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獣人総合スレ 避難所

330名無しさん@避難中:2010/02/19(金) 19:00:22 ID:ZygklRvc0
オラ投下されるのが楽しみになってきたぞ!

予想。
一位・サン先生
二位・保健ババア
三位が予想できない…。
朱美か、英センセか。SS部門とイラスト・マンガ部門で順位が割れそうだな。

順位もだけど、どんな演出で発表されるかwktk

331名無しさん@避難中:2010/02/19(金) 21:21:13 ID:5VqwrU3U0
ttp://loda.jp/mitemite/?id=865.jpg

332名無しさん@避難中:2010/02/19(金) 23:54:49 ID:1w6DkIak0
>>331
サン先生は何作ってるんだw
後で英先生に怒られるぞw

333名無しさん@避難中:2010/02/20(土) 03:15:16 ID:PMXGG2Uo0
>>331
なりゆき サンセット
って読んじゃった

334わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/02/21(日) 22:05:26 ID:WPHKKZGo0
こんな日に規制だなんて……。
申し訳ございませんが、以下の代理投下をよろしくお願いいたします。

『2月22日のごめんなさい』

コレッタがクロに口を利かなくなってしまった。
いつも学校では仲良し子ネコのコレッタとクロ、そしてミケの三人。いつもの公園でいつもの様に遊びながら、今日だけの夜を待ちわびていたときのこと。
ちょっとのつもりで、クロがいつものようにからかっていたのだが、調子に乗りすぎたのか、笑みを忘れたコレッタはクロの手を叩いていた。
「もう、クロとは遊ばないニャ!!!」
同じ子ネコのクロは、金色の髪をなびかせながら公園から走り去るコレッタの後姿をじっと見つめることしか出来なかった。

いっしょに遊んでいたミケも、いつのコレッタの反応との違いが分かったのか、気まずいそぶりを見せていた。
『いよいよ今夜』だというのに、クロもミケも、コレッタの初めて聞くような声が脳裏に焼きついて、夜まで楽しむ余裕はどこへやら。
「クロ、いけないニャよー」
「だって、コレッタが……」
原因は些細なことだった。クロが、ほんのちょっとやり過ぎただけだった。覆水盆に帰らず、クロの足元をこぼれた水がじわりと濡らす。
もしかして、クロがこぼした茶碗の水は、じわじわと地面に吸い込まれて、再び姿を見せることはもう無いのかも。
そんなことはぜったい無いと信じたいけれど、世の中にぜったいなんか無いんだよ。と、意地悪な空の雲がクロを責める。

―――公園から夢中で走り去ったコレッタは、気が付くと街の真ん中の電車通りにまでに辿り着いていた。
コレッタの母親が生を受ける前より走っていた電車は、生まれながらの鉄輪をきしませ、なんでも無い一日の一場面を描く街の住人。
最近生まれたばかりの自動車と混じって、大きなモーター音を鳴らしながら電車はコレッタの目の前を通り過ぎる。
小さなコレッタには、通りを闊歩する電車が大きく見えた。もしも電車が話を聞けたなら、この街の昔話を聞きたいニャ!と言いたげに。
取り残された軌道敷を見つめるコレッタは、ここは自分の街なんだニャ。と、薄暗い街並みを眺めて手を握り締める。
でも、ちょっと怖い。大きな街の一人歩きはコレッタに早すぎた。いつも優しいお母さんがいないってだけで、ちょっと落ち着かない。
ただでさえちょっぴり不安を抱えているというのに、泣きっ面にハチではなく、コレッタの頬に微かな一滴が刺さる。

「わーん!傘を持って来ればよかったニャ」
そう言えば、出かける前に母親が顔をしきりに洗っていた。小粒だった雨は、走れば走るほど大粒に感じる。
かわいいフリルの付いたスカートも、水滴を吸い込むとコレッタに冷たさを晒す、底意地の悪い布にしかならない。
自慢の金色の髪も、体にまとわり付いて未だ出会わぬ『すてきな男の子』に見せびらかすことも出来ないくらい情け無い。
それに、これ以上濡れるのはいやニャ。雨を避けようと、一本の路地に入り込むと、雨宿りにお誂えの軒先が見つかった。
街を走る電車が生まれる前から建っているような民家。それを無理矢理店に仕立て上げ、長らく街に溶け込んできた存在感。
かすれかけた看板には『尻尾堂古書店』と、立派な毛筆が誇らしげにガンコ親父のような玄関を飾っている姿だが、店自体に威厳は余り無い。
「ふう、ちょっと一休みニャ。疲れたニャあ。ここはどこニャ?」
世間を余り知らぬ子ネコゆえ、コレッタには「昔の本が置いてある所」とぼんやりと理解した。

3352月22日のごめんなさい ◆TC02kfS2Q2:2010/02/21(日) 22:06:12 ID:WPHKKZGo0
「本屋さん、ですかニャ……。入ってみるかニャ!こんにちはニャー!!」
ガラス戸の入り口が、子ネコの力でもぎこちなく開く。店内は薄暗く、入り口にカギが掛かっていないことだけで、
一応は商いを営まれていることが確認できる。ただ、乱雑に積まれた本でコレッタが一人通れるだけになっている通路は、
およそ客という客を歓迎する光景には、程遠いものであった。コレッタの目には、本棚が初めて来る街の建物に見えた。
知らない街は、心細い。知らない街は、冷たい。誰でもいいからいっしょに歩いてちょうだいニャ。
でもね、脚が凍えていつものように元気良く歩くことが、コレッタになかなかできませんニャ。

「誰かいますかニャー」
狭い通路のどん詰まりには、子どもの背丈ほどある大時計。正確に時を刻み続ける姿にコレッタが見入ると、
女の子に見つめられるのが恥ずかしがったのか、大時計は自分の鐘を鳴らしながら照れ笑いを始めた。
その音につられて、店の奥から本が崩れた音が、雨に晒されたコレッタのネコミミに聞こえた。

「ニャー!!!!!ニャああああ」
「誰だい?お客さんかね?返事しやがれ」
息ぴったりに大時計の鐘が鳴り終わると、しゃがれた老人の声が再びコレッタのネコミミに響く。

―――ミケと別れた意気消沈のクロは、小石を蹴りながら自宅まで帰っていくしかなかった。
お母さんに買ってもらった小さな自慢のブーツも、今は小石の小さな音を鳴らすだけ。
「どうして、コレッタとケンカしちゃったのかニャ」
クロの頭の中で、おまじないのように何度も何度も繰り返すセリフは、クロを解き放つことは無い。
本当は、こんなこと言いたくないだ。だけど、言っておかないと落ち着かないぞ。だって、わたしは女の子。
期待して振り返ってみても、当然コレッタの姿が見当たることはなかった。曇りだけだった空からは、余計な雨粒まで持ってきた。
そんなものいらないニャ。コレッタさえ来てくれれば、一言……クロも。クロは、雨がいっそう嫌いになった。
「いけない!早く帰えらないと、ずぶぬれニャ!!お姉ちゃんに怒られニャ!」
雨にからかわれたクロは、これ以上は勘弁ニャと小石をあきらめて、尻尾を立てて足早に自宅に戻る。

短いお子さまスカートを翻し、トタン屋根を雨音で鳴らす住宅街をクロは、冷たい空気を切って疾走する。
クロの顔に雨が当る。前髪から素敵が滴り、頬を氷のように冷たい冬の雨粒が伝わる。ニーソックスの隙間が冷たい。
クロが『佐村井』の表札掲げた玄関に付く頃には、小雨もすっかり立派な雨に姿を変えていた。
凍える手で扉を開けると、帰宅したばかりだったクロの姉である御琴(みこと)が、玄関にオトナのブーツを履いたまま腰掛けていた。
黒いダウンジャケットを羽織い、革の黒いブーツを履いた御琴の出で立ちに、クロには遠いオトナの香りがした。

「あら、玄子(くろこ)ちゃん。お帰りなさい。びっしょりじゃないの」
姉の御琴は、クロを『玄子ちゃん』と呼ぶ。彼女もまた、クロと同じくクロネコの少女。背はけっこう高い。
少女と言うにはオトナっぽく、オトナと言うにはまだまだ少女の愛らしさが残る佳望学園・高等部の女子生徒。
置き去りにされた玄関の傘立が濡れていないところを見ると、彼女も外出中に雨に遭遇して自宅に舞い戻ってきたようだ。
可愛らしいネコの足跡のプリントされたハンドタオルで、自慢の黒いボブショートを拭きつつ、色気漂う声で「ふぅ」とため息をつく。
尻尾の先からしずくを垂らすクロは姉の姿をじっと見とれて、いつかは訪れることであろう『オトナ』に憧れていた。

3362月22日のごめんなさい ◆TC02kfS2Q2:2010/02/21(日) 22:06:47 ID:WPHKKZGo0
「玄子ちゃんもいらっしゃい、風邪引いたら大変。びっしょりじゃない」
「う、うん……。分かったニャ」
御琴の横にぴったりとくっついて座るクロは、小さいときからのクセだニャと、姉に照れ隠しをすると、
「甘えんぼ屋さんね」と、雨に降られた髪の毛を御琴の使っていたハンドタオルで丁寧に拭いてもらった。
ハンドタオルを通じて、姉の肉球がクロの頭を優しく撫でる。ダウンジャケットを着た姉に寄り添うクロに、くんくんと姉と雨の匂い。
雨に晒された御琴の黒いブーツからは、水滴がつるりと垂れていた。クロの前髪から垂れる水滴が何滴も何滴も、クロのふとももを濡らし続ける。
子ども向けのクロのブーツには、公園の土が付いていた。

黙っていたクロを見透かしているのか御琴は、妹の尻尾を跳ね上げさせるようなことを言う。
「あらら?まだまだ玄子ちゃんには、お姉ちゃんのブーツは早いかな。踵のある靴は、もうちょっとね」
「そ、そんなこと考えてないニャ!!わたしは……わたしのブーツでいいもんニャ!」
「そう?だって、お姉ちゃんのブーツをさっきから羨ましそうに見てじゃない。ほら、上がったら、シャワーをいっしょに浴びるよ」
「むー」
雨に濡れた革の黒いブーツは、クロには遠いオトナの色がした。

―――「お嬢ちゃんみたいな子が、こんな老いぼれの店に来るなんて、もしや雨でも降るんじゃねえのか」
「おじいちゃん。もう、降ってるニャよ。うわあ、ざんざん降りになったニャ!」
この場所だけ昭和の香りを漂わせた店の奥から、古びた本を掻き分けて一人の老猫がのっそりと現れた。
一見、身なりはそんなに悪くない。少し毛色をやつれさせた尻尾から、イヌハッカの煙草の匂いがする。
雨の日の古本屋は、インクの匂いがいっそう自己主張したがる。コレッタは、インクとイヌハッカの煙草の匂いに包まれて、
大きな瞳をしばしばと細めるしかなかった。それでも老猫は「お嬢ちゃんの手前、煙草を我慢しとるんだ」と、目を細める。
「こんなに濡れて、風邪引くぞ」と、老猫は頭を掻きながらコレッタに清潔なタオルを渡した。

「おじいちゃん。これ、全部おじいちゃんの本かニャ?天井に届きそうだニャ!」
「違う。こいつらの持ち主は、まだ居らん。もしかして、お嬢ちゃんが持ち主になるかもしれんな」
薄暗い店内に、拭いたばかりの白い毛並みのコレッタの姿が、森に迷い込んだ精霊のように光り浮かんで見える。
面倒くさそうに、老猫は大時計の蓋を開けると蓋に付いていたねじ回しを外し、時計板に開けられている小さな穴に差し込み、
ゆっくりとねじ回しを捻ると、大時計の中から機械の軋む音を立てて、自らの命の存在を伝えていた。
「もうこんな時間か。人が必死に机に向かってるというのに、好きなだけ針を回しおって。お前はのんきなヤツじゃのう」
「何してるニャ?とけいに何をしてるのかニャ?」
「お嬢ちゃん、ぜんまいを知らんのか。こうしてやらんと、この時計は止まってしまう。時間も日にちも教えてくれんようになってしまうんじゃ」

確かに時計板には時刻のほかに、小窓で日にちを示すようになっていた。
その日にちを確認すると老猫は、面倒くさそうにイスにしゃがむと再び大時計の姿を眺め始めた。
「なんじゃ。もう、今年もこんな日が来たんじゃな。尚武は、今年も来るのかのう」
「……わ、わたし、今年は行かないもんニャ!!」
「お嬢ちゃんたちの日じゃぞ。何があったか知らんが、寂しいこと言うない」

3372月22日のごめんなさい ◆TC02kfS2Q2:2010/02/21(日) 22:07:20 ID:WPHKKZGo0
―――風呂上りの姉妹は、せっけんの香りがした。
部屋着に着替えたクロと御琴は、帰って来たときより強くなった雨音を聞きながら、姉妹の部屋で、かりんとうをお茶請けに緑茶を飲んでいた。
くんくんと芳しいお茶の香りは、のんびりと過ごす空間にとても似合う。姉妹が苦手な熱々な温度は避けた緑茶から、程よい湯気が上がる。
「かりんとうだよ。市場で安く売ってたよ」
「むー」
クロの机にはおしゃれに目覚めたお子たちのための本が並び、御琴の机の方はというと、可愛らしいぬいぐるみに混じって、
コレッタのパペットがちんまりと飾られていた。御琴の友人である、イヌの大場狗音がこっそり作ったものだった。
なぜか、御琴がそれを気に入って自分の机に飾っているのだという。

「せっかくの日なのに、止むといいね」
「……や、止まないほうがいいニャ!」
「あらあら。そんなこと言ってたら、コレッタちゃんが悲しむぞー」
かりんとうを摘んだ御琴は、クロの口元に近づけてみた。クロは鼻にかりんとうを近づけると、パクっと一口。
クロの幼い歯が姉の細い指先に触れるが、御琴はまんざらでも無いような表情を見せた。
(オトナを知らない子どもの牙って、実ったばかりの果樹みたいに甘酸っぱいのね)

妹に噛まれた人差し指を悟られないようにくちびるに近づけた御琴は、首を傾けたままの妹のご機嫌を伺う。
「2月22日の夜は、わたしたちネコにとってお祭りの日なのにね。もしかして、玄子ちゃんは、コレッタちゃんとなにかあったのかな?」
「あ、あ、あるわけないニャ!!!あんな子と!!」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、なーんにもなかったのね。ふふふ。コレッタちゃんとまた会えるんだ、嬉しいな」
ぽりぽりとかりんとうをかじる御琴は、大人びたワンピースからちらと見せた脚を自慢することなく、上品にお姉さん座りで雨の日を
日本晴れのピクニックのように楽しんだ。落ち着かないクロの方は、雨の降り具合を気にしながら、両脚を伸ばして手首を舐め続ける。

「コレッタちゃんと夜会に出られるから、今夜は楽しみね。そうだ。『連峰』で買ってきたシュークリームでも持っていこうかな」
「でも、今夜は雨やまないかもニャ」
「大丈夫。コレを作れば」
花の香りがする髪は、御琴の香り。その香りに包まれた机の脇に置いてあるリボンとティッシュを何枚か取り出す。
丁寧な手つきでティッシュを丸め、それをリボンでまるごと結ぶ。もう一枚のティッシュには二つ小さく穴が開けられ、
そこからリボンの先をピョコンと出す。ネコミミのような形に整えられると、『子ネコ』のような形のてるてる坊主が出来上がった。
「コレッタちゃん、そっくりだよ。ふんふんふん」
「むー」
クロは静かに音を立てながら、小さなかりんとうを口にしていた。

―――尻尾堂古書店の老猫は、雨打つ音を聞きながら酒瓶の蓋をひねり、微かに溢れるマタタビの香りに鼻を近づける。
恐らく先ほどまで満たされてたであろうグラスに老猫が、懲りずにマタタビ酒を満たそうとする姿に、コレッタは顔を曇らせながらも
その場からじっと動くことはなかった。口から酒の息が詰まった球体を吐き出した老猫は、子ネコに話を続ける。
「わしが若いころは、ネコの夜会はしょっちゅう開かれておったんじゃ。じゃが、最近は仕事だの、なんだの開かれんようになってのう。
まあ、時代の流れっちゅうものか、分からんが。それでも、この頃は夜会も増え出したみたいじゃな」
話し終わる頃には、グラスいっぱいにマタタビの香り漂う液体が満たされて、老猫はくんくんと鼻を鳴らしていた。

3382月22日のごめんなさい ◆TC02kfS2Q2:2010/02/21(日) 22:07:52 ID:WPHKKZGo0
スカートをふわりと回して狭い店内の隙間を進み始めたコレッタは、ひもに結ばれた古書の束に手を掛けた。
ほこりがコレッタのまだ濡れた白い毛並みに引っ付くと、子ネコは立ち止まって、ぶんと片手を振る。
手に当った本の山が崩れ、慌ててコレッタはほこりを気にせず、手で押さえて雪崩を食い止め一安心。
危うく本の山に飲み込まれるところだったコレッタは、元通りにしようと本を重ねていると、棚の上部にある一冊の本が目に入った。
「おじいちゃん、あの本取ってニャ」
「なんじゃ、あの本か。取ってやるお返しにお嬢ちゃんの話を聞かせてもらおうかのう」
「か、隠しごとなんか、ないニャ!!」

体全体を使ってコレッタはウソを隠し通そうとしていたが、むしろウソをついていることを老猫にばらしているように見えた。
老猫がゆっくりと立ち上がり、本棚上部からはみ出したコレッタの言う本を取ってあげると、ウソをついたことを
悲しんでいた子ネコに「この本かのう?」と渡すと、ぴょこんとお辞儀をするコレッタの髪が薄暗い店内を明るくした。
「気に入ったか?」
「気に入ったニャ!」
「『100万回生きたネコ』か。お嬢ちゃん、選球眼がいいのう」
「?」

―――暖かいエアコンの元、佐村井姉妹の部屋では、ネコのてるてる坊主がいくつも作られていた。
大きなものから、小さな子。数からすれば、ちょっとした『てるてる坊主の街』が造れそうなくらい。
輪ゴムで形を整えている御琴は、ペンで目を書いているクロに優しく言葉をかける。
「この子、玄子ちゃんにそっくりよ」
「……」
「照れ屋さんね」
彼らを軒先にぶら下げだした御琴は、子ども以上にてるてる坊主作りを楽しみ、鼻歌がクロを呆れさせていた。
御琴が髪を掻き上げる姿が、クロの半分閉じた瞳に映りこみ、大きく頭を揺らしていた。

「眠いの?」
「……眠くないニャぁあ」
「いいよ。お姉さんの膝でゆっくりお休みなさい。玄子ちゃん」
雨に降られたことと、風呂上りで疲れたせいか、クロはまどろみながら姉の膝の中でゆっくりと眠りに落ちた。
暖かい姉の膝は、ケーキのように柔らかい。クロは甘くて幸せな気持ちになる洋菓子に包まれた気がする。
心地よく地面を打つ雨音が、クロを夢見心地の世界へと誘い続け、2月22日の夜を待つ。

3392月22日のごめんなさい ◆TC02kfS2Q2:2010/02/21(日) 22:08:43 ID:WPHKKZGo0
―――老猫に取ってもらった本を大事そうに抱えたコレッタは、公園での出来事を話した。
マタタビ酒をちびちびと口に含み、頬を赤らめた老猫は耳を立てて子ネコの話を聞くと、尻尾をブン!と振る。
「それで、お嬢ちゃんはその子と仲直りしたいのかね」
「……だって、クロが」
「実はのう、わしもお嬢ちゃんと同じ年ぐらいの頃、友人とケンカしたんじゃ。そのときは、ついつい意地になってたんじゃが、
わしがそんなに偉いやつじゃないって分かって、晩にそいつに頭を下げてな。そいつもやっぱり寂しがってたんじゃな。確か、2月22日の……」
「今夜だニャ!!」
「ほれ、傘を貸してやるから、早くおふくろさんの待つ家に戻るんだな。蕗の森の公園で待っとるぞ」

お代は話を聞かせてもらっただけでいいと老猫は、コレッタの手にしている本を包装紙に包んで持たせ、家へと帰らせた。
老猫にお辞儀を繰り返しながらコレッタは、雨の降り続ける街へと消える。

「やれやれ……。わしも下手なウソばっかり言うようになってしまったな。こんなウソじゃ、どこの出版社に出しても一次落ちじゃ」
居間に引っ込んだ尻尾堂のオヤジは、コレッタに話した内容と全く同じ文章の書かれた原稿用紙を一瞥すると、
擦り切れた畳に布団を敷き、ごそごそといつもより早く床についた。夜が近い。

―――クロが目を覚ますと既に部屋は真っ暗だった。きっと時計は夕方をとっくに過ぎてしまったのだろう。
クロとてるてる坊主が残された部屋からは、いつの間にか姉の姿が見えなかった。
眠い目をこすりながらクロは立ち上がり、明かりをつけようとスイッチのある扉の方へと向かうと、部屋に入ってきたばかりの姉に止められた。
「今夜は、このまま」
「あ!そうだったニャ!!」
御琴とクロの声だけが響く、闇の中。
二人の足音だけが、じゅうたんを鳴らす。
街の音は何も聞こえず、ひんやりと冷たい空気が心地よく、間近に迫った春の日が待ち遠しい今宵。
姉に誘われて、窓のカーテンを捲る。

「すごいね」
「すごいニャ!!」
窓からの夜景は、一面の甘い星空だった。見ているだけで吸い込まれるような瞬きに、姉妹の言葉が奪われる。
おおいぬ座のシリウスも、今夜はネコの独り占めを許し、オリオン座のペテルギウスも心なしか控え目に光る。
ケモノたちが住む街の明かりも、今夜だけは我慢して、あまねく星座に明け渡す。お礼に空の星たちも、2月22日を祝福する。
「今年の『ネコの日』は、いつもより特別にきれいだね」
昼間の時と違うダウンジャケットをまとった御琴は「早く出かける準備をするよ」とクロを促す。
だが、じっとコレッタに似たてるてる坊主を見つめるクロには、迷うところがあったのだ。

「コレッタちゃんだって、玄子ちゃんのことを心配してると思うよ。ね?行こ」
「……お姉ちゃん」
クロは大時計の振り子のように揺り動かされた胸を押さえるのが精一杯で、その場を動くことが出来なかったのだ。
だが、姉の春風のような声は勇気になる。慌ててクロは、自分のクローゼットを開くと、よそ行きの可憐なコートを身にまとい、
コレッタが来ているかもしれない蕗の森の公園へと、姉といっしょに足を向けていた。そうだ、新しいブーツも自慢しようかな。
コレッタのヤツ、羨ましがるかも。そして、コレッタにごめんなさい。

今年のネコの日は、星空が眩しい。


おしまい。


以上です。長文ですが、よろしくお願いいたします。

340わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/02/21(日) 23:43:20 ID:WPHKKZGo0
解除がきたようなので、自分で本スレに投下し直します。
お騒がせしました。

341名無しさん@避難中:2010/02/23(火) 19:00:39 ID:gidzCpFA0
ちょいと質問が在るんだが、遅れに遅れまくってるバレンタインネタの話の中で
英先生の恋愛観にちょびっと影響が出そうで、更に交友関係も少し変化あるから、
今、やるべきかどうか悩んでいるんだ。

まあ、恋愛観に影響が出るといっても「ホンのちょっと考えてみようかな?」程度の変化で、まだ修正は効く段階なんだが。
それでもやっぱり確認は取っておかないとなーと……やっぱ難しいかな?

342名無しさん@避難中:2010/02/23(火) 20:10:33 ID:r6iJDLxc0
>>341
>>304

343名無しさん@避難中:2010/02/23(火) 20:41:58 ID:gidzCpFA0
>>342
あまり具体的に書くとネタバレになるから軽く
恋愛観についてはさっき書いた通り、完全に諦めモードからホンのちょっとだけ考えてみるかなって感じで。
交友関係については、今まで付き合いの殆ど無かった人(同性)との間に交友ができる、と言った感じ。
その人にちょっとフリードリヒの名前を聞かれてしまうけど、
たまたま耳にしてしまうだけで深くは追求されず、その為その正体がサン先生だと言うことも知らないまま。
そして、それ以外に付いても殆ど変化無し。立場も変化無し。

344名無しさん@避難中:2010/02/24(水) 09:21:55 ID:/jPoLsNQO
お、おぉ…
俺以外にも英先生をなんとかしてみたいって考える人いたんだ
いくつか書きながらも俺以外誰得、って薄々思ってたからなんか嬉しい

345名無しさん@避難中:2010/02/24(水) 14:11:36 ID:JXR2ig0E0
えと、美王の父親です(笑)

とりあえず今日、風邪で会社休んでるんで熱に浮かれた頭で美王と神楽の過去を書
いてみたけど、公開したほうがよいでしょうか? と言ってもプロットだけで詰め
切れてないところが有りますけど。

346名無しさん@避難中:2010/02/24(水) 14:50:27 ID:/IbOnZ9E0
お父さん!美王さんを僕に(ry

今回投下予定の作品では、神楽の事は全くふれてないので問題無いです。
いや、むしろ出してくれると「ほう、そんな事があったのか」と神楽の事も書き加えるかもw

それと、>>341-343の件に問題無ければ夜くらいに投下します。

347名無しさん@避難中:2010/02/24(水) 17:26:47 ID:JXR2ig0E0
一眠りしてました。

美王と神楽------
中高一貫の女学校、桜女学院中等部に入学したときに出会う。本が好きで物静かな
美王と運動大好き元気っ子の神楽の夫々の第一印象は「5才の坊主」「ネクラ」と
あまり良いものではなかった。
夏も間近な頃に、先輩の苛めに体育館の裏で泣いていた神楽を美王が慰めたのが切
っ掛けで親しく話すようになり、夏の終わりには親友となる。
それからの日々は、まるで姉妹のように連れ添うふたりの姿が学院内に有った。小
さな身長でコートを縦横無尽に駆け巡る神楽と、日暮れの図書室で静に書を手繰る
美王を、周りは「アポロン」「アルテミス」になぞらえて「レトのふたご」と称し
て慈しんだ。
共に進学し高等部二年。神楽から他校の男子生徒から交際を申し込まれたことを相
談されて、美王は自分の親愛の情が実は愛情であったことに初めて気付く。その時
は進展することなく終わったものの、美王のなかに芽生えた恋心とそれを浅ましい
と思う気持との葛藤が始まることとなる。
三年生の時に、あまり成績の思わしくない神楽のために両親が家庭教師を付けるこ
ととなる。何時しかその家庭教師を想う様になっていく神楽に嫉妬を感じた美王は
勉強の時間に毎度神楽の家に押し掛けることとなる。そのために何故か神楽に兄の
悟了に好意を持って居ると勘違いされたり、神楽が家庭教師の居る大学に進路を変
えそうになったりと気苦労は絶えない。
無事大学に進学し、また静かな日々が送れると美王がほっとしたものの、その時期
に神楽は生涯の伴侶となる青年と巡り合う。美王に自分の恋愛感情を話すと良くな
いということを薄々感じ取った神楽は、秘密でその青年と付き合うことになる。そ
んな神楽の態度の変化に不安を感じた美王は、遂に神楽に自分の気持を告げるが、
神楽に拒絶されてしまい、更に恋人の存在も知らされる。
その後、ぎくしゃくとしながらも徐々に関係を修復しながら近づきつつあったふた
りだが、大学二年、ふたりが二十歳を越えた年に神楽が妊娠し大学を辞めて結婚す
ることになる。神楽からの結婚式の招待状を胸に、休学届けを出して美王は旅立つ。
3年後、神楽(西姓からから岡姓になった)の前に英国で学業を修めて復学した美
王が現れ、娘の緑に「私はこれからあなたの伯母に、“勝手に”なる」と告げ、こ
れからも神楽と離れないことを宣言する。
大学で教員免許を取り今は隣の県で英語教師として永く勤める美王は、時間が空く
度に神楽の家に押し掛ける日々を送っている。
-------ここまで。

神楽の旦那は大学の助手だったが、現在は准教授。
緑は現在大学生。美王に憧れて翻訳家になるべく勉強中。
神楽自身は長いこと「いいひとが居たら…」と美王に言い続けて今では口癖のよう
になっているが、今は『こういう生活でも良いかもね』と思い初めている。ただし
娘には結婚して欲しいとは思っている。
もうひとり、豊という名の息子(17才)が居るけど、けも学に在籍させるかどう
か悩み中。

ちなみに、内容は全然違うんだけれども、このふたりの元ネタは、阿部川キネコの
「ミス&ミセス」。

美王にとって“小さくて元気なひと”って言うのは、サンスーシにとっての“大き
くて厳しくて優しいひと”と等価なのかな?って思っております。

348名無しさん@避難中:2010/02/24(水) 18:01:34 ID:/IbOnZ9E0
>>347
うーむ、深いなぁ……。
何というか決して想いの通じぬ道ならぬ恋は本当に切ないなぁ。

取り合えず何かお願いする事が無ければ、そのまま深夜に投下します。
それと、風邪が早めに治る事を心より祈っておきます。

349名無しさん@避難中:2010/02/24(水) 19:00:57 ID:/jPoLsNQO
わぁ深い
割と欝ーい
うん把握した。俺には文章化できねぇ。

350名無しさん@避難中:2010/02/25(木) 02:42:52 ID:VdpdwV8QO
規制なんでこっちで感想
あああああ英先生にキュンキュンするあぁぁぁぁ!!
しかしまさか相手が獅子宮先生とは。完全に予想外な組み合わせで見事に噛み合ってました。
深いですねえ英先生も獅子宮先生も。読んでてじんわり来ましたわ。
すばらしい長編でした。

351名無しさん@避難中:2010/02/25(木) 13:21:20 ID:YPTXzIyk0
ちょっと上のプロットにも絡むのでこちらで感想も。

ああ、いいなぁ。実は獅子宮先生は割と好みなんだよなぁ。オールドタイプの不良って感
じですごく好感が持てる。 なかなかこの先が気になってくるお話をありがとうございま
す。

で、美王先生ですけど、今佳望学園にいますけど、実は後10年ほど、55歳ぐらいにな
ったら、請われて桜女学院の院長になる、ってのを想定しております。緑の娘、神楽の孫
が入学してくるのに合わせて…


あわせて、って言うと失礼かもしれませんが、その前のわんこさんの猫の日の話、描こう
として苦戦してます。 こう言う日常ファンタジックな作品って、私には無理かー。
 と言うか、どうしても爺さんやらおっさんやらおばさんやらを描きたくなって(笑)
 可愛いこっこは難しいです。

352名無しさん@避難中:2010/03/02(火) 13:34:33 ID:BEK04rM.0
どっかのサイバーテロのおかげでみれなくなってるね

353名無しさん@避難中:2010/03/08(月) 19:35:38 ID:61QqwTxY0
namidame鯖、鯖PC交換で停止中らしい。

354名無しさん@避難中:2010/03/08(月) 22:30:22 ID:61QqwTxY0
復活したらしい。

845 :ちきちーた ★:2010/03/08(月) 22:19:28 ID:???0
どうよ? < namidame

最後の過去ログを解凍中

355名無しさん@避難中:2010/03/13(土) 17:39:37 ID:.bZwUqYg0
本スレ>>305の元ネタは何なんだろう……?
何かのアニメのEDが元ネタっぽい気はするが全然思い出せぬ(・ω・`)

356名無しさん@避難中:2010/03/13(土) 17:41:43 ID:jqRe4WhE0
デュラララだよ

357名無しさん@避難中:2010/03/13(土) 19:42:22 ID:.bZwUqYg0
>>356
おお、デュラララだったか。教えてくれてトンクス!

358名無しさん@避難中:2010/03/15(月) 22:13:17 ID:TuqUkB6k0
ライダーこと鎌田の元作者様に質問です。
鎌田を、ここ獣人スレ以外で。
創作発表板の割と目立つスレで、本格的に使わせてもらってよろしいでしょうか?
獣人スレには影響出しません。酷いことにもしません。いいでしょうか?

359名無しさん@避難中:2010/03/15(月) 22:59:32 ID:G9HnH.IU0
>>358
・鎌田の作者が私であること
・出典スレは獣人総合であること
・目立つスレとやらを教えてホスィ( ゚Д゚)

の、三つをしてくれればスレに向かってハァハァしにいきます。

360 ◆akuta/cdbA:2010/03/15(月) 23:00:48 ID:G9HnH.IU0
あ…こういう時こそ作者=鳥だせばいいのかな?
なんだか大活躍しそうでオラわくわくしてきたぞ。鎌田が活躍するなら
大歓迎です。

361名無しさん@避難中:2010/03/15(月) 23:42:04 ID:TuqUkB6k0
計 画 通 り !! (AA略)

はい、理解しています。キャラクターは崩さないよう注意します。
長編ssの予定で、出典は話の中でわかると思われます。
氏が絵を投下しているスレの中のひとつです。活躍させます。

許可いただいたからには必ず書きます。
ただ筆が遅いので結構先の話になってしまうと思われます。
そこのところはすみません。

362 ◆akuta/cdbA:2010/03/16(火) 13:27:16 ID:YZL7V7MU0
>>361
おおー、首を長くして楽しみに待っております。
自分の出入りしているスレが、避難所と獣人総合を除いて2つくらいしか
ないので気になるところw
キャラ自体は多少ハッスルしても全然気にならないので、頑張ってくだちい。

363名無しさん@避難中:2010/03/18(木) 01:44:23 ID:C3zfHUak0
デュラララの一番上って卓?

364名無しさん@避難中:2010/03/18(木) 09:52:15 ID:33kWMfNUO
桜女学院ってケモ学に近いかしら?
それと他校の人物を出すために、桜女学院使いたいのだけども大丈夫でしょうか……。

365名無しさん@避難中:2010/03/18(木) 14:00:30 ID:KuMEkUZw0
>>363
一番上はもちろん康太ん
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/624.html

ttp://www.youtube.com/watch?v=4u_TZ7f8qG8

366名無しさん@避難中:2010/03/18(木) 14:06:08 ID:zART14UA0
なんとなく隣の県の学校って考えてますけど、そんなに遠くない? 30kmぐらいかしら?
桜女(略称は「おうじょ」かな?だとすると生徒の渾名は「王女様」?)はどしどし使ってください。

ちょっとキャラの背景の確認のために書いてたのが有るのでとりあえず公開しておきますね。

------
中学の制服を受け取りに行くのに一緒に行ってくれるって言って“おばちゃん”が迎えに来る。

「みょうれいのごふじんには『おねぇさん』と呼びかけるのがマナーですよ」と“おばちゃんは”叱
るけど、鼻がひくひくと動くのに私は気付いてる。あれは“おばちゃん”の嬉しいときの仕草。

“おばちゃん”は家に着くと直にママとお茶を始めちゃった。こうなると長いぞ。“おばちゃん”は
あまり喋らないけど、ママの止まらない話に静かにいつまでも相づちを打っている。

しびれが切れそうになったころにようやく“おばちゃん”が腰をあげる。門の外に停めた車の所まで
ママは見送りに来て、私が後ろのシートに潜り込むのを見届けて、満足げに大きくうなづくと私には
行儀良くしてるのよ、“おばちゃん”によろしくねと窓越しに言う。私がリアウインド越しに手を振
ると車はゆっくりと走り出す。

前に、ママが「もうそろそろあの車、買い替えたら?」って訊いたら「アクセル踏めば前へ進んでハ
ンドル切れば曲がりブレーキ踏めばちゃんと止まる。何も不自由は無いのに?」と言ってた。「この
車はあなたとだいたい同い年なのよ」と教えてもらったことがある。「バブルキノデートカーだ」っ
て話してた。バブルキってのが判らないけど、デートカーは判る、デートの車だ。ステキ。

角を曲がりしばらく行ったところで“おばちゃん”はいつものように黙って車を停めると、トランク
から大っきい尻尾用のチャイルドシートを取りだすと助手席にセットしてくれる。もうそんな歳じゃ
あないと言ってみたいところだけれども、私は背が小さいから無いと前が見えないから仕方ない。マ
マが「子供は駄目」って言う助手席にいつもこっそり“おばちゃん”は座らせてくれる。うん、これ
でちゃんとした、ちゃんと揃った。“おばちゃん”と、バブルキノデートカーでデートだ。

駅前の洋服店で制服を受け取ると、今度はもうすぐ通う学校に向かう。名前の通りに門に近づく前か
ら続く桜並木は咲く気満々で蕾が膨らみ始めている。入学式はどんな景色になるんだろう?その桜の
下でママと“おばちゃん”は初めて会ったんだ。私にもそんな友達が出来るだろうか? 窓越しにそ
んなことを考えていたら、“おばちゃん”が「入学おめでとう。そして、ようこそ我が母校に」とに
っこり笑った。 “おばちゃん”の実家はここからすぐだけれど今は隣の県の学校で先生をしてる。
でも、今でもこの学校は“おばちゃん”の学校なんだな。

ゆっくりと県の外れの方まで行き、湖をまわって丘の上に有る公園の横の喫茶店で一休みする。いつ
ものデートコースだ。私はいつものようにココアとアップルパイを、おばさんはコーヒーを飲む。こ
れまたいつものように日々のあれこれをしゃべり続ける。“おばちゃん”は笑いながら相づちを打つ。

帰り道、“おばちゃん”は冗談なのか本気なのか判らない目をして言い出した。「そうね、あなたの
娘があの学校に通うのなら、私も戻ってこようかしら?」

困ったぞ、私の目標は“おばちゃん”みたいな女性になることだ。ひとりでジリツして強く自由に生
きてくことだ。けっこんだってしないゾ、って。 でも“おばちゃん”がこの町に、学校に帰ってく
るんなら、早くけっこんして女の子を生んであげなきゃ!って。 うわー、どうしよう、どうしたら
良いんだろう?

途中で柔道の試合に出ていた弟と応援に駆けつけてたママを拾って(その前にチャイルドシートと制
服をトランクに仕舞って、私は後ろの席におとなしく納まってた)家に送り届け、“おばちゃん”は
帰っていったけれども、私は頭がぐるぐるしてその辺のことはあんまり覚えてない。まぁ明日の朝に
なればそんなのはみんな忘れてるだろう。私はリスだから。

367名無しさん@避難中:2010/03/18(木) 14:10:02 ID:zART14UA0
あ、すみません、上の366は>>364宛です。

368名無しさん@避難中:2010/03/22(月) 23:33:09 ID:m7atASMAO
世界を創るスレの温泉界にリオが飛ばされたw

369名無しさん@避難中:2010/03/29(月) 14:49:00 ID:iD.CNZW.0
>>361の話も気になるけど、>>326はどうなったのかなぁ…なんて。
ひっそり楽しみにしてるんだぜ。

370名無しさん@避難中:2010/03/29(月) 15:43:56 ID:.YDKv./2O
ごめんどっちも俺orz
あぁもうあれもこれもやりたいってどうしようもねえな俺
ランキングのほうは番外編みたいなもので急を要さないんで後回しにしちゃったぜ><
いやいや一段落したら書きます書きますマジで。苦労した集計データもったいないし
待っててとは言いません一旦忘れてください。きっと忘れた頃にやってきますので

371名無しさん@避難中:2010/03/29(月) 17:59:15 ID:iD.CNZW.0
>>370
同一人物だったとはw
こちらこそ急かしたようですまん。ランキングはいままであまり読んだ事
ないから、楽しみにしつつ影から応援してるぜ!

372名無しさん@避難中:2010/03/29(月) 18:14:26 ID:.YDKv./2O
ついでと言えば、>>361やってこのスレに興味引いてから>>326やるって流れが美しいかなーなんて思ったりして…
追い詰められないと動けないタチなんであえて宣言してます。
ああ時間がホスィ

373規制で書き込めないので代理お願いいたします。:2010/04/05(月) 01:33:27 ID:KYKcQfAA0
垂れ耳を検索してここのまとめサイトに行き着き、
獣人の定義 と言うちょっとした解説っぽい絵を書くくらいの雰囲気と知り、
少し質問させてください。

犬とか豚とかの垂れ耳はどんな構造なのでしょうか?

今まで、アスキーアートで言えば U みたいにただ垂れてるだけかと思ったら、
近所の垂れ耳の犬の置物をふと見たら、垂れ耳の後ろの方は、
膨らんだといいましょうか、ぺたっとしておらず、
そう言えば・・・と思い出したタカラ缶チューハイのCMの猪八戒も、
「垂れ耳の後ろの方がぺたっとしてなかったなー・・・」
と気付き、どうして膨らんでいるのか教えて頂けたらと思います。

その置物、小さくて敷地内で遠いし、正面向いてるもので、
よく見れなかったんです。
よろしくお願い致します。

374名無しさん@避難中:2010/04/05(月) 20:36:20 ID:gXa3zzr.0
>>373
正確じゃないし、判り難いかもしれませんが…
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1019.jpg

375名無しさん@避難中:2010/04/05(月) 20:44:29 ID:hwhYnr520
ちょっと犬の耳撮って来る

376名無しさん@避難中:2010/04/05(月) 20:47:24 ID:0PxiojFUO
やっぱうめえぇwww
解説図に和んだのって初めてだw

377名無しさん@避難中:2010/04/05(月) 20:50:16 ID:hwhYnr520
と思ったら寝てたぜよ・・・
あそこは>>374みたいに重なってるのが一番的を得てると思う

378名無しさん@避難中:2010/04/05(月) 21:04:31 ID:gXa3zzr.0
ついでにこんな感じかな?ってのを作ってみました。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1020.jpg

379名無しさん@避難中:2010/04/06(火) 03:54:33 ID:/wW9gcz.0
これはわかりやすいなww

380373:2010/04/06(火) 07:41:01 ID:R4th8tWg0
寝る前はみれなかったけど、見れた!すげー!
ありがとう。
それではまた後ほど改めて。

381373:2010/04/07(水) 01:51:42 ID:.lmV4DWw0
工作を見て理解しました。確かにこれだと「後ろが膨らむ」感じになりますね。
短い時間で絵と工作ありがとうございます。こんなに短時間で描けるものなんですね。
ホームページとか作ったり、pixivとかでご活躍してるんでしょうか?
宜しかったらヒントを教えていただけると嬉しいです。
犬とか飼った事なくて「耳って成長しながら伸びるんだ」と感心してしまいました。

あと、この絵を見てどーでもいい疑問が2つわきました。
1つは、工作が一番特徴的かな。唇の輪郭線が自然な曲線になってないのはなぜでしょう?
中程でくいっと曲がってますよね、犬歯とかのせいですか?
あともう1つは、昔から思ってる事なんですが、
動物キャラが眼鏡をかけていると、眼鏡のつるって、いつも省略されますよね。
描けないから省略されるんでしょうか?
つるを上下逆さまにすれば、ちゃんと耳に引っ掛ける事ができると思うのですが・・・。
というか昔のSFドラマの猿の軍団で、猿がそんな眼鏡を掛けてました。
それとも別の理由でもあるんでしょうか?

382名無しさん@避難中:2010/04/07(水) 02:16:10 ID:339vJ6WcO
思えばサン先生犬じゃ誰よりも耳長っげーもんなw
この解説は面白くてわかりやすくて和む

383名無しさん@避難中:2010/04/07(水) 21:35:20 ID:2dxbmYZc0
あくまで私の画に限って言いますと、唇のラインは大ざっぱに言って「私の描く際の癖」、
眼鏡のつるに関しては「バランスよく描く能力が無い」ってということになりましょうか。
ttp://u6.getuploader.com/sousaku/download/204/furry428.jpg

それにしても、8時過ぎるとオルタローダが完全に沈黙しますね。

384名無しさん@避難中:2010/04/08(木) 00:56:49 ID:5XtAWvCcO
眼鏡満ち場www

385名無しさん@避難中:2010/04/10(土) 00:25:04 ID:uaSLCQ4c0
英先生のお見せできない顔にwww

386373:2010/04/12(月) 01:23:24 ID:plByjTyQ0
返事が遅くなりました。
くだらない感想にまたもや絵を描いていただきありがとうございました。
おかげでいい耳ができました。

387名無しさん@避難中:2010/04/12(月) 11:24:22 ID:Wjut4TdYO
気が向いたら絵を投下してみてね!

388わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/13(火) 00:10:36 ID:PqUv2agI0
解除が来ない。短いのでも投下するよお……。


『喫茶・フレンドへいらっしゃい』

とある路地裏の喫茶店。
古いたたずまいは個性のうち。時代遅れとは言わないが、ちょっと趣を感じさせる喫茶店。
誰の口とは言わないが、伝え伝わり広がって、ちょっとばかしケモノたちの住む佳望の街の人気を呼んでいた。
店の名は『喫茶・フレンド』と言う。

甘い声を店内に響かせて、二人の客は年代もののテーブルで向かい合わせに仲良く座る女子二人。
すらりと伸びた二人の脚は、よく磨かれたローファーで飾られる。紺のハイソとスカートからはケモノの毛並みが映える。
彼女らは、佳望学園の女子高生。春を迎えたカーディガンの制服姿は、二人をちょっとオトナに見せる。
ランプの明かりが温かく、椅子をぎししと軋ませながら、喫茶店は二人の女子高生を骨董の世界へと導く。
木目の感触をスカート越しに感じて、リオは恐る恐るメニューを眺めるが、向かい正面の子に笑われる。

「ねえ、リオ。何にする?どっちがいいかなあ!」
「えっと……」
メニューを見ながら決めかねているのは、白いウサギの因幡リオ。
ふだんは真面目な風紀委員、だけど放課後だけはみんなといっしょに寄り道でもと、イヌの芹沢モエとここへ立寄ったのだ。
彼女のカバンはきれいかつ質素に、美しくつやを放っている。飾り気は無いが、優等生。細やかかつ、神経質さがちらと見えるではないか。
椅子に立てかけていたリオのカバンがばたりと床に倒れ、頬を赤らめながら立て直すと、モエの尻尾が目に入る。

どう?見て見て?絶好調でしょ?
女の子は甘ーいものがやって来るとなると、もっと女の子になるんです。
御覧なさい、わたしの尻尾。ウソをつくことはイヤだし、隠すつもりはありません。
モエの尻尾が振り切れて、リオの耳がへし折れていた。メガネにメニューを写しながら、リオはモエの顔色を伺った。

「ご注文はお決まりでしょうか」
人間の女性がメモを片手にリオの横に立つと、モエはメニューの上で動かしていた指を止めて、目を輝かせてメニューを指差す。
「じゃあ!わたしは抹茶アイスね!!」
「はい。かしこまりました」
お姉さんは、モエの威勢の良い声にも臆せずニコリと笑ってメモの上に鉛筆を慣れた手つきで滑らす。
少し焦ったリオは、モエの声に圧倒されてまだ決めても無かった注文をお姉さんに伝えた。
後悔は……無いつもり。
「……わたしも同じのを……」
「だって!お願いね!アリサ姉さん!!」
いいよね?いいんだよね?これ以上、あのお姉さんを困らせても、とリオは短い髪を掻きあげる。
長くまとめられたアリサの髪は、二人の少女の目をずっとひきつけていた。女の子は女性に恋するんですよ?
だって、わたしらは女の子。

389わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/13(火) 00:11:30 ID:PqUv2agI0
「リオも同じのにしたんだ」
「そうすれば、一緒に来るじゃないの」
なるほど。同じメニューなら、手間も同じ。リオの合理的な考えは正しい。
しかしながら、モエはちょっとばかし不満気のようにも見えた。リオはモエの顔を少し不思議そうに見ながら、お冷を口にする。
「ところで聞いてくれる?リオー!うちの弟ったら、わたしの……」
モエは弟のことになると話が長くなる。イヤでも耳に入るモエの話を長い耳で捕まえながら、リオはお冷を口にする。
黙っていれば、そこそこなのに。黙っていれば、結構もてると思うのに。と、リオは黙って相手するしかなったのだ。

「お待たせいたしました」
アリサが注文の品を持って、二人の席にやって来た。いや、正しく言うと注文の品では無い。
その証拠にリオが目を眼鏡越しに丸くしているでは無いか。抗することなく、リオは目の前に置かれた『バニラアイス』を見つめていた。
そして、モエの目の前には『抹茶アイス』。真面目のまー子のリオが見逃すはずが無い。
「お姉さん……」
「いいのいいの。女の子二人組みだからサービス、サービス」
「え」
ふと、正面の少女の顔を見ると、まるで夜空の瞬きのような瞳をしているではないか。
どんな山奥の純な空よりも清らかに、どんな春の星よりも輝かしく光るモエの周りは、リオが今まで見たことが無いものだった。
「リオー!わたしもバニラが食べたくなったなあ!一口ちょうだい」
「う、うん」
遠慮がちにモエはリオのバニラアイスに匙を伸ばし、ほんの一口ご相伴に預かった。

至福の顔、花をちりばめた笑み。モエは甘いものを口にしただけで、口数を減らす。
「おいしい!リオもわたしの抹茶アイスを食べなよ!一口だけだよ!」
「う、うん。ありがとう」
そうか。ちょっとずつお互いに違うアイスを楽しめるように、わざと違うものを持ってきたのか。
モエがしきりにメニューの上で指を動かしていたのは、抹茶かバニラか迷っていたからだったのか。
自分の幼さに恥ずかしくなったリオが振り向くと、アリサの長いポニーテールが揺れているところが目に入った。

結局のところ、一口どころか二人で交互に食べあったので、早い話、バニラと抹茶、半分こずつアイスを頂いてしまった。
ところが、お会計しようと二人がレジへと向かうと、お代はバニラアイス二つ分だけだった。バニラと抹茶アイスを頼んだときより100円少なめだ。
「あの…・・・。お会計が……」
「いいの、いいの。抹茶はおまけだよ」
「……いいんですか?」
「それに、あなたの白い毛並みがバニラアイスみたいで、見とれちゃってね」
アリサはリオの手を見て、にっと白い歯を見せた。リオはバニラアイスのように飾り気は無いが、シンプルな白さを持つウサギ。
なんとなくだが、自分に似ていると言われバニラアイスのことがちょっと好きになった。
また来る約束として、スタンプカードを作ってもらい二人は『喫茶・フレンド』を後にした。

「リオのお陰でおまけしてくれたね!」
あっけらかんとしたモエの声がリオの背中を叩くと同時に、モエのカバンが背中に当る。
甘いバニラと大人しい抹茶のアイスを頂いたモエは、再び弟の話でリオの口を閉ざす。


おしまい。




早く解除が来ますように……。

390名無しさん@避難中:2010/04/13(火) 00:51:07 ID:Qc44rEUIO
をたうさぎ と ぶらこんいぬ。
この娘らマジカワユス

391名無しさん@避難中:2010/04/13(火) 02:07:20 ID:A8SEGsBsO
アリサお姉さんいいなあ
フレンド行きたいな

392名無しさん@避難中:2010/04/13(火) 02:14:54 ID:5fEJncbM0
代理投下いってきまー

393名無しさん@避難中:2010/04/13(火) 02:16:57 ID:5fEJncbM0
代理おしまい!
女子高生'S萌えるゥ!

394名無しさん@避難中:2010/04/13(火) 08:38:56 ID:5fEJncbM0
しまった…いつもの調子で投下してきたら代理依頼がなかった事に
気づくorz勝手に投下してきちゃってごめんなさい…うわあああああああ。

395わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/13(火) 13:20:03 ID:aMUJ3BCAO
おっけーですよ、大丈夫。本スレが賑わえば!
こちらも書き忘れたのだおorz

お願いというか、名前欄・鳥の部分はそのままコピペ出来ないと思うので
例えば「◆TC02kfS2Q2」を「◇TC02kfS2Q2」の白抜きき◆にしていただければ幸いです(と、よそのスレで見かけた技)。
代理投下ありがとうございます。

396名無しさん@避難中:2010/04/13(火) 19:57:23 ID:5fEJncbM0
>鳥の部分
なるほど、了解!

397名無しさん@避難中:2010/04/21(水) 22:19:58 ID:mOCa4tPY0
ミサミサもリオも月子先輩も、なんかスゲー

398わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:00:27 ID:qOcA2BFE0
規制が長すぐる……。
どなた様か、代理投下お願いいたします。

↓ここからです。


『そらのひかり 泊瀬谷のほし』

佳望学園・天文部部室。
屋上へと通じる階段から脇に外れた最上階の一室。六畳ほどの限られたスペースだが、多くは無い部員のためなら申し分ない広さ。
ただ、スチール製の棚に木製のテーブルが面積の半分を占めて、外の風の香りもせず、どこ誰が見ても『文化系』の部室を印象だった。
卒業生たちが残していった財産を積み重ねると、後輩たちへの期待へと変わる。財産は揺るぎの無い彼らの誇り。
ものがあふれかえることに幸せを感じることが出来る者なら、この空間は非常に心地よい。
しかし、この日に限って部室のスペースを占めている『もの』は、ちょっと困ったものだった。

「芹沢くん、お願い」
「……だって」
「わたしもちょっと……」
ヒツジの女子生徒が目を細めて、天文部の扉を開いて覗き込む。
イヌの男子生徒も同じく目を細めて、天文部の扉を開いて覗き込む。
暖かかくなり、制服も春らしい装いで、彼らはこの季節を待ち望む。しかし、彼らが待ち望んでいるのは春だけではない。
「茜ちゃん、起こしてきてよ。女の子だったら、先生もびっくりしないって」
夜が来る時間も大分遅くなった。天文部のお目当ての星たちも、いつの間にか結構ネボスケになってきた。
芹沢タスクは尻尾を丸めて天文部の部室で、ぐっすりと惰眠を貪る一人の教師を見つめるだけだった。
小さな体を丸くして椅子をベッド代わりに並べ、尻尾をぶらぶらと揺らしながら夜空の夢を見る一人のタヌキ。
これでも、ここ佳望学園の教師であるタヌキは、タヌキ寝入りではなく本当によく寝ていた。

「じゃあ、一緒に声かけようよ。茜ちゃん」
「……うん」
「せーの……」
「「……」」
進まない二人三脚。頬を赤らめるヒツジの夏目茜。

「うーん……。かに座はかわいそうだよー」
勇者に踏まれていいところを見せられなった、哀れなかに座を寝言で慰めてタヌキの教師はそのままぐっすりと夕方の昼寝を続けていた。
そろそろ陽は傾く時間。夕暮れの雲を浮かべて透き通る空気が、今宵も夜空だという予感を刺激する。
「そら先生……。早く起きてください」
天文部の芹沢タスクと夏目茜は、顧問である百武そら先生は星が瞬く夜になると元気いっぱいになることを重々承知だ。
この日も春の大曲線を観測しようと部室にやって来たのだった。しかし、顧問の教師が部室で寝ている。
望遠鏡も、星図も、茜が作ってきたサンドウィッチも準備万端。あとは、夜を待つだけだったのだが、如何せん顧問がアレだ。
タスクが部室側の階段から下の階を覗き込むと、段が織り成すらせん状の渦巻きに吸い込まれそうになった。
「他の先輩たち、来れなくて残念だね」
「……うん」
「そら先生、日中はいろいろ忙しそうだったもんね」
「そうね」
自己主張の弱い二人の優しさは、そら先生の睡眠を妨げないことにした。
そら先生の顔は、大好物である甘いものを食べているときと同じだったからだ。

399わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:01:04 ID:qOcA2BFE0
「のど、渇いたね」
「うん」
「ぼく、飲み物買ってくるけど……茜ちゃんは何がいい?」
「……なんでも」
いちばん困る答えワースト1に入る返答にタスクは目を細め、女の子のリクエストは応じてあげないと、と腰を上げる。
財布の中身を確認すると、うんと頷き、イヌの少年は上履きの軽い音を立てながら階段を下って行き、茜はそら先生の邪魔にならぬよう、
部室へとそっと入り部屋の隅で小さくなって天文学の雑誌を眺めていた。発行はおそよ20年前のもの。
星から見れば、瞬きするくらいの時間だが、茜からすれば生まれる前のこと。そのころから変わらず、天体に思いを馳せる人々。
人は変われど、同じ星を見続けていたんだと、きらめく写真は茜のちいさな思いを鮮やかにする。

「何でもいいが、いちばん困るよ。ウチの姉ちゃんじゃあるまいし」
一人ごとで自分を落ち着かせる癖は、誰にだってあるもの。しかし、一人っきりはやるせない。
校内の自販機コーナーへと飲みものを買いに出かけたタスクは、ふと廊下で一人の男子生徒の背中を見つける。
彼もタスクと同じイヌの少年。毛並みは白く眩しく、尻尾も柔らかく大きい。学年はタスクよりも上だ。
今風と言えば今風だが、落ち着いた風貌と尻尾の動きは同世代の男子と違うものを感じさせる。
そう言えば、前に会ったことがあったっけ……。微かな記憶を胸に、白いイヌの少年に声をかけてみる。

「ヒカルくん!」
「……」
ヒカルと呼ばれた少年は、言葉を出さずにこくりと頷いて、タスクを快く迎え入れた。が、表情はそんなに激しくない。
別に嫌な気分になっているのではないのは、彼の尻尾の動きから見れば一目瞭然だった。
「ヒカルくん。もしかして?」
手に財布を持っているところからすると、ヒカルも同じく買い物に出かけているところだろう。
細かいところに気付く男は、モテモテさんになる第一歩と姉から吹き込まれたタスクは、それを見逃さない。
ヒカルの返事は、タスクが考えているものより幾ばくか簡単なものだった。
「先生からお使い頼まれて」
「へえ。何を買いにですか」
「飲み物」
職員室にて、担任であるネコの泊瀬谷先生に捕まった。雑用を手伝いながら放課後の時間を過ごしていたら、
いつの間にやら誰もいなくなり、生憎ポットのお湯も尽きていたので、小休憩で飲み物を買いに出かけていたのだった。
ご主人さまに忠実な二人のイヌは、共に尻尾を揺らして自販機コーナーへと向かう。

校内・ロビーの一角に据えられた自販機コーナーは、放課後ゆえ閑古鳥が鳴いていた。
逆に、お日さまが休む頃に賑わいを求める方が、間違っていると思うべきだろう。
人がいないせいか二人には、ロビーがいつもよりも広く見える。用も無いけど、ついつい上を見上げる二人。
『羽根がある生徒の皆さん、余り高く飛ばないこと!』と、風紀委員からの張り紙が自販機に張られている。
どこかで見たような、いや、見たことあるけどあんまり知らないような、アニメのキャラが、手書きの吹き出しで紀律を正す。

400わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:01:38 ID:qOcA2BFE0
自販機に明かりは灯っていなかった。しかし、これは節電の為。普通に飲み物を購入するには、なんら変わりは無い。
そう言えば、桜が咲く前よりも『あったかーい』のボタンが減ったような気がする。自販機も衣替えか。
タスクが小銭を自販機に入れて、ボタンを押す。一つ目は自分のもの。オトナに背伸びしたいけれど、ちょっと後戻りして
カフェオレを選択する。ブラックにすればよかったかなと思えども、とき既に遅し。そして、二つ目を買うときに手が止まる。

「……」
茜の分を考えているうちに、しびれを切らした自販機はタスクが入れたコインを吐き出した。
ばつが悪くなったタスクは、ヒカルに自販機の前を譲ると冷たいカフェオレの缶をぎゅっと握る。外は温かくなってきているので心地よい。
ヒカルもタスクと同じくカフェオレのボタンを押したのだが、缶を取り出すと先ほどのタスクのように固まってしまった。
「どうしたんですか」
「先生が『なんでもいい』って言うから」
目を細めたタスクは、同じようなコインが戻る音を耳に響かせていた。

「ヒカルくんって、兄弟がいるんですか」
「いないよ」
ヒカルの返答を聞いたタスクは、じっとヒカルが持つカフェオレの缶を見つめている。
羨ましそうにと言えば正しいが、如何せんその表現は直接過ぎる。ただ、タスクが羨望の眼差しで見つめているものは、カフェオレではない。
「姉ちゃんがいないって、平和な毎日が暮らせていいですね」
高等部のヒカルは、同じ学園の高等部のクラスに通う芹沢モエの顔を浮かべた。
モエはタスクの姉である。同じ血を分けた姉弟なのに、どうしてこうも違うのかヒカルは不思議には思わなかった。

「ヒカルくんって、姉ちゃんと同じクラスでしたよね」
「うん」
きょうもモエはやかましかった。男子生徒の尻尾ランキングと称し、同じ女子生徒であるネコのハルカとウサギのリオらが、
お昼休みのうららかな時間に教室の隅っこに集まり、ノート片手に査定をしているときのこと。
大きな洋犬の血を持つアイリッシュウルフハウンドの封土入潮狼(いしろう)に、ボルゾエの堀添路佐(みちざ)が二人して、
『簡単!炊飯器で作るケーキ100種』と書かれたムック本を捲っていた。他のイヌの生徒よりも長い毛並みを持ちつつ、
丁寧に整えられているために清潔感がある。封土の荒くもオトナの風格漂う毛並み、堀添の鋭くも優しさを感じさせる顔立ち故、
学園内の女子生徒から黄色い声を浴びることほぼ毎日。しかし、彼らはいたってマイペースである。

401わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:02:18 ID:qOcA2BFE0
「封土(ほうど)の控え目さ!堀添の綿花のような華やかさ!他の男子と違って上品だよね!」
「リオー。もしかしてヤツラ狙い系?」
「ち、ちがうもん!ホンのちょっと背が高くて、大人しくて……。アイツらなんかよりも、ごにょごにょ……」
机の荷物掛けに掛けた洋服店の紙袋に入れて隠している『若頭』の同人本を気にしながら、椅子に座って頬を赤らめるリオ。その脇に立つハルカが、
ぽんとリオの肩を叩いていた。隣の机に腰掛けるモエは、脚をぶらせつかせながら携帯をいじっていた。
「ああ!タスクからだ。『今夜は天文部の活動で遅くなるから、よろしく』だって!アイツ、夜は冷えるのに大丈夫かな」
もともと体の弱い弟を案じて、温暖と寒冷を繰り返す季節の夜に外を出歩くことを憂うモエは、眉を吊り上げる。

「じゃあ、モエがタスクくんを迎えにいってあげたら?封土くんと、堀添くんをお供に連れてさ」
「あ、アイツら?そんなことしたら付き合ってるって思われるじゃない!」
モエがあまりにも脚をバタつかせるので、机からぶら下がるリオの紙袋に脚が当る。リオは少し気が気でなかった。
言うまでもなく、封土と堀添を狙うライバルが現れたということではない。
モエの携帯が持ち主のようにやかましく叫ぶ。『ロミオとシンデレラ』の着メールの曲に反応したリオは、モエの携帯を覗き込んだ。
「やっぱり、モエはタスクくん萌えだね?」
「タスクくんを独り占めするなら、お料理をがんばらないと!まずはオムレツからかなあ。今度教えたげる」
「ンモー!リオにハルカったら!」

横目でその光景を見ながら、一人で本を捲っていたヒカルは、タスクの話できょうの出来事を思い出していた。
モエの教室での姿しか知らないヒカルは、家での姿しか知らないタスクを気にして飲みもの代を奢ってやった。
ちなみに、ヒカルの尻尾ランキングは未だ不明である。

「ウチの姉ちゃんって、彼氏いるんですか」
「……」
「いや……。ちょっと、気になって」
あまりにもストレートな、そして純粋なタスクの問いかけにヒカルは口を閉ざし、何も答えないのはタスクに余計な心配をかけてしまうから、
わずかな情報でも言っておこうと一言伝える。確かでは無いかもしれないが、他のクラスの子からの話からすると
確かだと思うほんの一言。だけど、タスクにとっては非常に重要な一言が、小さく響く。
「多分、いないよ。芹沢は」
「多分ですか」
「うん。多分」
「多分かぁ」
タスクは自分の携帯を開き、姉から受け取ったメールを見てみる。

『あまりにも遅くなるようなら、わたしに一報を送ること!』

パチリと携帯をたたむ音を鳴らせて、タスクは俯き加減で誰もいないことをいいことに語りに入る。
タスクのことはモエを通じてよく知っているヒカルだが、普段とは少し違うとヒカルでも感じていた。
また、ヒカルのことはモエを通じてよく知っているタスクだが、普段もきっとこんな感じなのだろうとタスクは感じていた。
「ウチの姉ちゃんの彼氏になるヤツってどんなヤツなんだろうって……。でも、ぼくは姉ちゃんと少なくとも彼氏になるヤツよりかは、
姉ちゃんのことを知ってるし、長く付き合っているから姉ちゃんのことについては、誰にも負けない自信はあるんです」
「……」
「姉ちゃんが喜べば悔しいし、姉ちゃんが悲しめば悲しい。こんな感情持てるのは、世界でぼくぐらいですよ」
「……」
打消しもせず、頷きもしないヒカルは、黙ってタスクを受け止めていた。
俄かにヒカルの尻尾に冷気を感じた。ビクン!!ビクン!!反射で尻尾を丸くする。

402わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:02:50 ID:qOcA2BFE0
「こらー!理由の無い居残りはいけないんだぞお!」
「……」
「ヒカルくんは、先生のお手伝いだから理由はあるよね?」
笑顔でヒカルとタスクを叱る若いネコの教員・泊瀬谷が買ったばかりの缶コーヒーをヒカルの尻尾に当てていた。
泊瀬谷は仕事を終えて帰宅する途中、自販機コーナーに寄ると二人を発見したのであった。
春めく召しものが、泊瀬谷を少なくとも子どものように見せるマジック。
「ヒカルくんが余りにも戻ってくるのが遅いから、自分で買っちゃったね。ごめんね」
きんきんに冷えたカフェオレの缶を握り締めて、泊瀬谷先生は仕事の顔を忘れていた。
茜の分の飲み物をすっかり忘れていたタスクは、頭を掻きながら泊瀬谷のカフェオレを見つめる。

「あの、ぼく。天文部の活動で」
「そうなんだ、百武先生ね。そういえば『春の大三角形が天に現れるまで部室で寝てくるよ』って言ってたっけ」
「そうなんですが……」
タスクとヒカル、そして泊瀬谷はそれぞれ飲み物を持って天文部の部室へ足を向けた。
「雑用はいいんですか」とヒカルは泊瀬谷に尋ねるも「ヒカルくんがあんまり遅いから、終えちゃったよ」とちょっと自慢気。
だけども、本当はヒカルを追いかけたいがために、明日できるからと理由をつけて、後回しにしていたことはナイショの話。
「天文部の活動って、星を見ながら『あの星座は何々の神話で』って話すんでしょ?楽しそうだね」
「冬は寒いですけどね」
夜空とケモノはよく似合う。もしかして、夜空の元ならヒカルと何でもいいから話す口実が出来るんじゃないかと、
泊瀬谷は天文部の活動を羨ましく思っているうちに、茜が待つ天文部部室に三人は到着する。

屋上に近い古びた部屋の扉から茜が角を見せて、タスクの帰りを待っていた。
彼女の様子から見ると、そら先生は未だ夢の中と推測される。
「あ!芹沢くん。こんなの見つけたんだけど」
「なにそれ」
サッカーボールほどの球体に、土台が付いた黒色の物体。段ボール箱に投げ入れられた雑誌に埋もれていたものを、夏目茜が発見したのだ。
物体から電気コードが延びている。少しほこりがかぶっているものの、軽く拭いてやれば、元の姿に簡単に戻るだろう。
ふと、思い出したようにタスクが口火を切る。

「これって、室内用のプラネタリウムだよね」
「そう言えば、部長さんが昔そんなのがあるって言っていたけど……。言っていたっけ……?」
自信なさ気な茜を気遣いながら、タスクは言葉を続ける。
「確か、どこかになくしたって言ってたんだよ。よく見つけたね」
タスクに誉められた茜は、まるで悪いことをしたときのように小さくなった。
誉められれば誰だって嬉しいが、こうも大勢から誉められると、ちょっと茜は萎縮する。
「すごいね!」
しいっと、口の前で指を揃えるヒカルで、泊瀬谷は部屋の中のそら先生のことを把握した。
そして、小さく謝った。
「そうだ。もしかして……これでちょっと」
「なに?ヒカルくん」
子供がいたずらを思いついたような目。ヒカルはそんな目をしていた。
うんうんと、ヒカルの話を聞く三人、そしてヒカル。一つになった気持ちがつぼみをつけた。
ヒカルは化学準備室へと向かうと言い残して、尻尾を揺らしながら階段を降りていった。

残された三人は、ヒカルから言われたようにまだまだ起きないそら先生を起さぬように、音を立てずに準備を始めた。

403わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:03:22 ID:qOcA2BFE0
足音を立てないように、そっと三人は部室に入る。
窓が言うには薄暮の時間だと言う。街が遠く見える丘の上。きょうも一日を癒す夜が来る。
「そおっと、そおっと」
開いているダンボールを一枚の板にして、窓ガラスを塞ぐ。カーテンをかけて薄暗くなってきた光の進入を拒む。
「泊瀬谷先生。確か、暗いところで目が慣れるには、少なくとも15分はかかるんだって……」
「そうなの?」
「そうだね。観測会のときも薄暗いところで、しばらく待っているもんね」
茜は冬の観測会で一緒に凍てつく風を堪えながら、シリウスにうっとりしていたことを思い出した。
暗闇で一緒に目を慣らしながら、タスクと甘い(神話の)お話をしていたことを思い出した。

「持ってきたよ。タイマー」
小声でヒカルが科学準備室から戻ってきた。手には、コードが延びた小さな機械。箱一杯のダイヤルが目立つ。
タイマーをプラネタリウムに繋ぎ、電源をプラグに差し込むと、一同はにっと笑う。
本体のスイッチを入れて準備はOK。LEDが赤く灯り、ダイヤルが差す時間は15分後。それでも、そら先生はすやすやと眠る。
15分間、そら先生はすやすやと眠る……。

あと10分。
まだまだ目が慣れない。しばらく暗闇の中お互いの顔を見合って、目を慣らしながらそら先生の寝顔を覗き込む。まだまだ時間はある。
あと5分。
ヒカルと泊瀬谷の姿が白くぼうっとタスクと茜の目に映り始める。薄暗い中のケモノは、不思議と綺麗に映っていた。
あと3分。
ヒカルの尻尾が隣で据わる泊瀬谷の太腿に触れる。恥ずかしくも、ちょっと幸せそうに泊瀬谷はヒカルを注意する。
あと2分。
まだまだ暗いからと、泊瀬谷はヒカルの指を手探りで摘もうとする。摘めないまま諦める。
あと1分。
そら先生が寝返り打つも、椅子から転がり落ちないという神業を見せる。
あと30秒。
瞬き早くなったタスクは、茜のシャンプーの香りに惑わされる。
あと15秒。
茜が角のリボンを直す。
あと10秒。
いきなり『ロミオとシンデレラ』の着メロが響き渡る。

「いけない!マナーモードに!」
慌てたタスクは携帯を取り出すが、幸い暗闇に目が慣れている状態。
しかし、GOOD NEWS あふたー BAD NEWS。
「う、うーん……。ロミオはペルセウス、シンデレラはアンドロメダだよねー」

ぱぁあっ!!

