽけな存在なのだろう。
(゚、゚トソン「私の事は気にしないで下さい」
トソンは言う。
(゚、゚トソン「一ヶ月ほどでしたが、楽しかったです。 それに私の勝手な当てつけに巻き込んでしまって申し訳ありません」
240
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 21:58:08 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「君が謝る事じゃない」
謝らなくていい。トソンが謝る必要は何もない。
(゚、゚トソン「行きましょうか。 すっかり暗くなってしまいました」
(´・_ゝ・`)「あぁ…」
言葉が見つからなかった。適切な言葉など存在しないように思えた。
気の利いた言葉を放って事態が好転するはずもなかった。
(´・_ゝ・`)「行こうか」
駐車場に戻ってスバル・レガシィに乗り込んだ。料金所を通り川崎方面へと戻る。
長い海底トンネルを経て浮島ジャンクションから湾岸線に入る。
アクセルを強く踏み込む気になれなかった。一番左の走行車線をゆっくり走った。
それでも横浜駅は着実に近づいた。制限速度で走っても確実に近づいていった。
横浜駅で別れてしまえばそれは永遠の別れになる気がした。きっともう会えないと思った。
それなのに会話は少なかった。ぼくは言葉を失ってしまったみたいに話せなくなった。
ボキャブラリーという辞典を無くしてしまったようだった。
何か言わなくてはと焦るほど見つからなかった。
横浜ベイブリッジを静かに渡り、狩場線に入る。
関内、みなとみらいと市街地を過ぎて横浜駅東口のランプで降りる。
地下広場で車を停める。無情にも時間は終わってしまう。
(゚、゚トソン「本当にありがとうございました」
(´・_ゝ・`)「いや」
お礼を言うべきはぼくの方だ。ぼくとトソンは援助交際の契約関係だ。
これにて契約満了となるのだ。
241
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:00:45 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「元気で」
(゚、゚トソン「デミタスさんも、お元気で」
(´・_ゝ・`)「あぁ」
トソンが鞄を持って車を降りる。ぼくに頭を上げて、踵を返して歩いていく。
ぼくはそれを眺めている。トソンが人混みに紛れて見えなくなる。
これが最後。永遠の別れ。もう会えなくなってしまう。
声をかけるべきだと思った。呼び止めるべきだと思った。
車から飛び降りて追いかけて抱きしめるべきだと思った。
しかしぼくには出来なかった。何も出来なかった。
ここでそうしたとして、この先に未来はないからだ。
ぼくには何も出来ない。トソンの未来を好転させられない。
ぼくは無力なのだ。恐ろしく無力なのだ。
とてもとても、小さい人間なのだ。
ぼくはハンドルにうずくまり、暫くそこから動けなかった。
三週間が経った。ぼくはトソンに連絡をしなかった。彼女からもメッセージはなかった。
もう相鉄線沿線のマンションを引き払い山手の豪華な邸宅に移り住んでいるはずだ。
そこでトソンはロマネスクという男に抱かれている。誰も何も言う事は出来ない。
それはぼくとて同じ事だ。何も変えられないのだ。
242
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:02:21 ID:mG7urDGc0
円光相手には偽名を語ってたのかと思ってた
243
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:16:35 ID:bLfC7y560
ぼくは忘れようと務めた。長年援助交際をしてきたがイレギュラーな例だったと。
また新しくパートナーを見つけて思う存分制服のにおいを楽しもうと。
今までそうしてきた。女子高生のパートナーを失えば新しい女子高生のパートナーを探した。
しかしそんな気にはなれなかった。掲示板を覗こうとも思えなかった。トソンは頭のなかから消えなかった。
いつまでも鎮座しているどころか輝きを増していった。
通勤で津田沼から総武快速線に乗る。行き先は横須賀線直通の久里浜行きだ。
このまま乗って行ってしまいたくなる。このまま乗っていれば横浜駅に行く。
トソンの通う高校のある大船駅にも行く。トソンはこの列車に乗って通学するかもしれない。
しかしそれまでだ。そこからどうするというのだ。どうしようもないのだ。
もし万が一ぼくとトソンの関係が知られればどのような事態になるのか想像もつかない。
きっとぼくは男の怒りを買いあらゆる方面から攻撃されて社会的に破滅させられるのだろう。
トソンは念のためぼくとのメッセージのやり取りを綺麗に削除しているかもしれない。
そもそも連絡先すら痕跡の残らぬよう消されているかもしれない。
それはトソンのため、ぼくのためだ。責める事は出来ない。
忘れるべきだ。忘れるべき。頭では分かっているのだ。
244
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:18:14 ID:bLfC7y560
ぼくの職業はJRの駅員だ。勤務する職場は総武線沿線にある。そのため仕事柄ぼくは女子高生を目にする機会が多い。
大学生のうちはまだ何か物足りないと思う程度だっが、社会人になり女子高生をよく見る環境になってから確信に変わったのかもしれない。
毎朝女子高生を見るうちに目で追うようになっていたのだ。その華やかさに惹かれるようになっていったのだ。
何人かで仲良く登校する者もいれば一人で携帯電話を見ながら改札口を通っていく者もいる。
春には真新しい制服を着てまだスカートを折る度合いを確かめている初々しい女子高生が好きだ。
夏に涼しそうな薄着になりうっすら透けるプリーツ・スカートを履いた女子高生が好きだ。
秋に中学と比べて成熟し始めた身体のラインが浮き出るカーディガンを着た女子高生が好きだ。
冬になりこんもりとしたマフラーに首を覆いながらもスカートをしっかりと折る女子高生が好きだ。
四季のある国で良かったと思う。表情豊かな女子高生を年中見ていられるのだ。
改札口に立って客が清算切符を持って来ない限りはずっと女子高生を見ていられる。
しかしぼくはその時間すら楽しめなくなっていた。女子高生を見るだけでトソンを思い出すのだ。
勿論東京の東端の方ではトソンの通う神奈川のお嬢様学校の制服は見かけない。
それでも制服を見るとトソンの事を思い出して胸を締め付けられるのだ。
ぼくはトソンから逃げ出したのだ。トソンの抱える問題はぼくの力で解決出来る問題ではなかった。
トソンの置かれた環境はぼくの力でどうにか出来る程度のものではなかった。
245
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:19:40 ID:bLfC7y560
勤務を終えて総武快速線に乗り津田沼駅で降りて徒歩六分のアパートに帰る。
一人の部屋はテレビか音楽を流していないととても静かだ。このアパートに女性を連れ込んだ事はない。
ぼくが好きなのは女子高生で、援助交際を始めてから普通の女性と付き合った事がないのだ。
そして女子高生と会うのは必ずラブ・ホテルだけだ。まず家に連れ込んだりしない。
自分の住まいを知られるというのは後々面倒な事態に発展する恐れもある。
また女子高生が出入りしているのを近隣住民に見られれば不審な目で見られるだろう。
私服で来てもらっても明らかに若い女の子が何度も出入りするのは不自然だ。
援助交際は何より犯罪であるし明るみに出れば逮捕され罰せられる。
とにかくリスクを抑え証拠を残さない事が大事なのだ。
ぼくはこれまでの十年間を徹底してきた。
それなのにこの虚しさは何だろう。
一人の部屋は音もなくあまりにも空虚に感じる。
トソンに対してぼくは何も出来なかった。何もしなかった。逃げ出した。
きっとトソンはぼくに打ち明けるにあたり随分と勇気が必要だっただろう。
ぼくに話している時も考え間を置いて自分の置かれた状況を話したのだ。
それなのにぼくは逃げ出した。自分には何も出来まいと逃げ出した。
