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とある英雄譚のようです
1
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:46:23 ID:G.gIoQVo0
荒野なのか、それとも峡谷なのか。吹き抜ける風に舞う砂塵に覆われた世界。
隆起と沈降の地形を適当に割り振ったかのような褐色の大地。
見渡す限り生命の痕跡が存在しないその地の、中心部。
まるで何者かによって線を引かれたかのように存在している半球の領域。
そこは周囲の澱みをものともせずに、緑豊かな環境が存在していた。
荒んだ太陽が照らすのは、小高い丘の上に伸びる、大きさも形も違う五つの影。
四種類の塊と、それらに囲まれている一つの屍。
骨だけになった腕が掴んでいるのは、身の丈ほどもある杖。
主を失ってなお溢れ続ける魔力は、丘を清浄な空間で包むために漂う。
命を司る蒼の魔力は屍から離れるごとに薄くなっていき、荒野の空気へと溶けていく。
魔力球の中に存在する最も大きな影は、腐り落ちた大樹の幹。
その両隣に突き刺さっているのは、錆びた剣と、その数倍はあろうかという巨大な牙。
向かいにはくすんだ色の十字架があり、それらは綺麗に四方向に配置されている。
人為的な痕跡を残すその場にはしかし、生命の存在は何一つ感じ得ない。
風の呼吸すら止まっているかのような、静かで荒れ果てた大地。
ジオラマのような世界で、突如として錆びた剣が音を立てて傾いた。
その音に引き寄せられるかのように、漂う魔力に流れが生まれ、
魔力によって遮られた空間を濃い霧で覆い隠す。
2
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:47:23 ID:G.gIoQVo0
緑の大地に染み込んでいく魔力。何も無い場所から生まれた命は、それに応える。
初めの一つは今にも消えてしまいそうな、小さな小さな鼓動。
確かに響く命の音は、次第に強く、大きく。
剣の下の地面が飲み込んだ魔力の分だけ膨れ上がり、崩れた。
紺色の瞳に、艶やかな黒髪。
年端もいかない少女は、ゆっくりと土の中から起き上がった。
まるで赤子のように何度も手を突きながら、頼りない足取りで、屍の元へ。
o川*゚ー゚)o 「……」
彼女は黙ってそれ見下ろす。
先程まで溢れ出ていた魔力の奔流は止まっており、霧も晴れていた。
死体が掴んでいる杖に手を伸ばす少女。
その指が触れる直前に、弾かれたように腕をひっこめた。
o川*゚ー゚)o 「……?」
自身の行動を理解できていなかった彼女は、再び同じように杖を掴もうとする。
3
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:47:43 ID:G.gIoQVo0
o川*゚ー゚)o 「……!!」
今度は明確に腕を引き戻した。
空いていた反対側の手が、伸ばした腕を掴んでまで。
o川*゚ー゚)o 「……」
杖に触れる事はできないのだと彼女は理解したのだろう。
屍の周りをうろうろと歩き回る。
暫くして疲れたのか、彼女は歩くのをやめて屍に寄り添うように座り込んだ。
指が汚れるのも構わずに、地面の土をほじくり返す。
o川*゚ー゚)o 「…………〜〜〜」
歌というにはあまりにも稚拙。歌詞は無く、音程もばらばらである。
それでも、彼女は楽しそうに笑いながら歌う。
ひとしきり同じフレーズを繰り返した後、少女は寝そべって空を見上げる。
一陣の風が通り抜けて、その長い髪を波打たせた。
o川*゚ー゚)o 「……」
ふと何かを思い出したかのように彼女は両目を見開き、左右に首を振る。
そのどちらにも、荒涼とした赤黒い大地が遥か先まで続く。
起き上がった彼女は、しっかりとした足取りで腐った幹の目の前まで歩み寄った。
o川*゚ー゚)o 「……?」
首をかしげる少女。
まるで、その場にいる誰かと話しているかのように。
その所作は少女の年齢と不釣合いなほどに幼い。
朽ちた樹木を見上げ、じっと見つめる。
少女は暫くしてから、緩慢な動作で持ち上げた右手でその幹に触れた。
4
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:48:10 ID:G.gIoQVo0
1
5
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:49:21 ID:G.gIoQVo0
>1
彼のもとにそれが届いたのは、丁度太陽の下で身体を温めていた時だった。
彼らの一族が暮らしている一帯で最も高い山の、頂点に位置する大樹の上。
寝そべっていた男は薄目を開けてその存在を確認し、再び瞼を落とした。
( ФωФ) 「……そうか、もうそんな頃合いなのか」
柔らかい光に包まれながらも、手紙を象った魔力は自身の存在を主張する。
明滅を繰り返しながら、男の周囲に浮かんだまま。
( ФωФ) 「毎度毎度、丁寧なことだな。わざわざこのようなことをしなくてもよいのだが」
深い皺の刻まれた手を伸ばして手紙を受け取り、乱暴に封を破く。
中に入っていた一枚の便箋を読みもせずに、丸めて投げ捨てた。
白い光は風に乗って宙を舞い、山間に消えた。
宛名が無く、差出人の名前も無い封筒もまた、数秒後に同様の末路を辿った。
( ФωФ) 「今年は少し早かったような気もするが……やれやれ……。
はたして彼か、そうではないか」
男の胸中に浮かび上がる情景は今から十数年ほど前。
今と同じように昼の光を浴びている時に現れた無粋な来訪者。
6
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:49:56 ID:G.gIoQVo0
その魔術師は、いくつかの用件だけ伝えるとそのまま飛び去って行った。
あまりに唐突な出来事に面食らいながらも、その名前だけは未だに覚えている。
( ФωФ) 「ドクオ……だったか」
手紙の魔術は、五百年間でたった一人の魔術師にしか許されていない。
差出人がドクオであるかどうかは、中身が示す場所に向かえば自ずとわかることであった。
( ФωФ) 「並べ」
起き上がった男が言葉と共に右手を振るうと、眼下に並ぶ木々が傅き、男ための階段を作り出した。
悠々と階段を下りた男を待っていたのは、異形の子供たち。
それぞれ身体の一部が樹木のままであるが、それを気にした様子はない。
両腕がこげ茶色の枝となった子供が、男の元へと走り寄る。
それに続いて他の子供たちも寄り集まって男を囲った。
「ねぇ! おじいさん!」
( ФωФ) 「なんだ」
「今日も精霊術をかけてよ!」
7
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:51:02 ID:G.gIoQVo0
( ФωФ) 「わかった……。だが自分でも練習しておけよ」
「えー?」
( ФωФ) 「少し用があって出かけるからな」
「どこかに行っちゃうの?」
( ФωФ) 「心配しなくても、すぐまた会える」
男は子供の両腕を優しく掴む。
硬質化した皮膚が一瞬で肌色へと変化し、五指がはっきりとその姿を現した。
続いて別の子供の両足を、顔の横に生えた角を、背中にできた瘤を、
最初からそうだったかのように次々と消し去っていく。
「ありがとう!」
( ФωФ) 「ああ」
「じゃーねー!!」
( ФωФ) 「気をつけろよ」
男の忠告も聞かず、子供たちは森の中へ走り去っていった。
一人残された男は、何処からともなく取り出した木の枝に火をつけてくわえる。
8
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:51:31 ID:G.gIoQVo0
( ФωФ) 「…………」
深い溜息とともに煙を吐き出し、地面に落として残り火を踏み消した。
裸足であったにもかかわらず、熱を感じた素振りは見せない。
僅かな煤の後を残し、男は森を望める高さまで助走無しで飛び上がる。
「捲れっ!」
突如響き渡った叫び。
その言葉に内包された精霊術が老人の周囲へ顕現する。
出口の無い風圧の檻が男を包み込んだ。
形がはっきりと見えるほどの激しい乱流。数十秒もの間、空気の塊は唸り続けた。
局所的な嵐が止んだ時、中に閉じ込められていたはずの男は、
何事もなかったかのように胡坐をかき、両腕を組んで何かを待っていた。
「輝けっ!」
森から迸った閃光が空を埋め尽くした。
太陽すら見えなくなるほどの強烈な光。
( ФωФ) 「ほう……面白い」
視界を塞がれてなお余裕を崩さない男。
光が収まった時、男が立っていた空間には一寸先すらも見えない霧が立ち込めていた。
驚いた顔をしながらも、襲撃者たちはあらかじめ用意していた次の一手を放つ。
9
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:51:55 ID:G.gIoQVo0
「舞い上がれ」
「刻め刻め!」
半径数百メートルはありそうな霧の球体に向けて、真っ直ぐに放たれる精霊術。
襲撃者の動作に合わせて森の木々から緑の葉が引きちぎられ、高速で空を打ち抜いた。
通常、何者かを傷つけることなどほとんどない木の葉は、
霧を貫通し遥か上空に揺蕩っていた雲までも穴だらけにする。
(゚、゚トソン 「どうだクソジジイ!」
中指を立てながら森の中から飛び出してきた巫女服の少女。
青いリボンを結んだ髪が激しい動きに合わせてなびく。
その手には鳥も殺せないような細い樹の枝。
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、口が汚い。後その手癖やめな」
戦闘が行われていた場所から一キロほど離れた所で、
木の枝に座っていた少女が答えた。
(゚、゚トソン 「続けるよ! 準備して!」
届くはずもないほどの小さな声に対して、トソンと呼ばれた少女は明確に言葉を返した。
ミセ*゚ー゚)リ 「はいはい」
10
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:52:25 ID:G.gIoQVo0
トソンと同じ服装で、緑色のリボンで髪の毛を束ねている少女は、
適当な返事をして精霊術を発動する。
(゚、゚トソン 「どうせ無事なのはわかってるんだ。これでも喰らえ」
トソンと呼ばれた少女が、虚空に向かって手に持っていた棒を投げつけた。
殺傷力などあるはずもないそれは、回転しながら飛んでいく。
(゚、゚トソン 「重量増し増しっ!」
ミセ*゚ー゚)リ 「はぁ……。渦巻け!」
くるくると回っていた棒きれは音を立て、周囲の空気を巻き込んでその速度を上げた。
加速度的に増速する投擲物は、しかし何もない空中で弾けた。
(゚、゚トソン 「あれ?」
ゆっくりと晴れていく霧の中、そこに人影はない。
空中にとどまって辺りを見回すトソン。
周囲に残っている精霊術の痕跡を見つめる。
(゚、゚トソン 「うーん……」
11
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:53:08 ID:G.gIoQVo0
唸って首をかしげてみるが、目的の相手が何処に行ったのかまるで見当がつかなかった。
諦めて相方のところに戻ろうとした時、二人の耳に探していた相手の声が届く。
( ФωФ) 「腕を上げたな、二人とも」
ミセ;゚ー゚)リ 「えっ!?」
森に潜んでいた少女の後ろに突然現れた男は、両手を軽く打ち合わせて音を鳴らす。
男が称賛の意を込めたそれも、少女たちにとっては地獄の合図でしかなかった。
( ФωФ) 「だが、まだまだだな。潜んでいるのに声を出したら意味がないだろうが。
さて、反省の時間だ」
ミセ*゚ー゚)リ 「いや、私はちょっと……トソンが欲しがってたような……」
(゚、゚;トソン 「なっ……! ミセリっ!?」
( ФωФ) 「二人合わせてに決まっている」
ミセリの襟首を掴み、ロマネスクは飛び上がった。
音も無く、助走も無く、二人は森の中から遥か上空へ。
(゚、゚トソン 「やっば、ごめんミセリ。それじゃっ……」
( ФωФ) 「逃がさん」
12
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:53:31 ID:G.gIoQVo0
背を向けて空を走りだしていたトソン目掛け、
ロマネスクは掴んだままの少女を投げつけた。
ミセ* ー )リ 「いやあああああああああああああああ」
(゚、゚;トソン 「いやいや、たまにはこれくらいで勘弁……ぎゃあああああああ」
空から降って来たミセリと宙に浮いていたトソンがぶつかり、錐揉み状になって森の中へ墜落した。
二、三本の木が衝撃のあおりをくらって倒れる。
ミセ*゚ー゚)リ 「ったたた……」
(゚、゚#トソン 「あーっ! もうっ! クソジジイ!」
( ФωФ) 「まだ足りてないのか」
(゚、゚;トソン 「え……」
青い髪留めをした方の少女だけがその後も続けて上空に打ち出された。
