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念を使わせてみよう小説スレッド

1名無しさん:2004/11/07(日) 00:20
ストーリーは思いついたんだけど、AAが苦手。
ここはそんな人たちでも作品を発表するためのスレッドです。
もちろんAAが出来て小説も書けるという人でも可。
素人玄人問わずに気楽にどうぞ

21:2004/11/08(月) 22:24
何か書いてみようと思うんだけど
舞台背景とか原作やこのスレの本編に忠実でないと駄目?

31:2004/11/09(火) 04:38
 ガシュ、ガシュ、ズリュル

 思わず耳を塞ぎたくなるような咀嚼音が、裏路地の暗がりに響く。
 時刻はかっきり午前3時。
 魔街東京の片隅での出来事。

 グチャ、クチャ、ゴキュリ

 セントバーナードを更に上回ろうかという程の巨躯を持つ二頭の黒犬が、
 帰宅途中だったであろうサラリーマン風の男を貪るように喰らい続ける。
 かつてサラリーマンだったその男は殆ど原型を留めておらず、
 最早人間というより肉塊と表現したほうが正しかった。

 ガツ、ゴキャ、メキリ

 犬がサラリーマンの右腕を骨ごと喰い千切る。
 その横に佇む一人の男。
 一仕事を終えたかのように満足そうな顔で、犬がサラリーマンを喰らうのを見やっていた。
 いくら魔街東京といえど、およそありふれたとは言えない光景。
 だがその惨劇を知る者は、男と二匹の犬しか居ない。
 …そのはずだった。

「アヒャ、ナンカウルセートオモッタラ、コリャヒデーアリサマダナ!」
 いきなり背後からかけられた声に、男と犬が咄嗟に振り向く。
 そこには、狂ったような笑みを顔に貼り付けた一人の青年が立っていた。

「…獰猛な番犬(レザボア・ドッグス)」
 男が小声で犬に合図を送る。
 犬達は体を翻し、青年の喉笛目掛けて跳び掛かる。
 魔街の夜に二人目の犠牲者が、
 犬を操る男がそう確信した瞬間―――

「剣の舞(ダンスマカブル)!!」
 一瞬にして青年の両手に片刃の剣が具現する。
 鍔の部分に大きな目のついた左右の刀が闇に煌き、
 すれ違い様に犬達の体にその閃光が這い回る。
 直後、犬達は文字通り微塵切りになって地面に散らばり虚空に散った。

「な…!」
 あっさりと犬を仕留められた男が狼狽する。
 男には目の前の光景が信じられなかった。
 彼の思念から生み出した黒い犬。
 これに勝てる者など存在しないはずだった。
 事実、今までそうだった。
 今日だって、ちょっとしたストレス発散に偶々目に付いた人間を虐殺、そのまま家に帰って就寝する。
 そんな日常が当たり前のようにやってくると思っていたのに。
 それなのに。
 なのに、眼前にそびえるこいつは一体何なんだ…!

「アヒャ、ツギハオマエノバンダナ」
 それが、男の聞いた最後の言葉だった。





「やれやれ、やっぱりこうなったか…」
 輪切りになった死体を見下ろしながら、フーン顔の男が溜息をついた。
「アヒャ、依頼はなるだけ生け捕りにして連れて帰れという事だった筈だぞ?
 それをお前、こんな組み立て前のプラモデルみたいな有様にしてしまってどうする」
 フーン顔の男が、両手に刃物を持った青年に諭すように言う。
 心なしか、その声には諦めが混じってしるようにも聞こえた。

「ウルセーゾ、フーン。
 フカコーリョクダ、フカコーリョク」
 アヒャと呼ばれた青年の返答に、フーンはやれやれと肩を竦める。
「アヒャ、頼むからもう少し加減というものを覚えてくれ。
 お前が念能力犯罪者を憎む気持ちも判るが…」
「ソノハナシハヤメロ…!」
 アヒャの刺すような眼光に、フーンがはっと口を塞いだ。
「悪かった、すまない」
 フーンが軽く頭を下げる。
 そこで二人の間の会話は途絶え、気まずい沈黙が周囲に流れた。

「…ソウイヤ、ツギノシゴトハドウナッテル」
 と、アヒャが口を開いた。
 静寂の重圧に耐えられなくなったのだろう。
「特に決まっていない。
 が、目処はつけてある」
 フーンがアヒャの前に新聞の一面を差し出した。
 アヒャが新聞に目を通すと、まずは大きな見出しの文字が目に飛び込んでくる。

『N市連続猟奇殺人事件、犠牲者はや16人に!』

「…アヒャ」
 アヒャが目を細める。
 まるで、新しい玩具を見つけた子供の様に。
「どうやら、これで決まりのようだな」
 フーンが煙草を咥え、ライターで火を点けた。


                   〜序章・完〜

4能力不明の念能力者:2004/11/09(火) 20:37
イイ!(・∀・)

51:2004/11/09(火) 23:55
 放課後。ガランと静まり返った学校の美術室。僕は一人、そこで絵を描いていた。いや、
『絵を描いていた』という表現は少し違うか。正確に言うならば、絵を写していたという
べきか。半分開けられた窓からは、五月の爽やかな風が流れ込んで僕の顔をくすぐる。
「……」
 黙々と筆を動かし続ける。目の前の、かつて美術部に所属していた人が書いていたであ
ろう絵を見、それを模写する。輪郭、色使い、筆の動かし方、それら全てをより本物へと
近づけ、全く同じ絵を再現する事のみを念頭において筆を動かし続ける。

 他人の猿真似。昔から、僕はそれが得意だった。それしか出来なかった。小学校の時の
自由工作だって、いつもクラスメイトが作っていたものを真似するだけだった。今もそう。
ただでさえ部員が少ない上に、幽霊部員が全体の九割以上を占める廃部寸前のこの美術部
に入ったのだって、別に絵が好きだったからじゃない。風景写生、既存絵画の模写、僕に
はそれぐらいしかする事が無かったからだ。だから、僕自身のオリジナルの絵は一年生の
時ここに入部してから一年経った今でも、一枚たりとも描いてはいない。僕には、僕自身
の絵は描けない。…描き方が、分からない。

「…てと」
 日も暮れ始めた頃、ようやく模写が完成した。だが、達成感など微塵も感じない。
「……」
 一見、本物とそっくりそのままな複写絵。だけど、違う。足りない。本物に比べて、圧
倒的に足りない。正確さ、緻密さ、才能、センス、そして何より絵を描きたいという熱意。
僕の絵からはそれらがすっぽりと抜け落ちてしまっていた。
 いくら姿形を真似ようと、偽者は偽物。本物(オリジナル)の前にはその矮小な存在な
どあっけなく消え失せる。所詮は代理品。所詮は出来損ない。それが、僕の全てだった。

「宝擬古、そろそろ校門閉めるぞー」
 美術室のドアが開き、先生がそう告げる。
「あ、はい。分かりました」
 私立二番組高校2年B組宝擬古。これが僕の名前であり、そして今からどうしようもな
い程絶対的な、絶望的な、黒々とした混沌の渦に巻き込まれていくなど、この時の僕には
知る由などあろう筈もなかった。

61:2004/11/09(火) 23:58





 夕暮れの街角、僕は家路を急いでいた。最近この街を賑わしている連続猟奇殺人事件。
犠牲者にそれらしい関連性は無い事から、無差別殺人と予想されている。あえて関連性を
挙げるとするならただ一つ、いずれもが人間とは思えない程の力で惨殺されているという
事。その犠牲者はすでに20人の大台を突破したらしい。確率的には僕がその犯人に襲わ
れる確率は交通事故に遭うより少ないのだろうが、それでも用心に越した事はない。君子
危うきに近寄らず。面倒事からは出来る限り遠ざかっておくに限る。

「ちょっと、そこの少年」
 いきなり、横から声を掛けられた。女の人の声だ。
「道を尋ねたいんだが、いいかな」
 見ると、そこには着物を着た女性が立っていた。落ち着いた感じの色を基調とした、や
やくたびれた感のある和服。動きやすくする為か、裾にはかなり深めのスリットを入れて
いる。背は、174cmある僕よりも少し高い。厚底の靴を履いている風でもないから、
デフォルトで背が高いようだ。年齢は20代の前半から中盤といった所か。髪は染めてい
るのか元々白髪なのか、雪のような白。腰に掛かりそうな程長い髪は後ろで纏められてい
る。顔は…やや表情に乏しいが、かなりの美人だ。
「そういう説明の為の心理描写はいいから。俺も、暇を持て余してる訳じゃないんだ。」
 うわ、俺女だ。着物姿の俺女だよ。もしかして、もしかしなくても、これってイタい人
との歴史的遭遇の決定的瞬間ってやつなのか?
 待て、まさかこの人ってもしや…!

「うわあああ!身包み置いて行きますんで命だけは助けて下さい!!」
 僕は会心の土下座をかました。やばいよやばいよ。まさかこんな所で連続猟奇殺人犯に
会うなんて。父さん、母さん、先立つ不幸をお許し下さい。
「馬鹿者。こんないたいけな少女を前にして誰が連続猟奇殺人犯だ。第一、これから殺す
 相手に道を尋ねる殺人鬼が何処にいる」
 前半の部分には全く同意できないが、後半は成る程その通りだ。
「あ、そうですか。それは失礼しました」
 立ち上がり、裾についた土を払う。よかった。どうやら明日の朝刊の一面に僕の顔写真
が載るような事態にはならないらしい。

「まったく何て礼儀知らずな少年だ、君は。まあいい、この辺りでUFOキャッチャーの
 あるゲームセンターを探しているんだが、何所にあるのか知っているか?」
 着物を着た人から、UFOキャッチャーだのゲームセンターだのの横文字を聞くのは何
か違和感がある。てかあんたゲームセンターって、『暇を持て余してる訳じゃないんだ』と
言っておきながら、暇を潰す気満々じゃねえかよ。
「ああ、それならここから東の方に500メートルも行けば商店街が見えますから、そこ
 に行けばゲーセンくらいゴロゴロしてますよ」
 東を指差しながら、僕は答える。
「東の、どっちだって?」
「ですから、あっちです」
 しっかり指を差して教えてやっているのに何で理解できないんだ。お前は響良牙か。獅
子咆哮弾でも撃ってろ。爆砕点穴でも撃ってろ。
「今時らんま1/2なんて分かる奴は少ないだろ」
 あんた分かるのかよ。
「面倒臭い。折角だからそこまで案内してくれよ」
「何が折角だからですか!」
 お前はコンバット越前か。青い扉でも選んでろ。
「いいから」
 無表情のままそう告げる女性。
「だから何がいいからなんですか!」
 無愛想なくせに人懐こい。どうやら僕は、連続猟奇殺人犯よりももっと厄介な相手に捕
まってしまったらしかった。

71:2004/11/09(火) 23:58





「着きましたよ」
 結局、僕は不承不承この変な女性を商店街のゲームセンターまで案内する事になった。
やれやれ、しかしそれもここまでだ。
「じゃ、僕は家族が心配するかもしれないんでこれで」
 そう言い残しその場を立ち去ろうとする僕の後ろ襟を、着物姿の女性は掴んだ。何だ?
未成年略取の現行犯か?
「まあそう急ぐなよ少年、折角だから一緒に遊んでいかないか?」
 女性がそう言って僕を引き止める。これは一種の逆ナンというやつか?
「有難い申し出ですが、最近は物騒なので早く家に帰る事にしているのですよ。ではこれ
 で。縁が合ったらまたお会いしましょう」
 もう沢山だ。こんな変人とはすぐにでもおさらばしたい。
「家に帰っても安全とは言い切れないと思うんだけどな。件の連続猟奇殺人事件の犠牲者
 の4人は、家の中で惨殺されてたって話だろ?」
 この女、異常な外見言動とは裏腹、しっかりニュースにはチェックを入れているらしい。
「言い換えれば家の中で殺されたのは20人中4人、つまり20%という事ですよね?な
 らば矢張り家の中の方が確率上安全という事実が統計によって導き出されます。よって
 僕は家に帰ります」
「まあ待てって。少年、まさか本気でそう思っている訳じゃないよな?確率的にはそうな
 のだとしても、お前が、家の中で殺される確率を上げるのに一役買わないという保証は
 どこにも無いんだぞ?」
 …思った程馬鹿という訳でもないようだ。かといって、この女性が変であるという僕の
認識は覆らないが。
「それに帰り道で殺人鬼に襲われないとも限らないしな。だけどそれは大丈夫。少年、君
 が俺とここで一緒に遊んでくれるなら、帰り道の安全だけはこの俺が確実に保証しよう。
 どうだい、悪くない取引だろ?」
 連続猟奇殺人犯よりあんたの方が心配だよ。というか、この人一介の市民が殺人鬼をど
うこう出来ると思っているのか?ちゃんと税金払ってるんなら、警察に期待すべきだと思
うのだが。

「…それに正直に言うとだな、俺、今手元に持ち合わせが無いんだよ」
 この人最悪だ。最初から僕の財布を目当てに、僕をここまで案内させたんだ。
「すみません帰ります、もう帰ります。お金については僕より人徳がありそうな人に相談
 して下さいではこれで」
 帰ろう。早く帰ろう。今日は下らない事で時間を無駄にし過ぎた。
「君が俺に金を出さないと言うのなら、俺は今ここで君の歯を全部へし折る覚悟がある」
「あんたそれカツアゲじゃねえかよ!」
 警察の皆さん、今すぐここに来て下さい。話題の連続猟奇殺人犯ではありませんが、今
ここに犯罪者が存在してます。
「わかりましたよ!出しますよ!出せばいいんでしょう!」
 もうヤケクソだ。こんな女に関わってしまった時点で僕の運命はお先真っ暗だったのだ、
と割り切って考えるしかない。
「うむ。君は実に気前のいい奴だな、少年。この恩は一生忘れないぞ」
 どうせ覚える気も無いくせに。僕はこの荒唐無稽な女性を前に、ただ呆然とするしか出
来なかった。

81:2004/11/09(火) 23:59



「いやー、楽しかったな少年」
 山盛りのヌイグルミを両手に抱え、着物の女性が満足そうな顔を見せた。この女、僕の
財布が底をつくまでUFOキャッチャー続けやがった。しかし、出会った時から徹頭徹尾
無愛想だったこの女性がこんな顔する
「せめてもの礼だ、これやるよ」
 山盛りのヌイグルミを僕に差し出す女性。
「いやこれそもそも僕のお金で取った物ですし、こんなにヌイグルミあっても嫌がらせに
 しかなりません。ていうか、ヌイグルミいらないなら何でUFOキャッチャーなんかし
 たんですか」
 僕は溜息をつきながらそう答える。
「分かってないな。UFOキャッチャーの本質は、握力の弱いアームや、引っかかりの少
 ないヌイグルミ、それら難攻不落の城砦に挑んでヌイグルミを奪取するのが醍醐味なん
 じゃないか」
 うるせえよ。人の金で遊んで知ったげに語るな。

「兎に角、これで満足してくれましたね。ではこれで」
 そう言って、僕は帰ろうとする。
「おい、待てよ。最近は物騒だから、俺が送ってやるって言ったろう?」
「いえいえ、これでも僕は北斗神拳の使い手でして、お気遣いは無用です。では今度こそ
 さようなら」
 勿論そんな拳法など使えないが。
「すぐバレる嘘つくなよ。本当に大丈夫なのか?」
 多分あんたといるよりは安全だ。
「はい、大丈夫です。ではお気をつけて」
 今度こそ、ゲームセンターから出ようとする。

「ちょっと待ちたまえ少年」
 女性が後ろから声をかけて来た。
「まだ何か用があるんですか?」
 僕は苛立たしげにそう返した。
「こんないい女に出会っておきながら、名前の一つも聞いていかないのかい?」
 何をいけしゃあしゃあと。悔しいことに美人という点については反論しようが無いが。
「結構です。僕は、余計な人間関係は出来るだけ作らない主義なので」
「おいおい、若いうちからそんなだとこれから先苦労するぞ?まあいいや、いやだと言っ
 ても教えてやる。俺の名前は外法狐。狐娘と呼ぶ奴もいるがね。覚えておいて損は無い
 名前だぞ」
 覚えて損は無い、ですか。僕はついさっき、あなたのお陰で3500円損しました。
「苗字が外法で、名前が狐さんですね。分かりました。走馬灯の時には何とか名前が出て
 くるようには努力してみます」
 鳥のように、三歩歩いて速攻で忘れてやる。
「ふむ。それは嬉しいな、少年。で、君の名前は何だい?」
 外法狐さんが僕の顔を覗き込む。
「宝が苗字で名は擬古、タカラギコですよ」
 偽名で答えてやろうかとも思ったが、本名を教える事にする。まあ、名前を教えたくら
いでどうって事あるまい。
「タカラギコ。いい名前だな、少年。まあ、せいぜい帰りは気をつけてな」
 外法狐さんがポンと僕の右肩に手を置いた。
「言われなくともそうしますよ」
 そして、僕と外法狐さんはゲーセン前で別れるのだった。

91:2004/11/10(水) 00:00





 日は既にとっぷりと暮れていた。都心を離れた土手地にはもう人影は無く、犬の遠吠え
だけが低く響く。
「くっそ、まだお小遣いまで一週間以上あるってのに…」
 軽くなった財布が懐の温度を急速に下げる。一体結局何だったんだ、あの女性、外法狐
という人物は。これまで17年、とても人生経験が豊富とは言えないが、あんな人間に出
会う事は二度と無いと断言出来る。
「たくもー、本当にどうするんだよ…」
 愚痴を言っても財布の中身がビスケットみたいに増える事はありえないと分かっていな
がらも、愚痴を言わずにはいられない。どうする、どうするタカラギコ。一世一代のピン
チだぞ。

「……?」
 と、前方に黒い人影が見えた。周囲が暗いが、身長からして女性の確立は少ないだろう。
しかし連続猟奇殺人犯が街中を闊歩しているかもしれないというのに、こんな夜遅く人通
りの少ない場所を歩くとは物好きな人だ。人の事は言えないが。

「ギ…ギシュ……」
 人影の方からそう呟く声が聞こえて来た。ギシュ?何だそりゃ。義手の事か?
「ギシ、ギシュ…」
 マリオネットの様にカクカクとした動きでこちらに向く人影。ある程度近づいた所で、
それがどこにでもいそうな中年男性という事がようやく視認出来る。というか、あの人少
しおかしいぞ?
「ギシュ、ギシュ、ギシュ…」
 そこで、僕はやっとある結論に到達した。さっき僕はこう思った。『連続猟奇殺人犯が街
中を闊歩しているかもしれないというのに、こんな夜遅く人通りの少ない場所を歩くとは
物好きな人だ』、と。でも、それは大きな誤りだった。この人は物好きな人なんかじゃなく
て、そんなんじゃなくて、それはつまり…

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 こいつこそが連続猟奇殺人犯だったのだ…!

「う、うわああああああああああああああああああああ!!」
 僕はすぐさま後ろに振り返ると、全力で逃げ出した。そんな、そんな事って。ニュース
で連続猟奇殺人について見ていた時には、こうなるなんて思ってもいなかった。テレビの
向こう側で騒がれているだけで、僕には関係無い、そんな根拠も無い安心感に浸っていた。
でも、でも今は、それが現実として襲い掛かって来ている。

「うあッ…!」
 視界が大きく揺れ、直後僕は地面と熱烈な口付けを交わす。しまった。石に躓いて転ん
でしまったのだ。
「ひッ、ひいぃ!」
 腰が抜けて立ち上がれない。そんな間にも、殺人鬼は物凄い勢いで僕に向かって来る。
死ぬのか!?ここで!?嫌だ、死にたくない!僕には、まだやりたい事が…

 ―――やりたい事って、何だったんだ?

 時が止まったような錯覚。その中で、今までの記憶が一瞬にして脳の中を渦巻く。幼稚
園、小学校、中学校、高校、妹、お父さん、お母さん、おじいさん、おばあさん、今まで
会った人、今まで見た景色。これが、走馬灯ってやつなのか…

『俺の名前は外法狐。狐娘と呼ぶ奴もいるがね。覚えておいて損は無い名前だぞ』
 その言葉と共に、あの奇妙奇天烈な女性のシルエットが脳裏をよぎった。畜生、何だってよりによって、あんな奴の事なんて。

「ギシュアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 殺人鬼の右腕が、およそ人間とは思えない速度で僕の頭に振り下ろされる。僕は恐怖に
耐え切れず、ギュッと目をつぶり―――

101:2004/11/10(水) 00:03

「ギュバア!!」
 しかし、腕は僕の頭に振り下ろされなかった。何だ?一体、何が起こった!?
「……?」
 恐る恐る目を開いてみる。すると僕の真正面にいた筈の殺人鬼の姿はそこになく、5メ
ートル程離れた所に倒れている。代わりに、目の前に立っていたのは…

「よう、少年。危機一髪、だったな」
 外法狐さんが、あの珍奇人間がそこに立っていた。あの連続猟奇殺人犯と至近距離で相
対しているというのに、いつ殺されてもおかしくないのに、それなのに、僕とであった時
と同じ飄々とした顔で、僕を背中で庇うように立っていた。
「き、狐さん、この人―――」
「分かってるよ、まあ心配せずにそこで座ってろ」
 どこから来るのだ。この人のこの自信はどこから来ているのだ。そして、どうして僕は、
この人が来ただけでこんなにも安心してしまっているのだ。

「そこのお前、こいつにはちょっとした借りがあってね。見殺しには出来ないんだよ。命
 が惜しかったら、このまま回れ右して失せろ。そうすれば、お前の事は見なかった事に
 してやってもいいぜ?」
 まるで立ち話でもするかのような無防備な姿勢で、狐さんは殺人鬼に言う。
「ギシュ!」
 殺人鬼が、倒れたままの体勢から一気に跳ね起きて狐さんに突進する。交渉決裂。いや、
最初から交渉だの会話だのが通じる相手じゃない。
「それが答えかよ。まあこうなるとは思っていたがね。もう何言っても無駄だろうけど一
 応予め断っとこうか。俺、目茶苦茶強えぜ?」
 狐さんはまだ何の構えも取らない。両手をぶらんと下げたまま、向かってくる殺人鬼を
見据える。そして殺人鬼の腕の一薙ぎが、狐さんの首目掛けて放たれた。
「不死身の肉体(ナインライヴス)…!」
 狐さんが、小さく、しかし力強い声でそう呟いた。


                〜次回へ続く〜



 〜追記〜

AA大辞典より
        ,
  _, -ー"´|
  \フノリハリル
  イ从゚ ー゚ノi、
  ⊂i) `y'〉つ
  ,,-'''ん、ハゝ
.,;',_,,_;:'(ノ ヽ )

狐娘【きつねむすめ】
通称きっちゃん
爪技、狐火などを使うことが出来る。
貧乳疑惑アリ。

【スレ立てる前に】新キャラ・自キャラを披露するスレ【ここへ来て】
http://aa.2ch.net/test/read.cgi/mona/1068109560/321
うゐのおくやまけふこゑて 巻之一
http://aa3.2ch.net/test/read.cgi/mona/1071282721/
うゐのおくやまけふこゑて 巻之二
http://aa3.2ch.net/test/read.cgi/mona/1073808351/
うゐのおくやまけふこゑて 巻之三
http://aa3.2ch.net/test/read.cgi/mona/1077886895/

外法狐の元AAはこれです。
ほぼオリキャラ化してるとか言わない。

111:2004/11/10(水) 00:05
訂正
>山盛りのヌイグルミを両手に抱え、着物の女性が満足そうな顔を見せた。この女、僕の
財布が底をつくまでUFOキャッチャー続けやがった。しかし、出会った時から徹頭徹尾
無愛想だったこの女性がこんな顔する
 ↓
>山盛りのヌイグルミを両手に抱え、着物の女性が満足そうな顔を見せた。この女、僕の
財布が底をつくまでUFOキャッチャー続けやがった。しかし、出会った時から徹頭徹尾
無愛想だったこの女性がこんな顔するなんて意外だ。

121:2004/11/11(木) 17:41
 グシャアッ!

 狐さんの顔面に、殺人鬼の拳がめり込んだ。
 肉が潰れ、骨の砕ける音。
 おそらく狐さんの顔は見るも無残に陥没している筈だ。
「どうした、その程度か?」
 ―――!
 僕は耳を疑った。
 馬鹿な。
 あんなに凄い音がしたのに、どうしてこの人はこんな平気な声が出せるのだ!?
 いやそれよりも、どうしてこの人は生きているんだ!?

「……!」
 僕は戦慄する。
 肉が潰れ、骨が砕けていたのは殺人鬼の腕のほうだった。
 ありえない。こんな事、ありえない。
 この人の体は、鋼鉄製だとでもいうのか!?

「それじゃあ、今度はこっちの番だな」
 狐さんは先程の殺人鬼の一撃など毛程も効いていない様子で、腕を大きく振りかぶった。
 あまりにも単純な、あまりにも愚直な、あまりにも率直なパンチの為の姿勢。
 攻撃準備態勢。

「……!?」
 目を凝らすと、狐さんの周りに何かもやのようなものが纏わり付いているのが見えた。
 そのもやは、狐さんの今まさに放たれんとする右拳に特に大きく纏わり付いている。
 何だ、あれは?
 目の錯覚かなにかなのか?

「いくぜ…!」
 臨海まで力を溜めた狐さんが、今まさに拳を打ち込もうとした。

 轟音。

 振り上げた拳を振り下ろす、ただそれだけの行為。
 たったそれだけの筈なのに、僕には狐さんのその動作が見えなかった。
 あまりにも速く、あまりにも強く、それはあまりにも常軌を逸し過ぎていて、
 地面に出来た小規模のクレーターと、半分以上挽き肉と化した殺人鬼の有様を見て、
 ようやく何が起こったのか理解出来る、それ程の超常現象。
 文字通りの一撃必殺。

「…っと。 少しやり過ぎたかな」
 袖を払いながら、狐さんが呟く。
 ……。
 目の前で起こったこの世ならざる出来事に、思考が追いつかない。
 落ち着け。考えろ。
 今、僕がするべき事は…

131:2004/11/11(木) 17:41

「? 少年、電話なんか取り出してどうするつもりなんだい?」
 ポケットから携帯電話を取り出した僕に、狐さんが訊ねた。
「警察! 警察ですよ! これは間違い無く警察に連絡すべきです!」
 目の前で殺人事件が起きた。
 ならば矢張り一般市民としての僕が取るべき行動は、警察に連絡を入れる事だろう。
「おいおい、警察に連絡されると、色々面倒な事になりそうなんだ。 止めてくれよ」
 平然と言い放つ狐さん。
「いや、駄目でしょう! どう考えても駄目でしょう!
 あなたが僕を助けようとしてくれた事はちゃんと証言しますから、
 大人しく警察に自首して下さい!
 過剰防衛は免れませんが、情状酌量の余地は残されてます!」
「悪いが、君が警察を呼んだら、俺は警察諸共君を殺す」
 やばい。目がマジだ。
 もう嫌です。もうこんなの嫌です。
 誰か僕をここから連れ出して下さい。

「それにさあ、君は大きな誤解をしているぞ、少年。
 俺はあのおっさんを殺してなんかいないよ」
 何を言ってんだこの人は。今になって容疑の否認か?
 でも残念。僕はきっちり殺人現場を見ています。
 それとも、犯した罪に耐え切れずに精神がおかしくなっちゃったのか?
「あー… やっぱ口でこう言っても信じられないか。 仕方無い」
 と、狐さんはいきなり僕の腕を掴んだ。
 凄い力。振りほどこうという気すら起こらない。
 そのまま、僕は狐さんが惨殺した殺人鬼の死体の傍まで連れてこられた。
「ほらよ」
 あろう事か、狐さんは僕の手を殺人鬼の死体の一部に押し当てた。
「うわああああああああああああああ!」
 何をするんだこの人は!新手の嫌がらせか!?
 ひんやりとした、生命が失われた事を象徴するような冷たさが手の平に伝わってくる。
 ……?
 え?
 待て。
 冷たい?
 これは、おかしいぞ?

「分かったみたいだな」
 狐さんが僕の手を死体から離した。
 冷たい。
 この死体は冷た過ぎる。
 こいつは、つい今し方殺されたばかりの筈なのに、だ。
 本来なら、肉体にはまだ温かみが残っていないと理屈に合わない。

「…どういう事なんですか?」
 僕は狐さんの方を向いて言った。
「どういう事も何もそういう事さ。
 こいつは、ずっと前に死んでいた」
 馬鹿な。そんなの、信じれるか。
 漫画やゲームじゃあるまいし、死体がひとりでに動くなんてある訳が無い。

「まっ、信じれないのも無理は無いさ、少年。
 君のような一般人(カタギ)には、俺達逸般人(アウトロー)の世界の事なんざ知らないだろうからな。
 理解出来ないのが当然だし、理解出来ない方がいい」
 狐さんが屈みこみ、何やら死体を調べ始める。
「はぁん、ふむふむ、成る程ね。
 これは多分、いや、間違い無く…」
 何やらぶつぶつ呟きながら、狐さんがわりと原型を残している殺人鬼の頭部を眺めた。
 そして思い出したように、僕の方へと顔を向ける。
「少年、ここまでだ。
 君の退屈で平凡で安全で安心で正常な日常を失いたくないのなら、ここで回れ右して家に帰りな。
 それで、今日ここであった事なんざ忘れろ。
 覚えていても、決して碌な事にはならない。
 君は殺人鬼になんか襲われなかったし、そもそも君は俺には会わなかった。
 それで万事は終了する。
 未解決という形で何事も無く解決する。
 いいか、少年。
 世の中には関わらない方がいい世界が、確実に存在するし、君には関わる資格は無い」
 真面目な顔で、狐さんがそう告げた。
 言われなくとも、元よりそのつもりだ。
 というかこうなった原因の一部はあんたにもあるじゃないか。
 いいさ。
 丁度殺人鬼も死んだ事だし、これ以上猟奇殺人が発生する事も無いだろう。
 そして、再び僕の日常は続く。
 何も本物など無い、偽りの日常が―――

 ウゾリ

 その時、殺人鬼の耳から蛭のような蟲が這い出て来た。

「う、うわあああああああああああああ!?」
 ホラー映画のようにおぞましいその出来事に、僕は本日何回目か分からない悲鳴を上げた。
 もう勘弁してくれ。
 何だって今日に限ってこんな馬鹿げた事ばっかり。厄年にはまだ早過ぎるぞ!?

141:2004/11/11(木) 17:42

「何だ、藪から棒に情けない声出して」
 狐さんが呆れたように言う。
「む、む、む、蟲。
 今、耳から蟲が…!」
 震える手で殺人鬼の耳元で蠢く蟲を指差す。
 狐さん、あれ見て何とも思わないのか?

「……!」
 その時、狐さんの目付きが変わった。
 何だ?
 僕、何かおかしい事言ったか?
「『視える』のか、『あれ』が…!?」
 低い声で僕に尋ねる狐さん。僕はそれに頷く事で答える。

「…はッ、くっくっく… あはははは!
 成る程成る程、こういう落ちがつくか」
 愉快そうに狐さんが笑う。
 前からおかしいとは思っていたが、この人ついに狂ったか?

「!!」
 と、いきなり狐さんは僕の肩を両手で掴んだ。
 そして僕の顔をぐいと眼前まで引き寄せる。

「いいだろう、少年。 君は遅かれ早かれ選択の場面に出くわす人間だったのか。
 さっきの『世の中には関わらない方がいい世界が、確実に存在するし、君には関わる資格は無い』、
 という発言だが、すまない、あれは訂正しよう。
 どうやら俺は君を見くびっていたようだ」
 何を言ってるんだこの人は。
 何が言いたいんだこの人は。
 分からない。
 一体全体十把一絡げ一から十まで分からない。

「いいか、今君は人生の転機を迎えた。
 君は選択しなければならなくなった。
 そして君には選択する権利と義務がある。
 このまま日常に埋没するか、日常に放逐されるか。
 二つに一つ。 右か左か、上か下か、赤か黒か、死ぬか生きるかだ。
 逃避は許されない。 逃亡は許されない。 逃走は許されない。
 これは君の選択だ。 君の人生だ。 君が選んで君が決めろ」
 狐さんが僕の肩から手を離す。
 そして、おもむろに地面の石を一つ拾って放り投げた。
 メジャーリーガーも顔負けの速度で石は投擲され、瞬く間に視界の外へと行ってしまう。
「ああ、今のは気にしなくていい。 ちょっと鼠を追い払っただけだ。
 尤も仕留められはしなかったろうが…」
 鼠?
 そんなのがあんな向こうにいたと言うのか?

