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男「お願いだ、信じてくれ」白蓮「あらあら」

1 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/01/20(水) 05:32:56 ID:GS4PMXIs
このSSは東方の二次創作であり、

男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1388583677/

男「なんでだよ、これ」ぬえ「あう」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1400909334/l50

の続きとなっております。

そちらを先にご覧くださると幸いです。

また、オリジナル設定、オリジナルキャラ、東方キャラクターの死亡などが含まれますので苦手な方はご注意ください。

2 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/01/31(日) 13:47:37 ID:XgeRv3Xc
ついに来たか!

3 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/04(木) 19:38:32 ID:ZoC2rh9w
待ってるぜ

4 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/04(木) 22:54:03 ID:NL00n2MQ
きたか
もう一回読み直そうと思ったけど最初って男「幻想郷で就職活動」だっけ

5 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/07(日) 19:03:12 ID:jstMnAKA
キタ。・:+°・:*+.\(( °ω° ))/.:+。・:+°!!!!

6 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/15(月) 17:52:13 ID:TttZ6qoM
映姫の時が一番面白かった

7 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/15(月) 22:15:14 ID:ZGz48Y1c
とりあえず前スレ埋まったね

8 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/19(金) 15:00:26 ID:F23eG3xs
あくしろよ

9 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/21(日) 02:55:45 ID:XoNCUs7g
待っとるよ��

10 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/21(日) 22:48:54 ID:2wQPMBDs
舞ってる

11 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/22(月) 20:41:12 ID:FzCt4wK6
ナズーリンはよ

12 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/02/28(日) 03:02:39 ID:8v1blu9.
期待

13 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/03/08(火) 18:19:01 ID:miUNNaZg
続き待ってる

14 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/03/16(水) 11:52:58 ID:W7FJsV4Y
まだか…

15 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/03/16(水) 14:39:07 ID:IhOb07zA
全何部作なのこれ

16 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/03/18(金) 03:20:46 ID:4KvHGQKA
そろそろ二ヶ月かぁ
待ってるよー

17 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/03/27(日) 10:15:58 ID:1XpzRH9E
うーんこの

18 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/02(土) 13:57:56 ID:wuGZ03lI
まだかい

19 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/02(土) 18:26:09 ID:iijPpwg2
もう少しの辛抱だよ。多分

20 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 16:00:11 ID:ny/h//cc
男「よう、幽香」

俺がそう幽香に話しかけた直後に俺は地面に転がっていた。

幽香「誰貴方。私を知ってるってことは外の人間じゃないわよね」

倒れこんだ衝撃でむせる俺の首元にあるのは幽香の手。

無垢な少女の手のように思えるが実際は鉄板すらも引き裂く強力を持っている。

つまり幽香が少し力を入れれば俺は死ぬ。

男「参ったな」

幽香「誰なの。答えなさい」

男「あー、えっと、外から来た人間」

その答えに対し返ってきたものは無言と射殺すような視線。

男「………多分本当のことを言っても信じてもらえない」

男「けど俺はお前の敵じゃない」

幽香「あぁ、そう」

両手をあげて無抵抗を示しても幽香の手が俺から離れることは無い。

21 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 16:12:50 ID:ny/h//cc
男「分かった、取引だ。俺が知ってる幽香にとって良い情報を教える。それじゃだめか?」

幽香「なんで貴方が私にとって良い情報を持ってるのかしら」

それはとてもごもっともな質問だった。

その質問に対する答えは持っていない。正確に言えば幽香が納得できる答えを持っていない。

男「でも信じてもらわなくちゃ困る。俺のために。それにメディスンのために」

だから幽香が必ず耳を傾ける言葉を使うしかなかった。

効果は絶大。幽香は大きく目を見開き、そして俺の首にかかる手に力が入った。

幽香「どういうこと? 回答しだいでは握りつぶすわよ」

男「まずその手を………いや良い。そのままで良い。もう一度言うが俺は幽香の敵じゃない。むしろ味方と言っても良い。幽香、メディスン。それにアリスのな」

幽香「………」

幽香は俺を殺してしまってもいいかと思案しているようだった。

しかしその瞳がメディスンとアリスへの情で揺れていることは気づいている。あと一つ。あと一つ何かきっかけがあればこの状況を打破できる。

その一歩。俺の考えうる中で一番の効力を持つであろうその言葉は同時に下手を打てば幽香を激情させるだけの賭けを含む。

言うタイミングを間違ってはいけない。幽香が確実的にそれを聞き入れるタイミングを。

だから今はひたすら時間を稼ぐしか。

22 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 16:20:39 ID:ny/h//cc
幽香「私から見た貴方は限りなく黒。言わなくても分かると思うけど」

幽香「良かったわね。あなた。メディスンの名前出さなきゃ今頃私貴方を殺してるわ」

幽香「それで、メディスンが、どうしたって言うの?」

幽香笑う。

口元だけで。

まだ殺意が俺に向けられていることは明確だ。

男「………」

幽香「ほら、どうしたの?」

幽香の肩越しに天へ昇っていく白い煙が見える。

戦火の煙? 狼煙?

そういえばこの後。

人間「げっ!風見 幽香!!」

人間2「いや、倒せる、いくぞ」

人間3「承知!!」

そうだ。場所は違うがこいつらが来て―――

23 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 16:24:53 ID:ny/h//cc
幽香「!」

このタイミングだ。

男「メディスンの命が危ない!!」

幽香の意識が俺から三人へ向けられ、さらに相手が武器を持っている。このタイミングしかなかった。

幽香は地面に突き立てていた傘を抜き、向かってくる三人へ向けた。

閃光。一拍の後に轟音。

焼かれた視界が回復した後に見えたのは俺の顔に傘を向けた幽香の姿だった。

24 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 16:31:00 ID:ny/h//cc
失敗?

いや、成功だ。

幽香の顔から敵意は消えている。この傘はポーズでしかない。

俺は立ち上がり体についた雪を払い、幽香に対面した。

男「俺が今から言うことは全部真実だ。前提条件としてそれを理解してもらわなくちゃ困る」

幽香「で?」

男「俺は未来から来た」

そういった瞬間に俺の額に傘が当てられた。

幽香「道化?」

男「真実だ。撃ってもいいがメディスンはその場合助からないぞ」

幽香「そのメディスンを盾に取ったような喋り方が気に食わないわ」

男「それは謝るが、でも俺は人間で幽香は大妖怪だ。理解はしてくれ」

人間「げっ!風見 幽香!!」

人間2「いや、倒せる、いくぞ」

人間3「承知!!」

25 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 16:33:04 ID:ny/h//cc
>>24 ミス

失敗?

いや、成功だ。

幽香の顔から敵意は消えている。この傘はポーズでしかない。

俺は立ち上がり体についた雪を払い、幽香に対面した。

男「俺が今から言うことは全部真実だ。前提条件としてそれを理解してもらわなくちゃ困る」

幽香「で?」

男「俺は未来から来た」

そういった瞬間に俺の額に傘が当てられた。

幽香「道化?」

男「真実だ。撃ってもいいがメディスンはその場合助からないぞ」

幽香「そのメディスンを盾に取ったような喋り方が気に食わないわ」

男「それは謝るが、でも俺は人間で幽香は大妖怪だ。理解はしてくれ」

26 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 16:54:33 ID:ny/h//cc
幽香「私、実は弱い奴嫌いなの」

男「遊ばないでくれ。真剣なんだよ」

幽香「あらそう」

幽香はつまらなそうな顔をして傘を地面に向けた。

本当に幽香は分からない。メディスンの名前を出したのにまだふざけるとは思っていなかった。

俺がまだ信じてられないだけか。

どちらにせよ、あまり話は長くしたくは無い。

幽香「で、未来から来た貴方は何を知ってるの」

男「人間側が幽香の家に火を放つ。その結果としてメディスンは燃える」

幽香「………」

男「睨まないでくれ、事実だ。だからお願いがある」

幽香「なに」

男「メディスン、アリス、リグルを連れて逃げてくれ」

27 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 16:57:56 ID:ny/h//cc
幽香「………やっぱり貴方変ね」

男「何がだ」

幽香「私と取引して何をするかと思えば私たちに逃げろなんて」

男「幽香」

幽香「分かったわ。それが本当だとは信じてはいないけど、メディスンがそうなるという可能性は考えてなかったわ」

幽香が傘で地面を突く。次の瞬間幽香を中心として今まで咲いていたひまわりが次々にくたりとその身を地面に横たえていった。

幽香「ありがとう。変な人間」

男「男だ」

幽香「そう。それじゃあね、男」

降り続く雪から傘で身を守りながら幽香が静かに歩いていく。

俺はそれを見送り―――

男「あ」

移動手段が無いことに気づいた。

男「ま、待って! 待ってくれ幽香!!」

俺は慌てながら視界から消え行く幽香を追った。

28 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 17:14:02 ID:ny/h//cc
幽香「貴方、本当変な人間よね」

あきれたようで長いため息をつく幽香と俺は空を飛んでいた。

幽香の歩みは思ったよりも遅く、1分程度で幽香に追いついてしまった。

幽香に事情を話し俺は幽香に連れて行ってもらっていた。

翼の生えた幽香の飛ぶスピードは存外に速く、景色が後ろへ後ろへ流れていく。

前のように気絶はしなかったがそれでも空気の壁にぶつかる俺の顔はぐちゃぐちゃで幽香のように涼しい顔はできそうにない。

強制的に体の中へ進入する空気が苦しく、呼吸をするのも難しかった。

咳をするように呼吸をすること十数分、薄れ掛けた意識の中で目的の場所が見えた。

山の中に不自然に存在するこの場所

幽香「着いたわよ。命蓮寺に」

29 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 17:44:28 ID:ny/h//cc
幽香に地面に下ろされるのと同時に俺はひざをおって地面に手を着いた。

乾燥した口が切れて痛む。

何度か大きく息をしてやっと俺は立ち上がった。

響子「わわっ! 大変です!!」

目の前にいるのは小さな少女。俺の腹ぐらいしかない体躯から、俺の何倍もの大声をだした少女は箒を抱きしめて慌てていた。

至近距離から放たれた大声に耳が痛み、俺は耳を押さえた。

その隣で幽香は平気そうな顔で俺を見て笑っていた。

幽香「それじゃあもういいわよね」

男「え、ちょっと待って」

幽香「嫌よ」

にべも無く飛び去っていく幽香は何を言っても戻ってこず、幽香が翼で掻いた空気だけがその場に残った。

男「あー………悪い人じゃないです」

響子「に、人間です!!!!!!!!」

さっきよりもずっと大きい声。木々を揺らすほどのその大声を至近距離で浴びせられた俺が当然耐えれるわけは無く、揺れた脳みそは意識を落とすことで現状を回避しようとした。

30 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 18:22:01 ID:ny/h//cc
目を開けると体に違和感。身動きが取れない。

ぜんぜんというわけではないが腕は動かせないし、足も動かせない。

唯一自由に動く首を曲げて体を見ると縄が俺の体を縛り付けていた。

今俺がいる場所は薄暗くどこかの部屋の中のようだ。

白蓮「目を覚ましましたか」

男「………貴方は」

正座をして俺をじっと見る女性がいた。まず目に入るのは特徴的な髪の色。紫の髪が先に行くにつれ茶色へと変化していく綺麗なグラデーションの髪。

そして身を包むゴシック染みた黒と白のドレス。

白蓮「始めまして。私は聖 白蓮と申します。まずは貴方の自由を奪っていることを謝罪しましょう」

男「あぁ、分かってます。今の俺はただの危ない人でしかないですからね」

白蓮「一つ聞きたいことがあるのですが、なぜ命蓮寺に?」

男「………皆の力になるために」

嘘ではない。俺はじっと聖の目を見つめてそう言った。

俺の瞳の中を覗き込むようにじっと俺を見つめる聖だったが、数秒後に小さく息を吐いて俺の縄と解いた。

31 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 19:07:45 ID:ny/h//cc
ナズ「ちょ、ちょっと待ってくれ聖!。いきなり現れた人間を信用するっていうのかい!?」

少し凝った体をほぐしていると勢いよく障子が開かれさきほどの少女と同じ位の身長をした少女が入ってきた。

その頭にあるのは大きな耳。人間のものではない。ねずみのような形の耳が頭の上らへんに生えていた。

それと腰辺りに揺れるのは尻尾。

ナズ「もしこいつが人間側のスパイだったら」

白蓮「ナズーリン」

ナズ「でも、本当にスパイだったとき」

白蓮「ナズーリン」

ナズ「………警戒はさせてもらうからね」

ナズーリンはそういって俺を睨みつけ、俺の背後に立った。

害意が無いことを示すために両手を挙げてみるも、後ろから感じる視線は俺の首あたりにジリジリとした嫌な感じを植えつける。

白蓮「人を疑うことはよくありませんよ」

ナズ「聖が人を疑わないから私が疑ってあげてるのさ」

32 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/05(火) 19:32:45 ID:OY1y/v2g
ttp://bit.ly/1V6aEDi

拉致監禁

33 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 19:47:02 ID:ny/h//cc
白蓮「申し訳ありません。ナズーリンは悪い子ではないのですが、少し警戒心が強く」

男「いえ、疑われて当然ですし」

ナズ「そう、当然だよ」

男「ただ信じて欲しい。俺は敵じゃないんです」

男「だから」

木で出来た床に頭をつけて聖に懇願する。

俺じゃどうしようできない。

俺一人じゃどうしようもできないから。

男「俺を、助けてください」

34 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 19:55:54 ID:ny/h//cc
白蓮「あらあら」

ナズ「助けてくれ? 助けて欲しいのはこっちのほうだよ」

白蓮「ナズーリン」

ナズ「すまない。少し口が過ぎた」

白蓮「話を、聞かせていただけますか」

男「はい」

35 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 20:15:43 ID:ny/h//cc
男「この戦争を終わらせるために、力を貸してほしい」

ナズ「命蓮寺は戦争に不干渉さ。助けを求める妖怪は助けるがこっちからは攻めていかない」

男「そこを、何とか」

白蓮「………」

ナズ「決まりさ聖。頼みなんて聞かなくていい」

白蓮「しかし」

ぬえ「聖ー。さっきの人間にマミゾウが用があるってさ」

廊下から聞こえたのはぬえの声。振り向くとぬえがいた。

元気にして、普通に喋っているぬえが。

白蓮「あら」

男「ぬえ!」

ぬえ「………誰?」

36 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 20:18:49 ID:ny/h//cc
ぬえ「私、貴方のこと知らないんだけど」

男「………い、いや、なんでもない」

ぬえ「ならいいけど。それじゃあ後はよろしく、聖」

白蓮「え、えぇ」

ぬえが遠ざかっていく。ぎっぎっと廊下がたてる音が遠ざかっていく。

白蓮「あの」

男「………なんですか」

白蓮「なぜ貴方は今、そんな泣きそうな顔をしているのですか」

37 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 20:20:39 ID:ny/h//cc
男「おそらく、言っても、信じてもらえそうに無い」

男「きっと夢物語で済まされる」

男「でも、それでも」

男「お願いだ、信じてくれ」

さっきよりも強く頭を床に押し付ける。

白蓮「あらあら」

ナズ「人間。君はバカなのかい?」

男「分かってる、いきなりすぎて」

ナズ「違うよ。そうじゃない」

ナズ「聖は最初から君のことを信じてるんだよ。残念なことにね」

38 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 20:58:32 ID:ny/h//cc
白蓮「聞かせていただけますか」

男「………はい」

男「別の、別の世界の話です。俺は………ぬえを愛していた」

男「そして、ぬえも俺を好きでいてくれていた」

そう、俺はぬえが好きだった。いつも犬のように俺についてくるぬえが。

無邪気なぬえが。

俺を守ってくれるぬえが。

大好きだ。

男「でも、そのぬえは、さっきのぬえじゃなくて、でも、同じぬえで」

自分でも何を言ってるかが分からなくなる。

もうあのぬえとは会えないんだ。そう思うと胸が裂けそうなほどに苦しくて。

その苦しみは俺の口から枷をなくし、あふれ出した俺の感情は酷く支離滅裂なものだったが、聖は頷きながら俺の話を聞いてくれた。

溢れた涙がぽたぽたと床へと落ちていく。

流れる涙を拭うこともせず俺はひたすらぬえに対しての愛を吐き出し続けていた。

39 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 21:17:13 ID:ny/h//cc
一通り吐露をし終えると聖はすっと俺の真正面まで来て微笑んだ。

白蓮「仏教では、愛は執着であり、捨てるべきものであります。愛別離苦の苦しみから逃れるには執着を捨て―――」

白蓮「とは言いますが、愛別離苦こそ愛の証明であり、貴方がぬえを愛してくれていたことの証となります。大乗仏教における慈悲の心とはやはり愛から生まれ行くものであり貴方の中に芽生えたその痛みはきっと貴方のためになるのでしょう」

白蓮「貴方が愛し、貴方を愛していたぬえとの別れは死別よりもずっとつらいものでしょう。貴方が愛したぬえは貴方しか知らないのですから。でも、それでも必然の縁はぬえと貴方が出会えたことに―――いえ、いくらこのような説教をしても無意味ですね」

白蓮「ぬえを愛していただき、ありがとうございます」

聖が頭を下げる。それを見たナズーリンが少し不機嫌そうな顔で頬を掻いた。

ナズ「私は到底君が言ったことを信じれない。何か妄想をしているだけと考えたほうがよっぽど筋が通る」

白蓮「ナズーリン、それ以上は」

ナズ「それでもとりあえず話を聞かせて貰おうか。君がなぜ私たちに助けを乞うたのか」

ナズーリンが肩ひざを立てて座る。鋭く真っ赤な瞳が俺を真剣に見ていた。

そしてどこかでねずみがちゅーと鳴いていた。

40 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 21:19:35 ID:ny/h//cc
頭を上げた白蓮とナズーリンの前にて居住まいを正し、向き合う。

聖が全てを信じてくれるというのなら、俺は全てを打ち明けよう。

今から起こることでどれだけの血が流れるのか。

男「俺は―――未来から来ました」

41 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 22:54:20 ID:ny/h//cc
〜俯瞰視点〜

山の中に移動した命蓮寺。その敷地の中にある1本の木の葉を散らした木の枝にマミゾウは座り紫煙を燻らせていた。

ぬえ「まみぞー。伝えてきたよー、っと」

男がいる部屋のほうから駆けてきたぬえがぴょんと飛び上がりマミゾウの横の枝に腰をかけた。

少し大きく枝がしなり、ぬえは右手でしっかりと枝を握り、落ち着いた頃を見計らってそっと手を離した。

ぬえ「でもどうしたのさマミゾウ。あの人間が気になるって」

マミ「勘じゃよ。何かあると思っただけじゃ」

ぬえ「ふーん。あ、そういえばあの人間私のこと知ってるらしいよ」

マミ「なんじゃと?」

42 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 22:56:25 ID:ny/h//cc
口にくわえたキセルを離し、マミゾウが眉をしかめた。

ぬえ「どうしたのさ、マミゾウ」

マミ「儂は心配性でな。ただちょっと引っかかっただけよ」

ぬえ「何が?」

マミ「見た目から察するに外来人じゃが、なぜ外来人がぬえのことを知っておるのかが分からんのじゃよ」

少し考えたのちにマミゾウは懐から一枚の青々とした大きな葉っぱを取り出した。その葉っぱに紫煙を噴きかけ手を離す。

木の葉はゆらりゆらりとゆっくり落ちてゆき、その木の葉が地面につく前に一匹の狸がその葉っぱを咥え、どこかえ消えていった。

マミ「ちょっと色々探ったほうが良さそうじゃな。この戦争がどこへ行くのかを、の」

43 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 23:08:42 ID:ny/h//cc
マミ「さぁてぬえ。今日の夕飯の獲物でも捕りに行くかの」

マミゾウが枝から飛び降りる。瞬間的な自由落下の後、地面につく前にその体は急に減速し、すとんとマミゾウは地面へと着地した。

ぬえ「猪でも見つかるといいけど」

マミ「なに、今は熊よ。熊が美味い」

ぬえ「熊かぁ」

ぬえも枝から飛び降りる。しかし地面に着くことはなくふわふわとマミゾウの周りを寝転びながら漂っていた。

一輪「待ちなさい」

そんな二人を妨げる影が一つ。雲居一輪が両手を組んで二人の進行方向を塞いでいた。

一輪「殺生は許さないわよ」

マミ「儂は信者でないから見逃してくれんか」

ぬえ「一輪だってお酒飲むし、お肉も食べるでしょ」

一輪「た、食べてない、食べてないわよ! 変なこと言わないでくれる?」

ぬえ「こないだ食べてたの見たけど」

一輪「あ、あれは托鉢の結果だから、食べちゃわないと」

ぬえ「じゃあ托鉢ってことで」

44 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 23:14:08 ID:ny/h//cc
ああいえばこういうぬえとそれに振り回される一輪との問答をマミゾウは遠くに眺め煙草の灰を地面に落とした。

マミ「仕方ない。なら儂はちょっと消えるとするかな」

ぬえ「えー。マミゾウだけ良いもの食べるの?」

マミ「土産は持って帰る。明日の朝には戻るから心配せんといてくれ」

一輪「変なことするんじゃないでしょうね」

マミ「何、ただの心当たりを探るだけよ」

一輪の脇をするりと抜けてマミゾウがそう言う。

煙草の匂いと線香の匂いがまじりぬえは二度くしゃみをした。

マミゾウはからんころんと下駄を転がしながら神社から出て行く。

ぬえもそおっと着いていこうとしたところ一輪に首根っこを捕まれ断念した。

45 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 23:25:21 ID:ny/h//cc
〜男視点〜

俺が語る骨董無形な事実を聖は静かに、ナズーリンはところどころに口を挟みながら聞いてくれた。

ナズ「その話の中では私は、私たちはぬえを除いて全滅している、と。なかなか愉快じゃないね」

ナズ「どう思う、聖」

白蓮「私は、そうですね。これからそんなに悲劇的なことが起きるとは信じたくはありませんね。しかし目を背けてしまえばそれこそ悪手」

白蓮「もしそうなるのならば私は動きましょう。全ての悲劇のために」

ナズ「もしこの人間が言ってることが法螺話だったら?」

白蓮「そうであれば重畳。そうならないと考え、そうなってしまうより、そうなると考え、そうならなかったほうが良いとは思いませんか、ナズーリン」

ナズ「やれやれ、聖の考えは変わらないみたいだ。良かったね、人間」

ナズーリンは頭を掻き、少し小首をかしげて、口角を片方だけ上げて笑った。

男「俺に力を貸してもらえますか」

白蓮「こちらこそ。よろしくお願いいたします」

46 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 23:37:31 ID:ny/h//cc
命蓮寺の今後について軽く話をした後、案内された部屋は広く二十畳ほどの広さがあり、背の低い長机が並べてあった。

白蓮「肉などはありませんが、食事をしましょう。皆に紹介をするためにも」

男「ありがとうございます」

白蓮「たしか今日は、村紗だったかしら」

星「その通りですよ聖」

お腹を鳴らしながら一人の女性が部屋に入ってきた。

身長は高く、体格も良い。しかしその瞳は優しさと理性を湛えていた。

その髪の色は金と黒。まるで虎のような模様の髪がとても目立つ。

星「貴方は確か、響子が言っていた方ですしょうか」

男「あ、男です。これからここにお世話になることになりました。よろしくお願いします」

星「私は寅丸 星。一応ここに祀られてますので何かご相談でもあればどうぞ」

男「あ、どうも………祀られている?」

星「毘沙門天代理ですよ。さて今日のお昼ご飯が何か、実に楽しみですね」

さらりとものすごいことを流された気がする。

確かに映姫さんは神様だったし、神様はいることは確かなのだろうけど、お昼ご飯を楽しみにして今にも口笛を吹きそうなほどににこにこしているこの女性を誰が神様だと思うのだろうか。

47 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 23:42:56 ID:ny/h//cc
ナズ「あぁ、祀られてはいるが、神様じゃなく妖怪だよ」

男「あんまり良くわからないな」

ナズ「分からなくていいさ。あまり重要なことでもない」

重要なことではないのだろうか。いや、深く突っ込む必要がないことは確かだけれど。

まぁ神様と言っても種類はいる。きっと映姫さん同様良い神様なのだろう。

ならばこれからお世話になるだろう。優しそうだし。

ナズ「ほら、君も速く席に着きたまえよ。そうだな上座のほうに座るといい。一番奥は聖の席だからその隣で」

男「いいのかな」

ナズ「紹介がしやすい。別に上座だから礼儀がどうのこうのなんて妖怪は気にしないよ」

ナズーリンに促され席に着く。古いい草の匂いがして懐かしい気分になった。

48 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 23:50:12 ID:ny/h//cc
ぬえ「あ」

次に入ってきたのはぬえだった。ぐったりと上体を落としながら部屋に入ってきたぬえと目があう。

ぬえ「なんで私のこと知ってたのさ」

男「………ちょっと人に聞いて」

ぬえ「人って誰」

男「えっと」

ナズ「ぬえ。そこまでだ」

答えを窮しているとナズーリンがぬえを遮った。

男「ぬえをなんで知っているか。ちょっと今はそれは話せない」

ナズ「というわけだ。一切疑問は受け付けないから速く座りたまえ」

ぬえは何かを言いたそうにしていたがしぶしぶといった様子で席に着いた。

49 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/04/05(火) 23:59:30 ID:ny/h//cc
白蓮「あと三人来るから、もう少し待ってくださいね」

男「あと三人ですか?」

にしては部屋が大きすぎて机も並べすぎだ。普段が7人ならば机は一つでいいはず。

白蓮「色々あってね。今は私たちしかいないのです」

その声色に悲哀を感じたためそれ以上の追求は出来なかった。

とりあえず何かがあったことは確かなのだろう。

しかしそれは過ぎたことで、俺には何もできない。もう終わってしまったことは―――

そういえば銃はどこだ。いつも腰に下げているホルスターはない。

つまり俺は時を戻せない?