悲鳴が響くこと三度。ようやく解放された少女は、
その整った顔を髪飾り以上に真っ青に染めて、地面に向かってえずいていた。
ミセ*゚ー゚)リ 「霧は囮かー」
13
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:54:45 ID:G.gIoQVo0
( ФωФ) 「そうだ。相手の大規模な術だからこそ目くらましに使える。覚えておけ」
(-、-トソン 「おぅぅっぇ……」
ミセ*゚ー゚)リ 「吐くんなら向こうで吐いてよね」
( ФωФ) 「精霊術の扱い自体はかなり成長している。
このままいけば守護者となれる日も来るかもしれないな」
ミセ*゚ー゚)リ 「正直守護者とか興味ないんだけどね」
( 、 トソン 「わ……わだじば……オロロロr」
服が汚れるのも気にせずに横たわったままのトソン。
うめき声のような音が唇から漏れる。
花も恥じらう乙女の嘔吐に、若干どころではないほど引く老人。
人生経験豊富と言えど、流石に初めてのことであった。
(; ФωФ) 「まだ喋らないほうが良いだろうな」
ミセ*゚ー゚)リ 「守護者になったところで、どうせロマじいがいる限り誰も来ないでしょ。
名の知れた世界最強の精霊術師なんだから。
せっかく鍛えても発揮できないんじゃつまんないよ」
14
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:55:30 ID:G.gIoQVo0
( ФωФ) 「そんなことはない。死の大地には気性の荒い龍が住みついているし、
呪われた者達と獣の使い手達の戦争はまだ終わっていない。
戦果が拡大すれば、その余波を受けるだろう」
ミセ*゚ー゚)リ 「遠い国の事だし」
( ФωФ) 「確かに俺たちが住んでいるこの大森林から近くはない。
だが、強い力を持つ者は何処にもいつの時代もいる。
それらがこちらまで来ないと何故言える」
ミセ*゚ー゚)リ 「その時はロマじいが倒してくれるんじゃないの」
( ФωФ) 「俺がいる限りはそうしよう。そうだな……お前たちにも伝えておこうか。
俺は暫くここを離れることになる」
ミセ*゚ー゚)リ 「えっ!?」
(゚、゚トソン 「ど、ういうこと?」
やっと復活したトソンは、全身についた泥を落とさぬままに立ち上がる。
( ФωФ) 「大事な用事が出来た。それを果たすまで帰ってこれない」
15
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:56:25 ID:G.gIoQVo0
(゚、゚トソン 「用って何? ジジイが行かなきゃいけないことなの?」
詰め寄る少女の肩を押さえ、ロマネスクは座るように促す。
地べたに腰を下ろしたトソンにミセリが裾を整えるように示した。
トソンは無言で服装を正し、二人は老人を見上げる。
( ФωФ) 「何事も心配することはない。お前たちはここで精霊術の腕前を磨いて待ってろ」
ミセ*゚ー゚)リ 「……いつ帰ってくる?」
( ФωФ) 「一年後だ」
(゚、゚トソン 「遅れたら許さないから」
( ФωФ) 「肝に銘じておく。二人とも、今日はもう家に帰れ。
あの戦いの前にもかなり力を使っていたのだろ」
額に浮かべた汗と、少女たちの顔に色濃く出ている疲労。
自身に戦いを挑む前から、その力を行使していたことに男は気付いていた。
精霊術の最大の利点である、利用限度がないことをいいことに、
ミセリとトソンは他に類を見ない程、深く厳しい鍛練を自分たちに課してきた。
そのかいあってか、同世代の術師と比べて特に秀でている。
16
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:57:01 ID:G.gIoQVo0
( ФωФ) 「精霊術にも限界はある。分かっているだろう」
(゚、゚トソン 「精霊になるんだよね。そんなことは知ってる。
今までだったもっと厳しい状態になったことがあったけど、なんともなかったよ」
( ФωФ) 「精霊化してしまったら元には戻れん。変化するタイミングも人それぞれなのだから、
もう少しゆっくりと鍛えていけばいいではないか」
ミセ*゚ー゚)リ 「別に急ぐ理由は無いんだけどね。
ただ、自分の実力が伸びていくのが分かるのは楽しいし、
逆に停滞しているのはつまらない」
( ФωФ) 「……まったく。二人とも魔術師や呪術師に生まれた方が成功してただろうな。
精霊術師にしておくのはもったいない」
ミセ*゚ー゚)リ 「人間の有限の術に興味なんかないね」
魔術師は自身の魔力が尽きた時、呪術師は触媒の力が失われた時、
その術を発動させることすらできなくなる。精霊術師に有限の術と呼ばれる所以である。
一方で精霊術は物質に宿る精霊を使役する術であり、
使用者の精神力が許す限り何度でも発動することができる。
17
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:57:32 ID:G.gIoQVo0
しかし、力を使い果たしてなお精霊術を使い続けた者は精霊化し、
あらゆるものの記憶から完全に消え去ってしまうことを除けば。
そんなリスクすら全く恐れもせずに、少女たちは立ち上がる。
(゚、゚トソン 「最後にもう一度だけ……っ!」
( ФωФ) 「帰って休め。精霊術による負荷をかけすぎれば、いずれ心は摩耗し精霊化してしまう。
そうなれば今のように友と笑って過ごすことも、追いつくべき相手を目指すことも出来なくなる」
(゚、゚トソン 「でもっ…………」
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、今日はもう帰ろ?」
(゚、゚トソン 「わかった」
下唇を噛みながら、震える声で答える。
ミセリに手を引かれながら、二人は自分たちの居場所へと帰る。
悔しさを隠しきることができないのは若さ故のことだと、
少しばかり羨ましいとも思いながら、ロマネスクは森の上空へ踏み出した。
|゚ノ ^∀^) 「教えてあげないのですね」
18
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:58:13 ID:G.gIoQVo0
その後ろ、彼と同様に何もない足場に立っている女性がいた。
振り返ることすらなくロマネスクはその来訪者に応える。
( ФωФ) 「今更来るか保護者」
柔らかな小麦色の髪の毛が風に揺られる。
深くかぶった白い帽子のつばもまたそれに倣った。
|゚ノ ^∀^) 「あの娘たちを見守ることが私の役目ですから」
( ФωФ) 「見守る、ね。あれだけの力を行使するのを止めもせずに何を。
それで、何を言いに来た」
|゚ノ ^∀^) 「彼女たちの秘めている力あんなものではありませんよ。心配しすぎです。
あなた様相手に誤魔化しても仕方ありません。手紙が届いたのでしょう?」
( ФωФ) 「……そうか、お前は二度目だったか」
|゚ノ ^∀^) 「ええ。ロマネスク様。あなた様もお年です。
もう長いことこの世界を護ってこられました。
どうか後のものに任せてそろそろご自身をいたわってください」
( ФωФ) 「手紙は俺の元に来た。それが答えだ」
19
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:58:52 ID:G.gIoQVo0
|゚ノ ^∀^) 「もしかしたら、一度招集された者は死ぬまで招集され続けるのではないでしょうか」
( ФωФ) 「確かに、俺は死者以外で離脱したものを知らない。
だが、一体誰に任す。俺の後を継げる者などいはしない」
|゚ノ ^∀^) 「ご自分の立場をもっとよく理解していただけると助かります。
もはやあなた様はこの大森林の象徴。万が一にも欠くことができない存在なのです」
( ФωФ) 「国の区切りなど、世界の終焉の前には些事だ」
彼女は現れた時と同じように唐突に男の眼前へと移動した。
並び立てば、ロマネスクの胸よりも低いぐらいだろうか。
大人と子供ほどの差があれど、堂々と向かい合っていた。
|゚ノ ^∀^) 「僭越ながら、あなた様をとめるだけの力はあると思っています」
( ФωФ) 「試してみるか?」
一瞬の静寂。弾かれたように距離をとった二人はお互いの掌を前に向ける。
使役された大気の精霊が二人の中心点でぶつかり衝撃波を引き起こした。
空気の波紋が山の表面を撫で、木々が大きくうねる。
20
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:59:23 ID:G.gIoQVo0
|゚ノ ^∀^) 「彼の者を穿て」
山端から引き剥がされた大樹が五本。
激しく回転しながらロマネスクを貫かんと迫る。
( ФωФ) 「支配力は申し分ない」
ロマネスクが人差し指を立て、空をなぞった。
何もないはずの空に突如としてできた裂け目。
飛来した大樹は粉みじんに吹き飛んだ。
|゚ノ ^∀^) 「っ! 固まれっ!」
両の掌を前に向ける。
氷の壁が何枚も生まれ、次々と砕けた。
( ФωФ) 「反応も早い。だが……」
激しい戦場に吹いた無害な弱い風。
殺意も、害意すらも無いそれは、他の攻撃に紛れてその命じられた意図を成し遂げた。
氷の壁で前面を覆っていたはず女性の帽子が、風に吹かれて飛び去って行く。
瞬きするほどの間に起きた出来事に、女性は対処することすらできない。
|゚ノ ^∀^) 「……御無事で」
21
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:59:44 ID:G.gIoQVo0
精霊術師同士の戦いにおいて、その勝敗は場の支配力で決まる。
彼女の衣服の一部にロマネスクの術が触れたということは、敗北を認めるのに十分な理由であった。
( ФωФ) 「もう何回も繰り返してきたことだ。今更選択を誤ったりはしない」
|゚ノ ^∀^) 「もうお年です。あまり無理をされない様に」
( ФωФ) 「その言葉はお前の先代と先々代にも言われたよ。
その前は忘れたが……。レモナ。力を持つというのは厄介なことだ」
|゚ノ ^∀^) 「私程度が同意するのもおこがましいでしょう。ここでお帰りお待ちしております」
( ФωФ) 「ああ。行ってくる」
何もない空を優雅に歩く。
眼下に広がる森の中から飛んでくる声に軽く手を振りながら。
( ФωФ) 「……少しペースを上げるか。暴龍に絡まれると面倒だ」
一際強い風が吹き、森全体が大きく揺らいだ。
下から見上げていた者達が瞬きした後に仰いだ空には、もう老人の姿はなかった。
22
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:01:39 ID:G.gIoQVo0
>2
黒く澱んだ空の下、二つの存在が向かい合っていた。
一つは人間の姿。もう一つは、それを丸呑みできそうなほどもある黒い龍。
苛立ちが込められた羽搏き一つで、塵と灰が嵐のように吹き荒れる。
( ФωФ) 「……そこを退くつもりはないのか?」
「俺の国を許可なく通っておいてそれか?」
近くの山が噴火し、紅く輝く溶岩が大気を震わせる。
黒く焼けただれた地上に、絵の具を落としたのように拡がる灼熱。
自然の暴威の前には、頑強な身体を持つ龍属ですら容易くその命を失ってしまう。
故につけられたこの地の名前は、死の大地。
( ФωФ) 「何百年前からの話だ? 少なくとも千年前は違ったと思うが」
「大口をたたきおる。精霊術師程度が」
( ФωФ) 「暴龍ヴィオレンサ。次は無い」
「やってみるがいい」
23
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:02:14 ID:G.gIoQVo0
言い終わると同時に黒龍が吐き出した火球は、いとも容易く男を飲み込んだ。
跡形もなく消えたと思われた男は、何食わぬ顔で同じ場所に立っていた。
「……何をした」
( ФωФ) 「何も?」
「ふざけおって」
男の周囲を全て燃やし尽くすかのように放たれた火球の数は十。
それらは音も無くかき消された。
「……なっ!?」
( ФωФ) 「小手調べは充分か?」
「……よかろう」
大地に両の足を落とした黒龍は、付近一帯の熱源を口腔に集中させる。
明確な殺意を持った予備動作に対して、ロマネスクは動かない。
先程までとは比にならない程に膨張した大火球が、ほんの一握りの光へと凝縮される。
「アルフォス」
24
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:02:38 ID:G.gIoQVo0
爆音と共に光が弾けた。
膨大な熱量が暗雲立ち込めた空を貫く。
一直線にロマネスクの元に迫り、その直前で何かにぶつかって方角を大きく変えた。
黒雲を断ち切って青空すら垣間見せるほどの一撃。
それを弾かれた黒龍は目の前の矮小な存在を睨みつける。
「……」
( ФωФ) 「実力差を分かってくれたか」
