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チラシの裏 3枚目
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ネタにするには微妙だけど、投下せずにはいられない。
そんなチラシの裏なヤツはこっちに
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「地獄に旅立つ準備は出来たかね?」
最終兵器・動力室。熱で満たされたその空間で、死神は戦いを始めた。
「…………なぁオペレーター。少し俺の話を聞いてくれないか」
「え…? …う、うん」
出口で待つことにしたエックスは、最終兵器を入り口へと向かい歩いていた。
「……君はイレギュラーハンターはイレギュラーを倒すことが当然だと思うかい」
「………。…いえ。殺すか殺さないか。そもそもイレギュラーかどうか判別するため
逮捕の処置を取る場合だって多いわね。…どうしたの」
オペレーターは椅子に深く腰かけ…飲み物を片手に息をついた。
「フハハハハハハ、これで終わりと思うな!?これからだぞ…?
お前と戦うのを待っていたのを待っていたのだからな!」
黒き衣がゼロにより焼き斬られ、シグマの顔が姿を現す。鎌を手に…戦いは次なる局面へと進む。
「黙れ。すぐに終わらせてやる」
「俺は…どんどん仲間を失って行っている。
…でも、ダブルを倒して思ったんだ。俺はもう、仲間を失いたくない」
「…そうよね」
「そして、段々戦いに慣れていく自分にも気付いた。そして…思ったんだ。
…何も感じなくなるのも、それは…イレギュラーじゃないのかって」
エックスは、宇宙を見ながら話を続け、窓の外の星空を見上げながらオペレーターはその話を聞く。
「…うん。それが故障なら定義的にはそうなるわね。でもそれを言ったらイレギュラーハンターは皆…」
「…それもそうか」
「ただ、悩むというのはいいことかも知れない。考えた末、また新しい答えが…出せるならね」
「…………。」
「ケイン博士も言っていたわ。それがエックスの最大の特性だって。」
「シグマもそれを聞いていたかな」
「…そう言っていた。…レプリロイドの可能性にかけていた彼が興味を示さない理由もないわね」
シグマの体は崩壊。床が崩壊し、ゼロは下へと落ちる。エネルギー炉の並ぶ、動力炉深部へと。
ワイヤーによって繋がれた巨大な人型の装置が現れる。その頭に供えられたのは…シグマの顔だ。
「ハーーッハッハッハッハ!死ね、死ねえ!死ぬがいいゼロ!
あの世でアイリスが待っているぞぉ!?」
「その名前を出すな………お前をあの世に送ってやる!二度と蘇るんじゃない!」
「宇宙の、塵になるがいい!」
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出口だ。青き大地に頭を向けた、小型シップが目に映る。
「少しゼロに話をしてみたいんだよ。…ゼロになら任せられると思うから」
「…何を?」
…もし自分がイレギュラーになったら、ゼロに殺してもらおう。
エックスは…そう言った。
「馬鹿…!縁起でもないことを言わない方がいいわ…あなたに限ってそれはないわ」
オペレーターは確信していた。…あるとすればきっとエックスではなく…。
「とにかく。…無事に帰ってきて。ハンターベースで待っているわ」
椅子を倒し、星空を見上げながら。
「ハハハハハ…少し遅かったなゼロ!この兵器はすでに地上へ向かっている!
さらばだ…!ハーッハッハッハッハ!」
「クソッ、そうすれば…!」
走り出すゼロ。…だがコントロールを変えるには最早発射まで間に合わない。
地球に甚大な被害が出てしまう。…エックスには通信は繋がらない。
…頭を抱えるゼロの前に、汚れに汚れた巨大な将軍が現れた。
「………すまなかったな、ゼロ。」
「お前は…!」
「部下達に罪はない。全てはシグマの罠に嵌った私の責任だ…
…私のボディを使えばこの兵器を止めることが出来る……」
「…早まるな、ジェネラル!」
「さらばだ…」
それから暫くして、最終兵器は爆発。ゼロも間一髪脱出に成功した。
「…………」
カーネルが自らに向けた刃。
結局哀れなシグマの被害者でしかなかったジェネラルとの戦い。
そのジェネラルに憎しみをぶつけ続けた自分。
そしてアイリスからの攻撃、アイリスの言葉、アイリスが最期に自分に伸ばした手。
…幸せだった頃のアイリスの、微笑み。
「…俺は…結局、何も守れなかった………」
そして待ち受けていたのはシグマ。…一番の元凶は笑いながら去っていった。
だが…シグマの話の通りならば…。
…シグマの話の通りならば… シグマは…あの笑い声は…。
自分は何のために戦っているのか。ゼロの終わらぬ問いに悩まされる日が始まることとなる。
二つの流れ星がその日、流れていった。
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「さぁ 南南西の、風を受けー!?
曖昧なんて、はき捨ててー!
パッション、セッション、グッドコンディション!
セイ イェー! セイホー!」
ストレスを晴らすべく熱唱するはエックス。
技術班のダグラスが合いの手を打ち、ゼロは飲み物を頼み続ける。
エックスは意外に多趣味だ。
カラオケでこうして熱唱してみせたり、フィギュア集めが好きだったり、
ライドアーマーやライドチェイサーを乗り回して見せたり。
以前教えてもらったオペレーターはその歌を聞きながら、次の番を待つ。
「相変わらず凄いわねーエックスは……さ、次は私の番ね?誰か一緒に歌う人が必要なのだけど……」
レプリフォース大戦終結。…これにより、社会は大きな変化を見せた。
レプリフォースをイレギュラーと誤認し、甚大な被害をもたらしたこと。
イレギュラーハンターには大きな責任がある。
…これにより、イレギュラーハンターの総監は辞任。
ハンター全体の大きな体質の変化が要求された。
世界最高の頭脳を持つ若き新総監、シグナスの元で。
そして、エックス達とて例外ではない。
戦いにおいて尽力した彼らは株を上げこそすれ、批判の対象にはならなかった。
だが…エックス達の心中は複雑だった。いっそ、責められた方がまだマシだったというものだ。
その翌日。
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「…そういうわけで。今日からは私が貴方達の正規オペレーターを担当させて頂くこととなりました。」
オペレーターがエックスの前で挨拶をする。
「…宜しくね、エックス。」
こちらが本当の挨拶というべきか。
「こちらこそ。だが…ゼロも担当するんだろう?」
「後々挨拶をしておくことにするわ…ゼロは何だか最近大変そうだし」
「以前と比べミスが増えたっていう風にも聞くね」
ゼロは…あまり成績が芳しくないらしい。今日もうっかり怪我を負ってしまった。
「そうねぇ…今はライフセーバーの所に行ってるんじゃないかしら?」
「そうそう。これから担当するというなら、もうオペレーターとばかりも呼んでいられないわね」
「…何て呼べばいい?」
少しの静寂の後、オペレーターは口にする。
「そうね…他のハンターベースの仲間と同じでいいわ。名前でお願い」
「そうか。解った」
思いがけずあっさり通ってしまったことに内心驚きつつ。だが…ここで思いがけないことが。
「それじゃあ今日から宜しく頼むよ…えっと……」
「? …もしかして恥ずかしいとか」
違った。
「君の名前、何だっけ?」
「………」
唖然とするオペレーター。
「…………え?話しているはずよ」
「…そうだったかな」
思い返してみる。
ハンターベースに、長く巻いた金髪の少女が入ってくる。
「対シグマ対策のため、本日から臨時オペレーターとして担当させて頂きます。」
「ああ、宜しくお願いするよ。まず、覚えてもらいたいことがいくつかある。
仕事の内容も合わせて、少し俺の方から説明するよそれじゃあ あ。名前は?」
さばさばとした様子で少女は言う。
「ああ、いいですよ別に。すぐの間だけですし」
「そんなに畏まらなくていいよ。それじゃあオペレーター、まず画面の画面の見方からなんだけど」
「………あっ」
目を真ん丸くして驚く。
「多分、聞いてないな」
ばつが悪そうに頭を掻く。
「確か当時からすでに結構偉かったゼロには教えたと思ったんだけど…
まぁあの人は覚えないでしょうしね。 …解ったわ。それじゃあ私の名前を教えるわね」
ホワイトボードに名前を大きく書いていく。
「エー…エル… …アイ… エー。…
『Al鄯a』。」
「……エイリア?」
口からとうとう発せられた自分の名前。オペレーターの口元が少し綻ぶ。
「そうそう。…書いてみて」
「え?」
「まあまあ。いいから早く」
「………そう。…改めてまして。私は、あなた達のオペレーターを担当する…
『エイリア』です。」
握手を交わす。
「…よろしくね、…エックス。」
「ああ、これからも頼むよ、エイリア。」
「ほほーう。エイリアの奴やっぱそーだったんだなぁ。堅物にもそんな所があるモンだねー」
丸い眼鏡をかけた緑色のボディの中年男がその様子を見ていた。
「何を見ている?ダグラス。メカニックのお前が何をそんなに興味を示すものがある。」
「ああ、ゼロか!すまねえすまねえ。お前には今はちょっと辛いもんかもだな。ま、とにかく何でもないよ」
…こうして、多忙なハンターベースは……その日を迎えるのだった。
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時は数ヶ月前に遡る。
黒き花、最終兵器が散り…シグマは宇宙を漂っていた。
「ジェネラルによる破壊……これもまた私にとっては想定内でしかない。
…しかしゼロの力はやはり凄まじかった。
最終兵器のエネルギーを以ってしても敵わぬ相手だとは」
…体が動かない。次なる体を得るまでには時間がかかりそうだ。
彼は…眠ることにした。
どしゃぶりの雨が窓をを濡らし、何も見えない。
壊れた照明の中、雨音と雷のみが聞こえる静かな部屋。
上半身だけで目覚めた彼に声をかける声が。
「…お久しぶりですなぁ、シグマ様」
彼が以前聞いたことのある…それは老人の声。
「…お前は…… その声は、サーゲスか」
しかし、そのシルエットの丈は以前と比べ随分と伸びている。
「…私はその名を捨てましたわい。
それよりも…私が復活させたあのゼロの力。如何でしたかな」
「なかなかのものだな…奴はやはり強い。」
眉を器用に動かし、彼は笑う。
「フム。…私の見立てによればあやつの力はあんなものではないでしょうな。
いずれ本当の力を引き出せば…そう。
エックスなど軽くひと捻りにご覧にいれることが出来ましょう」
「ほう…奴を目覚めさせる…と。……やはり、貴方だったのか」
カツ、と足音を鳴らし一歩近づく。
「プランはすでに練り、協力者も用意して御座います、ご安心あれ。」
曇天を貫く轟音。
稲光は、壁にもたれ掛かり彼らの話を部屋の隅で聞く長い髪を映し出す。
「…やはり、と言いましたな?貴方もなかなか鋭いようだ。
そう、サーゲスの名も我が偽名の中の一つ…」
そしてバサッ…と白衣を翻し、ドアノブに手をかける。
「この通り…私は今、闇の世界に身を隠す身でしてなぁ。
…そうですな、私は今こう名乗っております」
世界の影で蠢く悪は、新たな悪を引きずり込み…動き始める。
一方ハンターベース。
「エックス、どうだったかしら?」
「…ああ。いいトレーニングになったよ。有難うエイリア」
ゼロはパトロール中…エックスはハンターベースで別仕事。
エイリアが考案したトレーニングプログラムのテストだった。
「…でもね、言わなかったかな。あれ…ビギナーのハンター用のテストなんだよ」
「…ダメだった…?」
「ああ。壁蹴りを強制したり、弱体化させたドラグーン戦シミュレーションは幾らなんでも。」
エックスの口からのはっきりとした評価。
「あれじゃ現メンバーでは俺やゼロ以外は突破できないだろう…。俺達を基準にしすぎてる。」
…エイリアは頭を垂れる。
「でも、それ以外はいいんじゃないかな。
新しくハンターに導入された道具の使い方も盛り込まれているし。
…君自身、実際にやってみるといいと思うよ」
「………。」
突破できたなんていえない。
と、そんな所に通信が割り込む。
「オペレーター、オペレーター!」
「エイリアよ、いい加減覚えて」
「パトロール中にイレギュラー事件が発生した。……シグマだ!やつが現れた!」
「町中で!? …大変、エックス!」
「ああ。急ごう!」
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「シグマは現在建設中の、沿岸部の女神像に移動した様子。
ゼロは先に行って戦っているらしいわ。」
シグマとの戦いで使用したフォースアーマーを身に纏い、エックスは町へ降り立った。
陥没した道路。シグマに続けて現れたイレギュラーは勿論、
民間の乗用車もイレギュラー化し襲ってくる。
「そうそう。貴方の装備はストックチャージじゃない方のアームパーツだけどそれでよかったかしら?」
「いいよ。シグマ相手にストックチャージの火力では少し心許ないからね」
崩れゆく建設現場を乗り越え、新しくハンターに支給された道具、ハンガーを用い
ロープに掴まり町をショートカット。眼下に海の広がる町の中、
とうとう女神像までたどり着いた。
「ゼロ、大丈夫か!」
「すまないエックス。腕をやられてしまった…
気をつけろ…姿を消しているが奴はすぐそこにいる!」
辺りを見回してもその存在は感知できない。だが…きっとどこかにシグマは存在する。
「…どこだ……」
「神経を研ぎ済ませろ。目やデータでは解らないものがある。…奴が持つ強い悪を逃すな……」
そう言いつつも、ゼロは悩んでいた。
追うもの、追われるもの。結局は破壊するのみの存在。
イレギュラーハンターとイレギュラーは…本当は似たもの同士なのではないかと。
その瞬間、背後の女神像の頬が剥がれ……女神の首が消し飛ぶ。
…そして中から巨大な顔が現れる。
「…シグマ!」
「愚かなイレギュラーハンター達よ!エックスの死を以って…ハンターの真の姿を知らしめてくれるわ!」
巨大な顔のみのシグマとの戦いが始まる。
「エックス、シグマを攻撃するときはうまくタイミングを見計らって!
ボディ表面が物凄く硬いのよ。…内部から破壊するしかない。解るわね」
「口か!」
シグマは目から雷の球を発生させ、エックスを追わせる。
これを避けたところに準備を完了したシグマは口を開け、エネルギー弾を大量に撒き散らしてくる。
「今だ…」
チャージ。そして発射。
「食らええええええ!」
…エックスの腕から発射されるは、雷を纏った青きエネルギー。そのサイズはエックスの身長ほどもある。
その巨大な塊はシグマの内部を貫通していく。そして後に残るは電撃による追加ダメージ。
プラズマチャージショットと呼ばれる、ライト博士がエックスに用意した…エックスのチャージショットの中で最強のものの一つだ。
「ぐぉおお…!」
シグマが消える。
そして再度現れ…今度は口を開けたまま突進を始める。
これは明らかな隙。シグマに再びプラズマチャージを放り込む。
「これで…最後だあああ…!」
大口を開け、口のキャノン砲を最大限にチャージ…発射する。
エックスの身長の2倍はあろうかというサイズの巨大なビームが放たれる。
これをしゃがんでかわし…
「そうだな…終わりだ、シグマ。」
エネルギーが枯渇した瞬間を見計らいまたプラズマチャージショット。
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その攻撃を当てた瞬間…何も言わぬままにやりと笑ったシグマの顔に亀裂が生じる。
「…まさか」
「しまった、…エックス、逃げろおおおおおおおおお!」
シグマは大破。
中から現れたのは無数のシグマウイルス。
「エックス…大変、大変よ!!」
…そのウイルスは遠くへと光の速さで世界各地に飛び去り…
凄まじい速度で増殖を始めた。
1体のシグマが死に10体に。
10体のシグマが100体に。
100体が1000体に………。
…在り得ないことが巻き起こっていた。
分裂が止まるまでは数分といったところだったが…
その間に無数のシグマウイルスは……あっという間に世界に広がっていったのだ。
…数分。
これまで、4度以上に渡りシグマから守ってきた世界が…数分でシグマに汚染された。
事態が全くつかめない。
「何てこった…」
「…それだけじゃないわ、見て……これ。」
エイリアはある画面を見せる。地球に謎の物体が接近しているとの情報だ。
「同時進行の作戦だったのよ。…あれは、スペースコロニー・『ユーラシア』。
…ユーラシアは…すでにシグマウイルスの巣になっていて…コントロールも効かない。
……地球に向かっているの。」
高速で地球へ向かう巨大なスペースコロニーが地上へ落下したときの衝撃は計り知れない。
地球そのものに大きな損傷を与えると思われる。
…恐らく、世界中の陸地が裂ける程の大惨事。
そしてそれを生き延びたとしても……ウイルスが世界を覆い尽くす。
全くもって予測できなかった事態。
…冷静とか、興奮とか、そういう段階ではない。
誰もが、現実をどこか信じきれないでいた。
「…おいおいエイリア。そんなんじゃあ地球が危ないんじゃないのか?」
技術担当のダグラスが言う。
「………ユーラシア衝突までにどれくらいかかりそうなんだ」
続いて総監・シグナス。
「17時間。
………それまでの間に、ユーラシア破壊を実行しなければならない。
みんな…いい? …1時間の間に……全ての作戦の案をまとめるのよ。
エックスとゼロは戦闘の準備をお願い」
「解った」
「……………」
これが、地球最後の日など信じられるわけがない。
…かといって、信じる信じられないと言っていたら、それは確実なものとなるだろう。
悪夢の一日が…始まろうとしていた。
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各国への対応、方法の模索、情報の収集、ウイルスの除去…
…1時間でまとまるわけなどなかった。
史上最悪のパニックの中、時間は刻一刻と過ぎていく。
…結局意見がまとまったのは、残り12時間のときだった。
あっさりと地球に残された時間はこんなにも切り捨てられていったのである。
エイリアがエックスとゼロを呼びつける。
「エックス、ゼロ。聞いて!ユーラシアを破壊する方法が見つかったわ…
そのために貴方達にはミッションに行ってもらうことになる。
悪いけどミッション中の説明になるわ。」
「いいだろう」
「解った!」
エックスとゼロはそれぞれの場所へ転送される。
新たなる戦いのスタートだった。
緑色のボディに身を包んだダグラスが彼らに語りかける。
「『エニグマ』を使うんだ。これは古い砲台でね。まさか使う事になるとは思わなかったんだ」
間を確認して、ダグラスは続ける。
「…だがな。エニグマを使うには資材が足りないんだ。」
そしてエイリアがリスト化したものを読み上げる。
「必要な物は『オリハルコン』『エネルギーカートリッジ』『レーザー装置』そして大量の『水素』。
…そして調達手段もすでに調査してあるわ。」
そして、エックスゼロそれぞれに通信を切り替えて話しかける。
「形振り構っていられないからね…オリハルコンはゼロ、あなたに取りに行ってもらうわ。
今あなたがいるトレーラーが向かう先、裏社会の武器のブローカーの所ね」
「…待て、このトレーラー…メカニロイドだろう」
「え、ええ…まさか!?」
「…イレギュラー化しているぞ!進路には問題ないが自爆する可能性がある!」
「先へ進んでゼロ!」
「水素はエックス、貴方に取りに行ってもらうことにしたわ。
貴方が行った先は海洋博物館。そこに海の使用許可を貰って、大量の海水から水素を確保するの」
「…ここが博物館?」
「……ど、どうしたのエックス」
「…どう見ても海の中だよ。どうやら転送先がずれていたらしい」
二つの行き先に二つのトラブル。エイリアは…
「俺は一人で行ける、問題ない お前はエックスをオペレートしろ」
「そうさせてもらうわ。エックス!その場所は以前クラブロスのミッションで行った場所よ、覚えてる?」
「ああ。確かアジールと戦った……」
その前に巨大メカニロイドと戦った気もするが。
「転送装置自体が壊れているみたい…直すまでかかるから、エックスは自力で水族館まで行って!」
「…………!」
深い海の中、エックスの背後に巨大な魚が現れる。いや…これは…。
「…戦闘艦デスエベンジ…!耐久力だけは一級品の厄介な相手ね」
「エイリア、どうすればいい?」
そう言いつつもプラズマチャージをデスエベンジのレーザー砲たる口へと放つ。
「…倒すしかないわ。厄介な相手だけど。その後水族館へ向かいましょう」
海中の追いかけっこがここにスタートした。
海底の沈没船にはカプセル。現れたのは勿論ライト博士。
「おお。エックス……お前が来たか」
「ライト博士…」
「大変なことになってしまったようじゃな…
地球を頼むぞ、エックス。
…ここでは、お前の機動力を高めるアーマー…『ファルコンアーマー』のデータの一つを渡そう」
「…データ?」
「ああ。安全性を高めるべく、今回からワシはパーツを4つに分けてデータとして転送することにしたんじゃ。
エイリア、と言ったかな?
…あの子に頼めばデータを解析、4つ全て集めることで一つのアーマーに出来るじゃろう…。」
エイリアの名前はライト博士に覚えられていた。
「…すまんな。どうやらゼロに呼ばれているようじゃ」
武器ブローカーのアジトにてゼロもまた、ライト博士のカプセルを開いた。
「おお、ゼロ…よく来たのう」
「…エックスのためパーツを頂きたい。その前に一つ答えてもらいたい。」
もし、この老人がエックスを作ったとされる、遥か昔の偉大な科学者であるならば。
「…夢でよく俺はある老人に会うんです。心当たりは…ありませんか」
ゼロが珍しく敬語で話す。
「…残念ながら私には、よく解らんな…何かのデータの間違いじゃろう、気にしない方がいいだろう」
「…解りました」
ライト博士は無論、全てを知っている。…だが、ゼロの言う老人の話となると明言しようとしなかった。
「すまんのう」
そして、海の先で、武器ブローカーの根城で。彼らはそれぞれのターゲットと出会う。
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「避けてみせてくれ!」
最深部でエックスを出迎えたのは水族館館長タイダル・マッコイーン。
彼との戦いは終局に差し掛かっていた。
彼が持つ技・水の力を操るジェルシェイバーの応用。
巨大な氷を口の中で一瞬にして作り出し勢いよく吐き出す。
その勢いも重量も凄まじい。一度当たってしまえば、壁際まで一気に押しつぶされ、
イレギュラー処刑用に設置された針の餌食となる。
だが反面、ジェルシェイバー自体の殺傷力は極めて低く、
エックスのフォースアーマーはおろか、ノーマルボディを損傷するにも到底至らない。
針の餌食にすれば一撃。そうでなければ一つの傷も負わせることも出来ず敗れる。
彼はそれを難なく潜り抜けるエックスの力を見たかったのだ。
「いい動きをしてくれるなぁ!」
ゼロの前に現れた、目に大きな傷をつけた兵器ブローカーのクレッセント・グリズリー。
ゼロとの過去の交戦での傷がうずくと、ウイルスに冒され死ぬ前に戦いを挑む。
右腕のドリルを使い、穴から穴へ。
爪でなぎ払うべく大きく腕を動かす。ドリルを突き出す…そういった隠れての戦法が破られたグリズリーは
爪を素早く振り、三日月型の衝撃波でゼロを追い詰めようとする。
クレセントショット。美しい弧の形をしたそれは部屋の向こう側へと真っ直ぐに飛び、壁に大きな傷をつける。
イレギュラーハンター、レプリフォース。
彼らの中の上位数パーセントに匹敵する実力者は世界にまだまだいたのだ。
しかし、エックス、ゼロの両名とも…最早彼らは敵ではなかった。
「大分腕をあげたようだな」
グリズリーの傷にもう一度剣を振り下ろす。
「食らえ!!」
ジェルシェイバーを貫通したプラズマチャージがマッコイーンを貫き、電撃がその体を包み込む。
それぞれの戦いの最後だった。
「…海水を確保するまで大分かかるんじゃないのかい」
「そうね…エックスは暫くそこで作業をしてて。ゼロを次のミッションに向かわせるから」
ユーラシア衝突まで…残り11時間。
「随分とクレイジーな作戦じゃないかい?シグマの旦那」
「自ら狂える者でなければ革命は起こせぬものだからな…」
「それも、そうかい。…ま、俺にとっちゃどっちでもいーんスけどね
旦那に歯向かい続けるバカな連中もいたモンですね…とうとう本気にさせちまった。
…さて。俺はちょっとハンターベースの皆さんにお手紙でもしたためますかね」
長い髪をなびかせた男は赤いバイザーを下げ、瓦礫から飛び降りた。
…それが数日前のことであった。
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そして、30分前に届いたメッセージ。ハンターベースを襲撃するというのがその内容だった。
「ゼロ、奴が来たみたい。今はエックスがいないから…迎撃をお願い!」
「ああ…。」
長身の男がエニグマの前に姿を現した。
「やーやー、アンタ、ゼロさんだね。はじめまして、俺、ダイナモって言うんだ」
「シグマの部下か?VAVAのような真似をしやがって」
その名前を聞くや否や、情報通の彼は明後日の方向を向きため息をついた。
「VAVA−?あんな肩肘張った怖い人と一緒にしないでもらいたいなー
自己流で戦うのはそりゃそーだけど、俺の場合はそういうんじゃないんだ。
こうやってハンターベースにお邪魔したのも、ユーラシア落としたのも…お仕事だけど、遊びなワケよ。」
バイザーを落とし、くるりと指先で回した柄を手で持ち、セイバーのスイッチをオンにする。
「軽くやりましょーや、スポーツな感じでね!」
これから滅ぶ世界には表も裏もない。シグマの雇った闇の世界からの傭兵・ダイナモとの戦いが始まる。
「食らいなっ!」
くるりと回したセイバーを恐るべき速さでブーメランのように投げつける。
ゼロは勿論これをかわし、セイバーで攻撃。
「おーおー。殺気立ってるぅ」
戻ってきた刃をまたかわし、また一撃。だが…
「おーっと…」
セイバーを片手でグルグルと回転させ、それを弾く。
続けてダイナモは跳ぶ。
「へっへ!」
地面に向かって垂直にバスターを発射。それは地面で二つに分かれる。
隙だらけのその攻撃をゼロは跳びあがりかわすと同時に技を当てる。
「三日月斬!」
クレッセント・グリズリーから得たばかりの技。
空円舞の強化技であり、円形になるその剣の軌道には三日月が二つ。
鋭さを増したその剣は一瞬でダイナモの脚を裂く。
「イッテテ…ったく、マジかよ。」
「ふざけるなと言っている!!」
「…アンタさぁ。もう少し力抜かないといつか死ぬよ?マジで」
「本気を出さぬまま死んでいくお前よりはマシだ。」
やれやれ、といった表情で苦笑いし、ダイナモは去っていった。
「ハンターベース防衛を含め、どれくらいかかった」
「おおよそ1時間。エックスも帰ってきたみたいだし、次のミッションに進みましょう」
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「ごめん、遅くなった!エイリア、状況は?」
「おかえりなさい、エックス。
作業中に話していたシグマの傭兵だけど…ゼロが追い返してくれたわ」
まずは報告。
そしてそれが終わると今度は残る二つの物資、
エネルギーカートリッジとレーザー砲の入手方法についてだ。
「レーザー砲にはレーザー工学の権威に譲ってもらうことにしたわ
エネルギーカートリッジについてはあるレプリロイドが持っているの。こちらもエネルギー工学の研究所ね」
「……心当たりがある。…俺にはレーザー工学の権威とやらの所に行かせてくれ」
「よし、それじゃ俺がエネルギーカートリッジ!」
二人がそれぞれミッションを決定する。
「…少し危険な場所なのよね…エックス、転送先にはアディオンを置いておくから、それで向かって。」
「所でゼロ。レーザー工学の博士とは知り合いなのかい」
「いや…そうじゃない。苦手なんだ、エネルギーカートリッジの持ち主が。」
「ゼロが苦手なタイプ……か」
そこはオストリーグのいた砂漠やスティングレンを追った水上都市とは比べものにならない悪路。
エックスの、ライドチェイサーの腕が問われる。
「……また俺は一人か。…しかしここは…何だ?
エイリアの奴、過去へ転送した訳ではないだろうな。」
偏屈な博士の研究所は…中世ヨーロッパの城のようであった。老朽化していないことからも、
この城がかつてあったものを再利用したものでなく、博士の趣味で新しく作られた施設であることを意味している。
「………思ったより時間を費やしてしまったわ」
ハンターベースにて、エイリア、シグナス、ダグラスは顔を見合わせる。
「…正直、資材を揃えたところで必ず成功する訳ではないからな。…あ、いや…気を抜くなってだけだ。成功するさ」
「今はエックス、ゼロを信じる他ない。我々は見届けよう」
侵入者を押しつぶすつり天井、針だらけの床、レーザー装置。
螺旋階段を落ちる敵はマッシュラムのバイオラボを思い出す。
ありとあらゆるトラップの仕掛けられた城にもカプセルが存在した。
「先ほどもう一つあったカプセルでエックスにパーツを渡したよ。
これでファルコンアーマーが完成することじゃろう」
一方エックス。電磁ロックで何重にも守られた面倒なセキュリティシステムを潜り、
いよいよ最深部へ到達しようとしていた。
「はぁい…。 アナタが来るとは思っていなかったわエックス。」
「…クラーケン………」
エネルギー工学の研究者ボルト・クラーケン。
イカのような姿をした彼…女が、細い体をくねらせて現れた。
「…エネルギーカートリッジの事とは関係ないが、オクトパルドのことを謝っておきたい。」
「…いいのよ。アナタ達イレギュラーハンターなんだから。
それより…アタシを殺してちょうだい、エックス。」
「いきなりどうした、クラーケン」
「アタシね、もうハンターのやり方にはついていけなくなっちゃったのよね…
これ以上本音ではモヤモヤしてる自分も嫌だし…私は…もう、ウイルスに…」
クラーケンの様子が変わる。
「正直早くしないとマズいわよ。みんなイレギュラー…に…イレギュラーニ…
イレギュ、イレ、イレギュギュギュギュギュギュギュギュギュギュ」
「…!」
「ミンナ死ンデシマウノヨ!オクトパルドノヨウニナ!!」
一方、ゼロはシャイニング・ホタルニクス博士の部屋へとたどり着いた。
「私は常々ハンターのやり方に疑問を持っていたのだ。力だけでねじ伏せるやり方はどうにも好かない。」
「…そう言っている場合か。何とかしてもらわないと困るんだ。」
「私の研究成果は君達には渡せない…。私から願うことがあるなら………
ウイルスにかかった私を……助けてくれないか」
「………」
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ウイルスは広がりつつある。協力者との戦いはここでも行われることとなった。
「う…ぐ…!体が動かない…!!」
戦いも後半。蛍型の誘導弾ウィルレーザーの使い手だった博士は手ごわい。高速移動を行い、光が消えるのを合図に姿そのものを消す。
そして尻からは極太のレーザーを発射。…己の研究成果を誰よりも理解する彼の、最も望まない戦いは続いていった。
一方クラーケンとの戦いも熾烈を極めた。
電撃を自在に放出し、上下左右に自由に動き回る強敵・クラーケン。
元イレギュラーハンターである彼…女の記憶を手繰り寄せ、ウイルスにより戦わされる。
足に似たようなワイヤーを張り巡らせての電流攻撃・トライサンダーは、死角の少ない実に厭らしい攻撃と言える。
クラーケン同様とても回避の難しい攻撃の数々だったが…
難なく二人は彼らを撃破し、資材を手に入れるのだった。
ペンギーゴ、ナウマンダー、クワンガー、カメリーオ、マンドリラー、イーグリード、アルマージ、クラーケン、
ヒャクレッガー、スタッガー、クラブロス、アリゲイツ、オストリーグ、ホーネック、ビートブード、ドラグーン、クラーケン、
マック、VAVA、ダブル、シグマ。
この、挙げられたイレギュラーハンターにいた実力者達のそのほとんど…
いや全て、彼が葬っていったのだ。
…シグマを信じた者、シグマのせいで狂わされた者、復讐に身を滅ぼした者、自らの意思で狂った者。
様々な者たちが居て…全てこの世から去っていった。
エックスが憎んだ者、悲しんだ者、怒りを覚えた者…沢山居た。
彼らの死を乗り越え、エックスは成長して行く。
「いよいよ…揃ったわね!」
「取り付けに入る。あと1時間待ってくれ!」
ダグラスが声を張り上げる。
1時間の後。エニグマ砲は…上を向いていた。
「漸くこのときが来たな…数時間しか経っていなくとも、長く感じたもんだ…」
「では行くぞ!」
エネルギーが一点に収束する。
「3…」
砲身がユーラシアを見据える。
「2…」
砲身が震える。
「1……」
エネルギーが高まっていく。そして…
「発射!」
前から。
「発射!」
後ろから。
「発射!」
横から。
…様々な角度から彼らはそれを眺めた。
爆発するかのような轟音を発して一筋の光が…宇宙へと放たれていくのを。
いや、実際爆発である。…とっさにこさえたこの材料では、一発が限界。
…ユーラシアに着弾。宇宙で大きな炎の花が咲く………
しかし。
「ダメ…!破壊率18%!…ユーラシアの軌道をずらして、衝突までの時間を遅らせたに過ぎない!」
エイリアがはっきりと正確に結果を告げる。
「…エニグマが………」
ガックリと膝を落とすエックス。
ゼロは、目を伏せていた。
「………ならば仕方ない。先ほど話していた最後の作戦を使う」
-
「…シャトルだな。」
「……出来れば使いたくなった作戦なんだけどね」
スペースシャトル作戦。
スペースシャトル自体をユーラシアに向け突撃させ…破壊するというものだ。
使用されるシャトルには脱出用ポッドが備え付けられているとはいえ
極度に危険なものであり、その上ユーラシアがある程度近づいていないとならないリスクが存在した。
「残り時間は後6時間。 エックス達に行ってもらうミッションが決まったわ」
「…ミッションという事は…足りないんだね、資材が」
ダグラスが頭を掻く。
「…すまねえ。」
エックスとゼロの二人が転送装置から放たれる。
「ゼロに行ってもらったのはオービターエンジンが設置された、密林内にあるレプリフォース施設。
エックスに行ってもらったのはレプリエアフォース。そこにはオービターウィングがあるわ」
今回はどちらもレプリフォース関連の施設だ。
「さてさて…依頼のあった場所はここかな?
