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とある英雄譚のようです
99
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:24:04 ID:.s4a6Prs0
すんげーーーー良い
100
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:24:16 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「魔力の量は生まれつきの才能だ。
お前も知っているように、俺の魔力量はお前の半分にも到底及ばない。
だが、お前にはもう一つ、他の誰にもない力がある」
川 ゚ -゚) 「宗教の勧誘みたいな話だ。生憎、私は神を信じちゃいない」
('A`) 「疑り深い姫様だな。もう一つ、その説明をする前に聞いておこう。
お前は魔力についてどのくらい知っている」
川 ゚ -゚) 「……人間以外にも多くの種族が扱える力で、魔術を発動させるために必要なもの、だ」
('A`) 「魔力には幾つかの特性があるが、
そのうちの一つに形を与えることが難しいということがある。
最上級の魔術師であっても、
魔力そのもので何かを作り出すことはほとんどできないほどにな」
川 ゚ -゚) 「そんなことは無い。この国の騎士団長クラスであれば、
魔力で創り出した斬撃を放つことくらいできる」
('A`) 「それは剣を通した簡単な魔術が発動しているだけだ」
川 ゚ -゚) 「魔術には詠唱が必要なはずだ」
('A`) 「必ずしもそうではない。常日頃から鍛錬を怠らなければ、その程度のことは誰でもできる。
先の戦闘時、お前は魔術を通さずに魔力を剣の形にしてみせた」
101
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:25:05 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「……」
クールは掌を掲げ、その上に光の剣を作り出した。
回復しきっていない魔力のせいで些か不安定ではあったが、魔力が象った両刃の剣。
その鋭さも、強度も、クールの意のままなそれは、数秒後には淡い光となって消えた。
('A`) 「殆どの生物にはそれが出来ない。
魔力で剣を作ることができるのは、お前の中に存在する特別な力のおかげだ。
天剣と呼ばれる上層世界の武器のな」
川 ゚ -゚) 「天剣、前にも言っていたな。上層世界とは何のことだ」
('A`) 「この世の理を越えて存在する上位世界のことだ。
天剣はその世界の武器であり、真の名は■■■■・■■■■」
川 ゚ -゚) 「今なんといった」
('A`) 「そうか■■■■・■■■■の力に目覚めていなければ、
その言葉を聞くことすらままならないわけだ。まぁいい。
その力は、妃龍クレシアが殺した天使の身体から生み出された神の剣。
スノウ建国者の血を引く女性にのみ扱える剣だ」
川 ゚ -゚) 「天使の……剣……?」
('A`) 「お前にはそれを扱えるだけの魔力もある。元気になったのならば、剣技を研くことだ。
それが必ず力になる」
102
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:25:36 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「荒唐無稽な話だな。証拠もなく、信じるに値しない。
もし仮に事実だったとしても……私が世界を救うつもりがないと言ったら?」
('A`) 「別にそれならそれで構わない。俺に負けたという事実が残るだけだ」
川 ゚ -゚) 「安い挑発だな……だが、いいだろう。世界の為になんて理由はいらない。
お前に勝つためだけに天剣を使いこなして見せる」
('A`) 「三日前は剣の腕を見なかったな。その回復だと明日でも大丈夫か。
前回戦った場所で待っている」
川 ゚ -゚) 「今からでいい」
('A`) 「無理をするな」
川 ゚ -゚) 「いや、すぐに行くぞ」
クールはベッドから立ち上がった。
('A`) 「……運んでやる」
風の魔術を操り、自身とクールを王城の部屋から外に運び出す。
一息つく間もなく、二人は先日の戦いの痕が残る平野に降り立った。
103
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:27:58 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「一つだけ言っておくのを忘れていた」
川 ゚ -゚) 「なんだ」
('A`) 「天剣は使うなよ。死ぬぞ」
川 ゚ -゚) 「……は?」
('A`) 「天剣はお前の命と密接に関係している。
扱い慣れていないのにその身から引きずり出して、無事なわけがないだろう」
川 ゚ -゚) 「そうか。扱い慣れていれば大丈夫なんだな」
クールが手を掲げ、魔力を込める。
三振りの光り輝く剣が、切っ先をドクオに向ける。
(;'A`) 「驚いた。不完全ながらもう天剣を呼び出すことができるのか」
川 ゚ -゚) 「出来ないと言った覚えはない。
油断してると痛い目を見るぞ。お前相手にこれを使わなかったのは私の判断ミスだ。
あの時は天剣なんて魔力を食うだけだと思っていたから使わなかっただけだ」
('A`) 「使いこなせなければ、そうだな。
さて、それじゃあ俺の知っている中で最も弱い剣士として相手をしよう」
104
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:29:45 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「馬鹿に……するなっ!」
空を奔った三つの剣。眼前に迫ったそれを易々と弾いたドクオ。
その手に持つのは鈍色の鉄剣。表面が申し訳程度の魔力で覆われている。
川 ゚ -゚) 「……っ!」
('A`) 「オーバーライド」
穏やかな青年であったはずの雰囲気はどこかに消え、
纏う雰囲気は往年の剣豪にも引けを取らないほどの鋭さを得た。
('A`) 「行くぞ」
川;゚ -゚) 「くっ……」
一瞬で目の前に迫ったドクオの剣を、辛うじて受け止めたクール。
それが加速魔術ではなく、ただの身体能力によって発揮されたことであることに驚きをながらも、
即座に反撃の為に剣を振るう。
一振りしか持たないドクオに対して、クールが自在に操ることができるのは三振り。
手数の差で負けることなどありえなかった。
川;゚ -゚) (なんで……)
105
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:30:44 ID:G.gIoQVo0
圧倒的なまでの攻撃をすべて直前で捌くドクオ。
触れるだけで致命傷を与えかねない高密度の光刃は、服にすら掠ることがない。
正面から突き出したクールの持つ剣と、死角になるはずの背後から迫る二刀。
それらは躱され、地面に叩き落とされた。
('A`) 「どうした、その程度か」
川 ゚ -゚) 「まだ……まだだ!」
王国最強の騎士団長すら圧倒した力であっても、ドクオを前にしては稚児にも等しい。
それを理解したクールは、自身の力不足を強く認識した。
川 ゚ -゚) (もっと……!)
('A`) 「それでは武器に振り回されているだけだ」
ドクオの一閃。細身の体からは想像もできない程、重く、速い。
打ち砕かれたクールの剣が魔力の残滓となって散らばる。
新たに生成した剣を手に持ち、命を奪おうと迫る銀閃に必死に抗う。
川 ゚ -゚) 「はああああっ!!」
('A`) 「おいおい……」
一際高く飛び上がったクールの背に煌めく刃。
魔力の集合体である剣は、その数を五つに増やしていた。
それらは自在に空を掛け、ドクオを包囲する。
106
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:31:51 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「本当に……面白れぇな」
川 ゚ -゚) 「吹き飛べッ!」
周回運動から解放された剣が無作為にドクオを襲い掛かり、その呼吸を乱す。
隙を見て砕いたはずの剣は、瞬きする間に元通りになる。
('A`) 「こっちもギアを上げようか」
ドクオの背後に現出した二つの剣。
銀の煌めきがクールの五つを圧倒した。
('A`) 「終わりだ」
周囲の大地ごと削り取る一撃が、クールの武器を完全に消滅させた。
川 ゚ -゚) 「…………」
('A`) 「予想以上だ」
川 ゚ -゚) 「その剣士は……お前の知っている中で一番弱いのか」
('A`) 「……そうだ」
川 ゚ -゚) 「そうか。八年後だったな」
107
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:32:20 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「正確に言うなら、七年後だ。レタリアに選ばれるかどうかはわからないがな」
川 ゚ -゚) 「待ってろ。驚かせてやる」
('A`) 「楽しみにしているぞ。
……なんだ、家まで送ってやろうか」
話している最中にへたり込んだクール。
もう一歩も動けないとばかりに仰向けに倒れた。
川 ゚ -゚) 「頼む。流石に疲れた」
('A`) 「仕方ないな」
108
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:32:51 ID:G.gIoQVo0
>3
川 ゚ -゚) 「……ふー」
女性を囲む十を超える獣。
魔力を扱う上位種であることは、一目見た時からわかっていた。
陽炎のように立ち昇る魔力は、決して小さくはない。
強化された爪牙による一撃は、無防備な彼女の肌を容易く引き裂くだろう。
じりじりと彼女を囲う円を狭める獣。
対して、彼女はただ立ち尽くして待つ。
追い詰められて絶望に震えるような顔ではなく、僅かな笑みさえ浮かべながら。
川 ゚ -゚) 「……」
彼女が自身に宿る魔力を用いれば、それだけで獣達を無力化することもできた。
だが、敢えてそうすることなくただ仕掛けて来るのを待つ。
獣の群れは、目の前の獲物に対して飛びかかった。
合図もなしに同時に動けるのは、自然界を生き抜いてきた強者の証。
多方向からの襲撃に対して、女性は一歩も動かなかった。
草葉が揺れる程度のほんの少しの風が吹き、獣たちの瞳から光が消えた。
川 ゚ -゚) 「討伐完了」
109
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:33:34 ID:G.gIoQVo0
自国領の末端にある小さな村から救援の依頼が入ったのは昨日の事。
突如現れた獣たちが作物を荒らし、村の人間も何人かが犠牲なったと。
それを退治するために準備をしていた、
通産十二回目の修行から復帰直後の騎士団長を一撃で気絶させ、
女性はここまで一息に駆け抜けてきた。
川 ゚ -゚) 「この程度の敵相手に騎士団を動かすのは金のかけすぎだ」
「姫様! ご無事でしたか!?」
川 ゚ -゚) 「わざわざ探しに来てくれたのか」
「もし姫様の身に何かあったら……」
川 ゚ -゚) 「もう終わった。帰ろう」
「は、はい」
女性の足元に転がっているのは血みどろの死骸。
返り血一つ浴びずに佇む女性は、血溜まりを飛び越え村人の後を歩く。
「まさか、姫様が来られるとは……思ってもみませんで……」
川 ゚ -゚) 「気にするな。騎士団が来る予定だったのを私が横取りしただけだ」
「なんとも、女王様にそっくりでございますな」
110
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:35:52 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「母の事を知っているのか?」
「ええ。とても気高く美しく、そして誰よりも強かったのです」
川 ゚ -゚) 「母様の話は父様もあまりしてくれないのだ。もし時間があれば、聞かせてほしい」
「国王様が……。そうですね、わかりました。
私の覚えている話だけにはなりますが」
川 ゚ -゚) 「気にはしないさ。母様と会ったのはいつだった」
「忘れはしません。十年ほど前の雨の日でございました。
あのような獣が私達の村を襲ってきたのです。
討伐に向かった私を含めた数人は深く傷つき、森の中で身動きが取れなくなりました」
川 ゚ -゚) 「まさか、知らずのうちに母様と同じことをしているとはな」
「姫様によく似ていらっしゃいました。戦闘に赴いてきたはずなのに、真っ白なドレス。
今日の姫様と同じでございました。
あの日の女王様は、跳ね返った泥で裾などかなり汚れておりましたが。
一瞬でした。私達が傷一つ付けられなかった獣を倒してしまうのは」
川 ゚ -゚) 「どうやって倒したんだ」
「光の剣がいくつも現れ、それが獣を貫いておりました。
それから傷の手当までもしていただき、無事に村に帰ることができたのです」
111
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:37:14 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「傷の手当だと?」
「ええ、王女様の手から溢れ出る暖かい光に触れた傷口が、跡形も無く消えたのです。
魔術の存在は知っておりましたが、見たことは無かったので、それはそれは驚いたものです」
川 ゚ -゚) 「魔術で回復か……」
「私どものような農民に対してもお優しい方でした。
まさか、あのようなことになるなんて……」
川 ゚ -゚) 「……。父様から母様の話を聞いたことはほとんどない。
だが、流行病で亡くなったとだけ聞いている」
「それは……怖れながら申し上げますと、事実とは異なります。
私どもは口封じを言い渡されておりますが、姫様にならお話をすべきかと思います。
王女様が亡くなられたのは、私どもの村のことでございます。さて、村が見えてまいりましたね。
この話は家に入ってからにしましょう」
川 ゚ -゚) 「……」
無言で老人の後を歩く。
村の中心にある家に案内されたクールに、
奥から現れた老婆が暖かい飲み物を二人分机に並べる。
112
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:38:32 ID:G.gIoQVo0
「このようなものしか出せませんが」
川 ゚ -゚) 「あまり気にしないでくれ」
手元にあるコップに入った飲み物を揺すり、波立たせる。
拡がった波紋は淵にぶつかり、相殺し合って消える。
老人が話を始めるまで、何度かその動作を繰り返した。
「……王女様は、この村を護って亡くなられました」
川 ゚ -゚) 「母様はどのような最期を」
「老狼エストを退けたのですが、その時の傷が原因で……」
その名にはクールも聞き覚えがあった。
エンシェント・モナク。
数百年の時を生き続け、生物の頂点に位置する王の中の王。
老聖シナ、老樹ロマネスク、老狼エスト、老龍ディオード、老燕リモナ。
人や獣では決して傷つけることはできないと言われる最強種。
川 ゚ -゚) 「まさか……」
113
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:39:53 ID:G.gIoQVo0
「そうおっしゃるるのも無理はありません。
老狼エスト相手に人間が対等に戦ったなどと誰が信じられましょう」
川 ゚ -゚) 「なぜエストだと?」
「老狼は私どもの村を訪れてきたのです。老狼の子を殺した人間を探して。
王女様には逃げるように伝えたのですが、話を聞くや否やすぐにその巨体に立ち向かいました」
「二人の戦いは村からさほど遠くない場所で行われたようでした。
誰もその戦いを見てはいません。王女様が老狼と姿を消してから丁度五日後になります。
付近の森が静かになった時、私を含めた数人が森へと向かいました」
「血塗れで倒れていた王女様と、真っ黒に染まった老狼の巨体がありました。
私達は冷たくなりつつあった王女様の身体を急いで村まで運んだのです」
老人が机の上で干乾びた拳を強く握りしめる。
「私どもでは消えかけた命の灯を救うことは出来ませんした。
本当に申し訳ございません……」
川 ゚ -゚) 「いや、気にしなくてもいい。母様のことが少しでも知れてよかった」
「ですが……私どもにもう少しまともな知識があればと、今でも悔やむのです」
114
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:40:28 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「過ぎたことだ。今更嘆いたところで母様は帰ってこない。
それでも、私の中であやふやだった母様の姿がはっきりとしたことは、とても嬉しい」
クールは老人の細い手を包み込む。
その隙間から零れ出て来る温かな光。
「おぉ……王女様と同じ光……とても優しく、とても慈悲深い……」
川 ゚ -゚) 「ありがとう」
「とんでもございません……」
川;゚ -゚) 「ッ!」
突如村を包み込んだ強大な魔力。
その存在にいち早く気付いたクールは、老人の制止も聞かずに家を飛び出した。
村中に蔓延した敵意は、呼吸を阻害する程に濃く、
魔力の霧が一寸先すら見えないほどに立ち込めていた。
魔力を通して響く老獪な声。
その主は、自らの名を名乗った。
「我が名はエスト。かつての人間と雌雄を決しに来た」
.
115
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:40:53 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「かつての人間……」
クールの目の前に現れた灰色の靄は、狼の頭を象る。
獲物を貫くような二つの眼球が確かにクールを捉えた。
「汝が……? 幾分幼くなった……か。
人間とはそのような生き物であるのだろうな」
川 ゚ -゚) 「老狼エスト。お前の相手をしたのは私の母親だ」
「成程……あの人間はどうなった」
川 ゚ -゚) 「死んださ。お前にやられた傷が原因でな」
「そうか、それは残念だ。我を追い詰めるほどの力を持った人間などいるとは思わなかったからな」
川 ゚ -゚) 「私が代わりに相手をしよう」
「くっくっくくく、人間もなかなか面白い冗談を言う」
川 ゚ -゚) 「冗談のつもりは無いんだがな」
煙の狼は牙をむきだして唸る。
それが笑っているのだということは一目見て明らかだった。
116
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:42:39 ID:G.gIoQVo0
「汝の魔力量が尋常ではないのはすぐに分かった。だが、所詮それだけだ。
あの人間に感じたような異質な雰囲気は汝には無い」
川 ゚ -゚) 「だったら……試してみればいい」
村中を覆っていた魔力の霧を、自らの魔力で吹き飛ばした。
一瞬で晴れた村の中、家々からは何人かの村人が不安そうに顔を出す。
先程までのクールとエストの会話が聞こえていたのだろう。
王女に近寄ってくる者は誰一人としていない。
川 ゚ -゚) 「老狼……私の力を試すのには最高の相手だな」
突如王城に現れた魔術師に敗北してから三年と九十八日。
飲まされた煮え湯のことは一日たりとも忘れたことは無い。
全身全霊をかけて鍛えたのは剣と魔術の技量。
もはや国内どころか、大陸にすら敵がいるかどうかとの自負があった。
しかし、強くなりすぎた彼女の力を証明するはかりは残念ながら王国に存在しない。
ただ闇雲に自らの想う強さだけを目標に走り続けていた。
自分自身を疑うことなく、一直線に。
そんな彼女にとって、老狼の存在はまさに渡りに船。
母親が相打ちに近い状態にまで追い込んだエンシェント・モナク。
それを目の前にして挑まずにはいられなかった。
117
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:43:09 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「来たぞ」
村から三十キロほど離れた森の空き地に、老狼は座していた。
牙の一つが人間ほどの大きさもある巨大な白い狼。
敵意を向けられていない状態であれば、神々しいとさえ思わせる美しさ。
<_プW゚)フ 「愚かな。自らの力量のはかりに我を用いようなどとは」
自身の真意を見抜かれていることに全く物怖じせず、あけすけに答えるクール。
目の前に存在するのは母の仇のはずであったが、
彼女の心中には怒りや恐怖よりも、好奇心と上昇志向が渦巻いていた。
川 ゚ -゚) 「他に相手にがいない」
<_プW゚)フ 「確かにあの女は類まれなる才能の持ち主であった。
だからといって汝がそうであるとは限らぬ。
今であれば見逃してやってもよい」
森の出口を顎で指す狼の眼前に、その首を落とせるだけの巨大な剣が突き刺さった。
魔力でできた大剣は地面を食い破り、老狼の視界を遮る。
川 ゚ -゚) 「御託はいい」
<_プW゚)フ 「よかろう。ただし我が手加減するとはゆめゆめ思うな」
川 ゚ -゚) 「されては意味がない。行くぞ」
118
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:44:12 ID:G.gIoQVo0
クールの攻撃手段は、あの日から変わらずたった一つ。
だが、かつてよりも洗練された武器。
超高密度の魔力で創造した光の剣は、
触れるものを悉く断ち切る単純な力の塊。
三年以上の歳月が彼女に与えたのは、魔力剣をただ振り回す以外の運用。
七つの剣がクールの後背に現れ、そのうちの六つが流星のようにエストへと奔った。
放たれた剣にも劣らない速度で喉元を狙うクール。
<_プW゚)フ 「その程度かっ!」
エストは一喝して、前足の一振りで飛来する剣を薙ぎ払う。
その後に続いたクールの刺突は、額の先で見えない壁に防がれた。
川 ゚ -゚) 「ほう」
<_プW゚)フ 「力を出し惜しみしている余裕はない筈だ」
エストの遠吠えと共に、灰色の魔力が無差別に森の中を切り裂いた。
あまりにも広範囲で強力な一撃は、クールを魔力防壁ごと刻んだ。
傷だらけの姿で剣を杖にしながら何とか立つクール。
純白のドレスのあちこちに血を滲ませながら。
119
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:44:54 ID:G.gIoQVo0
川;゚ -゚) 「っ……はぁっ……」
<_プW゚)フ 「愚かな人間よ。王の手にかかって死ぬことを誇るがいい」
何ら前兆も無く、先程の倍以上の密度で吹き荒れた斬撃の嵐。
半径数キロが荒れ地と化し、そこにもはや生存者は存在していないかと思われた。
<_プW゚)フ 「ほう……」
川;゚ -゚) 「くそ、やはり化け物だな……」
<_プW゚)フ 「……。今のを耐えるとは予想していなかったぞ」
川 ゚ -゚) 「全く、ただの人間が耐えられるような攻撃じゃなかったぞ」
深い傷口やドレスの汚れが全て消えていた。
その右手に持っていたのは、今までのように魔力を凝縮した刃ではなく、
生き物の如く魔力を放ち続ける剣。
川η-゚) 「っ……!」
脳内に流れ込んでくる情報の濁流に歯をくいしばって耐え、
空いた手で頭を抑えながら、正面に向き直る。
<_プW゚)フ 「その剣は……やはり親子か。楽しませてくれる」
120
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:45:37 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ー゚) 「はっ……これが……本当の天剣……。
行くぞ老いぼれ。先程までの鈍らとは切れ味が違うことを知れ」
<_プW゚)フ 「あの女と同じ天使とやらの置き土産か。面白い。
どこまで抵抗できるか示して見せよ」
川 ゚ -゚) 「その首叩き落としてやる」
先程まで避けることすらしなかったエストは、初めてクールの天剣を明確に避けた。
巨体故に追撃を完全に躱すことは難しく、魔力を込めた爪と剣が火花を散らす。
<_プW゚)フ 「ぐっ……」
川 ゚ -゚) 「どうした?」
<_プW゚)フ 「調子に乗るな人間!」
咆哮は無数のかまいたちを生み出し、クールを削る。
それでも引くことはせず、そのまま天剣を振り抜いた。
緩やかな放物線を描いて、切り落とされた爪は地面に突き刺さった。
川 ゚ -゚) 「爪切りでもしてやろう」
<_プW゚)フ 「爪の一欠けら如きで勝ったつもりか……!」
121
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:46:10 ID:G.gIoQVo0
川;゚ -゚) 「ぐっ!?」
巨大な体躯に似合わない速度は、一瞬でクールの視界を埋め尽くした。
目の前の現れた白い壁が体当たりによるものだと気付いたのは、遥か後方に弾かれてから。
<_プW゚)フ 「消えろ」
一直線に大気を穿つ不可視の空砲撃。
川 ゚ -゚) 「リバーサル!」
強大な魔力の激突は大地を二つに割った。
天剣が生み出す膨大な魔力が創り出した反転の防御魔術。
自分自身に知識がなくとも、それらが用いれることを天剣の現出と同時に理解していた。
<_プW゚)フ 「先程の攻撃も防いだのもそれか」
川 ゚ -゚) 「防御魔術だけじゃない」
天剣を上段に構え、その刀身に刻み込まれた魔術を解放する。
川 ゚ -゚) 「エスキューラ」
刀身から散らばった光が空を埋め尽くす刃となり、一斉に降り注いだ。
豪雨すら生温いと思えるほどの光刃。
だが、多くはエストの毛皮に防がれ、かすり傷を与えた程度に終わった。
122
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:47:14 ID:G.gIoQVo0
<_プW゚)フ 「少しは使いこなせているようだが、所詮その程度か。
汝の母親は我が唯一認める人間であった。
もう会えぬとは、なんと人間の脆いことよ。
少し期待していたのだがな……」
川 ゚ -゚) 「ぐっ……」
エストは両後ろ足に力を込め、瞬発。クールはその姿を一瞬見失った。
背後からの一撃は何とか受けるも、抵抗する間も与えられずクールは空に打ち上げられた。
巨狼すらも掌ほどの大きさになってしまうほどの上空。
眼下に森全体の魔力が集中していくのが見えた。
川 ゚ -゚) 「嘘だろ……」
もはや小さな太陽といっても差し支えないほどの光と熱量を帯びた魔力。
魔術などを介さなくとも世界を滅ぼしうる純粋な力の塊。
その威力にわざわざ考えを巡らせる意味はない。
およそ生物であれば容易く蒸発させてしまうであろうことは明らかだった。
川 ゚ -゚) 「っ……!」
迫り来る死を圧縮した光。
悪戯に引き延ばされた時間の中で、
避けることも、防ぐこともできないと理解した。
123
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:47:54 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「だったら……」
天剣は人間の命を鞘にした、人間を超える武器。
たとえ相手がエンシェント・モナクであろうと、それに劣る理由は無い。
少なくとも自分の母親は、この相手と対等に戦ったのだという事実を信じて意志を叫ぶ。
川 ゚ -゚) 「突破する!」
天剣を抜き放ったと同時に、数多の記憶が脳裏に流れ込んできた。
強大な存在と向き合っていたからこそ、それら全てを素直に飲み込む。
川 ゚ -゚) 「リバーサル……!」
ありったけの魔力を込めた反転の魔術。
二つの巨大な力は空中でぶつかり、混ざり合って爆ぜた。
その衝撃で、クールの軽い身体は塵芥の如く吹き飛ばされる。
着地したクールの視線の先には、猛然とと駆け寄ってくる白い巨体。
エストとの距離はおよそ数百メートル。
瞬きの間すら許されないはずの苛烈な戦いの最中にありながら、
クールは穏やかな表情で剣を握る。
エストの唸り声が周囲一帯に低く響く。
その怒りの矛先から逃れようと、木々は葉を散らした。
124
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:48:42 ID:G.gIoQVo0
老狼エストは少女目掛けて、飛び込んだ。
力強い踏み込みは大地を砕き、大気を貫く。
およそ肉眼ではとらえられない速度に対して、クールは一歩も引かなかった。
その半歩先の足元から打ちだされた魔力弾に、天剣の切っ先を向けたクール。
迫り来る命の危機を畏れずに瞼を閉じ、暗闇の世界に飛び込む。
<_プW゚)フ 「っ……」
華奢な身体を引き千切ろうと大口を開けていたエストは、
直前にさらにもう一歩踏み込んでクールを飛び越えた。
川 ゚ー゚) 「どうした」
剣を構えたままのクールは、何一つ動作を行っていない。
防衛魔術を組むことも、攻撃魔術を唱えることも。
その命を奪うはずだった一撃を、止める必要などなかったはずなのに。
<_プW゚)フ 「ちっ……」
質問には答えない。否、答えることができない。
攻撃を躊躇った理由は、エスト自身が最も疑問に思っていたことだからだ。
川 ゚ -゚) 「お前はこの剣を恐れたんだ」
125
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:49:10 ID:G.gIoQVo0
<_プW゚)フ 「馬鹿なことを。その剣の使い手を既に一度屠っているこの身だ。
いまさら何を恐れる必要がある!」
大口を開いたエストは、古傷が発する小さな痛みを無視して魔力を集中させる。
咆哮と共に放つ大口径の魔術砲撃。
漆黒の魔力は、直線上の何もかもを焼き尽くす。
<_プW゚)フ 「消えろ!」
莫大量の光塵が散り、墨で描いたかのような黒撃が樹木を飲み込んで一直線にクールに迫る。
川 ゚ -゚) 「……」
その一撃に抗う術を、クールは既に知っていた。
自身の中に眠っている力を無理やり引き出すために、敢えてその身を危険に曝す。
瞼を閉じて訪れた焼けつくような暗闇の中で、閃光の様に迸る過去の映像。
魔術師と戦い、初めて敗北を経験した苦い感情が蘇る。
と同時に、胸の奥底で一際強い鼓動を確かに感じた。
川 ゚ -゚) (これが走馬灯……全く、ここまでしなければまだ難しいか)
指先まで余すところなく包む重力を全て認識して、全身の感覚を手放す。
重しを失った精神は、あらゆる時間の過去が混じり合った光景を通り過ぎ落下していく。
全身が燃え尽きそうなほどの熱風の中で、闇の底にある巨大な光へと手を伸ばす。
126
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:50:21 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ー゚) 「ふっ……ははははっ!」
目前にまで迫った老狼の一撃が頬を焦がす。
それでも溢れ出て来る笑いは止まらなかった。
川 ゚ -゚) 「天剣! ナインツ・ヘイブン!」
叫びと共に空に向けて掲げた天剣が、その影に姿を与えた。
力を分け与える分裂ではなく、まったく同じ性能を持つ複写ではなく、
異なる九つの力を、真に扱うことのできる天剣として。
127
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:51:24 ID:G.gIoQVo0
クールよりも一足先に五つの天剣がエストの魔力と衝突。
それぞれが発したリバーサルの魔術が相互干渉を引き起こし、
強力な魔力が行き場を失くし暴走、消滅した。
その衝撃波を潜り抜け、クールはエストの首元目掛けて突貫した。
川 ゚ -゚) 「貫けっ……! ペネトライト!」
流星の如く地面に突き刺さった光の柱。
余波だけで周囲の木々を薙ぎ倒した強大な魔術は、
真名が解放されたナインツ・ヘイブンの持つ九つの魔術のうちの一つ。
その中で最速にして最も鋭い一撃。
飛び散った血液が大地を赤く染める。
クールの生存に気付いたエストが咄嗟に身体を動かし、
光の刺突はその片目を奪うにとどまった。
<_フW゚)フ 「くっく……どうやらその力の真価を発揮したようだな。
これでようやく母親と同じ土俵に立ったわけだ」
奪われたはずの視力を一切気にすることなく、老狼はその身に纏う魔力をさらに濃くする。
クールが構えた一つと、宙に浮かぶ五つの切っ先がエストを狙う。
川 ゚ -゚) 「……まだ戦うか」
128
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:52:18 ID:G.gIoQVo0
<_フW゚)フ 「あぁ、勿論だ。これだけの高揚感は久しぶりだ。
最後まで楽しませろよ、人間」
戦いの余波で荒れ地となった森の中で向かい合う一人と一頭。
どちらも、睨み合ったまま一歩も動かない。
川 ゚ -゚) 「……ふっ!」
先に動いたのはクール。
顕現させているだけで膨大な魔力を発生させる天剣は、
扱い方を間違えれば逆流によって自らを傷つけかねないほどの出力を持っている。
扱い慣れていない現状で、相手の出方を窺うにはあまりにも不利だと判断しての事だった。
真正面からの剣筋に対し、エストがとったのは魔力壁の精製。
目に見えない壁がクールの剣を阻む。
<_フW゚)フ 「もう限界と見えるがな」
じりじりと壁の圧力が増し、クールは後ろへと押され始めた。
川 ゚ -゚) 「はっ……そっちも大技撃つ余裕がないのはわかってる」
<_フW゚)フ 「それはどうかな」
エストの全身から噴き出した白銀の靄。
それが狼の頭へと変化し、クールに襲い掛かる。
129
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:53:05 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「くそっ」
瞬間的に召喚した五つの天剣で辛うじて防ぐも、
正面の力押しに割いていた神経が削がれた。
川;゚ -゚) 「ぐっ……」
はるか後方に弾かれ、大樹の幹にぶつかって止まった。
肺からすべての息が溢れ出たせいで行動不能に陥った一瞬の隙をつき、
エストは大樹ごと噛み砕いた。
<_フW゚)フ 「何処に……」
粉々になったのは大樹の欠片だけで、人間の身体はそこには無かった。
脅威を感じて飛びずさったエストの後ろ足に深く突き刺さった天剣。
<_フW゚)フ 「ぐぅっ……」
川 ゚ -゚) 「でかい身体というのも不便だろう」
動きが鈍った巨体の足元で、天剣に魔力を注ぎ込むクール。
<_フW゚)フ 「馬鹿が、何の対策もしていないと思ったか」
130
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:53:46 ID:G.gIoQVo0
川;゚ -゚) 「なっ!?」
全身から噴き出したのは高熱の魔力。
それを防ぐために、クールは攻撃の為に貯めた魔力を消費せざるを得なかった。
<_フW゚)フ 「これで……終わりだ」
縦に飛び上がったエストは、眼下にクールを見た。
咄嗟の攻撃に対処したせいで、、もはや魔術を練り込む余裕は無い。
その身体に残るのは僅かな魔力のみだと確認し、エストは最大の一撃を叩きこむために吼えた。
<_フW゚)フ 「もはや天剣すら維持できんか! 粉々になれ!」
エストは全身に残った魔力のすべてを込め、
落下の勢いを利用してクールに叩き付けた。
轟音と爆炎。砂埃が舞い上がり、一帯は一歩先すら見えない。
ゆうに数十秒もかかり、ようやく落ち着いてきた更地に見える二つの影。
<_フW゚)フ 「な……に……」
その腕はクールに届かず、空中で身動きすらできないエスト。
首元から背中まで貫通した巨大な光の剣を視認し、自身の敗北を知った。
川 ゚ -゚) 「ギガンテア」
131
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:54:15 ID:G.gIoQVo0
<_プW゚)フ 「魔力は……もう切れていたと思ったのだがな……」
川 ゚ -゚) 「はっ……その通りでもう空っぽだ。
ギガンティアは天剣の持つ魔力を解放する技だ。
細かなコントロールは当然きかないし、大きすぎて普通の敵には当たらない」
<_プW゚)フ 「ははは……!! なかなかに面白かったぞ小娘!
汝が母親を超えているのは魔力だけだと思っていたが。我を倒すとはな……。
技術でももはや勝るとも劣らん……よ。見事……だ……った……」
エンシェント・モナク、老狼エストは目の前で力を使い果たしたクールを称えると、その命を失った。
132
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:56:56 ID:1ulbFvwQ0
君主か
133
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:58:20 ID:G.gIoQVo0
>4
川 ゚ -゚) 「そろそろ来る頃だと思ってたよ」
王城にある自室で紅茶を飲んでいたクールは、唐突に誰もいない空間に声をかけた。
('A`) 「数撃てば、と思っていたが本当に成し遂げるとはな」
応えたのは何処からともなく現れた黒いローブの男。
自らの丈を超える長杖を傍らに抱き、
部屋の主である女性に許可を得ることなくベッドに座っていた。
川 ゚ -゚) 「待たせすぎではないか」
('A`) 「こちらもいろいろとあってね」
川 ゚ -゚) 「そんなことはどうでもいい。それで、私を約束の丘に連れて行ってくれるのか?」
('A`) 「ああ、そうだ」
川 ゚ -゚) 「……そうか」
かつての少女は、笑みとも哀しみともつかぬ表情で呟く。
目標を達成できたことに対する自らの感情を図りかねていた。
今や女性らしく成長したクールの儚い麗しさに、男は動揺を心の奥底に押し込める。
134
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:59:46 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「……変わらないな」
数年ぶりにあったにもかかわらず、男の姿はクールの記憶にある当時のままであった。
('A`) 「自分の時間を止めているだけだ」
川 ゚ -゚) 「そんなこともできるのか……」
('A`) 「俺ほどの魔術師になれば容易いことだ。
それにしても君は変わったな。あのお転婆姫が……嘘みたいだ」
川 ゚ -゚) 「ふふ……あれから七年か。
強くなることばかり考えていたせいで、色々と失ってしまったが……」
('A`) 「遊んでいたかったか? 普通の人間として」
川 ゚ -゚) 「いや、私が望んで歩んできた道だ。後悔はしていない。……するわけがない」
クールは強い否定の言葉と共に首を横に振る。
両腕を胸の前に掲げ、光る九つの小さな剣を呼び出した。
135
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:00:16 ID:rAv1D0mY0
川 ゚ -゚) 「あの時、お前と会わなければこの域まで至ることは無かっただろう」
('A`) 「ナインツ・ヘイブンか……それも完成させたんだな。
母親にも負けない大したお姫様だよ」
川 ゚ -゚) 「褒められたくてやったわけではない。ただひとえに、お前に勝とうと思えばこそだ。
だが、今日会って分かった。お前と私の間にはまだ差があるようだな」
('A`) 「お前が感じているのは実力の差じゃない。経験の差だ。
俺は追いつかれたと、そう感じているんだからな。
本当に、天剣使いの女には驚かされる」
川 ゚ -゚) 「以前会ったときに、母の事を知っていると言っていたな」
('A`) 「ああ」
川 ゚ -゚) 「教えてくれないか」
('A`) 「いいだろう。だが今じゃない。向こうに着いてから話すとしよう。
もう城内の人間に別れは済ませたのか?」
川 ゚ -゚) 「たった一年間の留守だ。今更の事だ。別に誰も怒りはしないさ」
悪戯っぽい笑みを浮かべるクール。
ドクオはそれに合わせる様に苦笑した。
136
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:00:41 ID:rAv1D0mY0
('A`) 「訂正だ。お前は昔から全く変わってないよ。さて、そろそろ……ん?」
クールは何も言わずに椅子から立ち上がり、ドクオの目の前に立つ。
そのままドクオの肩を抑え、ベッドに押し倒した。
(;'A`) 「なん……だ……?」
川 ゚ -゚) 「自分でも不思議なんだが、今を置いて他にないと耳元で私が囁くんだ。
わかるか……? あの頃の私はな、ずっと待っていたんだ」
('A`) 「何を……」
川 ゚ -゚) 「私よりも強い人間を。それがどうだ、現れたと思えばすぐにどこかに消えてしまった。
あの時のお前にとって私は、ただの可能性の一つでしかなかったんだろうな」
('A`) 「……そうだな」
抵抗をしないドクオに覆いかぶさると、長い髪がその頬に触れた。
それは部屋の中にいた二人をさらに狭い空間に閉じ込めた。
互いの息遣いが聞こえるほどの近い距離。
川 ゚ -゚) 「でも私にとっては違った」
('A`) 「……」
137
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:01:58 ID:rAv1D0mY0
川 ゚ -゚) 「絵にかいたように可愛いお姫様だった私が、求めてやまなかったのは物語の王子様。
我ながら夢見がちな乙女だったよ」
('A`) 「自分で言うか……」
川 ゚ -゚) 「それでも、その夢の中に現れたんだ。
あの頃の私にとって、ただの憧れだったのか、
それ以上の存在だったのか、今はもうわからない」
('A`) 「夢は覚めたか?」
川 ゚ -゚) 「いや、残念ながら時間経過でより深く沈んだ。逃げ出せないくらいに。
あの時と同じことをもう一度言おう」
('A`) 「傷つくから遠慮しておく」
川 ゚ -゚) 「駄目だ。拒否権はない。全く同じ状況で、お前と全く違う人間が現れたとしても、
同じ結果に陥ってたように思う。
それでも、今の私にとって特別なのは、仮定の誰かじゃなくて、ここにいるお前だ」
('A`) 「俺は……」
零れかけたドクオの言葉を人差し指一つで押しとどめる。
川 ゚ -゚) 「言うな。別に気にしないさ」
138
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:04:59 ID:rAv1D0mY0
('A`) 「……まったく、強引で自分勝手で……我儘なお姫様だ」
川 ゚ -゚) 「褒めても何も出ないぞ」
('A`) 「ああ、そうだろうな」
川 ゚ー゚) 「一つだけ聞こう。……私の勝ちか?」
('A`) 「…………お前の勝ちだよ」
.
139
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:05:55 ID:rAv1D0mY0
・・・・・・
140
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:06:51 ID:rAv1D0mY0
今日はここまでです。続きは近いうちに。
読んでいただいた方、支援していただいた方、どうも有難うございました。
141
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:26:20 ID:jDNNE6SM0
乙
面白かった
142
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 00:37:19 ID:bpFci.RQ0
続きが待ち遠しすぎ
143
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 01:14:33 ID:nunSBhSU0
乙乙
完結まで結構長そうだな
144
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 07:15:00 ID:lZYQLZ1Y0
めっちゃすき
145
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 08:34:40 ID:36M8FEJg0
川 ゚ -゚)の勝ち=立たせること
何が立ったのか…
146
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 09:23:32 ID:nunSBhSU0
そらナニだろうな
147
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 13:35:05 ID:msTnvtcY0
乙乙!