いつからかデミタスさんだったら良かったのに、と思い始めている自分がいました。
トソンはそう言った。それはまるでぼくに助けを求めているようにも感じた。
悲しげに、儚げにトソンはそう言ったのだ。それなのにぼくは、何もしなかった。
246
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:21:43 ID:bLfC7y560
ぼくはただの会社員だ。トソンを抱くのは野党第二位の党首を務める大物国会議員だ。
彼の行為はスキャンダルだ。ぼくの行為は罰せられる犯罪だ。
ぼくはこの状況をひっくり返せない。好転させる事は出来ない。
あるとすればトソンを攫ってしまう事ぐらいだ。
そうすれば少しだけこの現状を変えられる。
歯車を狂わせる事ぐらいは出来る。
そう、それが唯一自分に出来る事だ。
勿論それは全て失う。ぼくの全てを失う。
社会的地位も職も友人も全てを失う。
そんな事は頭では分かっているのだ。
逮捕されれば懲戒解雇になるし名前も新聞に出る。
それでもぼくに出来るのはそれぐらいしかないのだ。
トソン。ぼくは呟いて天を仰ぐ。
仕事中も、運転中も、食事中も、トソンの顔が浮かんでは消える。
クリアに鮮明に現れては水面に浮かぶ月のように儚く消えてしまう。
どうしてだろう。あんな話を聞いたから。彼女に恋をしたから。
ぼくが愛するのは女子高生だ。女子高生はいずれ女子高生でなくなる。
だから恋愛感情を抱いたりはしない。無情にも大人の女性へなってしまう。
それなのにぼくはトソンを想う。恋い焦がれるように想う。
トソン。声に出してみるといよいよそれは現実のものとなる。
この三週間、気づかないように蓋をしてきた。
考えないように奥底に封じてきた。
しかし無理なのだ。それは極めて難しい事なのだ。
考えないようにすればするほど考えてしまう。トソン。
苦しくなる。呼吸が上手くいかなくなる。
いつの間にか、自分の中でトソンがこれほどの大きさになっていたのだ。
自分に置けるトソンがこれほどの割合にまで膨れがっていたのだ。
あぁ、きっとぼくは恋をしていたのだ。ミステリアスなトソンに。
未完成な女子高生トソンに。いずれ大人になってしまうトソンに。
ぼくは無意識の内に携帯電話を取っていた。手のひらよりは小さいソニー製XPERIA。
無料通話アプリでいつも最上位にいたトソン。中ほどにまで落ちてきていた。
それを開いて最下部右端の通話呼び出しボタンを押す。
待ち合わせの時にすら使わなかったボタンだ。
一人の静かな部屋にその呼び出し音はとてもよく響いた。
長い長いコールのあと、不意に呼び出し音が途切れる。
『はい』
247
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:23:33 ID:bLfC7y560
紛れも無くトソンの声だった。三週間ぶりの彼女の声だった。
(´・_ゝ・`)「トソン、すまない、電話をしてしまった」
『いえ』
(´・_ゝ・`)「今は大丈夫なのかい」
『部屋にいるので大丈夫です』
(´・_ゝ・`)「ぼくの番号はもう消されてしまったかと思った」
『本当は消そうとしました。 消すべきだと。 もし携帯電話を検められて何者なのかと問われると信憑性のある答えを返す事は難しい』
(´・_ゝ・`)「でも消さないでおいてくれた」
『消さなかったのではありません。 消せなかったのです』
ほう、とトソンが一息つく。
『こうして電話が来てはっきり分かりました。 やはり私はデミタスさんの事が好きなのです』
(´・_ゝ・`)「ぼくもだトソン。 君を忘れようとした。 だけどそれは無理だった。 君が好きなんだ」
言ってしまってから言葉は現実のものとなる。形となる。
本物なのだ。この想いは本物だ。
(´・_ゝ・`)「ぼくは君を助けたい。 結果として助けられなかったとしても、少しでも君を助けたい」
『はい』
248
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:26:17 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「君はどうなんだ」
『助けて下さい。 ここから』
(´・_ゝ・`)「今から行くよ、今すぐ」
電話を切った。ぼくは着替えて車のキーを持って部屋を飛び出した。
もう後先考えるのはやめる。目の前の女の子を救えずして何を格好つけても無駄だ。
たとえこれが救いにならないとしても。助けられなかったとしても。
トソンが望んだのならばぼくは行くべきだ。迷わず行くべきだ。
トソンからメッセージで住所が送られてくる。スバル・レガシィにキーを差し込み起動する。
カー・ナビゲーション・システムに住所を入力する。神奈川県横浜市中区鷺山。
慌ただしく車を発進させ国道三五七線に入り東関東道に入る。
しかし交通情報に湾岸線事故で一部区間通行止めと表示させる。
通行止め区間は浮島から東扇島まで。迂回するほかなく東海ジャンクションで羽田線に転線する。
湾岸線通行止めの影響で羽田線に集中し昭和島ジャンクション合流手前から渋滞が発生していた。
すぐ脇を東京モノレールが走り抜けていく。新型車両の青いデイライトが不気味に闇夜に消えていく。
遠くでは羽田空港の光の数々が見え隠れした。いつもくぐる飛行機のトンネルも羽田線にはない。
羽田を抜け横羽線へ入っても慢性的な渋滞は続いていた。ぼくの焦る気持ちばかりが募っていった。
着実に近づいているはずなのに延々と海側に続く工場が進行具合の遅さを感覚的に助長させる。
工事中の生麦ジャンクションから大黒線を経由して湾岸線に復帰して横浜ベイブリッジを渡る。
長い橋を渡って本牧ふ頭で降り山手を目指す。一軒家ばかりがどこまでも続く。
予想到着時間まで五分を切ったところで信号待ちの最中に間もなく着くと送信する。
スクールゾーンに指定された細い道を登っていくと石造りの立派な玄関が見えた。
邸宅は更に登った先にあるようでその全姿は見えない。しかしそれは必要なかった。
トソンはその玄関よりもう少し先に立っていた。
(´・_ゝ・`)「乗って」
素早くトソンが助手席に乗る。ぼくは確認するとさっと車を発進させた。
249
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:28:24 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「すいません、玄関前には監視カメラがあるので」
(´・_ゝ・`)「なるほど、機転が利く」
(゚、゚トソン「いいえ。 携帯電話の電源もここで切った方がいいですよね」
(´・_ゝ・`)「つくづく機転が利く」
(゚、゚トソン「いえいえ」
(´・_ゝ・`)「久しぶりだ」
(゚、゚トソン「三週間ぶりですね」
(´・_ゝ・`)「あぁ」
レクサスやメルセデス・ベンツの高級セダンばかりが顔を揃える高級住宅地を抜ける。
高台から駆け下りるようにレガシィは来た道を戻る。
(゚、゚トソン「まるでドラマみたいですね」
(´・_ゝ・`)「君もテレビ・ドラマを見るのか」
(゚、゚トソン「当たり前じゃないですか、私だって普通の女子高生です」
(´・_ゝ・`)「それはすまない」
(゚、゚トソン「ドラマチックな恋愛を子供の頃に夢見た時があります」
(´・_ゝ・`)「ぼくは白馬の王子様ではないがね」
(゚、゚トソン「それでも助け出してくれたじゃないですか。 じゅうぶん、白馬の王子様です」
本牧ふ頭から首都高に入り横浜ベイブリッジを渡る。左手に横浜みなとみらいエリアの綺羅びやかなネオンの光が見える。
トソンの新たな住まいだった邸宅のある山手はもう遥か闇の向こうだ。これでもう後戻りは出来ない。
不思議と後悔はなかった。あれほど悩んだというのにいざ実行してしまうと晴れやかな気持ちだった。
隣にトソンが座っている。これだけで幸せを感じられるのだ。
250
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:30:39 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「ひとまずは家に行こう。 なんでもないアパートだけど」