俺が持っているアドバンテージは未来を知っているだけ。

過去に戻れないのならば俺は今まで以上に慎重に動かなければいけない。もう零したものを拾い上げることはできないのだ。

いや、今までも零してきたものはたくさんあった。

そうか、霊夢たちに取り返しのつかないことが起きなければ時間は戻らないんだった。

取り返しのつかないことが起きる。それだけは避けなければいけない。霊夢たちが死んでしまったならばもう、この世界は救えないのだから。

――――――?

50 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/06(水) 13:02:21 ID:3UObmBsU
乙!
既に色々と違うだろうし、あとはもう経験で頑張ってくしかなさそうか

51 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/06(水) 19:10:59 ID:ikVo60SM
おつおつ
待ってたよ

52 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/07(木) 16:11:45 ID:pg1V5K26
乙だよ!

53 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/10(日) 11:48:18 ID:jbo/HYls
やっときたか

54 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/25(月) 15:24:06 ID:9YkbqNmE
すいません PCぶっこわれて書きだめ飛びました

もう少しお待ちください

55 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/04/26(火) 21:37:04 ID:/ThwwVQE
ゆっくり待ってる

56 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/05/04(水) 23:35:33 ID:QuqrGWh.
がんばっちょー

57 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/05/05(木) 12:12:19 ID:AbZeH2Vk
がんばっちょー

58 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/05/05(木) 13:58:00 ID:v.U5Cw56
PCめ、容赦のない心折りを……

59 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/05/08(日) 11:01:13 ID:VsAreBCo
俺はPCを許さないよ

60 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/05/25(水) 20:21:14 ID:TfwLNbrk
やっぱこっちのぬえも可愛い

61 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/05/31(火) 07:13:56 ID:Jc4HZI/k
リアルの忙しさがマッハなのでもうちょっとかかりそうです。

代わりといっては何ですがスカイプのID作りましたのでそちらで質問や生存報告、叱咤激励を受け付けます。

というかただ単に東方やSS好きな友達がほしいです。

ID:nuenueparuparu

62 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/05/31(火) 08:10:08 ID:SeQ9hJqg
生きてた良かった

63 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/06/01(水) 00:16:46 ID:51e6kvUY
>>61
後で追加する

64 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/06/01(水) 20:54:30 ID:GdYHPtts
俺も東方好きの友達ほしいよぉー

65 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/06/06(月) 11:13:30 ID:BszaEa2Y
スマガ臭を感じる

66 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/06/20(月) 19:11:39 ID:nLqS/0LE
もしもの方の書き溜めとかもあったりはしたんだろか

67 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 16:17:00 ID:93fR5./2
一輪「はいはーい。カレーができたわよー」

何かを考えかけた瞬間、ふすまを足で開けてなかなかの大きさの鍋を持った水色の髪の少女と

水蜜「船幽霊カレーだよ。お肉もはいtt」

米櫃を抱えた黒い髪の少女が入ってきた。

白蓮「今、なんと?」

黒い髪の方の少女が聖の方を見て、小さく口を開けた。聖はそんな少女をにっこりとした笑顔で見ていたがその笑顔の裏に怒りを隠しているように見えた。

白蓮「今、なんと?」

いや、その怒りは隠れてはいなかった。表情は紛れもない笑顔のはずなのになぜか怒られているような気分になってしまう。

水蜜「た、托鉢だからセーフ! もらったものは全部食べないといけない、でしょ?」

一輪「そうです姐さん。親切な妖怪から貰ったんですよ。ねぇ、村紗」

ぬえ「こないだ村紗が狩りしてたよ」

水一「ぬえぇええっ!!」

ぬえの暴露に二人の顔が青ざめる。聖はそうですかと言いながら立ち上がりゆっくりゆっくり二人に近づいていった。

ぬえ「あ、カレーは私が持つから米は寅丸がお願い」

星「はい」

68 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 16:26:20 ID:93fR5./2
ぬえと星が二人の持っている鍋と米櫃を奪い取るように受け取ったのを確認すると聖は二人の襟首を掴みそのまま引きずっていった。

引きずられていく二人の瞳に涙が浮かんでいるのが見え、これから何が行われるかをある程度察したため、心の中で手を合わせた。

響子「おなかぺこぺこです!!!」

そして最後に入ってきた声で俺を気絶させた少女が部屋の中を見回して首をかしげるのと同時にさきほどの二人の悲鳴と、何かを強くたたくような音が響いてきた。

ぬえ「南無三」

星「お腹すきました」

ナズ「あの二人はどうでもいいが、聖のことは待ちたまえよ、ご主人」

男「えーっと、あの」

ナズ「あぁ、気にしなくていい。彼女らの自業自得さ」

それから聖たちが戻ってきたのは10分程度あと。

頬を真っ赤に腫らした二人がしくしくと泣いており、対照的な聖の笑顔がひどく怖かった。

69 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 16:49:16 ID:93fR5./2
聖「料理してしまったものはしかたがありません。感謝していただきましょう」

聖が上座に座りようやく全員がそろった。メンバーを見渡すと非常に髪の色がカラフルだ。

男「あ、カレーだ」

水色の髪の少女が皿に盛られたカレーを俺の前に置く。茶色のルーの中には目立たないくらいの野菜とゴロゴロとした大きな肉が入っていた。

神社では川魚程度しか食べていなかった俺にとって久しい贅沢な食事だ。

久しいといっても時間は巻き戻っているため、久しくはないんだが。

ナズ「カレーは嫌いかい?」

男「いや、カレーが出るなんて驚いただけだ」

ナズ「はは。贅沢に思えるだろう? だけれど残念。カレーしかできないんだ。調味料がいろいろ尽きてね。あるのは少しの醤油、塩コショウ。そして大量のスパイス」

それなら博麗神社と手を組めば贅沢なものが作れそうではあるがおそらく聖は博麗神社と手を組むことはないだろう。あくまで専守防衛だ。

水蜜「私のカレーはいくら食べても飽きないって」

ぬえ「あきた」

水蜜「うぉ」

そうぶっきらぼうに言い捨てるぬえの姿が微笑ましくて眺めているとぬえが怪訝そうな顔で見てきたので傷つく。

分かってはいる。わかってはいるんだけれど。

70 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 17:25:50 ID:93fR5./2
聖「それでは男さん。自己紹介をお願いします」

男「え、あ。はい」

男「人間の、男です。妖怪を助けたくてここに来ました」

ぬえ「はいはーい。しつもーん」

突然手を挙げたぬえに驚いて一瞬言葉が詰まる。ぬえの行動をナズが制そうとする前にぬえはそのまま言葉をつづけた。

ぬえ「人間なのになんで妖怪を助けたいの?」

男「それ、は」

返答に窮する。正直言えば妖怪を助けたいわけじゃなくて、俺の知っている人を助けたいだけだからだ。

助け船は来ない。なぜならここで俺自身の言葉で言えなければ信用なんてものはなくなるからだ。

男「好きな、人がいて。好きな妖怪がいて。そいつら全員を助けるためだ」

ぬえ「へー。じゃあその好きな妖怪以外は助けないの?」

分かっている。好きな妖怪すら守れるか分からないんだ。だから妖怪すべてを助けるなんてことは無理。

だから

男「そいつらはみんなに任せたい」

男「頼む」

71 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 17:32:29 ID:93fR5./2
ぬえ「話にならないね」

ぬえ「いくら土下座したって。あんたの土下座に価値なんかない。だよね」

ナズ「ぬえ」

ぬえ「ナズーリンは黙ってて。聖と星はお人よしだからわかんないだろうけどさぁ。私たちだって慈善事業してる場合じゃないんだ」

ぬえ「私たちに実利は?」

その言葉を否定するものはいない。聖ですら俺の言葉を待っている。

男「実利は。ある」

ぬえ「ただの人間。しかもよわっちぃ人間が? 戦えないから守れない。このままじゃただ飯ぐらいしかできないあんたが?。なんなのさその実益ってのは」

先を知っている俺の唯一の切り札。

俺がもたらせる実利はこれしかない。

だから卑怯なこの切り札を切るしかない。

男「ここにいる7人の命。救ってみせる」

72 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 18:21:20 ID:93fR5./2
俺の言葉にある者は嘲笑、ある者は唖然、ある者は困惑、そしてまたある者は微笑んだ。

当たり前のことだ。

ただの人間が

大妖怪を守ると言ったのだから。

ぬえ「ちょっと待った。私の耳がおかしくなったのかもしれないから聞くけど。なに、あたしたちの命を助けるって?」

男「あぁ」

ぬえ「はっは、冗談の才能はないみたいだね」

一輪「姐さん。私もこの人が言ってることが」

水蜜「うん。私も」

白蓮「………男」

男「はい」

白蓮「あなたはどうやって我々を救うのですか?」

男「ここを離れます」

男「逃げましょう」

73 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 18:28:38 ID:93fR5./2
今はこれしかない。

全員の命を救う選択肢は今俺が知ってる限りではこれしかない。

当然のことながら批難の声は上がった。

ここを捨てて逃げるわけにはいかないのは当然のことだ。

しかし。だがしかし。

ここで折れてしまえば俺はぬえを失う。

もしかしたら今度は命をも奪われるかもしれない!!

俺は机を両手で叩いて、俺に投げかけられる言葉を止めた。

男「みんなが言いたいことは委細承知。だけど、だけれど、それでも俺はここで折れるわけにはいかない」

男「証明はできない。根拠もない。力もない。何もない。ないない尽くしのこの俺はただただひたすら」

いやってほどに

男「結果を知っている」

74 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 18:37:50 ID:93fR5./2
妄言 虚言 戯言。

みんなはこう捉えるだろう。

知っているのは聖とナズーリンだけ。

知らないもの多数。

ぬえ「どういう、ことさ」

男「みんな死ぬんだよ。聖も、ナズーリンも、そこのあんたもそこのあんたもそこのあんたも」

男「ぬえを除いてみんな死ぬ」

「っ!」

同じタイミングで俺の首に当てられた三本の手。

一輪「姐さんが死ぬなんて冗談は」

水蜜「笑えないなぁ」

ぬえ「あぁ、笑えない」

75 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 18:41:12 ID:93fR5./2
花を手折るかのように俺の首をへし折ることのできる腕三本。

だけどこんな状況はもう慣れた。

男「あぁ。死ぬんだよ」

男「みんな、豊聡耳神子ってやつに殺される」

「!!」

三本の手が俺の首を獲物を捕らえる蛇のごとく狙う。

それを止めたのは聖でもなく、ナズーリンでもなく。

星「やめなさい!!」

沈黙していた星の一喝だった。

76 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 20:04:39 ID:93fR5./2
星「ここで暴力を振るうようなことはこの私が許しません」

その星のまっすぐな眼差しに射抜かれた三人は不承不承ながらも俺の首から手を放した。

一輪「でも私たちが死ぬなんてふざけたことを言ってるし」

星「なぜそれがふざけたことと決めるけるのですか。たしかに気分が良いことではないかもしれません」

星「だからと言って暴力に訴えるようなど。そのようなことを聖はあなたたちに教えましたか!!」

再び星の一喝。

部屋中を震わす声に水色の髪の少女と黒髪の少女は一歩下がった。

星「ご迷惑をおかけしましたね。男さん」

星「しかし一輪達の考えもまた理解はできる。むしろ一輪達の考えの方が当たり前」

星「あなたはなぜ。私たちが豊聡耳神子に殺される。そこまで断定できるのですか?」

男「俺は………」

言っていいのだろうか。

俺は全てを言って―――

星「どんなことでも良い。教えてはもらえませんか?」

その言葉。その強く優しくまっすぐな金色の瞳は俺の葛藤を消し飛ばすには十分だった。

77 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 20:07:25 ID:93fR5./2
ぬえ「信じられない」

一輪「同じく」

水蜜「同じく」

響子「どういうことでしょー?」

骨董無形な夢物語は当然のことながら信じられなかった。

しかし

星「私は信じますよ。あなたのことを」

一輪「え、なんで!?」

水蜜「いやいやいや、いくらお人よしだからって」

ぬえ「………はぁ」

響子「?」

星だけは他のみんなと違い信じてくれた。

その理由はわからない。

ただ星だけは信じてくれた。

そのことは俺に大きな安心を与えてくれた。

78 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 20:51:18 ID:93fR5./2
一輪「でも寅丸だけ信じても」

ナズ「あ、私も信じてるぞ」

一輪「え?」

白蓮「私も信じていますよ」

ぬえ「三対三。だけど聖と寅丸がそっちいるならどうしようもないね」

ぬえ「でも! 私はあんたに命は預けないからね」

一輪「そ、そうですよ。いくら姐さんが言っても全部まるっきり信じるわけには」

水蜜「そうだって、だって人間なんだよ!?」

再び論争に火が付きそうになる。それを沈めたのは意外にも。

響子「あのぉ」

ぬえ「なにさ」

響子「お腹すきました…」キュルルル

可愛らしくなる腹の虫だった。

聖「食べましょうか」

ぬえ「………うん」

79 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 21:03:16 ID:93fR5./2
なんとも煮え切らない雰囲気のなかで食事が始まる。

ナズ「あぁ。そういえば男に紹介をしてなかったね。ぬえ、一輪、水蜜、響子」

ぬえ「ん? あぁ、なんでか知らないけど私のこと知ってるらしいからパス」

一輪「………雲居 一輪」

水蜜「村紗 水蜜。以上」

男「あは、あはは」

分かってはいたがどうやら壁は厚いようだ。にべもない反応にがっくりと肩を落とす。

響子「幽谷 響子です! よろしくお願いします!!」

緑の髪の、響子だけが元気よく答えてくれた。

小さな娘のような反応に癒され―――

男「小さな、むす、め」

男「あぁ!!」

大切な事を思い出して立ち上がる。いきなりの行動に対面に座っているナズーリンが目を丸くさせていた。

80 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/06/25(土) 21:12:28 ID:nEq75F3M
乙乙!!!

81 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 21:21:52 ID:93fR5./2
いつだ、いつだった。

俺が一番最初に迎えた絶望はいつ来た。

たしか、俺が来てから

男「明後日か、明後日だと!?」

時間がない。

ナズ「い、いきなりどうしたんだい」

男「明後日。明後日なんだよ!」

伝えられないことはわかっているけど、感情が空回りして、同じ言葉しか繰り返せない。

白蓮「男さん。深呼吸。深呼吸をしてください」

聖に言われた通り、深呼吸をする。少し過呼吸気味になった深呼吸のあと落ち着いた俺は明後日起きることを話した。

男「妖怪の子供たちが人間達に殺される」

そう。羽少年たちのことだ。

火に包まれたなんの罪もない少年たちのことだ。

82 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 21:28:47 ID:93fR5./2
白蓮「今、子供たちが殺される、と?」

男「あぁ。妖怪の子供が数十人程度洞窟の中に隠れてるんですけど。その子供たちが人間の手によってやき」

フラッシュバック。

あの眩い火と黒く染まった笑顔。

そして焦げる匂い。

反射的に口を押える。

食事中だ、吐くわけにはいかない。

白蓮「明後日、ですね」

男「は、はい」

白蓮「私たちは何をすれば?」

男「映姫さんのところへ俺を連れて行ってください。あの場所を知っているのは映姫さんと小町だけです」

83 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 21:34:54 ID:93fR5./2
一輪「待ってください姐さん。中立だから今まで戦いに巻き込まれてない私たちですよ!? それが博麗のとこと接触したら」

白蓮「男さん。私たちに逃げろと言いましたがもちろんどこに逃げればいいのかも教えてくださるのですよね?」

一輪の言葉を手で制し、聖が俺にそう問いかける。

逃げるべき場所。

その心あたりが一つだけある。

いったこともなければ、見たこともない場所。

だけどそこからも悲劇は始まった

男「逃げこむ場所はあります」

白蓮「どこですか?」

男「………」

男「地底です」

84 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 21:44:57 ID:93fR5./2
地底。

たしか地底の住民が紅魔館の人たちと殺しあってみんな死んだはず。

ならばその地底の騒乱を事前に止めておけばかなりの人数が死ななくていいはずだ。

どうすればいいのかはわからないがおそらく今はこれがみんなが生き残るための最善手―――!

水蜜「地底!? あんなところへ!?」

白蓮「わかりました。それでは明日私が男さんと一緒に博麗神社へ行きましょう。水蜜、準備は頼みますよ?」

水蜜「へ!? あ、え!?」

なぜか戸惑う村紗。

とにかく明日は聖が連れて行ってくれるそうだ。

もし明日映姫さんと話せて、上手くゆけばあいつらは死なない。

あんなふざけた悪意に巻き込ませたりはしない。

決して!

85 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 21:48:57 ID:93fR5./2
星「事情は分かりました。とにかく罪なき命が奪われるのは私としても是とは思いません」

星「私もできる限りの協力はしましょう。毘沙門天代理の名にかけて、わたしはその子を守護してみせる」

凛々しい表情の星。いや星さんはとても頼りになりそうだ。

星「お代わりです」

凛々しい表情の星さん。

頼りに、なりそうだよな?

凛々しい表情でカレーのお代わりを食べる星さんを見て少し揺らいだ。

86 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 22:17:43 ID:93fR5./2
カレーの味は非常においしかったが肉は食べたことのない味だった。一体なんの肉を使っているのだろう。

食器を洗うことを申し出たがあっさり却下され手持無沙汰になった俺はもうすっかり暗くなった外を見ていた。

灯りは蝋燭と月に光。

散歩するには頼りない光だ。

ナズ「男」

男「おぉ、いたのか」

ナズ「小さくてすまなかったね。それより話が聞きたいんだ。いいかい?」

男「わかった」

ナズ「じゃあついてきてくれ」

87 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 22:18:52 ID:93fR5./2
ナズの後ろに続いていく。長いしっぽが歩くのに合わせて左右に揺れていた。

ぎぃぎぃとなる廊下を十数秒ほど歩き、ナズーリンが立ち止まった。

ナズ「ここだよ。中で星が待ってる」

男「星さんが?」

ナズ「あぁ。君の今までについて聞きたいそうだ。さっき以上に濃い内容のすべてを」

男「分かった。一切の包み隠しなしで話そう。あの人なら信じてくれる」

ナズ「はは、主人は大変なお人よしなんだよ。下手したら聖以上に。だから私が苦労する。それじゃあ言ってきたまえ」

そういって開けたふすまの先にいたのは月の光に照らされキラキラと輝く星さん。

優し気ながら神々しいまるで生きた仏像のような星さんがそこにはいた。

88 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 22:24:21 ID:93fR5./2
星「座ってください」

星さんの視線の先にあるのは一枚の座布団。

星さんから3メートルほど離れた対面に置かれてある座布団に俺は胡坐をかいて座った。

男「話が聞きたいそうですね」

星「えぇ。あなたをもっと信用するために」

男「なぜ星さんは俺を信用してくれるんですか?」

星「信じますよ。あのときのあなたは一輪や水蜜と同じ目をしていましたから。とらわれた聖を助けようとしたときの二人の目を」

男「捕まった? 聖さんが?」

星「えぇ。昔の話ですが。ではあなたの話を聞かせてください」

星「今まであなたがどんな思いをして、どんなに苦しんで、どれだけ愛したのかを」

男「………はい」

星さんに促され語り始める。

誰も救われない3級品の悲劇を。

89 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/06/25(土) 22:49:09 ID:93fR5./2
今日はここまでー

90 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/06/26(日) 11:28:41 ID:iPg1YPw2
乙乙乙!!

91 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/06/30(木) 01:54:16 ID:3F5dZeJ2
まってたー
おつ!

92 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/07/20(水) 17:41:59 ID:dRAp3Bv6
久しぶりに見たら更新されていた


93 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/07/23(土) 00:19:50 ID:0SXEkH7E
乙です!

94 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/02(火) 22:34:57 ID:702g.ROY
ゆっくり待ってますぜ

95 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/11(木) 04:06:56 ID:aINRd5.I
気長にね

96 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/15(月) 21:18:22 ID:xy.XIvU.
うんち

97 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/18(木) 22:13:26 ID:dS3MJYto
〜俯瞰視点〜

夜の闇に紛れるには黒よりも紺の方が良い。

しかし人の目から逃れるためには紺の服を着るよりもずっと良い方法がマミゾウにはあった。

狸の化生であるマミゾウにとっては山を進むなら下手に化けるよりも本来の姿で走った方がよっぽど都合が良い。

草をかき分ける四足の音はかすかであり、大きなしっぽも今は小さくしている。

誰も気づくはずがない。

誰も気づけるはずがないとマミゾウは自負していた。

実際その通りで妖怪の目も人間の目も掻い潜りマミゾウは目的の場所まで近づいていた。

マミ「やれやれ、老体にはなかなか厳しい世の中よのう」

月を背にして見上げるは長い階段。そのうえにあるのはこの幻想郷のルールである博麗神社。

マミゾウはぽんと軽い音をたてながらいつもの姿へとその身を替えた。

いつの間にか口にくわえた煙管から紫煙をくゆらせ、マミゾウはゆっくりと階段を上がっていった。

98 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/18(木) 22:23:20 ID:dS3MJYto
石でできた階段を疲れた様子無く登っていくマミゾウはふと足を止め後ろに広がる幻想郷の風景を眺めた。

マミ「出迎えかの」

霊夢「どうやって入ったの」

突然現れた―――そう、突然現れた霊夢に驚くことも振り向くこともなくマミゾウは煙管を思い切り吸い込みせせら笑った。

マミ「歩を進めて」

霊夢「聞いてるのは手段じゃなくて方法。結界で覆われている。博麗の巫女とスキマ妖怪の式の作る結界で覆われているこの神社にどうやって入ったの?」

マミ「もちろん結界を開けたまでよ。鍵はなくとも扉は開くからの」

その返答に対し霊夢は軽く下唇を噛みマミゾウの首元へ大幣を当てた。

霊夢「あなたを叩きのめせばいいのかしら?」

マミ「それは困るのう。やりたいことがあったからここに来たゆえ」

霊夢「やりたいこと?」

マミ「何、知り合いに会いに来ただけよ。敵意はない。それと霊夢。お主何か勘違いをしているんじゃないかね」

霊夢「何よ。勘違いしてることって」

マミ「一つはこの結界には隙がある。そしてもう一つは」

マミゾウは煙管から灰を落とし二度下駄で地面を打ち鳴らした。

99 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/18(木) 22:32:22 ID:dS3MJYto
マミ「ぶちのめす。ではなく」

霊夢「!」

階段の脇にある藪。そこからぎらぎらと輝くのは月を反射させる獣の瞳。

ひとつやふたつではない。数えることすら面倒なほどの数だった。

マミ「殺し合いゆえ、ぶっ殺すの方が適当じゃな」

霊夢「あんた―――」

霊夢は瞬時に状況を理解し左手を懐に伸ばしつつ三歩程度の距離をとった。

マミ「勘違いしないでおくれ霊夢。話に来ただけよ。博麗の巫女にも誰にも手を出すつもりはない。ただ害されれば答えるだけの話」

霊夢「あんたが何か悪だくみをしにここにやってきた可能性は?」

マミ「ないが証明のしようがない。さとり妖怪でも呼んでくるしかないじゃろうなぁ」

霊夢「――――――」

霊夢は視線を絶え間なく動かしたのち、一瞬目を瞑ってため息を吐いた。

霊夢「変な真似をしたらぶちのめすわよ」

マミ「手土産がないうえにこんな時間に来てしまい不躾ですまないのう」

そういってマミゾウはからからと笑ったが霊夢は眉をひそめこめかみを抑えた。

100 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/08/18(木) 23:12:04 ID:dS3MJYto
博麗神社の離れの一室。紫と映姫を机で挟み、マミゾウは二人と向かい合っていた。

小さくあくびをしながら紫が訪ねてきた要件を聞く。

マミゾウは白湯に近いお茶で唇を湿らし口を開いた。

マミ「聞きたいことが一つ、あとそれに関することで頼みが一つ」

映姫「聞きたいこと、とは?」

マミ「ある人間。外の世界の様相をした人間。何か知ってるのではないか?」

紫「知らないわ」

マミゾウの質問に対し、にべもない返答を紫が返す。

紫はにっこりと笑って同じことをもう一度繰り返した。

マミ「そうか。知らぬか」

マミゾウは深く頷いてもう一度お茶で唇を湿らせた。

マミ「その人間がの。妖怪の山で妖怪の子供が殺される。だから助けたいと言っているのじゃよ」

映姫「なぜそれを私に? 妖怪のことは管轄外―――」

マミ「ではないことはとっくに知っておる。この幻想郷で、人里や地底ならともかく山で、森で、儂に知らんことなどほとんどないわ」

マミゾウの丸眼鏡が隙間から入ってきた月の光できらりと輝く。その奥にある瞳はじっと映姫を見据えていた。

101 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/08/18(木) 23:22:29 ID:dS3MJYto
映姫「………わかりました。情報提供ありがとうございます。その人間の言ってることが本当かはわかりませんができる限りこちらでも対策を―――」

マミ「違う。そうではない」

映姫「と、いうと」

マミ「そのガキ共。こちらで保護させてもらう」

映姫「―――っ!?」

紫「へぇ。でもなぜ」

マミ「儂は理由は分からんよ。ただ儂はぬえのために行動してるだけじゃよ。理由は知らんが、儂が動くわけはある」

映姫「その人間、信用できるのですか?」

マミ「儂は知らんよ。ただ」

映姫「ただ?」

マミ「―――まぁいい。そっちが男を知らないのなら関係はなかろう」

紫「………男は、元気?」

マミ「あぁ、元気じゃよ」

紫「そう………。妖怪達にはこっちから伝えておくわ」

マミ「それは助かる。それじゃあ息災を願っておるよ」

102 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/08/18(木) 23:27:40 ID:dS3MJYto
映姫「待ってください」

去ろうとするマミゾウを映姫が呼び止めた。

その表情にさきほどまであった凛々しさはなく開けられた襖から射す光から見えるのは潤んだ瞳であった。

映姫「子供たちを、必ず」

マミ「はっ。こちらにいるのは幻想郷一のお人よし集団よ」

映姫「必ずっ!」

マミ「任せよ。毘沙門天と団三郎の名だけでは不満かね」

映姫「ありがとう、ありがとうございます」

映姫が深々と頭を下げる。

映姫「今度こそ―――」

そして頭を上げるとマミゾウの姿はすでになく、ゆらゆらと青々とした木の葉が落ちていった。

103 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/18(木) 23:56:24 ID:IsSRcK1U
おぉ、更新してる!
いつも楽しく読ませてもらってます

104 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/19(金) 01:21:03 ID:8r68Jpfo
キテター

105 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/19(金) 02:49:11 ID:E/2AKB8k
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

乙です!!