面白かった。キュートはどこに絡んで来るのやら
148
:
名無しさん
:2018/04/23(月) 20:31:13 ID:erpuxcHw0
乙です
149
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 08:51:54 ID:xZGVhIGg0
すげーいいなこれ
150
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:55:49 ID:JZ..YL360
少女はその柄を強く握り、地面から引き抜いた。
朽ちていた刀身は砕け、鉄粉となって舞う。
月の光に照らされた丘の上で、少女は立ち尽くす。
o川*゚ー゚)o 「夢じゃ……無いのかな?」
柄と刀身の一部しか残っていない剣は、
夢の中で女性が振り回していた武器にとても良く似ていた。
それを否定する事実は、手の中にあるズシリとした重さ。
o川*゚ー゚)o 「誰だったんだろう、綺麗なお姫様……」
その顔だけが微かに思い出せた。
ぼうっとする頭の中に浮かび上がる笑顔は、何故かとても心に響く。
知っているのに知らない人。
それが妙に少女の心をざわつかせた。
o川*゚ー゚)o 「私の夢? それとも……私が見ている夢?」
一度覚醒してしまえば、泡沫のように消えてなくなる夢の足跡。
頭を捻ってみたところで、もはやほとんど思い出すこともできなかった。
o川*゚ー゚)o 「これ、どうしよう」
なんとなく大事なモノのような気がし、そっと地面に置く。
すでに崩れかけていた刀身は音を立てて地面に散らばった。
151
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:56:17 ID:JZ..YL360
o川*゚ー゚)o 「……鉄だけど、魔力……?」
重量も質感も、全てが鉄であることを示している。
それなのに、目の前で崩壊した剣は明らかに魔力によって創り出されていた。
o川*゚ー゚)o 「はーっ……どうなってんだろ」
今まで気にも留めていなかった事実が、次々と少女の心に押し寄せてきた。
この箱庭のような場所に、何故たった一人なのか。
自分は一体、何処から生まれてきたのか。
一人の骸と、四つのシンボルが何を意味するのか。
o川*゚ー゚)o 「っ……」
溢れそうになる涙をすんでのところで抑え込んだ少女。
ほんの少しでも泣いてしまえば、もう堪えられそうになかったから。
何処までも続く荒れ地に、たった一人っきりだという事実に。
せめて涙を流さないようにすることだけが、少女にできる唯一の抵抗であった。
o川* ー )o 「もうやだぁ……誰かぁ……」
呼びかけに応える者はいない。
少女は膝を抱えて蹲る。見たくもない現実から目をそらそうと。
そうやって自分の中へと逃げ込む。
152
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:56:37 ID:JZ..YL360
誰にも邪魔されることがない、自分だけの場所。
自分だけが許された領域へと。
少女の心の中を映し出したかのような、暗く、広く、何もない空間。
o川* ー )o 「っすん……ひぐっ……」
逃げ込んだところで、彼女は致命的に、絶望的に一人だった。
親もなく、友もなく、自分さえもあやふやで信頼出来ない。
この寂しさを紛らわしてくれる存在を、少女は願った。
o川* ー )o 「…………」
無限に広がる夜空に浮かぶ星。
その輝きを受けて、地面から生えた牙が淡く光る。
o川*゚ー゚)o 「……?」
吸い込まれるようにふらふらと歩く少女。その様相はまるで意思無き人形。
小さな瞳に映っているのは燦然と輝く夜空と、水晶のような牙。
牙の足元にまでたどり着いた少女は、糸が切れたかのように倒れ込んだ。
153
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:57:57 ID:JZ..YL360
>1
雑多な植物が生い茂った道もない森の中、少年はひたすらに走る。
逃げるために。道なき道を真っ直ぐに。
木々を薙ぎ倒し、草葉を踏み潰し。
(#・∀・) 「ああああっ!!!」
怒りに任せて発した叫びが、森を穿つ。
それと同時に、少年を中心に半径数メートル分の付近の植物が分解された。
出来上がったばかりの道を駆け抜ける。
(#・∀・) 「っ……! くそくそっ……! 」
どれだけ走ろうと、どれほど逃げようと、脳裏に浮かぶのは得体のしれない呪術師の男。
その見た目は村中で噂されていた通りの黒いスーツに白のネクタイ。
白の帯が巻かれたシルクハットを目深に被り、
その手に持つのは宝石の埋め込まれた歪なステッキ。
あまりにも不気味で一目見れば二度と忘れることは出来ない。
死神をも驚かせるような恰好の男は、獣の使い手達の間では有名な要注意人物。
敵国の保有する最強の戦力であり、獣の使い手に取っては死の象徴である。
そんな男が自陣の最奥に突然現れ、告げられた父と母の死。
男の纏う雰囲気にのまれた少年に、言葉の真偽を疑う余地などなかった。
154
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:58:23 ID:JZ..YL360
恐怖という感情に身体を支配され、自らの起こした行動すら理解するのに数分を擁した。
即ち、全てを投げ捨て脱兎のごとく森の奥へと逃げ出したことに。
森の奥へは決して向かうな言われていたことなど、頭の中には無かった。
一週間もの間、昼夜を問わず走り続けた。
食事も休憩も一切取らずに。
その結果辿り着いた場所は、少年が想像だにしていなかった世界。
( ・∀・) 「どうしよう・……」
少年は愚直に信じていた。
森の奥にはより深い森が拡がっていると。
この森に果てなどないのだと。
だが、突きつけられた現実は違った。
少年の眼に映るのは煙に埋め尽くされた灰色の空と、赤黒く輝く荒れた大地。
見たこののない風景と、嗅いだことのない臭い。
強烈な初めてに当てられた少年は、言いようのない感覚に襲われていた。
まるで境界線でも引いたかのように唐突に終わっている森。
炎の海から吹き込む熱風が頬を焦がす。
155
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 11:59:52 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「戻らなきゃ……」
引き返そうとした少年の眼の前に、突如巨大な影が落ちてきた。
地面に叩き付けられた巨大な生物は、そのまま動かない。
さらにもう一体が、煙の間隙から現れて地面に着地した。
(;・∀・) 「あ……あぁ……」
灰色の焔に燃えた瞳は、立ちすくむ少年を捉えた。
ゆっくりと瞬きをした後に穏やかな光へと変化し、優しく声をかける。
/ ,' 3 「ほう、森の獣か……」
(;・∀・) 「ひぅ……」
/ ,' 3 「恐れるでない……とって喰らおうとは思っておらぬ」
灰色の龍は、少年と同じ高さまで首を降ろした。
( ^Д^) 「油断したなっ!」
起き上がった深緑の龍が吐き出した黒い泥は、空中で打ち払われた。
その滴を一滴も浴びていない灰龍はゆっくりと向き直る。
/ ,' 3 「愚かな。そのまま抵抗せねば良いものを」
156
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:00:37 ID:JZ..YL360
>>155
はミスです
157
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:01:13 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「戻らなきゃ……」
引き返そうとした少年の眼の前に、突如巨大な影が落ちてきた。
地面に叩き付けられた巨大な生物は、そのまま動かない。
さらにもう一体が、煙の間隙から現れて地面に着地した。
(;・∀・) 「あ……あぁ……」
灰色の焔に燃えた瞳は、立ちすくむ少年を捉えた。
ゆっくりと瞬きをした後に穏やかな光へと変化し、優しく声をかける。
|(●), 、(●)、| 「ほう、森の獣か……」
(;・∀・) 「ひぅ……」
|(●), 、(●)、| 「恐れるでない……とって喰らおうとは思っておらぬ」
灰色の龍は、少年と同じ高さまで首を降ろした。
( ^Д^) 「油断したなっ!」
起き上がった深緑の龍が吐き出した黒い泥は、空中で打ち払われた。
その滴を一滴も浴びていない灰龍はゆっくりと向き直る。
|(●), 、(●)、| 「愚かな。そのまま抵抗せねば良いものを」
158
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:01:52 ID:JZ..YL360
灰龍は少年に背を向け、起き上がった緑色の龍を睨む。
既に戦闘態勢を整えた小柄な龍が牙をむき出しにして突進をかける。
(#^Д^) 「殺すッ!」
|(●), 、(●)、| 「殺せんよ」
飛び込んできた龍を灰色の龍が力づくで組み伏せた。
頭を大地に半分以上沈められ、口を開くこともままならい。
( ^Д ) 「ぐっ……!!」
|(●), 、(●)、| 「大人しくしておれ」
その首を抑えつけられた緑色の龍は微かな抵抗を見せていたものの、すぐに気を失った。
|(●), 、(●)、| 「さて、話に邪魔が入ったな。
生半可な距離ではあるまいて。なぜ龍の国に訪れてきたのだ?」
鎮圧した龍から腕を離し、再び少年と向かい合う。
( ・∀・) 「龍……国……? 知らな……くて……」
159
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:02:40 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「はて……迷子か。にしては随分と遠くまで来たものだ。
親は何処におるのだ」
( -∀-) 「父さんと……母さんは……」
俯いた少年に対して、龍は何も言わずに鼻先で撫でる。
最初は驚いた顔をしていた少年も、害意はないと悟ったのかされるがままになっていた。
|(●), 、(●)、| 「大変だったのだろうな……」
返事の代わりに、空腹を訴える音が長々と響いた。
驚き、苦笑した龍はその背を少年に向ける。
|(●), 、(●)、| 「乗りなさい。すぐ近くに私の住処がある。食べるものくらいはあるだろう」
( ・∀・) 「えっと……」
|(●), 、(●)、| 「私の名前はダディクール。君の名前は何という」
( ・∀・) 「モララー……モララー・ドライト」
|(●), 、(●)、| 「ほう、良い名ではないか。かつての龍王と同じ名であるとは」
160
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:03:18 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「龍王……?」
|(●), 、(●)、| 「強く気高い王であられた。…………」
言葉を切り、懐かしむように遠くを眺めるダディクール。
モララーは何も尋ねず、灰龍の背に飛び乗った。
それを確認したダディクールは巨大な翼を広げて急上昇する。
( ・∀・) 「……あの龍は」
|(●), 、(●)、| 「放っておけばよい。気絶をしているだけだ」
( ・∀・) 「……」
|(●), 、(●)、| 「愚かな空位の龍王、その小間使いだ。十や二十おったところで敵ではない」
( ・∀・) 「空位の龍王……?」
|(●), 、(●)、| 「……いらんことを言うたな。忘れてくれ。
見えてきたぞ」
ダディクールが着地したのは、熱風を噴き上げる真っ赤な湖の中心にある山。
その背から飛び降りたモララーはとめどなくあふれる汗を拭う。
161
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:04:12 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「森の住人には暑すぎたか。少し待て」
灰龍の息吹がモララーを包み、肌を焼くほどの熱は消えた。
( ・∀・) 「あ、りがとうございます」
|(●), 、(●)、| 「食事は……食べれそうなものを食べればよい」
家よりも大きな机の上に並べられた様々な食材。
モララーは燻製にされた肉を千切り、口の中に放り込む。。
( ・∀・) 「む……」
龍族の肉は想像よりも堅く、呑み込むまでにかなりの時間をかけていたが、
その味はむしろ好みなくらいであり、すぐに次の一欠片に取り掛かった。
その様子を見ながら、ダディクールは真っ赤な液体を飲み込む。
|(●), 、(●)、| 「…………」
じっと見つめられていることを気にもかけず、一心不乱に食事に取り込むモララー。
到底食べきれるはずのない量があった肉を、殆どすべて平らげた。
( ・∀・) 「うぷ……」
|(●), 、(●)、| 「水を飲みなさい」
162
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:04:50 ID:JZ..YL360
爪で押し出された器には、溢れんばかりの水が注がれている。
それは周囲の気温に影響を受けず、差し込んだ手を焦って引くほどに冷たい。
自身が泳げるほどの大きさがある器に顔を沈め、のどを潤した。
( ・∀・) 「はぁ……」
|(●), 、(●)、| 「落ち着いたか」
( ・∀・) 「はい」
|(●), 、(●)、| 「なぜ国境まで来た」
( ・∀・) 「村が……敵に襲われて……父さんと母さんが……」
|(●), 、(●)、| 「森の住人達は戦争をしておったのだったか。
そんなことを耳にした記憶もあるが……君の父と母は勇敢に戦ったのだろう」
( ・∀・) 「でも、殺されたって……」
|(●), 、(●)、| 「呪術師の一族か……。何とも異様な集団よ。
我らが同胞も何度か殺されておる。
特に一人、破格に強いのがおるらしいが……」
163
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:05:38 ID:JZ..YL360
全種族の中でも最強とうたわれる龍属。
正面から戦ってこれを打倒できる個は、世界中を探しても数えるほど。
|(●), 、(●)、| 「森の住人にも強き夫婦がいたな。
名を確か……フサギコとペニサスといったか。
たった二人で彼らの住処を襲った破龍を狩りおった……」
( ・∀・) 「父さんと母さんが?」
|(●), 、(●)、| 「そうか、彼らが君の両親だったか……。
その身に宿す獣の力もさることながら、とても勇敢な戦士だった」
( ・∀・) 「そう…………だったん……」
龍の食卓に座っていたモララルドは突如倒れ込んだ。
|(●), 、(●)、| 「ん……なんだ寝てしまったのか。
今はゆっくりと休め。これからのことは起きてから決めるがよい」
寝息を立てるモララルドの小さな身体を柔らかな羽毛の上に運び、
灰龍も目を瞑った。
164
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:05:58 ID:JZ..YL360
>2
|(●), 、(●)、| 「目を覚ましたか」
( ・∀・) 「ここは……」
|(●), 、(●)、| 「三日間も眠り続ければ、もはや忘れてしまったか」
( ・∀・) 「いえ……どうも、ありがとうございました。帰ります」
|(●), 、(●)、| 「何処にだ?」
( ・∀・) 「……」
|(●), 、(●)、| 「君が寝ている間に、森の方を少し調べてきた。
……残念だが、今は帰らないほうが良いだろう」
( ・∀・) 「っ……」
|(●), 、(●)、| 「君さえよければ、すこしここで暮らしておくといい。
呪術師とて、虐殺をするのが目的ではなさそうだ。
そのうち普段通りの暮らしができるようになる」
165
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:06:54 ID:JZ..YL360
(; ・∀・) 「でも……っ!」
|(●), 、(●)、| 「では今戻って、無駄に事を構えるのか?
獣使い最強であった君の両親を殺した敵と。
敗北は必定。無意味に命を散らすことはあるまい」
( -∀-) 「……」
|(●), 、(●)、| 「どうする?」
龍は問いかける。
少年が望む答えを与えてやることをせず、返事を待つ。
( ・∀・) 「強くなりたい。父さんと母さんの仇を取れるように」
|(●), 、(●)、| 「……復讐のための力か。それでもよかろう。
わしも手が必要でな。見た所、才能も過大にある。鍛えてやろう」
(; ・∀・) 「えっ!?」
|(●), 、(●)、| 「何を驚く。君が望んだことだろう」
( ・∀・) 「あなたの目的は何ですか」
166
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:08:18 ID:JZ..YL360
個が最強である龍属は集団を作って生活することは好まない。
生まれたばかりの子であっても、一ヶ月ほどで独り立ちをさせられるほどに。
モララーもその程度のことは知っていた。
|(●), 、(●)、| 「君は自身の力に気付いておらんのだな。獣の身で龍を宿すその力に。
この前に少し言った空位の龍王のことは覚えておるか」
( ・∀・) 「いえ……」
|(●), 、(●)、| 「そうか。それなら龍族の歴史はどのくらい知っている」
( ・∀・) 「……全く知らないです」
|(●), 、(●)、| 「一から話すのはなかなかに面倒だが……納得はせまいな」
灰龍は壁に大きな傷跡をつける。
描かれた図形は楕円形が二つ。。
それぞれが赤と青に魔力で色付けされた。
|(●), 、(●)、| 「二千年以上前、妃龍クレシアの御代。
その時を境に龍属に二つの派閥ができた。
それぞれは旧派、新派と呼ばれていたが、特に大きな争いは無かった。
だが……」
赤い円が少しずつ肥大化し、青を飲み込み始める。
167
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:10:35 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「初めはほどんど同規模であった二派。
二千年という時は、均衡を崩すには充分だった。
時は過ぎて、旧派の龍属はわずか十数頭。それに対して新派は百を超えていた」
|(●), 、(●)、| 「今から百年ほど前、旧派のモララー・ラインバウが龍王となった。
並みいる龍属の中で最も力が強かったからな。当然のことだ。
最初は反対の声も多かったが、温厚な性格の彼のもとでうまくまとまっていた」
微かに明滅していた光は、次第に弱くなっていく。
暫くして、赤の円の中に残っていた青の光は完全に消えた。
|(●), 、(●)、| 「ほんの十年前まではな」
( ・∀・) 「十年前……僕が生まれた年だ」
|(●), 、(●)、| 「龍王モララーが殺された」
(; ・∀・) 「え……王様なのに?」
|(●), 、(●)、| 「龍王とは言え不死身ではない。
私は実際に見てはいないが、百を超える龍の大軍だったらしい。
地形が変わるほどの大戦争だった。
その戦闘に参加して生き残った龍属は一頭もいない」
168
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:11:23 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「えっ……」
|(●), 、(●)、| 「その反乱の首謀者……轟竜ローアング。
自ら戦わずして龍王の座に就く痴れ者よ。
私の目的は奴を殺すこと。君と同じ敵討ちだ……」
( ・∀・) 「僕の力が本当に必要なの?
最初に会った時だって、他の龍なんか相手にならなかったのに」
目の前で打ち倒される巨体を忘れたわけではない。
灰龍はいともたやすく同族の意識を断ち切った。
|(●), 、(●)、| 「あれはただの雑魚だ。新派のほとんどは王によって消されたとはいえ、
未だ旧派の数倍の戦力がある。私一人では手に負えない」
( ・∀・) 「だからって……」
|(●), 、(●)、| 「自分自身の力の大きさすらも知らないとは、
随分と甘やかされて育ったようだな」
( ・∀・) 「僕の……ちから……?」
|(●), 、(●)、| 「さて、では教えてやろう。背にのれ」
169
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:12:17 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「うん……」
モララーは灰龍の背に飛び乗り、その棘の一つを掴む。
灰龍は体を起こし、山腹をくりぬいたかのような巣から飛び立つ。
魔力で強化した翼を力強く羽搏き、みるみる上昇していく。
瞬く間に雲の間を通り抜け、空に沈む。
吹き抜ける冷たい風が肌を削るような速度。
(; ∀・) 「かっ……」
|(●), 、(●)、| 「堪え切れずに落ちるかと思ったが……よく耐えている」
大きな円を数度描き、急降下。
上昇時よりも数段速い速度を得て、雲を突き抜けた。
|(●), 、(●)、| 「死ぬなよ?」
( ・∀・) 「…………!!!」
一瞬の空白の後に生まれた爆風は、付近一帯の雲を微塵に吹き飛ばした。
時間を止めたかのような完全な停止。
予測していなかった挙動によって生まれた慣性に耐えきれず、
モララーは音速を超える速度で地面に投げつけられた。
170
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:14:00 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「さて、どうだ」
( ∀ ) 「無理無理……助けて! 父さん! 母さん!」
意識を失っていなかったことが、モララーの命を辛うじて繋いでいた。
地面に衝突して潰れた果実の様になるまで、残り僅か数十秒。
( -∀-) 「もう……駄目……」
今までにないほど脳みそを使ったところで、
生存への道を見出すことは出来なかった。
優秀な両親と違い、モララーは獣解放すら身に付けていない。
この状況を解決できる手段を持ち合わせてはいなかった。
もっとも、彼が特別に劣っていたのではなく、彼ぐらいの年ではできないことが普通であったのだが。
( ・∀・) (あ……もう地面が……死ぬ……)
肉塊となった自分の未来を想像し、できるだけ痛みが無いように願いながら瞼を閉じた。
生を投げ捨て、死を受け入れた瞬間から、強張っていた全身から力が抜けていく。
手を伸ばせば届きそうなほど近く、地面に生えていた赤黒い花の美しさを認識して、
モララーの意識は途絶えた。
|(●), 、(●)、| 「くっくっくく……」
遥か上空で円を描きながら浮かんでいた灰龍は笑っていた。
地面に叩き付けられて、真っ赤な花を咲かせた少年を見て。
171
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:15:00 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「私の感覚は間違っていなかったようだ」
炎の海が吹き飛び、赤黒い溶岩が同心円状に大きく隆起。
まるでバラの花の様に捲れ上がっていた。
中心で蹲る少年を透明な魔力の骨格が覆う。
巨大な翼と、頭部にある角は青みがかっており、長い尾は左右に揺れている。
強靭な四肢はその巨影を支えて立つ。
( ・∀・) 「……僕は」
|(●), 、(●)、| 「初めてにしてはまずまずといったところか」
( ・∀・) 「死ぬかと思った」
|(●), 、(●)、| 「死んでもいいと思っていたからな。生きていて何よりだ」
( ・∀・) 「くっそ!」
灰龍に飛びかかったモララー。
その透明な龍の首は、一撃で分断された。
切り離された頭部は霞となって消え、切断面からは泡が零れだす。
172
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:16:29 ID:JZ..YL360
(メ・∀・) 「がっ……」
|(●), 、(●)、| 「痛かろう。その身体は君自身なのだからな。
不完全な状態だが、十分だ」
( ・∀・) 「……覚えておいて。僕の力があなたを上回った時があなたの命日になる」
|(●), 、(●)、| 「そのくらいの気持ちが無くてはな。
五年で君を並び立つ者のいない龍にしてやろう」
( ・∀・) 「は……ははは……」
モララーを覆っていた魔力骨格が消え、震える両手を見つめる少年だけが残った。
触れれば怪我では済まなかったであろう灼熱の大地の上に、
躊躇いなく腰を下ろす。
|(●), 、(●)、| 「さ、帰るぞ」
灰龍は地上に降りることなく、頭を巣の方に向けた。
( ・∀・) 「え?」
|(●), 、(●)、| 「自力で戻ってこい。これも特訓の一環だ」
( ・∀・) 「嘘だろ……もう立てない」
|(●), 、(●)、| 「陽が落ちる前までに帰ってこなければ、今日は何も食えぬぞ。
その辺に生えている草は、まだ君では食べられんだろうからな」
173
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:16:56 ID:JZ..YL360
振り返ることなく飛び去って行く灰龍。
その姿を眺めながらモララーは立ち尽くしていた。
( ・∀・) 「くそ……!」
頭上を見上げて太陽の位置を確認し、その後に目指すべき先を見据える。
灰龍が拠点にしている山は煙に覆われ、その影しか見えない。
( ・∀・) 「行くしかない……か」
後ろを振り返ったところで、森との境界は見えない。
逃げ出す手段も場所もなく、前に進むことでのみ生き残ることができる。
最初はゆっくりと歩きながら。
魔力を両足に込めて、跳ねる様に溶岩の海を駈けた。
174
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:17:39 ID:JZ..YL360
>3
|(●), 、(●)、| 「もう一度」
(#・∀・) 「っ! ……リベレーション!」
魔力の奔流が少年を包み込み、外殻を構成する。
頭から尾の先までが流線型の白。翼は薄く、尾の先は三つに分かれている。
灰龍の半分ほどの大きさであり、対照的な柔らかい肉質。
甲殻という龍属の鎧を捨て、速さと機動性に特化した形状。
|(●), 、(●)、| 「随分と形になってきたものだな」
( ・∀・) 「あんたのおかげでな……」
|(●), 、(●)、| 「口も悪くなってしまったのは残念だが。昔の方が可愛げがあったもんだ。
まぁよかろう。完全な龍化もできるようになったのだ。そろそろ次の段階だな」
( ・∀・) 「次?」
|(●), 、(●)、| 「何、丁度いい相手が必要だろう」
突如として起きた大地の鳴動。
灰龍の拠点を貫いて聞こえてきたのは、叫び。
洞窟は大きな亀裂が入り、ダディクールとモララーは外に飛び出した。
175
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:18:49 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「うーんと、全部で十二か。若いのも多いが……随分と増えたものだな」
( ^Д^) 「引導を渡しに来たぞ、骨董品!」
|(●), 、(●)、| 「やれやれ、あれから二か月ほどしかたっていないだろうに。
プギャーよ、何を焦っている?」
( ^Д^) 「っ! もうすぐ死ぬてめぇには関係ねぇよ。……何だその不格好な龍は?」
ダディクールの隣に並ぶ白い龍。
その身慣れない姿に戸惑いを浮かべる龍属。
それも当然だろう。
龍の死が無ければ、龍は生まれない。
強すぎる種族である彼らには、生殖によって繁栄する術を持たず、
世界中を探し回ったところで、常に二百を少し超える程度の数だけである。
|(●), 、(●)、| 「先の大戦で殆どの龍が眠りに入っておる。
新旧の争いはもはや無意味。もうやめんか」
( ^Д^) 「はっ、たかだか一頭増えたところで……」
言葉を途中で区切る灰龍の放った一撃が、若い一頭の半身をかき消した。
命を失って崩れ落ちた龍の残った僅かな肉片は溶岩に飲まれる。
176
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:19:59 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「これで一頭減ったが」
(#^Д^) 「くそがっ!! かかれっ!」
呆気にとられていた龍達が号令に従い襲い来る。
正面から、集団の中心を一直線に飛びぬけたダディクール。
数で勝るはずの新派の龍群は、弾かれたかのように四方に散らばる。
接敵の衝撃で数体は地面にまで叩きつけられた。
( ^Д^) 「っ!! 集中砲火!」
十を超える光が一直線に灰龍に迫った。
一つ一つが巨大な岩盤すら貫くような魔力による一撃。
|(●), 、(●)、| 「嵐灰陣!」
ねずみ色の嵐が灰龍を覆い隠し、全ての光は遮られた。
ただの一つもダディクールには届かない。
|(●), 、(●)、| 「灰の飛礫」
うねりをあげて嵐はその姿を変える。
無数の乱刃となって、灰龍を囲む龍達に降り注ぐ。
溶岩にすら耐える甲殻をずたずたに引き裂き、さらに数体が地に伏した。
177
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:20:39 ID:JZ..YL360
(#^Д^) 「逃げるな! 戦え!」
距離をとっていて無事だった龍達は次々と戦線を離脱していき、
残ったのは以前ダディクールに倒された一体だけ。
プギャーと呼ばれた濃い緑の鱗で全身を覆われた龍。
|(●), 、(●)、| 「さて、どうするプギャー」
( ^Д^) 「てめぇの首を持って帰らなきゃ俺が殺されんだよ……ッ!」
|(●), 、(●)、| 「ローアングは元気にしているか」
( ^Д^) 「はっ……てめぇを殺せるくらいには回復してる」
|(●), 、(●)、| 「だったら自分から出向いてくればいい。
相変わらず卑怯な奴だ」
(#^Д^) 「っ!」
|(●), 、(●)、| 「そうだな。見逃してやってもいいが、どうだ。
こいつと戦って勝てたらな」
( ・∀・) 「は?」
灰龍が顎で示したのは戦闘に参加していなかった小柄な白龍。
178
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:21:39 ID:JZ..YL360
( ^Д^) 「そんなチビと……? 舐めるな! 相手にならん!」
|(●), 、(●)、| 「意外とそうでもないかもしれんぞ」
( ^Д^) 「……まがい物の龍と戦えなどと。見縊られたものだな」
|(●), 、(●)、| 「おい」
( ・∀・) 「な、なんだよ」
|(●), 、(●)、| 「あいつに勝ってみせろ」
(; ・∀・) 「そんな無茶な……」
|(●), 、(●)、| 「なに、今までの無茶と比べれば……ふむ、まだ二倍も難しくはないぞ」
( ^Д^) 「何をごちゃごちゃ言ってやがる」
( ・∀・) 「ったく……」
ダディクールは山の頂上に降り、それと入れ替わりにモララーが空に飛びあがる。
自身よりも一回り大きい巨体を前に、一歩も引くことなく。
179
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:22:25 ID:JZ..YL360
( ^Д^) 「お前は……何だ?」
( ・∀・) 「獣の使い手。他所の部族はみんなそういう」
( ^Д^) 「はっ……あの一族か。それが龍の姿かたちをどうやって得た」
( ・∀・) 「僕だって知りたいさ」
( ^Д^) 「成程。だが、誇りのあるこの力をお前如きが扱うのは我慢ならん。
今この場で死んでもらおう」
( ・∀・) 「好き勝手言いやがって!」
( ^Д^) 「すぐに楽にしてやる」
プギャーの全身から零れだす深緑の霧。
それらは圧縮されて球体になる。
( ・∀・) 「えっ……」
( ^Д^) 「消えろ」
放たれた魔力弾はモララーに届くことなく空中で停止した。
一際強く輝くと、小さな粒が分裂し、肥大化していく。
180
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:23:23 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「まさか」
初めは一つだったものが、百を超える数に。
戦場に散らばった魔力の塊の一つが、モララーの翼に触れた。
ただそれだけで、翼は煙をあげて腐敗していく。
(; ・∀・) 「ぐっ……」
翼の先を切り落とし、魔力を使って空中でのバランスをとる。
( ^Д^) 「腐敗球! 触れれば骨まで朽ちる。
ここまで拡散する前に、何の対策もしなかったお前はもう生き残れない」
( ・∀・) 「そんなのはまだわからないだろ。お前もこれで近づいては来れない」
( ^Д^) 「やれやれ、生意気なガキだ。でかい口は生き残ってから叩け」
( ・∀・) 「なら、そうさせてもらう」
モララーは龍化を解き、地面すれすれまで落下。
着地の直前に再度龍化し、掲げた頭の先に魔力を集中させた。
(; ^Д^) 「なっ……」
181
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:24:18 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「吹き飛べっ!」
放たれた龍砲は拡散し、多様な軌道をとる。
空中に浮かんでいるプギャーの魔力が込められた爆弾を、乱雑に破壊していく。
( ^Д^) 「成程、確かに甘く見ていたのは俺だったな」
黒い霧が晴れた後、無傷のプギャーがモララーを見下ろす。
( ^Д^) 「獣如きが……!」
急降下するプギャー。
魔力を込められた巨大な爪の鋭利さは、モララーの命を奪うには充分である。
( ・∀・) 「っ!」
寸前までモララーが立っていた地面が大きく抉れた。
( ^Д^) 「小賢しいっ!」
( メ∀・) 「がっ……」
そのまま跳ね上がり、体当たりでモララーの身体を吹き飛ばした。
鎧の様な甲殻に覆われたプギャーと比べると、倍近い体重差がある。
ぶつかり合っただけでもモララーにとっては、致命の一撃。
百メートルは吹き飛ばされて、地面に転がった。
182
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:26:20 ID:JZ..YL360
( -∀・) 「げほっ……」
( ^Д^) 「死ね」
追い討ちをかけるようにその頭を踏み潰す。
龍化を解いて躱し、すぐさま距離をとったモララー。
一息つこうとしたその身体を、太い尻尾が薙ぎ倒した。
( ∀ ) 「がぁっ……!」
( ^Д^) 「ふん、二度も同じ手が通じるものか。
見ろ、ダディクール。相手にもならなかったな」
|(●), 、(●)、| 「ふむ……」
( ^Д^) 「龍もどきが本物に勝てるわけがないだろう」
|(●), 、(●)、| 「何をそんなに怖れている?」
( ^Д^) 「俺が? 怖れている?」
|(●), 、(●)、| 「後ろを見てみろ、まだ終わっていないぞ」
( ^Д^) 「……先程の一撃を耐えたか。
人間サイズと甘く見たな」
溶岩の中から立ち上がったモララー。
身体中の至る所から血を流し、息も絶え絶えでありながらも、
なおその瞳から光は消えていなかった。
183
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:27:20 ID:SDticvYA0
昼間から投下だと支援
184
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:27:26 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「……」
( ^Д^) 「そのまま寝ていれば助かったかもしれない命をわざわざ捨てるとは……愚かなガキだ」
( -∀・) 「痛いなぁ……」
( ^Д^) 「死ね」
振り下ろされた爪は、モララーの目前で音を立てて折れた。
欠片は彼方へと弾け飛び、プギャーはその衝撃でよろめく。
( ^Д^) 「なっ……!」
(#・∀・) 「……リベレーション」
白い炎がモララーの全身を包み、大きくうねりをあげる。
大気を揺らさんばかりの魔力は、鋭い爪と牙、しなやかな尻尾、滑らかな全身を構成していく。
巨大な翼を広げ、金色の瞳に意志が宿る。
頭から真っ直ぐ伸びた青のラインは、両肩から三叉に別れ、両翼と尾の先端に向かう。
それは、大戦に参加せずに生き残った龍属であれば誰もが見たことのあるとある王の証。
|(●), 、(●)、| 「ふむ、上出来だ」
185
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:30:03 ID:JZ..YL360
(; ^Д^) 「なっ……なっ……! なぜ……っ!!」
( ・∀・) 「っ……ふぅー……」
( ^Д^) 「龍王モララー!! 確かに死んだはずだ!!」
( ・∀・) 「僕は僕だ。龍王なんかじゃない」
(#^Д^) 「くそがああああ!!!」
プギャーの全身から吐き出された緑の泥は、大気すらも腐敗させながら拡散される。
自身の甲殻すらも溶かしながら、小柄な龍へと突撃した。
( ・∀・) 「風烈槍」
煙に満ちた空を貫いて降り注ぐ蒼色の槍は、プギャーを貫いて紅い大地に縫い付けた。
( メД^) 「がっあああ!!」
全身を引き千切りながらもさらに前へと進むプギャーは、目の前を埋め尽くす光を見た。
それが巨大な魔力の塊だと気付いた時には、もはや逃れることは出来ない距離。
血が上った彼の頭であっても、自身を容易に蒸発させるであろうことだけは即座に理解できた
( ・∀・) 「殲光」
186
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:31:10 ID:JZ..YL360
戦場を覆いつくすほどの強い光が弾け、再び静寂が訪れた。
拡散した微小な魔力が放っていた光の粒子も消え、煙が紅の大地を覆う。
強大な一撃が自身のすぐ隣を通過したせいで、プギャーは前後不覚に陥って動けない。
|(●), 、(●)、| 「殺さなんだか」
( ・∀・) 「……殺す必要はないと思ったので」
|(●), 、(●)、| 「ふむ、ようやく自身の力の深奥を知ったか」
( ・∀・) 「最初から気づいて……知っていたのか、僕のことを」
|(●), 、(●)、| 「半分は勘だ。
もう半分は……そうだな、そろそろ説明してやってもいいかもしれん。
そのためにはまず、龍の墓場に向かうとしよう……っと、なんだ根性のない奴だ」
(; ∀・) 「根性なら……今見せただろ……」
龍化が解けたモララーは、両手両足を投げ出し岩場の上に寝転がる。
( ・∀・) 「怪我が……」
|(●), 、(●)、| 「真に王の力を使いこなせれば、その程度の治癒など造作もない。
仕方あるまい。今回は連れ帰ってやろう」
187
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:31:44 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「そうしてくれると助かる。もう指一本動かせない」
|(●), 、(●)、| 「ふん。プギャーよ。ローアングの手の届かない南に逃げるんだな」
( ^Д^) 「っち……」
ダディクールはその大きな口で少年をくわえ、宙に放り投げた。
ニ、三回転してから広い背中に落下したモララー。
( ・∀・) 「いだだだ……もう少し丁寧にだな……」
受け身すら取れず全身を打ったモララーの小言を無視し、
ダディクールは翼を広げて大空に飛び立った。
188
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:32:46 ID:JZ..YL360
>4
|(●), 、(●)、| 「見えたな……」
( ・∀・) 「……あれが、龍の墓場」
平野に散らばった無数の骨は、殆ど原型を残していない。
散在する頭蓋骨はどれも砕かれており、どれほど激しい戦いが行われたのかを物語っていた。
同心円状に拡がった残骸の中心に鎮座した骸は、一つだけ異彩を放っている。
( ・∀・) 「龍王、モララー」
聞かずともわかるほどの存在感を放つ亡骸。
死してなお失われていない威厳。
|(●), 、(●)、| 「降りるぞ」
ダディクールが降下し、その背からモララーが飛び降りた。
大地に足をつけ、王の遺骸と向き合う。
( ・∀・) 「……」
|(●), 、(●)、| 「王よ……。ただいま御身の元に戻りました。
長くお待たせして申し訳ありません」
189
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:33:31 ID:JZ..YL360
龍王は灰龍に応えない。
平野を吹き抜ける風が言葉を攫って行く。
( ・∀・) 「ダディクール」
|(●), 、(●)、| 「……君に説明してやると約束したんだったな。
龍の死からしか龍は生まれない。それは覚えているか」
( ・∀・) 「うん」
|(●), 、(●)、| 「その理由はな、龍魂と呼ばれる存在のせいだ。
全ての龍はこれをその身に備えている。例外はない」
( ・∀・) 「龍魂……でも……」
途中で遮られ、モララーは最後まで言うことができなかった。
|(●), 、(●)、| 「なぜか、ということはわかっていない。
ただ、そうであるという事実だけが存在している。
もう一つ、再び龍として生まれてしまえば、龍魂は以前の姿を特定できない」
( ・∀・) 「えっと……つまり、死んだら死ぬ前と別になるってこと?」
|(●), 、(●)、| 「そうだ。存在そのものが完全に変化する。
同じ龍魂から生まれても、以前の記憶も無ければ、姿も違う。
龍属最大の特徴である龍技すら全くの別物」
190
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:34:56 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「龍技……?」
|(●), 、(●)、| 「あぁ、説明していなかったな。
龍の持つ固有の力だ。私の灰の飛礫、以前戦ったプギャーの腐敗球もだ。
強い力を持つ龍であれば、より多くの龍技を扱う。
龍王モララーは七つを使いこなした。これは龍の歴史では最大数だ」
( ・∀・) 「そんなに……もしかして、僕の放った二つも?」
|(●), 、(●)、| 「威力以外は龍王と同じだ
その理由を知りたいんだろう。焦るな。少し歩こうではないか」
そう言うとダディクールの姿は縮んでいき、髭を生やした老人になった。
どこからどう見ても人間そのものの姿。
( ・∀・) 「えっ!?」
|(●), 、(●)、| 「龍化があるのだ。人化があっても驚くことではなかろう」
( ・∀・) 「確かに……」
灰龍の歩幅に合せるように、モララーは少し駆け足で。
並んで歩く姿はまるで老人とその孫のよう。
龍王の屍を見上げる様にして、その周囲を歩く。
モララーは何も言わず、ただダディクールの言葉を待つ。
ぐるりと大きく一周したところで、漸く老人が口を開いた。
191
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:38:08 ID:JZ..YL360
|(●), 、(●)、| 「君たち森の獣が戦う時に解放する本来の姿。
それは、生まれながらにして魂に刻み込まれている。
( ・∀・) 「父さんと、母さんも……?」
|(●), 、(●)、| 「君の両親のことは知らぬが、森の獣はただ一人の例外を除いてそうだという」
( ・∀・) 「例外」
|(●), 、(●)、| 「簡単なことだ。魂が本質であるとするならば、
その魂が干渉を受けることによって本質は変化する」
( ・∀・) 「言っている意味が……」
|(●), 、(●)、| 「龍王の魂を得た森の獣がその本質を解放すれば、
龍王と同等の力を操ることも可能ではないか、といった仮説が生まれる。
死んで転生する前の魂を、森の獣の生まれたばかりの子供に授けた」
( ・∀・) 「それが……僕……」
|(●), 、(●)、| 「一体どうやったのかまるで見当もつかない。
いきなり現れた不気味な魔術師が丁寧に説明していきおった……」
モララーは目の前の龍を見上げる。
その静謐な瞳は、静かに少年を見つめ返す。
192
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:38:55 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「……」
胸の奥から湧き上がる熱。
それが意味するところはモララーにはわからない。
だが、確かに感じる強い鼓動は彼の足を前に勧める。
腕を上げて遺骨に触れた瞬間、頭部が崩れ落ちた。
( ・∀・) 「っ!!」
脳内に流れ込む鮮明な映像。
空を埋め尽くすほどの龍群が放つ、多彩な龍砲。
様々な性質を持ったそれらを、ただの一撃で相殺した龍王。
( ・∀・) 「……今のは」
|(●), 、(●)、| 「ほう、面白い」
モララーの目の前にあったはずの骨は忽然と消えていた。
( ・∀・) 「なんだろう……欠けていたものが満たされたような……」
|(●), 、(●)、| 「遺骸に残されていた力を手に入れたのだろう。
これで龍王としての力は全てその身に宿ったはずだ。
どうする。今なら私と対等……いや、それ以上かもしれない」
193
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:42:02 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「いろいろと腹立たしいことはあったけど、今そのつもりは無いよ。
それよりもこの力、すぐにでも使いこなしたい」
|(●), 、(●)、| 「その心は未だ復讐に囚われているか?」
( ・∀・) 「あれから地獄の方がマシなような特訓を受けてきたんだ。
今、十分な力も手に入れた。もう呪術師だって殺せる」
モララルドが無作為に腕を振るった。
その軌跡を追うように生まれた衝撃波は、龍の墓場を深く抉る。
かろうじて形の残っていた死骸もバラバラに吹き飛んだ。
|(●), 、(●)、| 「ふん……。私との約束を先に果たしてもらえるとありがたいのだがね」
( ・∀・) 「ああ、手始めに僕の座を取り返しに行こう」
|(●), 、(●)、| 「性格まで変わったか」
( ・∀・) 「そんなことはないさ。それで、何処にいるんだ?」
|(●), 、(●)、| 「王の座は、ここから北に向かった龍神峡にある。
そこにローアングはいるだろう」
194
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:42:33 ID:JZ..YL360
( ・∀・) 「そうか……リベレーション!」
モララーが白竜へと変化する。
身体は以前よりも一回り大きく、内包する魔力の量も質も段違い。
|(●), 、(●)、| 「もう行くのか」
( ・∀・) 「早いほうが良い……ん? なんだこれは」
飛び立とうとしたモララーの眼の前に突如として現れた光の手紙。
( ・∀・) 「邪魔だ」
切り払うように放たれた魔力の刃の直撃を受けてもなお、
手紙は傷一つ無く浮かんでいた。
( ・∀・) 「なんだこれ」
|(●), 、(●)、| 「……手紙の魔術」
( ・∀・) 「知ってるのか?」
|(●), 、(●)、| 「私も人伝でしか聞いたことがない。
その話の内容を聞く限りであれば、触れてみればわかる」
195
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:42:58 ID:JZ..YL360
爪の先が手紙に触れた直後、弾かれたようにその腕を引っ込めた。
額に皺を寄せながら、モララーは小さなため息をついた。
( ・∀・) 「……ふぅ」
|(●), 、(●)、| 「どうだ」
( ・∀・) 「残りの猶予は一年間という事らしい。
さて、行くぞダディクール」
|(●), 、(●)、| 「急いては事をと言うが……良いだろう」
龍の墓場から飛び立った二頭の龍。
真っ直ぐと北に向かい、霧の中に消えた。
196
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:43:47 ID:JZ..YL360
>5
(#・∀・) 「お前っ……」
手紙の魔術に導かれ、約束の丘にたどり着いたモララーを出迎えたのは、
四人の強者。そのうちの一人は、忘れることもできない呪術師の男であった。
すぐさま白き龍と化し、目の前の男を見据える。
('A`) 「お前は……」