(゚、゚トソン「ありがとうございます」
湾岸線の東行きは通行規制がかかっていなかった。
扇島から東扇島へ移る坂を降りたところで流れが滞る。遠くでパトカーの赤色回転灯が見える。
事故現場が近づいているのだ。事故の様子見たさに速度を落とす車が多いので対向車線もよく混む。
西行き東扇島ランプ付近で大型トラックが横転し三車線全てを器用に塞いでいた。
おおかた携帯電話でも見ているうちに側壁に当たり慌ててハンドルを切ったのだろう。
あれでは現場検証にも撤去にも時間が相当かかるはずだ。
事故現場を通り過ぎるとまた車は順調に流れだした。
(゚、゚トソン「とても長い三週間でした」
(´・_ゝ・`)「長い三週間」
(゚、゚トソン「あそこの家に人は皆優しい。 あの人だって優しかった」
(´・_ゝ・`)「だけど君を抱いた」
(゚、゚トソン「正直なところ、さすがにたまに私を抱く程度だと思っていました。 しかしあの人は旺盛な方だった」
(´・_ゝ・`)「たしか六十手前だっただろう、六十を過ぎても旺盛な男性はいるものだ」
(゚、゚トソン「はい。 まさか毎日だとは思いませんでした」
(´・_ゝ・`)「毎日」
(゚、゚トソン「やはり皆知っていても何も言えないのです。 奥様ですらも」
(´・_ゝ・`)「うん」
(゚、゚トソン「あのでっぷりとした腹で覆い被さられるのです。 あの毛深い胸毛が当たるのです。 あの恐ろしいにおいのする口で舐め回されるのです」
いつもトソンを迎えに行ってから降りた行きつけのラブ・ホテル最寄りのランプを通過する。
駐車スペースのキャパシティを大きく越えた数の車が停まる大井パーキング・エリアを過ぎる。
もうとっくに陽は沈んでいて臨海副都心のビル達はそれぞれ灯りを宿していた。
頭上を新型車両に主役を譲りつつあるゆりかもめの従来車が横切って行く。
251
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:36:59 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「君を助けて正解だった。 迷っていた自分が恥ずかしいぐらいだ」
(゚、゚トソン「いいえ、こうして連れ出してくれただけで私は助けられました」
(´・_ゝ・`)「そうか」
(゚、゚トソン「本当は家出でもしてやろうかと思っていました。 しかし私には何のあてもない。 女子高生があてもなくふらふらしていればすぐに警察に保護され連れ戻されてしまう」
(´・_ゝ・`)「あぁ、そうだろうね」
東雲のタワービル群、舞浜のディズニー・リゾート、湾岸線の景色は移ろい行く。
横浜から始まった湾岸線は東京を横切り千葉へと入る。浦安では防音壁も高く景色は楽しめない。
東京外環道と繋がる予定地では湾岸線を取り巻くように接続路が取り付けられようとしている。
ETCの確認音が鳴ると首都高から東関東道に入ったサインだ。
(゚、゚トソン「嬉しかったです。 デミタスさんから電話が来て。 夢じゃないかと」
(´・_ゝ・`)「そうするべきだと思ったんだ」
ららぽーとTOKYO-BAYの立体駐車場はまるで要塞だ。無数の光が鉄骨の城のあちこちに点在している。
高い防音壁に寄り添って走ると谷津船橋インターチェンジが現れる。料金所を低速で通過すると料金が表示される。
すぐ訪れる二択の分岐を直進して国道に出る。もう住んでいるアパートはすぐだ。
(´・_ゝ・`)「本当に普通のアパートだよ。 きっと狭く感じる」
(゚、゚トソン「気にしないで下さい」
それに、とトソンが続ける。
(゚、゚トソン「デミタスさんの暮らしている場所を見てみたいとも思っていました」
アパート横の駐車場に車を停める。ETCカードを抜き取り車から降りた。
トソンも助手席から降りる。トソンは制服ではなく私服だ。
家を出てくる直前に着替えてきたのだという。
ぼくは用心しながらアパートに入った。同じアパートの住民に見られるのは避けたい。
制服ではないしトソンは大人びた容姿をしているのですぐには女子高生とは分からないだろう。
しかしやはり何かしらのリスクは減らせば減らしておくだけ良いはずだ。
(´・_ゝ・`)「入って」
252
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:39:22 ID:bLfC7y560
鍵をかけて部屋に入る。幸いにも誰にも会わなかった。
トソンは靴を脱いできょろきょろと部屋の中を眺めている。普通のワンケーの部屋であり特徴のようなものもない。
ましてこれまで相鉄線沿線のマンション暮らし、最近では横浜山手の邸宅で暮らしていたトソンにとっては狭く感じるだろう。
更に帰宅して衝動的に飛び出してきたのでスーツは脱ぎ捨てられたままだ。部屋も完璧に片付いている訳ではない。
(´・_ゝ・`)「君の制服でない姿は初めてだ」
(゚、゚トソン「デミタスさんこそスーツでない姿は初めて見ます」
お互い笑い合う。笑い合って、トソンが先に言葉を失った。
(´・_ゝ・`)「どうしたんだ」
(゚、゚トソン「…寂しかった」
(´・_ゝ・`)「寂しかった」
(゚、゚トソン「会いたかった」
(´・_ゝ・`)「会いたかった」
(゚、゚トソン「だけど自分からは言い出せませんでした。 未練がましく連絡先も消せなかったのに、巻き込みたくないと思っていました」
(´・_ゝ・`)「あぁ」
(-、-トソン「だから本当に、嬉しかったんです」
トソンの肩が震える。ぼくはその華奢な肩をそっと抱いた。
静かに泣くトソンの頭を撫でる。早く、早くこうするべきだった。
しかしもう後悔しても遅い。これから後悔しないようにしなければならない。
トソンを強く抱きしめるのはその決意のあらわれのようでもあった。
253
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:42:06 ID:bLfC7y560
それからトソンとセックスをした。制服を身につけないとても普通のセックス。
互いに身に着けていたものを全て脱いで裸でセックスをした。
まさぐりあい埋め合うように二人で何度も交わった。
今日は控えるべきなのでは、と思ったがトソンは求め続けた。
貪欲に欲しがりぼくはそれに応えようと善処した。
そうする事で書き換えなんてものは出来やしない。
出来るとすれば上書きだ。それでも構わないと思った。
交わって、果てて、交わって、果てて、ぼくとトソンは沈み込むように眠った。
目を覚ますともう夜明けが近い事が分かった。カーテンを引くとうっすら明るくなっている。
新しい朝。新しい旅立ち。ぼくとトソンは今日から生まれ変わるのだ。全てを捨てて。
(´・_ゝ・`)「遠くへ行こう」
二人分のコーヒーを入れる。トソンには好みを訊いてたっぷりのミルクを注ぐ。
(´・_ゝ・`)「君が昨夜急に家を飛び出して、家の人は行方不明届けを出しているだろうか」
(゚、゚トソン「恐らくは」
(´・_ゝ・`)「君とぼくの繋がりは残していない。 君のぼくのコンタクトは全て携帯電話で行われた。
その携帯電話は君が持っている。 電源は家を出てすぐのところで切られている」
(゚、゚トソン「はい」
(´・_ゝ・`)「家出か拉致か迷うところだ。 更に君は自分の意志で家の門を出ている」
(゚、゚トソン「監視カメラに映っています。 デミタスさんの車は映っていないはず」
(´・_ゝ・`)「そして家の方も家主が君を抱いていたというやましい点がある。 それが苦痛で家出をしたと考えているかもしれない」
(゚、゚トソン「それが一番考えられると思います」
熱いコーヒーを飲む。トソンは猫舌のようで慎重に冷ましてから少し口をつける。
(´・_ゝ・`)「どこか遠くに行こう」
(゚、゚トソン「どこか遠く」
(´・_ゝ・`)「ぼく達の事を誰も知らないどこか遠くへ」
254
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:43:57 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「いいと思います」
(´・_ゝ・`)「せっかくだし、どこか行ってみたいところはあるかい」