あのボウヤがどれだけ慌てふためくか楽しみだなーコリャ」
自動操縦の戦闘機から見下ろすはダイナモ。手にはリモコン……
レプリエアフォースに、スタイリッシュなデザインに身を包んだエックスが降り立つ。
「なるほど。この装備があるから空中戦が有利になるというわけか」
エイリアがライト博士からのデータを解析し作り上げたファルコンアーマー。
特殊武器のチャージが出来ない欠点はあるものの、エックスの飛行能力を特化した強力なアーマーだ。
「レプリフォース兵もイレギュラー化しているか… …って何だ?この音…」
「エックス!部屋の隅に時限爆弾があるから!破壊して!…もう3秒しかない!」
「え、えええええ!?」
辺りが真っ白な光に包まれる。
「ゲホッ…ゴホッ」
「大変ね……エックス、まだあるわ。最優先で破壊するようにしましょう」
「! またあったわ!」
「あれか!!」
時限爆弾を見つけてはショットで破壊する。
「食らえ!」
エックスの腕の細い発射口から放たれたのは青く細長いショット。
貫通力と威力が高いそのショットは、昔のゼロを彷彿とさせた。
3個、4個、5個と次々に破壊していき、落ち着いた頃。
「エックス、上にカプセルがあるわ!」
「上…?何もないじゃないか」
「遥か上…空でも飛ばない限りはいけない場所になってるわ。付近に出入り口がまず存在しない。」
「…壁蹴りでもどうしようもないんだろ?諦めよう。爆弾から命を救うのが大事だ」
「それもあるけどカプセル、取ってみましょうよ。 …飛べるのよ?エックスは」
「………ファルコンアーマーの能力は伊達じゃない、ってことか?」
背中の翼から炎が噴出、体を青いバリアが包み込む。
時間以内なら上下左右自由自在に移動してしまうその能力は「フリームーブ」と呼ばれた。
「…エックスか。よく来てくれたな……。
それでは次にお前にはガイアアーマーを授けよう。私がかつて試作していた…癖の強い戦闘用アーマーじゃ」
「…戦闘用…。それなら関心が持てますね」
「ゼロにもついさっき渡した所だ。さぁ、持って行きなさい」
-
そしてエックスは施設最上階にたどり着く。
しかし飛行機や空母には直結していない。その扉の先は…空だった。
眼下に見えるは戦闘機だ。…どうやらこの上へと降り立つらしい。
顔の整った、美形の青年が翼の上に降臨する。。
「……よく来たね、エックス。
…俺はレプリエアフォース長官…スパイラル・ペガシオンだ。その節はハンター達に多大な迷惑をかけた」
「……俺達の方こそ、悪かったと思っている…」
そしてまた同じパターンは繰り返されてしまう。
ペガシオンもまたイレギュラー化していた。
「ジェネラル…サマノ…カタキ……う、うぁああ…あああああ!!」
「………ペガシオン。」
ウイルスにより…冷静な若き長官の、その心の内が開け放たれる。
「…………」
ゼロからの通信が入る。
「エックス!奴を倒せ…!前も言っただろう、奴は憎しみに囚われているんだ!」
「でも…!」
ペガシオンは続ける。
「ゼロ…ダマレ…ダマレ…アイリスヲ…アイリスヲ……アイリスヲ返セ…返セ…!」
「……」
ゼロも無言になる。
「おいおーい、いきなりどうしたんだ。俺に縛られたいのかーい?」
「なっ!?」
シグマウイルスと環境コントロールユニットが融合して生まれた奇跡のイレギュラー、
スパイク・ローズレッドはトゲのムチをゼロに伸ばす。
ゼロは戦闘に集中、あっけなく勝利を収めたが……
エックスはそうは行かず。
あのフクロウルの上司だ。風の扱いには彼以上に長けたペガシオンは強敵だった。
「…しかも…その戦い方は!」
「その勉強熱心な所はレプリフォース以外にも向けられていたみたいね」
翼で大空を舞い、敵を大きく囲いこむように何度も何度も空を切るその戦い方。
イーグリードのそれと全く同じだった。
「だから戦い方が解る……一番無防備なのはこのとき!」
ペガシオンの翼をチャージショットが貫通、穴を開ける。
落ちてきたところに…悩み苦しみ、怒り続けるペガシオンの頭へと一発。
…綺麗に、チャージショットはそれを貫いていった。
-
「やーやー、今度はエックス君が出てきたかー。また遊びに来ちゃったよ!」
ダイナモがまたも現れた。
「実はさー。あの後ちょっと後悔しちゃったんだよね、流石にうん…」
エックスは黙ってバスターを向ける。
「やっぱりほら……遊ぶのはいいけど、それなりにサッパリしたいじゃないか」
「…五月蝿い!」
チャージショットをダイナモに撃つ。
目にも止まらぬ速度でそれは風を斬り、ダイナモの首筋へと…だが。
「だからさ。今回、俺もちょーっとだけ、本気で行かせてもらいますわ。 …ね?」
手に持ったセイバーによりそれは弾かれた。
跳びあがり、エックスを斬りつける。器用に伸縮するそのセイバーが宙を舞う。
エックスはそれを潜り一撃。
「やるやるー」
そのまま反対側へ跳びあがり…地上へ向けてバスターを2発。
「さてさて、手品の始まりだー!」
グルグルとまたもセイバーを回転させる。
すると…何とそこからはセイバーの刃が次々と飛び出し、エックスを追ってくるではないか。
「何…!?」
「ほらほら、どうしたー?」
チャージショットを再び撃った…と、突然ダイナモが動きを止める。
「ちょっと痺れるぜーーー!?」
ダイナモが腕に力を込める。バチバチと電撃が球の形で腕に集まっている。
「せやぁああ!」
拳を床に叩きつけると床からは光の柱が。
エックスは僅かな柱と柱の間をぬって回避。
「2回目ー!」
ダイナモの近くに。
「3回目ー!」
ダイナモの遠くに。
「あ…あれれ…?効かなかった…? …まーいいや!もう一回だ!」
「そうはさせるか!」
エックスはフリームーブを用い空の上へ。そして…その技を放った。
「はぁああああ!!」
ギガクラッシュほどではないが、広範囲の技だ。
翼からエネルギーの弾を…チャージショットのように放つ。
数え切れない量を。
「ま、さかぁ…?」
拡散する。
「行けっ!」
「おいおーーーーい!」
青き矢となったチャージショットは地上へと降り注ぎ、地上からまた空へと戻っていく。
縦方向への…刃の雨。この技はダイナモに直撃。…刺さる。エネルギーの塊が…肩に、膝に、頭に。
「ったくこれだから嫌だよ…マジだもんなぁ………。」
…だがダイナモはここでシグマの言っていた言葉を思い出す。
「…ま、そんなんだからアンタらは早く死んじまうんだよ。」
また同じ台詞を吐く。
どうやら、彼の中でエックス達の死は確定らしい。
「せいぜい生き延びようとあがくこったな…
俺は楽させてもらうぜ? 生き延びるために、な」
ダイナモは再び去っていった。
-
「エックス、有難う… 今ので時間がまた大分縮まってしまったわ。後…3時間!」
帰還したゼロも揃った。ここでエイリアはミッションの話に入る。
「必要なものは燃料タンク、後ブースターロケット。」
「ブースターロケットか……熱いところに行くことになりそうだな」
「そう。それならゼロは行ってくれるわね?ブースターロケットの保管場所、サンハウスマウンテンへ」
「…何故『それなら』なのか解らないが…いいだろう」
「そしてエックスだけど……燃料タンクのある場所は……」
エックスは星空の中に居た。
「…ここは」
「プラネタリウムよ。綺麗ねぇ… ただし…。ここにも多分細工をしてあるはず…気をつけてね」
一体どんなものなのか…?
「トゲ…!?」
そう。星空と星座の中を歩いていると突然上部からトゲが降り注いできた。
「……移動用リフトも通常のルートを全く通っていないわ。
…敵の罠だらけだけど…頑張ってエックス!」
その先は何と重力反転フロア。
…あらゆるトラップを抜けたその最深部、タンクがずらりと並ぶ部屋にそれはいた。
蝙蝠型メカニロイド、バットンボーンの群れから現れた…それは奇怪なレプリロイド。
「…………お前は?」
「キキキキキ!世界がやばい中だけど、この環境…こりゃ心地いいなぁ…キキキ」
「…ウイルスに耐性を持っている?お前は…一体」
エイリアが割り込む。「こいつは…ダーク・ネクロバット。
大きな力を持ちながら、失敗作として見放された…
ヘチマール、マイマイン、モスミーノス、ダブルと同じ、3年前に製作されていたレプリロイドよ!」
天候操作、時間操作、吸収能力、変身能力。…では、ネクロバットの能力は?
「キキキーー!」
戦いが始まる。
ネクロバットの基本攻撃はバットンボーンの生成と、吸血…そして超音波。
さしあたって強力ではないその攻撃に、『楽勝だ』と安心しようとしていた…所に。
「かかったなぁぁあ!」
ネクロバットが翼を閉じると突然辺りの景色が歪み始める。そして…
「ダークホールド!!」
「何…?」
そう言った瞬間……
一瞬にしてエックスの体は傷だらけになっていた。
「うああああああああ!!」
…これは一体どういうことなのか。
一瞬で傷を作り出すダークホールドのその性能……
…そう。それが彼の能力だった。マイマインのそれと違う、『時間停止』。
スローに能力だけなら完全なものとしたマイマインとは異なったものだ。
要求されたものが大き過ぎると…失敗として判断されるラインが高くなる。
…そういうことなのだろうか。
再びダークホールドを発動、動きの止まったエックスに襲い掛かるネクロバット。
血を吸い、自らの糧とする。…戦いは長引くものと思われた。
…だが、能力は強力でも性能一つ取れば貧弱。そうそう連発できる能力でもない。
ガイアアーマーの最後のパーツを受け取ったエックスにネクロバットは倒されていったのだった。
一方その頃。
「……ネクロバット……あれは処分した筈ではなかったのか」
「いやぁ、捨てるのを思わず躊躇ってしまいましてな。
……ま、彼を外界へ放つことでいつか能力が開花するのを待っていた節も、勿論ありますがなぁ…
…実に面白いレプリロイドでしたわい」
「……その眼力…。伊達に沢山の『ロボット』は見てきていない、ということか」
「まぁひとまずは待ちましょう。…奴らがネクロバットのDNAを背負ってやってくるところをね」
一方、ライドアーマー・ライデンに乗りマグマの中に潜り込んでいたゼロも、
パワー、スピード、耐久力全てを備えた炎使いの強敵…
レプリフォース災害対策チームのバーン・ディノレクスを撃破。
ここにやっと、シャトルの資材は全て揃ったのだった。
「……後1時間ね…ギリギリ……何とかシャトルの準備は間に合いそう。
二人とも、お疲れ様!」
-
そしてその時はやってきた。
ユーラシアを破壊すべく宇宙を破壊するロケットを打ち上げる時が。
「大分地球に接近している…十分な加速を得られるかしら」
ロケットの自動操縦システムはウイルスに冒されている。
誰かが乗り込まねばならない…。
その役を引き受けたのはゼロ。…彼は自ら志願した。
例え自分が死を迎えたとしても、確実にエックスは生きる。
アイツならこれからの世界を任せてやれると。
「ゼロ…今からでも遅くない、俺と代わるんだ!」
「…エックス。これからはお前がこの世界を背負っていくんだ。
こんな所で喚いているんじゃない」
「ゼロ…!ゼローーーーーー!」
「…エックス」
エイリアに押さえつけられ、エックスは留まる。…後は、ゼロの無事を祈るのみだ。
シグナスはエニグマのときと同じように、ロケットへ命令を出す。
「………準備はいいな、ゼロ」
「…ああ。俺を信じろ。…絶対にユーラシアまで到達する」
彼には少しの迷いも、恐れも感じられない。…昔からそういう所は感じられたが。
「……いいだろう」
エンジンにエネルギーが収束する。
「3………」
ゼロは目を閉じ、深呼吸する。
「2……」
…そして目を見開く。
「1…」
「発射!」
「無事に帰ってきてくれ、ゼロ!!」
エンジンが火を吹く。
片道だけの燃料を乗せ、ロケットが今……重力に逆らい… 空へと…宇宙へと旅立っていった。
「信じましょう、ゼロを」
どこかの星へ着陸する訳でもない。破壊が第一。自らの命は二の次……
ゼロはひたすら加速を続ける。
「…………こちらゼロ。ユーラシアへ向かい加速中」
「ああ、順調に進んでいるな!頼んだぞ!」
ダグラスの言葉。
「…ゼロは助かるのか」
「……並大抵のレプリロイドなら即死でしょうな。
…………しかし、彼ほどのレプリロイドなら、或いは。」
…『或いは。』それに賭けるというのは酷なものだが…今はそれしかない。
見えた。…恐ろしく巨大な物体…ユーラシアだ。
確かにこれが地球に落ちては…ひとたまりもないだろう。
シグマウイルスを大量に積んだそれは…ゼロには、ヤツに他ならなかった。
「……これで終わりだ……シグマ!」
更なる加速。そして…………。
地上からでも観測できた。大きな大きな…巨大な花火が薄暗い空であがるのを。
………ユーラシアの最期だ。
「破壊率92%… 成功よ」
-
だが………エイリアの表情は暗い。
…………まさか。
「…遅かった……! …もうユーラシアは重力に引き寄せられてる!」
……それから暫くして…
無数の巨大な破片が地球に降り注いだ。
アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、アフリカ、太平洋、大西洋、オーストラリア、南極、北極。
…地球の全てに……拡散された破片は考えられない速度で急接近。
………炎の雨が降り注いだ。
空を貫き、大地を裂く。町が廃墟と化し、森は焼かれ、山は形を変え、海は暴れる。
…地球上からその日、いくつの生命が死を迎えたのだろう。
何千…?何万…?いや。
…何十億もの人間やレプリロイドの命が、その日……失われていったのである。
動物、植物などを含めればその数は…膨大な物だった。
何も言えない。…言葉が出ない。
…何のために、シグマはこんな事をしたのであろうか。
「……そうだ、ゼロは!」
…ユーラシアがそのまま直撃していたらきっとそれ以上の惨事だったに違いあるまい。
失われていった沢山の命を考えると、だからよかった、などと言う気にはとてもなれないが。
だがシグマウイルスは地球上から消えてなくなった。
…流石にもうこれ以上の惨事は引き起こされないであろう。
「………信号があるわ。生きてる…」
「行こう、ゼロを助けにいかなきゃ!」
ケイン博士がカウンターハンターに盗まれた、コントロールチップ。
これを抜き取られ、プロテクトをも施されていた彼は…
ずっと、一介のハンターで居られるはずだった。
だが…VAVAからエックスを庇い自爆した時にそれは破られた。
ビームサーベルを携え蘇り…悲しみを背負い、戦う意味を見失った。
そうして彼へと…いずれ訪れる日はとうとう足音を響かせてきた。
…覚醒の日だ。
痛みが感じられない…瞼が開かない。
…暖かさと、土の匂い、そして手の冷たさだけが感じられる。
…体を起こす。
暖かな感触はレプリロイドの血…オイル。
それに引火した炎が、辺りを包んでいた。
燃え盛る炎を彩るは沢山の血。
翼がばきばきと折れたイーグリード、腹に穴の開いたVAVA、尾の千切れたヒャクレッガー、
下半身の潰されたホーネック、四肢を断ち切られたスパイダス、粉々に砕け散ったジェネラル、
顔がグシャリと潰れたカーネル、以前戦ったときの様に脳が露出したシグマ、眼球に穴の開いたエックス。
…解らない。そこは…無数の死体の山だった。
……自分の左腕に冷たい手が重ねられているのが解る。
顔を動かすと傍らには、アイリスの死体。
幼く可愛らしい顔は笑顔のまま焦点の合わない目をしており…
豊かな胸の間にはゼットセイバーが突き刺さり、貫いている。
…戦いの果てに待っていた光景が…これだ。
自分は一体何のために戦っていたのか。
こんな光景を見るために、ずっと戦ってきたというのか。
「…ゼロ。 起きるのじゃ、ゼロ。
忘れたのか…?お前が戦うその意味を。起きるのじゃ…目覚めるのじゃ、
我が…最高傑作よ。」
炎に照らされ、ゼロに手を差し伸べる老人の姿。
「お前が戦うべき相手がいるはずじゃ…」
老人の視線の先を追うとそこには黒きゼロ。
「そう、一人は目覚めようとしないお前自身。もう一人は…」
その背後にいたのは…。
「ゼロ!!」
…エックスの声が聞こえ、ゼロは目を覚ました。
-
「…エックスか。…俺は…」
「ゼロが目を覚ましたわ!」
エイリアの声はハンターベースの仲間達を呼ぶ。
視界がぼやける…どうやら夢だったらしい。
「よかった…ゼロ、本当によかった!!」
続けてダグラス。
「全く頑丈なヤツだよお前は…」
二人が喜ぶ中、
ライフセーバーはエイリアを呼ぶ。
「エイリアさん。少しお時間を頂けますかな」
「?」
医務室にてライフセーバーから驚くべき言葉が発せられる。
「…ゼロのボディを調査した結果、こんなものが…」
「まさかこれは…シグマウイルス…?」
「ウイルスのデータ…。 …ユーラシアにあったものを浴びたのかしら」
「…そう思いましたよ、初めはね。 …だが、これを見てしまっては……」
「………!」
シグマウイルスはゼロに感染することで形を変えていたらしい。
その形はまるで…。
「シグマウイルスを凌ぐ毒性を持つといわれております。
あなたはこれを…何と名付けますか」
「……………『ゼロウイルス』…。」
「…でしょうな」
…その瞬間。
けたたましいアラートが鳴り響く。
「…!?」
エイリアはオペレートルームへと急ぐ。
「………これは」
ある一箇所のポイントに、突然強大なエネルギー反応が感知された。
常軌を逸したエネルギー反応。
…ウイルスの反応も見られる。
世界から姿を消したはずのウイルスが…一箇所にありえないほどの反応を作り出している。
「調査するのか」
「出来ないわよ!…転送禁止地域に指定するわ!絶対に誰も近づかせないで!」
あまりに危険すぎる。調査なんて今現在誰もさせられるわけがない。
……野放しには絶対に出来ないが…だが今は。
エイリアは今自分に声をかけたのがゼロだとその時気付いた。
「…あら?」
「おい、エイリア。ゼロは一体何処に行ったんだ…?」
ダグラスが飛び込んでくる。
「…え?今そこに居たと思ったんだけど……」
「大変だエイリア! …ゼロがいない! 消えてしまった!」
「そんな… みんな、ハンターベース付近をサーチして!」
…それから数分…。何処にもゼロの反応は見当たらなかった。
世界崩壊、ゼロウイルス、謎のポイント、ゼロの失踪。
…それはやがて全て、一つの単語へと繋がっていく。
-
「いやー、大変なことになっちゃったみたいだねー、ごめんごめん!」
ダイナモがハンターベースに3度現れた。
何だかんだ言いながら奴の妨害は成功したといえる。
「貴様…!」
エックスはダイナモに詰め寄る。
「今回、俺は戦わないよ?
いやはや、皆さんはご無事のようで何よりでございますからねー、うんうん。」
チャージショットをひらりとかわして。
「…けどな。 …お前らん中の仲間、もうすぐ一人居なくなるぜ」
「…ゼロか」
「ハイ、エックス君正解」
癇に障る男だ。
「ゼロの旦那が例の場所につくまで、大体そうだな…3日って所か。
せいぜい準備するこったな」
「……あなた、何を知っているの」
「聞きかじっただけだよ。ただ…ゼロはもうアンタらのトコには戻らないってことだ。
そして…アイツはこれから、沢山の人間やレプリロイドを殺して廻るぜ
コロニー落下で沢山の命が失われた…が、まーまだ幸せだったんじゃないのか?…一瞬で死ねた訳だから」
その言い方ではまるで。
「ゼロがイレギュラーになるとでも言うのか!」
「またもや正解。ハワイ旅行獲得まで王手だね
ま…イレギュラーっていうなら…今までアンタらが知っていたゼロの方こそイレギュラーみたいだけど」
「何を言っている!!」
「まぁどっちでもいいか…。早い話がね。シグマの旦那はゼロをイレギュラーにするため
こんな大掛かりな事を俺にやらせたんだ。本番はこれから、てこと」
そしてダイナモは背を向け、帰っていく。
「さーて。これからが楽しくなりそうだ」
「エイリア…。」
「…例の場所に近づいた者がいればすぐに反応に出るわ。今は…まだいない。
あなたはガイアアーマーの性能テストを兼ねて各地に向かってみて。
私は…ごめん。少しオペレーション出来なくなる」
「…ああ。」
「行けええええ!」
短いチャージ時間で若草色のチャージショットがイレギュラーを木っ端微塵に砕く。
力の壁に守られたエックスが敵を押しのける。針の上を難なく歩き渡りきる。
「な、何だこの癖の強いアーマーは……。」
ガイアアーマーは戦闘用アーマーとしては実に有能だった。そのパワーはかなり強力。
防御力においても他のアーマーより高いと思われる。
その様子をダグラスが観察する。
「…チャージ速度は格段に早く、攻撃力も高い。針の上にあろうと問題なく移動可能。
バスターは遠くまで飛ばず……俊敏性はガタ落ち。
…強くはあるが…用途が限られてやがるな」
そして結論。
「完全地上用…か。…だがどうやら、切り札はこれで決まりみたいだな」
そこに割り込む一人の男。
「果たしてそうか?」
「シグナス。」
「…総監なのに誰も敬語も役職で呼ぶこともしてくれないな。 …まあいい」
-
シグナスからの分析が行われる。
「エックスの戦闘における特性とは何だ?
…多彩な特殊武器が使用できることではないのか」
「…ん?特殊武器…!?
……本当だ、このアーマーじゃ使えなくなってやがる」
「防御力も確かに高められた。…だが、考えても見ろ…
俊敏性が低くなった時点で、
元よりエックス以上の俊敏性を誇る相手とは戦いづらくなったとは思わんか」
僅かな速度の差が命取り。戦いは厳しいものとなるだろう。
「……まぁな。」
「そして強化パーツの取り付けも出来ない。
チャージ速度の高速化は素直に評価できるが…
それはパーツで行えることだしな」
シグナスはため息をつく。
「…これでは、通常のミッションだけならいいが……。」
シグナスからの結論。
「エックスになかった特性が付く代償は大きかったか。
これはエックスの長所を殺し、エックスの短所を強めている」
ダグラスは頭を抱えていた。
「うぅううううーーーん………どうするかねコレ。
誰か他の意見も聞いてみたいところなんだが……」
そこにエックスが帰ってくる。
「おう、エックス!そういやエイリアはどうした?」
「…エイリア?どうして俺に。」
「何となく知ってそうな気がしてよ」
うっすらニヤついた様子のダグラスに気付くことなく。
…ダイナモの言う通りなら、
ゼロが例の高エネルギーポイントに到着するのは恐らく明日。
「…エイリアなら…確か…」
その時、エイリアがエックスの前に現れた。
「エックス!」
「…驚いた。どうしたんだい」
「行くんでしょう、明日…」
「……ああ。」
「じゃあ…お願いエックス。後で、屋上に来てくれないかしら」
エイリアは真剣だった。
「…え? …ああ。」
ダグラスの顔は緩んでいた。
エイリアはエックスを待つべく、自室へと足を進める。
その間、手に入れた情報を整理してみる。
-
遡ること3日。
ゼロが失踪してからずっと…。
エイリアは自室に篭り、見ていたのだ。 …ゼロの戦闘データや、戦闘の映像を。
「……………」
レプリフォース大戦時の映像。
まずはスパイダス戦、次にマッシュラム戦…
ここからだ。ビストレオ戦、フクロウル戦、カーネル戦。
この戦いの中でフクロウルのみ、空中戦を強いられる相手だった。
空中での彼の戦いぶりを見てみる。
……やはり空円舞には隙が少ない。
それよりもビストレオとカーネル。
地上の戦いを行う相手にゼロは如何にして動くのか。
「強い………。」
…戦うほどに強くなっていくゼロの強さがそこで解る。
……答えはすぐに出た。彼の使う技はどれも敵のDNAから得たもの。
一見、エックスのそれとなんら変わらないように見えるかもしれない
…しかしエックスは、どれほど強くなっても本質的にすることは二つ。
撃つことと、チャージして撃つことだけである。
そのパターンが増えるわけであり、戦い方そのものは変化しない。
…だがゼロは違う。
手に入れた技は全て平常時の自分のものであり、その技は全て全く異なったモーションで繰り出すものであり…
それらを組み合わせて戦うことが出来る。龍炎刃→氷烈斬→雷神撃の3連撃のように。
そして彼は防御がエックスと比べ薄いものの、持ち前のセイバーで攻撃を対処できる点は高い。
…次に昨日までの1日の戦いぶりからだ。
グリズリー戦…これはスパイダス戦と比較してみる。
「やはり能力だけじゃない…か」
DNAデータのない状態での戦い同士。だが動きから隙がなくなっていっているのが解る。
ホタルニクス戦。
…三日月斬は空円舞の強化版であるらしい。円形の回転に2つの三日月が見える。
…威力は更に増している上、範囲も広がっている。
そして飛水翔というのは飛燕脚に水の刃がついたものだ。
…強い。敵との距離を構わず、攻撃をしつつ移動を行えるのだ。
…ローズレッド戦。
「しつこいなぁ、アンタも!」
植物型特有の柔らかい体をバネのように使い、細いボディで部屋を大きく跳ぶローズレッド。
そこでゼロは低めに跳び三日月斬で斬り、ローズレッドとは逆向きに跳ぶ。
「さぁかわせるか!?スパイクロープ!」
バラの弦を絡め作り出したような、毒々しい色をしたトゲの球を発射、部屋中に高速でバウンドさせ続ける。
だが…
「電刃」
ゼロはセイバーを両腕に持ち、力を入れてセイバーを力いっぱい振り上げ、スパイクロープを一刀両断、
加えてそのセイバーから発せられた高圧電流でロープ自体を感電させ、動きを止めたのだった。
「落ちてきたな、そん時を俺は待ってたんだぜ…?」
トゲの塊から生成されるはもう一人のローズレッド。この戦闘で幾度も繰り返されてきた光景だ。
だが今回は部屋の左隅にいるローズレッドの分身が右端に出来た。意味することは…
「さぁ叫んでもらおうか!」
バラのムチを両端から伸ばす。部屋のどこにいてもこの攻撃を避ける術は存在しない。
地上に落下して無防備なゼロは格好の的……しかし。
「滅閃光…!」
拳を地面へたたきつけ、エネルギーを放射する。
名前とはうってかわって、暗黒の力が解き放たれ、ローズレッドを黒き光が焼き尽くす。
「ぎやああああああああああああ!!!」
決着のときだった。
「………技は着々と強化されているってことね…。
龍炎刃やアースクラッシュを更に強化するなんて」
-
ディノレクス戦。
「潰れちまいなぁぁぁ」
丸まって突進、壁に激突する。すぐさま回避、飛水翔で通り抜け滅閃光を浴びせる。
「うぉおあああ…!」
敵も諦めない。壁に張り付き、次々と炎を吐き出す。
「グランドファイア!」
地面に残り、次々と小さな炎を撒き散らす特殊なもの。どうやら…燃えてはじけ飛ぶ何か固形物を吐き出しているようだ。
「双幻夢!」
ゼロは自らの分身を生成、二つ分の体で大きく動き、三日月斬でその厄介な炎を斬り捨てる。
ショットイレイザーと呼ばれるパーツによる能力だ。
「さあクライマックスだああああ!」
高高熱の炎が口から床全体に吹かれる。床が全て火の海と化す。
「逃げる場所は壁っきゃねえよな!」
そして壁を蹴りその巨体で突進を放つ。
しかしゼロは飛水翔でそれをギリギリで回避。飛水翔には従来のエアダッシュと違い、
水平に飛ぶのみでなく、斜めに飛ぶことも可能になっているのだ。
「何…!?」
グランドファイアのように炎は地面には残らない。
ディノレクスは口から炎を放ったため、ディノレクス自身の近くの炎から早く消えていくのだ。
着地、そして…
「疾風!」
ペガシオンの技を繰り出す。高速でのダッシュから、それ以上の力で逆方向に力をかけ急停止。
その差で巻き起こった風はディノレクスを襲い、竜巻を生成する。
「な…なんだあぁあ!?」
風がディノレクスを巻き上げ彼の体を刻みつけながら天井へ叩きつける。
「おぁああああああああああああああ!」
ディノレクス自身が炎になっていった。
「……現在までで技は6つ。…この後シャトル作戦に入ったから
ディノレクスとネクロバットの技は見れずじまいね…。エックスの特殊武器は全て見たけれど」
クレッセントショットは三日月型のショット。チャージすると刃がエックスを覆うバリアと化す。
ジェルシェイバーは地面を這う液体窒素。チャージするとエックスは左右に氷のブロックを巻き上げる。
トライサンダーは3方向へ進む電撃。チャージするとエックスの付近に雷が数発落下する。
ウィルレーザーは蛍型の誘導弾。チャージするとエックスの胴をすっぽり覆うほどの極太レーザーを腕から発射する。
ウィングスパイラルはエックスを中心として発生する竜巻。チャージすると敵へと走る巨大竜巻を発生させる。
スパイクロープはエックスの近くにトゲの球を撃ち出す。チャージすると辺りを跳ね回る紫色のトゲの球に変化する。
グランドファイアは地面に残り、炎を散らし続ける火炎弾。チャージするとエックスの左右からマグマの津波が発生する。
そして、ダークホールドは時間停止。
「…………」
続けてミッション中の様子をチェックする。
「…これは!?」
ゼロのエネルギーが一気に上昇していく時があった。
ホタルニクス研究所でゼロがウイルスにかかったときである。
「…信じられない」
エックスでさえ、ウイルスを浴び続けることで少しずつ衰弱していったというのにだ。
「………………嘘」
ウイルスを食らうほどに戦闘力を増したゼロは…とうとう、ウイルスに完全に感染した瞬間…。
…思い出すのはそこまでにしておこう。
もうすぐ待ち合わせの時間がやってくる。
-
「……………」
エックスの足音が聞こえて来た。
「…どうしたんだい、エイリア。」
来た。まずはエイリアから言うべきことを話す。
「…エックス。貴方は…止めたいのよね、ゼロを」
「ああ。危険な場所に行くというのならね。
…その場所に一体何があるか…解らないけど」
「…そう。」
後ろめたげにエイリアは視線を逸らして言う。
「……なんとしてでも止めたい?」
「…勿論。」
背を向けて話す。
「………結論から言うわ
ゼロを話し合いで止めることはもう不可能だと思うわ」
「………そうか」
「彼は……、多分しては行けないことに手を染めようとしている。
…一切の通信を途絶えて姿を消したことからも…その危険さも解った上であることは明白。
そしてそう彼を突き動かしているのは多分とても強い感情だと思う。」
夕焼け空に風が吹き抜ける。エイリアはエックスに…いつぞやの言葉と同じことを告げなければならなくなった。
「………戦えるの、仲間と」
「…ああ」
「…勝てるの、本気のゼロに」
そして彼はその時と同じように、しかし言葉を変えて返す。
「ゼロにはいなくなって欲しくない。…やらなきゃ。」
その目はとても強かった。
エイリアはエックスに近づき、その掌にそっと何かを握らせた。
「………これは?」
「…DNAデータよ。3種類のDNAデータが…その中に入ってる。
レプリフォース大戦時に戦ったレプリロイド達の中からね」
「………どうして?」
「あなたとゼロは…互角な強さを手に入れていると私は思う。
けど、貴方達が直接戦うのなら話は変わってくる。誰しも相性がある…」
自分がオペレートしたハンターだからこそ、穴が見えるのだ。
「残念ながら貴方とゼロとでは、ゼロに分があると言える。
…ゼロの戦闘パターンを見た結果から言うとね。」
「……そうか」
「…これを、何処で手に入れたと思う?」
「…解らない。」
毎回、イレギュラーから手に入れたDNAデータはハンター上層部が保管、
もしくは処分してしまうからだ。
-
エイリアはエックスの掌を見つめ呟く。
「…アイリスのデスクよ。」
「!?」
「貴方達をオペレートした彼女はイレギュラー認定されたから、
彼女の私物はダブルと同じように私が処分を任されたの。」
「……もっとも、その認定も今では解けているから、私は問題なくそれに触れられるのだけど」
「…アイリスが……」
「ゼロは彼女の死から自分を見失いかけ…新しい、危険な自分へ生まれ変わろうとしている。
彼女が生きていたら…そんなことを望むと思う?」
「…それもそうだな」
「そのDNAは、一つだけ私が手を加えてあるの。特殊武器がより実用的なものになっているはずよ」
正直、それでもゼロに勝てる見込みは薄い。
「ゼロに戻ってきて欲しい、これはハンター皆の願い。
ゼロに死なないで欲しい、これはアイリスも願うことだと思う
貴方に死なないで欲しい、これは私が願っている
貴方に勝って欲しい、これは貴方の製作者が望んでいるでしょう
みんなの願いを背負って明日…貴方は行くのよ。
だから」
最後の一押しを喉の底から声を張り上げる。
「勝つのよ、エックス!」
エックスは昔から任務成功のときにするように…力いっぱいに拳を振り上げる。
「……ああ!」
エイリアは安心した微笑みを向ける。
……そして振り返ることなく、エックスは階段を降りていった。
「…………。」
…エイリアの笑顔は一瞬で暗くなる。
エックスは強くなったはずなのに…自分はエックスがシグマとの初めての戦いに向かうときには、
あれほど安心して任せていたというのにだ。
「DNAデータの任務外所持、そして改造。…法規を忘れたか」
影で話を聞いていたシグナスが現れる。
「………。」
「いい、今回は事が事だ。…今回だけは見逃してやろう。
ハンターの信頼など、今回の件で地に落ちただろうしな」
そして翌朝。
そのポイントへの転送がエイリアの手で行われる。
「………。」
エイリアの目が何を言わんとするか、エックスにだって流石に理解できる。
「………」
不自然なまでに笑ってエックスは消えていった。
-
やってきた決戦の地……
そこは大きく開けた穴。
ファルコンアーマーのフリームーブで内部へと飛行していく。
「………これは」
異様な光景が広がっていた。物理的に地面に開いただけの穴の中に、
地面を構成する土から別世界が繋がり、開けているのだ。
どこまでもどこまでも続く青い空間にヘキサゴンパネルが浮かび、光が行き交い、
透明な床の中にはまるで何かの回路のように光のラインが走っている。
零空間 表層『起源』
この層では下へと降りていくこととなる。
メカニロイドを撃破し、下へ行くと……
「レーザーのトラップか…!」
貫くレーザーではない。当たったものを消滅させる特殊なレーザー装置のようだった。
消されるわけにはいかない。
エックスはひたすら空間を下へと落ちていく。
インターバルとなるフロアで待ち受けていたのはライドアーマー。
盾を構えたライドアーマー『イーグルG』だった。
ファルコンアーマーを使いそれを倒して更に下へと落ちる道を見つける。
「レーザーの雨………」
食らえば恐らく一撃。…確実にこれを回避するためには………
…エックスには何故かすぐにその方法が解った。
「ダークホールド!」
ネクロバットの能力を使用する。
全ての動きが止まった世界をひたすら下へと降りていく。
無数のレーザー砲が自分に向けられているのが解る。
これを一斉に発射されたら危険だっただろう。
途中で特殊武器のエネルギーを取り更に下へ………。
どうやら壁のレーザー地帯は超えたようだ。扉が見えるので今度は横へと進むことになる。
「しまった!!」
天井からレーザーが発射される。今度は床から。
跳ぶ、潜るを繰り返し、逃げるように扉を潜った。
「………色が、消えた」
空間から青色が抜けていくのが解る。
変わって背後にノイズのかかった映像が映し出される。
何かのマークのように見えるが…確認は不能。
その瞬間。
「!!」
黒い塊がどこからか飛来してくる。
「何だ…一体」
飛来した塊は部屋の向こう側で停止していく。
1,2,3,4,5個……
16個目を避けたところで塊は床へ落ち…溶ける。シーフォースやダブルのような流体金属製のようだ。
塊は持ち上がり、球体に変化する。
球体から手足が生え…目玉が出現した。
「ぶも!」
-
「な…なんだ?」
それは、この時代の人間が知らないある悪の科学者の代表作、イエローデビルの生き写し。
シャドーデビルだった。
目玉からエネルギー弾を発射する。
エックスは本能的に特殊武器を選択、
「トライサンダー!」
敵を狙い撃つ。
「ぶもおおおおおお!」
「よし!」
全体がひどく感電する。…どうやら武器の選択は最善であったようだ。何故だろう。
シャドーデビルは目を閉じ溶け、またも16個のブロックへ変化し、エックスを追い始める。
否。これはシャドーデビルにとって移動でしかないのだろう。
ランダムなその移動を避けるとまた溶け、球になり、目玉を出し攻撃を始める。
このパターンを繰り返すらしい。
これなら勝利も近い…そう思ったがそうも行かないらしい。
シャドーデビルの移動が8個目に差し掛かり、左右同数になったとき、変化が起きた。
「!!」
「ぶもっ!も!も!も!も!も!」
8個のブロックが左右から次々に入れ替わり続けるではないか。
移動距離は短く、左右両方から飛んでくる。回避は困難なものとなる。
何とか…何とかかわしつつ、そのパターンを終えたシャドーデビルは残りの8個も移動し、
体を生成する。
大分削ったが、まだ戦いは終わらない。
また左右のパターンが来られたら危険と、エックスは部屋の隅の隅、天井近くの壁をけり続ける。
何とか全てをかわし終わった…と思ったら。
「ぶもももももも…」
シャドーデビルは何と球体からいつもの姿になるのではなく、何かドクロ型の目立つ何かに変化したのだった。
「………何だ?…これ」
大きくすれば搭乗用マシンのように見えなくもない。
目を開き、影は重量を増し、飛び上がりエックスを踏みつけてくる。
…隙だらけだ。
エックスはチャージを行い…
「チャージ・トライサンダー!」
雷をシャドーデビルへ向け落とす。
1発、2発、3発。
上から下へと貫く電撃の槍がシャドーデビルを貫通し、そして。
「ぶもぉお…も…」
蘇りし悪魔は大爆発を起こし、文字通りに散っていったのだった。
「……この先に進むんだな」
ファルコンアーマーは機能を果たし、外れた。
ガイアアーマーを装着し、彼は果てない世界を進み続ける。 振り返らずに。
-
「………何なんだ、この空間は…」
色が先ほどの青からうってかわって、紫色へと変化する。
ライドアーマー・イーグルGが大量に配備された先は崖。
それより驚いたのは、エックスはこれから「上」へと進まなければならないこと。
零空間 中層『哀愁』
…この地形はどこかで見たことがある…
ライドアーマーを倒しながら進むと、底なしの空間の中をリフトが浮遊している。
「…………」
…耳を澄ませてみる。…波の音が聞こえる。擬似的に作り出されたものだとは解りつつ。
…波、崖、大量のリフト、進む方向は上。
「…この場所は。」
……まさかと思いつつも、空中戦に向かぬ体でリフトを乗り継ぎ、入り口へと到達。
そこには狭い通路にイレギュラーが犇き合っていた。
…いや、忘れもしない。 場所やその構成物体こそ完全に零空間であるが、
ここが再現している場所はひとつ。
はじめにシグマが居た、海上のシグマのアジトだ。
もう少し進めばそこでゼロと別れ、VAVAを倒したあの場所がある。
「……?」
エックスの見当違いだったのか。記憶にないフロアがそこに続いていた。
大きな縦穴に、壁に張り付くメカニロイドが多数。
一体これは何なのか…?