天井は宙。
星屑がお喋りをはじめ、つられてケモノも目を覚ます。
ほんのひとくち口にすれば、砂糖と光りの味が舌一杯に広がるのだろう。
一粒一粒が狭い部室に広がって、手に取れそうな遥かなる恒星たちが地上のケモノの瞳に焼き付ける。
「うわぁ……」
見てごらん。あれが春の大曲線。天を廻る大きなクマの尻尾から、優しく伸びる曲線の先には一粒の赤い星。
きっと南国の果樹のような刺激的な甘さがするのだろう。うしかい座のアルクトュルスはて夜空をほしいままにしようとするクマの番人だ。
その漢をなだめようと側で微笑むのは、白く輝くおとめ座の星。スピカはきっと母性一杯のミルクの味がするのだろうか。
桜の季節の大きな弓は、言葉失うぼくらを惑わす。

404わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:03:55 ID:qOcA2BFE0
「芹沢くん!夏目さん!今夜はとくにきれいだよ!!最高の夜空を楽しもうね!!」
弓の先にはたぬき座の……、いや。そんな星座、聞いたことが無い。乙女の足元で地上を見下ろすからす座も、見たことが無いと悩んでいた。
たぬき座に並んだ一等星は、どこの星図にも載っていない。ただ、どこの星よりも輝きを放っているようにも見えるのだ。
さっきまで眠りこけていたそら先生。人の創りし明かりだけども、天井の夜空を見上げて諸手を挙げていた。

「あの……先生」
「夏目さん!御覧なさい。うれしいね、うれしいね。あれ?はせやんも?犬上くんも?」
星を枕にしていたそら先生は、薄暗い中で天井の星粒に心奪われている生徒と同僚教師を見つけると、不思議がるどころか
「ようこそ!星たちが奏でる音楽会へ!」と小さな体を震わせながら喜びを表し、一方泊瀬谷は、ヒカルの側に座って
赤らめた頬がそら先生やタスクたちにばれていないか、ちょっと胸を熱くしていた。

さて、そのタスクはと言うと、携帯の明かりで星を消さぬように表に飛び出していた。相手は姉の芹沢モエ。
『遅くなるなら一報を送りなさいって言ったでしょ?今夜は冷えるからね!
きょうはわたし特製のオムレツがタスクを待ってるから、寄り道しないで帰ってらっしゃい!』
女の子スキルは彼氏ができるとレベルアップすると言う。姉の女の子スキルがもしかして知らず知らずのうちに上がっているのではないのかと、
そしてオムレツの出来具合を色々な意味で心配しながら、タスクは姉からのメールを閉じた。
タスクは窓から暗くなりつつ街を見つめて、エプロン姿の姉を思い浮かべる。

天文部部室内では……。
「芹沢くんがいない……よ」
茜の心配そうな声と共に、ヒツジの少女は部室から飛び出す。窓からは瞬き始めた春の星座が、彼女を歓迎していた。
今夜はよい星が見れそうだ。今夜はよい神話が語れそうだ。毎晩出ているはずなのに、この晩だけじっくり見るなんて、なんて贅沢な。
でも、たまには贅沢もいいんだよ。と、そら先生と共に彼らは空を見上げ続けるのだった。

天文部の部室に残された泊瀬谷とヒカルは、まだまだ続く室内の天体ショーに引止められて、言葉を失っているところだ。
「ヒカルくん。あの星、何て名前なんだろう」
「……どれですか」

405わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:04:29 ID:qOcA2BFE0
ヒカルが困る顔を見てみたい。
ヒカルが悩む素振りを見てみた。
ヒカルが星を見上げる姿を見てみたい。

結局は、どんな星でもよかった。泊瀬谷は一際目立つ星を指差して、ヒカルの答えを待っていた。
特に星に関して知識があると言うわけでもないが、ヒカルにどうしても聞いてみたかった。
星を見つめるイヌは、何を思って見上げるのだろう。
手にすることなんかできやしないのに、ましてや天井に映るプラネタリウムだ。

夜は森羅万象、数多のものを生み出す時間だという。
太陽の光で育まれた息吹は、月の静かな明かりで癒される。
目に見えるもの、見えないもの。月の明かりと星の輝きで芽を伸ばし、つぼみを開かせ、月下の花のごとく花咲かす。
花は月の冷たい光に狂い、蔦を伸ばすと、知らず知らずのうちに恥じらいだけの一人のネコに絡みつく。
泊瀬谷は昼間見ているヒカルよりも、夜空の元のヒカルの姿を見て、今までよりも心締め付けられる思いをしていた。

ヒカルがそれに気付いているのかどうかは分からないが、ヒカルの一言が泊瀬谷に絡まる蔦を解く。
「……わかんない」
「そっかあ……。ごめんね」
結局は、どんな星でもよかった。泊瀬谷は星に願いを託して、初めて願いが叶った気がした。

「はせやーん。おとめ座が昇ってるよ!!」
部室の外からそら先生の声が届くと、泊瀬谷は立ち上がりヒカルの手を引いた。
ヒカルの手首の毛並みに泊瀬谷の指が埋まる。
二人は星空を映し出すプラネタリウムをそのままにして、そら先生と天文部部員の待つ日の入りの空へと駆け出した。
「それ!!ヒカルくん!寒いからって、部屋に閉じこもってちゃだめだぞ!」
屋上への階段を駆け上る。澄んだ空気が寒く心地よい。夜空とケモノはよく似合う。
もしかして、夜空の元ならヒカルと何でもいいから話す口実が出来るんじゃないかと、薄暗いことを言い訳に、泊瀬谷はヒカルの指を掴む。


おしまい。

406わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/23(金) 22:05:38 ID:qOcA2BFE0
お借りした主なキャラ。

封土入潮狼(ほうど・いしろう)&堀添路佐(ほりぞえ・みちざ)。
7スレ目・451
ttp://www19.atwiki.jp/jujin/pages/888.html
夏目茜。
3スレ目・861
ttp://www19.atwiki.jp/jujin/pages/422.html

もっと活躍していいキャラだと思う!!
投下おしまい。

↑ここまでです。よろしくお願いいたします。

407名無しさん@避難中:2010/04/24(土) 00:48:20 ID:R3y44l7EO
やばい、これはやばい
商業でもこれだけキュンキュンくるのはなかなか無いよやばいよ
夜空が!春の夜空が広がってる!

408名無しさん@避難中:2010/04/24(土) 02:38:02 ID:1nEFkU52O
っぐあああぁぁ!死んだ!俺死んだ!
みんなかわいすぎるだろ常考…
やっぱはせやん×ヒカルくんが最強だわ
芹沢姉弟もすげー萌える

409名無しさん@避難中:2010/04/25(日) 02:12:07 ID:8b4rj27YO
これはすごい
どうしてこうみんなかわいらしいんだ
キュンときたよはせやん

410名無しさん@避難中:2010/04/25(日) 06:38:20 ID:jj.f272MO
キュン死に必至のスーパーはせやんタイムごちそうさま

411名無しさん@避難中:2010/04/25(日) 11:27:40 ID:jj.f272MO
ただオロオロしてる茜っちも見逃せぬ

412わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/04/25(日) 16:29:54 ID:raiRMVXs0
本スレに代理投下していただいた方、有難うございます!
しかし、早く規制解除しないのかな……。

413名無しさん@避難中:2010/04/25(日) 16:43:20 ID:8b4rj27YO
たぶんみんなして規制されてるんだよね
本スレに投下したいなら代行スレに依頼したほうが確実かもしれない

414名無しさん@避難中:2010/05/04(火) 23:49:48 ID:V0B8BV6k0
本スレか避難所か悩んだけれども、こちらに。
ラジオの人がガイドブックみたいなものを所望していたので、思いついて相関図風なもの
を描き始めたものの思いの外サイズがでかくなってしまい、更には相互のコメントまで手
が回らず、単に画面上にばらまいただけになってしまいました。
なにか、使えるようでしたら…
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1059.jpg
今回初めて描いたひともありますが、描いてないひととかがまだまだいますねぇ。
案外大きい世界だなぁ、けも学って。

415名無しさん@避難中:2010/05/04(火) 23:54:23 ID:mnALV9L20
これはすげぇww!皆可愛いな!
こんなにいっぱいいたのかぁ、多分俺も全員は把握出来てないな…w

416名無しさん@避難中:2010/05/05(水) 00:21:38 ID:99BxUt3QO
すげぇw

417名無しさん@避難中:2010/05/05(水) 22:47:26 ID:99BxUt3QO
チビキャラな獅子宮せんせ可愛い

418名無しさん@避難中:2010/05/05(水) 23:36:16 ID:pisz8lxY0
なんと!みんな、めんこい!めんこい!
「保健委員の妹(弟)」って……。もしや男の娘だったのか?
水島センセwww  せめて作務衣着せてやってくれよwww

419名無しさん@避難中:2010/05/06(木) 01:48:05 ID:EvEe4iFI0
sugeeeeee!!
眺めてると顔がにやけてくる。みんなかわいいなー
こんだけキャラいてもさっぱり被らないってのがまたスゲーな
きっちり描きわける氏の画力もハンパない

420名無しさん@避難中:2010/05/06(木) 20:34:22 ID:uUr4FtvM0
こうやって実際に絵で見ると、ケモ学のキャラって本当に多いんだなって実感できるなー

421名無しさん@避難中:2010/05/06(木) 22:57:22 ID:w/oXKMKM0
楽しんでいただけたようで嬉しいです。 UPしてから見直したらまだ50にん位描いて
ないひとが残ってました。 それこそ今注目の喫茶フレンドのアリサさんとか。
 ところで、フレンドのマスターの種族って…?

あの画を印刷して、鉛筆で囲ったり繋いだり矢印描いたりハートつけてみたりすると、思
いの外楽しくて、時間があっという間です。 そのうち機会が有れば残りも描いてみたい
と思いますです。

#チラ裏
 集英社マーガレットコミックの「デカ☆うさ」(はまさきちい著)はこのスレ住人的に
 は如何でしょうか? 独り暮らし大学生男子の元に、体長2mの人語を解するミニうさ
 ぎがやって来るって話なんですけど(笑)

422名無しさん@避難中:2010/05/07(金) 00:52:03 ID:qYUhY1K60
>体長2mの人語を解するミニうさぎ

ミニとちゃう、それ全然ミニとちゃうw

423名無しさん@避難中:2010/05/07(金) 07:52:22 ID:FT2kH08cO
>体長2mのミニウサギ
「小さな巨人」みたいなものですね。

藤子F不二雄の「ヒョンヒョロ」を思い出した。

424名無しさん@避難中:2010/05/07(金) 11:55:43 ID:/oDM5tjIO
>>414
種族の違いがあるってのはすごい利点だなとつくづく思った
キャラがこれだけいるのに被らない

425名無しさん@避難中:2010/05/08(土) 01:27:11 ID:Q0xWNZ.U0
>>424
おバカキャラ一つ取っても三つ有るもんな

・塚本=下品バカ
・利里=純粋バカ
・甲山=完全バカ

426名無しさん@避難中:2010/05/08(土) 12:32:00 ID:Ua1fPhgUO
バカはバカでも担う役割が違うバカなんだね。
バカだからってバカにできないバカだぜほんと。
つーかこいつらは種族で個性出さなくても個性的w

427わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:05:32 ID:hvdRUvLI0
規制が長い……。
本当は「レス代行スレ」の方がいいのかもしれないが、順番待ちっぽいのでここで投下します。
以下、どなたか代理投下お願いいたします。

>>392
初めてここで「佳望学園」ものを投下したときのイメージぴったりだ。
ちょうど電車を登場させるSSを書き終えたところでした。
烏丸さんをお借りします。

『太陽とケモノ』

びっくりした。
休みの日の昼下がり、図書館帰りの昼下がり。誰も通りかからない、ウチへの近道の細い路地。
たまたますれ違った、見知らぬイヌの男子の二人組み。尻尾がちょっと触れただけなのに、怖い顔して振り向いてきた。
「尻尾ぶつけといて、謝らないわけ?」
「……ごめんなさい」
「はあ?それだけで済むわけ?」
鈍く光る牙、濁った目。小さな子が目を合わせれば、泣き出してしまいそうな面構え。
二人とも目元の傷を隠さず誇りにする姿は、精悍と言えば聞こえがよいが、結局は柄が悪い。
謝れと言うから謝ったのに、言葉は通じても話しが通じないもどかしさ。目を合わせると、余計なことになりそうなのでわざと俯く。
早く帰って借りてきた本を読みたい。出来ることなら面倒なことは避けたいけれど、逃げ出すのは『片耳ジョン』の言葉に背くんだろう。
修羅場を潜り抜け、生きる勇気を諭す彼は、本の中だけでなくとも、ぼくに語り駆けてくる勇敢なオオカミ。
彼が語るには……、

「少年とは、困難が立ちはだかれば立ちはだかるほど喜ぶものさ」

しかし、困った。

「あぁ?突っ立てないで答えないわけ?」
「尻尾痛いわけ?」
彼奴の右手がぼくのカーディガンを掴みかけると、小さな風がぼくの目の前を駆け抜ける。
白く大きな尻尾がピンと上げて、ぼくは後ろに跳んで退く。本能的に右手でぼくの顔を庇う。
面倒なことに巻き込まれそうだと諦めかけたのだが、彼らと目が合うと事態が思わぬ方へと急転する。
「ちょっと待て。やばいぞ」
「あ?……まじ?ウチの高校の?」
「おう。アイツだよな」
「ここでシメてたら、狗尾高マジでやばくなるわけだよな?」
狗尾高。聞いたことはある。でも所詮、聞いたことがあるだけだ。彼らが何を意味して話しているのか分からないが、
とにかくヤツらは、目を見てぼくを『アイツ』だと勘違いしている。すると、尻尾を巻いてどこかへ消えて行った。

あっけに取られたぼくが彼らの背中を見つめていると、聞き覚えのある声がぼくの背中を叩く。
毎日聞いているような、明日も聞くような。若い女性の声だったのは間違いない。
「こ、こらー!!ケンカはいけないんだぞー」
一人のネコが立っていた。ぼくが教壇で見るような姿をしてはいないが、確かにあれは泊瀬谷先生。
ぼくのクラスの担任で、現国の泊瀬谷先生はネコの若い女教師。短い髪が印象的だ。
泊瀬谷先生はトートバッグをブンブン振って、尻尾を膨らませながら路地に向かって叫んでいたが、
縮こまった両肩と、頼りなくアスファルトに踏ん張る足元が先生の勇気を中和していた。
それ故、泊瀬谷先生は、ぼくの方に近づこうとせず、今だにぶらぶらとトートバッグを振っているだけ。
しかし、ぼくの方から先生に近づくと小首を傾げて、泊瀬谷先生が忘れかけていた少女の頃を思い出しているよう。

「ほ、ほら!先生のおかげでヒカルくんも助かったでしょ?」
「……」
「えへへ。怖かったんだ?先生がケーキでも奢ってあげるから、落ち着いて」
本当はヤツらの方から逃げていった。ホントのことを伝えるよりも、そのままにしておく方が幸せなのかもしれない。
大人びた真実は、オトナを傷付けてしまうかもしれないから、ぼくは黙って泊瀬谷先生について行くことにした。

428太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:06:22 ID:hvdRUvLI0
ぼくよりちょっと年上の泊瀬谷先生が、子どものように見えてくる。
淡い色のスーツを着こなして、胸元にはカメオで留めたリボン。歩道を鳴らすパンプスは、先生自身を背伸びさせている。
短い髪が初夏の風に揺れて、ネコでなくてもまどろみを誘う心地よさ。「こっちだよ」と、先頭を切るぼくのセンセイは、太陽よりも明るかった。

歩き慣れた大通りを歩く。路面電車が街の風を掻き乱す。クロネコの紳士の毛並みがなびく。
街の一場面を一瞬の風景画にして、泊瀬谷先生は大通りから外れた路地に入ると、ニコリ。
「ここだよ」
若いビルとビルの間にひっそりとたたずみ、老人のように街を見てきた一軒の喫茶店。
軒先からぶら下がる、古びた看板のかすれた文字が、店の年輪を刻む。
都心の喧騒を嫌ってか、切り取られた時間がそのあたりには漂っていた。
「喫茶・フレンド……」
「この間、学校の帰りに見つけたんだよ。入ろっ」
扉を泊瀬谷先生が開くと、鐘の音と若い女の人がぼくらを出迎えた。

ランプのともしび温かく、媚びない家具が心地よい。
店の主人と、若い娘。客はぼくらの他はいない。コーヒーの香りがぼくらを嫉妬する。
エプロン姿の若い店員さんは、長い髪を一つにくくってテキパキと仕事をこなしていた。
じっとよく働く彼女を見つめていると、椅子に座った泊瀬谷先生から「こらっ」といたずらっ子ぽく注意された。
にこりと微笑んで店員さんは、くくった髪を揺らしながらぼくらの席へ注文を取りにやってくる。
「いらっしゃいませ」
「……」
「ご注文はお決まりでしょうか」
「バニラアイスを二つね!アリサちゃん」

メニューを見ずに泊瀬谷先生は、お姉さんに注文を告げる姿は、お得意さま。
「かしこまりました」と、小さなクリップボードに注文をさらりと書くと、踵を返して長い髪を揺らしていた。
そうだ、もしかして泊瀬谷先生なら「狗尾高」のことをちょっとでも知っているかもしれない。
ぼくが「狗尾高」について、どうやって話を切り出そうかと考えていると、短い髪を頬にかけて泊瀬谷先生は、
もじもじと目を合わせることがいけないことの様に、テーブルに目線を落としてぼくに静かに話し出した。

「実はね……。おととい、実家から電話があってね、たまにはウチに帰って来いって言われてね」
「……」
「ヒカルくんにこんなこと話すのもなんなんだけど、家に帰ると……親から怒られちゃうんじゃないかなって」
尻尾の動きからすると、先生はウソをついていない。それよりも、ウソがつけない先生のこと。
「こんなことヒカルくんに話してもしょうがないよね。へへ」
「……」
先生の実家は、ぼくらの住む街から電車に揺られることちょっと。都会でもなく、田舎でもない郊外の町だという。
帰ろうと思えば、すぐに帰ることができるのだが、始めの一歩が重過ぎる。さらに重くなった足は、人を愚痴らせる。
自由気ままに生きているようでも、一抹の苦労を背負っていることに、泊瀬谷先生から読み取ることが出来るのだ。

429太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:07:07 ID:hvdRUvLI0
「どうしよっかなあ。親が待ってるしなあ」
「お待たせいたしました。バニラアイスです」
トレーに乗ったバニラアイスは、温かくなり始めたこの季節がいちばん美味しく感じると泊瀬谷先生は言う。
小さな音を木のテーブルに響かせて、懐かしい半球を器の上で描くバニラアイス。ウエハース突き刺り、泊瀬谷先生は歓喜の声。
アイスはオトナを子どもに引き戻す力があるんだと、他の誰かに言ったらきっと信じてくれるような、くれないような。
「おいしそうだね」
「はい」
スプーンが器に当たる金属音は、いただきますのごあいさつ。
ほんのちょっと、先生のゆううつを忘れさせることが出来るのなら、無邪気な姿をぼくに晒してもかまいませんよ。
しかし、ぼくはバカなことに先生の頬を緩ませる顔に連れられて、聞こうと思っていた「狗尾高」について聞き忘れた。

―――翌日の朝、学園のホールには人だかりが出来ていた。生徒たちは皆、刷りたての学園新聞を手に話しの種にしている。
女子は甘味店の紹介記事に、男子はクラスのヒロインの写真に、教師は委員会だよりにと人それぞれ興味を抱く。
だが、ぼくが目を止めてしまったのは他でもない『野球部・狗尾高との練習試合、ファインプレイ』の記事であったのだ。

昼休み、ぼくはいつも行き慣れた図書館ではなく、新聞部の部室に足を向けた。
ここなら何らかの情報が手に入るかもしれないと、学園新聞を片手に期待を抱き、不安を背中に扉を叩く。
「どうぞ」と部屋からの返事が、ぼくを迎え入れる。ゆっくりと扉を開けるとカメラのレンズの埃を取っている一羽のカラス少女と、
PC画面に向かってコントローラーを両手で握りながら、一喜一憂という言葉に振り回されるネコ少女がいた。

「あの、高等部の犬上といいます……」
「ああ、もしやあんさん、ヒカルはんなぁ?あんさんの噂は、おなか一杯聞いとりますわ。部長の烏丸どす」
カラスの少女は手を止めて、聞きなれない訛りでぼくをのほほんと見つめていた。
あまり話しをしたことが無いのに、彼女はぼくの名前を知っている。やはり新聞部の情報収集能力の賜物か。
烏丸は手を止めると、備え付けの冷蔵庫から「生八つ橋」を取り出して、殆ど初対面であるぼくに勧めてきた。
ひんやりとした生地が熱いお茶と愛称がよさそうだ。けっして目立つ色彩ではないが、見ていると心和むこの国のお菓子。
カラスは後姿をぼくに向けて、手際よくジャーポットから急須にお湯を注いでいた。

「うっひょー!さすが中ボスだよねー」
一方、ネコの少女は、PCのゲームに夢中だった。花火のような砲撃を放ちながら、深い森の上空を駆け抜ける一人の魔法使い。
相手が仕掛けてくる攻撃をまるで楽しむように、少女はコントローラーで魔法使いをひたすら操る。
騒がしい彼女を気にせずに、烏丸は緑茶を注いだ湯飲みをぼくの目の前に置いた。コトンと使い込まれた机が音を立てる。
「ところで、ヒカルはん。何か御用で?おや、早速最新号を読んでくれはったんやな」
「その……。この記事についてなんだけど」
「『野球部・狗尾高との練習試合、ファインプレイ』かいな。それはウチが低空飛行ギリギリで撮った写真どすえ。よう撮れとるやろ。
そうや。この間、狗尾高のチンピラどもにドつかれそうになっとたやろ?ヒカルはん、大丈夫かいな」
「……もう情報が。大丈夫、ケガはなかったです」
「うぎゃあああ!満身創痍!!」
静かにぼくが話し始めると、ネコの少女は寂しい画面にへばり付きながら、うるさくわめき出した。

430太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:07:49 ID:hvdRUvLI0
私立狗尾高等学校。佳望の街から電車に揺られること一時間ほど離れた海岸に構える男子校。
運動部が盛んで、特に野球部の功績は数え切れないほど。そして、いちばんの特色は。
「狗尾高言うたら、イヌの生徒ばっかりのとこですわな」
烏丸の言葉で、ぴくんとぼくの尻尾がはねる。にっとほくそえむ烏丸の瞳は、鳥類独特の円らなものと、
新聞部としての獲物を追う眼光の鋭さが同居して、彼女独特の色身を帯びていた。

「うちの取材によると、佳望学園・野球部との練習試合ではうちの学校は完敗やったそうでな。
なんでも、スゴ腕のピッチャーがおる言う噂ですわ。そして、そのピッチャー言うのがな……」
「犬上先輩っ。犬上先輩って言うんですね!ご紹介遅れました。わたし新聞部所属・中等部の美作更紗ですっ!
うわああ、真っ白でふわふわの尻尾……イヌ族の尻尾は激萌えです!うらやましいですう!!」
「美作はん、黙っとき!」
ゲームに飽きたのか、さっきまでPC画面に心奪われていたネコの少女は、くるりとぼくの方へと椅子に座ったまま回転した。
短く揃えられた髪、少しぶかぶかのカーディガン、オトナに憧れた紺色のハイソックスとスカートの間が白く光る。
美作と呼ばれたネコ少女は、ぼくの尻尾をにまにまと眺めた後に、妹のように上目遣いでぼくの顔を凝視する。
「これはなかなかなの人材ですぞ!因幡お姉さまにお知らせしなければ!キリッ」
人材?
「白い毛並み!豊かに実るたわわな尻尾!誇り高きイヌ耳!わたくし美作更紗は、犬上先輩に出会えて感激でございますう!」
美作と名乗る少女は、椅子に座ったままキャスターで移動して、本棚から薄っぺらなマンガ本を引っ張り出して
自慢げに見せびらかす。尻尾を立てて目を細める美作は、オトナっぽく決めた紺色のハイソックスを履きこなしても、
ばたばたとさせて落ち着きの無い子どもに逆戻り。烏丸が整理棚を探っているのを背景に、美作はぼくを舐めるように上目遣いで見つめ上げる。
「どんなコスが似合うかなあ。ねえ!い・ぬ・が・み・先輩!」
「コス?なにそれ」
「もっふもふの尻尾を生かして、「ぎんぎつね」の『銀太郎さま』もいいなあ。王道で烏丸部長と組んで『椛・文の……』」

何かの名前を言い切れないまま、烏丸からキャスター椅子を押されて美作はぼくの視界から消えていった。
PCの主導権を烏丸が掌握する。画面は素っ気無いブルーのデスクトップに戻して、棚から取り出したCD-ROMをセットする。
唸り声を上げたPCは、部屋の主人である烏丸には従順であり、抗することなく画像ファイルを開いてくれた。
使い慣れた光学式のマウスを滑らせて、マイ・ピクチャのファイルに並んだ画像の整列には、狗尾高校の野球部員たちが
青い海を背景に球を投げ、バットを振り、自分の毛並みが汚れることを臆することなくホームに滑り込む姿が写っていた。
しかし、烏丸が見せたかったのは、そういうどこにでもある青春のいちページではない。
そんなものなら、オトナたちからの昔話で聞き飽きた。

431太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:08:48 ID:hvdRUvLI0
「ほら、見てみ」
「……そっくり」
初めてだ。
ぼくにそっくりなヤツを見るのは初めてだ。
烏丸が取材のためにこっそり写した野球部員たちの休憩時間。その中の一枚に写る白いイヌの少年。
確かに、彼は狗尾高のユニフォームを身に包み、野球帽から白い髪をはみ出していた。
地面に付きそうな長くてたわわな尻尾が、ブルペンのマウンドに突き刺さりそうだ。
ぼくと同じく真っ白い毛並みで包まれた彼は、まぎれもなくぼくらの野球部を破った、狗尾高のピッチャーであった。

「どうどすえ?興味湧いた?」
「……」
言葉にせずにぼくは烏丸の言葉を肯定すると、せっせと烏丸は毛繕いをしていた。
「すまんのう。うちら鳥はなあ、毛繕いを怠ると空を飛べんさかいな」
「わたしも犬上先輩の尻尾の毛繕いをしたいですう!」
「美作はん、黙っとき!」
烏丸曰く「休みの日の正午に狗尾高に行くと、犬上はんならわかることがある」らしいが、これ以上、烏丸は口を挟まなかった。
「ありがとう」と一礼をして、美作更紗が少しうるさかった新聞部をあとにする。

教室に戻る途中、一人のウサギの少女が廊下でそわそわとしていた。その名は、我らが風紀委員長・因幡リオ。
ボブショートの髪の毛は清潔感に溢れ、理知的なメタルのメガネは正義感が満ちている……、と思う。
「あ!犬上!あんた、新聞部に行った?見たんだよ!あんたが文化部の部室の方へ歩いていく所!」
「行ったけど、何か?」
「そこにさぁ。ちっちゃくて、短い髪のネコの女の子……居たよね?」
ぼくが「うん」と答えたのがいけなかったのか、彼女はポンと手を額に当てて、真っ白な上靴で廊下を慣らす。

「むあああ!新聞部に『委員会だより』の原稿渡さなきゃいけないのになあ。あのさ……犬上。代わりにね、原稿、持ってってくれない?」
「なんで?」
「なんでもないの!!なんでもないんだから」
因幡が力を込めれば込めるほど、ぼくの背中に感じる氷よりも冷たい風。
一方、ぼくの真向かいで因幡は、じりじりとぼくの方から後ずさりをしている。
殺気は本気に変わり、本気は因幡を危機に陥れる。「時間を取らせてゴメン!」と言うものの、ぼくにはどうでもいいことだ。
「ああ!因幡お姉さまぁーーーあ!わたしはどんなキャラにも対応できるように、髪の毛を切ってきたんですよ!!
そうそう!わたし、おこずかいを溜めてやっと手に入れたんですよ!あの制服!因幡お姉さまには『くろこ』、わたしが『みこと』のコスで……」
先ほど新聞部の部室で大騒ぎをしていた美作更紗がすっ飛んで来た。しかし、因幡が目を泳がせる理由と、美作が言っている意味が良く分からない。

「はいはい!分かったから、徹夜で書いてきた『委員会だより』の原稿、渡してあげるから、とっとと新聞部に行こうね」
「ままま!まって!犬上先輩!これ、烏丸先輩からの……やだー!犬上先輩っ」
頬を赤らめる美作は、ぼくに和紙で包まれた封筒を両手で差し出した。毛筆で達筆な烏丸の名が麗しい。
封書を受け取ると、何故か因幡から足を軽く蹴られた。

432太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:09:18 ID:hvdRUvLI0
―――休みの日の午前。処は古浜海岸駅のホームにて。
街の中心部からやや離れた古い木造建築の駅舎のターミナル。時代に取り残された電車が、櫛形のホームで体を休める。
中心の駅とは違って、賑やかさは無いが、高校生のぼくにでもどこか懐かしさを感じる。
元々線路が敷かれていた場所なのか、ぽっかりと不自然に空いた敷地から雑草が生える。遠くの目地へと単線の線路が伸びていた。
閑散としているホームも休日を楽しみたいのか、のんびりとした時間が流れていた。駅員は見るからに暇そうだ。
電車も発車のベルを待ちぼうけ。郊外行きの小さな電車は、わずかな乗客と共に青空を仰ぐ。
天井からは夏を告げるデパートの広告と、カバーを被された扇風機が近い出番を待って釣り下がる。
廃材になるはずだったレールを使った柱は、多くを語ることは無いが、少なからず街の歴史を知っている。
ぼくは街のことをこの柱ほど知らない。若い駅員は、念には念を入れて指差し確認を繰り返していた。
そして、ぼくは烏丸から手渡された一通の封筒を読みかけの文庫本に挟んで、繰り返して見つめていた。

「あれ?ヒカルくん」
「……泊瀬谷先生」
この間言っていた。「今度の休みに実家に帰ろうかどうか」と。
迷った挙句、帰省することにした泊瀬谷先生。イヤイヤながらも、ちょっとは楽しみにしている顔は隠せない。
遅れてきた春の日差しのような白いスカートに、乙女心をくすぐるパンプス、そして、いつものトートバッグは外せない。

「ヒカルくんもこの電車?」
「……はい。狗尾高校に行ってみようと思いまして」
「どうして」
「なんとなく」
学園のとき以上の笑顔で泊瀬谷先生は電車に乗り込み、ぼくもあとに続く。
横一列のシートは暇そうにぼくらを迎え入れた。
「こっち側に座ると、海が見えるよ」
尻尾を先生と反対の方向に向けて、ぼくは少女のようなオトナのネコの隣に座った。
ただ、ぼくには泊瀬谷先生との座席の隙間を詰める勇気はなかった。そっと文庫本を仕舞う。

休日だからとは言え、乗客が少なすぎる。心配する筋合いはないが、ぼくらの他にいる客といえば小さな子どもを連れた
ヒツジの母子と他数名。ぼくらを乗せて、ゴトゴトと単線を走りながら揺れる電車は、ひと息付こうと次の駅に止まるも、
乗客には動きがなかった。遠慮がちに閉まる扉を見つめる以外に出来ることは、隣で座っている泊瀬谷先生の横顔を一瞥すること。

「気付いてくれたかな。お休みの日だから、思い切ってシャンプー変えてみたんだよ」
頭を垂れる泊瀬谷先生の髪の毛が、開いた扉から吹き込む風で揺れる。クラスの女子たちよりも、瑞々しくも甘い香り。
電車が発車する為に扉が閉まると、泊瀬谷先生の髪の毛の香りは一旦落ち着くが、ぼくの鼻をくすぐる香りは忘れられない。

床下のモーター音が低く唸り、電車がカーブをゆっくりと通過すると、つり革が揃って揺れる。
座ることを遠慮して立っている若いオオカミの男性の尻尾も同じように揺れる。
あんまり電車が張り切るので、ソイツは座席に座っているぼくらの背中を、背もたれ越しに押してくる。

433太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:09:48 ID:hvdRUvLI0
いつしか電車の中に居たヒツジの親子は下車し、オオカミの弾性もいない。気が付くと車両はぼくらだけになっていた。
どのくらい電車は走っていったのだろう。どのくらい人々が乗り降りしたのだろう。
そして、どのくらい隣に座る先生はぼくに何かを話しかけたかったと思ったのだろう。
悔やんでも、悔やんでも、いくら尻尾を膨らませても、電車はぼくらを下車する駅へと運び続ける。
「佳望電をご利用いただきまして、有難うございます……。この電車は……」
ときおり入る車内アナウンスに助けられ沈黙から逃れていると、ぼくらの顔が反射していただけの車窓に海が写り込む。
初夏の海は新しい季節を迎えることに必死で、すっかり春の景色を忘れてしまっているのが非常に印象的な海岸線。

こっちの席に座ってよかった。誰もいないのをいいことに、泊瀬谷先生の手の甲がぼくの手の甲に当たる。
「先生も、この海を見ながら毎日学校に行っていたんだよ」
やっと口を開いた泊瀬谷先生は、ぼくと話すことを避ける素振りを見せていた。
だけど、ぼくは授業のときではない先生の声が、好きだ。

出来ることなら、泊瀬谷先生から「先生」を奪い取ってしまいたい。
「先生」という肩書きを失った泊瀬谷先生は、きっと迷いネコになってしまうんだろう。
しかしぼくは、迷いネコを放っておこうと悪しき考えを浮かべたり、独り占めしてしまおうと思ったりはけっしてしない。
なぜなら、ぼくも迷いイヌ。道に迷ったお巡りさん、迷子の子ネコに聞いても困るだけ。泣いてばかりのお巡りさん。
どうしていいのか分からない。何していいのか分からない。誰に尋ねればいいのか、まったく見当がつかない。
それでも側にいてくれて「これからどうしようかな」とまぬけだけれども、一緒に同じ目線で道を探したい。
教えてもらうんじゃなくって、いっしょに「せんせい」と歩いてみたい。
だけど、誰もこんな感情は分かってくれないんだろう。そんなことは心得てるけど。

車窓近くの立木は物凄いスピードですっとんで行き、遠くに湛える湾の波はゆっくりと流れ、遥か彼方の白い雲はのんびりと浮かんでいた。
ふと、泊瀬谷先生を見てみると、トートバッグをぼくの方ではなく、反対側の肩に掛けているのに気付いた。
泊瀬谷先生の横顔は、授業では余り見せることはない。というより、見せる機会はない。
ぼくが横顔に見入っている間に、先生がぼくの方を向いてしまったらと思うと、言葉にならないほど恥ずかしい。
幸いなことに、泊瀬谷先生は俯き加減で小さな声で話し出した。
「もうすぐ、狗尾に着くね……」
電車の速度が緩むことに比例して、先生と同じ席に座ることができなくなるという、間違った思い。
ブレーキ音が軋みつつ電車が止まる準備を始めると、ぼくは隣で頬を赤らめる小さなオトナの肩が触れた。

434太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:10:17 ID:hvdRUvLI0
電車は間もなく目的地である駅へと到着する兆しをみせる。時間は午前11時半すぎ。
重いモーターの音とはしばしのお別れ。ハンドルを握る運転者が、慌しく運転席の窓を開くと古い設備を操作して扉を開ける。
「狗尾ー、狗尾ー。狗尾高校前ー。電車とホームに隙間がございます。降りる際にはご注意ください」
あっ。
「ぼく、ここで降りますっ」
席を立って扉の前にぼくが立つと、泊瀬谷先生がぼくに隠れるように側に立っていた。
緩いカーブの上に建つホーム。泊瀬谷先生は無邪気に電車とホームの隙間を跳ねる。
そこまでして跳ぶ隙間ではないが、アナウンスに素直な先生の後姿が初々しい。
狗尾駅のホームは、二つに並んだ線路の間に浮かぶ。こせん橋は無く、駅構内の踏切で線路を渡って改札口に向かう古いタイプの駅だった。
駅から伸びる草にまみれた線路は、再び一つにまとまり、知らない遠くの街へと繋がっていた。
ぼくらが乗ってきた電車が駅を出る寸前、構内の踏切が警報音を巻き散らせて、ぼくらの歩みをさえぎる。
「寄り道しちゃった……。いいよね?」
「……はい」
早くここから歩き出したいのに、意図せぬ足止めが泊瀬谷先生を意地悪くくすぐる。

駅から出ると潮風が心地よい、海岸沿いの道に当たる。
見ていて気付いたのだが、泊瀬谷先生は初めてここに来たような感じではない。
すいすいと足取り軽く、目的地である狗尾高へと吸い込まれそうな勢いだった。
パンプスの音がいつもより軽く聞こえる。ぼくは黙って泊瀬谷先生の後を追った。
「先生の住んでいた町もこんな感じだったんだよ」
「そうなんですか」
「うん。懐かしいな……。まだ、あのタバコ屋さんあったんだ」
駅で降りるとき「寄り道しちゃった」と言っていた。暮らしていた町ではないけれど、どこか先生にとっては思い出深い町なのには違いない。
もしかして、これから向かう狗尾高と関係があるのかもしれないが、あまり深い詮索はよろしくない。

休日の昼前。人通りはぼくら以外にいない。
「ヒカルくーん。着いたよ!」
泊瀬谷先生が手を振って居る場所は、狗尾高の正門でも通用門でもない。海岸近くの細い道を歩く。遠くには漁協の建物。
グランドの脇を通る細い路地。確かに狗尾高の側にいるのだが、金網のフェンスがぼくらをさえぎる。
しかし、学園の息吹は予期せぬ来訪者であるぼくらに確かに届いていた。
「本当だ」
「うん。わたしが初めて来たときとちっとも変わってないね」

グラウンドでは、野球部員たちが海風と砂埃にまみれて練習に明け暮れていた。
金網越しに彼らを見ると、本当だ。イヌ、イヌ、イヌ……。
誰も彼もぼくと同じイヌの男子生徒ばかり目に付く。白球追う彼らの姿は、ぼくら「ケモノ」ではなく、野性に返った「獣」のよう。
ただ、尻尾の動きは「ケモノ」のときを忘れていない。純粋に、純粋に、そして純粋に。
本当に愚直とも揶揄できるぐらいに、彼らは一握りのボール目掛けて走っていた。
愚直も過ぎると美しく見える。汚れがない分に本能のまま、競技の魂に導かれる分、混じりけがないスピリッツ。

435太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:10:47 ID:hvdRUvLI0
「烏丸の言っていた通りだ」
狗尾高の野球部員たちは、丁度紅白練習試合をしているところであった。
ぼくはあまりスポーツが得意ではないのだが、そんなぼくにでも彼らの技術は卓越したものだと断定できる。
腕の良い料理人が包丁を裁くよう、炎を手に取るように扱うように、そして最高の一品を創り上げるように。
ピッチャーがボールを投げる。心地よい音を立ててバットに当たる。天高く走り去る球を彼らが尻尾をなびかせ追い駆けて、
魔法のようにグローブに吸い付けると、間髪いれずにファーストに送球する。気持ちがよいほど無駄のないプレイだった。
スポーツに励むというよりも、芸術を創り上げるといった方が、彼らには相応しいのかもしれない。
「……カッコいいね」
「……」
「そうね……。佳望学園の子も頑張ってるんだよね」
無意識に飛び出した泊瀬谷先生の爪が、金網に引っ掛かる。
きょう、狗尾高のグラウンドにやってきたのは他でもない。自分の目で確かめること、それに尽きる。

「あの子」
急に泊瀬谷先生が叫んだので、周りのみんなが驚かないか、ちょっとばかり気になった。爪を引っ込ませた指が一人の少年を差す。
しかし、子どもに戻った泊瀬谷先生は、大人の会話は通用しないほどまでに、背丈が小さく見える錯覚がする。

白い毛並みは生き写し。
大きな尻尾は生き写し。
「目元がすんごく似ているよ」と、泊瀬谷先生が言うものなので、きっと瞳も生き写し。
ただ、違うことは、彼は狗尾高野球部のピッチャーだったのだ。

噂には聞いていたが、びっくりするぐらいに、ぼくに似ている。
ひと球ひと球に魂を込めて、相棒であるキャッチャーに投げると、重い球の音がずしりと響く。
これで最後かと思わんばかりに、彼は息を切らして尻尾を落ち着かせる。尻尾の動きでバッターに悟られたら、
名ピッチャーを名乗れないのは、何となく分かる。冷静に、そして冷徹に。孤独な戦いは慣れているのだろう。
練習とは言え、試合さながらの投球にぼくらはすっかり彼に飲み込まれてしまった。
「よーし!いいぞ!いいぞ!」
仲間からの声援に頷いて答える彼は、一旦呼吸をして投球。そして、ストライク……。
「わー!よーし!あと一人!あと一人だぞ!!そろそろ押さえこんじまえ!!」
「もうそろそろかもね」
「……あ」
泊瀬谷先生の声に、先日の烏丸の声が重なった。
いつの間にか太陽はぼくらを残して、てっぺんに上り詰めていた。

436太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:11:19 ID:hvdRUvLI0
遠くに見える校舎の時計は正午を告げる。いきなりのことだった。
針が合わさると同時に、白球を追っていた生徒たちがいきなり試合をやめて、グランドに整列する。
そして、帽子を脱いで美しい一列を保つ。
「……」
「ごらん。ヒカルくん」
ぼくに似た彼も例外なく列を成し、一同が野球部の帽子を脱いだ刹那のこと、海岸の方からサイレンが響き始める。

「うおぉおーーん!!うおぉーーん!」
「うおぉおーーん!!うおぉーーん!」
「うおぉおーーん!!うおぉーーん!」
サイレンに負けじと、野球部員たちは天高らかに声を上げて、野生の血を沸かせる。
まるで使えし君主から剣を授かったように、彼らは勇気と誇りを尻尾に太陽に向かって吠え続ける。
剣を振り上げる代わりに、遠吠えを。
災いもたらすものを斬り裂く代わりに、己の牙を。
そして、大切なものを守るために、優しい毛並みの尻尾を……。

「まだ残ってたんだぁ、コレ。よかった」
「……そうなんですか」
確か、烏丸は「犬上はんなら分かることがある」と、言っていた。なるほど、彼らの遠吠えを聞いているうちに、
ケモノの血を取り戻す気になってくる。同じように、大地を駆け巡りたくなってくる。イヌだけに分かる不思議な感覚だ。
サイレンが鳴り止む頃には、彼らも遠吠えを止めて帽子を再び被ると、練習試合のポジションへと戻っていった。
無論、ぼくに生き写しである彼も、大きな尻尾を揺らしながらマウンドへと登る。
「狗尾高って言えば、この光景が有名なのよね」

グランドに面する金網にしがみ付きながら、狗尾高のエースを見守る大きな影がある。
見覚えのある、厳つい二人組み。耳に残る荒い言葉遣い。不安がよぎる。
「本物が投げているところ見るけど、やっぱカッケーよな」
「おれもだよ。噂に聞いていたけど、マジで真っ白なわけ?」
「ああ、白いわけ。この間のことは、勘弁してやろうってわけ」
佳望の街で遭って、そして泊瀬谷先生に助けられた(と、なっている)ときの荒くれ二人組み。
彼らはどうやら、狗尾高の生徒らしい。この間は、マウンドに登る彼と見紛って退散したのだが、
やはり彼らも狗尾高で学ぶ若人とあって、ぼくに似た彼を大事にしたいらしい。と、思うことにする。
誰だって、自分の学び舎が恋しいし、愛しい。

「先生の家族が待ってますよ」
ソイツらの影を見るや否や、ぼくはそそくさと泊瀬谷先生の手を引っ張ってその場を後にした。
今思えば、なのだが……。ぼくは、どうして先生の手を引っ張っていったんだろう。
ぼくのような青二才が、大人である先生の手を引っ張って先導をきって歩くなんて、若輩者の思い上がりだ。
泊瀬谷先生の顔を見るのは、今はちょっとできない。ただ、泊瀬谷先生は、ぼくをにっこりと見つめているのだろう。
取り戻したばかりの、ぼくの中のケモノはネコの優しさで消えてしまった。

437太陽とケモノ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/10(月) 22:12:17 ID:hvdRUvLI0
―――
「先生。怒られに帰ってくるから」
「……」
不思議と泊瀬谷先生の顔は落ち着いていた。

先に泊瀬谷先生が乗る電車が近づき、ホームの踏切が鳴り響く。恐る恐るホームに寄せる電車は、ピタリと扉を泊瀬谷先生の横に合わせた。
ごろごろと扉が開く。ここに来たときのように車両の乗客は皆無。隣の車両には二、三人ほどの静かな時間。
「じゃあ、また学校でね」
ホームの隙間を気にしてぴょんと電車に飛び乗ると同時に、ぼくが乗る佳望ゆきの電車もやって来た。
明日会うんだろ。明日どころか、毎日会うんじゃないか、と当たり前の事実がまかり通らない想い。
発車する電車をお互いに見守りながら、ぼくらはそれぞれの街に帰っていった。
それにしても、おなかがすいた。

電車に揺られ揺られてつり革を眺める。リズムよく揺れるつり革に飽きて、朝読んだっきりの文庫本を開く。
「あ」
開けることのなかった烏丸の手紙が挟まっていた。表には「いざというときに開けなはれ」の一文。その内容を、今初めて知ることになる。
封筒には和紙に筆ペンで書かれた手紙が添えられている。揺れる電車で文字がぶれて見える。
「もしかして、もしかして必要なときには、これを見せなはれ。狼藉を働く不逞な者が近辺に居るらしゅうてな」
大人のような毛筆は、京都訛りの烏丸の言葉が聞こえてきそうであった。
手紙にもう一つ同封されていたのは、小さな紙片。それには印刷された文字が載っていた。一言で言えば名刺だ。
『佳望学園・新聞部部長 烏丸京子』

のほほんとしている割には、抜け目のない烏丸の考えそうなこと。
そりゃ、乱暴を働いて、記事にされちゃ困るだろう。巡り巡って騒ぎになって、狗尾高野球部の迷惑になったらそれこそだ。
それで烏丸はぼくに名刺を持たせたのだった。いや、もしかしてぼくらが狗尾高にいる頃、何処かの木の陰から覗いていたのかもしれない。
そんなに烏丸のことは知らないが、烏丸のやりそうなことだ、と想像できる自分がちょっと照れくさい。

「ウチはこう見えても、佳望学園以外でも顔が通るんでな。狗尾高はんにはお世話になっとります」
「わたくし、新聞部の美作更紗ですっ!野球部のピッチャーさんで、真っ白で尻尾の大きな先輩がいらっしゃるそうで。
もっふもふの尻尾を生かしてどんなコスが見合うかなあ!もっふもふ!!もっふ!」
「美作はん、黙っとき!」
新聞部の二人の会話を思い浮かべながら、街までの電車に揺れられる。午後の太陽を背に浴びながら、ぼくは小さく「わおーん」と呟く。


おしまい。


以上です。よろしくお願いいたします。
早く規制が解けますように。

438名無しさん@避難中:2010/05/11(火) 02:56:44 ID:/8NWh4kwO
遠吠えで気合い入れ!
スゲー燃える!
ほんと、獣人さんが野球やったらそんなんやりそうだなー
ヒカル似のピッチャーかっけぇ

439 ◆/zsiCmwdl.:2010/05/11(火) 19:06:08 ID:yoFGVT720
うむむ!? 市電以外の鉄道が出てきただと!?
烏丸先輩は相変わらず腹黒い、そして更科さん染まりまくってるw
にしても、ヒカルと泊瀬谷先生は相変わらずキュンキュンさせるなぁ……


あ、それとエロスレの方で投下したので、18歳以上の分別をわきまえた方はどうぞ

440名無しさん@避難中:2010/05/11(火) 19:16:10 ID:bZL5TWWUO
ケモスレって単発でしれっと投下しずらいんだけどいいのかな?

441名無しさん@避難中:2010/05/11(火) 19:57:24 ID:BpcS3njg0
>>440
早く投下しろーーーーーー!!!単発でもオリジナルでも版権でも
何でも来おおおおおおおい!!!!

442蛇と平和 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/11(火) 20:49:39 ID:bZL5TWWUO
>>441
 鋼鉄の檻が眼前に広がる。冷たい空気と独特の臭いが立ち込めるが、その前に立つ二人には慣れた空気だ。
 突如、檻が轟音を立てる。柵には巨大な手がかけられ、中で唸るそれはもはや知性を感じさせない。
 さながら『動物園』とでも言うべき光景だった。

「……先祖帰りだな」

 檻の前に立つ者の一人が言った。
 もう一人がすぐに返す。

「確認しただけで六人……。本人がこれじゃ事情聴取も出来ない」
「実際はどうだと思う? 久藤」
「本人は単なる生活の一部として犯行に及んだ。最初の事件から日付から考えれば……」
「そうか」

 久藤と呼ばれた人間は檻に近づき、スプレーを吹き掛けた。中に居た熊は叫んで、奥へと待避する。

「止めろ久藤。あとで訴えられたら面倒だ」
「ほっとくわけにもいくまい。この怪力じゃ壊されかねない。お前には出来ないしな。薮田?」
「イヤミのつもりか?」

 薮田と呼ばれた蛇はするすると檻の前まで行き、久藤と並ぶ。

「……こうなってしまえば、どうにもならないか」
「ああ。おそらく精神病棟にブチこまれるだけだ。治療しようにも本人に理解出来るだけの知性が無くなってる」

「悲しい事だな」
「フン。殺された被害者の前では言えないな。熊が相手じゃほとんどの連中じゃ手に負えない
 今回も結局は実弾使って、それでもまだ生きている程だ」

 薮田はチロチロと舌を出しながら、中の『野獣』をじっと見つめる。

「私ならこんなマネはしでかさないがな」
「冗談言え。お前ならもっと狡猾にやるだろう?」
「そうだ。もっと上手く、確実に。自分に被害が及ばないようにやるだろう。だから私はやらない」
「警官にあるまじき発言だぞ」
「警察は甘くないと言ったんだ」
「……蛇め」
「それは侮辱のつもりか?」

 二人は留置所から外へ出る。

443蛇と平和 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/11(火) 20:50:04 ID:bZL5TWWUO
 久藤は紙コップのコーヒーを飲みながら、先程の容疑者について思いを馳せる。
 何故か防ぎようがない、『先祖帰り』による殺人。

「知性の代償かもな」

 薮田は言った。

「どういう意味だ?」
「……いくら知性を得たとて、所詮は我々に根差す本能は消えはしないって事だよ。
 だが、知性を得た事によって危機を防ぐ能力は大分衰えた」
「それを進化と言うんじゃないのか」
「さぁな。どちらにせよ、本能は消えない。私もお前もな」
「捻くれてるな」
「そういう種族さ」

 二人は車に乗り込み、街へ出る。
 仕事は無いほうがいい。何事も無く、皮肉屋の蛇の小言と一緒に街を流す。それだけでい。
 久藤はそれを平和と呼んでいた。

444名無しさん@避難中:2010/05/11(火) 20:52:57 ID:bZL5TWWUO
投下終了

445名無しさん@避難中:2010/05/12(水) 21:08:21 ID:qxsZQToI0
わんこさんのを代理投稿してみましたが、さるさんを喰らってしまったよ
うです。あとふたつだったのですが… 10時になれば解除になるんです
よね? それまでじんわり待って続きを投稿したいと思います。

446名無しさん@避難中:2010/05/12(水) 22:16:34 ID:qxsZQToI0
>>427
本スレへの代理の投稿、完了しました。
 初めてなので、色々不手際が有ったけど、何とか出来ました。

447わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/05/12(水) 22:29:29 ID:pGIx9hVk0
ありがとうございます!
投下されたイラストは、イマージどおりでびっくり!
古い電車は大好きです。

448名無しさん@避難中:2010/05/13(木) 06:12:08 ID:/3/oC5H6O
駅の絵いいなー

449名無しさん@避難中:2010/05/13(木) 06:17:34 ID:/3/oC5H6O
>>443
乙。
蛇の獣人さんはスレ史上二人目。
レアキャラ狙いましたね。

450名無しさん@避難中:2010/05/13(木) 23:41:35 ID:JkzlAUow0
>>443
どこかで見たトリと思えば。単発大歓迎!
短くて世界観が出せるのはすごいなあ。

>>414
「相関図的なもの」作者様へ。
以前うpされた相関図を、自分なりにPC上で切り貼りしてみました。キャラ多いなぁ。
佳望学園を初見の方にも少しでも把握できるように、それをうpしても差し支えはないでしょうか?
よろしくお願いいたします。

451 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/14(金) 01:23:10 ID:xqVKu1DsO
>>449-450
わんこ様に何度か心臓握り潰されそうになったんで真逆の超ドライなの書きたかったんだが、まだムリですた。

しかし投下が多くてええスレや。

452名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 11:06:03 ID:SM/HdQcs0
>>450
相関図の者です。 御存分に御利用くださいませ。
 といいますか、是非とも皆さまの自由な感覚でアレンジしてくださいな。その
 ための素材になれれば幸いだと思いますので。

>>447
古浜海岸駅がそんなに間違ってなくて良かったです。 イメージではあの向こう
側少し行ったところに浜辺が広がってるって感じかなと思ってます。
小さいころにあまり電車と接していなかったせいか、ノスタルジックな電車とい
えば就職してから出会った東急の緑の芋虫電車になってしまい、それを元に描い
てみました。

453名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 20:11:57 ID:LvVf8gF60
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1076.jpg
>>452さん
ありがとうございます。
「佳望学園・相関図」作ってみました。見やすいでしょうか?間違え・ツッコミあれば何なりと。

454名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 21:17:08 ID:UR/f8Go.O
うおおお乙!すっきりしてわかりやすい!
まあ気付いた点もいくつか
まず元絵からの話だけど、正しくは「浅川・シュルヒャー・トランジット」「ルイカ・セトクレアセア」
伊織さんが不思議なことになってる件。あれ?義姉さーん
鈴鹿さんは惣一に片想い(いやいやパラレルではなくちゃんと本編で)
サン先生と英先生…はどう繋げばいいのかよくわからん
こんなとこかね

455名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 21:25:05 ID:X8Uf9Xvo0
相関図すげえー。見やすくて良いなあ。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1077.jpg


…ルイカと淺川、こっちも間違えられやすい名前で作ってすまぬううう/(^o^)\

456名無しさん@避難中:2010/05/14(金) 22:09:41 ID:v3Nh1rfY0
>>453
おおすげえ! こいつは見事な相関図!

だが俺も少し気になった所が何箇所か。
先ず一つ、鈴鹿さんは元女子プロレス部で現在は飛行機同好会です。
二つ、上でも書いた通り、女子プロレス同好会ではなく女子プロレス部です。
三つ、血の繋がりは無いですが御堂 卓、御堂 謙太郎、御堂 利枝は一応親子関係にしてください
四つ、卓、朱美、利里の三人は悪ガキトリオで通っていると同時に鉄道研究部に所属しています。
(しかし鉄研部の入部に関しては卓、利里は同意していない)
五つ、佐藤先生、兎宮かなめは射撃部。ただし、かなめは狩猟同好会と掛け持ち。
六つ、上でも書いた通り、かなめの所属する狩猟同好会には美弥家 加奈も所属(絵には描かれていないけど三島 瑠璃も所属)
七つ、飛行機同好会のメカニック担当は跳月先生と真田 勉の二人。松来さんは部品の供給元。

む、ちょっと多いけど……こんな所かな?

457453:2010/05/14(金) 22:56:50 ID:LvVf8gF60
おおお。みなさん、ありがとうございます。
修正してまたうpしますね。

458名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 09:00:36 ID:C9TvPImA0
元図の者です。

>>455
ううう、名前を間違えてしまって申し訳ないです。

>>454,456
そーだったそーだった。
忘れている関係とかイベントとか、存外有ることに気付かされましたですよ。

>>453
と言う事で、最低限図に必要そうなキャラを追加したものをこれから描きますので、少々
お待ちいただけますか?
 えーと、ミミ、葉狐、更紗、瑠璃、堅吾、蜂須賀、アリサ、ナガレの両親、木島&緋野
 くらいですかね?(結構残ってたなぁ)。

459名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 12:00:40 ID:C9TvPImA0
ただいま、上記11にんの追加と二名の名前修正したものをアップしましたので、存分に
いじって下さいませ。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1080.jpg

460名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 17:00:31 ID:yRiOOeM.0
>>459
おお! 今までイラスト化されてなかったキャラが何人も。
特にカブト虫の堅吾はこう言う姿だったのかと感心w

461名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 21:45:02 ID:qU7U0zeA0
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1081.jpg
相関図ver1.1

修正してみました。

462名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 22:01:30 ID:qU7U0zeA0
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1082.jpg
相関図ver1.1

ちょっとまた、修正しました。

463名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:14:14 ID:DhYNHLlA0
獣人スレはパート2くらいまでしか把握できてないぜ
コレッタは確かケモ学の最初期キャラだったはず

464名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:14:35 ID:DhYNHLlA0
誤爆

465名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:41:12 ID:l035HkTg0
誤爆先を教える権利をやろう

466名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:42:13 ID:DhYNHLlA0
>>465
ラジオスレ

467名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:48:36 ID:l035HkTg0
見に行ったら既に終わっていたぜ

468名無しさん@避難中:2010/05/15(土) 23:51:56 ID:ZmE0F.1E0
うpを待つんだ!

