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獣人総合スレ 避難所

748しろいゆき ◆TC02kfS2Q2:2013/05/10(金) 20:09:08 ID:wr8SlciI0
 「ごめんなさい!先生ですよね。声が聞こえました」

 白先生は首を縦に振ることで返事をしようとしたが、雪妃のために「ああ」と口に答えを出した。

 「あいつ、『イカサマ王子』です」

 確かに王子と名乗るにふさわしいほどの振る舞いだ。だが、雪妃は低い声で続けた。

 「筺体にコイン、入れてないんです。なんらかの小細工を使った方法で誤作動させてます。きっとコインの投入口に……。
  だって、コインを投入する音が聞こえなかったんです。わたし、耳だけはいいから分かるんです」
 「……証拠は。証拠がないとこちらも手を出せないぞ」
 「はい。立証は目撃者でも居ない限り難しいでしょう。先生、気をつけてくださいね。あいつ……年上好みですから」
 「……」
 「年上の女性に擦り寄ってぬいぐるみを贈る。いつも敬語ですし、気に入られやすいんです。
  イカサマはゲーム感覚でしょう。一瞬でもいいから、自分をチヤホヤしてくれるような女性を探しているんです」

 雪妃はゲームの神へ訴えるようにクレーンゲームにコインを投入し、次々とぬいぐるみを狩っていった。

 「この辺であいつの名と破廉恥な振る舞いを知らない者はいません。ただ、証拠があがらないんです。
  なのに……わたしにだけ証拠が聞こえるのに、証明できないって……悔しいじゃありませんかっ!!」


    #


 『イカサマ王子』がコレッタに近づいているのを白先生はゲームの最中に目撃した。

 年上好みと聞いていていたはずなのに。目をぱちくりしていると王子はコレッタに何かを話しかけ、以前白先生に求めた
ことと同じようにアームの先を見放さないようにコレッタに指示をしているのに気づいた。あろうことか、コレッタにだ。
 コレッタとイチャコラしているのを見るだけで、白先生は胸の奥が沸騰してくるような気がした。

 だから、というのは失礼かもしれないが……白先生は途中でゲームを放棄して王子に寄りつめた。
 王子は鬼気迫る形相の白先生に対して、なんとも紳士的な表情で迎え入れた。作法も知らぬ野武士が氷の面構えをした
貴公子に斬りかかる、と言うべきか。ただ、言えること。野武士は本気だ。

 「イ……王子さまだね」
 「そんな呼び名、されているんですかね。ぼく」
 「失礼覚悟で聞く。コインは入れたのか」

 白先生の問いかけを遮るように筺体のランプが灯りだし、いかにもせせら笑っているように見えてきた。
 そして、あれよと言う間にぬいぐるみが捕獲され、コレッタの元へと取り出し口に転がってきた。
 何も事情を知らないコレッタは不思議そうにぬいぐるみを眺め、そしていつのまにか手中に収まっていた。
 
 「否定しないな」
 「肯定もしていませんよ。コインは入ったのでしょうか?疑問ですね。なのに、ぬいぐるみが手に入った。お姉さん、質問は愚問です」
 「ちゃんと、ちゃんとコインの音がしないっていう証言もあるんだぞ」
 「お姉さん。冷静に考えてください。コインの音って聞こえますかね」
 「あの子……あの子には聞こえないんだ!」

 冷静になれ。落ち着け。感情に訴えるな。ババア。
 王子の嫌味なほどの爽やかさが白先生を煽り立てた。

 「コレッタ!近づくな!離れろ!こいつ、こいつはな!」
 「ニャ?」
 「店員さーん!ここでオバサンが暴れていますよー!」

 王子が手を振っているうちにわらわらと制服姿の店員が集まり始め、白先生は羽交い絞めにされながらクレーンゲームから
引きずりはなされていった。きらきらと輝き続ける電飾に照らされて、テンション上がる音ゲーのサウンドに囲まれて、
三十路を過ぎた一人の保健医は両手を振り乱しながらスタッフオンリーの札が掲げられた部屋に店員と共に吸い込まれていった。

 「王子!王子はいくらでも傷つけ!!でも、コレッタだけは傷つけるな!!わたしが許さん!!」という声を残して。


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