…いや、もしかすると別の場所との混合なのかもしれない。
数分前。ゼロはこの通路を通過していた。
「………シグマのアジトが途切れたと思ったら。」
この縦穴が意味するところは一つだ。…カーネルが待ち受けていた、宇宙港。
「ここでカーネルを殺していなければ、あんなことにはならなかった…。」
ゼロは自らの記憶の地を通って、先へと進んでいった。
そうとは知らず、エックスはフロアを上へと進む。
最上階と思しき場所に何か、扉がある。また何かが待ち受けているのだろうか。
潜った扉が閉まると、また色が抜ける。
先へと進むとそこには………
「…嫌な文字まで復元したものだな」
「Σ」のマーク。
そしてゆっくりと空間はマークを遮る何かを構成していく。
「……懐かしいな」
-
巨大な顔がそこに現れた。ランダ・バンダと呼ばれる巨大な壁画のメカニロイド。
両目と鼻とがターゲットへと次々に攻撃を仕掛けてくるものだ。
今回は鼻の代わりに…太陽のような口の模様が見て取れる。
新たなるランダ・バンダ… ランダ・バンダWがこの層でエックスを阻んだ。
「青は突進!」
青き目が飛び出し、エックスを追う。
「緑は攻撃だったな」
緑色の目は強化されていた。エネルギー弾が恐るべき勢いでマシンガンの如く連射される。
「赤は両方…あれ?」
赤い目もそのときのようには行かない。
エックスを追いながら炎を左右から出し、ぐるりぐるりと回転させていく。
だがもうエックスの敵ではない。目を攻撃していく。
若草色のチャージショットが青、緑の目を破壊した。だが…。
「両目を倒してもまだ目が出てくる!?」
このメカニロイドは変化していた。色の変化する両目と鼻というパーツではなく、
3色の目と口が入れ替わり攻撃をするというスタイルに。
トゲが下から生成され、壁が狭まってくる。
「何…?」
狭まった壁からもトゲが出現。…これはガイアアーマーの能力に助けられた。
口が自由自在に蠢く。
エックスはこれをかわし、口を攻撃。
壁が元に戻り、再び目の攻撃だ。
「来た!」
赤い目が飛び出してきた。
そして炎の柱を作り、エックスを焼こうと回転してくる。
チャージショットで難なくこれを破壊。
壁が狭まり、口が動く。…もうこれでトドメだ。
エックスは左腕に全エネルギーを集中させ…
「はぁあああああ!」
ガイアアーマー最大の攻撃を口にぶつける。
掌からチャージショットとは比にならないほどの圧縮エネルギーを発し、エックスの目前の敵を押し潰すのだ。
太陽のような形をした口は大地のエネルギーにより圧壊。
そしてランダ・バンダW自体が崩壊、そして開いた穴がそのまま戦いの場への扉になった。
「…………ゼロ」
ただただ、深く……。
最後の戦いが、目前に迫ろうとしていた。
-
今度の色は赤。
目が痛くなるような真っ赤な赤が空間を支配していた……
先へ進まんとするものを拒むような、針だらけの通路は下り坂に…
ずっと下へ、下へとのびていた。
その先に待つのはきっと。
零空間・深層『覚醒』
…ガイアアーマーすら効力を成さなくなってしまった。
もう、自分の力で進むしかない。
青きボディのエックスはメットールを倒し、下の層へとどんどん下っていく。
大きな谷が開ける。底なしの谷だ。
ロープをハンガーを使い伝って、対岸へと渡りきる。
そして先へと進むにつれ、不安定になっていくのだ。
…何かの反応が下にある。
そこに何が…?
…あったのはカプセルだった。勿論待っていたのはライト博士。
「エックス。…アーマーも着けずにこんな所までやってきたのか」
「…すみません。もう、引き返す訳にはいかないんです」
ライト博士は肩をすくめる。
「……すまないな、こんな運命に巻き込んでしまって。
…この先で待ち受ける戦いは今までのどんな戦いより過酷なものとなるだろう。」
「もう、エイリアに言われましたよ…そういうことは。」
「…そうか。…お前にはもう、勝ってもらうしかないな」
生みの親の言葉を貰った。これからの戦いに、エックスは気を引き締めなおす。
「…ここではお前に授けるのはとても危険なものだ。」
「…それは一体?」
ライト博士はとうとう、その名を口にした。
「…『アルティメット・アーマー』
私がお前に託したその、無限の力を全て引き出す事の出来る…
究極のアーマーだ」
「…………!」
「それは、余りにも危険な力であり…お前にとっても危険なはずの力だった。
だがお前は、随分と経験を積んだ。フォースアーマーを使いこなせるようになった事が
このアーマーを装着できることの一つの証だったのだ」
「つまり…そのアーマーを最終的に装備するためにこれまでのアーマーはあったと?」
「ファルコンアーマーやガイアアーマーは違う。
あれはお前の能力を一定方向に進化させるためのものだ。
…さあ。エックス、このアーマーを…。 戦いを、終わらせるのじゃ」
「………はい」
カプセルの中へと足を踏み入れる。
光がエックスを包み…雷が落ち、エックスの全身へとその光が打ち込まれた。
エックスの脳に、アルティメットアーマーを使いこなすための知識は全て焼き付けられた。
「……行こう」
最後の力を手に、エックスはいよいよ最後の一本道を走り出した。
リフトを飛び移り、途中から壊れたリフトを設置することで引き返せない仕組みになっているその地帯を抜け。
扉を潜ると色が抜け落ちる………。
3度目だ。
長い長い通路を走る。走り続け………
扉を…、開けた。
背を向けた彼がいた。
「ゼロ!!」
-
「………エックスか。」
背を向けたまま話す。
とうとう目の前に現れたゼロにエックスは言葉を続ける。
「やっと見つけた…」
「…エックスか。どうしてここに来た。
俺は…この先へ進まなければならないんだ」
エックスは一歩踏み込む。
「まだ言っているのか!?
…この空間は危険すぎる。…戻ろうよ、ゼロ!」
ゼロが振り返る。
「危険はあいにく慣れているものでな。…お前こそ帰れ。
そんなアーマーのない体でこんなウイルスまみれの場所を先へ進めると思うなよ」
エックスは近くにいながら、遠くなりつつあるゼロを追う様に言葉を投げ続ける。
「……どうして、どうしてこんな所に来た
こんな所に一体ゼロの求める何があるっていうんだ!?」
「…………。」
「答えてくれ!」
「この先に、俺の求める何かがある。
…俺の記憶が、そう告げている。…こんな空間だから違うかもしれないが…
お前も辿ってきたんじゃないのか? …記憶が作った道を」
ゼロには、エックスの知らない『起源』部分の記憶すらもあった。
「………この先でどうなろうと、俺は先へ進ませてもらう。
…俺を信じろ」
「…ゼロのことは信じたいさ。
けど…ゼロの言葉を信じているからこそ言いたい。」
「この世には、目で見たり、データでは捉えられないものがある。
…そう言ったのは、ゼロ。君だよね」
女神像でのシグマとの戦いのときの言葉だ。
「………俺は、この先から…
とても強い、悪を感じるんだ。………俺には、その悪にゼロが包まれる予感しかしないんだ!」
ゼロがセイバーを設置した背に手を添える。
「………俺を、どうするつもりだ」
エックスがバスターに手を添える。
「決まってるだろう」
「……そうか」
セイバーを抜く。
「俺はダブルとの戦いで、もう懲りたんだよ…仲間を失いたくないんだ!」
両腕に力を込め、踏ん張る。
「俺はアイリスとの戦いで、もう俺という存在をハッキリさせたくなったんだ!」
セイバーが空間を切るかのように刃を走らせる。
「こんな事で戦いたくはなかったが…。」
「この先は俺が戦う。君を連れ戻す…力づくでも!!」
手を顔の前でクロスさせる。
ゼロには解った。これはエックスがいつもミッション開始時にアーマーを自動装着するときのポーズだと。
ゼロは構える。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
轟音と共に空気が振動する。エックスを中心に。
エネルギーが全てエックスに集中する……究極のレプリロイドがまた、ゼロを止めに来たのだ。
目を閉じる、そして。
「はああああああああああ!!!」
3方に伸びる額の角。突き出た肩。バスターの左右端と両脚に機械翼が現れる。
エックスの最終形態……これが、アルティメットアーマーだ。
戦いの場に巨大な「W」の文字が浮かぶ。
究極のレプリロイド二人の戦いが、今…始まった。
-
いよいよ戦いが始まった。
…100年の因縁が運命づけたこの戦いが。
「行くぞゼロ!」
エネルギーチャージ。力をバスターへと込め続け…
「行けええええ!」
チャージショットを放つ。フォースアーマーでも使われたプラズマチャージショットの…
強化された姿だ。
「フンッ!」
ゼロは紫色のセイバーで斬る。
「はぁっ!」
「甘い」
高い硬度を持つアルティメットアーマーでのダッシュと、
ゼロがマッコイーンから手に入れた力飛水翔。
二つのボディが激しく接触、交差する。
「エイリアから貰った力だ!!」
チャージして放つはソウルボディ。
「お前…!?その色は」
エックスが持っている筈はない。これはレプリフォース大戦でゼロが破ったマッシュラムの能力だからだ。
「行け!!」
エックスの体から、エックスのシルエットがバスター以上の速度で射出される。
こんな技は以前のソウルボディにはない。
1発、2発、3発、4発…避けるが5発目。
「ぐぁああああ!!!」
「当てた!」
エックスは続けてもう一度ソウルボディを放つ。
1発、2発、3発…だが。
「同じ手は食らわんぞエックス!」
三日月斬。巨大な円を描き、三日月の刃がエックスを切り裂く。
「うぁああああああああ!」
「くっ……」
だがダメージを与えることは出来た。…合い打ちだ。
「食らえ!」
チャージショットを今度はダッシュし、加速力で更に破壊力を増し放つ。
「双幻夢!」
ローズレッドの力。ゼロの隣にゼロのシルエットが登場、エックスを切り裂く。…ソウルボディと同系統の能力だ。
「うっ… だが!」
「疾風!」
ペガシオンから得たゼロの攻撃を回避しそのままエックスは壁を蹴る。
そして壁を勢い良く蹴り…宙を大きく舞う。このパターンは一度目の戦いで学習した方法。
そしてゼロの背後に着地し…
「行け!!」
「何!?」
零距離でのプラズマチャージがゼロを吹き飛ばす。
「クソッ…」
もう一度、エックスは壁を蹴る。
大きく宙を舞う。そして今度は更に加速して撃つ…だが。
「はあああああああ!」
ゼロはプラズマチャージを斬り、そのままクラーケンから得た電刃でエックスを斬り上げた。
「うぅうう…!」
-
「断地炎!」
そのままセイバーを空中で持ち替え、ディノレクスから得た力でセイバーに灼熱を纏わせて落下する。
エックスの肩を貫くべく。
「ダブルサイクロン!」
フクロウルから得た力だ。エックスは左右の腕から何者をも刻む竜巻を発生させ…ゼロを吹き飛ばし、切り刻む。
「くそっ………!」
壁へと吹き飛ばされる。
そしてエックスはチャージ・ソウルボディへと繋げる。
この攻撃はゼロには反撃不可。その上攻撃力も高く範囲も広い。戦いにおいて幅広く使える。…エイリアの改造の力だ。
だが。
1発、2発、3発、4発…
5発目を避けると同時にまたもゼロは今度は異なる技を用いた。
「滅閃光!!」
ホタルニクスから得た技だ。エネルギーを持った拳を床へたたきつけ、暗黒のエネルギーを放射する。
「うぁああ…!!」
そしてゼロもまた新たなる力を解放した。
…ウイルスの力か、何故かはわからないが。
今まで以上の力が、ゼロにあふれ出てきたのだ。
「バスター…!? まさか!」
そのまさかだった。
封印していた腕のバスターを解き放つとゼロはいつかのように一切のチャージ無しで
チャージショットを二発連続で撃つ。
トリプルチャージだ…!
だがチャージショットが片腕1発づつの2発ではない…と思ったら。
「電刃零!」
電刃の強化版。バスターを一切通さない刃がゼロの一振りで放たれ、エックスを裂く。
「んなっ……!?」
オイルがほとばしるが、ゼロはまたトリプルチャージを放つ。
エックスは学んでいる。この攻撃の回避法を。…壁へ逃げれば上までは刃は追ってこない。
だが…電刃零は違った。180度ほぼどの方向にでも刃を飛ばせるのだ。
またもエックスは刃の餌食となり、床へと落とされる。
「まだまだ…!」
新たな力を得たゼロがダッシュで近づいてくる。
エックスはこれを飛び越そうとするが…
「真…!滅閃光!」
その瞬間、ゼロの拳に圧倒的な力が集中した。
何もかもが吸い寄せられるような、闇の力が腕に集まる…そして叩き付けた。
床一面が爆発する。空間そのものを破壊しかねない大地震が巻き起こる。
エネルギーは一つ一つがチャージショット以上の威力を持ち、許容量を超えた地面から放射される。
「……………………………!」
口を開けたまま、叫び声すらも轟音にかき消され、エックスの体が軽々と宙へと巻き上がる。
最強のアーマーを持ってしても、この程度だというのか…。
…一方その頃。
ハンターベースでエイリアはエックスの帰還を信じ待つ傍ら、ケイン博士の言葉を思い出していた。
…彼がエックスを見つけたときのメッセージだ。
カプセルの埃を払うとそこには一文字…『X』。
「私はトーマスライト…ロックマンエックスを設計・開発した科学者である。
これは、人間のように悩み、考えることの出来る新しいロボットである。
私の命は残念ながら長くはない。また、研究を引き継いでくれる者もいない。
そこで、彼の安全性を確かめるカプセルをここに置いておくことにする。
悩み、考えることが出来るということは…彼は進化の可能性を秘めていることを意味する。
彼には無限の可能性が満ちている。だが…エックスには危険という意味もある。
エックスは無限の可能性と共に、無限の危険性をも秘めているのだ…」
ライト博士が託した無限の可能性のロボットが…本来の力を以て今戦いを続け……
その余りある危険な力をここに解放した。
「うぉおおおおおお…おああああああああああああああ!!」
エックスが再び雄たけびをあげる。
「!?」
-
セイバーを構える。ゼロもこの攻撃は避けきれないと判断したようだ。
エックス最大の攻撃…それはゼロにも予想がついていた。
「ノヴァストライクか!」
エックスは大きく跳び…
その体をアーマーごと変化させた。…翼を中心に、推進力へと機能全てを集中させた飛行形態に。
そして…
更なる力を持ったノヴァストライクが放たれる。
エックス自身が光と化し、捉えられない速さでゼロへと向かっていったのだ。
「ぬああああっ…!!!」
ゼロの回避は遅れ、正面衝突を逃れ、わき腹を抉られ…横に吹き飛ぶ。
「ああああああああああああああああああああ!」
「!?」
驚愕した。…がそれもすでに遅し。
エックスは反対側からゼロへともう一発ノヴァストライクを放っていたのだ。
…一撃必殺のこの技が…どうして。
そう思ったときにも遅い。
背中をエックスに追突され、壁へと叩きつけられたゼロを、そのまま引き剥がし3発目のノヴァストライクを放っていたのだ。
腹へと真っ直ぐに突き刺さるエックスの体。
反対側の壁へと一直線に叩きつけられる。並みのレプリロイドならば貫かれていた所だ。
「終わりだぁあああああああああああ!」
飛びあがり…最後の技を放つ。
エックス最強の特殊武器攻撃、フロストタワー・チャージ。
側面からの攻撃の後は、脳天から氷をぶつけ、ゼロの動きを止めるのだ。
まず一つ。
…ゼロはそれを避ける。
次に二つ。
また数を増やし、真っ白で冷たい刃はゼロの頭上へと降り注ぐ……
ゼロは戦闘力を増強する能力も使い果たし、よろけた体で…
なけなしの最後の一撃を放ったのだった。
「滅閃光!!」
天から降り注ぐエックスの攻撃。
地から吹き上げるゼロの攻撃。
…相手を貫いたのは………
ゼロだった。
「……………!」
エックスの体は床へと堕ち………
大爆発を起こす。アルティメットアーマーの最期だ。
全てが閃光に包まれ……巨大な爆発に包まれる。
真っ白な光が何もかもを覆い尽くした………
その時。
「うぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「…………!!」
言葉も出ない。力を使い切ったゼロに、エックスが向かってきたではないか。…実体を持たない、魂だけで。
ライト博士からの願い。
ハンターの皆からの願い。
アイリスが遺した願い。
そして、エックスからの心そのものが……
エイリアから託されたソウルボディの最後の機能となってゼロを貫いていったのだ。
「……………最後の最後にソウルボディ…か …流石だな…エックス」
-
「…う……うう…」
「ゼロ………」
二人揃って零空間の深層に倒れている。
体が一切動かない………
力を使い果たしていたのだ。
だが…ゼロはここでようやく理解した。
こうまでしてエックス達は自分を止めに来たのだ……
本当の自分がどうであれ…帰るべき仲間はいるのだと。
ゼロは…自分が先へ進むより大事なことを知った。
…この戦いは、ゼロの敗北だった。…エックスは勝ったのだ。
そう、思った瞬間だ。
「ゼロ、残念だよ もう少しで真の姿に目覚められると思っていたのに
…だが、お前達はよくやった……
今殺してやる!」
謎の声がこだまする。そして腕から謎の力を放ち二人を殺そうと……
その時。
ゼロが起き上がり、真横へと一直線に跳んだ。
「お前の企みなんぞ、お見通しなんだよ!!」
チャージショットをその腕から放ち…敵の攻撃を相殺する。
…そう。シグマだ。
「しぶとい奴だ……まぁいい。この先で待っているぞ…!」
シグマは姿を消す。
…エックスは起き上がらない。
もう、全ての決着をつけよう。
自分の命が、あとわずかであっても。
…満身創痍のゼロは全てを決意し、前へと進み始めた。
何もない小さな足場から飛び降りる。
辺りはさっきまでと打って変わり、広大なフィールドに広大な情報の海が広がっていた。
零空間 最深層『生誕』
深く深く…どんどん潜っていくとそこには8つのカプセル。
エックスとゼロの記憶が作り出した8つの幻を倒し、先へと進む。
データの海を転がるはプログラムの魔物。
これらをうち倒し、プログラムの世界をゼロはひたすら進んでいく。
もう、迷うことはない。悩むこともない。
…例え滅んだ世界でも。
例えエックスのしてくれたことを無に帰そうとも。
……ゼロは命をかけて守るべきだと思った。エックスが創り出すこれからの世界を。
-
地は続かず、大きく隔たれた谷をブロックに乗り継ぎながら……
最後の扉を潜る。色が抜ける。
進んでいくとそこには壁がびっしりと、コンピュータの基盤に変化していった。
そして………最後の戦いの場へとたどり着いた。
床にはケーブル、赤と、青のカプセル、
基盤をバックに描かれるは二人のレプリロイドの設計図。
そこは…はじまりの部屋だった。
「よく来たな、ゼロ」
「…下らないウイルス遊びに、決着をつけに来た。」
「下らないか…ククク…全く愚かな奴よ」
「何故お前はコロニーを落とした…」
「知れたことだ。ウイルスにより…お前の体を清めようとしたのだよ。
俗世にまみれ、正義などという甘い理想に漬かってしまったお前を、
再び無二の破壊神に戻すためにな!」
「…そんなことのために…そんなことのために世界をあんなにしたのか!」
「エックスにも言ったよ、犠牲のない進化など、この世にはないとな!!
…さあ、まだチャンスはあるぞ、ゼロ。
私がどれほどの命を犠牲にしてこの計画を練ったと思う…?無駄にはするな…。」
シグマが叫ぶ。
「最強の力を呼び覚ませ!!今覚醒せねばお前は死ぬぞ!!」
ゼロはそれより大事なものがある。
「知ったことか。」
「ええい…ならばここで死ぬがよい、ゼロ!」
シグマのボディを三日月斬で切り刻む。シグマのボディが爆発する。
…そして、辺りが暗くなる。
「…シグマ。どこだ…?姿を現せ」
「…焦らずとも近くにいるぞ?ゼロよ……」
暗闇が晴れるとそこにいたのは…
巨大ロボの姿をした…シグマだった。 ゼロの目の前に、ゼロの身長の5倍はあろうかという顔があった。
半分データ化したその頭はそのままに、巨大なボディを纏ったシグマが話を始める。
「実は…今回、よき理解者、協力者がいてな…色々、手伝ってくれたのだよ。
実に頼もしい仲間…いや、同志だった。」
零空間に響き渡る声は彼の耳にも届いていた。
「過去に数え切れないほどの『ロボット』を作ったらしく…
今お前に見せているこのボディも作ってくれた」
息を切らしながら、ゼロは耳障りなシグマを睨み付ける。
「まぁお前なら知っているだろう」
「…誰だ?それは」
豪快に笑う。
「ハハハ…とぼけなくてもいいのだぞ? お前なら確か…夢でよく会うはずだ。
聞かないかね、奴を殺せと」
「知らん…知らん!」
ゼロの背筋が凍る。
「そう、私以外に、居たのだよ… エックスを憎む者が。
…彼は、お前のことを大層気に入っていてな。」
空間の片隅で、老人がニヤリと口元を歪める。
「お前のこと、随分入れ込んでいたようだぞ…?
……そう、
…まるで…」
シグマの狂気の笑いが最高潮に達する。
「生みの親のようになぁああああああああああああ!!!!」
「黙れぇぇ!!これで終わりにしてやる、シグマ!」
-
「…ゼロ……!? ゼロ!」
シグマの爆発から暫くして、エックスがゼロの元へ駆けつけた。
体は上半身だけ。爆発の衝撃で吹き飛んだらしい。
「ゼロ、ゼロ…!しっかりしてくれ、目を開けてくれ…!」
ゼロの上半身を揺さぶる。
だが。
「シ……シネェ………」
ふと見ると背後には、瓦礫の集まりがあった…それは瓦礫で骸骨のような一つの顔を形成している。
「…シグマ」
認識したが遅し。
口からビームを放ち…エックスの腹が貫かれた。
「…がはっ……!!」
ゼロが最後の力を振り絞り…目を覚まし……
「…全く、しつこい…奴だぜ………」
チャージショット。シグマへと最後の一撃を見舞った。
…エックスは倒れた。
だが、傷が浅い。自然に修復する範囲と見ていいだろう。
ゼロは…。
「………最後まで、甘さが出たな…エックス。
…俺は最後まで…迷惑をかけて、すまなかった…。」
最後の一言を…エックスへと遺す。
「…エックス。お前は………い…生きろ……」
目を閉じる。
……いよいよ、ゼロがあの世へ旅立つときがやってきた。
-
「…!? シグマ…?」
死の寸前に記憶データが暴走。過去の映像を再生し始める。
…それは人間が、死の前に走馬灯のように人生が巡るのと同じように。
「…俺の昔の戦い…か」
続けて……世界を背に高笑いを浮かべる老人の姿。
「…コイツは…これが……シグマに協力した…俺の…」
…その次は…製作途中の自分自身。
「…俺…か やはり…俺は奴に作られたのか………
……お前は一体…何を…?」
『ロボット破壊プログラム』。
それが…ゼロウイルスの正体だった。
全てのウイルスの根源が自分であると…ここで漸く彼は知ったのだ。
その次は。
「……………。」
言葉が出ない。
……アイリスの笑顔だった。
「…アイリス……… 俺は……」
かける言葉が見つからない。
ただただ…感情が湧き出て止まらなくなる。最期のときになって…
「…すまないエックス。
俺は…やはり死ななきゃならない。…これでいい。…全部……これで終わるんだ」
ゼロの視界は…闇に包まれていった。
「おい、エックスだ!エックスが帰ってきたぞーーー!」
「…驚いたものですな」
「イレギュラーハンター・エックス。よく無事に帰ってきた!」
ダグラス、ライフセーバー…そして改まったシグナス。
「……みんな」
皆が彼を出迎える。
「………エックス!」
エイリアは彼にゆっくりと近づいた。
彼女は彼が戻ることは信じていたから。
「………ご…ごめん、俺……俺っ…」
今にも泣き出しそうな声のエックス。レプリロイドだから…泣けないのだが。
手には…形見のゼットセイバー。
…その様子を見て、歓喜のエイリアの表情が…崩れていった。
一度失って…もう一度やっと蘇ってくれたゼロを…今度は自分との戦いの末に失ってしまった。
また一つ、エックスが大きな悲しみを背負ってしまったのだ。
手にはセイバーが握られている。強く…強く。
……彼が持つ意思は…強かった。
-
零空間は消滅、辺りはただの砂漠へと戻っていった。
白い影に、黒い影が近づく。
「やーれやれ。派手にやっちゃったもんだなぁ 面白かったと思うのになー」
歩いていた老人は立ち止まる。
「フン、ダイナモか。お前さん生きておったのか」
「わかってないなー。俺だってしぶといんだぜ?アンタには到底及ばないけど。
…で?どの辺りにいるのかなー。シグマの旦那とゼロの旦那は」
靴音を響かせて老人が彼に近づく。
「……ゼロ。改善すべき点は多々あるようじゃが……
ワシはこれでも満足しておるぞ。
アルティメットアーマーを使ったエックスに覚醒しないお前が勝利したのだからな。
…正直ライトの奴もアレを持ち出すとは思っていなかったわい」
気がつけば、シグマも、エックスもゼロも…いつしか、二人の科学者の戦いに巻き込まれていたのだ。
「不意打ちにも屈せず最後に立ち、余力であれほどの力を見せてくれたのだから。
覚醒すれば今とは比較にならない力になっていたじゃろうがな…。
……まぁいい」
白衣を翻す。
「ワシを追いたければ、追うがよい。
そこから自力で蘇ってこそ、世界最強のロボットじゃ……」
続けてシグマの元へ。
「すみませんな、ワシの発明は未完成なのは昔からでしたなぁ……」
転がるシグマの首を見下ろし、老人は話す。
「…また蘇ったら私の所に来てくだされ、またお力になりましょうぞ。ハハハハハハハ!」
それはまたすぐのことだろうと、理解しながら。
「アイ…ゾック………!」
こうして、世界の裏で蠢く悪は、再び闇へと帰って行った。
一方、ハンターベース。
「エックス。イレギュラー事件の発生だ、直ちに向かってくれ」
セイバーを振り続けるエックスに向かいシグナスが直に指令を伝える。
「ダメよシグナス。今エックスは忙しいんだから。
今日は訓練だけで、後は休養させて頂戴」
「いや、有難うエイリア。でも、いいよ 俺がゼロを引き繋がなきゃ……」
「……そう。」
エックスはセイバーを片手に、駆け出していった。
「エイリア、お前さ。最近エックスに少し甘いんじゃないの?」
「…そうだな。先日の違反の件を挙げるわけではないが…」
「え?…そんなことないわよ。私はあの人を近くで見ていたから、調子がわかるだけ。」
「へぇ?他に理由でもあるんじゃねえの?」
「な、何よ…それじゃまるで」
自分で言っていて、何かおかしいことに気付く。
「………………も、…もしかして私」
エイリアは漸く気付いた。…暫くの間動きが停止する。
「…え?いや…… ……けれど」
「…気付いてなかったのか…自分でも」
ダグラスは頭を掻く。
「世界が半壊したというのに呑気な娘だ」
シグナスは半ば呆れていた。
「…………そうなのかしら、私。」
-
「一体…何が起こったというんだ?
…コロニー破壊作戦は、成功したと聞いたが」
零空間跡地。
吹き荒れる風の中、一人の青年が立っていた。
「…これでは、失敗したも同然ではないか」
辺りを見回すと、レプリロイドの遺体と思しき鉄片が。
「…一体、どれくらいのレプリロイドや人間が、命を落としたんだろう。
こんな争いが、一体いつまで続くんだろう」
…破片は、何も語ることは出来ない。
あれから3週間。ハンターベースは地球の復興作業に尽力。
地球は、ようやっと地表での活動が出来るまでに汚染が回復していた。
…レプリロイドが起こした災害。
これにより、レプリロイドと人間の種族としての上下が明るみとなった。
レプリロイドという種そのものへの責任。
…人間は、守られる側になり、地下へ避難。
これから、レプリロイドは責任を果たさなければならない。
世界を元に戻すという…責任を。
シグナスは世界各国へと深く謝罪。
しかし、具体的な対策や彼以上の適任者もいなく……
これほどの甚大な被害を蒙りながら、彼は世界から思ったほどの非難を浴びることはなかった。
ライフセーバー達は各地のレプリロイドを保護、手当てして周り
ダグラスは技術力のあるレプリロイドを集め、
エイリアは主に中級以下のハンター達の育成に精を出していた。
「…大型のイレギュラー反応!?貴方達、行ってくれるかしら」
割と腕の立つルーキー達に対処を任せることとした。
「…オイオイエイリア。アイツらだけで大丈夫な相手かよ」
「じゃあ人員を増やせば…」
まどろっこしくなってダグラスは言う。
「ああ、もう。 …エックスを呼べよ。アイツ、今休んでるだろ」
「………でも」
「……アイツを起こしてやりなよ、エックスも流石に喜ぶかもだぞー?」
「…何を…」
ゼロの声が聞こえる。
「…エックス ……エックス!」
霧の中から話しかけるはゼロ。
「……今お前が世界を守らなくてどうするんだ…
目を覚ませ、…エックス!」
「エックス…、 エックス!」
声が変わる。女性の声だ…
「…エイリア。」
回復用カプセルを覗き込むエイリアの姿が。
「…おきて、エックス。
イレギュラーが暴れているの。至急現場へ向かってくれないかしら」
「………ああ、解った。すぐ行くよ」
現場はコロニーの落下地点のすぐそば。廃墟となったビルだった。
「エックス。頑張ってファルコンアーマーを復元してはみたんだけど…
不完全な部分があって、フリームーブは使えないの」
「そうなのか…」
「その代わり、エアダッシュの機能をそのアーマーにつけて、
フリームーブの攻撃力をみたわ。」
「…そうなのか、有難う。オペレーション頼むよ」
セイバーを手に、エックスの久々の戦いが始まった。
スクラップと化したメカニロイドを破壊、廃墟の内部へ。
内部では転がってくる合成金属製の円形物体やブロックをゼロの形見により斬って進む。
ゼットセイバーは彼には使いこなせないらしい。ゼロのような素早い挙動がまるで出来ない。
階段を登り、壁を蹴り…繰り返しながら上のフロアへ。
途中、天井を突き破ってドリル装置がエックスを襲うが、これも回避して先へと進む。
屋上までの通路を繋ぐ扉を開けるとそこには。
-
「え、エックス隊長!来てくださったのですか!」
狭い通路で2人のハンターが息を切らしていた。
片方は歩けなくなり、もう片方が肩を貸している。
「状況報告を頼む」
「奇妙なメカニロイドのイレギュラーが屋上で暴れているんです…
何か、様子が変です……エックス隊長、お願いします!」
「様子が…。 有難う、よくやった。君達は帰還してくれ」
よくやった、という言葉にハンター2人は安堵し、ベースへ帰っていった。
その様子に、エイリアはほんの少し笑顔になった。
「すっかり先輩が板についたわね、エックス。」
「…戦闘の前にからかうのはやめてくれないか…?」
「ごめんなさい、それじゃエックス、準備はいい?」
「ああ。」
屋上の扉を開くとそこには…。
ドスン! …と大きな音を立てて落下してきた大型メカニロイドが。
どこからか現れた球形装置が信号を送ると、それは動き出した。
「…これは!」
「何か嫌な予感がするわね」
大きな動きで空を浮遊し、アームで攻撃したり口からエネルギー弾を発するイレギュラー。
「食らえ!!」
威力自慢のファルコンアーマーのチャージショットを当てる。…効かない。
「…クソッ、このメカニロイドも特殊合金製か!」
続けてゼットセイバー。
「ハァ!」
ゼロの戦い方を思い出しながら、一太刀を浴びせる。
…効かない。
「となると……」
「やっぱりアレを破壊しましょエックス。ゼットセイバーで一気に!」
「了解!」
大きく跳び、ゼットセイバーを体に対し真横に払う。
球形装置は一刀両断…は出来ず。刃がかすめた程度だ。
「これを繰り返せってことだな!」
反対側に現れた球形装置を1発、2発、3発。
…球形装置は真っ二つに叩き切られた。
「…よし!」
メカニロイドが爆発を起こす。任務完了…と思いきや。
完全破壊はならず。そこへと転がっていた。
「…!?」
その瞬間…信じられない光景を目の当たりにした。
どこからか現れた、揺らめく影が剣を目にも止まらぬ抜刀で一刀両断。
靡かせるは灰の長髪。
ボディは淡い紫色…頭部クリスタルは水色。
色は違えど、その影は……
「………ゼロ?」
メカニロイドの爆発が終わると、そこには何もいなかった。
続けて高エネルギー反応を感知する。
「エックス、避けて!」
その場から飛び退くエックス。
空からエックス目掛け、巨大なエネルギー弾が降ってきたのだ。
「……イレギュラーハンターよ。…奴をどうするつもりだ」
黒き巨体のレプリロイドがそこにいた。
-
謎の黒いレプリロイドとの戦いに入る。
襲撃してきた彼に向かい、エックスはチャージショットを浴びせ続ける。
「無駄だ」
相手の攻撃も回避出来るものだが…なかなかの強さを持っていると見える。
…それより、攻撃は効かないとはどういうことなのか。
「食らえ!」
ファルコンアーマーの必殺技、チャージショットの雨で敵を攻撃する。
…が、何も効かず。エックスの攻撃は何一つ彼には通用しなかった。
「こんな事ならアルティメットアーマーを復元するべきだったかしら…」
「…まぁいい。今日はここらで退こう …俺の名は…『ハイマックス』
……次はこうは行かぬ。お前達は奴を悪用するつもりなのだろう、イレギュラーハンター」
何かあらぬ誤解を招いたまま、黒きレプリロイドは宙に浮き、消えていった。
「…何はともあれ、任務完了ね」
「……ゼロの夢を見たと思ったら、まさかあんなものが出てくるなんて。」
…攻撃が一切効かない相手。エックスは、自分の非力さを感じていた。だが…。
「……あれは、幻だったのかな」
メカニロイドの残骸を見ると……
「…私にもよく解らない。エックス、貴方疲れてるのよ。休んだら?
「……私も、寝る。」
エックスに自分がしてあげられるのは、もう休ませることだけなのか。
大切なものを失い、戦いが終わったのに……まだ戦い続けるエックスに。
…エックスだけではなかった。
エイリアは自分の非力さに打ちひしがれながら、眠ることにした。
…こんなことが、前にもあったような気がする。
エックスのオペレート中か… いや、そうではない。
「…少し、先輩に相談してみるのもいいかしら」
翌朝。
エイリアのベッドに何者かが現れる。
「エイリア。起きてくれ、エイリア!」
「…んー…。 …エックス…?」
「ああ、俺だよ、エックスだ。早く起きてくれ!」
「……………え?」
どたばたとアーマーを着用して、歩きながら髪を整えてエックスとエイリアは廊下を歩く。
「え?無名科学者が研究結果を発表するって? ……やだ、もう顔が熱い……」
「そうなんだ。何だか解らないけど」
「エイリアはオペレーターの仕事があるから研究が進まなかったろ?
