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獣人総合スレ 避難所

681言い訳さん ◆TC02kfS2Q2:2012/03/25(日) 19:14:55 ID:NPwG9r.Y0

 いくら本好きでも、持ち帰るのに閉口してしまう本の束。
 大分古い本だからか、ハードカバーのものばかり。バイク屋にいるはずなのに、何故か古書店へと迷い込んだような匂い。

 「こうして母から怒られるんです」
 「ヒカルくんが?」
 「父がです」

 あぶく銭が出来たので、馴染みの店に頼んで古本をたくさん取り寄せてもらった。だが、所用で受け取りに行けないので、
息子にそれを頼んだ。こどものような父親にヒカルは一肌脱いで、古本を受けとって自転車で帰宅していた途中のこと。

 「嫌なときにパンクしちゃったね」
 「自転車は直るから……。でも、父の無駄遣いの性格は治らないかも」

 ヒカルはミナに促されて店に並んだバイクに腰掛けると、タンクの上に本いっぱいのバッグを下ろした。
一冊取り出してページをめくる。時代を越えた独特の匂いが紙と紙との間からした。

 「そして、母に言い訳するんですよ。『ほら!ぼくの使ったお金で、誰かが潤うし』とか『お金を本に変えないと、
  他のことに使っちゃうし』とか。オトナのくせにコドモじゃないですか」

 ヒカルは本を大切そうに、また一ページめくる。
 ミナはもしかして、ヒカルのページを捲る癖は父親譲りなのではないのかと、余計な邪推をしていた。

 「何言っても母から『無駄遣いばっかりして、ウチを図書館にするつもり?』って怒られるだけなのに。杉本さん……」
 「ミナでいいよ!」
 「……ミナさん。どうして、すぐオトナは言い訳しちゃうんですか?」

 とある男子高校生の質問に、ミナはしばらく考えるふりをした。
 誰かと付き合ったことが無いわけでないから、何度かそんな状況に出会ったし、ヒカルの質問にも納得がいく。
デートの遅刻、分かりやすいウソ。そして、裏切られたときのこと……。いちいち丸く治めようとするからそうなるのだ。
だから……いっそ、壊してしまえ。分かりやすいじゃないの。ミナは少年の前では言葉にはしなかった。

 その代わり、「どうしてだろうね?」と、一言でヒカルの疑問をなだめた。

 昼過ぎに店に来ることを約束してヒカルが店を出ると、ミナは重そうにトートバッグを肩に掛ける少年を呼び止めた。

 「送ってこか?」
 「近いし、大丈夫ですよ」

 恐縮するヒカルは迷惑をかけたくないと、徒歩で帰宅することを選んだ。

 ヒカルが去った店内は、不思議と油の匂いが戻ってくる。
 バイク屋だから当たり前だけど、ヒカルがいたときは油の匂いを忘れていたような勘違い。
 ミナは思い出したかのように、ブーツのつま先が擦れているのに気付いた。

 だって、自分はバイク乗り。女の子したいけど、バイク乗りの性格がついつい、言い訳。

     #

 「お出かけ辞めましょう。ここにチョコがあるのを見つけました」

 玄関ではなく、何故かリビング。ハルコはお出かけ着のままチョコ粒のお菓子を手にして目を輝かせていた。
 甘いものさえあれば、それでいい。わがまま姫は従者を振り回すのがお仕事。タバコ箱大のお菓子はきれいにビニルに包まれたまま。
パッケージの鳥の絵が淺川が幼いころのときから変わらずに描かれている安定感。ハルコが箱を振ると中でチョコがぶつかる音が聞こえる。

 「ったく……。出ねーの?出んの?」
 「それより、これ頂戴」

 ややこしいことになるのは勘弁。淺川としてはこのまま外出して、うやむやにしながらハルコを家に帰し、ミナの元へとバイクを
引き取りに行きたい寸法だ。だが、自分が買ってきておいたとはいえハルコがトラップに引っかかってしまったのは、想定の範囲外。
 とりあえず、淺川はすんあんりとチョコのお菓子をハルコにあげることにした。


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