469名無しさん@避難中:2010/05/17(月) 13:00:44 ID:6Z/T7QiU0
ああ、何度見直してもかわゆい
けもかわゆい相関図ケモかわゆいよ
ラジオのDJさんへおすすめとか言えなかったのが悔やまれるよ

470名無しさん@避難中:2010/05/17(月) 13:31:11 ID:fK0vbD8wO
ラジオDJ氏もここ見てるかも。

471名無しさん@避難中:2010/05/17(月) 13:38:32 ID:seyEJ3z6O
本当にねえ
リアルタイムで聞けてたなら語りまくってたのに

472蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:10:28 ID:WPjUDqF2O
「今日は冷えるな」

 薮田が言う。
 小雨が降っていた。車の屋根を叩く音はさーさーと心地よく車内に響いてくる。
 薮田はしっぽの先で器用に缶コーヒーを持ち、久藤の運転する覆面パトカーの助手席に丸まって座っている。
 人間である久藤にとっては涼しい程度だが、蛇の薮田には多少堪える気温だった。

「そんな薄着だからだ」
「これ以上着込む必要もない。私にとってはジャマなだけだ」

 薮田の来ている蛇用の衣服は薄手だが特別な保温性を有している。蛇の身体特性を失わない程度の柔軟性と、体温の低下を阻止す機構を備えた優れ物だ。

「制服着てた頃が懐かしいか?」
「あんなのはもうゴメンだ。蛇に帽子はいらないさ」
「今よりは暖かいだろう」
「動きにくいだけだ」

 なんて事の無い会話だった。今日も、このまま薮田の小言に付き合って一日が終わる。そのはずだった。
 二人の乗る車は墓地の辺りを通る。雨は既に霧となり、雰囲気はB級ホラー映画のようだった。
 警察署から市街へと向かう近道として、彼らはよくここを通る。昨日は徹夜で仕事に追われていた二人はさっさと家に帰ろうと、この道を選んだのだ。
 時刻は、朝の五時半をちょうど回った頃だった。

「なんだあいつら?」

 久藤は霧の奥の人影に気づく。車を止め目を懲らすと、猪と体格のいい虎が何やら話し込んでいる。

「こんな時間に墓参りするか?」
「さぁな。私ならやりかねないが……。墓参りの雰囲気でもないな。墓を見ていない」
「よし、行こう」
「また徹夜かもな」

 二人は車を近づけ、素早く横付けにする。車を降りながら警察署手帳を見せつけ、職務質問だと告げた。

「ここで何してる?」

 久藤の質問に猪はありきたりな答を返す。

「墓参りだよ。今しか時間が無かったんだ」
「花も持たずにか? 墓参りならなぜ道路の脇で話し込む?」
「たまたまだよ。もう終わったし帰る所だ。」

 やはりと思う。
 猪の解答は筋が通っている。あらかじめ用意された解答のように。

473蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:10:50 ID:WPjUDqF2O
「持ち物検査を行う。協力してくれ」
「持ち物検査? 冗談じゃねぇ。俺が何したってんだ」
「さぁね。それを今から調べるんだ」

 猪は明らかにうろたえている。普通なら怪しまれれば身の潔白を正銘しようと協力的になるか、より攻撃的になる。それならば最初の段階で取り付く島も無いはずだ。
 持っている。
 久藤の勘はそう言っている。

「拒否するなら公務執行妨害だ。どうする?」
「ふざけんじゃねぇよ! 俺が何かしたかよ!!」
「うろたえすぎだ。観念して指示にした――!」

 突如、横に居た虎が久藤を突き飛ばす。
 体格差が有りすぎた為か久藤は紙屑のように飛ばされ、派手に尻餅を付いた。

「ううううううぅうう………」

 虎の声はもはや言葉となっていない。憎しみを込めて唸っているだけだった。

「やりやがって……!」

 久藤はなんとか立ち上がり、目線で虎を追う。それを見ていた猪は虎とは反対の方へ逃げだそうと走りだす。
 待て! そう言おうとした矢先、猪の膝に鞭のような物で一撃が加えられた。薮田だ。
 たっぷりとしなりを効かせたしっぽの一撃は並の威力ではない。
 猪は情けない声を上げて転倒し、薮田はそれに瞬時に絡みつく。

「うご………! 放せ! 放しやがれ!」
「喚くな猪風情が。このまま締め上げて殺す事も出来るぞ。全身の骨を砕いてな」

 薮田は感情の無い目で言う。ただの脅し文句だが、暴れる犯人を震え上がらせるには十分だ。

「久藤! 逃げた虎を追え。コイツは私に任せろ」
「わかった。すぐ戻る」

 久藤は懐から拳銃を取り出す。相手は虎。それも錯乱している可能性がある。嫌な予感が頭を過ぎっていた。
 スライドを引いてチャンバーに弾薬を送り込み、安全装置を外す。

「朝から撃ちたくねぇけどな」

 走りながら愚痴を言うが、誰も聞いてはくれない。
 虎はフラフラと歩いたり走ったりを繰り返し、半地下の納骨堂の前につく。
 ちょっとしたレンガ造りのトンネルに入り、壁に寄り添いうなり声を上げていた。

474蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:11:43 ID:WPjUDqF2O
「警察だ! 止まれ!」

 銃を構えお決まりの事を言う。
 映画ではこれで止まる者などいないが、実際はこれ以上の脅しは無い。ほとんどの連中は大人しく従う。
 一方虎は、壁に頭をズリズリと擦りながら声を上げ続けている。

「警察だ! こっちを向いて止まれ!」

 もう一度怒鳴る。虎の耳にも届いたのか、ゆっくりと久藤の方を向いてくる。
 その顔は既に感情に飲まれている。
 目は血走り、口からはよだれがだらだらとこぼれ、野獣のような唸り声を漏らす。

「両手を頭の後ろに置いて地面に伏せるんだ! 今すぐ!」

 虎は一歩前に出る。指示に従う様子は無い。その視線からは明確な敵意が伝わってくる。

「指示に従わなければ発砲する! もう一度言うぞ! 止ま――」

 久藤が言い切る前に虎が飛び掛かる。
 猫科特有の瞬発力を用い、その巨体が久藤の上にのしかかる。
 上を取られた久藤はあえなく下敷きになる。

「うううう………。うあアアッァァァアア………!!!」
 もはや声とは呼べない。錯乱した虎は爪を久藤の身体に食い込ませようと何度も爪を立てるが、下に着込んだボディアーマーが邪魔をする。
 うまく行かないとみるや、今度はその長い牙で喉元に噛み付こうと大口を空け顔を近づけてくる。

「舐めやがって……!」

 久藤は銃を握ったまま鉄槌を虎の顔面に打ち込む。グリップの底が虎の牙に当たり、久藤は確かな手応えを感じた。虎が叫ぶと同時に、今度は耳の下の急所にも同じ攻撃を加える。
 虎が一瞬怯んだ隙を見て久藤はそこから脱出し、距離をとって再び銃口を向ける。

「うううううううううううう…………!!!」

 虎はまだ敵意を表す唸り声を上げていた。
 口からは血が流れている。最初の一撃で牙が折れていたのだ。

「今度こそ止まれ。次は警告無しだぞ」

 その言葉は届かないだろう。事実、虎はまた久藤ににじり寄るってくる。
 そして、霧のかかった朝の墓地に銃声が二回、連続して響いた。

475蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:12:03 ID:WPjUDqF2O
※ ※ ※


「虎からLSDが検出されたわ」
「そうか。あの猪野郎も持っていた。奴が売人だな」

 薮田は警察署で鑑識の女性警官と話をしていた。
 彼女は久藤が射殺した虎の鑑識を行い、薮田の指示で行った薬物検査の結果を告げに来たのだ。
 シロサギの彼女の羽は幾分かバサバサになっている。彼女もまた署内での缶詰業務に追われていた。

「忙しい所悪かった。邪魔をしてしまったな」
「いいわ。これも仕事よ。久藤さんは?」
「医務室だ。LSDでパニックになった虎と立ち回ったんだ。無傷のはずが無い」
「そう。遺体を確認した皆が驚いてるわよ。……凄い射撃の腕だって」
「心臓に二発か。基本に忠実だ」
「知ってたの?」
「銃声は二回だった。それは久藤が射殺すると決めて撃った時だ」

 薮田はするりと椅子から降り、その場から立ち去ろうとする。あまりに素っ気ない態度。
 しかしそれが薮田だ。蛇そのものの生き方。

「どちらへ薮田刑事?」
「取り調べさ。あの猪を締め上げてどこからLSDを持ち込んだのか吐かせる」
「あなたが言うと冗談に聞こえないわね」
「冗談をいうタチじゃないさ。しかし……」
「しかし……。何?」
「この街で薬物犯罪が無かった訳じゃない。だがLSDが出て来たのはここ最近だ。それまではコークが主流だった」
「売人が乗り換えたんじゃないの?」
「違うな。コカインを転がし続けた連中がそうそう他のに手を出すはずがない。それにLSDは競合する薬物になる。
 そうなればコカインの売上も落ちる」
「どういう事?」
「商売敵がこの街に来たって事さ」

 薮田の推測が当たっているかは解らない。だがそんな事は当の薮田には関心は無い。

「あとは麻取と麻薬科の仕事だ」

 薮田はそれだけ言った。彼は彼の仕事をするだけだ。
 己の職務をまず第一に全力で行う。それが薮田の信念だった。
 彼はそのまま、医務室に居る相棒を迎えに行く。そしてそのまま、持ち前の狡猾さで取り調べを行うだろう。

476蛇と銃弾 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/17(月) 19:12:26 ID:WPjUDqF2O
投下終了

477名無しさん@避難中:2010/05/21(金) 20:20:06 ID:PRTBDwNUO
これはなんとハードな雰囲気
蛇刑事とは新しい。かっこいいな

478 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/21(金) 21:19:31 ID:STQjZeVkO
いつの間にか代行されてた件。
乙でした。

479名無しさん@避難中:2010/05/21(金) 21:46:16 ID:3WT3wOT2O
塚本「口蹄疫オソロシス」

来栖「どげんかしてほしいですマジで」

ライダー「ユンケルがどうかしたの?」

馬&鹿「「……」」

ライダー「え?俺なんか変な事言った?」

塚本「ツッコミが救えるボケばかりだと思うなよハゲ!」

来栖「当事者意識ひきーんだよ巨大昆虫が!」

ライダー「…………ごめんなさい」

蜂須賀(蜂大量死したときはスルーしてたくせに……)

480名無しさん@避難中:2010/05/21(金) 21:57:51 ID:STQjZeVkO
>>479
ワロタけどワロエないwww

481名無しさん@避難中:2010/05/22(土) 01:55:35 ID:1HT9qI3MO
塚本「口蹄疫オソロシス」

来栖「と、いうわけで対策を教えてもらいにきた」

シロ「お前達ヒマ人だなあ」

塚本「コーシーくれよー」

シロ「サ店じゃないんだぞ…(言いつつコーヒー差し出す)」

塚本「(ズゾゾー)ウマー」

来栖「で、俺たちは死ぬのか?」

シロ「死なんわ口蹄疫くらいで」

来栖「え?死なねーの?」

シロ「人間の病気に口唇ヘルペスってのがあるんだが、それに似てるんだ。
顔面神経にウイルスが取り付いてしまって、一度感染するとウイルスを全部除去出来なくなる」

来栖「困るじゃん」

シロ「うん。でもヘルペスウイルスは日和見感染症で、免疫が働いていると全然症状が無い」

来栖「口蹄疫も同じ?」

シロ「いや、口蹄疫は結構症状が現れやすい。完治しようが無い理由は同じだけどね。
くわえて口蹄疫の場合は感染力がべらぼうに強いから、畜産の場合は殺処分する」

塚本「(ゲップ)ごっつぉーさま。オカワリ」

シロ「お前始めから全く聞いて無いだろ」

塚本「失礼な!しっかと聞いてたわ!」

来栖「じゃあ俺とシロちゃんの会話、要約してみろ」

塚本「ああん?えーと、うー……口のヘルスは、顔に付くと、困る?アレかな、メイクが落ちるからかな」

シロ「カエレ」

482名無しさん@避難中:2010/05/22(土) 09:55:30 ID:7aUHYxj.0
口蹄疫って、偶蹄目の病気なんで、来栖はまずいけど塚本は大丈夫なんじゃないかしら?
花子先生とかいのりんとかトンコは気をつけないと。wikipediaによると大吾もか。

483名無しさん@避難中:2010/05/22(土) 11:17:35 ID:1HT9qI3MO
塚本「俺は大丈夫だと、途中で気付いた」

来栖「だからサ店気分だったのか」

484名無しさん@避難中:2010/05/22(土) 16:30:43 ID:tPbogZH6O
保健委員も大変だな

485 ◆wHsYL8cZCc:2010/05/26(水) 23:19:01 ID:UnAl3IDEO
本スレ>>736
薮田が俺のイメージ通り過ぎる件wwwwwwwwwwww

486名無しさん@避難中:2010/05/29(土) 07:40:53 ID:QtBNmH16O
チェンジリングにあの正義の味方が現れた模様です

487361:2010/05/29(土) 09:31:40 ID:XTrk/m2YO
ご名答。
ただ知らない人にとっては謎の人物ってことにしておきたいので、
話の中でネタバレするまではケモスレの話題は出さないでくれると助かります。

488名無しさん@避難中:2010/05/29(土) 09:57:11 ID:QtBNmH16O
そうでしたか、すみません!
ちゃんと黙っておきますんで。
SSでの動きとか拾っててくれて非常に嬉しかったです。
続きwktkしてます

489名無しさん@避難中:2010/05/31(月) 12:55:08 ID:O6QOf/UoO
吹奏楽部かわいいよ吹奏楽部
噛み付きに特化した肉食獣の口だと息吹き込むの大変そうだなあ

490 ◆/zsiCmwdl.:2010/06/19(土) 02:59:46 ID:KtWOKf/60
ちょいとお知らせなのでここで。
来週の金曜に投下する予定の第2部【承】ですが、
諸所の事情の為、来週の火曜日の投下へと変更します。

お知らせは以上です。

491 ◆akuta/cdbA:2010/06/19(土) 22:53:54 ID:BZtTSGwk0
ムオオー
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1167.jpg

492名無しさん@避難中:2010/06/19(土) 23:14:04 ID:JW/JpIOQO
>>491
なんかかわいいw

493名無しさん@避難中:2010/06/21(月) 05:51:13 ID:3htNoXMoO
かわいいなー

獅子宮先生って眼帯っ子だったね
その過去って明かされてたっけ

494わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:24:37 ID:CXf7ZP6k0
>>491
獅子宮センセに萌えた!

本スレでは長編が進行中なので、ここで投下しよっと。

495そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:25:21 ID:CXf7ZP6k0
「助けてっス!!!ボクの人生最大の危機を助けて欲しいッス!!」
いつもは静かなそよ風吹き抜ける午後の佳望学園の図書室で、けたたましい悲鳴がいきなり広がった。
声の主は保健委員。ケモノの尻尾をふりふりと、ケモノの脚をぶらぶらと、そしてパニくるこえはぎゃあぎゃあと。
他でもない。ちょっと高めの本棚の一番上の本を取ろうとしていただけのことだ。しかし、無理してジャンプしたのがいけなかったのか、
片手を棚に引っ掛けて地上50cmの宙ぶらりん。いつも被っている海賊の帽子もこのときばかりは勇ましさも感じられなかった。

保険委員の声を察知してか、白くて大きな尻尾を揺らしながらやってきたのはイヌの少年・犬上ヒカル。
ついインクの香りに誘われて小説もいいけどエッセイも、と思いながら背表紙の文字だけで今日借りる本を選りすぐっていたところ、
この部屋に似つかわぬ声を耳にした。声の元は、『保健』に関する本棚の方。借りようかと思っている本を手に現場へ向かう。
今、危機に陥っている保健委員を助けなければと、ヒカルは暴れる一方である保健委員の脇を抱えて、そっと母なる大地に下ろしてやった。

「ふう……。助かったっス!ありがとう!ヒカルくん!」
「……図書室では、静かにね」
「分かったッス。で、あのー……ヒカルくんにお願いが」
遥か高く見える本棚の頂上、お目当ての本が取りたくて恐る恐る視線で指差す保健委員。
コスプレの眼帯もこのときばかりはちょっと格好が付かない。ヒカルは保険委員の目を一瞥すると何も言わずに、本棚上段に手をかけた。
「そう、その本っス」
小柄な保健委員が取りたくても取れなかった本を軽々と手にするヒカル。いや、保健委員が小さすぎる為だろう。
ヒカルはじっと注射器や聴診器の絵が描かれた本の表紙を見つめて、大きな尻尾を揺らした。

「そう!ボクの夢は立派な保健委員になることっスよ」
「……」
司書さんが待つカウンターへと、本と志を胸に抱きながら保健委員はヒカルと並んで静かにじゅうたんを踏み鳴らす。
図書室の窓が額縁のように校庭に立つ大きなイチョウを描き、梅雨の合間の光を受けていた。そして、そのおこぼれを頂く一人の子ネコ。

「クロも風に乗ってみたいニャ」
イチョウの枝に腰掛けて、衣替えしたばかりの制服の裾なびかせて、クロネコの佐村井玄子が水無月の風を感じていた。

―――図書館でお気に入りの一冊を借りると、ヒカルと保健委員は好きな本のことを話しながら下駄箱へ向かった。
犬上ヒカルという子は普段は物静かなのだが、本のこととなると話が止まらなくなるらしい。
初めて読んだ絵本、先生に薦められた童話、父から贈られた詩集。高校生になるまでに積み上げてきた小さな読書歴が、春を待ち望んだ花のように咲き誇る。
負けないッスよと保健委員も頷き返しながらアンリ・デュナンやナイチンゲールの偉人伝を思い出す。
幼いころ読み漁った本はいつか思い出と、記憶の糧になるとは誰が言ったのか。

496そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:26:00 ID:CXf7ZP6k0
話に夢中になっていたからか、二人はいつの間にかクロの登っている木の下にやってきていた。
「何してるッス!落っこちたらケガするッスよ!骨折して……」
「……」
保健委員は子ネコが木の登る姿に肝を冷やしているが、冷静に考えれば杞憂に過ぎない。何故ならクロはネコの子。
それを分かっているヒカルは、子ネコを通り越してグラウンドから響く声の方が気になっていた。
いつも聞きなれた中等部の生徒の声に混じって、聞き覚えのある若いお姉さんの声が届いたのだ。
「来てるのかな……」
「誰っスか?」
「杉本さん……」

―――そのころ、グラウンドで小さな巨人・イヌのサン・スーシ先生が『コンダラ』を引っ張ろうとして、空中で足を空回りさせていた。
もっとも『コンダラ』と言う呼び方は正しくないと理解している者は多いと思われるが、おそらく国内では『コンダラ』で通じるアレ。
その『コンダラ』の重量を制しきれず、握り棒を持ったまま宙ぶらりんなサン先生は、ひたすら足を永久機関の如く回し続ける。

「あははは!サンったら本気出せー」
サン先生だって、狙ってやっているわけではない。なのに、笑い声が聞こえてくるなんて、台本なしのコメディ映画が大ヒットするようなもの。
さて、その声の主とはバットを杖代わりにし、ケラケラと笑いながらサン先生の本気ぶりを眺める若い女のネコ。
Tシャツから覗く白い毛並みと、ショートの金色の髪が健康的。すらりと伸びたGパンの脚はお子ちゃま体型のサン先生と対照的。

いや、お子ちゃま体型と言うより「見た目は子ども!」を体現した立派な成獣男子なのだが、如何せん言動がお子ちゃま以上オトナ以下だ。
実際にサン・スーシ先生は、初等部の子たちと比べても大差がない。むしろ先生の誇りといっても差し支えはない。
それに『コンダラ』の握り棒は丁度、サン先生の顔あたりに当たるので『コンダラ』はサン先生を軽く持ち上げることができる。
「まったく、ミナは何しに来たんだよ」
「理由なんか後付で十分だよ」
彼女は学園外部の者。教師にしては自由すぎるし、生徒と考える道筋は、はなから間違え。だが、親しげにサン先生に話しかける。
第三者から見れば凸凹だけど、離れ離れになったピースがぴったりと合うようなネコとイヌは、放課後の佳望学園を賑やかす。

「あのー、サン先生。全然進んでいないんですけど」
「動いてる!動いてる!」
「ちっとも、そうは……」
サン先生、中等部の生徒たちにまで心配されているようじゃ、そろそろ誇りを守ることを考えたほうがよろしゅうございませんか?
ほら、御覧なさい。中等部のお気楽三人組タスク・アキラ・ナガレが手に野球用のグローブをはめて心配そうに見つめる姿が滑稽に映ったのか、
若い女のネコは使い込まれたスニーカーで駆けつけて、意地っ張りな仔犬をからかいにやって来たではないですか。
「ミナはまったくなにしに来たんだよ」
「面白いな、コレ」
「あの、杉本さん……」
「ミナでいいよ!アキラくん」
オトナのオンナノヒトと話が出来ただけで、アキラはちょっと舞い上がった。
オトナのオンナノヒトが笑っているのを見ただけで、タスクはちょっと尻尾が揺れた。
オトナのオンナノヒトのTシャツが捲れただけで、ナガレはちょっと瞬きが多くなった。
弟みたいなオトコノコたちに囲まれて、杉本ミナは少年のような無邪気さを垣間見せる。

497そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:26:29 ID:CXf7ZP6k0
「いい加減、諦めなよ」と、言い終わると同時に空を突き抜ける気持ちの良いサン先生の音。
頭を擦りながらサン先生は目の前で満面の笑みのミナを見上げていた。「コレでも教師だぞ」と抗議するも、ミナには届かず。
手をはたいて『コンダラ』を諦めたサン先生は、両脚揃えてとび跳ねる。
「あの。ボール持って来ました」
「でかしたっ。気の利く男子は女の子にモテモテだ」
バケツ一杯にソフトボールを詰め込んで、両手でふらふらと抱えるイヌの芹沢タスクは、反射的に頬を赤らめた。
グローブに拳を叩き込んで、気合だけはいっちょ前のアキラ。物静かにメガネを光らせるナガレ。そして、生徒以上に生徒なサン・スーシ。
透き通る空と、汗ばむ季節に誘われて。グラウンドに白球の虹を架けてみせると、杉本ミナは意気込んだのだ。

「さあ!みんなバックバック!!わたしの球をキャッチしたいなら、相当後ろに行かないと取れないぞー!」
男子4人組よりも活発で、空色のような声を上げてバケツから球を拾い上げ、軽く上に投げる。腰を落とし、脚に力を込める。
音が出るぐらいの勢いでバットを振ると、ポカチーンと音を立てて白球は大空に吸い込まれた。
タイミングを合わせたように風が吹く。ミナのTシャツの裾が揺れ、白い毛並みのへそが顔を出した。
おっと、健全かつ不健全な思春期の少年にはちょっとこのご褒美は早すぎる。いや、奴らはそれ頃じゃない。
愚直にまっしぐらに、そしてケモノの本能そのままに白球を追い駆けているのだから、そりゃ残念でした!

「タスクくん!走れー!!」
一度地面に落下した球は勢いをそぎ落とし、幾ばくか跳ねながらグラウンドの外へ向かって逃げ出す。
ワイシャツ乱しながらタスクは一心不乱に球を追い駆け、グローブでキャッチ。下手投げでホームのミナに送球するも、
地面を駆け抜けるネコに追われたネズミのように、球は素早く転がっていった。しかし、悔しそうなのはサン先生。
「あ、あれは……ミナが打つのがヘタクソだったんだよな」
「ヘタクソの癖にヘタクソ呼ばわりなんて、サンには千本ノックだよ!!ヘタクソ!」
白い歯を見せて、白い毛並みを揺らし、球を一つ拾い上げて、さあマシンガンの如くミナの千本ノックがサン先生に浴びせ……。
いや、意外にも球はゆっくりと垂直に飛んでいった。地上の一堂、天を仰ぎ各々両手を上げる。

革の響く音!清々しい爽快感!そして、一瞬の静寂!一人だけが浴びることを許された視線!

498そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:26:57 ID:CXf7ZP6k0
「あ……」
マヌケな声を上げたのはタスクだった。両手を挙げて一旦掴んだ球が転がり、頭にコツリ。
「わたし、ヘタクソだから簡単に取られちゃったね!」
「へたくそ!!」
「言ったね……、サン・スーシくん」
ミナの本気がみなぎる。動き出した機械仕掛けの時計のようにゆっくりとバットは地上から天を指し、ボールを持つ手も力が入る。
構えたポーズからはゆらゆらと陽炎のような空気のゆれ。そんなに暑い季節でもないのに、ミナの周りはとみに濃い影が出来ているようにも見えた。
ぱあっ!と天空に放たれたボールは一瞬のうちにミナの振り切るバットに吸い込まれ、この夏いちばん快い音。

取るか?
取れぬか?
取るか?
取れぬか?
取るか?

白い雲に吸い込まれそうなボールを追い駆け、両手を挙げるサン・スーシ。
丸いめがねに丸い球が映る。大きくなりつつある白球。地面のイヌに向かって、すっと……。

―――クロがヒカルの肩に飛び込んだ。
予期せぬ出来事にヒカルは目をちょっとだけ丸くした。初等部の児童とはいえ、いきなり背中にオンナノコが乗ってきたんだから。
「ヒカルくんのお陰で、空を飛べたニャ!!」
ほんのわずかだけど、鳥のように空を独り占めできたクロが珠のような歓喜の声をあげる。ヒカルはその声だけで、全てを許していいとも思った。
あまりにも一瞬の出来事だったので、保健委員も口を開く暇さえなかった事実。クロはヒカルの若々しい白い髪に顔を埋める。

「くんくんするニャ」
「……」
けっしてヒカルは声を荒げることは無い。小さく細いクロの脚がヒカルの両腕に掛かり、くすぐったいクロの手が首筋を擦る。
クロの黒曜石のような毛並みがヒカルの雪に埋まり、ただでさえ小さなクロが小さく見える。
「くんくん……ニャ」

夢は見えた?夢は叶った?

クロは「今度は大空を飛ぶニャよ!」と目をつぶってヒカルに抱きついた。
「おや?ヒカルくんじゃない。これまた背中にかわいい子をおんぶしちゃって」
「あ、あの……。杉本さん」
「ミナでいいよ!」
ヒカルはちょっと頬を緩めた。自分と同じような格好をしているミナとかち合ったのだから、当然と言えば当然だ。
ただ、ミナが背負っていたのは『かわいい子』ではなく、頭にたんこぶ作ったサン・スーシだった。
「たいしたことない!たいしたことない!!」と、大声を出して抵抗するサン・スーシだが、ミナに全てを掌握されて
だだをこねる子ども以上に金切り声をグラウンド一杯に溢れさせていた。後を追う中等部の三人組も見守るだけ。
とみにヒカルの背中が軽くなる。サン先生の声で目を覚ましたクロが、恥ずかしそうな顔をしてヒカルと保健委員の間にぴょんと割り込んだのだ。

499そよ風の憧れ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:27:22 ID:CXf7ZP6k0
「大変ッス!取り合えず患部を冷却するッスよ!!ヒカルくん、おんぶッス!」
「ええ?」
「ちょ、ちょっと!白先生は勘弁だぁぁ!!」
クロの代わりに今度はサン先生かぁ、とぼやく暇も無くヒカルは暴れるサン・スーシを背負い中等部三人組引き連れて保健委員と共に保健室へと急いだ。

「お姉さん……は、ニャ?」
「先生のお友だちよ」
スカートの裾を引っ張り、背を丸くするクロの目線にミナがしゃがむとミナのTシャツから白い毛並みの背中が見えた。

「もしかして、お姉さん……。わたしをお子さまって思ったニャね!だって、だって、ヒカルくんにおんぶされて!
わたしだって立派な『れでぃー』なんだから、おんぶなんかされても嬉しくないニャだもん!だって……だって」
「ふふふ」
「空を飛びたかったんだもんニャ」
クロのすねたような、恥らうような、爪先立ちの子どもの背伸び。
ミナはクロの目線まで腰を落とし、頭を撫でながらクロをなだめる。
「気持ちよかった?」
「うん」
「そうなんだ、わたしも飛んでみたいなあ」

―――
街が一休みする時間なのに、未だ外は明るい。佳望学園からの坂道を一台のバイクが風を切って下りてゆく。
ちょっと昔のデザインだけど、古さを感じぬミナの愛機。白いヘルメットから顔を出すミナの短い髪が涼しげになびいた。
エンジンの振動は心地よく、夏の香りをかぎ分けながら、目下に映る街を望む。空の雲は白い。
「コイツで空を飛べたらいいのになあ」

風は味方。
風はよき友。
ネコだって、ケモノだって、風さえ心許せば空を飛べる。愛機に乗っていると、そんな錯覚さえ事実だと思い込んでしまう。
「まったく、ミナは何しに来たんだよ!」
後ろからサン・スーシがポケバイに乗って追い駆ける。グランドにいたとき以上にやかましい声を聞きながら、杉本ミナはスロットルを噴かす。

「理由なんか後付けで十分だよ」


おしまい。

500わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/06/24(木) 23:29:29 ID:CXf7ZP6k0
投下はおしまい。
お気楽中等部とクロをお借りしましたが、なんだかクロが書いているうちに愛しくなってきた!

501名無しさん@避難中:2010/06/24(木) 23:59:39 ID:Vpb9d.qkO
>>500
乙。一日二話とはやるのう。
しかし……。ヒカル……クロ……ハァハァ

502名無しさん@避難中:2010/06/25(金) 01:40:18 ID:ZsdJ59ggO
なんでも無い日常をなんだか愛しいものに書き起こすわんこ氏の才能に嫉妬
素晴らしいぜチクショー

503名無しさん@避難中:2010/06/25(金) 21:21:28 ID:FiHKkiHgO
クロかわゆいのう
モフモフしてる2人を想像するだけでハァハァしてくるわ
ミナは相変わらず気持ちのいいお姉さんだ

504名無しさん@避難中:2010/06/28(月) 11:32:52 ID:pb1SdTK.0
>>498
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1190.jpg
>>499
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1191.jpg

505名無しさん@避難中:2010/06/28(月) 12:17:43 ID:.RnDL856O
>>504
まぁ………///

506名無しさん@避難中:2010/06/28(月) 19:49:44 ID:4.wBBNDoO
クロちっこいなあハァハァ

507名無しさん@避難中:2010/06/29(火) 06:14:21 ID:OsZOSERUO
クロ可愛いなもう
てかはせやんやクロがくんかくんかしたくなるヒカルきゅんのかほりを嗅いでみたいぜ

ミナさんあぶっ、あぶねっ

508名無しさん@避難中:2010/06/29(火) 19:12:48 ID:3/rzbajc0
見れません><。うわああ

509名無しさん@避難中:2010/06/29(火) 22:11:04 ID:ZEOiXft60
残念、見れない。

510名無しさん@避難中:2010/06/30(水) 15:20:13 ID:JKpUq3HYO
えー…何で絵削除したん…?(´・ω・`)

511名無しさん@避難中:2010/06/30(水) 21:25:38 ID:LqkRGij.0
うう…。いくらやっても「ヒカルきゅん」のもふもふが見れない。
何でだよ、くそー。ってか、何で見れたの?逆に。

512名無しさん@避難中:2010/06/30(水) 21:54:55 ID:yan5YKoQ0
>>511
アップされてた日は見れたけど、ろだ見たら削除されてたよ

513名無しさん@避難中:2010/07/03(土) 21:52:03 ID:AbwR9E020
すいません、一寸思うところが有って削除してありましたが、再度あげました。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1205.jpg
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1206.jpg

514 ◆/zsiCmwdl.:2010/07/04(日) 13:00:39 ID:0CE1gt2.0
修正点があったのでここで。
×頭一盃に疑問符を浮かべる私へ言いながら、盃にサイダーを注ぎ始めるゆみみ。

○頭一杯に疑問符を浮かべる私へ言いながら、盃にサイダーを注ぎ始めるゆみみ。

それと、美作 更紗の、『更紗』である部分を『更級』と間違えてました。今更それに気付くとはギギギギ
面倒ですが、Wik収録時は上記の間違えを修正して頂けるとありがたいですorz

515名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 12:26:54 ID:DlyCDjik0
絵師の人が来なくなったな・・・何かの用事で忙しいのかな?

516名無しさん@避難中:2010/07/16(金) 20:49:45 ID:xRZUgft.O
ちゃんと板に居るよ?絵師さんもSS職人さんも。
ケモスレは過疎だからちょい離れがちだけど。

517名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 20:09:27 ID:H43KZg7I0
以前、絵師さんが乗せて頂いた相関図の絵を使って、ケモ学SSガイドを作ってみました。
相関図を見て「登場キャラが多い」と感じられる方もいらっしゃるようで、主要キャラ中心に
初期作品をまとめました。よく出るキャラは多くはないので、初めてケモ学に触れる方の力になれば幸いです。

また、事後になってしまいますが、いつもの絵師さんの絵を使用させていただきました。すいません。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1246

518名無しさん@避難中:2010/07/17(土) 21:43:47 ID:HHWnD8fI0
これはまた面白いですね。判り易いし。
相関図用元画は、元々こんな感じに汎用的に誰でも使っていただけるようにと描きました
ので、ご自由にどしどしとお使い下さい。
 ちょっとコントラストが低いかな? 少し上げたものを再アップしたほうが良いかしら?

519名無しさん@避難中:2010/07/19(月) 15:11:01 ID:xfYwc8K20
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/868.html
の冒頭を勝手に絵コンテ切ってみた。

http://loda.jp/mitemite/?id=1251

520名無しさん@避難中:2010/07/31(土) 20:35:44 ID:3Pt/Oed6O
ちょっと質問、既出だったらごめん

祥子さんの苗字って「れいの」?
ウィキの紹介文が「ふだの」になってたけど

札野という苗字は「れいの」「ふだの」どっちも実在するっぽいんだが
名前のモトネタから「れいの」だよな……
俺の勘違いかもしれん?

521名無しさん@避難中:2010/08/01(日) 00:35:06 ID:wuCiE1GI0
あれはれいの、ですね……。名簿やら紹介やらはコピペしてwikiに乗せてしまったので、生みの親なのに気付かなかったです……。

522名無しさん@避難中:2010/08/01(日) 21:35:08 ID:sKUz/C6w0
書き込めない人へ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1277458036/

523名無しさん@避難中:2010/08/02(月) 07:09:20 ID:zkHQaH2s0
移転はいいけどさぁ…スレ落ちた…

524名無しさん@避難中:2010/08/02(月) 18:20:13 ID:XnRGpqps0
いつの間にか消えてる!!

525わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/08/03(火) 17:40:51 ID:fKdkN0eQ0
本スレがアレな状況だからこそ!投下する!

526きつねの子 ◆TC02kfS2Q2:2010/08/03(火) 17:41:30 ID:fKdkN0eQ0
最悪だ。
カレーうどんのつゆが、わたしの手にはねた。
母さんが弁当を作り忘れたから、たまに学食に行くとコレだ。ほっておとくと、取れなくなるからたちが悪い。
「風紀委員長であるわたしとしたことがー。あーん!!」
自慢の白く柔らかいウサギの毛並みが、カレーの香りとともに染み付いて午後の授業のための集中力を奪ってしまう。
とろみの付いたうどんのつゆは、なかなか冷めずわたしのメガネをいたずらに白くするだけ。カレーの風味もどこかへ消えてしまった。
今日は毎月楽しみにしている『コミック・モッフ』の発売日だから、きっと浮かれてしまっていたのだろう。

返却口に食器を返すとすぐさまに、学食側の洗面所へとはせ参じた。誰かが見ているような気がして、落ち着かない。
無駄だと思いつつ、洗面所で染まった箇所を洗うが、悲しくも事態は前と変わることはなかった。
ただ、手が冷たいだけ。ただ、濡れた毛並みが情けないほどわたしの体にへばりついているだけだった。

「あ……」
誰もいないと思っていた洗面所に、誰かが使っている気配がする。あれは同級生の小野悠里。
大きなキツネの尻尾を揺らし、銀色の艶かしい髪を片手で掻きあげ、そして胸元からははみ出さんばかりの豊かな胸。
鏡を前に歯ブラシを咥え、また熱心に歯を磨いている。ブラシの音が洗面所に微かに響き渡っていた。
歯磨きをしているというだけなのに、図り底得ない色気を感じ、よからぬ妄想図がわたしのメガネに焼きつく。
彼女は本当にわたしと同じ高等部の生徒なのか、と誰も得しない自問自答を繰り返しながら、自分のお情け程度の胸に手を当てる。
何もかも正反対なわたしは、小野の不思議な魅力に取り付かれたのか、何故か彼女をじっと見つめていた。
ハッカのような歯磨きチューブの香りが、わたしの瞳を半開きにさせる。

「小野さん?」
ハンカチで手を拭きながら、わたしの呼びかけに振り向いた小野は、ちょっと頷くと再び鏡の方を向く。
歯ブラシを口から出すとともに、磨いたばかりの白い泡がたらりと口からこぼれる。糸を引いた白い泡が彼女の口を汚す。
流しに垂れた泡の音をわたしは聞き逃すはずが無い。むしろ、その音に理由なき色気を感じたのだ。
手持ちの赤いコップで小野は口をゆすぐと、再び口からぷくぷくと白い泡を細い口元からこぼしていた。

「委員長だ。リオちゃん、珍しいね。ここで会うなんて」
「ちょ、ちょっとね。お弁当を忘れて学食で食べたんだけど……」
「いつもお弁当だもんね、委員長は。ンフフ」
そういえば、小野と面と向かって話すのは、これが初めてかもしれない。
小野悠里。キツネの高等部女子生徒。実家がお寺で弟が一人。わたしの持つ彼女に関するパーソナルデータはこのくらい。
そして、横から彼女を見ると、制服からでもやゆん、よゆんとたわわに実った胸が誇らしく見える。きっと柔らかい。
「わたしとちょっと、あそばない?」だなんて言葉が口癖でも不思議じゃない、学園の妖女。
仮に同じセリフで男子を誘惑しても、わたしなら「ぷっ」と一笑されるだけかもしれないが、彼女なら化かされたように
男子は彼女の後を付いてゆくのであろう。はいはい、男子なんかそういう生き物なんだよっ、バーカ。

「小野さんは、いつも……」
「あら、『小野さん』だなんて。『悠里』でいいわよ、リオちゃん」
使った後の歯ブラシを洗いながら、悠里はわたしより遥かに年上っぽい声で、わたしを同級生と認めてくれた。
コップとお揃いの歯ブラシケースは、お年頃の女の子のもの。水気を切ってポーチに収めると、悠里はわたしを教室へと誘った。

527きつねの子 ◆TC02kfS2Q2:2010/08/03(火) 17:41:58 ID:fKdkN0eQ0
悠里といっしょに歩くと、女のわたしでも男子の気持ちが分かる気がする。
一歩ごとに大きな尻尾は揺れて、わたしの純真な乙女心を落ち着かせない。見慣れている二次元の世界では、ここまでの色気は出せない。リアルの勝利か。
銀色の髪の毛は、ミステリアスな彼女の雰囲気とよく似合い、例えば悠里の為にお小遣いをすっからかんにされても後悔は無い。
「そうだわ。今日の放課後、わたしとご一緒出来ないかしら。りんごちゃんは吹奏楽部、翔子はバイトなんだって」
もちろん、わたしは無言で首を縦に振っていた。悠里のことに、俄然興味が湧いてきたのだ。
わたしと悠里との共通である友人は、わたしと同じウサギの星野りんごだ。
りんご曰く「年下でも年上でも、うぶな男子をからかうのが趣味」だとか。悠里とつるむことの多い翔子は、
そのことにやや苦心しているようだが、悠里の側に立って御覧なさい。理由はすぐに分かるから。

放課後、約束どおりに悠里とわたしは、帰り道を共にした。彼女がローファーを履く姿に見とれる。
足を靴に入れる仕草、屈むとふわりと顔を覆う前髪、スカートから覗く太腿、そして母なる大地を思い起こさせる胸がゆらり。
悠里の一つ一つの仕草が、どうしても色っぽくわたしの胸に訴えてくるのだ。足音さえ、大人を感じさせると思わないか。
とんとん!とつま先を床で叩くと同時に二つの豊かな胸が声を合わせるように揺れている。夏服のせいか著しく見える。

それを見ながら、わたしは自分の小さな胸を触ってみたが、何かが起こるということはなかった。
そうだ。出かけたことは無いけれど、デートに行くとしたら男子は、きっとこういう気持ちになるのだろう。
言葉で表すにはもったいないほどなのだけど、あえて言うなら「どぎまぎ」「はふはふ」「くらくら」そして「ふわふわ」。
まるで綿菓子の上を歩いているような感じ。雲ではなくて綿菓子だ。ここだけはどうしても譲ることは出来ない。
ちらりと横目で悠里を覗き見するわたしは、周りからはどう見てもおかしな子のようにしか映らないのだろう。
スタイルが良い悠里は、制服の着こなしが洒落ている。白いソックスが、キツネの細い脚によく似合う。
普段はどんな格好をしているのだろう。トップスも大人びたものも似合うんだろうし、スカートも短くても格好が付く。
流行のサンダルもちゃっかり履きこなして、世の『オトコノコ』たちを独り占めするんだろうな。
勝手に悠里を着せ替え人形にしてしまったわたしは、彼女の潤んだ目を見るのが少し恥ずかしくなった。
「お気に入りの店に行こうかと思ってね。誰かを誘おうと思ったんだけど、ごめんなさいね。リオも委員会がなくてよかったね」
「そうね、うん!うん……。わたしもさ、お……悠里と話したいなぁ!って思っててさ!ね!ね!」
悠里から誘われなければ、彼女の服装のことでやかましくお小言をしていたのかもしれない。
ただ、今は、悠里に興味津々。悠里の気になる店とは、一体どのような店なのか期待が高まるとともに、果たして自分が来店しても
一人で浮いてしまわないのだろうかと、少々心配になってきた。大人の世界にいてもおかしくない悠里のお気に入りの店だもの。
だってさ、銀座のおしゃれなカフェで「ガリ○リくん」をかじるようなものじゃないか。

この間は教室で落雁を食べていた。どうやらお取り寄せで手に入れた『鱚屋』の落雁。甘い物にはぬかりの無い
わたしたちの年代の子にしては、なかなか大人びた選択だ。上目遣いで甘えて来る洋菓子もいいが、三つ指付いて迎え出る和菓子もいい。
街の書店の脇を通り過ぎるが、悠里といっしょなので『コミック・モッフ』の表紙を直に見ることが出来ない。
今月の表紙『若頭』なのになぁ。むっはー!

「ここなのよ。ここ」
郊外へと伸びる私鉄の乗換駅前。わたしたちと同じ学生の姿も多い。悠里が指を差した店舗は、出来たばかりのものだった。
だが、すこしばかり「今日の」わたしには、ちょっと足止めしたくない店なのは致し方ない。
なぜなら、看板には『しの田のうどん』と書かれていたのだから。

528きつねの子 ◆TC02kfS2Q2:2010/08/03(火) 17:43:00 ID:fKdkN0eQ0
店内に入ると学生で一杯だった。
わたしたちの通う佳望学園のほか、隣町の学校、海岸沿いの女子高の生徒が多い。寄り道してまで食べてみたいということか。
壁際の席に座ったわたしたちは、さっそくオーダーを決めようとしたところ、悠里はすぐさまオーダーの伝票に書き込み始めた。
ここでは、お客が自らメニューが書かれた伝票に印をつけて、オーダーするシステムのようだ。
「きつねうどんねー。リオちゃんは?」
少し考える演技をする。お昼のトラウマを若干蘇らせながら、わたしはつゆがはねても少々平気である
悠里と同じきつねうどんにすることにした。それに、出来上がる時間も同じだから待つこと無い。なんて聡明なわたし。

「ここの油揚げは最高ね。豆腐はたんぱく質たっぷりだから、美容にもいいし」
「もしや!」
じっと、悠里の胸元を凝視するわたしはもうだめかもしれない。彼女が手を拭くたびに、二つの胸が揺れてどうも目を困らせる。
しかし、もっとわたしを困らせるものが目に入ってしまったのだ。毎日顔を会わせてる、ソイツの顔。
(う……。マオのやつ。朝のことは覚えてろよ、この愚弟が)

わたしと違う天秤町学園に通う中学生の弟のマオ。どうやら帰り道、友人たちといっしょにここに来ていたらしい。
いつも利用する私鉄の乗換駅だから、ここに来ていても不思議は無いが、せめてわたしがいない時間か日に来て欲しかった。
呑気にうどんをすすりながら、友人たちと談笑しているマオは、もしかしてわたしの悪口でも言っているのだろうか。
あちらが笑えば笑うほど、わたしは取り残されたような孤独感を抱いてやまないのだよ。

「お待たせさまでした」
二つどんぶりが並んでわたしたちのテーブルの上に並ぶ。熱々の湯気が夕飯前のわたしたちの食欲をかっさらい、
それに答えてわたしは油揚げが麺の上に浮かぶ姿に見とれる。すうっと息を飲み込むと、出汁の効いた風味が鼻腔をくすぐる。
揺れるつゆの香りと、油揚げの甘い香りが混ざる独特の風味なら、わたしの体の一部であるメガネを曇らせる価値が十二分にある。
つゆに浮かぶ葱はゆっくりと回転し、麺と葱の色合いが食欲を誘った。悠里は丁寧に割り箸を割ると、手を合わせていた。

「い、いただきます!」
割り箸で摘んだ麺は程よい硬さ。やや少なめにわたしは口にすると、わたしの口に麺の腰の強さが伝わる。
つるっと暖かい麺を一口ですすると、先からつゆがはねてわたしのメガネに張り付いた。
油揚げを口に咥えると、甘い汁があふれ出て口いっぱいに広がりつつも、熱さで少し舌が痛い。
半分に噛み切られた油揚げは、つゆに浮かんで丼の中でくるりと葱といっしょにまわっていた。

「やっぱり、ここの油揚げはいいでしょ?あら、そうだ。リオちゃん、お冷を汲んでくるね」
悠里は開いたコップを片手に席を外すと、尻尾を揺らしてお会計そばの冷水機へと向かっていった。
一人取り残されたわたしは、マオをじっと監視し続けた。ヘンな気持ちは無いけれど、アイツがヘンにさせるんだ。

529きつねの子 ◆TC02kfS2Q2:2010/08/03(火) 17:43:24 ID:fKdkN0eQ0
悠里が自分のコップで水を汲む。こんこんと糸のように冷水湧き出る機械の前で、彼女は大きな尻尾を揺らしていた。
ここで言うのもなんだが、悔しい。何だか悔しい。悠里の後姿は、色気の溢れる大人のシルエットだったのだ。
ローファーを鳴らして冷水機に向かう姿、一歩進むたびに尻尾がやゆん、よゆんと揺れて、ふわりとスカートもつられている。
お年頃の青少年だったら、かどわかされても「それじゃあ、仕方ないね」と呆れられるオチ。
オンナノコに甘い幻想を抱いて、本物の女の子を知って壊れることを恐れる世代の「オトコノコ」の考えることって!!そんな「オトコノコ」が、
妖しい色香を漂わせるわたしの同級生と冷水機の前でかち合った。ソイツは、毎日会っているウサギの少年だった。

「お先にどうぞ」
悠里はわたしの弟のマオに、順番を譲り一歩下がってマオを立てた。コップ片手にマオは、会釈をする。
とくとくと冷水機は白い糸を描きながら、のどを潤す水を湛えていた。その時間は短いようで、意外と長い。
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ、ボク。どうもね」
悠里はマオの後に続いて冷水機から水を注ぎ始めたのだが、わたしはふと星野りんごの言葉を思い出した。

「年下でも年上でも、うぶな男子をからかうのが趣味」

きっと、悠里はマオと目を合わせたと同時に、りんごの言葉を如実に現すスイッチを入れているだろう。
イヌ科独特の尻尾のゆれを御覧なさい。マオのような少年は、きっと尻尾を見ているだけで、よからぬ妄想を抱くのだ。
マオが喜んで読んでいる少年マンガ誌で連載されてた『ているずLOVE』でも、やたら尻尾の描写がリアルだったじゃないか。
マオはそういう「ぱんつはいてない!」的な作品は読み飛ばしていた(と思う。多分)。そういう文化を小バカにするヤツなんだ。
だけど、女のわたしが読んでも萌えたというのに、弟ぐらいの中学生が見たら……。おっと、ジャッジメント!!

「あっ」
わたしと悠里が同時に同じ言葉を呟く。
悠里は冷水機からの水を不注意で溢れさせ、手を濡らしてしまったのだ。いや、不注意では無いことは、わたしにだってわかる。
濡れた手で持っていたコップを側の机に置くと、ぶんぶんと手首を振って、真珠のような水滴を飛ばす。
ケモノの手は一度濡れると後始末が悪い。ハンカチを探そうと(している振りの)悠里を見てマオが彼女の甘露溢れる蜘蛛の巣へ。
「いけない。ハンカチがバッグに……」
「お姉さん、コレをお使いください!!!」
手持ちのコップをすぐさま置いて、自分のポケットからハンカチをすっと渡すマオは、ここだけ見れば非常に紳士的であり、
騎士道を重んじる勇者のようだ。しかし、経験値の足りない勇者は魔女のまやかしに玩ばされるんだ。

530きつねの子 ◆TC02kfS2Q2:2010/08/03(火) 17:43:49 ID:fKdkN0eQ0
「ありがとう。助かったわ」
「は、はい」
机の上には、冷たい水が湛えられたコップが並んでいる。
片方は悠里のもの。もう片方はマオのもの。ぱっと見、どちらが誰のものか分からない。
悠里のコップは、年上のお姉さんの甘い口元触れた、オトナの甘味。甘くて、イケなくて、そして甘くて……。
「えっと……。どちらでしたっけ?」
「……えっと…」
弟は悠里の甘い口元を気にしながら、自分のコップを思いだそうとしていた。
きんきんに冷えた水。年上のお姉さんの口元。そして、彼女の口元が触れたかもしれないコップ……。

「ふふふ……。どうぞ?」
弟はじっと並んだコップを見つめながら、悠里の口元を想像していたに違いない。バーカ。

「そうだ、こっちだったね。ごめんね」
わたしが見つめていたから間違いないが、確実に悠里は悠里のコップを拾い上げ、マオに微笑みかけた後わたしの席に戻ってきた。
マオは自分のコップだというのに、恐る恐る残ったコップを掴み明らかに動揺した足つきで友人の待つテーブルへと戻る。
せめて、悠里が今日の日のことを忘れるまで、あのウサギがわたしの愚弟だとバレませんように!

悠里とさよならをして、自宅に戻ると残念ながら弟は帰宅していなかった。
わたしの高貴な趣味をバカにして、リア充街道まっしぐらの因幡マオ。この間、楽しく汚れなき二次元少女を愛でていたら、
渋柿を十食べたような顔をされた。彼に一矢報いるために、わたしはあの光景を目に焼き付けてきたんだ。
清く正しい少年も、妖艶な女子にとってはおもちゃ同然なんですよって。わたしだって!わたしだって!
弟の帰宅が待ち遠しい。制服のまま、居間で待つわたしのおもちゃになっておくれ。リアルに「コレなんて○○?」だよ。
くんくんと開きたての文庫(ラノベですが)を匂う。結構気に入っているスカートを揺らす。ニーソックスの脚をバタつかせる。
白く雪のような毛並みがはためくスカートから見えるじゃない?そうよ、わたしってば、みんな大好き女子高生だよ。
オトナの色香漂う悠里と同じだよ。おまけに頭に『文学』ってつけていいんだから。希少価値!
弟の声が玄関からゆっくりと響く。おかえり!わたしのおとうとくん!
「ただいまー」


おしまい。

531わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/08/03(火) 17:44:28 ID:fKdkN0eQ0
悠里さんをお借りしました。こんこん。

投下おしまい。

532名無しさん@避難中:2010/08/03(火) 19:16:15 ID:shch4MEM0
うわよく見てんなあリオ。描写すげー
キツネ…もといキツネうどんが食べたくなったわ

困った状況だからこそ投下する姿勢はまさに創作者の鑑だ

533名無しさん@避難中:2010/08/03(火) 20:49:54 ID:T32PuGtgO
悠理お姉さんとコンコンしたい

534名無しさん@避難中:2010/08/03(火) 21:15:31 ID:Kwz1GkLIO
リオはもうなんか発情しすぎだろうww
チンコ生えてんじゃねーか?w

535名無しさん@避難中:2010/08/04(水) 00:42:52 ID:.AwHQb3g0
しっぽぽぽー
(尻が少し見えてますが、アウトですかね)
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1281.jpg

536名無しさん@避難中:2010/08/04(水) 00:46:37 ID:vUinpDfY0
>>535
ちょwwww
ぎりぎり具合がいい!

537名無しさん@避難中:2010/08/04(水) 04:56:51 ID:DIdei0KsO
っくあぁ!読みてええぇ!!

538名無しさん@避難中:2010/08/04(水) 13:33:45 ID:f6o40vEg0
チラ裏のやつですかいw

539名無しさん@避難中:2010/08/04(水) 23:42:26 ID:4PxxBy2I0
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1282.jpg

540名無しさん@避難中:2010/08/05(木) 07:16:20 ID:l9atDP.o0
これは…    ゴクリ。
後姿でも随分とせくしー!

541名無しさん@避難中:2010/08/05(木) 23:02:22 ID:os7Hk/.UO
うわあああ尻尾もふもふしたい

542名無しさん@避難中:2010/08/06(金) 18:45:57 ID:Qta.GqPw0
板が復活したから本スレ立て直してきた

獣人総合スレ 10もふもふ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281087600/

543名無しさん@避難中:2010/08/06(金) 19:30:55 ID:Fi7x8nGM0
>>542
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1283.jpg
またこのタイミングで巻き添え規制、なのでこっちからで失礼。

544名無しさん@避難中:2010/08/06(金) 19:34:30 ID:Qta.GqPw0
ツンデレかわいいよツンデレ

545名無しさん@避難中:2010/08/06(金) 23:34:11 ID:Fi7x8nGM0
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1284.jpg

546名無しさん@避難中:2010/08/06(金) 23:36:39 ID:Qta.GqPw0
鎌田www

547名無しさん@避難中:2010/08/06(金) 23:44:48 ID:aGA56nqYO
これはwww
小学生と勘違いされてた先生じゃないかw

548名無しさん@避難中:2010/08/07(土) 00:46:16 ID:RtVDjFWMO
サン先生はヤンチャやのうw

549名無しさん@避難中:2010/08/07(土) 20:39:24 ID:Z6V69uyE0
変身?つーことは変身前の姿もあるとか!?


ないないw

550名無しさん@避難中:2010/08/07(土) 21:14:19 ID:Us2Os4KMO
>>549
鎌田は最近、能力者だらけの別スレに飛ばされて大変な目にあってたりする。

551名無しさん@避難中:2010/08/09(月) 17:04:37 ID:TpYK1FJcO
本スレ11
この二人の関係いいなあ。いい友達だ。
優しすぎるはせやんの教え子になりたい。

552わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/08/15(日) 00:30:19 ID:dX3QTLsM0
この日に投下したいので。

553夏の海から ◆TC02kfS2Q2:2010/08/15(日) 00:30:58 ID:dX3QTLsM0
港に城が現れた。鉄(くろがね)で組み立てられ、街のどの建物と比べても大きく見える。
人々は仕事の手を休め、安らぎを忘れ、じっとその城を見ていた。
「帰って来たぞ!」
「おかえり!」
「いつ振りかねえ。『双葉』が帰って来たのは」
街の人々と、港の城は顔見知り。この街で生まれ、この国で育まれ、この大洋を駆け巡る、八嶋の国の自慢の戦艦『双葉』。
海軍工廠の建物と並び、波は白い泡を立てて洗い、船は長旅の疲れを癒しているかのように人々の目に映った。

「おかあさん!軍艦が帰って来たよ!」
「そうね。それじゃ、和豊さんも帰って来たのかね。この間絵はがきが届いてたしね」
丘の上に立つ小さな家屋。屋根に上ったネコの少年は、土間で回覧板を隅々まで読んでいた母親に「軍艦、軍艦」と叫ぶ。
屋根の下の畳の部屋では、少年の姉が小さな手帳に短くなった鉛筆で、せっせと書き込んでいた。
久しぶりにご馳走が食べられると、少年は目を輝かしながら屋根の上でピョンと飛び跳ねる。
青い空に少年の毛並みの白さが、雲と重なっていた。眩しい夏の光を全身に受けて。

「この間さ、笠置のねーちゃんが港の近くを飛んでて、憲兵さんに怒られたんだって」
「久しぶりのお天気だから、翼が黙ってなかったんだろうね。ハヤブサって子は」
「でも、笠置のねーちゃんが軍の機密を……」
と、言いかけた途端に母親の視線を感じ、ヘビに睨まれたカエルのように固まる。
ずり落ちそうな足を踏ん張りながら、なんとか話題を変えようと。

「この間のご飯はお腹いっぱいだった!」
「まずかったよね」
縁側に顔を出した姉が耳をたたんで目を細めた。
手にしている手帳にはぎっしりと文字が並んでいた。
「何言ってるんだよ。あれは『楠公飯』ってね、少ないお米であんたたちをお腹いっぱいにする不思議なご飯なんだよ」
「お母さん。あれ、手間は掛かるけど……あんまりね、味は」
強火で玄米を倍の水でそのまま炊き上げ、一晩寝かす。そしてさらに炊くと乏しい食事事情の時代でも、満腹になる『楠公飯』の出来上がり。
だが、味の保障はない。毎日は到底食べられない、とスズ子は大地の有り難味に愚痴る。
でも、人々は船の帰りや大海原に安らぎが訪れることを祈り続けていたことは、変わらないのであった。
「スズちゃん!読み物書いている暇があったら、回覧板を早くお隣に回してちょうだい。小説なんてね!あんた……」
「はーい。でもさあ……いずれね、この国は読み物でいっぱいになる時代が来るよ。きっと」
ゆらゆらと母親の尻尾が、五つの大洋を駆け抜ける艦隊の旗のように揺れていた。

―――その日の夕方、父母、姉弟は揃って夕方の涼しい風に当っていた。
縁側から居間に風が吹きぬける。虫が誤って入ってきた。姉弟揃って虫を追い駆けて天井を見上げるが、そこには板はない。
爆撃弾が引っ掛かるのを防ぐ為だ。この間、傷めた腰を庇いながら父親が取り払ったのだ。
時間が経つのを感じながら、誰かの帰りを待ち続け、夜空と星に浮かんだ『双葉』の影を遠くに望む。

554夏の海から ◆TC02kfS2Q2:2010/08/15(日) 00:31:22 ID:dX3QTLsM0
「泊瀬谷一等兵、帰宅しました」
子供たちが若々しい声を聞くなり、玄関に駆け出す。彼らが飛んでいった先には、海軍の軍服姿の若人が姿勢を正して玄関で敬礼をしていた。
その脇で父の姉が彼の側に申し訳なさそうに立って、同じように小さく敬礼。
「和豊、お帰り」
「お兄ちゃん!ねえ、アレやってよ!アレ!」
少年は和豊の尻尾に飛び掛るや否や姉に自分の尻尾をつかまれる。
「春男、和豊さんは入湯上陸で帰って来たんだから、ゆっくりさせてあげなさい」
「お姉ちゃんも見たいくせに!バーカ!」
べーっ、と舌を出して姉のスズ子は弟をあしらうが、和豊には微笑ましく映った。
潮風に洗われた和豊の毛並みは、不思議と垢抜けて見えた。

その日の夕飯はいつもと比べて格別に豪華だった。居間を包む香りがいつもとは違う。
真っ白いご飯に、野菜を煮たもの。どれも、彩が豊か。子供たちも争っておかずに群がるが、母親から尻尾をつかまれる。
和豊にとってはご馳走続きの一日だ。なぜなら、昼は昼でカフェにおいて『入港ぜんざい』を口にしたからだ。
しかし、このことは子どもたちに知られるとうるさいので、泊瀬谷家では「機密事項」である。
「和豊、軍艦はどうだ」
「仲間も上官も、みな良い人ばかりです」
久しぶりに実家に戻った和豊は兄の横顔を伺う。もう、どのくらい会っていないんだろうか。
地面が揺れていないなんて、和豊にとっては海軍学校を卒業して以来のことだった。
一方、兄は国民学校の教師だ。腰を痛めているので、地上で黙々と働くことが彼にとっては誇り。
この瑞穂の国を背負うお子たちを育て、教鞭を振り、繁栄させるのだと、兄は口にはしないが目で語っていた。

夕飯も終えて、それぞれがゆっくりとした時間を過ごしていると、家の外を出ると一つも物音さえしない夏の夜が広がっていた。
折角だからと家に帰って来た和豊と兄は、配給で少しばかり手に入れた酒を酌み交わしていた。
「ネコに入湯上陸だなんて、上官も洒落たことを賜りますね」
「海軍は昔から洒落ているのだ」
水の貴重な軍艦では風呂に入るために、上陸を許可する。それを『入湯上陸』と呼ぶ。
部屋の奥から「お風呂が沸きましたよ」と、声が飛んでくる。和豊はこの言葉でさえ懐かしい。
そのころ、和豊の姉が和室に蚊帳を広げていた。
スズ子は相変わらず手帳に文字を書き続け、春男は和豊の尻尾に絡み付いていた。
天に白鳥が羽ばたき、星の一粒一粒が眩い。誰もが星空が恒久に変わらぬことを願いつつ、『双葉』に一筋の願いを託していた。

「まあ、お前は海軍で散々使われるんだな」
「兄さん、ひどいですよ。ぼくが三毛猫だからって」
「お誂えだよ。『オスの三毛猫が船に乗ると沈まない』って昔から言うからさ」
兄に酒をゆっくりと酌みながら、和豊は頬を赤らめた。
「じきにお前はすぐに出世するよ」
「ご冗談を」
「教師は昔から洒落ているのだ」

また、ご馳走を食べたいなと願いつつ、子供たちは蚊帳の中に潜っていった。
和豊は自慢の三色の毛並みを夏の風に揺らして、風呂場に向かう。


おしまい。

555わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/08/15(日) 00:33:14 ID:dX3QTLsM0
投下終了。ですよ。

556名無しさん@避難中:2010/08/15(日) 20:52:59 ID:hoNycA2IO
ケモノ達も戦争とかするのかー
平和になると良いのう

557名無しさん@避難中:2010/08/23(月) 00:01:25 ID:34.QbA5sO
藪田ネタで極悪非道の超ド外道が出る話を妄想してたけどあまりにケモスレと毛色が違うんで封印したというのを思い出した。

558名無しさん@避難中:2010/08/23(月) 21:25:04 ID:ZBGCHK96O
おお清志郎君だ
なんかかわいい顔してんなー
この世界の陸上競技って一体どんなレベルなんだろうな

559名無しさん@避難中:2010/08/29(日) 10:42:45 ID:fq3ezfG.0
ぬーん、いろいろ代理投下したけどチラ裏で済ませたほうがいいのか本スレに落としたほうがいいのか迷うものがちらほら……。
投下する際にはチラ裏か代理希望か明記してくれたらいいかなぁ、と思います。

560名無しさん@避難中:2010/08/29(日) 12:35:31 ID:aPIBOmKc0
本スレに投下するには何だか忍びないし(ネタが)、人もあまり居ないなあと
思ってしまい、ついチラ裏に。避難所に投下した絵は本スレに貼っても
大丈夫です。必要であればチラ裏の文章も。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1278173977/109

561名無しさん@避難中:2010/08/30(月) 21:23:26 ID:U1p.V7jMO
英先生素敵やー
夏は本当に大変そうだよね

562名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:25:48 ID:KoVNe6eQ0
 ―― 昼休み、部屋中に響くサン先生の大きな声。
「……でさあ、ボクが『明日、臨時の健康診断があるよ』って言った時のいのりんの顔ったら!」

 エアコンの良く効いた室内で、昼食を済ませた教師たちが話に花を咲かせる、
そんないつもの職員室である。そこにはいつもの、リラックスした空気が流れていた。
外では相変わらず蝉の声が響き渡り、まだまだ夏が続いている事を感じさせる。
サン先生の天敵女性教師2人は何かの用で席を外しており、しばらくの間は
サン先生のターンが続きそうな気配であった。

「他にも何人か危なさそうなヒトもいるんじゃないの?」


「おや、私の事ですか?」

そんな空気の流れる職員室での会話に口を、いや長いヒゲを挟んできたのは、
地学(地質学・プレートテクトニクス専門)担当の要石震次郎(かなめいししんじろう)先生である。

「私ももうすぐ五十ですからねえ、健康に気を遣わないとなあ」
「あれ?要石先生がこっちに来るなんて珍しいじゃないですか」
「この暑さじゃフィールドワークも大変でしてねえ、さすがに少し涼みに来ようかな、と」
「先生もいい年なんですから、あまり無理なさらない方が」


 この要石先生、自分が受け持ちの授業は生徒を引っ張りまわしてのフィールドワークが多い。
そのため佳望学園高等部の生徒たちは、学園周辺の地質について必要以上に詳しくなっていた。
その性格は顔相応に温厚。しかし怒らせると非常に怖いらしい。
 はるか昔、彼が学生だった頃。
何かのいざこざで彼が体育館の裏に呼び出されたことがあったそうなのだが、
怒った彼の尾が地面を一打ち。その途端、周辺の部室小屋が半分以上倒壊したという
伝説が残っているとか。他にも「佳望学園の現校舎(築27年)が現在の形になったのには、
若き日の彼が一枚噛んでいた」という噂も……

そんな闖入者に、帆崎先生が声を掛けた。


「ええ、今じゃ昔のように地中に潜って活断層の探索、なんて芸当はとても」
「最近の暑さで英先生も気が立ってますから、自重してくださいよ?」

話が若干危険な方向に向きかかる。
そんな危険な気配を感じてか、単なるネコの気まぐれか。

563名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:27:23 ID:KoVNe6eQ0
「そういえば、要石先生は水泳部の顧問じゃないんですね」

泊瀬谷先生が話題を逸らした。その視線の先には、窓を通して見える校庭のプール。
そしてそこで水しぶきを上げている、がっちりむっちりした体格の影がひとつ。

「いやあ、引き受けたいのは山々なんですが、どうにもプールの塩素がキツくてねえ」

唐突な話題の転換に、要石先生が応えた。

「体表を保護しようとして粘液が出ちゃうから『プールに入るな』って、生徒から不評なんですよ」


 要石先生の体表は普段から微妙な光沢を放っており、触ると妙にしっとりとした感触である。
生魚のようなぬらぬらした感触では無いし、低い体温もあって鬱陶しい感じはしないのだが、
いかんせん全体に湿り気を帯びている。満員電車で隣に来て欲しい相手ではないだろう。
 それにプールに入ると消毒用の塩素の刺激で粘液が過剰に出てしまうのは避けられない。
魚人や両生人の生徒がプールで泳ぐ際には全身を覆う水泳ウェアを着用する事も多いのだが、
当然の事ながら動きにくい。それを嫌ってプールに入らないことを要石先生は選択したのだった。