「さて、ここからが本題だ、少年。
 もし君が日常を失ってもいいのなら、非日常に抗う事を選ぶのなら、
 今日君と一緒に遊んだゲームセンターに、今日と同じ時間に来るんだ。
 そうすれば、全てとは言わないが教えてやろう。
 今日、君が今ここで見たものの本質というやつを。
 言っておくがこれは強制じゃないぞ。
 君にその気が無いのなら、悪い事は言わない。 来るのはやめておけ。
 生半可な覚悟で歩んでいい道じゃないし、そうすれば人としての幸せの幾つかも失わずにすむ。
 いいか、忘れるなよ。 これは君が決める事なんだぞ」
 それだけを一方的に告げると、狐さんは身を翻して跳躍した。
 有に10メートルはあろうかという距離を助走無しで跳躍して着地。
 そして背中はこちらに向けたまま、その端正な顔だけを僕の方に振り返らせる。
「じゃあな、少年。 なかなか楽しかったが、今日はこれでお開きだ。
 君にその気があるならまた逢おう」
 そう言い残し、狐さんは夜の闇へと姿を消した。
 ポツンと、その場に僕と殺人鬼の死体だけが残される。
 不気味な程の静けさだけが、そこには漂っていた。

「…結局何だったんだよ、あの人は」
 考えるだけ無駄とは分かりつつも、僕はそう自問自答せずにはいられない。
 外法狐。
 着物姿の俺女。
 それはまるで嵐のような奴だった。



                      〜続く〜

151:2004/11/13(土) 01:32
 〜三話〜

 狐さんと別れた(というより一方的に立ち去られた)後、
 僕は結局警察には通報しないまま家に帰った。
 警察にあそこであった事を話しても到底信じてくれないだろうし、
 もし信じる人がいるならそれは病院へ行く事をお勧めするべきだろう。
 それより何より、通報した僕が容疑者として疑われるかもしれなかったからだ。
 かくして僕は3000里歩いて来たかのような疲労感と感じながらも何とか家に辿り着き、
 「今日は食欲が無いから」と晩御飯も食べずにそのまま寝てしまった。
 というより、殺人鬼の死体のあの有様を見て普通に食欲が湧く方が異常だ。
 そして、今日、何事もなかったかのように学校へと登校している。

「夢じゃ…なかったんだよなあ……」
 朝、眼が覚めた時、僕は昨日の惨劇は悪い夢なのかと思っていた。
 そうであって欲しかった。
 しかし、そのささやかな願いも朝のニュースを見た時に脆くも崩れ去った。

 『連続猟奇殺人事件、21人目の被害者か!?』

 何度目か分からない緊急速報。
 テレビのレポーターが実況しているのは、紛れも無く昨日のあの土手地だった。
 そしてそこに映る小規模のクレーター。
 それが昨日のあれはどうしようもなく疑いようもなく抗いようもなく現実だったという事を示していた。
「冗談じゃねえぞ…」
 何だったんだ。何だったんだ、あれは。
 そして、あの人は。
 外法狐。着物の似合う女性。俺女。容姿端麗。豪放磊落。馬鹿力。異常頑丈耐久力。
 僕を巻き込んだ人。僕に何かを見出した人。僕に何かを教えようとしている人。
 そもそも、あれは本当に人なのか?

「タカラギコ君、急がないと遅れますよ?」
 と、思案に耽る僕の横から柔和な声がかけられた。
「…あ、お早うございます、おとうふ先生」
 二丁目冬夫(にちょうめふゆお)。僕の高校で生物を教えている先生だ。
 生徒達からは、冬夫(ふゆお)を音読みした『とうふ先生』、または『おとうふ先生』の愛称で親しまれている。
「? 先生、きょうは自転車で学校へ行かれているんですか?」
 僕は先生に訊ねた。
 おとうふ先生はいつもは白い愛車で通勤しているのだが、今日に限って自転車に乗っていたのだ。
「ああ、最近下っ腹のたるみが気になってきましてね。
 健康の為に車を控える事にしたのですよ。」
 歳相応にやや皺の入った顔を恥ずかしげにほころばせて先生が答える。
 成る程、そういう事か。これで合点がいった。
「では私はお先に。 タカラギコ君も遅刻してはいけませんよ」
 そう言うと先生は一足先に学校へと向かった。
 さて、それでは僕も少し急ぐとしよう。

161:2004/11/13(土) 01:34





 その日も、つつがなく六限目まで授業は終了した。
 授業という学校の檻から開放された学生達が、放課後という空へと思い思いに羽ばたいていく。
 ある者は部活へ。ある者はそのまま家へ。ある者はコンビニへ。ある者は繁華街へ。
 ある者はファーストフードへ。ある者は塾へ。ある者はゲーセンへ。
 そして僕は、相も変わらず美術室で絵を写していた。

 人の絵を模倣している時は、何と言うか心を無にして落ち着く事が出来る。
 何の目的も無いが、何の意味も無いが、僕にとっては時間を潰す程度の役には立つ。
「……」
 ちらりと、壁にかかった時計を見る。現在4時30分。閉校時間まではまだもう少しある。
『君にその気があるならまた逢おう』。
 狐さんの言葉が頭の中で再生される。昨日狐さんとあのゲーセンについたのは確か午後6時くらい。
 学校から歩けば30分程で到着する。
 言い換えれば、5時30分、つまりあと1時間の間に僕は選択をせねばならなかった。
 あのゲーセンに行って狐さんと会うか、それともそうしないのか。
「ま、考える必要も無いけどね」
 そう、考える必要は無い。答えは『行かない』だ。
 大体何で僕が明らかに危険(ヤバ)そうな事に足を突っ込まなきゃならないのか。
 あんなの、無視するのが一番いいに決まってる。そうすれば、今までと同じ日常を送れるのだ。
 わざわざ虎の穴に飛び込むような愚を冒す必要などありはしない。
 そうさ、僕はこのまま―――

「……?」
 ガラリ、と美術室のドアが開く音。誰かが部屋に入って来たらしい。
 こんな所に、何か用でもあるのだろうか。
「あ…ごめん、邪魔した…?」
 すまなそうに僕に声をかけてきたのは、一人の女子生徒だった。
 制服のリボンの色から、どうやら僕と同じ2年生らしい。
 えーと、見覚えがある気もするんだが… 誰だったっけ?
「いえ、別にいいですよ」
 そう返しながら、僕はこの女子が誰だったのかを思い出そうとする。
 あまり人とは関わらない性格の所為か、僕はどうにも人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。
 狐さんのようにどぎついインパクトでもない限り、一度あったくらいでは顔と名前は一致しない。
 さて、この人は誰だったか。
 美術部の幽霊部員か、それとも同じクラスの女子だったか…

171:2004/11/13(土) 01:34

「あの、タカラギコ君、一つ聞いていい?」
 女子が僕に訊ねる。
 思い出した。確か、この子は僕のクラスメイトだった。
 名前は…そうそう、山吹萌奈香(やまぶきもなか)だ。
 で、僕に何を聞きたいだって?
「はあ、別にいいですけど」
 一応内容だけは聞いてみる事にした。
 しかし、分からない。
 僕とモナカさんは全くと言っていい程交流なんて無かった筈だ。
 せいぜい、二言三言他愛も無い会話を交わしただけだろう。
 それなのに、わざわざ美術室に来てまで僕に聞きたい事って何だ?

「えっと… その…
 昨日、タカラギコ君が凄く綺麗な和服の女の人とゲームセンターで一緒に遊んでた、
 って噂を聞いたんだけど、それって本当なの…?」
 うげげ。
 よもやとは思っていたが、うちの学校の生徒に目撃されていたのか。
 そういや今日クラスの連中がいやにジロジロ僕を見ていたと思っていたが、それが原因か。
 そうと分かればモナカさんがここに来た理由も納得がいく。
 女の子は噂が好きだからな。直接僕に事の真偽を確かめに来た訳だ。
「あー… 一応本当ですけど、あれは何と言うか…」
 困ったな。どうモナカさんに説明したものか。
「…もしかして、恋人?」
「いえ、違います。 神に誓って仏に誓って絶対完全違います」
 この子はよりによって何という事を言うのか。
 僕と狐さんが恋人?
 そりゃ外見だけなら狐さんは恋人として完璧だろうが、肝心の中身が破滅的だ。
 あらぬ噂が流れぬよう、ここで完璧に否定しておかねば。
「本当に?」
「本当です」
 僕はきっぱりと言い切った。
 人生に余計な波風を立てない為にも、誤解を生むのだけは避けなければならない。
「…信じていいんだね」
 疑り深い人だな、この子は。
 最初から違うって言ってるじゃないか。
「ええ、嘘はいいません」
 僕がそう答えると、モナカさんの顔が心なしか明るくなる。
「そっか、そうだよね。
 ごめんね、変な事聞いて」
 モナカさんは何故か嬉しそうににっこり微笑んだ。
 ?
 どうして彼女が嬉しがるんだ?
 僕、何か彼女が喜ぶ事でも言っただろうか。
「ごめんね、邪魔しちゃって。 絵、頑張ってね」
 モナカさんが恥ずかしそうに美術室から出て行く。
 結局、彼女は何をしに来たのだろう。
 いくら考えても、僕にはその答えが分からなかった。

181:2004/11/13(土) 01:35





「よう。 来たか、少年」
 昨日僕の財布の中身が盛大につぎ込まれたUFOキャッチャーを背に、狐さんがシニカルに笑った。
 …来てしまった。
 僕はどうしてここに居るのだろう。
 僕はどうしてここに来てしまったのだろう。
 あれだけ、この人と関わり合いになるのは止そうと思っていたのに。
「どうしてここに来てしまったのか、って顔だな。
 何、難しく考える事は無い。
 少年。 君は、昨日のあれに関わってしまった時点で、答えが決まってたんだ。
 君の細胞が、君の存在が、ここに来る事を選んだのさ。
 言っておくがこれは運命論じゃないぜ。
 『君がここに来た』。
 これは運命でも何でも無く、君が君の意思で選んだ事だ。
 意識的か無意識的かは別としてね」
 僕が、選んだ…?
 …いや、それはそうなのだろう。
 下校途中、僕はいつでも引き返す事は出来た。それは簡単な事だった。
 だが、それをしなかった。
 それはつまり、確実に僕が選んだという事なのだろう。
「しっかしまあ、本当今の世の中って髪染めてる奴が多いよな。
 ファッションだか何だか知らないが、自分の持って生まれたものにどうして手を加えるのかね。
 その点、君は自毛のままのようだな。 感心感心」
 どうやら、狐さんは結構頭が固いようだ。
「…そういう狐さんの髪はどうなんです?」
「ああ、こりゃ生まれついての白髪だよ。 格好いいだろ?」
 「はあ、まあ」と生返事で答える僕。
「ま、ここで立ち話も何だし、場所を移そうか。
 一緒に茶でもしばこうぜ、少年。」
 有無を言わさず狐さんが僕の腕を引っ張る。
 強引だ。この人本当に強引だ。この人に他人の話を聞くという概念は無いのだろうか。
 ほぼ拉致も同然に、僕は近くの喫茶店へと連れ込まれる。

「何名様ですかー?」
「お二人様で」
 ウエイトレスに指でVの字を作って見せる狐さん。
 あんたこっちから言う時には『お』も『様』もつけねーぞ、普通は。
「よーいしょっと」
 狐さんが案内された席へどっかりと腰を下ろす。
 本当にいっつも態度でかいひとだな、この人。
「では聞かせてましょうか。
 僕に教えてくれる事って、一体何なんですか?」
 お冷やを渡しに来たウエイトレスさんが向こうに行ったのを見計らって、僕は狐さんに訊ねた。
「まあそう急ぐなよ、少年。
 武士も食わねば何とやら、まずは飯にするとしようぜ」
 狐さんがパラパラとメニューをめくる。
 待て。
 確か昨日、UFOキャッチャーの金を僕にせびる程この人は金が無かった筈だ。
 と、いう事は…

「狐さん、ところで食事の代金はどなたが払うので?」
「え? 奢ってくれるんじゃないのか?」
 ……。

「帰る帰る帰ります帰れば帰る時!
 帰らせて貰います僕は実家に帰らせて貰います!」
 畜生。
 やっぱりか。
 来るんじゃなかった。
「えー、ター坊のケチー」
「人を変な仇名で呼ばないで下さい!
 大体僕は昨日あなたがUFOキャッチャーをしたおかげで、一文無しなんですよ!?」
「お金が無ければ代金を払わなければいいじゃない」
「あんたそれ食い逃げじゃねえかよ!」
 よくもまあヌケヌケと。
 殺すぞ。
 無理だけど。

「冗談だって。 いくら俺でもそこまであつかましくないよ。
 昨日の礼も兼ねて奢ってやる」
「奢ってやるって…
 あなた昨日お金持ってないって言ってたじゃないですか」
「昨日は昨日、今日は今日さ」
 狐さんが懐から茶色い封筒を取り出した。かなりの厚みがある。
 やっぱり中身って…

191:2004/11/13(土) 01:35

「? 少年、電話なんか取り出してどうするつもりなんだい?」
「警察に連絡します。 銀行強盗の犯人がここに居ると」
 ああ、この人は本当に何て人なんだ。
 昨日の殺人に飽き足らず、銀行強盗にまで手を染めるなんて。
 今朝のニュースで見た銀行強盗事件の犯人がまさか目の前にいるとは、
 灯台下暗し、事実は小説より奇なりだ。
「失礼な奴だな、君は。
 俺が銀行強盗をするような奴にみえるのか?」
 見えます。
 果てしなく究極的に。
「じゃあ、その僕には到底お目にかかれないような札束は何なんです!?」
 僕は声を荒げた。
「あー、これはまあ色々、色々さ。
 多分君は知らない方がいい」
 眼をそらしてお茶を濁す狐さん。
 よく見ると、その眼は笑っていない。
「…分かりました。 詮索しても無駄なようですし、もう聞きません」
 影で暗殺でもしてんじゃないだろうな、この人。
 それか実はどこかの国のスパイとか。
「いい子だ、少年。
 まあ話すべき時がくればそのうち話すよ。
 今の所、俺は君に嫌われたくないんでね」
 悪戯っぽく狐さんが笑う。
 …可愛い。
 一瞬、僕はその笑顔に引き込まれそうになり、慌ててぶんぶんと首を振った。
「お、どうした? 顔が赤いぞ、少年。
 お姉さんの魅力にドッキュンバッキュンかな?」
「うるせえ」
 図星を突かれてしまった… って、今日はこんなストロベリートークしにここまで来たんじゃないぞ!?

「てか狐さん、早く本題に入って下さい。
 僕も遅くなる前に帰りたいんで」
「まー待てって。 飯を奢ると言っただろう?
 取り敢えず何か注文しようぜ」
 狐さんがウエイトレスを呼ぶ。
 出所不明の金でご馳走になるのは気がかりだが、折角なので奢ってもらう事にした。
 家には、「今日は晩御飯いらないから」と連絡を入れておく。
「それじゃ俺は、カレーライスにペペロンチーニにサンドイッチに…」
 目に付いたメニューを片っ端から注文する狐さん。
 おいおい、まさか全部食うつもりなのか!?
 いや、この人ならそれくらい充分にありえる。

「…んじゃ、飯が来るのを待ってる間に本題に移るとしようか」
 ようやく本題に入るようだ。
 狐さんが真面目な顔で僕の顔を見据える。
「昨日のあれ、確かに見えたんだな」
「…はい」
 あれとはおそらく蟲の事だ。
 もしかしたら、狐さんに纏わりついていたもやの事かもしれないが。
 でも、多分どちらでも正解だろう。
「そうか。 それなら大丈夫だな」
 と、狐さんがポンと僕の肩に右手を置いた。
 次の瞬間、狐さんの右手に昨日と同じもやが出て―――

201:2004/11/13(土) 01:36

「う、う、う、うわあああ!?」
 僕の内側から、何かが溢れ出した。
 見ると、狐さんと同じようなもやが僕の体全体からも湧き出ている。
 何だ。
 これは、何だ。
 僕は一体、何をされたんだ!?
「っと、やべ」
 狐さんが慌てた声をあげ、右手にかかるもやが更に大きくなる。
 押さえ込まれるような感覚。
 すると、僕の中からはちきれそうな程溢れ出していたもやもかなり収まった。
「お客様、どうなされました!?」
 僕の叫び声に気づいたウエイトレスさんが慌てて僕達に駆けつけて来る。
「ああ、何でも無いよ。
 こいつには持病の癪があってね、それさ。 驚かせてすまない」
 信じられないくらい丁寧な態度で頭を下げる狐さん。
 てか、礼儀を知ってるなら僕にも少しは気を使え。
「そ、そうですか」
 訝しがりながらも、ウエイトレスはその場を去って行った。
 どうやら、大事にはならなかったらしい。

「な、何なんですか、今のは!?」
 僕は掴みかからんばかりの勢いで狐さんに尋ねた。
 先程より大分程度は小さくなったといえど、僕の体からはまだ微量に何かが溢れている。
 こいつ、本当に碌な事しないなあ。
「悪い悪い。
 まさか、君がここまで素質があるとは思わなかったからさ。
 俺も驚いちまったよ。
 ま、心配すんな。 ちゃんと俺が『押さえ込んでおいた』からさ」
 悪びれもせずに狐さんが言う。
「ま、大分落ち着いたろ?
 それじゃあここからがお楽しみだ」
 おもむろに、狐さんが一枚の葉っぱを取り出してお冷やの上に浮かべた。
「あの、狐さん。 あなたの故郷では水を飲む時に葉っぱを浮かべる風習があるのですか?」
「んな訳あるかよ。 いいからそのままコップの淵に手を当ててみろ」
 何を言ってるんだこの人は、と思ったが、逆らうと恐いので言う通りにコップに手を触れてみる。
 …何も起こらない。
「あの、狐さん。 これは一体どこの国の祭りで?」
 こんな事をさせる狐さんの意図が分からない。
 こんなんで、何が分かるというのだ?
「見かけに反応は無し、か。 それなら…」
 狐さんがお冷やに指を突っ込み、ついた水を舌先で舐める。
「水の味にも変化無し。
 つまり、気(オーラ)は確かに水に流れている筈なのに、何の変化も起こっていない。
 …はッ、こいつは本当に傑作だ。 よりによって『特質系』か」
 特質…系?
 何だ、それは?
 何の話だ?
「ん? ああ、説明が要るよな。
 今のは水見式っつって、個人個人の持つ念の性質ってのを識別する為の儀式さ」
 念?性質?
 助けて下さい。この人の言ってる事の意味が分かりません。
「まずは念の説明からした方がいいな。
 いいかい、少年。 念ってのは、俺達生き物の持つ潜在的な能力の一つさ。
 気孔とかの類を想像してもらえば分かり易いか」
 気孔?
 よく漫画やゲームに出てくるあれか?
 波動拳とかタイガーバズーカーとかのあれなのか?
「で、その念というやつにも勿論個人によって個性や得手不得手がある。
 その個性ってのは、大雑把に分けると六種類になるのさ。
 例えば、ものの持つ働きや強さを強くする『強化系』。
 念の元となる気の性質を変える『変化形』。
 気を飛ばす『放出系』。
 物質や生物を操る『操作系』。
 気を物質化する『具現化系』。
 そして最後に、それらどれにも属さない『特質系』だ」
 狐さんの説明は続く。
「そして、それらの系統のどれに属するかを見極める為に使われるのが、さっきも言った水見式だ。
 気をコップとかに注いだ水とその上に浮かべた葉っぱとかに流す事で、
 それによって起こった変化を元に気の特性を判断するのさ。
 具体的に言うと、『強化系』なら水が増えてコップから溢れる。
 『変化系』なら水の性質、例えば味とかが変わる。
 『放出系』なら水の色が変わる。
 『操作系』なら水に浮いた葉っぱが動く。
 『具現化系』ならコップの中に不純物が生まれる。
 『特質系』は、上に挙げた奴以外の事が起きる。
 お前の場合、何も起こらないという現象がそれな訳だ」
 ああ、そうか。
 だから狐さんは僕の事を『特質系』と言ったのか。

211:2004/11/13(土) 01:37

「…でも、僕の場合ただ単にその『念』とかいうやつの才能が無いだけなんじゃないですか?」
「いいや、それはない。
 あれだけの気が流れて、水や葉っぱには何の変化も無い。
 そんな事がある訳無いんだ。
 紛れも無く、お前は『特質系』の念能力者さ」
 何も起こせないのが特別…
 何か、嫌な感じだ。
「次にそれぞれの系統の得意不得意、端的に言えば相性について教えよう。」
 そう言うと、狐さんはナプキンに以下のようなものを書いた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
★系統の相性について

    強化系
   /    \
放出系    変化系
  |      |
操作系    具現化系
   \    /
    特質系

この六性図で自分の属する系統に近いものほど相性が良く
逆に自分の属する系統から離れるほど相性が悪くなる
(特質系の威力・精度は不明)

各系統の能力を使用するときの具体的な威力・精度は
自分の属する系統の能力     100%
隣り合う系統の能力        80%
二つ先に位置する系統の能力   60%
一番遠い系統の能力         40%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「以上相性についての説明終了」
「うわ、すっごい手抜きだ」
「仕方ないだろ、作者が面倒臭いんだ」
「そっすか」

「…それで、狐さんはどの系統なんですか?」
 僕は狐さんの顔を見て言った。
「いい質問だ、少年。
 しかし気をつけろ。 自分の系統や能力を人に話すってのは、言い換えれば自分の長所短所をバラすのも同然だ。
 だから、俺達の世界では相手の能力を聞くのは最大のマナー違反にあたる。
 これは分かるな?」
 そういえばそうだ。
 いくら強い人でも、その能力に応じてしっかりと対策を立てられたら十分に負ける可能性が出てくる。
 つまり、自分の能力を吹聴して回る事はそれがそのまま敗北に繋がるという事か。
「ま、今回に限って言えば、君の系統だけ知って俺だけ秘密ってのはフェアじゃないよな。
 特別だ。 サービスに俺の念を教えてやるよ」
 狐さんの手にもや(多分これが気ってやつなのだろう)が宿り、
 そのままそれがコップの淵に―――

「!!!!!」

 水柱が、上がった。
 水が猛烈な勢いでコップから溢れ出し、さながら噴水のように店の天井に向かって飛び出す。
 その余波でコップは跡形も無く砕け散り、一拍の間の後僕の頭に飛び出した水が降りかかった。
 凄まじ過ぎる。
 これが、狐さんの念だというのか。

「お、お客様! 何事ですか!?」
 再びウエイトレスさんが僕達の所に駆けつけた。
 それどころか、店中の視線が僕達に釘付けになる。
 まずい。
 これで僕も、明日から奇人変人の仲間入りだ!
「ああ、ごめんごめん。
 手品の練習してたら、ちょっと失敗しちゃってね。
 これは迷惑代だ。 取っといてくれ」
 狐さんが札束から三万円を抜き出して、惜しげもなくウエイトレスさんに手渡した。
 手馴れた様子からして、こういうのは初めてではないらしい。

「…どうだい、惚れ直しただろ?」
 狐さんが僕の顔を覗き込む。
 いえ、僕はこれで益々あなたと関わり合いにはならないという決心がつきました。
「見ての通り、俺はこれ以上無い程の強化系。
 そして、それを肉体強化にだけ徹底して練り上げたのが俺の念、
 『不死身の肉体(ナインライヴス)』さ」
 成る程。
 だから、あの殺人鬼の攻撃も通用しなかったし、
 単なるパンチであそこまでの威力が出せたのか。
 まさに化け物。
 まさに怪物。

221:2004/11/13(土) 01:37

「…?
 そういや、『俺の念、『不死身の肉体(ナインライヴス)』って言いましたけど、
 念ってやつには一人一人の名前をつけるものなんですか?」
 僕は狐さんに聞いた。
「ああ、それか。
 そういえば重要な事を教えるのを忘れてたな。
 念それぞれの系統ってのはさっき教えた通りだが、
 同じ系統の中でも、気をどう使うかによって無限のバリエーションを見せる。
 例えば、具現化系でも刀を作るか槍を作るか、それとも銃を作るかでもう別の能力な訳だ。
 そしてその自分独自の念能力に対する誇りと矜持の表れとして、
 俺達念能力者は念能力に名前をつけてるのさ。
 それが、そのままそのスジでの通り名になる事もある」
 よく分からんが、ようはスタンドみたいなものか。
「自分の念能力を何にするか、これは念能力者にとって一番重要な問題だぜ。
 それがそのまま自分の一生を左右する。
 身の振り方から戦い方、そして下手すりゃ寿命の長さまでな。
 お前の場合は特質系だから、あらかた方向性が定まってる事が多いんだけど、無論例外だって存在する。
 どんな能力にするかは、慎重に決めろよ」
 諭すように告げる狐さん。
 どんな能力にするか。自分は何になりたいか。
 そんなの、そんな事―――
 僕に、分かる訳が無いじゃないか。
「…僕には決められませんよ、狐さん。
 だって、僕には、自分自身の何かを創る事なんて出来ないんですから」
 自嘲気味に僕は呟く。
「自分自身の何かを創れない、ね。 ふん、そりゃまた難儀な話だな。
 まあいいさ、暴走迷走は青春時代の特権だ。
 存分に悩んで存分に足掻きな。
 それがそのままお前の肥やしになる」
 好き勝手言いやがって。
 あなたに僕の何が分かるというんだ。
 世の中の人は皆が皆、あなたのように強くて確固たる自分を持っている人間じゃないんだ。
 そんな気もしらないで、よくもまあそんな無責任な事を。

「…話はそれだけですか」
 僕は不機嫌そうに言った。
「んあ、どうした? 何か俺、まずい事でも言ったか?」
「いいえ、別に」
 つっけんどんに言い返す。何をやってんだか、僕は。
 これじゃまるで子供だ。

231:2004/11/13(土) 01:38

「そうか… 俺の所為で気分を害したんなら謝るよ。
 それじゃ、これで最後だ。
 念使いがこの世界でどうやって生きていくのか、これを教えておく」
 真剣な顔で、狐さんが口を開いた。
「いいか、念ってのは確かに便利な能力だが、
 使い方を間違えれば… いや、間違えなくても危険な力になる。
 念を使えない奴にとってみりゃ、俺達は化け物も同然さ。
 何せ、銃(チャカ)や日本刀(ポントウ)を遥かに凌ぐような凶器を、
 常に体の内側に隠して歩いているようなものだからな。
 当然、精神力が弱けりゃ力に飲まれる」
「そんなに恐い力なら、使わなければいいだけじゃないですか」
「それは無理だ、少年。
 いいかい、俺も君も、もう力を持ってしまったんだ。
 それを制御する事は出来ても、無視する事は出来ない。
 今更無かった事には出来ないんだ。
 そしてこの念という力は、放置するには余りにも強過ぎる。
 結局、捌け口見つけて折り合うしかないのさ。
 野球が上手い奴は野球選手を目指さずにはいられない。
 ピアノが上手い奴はピアノを捨てる事が出来ない。
 昨日、俺が君に日常を失うと言ったのはそういう事なんだぜ?」
 そうか。
 あれは、そういう事だったのか。
「そして、およそ日常では念能力を使うような事態なんてまず起こらない。
 しかし力は使いたい。
 するとどうなるか?
 答えは簡単、使わざるを得ないような事態に首を突っ込む」
 狐さんが獰猛な笑みを見せた。
「まず一つ。 これはすぐに思いつくだろう、悪党だ。
 力を持て余した奴、力に飲み込まれた奴、力に狂った奴は大概この道に堕ちる」
 成る程、つまりはあんたみたいな人がそうなるのか。
「次は、その悪党に対抗する為の組織。
 分かりやすくいえば警察や政府お抱えの兵隊だ。
 と言っても、別にこれは正義の味方という訳じゃないぜ。
 お前も政府が善人の集団なんて思っちゃいねえだろう?
 あいつらだって、裏でやってるのはマフィアとかとどっこいどっこいさ。
 あくまで対抗組織であって、それ以上じゃない」
 正義の味方はテレビの中だけの存在。
 分かってはいたが、仮面ライダーなんて現実にはありえなかったという事か。
「三つ目、これらの組織に所属せず、己の力を頼みに生きていく人種。
 それが、『ハンター』だ。
 そして俺はこれに属している」
 『ハンター』?
 どうでもいいが、もっとセンスのあるネーミングは無いのか。
「『ハンター』ってのは、年に一回行われる『ハンター試験』ってのに合格する事で与えられる免許証(ライセンス)を持った、
 自営業の何でも屋みたいなもんなんだけど、中には免許を持たないモグリもいる。
 ま、さっき己の力のみを頼りにって言ったけど、
 『ハンター』の社会にも寄り合いとか派閥とか組織みたいなものはあってね、
 実際には一人(ピン)でやってる奴なんか稀さ」
 個人は集団に屈する。
 数の暴力がこの世で最も恐ろしい暴力という事は、矢張りどこでも同じらしい。
「狐さんは一人で働いてるんじゃないんですか?」
 僕は訊ねた。
「俺は、えーと… まあ、仕事は大体一人でやってるんだけどね。
 一応ある集団に所属しているのさ、これが」
 何やらあまり言えないような事情があるらしい。
 というか、狐さん程の人でもどこかの組織に組していないと生活出来ないのか。
「まあ、『ハンター』も裏家業って事には変わりはないがね。
 口に出せないような仕事だって、結構ある」
 そこまで聞いて、僕は狐さんの札束がどういう意味を持っているのかについて思い当たった。
 口には出せない仕事。
 それは、例えば、一つ挙げるとするならば…

241:2004/11/13(土) 01:38

「…殺したんですか?
 その報酬が、そのお金なんですか?」
 何を、とは僕は言わない。
 狐さんも、何が、とは聞かない。
「いいや、これは違う。 これは殺しの金じゃないよ。
 殺しの金なんかで、君に飯を奢ったりはしないし、
 俺は金の為に殺しなんかしない」
 それは本当なのか。
 嘘をついているんじゃないのか。
 確証なんて無い。
 保証なんて無い。
 なのに、僕は、何故かそれを聞いて安心した。
「…分かりました。 信じますよ、狐さん」
 僕は狐さんの目を見る。
「ありがとう。 信じてくれて嬉しいよ、少年」
 狐さんが真っ直ぐに僕の目を見つめ返した。
 …信じて、いいんですよね、狐さん。
 あなたは、金の為に人を躊躇無く殺せるような人でなしじゃないんですよね。

「さて、こんなもんか。
 言っておくが、今のはほんの一例に過ぎないからな。
 念能力者でも真っ当な暮らしを送っている奴なんて幾らでもいる。
 今挙げたのは、悪い見本ってやつだ。
 なるべくなら、こんな世界に踏み込むなよ」
 狐さんがそう言って微笑んだ。
 まるで、我が子を見る母のように。

「お待たせしましたー」
 丁度話に一区切りがついた所で、ウエイトレスさんが注文した食事を運んで来た。
 カレーライスにサンドイッチにハンバーグに… そのいずれもが狐さん一人によるものだ。
 実際にこうして注文したものを目の前にすると壮観である。
 本当に、狐さんといえどこれだけの量を食べきれるのか?
「お、来た来た。
 それじゃあ少年、難しいお話は一旦中止だ。
 こっからは楽しい話しながら飯にしようぜ」
 狐さんが待ちかねたとばかりに箸に手を伸ばした。

251:2004/11/13(土) 01:38





 僕は、人間の胃袋にあれ程の量のものが入るという神秘を初めて目の当たりにした。
 30分もしない間に、狐さんは山積みの食事を平らげてしまったのだ。
 はっきり言って、あれはもう人間業じゃあない。

 食べながら、僕と狐さんは他愛も無い話で盛り上がった。
 最近見たニュース、昔読んでいた漫画、面白いと思ったゲーム、などなど。
 よく考えれば、僕が家族以外の他人とあんなに親しく会話するなんて、
 初めての事だったように思う。
 僕自身、その事実に驚いていた。
「…ガラでもないな」
 そう、本当にこんなのガラじゃない。
 僕が、あそこまで他人に深く(と言っても普通の人にとっては珍しくもないレベルだが)接するなんて。
 何も無いから、何も出来ないから、自分である事を諦め、
 どこにでもいる端役(エキストラ)に徹していたこの僕が。
 本当に全然、ガラじゃない。

 夜道を一人、歩く。
 狐さんに「送ってやろうか」とも言われたが、
 また学校で噂になるのも嫌だし丁重に断った。
 まあ大丈夫だろう。
 殺人鬼は、昨日狐さんが抹殺している。
 いや、元々死んでいたのを動かなくしたという方が正しいか。
 …え?
 殺人鬼?

