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念を使わせてみよう小説スレッド

51:2004/11/09(火) 23:55
 放課後。ガランと静まり返った学校の美術室。僕は一人、そこで絵を描いていた。いや、
『絵を描いていた』という表現は少し違うか。正確に言うならば、絵を写していたという
べきか。半分開けられた窓からは、五月の爽やかな風が流れ込んで僕の顔をくすぐる。
「……」
 黙々と筆を動かし続ける。目の前の、かつて美術部に所属していた人が書いていたであ
ろう絵を見、それを模写する。輪郭、色使い、筆の動かし方、それら全てをより本物へと
近づけ、全く同じ絵を再現する事のみを念頭において筆を動かし続ける。

 他人の猿真似。昔から、僕はそれが得意だった。それしか出来なかった。小学校の時の
自由工作だって、いつもクラスメイトが作っていたものを真似するだけだった。今もそう。
ただでさえ部員が少ない上に、幽霊部員が全体の九割以上を占める廃部寸前のこの美術部
に入ったのだって、別に絵が好きだったからじゃない。風景写生、既存絵画の模写、僕に
はそれぐらいしかする事が無かったからだ。だから、僕自身のオリジナルの絵は一年生の
時ここに入部してから一年経った今でも、一枚たりとも描いてはいない。僕には、僕自身
の絵は描けない。…描き方が、分からない。

「…てと」
 日も暮れ始めた頃、ようやく模写が完成した。だが、達成感など微塵も感じない。
「……」
 一見、本物とそっくりそのままな複写絵。だけど、違う。足りない。本物に比べて、圧
倒的に足りない。正確さ、緻密さ、才能、センス、そして何より絵を描きたいという熱意。
僕の絵からはそれらがすっぽりと抜け落ちてしまっていた。
 いくら姿形を真似ようと、偽者は偽物。本物(オリジナル)の前にはその矮小な存在な
どあっけなく消え失せる。所詮は代理品。所詮は出来損ない。それが、僕の全てだった。

「宝擬古、そろそろ校門閉めるぞー」
 美術室のドアが開き、先生がそう告げる。
「あ、はい。分かりました」
 私立二番組高校2年B組宝擬古。これが僕の名前であり、そして今からどうしようもな
い程絶対的な、絶望的な、黒々とした混沌の渦に巻き込まれていくなど、この時の僕には
知る由などあろう筈もなかった。


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