「そうなんですか…」
「水泳部は水島先生が引っ張ってらっしゃるし、私には漕艇部がありますから」
「そうてい…部?」

“そうていぶ”の意味が分からず、首を傾げる泊瀬谷先生。


「あー、そういえばそんなのあったよね!競艇部!」
「部活動でギャンブルやったらマズいでしょう」

混ぜっ返すサン先生に、すかさず帆崎先生がツッコミを入れたが、

「でもザッキーさ、この間塚本くんと競走馬の名前で盛り上がって」
「あ、あれは!古文の単語を塚本に分かりやすく教えるのにですね!」

サン先生の返り討ちに遭った帆崎先生。そしてそのまま2人は普段の会話に戻っていった。


一方、要石先生はそれを気にするでもなく話し続け、

「皆、川の水で毛皮を濡らすのが嫌みたいでねえ。魚人と両生人ばかりの弱小チームですよ」
「はあ…」

泊瀬谷先生は今ひとつ事情を飲み込めていないようだった。

564名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:28:43 ID:KoVNe6eQ0
 そこへ掛けられた声ひとつ。

「し、失礼します…要石先生は、こちらに…」

職員室の入り口に高等部の制服を着た生徒が一人、立っていた。


「お、噂をすれば。平庭くん、こっちこっち」

と要石先生が手招き(ヒレ招き?)する。

「はい……」


やってきたのは、気弱そうな声に似合わず凶悪な顔をした小柄な魚人。
喉元は赤く染まり、緑色をした短めの髪はラメでも散らしたようにキラキラと光っている。
そんな彼がおどおどと、辺りを見渡しながら近付いてきた。

「この子が漕艇部の1年生エースでね、平庭輝男(ひらにわてるお)くん」
「ひ、平庭です…」

声の調子といい、その振る舞いといい、明らかに彼は怯えているようだった。
傍目にはどう見ても運動部のエース、という感じではない。


「で、何か用?」
「あ、新しいオールがぶ部室に届いたので…ほ報告してこいと先輩から言われましてその」
「ああオール届いたか。報告ありがとうって、皆に伝えといて」
「はいっ、し失礼しますっ」

周りの教員たちにもぺこぺこ礼をしながら、平庭くんは去っていった。
平庭くんの様子を見ていた泊瀬谷先生が心配そうに尋ねる。

「あの子、他の生徒からいじめを受けていたり、してないですよね…?」
「なに大丈夫ですよ。あの子は人見知りする子でしてねえ、部活の時は元気一杯なんですが」

要石先生は笑いながら言った。
それでも泊瀬谷先生、心配そうに

「大丈夫なのかなぁ……」

とつぶやくのだった。

565名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:29:58 ID:KoVNe6eQ0
 その日の放課後、学校の下を流れる佳望川の築堤の上に泊瀬谷先生の姿があった。
河川敷では漕艇部員たちと思しき生徒たちが20人ほど、準備運動をしている。
彼らを眺めていた麦わら帽子姿の要石先生が、歩いてくる泊瀬谷先生に気付いて声を掛けた。

「おや泊瀬谷先生、見学ですか」
「ええ、少しだけ」
「まあ大した事もやっていませんが、そちらの木陰へどうぞ」

蝉の音が響く中で要石先生が示したのは、川岸に生えた柳の群落の下である。
そこには“佳望学園漕艇部”と書かれた大きなクーラーボックスが幾つか置かれていた。
照りつける日差しを受け止めて優しい影を落とす木陰に、思わずほっと一息。

「そのボックスに入ってる水、勝手に飲んじゃって構いませんので」
「すいません、いただきます」

クーラーボックスの中から水の入った広口のペットボトルを取り出す泊瀬谷先生。
ひんやりと肉球に気持ち良い感触。少し口をつけてみる。普通の、けれどもおいしい水だった。
ふと思う。魚人や両生人の運動部員だと、こんなに水が必要になるんだ……


 準備運動を終えた部員たちが築堤を越えて細長いボートやオールなどを運び始めると、
要石先生は部長らしい蛙人の生徒と話をしながら柳の下へやってくる。
泊瀬谷先生の方をちらりと見た後、要石先生はクーラーボックスから水を一本取り出した。
そして、「残りは持って行っちゃって良いよ」と蛙くんに声を掛け、麦わら帽を脱いで腰を下ろす。
蛙くんは泊瀬谷先生に会釈してボックスを持って行き、中身を部員に配り始めた。
自転車で上流へ向かう部員、水分を補給する部員、その間を蛙部長が歩き回っている。
どうやら、しばらくの間は部長の彼に任せても大丈夫らしい。

「特等席、ですね」
「眺めが良いでしょう?夏場は暑いので、この木陰には助けられています」

そう言うと、要石先生はペットボトルの水を一気に飲み干した。
川面を撫でる風が木陰を吹き抜ける。泊瀬谷先生は思わずつぶやいていた。

「風が気持ち良い…」

要石先生は少し微笑み、部員たちの動きを眺めている。しばしの沈黙が流れた。

566名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:31:51 ID:KoVNe6eQ0
「……この川は昔、河川改良工事で大きく流れを変えられたんですよ」
「はあ」
「三面コンクリート張りのそれは、まるで巨大な排水溝のようでした」

まるで独り言のように、要石先生は話し始めた。

「ところが後になって、自然の回復という号令の下、川を固めていたコンクリートが除かれた」
「はい」
「洪水防止のため築堤は残りましたが、ひとが手を入れるのは最小限に止められたんです」
「そんな話を聞いたことはあります…」

確か、今から半世紀ほど前の話だと学生の頃に聞いたような……

「それから時間は経ちましたが、まだまだ先は長いし、それでも完全に元に戻る事は無いでしょう」
「どうして…ですか?」
「ひとの生活がありますからね、どこかで折り合いを付けなければいけません」
「いちど失ってしまったものは、取り戻す事ができないんですね……」

泊瀬谷先生が少し悲しそうにつぶやく。また風が吹いた。柳の葉が音を立てる。


「それでもね、泊瀬谷先生。まだまだ先は長いんですよ」
「え…どういう事ですか?」
「自然が止まる事はありません。あと何万年かしたら、ここは地層の中ですよ」
「はあ…」
「私たちは“未来の地層”の数ミリメートル、その中に立っているんです」
「未来の地層……」
「その頃には私たちの学校はどうなっているんでしょうね?何の痕跡も残っていないのか、
 それとも過去の遺跡として発掘されているか、あるいは数万年後も立派に残っているのか」
「…それを目にするのは、どんなひと達なんでしょうね」
「もちろん“人知れず埋れたまま”という事もありえますよ?」
「あら怖い」
「一つだけ確かな事は、私たちの力なんて自分で思っているよりもちっぽけなものだ、って事です」
「…はい」
「川は時間を大地に刻んでいくんです。私たちが何かしたところで、全てを消し去れる訳じゃありません」
「すごくスケールの大きいお話ですね……」
「ははは、百武先生の活動領域に比べれば可愛いもんですよ」

少し強く風が吹き抜ける。


 エアコンの効いた室内とは違う涼しさに、泊瀬谷先生は要石先生の今の気持ちが
少しだけ分かったような気がした。塩素で清潔に保たれた私たちのプールよりも
太古の昔から母なる大地を流れ続けているこの川を、要石先生が愛している理由が。

567名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:33:47 ID:KoVNe6eQ0
「先生ー!こっちも構ってくださいよー!」

水上の4人乗り艇から声が掛かる。
教師2人が話していたのはせいぜい20分、そろそろ要石先生の出番らしい。

「心配するな宗田!今日は鰹節が大好物な先生も来ているから、気合入れていけよ!」

と要石先生が返すと、艇上の彼は急に落ち着かない様子になった。


 要石先生は麦わら帽子をかぶりなおし、トランシーバーを手にして川岸の方へ歩いて行く。
泊瀬谷先生はこのまま木陰に居ても良かったのかもしれないが、後についていく事にした。
水のペットボトルが汗をかき始めていたので、ハンカチ越しに持ちなおす。肉球が冷たい。


その後数分の内に2艇が上流に向けてスタートを切り、残るは平庭くんの艇のみだ。

「彼は基本的に、個人種目のシングルスカルと2人で漕ぐダブルスカルをやっています」

泊瀬谷先生に説明する要石先生。川岸を吹く風を受け、その長いヒゲは楽しそうに揺れている。

 やや下流の方を見れば、細長い2人乗りのボートに乗るライフジャケット姿の平庭くん。
彼は相方と息を合わせて、相変わらず神経質そうな動きでゆっくりと艇を漕いでいた。
川縁のところどころで、白いススキが訪れつつある秋の気配を感じさせている。
泊瀬谷先生には風に揺られるそれが、彼女が良く知る生徒の尻尾のようにも見えるのだった。

どうやら準備は整ったらしく、要石先生が川岸から声を掛ける。

「平庭ー!分かってると思うが、池田の体力も考えろよ!」

艇上の2人がそれに答えるように、オールをこちらに向けて振った。
平庭くんの髪が風に揺れ、キラキラと緑色に光った。

568名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:34:59 ID:KoVNe6eQ0
 艇上の相方が平庭くんに合図する。

「それじゃいくぞ、オー…エス!」

オールが水面を叩き、辺りに水音が響いた瞬間。平庭くんの表情は変わった。
全身で闘志をむき出しに。力強く、なおかつ凄まじい勢いでオールを漕いでいる。
喉元の赤い色も心なしか濃くなっており、さながら返り血を浴びたよう。


「オラオラ池田ァ、スタートが遅いぞォ!もっと速く漕げェ!」
「ハァ…ハァ…分かってるよ…分かってるけど……」

池田と呼ばれた鯉の彼もかなりのピッチで漕いでいるのだが、明らかに平庭くんに
ピッチを合わせるのに精一杯という様子だった。

「オラオラもっとアゲていくぞぉォ!」
「ひいぃぃ……」


 未来の地層の中に立つ2人の教師の前を、猛スピードで艇が通り過ぎていく。
トランシーバーでゴール地点との連絡を取っていた要石先生は、通信を終えると

「あの通り実力はあるんですが、ペアの相手と息を合わせるのが大変でしてねえ」

苦笑しながらヒゲを撫で、少し悩むように言った。

「やっぱりシングルに絞った方が良いかなぁ…?」
「そ、そうなんですか……」


平庭くんの性格の変わりように、泊瀬谷先生はただ呆然とするばかり。
思わず手に持ったペットボトルがずり落ちそうになって、慌てて持ち直した。

川面を通り過ぎた風は、少しだけ秋の気配を含んで涼しかった。




とりあえずおしまい

569名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 05:36:07 ID:KoVNe6eQ0
いちおう脊椎動物だけどケモノとは呼ばないしでも外骨格のヒトも市民権得てるみたいだし
自分では納得できてもお借りしたキャラがキャラ崩壊してたら迷惑かかるし……
などと、本家に投下すべきか迷ったので、とりあえずこっちに。

もしお借りしたキャラクターで描写のおかしい所などありましたら、平にご容赦を……
あと一応キャラ紹介。


平庭くんはピラニア。
いつもは臆病だけど、血の匂いとか水面を叩く音に反応して性格が変わります。
要石先生はナマズ。
普段は岩の隙間でボーっとしてるんだけど、実は顔に似合わず結構凶悪だったり。

以上、お目汚し失礼しました

570名無しさん@避難中:2010/09/10(金) 23:58:32 ID:/i.BHO1k0
新規さんかな?面白かったよー、おつ!

571名無しさん@避難中:2010/09/11(土) 03:59:23 ID:JqZTtiJ6O
要石先生素敵じゃないか
こういうお爺ちゃん好きだぜ

572名無しさん@避難中:2010/09/11(土) 18:26:43 ID:oEnbLKDUO
素敵なお話だ。
要石先生、いいなあ。
水分が欠かせないとか、細かい設定が上手いなあ。

573名無しさん@避難中:2010/09/12(日) 22:25:58 ID:EvKXo3pU0
>>569
http://loda.jp/mitemite/?id=1378.jpg
骨格を無視するのでなかなか難しいですね。

574名無しさん@避難中:2010/09/12(日) 22:48:01 ID:vtzeyzeQO
>>573
うおおすげえイラスト化したよ!
なるほどよいおじいちゃんだ

575573:2010/09/12(日) 23:01:00 ID:EvKXo3pU0
読み返したら私の文章は何やら否定的に読めます、申し訳ないです。

今日の夕刻にNHKでレガッタの放送が有ったのですが、この動きをするには人間の骨格そ
の物じゃなくっちゃだめだなーと悩みつつ描いてみましたところ、わたしの技術ではここ
まででした。 生物は陸上に上がったときに変わってしまったんですね。

地学担当だと百武そら先生と同じかな。おじいちゃん先生って、良いですよね。

576名無しさん@避難中:2010/09/13(月) 00:02:28 ID:RD1ATwK.0
要石せんせーーーー!おれだーーーー!カッコイイです。

577名無しさん@避難中:2010/09/13(月) 21:37:00 ID:yTFQUnPI0
>>573
SSよりも要石先生の雰囲気が出ていて、イメージが広がりました。
老先生の枯れた感じというか、人生の先輩みたいな雰囲気には憧れますよね。
我が駄文がこんなに素晴らしい絵になるなんて夢のような……
本当にありがとうございます!

百武先生は天文が専門分野みたいですし、ナマズの先生ならやっぱり断層とか
プレートとか詳しそうなので一つの教科に分野別の先生がいても良いかな、と。

魚人の骨格とかについては、歩行のための骨格構造だのヒレの強度だの考え始めたら
いつしか思考の迷宮に迷い込んでしまったので、結局は人間の骨格をベースにするのが
手っ取り早いという前提で書いてます。イルカとかクジラ系の獣人はどうなるんだろう?

578名無しさん@避難中:2010/09/13(月) 23:03:14 ID:RD1ATwK.0
要石先生と百武先生がいれば怖いものなし!
ああ、蛙部長とリオとの部費を巡ってのバトルもいいな……

579名無しさん@避難中:2010/09/14(火) 21:31:30 ID:WT5/bqls0
http://loda.jp/mitemite/?id=1387.jpg

より、佐々山先輩。
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/579.html
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/576.html

580名無しさん@避難中:2010/09/14(火) 22:07:31 ID:WT5/bqls0
あ、コピペミスで日本語がヘンになってたorz

581名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:43:19 ID:9NIv.WY20
 「……という訳で、認められた部費を考えると、アレの購入に回せる費用はこれだけだ」
「これって……今回も?」
「ああ、残念だが各人の自発的協力を願わざるを得ないだろうな。皆、すまん」

 佳望学園漕艇部の部室内には重苦しい空気が立ち込めていた。
普段は練習メニューなどが大書されているホワイトボードには、数字の列が並んでいる。
その前に部長の雨宮 跳(あめみや ちょう)が立ち、顔を青くしていた。
……まあ元から青緑色なんだが。

このような重苦しいミーティングが開かれているのには理由がある。
彼らにとっては非常に重要な戦略物資の供給に、大きな問題が生じていたのだ。


―― 龍川大学(りゅうせんだいがく)生協限定、ドラゴンマークの高濃度酸素水。
同大学研究室謹製のそれは溶存酸素量が多く、主に魚人族や両生人族の間では
パフォーマンス向上効果が高いとされ、運動部所属の彼らにとって垂涎の的となっている。
それに容器のペットボトルも広口で、飲みやすい形状なのが嬉しい。

その一方で、魚人や両生人も肺呼吸である以上、その期待される効果に科学的根拠が乏しいという
意見も存在し、水の加工品である事から法令上のカテゴリは炭酸水と同じように「清涼飲料水」。
「ミネラルウォーター」に比べてなんとなく軽薄な印象を受ける言葉の響きではある。

しかも価格が価格であり、唯一の入手場所である龍川大学へのアクセスも良いとは言えない。
佳望学園の最寄り駅から電車を乗り継いだ場合、片道45分。自動車なら倍近く。
しかし幸いにして「美味しいもののためなら協力は惜しまないよ」との要石先生の発言もあり、
自動車による運搬は可能である。佳望学園所有のマイクロバスに満載して運べば、2ヶ月は持つだろう。

従って問題は、購入費用と移動時間の確保、要するに周囲の理解を得る事にあった。
……この場合「周囲の理解」というのは、部活動の予算に対する認可、という事である。
そしてその理解が得られない事が、部室内に漂う重苦しい空気の原因なのだった。

582名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:44:10 ID:9NIv.WY20
「俺も嫌というほど説明したんだがな……あの堅物委員長、今回も意見を曲げなかった」
「って事は当然、バスも動かせないのか?」
「ああ、龍川大漕艇部との交流行事でもせん事には、バスで乗り付けるなんて夢のまた夢だな」
「あの強豪大学とウチみたいな弱小が交流?」
「他所のチームと合同でなら……いやそれだと生協前がえらいことになるな」
「だいいち、部員の大半があのバスに乗ることになる訳だから……」
「あ、そっか……俺らで背負って帰るのと大して違わなくなりそうだな……」

佳望学園の保有するマイクロバスは26人乗りであり、もし漕艇部員が全員乗り込めば
余分のスペースはそう多くない。まあ確かに背負ったり自転車で運んだりするよりは
効率的と言えるかもしれないが、そこまでするのは必死杉だろ……という判断が働いたのである。
そんな訳でこの日のミーティングは、毎四半期恒例の「戦略物資確保作戦会議」へと
切り替わったのだった。


「やっぱ遊撃買出し部隊か?」
「小口輸送を断続的に、って事だな」
「いつも通り、一人あたり25kgってところか」
「うわー、キツそうだな」
「ああ今月の小遣いが……」
「まあ、これもロードワークだと思えば」
「電車に乗るロードワークなんて聞いたことないぞ」
「じゃあ走って帰るか?俺は嫌だけど」
「なるほど、ロードワークを名目にすれば大義名分も……」
「ちょwおまw殺す気かwww」
「晴れた日なら干物になれる自信があるぞ」
「当然、買出し部隊には特配があるんだろうな?」
「何?そんなもん自腹に決まってるだろ」
「ああ俺のコミック・モッフ……」

室内には部員たちの発言が飛び交い、ちょっとした混乱が起こっていた。

「あー、こんな予算押し付けてくる委員会が恨めしい」
「先生の自家用車は使えないの?」
「あの年季の入ったジムニーに積める量を考えるとな……先生にそこまでさせる訳にはいかんよ」
「確かに、俺たちで行った場合と大して変わらないかもな」
「そっか……それもそうだよね」
「じゃあ皆、いつもの通りクジ引きで」

「……せーの」

583名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:44:56 ID:9NIv.WY20
―― そんな訳で数日後、部長本人を含めて運の悪かった5人から成る小部隊が電車に揺られていた。
隊長は雨宮。彼が率いるのは三年の鮫島。二年の桝川、井森。そして一年の鰻田である。

目的地はもちろん龍川大学。電車を降りて長い坂道を登った先の門を入る。
その目の前に広がるのは、名門の名も高い龍川大学のメインキャンパスである。

そこを闊歩する高校生5人。既に勝手知ったる本部棟で、生協のおばちゃんとも顔馴染みである。

「こんちはー」
『あら。今日あたり来ると思ってたら、やっぱりね』
「いつもの500mlボトルを48本ずつ、5人分お願いします」
『いつもありがとうねぇ。間仕切り板は要る?』
「はい、お願いします」

『荷造りはそこの空いてる所でね、分かってると思うけど』
「分かってますよー。この生協についてなら、ここの新入生よりも詳しいんですから」
「雨宮ー、そんなに常連なら価格交渉とかやらないのかー」
「何を言う、今でも便宜を図ってもらっているんだぞ?これ以上要求できるか」
『あら物分りの良い子ねぇ、おばちゃん嬉しいわ』


幸いにして“本日に限っては”、龍川大学生協の水の在庫は豊富であり、
佳望漕艇部・買出し部隊の半個分隊は当初予定通りの戦果を挙げる事ができた。
それどころか、部隊長たる雨宮がこう言い出したのである。

「よし!この際だから追加調達といくか」
「えーと、それって……」
「うむ、ついては皆に調達資金の分担を願いたい。あ、おばちゃん!12リットル分追加ね」
「おいちょっと待て俺たちはまだ同意した訳j」

『はーい、毎度ありがとうねぇ』

「……オケラになった……」
「ああ俺のコミック・モッフ……」
「帰りの電車賃、残ってるかな……」
「部長……酷いよ」
「心配するな、追加分は俺が担ぐ。お前らは24kg、俺は36kgだ。文句あるまい」
「いやそういう問題じゃなくて……いや、もうやめよう」
「そうか、それじゃ話がまとまったところで帰るぞ。おばちゃん、また2週間後は頼むよ!」
『はいはい、分かってますよ!』

―― かくして特攻野郎Fチームの面々は意気揚々と引き上げるのであった。
……全5人中、約4人を除いては。

584名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:47:16 ID:9NIv.WY20
 かなり大きな荷物を連れて帰る電車の中、雨宮は仲間たちを落ち着かせようとしていた。

「そう怒るな、追加分だって後で部員全員で負担するんだから」
「だからといって俺たちの同意も得ずに……」
「まあ聞け。夏の大会が終わってその後だ。学園祭の前には秋の大会が始まるよな?」
「大会前の練習と大会での消費を見込んで、ですか」
「そしてその後には冬が来る」
「ふむ、冬場へ向けての備蓄という意味合いもあるのか」

少し納得した様子の4人。変温動物かつ体表の湿度が高い生徒が多い佳望漕艇部にとって、
寒くて空気が乾燥する冬場は試練の季節である。


「……冬、か。嫌な響きだ」

「……確かに去年の冬は地獄だったな」
「毎年の事とはいえ、寒さと乾燥のダブルパンチは厳しいよなあ」
「あの寒さの中で動ける奴は池田と桝川と俺くらいだったもんな……」
「屋内練習での気合の入らなさは覚えているだろ?」
「ああ、部長も冬眠しかかってたな」
「……冬眠で済むヒトたちが羨ましいですよ」
「確かに、熱帯出身の奴だと寒さが命に関わるもんな」
「でも鰻田さー、お前は体にプラグでも着けて発電すれば」
「……井森先輩?ガルバーニの実験、もう一回体験したいんですか?」
「いや、遠慮しとく」

「冬」という単語で嫌な記憶が蘇った一人から声が漏れ、それに呼応するように話が進んだ。


「そこで、だ」
「ん?」
「今度の大会で少しでも良い成績を残せば、次の部活動費会議でも皆の心証を良くできる」
「……そうなれば部活動費の認可も下り易くなる。あわよくば暖房費の手当てを、ってところか」
「つまり士気向上のために水を多く仕入れたのか?」
「お察しの通り」
「雨宮、お前ってホント策士だな」
「どうも。それから買い増した分は要石先生に保管してもらうので、そのつもりでな」

ここで電車が駅に到着、荷物の中身が“ちゃぽん”と声を挙げた。
5人は荷物を背負ってホームへ降り立つ。
合計132リットルの水の重みと夏の日差しが5人の背中にのしかかった。


―― そのまま部室まで帰るはずだったのだが、その途中での事。
彼らは思わぬものを目にする事になる。

585名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:48:13 ID:9NIv.WY20
「おい、あれって風紀委員長じゃ」
「あ、本当だ」
「普段の真面目そうな格好とは雰囲気違うなぁ、ああいうのも結構可愛いかも」
「おい鮫島そういう問題じゃ……ってアイツ何やってるんだ?」
「え?普通に本屋へ入っていっただけじゃ」
「それにしては妙に周囲を警戒していると思わんか?」
「そう言われれば確かに……」
「よし、俺が確かめに行く。荷物は頼む」
「あっ!雨宮ズルいぞ!」
「何を言う、奴と交渉するのには俺が一番慣れているんだ。それじゃ後は頼んだぞ!」

「……行っちまいやがった。なんて面の皮が厚い奴だ」
「そりゃ部長には何を言ったって『蛙の面に何とやら』って奴ですよ」
「確かに、蛙だもんな」
「……ここで突っ立ってても仕方ない、行くか」
「チクショー、重たいなー」
「今日ばっかりは雨宮と買出しに来たのを後悔するな」
「うちのチームじゃ1・2を争うパワーの持ち主ですしね……」
「それに交渉も上手いし。伊達に部長やってません、って事か」

かくして運の悪かった部員4人は各々33kgの重荷を背負って、部室までの道を
辿っていったのである。

「この先3ヶ月はこんな事を繰り返すのか……」
「じゃあ今度、はづきちか風間に自走台車作ってくれって頼んでおくか?」
「そりゃ良い。丁度ここにパワープラントもいる事dあばばばば」
「……イモリの黒焼き、一丁あがり」


その一方。単身本屋に潜入した部長の雨宮はというと……

586名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:49:25 ID:9NIv.WY20
「よう、風紀委員長じゃないか」
「っ!?……あ、ああ、漕艇部の」

 雨宮は確信した。なんとか取り繕ってはいるが、この慌てっぷり。何かがあるに違いない。
これは思わぬ金鉱を掘り当てたのかもしれんな。鮫島には礼を言わねば……

「それで、私に何か用でも?」
「いや、たまたま見かけたんで声を、な。確かその先は漫画本のコーナーだったな」
「……そうみたいね」

 目の色が一瞬変わったように見えたのは気のせいだろうか。
それに後ろに回した両手、何を持っているのやら。この線で少し攻めてみるか……

「そういや、今日はコミック・モッフの発売日だ、って鮫島がはしゃいでたな」
「……そう」
「ファンとしては、発売日に買いたいのが当然の心理なのかな」
「……人によるんじゃないかしら」

 ふむ、当たり障りの無い返答だ。しかし、この話題から逃げたがっているような印象。
少し別方向から攻めてみて様子を……

「俺も部長やってるから、部員の言動には気を配らなきゃいけないんだよな」
「それは良い心掛けね」
「まあ一年生部員も落ち着いたし、安心して秋季大会に臨めるって訳だ」
「そう、せいぜいがんばって」

 少し安心したか?きっと、ここからが見ものだぞ。

「鮫島の奴、お前の事が気になるみたいだったぜ?」
「……それで?」
「お前ら、良いカップルになれるかもな」
「なっ何言ってんのよ?」
「まあ似たもの同士って奴だな」
「っどっどこが似てるって言うのよ!」

 思ったとおり、安心した所へ放り込んだ球がストライクだったらしい。
ここまで慌てるか。しかし後ろに持った荷物をこちらに見せないとは、良く訓練された奴だ。
あまり追い詰めるのも可哀想だから、この辺で手を緩めるか。

「ま、風紀委員長も周りに気を配る事だな」
「……いつもやってるわよ」
「それじゃ、今度の予算委員会、またよろしく」


 雨宮は心の中で小躍りしていた。
どうやら風紀委員長は他人には知られたくない趣味を持っているらしい。
その事を知っているらしい相手に対し、どこまで強気になれるかな……?
これはますます大会で良い成績を収めなければならんな。

587名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:50:31 ID:9NIv.WY20
―― ある晴れた秋の日の放課後、佳望学園の一室で開かれた会議。
四半期ごとに行なわれる、部活動費に関する小委員会である。
この会議には、風紀委員や教師陣からも数名がメンバーとして参加していた。


「……それでは次、漕艇部ですね。代表者は」
「はい、いつも通り部長の雨宮です」


今回提出された要望書は次のようなものだった。

1.漕艇部が屋内トレーニング場を使用する時間を多めに割り当ててもらいたい
2.部員の体調管理に関して、学校側の協力を願いたい。ある程度の費用を補助できないか
3.部室のロッカーがかなり錆びているので、新しいものと入れ替えたい
4.新たに屋外用の高機能保温服を導入したいが、その費用の一部を学校に補助してもらいたい

この要望に対し、委員会のメンバーとの質疑応答が始まった。要望が認められるかどうかは
会議の数日後に返答が来るのだが、雨宮には目的のものを手に入れる自信があった。


「第2項に部員の体調管理に関する協力とありますが、具体的には」
「主に屋内の暖房です。ご存知の通り、我が部は寒さに弱いメンバーが多いものですから」

「では、なぜ暖房と書かないのですか?」
「それに、この希望額は何です。温室でも作るんですか?」
「そんな贅沢は言いませんよ。他にも体調管理のための諸経費を見込んであります」

「しかし要望の別項には“高機能保温服の購入補助”といったものが見られますね」
「部員の体調管理とは別なのですか?明確な説明をお願いします」
「それは屋外用の保温服です。屋内練習での体調管理とは分けておきました」


―― その理由を尋ねられた雨宮は説明した。
これまで冬場は厚着をして屋外練習をしているが、ボートを漕ぐような激しい動きをするのが
難しい事。問題の保温服は宇宙用素材を使っているため薄手で軽くて動きやすいが、
高価である事。従って部員全員分の保温服を用意するのは難しいであろう事。

よって、冬場は屋外練習所時間を減らし、屋内トレーニング場の器具を使った体力作りと
部室小屋内での練習を主に行う計画である事。
そこで、第1項ではトレーニング場の使用時間の割り当てを望んだ事。
その他にも部室小屋の屋内環境を整えるのが重要であり、それを第2項に盛り込んだ事。
そして屋内練習での要望に関する第2項を優先し、保温服に関しては別項とした事。


彼の説明には説得力があり、委員会のメンバーも一応納得した様子ではあった。

588名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:51:35 ID:9NIv.WY20
「……言いたい事はだいたい分かりました」
「では問題の第2項ですが、内訳を」
「まあ大部分は空調費ですね。我々の場合は湿度も重要ですから、その分の費用も見込んで」

「部室にエアコンと加湿器を付けろ、という事ですか?」
「まあそういう事です。夏の暑さが苦手な部員は少ないですから、ストーブでも構いませんよ。
. できれば温度20℃以上、湿度75〜80%は欲しいですね」

「それから?」
「あと水分補給も欠かせませんね、我々の場合は。秋季大会の事は覚えて頂いてるでしょうか?」

「……団体で4位入賞、部門別で優勝と3位がそれぞれ一つ、でしたね」
「この好成績も選手の体調管理、特に水分補給で妥協しなかったからこそだと、私は考えています」

「では部活動費の内、水分補給に関する予算はどの程度を見込んでいるのですか?」
「まあ、全体の1割から2割ってところでしょうか。何しろ気候による変動が大きいもので」

「その他には」
「ちょっと汚い話で恐縮なんですが、実は部室小屋のトイレの修繕費用なんかも含まれています。
. 換気扇が壊れてしまったので、その交換費用。あと配管の水漏れ修理費用なんかですね」

「……あちこち壊れているみたいですねえ」
「そりゃまあ、あの部室小屋も相当古いですから。この際一緒に直しておきたいな、と。
. それに我々の場合、微量のアンモニアでも皮膚の炎症を起こすには充分ですので」

「検討しておきましょう」
「ところで秋季大会での水分補給についてなんですが、特に重要な点g」


そのとき、部屋の反対側から声が挙がった。

「あんまり無茶な要望は考えもんどすぇ?」
「……あ、ああ新聞部の烏丸部長ですか」
「あんさんにも色々と考えはおありでっしゃろうけど、悪い事だけは考えたらあきまへん」
「悪い事、ですか?」
「良からぬ企み事とかは、どないに隠そうかてバレてしまうのが世の常」
「ええ、まったくで」
「そないな企み事があったら、この烏丸京子が見逃しまへんからなぁ」
「……ええ、分かってますとも」


そう、彼は忘れていた。神出鬼没の天駆ける黒い影の事を……
その日の放課後もだいぶ遅くなった頃、部室に現れた雨宮部長の顔はいつになく青かったという。
……まあ元から青緑色なんだが。

589名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:53:23 ID:9NIv.WY20
 その後の通知によると、漕艇部の屋内トレーニング場の使用時間は確保された。
もちろん暖房も使える。これで暖かい室内で体力作りに励める訳だ。

部室小屋のトイレも修繕され、臭う事はなくなった。錆びたロッカーはペンキを塗り直され、
蝶番には油も差された。見た目には新品そのものである。

部室の一角にはダルマストーブが設置された。もちろん燃料は学校側が用意してくれる。
冬になればストーブの上でヤカンが湯気を立ち上らせ、部室内の湿度を上げる事だろう。

さらに、壁には良く目立つ温湿度計が掛けられた。これで部員の体調管理も大丈夫である。


 部活動費に関しては、いつものように増額は認められず。
むろん高価な保温服など導入できるはずもなく、今年も着膨れした部員が目立ち始めた。
戦略物資の確保のため龍川大学に泣きながら足繁く通う彼らの姿は、当面消えそうにない。

590名無しさん@避難中:2010/09/30(木) 00:55:57 ID:9NIv.WY20
以上投下終了。リオさんと烏丸部長をお借りしました。
どこか変なところがあったら、見なかったことにしておいて下さい……

大気湿度低下→皮膚からの水分蒸発量増加→体温低下のコンボは最強。
いっそ冬場は電熱服でも着せるべきか……
あと、「戦略物資」の価格は山小屋のソフトドリンクくらいを想定してます。
今はヘリで運ぶのがほとんどだけど、昔は山小屋まで100kg近くの物資を背負って
運び上げる専門職があったとか。それに比べれば雨宮部長の背負った36kgなんて軽い……よね?

591名無しさん@避難中:2010/10/01(金) 08:51:03 ID:lW4IV4CYO
虫さん大変だけど魚さんたちもっと大変だなオイ
会議とかすげーリアルだ

592名無しさん@避難中:2010/10/09(土) 13:11:26 ID:JNKmpIDQO
今VIPのケモナースレで本スレが晒されてる…

杞憂で終わるといいけど件のスレがまとめられると嵐が来るかもしれない
というわけで今からスルー力の強化を推奨します

593名無しさん@避難中:2010/10/09(土) 23:42:46 ID:vt/4CwI60
http://loda.jp/mitemite/?id=1454.jpg
また、描いてみた。

594名無しさん@避難中:2010/10/10(日) 17:31:59 ID:oYtmbv9Y0
何これ素敵
何やってんのさ白先生ww

595わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:32:47 ID:734v/LZk0
>>535
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1281.jpg

は。こんなお話。あと、某チラ裏の設定もお借りします。

596ているずLOVE ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:33:32 ID:734v/LZk0
1「ている」め 『いっしょにいてあげる!』


ガラリと教室の扉を開くと、教室に相応しくない光景がぼくの目に入る。
ぱんつはいてない!
制服のワイシャツをだらりと羽織り、裾からすらりと伸びるのは白く長い脚と、掴めば手が埋まらんばかりのイヌの尻尾。
夕暮れの光が差し込み、茜色に全てを塗りつくす時間。扉を開いたぼく・目(さがん)賢吾には、たそがれる余裕さえない。
だって、ぱんつはいてない!
「あら、ごめんなさいね」

ぼくと同じイヌなのに、どうして尻尾が自慢げなのか。
ぶるんとたわわな尻尾が揺れると、ワイシャツの裾が露になる。
しかも、ぱんつはいてない!
尻尾!尻尾!みんなに自慢の尻尾!尻尾!

ぼくのイヌミミがピクン!足元がくらっ!そして、尻尾は……ない。
ぼくの尻尾はない。

          #####

この春に、ぼくは高校2年生になった。
学年が変わる。友達も変わる。何もかも変わる。でも、ぼくはずっと変わらないのかも。
それほど新生活に期待せずに、クラス割が掲示されている中庭へと控えめに第一歩を踏みしめて臨んだ。
平穏無事に生きて生きたい。できれば、これ以上なにごともなく。小さくクラスに溶け込めればいい。
みんなから注目を浴びるヒーローはいつだって疲れるもの。ならば、ヒーローの背後でこぶしを振りながら応援する
名もなき一般人のほうが、いくらか気楽で息も長い。『ゲゲゲ』なメガネのサラリーマンや、ラーメン大好きKさんをみてごらんなさい。
敵を作ることなく、ある程度みんなに慕われているじゃないか。いつもの一般人はそつなく毎日を暮らす名人なんだよね。
そのためにはクラスのみんなと同じように振る舞えば、たいていのことは上手くいく。頭飛びぬけたらおしまい。
そもそも、そのためには『寸分の狂いのない毎日を送ることができれば』っていう前提があるんだけどね。
しかし、美しいもの、対称的なもの、整然としたものはこわれやすく、それを好きこんでやる者もいる。

597ているずLOVE ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:34:01 ID:734v/LZk0
「さがんくん!同じクラスだよ!!」
脆くも本当にささやかな願い事が一人の少女の声で吹き飛ばされる、記念すべき高校生活2年目の初日。
ネコの少女・扉田鈴音(とだ・すずね)がそそくさと照れくさそうに近づいてきた。ぼくと同じく春風に似合う制服は、お互い恥ずかしい。
だって、ぼくも鈴音も小さい頃を知っているし、恥ずかしいことも知っている。でも……知らないこともあるのだ。
とにかく、彼女とぼくが同じクラスになるのは、小学校以来だった。
「わたしのこと、覚えてくれてるよね」
「う、うん」
「あの事件。ドッチボールでさ、さがんくんだけが残ってチャイムが鳴るまで逃げ切れば、ウチらのクラスの勝ちだったのに」
目のイヌミミがぴくんと動く。
「さがんくんの尻尾に当って……。どうしたの?怖い顔して」
「なんでもない!ほら、あの教室がぼくらのクラスだよ」
短くなった尻尾を隠すことに必死なぼくは、話題をすり返るようにすっと校舎の窓を指差して、ぎこちなく笑顔を取り繕った。

ぼくに変わりはないよ!
きっと、ない。
でも、見つけないで。
探さないで。
探し物など見つからないほうが良い。

「さがんくん!」
「はいっ」
「一緒に教室に行こっ」
チェックのスカートが眩しい。ここの高校って、制服で選んで入る子もいるらしいから、女子には人気があるんだろな。この制服。
鈴音が玄関に向かって駆けると、ふわりと春風にスカートが乗る。自然とぼくの目に入るのは……言うまでもない。
しかし……あの、その。
「きゃっ!」
今更のようにスカートを押さえても、ぼくの視線に突き刺さる「ふわっふわっ」が目に毒だ。

          #####

教室に鈴音と一緒に入ると、ちょっとばかり男子の声が色めきたっていることにぼくのイヌミミが揺れた。
これからよろしくのクラスメイトたちに乗り遅れたようで、なんだか悔しい。危うし一般人。だが、その輪の中に入ることは、
ぼくの袖を引っ張る鈴音の爪をキラリと光らせることになってしまうのだ。それだけは避けたいが、気になる。
出席番号順、男女別の列ということは。
「やったー。さがんくんとお隣の席だあ」
小学生のようにはしゃいで鈴音は席に飛びついた。
そして、気になる男子たちの声は鈴音の席の前の子の噂だと分かってきた。即ち、ぼくの席の斜め前。
席に着く前に、その子をちらと。

「はじめまして」
大人だ!大人の挨拶をしてきた!イヌの少女はにこりとはにかんだ。ぼくと彼女はもちろん面識はない。
言葉遣いだけならず、ふんわりとした雰囲気に甘い香りが仄かに毛並みをくすぐるシャンプー。
そして、すらりと短いスカートから伸びた長い脚に紺のハイソックス。ぼくと同じ新2年生なのに彼女の方が年上に見える。
ふわっと、ゆるっと先輩風味。あら、さがんくん。わからないことがあったら、お姉さんが教えてあげる。って、なんて言いそうだ。
彼女の耳がぼくの方に向いていることは、きっとぼくには悪意がないってことだ。なんだか、ラッキー。
だが、彼女の肩越しにはカキ氷を一気に食べたような痛くも、冷たい目線を送る鈴音が見えた。ほえー。

598ているずLOVE ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:34:25 ID:734v/LZk0
初めてのHRが終わり、解放されたぼくたちは、いそいそと帰り支度を始める。帰りの予定は今のところナッシング!
学校のお世話になるのは、きょうはここまで。新生活に浮き立つなか一人鈴音だけが沈んでいた。
「さがんくん」
声が心なしか小さい。
「なに?どうしたの」
「帰る前に、付き合って欲しいところがあるの」
せっかくのかわいい制服には、涙は似合わない。世の中の男子の百人中百人はそのように思っているはずだ。
断る理由なんかは皆無。ざわざわと木の香りを楽しむクラスメイトたちを残して、ぼくらは教を後にした。
ちょっとだけ、ほんちょっとだけ気になるのは……斜め前のイヌの少女だけど。ね。それはそれは内緒なお話し。

鈴音に連れ出されてやって来たのは、クラス割の掲示が残されたままの中庭だった。
桜の花が冷たく咲き誇り、ぼくらを見守っている。ぱんぱんっとベンチのほこりをはたくと、一緒に並んで座る。
何年ぶりだろう。こんなシチュエーション。鈴音も随分と大人っぽくなったような気がする。
小学生の頃、ぼくが自信満々に描きあげた「うんこ」の絵を見て鈴音が「バーカ」の一言で捨てたのも、またこれは遠いお話。
あ。これはぼくがまだまだ子ども過ぎたからか。鈴音は鈴音ですこしずつ大人になっている。それに追いついていないぼくだったのだ。

「そういえば、前の席の海影さんだっけ。あの子、大人っぽいよね」
「海影紫さんのこと?」
ぼくから見て斜め前のイヌの子。海影紫(みかげ・ゆかり)のことだ。
彼女はオスのイヌのぼくから見て、かわいいではなくカッコイイだ。
あまりカッコイイ女の子は女の子から浮いてしまう。それを見ている男子は放っておけない。
知らず知らずにその美貌の罠に嵌められてしまうんだろうか。鈴音の目が寂しそうだ。

「わたしっ、クラス委員に立候補するからね!」
「えっ?なにそれ、意味わかんない!」
ぼくにそんなことをされても困る。いや、逆に考えろ。逆だ、逆。ぼくに宣言するべき理由が何処かにあるはずだ。
でなければ、ここでいきなり出馬宣言ってシナリオはないからね。しかし、鈴音の目は真剣そのものだった。
「委員長になるのはわたし!」

鈴音が子どもじみて見えてきた。
どうして、こんなことをしたのか尋ねるのも面倒だ。面倒なことはしない主義。
目の前にネコジャラシをふらふらふらってやっても、オトナのネコは引っ掛からない。
それはネコジャラシに構うことが面倒なことを知っているからだ。つんとしていても、ネコジャラシを振っているのは。
鈴音だ。
「今度のHRはクラス委員の選任があるのよね。クラス委員になって、あれもできちゃう、これもできちゃう……。
そして、ね!さがんくんにもあれができちゃう、これができちゃうって!!お願いね、さがーんきゅんっ」
ぴっと立つ鈴音の尻尾が視界に入るたびに、気が遠くなる。
痛い!思い出す!

599ているずLOVE ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:35:13 ID:734v/LZk0
          #####

その日の帰りは無論、鈴音と一緒だ。
高校2年生になった。ちょっと先輩になった。大人っぽくなった鈴音の横顔。
日に日に何もかも変わってゆく。そして、ぼくの尻尾は変わることはない。
と、横目で鈴音をちらちらと見つめていると、いきなり表情を変えて叫ぶ。
「いけない!忘れ物!プリント教室に忘れてた!」
「ええ?今なら間に合うから、ぼくがダッシュで!」
「悪いよ」
「いいのいいの!あそこのハンバーガー屋で待ってて」
忠犬・さがんは途方にくれた鈴音の為なら、どこまでも走る勢いです!お任せを!と、ぼくは走る。
しかし、バカ正直はどこかで損をするっていることを痛感するのだ。まだまだ大人になりきれていないなんて。
出すぎたヒーローの末路なんて、大抵悲惨なものだってことをすっかりと忘れていたのだ。
そんなことを考える暇もなく、通い始めた校舎に着く。幸い玄関は開いている。
一段飛ばしで階段を駆け登り、ぼくらの教室を目指す。誰もいない廊下、静かなグラウンド。

ガラリと教室の扉を開くと、教室に相応しくない光景がぼくの目に入る。
ぱんつはいてない!
制服のワイシャツをだらりと羽織り、裾からすらりと伸びるのは白く長い脚と、掴めば手が埋まらんばかりのイヌの尻尾。
「あら、ごめんなさいね」
クラスメイトになったばかりの海影紫がぱんつはいてない!

ぶるんとたわわな尻尾が揺れると、ワイシャツの裾が露になる。
しかも、ぱんつはいてない!
尻尾!尻尾!みんなに自慢の尻尾!尻尾!
尻尾!尻尾!みんなに自慢の尻尾!尻尾!

ぼくのイヌミミがピクン!足元がくらっ!そして、尻尾は……ない。
ぼくの尻尾はない。
わーっ!尻尾なんて嫌い!嫌いだよ!でも、ちょっとぱんつが見えない、いや尻尾丸見えですけど!

ふわーっ!尻尾が嫌いだ。立派な尻尾を見ると、とても嫌になる。自己嫌悪ってヤツだ。

「さ、さ……さがんくん?」
薄れゆく意識の中で、天井が見えてくる。鼻柱が熱い。そして、星が廻る。宇宙の夜空を見ながら消えていったクドリャフカの気持ち。

後で聞いた話、海影紫は「ぱんつはいてない」ところを見られたから目を廻したと思っていたらしい。
いや、違う。あなたの尻尾です。
そして、ハンバーガー屋にて一人で「遅いなあ!」ヤケ食いしている鈴音から「さがんくんのおごりだよね」と詰め寄られるのだった。


つづく ?

600わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/10/14(木) 18:36:14 ID:734v/LZk0
とりあえず第一話、とか書いてみたのよ。
投下おしまい。

601名無しさん@避難中:2010/10/17(日) 10:31:34 ID:eLw851bU0
投下きてたー
続きが気になる!

602 ヘ ノ: ヘ ノ
ヘ ノ

603名無しさん@避難中:2010/12/08(水) 05:41:57 ID:s2m0.muEO
雑談スレにリオww
ロボスレとのコラボが来る日も近い!

604名無しさん@避難中:2010/12/15(水) 22:10:32 ID:HT68QT1YO
リオとはづきちのちゅっちゅな絵をきゃっきゃうふふなスレに
投下したいのですが、はづきち作者さま。良いでしょうか?(´`)

605名無しさん@避難中:2010/12/15(水) 23:04:50 ID:yzTxDWok0
http://loda.jp/mitemite/?id=1601.jpg

606604:2010/12/16(木) 01:17:11 ID:Kc2vPPsg0
>>605
わぁい、有難うございます!

607わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/12/31(金) 23:26:06 ID:WPm8e4Mo0
間に合った。
はづきち!はづきち!

608うさぎの夜 ◆TC02kfS2Q2:2010/12/31(金) 23:26:49 ID:WPm8e4Mo0
大晦日の夜なのに、ウサギの男性教師・跳月はクラシックの流れるコンビニで買い物かごを腕にぶら下げていた。
同世代の者たちは今頃きっと、可愛い嫁や子どもたちと暖かいこたつの中でミカンをむきながら年末恒例のテレビ番組を見ていたり、
翌日の初詣のことやご近所や親戚の話しでもしているのではないか、と一人身ならではの考え事が脳裏をよぎる。
暮れギリギリの買い物は、おなかがすいたときの買い物とよく似ている。買い足りないかとついつい普段は躊躇うものでも
買い物かごの中身を増やしてゆく。壁に架けられたコンビニのロゴ入り時計の短針が、徐々に頂点へと縮まってゆく。
正月飾りで彩られた窓ガラスからは、今年が消え去ることを惜しむように行き交う人々。尻尾の揺れ具合が心なしかそわそわと。

コンビニでは跳月の長い耳がそわそわと。
「買っておくか、買っておかざるべきか」
一度手に取ったロールちゃんを再び棚に戻すべきなのか。となりで幸せそうな虎の男女がプリンを同じように買うのかどうか悩んでいる。
跳月の長く垂れた耳がその声でいやでもなびかせる。三十路を過ぎた男子からすれば、ふたりはハナタレ小僧。
オトナの余裕とは、小僧の垂らす洟をそっとチリ紙で拭いてやることなのだ。と、言い訳。
結局、ロールちゃんは跳月のかごの中へと、転がってゆく。

そろそろ懐具合も心配なので、レジに向かうとイヌの青年が尻尾を振って雑用をしていた。
かごに商品を詰め込んでレジに近づく跳月に気付くと、慌てて『お隣のレジをご利用ください』の立て札を慣れた手つきで退ける。
「こちらのレジにどうぞ」と誘われて、ドンと机に跳月がかごを置くとメガネ越しに青年の名札を確認した。
(この間と、同じ青年だ)
当たり前だが「いらっしゃいませ」の声が同じ。手際よく彼は、弁当に、飲み物、そしてロールちゃんのバーコードを読み取って、
余りにも日常的な動きできょうが大晦日だということを忘れさせてくれている。
一週間前の夜。世間一般では『クリスマス・イヴ』と言われる夜も、彼が同じレジに立っていて、同じようにお会計に携わってくれたのだ。

「そういえば。この間会ったときも、きみだったね」
コンビニの制服姿の青年の目。
事務を超えた旧知のような声。
積み重なるレジの液晶画面のお会計。

「大変だね。こんな日なのに」
「この曜日はシフト通りだとウサギの者が遅番だったんですけど、来年はうさぎ年だからぼくと代わったんです」
そういえば、店内を見渡してもウサギは自分ただ一人。このコンビニだけではない。途中立ち寄った本屋も、街を走る路面電車の職員も、
ウサギだったという見覚えが一切無い。そう、来年はうさぎ。この世のうさぎたちはみな、うさぎの年を迎えようと、自由にのんびりと過ごす。
「最近はそうなんだ」
「はい、お客さま」

609うさぎの夜 ◆TC02kfS2Q2:2010/12/31(金) 23:28:17 ID:WPm8e4Mo0
跳月がコンビニから出ると、高校の教え子の因幡リオが中学生ぐらいの少年と一緒に歩いているところを見かけた。彼女もうさぎ。
学校の制服を脱いで、コートを羽織り、ショートブーツを鳴らす音はぎこちない。近づくか近づかないかの距離で、少年は気まずそうな顔をしていた。
「因幡、デートか」との跳月の問いかけは、リオの長い耳の根元を赤くさせる。
黒タイツ晒した短いスカートと反して、リオは学校では真面目な風紀委員長。この時間、この組み合わせ、そして大晦日。
「は、はづきち!ぜったい、ぜったい勘違いしてるでしょ?お年頃の男子と一緒に歩いているからさ、
『ははーん、特別な夜は特別な人と一緒なんだな』って自分勝手な妄想駆り立てて、オトナってずるいよお!センセのばかばか!」
「誰も言っていないぞ。落ち着け」
「あ。因幡の弟のマオです。姉がお世話になっています」
学校の外で教師に会うことは、スカイプでヲタ話しをしているのを親に聞かれるぐらいの破壊力を持つ。
それは、リオが弟を紹介しようとして「もうしたよ」とマオからたしなめられたことから伺えるではないか。

「はづきちは、今夜も一人で?」
リオはふくれたコンビニの袋を見て、白い息を吐く。
「うるさいな。茉莉子は海外だ」
「一人っきりに慣れっこですからね」
「三十路を舐めるなよ」
大切な人が遠い土地にいるという事実を掴まれていた跳月。精一杯の反抗で大人ぶる。
マオはわざと姉は教師から叱られようとしているな、と目を細めるしかなかった。
「ぼやぼやしてたら、二度目の成人式ですね。あ、数回目の七五三の方が先でした!」
跳月のげんこをボブショートの頭にねじり込まれらているリオは、心なしかレジの店員の目と似ていた。
「マオ!行くよ!今年の大晦日は大切な日だからねっ」
「う、うん。姉ちゃん」
そう。弟とは言え、大切な人といえば大切な人。リオはむしろこの世の中では果報者。跳月は一回りも下な小娘を嫉妬する。
もうすぐ、うさぎが夜を跳ねる。星空たちも羨むような、立派な年越しにしてやろう。と、うさぎたちは12時を心待ち。
跳月は跳月で、来年こそ大切な人とこの夜を過ごしたいと、手に食い込むビニル袋の痛さを堪えていた。。
そう言えば、レジの店員が「割り箸は一つでよろしいですね」と尋ねたことを思い出しながら。


おしまい。

610わんこ ◆TC02kfS2Q2:2010/12/31(金) 23:29:32 ID:WPm8e4Mo0
投下納めー!

611名無しさん@避難中:2011/02/14(月) 14:53:12 ID:CC7koesA0
規制されてるのでこちらにばれんたいん!

酔っ払いとぽっちー
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1761.jpg

612名無しさん@避難中:2011/02/14(月) 20:52:37 ID:JcFUKMpI0
この、しあわせものめ!

613名無しさん@避難中:2011/02/18(金) 17:36:19 ID:pmGf8C/.0
くそう、まだ規制中なので以下の文を本スレに代理お願いします…


もうすぐ猫の日(2/22)ということで、当日に忘れない内にフライング。
ケモ学用に初めて作ったキャラも猫だったので、ザッキー。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1776.jpg


仁科学園のwiki(http://www15.atwiki.jp/nisina/)TOP絵を描いて
思い出したのですが、スレを初利用する方にもっと覗いてほしいなーなんて願いつつ
こちらもwiki用ナンチャッテTOP絵など。
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1777.jpg

614名無しさん@避難中:2011/02/18(金) 17:43:43 ID:53voDYpI0
行って参ります!

615名無しさん@避難中:2011/02/18(金) 17:46:28 ID:53voDYpI0
行ってきました。代理ってこんな感じでいいのかな・・・

616613:2011/02/18(金) 18:10:40 ID:pmGf8C/.0
>>615
有難うございます!そんな感じで大丈夫ですよー、助かりました!

617わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:09:27 ID:f1BDlGTk0
本スレでも「ネコの日」ネタを投下しましたが、ここでもしちゃうよ!
もうひとつのネコの日。

初めてさんへの、出てくる人紹介。

  淺川。   http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/635.html
  ハル子。  http://loda.jp/mitemite/?id=1593.jp

618淺川のくせに ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:10:17 ID:f1BDlGTk0
期待通りの写真が撮れなかった。
フイルムをまるまる一本損したような気持ちに苛まれ、写真が生業の淺川にとっては、悔やみきれない一日だった。早く過ぎ去って欲しい。
期待してやってきた港町。思うようなものが撮れない。誰のせいにすることも無く、淺川は愛車V-MAXのシートに腰掛ける。
鉄の馬は大人しく主人の命令に従いつつ、長い道を駆け抜けるときを待ちつつひと時の間羽根を休め、
銀色に輝くエンジンが海辺の風に晒されて、跳ね返る日の光が淺川と一つとなってコンクリの岸壁に落とす。
ただ、しおっからい空気は愛車にとってはよろしくない。できればここから早く立ち去らせてやらねば。
「おれの尻尾のように、何もかもひんまがっているんだ」とひがむ淺川も同じく、潮の香りがネコの毛並みを傷めていた。

早く今日の日が過ぎ去れ。
風に流れろ。
冬が消えて、急いで春になれ。
もう、2月だぞ。
だから、なんだ。
ネコのいいところは、イヤなことをすぐに忘れること。だけど、手に馴染んだ愛機を手にすると言い訳にしかならない。
とにかく、誰にも話しかけられたくないが、そういうときに限ってどこかの誰かが絡みつく。
「ネコの日だよ!」
「知ってる」
「淺川!いいの?こんなところに居て!!写真家なら、ネコの日の町並みを撮ったらどうよ。鉄塔とか、電柱とか」
知らない町でいきなり自分の名前を呼ぶ者が居るとすれば、そいつは自分のことを非常に知っているやつだ。
一度会ったことのある子。ネコにはない長い耳、ネコと違った短い尻尾。彼女はウサギ。

「ハル子、変わらんな」
「淺川のくせに生意気なこと言うな!」
「ガキから説教食らうとはね。今度、みんなに自慢しようかな」
干支を一回りしたかしないかのお年頃のハル子は、大きなカメラを首からかけてメガネ越しに淺川を見つめた。
彼女はわざわざここにやってきたのは「フイルムを買いに」と言っていた。わざわざ渡船を使って本土へやってきた。
コンビニさえ無い内海に浮かぶ島は、文明の利器を使いこなすには不便すぎる。ただ、街の情報だけはやたら詳しい。

619淺川のくせに ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:10:53 ID:f1BDlGTk0
「ネコの日って、あれでしょ!夜中にネコさんたちが集まって、いっしょに……いろいろしたり!」
「よく知ってるな、ウサギのくせに」
「だって、ググったんだもん!画像とかいっぱいあったよ!」
得意げなハル子の顔。しかし、浅い。現代っ子といえば通りがいいのだが。
足元も街の子も顔負けのスニーカー。子ども用とはいえ、品がいい。袈裟懸けしたバッグもしっかりとした作りだった。

「22日だよ!今日だよ!」
「ふーん。早く23日にならねえかな」
「どうして?ネコの日なのに」
潮風が淺川の前髪を揺らした。悪気はない。
ただ、淺川の言葉を止めたということは褒められるべきなのか。二の句を続けない淺川にハル子は戸惑う。

「わたしの住んでる島って、ネコの人がいないでしょ!」
「知ってるよ」
「だから、ネコの日のお祭りって……ネット動画でしか見たことないし、すんごい楽しそうなのに……」
視線を落としたハル子は沈黙の後、淺川の顔に自分の言葉をぶつけた。
「だって!だって!淺川ったら、ネコの日のことを……!」

ネコになりたいな。
ネコになって、みんなでネコの日のお祝いをして、楽しく遊んで……。
そして、ネコになって淺川とネコの日を過ごしたかったな。
ネコになりたいな。
子ウサギはぶら下げた大きなカメラをぎゅっと握る。
ネコの日の一切れを、カメラに焼付けたかったな。
なのに、淺川ってば!
ハル子は自分が子どもだということに奥歯をかみ締めた。

620淺川のくせに ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:11:21 ID:f1BDlGTk0
「ハル子、知ってるか?」
「なに!」
「おれ、写真家やってるってこと」
反射的にハル子はタン!と足で地面を踏んだ。例えるならば、自分の気持ちを伝えたいのに伝えられないもどかしさを知っているくせに、
それなのに「それじゃあ、告っちゃえよ!」と悪気を持たずに背中を叩かれたときと同じようなお節介。
それが分からないハル子はまだまだ子ども。

「写真なんか生ものだぜ。夕焼けなんか撮ってみろよ、満足のいくようなカットが見つからないからってうろうろしてたら、
ほれ見たことかすぐに真っ暗になっちまうだろ。だからさ、おれはネコの日だからとかかんけーねえの」
「……淺川のくせに!」
「ハル子のくせに。ところでなあ、おれ……どんな写真を撮ればいいか分からなくなっちまってよ。ハル子さあ、教えてくれよ」
ハル子は笑いを忘れぬ淺川の悩みごとに戸惑う。素直に答えても、淺川を困らせるだけ。
「わたしにだって、分からない」
「だろうな。ハル子だし」
「もう!!」
不毛な言い争いは空しくさせる。そんな時間あれば、写真の一枚ぐらい撮りなさい。
とにかく、うだうだ言っているうちに時間は過ぎる。いくらのんびり波が岸壁を洗おうとも、そよ風が船着場をくすぐろうとも、
淺川はそんなことはお構いなしだと愛車に跨りミラーにかけたヘルメットを持ち上げる。

「どこ行くの」
あえて返事はしない。それは行き先を決めていないから。それが普通だから。淺川に行き先を尋ねるのは愚問の極み。
まるで耳を塞ぐようにヘルメットを被り、愛車のエンジンをかけるとハル子はぽんと後ろに跳んだ。
ネコの日から逃げるように淺川のバイクはそのまま島を臨む船着場から走り去った。
ハル子は淺川が残した「ハル子のくせに」という声で、必ず再びここで出会うことを感じつつ、もう一度「淺川のくせに」と呟いた。


おしまい。

621わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/02/22(火) 19:12:06 ID:f1BDlGTk0
世界中のネコさんに幸せあれ!