「精霊術か……下等な人間には過ぎた力だ」
( ФωФ) 「まだやるのか」
「舐められたままでは終わらんぞ」
飛び上がったヴィオレンサはその鋭い爪がロマネスクの脳天に振り下ろす。
大地を容易に削り取るほどの一撃が、風切り音を挙げて迫る。
( ФωФ) 「砲撃が駄目なら物理、いかにも獣の考えそうなことだ」
25
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:03:11 ID:G.gIoQVo0
ロマネスクが手を軽く横に振るう。
たったそれだけの行為にどれだけの力が込められていたのか。
汚れた爪は、半ばから半分に折れていた。
「……!」
その衝撃で揺らいだ黒龍の身体は、うめき声をあげる間もなく地面に激しく叩きつけられた。
身体の半分を大地に沈めながら、頭だけをもたげて未だ宙に浮かぶロマネスク睨む。
( ФωФ) 「たかだか精霊術と侮ったか、龍属。
確かに、三術の中でも最も力が弱いと言われているがな。
その実、最も汎用性の高く豊富な術式があることを知らなかったか」
「貴様……人間ではないのか?」
( ФωФ) 「ようやく気付いたか。以前戦った龍属の女王は一目で見抜いたぞ」
「妃龍クレシア……龍属の歴史で王の座に就いた唯一の雌龍だ。
そして我らの歴史の最大の汚点。冗談を言うな。二千年以上前の話だ」
( ФωФ) 「たった二千年だ」
「確かに、精霊術はその者と精霊との干渉が長ければ長いほど強い力を得る。
……貴様の話が本当かどうか試してやろう」
( ФωФ) 「さっきので十分だろうに。この星ごと壊すつもりか?」
「貴様が受けきれば済む話だ」
26
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:05:06 ID:G.gIoQVo0
瓦礫を崩しながら起き上った黒龍。
口腔から次々と火球を生み出し、それらが背中の上で回転し始める。
球体が円を描くほどの速度を得て、大地からそれに呼応するように火柱が立ち上がる。
「オメガドォーリ」
ドロドロに溶けた溶岩が螺旋状に編み込まれて圧縮され、巨大な槍を形成する。
音速を越えて加速した炎が爆発し、紅の大槍を前方へと弾き飛ばす。
( ФωФ) 「鎮まれ」
たった一言。
大地をも貫きかねない一撃に対して、男が唱えた言葉はあまりにも単純だった。
精霊術とは程度の低いものであれば誰でも利用することができる術であり、
発動に難しい計算も複雑な条件も必要としない。
だからこそ、突き詰めた実力者のそれは絶大な威力を誇る。
ロマネスクの研ぎ澄まされた精霊術は、黒龍にすら冷や汗と呼ばれるものを体感させた。
「……」
跡形も無く消滅した自身の最大の技を見て、ヴィオレンサは認めざるを得なかった。
目の前にいる男は規格外の存在であるということを。
人間ではない超常の生物であるということを。
27
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:05:34 ID:G.gIoQVo0
( ФωФ) 「これで十分か。それとも……その首を落とさねばならないか?」
「貴様、名は何という」
( ФωФ) 「ロマネスク・デトロ」
「……老樹ロマネスクか!」
( ФωФ) 「その呼ばれ方はあまり好きではないんだがな」
「得心がいった。道理で敵わぬわけだ。精霊術の祖であったとは……」
黒龍は大きく唸った。
自らが敵にした者の恐ろしさが、今になって彼の全身を震わせる。
この世界に住む生物の中で最も強い身体を持つ龍族ですら争いを避けるべき相手の名。
「この首、落とすのならば好きにしろ。どうせ抵抗は無意味だ」
誇り高い龍族らしく、ヴィオレンサは両の後ろ足でまっすぐに立つ。
その灰の瞳が、真っ直ぐにロマネスク見据える。
( ФωФ) 「殺すつもりなどない。最初から言っている。そこを退けと」
「貴様……なぜ精霊の森を離れている」
28
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:08:40 ID:G.gIoQVo0
命が繋がったことを理解したヴィオレンサは、気になっていた疑問をぶつけた。
彼の覚えている限り、絶対に手を出すなと言われていた対象はたった二人。
砂礫の魔術師ヒッキー・ドレイクと、神域の精霊術師ロマネスク・デトロ。
だがしかしこの二人の強者は自らの守護する領域を出ることはないと、
龍属の中では言い伝えられていた。
( ФωФ) 「少し用事があってな」
「用、だと?」
( ФωФ) 「説明するのは面倒だ。俺はもう行くぞ」
「待て。貴様ほどの力を持つ者が何を急ぐ」
( ФωФ) 「……まぁいい。確かに余裕はまだある。
話し終えた後に目的の場所にまで俺を運んでくれるなら、話さないことも無いが」
「聞かせてもらおう。運ぶかどうかはその後に決める」
実力差がはっきりしたところで、ヴィオレンサはその態度を崩さない。
あくまでも高圧的に、自らの威を示すように。
それに苛立つことも無く、ロマネスクは淡々と答えを告げた。
29
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:09:19 ID:G.gIoQVo0
( ФωФ) 「……この世界は五百年に一度滅ぶ。そう、決まっている」
.
30
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:09:39 ID:G.gIoQVo0
「滅ぶ……? 馬鹿な。現に世界は数千年と続いている。
貴様と比べれば赤子のようなものかもしれないが、俺とて既に三百年は生きている。
俺よりもずっと長く生きている者もいた」
( ФωФ) 「滅びを止める者達がいたからこそだ」
「滅びを止める……?」
( ФωФ) 「五百年に一度、この世界に悪魔の使者が箱舟と共に現れる。
放っておけばおよそ生き物の住める星ではなくなるだろう。
未だこの世界が存続しているのは、数人の強者がそれを都度撃退しているからだ」
「たった数人で止められるほどの災厄か。
大したことは無さそうだな」
僅か数人でできることなど、たかが知れていると言わんばかりの態度。
( ФωФ) 「俺を含む世界最強の数人だ」
「だがそんなものどうやって選ぶ」
( ФωФ) 「そのために用意された魔術がある」
「ふむ……俄かには信じがたいが。それで、その滅びが迫っているという事か?」
( ФωФ) 「危機に際して選び出された数人の元には魔術で創られた手紙が届く。
俺はもう何度も読んだからそのまま捨ててきたがな」
31
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:11:04 ID:G.gIoQVo0
「何度も、戦っているのか」
( ФωФ) 「もう何千年も前からだ。俺だけが生き残って来た」
ロマネスクは、その腕に少しだけ熱がこもっていることに気付いた。
どれほど昔の事であろうと、激しい戦いは瞼を閉じればすべて思い出せる。
失った仲間も、倒してきた敵も。
( ФωФ) 「俺の寿命が他より少し長かっただけのことだ」
「悪魔とやらは、いつ現れる」
( ФωФ) 「いつも決まって年の始まり。今からちょうど一年後だ」
「…………」
( ФωФ) 「少し話が過ぎた。俺はもう行くことにする」
ロマネスクは立ち上がりヴィオレンサの横を通り過ぎる。
黒龍は何も言わず、瞳だけでその歩く先を見つめていた。
32
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:11:30 ID:G.gIoQVo0
>3
一面の緑。吹き抜ける風さえも喜んでいるように見える。
破壊と再生を繰り返した地形は起伏が大きく、波打つ海のようにも見えた。
( ФωФ) 「さて、どちらがいるか」
ロマネスクを出迎えたのは、高密度な魔力矢。
直前まで頭があった空間を引き裂いた。
( ФωФ) 「随分な挨拶だな」
大地から鎌首をもたげた巨大な土塊。
罅のように細長く伸び、ロマネスクを飲み込んだ。
そのまま宙に浮かぶ球体へと変化し、内部から弾けた。
中から無傷で出てきたロマネスクは、その腕についた土ぼこりを掃う。
( ФωФ) 「魔術というのは相変わらず何でもありか。だがこれは……」
ロマネスクを牽制する様に湧き上がってくる土煙。
大地の魔術は、噂に聞く高名な魔術師の得意としていた属性だということを思い出す。
33
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:12:18 ID:G.gIoQVo0
僅かながら言葉に込められた怒気。
ロマネスクの目に映る精霊たちは、彼の感情にぶつけられ荒々しく変化していく。
土煙は渦を巻いて嵐になり、ロマネスクがそれらを睨んだだけで凪いだ。
煙の向こう、護り手の丘に立っていた男は、杖を構えたまま動かない。
全身を覆う紺色のローブに、目深に被った帽子。
練り込まれた強大な魔力は、男の周囲に蜃気楼を生み出すほど。
( ФωФ) 「答えないのなら、そこを退け」
ロマネスクは自身の周囲にいる精霊に命ずる。
目の前にいる不届き者の命を奪ってしまえと。
優れた精霊術師の言動を、精霊たちは自発的にかなえようとする
彼に命じられた数多の精霊は、自らの持つ力を総動員する。
精霊が連なって重なり合って創り出された極厚の刃。
「サンドストーム」
34
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:12:48 ID:G.gIoQVo0
魔術師らしき男の振るった杖から放たれたのは、一帯を覆いつくすほどの砂の刃。
無数の刃は、一斉にロマネスクを刻まんと奔る。
( ФωФ) 「煩わしいッ!」
ロマネスクと魔術師を繋ぐ直線状で、二つの攻撃は轟音と共に火花を散らした。
ただしそれは、同じ力の塊がぶつかり合う音ではない。
一方的に、蹂躙する音。
砂の魔術は分断され、虚空を穿つ。
勢いを失って砕けて空に散らばった。
砂埃が晴れた時、魔術師の男は精霊の刃により身体を縦に両断されていた。
( ФωФ) 「……そういうことか」
魔術師の身体は溶けて消え、先程まで何もなかった場所に、ラウンドテーブルが現れた。
七つの席があり、一目見ただけでも自身と比べて遜色ない実力を持つ者が三人座っている。
誰もいない席に一つ、湯気の出るティーカップが置いてあり、
そこが自分にあてがわれた席だとすぐに理解して座った。
川 ゚ -゚) 「遅かったな、老樹殿」
35
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:16:59 ID:G.gIoQVo0
黒髪の女がゆっくりカップを傾ける。
【+ 】ゞ゚) 「何か理由でもあったのでしょう」
仮面をつけた青白い顔の男が、後に続けた。
('A`) 「寄り道していただけだろ。久しぶりだなロマネスク」
( ФωФ) 「ドクオか……あの時話していた通りになったな」
('A`) 「約束は守る性質でね」
( ФωФ) 「しかし、人間と呪術師とは……今までにない組み合わせだな」
('A`) 「俺が何とかコンタクトをとれた者達だ。他には誰が来るのか予想もつかない。
レタリアの不便なところだ」
( ФωФ) 「ふむ……」
先に座っていた初対面の二人を見つめるロマネスク。
川 ゚ -゚) 「あまり見定めするのは失礼ではないか老樹殿」
( ФωФ) 「それもそうか。ドクオから聞いているかもしれないが、先に名乗らせてもらおう。
俺の名はロマネスク・デトロ。神域の大森林の老樹。精霊術師だ」
36
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:17:42 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「最古の精霊術師。物語の英雄ではないですか。共に戦えるのは光栄です。
私の名は、オサム・ローホ。呪術師です」
( ФωФ) 「呪われた者達か……」
【+ 】ゞ゚) 「ええ。忌み嫌われている我ら一族ですが、決して背後から刺したりはしませんので。
どうか誤解無きよう」
オサムが差し出した右手を、ロマネスクが握り返す。
周囲の精霊が少しざわついたが、それ以上の変化はなかった。
川 ゚ -゚) 「クール・スノウ。見て分かっていると思うが人間だ」
( ФωФ) 「人間……?」
川 ゚ -゚) 「老樹殿は我が国の伝説となって未だに語り継がれている。
それだけの情報で私の出自は十分だろうか」
( ФωФ) 「……俺が伝説となった国、か。なるほどな。
魔力量だけ見ればとても人間には見えないが。
それに、精霊術も少しは使えるのだろ」
川 ゚ -゚) 「老樹殿には及ばないがな」
( ФωФ) 「それで、どうしてこんなに早く俺たちを集めた」
37