106 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/20(土) 02:32:43 ID:WKWDgVTk
おつおつ
待ってた

107 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/30(火) 20:05:07 ID:dFdkm2iY
これで子供たちは

108 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/08/30(火) 20:29:58 ID:MG2uN9IE
救われる?

109 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 10:12:37 ID:WnM.9N46
暇が出来たので毎日更新を頑張ります。

110 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 10:19:11 ID:WnM.9N46
〜男視点〜

月明かりだけを頼りに暮らす日々はもう慣れた。

人工の光すらないこの場所では月の光はいつも以上に明るく輝いてくれているからだ。

月ではウサギがもちをつくという話があるが幻想郷ならばありえるのだろうなぁなんてことを考えつつ開け放った襖から月を見ていた。

星さんの話のあと俺は六畳一間、家具は布団しかない部屋へナズーリンによって案内された。

まぁ、寝ることさえ出来れば十分だ。

問題は明日から俺がどう動けばいいか、だが。

今までの過去を振り返り星さんに伝えたこともあって眠気は現在かなりひどく俺の意識はゆらゆらと揺れていた。

星さんは俺の話を静かに聞いてくれていた。信じてくれているのかどうかは分からないがその金色の瞳はまっすぐ俺を射抜いていて頼りになりそうな気はした。

ナズ「やぁ男。まだ起きているかい?」

男「ん、あぁ。起きているが」

ナズ「どうだい一杯」

そういいながらナズーリンが片手で持ったものを左右に軽く振る。それは徳利だった。

男「酒? いやなんでそんなもんが?」

ナズ「ここは寺だ。禁酒の場所さ。だから酒は溜め込みやすいのさ」

111 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 10:27:31 ID:WnM.9N46
そうイタズラじみた笑みを浮かべるナズーリンは尻尾をゆらゆらと揺らしながら俺のもとまで歩いてきた。

ナズ「さぁさぁ、まずは一杯」

手渡してきたお猪口にナズーリンがなみなみと酒を注ぐ。ゆらゆらとゆれる酒に俺の顔が映っていた。

お猪口を一息で干すと喉が焼けるような痛みを覚え、胃の中で酒がその存在を主張した。

男「くぅっ。かなりきついなこれ」

ナズ「はっはっは。酒飲みのための酒さ。こんなご時勢だ。酔わなきゃやってれない事だってある」

そう良いながらナズーリンは自分のお猪口に注いだ酒を軽く飲み干した。

男「で、なんのようなんだ」

ナズ「なに、酔えば口のすべりが滑らかになる。そう打算したまでだよ。んくっんくっ。はぁ。やはり酒はいいねぇ。いつだってこれさえあれば幸せにはなれる」

見た目は少女を下回り幼女とまで呼べそうな外見なのに軽く杯を干す。

外の世界ならば大変な問題なのだろうがここは幻想郷。いまさら違和感は覚えない。

ナズ「どうだい。もう一杯」

男「あぁ、頂くよ」

今度はなめるようにちびちびと飲む。味は美味しいのかも知れないがこのアルコールのきつさだ。酒を飲みなれていない俺では楽しめそうにない。

112 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 10:34:11 ID:WnM.9N46
男「酔ったって話すことなんて何も無いよ」

ナズ「そうかい。まぁいいさ。飲みたまえ飲みたまえ」

話すことなら全て星さんに話した。俺がぬえをどう思っていたのかも全て話した。

だからこれ以上話すことなんかないのにナズーリンは俺のお猪口を空にはしてくれない。

男「だから俺にはこれ以上」

ナズ「構わないって言っただろう。飲みたまえよ」

ナズ「辛いんだろう?」

男「っ!」

その目は俺を訝しんでいた時の目と違い慈愛にあふれた目だった。

俺よりずっと小さいのに俺の心中を見透かしたかのような。

いつだってそうだ。

皆俺よりずっと小柄なのに俺よりずっと強くて大きくて優しくて。

ナズ「飲みたまえよ。さぁさぁ、一杯」

男「………あぁ」

それが嬉しくて辛くて俺は一杯、また一杯と酒を飲み込んでいった。

113 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 10:53:41 ID:WnM.9N46
男「ん、あぁ、ふぇっくしゅんっ!」

俺は自分が起こしたくしゃみによって目が覚めた。

寒い。布団を被っていても体の芯まで凍えていてあまり意味を成さない。

確か昨日はナズーリンと酒を飲んで………

男「そのまま酔って寝てしまったのか」

それにしてもやけに寒い。なぜこんなに寒いのか。その疑問はすぐに分かった。

男「………ナズーリンも閉めて出て行ってくれたらよかったのに」

開け放たれた襖。そこから真冬の冷気が部屋中に満ち満ちていたからだった。

男「ん、あれ?」

昨日のお猪口と徳利が畳の上に転がっていた。

ナズーリンは几帳面に見えて実はそうでもないのか?

そんなことを考えていると。

もぞもぞ

男「うひゃぁっ!!」

布団の中。俺の右足に何かがまとわりついてきた。

114 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 11:13:55 ID:WnM.9N46
なんだなんだと布団を剥ぐとそこには。

ナズ「んあぁ。さ、寒いぃ」

ナズーリンがいた。

身を縮こまらせながら剥がれた布団を手探りで探している。

男「………あのまま寝たのか」

可愛らしい………可愛らしい?

まぁいい。少女と同衾したという事実はあれどそういう趣味はないので興奮しない。

ぬえは別だ。

布団を探すナズーリンを右足から剥ぎ、布団をかけてやるともぞもぞと布団に丸まったのちすやすやと寝息を立て始めた。

男「あぁ、眠気も覚めちまったなぁ」

顔を冷水で洗うまでもなく眠気は寒さによって打ち払われていた。

男「………そういえば服はどうしよう」

着の身着のままでここへやってきた俺にはもちろん服なんてものはない。博麗神社では着ていた服と香霖―――霖之助から借りた服で何とかしていたが。

魔理沙がいない今会いに行っても服は貰えないだろうし………

男「聖さんに聞いてみるか」

115 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 11:23:57 ID:WnM.9N46
男「ということなんですが」

聖「あら。それは失念してましたね。作務衣ぐらいしかないのですが」

男「いえ、なんでも構わないんですが」

聖「それならすぐ持ってきますね。その間に朝の水垢離でもいかがですか?」

男「いえ。遠慮しておきます」

この寒さだ。冷水なんか浴びてしまったら間違いなく風邪を引く。最悪心臓麻痺で死ぬ。

聖さんはそうですかと残念そうな顔をして小走りで去っていった。

男「さて、練習でもするか」

萃香がいないから一人での練習になるが。

まぁ萃香から教えてもらった型を一から仕上げるとしよう。

116 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 11:37:45 ID:WnM.9N46
玄関へ行き靴を履いて庭にでると

響子「あっ。おはようございます!!!」

男「いっ! あ、あぁ、おはよう」

門前の妖怪。響子が掃き掃除をしていた。

響子「お出かけですか?」

男「いや、型の練習をするんだ」

響子「そうですか!!。頑張ってください!!」

男「掃き掃除お疲れ様」

早くこの場を後にしよう。

耳がおかしくなりそうだ。

そそくさと響子から逃げるようにして庭に向かった。

ここの庭は博麗神社よりも広い。気兼ねなく練習できそうだ。

117 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 11:40:13 ID:WnM.9N46
出来るだけ障害物がないところを選び目をつぶって心を落ち着かせる。

そして瞼の裏に焼きついた萃香の動き。

最後の萃香の動きを。

男「すぅ―――」

大きく息を吸い込む。冬の冷たい冷気を力にして一歩踏み出す。

頭の中にいた敵を視界へ映し突き出された槍を半身でよけ肉薄。

腰に手を当て

押す―――っ!!

足りない明らかに力が足りない。

だからその姿勢を利用して腰に当てた手をさらに深く潜らせ思いっきり

引く―――っ!!

それだけで体勢は崩れる。だが決定打はなし。

敵のがら空きになった首筋へ肘を思い切りたたきこむ。

しかし四方から迫る刃は交わせない。

そのまま俺は空想の中の刃に滅多刺しにされ死んだ。

118 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 11:45:45 ID:WnM.9N46
ダメだ。まだぜんぜんダメだ。

男「萃香に言われたとおりの動きをしなければ。

相手の動き、力を利用し、流れに乗せる。

絶えず周りを見。そしてもっとも有利な位置に自分を置く。

さすれば後手必殺も笑い話にはならない。

再び最初から繰り返す。

息を吸い。

妄想の敵を討ち。

妄想の敵に討たれ。

また妄想の敵を討つ。

やり直し、やり直し。

だが一手一手ゆっくりと最適解を模索していける。

そうして3人目を倒したときにはすでに全身は汗にまみれ俺は荒い息をついていた。

まったくなんて化け物なんだ。

伊吹萃香は。

119 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 12:00:09 ID:WnM.9N46
聖「お疲れ様です」

男「あ、聖さん」

呼吸を落ち着けていると声がかかった。

縁側に座って作務衣を抱えながら聖さんがこっちを見ていた。

聖「男さんも戦うのですか?」

男「えぇ、まぁ。萃香………伊吹萃香に教えてもらって」

聖「まぁまぁ。それは素晴らしいですね」

聖さんが手を合わせて微笑む。

そして作務衣を置き、はだしのまま庭へ降り立った。

男「聖さん?」

聖「では手合わせを」

聖さんが両手を合わせて頭を下げる。あわてて俺もそれに倣った。

しかし聖さんが手合わせ? あんなおっとりとした人が―――

120 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 12:05:36 ID:WnM.9N46
聖「では行きますよ」

男「え、あ、はい。わかり―――」

上段の蹴り。

聖さんから俺まで歩数にして十歩程度の距離。だが上段の蹴りは俺の頭を狙っている。

いつ、どうやって。

それはかなり単純な話だった。

俺が瞬きをした瞬間に距離を縮めただけの話。

極限まで圧縮したときの流れでそれを理解し、上段の蹴りを認識する。

萃香と練習をしていなければついてはいけなかっただろう。

いや、ついていけていない―――

回避は不可能。防御もまだ構えていない手では追いつかない。

いや覚悟があっても受けれるかどうか。おそらく無理。

つまり出来ることは覚悟だけ。

121 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 12:09:00 ID:WnM.9N46
男「ぐうぅっはっ!」

俺の頭を凪いだ蹴りによってぐるぐると地面を転がり壁にぶつかってやっと停止した。

久しぶりのこの感覚。

聖「やはり鬼に鍛えられてあっただけありますね。意識を飛ばすつもりで蹴ったんですが」

まさかの聖さんかなり武闘派。だれが聖さんを見てそう思えようか。

男「降参です」

聖「それは残念です」

受けてもダメージが確実に通る相手に対してどう戦えと。

避けるのは不可能。

萃香………俺にはまだ化け物を倒せそうに無いよ。

122 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/08(木) 12:14:42 ID:WnM.9N46
男「強すぎませんか。聖さん」

聖「えぇ。誰かを守るためには力が必要ですからね」

その通りだが、まさか寺で聞くとは思わなかった言葉。

いや昔は武闘派の僧侶も多かったが………。

聖「それでは汗を流してきてください。朝ごはんにしますよ」

男「分かりました」

汗を流す………水垢離しかないのか。

聖「あ、ナズーリンを見かけませんでしたか?」

男「いいえ。見てないです」

俺に被害が及ばないようにそう答えた。

どうかナズーリン。見つからないでくれ。

123 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/08(木) 17:34:04 ID:qO3X0eMU
支援!

124 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/08(木) 18:00:28 ID:KDj5ovIs
掛け布団を風呂敷みたいにされて持ってこられるんじゃ……(汗

125 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/08(木) 19:21:52 ID:AJXrsJmY
乙!

126 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/08(木) 19:29:14 ID:fJJrY65o
更新、お疲れ様です!

127 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/09(金) 03:08:25 ID:YDgOS2Ss
乙ゥ��
更新頻度上昇ウレシイ...ウレシイ...

128 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/09(金) 23:47:43 ID:bJ8dafqg
聖さんに言われた通り水垢離を行う。

といっても滝行ではなく井戸水を使ってだが。

返事をしたはいいものの運動で熱くなった体とはいえ冬の井戸水だ。きっと身を切るような冷たさだろう。

恐る恐る水をくみ上げ釣瓶の中の水に指先を入れる。

男「………いや、無理だろこれ」

入れた瞬間に拒否反応を示すほどの冷たさ。これを全身に被る? 考えたくもないな。

「えいっ」

男「うひゃぁぉっ!?」

釣瓶を前に思案しているとそれを奪い取り俺にぶっ掛ける影が一つ。

ぬえ「早く来なよ。朝ごはんが食べれないんだからさぁ」

さぞ自分が困っているといった口ぶりだがその表情は笑みを抑え切れていない。

俺はあまりの寒さ―――痛さに震えながら頷く事しかできなかった。

129 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/10(土) 00:13:52 ID:Trb7DoPc
布で水をふき取り、作務衣に着替えると少しは寒気は収まったがそれでもまだ寒い。

博麗神社の温泉が懐かしかった。

聖「おかえりなさい、男さん。どうですか作務衣の調子は」

男「えぇ。十分です」

少し丈は短いがすごい気になるというほどでもない。贅沢は言ってられないためこれで十分だ。

聖「それでは昨日と同じ場所で皆が待っていますよ」

男「待たせてしまい申し訳ない」

聖「いえいえ、待つ程度で彼女たちの心は揺らぎませんよ。ほら」

聖さんが襖を開ける。するとそこには

130 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/10(土) 00:17:24 ID:Trb7DoPc
水蜜「げっ。負けたぁ!?」

一輪「これで朝ごはんのおかずを一品私がもらうわね」

朝ごはんのおかずをかけてジャンケンをしている一輪と水蜜の姿だった。

水蜜「初めから一品しかな―――」

聖「賭け事ですか」

一輪「なぁっ! い、いえ違うんですよ姐さん。賭け事じゃないですよやだなぁ」

聖「申し訳ありません。私は少しやることができたので先に食事をいただいていてください」

男「は、はい」

そうにこやかに言い、聖さんは一輪と水蜜を引きずって寺の奥へ消えていった。

ナズ「気にすることはない。良くあることさ」

男「ナズーリン。いたのか」

ナズ「君が最後なんだよ。早く席に着き給え」

男「すまない」

131 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/10(土) 00:25:40 ID:Trb7DoPc
急いで席に着くと星さんがにっこりとほほ笑んだ。

星「それではいただきましょうか。今日は特に忙しくなる日ですから」

「いただきます」

朝食のメニューは白米に大根を混ぜたものと味噌汁、大根の漬物。味噌汁の具はサツマイモか。

博麗神社と比べて………いや比べるのはダメだ。

星「貯蓄があるとはいえこうやって節約していかなければ持たないのですよ。特に私たちは殺生が許されない身分ですから」

男「いえ、別に文句があるわけでは」

ばっちりと見抜かれていた。慌てて訂正するもナズーリンの冷めた視線が突き刺さる。

ナズ「これだから外から来た人間はひ弱でいけないね」

響子「これでも十分美味しいですよ?」

ぬえ「やーい贅沢者〜」

まさかの全員から言われるとは。

この雰囲気が絶えれずかゆのようになったごはんを漬物で強引にかき込み、薄い味噌汁を飲み干した。

132 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/10(土) 00:32:33 ID:Trb7DoPc
男「ごちそうさま」

ナズ「食べ終わったなら支度をしたまえよ」

男「どこか行くのか」

マミ「あぁ、行くともさ」

ぬえ「マミゾウ!」

後ろを振り向くと丸い眼鏡をかけた女性………大きな狸のような尻尾のある女性がいた。

ぬえが呼んでいた名前はマミゾウ。そういえば昨日話の中で出てきたような気がする。

マミ「昨日は呼び出したのにいなくてすまなかったの」

―――そういえば呼び出されていたような気もする。すっかり忘れていた。

男「えっと、それでマミゾウさん?」

マミ「マミゾウで結構じゃよ」

男「どこへ行くんですか?」

マミ「分かるだろう。お主がしたいことを叶えてやろうとしているんじゃよ」

マミ「この世界を救いにさね」

133 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/10(土) 01:22:03 ID:rea/bNRU
寝落ちかな?

134 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/10(土) 04:29:22 ID:wQR0lZ7E
あっさり「この世界を救いに」とか言ってのけるとか格好良すぎでしょう?

135 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/11(日) 01:25:44 ID:Pbw97qso
マミ「動くにしても聖がいなけりゃ動けないからの。ちょっと儂に付き合ってくれんか」

そういってマミゾウが手招きをする。

とくに断る理由もないのでマミゾウに招かれるままついていくとマミゾウは庭に下り立ち、懐から煙管を取り出した。

マミ「構わないかね?」

男「えぇ」

マミゾウが煙管の先に指を差し込むと煙管から煙が立ち上り始めた。マミゾウは深く一服すると満足そうに口から煙を吐き出した。

マミ「最初に行っておくが、儂はお前を信じておるよ」

男「そりゃまた、なんで」

マミ「勘なんかじゃない。年寄りの知恵と知識ってやつさね。儂はお前がどういう奴かは知らんがどういう役割を持つかは大体わかった」

マミ「お主は儂等の切り札よ」

マミゾウが二度煙を大きく吐き出す。紫煙が冬の風に浚われ消えていった。

136 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/11(日) 01:33:11 ID:Pbw97qso
男「切り札なんて、そんな俺は大したことないし」

マミ「確かに、お主は大したことないよ」

その通りだが、少しグサリとくる

マミ「ただお主の経験と記憶は大したことがある。これからのことは変わっていくじゃろうがまずは我々が先手をとれる。これがどれだけ大きいことか」

マミ「それに変わらぬこともあるじゃろうて。それを拾い集めていけば我々はいったいどうなる。楽しみよのう」

マミ「さて男。儂等に何を求める。言ってみよ」

マミ「佐渡の団三郎。金も力も夢も、全て貸して見せようぞ」

マミ「さぁ、敵を化かしてみせようぞ」

137 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/11(日) 01:43:50 ID:Pbw97qso
男「じゃあ力を貸してほしい」

男「小さいことだけど。戦いには関係ないかもしれないけど」

でも、俺じゃあどうしようもないことで。

でもどうにかしなくちゃいけないことで。

マミ「簡単よ。すでに聖に話をしておるんじゃろ?」

男「あぁ、でもその場所がどこにあるか」

マミ「なんてのは簡単よ。のう」

「じゃなきゃあ、あたいが来た意味がないしねぇ」

男「その声は」

小町「やぁ、初めまして、じゃないのか。どういえばいいか困るねこれ。あたいにとっては初対面なんだけど」

男「小町!」

小町が困ったように頭を掻いていた。俺と小町の間にある温度差。理由は分かるがぬえ同様寂しいものだ。

小町「そんな寂しそうな顔しないでおくれよ。あたいが悪いみたいじゃないか」

男「すまん。別に小町が悪いわけじゃないんだ。ただ」

小町「いいっていいって。あたいだって本気で言ったわけじゃない」

138 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/11(日) 01:56:21 ID:Pbw97qso
小町「それよりも四季様は大丈夫って言ってたけどあたい個人はお前さんのことをよく知りはしないんだ」

小町「信用させてくれよ。なぜそうまでしてあの子供たちを助けるんだい?」

男「簡単だよ」

それは至極単純な事。

俺の心に残る棘。

男「遊んでやるって約束したんだ―――未来で」

小町「はぁ。やれやれ。傍から聞いたら妄想弁者の戯言。だけれどそんなまっすぐな目で見られたら断るわけにもいかないじゃないか」

小町「ま、四季様に言われた時点で断ることはできないんだけどね。それじゃあいくよ男!」

小町が鎌を振り上げ―――

小町「目標妖怪の山中腹。距離直線にして78キロ。障害物には気を付けて行ってきな!」

地面に真横の一文字を刻むように振り下ろした。

139 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/11(日) 02:02:09 ID:Pbw97qso
小町「行き方は分かるだろう?」

男「あぁ。いつも使ってた」

小町「やれやれ、なんだか不思議な気分だねぇ。初対面に人にこんな信頼されるとむず痒いったらありゃしないよ」

男「小町は信頼できるって知ってるからな」

小町「よしてくれよそんなこっぱずかしいこと」

小町はぽりぽりと頬を掻き「あたいはもう帰るから」と言って消えていった。

140 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/11(日) 02:04:22 ID:Pbw97qso
マミ「さてこれでいけるのう」

男「でもまずは聖を待たなくちゃな」

マミ「お主だけで言っても連れて帰るのは無理じゃろうしな」

男「マミゾウは来てくれないのか?」

マミ「儂は儂ですることがあるのよ。あぁ、そうそう」

男「なんだ?」

マミ「ぬえ。ぬえのことをどう思う?」

男「………俺が知ってるぬえは今のぬえじゃない」

マミ「今のぬえは嫌いかね」

男「いや、今のぬえも俺が知ってるぬえも同じぬえだ。大きく変わりはしないよ」

男「大好きだ」

マミ「その言葉ぬえが聞いたらどう思うかの」

男「はは、それは恥ずかしいな。今のぬえのことだからきっと「キモイ」とか言いそ、え?」

ぬえ「キモいキモいキモいよ! マミゾウこいつ気持ち悪いよ!!」

141 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/11(日) 02:11:48 ID:Pbw97qso
聞かれていた。ばっちり聞かれていた。

そのうえ極限までの拒否反応を示されている。

その反応がショックすぎて俺は膝から崩れ落ちた。

ぬえ「こんな奴と一緒にいられない! 私はいかないからね!!」

そういって消えるぬえ。

男「そんなぁ、そんなことって。うぇっ。あぁもうやばい。吐きそう」

マミ「これこれ泣くでない。いやお主泣きすぎじゃろう。目どころか鼻からもあふれ出ておるぞ」

男「だって」

マミ「気にするでない。ぬえの照れ隠しよ。お主のことを本気で嫌っているわけではない」

男「本当、なのか?」

マミ「本当よ。つまりぬえはお主のことを嫌ってはいない。安心するのじゃな」

男「それは良かった。本当に良かった」

立ち直れなくなりそうなほどの痛み。

それは萃香にぶん殴られたときよりもずっと痛かった。

142 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/11(日) 02:26:15 ID:mCuO5dGw
なんかワロタ



143 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/11(日) 04:07:58 ID:bgKriAt.
まみぞう

144 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/11(日) 04:13:33 ID:bgKriAt.
おのれタッチパネルめ……連投失礼
マミゾウさん。口から出任せじゃあるまいね?