投下おしまい。

622名無しさん@避難中:2011/02/24(木) 03:58:12 ID:NArH2Cpo0
投下乙!
屋根の下の猫さんも、お天道様の下の猫さんも、皆が幸福でありますように。

ところで、避難所の連投制限数ってどのくらいか分かる方、いますか?
いま書いてるのが4部構成で結構な長さになりそうな予感なもので……

623名無しさん@避難中:2011/02/24(木) 09:18:59 ID:DsDL9cBEO
避難所は連投規制なかった気がする。…多分。

624名無しさん@避難中:2011/02/25(金) 01:14:40 ID:nXsQmZOUO
いっそのことテキストファイルで投下するのもありかも

625名無しさん@避難中:2011/02/25(金) 06:04:17 ID:9hp2dmHMO
本スレでも00分跨ぐと連投がリセットされて結構投下できる。

626名無しさん@避難中:2011/02/26(土) 00:07:24 ID:uaqJhEAU0
>>623-625
上の方にある魚人ネタなので、避難所の方で投下したいな、と。
分量が多いと言っても1部あたり5〜6レス程度だから、
各編ごとに分割して投下すればいいのかな。皆さんアドバイス感謝です。

627名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:53:41 ID:AkyvWBeo0
――― Milagre Dos Peixes 〜春編〜 ―――


 冬は嫌いだ。
これは変温動物族に共通する意識だろう。
冷たい外気に体温が奪われ、肉体活動が低下する。
肉体活動が低下すれば、運動で発生する熱も少なくなる。
運動による熱発生の減少は、更なる体温の低下をもたらす。
まさに悪循環だ。冬眠できる連中が羨ましい。
この悪循環が恐竜絶滅の原因のひとつに挙げられているのも納得できる。
体温維持ドリンクが無かった時代、冬の到来は種の存続にも関わる重大事だったのだ。
 ところで自分は池田 昇(いけだ のぼる)という。先程の愚痴から分かるとおり、
変温動物族の鯉人だ。そう、魚人の場合は冬場の悩みがもうひとつある。乾燥である。
皮膚の乾燥を放置すれば最悪の場合、魚人や両生人の命に関わる事態になりかねない。
そうでなくても実に不快だ。だから子供の頃からずっと冬は嫌いだった。

 その嫌な季節の一大イベントといえば。
クリスマス、正月、節分、バレンタインデー。王道の答えはこんなところ。
そして自分と同学年の高校生にとっては、受験シーズン。
ああ、これほど精神的に圧迫される事が今後の人生に存在するだろうか。
あるいは存在するのかもしれないが、そんなの今は知った事ではない。

 ところが、そんな嫌な季節でも乗り越える方法があるらしい事を知った。
それは、――

628名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:54:39 ID:AkyvWBeo0
 その前に、話は遡る。
まだ桜の花が散って間もない頃、新しいクラスにも慣れてきた頃である。

 その日の目覚めは、いつもよりもぼんやりとしていた。
自分は生暖かい空間を泳いでいた。浮遊感に身を任せ、気の向くままに飛び回る。
この先、もっと良い事が起こりそうな感覚。ぼんやりとした幸福感に包まれていた。
その直後、急に不安感がこみ上げる。ここはどこだろう?何が起こっているのだろう?
自分が置かれている状況が分からない。危険が迫っている?それとも安全なのか?
訳も分からず移動を試みたが、勝手が先程までとは違う。じれったくなるような緩慢な動き。
だんだん体が重くなる。だんだん生暖かい空間に沈んでいく。だんだん意識が遠のいていく……
 そして、目が覚めた。ぼんやりとした頭で周りを見る。
部屋が明るい。もう起きる時間だと、時計が叫んでいた。ぼんやりとした頭でアラームを止める。
ぼんやりとした頭で寝床から出て、ぼんやりしながら布団を畳み、寝室を出た。
少しぼんやりしながら朝食を食べて、洗面所へ向かい、そして制服に着替えて登校した。


 休み時間に、後ろの席に座っている谷川が尋ねてきた。
「ショーちゃん、もう志望校は決まってる?」と。
成績は良かったし、いちおう優等生で通ってはいたが、この先の進路は深く考えていなかった。
ただぼんやりと、進学するのかな、程度のものだ。もちろん志望校など決まっていない。
だから、「まだ決まってない」と答えた。
そうしたら谷川は「部活にかまけて成績が下がるような事があったら許さないからね」と言う。
「なんだか教師か保護者みたいな事を言うなあ」と返したら、
「獲物はおとなしくハンターの言う事を聞きなさい」ときた。何なんだそりゃ。

 ―― とりあえず谷川の事について少し触れておく。
谷川 翡翠(たにがわ ひすい)。近所に住む幼なじみ。カワセミ人の女性である。
その小柄で華奢な体格に似合わず、まっすぐな気性の持ち主だ。
周りに流される事の多い自分とは大違いで、いつも奴には振り回されている。
運動神経もなかなかに優れている。水泳部に所属しており、高飛び込みの代表選手として
インターハイにも出場したほどだ。それでいて頭も良い。成績では自分といい勝負だ。
なぜ分かるのかというと、向こうの方から「いざ、勝負!」とか言いながら、返ってきたテストの
答案用紙を見せに来るのである。
要約すると、容姿端麗・頭脳明晰・明朗快活。ということで奴を狙っている男子連中も多いらしい。

 ところで。先程、性格が明朗快活といった。訂正する。子供っぽいのである。
登校中に油断していると、奴が後ろから飛んできて頭を嘴で挟まれるのだ。
本人としてはちょっとした悪戯程度のつもりらしいのだが、あまりいい気分はしない。
あと自分が子供の頃、奴に嘴で思いっきり突つかれた事があった。痛かったの何のって、
幸いにして頑丈な鱗のおかげで怪我をせずに済んだが、忘れられない事件である。
まあ今となっては他愛もない子供のケンカではあるが。

629名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:55:53 ID:AkyvWBeo0
 さて、その日は部活動が休みだった。それでも漕艇部の副部長としては部長の雨宮と
打ち合わせておきたい事があったので、放課後になって彼の青緑色の顔を探していた。
教室には見当たらない。鮫島や彼の友人に尋ねても居所がつかめない。職員室にもいない。
本格的に探そうと思い、部室に寄って荷物を置いてきた。
 そうやって探し回っているうち、プールの近くまで来てしまった。冬場には各種微生物の
培養槽と化していたプールも、寒中限定水泳部の有志による大掃除の結果、今では元通りの
清潔な姿を取り戻していた。そよ風と共に、カルキ臭のかすかな刺激が皮膚をなでる。
この刺激があるのでプールは好きじゃない。自然の川の方が性に合っている。

 雨宮の携帯にメールを送ってみたが、いつまで経っても返事が無い。
30分待って電話を入れてみた。『……電源が入っていないか、電波の……』
どうやら今日の打ち合わせは諦めるしかないらしかった。
 彼が入学祝に買ってもらったという携帯電話、そろそろガタが来ているのだろう。
自分のも同じようなものだ。長持ちするようにと防水機能の付いたものを選んだのだが
それでも2年間を経過すると、ときどき前触れも無く電源が落ちたり、反応が悪くなったりしている。
やはり武人ならぬ魚人の蛮用には耐え切れないらしい。……まあ雨宮は両生人だが。
とにかく湿気と精密機器は仲が悪いのだ。

 「何か探し物かい?」
突然、声を掛けられて振り向いた。立っていたのは水泳部顧問の水島先生。
「ええ、ウチの蛙部長なんですが」と答える。「ああ、雨宮くんね。私は見なかったな」との事。
「そうですか、他を探してみます」と言って、立ち去ろうとしたのだが。
 水島先生が「確か谷川くん、君の友達だったね」と言い出した。どうも声の調子が怪しい。
「ええまあ、幼なじみですが」……この一言が決定的だったのかもしれない。というのも、その返事は
「そうかそうか、それじゃ一緒に水着姿の君の幼なじみに会いに行こうじゃないか!」というものだったのだ。
……どうでもいいけど水島先生、鼻の下が思いっきり伸びてます。

 かくしてカルキの刺激の中、プールサイドに連れてこられた。どうも居心地が悪い。
最後の望みを込めて、水島先生に「あの、雨宮の奴を探しているので……」と言ってみた。
「そうだろう?だからウチの部員連中にその事を聞こうと思って君を連れてきたんだよ」との事。
どうやら自ら退路を断ってしまったらしい。まさに俎上の鯉である。それに、つい数分前には
探すのを諦めていたはずの雨宮をダシに使うとは、どうにもフェアではない。やりきれない気分だ。

630名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:56:31 ID:AkyvWBeo0
 水島先生に連れられて、プールサイドを練り歩く。
放課後に雨宮と廊下ですれ違った、といった話を部員から聞き出し、その度に自信満々で
“役立つ情報が得られただろう?”といった風な顔をしてみせる水島先生。
それだけ見れば頼りがいのある笑顔なのだろうが……どうもピントがずれている。
あと、水島先生が部員に向ける視線の種類が、男子に対するものと女子に対するものでは
違うように見えるのだが、気のせいだろうか。
 犬人やスナドリネコ人やペンギン人やラッコ人の部員たちが水しぶきを上げる横を通って、
飛び込み台の近くまで来た。カルキで皮膚がピリピリする。こんな所へ準備も無しに来るんじゃなかった。
雨宮の居所は分からないままだ。当然だろう、奴もこんな所で長居はすまい。


 ふと上を見ると、谷川が飛び込み台の上に立っていた。その姿は普段よりも細く、
まるで研ぎ澄まされた刀のように見える。次の瞬間、飛び込み板の先端から身を躍らせた。
鮮やかな色彩が複雑に回転しながら降りてくる。そして、一直線になって水の中に吸い込まれた。
あれほど高い所から飛び降りたのに、水音も水しぶきも驚くほど小さい。
跳んでから水に入るまでの時間が、まるでスローモーションのように長く思われた。

 どうも、頭がぼうっとする。きっと、塩素に、あてられたのだろう。こんな所で…長居をしすぎた。
気分が……悪い……
そして、立ちくらみ。
倒れそうになったが、なんとか踏みとどまった。鮮やかな色彩の誰かがこちらの様子に気付いて、
プールから上ってきた。「水島先生!こんなところに皮膚呼吸するヒトを連れてきたら……」
最後まで声が聞き取れない。誰かの肩を借りて、どこかへ連れて行かれた。

631名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 20:57:12 ID:AkyvWBeo0
 ……水の流れる音。草の匂い。
気が付くと、川沿いの木の下に座っていた。人の影が少し長い。日が傾きかけているのだろう。
「気分は良くなった?」と、聞き覚えのある涼しげな声。谷川だった。
とっさに(事情を説明しなければ)とか(自分はどの位の時間、前後不覚になっていたのだろう)
とか(誰がここまで連れてきてくれたんだ?)とか幾つかのキーワードが頭の中を駆け巡ったが、
口から出てきたのは「……すまん」という一言だけだった。
 改めて彼女の方を見てみた。乾かしたばかりのように見える頭の羽毛、さっぱりとした制服姿。
横にカバンが二つ、片方は自分のものだ。そういえば、持っていたはずの部室の鍵が無い。
「鍵なら返しておいたわよ」と言われ、また「……すまん」と一言。

 どうやら意識が朦朧としていたのは30分程度らしい。
たまたま保健室の窓から様子を見ていた白先生が駆けつけてくれて、「塩素酔いが抜けるまで
しばらく空気がきれいな所で休ませておけばよろしい」との診断を下したのだそうだ。
「部活はどうした?」と尋ねたら、谷川は「今日は高飛び込みの練習は前半だけだから、
下校時間としては予定通りよ」と、涼しい顔をしていた。そのまま数分間、ぼんやりと川面を見つめていた。
まだ柔らかい草が互いに触れ合い、かすかな音をたてる。まるで時間の流れが止まったような感覚だった。
しばしの沈黙を破って、「……帰ろっか」と谷川が言った。

 帰り道、谷川が唐突に「ショーちゃん、私に惚れた?」と言い出した。悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「まさか、お前に?」と返す。いったい、いきなり何を言い出すのだ。
「でも顔、赤くなってるよ?」と谷川。どこまで本気で言っているのか分からない奴である。

―― これは変な感情なんかではない、塩素の影響に決まっている。その事は分かっているだろうに。
そう反論しようとしたが、しなかった。反論すればするほど信用されないと思ったから。

632名無しさん@避難中:2011/04/16(土) 21:00:40 ID:AkyvWBeo0
投下終了。
以後季節に合わせて投下するかもなので、気長にお付き合いいただければ幸いです……

633名無しさん@避難中:2011/04/22(金) 23:47:21 ID:7fuEiPpE0
うわあ甘酸っぱい。青春っていいねえ!

634名無しさん@避難中:2011/04/29(金) 04:21:10 ID:QvvOqnGEO
新シリーズがいろいろ投下されて胸が熱くなるな……!

635 ◆bEv7xU6A7Q:2011/05/04(水) 03:04:43 ID:ULrZkOes0
http://loda.jp/mitemite/?id=2042.jpg

636名無しさん@避難中:2011/05/04(水) 03:19:34 ID:t7tKomUQ0
初等組!かわいい

637名無しさん@避難中:2011/05/04(水) 03:23:18 ID:eSQCKk/20
描いちゃきたぁ!

638 ヘ ノ: ヘ ノ
ヘ ノ

639名無しさん@避難中:2011/05/26(木) 20:50:35 ID:4tsMsMLM0
http://shindanmaker.com/72664
幼女「ぐすん…えーんえーん!」
あなた「どうして…泣いてるの?」

リオの場合→幼女「えーんえーん!ぐすん…リオがわたしにイタズラするぅ!だれかたすけてぇ!」
白先生の場合→幼女「えーんえーん!ぐすん…白先生さん…ぜったいなんにもしないってゆったじゃない……」

640名無しさん@避難中:2011/05/29(日) 08:15:17 ID:mN5Yj.Ec0
いつもアップローダーに絵を上げてくださる絵師様へ
Wikiの方にも絵を載せたいのですが、アップローダーに上げるだけでは載せて良い物なのかどうか判断ができません。
載せても良いのかどうか、その旨を教えてください。
またお願いなのですが、創作発表板ですので本スレか避難所に投稿して「発表」してくださいませんか?
よろしくお願いします。

641名無しさん@避難中:2011/05/29(日) 21:05:49 ID:SXDlBHHk0
>>640
もしかして私のことだとしましたら、アップローダに有るものは自由にしていただいて構いません。
とりあえずほぼ「furryXXX.jpg」と言うファイルだと思います(一部間違った名前のものも有りますが)。

なお、本スレが無かったので避難所の方に一つあげておきました。

642名無しさん@避難中:2011/05/31(火) 00:32:12 ID:2jt/ipms0
>>641
返答ありがとうございます!
Wikiのほうにも上げさせていただきます。

643わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:20:44 ID:tyz8ZPUI0
こちらに投下します。はい。

644カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:21:32 ID:tyz8ZPUI0
 リオのスカートが風でふわっと舞い上がる。調子に乗って自転車のたち漕ぎをしたからだ。
土曜の午前中なのが幸いしてか、人の目線は気にならなかったのことがせめてもの救い。鉄壁スカート崩壊の危機は免れた。
 吹き抜けるひんやりとした梅雨の中休みの空気が、ニーソックスからはみ出した太ももの白いウサギの毛をやさしく冷やしていた。
太ももから腰、短い尻尾、背中を人差し指でなぞられたような。川の冷たい水で指を浸す。命の源である水は生き物に寛大だ。
その濡れた指で無防備なリオの体を触るか触らないかの感触でゆっくり爪をたてる。瞳の奥から涙が滲む。太ももを無意識に合わせる。
 「ひんっ」
 だけど、特別な人からされるんだったら、それはとっても嬉しいかも。と、リオは前向きに受け取っていた。

 休みの日に行く学校だから、いつもと違って自転車に乗ってみた。
 休みの日に行く学校だから、いつもと違って河原を通ってみた。
 ウサギの因幡リオは、自転車の前籠に荷物を載せて学園までの道で風になる。衣替えしたばかりの半袖から
澄んだ初夏のにおいがする。いつも乗っている市電の中から見る空と違って、遠くまで透き通る風が心地好い。
気持ちのいい青空のまま、帰りはショッピングとしゃれてみたい。行く先はもちろん同人ショップ。薄い本が待っている。
でも、学校の制服のままだと誰かに見られたら乙女心が傷ついてしまうから、きょうはちゃっかり着替えを持ってきた。
市販されているブランド物のよそいき制服。メガネを外しても大丈夫なようにコンタクトレンズも忘れずに持ってきているし、
着替えて真面目で通している「因幡リオ」という風紀委員長の証を消してしまえば、誰かからの人目を気にせず思う存分
自分だけの妄想ライフに閉じこもり、お咎め無しの同人ショッピングができるんだ、と夏の雲のように浮かれていた。
 
 それに、学校へ行く用事のもう一つ。跳月先生から借りていた本を返すこと。
 化学教師から借りていた理数系の本。根っから文系のリオは目次を見ただけで頭を痛めるような内容だったものだった。
リオが今までと違う世界の本が読みたいと言い出したので「ぼくが小さい頃に夢中になって読んでいた本でもどうだ」と、
貸して頂いたものだった。ハードカバーの角が丸みを帯びてきて、ところどころ日に焼けた跡がある。表紙を開くと、薄い紙が出迎える。
 「いつの本なんだろう」と読み進めているうちに、文系だったはずのリオも数字の世界に巻き込まれていた。

 数字の世界ってきっと石頭なんだろうという、文系少女・リオの既成概念を打ち破る。だが、数字とはいえ、所詮人が作りしもの。
読みすすんでいくにつれて「数学のこと」「この本を書いた人」に俄然興味を抱くようになってきた。つまり『数学萌え』。
気取って理解を遠ざける専門用語なんか一言も使わず、平坦な言葉だけで精密機械のような理数系の世界を紐解く。
この敷居の低さがリオには理数系というヤツに親近感を覚えてくるようになっていった。食わず嫌いをリオは恥じた。
 読後。リオは全ての数字の世界を理解したような気になっていた。たとえ、それがフェイクでも一人でも数字に興味を持った者が
増えたとすれば、その本の著者としては非常に喜ばしいことだ。そして、この本を与えくれた跳月にも感謝……。
 リオは本を返すことと、理数系からの温かい出迎えの喜びを跳月に伝える『用事』が出来たことに、胸を高鳴らせていた。
その本を紙袋に入れて「すごく、面白かったです!」と跳月の顔を思い浮かべてセリフの練習をしながら、佳望川のほとりを走る。

 学園近くを流れる佳望川。広く豊かな水量を誇る一級河川。この土地は佳望川によって育まれたと言っても過言ではない。
川は人に親しまれ、人は川を愛する。大きな川は学園の生徒にも愛され、漕艇部が船を浮かべたり、吹奏楽部が河川敷で
練習をするのに利用されている。川に架かる佳望橋を自転車に乗ってリオは走り抜ける。川の上なので空気が気持ちよい。
 橋の上を走ると空の色が青いことが幸せに感じる。空の色とあわせた鉄骨が橋を支え、街に溶け込む風景を作り出していた。
なんでもない街の顔に気にすることなく、リオはぐいと上流に堤防伝いに自転車を漕ぎ続けると川は向けて二股に分かれる。
佳望川に流れ込むもう一つの川、天秤川。流れは比較的緩やかで、もっと遡ると川遊びも楽しめる優しい憩いの川だ。
学園に行くには天秤川の側を走る方が幾らか早く着く。正面の校門より裏の坂道から登るのは少々骨だが、ウチからならこちらが近い。
春になると桜の花で埋め尽くされる河川敷に自転車と一緒に降りると、意地悪な風が懲りずにリオのスカートをなびかせているが許す。 
 そんなときに限って、学園で見覚えのある一人の男子を発見。

645カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:22:07 ID:tyz8ZPUI0
 雨宮だ。雨宮跳だ。
 彼はカエル。新緑の青葉のような色の雨宮が川の浅瀬に立っていた。足元を涼しげな流れで洗い、気をよくしていた雨宮は
喉をけろけろと鳴らしている。川の流れに沿って風が吹き抜けると、岸辺に置かれた雨宮が持って来たと思われる紙袋が倒れた。
慌てて雨宮は紙袋を捕まえる。
 「はっ。もしかして……雨宮にスカートの中、見られたかも」
 紙袋が風に倒されたことで、なびいたスカートを思い出す。今更裾を押さえても、仕方がないことだ。
だけれども、それをしないと落ち着かない。
 堤防の上から雨宮をじっと観察しているうちに、リオは男子の気軽さが羨ましくなってきた。髪が風に吹かれて口元に張り付くと、
そっと摘んで整えた。
 「委員長じゃん。いたの?」
 「あ、あ、雨宮っ」
 カエルは今、気付いたようなそぶりを見せたので、とりあえずリオはあまり大きくない胸を撫で下ろした。

 「何してるの」
 「川の水温を計ってたんだよ。そろそろ水が気持ちいい季節になってくるからな」
 「ふーん」
 「お玉じゃくしだった小さい頃を思い出すんだよな。ウチの水槽よりも広いから思う存分泳げるし。委員長もしただろ?」
 「しないし」
 水を雨宮が蹴上げるとほおずきの種のように辺りに水が撒き散らされる。ぱしゃっと音を立てて、水面に同心円が広がり崩れる。
漕艇部である雨宮は川とずいぶんと親しいし、これからもずっとカエルである限り親しんでゆくつもりだ。水の中にいるときは
まるで遠くて近い故郷の胎内へ帰還したような安堵感を雨宮は感じている。
 「ウチの部もそろそろ補正予算案出さなきゃね。委員長」
 「お金の話はいやよ」

 嫌なことを思い出した。リオは個人的にはあまり実績の上げられない部については、さほど予算を気にしていなかった。
だが、いざ話し合いとなると他の委員たちが雁首並べてうんうん言うので、リオもその気になって首を縦に振ってしまったのだ。
それもこれもみんなの委員長だから、穏やかに話を終わらせたい一心での消極的賛同。
 「頼むよ。龍川大のミネラルウォーター、欲しいし」
 「わたしに権力ないし」
 リオを玩ぶように雨宮はケロケロと笑った。ふんっと捨て台詞を残してリオは学園へと自転車を漕いでいった。

646カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:22:39 ID:tyz8ZPUI0

   #
 
 委員会の仕事は楽しい。だけど、予算の話し合いはあまりリオは好きでない。紙の上の数字と、現実の数字は相容れないことが悔しい。
 金の話だからだ。新学期に終えた部活動の予算配分の委員会、そして夏に向けて各部活動は補正予算を組む準備に入る。
迎え撃つのはリオたち委員会。どの部活も財布のことになると真剣になってくるのでリオはそれが恐かった。だが、仕事は仕事。
やるべきことはきちんとしなければと、真面目のまー子はせっせと過去の補正予算の議事録をダンボールに詰め込む。
知らない名前が並ぶ資料はリオの先輩たちが積み上げてきた学園の歴史。それを処分するのは忍びないが、溜め込むのもよくない。
いままで倉庫に眠っていた過去の書類を片付けることから、きょうの仕事は始まった。そのためにリオはやってきたのだ。
 「ごめんね、ミサミサ。委員会の仕事のお手伝いお願いしちゃって」
 「わたしも部活動で登校していたので、因幡先輩の力になれば幸いです」
 ただの書類整理なのに、ついてきてくれる委員の後輩にリオは感謝した。たっぱのある後輩は軽々と段ボールを抱え上げる。
詰め込まれた破棄予定の書類は束になると厄介なくらい重たいのだ。なぎなた部のエースでもある後輩は、リオの頼りになる存在だ。
凛々しい瞳に麗しい長い黒髪に惹かれて、同姓のリオでさえ惚てしまいそうである。素直なウマの娘・番場道産子(ミサコ)は
文句の一つも零すこともなく、委員会の者が負う任務を忠実に全うした。
 
 「重くない?」
 「いいえ。仕事ですから、喜んで」
 こんな仕事、暇な男子にさせればいいのにと少しでも考えたリオはミサコの仕事熱心さと比べて自分が恥ずかしくなってきた。
ミサコがリオのあとをに続くと、ミサコの部活動仲間であろう女子から黄色い声が飛んだ。その声がリオには痛い。
 「それにしても、結構あるね。捨てる書類」
 「はい」
 「5年前の資料だね」
 保管期間を過ぎた紙の束、ガムテープで厳重に封をする。学園のいちページを刻んだ証は役目を終えて行くべきところへ向かった。

 「おい、因幡」
 二人の足が止まる。教師に呼び止めるられたからだ。
 垂れたウサギの耳とよれたTシャツ。その上から羽織った白衣がいささか枯れて見える。
 「時間、あるか」
 「わたしたち、今から……」
 「因幡先輩。このあとはわたし一人でも大丈夫ですので、跳月先生の要件を……」
 ミサコの計らいに甘えて、リオは跳月に呼び出しに応じた。気を効かせたような、とリオはぐっと口元をかみ締める。
 要件がわからない故、不安を抱きながら化学準備室へ入と、相変わらず生活感のない部屋が迎えてくれた。無機質な電子部品が
机に散乱し、読みかけであろう分厚い本が開いたまま俯せにされている。リオと跳月で二人っきりの部屋。恋人でもないのに、
ましてや相手は教師だぞ。何故かリオは口の中を甘くしていた。この時間を崩したくなかったから。

647カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:23:08 ID:tyz8ZPUI0
 「委員会の仕事、お疲れ」
 跳月の労いに無言で答える。
 「お前ら、部活の予算の話し合いさ。よく頑張ってると思うぞ」
 「はい。各部活動に不満が出ないように、それぞれの委員会から意見を出してますから!」
 「それでも、不満が出る。何故か」
 崩したくない時間を跳月がいとも簡単に崩してしまう。リオが苦手なお金の話。みんなで決めたことだから恨みっこなしだ。なのに。
 「聞いた話、一部えこひいきしてるんじゃないか、とな」
 「そんなことしてませんっ」
 「ぼくも信じてる。お前はインチキできるほど、度胸もないし器用でもないだろうし」
 正直な意見にリオは胸を突かれた。

 「ただ、数字は正直者なんだ。数年前から各部部費の増減が激しいんだ」
 「わたしだけじゃありません!委員は」
 「わかってる。だがな、ある部はこの年度は倍に増え、ある部は次の年度で大きく削られる」
 「実績があったか、なかったかでしょう」
 「因幡、わかるか。ぼくが言いたいのは、感情に流されるなってことだ」
 リオは跳月の言葉の意味を噛み締めた。まるで委員会が悪者にされているのではないのかと、一度は跳月の冷たい目に逆らおうと
思ったものどうしても跳月の目を真っ直ぐ見ることのできないリオがいたのもまた事実。瞳に熱いものがこみ上げるのがくやしい。
ただ、濁すことなく自分のことを評価することに対してもリオは特別な感情を抱いていることに変わりはなかった。
 「誤解しないで欲しいんだけど、ぼくがお前を呼んだ理由。お前は委員の中でも仕事はよく頑張る方だ。ただ、お前さ」
 跳月か冷たくされればされるほど、リオは跳月に素直になれる。だから、跳月の二の句がよく分かる。
 「流されやすいだろ」
 「ひんっ」
 「日和見主義なところがあるだろ。もう少しわがまま言ってもいいんだぞ、委員長だろ」
 自分の欠点を素直に指摘されることは辛くもあり嬉しくもある。
 「因幡だけじゃないだろうけど、お前は特にそういう傾向にありすぎるんだ」
 「うう……」
 「悪く思うな。ひねた大人の意見なだけだ」
 「ありがとうございます……」

 どうしてだろう。何でもいいからぶち当たりたい気持ちになってきた。自分のせいだとわかっていても、溜め込んだものを
あたりにぶっ放したい。リオは跳月に丁寧にお辞儀をして学園から帰る準備をしていた。
本を返すこと、そして感想を伝える暇もなくなってしまったことさえ頭の中から消え去っていた。
 悔しい。どんな数式を使っても、底からこみ上げる熱い血潮を説明できないなんて。文系だったら説明できるだろ。
と、数学に被れたリオは文系やら理数系と言い訳がましく目に涙を堪えていた。

648カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:23:42 ID:tyz8ZPUI0
  #

 帰り道は暗かった。まだ昼だというのに。初夏の日光が眩しければ眩しい程、気持ちが暗くなってゆく。
 朝、出掛けのときのテンションはどこぞへと消えてしまった。寄り道なんかしてないで、早くベッドに飛び込みたい。
 ふかふかの布団は優しくリオを包んでくれるし、愛用の枕はいくら抱きしめても文句のひとつもこぼさない。
そうだ。誰でもいいから自分に構って欲しいんだ。今なら、例え相手が感情を忘れたハリネズミだってでも、ぎゅうっと自分を痛めながら
抱きしめることだって出来る。もしかして、氷のように閉ざされたリオの病んだ気持ちに針が突き刺って砕いてくれるかもしれない。
 ペダルを踏む度に髪が揺れて、太ももがスカートから見え隠れする。前籠に入れた紙袋が跳ねる。買ったばかりのよそ行き制服が
いまだに紙袋に入ったまま。着慣れた指定の制服に見を包んだまま。そして、河原には雨宮がたたずんだまま。
 浅瀬の雨宮は涼しげだ。朝出会ったときと変わらない表情を浮かべて、水と戯れるカエルがリオには心底羨ましい。
笑ったり、怒ったり、落ち込んだり、泣いたり。ウサギは忙しい。金属が軋む音を立ててブレーキを握る。堤の上から雨宮を見下ろす。
雨宮に声をかけたいけれど今一歩踏み出せない意気地無しのリオ。

 「あれ?委員長」
 「雨宮、まだいんの?」
 「へへっ。これから暑くなるしね」
 ただでさえすかっと突き抜けるような快晴に憎たらしいのに、カエルにまで笑われるだなんて。
 自転車を止めると雨宮の方へ駆けつけるためにリオはサドルから跳んだ。川辺に置かれた雨宮の紙袋からオレンジ色のものが見える。
風に倒された紙袋、飛び出したのはおもちゃのウォーターガン。小さな子が扱うにはかなり大きい本格的なものだった。
パステルカラーが夏の水遊びにお誂え。丸いフォルムの筒型タンクが装備され、ピンク色の銃口はむしろ厳しさすら匂わせない。

 「なにこれっ。子供?」
 「夏と言ったらこれだろ」
 「言わないし」
 けろけろと笑いながら雨宮はウォーターガンを手にすると、意外と大きなものだと改めて分かる。もしかして、自転車一台は軽く
吹き飛ばしてしまうんじゃないかというほどとは言いすぎだが、漕艇で鍛えた雨宮でも片手で持つにはしんどく見える。

 「ちょっと、待って。雨宮」
 河原のブロックに腰掛けてよく磨かれたローファーを脱いで、ニーソックスを膝から太もも、そしてくるぶしに掛けて丸める。
季節外れの白い雪がじわじわとリオの脚の上で広がってゆき、ぱあっと花咲いてゆく。くしゃくしゃになったニーソックスは
踵から離れて丸く縮まる。その間、リオはスカートの中を雨宮に見られていないか気にしていた。そのうちに、両足が裸足になる。
 腰掛けていたブロックにニーソックスを並べて掛けると、リオは雨宮のいる川の中へと駆け出した。丸い石が足の裏をくすぐる。
脛を清い川の水がくすぐる。そして、妨げのない川の上の風がリオの短い髪をくすぐる。夏はいつでもくすぐったい。
 「雨宮!そのウォーターガン、わたしに貸して」
 「ん?」
 「いいから!早く!カエル!!」
 表情を変えずに雨宮はリオにおもちゃの水鉄砲を手渡すが、思ったより重かったのかリオは水面に吸い込まれそうになった。
水の音を足元で立てながら、リオは体勢を直して両手でしっかりとウォーターガンを構えていた。

 ペンは剣よりも強しと言うが、ペンばかり持ってても力は授からない。それがおもちゃの水鉄砲だとしても、本だけで得た知識よりも
大きな力を手にしたとリオは勘違いのような錯覚に陥る。本だけの理屈ではない、見えない力。
 「使い方分かる?手動のポンプで空気を圧縮するんだ」
 「わかってるって!」
 「へへへ。よくご存知で」
 汗ばむ日差しの中でどうして必死に水鉄砲ごときにかかりきっているのか。
 それでも夢中にリオは空気を圧縮し続けた。

649カエルとウサギ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:24:09 ID:tyz8ZPUI0
 「よーし。発射完了だよな」
 「わかってるって!」
 恥じらいも何もかもかなぐり捨てた風紀委員長はマンガで得た知識でプラスチックの銃器を構える。
かたちだけは一人前、半人前かもしれないが、まるで自分が厨二全開のラノベのヒロインにでもなった気分でかたちだけは整えてみた。
だが、それでもけっこう様になってるんじゃないかとリオは雨宮に向かって目を光らせていた。
 トリガーを引くと水圧の反発が重く腕にのしかかるが、水鉄砲だからそのくらいは踏ん張れる。真水はカエルのわき腹目掛けて
一直線に飛んでゆき、水しぶきを上げて雨宮の前に散っていった。カエルはそれでも嫌がる素振りを見せなかった。というより、むしろ。
 「うははっ。気持ちいいな」
 「……ごめん」
 「なんで謝るんだよ。気持ちいいだろ」
 「うん」
  
 水を得た魚……と言うよりかはカエルの面に水。だろうか。雨宮はリオに自分を標的にすることを待ち続けた。
ぶっ放す。そして、ぶっかける。それだけなのにリオは一日の出来事が全て佳望川に洗い流されてゆく。母なる大地の川に。
ゆらゆらと影となって二人が水面浮かんで、崩れては戻り、崩れては戻る。そして、もう一度リオは雨宮に向かってぶちまけた。
 「委員長、大丈夫か?こけたらずぶ濡れになるけどさ」
 「いいの!着替え持ってきてるから!」 
 「え?どういうこと?」

   #

 「そういうことか……」
 跳月は化学準備室の本棚を眺めて、本が一冊とび抜けていることを思い出した。
かつて自分が体験した書の愉しみを教え子が今それを感じていることに喜びつつ、光射す夏の空と清らかな川の水が
きれいに溶け込んでゆく季節を思い返していた。一日一日が眩しい頃を。
 「夏休みに読破した本だったよなあ。アレ」


  おしまい。

650わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/07/15(金) 23:24:54 ID:tyz8ZPUI0
カエルの雨宮くんをお借りしました。

投下おしまい。

651名無しさん@避難中:2011/07/16(土) 08:23:46 ID:cb79AtAA0
通りすがりでストレス発散に使われる雨宮www
雨宮くんとぼけたキャラで良いねw

652名無しさん@避難中:2011/07/16(土) 22:43:30 ID:rKZcBtG.0
リオの水遊びか…若いって良いな!これがどこかの三十j(漂白済

653名無しさん@避難中:2011/07/24(日) 00:01:33 ID:tfzZ57ik0
>>643
おお!ウチの部長がこんなに生き生きとしている!多謝です!

>627の続きのようなものを以下6レスほど。

654名無しさん@避難中:2011/07/24(日) 00:02:14 ID:tfzZ57ik0
――― Milagre Dos Peixes 〜夏編〜 ―――
1
 「ノボル!起きなさーい!」
朝、布団の中で眠気と戯れるのは至上の喜びと言っても良いと思う。
そんな心地よい朝のひとときを打ち破る声が響いてきた。
声の主は、母の池田 紅紗(いけだ べにさ)である。
布団の中から時計を見上げる。針は……5時過ぎを指したまま止まっていた。
また錆でも出て電池の接触不良でも起こしたのだろうか。
これでは時刻を確認できない。遅刻の危険を冒してまで二度寝する度胸は無かった。

 母は気が急ぐ性格だ。特に朝は、通常の三倍せっかちである。
食卓に向かってみたら、まだ6時半だった。朝練には遅すぎるし、朝礼までには早すぎる。
だいいち今日は朝練が無い。なんと中途半端な時間に起こしてくれたのかと思う。
その事を見透かしたのか、母は「少しくらい早く登校したってバチは当たらないわよ!」と言った。
普段より一時間も早く登校して、いったい何をしていろというのか。……図書館にでも行くか。
しかし本が湿気て困られるかもしれない。走り込みでもしているのが吉だろう。
 せかせかと忙しそうに動きまわる様子を眺めていると、普段の朱色が鮮やかな赤に変わり
頭に板状のツノを生やして宇宙空間を飛び回る母の姿が思い浮かんだ。
「さっさと食べて支度して、とっとと学校に行く!」という声に、そんな幻想はすぐに消し飛んだが。


 その日、最初の授業は体育だった。そして夏で体育の授業といったら、水泳である。
当然、塩素酔いの対策は欠かせない。更衣室で体表保護剤を塗り込み、薄手のウェットスーツを着た。
要するに体の周りの塩素さえ中和されていれば、塩素酔いは避けられる。そのための準備なのだ。
それを思うと、充分な用具も無かった時代に大記録を打ち立てたトビウオ人の古橋選手は偉大である。
 さて、入念な準備には時間が掛かる。既に授業開始の時間を過ぎていた。
同じく準備を整えた鮫島と共にプールサイドへ立ったのは、クラスの中でも一番最後だった。
竹刀を持った牛沢先生が「遅い!」と声を張り上げた。

655名無しさん@避難中:2011/07/24(日) 00:02:59 ID:tfzZ57ik0
 もともと泳ぎが得意な魚人であるから、塩素酔い対策さえしてあれば水泳の授業は楽なものだ。
エラ呼吸こそできないが、ヒレの手と抵抗の小さい体形の威力は絶大である。
鮫島に至っては、背中の上に友人を乗せて泳ぎ回っている。それでも結構なスピードが出るものだ。
当然、すぐに牛沢先生に見つかって仲間ともども竹刀で叩かれていたが。
 水泳部に所属していながら、谷川の泳ぎは上手くない。大きな翼が邪魔になるのだろう。
なぜか一緒に指導をしていた水島先生が様子を見かねて、「センセイが教えてあげよう!」
などと言って歩み寄……れずに、牛沢先生の竹刀が唸りを上げた。思わず目を覆ってしまう。
衝撃音。直後、プールのこちら側に大きな水柱ができていた。


 ところで、もうすぐ夏休みだ。
先週の期末テストも結果が出始めている。というわけで、谷川との成績比べが始まった。
その結果を言ってしまうと、こちらの全敗である。4時間目に現代文の答案が返ってきた結果、
全ての科目の結果が出揃った。谷川の方は前回と変わらない程度の成績だったのに対し、
こちらは中間テストの時よりも点数が下がっていた。順位も少し落としている。悔しい。

 成績が下がった理由は想像が付く。部活に熱心になりすぎたのだ。
というのはダブルスカルでペアを組んでいる後輩の平庭が、とんでもないワンマンなのだ。
オールを持つと性格が変わるというか、とにかくこちらにペースを合わせるという事が
絶望的に難しい。できればシングルスカルに専念してもらいたい所なのだが、残念ながら
大会への数合わせという弱小チームに特有の悲しい事情がある。
そんな訳で多少は無理の利く自分に白羽の矢が立ったのだが、正直言って体力的にキツい。
ギャップを少しでも埋めようとして練習の無い日も筋トレやロードワークに汗を流していた、
その影響が今回のテストの成績に如実に現れているのだろう。

 他に考えつく要因としては、塩素の影響だろうか。
いくら対策をしても水泳の授業があった後は、頭がぼんやりすることが多い。
その結果、授業に身が入らなくなるという事は確かにあるのだ。
だが、それを言い訳にするのは気が引ける。種族を理由にするのは甘えというものだろう。

656名無しさん@避難中:2011/07/24(日) 00:03:32 ID:tfzZ57ik0
 そして昼休み、谷川の目くばせ。眼光が鋭い。それはハンターの目である。
これから起こる事は大体予想できる。それでも席を立った。廊下に出て、彼女の後に付いていく。
たどり着いた先は、屋上だった。この暑い時期、強い日差しが降り注ぐ屋上に人影は少なく、
この個別面談の目撃者が少ないであろう事は、幸いと言えるのかもしれなかった。
 下界に蝉の声が響く中、日陰に並んで腰を下ろして弁当を広げる。
傍目には仲良く昼食を食べているように見えるかもしれない。実際に行なわれているのは
成績低下の理由を問い詰めるという、どう見ても和気藹々とは表現しがたい対話なのだが。

「前よりも10点も落とすってどういう事なのよ。前よりも簡単な位だったのに」
「部活で時間を取られて勉強の時間が短かったんだよ。ここまで下がったのは反省してるけどさ」
「前も言ったと思うけど、部活を理由にしないで」
「今度の大会が最後なんだ、それさえ終われば……」
「そんな言い訳は聞きたくない。勉強時間が短かくて、ここまで成績が下がる?」

原因は分かっているし、その事への反省もある。そこへ追い討ちを掛けるような谷川の叱責。
きっと、カワセミに捕まって枝に叩き付けられている小魚の気分はこんな感じなのだろう。

「これが結果なんだから、そうなんだろう」
「開き直ってどうなるのよ。このままじゃ駄目なのは分かってるんでしょ?」
「次のテストは大会の後だから、こんな悪い成績にはならないだろうさ」
「そういう意味じゃない」
「谷川が心配するのも分かるけどさ、」
「分かってない!」

珍しく谷川が声を荒げた。

「私がどんな思いでショーちゃんの成績の心配をしているか、ショーちゃんは分かってない」
「……」
「私は……私は……」

言葉に詰まっている。これほど感情的になった谷川は初めてかもしれない。
見れば、目に涙を浮かべていた。それほど酷い言葉を投げかけた覚えは無いのだが……
他人の成績の変動がそれほど大事な事なのだろうか。自分には理解できなかった。

「……まあ、落ち着けよ。そして理由を話してくれ」
「……ごめん、ちょっと取り乱しちゃったね」

谷川は深呼吸をして、再び話し始めた。

657名無しさん@避難中:2011/07/24(日) 00:04:08 ID:tfzZ57ik0
「……進化の軍拡競争って言葉があるの」
「互いに進化しあって生存競争をする、という奴か?」
「まあ、そんな感じ。赤の女王競争なんて理論もあるわ」
「それで?」
「私は昔から、ショーちゃんと競争してきたの」
「競争ねえ」
「そう、強く大きく進化する獲物と競い合って進化してきた捕食者みたいに」
「それじゃ、今回の俺は谷川に捕まったと」
「少しでも立ち止まったが最後、取り残されて滅びるしかないのよ」
「厳しいな」
「私は、……私は皆の一歩先を行くショーちゃんを見ていたいの」
「……」
「そして私は、そんなショーちゃんに負けたくない」
「谷川……」
「だから私の知っているショーちゃんで、いつまでも捕まえられない大きな存在でいて欲しいの」

まっすぐな視線をこちらに向け、真剣な顔で話す谷川。
あの他愛も無いと思われた成績比べが、彼女にとっては大きな意味を持っていた。
いつだって谷川はまっすぐだ。まっすぐに気持ちをぶつけられて、改めて分かった。

「……谷川の気持ち、少しは分かったと思う」
「少し、じゃ駄目」
「分かってるよ。何事も本気でやるさ。勉強も部活も、お前には負けないからな」
「そう、わかればよろしい!」

元の明るさを取り戻した谷川。その笑顔を見て、ふと思う。
よく分からない所もあるけれど、こいつと一緒にいると毎日の生活に張りがあって面白い。
確かに彼女が言うとおり、谷川と自分とは常にお互いに高めあってきたのかもしれなかった。
……ところで、感慨に耽っている前に、どうしても片付けておきたい事があった。

「それじゃ、我々の目の前にある昼御飯を片付けてしまおうか」
「……それもそうね。そういえば2人だけで食べるのって初めてじゃない?」
「え?そうだっけかな?」
「なんかデートみたいでワクワクするね」
「……早く食べないと昼休みが終わるぞ?うん、美味い」
「そうね。それじゃ、いただきまーす」

658名無しさん@避難中:2011/07/24(日) 00:04:57 ID:tfzZ57ik0
 そして夏休み。毎日が飛ぶように過ぎていった。
教科書を先の方まで読み、いろいろな問題集を買い込み、補習がある日には学校へ行って
理解できない部分を先生に毎回教えてもらった。その反応は様々で、
     泊瀬谷先生には感心され、
      獅子宮先生には煙たがられ、
     帆崎先生と大稲荷先生には呆れられ、
    英先生には説明に日本語を使ってもらえず、
  サン先生には台車を押す係を命じられ、
   百武先生には天体観察の素晴らしさを熱弁され、
     要石先生には2泊3日のフィールドワークに付き合わされ、
    跳月先生にはモーターが錆びると愚痴を言われ、
  白倉先生には……解剖されるかと思った。
 猪田先生と山野先生に関しては、この手の質問攻めにも慣れているようで
細かい事でも懇切丁寧に教えてくれたので、実にありがたかった。
 おかげで夏休みが終わる頃には、あえて目を通さずにいた最後の問題集も
割と楽に解く事ができるようになっていた。

 むろん、大会へ向けて部活の練習も欠かす事はできない。
もともと体力は群を抜いている訳ではなく、毎日のトレーニングで維持しているのである。
立ち止まれば取り残されて滅びるだけ、という谷川の格言はこんなところにも適用できるのだった。
 しかしながら、勉強時間が長くなれば体力づくりに回る時間が減少するのはどうしようもない。
普段の生活の中で意識して運動するようにしてはみても、その減少分を吸収するのは難しく、
そしてその証拠はタイムとなって突きつけられるのだった。
 ある日、艇を降りると平庭が言い放った。「先輩、体力落ちました?」と。
まったく返す言葉も無い。普段は気弱な態度だというが、そんな平庭を自分は見たことがない。


 さて、夏休みも終わりに近付いた頃、その事故は起こった。
その日も狂戦士・平庭に合わせて必死にオールを動かしていたのだが、コースの中間点あたりで
“ばりっ”という音を立てて、平庭の握っていたオールの柄が折れたのだ。
「折れたーっ!?」という声が聞こえたような気がする間もなく、バランスを崩して艇は転覆。
二人とも川面に投げ出された。
 ぼこぼこと気泡が動きまわる音。視界の端に回転しながら沈みゆく艇が映った。平庭を探す。
パニックを起こしてじたばたしていた。まさか溺れはしないだろうが、しかし協力は得られそうにない。
浮上して大きく息を吸い込む。一瞬、エラ呼吸の割合を小さくしてきた先祖を恨みたくなった。
 艇は川底にぶつかりそうになっていた。万が一にも壊れたら大変だ。押し流される艇を捕まえ、
川の流れと平行にする。そして頭の上に持ち上げるようにして、水面へ向かって泳いだ。
力の限り、水を蹴る。何も考えず、ただ水を蹴って進み続けた。

659名無しさん@避難中:2011/07/24(日) 00:05:26 ID:tfzZ57ik0
 十数分後、自分は部室の中にいた。
慌てて駆けつけた雨宮と桝川の助けを得て、艇と平庭は無事に回収できたのだった。
トランシーバーを持っていなかったので、要石先生を呼びに桝川が自転車に乗って走っていった。
部室で事故の状況を聞き取り、落ち着いて判断を下す雨宮。こういう時には実に頼りがいがある奴だ。

「ほう、オールが折れるとは……まあ二人とも怪我をせずに済んだのが何よりだな」
「……部長、先輩、ありがとうございます……」
「とりあえず平庭は練習中はライフジャケット着用か。動きにくいだろうけど安全第一だ」
「なにはともあれ、艇を救えたのは良かったよ。修理代も馬鹿にならないからなあ」
「あと池田、無茶すんな。艇なんか下流で回収できるんだし、人命の方が大事なんだから……」
「う……すまん、とっさに体が動いてしまった」
「まあとにかくだ、要石先生に報告したら後は休め。どうせオールも無いからな」

 その後は駆けつけた要石先生に事故の一部始終を話し、短いお説教を食らった。
そして人が変わったように落ち込んでいる平庭を励ましていると、その日二番目の事件が発生したのだ。

 ―― 一年生の鰻田は内向的なところがあり、二年生の井森が積極的に接触していたお蔭か、
最近になって部活動にも溶け込めるようになったように見えた。
しかし鰻田としては、軽薄な所がある井森の事をあまり良く思ってはいないようでもあった。
確かに種族をネタにした冗談には好き嫌いがあるし、井森はその手の冗談が大好きである。
この両者は初めから危険な組み合わせだったとも思われるが、それが実証される結果となったのだ。

 突然、「あばばばばば!」という悲鳴がトイレの方から聞こえてきた。
部室にいた全員で駆けつけてみると、井森がぷすぷすと焦げ臭い煙を上げてトイレの床に転がっている。
見事に黒焦げだ。……まあ元から黒褐色なんだが。
横には鰻田が立っている。妙に目が据わっていて怖い。何が起こったかは容易に想像できた。
種族をネタにした井森の冗談を、鰻田が現実のものにしてしまったのだろう。
 「なんだか嫌に静かだな」と、誰かが言った。そして次第に強くなる嫌な刺激臭と嫌な予感。
ゆっくりと窓の方へ目をやると、嫌な予感、見事に的中。
鰻田による電撃の巻き添えを食って、トイレの換気扇が壊れていた。
「おいおい、換気扇の修繕費なんて部費に計上してないぞ……」
などと呟いている雨宮の顔は真っ青だ。……まあ元から青緑色なんだが。
まったく、厄日というのは存在するものである。


 何気なく外に出てみると、強い日差し。
蝉の声に混じって、土手の向こう側から甲高いモーター音が重なって聞こえてくる。
まるで小さなジェット機みたいな音だ。飛行機同好会で新しいマシンでも作っているのだろうか。
互いに河川敷を共有する部活動ということもある。多少の興味はあった。
歩く湿気がモーターに近付くのは向こうも気分が悪かろうと思い、お邪魔する気にはならなかったが。
 風が吹き抜け、木の葉や草の葉がざわめいた。
蝉の大合唱の中で、ツクツクボウシが特徴的な声を響かせている。
この夏も、もうすぐ終わりだ。河川敷には白いススキの穂が揺れている。

660名無しさん@避難中:2011/07/24(日) 00:08:57 ID:tfzZ57ik0
以上投下終了。
なんだかスレの湿度が上がってるような気がします…
魚だらけにしてしまって申し訳ない

661わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:29:50 ID:SqTnCTAA0
スポーツの秋ですって!

投下します。

662ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:30:54 ID:SqTnCTAA0

 体育の時間が苦手なコレッタが、ローラーブレードを履いて颯爽と滑っていった。
 かけっこをすればいつもビリなのに、誰にも負けない速さで風を切る。
 逆上がりも出来ないのに、くるりとUターンを決めてみせる。
 
 「気持ちいいニャ」

 池を囲む遊歩道、人々が集う公園、白い子ネコは足元のローラーを滑走させて秋の妖精となる。
 長い金色の髪をなびかせて、白い毛並みを風に晒して、コレッタは懸命に前へ前へと足を交互に動かした。
 がらがらと路面を転がる小さな車輪の音はぎこちなく聞こえるかもしれないが、いま一番早く走っているんだと、
コレッタを自信付けるには申し分ない応援歌であることは間違いない。両手をぶんぶぶんぶと振りながらコレッタは進む。

 「上手い上手い」
 「ヒカルくん!ちょっとはうまくなったかニャ?」
 「うん。すごく上手いよ」

 脚をハの字に開いてゆっくりと止まる。遊歩道の傍らのベンチには、犬上ヒカルが座っていた。
 コレッタはヒカルに近づくと、早く誰かに話したくてしようがなかったのか右手で拳を上げて目を輝かせた。

 「これでクロたちと競争に勝てるかニャ?」
 「うん」
 「わーい!ニャ」

 コレッタはぎこちなく尻尾でバランスを取りながら、ローラーブレードの足元で立っている。その姿を目の前にしたヒカルの顔には、
ほんの少しばかりの笑みが。コレッタが履いている淡いピンク色のローラーブレードは小さな傷がちらほらと目立っていた。

 二人をそっと木の陰から見つめるのは、そう。二人ともよく知る人物だった。崖っぷち感漂う三十路の女の白ネコは、
コレッタと同じようにローラーブレードで足元を固めていた。見てくれだけは立派なものだった。

 「コレッタに追い越されてしまった」

   #

 秋晴れの気持ちよい日の放課後、コレッタは保健室にいた。
 クラスメイトのミケに「牛乳を飲むと、速く滑れるようになるにゃ」と、そそのかされて、苦手な牛乳を飲んでいたのだった。
 事の顛末を聞いた白先生は目を白黒させながら呆れて薬を飲ませるとコレッタを休ませた。
 何が速くなるのか?とコレッタに尋ねると、恥ずかしそうに答えた。

 「ローラーブレードニャよ」

 どうやらクラスメイトのクロとミケに自慢されたのに本気になって、ローラーブレードでのかけっこ勝負を挑まれたらしい。
 どうやらコレッタが滑れないことをクロとミケが知って、その勝負を挑んできたらしい。

 「どうしたらうまくなるニャねえ」
 「沢山練習するしかないんじゃないのか」

663ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:31:46 ID:SqTnCTAA0
 サイフォンから垂れ落ちるコーヒーの一滴をじっと見ていると、時の流れを早く感じる。保健室にあふれるコーヒーの香りが
何となくそれに歯向かって時間を止める。保健室独特の香りはこの部屋に限っては異なっていた。
 
 「わたしはローラーブレードをやったことないけど、上手く滑れたら気持ちいいんだろうな」
 「うん……ニャ」
 「そうか。ま、がんばれ」
 「白先生もやってみるニャ?」
 「ふっ。わたしなんか……晴れた休日は机でコーヒーの香りに惑わされるだけでいいよ」

 白先生はマグカップ片手にゆっくり首を横に振った。

 その日の仕事を終えた白先生、自宅に帰るとわき目も振らずに電源を入れ、PCのキーボードをまるで腕の立つピアニストのように
激しく鳴らしていた。通販で大人用のローラーブレードを注文しようとしていた。とにかく、早く手に入れたい一心だった。

 「わたしはコレッタの王子さまになるんだっ」
 


 とあるお城にコレッタというお姫さまがいました。
 お姫さまはローラーブレードが滑れなくて困っていました。
 そこに現れたのは白王子、白馬に跨りマントを翻し駆けつけて来たのです。
  
 「よしっ。わたしと一緒に練習するんだ」
 
 お姫さまと王子は一緒にローラーブレードの練習をしました。
 そして、お姫さまはついにすいすいと滑ることが出来るようになったのでした。

 めでたし、めでたし。



 白先生は生徒に見せてしまったら、末代までの恥になるような顔をして『即日配送』のボタンを連打していた。

 コレッタはというと学校が終わるとすぐに公園へ走り、一人で上手に滑る練習をしている。
 いつもの公園の遊歩道、目の前をジョギングする人々が通り過ぎる。池の向こう側には流れる雲。ほとりの親水広場では
小さな子たちがきゃっきゃと裸足になって、汚れない太ももを濡れしていた。茂る草木がまだまだ深い。
 ベンチに腰掛けて普段履いているズックを恐る恐る脱いで、パステルカラーのローラーブレードに履き替える。 
硬いプラスチックの靴の中、指をもぞもぞと動かしてなんとなくむず痒い。バックルを留めるとかかとで地面を叩いてみた。
ガラガラとローラーが廻る音が聞こえる。ただ、それだけでもコレッタは「上手に滑れるニャ」と皮算用をしちゃう自信があふれる。
 両肘、両膝にプロテクターをマジックテープでかっちりと固めると、大層なことではないが儀式のようなものを感じる。
ローラーブレードとおそろいなピンクのプロテクターがあざやかに緑の中に映える。

664ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:32:20 ID:SqTnCTAA0
 「ニャ!」

 脚がハの字に広がって両手が空中をかき乱す。尻尾がピンと立ち、コレッタはしりもち付いた。痛いというより恥ずかしい。
よくよく周りを見れば自分と同い年ぐらいの子がすいすいとローラーブレードを履いて気持ちよさそうに滑走しているではないか。
それどころか明らかに年下の子の姿も見える。コレッタはしりもちの状態そのままから立ち上がろうとして、再びしりもちついた。
 どうしてあんな見栄を張ったんだろうニャ。にひひと笑うクロとミケの顔がぼんやりとコレッタの目に浮かぶ。

 コレッタは自分のことを笑われているわけではないのに、周りの子たちの笑い声が気になって気になってぶんぶんと首を振った。
いっそのことあの子たちにネコじゃらしをぽいーっと投げつけちゃえニャ!と爪を立てる。その子たちに混じってぽつんと大きな影が。

 「……今、わたしが手を出すのは得策ではないな」

 はやる気持ちを抑えて、揺れる尻尾を我慢して。
 三十路のネコが木陰からこぶしを握っていた。普段は保健室のおば……おねえさんの白先生を押し込める。

 しかし、デジカメでも持って来ればよかったかなと、ちょっぴり後悔する。
 いや。そんなよこしまな考えはよくない。いっしょにコレッタと公園の周りで風になるんだ。
 白先生は注文していたローラーブレードが届くのを首を長くして待っていたのだった。

 コレッタが転んでは膝で立ち上がり……を繰り返していた。

 翌日、コレッタは学園の廊下でもローラーブレードを履いたつもりになっていた。
 両手をぶんぶんと振って歩く姿は奇妙だった。それをからかうクロやミケに、コレッタはぷいーっと尻尾を膨らませる。
 
 コレッタが二人をしかとして奇妙な行進を続けていると、目の前にゆらゆらと揺れる白くて大きなネコじゃらしが現れた。
 あまりにも気持ちよさそうに揺れるので、コレッタは我を忘れて飛びついた。だが、それはネコじゃらしではないぞ、尻尾だ。

 「ご、ごめんなさいニャ!」
 「……」
 「ヒカルくんの尻尾が」

 白いイヌの高等部の少年、犬上ヒカル。イヌの大きな尻尾を見紛って、本気で飛びついたことを謝るコレッタは
尻尾の持ち主の少年にことの成り行きを話した。彼はちょっと考えた末、コレッタの頭をぽんと撫でる。
 
 「じゃあ、一緒に練習する?」

665ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:32:52 ID:SqTnCTAA0
   #

 午後の公園では、コレッタがローラーブレードを履いて芝生の上を歩いていた。
 ヒカルが言うには歩くことから慣れるのがよいらしい。なるべく両手を振らず、しっかりと前に進む。

 「ほら、尻尾でバランスをとりながら」
 「うん。わかったニャ」

 転ばずにローラーブレードを履いて前に進んでいる感覚がコレッタには力になる。先導をするようにヒカルはゆっくりと
歩いてゆくと、コレッタがヒカルの尻尾を追いかける。学校での廊下を思い出しながら。

 きょうも公園に来ていた白先生はブランコを揺らしながらコレッタとヒカルに見つからないように見守っていた。白先生の元には
未だ商品が届かない。一人暮らしだから、不在時到着のビラが待ち遠しい。しかし、一人でオトナが公園のブランコに乗っている
なんてまるで昭和時代の映画のワンシーンを思い出すではないか。空は晴れているけれど、悲壮感さえ漂う。

 何日か芝生の上での練習を繰り返すうちに、コレッタはこつを掴んできた。そのうち硬い遊歩道の上でも滑れるようになってきた。

 「ヒカルくん!ちょっと滑れるようになったニャ!」

 しかし、コレッタの声が明るければ明るいほど、ヒカルは一抹の不安をぬぐい捨てることができなかった。

 (クロやミケの方がコレッタよりレベルを上げているんじゃなかろうか)

 嫌な予感ほど良く当たる。よちよちと滑るというより転がすと言った方が近いコレッタのスケーティングを横目に
クロとミケが風のように滑走していったのだ。コレッタと色違いの物を足に固めたクロの姿がコレッタの瞳を潤ませる。

 コレッタとヒカルが帰ったので、白先生も帰宅すると自宅マンションの扉に『不在時到着のお知らせ』のビラが挟まっているのを
発見した。白先生は思わずにやけながら目に留まらぬぐらいの携帯のキータッチで、担当ドライバーへ在宅してますの一報を伝えた。

 やった!遂に手に入れた!
 明日はローラーブレードデビューの日。とりあえず、体を休めるようと白先生は床に就いた。
 枕元には届いたばかりの通販の箱がそっと置かれていた。

    #

 両肘、両膝、手のひらにプロテクターを付けて、足元は新品のローラーブレード。多少値の張る大人用だ。
このくらいの贅沢は……。いかにも『かたちから入る素人』を絵に描いたような白先生の姿は、どう見てもへっぴり腰だった。
せっかくのローラーブレードデビュー。仕事が終わるのを待ちわびて、これから遊歩道の風になるんだと、白先生は息巻いていた。が。

 「どうした?コレッタ?何できょうは滑らないんだ」

 コレッタはローラーブレードを履いていなかった。

 「これじゃ、わたしがおばかさんみたいじゃないか!」
 
 白先生は立ち木にしがみつき爪を立てて、ずるずるとローラーで滑り行く体を必死に立て直そうとしていた。

666ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:33:20 ID:SqTnCTAA0
 ベンチにちょこんと座り、ミケやクロが気持ちよさそうに滑走している姿を眺めていたコレッタは、ペタン!ペタン!と、
尻尾を大きく上下に動かしてベンチを叩いていた。同じベンチには間を空けてヒカルが文庫本を読んでいる。ふと見上げると、
空にはうろこ雲で埋め尽くされて遠くまで続いていた。まるで氷漬けの水面を底から見上げているような色合いだったが、
ヒカルはコレッタに空のことでお話しするようなことはしなかった。コレッタをそっとして置きたかったからだ。
 コレッタの尻尾がヒカルの大きな尻尾を叩くので、ヒカルは気になって仕方がなかったが、コレッタをそっとしてあげたかった。
あまり応援しようとすると逆効果になるかもしれないと、ヒカルは悟ったからである。結局その日はコレッタは帰ってしまった。

    #

 悔しくて、悔しくて。
 コレッタはその晩、きょうは一度も履かなかったローラーブレードを両腕で抱きかかえ、自室のベッドの隅っこで
縮こまり、涙を溜めていた。ピカピカだったピンクのローラーブレードも、いつも間にやら細かい傷が増えていた。

 「もっと早く滑れるようになりたいニャ」

 惨めで、惨めで。
 白先生はその晩、きょう初めて履いたローラーブレードを両足にはめて、公園の遊歩道の隅っこでしりもちつきながら
涙を溜めていた。つや消しブラックの膝当ても、たった半日で細かい傷が増えていた。

 「コレッタに……教えてやるんだ。いてててて」

    #

 ヒカルとコレッタが公園に来始めてから一週間。
 コレッタはしっかりとローラーブレードを履いて公園のベンチに座っていた。

 「滑らないの?」
 「うん……ニャ」

 元気の無い会話をヒカルは続け、コレッタの前に立った。
 後ろ手を組んで、俯き加減のコレッタをじっと見つめているとヒカルの背後からねこじゃらしがゆっくり顔を出してきた。
気づかれないように、気づかれないように……かっちえりと固めた脚をぶらぶらとさせているコレッタはヒカルに胸のうちを開ける。

 「コレッタね。きのうのよる一人で考えてたんだニャ。ミケやクロに追い抜かされてくやしいニャって。でもお母さんが
  『コレッタちゃんのできることだけやればいいのよ』って言うから、きょうは履いてみたニャね」

 ヒカルはコレッタの話を聞きながら、ゆっくり後ろ手でねこじゃらしをコレッタに見えるよう、見つからぬよう傾けた。

 「かけっこも逆上がりもコレッタは苦手だから、ちゃんとすべれるかわからなかったニャ。でも、ヒカルくんといっしょだから
  コレッタもすべれるようになったニャ。なのに……きょうはいまいち……ニャ?」

 コレッタがヒカルの背後から覗いていたねこじゃらしに気づくと不思議と一瞬で消えた。きょとんとするコレッタは目を丸くする。

 「なんだろう。一瞬ねこじゃらしが見えたような……。でね」

 ヒカルはコレッタの話を聞きながら、再びゆっくり後ろ手でねこじゃらしをコレッタに見えるよう、見つからぬよう傾けた。

 「ヒカルくんがおうえんしてくるから……ニャ?!」
 
 コレッタがヒカルの背後から覗いていたねこじゃらしに気づくとまたもや不思議と一瞬で消えた。コレッタは爪を見せ隠し。
 ヒカルが尻尾のようにねこじゃらしをぴくぴく背後で動かしているうちに、コレッタはおもわず飛びついてしまった。
まだ、滑ることが出来なかった頃のコレッタがヒカルの尻尾に飛びついたときの再現のように。

667ババアとローラーブレード ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:33:51 ID:SqTnCTAA0
 「滑れるね、うん」
 「うん……。滑れるニャ」
 「よしっ」

 たった一言ヒカルがかけた言葉がコレッタには救いになった。

 コレッタとローラーブレードを滑りたい一身の白先生はというと、その日も公園にやって来ていた。
しかし、無様な格好を晒すぐらいなら一人で練習してみせると、自分にはっぱをかけて何度も転んで起き上がっていた。
 
 「わたしはコレッタの王子さまに……なるんだっ」
 

 とあるお城にコレッタというお姫さまがいました。
 お姫さまはローラーブレードが滑れなくて困っていました。
 そこに現れたのは白王子、白馬に跨りマントを翻し駆けつけて来たのです……が。
  
 「きもちいいニャ!」
 
 お姫さまの背中から真っ白い羽根が生えて、青い空を飛び回っているではありませんか。
 王子さまを見下ろしながら、お姫さまはどこかへと飛んでいってしまいました。

 めでたし、めでたし。
 

 風のように滑ってゆくコレッタと側を歩くヒカルは、行く先に白先生がローラーブレードで滑っているのを目撃した。
 滑るというより、しゃがんだまま両手と尻尾でバランスを取りながら、白先生はローラーブレードを乗せられてころころとやって来た。
それ以前に体中が痛いらしい。三十路の手習いの厳しさを身をもって知った白先生に近づくのは、今は危険。コレッタは
くるりと長い金色の髪をなびかせてUターンを白先生に見せ付けた。遠くで誰も乗っていないブランコが揺れている。

 「白先生……」
 「い、いいや!違うんだ、犬上。ホントは上手く滑れるんだ!ちょっと立てなくなっただけだ!久しぶりだから……」

 傷だらけのローラーブレードとプロテクターの割には、ちょっと新しくも見える。ヒカルは敢えてスルーした。
 後姿で振り返るコレッタは尻尾でバランスを上手く取りながら、白先生へ微笑みの激励を贈る。 

 「興味ないって言ってたのに……やっぱり白先生も滑りたかったニャね!コレッタがすべり方を教えてあげるニャ!」

 白先生はにこりと笑うコレッタを及び腰のまま、見上げるだけだった。


   おしまい。

668わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/10/07(金) 23:35:19 ID:SqTnCTAA0
かわいいババア大好きだ!投下おしまい!

669名無しさん@避難中:2011/10/08(土) 05:25:00 ID:COhxFUPg0
かわいいババァとな

670名無しさん@避難中:2011/10/10(月) 03:27:21 ID:6G8mOgM6O
ババアの年齢でローラーブレードは厳しいなw

671名無しさん@避難中:2011/10/12(水) 22:57:27 ID:K9lk6qEw0
ババァとローラーブレードを滑れる権利。
何万でも積んでも買う!   え?

672名無しさん@避難中:2011/12/29(木) 01:49:22 ID:nt/mxIAwC
age

673名無しさん@避難中:2012/02/23(木) 23:36:49 ID:UJJp59ys0
ちこくですが。ぬこぽ
http://loda.jp/mitemite/?id=2822.png

674名無しさん@避難中:2012/02/24(金) 00:01:38 ID:0.6OOYz.0
にゃっ

可愛い!

675名無しさん@避難中:2012/02/26(日) 14:42:40 ID:.yk3YoV2O
ケモ小トリオかわええええ
撫でくりまわしたい

676名無しさん@避難中:2012/02/26(日) 16:29:16 ID:RIK3zB5w0
かわええ…!

677わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:12:27 ID:NPwG9r.Y0
原案:a氏。

678言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:13:16 ID:NPwG9r.Y0

 例えば、勇者が姫を救うとしよう。

 薄暗い牢に幽閉されて、自由の翼をもがれた若い姫。輝くブロンドの髪も時間と孤独でくすみ、白い肌も煤けてしまった。
 姫の命は邪悪なるドラゴンの手の平。ヤツが牙を剥けば姫の命は吹き消され、勇者がヤツに剣を薙げば姫の命は吹き返す。

 しかし、運命は数奇なもの。ドラゴンの正体が勇者が幼い頃から恋焦がれた、初恋の人だったらどうするか。
それは、永遠の憧れ。どんな山奥、海底に挑んでも見つけることの出来ないような、大事な大事な勇者だけへのかけがえのない想い。

 勇者は悩む。
 勇者とて悩む。

 悩みの無い者なんぞ、信用など出来ぬ。

 三十路の独身写真家、淺川・トランジット・シャルヒャーという男は、この勇者の気持ちが十分に理解できるはずだ。

     #

 「女の子にごちそうするのは楽しいでしょう。ね」
 「だから、おれが決めた人は、杉本さんだけだからな」
 「だーれ?」
 「おれがこの街でお世話になってるバイク屋さんの娘。プロフェッショナルなんだぜ」

 成り行きとはいえ、ハルコを部屋に上げた時点で間違いの始まりだったかもしれない。
 そんな男を尻目にハルコは、淺川が買い溜めしていた缶ビールを心底美味しそうに飲み干す。

 誰が呼んだか、小悪魔ハルコ。

 「女子の仕事は男子を困らせること。男子の仕事は女子を楽しませること……なんてね」

 ハルコの酔いが大分深くなってきた。不肖・淺川も一介の男子、小娘のほしいままにされたくはない。おれにはミナさんが
いるではないか。一目惚れも腐れ縁も、結局は同じなのだろうか。たまたま、ミナとの出会いが一目惚れだっただけし。
そして、まだまだ長い一方通行を通り抜けてないだけ。淺川もただの男子じゃないか……と、ビールを一口。
 虚ろな瞳を潤ませたハルコは、淺川の缶を引ったくり、コンと自分の缶と並べて置いた。奥のつまみを取ろうとハルコが手を
伸ばすと、不注意に缶を倒してしまった。淺川はぶつぶつと大量のティッシュでビール塗れのテーブルを拭くが、何枚も使ううちに
とうとう紙切れになってしまった。慌てることの無いハルコは丸くなったティッシュの束を掴む淺川の指先をじっと見ていた。

 「トランジット。爪が伸びてるねえ」
 「切る暇が無いんだよ」
 「今すぐ、切る?」
 「夜爪はやめとく」
 「インターネットの時代に迷信ですかあ?口笛吹こうかなあ?」
 「おいこらやめろ」

 夜は更けて、朝が参る。

 付き合っているという訳ではないが、他人という訳でもない。
 見知らぬ娘だという訳ではないが、そんなに深くは知っていない。
 振り回されてはいないけど、突き放すつもりはない。

 誰かと誰かがいつの間にかに互いに関わって、街を育て、地球を回す。
 それを思えば、ちょっとしたきっかけで出会ったハルコとの関係は、不思議ではないじゃないか。

 そして、一晩。色気ない夜空を共有してしまった。ティッシュの箱は淺川が使って空のまま、部屋で静かに腰を下ろす。

679言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:13:54 ID:NPwG9r.Y0

 ハルコという娘は淺川からすれば飼い猫に近い。人懐こい猫だ。にゃーにゃーと猫撫で声で三十路男をたぶらかすハルコは、
淺川のキッチンの冷蔵庫を勝手に開けて、じっと中腰で眺めていた。ひんやりとした冷気が逃げてゆく姿をみすみす許す。
 ただし、温まって困るものはなし。両者ねぼけまなこで、誰しもが過ごす夜を忘れようとしていた。

 「ろくなものがありません」
 「久し振りにここに帰ってきたばかりだからな。ってか、勝手に開けんな」
 「ホントにろくなものがありませんね」
 「お前のせいでもあるけどな」
 「トランジットと飲んだビール、わたしには苦い思い出になるのでしょうか。トランジットと食べたキュウリの鷹の爪炒め、
  わたしには辛い過去として刻まれてしまうのでしょうか。オトナになるって、心がずきずきします」

 ぱたりと軽い冷蔵庫の扉を閉めると、ハルコの顔は暗く陰になった。明るい髪のハルコには似合わない暗さだった。

 「お腹が減りました」
 「口減らず」

 とにかく朝を迎えてしまった。開いたビールの缶の中、何度も何度も水道ですすぎ続ける淺川も腹の中だけはハルコと同じだ。
 ひとつ、またひとつ缶をすすぎ続け、水をきる。缶を台に置く音は独り者の淺川には聞き慣れたもの。ただ、水がシンクを打つ音は、
いつまでたっても寂しさを演出するものだと、淺川は耳を塞ぎたくなった。ハルコのわがままのほかに耳にしたく無いものがあるとは。
 減らず口の娘が大人しくなったと淺川が振り向くと、ハルコはストッキングを履き始めていた。開けたばかりの黒いストッキングは
すらりとなまめかしい脚線美を淺川の部屋に描き、ハルコを少しずつ娘から女に塗りかえてゆく。

 「モーニング、行こうよ」

 最近淺川の自宅近くに出来た喫茶店。名古屋方式のモーニングセットが自慢だとか。分厚いトーストと小倉餡が合うらしい。
値段のわりのサービス振りが人気を呼んでいるらしい。ハルコの琴線に触ったのか、やたらとそこに行きたがる。

 「あ……。ハルコ。悪りい、来客?」
 「うそばっか」

 踵を返した淺川は、ハルコをリビングに置き去りにして、玄関を飛び出した。頬を膨らませながら
ハルコはともに一夜を過ごしたハンドバッグをひょいと拾うと、ぶっきらぼうにぶらぶらと揺らしていた。

 淺川は来客者のいない玄関にて、バイク屋の娘・杉本ミナと通話していた。
ミナからの着信はいきなりだ。だから女の子は……、と深いため息。寸分の隙をハルコに嗅ぎ取られたくはない。
 決してやましいことはないはずだけど、淺川のミナへの想いをハルコに掻き乱されたくはないから。
 ミナからの話は「頼まれていたバイクのタイヤ交換が終わった」という、実に事務的なもの。
淺川には彩りが乏しいと見えたのか、色彩あふれるトークの花畑へとミナを誘った。淺川はそういう男。

 「いやあ。この街に帰ってから初めて電話をよこしてくれた子が杉本さんだとは嬉しい限り!」
 「うそばっかり」
 「いやいや!淺川の口にはそれは似合わぬ!それにこの街に帰ってきたのは、杉本さんに会うためって言っても過言ではありませぬぞ」
 「お変わりなく、安心しました」
 「それはそうと、今度春の陽気に誘われたことを言い訳にツーリングにでも……」
 「はいはい。考えとくね」
 
 台所でハルコが携帯を弄る姿が暖簾越しにシルエットとなる。
 気付かれないように玄関の扉を開けて、こっそり履き潰しかけた靴に足を入れ、マンションの廊下で通話を続ける。

680言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:14:26 ID:NPwG9r.Y0

 「夕方、店まで取りに行く」と淺川がぼそぼそ声でミナに断りを入れて電話を切った。リビングに戻るとで淺川を待つハルコは
自分の髪を消えたテレビに映しながら弄っていた。従者に待たされたわがまま姫はひとつあくびをした。

 「お客さんは?」

 淺川にハルコは上目遣いで絡んでくる。淺川はぶっきらぼうに「マンションの自治会。うるさくて返した」と、とぼけ返して、
再び途中やめのビールの缶洗いを始めた。水道の水がシンクを叩く音が二人を邪魔する。 

 「トランジットくん、教えてあげよっか……新しい街のこと」
 「生意気に」

 しばらくこの街を離れていた淺川は、久し振りに街と顔をあわせることにした。ビールの缶を洗い終えると、ハルコも
同時に出掛ける支度を終えていた。短いパンツからすらりと若い足が伸び、店じまい間近いダウンジャケットを羽織るハルコは、
朝の景色には何故か眩しい。一介の男子、女子のお願いはとりあえず叶えることに。

 「淺川くんのバイクで行かない?ニケツしたいな」
 「おれのバイクは今、修理に出してるし」

 外に出られる程度の身支度をして、淺川は適当な返事を返した。適当な返事の罰か、午前の光が目に厳しかった。

 ハルコはハルコでピカピカのハンドバッグ片手でブーツの踵を鳴らし、淺川は淺川で財布を擦り切れたGパンのポケットに
突っ込んだだけのお気楽スタイルでスニーカーで後を追う。ハルコのバッグは自分自身のバイト代で手に入れた、最近流行りの
ブランド物。ハルコの手には正直眩しすぎる。揃ってマンションの玄関を潜る休日の午前の光。

     #

 ばかでかいバイクをトラックの荷台に乗せる手間が省けたと、ミナはにやにやと淺川の愛車に腰掛けて缶コーヒーを飲んでいた。
 淺川のバイクはでかい。排気量だって、並の乗用車程だ。ミナにはさすがに扱えないが、こんな城のような黒馬に跨がるだけでも、
淺川と同じ気持ちを感じることができるじゃないかと気をよくしていた。
 残ったコーヒーを一気に飲み干すとミナはバイクからぴょこんと飛び降りた。たった数センチでも空を飛んだ気分。
空を飛ぶこと、バイクで道を駆け抜けることはなんだか似ている感じがミナをちょっとくすぐった。
 真新しいタイヤを履いた淺川のバイクはガレージの中で休みながら、今か今かと外を走るときを待っていた。
まるで、新しい靴を買ってもらったこどものように。

 「そういえば、学校で新しい靴を履いてきた子って、必ず誰かから靴を踏まれてたよねー」

 にやりと歯を見せたミナは、つま先が擦り切れたエンジニアブーツで、泥さえ付いてもいない前輪のタイヤをぽんと蹴った。

 ミナの家はバイク屋だ。だから店先は油の匂いがする。お年頃の女の子が飛び込むには、ちょっと不釣合いと思われるかもしれないが
それを物ともせずにすすんで油塗れになれるミナ。根っから店先に並んだ鉄の馬たちが好きなんだろう。
 この店を訪ねてきた少年は、そう思っていた。

 「どうする?お昼過ぎには終わると思うけど」 
 「それでは、お昼過ぎ頃伺います」

 修理が必要になった自転車をミナが店先で預かると、自転車の持ち主である少年は軽く会釈した。
 少年はトートバッグを肩に掛けると、重さでよろめきがかった。くすっとミナは白い歯を見せる。

 「重い?」

 ミナの問いかけに少年は頬を赤らめる。

 「本なんです。全部」
 「そりゃ、重いね」

681言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:14:55 ID:NPwG9r.Y0

 いくら本好きでも、持ち帰るのに閉口してしまう本の束。
 大分古い本だからか、ハードカバーのものばかり。バイク屋にいるはずなのに、何故か古書店へと迷い込んだような匂い。

 「こうして母から怒られるんです」
 「ヒカルくんが?」
 「父がです」

 あぶく銭が出来たので、馴染みの店に頼んで古本をたくさん取り寄せてもらった。だが、所用で受け取りに行けないので、
息子にそれを頼んだ。こどものような父親にヒカルは一肌脱いで、古本を受けとって自転車で帰宅していた途中のこと。

 「嫌なときにパンクしちゃったね」
 「自転車は直るから……。でも、父の無駄遣いの性格は治らないかも」

 ヒカルはミナに促されて店に並んだバイクに腰掛けると、タンクの上に本いっぱいのバッグを下ろした。
一冊取り出してページをめくる。時代を越えた独特の匂いが紙と紙との間からした。

 「そして、母に言い訳するんですよ。『ほら!ぼくの使ったお金で、誰かが潤うし』とか『お金を本に変えないと、
  他のことに使っちゃうし』とか。オトナのくせにコドモじゃないですか」

 ヒカルは本を大切そうに、また一ページめくる。
 ミナはもしかして、ヒカルのページを捲る癖は父親譲りなのではないのかと、余計な邪推をしていた。

 「何言っても母から『無駄遣いばっかりして、ウチを図書館にするつもり?』って怒られるだけなのに。杉本さん……」
 「ミナでいいよ!」
 「……ミナさん。どうして、すぐオトナは言い訳しちゃうんですか?」

 とある男子高校生の質問に、ミナはしばらく考えるふりをした。
 誰かと付き合ったことが無いわけでないから、何度かそんな状況に出会ったし、ヒカルの質問にも納得がいく。
デートの遅刻、分かりやすいウソ。そして、裏切られたときのこと……。いちいち丸く治めようとするからそうなるのだ。
だから……いっそ、壊してしまえ。分かりやすいじゃないの。ミナは少年の前では言葉にはしなかった。

 その代わり、「どうしてだろうね?」と、一言でヒカルの疑問をなだめた。

 昼過ぎに店に来ることを約束してヒカルが店を出ると、ミナは重そうにトートバッグを肩に掛ける少年を呼び止めた。

 「送ってこか?」
 「近いし、大丈夫ですよ」

 恐縮するヒカルは迷惑をかけたくないと、徒歩で帰宅することを選んだ。

 ヒカルが去った店内は、不思議と油の匂いが戻ってくる。
 バイク屋だから当たり前だけど、ヒカルがいたときは油の匂いを忘れていたような勘違い。
 ミナは思い出したかのように、ブーツのつま先が擦れているのに気付いた。

 だって、自分はバイク乗り。女の子したいけど、バイク乗りの性格がついつい、言い訳。

     #

 「お出かけ辞めましょう。ここにチョコがあるのを見つけました」

 玄関ではなく、何故かリビング。ハルコはお出かけ着のままチョコ粒のお菓子を手にして目を輝かせていた。
 甘いものさえあれば、それでいい。わがまま姫は従者を振り回すのがお仕事。タバコ箱大のお菓子はきれいにビニルに包まれたまま。
パッケージの鳥の絵が淺川が幼いころのときから変わらずに描かれている安定感。ハルコが箱を振ると中でチョコがぶつかる音が聞こえる。

 「ったく……。出ねーの?出んの?」
 「それより、これ頂戴」

 ややこしいことになるのは勘弁。淺川としてはこのまま外出して、うやむやにしながらハルコを家に帰し、ミナの元へとバイクを
引き取りに行きたい寸法だ。だが、自分が買ってきておいたとはいえハルコがトラップに引っかかってしまったのは、想定の範囲外。
 とりあえず、淺川はすんあんりとチョコのお菓子をハルコにあげることにした。

682言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:15:31 ID:NPwG9r.Y0

 「呑んだ後の甘いものは、デートの後のキスみたいなものだね」
 「さっさと食えよ」
 「いただきまっす」

 ビニルを破り、箱の小さな明け口を開けるところころとチョコの粒が転がる。手の平にニ、三個、茶色い球体が楕円を描く。
ひょいよ口に含み奥歯で甘みと苦味を噛み締めているハルコは今までと打って変わって大人しい。淺川にもお菓子を勧める。

 「おれはいいよ」
 「おいしいですけど」
 
 ハルコがダウンを羽織ったまま、ソファーに腰掛けてハンドバッグをクッションに投げると淺川は肩を落とした。

 「わたし、お昼からバイトがあるんだよね」
 「じゃあ、帰れよ」
 「腹が減ってはなんとやら」

 ぼりぼりとチョコを食べ続けるハルコはすらりと脚を真っ直ぐに伸ばした。足の指先が気持ちよさそうに反り返る。
 冷蔵庫から麦茶の容器を取り出した淺川は一人でコップに注いでいた。

 「食わざるもの、働くべからず」
 「なんだよ、それ。間違ってねーか?」

 ハルコは箱を持つ手を止めて目を見開いた。箱の明け口が鳥のくちばしのようにデザインされて、飛び出たその部分には
きらりと光るもの。ハルコの視線を奪ったのはソイツだ。

 「あたりです」
 「だからさ……。『働かざるもの、食うべからず』じゃね?普通」
 「だから、あたりです。トランジット。お出かけしましょう」
 「え?なんで?」
 「ですから『あたり』です。なんか……当たっちゃったみたいなの。これをもっていけば、もう一つお菓子がもらえるんだよねー」

 自慢するようにハルコは『あたり』の文字を淺川にかざすと、ソファーからすっと立ち上がりハンドバックを再び手にした。
 だから、わがまま姫は!
 麦茶を吹いてシャツを濡らしてしまう大失態。

 「わたし、先に出てるからねー。マンションの玄関で待ってる」

 姫のお出かけだ。従者は後を守るようについて行け。ほら、玄関のスチール製の扉が閉まる音がしたぞ。
 だが……。折角のシャツ、びしょびしょにしてしまい、淺川、しょんぼり。 

 明るく長い髪がガラス扉に映り、ぼんやりと浮かび上がる姿をハルコは結構気に入っていた。
 まもなくおさらばする早春の装い。手元のハンドバッグもぴかぴかに、足元のブーツもかっちりと。すらりと伸びた
黒ストッキングの脚は街の誰しも釘付けに出来る自信はあるんだよ、とハルコは頬を赤らめて明るい髪を気にしていた。
 ふと、一台のバイクが玄関先に止まる。ちょっと昔っぽいデザイン。跨がっているのは、ハルコより少し年上の女性。
ヘルメットを脱いでタンクの上に置くと、彼女は真っ先に髪の乱れを気にしていた。

683言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:16:05 ID:NPwG9r.Y0

 (確か、ここのマンションって淺川くん)

 ちょっと綺麗な玄関先で若い娘が立っているのは絵になるな……。ミナは名の知らぬ娘をじっと見ていた。

 彼女を呼び止めるようにマンションの中から飛び出してきた男の声は誰だ。バイクの女性は、思わずにんまりと頬を緩める。

 「ハルコ、待たせた!!」
 「ごちそうさまーっす。トランジット」

 シャツを着替えてジャケットを羽織った淺川は姫の待つマンションの玄関へと走った。
 無邪気に敬礼をするハルコの背後に杉本ミナを発見した淺川は、ミナの朝焼けにも似た笑顔が怖かった。

 人生に『モテ期』があるのなら、何かと引き換えにしなければならない。ただほど高いものは無いのだから。

     #

 「ちょうど、淺川くんとお話がしたかったんだよね」
 「さいですか……」
 「それに、わたしもこのお店に行ってみたかったんだよね」
 「はあ」
 「木目がきれいだよね」

 最近出来た喫茶店。
 名古屋方式のモーニングが自慢。
 安く、がっつりと朝食を頂ける喫茶店。分厚いトーストは気前良し、あっさり小倉餡は品が良し。
 古風なインテリアが客を落ち着いた空間へと惑わせる。

 ハルコもミナも行ってみたいというから、淺川はただそのお供をしただけだ。

 しかし、淺川にはここが陪審員が囲み、二人の怒れるケモノたちが牙を剥く法廷にしか思えなかった。

 「ハルコ、変なことしゃべるなよ」

 天井から吊り下げられた品のよい電灯をじっと見つめるハルコは、淺川の願い事を上の空にいるかのように聞いて片手を挙げた。
 気まずそうな顔をして、ウェイトレスが注文したモーニングを持ってくるので、淺川は「ありがとう」と彼女に小さく呟いた。
名札には『研修中』の言い訳じみた三文字が並ぶ。淺川はそんな世間を知らぬ若葉ちゃんにはめっぽう弱かったのだ。
 淺川の言動にミナは、出されたばかりのコーヒーを飲むふりをして抑えた。

 さて、お話はこれから。

 この場面をどう説明しようものか、どうやって乗り切ろうものか淺川は崖っぷち。
 
 勇者ならどうする。
 剣を振るのか。
 盾で身を固めるのか。

 血で体を汚す覚悟は出来ているのか。

 それとも……何もかもなぎ捨てて、ドラゴンにひれ伏すのか。

 果たして……淺川は勇者なのか。

 言葉。

 知恵。

 守るべきもの。

684言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:16:34 ID:NPwG9r.Y0

 そして、誰も傷つけたくないという思い。

 それが淺川を動かした。

 「見ていてあんまりかわいそうだったから、ぼくが手を差し延べただけでやましい気持ちなど一切ない!ほらほらほら!
  気持ちがぼくを駆り立てたんだ!だって、女の子一人きりで夜中を歩かせらんないし!そこに現れたのがおれだっつーの!
  小さい頃、見たり読んだりしていたヒーローだね!この世に生きとし生ける男子らに埋もれ密かに潜在するという
  『ぼくが救わなきゃ、この子泣いちゃうからなんとかしなきゃ』的な王子様的な指命を与えられて遂行していたんだけだし!
  英雄譚をぼくらは受け継いで行かなきゃならないんだと思うんだ!」
 「何も聞いてないのに」

 ハルコはコーヒーを口に含みながら、淺川の横で淺川の返事をふんふんと聞いていた。
 土壇場に追い詰められた演説を聞きながら、机に両肘付いて両方の人差し指をくるくると絡めながらミナは淺川に話をさせる隙を与える。

 「ミナさんをびっくりさせたのは、悪かったっす。でもでもでもでもでも、なんにもなかったんだからんですからね!
  いや、疑われしは罰せず、と言うし。言わなければ、おれを侮蔑の言葉でがんじがらめにしちゃっても構いませんし!」
 「そこまで言ってないよー」
 「なあ!なあ!ハルコ!何もなかったよな!頼む!何か言ってくれ!」

 コーヒーを飲みながらハルコは淺川の約束を守り続けた末に、コーヒーのカップを空にする自由奔放を絵にしたような子だ。
 淺川にはそれを許す余裕さえないのだというのだ。

 「言いたいことは終わりましたか」

 ミナはこどもに諭すような声で淺川に優しいパンチをお見舞い。重い一言に立ち上がる元気も出ないまま、非情のテンカウント。
 何故、言い訳などまくし立ててしまったんだ。もしかして、ありのまま、素直に話せば、それだけで済んだかもしれない。
 
 例えば、ちょっとえっちな本を買うのならば、人目を気にしてもじもじするよりも、爽やかにすっと一冊レジに差し出す。
 例えば、街で外国人に話し掛けられたならば、義務教育程度だけの英語力で答えるよりも、「ごめんなさい」と日本語で断る。
 肝心なときにミスチョイス。研修中のウェイトレスが「あのー。コーヒーのおかわりは……」などと、恐る恐る話し掛けてきたが、
淺川が今必要としているものは……時間を戻せる時計だよ、と頭を抱えていた。

 研修中のウェイトレスが開いたハルコのコーヒーカップを淺川の席から引くと、不器用にも床へと墜落させてしまった。
儚くも散る陶器の華。潔い散り際を淺川の目に焼き付けた。「申し訳ございません!」と若いウェイトレスは慌てて頭を下げていた。

 (いいから、早く片付けてくれよ……)

 そんな店の緊急事態にも関わらず、マイペースなハルコはバイトがあるからと淺川とミナのもとから去ってしまった。
 「マイペース過ぎ!」という突っ込みなど尻目に、そして、もちろん「ごちそうーっす」の敬礼付きで。

 散った陶器を片付けた研修中のウェイトレスは店長の目の前で震えながら、何かをしゃべり続けていた。身振り手振り、明らかに
動揺している。彼女がしゃべればしゃべる程、事態は大きくなっているかのように見えるのだが。店長は客前だからと、彼女と共に
スタッフオンリーな店内奥へと姿を消した。まわりの客がざわつくことで、彼女にとって恥ずかしめの矢が突き刺さり続けた。

685言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:17:25 ID:NPwG9r.Y0

 (どうして、みんな言い訳するんだろう。このおれにも分からない)

 さっきまでの自分を見るようで、淺川はお茶を楽しむ余裕なく、そして刻々と時間が過ぎてゆくことに奥歯を噛み締めていた。
それを察したのかどうかは分からないが、ミナが淺川の前に立ち申し訳なさそうな顔をする。 

 「ごめんね。午後までに済ませなきゃいけない仕事があるから、お先に失礼するね」
 「あいー。杉本さんもプロフェッショナルですからね」
 「何言ってるの?写真家・淺川くんもだよ。コーヒー、ごちそうさまーっす」

 ハルコを真似てミナは全く同じ敬礼をしていた。

 勇者、ここに散る。
 剣も折れ、援軍も来ず。そして、その名を継ぐ語り部もおらず。

 一人席に取り残された淺川は、残された自分のコーヒーに口をつけた。舌を焼くような……でもない温度。

 「コーヒーよ。お前も杉本さんのように冷えきってしまったのかよ……」

 ただ、どうしようもないときこそ光差す。
 淺川のテーブルにはハルコが出掛けに食べていたチョコの空箱がわざとらしく置かれていた。

     #

 淺川を置いていった喫茶店からの帰り道、バイクが風きる音がいくらか澄んで聞こえた。
 いつも通り慣れた道なのに、ミナは不思議に感じずにいられなかった。
 今頃、地球のどこかで言い訳説明会が開かれているんだ、きっと。古本を大量に買い込んだ言い訳説明会とか……。

 どっちに転ぶか分かりきっているのにね、と記憶を掻き消すようにバイクのエンジンを吹かした。

 「そうだ。淺川くんに誘われたツーリング。計画早く立てなきゃね……」

 赤信号でバイクを止める。風を失った車体は当たり前だがミナの足で支えられた。ふと、ミナにはまくし立てていたときの淺川の姿と、
自分が跨がっているバイクが重なって見えた。

     #

 いくら約束とはいえ、自分のバイクを引き取りに行くのがちょっと怖かった。
 淺川が夕方にミナの店にやってきたときには、一人っきりの自由さと寂しさが一気にはちきれそうだった。
 ここまでの足取りがどんなに遠かったことか。下りエスカレーターを逆に登りで歩くような感覚に近い。

686言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:17:58 ID:NPwG9r.Y0

 「来たね。淺川くん」
 「来ました。では……」

 ぶらぶらと灰色のヘルメットを片手にぶら下げて、まだまだ明るい夕方に光を受ける淺川。引き取りに来るのを待っている
何台かのバイクや自転車がガレージで休む。バイクだけ引き取って家に帰ろうとすると、ミナは引き止めようとしてポンと肩を叩く。

 驚いたのは淺川の方だった。

 「ねえ。あの子」
 「ハルコのことですか。もう……いいんですよ」
 「あの子、かわいいね」
 「そうですか」
 「ホントに昨日の晩のあの子と淺川くん、何にも無い関係だったんだから……あの子を優しくしてあげてね」

 何にも無い関係?何故にその言葉を。
 ガレージからバイクを押して出して、跨りながら淺川はミナの方へと振り返ると、ミナは淺川のバイクのタイヤを蹴っていた。
 灰色のヘルメットを被り、皮製のグローブをはめようとしたときと合わせるようにミナは言葉を続けた。

 「だって、淺川くん。爪切ってないじゃないの。ね」

 指先を見る。昨晩ハルコに指摘されたように、爪が伸びっぱなしだった。確かに、伸びっぱなしの爪では……。ないな。
 夜爪をしなくて……、救われた。のかと、淺川はグローブをはめて指先を隠し、エンジンをかけた。
 久し振りに聞く相棒の快音は腹から痺れるように効く。スロットルを回すごとに、重低音が響き渡る瞬間が淺川は好きだ。
 
 「ごめんなさい!遅くなりました!」

 二人に割って飛び込んできたの少年が息を切らしてミナの元へとやって来た。
 午前中、パンク修理を依頼していたヒカルだった。申し訳なさそうな顔をして、何度も何度も頭を下げるヒカルをミナはなだめていた。
ミナは「そのくらい、いいよ。保管料はサービスだから」と春一番のように笑顔を見せた。

 「あのー。えっと……父が買ってきた古本を読んでたら、つい……止まらなく……」
 「こらっ」

 ミナは子供のように、にこにことヒカルの足をブーツで意地悪く踏んだ。ヒカルは驚いていたが、淺川には懐かしいものを
見たようでにんまりと頬が緩んでしまい、二人のためにエンジンの音を緩めた。ヒカルの靴は真新しかったのだ。

 「まあまあ。少年よ、これで堪忍な。おれも男子だからさ……何となく分かるって」

 ただ同然で手に入れたチョコのお菓子の小箱を淺川はヒカルに投げ渡した。


    おしまい。

687わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:18:36 ID:NPwG9r.Y0
投下おしまいです。

688名無しさん@避難中:2012/03/26(月) 13:20:38 ID:FZTmX/GQ0
>>687
投下乙です。ほっこりしました

689わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:44:09 ID:yj1R3LVs0
書きたかったから、書きました!

ちょっと前のネタだけど、どうして使いたかったーのだ。

元ネタ
http://www.felissimo.co.jp/kraso/v14/cfm/products_detail001.cfm?GCD=412333&amp;GWK=79690

はじまるよ!

690ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:44:50 ID:yj1R3LVs0

 「目上の人に靴下贈っちゃいけないんだよね」

 電車の中で向かいの席に腰掛ける女子高生の会話を小耳に挟んだ芹沢タスク、彼は肝を潰した。
 揃えられた脚を包む春の日差しを浴びた紺のハイソックスが並び、中学生であるタスクのウブな視線を掴んで離さない。
 はちきれそうな脚にぴったりと締め付ける紺ハイ。靴下との境目からはみ出るふくらはぎがタスクの青い妄想を掻き立てて、
一人もやもやとありもしない『優しい年上のお姉さん』を作りたてていた。現実なんか、クソ食らえ……と。短い電停までの
長く感じた時間が、タスクの座るシートにいばらが伸びて尻尾、脚、そして首筋をゆっくり包み込むように思えた。

 この間、姉とすったもんだの喧嘩をした。原因は言いたくない。あまりにもくだらな過ぎるからだ。口にするのも憚るものだ。
それ以降、姉と口をきくことはなくなった。もちろんタスクとして、姉との最後の言葉を「姉ちゃんの大根脚!」になんてしたくない。
 だから仲直りの印しに、姉が欲しがっていた物を買ってきた。

 忘れもしない、あの日。「まじ?ヤバすぎ!」と、姉が息巻きながら、とあるサイトをまじまじと閲覧していたのを思い出した。
 横からすっとのぞき見したときに、嗅ぎ慣れない新しいシャンプーの香りがしたのを思い出した、忘れもしない、あの日。

 「ちょーかわいくね?これ?」

 ふかふかな生地にトラ柄、そして足の裏にはネコの肉球がぷっくりとあしらえられている。
 『ネコ足靴下』はイヌの二人のハートを掴んだ。姉が座っているクッションから尻尾が伸びるように生え、
まるで噴水のようにゆらゆらと揺れるさまを横目で見ながらタスクは立ち去ったことを覚えていたからだ。
 意外とたやすく手に入れられたのはいいとして、渡すタイミングを案じていたときの出来事だった。

 「タスク。あんた、わたしより偉くなった?生涯の下僕がなにほざいてるの?」
 「知ってるよねー。そのくらい」
 「まじ、なの?」
 「蹴るよ」

 そして、姉の名の元に執行される、愛のムチ。
 弟。
 それは、姉のおもちゃでもあって。初めて出会う男子でもある。

 「って、言うか。アンタの贈り物」

 はっきりとタスクの耳には脳内再生され、モエの氷よりも冷たい言の葉が鼓膜をえぐった。
 買ったばかりのファンシーなネコ足靴下、それが入った袋をを中学生男子特有のかすれ具合よろしい通学バックにいれたまま、
タスクを知らず知らずにぐさりと突き刺した女子高生とともに人が多い電停で降りて深呼吸した。空気が美味しい。

 「どうしよっかな。女の子用だし、見つかったら……めんどーくさー!」

 多分「なにっ?彼女?会わせなさい!会わせないとひどいぞ」と自分の首を真綿で絞めることになるのは分かりきっている。
ふと、考え事をしながらリアル世界上の空で歩道を歩いていると赤信号に捕まった。すんの所で気が付いて歩道の端で
立ち止まっていると、向かいの歩道に一人の少女がランドセルの中を焦るようにまさぐっている姿を見た。
 それだけなら気にはしない。少女の面影が、何となく姉を思い出させるのだった。目の前を通り過ぎる車でたびたび遮られて、
よく見えないのがもどかしい。落ち着かないタスクはズボンのポケットに手を入れて家の合い鍵を確認した。
 イヌのキーホルダー。姉が見立ててくれたものだ。

691ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:45:23 ID:yj1R3LVs0

 姉のベージュのカーディガン姿は見慣れたもの。短いスカートから伸びる脚は大根ではなく、小学生らしい華奢なもの。
これからこの脚もむちむちとした大根へと成長するのか、そして弟がいれば他にもならない強力な武器となるのか、と思うと
いっそう姉に見えてきた。信号が変わり、横断歩道を渡り、ランドセルをまさぐる少女の側を横切ると後方から聞き覚えのある声が
追い掛けてきた。

 「タスク!わたしの『さくさくぱんだ』たべたね!」

 え?ぼくの名前?

 身におぼえのない濡れ衣に袖を通しながら振り向くと、姉のような少女がランドセルを揺らしながら追い掛けてきた。
 両腕を振って人を縫うように走る。足音と少女の声で周りの物音が掻き消された。

 「え?なに?なに?」
 「わたしの『さくさくぱんだ』を返せ!」

 訳の分からぬまま街を追い掛けられて、息を切らしてなんとか巻いて、自宅に着くと合い鍵が見つからない。
 両親は今、外出している。焦れば焦るほど探し物は姿をくらまし、タスクを嫌でも追い詰める。駄目元でドアノブを回すと……。

 「開いた?」

 なんだ、姉が先に帰っていたのかと納得しようとするも、姉の靴が見当たらない。ただあるのは小さな子供靴だった。
 不思議に思いつつ、鍵をかけ忘れるなんてなんて親だと頭の中で毒づきながら居間に足を入れると。

 「かぎまで落として、バカ兄貴!」の声とともに、横断歩道の少女がソファーの上に魔王のように立ち、真っ赤なランドセルを
鎖鎌のように振りかざしてきた。咄嗟に身を縮めたタスクの脇腹を的確にランドセルはとらえ、悶絶のご褒美が進呈された。
 ソファーに顔を埋めて苦悶するタスクの頭に少女は飛び乗る。後頭部は生暖かな体温でタスクを支配していた。

 「近道ルートはいくらでもしってるんだから。小学生の下校スキル、マジヤバだしー」
 「単語の意味、わかんない。習ってないし、辞書載ってないし。ってか。きみ、誰?」

 足をじたばたとさせながらタスクは頭の上の少女に尋ねると、当たり前のような口調で返された。

 「タスクはかわいい妹からそんなにおしおきされたいんだね」

 ひらがなの台詞回しがタスクを精神的な屈辱感を与えた。それに妹なんて知らん!し。
 ようやく姉(に似た妹と名乗る少女)から解放されると、カーペットに転がっているランドセルを拾い上げ、
ぱんぱんと優しくイヌの毛を掃っている姿が見えた。

 (なんか、見覚えがあるんだけどなあ……)

692ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:45:49 ID:yj1R3LVs0

 タスクは不思議な思いを巡らせながら自分の部屋へ入って制服から着替えた。

 目の前のものから現実逃避を試みようと友人から借りたマンガを読み出す。しかし、頭が回らないから入らない。
やがてマンガにも飽きて読むのをやめてうつ伏せに布団に沈む。自然と腰が疼き尻尾が動きに合わせて前後に動く。
 頭で考えても答えなんか出ない。そんなときゃ、体動かせ。誰の言葉か知らないけれど、タスクはベッドに転がって
友人から借りたマンガを読むよりも、外の空気を吸うことを選んだ。

 自分の部屋から出ると隣には確かに『モエの部屋』と小さな看板が添えられている。
 訝しい気持ちで居間を覗くと、制服姿の少女がソファーの上で丸くなって居眠りをしていた。カーペットに伏した
ランドセルの上にはタスクが無くしたと思っていた合い鍵が乗っており、拾い上げてポケットへと無造作に入れた。

 「姉ちゃんの、大根。大根脚……って、また言いたいな」

 イヌのキーホルダーが付いていたから……間違えはないんだよ、と。

 「タスク……ケーキ、買ってきてよお。コンビニすいーつってやつ」

 少女の寝言にびくっとタスクは肝を冷やした。

     #

 「解せない!解せない!解せない!」

 呪文のように唱えながらタスクは街に出たけども、面白くないぐらい変化が無いことに少し苛立ちを感じた。
 自分がこの世界からつまはじきされたのかと、後ろ向きな思考がタスクの尻尾を引っ張る。だが、絶望は希望にも変わることは
世の常だ。姉の友人二人組がオープンカフェでカフェオレを嗜んでいる姿を見つけたのだ。女神はいた。しかも二人。

 「あ、あの!」

 リボンを付けたネコとメガネのウサギの少女に話し掛けると、まるで自分のことを知らないような顔をされたことに不安を過ぎらせた。

 「因幡さんに……、ハルカさん」
 「なんでわたしたちの名前、知ってんの?」

 メガネの少女はタンブラーを机に置くと、ぱちくりと瞬きをしていた。一方、リボンのネコ少女はにこにこと笑っていた。

 「リオさぁ、もしかして。わたしたち、誘われてるとか?」
 「あの!ウチの姉……芹沢モエなんですが」
 「誰?その子?ハルカ、知らないよね。そんな子」

 タスクの胸をえぐったメガネのウサギの言葉。女子高生二人組はそれぞれカバンを持つと、ネコの子は優しく手を振って、
ウサギのメガネはこそこそと避けるようにその場を去っていった。「もしかして、リオ狙いだったり」「それ無い無い」と声がする。
 短めのスカート揺れる二人の後ろ姿はモエのことをいっそう募らせた。

 二人の女神は羽を散らしながら本屋へと入っていった。

693ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:46:16 ID:yj1R3LVs0

 タスクはクラスの友人たちに電話をかけまくった。とにかく、姉のことをわずかでいいから知りたい。
知っている者に出会いたい。しかし、タスクがしていることは渓流でマグロを釣り上げようとしていることに等しかった。
笑われればいいじゃん。と……。覚悟。なんか、できるもんかと、必死に姉を探す。友人に連絡を取る。
 悲しいかな。「そういえばさ、この間貸したアレ返せ」と今は忘れていたい催促をさせる仕打ちを受けた。
 なんの手掛かりも掴めぬまま家路につく。夕暮れ近いそらがこんなに切なく見えるのは自分が大人に近付いたせいなのか。
 
 「仕方ない。って、諦められないよ。姉ちゃん」

 姉の電気アンマを思い出しながら、タスクはコンビニに立ち寄りチーズケーキを買った。
 コンビニの洋菓子は何故か美味いらしい。嘘か誠か、あまり縁のないジャンルだけに、タスクは不安を抱いた。

     # 

 帰り道途中の公園で姉に似た少女が制服姿で一人ブランコに乗っている姿を見た。
 近寄ると少女は逃げもせず、襲い掛かりもせず、ただブランコを細い脚で揺らしていた。

 「わたしをおいて、どこいってたの」
 「姉ちゃん、探しに」
 「いるわけないでしょ。タスクとわたし、ふたり兄妹だし」
 「それより、鍵かけたの?」

 少女は小さく頷いた。カーディガンのポケットから合い鍵のキーホルダーを覗かせて、ブランコに乗っかる。
 見ている姿はあどけない少女。
 公園で、情けなくなるまで遊んでおいで。
 と、言いかけたい。……ぐらい。と、間をおいたなんてちょっとね。と、タスクは笑う。

 「あのさ。おしてくんない?ブランコ」

 タスクは少女の背後に周り、小さな肩に手をかけると少女の脆さを実感した。がさっとコンビニの袋の中で音がする。
 優しく扱わなきゃ、大切にしなきゃ、と、ゆっくり背中を押すと少女の髪が揺れて、シャンプーの香りがした。

 (同じ香りだ……)

 「タスクにあやまんなきゃいけないの、わたし」

 少女は歳に見合わぬ大人しめな口調で話しはじめた。
 猪口才なと、タスクは感情を普段どおり押し込めた。

 「『さくさくぱんだ』のこと。ランドセルの中にかくしてたつもりだったけど、本当は入れ忘れていたの」

 しおらしい……というか、本当にどうでも良い話。
 タスクは揺らす力を弱めて、少女の話しに耳を傾けた。手にぶら下げたコンビニの袋も落ち着いて声を潜めている。

 「なんだろうな。タスク、タスクっていつも言ってるけど、こんな妹に一生つきあってくれること。まじ、ヤバいぐらいうれしいし」

 拙いくらい幼い声。危ういくらいの言葉使い。それに惹かれた訳ではないが、タスクはブランコをといきなり止めた。

 「モエ!行くぞ!」

694ネコ足靴下 ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:46:38 ID:yj1R3LVs0

 何かのスイッチが入ったようにタスクは少女をブランコから下ろすと、手を引いて家に向かって走った。
 少女は嫌がるどころか、むしろ幸せそうな顔をしてタスクの手を握っていた。

 今だに両親帰らぬ自宅に着くや否や、タスクは少女を居間のソファーに座らせて、しばし待つように命じた。
カーペットの上にはランドセルがそのまま沈黙を守る。しばらくすると、どたどたと足音立てながらタスクは
紙袋を携えて少女のもとに帰ってきた。テーブルの上には未開封の『さくさくぱんだ』の姿があった。

 「これ、受け取って下さい!っつか、受け取ってくれ!」
 「え?ってか、マジで受けるんですけど?」
 「いいから!受け取れ!」

 少女がタスクの紙袋を手にして封を開けると、一足のふわふわした靴下が顔を出した。
 トラ柄で足の底にはぷっくりとネコの肉球があしらえられている『ネコ足靴下』だった。

 「なにいいい?まじ、ヤバすぎない?」
 「……」
 「ねえ!ヤバくねえ?」

 無言は銀。雄弁はしらん、雄弁なんかそれ以下じゃい!
 言葉だけでは伝えられぬ、少女の瞳がびしびしとタスクに伝わった。初めてモエが『ネコ足靴下』を目にしたときと
同じ反応にタスクは安心した。やがて少女はタスクの反応を見て、おっとりと大人しくなった。

 「はいてみて、いい?」

 少女は履いていた靴下からネコ足靴下に履き変えるとソファーの上に立ち、モデルのようなポーズを決めてみた。
少しぶかぶかなのは当たり前。タスクは姉へと買ってきたのだから。ずり落ちた靴下は少女の足元を彩っていた。

 「なんだか、ルーソみたいで女子高生って感じ?」
 「う、うん。喜んでくれて嬉しいな、おれ……いや、兄ちゃんはね」
 「わたし、イヌなのににゃんこになったみたい。にゃー!にゃー!」

 ソファーの上を歩くと少女は靴下に付いた肉球の感触を楽しみながら、ちょっとしたネコ気分を味わっていた。

 幼い響きで「まじ、ネコキックすんよ。まじで」というセリフがタスクに向かって飛び出すのかどうかは
チーズケーキの味をモエが気に入るかどうか次第だった。


   おしまい。

695わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/04/27(金) 23:48:06 ID:yj1R3LVs0
以上、芹沢定食でした。

696名無しさん@避難中:2012/04/28(土) 15:56:39 ID:0BU9huvw0
投下乙です

思わず読み返してから納得してしまったwww

697 ヘ ノ: ヘ ノ
ヘ ノ

698わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:37:08 ID:ktblaAvo0
ケモノのいない、ケモスレ。とか。
投下します。

699引っくるめて好きだし ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:38:03 ID:ktblaAvo0

 「わたしほど花が似合わない女の子なんていませんよ」と花屋の中で翔子が卑下するので、
花屋で働くルルは微笑み返しをするしかなかった。明るいショートカットの翔子は自分の男っぽさを自覚していたからだ。

 翔子はギターを背負ったまま学校からの帰り道、小さな花屋に立ち寄った。用があるから立ち寄った。始めは咲き誇る花々の園に
立ち入ることに躊躇いを感じたが、店内にいたルルの笑顔に引き寄せられるように足を踏み入れた。お互い同じ空気を感じたのか、
二人の間には『初対面』の壁は見られなかったし、花が二人を取り持っていたので翔子も気を置けなく話すことができた。

 働くルルは長い髪をシュシュでまとめ、あちこちと歩き回るたび店内に彩を添えていた。
 よく働く娘だ。本当によく働く。掃除に飾りつけ、レジの管理……。働くこと自体を楽しみに変えることは一種の才能だ。
仕事に勤しむ腕まくりをしたルルの二の腕は細く白い。水を扱う花屋でその腕を酷使しているようには見えなかった。
 繁忙のときが過ぎたので一休みついでにルルは来客者を弄ぶ。

 「お探しだよね」
 「はい。お世話になってる先生に贈り物として」
 「軽音楽部とか?」
 「んー。じゃないけど、そういうもんです」

 背中のギターが手掛かりに翔子の目的を見破ったルルは店員として上出来。黒いギターカバーからぶら下がる
ショッキングピンクが眩しいハート型のキーホルダーがワンポイントでルルの目をひいた。ルルの二の腕を翔子が見つめていると、
お返しばかりと翔子はルルのわずかなお時間拝借とばかり、尻尾を立てたネコのように擦り寄ってきた。

 「もしかして、お姉さん。ネコの人と付き合っている、もしくは一緒に住んでいる。とか」

 バラの束を抱えてルルは動きを止めた。そして、小さく頷きながら「そうよ」と、翔子の為に頬を赤らめてくれた。
 新聞紙が広げられた机の上にバラの花束を置くと、すたすたと洗面台へ向かい、白く艶やかな指先を石鹸で洗った。
翔子はルルの次なる言葉を期待していたが、ルルは玉となってルルの手の平を滑る水滴を掃うのに夢中だった。

 確かにわたしたちは『ケモノ』と暮らしている。昔から、その昔からのことだから疑問なんか感じなかった。
 しかし。翔子もルルも同じ、ケモ耳も尻尾も持たぬ人間同士、少しでも共通点さえあれば自然と口数増える。
ましてや、お互い女の子。だから、翔子はルルと些細なことであってもどうにかつながりたかったのだ。

 「痛っ……沁みたっ」
 「大丈夫ですか!お姉さん」
 「うん。大丈夫」

700引っくるめて好きだし ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:38:26 ID:ktblaAvo0

 片手を上げて顔を歪めるルルに翔子の方が驚いた。しばらく動きを止めて、平常心に戻ると再びルルは手を洗いはじめた。

 「それ、引っ掻き傷ですよね」
 「うん、分かるんだ」

 冷静な分析に対しても冷静に返すルルは、落ち着いた口調で一生の想い人のことを語った。

 「今日、朝ね。先生とケンカしちゃって。100対0で先生がいけないんだけど、お願い聞いてくれたから許しちゃった」
 「先生?」
 「あ。ウチの相方、先生してるからね。クセになっちゃった」

 タオルで手を拭きながら頬を染めたルルは翔子の目からはどの花よりも高値に見えた。
 ガラスケースに写り込む翔子の姿を見ていると、自分の良く言ってさばさば、悪く言ってがさつな性格が意志を持たない
透明な板にさえも見透かされてしまっているのではないのかと、何となく感じてしまった。

 「で、どんなお願いしたんですか」

 と、翔子の問いかけを無視するように、翔子の携帯が鳴った。
 恐縮して一言頭を下げて翔子は電話に出ると、くるりと踵を返した。背中のギターがルルの目の前に現れていた。

 「え?丈?何ーっ!貸しスタジオの予約忘れただと?てめぇ……、丈、ど……どんまい」

 声のトーンを落とし、会話を手短に終わらせて制服のポケットに押し込めるように携帯を仕舞った。背中のギターがやけに重く感じる。
もしかして、ガラスケースどころかルルにまで自分の隠していた女の子の牙を晒してしまったのではないのか。
 ゆっくりと翔子が振り返ると、ルルはエプロンを摘んで翔子だけへのエールを送っているように見えた。

 「お友達?」
 「みたいなもんです」
 「じゃあ、彼……」
 「違いますっ」

 ルルは翔子の慌てっぷりがおかしくて、おかしくて、くすりと声を出した。
 店内で騒ぎ立てたことを翔子は詫びてギターを担ぐ肩紐をぎゅうっと握り締めた。自分を諌めるため太ももをに抓るように。

 「わたし、見ての通りバンドやってるんです。今の電話、ベースの丈からなんですが。アイツ、図体がでかいオオカミのくせして
  大人しいし。なのに、わたしアイツに期待しちゃうんです。オオカミならもっと、さ、がおーって!しろって」
 「ふふっ。で、あなたがお世話焼いちゃうとか」
 「そんなんじゃないです!」

701引っくるめて好きだし ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:38:45 ID:ktblaAvo0
 机に並べられたバラの束。茎には小さな刺がちくちくと散りばめられていた。ルルは一茎つまみ上げて、くんくんと花の香りを
翔子の目の前で独り占めしてみた。こめかみに汗する翔子にルルが持っていたバラを一茎渡し、虎……いや、小ネコのように
両手に軽くこぶしを作り両腕を軽く上げてポーズを決めてみた。

 「女の子だって、牙むいちゃうぞ」
 「……」
 「わたしが先生にしたお願いごと。の仕返し」

 目を丸くして携帯をポケットに仕舞う翔子がルルには愛しすぎて、くるりとちょっと早めの向日葵のような顔をして

 「なんてね」
 「え?」
 「あなた、他人って思えない」

 と、ルルは付け加えた。

      #

 仕事を終えて帰宅するルルの足取りは雲の階段を登って行くような心地良さだった。半袖と長袖が入り混じる街、ルルは人間、
迷わず長袖。大分日が落ちたとはいえ、日差しはまだ強い。日に焼けることはちょっと、嫌かな、と。

 「先生にお願いごと!ここでキスしてよ」

 今朝、ルルが出掛けに掲げたお願いごと。
 先生は少し戸惑っていたが、目の前の若い芯の強い視線を見ていると、断ろうと言葉を選んでいるうちにルルの両腕は先生を囲み、
色つやのよい唇が先生のざらつく舌を挟んでいた。自宅だというのに先生は恥じらって、ルルの両腕を解き放つとルルの両手首を掴んだ。
微かになぞるネコの爪がルルの薄い肌に白い線をひいた。

 痛いかも。痛いかも。

 だけど、息が掛かるほどに近く、甘く、息苦しく。たった、くちびるを交わすだけなのに、相手のことが言葉無くても通じる不思議。
ルルは帆崎の舌に思うがままになじられて、牙を舌に這わして、そして仕返しされて。傷ついて。
 そんな下敷きあって、若い娘のちっぽけな言葉に説得力を増す。先生に爪とか、牙があってよかった……と。

 「そんなこと引っくるめて、好きだし」

      #

 「翔子ちゃん。分かるかな」
 「うーん。オトナって分かりません」

 庇った傷跡がルルの気持ちを確かなものにしていた。
   

   おしまい。

702わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 23:40:13 ID:ktblaAvo0
翔子もルルも動かしていて楽しいっす。

投下おしまい。

703名無しさん@避難中:2012/05/24(木) 00:37:22 ID:57Nw75H20
丈と翔子ってそういうあれなのか!
あれなのか!

704名無しさん@避難中:2012/05/25(金) 00:20:46 ID:QlzBzbaE0
丈「違うよ」
翔子「そんな訳ねえだろ!」
丈「『なんな訳』って…」
翔子「草食オオカミのどこがいいんだよ?っつーか、マジ無理」

丈(…だから、翔子は無理だって)

705名無しさん@避難中:2012/07/02(月) 19:47:46 ID:xjfUSUIw0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3156068.jpg

706名無しさん@避難中:2012/07/02(月) 19:55:14 ID:CbJmL7LE0
うほっ

707名無しさん@避難中:2012/07/02(月) 23:31:10 ID:jHIyFUPU0
よくわからないけど和んだw

708名無しさん@避難中:2012/07/04(水) 01:43:00 ID:h6BcPc6gO
リオ耳だけwww

709わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:00:43 ID:DHj3On2.0
ちょっと季節は過ぎたけど、投下します。

710キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:02:09 ID:DHj3On2.0

 逆光が差し込む踊り場、大人の色香漂うティーンエイジ。銀色の髪は落ち着いて、つんと伸びる尖った耳が迷いの森へと誘う。
 
 彼女はキツネ。ふっくらと焼きたてのパンに負けない柔らかさを匂い漂わせる尻尾が彼女が腰掛ける手摺りを伝わって
清流のように流れる。すらりと、そしてむっちりと伸びた若々しさを隠しきれないお御脚を組み直していると、背後から足音が、
聞こえてきた。下の階から誰かがやって来たようだが、キツネの娘は手摺りから下りようとはしなかった。上履きの音からして
同級生の生徒、そして男子だと判断した。

 「あっ……」

 キツネの耳は聞き逃すことが大嫌い。
 空気が僅かに揺れる程度の声さえ彼女に届き、次の一手を繰り出す楽しみを与えてしまう。

 彼女は制服のブラウスのボタンを一つ一つ外しはじめ、シルエットとして映えるようにわざと大きく孤を描くように脱いだ。
竜の如く天を昇るブラウスはやがて徳をえた仙人が地上に舞い降りるかのようにはらりと階段に落ちた。
 やって来た足音が少年のものだと睨んだ上の行動だ。実際、彼女がふんだどおり。少年がブラウスに気を取られて視線を再び
キツネの娘に戻すと、逆光の中に豊満な二つの胸が露となって横向きの姿としてしななかな曲線を学び舎の窓ガラスを銀幕にして
映し出していた。髪を掻き分けて脚を戻すと短いスカートのホックを外す。焦らすように腰から太もも、太ももから膝、膝から
ふくらはぎ、ふくらはぎから足。そして、つま先を潜る。

 娘が前屈みになると豊かな胸がはち切れるような太ももに挟まれる。こぼれ落ちそうな胸はほお張ったシュークリームから
はみ出るクリームを連想させた。またもキツネの娘はスカートを高く投げ捨てると、またも一度脚を組んで左手でこぼれそうな胸を
なぞっていた。手摺りは彼女に下敷きになりつつ息苦しそうに軋んでいた。

 軽い身のこなしで踊り場に降り立つと、散らしたスカートを拾い上げた。まだまだ高くなる夏の日差しが眩しくて、
キツネの娘・小野悠里のスク水姿は女性の柔らかさと少女のイノセントの双方を一目で言い表していた。

 「もうすぐ水泳の補習の時間ね。急がなくっちゃ」

 ブラウスと制服を小脇に抱えて悠里が階段を降りようと一段一段と歩く度に、熟した果実のような胸と吸い込まれそうな
尻尾を揺らしていた。キツネ色と紺色の配色艶やかな女神が青い空の元へと降り立つ。

 季節はもうすぐプールと別れを惜しむころ。


     #

711キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:02:33 ID:DHj3On2.0

 「ルイカ、ごめんね。待たせて」
 「……今、いいとこなんだけど」
 「ごめん」

 生徒会室は涼しい。蒸し暑さ残る季節、この部屋で暇を持て余すことを正当化するにはもってこいの理由。生徒会の手伝いで
リオは男手を必要としていた。しかし、今日に限って誰も捕まらない。唯一助太刀に応じたルイカは本を読みながら語る。

 「どうせアイツら水泳の補習にすすんで出てんだろ。受けなくていいヤツもな」
 「どうして?」
 「知るか」

 リオは書類をめくりながらルイカを横目で睨んだ。
 書類廃棄の手伝いだ。どうしても男手が要る。今日じゃなくてもいいけど、早めに片付けたい。何故なら「お仕事もできる
気が利く子を演じてみたかった」から。先生に褒められたかったから。「やってみせます」と胸張った。暇そうだったからルイカを呼んだ。
だけども、男手とは言え、ルイカ一人だけなのでまだまだ心もとないから助っ人も根回しした。
 風紀委員の後輩が来ることになっているが、ただいま部活の真っ最中。なぎなた部に所属する大柄なミサミサが来てくれれば
十万馬力は確実だ。椅子に体操座りをしていたルイカがやきもきしているリオを無視してまた本をめくる。目は真剣だ。
 机の上には一台のビデオカメラがあった。風紀委員のかわいい後輩が「なぎなた部のかかり稽古で自身の姿を確かめたい」と日頃
呟いていたので、リオがこっそり風紀委員から持ってきた物だった。気の利く先輩だって褒められたかったから、こっそりと。
 カメラマン気取りでリオがレンズをルイカに向けるとしかめっ面で怒られた。

 「あ、あのさ。もうすぐしたらミサミサが来るから、そしたら作業を始めるね」
 
 ビデオカメラを目にしたミサミサが「先輩!ありがとうございます!」と凛々しい声で感謝するシーンをリオはよからぬ妄想していたが、
罰を与えるように次第にビデオカメラを持つ手が重くなってきた。随分と軽量化されたとは言え、メカの塊はまだまだ人には重く感じる。

 「……」
 「怒ってる?」
 「ん」
 「その本、生徒会のブログで紹介されてた本だよね」
 「……あっそ。知ってるけど」

 各委員会が生徒会のブログで個人的でも何でもいいから気になるものを紹介している。文章とか写真とか動画と駆使して
なんだか生徒会、マジ進んでるじゃーん?と、リオはブログの更新を楽しみにしていた。

 「図書委員のチョイス嫌いじゃないな。ちょっと、ヲタっぽい本だけど……それ、面白い?」

 ルイカは本を閉じて立ち上がり、まるで獲物にとどめを刺すが如くリオを見下ろした。

712キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:02:55 ID:DHj3On2.0

 「つまんない!つまらな過ぎて続きが気になる!早く続きを読ませろ」
 「ごめん」

 『図書委員が紹介した』というのは偽りだ。リオが図書委員を言いくるめて、自分が気になる本を紹介したのだ。
 一般向けでもあり、ヲタ向けでもある本だから、いろんな人に読んで欲しい。だから図書委員の名前の後光を拝借した。
 本を紹介した主として、ルイカが読んでいる本の評価が非常に気になっていた。全力で、覚悟を決めて勧めた本だからこそ、
ルイカが夢中になって、夢の中に飛び込んで読んでいることにリオはヲタ冥利に尽きているところだった。そんなときに飛び込んだ、
ルイカの怒号だ。リオは体を小さくして痛みに耐えながら心の中で小さくガッツポーズを決めていた。
 
 外は快晴だった。篭って本を読むには最も相応しくない天気だろう。なのに、ルイカは本を読んでいた。耳を澄ませば、青いプールから
補習を受ける生徒たちの弾けるような歓声と水しぶきが聞こえてきそうだ。耳かっぽじいても、リオもルイカもそんな声お構いなし。
 
 「なあ。因幡」

 ルイカの声にリオは書類を整理する手を止めた。

 「おれ。見たんだけど」
 「何?」
 「階段で水着姿の女子を」

 目を赤くしたリオは息を飲んだ。

 「すんげー、なんっつーか。エロい体つきしててさあ、『お前、男を誘うしか能がねーの?』ってぐれえ」
 「誰?それ」
 「確か、小野ってヤツ。聞くけど、同じ女としてどう思う?」

 羨ましい!
 羨ましい!
 羨ましい!
 ちょっと、嫉妬。
 でも、羨ましい!

 真面目のまー子で通すリオは返答に困り、沈黙を続けていた。いっそ、正直になってしまうのうも手の内だけど、風紀委員長が許さない。
 妄想が!妄想が!悠里の水着姿の妄想がリオを悩ませていた。例えば、口に牛乳を含んだとしよう。その状態で悠里の水着姿をそっと
頭の中で想像しようか。ごっくんするもよし、抑えきれない興奮に耐えかねてだらりと口元を汚すもよし、相手目掛けてぶっかけるもよし。

713キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:03:18 ID:DHj3On2.0

 「けしからんと思います!」
 
 言葉は選んだから、リオには後悔はない。
 するとリオの携帯がけたたましく鳴る。慌てているときに限って意地悪するなんて、携帯は意志を持っているのではなかろうか。
ビデオカメラを置いておぼつかない手を動かして受信すると、聞きなれた後輩の申し訳なさそうな声がずきずきと飛び込んできた。

 「もしもし、あ!ミサミサ?ええ?来れない?なぎなた部の練習で先輩に付き合わないといけないからって?ちょ、ちょっと!
  これだから真面目のまー子は!!ちょっとぐらいインチキできないの?ミサミサ!!……うえーん。ミサミサぁ」
 「おれ、帰る。拘束される理由なくなったし」
 「ちょ!ま、待ってよお!!ルイカー!二人でやろうよ!」

 目を吊り上げてルイカは本を手にして生徒会室の扉を開けた。リオの手には剣も盾もない。今日の作業は諦めなければならないと、
リオは机を蹴るとビデオカメラはぐらぐらと揺れる。壊しては風紀委員長生命一巻の終わりと脳内に電気が走り片手で奪い取る。

 「もう!ルイカー!かんばーっく!」

 廊下の先ではルイカが振り返えることなく生徒会室から去って行く姿……さえ見えなかった。
 わたし一人でやるの?やだやだ!先生に「やってみせます!」と胸張ったことを後悔しろとでも?やだやだ!

 ルイカを探せ!

 リオは校内手当たり次第に駆けた。夢中だったのでビデオカメラを手にしていることさえ忘れていた。
 あれだけ賑やかだったプールも静けさの水面を取り戻し、きらきらとさざなみを輝かせる鏡と姿を変えていた。
 秋の始まりの感傷に浸ることを惜しみ、リオは必至にルイカを探していたると、さっきまで手にしてた本を携えていたルイカを
ちらと見かけた。ニアミスだ。リオはルイカの名前を呼んだが、尖った耳には届かなかった。

 遠くから男子の歓声が聞こえてくる。くんくんと世の中の女子たちが尻尾を振ってきゅんとなるような性質の声ではないが、
一瞬の青い春を謳歌する声には憧れや回顧にも似た脆さを感じる。時の流れを否定する歓喜の声は切ない。
 男子の声が明るければ明るいほどリオは孤独の寂しさに苛まれていた。そんなにプールが楽しいか。

 「もうやだ……。メアド聞いときゃよかった」

 骨折り損のくたびれもうけというのかルイカはその後、姿を見せなかった。ルイカはこのあたりでも見かけない種族だ。
短刀のごとく尖った耳、けっして優しいと言えない目つき。一目見えれば忘れられないカルカラの少年だ。平凡なウサギは校内を駆ける。
 図書館、校庭、保健室、はたまた生徒会室か。そして、最後に辿り着いた静かなる和室にて、リオは諦めかけて折れそうになった心が
息吹き返すことに気付いた。いや、いろんな意味で。

714キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:03:41 ID:DHj3On2.0

 (むはっ!悠里?)

 茶道部が使う和室は開いているときには誰でも入れる。だから、小野悠里は水泳の補習で疲れた体を休めていた。彼女の傍らには
上がったばかりなのだろうか、濡れて紺色が元よりも色濃くなったスク水が入った透明なバッグが淫らに投げ出されていた。
 風呂上り、ならぬプール上がりの悠里からは塩素と女子の香りが入り混じって、茶色な和室を桃色淫靡な空間に塗り替えている。
 畳の上で横になって、紺色のブルマからはみ出るキツネ色の太ももを剥き出しにして、出来たてのマシュマロのように柔らかな尻で
ブルマを丸く描かせて、ふかふかの尻尾は触りたくなる欲を掻きたたせざる得ないような禁断の誘惑を醸し出していた。
 余す所なく悠里の胸の曲線を露にする体操着から、むんむんと桃色の花びらが散って、胸のゼッケンの『小野』の文字が歪む。
 女の子の体は見ているうちに、不埒ながらも突付いてみたくなる。指で、指で、そして××で。揺らぐこともなくはちきれそうな
若い肢体が無防備にも畳の上で横になっている。しかも、禁断な制服のおまけつき。リオは鼻息を荒くして深呼吸をしていた。

 (うらやましいぜ!悠里たん!いや、悠里ねえさん!寝返ってくれ!正面を向いてくれ!)
 「あぅん」
 (え?マジで?ふんは!)

 唱え続ければ願いが叶う言霊が存在するかのように、ごろりと悠里は言葉どおり寝返った。
 背中で見えなかった二つの胸がはちきれそうなぐらい体操着越しに主張して、丸みを帯び熟れ始めた体でリオを誘った。
蕩けそうな二つの果実がうずうずと想像の世界にて見えそうで見えないもどかしさ。むしろ、そっちの方が萌えるんだと言いたげであった。
 知らず知らずのうちに、リオはABCの歌を口ずさんで右手でビデオカメラ持って指折り、左手で自分の胸に手を当てながら悠里の
ハニートラップの餌食になっていた。意味、違うかもしれないけれどこの際関係ない。

 「えっと……Eはないな。F?G?いやいやもしやHとか」

 アルファベットを数える度に、桃色の風船がだんだんと膨らんでゆく。
 リオが邪な妄想繰り広げているなか、悠里は夢の中でゆらゆらと尻尾を躍らせ、ブルマのゴムひもを指で弾いた。

 「あんっん」
 (ひんっ!)
 「火照っちゃう……」
 (……寝言だよね、寝言)
 
 悠里の甘くて、決して触れてはいけないリンゴの実がゆらゆらとリオの目の前で揺れていた。それと同じくしてリオの携帯も震えた。
発信主はミサミサだった。「今、終わりましたので馳せ参じます」との内容だった。美しい日本語にリオは心打たれ、状況を悔いた。
 そうだ。ルイカだ。ルイカはどこだ。わたしはルイカを探していたんだと、我に返ったリオは和室を後にしようと踵を返そうとした矢先。

715キツネとブルマと風紀委員長 ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:04:02 ID:DHj3On2.0

 「因幡、何してんだ?」

 背後から忍び寄る声。唾を吐き捨てるような軽蔑にも似た目線。リオが振り返ったときには既にルイカの顔は引き攣っていた。
ルイカの目線がリオの手元に向いていたことで、この場面をどうルイカに説明するかという困難に直面した。

 ビデオカメラ、持って来ちゃった……。

 リオが手にしている文明の利器は行き場は失われ、ただ風紀委員長を辱めに追いやる為だけの小道具に成り果てた。
 こっそり撮ってましただなんて言えません!むしろ、堂々と……。ウソです!この状態でどんな言い訳をしても、
怪しさの上塗りにしかならないし、どんな口の立つ弁護士でも陪審員の心情によって逆転無罪は勝ち取れないであろう。

 「風紀委員は生徒会のブログにけしからん動画でも載せる気なのか?」
 「違う!違うんだよお!ミサミサのところにこれを持って行こうとね!」

 ビデオカメラ片手に涙を目に浮かべるリオを置いて和室から去ろうとしていたルイカの手にはさっきまでの本は既になかった。
 尖った耳は決して優しくはないが、人が嫌いではない。一人ぼっちの女子の声をしかと受け止めて、そして足を止める。

 「因幡さ。それ、ミサミサ……ってやつに届けるんだろ?いつまでもガキみてーに泣いてるんじゃねえよ。先輩の示しが付くのかよ?」
 「……うん」
 「それにさ、小野が起きるだろ」
 
 音を立てないようにふすまを閉めると、悠里の寝姿が日差しに照らされシルエットとなって浮かび上がっていた。
影ながらに緩急のあるスタイルは健在。名残惜しそうにリオは悠里の影絵を見つめていた。

 「ったく、生徒会室戻ったらウマのデカ女が起立して待ってるし、本の続き借りようとしたら貸し出し中だし」
 「え?」

 同じ高校生なのに、どうしてルイカの背中が広く見えるのだろう。ルイカの不器用な声がほんのりとリオを包む。
 もう、泣かない。だって、こんなヤツからバカにされたくないから。

 「図書委員もあんな本紹介すんな!ほら、行くぞ!」
 「何?何なの!?」
 「ったく。気が利かねぇなあ!風紀委員長!」

 リオは小さな胸に誓いを立てるとニの腕を力強く引っ張る暖かさを感じた。塩素の香り残り流れゆく廊下を背景にルイカの背中を
見ながら、二人してミサミサの待つ生徒会室に向かっていることをリオはまだ知る由もなかった。

 ビデオカメラはもう重くない。


   おしまい。

716わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/10/07(日) 09:04:58 ID:DHj3On2.0
悠里さんはいいものだ。
投下おしまい。

717名無しさん@避難中:2012/11/01(木) 01:02:33 ID:fr367Da60
ttp://dl10.getuploader.com/g/sousaku_2/84/furry519.jpg

718名無しさん@避難中:2012/11/01(木) 06:04:16 ID:yh3vIHew0
かぼちゃ

719名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 01:40:00 ID:BbpTgDys0
規制されてるので

ししみや先生やっぱいいキャラしてるわー

>>797
wiki編集お疲れ様です。
非常にありがたいです。
自分も時間をみつけて編集したいとおもいます。
学校の部活動やら周辺施設やらでまとめてwikiらしくしていきたいですね。



ババドン
ttp://dl10.getuploader.com/g/sousaku_2/87/kabe.jpg

720名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 03:15:59 ID:TTKBsAQg0
ワロタw

721名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 14:43:52 ID:GC8rKIg60
こわいわw

722名無しさん@避難中:2012/11/08(木) 11:46:32 ID:7Z6bkVSE0
どういうことなの…

723名無しさん@避難中:2012/11/08(木) 16:02:38 ID:h3YxQFNk0
ババァ脚長いな

724名無しさん@避難中:2012/11/10(土) 21:07:20 ID:adF1ugHYO
ドン!