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:18:20 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「これだけの人材が揃った今しかないと思ったんだ」
( ФωФ) 「なに……?」
('A`) 「このふざけたシステムを破壊する」
五百年に一度訪れる世界の危機。
それに何者かの意図が介在していることを疑ったドクオは、多くの時間を研究と調査に費やした。
その結果、一つの仮説にたどり着く。
('A`) 「この終焉は何者かに用意された状況だということだ。
それを裏付ける情報が必要なら、全員が揃った後にいくらだも出してやる」
( ФωФ) 「いや、俺にその必要はない」
ロマネスク自身も、抱いていた違和感。
自然災害とは違う、世界の危機。
全く同じ期間で発生するそれは、ロマネスクの生まれた森にもなぜか伝承として残っていた。
( ФωФ) 「方法はあるのか」
('A`) 「早く集まってもらったのはそれを見つけるためだ。とりあえずは、そうだな。
お前の持つ知識を俺らにも分けてくれ」
38
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:18:45 ID:G.gIoQVo0
( ФωФ) 「……いいだろう。ただし、対策が不十分であれば俺は反対するぞ」
('A`) 「全員が賛成しない限りは実行するつもりはない」
ドクオは机の上に魔術式を書き込む。
それは、記憶の抽出を行うための魔術。
ロマネスクは躊躇うことなく指先を傷つけ、血液をその上に落とした。
39
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:19:07 ID:G.gIoQVo0
・・・・・・
40
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:19:36 ID:G.gIoQVo0
o川*゚ー゚)o 「ん……あれ……?」
ふわふわと浮かんでいた心が、急に自分の身体に帰って来たような、
そんな不安を僅かばかり感じながら、彼女は目の前の朽ちた樹を見つめていた。
o川*゚ー゚)o 「わたし……へんなかっこう……」
一糸まとわぬ自らの姿が急に気になり、何か着るものは無いかと辺りを見回す。
荒野の中心にそんな服があるわけも無く、彼女は少し考えて唯一の布切れをその身に纏った。
o川*゚ー゚)o 「あっ」
物言わぬ屍の服を奪い取った時、風化してしまっていた骸は軽い音を立てて崩れた。
o川*゚ー゚)o 「まぁいいや」
それを気にした様子も無く、彼女は自身に不釣り合いな襤褸を着て歩く。
口ずさみ始めた歌は、先程までよりもずっとはっきりとしていた。
フレーズが無いのか、忘れてしまったのか、知らないのか。
ハミングだけの部分も多くあったが。
その言葉の意味も解らずに、ただ心の内から湧いて出て来るままに彼女は歌う。
誰もいない荒野に響く。彼女の透き通った歌声。
41
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:20:10 ID:G.gIoQVo0
o川*゚ー゚)o 「ふぅ……」
ひとしきり歌った後に、彼女は朽ちた樹の元に戻って来た。
おそるおそる指先を伸ばし、その木肌に触れる。
o川*゚ー゚)o 「……?」
彼女の想像していたことは起こらず、樹は何の反応も示さない。
一か所ではなく、あちこち場所を変えて。
ぺたぺたと、樹の周囲をぐるぐると回りながら。
o川*゚ー゚)o 「あ……!」
彼女が触れ続けた老樹の枝に一つ、紅い果実がゆっくりと成長していく。
それに気づき、手を伸ばすが届かない。
o川*゚ー゚)o 「むー……」
樹を揺らそうとするも、大地に深く根を張っているのか彼女の力程度ではびくともしない。
試行錯誤をしたのち、彼女はそれをとるのを諦めた。
樹下に座り込み、その実を見つめ続ける。
o川*゚ー゚)o 「うーん……」
42
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:20:42 ID:G.gIoQVo0
どれほど待っても、その実は落ちてこない。
彼女にとって短くない時間が過ぎ、それでも果実には何ら変化は無い。
時折大きな欠伸をしていた少女は、大樹にもたれたままついに眠ってしまった。、
o川*゚ー゚)o 「…………!!」
突如目を覚ました少女は、ふらふらと立ち上がった。
その瞳の端に浮かんだ大粒の涙を指先で拭う。
o川*゚ー゚)o 「なに……これ……」
指先に乗っかった滴を見つめる。
そこには、歪んだ自身の顔が移るだけで他には何もない。
o川*゚ー゚)o 「…………」
無言でそれをはらい、彼女は転がっていった果実に目をうつす。
大樹の向かいにある白の十字架の足元。
赤みがかった実に引き寄せられる思いで、少女は十字架の目の前で立ち止まった。
そこまで歩いたところで、少女の興味はすべて別のものに向けられることになる。
o川*゚ー゚)o 「っ!」
少女が感じ取ったのは、得体のしれない冷たさ。
十字架そのものではなく、その中心部にかけてある宝石。
o川*゚ー゚)o 「何……?」
吸い込まれるように、少女は黒い宝石に触れた。
43
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:23:52 ID:G.gIoQVo0
>1
獣の使い手と呼ばれる一族。
彼らの名前が大陸に広く知られているのには三つの理由があった。
一つ目は、その身体能力。
生まれ持った強靭な肉体は龍族には劣るものの、世界最高レベルの戦闘力を有し、
森の中の障害物をものともせず自由自在に駆け回り、七日七晩眠ることなく動き続けることもできる。
集団、個別に限らず白兵戦闘で彼らと戦って勝つことができる種族はほとんど存在しない。
二つ目は、その特異能力。
世界に存在する数多の種族の中で、ごく一部だけが所有することを許された特異能力。
彼ら獣の使い手たちは、ありとあらゆる獣に対する支配権を生まれながらに持ち、
人間程度の大きさの動物であれば数十を同時に支配することもできる。
特に何の条件も必要なく、だ。
そして三つ目は、呪術師一族を相手取って戦争を繰り広げていること。
東の大陸の山林を治めていた獣の使い手は、そこに住んでいた呪術師の一族を追い出した。
それがきっかけとなり、長い戦争は幕を開けた。
当初は優勢だった獣の使い手に対して、呪術師たちは防戦一方であった。
戦況が覆ったのは、とある男が呪術師側に参戦をしたその日。
44
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:26:13 ID:G.gIoQVo0
獣の使い手の一部隊をたった一人で、傷一つ負うことなく屠った男。
彼の存在は、そのあまりにも奇異な恰好のせいで両戦線に瞬く間に拡がった。
一般的な呪術師と同様に全身を黒で揃えてはいるが、
目深に被ったシルクハットと用途のわからないステッキ、
そして首元の白いネクタイが異様さを醸し出していた。
死を呼ぶ呪術師であると怖れ、讃えられた彼は、死術師と呼ばれた。
【+ 】ゞ゚) 「あれは……骨が折れそうですね」
「い、良いから行けオサム! あの二人を殺せば我らの勝ちだ!」
男が戦線に加入してから、形勢は完全に逆転した。
戦うたびに勝利を重ね、残す獣の使い手たちの住処はたった一つ。
それを落とすべく、男を含んだ大隊は正面から攻め込んだ。
しかし、開幕の一撃でその戦力は半減させられてしまう。
呪術師の一族では誰もが耳にしたことのある、最強の敵。
その存在は神出鬼没。突如として戦地に現れ、ものの数分で小隊を全滅させてしまう実力者。
剛腕のフサギコ、神速のペニサス。
その二人の登場で、呪術師側の前衛部隊はほぼ壊滅した。
焦った指揮官は、それに対抗するために自陣の切り札を投入する。
ここに初めて、両陣営の最強が顔を合わせる形になった。
45
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:26:45 ID:G.gIoQVo0
ミ,,゚Д゚彡 「お前が噂の死術師か……。確認の為に名前を聞いておこう」
【+ 】ゞ゚) 「オサム・ローホと申します」
('、`*川 「私らのことは知っているんやろうね」
【+ 】ゞ゚) 「存じ上げております」
ミ,,゚Д゚彡 「なら敢えて名乗る必要はあるまい。手加減ができる相手ではないと知っている。
もとより、貴様らのような悪鬼羅刹にするつもりないが。全力で行かせてもらうぞ」
('、`*川 「踏みにじられた同胞の尊厳、その恨みを全てここで返させてもらうよ」
ミ,,゚Д゚彡 「覚悟はいいな、小僧!」
('、`*川ミ,,゚Д゚彡 「「リベレーション!!」」
獣族の本来の姿は、この世界に存在するだけで膨大なエネルギーを消費する。
そのため寿命が他の一族よりもずっと短く、
彼らは可能な限り長く生きるために、人間に近しい姿をして生活をしていた。
本来の姿でいる時間を減らすことで、寿命の節約に成功したのだ。
戦いに際して獣の姿を呼び覚ますということは、彼らにとって全力を出す必要があるという事。
目の前に立つオサムという男は、二人にとってそれだけ警戒すべき相手であった。
46
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:27:17 ID:G.gIoQVo0
男は身体を二倍以上に膨らませ、針金のように硬そうな毛皮をその身に纏い、
女は長い尻尾を揺らし、鋭い牙を見せて唸りながら両手を前について四つん這いになる。
「ひぃ……っ」
【+ 】ゞ゚) 「邪魔ですので、下がっていてください」
腰抜けの部隊長に対し目もくれずに言葉をやる。
それを最後まで聞くまでも無く、すごすごと引き下がっていった。
ミ,,゚Д゚彡 「行くぞ……」
フサギコの一撃は、地面を大きく持ち上げた。
飛び散った土塊の飛礫を防ぐために顔の前に差し出した手が死角を生み出す。
その一瞬の隙で背後まで移動したペニサスの鋭い爪は、漆黒の水面に弾かれた。
水面が波打ち、その衝撃があらぬ方向へと拡散される。
【+ 】ゞ゚) 「呪泥壁」
('、`*川 「これが呪術かい」
【+ 】ゞ゚) 「それが本気でしょうか?」
('、`*川 「前見といたほうがええよ」
彼の意識が後ろに向けられてから、一秒すら経ってないにもかかわらず、
目の前で巨大な影がその腕を振り上げていた。
47
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:27:45 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「っ!」
体格に似合わず俊敏なフサギコに驚きつつ慌てて飛び下がった彼は、
空中でペニサスの突進を受け数メートル先まで弾かれた。
オサムに立て直す隙を与えぬように、さらにフサギコの剛腕が唸る。
【+ 】ゞ゚) 「呪泥壁!」
ミ,,゚Д゚彡 「オラぁっ!」
【+ 】ゞ゚) 「ぐぅっ……!」
黒き水面の盾はその膂力に対抗しきれず、その爪はオサムの腹を捉えた。
血液を飛び散らせながら地面を転がったオサム。
その頭を喰い千切らんとペニサスが大きく口を開いた。
【+ 】ゞ゚) 「呪茨棘!」
黒きトゲがオサムの前面に拡がり、ペニサスは大きく飛び上がることでそれを回避した。
浅く無い傷口を押さえもせずに立ち上がるオサム。
【+ 】ゞ゚) 「ごほっ……」
ミ,,゚Д゚彡 「貴様ら外道でも血は赤いのだな」
48
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:28:11 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「はは……そうみたいですね」
('、`*川 「自分の血を見たのは初めてかい?」
【+ 】ゞ゚) 「ええ、そうです」
ミ,,゚Д゚彡 「そうか、安心しろ。痛い思いも、血を見るのもこれで最後だろう……なっ!」
フサギコが地面に突き刺した腕を持ち上げるのに合わせて、
巨大な土の壁がオサムの眼前に立ち上がった。
【+ 】ゞ゚) 「膂力だけでこれだけの現象を引き起こしますか」
('、`*川 「観察している余裕はないよ」
上下左右から迫る連続した斬撃。
その首を刈らんと風を切り裂く。
【+ 】ゞ゚) 「っと……呪泥壁!」
黒き泥壁を発生させる呪術。
ペニサスの一撃であればそれで防ぎきれるとの判断であった。
('、`*川 「甘いねッ!」
49
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:28:41 ID:G.gIoQVo0
斬撃は途切れることなく、オサムの全身を狙う。
それ故に、オサムはその全てに対応しなければならず、
呪術の壁を広範囲に薄く拡げていく。
攻撃の薄い部分はただ弾かれるだけに終わり、濃い部分は泥壁の呪術を削る。
