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獣人総合スレ 避難所

3362月22日のごめんなさい ◆TC02kfS2Q2:2010/02/21(日) 22:06:47 ID:WPHKKZGo0
「玄子ちゃんもいらっしゃい、風邪引いたら大変。びっしょりじゃない」
「う、うん……。分かったニャ」
御琴の横にぴったりとくっついて座るクロは、小さいときからのクセだニャと、姉に照れ隠しをすると、
「甘えんぼ屋さんね」と、雨に降られた髪の毛を御琴の使っていたハンドタオルで丁寧に拭いてもらった。
ハンドタオルを通じて、姉の肉球がクロの頭を優しく撫でる。ダウンジャケットを着た姉に寄り添うクロに、くんくんと姉と雨の匂い。
雨に晒された御琴の黒いブーツからは、水滴がつるりと垂れていた。クロの前髪から垂れる水滴が何滴も何滴も、クロのふとももを濡らし続ける。
子ども向けのクロのブーツには、公園の土が付いていた。

黙っていたクロを見透かしているのか御琴は、妹の尻尾を跳ね上げさせるようなことを言う。
「あらら?まだまだ玄子ちゃんには、お姉ちゃんのブーツは早いかな。踵のある靴は、もうちょっとね」
「そ、そんなこと考えてないニャ!!わたしは……わたしのブーツでいいもんニャ!」
「そう?だって、お姉ちゃんのブーツをさっきから羨ましそうに見てじゃない。ほら、上がったら、シャワーをいっしょに浴びるよ」
「むー」
雨に濡れた革の黒いブーツは、クロには遠いオトナの色がした。

―――「お嬢ちゃんみたいな子が、こんな老いぼれの店に来るなんて、もしや雨でも降るんじゃねえのか」
「おじいちゃん。もう、降ってるニャよ。うわあ、ざんざん降りになったニャ!」
この場所だけ昭和の香りを漂わせた店の奥から、古びた本を掻き分けて一人の老猫がのっそりと現れた。
一見、身なりはそんなに悪くない。少し毛色をやつれさせた尻尾から、イヌハッカの煙草の匂いがする。
雨の日の古本屋は、インクの匂いがいっそう自己主張したがる。コレッタは、インクとイヌハッカの煙草の匂いに包まれて、
大きな瞳をしばしばと細めるしかなかった。それでも老猫は「お嬢ちゃんの手前、煙草を我慢しとるんだ」と、目を細める。
「こんなに濡れて、風邪引くぞ」と、老猫は頭を掻きながらコレッタに清潔なタオルを渡した。

「おじいちゃん。これ、全部おじいちゃんの本かニャ?天井に届きそうだニャ!」
「違う。こいつらの持ち主は、まだ居らん。もしかして、お嬢ちゃんが持ち主になるかもしれんな」
薄暗い店内に、拭いたばかりの白い毛並みのコレッタの姿が、森に迷い込んだ精霊のように光り浮かんで見える。
面倒くさそうに、老猫は大時計の蓋を開けると蓋に付いていたねじ回しを外し、時計板に開けられている小さな穴に差し込み、
ゆっくりとねじ回しを捻ると、大時計の中から機械の軋む音を立てて、自らの命の存在を伝えていた。
「もうこんな時間か。人が必死に机に向かってるというのに、好きなだけ針を回しおって。お前はのんきなヤツじゃのう」
「何してるニャ?とけいに何をしてるのかニャ?」
「お嬢ちゃん、ぜんまいを知らんのか。こうしてやらんと、この時計は止まってしまう。時間も日にちも教えてくれんようになってしまうんじゃ」

確かに時計板には時刻のほかに、小窓で日にちを示すようになっていた。
その日にちを確認すると老猫は、面倒くさそうにイスにしゃがむと再び大時計の姿を眺め始めた。
「なんじゃ。もう、今年もこんな日が来たんじゃな。尚武は、今年も来るのかのう」
「……わ、わたし、今年は行かないもんニャ!!」
「お嬢ちゃんたちの日じゃぞ。何があったか知らんが、寂しいこと言うない」


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