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獣人総合スレ 避難所

734わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:05:16 ID:l/gcxVvs0

 雨降りだからバイクを降りよう。たまにはこんな日もあっても良かろう。
 一雨ごとに暖かくなるのは毎年のこと。さらば冬と言いつつも、今日はバイクには乗りません。

 市電で街を移動するのは久しぶりだとミナは言う。乗り慣れたエンジンの心地は足から伝わるモーターの振動に変わり、
流れる風景もガラス窓越し。バイクからの目線から見落としてたはずの物が目に見えてきて、どんよりとした灰色の空も
決して嫌いになれなかった。むしろ青空が持つ二つ目の顔を見せてくれいるようで、裏表のないいいヤツだとも感じる。
 周りに人が居る。誰も知り合いではないけれど、車内はすんの暇を共有する名もなき劇場か。
 長年暮らしてきた街の違う顔を垣間見るようで、ミナは生暖かい空気を楽しんでいた。

 「早速、冬クールの一番決めよっか?」
 「どれだろう。さくらが言ってたヤツ、三話目で脱落しちゃったし」
 「わたしもー。キャラデザが過去の呪縛から抜け切れてなくて萎えーってね」
 「このテイストで描いときゃいっかって保険かけてるのかなぁ?ねえねえ、違う絵描けないの?」
 「でも、再生回数伸びてるよね。男子には受けるんだ。あーいう古風な子」
 「男版『ウチら』だからね、アイツら」
 「それはさておき、春クールの青田刈りでもしよっか?豊作ですよ」

 話の内容はともかく、ミナは吊り革に捕まって自分たちの世界に浸る女子高生の会話を聞いていた。
遠い姪っ子たちが我が家の居間でだべっているようだった。何を話してるかは分からないが、それだけでいい。と。
ただ、二人は冬の終わりを惜しみつつ、春の訪れに喜びを感じているんだと、ミナには何となく分かってきた。
 一人はイヌっ娘、一人はネコっ娘。お互い制服は違うが共通点は眼鏡っ娘。ミナとは違う世界を生きる二人と共に
車窓を分かり合うことにミナは不思議に思えてきたし、それが市電の魔力なんだとも感じた。

 「さくらはイヌ耳キャラが出るだけでご飯三杯はいけるよね」
 「だからさ、もっちーもイヌ耳に萌えるべきだよ!」

 ふと、さりげないイヌっ娘の言葉にミナは聞き耳を立てた。

 「『もっちー』……」

 この子も『もっちー』なんだ、と。自分が知っている『もっちー』ではないな、だけどほんのちょっとだけ思い出した。

 「どうしてるかな」

 二人してはしゃぐイヌっ娘ネコっ娘たちの歳の頃を思い出していると、相変わらず降り続けてるのにも関わらず
いつの間にかガラス窓を叩く雨音が消えていた。ミナの鼓膜が雨音を聞くことを拒否しはじめたのだった。


    #


 ミナの知る『もっちー』は教室では借りてきたネコのように大人しいネコだった。
 それゆえクラスメイトの女子からは何となく浮いていた。
 そして、隙あらばもっちーのことを笑おうと、揚げ足を取ろうとクラスメイトの女子たちはもっちーに目をつけていたことが
ミナには面白くなかった。ただ、彼女は他の女子には無かったさくら色のような色香を兼ね備え、そして気丈にもミナの前では
笑顔を絶やすことをしない子だった。

 「何かあったら、わたしに言うんだよ」

 ミナはもっちーに対して口をすっぱくしていた。

 ある日、もっちーは普段見せない顔をしてトイレの手洗い場にいた。トイレのサンダルを履いたもっちーは誰かから見られることを
避けるよう、クラスメイトから逃れるよう、そっとしてくれと言わんばかりに静かにたたずんでいた。
 もっちーの後ろ姿を見かけたミナが鏡越しにもっちーを覗き込むと、蛇口をしめ、ハンカチを焦るように隠した。
ミナが立てたトイレのつっかけの音に反応して、いかにもばつの悪い反応を示したもっちーはミナに目を合わせようとしなかった。


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