【+ 】ゞ゚) 「驚きました……。まさかあの時の」
(#・∀・) 「お前だけは……お前だけは絶対に殺す」
殺意と魔力を練り合わせ放った一撃は、オサムに直撃する前に霧散した。
ドクオが話しながら組んだ魔術は、強力な一撃を容易く相殺した。
(#・∀・) 「邪魔をするな!」
('A`) 「待て。今ここで戦いを起こされるのは困る。
そのくらいのことは手紙に選ばれたお前ならわかるだろう」
(#・∀・) 「知るものか。ここでそいつを殺すことができるなら、その後なんでどうでもいい!」
怒りに任せて魔力を溜め、オサムたちの座る円卓に向けて吐き出した。
龍王と同等の力を持つはずの一撃は、やはりドクオによって簡単に吹き消される。
オサムは反撃の態勢すら取らず、それが尚更モララーを苛立たせた。
197
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:44:21 ID:JZ..YL360
('A`) 「いいからまずは落ち着け。じゃないと……」
(#・∀・) 「戦えっ! この臆病者! でなければ、死ね!」
モララーは自身に宿る龍王の力、その一端を引き出す。
周囲の空間を捻じ曲げる龍技。
あらゆる防御を正面から叩き潰す龍王にのみ許された王たる術。
( ・∀・) 「圧捩……!?」
内に秘めたる力を全力を発しようとしたその時、モララーは地面に叩き伏せられた。
両翼に痛みが奔り、その後四肢と首の全てが強制的に地面と繋がれる。
( ・∀・) 「こんなもの……っ!」
龍王たる自分を誰が封じ込めることが出来ようか。
モララーの自信は簡単に打ち砕かれた。
川 ゚ -゚) 「うるさいな。いい加減にしろ」
右手に本を持ったまま、その背に降り立った女性は、
龍王など意にも介さないかのように読書を続けた。
198
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:45:11 ID:JZ..YL360
(#・∀・) 「何を……なんで!」
無理やり動こうとしたものの、全身は全く反応を返さない。
('A`) 「いいか。まずはその牙を収めろ。でないと、お互いに損をする」
( ・∀・) 「……くそっ」
多勢に無勢を悟り、モララルドは龍化を解いた。
彼を覆っていた魔力の肉体は彼自身の中へと還っていく。
川 ゚ -゚) 「おっと」
足場を失ったクールは元いた場所に飛び降りた。
我関せずとばかりに、本のページをめくる。
その様子を一睨みし、モララーは正面に立つドクオに向き直った。
('A`) 「まずはお前の話を聞こう。と言っても、俺は大体予測はついているが」
( ・∀・) 「ふん。話すことなんかないさ。その呪術師の男は両親の仇だ」
( ФωФ) 「といっておるが、本当か」
【+ 】ゞ゚) 「本当ですよ。最も、彼の両親には私の仲間もかなり殺されてきたわけですが」
199
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:46:12 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「呪術師と獣使いの戦争か。耳にしたことはあったが。
この場に両者が揃うとはな。何という偶然か」
('A`) 「いや、既定路線だ。
成程。無事に育ったというわけだ、龍王の魂を持つ獣の子」
【+ 】ゞ゚) 「どういうことですか?」
( ・∀・) 「お前は何を知っている……魔術師!」
('A`) 「一つの約束だけだ。龍王とのな」
ドクオは杖を振るい、魔術を発動させる。
それは記憶を引き出し、他人に譲り渡す魔術。
(; ・∀・) 「なっ……!?」
モララーはドクオに与えられた記憶でもって、自身の持つ力理由を知った。
その意味もまた同時に。
('A`) 「龍属における新派旧派の戦いで命を落としたと言われている龍王。
その今際の際に立ち会ったのは俺だ」
川 ゚ -゚) 「あちこちと放浪していたのは知っていたが、そんなこともしていたのか」
200
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:47:01 ID:JZ..YL360
('A`) 「偶然さ。その時に龍王と契約したのさ。
龍王の龍魂を獣の使い手で生まれる子供に授けるとな」
( ・∀・) 「じゃあ、あんたがダディクールの言っていた魔術師」
('A`) 「俺の魔術でも協力はしたが、お前にその力を宿した転生もどきは龍王の力だ。
勘違いで恨むなよ」
( ・∀・) 「むしろ感謝しているさ。あいつを殺すだけの力をもらったんだ」
('A`) 「残念だがな。龍王はお前よりもずっと上手だ。憎しみでその力を扱えない様になっている。
先程の攻撃、思っていたよりも威力が出なかっただろ?」
( ・∀・) 「なんで……」
('A`) 「自らの力が悪用されるのを防ぐためだ」
( ・∀・) 「正当な復讐が悪用だと……!」
('A`) 「少なくとも龍王はそう決めた。
もはや意思もないだろうが、お前の中に彼は確かに存在している」
( ФωФ) 「なぜ龍王は自らの力をその少年に託したのだ」
201
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:48:01 ID:JZ..YL360
記憶を与えられたモララー以外の英雄は、状況を飲み込めないでいた。
('A`) 「俺が龍王に会ったのは、新派旧派の戦いに赴く直前だった。
全面戦争が避けられないと知った龍王は、旧派の龍達を戦わせまいと説得していた。
勿論、旧派の多くは信頼の厚かった龍王と共に戦うと宣言した。
だが、彼はそれを許さなかった。
俺は旧派の龍達を戦いが終わるまで遠ざけておくように頼まれたんだ」
【+ 】ゞ゚) 「龍を遠ざける? そんな馬鹿なことが」
一頭が天変地異クラスの力を有する龍属。
それを抑えておくなどということは、口で言うほど簡単でなはい。
('A`) 「勿論、正面切って抑えるなんて流石に無理だ。
だが、騙すことは出来る。龍王の声を借り、本来の戦いの場とは全く違う場所へと誘導した」
( ФωФ) 「成程。旧派の龍属達が気づいた時には全て終わっていたということだ」
('A`) 「そして俺は龍王との契約を守った。おかげで数体の龍には未だに恨まれているがな。
そんなことはどうでもいい。
そして龍王は俺との契約通り、来たるべき終焉の戦いに力を貸すと自らの龍魂を俺に差し出した」
202
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:50:10 ID:JZ..YL360
【+ 】ゞ゚) 「なるほど。魂に刻まれた情報を解放して戦う獣の使い手なら、
自らの力を再現できると踏んだわけですね」
('A`) 「そういう事だ」
( ・∀・) 「…………」
('A`) 「お前の復讐心はわかる。
だが、その相手がこれから終焉を戦いに向かう英雄の一人だとは予想できなかった。
どちらも失いたくない戦力だ。それに、憎しみはお前の力にならない」
( ・∀・) 「戦うことが不利だと言いたいんだろ」
人生の大半の間恨み続けた相手が目の前にいるのだ。
平常心で戦うことなどできるはずがなかった。
( ・∀・) 「今は……終末を生き抜くことに協力してやる」
('A`) 「助かるよ。よろしく頼むえっと……」
( ・∀・) 「ふん……モララーだ」
('A`) 「モララーか、龍王と同じ名前だとはね。
名前負けしない活躍を期待している」
( ・∀・) 「協力はするけど、そこの呪術師に手違いがあっても知らないからな」
少年は既に揃っていた英雄達とテーブルを囲うことなく、
少し離れた場所に一人座った。
203
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 12:50:54 ID:JZ..YL360
・・・・・・
204
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 13:00:47 ID:SDticvYA0
一区切りかな?おつおつ
205
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:07 ID:ysZ8awxc0
くっそおもしろい
206
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:18 ID:JZ..YL360
o川* ー )o 「はっ……っぅ……はぁ……ぐ……」
胸を抑えて蹲る少女。
突然始まった苦痛によって、夢の世界から引き戻された。
心臓の鼓動は激しく、痛みは身体中を駆け巡る。
o川*゚ー )o 「っ……ぁ……」
巨大な牙から噴き出していた魔力が、少女の身体に染み込んでいく。
少女の内包する魔力と異なる魔力が反発し、苦痛を生み出していた。
o川* ー )o 「……ぅ…………」
わずか数分の出来事であった。
少女にとっては数時間にも感じられた痛みの連続は、
始まった時と同様に唐突に終わりを告げた。
o川;゚ー゚)o 「はぁっ……はっ……」
大粒の汗を額から零しながら、震える腕をついて起き上がる。
潤んだ瞳が捕らえたのは、巨大な影。
陽炎のように揺らぎ、その姿を明らかにしない。
o川*゚ー゚)o 「あなたは……」
207
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:44:49 ID:JZ..YL360
「自由に生きろ」
ただ一言だけを発し、それは消えた。
まるで最初からなにもなかったかのように。
o川*゚ー゚)o 「どういう……意味……」
ぐったりとした少女は、牙にもたれ掛って空を見上げる。
赤く染まり始めた空は、相変わらず静かで虚ろであった。
o川*゚ー゚)o 「ロマネスク……オサム……クール……モララー……」
樹、十字架、剣、牙。
それぞれに対応する四人の物語。
それらは彼女の問いかけに答えるのに十分ではなかった。
o川*゚ー゚)o 「誰が……何のために……私は……」
誰もいない場所にただ一人生きている少女。
彼女のために誂えたかのような空間。
もはや少女は知っている。
人間が無から自然に生まれることはありえないと。
魔力が込められたこの空間が、偶然に出来上がることはありえないと。
208
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:45:47 ID:JZ..YL360
o川*゚ー゚)o 「……」
牙に手を突きながら立ち上がり、足を引きずりながら歩く。
崩れた剣のその横、ぽかりと空いた黒い穴。
子供一人くらいが辛うじて通り抜けられるほどの小さなもの。
光の射さない底部に、それは存在していた。
o川*゚ー゚)o 「……ママ?」
白い骨は人間としての形を崩さずに埋もれていた。
今の彼女ならば気づくことができた。微かに残っている柔らかな魔力に。
それが愛する者を護るための魔術の鱗片だということに。
o川*;ー゚)o 「っ……? なに……?」
零れた滴は、暗闇の中へと消えた。
次々止め処なく溢れ出て来る哀しみ。
その原因がわからず、困惑した表情を浮かべながら俯いていた。
o川*;ー゚)o 「っ……」
209
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:46:44 ID:JZ..YL360
涙と共に全身から漏れ出した純粋な力。
魔力の奔流は、少女の全身から一気に解き放たれた。
無属性の暴風によって少女の世界を覆っていた薄い膜は破られ、
少女を囲んでいた四つのシンボルは瓦礫と化した。
o川*゚ー゚)o 「……何が」
清涼としていた空気は流れ去り、鼻腔を満たすのは焦げた臭い。
肌を焼くような強い日差しと、息苦しいほどの湿気。
おおよその不快を詰め合わせたような環境が、大挙して押し寄せてきた。
o川* ー )o 「っほ……ごほっ……っ……!!」
少女の目に飛び込んできたのは、今まで見えていたものとは全くの別物。
赤黒入り乱れた大地は火を噴き上げて一秒ごとにその姿を変え、
空を覆う厚い雲の中は幾条もの光が迸る。
巨大な氷が音を立てて崩れる傍から、炎が渦を巻き雲すらも貫いて立ち上がった。
空から降って来た塊がいくつも大地にぶつかり、衝撃で地面諸共弾ける。
咽るような熱気と、凍える様な寒気とがまばらに拡がった世界。
罅が入り、歪み、軋んで崩れてしまった、壊れかけの世界。
その時、少女は真実の世界を認識した。
210
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:47:14 ID:JZ..YL360
o川*゚ー゚)o 「そんな……」
およそ生物が生きられるような環境を徹底的に排除したかのような、荒んだ世界。
それが、今彼女が立っている場所であった。
細かい振動と共にひび割れていく不安定な大地。
彼女を護っていた空間は無く、助けを求める人もいない。
o川*;ー;)o 「やだ……もうやだよ……どうなってるの! ねぇ……誰か……。
ママ……! ……誰!?」
頭の中に響く声が少女を呼ぶ。
呼ばれて振り返った先には、光放つ杖。
o川*゚ー゚)o 「……!!」
少女の叫びは地響きの轟音に消え、ついに足元が崩れた。
崩落に巻き込まれた少女は、必死になって上から落ちてきた杖を掴んだ。
211
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:47:38 ID:JZ..YL360
>1
('A`) 「っあー……さって、次は誰行くかねぇ」
事前に用意したリストに記してある名前は二十を超えている。
バツ印がついているのは、まだ五つ。
世界を三周以上するほどの移動距離と、相応の時間がかかることは容易に想像がついた。
('A`) 「ってもなぁー、めんどくせぇなぁ……」
最も近い地図の印が百キロほど。
彼にしてみれば大した移動距離でもないが、
その後の面倒を考えれば溜息の一つ二つは出るだろう。
強者とは往々にして傲慢であるものであり、
残念ながら過去五回の邂逅は全て戦闘に始まり戦闘に終わった。
リストに名を乗せる彼らは他に類を見ない程の特殊な能力を持つ者や、
ただ一つの特性を愚直なまでに磨き上げた者達。
当然一筋縄ではいかず、命を落としかけたことすらもあった。
それでも彼が強者を訪ねて歩く理由はたった一つだけ。
212
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:48:34 ID:JZ..YL360
('A`) 「この世代で……すべて終わらせる」
迫り来る災厄に対する対抗手段を得るために。
もっとも、この時点で彼はその戦いに参加する権利すら持っていなかったが。
('A`) 「さって、そろそろいくか……ウィングロード!」
魔力を変換し、術師の思い通りの現象を引き起こす魔術。
最も汎用性が高く、最も多くの術者が存在している力である。
難易度の高い魔術の多くは、どの種族でも血によって受け継がれているが、
単純な魔術であれば魔書からでも習得可能である。
ウィングロードは基礎的な移動魔術であり、
魔術師の家系に属する者であれば誰しもが扱うことができた。
ドクオは大空に飛び上がり、鳥も驚くような速度で空を滑っていく。
('A`) 「次は……精霊の森の……古老。今までのとは一つ二つも格が違う。
少しは覚悟しとかねーといけないか」
彼の一族は遥か昔から連綿と続く魔術師の家系。
統合と戦死によって数は減り、今はもう三家しか残っていない。
最大派閥のドレイク家、次いでフォーラン家、そして最も小さいルグ家。
213
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:49:06 ID:JZ..YL360
魔力を持ち魔術を扱う種族は数多くいれど、彼らと魔術師の間には決定的な差があった。
五百年に一度訪れる終焉に対抗するための唯一の手段。
仲間を呼び集めることのできる呼応の魔術。
彼らこそが、レタリアの発動を許された唯一の種族である。
魔術師達の中で、当代の最も力の強い魔術師だけがそれを扱うことができると伝えられている。
故に、歴代の英雄達には必ず魔術師の名前が刻まれていた。
多くの英雄を輩出した家の発言力は高まっていき、その逆もまた然り。
ドクオの家系では記録に残っている限り一度も無く、
勢力は下降の一途を辿って来た。
昔は同世代に十人はいたはずの競争相手もおらず、
ルグ家から名乗り上げることのできる魔術師はドクオ一人だけ。
('A`) (じっちゃんとばーちゃん元気にしてるかなぁ……)
手慣れた操縦で飛行の魔術を操り、目的の森を目指す。
侵入を阻むための結界を感知し、ドクオはその場に停止した。
('A`) 「んーっと……頑丈というよりは……試しているような感じか」
結界の持つ特性を即座に理解し、製作者の意図に応えるために魔術を一つを組み上げた。
ただの燃焼魔術を何重にも複雑に組み上げ、結界に投げつける。
214
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:49:47 ID:JZ..YL360
強固な結界に対して小石程度の魔力であっても、
術式を複雑に編み込んだ魔術として発現すれば相応の破壊力を持つ。
人間大の穴が即座に空き、その外周部は再生をを防ぐかのように燃え続ける。
('A`) 「っと、はやいな」
彼の前に現れた数十人の神官。
深緑色のローブを纏い、小型のナイフを一本だけ構えたそれは精霊術師の戦闘態勢。
装備において彼らは、ごく一般的な精霊術師と大差ない。
ただその能力は、こと集団戦闘においては他の追随を許さない。
精霊の森の神官とは、最強の精霊術使い手達のことである
('A`) 「怪我する前に下がったほうが良いぞ」
「何を! 愚かな侵入者が! ここが何処か知っての狼藉か!」
('A`) 「あぁ、勿論だ。ほら、俺はその人を待っていたんだ」
包囲の後ろから現れた小柄な老人。
ドクオを囲んでいたはずの神官達に、より一層の緊張がはしった。
('A`) 「初めまして、ロマネスク」
215
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:51:22 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「こちらの名前は知っているようだが……俺は知らんな」
('A`) 「俺の名前はドクオ・ルグ。魔術師だ」
( ФωФ) 「それはみればわかる。希少な魔術師が何用かな?」
('A`) 「少し話があってね」
( ФωФ) 「ふむ……では他の者には席を外させよう」
「なっ……! このような乱暴者と二人きりにさせるわけには」
( ФωФ) 「大事ない。わざと結界を派手に壊したのも、俺を呼ぶためであろうよ。
このような場所で話すことも無かろう。ついて来るがよい」
('A`) 「流石。話が分かる」
( ФωФ) 「一人前の神官を育てるのには、相応の時間がかかる。
無意味に減らされることは避けたいのだよ」
ロマネスクは空中を歩き、精霊の森の中心部に聳え立つ最も高い樹木へと向かった。
その後ろを少し離れてドクオが追う。
背後から放たれるいくつもの殺気を軽く受け流しながら。
('A`) 「初めてだよ、こんなにまともな待遇を受けたのは」
216
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:52:04 ID:JZ..YL360
ロマネスクは空中を歩き、精霊の森の中心部に聳え立つ最も高い樹木へと向かった。
その後ろを少し離れてドクオが追う。
背後から放たれるいくつもの殺気を軽く受け流しながら。
('A`) 「初めてだよ、こんなにまともな待遇を受けたのは」
( ФωФ) 「そうか、他にも訪ねているのか」
('A`) 「誰も彼もロマネスクの名には劣るがな。
ほんと、対面してわかった。化け物どころじゃねーな」
( ФωФ) 「何、安心するがいい。俺にはさほど特殊な力は無い。
心も読めぬし、魔術も使えぬ」
樹の頂点に用意されている薄い盆のような場所。
精霊術によって空中に固定されており、支点やアンカーなどは一つもない。
中心には背の低い台。その上に湯呑と茶菓子が二つずつ。
細い湯気を立ち昇らせたそれは、今し方用意されたばかりのものであろう。
( ФωФ) 「ようこそドクオ。まぁ座るがいい」
('A`) 「そうさせてもらう」
217
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:52:36 ID:JZ..YL360
遠巻きに見ている神官達の視線を感じながら、
ドクオは床に腰を落とした。
( ФωФ) 「それで、本題に入ろう。ルグの魔術師がわざわざ来るとは何用だ」
('A`) 「そうか、ルグの名は当然知っているよな。まぁ俺の名前はあまり関係がない。
俺が今回の戦いに出る」
( ФωФ) 「今、最優秀の魔術師はヒッキー・ドレイクと聞いているが、
レタリアは彼の手にあるのではないかね」
('A`) 「奪うさ」
( ФωФ) 「随分と威勢のいい話だ。勿論、戦いには最も強いものが出るべきだ。
勝てるのならそうするがいい」
ドクオは驚き一瞬言葉が途切れた。
浮かべていた間抜けな表情を慌てて繕う。
('A`) 「意外だな」
( ФωФ) 「何が」
('A`) 「もう何回も戦いに赴いているあんたなら、
そんなやつに背中は任せられないとでもいうかと思った」
218
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:53:35 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「ふむ、殺すという表現を使わなかったのもあるが。
裏切りそうかどうかなど見て、話をすればだいたいわかる。
それにな……魔術師はどうせ生き残れん」
('A`) 「……そうだな」
( ФωФ) 「俺がレタリアに呼び出され戦ったのは四回。
少なくともその四回の戦いを生き残った魔術師はいない」
('A`) 「……」
( ФωФ) 「どんな相手が来るかもわからんのだ。
人間の身体で戦う魔術師は、簡単なことですぐに命を落とす。
それでも、その座を奪うというのか?」
ロマネスクから教えられた事実。
それは、魔術師達が過去の戦いに対する記録をほとんど持っていない理由であった。
ルグ家を除いて。
('A`) 「やはり、そうだったか」
( ФωФ) 「強がりか」
('A`) 「ルグ家ってのは、確かに一度も英雄を出したことの無い落ちこぼれの家系だ。
他の二家とは違う。もはや絶滅寸前とも言っていい。
だが、一つだけ俺達には他の奴らが持っていないものを持っている」
219
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:54:57 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「なんだ」
('A`) 「情報さ。かつての戦いに関する膨大な量の情報。もともとルグ家の役割は観測と分析。
戦闘用の魔術こそ殆ど生み出しては来なかったが、それらに関しては完全に別格だ」
( ФωФ) 「それは興味深いな」
ドクオが杖を振るうと、彼の背後に光の歪みが発生した。
その中から飛び出してきた本を一冊手に取り、しおりの挟んであったページを開く。
('A`) 「前回の終焉を戦ったのは、老樹ロマネスク、魔術師パラセルト、天剣使いトール、
流星群竜ペルセウス、地殻獣モーグ、そして雨乙女ドロップの六人」
( ФωФ) 「……」
('A`) 「生き残ったのはあんたとドロップの二人だけ。
あんたとドロップ、天剣使いは今までと同様の面子だ。
天剣使いの一族だけはアンタよりも古いな。あの一族に関しちゃまだ調べ足りないが」
( ФωФ) 「天剣使いは……俺と同期だよ。輝龍クレシアの世代だ」
('A`) 「二千年近く前か」
220
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:55:37 ID:JZ..YL360
( ФωФ) 「それで、それだけの情報があると証明して何が言いたい?」
('A`) 「五百年に一度訪れる終末。そんなふざけたことがあっていいわけがない。
神か悪魔か知らないが、この世界を滅ぼしたいのなら毎年でも来ればいいだろう。
なぜそうしない」
( ФωФ) 「その程度の疑問、何千何万回と繰り返されておる。
誰も答えには辿り着けぬし、来たるべき戦いを乗り切るので精一杯なのだ」
頭を振るロマネスク。
質問には答えなどないと、暗に示していた。
('A`) 「今まではそうだった」
それを止めたのはドクオの強い否定。
老樹の瞳は探る様に魔術師を見つめる。
( ФωФ) 「ほう?」
('A`) 「言ったろ。ルグの家系には膨大な資料がある。
人生を何度繰り返しても読み切れないほどの。
だからこそ、俺は一つの魔術を生み出した。全ての知識を直接この身に取り込むために」
( ФωФ) 「新しい魔術を作り出すことはそう簡単ではないと聞くが。
本当に魔術師かと疑うほど魔力量の少ない貴様がか」
221
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:56:17 ID:JZ..YL360
('A`) 「魔力量は魔術を生み出す妨げにはならない。
大量の魔力を用いるのは、効率の悪い出来損ないの魔術だからだ」
( ФωФ) 「では聞かせてもらおうか」
('A`) 「敵が現れる虚空。これが繋がっている先がわかった」
( ФωФ) 「馬鹿な」
('A`) 「あれはいわば門だった。原理も魔術と同じだ。
あれの先にあるのは虚ろ。そこから奴らは産み落とされる」
( ФωФ) 「虚ろだと? そんなものは法螺にすぎん」
('A`) 「そういうと思ったさ。だからこいつを用意しておいた」
再びドクオの背後に現れた波打つ光。
中から四つの杖が飛び出し、魔術師の頭上に浮かぶ。
('A`) 「これらは魔術を一つだけ保存し、発動することのできる杖だ。
俺が持っているこの一本の劣化コピーだがな」
( ФωФ) 「何をするつもりだ」
222
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 16:57:11 ID:JZ..YL360
('A`) 「何、さほど危なくはない。
同威力の四大属性魔術を同時に放ってぶつけ合うと、
魔力が不安定化して空間の歪みが生まれる」
空中で放たれた火、風、水、地、それぞれの属性を持つ魔術。
互いに激しく反発し、魔力そのものが乱れ始めた。
対消滅を繰り返し続けた中心部に現れたのは、小さく黒い球。
('A`) 「そうしてできた歪みの中心に、重力魔術による回転をくわえる」
四つの属性が激しく回転し、
小さな黒い球は次第に引き伸ばされて薄い円盤状へと拡がっていく。
('A`) 「後はこのバランスを崩さない様に、空間魔術でこの中に小さな無数の空間を作る。
その後、時間魔術によって円盤そのものの時を加速すれば……」
突如弾けた円盤は、四大属性の魔術を放つ杖を飲み込んで黒い穴と化す。
内部では透明な泡が有り得ないほどの速度で生成され、潰れていく。
脳を直接揺るがすような音が響き、黒い穴から魔力が零れてきた。
皮膚に触れただけで、吐き気を催すほどの悪意。
内臓を掴まれる様な嫌悪感。
凶悪にして強大な魔力を持つ境界の向こう側の存在を、ロマネスクは知っていた。
223
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:01:06 ID:JZ..YL360
(; ФωФ) 「っ!!!!」
飛び上がったロマネスクが瞬時に唱えた精霊術。
島一つ程度なら沈めてしまうほどの超高密度の空気を従えた大気の精霊。
手のひらほどのサイズでありながらも、小龍なら圧倒できる威力がある。
呼び出された数体は黒い穴へと一斉に突撃をかけ、そのまま消えた。
( ФωФ) 「はっ……ははは……」
空には何一つとして残っていない。
ドクオの四本の杖も、ロマネスクが呼び出したはずの大気の精霊も。
この世の憎悪を詰め込んだような、むせ返るほど邪な魔力も。
( ФωФ) 「良いだろう。ドクオ・ルグ。お前の言葉、信じてやろう。
それで、お前はこれを確認してどうするつもりだ」
('A`) 「繰り返される終焉に終止符を打つ」
( ФωФ) 「こちらの世界に紛れ込んできた奴らに勝利するのすら精一杯なのだ。
一体どれほどの危険性があると思っている。
下手をすれば今のバランスすら失ってしまう」
224
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:02:06 ID:JZ..YL360
('A`) 「五百年ごとに一度。毎回乗り越えてきたとはいえ、次も乗り越えられるとは限らない。
このまま続けば、いずれ破滅する」
( ФωФ) 「過去数回は少なくとも、レタリアが届かなかったことは無く、
英雄が現れなかったことも無い。
お前の自己満足で世界を壊すつもりか」
('A`) 「救えねぇ。耄碌したか老樹ロマネスク。
だから俺は世界中を渡り歩いている。終末を数十年後に控えた今」
ドクオが杖を地面に叩き付けた。
魔力に寄って拡散された振動が響き、湯呑の中の水面が波打つ。
足元に浮かび上がった世界地図。
五つの大陸の中に大きな赤い星が五つ。
小さな青い星が十以上輝いている。
('A`) 「老聖、老樹、老狼、老龍、老燕と、それらに匹敵するかもしれない力の持ち主の居場所だ」
( ФωФ) 「ふん、大した情報網だな」
('A`) 「俺はこれから全員に会いに行く。会ってその強さを確かめる」
( ФωФ) 「自分が一番強いつもりか?」
225
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:02:53 ID:JZ..YL360
('A`) 「いや、この旅の途中で命を落とすことだって覚悟しているさ。
全てはこの世界の為だ」
光の地図は消え、床は通常の状態に戻る。
( ФωФ) 「……ドクオと言ったか。お前の試みを邪魔するつもりは無いが、
わかっているのだろう。避けては通れぬ関門があるぞ」
('A`) 「ヒッキー・ドレイク」
ドレイク家の長い歴史の中で、過去最高の魔術師との呼び名が高い男。
その名前と実力は海を渡って、世界中に轟いていた。
( ФωФ) 「レタリアは間違いなく奴に継承されている。
お前は奴を倒さなければ舞台に上がることすら許されない」
('A`) 「わかっているさ。この旅のもう一つの目的は、経験を積むことだ」
( ФωФ) 「ふん、俺はどちらでも構わないが……お前を気に入った。
再び俺の前に現れるのを楽しみにしている」
('A`) 「急な来訪失礼した。老樹ロマネスク」
( ФωФ) 「その呼び方は好きではない。もし次に会うことがあれば名だけを呼ぶがいい」
226
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:03:15 ID:JZ..YL360
('A`) 「そうさせてもらう。それでは」
ドクオは立ち上がり、目の前に座る老人に頭を深々と下げる。
振り返って杖を掲げ、無詠唱の移動魔術を発動した。
その姿は陽炎に紛れて見えなくなった。
227
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:03:51 ID:JZ..YL360
>2
(;'A`) 「まさか……な……」
膝をついたドクオの首元に添えられた光の剣。
汗を滴らせ、肩を大きく上下させながらその持ち主を睨む。
(゚ー゚*下リ 「ふふふ」
('A`) 「俺の負けだ。まったく、現実じゃないと信じたいね」
杖を手から離し、両手をあげるドクオ。
魔術を用いるのに杖は必要ないのだが、降参の意を示すために。
(゚ー゚*下リ 「間違いなく現実ですよ」
('A`) 「どうせ人間じゃないんだろ」
(゚ー゚*下リ 「失礼ですね。正真正銘、人間です」
背の高い女性は光の剣を手の内から消した。
死のプレッシャーから逃れたドクオは腰を落とす。
地べたに座りながら、優雅に立つ女性をじろじろと観察する。
(゚ー゚*下リ 「そんなにみられても困ります。私は既に結婚しておりますので」
228
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:04:29 ID:JZ..YL360
('A`) 「っあー……納得いかねぇ」
(゚ー゚*下リ 「魔術師様が手を抜いてくださったのですよね?」
('A`) 「そう見えるか」
(゚ー゚*下リ 「ええ」
('A`) 「ということは、俺もまだ伸びしろがあるってことか……。
で、あんたのその化け物じみた力はどうやって手に入れたんだ」
(゚ー゚*下リ 「んー……鍛練の賜物ですかね」
小さくきれいな掌をほほに添え、困ったように笑う女性。
仕草は大人っぽいが、見た目は年端もいかない少女の様に幼い。
('A`) 「俺がサボってたみたいに言うなよ」
(゚ー゚*下リ 「すいません、そのようなつもりは無かったのですが……」
('A`) 「いや、わかってる。すまない。
現象すら断ち切る天剣の存在は知識としても知っていた。
だから俺はあんたに実力勝負で負けたんだ」
229
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:05:05 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「なぜ、私に勝負を?」
('A`) 「……天剣の一族なら知っているだろう。
終末の戦いに関することさ。負けておいて語るなんて恥ずかしいことさせてくれるな」
(゚ー゚*下リ 「あぁ! 成程! では、あなたが今回のレタリアの使い手たる魔術師様なのですね?」
('A`) 「心底嫌なんだが……否定しないといけないだろうな。
俺はドクオ・ルグ。ただの魔術師だ。レタリアも使えない」
(゚ー゚*下リ 「あら、そうなのですか。でもよかったです」
('A`) 「何が」
(゚ー゚*下リ 「私は次の戦いに参加できないでしょうから」
('A`) 「もう十五年後だ。あんた以外にいないだろう。
それに、戦えるだけの実力もある。天剣使いがレタリアから漏れた例はほとんどない」
(゚ー゚*下リ 「いえ……」
女性は頭を左右に振る。
(゚ー゚*下リ 「それまで生きていることは出来ないでしょうから」
230
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:05:49 ID:JZ..YL360
(;'A`) 「なっ……!」
(゚ー゚*下リ 「娘が今年三歳になります。心苦しいですが、彼女に任せることになるでしょうね」
('A`) 「馬鹿な。せいぜい二十手前の小娘が戦えるものか」
(゚ー゚*下リ 「私の娘ですから。それでは信用なりませんか?
それに、彼女の有する魔力量は私よりもさらに大きい。恐らくはスノウ一族で最も」
('A`) 「……」
(゚ー゚*下リ 「ちょうどよかった。魔術師様、一つお願いがあるのです。
聞いてはもらえないでしょうか」
('A`) 「なんだ」
(゚ー゚*下リ 「私の娘に剣を教えてほしいのです。来たるべき戦いを生き残るために」
('A`) 「俺は剣を扱うことができん」
(゚ー゚*下リ 「簡単なことです。私の動きを全て真似て頂ければいいのです。
これは親バカと言う物でしょうか。彼女の……クールの瞳を見ていると思うのです。
彼女には才能がある。確かな師さえいれば、私すらも超えるほどの」
231
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:06:33 ID:JZ..YL360
('A`) 「……あんたの病を治してやる。その方が簡単だ」
(゚ー゚*下リ 「頑固な魔術師様ですね。……わかりました。
それでは、私はドクオ様の治療を受ける代わりに、
ドクオ様は私に剣の手ほどきを受けて頂きます」
('A`) 「俺は他にもやらなきゃいけないことがたくさんあるんだ。めんどくせぇことを言うな。
どんな病気かは知らないが、俺にかかれば不老不死にだってしてやれる」
(゚ー゚*下リ 「おや、これは不思議なことを。
私程度に負けた魔術師様が、私が解決できない病を治せると?」
('A`) 「そんな挑発には乗らないつもりだ……が、確かに負けたままというのも気にくわない。
その交換条件を受けよう。剣士の戦い方というのは今後の参考にもなる」
(゚ー゚*下リ 「それでは、もう一本」
女性に手の中で輝く剣は、高純度の魔力の塊。
殺すつもりで放った魔術すら容易に切り裂く。
驚異的なのは鋭さではなく、その性質。
('A`) 「……フォールト」
232
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:07:10 ID:JZ..YL360
ドクオの周囲に多数出現した黒い空間の裂け目。
先程の戦いで唯一、ナインツ・ヘイブンの攻撃を受けることができた断絶の魔術。
(゚ー゚*下リ 「もっと他の魔術はないのですか?」
二振りの光剣が罅割とぶつかり、空間を歪めながら対消滅した。
女性の背後にはすぐに二つの剣が再生する。
('A`) 「その威力で、いくらでも再生できるとか……ほんと、反則でしかねぇ」
(゚ー゚*下リ 「逃げているだけでは勝てませんよ」
飛び込んできた女性の一振りを、ドクオは寸前で躱した。
空振った一撃は勢い余って大気を割る。
(゚ー゚*下リ 「流石ですね!」
嬉しそうににこにこと笑いながら、両手に持った剣を振るう。
('A`) 「近接戦闘なんてまったくやったことなかったんだがな。
さっきのあんたを見て覚えた」
(゚ー゚*下リ 「魔術師が新しい魔術を生み出すには数年かかると聞きますが」
('A`) 「この程度であれば、俺にはそんな長い時間必要ない」
233
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:07:58 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「でも、見たことの無い動きには……!」
七本の剣が順次射出された。
一直線にドクオへと迫り、魔術に弾かれる。
(゚ー゚*下リ 「ふふ……っ!」
急接近した彼女が二振りの剣を同時に振り下ろす。
('A`) 「フォールトっ!!」
形成した空間断裂に弾かれた天剣。
最初に飛来した七つは、粉々に砕けていながら未だ消えていなかった。
(゚ー゚*下リ 「刻みなさい! エスノストゥム!」
天剣の欠片はドクオを囲んで巨大な嵐を生み出す。
岩石すらも細切れにしてしまうほどの激しいうねり。
乱反射する光は内部からの衝撃で飛散した。
('A`) 「死んだかと思った……」
(゚ー゚*下リ 「おや、無傷ですか」
234
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:09:01 ID:JZ..YL360
('A`) 「その威力が馬鹿高い剣の構成は魔力におるもの。
だったら干渉することくらいはできる。
命がけの状況に追い込まれればな」
(゚ー゚*下リ 「剣に対する支配力は当然私の方が上ですが、
ほとんど魔力の塊になってしまえばそうではないということですね。
勉強になります」
女性の背中に再生した七本の天剣は、
切っ先をドクオに向け宙に浮かぶ。
('A`) 「少し、打ち合うか」
ドクオもまた、魔力で創り出した剣を構える。
魔力量の少ない彼が編み出した、ナインツ・ヘイブンに対抗するための剣。
僅かな魔力を糧に、硬化と再生の魔術を半永久的に発動し続けるそれは、
陽炎のようにその姿を一定に留めずに揺らめく。
(゚ー゚*下リ 「不安定な状態ですが……そんなもので受けられるのですかっ!」
フォールの振り下ろしは、甲高い音で弾かれた。
一瞬の驚きを極限まで抑えた彼女は、そのまま二撃目へと繋げる。
ドクオは首を狙った剣先を受け止めた。
235
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:09:49 ID:JZ..YL360
('A`) 「一秒前の俺よりも、今の方が強い。
魔術の可能性は無限だからな」
(゚ー゚*下リ 「認識を改める必要がありそうですね」
何十合と斬撃を重ねる二人。
お互いに一歩も引かず、目と鼻の先の距離で鎬を削る。
時折飛び散る魔力の欠片が、大地に浅く無い爪痕を残す。
(;'A`) 「っち……」
(゚ー゚*下リ 「ふふふ……」
('A`) 「正直、その底なし沼みたいな魔力が羨ましいよ」
(゚ー゚*下リ 「たったそれだけの魔力で、これほどの魔術を運用しているのは素直に尊敬していますよ。
それに、すぐさま新たな魔術を生み出せる知識と発想力。
私は他の魔術師とあったことはありませんが、簡単なことではないでしょう」
('A`) 「はっ……良く喋る……」
(゚ー゚*下リ 「これで、終わりです……ナインツ・ヘイブン!」
236
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:10:51 ID:JZ..YL360
重たい一撃をドクオが受けたのを確認し、距離をとる女性。
断絶と打ち合っていた七本の刃が女性の背に集まる。
手放した二刀と合わせて、後光の様に円形に浮いて配置された九つの剣。
「ローテイシオン」
高速で回転した魔力剣は、光輪となってフォールの背から放たれた。
('A`) 「がっ……」
ドクオが盾として生み出した断絶ごと、その胸を深々と切り裂いた。
人間がおよそ生きていられないほどの鮮血が飛び散り、ドクオは膝から崩れ落ちた。
(゚ー゚*下リ 「……やりすぎてしまいましたか」
('A`) 「痛ぇ……。とっさに再生魔術を自分にかけてなかったら、御陀仏だったな……」
(゚ー゚*下リ 「意識もあるのですか。全く、恐ろしい方ですね」
('A`) 「はは……褒められても嬉しくないな。だが、身体捌きは盗ませてもらった。
少なくとも俺が相対した中で最高レベルの剣術だ」
(゚ー゚*下リ 「魔術師とは本当に恐ろしい。同じ人間ではないんでしょうね」
237
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:11:27 ID:JZ..YL360
ナインツ・ヘイブンの内、八つをその身に仕舞った。
残った一つをドクオの傷口に向ける。
(゚ー゚*下リ 「リフドロップ」
('A`) 「魔力による強引な再生……普通の人間なら卒倒するぞ」
起き上がって座り込んだドクオ。
不健康そうな青白い顔はそのままに、身体中の傷は完全に治癒していた。
('A`) 「しかし、多彩な魔術を持ち合わせているんだな」
(゚ー゚*下リ 「ナインツ・ヘイブンの持ってる九つの魔術。
私が使えるのはそれだけです」
('A`) 「それが名前の由来か」
(゚ー゚*下リ 「さぁ、どうでしょう。私が受け継いだ時にはもう、
この剣に関する歴史などはほとんど失われていましたから」
('A`) 「輝龍クレシアが殺した九体の天使。
その身体から抉り出した光の魔力をもとにした剣」
238
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:14:21 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「それは本当の話なのですか?」
('A`) 「少なくとも、俺の知る限りは」
(゚ー゚*下リ 「なぜ龍が殺した天使が素材の武器を人間が扱っているのですか?」
('A`) 「文献上だと、輝龍クレシアは人間の男と恋に落ちた。
そして二人の間に生まれたのがエール・スノウ。初代の天剣使いだ」
(゚ー゚*下リ 「エールという名前は聞いたことがありますね」
('A`) 「龍は種族としての強者。子を為して繁栄することはできない。
その目に見えないルールを魔力で強引に破ったツケ。
天使達は輝龍クレシアとその娘の命を奪うために現れた」
(゚ー゚*下リ 「それを返り討ちにしたのですね……。一体どこから現れたのでしょうか」
('A`) 「わからない。ただ、戦場は熾烈を極めたらしい
環境が変わるほどに。そして再びの襲撃に備え、娘に天剣を残した」
(゚ー゚*下リ 「それが……ナインツ・ヘイブン」
('A`) 「九つの魔術は、それぞれの天使達が持っていた特有の魔術。
天剣の使用者はそれらを自由に扱うことができる」
239
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:15:18 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「ええ。ですが、逆に言うとそれらの九つの魔術しか使えません。
魔力を持っていたところで、私はただの人間なので」
('A`) 「その動きは十分に人間を超えているがな」
(゚ー゚*下リ 「お褒め戴き光栄です。
さて、そろそろ帰ります。あなたの目的は達成しましたよね」
('A`) 「待て。病気の件がまだだ」
(゚ー゚*下リ 「……私の病は人の身には過ぎたこの魔力が原因です。
本来であれば娘が生まれてすぐに引き継ぐべきだった天剣。
ですが、幼少時に膨大な魔力をその身に宿すことは、かなりの負担となるのです」
('A`) 「それが寿命を圧迫していると」
(゚ー゚*下リ 「私は娘にそのような思いをさせたくありませんでした。
ですので、未だに天剣の使い手たる資格を有しているのです。
彼女がもう少し育ってから、引継ぎを行います」
('A`) 「……嘘は言っていないんだな」
簡単な観測の魔術。
詠唱も無しに発動したそれは、瞬時にフォールの身体状況を調べる。
魔力の歪みが彼女の身体に対して与えている影響は、
想像以上に深刻なものだった。
240
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:15:53 ID:JZ..YL360
(゚ー゚*下リ 「断りも無く調べるなんて、失礼な方ですね」
('A`) 「すまん……」
(゚ー゚*下リ 「分かってくださったみたいなので、結構です」
('A`) 「今から天剣を取り除けば、少しでも……」
(゚ー゚*下リ 「天剣の受け入れ先は一人しかいません。
私が最も望まない答えです」
('A`) 「……」
(゚ー゚*下リ 「あなたに会うずっと前から決まっていたことです。そう気にしないでください。
むしろ感謝しているのです。私の研いた技を、彼女に伝えることができるのですから」
('A`) 「わかった。数年後、必ず約束を果たそう」
(゚ー゚*下リ 「ありがとうございます。それでは、そろそろお城に戻りますね」
('A`) 「あぁ」
241
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:16:32 ID:JZ..YL360
フォールは風にも劣らない速度で走り去った。
とても身体が悪くなっているとは思えない程に早く、
すぐにドクオの視界から消えた。
('A`) 「娘の名前も聞いておけばよかったな……。
まぁいい。次は……っと」
地図に書き込まれたリストの内、半数以上は横線によって埋められていた。
残る強者のほとんどは、話し合いにも応じてくれそうにない者ばかり。
先行きの不安を溜息と共に飲み込んで、重たい腰を上げた。
242
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:18:04 ID:JZ..YL360
>3
(-_-) 「誰だ……?」
砂漠の真ん中で、男は待っていた。
目印にしていた枯れ木は、強い日光を遮って大きな影を落とす。
上空から数十歩の距離のところに着地して、声をかけた。
('A`) 「初めまして、か。ヒッキー・ドレイク」
ドクオの接近に気づいていた男は、声を聞いてからゆっくりと顔をあげる。
(-_-) 「あぁ、よく見れば落ちこぼれルグ家の生き残りじゃないか。
どうだい、一族最後の魔術師になる気分は」
おちょくる様に短杖を振るって言葉を返す。
気にした風は無く、ドクオは続けた。
('A`) 「いいんだよ、ルグ家は俺で完成したんだから」
(-_-) 「随分と高い鼻だな」
('A`) 「お前こそ、随分と自惚れているようだな。
御先祖様の努力の結晶を何もせずに受け取っただけのくせに」
243
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:19:01 ID:JZ..YL360
ドクオの知っている限り、ヒッキー・ドレイクという男は自ら魔術を生み出したことは無い。
最大派閥のドレイク家で最も膨大な魔力を持つ彼は、
多くの有用な魔術を引き継いでいたからだ。
ルグ家のドクオとは違い、新たに魔術を生み出す必要がなかった。
(-_-) 「……魔術師にとって大事なのは魔力の量だ。
お前にはそれが圧倒的に足りていない。そんなこともわからないのか?」
それ故、彼は自身の才覚に絶対の自信を持っていた。
魔力量の多い者こそが、最も強い魔術師であると。
('A`) 「分かっていないのはお前さ。魔力の量なんて大した問題じゃない。
魔術は扱い方によってその性質を幾らでも変化させる」
(-_-) 「ムカつくやつだな。わざわざ俺を呼び出しておいて、したかったのはそんな説教か?