ハンター自体の身の振り方を考えるためにも聞いておいた方がいいと思って。」
「そ、そう…?あ、有難う… ……あ、先に言っててくれるかしら?あの、私みんなを呼んでくるから」
「……? ああ。解った」
世界へ向けての演説の場はハンターベースの近くだった。
レプリロイドが大勢集まる中、科学者『アイゾック』の演説が始まる。
「地球上に生き残った、レプリロイド諸君!」
「始まったよエイリア!」
-
「諸君らは今、この地球上で不可思議な現象が起こっていることを、ご存知であろうか!」
机の淵を掴み、老人レプリロイドは声をあげる。
「その現象とは、レプリロイドに珍妙な幻を見せる謎の不可思議な現象であるとされている。
それはまるで、人間が見る『悪夢』のようであると、されている!
故に我々はこの現象を、『ナイトメア現象』と呼んでいる。」
ハンターがイレギュラーとの戦いに奔走している間に、そんなことが地球上に起こっていたのか。
エックスは注意深く話を聞くことにした。
「それにかかった者は、何でも 暴走を起こしたり、イレギュラー行為に走ってしまったり、
果ては自殺にまで至ってしまうこともあるとされている…
これは実に恐ろしい現象である。」
…シグマウイルスより性質の悪いそんなものが、今世界を。
アイゾックの口から、信じられない言葉が続けて飛び出した。
「何でも、この現象は……
かの名を馳せた伝説のイレギュラーハンター、『ゼロ』の亡霊が引き起こしているという噂まで立っている。
我々は…それを『ゼロ・ナイトメア』と呼ぶことにした…」
今、エックスは聞き捨てならない言葉を聞いた。
「…ゼロが…ナイトメアの原因?」
エックスは言う。
「…そいつぁちょっと酷いんじゃないかい」
ダグラスも続ける。
「今まで我々を守ってくれた、イレギュラーハンターも、レプリフォースも今となっては最早、壊滅状態。
…我々の手は、是非自分自身で守りたいものである。」
「そこで今、有志を募ろう!我々と共に、恐るべきナイトメア現象に、今こそ立ち向かおうではないか!
このアイゾックは、強く平和を願っている!」
もし、我こそはという勇気ある者は、是非この、8つのエリアへ潜入する8名の調査員の元に来て頂きたい!
尚、調査隊のリーダーとして、この最新レプリロイド『ハイマックス』も参加してもらう。
我々の手で平和を、掴み取ろうではないか!」
「…待っているぞ、諸君!」
……エックスは震えていた。
「…間違っている。おかしい… ゼロがあれほど頑張ってやっとシグマから世界を守ろうとしていたのに
どうしてゼロが世界をおかしくするなんて言えるんだよ!」
「……でも、私達の前に現れたのは確かに…。」
エイリアは強い言葉は、今は言えない。
「…エックス、落ち着け。
私もアイゾックの調査団は少しおかしいと睨んでいる。我々も…調査に参加する必要がある。
ナイトメアの実体を掴むべく動く必要はどの道あるだろう」
「……ああ。」
「乗り込むぞ、エックス。8箇所のエリアに…!」
…エイリアが強く言えなかったその理由は…ケイン博士から、凶暴なゼロのもう一つの人格を聞いたためだ。
ゼロを素手で倒し、シグマへとウイルスを感染させ、…シグマを狂わせた。
ならば、シグマは最早… ゼロのもう一つの姿の被害者、というより… もう一人のゼロの影と言ってもいい存在だったのだろう。
『彼』がもし…… もし、ゼロの体から解き放たれ、ゼロなき世界でゼロとして振舞っていたとしたら?
…根拠はもう一つある。 以前、ホタルニクスのミッションで見せたウイルスに囲まれたゼロの姿。
それは………まさしく、あの紫色のゼロの姿そのものだったからだ。
…その戦闘力は凄まじかった。
ゼロとの戦いの運命は…まだ終わってなかったのかもしれない。
「ヒャヒャヒャ…アイゾックの爺さんの演技力は半端ねーなぁ。
さて。俺も独自調査を開始しますかね、っと。」
影で話を聞いていた男もまた、消えていった。
「それでは、これから我々は8つのナイトメア現象が深刻なエリアへと潜入することにする!」
シグナスがハンター全体に呼びかける。
デスクに座り、エックスの横顔を見ながら……。 言葉が…でない。
「…エックス、あのー………」
これは…『ゼロ』との戦い。
そして…それぞれの、過去との戦いだった。
「ん?どうしたんだい、エイリア。」
「……う、ううん、なんでもない。 …気をつけてね」
-
暖かな気温に、
吹き抜ける夜風が気持ちいい。
…月の綺麗に見えるその場所は…アマゾンエリアだ。
「静かな場所だね」
「…ええ。落ち着いた雰囲気ね 任務が終わったら行ってみたいわ。
マイマインのいたクリスタルだらけの鉱山に、キバトドスのいた冬の森に…
ネクロバットのいたプラネタリウム。」
エイリアはガラにもなく、うっとりとした様子で話す。
含み笑いをしながら、エックスは眉をひそめて話す。
「レプリロイドを殺した場所ばかりじゃないか。俺は…嫌な思い出のない所がいいな」
エイリアは俯く。
「……ごめん」
「? エイリア一人が来るなら問題ないだろ?」
エリアに入ってすぐ、救助を求めるレプリロイドの姿が見えた。
「大丈夫ですか!」
「ああ、エックスさんか!? た、助かった……」
「敵を倒す、それだけがハンターの仕事じゃないわ。
これならエックスもやる気が起きない?」
「ああ。…それもそうだね」
民間レプリロイドを救助しながら、洞窟の中へと落ちていく。
「今あなたがいる方向から見て真っ直ぐ奥にカプセルの反応があるわ。」
「有難う」
「…世界は大変なことになってしまったな。正にレプリロイドにとっても人間にとっても地獄じゃ。
お前に『ブレードアーマー』の4つのパーツのうちの一つを授けよう」
次なるアーマーはブレードアーマー。
エックスは洞窟を注意深く探索していく。
「暗い…。モニターからナビゲーション画面へと切り替えるわね」
「頼む」
「…何だ、コレ…」
「こちらからは反応は見えないけど…何があったの?」
腹から下と両腕が千切れたような形をした…単眼レプリロイドの上半身が宙に浮いている。
非常に不気味な形をしている。
「こっちに来る…!」
チャージショットで撃退。
「ど…どうしたの?」
「ステルス機能を持つと思われる奇妙なイレギュラーを倒した。
何か出てきたから送るよ」
中から出てきた青い球体をハンターベースへ転送する。
「…何度倒しても消えない……」
その先では蟷螂型のメカニロイドが何度も復活する。
ワイヤーフレームだけが残り、再生をそこから続けるのだ。
「…何も見えない…か………もしかして貴方…それはメカニロイドじゃなく…」
「…見間違いなわけがないよ。そんな幻覚は…」
…幻覚…幻。まさか。
「ナイトメア現象…!?」
そう。このアマゾンエリアに発生していたのは蟷螂のナイトメア。
何度倒しても無限に再生し、襲い掛かってくるのだ。
「厄介ね…幻覚なのに正確に貴方を襲ってくるんでしょう?」
「…おまけにダメージまであるよ。後で傷を見せる」
「………痛い?」
「…うん」
鍾乳洞を抜け、洞窟の外へ。崖から突き出た岩を乗り継ぐ形で、調査員の下へ。
「……………」
「エイリア、どうした?」
「…あ。ごめんなさい、どうやら調査員は知っているレプリロイドだったみたいで…」
「そう、なのか」
こほん、と一回咳払い。
「ここの調査員はコマンダー・ヤンマークよ。穏やかな性格のはずよ。『基本的には』。
何か得られるものがあるかとりあえず話を聞いてみるだけ…聞いてみた方がいいわ」
「穏やかな性格なんだろう?何でそんな言い方を…。
………俺がその、例外だっていうのかい」
「ええ。まぁ…」
-
扉を潜る。
トンボ型のビットを引き連れた赤色のバイザーの下に真ん丸い目を覗かせるレプリロイドが姿を現す。
「コマンダー・ヤンマーク。君に話を聞きたい」
「…アンタ、エックスだな…? 悪いがイレギュラーハンターと話すことなど何も、ない!」
「………落ち着いてくれ。君達は何か騙されているんじゃないのか?アイゾックに」
「騙しているのはアンタたちだろう!? 俺はアイゾック博士の言うことを信じるからな!」
「…ごめんエックス。話が通じる相手じゃないの」
「………くそっ」
戦闘が始まる。
「撃てえええ!」
ヤンマークの能力はビット操作。
トンボ型ビット・ヤンマーオプションからはエネルギーの弾が大量に発射される。
「うわ…!?」
まず一斉射撃。壁を蹴り逃げる。
「エックス。ヤンマークの能力は音声認識によるビットの完全制御よ!」
「完全制御…?」
「自分の手足のようにビットを使いこなす。勝つには能力で単純に上回るしかない」
バスターの乱射でヤンマークのビットを攻撃しようとする。
「フォーメーション…ガード!」
ビットが動く。どうやらエックスの弾を全て、ビットの弾で迎撃するつもりのようだ。
「なかなかの制御のようだけど…」
「あぁーー!」
チャージショットが簡単に効く。
…彼の能力は、確かに精度が高く、幅広い『作業』に向いているだろう。
だが…あまりにも弱いのだ。
「フォーメーション…ウィング!」
上下に展開、一斉射撃を行いながら近づいてくる。
「下級ハンターなら勝てない相手だな…数で押すタイプのようだし」
だが速さ、攻撃力、防御力、貫通力、移動速度…どれを取っても平均的。
優れたレプリロイドであることは間違いない、のだが。
簡単に
「フォーメーション…ファイ」
「終わりだ!」
チャージショットがヤンマークの細い腹を貫き…
「うわぁあーーーーー!!」
真っ二つにした。いつも以上に大きな爆発を発し、ヤンマークは消滅した。
…敵ではなかった。
「DNAを回収した。 …何か体が馴染まないな」
「…そりゃそうね」
「…え?」
「あ、ううん。何でもないの。 …ご苦労様。」
頭上に何かが降ってくる。…先ほど見つけた青い球に似ているが…緑色をしている。
「…これは何かな」
「調査してみるわ」
-
「どうだった?エイリア」
ハンターベースに戻ったエックスが聞く。
「うーん…反応がないものはほぼナイトメアと見てよさそうね……。
ごめんなさい。今はよく解らないわ。
この球の中身が完全な形では残らないみたいなの…。」
「ヤンマークが持っていたこの緑色の球は青い球と同サイズに効力が凝縮された…
単純に強力なものと見ていいわ。比べ物にはちょっとならないのだけど」
そして彼女は、その球に名をつける。
「ナイトメアの基本体はその奇妙な単眼メカニロイド…ならばそれはウイルスとして…
『ナイトメアウイルス』と呼ぶことにしましょう。
そしてこの青い球はナイトメアのコアであるエネルギー体。『ナイトメアソウル』と呼ぶわね」
「ふふっ… …あ、ごめん」
「…何かおかしかった?」
笑ってくれるのはエイリアには何だか嬉しい。エイリアも聞く。
「そのネーミング、エイリアが考えたのかい」
「? …ええ」
「アイリスもそんなネーミングしてたなぁと思って。」
「………そうなの?」
次なるエリアはセントラル・ミュージアム。
「静かな場所ね……ここには被害者はいないみたいね」
「よかった………」
先へと進んでみる。
「……音という音が何もしないね」
「そうね…イレギュラーまでいないなんてことはないでしょうし。」
通路の真ん中に、邪魔な柱が一本。ただの柱では、ない。
「………何だ…?これ」
「どうしたの?」
モニター画面で確認してみる。
「…奇妙ね。トーテムポール?」
「みたいだ…。 透明なものだね。…物体ではなさそう」
「ナイトメアかしら………。 触ってみて」
「…解った」
その時である。
「わ!!」
「? …エックス、エックス…!? 」
トーテムに触れた瞬間、エックスの体が消滅。
別の場所にワープしていた。
「…!?」
背景は海。…水族館の立体映像のようだ。
そこには無数のナイトメアウイルス。やられた…
ここは、トーテムポールという強制ワープのナイトメアに支配された場所だったのだ。
これに触れたが最後、仮想空間内のナイトメアウイルスの巣に放り込まれ、戦わされるハメとなる。
出口を、見つけない限り。
「ナイトメアソウルがガンガンたまっていくな、ここは…
って、大丈夫ですか!?」
勿論、巣に放り込まれたのはハンターたるエックスのみではない。
民間レプリロイドもそれに当たる。
簡易転送装置でハンターベースに避難させつつ、出口を探すと。
「…あの装置は」
チャージショットで破壊すると…
-
「…エックス!どうしたの?」
「ナイトメアウイルスの巣に放り込まれていたよ…。」
「先へ進む方法が解らないわね…」
進むと…何と今度はトーテムが実体化しているではないか。
…いや、ナイトメアであるから実体とは言えないのだが。
「食らえ!」
チャージショットで各ブロックを破壊、トーテムを蹴り…エアダッシュで飛び出したブロックも破壊。
トーテムは砕け散り、下のフロアへの道は開かれたのだった。
「……今、ナビゲーション画面において貴方完全に宙に張り付いたわね」
「ナイトメアは完全に触れられるみたいだ…」
実体があるのかないのか。奇妙な存在、ナイトメア。
「…頑張って、エックス!」
下へと進むとまたトーテム。…またワープ。
「今度は…… 砂漠か?」
砂漠の中の石造りの遺跡。
現実では絶対にありえないような地形の中、エックスはナイトメアとの戦いに明け暮れた。
「…ただいま」
「言うのはトーテムを倒してからがいいわね」
破壊、休憩フロアを挟みまた下階にトーテム。
「………恐竜展のための立体映像か」
そこにはカプセル。また一つブレードアーマーの完成に近づきながら、
エックスはまたナイトメアと戦い、救助活動もしつつ脱出。
「………少し意地悪な場所じゃないかな、今回」
「最後だしね。 …針の上…か」
針の上のトーテムにエアダッシュで突進、また転送される。
「最後は宇宙か」
大きな坂道。ナイトメアウイルスがひしめくこの場所を通り抜け、
トーテムを破壊した先…。
「………ここの調査員はグランド・スカラビッチ。また知ってるレプリロイドに当たったわ」
「それなら戦い方を教えてもらえるかい」
「貴方なら苦労はしない相手だと思う。…歴史学者だから、頭脳はとんでもないんだけど
戦闘力は大したことないと思うのね」
「うんしょ、うんしょ。」
尻をむけ、土の塊を転がしてきた中年男の姿は滑稽だった。
「…おや、エックスさんではないですか。」
「調査員か。何をしている」
「いやぁ、ここにいると色んな情報が手に入りましてなぁ。
私、古いデータには目がなくてですね」
「…ナイトメアについて教えてもらおう」
バスターを向ける。
「物騒な真似をなさる。私は逆に欲しい所ですよ?
最強のイレギュラーハンターのDNAをね!」
「無念ーーーー!!」
岩を転がし、飛ばすだけのレプリロイドはすぐに倒された。
「彼は…一体何をしたんだい?」
「実は…彼は数ヶ月前、一度死んでるのよね…。 遺跡の盗掘をしようとしていたの。
貴方とゼロが見つかった……『禁断の地』を」
「それで、その時彼を倒したのが…」
-
「さて…次のミッションへ行きましょう、エックス。」
ハンターベースへ戻ったエイリアは、次なるポイントを指定した。
「…次の相手は少しエックスには戦いづらい相手かもしれないわね…」
「…事前に調べてあるのか…。 ……って、エイリア。
つまりは君もまた知ってるレプリロイドなのかい」
「…ええ、まぁ」
次なるミッションはレーザー研究所。曇天に浮いた空中研究所だ。
「ターゲットの場所まではここから2分かからないんじゃないかしら。」
…それはそうと、いきなり変な光景に出くわしたわね」
空に浮いたメットールに囲まれ、空に浮きながら救助を求めるレプリロイド。
「…これは一体…」
「ナビゲーション画面には映っているから…ナイトメアじゃないわね」
勇気を出して足を踏み出してみると……
「…! 歩ける!」
「見えない足場ね。光学研究の賜物かしら。」
先ほどから、妙なハエがエックスの周りを飛び、バスターを体を張って妨害してくる。
その耐久力はありえないほど強く、エックスの動きを制限するのだった。
そう。ここに発生したのはハエ型のナイトメア。動きを制限する意図だろう。
内部に進むとそこには強力なレーザー装置。
その先には何かが置かれている。
…鏡のようだ
「……兵器として使うためのレーザーを使った反射実験ね」
そしてレーザーを当てることで開く仕組みの扉。
することは…一つだ。
「エックス、鏡の付け根を狙って。それで鏡を動かせるはずだから」
レーザー光を鏡を使って誘導し……扉にぶつけて開く。
…そういうことだ。
「…面倒ねぇ
…今私の力を使ってレーザー装置を遠隔操作で起動させてみるわ!」
先へと進んでいく。
「この先は二つの扉か…調査員のいる部屋は目の前だけど、地下にはカプセル反応…。」
「下へ向かおう。この短い道のりならハンターベースからもう一度行っても時間のロスにはあまりならない」
その先が手ごわかった。
「ダメ…レーザー装置が1個以外作動させられない!」
「…なるほど。作動させるとか以前に、電源自体が他のレーザーから発せられたものということか…」
レーザーを鏡を動かし反射させ、反射させたレーザーで別のレーザー装置を作動させ…それを繰り返して最後に扉にぶつけて開ける。
「…………面倒だなぁ」
「隠し通路があるわ。その横!」
カプセルからアーマープログラムを手に入れ、一度ハンターベースへ戻りもう一度。
エイリアの言う通り、すぐに調査員の部屋の前だった。
「…調査員はシールドナー・シェルダン。
恐らく以前より強くなっていると思うわ。気をつけて」
「…彼だったのか…!」
-
以前、エックスは彼の事件を受け持ったことがある。
まだドップラー事件の影響で科学者に対する目が厳しかった頃。
ジム博士と呼ばれるレプリロイド博士の起こしたレプリロイド事件で、
彼を処分するべくエックスはジム博士のガードをしていたシェルダンと交戦、そして撃破したのだ。
ジム博士がイレギュラーとするのは誤認だというのは、処刑完了後発覚した話。
「シェルダンさん!」
「エックスか。…久しぶりだな」
口元の特徴的な紳士、シールドナー・シェルダンは水の張った最深部の池の前にいた。
「シェルダンさん、その節はすまないことをしました…。」
「…いや、いいんだ。君が言いたいことは大体解った。」
「…君はイレギュラーハンター、私はイレギュラーと誤認された博士の護衛だった。それだけの話
……すまないが私は今回こそ自分の務めを果たそうと思っている。」
「……また、戦うんですか」
有無を言わさず、シェルダンはアーマーに包まり姿を消した。
「はっ!ほっ!」
二枚連続で投げるは体の左右に着ていたアーマー。
ガードシェルと呼ばれるそれの防御力は高く、バスターを通そうとしない。
だが…
ダッシュしてシェルを回避すればすぐのこと。
「ハァアア!」
セイバーで一撃。
光の穴に体を滑り込ませワープするシェルダン。
シェルを閉じ、無敵状態で辺りを跳びまわる。
「は、速い!?」
「どうかね」
目にも止まらぬ速さ、しかも自分で制御できるものと来た。
アルマージなどよりよほど手ごわい敵と見える。
「逃がさんよ!」
ガードシェルを光の盾に替え、エックスを追ってくる。
「衝撃にあわせて打ち返す特殊シールド。
近接攻撃は禁物よ!」
「それなら!」
ヤンマーオプションを使い、そのオプションから放たれる大量の弾でシェルダンを包んだのだ。
「ぬぐっ!」
シェルダンは消え…そして奥の手を使い出した。
「見切ってみるがいい!」
4つのシェルが部屋の端に現れる。
「はぁ!」
シールドからシールドへ、どんどん移動を始めるシェルダン。
「隙が少ないな…」
「攻撃したら反撃を食らう。ここはギリギリまで見極めて!」
シェルの中でワープを繰り返しているのだろう。
どこから来てどこへ行くのか…。
「そこだ!」
部屋の中央に陣取り、移動してきた隙にセイバーを一振り。
「認めん…断じて……!」
シェルを離れると防御に乏しいシェルダンは、すぐに倒れていった。
「……あまり気の進む相手じゃなかったね」
「そろそろ、ゼロナイトメアへの糸口を掴みたいところなんだけどね」
-
精密系レプリロイド、科学者レプリロイド、防御特化系レプリロイド。
正直、これまでの3体はどれも強くは無かったといえる。
だが……運が良かっただけに過ぎない。
残り5人。
アイゾックの送り込んだ調査員の恐ろしさをここで知ることとなる。
「兵器研究所ね。私達が向かうのは巨大兵器整備ブロック。
建物自体がらせん状になった開けた場所なの」
「…物騒な場所にナイトメアが発生したものだね。」
「今は特に兵器などはないから、ナイトメアウイルスと延々と戦うことになるわね」
巨大な施設の中。
兵器研究所についてすぐ…このエリアが如何なるナイトメアに冒されているかを知ることになる。
「………な、何だ…あれ」
「え?」
「……兵器、あるよ?」
「……どれくらい?」
いや、エックスにも薄々気づいていた。
「見えないかな。………この円柱状の巨大な建物を…フルに利用するほどのメカニロイドが動いているのを」
「………かつて作られていたと、聞いているけど
…『見えない』わ」
「…………やっぱり!?」
そう。ナイトメアはそこまで巨大だったのだ。
かつてここで生み出された超巨大メカニロイド『ビッグ・ジ・イルミナ』。
それは…ナイトメアとなって復活していたのだ。
「…………男の子の夢って奴かしら…。」
エイリアの笑顔も引きつる。
「来る!」
巨大なエネルギー弾がイルミナの手から発射される。
「ナイトメアウイルスに、敵メカニロイドに、要救助者……
忙しい戦いになりそうだ!」
エネルギー弾を避けながら螺旋階段を下りていく。
この巨大な建物には外壁しか壁がない。
この建物のどこにいようと…イルミナのターゲットだ。
「動きはどう?」
「流石に距離がある、狙い撃っては来るが誘導可能な範囲だ」
「ナイトメアを発生させているコンピュータがどこかにあるはず。
探し出して破壊して!」
発生源は言うなればイルミナの電源。
メカニロイドの襲撃にあいながら、それを破壊していく。
「…強い………」
「気をつけて、イルミナの攻撃パターンが変化した!」
首が取れ、付け根からはビットを複数射出、レーザーでエックスを照らそうとする。
当たればクロスレーザーの餌食…といったところだ。
「ヤンマーオプション!」
オプションを展開、エネルギー弾の連射で素早くビットを破壊する。
全部破壊する暇などない。前方のものだけ破壊し、イルミナの電源コードへ。
「…壁!?」
侵入者を阻む壁が前後から。
「その壁は実体があるわ」
エックスから見て、前方はイルミナコードと壁、後方は防護壁、
向かって右側は外壁、向かって左には…イルミナ。
…閉じ込められたのだ。
-
「レーザーよ!……どうすればいいかしらコレ」
「うまくかわして破壊するしかない…!」
前から後ろからレーザーの雨、左からはイルミナの攻撃。
レーザー地獄…。息苦しい戦いは長くに渡り続いた。
「食らえ!!」
チャージショットに貫かれ…イルミナは電源を失い、爆発。整備施設は静まり返ったのだった。
「な、何だ?」
「イルミナを倒した時の衝撃で何かが誤作動したみたいね」
青い扉が現れた。…どうやら閉じる様子はない。
「…ターゲットはこの先かい」
「いえ…下の階にいると見られているわ」
ならばそちらが優先だ。残ったナイトメアウイルスを倒し、最下層にて…。
「アーハーン!」
「ここの調査員は…見ての通りの変わり者。…インフィニティー・ミジニオンよ」
小柄な、液体合金製のレプリロイドだった。
「何何?何でハンターがここにいるノ?もしかして え?何 イルミナちゃん壊しちゃったとか?」
「あまりにアレは危険すぎる!」
「………な、何てことをしちゃったんだヨ!アレで頭の固い君らみたいな連中を倒して、
ボクちんはg」
イルミナの頭が背後で大爆発を起こす。
「…様に褒められるつもりだったのに!」
「……………!!!!!」
エイリアは…聞いていた。
「…解ってたはいたが、やはりナイトメアを動かしていたのがお前らだったんだな。
アイゾックの好きにはさせない…行くぞ!」
「やれぇ!!」
強酸性の液体を分泌、球状の塊となる。コアとなる微小マシンによりそれはエックスに近づき…取り込み、溶かすつもりだ。
「厄介な相手よ、気をつけて!」
「くっ!」
思いのほか、その液体の耐久性は高い。破壊までにチャージショットを何発か消費することになるまでに。
「破壊しても無数に彼はその塊を生み出すわ」
「………かといって壊さなかったら増える一方じゃないか!」
ミジニオンにバスターを当てる。
「あっははん♪」
今度はチャージショットだ。
「わぁあああ!」
壁に衝突する。 本体は軽いようだ。…効いていたかはともかく。
「かかったねおバカちゃん♪」
…エックスは見た。ミジニオンの体がちぎれ、ミジニオンと同じサイズになっていくのを。
ミジニオンもまた、ちぎれた部分を再生、元通りになっている。
「…増えるのか!?」
コアはあるらしい。コアを破壊するのが先か、ミジニオンの攻撃に押しつぶされるのが先か。
増え続ける敵との戦いが始まった。
「やれぇ!」「やれぇ!」「やれぇ!」「やれぇ!」
「ほっほー!」「あっはは!」「食らえ!!」
泡がどんどん増えていく。ミジニオンは時折、腕のバスターから光の弾を発射し、拡散したりする。
「エックス…!!」
「……あまりに、…多すぎる…!」
泡。弾。ミジニオン。部屋にもう隙は存在しなかった。
「アローレイ!」
ぐるりと回転、床に突き刺さると…天井から光が降り注いでくる。
だが…そんな攻撃より何より…エックスは追い詰められていた。
泡が溶かしにかかる。
弾がエックスを攻撃する。
大量のミジニオンの突進を食らう。
こちらの方が劣勢。こんなことは今までなかった………
「ガードなら…せめて…せめてガードシェルを…!」
シェルダンから手に入れたガードシェルを使う。
焼け石に水。だが……何か対策を講じなければ。
「ほっほー!」
またもアローレイ。
ガードシェルで何とか防げはしないか…そう思ったとき。
「あーーーーーーはーーーーーーー!?」
ミジニオンが吹き飛んでいった。
「アローレイのエネルギーを吸収して…撃ったのね!」
ガードシェルの真価が発揮された瞬間。
弱点はガードシェルだった。そうと決まれば。
「最後だ!」
ガードシェルをチャージして放つ。4枚のシールドがミジニオンの周りに配置され…
「撃て!!」
4つのシールドからの一斉掃射。
「何すんだヨーーーーー!!」
4つの弾は全てコアに命中。ミジニオンはそのまま……彼自身が泡となって弾けていった。
「……今サーチしてみたわ。…どうやらカプセルの反応はその青い扉の中にあると思っていいみたい。
何が待っているかわからないけど…行きましょう、イルミナのあったところに」
-
イルミナ跡。
青い扉が宙に浮かんでいる。
「……その先で通信が繋がるかどうかはわからない。
気をつけてね」
「…ああ。行って来る」
…一体何が待ち受けているのだろう。
エイリアが調べた実例の中に、確かにゼロの形をしたナイトメアに襲われたケースは多々あった。
ゼロは一体、何をしようとしているのだろう。
『彼』と、そしてアイゾックと手を組んで。
ゼロナイトメアが何かの見間違いならいいのだが。
…先ほど、ミジニオンから聞いた名前が…聞き間違いなら、よかったのだが。
「…エックス」
彼の名を呟く。
「……ごめんね」
「エックス。ここではブレードアーマー最後のプログラムを渡そう。
このアーマーは、チャージセイバーを使うことが出来る…セイバーでの戦いを考えて作られたアーマーなのじゃ。
また、マッハダッシュもうまく使いこなしてもらいたい」
「解りました。」
そしてブレードアーマーを着用…。
スッキリとしたラインと、個性的な色使いのアーマーがエックスを包んだ。
「…これほど大きな谷が…」
底なしの谷にナイトメアウイルスが大量配備。
救助者をナイトメアから助けつつ、扉を潜ると…。
「ゼロ…。 どこじゃ… ワシのゼロは……」
老人の声がする。
…アイゾックに似ている気がしたが。
その瞬間…奴が現れた。紫色の淡く光る影。…全ての元凶『ゼロ・ナイトメア』だ。
「…お前、ここで何をしている。どうしてゼロの真似をする」
「エックス。…俺がわからないのか?」
「…ああ、解るよ 下らないニセモノだ、ってね」
「…お前達を、あれからずっと探していたんだぞ…?」
ゼロナイトメアがニヤリと笑う。
「皆殺しにするためにな!!」
内に秘めた凶暴性が姿を現す。
ゼロナイトメアが姿を消す。
「くっ!?」
部屋の端に現れる。
「……」
何も言わず、トリプルチャージを放ってくる。
チャージショット、チャージショット、電刃零。
あの時のゼロのパターンだった。
今でも避けづらいこの攻撃。
電刃零をかわしてチャージショット。
「くっ」
距離をとるが…
ピシュッ… と風を斬り、また消える。
「電刃零!」
背後から現れてエックスを斬る。
「うぁあああああ!!」
思わず距離をとる。
「逃げるなよ」
ダッシュして剣を振るう。
エックスは間一髪、攻撃をかわし跳ぶ。
「終わりだ」
軽い動作で真滅閃光を放つ。
「ぐああぁあっ…!!」
地に拳を叩き付け、地を割り…強力なエネルギーを噴射する。
威力こそ弱いものの…どれもゼロの攻撃を彼は完全にコピーしていた。
再び現れたゼロナイトメアに向かってチャージショット。
「ほう?」
また消える。
-
「…逃げるなと言っておいてお前は逃げるのか?」
「冗談はほどほどにしておけ」
エックスの背後に現れ放ったのは…
「何…!?」
1,2,3,4,5,6……
無数のチャージショットを、バスターからありえないペースで乱射し始めたのだ。
…そんなことは、ゼロには出来ない!
姿を消す。
「威勢はいいがそれだけのようだな!」
「終わりだ!」
真滅閃光。
まずはこの攻撃を回避できねば勝ちはない。
だが…エネルギー攻撃というなら。
「ハァアア!」
大きく振りかぶり、チャージセイバー。
ゼロの吹き上げたエネルギーを叩き斬る。
「食らえ!」
続けてチャージショット。ゼロナイトメアの体力を削る。
「大したものだが……お前はこの技は知るまい」
セイバーを両手で持ち、掲げる。 …すると…セイバーが伸びた。ゼロナイトメアの身長の倍するほどのサイズに。
「…さぁ終わりだ」
一振りが放たれる。
「幻夢零・改!」
「………!!」
連続して3回。ありえない速度で飛ぶ斬撃が発せられ……
エックスの体を3度に渡り切り裂いた。
「がはっ………」
口からオイルを吐く。体からも染み出る。
「その程度の奴がゼロと互角とは笑わせる」
またも真滅閃光。
「ぐあぁあああああああああああああああああ!」
「お前は所詮ゼロにも俺にも勝てん」
チャージショットを2発、そして電刃零。
「お前が役に立ったことがあるとすれば…」
消える。
「VAVAからお前を庇ってゼロが自爆するきっかけを作ったあの時くらいのものだ!」
スプレッドバスター。
言われ放題で…いてたまるか。
「うぉおおおおおおおおおお!!!」
チャージセイバーでバスターを斬る。
「これから威勢だけの者は困る」
ワープ。
「これで最後だ」
セイバーを突き上げる。
幻夢零・改の構えだ。
「死ね」
一発、二発は低速…
「そこまでだ!」
三発目は高速。緩急をつけることでクロスさせる、クロスチャージと同じ原理だ。
エックスは跳びあがり…早々にブレードアーマー最強の技を放つ。
セイバーを背中まで振りかぶり…。
「ゼロはもう…」
目を閉じ……現れたゼロの形をしたそれに向かって剣を振り下ろす。
「いないんだ!!」
地へと叩きつける。
衝撃波が発生…幻夢零・改と激突。そして……
破った!!
「うぉおおおおおおおおお……!!」
…後に残るのは空しさだけ。
………悪夢はこれで終わった。エックスは、そう思った。
「……俺も随分と鈍ったものだな。
こんな奴と一緒にされるとは、な」
エックスの背に声をかける者が一人。倒したばかりの敵と同じ声をしたその者は……
「……ゼロ!!」
-
「……ぜ、ゼロ…?」
「おお、まさか戻ってくるとは……」
「迷惑をかけてすまなかったな。現在の状況を教えてくれ」
何事もなかったかのような、ゼロの復帰。
「ダメージが回復するまで、身を隠していたんだ。」
ゼロからの言い分は、たったそれだけ。
…本当にただそれだけなのだろうか。
「…………嬉しそうね、エックス」
「当たり前じゃないか!!」
ひとまずは安心。
エイリアは、次なるミッションに彼らを向かわせる。
「俺はどうすればいい」
「ゼロは…すでにミッションを終了したエリアを頼むわ。
救助者はまだいるかもしれない」
「了解した」
「………どうしたんだい、エイリア」
「大分集まってきたわね…データ解析は3分の2まで進んできたわ」
「…ナイトメア?」
「ええ」
次なるミッションはイナミテンプル。
「…ここは数少なかった女性の有志隊員達が捕らえられている所ね。
鼻の下伸ばさないように」
「?」
「なんでもない。」
世界遺産とされているこの場所もすっかり瓦礫の山となっていた。
魚型メカニロイドを倒して鳥居を潜ると…
「うわ、何だ…この雨」
「…こちらからは確認できないわ…。 …ナイトメアね」
このエリアでのナイトメアは雨のナイトメア。
強酸性の雨が体力を奪っていくというものだ。
「ここの調査員はレイニー・タートロイド…成る程ね」
つまりはタイムリミットが設けられていることに等しい。
バリアを解き降雨装置を、救助者を助けながら何とか破壊しなければならない。
エックスの体力が尽きるその前に。
だが、そんなときに限り高耐久力の敵が多数配備されているもの。
焦らされつつも順調に倒し、降雨装置のバリア発生装置4機を破壊、
降雨装置を破壊して先へと進んでいく。
「随分大きな池だな…」
「動くバーに掴まっての移動になるわ。…随分不安定なことになるから、対応はしっかりとね」
タートロイドの場所は近い。またも雨が降り出したが…
「この隙間が気になるな…」
「そこは…針もあるし狭くて…出られないかもしれないわよ」
「一応、ね」
進んだ先にはやはりカプセル。
「危険な場所だなぁ………。」
「来てくれたか、エックス。ここでは『シャドーアーマー』のプログラムを渡そう」
シャドーアーマー。
その響きにどこかワクワクしながら、エックスはプログラムを受け取る。
洞窟内を跳びまわり、バリア装置を破壊し、降雨装置を破壊し……
面倒な作業はこれで終わり。タートロイドのいる社の前までやってきた。
ドスッ…。 大きな足音を響かせ、巨体が現れた。
…8mはあろうかというサイズだ。
「タートロイド。君がここの調査員かい」
その時。
「エックス、ちょっと…」
「ん?」
「タートロイドと話させてくれないかしら」
またも知り合いだったらしい。
-
「…タートロイド。私の声、解る?」
「おお。エイリア殿か」
「そうよ…
…聞いて。目の前にいる彼が……『エックス』よ。
あなた、エックスのこと尊敬してたでしょう?」
「…………!」
エックスが照れた。
「…おお、おお……!あなたがエックスか…!通りで優しい目をしている…。」
「……ああ。」
戦うことになると思うとエックスの表情は暗くなる。
「なぁタートロイド。アイゾックの命令だからって、こんな……
雨を降らせて女の子達を蝕むような真似はやめるんだ。 頼むよ」
「……いや、命令には逆らえはせぬ。…もう、戦うしか道はないだろう」
「…だが」
「信念を守った結果、あなたに殺してもらえるなら、私は…幸せだ。」
どっしりとしたその体についた顔は…あまりに優しげだった。
「…………ごめんね。戦いづらくしちゃって」
「………いや、いいんだ」
「でも、一度彼に言っておきたかったのよ。貴方が…エックスだ、ってこと。」
「…………タートロイド!」
「すまぬ、エックス!我が命、貰ってくれぇ!!」
「嫌だッ、戦いたくない!!」
だが戦いは始まる。
「ぐあぁあああああああああああああああ!!」
突如として大量のミサイルが甲羅から発射され、
エックスを集中砲火。
辺りが爆炎に包まれる。
「タートロイドの攻撃はミサイルの雨よ!セイバーで対処して!」
「くそっ……」
チャージセイバーで一気にそれを叩き斬り、タートロイドの甲羅を斬る。
「硬い…!?」
「タートロイドのボディは物議をかもしたほどの防御力!