「…あ」
 一番大切な事を聞くのを忘れていた。
 死体だった筈の殺人鬼が、どうして動いていたのか。
 まず最初にこれを聞いておくべきだったのだ。
 念という突飛過ぎる話の所為で、その事をすっかりと忘れていた。
 というか、この事を話さない狐さんも狐さんだ。
 あの野郎、よりによって最も肝心な話をすっぽかしやがった!
「…いや、違うか」
 僕は軽く頭を振った。
 あの狐さんが、こんな重要な事を話し忘れるだろうか?
 多分、それはない。ならば何故話さなかったか。
 考えられる回答はただ一つ。
 僕には知らない方がいい事だから。
 おそらく、あの殺人鬼には狐さんの言っていた『踏みこまない方がいい世界』の出来事なのだろう。
 だから、僕に話さなかった。
 話せば、知ってしまえば、僕も巻き込まれてしまうかもしれないから。
 …あの人なりに、僕に気を遣ってくれたんだろう。

261:2004/11/13(土) 01:39

「…あれ?」
 おい。
 おいおい。
 おいおいおい。
 おいおいおいおい。
 何だ何だこの気持ちは。
 何だ何だ何だこの感情は。
「うっそだろう…」
 ちょっと待てちょっと待てちょっと待て。
 これってやっぱりもしかして、俗に言うあれってやつですか?
 あれっていうそれなんですか?
 馬鹿な。
 やめとけ。
 僕は下らない偽物なんだぞ?
 それに、あの人みたいな美人なら、彼氏の一人や二人(もっと沢山?)いるだろう。
 てか、いるのが自然だ。
 僕なんかに振り向いてくれる訳がない。
 僕の想いが届く訳なんてない。
 何故なら、僕は、ただの虚構なんだから―――

271:2004/11/13(土) 01:39

「…って、あれ?」
 ふと、前方に四つんばいになって何かを探している人を発見した。
 体の大きさからして、14、5歳の少女。
 …どうしよう。
 またあの殺人鬼みたいなやつじゃあないだろうな。
「ふえ〜ん、どうしよどうしよ〜」
 今にも泣き出しそうな、可愛い声。
 どうやら、昨日の殺人鬼みたいに問答無用で襲い掛かってくるような事はないみたいだ。

 カツン

 爪先に何かが当たる音。
 見ると、足元には度の高そうな眼鏡が落ちていた。
「めがね〜、めがねめがね〜〜」
 うわ、おい、これって、そうなのか?
 あの漫画とかでお馴染みの、馬鹿の一つ覚えを通り越して王道になりつつあるあれなのか?
 眼鏡っ娘、ウィズアウト・眼鏡、イコール「眼鏡が無いと何にも見えない〜」。
 はッ、これは罠だ!
 何者かが僕を罠に嵌めようとしているッ!

「あの〜、君の探している物って、もしかしてこれですか?」
 しかし放っておくのも哀れなので、僕は少女に眼鏡を渡す事にした。
「ふえ?」
 こちらに振り向く少女。
 すげえ、絵に描いたような、勉三さんの眼鏡外し時の目。
 いわゆるεの形をした目である。
 まさか、こんな天然記念物をこんな所で見る事が出来るとは。
 これぞキテレツ大百科だぜ。
「はわわ〜!ありがとうございます〜!」
 嬉しそうに叫んで、少女が大慌てで眼鏡を装着する。
「……!」
 僕は絶句した。
 こ、これは、『眼鏡をかけたら超美人』という、
 『眼鏡を外したら美人』の定理の正反対なのか!?
 こんな事が、この現実世界に存在していいのか!?
 これは神の摂理に背く程の反逆だぞ!

「あ、あの! どこのどなたか存じませんが本当にありがとうございました!
 このご恩は一生忘れません!」
 深くお辞儀をする少女。
 いえ、こちらこそ結構なものを拝見させて頂きました。
 ごちそうさま。
「いや、気にしなくていいですよ。 えーっと…」
「あ、私しぇりー、死神見習いの人吊詩絵莉(ひとつり しえり)と申します!」
 死神?
 死神見習い?
 この子、もしかして電波でも受信しているのではなかろうか。
「あの、えーっと、
 失礼ですが、お兄さんのお名前は…」
「ああ、宝擬古。 タカラギコですよ」
 どうやら会話が通じるだけの知能は持ち合わせているみたいだった。
 それにしても、可愛い子だな。
 まあ、狐さんには敵わないが。

281:2004/11/13(土) 01:40

「タカラ…ギコ…
 タカラギコ…?」
 と、しぇりーちゃんが何やら考え始めた。
 どうした。
 新たに宇宙からのメッセージでも受け取ったか?
「タカラギコ…タカラギコ…」
 懐から写真を取り出すしぇりーちゃん。
 その写真には、僕の顔が写っている。
 ええ!?
 僕って、実は人気者だったのか!?
 じょしこーせいのアイドルだったりしたのか!?

「あ、ああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 しぇりーちゃんがいきなり僕に人差し指を向ける。
 おいおいしぇりーちゃん。
 人に指を向けるのは失礼だって、お父さんかお母さんに教わらなかったのかい?
「ターゲット、発見です!」
 ターゲット?
 誰が?
 もしかして、僕が?

「『穴開きの満月(フライングドーナッツ)』」
 その掛け声と共に、しぇりーちゃんの両手にフラフープ大の輪が握られた。
 一見それはチャクラムのようではあるが、それにしては大き過ぎる。
 というか、あんな大きな物どっから取り出したんだ?
 いやそんな事より、それで一体何をするつもりなんですか?
「あの、その、眼鏡を拾ってくれた事は心から感謝してます。
 でも、お仕事はちゃんとやり遂げなくちゃならないのです、ごめんなさい」
 しぇりーちゃんがもう一度ペコリと頭を下げた。
 ごめんなさい。
 それは謝罪の言葉。
 それを、どうして僕に言う必要があるのか。
 それはきっと、僕の考えているので当たり。
 いや、まさか。
 そんなまさか。
 こうなる理由が見つからない。
 こうなる必然が見つからない…!
「せめて、痛みを感じないように一瞬で終わらせますので、
 じっとしておいて下さいね?」
 輪っかを握り締めたまま、しぇりーちゃんが僕に向かって突っかけて来た。



                 〜続く〜

291:2004/11/15(月) 02:27
 〜四話〜

「死んで貰いますぅッ!」
 しぇりーちゃんの特大チャクラムが、両側から挟み込むように僕に襲い掛かる。
 それも、もの凄いスピードで。
「おわあ!」
 生命活動への危機感から、本能的に体が回避行動を取る。
 いや、回避というよりは、情け無く尻餅をつくようにして倒れこんだ。
 その真上を特大チャクラムが通り過ぎ、逃げ遅れた髪の一房が切り落とされる。
 わーい、散髪する必要が無くなって儲けたぜ。
 って、そんな呑気な事考えている場合じゃない。
「ま、ま、ま、待って!
 しぇりーちゃん、ちょっと待って!」
 腕を突き出してしぇりーちゃんに動きを止めるよう懇願する。
 しぇりーちゃん、冗談だよね?
 これは、最近流行の悪戯か何かなんだよね?
 いやあ、流行には疎いと思っていたけど、
 まさかこんなのがナウなヤングにバカウケとは知らなかったなあ。
「問答無用ですぅ」
 可愛らしい口調のまま僕に特大チャクラムを振るってくるしぇりーちゃん。
 情け無用の二撃目。
 死神の口付けにも等しい斬撃。
「ひいぃッ!」
 尻餅をついたままの体勢から、転がるようにしてなんとかかわす。
 その真後ろで、まるで発泡スチロールのように苦も無く切り裂かれるコンクリート塀。
 どうみても、常識の通じるような威力ではない。

「避けちゃだめですよぅ、お兄さん。
 生きたまま腕とか足とか切り落とされたら痛いですよ?」
 さらっと恐ろしい事をのたまうしぇりーちゃん。
「いや、ね、しぇりーちゃん。
 そう思うんならこんな事やめようよ?
 お兄さんSMの趣味なんか無いよ?
 ノーマルプレイ専門だよ?」
「それ、セクハラです。
 警察に訴えますよ?」
 いやしぇりーちゃん、自分のやってる事棚に上げて何を言ってるんすか君は。
 この場合警察に訴えられて困るのはどっちかってーと君の方だと、お兄さんは確信するぞ?
 こうなったら俄然国家権力に訴えちゃうぞ?
「大体、何で僕が君に殺されなくちゃいけないのさ?
 まずはそこら辺から整理しようよ。 ね?」
 物騒極まりない少女に対し、必死に理性的なコミュニケーションを試みようとする僕。
 しぇりーちゃん、人間には言葉というものがあるんだから、
 それを少しでも活用してくれるとお兄さん嬉しいなあ。
「えっと、その、それは守備事務なのです。
 お話し出来ないのです、ごめんなさい」
 しぇりーちゃんがペコリと頭を下げる。
 …守備事務?
 17年間生きてきたが、初めて聞く四字熟語だ。
「…ひょっとして、守秘義務の事?」
 僕がそう指摘すると、たちまちしぇりーちゃんの顔が赤くなった。
 うわ、ひょっとして、素で間違えてた?
「…キリングユーです」
 むっすりとした表情で特大チャクラムを構え直すしぇりーちゃん。
 どうやら、怒らせてしまったようだ。
 いや、いやいや、しぇりーちゃん。
 悪いのは間違えた君だから。
 それはただの逆ギレだから。

301:2004/11/15(月) 02:27

 だけど、どうする。
 さっきと今のは偶然にも避けられたけど、マグレが次にも起こるとは思えない。
 しぇりーちゃんも次で確実に仕留めにかかるだろう。
 待ち受けるは、死、のみ。
 このままでは確実に殺されてしまう。
 くそ、考えろ。
 この現状を打破するような手段は。
 この現状を覆す裏技は…!

『そして、およそ日常では念能力を使うような事態なんてまず起こらない。』

 狐さんの台詞。
 そうだ、念。
 だけど、念は日常を容易く壊す諸刃の剣と、狐さんも言っていた。
 だけど、そんな事構ってられるか。
 今は間違い無く日常なんかじゃない。
 非日常だ。
 使うぞ、念を。
 思い出せ、あの感覚。
 確か、自分の内側に流れる力を感じ取って―――

「!?」
 今まさに僕に飛びかかろうとしていたしぇりーちゃんが、慌てて足を止めた。
「お兄さん、念使いだったんですか!?」
 明らかに驚いている声。
「…だったら、どうだって言うんだい?」
 溢れる。
 僕の内側から、何かが溢れてくる。
 だけど、これは何だ?
 何かが僕の中から出ているのは分るが、そこには何の力も感じられない。
「でも、どうやらまだ素人のようですね。
 練(レン)や纏(テン)や凝(ギョウ)すら出来ていない。
 それどころかその気(オーラ)は何なんですか?
 体から出てくると同時に、空気にでも溶けるかのように消えちゃってますよ?
 そんなんじゃ、練もへったくれもないです。
 何も出来やしないじゃないですか」
 練?纏?凝?
 何だそれは。
 そんな事、狐さんからは聞いてないぞ。
 そうか、多分狐さんは明日か明後日にでも教えるつもりだったんだ。
 一気に教えては、僕が混乱するかもしれないと思ったから。
 だが、今はそれが完全に裏目に出た。
 だけど狐さんを責める事は出来まい。
 だって、二日連続で命の危機に晒されるなんて、どこの誰が考えつく?
「それなら、どうって事ないです。
 一般人に毛が生えた程度の念使いなど、
 五位とはいえ卑しくも『禍つ名(まがつな)』である、
 この『人吊(ひとつり)【一理】』の敵ではありません」
 しぇりーちゃんが、今度こそ僕の首を落としにかかる。
 速い。
 とても、対応出来ない。
 いまさっきの二回は、本当にただの幸運だったようだ。
 しぇりーちゃんが僕を一般人と思って油断した、という事もあるだろうが。
 嫌だ。
 死にたくない。
 僕はまだ、あの人と話が聞きたいんだ。
 狐さんと、話がしたい。
 畜生。
 駄目なのか。
 ここで全て終わりなのか。
 念とやらがあっても、僕には結局何も出来ないのか。
 そりゃそうさ。
 だって僕は偽物。
 何一つ本当のものなど作れやしない。
 しぇりーちゃんも言っていた。
 僕の気は、何にもならずに消えてしまっていると。
 僕には、念ですら何も作れない。
 全てが偽り。
 全てが虚ろ。
 ならば、“人の真似をすれば”いい…!

311:2004/11/15(月) 02:28



     静けき夜 巷は眠る
 此の家に 我が恋人は嘗て住み居たり
  彼の人は 此の家既に去りませど
   其が家は 今も此処に残りたり

 ―――複製対象、記憶内検索開始
 ―――検索完了、複製対象発見

 一人の男其処に立ち 高きを見やり
  手は大いなる苦悩と闘うと見ゆ

 ―――複製対象、『不死身の肉体(ナインライヴス)』
 ―――解析開始
 ―――筋力強化、敏捷性強化、感覚強化、治癒力強化、解析完了
 ―――構成要素抽出開始

  其の姿を見て 我が心戦きたり
   月影照らすは 我が己の姿
  汝 我が分身よ 青ざめし男よ
   などて 汝の去りし日の
   幾夜を此処に悩み過ごせし
   我が悩み まねびかえすや

 ―――複製対象構成要素、抽出完了
 ―――複製開始
 ―――複製処理正常
 ―――複製完了
 ―――完全再生率12%
 ―――全工程終了
 ―――発動、『劣化複製・不死身の肉体(デグラデーションコピー・ナインライヴス)』

321:2004/11/15(月) 02:28



「!!!」
 しぇりーちゃんの特大チャクラムが、僕の首を捉えた。
 その小柄な体からは信じられない程の膂力。
 衝撃に耐え切れず、僕は吹っ飛ばされる。
「なッ…!?」
 しぇりーちゃんは、狼狽を隠そうともせずうろたえた。
 そう、しぇりーちゃんのコンクリートすら切り裂く特大チャクラムは、
 確実に僕の喉元に命中した筈だ。
 だが、“僕の首は繋がったまま”だった。
「……」
 僕は首を押さえながら立ち上がる。
 斬れこそしなかったものの、衝撃を防ぐ事は出来なかった為、ダメージはある。
 恐らく、狐さん本物の『不死身の肉体(ナインライヴス)』ならば、
 今の攻撃など屁でも無かったのだろう。
 まあ、劣化コピーにしては上等といった所か。
「あ、ありえません、こんな―――」
 今起こった現象が信じられないのか、しぇりーちゃんが今度こそ僕の体を切り刻もうとする。
 一閃。
 二閃。
 三閃。
 しかし、僕の体はそれでもバラバラにはならなかった。
 ただ、くどいようだがインパクト時の衝撃はしっかりある為、
 僕は斬撃の勢いそのままに宙を飛んで壁に叩きつけられる。
「…こいつはいいや」
 僕は驚嘆した。
 頑丈なだけでなく、体中に力が満ち溢れてくる。
 今の僕なら、岩だって叩き割れるだろう。
 劣化コピーで、これ。
 だとすれば、狐さんは一体どれ程の力をその身に宿しているというのか。

「い、痛くないんですか!?」
 自分で僕を傷つけておきながら、しぇりーちゃんが目を見開きながら訊ねた。
「…痛い?」
 痛い。
 それって、今僕が感じている感覚でいいのだろうか?
「はは、どうなんだろう。
 痛いって、これで合ってるのかな?」
 僕は偽物しか作れない。
 だから、感覚も偽物。
 それを感じる心も偽物。
 だから痛いという感覚だって、きっと誰かの偽物。
 偽物の体だから本物の痛みを感じれない。
 偽物の心だから本物の痛みが分らない。
 教えてくれよ。
 痛がる真似って、こんな感じで正解なのか?
「し、質問を質問で返さないで下さい!
 理解出来ません!
 あなたは、本当に理解出来ません!
 何なんですかその念は!?
 何なんですかその体は!?
 何なんですかその心は!?
 分りません!
 分りません!
 不安です不定です不純です不明です不快です!」
 不安定で不完全で不愉快。
 それはその通りだよしぇりーちゃん。
 だって、僕は偽物なんだから。
 何一つ本当のものなど持ってやしないんだから。
 そこに安定や秩序が在るなんて考える方がどうかしてる。
「いいです!
 もうどうでもいいです!
 斬って抉って叩き潰して、それであなたとはお別れです!」
 再び突進してくるしぇりーちゃん。
 あの特大チャクラムを喰らった所で、一撃で倒されるような事は無いだろうが、
 それでも黙ったまま攻撃を受けてやる程僕もお人好しじゃない。
 視力並びに動体視力が強化されている為、
 しぇりーちゃんの体術も何とか見極める事が出来る。
 紙一重で、斬撃を回避。
 そのままカウンターの形でパンチを放つ。
 よし、当たっ…

331:2004/11/15(月) 02:34

「!?」
 しかし、僕のパンチはあっけなくしぇりーちゃんにかわされてしまった。
「…何ですか、それは?
 素人同然のパンチですよ?」
 そうだった。
 いくらパワーとスピードが増しているとはいえ、本体である僕は戦いに関してはずぶの素人。
 そんなへっぽこパンチが、恐らく戦闘のプロフェッショナルであるしぇりーちゃんに当たる筈も無い。
「ははっ、どうやら立派なのは念だけのようですね!
 そんなんじゃ、百年経っても私に触れる事すら出来ませんよ!?」
 僕が本格的戦闘未経験者である事を見抜いたしぇりーちゃんの顔に、余裕の色が戻ってくる。
 そう、僕は誰かと殺し合いをした経験も無ければ、
 格闘技を習っていた事だってない。
 ならば答えはただ一つ。
 誰かの真似をすればいい…!



 ―――模倣対象、記憶内検索開始
 ―――検索完了、模倣対象発見
 ―――模倣対象、
『「それじゃあ、今度はこっちの番だな」
 狐さんは先程の殺人鬼の一撃など毛程も効いていない様子で、腕を大きく振りかぶった。
 あまりにも単純な、あまりにも愚直な、あまりにも率直なパンチの為の姿勢。
 攻撃準備態勢。

「……!?」
 目を凝らすと、狐さんの周りに何かもやのようなものが纏わり付いているのが見えた。
 そのもやは、狐さんの今まさに放たれんとする右拳に特に大きく纏わり付いている。
 何だ、あれは?
 目の錯覚かなにかなのか?

「いくぜ…!」
 臨海まで力を溜めた狐さんが、今まさに拳を打ち込もうとした。

 轟音。

 振り上げた拳を振り下ろす、ただそれだけの行為。
 たったそれだけの筈なのに、僕には狐さんのその動作が見えなかった。
 あまりにも速く、あまりにも強く、それはあまりにも常軌を逸し過ぎていて、
 地面に出来た小規模のクレーターと、半分以上挽き肉と化した殺人鬼の有様を見て、
 ようやく何が起こったのか理解出来る、それ程の超常現象。
 文字通りの一撃必殺。』
 ―――解析開始
 ―――力点、作用点、攻撃角度、攻撃速度、攻撃距離、攻撃威力… 解析完了
 ―――構成要素抽出開始
 ―――模倣対象構成要素、抽出完了
 ―――模倣開始
 ―――模倣処理正常
 ―――模倣完了
 ―――完全再現率9%
 ―――全工程終了
 ―――発動、『不完全模倣・闘法外法狐(インパーフェクトバトルモード・KITUNE GEHO)』

「それじゃあ、今度はこっちの番だな」
 僕の体が動き、あの時と同じように拳を振り上げる。
 狐さんが見せた、あの攻撃態勢と同じように。
 あの凄絶な一撃と同じように。
「いくぜ…!」
 模倣ししろ再現しろ再生しろ。
 あの時起こった全てを。
 あの最強を。
 あの無敵を。
 正確に精密に緻密に忠実に再現しろ…!
「ひッ―――」
 しぇりーちゃんが、思わず後ろずさった。
 おいおい、しぇりーちゃん。
 そんな化物でも見てしまったような、怯えたような声を出さないでくれよ。
 僕は化物なんかじゃない。
 化物なんて大層な存在じゃ、決して無い。
 僕はただの偽物。
 そう―――化物の――――――偽物だ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
 僕は力一杯、振り上げた拳を振り下ろした。

341:2004/11/15(月) 02:35

 轟音。

 地面が陥没し、砂煙が上がり、狐さん程ではないが極小規模のクレーターが地面に穿たれる。
 しかし、しぇりーちゃんの姿はそこには無かった。

「…今のは、危なかったです」
 砂煙の中に、しぇりーちゃんの姿がうっすらと見えた。
 避けられた。
 今の、渾身の一撃を。
 どうやら、偽物は結局どこまでいっても偽物であり、
 本物に及ぶ事は決して無いという事か。
「分かりません。
 全く分りません。
 素人の筈なのに、確かについさっきまでただの素人だった筈なのに、
 お兄さんのその豹変振りは何なのです?」
 首を傾げるしぇりーちゃん。
 そんなの、こっちが聞いてみたい。
「ですが、その答えを知る事に最早意味はありません。
 お兄さんはもう、王手詰み(チェックメイト)なのですから」
 しぇりーちゃんがふと上を見上げた。
 吊られて、僕もつい上へと顔を上げてしまう。
「!!!」
 気づいた時には、遅かった。
 上から落ちてくる特大チャクラム。
 それが輪投げを的棒(ポール)に引っ掛ける要領で僕の体をすっぽりと包み、
 瞬間、その輪が急速に収束した。
「あ、ぐ―――」
 形容し難い程の力で、僕の体が収束したチャクラムに締め付けられる。
 もし『劣化複製・不死身の肉体』が無ければ、
 そこで僕の体は半分に引き千切られていたであろう。
「凄いです。
 私の『穴開きの満月(フライングドーナッツ)』の隠し技、
 『満月の呪縛(バッドムーン)』まで使わせるなんて」
 感服したように、しぇりーちゃんが呟く。
「しかし、ここまでです。
 そのチャクラムはちょっとやそっとの力では破壊出来ません。
 それを力ずくで破ったのなんて、『九尾』の異名を冠するあの人くらいです。
 抵抗しても、苦しむ時間が増えるだけですよ?」
 勝利を確信した声色で、しぇりーちゃんが告げた。
 成る程。
 その通りだよ、しぇりーちゃん。
 僕では、このチャクラムは到底破壊出来そうにない。
 だけど、君は一つ勘違いをしている。
 僕はもう君を倒す事は出来ないが、それは僕の敗北じゃない。
 勝利とは勝利条件を達成する事であり、その勝利条件は必ずしも相手を倒す事じゃない。
 君の勝利条件は僕を殺す事なのだろうが、僕は違う。
 そう、僕の勝利条件は―――

351:2004/11/15(月) 02:35

「おい!こっちで何かすげえ音がしたぞ!」
「キャー!助けてーーー!!」
「何だ何だ!?猟奇殺人か!?」
「誰か来てくれ!」
「警察呼べ!警察!!」
 野次馬達の声が、辺りから流れて来た。
「―――!!」
 はっとして僕の顔を見るしぇりーちゃん。
 『してやられた』、可愛い顔にそう書いてある。
 もう遅い。
 その通りだ、しぇりーちゃん。
 さっきの一撃は、君を倒す為だけに君に放ったんじゃない。
 “大きな音を立てて人を集める為でもあった”んだ。
 この戦闘での僕の勝利条件は『君を倒す事』ではなく、『この戦闘から生き延びる事』。
 それならば、幾らでもやりようはある。

「…あは、は―――」
 しぇりーちゃんが、乾いた笑い声を漏らした。
「は、は―――」
 体を震わせ、カタカタと笑う。
「いいですよいいですよいいですよいいですよいいですよいいですよいいですよ。
 あなた、“いい”ですよお兄さん。
 凄いです天才です天災です傑作で奇怪です超然です喝采です。
 この『人吊』と、『禍つ名』とここまで張り合った一般人は初めてです偶然です必然ですありえません」
 明後日の方角を向きながら、それでも殺気はこちらに向けたまま悶えるように呻くしぇりーちゃん。
 正直、かなり恐い。
「いいでしょうそうでしょうどうでしょう当然でしょう。
 あなた以外の人を殺すのは、仕事の内容に入っていません。
 今回は私の負けで決着です完敗です乾杯です」
 しぇりーちゃんが膝を曲げて跳躍。
 一足飛びで電信柱の天辺に着地する。
「ですが、次はこうはいきません。
 次は負けません。
 万全の態勢を整えて、十全の力を蓄えて、完全の覚悟を持ってして、
 この人吊詩絵莉(ひとつり しえり)はお兄さんを殺しに窺います覗います伺います」
 最後に、しぇりーちゃんが僕の顔をキッと睨んだ。
「それではまた遭いましょう。
 人の姿をした人の擬似、タカラギコのお兄さん」
 そう言い残し、しぇりーちゃんは一瞬にしてどこかへ飛び去ってしまった。
 …我ながら、よくあんなのと戦って無事生き残れたな。

「…あれ? え―――?」
 と、僕の視界が大きく傾いた。
 いや、傾いているのは視界じゃない。
 僕の体そのものだ。
「え? え?」
 体から急速に力が抜けていく。
 それと同時に襲い来る、まるでフルマラソンをつい先程走り終えて来たばかりのような疲労感。
 何だ。
 僕に、何が起きた?
「う、あ…」
 まずい。
 ここで気を失うのはまずい。
 何とかして、気を持ち堪えさせなくっちゃ―――



@           @           @



 倒れた少年を、二人組みの男達が見下ろしていた。
「…アヒャ。 ドウスンダ、コノガキ?」
 アヒャ顔の男がもう一人のフーン顔の男の見る。
「どうやら念能力者のようだな。
 そしてさっき逃げていった少女…
 間違いあるまい、『殺人人形(キリングドール)』、人吊詩絵莉だ」
 フーン顔の男が、深刻そうな表情で告げた。
「アッヒャー。 ヨリニモヨッテ『禍つ名』カヨ」
 アヒャ顔の男がやれやれと首を振る。
「…どうする? 五位とはいえ、『禍つ名』と関わるのは危険極まりないぞ。
 こいつはここに放置しておくか?」
 フーン顔の男が訊ねる。
「ナニイッテヤガル。 モシカシタラリョウキサツジンジケンノテガカリヲニギッテルカモシレネエンダ。 ツレテイクゾ」
 当然のように答えるアヒャ顔。
「そう言うと思ったよ…」
 フーン顔が呆れたように溜息をついた。


                 〜続く〜

361:2004/11/15(月) 15:49
 〜五話〜

「タカラギコ。 いい子ね、タカラギコ。
 こっちへいらっしゃい?」
 …違う。
 違う。
 違う違う違う。
「タカラギコ… おいで、タカラギコ」
 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!
 僕はタカラギコじゃない!
 僕は違う!
「タカラギコ」
「タカラギコ」
「タカラギコ」
「タカラギコ」
 お父さんやめて!
 お母さんやめて!
 おじいさんやめて!
 おばあさんやめて!
 僕は違う!
 僕はタカラギコじゃない!
 僕は兄さんじゃないんだ!
「何を言ってるんだ。 お前はタカラギコじゃないか」
「おかしな子ねえ」
 違う!
 兄さんはもう死んだんだ!
 兄さんはもうここには居ないんだ!
 僕は、兄さんじゃない!
「タカラギコ」
「タカラギコ」
 違う!
 僕は違う!
 僕は僕だ!
 僕は兄さんの代わりじゃない!
「タカラギコ」
「タカラギコ」
「タカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコ」
 やめてくれ!
 僕をその名前で呼ばないでくれ!
 僕は違う、違うんだ!
 僕の名前は違う!
「タカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコ
 タカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコ
 タカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコタカラギコ」
 誰も、僕の名前を呼んでくれない。
 誰も、僕を僕として見てくれない。
 僕としての僕は、誰にも必要とされてない。
 僕は、兄さんの代用品でしかない。
 僕は、兄さんの偽物として生きるしかない。
 僕の名前、あった筈なのに忘れちゃった。
 助けて。
 誰か、助けて。
 助けて、狐さん…!





「うわああああああああああああああああああああああああ!!」
 絶叫と共に、僕はベッドから跳ね起きた。
 あの夢だ。
 どうして、今頃になって。
 もう、見る事なんて無くなってた筈なのに。
 …え?
 『ベッドから跳ね起きた』、だって…?