(゚、゚トソン「父は多忙でしたが旅行好きで、色々なところに連れて行ってもらいました。 国内だと沖縄、北海道、神戸、京都、松山、青森、名古屋…」
(´・_ゝ・`)「殆ど行っているみたいだね」
(゚、゚トソン「あぁ、でも九州には行った事がありません。 縁がありませんでした」
(´・_ゝ・`)「九州か。 いいな、とても遠い」
(゚、゚トソン「遠いですよね」
(´・_ゝ・`)「いいんだ、遠い。 ぼく達の事を誰も知らない」
もう振り向く事もない。留まる事も必要ない。
(´・_ゝ・`)「行こう、九州」
(゚、゚トソン「今からですか」
(´・_ゝ・`)「早い方がいいさ。 君の日用品はきちんと買い揃えよう」
(゚、゚トソン「でも」
(´・_ゝ・`)「いいんだ。 君を放したくない。 一緒に行こう」
(゚、゚トソン「はい」
255
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:45:44 ID:bLfC7y560
職場に今日は体調不良で休むと連絡をする。明日朝までの勤務で明後日以降は怪しまれるだろう。
キャリー・バッグに荷物をまとめてスバル・レガシィに積み込む。トソンの日用品はどこかのドラッグ・ストアで買おう。
まだ夜は明けたばかりで住人が出てくる気配はない。素早くトソンを車に乗せてアパートを発った。
谷津船橋インターチェンジから東関東道に入り湾岸線に出る。有明ジャンクションからレインボー・ブリッジを渡る。
レインボー・ブリッジから日の出が見える。東京の摩天楼はようやく眠りから覚めようとしている。
その眠りから街が覚めない内にぼく達は慣れ親しんだ東京を出て行ってしまう。アクセルを踏み込み、街を置き去りにする。
渋滞名所の浜崎橋ジャンクションも全く混雑がない。交通量は極めて少なく快適に都心を横断する事が出来る。
回送表示のタクシーやトラックがいつもよりスピードを上げて走っていく。渋谷の開けた谷間を通り過ぎる。
マークシティから出庫してきた銀座線の奇抜な色の車両がビルの中に設けられた駅へゆっくり入っていった。
用賀を過ぎてそのまま東名高速道路へ入った。東京インターチェンジからの合流で三車線の道路が始まる。
御殿場から新東名高速道路に入る。駿河湾沼津サービス・エリアでいったん休憩して更に西へ進む。
足柄付近で急カーブの連続だった東名高速と比べて新東名はそれほどのカーブも勾配もなく走りやすい。
三車線区間と二車線区間が交互にやって来るが全線で三車線に出来るスペースは確保されている。
浜松サービス・エリアを出て二月に開通したばかりの区間を通りそのまま伊勢湾岸自動車道に入る。
三つの橋が連なる名港トリトンで名古屋港を一気に駆け抜ける。
東名阪自動車道で流れが悪くなり新名神高速道路でまた一気に流れる。
土山サービス・エリアで刈谷パーキング・エリア以来の休憩を取った。
東京を出て六時間が過ぎていた。そこで昼食にする。
もう関西地方なのだ。西日本までやって来た。
夜が明けるまで東京にいたとは思えないところまで来た。
(゚、゚トソン「随分と遠くまで来ましたね」
(´・_ゝ・`)「あぁ」
256
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:48:39 ID:bLfC7y560
上下線集約型の土山サービス・エリアのフード・コートで食事を取る。
凝り固まった身体の筋肉をほぐす。長時間の運転で全身が痛い。
普段これほどに長時間運転する事はなく慣れていないせいでもある。
毎日のように長距離を行き来するトラックドライバー達は大したものだ。
サービス・エリアで休憩するたび身体を伸ばしていたがそれでも疲労は溜まっている。
(゚、゚トソン「お疲れのようです」
(´・_ゝ・`)「もう若くないのだと痛感したよ」
三十代に入ってから一気に体力の衰えを感じていた。
間もなく四十代だ。こればかりは考えると気が滅入りそうになる。
(゚、゚トソン「今日はもうやめておきますか」
(´・_ゝ・`)「うん、そうだね、この辺りで泊まろう」
携帯電話で駐車場付きのビジネス・ホテルを探す。
この辺りとは言ってもまだ滋賀県に入ったばかりの山間部なのでその先の大津や草津で探す事にする。
ラブ・ホテルならば駐車場が自動的に用意されている。しかし宿泊ならばやはり普通のビジネス・ホテルの方が好ましい気がした。
結局、大津市内のビジネス・ホテルが良さそうだったのでそこに決める。名神高速道路のインターチェンジからもほど近い。
昼食を終えて車に戻る。柔らかいクッションの購入を真剣に検討する必要がありそうだ。
部分開通の新名神高速道路は草津で終わり、名神高速道路に合流する。
サービス・エリアと併設の大津インターチェンジで遂に高速道路を降りる。
一般道に出て下り坂を進むとすぐに市街地に出る。大津市の市街地は山と湖に挟まれているようだ。
道なりに進んでいくと琵琶湖が見えてくる。先にドラッグ・ストアに立ち寄りトソンの日用品を買い揃える。
予約をしておいた東横インは駅からも近く国道沿いにあった。国道の中央には線路が伸びている。
路面電車でも来るのかと信号待ちの間に待っていると駅から四両編成の普通の列車が走っていく。
道路の上を普通の列車が走るのも衝撃だが急カーブをなんとか曲がっていくのも驚きだ。
東横インにはタワー駐車場がありそこに車を停めてチェック・インを済ませる。
257
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:51:34 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「お疲れ様でした」
(´・_ゝ・`)「いやぁ、疲れた」
ベッドに座って深く息をついた。テレビの電源を入れてみると放送局が関東とは違うので戸惑う。
チャンネル一番はやはりNHKだがそれ以外の大手民放は順番が違い混乱する。
(゚、゚トソン「難しいですね」
(´・_ゝ・`)「難しいな」
せっかくなので琵琶湖を見に行く。
中央に線路が敷かれている国道を歩いていくと湖の畔に設けられた駅に出る。
そこで線路は交差点を横切る形で大きく曲がっているため電線が多く張り巡らされている。
歩道橋に上がると駅に繋がっていた。時刻表や運賃表を見ると先ほどの四両編成は京都まで行くようだ。
琵琶湖の近くで道路の上を路面電車のように走り、県境では山間の急勾配を走り、京都市内では地下鉄として走るらしい。
随分とマルチな活躍をするのだと思った。琵琶湖を映したような水色の四両編成は鐘のような警笛を鳴らしながら交差点に入っていく。
歩道橋は駅を出てもペデストリアンデッキとなって続き、そこから広大な琵琶湖を見渡す事が出来た。
吹き付ける風は強すぎずむしろ気持ちいいぐらいだった。
(´・_ゝ・`)「琵琶湖を初めて見たよ」
(゚、゚トソン「琵琶湖の下の方は結構絞られて狭くなっています。 彦根とか長浜の方が大きく見えますよ」
(´・_ゝ・`)「そうなのか。 ここだけでも海みたいに見えるけどね」
駅近くの洋食屋で夕食にする。瑞々しくカラフルなテリーヌが目を引いた。
昨晩にトソンを攫ってからもう丸一日が経とうとしている。
今朝まで東京で今では大津だ。遠いところまで来た。
しかし目指すべき九州はもっともっと先だ。
258
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:54:27 ID:bLfC7y560
ぼくは会社に体調不良を言って休んだがこの言い訳は長くは持たない。
トソンの方も家出か事件か判断をしかねているだろう。
どちらも時間が経過すると共にこれはおかしいと気づかれるはずだ。
しかしぼくとトソンの関係性については何も残っていないはずだ。
関東から同じ日に二人が失踪しただけだ。
その間にぼくとトソンは遠い異郷の地に行ってしまうのだ。
(´・_ゝ・`)「せっかくだから、明日は四国でも寄って行こうかな」
(゚、゚トソン「四国ですか」
(´・_ゝ・`)「行った事がないんだ。 あの大きな橋もテレビでしか見た事がない」
(゚、゚トソン「高松へ行った時は列車で、松山へ行った時は飛行機でした。 車で行くのは初めてです」