それともレタリアを使うことができない八つ当たりか」
('A`) 「あーそれだ。レタリアの権利、俺にくれないか?」
突然の話を理解できずに、ヒッキーの思考は完全に停止した。
この時もしドクオが攻撃魔術を同時に唱えていたら、一撃で昏倒させていたかもしれない。
244
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:19:34 ID:JZ..YL360
(-_-) 「は?」
間抜けな声を出して、漸く働きだした脳細胞で言葉の意味を再度吟味する。
結果、腹の底から湧き出てくる笑いをこらえることはできなかった。
(-_-) 「くっくくく……どうした? お前如きでもこの世界のために尽くそうという気があるのか。
だが、お前では戦いを生き残ることは出来ないだろうよ」
('A`) 「本当に与えられてばかりで何も知らないんだな」
(-_-) 「なんだと?」
('A`) 「過去、終末の戦いを生き残った魔術師は一人もいない」
ドクオの杖から魔力が流れ出て、細い線を描く。
それは、人の名前を表す文字になった。
魔術師の中では必須科目でもある終焉に関する知識のうち、
誰もが暗唱できるほど覚えている名前。
245
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:20:43 ID:JZ..YL360
それらは、かつて終焉を戦った魔術師達の名。
(-_-) 「そんなわけが」
('A`) 「ルグ家の役割を知らないのか」
(-_-) 「…………観測と、分析」
('A`) 「よく知っているじゃないか」
(-_-) 「だからどうした。俺が最初の一人になればいい」
('A`) 「お前には無理だ」
(-_-) 「言うのは勝手だが……喧嘩を売った代償は高くつくぞ」
ヒッキーが構えた短杖は膨大な魔力を纏う。
('A`) 「ったく、これだからプライドだけ高い奴は」
ドクオもまた長杖を構え、魔術を発動させていく。
距離を開けて並ぶ両者が杖に集めた魔力には、歴然とした差があった。
片や天変地異レベルの大魔術を発動できそうなほど大きく、
相対するもう一つは吹けば消えるほどに小さい。
246
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:21:20 ID:JZ..YL360
(-_-) 「はっ……可哀想に。そんなちっぽけな魔力で何ができる」
('A`) 「よかったな。ここで俺にレタリアを奪われてしまえば、お前は寿命まで長生きできるぞ」
(#-_-) 「糞が! 押し潰されて死ね! ロックエンド!」
砂漠から持ち上がった大量の砂に魔力が浸透し、
巨大な二枚の壁となってドクオの左右に立ち上がる。
空にまで届くほどの高い壁は、形成された瞬間に中心に向かって動く。
瞬く間に蟻一匹の生存すら許さないほど完全に閉じた。
('A`) 「無駄が多いって言ってんだろ」
砂の一枚板の中心部に無傷で立っているドクオは、
ヒッキーの大魔術が発動される前から一歩も動いていない。
人間一人分の大きさだけが不自然に砕かれた砂の壁。
(-_-) 「何をした……」
('A`) 「分からないからお前は二流なんだよ」
その一言はヒッキーを怒らせるのに十分すぎた。
膨大な魔力が砂の中に染み込んでいき、魔術としての形を得る。
247
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:21:49 ID:JZ..YL360
(-_-) 「サンドアクス」
砂で組み立てられた巨大な斧が三つ。
魔術によって圧縮された砂の重量は、同じ大きさの鉄塊すら凌ぐ。
それらが軽やかに舞い上がり、ドクオの身体目掛けて放たれた。
風切り音ですら大地を揺らすほど。
受ければ盾ごと引き裂かれるのは必然であった。
(#-_-) 「潰れろ! ゴミ!!」
('A`) 「……セパレイション」
ドクオの目前で斧は分解され、砂漠へと還った。
(-_-) 「なんで……だよ……」
('A`) 「お前、本当に何も知らないんだな」
(#-_-) 「糞がくそくそくそくそ!! もういい!
俺の前から消し去ってやる!」
248
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:22:20 ID:JZ..YL360
大気中に拡散した魔力の奔流がヒッキーの短杖へと流れ込み、
複雑な魔術を幾重にも組み上げていく。
同時発生した空間の歪みの中で加速し続ける魔術は、
光すらも飲み込む暗い穴となって砂漠そのものを吸い込んでいく。
('A`) 「馬鹿やろ……無茶しすぎだ……スライサ!」
ドクオの放った極薄の刃は、次元の歪みごと切り裂いて進む。
単調な風の魔術を何百回と重ねたそれは、
龍属の首すらも容易く削ぎ落すほどに鋭い。
ものの数秒でヒッキーの魔術の根幹に達し、それを破壊した。
(-_-) 「……」
('A`) 「レタリア、渡してもらえるか」
(-_-) 「ああ……」
自身の扱う最大威力の魔術すら容易に砕かれたヒッキーは、
呆けた表情で左腕の袖を捲った。
そこに記された印に右手の指をあて、魔力を込める。
指の動きに合わせて浮かび上がった印をドクオの腕に移した。
249
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:23:04 ID:JZ..YL360
(-_-) 「……一つだけ教えてくれ」
('A`) 「なんだ?」
(-_-) 「お前は何をしたんだ」
('A`) 「無駄が多いと言ったろ。考えればすぐにわかることだ。
確実に相手、もしくは自分に影響を及ぼす魔術にだけ魔力を込めればいい。
俺という魔術師一人を殺すのにこの砂漠を丸ごと消す必要なんて皆無だろ?」
(-_-) 「そんなものは机上の空論だ!
そうやって攻撃や防御にかける魔力を節約していれば、
想定外の一撃ですぐにでも戦闘不能に追い込まれる」
('A`) 「想定外なんてないんだよ。どんな変化をしようが、即時に対応する。
それが俺に許された唯一の戦い方だ」
(-_-) 「馬鹿げてる」
('A`) 「俺はそうは思わない。さて、目的は達成した。
殺すつもりは無いが、お前はどうする」
(-_-) 「……レタリアを失った俺がすごすごと帰れると思ってるのか」
('A`) 「知らん」
(-_-) 「っち……。どこにでもさっさと消えな」
('A`) 「そうさせてもらうさ。そろそろ計画も次の段階だ」
(-_-) 「お前、何をするつもりだ」
('A`) 「何って……終わらせるんだよ。この胡散臭い戦いをな」
250
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:23:35 ID:JZ..YL360
・・・・・・
251
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:25:07 ID:JZ..YL360
読んでくださった方、有難うございました。
今日はここまでの予定です。
レスが励みになります。
あと二回くらいで終わると思いますので、それまでどうぞお付き合いください。
252
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 17:40:35 ID:SDticvYA0
再開してたか乙乙
253
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 19:56:40 ID:ysZ8awxc0
おつ
素直に面白い
254
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 21:19:58 ID:jk1t.2Ac0
おつー
255
:
名無しさん
:2018/04/24(火) 21:39:45 ID:1qelsSZc0
おt
256
:
名無しさん
:2018/04/25(水) 19:19:34 ID:/7XdDRWs0
>>1
の杖とか錆びた剣とかこういうことだったのか……
めっちゃ続き気になる
257
:
名無しさん
:2018/04/27(金) 17:44:12 ID:L0fb2YPY0
おもしろい
早く続きを
258
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:54:01 ID:7X8WUdNc0
>1
約束の丘。
レタリアの魔術が導く戦いの場。
集まった英雄達は最大限の力を発揮できるように、
それぞれが最終調整をしていた。
('A`) 「五人か」
【+ 】ゞ゚) 「そのようですね」
( ФωФ) 「不足はあるまい。最も少ないときで四人、多いときで八人であった。
っと、来客だな」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「あら、どうやら私が一番最後のようですね」
決戦を翌日と定めた最後の日、その女性は現れた。
結界を破り、優雅な足取りで五人の元に。
長く美しい蒼色の髪と、戦闘には不向きな白いワンピース。
左右の腕に嵌めた腕輪は、女性の持つ強い魔力に反応して七色に輝いていた。
突然の訪問に膨れ上がる緊張感。
女性の正体にドクオが気付き、警戒を解くように軽く手を動かした。
('A`) 「いろいろと考えが合ってな。少し早めにレタリアを発動させてもらったんだ。
あんたは……いや、見ればわかるな。アマザイの一族だろう?」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「星霜のフロストといいます。アマザイの一族から手助けに参りました」
259
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:54:34 ID:7X8WUdNc0
川 ゚ -゚) 「ドクオ。アマザイとはなんだ」
('A`) 「過去の文献にもわりと残っている名前だ。天候を操る一族。
どこに住んでいるのかわからないから、俺は最後まで見つけられなかったがな」
( ФωФ) 「前回のドロップ、そして私が初めて戦ったときにいたヘイル。
どちらもかなりの実力者であったな」
( ・∀・) 「これで六人。あと一人か……」
('A`) 「発現したレタリアは七通。だけど必ずしも全員集まるとは限らない。
恐らくこのメンバーで戦うことになるだろうな」
【+ 】ゞ゚) 「十分すぎる戦力のように思えますが」
('A`) 「終焉のその先は何が出て来るか、まったく予想もつかない。
各自万全の態勢を整えておいてくれ。フロストと言ったな。
一つ説明しておくことがある」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「なんですか?」
('A`) 「レタリアの内容は確認してるんだよな」
260
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:55:14 ID:7X8WUdNc0
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ええ」
('A`) 「俺たちは、終焉そのものを終わらせようと思う」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「終焉そのもの?」
('A`) 「五百年に一度という決まった周期で訪れる終焉。
何者かの意思が関わっていることは明白だ。その何者かを殺すことが最終目標だ」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「……見当はついているのですか?」
('A`) 「恐らくその敵がいるであろう空間に接続するための魔術はある。
どのような敵が現れるかわからないが……。
もし望まないのであれば、終焉の敵を倒した後に離れてくれても構わない」
フロストは少しだけ考え、その手をドクオに向けて差し出した。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「私程度でよろしければ、お力添えをいたします」
そのか細い腕を握り返し、ドクオは頷いた。
('A`) 「未来の世代のために」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ええ」
('A`) 「ちなみに、ここにいるほかのみんなも賛同してくれている。
俺の調べた限り、過去の英雄たちをはるかに上回る戦力だ」
261
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:55:45 ID:7X8WUdNc0
( ФωФ) 「今の説明で納得ができるのか」
怪訝そうに眉を顰めるロマネスク。
命を懸ける選択に対して、軽すぎる決断。
フロストはその問いに笑顔で答えた。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「私にとっては十分な説明でございました。
まだ見ぬ未来をより良くする。今の私たちにできる精一杯のことでございましょう?」
( ФωФ) 「まぁいい。他の者も聞くべきことがあれば今のうちに聞いておけよ。
明日になってからでは間に合わん」
【+ 】ゞ゚) 「そうですねぇ、それなら一つ。聞いておきたいことがあるのですが」
('A`) 「なんだ?」
【+ 】ゞ゚) 「お子さんの名前は決めたのですか?」
(;'A`) 「っ!? はぁっ?」
予想だにしない質問で思わず噴き出したドクオ。
冷静を装うことすらできていなかった。
262
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:56:42 ID:7X8WUdNc0
( ФωФ) 「確かに、気になっていたことだな」
クールは我関せず、二つの棒きれで天剣をイメージしながら体を動かしていた。
助け舟を出すつもりは無いと気付いたドクオは溜息を一つ。
('A`) 「気づいていたのか」
【+ 】ゞ゚) 「気づいてないと思っていましたか」
('A`) 「いや、魔力の痕跡でいずれバレるとは思ってたよ。
まさか今日聞かれるとは思ってなかったけど」
( ФωФ) 「全く、前代未聞であるな。
これから最終決戦に赴く二人が色恋沙汰の関係にあるなど」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「へぇー、そういう事ですか」
事情が呑み込めたフロストも茶化すように話に乗る。
( ФωФ) 「どちらが決めたんだ」
('A`) 「クールだ」
【+ 】ゞ゚) 「それで、何という名前なのですか」
263
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:57:06 ID:7X8WUdNc0
川 ゚ -゚) 「キュート」
それまで沈黙を保ってきたクールが口を開いた。
消え入りそうなほど小さいが、芯のはっきりとした声で。
264
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:57:45 ID:7X8WUdNc0
【+ 】ゞ゚) 「いい名前じゃないですか」
川 ゚ -゚) 「当たり前だ」
('A`) 「俺もそう思う。きっと君に似て可愛くなる」
川 ゚ -゚) 「お前に似て賢くなればいいがな」
( ・∀・) 「っち……緊張感のない」
【+ 】ゞ゚) 「御二人とも、もう親バカ全力ですか」
( ФωФ) 「この戦いを生き残ることができてこそだ。
激しい戦闘になると思うが、そこらへんは大丈夫なのだろう?」
('A`) 「時間停止の魔術と、空間防護の魔術の二重掛けだ。
子供を危険に曝すわけにはいかないからな」
川 ゚ -゚) 「……最悪、私が死んだとしてもこの子は生まれることができる様にしている。
二人で決めたことだ。万全を期しておこうとな」
( ・∀・) 「……そんなことには……させない。
親がいない苦しみは……わかってるつもりだ」
265
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:58:31 ID:7X8WUdNc0
('A`) 「ああ。……明日、か」
川 ゚ -゚) 「今更、怖気ついたわけでもないだろ」
('A`) 「これで世界が変わる。そう思えば、少しな」
( ФωФ) 「そう大きなことではない。失敗したところで、今まで通り戦う者が現れる」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「五百年に一度……。
少なくとも今の私は生きてはいないでしょうから、想像すらできません」
川 ゚ -゚) 「だが、今よりも確実に良くなる。そう信じているからこそこの命を懸ける」
( ・∀・) 「そうだね」
('A`) 「遂に明日だ。みんな、覚悟を決めてくれ」
ドクオの発破にそれぞれが応え、会話は途切れた。
翌日に起こり得る全ての最悪を想定し、あらゆる対策を講じる六人の英雄。
陽が落ちて少したってから、彼らは眠りについた。
266
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:59:23 ID:7X8WUdNc0
早朝、世代最強の英雄たちは空にあいた大穴を見上げていた。
それは、何の前触れもなく現れた異空間への扉。
強大で邪な魔力の氾濫に、正面から立ち向かう。
各々は互いに確認をせずに戦闘態勢をとった。
モララーが龍化を行い、龍技を発動した。
全身強化の支援術式を許容範囲の上限に設定し、敵を待つ。
クールは九つの天剣を全て展開し、魔力を纏わせた。
全てを貫く矛であり、あらゆるものを遮る盾となる剣の切っ先を天に向ける。
ドクオが腕を持ち上げただけで、あらゆる場所に魔術が現れた。
ただの一つですら世界を揺るがすほどに強力無比な攻撃魔術を、幾つも仕掛ける。
オサムの呪術は彼の全身を覆い、刺々しい黒色の鎧を作り出す。
二回りも大きくなった彼が構えたのは、赤黒い刃を持つ呪術の鎌。
ロマネスクは両手を広げ、周囲の精霊たちに呼び掛ける。
精霊術師である彼に応えるために、空気の、そして大地の精霊たちが集う。
フロストの一族だけが保有する魔術、アマザイに生み出された氷の彫像。
巨大な槍を構え、馬に跨った二体の騎士は彼女の両脇を護る。
267
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 14:59:43 ID:7X8WUdNc0
遂に異空間より、禍を為す獣が産み落とされた。
.
268
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:00:18 ID:7X8WUdNc0
>2
(メ'A`) 「……みんな、生きてるか」
川 ゚ -゚) 「何ら問題はない」
最初に応えたのは、ドクオの隣に立っていた女性。
長かった黒髪は首元で不揃いに切られており、両腕には大きな傷跡が消えずに残っている。
それでも、背にしたナインツ・ヘイブンは未だ強く光り輝く。
( ФωФ) 「久しぶりに死にかけたな」
ロマネスクは左腕の根元を抑えながら立ち上がった。
肩から先を失った傷口は、ゆっくりと再生している
( ・∀・) 「っててて……自爆かよ。勘弁してほしいよ、ほんと」
瓦礫の中から起き上がった巨大な龍。
周囲の大地が消滅するほどの衝撃の中心部に居たにもかかわらず、
ほぼ無傷のその身体は、龍属の特性を遺憾なく発揮していた。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「驚かされましたね」
【+ 】ゞ゚) 「助かりました」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「いえいえ。不死のあなたには余計なお世話だったのかもしれませんが」
269
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:01:08 ID:7X8WUdNc0
【+ 】ゞ゚) 「死なないのにも限度がありますから」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「それはよかったです」
表面が波打つ半透明の球体の中に無傷で立っているオサムとフロスト。
防御行動のために消費した精神力が疲労となり、二人は肩で息をする。
('A`) 「これで、作戦の第一段階は終了だ」
( ФωФ) 「ここまでは今までと同じだ。そして、概ね予定通りでもある」
【+ 】ゞ゚) 「さて、では……」
宝石の砕けてしまった指輪を替えながら、オサムは二つの呪術を発動させた。
一つは消費してしまった命を補充する不死の呪術。
オサムにとっては生命線となる最も重要なものである。
二つ目は呪術の発動に必要な呪力痕の作成。
彼が胸元から取り出した宝石を一つ砕くごとに、身体中の肌に余すところなく刻まれていく黒い斑紋。
魔力と異なり、発動の為に必要な呪力はすぐに引き出すことが難しい。
故にオサムはその身にあらかじめ呪力そのものを封じることで、
本来呪術師が苦手とする激しい戦闘にすら介入することができる。
270
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:01:48 ID:7X8WUdNc0
【+ 】ゞ゚) 「いつでもいいですよ」
川 ゚ -゚) 「ドクオ」
('A`) 「わかってるさ。まずはこの世界を護る魔法だ。
これから起こる激しい戦いに耐えられるようにな。
ゴッドブレス!」
杖から放出された透明な魔術は、遥か上空まで立ち昇ってドーム状に拡がっていく。
半径数百キロを覆う無色の防護膜。
威力という概念を減衰させる、ドクオの考え出した最高級の防御魔術。
同じ魔術で生み出した灰色ローブを自身も纏い、
懐から四つの供物を取り出した。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「何が出て来るでしょうね」
( ・∀・) 「フロストは何も準備しなくていいの?」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ええ、私のアマザイはいつでもどこでもどんなことでも対応できますから」
フロストの周囲で弾ける冷気。
人間の掌よりも小さな塊が、龍属であるモララーにすら寒気を感じさせた。
( ・∀・) 「確かに、怖いね」
271
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:02:36 ID:7X8WUdNc0
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「そういうあなたこそ龍技は利用しないので?」
( ・∀・) 「戦いが始まってからで十分間に合う」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「……そうですね」
('A`) 「お喋りは終わりだ」
ドクオの掲げた杖が、空に四つの魔術陣を描く。
少し遅れて噴き出した魔力が四つそれぞれに注がれて、空間転送魔術を起動する。
その穴から引き出されてきたのは、いずれも最高位の魔術素材。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「これは……凄い力ですね」
('A`) 「レタリアを発動させるまで遊んでいたわけじゃないんだ。
どうやったら効率よく、かつ長いこと虚ろへとこの世界を繋げておくか。
俺が考えていたのはそれだ」
川 ゚ -゚) 「全く、恐ろしいほどに勉強熱心な奴だ。
自身のスキルアップだけに飽き足らず、そんなことまで考えていたのだからな。
だが、それでこそ私が愛したドクオだ」
( ФωФ) 「最終決戦。それも、この世界の行く末を決めるものだ。
よくもまぁ、それ程平常心でいられる。人間の図太さには感心すらするな。
そこの龍も少しは見習えばいい」
272
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:04:13 ID:7X8WUdNc0
(; ・∀・) 「っ! 余計なお世話だ」
鼻息荒く反論するモララー。
そんな彼の意思に反して、大地を掴んでいた四つ足は少しばかり震えていた。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「怖気づいたのですか?」
( ・∀・) 「何が出て来るのか全く予想できないんだ。みんな平然としている方がどうかしてる」
( ФωФ) 「五回も乗り越えれば心が鈍ってしまったというのもあるが……。
災厄は五度も私を殺すことは叶わなんだ。
今更、どんな敵がいたところで殺される気はしない。
お前とてそうだろう。龍王」
( ・∀・) 「……そうだ、そうだ。……わかっている。
龍属の歴史の中で最も強い龍王。誰も僕を殺せるはずがない」
少年はいつの間にか震えが止まっていることに気付いた。
老樹の言葉と、全身を巡るの魔力の力強さを感じながら、ドクオの魔術を見守る。
('A`) 「地獄の焔、黄泉の風、冥府の海、深淵の泥……」
言霊によって四つの魔術が発現した。
それぞれがお互いを喰らうかのように暴れる。
そのどれもが術者を殺してしまいかねない程の魔術でありながら、
ドクオは容易く完全なコントロール下に置く。
273
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:04:55 ID:7X8WUdNc0
('A`) 「っ……」
ゆっくりと回転を始めた四つの魔術。
ロマネスクの前で実演してみせたものよりも数百倍は巨大な黒球。
四大元素は均等に混じり合い、反発を繰り返す。
高速回転することで押し潰され、円盤状へとその姿を変えた。
('A`) 「準備はいいな。もう引き戻せないぞ」
( ・∀・) 「任せてくれ。どんな巨大な敵が現れたって僕が立ち向かう」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「アマザイはどのような相手に対しても必殺の攻撃手段がございます。
安心して任せてください」
川 ゚ -゚) 「天剣に切り裂けないものは無く、防げないものは無い。
神の尖兵が有する地上最強の魔術だ」
【+ 】ゞ゚) 「呪術の極致は戦わずに殺すことです。
もしも大群が現れるようでしたら私が対応しましょう」
( ФωФ) 「万事問題無し。神と呼ばれた精霊使いの力、存分に振るおう」
('A`) 「開け、虚ろの扉。ミスティルティン!」
.
274
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:07:19 ID:7X8WUdNc0
四大属性の最高魔術から生み出した扉の魔術は、
この世ならざる世界と繋がれた。
モララーがゆうに通れるほど拡がった暗き穴の底から溢れ出す混沌の魔力。
先程屠ったはずの神と同質でありながら、さらに濃く澱んでいる。
('A`) 「っ!」
穴の底にゆっくりと露わになった光。
それはあまりにも大きすぎる瞳。
(; ・∀・) 「でか……い……」
(<●>) 「「私の名前はオルフェウス。原初の純術師にしてこの世界の神である」」
問いかけは声ではなく魔力の波長として放たれた。
意識を揺さぶるかのような重たい言葉は、六人の胸の奥にまで届く。
(<●>) 「「一体、何用かね」」
( ФωФ) 「貴様がこの終焉の戦いを起こしていた原因だな?」
(<●>) 「「ほう、また生き残ったのか……。素晴らしい。
だが、ただの宴程度でそう騒ぎ立てる事でも無かろう」」
川#゚ -゚) 「ふざけ
275
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:07:40 ID:rt1Nb5fY0
ドクオとクーの子供だったか
276
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:08:19 ID:7X8WUdNc0
川#゚ -゚) 「ふざけるな! あれが宴だと!」
(<●>) 「「無論」」
【+ 】ゞ゚) 「あなたが何者かはわかりませんが、
終焉を引き起こしているのなら対処させていただきます」
(<●>) 「「対処。対処とは。全く愚かなことだ」」
( ФωФ) 「ふむ、随分と上から目線だな」
(<●>) 「「憐れな。自らの小さな世界の中に閉じこもっていればいいものを」」
('A`) 「偉ぶっているところ悪いが、同じ足場に降りてきてもらおうか」
(<●>) 「「なに?」」
('A`) 「拡大しろ、虚ろの扉。神の座から奴を引きずり落とせ!」
ドクオの杖から複雑な魔術がミスティルティンに注ぎ込まれた。
暗黒の空間が夜空と見紛うほどに拡がる。
その中から地上に落ちてきたのは、この世界には存在し得ない化け物。
277
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:09:05 ID:7X8WUdNc0
巨大な一つ目が縦に埋め込まれた濃紺の身体。
ブヨブヨとした表面から幾条もの触手が揺らめき、
殊更に太い四本を足として立っていた。
(<●>) 「「……この私を引き寄せるとは、余程世界と共に滅びたいようだな。
神の姿を一目見たいという、
矮小なる生物としての願いだけであれば赦してやったものを」」
('A`) 「生憎、遊び感覚で世界に干渉するような奴を神だと崇める趣味は無い」
(<●>) 「「それでこの私に負けるべくして戦いを挑むと。理解できんな。
五百年後には貴様らもその周囲もほとんど生きてはいまい」」
( ・∀・) 「この世界の安寧の為に、不必要な神を殺しに来たんだ」
(<●>) 「「確かに、大口を叩くだけの実力はある。
過去の戦いでも全員がほぼ無傷なのは見たことがない」」
( ФωФ) 「お前を殺す為だけに集められたんだ。当然だろう」
(<●>) 「「当然? おかしなことを言う」」
ただ無機質な音であった声に、初めて感情が込められた。
押し殺したかのような嘲笑が漏れる。
278
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:10:09 ID:7X8WUdNc0
川 ゚ -゚) 「何がおかしい」
(<●>) 「「どうせ死ぬのだからな。おまえたちの過ちを教えてやろう。
終焉を戦い抜くことが出来れば、世界は救われると」」
('A`) 「何も間違ってはいないだろう。少なくとも七回、三千五百年はこの世界が存続している」
(<●>) 「「では、その前は」」
('A`) 「俺の知る資料にある限りは……」
(<●>) 「「過去どれだけの戦いが行われてきたのか、知らぬのか。
では教えてやろう。千と三十一回。終焉はこの世界に訪れている。
果たしてそれだけの資料とやらがあるのか」」
(;'A`) 「まさか…………」
(<●>) 「「そうだ魔術師。この世界はすでに何度も滅びているのだよ」」
(#ФωФ) 「馬鹿な! 私が生まれる千年前がこの世界の始まりだったと? ありえない!」
(<●>) 「「いいやあり得る。この私が世界を再生させるときは、
決まってある一定の文明水準にするからだ。
でなければ、強者が育つのを待たねばならいだろう」」
279
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:10:51 ID:7X8WUdNc0
【+ 】ゞ゚) 「壊すために創っているということですか……」
(<●>) 「「壊す為ではない。たまたま英雄が不作だったときに壊れてしまうだけだ。
そうやって進んでは戻る世界をただ観測をしているだけに過ぎない。
私自身が干渉するときはいつも、世界を再生させるときだけだ。
むしろ感謝してほしいものだな」」
川 ゚ -゚) 「お前の話はわかった。だから今すぐ死ね」
(<●>) 「「血気盛んなお嬢さんだ。だが激しい運動は胎内の子供に良くないのではないか」」
川;゚ -゚) 「ッ!?」
(<●>) 「「なぜ知っているという顔をしたな。当然だろう。私は神なのだから。
お前たちが土足で踏み込んできた神の座から世界を見守ってきたのだ」」
( ・∀・) 「災厄をけしかけて見守って来ただと? そんな保護ならお断りだ」
(<●>) 「「話が逸れてしまったな。お前たちの過ちは一つ。
その卑屈なる身にて、神に挑むという大罪を犯した。罪は贖われなければならない。
この世界の命と共に」」
【+ 】ゞ゚) 「神、神とうるさいですね。神というほどの力は持っていないでしょうに。
少なくとも、今この場にいる私たちを一瞬で消滅させてしまうようなことは出来ないようですし」
280
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:11:19 ID:7X8WUdNc0
(<●>) 「「そうか、言い忘れていたな」」
【+ 】ゞ゚) 「なんでしょう?」
(<●>) 「「五百年に一度の終焉のシステムは当然私が作った」」
( ФωФ) 「だからなんだというのだ」
(<●>) 「「都合よく強者だけに呼びかける魔術が出来たのは、最初の一回目だ。
それから世界が滅んでも、永遠と受け継がれている。なぜだかわかるか?」」
(;'A`) 「まさか……」
(<●>) 「「レタリアという魔術を生み出したのも当然、私だからだ」」
【+ 】ゞ゚) 「な……っ……か……」
(<●>) 「「全く愚かな。不死とは神にのみ許された現象だ」」
オサムの胸を貫いた氷の槍。
傷口から広がった凍結魔術はその全身を覆いつくし、
彼の命であった呪術の宝玉は全て一瞬で砕かれた。
その瞳から力は失われ、だらしなく下がった両腕はピクリとも動かない。
281
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:11:55 ID:7X8WUdNc0
(; ・∀・) 「なっ! 何を……っ」
それ以上言葉を続けることは叶わなかった。
大地に落ちた巨大な塊の持つ二つの光は、数秒と経たずに失われ、、
鋭利な刃で分断されたもう一つの塊は、
滝のように零れ出てきた血みどろの中に沈む。
(; ФωФ) 「オサム! モララー! っ貴様!! 穿て!」
命じられた大気の精霊が撃ちだした超高圧の空気弾。
一直線に女の身体を貫いた・
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ふふっ……」
数十メートルも吹き飛ばされた女性は、何事もなかったかのように立ち上がった。
傷口から溢れ出てきたのは血液ではなく、透き通った水。
(<●>) 「「さて、どうする。これで残るは三人だ」」
(;'A`) 「くそっ……。問題は……無い。お前らを殺せばいいだけだ」
(<●>) 「「この期に及んでまだ諦めないのか。
いいだろう。たまには直接遊んでやるのも悪くはない。
我が名はオルフェウス。この世界の神なり」」
282
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:14:32 ID:7X8WUdNc0
>2
(<●>) 「「よく戦った」」
(;メA`) 「はっ……はっ……」
魔力で補強した身体で辛うじて立っているだけのドクオ。
未だ無傷の怪物がその一つ目で見下ろしていた。
(メA`) 「ロマネスク……クール……」
背後に仰向けに倒れたまま動かないロマネスク。
精霊術による加護を解かれ、人間としての姿を失っていた。
川;゚ -゚) 「ドクオ……私はまだ……戦える」
フロストの胸に突き立てたままの天剣を杖に寄りかかるクール。
全身の至る所に凍傷と裂傷が刻まれながらも、気丈に振る舞う。
彼女が誇っていたはずの比類なき魔力も、大半が失われていた。
戦場となった大地に過去の面影はない。
空すらも舞い上がった砂塵に埋め尽くされ、生きるものも存在しない世界。
283
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:15:49 ID:7X8WUdNc0
(<●>) 「「守るもののない世界で、よくぞ戦った」」
ドクオが入念に用意していた世界を護るための魔術は、ものの十数分で完全に崩壊した。
彼自身が戦闘に専念しなければならず、
想定を上回るオルフェウスの力があったために維持が出来なかったのだ。。
(<●>) 「「我が称賛を受けたことを誇りに、眠れ」」
(メA`) 「いや、これで……二対一だろ」
ドクオの横に並び立つクール。
満身創痍でありながら、どちらの瞳からも希望は消えていなかった。
(<●>) 「「諦めずに戦う心は美徳ではない。
お前たちを殺して、私は世界を作り変える」」
川 ゚ -゚) 「今この場でできないってことは、
お前を殺して私たちのどちらか神の座にたどり着けばいいと解釈できるが?」
(<●>) 「「……少し話しすぎたか。冥途の土産にしろ。最も天国も地獄も存在しないがな」」
(メA`) 「クール、少し時間を稼いでくれ」
川 ゚ -゚) 「あぁ」
単身で化け物の足元に飛び込むクール。
九つの天剣が光り輝き、彼女を撃退しようと迫った触手を一蹴した。
284
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:16:50 ID:7X8WUdNc0
(;メA`) 「頼む……急げ……」
掲げた長い杖に保存していた魔術を解き放つ。
最終決戦においてドクオが考えていた魔術は、ほとんどがオルフェウスには通用しなかった。
最後の一つは保険であり、この期に及んでも使うことを躊躇うほどの破格の性質を持つ。
オルフェウスの身体から生える触手は、それぞれが全く異なる属性の魔術を扱う。
天剣で臨機応変に対応するクールではあったが、その手数に押され始めていた。
川;゚ -゚) 「……っ! リバーサル! ローテイシオン!」
二つの光剣が反転の魔術によって触手を弾き、
二つが回転して光輪となり、オルフェウスの身体を削った。
(<●>) 「「天剣、捉えたり。さて、残るは七本」」
川;゚ -゚) 「なっ……!」
液体のようなその身体の中で、天剣は徐々にその魔力を吸い取られて動かなくなった。
川 ゚ -゚) 「くそっ……! だったら……! ホライズン!」
魔力の斬撃は、クールの目前にある全てを横一直線に切り裂いた。
285
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:17:24 ID:7X8WUdNc0
(<●>) 「「見事だ……だが……足りぬな。今のおまえの魔力では私には届かない」」
重ねた触手は硬化し、盾となって阻む。
その八割ほどの質量を消滅させたところで、斬撃は露と消えた。
川;゚ -゚) 「ぐっ……っ……」
(<●>) 「「……なんだそれは?」」
瞳が驚きで見開く。
魔術師としては過去最少量の魔力で戦っていたはずのドクオの元に、
クールの全力すらも凌ぐほどの魔力が集積していた。
その奔流は、今もなお秒単位で増加していく。
(メA`) 「こいつは一度発動すれば俺でもコントロールできない。
クール、後は任せたぞ」
川;゚ -゚) 「ドクオ!」
(メA`) 「キュートと世界を頼んだ」
(<●>) 「「貴様ぁぁ!!」」
巨大な眼球へと収束した魔力が、ドクオの胸に迫った。
音速を超える光線は、クールの天剣によって遮られた。
286
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:18:21 ID:7X8WUdNc0
(メA`) 「消えろ。クィンタ・エッセンチア」
射線上に存在するすべての法則を飲み込みながら、オルフェウスに直撃した。
表面の防護障壁を蒸発させ、魔力で形成された触手を焼き切っていく。
魔力の束は拡大を続け、その巨体すらも完全に飲み込んだ。
それでも尚、ドクオは手を緩めることなく魔術を編み続ける。
消費されるよりも速く増加する魔力は、もはやドクオには制御しきれなかった。
魔力は彼の周囲で、大地や大気を刻むかのように荒々しく吹き荒れた。
(メA`) 「まだだ……まだ……!」
終わることの無い魔術砲は空間ごと削り取り、
その中心に存在していたオルフェウスの魔力は既に見えない。
川 ゚ -゚) 「ドクオ! もう充分だ!」
(メA`) 「クール……頼みがある」
川 ゚ -゚) 「っ!」
('A`) 「俺を……殺せ……」
川;゚ -゚) 「なんでっ!?」
287
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:18:55 ID:7X8WUdNc0
(メA`) 「この魔術の核は俺だ。俺が死なない限り、終わることはない。
止めなければ……お前を巻き込んでしまう」
川 ゚ -゚) 「っでも……!」
(メA`) 「お前まで死んだら本当に終わりだ。
俺を殺した後は、神の座に向かえ。きっとそこには全てがある」
川 ゚ -゚) 「っ……! どうしようもないのか……」
(メA`) 「頼む」
さらに膨れ上がった魔力は、空に向かって伸び始めた。
目的の無い力の流れは、ドクオの開いた虚空の扉を端から侵食していく。
川 ゚ -゚) 「……わかった。必ずすべてを元に戻す。待っててくれ」
天剣の切っ先をドクオに向ける。
荒れ狂う魔力の渦の中心にいる魔術師に狙いを定め、剣を振り上げた瞬間。
(<●>) 「「これで終わりか」」
.
