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獣人総合スレ 避難所

735『もっちーのこと』 ◆TC02kfS2Q2:2013/03/01(金) 21:06:00 ID:l/gcxVvs0
 「何かあったらって……言ったじゃない!」
 「いいんです。杉本さんには迷惑かけられないし」
 「わたしも迷惑してるから遠慮しないで!」

 ミナももっちーの態度を認め、そっともっちーの洗い立ての手首を握る。これでお互いひんやりだ。

 「もっちー。大丈夫。わたしがアイツらから守ってやるから」

 一言も話していないのにも関わらず、もっちーの行き場のない感情を受け止めたミナはトイレ脇の土間に投げ出された
片方だけのもっちーの上履きに誓いを立てた。所詮、ガキがやったことだから大人げなくて結構……そんな屁理屈は許せない。

 「隠すなんて、卑怯過ぎるし」

 口を閉ざしてしまったもっちーはミナの声を何様かと思い込んだか、わっと感情を解き放ち、再び自分の手を濡らした。

 あれから、高校を出て、お互いそれぞれ自分の道を歩みだし、風の便りさえ届かなくなってきた。

 そんなもっちーがミナの前に現れた。偶然の出会いだった。
 愛車に跨り冬の夜の風を走り、休憩に凍てつく手を缶コーヒーで温めていると、ふと明かりが恋しくなった。
 喜んで寒い中を走り回るのはイヌかバイク乗りぐらいだと、ミナは自虐的になっていたところに差し伸べられた暖かな光。
 誘ってないのに誘われたかのごとく、ミナは愛車に待てを命じて明かりの灯るレストランに近寄ってみた。ガラス張りの店内が
わいわいと人のぬくもりに唆されて、色恋沙汰の始まりが種蒔かれているようにミナには見えた。
 わたしになんか、関わりないかも。だって、缶コーヒー如きで喜んでいるような女だし。でも……誘われたら嬉しいかも。

 チーズの香り漂うレストランが小さな頃に憧れた二次元の世界に見えてきた頃、三次元のリアルなんだとミナは引き戻された。

 「もっちーだ」

 ミナが知る限りのもっちーは男の匂いなどしなかった。ミナが知る限りのもっちーは女の香りなどしなかった。
 たかが十年ちょっとだ。十年ちょっと会わなかっただけでこんなにも人は変わるのか。
 同年代の男女が一同小洒落たレストランのテーブルを囲み、チーズフォンデュを食している中で、ミナが知っている
もっちーが姿を現すことはなかった。言うならば……小悪魔もっちー。魔方陣の代わりに小さな鍋、契約の代わりにぶどう酒の杯を交わす。
 男どもがもっちーに明太子味のチーズフォンデュを勧めるなか、もっちーは目を細めながらパンを摘んでいた。
 ガーリック味もいいかもと男が張り切ると、男の腕を叩きながらもっちーは明太子味を選んでいた。そして、しっかりガーリック味も
堪能しているのをミナが見逃すはずはなかった。

 「なんだかなぁ」

 あまり見つめていると妬みに変わるを嫌ったミナは残りの冷え切ったコーヒーを飲んだ。

 もっちーは悪魔の契約を交わしました。
 真っ白な正義がくすんで見えてきました。
 魔界へ魂を売ったもっちーに乾杯。

 だって、ちやほやされるの羨ましいし。


    #


 「どうして、もっちーにみんなちやほやするのかなぁ」

 暇を貰ったミナのバイクがガレージで鈍い光を反射していた。ミナはタンクの光沢を肴にしながら北の方の地図を眺めて
もっちーの新たなる門出を嫉妬していた。
 バイクがミナをちやほやしてくれるわけでもないし、春だからコイツにつんつんしてみるか。
 

 おしまい。


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