ヒカル「…」

クロ「はやくクロのものになるニャ!」

ヒカル「なにそれ」

クロ「『かべドン』ニャ。ヒカルくんはクロのものニャ」

(壁ドンしているクロを遠くから眺めているリオ)

リオ(うっ…。羨ましいぞ!クロからあんなこと言われたら、何されてもいいよ!)

悠里「因幡ちゃん、犬上くんを遠巻きに眺めて、実は狙ってるとか?」

リオ「ゆ、悠里!わたしは決してそんなことは」

悠里「……」

リオ「初等部の子でもないっ」

悠里「……(そんなこと言ってないのに)」

リオ「……」

悠里「そうだ。因幡ちゃん、お裁縫出来ないかな?カーディガンのボタンが綻びそうなんだ」

リオ「(そりゃ、あんなはみ出そうなおっぱいしてたらなあ…)わたしが?」

悠里「(出来ないことないけど、針がちくちくするのが怖いの)みんなの委員長は頑張る子だよね」

リオ「やります。やらせて下さい!」

悠里「かわいいなぁ。じゃ、カーディガン脱ぐね」

ぬぎぬぎ。

リオ「うっ。悠里さ、ブラウスのボタンも綻んでるんだけど」

悠里「あら。いやだなあ」

胸を片手で撫で上げる悠里。

ぶちん!ぶちん!ぶちん!

リオ「わー!?ブラウスのボタンが飛んだ!」

ドン!!

ヒカル「二人とも何してんの?」

リオ「犬上?これは決して壁ドンでなくて、飛んだボタンを捕まえようとしてたら、つんのめりながら片手が壁にドン!ってなった訳で…」

クロ「かべドンニャ」

リオ「悠里!動かないでよ!動くと犬上に見えちゃう!今、わたしの腕がいい具合に悠里のブラ…を隠してるんだから!ってなんでもない!」

ヒカル(そこで止めるのかよ)

クロ「なにしてるニャよ。ヒカルくんはクロのものになったんだから、はやくワッフルごちそうするニャよ」

すたすたすた…。クロ、先に出て行く。

ヒカル「う、うん。今、行く。…あっ」

チャリン…。ころころ。

100円玉がリオ、悠里の足元に転がってゆく。

リオ「犬上!来るな!」

犬上「行かないって」

悠里「ふふっ。わたしが取ってあげよっか?」

リオ「」

725名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:49:30 ID:CxvsrES20
続きの裏展開はどこで見れますか

726名無しさん@避難中:2012/11/15(木) 00:04:07 ID:Iit19PZg0

 モエ「タスク!何してんの?」

 タスク「ゲーム」

 モエ「ゲームじゃ分からん!細かく教えなさい!」

 タスク(面倒くさいな…)

 ちら、画面を見せる。

 モエ「『とびだせ どうぶつの森』?」

 タスク「そうだよ。村長になって村を興すゲームだよ」

 モエ「タスクが村長ならば、わたしは県知事になって支配してやんよ!」

 タスク「そんな殺伐なゲームじゃないし。それに、ほら。秘書のしずえさん」

 モエ「なに、この子」

 タスク「姉ちゃんと同じイヌっ娘なのにねえ。ほら」


 しずえ「そうそう、今日は新築のお祝いにかべがみを持ってきました!」


 タスク「『タスク!新築祝いにかべがみ持ってきたんだけど、自分で貼りなよ!メンドクサイから!」

 モエ(ぎぎぎ…)


 しずえ「それで、ついでに貝がらをひとつ、お土産に拾っていきてただけたらうれしいなぁー…」

 
 タスク「『ついでにさ!貝がらひとつ、お土産に拾ってきてくんない?ってか、死ぬ気で拾ってきなさい!拾うまで帰ってくんな!』」

 モエ(ゴゴゴ…)


 しずえ「あっ!お誕生日、わたしと同じですーぅ!すごい、偶然ですねーっ!!」


 タスク「『マジ?誕生日同じとか?超無理なんだけどー!!』」

 モエ(びきびき…)


 数日後。高等部・教室にて。


 リオ「モエ。何してんの」

 モエ「ゲーム」

 リオ「ゲームじゃ分かりません!」

 モエ「タスク村を合併吸収してやんよ」


 そのころ、中等部・教室にて。


 タスク「村がのっとられたー!!」

 アキラ「……」

727名無しさん@避難中:2012/12/04(火) 02:17:47 ID:vXyMWevgO
アキラ「クリスマスが近いのに彼女も居ないなんてヤバくね?」

タスク「アキラだって彼女なんか居ないじゃん」

ナガレ「…(稽古初め何時だっけ)」

アキラ「クリスマスってアレじゃん、聖なる夜に性なるナニかに発展できそうじゃん!」

タスク「彼女が居れば、だろ。ろくすっぽチューもしたことねーっての」

アキラ「だ、か、ら、彼女が欲しいんじゃないか!なー、ナガレだって、性なることやチュー、彼女としたいだろ?!」

ナガレ「ん?お前らまだなの?」

アキラ「」

タスク「」

ナガレ「わりっ、俺稽古あるから行くわ。じゃーな」

アキラ「……ほ、本当だろうか」

タスク「わからん。わからんが…有り得そうで怖い」

ナガレ「(あるわけねーだろ)」

728わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:48:19 ID:liN.ac4Y0
クリスマスには早いけどこんなお話。

729 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:51:06 ID:liN.ac4Y0

 この世にサキュバスが居るのなら、居るで良い。
 でも、ねぼすけなサキュバスが居るとしたら……どうだろう。
 夢の中から追い出され、日が昇る街に舞い降りた淫魔を受け入れてもばちはあたりはしないだろう。

 クリスマスの朝、早く目覚めた犬上ヒカルはちょっと早目に補習へ行こうと玄関を出た矢先、雪のようなダウンジャケット姿の
小野悠里と出会った。ダウンの裾からはちらりと短めスカートが顔を見せ、健康的な太ももがヒカルの視線を奪った。
 学校は冬休み、そして冬季補習の始まりだ。

 「犬上くん、補習?」
 「……」
 「いっしょに、行こ」

 灰色の朝に舞い降りた銀髪の妖魔に唆されて男子高校生のヒカルは袖を引っ張られる。途中、坂の下のコンビニで買い物し、
まだ閑散とした学園を仰いだ。無防備なな学び舎を見ることなんて、滅多にないことだ。まだまだ薄暗い空にそびえる楼へ足を伸ばす。

 朝っぱらから寝ぼけまなこの学校の目を盗んで、二人はいっしょにコンビニで買った即席カップのうどんを朝食にした。
 うどんの真っ白な麺が無彩色のコンクリを明るくし、油揚げが池を彩る一枚の落葉のように汁の中に浮かぶ。立ち上る湯気は
誰もの心を安らげる温泉のようだ。うどんに心奪われる悠里という子はそんな畳の香りが似合うキツネの子。

 「雪、降らなかったね」
 「……うん」
 「わたしの家じゃ、降ろうが降りまいが関係なしだけどね」

 古いお寺の娘だから。キツネの小野悠里は制服の上から纏ったダウンジャケットで衿元を寒風から防いで白い息を吐いた。
 渡り廊下に腰掛けて頂く即席のカップうどんは妙に美味い。元々口数の少ない犬上ヒカルも更に口数が減っていることが、
ただのカップうどんも星三つのグルメに変貌したことが伺える。

 悠里は口にくわえたお湯少なめ、時間控えめで出来上がった硬めな即席的太い麺に感触に喜びを感じていた。
 この時間、幸いながらも職員室でお湯を頂けたことに感謝しつつ、悠里とヒカルは舌鼓を打った。

 桃色の舌に絡ませながら吸い込むと、じゅるりと音を立てて透明な汁で口元を濡らす。微かに飛んだ雫が悠里の薄い手を汚した。
 前に垂れた銀色の髪の毛を掻き上げて、ゆっくりと顔を近付け「あんっ」と、耳を立てなければ聴こえない程の悠里の声をあげる、
様は彼女なりの相手への愛情表現なのだろう。一口一口を恋人との大切な時間を過ごすように、丁寧に口をすぼめ温もりを感じる。
ここでしか味わえない秘密の味にまた、じゅるりと音が響かせる。

 体が徐々にほてってきたのか、悠里はカーディガンのボタンを緩め、襟元を開く。すると二つのたわわで淫靡なる丘の膨らみが
やゆんと露になり、悠里の右手の動きに合わせてよゆんと揺れ動く。ただでさえ制服の上からでも張りが顕著に見える悠里の胸は、
ちらりと一部を見せ付けるだけでも容易に彼女のグラマラスな雰囲気を漂わせていた。肩までかかるウェーブの銀色の髪の毛は、
彼女の年齢よりも大人びて妖艶なる花の蜜を演出する。

 「うぅん……。はぁ、美味しい。もっと……もっと」

 初めて口にしたときはいつだっただろう。そんなことさえも覚えていない。
 虜になってしまった故に一人占めできる幸福感、ほしいままに魅了されてしまう服従感、そして一気に汁を飲み干す征服感。
後生忘れませんと、誓った出会い。一回限りの出会いでは物足りなくて、また会いたくなってしまう背徳感。
 きっとまた、会うんだろう。悠里はキツネの尻尾を揺らして、エクスタシーにも似た感情を露にした。

 最後の一滴、最後の一滴まで。
 全てを飲み干す。

 不覚にも悠里の口から白いものがたらりと零れ、キツネ色のてのひらへだらりと垂らした。
 いけない。こんがりとトーストのようなキツネのてのひらの毛を濡らしてしまった。

 そう。小野悠里という子は青年誌の巻頭グラビアから飛び出したような子だ。汚れを知らぬ少年が隣り合わせになったなら、
少年の鼓動と瞬きが加速するかもしれない。体全体から滲み出る色香が無垢なるキャンバスを桃色に染める。悠里自身も決して
無垢な少年をたぶらかす自分が嫌いではないどころか、自分のアイデンティティとして武器にしているので嬉々として隙あらば
オフェンスを仕掛けて征服欲を満たすのであった。

730 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:51:49 ID:liN.ac4Y0
 
 「……」
 「犬上くん!」
 
 ヒカルがうどんに一途になれなかったのは隣り合わせでキツネ色の太股をちらつかせる悠里のお陰だった。
 意識無くとも自然に目に入る曲線美は上質なパンプキンスープの舌触りを思い起こさせる。美味は体に毒だと目線を逸らすと
やゆんな二つの丘がヒカルの眼を悪戯に弄ぶ。ダウンジャケットの隙間から覗く制服のカーディガンは破壊的に豊かな胸を包み切れず、
ボタンが一つ手を休めていた。大きく胸元を見せ付ける開襟シャツからは男子禁制なる桃の園が門にて罠を仕掛けていた。

 「……あの」

 空になったカップを脇に置いた悠里が次に手を付けたのはヒカルだった。ヒカルが油断した隙に悠里は腕を絡ませて、
箸持つ手を休ませて、ヒカルの二の腕を自らの胸に押し当てていた。俗に言う……。

 「あててんのよ」

 温かなダウンジャケット越しだからか柔和なる感触は二割増し、ヒカルも「当たってない、当たってない」と言い訳することで
自分の純情を守ろうとしていた。
 風吹き抜ける寒い筈の渡り廊下も悠里の仕業で夏のプールの気分と相成った。ヒカルは悠里の持つ思春期男子を包み込むような体温と
ミステリアスな銀色の髪の冷気で揺り動かされるしかなかった。
 ヒカルの理性が限界に達するかはいざ知らず、巧みなさじ加減で絡ませた腕をゆっくりと動かし、当たるか当たらないかの綱渡りで
ヒカルの眼を泳がせていた悠里はいきなりその腕を離し、すくと短いスカートを翻しながら立ち上がり体育館の方へと駆け出した。

 「犬上くん!」

 幸か不幸かヒカルは鳴りやまない胸の鼓動を手の平で確かめつつ悠里の後を追った。

 明々と明かりの点いた体育館は霜が溶けそうなぐらい熱気と気勢に包まれていた。裸足の足が床を叩き、竹と竹がぶつかり、
文字通り鎬を削る様が悠里とヒカルの前で広がっていた。
 一際目立つ一組がいた。一人は男子、一人は少女の打ち合いだった。

 「めぇええん!!」
 「まだまだ!夜月野!脇が甘いぞ!」
 「はい!刻城先輩!どぉおおお!!」
 「めぇえん!」

 小柄な少女は頭を降りかかる一刀をかわし、竹刀が面をかすって響く音を辺りに残していた。
 見ているヒカル側からしても手に汗握る光景で、うどんで緩んだ瞼も意識せずとも見開く闘いだ。

 「朝練、すごいよね。やっぱり袴姿って見てるとわたし、なんだか疼いちゃうし」
 「いつも剣道部の練習見てんの?」
 「ときどきね。ほら!あっち見て。つばぜり合いしている男子って燃えるね」

 体育館の出入口にもたれ掛かる悠里はカーディガンの衿元を指先で弄りながら、若きもののふたちの稽古を眺めていた。
 さっきまでヒカルに寄りかかり、道を外しかねない誘いをしていた娘も乙女の心を忘れていなかった。

 「世間はクリスマスってのに、そんなことを忘れ武道に打ち込む姿って」

 激しい打ち合いの末、一瞬の隙を狙い篭手と見せかけて小柄な体の不意をつく。またしても素早い足裁きで我が身を庇う。

 「どぉおおお!!」
 「……思う?」

 答えることを忘れたヒカルは小柄な少女剣士が余裕釈釈の身構えな先輩相手へ果敢に打ち込む姿を自分の言い訳にした。
 そして打ち合いは激しさを増し、そしてお互い攻めの体勢で剣を打ち鳴らす。

 「お互いに隙を見せないね。だから真剣な眼差しに痺れちゃうし、どちらか隙を見せる瞬間も……」
 「うっ!」

 右脇を手で抑えたヒカルをローファー一足片手に悠里はにまにまと眺めていた。

 「今度は左脇、いっとく?隙だらけの犬上くん」

 ヒカルは一本取られないように脇を固めた。

 日が昇ったとは言え、足元が寒いので、朝練に未練を残したヒカルと悠里は自分たちの教室に入った。
 ヒカルは本を相手に、悠里は携帯片手に何かのサイトと相手をしていた。

 「へぇ。うどんに牛蒡の天ぷら、そしてかしわご飯だって」

 書の世界に没頭した隙だらけのヒカルのお陰で悠里の独り言に終わった。冬季補習の時間までまだまだ。

 「なんだか、昨日の夜は特別な夜だってね。佐村井さんやはせやんも言ってた。わたしにとっては毎晩特別な夜かもね」

731 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:52:22 ID:liN.ac4Y0

 多少気にしつつ、ヒカルは悠里の言葉に耳傾けながら本をめくっていた。教壇に腰掛け、劣情を煽り立てるように
脚を組んだ悠里は言葉を続けたが、目の前のヒカルは隙を見せまいとじっと活字を目で追っていた。

 「小さい頃から檀家さん見てたからかもしれないけど、何事も毎日の積み重ねだよね。信心も本も武道の鍛練……
  そして、ついつい誰かの気を引いちゃうことも。だから、昨日の夜だけを特別にしたくないなって」
 「お祭りみたいなものだけど」
 「そうね」

 否定も肯定もしない悠里からはオトナの香りがした。
 そんな折、ヒカルたちの教室に朝練で果敢にも先輩に打ち込んでいた少女剣士が訪問してきた。
 袴姿に防具を付け、ジャージを羽織ったネコの少女だった。悠里は何事も無かったように脚を組み替えた。

 「……あのー。さっきまでわたしたちの朝練、見学されていた方ですよ……ね?」
 「……うん」
 「おにぎり、お呼ばれしませんか?沢庵も美味しいです!」

 本をめくる手を止めたヒカルと悠里は時間が止まったかのように裸足の少女をずっと見ていた。夜月野と名乗る少女は
悠里とヒカルの関係、そして起きようとしている状況に自分自身の納得出来る説明が出来ず、寒い中で額に汗を垂らした。
 防具の垂には力強く『佳望・夜月野』の毛筆の文字が書かれていた。それを見つけたヒカルは名前を呼んで夜月野の背筋を凍らせた。

 「名前を呼ばれるとは思いませんでした!」

 夜月野は耳を立てて肝を潰した。
 武道に励む者として、見せてはならぬ態度。そう思いつつ夜月野は見振り手振りで話を続けた。

 「あ、あの!わたしたち!」
 「ってか、どうして、ここがわかったの?」
 「こ、ここだけ明かりが点いてたから刻城先輩が……」
 「お気持ちありがとう。ごめんなさいね。わたしたち見てただけだから頂けないね」

 大人の対応の悠里に対して、慇懃にお辞儀をしたネコの少女は裸足の足音を残して教室から去った。

 「だろうね」

 教室での出来事と他者に説明するにはハードルが高い。悠里はカーディガンのボタンを弄り、ぴょんと教壇から降りた。
大きな尻尾が弧を描いて、ヒカルの目の前を横切っていった。

 「さて。わたしは帰るね。学生の本分、果たすんだよ!犬上くん!」
 「え?小野、補習は?」
 「そんなこと言ってないし」

 そういえば、悠里は一言も「補習を受ける」とは言っていなかったのをヒカルは思い出し、額に汗を流した。

 ダウンジャケットを羽織り、大きな尻尾と銀色の髪、そしてたわわな胸を揺らして悠里は教室にヒカルを残して消えた。
 ヒカルは朝の僅かな時間だが、キツネにつままれていたのではないのかと腕を抓ってみた。腕の痛みはすぐに忘れたかったが、
腕で感じた悠里のあだっぽい柔らかさを忘れることが出来ずに本をめくるスピードが落ちた。

 帰路の悠里はこっそりと体育館に近付き、おにぎりを囲む剣道部員たちを覗きにやって来た。さっきのネコ少女の夜月野も
仲間たちに囲まれ、朝練とは違った明るい声を上げていた。その中には夜月野曰く刻城先輩らしき姿もあった。彼は袴が良く似合う
ネコのメガネ男子だ。冷静かつ、礼儀正しい模範生だ。悠里的にはかなりポイントは高かろう、そんな男子こそ悠里の色仕掛けで
牙を抜いてみたくなるものだ。そして、悠里よりも年下で言っちゃ悪いが悠里より色気はない夜月野が落ち着き払った刻城先輩の隣で
恥じらうのを見ると、やはり悠里もちょっかいを出したくなるもんだ。

 「夜月野は背が小さいから面を取られ易い。瞬発力を鍛えて面を取られないようにしろ。足さばきな」
 「はい!」
 「そして守りに入るな。面を割る覚悟でな」

 目を輝かせている夜月野が刻城先輩の話に頷く姿に、悠里に潜む妖魔が羽根を伸ばし始めた。
 武道男子、そして袴男子が色香に崩れる姿は悠里にとっては大変なご褒美だ。

 「クリスマスに目もくれず、その存在さえ忘れ、ひたむきに武道を精進する刻城くん。覚えて損はない子ね」

 人差し指を口に当て、思案顔で眼を潤ませた悠里が踵を返して尻尾を揺らすと、体育館から夜月野の声が上がった。

 「それではちょっと遅れたけど、メリークリスマス!!」



   おしまい。

732わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/19(水) 23:53:33 ID:liN.ac4Y0
『袴ときつね』

これでおしまいです!
投下おわり。

733わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:04:51 ID:l/gcxVvs0
投下しまっすわん。

734わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:05:16 ID:l/gcxVvs0

 雨降りだからバイクを降りよう。たまにはこんな日もあっても良かろう。
 一雨ごとに暖かくなるのは毎年のこと。さらば冬と言いつつも、今日はバイクには乗りません。

 市電で街を移動するのは久しぶりだとミナは言う。乗り慣れたエンジンの心地は足から伝わるモーターの振動に変わり、
流れる風景もガラス窓越し。バイクからの目線から見落としてたはずの物が目に見えてきて、どんよりとした灰色の空も
決して嫌いになれなかった。むしろ青空が持つ二つ目の顔を見せてくれいるようで、裏表のないいいヤツだとも感じる。
 周りに人が居る。誰も知り合いではないけれど、車内はすんの暇を共有する名もなき劇場か。
 長年暮らしてきた街の違う顔を垣間見るようで、ミナは生暖かい空気を楽しんでいた。

 「早速、冬クールの一番決めよっか?」
 「どれだろう。さくらが言ってたヤツ、三話目で脱落しちゃったし」
 「わたしもー。キャラデザが過去の呪縛から抜け切れてなくて萎えーってね」
 「このテイストで描いときゃいっかって保険かけてるのかなぁ?ねえねえ、違う絵描けないの?」
 「でも、再生回数伸びてるよね。男子には受けるんだ。あーいう古風な子」
 「男版『ウチら』だからね、アイツら」
 「それはさておき、春クールの青田刈りでもしよっか?豊作ですよ」

 話の内容はともかく、ミナは吊り革に捕まって自分たちの世界に浸る女子高生の会話を聞いていた。
遠い姪っ子たちが我が家の居間でだべっているようだった。何を話してるかは分からないが、それだけでいい。と。
ただ、二人は冬の終わりを惜しみつつ、春の訪れに喜びを感じているんだと、ミナには何となく分かってきた。
 一人はイヌっ娘、一人はネコっ娘。お互い制服は違うが共通点は眼鏡っ娘。ミナとは違う世界を生きる二人と共に
車窓を分かり合うことにミナは不思議に思えてきたし、それが市電の魔力なんだとも感じた。

 「さくらはイヌ耳キャラが出るだけでご飯三杯はいけるよね」
 「だからさ、もっちーもイヌ耳に萌えるべきだよ!」

 ふと、さりげないイヌっ娘の言葉にミナは聞き耳を立てた。

 「『もっちー』……」

 この子も『もっちー』なんだ、と。自分が知っている『もっちー』ではないな、だけどほんのちょっとだけ思い出した。

 「どうしてるかな」

 二人してはしゃぐイヌっ娘ネコっ娘たちの歳の頃を思い出していると、相変わらず降り続けてるのにも関わらず
いつの間にかガラス窓を叩く雨音が消えていた。ミナの鼓膜が雨音を聞くことを拒否しはじめたのだった。


    #


 ミナの知る『もっちー』は教室では借りてきたネコのように大人しいネコだった。
 それゆえクラスメイトの女子からは何となく浮いていた。
 そして、隙あらばもっちーのことを笑おうと、揚げ足を取ろうとクラスメイトの女子たちはもっちーに目をつけていたことが
ミナには面白くなかった。ただ、彼女は他の女子には無かったさくら色のような色香を兼ね備え、そして気丈にもミナの前では
笑顔を絶やすことをしない子だった。

 「何かあったら、わたしに言うんだよ」

 ミナはもっちーに対して口をすっぱくしていた。

 ある日、もっちーは普段見せない顔をしてトイレの手洗い場にいた。トイレのサンダルを履いたもっちーは誰かから見られることを
避けるよう、クラスメイトから逃れるよう、そっとしてくれと言わんばかりに静かにたたずんでいた。
 もっちーの後ろ姿を見かけたミナが鏡越しにもっちーを覗き込むと、蛇口をしめ、ハンカチを焦るように隠した。
ミナが立てたトイレのつっかけの音に反応して、いかにもばつの悪い反応を示したもっちーはミナに目を合わせようとしなかった。

735『もっちーのこと』 ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:06:00 ID:l/gcxVvs0
 「何かあったらって……言ったじゃない!」
 「いいんです。杉本さんには迷惑かけられないし」
 「わたしも迷惑してるから遠慮しないで!」

 ミナももっちーの態度を認め、そっともっちーの洗い立ての手首を握る。これでお互いひんやりだ。

 「もっちー。大丈夫。わたしがアイツらから守ってやるから」

 一言も話していないのにも関わらず、もっちーの行き場のない感情を受け止めたミナはトイレ脇の土間に投げ出された
片方だけのもっちーの上履きに誓いを立てた。所詮、ガキがやったことだから大人げなくて結構……そんな屁理屈は許せない。

 「隠すなんて、卑怯過ぎるし」

 口を閉ざしてしまったもっちーはミナの声を何様かと思い込んだか、わっと感情を解き放ち、再び自分の手を濡らした。

 あれから、高校を出て、お互いそれぞれ自分の道を歩みだし、風の便りさえ届かなくなってきた。

 そんなもっちーがミナの前に現れた。偶然の出会いだった。
 愛車に跨り冬の夜の風を走り、休憩に凍てつく手を缶コーヒーで温めていると、ふと明かりが恋しくなった。
 喜んで寒い中を走り回るのはイヌかバイク乗りぐらいだと、ミナは自虐的になっていたところに差し伸べられた暖かな光。
 誘ってないのに誘われたかのごとく、ミナは愛車に待てを命じて明かりの灯るレストランに近寄ってみた。ガラス張りの店内が
わいわいと人のぬくもりに唆されて、色恋沙汰の始まりが種蒔かれているようにミナには見えた。
 わたしになんか、関わりないかも。だって、缶コーヒー如きで喜んでいるような女だし。でも……誘われたら嬉しいかも。

 チーズの香り漂うレストランが小さな頃に憧れた二次元の世界に見えてきた頃、三次元のリアルなんだとミナは引き戻された。

 「もっちーだ」

 ミナが知る限りのもっちーは男の匂いなどしなかった。ミナが知る限りのもっちーは女の香りなどしなかった。
 たかが十年ちょっとだ。十年ちょっと会わなかっただけでこんなにも人は変わるのか。
 同年代の男女が一同小洒落たレストランのテーブルを囲み、チーズフォンデュを食している中で、ミナが知っている
もっちーが姿を現すことはなかった。言うならば……小悪魔もっちー。魔方陣の代わりに小さな鍋、契約の代わりにぶどう酒の杯を交わす。
 男どもがもっちーに明太子味のチーズフォンデュを勧めるなか、もっちーは目を細めながらパンを摘んでいた。
 ガーリック味もいいかもと男が張り切ると、男の腕を叩きながらもっちーは明太子味を選んでいた。そして、しっかりガーリック味も
堪能しているのをミナが見逃すはずはなかった。

 「なんだかなぁ」

 あまり見つめていると妬みに変わるを嫌ったミナは残りの冷え切ったコーヒーを飲んだ。

 もっちーは悪魔の契約を交わしました。
 真っ白な正義がくすんで見えてきました。
 魔界へ魂を売ったもっちーに乾杯。

 だって、ちやほやされるの羨ましいし。


    #


 「どうして、もっちーにみんなちやほやするのかなぁ」

 暇を貰ったミナのバイクがガレージで鈍い光を反射していた。ミナはタンクの光沢を肴にしながら北の方の地図を眺めて
もっちーの新たなる門出を嫉妬していた。
 バイクがミナをちやほやしてくれるわけでもないし、春だからコイツにつんつんしてみるか。
 

 おしまい。

736わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:06:28 ID:l/gcxVvs0
投下おしまいっす。

737名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:40:15 ID:Ip.vqT4s0
怪盗シロ先生
http://imefix.info/20130321/611344/rare

738名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:42:24 ID:jQevw4W20
ありがとうございます。ほんとに描くとはさすがw

739名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 20:45:44 ID:3LIN.aG20
そこはかとなくエロい

740名無しさん@避難中:2013/03/21(木) 23:28:34 ID:N8fhMoOk0
混ざってる混ざってるw

741名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 22:44:57 ID:XrLJbLaU0
>>737
コレッタ「か、かえすニャーーー!!」
怪盗シロ先生「……」
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/287/kaitou_shiro.jpg

742名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 22:54:26 ID:XEhnZ1dk0
コレッタかわいいお

743名無しさん@避難中:2013/03/22(金) 23:03:39 ID:pmyEjx160
それを盗むかwww

744名無しさん@避難中:2013/03/23(土) 00:17:04 ID:QOI.Iae60
しかもすぐ捕まりそうなwww乙です。

745わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:07:42 ID:wr8SlciI0
本スレのお題「ぬいぐるみ」書きました!
ババアも出るよ!

746しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:08:29 ID:wr8SlciI0

 保健室のベッドに乱雑に置かれたサイフ、携帯、ハンカチ、手袋、マフラー……白先生の私物であった。
 ちょっとしたお値打ち品、オトナの女が持つような品ばかりだが、乱れ打つよう無様に並んだ姿を晒してる。
 ベッドの脇に跪き右手を鶴が首を伸ばすように突き出して、手首を下げる三十路のネコ一人。保健室の主だ。

 「この感覚。この感覚だぞ……。ここから左に……3秒!」

 まるで機械のように腕を水平移動させながら白先生はぶつくさ独り言。ぎこちなく腕の動きを止めると今度は下に動かし始めた。
そしてハンカチを鳥がくちばしで咥えるように掴むと再び一言発する。

 「よし!この感覚だぞ」

 さながら、ゲームセンターのクレーンゲームの真似事。腹痛でやってきた子ネコのコレッタが背後にやってきたことに
気づいた白先生はしらんぷりの態度を取って保健医の顔に戻り、がらがらっとカーテンを引っ張りベッドの上を隠した。


     #


 ここまで通い詰めれば、もはや常連客だ。寒い中、若いもん集まる街のゲーセンの一角、ひとり三十路のネコがいた。
 他のゲームに興味を持たず、真っ先にクレーンゲームに噛り付くこの客は遊ぶことを知らなかった。なぜなら、景品のぬいぐるみに
心奪われ、まるでストイックなアスリートのようにまっすぐに、ひたむきにガラスケースに向き合っていたからだ。
 
 「頼む、笑ってくれ。クレーンの女神よ、笑ってくれ……」

 クレーンゲームにへばり付き、めげることなくガラスのケースで重なり合うぬいぐるみを手に入れようと、白先生は右手にボタン、
左手に硬貨を携えて機械に運命を託していた。コレッタたちの笑顔を見たいから、一万二万は当たり前。百遍だめなら千遍だ。
ぐぐっと近付くアームがぬいぐるみを優しく抱き上げる。祈る気持ちで行方を見守るが、ガラスの壁は厚く思いは伝わらず、
アームの束縛を拒否したぬいぐるみは自由な世界へと戻っていった。白先生に宣告されたものは非情にも『ゲームオーバー』。
 白先生はぎゅっと左手の中の硬貨を握り締めた。仕事を終えたケースの中のクレーンは真面目にスタート位置へと戻っていった。

 ふと、白先生がガラスの中のぬいぐるみから目を背けると、明らかに場違いな自分が通りに晒されていることに気付いた。
人気者であるクレーンゲームのコーナーは一元さんでも気軽に入れるように一階にあることが大抵だからだ。
 月給切り詰め手に入れたちょっと品の良いダウンジャケットにブーツ姿の白先生は周りの若者だけが持つ金で買えない何かに嫉妬した。
たとえ、それが無意味なことであろうとも、せずにいられない三十路の悲しい性だった。

 「あっ」

 隣のケースは羽振りが良い。硬貨を入れて間もないと言うのにぬいぐるみをゲット。吸い込まれるようにぬいぐるみは
取り出し口へと転がっていった。プレイヤーは学園・高等部の生徒と歳はそんなに変わりはしない、ぱっつん前髪みどりの黒髪美しい
ウサギの少女だった。見覚えないので佳望の生徒ではないはず、しかし、彼女に興味を抱いた白先生はそっと近付き手元を覗き込んだ。
 少女は白先生を不審がることもせず、白先生の心の内を見透かすように明るく口を開いた。

 「不思議ですよね?どうしてそんなに上手いんだって?それにわたし、そんなに目を動かしてませんからね」

 ウサギの少女の声に白先生は息を止めた。

747しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:08:47 ID:wr8SlciI0
 「気配で分かるんです。わたし、勘だけはいいんです」
 「ほう……。しかし、それだけで」

 白先生が話し終える前、少女はまた一つぬいぐるみをゲット。彼女の視線に動きはなかった。

 「モーターの音やぬいぐるみを挟む音を頼りにしてるだけですよ。わたし、耳だけはいいんです」

 と、話しているうちにまたひとつゲット。
 白先生には聞こえなかった取り出し口にぬいぐるみが転がる音を聞いた少女はガッツポーズをする。
ふと、白先生のブーツのつま先を叩く感覚があった。足元には白い杖が転がり、少女は少し焦った顔をしてしゃがみ込み、
手探りで杖を探していた。冷たい少女の手が白先生の太ももを掴んだ。

 「す、すいません!」

 少女の白い杖を拾い上げた白先生は優しく声をかけた。
 純白の杖の先は赤く塗られ、使い込まれて出来た傷が少女との信頼関係として刻まれている。杖には彼女の名前と思われる
『YUKI』との文字が記されていた。

 「気をつけてな。『ゆき』。ほら、手を握るぞ」

 初めて会ったのに自分の名前を呼ばれた不意打ちに『ゆき』の手が止まった。
 白先生は「ああ、すまん。仕事柄、相手を名前で呼ぶ方が信頼を築けるから」と言う。
 
 「はい。先生」
 「……」
 「『雪妃』も名前で呼んでくれて嬉しいです」

 しっかりと両手で握らせた白先生は目を丸くした。
 初めて会ったのに自分が保健室の住人だと分かるとは。

 「オキシドールの匂いがしたんです。医者か学校の保健室の先生か。どちらも先生だなって」
 「……」
 「わたし、鼻だけはいいんです」
 「……」 
 「ほんのお返しですよ」


    #


 別の日、同じゲーセンにてクレーンゲームの興じていた白先生はオオカミの青年から「お姉さん」と呼び止められた。
 彼は先日会った雪妃よりも年上の印象を受ける物腰柔らかい青年だった。淀みのない目はおよそオオカミのものとは即座に
考えがたいぐらい、ガラス球のような光が周りの筺体から発する明かりで輝いて見えた。

 「お姉さん。ぬいぐるみ、取りたいんですよね」
 「……今、必死にやってるところだけどな」
 「ぼく、取って見せますよ。ノーミスで取りますから、じっとアームから目を離さないでくださいね」

 煙に巻かれたような気持ちで青年の言葉に乗せられた白先生は自分の顔が反射するガラスケースの中のアームに焦点をあわせていた。
それよりも、三十路を超えた自分を「お姉さん」と他人から、しかも見知らぬ他人から呼ばれたことに少々動揺していた。

 で、技のほうだ。
 アームが動く、掴む、あがる、投入口までぬいぐるみを運ぶ。そして、青年の元にぬいぐるみが……。鮮やかとしか言いようがない。
『天才という名は彼のためにあると言っても過言ではない』という言葉さえも陳腐に聞こえるボタン捌きであった。

 「お姉さん。差し上げますよ」
 「い、いいや。いいよ。自分で掴んでこそ、ゲームだ」

 青年は少し悔しそうな顔をしてぬいぐるみをお手玉のように軽く空中に上げながら、白先生との再会を誓う言葉を残して
ゲームセンターの出入り口へと去っていった。すれ違いに現れたのは白い杖の少女だった。先日のような笑顔はなく、寧ろ
青年に対して軽蔑の眼差しを向けていることに等しい態度を雪妃が取っていることに白先生は気づいていた。相手の心情に
気付くことは職業の性だと白先生は(自分ひとりで)言う。
 白い杖をかつかつと地面に当てながら雪妃は真っ直ぐとゲームセンターに入ってゆき、杖の先が白先生のブーツに当たると
ぜんまいの切れたロボットのようにぴたっと足を止めた。

748しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:09:08 ID:wr8SlciI0
 「ごめんなさい!先生ですよね。声が聞こえました」

 白先生は首を縦に振ることで返事をしようとしたが、雪妃のために「ああ」と口に答えを出した。

 「あいつ、『イカサマ王子』です」

 確かに王子と名乗るにふさわしいほどの振る舞いだ。だが、雪妃は低い声で続けた。

 「筺体にコイン、入れてないんです。なんらかの小細工を使った方法で誤作動させてます。きっとコインの投入口に……。
  だって、コインを投入する音が聞こえなかったんです。わたし、耳だけはいいから分かるんです」
 「……証拠は。証拠がないとこちらも手を出せないぞ」
 「はい。立証は目撃者でも居ない限り難しいでしょう。先生、気をつけてくださいね。あいつ……年上好みですから」
 「……」
 「年上の女性に擦り寄ってぬいぐるみを贈る。いつも敬語ですし、気に入られやすいんです。
  イカサマはゲーム感覚でしょう。一瞬でもいいから、自分をチヤホヤしてくれるような女性を探しているんです」

 雪妃はゲームの神へ訴えるようにクレーンゲームにコインを投入し、次々とぬいぐるみを狩っていった。

 「この辺であいつの名と破廉恥な振る舞いを知らない者はいません。ただ、証拠があがらないんです。
  なのに……わたしにだけ証拠が聞こえるのに、証明できないって……悔しいじゃありませんかっ!!」


    #


 『イカサマ王子』がコレッタに近づいているのを白先生はゲームの最中に目撃した。

 年上好みと聞いていていたはずなのに。目をぱちくりしていると王子はコレッタに何かを話しかけ、以前白先生に求めた
ことと同じようにアームの先を見放さないようにコレッタに指示をしているのに気づいた。あろうことか、コレッタにだ。
 コレッタとイチャコラしているのを見るだけで、白先生は胸の奥が沸騰してくるような気がした。

 だから、というのは失礼かもしれないが……白先生は途中でゲームを放棄して王子に寄りつめた。
 王子は鬼気迫る形相の白先生に対して、なんとも紳士的な表情で迎え入れた。作法も知らぬ野武士が氷の面構えをした
貴公子に斬りかかる、と言うべきか。ただ、言えること。野武士は本気だ。

 「イ……王子さまだね」
 「そんな呼び名、されているんですかね。ぼく」
 「失礼覚悟で聞く。コインは入れたのか」

 白先生の問いかけを遮るように筺体のランプが灯りだし、いかにもせせら笑っているように見えてきた。
 そして、あれよと言う間にぬいぐるみが捕獲され、コレッタの元へと取り出し口に転がってきた。
 何も事情を知らないコレッタは不思議そうにぬいぐるみを眺め、そしていつのまにか手中に収まっていた。
 
 「否定しないな」
 「肯定もしていませんよ。コインは入ったのでしょうか?疑問ですね。なのに、ぬいぐるみが手に入った。お姉さん、質問は愚問です」
 「ちゃんと、ちゃんとコインの音がしないっていう証言もあるんだぞ」
 「お姉さん。冷静に考えてください。コインの音って聞こえますかね」
 「あの子……あの子には聞こえないんだ!」

 冷静になれ。落ち着け。感情に訴えるな。ババア。
 王子の嫌味なほどの爽やかさが白先生を煽り立てた。

 「コレッタ!近づくな!離れろ!こいつ、こいつはな!」
 「ニャ?」
 「店員さーん!ここでオバサンが暴れていますよー!」

 王子が手を振っているうちにわらわらと制服姿の店員が集まり始め、白先生は羽交い絞めにされながらクレーンゲームから
引きずりはなされていった。きらきらと輝き続ける電飾に照らされて、テンション上がる音ゲーのサウンドに囲まれて、
三十路を過ぎた一人の保健医は両手を振り乱しながらスタッフオンリーの札が掲げられた部屋に店員と共に吸い込まれていった。

 「王子!王子はいくらでも傷つけ!!でも、コレッタだけは傷つけるな!!わたしが許さん!!」という声を残して。

749しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:09:26 ID:wr8SlciI0

     #


 日の長くなった五月晴れの午後。
 
 白先生は市電の中で雪妃に再会した。手を伸ばせば気づく距離だが気づくことが無い雪妃を驚かせないように
声をかけながら肩を優しく叩くと、雪妃はにこりと花を咲かせた。もちろん、あの日と同じように白い杖を片手にしていた。
 初めて会ったときの冬服から制服から涼しげなワンピースに身を包んでいる雪妃の姿は白先生には新鮮だった。
雪妃の持つ白い杖にはケレーンゲームのぬいぐるみがぶら下がる。市電が加速をする度にゆらゆらと揺れるぬいぐるみを
白先生は目で追っていた。

 「先生、あれからゲーセン行ってますか?」
 「いや……全然」

 あの店に近づくのはやめた。
 なんだか自分が恥ずかしくなるからだ。法や世間が白先生を許しても、白先生が自分を許せなかったのだ。

 「それじゃ。わたしと一緒に行きましょうよ」
 「……」

 白先生が巻き込まれた店内での出来事を知らない雪妃は白先生がクレーンゲームに夢中になっている姿を想像してにやりと笑った。
 雪妃は白先生に再会の約束を交わし、途中市電を降りてかのゲームセンターへと杖に頼りながら向かった。歩きなれた道だから、
たどり着くまでがなんだか楽しい。にぎやかなサウンドが雪妃の耳にだんだんと聞こえてくるのがいやがうえにもテンションを上げる。

 店内に足を入れた雪妃は杖の動きを止めた。
 王子だ。あの王子、まだくたばり損ねていたのか。嫌でも鼓膜を響かせる王子の爽やかな声、そして折り重なるように幼い子供の声。

 「さあ。コレッタちゃんの好きなもの、取って見せようか」
 「ウチのコレッタがすいません!ほら、お礼は?コレッタちゃん」
 「ニャ」
 「もー!コレッタちゃんのご返事はいつも可愛いね。お母さん、萌えしびれちゃった」

 雪妃は膝打った。打ちまくりだった。
 イカサマ王子はコレッタではなく、コレッタの母親狙いだったことに。将を射んとせば、馬を狙え。
 年上好みの王子が取った謀にまんまと転がされる、コレッタの母はコレッタ以上に周りに花びらを散らせていた。
 王子と子供とちょっと子供っぽいオトナの声が三つ編みのように美しく輝きながら絡む。だが、美しいものにも消えるときが。

 「……おにいちゃん。右手で何してるニャ?」
 「ん?」

 たじろぎを隠す王子の手元をコレッタが覗き込むたびに、コレッタの母は首を傾げていた。

 「コレッタちゃん!な、何……ごめんなさいね!」
 「ニャ!お金入れてないのにうごきだしたニャ!!」
 「コレッタちゃん!」
 「どうしてニャ?どうしてうごかしたニャ!?」

 もはやこれまでか。王子は表情を変えずにいることに限界を感じ、脱兎の如くコレッタの元から店外へと駆け出すが、
刹那に脛に激痛を感じ地面にひれ伏した。悶絶に苦しみながら見上げる王子の視線の先には、聖剣のように白い杖を構える
雪妃の姿が逆光の中浮かんでいた。

 「わたし、勘だけはいいんです」

 白先生。また、ゲームセンターで会いましょう。
 雪も融けました。
 草木も萌え出でています。
 悪いオオカミはいなくなりました。

 ただ、美しすぎて、物足りません。雪妃は待ってます。


  おしまい。

750わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:11:58 ID:wr8SlciI0
「ぬいぐるみ」で描いた!
ババアもでるよ!のおまけまむが。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/412/dr_shiro_cyan.jpg


投下はおしまいです。

751名無しさん@避難中:2013/05/13(月) 20:43:39 ID:eRw7z.IEO
ぬこぽ

752名無しさん@避難中:2013/05/15(水) 13:29:38 ID:o4fSKqi20
>>751
ニャッ

753名無しさん@避難中:2013/05/30(木) 02:34:50 ID:35kl/ZvY0
白「児ポ規制が改正されるぞ。気をつけろよ因幡

リオ「はああー?私は児ポなんで一ミリも関係ないですよ?先生こそ大丈夫なんですか

白「ガキの身体に興味持ってたら先生なんかできんわい!

リオ「ええー?本当ですかー?コレッタちゃんの柔肌をニヤニヤ眺めたりしてませんかー?

白「腹の立つ奴だな。だが実は興味は無いが生徒の成長を知るためにある程度のデータは覚えてるぞ。お前の胸囲は○○cm。

リオ「ギャー!わ、忘れろ!忘れてください!

白「腹回りは○○だったか?メリハリが無いな。

リオ「ぬおおー!訴えるぞ!勝つ見込みはあるぞ!

白「胸が薄いと細身の服が似合って良いな。羨ましいよ。ははっ。

754名無しさん@避難中:2013/05/30(木) 03:03:30 ID:7Abex2kc0
なぜ把握しているw

755名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 21:04:39 ID:0tG/YBXI0
お知恵拝借。
けも学の「映画研究会(創作系)」の子たちを描こうと思って、キャメラを
三台用意しました。 ひとりは黒柴犬チビ助眼鏡っ娘ってのを考えてますが、
のこりふたりの種族は何にしたら良いでしょうか? 私が考えると全部犬に
なりそうで…
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/445/furry529.jpg

756名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 23:12:17 ID:/Nfxb2hU0
目がよさそうな鳥とか?

757名無しさん@避難中:2013/06/01(土) 23:56:48 ID:YdgHYWV60
背が高いから映画館では最後列に座るという気配りをする映画好きなキリンさん

758名無しさん@避難中:2013/06/02(日) 09:08:39 ID:zYQYgfFA0
アクション映画が大好きだけど意外と運動音痴で熱血馬鹿でなおかつ無駄に馬鹿力なライオンさんとかw
ミージカル映画が好きだけど臆病で自分が歌う事なんて絶対無理!な小鹿さんとかw

759わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:33:23 ID:VejPUCRk0
>>755
書いてみた。どんなキャラかなぁ?この子。でも、書いてみた。

760「青い画」 ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:34:00 ID:VejPUCRk0

 プールでイヌが溺れた。
 誰も疑うことは無かった。

 梅雨の一休みの中、さんさんと水無月の太陽に照らされるなんて、なんという贅沢。
 苦手な水泳が大手を振ってサボれるなんて、なんという贅沢。
 スク水姿の女子に囲まれるなんて、なんという贅沢。

 救い出されて尻尾を丸めた果報者のイヌは恥らいも無く無様な姿を披露していた。
 彼女……、そう。彼女はコンクリ打ちっぱなしのプールサイドにて仰向けに、濡れた紺色のスク水に身を包んで息も荒い。
 ここが安楽なる保健室のベッドでないことは我慢してくれればよいが、生憎ここは青空の元のプールだ。多少の犠牲はやむ得ない。
小さな体からはぁはぁと命の息吹が湯気を立たせて、ぽっこりお腹が上下に揺れる。空を流れる雲たちがやけに速い。

 「まったく……。お前、己を考えろよ」
 「はぁ……寝不足でした。眠いのを無理して……、だ、台本書いてました」
 「無理すんな」
 「助監督への道は厳しいんです。これしき……」

 保健医の白先生、脈を計り、彼女の容態が安定したことを確かめると、イヤミの無いお説教で彼女に愛の鞭をお見舞いしていた。
 ここで白衣姿なのは眩し過ぎるのでいそいそと白先生がプールサイドから退散すると、白衣の裾を引っ張る感覚がした。
無言で引っ張る力に対して、白先生は頷くことで「安心しろ」と伝えていた。程なくして裾は自由を得た。

 太陽の日差しが眩しく思ったか、コンクリと同化していた彼女が目を見開いて、きゃんと無駄吠えの声上げる。
 ちょっと太めの両脚を天高く突き上げ、勢い付けてむっくり起き上がると同時に、お互い打ち合わせをしたかのように
周りのスク水女子が一歩後ずさり。起き上がったチビっこイヌは滴る雫を拭いつつ、自身の健在をアピールしていた。
 山椒は小粒でも辛いんだぞと、言わんばかりに。

 「良い画が見えたんだよ!凄いんだったら!ゆらゆら揺れる画なんてプールの中じゃないと見られないんだから!」
 「……」
 「きれいな、画だったんだよ。あたしのファインダーに映ったんだよ」

 濡れた黒い毛並みがきらきらと、自信なさげな胸がおしとやかに、ちっぽけな体全身で奇跡の瞬間を伝えたくて 身振り手振りで
『全学年の生徒に見守られながらプールの底に沈む』屈辱を『神からの恩恵を授かる』名誉に仕立て上げる姿。それは彼女の癖だった。

 「おねえちゃん。何言ってるニャ?」
 「吸い込まれるような画だよ!青い画ってこんなに涼しくも、心惹かれるものなんて!」
 「ニャ?」

 彼女は未来の映画監督を夢見る少女。そんじょそこらの失敗なんぞ、未だ見ぬ銀幕への拍手に変わるのならばなんでも……と。

 「はやく……続きを撮らせてください!」
 「ニャ……?」

 あどけない瞳とネコ耳が溺れたイヌを捕らえる。
 そして、また一歩後ずさり。

 「とにかく、助かってよかったニャ」
 「……ありがとうございます」
 「年下に頭下げるのまだはやいニャよ」

 彼女は低学年のネコたちに敬語で気を使った。

 悟った。
 初等部……女子小学生たちに紛れて泳ぐのはもうやめようと。
 ちっちゃい頃を思い出すかもと思ったけれどとんだ大誤算。
 やっぱりJSは最高だぜ!だなんて、うそっぱちだ。JSの頃の記憶なんて、プールの底に沈んでしまえ。

 眠気が瞼にのしかかる。うとうとと、どっと疲れが彼女を襲い、再びプールサイドのコンクリへ体を沈め目を閉じた。

     #

761「青い画」 ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:34:33 ID:VejPUCRk0

 彼女は『監督』と呼ばれていた。女子高生だけど『監督』だ。
 学園の映画研究会に所属する『監督』は事実、上に立つ立場だし、求心力も備えているし、映画監督を目指しているから異論は無い。

 事件が落ち着いた頃、目を覚ました誇り高き『監督』は一人ぼっちで更衣室で濡れた体をタオルで拭いていた。
 にぎやかだったプールは静寂を取り戻し、水面だけが自由な時間を弄ぶ。彼女の眼鏡が息で曇る。

 黒い毛並み美しく、ちっちゃい体はちょこまかと、そして眼鏡で光る瞳はどんな原石でも見分ける選球眼を携えていた。
 スペック高くても、所詮は女子高生。スク水姿で一人ぽつんと更衣室で姿見の前で突っ立ていた。肩に掛けたフェイスタオルから
しずくがぽたりと落っこちて、床を濃く湿らせる。時間が経つとともにその円は数を増やし、やがて不思議なサークルへと姿を変える。

 照明の消えた更衣室に差し込む光は四角四面な窓からの日光だけ。
 白く映える窓、床に落ちる影。『監督』はじっとその光を横っ面で受け止めていた。

 「元気になったニャか?」
 「さっき居た……」
 「ミケのこと?わたし、ミケっていうニャよ」
 
 更衣室の窓からひょこりと顔を出した子ネコが一人。さっきの事件を目の当たりにしていた子だった。
 夏みかんのような明るい色がさらさらとプールの風に揺れ、前髪をハートの髪留めで括った三毛猫の子ネコ。『監督』を案じて
わざわざここまでやって来た。ぐったりと仰向けになっていたときにはオトナに見えたミケは今となって小さく見える。

 「あたしがミケちゃんと同じぐらいの頃に見た映画を思い出してね」
 「そうなんだニャ」
 「あんな吸い込まれそうな空色の映画、あたしも撮ってみたいし」

 雫がつららと『監督』の毛並みを走り、紺色に染まるスク水は緩やかな丘を描く。草原を走る透明な羊の群れのようだ。
 優しい丘を登ったら、すらりと斜面を駆け下りる。そして粒は集い、『監督』の脚の付け根に淀む。
 『監督』はくすぐったくて、人差し指でスク水からむちっと映え出る脚の付け根をさすった。

 「絶対、撮ってやるんだから」

 小さい頃に見たんだ。
 まるで自分が魚になったように、青くきらめく空を自由に、銀幕の中にも空はあると。
 そして、空の向こうには紺青に染まる空の果て。散りばめられた瞬く星。その中をふわりふわりと浮かんでくるり。
 真っ暗な映画館に窓のように切り抜かれたスクリーン。
 リアルと妄想が混じり合う非現実的な空間。

 宇宙旅行はまだまだだけど、幻燈の前ではいつでもどうぞ。
 浮世をすっ飛ばしたいから、無敵の英雄に願いを託す。
 過ぎ去った日々は戻らないから、ちょっと指定席で現実逃避。

 ずっとこのまま騙されていたいと願いつつ、幼き日の『監督』は再び同じ夢を見る日を、そして誰かに分かち合う日を待ち続けていた。

 「おねえちゃんの映画を楽しみにするニャね。ミケは『かれし』といっしょに見に行くからニャ」
 「いるんだ。彼氏」
 「いないニャよ。これからさがすニャ」
 「じゃあ、ミケちゃんの彼氏が出来るまでにおねーさんは空色の映画、頑張って撮っちゃうぞ」
 「間に合わないかもニャね」

 夏の雲は流れが早く、映画に、青い色に取り付かれ、幼心を抱いたままの『監督』も、今では華のじょしこーせー。
 いつの日か『青い映画』を撮ってやるんだぞ。
 スク水脱いで、制服に着替えたばかりの『監督』からは塩素混じりの夏の匂いがした。


   おしまい。

762わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/06/03(月) 23:37:53 ID:VejPUCRk0
おまけ。
描いてみた。どんなキャラかなぁ?でも、描いてみた。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/461/cinema_culb.jpg

投下、おしまいです。

763名無しさん@避難中:2013/06/09(日) 15:15:42 ID:9SZlIrvg0
アドバイスありがとうございます。
とりあえず5にん描いて本板の方に投稿してみました。
後は女性副部長が進行管理とかやれば成り立つのかな?
キャストは演劇部とかから調達するのかな?

また昨日も中古の8m/mキャメラを買ってしまった…

764名無しさん@避難中:2013/06/09(日) 19:50:15 ID:RnPqhTBA0
>>763
乙です。賑やかそうだw

765名無しさん@避難中:2013/06/29(土) 19:56:13 ID:Qd2YZu6M0
本スレババア本www乙ですー

766名無しさん@避難中:2013/06/29(土) 19:59:19 ID:G9FFuduE0
兎も巻き込んで是が非でもコレッタを魔法少女に!

767名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 11:42:31 ID:SnqnR7HI0
もふもふスレも便乗age

768名無しさん@避難中:2013/08/06(火) 07:20:31 ID:EKFUNT2M0
白センセ ビキニ姿で のうさつよ

769名無しさん@避難中:2013/08/06(火) 20:08:20 ID:R1n2qVYc0
ババァ無理すんなw

770青空町耳嚢 〜創作発表板五周年企画SS〜  ◆KYvOzJo9IM:2013/08/27(火) 16:22:39 ID:g1PJ08CI0
青空町耳嚢 第12/21話
【無念なり】

 住宅街の裏通りで、犬と猫がケンカしているのに出くわした。
 激しい争いの末、勝者となった灰色の大柄な猫は、ブロック塀に跳びあがると悠々と去っていった。
 あとに残されたのは、満身創痍で倒れ伏している茶色のやせ犬。首にスカーフみたいなものが巻いてあるところからして、飼い犬のようだった。
 あまりに痛々しかったので保護して飼い主に連絡しようかと近寄ったものの、その犬はよろよろと立ち上がって去っていってしまった。
 その去り際、犬が悔しげに呟いた。

「無念なり」

 次はがんばれ、と思わず応援したくなった。


【終】

-------------------------
【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/

771わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 20:02:50 ID:Hcu2UIes0
5周年おめ!!
わお!50スレ祭りとな!

50は無理だけど、SS書いた!ホラーじゃなくてすまない。

772『タイムカプセル』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 20:03:23 ID:Hcu2UIes0

 髪の長い娘がざっくざっくと公園で穴を掘っていた。
 陽射しの強い夏の真昼間、立木が落とす濃い影の元ひたすらシャベルで掘り起こす。
 シャベルのリズムに合わせて束ねた髪が揺れ、一言も喋らず一心不乱に土の中を見つめていた。

 「ルル姉、何やってんだ?」

 声をかけられたことすら気付かずに、ルルという名の娘は穴を掘る。
 ルルは人だ。ケモノたちの住むこの街では珍しい。ただでさえ目立つ存在なのに、可憐で華奢な体で重いシャベルを扱う姿は
どう転んでも目を引く。やがて、息も荒くなり一休みとシャベルを放り出すと、傍らにいた少年の足元にからんと転がった。

 「ルイカ、見てたの?」
 「ルル姉、訳わかんねぇよ」

 ルイカと呼ばれた少年はケモノだが、あまり見ぬ種族ゆえやはり目を引く。やや耳はシャベルのように尖り、やじりのように
目つきのきついカルカラというケモノだった。
 ルルとルイカを繋ぐのはたった一筋の親族であること。種族は違えど系譜が繋がると逃れられぬ関係となる。
 ルイカはルルと見えない鎖で繋がれているようなしがらみを足元に感じた。

 「見つかんない。どこにも」
 「はあ?何がさ」
 「タイムカプセル。わたしがちっちゃいときに埋めたの。覚えてるでしょ?」
 「なんだよ。ガキくせ……」
 「ガキのくせに人をガキ扱いするなんて大層な様ね」

 茶色く窪んだ土、黒くうずたかく盛られた土、そして色白の娘。どれもこれも不釣り合いで、ちぐはぐで。
 それを繋ぐタイムカプセルさえも見つからない。

 「木の箱に入れてたの。大人になったら掘り起こすんだって」
 「土に返ったんじゃね?」
 「将来、思い描いた自分になれてるかって……どうか。大人になった自分への手紙だね」

 無いものはない。求めても戻ってきやしないタイムカプセル。この星を捨てて遥かかなたへ飛び去ってしまったのか。
 ルルは手を払い、また一度地球の裏側にまで通じるのではないのかという勢いで再び穴を掘りはじめた。

 ルイカはルルの姿に一種の後悔を感じた。しかし、ルルに弱みは見せられぬ。

 (ルル姉が埋めた後、おれが掘り起こしたんだよな)

 ルイカの記憶は確かだった。
 そのタイムカプセルはルイカの自宅の机の中にある。土にまみれた木箱は眠りを邪魔されてルイカの手元にあるのだ。

 「ふう。休憩!ルイカ、穴、見てて!」
 「おれが?何でだよ」
 「危ないでしょ?掘りっ放しじゃ!わたしここにいるからアイス買ってきて!」

773『タイムカプセル』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 20:03:50 ID:Hcu2UIes0
 ルルに刃向かうのは万死に値する。大袈裟かもしれないが、二人はそんな関係だ。ルイカは渋々と公園を去った。
 しかし、もやもやした気持ちは晴れない。アイスを買いには行かずに、その脚で自宅に戻り机の中をまさぐった。
 机の中は整理整頓されて風通しが良い。そんな町並みのような机の引き出しの中にぽつんと違和感ありありの木の箱が一つ。

 「これだ」

 土にまみれたようにくすんだ木箱、大きさはおよそ文庫本ほどだ。錆びた蝶番が固く、蓋を開けるのも至難だった。
 やがて蓋は開き、中に一枚の桜色の便箋が日の目を見た。几帳面に畳まれた便箋に書かれた一文にルイカは目を止めた。

 『りっぱなおとなになってますか』

 幼く、たどたどしく、舌ったらずな手書きの文字。ルルが8歳のときに書かれた自分への手紙だった。

 確か幼き頃のルルが大人になったルルと同じように穴を掘っていたんだ。ざくざくと、重なる姿は変わらなかった。
ルイカはその一部始終を眺めてて、ルルが埋めたタイムカプセルをルルがいない間に掘り起こしたのだった。
 「ガキくせー」とルイカが減らず口叩いたからルルからびんたをお見舞いされた。だから今でも覚えている。

 (一矢報いたかった)

 語彙の増えた今、振り返るとそうだ。中の手紙の代わりにテストの裏の藁半紙を入れて、ルイカは土に埋もれているはずの木箱に入れた。
木目の刻まれたタイムカプセルをかばんに隠し、ルルの待つ公園へと脚を運んぶ。

 「ルイカ、アイスは?」
 「知らねーよ。おれはルル姉の下僕かよ」
 
 あまりにも暑く、喉が渇くから、ルルがアイスを買いに走った。
 これ幸運とルイカはルルの掘った穴を掘り続け、かばんに入れた木箱を埋めた。

 「ったく」

 穴をじっと見つめていると吸い込まれそうになる。だから踏ん張って、しがみつく。
 程なくするとアイスを二本手にしたルルが頬を赤くして帰ってきたが、ルイカはアイスだけ受け取って公園から去った。

 その晩。
 ルルは自宅のリビングで木箱に入っていた藁半紙を眺めていた。久しぶりに再会したタイムカプセル。
そう。ルルはルイカが埋めた木箱を掘り当てたのだった。諦めかけていたのでちょっと嬉しい。丁寧に土を払い除け持ち帰った所だった。

 藁半紙の表には結構良い点数のテストの答案、おまけに持ち主の名前まで書かれている。そして裏には男子の手書き文字。

 『ガキくせぇこと、未だにしてんじゃねーよ』
 「ルイカもね」

 『りっぱなおとなになってますか』へのルイカからのアンサーだった。にやりとルルは手紙の返答主に噛み付いた。

  
    おしまい。

774わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 20:05:46 ID:Hcu2UIes0
ルルさんとルイカをお借りしました!!
と言うわけで、ザッキーも加えてこちらもどうぞ。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/548/lulu_5th.jpg

775名無しさん@避難中:2013/08/30(金) 13:15:19 ID:smY3qPLc0
投下乙!

776名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 07:58:37 ID:7wnoB0C6O
白先生、スク水の季節…終わっちゃいましたね。

いや、先生が着るんじゃなくて…

777名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 08:20:42 ID:f0a9F6z60
ババァ無理すんなwww

778名無しさん@避難中:2013/10/05(土) 23:02:48 ID:G3eEYy9g0
「かわうそは僕の嫁」と「トド彼」、立て続けに耳尻尾どころじゃないケモノ
とのラブラブ漫画の単行本がでてきてました。

皆様におかれましてはこんなのは如何でしょう?

779名無しさん@避難中:2013/10/06(日) 14:41:13 ID:kg/aFcbI0
>>778
無茶するBBAは美しい。
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/599/shiro_manga.jpg

780名無しさん@避難中:2013/10/07(月) 11:55:53 ID:lVkr18Sk0
BBAめ、溜め込んだ使い道見失った結婚資金があるだろう!

781名無しさん@避難中:2013/10/12(土) 07:42:44 ID:BWNHqBf.O
リオ「ただのBBAには興味ありません。このなかに巨乳、残念、ロリコン、保健医がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

782わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/10/16(水) 19:30:17 ID:10nzO7Xs0
本スレ>>116 お題「将来の夢」でちょいと書きました。

おまけ。
コレッタだよ!
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/609/Coletta.jpg

以下より、どうぞ。

783『ユメミルコネコ』 ◆TC02kfS2Q2:2013/10/16(水) 19:30:52 ID:10nzO7Xs0

 保健室の白先生が居眠りしていた。
 人目も憚ることなく、無防備に椅子に仰け反ってすやすやと。

 そろりそろりと忍び寄る小さなユメミルコネコが一人。
 どきりどきりと揺れ動く小さな胸に希望を乗せて。

 「ちょっとかりるニャ」

 白先生を起こさないように、子ネコのコレッタがメガネをひったくった。薄い手のひらには重くのしかかるオトナのメガネ。
 コレッタは頬を赤くしながら白先生のメガネをかけた。

 メガネをかければちょっと一人前に見えるかもしれないと、コレッタはメガネのつるを摘んでいい気になっていた。
 そして白先生の真似をしてゆっくりと、子ネコにはちょっと大き目のメガネをかける。

 初めての視界はぐるぐると廻るよう。瞳は鳴門のようにぐるぐると廻るよう。
 足元もふらふら、オトナになるって厳しいニャ。

 メガネをかける前は「白先生みたいなオトナになりたいニャ」と、まだ見ぬ未来の希望へと手のひらをぐっと伸ばしていたのだが、
今やその手は制御不能!度があっていないからと子ネコのコレッタには理屈は通じぬ。

 足元でんじゃらす!
 コレッタは前のめりに転びそうになりつつ声を上げた。

 ふにゃあああああああ!!