145 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/12(月) 12:33:57 ID:8bvvbbwY
聖「お待たせいたしました」

半刻………30分ほど待っただろうか。聖さんがやってきた。

そういえば寺の奥から聞こえていた悲鳴ももう聞こえていない。

俺は心の中で二人に念仏を唱え小町が引いた線に向き直った。

男「行きますよ」

聖「えぇ」

マミ「頑張るんだよ」

線に体を半分進めると景色が急速に歪み、絵の具に別の絵の具を垂らしたかのような曖昧な風景へと変わる。

さらに体を進め完全に線を越えたとき俺の体は見覚えのある鉄門の前にいた。

146 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/13(火) 00:14:40 ID:G2rpitKw
聖「行きましょうか」

男「はい」

この鉄門の中にあいつらがいる。

生きて、笑って。

楽しそうにはしゃいでくれるあいつらがいる。

男「………今度こそ」

そう改めて誓いを立て俺は鉄門を開―――

男「んぐぐぐぐ」

開い―――

男「お、重いぃい」

開けなかった。

147 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/13(火) 00:19:49 ID:eQ5U8lKc
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

148 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/13(火) 01:05:48 ID:G2rpitKw
そういえばいつも小町か映姫さんに開けてもらっていたなぁ。

映姫さん。俺より力強かったのか。やっぱり閻魔辞めても人間よりは上みたいだな。

聖「私が開けましょう」

男「お願いします」

聖さんの強さは知っている。

さっき見た通りの強さで聖さんは普通の扉を開けるかのような気軽さで鉄門を開いた。

その中はいつか見た洞窟で、もちろん炎に包まれてはいない。

男「………こんにちは?」

洞窟の奥からは声がしない。

そうか俺が初めて来るから警戒をしているのか。

聖「進みましょうか」

男「えぇ」

149 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/13(火) 01:16:06 ID:G2rpitKw
洞窟の中は明るいとは言わないまでも壁に開けられた小さい穴から揺らめく緑色の炎が歩行や認識に支障が出ない程度には照らしてくれている。

大人一人が通れるのがやっとの道を進んでいくと急に開けた場所へ出る。

そこに子供たちがいた。

男「ひさ………初めまして」

そして子供たちを守るようにして一人の女性―――妖怪の女性がたっている。

最後まで子供たちを守ろうとした強くて優しいひとだった。

保母妖「初めまして。この子達の面倒を見ている保母妖怪です」

彼女が頭を下げる。俺も慌てて頭を下げるとこっちをじっと見ている羽少年がいた。

保母妖「四季映姫様から話は聞いております」

男「映姫さんから? じゃあ子供たちを」

保母妖「私としては反対なのです」

保母妖怪が一歩前に出る。俺との距離は1メートル程度。彼女がつけている丸い眼鏡が炎を反射して輝いた。

150 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/13(火) 01:24:42 ID:G2rpitKw
保母妖「あなた方の庇護をうけるということは妖怪の山の意思と反することです」

保母妖「私は良い。でもこの子達の未来はどうなるのでしょうか」

………そう、妖怪の山の子供を勝手に連れていくことはできない。さすがに妖怪の山から許可は出ないはずだ。

実際映姫さんだって連れ出そうとはしなかった。あくまで面倒を見るだけ。

だけれどここにいてはいけないということは分かっている。だから俺は

男「………聖さん。ご迷惑をおかけします」

聖「………えぇ」

保母妖「何を、する気ですか」

男「ここに存在する27名。この俺。男が独断で奪い受ける」

男「子供たちはあくまで被害者。あなたも完全に責任無しというわけにはいかないでしょうが被害者」

保母妖「では、それではあなたが妖怪の山へ」

白蓮「白蓮寺一同。罪なき命を守るためならたとえどのような汚名をかぶろうとも、どのような被害を受けようとも構いません」

白蓮「少なくとも私は今までそう生きてきました」

保母妖「………………分かりました」

保母妖「私、保母妖怪はあなた方に喜んで奪われましょう」

151 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/13(火) 01:39:07 ID:G2rpitKw
羽少年「先生。俺たちどうなるんだ」

保母妖怪「大丈夫。私が守って見せるから」

犬耳娘「で、でも怖いよう」

羽少年「大丈夫だ。俺が守ってやるからっ」

子供たちから怯えは消えていない。

男「なぁ、そこの少年よ」

羽少年「な、なんだ俺か!?」

男「あぁ、そこの一番好奇心が強そうで勇気に満ち溢れた君だ」

羽少年「なんだよっ」

こいつならこの言葉を聞くはずだ。

羽少年の好奇心に救われたあの日を。

男「―――俺、外の人間なんだ」

152 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/13(火) 01:42:48 ID:G2rpitKw
羽少年「っ! だ、だからなんだよっ」

そうやってそっぽを向いたところで一度動いた好奇心は止められない。

今にでも動く。すぐ動く。

うずうずと自分を抑えきれなくなる。

お前はそういう奴だったな。

男「外の世界にはいろんなものがあるんだ。聞きたくないか?」

羽少年「へっ。だからなんだっていうんだ―――」

羽少年「で、でも教えたいんなら教えてくれたっていいんだぜ?」

男「そうだな。じゃあ海の話を」

犬耳娘「!」

ぴこんと犬耳娘の耳が動く。

男「そうだな海ってのは―――」

153 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/13(火) 06:02:48 ID:HjpOynuM
生命の源であり、ロマンの塊だ

154 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/13(火) 06:58:37 ID:cAQRycc2


155 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/13(火) 08:06:28 ID:xYsmwhqo
乙!
さて、これからどう変わってゆくのかな?

156 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/16(金) 05:14:27 ID:oWniYtLQ
きたか

157 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/28(水) 00:27:05 ID:GQoVjBUA
乙です

158 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/28(水) 11:33:42 ID:iyrrjEFk
男「さて、他に何か質問は?」

海について話し終わったころには子供のうちの大半が俺を真剣な目で見つめていた。

角娘「は、はい」

手を上げたのは見た目に反して臆病な角娘だった。

そういえば角娘が何を好きかは分からない。子供たちと会っていた時間が短い間だったし自己主張もしてこないせいだ。

男「なんだ?」

角娘「あの、その」

角娘は何かを伝えようとしているがおどおどとするばかりで言葉に詰まりっぱなしだ。

男「何が、好きなんだ?」

角娘「そ、そうじゃなくて。な、なんで」

角娘「外の世界の人間なのに、わたしたちを、助けようと」

至極当然の疑問。子供だから聞いてはこないだろうと高を括っていたが………

今度は俺が言葉に詰まる番になった。素直に今の状況を伝えると俺は非常に不審な人物となってしまう。

彼女たちにはわかるはずのない事情。答えてはいけない答え。

君たちが死んだからなんて言えるはずもなく。君たちが好きだからといえるわけもなく。

159 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/28(水) 11:38:43 ID:iyrrjEFk
男「約束、したんだ」

角娘「?」

全てを隠すにはこの気持ちは心の根底にありすぎて、もう堪えることなんてできなくて。

しかたなく嘘をついて真実をこぼす。

男「き、君たちくらいの子に、約束をしたんだ」

男「遊んでやるって、空手を教えてやるって、拙い、俺なんかの、だから」

支離滅裂な言葉。

嗚咽と涙に邪魔されて言葉も思考もまとまらない。

きっと今の俺の姿はみっともないだろう。

大の大人が気持ちも伝えきれずにただただ泣いているだけなんだ。

あぁ、失敗してしまった。

やっぱり隠すにはこの気持ちは大きすぎたんだ。

160 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/28(水) 11:45:12 ID:iyrrjEFk
羽少年「お疲れさま」

男「え?」

羽少年が俺の頭を撫でていた。

羽少年だけじゃない。

犬耳娘も

犬耳娘「頑張ったね」

角娘も

角娘「ありがとう」

俺を慰めてくれていた。

161 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/28(水) 11:45:49 ID:iyrrjEFk
羽少年「………あれ」

犬耳娘「なんで私たち」

角娘「………?」

突然呆けたような表情になる三人。

そんな三人を俺は感極まって抱きしめた。

男「ありがとう………っ、ありがとう………っ」

まだ失ってないものがあった。

まだ続いているものがあった。

162 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/09/28(水) 11:59:22 ID:iyrrjEFk
保母妖怪「彼は、何かあったのですか?」

白蓮「………えぇ、事情がありまして」

保母妖怪「それが子供たちを助ける理由ですか」

白蓮「子供たちだけではありませんよ」

保母妖怪「はい?」

白蓮「あなたもです」

保母妖怪「………」

保母妖怪「ただの人間に守られるだなんて、変な気分ですね」

保母妖怪「でも嫌な感じはしませんね、ふふふ」

保母妖怪「よろしくお願いいたします」

白蓮「こちらこそ。ありがとうございます」

163 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/28(水) 22:26:33 ID:ZXMvHeDo


164 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/28(水) 23:21:05 ID:GQoVjBUA
若干前の体験が残っているのか。

165 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/09/29(木) 04:51:58 ID:KbNKHsnc
乙!
早くも泣かせるじゃねぇかよぅ!

166 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 10:38:29 ID:JLwZjy.c
白蓮「それでは皆さん、着いて来てくださいね」

白蓮さんが二度手を叩いて注目を集める。

白蓮さんを先導にして薄暗い洞窟を入口に向かって歩いていく。

子供の人数はそう多くはないとはいえ統率なんかはとれていない。おとなしいとはいえ全員を外に出すのに時間がかかってしまった。

白蓮「さて、それでは―――!」

白蓮さんが出ると同時に空を見上げた。

男「どうしました?」

白蓮「もう気づかれましたか。走ってください、子供たちを連れて小町の引いた線まで」

その言葉を言い終えるのとほぼ同時だった。

数匹の黒い影が遥か彼方から矢のように飛んできたのは。

167 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 10:48:16 ID:JLwZjy.c
烏天狗「誰かと思えば妖怪寺の尼とは。一体我らの子に何をしている」

白蓮「保護です」

保母妖怪と子供たちを走らせる。後ろから聞こえてきたのは低い声と羽ばたく音。

ちらりと振り返ると大きな黒い羽を持ち、山伏の恰好をした男が数人白蓮さんに相対していた。

最初の子供が線に触れるまで数メートル。あと数秒もすれば逃げ切れる―――

はずだった。

烏天狗「保護? してるではないか。こうして」

一番先頭を走っていた子供の前にいつの間にか強風とともにあいつらのうちの一人が現れ一人の子供の手を握っていた。

子供たちはその男に対して萎縮し、前へ進もうとする足を止める。

保母妖怪「ダメ!」

烏天狗「ぬぅ!?」

その男へ保母妖怪が体当たりをした。

派手なことは起きなかったが衝撃で男がその子供の手を放した。

その隙に子供たちが再び走り出す。

168 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 10:55:30 ID:JLwZjy.c
烏天狗「まてっ!」

再び子供たちを追おうとする男だったが

白蓮「烏天狗ほど私は速くはないですが、かと言って遅いわけでもない。さて、お話をしましょう」

その首根っこを白蓮さんに掴まれ地面に引き倒されていた。

白蓮「手荒な真似をしてしまうことはお詫びします」

烏天狗「たかが女一人だ! 我々烏天狗に―――」

そう威勢よく言い放とうとした言葉は最後まで言えることはなく代わりに口から泡が噴き出た。

烏天狗「こ、こいつ尼のくせに」

白蓮「殺生はしてませんからご安心を。ただあなた方は話を聞かなさすぎます。誠に哀れで田夫野人でありますね」

白蓮「言の葉には言の葉を、力には力で。あなた達が救われるまでいざ、南無三―――!!」

169 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 11:01:08 ID:JLwZjy.c
保母妖怪「みんな、走って! さぁ!」

男「あそこの線まで!」

子供たちの足はそれでほど速いわけではない。線まで数秒。

俺たちが逃げれるまで十秒程度。

それは深く数回呼吸をする程度の時間の攻防だった。

荒れる風、黒い影が飛び回っているのがやっと認識できるほどの速度。

しかしその速度に対応し八艘を飛ぶかのように白蓮さんはその影から俺たちを守る。

速すぎて複数人存在するかのようだ。実際残った残像がかき消えているのすら見える。

霊夢も霊夢ですごいし萃香も萃香で常識外。

それと同じくらいのなんと埒外な戦いだろうか。

170 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 11:08:58 ID:JLwZjy.c
羽少年「俺で最後だ―――

白蓮「っ!」

その瞬間はやけに遅く見えた。

最後羽少年が線を踏むか踏まないかのとき、白蓮さんが逃した一人の男が横から攫おうと飛んできて

保母妖怪「―――っ!」

それを阻止するべく羽少年を突き飛ばした保母妖怪の両腕がすぱりと切断されるのを

烏天狗「ちっ、裏切りものめが」

保母妖怪「う、うぅぁ」

腕は上腕から先が切断され真っ赤な血が噴き出して地面と保母妖怪を濡らす。

白蓮「早くっ!」

その言葉でやっと俺は動けた。

ゆっくりとなった視界が通常の速度に戻り保母妖怪を抱いて線を超す。

ぐにゃりと景色が歪んで一瞬のうちに俺たちは寺の庭に横たわっていた。

171 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 11:12:18 ID:JLwZjy.c
「先生っ! せんせぇいっ!」

子供たちの声が聞こえる。血で真っ赤に染まった視界ではあまり良くものを見ることはできない。

かろうじて見える右目の端だけを使いあたりを確認する。

移動で生じた頭痛が早く消えろと思いながら見回す。

保母妖怪を囲む子供たち。

向こうから慌ててかけよる星さん。

驚いた顔のぬえ。

真っ赤に染まる地面。

172 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 11:17:04 ID:JLwZjy.c
保母妖怪は星さんによって寺の奥へ連れられていった。

残された子供たちはぬえが纏めて面倒を見ている。

驚いたのはぬえが手際よく子供たちのパニックを抑えたことだ。

それに比べて俺は、見えていたのに何もできなかった。

今も。

犠牲は減った。たしかに犠牲は減ったけれども。

ベストな結果にはならなかった。

まだもう少し良い結果にすることはできたのではないかと自問自答するが―――

もう拳銃に弾は一つも残っていない。

173 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 11:22:43 ID:JLwZjy.c
白蓮「彼女は?」

男「あ、おかえりなさい」

衣装の端々をボロボロにしながらも体に傷一つついていない白蓮さんが戻ってきた。

それでようやく俺が地面にずっとへたり込んでいることに気が付いた。

寅丸「聖、戻ってきたのですね」

白蓮「寅丸。彼女はどうなりましたか」

寅丸「傷は塞ぎました。妖怪ですから死ぬことはないでしょう」

寅丸「しかし彼女はそう強い妖怪ではありません。腕が生えるまでかなりの時間が。いえもう生えることはないかもしれません」

白蓮「それで済んだのなら僥倖です。命あっての物種ですから」

寅丸「えぇ、もし死んでしまえば子供たちにどれだけの影響がでるか」

白蓮「………男さん?」

男「あ、あぁ………」

白蓮「男さん?」

男「ごめんな、さい」

ごめんなさい

174 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/07(金) 11:24:55 ID:JLwZjy.c
腕がなくなった。死にはしないけれども。

でも腕がなくなった。

見えていた。救えていたはず。

動けなかった。

俺は動けなかった。

だから腕がなくなった。

男「ごめんなさい」

ごめんなさい。

ごめんなさいというしかない。

白蓮「………問題は」

寅丸「こっち、ですね」

175 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/10/09(日) 00:14:46 ID:cQdVUTk6
男よ、失意に沈んでいる暇があるのか?
そうしていると、また次々と失われていくぞ
最後のチャンスなんだろう?それすらもそうやって潰しちまう気か?

176 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/10/09(日) 08:45:40 ID:wR0Cy1ts
落ち込んでいる暇が無いってのは分かっている。

前の世界で失われたものの重さは分かっている。

それでも

白蓮「男さん」

男「白蓮、さん」

白蓮「少し、落ち着きましょうか。お茶でも飲んで」

男「い、いえ、俺は」

白蓮「寅丸」

寅丸「はい」

寅丸さんが俺の体をひょいと持ち上げる。

そのまま俺は俗に言うお姫様だっこの状態で寺の中まで運ばれた。

177 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/09(日) 08:54:14 ID:wR0Cy1ts
運ばれた先は星さんと話したあの部屋。

部屋の奥にはいかめしい表情をした仏像がこっちを睨んでいる。

星さんによって俺は座布団に座らせられすぐ対面に白蓮さんと星さんが座った。

白蓮「貴方は少し、いえかなり心が弱すぎる」

男「はい…」

分かっている。それでもそう簡単に治るものではなく。

白蓮「貴方は私たちの希望。私たちの行く末を指す存在。そんな貴方がこう簡単に折れてしまって、悲願成就なるものですか」

男「ですが、それでも」

彼女の身に起きた悲劇はとてもつらいもので

だって

男「子供を抱きしめてやれないなんて―――っ!」

178 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/09(日) 10:03:31 ID:wR0Cy1ts
白蓮「彼女にとって、それでも子供達を守りたかったのでしょう。貴方に出来ることは彼女の覚悟を踏みにじることではなくて、彼女に覚悟を背負って進んでいくことではないですか」

白蓮「前の世界で失われた命、思い、願い。貴方はそれを背負ってここまで歩いてきたのではないですか。歯を食いしばってでも歩き続けなければそれは転がり落ちてしまいます」

白蓮「立ち上がりなさい男さん。全て背負って歩き続けましょう。それが今の貴方に出来ること。いや、貴方にしかできないことです」

その通りだ。

俺は全てを助けるって前の世界で誓ったはずだ。それなのに。

でも、重くて、苦しくて。

どんどん圧し掛かってくるそれの重さはただの人間である俺が背負うには大きすぎて。

寅丸「男さん」

男「はい………」

寅丸「支えますから。背中を押しますから。倒れそうなら肩を貸しますから」

寅丸「私たちを導いてください。お願いします」

星さんが深々と頭を下げる。

そう安々と下げていいわけじゃない頭を俺は今までなんど下げられてきただろうか。

そんな人達の願いを俺は―――

179 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/10/09(日) 10:08:03 ID:wR0Cy1ts
男「すいません。また、見失っていました」

寅丸「見失ったなら照らしましょう。虎柄の毘沙門天である私が」

その金色の目が俺を射抜く。

優しくも強いそのまなざしがとっても羨ましい。

いつか萃香のように強く。

この人のように強く。

憧れる人はたくさんいる。

そしていつか霊夢みたいに。

白蓮「男さん。次、助けるべき人は」

男「次―――」

記憶をたどり今から向かうべき場所は

男「―――チルノ」

180 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/10/09(日) 21:15:35 ID:p1N2DpNU
乙!
救われながら、救え

181 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/10/10(月) 00:32:48 ID:9Kj1V.bM
忘れられし神秘が生きる場所、幻想郷。滅びるにはまだ、惜しい者達が住む世界だ

182 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/10/10(月) 03:34:19 ID:thjAbmhI
最高!無理せず続けてくれ

183 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/10/17(月) 23:09:08 ID:23n0zFUI
今回もチルノが味方になるのか

184 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/10/23(日) 14:22:15 ID:6gXXKHT2
遅筆も大概にしてくれ

185 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/10/23(日) 23:03:46 ID:yOe7859Y
↑面白いのを書いてくれてるんだからちょっとぐらいいいんじゃないか?

186 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 10:24:27 ID:bRsSS9nA
記憶をたどり始めてチルノにあったときを思い出す。

それは確か紅魔館の近くの湖での出来事で、大妖精を奪われたチルノが暴走して―――

それがあったのは明日の昼頃。

男「………霊夢より先に行かないとな」

霊夢を信用していないわけではない。ただチルノを紫のところへ行かせたくなかった。

白蓮「チルノさんが、どうしたのですか?」

男「人間が妖精狩りをしているのは知っていますか?」

白蓮「いえ、そうなのですか?」

聖さんが口に手を当てて目を大きく見開く。

男「人間は魔力を補充するために、その塊である妖精を捕まえています。そして明日チルノの友人である大妖精が捕まります」

白蓮「では、今すぐ行かなければ」

そうしたい。できることならば大妖精に恐ろしい目にあってほしくない。いや、他の妖精もすべて。

だけど、今日行動してしまえば俺が知ってる情報は皆無だ。チルノも大妖精もどこにいるかわからない。

よしんば会えたとしても仲間になる保証はなく、仲間になったとしてもそれがどんな影響を与えるのかはわからない。

男「明日………明日の朝に行きましょう」

187 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 10:29:30 ID:bRsSS9nA
聖「分かりました。それでは今日は早くお休みなさってくださいね」

男「はい。明日はよろしくお願いします」

男「………あ、聖さん」

聖「なんですか?」

男「保母妖怪さんに会いたいのですが」

寅丸「正直、今会うのは厳しいかと。彼女も今は消耗して寝ていますし」

男「一言だけ、一言だけなんです」

寅丸「どうしましょうか、聖」

白蓮「私に許可をする権利はありません。拒む権利はあれども。その権利は行使するつもりはないのでご自由に」

と、言うことは自由に行動をしても良いが、それに対する責任はとってもらう。ということだろうか。

寅丸「そうですか。では私が連れて行きますので」

白蓮「よろしくお願いします」

188 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 10:35:32 ID:bRsSS9nA
星さんに案内されたのは神社の中心近く。大事をとってだろう。

寅丸「おや」

寅丸さんの視線の先には数人の子供。

襖の隙間から保母妖怪さんのことを見ている。

男「羽少年と犬耳娘。あれ角娘はいないのか」

羽少年「うわぁっ!?」

犬耳娘「ひぅっ!?」

どうやら突然声をかけられて驚いたらしく、二人はコントさながら襖を倒しながら部屋の中まで転がっていった。

男「何たるリアクション」

寅丸「あ、あはは。歪んでないといいのですが」

寅丸さんが盛大に外れた襖を見て乾いた笑い声をあげた。

寅丸さんのことだから困り顔は見せないと思っていたが、案外人間らしい………いや、妖怪だから妖怪らしい?