(´・_ゝ・`)「せっかくだしな」
駅から東横インへ歩いていく。国道に敷かれた線路を四両編成の列車がゆっくりと走っていく。
車用に設置された信号機が赤に変わり並走する車と共に横断歩道の前で停車する。
青信号に変わると鐘の音のような警笛を鳴らしながら列車は発車していく。
もう少し行った先で列車は身をよじらせて国道から離れていった。
部屋に戻ってシャワーを浴びた。それからトソンとセックスをした。
シャワーからトソンは何も身につけずに出てきた。ぼくも裸でそれを待っていた。
ぼくは制服が好きだ。女子高生が好きだ。それは今でも変わっていない。
何年も積み重ねてきた性癖は簡単に消えたりはしない。
それでもトソンとは制服を介さずともセックスしたいと思った。
気がつけば一人の女性として愛していた。
(゚、゚トソン「父との行為は日常的なものであったし私もその時間は好きでした」
(´・_ゝ・`)「お父さんと一つになれる」
259
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 22:58:18 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「一つになる前の時間も、一つになっている瞬間も、終わった後の時間も好きでした」
胸元までシーツを持ってきてトソンはぼくの胸に顔を寄せた。
(゚、゚トソン「脳卒中で倒れてからあっという間でした、。 その予兆もありませんでした。 何の前触れもなく。 文字通り私は急に父を失ってしまいました。
気持ちの整理がつかないうちにあの人に話を持ちかけられました。 そこには直接的な表現でないものの私が身体を差し出す必要があると示唆しました」
それが前に語った通り、トソンが当てつけとして援助交際に名乗りを上げた理由だ。
(゚、゚トソン「そしてデミタスさんと会いました。 初めて父以外と。 その時点で愛していた訳でもない人と」
(´・_ゝ・`)「ぼくは驚いたんだ。 こんな性的なものとは無縁そうなお嬢様学校の生徒がこれほど上手にするものかと」
(゚、゚トソン「父は本当に色々な事を私に教えました。 見方によれば妻を亡くした男が娘を都合の良いように教育しただけに過ぎないのかもしれません。
それでも私は父が好きでしたし求められればその分応えたかったのです。 二人だけの家庭においてそれは日常の一部でした」
トソンに様々なものを与え、トソンにとっての全てであり、急に去ってしまった父親。ぼくは彼を想像する。
父親である以上に彼は娘を愛した。トソンの家族としての愛情も恋としての愛情も彼のものだった。
彼はトソンにとっての全てであったしトソンの全てを持っていた。
(゚、゚トソン「普通は出会ったお互いを知って恋をして一つになる。 だけど私達は逆から始めてしまいましたね」
(´・_ゝ・`)「そうだな。 だからぼくは君を抱いても君の中まで見られないような気がしていた。 実際そうなんだ。
いくらセックスをしても本当に相手の全てが分かる訳ではない。 考えている事が手に取るように分かる事もない」
(゚、゚トソン「正直なところ私は本当に好きになってしまうとは思っていませんでした。 まだ父がこの世を去ってからじゅうぶんな時間が経った訳でもない」
(´・_ゝ・`)「君は父親とずっと繋がっていたから、急にそれが断ち切られてしまったんだ。 そしてぼくと繋がるようになった。 誰かと繋がっていていたかった」
260
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:02:07 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「そうなのかもしれません」
トソンが顔を寄せる。確かめるように少し唇を合わせ、今度は時間をかけて唇を重ねる。
(゚、゚トソン「だけどあの時、デミタスさんに打ち明けた時は、当てつけとして利用した罪悪感もありましたし、純粋に話したかったんです。
そしてデミタスさんなら良かったのにと、本当に思いました」
(´・_ゝ・`)「ぼくは怯えてしまった。 早く決心すれば君が傷つく事はなかった」
(゚、゚トソン「いいんです。 今こうして二人でいられるのなら」
翌朝チェック・アウトを済ませて東横インを出た。タワー駐車場からスバル・レガシィを出庫させ西を目指す。
大津インターチェンジから再び名神高速道路に乗る。吹田サービス・エリアで休憩をしてから終点の西宮インターチェンジに到達する。
そこから阪神高速道路神戸線に乗り継ぎが出来る。神戸市街地を眺めながら二車線の道路が続く。
市街地を横断する神戸線は防音壁が高く、更に海寄りにもう一つ道路がありそちらの方は眺めが良さそうだった。
やがて山間部に入り関西の象徴ホームセンター・コーナンを横目に分岐すると美しい形の垂水ジャンクションに入る。
ジャンクションの先は長いトンネルで変化のない景色は眠気を誘った。遠い先にようやく光が見えてくる。
長いトンネルを抜けるともう明石海峡大橋が目前に迫っていた。トンネルを出るとすぐに橋を渡り始めるのだ。
世界最長の単独吊り橋で長さはおよそ四キロメートルにも及ぶ。そこから眺める明石海峡は格別だ。
橋を支える二つの主塔は高さ三百メートルほどあり、これは横浜ランドマークタワーと同じほどだ。
渡り終えてすぐの場所に設置された淡路サービス・エリアで停まり橋を眺める。
再び走りだし淡路島を抜けて大鳴門橋を渡るとようやく四国に入る。
徳島へ向かう真新しい道路との分岐を過ぎると片側一車線の対面通行となる。
実質高速道路に組み込まれている有料道路区間にある津田の松原サービス・エリアで昼食にする。
坂出ジャンクションから瀬戸大橋に入り四国を出る。瀬戸大橋は瀬戸内海に架かる幾つもの橋の総称だ。
瀬戸内海に浮かぶ途中の与島にはパーキング・エリアが設置されていて立ち寄る事が出来る。
その日は広島で泊まる。テレビでニュース番組を見ていたが世間は平和だ。
それに地方はローカル局の番組が多くなかなか全国区の番組をやっていない。
翌朝広島を発ち、昼前に壇ノ浦パーキング・エリアに着いた。本州最後の休憩施設だ。
車を停めるとすぐ眼前に関門橋がどかんと構えている。これを越えれば九州だ。
展望スペースへ降りて暫く関門海峡を眺めた。大きな船舶が行き来していく。
これまでに通ってきた明石海峡や瀬戸内海と比べると対岸までの距離は近い。
向こう側の九州の様子がよく分かる。
261
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:04:41 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「壇ノ浦の戦いで有名なところだね」
(゚、゚トソン「はい」
(´・_ゝ・`)「もう少しで九州だね」
(゚、゚トソン「ここまで来ましたね」
(´・_ゝ・`)「九州で行ってみたい場所はあるかい?」
(゚、゚トソン「熊本城ですかね…あとは長崎鼻に」
(´・_ゝ・`)「長崎鼻?」
(゚、゚トソン「鹿児島県の南端にある九州最南端です」
(´・_ゝ・`)「いいね、文字通り地の果てという訳だ」
壇ノ浦パーキング・エリアを出て出発する。
関門橋を越える。遂に九州に入る。陸路で行ける果てだ。
山口で山陽自動車道から乗り継いだ中国自動車道は九州自動車道に名前を変える。
九州自動車道は大合併で広大な土地を持つ北九州の市街地を迂回するように通り過ぎる。
福岡インターチェンジで九州自動車道を降りて福岡都市高速道路へ乗り継いだ。
西鉄天神駅近くの駐車場に車を停めて福岡の市街地を散策した。
九州とはいえ市街地は本州とさほど変わらない。どこまでもビルが続く。
道路脇には色とりどりのタクシーが並び路線バスが長い列を作っている。
他の大都市と比べて福岡の空港は市街地のすぐ隣にあって飛行機が近くに見える。
食事をして駅近くの西鉄インで一泊する。カーテンを開くと西鉄の線路がすぐ下を走っていた。
翌日に再び福岡都市高速道路に乗り南下する。市街地に隣接する福岡空港のすぐ隣を通る。
フェンスのない場所から国際線ターミナルが見えた。そのまま終点まで進み国道三号線に出る。