371:2004/11/15(月) 15:51

「随分と騒々しいお目覚めだな。
 恐い夢でも見たのか?」
 知らない部屋に、知らない男が立っていた。
 ここはどこだ?
 僕は、確かあのエキセントリックな少女と戦った後道端でぶっ倒れて…
「念は言ってみれば生命力の塊だ。 あまり無闇に使いすぎるな。
 でないと、今回みたいに気絶する事になるぞ?」
 フーン顔の男が僕に水を差し出す。
 変な薬が入ってはいないかと躊躇もしたが、
 僕に何かするつもりなら倒れている間にやってるだろうし、
 何より激しい喉の渇きに耐えられずに、一気に水を飲み干す。
 しかしこれで急に気絶してしまった理由が分かった。
 いくら念とはいえ、無尽蔵に力を引き出せるようなうまい話は無いという事だったのか。
 考えてみれば当然だが。
「…あの、ここは」
 僕は男に訊ねた。
 僕は一体どういう経緯で、ここに寝かされているのだろう。
 …まさか!?
「ま、まさかあなた、ウホッ、いい男!?」
 僕はとっさに身構えた。
 お尻は痛くないから、どうやらまだ菊の純潔は守られてはいるらしい。
 だが、今ここでこの男が行為に及ばぬ保証など何も無い。
「やらないか… って、そんな訳あるか!」
 ノリ突っ込みで返すフーン顔の男。
 よかった。
 こんな見ず知らずの相手とクソミソテクニックなんて、洒落にならな過ぎる。
「ここは俺達の住処(ヤサ)だ。
 取り敢えず、今の所俺達は君の敵ではないから安心していいよ、
 宝擬古(タカラ ギコ)君」
 …タカラギコ。
 そうだった。僕の名前はそれだった。
 いや、そんなことよりも…
「…どうして僕の名前を知ってるんです?」
 僕の記憶が正しければ、こんな男に僕の名前を教えた覚えは無い。
「悪いとは思うが、学生手帳を見させて貰った。
 私立二番組高校2年B組所属、タカラギコ。 間違い無いね?」
「ええ、まあ…」
 間違ってはいない。
 僕の名前はタカラギコ。
 例えそれが偽りなのだとしても、全員が嘘を真実と錯覚すればそれは本物と変わらない。
 そもそも、僕に本物などあったっけか。
「…それで、どうしてあなたは僕をこんな所に?」
 見た感じ誘拐の類と言う訳でもなさそうだ。
 それなのに僕みたいな赤の他人を連れ込むなど、酔狂としか言いようが無い。

381:2004/11/15(月) 15:51

「連続猟奇殺人事件。
 …流石に知っているな?」
 フーン顔の男が煙草を咥える。
「ええ、まあ、一応は」
 知ってるも何も、その犯人であろう殺人鬼に襲われました。
「君も念能力者ならば薄々感づいているだろうが、
 あれは恐らく普通の人間の仕業じゃない。
 俺達のような念能力者が、高確率で一枚噛んでいる」
 念能力。
 およそ尋常ならざる特殊能力。
 動く死体。
 死の光輪を操る眼鏡っ子。
 それらを軽く凌駕する最強の和服俺女。
 もしかしなくとも、念能力が事件に関係しているとは馬鹿でも思いつく。
「加えて、『禍つ名(まがつな)』第五位の『人吊(ひとつり)【一理】』まで出てくる騒ぎだ。
 こりゃお前、何か重大な事が起こっていると考えるさ」
 フーン顔の男が煙草に火を点ける。
「ん? ああ、煙草の煙が出るか。 すまないね」
 あんた火を点けてから謝るなよ。
 しかも気にせず吸ってるし。
「別にお構いなく」
 それにしても、『禍つ名』って何なんだ?
 確か、しぇりーちゃんも同じような事を言っていた気がする。
「どうやらお前さん『人吊詩絵莉(キリングドール)』とバトってたみたいだが、
 そこら辺にどういう背景があるのか、よければ聞かせて貰えるかな?」
 フーン顔が僕の顔を覗き込む。
「話せ、と言われましても…
 元々あの子が問答無用でいきなり殺そうとしてきただけですし、
 何で僕が殺されなくちゃならないのかも分りません。
 これでも、人にそこまでの恨みは買ってないと思いますから。
 それに第一、その『禍つ名』ってのは何なんです?」
 本当に、最近僕の周りで連発してる奇怪な現象は何なのだ?
 僕にはさっぱり分らない。
「…本当に、何も知らないのか?」
「ええ。 嘘をついてどうなるんです」
 嘘はついていない。
 だって、僕は本当に知らないのだから。
 知っている振りをしようにも、圧倒的に情報が少な過ぎる。

391:2004/11/15(月) 15:51

「今度はこちらから質問してよろしいですか?」
 僕は訊ねた。「構わんよ」とフーン顔の男。
「まず、あなたの名前を聞かせて下さい」
「ああ、これは自己紹介が遅れたな。
 俺は扶雲一郎(ふうん いちろう)、フーンでいい」
 フーンさんが答える。
「では、次の質問です。
 さっき『俺達』と言いましたが、他の仲間はどこにいるんですか?」
 僕のその問いに、フーンさんが感心したような表情を見せた。
「ほう、結構耳聡いな。
 誤解の無いように言っておくが、別に隠れて監視してたり外で待ち伏せしていたりする訳じゃない。
 今、丁度外へ買い物に行ってるだけさ… っと、帰ってきたようだな」
 ノックも無しに、部屋の入り口のドアが乱暴に開かれる。
 そこから、アヒャ顔の男が姿を現した。

「アヒャ、ヤットオキヤガッタカコノクソガキ」
 いきなり半角で失礼な事を言うアヒャ顔。
「紹介しよう、こいつが俺の相棒である亜火屋寒河(あひや そうご)。
 俺はアヒャと呼んでいるがね」
「ヤジウマガケイサツヨンデクルマエニヒロッテヤッタンダゾ。 カンシャシロクソガキ」
 いや、警察のご厄介になるのを避けてくれたのは感謝するけどさあ。
 そもそもあんたらが勝手にここに拉致してきたんじゃん。
 …待て。
 拉致してここに連れて来られてから、一体どれ位の時間が経ったんだ?
「あの、フーンさん。
 そういえば今何日何時なのですか?」
「5月18日午前10時。
 君が倒れてから半日近く経ってるな」
 勿論、今日は平日で学校がある。
 遅刻確定。
 だが、もっと重大な問題がある。
「や、やばい!
 家に何も連絡してない!」
 この物騒なご時世、何の連絡も無く我が家の子供が家に帰らなかったら、
 まず間違い無く警察に連絡を入れる。
 うわ。
 最悪だ。
 家族や警察にどうやって弁解しよう…
「安心しろ。
 君の家族には、友達の家に泊まっているからと連絡を入れておいた」
 フーンさんが僕に僕の携帯電話を手渡す。
 人の携帯勝手に使ってんじゃねえよと思ったが、
 それでも今回はその厚顔無恥さに助けられてしまったようなので、
 素直に「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べておく。

401:2004/11/15(月) 15:52

「デ、コイツナンカシテタノカ?」
 アヒャさんが僕を指差した。
 あんた大人のくせに礼儀のなってない人だな。
「いや、どうやらただ巻き込まれただけらしい。
 嘘を言っているふうでもないしな」
 フーンさんが俺を見ながら告げる。
「アヒャ、バカイウナ。 タダノトオリスガリガ『禍つ名』トワタリアエルワケネエダロ!」
 アヒャさんが驚く。
「しかし、可能性は0でもない。
 が、異様ではある。
 タカラギコ君、君は中々素晴らしい念使いのようだが、誰に念を教わったんだ?」
「えっと、本名は知らないんですが、凄く強い人に…」
 迷惑をかけてはいけないので、狐さんの名前は伏せておく。
 まあ、狐さんから教わったのはほんの少しだけで、
 あとはぶっつけ本番の物真似が殆どだったのだが。
「物凄く強い人、ね。
 漠然とし過ぎて何とも言えんな」
 フーンさんが考え込む。
「あ、あの。
 さっきから気になってたんですけど、『禍つ名』って何なんです?」
 これ以上追求される前に、話題を変える事にした。
 『あなた達の能力は何なのですか?』でもよかったのだが、
 狐さんに他人の能力を聞くのはマナー違反と教えられたのでやめた。
「ああ、それか。
 …本当に、何も知らないのか?」
 確認するように訊ねるフーンさん。
「は、はい」
 答える僕。
「…そうか。
 まあ、素人が知るべき事ではないから、当たり障りの無い範囲でしか教えられんが、それでいいか?」
「はい、構いません」
 僕は頷いた。
「ふむ、それでは教えてやろう。
 タカラギコ君、君は念の師匠から『ハンター』については聞いたか?」
「はい」
 『ハンター』。
 狐さんが生業としている、職業。
「なら話は早い。 俺達は、その『ハンター』という仕事をしている。
 この街での連続猟奇殺人事件の調査も、その一環だ」
 そうか、それで僕をここに連れてきて色々訊ねたのか。
 だとすれば、狐さんも同じような仕事でこの街に来たのかな?
「で、『ハンター』とは決して善人のあつまりではないし、
 当然裏家業に手を染める事もある。
 というか、『ハンター』自体裏の住人とスレスレさ。
 そんな『ハンター』の暗部を象徴する六つの集団、それが『禍つ名』だ。
 殺人強奪強襲暗殺拷問略奪何でもやる、まさに人外魔境の外道が勢揃いの集団さ」
 フーンさんの表情が真剣なものに変わる。
「格上とされる順番で名前を挙げれば、第一位からいって、
 『妖滅(あやめ)【彩女】』、『魔断(まこと)【真琴】』、『鬼祓(きばらい)【木払】』、
 『獣死(じゅうじ)【十字】』、『人吊(ひとつり)【一理】』、
 …そして、その頗る付きの魔人どもですら毛嫌いし、
 序列の中にすら組み込まれない最凶最悪の絶無集団、『外法(げほう)【下方】』だ」
 外…法……?
 今、何と言った?
 外法?
 外法だって?

411:2004/11/15(月) 15:52

「いいか、ただでさえやばい『禍つ名』だが、『外法』にだけは何があっても関わるな。
 あいつらは人であって人でない、人を人とも扱わない、正真正銘の殺人鬼だ」
 嘘だ。
 嘘だ。
 嘘だ嘘だ嘘だ。
 だって、あの人は、『金の為には殺さない』、って―――
「あいつらにとっては、殺人なんて禁忌ではない。
 『禍つ名』を核とする裏社会での掟(ルール)すら守りはしない。
 故に法(ルール)の外、『禍つ名』の一番下の方に位置する、『外法(下方)』なのさ」
 ああ―――そうか。
 あの人は、殺してないなんて一言も言っていない。
 金の為に殺していないと言っただけだ。
 言い換えれば、金の為なんていう理由が無くても、
 簡単に殺す事が出来るという事だったんだ―――
「? おい、どうした? 顔色が悪いぞ?」
 フーンさんが心配そうに言ったが、僕には最早何も聞こえていなかった。
 殺人鬼なんだ。
 あの人こそ、狐さんこそ本物の殺人鬼だったんだ。
「いえ… 何でもありません。
 今日、学校で小テストがあるんで、そろそろ行っていいですか?」
 平気な真似をする。
 大丈夫、何て事無い。
 僕は偽物。
 感情すら、誰かの真似で塗り固める事が出来る。
 大丈夫。
 僕は、何も感じてやしない。
「そうか。 長居させて悪かったな。
 これは俺の携帯の電話番号だ。 何かあったらここに連絡を頼む」
 フーンさんが僕に紙切れを差し出す。
 放心状態のまま僕は黙ってそれをポケットに入れた。
「…お邪魔しました」
 フーンさんの家を出る。
 どうやら、幸いにも学校の近くのアパートだったみたいだ。
 これなら、10分もあるけば学校に到着するだろう。
「さーて、と。
 小テストは5時間目だったよな」
 偽物の想いだから、決して実らない。
 偽物の想いだから、裏切られたって傷つかない。
 僕は教科書の小テストに出る範囲を覗きながら、急ぎ足で学校に向かっていた。


                〜続く〜

421:2004/11/16(火) 01:30
 〜六話〜

 僕は、絵を写していた。
 うん、大丈夫だ。
 筆が乱れている感じも無い。
 小テストだって落ち着いて解答出来た。
 僕に今の所異常は無い。
「……」
 自分の心を塗り潰すように、絵の具を白いキャンパスに塗りたくる。
 考えるな感じるな。
 この身をただの、贋作作製機と化せ…

「よう、少年」
 窓から、あの溌剌とした声が聞こえてきた。
 目を向けると、狐さんが窓の淵に座って僕を見ている。
 あの、ええと、僕の記憶が確かなら、ここって三階ですよね?
「よっと」
 狐さんが軽快な様子で美術室の床に足をつけた。
「…よく僕の学校が分かりましたね」
 まず何から突っ込むべきか迷ったが、僕は取り敢えずそれから尋ねる事にした。
「ああ、一昨日ゲームセンターで会った時、こっそり学生手帳見たんだよ」
「あんたそれスリじゃねえかよ!」
「スリとは失礼な。
 覗いた後ちゃんと戻しておいたぞ?」
 狐さんが口元を緩めて微笑む。
 本当に。
 本当に屈託無く笑うんだなあ。
 本当に、僕は、この笑顔を見るだけで、それなのに。
「…何の用ですか?」
「そう邪険にするなよ。 俺と君の仲だろ?
 いやさ、念ってえのは昨日話した事だけじゃ全然説明が足りないんだ。
 ま、君が混乱するだろうから、敢えて昨日全部は話さなかったんだけどな」
 狐さんが言いたいのは、恐らく練や凝とかいうやつなのだろう。
 まさか、僕が昨日殺し屋みたいな少女に襲われて、
 そいつから練等の事を教えてもらってるとは夢にも思うまい。

「あ、あの、狐さ―――」
 僕は思わず、狐さんに昨日の事を話しそうになった。
「ん? どうした、少年?」
「…いえ、何でもないです」
 話したい事は山ほどある。
 昨日、変な少女に殺されかけた事。
 ハンターの二人組みに助けて貰った事。
 その人から、色んな話を聞いた事。
 そして、狐さんの事。
 僕は未だに、狐さんが殺人鬼とは信じられなかった。
 信じたくなかった。
 学校に来て冷静に考えてみれば、アヒャさんとフーンさんが嘘をついていないという保証はどこにもない。
 だからあの二人が僕を動揺させる為に、『外法』とかいう組織をでっちあげたとも考えられる。
 だがしかし、二人が僕を騙して得をする事なんてあるのだろうか。
 そもそも、あの二人が僕に嘘をつく理由が見つからない。
 いや、考えるのはよそう。
 もしかしたら、たまたま外法という苗字が一致しただけなのかもしれない。
「ははーん、もしかして俺の3サイズが聞きたいのか?」
「うるせえんな訳あるかペチャパイ」
 …本当は恐かったのかもしれない。
 狐さんに、外法について聞く事が。
 曖昧なままに、しておきたかったのかもしれない。

431:2004/11/16(火) 01:31

「んじゃ話しを戻すぞ、念には練、纏、凝、隠、円とかいうのがあって… んん?」
 狐さんが、僕の描いていた絵を覗き込んだ。
「へえ、絵なんて描く趣味があったんだな、少年。
 後ろにあるやつは全部君が描いたのか?」
 狐さんが、後ろに立てかけてある僕が今までに描いた絵に視線を移す。
 正確に言えば絵を描くのではなくて模写だし、それに模写は趣味ではない。
 これしか出来ないからしているだけだ。
「見てもいいかい?」
「どうぞ」
 僕の返答を確認すると、狐さんは僕の絵をしげしげと眺め始めた。
 てか、この人に芸術とかその類の事が理解出来るのだろうか。
「ふん、へえ、ほお〜。 成る程ね…」
 五分程鑑賞した所で、狐さんは僕へと視線を戻した。
「忌憚の無い意見を言わせて貰うが、いいかい?」
 狐さんが僕に訊ねる。
「別に、いいですよ」
 どうせ的外れな意見だろうけど、許可する。
 この人に情操教育が備わっているとは到底思えないし。
「んじゃ言わせて貰うけど、この絵は、何と言うか恐い。
 本来絵に備わっているべきものが、決定的に欠けてるんだ。
 俺はこういう芸術には門外漢だから詳しい事は分からないけど、
 絵っていうのは描いたやつの心が透けて見えるのが普通なのは知ってるぜ。
 それが例え既存の絵の模写であろうとも、だ。
 なのに、君の絵からは君自信の何かが感じられないんだ。
 本当に、ただそこにある絵が写されているだけなんだ。
 『この絵が好きだから描き写す』とか、
 『この絵に近づきたいから描き写す』とか、
 そういうのすら見えてこない。
 これは異常だぜ。
 機械のようにただそこにある物をコピーするなんて、
 およそ人間の技術とは思えない」

 ―――――!

 僕は言葉を失った。
 たった数分見ただけで、狐さんに全てを言い当てられてしまったからだ。
 僕の絵の本質を。
 僕自身の本質を。
 まるっきり余す所無く言い当てられてしまったのだ。
「…悪いな、こんな言い方して」
 狐さんがすまなそうに謝る。
「別にいいです。
 全部、あなたの言う通りですから。
 僕は、ただの偽物なんですから」
 そうだ、僕は偽物なんだ。
 体も心も絵も名前も。
 みんなみんな出来損ないの偽物なんだ。
「いいや、君は偽物なんかじゃないよ。
 『機械的にコピーする』。
 これだって君の立派な個性であり、才能さ。
 他の誰かに真似出来る事じゃない」
 狐さんがそう言って僕の肩を叩く。
「…それでも、所詮偽物は偽物です。
 本物の前では、その存在なんてゴミ屑同然になる。
 僕にはそんな偽物しか作れないんです」
 僕は自嘲気味に笑った。
 何を言ってるんだか僕は。
 拗ねていじけて、狐さんに同情でもしてもらおうってのか?

441:2004/11/16(火) 01:31

「あの、タカラギコ君、居る?」
 と、いきなり美術室の入り口のドアが開いた。
 僕はギョッとしてそちらに目を向ける。
 やばい、こんな所を誰かに見られたら、またあらぬ噂が立ってしまう!
「…あれ?」
 しかし僕の隣に居た筈の狐さんは、いつの間にか姿を消していた。
 まさか、あの一瞬の間にどこかに隠れたのか。
 忍者の末裔か何かか、あの人は。
「? どうしたの、タカラギコ君」
 入って来たのは、モナカさんだった。
 消えた狐さんを探していた僕を見て、不思議そうな声を上げる。
「いえ、何でもないです。
 それで、何の用ですか?」
 この前といい、この子はこんな所に来て何が楽しいのだろうか。
 最近の女学生の嗜好については全く理解しかねる。
「あ、あのね…
 大切な話があるんだけど… いい?」
 おずおずと口を開くモナカさん。
 大切な話?
 そんなものを、何だって無関係なこの僕に。
 それとも、あまり親しくないからこそ打ち明けられるような悩みなのだろうか。
「いいですよ。 聞きましょう」
 僕はモナカさんに向き直って言った。
「あの、その、えっとね。
 その、私ね。 私…」
 もじもじするモナカさん。
 何をそんなにもったいぶっているのだろう。
 大切な事ならすぐに話せばいいのに。
「私、タカラギコ君の事が―――」



「…え?」
 モナカさんの発した言葉を、一瞬理解する事が出来なかった。
 今、何て言った?
 今モナカさんは何と言った?
「…あの、迷惑かな、やっぱり……」
 顔を真っ赤にしてモナカさんがうつむく。
 迷惑ではないが、さしたる感慨も無い。
 どうしよう。
 その気が無いのに惰性で付き合うのも失礼だし、きっぱり断るのが正解だろうか。
 それとも、人生経験の一つとして付き合ってみるべきなのだろうか。
 困った。
 一応、僕には狐さんという心に決めた人がいるし。
 まさかモナカさんの目の前で、コイントスをして決める訳にもいかないしな。
 …そうだ。
 折角だから、一つ質問しておく事にしよう。

451:2004/11/16(火) 01:32

「…モナカさん」
「え、は、はい?」
 僕の呼びかけに、モナカさんがしどろもどろになって答える。
「どうして、僕の事を好きになったの?」
 僕はモナカさんの目を見て、言った。
「あ―――その…」
 返答を詰まらせるモナカさん。
 おいおい、まさか理由も無いのに好きになったって事は無いだろう。
「えっと…そのね…」
 モナカさんが意を決したように僕の目を見つめ返した。
「…似てるんだ。 タカラギコ君が。
 私の、初恋だった人に…」

 …。
 ……。
 ………。
 へえ。
 そうかい。
 成る程。
 成る程成る程。
 成る程ね。
 『あの人に似ている』、か。
 そうか。
 君も結局は“そういう事”なんだな。

「…あの、タカラギコ君、怒った……?」
 モナカさんが黙りこくった僕に、心配そうに訊ねた。
「いいえ、そんな事ありませんよ」
 いいだろう。
 君は僕に“そういう事”を求める訳だ。
 君は本当に見る目がある。
 僕は“そういう事”が得意中の得意なんだ。
 “そういう事”しか出来ないんだ。
 ならば僕は偽物としての本分を発揮させて貰おうじゃないか。
「分かりました。 僕はあなたと付き合いましょう」
 僕はモナカさんにそう返事をした。
「え―― ほ、本当…!?」
 モナカさんの顔がパアッと明るくなる。
 心の底から、嬉しそうな顔。
「その前に色々と聞いておきたい事があるんですけど、いいですか?」
「えっ、うん、いいよ。 何でも聞いて」
 僕のお願いに二つ返事で了解するモナカさん。

「それじゃあ、教えて下さい。
 そのあなたの初恋の人について」
「え―――?」
 モナカさんが表情を固まらせた。

461:2004/11/16(火) 01:32

「もう一度言いますよ?
 あなたの初恋の人についてです。
 情報が無ければ、その人の真似をする事なんて出来ませんからね。
 どんな些細な事でもいいんです。 教えて下さいよ」
「な、何を言って―――」
「その人の口癖は? その人の好きな食べ物は? その人の好きな本は?
 その人の好きなゲームは? その人の好きなテレビは? その人の好きなスポーツは?
 その人の趣味は? その人の日課は? その人の宝物は?
 その人は勉強が得意ですか? それとも運動が得意ですか?
 分かる範囲でいいんです、教えて下さいよ。
 そうすれば、僕はその人の真似をしてあげますよ。
 あなたの望む初恋の人の真似をして、あなたと愛を育んであげましょう」
「ち、違います! 私は、私はただ…」
「違う? 変な事を言う人ですね。
 あなたさっき言ってたじゃないですか。
 『初恋の人に似ているから僕を好きになった』、と。
 それならば、出来るだけ僕はその人に似ている方があなたにとって幸福でしょう」
「ひ、酷―――」
「酷い? 何を言ってるんですか。
 あなたが僕に望んでいる事は、つまりは“こういう事”なのですよ?
 それに率先して協力すると言っているのですから、寧ろ優しいと言って欲しいですね。
 ああ、これは失礼。
 もしかして一人称が違っていましたか。
 一人称は『僕』ではなくて『俺』ですか?
 俺にお願いがあるなら何だって言ってくれよ。
 どうです? こんな感じでよろしいですか?」
「―――!!」
 モナカさんは僕の頬に平手を打つと、泣きながら美術室を飛び出していった。
 遠のく足音。
 恐らくこれで、モナカさんと僕との縁はきれいさっぱり切れてしまったのだろう。

「おい…」
 振り向くと、いつの間にか狐さんが後ろに立っていた。
 見るからに不機嫌そうな顔で―――
 いや、怒りを隠そうともしない顔で、黙って僕を睨みつけていた。
「ああ、狐さん。
 お待たせしてすみませんでしたね。
 それでは念についての講義をお願い出来ますか?」
 僕はそう狐さんに言おうと―――

「歯ぁ喰いしばれ…!」

471:2004/11/16(火) 01:33

 狐さんの拳が、僕の顔面を捉えた。
 物凄い力。
 僕はその勢いに耐え切れずに張り倒される。
 その拍子で置かれていた机や椅子も一緒に巻き込まれ、大きな音を立てて床に倒れた。
「……。
 気が済みましたか、狐さん」
 偽物の体だから、本物の痛みなんて感じれない。
 偽物の心だから、本物の痛みなんて分からない。
 だから、ちっとも痛くない。
 ちっとも……痛くなんてない筈なんだ。
「見損なったよ、お前」
 『少年』でもなく、『君』でもなく、冷たい声で僕を『お前』と呼んだ。
 離別の証。
 別離の証。
「お前が誰と付き合うのかはお前の自由さ。
 告白されたからって、必ずそいつと付き合わなければいけないって法律も無い。
 振る振らないはお前が決めても誰も文句は言わない。
 『好意を持ってくれた奴全てと付き合え』なんて、トチ狂った理屈だしな。
 だけど、だけどな、
 お前のコンプレックスの八つ当たりに、
 関係無いあの娘を巻き込むんじゃねえ!!」
 体の芯まで突き抜けるような狐さんの怒声が美術室に響く。
 うるさい。
 あなたに何が分かる。
 あなたに僕の、何が分かるっていうんだ…!

481:2004/11/16(火) 01:33

「…あんまり偉そうな事言わないで下さいよ。
 『禍つ名(まがつな)』の『外法狐(げほう きつね)』さん」
 自分でも恐ろしくなるような冷淡な声が、僕の声から滑り出た。
「……!
 お前、それ、どこで聞いた…!」
 狐さんの表情が強張る。
「どこだっていいでしょう
 逐一、僕の全てをあなたに報告しなければいけない理由でもあるんですか?」
 止まれ。
 止まってくれ、僕の口。
 僕は、こんな事を言いたいんじゃない!
「聞きましたよ?
 『外法』って、ハンターの暗部である『禍つ名』の中ですら忌み嫌われているんですってね?
 人を人とも思わない、化物の集まりなんですってね?
 僕の事も殺すつもりだったんですか?
 それとも、念を教えて『外法』とやらの一員に引き込むつもりだったんですか?
 あの僕を襲った殺人鬼のおじさんも、もしかしてあなたの演出だったんですか?
 最初から騙すつもりで、僕に接触したんですか?」
「違う! 俺は、君を騙すつもりなんか―――」
「騙すつもりなんか無かった。
 はッ、とんだお笑い種だ。
 そういえばあなた言いましたよね。
 『金の為の殺しはしない』って。
 ええ、全く嘘は言ってません。
 で、金以外の理由では、一体何人殺したんです?」
「……ッ!!」
 どうして、
 どうして黙るんですか、狐さん。
 否定して下さいよ。
 俺は殺人鬼なんかじゃない、って。
 『外法』なんかとは、何も関係が無い、って。
 黙ったまんまじゃ分からないじゃないですか。
 お願いだから、違うって言って下さい…!

「…そうだな。 そうだった。
 俺は、君に偉そうに説教なんて出来る立場じゃなかったな」
 狐さんが微笑む。
 悲しそうに。
 哀しそうに。
「あーあ。 バレちゃったか。
 ま、自業自得か」
 狐さんがつかつかと窓まで歩く。
 背中をこちらに向けている為、その表情を見る事は出来ない。
「…今更、こんな事言えた義理なんかないけどさ、言っておくよ。
 自分を偽物なんて卑下するのはやめろ。
 君は、間違い無くたった一人の君なんだからな、少年。
 少なくとも、俺はそう思ってるぜ?」
 狐さんが窓の桟に手をかけ、そして、もう一度だけ振り返った。
「それじゃあな、少年。 達者でやれよ」
「き―――」
 僕が引き止めようとしたその瞬間、狐さんはあっという間に窓から姿を消してしまった。
 慌てて窓から外を覗くも、狐さんの姿は影も形も残っていない。
「……」
 偽物の体だから、本当の痛みを感じれない。
 偽物の心だから、本当の痛みが分からない。
 それなのに―――
「……」
 それなのに、
 狐さんとモナカさんに殴られた場所には、
 確かな痛みが残されていた。


                〜続く〜

491:2004/11/16(火) 23:05
 〜七話〜

「あら、おかえり」
 学校から帰った僕に、お母さんが声をかけた。
「あ、うん。 ただいま」
 そっけなく返事をして、制服の上着を居間の椅子に掛ける。
「昨日お友達の所に泊まってたみたいだけど、
 あんまりお友達に迷惑かけちゃ駄目よ?」
「うん」
 フーンさんの言っていた通り、家族にはきっちりと連絡をしておいてくれたらしい。
 面倒な事にならなくて、本当によかった。

「……」
 僕は仏壇の間に行き、そこに立てかけられている遺影に手を合わせて黙祷した。
 一卵性双生児だった、僕と本当にそっくりだった僕の『兄』。
 …あの事故で死んでから、もう十年以上も経ったのか。
「…生きていたら、一緒の学校に通ってたかもしれないのにね」
 後ろで、お母さんが誰に言うでもなく呟いた。
「…うん」
 信号が赤になっている事に気づかずに、横断歩道に飛び出て即死。
 どこにでもある、ありきたりであっけない人生の終焉。
 あまりに唐突過ぎる、『兄』の最期。
「弟の分まで、しっかり頑張らなくちゃね、『お兄ちゃん』」
「…うん」
 家族は、『兄』が死んだ事を認めたくなかった。
 認めなかった。
 だから家族は、“僕”に『兄』を求めた。
 だから“僕”は『兄』になった。
 『兄』の偽物としての人生を強いられた。
 僕は偽物。
 僕は代理品。
 僕は贋作。
 だから、僕は僕であって僕でない。
 誰でもないから、誰の真似でも出来る。
 一つも顔(かお)が無い故に、無限の貌(かお)を持っている。
「…ごめん、僕ちょっと寝るよ。
 晩御飯になったら起こして」
 いいだろう。
 それならば、僕は偽物としての人生を全う(まっとう)しよう。
 あなた達が僕に僕以外の“誰か”を求めるならば、僕はそれに答えよう。
 全てを偽って、全てを欺いて、自分自身を完全に殺しつくそう。
 この“家族ごっこ”を、“おままごと”を、あなた達の気が済むまで続けよう。
 『兄』は死んだ。これは事実だ。
 だが、誰もがそれを否定するのならば、その事実に一体何の意味がある?
 『兄』は死んだ。
 確かに死んだ。
 だけど、それと同時に『僕』も死んでしまったのかもしれない。
 そんなふうに、僕(タカラギコの偽物)は考えていた。

501:2004/11/16(火) 23:06



        @          @          @



「あっま〜〜〜〜〜い!
 おいし〜〜〜〜〜い!
 幸せ〜〜〜〜〜!」
 かなり高級そうな甘味所の一室で、人吊詩絵莉(ひとつり しえり)は
 デラックスジャンボクリーム餡蜜を口に運んでは顔をほころばせていた。
「そうかい。
 遠慮せずにどんどん食べろよ」
 それに向き合い、これまた山盛りの宇治金時に舌鼓を打つのは外法狐。
「狐さん、奢ってくれて本当にありがとうございます〜!
 狐さん大好きです〜! らぶ〜、らぶらぶ〜」
「構わないさ。
 こっちも付き合わせて悪かったな」
 はしゃぐしぇりーに、外法狐は苦笑する。
 その表情は、心なしか暗い。
「ふえ? 狐さん何かあったですか?
 いつもならジャンボ宇治金時三杯はペロリなのに。
 食欲無いんですか?」
 しぇりーが心配そうに外法狐に訊ねる。
「ああ、いや…
 まあ、ちょっと友達と喧嘩してしまってね。
 大した事じゃない」
 外法狐が一つ溜息をつく。
「ええ!?
 狐さんと喧嘩するような人がこの地球上にいたんですか!?
 どこの気狂いですか、その人は!」
「…人を人間爆弾みたいに言うなよ。
 それに、相手はカタギだぞ。 手なんて出せるか」
 外法狐にとって、グーで殴るくらいでは手を出したうちに入らない。
「そうですか。
 でも、狐さんがそこまで落ち込むなんて珍しいですね」
「ばーか、落ち込んじゃいないよ。
 ちょっと、気がかりなだけだ」
 外法狐は笑い飛ばそうとしたが、出来なかった。
 …あの少年は、今頃どうしているのだろうか。
 もう家に帰ったか、それともまだ絵を描いているのか。
 どっちにしろ、もう会わない方がいい。
 どこで聞いたのかはしらないが、自分が『禍つ名』である事がバレてしまった。
 ならば、これ以上一般人であるあの少年とは関わるべきではない。

「…なあ、しぇりー」
 外法狐はおもむろに口を開いた。
「ふえ? 何ですか狐さん?」
 しぇりーが首を傾げる。
「お前、確か漫画描くのが趣味だったよな」
「ええ、そうですけど」
「あのさ、変な事聞くけど、人の漫画の真似をする事ってあるのか?」
 外法狐がしぇりーの顔を見据える。
「ええ。 人の作品を模倣するのは、技術の向上に欠かせませんからね。
 トーンの貼り方とか、構図とか、上手い人の真似をするのが上達の早道ですね。
 あ、すみません。 もう一つ同じの下さい」
 餡蜜を平らげたしぇりーが、店員にお替りを注文する。
「ふうん。 で、それって楽しいのか?」
「いえ、模倣はあくまで技術向上の一環ですから。
 楽しいとかそういうのとは別問題です。
 やっぱり物を創るからには、自分の物を創らないと。
 自分の考えた物が形になった時のあの達成感は、人真似では得られませんね」
「へえ…」
 外法狐の脳裏に、あの少年の姿が映る。
 『僕は偽物』。
 あの少年はそう言っていた。
 独創性の欠如。独自性の欠落。
 しぇりーは言った。
 『自分の考えた物が形になった時のあの達成感は、人真似では得られませんね』、と。
 そしてあの少年は『自分自身の何かを創れない』と言った。
 それはつまり、何をしても何も得られないという事。
 達成感も満足感も勝利感も敗北感も絶望感も飢餓感も落胆感も、何も生まれないという事。
 そこにあるのは、ただ絶対の虚無のみ。
 それは、どれ程の地獄だというのか―――

511:2004/11/16(火) 23:06

「…? 狐さん?」
 しぇりーが、物思いに沈んでいた外法狐に声をかける。
「あ、ああ、少し考え事をしていた。 すまない」
「いえ、別にいいですけど…
 それにしても、どうしてこんな質問を?
 ひょっとして、狐さん漫画でも描くつもりなんですか?」
「うんにゃ、違うよ。
 ちょっと聞いてみたくなっただけさ」
 外法狐は軽く頭を横に振る。

「そういやしぇりー、お前はどうしてこの街に来てんだ?
 確かお前、地元は別の場所だろ?」
「ああ、それですか。
 そうそう、思い出しましたよ。
 実は私、こないだ仕事をしくっちゃったのです」
 がっくりと肩を落とすしぇりー。
「あー、仕事でこっちに来てたのね。
 しかし、『人吊(ひとつり)【一理】』であるお前がしくじるとはな。
 それほどの手合いか」
「いえ、何と言うか…
 強いとか弱いじゃないんです。
 そう、言葉で言い表すなら、理解出来ないんです。
 理解出来なくて、恐いんです」
 しぇりーがぐっと拳を固める。
「んあ? 恐い?
 『禍つ名(まがつな)』であるお前さんを恐がらせるなんて、そりゃ一体どこの化物だ」
「分かりません。
 戦っている最中ですら、人間を相手にしているとは思えませんでした。
 まるで、そう、夢か幻とかとでも戦っているような、
 それくらい、全くと言っていい程手応えが無かったんです。
 私には信じれません。
 あんな人間が、この世に存在するなんて…」
 しぇりーの額にはうっすらと冷や汗が浮かんでいた。
「存在自体が嘘っぱち、ってか。
 はん、そりゃ傑作な話だな」
「笑い事じゃないですよぅ。
 私、またその人と戦わなきゃならないんですから。
 正直言って狐さんに手伝って欲しい位ですよ」
「悪いがそれは却下だ。
 お前も知ってるだろ?
 俺は自分に殺す理由が無い相手は殺さない。
 金で、俺じゃない別の誰かが殺して欲しい相手を殺すのは、俺の道義じゃない」
 きっぱりと、そう言い切る外法狐。
「ですか。
 …ですよね、ごめんなさい」
 しぇりーがペコリと頭を下げた。