妖怪らしいってなんだよ。

189 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 10:38:32 ID:bRsSS9nA
男「大丈夫か、羽少年、犬耳娘」

羽少年「い、いてて。いきなり声をかけるなよな! 視界の外から声をかけるんじゃないっ!」」

男「無茶を言うなよ」

犬耳娘「先生が寝てるよぅ しーっ」

犬耳娘が人差し指を自分と羽少年の口に当てて静かにしろとジェスチャーをする。実に微笑ましい。

羽少年「あ」

羽少年の視線の先。

保母妖怪「喧嘩は、いけませんよ」

保母妖怪さんが苦痛に歪む笑みを浮かべていた。

190 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 11:24:13 ID:bRsSS9nA
羽少年「せ、先生大丈夫か?」

保母妖怪「大丈夫ですよ」

そういって振ろうとした腕はない。保母妖怪さんがはっとして腕を隠すが、犬耳娘が泣き声をあげ始めた。

犬耳娘「せ、せんせぇ………っ」

保母妖怪「大丈夫ですよ。すぐに生えてきますからね」

羽少年「そ、そうだよな。それまで俺が先生の面倒見てやるから」

犬耳娘「わだし、もっ、みるっ」

保母妖怪さんが残ったほうの腕で這うように移動をし、二人の頭を交互に撫でた。

寅丸「二人とも。保母妖怪さんが疲れていますので」

羽少年「………うん」

犬耳娘「わか、った」

星さんが二人を外へ出るように促す。保母妖怪さんは二人を愛おし気な様子で見つめて。

二人の姿が消えたと同時に顔を布団に押し付けた。

保母妖怪「ぐ、くぅっ」

いくら妖怪の体が人間と比べて丈夫だといっても感じる痛みは変わらない。声がまだ近くにいる二人に届かないように布団に押し付けているんだ。

191 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 11:38:14 ID:bRsSS9nA
声がかけれなかった。痛みに必死に耐える彼女にかける言葉が見つからなかった。

大丈夫ですか。

大丈夫なわけがない。

腕がなくなった姿を子供たちに見せてしまった。

おそらく彼女にとってそれは腕がなくなることよりもつらいことで。

俺は転がった襖を溝にはめて直し、閉めた。少し歪んだ襖はがたがたと音をたて閉まる。

一言、一言だけ謝りたかった。

感謝したかった。

だからその代わりに今の彼女の姿が誰の目にも触れられないように彼女を閉じ込めたんだ。

192 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 11:58:36 ID:bRsSS9nA
ナズ「なにしてるんだいそんなところで」

襖の前で座り込んでどれだけ時間がたっただろうか。気が付くとナズーリンが訝し気な目で俺を見ていた。

男「誰も入らないように見張ってる」

ナズ「人間の君が?」

と思ったら鼻で笑われた。

基本的にナズーリンは俺のことを鼻で笑うか、じと目で見ている。

ナズ「君、下手したら子供たちに集団で来られたらふつうに負けるんじゃないかい?」

さすがにそれは、と思ったが妖怪の子供なのだからあり得る。

大人とふつうに渡り合うどころか圧倒してる霊夢はいったい………

ナズ「やれやれ、君は困りものだなぁ」

そういいながらナズーリンが俺の隣に座る。

男「………?」

ナズ「君だけじゃ不安だからね。私も見張ってあげるよ。感謝したまえよ?」

生意気な、と思ったらナズーリンに頬をつねられた。どうやら表情に出ていたらしい。

193 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 12:25:05 ID:bRsSS9nA
ナズ「君こそ人間のくせに生意気だ」

男「と言われてもな」

妖怪とはわかっていても見た目はただの少女だ。

脅威がなければただの女の子に見えるのが当たり前で。

ナズ「勘違いしないでくれたまえよ。私がこう君に世話を焼くのは酒を飲んだことを黙っていてほしいからだ」

男「自分で弱みを作っておきながらか」

ナズ「君は生意気だぞ。この私に向かってその態度とは」

ナズーリンが再び頬をつねってくる。しかも両頬を。

ペンチでつねられたように痛い。

194 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/18(金) 12:33:13 ID:bRsSS9nA
ナズ「何度も言うが正直私は君を信じてはいない。ただご主人と聖が君を信じているから力を貸すんだ。だから証明してくれたまえよ。君が本当に正しいのか」

男「なら、手伝ってくれよ」

ナズ「もちろんさ。君じゃあ頼りない」

言いたいことはいろいろとあったが飲み込む。

男「明日、チルノたち妖精を助ける」

ナズ「妖精、達? まさか全員なんてことはないよね」

男「全員だ。全員でなければならない」

ナズ「冗談。この幻想郷にどれだけ妖精がいると」

男「………もう、あまりいない」

ナズ「何を言ってるんだい。妖精は死なないんだ。少しの間消えることはあっても」

男「なぜなら自然そのものだから」

ナズ「そう。知っているのなら自分が変なことを言ってると理解できるだろう」

男「人間は妖精から、自然そのものから魔力を得ている。今まで妖精が死ななかったのは妖精が死んでも自然があるからだ」

男「だけれどこれは違う。妖精が復活するために必要な自然そのものを殺す」

男「冬だから気づきにくいんだ。注意深く見ればわかる。もう自然は死にかけている」

195 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/18(金) 14:50:00 ID:WM0DTqkw
おっきてた

196 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/18(金) 23:55:52 ID:qOixH79g
そんなん注意深く見たって分かんないよw(パンピー感)

197 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/19(土) 07:26:31 ID:Falae0/.
言いたい言葉も言えないとはね……。

198 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 20:56:03 ID:865YO1d2
ナズ「それは、どうしたものかな。自然がないなんてまるで外の世界だ」

ナズ「失われた自然がここにきて、ここの自然がなくなればじゃあ自然はどこにいくんだい」

男「さぁな」

隣を見るとナズーリンは目を閉じて深く考え込んでいた。

呼吸に合わせて灰色の髪が揺れる。しばらくの間それを見ていたがナズーリンが戻ってくる気配がなかったので邪魔をしては悪いと前を向いた。

沈黙のせいか今まで気づかなかった音が良く聞こえる。

外を行く空風の音。

遠くで走る誰かの足音。

自分の鼓動。

服が体を預けた襖にこすれる音。

気が付けば保母妖怪さんの悲痛な声は収まっていて、それにひどく安堵感を覚えた。

できればその寝息がいつまでも安らかであるようにと。

199 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 21:29:01 ID:865YO1d2
ナズ「結論としてだが」

男「ん、纏まったか」

ナズ「妖精すべてを救うのは無理だ」

男「それは」

ナズ「だからできるだけ早くこの異変を解決する必要がある」

ナズ「君はたしか地底に行くと言っていたけれど」

―――あ

そういえば聖さんと博麗神社に行かなければいけないということを忘れていた。

男「それについて聖さんと博麗神社に行くって約束が―――」

マミ「その約束なら昨日のうちに儂が終わらせておいたよ」

男「あれ、マミゾウ」

マミ「許可はとった。儂等がどう動くかも博麗神社に敵対しない限りは自由にしていいと」

男「それなら、これからのことは」

マミ「あぁ、かましてやろうじゃないかい。安心せよ。主は前を向いて進むだけでいい。矢雨も刀刃も全て儂が、儂等が払いのけてやろうぞ。のう、ナズーリン」

ナズ「はっ。こんな人間のために。と言いたいところだけど仕方がないからね。力を貸してあげようじゃないか。感謝したまえよ?」

200 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 21:31:33 ID:865YO1d2
相変わらず偉そうなナズーリンに心の中で噴き出しつつナズーリンの頭を支えに立ち上がる。

ナズ「ふぎゃっ」

男「できるかな」

マミ「あぁ、できるさね」

男「ありがとう。マミゾウ」

マミ「なぁに。若者を導くのも年寄りの務めじゃて」

201 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 21:42:11 ID:865YO1d2
次の日。子供たちが起きる前にはすでに寺を出ていた。

井戸水で洗った顔は冬の冷気で冷え、切れるような痛みを持つ。

どれだけ歩いただろうか。今まで小町に頼り切りだったため小町のありがたさが改めて身に染みる。

人間に見つからないように森を進むその先頭は白蓮さん。素手、手刀で草木をかき分け進む。

それに続くのが一輪、俺、マミゾウ。

俺意外はスタスタと進み、俺が行進の速度を遅めていた。

マミ「確かに死んでる木々がちらほらとあるのう」

一輪「えっと、どれ?」

マミ「あそこの灰色に乾いた木は死んでおるの。自然に死んだとは思えない数はある」

白蓮「なんと悲しいことでしょうか」

白蓮さんが立ち止まり近くの木に手をあてた。

マミ「ん?………ん?」

マミゾウが白蓮さんが手をあてた木をまじまじと見る。

マミ「………死んだの」

その言葉と同時に木が急速に痩せ衰え、乾いていく。

202 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 21:47:45 ID:865YO1d2
一輪「え!?」

マミ「急がねばな」

男「今日は妖精狩りをしている奴がいるはずだ」

マミ「えぇい、この速度では霊夢とばったり会ってしまうやもしれんぞ。仕方ない乗れ男!」

そういってマミゾウがしゃがみ込み、子供を負ぶるときのように両手を後ろに構えた。

男「いや、それは」

マミ「はようせい!」

男「あ、はい、すいません」

その声に押されてマミゾウの背に体を預けた。

身長的には俺より小さいが腕力で無理やり背負い、マミゾウが走り出す。

マミ「一輪! 殿は任せたぞ!」

白蓮「それでは行きましょう!」

一輪「え!? 姐さん! マミゾウ!! それはさすがに速い! 速すぎるから!!」

白蓮さんは疾風のように。マミゾウは野をかける獣のように進んでいく。

そして一輪の声はどんどん遠ざかっていった。

203 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 22:03:08 ID:865YO1d2
二人は速く、とても速くその甲斐あって予定よりも早く湖までたどり着いた。

霧に包まれた湖から冬の空気よりも冷え切った冷気は感じられずチルノが暴れてはいないことが分かる。

マミ「さて、どうしたものかの」

一輪「ふ、二人とも、飛ばしすぎ、ですよっ!」

マミ「遅い」

一輪「そんな無茶な………」

遅れてたどり着いた一輪が両ひざに手をあてて肩を上下させながら息を整える。

男(さて、チルノはこの湖の近くにいる。とは思うが)

俺はマミゾウの背から降りると霧の湖の畔を森の方に向かって歩き出した。

白蓮「手分けをしましょうか」

マミ「なら儂は男とこっちへ行くから主らは逆へ」

白蓮「えぇ、急ぎましょう、一輪」

そういって駆け出す白蓮さんにまたしても一輪がおいてかれていた。

204 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 22:06:04 ID:865YO1d2
マミ「我が眷族でも呼べば早いんじゃろうが朝はのう。あやつら寝とるじゃろうて」

男「眷族?」

マミ「ムジナよムジナ。狸と呼んだほうが通りはいいかの?」

あぁ、そういえば化け狸か。でも揺れる尻尾は狸のものではなくアライグマ………いや、化けだぬきだから尻尾も違うのだろう、きっと。たぶん。

男「マミゾウは夜行性じゃないのか?」

マミ「儂か? 儂は人間のほうに合わせておるよ。その方がいろいろと都合が良い」

男「ん、あれは」

マミ「………! 大妖精じゃな」

緑色の髪が草木の中で目立ちにくいが地面にへたり込んでいるのはチルノの親友である大妖精だった。

男「人間がいるのか!?」

彼女を守るために駆け出す。妖精を捕まえるのに使うのは瓶のはずだ。それさえ割ってしまえば

マミ「まて男!」

マミゾウがなぜか制止をする。

205 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 22:12:20 ID:865YO1d2
大妖精「!!」

その声でこちらに気づいた大妖精が

大妖精「い、いやぁっ!」

叫び声をあげて、這いながら逃げて行った。

マミ「驚かせてどうする! お主も人間じゃろうが!!」

男「そういえば………」

こっちは知っているが向こうにとっては初対面というのはなかなか困ったものだ。とっさの行動に現れる。

大妖精は立ち上がろうとしているようだが上手くいかず、まだ這っている。走ればすぐにでも追いつくだろう。

追いついて事情を説明すれば、と踏み出した足に切られたような痛みを覚え、足元を見る。

氷が俺の足をくるぶしの少し上あたりまで凍らせていた。

チルノ「いじめたな! 大ちゃんをいじめたんだな人間野郎!!」

チルノが両腕を組んで中空に浮いていた。

その瞳は俺が敵であると告げており、パキパキと音をたてながらツララが作られていく。その切っ先はすべて俺に向けられており。

しのぎ切れるかと考えては見る者の動きを封じられた状態でしのげる量では明らかにない。数本ではない。すでに十本以上は向けられており。一つでも刺さればかなりの傷を与えてくるだろうということが容易に想像できた。

チルノ「死んで反省しろ!」

206 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 22:23:12 ID:865YO1d2
ツララが飛んでくる。一本ずつではなく一斉に。

あ、無理だ。

せめて致命傷は避けなければと思い両腕で頭を隠す。

マミ「えぇいっ!!」

男「マミゾウ!」

飛んできたツララをマミゾウが両腕を振って叩き落す。

マミ「チルノ! ちょいと止まれ!!」

チル「………誰だお前!!」

マミ「冬になって少しは賢くなったと思ったがバカはバカか」

チル「誰がバカだ! 円周率だって20桁まで言えるんだぞ!!」

賢さの説明の仕方がバカであった。

なんて思ってる場合ではない。いくら力をこめようとも氷が食らいついて離さない。

マミ「結局は戦うしかないのか。とりあえず氷は砕いておくから逃げい!」

マミゾウが思い切り地面を踏みしめるとみるみるうちに氷がひび割れていく。

思い切り足を上げると氷は砕け、両足が自由になった。

207 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 22:37:45 ID:865YO1d2
マミゾウに言われた通り逃げる。わけにはいかない。森の方へ逃げた大妖精を追って走る。

そうするためには立ちはだかったチルノの攻撃をかわし潜り抜けなければならないが。

マミ「前向いて走れ! 儂が相手をしておくから安心せい!」

チルノ「あっ、こらっ。あたいを無視して―――」

マミ「だから相手は儂じゃぞ」

こっちへ手を向けて阻止しようとしたチルノだったがマミゾウ相手によそ見は厳禁で空中のチルノにマミゾウが飛び掛かって地面へ引きずり倒していた。

チルノ「いたぁっ! こらっ、離せぇー はーなーせー!!」

ジタバタと暴れるチルノの横を通り抜け森の中へ入る。まだ遠くに行ってないはずだ。最悪の事態だけは避けなければ。

208 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 22:41:34 ID:865YO1d2
森の中では大妖精の姿は目立たない。彼女の身長と髪色が森の中へ隠れるからだ。

這っていればなおさらだ。

注意深く、だけど速やかに進まなければならない。

だけれど白蓮さんのようにはいかず、無理やり草木をかき分けた代償として手足に細かな裂傷が生まれていく。

耳に入る情報と折れた枝と落ちた葉を目印にして探す。

折れた枝と落ちた葉の量が多い。どうやら大妖精の移動速度は予想よりも速いようだ。逃げられてしまう可能性もある。

大妖精「きゃぁっ!!」

男「!」

大妖精の叫び声。人間に見つかったのか!?

声のした方へ駆け出そうとした瞬間に衝撃。重いものが俺の体に降ってきて、耐えきれず俺は地面に倒れた。

209 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/11/20(日) 22:42:50 ID:865YO1d2
一体なんだと落ちてきたものを確認すると。

大妖精「い、いたた」

大妖精だった。

男「………やぁ」

大妖精「き、き」

再び叫びだそうとしたその口を両手で抑えた。

なにかとてつもなくしてはいけないようなことをしている気分で、いやその通りなのかもしれないが。

しかしその判断は間違っていたのか大妖精は両手両足を大きく動かし俺から逃れようとする。

何か、何か落ち着かせる方法でもあればいいのだがかける言葉もなにも思い浮かばない。

結果人間に見つからないように彼女を地面に組み伏せ、口を押え体力が切れるまで粘ることにした。

大妖精「んーっ! んうーっ!!」

間違ったことはしてない。

してないはずなんだ。

210 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/20(日) 22:43:58 ID:w2A70F8o
男の身長はどのくらいあるんだろう?

211 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/20(日) 22:57:08 ID:F.RyXFsY
乙!
東方の妖精はそこそこデカいけど、どうやってビンなんかに入れるんだ?それともそんなデカいビンを量産してんのか?

212 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/21(月) 00:37:41 ID:gE6FunJQ
どう見ても事案
しかし他に考えられる方法もなし。語りかけるにしても今の人間不信ではな……今は命蓮寺に世話になってるから、根気よくやってみるのもアリかも知れんが

213 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/21(月) 11:18:53 ID:Nq93F8kQ
というか、誰が大妖精を男の方に投げたんだ?

214 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/21(月) 15:11:23 ID:w2OWMya2
テレポート

215 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/21(月) 17:13:23 ID:Tlh3RJl2
その手があったか(某青ダヌキ風)

216 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/11/30(水) 20:23:54 ID:IuP23BTw
大妖精って筋力は弱いのかな?

217 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/12/05(月) 19:20:29 ID:sbqFdsYc
男「安心してくれ。人間から君を助けに来ただけだから」

なんて説得力のない台詞を吐いては見るが効果はない。

抵抗を続ける大妖精によって地面に落ちた枯れ枝がぺきぺきと音をたて、辺りに響いていく。

おそらく、このままでは

村人「おん? みねぇ顔だがお前さんも妖精狩りかい」

村人2「おぉ! よくやった。そいつはさっき逃げた妖精だ!」

見つかった。

二人組の村人。片方は瓶をいくつも腰にぶら下げており、もう片方は幅が広い鉈を持っていた。その傷つき具合から見て真っ当な使い方はされていないのだろうということが分かる。

瓶の中では小さくなった妖精がこっちを見て必死に瓶を叩いている。しかし音も声も聞こえない。

村人「よぉし。今日はこれで最後だな」

そういって瓶をぶら下げた男が空の瓶の蓋を開き、こちらへ向ける。

どういう理屈かは知らないが向けられただけで妖精が吸い込まれるってことは分かっている。

男「ちょいと待ったっ!」

地面を殴りつけるようにして反動で起き上がり、不意をついて瓶を叩き落とす。

パリンと瓶が地面に落ちて割れた。

218 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/12/05(月) 19:25:27 ID:KH/NXdUQ
http://slow-hand.jp/url/?id=899

219 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/12/05(月) 19:33:36 ID:sbqFdsYc
村人「お?」

突然のことに対応できてない男の襟首を押し、鉈を持った男にぶつける。

村人2「いってぇっ!!」

いけるか。人間二人ならば。

イメージトレーニングはばっちり。二人を近くの木にぶつければいい。蹴りや殴りよりもよっぽど簡単で威力も大きい。だができるのは今この一瞬だけ。

できるか俺。

やれるよな俺。

相手の重心は後ろに向いている。そのちょうど後ろに木。後ろに向いた重心を利用して押すだけだ。

男「恨みはねえが―――いやありまくりだぁっ!!」

チルノを傷つけた二人。今も大妖精を傷つけようとしている二人に怒りを向け突進。

220 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/12/05(月) 19:40:11 ID:sbqFdsYc
村人2「ぎっ」

イメージ通り体は動いてくれた。鉈を持った方は木に頭を強く打ち付け泡を吹いた。問題は瓶の方だ。後ろの男がクッションとなって大したダメージは入っていない。

男「そぉら! もういっちょう!!」

戦いの流れはまだ俺にある。まだ体勢を崩したままの男の頭を両手で掴み勢いをつけて木へ直にたたきつけた。

一度目。まだ意識がある。泡を食って俺に掴みかかろうとしたところに二度目。三度目、四度目、五度目。

男「はぁっ、はぁっ」

ぬるりと男の体が先に倒れた男に重なるようにして崩れ落ちた。木には鮮やかではない赤。俺の手にもべっとりとついたそれは白い煙をあげていた。

大妖精「な、なんで、なんでぇ?」

時間にして十数秒。突然目の前で起きた人間対人間に理解が追い付いていない大妖精が震えた声で疑問符を出す。

男「だから、言ったろ。助けに来たって」

肉体の疲れではなく精神の疲れから俺はその場にへたり込んだ。

パァンッ

男「熱っ」

突然頬に熱を感じた。次に衝撃。続いて痛み。

銃弾が俺の頬を掠めたと気づいたのは衝撃で揺らいだ脳がキィーンとなる耳鳴りの先でカランカランと薬莢が地面に落ちる音を聞いたから。

221 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/12/05(月) 19:47:44 ID:sbqFdsYc
眩暈と耳鳴りからくる吐き気を堪え後ろを振り向いたと同時に二発目を装填する音。

三人目。いたのかよ。知らねぇよ。

猟銃を構えた女が今度こそ外すまいと俺に狙いを付けていた。

それはちょうど女と俺と大妖精を直線で結んでいて、どうすれば二人とも助かるだろうかを考えては見るものの返ってくる答えは不可能であるとの結論だけ。

大妖精は死にはしない。だけれどもそこまで切り捨てる思考を持ってはいない。

マミゾウを呼ぶ。無理だ。いくら速くとも俺が声を出す前に撃たれる。

無理だ。無理だ。無理だ。もう無理だ。

見捨てれば。見捨てれば。見捨てれば。

見捨てれば!!

大妖精「や、やぁ、いやぁ」

―――無理。

222 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2016/12/05(月) 19:51:26 ID:sbqFdsYc
男「逃げろっ!!大―――」

ドンッ

大きな音。だがしかしそれは先ほどの銃声とは明らかに違う。

ならその音の原因は?

男「ようせ―――聖さんっ!?」

真空飛び膝蹴りをかました聖さんが原因だ。

白蓮「待ちましたか?」

男「聖さぁんっ!?」

223 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/12/06(火) 02:14:46 ID:48y6vBN6
銃見ちゃうと無理だよなー。まぁなー

224 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/12/06(火) 09:39:19 ID:NdxONQ7o
謎の瓶の仕組みの謎

225 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/12/07(水) 01:00:45 ID:7Rp36jUQ
ゼルダとポケモンが混ざったみたいな瓶だ

226 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/12/07(水) 08:34:51 ID:sUZsvpRA
さすひじ

227 以下、名無しが深夜にお送りします :2016/12/16(金) 23:02:17 ID:9Sd2luc6
やっぱり聖は強いな。

228 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/12(木) 11:10:15 ID:PsP.agmU
すいません。入院してました。

土曜には必ず更新をしますのでよろしくおねがいします

229 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/12(木) 15:50:11 ID:1K1kO59w
瓶の件は俺達が脳内補完するしかないっしょ まぁ、説明してくれるならありがたいが...

230 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/12(木) 19:23:19 ID:c3ke3fcE
年の初めからなんちゅうこっちゃい

231 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/12(木) 22:59:08 ID:RG0AQo3Q
のんびりと待っておきますよ。

232 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/14(土) 05:51:16 ID:49Vua3iA
主さん無理はしないでくださいね応援してます

233 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/14(土) 23:28:29 ID:Im.O.suo
膝蹴りを受け飛んで行った女は枯れ木にぶつかり地面に落ちて行った。動く気配はもうないし、動けたところで聖さんの前で何かできるとは思えない。

一輪「はぁっ、はぁっ、あ、姐さぁん!」

遅れて息も絶え絶えになった一輪がやってきた。一輪がやってきた方を見ると草木どころじゃなく細い木々までへし折られてけもの道ができていた。

聖「お怪我は?」

男「大丈夫です。それより」

後ろを向くと砕けた腰で這うように逃げる大妖精の姿。

無理もないとはいえかばったのにと少し傷つく。

マミ「なんじゃ、もうそっちは済んだのか」

心底残念そうに紫煙をはくマミゾウが

チルノ「もごーっ! もごーっ!!」

縛り上げたチルノを抱えていつのまにか立っていた。

大妖精「や、やっぱりぃっ!?」

マミ「そいつも縛り上げようか」

男「話ややこしくしないでくれません?」

234 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/14(土) 23:52:00 ID:Im.O.suo
男「あ、そういえば」

気絶した男二人のうち瓶を持っている方から瓶を回収する。

瓶の数は全部で11本。空が5本。中身ありが6本。

男「これ開けちゃっていいんですかね」

開けたら妖精が吸い込まれるってことは知っているが開けたら妖精が出てくるとは限らない。

下手をすればそのまま妖精が消えるなんてことも考えられる。

だって相手は摩訶不思議なのだから。

霊夢ならなんとかしてくれるとは思うができるだけ出会いたくはない。霊夢の行動に影響を与えてしまえば何が起きるかわからない。

一輪「姐さんならなんとかできませんか?」

白蓮「簡易な収縮回路と封印術なので簡単に解けますよ」

そういいながら瓶のふたを数回叩く聖さん。すると蓋が煙のように消え、中から妖精が大きくなりながら飛び出してきた。

聖さん万能説をここに唱えよう。

聖さんがすべての瓶の封印を解き終わると周りには新たに6人の妖精。

つい先ほどまで封印されていたにも関わらず妖精たちは無邪気にはしゃぎまわっていた。

235 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/14(土) 23:59:50 ID:Im.O.suo
チルノ「で、なんだお前ら」

縛り上げられていたチルノをほどき話を試みるとむすっとした顔でチルノに睨まれる。

男「妖精を助けに来た、と言えば信じてもらえるか」

チルノ「大ちゃん、なんかこいつに酷いことされてないか?」

大「お、押し倒されて押さえつけられて………」

事実だが誤認である。

一輪の蔑む目。

聖さんのとまどった表情。

さらに睨みつけてくるチルノ。

そして口を押えて笑い転げているマミゾウ。

完全にアウェーになっていた。

今まで何度も思ったが男一人の状況は時として難儀なことを招く。

おそらくここに霊夢がいたならば有無を言わさず鉄拳制裁されているだろう。

せめて、せめてぬえがいたならばと思ったが今、この世界のぬえに蔑まれたならばおそらく俺は死ぬ。

236 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/15(日) 00:07:38 ID:b/k4.7bc
男「いや、それは逃げようとするから仕方なく。ほら人間に見つかっちゃうと大変だから」

チルノ「お前人間だろ!」

男「人間だけどそういうことじゃなくてだ」

大「怖かったよぅ、チルノちゃん」

チルノ「やっぱり危ない人間じゃないか!」

チルノに抱き着く大妖精とそれをかばうチルノ。

傍から見たならば明らかに俺は悪い人間なのだろう。

そしてなぜか誰も弁解も助けもくれない。

男「妖精を助けたんだから敵じゃないってことはわかってくれ。大妖精を組み敷いたのだって悪い人間から助けるためだ」

チルノ「確かにそうだけど」

チルノからの疑いの目は晴れない。

チルノ「助ける理由は。見返りを求めてるのか? あたいたち妖精は何も持ってないぞ? ほら、理由がないじゃないか」

助けたいから助けたい。

そんな簡単な理由が簡単に通らない。

人間の戦力増強を防ぐためといえばいいだろうか。だがそれを知っている理由をどう説明する。

237 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/15(日) 00:17:45 ID:b/k4.7bc
チルノ「今のあたいはバカじゃないんだ。皆を守れる。守ってみせる。お前らはいらないね」

返答に窮していると続けてチルノが俺を責める。

おそらく、おそらくだがこのチルノに嘘は通じない。

そんな凄みが冷気とともに伝わってくる。

チルノ「で、どうする気だ人間。やるのか。ここで」

チルノの手のひらにみるみるうちに氷の塊が出来上がる。

それを合図に解放した妖精全員が俺に両手を向けじっと見つめていた。

チルノ「助けてくれたことだけには感謝するけど。あたいたちにお前らはいらない」

男「違う」

チルノ「助けてやろうって上から目線が気に食わないよ。あたいたち妖精は弱いけど、妖精は強いんだぞ!」

男「違う!」

助けにきたのは確かだ。

だが上から目線で言ったわけじゃない。消えてほしくないからだ。俺は俺のためにこの幻想郷でおきる悲しみを消さなければならないんだ。

だから

男「助けてもらいたいのは俺のほうなんだ」

238 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/15(日) 00:26:25 ID:b/k4.7bc
そうなんだ。