288
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:19:31 ID:7X8WUdNc0
(メA`) 「がっ……!」
魔術砲を断ち切ったのは、クールの斬撃ではなかった。
ドクオの胸に深々と突き刺さった黒い棘。
魔術が途切れた瞬間から次々と飛来する攻撃を、クールは天剣で必死にさばく。
川;゚ -゚) 「なっ……」
ドクオにだけ放たれていた槍は、突如目標を分散させた。
胸と腕、そして足に攻撃を受けたクールは、ゆっくりと倒れこむ。
天剣は彼女からの魔力供給を断たれ、彼女の中へと還った。
(メA`) 「クール!!」
(<●>) 「「真に見事だ。私をここまで追い詰めるとは……」」
(メA`) 「てめぇ……」
半身を失ったオルフェウスであったが、その揺らぎ無い魔力は健在。
(<●>) 「「とどめを刺すまでも無い。おまえたちが死んだ後にゆっくりと世界を書き換えよう」」
(メA`) 「クール! しっかりしろ!」
289
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:19:59 ID:7X8WUdNc0
自身も腹部を深紅に染めながら、倒れた女性を抱き起す。
殆ど開かない瞼を震わせながら、クールは血に汚れた腕でドクオの頬に触れた。
川 ゚ -゚) 「……あぁ……」
(メA`) 「くそっ……」
(<●>) 「「最期に一つだけ教えてやろう。
神の座のシステム起動条件は、この世界の知的生命体の全滅だ。
私は還り、おまえたちが死んだ瞬間に、再構成を始めるとしよう」」
(メA`) 「待て!」
(<●>) 「「もう二度と会うこともあるまい、弱き者どもよ」」
オルフェウスはドクオが開けたままにしていた虚ろの扉に消えた。
致命傷を受けたクールには、癒すための魔力も残っておらず、
彼女の深い傷を治すだけの知識はドクオには無かった。
(メA`) 「くそ……」
ドクオの手元で増幅し続けて暴走状態に陥った魔力は、もはや暴発寸前。
一刻の猶予も無い。
川 - ) 「ドクオ……キュートを……キュートだけでも……」
(メA`) 「っ!」
290
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:20:28 ID:rt1Nb5fY0
バッグベアードみたいな見た目と解釈していいのかな
291
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:21:19 ID:7X8WUdNc0
手の中で失われゆく命の重み。
彼女の最期の願いを叶えるためにだけに、ドクオが即座に考え出したのは禁断の魔術。
極限の集中状態から娘の最大限の幸せを願うために発動した術を、
膨大な魔力と共に杖に閉じ込めた。
(メA`) 「クール……」
苦しみに満ちた表情の亡骸を横たえ、幾つかの術を唱える。
周囲に漂っていた微かな魔力を利用して、小さな世界を作り出した。
荒涼とした大地の乾燥した空気と強い日差しを遮る薄い被膜と、
穏やかな緑が生い茂った大地を。
共に戦った仲間たちに墓標を捧げ、箱庭を完成させた。
ロマネスクには精霊の宿る樹を。
オサムには十字架を。
クールには剣を。
モララーには牙を。
四方へと配置し、墓標となる剣の横に愛した女性を埋めた。
何十年先に生まれるはずの娘に残した贈り物が込められた長杖を掴み、
渾身の力で暴走しつつある魔力を上空へと打ち出した。
292
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:21:54 ID:7X8WUdNc0
大地を映したかのような赤黒い空の中心に魔力の塊が届いた時、
ドクオは自らの命を絶った。
支配から解放された魔力は音も無く爆発し、
無数の流星となって世界中に降り注いだ。
誰も見ることの無かった流星群は、数十年もの間夜通し輝き続けた。
293
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:22:26 ID:7X8WUdNc0
・・・・・・
294
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:23:46 ID:7X8WUdNc0
今日はここまでです。読んでくださった方は有難うございました。
GW中に、残りを投下させていただこうと思いますので、よろしくお願いします。
295
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:25:24 ID:rt1Nb5fY0
おつおつ
296
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 15:36:28 ID:BN6QjXKw0
おもしろいなあ
乙
297
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 20:10:54 ID:Xs/JBnW60
キュートは一体どうなるだろう…
298
:
名無しさん
:2018/04/30(月) 22:02:44 ID:NUKsZKYI0
アマザイはなんだったんだ
299
:
名無しさん
:2018/05/01(火) 10:40:12 ID:XrLy0sLg0
オサムとモララーに害を成したり体液が水だったりしてるからフロストはオルフェウスの人形だったんだろうな
ドクオもアマザイには会えてないから偽物が紛れ込んでも気付けないし
下手するとアマザイ族自体が元々神側の傀儡みたいなもので、終焉を盛り上げるサクラ+不測の事態への保険だった可能性すらある
元凶の討伐にすんなり同意したのも保険としての役割を果たすために残る必要があったから、と考えると納得しやすい
まあ全部推測だけども
300
:
名無しさん
:2018/05/01(火) 13:45:50 ID:KCNiHLpM0
英雄たん
301
:
名無しさん
:2018/05/01(火) 22:32:05 ID:PjmzASkA0
アマザイは謎だな
過去にロマと共闘してる以外に情報が無い
302
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:07:15 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「っ!!!」
崩れゆく大地に飲み込まれて宙を浮かぶ身体。
咄嗟に振るった長杖を伝わって発動した魔術は、
少女の身体を空中に固定した。
崩壊し続ける大地に対して、もう一度杖を振るう。
明確な意志と目的をもって。
少女の放った魔術によって空間は安定を取り戻し、再び静かな世界が訪れた。
o川*゚ー゚)o 「これが……私の力……」
ほぼ元通りになった閉ざされた箱庭。彼女は知っていた。
荒涼とした世界から遮られたその場所は、自身の為だけに作られた空間であることを。
o川*゚ー゚)o 「ロマネスクさん、オサムさん、モララーさん……パパ、ママ……」
枯れた樹も、煤けた十字架も、折れた剣も、砕けた牙も、力尽きた屍も。
彼女は知った。知ってしまった。墓の持つ意味と、墓が無い者の存在を。
o川* ー )o 「星霜フロスト……!」
忌むべきその名を口にして、心に刻む。
303
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:08:48 ID:f6Jc0GS60
べきその名を口にして、心に刻む。
青色の長い髪から常に滴り落ちる水。
晴れの日でも乾くことの無い濡れた姿の女性。
記憶に刻み込まれた彼女は、いつも笑みを浮かべていた。
その裏切り者の姿形を、脳裏に焼き付けておく。
魔力を込め、長杖の底を地面に打ち付ける。
放射状の魔力が静謐な世界を震わす。
o川*゚ー゚)o 「パパ……ママ……」
全てを知った彼女は、杖を一際強く握った。
o川*゚ー゚)o 「私は……」
形見と呼ぶべき杖に込められた魔術。
それは、彼女に選択肢を与える。
未来と過去。
相反する二つの時間を一つにするために蓄積された膨大な魔力は、
不用意に放てば世界を破壊しかねない程。
304
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:09:33 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「ごめんなさい……」
杖を伝わって届いた温かな願い。
彼女のために残されていたのは、誰も為しえたことが無いとされる時間魔術。
過去に戻るための魔術。
それは、少女を一人きりにさせてしまわぬようにと願った父親の心。
数百年を容易に遡ることができるだけの魔力と、
どのような時代でも生きていくことのできる知識の束。
杖を掴んだ瞬間に、少女は全てを手に入れた。
o川*゚ー゚)o 「分かってるよ。パパ、ママ。この魔術を使って、平和な時代に生きろってことだよね」
唇を真一文字に結び、力強く杖を握り締める。
ちかちかと零れだした魔力光は大きな流れとなって、あらかじめ設定された魔術を構成していく。
o川*゚ー゚)o 「でもね……私は……」
世界に一人だと知って、途方もない孤独感を味わった少女。
少女が求めたものは、多くの人間に囲まれた安穏とした生活ではなかった。
305
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:10:39 ID:f6Jc0GS60
たった二人。
誰よりも自分を思ってくれていたはずの二人に、
会って、話をして、精一杯甘える事。
たとえ苦痛や危険にあふれていたとしても。
たとえごく限られた時間のみ許されるのだとしても。
少女にとっての最優先は、ドクオとクールの願いとは全く逆方向を向いていた。
少女の決心が揺るがぬものとなった時、煌めきを放つ魔術が少女の前に現れた。
それは道標。
少女が願う旅の目的地へと至るための唯一の手掛かり。
その光を手に取って、少女は魔力を込める。
時を超えるため、彼女に残された膨大な量の魔力を。
o川*゚ー゚)o 「お願い……私を……連れて行って!」
少女は目指す。
過去と現在の分岐点の中で自らが存在することのできる時間を。
父親からの贈り物である杖に込められた魔術は、少女の祈りに応じて時を歪めた。
306
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:12:32 ID:f6Jc0GS60
>
( ФωФ) 「……誰だ」
約束の丘に集まった六人の英雄。
訪れた終末の敵を打ち倒し、息を整えていた時であった。
空間を引き裂いて現れたのは、ボロ布を被っただけの少女。
o川*゚ー゚)o 「……パパっ!」
('A`) 「っ!?」
突然に現れた来訪者に警戒するドクオ。
それを全く気にもせずに少女は胸元に飛び込んだ。
川 ゚ -゚) 「……」
その様子を無言で睨むクール。
ドクオの額を終末の獣と相対した時よりも嫌な汗が滴り落ちた。
(;'A`) 「いや、ちょっと待て、訳が分からない」
( ФωФ) 「敵か……殺すか?」
('A`) 「違うと……思う。この娘が現れた時空の歪みの魔術は覚えがる」
307
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:13:07 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「となると……隠し子ですか」
( ・∀・) 「意外だな」
o川*゚ー゚)o 「パパ……」
('A`) (冷たい……クールの視線がこれまでにない位に……。
誤解を解かなければ……)
o川*゚ー゚)o 「ママ……!」
少女はドクオの元を離れ、クールに駆け寄った。
混乱して動けない彼女の胸元に、その顔を埋める。
川 ゚ -゚) 「ん?」
o川*;ー;)o 「会いたかった……」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「ええっと……娘さん?」
川 ゚ -゚) 「いや……」
困惑するクール。
彼女の動揺を見たのは、ドクオですら初めてであった。
308
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:13:47 ID:f6Jc0GS60
( ФωФ) 「……誰か説明できるか」
('A`) 「……憶測でいいのなら可能だが、彼女の口から語ってもらうのがいい」
泣き腫らした目を擦りながら、少女はようやくクールから離れた。
川 ゚ -゚) 「……その服もあれだな、ドクオ」
('A`) 「わかった」
空間魔術を用いて接続した先から適当なローブを見繕い、少女へと手渡した。
それを何も言わずに受け取り、袖を通す。
クールにそっくりな黒く長い髪が揺れる。
('A`) 「……君は、一体」
o川*゚ー゚)o 「驚かせてごめんなさい。いろいろ我慢するつもりだったんだけどな……。
信じてもらうしかないんだけど、私は未来から来たの」
( ・∀・) 「未来……」
【+ 】ゞ゚) 「俄かには信じられませんが」
o川*゚ー゚)o 「そうだよね……。証拠は何もないから」
309
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:14:23 ID:f6Jc0GS60
( ФωФ) 「嘘を言っているようには見えないが、ドクオ。
未来から過去を訪れることが果たして可能なのか」
('A`) 「……いろいろと難関はある。
魔力は世界をひっくり返すほど必要だろうし、複雑な魔術式を発動しなきゃいけない。
だが、不可能ではないと考えてる」
【+ 】ゞ゚) 「ドクオさんがそうおっしゃるのなら、出来るとして話をしましょう。
疑問は二つ。なぜ彼女が、今この時代に、です」
( ・∀・) 「ドクオとクールの娘だと言ってたけど……」
o川*゚ー゚)o 「そうですね、少しお話をしたほうが良いですか。
ねぇ、フロストさん?」
貼りつけた様な笑みを浮かべる少女と、それに応える引きつった笑みのフロスト。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「……そ、そうでございますね」
o川*゚ー゚)o 「私が未来から来た方法はもうパパが気づいていると思う」
('A`) 「さっきまでキュート……が持っていた杖は、俺の杖と全くの同一のものだ。
過去に移動するための魔術も恐らくは俺が組んだものだろうな。
問題は移動に必要な魔力だが……」
310
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:15:30 ID:f6Jc0GS60
彼女が現れた時、その手に持っていた杖は消滅した。
完全に跡形も無く。
ドクオは即座にそれが時間の歪みによる矛盾消滅だと理解した。
過去の時代に存在したものは未来から持ってくることは出来ないという厳然たる世界の理。
o川*゚ー゚)o 「それもパパが用意してくれてたんだよね」
('A`) 「キュートの魔力は使ってないのか?」
o川*゚ー゚)o 「うん」
('A`) 「……恐らく、未来の俺は増幅魔術を使ったんだろうな」
川 ゚ -゚) 「増幅魔術?」
('A`) 「今持っている魔力を糧に、さらに多くの魔力を生み出す魔術だ」
( ・∀・) 「そんなの無茶だ。だってそれが可能なら、世界の法則だって覆る」
( ФωФ) 「相応のリスクがある、ということだろう?」
('A`) 「俺が死ななければ魔力の増幅は止まることがない。
皆も想像していただろうが……未来の世界では俺たちは全員死んだのだろう?」
311
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:15:59 ID:f6Jc0GS60
o川* ー )o 「……うん。私が生まれたのは、世界が完全に滅んだ後。
パパとママの魔術のおかげで、生まれてくることができた」
( ・∀・) 「正直信じられないな。でも、それなら君は知ってるんだよね。
これから僕らが戦うべき相手を」
【+ 】ゞ゚) 「弱点などが分かればいいのですが……」
o川*゚ー゚)o 「ごめんなさい。私の与えられた知識の中に、あいつを倒す方法は無かった。
でも、彼女なら知ってるんじゃないかな?」
キュートに指差されたフロストはわずかに身動ぎをした。
全員からの視線を気まずそうに受ける。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「……予想外の出来事でしたね。これに対応しろという方が無理でしょう」
('A`) 「何を知っている」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「隠したところで無意味でしょうね。私が裏切り者だという事実も」
(; ・∀・) 「なっ!?」
(#ФωФ) 「どういうことだ」
312
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:16:31 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「冗談を言っているようには見えませんが」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「私の一族は、抑止力でした。
いつかあなたたちのような英雄が現れることを予期していた主様が用意し、
レタリアの戦士として紛れ込ませてきました」
フロストは両手を振るい、氷の壁を立ち上げた。
英雄達と自分自身とを物理的に分断するために。
('A`) 「逃げる気か」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「どのみち、逃がしてはくれないでしょう。ただの時間稼ぎですよ」
( ・∀・) 「無駄な抵抗はやめろ」
龍化したモララーは、一撃で氷壁の半分ほどを破壊した。
分厚い塊が飛び散り、その先にフロストの姿が露になる。
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「あなた方を相手取って生き残れるとは思っていません。ですから……」
('A`) 「っ!」
(ノリ_゚_-゚ノリゝ 「一旦退かせていただきます」
313
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:17:02 ID:f6Jc0GS60
ドクオの正面に立っていたフロストは、何の前触れもなく闇に飲み込まれた。
集められた英雄たちの誰もが反応できないほどの速度で。
( ・∀・) 「消えた……」
( ФωФ) 「放っておけ。どうせこれから向かう先にいる」
('A`) 「ロマネスクの言う通りだ。
何が起きたのかは分からなかったが、何処に向かったのかは分かった。
向こうへ一瞬で移動する手段を持っていることもな」
【+ 】ゞ゚) 「それは、敵が少なくとも二人に増えたことと釣り合いの取れる事でしょうか」
('A`) 「向こう側にどれだけの敵がいるのかそもそもわかっていなかったんだ。
今更一人増えたことで何も変わらない」
川 ゚ -゚) 「しかし、敵の間者が紛れ込んでいたとはな。
正直予想だにしていなかった。キュート……のおかげだな」
( ФωФ) 「どうなっている。レタリアに呼び出された英雄ではなかったのか」
老齢の精霊術師はキュートを睨む。
静かな言葉はわずかに怒りを滲ませていた。
自分よりも遥か高齢の男に相対して、まったく怖気づかずにキュートは首を振るう。
314
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:17:52 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「レタリアとは、そもそもそういうものだったみたい。
終末を乗り越えるだけの英雄を集め、
余計なことを行わない様に見張りを一人紛れ込ませる」
【+ 】ゞ゚) 「ちょっと待ってください。
となると、レタリアは私たちがこれから戦おうとする敵の魔術だということですか」
o川*゚ー゚)o 「そう」
川 ゚ -゚) 「……だったら、レタリアに集められた私たちが勝てる道理があるのか?」
数秒間の無言の後、キュートはようやく言葉をひねり出した。
先程までの強い視線から一転し、伏し目がちになりながら。
o川*゚ー゚)o 「ある……と思う」
( ・∀・) 「やけに自信なさげだね」
o川*゚ー゚)o 「正直に言うとわからないの。
未来ではモララーさんとオサムさんはフロストの裏切りで殺された。
ママが一騎打ちで倒すまでの間に、パパとロマネスクさんが敵と戦ってたの。
でも、強すぎて……」
('A`) 「それで、どうなった」
315
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:18:16 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「……」
('A`) 「キュート。未来の俺達……お前にとっては過去の俺達がどう戦い、どう負けたか。
それを詳しく知ることが出来れば、その未来はきっと変えることができる」
o川*゚ー゚)o 「ロマネスクさんが先に殺されて、パパは魔術を使ったの。
少しの魔力からより多くの魔力を生み出す魔術」
('A`) 「使うだろうな……俺は……」
o川*゚ー゚)o 「パパが発動した魔術砲が敵に直撃した。
それでも倒せなくて、ママが殺された。それで敵は元の場所に帰って行った。
パパは残された魔力で私が生まれて育つことができるための環境を作って……。
それで……」
【+ 】ゞ゚) 「しかし、赤子がひとりでに大人になるなどありえないことです。
何をしたのですか?」
川 ゚ -゚) 「それは……」
('A`) 「いい、クール。俺が話す。クールの胎内にいるキュートには複雑な魔術を幾つもかけてある。
そのうちの一つは、彼女の存在そのものを不確定にし、
この世界に存在していないことにする魔術。
これによって、クールがどのような攻撃を受けたところで、彼女は傷一つ負うことは無い」
( ФωФ) 「まさか、そのような魔術は聞いたことがない」
316
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:18:42 ID:f6Jc0GS60
('A`) 「当然だ。最も優秀な魔術師である俺が考案し、
誰よりも多くの魔力を持つクールだからこそ実行できた。
そしてもう一つ。万が一クールが死んだとしても、
数十年後に一人で生活できる年まで成長した姿で生まれさせる魔術」
( ・∀・) 「……信じられない」
【+ 】ゞ゚) 「魔術というよりは、もはや奇跡ですね」
o川*゚ー゚)o 「奇跡……うん。きっとそうだと思う。
私がここに来れたおかげで、未来はきっと変えられる」
('A`) 「……みんなに聞きたい。今のキュートの話を聞いて、まだそれでも戦うのか?」
ドクオの問いかけに即座に答えた者はいなかった。
少女が告げた敗北の未来は、英雄達の心を揺さぶるには十分すぎた。
最悪の結果はキュートのおかげで回避され、何も失うことの無い未来は彼らの手中にある。
あえて危険を冒すことによって得ることができる権利の価値。
五百年の平穏か、万年の繁栄か。
('A`) 「すぐには決められないだろう。明日の日の出までに決めてくれ。
俺はテントで待つ」
317
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:19:05 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「いや、その必要はない」
( ФωФ) 「成程、未来の我らが敗北を喫したことはわかった。
だが、その事実を知る我らとは異なる」
【+ 】ゞ゚) 「でしたら、ここで諦めて解散する意味は無いかと思います」
川 ゚ -゚) 「そういうことだ。ドクオ。私たちは決して負けない」
('A`) 「……どうしてこうも自意識過剰なんだか。心配をした俺が馬鹿みたいだ。
いいだろう。明日の朝まで各自休んでくれ」
o川*゚ー゚)o 「えっと……私は……」
川 ゚ -゚) 「私のところに来ればいい。ドクオのすぐ隣になるが」
ドクオの言葉で解散した彼らは、それぞれの寝床へと戻っていった。
318
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:20:03 ID:f6Jc0GS60
>
太陽が丘を照らし始めた頃、テントから出てきたドクオを迎えた五つの影。
白地に金色の刺繍が編み込まれた精霊術師のローブで頭まで覆い隠したロマネスク。
大気の精霊たちが彼の周囲で騒ぐ。
漆黒の衣装を身に纏い、服と同様に黒く巨大な棺を背負ったオサム。
全身の皮膚に刻まれた呪力の文様は、顔にまで達している。
急所を護る銀の鎧と、白のドレスで着飾ったクール。
美しくも戦いを意識した戦乙女の姿。
強さの象徴である強靭な肉体を持つ龍の姿をしたモララー。
全身から溢れ出す自信と力は大地を震わせる。
ドクオとは異なる長杖を持ち、魔術師の装束へと着替えていたキュート。
母親譲りの強大な魔力が陽炎のように立ち昇る。
('A`) 「さて、準備は整っているか」
( ФωФ) 「無論」
319
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:20:43 ID:f6Jc0GS60
('A`) 「最後にもう一度だけ確認をしておく。
俺たちの目標は、虚ろの先にいる敵を倒すことだ」
川 ゚ -゚) 「今更なことを」
('A`) 「だが大事なことだ。全てが終わった後に全員が無事だとは思わない。
屍を踏み越えてでも達成しなければ、俺たちの世界に明日は来ない」
( ・∀・) 「未来を掴めってことか」
【+ 】ゞ゚) 「単純なようで難しいことです。が、私たちであれば必ずできるでしょう」
('A`) 「キュート」
o川*゚ー゚)o 「なに、パパ」
('A`) 「いや、何でもない。全てが終わってから話すことにする」
出かけた言葉を胸に仕舞い、ドクオは高く杖を掲げた。
その先端から迸る魔力は、複雑な術式によって変換され、四元素の魔術として顕現する。
('A`) 「開け、虚ろの扉。ミスティルティン!」
反発しあう魔術が空間に穴を開け、世界を繋ぐ扉が開いた。
暗黒の渦へと飛び込んだ六人の英雄。
飛び込んだ先は現世とは真逆で、空に多くの星が輝く夜の世界が存在していた。
320
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:21:36 ID:f6Jc0GS60
(<●>) 「「ようこそ、我が神の間に。愚かな者達よ」」
黒き汚泥を集めた塊のような巨体に張り付いた一つの瞳。
自らと向き合う英雄達を一人ずつ品定めする。
(<●>) 「「矮小なる者達よ。すぐに来た道を戻るがよい」」
('A`) 「そうはいかない。お前を殺すまでは」
(<●>) 「「たかだか未来を知った程度で随分と大きく出たものだ」」
川 ゚ -゚) 「お前はここで私たちに打ち倒される」
(<●>) 「「小娘よ。貴様が何者で、何を知っているかなど、私にはどうでもよい。
ただ厳然たる事実として教えてやろう。
たった数百年如きの時間で、
お前達と私との間にある力の差を埋めることは叶わない」」
川 ゚ -゚) 「その自信、砕いてやりたくなってきたな」
クールが展開した光刃が周囲を明るく照らし出す。
端の見えない程広い空間には、悪意の歪みが浮かぶ。
321
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:22:08 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「フロストの気配がないね」
( ФωФ) 「気をつけよ。奇襲を狙っているかもしれん」
(<●>) 「「フロスト……? それはこやつの事か?」」
【+ 】ゞ゚) 「なっ……」
暗闇の中から首をもたげた巨大な腕が掴んでいたのは、事切れて動かない女性。
それはつい昨日まで英雄として紛れ込んでいたフロストに間違いなかった。
(<●>) 「「このような使い捨ての道具、役に立たなければ壊してしまうものだろう」」
( ФωФ) 「成程、貴様を倒す理由がまた一つ増えたな」
(<▲>) 「「ほう、まさか敵討ちでもあるまい」」
嬉の感情を滲み出して歪む瞳。
その中心の黒点を睨め付けながら吐き捨てた。
( ФωФ) 「気に入らぬ」
(<●>) 「「面白い。ならば全身全霊を込めて向かって来るがいい。
容赦無く叩き潰して無に帰してやろう」」
322
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:23:53 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「龍神の鎧」
即座に龍化し唱えたのは、全身強化の龍技。
全身の鱗に魔力を浸透させた気高き盾と、
刃と見紛うほどに鋭い両前足の大爪。
誰よりも早く、大地を蹴って低空を飛翔した。
(<●>) 「「身の程を知れ」」
大気中から生成された黒き槍。
初速から音を置き去りにしてモララーの眼前に迫った。
( ・∀・) 「っ!?」
【+ 】ゞ゚) 「驚きました。まさか呪術を扱うとは」
槍は龍の瞳を貫くこと無く空中で制止し、砕けて散った。
(<●>) 「「ほう」」
【+ 】ゞ゚) 「呪術に対抗できるのもまた呪術ですね。
呪茨棘・八重」
323
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:24:24 ID:f6Jc0GS60
(<●>) 「「呪術の発動速度をよくもこれほどまでに極めたものだ。
だが、それでもまだ遅い」」
放たれた呪術の棘と、オルフェウスの間に存在した空気が突如として大きく震えた。
目に見えない壁が、オサムの術を防ぐ。
その間に距離を詰めたモララルドが叩き込んだ爪によって、硝子のように砕けた。
( ・∀・) 「光に飲まれて消滅しろ」
大きく開いた口腔から撃ち出された魔力が、真っ直ぐにオルフェウスの身体に突き刺さった。
(<●>) 「「この程度で」」
('A`) 「どの程度だって?」
その声を、オルフェウスは背後に確認した。
同時に正面にいたはずの二人の姿が揺れていることに気付く。
( ФωФ) 「精霊の現身。これは幻覚ではない。現実だ」
ロマネスクの横に立っていたドクオとクールの姿は、
空気に滲んで消えていく。
324
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:25:07 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「ドクオ合わせろ」
('A`) 「言われるまでも無い」
川 ゚ -゚) 「地平の彼方まで断ち切れ! ホライゾン!」
('A`) 「光の魔術を牢獄にとざせ。インフ・スペクラム」
(<●>) 「「うつくしい……」」
クールの放った光の斬撃。
視界に映る全てのものを距離に関係なく切り離すナインツ・ヘイブン最長射程の光の斬撃。
同時にドクオが放った魔術は、かつて天剣の所有者と相対するために考え出したもの。
単純な防御力はほとんどないものの、光の魔術を反射する百枚の魔鏡。
斬撃の魔術が何往復もオルフェウスの全身を刻む。
細かくちぎられた欠片は煙となって空に消えた。
後に残ったのは、正方形の黒い箱。
そこに一つ目の化け物の姿は無い。
( ・∀・) 「潰してやる」
箱の上部に足をかけたモララーは、
前進に感じた寒気に従ってすぐに飛びずさった。
325
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:25:36 ID:f6Jc0GS60
(;・∀・) 「ぐ……っ!」
跡形も無く消え去った足首から先。
大粒の血を流しながら大地に蹲った。
('A`) 「モララー」
( ・∀・) 「大丈夫だ!」
川 ゚ -゚) 「リフドロップ」
クールの魔術は、数秒で傷口を元通りにした。
龍が暗く澱んだ上空に向かって吼える。
川 ゚ -゚) 「なんだこれは」
天剣をも弾くほどの硬度を持ちながら、
強化された龍鱗すらも溶かす魔術を、脊髄反射のように発動させる物質。
('A`) 「見たことがない」
【+ 】ゞ゚) 「どうですか、ロマネスクさん」
( ФωФ) 「……精霊よ」
326
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:26:08 ID:f6Jc0GS60
優れた精霊術師は、ありとあらゆる精霊とコンタクトをとることができる。
この世に存在する全ての物質に宿るとされる精霊と対話することで未知を暴き、
言霊によって従わせることで力に変える。
翳した手の中で幾つかの光が明滅した。
異なる色を持つ複数の精霊術は、ロマネスクの掌から黒色の立方体へと向かう。
( ФωФ) 「ふむ……精霊が呼びかけに応えない。
つまりこの立方体は、この世のものではないということだ」
【+ 】ゞ゚) 「先程の奴の触手を凝縮したものでは?」
('A`) 「いや、もっと別のものだと思う。キュート」
o川*゚ー゚)o 「私にもわからないよ……。少なくともパパは知らなかったみたい」
川 ゚ -゚) 「硬そうだが、協力すれば壊せない程ではないだろう。
恐らく、この中で最高の攻撃力を誇るのは私だ。力を貸してもらえるか」
o川*゚ー゚)o 「何が起きるかわからないから、気を付けて」
('A`) 「頼むぞ」
327
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:27:02 ID:f6Jc0GS60
('A`) 「ルークス!」
o川*゚ー゚)o 「ルークス!」
ドクオとキュートが杖を振るい、二人で一つの魔術を編む。
完全に同期した二つの魔力がクールの剣へと注ぎ込まれていく。
川 ゚ -゚) 「集え、ナインツ・ヘイブン」
クールの背後に浮かんでいた九つの剣が、重なり一つの刃となる。
魔力で形成された切っ先を正面に向けて、大きく腕を引く。
( ФωФ) 「光の精霊よ」
ロマネスクの言霊に応え、精霊は中空に陣を描く。
強化の特性を持つ光の精霊陣が、クールと立方体との間に配置された。
【+ 】ゞ゚) 「私達は見守るだけですかね」
( ・∀・) 「同時攻撃しなくていいのかな」
【+ 】ゞ゚) 「私の場合は属性が真逆ですからね。邪魔になるだけでしょう」
( ・∀・) 「僕も見ているだけにしようかな。それに、もう充分じゃないか」
眩いほどの光をその手のうちに束ね、立方体に向けて一気に距離を詰める。
精霊陣の中心を貫くように振るうのは、全てを穿つ閃光の刃。
川 ゚ -゚) 「ペネトライト!」
328
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:27:34 ID:f6Jc0GS60
空間を震わせるほどの一撃。
自慢の髪すら輝く光と化していたクールは、英雄達の視界から消えた。
甲高い金属音が虚ろの空間内に響く。
黒色立方体の真後ろにて分離した九つの剣。
その全てを翼のように拡げて振り返ったクール。
立方体の中心部には人間大の穴が開いていた。
箱は、黒い煙を立ち上げながら崩壊していく。
( ・∀・) 「貫通したみたいだけど……」
('A`) 「やけにあっさりと……いや、なんだあれは」
o川*゚ー゚)o 「パパっ!」
溶解しながら崩れ落ちる立方体。
その内側には、何一つ生命体の痕跡が存在しなかった。
即座に置かれた状況を理解したのは、僅か二人。
上空から降り注いだ脅威に対する防備は、あまりにも脆かった。
( <●><●>) 「よく防いだな」
329
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:28:17 ID:f6Jc0GS60
人型に似た二息歩行の姿。
しかし、人間よりも二回り以上大きく、両手両足はまるで獣のよう。
背中には呪術で組まれた一対の黒い翼。
【+ 】ゞ゚) 「っあ…はっ……はっ……」
('A`) 「オサムっ!?」
( ФωФ) 「人……間……?」
( <●><●>) 「正確には、半分がそうだ」
蒸発する大地は轟々と白煙を立ち上げ、英雄達の足場は陸の孤島となっていた。
半身が吹き飛んだオサムに駆け寄るキュート。
少女の回復魔術はしかし、呪われて死ぬことの無い身体を持つ呪術師には何ら影響を及ぼさない。
【+ 】ゞ゚) 「お気遣いありがとうございます。ですが、心配は不要です」
体表に刻まれた呪いの一角を解き放ち、失った肉体を再形成する。
両の足で立ち上がり、宙に浮かぶ存在を睨む。
( <●><●>) 「まずは見事、と言っておこう」
330
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:28:49 ID:f6Jc0GS60
('A`) 「クラッシカル」
砕けた大地に転がっていた人間大の岩が、ドクオの杖に導かれ一斉に飛び放たれた。
弾道は一直線に敵の懐へ。
直撃するかと思われた瞬間、何かにぶつかったかのようにあらぬ方向へと弾かれた。
( <●><●>) 「そう焦るな。……お前もだ」
( ФωФ) 「ぐぬっ」
男の背後に音もなく迫っていたロマネスクに視線すら向けることも無く、地面に叩き落とした。
土煙の中から無傷で立ち上がったものの、精霊術師は驚愕の表情を浮かべていた。
( ФωФ) 「まさか……」
有り得ない、と続けようとした言葉を飲み込む。
むしろ大いにあり得るのだと、ロマネスクは理解した。
( <●><●>) 「ほう、流石過去四回の災禍を生き延びただけのことはある。
即座に私の正体に気付くとは」
( ・∀・) 「どういうことだ、ロマネスク」
( ФωФ) 「三術を全て扱うなんてことができるわけが……」
331
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:29:20 ID:f6Jc0GS60
( <●><●>) 「私にはその才能があっただけの事。全ての術は私が生み出したのだ。
故に讃えられた我が名は純術師オルフェウス」
('A`) 「成程、理解した。だが、得意分野の練度で負けるつもりは無い」
ドクオが構えた腕を中心にして、魔術陣が次々と現れていく。
一つが二つに別れ、それぞれがさらに精緻な魔術を編む。
('A`) 「消えろ」
全ての魔術陣が砕け、拡散した光がドクオの腕の先で舞う。
軽くふるわれた腕から放たれた魔術は、一直線にオルフェウスの胸元へと向かった。
( <●><●>) 「呪泥壁・四重」
大気中に存在するあらゆるものを消滅させた光は、
ガラスが割れる様に散り散りになった。
【+ 】ゞ゚) 「呪術で……魔術を……」
( <●><●>) 「一人ずつではなく、全員でかかってきたらどうだ、とでも言いたいのだが。
面倒事はあまり好きではないのでね」
オルフェウスが胸の前で両の手を打ち鳴らした。
拝むかのようなその姿に一瞬気を取られた英雄達は、
抵抗する間もなく暗がりの底へと飲み込まれた。
332
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:31:23 ID:f6Jc0GS60
>
( ・∀・) 「ここは……?」
自身に翼のあることを思い出したモララーは落下途中に体勢を立て直した。
上空を仰ぎ見るが、落ちてきたはずの光は無く、
足元の暗闇は何処までも続いているように見えた。
【+ 】ゞ゚) 「やれやれ、まさかあなたと一緒ですか」
(#・∀・) 「……降りろ」
モララルドの広い背中の上、オサムは胡坐をかいて座っていた。
そのトレードマークともいえる棺桶を腰の横に寝かせながら。
【+ 】ゞ゚) 「そう冷たいことを言わないでください」
( ・∀・) 「それ以上喋ったらお前を先に殺す。
背中から降りろ、でなければ殺す」
【+ 】ゞ゚) 「……何が起こるのかわからないのです。
あまり呪力を無駄にさせるものではありませんよ。ですが……。
……呪翼」
333
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:31:46 ID:f6Jc0GS60
掌の刺青の一角が消え、マントが大きな翼へと変化した。
棺桶を傍らに抱え、モララーの背から飛び立つ。
【+ 】ゞ゚) 「竪穴のようですが、上に入り口は見えませんね」
( ・∀・) 「さほど長い時間落ちていたわけじゃない。飛び続ければすぐに出られる」
そう言い残して、龍は急上昇していく。
すぐにオサムの視界から消えた。
【+ 】ゞ゚) 「そう単純な敵ではないでしょう。力を持っていてもまだまだ子供ですね」
壁面に生えた植物を千切り、すり潰してその匂いを嗅ぐ。
【+ 】ゞ゚) 「幻術の類ではなさそうですが……っと、」
浮遊するオサムの真下から高速で訪れた物体。
その正体に気付き、咄嗟に唱えてしまった呪術をすんでのところで壁に誘導した。
( ・∀・) 「なにするんだ」
【+ 】ゞ゚) 「私は龍ではないので、近づいてくるのがあなたと確認が取れなかったんですよ」
崩れ落ちていく人間大の瓦礫は、暗闇に飲み込まれてすぐに見えなくなった。
334
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:32:13 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「どうなってる」
【+ 】ゞ゚) 「どうやらここは繋がっているみたいですね。
輪っかの様に」
オサムは指先を回して円を描く。
眼前に留まった龍王は、目の前の呪術師を気にもせずに無言でその魔力を集中させる。
「やめておいたほうが良いよ」
壁から現れたのは、紫の肌をした小人。
人間の子供程度の背丈でありながら、身の丈を超える櫂を二本担いでいた。
瞳に当たる部分は暗く落ち窪み、口を持たない奇怪な姿。
【+ 】ゞ゚) 「あなたは……?」
| ^ ^ | 「僕はカーロン・ブーム。オルフェウスに囚われた英雄を相手にする者さ」
( ・∀・) 「そうか、だったらお前を殺せばいいわけだな」
前触れなく放ったモララーの魔力砲は、無防備なカーロンの正面で分散し、
一欠片も残さずに消滅した。
手心を加えたわけでもない攻撃を容易く防がれ、モララーは閉口する。
335
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:35:04 ID:f6Jc0GS60
| ^ ^ | 「せっかちだなぁ。僕は君たちを殺すつもりは無いんだ」
【+ 】ゞ゚) 「私たちの敵と言っても、本体とはずいぶんと考え方が異なるようですね」
| ^ ^ | 「まぁね。僕らは自由だから。ここで大人しく待っていれば、そのうち解放されるよ。
その頃には、お仲間は皆死んでいるだろうけどね」
( ・∀・) 「この空間を作っているのがお前だとわかれば十分だ。
すぐに殺してやる」
| ^ ^ | 「怖いなぁ……」
モララーの牙が空を切った。
予備動作なく数メートルの移動を行ったカローンは、
反撃するでもなく壁の窪みに腰かける。
小さな身体がすっぽりと収まるだけの狭い穴の中で、
片手をあげた直後に壁面に炎が溢れかえった。
| ^ ^ | 「危ないなぁ」
依然として燃え盛る火炎によって煮え立つ壁面とは逆側、
モララーとオサムの背後から声は届いた。
336
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:35:35 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「……成程、あなたは自由にこの空間を移動できるわけですね」
| ^ ^ | 「そりゃそうさ。さて、諦める気になったかい?」
( ・∀・) 「いや、ちょこまかと逃げられない様にこの空間全てを吹き飛ばしてやるさ」
先程までとは比較にならない程、魔力を深く練り上げる。
構成された魔術は、龍王が所有していた七つの龍技が一つ。
触れるものに浸透して破壊していく毒素のような性質を持つ魔術。
( ・∀・) 「崩蝕天」
【+ 】ゞ゚) 「待て……!」
オサムの制止も間に合わず、龍王の毒素は空間を急激に侵し始めた。
壁面から崩れ落ちていき、竪穴は二倍程度にまで拡がった。
【+ 】ゞ゚) 「見境なしですか……」
呪術でコーティングされたコートの表面がモララーの龍技と反目し、
燻った煙を立ち昇らせる。
オサムは防護呪術を重ね掛けしながら、周囲の変化を観察していた。
337
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:36:08 ID:f6Jc0GS60
| ^ ^ | 「意外と頑張るね」
数十倍の広さになった暗闇の中で、
ようやく魔力の放出をやめたモララー。
その顔に浮かぶのは若干の疲労と、露骨な苛立ち。
( ・∀・) 「この空間が相当に広いことはよくわかった。
だったら、すべて破壊してしまうまでだ」
【+ 】ゞ゚) 「落ち着いてください」
高密度魔力砲の準備を始めた龍王の頭から冷や水を浴びせかけた。
呪術師があまり用いることの無い四大元素の基礎呪術。
その威力や性質は魔術のものと全く変わりはない。
(#・∀・) 「お前も一緒に屠ってほしいのか?」
巨大な瞳に一歩も引くことなく、オサムは抱えていた棺桶を穴の底へと捨てた。
【+ 】ゞ゚) 「見てください」
落下していった棺桶はオサムから少し離れた所で浮いていた。
( ・∀・) 「それがどうした」
338
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:36:32 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「探索、調査なんて言うのは魔術の得意とするところですがね。
呪術でそれが出来ないというわけではありません。
この空間の継ぎ目……歪みを見つけるのに少し手間取ってしまいましたが」
( ・∀・) 「……俺にどうしろと」
【+ 】ゞ゚) 「全力であの場所を攻撃してください」
| ^ ^ | 「やれやれ、油断も隙もないね。別に急いで出なくていいと言ったはずなんだけどな」
以前からずっとその場所にいたかのように、棺桶の上に座っているカーロン。
静かな声のうちに微小な怒気をはらんでいた。
( ・∀・) 「ふん、小細工を弄することしかできない雑魚が」
| ^ ^ | 「僕はオルフェウスと違って争うのが好きじゃないんだ。
ただ、君たちが大人しくすることを拒むのなら僕は僕の役割を果たそう」
【+ 】ゞ゚) 「っ!?」
オサムとモララーは突然、壁面に打ち付けられた。
(; ・∀・) 「何が……」
339
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:37:05 ID:f6Jc0GS60
壁から起き上がろうとした龍王は、さらに数十メートルを転がって止まった。
さほどダメージは無かったものの、混乱が二人を襲う。
足元にいるカーロンは依然として棺桶の上に座ったまま。
魔術も、呪術も、精霊術すらも一切感じられず、
力を行使した痕跡は全くない。
| ^ ^ | 「さて、暴れられても面倒だから、もうしばらく流されていてくれ」
濁流にのみ込まれたかのような衝撃が二人を穴の情報へと押し流した。
止むことは無い渦流が龍の巨体と呪術師の身体を捉えて離さない。
【+ 】ゞ゚) 「くっ……これは……」
足元だったはずの暗闇から、頭上に向けて身体は錐揉み状に流されていた。
自身の身体に起きている現象を判断するのは簡単であったが、
理解することは到底できていなかった。
先程までの竪穴だと思っていた空間を、横穴だと感じていることに。
オサムと全く同時に、重力を壁面から受けているという事実にモララーは気づいた。
押し付けられたのではなく、落ちたのだと。
その感覚の違いに、即座に彼は状況を理解した。
( ・∀・) 「……この空間がどういう場所なのかは分かった。どうすればいいかもだ」
340
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:37:38 ID:f6Jc0GS60
変化した重力に対応し、体勢を立て直す。
拡げた翼に込めた魔力で、先程まで前方にいた敵。
今は上方にいる小さな世界の主に対し、飛翔した。
( ・∀・) 「ちっ……!」
カーロンを目前に捉える直前、その巨体が右方に崩れた。
身体を激しく打ち付けて呻く。
| ^ ^ | 「無駄無駄。この空間に対応できるわけがないでしょ」
( ・∀・) 「面倒な」
| ^ ^ | 「大人し……?」
背後から柔らかな皮膚を貫いた黒き刃。
間髪おかずにそのまま肩口まで大きく引き裂いた。
壊れた人形かのように、ぎこちなく振り返る。
| ^ ^ | 「お見事」
【+ 】ゞ゚) 「龍化したモララーならともかく、
この程度の変化で私が動けなくなるとでも思いましたか」
| ^ ^ | 「いや、何の術も行うことなく対応したことを褒めているんだよ」
341
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:38:17 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「そう簡単にはいきませんか……」
煙と化してオサムの刃から逃れたカーロン。
彼らから数メート離れた場所で無傷の身体を再生した。
| ^ ^ | 「もう少し楽しませてくれるんだろ?」
【+ 】ゞ゚) 「さほど時間はかけられませんので」
オサムの全身から噴き出したのは、空間を塗りつぶすほどの密度を持った呪力。
人の身体を中心に、巨大な鎧を組み上げていく。
( ・∀・) 「なんだそれは」
【+ 】ゞ゚) 「呪装」
モララーの首すらも落としてしまいそうな程の大鎌を担いだ黒き鎧武者の姿。
関節部に纏った軟体の呪力が、巨躯がただの飾りではないということを示してしていた。
| ^ ^ | 「呪術師にしては随分と物騒な……」
カーロンが最後まで言葉を繋げることは無かった。
今は横穴となった空間を二つに分断する斬撃。
数秒して、霧散したカーロンが再生した。
342
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:39:12 ID:f6Jc0GS60
ひっきりなしに変化する重力に反応することすら許されず、
壁に張り付いたまま様子を窺う龍王モララー。
対照的に、オサムはその影響を全く受けないかのように自在に鎌を振るい、
目の前に浮かぶ敵の身体を幾度となく断つ。
| ^ ^ | 「なるほど。そういうことか」
十数度刻まれては再生し、洞窟全体が傷だらけになった頃、
ようやく得心がいったかのように呟いた。
| ^ ^ | 「呪力で足場だけ完全に固定しているわけだ。
それなら、どれだけこの空間の重力が変わっても関係ないか」
【+ 】ゞ゚) 「意外と気づくのが遅かったですね」
| ^ ^ | 「別に僕は全知でも万能でも無い。オルフェウスがそうであるようにね。
だからこんな時間稼ぎに徹しているんだから」
【+ 】ゞ゚) 「時間稼ぎはあなただけではないですよ。モララー!」
( ・∀・) 「うるさい、わかってる!!」
全身を伏せて壁に張り付きながら、ただ見ていただけの龍王ではない。
鎧武者が時間を稼いでいる間、体内に貯め込んだ魔力を龍技へと注ぎ込み続けた。
いくら殺しても再生し続ける敵を屠るために必要な魔術を。
343
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:40:10 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「霊炉の光」
| ; ^ ^ | 「っ……!?」
視界を完全に埋め尽くす大容量の光。
白一色になった穴倉で、オサムは自身の棺桶が存在している座標を明確に把握していた。
目くらましである龍技の影で、即座に鎧武者の呪術を書き換える。
【+ 】ゞ゚) 「呪黒槍!」
魔術と精霊術には不可能な技術でもって、光の中を進む黒き槍。
呪いの大槍は光の海に浮かんでいた棺桶を砕いた。
【+ 】ゞ゚) 「……ごほっ」
光が収まってモララーが見たのは、櫂によってその腹部を半分ほど抉られた呪術師の姿。
口の存在しないはずの紫の小人が、笑っているように見えた。
( ・∀・) 「何が……」
| ^ ^ | 「空間の歪みに気付いたのは見事。それを狙う手段も素晴らしい!