アルマージやマイマインのそれとは比べ物にならない!」
「……動きを止めるにはどうすればいい!」
「ミサイルの発射口よ!それを破壊して、中にセイバー攻撃を叩きこんだり、バスターで攻撃するの。
そしたら内部からタートロイドを攻撃できるわ!」
「……ああ」
斬って、タートロイドの甲羅についた発射口を破壊する。
「…うっ! …くっ!」
斬る、撃つ。 …なんでこんなことをしなきゃ。
「そうだ、それでいいのだエックス!
…メテオレイン!!」
甲羅でぐるんぐるんと回転、水の球を撒き散らす。……ユーモラスなその技。
絶対に…絶対に攻撃向きではない。
「クソッ…クソぅ……」
チャージセイバーを当てる。
ドスン、ゴスンと壁に激突し続けるタートロイドの巨体。
もう…倒すしかないのか。
「タートロイド…もう一度聞く。信念を曲げる気はないか」
「…ない」
「俺に倒されてそれで幸せなのか!!」
「そうだ…!トドメを刺してくれ、エックス!」
壁へ飛ぶ。壁を蹴る。そして………
「ぐぉああああああああ!」
背中を一刀両断するチャージセイバー。
ミサイル発射口から広がったヒビは……大きくなり、そしてボディごと砕け散った。
「有難う…本当に、有難う… そしてすまない…エックス」
「…タートロイド…。」
「……すまない。私の……製作者を止めてくれないか」
「…アイゾックか」
「いや…そうではない…私の製作者の…名…は…ゲ……………」
そのまま、息を引き取った。
「…エイリア。どうして…どうして彼らのことを知っているんだい」
「………後で話すわ」
エイリアは思い出していた。…3年前のことを。
-
3年前…。
一人のイレギュラーハンター、エックスによりシグマが倒されたその翌日。
冷房のよく効いた研究室にて、彼女は研究員全員の拍手で出迎えられた。
「いやぁ、よく頑張ったねエイリア。どうだった?イレギュラーハンターは。」
研究室の沢山のメンバーに出迎えられる中、
コーヒーを飲んで待っていた一人の長身の青年がいた。…彼女のライバルだ。
「結構ハンターも捨てたものじゃないと私は思ったわ。
シグマっていう実力者がいなくなっても…まだ強い人達は残っていたのね」
「興味深いな。もしかして君が担当したハンターがそれというわけかい?」
「ええ。そういうことよ …名前は…… 『エックス』。」
「………! …ハハハ、それは驚いた。
シグマを倒したハンターをオペレートしたのがエイリア…君だっていうのかい」
「ええ。あのゼロが勝てなかったハンターにすら勝ったっていう話だし」
「…成る程。じっくり聞かせておくれよ、エックスの話。
そして、機会があるなら次も必ず彼をオペレートするようにお願いしたいな。」
「エックスとゼロ…か」
エイリアは呟く。
「…ゼロ。次はセントラルミュージアムに向かってくれないかしら。
あそこならナイトメアソウルが稼げそうだし。」
「ああ。いいだろう」
「エックスは北極エリアね」
「北極か…カウンターハンターのいた場所でもあるね」
北極圏に存在する氷の洞窟内。
凍りついた坂道からミッションは始まる。
「ブレードアーマーのマッハダッシュを使ってね。
雪崩がいつ来ても対処できるように」
そう、ここでは雪や氷のナイトメアが猛威を振るっていた。
「避難用のポイントに救助を待ってるレプ……メカニロイドがいます」
いつもならレプリロイドを救助している所なのだが…
「大丈夫か?」
「ワオ、アオーーーン!!」
尻尾を振る。
ここでは犬型メカニロイドが救助を待っていた。
「同型のメカニロイドがイレギュラーとして混ざってたりするから…
見誤って噛まれないようにね」
更なる高速化を果たしたブレードアーマーの能力『マッハダッシュ』で高さを稼ぎ、雪崩を飛び越える。
「まだまだ来ると思うわ」
雪崩を数回に分け飛び越えると……
「今度は上から降ってくるね」
「侵入者を阻むためのものね、これは」
クレバスを飛び越えた先には…
「カプセルの反応があるけど上ね……
調査員のいるポイントに向かうには、まず洞窟を一旦下の方へ降りないと」
雪崩のナイトメアをマッハダッシュで…今度は突き抜けながら下へ。
「…氷の塊が降ってきた!?」
「氷…どんな?」
「直方体型の氷のブロックだ……」
「宙に浮いてゆっくり落ちて来るイレギュラーはもしかして…」
「ああ。ナイトメアの上に乗ってる!」
イレギュラーの乗った氷のブロックは…エックスを生き埋めにしようとしている。
イレギュラーを倒しながら氷の上へ。
その上のフロアで。
「……この縦穴は…壁を蹴って上へも行けないし…。」
「…何とかならないかしら その上に調査員がいる感じなんだけど」
そしてナイトメアで出来た氷のブロックが列になって落下してくる。
「仕方ない。このブロックを乗り継ぐしか!」
マッハダッシュで上へ、また上へ。救助者を助けながらずっと上へと登っていく。
「…私から見れば完全に宙に浮いてるわ……」
ナイトメアの上を走り、空気を蹴って駆け上がる。
そしていよいよ。
「ここの調査員は…ブリザード・ヴォルファング。…………気をつけて」
「何か、声のトーンが低いね。…そんなに強い敵なの?」
「…え?ああ…その…ごめん、ヴォルファングには話したいことがあるの」
-
扉を開くとそこは暗闇。
「イレギュラーハンター…俺を始末しに来たか」
暗闇の中で目が光る。
「…………ヴォルファング。私のことを恨んでる?」
「……何も知らなかったのだろう。仕方ないことだ
蘇ったからには…今度は俺は役目を果たすのみだ」
暗闇が晴れ、狼型のレプリロイドが姿を現す。
「だが、アンタが俺を始末したのも仕事なら、
俺がそのハンターを倒すのも仕事だ!済まないが消えてもらおう!」
大きく雄たけびをあげ、戦いが始まる。
「三角跳びの使い手よ…気をつけて…」
「……何となく、解った。
君はこの戦闘ではオペレートしなくていい…俺が、倒す」
「えっ…、ま、待ってエックs」
通信を切る。これで…1対1だ。
エックスは思った。エイリアも自分と似ている。
きっと同じなのだ。シェルダンを始末したことに負い目を感じていた自分と。
「アイスフラグメント!」
氷の塊をマシンガンのように吐き出す。
「ペンギーゴのショットガンアイスよりも数段速いな…!」
素早く移動して回避。
「逃がさん!」
ヴォルファングは機敏に動き、天井にはつらら、床には氷のトゲを発生させてくる。
「ヴォルファングが走った場所全部に発生するのか!?」
動いた場所全てがトラップになる。
氷の生成、破壊の追いかけっこの形となるだろう。
チャージショットで氷のトゲを一気に破壊、ヴォルファングへ当てる。
だが…天井のものは破壊できない。
「しまった…!」
上から降り注ぐ氷のトゲ。
トゲは一斉に降りはしない。
それぞれの時間差を考え、合間を縫って回避する。
「行くぞ!」
壁を蹴る、天井を走り…エックス目掛け跳びかかる。
「甘い!」
エックスは飛びのき、チャージセイバーを一発。
床、壁、天井。
速い上に部屋というフィールドをフルに使った戦い方をする強敵だった。
しかし天井が使えなくともエックスの方が攻撃力において遥かに上。
マッハダッシュを使えば機動力でも上回る。
最後にはそれが物を言い…
ヴォルファングはチャージセイバーで斬られていった。
「ぐぉおおおお………!」
……しかし、流石に話が出来すぎている気もする。
エイリアの知るレプリロイドが何故、こんなに?
ナイトメアソウル、DNAデータを入手し帰還したところをエイリアは待っていた。
「…お疲れ様。…貴方に任せちゃってごめんなさい」
「こっちこそ、要らない気遣いだったかもしれないな。
……過去に何かあったからこそ、エイリアの手ですっきりさせたかったろ?」
「そうね…。気持ちは…嬉しかった。
…けどどうやら…これからに持ち越しになりそうね。
ナイトメアウイルスの解析、終了したわ。」
改まってエックスに椅子を向け…エイリアは話を始める。
「…私から、話があります」
-
「解ったの。…ナイトメアの正体が」
「…ナイトメアは…私が思ったとおり。…ウイルスだった
高いエネルギーを持った…ね」
最近はシグマウイルスのような、可視プログラム体の研究も盛んである。
そして次にエイリアはそのナイトメアの作用を説明する。
「ナイトメアは…その高いエネルギーでレプリロイドやメカニロイドに取り付き、
それを操ってしまうの。…場合によっては、自らをデリートする場合もあるみたいね」
そこまで聞いて、エックスは思っていた。
「…まぁ、貴方もそこまではイレギュラー化と同じだと思うでしょう?」
「…ああ。そこまでは、ほとんど同じだ」
「…でも、ナイトメアの本当の恐ろしさは、ここからよ」
「………。」
「ナイトメアは、一見ただのイレギュラー化に見えるけど、
一つ違うところがあるの。
…それは、あるコードのみ受け付けて、そのコードを入力することで
ナイトメアに取り付かれたレプリロイドを…自在に操ることが出来るようになるの」
「…それじゃあつまり」
「そう。ナイトメアの本当の狙いは…。『破壊』ではなく、
…『支配』だったのよ」
世界を変えるべく、レプリロイドを狂わせたシグマがいる。
純粋な破壊のためにウイルスを使用した、真のゼロがいる。
世界を変えるべく、ナイトメアウイルスはレプリロイドの支配をもくろんでいたのだ。
でも、そのナイトメアを作り出したのは一体?
「………でも。
そんなことが一体出来る奴なんているのか?
ケイン博士の技術力でも…ドップラー博士の技術力でも無理だ。
洗脳は確かに以前から出来たみたいだけど大掛かりなものだし…
後は単純に破壊行動を起こさせたり、それ以外のときは動きを止めたりとかその程度だった」
「…一人、思い当たる人物がいるわ。
………こんなものを作るのは、また…こんなものを作れるのは、『彼』しかいない」
ヤンマーク、スカラビッチ、シェルダン、ミジニオン、タートロイド、ヴォルファングの生みの親。
「…私の研究所時代の同僚……『ゲイト』」
「……………同僚?」
「ええ。
私がいた研究所にいた、天才…としか言いようのない、素晴らしい頭脳を持つレプリロイドよ」
だが、天才は天才故の孤独をいつも抱えていたのである。
「彼は、素晴らしいレプリロイドを作り出したわ。
あらゆる方面でね。…貴方達が戦った相手もそれ。
ナイトメアの力を取り込んで、姿形が変わってしまったものもいたけれど……
全て、彼の作り出したレプリロイドよ」
「でも、高性能ゆえに、その仕組みを誰も理解できなかった。
…そして、理解できなかったのは仕組みだけじゃない。…ゲイトという、存在自体もよ」
「あまりに高性能すぎたレプリロイドを作り続けた彼は、いつしか
それを理解させることに必死になり…孤立していった。
そしてその内……上層部は彼を邪魔者と扱うようになった。」
「…そして、彼は処罰を食らったのよ。
色んな形で………事故に見せかけて、彼のレプリロイドを全て処分されるという、ね
…私も、騙されてその始末を手伝わされた」
エックスを見つめる。
「……それだけの理由で?」
「…ええ」
…理解できない仕組みのレプリロイドにだって、その存在は理解されているものもいるのだ。
彼女の目の前に、彼女の理解できない存在がいて…それを理解するのに日々頑張っているのだから。
いや、それが例え理解できなくとも……
「俺だって、まだ機能が理解されない部分が沢山あるのに…」
-
ヤンマークは、改造を施され事故を起こし死亡。
タートロイドはあまりにも強力な装甲を持つために周囲から妬まれ疎まれ嫌われ、最終的に自害。
シェルダンの守っていたジム博士のイレギュラー認定も誤認だった。
ヴォルファングを始末する命令を出したのは他でもない、彼の上司であり
ミジニオンは性格の問題を理由に事故に見せかけ破壊された。
スカラビッチは探究心が高じてエックスとゼロの見つかった禁断の地に踏み入ったところをエイリアに倒されただけなのだが。
「…言いづらいことなんだけどね。
ゲイトは…究極のレプリロイドとされたエックスとゼロ、貴方達を目標としていたの。
いつか、貴方達を越えられるレプリロイドを作れるように、ってね。」
「………そういえば、言っていたね。最初にシグマのアジトに潜入する前の日。」
「え?」
『研究所で同僚に言っておくわ、ゼロ以外にも目を付けるべきハンターがまだいるって。』
…エイリアの、過去の言葉である。
「…私、そんな恥ずかしいこと言ったかしら………」
頬を染め、顔を赤くしながらエイリアは頭を掻く。
「…そして…全てを失ったゲイトは研究所を出るときに私に言っていたわ。
いつか、自分の研究を理解できなかった下等な者達を…思いのままに支配してやる、って。」
「…………それじゃあ」
「ええ。その時出た言葉が『支配』 ナイトメアが…ゲイトが作り出したものだとするなら、
これは…彼の研究を理解できなかった世間への…『復讐』 そしてナイトメアウイルスは…彼の憎しみの心、そのものなのよ」
「…………だとしたら、止めなきゃ」
「…エックス」
「ゲイトの悲しみも理解は出来るよ、けど…間違っている。
今は人間もレプリロイドも、世界のこれからがかかった大切な時期なんだ。
それを、復讐のために滅茶苦茶になんてされたくはない」
「…ええ。そうね」
「…エイリア。ゲイトの作ったレプリロイドを始末した時、辛かったろう…」
「……正直ね。戦いへの憧れっていうのも実は持っているけど……
ああいうのは…嫌だった」
お互いに敵を倒す辛さは理解している。
……意見が一致した時だった。
「…よし。ゲイトを倒そう……!絶対に!」
窓のない暗き研究室。
フラスコを片手にした、一人の科学者の姿があった。
「8体中6体が倒されたか…流石だなぁ、エックスは
さて…そろそろ気づく頃かな、エックスとエイリアは。」
セントラルミュージアム。
「な…何故、俺が…負ける…?」
「ハハハハハ…!まさかゼロ、お前がハイマックスを倒すとはな!
エックスですら倒せなかったあやつをいとも簡単に倒してくれるとは!」
アイゾックは自分の側のレプリロイドを倒され、偉く上機嫌だった。
「黙れ。その減らず口を聞けなくしてやる!」
跳びかかる。
「おっと、危ないのう…」
腕から電撃の檻を発する。
「くっ……!?」
「すまないのうゼロ。やられてあげたい所じゃが…
お前の戦う姿をもう少し見ていたくなってな。」
ゼロは新調したセイバーを床に突く。
「お前のことはワシが一番理解しておる。お前自身よりもじゃ… …今日の所はここまでじゃ。
体を休めておくのじゃな、ゼロ!ガーッハッハッハッハッハ!」
「待…て…!アイゾック!」
「おお、ゲイト様ですか。これから戻りますわい」
「敗北の割りに随分調子がいいものだな、アイゾック。
これから僕は少しエックスに挨拶をして来ようと思う。お前はどうする?」
「ワシは少し準備に取り掛からせてもらいますわい。ハイマックスをパワーアップさせねば!」
そしてその翌日、ハンターベースに等身大ホログラフィが現れる。
整った顔に切れ長の目。白衣を身にまとう若き科学者の姿がそこにあった。
「流石だね、イレギュラーハンター・エックス。僕の作り出したレプリロイドをことごとく倒してしまうとは」
「誰だお前は!」
「僕はゲイト。レプリロイドの新たな統率者、理想国家を目指す者」
-
「お前…自分が何をしているのか、わかっているのか!?
世界が滅びかけたんだぞ!」
「解っているさ。だから今が絶好のチャンスなんだ
やっと時代が僕に追いつこうとしているんだ…誰にも邪魔はさせないよ」
「お前…!」
「詳しいことは研究所で話すこととしよう…
研究所の入り口を開けておく、いつでも入ってくるといいさ」
ゲイトからの通信は途絶えた。
「…エックス。今のままじゃまだ心配よ。貴方は今までのエリアを捜索して準備に当たって。
残り2人の調査員の所へはゼロに向かわせるから」
「ああ…有難う」
「…それで、次のミッションは?」
「やっと動けるようになったようね、ゼロ。
それじゃゼロにはこのミッションに行ってもらうわ。
…先輩、オペレートお願いします」
「何だか久々ね……任せて。」
エイリアやゼロですら名前の知らない、切り揃えた桃髪の女性が現れる。
最初のシグマの反乱の際、エイリアがエックスをオペレートする傍ら、
ゼロをオペレートしていた女性だ。
カウンターハンターの戦いまではゼロは死亡。
復帰後すぐゼロは研修生アイリスを自らのオペレーターに抜擢、
それと入れ替わるようにして彼女は新人ハンターのスカウトへと仕事を変えていた。
臨時オペレーターだったエイリアの手本となった女性がここに現れたのだ。
たどり着いた先は火山。だが…
「どういうことだ。マグマが青いぞ」
「こちらからだと見えないわ。エイリアからの話によるとこれがナイトメアという事になるかしら
……色だけは涼しげで新鮮かも知れないけど」
「温度も低ければよかったんだがな。俺はマグマの中に入る趣味はない」
「ないの?」
散々自爆し続けたゼロなら或いは。彼女はそう思っていた。
どんな趣味だ、そう思われながらもゼロは飛び降りる。
「…何だこれは……」
赤い、輪のような巨大な物体があるのがわかる。
「今度は何?」
「メカニロイドのようだな。輪のような形をしているが…よく見ると尾を噛んだ蛇のようにも見える」
「反応がない。…これもナイトメアって事ね。様子は?」
「ボディの4箇所に緑色のコアらしきものがあり…そこから弾を発射している。
動き自体は左右に動くだけの単純なものだ。…すぐに片付ける」
新たなるゼットセイバーは前のものより長かった。
そして、以前のものより遥かに攻撃力が高い。それは、一切揺らがないセイバーの形からも見て取れる。
「ハァ!!」
コア破壊など容易い。ゼロは厄介なそのレプリロイドのコアを次々と破壊し…
沈めていった。
ナイトメアで出来た虫がゼロにまとわり付く。
「セイバーやバスターは効かない。
ならば、虫には虫を…というわけだ。ヤンマーオプション!」
オプションからの弾でそれを破壊し、下へと潜っていく。
「炎が噴出する箇所がある様子。うまく避けて潜っていって」
広い部屋に出た。…と思うと。
「…何だ、ここは」
「どうかしたの、ゼロ」
またも赤い輪が目の前にあったのだ。
「……またあのナイトメアだ。もう一度だけ、相手をしてやろう」
ぐるぐると部屋を回るそれを倒し、扉を潜ると…。
「その部屋の上部に…随分古い、装置のようなものの反応があります」
「多分カプセルだろう… 向かうぞ」
-
ゼロは博士に一つ…聞きたいことがあった。
「ゼロ。蘇ったようじゃな」
「気がついたら傷一つない体で目覚めていた…貴方が蘇らせたのではないのですか」
「残念ながらそれは違う…。 私自身君の体がどのようになっているか解らんのでな」
「となるとあの老人…か」
「それもよくは解らんな…エイリアという子にシャドーアーマーのプログラムを渡してはくれんかな。」
「解りました」
先へと進む…と。
「………………」
「また?」
「坂道の上だな」
……赤き蛇は3度現れた。
一回の戦闘に割りと時間のかかる相手。
出るたびに正直ため息をつかざるを得ない。
「…………4度目だ。しかもマグマが下から迫っているぞ」
「ご愁傷様」
マグマの中から姿を現し、攻撃を仕掛ける。
場所が場所であるだけに…輪の4箇所にあるこのコアを攻撃するチャンスは限りなく少ない。
「少し本気を出してみようか」
ガードシェルを発生させる。
これは…エックスにはタダの光の壁でしかないが、ゼロにはもう一つ使い方が存在する。
ゼロがそれを使う場合、セイバーにもその効果は及ぶのだ。
セイバーを光が包み込み……威力が倍増…いや、それどころではないものとなる。
もっとも、相手は柔らかなメカニロイドに限られるのだが。
「食らえ!!」
コアは一撃で破壊される。次に飛び出したときには反対側を破壊する。
ナイトメアスネークはいとも簡単に敗れたのであった。
「…………もういないだろう」
だがまだいた。
「全く…」
今度はマグマから飛び出してくる。前回よりは楽なものだったが…さすがにゼロの怒りが頂点に達した。
「この技はゲイト戦まで取っておくつもりだったが…気が変わった」
ゼロが拳に力を溜める。
「食らええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
レプリロイドの世界に降り立った破壊の神…ゼロ。
彼が使う技の中で…恐らく最強とされる2つの技のうちの1つが今放たれる。
片方は幻夢零。エックスには見せなかった…ゼロナイトメアが用いた幻夢零・改の元となった技。
アースクラッシュから始まる、これに類する一連の技の中で最強とされるものである。
改とは言うものの、エネルギーの消費を少なくして威力を削り放つものであり、元の技の威力には届かない。
そして今そのもう一つが放たれるのだ。
この技をエイリアが見たら、思ったであろう。
エックスとの戦いで…この技を使用されなくて本当に良かったと。
拳を地面へと叩き付けると…そこからエネルギーは噴出しない。
遥かそらの上から、巨大な光の滝が降り注いだのだ。
その大きさは、大小ある様々な滝の中で間違いなく大きな部類。
辺り一面…見渡す限りそのすべてが、光の滝に覆いつくされ……覆いかかる全てを突き抜け、注ぎ込み…飲み込み……通り抜けるのだ。
回避のしようもないその究極の技。
ナイトメアスネークは一瞬にして消し炭と化した。
その技の名前は……
「…烈光覇。」
知らずオペレーターは震えていた。
「ゴッドバーード!!」
マグマのナイトメアを操る力を持った調査員、ブレイズ・ヒートニックスとの戦いだが、やはりゼロの敵には非ず。
炎を纏い恐るべき勢いで駆け巡る技を軽々とかわし…
「旋墜斬!」
落ちながらセイバーを振り、その首を掻き切ったのだった。
「ぎぁぁぁぁああああ!!」
-
「ゼロ。最後はリサイクル工場に行ってもらいます。
…もっとも、まだ救出されていない者もいるかもしれないから
各地を探す必要がありそうだけど」
「…解った。リサイクル工場と言えば………スクラップの山か」
立ち上る熱、蠢くプレス機とナイトメアウイルス。
リサイクル工場内は人を寄せ付けぬ危険な雰囲気を漂わせていた。
「……何故プレス機が動いている?」
「こちらからは反応がない。恐らくはコレもナイトメアね」
「……何でもかんでもナイトメアか」
「汎用性が極めて高いわね…。 ウイルスを用いた可視プログラム類の総称に最早なりつつあるわ。
或いは…エックスとエイリアが対決したイルミナの例からも考えて
ナイトメアにより動かされたものは何でも…存在を感知されなくなる可能性もある」
「………面倒なことだな」
すぐにライドアーマーが目に入る。が……
「プレス機が動いているのにライドアーマーに乗るのは自殺行為よ」
「乗らんぞ、誰かさんでもあるまい。」
その頃、エックスはくしゃみをしていた。
「スクラップが動き、メットールが背の低さを生かして住処にし…
ナイトメアウイルスが自在に動く……最後まで残していた意味が解った」
誤作動を起こす超巨大プレス機の下を潜りながら、彼はどんどん奥へと進んでいく……
「何だ、これは」
青い扉。イルミナ跡に現れたものと同じようなものだ。
潜ってみると……。
「…ゼロ、ゼロ? ………反応が消えた…一体どこに…」
モニターはゼロの視界を捉えている。
ナビゲーション画面の範囲を広げ…ゼロの反応を追尾してみる。
「…いた」
そこは施設の地下だった。
「…おい、これはどういうことだ。ベルトコンベアまで動いているぞ」
「……これもまた反応がないから…」
「いや、もういい」
プレス機は容赦なくゼロを潰しにかかる。ベルトコンベアは蠢き、
救助者もおり、ナイトメアウイルスは彼らを狙い、床には何故かトゲが大量。
そんな状況が、かなりの距離の間続いている。
「床に至っては凍っているぞ……とんでもない悪意を感じるな。最早笑えてくる」
「…笑ってみたら?」
さすがにゼロでも進むことは困難。
苦難の末、救助者全てを救出した上で進めたのは奇跡といえた。
「こんなの誰も進めないわよ………」
最後にプレス機自体が巨大メカニロイドとしてゼロに戦いを挑んできたが…
これは割りと簡単に倒すことが出来、最深部まで漸くたどり着いたのだった。
「ここにいるのは何だ」
「調査員はメタルシャーク・プレイヤー。…変わった名前ね」
「…そうか?」
「ええ。人間以外の動物をモチーフとして開発した場合、
大体はファーストネームが能力、ファミリーネームにモチーフの生物が入るものよ」
扉を潜るとそこはスクラップの海だった。
「…来る」
-
鉄の海を泳ぐ音はとても五月蝿い。
鰭のみを出しガシャガシャと音を立てて泳ぎ…スクラップを巻き上げ飛び出してきた。
オイルの海を悠々と泳ぐ下劣なレプリロイドも以前存在していたが。
「シャッシャッシャ!スクラップの仲間になりに来たみたいだなぁ…ゼロ!」
「それはお前だ。今もこうしてスクラップにまみれている…お似合いだ」
碇のような先端部をしたモリを手に、プレイヤーは笑う。
「そのスカした面は気に入らねぇなあ……決めた。お前は特別に苦しめて殺してやるよ!!」
戦いが始まる。
プレイヤーは潜り、背びれだけを出して先ほどのようにガシャガシャと鉄の海を泳ぐ。
「メタルアンカー!」
飛びあがりモリの先端、碇を飛ばしてくる。
それは鉄の海を跳ね回る。
「翔炎山!」
ヒートニックスの能力。地を駆け摩擦で炎を吹き上げるセイバーで敵の体を払い、斬り上げる。
「こいつぅ!!」
鉄の海を泳ぐプレイヤーはとても硬いボディを持っている。
そのボディが鉄の海を一度蹴れば、スクラップはたちまち巻き上げられる。
だがゼロは跳んだ。
氷狼牙の能力で高く高く…。そしてそのまま技へつなげる。
「旋墜斬!」
体重をかけ、プレイヤーの腹にセイバーを突き刺す。
「…へへ、まだやりてぇこともしてないのに、やられてたまるかよ…!」
プレイヤーが大きく跳ぶと叫ぶ。
「出でよ……! カメリーオ!」
「?」
「ににににー!ゼロさんじゃないですか!」
すると…何と部屋の中に3年前死んだはずのカメリーオが現れたではないか。
「プレイヤーの名は伊達じゃない…って所ね」
舌をムチのように使って攻撃するその攻撃を再現する。
「貴様…!!」
「いい顔すんなぁオイ…出でよ……ヒャクレッガー!!」
「ぜ…ゼロ…さん…」
今度は部屋の隅にかつてゼロの部下になる予定だった男、ヒャクレッガーが現れた。
手裏剣を大量に投げてくる。
「ぐっ!?」
「まだまだ行くぜ!?出でよ……ホーネック!」
「うぐぐぐ……!!隊長…!」
そしてホーネックが現れ、パラスティックボムを乱射する。
「お前………!!」
「なあ、お前強いみたいだし、こうやっていたぶって殺すだけはちょっとつまらなく思えてきたぜ」
ヒャクレッガーの手裏剣を回避しながら。
「俺はなぁ、こうやって戦闘方法として不完全に蘇らせることも出来るが
完全な復活もさせられるんだ」
「なぁ、俺らの仲間にならないか?どうせこれからはゲイト様の世界だ、」
カメリーオの舌を回避しながら。
「いくらでも死んだお前の知り合いを復活させて」
ゼットバスターでホーネックを撃つ。
「お前の好きなように従わせることが出来るんだぜ!?」
「…黙れ!!」
跳びあがり旋墜斬。
「動揺してるみたいだなぁ…まぁいい、俺にこうやって敗れれば考えも変わるさ!
出でよ………!」
「円水斬!!」
ぐるりと回転、プレイヤーを切り刻む。
三日月斬より数段素早い、水を纏ったその剣はプレイヤーの体を綺麗に真っ二つにしていった。
「なぁぁぁぁ…!?」
爆発を起こすプレイヤーの体。
しかし彼は………爆発の中で立っていた。
「…全員蘇っちまええええええええええ!」
「!?」
プレイヤーの腕からDNAデータがバラ撒かれる。
プレイヤーは最後の力で……大量のイレギュラーを復活させたのだ。
「おびただしい数の特Aクラス以上のイレギュラーが復活していく…!!」
「……エイリアとエックスに伝えろ。戻るのが少し遅れるとな」
「ほう…懐かしい顔、知らない顔…沢山いるな」
-
「やぁエックス、奇遇だねー」
「お前、ダイナモ……!そこで何をしている」
アマゾンエリアから繋がる、アマゾンエリアのナイトメアに満たされた別空間にて。
エックスは草原の上でダイナモと遭遇していた。
「何を? あー、実はさ。ちょっとパワーアップをしたくなったものだから…
集めてるんだよねー、ナイトメアソウル。」
「…何」
「エックスのボウヤも集めてるんだろ?なーなー、俺にもちょーっとくれよ!」
ダイナモはそう言うと腕に集中させた力を床にぶつける。
「うあぁぁあああ!!」
ダイナモのこの技は更に強化。ダイナモのいる位置以外の全範囲を攻撃できるまでになっていた。
一瞬怯んだが負けずにダイナモにチャージセイバーを食らわせる。
「さてさて…どれだけ持ちこたえられるかなぁ」
セイバーをぐるぐると回転させ、分裂した刃が次々と飛び出してくる。
「奴の弱点…一体なんだ?」
背後に回りチャージショットを食らわせつつ、ダイナモに色んな武器を試してみる。
「弱点ー?俺にそんなものはないってー」
斬りつける。…自ら弱点があると告げる者もいないだろうし、本人が気づくものではないだろう。
増してや、能力から判断の出来ない人間型の場合は。
だが、やはり存在した。
「メテオレイン!」
「ぎああぁあ!?」
弾む水の球がダイナモの体を押し上げた瞬間、ダイナモから悲鳴が。
それと共に……見つけた。ナイトメアソウルだ。
「お、オイ!ハンターが人の物取るなよ!」
「盗品だろう、それに本来の持ち主に当たる奴にこれから会いに行く所でね!」
「滅茶苦茶するねー」
続けてメテオレイン。ボロボロと落としていくナイトメアソウルを手に入れ、
ダイナモに最後にチャージセイバーを当ててトドメ。
「ちっ……マジだもんなー、これだからヤだよハンターさんたちは」
「今本気にならないでいつ本気になるっていうんだ」
「アンタらはいつだってそーだろ?
…ま、いいや。俺はここまでにしておくぜ。…ああ、そうそう」
ダイナモはエックスから距離を取り、転送装置を取り出しながら言う。
「アイツらはマジに気をつけた方がいいんじゃねえかな。
シグマの旦那より危ないかもしれないぜ?」
「ゲイトのことか?」
「何せ俺がこうやって使ってるナイトメアの力を一番自在に使える奴なんだからさ。
それだけじゃない、アイツらのアジトは半端じゃない場所だぜ。気をつけるんだな。
…まー、言っても止まる奴じゃねーか?じゃあな!」
ダイナモは去っていった。
「まぁそれだけじゃないけどな。 ゲイトって兄ちゃんはもう一つ何か隠してそーな感じがするんだよなぁ
それに…ヤバい奴らしいしな……ああいう、恨み憎しみで動いてる輩が一番何するかわかんないのさ」
それからハンターベースに帰ったエックスはエイリアに出迎えられる。
「…エックス、おかえりなさい。…準備は、いい?」
「……ああ。いつ出発になる?」
「3時間後よ。それまで休んでいて…ゼロも向かわせるから、負担は減ると思うけれど」
エックスは思っていた。
ゲイトもアイゾックも、科学者レプリロイド。ハイマックスはゼロに倒されている。
…研究所での罠は危険だとは思うが、今自分達にとって脅威となるものは何もない。
なのに、ゲイトは何故そこまで余裕でいられるのだろう?
そして…どうして自分は不安に陥っているのだろう。
「結局、ゲイトを止めることまで貴方にお願いすることになっちゃったわね…」
「俺はイレギュラーハンターだからね。 …エイリアもオペレートを手伝ってくれ」
「…ええ」
エイリアの中にはある気持ちが渦巻いていた。
…いつもいつも、自分はエックスを見ているばかりだ。
それで…本当にいいのだろうか。本当に自分で出来ることは背中を見送り、遠くからオペレートすることだけなのだろうか?
オペレートすることの大事さは知っているつもりだ。けれど……。
-
「ふう…。 よし、行って来る!」
「気をつけてね、エックス……」
一方、ゼロと桃髪のオペレーターの方も。
「シャドーアーマーの最後のデータはダグラスに渡したか?」
「うん。もうエックスはシャドーアーマーを着ているはず」
「俺は少し遅れて向かうことになりそうだな」
ゼロナイトメアとハイマックスに初めて会ったあの場所のすぐ近くに…それはあった。
「大きな穴が開いているみたい…研究所がまさか地下にあったなんてね」
「…確かに。奥はよく見えないな…飛び込んで見るよ」
穴の中は真っ暗。何も見えない…… どんどん落下していく。
そして、床に着地した時…
「奥に何か明かりが見えるな。エイリア、聞こえるかい?」
「………エイリア?」
「…ごめ…、電波じょ…たいが悪…みた…。」
「……そうか…解った。エイリアは繋がるときまで待機しててくれ。俺一人で進むよ
ゲイトを…とめてくる」
入ってすぐに、トゲの壁があるのがわかる。それ以外には登る道もない。
忍者を模したシャドーアーマーの能力が発揮される。壁の針を何事もないかのように登る。
「ガイアアーマーも同じ能力があったが、この場合特に機動性が落ちることもない。優れたアーマーだ…」
バスターから手裏剣型のバスターを放ち、上へ。
「氷の坂道……戻らせるつもりは全くないな」
ナイトメアにより凍った床にも敵が沢山。
倒しながら進んでいく。
すると、エックスの耳に高い音が聞こえてきた。
「今度はレーザーか…」
レーザー装置の攻撃の合間を縫って上のフロアへ。
「…マグマのナイトメアか!」
色は青ではなく赤。床下から湧き出、引いていくマグマのナイトメアをかわして更に先へと進むと……。
「……何…だ、これ」
ドクン、ドクンと心音のような音が響く。
ジジジジ…と電撃の中から現れたのは…奇怪な存在だった。
「うっわぁ…」
紫や赤の球体がごろごろと繋がり、脈動した…塊。中心には目。
「ガハハハハ、よく来たのうエックス。これは偶然出来たとは言え侮れたものではないぞ?