「…あ。 そうだ、狐さん」
 しぇりーが思い出したように口を開いた。
「うん? どうした?」
 外法狐が聞き返す。
「あの、やっぱりこの街の連続猟奇殺人事件は、
 『魔断(まこと)【真琴】』の『冥界の支配者(ネクロマンサー)』が関わっている可能性が高いです」
「…だろうよ。
 けっ、あの最低の下種野郎が」
 不快感を隠そうともせず、外法狐は毒づく。
「それで、他の『禍つ名』もこの騒ぎに乗じてこの街に集まってきているみたいです。
 未確認ですが、『鬼祓(きばらい)【木払】』と『獣死(じゅうじ)【十字】』が来ているとの噂も聞きました。
 狐さんならまあ大抵の事は大丈夫でしょうけど、一応気をつけて下さい」
 しぇりーが、真剣な面持ちでそう告げた。
 その表情に、餡蜜を頬張っていた時のあどけなさは、無い。
「ああ、心配すんなって。
 俺の『不死身の肉体(ナインライヴス)』は無敵さ。
 お前の方こそ、気をつけろよ」
 優しい顔で、外法狐がしぇりーに微笑んだ。

521:2004/11/16(火) 23:06



        @          @          @



 夜の公道を、青いスポーツカーが走る。
 道路交通法って何ですか、とでも言わんばかりのスピードで、
 スポーツカーは都心へ向けて突き進んでいた。
「あーあ、すげえかったりーんじゃネーノ?
 せっかくハワイでバカンスを楽しんでたってーのによ」
 助手席に座っていた男が、運転席の男に顔を向けた。
「そう嫌がる事もねーんヂャン。
 上手くいけば、一生ハワイで暮らせるだけの金が手に入るかもしれないヂャン」
 運転席の男が、脇見運転もなんのそのと助手席の男の顔を見ながら話す。
「しっかし連続猟奇殺人事件の犯人がよりにもよって『魔断』とは、
 最悪ここに極まれり、って感じじゃネーノ。
 ま、でも今回はそれが好都合なんじゃネーノ。
 そいつぶっ殺せば、俺達『鬼祓』の株も大上がりってもんじゃネーノ?」
「それだけじゃないヂャン。
 『人吊』の『殺人人形(キリングドール)』もあの街にいるらしいヂャン。
 それより何より、あの『外法』の化物までがいるという噂もあるヂャン」
「…ああ。
 考えただけで身震いするんじゃネーノ?
 あの『歩く災厄(ヒューマノイドタイフーン)』が、『純粋なる暴力(パワーイズジャスティス)が、
 『白紙返し(ホワイトアウト)』が、『九尾(ナインライヴス)』が、
 『絶対最強者(ストロンゲスト)』が、まさかあの街にいるなんてな…!」
 助手席の男が肉食獣の笑みを浮かべる。
「これは絶好の機会ヂャン。
 もしかしたら、『禍つ名』の序列を俺達が変える事が出来るかもしれないヂャン」
 運転席の男が、車をさらに加速させた。


                     〜続く〜

531:2004/11/17(水) 17:16
 〜八話〜

「狐さん、今日は本当にありがとうございました〜」
 しぇりーが頭を深く下げながら外法狐に礼を言う。
「ああ、まあ気にするなよ。
 今度は寿司でも食いにいこうぜ」
 外法狐は微笑み返し、軽くしぇりーの頭を撫でた。
 それを受けてしぇりーは「うゆー」と可愛らしい声を上げる。
 外法狐としぇりーの身長にはかなり開きがある為、傍から見れば親子と言っても差し支えない光景であった。
「それじゃ狐さん、バイバイですぅ」
 右手を高く振り、しぇりーは雑踏の中へと消えていった。
 外法狐も手を振り返し、しぇりーの姿が見えなくなった所で腕を下げる。

「…さーてと」
 一人になり、外法狐はこれからどうするかについて考え込んだ。
 金はまだ充分に残っている為急いで仕事をする必要も無いし、今の所依頼も入ってはいない。
 かといって宿に帰って寝るにはまだ早すぎる時間である。
 ゲーセンやボーリング場で一人で遊んでも面白くない。
 となれば映画館や漫画喫茶で時間を潰すのが、最良の選択肢になるだろう。
「通はブックオフで立ち読み。 これ最強」
 などとしょうもない独り言を呟き、外法狐は甘味所の前から立ち去った。



「ありがとうございましたー」
 両腕に大きな紙袋を引っ下げて、ブックオフから出てくる外法狐。
 言うまでも無く、その紙袋の中身は大量の漫画雑誌である。
 そこから文学的教養を窺い知る事は、到底出来そうも無い。
「さて、帰るか」
 せっかく漫画を買った事なのだし、一刻も早く宿で読みたいものだ。
 しかし、“その前にやるべき事が出来てしまった”らしい。
「……」
 足早に、滞在している宿とは別の方角に足を運ぶ。
 後ろには決して視線を向けず、しかし注意は逸らさないまま、
 人通りの少ない方へと歩き続ける。

541:2004/11/17(水) 17:17

「…ここら辺でいいか」
 人気の無い工事現場で外法狐は足を止めた。
 そして、ここでようやく後ろの方に振り返る。
「さっさと出て来いよ。
 折角、人目に付かない所まで連れてきてやったんだからさ」
 誰も居ない筈の空間に向かって、外法狐は声をかけた。
 程無くして、物陰から二人の男が姿を現す。
「…やっぱりバレてたみたいじゃネーノ?」
 右側の男が、尾行は気取られていたのに気づいていたかのような口振りで呟いた。
「流石は外法狐(げほう きつね)といった所ヂャン」
 左の男が続けて口を開く。
 その足には、ローラーブレードのような物が履かれていた。

「お前ら、俺がブックオフで立ち読みしてた時から尾けてたろ。
 大体想像つくけど一応聞いとくぜ。
 お前ら何者で、おの俺に何の用だ?」
 二人の男が放つ異様な気配に全く動じる事なく、
 いつも通りの威風堂々とした態度で外法狐が訊ねた。
「話す必要は無い… と言いたい所だけど、特別に教えてやるんじゃネーノ?
 俺は鬼祓根依乃(きばらい ねえの)。 そして隣は…」
「同じく鬼祓智按(きばらい ぢあん)。 これ以の説明は要らない筈ヂャン」
 確認するように告げる鬼祓智按(以下・ヂャンと表記)。
 鬼祓根依乃(以下・ネーノと表記)と共に、ジリジリと狐との間合いを詰める。
「はん。 『禍つ名』の三位が、揃いも揃って何の用だ?
 愛の告白にしちゃあ、ちょっと風情が無いんじゃないか?」
 外法狐が何ら警戒する素振りも見せずに軽口を叩く。
「少し余裕かまし過ぎなんじゃネーノ。
 いくら『外法』と言えども、俺達『鬼祓』を二人同時に相手にして、
 無事に済むと思うのは自信過剰だと思うんじゃネーノ。
 『禍つ名』の序列外、『外法』の外法狐」
 外法狐から15m程離れた所で、ネーノとヂャンは足を止めた。
 ここが、ギリギリ外法狐の必殺の間合いの外なのだろう。

551:2004/11/17(水) 17:17

「で、俺は『何の用だ』って聞いてるんだよ。
 そっちから勝手に押しかけて来て、こっちの質問には無視(シカト)か?」
 外法狐が腕を組んだままで口を開いた。
「口の減らない奴ヂャン。
 まあ、冥土の土産に教えてやるヂャン」
 ヂャンが外法狐との間合いを固持したまま問いに答える。
「お前も知ってると思うけど、この街の連続猟奇殺人事件は『魔断(まこと)』の一味の仕業ヂャン。
 『魔断』はこの件とは直接関係無くて、
 『冥界の支配者(ネクロマンサー)』だけが勝手に暴走してるみたいだけど、
 そんな事は大した問題じゃ無いヂャン。
 『禍つ名』の二位である『魔断』の一員が、この街で好き勝手している。
 これが最も重要な事なんヂャン」
 説明を続けるヂャン。
「けッ、ちゃちい縄張り争いってやつかよ」
 鼻で笑う外法狐。
「事はそんなに浅くないヂャン。
 これはつまり、お互いに不干渉が暗黙の了解になっている、
 『禍つ名』どうしが戦うだけの立派な大義名分になるヂャン。
 つまり、ここで『禍つ名』の二位である『魔断』の一員を俺達が倒せば、
 俺達『鬼祓』の株が大幅に上昇するって事ヂャン」
「で?
 それがこの俺に何の関係がある」
「ここまで言えば分かってる筈じゃネーノ?
 案の定、俺達のようにこの街には他の『禍つ名』が集まりつつある。
 表面上は波風立ってはいないけど、『禍つ名』は決して仲良しこよしの集まりじゃないんじゃネーノ。
 隙あらば、その地位をひっくり返してやろうと考えてるんじゃネーノ。
 そう、今ここで『外法』であるお前を殺せば、
 『魔断』を倒すのと同様『鬼祓』の名を上げる事が可能なんじゃネーノ。
 『魔断』を押しのけて、俺達が『禍つ名』の二位になるのも夢じゃねえんじゃネーノ」
 ネーノが外法狐を見据えた。
 その目には、らんらんと殺意が宿っている。

「やめとけ。 お前らじゃ俺の相手にはならない。
 そんなヘボい功名心で命を落とすなんざ、割りに合わねえぞ?」
 それでも、外法狐はその自信満々の態度を崩す事無くそう言い切った。
「やってみなくちゃ分かんないんじゃネーノ?」
 外法狐の言葉を挑発と受け取り、ネーノがあからさまに激昂する。
 その表情は、今にも外法狐に噛み付かんばかりだ。
 それはヂャンも同様である。
「…実は今日、友達にきつい事言われてな。
 あんまり人殺しなんてしたい気分じゃないんだ。
 ここでお前らが回れ右して帰るってんなら、俺はお前らを追わない。
 どこへなりとも行くがいいさ。
 だけど襲われて無抵抗のまま殺される程、俺だって優しくないぜ?」
 外法狐が組んでいた腕を下ろした。
 相変わらず何の構えも取らないまま、しかしその体は着実に念で戦闘態勢へと移り変わっていく。
「はは! もう勝ったつもりヂャン!
 勝てるとでも!
 1対2のこの圧倒的不利の状況で、お前が俺達に勝てるとでも!?
 笑える冗句ヂャン!
 腕と足を切り落として、犯し尽くした後で殺してやるヂャン!」
 ヂャンが下卑た笑みを浮かべて外法狐を嘲笑った。
 対して外法狐は、無表情のまま二人を見据える。

561:2004/11/17(水) 17:17

「…俺はね、出来るんだよ」
 ポツリと、外法狐が言葉を漏らした。
「ああ?」
 訝しげに聞き返すネーノ。
「俺は、殺せるんだよ。
 恨みも憎しみも辛み悲しみも哀しみも怒りも利益も快楽も悦楽も達成感も義務感も
 責任感も使命感も勝利感も敗北感も絶望感も意思も意志も理由も理屈も理論も信念も
 観念も概念も信仰も理性も知性も本能も本望も感情も感覚も躊躇も後悔も呵責も
 痛みも苦しみも悩みも嬉しさも楽しさも愛も勇気も希望も欲望も何も何も何も無くとも、
 俺は殺せるんだよ。
 誰だって殺せるんだよ。
 何だって殺せるんだよ。
 生物も非生物も人間も動物も有機物も無機物も神も悪魔も聖人も悪人も、
 何の区別も無く余す所無く残すもの無く殺せるんだよ」
 ゾクリ。
 ネーノとヂャンの背筋に、液体窒素でも流し込まれたかのような悪寒が走った。
 馬鹿な。
 俺達の優位は動かない筈だ。
 それなのに、それなのにこのたった一人の女に圧されている!?
「勿論、大抵の事には我慢がきくけどな。
 俺だって、無差別に目に付いた奴らを片っ端から殺してやしない。
 それどころか、俺は理由無き殺しは、殺す対象が人間じゃなくとも最低の行為と考えている。
 だけど、“始まった”となれば別だ。
 お前らが俺を殺そうとするなら話は別だ。
 俺は不器用だからな。
 半殺しなんて悠長な真似は出来ないぞ?」
 ずいっ、と外法狐が二人の前に進み出た。
 同時に、ネーノとヂャンが外法狐が前に出た分だけ後ろに下がる。
「お前ら『禍つ名』は、『外法』について何か勘違いをしているみたいだから教えてやるよ。
 『外法』の連中は確かに殺人鬼だが、殺すのが楽しいから殺してるんじゃない。
 無論、金の為なんかじゃ断じて無い。
 それしか知らないから、
 何か問題にぶち当たった時、殺す以外の方法を思いつけないから、
 殺す事でしか自分を確立出来ないから、殺してるんだ。
 いわば、正真正銘殺す為にのみ存在する存在なのさ」
「――――――!」
 ネーノとヂャンは絶句した。
 何だ。
 この目の前にいる奴は一体何なのだ。
 今までに会った人殺しのどれとも違う、いや、人殺しとすら認識出来ない、
 ここに存在する事自体が大罪の様な怪物。
 まるで、それは殺意の結晶―――

「だからって…」
 ネーノが意を決して、一歩足を踏み出した。
「だからって、ここで尻尾巻いて逃げるなんて出来ないんじゃネーノ!?」
 ネーノは吠えた。
 それに鼓舞される形で、戦意を喪失しかけていたヂャンも戦う意思を取り戻す。
 歪む空間。
 震える大気。
 張り詰めた空気が、今にもはちきれんばかりの圧力を帯び、
 それが今まさに、あえなく決壊しようとしていた。
「そうかい、上等だこのボンクラども。
 いいぜ相手してやるよ。
 死んだ事に気がつく暇も無く絶殺してやる。
 いくぜお前ら。
 あの世で暴力に懺悔しな…!」


                   〜続く〜

571:2004/11/19(金) 09:55
 〜九話〜

「殺すよ、お前ら―――」
 外法狐が体中にオーラを纏った。

 『殺す』。
 たったこれだけの言葉が、これ程の重みをもっていたのかと、ネーノとヂャンは戦慄していた。
 彼らも、『殺す』だとか『死ね』だとかいう言葉くらいは使った事がある。
 しかしそれは大抵の場合、売り言葉に買い言葉の末だったり、
 単なる脅し文句だったりであり、
 本気で相手の事を絶対に殺すつもりで使った事など数える程しかない。
 しかし、外法狐は違う。
 ネーノとヂャンは確信していた。
 この女はそんな生半可な覚悟で『殺す』という言葉を使っていない。
 いや、覚悟という次元すら超越しているように思える。
 外法狐にとって、『殺す』と言った時には既に、
 その言葉を投げかけた相手の死は決定事項なのだ。
 外法狐の中では、『殺す』と言った相手は既に死んでいるのだ。
 だから『殺す』という言葉は最早『死』と同意語であり、
 外法狐は相手の死を確認する為に『殺す』という言葉を使うのである。
 故に外法狐は相手を殺すのに一切の躊躇は無い。
 己の中に想像した相手の死を、ただ忠実に実行して実現するだけ。
 そこに、何の意思など介在しようも無い。
 道具が何かを殺める際に、何も考えたりしないように。
 今外法狐は、比喩でなくただ一振りの刃と化しているのである。

「―――ッ!」
 直後、外法狐の姿が二人の前から消え去った。
 否、消えたのではない。
 二人の反応限界を超える速度で移動したのである。
「『果てしなき暴走(キャノンボール)』!!」
 本能的に危険を察知したヂャンが、己の念を発動した。
 ローラーブレードに注がれるヂャンの念。
 するとローラーブレードの車輪が一瞬にして加速して、
 ヂャンの体を瞬時に後方へと移動させる。

 パアァン!

 風船の破裂したような音が、辺りに響いた。
「…?」
 ヂャンがその音の正体を探ろうと周囲を見回す。
 しかし、その原因らしいものは一向に見当たらない。
 空耳か?
 いや、確かにさっき音はした筈だ。
「……あ?」
 ヂャンは、自分の右腕の部分が軽くなっているような感覚を覚えた。
 違う、軽くなっているのではない。
 重さが全く無くなっているのだ。
 ヂャンが不思議に思って自分の右腕を見―――

581:2004/11/19(金) 09:56

「え? えああああああああああああああああああああああ!?」
 ヂャンは信じられないといった顔で叫び声を上げた。
 飛び散る鮮血。
 ヂャンの腕は、二の腕の辺りからごっそりと無くなっていたのだ。
「外したか」
 いつの間にかヂャンの後ろに回っていた外法狐が、不敵な笑みを浮かべた。
 その足元には、木端微塵になったヂャンの右腕だったであろう肉片。
 どう見ても全く腕の原型など留めておらず、それが外法狐の攻撃破壊力の凄まじさを物語っていた。
 先程の破裂音は、ヂャンの右腕が爆ぜた音だったのだ。
「うわあああああああああああああああああああ!!」
 後ろからの外法狐の回し蹴りを、ローラーブレードを操ってかわすヂャン。
 今度は、かわしきれずに攻撃を貰うような事態にはなってはいない。
「ヂャン!」
 ヂャンへの追撃を防ぐべく、ネーノが外法狐に跳びかかる。
「『刺突寸鉄(シャドウニードル)』!!」
 ネーノの手に何本もの黒い針が具現する。
 ネーノはそのまま、その針を外法狐目掛けて投げつけた。
「当たるかぁ!!」
 腕の一振りで、外法狐は飛来する無数の針を弾き飛ばす。
 しかし、ネーノはその様子を見ても何ら動揺する素振りは見せなかった。
 寧ろ、外法狐に今の攻撃が当たらない事など予測していたようにすら感じられる。
 それもその筈。
 ネーノの真の狙いは、“別の所”にあったのだ。

「!?」
 今まさにネーノに突撃をしかけようとしていた外法狐が、突然その動きを止めた。
 正確に言うならば、動きを止められた。
「…! 成る程な」
 外法狐の影に、先程の黒い針が突き立てられていた。
 先程ネーノが針を投擲した時、外法狐の体だけではなく、その影にも針を狙いを定めていたのである。
 外法狐は自分の体に向かっていた針だけを防御した為、影にまでは気が回らなかったのだ。
「…影縫い。 これが俺の『刺突寸鉄』の能力なんじゃネーノ?」
 ネーノが勝ち誇った笑みを浮かべる。
「はッ、動きを止めたくらいでいい気になるんじゃねえよ。
 それで、お前らはどうやって俺を殺す気なんだい?」
 外法狐が、これくらいのピンチなど丁度いいハンデとばかりに肩をすくめた。
「すぐに分かるんじゃネーノ?
 お前はもう、俺達のコンビネーションの術中に落ちている…!」
 ネーノが勢いよく後ろへと振り向く。
 そこには、腕を落とされたばかりのヂャンが立っていた。
 そしてその後ろには…

「ロードローラーだ!!」
 ヂャンが腕を失った恨みを全て込めて、外法狐に怒号を叩きつける。
 ヂャンの念能力『果てしなき暴走』は、車輪がついているものを自在に操作する能力。
 そして今、ヂャンは工事現場に駐車されていたロードローラーを操り
 それを身動きの取れない外法狐に猛スピードで突進させた。
「WRRRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
 ぶっ潰れよおおおおおおおおおおおお!!!」
 軽く時速100kmを超える速度で、ロードローラが外法狐にぶち当たる。
 鼓膜が破れそうな程の爆音。
 巻き上がる土煙。
 これだけの攻撃を喰らって、生きていられる生物などいよう筈も無い。
 そう思うのが当然だった。

「や…やった! 勝ったんじゃネーノ!?」
「ああ! 俺達の勝利ヂャン!
 片腕は失ったが、あの外法狐を仕留めれたのなら安いも…」

591:2004/11/19(金) 09:56


 !!!!!!!!


 次の瞬間、轟音と共にロードローラーがぶっ飛ばされた。
 ロードローラーはさっきヂャンが操っていた時以上の速さで水平に滑空し、
 その軌道上にいたヂャンを巻き添えにして地面に激突する。
 ヂャンは見事にロードローラーの下敷きになり、
 文字通り人間押し花となって地面に赤黒い染みを遺した。
「『不死身の肉体(ナインライヴス)』」
 ネーノは、自分の目を疑った。
 そして次に、目の前の化物の存在を疑った。
 馬鹿な。
 こいつは今、間違い無くロードローラーに押し潰された筈だ。
 それなのに、どうしてこいつは生きているのだ…!
「いやー、驚いた。 だけどそれだけだな。
 その程度じゃ、この俺は殺せない」
 殆ど無傷の状態で、外法狐は『刺突寸鉄』によって動きを止められた場所に佇んでいた。
 もしかしたら、体に受けた損傷よりも、着物の傷の方が大きいのかもしれない。

「ば…ば、ば… 化物… この化物ォ!!」
 今にも発狂しそうな勢いで、ネーノが外法狐に向かって叫んだ。
「あー、そんな台詞はとうの昔に聞き飽きてるんだ。
 遺言を遺すなら、もっと気の聞いた事を言ってくれよ」
 外法狐が「ふんッ」と気合を入れると、彼女の影に刺さっていた針が一本残らず抜け落ちた。
 純粋な暴力だけで、ネーノの『刺突寸鉄』の呪縛を引き剥がしたのである。
「ま、待て! 待ってくれぇ!
 もうお前の前には二度と姿を見せない!
 だから命だけは助けてくれ!!」
 ネーノは後悔していた。
 自分は、何て相手に喧嘩を売ってしまったのだろう。
 かつて『鬼祓』の上役からくどいほど聞かされていた言葉。
 『外法狐とは、何があっても敵対するな』。
 あれは本当だったのか。
 加えて、こうも聞かされていた。
 外法狐には、半端な作戦や小細工など何の役にも立たない、と。
 あいつが、外法狐が戦う事が、
 それ自体が既に戦術であり戦略であるレベルにまで昇華しているのだ、と。
 今、はっきりと分かる。
 この女はもう自然災害と同じなのだ。
 そもそも人間が太刀打ち出来るような存在ではなく、
 いかにして被害から逃れるかの対策を立てるしかない、
 そんな絶対的な暴力の権化なのだ。
 自分達が生き残るには、一目散に逃亡するしかなかったのだ。
 そして外法狐の中では、『殺す』と言った時点でネーノとヂャンの死は確定している。
 そんな相手に、命乞いなど通用する筈も無い。

601:2004/11/19(金) 09:56

「悪いけどさ、もう俺にも止められないんだよ。
 俺はもう、殺すのを止められない。
 今お前を見逃せば、きっと俺は俺を殺す。
 だから、お前には死んで貰う」
 ゆっくりと、外法狐が前に出てくる。
 ゆっくりと。
 ゆっくりと。
 しかし確実に、ネーノとの距離を縮めながら。
「ひッ… ひッ… ひいいいいいいいいいいいいいいい!!」
 ネーノの足元には、生暖かい水溜りが生まれていた。
 恐怖のあまり失禁してしまっていたのだ。
 ネーノは動けなかった。
 ネーノの体の細胞は、いくら動いた所で目の前の殺人鬼から逃れる術など無い事を悟っていたのだ。
 待ち受けるは、必ずもたらされる死。
 手からボールを離せばボールは落ちる。
 それくらい当然に訪れる死。
 子供の様に涙を流して泣き叫びながら、ネーノはただ震えていた。
 しかしそんなネーノの様子を見ながらも、
 外法狐は顔色一つ変える事は無かった。
 考えている事はただ一つ。
 目の前の生き物を、殺す事―――
「じゃあな」
 外法狐が無造作に左腕を振るうと、ネーノの頭部はまるで西瓜のように砕け散った。



「……」
 外法狐は、今しがた自分が生産したばかりの死体を眺めていた。
 何の感慨も無く、ただ虚ろな目でネーノとヂャンの死体を眺めていた。
「何なんだよ、俺は…」
 人を殺した。
 だけど、外法狐はその事について一切の罪悪感も感じてはいない自分を認識していた。
 人が生きる為に食事をする、殺すのだってそれと同じような事。
 そんな風に考えてしまう自分を、外法狐は自覚すると同時に嫌悪していた。
 殺すのに快楽を感じる事が出来れば、命を蹂躙する事に狂う事が出来れば、
 犯した罪に悩み苦しむ事が出来れば、殺す事に目的を見出す事が出来れば、
 それならばどれだけ楽になれる事か。
 それだけ救われた気持ちになれる事か。
 だけど、自分にはそれすら無い。
 何も考えなくとも殺す。
 何も感じなくとも殺す。
 殺したくなくとも殺す。
 何であろうとも殺す。
 ただその為のみに存在する、それしか為せない存在。
 生物は生きる為に他の生物を犠牲にする、そういった自然の摂理からすら逸脱した化物。
 それが自分の全てであり、それ以外のものなど知らない。
「何だっていうんだよ、俺は…!」
 外法狐は、もう一度呟いた。


               〜続く〜

611:2004/11/21(日) 01:57
 〜十話〜

 二時間目の数学の授業。
 僕の三つ左隣の席には、誰も座っていなかった。
 モナカさんが学校に来なくなって、もう三日になる。
 学校には風邪を引いているからとの連絡が入っているらしいが、
 本当の所は僕が原因なのだろう。
 僕はモナカさんの気持ちに答えてはあげれなかった。
 答えるつもりも無かった。
 まあ、いいさ。
 こういった問題は時間と共に風化していくのが世の常になっている。
 モナカさんも、あれは一時の気の迷いだった、と古い思い出にすり替わっていくのだろう。
 そして僕も、すぐにモナカさんの事など思い出さなくなるのだろう。
「…最低だなあ」
 本当に最低だな、僕は。
 好きな人に拒絶されれば傷つく。
 それが辛辣なものであれば尚更だ。
 僕も、恐い。
 狐さんに嫌われるのが恐い。
 だから、狐さんにモナカさんとの事を怒られた時には深い絶望を味わった。
 そんなのは分かっていた筈なのに。
 それなのに。
 僕は、モナカさんに酷い言葉をぶつけてしまった。
 どうする。
 住所を調べて、謝りにいこうか。
 …やめておこう。
 そんな事をしても、徒に傷口を拡げてしまうだけだ。
 やっぱり、ほとぼりが冷めるまで下手なアクションはしないのが最善の策なのだろう。

「……」
 モナカさんが学校へ来なくなると同時に、狐さんもぱったりと姿を消した。
 あの人の事だから多分死んではいないのだろうが(というより殺しても死ななそう)、
 あんなのが最後の会話では心残りにも程がある。
 だけど、多分もう二度とあの人とは会えないのだろう。
 再びあの人と話せはしないのだろう。
 それでもいいかと思った。
 それでいいやと思った。
 所詮、僕は偽物。
 あの人と想いを通わせる事など、不可能ではないか。
 それなら、いっそ綺麗さっぱり望みが絶たれる方がまだ諦めがつくというものだ。
 だけど、もう一度会いたいと心のどこかで思っていた。
 それは下らなくて馬鹿馬鹿しくて意味などなくて取り留めのない一縷の望み―――
「…では宝、この問題を解いてみろ」
「はい」
 やめよう。
 こんな事考えたって、どうしようもないじゃないか。
 いくら想いをつのらせても、どうしようもないじゃないか。
 それに狐さんだって、モナカさんのように僕の中に誰か別の人を投影していただけかもしれないじゃないか。
「え〜と…」
 僕は狐さんの事もモナカさんの事も頭の中から追い出し、
 因数分解の解式に思考を専念させるのだった。

621:2004/11/21(日) 01:57





 午後6時15分。
 その日も特に変わった事など無く、僕は学校から下校した。
 いつも通りに授業を消化し、いつも通りに絵を写して一日が終了。
 恐らく卒業までずっと一緒であろうその日課。

「…まだ残ってるんだ、このクレーター」
 狐さんに殺人鬼から助けて貰った場所で、僕は足を止めた。
 土手地の地面には、今もなお痛々しい程の戦いの爪痕が残されている。
 事件現場という事もあり、当分の間埋め立てが行われる予定はないらしい。

「…?」
 ふと、僕は地面に穿たれたクレーターから視線を上げた。
 前の方に、人がいる気配を感じたからだ。
 さっきまでは確かに誰も居なかった筈なのに、
 そこには一人の女の子が立ちはだかっており、
 待ちかねたと言わんばかりの顔で僕の事を見つめていた。
「やあ、しぇりーちゃん。 お久し振り」
 僕は片手を挙げ、その女の子人吊詩絵莉に挨拶をした。
「…自分を狙う殺し屋を目の前にしたというのに、随分と個性的な応対の仕方ですね」
 呆れたように口を開くしぇりーちゃん。
「そうでもないよ。 ここ数日、いつ君が襲って来るのかとビクビクしてた」
「あなたにそんな感情があったなんて、驚きです」
 失礼な事を言う子だ。
 まるで人を妖怪か何かのように言いやがって。
 オジサンイカッチャウゾ?
「…で、マジな話、どうして僕が君に殺されなきゃいけないのさ。
 君が誰に頼まれたのかは知らないけど、
 僕は殺される程の恨みを他人から買った覚えは無いよ?」
 もしかしたらモナカさんが振られた腹いせに、とも考えたが、
 時期的にそれはありえないだろう。
 僕がモナカさんを振ったのはしぇりーちゃんに襲われた後だし、
 殺し屋を雇ってから告白するなんて人間、フィクションの世界ですら見た事が無い。
「これから死ぬ人間が知る事ではないです」
 前と同じように、しぇりーちゃんの手の平に特大チャクラムが魔法のように創造される。
 狐さんに教えて貰った、具現化系の念能力というものなのだろう。
「そうか。
 そうだよね…」
 僕は一つ息をついた。
 殺し屋を目の前にしているというのに、僕の気持ちはひどく落ち着いている。
 もう何もかも終わらせてしまっていいか、そう考えてしまっているのかもしれない。
 僕は偽物。
 だから初めから人生に意味は無い。
 ならば、ここで人生が終了したとして何の悔いが残る。
 家族は僕が死んだらどうするのだろうか。
 僕が死んだ事を悲しむのか、兄さんが死んだとして悲しむのか。
 それとも、今度は僕と兄さんなど最初から存在しなかった事にしてしまうのか。
 どうでもいいや。
 そんなの、僕の考える事じゃない。

 だけど、狐さんは。
 …あの人は、僕が死んだら何か感じてくれるのだろうか。

「…くッ」
 思わず、自嘲的な笑い声が漏れた。
 狂っているな。
 戦いを目前にして、僕は何を考えているんだ。
「…何がおかしいんですか?」
 ムッとした顔で、しぇりーちゃんが訊ねる。
「いや、何でも無いよ。 自分の愚鈍さ加減に愛想が尽きただけさ」
 静かな声で、僕はそう告げた。
「それにしても、凄いねそのチャクラム。
 そんなのを思いつけるなんて羨ましいなあ」
 僕には無理だから。
 僕には、自分自身のの何かを創れないから。
 だから、誰かの真似をする。

 ―――完全再生率、27%
 ―――発動、『劣化複製・穴あきの満月(デグラデーションコピー・フライングドーナッツ)』

631:2004/11/21(日) 01:57

「!?」
 僕の両手に握られた彼女とそっくりの特大チャクラムを目にして、しぇりーちゃんが目を見開く。
「あ、あなた、強化系じゃなかったんですか!?」
 驚くのも無理は無い。
 あの時僕は強化系である狐さんの真似をして戦った。
 だから強化系と相性が良くない筈の具現化系の能力を使うなんて、
 彼女には思いもよらない出来事だったのだろう。
「ああ、驚かせてしまったみたいだね、ごめん。
 だけどあまり警戒する事も無いよ。
 こんな物、単なる紛い物に過ぎないんだから」
 僕はチャクラムを持ったまま、鏡合わせの如くシェリーちゃんと同じ構えを取る。
 彼女の全てを真似するように。
 彼女の全てを模倣するように。
「まさか、特質系―――」
「どうやら君達念能力者の定義ではそうらしいね。
 でも、正直な所僕は特質系であるかどうかも疑わしいんだ。
 僕は何にもなれない。
 僕は何も創れない。
 ただ、水鏡のように別の何かを映すだけ。
 そんなの、個別に区分された能力なんて言わないだろ?」
「要するに、単なる猿真似ですか」
「うん、まさしくその通りだよ。
 僕に出来るのは誰かの真似事だけ。
 誰でも無い故に誰にでもなれる。
 誰でもあるが故に誰でもない。
 そうだ、やっと僕の念能力の名前を思いついた。
 『無貌の仮面(ドッペルゲンガー)』とでも名付けようか」
 二重体(ドッペルゲンガー)。
 特定の個人でなく、誰かの影の中にのみ潜む者。
 他者なくして決して己を形作れぬ者。
 そもそも己など存在しない者。
 まさに、僕にぴったりだ。