西鉄太宰府線を越えて左折して大型駐車場に停めた。石畳の参道を歩いて奥へ進む。
(゚、゚トソン「太宰府天満宮は一度行ってみたかったんです」
(´・_ゝ・`)「ぼくもいつか九州に行く機会があれば行ってみたいと思っていたんだ」
262
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名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:08:26 ID:bLfC7y560
平日という事もあり境内はそれほど混んでいなかった。三が日などには初詣客でごった返すのだという。
五月の大型連休も終わりここからは休日の一つもない退屈な日々だ。更に梅雨も控えている。
本殿に着いてトソンに硬貨を渡して一緒に放る。手を合わせて静かな時間が訪れる。
祀られているのは菅原道真で、学問の神として全国的に有名だ。
トソンは一体何を祈ったのだろうか。大学進学についてだろうか。
今こうしてぼくと生活を共にしている間、トソンは学校を休んでいる。
トソンは家を出た直後からずっと携帯電話の電源を切ったままだ。
勿論無断欠席という訳ではなく家の者が何か理由をつけて学校に連絡をしているだろう。
こうしてぼくといわば駆け落ちのような状態が続いている以上は学校という日常にも戻らない。
それでもトソンはその日常に戻った先での大学進学という至極まっとうな目標を祈っているのだろうか。
別にぼくとの関係の継続をトソンにも祈って欲しいだとか、そういう押し付けがましい高校生じみた希望がある訳ではない。
ただ純粋に気になるのだ。そもそもこの逃避行はおそらくは永続する事のないものだ。それはぼくもトソンも心のどこかでは冷静に理解している。
ぼくはトソンを助けたかった。トソンはあの男から逃げたかった。ぼくはトソンを愛していた。トソンもぼくを愛していた。
二人で誰も知らない場所へ行きたかった。しかしそれは永遠に続く事はないだろう。トソンの家の者は捜索願を出しているだろう。
ぼくの行為は拉致だ。略取・誘拐罪として検挙されるだろう。いつかぼくとトソンの繋がりがどこかから調べ上げられてたどり着かれるかもしれない。
職場には体調不良だと言い続けているがそろそろ限界だろう。昨日から着信が多くなり電源を切ってしまった。
緊急連絡先として住所を職場に提出しているのでそのうち上司がやって来るはずだ。そこにはぼくも車もない。
上司はようやく異変に気づく。ぼくも捜索願を出されるかもしれない。そう考え始めるとぼくとトソンの時間は極めて有限である気がする。
少しでも長くトソンといられるように。ぼくは願う。きっといつかトソンはあの邸宅に連れ戻される。あの男の元へ戻される。
トソンの望まない環境に戻される。どういう形になるかは分からないけれど。せめて少しでも長くこうしていたい。
263
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:10:21 ID:bLfC7y560
幼稚な考えだと分かっていた。トソンを助けたいという気持ちだけでここまで来た。誰もがぼく達の知らない場所へ。
しかし将来的な展望などはそこにない。行き当たりばったりの逃避行だ。果てまでたどり着いてその先にどうするのか。
どうやって生活していくのか。いずれ貯金は尽きる。会社から解雇通知が来る。頭でそんな当然の未来は理解しているのだ。
それでももう後戻りは出来ないとトソンを邸宅から連れ出して横浜ベイブリッジを渡った時に覚悟したのだ。
(´・_ゝ・`)「行こうか」
(゚、゚トソン「はい」
ぼくは結局トソンが何をお願いしたのか訊かなかったしトソンもぼくに訊かなかった。
九州自動車道に戻って南下を続ける。熊本インターチェンジで降りて市街地へ向かう。
駐車場に車を停めてトソンが見てみたいと言っていた熊本城に行く。
それから繁華街を歩いてみた。熊本もJRの駅と中心地は離れているようだった。
新幹線もある熊本駅からは路面電車が繁華街の方へ続いている。
古い単行の列車もあれば黒塗りの豪華絢爛といった列車も走っている。
散策をしているともう遅い時間となったので熊本で泊まる事にする。
繁華街にある三井ガーデンホテルに予約をして駐車場に車を入れた。
もう熊本なのだ。もう一つ南下すると鹿児島に入る。果ての地、長崎鼻まで間もなくだ。
そこでいったんぼく達の旅は終わる。果てに着いてしまえばその先はない。
それからの事も考えていなかった。トソンを助け出し、一緒に逃げ、果てに着く。
そうしてどうするのか。明確なビジョンなんて持っていなかった。
しかし必ずその先というのは存在するのだ。どういう形であれ存在する。待ち構えている。
ホテルでぼくはトソンとセックスをする。一日の運転の疲れを癒やすようにトソンは労る。
こんな日々がずっと続いていけばいいと思っていた。果てに着いてしまうのならばまた一周すればいいと思った。
二人で日本一周でもしようかとすら思った。しかしそれは違うのだ。時間の引き伸ばしにしかならないのだ。
ぼくはトソンを助けたかった。助け出した。しかしそれは一時的なものに過ぎない。本質的なものは解決されない。
現実からトソンを隠匿しているだけだ。いずれ終焉が来るものだ。分かっているのだ。
264
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:12:50 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「ねぇトソン」
(゚、゚トソン「はい」
(´・_ゝ・`)「明日にはきっと長崎鼻に着くよ。 九州最南端に」
(゚、゚トソン「なんだか旅の終わりみたいですね」
(´・_ゝ・`)「あぁ、本当だ」
ぼくの腕に絡まるトソンの頭を撫でる。この時が永久に続けば。しかし永遠なんて存在しない。
そのうちトソンは眠ってしまったようだった。小さく寝息をたて始めた。
ぼくはトソンを助けたかったし、守りたいのだ。しかしこの状況は最善ではない。
ようやく決心をする。トソンのより良い未来のために。輝かしい未来のために。
せめて今日ばかりはこうしてトソンとのゆったりとした時間を楽しみたいと思った。
翌日、熊本から九州自動車道に乗る。南下して県境を越え霧島山を横目に最後の鹿児島県に入る。
海に突き当たり鹿児島湾に寄り添うように九州自動車道はやんわりとカーブする。
鹿児島インターチェンジで九州自動車道の終点を迎える。
吹田から続く中国自動車道から関門橋より託された道路もここで終わりだ。
道路はそのまま指宿スカイラインとしてもう少し続く。
途中からそれまでの高速道路とは異なり一般的な有料道路らしい形態になる。
ETCにすら対応していない終点の料金所を越えるといよいよ道路も終わる。
夜明け前の谷津船橋インターチェンジから。東名高速道路の起点東京インターチェンジから。
随分と走ってきたものだ。長い旅だった気がする。何度も給油が必要であったし時間もかかった。
後は地の果てまで一般道路を走るだけだ。途中の大きな湖が見られる駐車場で停まった。
トイレに行くと言ってトソンを車に残してぼくは携帯電話の電源を数日ぶりに入れる。
そしてどの着信履歴とも違う番号に連絡をする。そして車に戻って最後の地を目指した。
長崎鼻入口という分かりやすい交差点で曲がる。もう夕方となっていた。
奥には綺麗な形をした開聞岳が見える。半島の先端に近づくにつれ左右が狭くなる。
やがて道路は一本だけになった。そして道路が終わり脇にあった駐車場に車を停めた。
まさしく終着地だ。地の果て。旅のゴール地点。遂にここまで来てしまった。
車を降りて歩いてその先を目指した。先には白い灯台が建っていた。
更にその先にごつごつとした岩が海に張り出していた。その先へ岩に注意しながら歩く。
そして遂に赤い岩の先端にたどり着いた。もうこの先には何もない。
夕陽に照らされて海が輝いている。奥で形の綺麗な開聞岳が佇んでいる。
地の果て。これ以上はもうどこにも行けない。ゴール。行き止まり。
265
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:14:35 ID:bLfC7y560