止まることのない連撃の最中に、フサギコは目の前の岩に向けて拳を振り抜く。
ミ,,゚Д゚彡 「らぁっ!」
砲撃のような音と共に飛び散ったのは、巨岩の弾丸。
目の前の脅威を理解したオサムは、すぐに新たな呪術を構成する。
【+ 】ゞ゚) 「呪泥壁、二重!!」
彼の周囲を覆った黒い液体に高速で飛来した岩が激しくぶつかり、その殆どを砕いた。
全てを防ぐことは叶わず、咄嗟に急所を庇った右腕は血に塗れていた。
【+ 】ゞ゚) 「なるほど……」
オサムが首元に付けていた黒色の宝石が砕け、地面に散らばる。
('、`*川 「これでその厄介な術式は使えないやろ?」
ミ,,゚Д゚彡 「俺らがただお前らの侵攻を黙って見ていたわけがない。
今日この日の為に、多くの仲間がその命を散らせた。
呪術師の弱点を知るためにだ……」
50
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:29:06 ID:G.gIoQVo0
('、`*川 「あんたは一人でよく戦った。それも今日で終わりや」
突如として真横に現たペニサスの爪が、オサムの右頬を抉る。
【+ 】ゞ゚) 「ぐっ……」
('、`*川 「立っとれんやろ」
オサムの視界は絵の具をかき混ぜたかのように歪む。
到底立っていることなどできず、背後の木に寄りかかって身体を支えた。
その隙を見逃すはずもなく、丸太のような腕がオサムの胸を貫く。
【+ 】ゞ゚) 「かっぁ……っぁ……!!」
樹木ごと貫いた爪は、的確にオサムの心臓を抉りだしていた。
溢れ出る血液はすぐに途切れ、鼓動は次第に弱くなり、数秒後に完全に停止した。
亡骸を打ち捨て、最強の夫婦は目の前の残党を睨む。
「な、なにをしている! あいつらを殺せば報酬ははずむぞ!」
ミ,,゚Д゚彡 「黙れッ!」
「ひぃっ……はっ……お、お前らなんかこれから来る増援が……」
男は後ろを振り向く。
既に戦闘が始まってからそれなりの時間が経過しているが、未だに誰も現れない。
第二陣、第三陣と続く波状攻撃で村を滅ぼす予定であったにもかかわらず、だ。
51
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:29:33 ID:G.gIoQVo0
ミ,,゚Д゚彡 「どうした、増援が来るのだろ?」
「あ……あぁ……」
('、`*川 「考えてみな。あんたたちが暴れている間、
私たちがただ指を咥えて見ていると思ったか?」
「そ、そんな……」
ミ,,゚Д゚彡 「援軍は来ない。呪われた者達よ。この森に眠れ」
「な、なんでお前……」
('、`*;川 「あんた! 後ろ!!」
ミ;,,゚Д゚彡 「ぐっ……!?」
【+ 】ゞ゚) 「失礼しました。少しばかり気を失っていたようです」
胸に大穴を開けたままのオサムは、そんなことは意にも介さないかのように頭を抑えていた。
【+ 】ゞ゚) 「まだ少し頭痛がしますが……概ね成功といってもいいでしょう」
('、`*;川 「何が……」
52
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:30:20 ID:ScJiY7Ao0
支援
53
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:33:36 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「呪術ですよ。私の死後発動するようにしていました」
ミ;,,゚Д゚彡 「生き返ったということか? 馬鹿な。いくら呪術であろうとそんなことはありえない」
【+ 】ゞ゚) 「正確には、死ぬ直前に魂を抜きだす術なのですが、そんなことはどうでもいいでしょう」
ミ,,゚Д゚彡 「そうだな。どうせその宝石のどれかを壊せば死ぬのだろう?」
上半身に直接埋め込まれた数多くの黒い宝石。
そのどれもが、呪術の発動を示す赤黒い光を放つ。
('、`*川 「だったらすぐに終わるさ」
オサムの肩口に深々と突き刺さったペニサスの牙。
その色が毒々しい紫色に変わる。
('、`*川 「っ!!」
飛び下がったペニサス。
その頬には深い亀裂が入っていた。
(メ ゞ゚) 「よく気付きましたね。獣の勘ですか」
('、`*川 「失礼な奴だね。女の勘だよ」
54
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:34:03 ID:G.gIoQVo0
ミ#,,゚Д゚彡 「おらああぁっ!!」
不意を突いた一撃は、オサムに直撃したかに思えた。
大地をも砕くような拳は、地面から生えた黒き棘に縫い付けられて動かない。
ミ;,,゚Д゚彡 「ぐぅっ……」
フサギコは苦痛に顔を歪める。
【+ 】ゞ゚) 「呪茨棘……四重!!」
オサムを中心に弾ける様に広がった漆黒の棘は、
防御も回避も許さない勢いで獣使いの二人を飲み込んだ。
【+ 】ゞ゚) 「……やはり強いですね」
('、`*;川 「あんたっ!!!」
ミ;,, Д゚彡 「はっ……はぁっ……化け物が……」
闇を砕いて現れたのは血だらけのフサギコと、その両腕に抱えられて無傷のペニサス。
致命傷に思われた男の傷は驚くべき速度で修復されていく。
55
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:34:23 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「特異能力ですか」
ミ#,,゚Д゚彡 「ぐぉおおおぉおおおおお!!!」
大地すらも揺るがすような雄たけびを上げ、フサギコはその剛腕を振るう。
木々を抉るほどの強烈な衝撃波は、オサムの前で弾けて消えた。
【+ 】ゞ゚) 「呪毒」
腰に巻いたベルトにぶら下がった複数の宝石。
そのうちの一つがひび割れ、地面に落ちた。
('、`*川 「そんな呪術……っ!?」
【+ 】ゞ゚) 「残念ですが、あなた方ですらもう私の敵ではありません」
ミ;,,゚Д゚彡 「なに……を……」
('、`*;川 「っ……!」
【+ 】ゞ゚) 「無色無臭の猛毒。
たとえあなた方英雄であろうと、生物である以上抗うことは出来ません」
56
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:34:49 ID:G.gIoQVo0
膝をついた獣使いの夫婦。
その眼の焦点は虚ろになり、息は荒々しい。
('、`*川 「あ……」
ミ,, Д 彡 「く……そ……」
【+ 】ゞ゚) 「抵抗すら許さず、一方的に殺戮を行う。それこそが呪術の神髄」
ミ,,゚Д゚彡 「ぐっ……」
震える膝で立ち上がったフサギコ。
その眼は呪術の毒素で黒く染まり、何も見えていない。
それでも、目の前にいるオサムの存在を確かに見据えていた。
ミ,,゚Д゚彡 「た……のむ……子……手を……出すな……」
【+ 】ゞ゚) 「約束しましょう。もとより、戦いに赴く者以外を殺めるつもりはありません」
ミ,, Д 彡 「あぁ……」
フサギコはその重たい身体を引きずるように動かす。
息絶えて横たわるその妻の元へ。一歩ずつ。
息も絶え絶えな女性に元まであと一歩のところで、
ふらつく彼の横っ腹を前触れなく貫いた黒い光。
その衝撃で吹き飛ばされ、フサギコは動かなくなった。
57
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:35:32 ID:G.gIoQVo0
「はっ……ははは、びびらせやがって! このゴミが!」
指輪に嵌め込まれた宝石の持つ呪術を死体に向けて何度も放ち、
男は執拗にに戦士の亡骸を痛めつける。
「黒呪雷! あ、あははは! 黒呪雷!!」
黒き雷が何度も二人の身体を焼く。
焦げた臭いが森の中へと充満し始め、幾人かの味方が顔色を変えてその場を去って行った。
【+ 】ゞ゚) 「それでは、私は奥に向かいますので」
「お前、部隊長の俺を置いていくのか?」
【+ 】ゞ゚) 「戦闘があるかもしれませんので、ついて来るのでしたらお気をつけて」
「生意気な。お前も苦戦させられたんだ。
こいつらに仕返ししなくていいのか?」
【+ 】ゞ゚) 「死者を甚振る趣味はありませんので。それでは失礼します」
オサムは他の兵を残して城門をくぐり、村の中心へと駆けだした。
58
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:43:39 ID:G.gIoQVo0
戦禍は至る所へ拡大し、黒い煙がいくつも空に立ち昇ってる。
あちこちで怒号と悲鳴が叫ばれている。
オサムの姿を見て驚く獣の一族をすべて無視し、彼は一直線に村の最奥に向かった。
そこには、小さいながらも立派な家が一つ。
先程戦った二人の英雄が住んでいた場所。
呪毒で殺した瞬間に記憶を一部奪い、他の何にも目をくれずに一直線に向かってきた。
【+ 】ゞ゚) 「さて……」
扉を開けると、小さな子供が笑顔で出迎える。
しかし、入って来たのは自分の知らない人間。それも、異様な恰好をした呪術師である。
その姿を見た少年は、慄き腰が砕けたように座り込む。
「あ……あぁ……」
【+ 】ゞ゚) 「あなたは……」
「殺せ」
大汗をかきながら追いついてきた司令官が、すぐ後ろにいた。
置いてきぼりにしてきたはずの無能な男。
想定外のことで動揺した心を悟られない様に隠す。
【+ 】ゞ゚) 「……」
59
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:44:29 ID:G.gIoQVo0
命じられたオサムは、目の前にいる泣きじゃくる幼子を見つめる。
先刻、この子供の両親だと思える獣使いを亡骸を無残に痛めつけた司令官の男は、
下卑た笑みを浮かべながら命令を下した。
オサムは隠しもせずに溜息を吐き、呪術の宝石を懐に収める。
【+ 】ゞ゚) 「その必要はないでしょう」
もはや抵抗する獣使いはおらず、僅かな生き残りは殆どが逃げ出していた。
敵国で最強と呼ばれた獣使いの夫婦を殺し、味方内は既に戦勝ムードが漂っている。
これ以上の殺戮は不要だと告げたオサムに対し、司令官は怒りに顔を歪める。
「何?」
【+ 】ゞ゚) 「既に我が軍の勝利は確定的です。これ以上無駄な犠牲を出す必要はありません」
「貴様、それでも兵士か。上官の命令を聞け」
【+ 】ゞ゚) 「はぁ……」
自身よりも弱く、無能な上官。彼にとって戦場で最も邪魔な存在であった。
悪戯な殺生を好み、女を見つけては容赦なく凌辱し、子供の肉を喰らう下種。
この男が配属されてから、彼の所属していた軍隊は無法者の集団となり果てた。
「なんだ、文句があるのか?」
60
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:45:01 ID:G.gIoQVo0
他の隊には鬼畜悪魔の集団と忌み嫌われ、
味方からも石を投げられるような日々に男はうんざりとしていた。
だからこそ、これは神が与えてくれた天啓なのだろうと、男は確信をした。
【+ 】ゞ゚) 「……文句、無いとお思いですか」
「生意気な奴め。前々から気にくわなかったんだ。
その力、戦争が終わった後も役に立つと思うなよ」
【+ 】ゞ゚) 「思っていませんよ。
平時に私のような力を持つ者がどう扱われるか、わかっているつもりです」
「だったら、さっさとそのガキを痛めつけて殺せ。
そうすれば、この私が貴様の使い途に口をきいてやろう」
【+ 】ゞ゚) 「有難い話ですね」
オサムの持つ宝石が呪術を放つために鈍く光る。
「オサムっ……なにをっ!」
彼の影から現れた黒い腕が、上官の首を掴み持ち上げる。
足をばたつかせて抵抗するも、その程度で逃げることは叶わない。
彼我の実力差は埋めようがないほどに大きく、
オサムはその力を緩めてやるつもりなど毛頭なかった。
61
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:48:14 ID:G.gIoQVo0
「かっ……!」
司令官だった男はすぐに動かなくなった。
その死骸を陰から出てきている黒い腕が完全に包み込む。
そのまま影の中に沈んでいき、その場には何も残っていなかった。
【+ 】ゞ゚) 「すぐに我が国の軍隊がここまで攻め込んでくるでしょう。
生き延びたいのであれば、泣くのをやめこのまま奥へと走り続けなさい。
包囲網が完成する前に逃げ切れるかもしれません」
「っ……うぅ……父さん……母さん……」
【+ 】ゞ゚) 「私はもう行きます。それでは」
オサムは子供を残したまま部屋を出た。
前方の暗闇の中から聞こえる闘いの音は、少なくなっている。
【+ 】ゞ゚) 「これで主要な村は殆ど潰しましたが……」
暗がりを駆け抜けてきたのは同期の男。
共に戦場を駆け抜けてきた信頼できる味方であった。
「おお、オサムか。もうこんなところまで攻め込んでいたとは。
それで、部隊長は何処だ?」
【+ 】ゞ゚) 「知りません」
「そうか……。残党どもを逃がさない様にしている。手が空いているなら手伝ってくれ」