「そ、そうと分かればもう問題ありません!
 所詮は偽物、本物に勝つ事なんて出来ない筈です!」
 チャクラムを僕に向け、しぇりーちゃんが叫んだ。
「そうだね。
 事実僕の作ったこのチャクラムの性能は、本物である君のやつの半分にも及ばない。
 戦えば、確実に僕は負けるだろう」
 事も無げに、僕は言った。
「だったら!
 だったらどうしてそんなに落ち着いていられるのですか!?
 あなたは死ぬのが恐くないんですか!?」
 信じられないといった顔つきで、しぇりーちゃんが僕を見据える。

641:2004/11/21(日) 01:58

「…正直に言うとさ、僕は、君に殺されてもいいかなと思っているのかもしれない」
 僕のその言葉に、しぇりーちゃんが息を飲み込んだ。
 いくら彼女が凄腕の殺し屋といえど、
 自分から殺されるのを望む標的に出会ったのは初めてだったらしい。
「な、何を馬鹿な―――」
「僕はさ」
 口をパクパクさせるシェリーちゃんに構わず、僕は言葉を続ける。
「僕はさ、いつも僕ではない誰かを僕の中に投影されるだけだった。
 誰も僕自身を見ず、そして僕も自分自身の何かを生み出す事は出来なかった。
 だけど、君は違う。
 誰に頼まれたのかは知らないけど、君は他の誰でもない僕を殺す為に僕の所に来てくれた。
 僕そのものを必要としてくれた。
 それなら、僕はここで殺されてもいいんじゃないか――― そう思ったのさ」
 淡々と、僕は告げた。
 しぇりーちゃんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔のまま、僕の話を聞いている。
「あ、それとも恐がる真似をした方が、君にとっては都合がいいのかな?
 それは気配りが足りなかったね。
 『ひいいいいいいいい! い、命だけは、命だけは助けて下さい!!』
 どう?
 この前見たサスペンスドラマの真似をしてみたんだけど、雰囲気出てた?」
「もうやめろこの変態!!」
 悲鳴にも似た叫び声で、しぇりーちゃんが僕の言葉を遮った。
「何ですかあなたは!?
 何なんですかあなたは!?
 あなたにとっては、死の恐怖すらも誰かの真似事でしかないと!?
 何一つ本物なんて持っていないと!?
もう話しかけないで下さい!
 こっちを見ないで下さい!
 近寄らないで下さい!
 やめて下さい気持ち悪い!
 私の視界に入らないで下さい!
 私にその存在を意識させないで下さい!
 あなた、壊れてます!
 生き物として完全に壊れきってます!!」
 生き物として完全に失格。
 その通りだよしぇりーちゃん。
 もしかしたら、僕は生き物の真似をしているだけかもしれないんだから。
「気持ち悪いです!
 あなたがそこに存在するだけで不愉快極まりないです!
 もう我慢出来ません!
 ここで、塵一つ残さず殺します!!」
 その言葉を言い終わると同時に、しぇりーちゃんが僕目掛けて一直線に駆け出した。
 チャクラムの刃が、吸い込まれるように僕の首へと向かう。
 ああ、これでお仕舞いか。
 ここで僕は死んでしまうのか。
 最後に、会いたかったなあ。
 狐さんと、話がしたかったなあ…

651:2004/11/21(日) 01:58



「……?」
 しかし、僕の首は両断されなかった。
 見ると、しぇりーちゃんの特大チャクラムは僕の首に届く寸前で止まっている。
「あ…あ…あ……」
 確実に僕を殺せた筈のしぇりーちゃんが、顔面を蒼白にして小刻みに震えていた。
 その視線は僕、いや、僕の後ろに向けられている。
 何だ?
 この子は、一体何を見たっていうんだ?
「…?」
 不思議に思い、僕は後ろを振り替えってみると―――

「き―――」
 僕は言葉を詰まらせた。
 白髪の長髪。着物。一人称俺。
 それが形容詞につく人が、狐さんが、僕の後ろに立っていた。
「…何があったのかは知らないけどさ。
 そいつを殺すのはやめてやってくれないか?
 友達なんだよ―――そいつ」
 優しい顔で、狐さんがしぇりーちゃんにそうお願いした。
 しぇりーちゃんは言われるまま、ゆっくりと得物を下に下ろす。
「き、狐さん、何で…」
 僕は目をパチクリさせながら、狐さんに何か言おうとした。
「ああ、近くを歩いてたら何か穏やかでない声が聞こえてね。
 それにしても危機一髪だったな、少年」
 狐さんがはにかみの笑顔を浮かべる。

「つーわけでさ。
 ここは俺に免じて勝負は預かりって事にしといてくれ。
 俺の友達どうしが殺し合うなんて、真っ平御免なんでね」
 友達どうし?
 もしかして、しぇりーちゃんと狐さんって知り合いだったのか?
 まあ狐さんも裏家業に身を置く人みたいだから、
 殺し屋に知り合いがいてもおかしくないが。
「わかりましたです」
 驚くほど素直に、しぇりーちゃんが承諾した。
 確かに狐さんに逆らえば殺されるのは目に見えているが、
 プロの殺し屋がこんなんでいいのだろうか。

661:2004/11/21(日) 01:59

「…狐さん」
「ん? どうした、少年?」
「…どうして、僕なんか助けてくれたんですか」
 僕は狐さんの顔から目を逸らして言った。
「決まってるだろ。 友達だからだ」
 さも当然のように、狐さんは答えた。
「…!
 どうして!
 この前の事怒ってないんですか!?
 僕は、あなたに―――」
 あなたに嫌われるような事を、した筈なのに。
「ああ、怒ってるよ」
 狐さんが静かに告げる
「だったら…」
「だけどさ、俺が怒っているって事と、お前と俺が友達だって事とは別問題だろ?
 友達ってのはそいつが好きだけで成り立ってんじゃない。
 良い所も悪い所も、好きも嫌いも含めて、そいつと向かい合いたいと思う。
 それが一番大切な事の筈だぜ」
 …あなたは、
 あなたはどうしてそんな風に、
 僕が決して得られないものをそうも簡単に言ってのけるのか。
 どうして、そう言われただけでここまで安心出来るのか。
 どうしてあなたは、どうしようもない位にあなたなのだ。
「俺が友達じゃ、迷惑か…?」
 不安そうに、狐さんが僕に訊ねた。
「…いえ、そんなんじゃ…ないです」
 迷惑であるわけがない。
 だけど、僕は不安なんだ。
 僕は偽物だから。
 僕とあなたとの絆も、きっと偽物だから。
 いつか、その偽物の絆が、壊れてしまう日が必ず来るから。
 だから…

「…この前は、ごめんなさい」
 僕は頭を下げ、狐さんに謝った。
「いい子だ、少年。
 でも、君が謝らなきゃいけないのは俺じゃないだろ?」
 僕の頭を撫でながら、狐さんがそう告げる。
 てかこの歳になって他人に頭を撫でられるとは思わなんだ。
「はい」
 今度は狐さんの目を真っ直ぐ見て、そう答える。
 そうだ。
 謝らなくちゃ。
 モナカさんに。
 到底、許してもらえるとは思えないけど。
 許されるような事ではないけど。
 それでも、僕には謝らなければいけない義務がある。
「分かればよろしい。
 それじゃあ、景気づけに一緒に飯でも食いにいこうぜ。
 お前も来るだろ、しぇりー?」
 狐さんがしぇりーちゃんに顔を向ける。
「え?あ、はい!」
 慌てて頷くしぇりーちゃん。
 どうやら、狐さんには全く頭が上がらないようだ。
「よし、それじゃ出発するか!」
 こうして、狐さんに引っ張られる形で僕達三人は食事に行く事になるのだった。


 …この時はまだ、明日になればいつもと変わらない日常が来ると信じていた。
 当たり前のように学校に行って、当たり前のように家に帰る。
 宿題をして絵を写して食事をして風呂に入って寝る。
 そして明日はそこにモナカさんに謝るという特別なイベントが追加される。
 そんな明日が来ると、信じて疑わなかった。
 だけど、もう全ては遅かった。
 この時から、いいや恐らく初めて狐さんにあった時から既に、
 僕は二度と引き返せないレールの上を走っていたのだ。
 今日この日が、僕にとって最後のいつもと変わらぬ日常だったのだと、
 まだ僕は気づいてすらいなかった―――


                   〜続く〜

671:2004/11/22(月) 01:55
 〜十一話〜

『連続猟奇殺人事件の犠牲者は、既に26人に上り…』
 テレビのニュースキャスターが、淡々と記事を読み上げる。
 アヒャとフーンは、それをビール片手に眺めていた。
「…未だに手がかり無し、か」
 フーンが缶ビールに口をつけ、一つ溜息をつく。
「……」
 アヒャは何も言わないまま、黙ってテレビを見ている。
「おい、アヒャ?」
「……」
 フーンの問いには答えないまま、アヒャはすっと立ち上がった。
「? アヒャ、どこへ行くんだ?」
「チョットソノヘンヲウロツイテクル」
 それだけ言い残し、アヒャは荒々しくドアから出て行った。
「やれやれ…」
 肩をすくめるフーン。
 しかしこういった事には慣れているのか、フーンはアヒャの後を追おうとはしない。

「…大変だな、あいつも」
 かつてフーンはアヒャの過去を聞いた事がある。
 アヒャがまだ子供だった頃、家族を念能力犯罪者に皆殺しにされたらしい。
 それ以来、アヒャは念能力を使った犯罪を憎み、
 このハンターという裏稼業に従じていると聞いた。
 だからこそ、今回のような事件に対しアヒャは特別な思い入れがあるのだろう。
「言っても聞かないとは思うが、無茶はするなよ」
 既に誰も居なくなった入り口のドアに向かって、フーンは静かに呟いた。



          @        @        @



「狐さん」
「何だね、少年」
「この歳になって、僕は世界の神秘を一つ発見しました」
「ほう。 してそれは?」
「この世には、回転しないお寿司というものが実在したという事です」
 僕は狐さんとしぇりーちゃんと一緒に、お寿司屋さんに食事に来ていた。
 店の入り口から、僕、狐さん、しぇりーちゃんの順で木製のカウンターに並び、
 板前さんからお品書きを渡される。
 ぱっと店内を見渡しただけで、半端なく高そうという事が嫌でも理解させられていたのだが、
 お品書きに書かれてある値段を見て僕は更に仰天した。
 あの、すみません、四桁以上の数字が普通に並んでいるんですけど、
 ここら辺ではこれがデフォルトなんですか?
 それとも、僕の知らない間にインフレが進んでいたんでしょうか?
「がんだ〜らがんだ〜らぜいせいいとわずいんい〜んでぃあ…」
 思わず、ガンダーラの歌詞を口ずさんでしまった。
 その国の名はガンダーラ、どこかに在るユートピア…
 まさか、そんなものが実際にあったとは。
「お兄さん貧民です〜」
 しぇりーちゃんに鼻で笑われる。
 悪かったな貧乏人で。
「はは、まあそう言ってやるなよ。
 今日は俺の奢りだ、存分に食べな」
 お猪口に入った熱燗を啜りつつ、狐さんが笑う。
 和服で日本酒を飲むその姿は、厭味なくらい様になっていた。
「ありがとうございます〜!
 それじゃあ私玉子!」
 しぇりーちゃんはまだ子供なのでオレンジジュースだ。
 僕はというと、ちびちびとアガリを口に含んでいた。
「あの、本当にいいんですか?
 こんな高そうな店でご馳走になっちゃって…」
 僕は狐さんにおずおずと訊ねた。
 いくら僕がマトモな神経を持っていないとはいえ、
 流石にあの値段を見ても気にせずどんどん注文するほど非常識でもない。
「遠慮するなって。
 別に食い逃げさせたりしないから安心しろよ」
 狐さんはそういうが、僕はまだ不安だった。
 僕、100mを何秒で走れたっけなあ…

681:2004/11/22(月) 01:56

「…あの、狐さん」
 寿司の値段も心配だが、僕はもう一つの心配事を狐さんに聞く事にした。
「うん? どうした、恋愛相談か?」
「うるせえ黙れ」
 即座に突っ込みを入れる僕。
「ひ、ひどいわ、タッチャン!」
「人を某野球漫画の主人公の仇名で呼ばないで下さい。 真面目な話です」
 真剣な目で、僕は狐さんを見た。
 狐さんも冗談を交わす雰囲気ではないと悟ったのか、茶化すのをやめる。
「…連続猟奇殺人事件の犠牲者が、26人に増えました」
 26人。
 ここまでくれば、間違いなく日本犯罪歴史上に殿堂入りするレベルである。
「しかもその犠牲者の一人は、ロードローラーで押し潰されたって話じゃないですか。
 きっと犯人は時を止められる吸血鬼ですよ?」
 僕がそう言うと、何故か狐さんは微妙な表情へと変わった。
 何だ?
 何か変な事言ったか、僕?
「でも、重要なのは殺され方じゃありません。
 殺されてるって事が重要なんです。
 そもそも、殺人鬼は以前に狐さんが止めた筈なんですから」
 そうだ、殺人鬼は確かに狐さんが殺した。
 なのにまだ猟奇殺人は続いている。
 これはまるで悪夢のような冗句だ。
「教えて下さい、狐さん。
 この街で、一体何が起こっているっていうんです?」
 僕は狐さんを見据えて言った。

「…前、言ったよな。
 お前さんが踏み込むべきでない世界ってのが存在するって」
 しばしの沈黙の後、狐さんがゆっくり口を開いた。
「はい。 ですけど…」
「君も薄々は感づいてはいるんだろ?
 この事件には、常識など及びもつかない力、『念』ってのが関係してるって事に。
 最近念能力に目覚めたばかりの君なら尚更そういうのに敏感だろうしな」
 トロを口に運び、狐さんが一つ間を置いた。
「やっぱり…」
 やっぱり、念か。
 人間では考えられない力で犠牲者の死体がぐちゃぐちゃにされている事からよもやとは思っていたが、
 どうやらそれで正解だったらしい。
「そう。
 だからこそ君の質問には答えられない。
 君には、念使いの念能力がバレる事は致命傷だとも教えたよな?
 だから君にここで事件のあらましを説明したら、君まで巻き込む事になる」
 真面目な顔で、狐さんは僕にそう告げた。
「…わかりました」
 念使いにとって自分の能力を知られる事が鬼門ならば、
 それは自分の能力を知る者は敵と見なされるという事。
 知ってしまえば、もう引き返せない。
 だから狐さんは僕に何も教えない。
 真実が気にならないといえば嘘になるが、狐さんの好意を無下に断るのも気が引ける。
 だから、僕はこれ以上聞かない事にした。
「よろしい。
 お姉さん素直で物分りのいい子は好きよ。
 ちゅーしたげるちゅー」
「うるせえセクハラすんな年増」
 …本当はノリもいいからでちゅーして欲しいと思ったが、
 流石に公衆の面前ではヤバいと思ったので丁重に断った。

「狐さんとお兄さんばっかり話しててつまんないです〜!」
 会話から外されていたしぇりーちゃんが、耐え切れなくなったのか横から口を挟んだ。
 ああ、そういやこの子の事すっかり忘れてたな。
 ごめんごめん。
「今度は私が狐さんとお喋りするんです〜!」
 歯を剥き出しにして、あからさまに僕を敵視するしぇりーちゃん。
 ふざけんな。
 お前如き薄っぺらい藁の家が僕と狐さんとの会話に割り込むんじゃない。
「あ、いや、ごめんなさい…」
 しかし勿論僕にそんな事を言う度胸なんてあるわけなく、
 せっかくの狐さんとの会食はしぇりーちゃんによって台無しになるのだった。

691:2004/11/22(月) 01:56





「いや〜、食った食った」
 店から出た帰り道、狐さんがお腹を一つポンと叩いて満足げに呟いた。
「あの、狐さん、今日はありがとうございました」
 僕は深々と頭を下げる。
「ありがとうです〜」
 しぇりーちゃんも狐さんに礼を言った。
 そういえばお勘定が10万を超えていたような気もするが、きっとあれは目の錯覚だろう。
 まさか一回の食事であんなにかかるわけないよね。
 …でも、当分の間は狐さんに足を向けて寝れないと思った。

「でも驚きました。
 まさか、お兄さんと狐さんがお友達だったなんて」
 僕も君と狐さんが知り合いだったなんて驚いたよ、しぇりーちゃん。
「ああ。 世間って、案外狭いもんだったんだな」
 狐さんが腕を組んで頷く。
 よく考えたら、僕ってついさっきまで僕を殺そうとしてた奴と一緒に飯食ってたんだよな。
 思い出してみれば随分と凄い経験だ。
「てかしぇりーちゃん。
 今更だけど僕を殺すのやめていいの?
 その、勝手に仕事を中止したりしたら報復とか受けたりしないのかい?」
 僕はそうしぇりーちゃんに聞いた。
 僕がもう殺しの標的にならないのはいい事だが、
 それが原因でこんな年端もいかない少女が死ぬような目に遭っては流石に寝覚めが悪い。
「それなら大丈夫です。
 契約にお菓子がありましたので、お兄さんを殺すという依頼は破棄しても構いません」
「お菓子って、ひょっとして瑕疵の事?」
 僕のその言葉に、しぇりーちゃんが顔を真っ赤にした。
 この前といい、どうやら語学は苦手なようだ。
「と、とにかく契約は無効という事です!」
 苛立たしげにしぇりーちゃんが吐き捨てる。
 どうやら怒らせてしまったらしい。
「それが疑問なんだよ。
 その契約を無効に出来る位の瑕疵って、一体何なのさ?」
「あなたが狐さんと友達だという事です」
 …はい?
 それ、本当ですか?
「お兄さんには信じれないかもしれませんが、それで全てに説明がつくのです。
 私の依頼主は、お兄さんが狐さんと友達だという事を事前に伝えなかった。
 それが既に重大な契約違反なのです。
 私達の世界では、狐さん、『外法狐』さんを敵に回すという事は、それ程の事なのです。
 いいですか、そもそも狐さんは…」
「しぇりー、お喋りが過ぎるぞ」
 しぇりーちゃんの言葉を、狐さんが遮った。
「ご、ごめんなさいです」
 慌てて謝るしぇりーちゃん。
 詳しい事は知らないが、狐さんはものすげえ凄い人だというのは何となく分かった。
 しかし、それは僕が聞いていい事ではないのだろう。

701:2004/11/22(月) 01:57

「つーかさ、少年。
 君はどうしてこいつに命狙われてたんだ?
 何か人に恨み買うような事でもやったのか?」
 狐さんが僕の方に向く。
「いえ… それがさっぱりなんですよ。
 モナカさん…僕がこの前振った女の子の差し金かなとも思ったんですが、
 それだと時間的に矛盾が生じますし、かといって他に理由も見当たらないんです」
 僕は答えた。
 本当に、誰がどういった理由で僕なんかに殺し屋を雇ったのだろう。
 僕なんか殺して、何の得になるっていうんだ?
「そうか…
 しぇりー、お前の依頼主はどんな感じだった?」
 狐さんが今度はしぇりーちゃんの方を見る。
「あ、あの、それは流石に…」
 口ごもるしぇりーちゃん。
 まあ、殺し屋が簡単に依頼主をバラすような事は出来まい。
「いいじゃん。 どうせ契約は破棄されたんだろ?」
「…ですけど、私もよく分からないのですよ。
 実際に顔をつき合わせて契約はしてませんし、電話にも変声機が使われてましたし、
 身辺を調べようとしても、なかなか尻尾は掴めませんでしたし…」
 手がかり無し、か。
 僕みたいな一般人を殺す為に殺し屋を差し向けるなんて、どこの酔狂な奴だよ。

「…!」
 と、狐さんがいきなり足を止めた。
「? どうしました、狐さん?」
 僕は狐さんに声をかけた。
 急に立ち止まったりして、一体どうしたんだろう。
「まさか…!
 いや、“もうそれしか考えられない”!」
 突然、狐さんが物凄い形相で僕の肩を掴んだ。
「ちょッ、狐さん!?」
 道端で押し倒そうとするなんて強引な人ですね、と冗句の一つでも言おうと思ったが、
 その鬼気迫る表情を見て何も言えなくなる。
「少年、君の家はどこだ!」
「え…? もうすぐそこですよ?
 その通りの角を右に曲がって左手に…」
 僕が説明を終えないうちに、狐さんは飛燕の如き勢いで僕の家に向かって疾走した。
 おいおい、何ですかこれは?
 お父さん、息子さんを僕に下さいとかそういうオチですか。
 いや狐さん、そういうお付き合いをするのはまだちょっと早い…

711:2004/11/22(月) 01:57

「……!?」
 その瞬間、僕は言いようの無い不安に襲われた。
 僕の知らない所で、取り返しのつかない事が起こってしまった。
 そんな感じの悪寒。
 はは、そんなまさか。
 僕はこれから家に帰って、寝て、起きて、学校に行って、
 いつもと変わらない日常がこれからも続くに決まってる。
「…!!」
 気がつくと、僕は家に向かって走っていた。
「ちょっと、お兄さん!?」
 しぇりーちゃんも後ろからついてきているみたいだが、
 そんなのを気にかけている余裕も無かった。
 大丈夫だよな。
 こんなの、ただの杞憂だよな。
 玄関の扉を開ければ、いつものようにお母さんが迎えてくれて、
 お父さんが居間でテレビを見てて、
 おじいさんとおばあさんは早めに就寝していて…

「……!」
 しかし、僕が玄関を開けてもお母さんの『おかえりなさい』の声は聞こえてこなかった。
 代わりに僕を向かえたのは、居間から伸びる夥しい程の血痕。
 おかしい。
 これはおかしい。
 こんなの、いつもの日常じゃない。
 何だ。
 ここで、何が起こった。
「はは、皆、僕を驚かせようとしてるんだよな…」
 ふらふらと、僕は居間へと足を運んだ。
 冗談だよな。
 うん、そうに決まってる。
 実はこの赤い染みもただのペンキで、居間では家族が僕を驚かせようと隠れているんだ。
 その筈だ。
 ほら。
 もう少しで居間につくぞ。
 せいぜい驚いた振りをしてやるか。
 それとも逆に驚かせてやろうか。
 何だ。
 居間へのドアが閉まってるじゃないか。
 開けなきゃ中が確認出来ない。
 開けるか。
 開けるぞ。
 せーの、



「――――――」

721:2004/11/22(月) 01:58



「――――――」



 赤い海が、目の前には広がっていた。
 血。血。血。
 むせ返りそうな血の匂い。
「見るなぁ!!」
 一足先に居間についていた狐さんが、僕に叫ぶ。
 しかし、僕はもうしっかりと目の前の惨状を見てしまっていた。
 誰が誰だか判別がつかなくなるほど無残に引き千切られた、かつて僕の家族だった肉塊。
 潰された腕。
 引き裂かれた足。
 かち割られた頭。
 ズタズタになった衣服。
 そこに宿る微かな温かみが、確かについさっきまで生きていたという事を示していた。

「あ―――」
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の心だから何も感じない。
 偽物の、心だから、何も、感じない。
 …感じない、筈なんだ。

731:2004/11/22(月) 01:58



 RRRRRRRRRRRRRRRRRR!
 RRRRRRRRRRRRRRRRRR!

 電話が鳴った。
 あ、そうだ。
 家族はもう電話に出られないんだから、僕が出なくちゃ。
 僕が、電話に、出なくちゃ。
「もしもし」
 自分でも吃驚する程の抑揚の無い声が出た。
『コンバンハ、タカラギコクン』
 知らない人の声だ。
 というか、変声機で声が変えられていて、男か女かすら判別がつかない。
「あの、どなたですか?」
 平坦な声のまま、僕は相手に訊ねる。
『キミヲヨクシルジンブツ、トデモナノッテオコウカ。
 シカシキミハホントウニイイイミデキタイヲウラギルヤツダヨ。
 コロシヤガヤクニタタナカッタヨウダカラ、
 キョウカゾクトイッショニコロシテアゲヨウトオモッテイタンダケド、
 キミノカエリガオソクナッタオカゲデストーリーがヨリオモシロイホウコウニコロガッタ』
 ああ、そうか。
 こいつが僕を殺す為に殺し屋を雇ったのか。
 そして、今、僕の家族が死んでいるのも―――

「てめええ! 許さねえ!! 絶対に殺してやる!!」
 あらん限りの大声で、僕は受話器に向かって叫んだ。
『サスガタカラギコクンダネ。
 ミゴトナオコルモノマネダ』
「怒る――物真似だと?」
『オイオイ! ジカクガナカッタワケジャナインダロウ!?
 キミハダレカノモノマネシカデキナイハズジャナイカ!
 イマダッテ、キミハカゾクヲコロサレテオコルトイウマネゴトヲシテイルダケダ、
 ソレハキミガイチバンヨクシッテイルトオモウケドナ!』
 誰かの、猿真似。
 死の恐怖も。
 家族を殺された怒りすらも。
 そうだ。
 そうじゃないか。
 僕は偽物なんだ。
 自分の意思で怒るなんて芸当、出来る筈がない。
 家族関係だって、とうの昔から偽物だったじゃないか。
 僕は兄さんの真似をして、家族ごっこを続けていただけだったじゃないか。
 そんな、
 そんな僕が怒るなんて、
 喜劇もいい所―――

「貸せ」
 と、狐さんが僕が持っていた受話器をひったくった。
「…『魔断(まこと)』の『冥界の支配者(ネクロマンサー)』だな」
 狐さんが、低い声で短く告げる。
『コレハコレハ、カノゴコウメイナゲホウキツネサンデハアリマセンカ!
 イカニモソノトオリデゴザイマス』
 受話器から、向こうの会話が何とか聞き取れる程度に流れ出て来る。
「いいか、てめえの人生は今ここで終了した。
 てめえは決してやってはいけない事をした。
 せいぜいこれから先の短い人生をよく噛みしめて生きな。
 楽には死なせやしねぇ…
 てめえは、俺が、地獄の果てまで追い詰めてでもぶっ殺す…!」
 そういい終えると同時に、狐さんの手の中で受話器が圧壊した。
 狐さんの握力に、受話器が耐えられなくなったのだ。

741:2004/11/22(月) 01:58

「…少年、取り敢えずここを出るぞ。
 ここに居ても、辛くなるだけだ」
 辛い?
 はは、まさか。
 偽物の僕に、そんな感情などあるわけがない。
「少年!」
 狐さんが僕の腕を引っ張った。
 引きずられる形で、僕は居間から連れ出される。

「…僕の所為で、死んだんですね」
 居間を出た廊下で、僕は呟いた。
「…! それは違うぞ、少年!」
「…電話の奴は、僕を狙ってるようでした。
 だから、僕が狙われていたから、家の皆はその巻き添えを受けた」
 そう、僕の所為で。
 下らない偽物の僕の所為で、家族は、殺された。
「違う!
 悪いのは殺した奴だ!
 君には、何の責任も無い!」
 責任は確かに僕には無い。
 だけど、原因はある。
 それなら、直接手を下してはいないものの、僕が家族を殺したようなものじゃないか。
 なのに、僕にはそれを悔やむだけの本物の心すらない。

「…僕だけ死ねば、よかったんだ」
 僕が死ねばよかった。
 これだけは、多分僕の本当の気持ちなのかもしれない。
 兄さんが死んでから、僕は死んでいたようなものだった。
 だって、僕は僕として生きる事を許されなかったのだから。
 兄さんの偽物でしかなかったのだから。
 なら、死んだ所で別に不都合なんて無かった筈だ。
「最初にしぇりーちゃんに会った時に、大人しく殺されればよかったんだ」
 空っぽな声で、僕は言った。
 何であの時抵抗してしまったんだろう?
 何であの時生き延びてしまったんだろう?
 それさえなかったら、こんな事には。
「もういっぺん同じ事言ってみろ!!」
 狐さんが僕の胸倉を掴む。
 怒っている。
 哀しそうな顔で、怒っている。
 何でこの人は、こんなにも必死になって怒っているんだろう。
 僕は偽物でしかないのに。
 なのに何でこんなにも必死に怒ってくれるのだろう。
「…僕は、兄さんの偽物でしかなかったんです。
 最初から、僕は死んでいたんです。
 だから、僕が死ねばよかった。
 宝擬古だって、本当は僕の名前じゃない、兄さんの名前だ。
 僕は、偽物の家族にすぎなかったんだ。
 だから…」
 だから、家族が死んだって、僕には泣く事すら―――

751:2004/11/22(月) 01:59

「―――?」
 僕の頬を、熱いものが伝った。
 …?
 これは、涙?
 泣いているのか?
 僕が?
 違う。
 これも偽物だ。
 偽物の涙だ。
 僕には、本物の涙を流すなんて出来やしない。
 出来っこ、ない。
 なのに、なのにどうして涙が勝手に出てくるんだ!?

