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念を使わせてみよう小説スレッド

141:2004/11/11(木) 17:42

「何だ、藪から棒に情けない声出して」
 狐さんが呆れたように言う。
「む、む、む、蟲。
 今、耳から蟲が…!」
 震える手で殺人鬼の耳元で蠢く蟲を指差す。
 狐さん、あれ見て何とも思わないのか?

「……!」
 その時、狐さんの目付きが変わった。
 何だ?
 僕、何かおかしい事言ったか?
「『視える』のか、『あれ』が…!?」
 低い声で僕に尋ねる狐さん。僕はそれに頷く事で答える。

「…はッ、くっくっく… あはははは!
 成る程成る程、こういう落ちがつくか」
 愉快そうに狐さんが笑う。
 前からおかしいとは思っていたが、この人ついに狂ったか?

「!!」
 と、いきなり狐さんは僕の肩を両手で掴んだ。
 そして僕の顔をぐいと眼前まで引き寄せる。

「いいだろう、少年。 君は遅かれ早かれ選択の場面に出くわす人間だったのか。
 さっきの『世の中には関わらない方がいい世界が、確実に存在するし、君には関わる資格は無い』、
 という発言だが、すまない、あれは訂正しよう。
 どうやら俺は君を見くびっていたようだ」
 何を言ってるんだこの人は。
 何が言いたいんだこの人は。
 分からない。
 一体全体十把一絡げ一から十まで分からない。

「いいか、今君は人生の転機を迎えた。
 君は選択しなければならなくなった。
 そして君には選択する権利と義務がある。
 このまま日常に埋没するか、日常に放逐されるか。
 二つに一つ。 右か左か、上か下か、赤か黒か、死ぬか生きるかだ。
 逃避は許されない。 逃亡は許されない。 逃走は許されない。
 これは君の選択だ。 君の人生だ。 君が選んで君が決めろ」
 狐さんが僕の肩から手を離す。
 そして、おもむろに地面の石を一つ拾って放り投げた。
 メジャーリーガーも顔負けの速度で石は投擲され、瞬く間に視界の外へと行ってしまう。
「ああ、今のは気にしなくていい。 ちょっと鼠を追い払っただけだ。
 尤も仕留められはしなかったろうが…」
 鼠?
 そんなのがあんな向こうにいたと言うのか?

「さて、ここからが本題だ、少年。
 もし君が日常を失ってもいいのなら、非日常に抗う事を選ぶのなら、
 今日君と一緒に遊んだゲームセンターに、今日と同じ時間に来るんだ。
 そうすれば、全てとは言わないが教えてやろう。
 今日、君が今ここで見たものの本質というやつを。
 言っておくがこれは強制じゃないぞ。
 君にその気が無いのなら、悪い事は言わない。 来るのはやめておけ。
 生半可な覚悟で歩んでいい道じゃないし、そうすれば人としての幸せの幾つかも失わずにすむ。
 いいか、忘れるなよ。 これは君が決める事なんだぞ」
 それだけを一方的に告げると、狐さんは身を翻して跳躍した。
 有に10メートルはあろうかという距離を助走無しで跳躍して着地。
 そして背中はこちらに向けたまま、その端正な顔だけを僕の方に振り返らせる。
「じゃあな、少年。 なかなか楽しかったが、今日はこれでお開きだ。
 君にその気があるならまた逢おう」
 そう言い残し、狐さんは夜の闇へと姿を消した。
 ポツンと、その場に僕と殺人鬼の死体だけが残される。
 不気味な程の静けさだけが、そこには漂っていた。

「…結局何だったんだよ、あの人は」
 考えるだけ無駄とは分かりつつも、僕はそう自問自答せずにはいられない。
 外法狐。
 着物姿の俺女。
 それはまるで嵐のような奴だった。



                      〜続く〜


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