62
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:48:50 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「もうこれ以上命を奪う必要はないでしょう」
「残党が抵抗しないとも限らない。それに部隊長命だ。子供一人残すなと」
【+ 】ゞ゚) 「その部隊長が行方不明ですからね。
後を継ぐべきは副長であるあなただと思いますが」
「お前……まさか……」
【+ 】ゞ゚) 「どうしますか?」
有無を言わせないオサムの気迫。
彼がその眼をしたときの覚悟の重さは、長く共に戦ってきた友人である男がよくわかっていた。
この戦闘に出る前にも部隊長に向けていた同様の眼を見ていたからだ。
愚かな部隊長はそれにすら気づくことはなかったが。
「逃げるものは追わないようにしよう。それでいいか」
【+ 】ゞ゚) 「十分です」
「よし、聞こえたな! お前たち! 部隊長不明により今より指揮は俺が執る。
投降する者は殺すな。逃げるものは追うな。
これを破った者は厳罰に処す。以上だ!」
森の中からの返事は渋々と言ったものであったが、多くは従うことを決めた。
それからしばらくして、呪術師たちは決して広くはない村を包囲し終えた。
もはや抵抗をするものは誰もいない。
63
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:49:13 ID:G.gIoQVo0
呪術師たちは勝鬨を好き勝手に上げ、廃材を用いて巨大な火をつける。
それは戦勝を告げる報せであり、死者を弔う呪術師流の儀式。
死んだ者たちは敵味方関係なく火にくべられた。
「オサム」
【+ 】ゞ゚) 「なんでしょうか」
その炎の揺らめきがかろうじて届く程度に離れた場所、
今や住む者のいない廃屋の屋根に二人は座っていた。
オサムは血のように紅いワインの注がれたグラスを一息で飲み干す。
隣にいた男はグラスを持ったまま、欠けた月を見上げていた。
「これで戦は終わりだろうか」
【+ 】ゞ゚) 「表面上はそうでしょうね」
獣の使い手の拠点は、呪術師側が把握している限りほぼ壊滅であり、
強力な指導者であった二人の使い手もオサムの前に倒れた。
彼らに反撃するだけの余裕はもうない。
【+ 】ゞ゚) 「ですが、抵抗は続くでしょう。
統治した村々を完全に取り込むにはまだ時間がかかります」
「だろうなぁ……他の隊に連絡しなければな。結局、部隊長は行方不明のままか」
【+ 】ゞ゚) 「そのようですね」
64
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:49:39 ID:G.gIoQVo0
「お前……いや、なんでもない」
【+ 】ゞ゚) 「彼らは村を、一族を護るために誇り高く戦ったのです。
私が今まで戦った中でも、最も強く気高かった。
その彼らが護ろうとしたものは、遊びで失わせていいものではないでしょう」
「…………」
【+ 】ゞ゚) 「少し喋りすぎたみたいですね。今夜の月は少々私には毒なようです」
「ああ、そうだな」
【+ 】ゞ゚) 「それでは、私は一足先に国へ戻ることにします」
「部隊を離れるという事か? だが、まだ戦後処理があるぞ」
【+ 】ゞ゚) 「そういう事はお任せいたします」
「大変です! 副長! すぐに来てください!」
「どうした?」
下からの呼びかけに応じて飛び降りた男。
オサムもまたその後を追った。
案内された場所は、オサムが攻め込んだ場所からさらに奥へ行ったところ。
包囲網を築いていたはずの数人が、無残な死体となって放置されていた。
65
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:50:04 ID:G.gIoQVo0
「これは……」
腕や脚、顔などの一部分が何かに食いちぎられたかのように消滅していた。
オサムと比べれば実力は劣るが、それでも並みの敵に殺されるようなレベルではない。
それが十人も。
【+ 】ゞ゚) 「獣遣いの技にも似ていますが……」
オサムの戦った二人の獣遣い。
彼らであればその惨状を引き起こすことは可能であろう。
だが、通常の獣遣いによる仕業だと考えるには、あまりにも荒々しかった。
「残党がまだいたのか……?」
【+ 】ゞ゚) 「彼らも弔ってあげましょう。
どのみちこの暴れ方だと、もう村の近くにはいないでしょうから」
周囲の木々をも深く抉った傷跡は、森の奥へ一直線に向かっていた。
【+ 】ゞ゚) 「とんでもないことが起きるかもしれませんね……」
オサムの呟きは誰に聞かれることも無く、闇に消えていった。
66
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:53:05 ID:G.gIoQVo0
>2
「まったく、ひどい出迎えですね」
手紙に呼び出されたオサムを待ち受けていたのは、雨霰と降り注ぐ魔術。
咄嗟に発した盾の呪術は一つ残らず砕かれた。。
【+ 】ゞ゚) 「これだけの呪魂を作るのに半日もかかったのですが……」
オサムのぼやきは届かない。
魔術師の男は掲げたままの杖に新たな魔力を注ぎ始めた。
【+ 】ゞ゚) 「そちらがその気なのでしたら、躊躇うことはありませんね」
オサムは小指の指輪を外し、それを握りつぶした。
拳の内から滴る闇は、明確な殺意をブレンドした呪術。
光が次第に大きくなり形を得ようとした時、魔術師は動いた。
杖を振り、生み出した魔術が象ったのは大蛇。
発動する間すら与えないかの如く、魔術師の放った無誘導の魔力の奔流は、
オサムの周囲を埋め尽くした。
67
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:54:02 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「盾の呪術が無くても防ぐ術はいくらでもあります。呪黒渦!」
オサムを中心として突如現れた黒き渦。
その流れに巻き込まれた魔術は、魔力が切れるまでただ回り続けた。
【+ 】ゞ゚) 「魔術と呪術、どちらが優れているかという議論を持ちかける気はありませんが、
少なくとも発生速度において呪術が後れを取ることはありません」
オサムは中指の指輪を魔術師に向けて放り投げた。
緩やかな放物線を描いて飛んだ小さな宝石は、魔術師の足元に転がった。
「……!」
【+ 】ゞ゚) 「呪縮」
指輪を中心にして、半径数メートルが完全に消滅。
その場に立っていた魔術師は跡形も無い。
それだけでなく、抉り取られたはずの平原すら元通りになっていた。
【+ 】ゞ゚) 「……そういうことですか」
68
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:54:34 ID:G.gIoQVo0
突然に開けた視界の中で、優雅なティータイムを楽しむ一組の男女。
静寂を破ったのは数年前に突然オサムを訪ねてきた魔術師。
('A`) 「座れよ。お前が一番だ」
【+ 】ゞ゚) 「そうは見えないのですが」
川 ゚ -゚) 「クール・スノウ」
我関せずと席に座って本を読み続ける少女は、
オサムを横目で見て一言だけ名乗ると、意識を本に戻した。
文字の読み書きを習っていないオサムには、その本のタイトルはわからず、
ドクオへ戸惑いの眼差しを向ける。
('A`) 「気にしないでくれ。彼女は俺が連れてきた。
だから自分の足で来たのはお前が最初で間違いない」
【+ 】ゞ゚) 「いくつかお聞きしたいことがあるのですが、構わないでしょうか」
('A`) 「ああ。どうせ時間はまだあるんだ」
【+ 】ゞ゚) 「この最果ての地と呼ばれる場所で、手紙の魔術に選ばれた私たちが戦うその……。
悪魔……ですか、正直信じられませんが。
一体どういう理屈なんですか?」
69
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:54:56 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「俺が知っていることを全部話すのは手間だな。
全員揃ったときにどうせ説明しないといけないだろうしな。
とりあえずまぁ、今言えるのは数千年前から戦い続けてきたってことだけだ」
【+ 】ゞ゚) 「数千年……」
('A`) 「老樹ロマネスク。聞いたことはあるか?」
【+ 】ゞ゚) 「ええ、噂程度ですが……」
精霊の森に住む精霊術師の祖。
オサムとてその名前程度は聞いたことがあった。
('A`) 「あいつは何度も戦いに赴いているからな。
十数年前に話を聞きに行ったが、今回も選ばれている可能性が高い」
【+ 】ゞ゚) 「まさか……。」
('A`) 「信じられないのも無理はないがな」
【+ 】ゞ゚) 「いえ、嘘を吐くメリットなどないでしょう。
あの魔術も、私が調べた限りおかしな点はありませんでした。
ですが、なぜ五百年に一度なんでしょうか」
('A`) 「予想はつくが、それもまた全員揃ってにしよう。
俺からの提案もあるしな」
70
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:55:20 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「今は待てと言うことですか。それでは最後に一つ。
その少女は、まさか戦うわけではないのでしょう?」
('A`) 「いや、彼女も戦う」
【+ 】ゞ゚) 「えっ!?」
オサムの驚いた声に対し、不愉快そうに眉を顰めるクール。
読みかけの本に付箋を挟んで机に置くと、立ち上がってオサムの目の前に立つ。
川 ゚ -゚) 「女が戦場に立つなとでもいうつもりか?」
【+ 】ゞ゚) 「いえ、そのつもりはありませんが……」
川 ゚ -゚) 「確かに若くて可憐、華奢で色白な美少女が、
戦うための力を持つかと問われれば答えはノーだろう。
神様はどうやらまた、禁断の林檎を地上に落としてしまったらしい」
【+ 】ゞ゚) 「そこまで言ってませんけどね」
クールが自らの胸に手を当てると、太陽のように暖かな光が彼女の手を覆う。
その片鱗からでさえ、途轍もない魔力の塊が引き出されようとしていることが容易に理解できた。
川 ゚ -゚) 「ドクオ、いいか?」
('A`) 「駄目に決まってるだろ」
71
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:55:52 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「そうか……ならこれで私の実力を証明するしかないな」
腰に結んだ剣の刀身を晒す。流れる様な抜刀の動作。
それを見た者は、彼女の剣士としての力量がその道に進んでなくともわかる。
両手に持って高く掲げた白き刃は、太陽の光を反射して輝く。
【+ 】ゞ゚) 「正直、先程ので十分なのですが……」
川 ゚ -゚) 「私が納得出来てないので」
クールが縦に振り下ろした剣。その斬撃の軌道に乗って、
刀身の数千倍はあろうかという魔力の斬撃が遠方の山を切り裂いた。
突然の大災害に襲われた鳥たちは、囀りながら一斉に空へ飛び立つ。
なだらかな峰を縦に分断する傷跡は十を超え、距離による威力減衰は殆ど無い。
【+ 】ゞ゚) 「……」
川 ゚ -゚) 「まだ文句はあるか?」
【+ 】ゞ゚) 「ええ、自然が可哀想です」
川 ゚ -゚) 「そうだな。ドクオ、治してあげたらどうだ」
('A`) 「やれやれ……」
72
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:56:21 ID:G.gIoQVo0
ドクオは杖に魔力を込め、魔術として発動させる。
瞬く間に数分前の姿へと再生し、自然は落ち着きを取り戻す。
【+ 】ゞ゚) 「想像以上でした」
川 ゚ -゚) 「わかればいい」
('A`) 「この通り、性格に難はあるんだが実力は確かだ」
【+ 】ゞ゚) 「成程、背中を任せるのは少々不安ですが……。
それで、残りの仲間はいつ頃現れるんですか?」
('A`) 「わからん。明日来るかもしれないし、直前に来るかもしれない。
来ない可能性だってある」
【+ 】ゞ゚) 「世界を救おうというのに、恐ろしく適当な魔術ですね」
('A`) 「それで今までうまく行ってたんだから仕方がないさ。
歴代の魔術師たちも手紙の魔術に手を加えないことを不文律としていたみたいだしな。
俺は幾つかを破ったが」
川 ゚ -゚) 「来るさ。ドクオはそのために準備をしてきた」
('A`) 「まぁ、そうだ。手紙の魔術を発動させる前の話だ。
俺は各種族の中で最も強い力を持つ者達に会っていた」
73
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:57:12 ID:G.gIoQVo0