でも、足りない。一つは威力。呪術はそもそも直接破壊に向いていない。
役割は逆にすべきだったろうね。ま、この空間で直撃はさせられなかっただろうけど」
344
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:41:00 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「はぁっ……はっ……」
| ^ ^ | 「苦しそうだね。楽にしてあげよう」
櫂は何ら抵抗もなくオサムの身体を二つに割った。
暗闇に落ちていく人間だった塊。
それに目を向けることなく、カーロンは語る。
| ^ ^ | 「二つに、魔術を使って僕の感覚と視覚を塞いだこと。僕の眼はオルフェウスと同じ能力を持つ。
忘れていたかい? 彼が三術を極めていることを。
僕程度でもそれぞれを視認することくらいならできるのさ。
魔術の中を進む呪術を見分けるのは、簡単なことさ」
( ・∀・) 「くそが…………っ!」
壁を蹴ったモララーの牙は、当たれば簡単に砕くことのできる敵に届かない。
カーロンが軽く腕を振るっただけで強く壁に叩き付けられた。
| ^ ^ | 「三つ。僕が攻撃をしないと甘く見積もったこと。
龍王を殺すだけの力を出すのは大変だけれど、
人間程度の強度である呪術師を殺すのは容易い。
面倒だから手を下さなかっただけだ」
345
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:41:27 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「喋りすぎたな。どうやら僕は殺せないし、僕ならこの空間を壊せるようだな。
だったら今すぐにこの空間ごと焼き尽くしてやるさ。
爆鎖陣……!」
モララーが吼えた。
空間を照らしていた魔力の残滓が膨張し、同時に破裂した。
爆発は連鎖し、数十秒間も続いた。
その威力は洞窟全体を揺るがすほど。
(; ・∀・) 「……な……にっ……?」
鳴りやまない爆熱の中、穏やかに浮かカーロン。
彼の直前で見えない壁に阻まれているかの如く、龍技は拡散して消えゆく。
| ^ ^ | 「やれやれ、これだけ空間中に残留している魔力を気にも留めないと思ったのか?
これくらいのことは予期していたさ。君たちは英雄だ。
一人一人はオルフェウスには及ばないにしても、相当の力を持っていることは知っている」
( ・∀・) 「くそっ……」
| ^ ^ | 「この空間こそが僕自身なんだ。魔力を通さないことなんて造作もない。
別に君たちの攻撃を避ける必要なんか、端から無かったのさ」
( ・∀・) 「化け物め」
346
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:41:48 ID:f6Jc0GS60
| ^ ^ | 「さして変わりないよ。さて、君はどうする?
呪術師と同じ道を辿るか、それともここで大人しくしておくか」
( ・∀・) 「……あまり龍王を舐めるな」
魔力を纏った爪撃。
洞窟の壁をバターのように削っていく。
| ^ ^ | 「借り物の力で粋がっている愚かな子供だ」
瞬きする間に十数回以上も変化する空間の重力。
(; ∀・) 「ぐっ……おおっ!」
全身を回転させ、その爪を振り回した。
斬撃となって全方位へ飛び散った魔力が、カーロンを捉えることなく空間を飛び交う。
| ^ ^ | 「その鬱陶しい動きをやめろ」
暫くは傍観していたカーロンはしびれを切らし、
担いでいた二本の櫂を龍王の翼に打ち付けた。
標本の様に壁に釘付けになるモララー。
身動きの出来ない状態でありながら、闘志は未だ衰えず。
口を開いて岩石すら溶かす高熱の火炎を放射する。
347
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:42:23 ID:f6Jc0GS60
| ^ ^ | 「だから無駄だって」
( ・∀・) 「くっそ……」
| ^ ゚ | 「おとなし……ぎっ!?」
紫の小人が苦しそうにその脇腹を抑えた。
内部から零れ出てきたのは、血液ではなく霧状の魔力。
今まで本体を攻撃した時のものとは異なり、大気中に霧散して消えていく。
| ; ^ ^ | 「生きて……いたのか……ぐっ」
( ・∀・) 「何が……」
【+ 】ゞ゚) 「簡単なことです。呪術とは呪った存在の本質に影響を与える術。
死んだと思い込ませることすら、手の内ですよ。
そしてまた、この空間があの怪物の手によるものであるなら、
その組成が分からなくとも十分に有効範囲内ということです。
少々手間取りましたがね」
( ・∀・) 「……遅いんだよ」
【+ 】ゞ゚) 「失礼。ですが、これで妨害されずに攻撃することができます」
| ^ ^ | 「貴様ら……ッ! 後悔しても遅いぞ!!」
348
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:42:43 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「そのような戯言、聞く耳は持たない!」
| ^ ^ | 「糞があああああ」
【+ 】ゞ゚) 「呪茨棘・身喰」
カーロンの体内から飛び出した無数の茨によって、その姿は見えなくなった。
オサムの呪術はそのまま空間を侵食していく。
【+ 】ゞ゚) 「あそこです。外さないようにお願いしますよ」
( ・∀・) 「ふん、わかっている」
変化し続ける重力から解放されも、未だ揺れる頭を押さえながら狙いをつける。
モララーの正面に集中する魔力。
それを飲み込み、腹の中で龍技へと注ぎ込む。
( ・∀・) 「龍神の咆哮」
大気を揺るがす一撃が壁面を抉り、その場所にあった核を打ち抜く。
主とその術の基礎を同時に失ったカーロンの空間は、すぐに崩壊を始めた。
【+ 】ゞ゚) 「脱出しましょうか」
( ・∀・) 「いちいち言わなくても解っている」
オサムとモララーは光が漏れ出していた穴に飛び込んだ。
349
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:43:15 ID:f6Jc0GS60
>
「あはははは!!」
川 ゚ -゚) 「エスキューラ!」
細かく分かれた刀身は、甲高い声をあげて走り回る小さな獣を正確に貫いていく。
動かなくなった獣は地面に溶けて消えた。
川 ゚ -゚) 「怪我はないか、キュート」
o川*゚ー゚)o 「うん……ごめんなさいママ。こんなことになるなんて……」
魔術師としての知恵と力を備えてはいても、キュートは戦ったことの無い少女であった。
実戦で行う魔力のコントロールは、普段のそれよりもはるかに難しいことをクールは知っている。
恐怖と緊張で彼女が魔術を行使できなくなったことを、責めることなどできるはずもない。
川 ゚ -゚) 「無理もない。どれだけ多くの魔力を有していようと、
戦ったことの無いお前を連れて来るべきではなかった。
私とドクオの過ちだ」
350
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:45:34 ID:f6Jc0GS60
ただの少女と変わらないキュートをその背に庇い、クールは天剣を振るう。
残っていた獣も全て地面に還り、再びの静寂が訪れた。
それを破るのは、神経を逆なでするかのような声。
幼さの残る口調は、クールを苛立たせた。
「あはっ、なかなかどうしてかわいい娘たちだ。ぼくの人形にして、死ぬまで可愛がってあげるよ」
暗がりの奥、見上げるほど大きな椅子に座っているのは、不釣り合いなほど小さな人形。
人形は慈しむかのように、自分の身体を優しく抱きしめていた。
オルフェウスによってクールとキュートが飛ばされたのは、
劇場の様な半円形のホールに、血のように真っ赤な垂れ幕で何重にも覆われた世界。
その主は、人形の姿をした魔術師であった。
クールとキュートを合わせても全く及ばない程の魔力を持ちながら、
二人をからかうかのように小さな魔術のみを使う人形。
隙を見て幾度攻撃をしたところで、
魔力という圧倒的な壁に阻まれ、クールの攻撃はその喉元にも届かない。
「あはは! どうしたのかな?」
複数の属性を無理やり混ぜ込んだ小さな爆発魔術が、音もなく二人を囲うように出現する。
すぐさま天剣の持つ反射の魔術で吹き飛ばした。
劇場の隅を消し飛ばして魔術は消失し、消えた壁もまたすぐに再生された。
351
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:45:59 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「何を企んでいる」
「言ったじゃないか。君たち二人とも、ぼくの人形にしてあげるって。
今は壊すつもりは無いんだ。早く抵抗をやめてくれないかな。
綺麗な長い黒髪も! 滑らかな白い肌も! 美しい曲線を描く肉体も! 全部欲しい!」
川 ゚ -゚) 「断る。変態ナルシスト。そもそも私は人妻だ」
o川;゚ー゚)o 「ママ待って! それだと私は大丈夫みたいになっちゃうから!」
焦って訂正を求めるキュート。
拒否の言を意にも介さず、人形は自分の言いたいことだけを言葉にする。
「どうしても抵抗するの? 本当に? 勝てるはずないのに?」
川 ゚ -゚) 「勝てないと誰が決めた」
「だって、その娘戦えないじゃないか。君が抵抗するなら、ぼくはその娘を狙ってもいいんだよ?
まずは両手と両足を千切って、動けなくするんだ。勿論捨てたりしないよ。
君のとってもきれいな腕も足も、大事に飾っておくから。
一応魔術師みたいだから、詠唱できないように口を縫い合わせなきゃ。
綺麗な目玉はえぐり取って保存してあげる。
たかだか数十年でその輝きが失われるなんてもったいない!
君は本当に髪がきれいだから、ずっとずっと伸ばしてあげる。
身体よりも長くなっても、痛まないように丁寧にケアするね」
352
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:46:21 ID:f6Jc0GS60
顔に埋め込まれた大きな二つの目玉が音を立ててキュートを見つめる。
何の魔力も込められていない視線ですら、彼女を恐怖させるには十分であった。
o川;゚ー゚)o 「ひっ……!」
金縛りにあったかのように動けないキュートを、背後から合われた大蛇が丸呑みしようと口を開く。
その口は光る剣によって縫い付けられ、瞬時に細切れにされた。
川 ゚ -゚) 「私がそうはさせない」
「少し、痛い目を見てもらおうかな。本当は無傷のままが良かったんだけど」
川 ゚ -゚) 「やってみろ!」
クールを囲うように展開した九つの剣。
そのうちの二本は、キュートを護る様にその上空へ待機する。
残る七つに魔力を込めて人形を睨む。
「そんな少ない魔力で可哀想。ぼくが本物の魔術を見せてあげるよ」
353
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:46:52 ID:f6Jc0GS60
立ち上がった人形は腕を振る。
何処からともなく聞こえてきた音楽に合わせて。
朱い眼をした人形が一つ、また一つ幕下から現れる。
手には玩具の包丁を持ち、ケタケタと歪んだ嗤い声をあげながら。
川 ゚ -゚) 「そんなもの……!」
飛来した天剣が頭部を砕く。
動かなくなったガラクタを超え、さらに多くの人形が押し寄せる。
「ほらほら、どんどん増えるよ! あはははは!」
川 ゚ -゚) 「鬱陶しい! エスキューラ!」
天剣の刀身が細かい破片へと分離し、人形の軍隊に降り注ぐ。
威力を犠牲に手数を増やす魔術であるが、
魔力耐久の無い生物であれば一欠片で容赦なく死に至らしめることができるはずであった。
だが、殺戮の豪雨をものともせずに、軍隊は進む。
川;゚ -゚) 「なっ!?」
「ははっ! 君は純魔術師じゃないだろう。
どうやって手に入れたかは知らないけど、剣に組み込まれた魔術に魔力を注ぎ込んでいるだけだ。
その程度だったら、一回見れば十分に対応できるんだよ」
354
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:47:13 ID:f6Jc0GS60
人形たちの包囲網はじわじわと狭まっていく。
川 ゚ -゚) 「だったら、一撃で……ッ!」
o川*゚ー゚)o 「ママ! 待って!」
キュートは魔力そのものを同心円状に放出する。
その余波を受けた人形軍の瞳からは光が失われ、動かなくなった。
「うーん、すっごい! すごいねぇ! 人形の稼働魔力を妨害するなんて!
よく気が付いたね。確かに魔術を使えなくても、魔力を打ち出すだけなら誰でも出来るから」
o川*゚ー゚)o 「私だって、戦える!」
「でも駄目だよ。君はぼくの宝物になるんだ。
傷つけたくないから、おとなしくしていてくれないかな?」
o川*゚ー゚)o 「きゃっ……」
川 ゚ -゚) 「キュートっ!」
天剣すら反応できない速度で、キュートの両腕に取りついた小鳥のぬいぐるみ。
その大きさからは想像もできない力で、少女の身体を持ち上げる。
355
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:47:50 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「はな……してっ!」
キュートが放った魔力は、小鳥に何ら影響を及ぼせない。
天井からぶら下がっている檻の中にキュートは投げ込まれる。
「残念! 今度の玩具は魔力耐性を付与してあるから、そんなただの魔力は効かないよ」
川 ゚ -゚) 「キュートを離せ! ローテイシオン!」
全てを切り裂く光の環。回転する天剣は少女を捉えた檻を砕いた。
着地したキュートのすぐ傍へ駆け寄ったクール。
護衛用の天剣をさらに二本を加えて四本とした
「二つ目だねぇ」
椅子に掛けたまま人形は手を翳す。
起き上がった巨大な人形に注がれていく魔力は、大魔術クラス数発分。
「いけっ! あの生意気な女を叩き潰せ!」
川 ゚ -゚) 「っち……! デカブツが!」
「さぁ!さぁどうするお姫様! 残りの魔術は後いくつ?
諦めてその娘を差し出せば、命は助けてあげる。
綺麗にバラして、保存したその娘の隣に飾ってあげるよ?」
356
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:48:24 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「黙ってろ!」
音を立てて崩れ落ちた人形の巨体。
両手両足が切断され、頭部を真っ二つにされて動かなくなった。
「すごいねぇ」
劇場に乾いた音が響く。
ぎこちない動作で両手を打ち鳴らす。
「はい、次は十体だよ」
起き上がった巨体の動きは緩慢で、一体一体はさして強くない。
天剣の破壊力をもってすれば行動不能まで追い込むのは難しくなかった。
川;゚ -゚) 「はぁっ……くっそ……」
五つの剣を自在に操り、巨体の足元を走り回りながら切り崩していく。
魔力で全身を強化してはいても、元は人間の身体。
体力にも限界はあった。
「どうしたの? もう元気がなくなっちゃった? 」
九つある天剣のうち四つはキュートの守護に。
四つを振り回して最後の人形を破壊したクールは、
額から汗を滴らせながら肩を揺らして息をしていた。
357
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:49:06 ID:f6Jc0GS60
「ん……。一本、どこにやった?」
川 ゚ -゚) 「いい加減その口を閉じろ」
椅子にふんぞり返っていた人形の頭部を貫通し、舞台に縫い付けた。
川 ゚ -゚) 「油断するなと学ばなかったようだな」
「ああ、あああ……ああ! あはは、はは! はははは!」
壊れたかのように乾いた嗤い声をあげ続ける人形。
即座にその全身をバラバラにした。
川 ゚ -゚) 「っふー……。さて、後はここからどうやって出るか」
o川*゚ー゚)o 「自信はないけど、私とママの魔力を天剣の魔術に注げば十分に……」
「ぼくも話にまぜてよ」
o川;゚ー゚)o 「なっ!?」
358
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:49:53 ID:f6Jc0GS60
人形の破片の一つ、腕の部分からその声は聞こえた。
天剣による裂け目が、笑みを浮かべているようにも見える。
ケラケラと笑う不気味な腕を、何処からともなく現れた小型の人形がその身に取り込んだ。
身体の大きさを超える腕を一飲みにした人形を、さらに大きな人形が捕まえて口の中に放り込む。
そうやって何度も捕食を繰り返し、人形は元の大きさの二倍ほどにまで成長した。
「あはは!無駄無駄! 人形魔術師の僕を殺そうなんて!」
川 ゚ -゚) 「まったく、厄介だな。本体を狙うのがセオリーだが、そう簡単には見つからないだろう。
おまけに一度見せた魔術はすぐに対策をされて使えなくなる、と。
性格の悪い術者だという事だけはわかった」
o川*゚ー゚)o 「ママ、一番大事なこと忘れてるよ。あいつは最低の変態」
川 ゚ -゚) 「ははは、そうだったな。変態下種野郎の魔術師。いかにもって感じだ」
「言わせておけば……!」
小型の人形が数十体、二人を囲うように現れる。
その手に持つのは身体に不釣り合いな大型の銃。
次々と火を噴き、無数の銃弾が二人を蜂の穴にすべく襲い掛かった。
絶え間ない銃撃音が劇場を埋め尽くす。
359
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:50:18 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「怒りやすいってのも追加だな」
天剣に埋め込まれた反射の魔術、リバーサル
全て天剣を軸に九つの魔術を同時に発動させれば、
保有者の周囲数十メートルを保護することができる鉄壁の防御。
幾つかの衝撃を受けては崩壊し、再生することを繰り返す。
川 ゚ -゚) 「それに、これなら取れる対策はそう多くは無いだろ」
攻撃の魔術と異なり、防御魔術は一度見た程度でその性能を全て理解するのは難しい。
加えて、防御魔術を破る方法など本質的には一つしかないのだ。
「ふっざけるなあああ!!」
人形たちが一カ所に集まり、重なって巨大な人形と化す。
手に持っていた銃は、人間よりも大きな口径の大砲に。
集中していく魔力は、クールの全魔力よりもさらに膨大な量。
周囲をすべて消滅させてしまいかねないような一撃は、何の警告もなく発射された。
o川*゚ー゚)o 「ママっ!」
川 ゚ -゚) 「リバーサル!」
九つの盾を重ねて強化した防御魔術。
クールの身体を通して、キュートの魔力分だけその硬度は強化される。
360
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:50:41 ID:f6Jc0GS60
光で埋め尽くされた劇場。
魔力の残滓が呼吸すらも阻む濃度で満ち溢れていた。
「な……に……?」
光が収まった時、劇場に立っていたのは二人。
相当量の魔力を引き出していたせいで疲弊していながらも、無傷の姿であった。
川 ゚ -゚) 「キュート、もうひと踏ん張りだ!」
o川*゚ー゚)o 「うん!」
その本来の力を発揮したリバーサルによって反射された魔力砲。
強大な魔力の奔流が引き起こしたのは、劇場の崩壊。
天変地異にも匹敵する威力の攻撃は、
別の世界へ繋がっている歪んだ筋状の空間をいくつも生み出していた。
川 ゚ -゚) 「全て壊れろ! ……おおおおっホライズン!」
「やめろおおおおおお!!」
二人分の魔力が込められた不可視の一撃。
地平の彼方まで全てを薙ぐ天剣最長射程の魔力斬撃。
既に崩壊しかけた空間を破壊するには充分であった。
361
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:51:11 ID:f6Jc0GS60
「な──んてね」
.
362
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:51:33 ID:f6Jc0GS60
斬撃は分解され、歪みに届く前に露と消えた。
歪みの奥から新たな人形が一体、クールたちの前に歩いてくる。
川 ゚ -゚) 「なっ!?」
「期待しちゃった? 期待しちゃった? ごめんねぇ。
でも、仕方ないんだよ。君たち二人が全然諦めてくれないんだもの。
僕はさっきから言ってるでしょ。出来るだけ傷つけたくないって」
川 ゚ -゚) 「っあ! やめろっ……!」
大波のようにあふれてきた小型の人形は、クールの手足に絡みつき、そのまま動かなくなった。
天剣に破壊されるよりも早く、新たな人形が彼女の全身を縛り付ける。
まるで十字架のように。
o川*゚ー゚)o 「ママっ!」
「おっと、君も邪魔しないでね」
指の動きに合わせて射出され、地面に突き刺さる人形の腕。
キュートを囲うように数秒で檻を為す。
川;゚ -゚) 「ぐっ……あああああっ!」
363
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:52:05 ID:f6Jc0GS60
「このまま握りつぶしてもいいけど、少し痛い目を見てもらわないとね。
まさか防御魔術にあんな性質があるなんてね。おかげで大事な空間に少し傷がついた」
川;゚ -゚) 「はっ……偉そうに魔術師であるとかいう癖に、大したことないな。
私の知っている魔術師はお前よりもずっと魔力が少なくても、すぐに気づいたぞ。
っぅうあああ!!」
「やれやれ、強がりな口はきかない方が自分の為だってわからないかな」
o川;゚ー゚)o 「ママっ! お願い! 私は言う事を聞くから、ママを離して!」
「うるさいなぁ。僕は喧しいのが嫌いなんだ。君から人形にしてやろうか」
川 -゚) 「や……めろ……」
「だってさ、君のお母さんはは優しいねぇ。……でも、いくらなんでも若すぎないか。
肉体年齢を魔術で止めてるわけでもなさそうだし……」
人形はその大きなめをぎょろつかせて囚われのクールを見定める。
「ん……これはどういうこと……?」
364
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:52:57 ID:f6Jc0GS60
魔術師ゆえに、クールの身体に刻まれた魔力痕にはすぐ気がついた。
幾重にも重ねられた複雑な隠蔽魔術のせいで、即座にその元を暴くことは出来なかったが。
それでも、その意味をすぐさま理解し、人形に宿った瞳の光は暗く輝く。
「お前、子供がいたのか」
川;゚ -゚) 「っ……!」
「はははっ! 面白い! お前馬鹿か? 子供を孕んだまま終末に立ち向かうなんて!
いいぞ、いいぞ。俄然面白くなってきた。かなり複雑な魔術だが、僕に解けない魔術なんてない」
その腹に人形の手が触れる。
幾つもの魔法陣が生み出されては消えていく。
川;゚ -゚) 「やめろっ!」
「あはははは!! 面白くなってきた! 生きたままお前から引きずり出してやろうか?
それとも胎内で成長させてお前という殻を破って産ませてやろうか!
母親としては本望だろうなぁ! あっはっはははは!!!」
川 - ) 「頼む……やめてくれ……」
「だーめだめだめ! 絶対に許さない! ……くっそ、なんだこの魔術。
硬いにも程がある。どんな馬鹿だ、こんなことを考えたのは」
365
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:53:18 ID:f6Jc0GS60
川; -゚) 「っうああ!!!」
保護魔術に干渉されるたびに、激痛がクールを襲う。
膨大な魔力による力任せの解錠は、クールの精神を蝕んでいく。
額から大粒の汗を垂れ流しながら、息を荒げてひたすらに耐える。
「くそっ……! くそっ……!
もういい! 君を生かしたままえぐり出した方が面白いのに、残念だよ」
川 ゚ -゚) 「ははっ……なんだ、魔力に物を言わせただけで、大した魔術師じゃないんだな……お前」
「……こんな状況でまだ僕を挑発するなんて馬鹿な女だ」
川 ゚ -゚) 「お前がもうちょっと魔術師らしければ、私も遠慮しただろうな」
「っ!」
o川*゚ー゚)o 「よくもママを……絶対に、許さない!」
閉じ込められたままのキュートは両腕を高く掲げ、
そこに魔力をひたすらに集中させていた。
空間に流れる魔力の動きに気付いていた人形魔術師が、
敢えて放置していた拙い魔術。
その全容を黄色く光る虚ろな瞳で確認し、喉が裂けんばかりの笑い声を吐き出した。
366
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:53:49 ID:f6Jc0GS60
「なんだ……それは……あははは!! なんだそのまがい物の魔術は!!!
あーっはっはっはっは!! あはひひひい! 腹が……捩れる……っ!」
o川*゚ー゚)o 「っ! 何がおかしいの! これだって、ちゃんと立派な魔術なんだから!」
「それは一度魔術として利用した魔力の残滓、魔灰を集めただけのただの魔力の塊に過ぎない。
それ自体は確かに難しい魔術だ。この僕でも簡単じゃあないくらいにはね。
だけどいくら量を圧縮しようと、ただの魔力塊であれば簡単に防ぐことができるんだよ!!
疑うなら試してみるか!? ほら、撃ってみろ!」
川 ゚ -゚) 「やれ……キュート」
o川*゚ー゚)o 「……うん! リジェネレート!」
母の危機を前にして自身の恐怖に打ち勝った少女が放つ魔術。
父親から受け継いだ天性の才能を遺憾なく発揮したそれは、
膨大な魔力を与えられて一直線に人形を目指した。
「コントロールもろくにできていないじゃないか。
ほら、これでお前の大好きなママは消し炭さ」
367
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:54:50 ID:f6Jc0GS60
人形は身体を傾け、射線から外れる。
直線状にあるのは、囚われたままのクール。
その身体に直撃した時、魔力の暴風が全てを包み込んだ。
「あっはっはははははははははははははははははははははははは!!!!」
五感すらも奪われる大嵐の中で、風の音にも負けない程の笑い声が永遠と響いていた。
劇場の名残は無く、破壊された人形の欠片すらもどこかへと吹き飛ばされて消えた。
暗闇に申し訳程度の焔が幾つか灯った空間で、無事な人形はひたすら笑い続けている。
「あははひひひひっひーっひっひはは!
どんな気分だ? 自分の母親を消し飛ばした時はなぁ!?」
o川*゚ー゚)o 「……あなたは本当に残念な人」
「……なんだお前、その目は」
o川*゚ー゚)o 「魔力量と魔術適性が高いだけで魔術師になったあなたは、魔術師としては下の下。
それを認めたくないから、そうやって人形の身体で人の前に姿を現す。
認めたくない事実から目を逸らし続けてきたあなたでは、
たとえどれだけ魔力を有していても、私たちには勝てない!」
368
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:55:30 ID:f6Jc0GS60
「なんだっ!? ……あ」
人形の身体は縦半分に分割された。
引き裂いたのは巨大な光の剣。
川 ゚ -゚) 「最強の魔術師だと? 笑わせるな。
魔術に無知なお前が……自らは決して戦わないお前が。
ただ一つ、恵まれた魔力で相手を疲弊させて戦ってきたお前が最強なわけがない」
「なんで……生きて……」
o川*゚ー゚)o 「リジェネレートは再転換の魔術。魔灰を、魔力として活用するための魔術。
私は最初っから、ママを狙っていたんだから!」
川 ゚ -゚) 「天剣、ナインツ・ヘイブンの魔力解放術式、ギガンテア。
普段の私なら一本を振り回すことがようやくなのだが、お前が無駄に浪費した魔力と、
私とキュートの魔力、そしてこの空間を構成している魔力の大部分を喰らった私であれば、
九つを操ることすら容易い」
その刀身が数十倍にもなった天剣を魔力で自在に操る。
切っ先の速度は音速すらも越え、魔力を乗せて放たれる斬撃は劇場跡を切り刻む。
「やめろおおおお!!!!」
一薙ぎで百の人形を蹴散らし、刹那でガラクタの山を築きあげる九つの大刀。
その殺戮の中でただ一人無傷だったキュートが叫ぶ。
369
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:56:44 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「ママ! 見つけたよ!」
クールが大暴れしている間に探索魔術を幾重にも放ち、
人形の本体がいる空間を探し当てていた。
少女が指し示す劇場の天井。
崩れかけたシャンデリアのその奥深くに巨大な剣が突き刺さった。
崩壊した天井から瓦礫に混じって落ちてきた、人型の塊。
身体中の至る所が黒ずんでいる。
川 ゚ -゚) 「……それがお前の姿か」
(#゚;;-゚) 「あっはは……笑うなら……笑え……」
黒ずんだ腕をクールに向け、魔力を込める。
即座に反応した天剣がその肘から先を切断した。
(#゚;;-゚) 「っ……!」
川 ゚ -゚) 「美しいものを執拗に執着するのは、それが原因か。醜い魔術師」
(#゚;;-゚) 「ぁぁあああ!!」
370
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:57:07 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「断て」
叫び声を根元で断ち切ったナインツ・ヘイブン。
その余波は空間そのものを破壊していく。
崩壊していく劇場の奥に拡がっていたのは、一面の砂漠。
o川*゚ー゚)o 「どういう……こと……」
川 ゚ -゚) 「わからない、が……。どうやら落ち着く暇はないらしいな」
足元までもが砂漠に侵されたところで、砂嵐の中から歩み寄る影が一つ。
全身を黒の甲冑で覆った騎士。
身の丈を超える長槍を構え一歩ずつ。
むき出しの殺意に、クールは背にキュートを庇い天剣を構える。
ギガンテアの魔術を破棄し、通常の大きさに戻った九つの天剣。
その全ての切っ先が警戒を表すかのように黒の騎士に向いていた。
川 ゚ -゚) 「構えろキュート……来るぞ」
o川*゚ー゚)o 「うんっ!」
劇場が跡形も無く消え去り、一面の砂漠となった世界。
そこに吹き荒れていた砂嵐が収まると、騎士は槍を構えて二人に襲い掛かった。
371
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:57:30 ID:f6Jc0GS60
>
('A`) 「ここは……」
何の変哲もない円形の広場。
魔力も、精霊も、呪術も、全く感じない空間。
( ФωФ) 「油断したな。別空間に飛ばされたんだろう」
('A`) 「闘技場……か?」
広場は石でできた建造物で囲われており、二人を見下ろす客席が何列も並んでいた。
誰一人として観客はいなかったが。
( ФωФ) 「まずいな……精霊がほとんど反応を示さない」
掌の上で風の精霊に命ずるも、涼しむ程度の流れが起きるのみ。
普段なら応えるはずの幾千幾万の声は、小さな囁きとなっていた。
('A`) 「精霊が薄い……いや、違うな。奴の支配のせいだろう」
372
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:00:04 ID:GoNX5bS20
高く昇った太陽から降り注ぐ光に混じり、巨大な影が闘技場内に落下した。
大地を激しく揺すり、砂埃を巻き上げた大男はゆっくりと立ち上がり、右腕を掲げた。
それに応える様に、無人だったはずの客席から大歓声が沸き上がる。
鬣のような金色の頭髪を後ろに流し、肉体を惜しげもなく晒していた大男は、
正面に構えるドクオとロマネスクの姿を見て露骨に肩を落とした。
彡 l v lミ 「なんだオルフェウスめ。誰がもやしと年寄りをよこせと言った。
興に乗らないことをしやがって。オレは龍属をよこせと言ったはずだ」
その無防備な顔を、炎の魔術が直撃した。
間髪おかずに異なる属性を持つ魔術が次々と爆発した
('A`) 「余裕ぶっているところ悪いが、こちらには時間がな……」
彡 l v lミ 「がっはっはっは。その意気やよし!」
('A`) 「無傷かよ……」
( ФωФ) 「こやつは何者だ……」
彡 l v lミ 「おぉ、聞いてくれるのか!