助けてもらいたいから助ける。

そんな単純な理由なんだ。

上下関係なんてない。手をつないでもらえればきっとこの心の震えは収まるから。

男「助けてくれ………っ チルノ……っ!!」

両手をついてチルノに頭を下げる。

俺のその行動に回りの妖精がざわつき始めた。

チルノ「妖精に頭を下げる人間なんて初めて見た。人間に助けを求める人間も初めて見た」

チルノ「どうする大ちゃん。あたいは、あたいはなんとなくだけどちょっと信じてもいいかなって思ってる。理由はなんだかよくわからないけど今あたいはすっごいうれしいんだ」

チルノ「本当にわけがわからないくらい今、あたいはうれしいんだ」

大妖精「チルノちゃん………」

頭を上げる。

そこにいたのは俺が知っているいつものチルノだった。

恥ずかしそうにくすぐったそうに笑うチルノだった。

239 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/15(日) 00:46:09 ID:b/k4.7bc
一輪「はぁ、なんだかよくわかんないけど話はまとまった、のかしら?」

白蓮「きっと世界が変わっても変わらないものがあったんですよ。偶然かもしれませんけど」

一輪「そんなもんですかね」

マミ「縁は力よ。今生を超えてもなお続くものよ。袖振合うも多生の縁というじゃろうが」

マミ「きっと変えてくれるよあの若造は」

一輪「マミゾウはなんであいつの事信じれるのよ」

マミ「儂がなぜ奴を信じれるのかって?それはの。ぬふ、ぬふふふふ♪」

一輪「なにその意地の悪い笑い方は」

マミ「秘密よ秘密」

一輪「あ、なにそれ。卑怯じゃない? どう思います姐さん」

白蓮「私は彼を信じていますから」

一輪「姐さんはそういう人ですからね。姐さんの事は尊敬してますけどそのお人よしはどうにかした方がいいと思います」

白蓮「ふふ。ナズーリンにもそう言われます。でも私はこんな私が好きなのです。私はきっと人を疑うほど心が強くない。五濁悪世に飲まれても蓮華の花をただ待つほどに」

一輪「わが身愚鈍なればとて卑下することなかれ、って姐さん昔言ってませんでしたっけ」

白蓮「あら。あらあら。うふふ」

240 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/15(日) 00:57:35 ID:b/k4.7bc
チルノ「わかった、あたいはあんたを助ける! 守ってやる!」

男「ありがとう。チルノ」

チルノ「だからお前は今日からあたいの子分だな!」

大妖精「わぁ! よかったねチルノちゃん!」

いつの間にか子分にされ、まわりからの拍手に飲まれる。

子分になるだけでチルノを仲間にできるなら安いものだが。

師匠師匠と呼ばれていたあの時から一転。

まぁいいか。チルノに救われていたのは本当のことだし。

教えてたことも特にないし。

白蓮「では話がまとまったようなので命蓮寺に戻りましょうか」

男「あ、はい。そうですね。子供たちを星さん達に任せっぱなしなのもあれですし」

一輪「ま。子供がさらに増えたんだけどね」

チルノ「あ! 今あたいを馬鹿にしたんだな? そうだな?」

中身はともかく外見は幼いとは言えないチルノである。霊夢よりも大きいし。

241 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/01/15(日) 01:09:15 ID:b/k4.7bc
男「すまないけど人手不足なんだ。チルノにも子供たちの面倒を見るのを手伝ってほしいんだ」

チルノ「仕方ないなぁ。まぁあたいは余裕ってものがあるから手伝ってやろう。新しくできた子分の面倒をみるのもあたいの役目だからな。子分のために、そう子分のために!」

大妖精「きゃー! チルノちゃん素敵!」

チルノ「じゃあお前らはほかの妖精を連れてきてくれ」

「あいあいさー」

チルノの命令によって妖精たちが散り散りに飛んでいく。おそらく人間に捕まることはないと信じたいが。

やはり他の妖精に命令できるほどに今のチルノは強大なのか。妖精が力に従うかどうかはわからないが中心人物となれるなにかがチルノにはあるのは確か。

どこか不思議な魅力を感じるのはチルノの人柄からだろう。

まっすぐで熱い心を持つそんなチルノだからだろう。

白蓮「では帰りましょう。走りますよ」

一輪「待って姐さん。誰もついていけない」

マミ「儂はついていけるぞい?」

一輪「マミゾウだけしかついていけないから!!」

そんな一輪の声はチルノと大妖精を抱えた聖さん、俺を背負ったマミゾウには届かなかったらしく一輪の悲しみの叫びはどんどんと後ろに遠ざかって行った。

242 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/15(日) 12:45:34 ID:TTb/tJSQ
霊夢より大きいって、そマ?

243 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/15(日) 15:24:24 ID:9qPx5smI
冬だから大きくなってるって確か一周目で言ってた

244 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/19(木) 15:47:07 ID:w3a9xUTc
主にどの部分が?

245 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/19(木) 21:47:30 ID:GJjZo9bY
150cmとかになってなかったっけ

246 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/23(月) 11:10:59 ID:X6WMRnvM
来たか

247 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/23(月) 16:36:23 ID:azUzFNCU
信じてもらうために信じる 当たり前だけど、大切なことだよな

248 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/01/30(月) 23:38:07 ID:0PDsz5DM
楽しみ

249 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/02/18(土) 07:27:18 ID:7m1iADqc
待ってるぞ
そういえばこの展開になって最初は四季映姫がヒロイン感ありまくりだったのに、いつのまにか全く出なくなったね

250 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/02/20(月) 22:29:08 ID:AjS/F5/E
某ゲーム風に例えるとしたら
真の平和主義者ENDを目指しているってとこかな?

251 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/03/19(日) 15:06:49 ID:XldCc.mk
乙です!

252 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/03/24(金) 23:40:49 ID:QyxJsnSU
楽しみ

253 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/03/25(土) 04:58:50 ID:/ow/yvFA
https://www.girlsheaven-job.net/10/yubou_kuraya/

254 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/03/28(火) 23:53:32 ID:LXhIelKg
ksk

255 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/04/07(金) 12:23:09 ID:wZJmGfmo
さっさと更新してくれないかな・・・
skypeで連絡しようにも一週間返信ないし・・・
俺に才能さえあれば、乗っ取ってやるんだけど・・・

256 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/04/09(日) 20:06:04 ID:YDMRdf1o
乙です!

257 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/04/16(日) 22:10:24 ID:obr4KIvs
すいません、病院逆戻りになってました

258 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/04/16(日) 22:28:41 ID:obr4KIvs
ナズ「さてさて、ずいぶん人………人なんて君しかいないけどここも手狭になったもんだ」

子供たちと戯れる妖精を身ながらナズーリンが大きくため息をはいた。

手狭も手狭。敷地はある程度あるとはいえ所詮寺。その中に百をも超える数がいれば窮屈に感じるのも当然だ。

男「さて、問題はここからなんだが」

膝の上にのった犬耳娘の頭を撫でながら考える。

犬耳娘「ちょ、ちょっと男お兄さん?」

これだけの人数を移動させるのは難しい。これだけの数が移動したならば確実的に目立つ。妖怪にも人間にも。そのどちらに見つかっても良い結果にはならないはずだ。

ならある程度分けて地底と往復させる?

犬耳娘「くすぐったいよぅ」

間に合うのか? 聖さんたちが亡くなるタイムリミットまでに。

どっちをとってもリスクはある。両者平等に重いリスクがある。どちらが軽いかは運命を見れない俺には分からない。

運命………そういえば霊夢は今頃レミリアのところにいるのだろう。ふざけた魔法使いはきっとフランとパチュリーに倒されている。

レミリアに会いに行けば運命を見てくれるだろうか。いや霊夢がいない今紅魔館に行ってもよくて門前払い、悪くて夕食になるだけか。

犬耳娘「ひゃ、ひゃぁ」

ナズ「変態」

259 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/04/16(日) 22:33:36 ID:obr4KIvs
ふと顔を上げるとナズーリンが前と同じく冷たい目で俺を見ていた。

男「な、なんだよ」

ナズ「変態、変態男、君は私もそういう目で見ているのかい? 汚らわしい」

犬耳娘「わ、わふぅ…」

男「な、なんでいきなりそんなこと言うんだ? 俺は今一生懸命これからのことを考えているっていうのに」

ナズ「じゃあ撫でるのをやめたまえよ。大の大人が少女を抱きかかえて頭をなでるのはいかがわしいのだよ」

―――そういえば撫で続けていた。

撫でるたびにぴこぴこと動く耳が面白くて無意識で撫でてしまっていた。

膝の上でゆでだこになっている犬耳娘を下してナズーリンに弁解をする。

結局ナズーリンへの弁解に時間を使ってしまい考えは纏まらなかった。

260 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/04/16(日) 22:41:49 ID:obr4KIvs
弁解が終わりようやくナズーリンの冷ややかな目から見下した目に変わったのでどうにかできないものかとナズーリンに意見をあおぐ。

帰ってきた答えは単純だが奇奇怪怪、意味不明なものだった。

ナズ「飛べばいいと思うけど」

もちろんここに飛行機なんてものはない。あったとしても滑走路もパイロットもいない。

頭の中に浮かぶはてなに押されて返せた言葉はただ一言

男「―――へ?」

なんて間の抜けた返答だけだった。

ナズ「あぁ、君には言ってなかったね」

ナズ「この寺は船で空を飛ぶんだよ」

再びはてなで埋め尽くされる頭。

寺は船じゃないし船は空を飛ばない。

どっからどうみてもここにあるのは寺で船ではない。

何一つ繋がらない単語に俺は混乱して目を泳がせた。

ナズ「だろうね。外の世界で船は飛ばないらしいからね」

ナズーリンがやれやれと肩をすくめたあと寺の方に向かって「ムラサー」と呼びかけた。

261 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/04/16(日) 22:55:40 ID:obr4KIvs
水蜜「はいはい、私忙しいんだけど?」

白い帽子を左手に持ち、右手で髪をかきながら村紗がやってきた。忙しいという割には全然忙しそうには見えないのだが。

ナズ「口の端に米」

水蜜「嘘!?」

とっさに口の端に手を当てる村紗。それを見てナズーリンはにやにやとした笑みを浮かべ小さい声で笑った。

ナズ「またつまみ食いしたね?」

水蜜「どうか姐さんには、どうか姐さんには〜」

ナズーリンに土下座に近い形で素早く頭を下げる村紗がいた。それを見おろしながらナズーリンがさらににやにやと笑みを浮かべる。

ナズ「ま、今はそんなことはどうでもいいんだよ。とりあえず船長」

水蜜「船長? あぁ聖輦船の話かな? 準備はできてるよ」

立ち上がって力こぶを作るようにポーズをとる村紗。セーラー服の袖がずり落ちて白い二の腕が露わになった。

262 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/04/16(日) 22:57:31 ID:obr4KIvs
いや、二の腕はどうでもいい。準備? なんだそれ。

準備に関してはどうやらナズーリンも初耳だったようで村紗に聞き返した。

水蜜「あれ、ナズーリンも聞いてないの? 姐さんが久しぶりに聖輦船を飛ばすって言うからいろいろ点検してたんだよね。結果全部大丈夫だったから問題なく飛ぶよ」

ナズ「聖はやけに思いきりが良いところがあったけどまさかあの時点で決めてたとはね」

男「まってくれ。やっぱり話についていけない」

ナズ「君はこっちの常識をまだ受け入れられてないのかい? 鬼も天狗もいるこの世界で船が飛ばない道理があるかい?」

あるよ。きっとたぶん。

………ないか。

謎の説得力。なんだここでは俺の常識にとらわれてはいけないのか。

もしかしたらこの世界だと月で兎がもちをついてるんじゃないだろうか。

なんてことはさすがにないか。

263 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/04/16(日) 23:01:44 ID:YkR3DYp6
https://www.girlsheaven-job.net/10/yubou_kuraya/

264 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/04/16(日) 23:11:16 ID:obr4KIvs
ナズ「とにかく君の心配はもうない今想定しうる一番安全な方法が可能となった」

ナズ「人間は空を自由にはできないからね。ある程度不安要素はあるけど地上に比べたらないようなものだよ。それに聖たちもいるから大丈夫さ」

いたずらを自慢する子供のような笑顔―――本当さきほどから碌でもない笑顔しかないがそんな笑顔でナズーリンはこう続けた。

ナズ「まぁ。君は大船に乗った気持ちでいいのさ。毘沙門天の加護ぞありってね」

水蜜「確かに大船だけどナズーリンが威張ることでもないよね。寅の意を借るネズミ? 大船のネズミ? まぁネズミはいくらいても山に登れないしむしろ船底に穴あきそうで怖いなぁ」

ナズ「むっ。うるさいなぁ。こんな時ぐらい悦にいってもいいだろう? ただでさえ私は弱いんだから、さっ!」

水蜜「いだぁいっ」

水を差した村紗の足小指をナズーリンが思いっきり踏み抜く。村紗は踏まれた小指を押え大きく数度飛び跳ねた。

申し訳ないが流れ弾が怖いので擁護するつもりはない。

俺だって皆の意を借りてるようなもんだし、と腕を組んで村紗を睨むナズーリンに対して脳内で言い訳をした。

265 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/04/16(日) 23:30:01 ID:obr4KIvs
水蜜「おー痛い。で、私に用ってそれだけ?」

ナズ「そうだよ。だから君は用無しだ。しっしっ」

水蜜「私の扱い悪くない?」

ナズーリンが村紗の腰を両手で廊下の曲がりまで押して行った。村紗は何度か文句を言っていたがナズーリンは一切耳を貸すことなく最後は村紗を蹴りだしていた。

理不尽なところがナズーリンらしいがそれでいいのだろうか。本人曰く弱いらしいのに。

ナズ「ん? なんだいまた考え事かい?」

男「なんでもない。それより寺……船が飛ぶ話だけど」

ナズ「聖に確認をとってくるよ。君はそこらへんで少女の頭でも撫でているといい」

男「言葉に棘がある」

何かした覚えはないのだが、なぜかナズーリンは不機嫌である。

ててととと廊下をかけていくナズーリンを見送って縁側から庭を見る。

妖精も子供も一緒になって遊ぶ風景。

一旦の平和がそこにあった。

266 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/04/17(月) 16:32:06 ID:P2CxT.7g
それはそうだが、一旦でしかないという……

267 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/04/18(火) 22:45:37 ID:uVQoZB/o
だよなぁ・・・(泣)

268 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/04/20(木) 13:42:03 ID:vZZgShn.
紫のとこの男が死んだのはいつだ?

269 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/04/22(土) 11:52:12 ID:SVS5gQqw
人妻
http://galscom.eek.jp/zds06/00/

人妻とヤレる
http://galscom.eek.jp/zds06/000/

おばさん
http://galscom.eek.jp/zds07/0001/

地域別|
http://galscom.eek.jp/zds05/0001/


http://galscom.eek.jp/zds11/00/

逆サポ
http://galscom.eek.jp/zds12/00/


http://galscom.eek.jp/zds15/00/

書き込み一覧
http://galscom.eek.jp/zds17/00/

270 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/04/29(土) 10:41:35 ID:ws7IXqpc
乙です

271 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 12:55:17 ID:sH0k4KCw
白蓮「捕まえてきました」

文「これはどういう状況なのですか!?」

その日の夜。夕食の場に聖さんがいないと少し騒ぎになっていた。

星さんも誰も聖さんを見ていない。寺の外に出て行ったところも誰も見ていないという。

混乱する皆をナズーリンが「まぁ、聖だし大丈夫だろう」の一言で静め、並べられた夕食の前で全員が待機していた。

ぐるると喉を鳴らす星さん。つまみ食いをするぬえと村紗を止める一輪。おとなしく待つ残り。そんな中黒い羽の生えた女性を聖さんが引きずって帰ってきた。

ナズ「………どんな状況なんだろうね」

272 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 13:07:18 ID:sH0k4KCw
話を聞くと夜空を見上げていたところ見知った鴉天狗が飛んでいたので、ジャンプして捕まえたらしい。

にこにこと笑っている聖さんだがその行動はまさに破天荒である。首根っこをつかまれ引きずられた女性は大きな目を何度も瞬かせこの状況を必死に理解しようとしているらしい。

理解できていないのはこっちも一緒で星さん以外は唖然としている。星さんは料理を見つめて喉を鳴らしていた。

白蓮「確か今、地底に暮らしていると伺っています」

文「あやや、確かにそうですが。なぜあなた方が私を………はっまさか人間達の」

ナズ「それは天地がひっくりかえってもありえないよ。私たちは初志貫徹して妖怪と妖怪の味方の味方だ」

一人合点して顔を真っ青に染めた女性にナズーリンが突っ込む。

男「あの、ところでその人、誰なんです?」

文「人間がいる、やはり―――っ」

ナズ「君のところにだって人間はいるだろうに。ほら確か子供と白衣を着た男がいたはずだ」

一輪「なぜ知ってるの?」

ナズ「………それは今はどうでもいいだろう」

水蜜「あっ、ひとりでこっそり温泉に行ったな!?」

ぬえ「うわっ、卑怯」

ナズ「どうでもいいだろう!?」

273 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 13:35:37 ID:sH0k4KCw
ナズーリンが隠れて温泉に行ったという事実に一輪さん達がざわめいたがナズーリンの一喝でしぶしぶと治まる。

ナズ「こほん。それじゃあ紹介するよ。これは鴉天狗の射命丸 文。天狗のくせに今は地底にいるゴシップ三流記者さ」

文「紹介に悪意がありませんか? えーっとご紹介にあずかりました鴉天狗の射命丸 文です。清く正しくをモットーに皆さんが知りたい情報を伝えるしがない文屋でございます」

ナズ「皆が知りたいことに合わせたゴシップだろうに」

文「………いいですけど別に。それで私が連れてこられた理由をいい加減教えてもらえませんか? 私だって暇ではないのです」

白蓮「一つお願いがありまして、ちょっと座ってお話しましょう」

文「では離していただけませんか。逃げませんから」

白蓮「ダメですよ」

聖さんは射命丸さんを片手で持ち上げて自らのひざに座らせた。そのまま後ろから囁く形で話を続ける。

白蓮「私たちも地底に行こうと思うのですが、その使者になってはいただけませんか。いきなり船でいくというのも失礼ですからね」

文「あ、首筋はダメです、あ、あややっ」

首筋に息がかかるたび射命丸さんが悶える。その後射命丸さんが承認するまで白蓮さんは囁き続けた。

本人は無意識らしいが。

274 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 13:52:08 ID:sH0k4KCw
文「ひとつ聞きたいのですが。いや聞きたいことは山積みですけども」

ようやく開放された射命丸さんが正座をした状態で右手を上げた。

文「貴方達は確か中立、というより不干渉でしたよね。そんな貴方達がなぜ?」

もっともな質問だ。だがその質問に返せる答えがぱっと思い浮かばなかった。

ナズーリンが目をそらし聖さんはニコニコと笑う。帰ってこない返事に射命丸は頬を掻いて続けた。

文「貴方達を連れた結果地底が何かの災禍に巻き込まれる可能性はありますよね。あなた方が逃げるぐらいの何かがあるのですか? さっきは負けて了承してしまいましたが流石にその理由を聞かなければ協力はできませんし場合によっては全力であなた方を阻止します」

文「命に代えても、あの人達を危険にさらすわけにはいかないのです!」

射命丸さんの剣幕に気圧される。彼女の言う事は正論であり、ごまかしたり避けたりはできない。もしそうすればきっと信頼など築けないだろう。

文「答えてください。聖さん。いえ、そこの人間でしょうか」

向けていた視線が聖さんから俺に移る。原因が俺にあると考えているのだろう。たしかにその通りだ。

だが一つ訂正するならば逃げるのではない。救いにいくのだ。だがこんなちっぽけな一人の男が救うといっても説得力は微塵もない。

だが一つ、説得できるとしたらばそれは俺ではない。

男「ついてきて、くれますか」

文「その先に納得できるものがあるのならば」

275 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 14:09:54 ID:sH0k4KCw
縁側にでると子供と妖精の騒ぐ声が聞こえる。楽しそうでなによりだ。

文「子供の声?」

男「ついてきてください。こっちです」

子供達がいる部屋とは真逆の部屋。出来るだけ静かにすごせるようにと選んだこの部屋に寝ている人ならば射命丸さんを説得できる。

おそらく、博打ではあるが。

襖を開けると遠くから聞こえる子供達の声に嬉しそうに耳を傾ける女性。

文「あや、あやや? 保母妖怪さんではないですか」

保母妖怪「! あら、その声は…射命丸様、ですか?」

俺を押しのけて射命丸さんが部屋の中に入る。その際さらに大きく開かれた襖から月の光が入り保母妖怪さんを照らした。

文「すみません。理解できません」

文「腕を切られた同胞を見て私になにを思えと?」

保母妖怪「あの、どうしたのですか?」

男「彼女達の命を救おうとした結果です、座ってください。一から話せば納得しますか?」

文「それが納得できるのなら」

276 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 14:21:53 ID:sH0k4KCw

保母妖怪「未来を知っているのですね」

文「いや、そんな馬鹿な話」

保母妖怪さんはあっさりと俺の話を信じてくれた。射命丸さんは当たり前だがそれに対し困惑。

文「なんで貴方はそう簡単に信じているんですか? 見た感じただの人間ですよこの人。巫女でも科学者でもないただの人間ですよたぶん」

保母妖怪「子供達が貴方を信じていますし、私もなぜか貴方を知っている気がしていたんです」

柔らかく保母妖怪さんが微笑む。その後傷口を労わる様に撫でた。

保母妖怪「私を守ってくれたのですよね。男さん」

男「そんなこと無いです。守れなかった。霊夢みたいにはなれなかった、ですからね」

保母妖怪「頑張りましたね」

保母妖怪「頑張ったんですよね」

277 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 14:34:39 ID:sH0k4KCw
文「ダメです。まだ納得できてないです」

保母妖怪「射命丸様」

文「理論も根拠も結局ないではないですか。記者に大事なのは分析して正しい情報を抽出すること」

文「感情論やなんやでほだされる私ではないのです」

ダメだったか。保母妖怪さんが味方をしてくれるならなんとかなったと思ったんだが。

文「一応聞いておきます。前の世界では私たちはどうなったのですか」

男「死にました。詳しくは知りませんが地底にいた全員が死んでしまったそうです」

男「逃げてないです。逃げるために地底にいくのではないのです。皆を救うために地底に行くんです」

文「ありえません。ありえませんね。こっちには私も鬼も土蜘蛛もさとり妖怪もいるのですよ? 幻想郷の嫌われ者が集まった地底が全滅? ふ、ふふふ。情報が足りなかったみたいですね。そんな骨董無形な」

男「死にます」

文「地底にいる『全員』? 人の神経を逆なでするのもいい加減にしてください、よぉ?」

278 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 14:49:56 ID:sH0k4KCw
肩がつかまれる。強く痛いほどに握り締められ、大きく見開かれた目で俺をにらむ。

文「あの人が死んでたまりますか!! あの人が!!」

保母妖怪「射命丸さんっ」

保母妖怪さんが這ってきて射命丸さんを止めようとする。その姿を見て射命丸さんは深く息を吐きながら肩から手をどけた。

文「………すいません。ただやはり信用できそうにないです。ただし保母妖怪さんをここにおいて置くのも気がひけます。子供達も妖精たちもいますからね」

文「聖 白蓮と星 寅丸の両名が私たちに隷属する。その条件付なら認めましょう」

男「無茶を言いますね。俺がここでそれを飲んだところでほかが納得するとは思えませんが」

文「他が納得するかはどうでもいいんです。納得するでしょう? あの二人なら」

確かにその通りだ。聖さんなら受け入れる。星さんも受け入れるだろう。だがそんな条件を飲むわけにはいかない。ひいてもらっている手を鎖につなぐわけにはいかないんだ。

星「構いませんよ」

葛藤している俺の後ろから声がかかった。いつの間にかたっている星さんが俺の頭に手を当て撫でる。

星「しかし、私だけでいいでしょう?」

男「ダメですよ、星さん。そんなこと」

星「いいではないですか。時には皆を助けさせてください。私の意味を遂げさせてくださいな」

くしゃくしゃと星さんが俺の頭を撫で反論を封ずる。

279 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 18:38:14 ID:sH0k4KCw
文「分かりました。不躾ですみませんね」

星「いいのです。私も貴方の立場は分かってるつもりですから」

文「時間ですが明日の明朝にここを出ます。私が先導しますがそちら見張りを何人かつけてください。流石に目立ちますから」

星「私は向こうでどうすればいいのですか?」

文「言い方は悪いですが人質です。おとなしくしてくれれば何も言いません」

二人の間で次々となされていく決まりごとや予定。それに口が挟めず俺は軽く項垂れた。

自分の思うこと全てがその通りに行くわけがない。

神も仏も誰も彼も俺を特別扱いしてくれるわけじゃない。

いくら未来を知っているからといっても小説の主人公ほど完全無欠にはなれない。

なろうと努力はしているといっても結果が出なければそれは言い訳にしかならないのではないだろうか。

もし、もし俺がもっと強くて特別で、未来は知らなくても皆を守れるほどの力を持っていればもっと楽だったのだろう。そしたら星さんだって。保母妖怪さんだって。

だがそうではなく、犠牲が一人増えた。

次の犠牲は―――誰なんだろう。

280 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 18:58:52 ID:sH0k4KCw
早朝。まだ日も顔を見せてない時間にナズーリンに起こされる。