【+ 】ゞ゚) 「私とクール、そしてロマネスクの他にもですか」
('A`) 「ああ。だが、うまくはいかなかった」
【+ 】ゞ゚) 「どういうことですか」
('A`) 「はぐれ老龍ディオードは老いて右も左もわかっていない。
眠り続ける庭園の姫は何をしても起きなかった。
殺戮機械は海際に打ち捨てられて錆びていたし、天空城は鎖国状態。
実際に会ってまともに話ができたのは両手で足りる」
【+ 】ゞ゚) 「私でも聞いたことある方がいますね」
('A`) 「有名人みたいなものだからな。とにかく、もう一人か二人来るまでは好きに過ごしてくれ。
この場所から離れても構わない」
【+ 】ゞ゚) 「そうですね、少し呪術に用いる宝石を探してきます。
呼びかけて頂ければ戻ってくるようにしましょう」
74
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:58:22 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「それならこれを持っていけ」
ドクオが取り出したのは金属のリング。
【+ 】ゞ゚) 「連絡用ですか」
('A`) 「用があればそちらからも連絡が取れるようになっている。
呪術師であっても魔力の込め方くらいはわかるだろ?」
【+ 】ゞ゚) 「ええ、ではお借りすることにします。
それでは、また後で」
('A`) 「ああ」
それを受け取った後、オサムは即座に姿を消した。
75
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 21:59:13 ID:G.gIoQVo0
・・・・・・
76
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 22:01:25 ID:1ulbFvwQ0
長い序章だな…ワクワクするぜッ!支援
77
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 22:03:23 ID:G.gIoQVo0
少し休憩はいります
78
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:06:03 ID:G.gIoQVo0
o川*゚ー゚)o 「あれ……? 寝ちゃってたのかな?」
晴れた空に浮かぶ雲の形は変われど、日差しの強さは変わらない。
少女は目の上に手を掲げて、目を細めて遠くの方まで望む。
延々と続く途切れることの無い褐色の大地。
目が覚める前にも見ていたはずの景色が、なぜか少し違って見えた。
o川*゚ー゚)o 「……この十字架のせいかな……?」
背もたれにしていたそれに触れても、特別な何かを感じることはなかった。
o川*゚ー゚)o 「んー、まぁいいや」
少女は五つの象徴が佇む丘を離れ、外の世界へ歩きだす。
一歩一歩、足場を確認しながら。
o川*゚ー゚)o 「何処まで続いてるのかな……」
目に映るのは三百六十度全て地平線。
空と大地の他に何もない。
o川*゚ー゚)o 「あいたっ……」
たった数十歩。彼女は目に見えない壁にぶつかって尻もちをついた。
立ち上がって自分がぶつかった何かに触れる少女。
弾力のあるそれは優しく彼女の手を跳ね返した。
79
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:06:25 ID:G.gIoQVo0
o川*゚ー゚)o 「どうなってるんだろう……」
片手を壁に沿わせながら歩く。
ぴったり三十分で彼女は元の場所まで戻って来た。
o川*゚ー゚)o 「むむ……これって……囲われてる?」
立ち止まってから数分間考えて、自分の立っている場所と壁の関係をようやく理解した少女。
その小さな拳を壁に向かって振り抜くも、抑えた時よりも少々強い弾力が返ってくるだけ。
触感を確かめるかのように、二度三度繰り返す。
掌で押し、指先でなぞり、握りこぶしで叩く。
o川*゚ー゚)o 「うーん……?」
見えない壁の多様な表情。
それらを確かめるかのように何度も何度も触れる。
o川*゚ー゚)o 「……閉じ込められてる?」
周辺が完全に覆われているという事実。
心に浮かんだ疑問を口に出すが、それに応える者はいない。
自身にはどうすることもできないと理解し、少女は再び中心の骸の元へと戻って来た。
o川*゚ー゚)o 「ここは何処なんだろう……? ねぇ、あなたは知ってる?」
80
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:06:46 ID:G.gIoQVo0
死体が口を開くわけもなく、少女の問いかけは空気に混じって消えた。
そんなことは気にも留めず、また別の質問をする。
o川*゚ー゚)o 「私は何でここにいるんだろう?」
地面に落ちた頭蓋骨にぽっかりと空いた二つの空洞は、遥か彼方に向けられているようにも、
目の前の大地に向けられているようにも見えた。
o川*゚ー゚)o 「あなたは誰なの?」
一陣の風が吹き抜け、少女の黒髪を大きく靡かせる。
それを押さえるようなそぶりも見せず、足元に横たわる骸骨を覗き込んだまま動かない。
o川*゚ー゚)o 「何も答えてくれないのね……でもいいの。
別に答えが知りたいわけじゃないから。だけど……」
少女は立ち上がり、地面に突き刺さった錆びた剣の元へと歩く。
o川*゚ー゚)o 「なんでなんだろう。呼ばれてる気がするの」
無垢な少女の手が、その柄に触れた。
81
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:07:49 ID:G.gIoQVo0
>1
少女はずっと待っていた。
初めて父親に物語を読み聞かせてもらってから、既に十年も経過していたにもかかわらず。
疑うことなく、信じていた。
暴虐の限りを尽くす王を討ち取り、神話の化け物と対等の関係を築き、
あらゆる人間から尊敬され、誰よりも強く優しい。
そんな王子様が現れることを、ずっと待っていた。
川 ゚ -゚) 「……暇だなぁ」
大陸中央部に居を構える最大の国家。
多種多様な生物が存在するこの世界において、唯一の人間の国。
脆弱な体と、僅かばかりの魔力しか持たない貧相な生物。
そんな彼らが、強者ひしめくこの大陸で生活していけるのには一つの大きな理由があった。
かつて存在した大英雄アラマキ・スノウ。
その功績は異族の間でも幅広く知られている。
紆余曲折あり、彼が龍族の王妃と建国したのが、このスノウ国であった。
その国の首都にある王城の一室、小さな窓にまで鉄格子がはめ込まれた牢屋の中。
少女は部屋の雰囲気にそぐわない高級なベッドの上に座っていた。
82
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:08:27 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「それにしてもまさか、騎士団長でさえあんなに弱いとは……。
この国の将来が心配だな、まったく」
腕を組み、溜息をつく。
その視線の先にあるのは、鉄格子の向こうの曇り空。
三日前から変わらない空模様に自らの嘆きを重ね、少女は再び大きく息を吐いた。
「クール様、あまり溜息をつかれない方がよいかと」
牢の外、質素な椅子に座っていた看守が声をかける。
看守といっても、武器も鎧も身に付けてはいなかったが。
川 ゚ -゚) 「だったら、君が私を負かしてくれるか?」
「それは……」
川 ゚ -゚) 「無理だよなぁ」
看守は少女がこの場所に来る原因となったその日を思い出し、口ごもった。
国を護る各騎士団の頂点にして、国民の憧れでもある雪華騎士団。
それに属する一騎当千の猛者たちを束ねる騎士団長、デミタス・サンラインとの一騎打ち。
首都にある巨大な闘技場は、市民で埋め尽くされた。
誰彼構わず戦いを申し込んでは勝ち続けてきた噂のじゃじゃ馬姫が、
ついに国の英雄に挑むのである。
集まった誰もが騎士団長の勝利を疑わなかった。
83
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:09:08 ID:G.gIoQVo0
しかし試合開始の数分後、観客達は一様に自身の目を疑った。
何ら手加減の様子もなく、最強であるはずの雪華騎士団長が両の膝をついたことに。
その正面に立つクールの余裕の表情に。
大歓声とともに最強の名を受け取った王女。
それがなぜこのような場所にいるかといえば、
彼女に負けた騎士団長が自らを責め、その座を辞してしまったことにある。
デミタスは凡百の戦士ではない。
スノウ国にて奉られている歴代の英雄。
その頂きに、いずれ名を刻むとすら言われていたほどの実力者。
それを凌駕するクールこそがむしろ異常であったのだが、
彼は敗北の自責からか誰の説得にも耳を貸さず、
修行の為に山籠もりをするとだけ言い残して姿を消した。
これに困ったのは国王である。
目下スノウ国は平和な状態にあったが、失った戦力の穴は簡単には埋まらない。
幾ら強いとはいえ王女を戦わせることを避けたかった国王は、取り敢えず娘を幽閉することにした。
勿論、騎士団長が破れてしまったことで、力づくで彼女を閉じ込めることが出来る者はいない。
仕方なく牢に入るように話したところ、少女はそれを快諾した。
84
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:10:07 ID:G.gIoQVo0
囚われのお姫様に憧れていたクールとしては、
普通に王女として与えられる待遇に大きな不満を持っていたからである。
ベッドだけが最高級の暗く冷たい牢屋。
彼女がそこに寝起きし始めてから三日が経った。
要求は次第にエスカレートしていき、
クールの今の食事はスノウ国で一般的とされているものよりもなお質素である。
何処から持って来たのか重たい足枷を足首に付け、日がな一日鉄格子の外を眺め続けるクール。
その様子は民衆の代わりに罪を贖う聖女さながらであった。
流石に危機感を抱き始めた国王は、大臣や他の騎士団長などを説得に向かわせるが、
クールは殆ど話すことなく全員を追い払った。
ついに国王が直々に牢屋に向かうが、クールはまともに取り合わない。
緊急会議が招集され、国王と大臣が一堂に会するも、頭を悩ませるばかり。
誰も解決の糸口すら見つけられなかった。
そしてさらに一週間が経過した日の昼間、王城は突然の襲撃者の対応に追われることとなった。
事態に気付いたのは、たまたま窓の外を見ていた従者が即座に報告をしたおかげであり、
それが無ければ誰も気づかなかっただろう。
まるで存在そのものが風景に溶け込んでいるかのように、自然に浮かんでいる男。
誰にも聞こえない声で幾つかの言葉を呟き、その手に持った杖を振り下ろした。
たったそれだけの動作。
85
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:10:53 ID:G.gIoQVo0
王城に存在する幾つかの独房に至るまでの地面が、
音もなくきれいさっぱり消失していた。
暗闇からゆっくりと歩き出てくるクール。男は、それをじっと待つ。
久しぶりの強い光に腕を掲げで光を阻む。
薄目を開けて臨んだ先に立つのは細身の男。
川 ゚ -゚) 「あなたが私を助けてくれたのですか……?」
('A`) 「……は?」
あまりにも斜め上にずれた彼女の第一声に対する男の返答は、短いものであった。
伏し目がちに放たれた言葉は、女性との付き合いをほとんど持ったことの無かった男が、
悪印象を持たれないため十数日間も使って考えてきた会話の内容を全部吹き飛ばした。
男の思考が停止しているうちに、
当番をしていた数十人の兵士と、王城に待機していた副騎士団長がすぐに現場に駆け付けた。
「何をしている。ここをどこか知っての狼藉か」
('A`) 「あ、あぁ……ちょっと待ってくれ」
動揺し取り乱したその姿は不審者そのものであったため、
兵士達は男に向けて槍を構えた。
86
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:11:23 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「……? 何をしているのです。槍を納めなさい」
「し、しかし姫様……」
川 ゚ -゚) 「納めろって言ってるだろ。邪魔をするな」
「はい……」
('A`) 「えー……」
川 ゚ -゚) 「何でもありませんわ。それで、私をどこに連れて行って下さるのですか?
ここではないどこかへなら、あなた様と一緒に」
('A`) 「ちょ、ちょっと待ってくれ。話が見えない」
両手を胸の前に組み、ただ男の言葉を待つ王女。
('A`) 「君は、自らの意思で引き籠っていた王女じゃなかったか」
川 ゚ -゚) 「は? ……な、そんなことはありません!