ナイトメアが増殖に増殖を繰り返し作り上げた怪物…『ナイトメアマザー』じゃ!」
「ナイトメアマザー!?」
よく見ると2体存在する。
巨大な部屋の中を巨体がぐるぐると移動する。
「うわぁああ!?」
ギリギリでの回避となる。
ギギ、ウィー… 機械音を発し、ナイトメアマザーの目が飛び出る。
「コイツ!?」
床を炎の雨にする。ジェルシェイバーのような液体窒素を床に走らせる、電撃をエックスの真上に落とす。
あらゆる現象を意のままに操る能力があるようだ。
「おらぁああ!」
チャージして放つはセイバー。三日月型の金色の斬撃はナイトメアマザーの目を切り裂く。
だが。
「…硬い…!」
一発目の攻撃で解った。これは長い戦いになるだろうと。
またも回転。いつ止まり、目を出すかも解らない。だが止まってはいられない。絶えずナイトメアマザーは動き続けているのだから。
「今度は何だ…!?」
ナイトメアマザーは上を向き、その瞳からマグマを乱射させ始めた。
…火山弾が上から次々と降り注いでくる。
「…どう避けろっていうんだよ!!」
様々な攻撃を組み合わせるナイトメアマザー。その戦いは削り、削られ…
サブタンクも使い切っての、長い長い…ボロボロの戦いとなっていた。
「…終わりだ!!」
セイバーの出力を最大にし、三日月の刃を柄から二回射出する必殺の技。
エックスの周りを三日月がぐるぐると8の字を描き跳び、その中にあるもの全てを死に至らしめる。
シャドーアーマー最強の能力により、ナイトメアマザーは漸くその動きを停止したのだった。
真っ二つになり飛び散る目の中身、そしてマザーを構成するナイトメアのかけら。
グロテスクな光景に思わず目を伏せた。
-
トーテムポールが行く手を阻むゲイト研究所。
ミジニオンの兵器研究所に現れたように並んで現れる鳥型のメカニロイド…のように見えるナイトメアを倒しながら
上へ、上へと彼は進んでいく。
氷、レーザー、マグマ、トーテムポール、鳥…
どうやら全てのエリアのナイトメアをここは集めていたようだ。
「エイリア、どうやら電波状態がよくなったみたいだ。」
「…ホントね。…先へ進みましょう」
だがここでゲイトからの通信が入る。
「やぁ、よくここまで来たねエックス…そしてエイリア。
君はいつも研究所の中でトップだった。
きっと君とエックスのコンビならここまでたどり着けると信じていたよ」
「…いいえ、貴方は自分の思うままに研究を進めていっただけ。
私よりも優秀な頭脳を持っているはずなのに。」
「……どんな優秀な頭脳も正しく使われなくては意味がない。
…お前とエイリアの差は、きっとそこにあるはずだ。」
「聞き飽きた言葉を並べてくれるね、君達は…。
まぁいい… 実はね、僕も僕一人の力じゃここまでは来れなかったんだ
…君達がここまで来た褒美に見せてあげようか。これを」
取り出したのは…鉄片。
「何だと思う? …タダのガラクタだと思ったよ 『始めは』。
…そうだな、これを何処で拾ったか言えば解るかな?君とゼロとが戦った、禁断の地だよ…」
「……まさか」
「…いい反応だね。そう、そうだよ。ゼロの欠片だ!
僕はゼロのDNAを手に入れることが出来たんだ!」
「…ゼロの、DNA…!?」
「天にも昇る気持ちだった…!
レプリロイドを研究する誰もがたどり着けない境地…
聖域に踏み込んだんだ!」
彼は…社会の裏に身を隠していた、コロニー破壊失敗を嘆いた一人の若者に過ぎなかった。
復讐など、本当はとうにあきらめていたのだろう。
…だが。
シグマと同じだった。彼もまた…ゼロの体が持つその力に心を狂わされた一人だったのだ。
…ゼロが持つ根源的な悪に染められ、復讐の炎が再び燃え上がったのだ。
「笑いが止まらなかったよ…!
ハイマックスやナイトメアウイルス…こんなに完璧なものが
こんなにも簡単に出来てしまうんだから!」
「………許せない」
「そうだ、いいぞエックス!
欲を言えば、ゼロが死んだままだったら君は更に怒っていたんだろうがね!」
「ゼロの力をそんなことのために利用するなんて許せない!
…ゲイト、お前は絶対に俺が捕まえて見せる!」
「望むところ…! 研究所の最上階で待っているよ、エックス!」
「それじゃ先に向かうことにするよ、エイリア。」
「…ええ。」
ハイマックスの強度の理由がここでわかった。
ゼロは…単にウイルスにかかって攻撃力を強めただけではない。
ゼロはウイルスにかかり、真の力を手に入れたその時…何者の攻撃も受け付けない、究極の体になっていたのだ。
どんな攻撃も弾き返し、傷の一つもつけない…謎の力。
…その真のゼロの力をもし、ゲイトがハイマックスにつけていたとしたら。
だが…不完全なのだろう。
ハイマックスは事実、ゼロに一度破られている。
ゼロの攻撃はセイバーとDNAデータを用いた技の2種類が存在する。
技を食らわせた後はセイバーでの攻撃が効いたとゼロからの報告にはあった。
恐らく、DNAデータを乗せた攻撃がハイマックスに打ち込まれることで
ハイマックスは一時的にゼロのDNAの効力を得られなくなるのだろう。
そこに攻撃力の高い、ゼロ自身の攻撃を浴びせることでダメージを与えることが出来る。
…その特性は、きっとハイマックスがずっと持ち続けたものなのだろう。
-
一方ハイマックスとゼロとの戦いは、中盤にさしかかっていた。
「何度でもバリアを張りやがる…怖いのか?」
「何とでも言うがいい。死ね、死ね…オリジナル…!」
立方体を二つに割った、直方体型のバリアを腕の左右から発生させ、自在に操る。
これがハイマックスに新たに加わった能力だった。
バリアを張り突進を続けるハイマックス。
「無駄だと言っているだろう!」
ガードシェルを使って強化したセイバーによりハイマックスもろとも攻撃。
だが…ハイマックスに直接ダメージを与えることはこの技だけでは不可能。
「死ぬがいい」
小型のデスボールをゼロに向かい放ち続ける。
「翔炎山!」
ハイマックスに炎を吹き上げる剣を浴びせ…
「落鋼刃!」
上から、プレイヤーの技をハイマックスの体へと叩き込む。
セイバー自体を鋼で包み、当たると同時に爆破するものだ。
「ぐはっ…!?」
ハイマックスがバランスを崩す。効いているようだ。
「デスボール!」
彼の代名詞と言える必殺技。巨大な圧縮エネルギーが地を這う。
ゼロのセイバーにより分解、小さな球となってゼロを追う。
「ぬっ……」
「はああああ!」
またもハイマックスはバリアを張る。
そして…
「ぬん」
左右へバリアを解き放つ。
「押しつぶされるがよい」
飛ばされたバリアがどこからか一つに合わさって現れ…一つの非常に重い立方体となってゼロに降りかかる。
「烈光覇!!」
バリアの破壊に成功する。
…ハイマックスの攻撃は全てここで破られた。
どれもゼロには対処可能な攻撃。いずれハイマックスはゼロの前に敗北するほかなくなる。
「おの…れ…おのれ…おのれ…おのれ…おの…れ…!!!」
ハイマックスが…壊れた。
「デスボール、デスボール、デスボール、デスボール、デスボール、デスボール…」
狂ったように、その腕からデスボールを乱射し始める。
「狂いやがったか」
最早ゼロのDNAの防御力は得られない。その力はデスボールを生成することに費やされているからだ。
「ハァ!!」
斬るとデスボールも斬られ、小さな球となり対処が難しくなる。
高速で打ち出されるデスボールの対処はとても困難。
…体力と体力の戦いへと変化していった。
だが…すでに大分体力の削られていたハイマックスと、数発食らったのみのゼロとでは差は歴然。
「終わりにさせてもらおう!」
壁を蹴り、高く跳びあがったゼロは…
「落鋼刃!!」
技を放つ。
肩から胸へ、胸から腕へ、腹へ、脚へ…顔へ…。
亀裂が入り……
砕け散っていった。
「ガーーーッハッハッハッハ!!!」
煙の中、満足げに笑う科学者の顔があった。
-
「エックス。俺とお前とで同時に入るぞ…いいな」
「ああ!」
ナイトメアの空間への入り口を示す青き扉。
再生したアルティメットアーマーを手に入れたエックスと
ゼロは同時に扉へと体当たりを仕掛けるが…
「!?」
エックスは一人だった。
雨が降りしきる研究所内。そこには蟷螂のナイトメアの姿もあった。
「…もう勘弁してくれ」
ゼロの着いた先はプレス機のナイトメアの部屋。
それぞれが道を進んでいくこととなった。
二人は道を進んだが…
プレス機は行く手を阻むタイプのナイトメアであるため、エックスの方がやや早い。
「………」
彼はいつしか、ゲイトの部屋の前にやってきていた。
「…クソッ、最深部についても先へ行けない…!?」
「ヒャヒャヒャ…プレス機ばかりの場所につくとは、お互い運が悪いねぇゼロの旦那ー」
「貴様……!!」
「なぁ、ちょっと本気で戦ってみないかい?最強の神サマよ」
おちゃらけた表情で現れたのは勿論この男。
「逃げ道もない。これでお前のことも本気で殺れそうだ…」
「ハハッ、怖いこと言っちゃいけねえよー?こーんな…
夢ん中でさ!」
バイザーの割れたダイナモの背後には無数のセイバー。
「…いいだろう、付き合ってやろう。どうせゲイトの奴はすぐやられる」
破砕音がこだまする中…ゼロは剣を構える。
「エックス。ここは…どうやら電波状態がとてもいいみたい。通信、出来るわ」
「………なるほど。行こう、エイリア」
暗い部屋の中…。
エックスはとうとうたどり着いた。ゲイトの部屋に。
「フフ、流石だね…全て壊されたよ」
「あきらめろ、ゲイト。お前一人じゃ…何も出来ないだろ!」
「私からも言うわ。…ゲイト、貴方はこんな人じゃないはず。目を覚まして」
「月並みな言葉だねぇ…君達。
…悪いけど半端な気持ちで科学者やってはいなかったんだよ、僕もね。
だから…最後の実験くらいさせてくれよ」
「……まさか!!」
「すでにゼロの欠片は埋め込んである。
エイリア、君の言う最強のハンターと戦えるなんて夢のようだよ。願ってもいないことだった!
さぁ…最後の実験だ。」
白衣を脱ぎ捨てると同時に、ゲイトの姿は変化していた。
金色に輝く、ゼロを模した流線型のボディに。
白衣は背中でマントへと変わり、ヘッドパーツは長く美しく伸びていた。
「はじめようじゃないか、エックス!」
そのパワーで部屋の床が崩れ…吹き飛び…宙に浮く。
複雑な戦いに適したバトルフィールドに変化していった。
-
ゲイトの腕から巨大なエネルギー体が放たれる。
「…!?」
「見えないのか、エイリア!」
「…間違いない。……ナイトメア!」
ナイトメアで出来た弾を高速で撃ち出すゲイト。
弾は一箇所に留まり、ゲイトの操作で小さく分裂、ナイトメアの弾となってエックスを襲う。
「くっ…!」
逃げるしかない。
「待て!」
ゲイトは自由自在にこちらを追いかけてくる。…この能力はまるで。
「フリームーブ!? エックスのファルコンアーマーも使えていたけど、まさかゲイトまで!」
続けて放たれた弾からはナイトメアウイルスが。
「クソッ…!」
プラズマチャージショットで破壊する。
「かかってきてみるがいい!」
ゲイトは自由自在に飛び続ける。
「ノヴァストライク!」
光の矢となってエックスはゲイトを貫く…だが。
「…? 何をしたのかな」
「…え!?」
「ノヴァストライクが…効かない!?」
最強の技すらも…ゲイトの前には一切効かない…。
「クソッ!!」
もう一度ノヴァストライク。その後またプラズマチャージショット。
…ゲイトの体には何一つ通用しない。
ハイマックスでは不完全だった。真のゼロが持つといわれる何者をも通さない究極のボディを……ゲイトは手に入れていたのだ。
「素晴らしいパワーだよエックス!!だがその様子。今のが君の最強の攻撃かな」
続けてナイトメアの弾を放っていく。今度の色は緑。
「何!?」
この弾はエックスを追い続ける。
「そこにこれでどうかな?」
ゲイトは水色の弾を放る。
「うあぁぁあ……… うっ!!」
吸い寄せる力を持つ弾。
これによりエックスは奈落の底へと引きずりこまれるか…二つのナイトメアの弾に取り込まれるかになる。
「負けるか!!」
プラズマチャージショットで攻撃する。
ナイトメアの弾が弾け、ゲイト自体にもダメージが及ぶ。その時だった…。
「うっ!!?」
「……ゲイト!?」
ナイトメアが弾けた破片に当たり、ゲイトが苦しみだした。
「…まさか」
彼のボディは全ての攻撃を受け付けず、ナイトメアに強く親和性を持っている。
故に…… エックスの力により破壊され、歪みの生じたナイトメアを取り込むことで、ゲイトのボディ自体が歪み始めるのだ。
「…何!?」
ナイトメアはナイトメアの力で滅ぼす。…そういうことか。
ゲイトにはナイトメアでの攻撃しか攻撃方法は存在しない。…自分の全ての攻撃が、自分の首を絞める術となりうるのだ。
「だが……俺自体がナイトメアの弾を壊すことでダメージを負う……」
「大丈夫、エックス…!」
「大丈夫だ。……ゲイト。お前のボディをお前の力で破壊してみせる!」
「望むところ…。これで文字通り、どちらの体が先に散るかの勝負になったようだねエックス!」
白衣のマントを翻し、またもナイトメアの弾を放る。
緑と紫。ナイトメアウイルスと緑のナイトメアの弾がそれぞれの動きでエックスを追い詰める。
「食らえ!!」
マグマブレード。ヒートニックスから得たこの炎の刃によりナイトメアは破裂する。
「うあっ…!」
エックスの体にダメージ。だがゲイトはこれを避け、新たにナイトメアを放る。
赤と水色。…赤は見たことのない色だ。
「動きを鈍くするナイトメアだ…だがそれだけだと思うなよ!」
体が動かない。体内での信号伝達が遅らされているのだ。それだけではない。水色のナイトメアによって吸い寄せられていく。
「う…!あああ…!!」
何とかエアダッシュで壁にしがみつく。
「醜いねぇ」
続けて黄色のナイトメア。これは分裂弾を放つものだ。
「…うっ……!」
叩き落すべくゲイトが近づいてくる。その時を見計らい…
「食らえ!!」
ナイトメアを破壊する。
「なっ…!?」
またも飛沫にゲイトの体が変異を起こす。
「くっ……!」
だが…変異し続け、どんどんゲイト自体がウイルスに冒されていくことで、いったい何が起こるのであろうか。
彼の体は限界にどんどん近づいていくのだろう。だが…
-
「まだ…だ!」
「クソッ…!?」
何度も何度も。お互いに命を削りながらナイトメアをぶつけ合う。
「く…」
セイバーを使ってナイトメアを破壊したり、特殊武器を使ったりしながら。
いかに奇をてらい、ゲイトに弾をぶつけるか。
だが、何をしてもこちらにはダメージは跳ね返ってくる。
…確実にピンチは訪れている。
…だがゲイトの体の変異がとうとう高レベルにまで達し始めたようだ。
浮いているだけで息の上がるゲイトだが…エネルギー出力は更に上昇し続けているのだ。
「失せろぉおおおお!!」
エックスの目の前でゲイトがナイトメアを放ろうと手を振り上げたその瞬間。
「!?」
ゲイトすら知らぬ変化が起きた。
ゲイトの手から……その瞬間、妖しく輝く刃が出来、床も、壁も、空間も全てを切り裂いたのだ。
「……どうやら、追い詰められた僕に更なる力が備わったようだねぇ……!」
「やめてゲイト!」
「これだから実験はやめられない!」
ナイトメアを放り続け、エックスの注意をそこに向けたところでナイトメアの刃で切り裂く。
「うああああああああああああああ!!」
切り裂いたボディからナイトメアがエックスのオイルを吸収する。
エックスの体が下へと落ちていく。
「だがまだ奈落の底に落ちるには早いか…しぶといね!」
またもナイトメアの刃。
エックスは紙一重で避けるが…反撃の手段が見つからない。
この攻撃は反撃のしようがない。ナイトメアとして破壊し、飛沫をゲイトにぶつけることが出来ない…
「エックス…逃げて!もうゲイトには勝てないわよ!」
「あと…もう少しなのに…!!」
ゲイトは実際、物凄い力を手にしているのだろう。何者にも傷つけられない力をつけたのだから…。
このまま完全にゼロの力を手に入れてしまった暁には、世界はナイトメアに蝕まれ続けることになる。
ここで…ここで止めなければ。
「ゲイト…!!」
ノヴァストライクを繰り出す。
「どうしたんだい」
通過する。ナイトメアの刃が空間を切り裂く。
「あぁああああああ!!」
「逃げ道などどこにもない、あきらめるんだねエックス!」
近づき、エックスを叩き落とす。エックスの体が宙に浮く床へと落ちていく。
「まだまだ…!」
ゲイトにナイトメアの刃を繰り出させ続ける。
もし、ナイトメアの力を食らうことでゲイトが更なる力をつけたのだとしても。
…ゲイトの力とて無限に続くものではないだろう。
無限に沸き続ける力ではあっても、一時的な枯渇はありうるものだとすれば……。
そこを狙えばきっといつかは……。
全ては仮定だ。100回に1回の…いや、もっと少ないかもしれないチャンスに賭けるに等しい。
「甘いねエックス!!」
ゲイトは腕を振りかざす。
「…何?」
だが放たれたのは破壊の出来る、ナイトメアの弾だ。ゲイトの力が一時的に尽きた…!
緑色の弾だ。これなら…!
「……悪夢は結局、お前を滅ぼすんだ!」
エックスが跳ぶ。そして…変形。
「ノヴァストライク!!」
ナイトメアの弾へ突進。勢いよく弾けとび…ゲイトへと吸収されていく!
「嘘だぁあっ………!!」
ゲイトのボディに亀裂が生じ……
光が噴出する。眩い光の中で大爆発を生じ、ゲイトのボディが砕けていった。
満身創痍のエックスは胸に手を当てながら……。
倒れたゲイトをじっと見つめるのだった。
-
「くっ……ゼロのDNAの力を持ってしても…勝てなかったか!!
…解析が、不完全だったからな……」
「……終わったか」
「エックス…」
ゲイトは息を切らしながら笑みを浮かべる。
「ふ…フフ…だが……
だが、まだ…終わりじゃない!!
こんなこともあろうかと…策は練っていたんだ…」
奥の空間が歪み…何かが顔を出す。
「…あ…悪魔を…復活させたよ!………シグマを…ね!」
「ええい…調子に乗るなぁ…小僧!
あの…程度では、私は…死なぬわぁああ…!」
またも。
「ぐうう…邪魔だぁああ…失せろぉおおおお…!!!」
口から巨大ビームを発射。各所が崩壊したゲイトの体はそれに飲み込まれていく。
「ぐあぁああああああああああああ………!!」
「あ…後は…邪魔者は…もう、お前達…だけだぁぁ…
ち、地下で…待ってるぞぉぉ…!」
不完全な復活のシグマはまたも闇に紛れ、消えていった。
「大丈夫か、エックス!」
「ゼロ…!」
ダイナモとの戦いの最中にゲイトが敗れたことで空間が不安定になったらしく。
ゼロはナイトメアの空間を脱出し、この部屋まで来ていた。
「シグマが…?」
「ああ。研究所の地下にいるらしい。急ごう!」
地下へと向かうその道中。ハイマックスを倒した部屋で、笑っていたはずのアイゾックが倒れていた。
「…行くのじゃ、ゼロ。
お前こそが、世界最強の…ロボットじゃあ…」
最早息をしていない。
だが…確かにそう聞こえた。
「……どうしたの?ゼロ。…アイゾックが倒れているわね。
どうしたのかしら…」
それは製作者からの、ゼロへの最後の言葉だった。
-
研究所の地下は奇妙な色をしていた。
床は血のような赤に染まったその地下室には…お約束の通りの8つのカプセル。
ゲイト製作のレプリロイドを8体とも倒すと…シグマの居場所への一人用のカプセルが現れた。
「ここから先は俺が戦おう。…お前は逃げろ」
「でも……!」
ゼロはお構いなしにカプセルへ足を乗せる。
「暇をもてあましている場合ではないだろう。行け」
「……………。」
一人残されたエックスは考える。
自分に何か出来ることはないか…と。
研究所はシグマが死ぬと同時に恐らく崩れるだろう。
ならば………。
「…行こう。」
彼は走り出した。…ゲイトを助けに。
「ジネ”!ジヌンダ!デロォオオオオオオ!!」
最早まともに喋ることすら適わぬ。
第二形態となったシグマは巨大なボディの口から、巨大なビーム砲を放とうとしていた。
「ハァ!」
一発斬る。
「おぉおおおおお!!!」
…どうやら刃の通りは悪くない。
まずは強化したセイバーを更に特殊武器ガードシェルでセイバーをコーティング。
「…ダグラス。このパーツを使わせてもらうぞ」
そしてパワードライブのパーツを用いる。短時間の間、攻撃力を上げる代物だ。
「…さあ最後だ、シグマ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シグマの顔を強化に強化を重ねたセイバーで一気に叩き斬る。
シグマの顔が真っ二つに割れ…一発で内部まで裂いていく。
最強のセイバーの切れ味は…シグマにその一太刀でトドメを刺した。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ボディが爆発する。辺り全体が爆発に包まれる。
シグマの顔はヒビ割れ…いよいよ最期の時を迎えていた。
「む、無駄だ…無駄だ!私は蘇るぞ!?解るだろ、ゼロ!お前ならわかるだろ!?なぁ!?」
最早何か助けを求めるようなシグマの声。
そんなシグマを哀れみながら、ゼロは言う。
「これからの世界は忙しいんだ…もう、二度と蘇るな…永遠に眠っておけ。」
シグマの顔が熱を持ち……爆ぜる。
研究所の地下を震源とし…地震が巻き起こった。
シグマは死んだが…それでもゲイトのような者が、現れ続けるのだろう。
自分が…いる限り。
最早死ぬ事もままならない。ゼロはこれからの自分のことを…考え続けていた。
「…………エックス…!」
「お、おい、エイリア!」
結局、ゲイトとの戦いまでエックスにやらせてしまった。
…これが自分の過去との決別になるのか…今のエイリアにはまだわからない。
ただ……彼女は思っていた。こんな、力になれない役目ではもういたくないと。
いつになるかは解らない。どういう形になるかも…解らない。
エックスの力となれるように…どんな形でもいい、彼を全力で支えること。
彼がたとえこの先、どんな答えを出そうとも。
エイリアは、それを心に決め…走り出すのだった。
-
ハンターベース技術部。
そこには、ダグラスとおそろいの眼鏡をかけた…いや、かけさせられた、
彼と親子ほどの外見年齢差が見られる少女がいた。
「私イヤですよー、こんなのー!
まん丸眼鏡じゃなくもっと可愛いのがつけたいんですー!」
「あー、もう最近の娘っこってのは面倒だなぁもー…」
広いオデコが特徴的な、幼い少女レプリロイド。
彼女は部屋の入り口に立つエックスを見るなり、ぺこりとお辞儀をする。
「あ。こんにちはー、エックスさん!
私、ダグラスさんの元でメカニック技術を学んでいる者です!」
「ダグラスの弟子かい?…よろしく」
エックスの気の抜けた返事に彼女の眉毛はハの字になる。
「あのー。どうかしましたですか、エックスさん?元気ないみたいですけど」
「ああ。エックスはいつも割りとそんな感じだよ。」
「ダグラス!!」
エイリアの一喝。
「そういう一言がエックスを更に考え込ませてしまうのよ……」
小声でダグラスに囁く。
そして振り向きエックスに。
「…あ。エックス、気にしないでね?」
そしてエックスはダグラスに聞きたいことを聞く。
「ダグラス… 所でゲイトのことだけど」
「ああ。ゲイトか。アイツの体は…もうダメだな。ありゃ完全にイカれちまった」
「……そうか」
エックスとエイリアの表情が暗くなる。
「でも面白いものでな。精神から蝕まれたこいつは、シグマの攻撃を受けて
精神から治ってきているみたいなんだ。」
「…ということは?」
エックスが言う。
「ああ、だから…ゲイトの人格そのものは何とかなるんじゃねえかな。
………これを取り除くのは時間がかかりそーだが……お前が言うならがんばってみるさ。」
「…本当?」
今度はエイリアが。
「まぁ、コイツがしてた通りプログラム研究が現在盛んだからな。
レプリロイドやめることにはなっても、何とか別の存在として生きていけるだろーな」
その言葉を聞いて、二人は安心した。
その様子を見てパレットが言う。
「二人とも、今は忙しいんですか?」
「…そうではないけど、ちょっとミッション後だからね。体を休めておきたい」
「私は暇だから後でお邪魔しようかな」
「はいっ!息抜きしたくなったらいつでも来てくださいねー!」
元気すぎるなぁ、この子は…。
そう思い、エックスは軽く手を振って挨拶する。
続いて廊下を歩くとシグナスとライフセーバーの話し声。
「うむ…かなりの実力の持ち主だな……やはり任務をやらせてみて、正解だった」
「やはり最近のレプリロイドは出来が違うということでしょうかな。
オペレーター見習いにしておくには勿体無い所です。」
切り揃えた桃髪の、ゼロのオペレーターが姿を現す。
「あ、そうそうエックス。この子を紹介したいんだけど…
私がオペレーター出向いてハンターとしてもスカウトした、期待の娘よ。」
「あら、あなたは…!」
エイリアも彼女に目をつけていたようだ。もっとも、こちらはオペレーターとしての彼女にだが。
「お嬢様なのに頑張るわよねー…」
「はい…。はじめまして…エックスさん。私…現在オペレーター養成学校の学生の身の…」
濃紫色の長い髪は前髪も隠し、目がほとんど見えない。
褐色の肌と泣きボクロ、エックスを超える長身の体格に…何よりやたらと目立つその張り出した胸。
エックス達と比べ遥かに大人の雰囲気を漂わせた新人だった。
「そうか。君、なかなか強いみたいだね。即戦力になってくれると嬉しいんだけど」
「いえ、今はまだ見習いの身ですので。
あの…と、所であの……ぜ…ゼロさんは…」
ゼロの話になった途端、急に様子が変わった。
「……あーあ、また始まった」
桃髪のオペレーターはやれやれと首を振る。
「……もしかしてゼロが怖いのかい。」
「…また始まった……」
今度はエイリアが。
「い、いえ!そんなことはないんです!ただその…やはり有名なハンターの皆さんにはご挨拶をしておかねばとその…」
顔が真っ赤になる。ゼロのこととなるといつもらしい。
オペレーターを志す彼女が、ハンターとしてのエイリアの先輩のスカウトに応じたのも、
彼女がゼロのオペレーターであったことは無関係ではなかろう。
「ゼロなら確か今パトロール中のはずよ。後3時間は戻らないと思うわ」
「そ、そう、ですか…」
「この子、これから帰る所でね…一度ゼロに会わせてあげたかったんだけど。」
彼女はしょぼんとして去っていった。
「……俺もそろそろ今日は休むことにするよ。 …ちょっと最近、疲れてるみたいだ」
「うん。…そうした方がいいわ。何かあったら私が呼ぶから…安心して寝ていて」
エックスの部屋の前まで送り届ける。
-
「そして、エックスが危険のない存在であったとしても…
私には不安もある。
エックスが……エックスが、『進化』という名の戦いに、巻き込まれるのではないかと…」
ケイン博士から聞いた、ライト博士の言葉の続きだ。
エイリアは考える。
ゲイトの作り出したレプリロイドは、ゼロのDNAの力を手に入れることで更なる力を得た。
ゲイト自身も、そしてハイマックスの存在もである。
…だとするならば、…もしこれが…ライト博士の危惧した進化という名の戦いの序章であるのならば。
自分には、一体何が出来るのだろう。
…エイリアは、ずっと考えていた。
だが時間は待ってはくれない。今日も世界の復興のための戦いは続いている。
「どうか、未来の世界の人々よ…
ロックマンエックスが……世界の希望であることを…
忘れないで欲しい」
…そうして、シグマの正体を探る戦い、シグマが世界の裏に回っての戦いが終わり…
物語は、最終章に差し掛かるのである。
だが…鍵を握る、キーパーソンがまだ一人…ばかり足りない。
それは、ナイトメアの影響が過ぎ去ってすぐの…雨の降りしきる町の、路地裏のこと。
「レッドさん、レッドさん!ガキが倒れてやがりますぜ!」
「……あん?」
痩せながらも筋肉のついた………壮年の男が少年に近づく。
「大分怪我を負っているように見えるな……。」
体躯の老人が言う。
「この小僧からは、何かただならぬ気配を感じるわい…」
「ほっとけよ、そんなん!ひぇひぇひぇ…」
「……どうします、リーダー。」
翼をはためかせて青年が言う。
「…おいボウズ。てめぇ…歩けるか」
すると…少年は反射的に跳ね起き、驚くべき速度で壮年の男の鎌を奪い、思い切り斬りつけた。
だが男は反射的に跳び退き、顔を傷つけられるだけで済む。
ボス!リーダー!レッドさん!ガキ!!何しやがる! …様々な声が沸きあがる。
「…ほう?」
したたるオイルを指でぬぐう。
「……誰だよ、アンタ…」
「俺ぁレッドだ。」
「………アンタ達…何なんだよ。…イレギュラーハンターじゃ、ないよね?」
「イレギュラーハンター? ハッ、やめて欲しいねぇ。アイツらの名なんて聞きたくもねぇ。
……そんなことはいいとしてだ。お前、なかなかいい筋してるな…俺らんとこに入らねぇか?
…その腕、磨いてみねぇかい。
まぁ…行く宛てがあるなら別だけどよ」
「…………」
無言で頷く。
「こんなのを入れるのか、レッドさん。俺はごめんだ…」
双剣を構え青年が言う。
「…お前がそういうなら、…戦ってみりゃあいいさ。ボウズ、名前は?」
「アクセル」
-
しまったオペ子一人名前バレしてたぁぁぁぁ
-
「エイリア、君の同僚なんだろ?それに俺は…これ以上、レプリロイドを失いたくないんだ。」
ゲイトの事件を締めくくる一言が発せられた。
「言ったはずだ、エックス。引き金を引くのをためらうなと」
この言葉に始まった戦いから…3年と少しの間のこと。
3年、6年、9年………それから世界に歳月は流れた。
世界の各地が復興作業が続くその世界。
少しづつ、町も再建を始めた…。 だが、完全復興までは大分かかる。
誰もがその日を病に蝕まれることなく食いつなぐのが精一杯という、瀬戸際の社会では…もうない。
だが、以前のように何不自由ない、秩序の行き届いたしっかりとした社会では、決してない。
それぞれがそれぞれのルールで社会を取り締まり、貧しい中で様々な生き様が交錯する。
あの戦いの責任は誰にある?これから誰がこの社会を引っ張っていくと思う?誰に頼ればいい?頼れないなら強くなるため何をすればいい?
情報も世情も何もかもが乱れた…人とレプリロイドの果てない欲望が作り出したこの、不安定な世界。
何をしても不安、何があるか全くわからない。
新たなる犯罪、新たなるイレギュラーが増え続ける…混沌の時代がそこに到来していた。
「エックス。このイレギュラー事件のことなんだけど」
「…どれどれ。少し見せてみてくれないか」
エックスは…戦うことをやめた。
戦いは何も生まないことをイヤというほど味わったためだ。
何度も考えた末だ。…彼はその判断に後悔はしていない。
エイリアも、同じような苦しみを抱えていたから。 …解るのだ。
でも、一方で思っている部分もある。
エックスが最終的に行き着く答えが本当にこれなのだろうかと。
でも…今それを口にしたところでただの…
「イレギュラー事件が発生したみたいだ。ゼロ、頼むよ」
「解った。エイリア、オペレートを頼むぞ」
「はいはい」
「場所は町の中心部に位置するハイウェイの上。ゼロ、気をつけてね」
合間を見計らい、エックスが話しかける。
「なあエイリア。その場所って確か……」
『俺達に逆らうとは馬鹿なことをしたな
命は一つしかないんだ。大事に使うべきだったな!ハハハハハ』
…思い出した。あの時VAVAに掴まれ、ゼロに助け出されたあのハイウェイだ。
「…懐かしいな」
いつぞやのような蜂の形をした、けれど比べ物にならないほどの強化を施されたヘリをゼロは攻撃する。
3度に渡る戦いにより、崩れたハイウェイを彼は進み…
トンネル内でイレギュラーとの戦いを繰り広げることとなる。
-
道路上へ出る通路にはスイッチを押すと一時的に開く上への壁。
再び閉じる前に駆け上がり、高速道路上を走っていると……
「どいてどいてーーー!」
素っ頓狂な声が夜空に響く。
「おいそこのお前、何をしている!」
ゼロの目に、怪しい少年の姿が映った。
後ろから吹き出るような髪の色は茶。
顔にはX字の傷。黒きボディにホバー用のウィング。
手には銃。
どうやら彼は何かから逃げているようだ。
「ちょっと何してるの、早く逃げないと!掴まっちゃうよ!?」
「お前、一体何を…」
そうゼロが言った瞬間。
巨大なメカニロイドが落下してきた。これがターゲットとなった巨大イレギュラーらしい。
『メガ・スコルピオ』と呼ばれる、蠍型メカニロイドだ。
「全く…何が起ころうとしているんだ…?」
崩れ行く高速道路を渡り歩きながら、メカニロイドとの距離をとる。
安全に戦える場所まで誘導したところで…
「ねぇアンタ、ゼロだよね?」
「…だったらどうする?」
少年は気さくにゼロに話しかける。もっとも、時が時であるためその喋りは却って浮く。
「よかった!ちょっとこれを倒すの手伝ってくれないかな?
僕もほら、イレギュラーハントは結構得意なんだけどさ」
「…関係者なんだろう?……止むを得ないが、後で話は聞かせてもらうぞ」
「あー、うん…解った!僕の名前は『アクセル』。後で全部話すから!」
「説明してもらうからな、アクセル!」
ゼロは新型の転移装置にて、一時安全な場所へ避難させる。
メガスコルピオの攻撃は尾からの射撃に、ハサミでの攻撃。
単純な攻撃方法であるスコルピオはやはりゼロの敵ではない。
だが…。
「どうにも戦いにくい相手だな」
接近戦は難しい相手。
そこで…アクセルに切り替わる。
「任せて!」
アクセルは跳び、ホバー能力でジャンプの頂点位置で浮遊しながら銃を撃つ。
彼が持つ銃『アクセルバレット』が敵の脳天へと弾丸を打ちつける。そして…
「おっとー!」
その爆発から逃げる。
ひとまずはミッションコンプリートのようだ。
「………ハンターベースまで来てもらうぞ、アクセル」
手錠をはめる。
「え?…あの、僕別に逃げるつもりってわけじゃあないんだけど……」
「いいから来い」
アクセルを重要参考人として連行することとなった。
「…レッドアラート?…ああ、あのならず者の集団か」
-
「ヒャーハハハハハハハ!