「…少年」
 優しい顔で、狐さんが僕の顔を見つめた。
「…悲しいよな」
「はい」
「悔しいよな」
「…はい」
 うつむき、僕は狐さんに答えた。

「…少年、君と君の家族との間に何があったのかなんて、俺には分からない。
 もしかしたら、君の言う通り偽物だってあったのかもしれない」
 僕の両肩に手を置き、狐さんが静かに口を開く。
「だけど、そこには本物もあった筈だ。
 でなきゃ、例え偽物でも涙なんて出やしない。
 俺が保証してやる。
 君と君の家族には、確かに本物の絆がそこにあったって事を。
 君の流す涙は、紛れも無い本物だったって事を。
 それを嘘だという奴がいるなら、俺が全部叩きのめす」
「う、うううううううう…!」
 喉から嗚咽が漏れた。
 そこで、僕は本当に心の底から泣いているのだと、気がついた。
 もう、会えないのだと思った。
 お父さんにもお母さんにもおじいさんにもおばあさんにも、
 もう決して会えないのだと思った。
 二度と、話が出来ないのだと思った。
「うううううううう」
 十年以上も昔の、兄さんがまだ生きていた頃、
 その時は確かに、僕は他の何とも代替の利かない、
 正真正銘のお父さんとお母さんとの息子だったのだろう。
 兄さんが死んで、僕は兄さんの偽物である事を求められたけど、
 それでもそれまで僕は正真正銘の僕自身だったのだろう。
 それが、悲しかった。
 悲しんでいるのは、その時の昔の僕なのかもしれない。
 だけど、その僕は今もなお僕の心の奥底に生きている。
 だから、死ぬ程悲しいんだろうと思った。

「…0人だ」
 狐さんが、言った。
「俺が『殺す』と決めて一ヶ月以上生きてた奴の人数だ。
 逃がしゃしねぇ。
 今まで生きて来た事を後悔するまで、何度でも殺してやる…!」
 狐さんは、阿修羅の如き憤怒の面を浮かべていた。


                 〜続く〜

761:2004/11/23(火) 01:34
 〜十二話〜

 目が覚めた。
 そこで僕は気がつく。
 いつものベッドではないと。
 いつもの寝室ではないと。
「〜♪〜〜♪♪」
 隣の部屋から狐さんの鼻歌が聞こえてくる。
 え〜と、これはどういった状況なのでしょうか。
 知らない間に、僕と狐さんとはそーいう深いかんけーになってたのか?
 これはしくじったなあ。
 肝心のベッドインの記憶が残ってないじゃないか。
 宝擬古人生最大の不覚ってやつだ。
「……」
 起きたばかりで朦朧とする頭を振り、狐さんの声がする方に向かう。
 どうやらここはかなり高級なホテルの一室らしい。
 床には所狭しと漫画やゲームが山積みになっているが、全部狐さんのものだ。
 見かけによらず、狐さんは結構インドアな趣味の持ち主らしい。
「えーと…」
 しかし本当にどうして僕がこんな所に。
 夜のプレイをするだけなら、安いラブホテルでもいいじゃないか。

「お、起きたか少年」
 狐さんは備え付けのキッチンで朝食を作っていた。
 割烹着(かっぽうぎ)というおよそ萌えとは程遠い服装にもかかわらず、
 ばっちりと決まっているのは流石である。
 しかしキッチンまで完備の部屋って、修学旅行でも泊まった事ねえぞ。
「もう少し待ってな。
 すぐ朝ご飯出来るから」
 香ばしい焼き魚の匂い。
 どうやら和風の朝食のようだ。

 …思い出してきた。
 僕の家族が死んで、警察に通報して、警察に保護されて、事情聴取を受けて、
 家族の葬式を済ませて、そこで親戚に会って、クラスメイトにも会って、
 腫れ物扱いされて、僕がまだ狙われてるかもしれないって事で、
 親戚の家にいたりしたらまたそこで周りを巻き込むかもしれないから、
 それで狐さんが泊まっている宿にご厄介になる事にしたんだ。
 で、そんな事がこの一週間の間に起こった。
 一週間。
 まだ、一週間しか経ってないんだ。
 もう、十年以上経ってるのかと思った。

「お待ちどう様」
 テーブルの上に、出来立ての食事が並ぶ。
 シャケに卵焼きにほうれん草のおひたしにノリに納豆に味噌汁に白いご飯。
 うん、やっぱ日本人なら朝はご飯だよね。
「いただきます」
「いただきます」
 同時に手を合わせ、黙々と朝食を食べる。
「ご馳走様でした」
「御粗末さまでした」
 一言も会話の無いまま、朝食は全て胃の中に納められた。
 家族が死んで二、三日は食べてもすぐに吐いてしまっていたのだが、
 ようやくマトモに食事を受け付けるくらいには精神状態は安定したらしい。
 人間は慣れる生き物だといわれているが、
 人の死すら過ぎ去った思い出として処理するその冷徹さに、我ながら恐ろしくなる。
「狐さん、一つお願いがあるのですが」
「何かね少年」
「今度、裸エプロンで料理して下さい」
「死なすぞ糞餓鬼」
「ごめんちゃい」
 冗句の応酬。
 僕としては冗句などではなく、本気で裸エプロンが見たいと思っての真剣な発言なのだが、
 狐さんに確実に殺されるのでこれ以上のおねだりは止めておく。

771:2004/11/23(火) 01:35


 ピンポーン♪


 チャイムの音。
 そうだ、そろそろあいつが来る時間だったか。
 嫌々ながら、入り口の鍵を開ける事にする。
「おっはよーございまーーす!」
 突き抜けるくらい快活な声が、部屋の中に響き渡った。
 来たか、殺し屋。
 来たか。人吊詩絵莉。
 この僕と狐さんとの蜜月をぶち壊しに来やがって。
「お早うさん、しぇりー」
 狐さんがしぇりーちゃんを迎え入れる。
「…お早う」
 無視する訳にもいかないので、僕も渋々しぇりーちゃんに挨拶する。
 正直朝っぱらからこのテンションにはついていけない。
「何ですかそのあからさまに嫌そうな顔は?」
 僕の表情に気がついたのか、しぇりーちゃんがなじってくる。
 いや、その理由は少し考えれば分かるだろ?
 君ももうすぐ大人になるんだから、少しは気の利かせ方を考えてみてはくれないかな。
「残念でした!
 狐さんは私のものなのです!
 お兄さんなんかに渡さないのです〜!
 い〜〜〜だ!」
 口を真一文字にするしぇりーちゃん。
 畜生。
 よりにもよって確信犯かよ。
 あれ?
 確信犯の使い方ってこれで合ってたっけ?
「私の目の黒いうちには、
 チュンチュン、イエ〜イ、FOR YOUなんて許さないのです」
 …チュンチュン、イエ〜イ、FOR YOU?
 また新しい電波を受信したのかこの子は。
「…ひょっとして、不純異性交遊の事?」
 最早語感しか合ってねえよ。
 それともまさかワザとやってるのか、この子は?
「…! 細かい事はどうでもいいのです!」
 顔を真っ赤にするしぇりーちゃん。
 これで三度目。
 どうやらワザとではないらしい。
 というか細かい間違いじゃないから。
 かすってすらいないから。

「ほら、しぇりー。
 そろそろ学校行かなくていいのか?
 遅刻するぞ?」
「あ、そうでした。
 ではそろそろ失礼します。
 また夕方に遊びに来ますね」
 そう言って部屋から出て行くしぇりーちゃん。
 わざわざ通っている中学校の通学ルートから外れてまで、律儀にここに挨拶をしに来ているらしい。
 そこまでして僕の邪魔をしたいか。
 二度と来るな、二度と。

「…まあ、仲良くしてやってくれよ。
 あんなだけど、結構好い所もあるんだぜ?」
 狐さんはそう言うが、つい最近まで自分の命を狙っていた殺し屋と仲良くなれる奴が居たら是非お目にかかりたい。
「ほらほら〜、そんなしけた顔してないで笑って笑って。 ピースピース」
 微笑む狐さん。
 無表情な僕。
「イエ〜イ」
「うるせえ」
「遺影」
「殺すぞ」
 何でこんなテンションの高い人たちばかりなのだ、僕の周りの人は。
 …違う。
 明るく振舞ってくれてるんだ。
 僕の、為に。
「ターちゃんつまんな〜い」
「僕をどこぞのジャングルの王者みたいな仇名で呼ばないで下さい」
 前言撤回。
 素でやってる、この人。

781:2004/11/23(火) 01:35



「…狐さん、ちょっと、いいですか?」
 一段落した頃、僕は狐さんにずっと聞きたかった事を訊ねる事にした。
「何だい?」
 洗い物を終えた狐さんが、椅子に腰掛ける。
「…教えて下さい。
 この街の、連続猟奇殺人事件の真相ってやつを」
 短く、僕は告げた。
「…これは君が」
「君が知るべき事ではない、とは言わせません。
 殺されました、僕の家族が。
 僕はもう、無関係ではありません。
 僕には、知る権利と義務がある筈です」
 僕は正面から狐さんの目を見据えた。
 もう、引き返すだの引き返せないだの言っている事態ではない。
 何としてでも殺人鬼の正体を暴き出して、殺す。
 偽物の身とはいえ、僕は家族の仇を討たねばならない。

「…どうやら、はぐらかしても無駄みたいだな」
 観念したように、狐さんが呟いた。
「分かった、教えてやる。
 確かに、もうお前は部外者じゃないんだからな。
 その代わり、本当に日常には戻れなくなるぞ?」
「日常なんて、僕の兄さんが死んだ日からすでに壊れてます。
 聞かせて下さい。
 覚悟は、出来てます」
 「上等だ」と狐さんは言い、そしてゆっくりと口を開き始めた。
「『禍つ名』ってのは、もう知ってるんだよな?」
「ええ」
 そう、狐さんがそれに属している事も、知っている。
 あのアヒャとフーンとかいう変な二人組みに、教えて貰ったのだ。
「ハンター世界の暗部を司る者達の集まり、『禍つ名』。
 魑魅魍魎、一騎当千、百鬼夜行、鎧袖一触、人外魔境、
 およそ人間とは言えないような化物どもが群成す、文字通りの地獄の集団さ」
 迫る〜、ショッカー。
 なぜかそんな歌詞が頭に浮かぶ。
「上位から並べて、『妖滅』、『魔断』、『鬼祓』、『獣死』、『人吊』、枠外に俺が所属する『外法』。
 一応今の所はこういった順位になってるが、
 その戦闘能力とタチの悪さにそこまでの差は無い。
 紙一重も紙一重、いつ崩れたっておかしくないバランスの上に秩序がなりたってるのさ」
「そこら辺は、もう聞いています」
「それは重畳。 じゃあ説明を続けるぜ。
 そいつらは腐ってもハンターの一部だから、依頼が無い限り別段動く事は無い。
 だけど、どこの世界にもルールから外れる奴は出てくる」
 誰かの依頼でなく、意思でなく、意味の無い殺し。
 今回の連続猟奇殺人事件も、その一つという事か。
「今回はそれが『魔断』の手合いだった。
 手口から推理して、恐らく犯人は『冥界の支配者(ネクロマンサー)』で間違い無い」
「その、『冥界の支配者』というのは?」
「そいつの念能力が、そのまま通り名になってるのさ。
 本名は分からない。
 というより、記録に残っていない。
 何せ、そいつは十年以上も昔に『魔断』を破門同然になってるからな」
 ルールを破れば阻害される。
 それは裏社会でも一緒という事か。
「奴の能力は、死体の脳に念で作った蟲を埋め込み意のままに操る事。
 お前が殺人鬼に襲われた時に見た蟲がそれさ」
 成る程。
 だから、狐さんは僕があの蟲が見えた事に驚いてたのか。

791:2004/11/23(火) 01:36

「だけど、奴がヤバいのは能力じゃない。
 その異常性さ。
 奴は、人を殺傷するのが愉快で堪らない。
 人をいたぶるのが面白可笑しくてならない最低の下種野郎なんだ」
 口にするのも忌々しいといった様子で、狐さんは顔をしかめた。
「だから、多分遠回しに君を狙うのもその一環さ。
 そして、その責任は俺にある」
「…?
 どうして、狐さんに責任があるんですか?」
 僕は不思議そうに言った。
 だって、悪いのはどう考えてもその『冥界の支配者』じゃないか。
「この前、殺人鬼に襲われてた君を俺が助けたよな」
「ええ。 ですがそれとこれと何の関係が?」
「あの時、『冥界の支配者』に君の事を見られた」
「え―――?」
 それは、どういう事なんだ?
「少し考えれば分かる事さ。
 死体を操って人を襲わせるのに、操る本人がその様子を観察しないって筈は無い」
 そうか。
 あの時狐さんが『鼠退治』と称してどっかに石を投げてたのは、
 僕達を観察していた『冥界の支配者』を追い払う為だったんだ。
「で、でも、あんな暗い場所で、それこそたった少しの間顔を見られただけで…」
 それだけで僕個人をあんな短時間で突き止めるなんて、
 いくら裏社会の住人とはいえ可能なのだろうか?
「ああ、君の言う通りだ。
 俺達ハンターだって万能じゃない。
 君のようなただの一般市民を、何の情報も無しに特定するなんて、かなり厳しい。
 それには膨大な時間と金がかかり過ぎる。
 だから、わざわざ君を探してまで殺しにかかるなんてありえないだろうと思っていた。
 すまない、俺の失策だ」
 狐さんが深く頭を下げた。
「で、ですけど…」
「…それに、あの日君を呼び止めたりしなければ、君を巻き込む事は無かった。
 言ってみれば、俺が君の家族を殺したようなものだ」
 沈痛な面持ちで、狐さんは告げた。

 ……。

 僕は何も言えなかった。
 確かに、あの日狐さんと会わなければ、僕が事件に巻き込まれる事は無かったかもしれない。
 だけど、狐さんだって僕や僕の家族を殺すつもりなんか無かった筈だし、
 あの時自分の行動が人の死に結びつく事を予想するなんて、神様でもなければ不可能だ。
 …それでも、僕は狐さんに何も言えなかった。
 狐さんの所為じゃないですなんて、言えなかった。
 愚かにも、醜くも、
 僕は家族の死の怨み辛みを、身近な対象にぶつけたいと、そう思ってしまっていたのだ。
 狐さんは悪くなんかないのに、
 これっぽっちも悪くなんかないのに、
 それでも心のどこかで僕は狐さんを責めようとしていた。
 僕は心底嫌になった。
 自分の弱さが。
 自分の醜さが。
 それを許容してしまおうとする、自分自身が。

801:2004/11/23(火) 01:36

「…君は、俺を憎んでいい。
 殺してやると思ってくれていい。
 罵っていい。
 君にはその権利がある。
 俺は紛れも無く、君の家族の仇だ」
 視線を下げたまま、狐さんが低い声で僕に告げた。
「俺も、『冥界の支配者』と同じなのさ。
 薄汚い人殺しだ。
 『冥界の支配者』を殺すのだって、君を巻き込んだ償いをする為なんかじゃない。
 本当は適当な理由をつけて人が殺したかっただけなんだ。
 軽蔑するだろ?
 俺は、こんな人間なんだ」
 自分を傷つけるかのように、狐さんは言葉を吐き捨て、嘲(わら)った。
「だから君は―――俺を殺していい。
 その覚悟は出来ている。
 殺すのが嫌なら、辱めたって構わない。
 君が何をしようと、俺は抵抗しないよ」
「…やめて下さい」
 もう、やめて下さい。
 僕には、そんなつもりなんか無い。
 あなたを殺したりなんかしない。
 殺したくない。
 だって、
 僕は、
 それでも、
 あなたの事が―――

「…ごめん。 変な話しちまったな」
 ポリポリと頭をかきながら、狐さんは僕に背中を向けた。
 多分、僕の顔を見なくても済むようにする為だろう。
「狐さん、僕は―――」
 僕は狐さんの背に何か言おうとして… 出来なかった。
 僕は、何も言葉をかける事が出来なかった。

811:2004/11/23(火) 01:36

「あ、そうだ!
 ここん所ずっとこの部屋に缶詰だったから退屈してるだろ?
 しぇりーが来るまでに、ちょっと外の空気でも吸おうぜ」
 すっかり暗くなってしまった場の空気を払拭するように、狐さんが手を叩いてそう提案した。
「いいですね。 ここにある漫画やゲームにも飽きてきましたし。
 でも、外に出ても大丈夫なんですか?」
 僕は狐さんに訊ねた。
 外に一人で出ては危険なので、僕は学校にも行っていない。
 まあ、行ったところで皆に余所余所しい態度で接されるだけだろうので、
 始めからしばらく学校にいくつもりは無かったが。
「なあ〜に、向こうも白昼堂々と仕掛けては来ないだろ。
 それに心配するな。 何があろうと、この俺が守ってやるよ」
 まあ狐さんが一緒なら、核ミサイルでも撃ち込まれない限り危険はあるまい。
 久々に日光に当たるというのも、悪くは無いだろう。
「んじゃ決定だな。
 喜べ、きゃわいいおねーたんが手取り足取りエスコートしたげるぞ?」
「うるせえ脳足りん」


                 〜続く〜

821:2004/11/23(火) 15:58
 〜十三話〜

「あっかっきちっしおが は〜げしっくうねっる
 せ〜いぎの疾風(かぜ)が あ〜れるぜゲッター!!」
 熱唱する狐さん。
「俺の嵐っが ま〜きおこるとっき
 悪の炎なんてすべてけっすさ〜〜〜!」
 ホテルを出てから、狐さんは僕を連れてカラオケ屋に直行した。
 で、僕が今ここで狐さんの歌を聞いているという訳だ。
 入店してから既に3時間は経とうかというのに、狐さんの声はまるで衰えを見せない。
「とばっせ〜 てっけ〜ん ロケット〜パンチ〜〜!
 今だ 出すんだ〜 ブレストファイ〜ヤ〜〜〜!!」
 てかさっきからこの人アニソンしか歌ってねえ。
 これでは無難にJポップを歌っている僕の方が馬鹿みたいだ。

「どうした、歌わないのか少年?」
 狐さんが言った。
「いや、あなたが曲入れ過ぎです。
 六連続で自分の歌入れないで下さい。
 もっと譲り合いの精神を持ちましょう」
「き〜せきお〜こせせ〜んじょうに
 お〜くれた〜ゆうしゃ〜た〜ち〜〜
 か〜なえるのさだ〜れもが のぞんでいたゆ〜め〜を〜〜!」
 聞いちゃいねえ。
 犯すぞ、このアマ。



「ほらどうした。 もうへばったか、少年?」
 肩で息をする僕に、狐さんがにこやかに話しかけた。
 カラオケの後あちこちを右往左往させられた所為で、僕はもうヘトヘトだ。
 畜生、何がエスコートしたげる、だ。
 自分の行きたい所に僕を連れ回しただけじゃないか…!
「次で最後だ。 頑張れ少年」
 次って、まだ行く所があるのかよ。
 まあいい、どうやら最後みたいだし。

「あの、ここは…?」
 連れて来られたのは、小ぢんまりとした美術店だった。
 外から中を覗こうとするも、ステンドグラスの窓からは中の様子を窺う事は出来ない。
「あの、狐さん、絵なんか買う趣味あったんですか?」
 いくら狐さんが金持ちとはいえ、絵画を蒐集するのはかなりお金がかかるぞ?
 そこまでこの人に経済的余裕があるのだろうか。
「いいや、俺は台詞とオチのある絵しか買わない主義だ」
 んな事威張って言うんじゃねえ。
「まあ、入れば分かるさ」
 そのまま狐さんは強引に僕を店の中へと連れ込んだ。

831:2004/11/23(火) 15:59

「いらっしゃいませ」
 店の中に入るやいなや、いかにもジェントルメェンといった感じの老紳士の店員が僕達を出迎えた。
 店の中はいかにも整然としていて、壁にはよくわからんがとにかく凄そうな絵がずらずらとかかっている。
 あの、僕達、思いっきり場違いといった感じなんですけど…

「岸部露伴の最新作を見たいんだけど」
 狐さんは店員にそう告げ、何やら一枚のカードを見せた。
 何だ、あのカード?
 ハンター…ライセンス……って書かれているのか?
 てか岸部露伴って誰だよ。
「かしこまりました。 それではこちらに…」
 店員が僕達を店の奥へと案内する。
 僕は訳も分からないまま、黙って店員と狐さんについて行った。
「こちらでございます」
 連れて来られたのは、押入れのような部屋だった。
 高そうな壷やら何やらがごちゃごちゃと置かれているが、
 悲しいかな僕にはその価値は全く分からない。
 所詮は小市民に過ぎないという事か。

「……!」
 と、いきなり部屋がガクンと揺れた。
 地震か!?
 いや、部屋がエレベーターのように、下に動いている!?

「お待たせいたしました」
 ある程度下に移動した所で部屋の動きは止まり、店員がゆっくりと入ってきたドアを開けた。
 一体、ここになにがあるって―――

「……!」
 僕は目の前の光景に息を飲んだ。
 先程のちっぽけな美術展の様相とは打って変わって、
 そこには今まで映画の中でしか見た事が無いような類の物品が陳列されていたからだ。
 具体的に言えば、武器や兵器。
 拳銃からアサルトライフル、果てにはバズーカや刀剣類に至るまで、
 ありあらゆる武器がずらっと並べられている。
「ご来店ありがとうございます、外法狐様。
 あなたの程の高名な方にお越し下さって頂き、光栄の至りです」
 丁寧に会釈をする店員。
 狐さんって、結構有名人だったんだ。
「お世辞はいいよ。 礼なら商品を買った後で言ってくれ」
 苦笑する狐さん。
「左様ですか。
 それでは本日はどのような得物が御入用で?
 どのようなリクエストであろうと、満足できる品を提供できると自負しておりますが」
「ああ、得物が入るのは俺じゃない。
 俺は素手で戦う主義だからな。
 今日ここに用があるのはこいつさ」
 狐さんが僕の方に顔を向ける。
 え?
 僕ですか?
「…?
 しかし、この方はどうみても素人のようにしか…」
 明らかに狐さんやこの店員さんとは住む世界が違うであろう僕を見て、店員さんが訝しむ。
 僕も、何でこんな所に居るのか理解に苦労する。
「お前さんの店は、客を選り好みするのか?
 それとも、俺の友達ってだけじゃ信用出来ないと?」
「め、滅相もございません!
 失礼いたしました、どうぞごゆるりと得物をお選び下さい」
 半ば狐さんに脅される形で、店員さんがすごすごと後ろずさっていった。
 どんな系統の店であっても、お客様は神様という事らしい。

841:2004/11/23(火) 15:59



「…狐さん、何で僕をこんな所に?」
 拳銃を手に取りながら、僕は狐さんに訊ねた。
「護身用の武器の調達だよ。
 君は今狙われてるんだし、念能力もまだまだ未熟だ。
 だったら、銃(チャカ)の一つでも持っておいた方がいい。
 こんなんでも、一応の脅しにはなる」
 刀を物色したまま、狐さんが答える。
「でもまあ、ついこないだまで堅気だった君が持ってても、
 無いよりマシといった程度だろうけどな。
 しぇりー位の手練に襲われたなら、銃を撃ってる暇があるなら逃げる事をお勧めする」
 確かに、僕が銃を撃った所でしぇりーちゃんに命中するとは思えない。
 狐さんに至っては、豆鉄砲みたいに跳ね返されて終了だろう。

「今度はこっちが聞いていいか、少年」
「ええ、どうぞ」
 珍しく、狐さんから質問してきた。
「君は、『禍つ名』の事をどこで聞いたんだ?」
 そうだ。
 そういえばしぇりーちゃんに襲われた後で、
 フーンさん達に助けて貰った事はまだ狐さんに説明していなかった。
「えっと、この前しぇりーちゃんに襲われて、何とか追い払う事は出来たんですけど、
 その後気絶してしまいまして。
 その時、連続猟奇殺人事件を調べてるハンターの二人組みに助けて貰ったんですよ」
「はあん、そうだったのか。
 で、どんな奴なんだ?」
 狐さんが僕の顔を見る。
「え〜と、名前は確かアヒャさんとフーンさんといって、
 顔はですね…」
 僕がどう説明しようか迷っている所に、突然入り口の扉が開いた。
 どうやら、新しい客が入って来たらしい。
「そうだ、丁度この人達にそっくりなんですよ」
 僕は、店に入って来たばかりの二人組みを指差して言った。
 うん、間違い無い。
 そっくりくりそつだ。
 しかし本当に良く似てるな、この人達…

851:2004/11/23(火) 15:59

「あ…」
「あ…」
 僕達はお互いに顔を見合わせて言葉を失った。
 今気づいた。
 そっくりなのではない、本人その人なのだ。
「アッヒャーーーーーーーーー!」
 いきなり、アヒャさんが二本の剣を狐さんに向けて構えた。
「外法狐…!」
 フーンさんも、即座に懐から拳銃を抜いて狐さんに照準を合わせる。
 忘れてた。
 狐さんもまた、ハンターの禁忌である『禍つ名』の一員だったのだ。

「物騒な物はしまえよ。
 サインが欲しいんなら、出すのは得物じゃなくて色紙だぜ?」
 二人の闘気を正面から受けながらもなお、狐さんは平然と言い放った。
 蚊帳の外にいる僕ですら押し潰されそうなこのプレッシャーも、
 狐さんにとっては涼風も同然といった感じである。
「貴様が、どうしてここに…!」
 交通事故にでも遭ったかのような顔つきで、フーンさんがジリジリと後退する。
 アヒャさんも退がってこそいないものの、その表情は微かに引きつっていた。
「どうしたもこうしたも、俺はこの少年と逢引(デート)の最中でね。
 ちょっとショッピングに立ち寄ったのさ。
 それが、お前さん方に何の問題がある?」
 あれってデートのつもりだったのか…
 それにしては、武器屋でショッピングなんてあまりにもムードに欠けるのではないだろうか。

「あ、あの、お客様、店内での抜刀行為は遠慮して頂きたいのですが…」
 物陰から、店員さんが恐る恐る声をかけた。
「ほら、店主も迷惑してるじゃねえか。
 得物をしまえ。
 いいか、三度目の忠告は無いと思った方がいいぞ?」
 狐さんが低い声で告げると、アヒャさんとフーンさんは静かに武器を下ろした。
 意地を張って狐さんと一戦交えるのがどれ程愚かな事かなんて、考えるまでも無い。

「理解が早くて助かるよ」
 さっきまでの緊張をほぐすように、狐さんはにっこりと微笑んだ。
「それと、どうやらこの前この少年を助けてくれたみたいだな。
 礼を言っておくよ。
 俺の友達が世話になったな、ありがとう」
 そう言ってフーンさん達に頭を下げる狐さん。
「あ、あの、本当にありがとうございました」
 狐さんだけに頭を下げさせる訳にはいかないので、僕からも頭を下げてお礼を言う。
「いや、別に構わないが…
 しかし驚いたな。 まさか君が、外法狐と知り合いだったとは」
 心底意外そうにフーンさんが呟いた。
「はあ、まあ、色々ありまして…」
 色々、そう、本当に色々な事があった。
 あり過ぎて、とても一言では説明出来ない。

「そういや、お前らも連続猟奇殺人事件の犯人を追ってるんだって?」
 狐さんが訊ねた。
「ああ、そうだが…」
「なら、丁度いい。
 ここで会ったのも何かの縁だ。
 率直に言おう、手を組まないか?」
「手を、組む?」
 狐さんの申し出に、フーンさん達は返す言葉が無かった。
「そう、共同戦線を張るって事だ。
 実は、俺達もその犯人を追っててね。
 人手が欲しいと思っていた所なんだ。
 そっちにとっても悪い話じゃないと思うんだがな」
「いや、しかし…」
 フーンさんが口ごもる。
「アヒャ、イイジャネエカ!
 ソッチノホウガオモシロソウダ!」
 了承の言葉を口に出したのはアヒャさんだった。
「…分かったよ」
 何を言っても無駄という事が付き合いの上で分かっているのか、
 フーンさんもあっさりアヒャさんの意見に承諾する。
「決まりだな。
 もうすぐヤサに俺の相棒が来る頃だ。
 詳しい話はそこでするとしようぜ」
 狐さんとフーンさん達が、同盟結成の証である握手をがっちりと交わした。


                〜続く〜

861:2004/11/23(火) 23:14
 徒然とキャラ紹介とか


『宝擬古(たから ぎこ)』
通称タカラギコ。
この作品の主人公。幼少時兄が死んだ事で、兄の死を認めようとしなかった家族から兄の代理品として育てられた。
その事が原因で『自分は所詮偽物である』という強烈なトラウマが生じ、
それにより唯一物である事を諦めて、偽物としての人生を受け入れてしまう。
彼は自分自身の特徴など何も無いと蔑むが、実はツッコミにおいて非凡な才能を持つ事に気づいていない。
もっとも、周りの人物がツッコまずにはいられないような狂人ばかりというのが大きな原因でもあるのだが。
他人と話す時には丁寧な口調だが、考えている事は結構過激な事がある。

念能力・『無貌の仮面(ドッペルゲンガー)』
特質系。
一度でも見た事のある物を、念に限らず何でもコピーする。
誰かの動きを、自分の体を使って再現する事も可能。
ただし劣化コピーなので本物の性能には決して及ばず、
また自分の気(オーラ)のキャパシティを超えるような念を真似する事も出来ない。
制限として、気は誰かの真似をする事にしか使えず、
自分の意思で錬や纏や円などを行う事は出来ない。


『外法狐(げほう きつね)』
通称狐さん。
一応この物語のヒロイン。というか実質的な主役かも。
『外法』という裏ハンターギルド(詳しくは設定編で解説)に所属しており、
その中でも最強に近い実力を有している。
『歩く厄災』、『白紙返し』、『純粋なる暴力』、『絶対最強者』、『九尾』など、様々な通り名がある。
長髪の白髪を後ろでくくり、着物を好んで着用している為、ぱっと見イタい人。
趣味は漫画読書、ゲームとかなりオタクっぽく、またそういった系統への造詣も深い。

念能力・『不死身の肉体(ナインライヴス)』
強化系。
自己の肉体の強化のみに特化した念であり、
ただの肉体強化にもかかわらずそれ自体を一つの特殊能力と呼ばれる程の力がある。
その体には生半可な攻撃など通用せず、単なるパンチがミサイル並みの破壊力を持つ。
その悪魔すら凌駕する圧倒的な暴力を行使する様は、まさに不死身。


『人吊詩絵莉(ひとつり しえり)』
通称しぇりー。
『禍つ名』の5位である『人吊』に所属する駆け出しの暗殺者。
仕事でタカラギコを狙っていたが、外法狐の仲裁により今は暗殺の目標から外している。
語学力に乏しく、難しい言葉を言おうとして間違ってはタカラギコに突っ込みを入れられている。
眼鏡っ娘女子中学生。

念能力・『穴開きの満月(フライングドーナッツ)』
具現化系。
フラフープ程もある特大のチャクラムを生み出す能力。
その切れ味は抜群で、コンクリート塀くらいなら容易く切り裂く。
隠し技として、チャクラムの穴を縮める事で相手を捕縛する、
『満月の呪縛(バッドムーン)』というものがある。

871:2004/11/23(火) 23:15


『扶雲一郎(ふうん いちろう)』
通称フーン。
後述のアヒャとコンビを組んでいるハンター。
どこにも所属していないフリーランスのハンターで、気絶したタカラギコを助けた人物。
猪突猛進型のアヒャとは対照的に、落ち着いた雰囲気の男。
念能力は今の所明らかになっていない。


『亜火屋寒河(あひや そうご)』
通称アヒャ。
フーンの相棒で、幼い頃念能力犯罪者に家族を殺された過去を持つ。
序章に出てきたアヒャと同一人物。
『剣の舞(ダンスマカブル)』という念能力を使うが、詳細は不明。


『鬼祓根依乃(きばらい ねえの)』
通称ネーノ。
『禍つ名』の三位である『鬼祓』に所属するハンターであり、
ヂャンとコンビを組んでいた。
名を上げようと外法狐と戦闘を行い敗北。
無残に殺された。
グッバイネーノ。

念能力・『刺突寸鉄(シャドウニードル)』
具現化系。
細長い黒い針を創造する能力で、それに影を刺された者は体が動かなくなる…筈なのだが、
外法狐は莫大な身体能力と気で強引にそれを打ち破った。
しかしそれは別にネーノの念が弱かったのではなく、ただ外法狐が規格外の強さだっただけである。


『鬼祓智按(きばらい ぢあん)』
通称ヂャン。
ネーノの相棒で、ネーノ同様語尾に特徴のある男。
外法狐と戦い、ロードローラーでぺっちゃんこに押し潰されて死亡。
グッバイヂャン。

念能力・『果てしなき暴走(キャノンボール)』
操作系。
車輪がついている物なら何であろうと自在に操作出来る。
ただし、勿論操作の対象が重ければそれだけ気の消費が増し、
操作スピードや精密性も落ちる。


『冥界の支配者(ネクロマンサー)』
『禍つ名』の『魔断』に所属する人物らしいが詳細不明。
その異常性から、『魔断』からも破門同然になっている。
死体を操るという能力を使って連続猟奇殺人事件を起こし、
タカラギコの家族まで手にかける。
一連の事件の黒幕。


『山吹萌奈香(やまぶきもなか)』
通称モナカ。
タカラギコのクラスメイト。
タカラギコに告白するも、こっぴどく振られて傷心中。
死亡フラグがビンビンに立っている気がするけど気にしないで下さい。


『二丁目冬夫(にちょうめふゆお)』
通称おとうふ。
タカラギコの通う高校の生物教師。
勤続17年目。

881:2004/11/23(火) 23:16



          @        @        @



『禍つ名(まがつな)』
ハンター社会の暗黒面を支配するギルドの総称で、
上位から順に『妖滅(あやめ)【彩女】』、『魔断(まこと)【真琴】』、
『鬼祓(きばらい)【木払】』、『獣死(じゅうじ)【十字】』、『人吊(ひとつり)【一理】』、
そして序列外に位置する、『外法(げほう)【下方】』を合わせて六つの組織から構成されている。
金次第でどんな非合法的な活動も行い、人を殺す事など日常茶飯事である。
ハンターの間では、『禍つ名』に関わる事は死を意味すると恐れられており、
畏怖の対象として忌避されている。


『外法(げほう)【下方】』
残虐と暴虐と醜悪と劣悪の象徴である『禍つ名』からすら忌み嫌われる、
裏社会の倫理道徳からすら逸脱した異形の化物たちが群れを為す最凶最悪の集団。
順位こそ序列外とされているが、その構成員の実力は
『禍つ名』の最上位である『妖滅(あやめ)【彩女】』にすら勝るとも劣らないとされている。
組織といっても明確な規則原則がある訳ではなく、
外法狐をはじめとして普段はそれぞれが好き勝手に行動している。
では『外法』に属するものの共通点は何かと問われれば、
それは自分自身すら殺しの標的にする程の強烈な殺傷本能である。
彼らは殺すしかない故に孤立し、殺すしかない故に『外法』に集う、
殺す為だけの存在なのである。
もちろんそれは外法狐とて例外ではなく、
彼女もまた自分の呪いともいうべき性に苦しんでいる。

