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獣人総合スレ 避難所

806わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/07/16(水) 19:45:07 ID:RBA6yh0k0
 「リオ!ちーっす!急がないと遅刻遅刻!」

 既に風紀委員の仕事で登校していたリオは、遠巻きにヒカルとモエを眺めていた。両手一杯に抱えた冊子の重さに耐えながら……。

 自分と同じく急いでいる割には、実に能天気な挨拶をかけてくるモエの姿に気を取られていると 、ヒカルはモエとモエの弟の話が
脳裏をよぎった。あの、雑貨屋でのTシャツの話……だ。袈裟懸けしていいる通学かばんから、モエに悟られないように、
そっと空色の伊達メガネを掛けてみた。モエの強い勧めで買ってみたものの、袋に入ったまま通学かばんに入れたままだった。

 初めて自分の意思で掛ける伊達メガネは、悪巧みが微塵もない共犯意識と似ていた。
 掛け心地は変わらない。ただ、視界がちょっと狭まったような。土足場が小さく見える。
 もしかして、微妙なおしゃれ心に目覚めた自分を誰かが笑っているのかもしれない。それはそれで、ブラックなヒストリーとして
自分自身で語り継ごうではないか。

 「あっ。犬上、ちーっす!」
 「……おはよ」

 ちょっとどきどきする。
 相手は普通どおりに挨拶してきただけなのに。

 「いそぐよ!犬上、走れ!リオ、またあとで!」

 なのに期待外れの結末だ。
 モエが逃げるようにヒカルの元から走り去ったのは、時間ぎりぎりだからだと理解したのは、教室に入ってからだった。

 一時限目が始まる間際の教室にて、席に着いて安堵の一息をついた矢先、一仕事終えたリオが手首をばたばたと振り
ヒカルの顔を覗きこんだ。昨晩寝落ちしてしまったからと、本の余韻に浸ろうと伊達メガネの感覚を気にしていていたときのこと。
 日常が非日常になるまんざらでもない高揚感がヒカルを調子にのせていた。

 「もしかして、この間モエが選んだヤツ?」
 「うん」
 「いいね。メガネ男子」

 素っ気無いリオの反応にはちょっと期待はずれだった。

 「ってかさ。雨なんて、もーって感じだよ」
 「梅雨も抜け切れてないんだよ」
 「わたし、朝に委員会の仕事あるから坂道ダッシュで駆け上ったら、もーメガネに水滴が付く付く。前が見えないよお」
 「そうなんだ」
 「あれ?犬上、ならなかった?自転車だと、尚更なのに」

 あ。
 しまった。

 「……あれだよね。今、思い出して『伊達メガネ』掛けました。って、感じだよ?犬上?」
 「はっ」

 あれだけ急いで霧雨の中を自転車で疾走すりゃ……。ヒカルはメガネっ娘の苦悩を受け取れなかった自分の未熟さに冷や汗をかいた。
 リオのメガネとヒカルの伊達メガネの輝きは違うんだから……。

 冷やかす神あれば、拾う神あり。
 ヒカルの背後から叩き込まれた乙女の声は、ヒカルにとって救世主。
 リオの『彼氏様』の声は、リオにとってドSなアイツ。

 「ちーっす!あ!犬上、似合うよ!メガネ男子はご飯三杯いける!」
 「あ」
 「どお?似合うかなぁ」

 チェキポーズで『たった今、掛けました』アピールが漂う赤い伊達メガネのフレームから覗き込むモエの
きらきらとした目は男前だった。


   おしまい。


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