オレの名はアルカイオス。オルフェウスに敗れた英雄の一人だ。
噂に名高き獅子王とはオレのことだが、お前らはオレを知っているか!」
373
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:00:57 ID:GoNX5bS20
ドクオの不意打ちを気にした風もなく、自らの名前を叫ぶ大男。
存在しないはずの観客もまた、大地が揺れるほどの大声援で応えた。
「「「「「「アルカイオス! アルカイオス!」」」」」」
彡 l v lミ 「さて、弱き者どもよ。
あらゆる卑劣、卑怯を行い、その持てる全てを尽くして挑んでくるがよい。
すべてを正面から叩き潰してやろう」
( ФωФ) 「時間がないと言ったはずだ」
彡 l v lミ 「老いた男よ。この場では得意の精霊術は使えん。何を見せてくれるのだ」
( ФωФ) 「精霊術が使えないなどと誰が言った」
ロマネスクの全身から淡い光が浮かび上がる。
その一つ一つは各属性の大精霊であり、呼びかけに応えてその力を彼に貸す。
( ФωФ) 「彼の者を打ち払え」
374
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:01:25 ID:GoNX5bS20
命令を受けた精霊たちは一直線にアルカイオスの懐へ飛び込んだ。
それを防御することも無く正面から受けた大男は、
土埃の中から無傷の姿を現し、豪快に笑う。
彡 l v lミ 「がはは、今のは少し痛かったぞ」
( ФωФ) 「ドクオ……」
('A`) 「なんだよ……」
( ФωФ) 「奴に有効な攻撃はあるのか」
('A`) 「ちょうど今自信が無くなったところだ」
彡 l v lミ 「来ないのならこちらから行くぞ」
巨体が瞬発した。
ドクオが咄嗟に展開した防御魔術を全身で突き破り、振り抜いた拳が地面に埋まった。
('A`) 「くそっ……化け物か」
辛うじて躱して距離をとった二人は、追撃を警戒して即座に構えた。
アルカイオスは僅かに生まれた隙などに興味がないかのように、ゆっくりと拳を引き抜いた。
375
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:04:24 ID:GoNX5bS20
すいません、作者です。
ブラウザがぶっ壊れたので、少し時間が空きます。
申し訳ありません。
376
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:07:44 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「軽い! 軽いぞ!」
( ФωФ) 「貴様が重たいのだ!」
彡 l v lミ 「成程、真理だ!」
('A`) 「舐めやがって!」
長杖に魔力を送り込み、身体強化の魔術を唱えた。
闘技場の端まで距離を取り、威力の高い魔術に集中しようと杖を構えた瞬間、
死の気配を指先にまで感じ、硬化の魔術を反射的に発動した。
(;'A`) 「っあ!」
すんでのところで間に合ったはずの魔術は打ち砕かれ、
左半身を消し飛ばしたかと思えるほどの衝撃で反対側の壁にまで弾き飛ばされた。
( ФωФ) 「ドクオ……!」
彡 l v lミ 「軟弱だ! 拳一つでこのざまか!」
( ФωФ) 「精れ……ッ」
377
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:09 ID:GoNX5bS20
精霊術を発動する間もなく、地面に叩き付けられた。
全身の骨が限界を超えて軋む音が頭の中に響く。
(; ФωФ) 「があああ……」
彡 l v lミ 「弱い……弱すぎる……」
広い闘技場にただ一人立つ無傷の男。
足元でもがく精霊術師と、遠くで壁に埋まる魔術師を順に見比べる。
彡 l v lミ 「全く楽しめなかったな。本当にこいつら終焉を超えたのか」
( ФωФ) 「ぐ……全く、死ぬかと思った」
彡 l v lミ 「ほう、年寄りの割には根性があるな。あっちの魔術師はもう気絶してるというのに」
( ФωФ) 「魔力で強化しているとはいえ、所詮人間の身体……。
貴様の強力な攻撃にはそう耐えられまいよ」
彡 l v lミ 「それで、お前は何を見せてくれるのだ」
( +ω+) 「ふぅ……ふぅ……この姿に戻るのは丁度五百年ぶりだ……!」
378
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:32 ID:GoNX5bS20
両目を閉じて体内に存在する精霊に呼び掛け、
人化して隠されていた精霊樹としての姿を解放する。
老人のように細い身体は膨れ上がり、身長は人間の時の倍にもなった。
目の前に立つアルカイオスよりも太く逞しい腕を持つ人間を模した大樹。
彡 l v lミ 「ほう、なかなかに面白い変身だ」
( ФωФ) 「勘違いしているようだから言っておく。こちらが本来の姿だ」
彡 l v lミ 「力比べといこうか」
ロマネスクとアルカイオスは両腕を組む。
( ФωФ) 「おおおっ!」
彡 l v lミ 「ふん!」
渾身の力を込めた二人の動きは完全につり合い、停止した。
どちらも一歩も譲らない。
彡 l v lミ 「確かに力は同格のようだな! だが!」
(; ФωФ) 「がっはっ……」
379
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:53 ID:GoNX5bS20
永遠に続くかと思われた力比べの途中で、アルカイオス突然力を緩める。
前のめりになったロマネスクの脇腹を、強烈な蹴りが抉った。
痛みで動きが止まった老樹の腕を掴み、地面に向けて投げ飛ばす。
受け身をとることすら許されず、叩き付けられた。
足裏での強烈な踏み付けを受け、ロマネスクの身体が軋む。
(; ФωФ) 「ぐぅぅ……」
彡 l v lミ 「人間の身体とはかくも素晴らしいものだ。
精霊樹であるお前はいくら力があろうと、根本的に近接戦には向いていないのだ」
( ФωФ) 「ふん、そんなことを俺が分かっていないと思ったか」
彡 l v lミ 「なに……?」
('A`) 「ゼロ・グラインド!」
自身が生み出した百を超える魔術の中で、最も発生速度のある破砕の魔術。
触れたものを砕く灰色の魔力がドクオの手元から射出された。
彡 l v lミ 「そんなもの……ッ!」
380
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:09:14 ID:GoNX5bS20
魔術と拳が真っ向から衝突した。
空気が弾け、衝撃の余りアルカイオスは一歩下がる。
それでも、その拳は健在であった。
彡 l v lミ 「がははっ! 少し焦ったが、大したことは無かったな!」
('A`) 「ああ。一発ならな」
彡 l v lミ 「何……」
('A`) 「お前みたいな馬鹿堅いのを相手にするために生み出した魔術だ。
たんと味わえ……!」
間をおかずに衝撃が闘技場に響く。
ドクオが魔力を注ぎ続ける限り、次々と生み出されては放たれる灰色の魔術。
「ぐぬううううううおおおおおお!!!!」
舞い上がる砂埃でアルカイオスの姿が完全に見えなくなってもなお、
ドクオは一切手を緩めない。
( ФωФ) 「念には念を、ともいうからな。押し潰せ!」
381
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:09:44 ID:GoNX5bS20
自身の内部に存在している精霊に命じる。
やまない爆発の中心部に、真上から鉄よりも堅く圧縮された空気の槌が落とされた。
(;'A`) 「はっ……はっ……無事か、ロマネスク……」
( ФωФ) 「自分の心配をしていろ。精霊樹の化身たるこの俺がそう簡単に折れるものか」
('A`) 「人間の姿がすっかり板についていた奴がよく言う」
( ФωФ) 「たしかに、久しぶりのこの姿には違和感がある。
それで、もはや肉片すら残っていないか」
闘技場の地面は大きく沈み、アルカイオスの姿は見えない。
立ち昇る魔力の残滓が煙となって空に流れていく。
('A`) 「嘘だろおい……」
彡 l v lミ 「がはっ……ははは……流石に効いたぞ」
穴倉からゆっくりと這い出してきた大男。
裸の上半身から幾筋の血を流してはいても、五体満足の姿であった。
( ФωФ) 「潰せ!」
382
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:10:11 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「ぐおっ……」
間髪入れずにロマネスクの精霊術が叩き込まれた。
大きな音を立てて穴に転がり落ちていく大男。
その数分後、何事もなかったかのようにアルカイオスは戻って来た。
静まり返っていた闘技場の観客席から歓声が鳴り響き、男の名前を叫ぶ声が木霊する。
声援に大きく腕をあげて応え、掲げた腕をゆっくりと降ろしてドクオとロマネスクに向けた。
彡 l v lミ 「このオレの肉体を傷つけるとは、見事!
おや、開いた口が塞がらないのか?」
('A`) 「理解できねぇ」
彡 l v lミ 「そうだろうか? ふぅむ、やはり筋肉が足りないと意思疎通が難しいか」
('A`) 「お前は一体何なんだ!」
彡 l v lミ 「原初の英雄が一人にして、オルフェウスと戦った最初の英雄だ。
魔力で鍛えた肉体と、精霊を宿した拳をもって、悪を薙ぎ倒す天下無双の戦士。
老いも若きも男も女も、誰もが崇めた獅子王アルカイオスとはオレの事だ!」
( ФωФ) 「……馬鹿なのかこやつは」
383
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:10:51 ID:GoNX5bS20
('A`) 「どうやらそうらしい」
彡 l v lミ 「がはは! 弱者の問いに答えるのは強者の務めだ」
('A`) 「なら教えてくれ。お前は何故オルフェウスに協力している」
彡 l v lミ 「勝者に敗者が従うのは当然だろう?」
( ФωФ) 「原初の英雄と言っておったが、
つまり貴様も世界を救うために戦ったと、そういうことか」
彡 l v lミ 「ああそうだ。オレ一人で終焉の獣の首をへし折ってやった」
('A`) 「あれを一人で……つまりお前は、滅びる前の世界で戦った英雄だってことか」
彡 l v lミ 「オレたちはみんなそうだ。
世界の秘密に気づいて戦いを挑み、そしてオルフェウスに敗れたのだ」
( ФωФ) 「たち、ということは他にも貴様ほどの実力者がいるわけか」
彡 l v lミ 「残念だが、オレ並ぶ強者はいない。
終焉をたった一人で乗り越えたのは後にも先にも俺だけだ」
384
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:11:47 ID:GoNX5bS20
( ФωФ) 「そんな貴様ですら負けたというのか」
彡 l v lミ 「奴の最初の一撃をオレは避けずに受けたのだ。
そして気づいたら身動きが取れず、オレはオルフェウスに取り込まれた」
('A`) 「本物の馬鹿か」
彡 l v lミ 「オレはこの場所に閉じ込められ、敗北を悟った。
故に、ここに送り込まれてくる英雄達を屠ることでオレに与えられた役割を果たしている」
( ФωФ) 「貴様ほどの力があれば、この空間を破ることもできたのではないか」
彡 l v lミ 「いや、無理だ。この空間はオレの命そのもの。オレ自身にはどうすることもできない。
外からならばなんとかなるかもしれんがな」
('A`) 「成程……」
彡 l v lミ 「聞きたいことは充分聞いただろう。そろそろ続きといこうじゃないか」
構えなおすアルカイオス。
その肉体には多くの打撲と裂傷で無事なところを探す方が難しい。
それでも疲労の色は見えず、体力の底は想像できない。
385
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:12:10 ID:GoNX5bS20
( ФωФ) 「ドクオ、少し時間を稼げ。俺が何とかしてみせる」
('A`) 「無茶言ってくれる」
ロマネスクは、再度眼を閉じて体内の精霊に呼び掛ける。
隙だらけの状態になった精霊術師を背に庇い、魔術師は最も苦手とする敵の前に立つ。
最高威力の攻撃魔術は殆ど通じず、防御魔術は一撃すら耐えられない。
相性でいえば最悪。彼我の実力差は歴然としていた。
それでも心折れることなく、過去最悪の敵に対して己の胸を張る。
('A`) 「シャドウリフレクト」
彡 l v lミ 「弱き者よ、その全力でもって抗え!」
水平薙ぎは魔術を行使した瞬間のドクオの側頭部を打ち抜いた。
真っ赤な血液を散らし、ぶつかった衝撃で闘技場の壁を崩壊させる。
彡 l v lミ 「他愛もない。次はお前……」
('A`) 「待てよ」
上着は派手に避け、もはやボロ布と変わらないような状態でありながら、
その身体は全くの無傷であった。
386
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:12:37 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「驚いたな。確かに頭を吹き飛ばしはずだ」
('A`) 「あらゆる物理攻撃の影響を受けない魔術だ。
お前の拳がどれだけ重たかろうと関係ない」
彡 l v lミ 「ならば試してみるか?」
凶悪な笑みを浮かべたアルカイオス。
その表情に全身を震わせるほどの恐怖を感じ、額から零れる汗を拭ったドクオ。
コンマ以下の僅かな時間で、視界から大男が消えた。
直後、爆発と振動が闘技場内で反響する。
肉片すら残らないの程激しい一撃は、しかし何ら影響を与えることは無かった。
魔術で衣服すらも再生し、現れた時と同様の姿に戻ったドクオは告げる。
('A`) 「無駄だ」
彡 l v lミ 「がははは! 面白い! 面白いぞ! ここまで壊れなかったのはお前が初めてだ!」
彡 l v lミ 「ようやく本気が出せる」
.
387
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:14:22 ID:GoNX5bS20
背筋が凍るほど冷たい視線。仁王立ちする大男に先程までの陽気さは欠片もない。
闘技場内の気温が一気に氷点下にまで下がったのでは錯覚するほどの恐怖。
ドクオは杖を握り直そうと腕に力をいれ、自身が震えていることに気付いた。
彡 l v lミ 「簡単に壊れてくれるなよ?」
アルカイオスは右腕を引き、腰を落とす。
それが殴るための動作であることは、
近接戦闘を行わないドクオですら即座に理解するほどに単純な事前動作。
次にどうするかは考えるまでも無かった。
('A`) 「ディメンション・フォールト」
目の前に空間を歪める防御魔術を何重にも展開し、
さらに魔力を練り込み、物理的な威力を減衰させることのできる盾を呼び起こす。
衝撃を分解し、対消滅させるその大盾の名はアナイアレイション。
空に描かれた魔法陣の数は十二。
('A`) 「これが……俺の全力だッ!」
388
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:14:51 ID:GoNX5bS20
あらゆる防衛魔術と防御魔術を展開し、正面で構えるアルカイオスを待ち受ける。
大男はドクオの魔術を妨害しようともせずに、十秒以上かけた深い呼吸を繰り返していた。
一度吸って吐けば拳は破砕の加護を得た。
二呼吸目に拳は貫通の加護を得た。
三つと四つで増速と浸透の加護を得た。
五度目で反魔術の加護を得た。
六度目の呼吸で閉じた目を開き、拳に信念を乗せた。
目の前に立つ過去最高の敵に対して、内心で称賛を送る。
そうしてアルカイオスはようやく歩を進めた。初めはゆっくりと、数秒間もかけて一歩目を踏み出す。
二歩目はそれよりも少し早く、三歩目はさらに早く。
進むごとに加速し、僅か五歩で音の壁を越え、溜め込んだ全ての力をドクオに向けて叩き付けた。
弾けた魔力片が雪のように闘技場に降り注ぐ。
立ち昇る煙は収まる気配を見せず、爆心地では舞い上がった瓦礫と砂埃が渦巻いていた。
彡 l v lミ 「っふー……」
アルカイオスの右手は消し炭のように黒く焦げ付いていた。
痛むそぶりも見せずに、大きく息を吐く。
389
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:15:35 ID:GoNX5bS20
彼の後ろには大きく抉れた地面がだけ残り、
突き出した拳の先にあったはずの観客席は、崩壊して跡形も無い。
大男は待つ。自身の引き起こした結果を知るために。何も言わずに。
土煙は風に流されて次第に薄まってゆく。
全てが消滅したかに思えた直線状にその男はいた。
穴の開いたままふさがらない腹部から大量の血をばら撒きながら。
( A ) 「はっ……げほっ……ぁ……」
彡 l v lミ 「見事!」
崩れていく右腕を気にもせず、アルカイオスは腕を組み称賛を告げる。
膝をついた息をすることに必死でドクオはそれに応えることすらできない。
彡 l v lミ 「よくぞ耐えた。弱き魔術師!」
('A`) 「くそっ……なんで……」
彡 l v lミ 「因果を打ち砕く拳は、物理を超えた物理。存在しないものですら殴って壊すことができる。
魔術の防壁など大した障害ではない。と思っていたが、存外やるではないか。
がはっ! はははっ! これで右腕は完全に使い物にならない。次は何をしてくれる?」
390
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:09 ID:GoNX5bS20
('A`) 「ははっ……もう……ネタ切れだ……」
彡 l v lミ 「そうか、残念だ。その怪我だ、さぞ痛かろう。今楽にしてやる」
('A`) 「……遅ぇよ」
彡;l v lミ 「なっ……ぐぅっ……」
蹲るドクオの正面に立つアルカイオスは、突然弾き飛ばされて観客席に突っ込んだ。
完全に崩れてなくなった右腕を気にもせず、瓦礫から這い出てきた。
自らの巨体を吹き飛ばすほどの力を持つ敵に、その目は狂気の喜びで染まる。
彡 l v lミ 「っがはははは! 精霊樹よ! 貴様! その姿はどういう事だ!」
( ФωФ) 「ドクオ、再生に集中しろ。まだ助かるだろう。
クールとキュートを置いて逝くわけにもいかまい」
('A`) 「余計なお世話だ。約束は果たした。今度はお前の番だ、ロマネスク」
( ФωФ) 「言われるまでも無い」
千年を超えて生きてきた老人ではなく、口調に似合わない幼子の姿がそこにはあった。
両手は手甲のような樹木で覆われ、背中には翼と見紛う黒き枝。
額には人外であることを主張する角が一つ。
391
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:32 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「オレを吹き飛ばしたことは評価しよう。だが、所詮その程度だ。
貴様ではオレの身体に傷をつけることは出来ない!」
( ФωФ) 「本当にめでたい奴だ。この姿の意味が理解できておらんのか」
彡 l v lミ 「ごはっ……」
アルカイオスすら反応できな速度で、その鍛え抜かれた腹に深々と拳が突き刺さっていた。
掌から飛び出した光が弾け、巨体を浮かせる。
合わせて飛び上がったロマネスクの後ろ蹴りで、アルカイオスはよろめく。
( ФωФ) 「気づいていないわけがないだろう?」
彡 l v lミ 「精霊が……!?」
ロマネスクの呼びかけに応える淡い光が闘技場の中に集まってくる。
精霊たちは彼の全身に纏い、その意思に従う。
( ФωФ) 「ドクオが稼いだ時間でこの空間の支配は終わった。
この場所にいる全ての精霊は俺の命令に従う」
彡 l v lミ 「不可能だ。この闘技場はオレの命そのもの。この世界の支配権はオレにある!」
( ФωФ) 「そうだな。相当手間取った。見ろこの姿。半精霊化までしてようやくだ」
392
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:58 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「精霊化だと……?」
( ФωФ) 「貴様の生きていた時代には存在していなかったのかもしれないな。
精霊術を使いすぎた術師の末路だ。
数千倍の精霊を従わせることができるが、
時間とともに意識は薄れ一精霊と化す」
彡 l v lミ 「面白い! その力、試させてもらう!」
残った左腕を振り抜いたアルカイオス。
客席を迸った衝撃波をロマネスクは腕の一振りで四散させる。
( ФωФ) 「吹き飛べッ!」
彼の言葉に呼応し、精霊たちが持てる力を注ぐ。
そうして出来上がった強力な風の渦は、アルカイオスの全身に容赦なく叩き付ける。
彡 l v lミ 「ぐぬぅ……」
( ФωФ) 「うおおおおおおっ!!」
風に乗って加速したロマネスクの一撃。
それに対して、小細工を弄することなく正面から受ける。
絶対的な自信。それこそがアルカイオスの強さの源泉。
393
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:17:22 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「がははっ!」
( ФωФ) 「ぐぅううぬ……」
満身創痍に見えるアルカイオスの全身を覆う、溢れんばかりの荒々しい闘気。
精霊術の力を借りているとはいえ、小柄な姿になったロマネスクは押され始めた。
彡 l v lミ 「いいぞ……いいぞ弱き者! もっと……もっと抗え!」
( ФωФ) 「戦闘狂が……だが、力比べをしたいわけじゃない」
アルカイオスの拳をいなし、隙だらけの右脇腹を蹴り飛ばす。
バランスを崩した巨体の頭部を挟み込むように両腕を叩き付けた。
彡 l v lミ 「ふはっ……」
( ФωФ) 「震えろ!」
精霊化したロマネスクにとって、もはや精霊を扱うことは息をすることよりも容易い。
言葉すらも必要なく、彼が求める以上の精霊たちが集結し、その力を存分に発揮する。
高密度の大気はアルカイオスの脳を揺らせるように幾度も弾けた。
394
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:17:54 ID:GoNX5bS20
膝をついた大男にも手を緩めない。
その力を目の前で見せつけられた精霊樹に一切の油断は無かった。
彡 l v lミ 「ぐうううぅうう!」
片腕では防ぎきれない圧倒的な物量の攻撃。
( ФωФ) 「いい加減に倒れろ!」
掲げた右腕はその大きさを何倍にも増す。
握り拳は大地を砕く威力の鉄槌を下した。
僅かにその姿を保っていた観客席は、その一撃が引き起こした振動で完全に崩壊した。
いつの間にか声は聞こえなくなっており、自身の荒い息だけが耳に届く。
(; ФωФ) 「はっ……はぁっ……これで……どうだ」
動くものの姿は無く、目の前には仰向けに倒れた大男。
戦闘の最中に背中を地面につけられたことは、未だかつて経験したことが無かった。
それ故にアルカイオスは笑う。
ただ純粋な喜びでもって、声をあげて笑った。
彡 l v lミ 「訂正しよう」
395
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:18:21 ID:GoNX5bS20
寝転がったままのアルカイオスは、目の前に立つ精霊の化身に話しかける。
( ФωФ) 「何をだ」
彡 l v lミ 「貴様らを弱者だと決めつけたことだ。戦いに際し一度も膝をつくことすらなかったオレを、
仰向けに打ち倒すとはな。弱者ではなし得ない。
一つ、オレからも聞いていいか」
( ФωФ) 「答えよう」
彡 l v lミ 「お前達にも仲間がいただろう。龍と不死、魔術師と剣士の女。
あいつらも強いのか」
( ФωФ) 「俺たちと同じくらいには、強い。
だからこそ終焉のシステムそのものを終わらせられると信じてきた」
彡 l v lミ 「成程。その傲慢、面白い。行け、この滅びを定められた世界を止めてみせろ。
この場所に閉じ込められてどれだけの時間が経ったか。
お前達のおかげで少しだけ、オレというものを思い出した。
獅子王アルカイオスは、こんなつまらない場所で朽ち果てる男ではないということを」
( ФωФ) 「なっ……!?」
ゆっくりと起き上がった巨体。
静かな怒りを発しながら、残った左手を強く握り込む。
構えたロマネスクを気にも留めず、闘技場の中心に堂々と立つ。
396
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:19:00 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「奪われたことすら気づかないとは、なんと愚かなことか。
錆びた刃に価値などないというのに……。
今を生きる英雄達よ。せめてもの詫びに、道を開こう」
( ФωФ) 「何をするつもりだ……」
彡 l v lミ 「この世界を壊し、お前たちをオルフェウスの元へと戻してやる」
('A`) 「待てよ」
彡 l v lミ 「魔術師……。傷はもういいのか」
('A`) 「風穴開けられたときは死んだかと思ったがな。
この世界を壊せばお前は死ぬんじゃないのか」
彡 l v lミ 「怠惰という泥に塗れた命で、オルフェウスに一矢報いることができるのなら本望だ」
('A`) 「獅子王アルカイオス。お前は俺が戦った中でも最も誇り高く、最も強かった。
そんな男が自殺で幕を閉じるなんてつまらないことをするつもりか」
彡 l v lミ 「それしか今のオレには出来ない」
('A`) 「ロマネスクが戦っている間、俺はこの空間を完全に把握した。
世界最高の魔術師、ドクオ・ルグがお前に戦いという死に場所を与えてやる」
397
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:19:29 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「なに……?」
('A`) 「オルフェウスに取り込まれたすべての英雄世界をこの世界に引き込む。
この世界に風穴を開け、俺たちは奴の元へと向かう。
だが、ここに残らざるを得ないお前には数多の英雄が押し寄せて来るだろう。
あらゆる時代のあらゆる力を備えた英雄たちが。
おまえの意を察し味方になる者もいるかもしれないが、
多くはオルフェウスの意思に従うだろう。つまり、敵としておまえを屠るために来るはずだ」
彡 l v lミ 「ほう……オレを防波堤とするか! いいだろう! その提案にのらせてもらう」
('A`) 「カオスオーダー」
ドクオの杖から世界を歪める魔術が噴き出した。
それらは黒き奔流となり、闘技場の空に大穴を開けていく。
強制的に接続された無数の世界はゆっくりと崩壊を始めた。
その中で最大の綻びに向け、ドクオはさらにいくつかの魔術を放つ。
('A`) 「ロマネスク、奴の元まで道筋をつけた。
すぐに異常に気付いたオルフェウスによって、この世界には英雄が現れる。時間がないぞ」
( ФωФ) 「……わかっている。アルカイオス!
死ぬなよ」
398
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:20:01 ID:GoNX5bS20
裂け目から飛び降りてきた槍を持つ騎士。それを追ってか二人の女性が闘技場に姿を現した。
('A`) 「なっ!? クール! キュート!」
o川*゚ー゚)o 「パパっ!」
駆け寄ろうとした少女を狙った騎士の槍。
無言で飛びかかった騎士と少女の間に割って入り、頭を一撃で叩き潰した闘技場の主。
腕を振って血の汚れを払いながら屈託のない笑顔を見せた。
o川*゚ー゚)o 「あ、ありがとうございます」
彡 l v lミ 「なに、大したことではない」
川 ゚ -゚) 「あの騎士を一撃だと……」
('A`) 「本物の化け物だ。オルフェウスにも劣らないほどのな。
それよりお前、どうしてそんなに魔力が増えてるんだ?」
川 ゚ -゚) 「さっきまで戦っていたやつの魔力を頂戴した。
そんなことより、どんどん敵が出て来るぞ」
崩壊しかかった闘技場の世界の末端部分には、あらゆる空間が連続して存在していた。
その一つ一つから、英雄クラスの実力を持つ敵が次々と現れる
彡 l v lミ 「はやく行ってこい、英雄たち。間違った世界を終わらせろ!」
('A`) 「言われなくても、そうしてやるさ」
魔術師と精霊は、歪みに飛び込んだ。
その後を少女と天剣使いが追いかける。
温かい言葉に背を押され、傷ついた身体に強い意思をもって。
世界を終わらせるために。
399
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:21:15 ID:GoNX5bS20
>
( <●><●>) 「よもや英雄の檻が破られようとは……それも、全員に」
(;'A`) 「っ! くそがっ!」
虚ろの空間に一人立っていたオルフェウス。
その足元には、二つの塊が転がっていた。
( <●><●>) 「だが残念だったな。遅すぎた」
( ФωФ) 「退け」
ロマネスクの言葉から放たれる精霊術を避け、倒れた二人の傍を離れた。
余裕すら見せながら、地べたに座り込む。
川 ゚ -゚) 「モララー! オサム!」
( ・∀・) 「ぐっ……」
o川*゚ー゚)o 「よかった、まだ生きてる」
川 ゚ -゚) 「リフドロップ!」
400
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:21:42 ID:GoNX5bS20
光の滴が倒れて呻く龍王と呪術師の身体に染み込んでいく。
魔力による再生が行われ、表面的な傷は一瞬で消えた。
( ・∀・) 「なんで……僕を庇ったり……したんだ」
龍王の傍に横たわる呪術師は動かない。
鼓動は感じられず、肉体は冷え切っていた。
('A`) 「てめぇ……」
( <●><●>) 「いくら英雄の檻を破ったところで、所詮あれらは私に及ばなかった連中だ。
その程度で私に勝てるなどという幻想は捨てることだ」
( ФωФ) 「その認識を改めさせてやろう」
拳を握り締めて飛びかかったロマネスク。
その右腕を包み込むように精霊が集う。
( <●><●>) 「よく見ればその姿……」
( ФωФ) 「穿て!」
401
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:22:16 ID:GoNX5bS20
地面を叩き精霊術を流し込むことで、大地の精霊をたき付ける。
ロマネスクに呼びかけに応え、地面そのものがうねりをあげてオルフェウスに襲い掛かった。
その身体を貫こうと生える棘を紙一重で躱しながら、
純術師はロマネスクと同様に精霊術を地面に放つ。
( <●><●>) 「これで、相殺だ」
たったそれだけの行為で大地は嘘のような静寂を取り戻す。
( ФωФ) 「厄介な」
('A`) 「状況は悪いな。過去の英雄達がいつまた出て来るかもわからない」
川 ゚ -゚) 「なるべく早くこの化け物を打ち倒さないといけないわけか」
( <●><●>) 「諦めの悪い。抗ったところで結果は同じだというのに」
オルフェウスの周囲に強力な反応が三つ現れた。
402
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:22:54 ID:GoNX5bS20
一つは魔術。
注ぎ込まれる魔力量は圧倒的で、その術式も精緻なもの。
威力は想像に難くない。
一つは呪術。
背筋が凍るほどの悪意を詰め込んだ回避不可能な範囲攻撃。
黒泥からは怨嗟の声が届く。
一つは精霊術。
大精霊を従える上位存在である精霊神の一撃。
そのあまりの眩しさに、心が折れそうになる。
( ФωФ) 「精霊術は俺が防ごう」
川 ゚ -゚) 「ロマネスク……その姿は」
身体の一部が淡い光で覆われている古老は、笑いながらこたえた。
精霊化しつつある事実と、残された時間を。
o川*゚ー゚)o 「そんな……」
( ФωФ) 「なに、俺が精霊になれば奴に使役されるだけだ。
その前にこの命、散らせるとしよう」
403
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:23:32 ID:GoNX5bS20
( ・∀・) 「邪魔にならない様に死ぬだと?
ふざけるな。命を懸けるんだったら、それなりの結果を求めろよ」
( ФωФ) 「ふん、若輩者に説教をされるとは、やきが回ったか」
o川*゚ー゚)o 「呪術は任せて」
( ・∀・) 「僕も協力しよう」
川 ゚ -゚) 「魔術は私が止める。だからドクオ、決めてこい」
ドクオを護る様に、四人が前に出る。
その後ろで、オルフェウスを殺すための魔術を組む。
('A`) 「娘の前で、かっこ悪い姿は見せられねぇよな」
対決戦用の最終魔術。世界の根幹から揺るがしかねない至高の術式。
発生までに必要な時間は、頼れる仲間たちが稼いでくれる。
だからドクオは、目の前に迫った脅威から完全に意識を外した。
( <●><●>) 「今更、何をしようと無駄だ。矮小なる生き物たちよ。
星の破壊すら容易い一撃のもとに消え去るがいい! 」
404
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:23:58 ID:GoNX5bS20
一際大きな力を発し、三つの力が爆ぜた。
( <●><●>) 「終焉の純術、羽虫を蹂躙しろ」
人智を超えた世界規模の破壊を引き起こす三術は、抗う者達に放たれた。
もはや猶予などなく、英雄達は自身の持つ最大の力をぶつける。
( ФωФ) 「集え、数多の精霊たちよ。我が意に応えて力を示せ。
我が名に従う全ての精霊よ。
その加護によって、悪しきを阻め」
自らの身体のほとんどが精霊と化したロマネスク。
枯れた節々を持つ大樹の枝の様な指先に、無数の精霊たちが従う。
精霊神の光にも勝るとも劣らない光撃が、両者の中間地点でぶつかった。
o川*゚ー゚)o 「止めます」
オルフェウスの足元に倒れたまま動かない死術師。
その力の一端を、少女は引き継いでいる。
未来において得た力を。
o川*゚ー゚)o 「オサムさん……力をお借りします!」
呪術とは本来不可避なものである。
誰にも知られることなく、命を奪う術。
強力ゆえに多くの制約があり、決して簡単に扱うことは出来ない。
405
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:24:31 ID:GoNX5bS20
だが目の前の敵オルフェウスは、その制約をすべて無視した呪術を用いた。
防御の為に必要なのは、呪術に実態を与えること。
o川*゚ー゚)o 「呪掴!」
降り注ぐ黒い靄に対して、キュートの唱えた呪術が確かな存在を与える。
( ・∀・) 「龍神の咆哮」
実体を与えられた呪術攻撃に真っ向から立ち向かったのは龍王の砲撃。
オルフェウスの英雄の檻を砕いた一撃は、しかし呪術と拮抗する。
川 ゚ -゚) 「規格外の魔術だな」
魔術の威力は、その術式によって決まると言っても過言ではない。
では、完成された術式に、大量の魔力を注ぎ込めばどうなるか。
結果は迫ってくる一撃が示している。
川 ゚ -゚) 「魔力で届かないのなら、死力を尽くそう」
天剣の持つ特性を頭の中に思い浮かべる。
彼我に差がありすぎるために、攻撃魔術で相殺することは不可能。
ならば、単なる防御魔術で対抗できるかと言われればその答えは否。
406
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:25:06 ID:GoNX5bS20
クールは、天剣九つを正面に向ける。
剣先は等間隔で大きく開いて、正面からは花弁のように見えた。
川 ゚ -゚) 「リバーサル」
剣先から編み出された術式は蜘蛛の糸のように張り巡らされ、
やがて一つの大きな反射術式を作り出した。
防ぐには、高すぎる破壊力が、
撃ち合うには、大きすぎる魔力が
弾くには、強すぎる支配力が邪魔をする。
ならばとクールがとった手段は、魔力の拡散。
魔力砲の中心を正確に察知し、置き石代わりの反射魔術を置くことで砲撃を歪め、後方へと逃がす。
たったそれだけの単純なことであった。
川;゚ -゚) 「ドクオ……! 長くは……もたないぞ!」
返答はない。
ドクオは深く、深く、ともすれば自らを見失いかねない程、意識を集中させていた。
魔術師として、彼が世界を背負うに足ると判断した最高難易度の魔術。
ロマネスクが敵の攻撃の一切を漏らすまいと歯を食いしばる。
両腕から肩に、精霊痕が拡がっていく。
407
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:25:34 ID:GoNX5bS20
モララーとキュートが一欠片の呪いも零すまいと踏ん張る。
じわりじわりと、黒き呪いは英雄達の場所に覆いかぶさるように近づいていく。
クールが限界以上に魔力を行使し、両目から血を流しながら吼えた。
光の柱は、自身を分けている魔術を食い破ろうと暴れる。
('A`) 「……墜神魔術」
ドクオの頭上には、無数の魔術式が浮かび上がっては消えていく。
組み上げられていく魔術は、触れれば壊れてしまいそうなほど脆く見えた。
掲げた両腕で、一欠片も乱れがないように魔力をコントロールする。
コインを縦に積み上げるよりもなお精密な作業を要求されるそれは、
少ない魔力でどうやって火力を稼ぐか、という問いに対してドクオが見つけた一つの答え。
長年の研究を経てなんとか完成にこぎつけた魔術。
それは、一つの魔術を構成するために、他の魔術を用いてする多重化の技術。
ドクオであっても、発動までに数十秒もの隙が生まれる諸刃の剣。
だが、その威力は桁違いである。
('A`) 「墜ちろ! オルフェウス!」
408
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:26:17 ID:GoNX5bS20
魔術式が収束し、一つの形を成した。
細身の紡錘形である魔術は、吸い込まれるかのような暗闇の色。
空間を削り取ってしまったかのようにそこにあった。
ドクオが振り下ろしたと同時に、その場から一切の音なく消えた。
とびそうになっていたクールの意識は、大気の乱れによって叩き戻された。
モララーは、仲間がいるはずの背後からくる圧力に全身を震わせた。
必死にこらえていたロマネスクが、背後で強大な力が現れて消えたのを知覚した。
目の前に迫り来る破壊の一撃よりも恐ろしいものに、キュートの背筋が凍る。
('A`) 「エクス・スピンドル」
英雄達が最初に見たものは、飛び散る黒い光。
虚ろの空間そのものを揺るがしながら、一つ一つが大魔術クラスの片鱗が流星群のように降り注ぐ。
409
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:27:13 ID:GoNX5bS20
ついで、耳を塞がなければ耐えられないほどの轟音。
堅い壁にぶつかったかのような衝撃で、キュートはしりもちをついていた。
巨大な龍の身体を持つモララーが庇っていなければ、はるか後方に飛ばされていたであろう。。
クールは魔術で、ロマネスクは精霊術で身体と意識をなんとか引き留める。
( <●><●>) 「ア……が……が……」
大部分の質量を失ったオルフェウスは、再生するでもなくその場に立ち尽くす。
その背後、広大な空間である虚ろの空に、巨大な穴が開いていた。
そこから零れて来る泥は、ゆっくりと世界を灰色に染めていく。
('A`) 「はぁっ……はぁっ……」
o川*゚ー゚)o 「今のは……私知らない……パパ、何をしたの?」
('A`) 「魔術の多重構造化だ。魔力と誤認させた魔術を用いて、更なる魔術を発動させる。
隙は大きいが威力は倍増する」
( ФωФ) 「これで終わってくれればよいのだが……そうはいかんだろうな」
溶けだし崩壊したオルフェウスの肉体。
その煙の影から、人間が現れた。
神々しい金の刺繍が為された白色のローブを被り、光り輝く装飾で全身を飾っている男。
瞳は暗く、顔や手などのむき出しにされた皮膚には、無数の文様が見えた。
410
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:27:51 ID:GoNX5bS20
数多の精霊が傅き、彼の傍に控えている。
溢れ出る魔力は虚ろの中を満たして、息苦しくなるほど。
( <●><●>) 「流石に……驚かされたぞ」
( ・∀・) 「集え七星、デュプリケイト」
自身と同等の戦力を持つ龍王の影が七つ。
即座に反応して飛びかかった。
( <●><●>) 「はやるな、小龍」
(; ・∀・) 「なっ……」
ただの一撃で、七体が霧散した。
魔術によるものであることしか、モララーには認識できなかった。
(;'A`) 「嘘……だろ……」
魔術師であるドクオは、龍王の影を撃破した攻撃の詳細を理解していた。
堕神魔術として自身が組み上げたと思っていた魔術の多重構造化。
それをより効率的に用い、ほとんどタイムラグを必要としない一撃だったということに。
411
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:29:06 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「おまえたちは実によく戦った。
空想体である私の姿を打ち破ったのは、未だ誰も無しえなかった快挙だ。
故に、最大限の賛辞を贈ろう」
川 ゚ -゚) 「その余裕、気にくわないな」
( <●><●>) 「気に障ったのならすまないな。
この姿で他者と接するのはこの座に来てから初めてこのことだからな。
何か褒美でもやりたいところだが……」
('A`) 「終焉のシステムそのものをなくしてくれるとありがたいんだがな」
( <●><●>) 「それはできない。
おまえたちがどう抵抗したところで、この世界の根本的な仕組みは覆せない。
この座の主である私以外には」
('A`) 「だったら、お前を倒してその座を奪い取ればいいという事か」
( <●><●>) 「夢を持つのは自由だが、現実をもう少し見据えるがいい。
お前たち全員でようやく私の空想体を倒した程度の実力で、
どうやって私に抗うつもりだ」
川 ゚ -゚) 「やってみなければ……わからんだろう」
412
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:29:51 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「やれやれ……お前たちが望むのなら、英雄の檻に迎え入れてやろうとも思ったが」
( ・∀・) 「あんな飼い犬のような状態、こちらからお断りだ」
( ФωФ) 「俺たちの世界が消えてしまったその後に、自分たちだけ生き残ったところでなんとなる」
( <●><●>) 「では、世界諸共消滅してもらうしかあるまいな」
('A`) 「行くぞ……! ミリオンサンズ」
太陽を模した赤く輝く小さな光の魔術。
オルフェウスの周囲を完全に包囲した。
o川*゚ー゚)o 「ブローティング!」
ドクオの魔術に重ね掛けをすることで、疑似的な多重構造化を引き起こすキュート。
熱球は肥大化し、更なる熱量を放出する。
( <●><●>) 「フーリズ」
ただ一言で、周囲の魔術を凍結させたオルフェウス。
その首元を狙った斬撃はしかし、直前で砕かれた。
413
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:30:21 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「っちぃ!ホライゾン!」
八つの斬撃が同時にオルフェウスを襲う。
空間そのものを断絶するかのような鋭い刃を、次々と砕いていく。
( ФωФ) 「この身、精霊になろうとも」
既に半身が精霊と化したロマネスクが、その全力をもって突っ込む。
散らばった刃の破片の吹雪を真っ直ぐに抜け、精霊術を纏う。
( ФωФ) 「叩き伏せろ!」
巨大化させた右腕を振り下ろした。
質量、速度共に最大の一撃は、右腕一本で阻まれた。
( <●><●>) 「ロマネスク、精霊となって私にしたがえ」
( ФωФ) 「ぐうっ……」
オルフェウスの言葉の力で、じわりじわりと精霊化が促進していく。
完全精霊化の危機を救ったのは、龍王の一撃。
ロマネスクの腕の影から、音速の突進。
魔力を纏っていなかった一撃は、オルフェウスには感知できないはずであった。
414
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:30:46 ID:GoNX5bS20
( ∀・) 「がはっ……」
迎撃は、呪術による呪いの棘。
地面から突如現れたそれらは、モララーの全身を貫いた。
攻撃を受けた瞬間に、龍化をやめ拘束を解く。
棘の合間を縫ってさらに距離を詰め、至近で再度龍化。
( ・∀・) 「くらえ……っ!」
ほぼゼロ距離から龍技を叩き込んだ。
一瞬の隙に距離をとったロマネスク。
モララーもまた、それを確認して一度距離をとる
( <●><●>) 「連携も優秀だ。消すのがもったいないと思うほどにはな」
('A`) 「言ってろ……!」
o川*゚ー゚)o 「行くよ! パパ!」
('A`) 「ソウルチェイン」
o川*゚ー゚)o 「グランドロック」
二つの捕縛魔術が、同時に発現した。
一本の鎖がオルフェウスの身体に巻き付き、その両手脚を隆起した大地が抑え込んだ。
415
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:32:12 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「エンプティネス……。鳴れ、黒呪雷・千条」
二人がかりの魔術を身動き一つせずに消滅させ、
同心円状に雷の呪術を放つ。
黒き雷は、全てを穿ちながら虚ろを奔った。
川 ゚ -゚) 「っ……」
( ФωФ) 「すまぬが、ここまでだ」
( ・∀・) 「ロマネスク!」
英雄達を襲った呪術をその身で防いだロマネスクは、身体の半分以上が吹き飛ばされていた。
精霊化しているがゆえに即死を免れたにすぎず、
もはやその命に幾許の猶予もなかった。
( ФωФ) 「聞け! わが身に宿りし精霊よ! 今こそ……この魂を委ねよう。
二千を越えた歳月の全てを捧げる。 神を殺す刃となれ!」
叫び、抑えていた精霊化の力を解放させた、
精霊と一体になったロマネスクの傷は、完全に癒えていた。
身体に似合わない程大きな左拳をオルフェウスに向けて飛び込んだ。
416
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:33:21 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「跪け」
( ФωФ) 「その程度……!!!」
精霊使いの言葉は、精霊たちにとっては神にも等しい。
逆らうことは容易ではない。言葉に従おうとする身体と、異なる意志。
相反する二つの力を受けて、ロマネスクの背中が捩れていく。
( <●><●>) 「我が言葉に従え」
(#ФωФ) 「ぬっぅうううおおおお!」
( <●><●>) 「膝を屈して拳を降ろせ」
(#ФωФ) 「ぐぅうう……!」
オルフェウスの一言一言が、ロマネスクの肉体を締め付ける。
抗おうとすればするほど、精霊化した肉体の一部が千切れるように消え去っていく。
( <●><●>) 「命ずる……っ!」
( ・∀・) 「道をつけるぞ! 響け! 龍鐘!」
猛々しい鳴き声が与えるのは、身体能力向上の加護。
限界を超えて戦うための龍技は、傷を癒し、痛覚を奪い、疲労を軽減する。
龍王の祝福がロマネスクの全身を包み込む。
417
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:33:42 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「ちぃっ! 黒呪壁・無頼。マキシフォールト」
もはや精霊術では止められないと知ったオルフェウスは、
異なる二つの壁を即座に創り出した。
呪術と魔術による二重防護障壁。
川 ゚ -゚) 「ペネトライト」
ナインツヘイブンの保有する魔術の中で最速の一撃。
光の刺突は、クールから供給される魔力でもって一直線に空間を貫く。
('A`) 「ブラストレイ」
o川*゚ー゚)o 「スパイラルレイ」
大魔術師である二人が唱えたのは光魔術。
丁寧かつ大胆に放たれた魔術は、天剣の魔術と合わさり一つになった。
一段と大きな光の槍となったペネトライト。
多重構造化した魔術光は、真正面からオルフェウスの魔術にぶつかった。
( <●><●>) 「なっ……に……!」
世界すらも分断してしまうほどの大盾は、英雄達を阻むには足りなかった。
ぶつかり合った力は一瞬だけ拮抗し、両者ともに真っ二つに裂けた。
膨張し、今にも爆発臨界点にあった魔術の塊に突っ込んだ影が一つ。
418
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:34:15 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「恐ろしい執念だな……」
荒れ狂う魔力の奔流を抜け、精霊と化したロマネスクはオルフェウスの前に飛び出た。
(#ФωФ) 「ぐっ……っらあああ!」
( <●><●>) 「っ!!」
巨大な拳の一撃は、ただの殴打ではない。
ありったけの精霊に命じた術は、周囲の大気を焦がすほどの超高熱。
真っ赤に燃えた拳が、オルフェウスを捉えた。
( <●><●>) 「っは……はっ……」
膝から崩れ落ちた老樹ロマネスク。
その身体はゆっくりと光になって虚ろに溶けだしていく。
( ・∀・) 「ロマネスク!?」
( ФωФ) 「言っただろう。この力が精霊となったせいで、俺らの道を閉ざすわけにはいかない。
どうやらここまでだが……」
419
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:34:36 ID:GoNX5bS20
('A`) 「後は任せろ」
強大な一撃で吹き飛ばされていながら、何事もなかったのように起き上がるオルフェウス。
暗闇の中から歩いて現れたその細身の身体には、傷一つない。
川 ゚ -゚) 「無傷……か……」
( <●><●>) 「直撃の瞬間に精霊術で相殺したに過ぎない。
さて、これで残り四人だ。未だ抵抗するかな?」
o川;゚ー゚)o 「っ……勝てない……こんなの……」
残っているのは、魔力を糧に戦ってきた英雄達。
戦闘を経て消費された魔力は膨大で、限界も近い。
一方で、目の前に立つ純術師の魔力は一向に減る気配見えない。
魔力そのものが見えているキュートにとって、これほど絶望的なことは無かった。
('A`) 「諦めるな。ここで全てを投げ出したら、俺たちはすべてを失う。
存在したという事実さえ、すべて奪われる」
( ・∀・) 「まだだ……まだ戦える!」
上空へ飛びあがったモララー。
その姿を追うかのように、魔術がいくつも空を奔る。
420
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:35:07 ID:GoNX5bS20
('A`) 「くそっ……」
自身に向けられる攻撃を必死に避けるドクオ。
もはや相殺することすら叶わず、角度をつけた魔術をぶつけて強引に角度を変える。
そうして致命傷だけを避けるのが手一杯であった。
川 ゚ -゚) 「リバーサル……! ホライゾン! エスノストゥム!」
九つの魔術しか使えないクールは、より危機的な状況にあった。
同時に発動できるとはいえ、一つ二つ重ねた程度ではオルフェウスの魔術一つ弾くことは出来ない。
持ち前の身体能力とセンスで、辛うじて攻撃を躱す。
反撃に出る余裕など全くと言っていいほどなかった。
母親譲りの大魔力と父親の才能を受け継いでいたキュートは、
その経験不足の為に手を打てないでいた。
父親の多重構造化の魔術を一見しただけで理解した彼女は、
自分なりのアレンジを加えて防御魔術を張っていく。
破壊されるたびに、さらに丈夫なものへと、魔術を少しずついじりながら。
( ・∀・) 「ぐぅぅ……!」
モララーは全速力で飛行しても、一つも置き去りにできない誘導式魔術に苦しめられていた。
当たれば自身の身が砕けてしまいそうなほどの威力がありながら、
速度も性能も、龍王の飛翔と同等である魔術。
それらを背後に抱えながら、モララーは虚ろの空を飛ぶ。
421
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:35:28 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「そろそろ連携もとれなくなってきたな。もう一押しと言ったところか」
攻撃が、さらに厚みを増した。
('A`) 「ぐっ……」
最初に膝をついたのはドクオ。
自身の持つ魔力を既に限界を超えて引き出していたせいだ。
('A`) 「こうなったら……」
o川*゚ー゚)o 「パパ! 駄目えええ!!」
奥の手である魔術を解放しようとした瞬間に、魔術に弾き飛ばされた。
オルフェウスの一撃と勘違いし、死を覚悟したドクオ。
そのせいで想像よりもずっと軽い魔術を受けた、ということを理解するのに少し時間がかかった、
o川*゚ー゚)o 「絶対だめだよ、パパ」
防御魔術を配りながらドクオの隣まで来たキュート。
川 ゚ -゚) 「我が娘ながら流石。ドクオ、それだけは認めない」
オルフェウスの攻撃に正面から全力をぶつけた反動を利用して、
クールもまたドクオの傍に寄りそう。
422
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:35:50 ID:GoNX5bS20
('A`) 「だが、ここままじゃ」
o川*゚ー゚)o 「力押しで勝てないんだったら、勝てるように戦って。
パパならできるでしょ」
川 ゚ -゚) 「不可能を可能にできるのは、ドクオお前だけだ。
信じてるぞ……」
ドクオを庇うように、二人は立つ。
娘として、偉大な父親を背に庇うことに喜びを感じながら、防御魔術を発動させる。
妻として、愛した男性のために命を懸けることを当然のようにして、天剣を振るう。
('A`) 「無茶を言う……だけど……」
母娘の息は寸分の狂いもなく同調した。
クールが選択した天剣による対処をキュートが強化する。
お互いの不足を補いながら、二人は密度を増した攻撃を的確にさばいていく。
( ・∀・) 「ぐ……」
二人の前に落下してきたのは傷だらけの巨躯。
上空から降り注ぐ無数の槍が、その肉体を貫いた。
(;'A`) 「モララー!」
423
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:36:17 ID:GoNX5bS20
( ・∀・) 「いいから! 黙って考えてろ!」
龍化を解き、再度叫ぶ。寿命を削る魂の姿を発現するために。
(#・∀・) 「リベレーション!!」
龍王は新たな肉体を手に入れて、降りかかってきた呪術を吹き飛ばした。
その勢いのままに、力押しで精霊術を噛み砕く。
命を懸けて作ってもらったわずかな時間で、ドクオは完全に脱力した。
肩の力を抜き、目の前にまで迫った命の危機を思考の外に追いやる。
残されたわずかな魔力で発動させたのは思考加速の魔術。
あらゆる現実が、不可能を継げていた。
圧倒的な魔力量の差。
術者としての優劣。
一騎当千、万夫不当の英雄達が集まってすら、与えたダメージはほとんどゼロ。
ロマネスク渾身の一撃をコンマの時間で防ぐだけの防御力を持ちながら、
一撃が死につながる威力の攻撃術が嵐のように吹き荒れる。
魔術、精霊術、呪術を組み合わせた隙の無い布陣を一切の澱みなく操り、
数多の英雄を見てきた経験と知識。
およそ勝つための要素は何一つとしてない。
424
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:36:37 ID:GoNX5bS20
('A`) (違う……そうじゃない……)
自身が出しかけた結論をすんでのところで飲み込む。
諦めて終わりならば、どれほどだ楽だろうか。
手の届くところにあるに安直な答えには手を伸ばさず、彼は得難きを得るために思考する。
('A`) (足りない。……何が)
魔力が足りない。
知識が足りない。
技術が足りない。
異能が足りない。
人数が足りない。
装備が足りない。
時間が足りない。
戦士が足りない。
術師が足りない。
────────戦力が足りない。
425
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:37:58 ID:GoNX5bS20
足りないものだらけの自分達に、頂に至れる道が通れるとは思えない。
だったら、埋め合わせるしかない。
足りないものを手に入れて、前に進むための力とする。
('A`) 「そうだ……」
ドクオの目の前で火花が散った。
クールとキュートによる防衛魔術が、紙一重で間に合った結果だ。
( <●><●>) 「さて、答えは出たのでしょうか。絶望という唯一無二の解答が」
('A`) 「案外、そうでもないさ」
( <●><●>) 「強がりですか」
('A`) 「キュート! 魔力を借りるぞ!」
即興で組み上げる魔術式はひどく単純なもの
それ故に、この術式は大魔力を必要としない。
ただ、道を作り出す。世界を繋ぐ架け橋を。
( <●><●>) 「……まさかっ!」
強烈な魔術がクールとキュートの防御魔術を粉々に砕いた。
426
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:38:25 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「っ!」
( ・∀・) 「させるかぁっ!」
無防備な魔術師達を庇うようにオルフェウスの視界を塞いだ白い巨体は、
その右手が触れただけで螺旋状に抉られた。
塵のように簡単に吹き飛ばされるモララー。
驚いている二人の魔術師の間を抜け、ドクオの頭部目指して振り下ろされる刃。
人間の命を奪うには十分すぎる鋭い一撃は、
一切の躊躇いなく振り下ろされた。
「ようやく油断しましたね」
( <●><●>) 「ごふっ……まさか……」
オルフェウスの胸から生えた漆黒の棘。
呪いはその身体の動きを奪い、銀色の刃はドクオの目前で止まっていた。
【+ 】ゞ゚) 「黒茨棘。どうですか、腸から食い破られた気分は」
427
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:38:50 ID:GoNX5bS20
膨張を始めた黒い棘は、そのままオルフェウスの両手両足を飲み込んでいく。
全身が余すところなく見えなくなったところで、突如として呪術は消滅した。
( <●><●>) 「この程度で殺せるとは、甘く見ていないか」
【+ 】ゞ゚) 「ごほっ……」
オサムの腹から、先程と同様の棘が現れた。
( <●><●>) 「呪詛返しなど、容易い。死ね」
振り向きざまに振るわれた一閃。
ドクオの首を狙ったその攻撃は、素手で受け止められていた。
( <●><●>) 「めんどうなことを……」
('A`) 「過去の英雄達の存在を保存していたのが仇になったな……利用させてもらったぞ」
彡 l v lミ 「まさか、本当にここまで健闘するとはな」
上半身裸で筋骨隆々とした肉体を見せびらかしながら男は腕を組む。
つい先ほどの戦いなどなかったかのように、五体満足の姿で。
428
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:39:11 ID:GoNX5bS20
('A`) 「アルカイオス……」
彡 l v lミ 「精霊樹はどうした」
('A`) 「ロマネスクは……」
言い淀んだドクオの言葉で全てを察した男は、
黙ったまま睨みつける。
( <●><●>) 「今更、敗者が出しゃばってきてもらっても邪魔だ。
檻の中へ戻ってもらおうか」
彡 l v lミ 「負けた? このオレが? はっはっはっははは!