遠くの音を聞くと幾人かが慌しく駆けていることが分かった。

寝床から這い出るといつにもまして冷たい空気。眠気は一瞬で吹き飛ばされた。

ナズ「準備をしたまえ、といっても君になんの期待もしていないから彼女、保母妖怪のところで労わってあげるといい。出発は少しゆれるからね」

それだけ行ってナズーリンも慌しく部屋を出て行った。残された俺は急いで服を着替え外へ出る。

水蜜「マスト立ててー」

一輪「雲山よろしく」

そのとき俺は目を疑った。

今まで見ていた寺がなくなっていた。いや、寺はある。しかし寺の中央に大きく刺されたマスト。

これを見て誰が寺だと思うのだろうか。

281 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 19:30:05 ID:sH0k4KCw
々と張られていく帆。並べられた巨大なオール。それはまだいい。

地面が無い。昨日まで土があり、子供達が走り回っていたところにあるのは木板。

遠くに見えるのが海ではなく変わらぬ森だということに安心はしたけどこれからどうなるんだ。

やっぱり飛ぶのか。飛ぶんだろうなぁ。

ナズーリンの言っていた出発するときには揺れるということ。つまりやっぱり飛ぶのか。

なら早く保母妖怪さんのところに行ったほうがいいだろう。

慌しい空気の中に身を投じて保母妖怪さんの部屋へ向かう。

その途中大部屋から弾むような寝息が聞こえて少し笑う。

なんだかさわやかな朝だ。

このさわやかな気分が続けばいいのだが。

なんて後ろ向きな考えはやめよう。

場所も変わって心機一転、昨日のことは悔いはしたが引き摺れば進歩はない。

それが昨日俯いた俺に対し星さんが言ったことだ

282 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 19:51:26 ID:sH0k4KCw
保母妖怪さんは静かに寝ていて、痛みに呻いてないことに安心する。

起こすわけにはいかないので中央に敷かれた布団にゆっくりと近寄る。

出発に備えて対処できる距離。すなわち布団のすぐ傍。

規則正しく上下する胸から視線を動かすと安らかな寝顔。射命丸さんよりは年上に見えるが聞いたところによると年下らしい。というか射命丸さんは天狗の中でもかなり年上のほうらしい。

そのことに言及すると嫌な予感がしたので言わなかったが。

文さんほど華やかではないがしっかり整った顔。地味な印象は受けたが子供と一緒にいるときの笑顔はかなりのものだ。

きっと将来いいお嫁さんになるのだろうなと下世話な意見を浮かべる。

………ぬえと仲直りできないかなぁ。

仲たがいしたわけではないけども。

283 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 20:04:42 ID:sH0k4KCw
っと、そんなことは今はどうでもいい。

いつ出発しても良い様に構えていないとな、と思っていると床から微かに振動が伝わった。

飛ぶのだろう。保母妖怪さんが転げないように布団の上から抑える。

保母妖怪「あの、なにを?」

男「今から―――」

何か勘違いされている気がする、せめて弁解をと思った瞬間にひときわ大きな振動。

地響きを立て体が左右に揺さぶられる。その直後に気持ちの悪い浮遊感が襲ってきた。

保母妖怪「あぁ、そうなんですね」

耐える俺と違って平気な顔をして納得している保母妖怪さん。が、振動が傷に響いたらしく顔をゆがめた。

男「大丈夫ですか? 保母妖怪さん」

保母妖怪「えぇ、なんとか。それより男さんのほうが辛そうですが」

男「大丈夫です。平気です」

とは言うものの血液が揺さぶられる感覚。貧血のような気持ち悪さに襲われている俺はちゃんと笑えているのだろうか。

284 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 20:43:35 ID:sH0k4KCw
「よぉそろー!!」

振動がある程度収まり浮遊感もある程度軽くなる。

どうやら離陸には成功したらしい。布団を押さえている手をどけ、座ったまま背伸びをする。

保母妖怪「子供達は大丈夫でしょうか」

心配そうな保母妖怪さんの声の後に聞こえる喝采に保母妖怪さんは顔を綻ばせた。

保母妖怪「まだ満足に飛べない子がほとんどですから楽しいのでしょうね」

保母妖怪「男さんも見てきたらどうですか?」

男「すいません、俺高いところ苦手なんで」

主に幽香のせいで。

とりあえず久々にゆっくりできそうだからゆっくりさせていただこう。

まだ朝日も出ていない。まどろむには十分で保母妖怪さんの横で座ったまま目をつぶる。

久しぶりに良い夢が見れそうな、なんだかそんな気が―――

285 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/05/01(月) 20:51:43 ID:TuceY1Fw
前回とは違う展開で面白い。

286 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 20:52:33 ID:sH0k4KCw
???「お久しぶりですね」

気がついたら闇の中にいた。

そしていつものように目の前に暗闇なのになぜか見える鱗の人。

男「またあんたか」

???「はい、いつも苦労をおかけします」

男「って思うならもう少し情報をくれ」

???「これで聖 白蓮たちの命は救われましたね。これが霊夢のためになればいいのですが」

男「話聞いてる?」

???「! もう、ダメですか」

男「ねぇ」

???「引き続き頑張ってください。貴方だけが頼りなのです―――」

男「おい」

287 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 21:01:50 ID:sH0k4KCw
男「何か教えてくれよ」

何か教えてくれってなんだよ」

どうやら寝ぼけているらしい。周りを見渡すと少し驚いた顔でこっちを見ている保母妖怪さん。

保母妖怪「なんだかうなされていましたが」

男「悪い夢、ではなかったはずなんですけど。良い夢でなかった気もするけど」

つまり普通の夢。覚えていない夢の感想なんてそんなもんだ。

男「着きました?」

保母妖怪「まだみたいですね。見てきてはいかがですか?」

思い出にある空はいつも吹っ飛ぶような速度で後ろに消えていく。

思い出すだけで寒気がするがもうそろそろその思い出を書き直してもいい頃だろう。

男「そうですね。言ってきます」

保母妖怪「あのっ」

男「? なんですか?」

保母妖怪「私も連れていってくれませんか?」

288 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/05/01(月) 21:18:19 ID:sH0k4KCw
外に出ると強い風。部屋の中では分からないのが不思議なほどの風だった。

ナズ「はいはい、子供は部屋にって、男かい」

男「ナズーリン。あとどれくらいなんだ?」

ナズ「一時間もかからないよ。だけど何回か妖怪に襲われているから部屋に戻りなよ」

男「他の人はどこに?」

ナズ「村紗は操舵、射命丸と聖はびっくりして襲い掛かってくる妖怪の迎撃。私は見回りだよ。たまに妖精が逃げ出すからね」

ナズ「そうだ、君はどうせ暇だろう? 妖精たちの相手をしててくれないか?」

と決め付けられ仕事を与えられる、確かに暇だから構わないが。

出来ることはする。出来ることがすくないからやる。

男「了解です」

おどけて敬礼してみるとナズーリンは満足そうな顔をして去っていった。

外見が子供に近いからそんな仕草も可愛らし………くはないな、やっぱり。

289 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/05/04(木) 19:07:02 ID:QDyZkuPE
乙です!

290 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/05/06(土) 23:26:48 ID:nhxzyPqI
おつ!

291 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/05/07(日) 00:21:41 ID:OM9pv.2k
乙!

292 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/05/09(火) 01:24:57 ID:ts7eQVt2
頑張ってくれ

293 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/05/30(火) 19:39:09 ID:5Kc/IUx6
やっぱ面白いなあ

294 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/06/02(金) 14:46:42 ID:qGWYXiCc
星「いやはや」

部屋に入ると星さんの声がした。しかし声はしても姿は見えない。

その代わりにあるのが子供と妖精でつくられた団子。何かに子供達が群がっていた。

多分、おそらく、いや確実にあの子供達の中にいるのは星さんだろう。子供達の声の合間を縫って困った声が聞こえてくる。

男「おい、あれなんだ?」

犬耳娘「ひゃい!?」

子供達の中に混ざらず一人で人形遊びしていた犬耳娘に事情を聞く。

話によると星さんが用意したおもちゃに子供達が群がっているらしい。

男「犬耳娘はいいのか?」

犬耳娘「わ、わたしはこれがあるから」

そういって汚れた、いや年季の入った人形の頭を撫でる。ここまでボロボロなのに大切にしているということはなんらかの事情があるのだろう。

男「可愛い人形だな。さて、星さん助けてくるかな」

犬耳娘「が、頑張って」

応援してくれる犬耳娘に力こぶをつくって笑って見せるがさてあれだけの子供と妖精をどうすればいいのかは分からない。

295 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/06/02(金) 14:56:17 ID:qGWYXiCc
男「大丈夫ですか星さん」

星「その声は男さんですか。いや子供達も暇でしょうと思っておもちゃを持ち込んだのが運の尽きでしたね。子供達の数に対して用意したおもちゃの数が足りなかったのです。結果おもちゃを出せといわれこうなってます」

なんてたちの悪い。子供達の喧騒を聞いてみると確かにおもちゃという単語が拾える。

ねこにマタタビ。子供におもちゃ。効果は抜群だけど抜群すぎる。デパートなんかでおもちゃが欲しくて暴れまわる子供もいるぐらいだからなぁ。

男「ほーら、星さんが困ってるだろう」

チルノ「うわっ。何をするんだー!」

手を突っ込んで適当に引っこ抜くと子供というには大きな体。チルノだった。

男「なんでお前まで混ざってるんだよ」

チルノ「あたいだっておもちゃが欲しい」

なぜか誇らしげにそう言うチルノにでこピンを一発かます。

チルノ「ふぎゃっ。生意気だぞ人間!」

間髪いれずにもう一発。

男「星さんにいくら言ってもおもちゃは出てこないだろ。ほらお前ら解散解散」

手当たりしだいにでこピンをかますと子供達はわらわらと散っていく。ようやく見えた星さんの姿は髪も服も乱れ、神様たる威厳はどこにもなかった。

星「助かりました。ありがとうございます」

296 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/06/02(金) 15:15:21 ID:qGWYXiCc
チルノ「うー。あたいだっておもちゃが欲しかった」

大妖精「チルノちゃん。しかたないよ。向こうで私と遊ぼう?」

星「………施せば施されなかった人が不平等になる。私もまだまだですね」

男「でもその親切に喜ぶ人がいることは確かですよ。皆そろって平等の不幸よりは誰かを幸せに出来たほうがいいんじゃないですかね」

俺自身いろいろな人に助けてもらったんだ。その親切が無かったほうがいいだなんて思えない。確かに不平等と思う人がいるかもしれないが確かに俺は救われている。

なんてエゴイズムあふれた考えになるのだろうか。神も仏も信じてこなかった俺にその答えは見つかりそうにない。

星「おもちゃはもう無いですし、今私が持っているものといえば」

星さんが腕を小刻みに振るうと、そのたび何かが袖口から転がり落ちてきた。その小さく輝くものは―――

星「宝石ぐらいですね」

チルノ「うおーっ、すげーっ。大ちゃんこれすっごいピカピカしてるぞ!!」

―――ルビーにサファイアその他もろもろ。透き通ったあれは水晶かダイアか。

どちらにせよ普段お目にかかることがないものたちでチルノの声に引かれて子供達がなんだなんだと集まってくる。

星「………あれ?」

不思議そうに首をかしげる星さん。まるで宝石がただの石であるかのようだ。いや、実際石ころで価値を決めたのは人間ではあるのだが。

その通りで子供達は転がる宝石を拾って遊び始める。転がしたり眺めたりぶつけたり。

297 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/06/02(金) 15:24:19 ID:qGWYXiCc
男「子供達は光るものが好きですからね」

俺だって好きだ。主に価値が。

星「子供達が喜ぶのなら良い事だったのでしょう」

子供にとっては遊べるもの全てがおもちゃでなんて平和な世界なのだろう。

男「えぇ。そうですね」

何を施せばいいかなんてこっちが考えてるほど向こうは期待していない。いやそもそも基準が違うものに何を送ればいいかだなんて悩むほうが無意味でいざやってみれば成功することも多くある。なんて人生を分かったような考えを浮かべ一人笑う。

その価値基準の間を埋めていければ世界は平和にはなるのだろうけどそれは到底無理なことで世界はいろいろな視点に溢れているから楽しくて面白くて悲しくて非情。

幻想郷はそんな全てを受け入れるから残酷で―――

ずきり

頭が痛むと同時に幻聴。

かちりかちりと時計が進むような音。



足音

風の音

霊夢の声

298 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/06/02(金) 15:35:20 ID:qGWYXiCc
―ねぇ、本当なの?

――えぇ、本当よ。昨日からずっと―――

――――う、嘘だっ―――ちゃんの嘘つきっ――

――――――行ってあげなさいよ

―――あ―――待ちなさいよっ―――ねぇっ―――

――おーい――たんだ?今――が走って―――けど。

―知らな――ん――ばか――

―――それより―――もいいか?―――

――あげて――喜ぶから―――

――――でも本当に―――――信じられない

―――だって――が言ってたもの――当よ

―――あいつ――つきだし、信じられ――――たくねぇな

――まぁね―――探し―――お願――見て――

母さんを―――――

299 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/06/02(金) 15:47:02 ID:qGWYXiCc
星「男さん?」

星さんがいる。

畳の部屋に子供達と星さんがいる。

男「あ――はい」

星「大丈夫ですか。いきなり動かなくなってましたけど」

男「大丈夫です」

とはいうものの頭の整理が追いついていない。

俺はさっきまで木々の木漏れ日の下で霊夢を見てた。

霊夢と………………

痛い痛い痛い痛い。思い出そうとすると頭が痛い。

良く出来た白昼夢に脳が蝕まれているようで、脳の奥底で誰かがのこぎりを振り回しているかのような強烈な痛み。

痛みに思わず眼球が明後日の方向へ向き呼吸が止まる。

大妖精「ひぃっ」

考えるのをやめ、ようやく痛みが引く。

なんだったのかは分からないがどうやら触れないほうがいいらしい。

300 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/06/02(金) 15:55:03 ID:qGWYXiCc
星「本当に大丈夫ですか? 大丈夫そうには見えないのですが」

男「人間は……空を飛べませんからそのせいです………気圧が」

変に返した言い訳に星さんは良くわからないまま頷く。

何度か深呼吸をし無理やり体を落ち着ける。もう痛みは嘘のように消えていた。

ナズ「もうすぐ着くから中にいるやつは皆何かに掴まりなよー」

外からナズーリンの注意が聞こえる。その声が聞こえた子供達から近くにいる大人に駆け寄り抱きついてきた。つまり俺と星さんに。

男「あぶっ」

星「はぁ…」

流石妖怪の子。抱きついてくる力は半端じゃなくいろんな骨が軋みをあげる。頭痛に比べればだいぶマシだけどそれでも

痛い痛い痛い痛い痛い痛い

301 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/06/02(金) 20:08:09 ID:7djFoOf2
物語が進んでいてうれしい

302 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/06/02(金) 21:43:53 ID:bo6Htd/U
和みますねぇ

303 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/06/02(金) 22:39:24 ID:ATy9nIn2
http://bit.ly/2q4mPE6

304 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/06/03(土) 04:07:12 ID:E3EqsPWo
見てる俺らだけは気楽なもんだが、やられてる方はたまったもんじゃなかろう

305 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/06/03(土) 08:10:56 ID:.6WKjLyY
乙です

306 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/06/13(火) 03:49:06 ID:3FMcsNBA
支援

307 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/06/15(木) 13:40:01 ID:Bne.dibQ
これ終わる頃には何歳になってるんだろうなあ

308 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/06/26(月) 20:17:49 ID:cUdtmeRA
シエン オブ オモロー

309 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/02(日) 00:05:39 ID:Z62lBcOQ
痛みをなんとか我慢していると軽い浮遊感。不快なほどではないが違和感を覚える。

違和感と耳鳴りからどうやら船の高度が下がっているということがわかった。道中問題が起きなかったことは幸いで、もし大規模な戦闘でも起きていれば子供たちが巻き込まれることは必至だっただろう。

水蜜「あれぇっ?」

村紗の戸惑う声が遠くから聞こえた。それに続いて一輪の驚愕。聖の困った声が微かに聞こえる。

男「なにか、あったんですかね」

星「見てきましょう。男さんは危ないですからここで子供達を見ていてください」

男「いえ、もし危ない状況なら星さんがいてくれないと子供達が守れません。俺が行ってきます」

星さんが何かを言おうとしていたが、その前に立ち上がり部屋から出ることにしよう。

チルノ「うわーっ」

大妖精「ひゃあっ」

犬耳娘「いたいっ」

振り落とされた子供達の事は気にしない。

310 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/07/02(日) 00:19:59 ID:3N1C3.Ag
大ちゃんかわいい(*´ω`*)

311 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/02(日) 00:22:32 ID:Z62lBcOQ
外にでると高度が下がったせいか風が弱まっていた。この風なら簡単とまではいかないが問題なく移動はできるだろう。

声の聞こえた方向。船の船首側へと向かうと村紗さんを筆頭に作業をしているメンバーが勢ぞろいしていた。

そのいずれの顔も明るくはなく、どうやら困った事態が起きたらしい。

男「どうしたんですか?」

村紗「やられたよ」

そういって村紗が深いため息をついた。それに合わせたかの様に、一輪が強く足を踏み鳴らした。

男「やられたって何が?」

一輪が怒るような何かが起きたのは確からしいが。しかし一体なにが?

村紗「今ここは誰がいる?」

そういわれたので数えてみる。目の前にいる村紗。その斜め後ろにいる一輪。船首に立っている白蓮さん。座り込んでいるナズーリン。

男「ぬえと響子と射命丸さんがいない」

村紗「ぬえは私も知らないけどそれはどうでもいい。響子は保母妖怪さんを見てるよ」

ということは。

男「射命丸さんは、どこへ?」

村紗「……………逃げたよ。案内する気なんてなかったのさ」

312 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/02(日) 00:32:51 ID:Z62lBcOQ
男「逃げたって。約束が違うじゃないか」

ナズ「考えてみれば当たり前のことだったんだ。向こうには鬼がいる、土蜘蛛がいる、さとりがいる。私達よりずっとずっと強い妖怪がいるんだ。今さらご主人を巻き込んだところで得なんてなかったのさ。つまり初めから契約なんて守る気はなかった」

白蓮「困ったわねぇ」

一輪「姐さん困ったじゃすみませんよこの状況!? ねぇ、あんたがここに行けって言ったんでしょ!? どうすりゃいいのよこれ!」

一輪が近寄ってきて、俺の胸倉を掴む。それを止めようとしたのは白蓮さんだけで、他の皆は俺を責めるような目で見ていた。

男「受け入れてくれるように頼んできます」

それしかない。帰る場所はもうないし、このまま飛び続けるわけにもいかない。

責任をとらなきゃいけないのは一輪の言うとおり俺で、だから今から俺はあの結界を越えて説得しにいかなければいけない。

………?

一輪「説得するって言ったってどうするのよ。あそこから誰かが出てくるのを待つ? 出てくるわけないじゃない」

男「あの結界通り抜けられるんだよ、外から中だったら」

………?

一輪「………なんであんたがそんなこと知ってるのよ。未来を知ってるから?」

男「えっと、なんだったかな。たしか………紫に聞いた?」

たしか紫に地獄の結界の話を聞いたような。もしくは映姫さん?

313 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/02(日) 00:46:49 ID:Z62lBcOQ
まぁ、誰が言ったかはどうでもいい。通り抜けられることが本当ならば。

男「じゃあ行ってきます、ってどうやって下りればいいんだ」

船はまだ浮いている。目がくらむほどではないが飛び降りたら相当運が良くない限りは死んでしまうような高さ。岩肌が景色ではなく凶器に思える。

ナズ「………私が連れて行くよ」

一輪「行くなら姐さんよ」

ナズ「言っちゃ悪いが聖は腹芸が苦手だ。この場に私以上に腹芸が得意なのはいるかい?」

そういって見回すナズーリンに三人は否定を返さない。一輪と村紗は顔を逸らし、白蓮さんは困った顔をして微笑んだ。

マミ「儂とかどうじゃね?」

唯一言葉を返したのは紫煙を燻らせながら愉快そうにどこからともなく現れたマミゾウだった。

314 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/02(日) 00:58:17 ID:Z62lBcOQ
一輪「マミゾウ? 見なかったけどどこにいたのよ」

マミ「皆を見守っておったぞい。こっそりとな」

一輪「手伝って発想はどこに?」

マミ「ほっほっほ。老骨を頼るでないわ」

ナズ「手伝うって何を考えているんだい?」

マミ「親切心をそう疑われては敵わんのう。それでこの場に儂以上に腹芸が得意な奴はいるかね?」

からかうように明らかにナズーリンに向けられた言葉にナズーリンは言い返しはしなかったものの口角をぴくぴくと震わせた。

ナズ「だ、だけど私もついていくよ。私は聖たちほど甘くはないからね。それに監視は立場上慣れてるから私も最適なのさ」

マミ「それではこの三人で行く。良いかね、聖や」

白蓮「え、はい。そうね。頼みましたよ男さん。ナズーリン。マミゾウ」

男「任せてください」

マミ「飯の種ぐらいの働きは期待してもいいぞい?」

ナズ「やれやれ、いつも貧乏くじさ。まぁ、慣れてるけどね」

315 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/07/02(日) 01:33:01 ID:3N1C3.Ag
マミゾウさんヤッター

316 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/07/07(金) 16:53:29 ID:aaV6oKfc
シエーン

317 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/10(月) 15:10:56 ID:IXjfrWdw
マミゾウに抱きかかえられて地面へと降りる。どこからか視線を感じたがどうせのら妖怪だろう。襲い掛かってこないのならば問題はない。

旧地獄に続くらしい縦穴は思ったよりは小さくそして深かった。覗いてみると遠く先の方に光が見える。あの光はいったいなんなのだろうか。

穴には飛べないものでも下れるように螺旋階段状に階段が作られていた。だが粗末な作りで事故防止用の柵なんてものはない。落ちたら死は免れないだろう。

ナズ「で、君の話だとこの結界は外から中なら通れるんだろう?」

マミ「珍しい結界よのう。結界とは外と中を分けるものなのに片方からは分けられてはおらぬ。このようなあやふやな結界がなぜこうも強固に存在してるか検討がつかぬよ」

男「何を言ってるかは分からないが、っと」

淡く金色に輝く結界へと足を沈める。結界は踏み入れた足を拒むことなくするすると通した。

男「引っこ抜けないな。やっぱり」

足を引き抜こうとするも上への動きは認められないようでもう後戻りはできないらしい。

両足を沈み込ませ、ゆっくりと階段を進み、結界が腰、胸、頭まで飲み込む。

肉体的には何も無かったが、精神的には何か嫌なものを感じた。

そうしてようやく全身を沈め、人心地ついたとき

男「っ!」

暗闇に揺らぐ緑色の瞳に気づいた。

318 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/10(月) 15:18:11 ID:IXjfrWdw
男「………さとり、じゃないな。ことりでもない」

だが目の前にいる少女。結界の金色にかすかに照らされた少女は二人の面影を持っていた。

こいし「だれ?」

ゆらゆらと不可解な歩き方で近寄ってくる少女。その表情にはさとりのような達観もことりのような狂気もなかった。

言えば―――なにもなかった。

男「さ、さとりに会いに来た」

こいし「そうなんだぁ」

少女は俺の胸元まで顔を寄せ、そして俺の顔を見上げた。息が首筋にかかるほどの距離で、俺はうつろな緑色の瞳におぼれそうになった。

こいし「ついて、きて?」

そういって少女は俺の手を掴み。

こいし「えいっ」

深い穴へと引き摺り下ろした。

319 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/10(月) 15:25:04 ID:IXjfrWdw
浮遊感、浮遊感、浮遊感。

さっきまでとは違う、ただの自由落下で、体を支配する浮遊感。

物は下へ落ちるという自然法則によって俺の体は加速していく。

こいし「あっはっはっは」

少女は俺の手を掴んだほうとは逆の手で被った帽子を飛ばないように押さえ無邪気で甲高い笑い声を上げていた。

こいし「しゃーぼんだーまーとーんだー。屋根、屋根ってどこだー。地底の空は皆やねー」

光が近づく。太陽の光とは違う青白い光。

男「う、あ」

見えた。その光に照らされた地面。

男「あぁあ」

岩肌、柔らかくないから

男「あぁああああぁああっ!!」

死ぬから、柔らかくないから、硬い、死ぬから死ぬ

感情を伝えるニューロンは情報過多でショート。地面が近づくにつれ恐怖が全てを追い出していく。

妖怪との戦いでもなんでもない、こんなところで俺は―――

320 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/10(月) 15:29:45 ID:IXjfrWdw
こいし「はい、どーん!」