私は悪意のある王に閉じ込められていたのです」
87
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:12:04 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「ん、と」
あまりにことに理解が追いつかず、騎士団に説明しろと目配せをする男。
それに対して同情の視線を向けることでのみ応えた副騎士団長であった。
川 ゚ -゚) 「王子様、どうかわたしを連れ去ってい下さい」
('A`) 「えー……」
男の目的は彼女と会って話すことであり、連れ去ることではない。
それを如何にして伝えるか考えている間に、兵士は次々と集まってくる。
騒ぎを大きくすることが目的ではなかった男は、
未だかつて経験したことがない嫌な汗を流しながら言葉を発した。
('A`) 「君を連れ去るつもりはない。話をしに来ただけだ」
川 ゚ -゚) 「ごちゃごちゃ言わずに私のいう事を聞け!」
少女が放出した大魔力の塊が、庭園を吹き荒らす。
兵士達が皆膝をつく中、男だけは平然としたまま立っていた。
川 ゚ -゚) 「!」
('A`) 「お、落ち着いてくれ」
88
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:12:36 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「お前、いや、なんで私はすぐに気づかなかったんだ。……魔術師だな?」
「なっ! 姫様!」
世界中を探しても僅か数人しかいない魔術師。
その力の大きさと存在は知られているものの、世界に姿を現すことは無く、
多数の部族の間でもはや御伽噺となって言い伝えられている。
「魔術師が何の用だ」
剣を構える副騎士団長。
その切っ先には明確な殺意が込められていた。
('A`) 「別に何かをしようってわけじゃない。それを仕舞ってくれ」
「何を根拠に」
('A`) 「俺がその気になればこの国は地図から消えているからだ」
男が指を振るうだけで、騎士団長の剣は砂糖菓子のように崩れた。
「っ!?」
川 ゚ -゚) 「はぁ……。私の計画が台無しだ。王子様だと舞い上がったのが馬鹿みたいだな。
よくみたら顔もそんなに好みじゃないしな。
それで、亡霊のような魔術師如きが、私に何の用だ?」
89
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:14:01 ID:G.gIoQVo0
腕を組み、尊大な態度で臨むクール。
それを気にした風もなく、男は話し始めた。
('A`) 「そっちの方が話がしやすくて助かる。顔の話は余計だけが」
川 ゚ -゚) 「魔力量が少なすぎて気付かなかったよ。やっぱり噂には尾ひれがついてるもんだな」
('A`) 「やれやれ、騎士団長を負かしたじゃじゃ馬姫は噂の通りだったか」
川 ゚ -゚) 「さっさと用件を言ってくれなければ、この国から強制的にご退去願うが?」
('A`) 「そう事を焦るな。いろいろと話したいことがあるのだが、ひと先ずは俺と一戦交えてもらおうか。
その方が話も早いだろう」
川 ゚ -゚) 「手加減してやってもいいが、ここではなにかと都合が悪い。
王都から出て東に平野がある。そこでどうだ?」
('A`) 「構わない。それでは先に言って待っている」
言い終わると同時に男の姿は城内から消えた。
クールの傍にまで慌てて駆け寄ってくる副騎士団長と兵士達。
「姫様! 危険です!」
90
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:14:41 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「すぐ戻ってくるさ」
「ですが……」
川 ゚ -゚) 「あいつも否定しなかっただろ。魔力量では私の方がずっと多い。それじゃ、留守を頼む」
クールはドレスのまま王城の一番高い塔まで跳ね、そこから東に向けて飛び去った。
本気を出した彼女に追いつけるはずもなく、兵士達はただ黙って見送った。
スノウ国の首都から東に数キロ離れた地。
それをわずか数分で駆け抜けた彼女が平野にたどり着いた時、
男は地べたに座って待っていた。
川 ゚ -゚) 「待たせたか?」
('A`) 「ああ、退屈だった」
川 ゚ -゚) 「女の子には嘘でも待ってないと言うものだろ」
('A`) 「そんな殺気を出すなよ。せっかくの可愛さが台無しだ」
川 ゚ -゚) 「このくらいで消えてしまうような可愛さじゃない」
('A`) 「自分でいうとはね。恐れ入った」
91
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:15:12 ID:G.gIoQVo0
川 ゚ -゚) 「さて、始めようか」
('A`) 「俺を立ち上がらせることが出来れば、君の勝ちでもいいよ」
川 ゚ -゚) 「ふん……」
露骨な挑発に対して、彼女は容赦なく魔力を叩き付けた。
常人であれば蒸発するほどの熱量の光柱が平野に突き刺さる。
川 ゚ー゚) 「馬鹿な奴だ。魔術師相手に加減するとでも思ったのか」
黒焦げになった大地から立ち昇る煙がゆっくりと風に流されて消えていく。
露わになった状況は彼女を驚かせた。
川;゚ -゚) 「まさか」
ドクオが座っていた場所だけが何ら影響を受けておらず、
彼自身もまた無傷のまま座っていた。
('A`) 「なんだ、手加減してくれたのか」
川 ゚ -゚) 「……死体だけは残してやろうと思ったんだが」
('A`) 「流石、王女様はお優しい」
川 ゚ -゚) 「その余裕はすぐに無くなるぞ」
92
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:17:29 ID:G.gIoQVo0
クールは両手を前に向け、目の前の男に集中する。
膨大な魔力に式を与え、魔術として形を与える。
先程の魔力頼みの一撃と違い、術式によって発現する魔術は数倍の威力を持つ。
形成されたのは圧縮された魔力光の鏃。
有り余る魔力とそれを扱う飛びぬけたセンスを持つクールが、自分自身の力で生み出した魔術。
川 ゚ -゚) 「スターライト」
放たれたその風圧は空を裂き、大地を抉りながらドクオへと迫った。
目前に迫った脅威にすら、彼は興味がないかのように杖を軽くふるうだけ。
それだけで容赦ない一撃は霧散した。
川;゚ -゚) 「なっ!?」
('A`) 「納得してくれたか」
川;゚ -゚) 「なんで……いや……」
仕留められない敵はいないと自負していた最強の技が、
ただ杖の一振りで破られたという現実は、クールにとって受け入れがたい事実であった。
その後も闇雲に放った魔術は一つとしてドクオに届かない。
川 ゚ -゚) 「それなら……」
93
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:18:08 ID:G.gIoQVo0
人生で初めての敗北したかもしれないという感情を振り払うために、
クールは魔力に剣の形状を与えた。
初めて形を作り出したにしてはしっくりくる感覚を怪訝に思いながらも、
魔力の密度を高めていく。
ドクオの目の前まで一息に詰め、その首を跳ね飛ばさんと振り抜いた光の剣。
遠距離でだめなら近距離で、そんな子供じみた発想は、剣と共に容赦なく打ち砕かれた。
川 ゚ -゚) 「っ……くそっ……」
魔力を練り込んだだけの剣を精製しては目の前の魔術師に向けて叩き込む。
それら一つ一つを丁寧に破壊するドクオ。
桁外れの魔力を持つクールであっても、回復を上回る消費を行えば底をつくのが道理。
半日にもかけて最上級魔術クラスの魔力を打ち続けたクールは、息も絶え絶えといった状態であった。
川;゚ -゚) 「はぁ……っ……はっ……」
('A`) 「もうやめておけ」
ふらふらになりながらも、クールは魔力を注ぎ込み続けた。
結果、魔術は不発に終わり、前のめりに倒れ込む。
('A`) 「ほら見ろ」
94
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:19:21 ID:G.gIoQVo0
咄嗟に立ち上がった毒男がその身体を支える。
川;゚ -゚) 「はっ……はっ……」
('A`) 「魔力欠乏症だ。少し休めばすぐに回復するが……仕方ねぇな」
ドクオは自身の胸に手を当て、光る珠を取り出す。
それをクールの胸元に掲げると、珠は粒子となって彼女の全身に溶け込んだ。
('A`) 「幾らか楽になったか?」
川 ゚ -゚) 「……その手を離せ。一人でも立てる」
ドクオの腕の中から起き上がり、突き放す。
頼りない足取りで立ち上がり、少し歩いたところでまた崩れかけた。
慌てて駆け寄ってその小さな体を受け止めたドクオ。
('A`) 「おい、無理をするな。他人の魔力と自分の魔力じゃ勝手が違う。
少し楽に感じるだけで、実際に回復したわけじゃない。
まぁ座れ」
杖を振るって二つの柔らかな椅子をその場に用意した。
片方にクールを座らせ、自らは反対側に深く腰を下ろした。
川 ゚ -゚) 「勝負は……私の勝ちだな。お前を立ち上がらせたから」
95
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:20:04 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「そういう話だったな。まぁいい。俺の実力は充分に理解できただろ」
川 ゚ -゚) 「それで、私には何の用だった」
('A`) 「今から八年後、お前の……天剣の力が必要になるかもしれない」
川 ゚ -゚) 「それだけ強いのにか」
('A`) 「母親から聞いていないのか?」
川 ゚ -゚) 「母なら七年前に死んだ」
('A`) 「お前に何も話さずにか」
川 ゚ -゚) 「流行病だったと聞いてる……。急に病状が悪くなったとも。
私が物心ついた時には、母は話すことすらできなくなっていた」
('A`) 「そうか……あいつは優秀な剣士だったな」
川 ゚ -゚) 「母を知っているのか」
('A`) 「一度会っただけだが。となると、お前は天剣の話を聞いていないんだな」
川 ゚ -゚) 「天剣?」
96
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:20:54 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「それを説明するためには、少し時間がかかる。
城まで送って行ってやるから今日はもう休め」
川 ゚ -゚) 「それを聞くまでは帰らない」
('A`) 「お前に選択肢はない。……そうだな。
一週間あれば楽に話すくらいには回復するだろう。
その頃にまたお前を訪ねよう」
川 ゚ -゚) 「待て……まだ」
クールの言葉はそこで途切れた。
少女は椅子ごと姿を消し、ドクオ一人だけが残っていた。
('A`) 「ふぅー……。全く、とんでもない逸材だったな……」
97
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:21:53 ID:G.gIoQVo0
>2
('A`) 「よう」
開け放たれた窓に突如現れた痩せた男。
それが誰だか思い出すまでに少し時間を要した。
川 ゚ -゚) 「……!」
('A`) 「おっと、騒ぐのは無しだ。今日は話をしに来ただけだからな」
起き上がろうとしたクールの身体を目に見えない力が無理やり押し戻す。
それに抵抗するほどには回復しておらず、クールは大人しく首だけを男に向けた。
川 ゚ -゚) 「お陰様で丸三日ずっと寝ていたみたいだ」
('A`) 「ったく、もう起き上がれるのか。
あれだけの魔力を回復させるのにはまだまだ時間はかかるはずなんだが……。
さて、何から話すか……。そうだな、取り敢えずこの世界の話をしよう」
川 ゚ -゚) 「世界? 何の話かと思えば」
98
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:22:52 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「まぁそう言わずに聞け。この世界には一つの大きな法則がある。
五百年に一度、何処からともなくこの世界を消滅させてしまうほどの脅威が訪れるという、な」
川 ゚ -゚) 「なんだそれは」
('A`) 「信じられないかもしれないが、事実だ。
あらゆる時代のあらゆる英雄たちが、その命をかけて世界を護ってきた」
選ばれた魔術師のみが扱うことのできる、レタリアと呼ばれる手紙の魔術。
一度放てば、災厄に打ち勝てる猛者の元へと光の手紙が届く。
文面は書かれておらず、その光に触れることでのみ、届けられたメッセージを読み取ることができる。
('A`) 「八年後、終焉の時が来る。おそらくクール、お前の力を借りることになるだろう」
川 ゚ -゚) 「……お前に傷一つ付けることができなかった私にか?」
('A`) 「今のままではレタリアの選定基準には届かないだろうな。
だが、鍛えれば俺に並びうる才能がある」
川 ゚ -゚) 「才能、ね……。私にあるのはこの人並み外れた魔力だけだ。
独学でいろいろとやってみたが、この前のあれが限界だ。
とても今以上の力を扱えるとは思えないな」
99
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:24:04 ID:.s4a6Prs0
すんげーーーー良い
100
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 23:24:16 ID:G.gIoQVo0
('A`) 「魔力の量は生まれつきの才能だ。
お前も知っているように、俺の魔力量はお前の半分にも到底及ばない。
だが、お前にはもう一つ、他の誰にもない力がある」
川 ゚ -゚) 「宗教の勧誘みたいな話だ。生憎、私は神を信じちゃいない」
('A`) 「疑り深い姫様だな。もう一つ、その説明をする前に聞いておこう。
お前は魔力についてどのくらい知っている」
川 ゚ -゚) 「……人間以外にも多くの種族が扱える力で、魔術を発動させるために必要なもの、だ」
('A`) 「魔力には幾つかの特性があるが、
そのうちの一つに形を与えることが難しいということがある。
最上級の魔術師であっても、
魔力そのもので何かを作り出すことはほとんどできないほどにな」
川 ゚ -゚) 「そんなことは無い。この国の騎士団長クラスであれば、
魔力で創り出した斬撃を放つことくらいできる」
('A`) 「それは剣を通した簡単な魔術が発動しているだけだ」
川 ゚ -゚) 「魔術には詠唱が必要なはずだ」
('A`) 「必ずしもそうではない。常日頃から鍛錬を怠らなければ、その程度のことは誰でもできる。
先の戦闘時、お前は魔術を通さずに魔力を剣の形にしてみせた」
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