オルフェウス! 戦わずにオレを閉じ込めたのは、恐れたからではないか。
原初の英雄である、このオレの力を」
( <●><●>) 「……再度教えてやらなければならないようだな」
彡 l v lミ 「おっと、それはお前の考えているほど簡単なことじゃないぞ」
( <●><●>) 「なにを……まさか!!」
初めて、オルフェウスの表情に苛立ちという変化が見えた。
それに気づいたドクオは、出来る限り強がって笑う。
429
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:39:42 ID:GoNX5bS20
('A`) 「英雄の檻、解析させてもらったぞ」
虚ろのあちこちに綻びが生じ、それぞれが異なる世界の主たちを呼び寄せる。
かつて戦って、破れた英雄達を。
大剣を担いだ鎧武者は、分厚い面の奥から赤い瞳がのぞく。
背筋が凍るような殺気を纏い、巨大な獲物をかつての敵に向ける。
──────鎧鬼、オーガ
骨の怪物に乗って現れた華奢な少女。
その魔力によって、骸骨達が生き物のように動き出す。
──────滅び姫、ルールー
羽ペンを持ち、スーツで身を固めた長身痩躯の男。
その両の耳は髪の隙間から飛び出すほどに大きく、細い眼で憎むべき相手を見据える。
──────筆折、シバ
430
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:40:03 ID:GoNX5bS20
ふわふわと浮かぶのは、人間の半分ほどの大きさ。
渦巻く角を持ち全身を白い毛で覆われた四足歩行の姿は、天使の庇護下から逃げ出した反逆の獣。
──────天獣、エンゼルシープー
燃え盛る炎の精霊。人型を得て、自我を持った、精霊術師に従わない異端の存在。
爆ぜる火花が真っ赤で大きいのは、激しい怒りの現れ。
──────火精、フレムス
全身が影と見紛うほどに真っ黒な小人。
無数の呪いを小さなその身に受け、なおも生きる不可思議な生物。
──────呪われ、ヒトガタ
川 ゚ -゚) 「あの変態は来ないよな……」
o川*゚ー゚)o 「来てほしくないけど……」
431
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:40:32 ID:GoNX5bS20
('A`) 「心配するな。彼らは檻から解放することで俺たちと戦ってくれる」
( ・∀・) 「向こうで殺した英霊は?」
('A`) 「壊れてしまった世界の英雄は、再生は出来ない。
だが……これで足りないを補えたぞ! オルフェウス!」
( <●><●>) 「雑魚どもが……!! 調子に乗りやがって!!」
オルフェウスの周囲の魔力が、一つの魔術に注がれていく。
('A`) 「止めるぞ」
( <●><●>) 「遅い!」
発生は神速にして、威力は凶悪な魔術。
ドクオが魔術防壁を築く前に、それは目標に向けて放たれていた。
川 ゚ -゚) 「っ!」
通り過ぎた後を削り飛ばすほどの魔術を、
アルカイオスは正面から殴り飛ばした。
( <●><●>) 「馬鹿め」
432
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:41:05 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「気づいていたが、敢えて受けた」
消し済みとなった右手首の断面から、黒い影が幾条も伸びる。
それは、魔術の中に隠されていた呪い。
常人ならば数秒で気が狂うほどの憎悪をその身に受けてなお、アルカイオスは立ち続ける。
( <●><●>) 「っち!」
英雄の中の英雄。
歴史の頂点に位置する強者たちは、まるで図ったかのようにオルフェウスの懐に飛び込んでいた。
川 ゚ -゚) 「キュート! ぼさっとしない」
o川*゚ー゚)o 「う、うん!」
錚々たる顔ぶれに一歩も引くことなく、クールは天剣に魔力を集中させる。
凛とした声で現実に引き戻されたキュートも、魔術を編み始めた。
o川*゚ー゚)o 「パパは休んでて。少しでも魔力を回復さないと」
('A`) 「すまん」
瓜゚∀゚) 「魔力切れなんの?」
('A`) 「お……あなたは……」
433
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:43:19 ID:GoNX5bS20
瓜゚∀゚) 「きみにぼくの魔力を分け与えるの。じっとしてるの」
エンゼルシープーはその身から光の珠を取り出した。
それをゆっくりとドクオの胸の中に沈めていく。
('A`) 「まさか……他者に魔力を贈与するなんてことが……」
瓜゚∀゚) 「ぼくにとっては簡単なことなの。
未だ戦いは終わって無いの、気を抜いたらだめ」
甲高い金属音。次いで響いた鈍い音。
二つの音は、一人の英雄の死。
( <●><●>) 「邪魔だ! 邪魔だ邪魔だジャマダアアア!!」
オーガの肉体を貫いていた腕を引き戻すのと、
真後ろに迫った火精を封じ込める結界が発動したのは同時だった。
そのまま結界は収縮し、ついに目に見えなくなった。
( <●><●>) 「遠距離しか脳の無い雑魚が!」
後方で魔術を組んでいたシバを、背後に顕現した精霊術の刃が細切れにした。
li イ ゚ -゚ノl| 「ぜんぐん、こうしん」
少し離れた所で大量の骸骨軍を召喚していたルールー。
虚ろを埋め尽くさんばかりの大軍は、なおも生まれ続けている。
434
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:43:47 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「鬱陶しい!」
言葉が紡ぐのは精霊術。
一言で百の戦士を大地へと還した。
li イ ゚ -゚ノl| 「がいこつちょう、こうか」
上空からオルフェウス目掛けて降り注ぐのは、やむことの無い骨の雨。
その影すら見えなくなるほどの密度で、骨の鳥は地面に叩き込まれていく。
( <●><●>) 「死者は死へと」
煙の中から届くのは、嗄れ声。
ルールーの首元に突如として現れた黒い小刀が、頭部を分断した。
( <〇><●>) 「アルカイオスゥウゥゥゥウ!!!」
叫び、飛び出してきたオルフェウス。
骸骨軍は主を討ち取られたことで消滅し、一人残されたアルカイオスが正面から迎え撃つ。
('A`) 「っ!!」
435
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:44:13 ID:GoNX5bS20
大男に向かって一歩を踏み出した瞬間に、背後の死角から斬り込んだクール。
天剣で発動させたギガンテアを振り下ろした。
高密度な魔力の大剣を容易く砕き、その身体を熱線が穿った。
('A`) 「クールっ!!」
o川*゚ー゚)o 「ママ! もう一度!」
穴だらけになった影は、人間の大きさほどもあるただの塊に変わった。
無傷のクールは、オルフェウスのはるか後方で九つの刀を全て振るう。
川 ゚ -゚) 「ホライゾン」
( <●><●>) 「っち」
遠距離斬撃の刃を対処しようとした瞬間に、アルカイオスが一歩で懐にまで踏み込んだ。
岩よりも強固な拳が、細身の体に突き刺さった。
( <●><●>) 「がはっ……」
跳ね飛ばされたオルフェウスが体勢を立て直す隙を与えずに、
組んだ両の拳がその頭部に打ち込まれた。
436
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:44:42 ID:GoNX5bS20
跳ね飛ばされたオルフェウスが体勢を立て直す隙を与えずに、
組んだ両の拳がその頭部に打ち込まれた。
彡 l v lミ 「いいか、現代の英雄。息をつかせるな。オルフェウスとて元はただの人間。
術さえ奪ってしまえば、殺すことができる」
('A`) 「あ、あぁ」
【+ 】ゞ゚) 「私も出し惜しみせずに全力で行きます」
( ・∀・) 「死んでなかった理由は後で聞く。今は畳み掛ける時だ」
( <〇><●>) 「糞が!!クソクソクソクソクソクソクソ!!!」
見境なく放たれた数十の魔術。
一つ一つが世界を破壊しかねないほど強力なものでありながら、
狙いは定かではなく、あちらこちらで爆発を引き起こした。
川 ゚ -゚) 「ぐぅ……」
爆風に巻き込まれたクールを癒すために、キュートは回復の魔術を即座に唱える。
ドクオは大きく後退し、堕神魔術へとありったけの魔力を注ぎ込む。
すぐ隣で、天獣が魔力タンクとしての役割を果たす。
( <●><●>) 「小賢しいィ!」
437
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:45:13 ID:GoNX5bS20
正確な狙いの遠距離砲撃は、回避不可能な速度でドクオを貫かんと迫った。
それは直前で暗闇に捉えられ、質量を喪失する。
「黒呪界・冥」
ヒトガタの呪術がドクオとその周囲を覆い、不可視の結界を作り出した。
存在すら感知できなくなった魔術師の行方を捜しはせずに、
オルフェウスは目標を他の英雄に定めた。
至近距離を維持し、隙あらば殴打が飛んでくるアルカイオスから、
全力の飛翔で距離をとる。
遥か上空から、大地に向けて大気の圧力を叩きつけようとした時、
ひとりの姿が足りないことに気付いた。
( <●><●>) 「っ!」
さらに上空より、的確にオルフェウスを狙って降り注ぐ光の奔流。
( ・∀・) 「落ちろ!」
( <●><●>) 「ぐっ」
一撃で撃ち落とそうとするよりも、手数で視界を塞ぐ攻撃。
上空に意識を奪われたオルフェウスを背後から斬撃が襲った。
438
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:45:41 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「がっ……」
それでも上空に留まる純術師を狙い、
五感を奪う呪いが届く。
( <●><●>) 「次から次へと……! 対して効きもしないのに……!」
オサムの呪術を力技で振り払った瞬間に、筋肉の塊を見た。
( <●><●>) 「なっ……」
遥か下方で跳躍の魔術を確認し、現状を理解したオルフェウスは即座に三重の防御を張った。
魔術障壁、呪術壁、精霊の加護。
速度においては一級品。不屈の防御能力を有したはずが、目の前の男は不敵に笑った。
彡 l v lミ 「まだオレの全力の拳を受けたことは無かったな?」
オルフェウスは、拳が巨大化したのかと錯覚した。
魔術も呪術も、精霊術も纏っていないはずのただの拳。
その一撃を、確かにオルフェウスは脅威と感じていた。
彡 l v lミ 「ぬうおおおおお!」
音が爆ぜた。
虚ろの大気が震え、直後に大地が砕ける轟音と振動が響く。
視界を完全に塞ぐほどの煙が吹き荒れる中、アルカイオスは悠々と着地した。
439
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:46:05 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「ここまでか」
( ・∀・) 「そうだな、お前の負けだ」
( <●><●>) 「いや違う、お前たちが、だ」
地面に描かれる魔術式の周囲で呪術が立ち昇る。
二つの術は中心に発現した精霊術と混じり合い、球形に収束した。
蒼雷が零れ、掠っただけで地面を捲り上がらせる。
彡 l v lミ 「まずいぞ! 下がれ……!」
( <●><●>) 「逃げ場などない。虚ろを崩壊させかねないほどの力だ。
使うのを躊躇うほどにはな……」
英雄達は一カ所に集まり、防御を構成する。
単独では防ぎきれないと、誰もが察していた。
( <●><●>) 「ゼロの術。───万界帰無」
光が虚ろに満ち溢れた。
空間全てが揺らぎ、虚ろの存在そのものが不確かになる。
あらゆる戦いの残骸は灰燼となって消滅し、
大地は数百メートル単位で削り取られた。
440
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:47:14 ID:GoNX5bS20
長く響いた魔術砲が終わり、静寂が訪れる。
虚ろの空には罅が入り、今にも崩れ落ちそうなほど。
( <●><●>) 「ほう……生きているとは思わなかったぞ」
邪悪な笑みを浮かべた途端に、顔に入った亀裂から破片が毀れ落ちる。
視線の先には、蹲っている英雄達がいた。
川;゚ -゚) 「ぐっ……」
o川;゚ー゚)o 「うぅ……」
( <●><●>) 「一、二……三人か。上出来ではないか。
咄嗟に魔術をぶつけたのは、良い判断だった。
それが無ければ、今頃全員仲良く消し済みだ。
そろそろご退去願おう。虚ろも限界が近い」
オルフェウスの指先に魔力が集められていく。
不安定で揺らいだ魔術には、先程までの威力からは程遠い。
児戯にも等しいそれは、真っ直ぐに放たれた。
彡 l v lミ 「っ……はぁ!」
全身のほとんどが黒く焼け焦げた状態のアルカイオスは、魔術を左腕で弾き飛ばした。
結果崩れ落ちた腕を気にも留めず、目の前の敵を睨む
441
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:47:36 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「未だ抵抗するか」
彡 l v lミ 「立て……奴も限界が近い」
o川* ー )o 「パパ……」
( <●><●>) 「もう無理ですよ。その二人も、いずれ死にます。
とどめを刺してやることがせめてもの情けでしょう。
すぐに父親と同じところに送ってあげますよ」
彡 l v lミ 「うぅおおお!!」
拳の無い右腕一本で、オルフェウスへと殴り掛かる。
力を振るうたびに狙った場所に魔術式が描かれ、何度も何度も砕かれた。
( <●><●>) 「流石のおまえも、もはや限界といった風だな。
私の庇護下にあれば無限の生があったものを」
彡 l v lミ 「家畜の生など願い下げだ。オレは獅子王アルカイオス。
ギリア王国で万の民を従がえし王なり」
( <●><●>) 「亡国の王が……!」
彡 l v lミ 「立て! 世界を護りし者よ。
己が魂にかけ、失われた者達の遺志を継ぎ、全てを救うのだ」
442
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:48:06 ID:GoNX5bS20
渾身の一撃は、オルフェウスの身体を穿った。
( <●><●>) 「黒泥呪・反転」
傷口から流れ出す黒い泥がアルカイオスをゆっくりと飲み込んでいく。
全てを出し尽した男には、抵抗する力も残されていなかった。
原初の英雄は自我が奪われていくのを感じながら、闇に沈んでいく。
彡 l v lミ 「戦え……」
最期の一言は、静かな虚ろに染み込んで消えた。
確たる信念を燃やしていた優しい瞳は、閉じられていく。
たった一人の心に火をつけたことを確信して。
全てを、後のものに託して。
アルカイオスはその意識を手放した。
( <●><●>) 「……寝ていれば楽に終われたものを」
今にも死にそうなほどの重傷を受けたキュートが、その細い足で立ち上がっていた。
焼けただれた腕も、焦げ千切れた髪も、傷だらけの顔も。
立っているだけで激痛なはずの少女は、それでも歯を強く食いしばり。
o川*゚ー゚)o 「…………から」
( <●><●>) 「なに……?」
443
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:48:39 ID:GoNX5bS20
o川*゚ー゚)o 「パパが教えてくれたから」
( <●><●>) 「おまえの父親は死んだ。塵一つ遺さずに完全消滅したのだ。
蘇生も再生も、不可能だ」
川 ゚ -゚) 「っく……ははっ……」
クールは腹の傷を抑えながら立ち上がる。
滝のように流れる血は、彼女の命が残り僅かだと教えていた。
o川*゚ー゚)o 「何が可笑しい」
川 ゚ -゚) 「はぁっ……はぁっ……見せてやれ、キュート!」
o川*゚ー゚)o 「エクス」
キュートは、両手を掲げ魔力を集中させる。
持てる全ての魔力を。
戦いの残滓となって虚ろに溢れている魔灰を。
444
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:49:03 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「馬鹿な……そんな魔力が残っているはずは……いや、それにその魔術は!」
複雑な魔術式が幾重にも展開されては圧縮されて、さらに巨大な魔術式の一部となる。
ゆっくりと、着実に魔力が注ぎ込まれていく。
o川*゚ー゚)o 「クィンタ」
( <●><●>) 「おおぉおっ!!!」
オルフェウスが放つ魔術も呪術も、精霊術も顕現時の威力と比べれば見る影もない。
それでも、複雑な魔術に前意識を裂いているキュートには致命の攻撃。
それを、八つの光剣が切り裂いた。
川 ゚ -゚) 「やれ、キュート」
o川*゚ー゚)o 「……エッセンチア!!!」
( <●><●>) 「ぬうぅうぁあああああ!!!」
オルフェウスの影を飲み込み、光の柱は虚ろそのものを真っ直ぐ貫いた。
ゆうに数十秒の輝きを放った後、粉雪の様な光が虚ろに降り注ぐ。
445
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:49:25 ID:GoNX5bS20
o川*゚ー゚)o 「はぁっ……はあっ……パパ……」
膝から倒れ込んだキュート。
指一本も動かせない程疲労していた彼女は、そのまま意識を手放そうとした。
川;゚ -゚) 「……なんだこの揺れは」
o川*゚ー゚)o 「え……」
「虚ろ自体が崩壊しようとしてる」
o川*゚ー゚)o 「パパ!?」
キュートが振り返った先に浮かんでいたのは、天剣の一振り。
魔力で形作られた光の刃であった。
「キュート、クール、速く脱出しろ」
o川*゚ー゚)o 「ヒール」
残った魔力でクールの傷を塞ぐ。
失血でふらつく頭を抑えながら、クールは懐から透明な珠を取り出す。
戦闘前にドクオが全員に渡した虚ろ脱出のカギ。
ミスティルティンが封印された魔珠。
446
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:49:56 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「しかし、自分でやっておきながら変なことになったもんだな」
「いいじゃないか。これで俺とお前は一生離れられない」
川 ゚ -゚) 「ああ、確かに。お前を私だけのものにできたな」
大きな音を立てて虚ろの空が崩れ落ちてきた。
全てを無に帰す崩壊が始まった。
o川*゚ー゚)o 「パパ! ママ!」
川 ゚ -゚) 「ああ、急いだほうがよさそうだ。
そういえば、この神の座、いや虚ろが無くなったらどうなるんだ?」
「……正直解らない。虚ろが世界を操る空間であることは間違いがない。
オルフェウスもそう言っていた。神のいない世界が始まるのか、それとも本当の終焉か」
o川*゚ー゚)o 「えっ……」
川 ゚ -゚) 「今から心配しても仕方がない。帰ってから考えるとしよう。
もし世界が終わるのなら、それを私たちで止めればいいだけだ」
447
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:50:30 ID:GoNX5bS20
o川*゚ー゚)o 「……」
「クール、早くしろ」
川 ゚ -゚) 「開け、虚ろの扉。ミスティルティン」
魔珠を握りつぶしたクール。
その数歩先に、人間一人がようやく通れるほどの穴が開いた。
その向こうに見えるのは、懐かしいとすら思える緑の大地。
川 ゚ -゚) 「キュート、帰ろう」
o川*゚ー゚)o 「……そうだね」
クールが一歩、一歩進む。
暖かい風が走り抜ける草原に向けて。
その肩を支えて、キュートは歩く。
扉の際で、キュートは立ち止った。
怪訝そうな顔で娘の顔を覗き込むクール。
優しくて大好きな母親に向けて、最大限の笑顔を向けた。
「さようなら、ママ、パパ。大好きだよ」
ミスティルティンによって生まれた空間の裂け目に、その背をそっと押し込む。
咄嗟のことで踏ん張れなかったクールは、陽だまりの世界に落ちていく。
川;゚ -゚) 「なっ!?」
o川*゚ー゚)o 「大丈夫だから。私たちの世界は、私がこれから護るから」
驚愕の表情でこちらを振り向く母親と、何かを叫んでいる父親に手を振る。
「さようなら」
音もなく、世界は断絶された。
448
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:52:11 ID:GoNX5bS20
epilogue
449
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:55:11 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「地獄の焔、黄泉の風、冥府の海、深淵の泥……」
荒れ狂う獄炎、亡者の息吹、静かなる水滴、形を持たない土は、
お互いの存在を蝕んで弾け飛んだ。
「駄目だ駄目だ。それぞれの魔術がコントロールできてない。
焔が強すぎて、海が弱い。そんなんじゃミスティルティンは完成させられないぞ」
川 ゚ -゚) 「分かってる……! 少し黙ってろ! 気が散る!」
再び魔術を展開し、そして同様の結末になった。
魔術の天才であるドクオの術を、口伝で真似ることの難易度はクールもよく理解していた。
天剣の使用者として高められた魔術適性と、師として優秀なドクオの存在があったにせよ、
四大元素の根源を操る魔術を発動できるようになったのは、彼女自身の努力の賜物だ。
ドクオは驚きを通り越して呆れすら抱いていた。
天才である自分をも越え得るかもしれない可能性の塊に。
そこまで認められている彼女であっても、ミスティルティンは生半可な魔術ではなく、
ただの一度も、第二行程までたどり着けてはいない。
それでも諦められないのは、理由があったから。
450
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:56:09 ID:GoNX5bS20
五年前の戦いは、彼女たちに多くの者を失わせた。
それでいながら、世界は戦いに赴く前と全く変わり映えしない。
奪う者と奪われる者がいて、与える者と与えられる者がいて、
優しさと憎しみとが、喜びと悲しみとが、何もかもが複雑に入り混じった世界。
常に移り変わる風景はまだら模様のように。同じ日は一日たりとてこない。
そんな日常を、彼女たちは喪失感と共に受け入れていた。
「……俺が余計なことを言ったせいだろうな」
偽っていればというのがドクオの後悔。
娘が自分を犠牲にする覚悟を決めたのは、自身の言葉のせいだったのだと。
胸にぽかりと空いた喪失感を、年月が埋めてくれることは無かった。
川 ゚ -゚) 「私だって手を掴んでいればと思うさ。
だが、残ることを選んだあの子を連れてくることは出来なかっただろうな」
「キュートが残った意味は解ってる。
彼女がこの時代に存在していれば、
俺たちの娘が生まれた瞬間に、因果の収束に飲み込まれて消えてしまうからだ」
川 ゚ -゚) 「私たちは子供を産まないことを選択していたかもしれないし、
何かしらの魔術でこの世界の法則を歪めていたかもしれない。
あの子は、それを防ごうとした」
451
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:56:46 ID:GoNX5bS20
「馬鹿だよなぁ。あの子も、俺たちの娘だってのに。
頼ってくれて、よかったのに。助けてと、望んでほしかったのに」
川 ゚ -゚) 「ああ、だから迎えに行く。もう充分に一人の寂しさを知ったんだ。
一緒にいる温もりを受ける権利が、彼女にはある」
「だから、頼むぞ」
川 ゚ -゚) 「……ドクオが無事だったらなぁ。すぐにでも迎えに行けたのに」
「仕方ないだろ。あの時はこうするしか方法がなかったんだ」
川 ゚ -゚) 「……旦那をこの手で殺めさせるなんて、酷い奴だ」
「死んでないさ。魂はな」
オルフェウスとの戦いの時。
最後の一撃が放たれた瞬間に、ドクオはヒトガタの隠匿呪術から飛び出していた。
エンゼルシープーから譲り受けた魔力を利用して組み上げた多重構造魔術を、
英雄達の最前で放ってオルフェウスの攻撃と相殺させていた。
結果、彼の肉体はほとんど同時に消滅しようとしていた。
452
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:57:24 ID:GoNX5bS20
クールは一瞬でそれを理解し、ナインツ・ヘイブンに最後に残された魔術を即座に発動した。
殺した相手の魂を刀身に封じ込める術式。
───エスイール
それによってドクオは肉体を失っても自我を残すことができ、
キュートの一撃へとつなぐことができたのだった。
川 ゚ -゚) 「もう触れることができないのは……残念だ」
「そう思ってくれているだけで有難いな」
川 ゚ -゚) 「ん……?」
空間を覆っていた魔術障壁の一部に、巨大な穴が開いた。
咄嗟に天剣を顕現させたクールは、煙の中から走ってくる姿を確認して矛先を収めた。
ノパ⊿゚) 「ママー!」
川 ゚ -゚) 「全く、駄目じゃないか。結界の中には入ってこないって約束しただろう?」
ノパ⊿゚) 「だって……」
453
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:58:00 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「危ないから、だめ。
もう少し我慢出来たら遊んであげるから」
ノパ⊿゚) 「はぁーい」
自分であけた穴から駆け出していく女の子。
後ろで一つに纏めた髪の束が、尻尾のようにぴこぴこと跳ねていた。
川 ゚ -゚) 「いい子で待っててね」
「誰に似たんだか」
川 ゚ -゚) 「ドクオにそっくりじゃないか」
「俺は城の外壁をぶっ壊して抜け出すお姫様を思い出したよ……」
川 ゚ -゚) 「む、昔の話じゃないか」
「さ、約束は守らないとな」
川 ゚ -゚) 「そうだな。もう一度、始めよう」
454
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:58:31 ID:GoNX5bS20
天剣を杖の代わりに掲げ、魔術式を展開する。
一つ一つが繊細な作業を四つ同時に、なおかつ同等の魔力を注ぐ。
呼吸を安定させ、精神を集中させる。
魂すら焼き尽くしてしまう劫火
死者の冷たく凍える吐息
命無き国を満たす大海の一滴
有限の者が触れることの無い泥土
四つの魔術を同時に発動させる。
クールの視界の先で、赤、緑、青、黄の光の珠が浮かぶ。
「よし、安定してる。少しずつ、等間隔に距離を狭めていけ」
川 ゚ -゚) 「っ……!」
天剣を振るう。
四色の光は、次第に近づいていき、お互いに干渉を始める。
中心に雷鳴が何度も奔った。
その度に彼女の負担は大きくなる。
455
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:59:41 ID:GoNX5bS20
額から大粒の汗が落ちた。
それを気にもかけずに、クールは見つめ続ける。
「今だ! 重力魔術を」
川 ゚ -゚) 「ま、回れ……!」
回転を始めた四大魔術は、即座に弾けて結界にぶつかり消滅した。
川 ゚ -゚) 「くそっ……!」
「焦るなよ。正直、無理じゃないかと思ってたんだ俺は。
さっきのはかなりうまくいっていた。クールなら、時間がかかってもいずれ出来るようになるさ」
川 ゚ -゚) 「出来るだけ早く……じゃないと……」
「わかってる。わかってるさ。だが約束があるだろ?
それを反故にするのはあの子も望んじゃいないさ」
川 ゚ -゚) 「……そうだな」
456
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 01:00:51 ID:GoNX5bS20
クールが天剣を振ると、結界は解けるように消えた。
緑一色の草原には、一人俯いて草を抜いている少女の姿。
結界が解けたことに気付き、全速力で母の元へと駆け寄る。
ノパ⊿゚) 「ママ!」
川 ゚ -゚) 「ああ、待たせて済まないな」
ノパ⊿゚) 「ううん! 私なら大丈夫だよ! ちゃんと待ってられるから!」
川 ゚ -゚) 「……っ」
純粋無垢な笑顔に、かつての姿が重なり思わず目元を抑えたクール。
ノパ⊿゚) 「どうしたの?」
川 ゚ -゚) 「いや、何でもない」
溢れ出しそうな何かを堪え、少女を抱きしめる。
強く、強く、離さない様に。
突然のことに困惑しながらも、少女は母の温もりを受け入れた。
誰にも見えない様に、一筋の涙を流す。
彼女が得られなかった全てを、これから必ず与えてあげようと。
どれだけの時間がかかっても、必ず迎えに行くのだと。
その決意を新たにして、クールは娘を抱き上げた。
ノパ⊿゚) 「ママー、だぁーいすき!」
川 ゚ -゚) 「うん、私も大好きだよ」
457
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 01:01:39 ID:GoNX5bS20
end
458
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 01:02:31 ID:GoNX5bS20
これで、とある英雄譚のようですは終わりです。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
459
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 01:03:51 ID:7E7VbyD.0
乙!!!!!!ありがとう!!!!!!!!
460
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 01:06:25 ID:T1ozda2o0
乙乙結構誤字多いな
場面転換というか過程から事後に飛ぶときに区切りでもあれば良かったかも
461
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 01:44:47 ID:uVejm3MQ0
乙
大好きな作品の仲間入りだ
462
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 20:01:19 ID:IJs/JLfg0
最初戦闘がやけに端折られると思ったら二回目キュートも参戦想定だからか。乙。
463
:
名無しさん
:2018/05/05(土) 22:04:49 ID:f9o2.lVc0
超面白かったです 超乙です
刀身と化したドクオはヒートにどう認識されているだろうか・・・
464
:
名無しさん
:2018/05/06(日) 10:28:50 ID:oArdgKmM0
恥を覚悟の質問なんだがエピローグで言われてる約束ってなんだっけ?
465
:
名無しさん
:2018/05/06(日) 14:07:15 ID:O2d32D8w0
もう少し我慢できたら、遊んであげる
というヒートに向けたクールの一言のことです
466
:
名無しさん
:2018/05/06(日) 17:21:37 ID:oArdgKmM0
>>465
変に深読みしてた///サンクス
467
:
名無しさん
:2018/05/06(日) 18:05:01 ID:MpAr.tRU0
面白かった、乙!
468
:
名無しさん
:2018/05/07(月) 19:45:54 ID:dqelWSr.0
乙!かなり楽しめた
469
:
名無しさん
:2018/06/07(木) 16:09:03 ID:z5KRZhsc0
クソ面白いじゃねーか
乙
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