バレちゃあ、仕方ねえ!!死になァッ、ハンターさんよォ!!」
密林の中、衝動に身を任せ、バンダナに迷彩服の戦士は両手のマシンガンをぶっ放し、
イレギュラーハンターを次々と撃ち殺していく。
素手での格闘、武器を使った近接戦、銃や重火器を用いた遠距離戦。
何でもこなす腕だけは立つ問題児がかつて…一人いた。
それがレッドだった。
だが戦いは終わりを告げる。
それは煙の立ち上る、薄暗い軍港。
「カーネルさんもジェネラル様もハンターにやられちまったしなぁ……この有様じゃあ」
「…ああ。おエライさんもバカやったもんだ。俺もそろそろ見切りをつけようと思ってたトコでな」
黄色い潜水艦をバックに。
レプリシーフォース所属の男とレッドの会話。
「…俺はこれから…そうだな。
腕を生かして、食っていけねぇ奴らをまとめあげられる
何かこう、コトを始めようかね……」
男はレッドの言葉に顔をしかめる。
「…危険な仕事はするなよ?レッド。」
肩で笑ってレッドは返す。
「そうでもしなきゃこの先、生きてらんねぇだろうが。
…お前さんこそこれからどうするつもりなんだい。俺んトコにゃ、来ないか?」
「オレは…落ち着いた仕事がいいな。…パン工場とか、小学校の先生とかさ………。」
男はにへらと笑って、楽しそうにこれからを話す。
半ば呆れたようにして息をつきながら。
「…ハァー…そうかい、そうかい…
……気楽なもんだぜ。…ま、嫌いじゃねえがよ。なんだかんだでお前みたいなのが
これからも案外しぶとく生きてくのかもな…」
「………まぁ、何だ。 …お互い、これから頑張ろうよ」
「ああ、解った。…じゃあな……… …あ。お前名前なんつーんだったか?」
「オイオイ…。
オレの物忘れ激しいのがうつったか?レッド。オレの名前はね…」
「………あー、そうだったそうだった。悪りいな。あァ、覚えとく。」
そんなこんなで、一人の元・レプリフォースの男が作り上げた組織…
『レッドアラート』。
凄腕の鎌使いレッドをリーダーとして、来るものは拒まずの精神で彼に惹かれた者達、
或いは身寄りのない者を引き取ったりなどして様々な経緯で集まった賞金稼ぎたちの集団。
彼らは滅んだ世界の中で、弱体化したハンターに代わり名声をあげていた。
実力者が集まるこの集団はハンターより迅速に、頼みにくい物事、調べづらい物事まで解決してくれるからだ。
アクセルはレッドに拾われた者で、
その実力はレッドアラート内でレッドに次ぐ2番手とされていた。
「ごめん、悪いことしちゃったかな…?」
「『悪いことしちゃったかな…?』」
「あー、ゴメンゴメン!
…でもさ。レッドアラートだって、ちゃんと真面目に仕事してたんだよ」
「してた…?」
「そんな顔しないでってば。
…レッドがさ。ある日…変わっちゃったんだ」
ゼロは手錠をはめたアクセルを連行し、ハンターベース司令室へと移動する。
「お疲れ様ですー、ゼロさんっ!」
オデコの小さな女の子とすれ違いながら。
「お、何か今の子カワイかったね!何て言うの?」
「…話を聞いてもらう気はないようだな」
「わー、ゴメンゴメンってば!」
-
「おかえりなさい、ゼロ。 …その子が参考人?」
エイリアが言う。
「お前達の内輪揉めのせいで、どれだけの被害が出たと思っている!!」
エックスが続ける。
「落ち着け、エックス。
……それで、ゼロ。何か情報はつかめたか」
シグナス。
「…どうやらレッドアラートから逃げてきたのには訳がありそうだ。これから追々聞くこととしよう」
その時。
「!? …何者かに通信がジャックされたわ!」
「よし、繋げろ」
「……?」
「よぉ、イレギュラーハンターの皆さんよ。
俺ぁレッド。…レッドアラートのリーダーを努めさせてもらってるモンだ」
映った姿にその声。アクセルは声をあげる。
「レッド!?」
エックスが言葉を被せる。
「…お前は黙っていた方がいい。」
「なぁ、そちらに一人ガキが来ていやぁしないかな?
俺達の要求はただ一つだ。そのガキ、アクセルを俺らの所に返してもらいたい。
手荒な真似ァしたくないんだ。」
シグナスはアクセルに視線を移す。
「…ごめん、僕はもう…」
シグナスは冷静に彼に語りかける。
「お前達の企みが解らない以上、嫌がっているアクセルをそちらに返すことで何があるかわからん。」
「そうかい。…言うだけ言っては見たものの…すぐに返してもらうことぁできそうにないな。
…そこでだ、ここで俺から少し提案があるんだ。
ハンター対決、ってのはどうかな? 勝ったらアクセルはアンタらにくれてやる。
だが負けたらアクセルはこっちに返してもらう」
エックスが吼える。
「ふざけるな!お前達の戦いのせいに巻き込むんじゃない!」
「現役を引退した腰抜けにゃあ黙っててもらいたいね。
これから8箇所のポイントを指定して、俺らがいる所にアクセルを連れて来てもらおう。
そこで勝負だ。…いいな? 俺らだって負けるわけにゃあいかねえ。腕利きの奴らを集めさせてもらうぜ
じゃあな、イレギュラーハンターさんよ!」
レッドからの通信が切れた。
「………クソッ、また戦いが始まってしまう…なんでこんな無益なことが毎回、毎回…」
頭を悩ませるエックス。エイリアもつられて暗くなる。
「…エックス」
そこにアクセルが声をかける。
「…エックスが言っていることは、解るよ?面倒を起こした僕が言っちゃダメかもだけどさ。
でも…戦わなきゃ解決できないことって…あるんだよ」
幼い言葉は的を得ていた。
「…そう言うなら、お前には覚悟があるんだな?」
ゼロは彼を見下ろす。
「…もちろんさ。 …ダメなんだよ。僕の手でレッドを止めないと。
僕はハンターになりたいんだ。…こんな所で捕まっていられない」
「まだ言っているのか!」
「本気だよ!僕、エックスとゼロに憧れてたんだよ?
レッドアラートに入る前、
僕イレギュラーハンターに入りたかったんだから!」
「……憧れだけで勤まる仕事じゃ、ないんだ。」
エックスの言葉は厳しく、辛く…悲しかった。
「エックス、その辺にしておけ。
…もうアクセルを返して解決する問題でもあるまい。」
「…とにかく、僕はこれからゼロと一緒に行くからね!
絶対見ててよ!」
押収した銃を投げる。
「………いいだろう。…俺を、納得させてみせろ」
「!
ありがとうエックス! よーし!行くよゼロ!」
「元気なことだ…。」
凸凹な身長の二人の戦いが始まる。
-
着いた場所はジャングルの奥地。
「あっついなー、僕さ、こういう蒸し蒸ししたところ、苦手なんだよね」
「なら交代するか?」
嫌味でもなく、ゼロは言う。
「冗談。僕の力をエックスに見せるためにも、やっぱりここは僕が戦わないとね!」
「いいだろう。やってみろ」
アクセルに任せゼロは転送装置で姿を消す。
「どうかな、僕が作った新型転送装置は。」
コンピュータの中から合成音声が発せられる。ゲイトだ
「ああ。ゲイト… 具体的にどこが変わったのか教えてくれるかしら」
「二人交代で戦うことが出来るようになった、と言えば解りやすいかな」
ゲイトが力説する。
「待機中のハンターはこの装置から戦っているハンターの姿を見ることが出来て、
いつでももう一人のハンターの居る地点を目標として転送することが出来る。
緊急時なんかには便利だろうね。」
「後、場所を選ばないから通信妨害があろうともすぐに駆けつけることが可能になったんだよ。
より自由な戦いが可能になるはずだ」
「そういうわけだ。お手並み拝見と行くぞ」
「まっかせときなよ!」
森林を進む。
「ルインズマン、って言われてるね。
遺跡なんかを守護しやすいようにああいう格好してるんだって。耐久力もなかなかのものらしいよ」
「俺に説明しているのか」
彼の武器はアクセルバレット。拳銃である。
「よ、っと」
ルインズマンを倒しながら進むと遺跡を探索中の民間レプリロイドが助けを求めていた。
「大丈夫ー?」
「いやぁ、助かったよ」
簡易転送装置にてハンターベースへと転送していく。
モアイの並ぶ遺跡を進むと。
「結構な崖だねえ」
「俺なら跳び越えられるが」
「跳ぶ、か。それもいいけどそれよりは僕なら…」
ひょいとジャンプ、そのまま背中の翼と足から噴射する。
「ふふふーんと」
ホバー能力。彼の代表的な力の一つである。
「それで……超えたところでまだまだトゲだらけか…嫌な所だねー」
そう言った瞬間。
「む?」
アクセルが何と、トゲの上を平然と動き出したではないか。
「…お前、そんなに強いボディを持っていたのか」
「………」
暫くしてトゲの植物を乗り越え。
「詳しくは後で話すよ…」
-
森の高台の一番上。森を見渡せるそこは太い柱を中心として
円形に石の床が広がっている。
「アクセル、ゼロ。そこが敵との待ち合わせのポイントみたい」
「あれれー?」
そこにはモアイがびっしり。誰もいない。
「…倒せ、ってことだね」
エックスバスターは腕を水平に伸ばさないと十分な効力を成さない。
しかしアクセルバレットは敵の位置をお構いなしに攻撃できるのだ。
「あー、もうしつこいなー……」
モアイは空を飛び、岩の塊をアクセルへ向けて撃ってくる。
ぐるりとローリングして回避しながらどんどんこちらも撃つ。
「…ふー…。」
何とか全て破壊。輪になったモアイは森の茂みへと消えていった。
「強力なエネルギー反応!」
「ウッホーーーウ!」
それを見届けた途端、レッドアラートは姿を現した。
レッドアラート・メンバーの一人ソルジャー・ストンコングだ。
「ストンコングさん!哲人って言われたアンタまでこんなことに協力してるの?どうしちゃったの!」
「ワシは…ただ、リーダーに借りがあるのだよ。アクセル、悪く思わないでくれ」
盾を構えた腕を地面へ叩き付け…がっしりとした体躯の老人は戦いを始める。
「ガイアシールド!」
腕についた岩のような丸盾を飛ばす。
「よっと!!」
ホバーで浮きつつ回避、バレットを連射。
「ホーーーーウ!」
石斧を取り出しアクセルに向けて振り下ろす。
「ぅわわぁっ!」
慌てて距離をとる。
「危なっかしくて見てられん」
ゼロがここで強制交代。
盾に対し剣。ゼロの攻撃が始まる。
「トウ!」
「タァ!」
「セァ!」
大きく踏み込み三段斬り。
「ぬぉぉぅ…!?」
「これは避けられるか…!?」
柱にしがみつき、長い盾を投げる。
すると盾は二つに分かれ……周り込み、柱を中心にゼロを潰しにかかる。
「だが少しばかり距離が足らなかったんじゃないか?」
盾は円形の場所をぐるりと囲うように動くが…足りなかった。
「………!」
「本当にタダの計算ミスか」
跳びあがり空中でセイバーを振るう。
「うぉおおおおお!!!」
ストンコングがその厚い胸板をたたき始める。
「来るか」
突進だ。
円形の足場をぐるりぐるりと走り始める。
その速さは素早く、ゼロといえどそう簡単に追い越せるものではない。が……
その巨体を跳びこせるならそれ以前。飛び越し後ろから斬りつける。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」
ストンコングの体から閃光が発し…球状に爆炎が上がり砕け散る。
「盾を飛ばすまでは考えはよかったが…そんなものか。」
-
「………なんだ、お前は!?」
ゼロの前に現れたのはルインズマン。岩で出来たごつごつとした遺跡の守護者。
「……!…!…!!」
ジェスチャーで何かを伝えようとする。
ゼロはお構いなしにセイバーを抜いた…その瞬間。
「待ってってばゼローーーー!」
「…なんだお前か」
そう。彼はアクセルだった。
「えっとね。僕のアクセルバレットの能力の一つなんだけどさ。
僕、実はこうやって変身できるんだ。この、コピーショットで倒した相手にね。」
「………お前、流体金属か何かで出来ているのか」
いつぞやのどこかのダブルを思い出しながら。
「ううん。そんなことはないよ?
でもどうしてか解らないけど、僕は相手のDNAをこうやって手に入れることが出来るようになってたんだよね。
DNAがルインズマンのそれそのものになるから、僕は森の中を自由に、トゲを気にせず歩けるようになった、ってわけ。
…普通に歩いたら痛いもんね。」
「へぇ…面白い能力だねー」
「わわぁ! 君いたの!?」
おデコの目立つあの子が後ろにいた。
「あれ?こうやって会うのは初めてだったっけアクセルー。」
「いっつの間に名前まで…。 この前の聞こえてた?」
「ゼロさんに連行されてる時ー? 何か話してたかな?」
どうやら聞こえてはいなかったようだ。
「いや、いいよいいよ。それじゃ僕これからミッションに向かうから」
「あ、少し待ってて。エイリアさん今技術室で休憩してるところだからー。」
続いてのミッションは海上。
レッドアラートはレプリシーフォースが放棄したバトルシップの多数を自分のものとしていた。
「経験を積んでからの方がよかったんじゃないのか?ここは相手の巣の中だぞ」
「気にしない気にしない。 さ、行こうよゼロ」
いきなり船に入るなり、爆弾を二人に向かい投げつけるレッドアラート隊員達。
「ターゲットのいる船はこの船じゃないわ、救助者だけ助けて後は無視して先へ進んで!」
「了解ー」
救助者を救出、次の船へと跳び移ろうとすると…
鳥型の大型メカニロイドが行く手を阻む。台の上に乗っている…
よく見るとこれは砲台の一種であり、敵はぐるりぐるりと回転しながら甲板を高速で滑っているようだ。
「不恰好な敵だな」
「これ、ゼロには向かない敵じゃないのー?」
アクセルの真価が発揮される。
銃の照準を敵へと向け、集中砲火。だが…
「わわっと…!」
さすがに撃っている間に動くことは出来ないらしい。
攻撃と回避の両立は難しいようだ。
…敵が壊れる。
「よくやった。次へ行くぞ」
「最短ルートで行くならその次の船にターゲットがいるわ。その船も無視して」
敵を倒しながら先へと進む。
「………うわぁ」
3本の首が海から顔を出し、船を覆う。3体の海竜型メカニロイドのようだ。
「…こういうデカイのはゼロにお任せ、っと。交代!」
ゼロにより、炎を吐き出す3本の動かぬ首が次々に刻まれていく。
「さ、次だね次ー!」
「アクセル、着地に注意して!!」
降り立った先は…なんとオイルの上。
「!?」
「アクセル、すぐにホバーを!」
オイルの上からホバーで浮く。その瞬間…船に炎が放たれた。
「あっぶないなー……!!」
燃え盛る船上。…でも船そのものには燃え移らない様子。ここは…出来が違う。
「バトルシップの母艦みたいね。こんなものを燃やすなんて…
アクセル、そこにブリッジが見えるわね?」
「…あれかな。」
「あれは巨大なメカニロイドになっていて、あそこにターゲットが乗り込んでいるの。
そこを目指す…んだけど、」
「!」
コンテナとコンテナに挟まれたエリアがせり上がり、武装を満載した壁に変化する。
「まずはそれを破壊して」
-
これは僕の出番だ。そう思ったアクセルだが…
「代われ」
強制交代、ゼロが壁へと突進…壁をセイバーでガリガリと削り続ける。
「早っ…!?」
「ゼロらしいわね…」
壁は遠距離に攻撃をするが、セイバーでその前に破壊すればまん前にいるのが最も安全。
攻撃を開始する前に武装は一気に削られ…壁は斬り崩されたのだった。
「行くぞ」
その先で待っていたのは管制室。
腕が生え、頭が飛び出、人型メカニロイドの上半身の形を取る。バルカン砲が360度に配置され…ぐるぐると回転し始める。
「イルミナ級にエックス垂唾……」
戦闘が始まる。まずはゼロに交代、下部の回転バルカンを次々に潰していく。
そしてアクセルに交代、空へ浮きバレットを乱射し続ける。
「はっはー!」
顔が変化。どうやら敵は砲弾をぶっ放すつもりらしい。
「食らえ!」
ゼロはセイバーでこれを跳ね返し管制室に当て…爆発させる。
続けてアクセルに再び交代、銃弾を当て続け…
「やったわ!!」
バトルシップが崩壊。…海の中へ消えていく……。
「空のコンテナがあっちにあるわ!それに乗って!」
間一髪脱出。瓦礫を乗り継いでいった所…。
「…出て来なよ」
渦潮から姿を現したのはレッドアラートのメンバー・スプラッシュ・ウオフライだ。
「よぉ、裏切り者」
「やぁ、卑怯者。」
嫌よ嫌よも何とやら…というレベルではない。
お互いがお互いを元から機会があれば殺すつもりだったのだ。
「いいチャンスが巡ってきて、こちとらお前に感謝してるくらいだぜぇ!!」
「そりゃどーも。」
「ひぇひぇひぇ!しっかしお前らバカだなぁ!わざわざ…」
「俺が戦いやすい地形にしてくれるなんてよ!!」
こっちが不利になっても勝てないことを解らせてやるんだよ。
…そう思いながらアクセルは笑う。
戦いが始まるなり、ウオフライは海水へ潜る。
「あらよー!」
「ゼロ。ここは僕に任せといてよね、こんな奴はすぐに片付けるから、さ」
「ひゃっははは!」
ウオフライは勢いよく跳び出ると手に持っていた薙刀・Dグレイブでアクセルを連続で斬りつけようとする。
「よっと。おっと…甘い甘い!」
「てめぇ!」
単調なその動きをあざ笑い、距離をとって弾丸を放つ。
「そのホッソい体、穴だらけにしてやるよ♪」
「生意気言ってんじゃねぇ!!」
彼の必殺武器、スプラッシュレーザーが口から放たれる。
圧縮された水が貫通力を持ち、敵を貫くのだ。
「うわぁっと、ばっちぃ!!」
口から放たれた水を間一髪で避け、また銃を放つ。
「テメェにはそれで十分さ!」
グルグルと薙刀を回転させて歩く。
「ウザい攻撃するねぇ」
攻撃は弾き追いかけてくる癖に動きは遅い。別の瓦礫へ跳び移り……
「最後だよ!」
バレットに力を込め……巨大な弾が放たれる。
「チャージショットか!?」
ゼロは言う。だが…違う。赤い弾がウオフライに激突、貫通。大きな衝撃で吹き飛ばし……
「ちきっしょおおお!!」
貫かれたウオフライを海へと帰して行った。
アクセルの手元に海から何かが取り出される。
「よっと♪」
手で握りつぶす。…これで終了らしい。
「今のは何だ」
「ああ、DNAデータだよ。武器生成に必要なのはこの後コイツの体から出るでしょ?」
「……コピーするのに必要な弾というのはそれか」
「そ、コピーショットって言うんだ。覚えといてね」
-
「…しかしお前もアレだな、ゼロ。
一番最初に女の子と仲良くなった割にエックスにもアクセルにも先を越されるなんてなぁ」
「……何のことだ。」
「いや、最初はお前に凄い嫉妬してたものだけど、今となってはなんかな……ま、頑張ろうや」
ダグラスは技術室へ去っていった。
ふと目をやると、ベンチの上で同じ袋のおやつをアクセルとおデコの目立つ娘が二人で一緒に食べている。
「あー、ヘホー!(あー、ゼロー!)」
「食べながら喋っちゃダメでしょアクセルー。」
「楽しそうで何よりだ。」
「ああ。ごめんごめん、僕自身のこと話さなきゃならないんだっけ?」
「…いや、別に後でも構わんが。」
「いやいや。やっぱ今ここで話しておくよ」
「ポップコーンを口に入れながら話さないことだな」
アクセルが話し始める。
「変身能力がある、そこまでは話したよね」
「コピーショットを使うらしいな」
「そ。それでね 僕はその能力を持っているからレッドに追われているみたいなんだ」
「…やはり組織でもお前だけなのか、その力を持っているのは」
「他に見たことないからね、そんな能力持ったレプリロイド。」
…合点が行った。
「けど…僕の能力もそんなに万能じゃあないんだ。」
「…というと」
「限度があるみたいなんだ。背丈が僕と近いレプリロイドじゃないと難しいみたい。
…ああ。とはいっても、エックスとか、ここにいるキミとかは大丈夫。
ゼロになると…難しいけど行けるんじゃないかな?」
「広いじゃないか」
「あくまで僕と同じく人間に近い形であることが一つの目安かなぁ。
例えば…」
イレギュラーハンターの功績として、過去ハンターが撃破したイレギュラー達が並べられている。
「この、バイオレン、とか アジール、とか。 シグマとか。そういう感じの奴は多分無理。
レッドアラートのみんなにもなってみようとしたけど…無理だった。」
「…どういう理屈だろうな」
「多分、変身に凄く力が要る。正確には『今の僕じゃ無理』なのかも」
「…ほら、アクセル、ゼロ。次のミッションが始まるわよ。…急いで!」
話はここまでだった。ミッションが…始まる。
「お姉さん、エイリアっていったっけ?何をそんなに急いでるのさ。」
「次のミッションは…緊急なのよ。」
次なるミッションはすぐ近く。
高速道路内に作られた、レーシングマシン用のサーキット。
使うのは勿論、ライドチェイサーだ。
「そのライドチェイサーは使いづらいから気をつけてね、アクセル。」
「お、新型かなー?凄く乗り心地がいいよ」
「…アクセルにやらせて大丈夫か?」
エックスが言う。
「うーん。見てみるしかないわね…」
「具体的に何をすればいい」
ゼロは聞く。
「見えないかしら。サーキット上に爆弾が沢山仕掛けられているの。
それを一つ残らず回収して欲しいのね。…敵の妨害を潜り抜けた上で。」
「そんなの簡単だよー!」
ライドチェイサーは好みが分かれるとされる。
アーマーはごつごつとしていて、好むのはVAVAやエックスくらいのものだが。
エックスが愛用するは昔ながらの加速力に優れた「チェバル」
ゼロが愛用する、攻撃性に優れた「アディオン」
女性陣はもっと違ったものを好むらしいのだがそれは置いておいて。
…そう。このライドチェイサーは正に…彼向きと言えた。
「ひゃっほーう!」
チェイサーはノロリノロリと走り始める。
爆弾を回収し、敵を蹴散らしながら進み始める。
少し、速くなり始める。横転したトラックを横目に、もっとスピードがついていく。
更に速くなる。速度を落とす床に一瞬だけ触れて爆弾を回収、そして…
-
いつしか、乗りこなすのが難しいまでに加速し続けたチェイサーは手がつけられない速度に達していた。
「1週で全て取りつくすつもりなの!?」
何回も何回も巡れば時間内には取りきれるだろう。そういう推算だった。
だが…何回も、ではない。1ラップでアクセルは、全ての爆弾を手に入れようとしていた。
「道が途切れてるぞ!」
「そんなの知らないねっ!」
ジャンプ台から豪快に飛ぶ。着地してすぐにボディを急に曲げ爆弾を2個回収。
そして…
「終わりぃー!」
あっという間のタイムで彼はサーキットから安全を取り戻したのだった。
後は…サーキット上部の『彼』を倒すだけ。
「ブヒブヒーー!オラオラー!どけどけぇ!このイノブスキー様に跳ねられてぇかー!」
個性的な男が現れた。
体ごとバイクへと変形するそのレプリロイドは…ヘルライド・イノブスキー。
「何だ。ロードアタッカーズの残党か」
ハイウェイで暴走していた、エックスに撃たれたレプリロイドの総称だ。
「ああぁん!?て、テメェ今なんつった!!」
「…ロードライダーズの方か?」
砂漠でエックスのチェバルを劣化チェバルで暴走していた暴走族だ。
「テンメェェェェ!上等だぁオイ! タイマンで勝負しろやぁ!」
「だそうだ」
「じゃあ僕下でチェイサーに乗ってるね、アレ楽しいー!」
戦いは始まった。
「ブヒブヒー!続けぇ続けぇ!続けぇ!続けぇ!」
戦いの舞台は金網の檻。
彼の特殊武器・ムービングホイールが彼のボディ後部から射出され…
走る彼に続いていく。
そして放つ。
「全く騒がしい奴だ…」
武器をウオフライのDグレイブに持ち替え…
「水烈閃」
勢いよくグレイブを突き出す。
「ぶひぇぇええええ!!」
イノブスキーの体がグッサリと刺される。
「口ほどにもないな」
そのまま跳びあがり、上から一撃。そのまま横へ縦へと払い続ける。
それは巨体を軽々と持ち上げていく。
「………オイ…マジやべえ…!」
「お前がこの程度で弱音を吐くほうに俺は驚くがな」
「テメェ……!」
暴走を始める。金網の周りを高速で回転し続ける。
「タイマンか…」
見ると周りには爆弾を抱えたイノブスキーの部下が沢山。
恐らくは、イノブスキーの攻撃で壁に激突させられたゼロに向かい、爆弾を一斉に投げ込むつもりなのだろう。
「食らわなければいい話だ。…来い。決着をつけてやる」
「ブヒヒヒヒヒヒ!!」
挑発に乗ったイノブスキーは変形、ゼロへと向かってくる。
「来い」
持ち替え、セイバーを構える。そして…
こんな相手には勿体無い技…そう思いながらも放つ。
単なるガードではない。
イノブスキーの体が当たった瞬間、ゼロはそれを一直線に払った。
ゼロの側へ向かうイノブスキーの体に、払われる剣が食い込み…裂く。
一刀両断。早くも今回最強の技がここで放たれる。
「獄門剣」
ゼロはセイバーを戻した。
「ねえゼロゼロ! このチェイサー、僕がもらっちゃっていい?」
「む…」
「ああ。これね、実はアクセル用に作ったもので、実は名前も決められてないのよ。」
「私の好みじゃあないんですけどねー…」
「キミが作ったの!?」
おデコの娘が作ったとされるその名無しのチェイサー。…アクセルはきっと、これを大事にし続けるだろう。
その証拠にそれ以後、彼は危険な任務にそれを乗ってきてはいない。
-
「あれ?迎えに来てくれたんだ!ごめーん。 あ、それじゃ私行って来ますねー!」
紫色の髪の少女に連れられ、オペレーター養成学校へと登校していくおデコの女の子。
「行ってらっしゃーい。」
エイリアが見送りに出ていた。
「へぇ…制服かぁ なかなかこういうのも…」
ハンターベース入り口にアクセルはいた。
「……健全ねぇ」
「な、何だよ」
「………記憶がない?」
ゼロが来るまでの間はエックスが話を聞く。
「うん。レッドに拾われる以前の記憶が…僕にはないんだ。名前だけは覚えてたんだけど。
一体僕がどうして変身能力を持っているのか…そこも解らない。」
「………記憶喪失、か」
誰かがデータを抜き出したか、はたまた製造されてすぐに放り出されたか。
「そうだ…レッドが突然変わった、って前言ったよね」
「そうだったな」
背もたれに体を預けながら。
「…いきなりのことだから、少し驚いちゃったんだよ
『お前の持っているDNAデータを俺に渡せ』って…。」
「………DNAデータを。」
「うん …次の日から、僕以外の何人かのハンターがメキメキ強くなり始めちゃって。
以前勝ってた相手に全く勝てなくなったんだよ…」
エックスが顔をしかめる。
「……そんなお前がこれから大丈夫なのか?」
「待って待って。最初こそ戸惑ったけど、レッドを除いたら全く勝てなくなったのは1人にだけだよ
他は何とか勝てる相手だと思うし…僕だって強くなってるって!」
「…信じよう」
そういったところで次なるミッションのときがやってきた。
「待たせたな、アクセル」
ゼロがやってきたのだ。
まずは転送。
「さてさて!次は何処で誰と戦えばいいのかな」
エイリアの声が聞こえてくる。
「今から行く先はコンビナート。……レッドアラートが火をつけている。…正直、危険過ぎる
辺りは文字通り火の海。
「な、何だよコレ…!?」
タンクの上で、油を含んだ炎に照らされる男の顔があった。
そう…レッドだ。
「さぁ来いよアクセル… お前がどこまで強くなったか、ここで見てやるよ」
大型人型メカニロイドをアクセルが遠距離から撃つ。
火炎放射を備えたものはゼロが近距離で対処する。
「…ゼロ。ちょっと僕に代わって。そこの飛行レプリロイドになる」
「…任せた」
空の上から様子を見る。
「クソッ、何だよコレ…!!」
「見渡す限り爆弾だらけでしょう…?」
「それだけじゃないよ!救助するべき民間レプリロイドが沢山残ってるじゃん!…爆弾の前に!」
「動けねえのさ……」
分析のために呼ばれたダグラスの声。続けてゲイト。
「確かに。その爆弾は…移動する物体を感知して作動するもののようだね…
待ち合わせ箇所である施設内部への唯一の入り口に行くためには……」
「爆弾をいくつも解除しなきゃならなくなるの!?」
「敵もその程度の爆弾じゃ死なないことは見通してるよ。 …君達がね」
「何て野郎だ…」
「…クソッ!飛んでいこうにも時間が足りなかった!!」
変身解除。1つ目の爆弾が作動する。
「助けてくれーーー!お願いだぁあ!」
「火が、火がぁ!」
「急がなきゃ!!」
跳びまわり、爆弾を回収。
「次の爆弾が動き始めたぞぉ!」
「あああ!!」
「次はあっちよアクセル!」
「ええい…!!」
「次は遠くみたいだ、急ぐんだゼロ」
「チィッ!」
馬車馬のように駈けずり回り、爆弾を回収、人々を助けてゆく。
ダメージは…もう気にしている暇などない。
「おー、おお…いい動きしやがる…。」
-
そして爆弾は全解除。
コンビナート内部へ戦いはもつれ込む。
「敵の場所…どこか解る?」
「ごめ……さい 熱…影響かし… 通信…でき……の!」
通信機器が動かなくなった。
「…やっばいよコレ……」
火の海に頼りなく浮かぶ足場を乗り継ぎ、救助者を助け先へ、先へ。
「そこの人!」
「え?あぁああ!?」
見ると背後には竜のイレギュラー。噛まれる寸前でタッチ、転送装置で転送。
「あそこ、行き場所が全くないよ!?」
「クソッ……アクセル、頼んだぞ」
飛行レプリロイドに変身し移動、救出。
そんなこんなで救出活動は難航しつつ、死傷者は出さずにカプセルの前までやってきた。
「…こ、この先だね」
「ぜぇ…はぁ…はぁ…げほっ」
息を切らしたゼロとアクセル以上に苦しんでいるレッドアラートメンバー。
「ハイエナード…!」
フレイム・ハイエナードだった。
「アクセルゥ……お前…お前が俺を殺しに来たのかぁ…!?」
「アンタらが待ってたんじゃないの!」
「…苦しい、俺、もう苦しいよ…暑い…暑い…!!あつい……熱い…熱いぃいい…熱い…熱い…!!熱い!!
どうすれば治る… どうすれば… が、ががが…がああああがぁぁぁぁぁ!!!!」
「!?」
イレギュラー化を発症。
それも自我を崩壊させるほどの重度のものだ。
彼は突如として跳びあがり…炎の海を歩く、全長20mはあろうかというガゼル型メカニロイドへと跳び移る。
「とりあえず奴を倒すぞ!」
「うん…」
アクセルはガゼルの関節に向かいバレットを乱射。
ガゼルの動きを止めるとともに、しゃがませる。…これなら登れる。
「ゼロ!」
交代し、二段ジャンプを駆使しガゼルの背へ。
「助けてくれええええええええええ!!」
「来るよゼロ!ハイエナードの能力は…」
叫んだ後…ハイエナードは…増えた。
「分身だ!」
ゼロの周りをグルグルと高速回転し、炎を吐き出す。
「サークルブレイズは着弾すると燃え広がるから気をつけて!」
「炎系ならさっさと言え」
Dグレイブを手にする。水烈閃の構えだ。
「どれが本体だ…?」
敵の攻撃を避けながら小刻みに斬っていると…。
「ギャォオオオ!」
「これか…」
感触があった。後はコレを追いながら…
「水烈閃!!」
グレイブを真っ直ぐに突き出し突き刺す
炎を抑えるこの技で攻撃を加え続けるのみ。
だが相手とて炎を吐くだけではない。
時折り突進し、位置を入れ替え、シャッフルする。
「…何なんだコイツは…!」
本体の位置を把握し…
「水烈閃!」
突く。斬る。この連続でなんとか……
「空中まではハイエナードは追わない。解るよね」
交代。
「交差した時を見計らい…撃つのさ!」
跳びあがり、ホバーで空中からスプラッシュレーザーを真下へ見舞う。
「ぅ…ぉぉおおおあ…あぁぁぁぁあああああああ…冷てぇぇぇぇぇぇ!!!」
脳天から股下までを高圧水流で貫かれ、風通しもよくなり二重に冷たい。
「……………」
そのままガゼルに振り落とされ…炎の海の中へ。
もう、熱さを感じることもなかろう。
「………イレギュラーになっちゃったのかな、みんな」
「ウイルス反応は見られなかったのだがな」
一方、その頃。
「……………。」
青き彼は、悩み続けていた。
-
「イレギュラーハンター。
世界を滅ぼしても尚人間に尻尾を振る愚かなる生き物… そうは思わんかね」
「…イレギュラーハンターは確かに気に食わないが…
これといって俺から何かしようって気はねぇな …アンタ誰だ。」
「私か? お前達を強くするために現れた者だよ、レッドアラート。」
それが数ヶ月前のことだった。
「ふぁーあ…眠いなぁ」
今日は休日。オデコの娘は学校が休みで今起きたばかりだった。
「エイリアさぁん…おはようございますー。」
ダグラスを親代わりとし、毎日ハンターベースを家にした生活。
身寄りのないアクセルもハンターベースに住まうこととなっている。
「…あれ?エイリアさん、シグナス総監。何か静かですねぇ」
「あら、おはよう♪」
「どうしたんですか?エイリアさん。」
次なるミッションはトンネルベース。
「ライドアーマーって僕初めて乗るんだよね!」
「…やめておいた方がいいかも知れんぞ、今回は最新式ライドアーマーらしいからな。」
ライドアーマー・ゴウデン。
遠距離攻撃に特化したショット能力の高いライドアーマーだ。
「やっほぅ!」
乗り込み、壁を突き崩し、敵を撃ち殺しながら先へと進んでいく。
時には踏み潰したりもしながら。
「随分荒々しい使い方だな」
「へーきへーき。結構これ丈夫じゃない!」
毒ガスが床に立ち込めるフロアでは壁を破壊して更に先へ。
「おお!? ライドアーマーが沢山だね。こりゃ楽しいや!」
ライドアーマー・プロトライドに乗った敵たちが大勢押しかける。
「さぁ、いくらでも相手しちゃうよー!」
そう言った次の瞬間。
「あれ?動かな…あれ?」
「だから言ったんだ…!」
ライドアーマーが爆発。一気に使い物にならなくなってしまった。
「………えっと」
ライドアーマーは大勢押しかけてくる。
「お前、相手できるのか」
「まっずいなー…ぜ、ゼロ…お願いできる?」
「喋ってる暇もないみたいだな」
敵のパンチをかわすも、他のライドアーマーが攻撃をする。
「ちょっ…」
身動きが取れなくピンチ…と思われたその時。
「!?」
突如として辺り一帯が超高温に包まれる。
逃げ場のない死の炎が辺りを包み、敵ライドアーマーは動力炉を一気に暴走させられ爆発。
敵ライドアーマーが爆風避けとなり、アクセルは1mほど吹き飛ばされるだけで済んだ。
「…大丈夫か。」
そう、今の攻撃はギガクラッシュ。
…エイリアの上機嫌の理由がやってきた。
「……エックス!!」
-
「どう?久々の現場は」
「…正直、あまり戦い心地はよくないかな。」
「エックス!本当に戦ってくれるのかい!?」
「……ずっと考えてたんだ。武器を持って生まれてきた事の意味って奴を…ね」
「…でも、考えるよりまず…コンビナートで逃げ惑ったり動けずにいるレプリロイド達を見て…
思ったんだ。今こうやって見てるのは…いいことじゃない」
後ろめたさは今でもある。けれど…今は戦うときなのだ。エイリアが声をかける。
「……辛いかもしれないけど。…嫌味かも知れないけど。…嫌われるかも知れないけど。
………やっぱりね、」
エイリアの口からこの一言が発せられる。
「…やっぱり貴方には現場が似合うのよ。…私は、そう思う。」
「確かに…その言葉は傷つくね」
「…でもライドアーマーも似合うと思うわ。
さ、私に嫌なこと言われたストレスを発散しちゃって!」
ゼロは特定の人物のため戦う。
アクセルは自分のために戦う。
『他人が傷つくのは耐えられないでしょう? 自分に対する痛みは耐えても…。』
彼を突き動かしたのは青きロボットが持ち続ける真理だった。
それは否定のしようがない。…例えそれを気付かせたのが…善でも、悪でも。
「いっけぇ!!」
ライドアーマー・ライデンⅡ.