(゚、゚トソン「ここまで来ましたね」
(´・_ゝ・`)「ここまで来たな」
(゚、゚トソン「なんだか感慨深いです」
(´・_ゝ・`)「あぁ。 トソン、ぼくは君に会えて良かったよ。 出会えて良かった。
ずっと女子高生と援助交際をしているような男がようやく一人の女性を愛したいと思った」
(゚、゚トソン「私もデミタスさんに出会えて良かったです。 自暴自棄になって掲示板に書き込んで、ここまで来るとは思いませんでした」
(´・_ゝ・`)「ある意味では運命的だ。 ぼくは新たな援助交際のパートナーを探していて、君は自棄になり当てつけで掲示板に書き込んだ」
(゚、゚トソン「それでもデミタスさんが一番誠実そうな方だと思ったからです。 援助交際で誠実そうかどうかで判断するなんて変な話ですが」
(´・_ゝ・`)「本当に考えれば考えるほどよく出会えたものだ。 まぁ男女の出会いなんてどれも運命的でロマンチックなものなんだろうけど」
(゚、゚トソン「たとえ援助交際だとしても」
(´・_ゝ・`)「全くだよ。 もしも違う出会い方をしていれば、とぼくは今でも思う」
(゚、゚トソン「違う出会い方」
トソンが繰り返す。
(´・_ゝ・`)「あぁ、違う出会い方。 たとえばぼくは普通の青年で君は女子高生でなく普通の大人の女性だったならば」
(゚、゚トソン「だったならば?」
(´・_ゝ・`)「きっと普通の男女の関係になれたのかもしれない」
266
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:16:45 ID:bLfC7y560
あくまで仮定の話だ。違う出会い方をしていれば、抱えている問題も環境も違ったかもしれない。
このような結末をたどる事もなかったのかもしれない。
けれどぼくが好きなのは女子高生で、その仮定はやはり仮定の域を出ない。
(´・_ゝ・`)「でも実際は女子高生しか愛せなかった男と未成年の女の子だ」
だから。そこで区切る。きっとお互い分かっていた事だ。
(´・_ゝ・`)「この関係は永続するものではない」
トソンは何も言わずに海を見ていた。この海の先にあるのは屋久島に種子島、奄美大島に沖縄の南西諸島だ。
道路はここで終わりこの先に行けなくとも土地も生活もまだ続いている。二人で行く機会があればきっと楽しいだろう。
(´・_ゝ・`)「間もなくこの逃避行という非日常は終わる。 君はこれから日常に帰る。
また普通に高校に通い、大学へ進学して、希望の進路へと進む」
(゚、゚トソン「私は、デミタスさんと一緒に」
(´・_ゝ・`)「いいや、君には未来がある。 今の生活を続けていくのはその未来を閉ざす事になる。 君の将来を思うこそなんだ」
(゚、゚トソン「どうして」
(´・_ゝ・`)「分かるんだ、ぼくみたいに十年近く援助交際を続けて何人もの女子高生と接していると分かる。 君のような年齢の判断能力はとても低い。
君は同じ年齢の子と比べるとしっかりしているし大人びているけれど、それでも長期的なビジョンを見据えた時の判断能力は低いんだ。
それを食い物にしてきたぼくが言うのもおこがましい事なんだが、ぼく達大人がそれを正して補助しなくてはならない」
(゚、゚トソン「そんな…」
(´・_ゝ・`)「今日までの日々が間違いだったとは言わない。 ぼくは後悔していないし、楽しかった。
だけど君は元の日常に戻らないといけない」
(゚、゚トソン「でも今になって」
267
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:18:34 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「大丈夫だ、ぼくは誘拐犯で君は連れ回された。 そういう構図になる。 君は被害者だ」
(゚、゚トソン「デミタスさんを犠牲にするも同然ではありませんか」
(´・_ゝ・`)「実際に罰せられるのはぼくだよ。 援助交際に未成年の誘拐と連れ回し。 紛れも無く犯罪だ」
トソンは守られる。奇異の目で見られるかもしれないが、守られるのだ。
(´・_ゝ・`)「ぼくは君があの邸宅で受けていた仕打ちを話す。 この誘拐がその仕打ちから救い出すべく行われたものだと話すよ。
そして君も正直に全て話すんだ」
(゚、゚トソン「私も、話す」
(´・_ゝ・`)「そうだ。 君をあの邸宅から攫った事で風穴ぐらいは開けられただろう。 そして、そうして警察に話す事でこの逃避行は完遂するんだ」
それでも揉み消されるかもしれない。抹殺されてしまうのかもしれない。
もっと確固たる証拠を掴んで突きつけてやるとか、そういう根本的な解決が出来たら良かった。
しかしセキュリティが強固で閉鎖的な邸宅でそれは叶わない。
(゚、゚トソン「デミタスさん、私は離れたくないんです」
(´・_ゝ・`)「そう言ってくれるのは本当に嬉しい」
ぼくは本当に嬉しい。十年近く援助交際を続けてきて、ここまで心を通わせた子はいなかった。
そもそもいずれ大人になってしまう女子高生には恋愛感情を抱かないようにしてきたせいでもある。
だから今になってこれほどに誰かの事を思う時が来るとは思わなかった。我ながら驚くばかりだ。
トソンの未来のためならばぼくは進んで犠牲になる。それは傲慢ながらこれまでの贖罪にも繋がるだろう。
十年あまり援助交際を続けて己の欲求を満たしながらもどこかでいつかは手を打たなければならないと思っていた。
まさに今がその時なのだと思う。これまでの自分の行いが清浄化される訳ではない。それでも構わない。
トソンが救えるのなら。トソンの未来を少しでも良いものに変えられるのなら。
何せトソンはまだ十代の女子高生だ。未来はどの方向にも繋がっている。
268
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:22:27 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「ありがとう、トソン。 どうか幸せに」
(゚、゚トソン「どうして、今生の別れみたいではないですか」
(´・_ゝ・`)「それに等しいものさ」
ぼくは振り返って両手を挙げる。
(´・_ゝ・`)「投降します」
長崎鼻の灯台の前に何人もの警察官が構えていた。大きな湖が見られる駐車場でぼくが携帯電話で通報した警察だ。
背後に忍び寄る存在に気がついていなかったトソンは驚いて周囲を見渡した。
最南端の地の果て、海に囲まれた岩場の先端。完全に警察官に包囲されている。
(´・_ゝ・`)「これでぼくは誘拐犯、君は攫われた被害者だ」
(゚、゚トソン「そんな、デミタスさん、これでは」
(´・_ゝ・`)「いいんだ」
トソンが女性警察官に保護される。ぼくには男性警察官がやって来て、手を取る。
/ ゚、。 /「先程電話で通報したデミタスさんでよろしいですか?」
(´・_ゝ・`)「はい。 ぼくがデミタスです。 彼女はトソン。 ぼくが誘拐しました」
/ ゚、。 /「分かりました。 ではデミタス容疑者、略取・誘拐罪で十七時四分、現行犯逮捕します」
手錠がかけられる。テレビ・ドラマなどでよく見る銀色のものでなく黒い手錠だった。
トソンの方を見る。女性警察官に保護されたトソンは泣きそうな顔をしていた。
そんな弱々しい表情を初めて見た。胸を締め付けられる。きっとこれが最後に見る彼女の顔だ。
269
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:26:16 ID:bLfC7y560
(´・_ゝ・`)「さようなら、トソン」
警察官に手を引かれながらぼくは言う。
(´・_ゝ・`)「君は幸せになるんだ」
それが最後だった。泣き出したトソンはもう何も言葉に出来なかった。
ぼくは取り調べで全てを話した。トソンの家庭状況も、この十年あまり援助交際を続けていた事も洗いざらい話した。
新聞の社会面で報道され会社も懲戒解雇となった。担当弁護士から聞かされた話ではトソンはぼくが悪くないのだと庇っているそうだった。
ぼくとしてはいっそ悪者にしてもらって構わなかった。それでトソンが元の生活に復帰出来るのならばそれで構わない。