891:2004/11/24(水) 19:57
 〜十四話〜

「…と、まあこんな事があったわけだ」
 部屋に戻り、狐さんはフーンさんとアヒャさんに今までの事のあらましを説明した。
「ふむ、成る程な…」
 フーンさんが煙草をふかしながら考え込む素振りを見せる。
 どうやらこの人はかなりのヘビースモーカーらしく、
 30分くらいの説明の間に、もう煙草のケースを二箱も空にしてしまっていた。
「アヒャ、ヨウスルニマダナニモワカッテナイモドウゼンナワケダ!」
「悔しいがその通りだよ。
 だから、お前達の手を借りる事にした」
 やや表情を暗くする狐さん。
「『冥界の支配者(ネクロマンサー)』が『魔断(まこと)』とまだ繋がってれば、
 こんな苦労も無かったんだがな」
 狐さんがやれやれと溜息をつく。
「? それはどういう事ですか?」
 僕は狐さんに訊ねた。
「『魔断』が『冥界の支配者』とまだ接点があって、その居場所を掴んでれば、
 俺が『魔断』から直接その場所を教えて貰えば解決するって事さ」
「で、でも、その『魔断』だって、簡単に身内を売るような真似はしないでしょう?」
 いくらなんでも狐さんのその案は無茶苦茶だ。
「いいえ、狐さんならそれが出来るのです」
 横からしぇりーちゃん話に割り込んでくる。
「構成員一人の命くらいで、狐さんと『外法』を敵に回すような愚を冒す人は、
 私達の世界には存在しないのです」
 断言するしぇりーちゃん。
 そこまでの実力者か、外法狐。
「まあ、それもあくまで最終手段のつもりだったがな。
 流石に俺も、他の『禍つ名』との関係がこれ以上悪化するのは避けたいし」
 狐さんがソファの背もたれに体重を預けて苦笑した。
「ま、今はこれ以上考えてても仕方がないか。
 あちらさんの性格上、これからもちょっかいを出してくるだろうし、
 そこから何らかの手がかりを探すとしようぜ」
 何を呑気な事を、とも思ったが、実際それ以上の良策は存在しないので、
 取り敢えずはその案に従う方向で調査を進める事が決定した。



「アヒャ、ソウイヤコレハナンダ?」
 アヒャさんがテレビの前に散らばるゲームの山に気がついた。
「ああ、それは俺の私物さ」
 狐さんが答える。
「ファミコンにディスクシステムにメガドライブにPCエンジンに
 プレステ2にドリームキャストにセガサターンにPCFXにニンテンドー64に
 X−BOXにゲームキューブにアドバンスにゲームギアにバーチャルボーイに…
 うわ、3DOまであるぞ!?」
 フーンさんがそのラインナップに仰天した。
 僕も、初めてここに連れられて来た時には驚いたものだ。
「狐さん駄目人間の引きこもりです〜」
「うるせえ」
 しぇりーちゃんの暴言に言い返す狐さん。
 というか『うるせえ』は僕の決め台詞なんですけど。
 真似すんな。

901:2004/11/24(水) 19:58

「ん? これは…」
 と、フーンさんがゲーム機の山の中から四角いボードを発掘した。
 あれは…雀卓?
「あ、そんな所にあったんだ。
 一人じゃ麻雀をやる機会なんて無かったから、いつの間にか見失ってたんだよ」
 使わないなら、何でそんな物持ってるんだよ。
「丁度いいや。
 面子も揃ってる事だし、親睦会代わりに麻雀でもするか」
 雀卓を机にセットしながら、狐さんがそう提案する。
「ふむ、悪くはないな」
「アヒャ、オレモサンセイダゼ!」
「私もやりたいです〜」
 フーンさん達も全員賛成する。
 真昼間から麻雀かよ。
 このプータローどもが。
「じゃあ、僕は横で見てますね」
 僕も麻雀のルールくらいは一応知っているのだが、
 何故か嫌な予感がしたので参加しない事にした。
 …そして、この時感じた嫌な予感は見事的中するのだが。

「…ドウセヤルナラ、ダツイマージャンテノハドウダ?」
 牌を手でかき混ぜながら、アヒャさんが恐ろしい言葉を口にした。
 脱衣麻雀!?
 あの、既に伝説の競技となりつつあり、
 ゲームセンターには必ずそれ用のゲーム機体が置かれているあれか!?
 あの禁断の遊戯を、今ここで繰り広げようというのか!?
「うむ、それはいいな」
 即座に賛同するフーンさん。
「ふ、ふざけんな!
 何で俺がそんな事を…」
 当然狐さんは猛烈に反対する。
 僕としては狐さんの服が一枚一枚脱がされていくのを心の底から見たいのだが、
 勿論そんな事を言ったら殺されるぐらいでは済まなそうなので言わない。
「…負けるのが恐いんですか?」
 狐さんを挑発したのはしぇりーちゃんだった。
 いやしぇりーちゃん、君もしかして脱衣麻雀をするつもりなのか!?
 お兄さんとしてはすんげえ嬉しいけど、
 今の児ポ法強化の風潮が強いこの現代社会では下手すればこの小説が終了するぞ!?
「な…!」
 狐さんが言葉を詰まらせた。
「やれやれ、しょうがない。
 タカラギコ君と言ったな、君が代わりに入れ。
 どうやら、外法狐は敵前逃亡するらしいからな」
「アヒャ、トンダコシヌケダゼ!」
 アヒャさんとフーンさんがぼろくそに罵る。
「上等だ!
 お前ら丸裸にして恥ずかしいポーズ写真に撮ってやるから覚悟しとけよ!!」
 狐さんが激昂した。
 どうやらかなり負けず嫌いらしい。
「ちょっと待ってろ!」
 いきなり、狐さんが立ち上がった。
「どこへ行くつもりだ?」
 フーンさんが訊ねる。
「服を着替えさせて貰う。
 お前らのように服の下に下着をつけてないんだから、
 これくらい認められたっていい筈だ」
 和服を着る時には下着はつけないって、本当だったんだ。
 てことは今まで狐さんはノーパン…
 いかん、鼻血が。
「構わんよ。 何なら、逃げたって構わないんだぞ?」
 フーンさんが隣の部屋に向かう狐さんの背に嘲りの言葉をかけた。
「…手前ら、後悔するなよ」
 物凄く恐い眼光を投げかけて、狐さんは着替える為に隣の部屋へと消えた。

「…あの、しぇりーちゃん、本当に大丈夫なの?」
 狐さんが隣の部屋に行ったのを見計らい、僕は恐る恐る訊ねた。
 狐さんのあの様子だと、勝敗によってはここにいる全員を皆殺しにしかねない。
 巻き添えだけは、御免だ。
「大丈夫なのです。
 狐さんは、暴力で勝負を反故にするような卑怯者ではありません。
 あの人ほどルールを遵守し正々堂々と戦う人もいないのです」
 そうは言うけど本当かなあ…
 だってああいうパワータイプのキャラって、
 頭を使わず筋肉を使う力馬鹿ってのが馬鹿一じゃん。

「お待たせ」
 と、隣の部屋へと通じるドアが開いた。
 どうやら、狐さんが着替え終わったみたい―――

911:2004/11/24(水) 19:58

「!?」

 僕達は全員愕然とした。
 狐さんが着替えたその服は、なんと…
「じゅ、十二単(じゅうにひとえ)…」
 フーンさんが思わず呟く。
 十二単。
 その名前通り十二枚の着物を羽織るというわけではないが、
 合計で十枚もの着物を着用するという日本古来の伝統的な衣装である。
 その重量は、何と20kg近くにも及ぶらしい。
 まさか、よりにもよってこんな服を着てくるなんて…!
「さ、始めようぜ」
 どかっと卓席に座る狐さん。
 いやあんた、着替えてもいいとは言ったけどさあ、
 確かに着替えていいとは言ってたけどさあ、
 それって反則スレスレじゃね?
「き、狐さん…」
「あ?」
 何か言いたげなしぇりーちゃんを、狐さんが睨みつけて黙らせる。
 フーンさんもアヒャさんも、その迫力に気圧されて何も言えない。
 しぇりーちゃん、この人暴力使ってるじゃねえかよ。

「で、ではルールを決めておきます。
 持ち点は関係無しに、5000点マイナスになる毎に一枚服を脱いでいく、
 これでよろしいですね?」
 狐さんの服装には触れないままに、しぇりーちゃんがルールを取り決めた。
 全員が、黙ってそれに頷く。
「それでは開始です」
 サイコロを振り、最初の親がフーンさんに決まる。
 そして、それぞれが山から牌を取っていく。

921:2004/11/24(水) 19:59

「リーチ!」
 11順後、しぇりーちゃんが先制リーチをかけた。
 捨て牌にマンズが無いから、恐らくはマンズのホンイツかチンイツ。
 ドラがマンズの4だから、少なくともハネ満は超えると見ていいだろう。
「はッ、そんなリーチにビビるかよ!」
 何をトチ狂ったか、一発目からマンズの9を手に取る狐さん。
「ちょ、ちょっと、狐さん!!」
 不公平とは思ったが、僕は思わず狐さんに声をかけた。
「何かね、少年」
「何かね、じゃないですよ!
 あなた分かってるんですか!?
 しぇりーちゃんは間違い無くマンズで染めてるのに、
 大物手をテンパってもいないのに一発目からマンズを放る人がありますか!」
 狐さんが脱ぐのは嬉しいんだが、流石にこれは止めるべきだろう。
 素人だってこんな牌切らねえよ。
「…例え99%失敗するのだとしても、
 俺は残りの1%に全てを賭ける!!」
「格好いい台詞で誤魔化さないで下さい!
 無理ですから!
 絶対放銃しますから!!」
「うるせえ、俺はこの牌を切る!
 うりゃー!」
「ロン、九蓮宝燈。 32000」
 しぇりーちゃんが無慈悲に手牌を倒した。
 すげえ、始めて見た、九蓮宝燈。
「ぎゃーーーーーーーー!!」
 狐さんがひっくり返る。
 5000点を割る毎に一枚脱ぐ計算だから、
 これで狐さんは六枚も服を脱がねばならない。
 まさか東一局目から、いきなり十二単を半分以上脱ぐ破目になるなんて…

「ロン、満貫」
「アヒャ、ロン。 16000ダ!」
 次々と放銃する狐さん。
 あの、ひょっとして狐さんってすっごく麻雀弱い?

931:2004/11/24(水) 19:59

「くっくっく。 ついに残り一枚ですね、狐さん」
 しぇりーちゃんが邪悪な笑みを浮かべる。
 狐さんが残すのは、もう肌襦袢一枚のみ。
 次服を脱ぐような事があれば、全裸決定である。
「ケケケ…」
「ふっふっふ」
 アヒャさんとフーンさんも嫌らしい笑みで狐さんを見据えている。
 僕も内心は、狐さんのヌードを今か今かと待ち望んでいた。
「くっ、お前らの好きにさせるかよ!
 おりゃー!」
「ロン、5200」
 フーンさんが手牌を倒した。
「ヤッダーバアーーー!」
 悲鳴を上げて転倒する狐さん。
 やったー!これで全て終わりだ!勝った!第三部完!!

「さて…それでは最後の一枚を脱いで貰いましょうか」
 しぇりーちゃんが狐さんに詰め寄る。
「くッ…」
 後ろずさる狐さん。
 ここでしぇりーちゃん達を殺せば狐さんはこのピンチを脱出出来るし、
 事実それを簡単に実行出来る程の実力があるのだが、狐さんはそれをしなかった。
 ここで暴力に訴えれば、狐さんは己の誇りを失う事になるからだ。
 誇りを失えば、二度と狐さんはしぇりーちゃん達に勝つ事は出来なくなる。
 それは、敗北よりも辛い事だった。

「…少年」
 おもむろに、狐さんは僕に顔を向けた。
「はい、何でしょうか?」
 いいからさっさと脱げよ、あんた。
「俺の代わりに君が脱げ」
 …。
 ……。
 ………。
 今、何と言いましたかこの人は?
「はあ!?
 何で僕がそんな事しなくちゃいけないんです!
 ついに脳味噌の温度が臨界点を超えましたか!?」
 目茶苦茶だ。
 こんな理不尽、許されていい筈が無い。
 正義だ。
 僕は今完全完璧に正義の側にいると宣言出来る。
「俺と君とは一心同体の筈だろ?
 だったら俺の苦難は君の苦難。
 俺が服を脱ぐなら君も脱ぐのが順当だろう」
「何ですかその意味不明な理屈は!?
 大体いつ僕があなたと一心同体になったんです!」
 何を言ってるんだ。
 何を言っているのだこの人は。
 頭がクラクラする。
 誰か僕にバファリンを下さい。
 半分が優しさのあの薬を下さい。
「…あーあ、俺の裸を最初に見せるのは、君って決めていたのに」
 …!?
 今、何とおっしゃりました?
「少年となら、文字通り一心同体になってもいいって思ってたのに」
 一心同体。
 文字通りの。
 つまり、それって…

941:2004/11/24(水) 19:59

「オーケイ分かりました狐さん。
 このタカラギコ、あなたの為に死にましょう」
 僕は勢いよく上着を脱ぎ捨てた。
 断じてこれはやましい気持ちからの行動ではない。
 義を見て動かざるは勇なきなり。
 目の前で人が困っているのを見捨てられるだろうか、いや出来まい。
「ひ、卑怯ですよ、狐さん!!」
「貴様それは駄目だろう!!」
「アッヒャー、キタネエヤロウダ!!」
 しぇりーちゃんが怒鳴った。
「うるせえ僕と狐さんとの一心同体の邪魔すんな」
 消えろ人吊詩絵莉。
 消えろ扶雲一郎。
 消えろ亜火屋寒河。
 ここはお前らの出番じゃない。
「そういう事。
 悔しかったらお前らも捨て駒を連れて来いよ」
 今さりげなく捨て駒とか言われた気がする。
 はは、いやそんな、空耳ですよね狐さん。
「じゃあ少年、後は任せたぞ」
 僕を狐さんの席に座らせ、狐さんは部屋から出て行った。
 ええ?
 任せたって、何を?
「……」
「……」
「……」
「……」
 顔を見合わせる僕達。
 ちょっと待った。
 もしかして、これって…
「僕用事を思い出したんで帰ります」
 僕はすぐに席を立とうとした。
「まあ待ちたまえ」
 フーンさんががっしりと僕の腕を掴む。
「お兄さん言いましたよね、狐さんの為に死ぬって」
「カクゴハデキテルンダロウナ…」
 小動物を前にした肉食獣の笑みを浮かべるしぇりーちゃんとアヒャさん。
 しまった、狐さんに完全に化かされた!
 狐だけに(ここ笑い所)!
「全裸になった人は肛門にネギを刺して裸踊りをするって追加ルールはどうだ?」
「アヒャ、ソリャイイヤ!」
「賛成ですぅ」
 僕の意思を無視して恐ろしい取り決めをする三人。
 この後僕がどうなったのか、それは最早語るまでも無いだろう。

951:2004/11/24(水) 20:00



          @        @        @



 夜の街角の外れを、一人の男が歩いていた。
 羽織に袴、それから腰に下げてある大小の刀といったその出で立ちからは、
 まさしく現代に蘇った侍といった印象を与え、
 どうしてこんな格好をして警察に捕まらないのか不思議なくらいである。
 兎も角、そんな時代錯誤も甚だしい容貌の男がそこにいる。
 それだけは確かな事であった。
「……」
 突然、侍が足を止めた。
 その後方には明らかに正気を失っている様子の男が一人、
 攻撃意思を隠そうともせず侍の後ろに佇んでいる。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
 男が、背中を向けたままの侍に襲い掛かった。
 その速度は、常人のそれではない。
 それでも侍は、何ら動揺する素振りすら見せなかった。
「…未熟」

 瞬閃。

 振り向きもしないままに、侍が後ろから飛び掛かって来た男を両断した。
 刀を抜いた瞬間も見えなければ、納める瞬間すら視認出来ない程の早業。
 その姿は一種の芸術のようですらある。

「サスガハ『獣死』ノ『ギコ侍』、『獣死三羅腑(じゅうじ さぶらふ)』。
 ミゴトナオテマエデス」
 ギコ侍が真っ二つにしたばかりの男の死体から、
 変声機で元の声を判別出来なくした声が聞こえてきた。
 どうやらポケットに無線を入れておいてあったようである。
「誰だ、貴様は」
 日本刀のように鋭い声で、ギコ侍が言い放つ。
「シツレイ、モウシオクレマシタ。
 ワタクシ、『冥界の支配者(ネクロマンサー)』トモウスモノデス」
「…連続猟奇殺人事件を起こしている輩か。
 こんな悪趣味な使いまで寄越して、拙者に何の用だ?」
 刀に手をかけながら、ギコ侍が注意深く尋ねる。
「デハサッソクホンダイニウツリマショウ。
 アナタニハトアルジンブツヲコロシテイタダキタイ」
 変声機で変えられた声が、不気味に夜の暗がりに響く。
「断る。
 我が剣は、暗殺の為に磨いている訳ではない」
 二つ返事で断るギコ侍。
「…ソノトアルジンブツヲ、アノ『外法狐』ガゴエイシテイルトイッテモ?」
「……!」
 『外法狐』という単語に、ギコ侍の表情が一変した。
「…面白い。
 あの最強の体現者と死合う事が出来るというならば、
 その話、乗ってやる」
 ギコ侍が戦いの悦びに打ち震える戦鬼の笑みを見せる。
「ドウヤラ、コウショウセイリツノヨウデスネ」
 無線から聞こえる声は、変声機を通していながらも愉快そうに聞こえるのであった。


              〜続く〜

961:2004/11/25(木) 18:31
 〜十五話〜

 僕はしぇりーちゃんと二人、ホテルの部屋の中に取り残されていた。
 ホテルに女子中学生と二人。
 こんな事が他の人にバレたら、僕の経歴に大きな傷がつくのは間違い無い。
 で、今何でこんな状況に陥っているのかというと…

『今日はちょっと出かけてくるから』
『どこに行くんですか、狐さん?』
『仕事だよ、仕事。
 そろそろ資金が心許なくなってきたんでな。
 この部屋を追い出されないうちに稼いで来なくちゃならねえ』
『…すみません』
『馬鹿、気にするなって。
 …元はといえば、少年がこんな所に来る事になったのは、俺の責任でもあるんだからな』
『…! それは、違―――』
『ま、君は漫画でも読んでくつろいでてくれよ。
 護衛にしぇりーを置いておくからさ。
 あいつが一緒なら、何があっても大丈夫だろ』
『はあ、それはそうですが、しかし…』
『心配すんなって。 もうお前の命を狙ったりはしねえよ』
『そっすか』
『万が一の場合、避妊だけはちゃんとやっとけよ』
『うるせえ黙れ』

 …と、こういう経緯な訳である。
 まあまるっきり当然な事なのだが、
 こんな豪勢な部屋に泊まってれば、相応の金もかかるというものである。
「……」
 チラリ、と横目でしぇりーちゃんを見てみる。
 しぇりーちゃんは僕などそ知らぬ顔で、『スーパーマリオブラザーズ2』に興じている。
 しかし先日まで命を狙われていた殺し屋に今度は命を守られてるなんて、
 よくよく考えてみれば凄い経験だよなあ。

「……」
「……」
 か、会話がねえ…
 何でか僕しぇりーちゃんに嫌われてるみたいだし、
 だとすればあまりこちらから話しかけるのも迷惑なのではと思ったが、
 流石にこのままでは空気が重過ぎる。
「…やっぱ、バイトでも探したほうがいいのかなあ」
 沈黙に耐え切れず、僕は呟いた。
「いきなり何を言い出すのですか、お兄さん?」
 聞き返すしぇりーちゃん。
「だってさ、ほら、僕のこの今現在の立場って、まんまヒモ同然じゃん」
「ようやくそんな事に気づきましたか、この登校拒否」
「うるせえ死ね」
 登校拒否とは失礼な。
 いや、実際それと同然ではあるけどさあ。
「ですけどバイトなんて無理でしょう。
 命を狙われてるのに、呑気に仕事するなんてどこの白痴ですか」
 お前こそ前まで僕を殺そうとしてたじゃねえかよ。
「いや、だけどさあ、このまま狐さんにおんぶに抱っこってのはちょっと。
 一応、僕にも男としてのプライドっていうか何と言うか…」
「本当にプライドがあるなら、
 黙ってここから出て行ってる筈なのです」
 ぐはあ、クリティカルヒット!
 急所に当たった!
 効果は抜群だ!
「いっすよいっすよ、どーせ僕は、どーせ僕は…」
 床に指で文字を書く僕。
 事実その通りだけどさあ。
 もっとオブラートに包んだ言い方ってもんがあるんじゃない、しぇりーちゃん?

971:2004/11/25(木) 18:32

「というか私には理解不能です。
 狐さんにこれほど良くして貰って、何が不満なんですか?」
 不思議そうにしぇりーちゃんが訊ねる。
「不満は無いけど…
 その、えーっと、僕としては、あの人とは対等な立場でだね…」
 見下されたくない。
 哀れまれたくない。
 情けをかけられたくない。
 僕を、一人前の一人の人間として見て欲しい。
 そんな事は、ただの我侭というのは分かっているけど。
「…狐さんの事、好きなんですか?」
 …………。
 ……………………。
「わはははははは!
 おもれーこというなーおめー!!」
 動揺のあまり口調がかなり変わってしまった。
 ストレートだ。
 160kmストレートど真ん中の直球だよ、しぇりーちゃん。
 その剛速球に僕はもうノックアウト寸前だ。
「ま、薄々感づいてはいましたけどね。
 ですがそれなら…」
 すっと、僕を指差すしぇりーちゃん。
「やっぱり、お兄さんは私の敵です」
 敵?
 何でさ?
 こいつまさかまだ僕を殺すのを諦めてなかったのか?

「そういえば、しぇりーちゃんと狐さんはどこで知り合ったの?」
 かなり気まずくなったので、僕は話題を変える事にした。
「仕事です」
 仕事。
 それってやっぱり、一般の中学生としての仕事ではなくて―――
「…しぇりーちゃんは、その、いつから仕事を……」
 そこまで言って僕は後悔した。
 僕は何て事を聞いてるんだ。
 こんなの、僕が訊ねるべき質問じゃ無い。
「二年前です」
 二年前って、今でもまだ十分子供なのに、そんな小さい時からあんな事を!?
 していたのか、
 させられていたのか、
 したかったのか、
 したくなかったのか、
 どっちでもなかったのか、
 どうでもよかったのか。
「…?
 ああ、余計な同情なら結構ですよ。
 別に、私は私の仕事にさして何たる感慨はありませんから」
 事も無げに、しぇりーちゃんは言った。
 何の感慨も無い?
 嘘だ、そんなの。
 そりゃあ、今はそう思えるのかもしれない。
 だけど、君にも最初の頃はあった筈だ。
 その時にも、君は本当に何も感じなかったのか?
 感じないように、育てられていたのか?
「お兄さんには理解出来ないでしょうけど、
 『禍つ名』ってのは、そういう領域なのです。
 そういう世界なのです」
 殺す。
 理由さえ有れば、理由さえ無くとも、人を、人でなくとも。
 それが『禍つ名』。
 それが『人吊詩絵莉』。
 そして多分狐さんも。
 地獄。
 正にこの世の地獄だ。
 血で血を洗い、死で死を贖う、血と死で血に塗れた死に塗れな、
 魑魅魍魎が右往左往に東奔西走へ跳梁跋扈な掃き溜めの世界。
 命など、そこには微塵の価値も無い。

981:2004/11/25(木) 18:32

「…それは、だけど……」
 だけど、そんな事で納得していい訳が無い。
 そんなのって、あまりにも―――
「…やっぱり、狐さんの言う通りですね」
「?」
「お兄さん本人に、家族の敵討ちとして『冥界の支配者』を殺させては駄目、という事です」
 狐さんが、そんな事を言っていたのか?
「待ってくれ! 僕はあいつを許さない!
 あいつは、僕がこの手で―――」
 この手で、殺す。
 殺す。
「駄目です。
 お兄さんは、後悔してしまう人です。
 いいですか、人を殺すというのは、動物を殺すのとは訳が違います。
 種族保存の本能か、他者との共感力なのかは知りませんが、
 人を殺すという事には、少なくない覚悟と犠牲がつきまといます。
 そして、お兄さんはその覚悟と犠牲に耐えられるのだとしても、
 きっと後悔してしまいます。
 殺しを、割り切れない人です。
 そんな人は―――どんな理由であれ、人を殺すべきではありません」
「――――――」
 明らかに僕より年下の少女に、人殺しとは何なのか説教をされる。
 そしてそれは恐らく正しい。
 僕の想像など遥かに及ばない程の修羅場を、しぇりーちゃんは潜ってきたのだろう。
 そんなしぇりーちゃんに、今までぬくぬくと日々を暮らしてきた僕が、
 何かを言う事なんて出来る筈が無い。
「……」
 僕は、自分の不甲斐無さが口惜しかった。
 いいのか?
 本当にいいのか、これで?
 このまま狐さん達に、全てを任せたままでいいのか?
 それで、僕は本当にいいのか?

「…お兄さんは不思議な人なのです」
 しぇりーちゃんがふと呟いた。
「お兄さんと話していると、何故か鏡に向かって話している気になるのです」
 鏡、か。
 それはそうなのだろう。
 僕には、あまりにも自分が欠け過ぎている所為で、誰にでもなれる。
 だから、しぇりーちゃんは僕の中に自分自身を投影してしまったのだろう。
 何て、愉快。
 何て、奇怪…

991:2004/11/25(木) 18:33

「!!!」
 突然、しぇりーちゃんがガバッと入り口のドアへと振り向いた。
「!?」
 僕も釣られてそちらへと目を向ける。


 キンッ


 乾いた音と共に、ドアに鋭い切れ目が走る。
 程無くしてドアはそのまま真っ二つになって倒れた。
 おいおい、どこの不法侵入だ?
「…外法狐は、おられるか?」
 ドアが無くなった入り口から、一人の男が侵入して来る。
 何だあいつは。
 どっからどう見ても侍だ。
 あんな格好でここまで来たのか!?
 警察は何をやっているんだ!?
「あ、あなた誰ですか…?」
 僕は恐る恐る訊ねた。
 和服の女性は好みだが、和服の男性は守備範囲外だ。
 こんな変態さんには、とっととご退場願いたい。
「拙者は、獣死三羅腑(じゅうじ さぶらふ)と申す者。
 …ギコ侍とでも呼ぶがいい」
 『獣死』?
 こいつ、『禍つ名』か!
「四位の『獣死』が、一体何の用なのです!」
 特大チャクラム『穴開きの満月(フライングドーナッツ)』を構えて、
 しぇりーちゃんが侍に叫ぶ。
「先程も申した通り。
 外法狐と、お会いしたい」
 狐さんに、この時代錯誤の侍が何の用だってんだ?
 和服友の会の会合か?
「…会って、どうするんです」
 僕は思わず後ろに下がりそうになるのを堪えて、言った。
「死合って頂く」
 きっぱりと侍は答えた。
 死合うだって?
 あの狐さんと戦うなんて、この人正気なのか?

「…しかし、どうやら今はここに居ないようだな。
 仕方が無い。 先に契約を済ませて、ゆっくりと帰るのを待つとしようか」
 侍がゆっくりと僕に顔を向けた。
「そこの男、お主が宝擬古で相違無いな?」
 一瞬にして体から冷や汗が噴き出し、口の中がからからになる。
 これは、殺気!?
 いや、それより、何でこんな奴が僕の名前を知っている!?
「相違無いようだな。 ならば―――」
 沈黙を肯定と受け取り、侍が腰に差した刀に手をかける。
「死んで貰おう」
 気がついた瞬間には、既に間合いを詰められていた。
 侍の刀が鞘から目にも止まらぬ速度で滑り出し、
 僕の脳天目掛けて銀のきらめきを瞬かせる。
 しまっ―――殺され――――――

1001:2004/11/25(木) 18:34

「させません!!」
 激しい金属音が、目の前で鳴り響いた。
 しぇりーちゃんが、侍の一撃が僕に到達する前に受け止めてくれたのだ。
「あ…しぇ、しぇりーちゃ……」
「何をしているのです!
 早く逃げて下さい!!」
 こちらには目を向けず、大声で怒鳴るしぇりーちゃん。
「そ、そんな!
 君を置いて―――」
「一般人のお兄さんに、『禍つ名』の相手が出来るとでも思っているのですか!
 そんな役立たずが、ここに居ても邪魔なだけです!
 分かったら早く逃げて下さい!
 私に、狐さんとの約束を破らせるつもりですか!?」
 そうだ。
 この子は、狐さんから僕を守るように言われていたんだった。
 だから、僕を守ってくれたんだ。

「ごめんっ、しぇりーちゃん!」
 僕は出口に向かって駆け出した。
 しぇりーちゃんの言う通り、ここに僕が居ても足手まといになるだけだ。
 ならば僕に出来る事はただ一つ。
 狐さんやアヒャさん達に連絡を入れて、一分でも早くしぇりーちゃんを助けて貰う事。
「逃がさん!」
 侍が逃げようとする僕を引きとめようとする。
「させません、と言いました!」
 再び起こる、金属と金属とがぶつかる音。
 僕は逃げた。
 逃げ続けた。
 戦う事から、
 守る事から、
 殺す事から、
 決断する事から、
 ただ、ひたすらに、逃げ続けた。


               〜100getしつつ続く〜

1011:2004/11/26(金) 18:00
 〜十六話〜

「……!!」
 下に降りるエレベーターの中で、僕は狼狽していた。
 何で、何でこんな時に限って電話が通じないんだ。
 狐さんもアヒャさんもフーンさんも、誰も電話に出てくれない。
 誰も助けに来てくれない。
 いや、これでも構わないか。
 いずれ僕からの着信に気がついて、向こうから電話を掛けなおしてくれる筈。
 それまで、僕は逃げ回っていればいいだけだ。
 このホテルの中ならともかく、人ごみの中に紛れれば、
 いくらあの侍でも僕を見つける事など不可能だ。
 逃げるだけなら、僕にも十分アドバンテージがある。
 だけど、それじゃしぇりーちゃんはどうなる?
 いや、考えるな。
 しぇりーちゃんはあれが仕事なんだ。
 それに、僕が今更戻った所で何が出来る?
 偽物の僕に何が出来るというんだ?
 そうだ、僕は偽物だ。
 だから…



          @        @        @



 人吊詩絵莉(ひとつり しえり)にとって、外法狐は初めての友達であった。
 『人吊』の一員として育てられていた頃には、
 友情だの愛情だのといったものは何一つ教えられなかったし、
 また自分もそれでいいと思っていた。
 それに、疑問すら覚えていなかった。
 ただ生けとし生きるものの命を刈り取る為の刃と化す。
 それだけが人吊詩絵莉の全てだった。
 それは、二年前仕事を任されるようになってからも変わらなかった。
 殺し殺され死に死なす為に生きて死ぬ。
 そんな生き方に納得していたのだ。
 諦めていたのだ。
 しかし、それが僅かながらに変わった。
 外法狐に出会ってから、変わったのだ。
 殺しの宿命に囚われながらも、
 なお気高く生きようとするその生き様を見せつけられた。
 その時から既に、自分は外法狐という人間から逃げられなくなっていた。
 あの人は、自分の事を友達にしてくれた。
 その気になれば、花の茎を手折るかの如く殺せるであろう自分を、
 それでも対等の存在として、友達として見てくれた。
 今日出かける前に、あの人は言った。
 『タカラギコを守ってやってくれ』、と。
 それは、まさかこんなに早く居所が見つかるとは思わなかった故の、
 簡単なお願いのつもりだったのだろう。
 まさか『禍つ名』の四位である『獣死』が出張ってくるとまでは予想していなかったのだろう。
 だが、現実にはここに獣死三羅腑(じゅうじ さぶらふ)が来ている。
 思ったより、敵の情報網は広かったらしい。
 だけど、逃げる訳にはいかない。
 あの人は自分に『任せる』と言った。
 自分を『任せる』と言えるだけの存在として認めてくれたから、『任せる』と言ったのだ。
 だから、自分はその信頼を裏切る訳にはいかない。
 任された以上、やりとげなければならない。
 死ぬのは恐くない。
 でもあの人に、外法狐に嫌われるのだけは嫌だ。
 それが、それだけが、人吊詩絵莉を突き動かしていた。


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