4本脚で支えられたボディから繰り出されるドリルが強力な近距離戦闘向けライドアーマーだ。
トンネルベース中心部のライドアーマー戦でエックスは鬼神のごとき動きを見せた。
敵をドリルで貫き穴を広げ、敵の体にドリルを突き刺し突進し、
時には大きく跳んで地盤を破壊、巨大な穴を作り出す。
ライデンⅡは正に豪快な戦い方をしたい彼の欲求に答えた形のライドアーマーと言えた。
だが、自分に似合ったライドアーマーに乗っていたのは何もエックスだけではない。
「キャーッキャキャキャ!壊れろ壊れろー!わーいわーい!!」
レッドアラートメンバーの一人。少年レプリロイド バニシング・ガンガルンである。
「やめろ!トンネルベースを破壊するんじゃない!」
「何をー!? 生意気だな。ライドアーマーでボクと勝負するっての?身の程知らずな大人だねー!」
カンガルー型巨大ライドアーマーはアームでジャブを行う。戦闘開始だ。
ドリルと拳。二つのライドアーマーのアームが激突する。
「わぁああ!?」
「うぐっ!!」
跳びあがり、踏み潰す爆破攻撃を行う。
ガンガルンのライドアーマーはジャンプで回避、そのままダッシュパンチへとつなげる。
「くそっ!」
「ほらほらー、かかって来なよー」
その後もボディとボディがぶつかり合い火花を散らす。そして…
「やったなぁあ!」
ガンガルンのライドアーマーが爆発。中からガンガルン本人が現れる。
「ガンガルン自体も強い格闘家だよ、気をつけて!」
「俺も今降りて戦うよ」
ライドアーマーを飛び降り、戦いがスタートする。
「ちっち、ちっち、ちっち…」
ステップを踏み、部屋の中を跳びまわるガンガルン。
「三角キーーーック!」
脚に炎を巻きつけ小さな体で重いキックを放ってくる。
「速い…」
これを回避、チャージショットを放つ。
「食らえ!」
新たなるチャージショットは3発同時。巨大なプラズマチャージショット一つに、
2つの小さなエネルギー弾が付属する形である。
「わぁ!?わわ!」
追尾攻撃は強い。
「行くぞ」
跳びあがり、再びチャージショット。
「わぁ…!」
相手と一定の距離をとっていればガンガルンの動きには対応できる。
こちらの方が速いのだから。
「舐めるなよ!!」
今度は近づきアッパー。これを回避してまた一撃。
「ううう…!」
「エクスプローーージョン!!」
「何だその名前!?」
腕から気を発し、一直線に爆発させる。技の名前としては珍しいものだ。
敵との位置をずらし回避、そしてそのまま…
「三角キーーッ」
「トドメだ!!」
またもチャージショット。敵を貫いていく。
「わぁああん…!」
幼き少年レプリロイドは戦いの末…敗れていった。
そして、ハンターベースに帰ってきた彼の背中に……あの声がかかる。
「三角キーーーック!」
「ガンガルンか!?」
振り向きバスターを向けた。だが…そこには。
「……ご、ごめん」
引きつり笑いのまま両手を挙げるエイリアの姿が。
「も、物真似してみただけよ……」
-
「なっ…………アンタ一体、何をしたんだ!?」
「見ての通りだ…DNAデータの正しい使い方って奴だレッドよ…。」
モニターに映るは今までにない、レッドアラートメンバーの戦闘性能。
「………。」
「どうだ?これでお前の部下達も世界に誇れる働きっぷりが出来るようになっただろう」
「……すまねぇな。恩に着るぜ」
「……日本って女の子多くないかしら?」
救助者レプリロイドのリストは…女性ばかり。
「タートロイドに向かわせたイナミテンプルも日本だったね。
だが…気のせいじゃないかな?統計はあまり詳しくはないのだが」
次の場所は日本のラジオタワー。
らせん状のその塔の屋上でレッドアラートが電波をジャックしているらしい。
「アクセル、鼻の下伸ばさないようにね」
「ここにいるレッドアラートのメンバーも女の子ならよかったのになー…
まぁ、いないけどさ…」
ラジオ塔は巨大メカニロイドにより警備されていた。
ヤドカリ型のそのメカニロイドは、ドリルをらせん状の床に突き刺し、エックスらを殺そうとしてくる。
「救助者達を巻き込まないように迅速に助け出さないと…」
かといって先に回りこまれる可能性もある。その「先」に救助者がいたら目も当てられない。
螺旋通路に整列して救助を待つ女性達を次々と助けていく。
瓦礫の上を伝い、中層へ。
ここは展望台であり、円形に通路が走っている。
「ここでメカニロイドを倒しましょう!」
口からのビームと同時にチャージショットを敵の口に叩き込む。
「よっと!」
アクセルに交代、敵の腕を攻撃し、腕をまたホバーで避けて口へ集中砲火。
「倒したわ!…うん。下層へ落下していったけど被害はないみたい」
「上へ急ごう」
上ではバットンボーンなどがはびこっていた。
「DNAデータをコピーできる敵もいるみたいだね…」
敵を倒し、螺旋階段を登りずっと、ずっと上へ。
そして……
「アクセル。ここから先は俺がやる」
「ターゲットの位置を確認…」
エックスの顔の角度を調整。
「そう。その方向に飛び出てまっすぐ走って!
すぐにレッドアラートがいるから取り押さえるの!」
3…2…1…。
「動くな!」
瓦礫から飛び出てすぐにダッシュ、ソレを追い詰めた。
「なななな、何するダスかぁ!?」
「あっちゃー、コイツだったんだ…!」
まんまると太ったシルエットのレプリロイドが姿を表す。
トルネード・デボニオン。レッドアラートきってのお笑い芸人だ。
「自分のコントを1発ギャグを世界に流すつもりだよ、コイツ…」
「エックスさんダスかぁ……?
オイラを…オイラを今のうちに倒して欲しいんダス…」
「…? どうしたんだ」
「だ、段々…頭が痛くなってきたダスよ…段々オイラがオイラじゃなくなっていくようで……うぁぁぁう!!」
遅かった。
「同じだよ…ハイエナードと」
「…今楽にしてやるからな…。」
デボニオンが体を高速回転させ始める。
「グルグルンダス!!」
ボルトトルネード。強力な磁場を発生させる雷の嵐だ。
「通信が使えなくなった…!」
デボニオンは太っているのはシルエットのみ。彼の本体は極度に細いのである。
それ以外は表皮型のシールドであり…
攻撃時には展開される。
「ある意味、ストンコングよりシールドを活用するかもしれない。気をつけて!」
「寒かったダスかぁ……?」
渾身のギャグ、ワイパーを回避してのエックスのチャージショットがデボニオンの細い体をポッキリと折る。
「………。」
その死に方、その言葉は…目に染みた。
-
「……しかし驚いたな。これがDNAデータか…センセイ。」
「クックク…満足してくれて何よりだ…。
DNAデータは使えば使うだけ効果をあげるもの…更なる力を手に入れたいかね?」
センセイと呼ばれた彼は口元を歪め提案する。
「ん? …ああ。このままでも仕事にゃ何の問題もないだろうよ…。
悪いが俺らはこれ以上の力は必要ねえな…」
その言葉にこめかみが動く。
「…ならんぞレッド。…奴らを…イレギュラーハンターを倒せると思っているのか、その程度の力で…」
「何の話だ?」
「お前達は更なる力を手に入れるべきなのだよ」
「……オイ…アンタ、俺らを謀って何をしようってんだ?」
「…それはだなぁ…」
「いやぁそれでさそれでさー。エックスの部屋って案外…」
「ええぇえ!?それ意外だよーアクセル…」
長い、長い間談笑し続けるアクセルとおデコの娘の姿。
…彼女に話し続ける彼は、どこか必死ささえ見て取れる。
「……………次のミッションのこと、聞かれちゃってたみたいね」
大事な戦いなのはわかっている。
レッドとの戦いに次ぐ重要度であると言っていい。彼から聞いた話の通りならば。
次の日。話し疲れ寝てしまったと思われた彼は、毛布の中で目を覚ます。
「…………。」
『一人でも出来るって所、エックスに見せて安心させてあげて。 エイリア』
書置きだった。
目の前には…一丁だったはずのアクセルバレットが二丁。
次の行を読む。
『アクセルへ この銃は、正規ハンターになったら、きっと返してね? がんばー!』
おデコの娘かららしい。ドリンクもつけられている。
「………」
ごくりと飲む。アクセルバレットをくるりと回し、ホルスターに収める。
『早起きして、お弁当作ってきたんだ』
「…………。」
ピンク色の包みがある。ドリンクを片手にお弁当箱の、その名前を発見する…
『ZERO』
「ぶほっ、ごほっ、げほっ…!!!」
通りでこの行は字体が違うと思った。
飲み物を喉に詰まらせたアクセルは、ゼロからのお弁当を食してダグラスの飛行機へと向かう。
…バツの字の傷を、指で押さえながら。
「行くよ、カラスティング」
戦闘機が無数に連なった空の上。彼は飛行機を乗り継いでいかねばならない。
「救助者は昨日エックスが助けてある! 空母まで一直線に進んでいけ!」
ダグラスとサインをかわし、アクセルは……跳んだ。
「いっくぞー!」
高度4000mでアクセルバレットが火を吹く。
飛行機から飛び降りては攻撃、撃ち落とし別の飛行機へ。飛行機の動きに乗っかり撃ち落としまた別の飛行機へ。
どんどん、危険な道を乗り継いでいく。
「大分飛行機は落としたかな…?」
そうしていった結果…巨大な飛行船へとたどり着く。空母だ。
「…鳥!?」
メカニロイドが竜巻を起こす。砲台がビームを吹く。アクセルは銃で撃ち抜き、更に先へと進む。
待っていたのはレプリロイド。コピーショットで変身、気付かれないようにどんどん奥へ。
非常用回復アイテムも入手、倉庫などのある船体後ろへ移動し……
敵を倒す。ハッチを蹴破り…出た先は。
「…………来たな、アクセル」
「やぁ、カラスティング。」
アクセルのバツ字の傷をつけた張本人。彼の親友にしてライバルだった青年…カラスティング。
Vハンガーと呼ばれる双剣の使い手だ。
「どうだ、イレギュラーハンターに行って何か見つけたものはあったか」
「……さあ。どうだろうね あるとしたら、これから見ることになるんじゃないかな」
同時に取り出し両手でクロス。二丁アクセルバレットを装備する。
「格好ばかりつけやがって」
巻き起こる風。黒き翼が空を翔けた。
-
「ウィンドカッター!!」
Vハンガーから放つ真空波が甲板に傷をつける。
「…!」
ダブルバレットを撃ち出す。
更に速まった連射速度でカラスティングを攻撃する。
「その程度で撃ち落せると思ってやいないだろうな!」
甲板に降り…凄まじい速度でダッシュ。剣を交差させ斬る。
「その手には…また乗らない!」
とっさに回避、
「やぁああ!!」
コピーショットを放つ。
「っく」
「お前の弱点はその隙の多い動きだ!」
地を蹴り宙を舞う。その翼もまた剣のように使い、アクセルを斬り滑空する。
「それくらいのハンデくらい必要じゃないの?」
「何……!」
「情けない声だ…」
剣を交差させ衝撃波を放つ。
「ちょっとおおげさにしてみただけじゃん」
両方の翼にそれぞれ弾丸を撃ち込む。
「ならそんな反応は…もう無しだ」
カラスティングはVハンガーの両方を投げる。
「双燕舞!」
「!?」
二つの刃が空を舞い、微妙な風向きにより変化しアクセルを斬る。
「くそっ…!!」
1発目は腹に。2発目は背中に。
「どうだい、風のブーメランは!」
ぐるりと後方回転、同時に剣を交差させ衝撃波を作り出す。
「うぁぁぁぁあ!!」
速い動きを捉えられるような技は現在持ち合わせていない。
ならば……。
「コピーショット!」
「…遅い」
「ボルトトルネード!!」
アクセルを中心に、電撃を帯びた竜巻が発生、カラスティングを包んで上昇していく。
風を名乗る以上、きっとこの攻撃が通用するはず…!だが。
「…中々、やるな」
弱点ではなかった。
遠くへ飛び、またもウィンドカッターの嵐。
アクセルは構わず銃を撃ち込む。
「くっそぉ…!!」
戦いはアクセルが押している。あと1つほど明らかになれば…勝てる。
「行くぞおおおおお!」
「…カラスティング!!」
アクセルへ向け、剣を交差させながら、きりもみ回転でアクセルの首を取ろうと急降下。
「今だ…!」
アクセルは二丁バレットを、落下するカラスティングへ向け…
「うぉおおおおお!!」
「行けえええええ!」
跳びあがるアクセルと飛び降りるカラスティング。攻撃は果たして…?
「らぁぁぁあああああ!」
「うごっほ…!!」
銃弾に真上へ持ち上げられるカラスティング。
そのまま上空へ上昇…そして床へと叩きつけられたのである。
「ぎあぁぁぁぁぁぁ!!!」
黒き翼がバサバサと舞い、アクセルの視界を多い尽くす。
「…だから入れるのはヤだったんだよ」
「でも、入ってなければこうやって出て来てもいない」
「……屁理屈じゃないか」
-
「レッド。お前はアクセルのことをどう思っているのだね?
逃げ出したのだろう……。」
「……ああ。アイツは…もう俺は止めはしねぇさ。
アイツには、こういう埃臭せぇ場所は似合わねぇよ…」
そんな父親の顔のレッドをニヤリと笑う。
「…フフフ… そうか。ならば……」
彼の部屋にぞろぞろと入ってくるレッドアラートの実力者達。
「…な、何だ?お前ら」
「…ぐううう…」
「うげぇぇぇ…」
「ぉぉぉぉぉぉ」
「………お、オイ、どうしやがったお前ら!
…アンタ、まさか」
「少し、パワーアップの謝礼が貰いたくてな」
「仲がよくて結構。こやつらにはお前を殺すように指示してある。
そして…その後奴ら自身も死ぬようにな…」
それは…人質だった。
「どうする?私の命令を聞けば奴らは苦しんだ記憶は消え、
日常が戻ってくるはずだぞ…?」
「…何がしてぇんだ、テメェは!!」
「一芝居打ってもらおう。」
口の端を吊り上げる。
「逃げ出したアクセルを捕まえろ!
そしてエックスとゼロのDNAを私へと寄越すのだ!!」
「偽りの青、蘇りし赤……見える、見えるぞい」
電子の海に浮かぶ六角形のパネルで構成されたサイバーフィールド。
表にも裏にも重力が働くこの美しい迷宮を通過した先に待っていたのは…
レッドアラートのメンバー、スナイプ・アリクイックだった。
「世界の歴史は、それ即ち戦いの歴史…
過去から今に至るまで積み重ねられた情報の山は死体の山。」
「何が言いたい。」
「全てはあらかじめ決まっておることなのじゃよ…
それに抗うことは出来ん………」
心臓部へと繋がる電脳世界の芯での戦いは壮絶なものとなった。
エックスと違い芯の周りを360度沿って、重力を無視し移動できるアリクイックと違い、
芯は単なる筒でしかないエックス達にとっては、即落下となるからである。
だが、新しいエックスバスターは芯を通り抜け敵を攻撃することが可能。
角度をつけた攻撃が出来るようになったことで戦いは有利に進んだのだ。
「見事じゃあああ…!!」
アリクイックの体がデータとなり解け……吸収されていった。
これにてレッドアラートの指定ポイント8箇所は全て攻略。
後はレッドアラートの出方を待つだけとなった。
「親父、鯖。」
「あいよーっ!」
モノクロで悪い音質のテレビが野球の中継を映し出す。 …これはオプションでこうやって設定しているのだ。
寂れた町の寿司屋。カウンター前の席に腰掛ける、男の背中があった。
「………旨い」
彼はわかっていたのだ。明日…自分が死ぬことを。
デボニオンから、自分のファンが経営すると言われる
この店を紹介されたことがきっかけで通うようになった。
-
「イレギュラーハンターからレプリフォースに移った男がいる。」
長い髪の男が入ってくる。
「…………。」
「そのレプリフォースに行った男の部下に、レッドアラートを立ち上げた男がいる。」
「おう兄ちゃん、何食うんでい」
メニューを指差す。
「そのレッドアラートを立ち上げた男にはイレギュラーハンターへ行ったガキがいる…と。
中々面白いもんだねー」
ダイナモだ。
「で、コロニーを落とす大馬鹿モンがいるってぇワケか」
「おいおーい…物騒なこと言わないでくれるかなぁ」
「誰もお前さんだなんて言っちゃいねえよ。
………ガキねぇ …へっ、俺ぁあんなのの親になった覚えァねえ」
あがりを一口。
「アイツはな。こんなつまんねぇ俺とは違うのさ」
「へぇー…部下の皆さんが聞いたら成仏できないんじゃないかなぁー?」
「DNAデータを吸収してってどんどん汚い仕事やっていってたからなぁ…
…後悔してもしゃあねえが」
話を戻す。
「アイツは…俺とは違うのさ
これから…、どんなところにだって行けて…どんな奴とでもつるめるだろう。」
お茶を置く。
「アイツは……何にでも変身できるのさ」
それが、彼の目をつけたアクセルの変身能力だった。
ダイナモは苦笑する。
「親父ギャグだっねぇー…俺白けますわそういうの。」
「親代わりってんなら、アイツが必要とするかどうかはともかく
すぐにでも見つかるんだろうよ」
「あの跳ねっ返りがねえ」
ダイナモは高級なネタを食べ続ける。
「…ダチも必要だが……それより、アイツもそろそろ年頃だしな」
「案外、ハンターんトコでいいオンナでも捕まえてたりしてな?」
「ヒャーッハッハッハッハ!」
笑うダイナモの声に被り、ヘリの音が外から聞こえてくる。
「御殿へお迎えみたいだぜ旦那?」
レッドに似合うとは到底思わない物々しい出迎え。
…裏で蠢く彼のものだ。
「…ウルせぇお出迎えご苦労さん…
さて…『ウザいクソ親父』を全うしに行くか」
果たして彼女はレッドの言う所のいいオンナなのだろうか。
「アクセルぅ、ハンバーグ巻あとアボカド巻取ってー!」
ハンターベースは決戦の日を前に、回転寿司屋へやってきていた。
明るい雰囲気の中、彼らは思い思いのネタを取っていく。
「ねえママー、僕大トロ4つウニ5つ頼んでいいかな!」
「誰がママよ。」
エイリアがピクリと反応する。アクセルはニヤニヤと笑いながら
話をエックスに振る。
「えー?そう思うでしょ、パパ。」
「…俺、君よりそんなに上に見えるかい」
エイリアが顔を逸らす。…耳が赤い。
「アクセルー、さすがにエイリアさんはそういう年じゃないでしょー?
…私はアクセルのお姉ちゃんですからねっ!」
「ハァ?それはないよ、僕がお兄ちゃんでしょー?」
一夜限りの休息…親子連れの多い中、彼らもふざけてみる。
続きは戦いが終わってからまたふざけあえるといいな、などと思いながら。
「じゃあ俺は海老にするかな。…はい、来たよ」
「サラダ巻ね、ありがと」
「お茶…。」
「は、はい!」
ゼロが座る隣の席に、アルバイトの紫髪の女性が来ていたが
おデコの娘は黙っておくことにした。
その頃、ハンターベースではシグナスがポイントRにレッドアラートのアジトを発見していた。
…正確には、裏で蠢く『彼』のアジトだ。
-
あいつのことか ああ知っている
話せば長い そう テスト期間の話だ
知ってるか?学生は3つに分けられる
講義にも出てテスト勉強する奴 講義には出る奴 テスト勉強だけする奴
この3つだ あいつは――
履修生へ 必修科目からの撤退は許可できない 受験せよ
だろうな 一発勝負だ
10日前――大学を巻き込んだ戦争があった
『エリア301号教室』で大規模な試験!
上も下も学生だらけだ!
2回生、掩護に向かえ!
よう相棒、俺たちにお似合いのテストだ
彼は『教室の妖精』と呼ばれた優等生
『彼』の情報源だった男
ドイツ語Ⅰ接近!すべて撃墜し、単位を確保しろ
リスニングでお出迎えだ
私は『彼』を追っている
今までのリスニング問題より速い
旧館のスピーカーだ! 油断すんな
答案用紙が白いのがいる、噂に聞いた奴か
怠け者どもには贅沢な墓場だ
ここは『大学』 死人に口なし
そして――『妖精』の言葉で、物語の幕は上がる
あれは良く晴れた暖かい日だった
生き残るぞ!試験番号0811036
-
R地区に存在する…レッドアラートのアジトと見られる地点への道…
『パレスロード』。
チームはエックスとアクセル。
ゼロはハンターベースの守護に当たる。
彼らは長い長いアジトへの一本橋を走り始めた。
「な、何だよコレ…!」
ドガッ、と音を立てて落下してきたのは…
「モルボーラー…!?」
悪夢再び。
いつぞや、アルマージのいた鉱山でエックスを追いかけ回した掘削用モグラメカニロイドが…
前回とは比べ物にならない強化を施され帰って来たのだ。
「アクセル、動きは速いな!?逃げるんだ!」
「何かヤバそう…!!」
前からは敵の大群、後ろからはモルボーラー。
追いかけられつつ、敵を倒し、橋から転落しないように気をつける。
「あぶなーーーい…!!」
ゴツンゴツンとモルボーラーは腕を叩き付け、スピードを上げてこちらへ近づいてくる。
と思えば、近づいてきたところで回転、アクセルを弾こうとしてくる。
「…………どうしよう」
こんな状況下で、全く先が見えない。
長い長いパレスロードを走り切るしかないのだ。
「グライドアーマーは…ゆっくりとした移動しか出来ないからな…」
「何のための飛行機能だよ、もー……」
その代わりかつてなく攻撃力の高いアーマーと言える。
ホバーでさっさと移動、どんどん進んでいきそして…
「見えた!!」
レッドのアジト、『クリムゾンパレス』だ。
「後はコイツを倒すだけだね!」
通路も広くなった。これで全力で戦えるというものだ。
交代。
「エクスプロージョン!」
ハンマーを吹き飛ばす。これで相手は防御手段攻撃手段を失い、突進しかできなくなるはず。
「食らえ!!」
チャージショットを放つ。やはり効いている。
「エックス、危ない!」
「!!」
モルボーラーの新たなる能力はレーザー。
鼻先から極太のレーザーを照射し、360度回転するのだ。
「…ふう」
グライド飛行で回避。再びエクスプロージョンを当て…
「最後だ!」
モルボーラーは走りながら爆発、クリムゾンパレス入り口ともども爆発していった。
「………行こう」
クリムゾンパレスは綺麗な形をした城だった。
「…げええ!!?」
「何だあのデカイのは…」
巨大な鉄の塊が上のフロアへのを転げ落ちてくる。更に上の階でも、その上の階でも。
途中まで進んだ所で…アクセルに交代。
ワープした先は霧のかかった中庭。柱が何本も立っている。
そう高い場所ではないはずなのに、その下には何もない。……空間として歪んでいると見ていいのだろう。
…彼が現れた。レッドだ。
「よう、やっと来たなアクセル。」
「やぁ、レッド。元気で何よりだよ」
レッドは…よく見ると宙に浮いていた。
「センセイのおかげで力がみなぎってきてなぁ!
…ま、おかげでこのザマだが。」
DNAデータを注入され続けた結果だった。
「さ、世間話はここまでにしようじゃないか。
アクセル… 行くぞ!」
-
柱の上でのアクセルとレッドの対決が始まる。
アクセルは柱を跳び渡り続け、レッドの元へと踏み込み…
「ぉおおおおおお!」
ダブルアクセルバレットを乱射する。
「消し飛べぇぇえ!」
鎌を振りかざし、衝撃波を発する。
「波断撃…!?」
ガンガルンからゼロが得たはずの技だ。
「DNAデータってまさか」
「そうだ、その通りだ…!」
黒い闇に紛れワープ。
アクセルを斬りつける。まともに動くことは出来ないようだ。
「随分な格好じゃないか」
続いてコピーショット。効かない相手とはわかっているが。
「ハハハハハ、おかしいか!?」
巨大な竜巻を発生させる。デボニオンの技、雷神昇のようである。
「ああ、おかしくて笑いも出ないね!」
巨大ランチャーを装備…そのままレッドを撃つ。
「ぐぉおおおおお…!?」
レッドがよろける。
「…それに何なんだい、ここ」
続けて変身。高威力なランナーボムへ変身する。
レッドが分身、アクセルの前に現れ鎌を振るう。
「いたっ……!」
爆弾をレッドの前に放り投げる。
「これがレッド、アンタのアジトだってのかい!?」
前、後ろ、右。
レッドの視点の様々な場所に移動し、レッドを狙い撃つ。
「僕らのアジトはこんな所じゃなかったはずだ」
Gランチャーを装備、上からバズーカを放つ。
レッドはすかさず逃げるがそれを追い…
「やるねぇ…」
「僕らのアジトは…薄暗くて!」
ダブルバレットを乱射。
「汚くて!」
コピーショットを発射。
「埃まみれだけどみんなでそれなりに楽しくやってきた場所のはずだよね!」
再びGランチャー。
「くっ………焼きが回ったかねェ」
攻撃の隙もない。今の状況ではレッドはまともに戦えもしない。
「そろそろ本気のことを言ってくれ…」
トドメのための銃へと変更する。
「……何のことだ?…戻って来いよアクセル。」
言葉とは裏腹に彼は卑怯者として遠くへワープ、鎌を片手に憎まれ口を叩く。
「テメェは結局どこにも行けやしないんだからよ!」
本心と逆を言って見せる。
レッドの言うことなどもうわかってる…。
やるなというのは、やれという遠まわしな意味。
戻って来いというのは……。
もどかしい気持ちが彼を包み…引き金を引かせた。
「お笑いじゃあるまいしさァァァァァァ!!」
最強の銃、レイガンを放つ。真っ直ぐに飛んだ光は……
柱の集まったこの場所の端から橋までを一瞬で進み…。
レッドの腹を突き抜ける。
「…………………!!」
-
…遠くならバレまい。…にやりと笑い、その場に倒れた。
辺りが一変。突然室内へとワープする。
「…へへッ………ヘヘヘヘ……」
「強くなったじゃねえかアクセル。よくトドメを刺したな」
レッドは嬉しそうだ。
「……何の音だよこれ」
「…崩れ始めてるのさ。
俺の……死が確定すると同時に…な……」
柱が次々に、崩れ始める。
「……さぁ行きな。センセイはこの先にいるぜ…」
「アクセル!」
「やだよ!!レッドも行こう!」
「アクセル、甘ったれてんじゃねえ…!
…お前はな。…お前のやりたいように生きていきゃいいんだ。」
「ああ、解ったよ!でもとりあえずこっちへ来て!まだ間に合うから!」
「アクセル!もうダメだ、逃げるぞ!」
エックスが取り押さえる。
「ヘッ、何も解っちゃいねえ……」
アクセルのいた柱は残り、
レッドの周りの柱が崩れていく。
「…俺は、先に行って待ってる。
……お前は、まだまだ焦なくていい。 ゆっくり生きて………いずれ…来な。」
レッドの足元が崩れる。
「レッドーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
彼の体が落下していく。
霧が彼の体により形を変え…奈落の底へ続く穴になる。
落ちる音さえ聞こえないまま……彼は落ちて行った。
「…アクセル。君は待っていろ 俺がこの先を進むから」
転送装置で交代、エックスが進んでいく。
行く手には二つのワープ装置。
エックス達は知らなかった。
…実は両方のワープ先でスイッチを押さないと動かせない仕組みなのだ。
二手に分かれなければならないところだが、
エックスはそれを知らず単身進み始める。
……左へ向かった。
左はトラップ地獄。敵を弾き飛ばす音波、メカニロイドが狭い足場の中にいたり
潜るのが困難なレーザートラップがあったり。
「どういう繋がりをしているんだか解りやしない…」
だがその一方で、右を進む者が一人居た。
ここで右側を突破した時、更なる深部への扉が開かれるのだ。
「ライドアーマーがこんなに…」
エックスが来なくて正解だった模様。
ライドアーマーに乗った兵がいつぞやの如く大量配備され
次から次へと現れる。
「流石にこんな相手がいるなんて予想外でしょう?
…さあ、ライドアーマーさん…かかってらっしゃい
私が相手するわ。…新人ハンターの…エイリアがね!」
エイリアは右側フロアの転送条件をパス。
ここでエックスは知らずに合流フロアへ移動、そのまま深部へと進むことが出来た。
「………。」
合流フロアにて、狼型メカニロイドが現れた。
「後はエックス達の元へ進ませないよう、この敵たちを食い止めるだけね」
-
クリムゾンパレス上層。
霧に包まれたテラスにメカニロイドが大量に配備されている。
モアイ型メカニロイドを乗り継ぎ、長い道のりを突き進み扉を潜る。
「何か嫌な予感がする……」
空間的におかしな繋がりのこの城には何があってもおかしくない。
…でも、ここまで奇妙な空間があろうとは予想しただろうか。
「………えっ」
静まり返った部屋に時折、心音だけがこだまする。
夜の海のような真っ暗な空間の中に浮かぶは小さな光の粒。
ぼんやりとした明かりが9つばかり。
…墓だった。
中心部と、彼らが倒したレッドアラートの8人の物と思われる墓に明かりがついている。
恒例のイレギュラー達の復活だが…これは奇妙。
よく見ると光の粒が集まり、空間の奥で巨大な螺旋を形成し昇っていくのが解る。
…一体どこへ?
墓の中へとワープすると、そこは……ジャングル。
「…え?」
だが辺りの景色がおかしい。変色している。
自分以外の全て…現れたストンコングさえも。
狂気の空間での戦いの幕開けであった。
戦え、と結局言ってしまった。
エックスに辛いことを言ったつもりなのは解っている。
しかし、言うからにはエイリアにも相応の覚悟があるのだった。
もう、見送るだけの身にはならない。
その言葉を実行できるだけの力を手に入れるべく、今まで必死に訓練を繰り返してきていた。
エイリアはクリムゾンパレス上層との境界線で戦いを延々続ける。
ハンターに就職する際、ケイン博士からエックスの過去と託された『その武器』を手に。
「なぁ、姿を見せておくれよエイリア。」
優しい声がする。
「え? …… あ、…あの、私が来てることバレちゃった?エックス」
「ああ。当たり前じゃないか。君は目立つからね。美人だからね、」
…ここで気付く。
…ニセモノだと。
「エイリアぁぁぁ!!」
「ここで気付く自分が恨めしい!」
「かわされたかー…残念だなぁ。実はさ、まーた頼まれちゃってね。足止め
…ゼロの旦那が潜入してくると思ったらアンタが出てきちゃうんだものなぁ。
割と有名なんだぜアンタ。」
「足止めしようにも歯ごたえがなかったと思っていたところよ。
全力で来なさい、ダイナモ。貴方の戦い方はオペレートで調査済みなの。」
彼女は構える。
「来なさい」
彼に足止めを頼んだ者とは…そう、奴である。
最後の一人を倒した所でワープゾーンが開く。墓から先には一体どこへ繋がっているのか。
…落下するエレベーターの中だった。
ここでアクセルが漸く口を開く。
「なぁ、いるのは解ってるんだよ。
…早く出てきなよ セーンセ。」
奴が出てくる。
「ハハハハハハハハハハ!!」
「シグマ!?…またお前だったのか」
驚くのはエックス一人。
「何度もエックス達が戦ってる相手なんだってね。
薄々センセイの正体にも勘付いてた所さ。ほんっとにゴキブリみたいに何度でも蘇るみたいだね」
「ハハハハハハハ!
何とでも言うがいい!エックス、それにこの場にはいないがゼロ。
キサマらの命を我が物にするまで、私は
何度でも、なんどでも、な・ん・ど・で・も! 蘇ってくれるわぁああ!
さぁ、諸君。熱い戦いを期待しているよ?」
-
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
謎の渦が発生する上で戦ったのは巨大ボディを手に入れたシグマ。
巨大ロボットアニメのロボのようなシグマの姿に惑わされながらも、
とうとうエックスとアクセルはこれを倒したのだ。
「…ぬ、ぬううううう………!」
ゲイトの研究所で現れたときのように、ボロボロのシグマが現れる。いや、それ以下かもしれない。
マントの下にはグロテスクなボディ。
体からチューブが無数にわらわらと飛び出て束となっていて、ドクンドクンと体中をエネルギーが巡る音が聞こえる。
「わ、わあああああああああああああ!!」
アクセルが恐怖のあまり、ダブルバレットを乱射する。
「んぬううううう!」
シグマが粗暴に腕を振るい、アクセルを吹き飛ばす。
「アクセル!」
「まだ、まだだぁぁぁぁ……」
シグマが一歩、また一歩と歩いていく。
「私は」
ずるり。
「何度でも……」
ずるり…。
「…蘇る。」
ゴトリ。
「姿を変え、」
グチャリ。
「形を変え…、」
腐ったその目を見開く。
「なんどでもおおおおおおおお!!」
その時だ。
「…見つけたぞ…エックス!!」
「そんな…!?」
レッドの姿だ。何故ここに…?
すぐにエックスを蹴り飛ばしシグマの元へ。
「おお、レッド!!キサマのボディをてにいれ、
ワシは…わしは、わしはこんどこそせかいをぉおおおおおおおおおおお」
…よく考えればレッドがシグマに協力するわけはない。
「これなら、」
二つの声が重なる。一つはレッド。もう一つは…
「どうかな!!」
アクセルだった。
零距離でコピーショットを放つ。爆発…シグマの体が吹き飛ぶ。
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ガラスの窓を突き破り、どこかへと落ちていく。
「……レッドのDNA、いつ手に入れたんだ?」
「あ。…えっとね、内緒!」
「エックス、エックス!シグマを倒したのね!」
「…ああ。エイリアか。すぐに戻るよ」
「その近くに抜け道があるわ、早く脱出して!」
アクセルとエックスは並んで走っていく。
…エイリアの声が二重に聞こえた気がしたが、エックスは気のせいだと思うことにした。
それから3週間後。
「エックスー、エックス!どう?また僕事件解決したんだよー!」
アクセルが手を振る。
「……まだまだだな。負傷者が出てるじゃないか。状況によってはこれは許されない」
「えー?ケチー…」
「まーまーアクセル。私はいつでも待ってるから♪」
「え…おでこちゃんと何かの約束したのアクセル?」
エイリアが真顔で聞く。
「は!? いや、そういうわけじゃなくて!!」
「え?じゃあ貰いっぱなしー?」
「貰うって!?」
ダグラスが首を突っ込む。
「いや、説明する!説明するからエイリアは黙ってて!」
「へぇー…」
だがそんなこんなしている間にも。
「アクセル。また事件発生のようだよ」
ゲイトがメッセージを発信。
「え? いや、だからさ!おーい、ちょっと!」
「ただちに出動したまえ」
「うー……」
誤解は消えそうにない。
「解った! 行って来るからねエックス!僕のこと早く認めてよー!?」
彼は走りだした。
「……この1週間で30件もアクセルによって解決されているイレギュラー事件があるわ。
どれもこれも彼のお手柄よ。
…ねえ、いい加減、もうアクセルのこと認めてあげたら?エックス。」
エックスは口をへの字に結び。
「いいや!ダメだ。…俺のようなハンターを目指すなんて持っての外だよ」
「…どうして?」
エックスを目指しているのは1人じゃないというのに。そういう意味も含まれていた。
「俺は…とても褒められたハンターじゃない。
こうやって、ずっと戦いを続けている…これじゃ…ダメなんだ。俺みたいになったら…。」
「…エックス」
シグナスが口を挟む。
「…だがどの道、この先お前なしでハンターの存続は難しいだろうな」
「………」
「これからは凶悪なイレギュラーによる犯罪が増えていくことだろう。
…お前の言う、戦わずして解決できる問題は、ますます減っていくだろう」
「でも…。」
混乱を増す時代の中。エックスはただ、黙っているだけだった。
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