逃避行の間は家の者が仮病で通しただろうし、公開捜査に踏み切られていないうえ未成年なのでメディア媒体に名前も出ていない。
気がかりなのはあのロマネスクという男との関係性がどうなったかであった。トソンの望む方へ進んでいればと願うばかりだった。
ぼくには実刑判決が下った。求刑は懲役四年で言い渡された判決は懲役三年だ。ぼくは控訴せず受け入れ一審判決が確定した。
そしてどうやらあの横浜山手の邸宅で働いていた従者の一人がロマネスクとトソンの身体的関係を週刊誌にリークしたようだった。
週刊誌は三週に渡って大々的に特集を組み、ワイドショーでは昼夜問わず連日騒がれた。国会でも厳しい追求が行われた。
野党第二位の党首を務める大物国会議員が引き取った未成年の少女を夜な夜な抱いていたというスキャンダルは世間を騒がした。
彼は失脚して表舞台から姿を消した。そしてトソンは新たな環境に身を置く事となった。ここまでが担当弁護士に聞かされた事実だ。
270
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:28:24 ID:bLfC7y560
当然ながらぼくは出所後もトソンとの接触を禁じられている。もうトソンに会う事もないだろう。どこかで幸せに暮らしているのならそれで良いのだ。
取り調べにおいても裁判においてもぼくは反省しているのだと語った。しかし後悔はやはり全く感じていない。
これで良かった。ぼくは確信を持ってそう言える。未練や後悔など微塵もない。
トソンを助けたかった。本当に愛した。良い未来にしてあげたいと思った。
それにきっとどこかでこれまでの贖罪を求めていた。
援助交際を続ける現状をどこかで終わらせなければならないと気づいていた。
全てを失ったが、それはこれまでの代償にも思えた。そしてトソンを救えたのだという事実でぼくはやはり満足をする。
出所をしてからぼくは鹿児島へ住まいを移した。もう会社は解雇されているし元同僚や友人に合わせる顔もない。
元々両親はとっくに他界していて遠い親戚がちらほらいたぐらいだし、津田沼は出身地でもなく思い入れのある土地でもない。
あれほど通った首都高湾岸線を走る事はもうないだろう。あの欲望渦巻く大都会東京に戻る事もきっとない。
それに、誰も知らない場所に行きたかったのだ。ぼくが援助交際を十年近く続けて、女子高生を誘拐したとは誰も知らない場所へ。
ぼくが逮捕された鹿児島では小さな記事程度にしかならなかっただろうし、もう三年も経っていれば誰も覚えていない。
全くの新しい土地でゼロからのスタートを切る。これまでとは違う人生を歩み始める。誰もぼくを知らない場所で。
住み込みで働ける建設現場の仕事に就いてなんとか一応は安定した生活に入る。
ぼくのような流れ者が多い職場で人種も様々だ。同じ前科者が全体の二割を占めるほどだ。
これまで鹿児島には縁がなかったが、面白い街だと思う。テレビで降灰予報を流している。
駅ビルの屋上には何故か観覧車がある。蛇のような連接の路面電車が市街地を走っている。
もう長年乗ってきたスバル・レガシィに乗る事は出来ないけれど、ようやく安い中古の軽自動車を買える。
たまに安い中古の軽自動車で長崎鼻に行く事がある。その行為に意味はないけれどどうしても行ってしまう。
駐車場に車を停めて歩いて灯台まで行き、その先の赤いごつごつとした岩を眺める。
地の果て。最後の場所。トソンとの時間はそこで終わった。何もその痕跡はない。
駆けつけてきた警察官も赤色灯を回転させた鹿児島県警のパトカーもいない。
勿論トソンもそこにはいない。
271
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:32:52 ID:bLfC7y560
トソンの事を忘れた事はなかった。忘れた日はなかった。元気にしているか、無事に日常に戻れたか、望む進路に決まっただろうか。
三年が経った今、トソンはもう女子高生ではない。お嬢様学校を卒業し、神奈川か東京の大学に進み、成人を迎えているはずだ。
制服を脱いで大人になったトソンを時折想像する。元々大人びた彼女なので劇的に変わる事もないだろう。
ぼくからの接触は禁じられている。それにこっそり会いに行ったり姿だけ見に行ったりしようとも考えなかった。
この日本のどこかでトソンが良い未来に進み幸せに暮らしていればそれで良いのだ。
そう思っているがぼくはこうしてあの最後の地の果てを訪れてしまう。恐らく彼女の面影を求めている。
やはり、きっと会いたいのだ。夢の中でもいいから一目見たいのだ。
そうして成長して大人になったトソンの姿を確認して良かったなぁと心から安堵したいのだ。
しかしそれは叶わない。叶う事はない。ぼくは東京から遠く離れた地の果てで彼女を想う。それだけだ。
さて、ぼくの話はこれでお終いだ。異常性癖を持った男の哀れな末路だと言われてもぼくは否定する事が出来ない。
もっと違う道があっただとか、それではただの自己満足だとか罵られてもぼくはそれを黙って受け入れるほかない。
それでもぼくは後悔していないのだ。これで良かった。願わくば、いつか会う事が許されるのならば。
ぼくは目を閉じる。聞こえるのは海のさざなみだけだ。緩やかに、激しく、それは打ちつける。満ちては引いていく。
初めて会った日の事を思い出す。四月九日、土曜日。横浜駅西口。ヨドバシカメラマルチメディア横浜のベンチ。
今でも鮮明に思い出せる。果たして彼女は本当に来るだろうかと不安に思いながら腕時計を見ると声をかけられる。
―――さん」
忘れもしない彼女の声。きっと永遠に忘れる事のない、
「デミタスさん」
透き通るような凛とした声がぼくの名前を呼ぶ。
ぼくはゆっくりと声のした方を振り返る。
(゚、゚トソン「久しぶり、ですね」
(´・_ゝ・`)「久しぶり、だな」
(´・_ゝ・`)また出会うようです(゚、゚トソン
272
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:33:51 ID:bLfC7y560
投下終了です。
読んでいただいた方ありがとうございました。
273
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:35:48 ID:LKSIJcuI0
いいねえ
部屋と男女の関係が毎回凄く面白かった
乙
274
:
名も無きAAのようです
:2016/06/04(土) 23:42:27 ID:bLfC7y560
余談です。
今回の同棲もの+物件情報は新潮NEX『この部屋で君と』の真似です。
あと紅白で投下した人間オナホールは元々このスレに投下するものでした。
別に書いていたものが全く間に合わなかったので紅白の方に回しました。
あと無名ちゃんめちゃシコ
275
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 00:16:48 ID:PVtQUY0.0
オナホもこれもすげー面白かった
>>1
に盛大に乙
あと抜いた
276
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 10:50:39 ID:YFUPYrhM0
乙! とても良かったです
277
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 11:18:28 ID:lJtXTmMU0
人間オナホールあんただったのか
あれもすごく好きだったよ
278
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 14:36:15 ID:jqTRXESg0
乙!すごくよかった。人間オナホの人だったのか、あれも面白かったなあ。
出てくる登場人物が大体自分の異常な部分とか最低な部分を認めてるのが好きだな。
特にデミタスなんかは、未成年買春に変わりは無いんだけどその上で最善の行動をした感じだ。
279
:
名も無きAAのようです
:2016/06/05(日) 15:59:23 ID:OOg4SPg60
濃厚な鹿児島描写で懐かしい気持ちにさせられた
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