その擬音とは裏腹に聞こえる音は静かなもので。

男「あれ、俺、生きてる」

生きてる。呼吸もしてるし、心臓も動いている。

だけど俺の体はまだ地面に落ちておらず

文「せ、せ、せ」

文「大セーフっ!!」

その言葉で急激に変わった視界と現実をやっと認識することができた。

321 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/10(月) 15:35:40 ID:IXjfrWdw
男「あ、れ? 射命丸さん」

文「なにやってるんですかあなたは!?」

こいし「ジャンプ!」

文「なんで、いきなり落ちてきて。結界があるからって飛び降りたんですか!?」

男「いや、あの子に引きづられて」

指を指した先にいる少女はにこにことこっちを見ている。行動は殺意しかなかったが表情はそんなこと微塵も感じさせない。

文「あの子って………んん!? こいしさん!?」

こいし「やっほぅ!」

文「なんでこいしさんが、というかなんで、いやなぜ!?」

なぜか混乱している射命丸さんとにこにこの少女。

収拾なんてつくわけがない。

俺は射命丸さんが落ち着くまで黙って抱きとめられていた。

322 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/10(月) 15:40:34 ID:IXjfrWdw
文「ふぅ。ところでなぜ貴方がここに」

男「理由は分かるでしょうに」

文「………私は謝りませんからね」

そういってふいと横を向いた射命丸さん

こいし「目と目を合わせてー」

の顔をむりやり少女が曲げた。

さっきから行動がよく分からないな。なにが目的なんだろう。

文「やめふぇくだふぁい」

文「とにかく入ってきてしまったものはしかたありませんが、こちらの命令に従って」

マミ「ゴミ漁りがずいぶんとまぁ、偉そうにしてるじゃあないかね」

文「うひゃあ!?」

またどこからともなく現れたマミゾウが射命丸さんの頭をキセルで数度軽く叩く。それに続いてナズーリン階段を駆け下りてきて

ナズ「おろかものめっ!」

そう叫びながら俺たち二人の頭にとび蹴りをかました。

323 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/10(月) 15:59:13 ID:IXjfrWdw
ナズ「なにがしたいんだい君は!」

文「な、なんで私まで」

ナズ「裏切り者には良い罰さっ」

激昂するナズーリンはその体躯ながらも迫力がある。俺たち二人は思わず正座をし、それからしばらくの間ナズーリンの説教を聞くこととなった。

ナズ「分かったかい?」

男「はい、すいません」

文「もうしません」

射命丸さんはともかく俺に関しては一切非は無いと思うのだがそれを証明する少女はいつのまにか消え、無実を証明することはできなかった。

結局俺の不注意で穴から落ちたということになり、ナズーリンからは愚か者という大変不名誉なあだ名された。

反論に意味はないと判断して耐え忍んではみたが、30分を越えたあたりからナズーリンは本来の目的を見失っているのではないかと思い、こんなことより先を急ごうと提案してはみるものの「こんなこと」といった表現が気に障ったらしくさらに激昂したナズーリンの説教は伸びた。

そうしてやっと終わったころには二人ともうなだれてトボトボと徒歩で地底を進むほどに疲れていた。

マミ「ナズーリンはおぬしのことを心配しておるのよ。くくく、愛情表現と思っておけ」

ナズ「そこ! 変なこと言うんじゃないよ!!」

マミ「おう、怖い怖い」

324 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/20(木) 10:06:36 ID:YX8O3/46
文「よく躊躇なく結界に入ってきましたね。普通しませんよそんな行動」

普通はしないだろう。普通じゃないからやったんだ。

射命丸さんは俺の言い分を信用してないためか、いまだに横目でじろじろと見てくる。

まぁ、当り前だよな。素直に受け入れてくれた聖さんたちが特別なだけだ。本当、頭が上がらないな。

男「それにしても、不思議な場所ですね、ここ」

地底は文字通り地の底だった。上も下も、一面岩肌に覆われていて寒々しい。しかしなぜか明るい。

岩肌に生えた光るコケのせいだろう。不規則に灯された青白い炎のせいだろう。

なぜか空に輝く光のせいだろう。

男「なんなんだろうな。この場所」

325 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/20(木) 10:20:30 ID:YX8O3/46
10分ほど歩いただろうか。あたりを照らす輝きが一層強さを増した。

一面に見えるのは白塗りの壁に朱色の柱。教科書で見たような優美で雅な建物でできた町が広がっていた。

そのどれもが多少の差はあれ、傷ついているが、岩肌で囲まれた空間よりはよっぽどマシだ。

岩肌と町の境目には大きな朱色の橋があり、その下には暗闇が流れている。底にあるのは水か地か。石ころでも投げ入れてみればわかるだろう。

「………誰、それ」

橋を渡ろうとしたときだった。橋の中腹で欄干に両腕を乗せ黄昏ていた少女がちらりとこちらを一瞥して声を投げかけてきた。

少女の髪は金色で目は深い緑色。それだけでも目立つ風貌だが顔の横にある耳は人間のものと違い尖っていた。

文「これはこれは水橋さん。奇遇ですねぇ」

パル「奇遇もなにも私は橋姫よ? ここにいて当然じゃない。それで、ネズミにタヌキはまだいいわ。誰よそれ」

パル「人間に見えるんだけど?」

そう水橋と呼ばれた少女が首を大きく傾けた瞬間だった。垂れた金色の髪から除く緑色の瞳が大きく揺らいだ。

ゾクリと背筋を震わすのは今まで何度も体験した殺気。今思えば人それぞれで持つ殺気の種類が違う。

彼女が持つ殺気は心を掴まれ地の底へ引っ張られるようなとても不気味で恐ろしいもの。

素直に殺されるんだと思わせた萃香のものとは対照的で、先の見えないおどろおどろしいものだった。

326 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/07/20(木) 23:05:06 ID:d7sU2Dtw
支援

327 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/07/21(金) 18:55:43 ID:WAgTHoPI
紫煙

328 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/22(土) 13:22:58 ID:a1AQiFo.
文「あやや、落ち着いてください。これにはわけがありまして」

パル「この危ない時に外から人間を連れてくるわけって何よ。食料?」

射命丸さんの弁解甲斐なくいつのまにか指の間に挟んだ五寸釘を携え水橋がさらに歩みを進める。

彼我の距離はざっと5メートルほどまで迫っている。ゆらゆらと揺らぐ緑色の瞳の奥まで覗けるほどの距離。

ナズ「話を聞かないなんて。これだから嫌われものなのさ」

パル「ドブネズミとタヌキの害獣共が良く言うわね。煮ても焼いても臭くて食えたもんじゃないくせに」

ナズーリンの悪態に言葉を返す。ナズーリンは少し顔をしかめたがそれ以上悪態をつくことはなかった。

マミ「ぽんぽこタヌキは商売繁盛の人気者じゃて。まぁ、それはよい。大事なのは我らが何かではなくて、我らが何をするかじゃろう?」

パル「舌を斬って四肢を落とせば関係はないわ。貴方たちが善であれ悪であれ私たちは変化を望んでないわ」

話は通じない。百篇言葉を繰り返したところでおそらく止まらない。排除するという意思に対して話し合いを求む努力は不毛なようだ。

更に距離は詰められ2メートルほど。踏み込み腕を振るえば簡単に届く距離。距離は敵意の高さと反比例している。つまりこの距離は一触即発というわけで俺たちの間に緊張が走る。

男「分かった。手錠でも縄でもなんでも」

パル「斬りおとす方が早いわ」

最後の交渉は決裂。釘が地底の光を受け、鈍色に輝く。雰囲気は濁りあたりの臭いが変わる。戦いの雰囲気に周囲は呑まれ―――

「止まりな、パルスィ」

329 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/22(土) 13:35:18 ID:a1AQiFo.
この場を制したのは俺たちでも水橋でもない猛る風と共に現れた第三者だった。

そいつに遅れ一層強い風が俺たちの体を押す。転ばないように踏ん張っていると俺の右手を引いてそいつが支えてくれた。

見ると長い金色の髪。それよりも目立つのは体格と額から生えた朱色の角。顔だちと過剰な胸のふくらみがなければ俺は男と思っていただろう。

身長はおそらく2メートル近く、肩幅も俺より太い。大きさは原初からある強さをはかる基本的な物差しだ。そんな彼女からなぜか俺は体格がまったく違う萃香を感じ取っていた。

パル「なんで止めるのよ、勇儀」

勇儀「ありゃあ誰が見たって止める。血みどろ沙汰は勘弁さ。酒が不味くなる」

今なお距離を詰めようとする水橋の頭を大きな手で押さえ制する。水橋は数度頭を動かそうとしたが諦めて釘を橋の下へと放り投げた。

パル「鬼のくせに」

男「あんた鬼なのか?」

とっさに反応してしまい、口走る。突然の言葉に勇儀が目を丸くしていた。

勇儀「あぁ、鬼だけどそれがどうかしたか?」

男「いや、萃香の」

と言った瞬間に気づく。

俺と萃香の関係性について説明ができないと。言い換えようにも萃香の名前を取り繕うことはできない。

勇儀は更に目を丸くして、そのあとにかっと大きく笑った。

330 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/22(土) 13:39:19 ID:a1AQiFo.
勇儀「なんだい、萃香の知り合いかい!」

そういってぽんと頭を叩く。

しかし動作とは裏腹にその衝撃は重く軽く前のめりになってしまった。

マミ「で、通してくれるのかね?」

勇儀「拒む理由はないねぇ。それじゃあまず出会いの一献」

マミ「酒を拒む理由があるから勘弁願いたい」

勇儀「そりゃあ残念」

ナズ「なんだかよくわからないけど丸く収まったのかな」

文「みたいですねぇ」

331 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/22(土) 14:26:42 ID:a1AQiFo.
恨めしそうな目で水橋に見送られ、勇儀さんに連れられ街道を進む。

地底では人間の姿は珍しいらしく、周りの妖怪からはじろじろと見られていた。目立つ理由はそれだけではないだろうが。

文「どうもありがとうございます勇儀さん」

勇儀「パルスィは融通が利かないからねぇ。門番としては正しいのかもしれないけど窮屈で退屈だろう?」

まぁ、嫌いじゃあないけどねと勇儀さんが付け加える。

俺はどうも好きになれないタイプだったが、その懐の広さは鬼特有のものか。

勇儀「しかし地底に用事があるならそこの射命丸にでも言伝を頼めばよかっただろう?」

ナズ「その予定だったのさ。だけど直前でこれが私達を謀って逃げてね。いやぁ、困った困った」

ナズーリンが悪戯染みた口調でそう言ったとたん、勇儀さんの足が止まり

勇儀「あん?」

呼吸が止まるほどの殺気が辺りに噴き出した。

文「あややややや、こ、これはですね」

勇儀「嘘をつくやつ、約束を破る奴は、私は嫌いだね。それがただの他人ならまだよし、まさかぁ私が目をかけてやったお前がそれをするとはなぁ」

文「り、りだっ―――」

眼にもとまらぬ速さで逃げようとした射命丸の足首を勇儀が眼がくらむほどの速さで捕まえる。

332 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/22(土) 14:32:03 ID:a1AQiFo.
勇儀「仁義は通しな。先にさとりのところへ行って話をつけてくるんだ。いいね?」

文「は、はいぃっ。今すぐ行かせてもらいますっ!」

勇儀「よし、なら行って―――こいっ!!」

射命丸さんが逃げようとした方向とは逆方向に勇儀さんが射命丸さんの体を放り投げる。錐もみ回転したのちに蛇行しながら射命丸さんは飛んで行った。

勇儀「これでよし、と」

ナズ「ふぅ。少しは気が晴れた」

男「大丈夫なのかあれ」

ナズ「腐っても射命丸 文だよ。問題ないさ」

そういって笑うナズーリンに対し、やはり性格に難ありと首を縦に振った。

マミ「それでは、さとりのところへ向かうとしようか」

333 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/07/22(土) 14:50:29 ID:a1AQiFo.
勇儀に連れられ更に進んでいく。街の風景はどんどん変わっていき、辺りは白壁から木造の建物が目立つ、あまり人間の村と変わらない風景になっていた。

勇儀「不思議かい? 妖怪のための場所がこんなに人間くさいだなんて」

男「えぇ、まぁ」

妖怪が人間より遅れた生活をしているとは思わない。だがしかしそれでもここはあまりにも人間染みていた。

勇儀「前までは人妖まみえる場所だったのさ。古明地当主さとりの手によって温泉が出来てから」

勇儀「そのころは平和で愉快だったさ。騒がしいのが好きな私達にとっちゃあいい場所だった」

こんなことになるまではねと付け加える勇儀さんの表情は物悲しげだったがすぐに表情を改めた。

マミ「おう、見えてきたぞ男よ。あれが地底が誇る温泉宿じゃ」

マミゾウが指差した先に見えたのは予想よりも立派で大きな宿だった。

マミ「さて話をつけにいこうかね」

話をつけに行こう。

かつて命を奪った負い目はあるが、今度は彼女を、皆を生かすために。

334 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/07/24(月) 10:32:02 ID:AzVP0jCs
支援ぬ

335 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/07/26(水) 01:52:58 ID:19.D4ZFw
始園

336 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/08/06(日) 00:33:35 ID:DvokWNrs
支援

337 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/08/15(火) 20:54:51 ID:mFE7nkno
紫焔

338 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/08/20(日) 21:06:52 ID:asIs4i2g
支援

339 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/08/21(月) 18:32:37 ID:u0dlETkE
安価スレだった頃から数えてもだいぶ経ったな…最初のスレからしたら尚更…早いもんだ

340 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/08/27(日) 23:29:50 ID:QqDRCM4s
時が経つのが早いなと思った(小並感)

341 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/08/30(水) 00:15:39 ID:phkufThI
支援

342 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/08/31(木) 00:43:50 ID:IEnbyyYs
支援

343 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/09/06(水) 05:49:03 ID:/PSy6drE
支援

344 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/09/07(木) 22:54:46 ID:m.FE6kXk
こんな時でなければ感嘆の声をあげていそうな立派な玄関に入るとそこは閑散とし、人気を感じさせなかった。

辛うじて灯りは積もっているがそれでも薄ぼんやりとで、足元が十分に見えないほどには暗い。

不気味というよりはどこかもの悲しさを覚える空間だ。客足が途絶えてかなり経つのだろう。床には薄く埃が積もっている。

本当にここに? と疑問を投げかけてしまいそうになるほどには日々を過ごすに不適当な場所。

しかし勇儀さんと射命丸さんは先に進んでおり続かないわけにはいかない。埃まみれになるのが嫌そうな顔をしていたナズーリンの手を引いて進む。

靴を脱いで上がったため、足の裏はすぐにザラザラと不快な感触を覚える。前を行く二人を見れば靴を履いていたため脱がなくてもよかったのかもしれない。

屋敷の廊下は人気を失い活発さを失った見た目とは裏腹にかなりしっかりとしている。妖怪のために頑丈にしているのだろうと関係ないことを思った。

しかし見れば見るほどにここがどれほど力を入れて作られているのかが分かる。本当にこんな時でなければよかった。

どうやら見た目にふさわしく広いようで、何度も廊下を曲がりながら奥へ進んで行く。途中見えた厨房も立派なもので、煮炊きしかできない寺とは大違いだ。

掃除をすれば活動拠点としてこれ以上ないものになるだろう。そのためには話を通すことが重要だ。

何を語ろう。何を話そう。いや、相手は心を読むのだから関係はない。

嘘を付けない。誤魔化せない。

口先だけで今までを乗り切ってきた俺にとって相性の悪い相手。

一番心配なのは前の世界を知られることだ。

きっと、さとりにとって心地よいものではないはずだから。

345 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/09/07(木) 23:12:39 ID:m.FE6kXk
対策なんて当然取れないまま、ようやく目的の部屋についた。

そこは襖ばかりの旅館の中で唯一の木製の扉だった。文が控えめに扉を叩くと、中からか細く誰かと尋ねる声が返ってきた。

文「あやや。貴方なら訊ねなくてもわかるでしょう?」

そう苦笑しながら文が扉を開ける。中の空気は暖かく、そして濃く甘い伽羅のような香りがした。

勇儀「それじゃあ私はここいらで失礼するよ」

さとり「…あら、勇儀も来てたのね。つれないじゃない。私から逃げるなんて」

勇儀「この話し合いに私は必要ないだろう? あるのはこいつらだけさ」

むんずと勇儀さんが胸元を掴み部屋の中へ押し入れる。手をほどくのを忘れていたナズーリンもつられて部屋の中へ入り、絡まった二人は床に尻もちをついて倒れた。

さとり「そう、あなたが………」

部屋の中では赤い重厚そうな椅子に座っているさとりがいた。

紫の髪の色は変わりないが、前見た時と違って痛んでおり、気怠そうな瞳の下には濃く大きいくまができていた。調子がよさそうには思えない。

さとりはちらりと俺を見た後、左手に持った煙管を大きく吸い、ゆっくりゆっくり、細く煙を吐きながら最後にため息と一緒に吐き出した。

甘くそしてほろ苦い香りが強くなる。どうやらこの香りはその煙管のものらしい。狭い部屋ではない。この部屋に充満するほどとはどれほど吸っているのだろうか。

346 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/09/07(木) 23:32:14 ID:m.FE6kXk
さとり「心配してくれてありがとう。でも妖怪だもの。この程度じゃ死なないわ」

もう一度深くさとりが煙管を大きく吸い込む。

濁った瞳は俺を捉えているのかどうかが分からない。見ている気もするし、ここではないどこかを見ている気がする。

瞳自体は別物だが、どこかさきほどの少女と同じ印象を抱かせる。

文「また寝てないんですか? 妖怪は丈夫と言いましても精神はそうではないのですよ?」

さとり「寝れないわ。寝れないのよ。大丈夫、まだ健康よ。なにも問題はない」

その言葉は射命丸さんに返したものなのだろうか。俺には自分自身に言い聞かせてるように思える。

文「それでは少年さんも心配するでしょう。睡眠不足でそんなもの吸ってちゃ倒れてしまいますよ」

さとり「大丈夫。私がこんななのはここだけ。あの子は知らないわ。それよりもお話に来たんでしょう?」

さとりが座ってる対面の椅子を顎で示される。椅子は一人用で三人では到底座れそうにない。誰を座らせようかと考えたがどうやら指名されているのは俺だけらしい。

さとりの三つの瞳にじっとりと見られながら席に着く。

ナズ「いや、待っておくれよ。そいつはただの人間さ。話なら私やマミゾウが」

さとり「あなたはお客様じゃないの。私のお客様はあなただけよ。男」

さとり「話はあまり得意じゃないの。口下手でね。だから見せてくれるかしら。貴方の心」

訊ねてはいるが有無を言わせぬじっとりとした陰鬱な迫力があった。俺は断ることもできずに少し頷き、さとりは少し大きく目を開け俺を見つめた。

347 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/09/07(木) 23:35:18 ID:m.FE6kXk
直後、さとりの手から煙管が落ちる。

ジュッ

毛足の長い絨毯が焦げ、煙管の火が消える。

瞳は大きく開かれ上下左右にせわしなく揺れ、青白かった顔はさらに血の気を失っていく。

だらりと下がった腕はわなわなと振るえ、震えた歯が触れ合ってかちかちと音を立てる。

明らかに正常ではない反応に射命丸さんが心配そうに近寄った瞬間。

絶叫が辺りの空間を裂いた。

348 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/09/07(木) 23:46:07 ID:m.FE6kXk
想定できていたため、とっさに耳を抑えることに成功する。

しかし手で覆っても頭の中に響くその叫び声をもろに受けた射命丸さんはのけぞり、ナズーリンは白目を向いて気絶した。

咳だけでなく血をも噴き出しそうなほどの激しい声。それを止めたのは帰ろうとしていた勇儀さんだった

勇儀「おい!? どうしたさとり!? 大丈夫かさとり!? おいっ、おいっ!?」

その巨躯でさとりさんを抱きしめ背中を撫でながら呼びかける。叫び声は勇儀さんの体である程度阻まれ不快なくらいには低減したが続いてあふれ出した涙と嗚咽と鼻水が勇儀さんを汚していく。

想定はしていたが、心が揺れないわけじゃない。

かつて敵であった少女が苦しむ姿を見て何も感じないわけじゃない。

あぁ、やはりこうなってしまったかと頭を悩ませる前にすべきことが何かあるはずだと立ち上がろうとした時、射命丸さんに腕を捻られ床へ叩きつけられた。

文「やっぱりあなたは」

マミ「待ったっ!」

間にマミゾウさんが入ってくれ、どうやら怪我を負うことは避けられたらしい。しかし射命丸さんの視線は鋭く、勇儀さんもさとりさんを宥めながら怒りを含んだ視線をこちらへ向けてきた。

マミ「これには事情があるんじゃ。さとりが落ち着くまで待ってくれんか」

勇儀「こいつがここまでなるんだ。ろくな理由じゃないね」

にべもなく打ち切られる会話。一触即発のその状況でマミゾウさんは座り込んで、顎を大きく上に向けた。

マミ「納得いかなかったら儂の首をくれてやる。この男も、そこのネズミも好きにせい」

349 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/09/07(木) 23:57:54 ID:m.FE6kXk
三人の命。どれほどの重さなのか計る定規はないが、勇儀さんと射命丸さんを抑える重石ぐらいにはなったらしい。

眉をひそめながらも二人が渋々うなずく。再びさとりの嗚咽だけが響く。

解決するための言葉を発することすら許されない状況。

首筋によく切れる刃を向けられているような寒々しさに耐えながら、時間が解決してくれるのを待つ。

長い呼吸を何度したことだろう。どくどくと激しく打つ痛いほどの鼓動を奥歯を食いしばりながら耐えているとさとりの嗚咽が徐々に小さくなる。

その声が完全に消えたときさとりは勇儀の胸元から抜け、火の消えた煙管を咥えた。

さとり「すいません。取り乱しました」

勇儀「大丈夫かい? さとり」

さとり「大丈夫です。心配をおかけしました。………申し訳ありませんが席を外してくれませんか皆さん。男と二人きりで話したいのです」

勇儀「あんなことがあってこいつと二人きりにはできないね」

さとり「良いんです。大丈夫ですから」

頑として譲らないさとりに勇儀は渋々と折れ、射命丸を連れて廊下へ出ていった。勇儀さんのことだ。廊下で聞き耳を立てるなんてこともないだろう。

マミ「何かあったら呼ぶといい。すぐに駆け付けるからの」

マミゾウさんも席を外す。ずりずりと気絶したナズーリンも引きずられて外へ連れて出された。

350 ぬえ ◆ufIVXIVlPg :2017/09/08(金) 00:13:37 ID:ZLreOKHA
完全に二人だけの空間。

なんだか俺から話を始める気には慣れず、じっとさとりの言葉を待った。

しかし第一声を待つ間、さとりは煙管の中から灰と燃えカスを取り出し、薄い布で雁首を拭き始めた。

煙管を分解し、一通りの掃除が終わると再び組み立て、さとりはじっと何も入ってない雁首の中を見つめた。

さとり「………………本当?」

やっと出た言葉はたったこれだけ。しかしこれだけで良かった。

長々と尋ねられるより、怨嗟の言葉を吐かれるより、俺のことを信じればいいのかを尋ねるその一言だけが良かった。

本当だと言ってしまえば信用と同時に彼女を傷つける事になる。だが彼女を庇っているわけにはいかない。狂人の妄想であれば彼女は救われる。しかし救われなかった人たちを見捨てるわけにはいかなかった。

男「あぁ」

さとり「そう」

短い言葉のやり取りだけですべてを把握したさとりは、近くにあった小さな箱から葉っぱを取り出し丸め、雁首に乗せ火をつけた。

さとりがそれを吸い終わるまで俺たちは無言で、さとりはもう一度だけ涙を流し、俺は見るわけにはいかず瞼を閉じた。

351 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/09/08(金) 00:26:20 ID:AqwxcVSI
とんでもねぇ待ってたんだ

352 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/09/08(金) 00:27:42 ID:AqwxcVSI
そりゃあさとりんも発狂するよなぁ

353 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/09/09(土) 00:53:47 ID:x3UivLnU
これは物語が進んだ感あるな

354 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/09/14(木) 17:28:27 ID:o0sn9s6M
ナズが気絶するほどの大声で発狂するとは・・・そりゃそうか・・・

355 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/09/19(火) 21:16:45 ID:s2zJQtwk
支援

356 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/09/19(火) 22:08:16 ID:P1Z/WB3k
ずっとシングルでいいやと諦めてたワイ、ついにリア充になる。
たった2日分の飯代弱で人生が変わった。
ttp://urx2.nu/D8Ur

357 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/10/07(土) 00:23:42 ID:wy0G02fo
支援

358 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/10/09(月) 20:54:56 ID:AZE9AlJA


359 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/10/27(金) 00:34:18 ID:63tpyHQM
支援

360 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/11/02(木) 23:14:49 ID:CLRgTOk6
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361 以下、名無しが深夜にお送りします :2017/11/07(火) 03:54:15 ID:JGLmyg32
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