 助かったニャ?
 でも、おかしいニャ?
 
 やわらかく。とろけそうな肌触り。ボーダーのシャツ越しながら、薄っすらと感じる(永遠の)嫁入り前の……。

 「コ、コレッタ!!何しているんだ!!」
 「ご、ごめんなさいニャ!白先生みたいになりたくて……ニャ」
 「わたしみたいに?か?」
 「ニャ!」

 白先生はぐっと額に汗たらして堪えた。お願いだから爪は立てないでくれ。胸が痛いんだ。比喩でもなく、ホンキで。
 コレッタの手中に収まりきれない白先生の無駄に大きな胸は子ネコになぜか自慢げだった。


  おしまい。

784わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/10/16(水) 19:31:14 ID:10nzO7Xs0
投下おしまいです。

785名無しさん@避難中:2013/10/16(水) 19:45:25 ID:C/D6zyY.0
コレッタにゃんハスハス

786名無しさん@避難中:2013/10/29(火) 21:43:10 ID:FFL30Yic0
ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/620/furry535.jpg

787名無しさん@避難中:2013/10/30(水) 07:06:11 ID:reOTjpGM0
がおー

788名無しさん@避難中:2013/11/24(日) 18:30:38 ID:fnBtgo/I0

 「もう一ヶ月か……」

 咥えた煙草の煙がやけに澄んで見える。汚れ塗れの世間よりかは煙の方が清く見える。
 私は携帯灰皿に吸いかけの煙草を押し込んで、校舎の屋上から浮かれた町並みを眺めていた。
 もうクリスマスなんか関係は無いと、とっくに切り捨てていたが、どんなに抗おうとも時の流れには逆らえないと知った二十歳の夜。
父との死闘が遥か昔のように流れ去り、私の眼帯だけが古傷を癒す。父など……、私の記憶には無い。

 「獅子宮せんせー」

 背後から叩くように聞こえる声、まさに彼女は乙女だ。
 私と同じ歳だというのに、子猫の頃を引きずる彼女は泊瀬谷と呼ぶ。
 私の勤める学園で現代文を教える泊瀬谷だが、些か少女趣味過ぎるのが難点だ。私がかい潜ってきた修羅場とは別世界に生きてきたから、
それはそれで理解は出来るが、闘いに明け暮れていた頃の獅子宮玲子と出会わなかった事を幸いだと思え。

 「あと、一ヶ月ですね!」
 「そうだな」
 「プレゼント、どうしましょうかね!」

 またも私に無縁なフレーズが現れた。
 プレゼントか……。クリスマスイヴの夜にたむろする不逞なる餓鬼共にナックルパンチならばプレゼントしたことはあるが、
リボンや包装紙で飾られた物など私にはもはや関係無い。仮にも頂ける物ならば、血の滴るような生肉でも望もうか。一人マンションで
憂き世をえぐるように食したいと。それを泊瀬谷に伝えた所……。

 「獅子宮先生、肉食系ですね!」

 きっと泊瀬谷は勘違いしているのだろう。何しろ泊瀬谷は乙女だ。
 泊瀬谷の脳内ではクリスマスの夜に寄り添う野獣のような男を描いているに違いない。
 私は携帯灰皿をズボンのポケットにしまいながら、マリアナ海溝よりも深い呼吸をしていた。

     −−−−−−了−−−−−−

789名無しさん@避難中:2013/12/01(日) 07:30:38 ID:Gi2EsxgQO
獅子宮「ぬこぽ」

790名無しさん@避難中:2013/12/01(日) 20:58:21 ID:qv1eS3No0
わん!

791名無しさん@避難中:2013/12/01(日) 22:32:29 ID:pQvCBvvs0
獅子宮「わん…だと?誰だっ。誰が吠えた!」
犬上「え?ぼくじゃないですよ…。早く、本の続きを読ませて下さい」
芹沢「え?マジ?わたしじゃない…ってかさ、あまがみ部じゃね?」
大場狗音「久々に出て来て、これなの?私のあまがみと獅子宮先生の本気噛み…どっちがいい?」
芹沢「弟を差し出します!タスク!!!!」

792名無しさん@避難中:2013/12/13(金) 12:32:59 ID:JhxJMXjIO
絶対に「にゃっ」てはいけない学園24時



ぬこぽ

793名無しさん@避難中:2013/12/26(木) 10:30:36 ID:OrDtm5As0
にゃんにゃん

794名無しさん@避難中:2013/12/26(木) 10:30:36 ID:OrDtm5As0
にゃんにゃん

795名無しさん@避難中:2013/12/26(木) 22:34:04 ID:bIObV0h.0
みゃー

796名無しさん@避難中:2014/02/22(土) 12:01:26 ID:Fa43XJv60
ぬこの日か

797名無しさん@避難中:2014/03/03(月) 17:45:36 ID:Pp/uTr.E0
落ちた?

798名無しさん@避難中:2014/04/10(木) 01:29:18 ID:RE.b8SHM0
ksks

799名無しさん@避難中:2014/06/29(日) 05:25:38 ID:XFNF9ICc0
ぬこぽ

800名無しさん@避難中:2014/06/29(日) 08:23:02 ID:KTz4sKmA0
にゃぺち

801名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 06:47:58 ID:rY.P/gTA0
>>800
http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/834/nyapeti.gif

802名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 11:28:39 ID:kS69i7b.0
かわいい

803名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 22:37:31 ID:Fj6bprFA0
>>801
にゃ

804わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:44:17 ID:RBA6yh0k0
投下します。


     『だてめ』



 真面目のまー子でお馴染みの風紀委員長が、雑貨屋でいちゃいちゃとデートをしていた。

 委員長からいつもつっかかられてばっかりの犬上ヒカルは、見て見ぬふりをして通り過ぎようと心に決める。
 学校から電車で4、5分のショッピングモールの本屋に立ち寄って、発売を心待ちにしていた本を手に入れて、
自分の部屋を図書館にしようと浮かれていた帰り道。テナントして入居していたカオス感漂う雑貨屋の店先でのことだった。
 ディスプレイとして並んでいるご当地袋ラーメンのコーナーに気を取られていいた矢先のことだった。

 「これ、よくない?リオ」

 相手にリードされてばかりのリオは、おそらくきっとまんざらでもないはず。
 風紀委員の活動では委員長だからリードする方のリオだが、委員長の殻を突き破ったとき、牽引される快感で自分の奥底に
潜む被虐性が露になるのだと、ヒカルはクラスメイトの分析をそっと楽しんでいた。

 「……」

 後ろ手でスクールバッグぶら下げたり、小首を傾けるリオの仕草に、同い年のヒカルは年の差を感じた。
 もちろん、年上に、だ。
 もしかすると、女子っていう生き物は生を賜ったときから男子より年上なのでは。
 自分自身の日常を振り返れば、ヒカルは実にそう思う。

 「そういえば、この前さぁ、タスクに似合うTシャツ買ってやったのにさ、着てくれないんだよね」
 「気に入らなかったんじゃね?」
 「むかつくなぁ、なぐるよー。たった一人の姉貴だしー、女子喜ばせろよー」
 「モエはドSだなぁ」

 弟の愚痴でリオの『彼氏様』はぷうっと頬を膨らませて、リオの腕を引っ張った。
 素敵な『彼氏様』は、一人の可憐なオンナノコだし。女子喜ばせてナンボだろ、と。

 「モエー、結婚してくれー」
 「無理じゃね?」

805わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:44:37 ID:RBA6yh0k0
 ヒカルがリオに感付かれる前にこの場から逃げ去ろうと踵を反したと同時に、リオの愛しの『彼氏様』から軽々しい声が飛んできた。
逃げ場 、ナッシング。逆らうは辱しめの嵐。『カピバララーメン』なんかに夢中になるんじゃなかったと悔やんでみるものの、
もはや後の祭りだった。つかつかと近寄るモエは珍しいものをみるように目を丸くしていた。

 「犬上もこんなところ来るんだ」
 「いや……、本屋さん寄ろうと思って」
 「ウチら、デートだよ。放課後デート」

 愛しの『彼氏様』は女子力フルスロットルでピースサインをつきだした。同性同士だから遠慮はいらない。
女子高生同士の百合百合タイム、リオと『彼氏様』なモエのお買い物は綿菓子の味がした。

 「モエ、こんなのどうかなぁ。赤フレーム見付けたんだけど」
 「リオ!いいじゃん、これー」

 伊達メガネが欲しくって、モエはリオを連れ出した。
 メガネっ娘のリオが選ぶメガネに興味もあるし、いち早くリオに自慢出来るし。
 ごちゃごちゃした店内にディスプレイされた伊達メガネからは、知性とおしゃれ心がほんのりとにじみ出ていた。

 「そーだ。犬上もしてみたら?」
 「何を?」
 「決まってんじゃん。だーてーめ」

 思考と行動が同時のモエの手には、空色のフレームが瑞々しい伊達メガネが収まって、ヒカルが返答を濁しているいる間に
あるべく位置に掛かった。白い毛並みのヒカルの顔に一輪のすみれが花咲く。
 メガネは初めてだ。多少、視界が狭まったことだけが気にかかる。
 鏡に写った自分の姿に対して、妙によそよそしさを感じた。
 オトナになったら、こんな自分になるのかもしれない……と。

 「メガネ男子だっ。これでご飯三杯はいける」
 「は?」
 「だって、メガネは男子をドSにするんだよ?女子喜ばせなさいよー」
 「ドSが?」

 狂喜に沸くリオの言葉と自分の姿をちょっとした想い出にして、ヒカルはそっと空色の伊達メガネを外した。


     #


 梅雨も明けたと言うのに、本を枕にして不意に目覚めた朝は、しとしとと霧雨で幕開けを迎えていた。
 もはや急がなければ遅刻は必至の時間だぞと、アナログ時計が報じる。

 昨日買った本に夢中になって、ついつい夜更かししてしまい、気がついたら普段着のまま夢の中。
 とにかく、学校への支度をしなければと肝を冷やして制服に着替える。最悪の事態を思い浮かべては、無心に事を進める。

 朝ごはんも食べずに学校へと急ぎ、自転車を走らせているとまぶたに霧雨がこれでもかと吸い付いてくる。
拭っている暇はない、水と風を切りながら、校門へと続く坂道を一気にかけ上った。胸の奥からはあはあと暑い息が立ち込める。
その甲斐あってか校門には何とかセーフ。まとわりつく水滴を拭いながら、土足場で靴を脱ぐと、蒸れたにおいがぼんやりと立つ。
 廊下では「おはよう」の挨拶そこそこに誰もが皆一日の始まりに備えていた。

806わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:45:07 ID:RBA6yh0k0
 「リオ!ちーっす!急がないと遅刻遅刻!」

 既に風紀委員の仕事で登校していたリオは、遠巻きにヒカルとモエを眺めていた。両手一杯に抱えた冊子の重さに耐えながら……。

 自分と同じく急いでいる割には、実に能天気な挨拶をかけてくるモエの姿に気を取られていると 、ヒカルはモエとモエの弟の話が
脳裏をよぎった。あの、雑貨屋でのTシャツの話……だ。袈裟懸けしていいる通学かばんから、モエに悟られないように、
そっと空色の伊達メガネを掛けてみた。モエの強い勧めで買ってみたものの、袋に入ったまま通学かばんに入れたままだった。

 初めて自分の意思で掛ける伊達メガネは、悪巧みが微塵もない共犯意識と似ていた。
 掛け心地は変わらない。ただ、視界がちょっと狭まったような。土足場が小さく見える。
 もしかして、微妙なおしゃれ心に目覚めた自分を誰かが笑っているのかもしれない。それはそれで、ブラックなヒストリーとして
自分自身で語り継ごうではないか。

 「あっ。犬上、ちーっす!」
 「……おはよ」

 ちょっとどきどきする。
 相手は普通どおりに挨拶してきただけなのに。

 「いそぐよ!犬上、走れ!リオ、またあとで!」

 なのに期待外れの結末だ。
 モエが逃げるようにヒカルの元から走り去ったのは、時間ぎりぎりだからだと理解したのは、教室に入ってからだった。

 一時限目が始まる間際の教室にて、席に着いて安堵の一息をついた矢先、一仕事終えたリオが手首をばたばたと振り
ヒカルの顔を覗きこんだ。昨晩寝落ちしてしまったからと、本の余韻に浸ろうと伊達メガネの感覚を気にしていていたときのこと。
 日常が非日常になるまんざらでもない高揚感がヒカルを調子にのせていた。

 「もしかして、この間モエが選んだヤツ?」
 「うん」
 「いいね。メガネ男子」

 素っ気無いリオの反応にはちょっと期待はずれだった。

 「ってかさ。雨なんて、もーって感じだよ」
 「梅雨も抜け切れてないんだよ」
 「わたし、朝に委員会の仕事あるから坂道ダッシュで駆け上ったら、もーメガネに水滴が付く付く。前が見えないよお」
 「そうなんだ」
 「あれ?犬上、ならなかった?自転車だと、尚更なのに」

 あ。
 しまった。

 「……あれだよね。今、思い出して『伊達メガネ』掛けました。って、感じだよ?犬上?」
 「はっ」

 あれだけ急いで霧雨の中を自転車で疾走すりゃ……。ヒカルはメガネっ娘の苦悩を受け取れなかった自分の未熟さに冷や汗をかいた。
 リオのメガネとヒカルの伊達メガネの輝きは違うんだから……。

 冷やかす神あれば、拾う神あり。
 ヒカルの背後から叩き込まれた乙女の声は、ヒカルにとって救世主。
 リオの『彼氏様』の声は、リオにとってドSなアイツ。

 「ちーっす!あ!犬上、似合うよ!メガネ男子はご飯三杯いける!」
 「あ」
 「どお?似合うかなぁ」

 チェキポーズで『たった今、掛けました』アピールが漂う赤い伊達メガネのフレームから覗き込むモエの
きらきらとした目は男前だった。


   おしまい。

807わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:47:12 ID:RBA6yh0k0
おまけ。

いまどき犬っ娘+昭和昭和した商店街+レトロな電車
モエ「ちょー、懐かしくね?生まれてないけど!」
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/837/moe_in_arcade.jpg

投下おしまいです。

808名無しさん@避難中:2014/10/09(木) 14:44:54 ID:iCnBwmmU0
昭和のかほり…

809名無しさん@避難中:2014/10/21(火) 17:09:55 ID:Av36T/Dw0
朝起きると猫が二本足で台風の外の様子を見ていた
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/868/Coletta_typhoon.jpg

http://twinavi.jp/topics/tidbits/543d069b-b3b0-4521-8425-035aac133a21

810名無しさん@避難中:2015/01/01(木) 01:35:02 ID:2Cx3j03w0
白先生、あけましてぬこぽっぽ

811名無しさん@避難中:2015/01/01(木) 01:38:27 ID:GKhzb3120
にゃ。あけおめ

812名無しさん@避難中:2015/01/01(木) 22:10:50 ID:le5j6Tr.0
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/906/furry538.jpg

813名無しさん@避難中:2015/01/01(木) 22:48:02 ID:GKhzb3120
おお久々のこたつみかんさんや

814名無しさん@避難中:2015/01/02(金) 02:56:12 ID:j5IwoUL20
ひつじー

815名無しさん@避難中:2015/01/02(金) 11:24:18 ID:8anTrItY0
やっぱ見ると安心する絵柄だわ

816名無しさん@避難中:2015/01/27(火) 01:17:08 ID:GOW0Dlwg0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org128534.jpg

817名無しさん@避難中:2015/01/27(火) 06:24:17 ID:k2QwjcTo0
……ふぅ

818名無しさん@避難中:2015/01/27(火) 09:31:30 ID:R7jdo0aM0
かわい!

819わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:29:09 ID:MkSoj18Y0
本板がうまくいかないからこちらで「ねこの日」。





 「ねこの日ですね」
 「おめねこ!」

 彼らは口を揃えて今日は『ねこの日』だと言う。去年も今年も、そして来年も、2月22日の夜はやってくる。
 泊瀬谷も彼らに混じって「おめねこ」のご挨拶。毎年つつがなくやって来る『ねこの日』を祝いつつ、何かにつけて集まって、
ゆるく時間を共有しようと、暇だけを持て余す彼らは賑やかに公園で夜会を開いていた。

 今年は雪が舞う。去年と比べて人数は少ないものの、物好きなメンバーが集まった。
 泊瀬谷も彼らの誘いを断り切れず、顔を出すだけと夜の公園に姿を現した。

 ネコの夜会はいつも眠い。約束の場所には、そんなに多くもないネコたちが続々と集まってきた。馴れ合いというわけものない、
付かず離れずのほどよい関係がネコたちには心地よいからだ。
 公園でネコたちは、特に何かをするわけでなく、ベンチに座る者いれば、たちんぼうもいる。集まりの中の一人となった
紅一点な泊瀬谷は仕事を終えたオトナの世界からの帰りの格好のまま、コドモの気持ちでブランコに乗ってあくびをしていた。

 そそくさと急ぎ足でこの公園に来た泊瀬谷の瞳にちらつく雪が闇に映える。
 泊瀬谷は教師だ。ネコの教師だ。現代文を教える高校教師だ。勤め先である学園から直接やって来た。
きっと帰りは遅くなるだろうと、宿直室覚悟で職員室にて残った仕事を片付けていた。焦れば焦るほど上手くいかないもので、
明日は休みだからと言い訳をして、仕事を切り上げてしまった。心残りがあるものの、ネコの夜会で忘れるつもりだった。
 泊瀬谷が学園を出て夜会の公園に着いたときには、既に何人かのネコたちが場を温めていた。

 「お久しぶりです」
 「はせやん。なんだか今夜は『きゃりあうーまん』っていう装いで」
 「仕事帰りですよお。それに、わたしそんなにてきぱきしてませんし」

 先客の老ネコにからかわれながら泊瀬谷は仲間に加わった。
 ふっさふさの毛並みに包まれた翁は色艶は流石に薄れてきたものの、齢を積み重ねてきた証である貫禄は十分だった。
 呑気な先発組と違って泊瀬谷は仕事帰りだったので、ちらりと顔を見せただけでこの場をあとにした。

 たまには雪降る夜もきれいだなと、物思いに耽る余裕さえなく泊瀬谷は足速にせせこましい新年の町並みを歩く。
両手で口元を覆い隠していると、そのときはそのときで温かい。おもむろに手を離し息を吐くと、目の前が真っ白に輝いた。
 残念なことに「寒い」の一言で何もかもが吹き飛ばされた。

 「暖かいところ、行こう」

 光は人を呼び、人は光を紡ぐ。
 誰もが心寂しくなる季節だから、光が解き放つ理論を無条件に受け入れる。泊瀬谷も賛同し、自然に足はコンビニへと向いていた。

 コンビニは明るい。コンビニがクラスメイトならばきっと人気者になれるだろう。
 コンビニの中だけは時間を切り取ったような明るさだった。
 夜更かしさんたちは立ち読みに興じ、腹ぺこさんたちは籠いっぱいにお菓子を詰め込んで、これから向かう夜の世界に
やんわりと立ち向かう。泊瀬谷もコンビニの掟に倣い、とりあえずみかんゼリーをひとつお買い上げ。

 「太るかな……」

 体重のことを気にせず、美味しく頂くこともコンビニの掟。

 「ま、いいか」と、泊瀬谷は小さなビニル袋をぶら下げて、足早にコンビニから出ると見覚えのある子を見付けた。
 昼間見る姿とは印象は違う。きっと夜のせい、服のせい。自転車のハンドルに泊瀬谷と同じビニル袋をぶら下げて、
暖色系のマフラーを巻き直していたイヌ男子。雪のように白い毛並みとマフラーが相対して映える。

 「先生」

820わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:29:31 ID:MkSoj18Y0
 気付いたのは、イヌ男子の方だった。
 彼の口から白い息が吐き出され、形を成す前に散り散りに消えた。

 「ヒカルくん、買い物?」
 「はい」
 「夜中に?」
 「はい。夕方から本を読んでたら、夕飯食べるの忘れちゃった」

 ヒカルの手にはコンビニの買い物袋。さほど入っておらず食事よりかは間食である。
 夜道のヒカルは白い毛並みが街灯の明かりに照らされて、眩しく見えると言っても過言ではない。



 「今から帰りですか」
 「うん」
 「家まで遠いんですか」
 「ちょっとね」

 ハンドルにコンビニのビニル袋をぶら下げているのだから、聞かずとも分かるはず。
 だが、泊瀬谷はヒカルとの間を縮めようと、どんなことでもいいから会話を振りたかったのだ。
 付け焼き刃のような泊瀬谷の話はすぐに雪で冷やされてしまいつまづく。

 カチカチカチと車輪を廻す男を散らかしながら、ヒカルが自転車を押して行く。話もせず、ただ並んで歩いているだけの
二人をじれったく感じているような自転車の声がおせっかいを焼いてきた。まるで、気が利く振りをしている子のように。

 泊瀬谷は自転車に急かされて、学校を出て夜会に顔を出し、今に到るまでをヒカルに話した。
 ヒカルにはいい迷惑かもしれないと、泊瀬谷はだんだんトーンを落とすと、ヒカルは自転車を止めて泊瀬谷の顔を覗き込んだ。
 泊瀬谷の顔は潤んで見える。なぜかと尋ねれば「冷たいから」と強情を張って、ふんと答えるに違いない。ヒカルはもちろんそれ以上、
詮索するつもりはなかった。

 ヒカルは泊瀬谷の姿をじっと見つめる。教室とは違う、一人の女性の香り。コートに着いた雪、足元を濡らしたブーツ。
ヒカルと歩いているのは、ヒカルの先生ではなく、泊瀬谷という名の一人の女性。

 どうしてヒカルが気にかかるんだろう。
 泊瀬谷は自分のヒカルに対する思いをふと疑問に思った。
 教師と生徒、ただそれだけの繋がり。それ以上に意味を持たせることは許されるのか。

 いけないことを承知で、こっそり自転車二人乗りしたから?
 お互い本を貸し借りしたから?
 それとも、学生時代は先生になるために必死で、大人になるまで誰かを想うことに憧れるだけで、自らの意志で人を大切に
することができなかったことの反動なのか?

 いや……、そんなことは小手先の言い訳。泊瀬谷だって大人だ。簡単な思い出だけで理由付けして分かったつもりになるなんて、
恋に溺れた若輩者の為せる技だと、泊瀬谷はくびを振る。

 (どうして、ヒカルくんより早く生まれたんだろう)

 大人の香り漂うコート、大人の財力でちょっと無理して買ったブーツ。
 せめて自分が大人でなかったらと、取り返しのつかない自分を悔やむ。

 雪景色の開放感と比べて、二人の間はぎこちない。雪たちに地上に住む生き物の語らいと言って見せることは到底出来ない
二人の間の空気は、二人にとっては壊したいものではないのだからそっとしてあげて欲しい。
 まだまだ世間を知らないヒカルが空気を壊した。故意でもない、必要とされたために。

 「ウチに寄りますか」

 ブーツの踵が地面を鳴らす音をやめた。ヒカルの声を聞くためにではなく、ヒカルの声に驚いてだった。
 もしかして、ヒカルなりの意地悪かもしれない。泊瀬谷を困らせるために、泊瀬谷をぬか喜びさせるために、わざわざついたウソ。
困った顔を見せてたじろぐ泊瀬谷をにんまりと楽しむために、ヒカルは泊瀬谷をたぶらかせていたのか。

 「父は仕事仲間の寄り合いで、母は海外に出ているから今夜はぼく一人なんです」 

 それは、ヒカルの家の前を掠めたときに分かった。家に灯かりが点っていない。すなわち、家はヒカルのいいなりだから。

 (ヒカルくんちって、初めて入るなあ)

821わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:29:48 ID:MkSoj18Y0

 寒さなんか溶けちゃうくらい、頬を赤らめて真冬の街を一緒に歩く。
 指と指を絡ませあって、イヌの優しい毛並みに触れる。ぐいと強引に、半ば遠慮がちに自宅へと引っ張るヒカルの後ろ姿が、
なんだか照れくさく、ついつい視線を反らせてしまう。否定をしないのは肯定の意味。こましゃくれた子供のような理屈は
今夜限りでいいから通して欲しい。 ネコの泊瀬谷は、そんなイヌのぎこちない真っすぐさを独り占め出来る夜が待ち遠しくも、
恥じらいを隠せなかった。やがて、二人は住宅街へ飲み込まれヒカルの家の前で足を止めた。自転車の音も口を閉じた。

 「着きました。先生」
 「……ここでヒカルくん、育ったんだね」
 
 泊瀬谷には『犬上』の表札がやけに堅苦しく見えた。ヒカルは玄関の鍵を開けると、自分の担任教師を家に誘った。
 もじもじしているオトナを蔑ろにするようにヒカルはずかずかと家へ入っていったけど、オトナはオトナの殻に閉じこもったままだ。

 「やっぱり、だめだよね」

 敷居を跨いだ後に、泊瀬谷は足を止めてヒカルを困らせた。

 「先生だからって、生徒の家に……」
 「大丈夫ですよ」
 「それに、誰か来たりして怪しまれたり」
 「ぼくの父って、一応物書きしてるから、出版社の人がよく出入りしてるんです。特に女の人。ネコの人。
  父は優し過ぎるから、若い女の人がよく担当になるんです」
 「もしかして、わたしに」
 「『出版社の人です』って言ってれば、周りは分かりませんよ。先生」

 言葉を返すことを拒んだ泊瀬谷は、うんと頷くだけだった。
 ヒカルから誘われるがままに、泊瀬谷は玄関に腰掛けて、ブーツを脱ごうと脚を組んでファスナーを下ろした。
 恩師の背後に立ち、あまりにも無防備なうなじを晒す姿をヒカルはじっと見ていた。後先考えることを果敢にも捨ててしまえば、
泊瀬谷のうなじを突いたりすることだって、尻尾を掴むことだって、はたまた無抵抗な体を後ろからぎゅっと男子高校生の欲望のまま
欲しいままに支配してしまうことさえも出来るのに。そんな姿を許してしまう泊瀬谷は気にもせず、必死にブーツを脱いでいた。
 ヒカルのような年下の者が見ても手を差し伸べたくなる光景。それでも泊瀬谷が脱ぎ終わるまで手を出さずにヒカルは待ち続けていた。
玄関にヒカルのスニーカーと共に泊瀬谷のブーツが並ぶ。犬上の家の玄関ではとんと見られなかった光景だった。
 泊瀬谷が上がると中身を失ったブーツは気を緩めたのか、踝からヒカルのスニーカーの方へと、くたっと折れた。

 「……」
 「どうしたの」
 「なんだか、小さいときを思い出しちゃって。すいません」

 小さい頃のヒカルを知らない泊瀬谷は、玄関で待つ幼き頃のヒカルの姿を想像で補うしかなかった。

 今よりも、小さく。
 今よりも、幼い声。
 疑うことを知らず、目に入るものを信じる。
 泊瀬谷だけのヒカル像。誰かに見せるためでなく、誰かに聞いてもらうためでない、
 自分勝手で融通の効かず、誰かからも咎められることのない世界。

 自分の担任が、そのような妄想をこね回しているとはつゆしらず、ヒカルは泊瀬谷を自分の部屋に通すことにした。

 「いいですか?」
 「大丈夫!遅くなっても大丈夫なように着替え持ってるから!」
 「え?」

 泊瀬谷は「下着の」と付け加えようとしたが、淡い青少年の為に口を閉じ真実を隠した。
 もはや会話文として崩壊していても、なりふり構わず泊瀬谷は突き通す。だって、オトナだもん。

 「でも……着るもの、ないですよね、上に。すいません。そうだ。ぼくのジャージ着てください」
 「ヒカルくんの?」
 「中学のときのですけど、ぴったりだと思うんですが」

 今年一番のプレゼントだ。泊瀬谷の胸は高まった。
 ただ、服を着る。それだけなのに、ヒカルの一部を手に入れたような。一部でもいいから手に入れたのならば、
ヒカルのすべてを知った気にもなれるという勘違い。

822わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:30:25 ID:MkSoj18Y0
 これを着ていたヒカルのことを。
 これを着てグラウンドを駆け回った後の荒い息を。
 これを着て誰かに脆くも淡い片思いをしていたのだろうかという、一方通行の嫉妬が。

 「先生はぼくのベッドで寝て下さい。ネコの毛が付いちゃ、あとが面倒臭くなるから」

 ヒカルは泊瀬谷を自分の部屋に残して、静かに扉を閉めた。
 優しさに、温かさに、体が動かなくなる不思議。扉を叩く音が聞こえた。泊瀬谷は遠慮がちに「はい」と返事した。

 初めて入る、男の子の部屋。
 多感な時期を過ごす男の子、世間に振り回されて少年に憧れる大人になりきれない大人。
 すうっと深呼吸すると、甘酸っぱさが体の中からくすぐってくる。

 女の子目線から思っていたよりも整然としていた。本棚には幾多の書籍が並び、背表紙を眺めているだけでも清々しい。
 書の在りかは姿を写す鏡より正直なり。いにしえから知恵ある人々はそう言うではないか。
 本棚を見れば人となりが分かるということを正確に言い表している。泊瀬谷にはその意見に相違はないと確信した。
ただ、ヒカルの部屋はそれだけではなかった。本に真っ直ぐな少年からは、文よりも武に対する憧れがちらりと垣間見えるのだ。
例えば幼き日を思い出すような幻想的な文学集に混じって、ロードムービーを思い起こすような、バイク乗りの紀行集が
並んでいたりする。やはり、男の子。メカとかマシンには弱いのだ。

 「やっぱり、こうゆうのとか好きなのかな」

 表紙を飾るバイクに跨がったイヌの女性が爽やかだった。
 悔しいからヒカルのベッドに腰掛けて、ごろりと横たわって頬擦りをしてみた。

 本棚を見れば人となりが丸裸になると言うらしい。初めて都会にやって来た田舎者の視線で本棚を見上げてみた。
どきどきと胸が否応無く心拍のピッチを上げて、安らぐどころではなくなってきたのだ。
 むくりと起き上がった泊瀬谷は本を一冊無作為に選び、再びごろりとヒカルのベッドに寝転んでページをめくってみた。
ヒカルもこんな格好で、こんな楽な姿勢で、こんな本を読んでいるのだと考えると、ヒカルを覆う物が少しずつ剥がれてゆくのだ。

 「……」

 しばらく活字の世界に入り浸った泊瀬谷には外界からの言葉は届かぬ。
 言葉をかみ締める喜びを。
 絡んだ糸と糸の模様を楽しむ快感。
 そして、全てが解れた時の開放感。

 頭の中にすっと麻薬にも似た清涼感が通り抜け、泊瀬谷はいつの間にかに夢心地に揺れていた。

     #

 自宅なのに、ヒカルがよそよそしい気持ちなのは泊瀬谷のせいだ。
 居間のソファーで寝転んで、読みかけの本を閉じるのは泊瀬谷のせいだ。

 しんと静まり返った自宅なのに、心臓の鼓動が聞こえてくる。

 (ヒカルくんっていうんだ。お父さんにお世話になってます。よろしくね)

 物書きである父の手綱を引く若いネコの女性。幾人もこの部屋で父の作品の打ち合わせなり、原稿の引き受けなりが行われた。
 ヒカルの記憶がソファーの肌触りのきっかけで甦ってきた。

 泣いていたときにはわくわくするような絵本。
 楽しいときには一緒に共犯意識芽生えるような推理もの。
 ささくれだったときには突き抜けるような爽快な詩集。

 そんな本たちと友人にしてくれたのは彼女たちだった。

 「……」

 一つ屋根の下に男子と幼いオトナが一人づつ。
 二人の性差、種族差もあるが、想うことは一緒。

 ヒカルと泊瀬谷は目を合わせることなく、暖かい夜の時間を共有していた。

823わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/02/22(日) 19:31:42 ID:MkSoj18Y0

     #


 街が動き出す時間だというのに、外は薄暗いという不精者。
 ただ、アスファルトの路面は雪化粧で明るく見える働き者。

 朝になれば雪が積もるだろう。そんな予想が当たるなんて、老ネコ侮りがたし。
 寒さで携帯のアラームが鳴る前にに、泊瀬谷は目を覚ましていた。肩をすくめながら布団から抜け出すと、本ばかりの棚に囲まれた
男子の部屋が変わらずに存在していた。

 ぎゅっと襟元を掴む。ヒカルのジャージだ。くんくんと襟首の匂いを嗅ぐ。
 一晩共にした、ゼッケン「犬上」の体操着は、泊瀬谷の体温でなま温かかった。

 「ヒカルくん、寝てるのかな」

 机の上に置いていたイヌのカバーが着せられたティッシュは泊瀬谷が部屋に入ったときと変わらない姿だった。
ゴミ箱も空っぽなのも昨晩と同じだ。くんくんと鼻を過敏に鳴らしても昨晩と同じ匂いがするだけだった。
 ほっとしたような、口にはしてはいけない安堵感が泊瀬谷を責めた。2月下旬はまだ寒い。

 「ヒカルくん、おはよう。よく眠れました」

 ヒカルは居間で本を読みながら暖房にあたっていた。栞を挟んで本を置くと、すっくと立ち上がる。
 泊瀬谷は「いいよ、いいよ」とヒカルをソファーに座らせて、深々とお礼を言った。
 
 「朝早いね」
 「はい」
 「じゃあ、先生帰るから。適当に朝はどこかで食べるし」

 いつでも会えるのに、千年の別れに匹敵する思い。いや、いつでもとは言えなくなる時期が来ることを踏まえてか。
 泊瀬谷が犬上の家をあとにしようと玄関を出たとき、家の中に向かって叫んだ。

 「せんせい!ありがとうございます!」

 ヒカルは一瞬きょとんと目を丸くしたが、自分が泊瀬谷に提案したアドバイスを思い出して膝打った。
 泊瀬谷は「先生はわたしだぞ」と頬を赤くしながら、薄っすらと色塗られた白い町をブーツで足跡を残していった。
  
    おしまい。


「にゃーにゃーみー!」
http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/922/nekonohi2015.jpg

824名無しさん@避難中:2015/02/24(火) 01:15:09 ID:8cz0TPRg0
普通の男子だったらもっといちゃいちゃしたくなる展開だろうに一人で本を読ん読んでしまうヒカルくん純情すぎぃ!

825名無しさん@避難中:2015/07/29(水) 21:42:56 ID:oQQ4WWyA0
にゃにゃぽ!

826名無しさん@避難中:2015/08/03(月) 18:59:00 ID:QCHIuEmo0
タマクロー!

827名無しさん@避難中:2015/08/03(月) 18:59:22 ID:QCHIuEmo0
ニャホニャホと見間違えた…….

828名無しさん@避難中:2015/08/11(火) 23:02:29 ID:ZoHSpr3c0
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/963/furry539.jpg

829名無しさん@避難中:2015/08/11(火) 23:20:33 ID:EDPIat4Y0
かわいい

830名無しさん@避難中:2015/08/12(水) 05:43:39 ID:Z91Nbtzg0
相変わらず味がある絵

831名無しさん@避難中:2015/08/14(金) 01:01:21 ID:4K1/f2pI0
http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/964/furry540.jpg

832名無しさん@避難中:2015/08/14(金) 01:57:01 ID:oA412nCs0
ふぅ……

833名無しさん@避難中:2015/08/14(金) 03:10:24 ID:OzvoP8PI0
こうパイオツにうっすら赤みがあるのがですね…



ふぅ…

834わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/08/26(水) 20:57:07 ID:KgW5rUXE0
夏が終わるねー

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/966/rio+pool.jpg

835わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/08/27(木) 20:53:08 ID:eIqs21020
創作発表板七周年おめでとうございます。
お題一つ目。




 お昼休みの初等部教室はにぎやかな声で埋め尽くされていた。
 ミケ、クロ、コレッタの子猫三人組は机を囲んでそれぞれのお弁当を自慢しあいっこ。
 ぱっと溢れた豊かな色彩に三人組も手を叩く。教室の中だけど気分はピクニック、おしゃまなミケはお弁当箱を傾けて
ハートいっぱいのサンドイッチを見せびらかす。

 「かわいいニャ」

 ロリっこたちのハートを鷲掴みしたお弁当は、口に運ぶもの惜しいほどだった。
 続いてオトナぶりっこのクロ。一同、わっと視線が集まる。

 「ナニこれニャ?!」

 力強く、勇猛で精悍な顔立ちのキャラ弁だ。全知全能の神・ゼウスが初等部の教室に降臨したのか、と言っても過言ではない
存在感を持っていたのだから、クロの鼻は高々だ。

 「ふふふ。『はるく・ほーがん』のキャラ弁ニャ」
 「はるく・ほーがん?」

 彼女らが知らないのも無理はない。アメリカンプロレスを代表するレスラーの名だった。
 小さなお弁当箱は歓声溢れるリングにも似ていた。クロのキャラ弁はポーズを決めて獅子のような雄叫びを上げていた。

 「おかあさんが二時間かけて作ってくれたニャよ」

 足をばたばたとさせてしたり顔のクロはコレッタの方に視線を向けた。

 「コレッタのお弁当はどんなニャ?」
 「え……えっとニャ。わすれちゃったニャ」

 白い子猫のコレッタは顔を真っ赤にして俯いていた。


    ♪

836わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/08/27(木) 20:53:27 ID:eIqs21020

 ランドセルを背負ったコレッタが寄り道をしてしまった。
 よい子のコレッタはいつもは真っ直ぐ帰宅するのだが、人目を憚るかのように公園の中を歩いていた。
 歩き疲れたコレッタはどっかとベンチに座り、手提げバッグからお弁当箱を取り出すと、罪悪感とお弁当箱の重さが重なった。
一度も開けていないお弁当箱をぱっかり開けると、白米に梅干しが乗っただけの昭和なお昼が顔を出した。

 「おかあさんがお寝坊するからニャ」

 おやつの時間を過ぎてお弁当を食べると、夕飯が入らないリスクを抱えてしまうが、おかあさんの悲しむ顔を思い浮かべると
コレッタは無理をしてでも口にせざるせなかった。

 ひんやりと固くなったお弁当の味気なさ。
 何度も噛んでからやってくる白米の甘さ。
 ランドセルを小脇にコレッタがとてつもなく遅いお昼を頂いていると、真正面にお昼に見た覚えのある顔を目撃した。
たしか、とても重そうな、力強そうな名前だっけかニャ。

 真正面のおじさんは人差し指を天高く突き上げてぼそぼそと呟いていた。
 手にしていたノートがパンフレットに見えてしまうほどの巨体にコレッタが目を疑っていると、おじさんは立ち上がり何処かへと消えていった。
 山が動く……そんな表現さえも誇大と言えない一場面にコレッタは箸を動かす手をしばらく休めていた。

 「どこかで……ニャ」

 コレッタが帰宅すると、コレッタのママは惰眠を貪っていた。
 娘に叩き起こされて目を擦っていたコレッタのママは大きくあくびをしたかと思うと、寝ぼけ眼をこすっていた。

 「コレッタちゃん……おはよう」
 「おはようじゃないニャ。ただいまニャ」
 「あー。おかあさん、夜更かしさんしてたから、ついついお昼寝しちゃった」

 今日のお弁当が真っ白だったのはそのせいかと、コレッタは表情を変えずにコレッタのママを見つめていた。
 明日こそはお願いニャ、と言いたげに。


    ♪

837わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/08/27(木) 20:54:00 ID:eIqs21020

 その日の晩のコレッタはなぜか眠りにつけなかった。明日のお弁当が気になるからだ。 
 ミケみたいなかわいいお弁当がいいニャ、でもおかあさん作れるかニャ。と、神様にでも祈るつもりでベッドを転がる。
 転がりすぎてベッドから落っこちたコレッタはしりもちで目に涙を浮かべてしまった。ふかふかの絨毯が敷かれた床に突っ伏して
頬を埋めていると、遠くから乗りの良い音楽が聞こえてくる。こんなド深夜に……なんだろニャ。コレッタは痛さを忘れて自分の部屋を出た。

 光差す部屋がある。リビングだ。音楽の元はここらしい。
 コレッタが扉を開けると、コレッタのママがヘッドフォンを装着しうっとりとラジカセの前で肘着いていた。
 音楽が漏れている。いつの間にかにヘッドフォンのプラグが抜けたのだろうか、コレッタのママはそれに気付かず、ついでに
コレッタがやって来たのも気付かずに恍惚とした表情を浮かべていた。

 「次ノめーる。らじおねーむ・これったノままサンカラ!」

 スピーカーからの野太い声にコレッタのママは跳ね起きて、少女の目で輝いた。
 まさか自分のメールがラジオDJに読んでもらえたなんて、リスナーにとって至福のときだと煌く星が周りに花咲く。

 「ふふっ。番組ステッカー、楽しみだな」

 (まさか、このためにお寝坊してたのかニャ)

 月と太陽のようなコレッタ親子がリビングでラジオに耳を傾ける時間がしばらく過ぎていた。
 やがて、ラジオの宴もいよいよお開きのとき。

 「ワーワー言ウテオリマス。オ時間デス。はるく・ほーがんノ『おーるないと・じゃぱん』サヨウナラ!」

 公園でのモヤモヤとともに一気に目が覚めたコレッタは、明日のお弁当に期待はしなかった。

 おしまい。

お題「ハルク・ホーガン」

838名無しさん@避難中:2015/11/23(月) 18:24:15 ID:c4Op3gso0
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/993/shiro_shiroru.jpg

B・B・A! B・B・A! BBA ぢぁないよ し・ろ・る!
B・B・A! B・B・A! BBA ぢぁないよ し・ろ・る!

839名無しさん@避難中:2015/11/23(月) 18:26:36 ID:0V7grLVA0
これはかわいいw

840名無しさん@避難中:2015/11/23(月) 19:12:12 ID:GRiZk0jQ0
ババアのくせにかわいいw

841名無しさん@避難中:2015/12/24(木) 21:57:10 ID:HU/YkPhE0
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/994/furry541.jpg

クリマスカード用に作ったけど使わなかったので、塗り絵にどうぞ。

842名無しさん@避難中:2015/12/25(金) 01:16:21 ID:GqgABI5c0
ほぞんほぞん

843sage:2015/12/29(火) 20:55:32 ID:HRaJF07o0
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/995/furry542.jpg

844名無しさん@避難中:2015/12/29(火) 21:38:49 ID:TAYfkYg20
ほぞんほぞん

845名無しさん@避難中:2015/12/30(水) 00:44:54 ID:pF4jYbTs0
雪なのにほっこり暖かい絵だ

846名無しさん@避難中:2015/12/31(木) 19:29:58 ID:mE/U8aFM0
よいお年をー

http://download5.getuploader.com/g/sousaku_2/996/rio_ganbaruzoi.jpg

847名無しさん@避難中:2016/01/01(金) 00:35:35 ID:dPZKVSLs0
あけおめー!!

848名無しさん@避難中:2016/01/04(月) 13:41:28 ID:IO6DbUOc0
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/997/furry543.jpg

849名無しさん@避難中:2016/01/04(月) 13:53:48 ID:2rh1kdlY0
これはよいおさる

850名無しさん@避難中:2016/02/14(日) 18:30:20 ID:WUFZQGN60
コレッタからのバレンタインチョコです。
動画初投稿です。ニコニコです。

http://nico.ms/sm28220397

851名無しさん@避難中:2016/02/15(月) 03:57:27 ID:ztT9fWRs0
白先生ルパンダイブ不可避

852名無しさん@避難中:2016/02/15(月) 04:32:37 ID:8e6Z/3KkO
乙ううう!!

853名無しさん@避難中:2016/02/22(月) 14:43:03 ID:lE/9CrvU0
ぬこの日ですね

854わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/02/22(月) 21:06:56 ID:05jAhfnE0
http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/1010/Coletta_she.jpg
ぬこの日だシェーーーー!

855名無しさん@避難中:2016/02/22(月) 21:20:20 ID:l5hV7jDE0
かわいすぎる犯罪

856名無しさん@避難中:2016/02/23(火) 00:32:51 ID:xe7Bjdys0
天使たんや…!

857名無しさん@避難中:2016/02/23(火) 00:37:25 ID:fOM1FMOI0
うッ


…ふぅ

858名無しさん@避難中:2016/02/23(火) 01:11:52 ID:00Tsl6Rs0
ビクンビクン

859名無しさん@避難中:2016/05/05(木) 12:06:18 ID:KzGlMssk0
白先生「因幡、大変だ。こどもの数が現象傾向らしい」
リオ「ならば、先生がこどもになればいいんじゃないすか」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1032/DSC_0061.JPG

860名無しさん@避難中:2016/05/09(月) 19:52:29 ID:38t.u9b60
お題くだしゃい

861名無しさん@避難中:2016/05/11(水) 05:23:42 ID:AGJQTKZk0
パンダ

862名無しさん@避難中:2016/05/13(金) 22:04:54 ID:u/3kzMnA0
パンダコパンダ

863わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/06/05(日) 20:50:09 ID:RJgmiuHQ0
    『真夏のパンダ』


 「クリオネってさ。捕食するときすんごい怖い顔するって」

 学校帰りの路面電車の中、市街地を走り抜けるたびのカーブに揺られながらつり革に掴まっていると、
座席に座る因幡リオがぼくにスマホの動画を見せてくれた。
 水中の妖精と呼ばれるクリオネ。愛らしいフォルムが庇護欲を掻き立て、そして流氷の下にしか生息しないという
神秘性が人々の心を掴む。そんなクリオネが餌を捕食する際、悪魔の顔へと豹変するらしい。

 因幡の見せてくれた動画は克明に一部始終を写し出す。
 ひょうひょうと安心感を漂わせ近づいて、ガブリと刃にかかり、彼の血となり肉となる。
 策士、腹黒、食物連鎖。さあ、何とでも言え……か。
 クリオネ、侮りがたし。

 「どうして、この動画……」
 「冷たそうな動画探してたら見つかった」
 「え?」
 「だって、もう夏じゃん」

 確かに季節は夏。
 凉を求めた末にたどり着いたのが悪魔の笑顔。因幡はなぜかくいるように動画を繰り返し再生していた。
 戦後直後に産声をあげた路面電車がごとごとと揺れながらぼくらを運ぶ。車内の広告はすっかり夏色吐息で溢れ変える。

 「リオ、もうすぐ着くよ」
 「まじ?」

 因幡の隣に座っていた芹沢モエが『降りますボタン』をチーンと押す。
 放課後のちょっとした冒険か、芹沢は日射しまぶしい車窓を眺めていた。
 こんな暑い日は早く図書館でのんびりと書に親しみたいし、ぼくはぼくでカバンから読みかけの文庫本を取り出す。その矢先。

 「犬上も行くよね?」
 「え?」
 「犬上も行くよね?」
 「え?」
 「犬上も行くよね?」
 「え?」

 「……」

 金切り声で停車する電車は扉を開くと芹沢モエになされるがまま、ぼくは二の腕を掴まれて車内から引きずり降ろされた。
 放課後の図書館まであと二駅にして「後悔しないから、わたしたちに付き合え」と、すちゃっと電停に降り立った。

 遠ざかる路面電車が地面に踏ん張りながら、交差点の急カーブを右折する。黄色い右の矢印がぽつんと十字路で燈る。
 鋼鉄の車両が行き去った県道中央にて、夏に差し掛かった風が芹沢の短いスカートをなびかせていた。
 街はジョシコウセイで彩られる、と言っても過言ではない。芹沢は街に正しく溶け込んでいた。

 芹沢の案内でぼくらは目的地に向かう。

864わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/06/05(日) 20:50:29 ID:RJgmiuHQ0
 「よく見つけたね」と、因幡リオがぼくらの背後から感心する。そんな因幡に対して芹沢は誇らしげにガッツポーズを見せつけた。
 「ってかさ。リオなら知ってると思ったけどさ」と、人が行き交う歩道で芹沢は先頭をきった。
 芹沢に引き寄せられるようにぼくは芹沢の後を追い、いつもと違う放課後に足を踏み入れる。
 すっかり誰もかも夏の装いに身を包み、芹沢ら女子たちはふんわりと大人と少女の境目の匂いを振り撒く。
 夏が訪れるのも年に一度、大人の階段登るのも年に一度のステップだし。

 しんがりを勤めるのは委員長の因幡だ。普段なら真面目のまー子の視線でぼくらを引き留めるだろうが、きょうはちょっと共同犯。
 きちんと着こなし、きちんと足元はニーソックス。きらりと日光に反射するメガネで因幡の目はよく見えなかった。

 「どうしたの、犬上」

 あんまり暑い中駆けるから。
 それでも因幡はぼくの背中を指でつつく。薄くなったシャツと因幡の細い指がくすぐったい。

 「あー。こんな暑い日はプールにでも飛び込みたいよ。ってか、犬上。今、わたしのスク水姿想像した?」
 「……いや」

 県道から路地に入り、住んでいる街なのに存在を知らないような小路にたどりつく。

 そこは無彩色のアーケード、大人がすれ違うだけで窮屈で、あろうことか段ボール箱やらビールケースやら積み重ねられた横丁。
煤けた窓には申し訳程度にビニルテープで補強されているありさま。燈は蛍光灯だけの薄暗さで、シャッターの閉まった店だらけの悲壮感。
 ぼくらが立ち入るには躊躇いを禁じ得ない空間だが、芹沢は獣道を掻き分けるが如く進む。こんな芹沢のいちいちした行動さえも
きっと後々には代わりがきかなく、金銭に代わることのないものになるのかな。

 「ここ、ここ」

 闇夜に浮かんだ月。
 たった一件燈を灯し、ぼくらを出迎えた店に到着した。
 どう見ても民家。昭和のモノクロ映画の一場面を彷彿させる土間に玄関口。低いアングルからカメラを据えて撮影すれば
人の息遣いを間近に感じることが出来る。
 芹沢はぴょこんと遠慮なしに玄関に飛び入ると、屋内に向かって明るく大きな声で誰かを呼んでいた。

 「あー、どげんした。今日(きゅ)は友達(どし)連れですかい」

 大柄のヒグマの親父がひょこりと現れた。シワだらけのシャツに短パン。さらに聞きなれない訛りでぼくらを出迎えた親父。
 この世との折り合いが上手くいかずに早々隠居を決めた……という印象だ。

 「パンダみっつね。わたしは練乳多めで」
 「なにそれ?パンダ?」
 「ま。リオ、犬上。待ってみ」

865わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/06/05(日) 20:51:11 ID:RJgmiuHQ0
 因幡は芹沢のなぞの発言に首をかしげ、両手でぎゅっとカバンを握りしめていた。
 無言でうなづいたヒグマの親父が奥に引っ込むと、因幡は芹沢と並んで玄関に腰かけた。
 三和土(たたき)で覆われた土間に、ローファーで蹴る音が響く。

 「クリオネはいいよなあ。こんな暑さ知らずで」

 確かにクリオネが猛暑でうだる姿は想像できない。だからと言って、クリオネに憧れる因幡って。
 だって、あんな怖い顔で捕食するんだし。

 「じゃあ、リオさあ。クリオネになってみる?」
 「かんべん」
 「スク水OKでも?」
 「おいおいおい。犬上の教育によくないっ」

 クラスメイトのスク水姿に現を抜かすなんて、ちょっと嫌だ。
 でも、芹沢は喜んでぼくらにスク水姿を披露するんだろうな。もちろん、因幡をいけにえにして。

 やがてヒグマの親父が盆に白黒の塊を載せてぼくらの前に戻ってきた。
 半円のガラスの器に盛られたかき氷。真っ白な氷と黒蜜とのバランス感覚が愛らしい。
 ご丁寧に目、耳、口を果実で型どり、フォルムはなるほどパンダだ。
 涼しげな器からパンダがひょっこり顔を覗かせている次第。

 「友達(どし)のものにも、たっぷいと練乳をかけもした」
 「まじ?さすが薩摩隼人でごわすっ」

 ぼくらは三人そろって手を合わせ、薩摩名物『パンダ』を口にした。
 氷のひとかけらひとかけらにまでたっぷりと絡んだ練乳、しゃりっとした舌触り。そして快い頭痛。
 芹沢と因幡はお互い顔をあわせながら笑みを浮かべていた。女子には甘いものがよく似合う。

 『パンダ』で一服の清涼を楽しんでいる間、女子二人は笑っていた。
 誰だって、美味しいものを前にすると思わず口元がほころびる。
 きっと、クリオネだって美味しいものに出会えば笑ってるはず。
 
 「どうした?犬上」

 ぼくはクリオネのことを思い出しつつ夏のひとかけらを口にしてみたが、顔には出さずに頬を赤らめてみたのだ。

おしまい。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1038/rio+11.jpg

866名無しさん@避難中:2016/08/11(木) 23:46:49 ID:Hc6qZChU0
あるババアのいちにち。

http://nicovideo.jp/watch/sm29427717

867名無しさん@避難中:2016/08/12(金) 00:00:21 ID:u74TbmhE0
とうとうつかまった…

868名無しさん@避難中:2016/10/08(土) 07:51:37 ID:/jyB1Vo.0
白先生「お題、くれないか」

869名無しさん@避難中:2016/10/08(土) 14:55:05 ID:1mg/64Y20
水没する白先生

870名無しさん@避難中:2016/10/10(月) 08:46:29 ID:42EDsbHA0
>>869
「白せんせー。どうしたニャ…」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1069/siro_suibotu.jpg

871名無しさん@避難中:2016/10/10(月) 14:13:01 ID:m.J/7P1o0
wwwwwwwwwwwww

872名無しさん@避難中:2016/10/10(月) 21:08:33 ID:TEH4Qj5Q0
たすけてやれよw

873名無しさん@避難中:2016/10/12(水) 20:58:51 ID:0nIvD58A0
リオ「先生、何してんすか」
白先生「次は、因幡でお題だ」
リオ「え…」

874名無しさん@避難中:2016/10/13(木) 00:18:37 ID:cKGlmWyo0
田植え体験

875名無しさん@避難中:2016/10/15(土) 23:24:20 ID:FCKzNinE0
>>874
リオ「ちょ…」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1070/rio_taue.jpg

876名無しさん@避難中:2016/10/15(土) 23:47:59 ID:KxyEcyHY0
待てwwwwwww

877名無しさん@避難中:2016/10/16(日) 01:38:26 ID:Yg8TDsd.0
ちょっとwwwwwwww

878名無しさん@避難中:2016/10/16(日) 01:58:44 ID:aufgR5DI0
おいww

879名無しさん@避難中:2016/10/16(日) 14:20:31 ID:hCdk4.4g0
何をしたw

880名無しさん@避難中:2016/10/17(月) 22:40:44 ID:Uol5G34Y0
モエ「ってか、わたしにもお題欲しーし」

881名無しさん@避難中:2016/10/17(月) 22:50:20 ID:9MYmcfnM0
料理をする

882名無しさん@避難中:2016/12/30(金) 06:43:35 ID:w6IfIHAs0
モエ「クッキングアイドルさんじょー!」
リオ「無理やりだし…料理してないし…」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1079/moe07.jpg

883名無しさん@避難中:2016/12/30(金) 13:37:52 ID:Mon.D1ik0
感謝するぜ これまでの全てに!

884名無しさん@避難中:2016/12/30(金) 22:39:54 ID:4yfarzAA0
ご無沙汰しております、iPad Pro買いました。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1080/獣人総合544.jpg

885名無しさん@避難中:2016/12/30(金) 22:46:51 ID:Mon.D1ik0
んほう!

886名無しさん@避難中:2016/12/31(土) 01:28:00 ID:endMduv20
お久しぶりです
いつ見ても安定の高い画力!

887名無しさん@避難中:2017/01/01(日) 22:04:28 ID:uAAfplJg0
明けましておめでとうございます。
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1081/furry545.jpg

888名無しさん@避難中:2017/01/02(月) 00:21:36 ID:lQTyqjIo0
あけおめです。これまた色っぽい

889名無しさん@避難中:2017/01/02(月) 21:45:53 ID:OeDuI.Yc0
      ∧
      ./ ∧_____
    _/         ̄`゙''、_  /:i!
  <"´    /|        ヽイ  |
 /  /\/  .!∧   ,、       ヽ
/ ./,,ィ示ミx   \/ `´___     !
7 ┃艾 婀  }ソ┃    ,ィ´ rt、 ヽ    ゝ ねこです
 ! ┗━ ` ¨ ´ ┛ ━ ┃ヽ ニン |┃   >
/∨ .|          ┗━━━┛|   !
 | ∨                   |   ./
 |/,ヽ、                  !// ∨
      ア 、_                      r 、
      \::::::|  ̄=―ァ― よ ろ し く お ね   。 }
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    \:::::::::::∨:::::::::::::|   が い し ま す   / ,′
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   ゝ'         |____| .┃_: : : : : : : : :,.-‐一''"´
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                    レ....... |    /
                     ゝ==イ

890名無しさん@避難中:2017/02/22(水) 20:26:17 ID:xYIxyaSA0
猫の日だニャ

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1089/Coletta_05.jpg

891名無しさん@避難中:2017/02/22(水) 20:57:33 ID:hT7rY.aQ0
きゃわわ

892名無しさん@避難中:2017/04/29(土) 16:18:05 ID:wEqGL0KA0
コレッタ「委員長って、サーバルちゃんみたいなお耳だニャ」
リオ「え。だっ、誰かなー。サー…サーバルちゃんって(ホントは知ってるけど)」

ごそごそ(ランドセルの中を探るコレッタ)
スマホの画像を見せる。

コレッタ「この子ニャ。委員長みたいに長いお耳ニャ」
リオ「ほ、ほ、ほ。ホントだねー。(コレッタもなかなか良い選球眼持ってるじゃないか)性格も良さそうで」
コレッタ「お洋服がかわいいニャね」
リオ「さばくちほーで『砂がいっぱいだね!』って発言したシーンはわたしのド頭殴られた感じだよ!」
コレッタ「ニャ?」
リオ「なんでもないよ!(アブい、アブい。ヲタばれしちゃう。わたしは真面目のまー子だよっ)」
コレッタ「この子、うさぎさんかニャ?」
リオ「この子はコレッタちゃんと同じ猫科だよ?」
コレッタ「ニャ????お耳が長いニャよ…?」

がらっ(教室の扉が開く)

白先生「けものも居るし のけものも居る 本当の愛は金で買う〜♪」
リオ(バ、ババア。その歌、改変するな…)
コレッタ「白先生、どうしたニャ」
白先生「ふふふふ。同級生が玉の輿だよ」
リオ「すごーい!!」
コレッタ「?????」
白先生「人生とは銭ズラよ。人生逆転ゲーム」
リオ「せ、先生!そんなことはありません!本当の愛はここにあります!
例え除け者にされようが、たった一人でも味方になってくれるフレンズが居るのはしあわせですよ!」
白先生「因幡。どうしたんだ」
リオ「リア充界から除け者にされて、も…除け者だって…のけもの、野けもの、の獣…。野獣……野獣になら抱かれてもいいかも」
白先生「おちつけ」
コレッタ「だっこだなんて、委員長はお子さまみたいニャ」
リオ「コレッタちゃんはまだ知らなくていいの」

893名無しさん@避難中:2017/05/07(日) 17:53:53 ID:MBm0Ypws0
よーし。アラサー女子・白先生の歌作ろー。
まずは歌い出し>>894

894名無しさん@避難中:2017/06/08(木) 20:55:57 ID:EvcMCLDc0
ううううう、ぬこぽ!

895名無しさん@避難中:2017/06/25(日) 09:45:17 ID:6qZy/t2A0
リオ「白先生!卓球やりましょう!犬上も!」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1108/ping_pong_.jpg

896名無しさん@避難中:2017/06/25(日) 13:46:15 ID:9DQdq2es0
後ろのポスターが気になる…

897名無しさん@避難中:2017/07/12(水) 06:57:43 ID:Mfj/2U6Y0
リオ「わたしが先生を守る!」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1113/rio_haduki03.jpg

898名無しさん@避難中:2017/07/13(木) 20:18:05 ID:Ai32t9A20
守られる側ぇ…

899名無しさん@避難中:2017/07/22(土) 07:04:06 ID:vvxxVuwI0
「風紀委員長」でお題くだしゃい

900名無しさん@避難中:2017/08/18(金) 06:52:07 ID:PFDMmVW60
犬上先輩!!

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1119/akane_hikaru_rio.jpg

901名無しさん@避難中:2017/08/25(金) 01:26:51 ID:9zmzHccQ0
なんやこの青春……

902名無しさん@避難中:2017/09/17(日) 20:39:41 ID:rbvb7JzY0
メガネっ娘

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1124/megane_make.jpg

903名無しさん@避難中:2017/09/24(日) 21:44:20 ID:tFl8CFpY0
おっぱい!おっぱい!

904名無しさん@避難中:2017/10/06(金) 07:00:22 ID:4m9U1QCU0
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1130/mike_recorder.jpg

「きょうの音楽の授業で使ったリコーダー。まずは500円からニャ!」

905名無しさん@避難中:2018/03/03(土) 21:38:38 ID:IpMMjpEo0
#白先生とキャンプなう に使っていいよ〜

https://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/1164/shiro_camp.jpg

906名無しさん@避難中:2018/03/07(水) 22:22:54 ID:J14fC1pI0
ババァバーという単語がよぎる

907名無しさん@避難中:2018/04/14(土) 11:47:34 ID:OL20BOBk0
お題くだしゃい

908名無しさん@避難中:2018/04/14(土) 12:20:36 ID:vcmEdqsk0
入学した時のエピソード

909名無しさん@避難中:2018/04/26(木) 09:36:40 ID:EL8ckzmo0
コレッタJS1ねんせい

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1174/coletta_js1nen.jpg

910名無しさん@避難中:2018/04/26(木) 10:00:42 ID:mDOA1Yu20
これはヤンママならぬ病んママですね……

911名無しさん@避難中:2018/06/11(月) 07:19:22 ID:twSLEohI0
「明日やること、○○」
で、○○を埋めたお題ください。

912名無しさん@避難中:2018/06/11(月) 08:40:50 ID:uWK9mY5QO
森林保護

913名無しさん@避難中:2018/06/17(日) 12:46:24 ID:dr8bZmDk0
天下布武

914名無しさん@避難中:2018/07/08(日) 08:53:18 ID:Zw78XsJM0
明日から始める森林保護
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1187/IMG_20180708_084642.JPG

915名無しさん@避難中:2018/08/02(木) 07:17:46 ID:4Ehur5oY0
明日から始める天下布武

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1194/misamisa_20180802.jpg

916名無しさん@避難中:2018/08/20(月) 09:59:51 ID:yY/o2dkM0
おっぱいのことを考えよう

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1198/rio_moe_20180820.jpg

917名無しさん@避難中:2018/09/16(日) 09:52:34 ID:tvMhrMhU0
お題下さい

918名無しさん@避難中:2018/09/16(日) 10:49:02 ID:bhZh/1DQ0
毛狩り

919名無しさん@避難中:2018/09/17(月) 10:51:41 ID:WJfFjD4I0
ひつじっ娘の毛がり

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1200/hitujikko01.jpg

920名無しさん@避難中:2018/09/17(月) 14:27:45 ID:bsTKfwGsO
でも、見てみたいw

921名無しさん@避難中:2018/10/21(日) 01:47:46 ID:U/6mkvlU0
せっかくなんでこっちにも。おそらくオリジナルデザインの人ここでしか出くわさないし。
https://u6.getuploader.com/sousaku/download/975

922名無しさん@避難中:2018/10/21(日) 01:59:17 ID:WByf/HYg0
えっちだwww

923名無しさん@避難中:2018/10/21(日) 02:23:25 ID:kaksVWKc0
へぇ、えっちじゃん

924名無しさん@避難中:2018/11/11(日) 09:36:12 ID:am8iu1mc0
ポッキーの日

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1209/pokey_rio.jpg

925名無しさん@避難中:2019/02/10(日) 13:33:36 ID:4Ni.xtc20
お題下さい

926名無しさん@避難中:2019/02/10(日) 17:18:04 ID:sQBPu2BgO
冬毛

927名無しさん@避難中:2019/02/23(土) 07:25:38 ID:1LhrfeOQ0
にゃー

https://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/1223/seikaiha.jpg

928名無しさん@避難中:2019/02/23(土) 08:06:41 ID:xNKwLMr20
冬 毛 元 年

929名無しさん@避難中:2019/04/01(月) 21:12:10 ID:ybvFJRoQ0
コレッタママ「冬毛じゃなかったねー」
リオ「でも、コレッタちゃん、当ててすごいい」
コレッタ「これから『れいにゃ』をよろしくニャ」
リオ「え!?なに!?」
コレッタ「れいにゃ…」
リオ「も、萌えるぜえええええ!!」

930名無しさん@避難中:2021/02/16(火) 16:46:42 ID:KzlPdvi.0
>889
                     メモ


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