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スタンド小説スレッド3ページ

478:2004/05/28(金) 22:29
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|(†)ヽ
|)))))
| -゚ノi  < …
と)ノ
|ハゝ     × ― モナーの愉快な冒険 ― 吹き荒れる死と十字架の夜・その3
|       ○ ― モナーの愉快な冒険 ― 吹き荒れる死と十字架の夜・その4

479ブック:2004/05/28(金) 22:54
     EVER BLUE
     第二十話・BREAK 〜水入り〜


 三月ウサギが、タカラギコが、謎の女性が、
 張り詰めた空間の中、ただ静かに得物を構える。
 息が詰まる程の圧迫感。
 僕やオオミミが入り込める世界じゃない。
 緊張で、頭がどうにかなってしまいそうだ…!

「…すみませんが、誰かそろそろカードを切ってくれませんか?
 この十字架結構重くて、そろそろ疲れてきたんですよ。」
 そんな状況にも関わらず、タカラギコが呑気な声で喋る。
 しかしそんな口調とは裏腹、微塵も隙を見せはしない。

「この狸め…」
 全身コートの女が、タカラギコにリボルバーを向けたまま睨む。

「……」
 三月ウサギは、剣をいつでも投擲出来る体勢のまま少しも動かない。
 膠着状態が始まってしばらく経つというのに、
 彼等の顔には汗一つ浮かんでいなかった。
 蚊帳の外のオオミミは、全身汗でびっしょりだというのに。

「…得物を下ろせ。
 儂は、今ここでお主らとやりあう心算は無い。」
 埒が明かないと思ったのか、女が停戦を提案した。

「信用出来んな…」
 三月ウサギは構えを解かない。
「そう言うのであれば、まずは貴女から物騒な物を率先してしまうべきでは?」
 タカラギコもパニッシャーを下げはしなかった。

「それは出来んな。
 そこの黒マントの者は、儂が銃を下ろした途端に剣を投げる気満々じゃろう?」
 こうして、停戦条約はあっという間に却下された。
 再び、その場を静寂が包む。

「……!」
「……!」
「……!」
 三人が、微動だにしないまま隙を探り合う。
 互いの気迫で景色が歪むような錯覚。
 ここでの一分が、まるで一時間のようだ。
 一体、いつまでこの状況が続く―――

480ブック:2004/05/28(金) 22:55



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 突然響き渡る爆発音。
 その場の全ての者の意識が、その音に向けられる。

「!!!!!」
 誰よりも早く反応したのは女だった。
 物凄い跳躍により、一瞬にして僕達から間合いを離す。

「ちっ!!」
 三月ウサギが剣を投げるも、既に女は射程外まで逃げていた。
 剣が何も無い地面に突き刺さり、女は僕達から大分離れた所で着地する。

「…どうやら今回は間が悪かったようじゃな。
 ここは、一旦退く事としよう。」
 銃とハルバードが合体したような武器を背中に担ぎ、女が口を開く。

「じゃが、近いうちに再び挨拶をさせて貰う。
 その時は、もう少し穏便に事を進めたいものじゃな。」
 そう言い残すと、女はその場から飛び去って行った。
 あの人、結局何だったんだ?



「大丈夫ですか、オオミミ君?」
 パニッシャーを下ろし、タカラギコがオオミミに声をかけた。

「あ、はい。
 助けに来てくれてありがとうございます。」
 オオミミがタカラギコに頭を下げる。

「それから三月ウサギも、ありがとう。」
 オオミミが三月ウサギの方に顔を向けた。
「ふん…」
 三月ウサギがそっけのない返事を返す。

「…今の出で立ち、吸血鬼か?」
 と、三月ウサギがオオミミに尋ねた。
「多分…」
 オオミミが生返事をする。

「先日私達の船を襲った連中の仲間ですかねぇ?」
 タカラギコが首を傾げた。

「多分、違うと思う。
 何かそういう感じじゃなかったし。」
 オオミミが首を振りながら答えた。

「しかし、だとすれば一体どこの…」
 三月ウサギが、地面に刺さった剣をマントの中に回収しながら考え込む。
 実際、あの人は何が目的で僕達を探していたのだ?

481ブック:2004/05/28(金) 22:55



「あ、お前ら!」
 と、そこにニラ茶猫が駆けつけてきた。
 随分走ってきたのか、息が大分荒い。
 さらに、服のあちこちが血塗れである。

「ニ、ニラ茶猫、大丈夫!?」
 オオミミが心配そうに声をかける。

「ん?おお、平気平気。
 俺の『ネクロマンサー』は不死身だフォルァ。」
 胸を張るニラ茶猫。
 どうやら、誰かと闘ってきたみたいだ。

「さっきの爆発、お前か…?」
 三月ウサギがニラ茶猫に質問する。

「あ…ああ。
 展開上どうしようもなく、な。
 まあ勝負には勝ったんだから問題無いって。」
 ニラ茶猫が冷や汗を掻きながら答える。
 この馬鹿。
 あれだけ騒ぎを起こすなと言われておきながら、何で爆発なんかさせてんだ?

「…開いた口が塞がらんな。
 貴様、頭脳が間抜けか?」
 呆れた様子で呟く三月ウサギ。

「うるせえな!!
 しょうがねぇだろうが!
 いきなり『紅血の悪賊』に襲われたんだから!!」
 …!!
 『紅血の悪賊』!
 矢張り、ここにもその一味がいたのか…!

「ふん。
 貴様がもう少し強ければ、あれほどの騒ぎも起こさなかったろう。
 どこの三下と死闘を演じていたのかは知らんが、
 実力の程が知れるというものだな。」
 あからさまに三月ウサギが皮肉を言う。

「んだとぉ!?
 じゃあここで、俺が本当に弱いかどうか試してみるか!?」
 腕から刃を生やしてニラ茶猫が構えを取る。
 だから、騒ぎを起こすなと言っているのが分からないのか。
 どうしてこの二人が一緒だと、こうなってしまうのだ?

「ちょ、ちょっと二人ともやめなよ。」
 事態を重く見たのか、オオミミが仲裁に入る。
「ふん。」
「けっ。」
 オオミミに間に入られ、三月ウサギとニラ茶猫が渋々矛を収めた。

「いやはや、お二人とも仲がよろしいですねぇ。」
 タカラギコが微笑みながら言った。

「誰がこんな奴と!」
「誰がこんな奴と!」
 三月ウサギとニラ茶猫の声がハモる。

「ふん。」
「けっ。」
 声が重なった事にお互いバツが悪くなったのか、二人のムードがより険悪になる。
 この二人、本当に仲が良いのか悪いのか…

482ブック:2004/05/28(金) 22:56


「あ、そうだ。タカラギコさん。」
 と、オオミミが思い出したようにタカラギコに言った。

「はい?」
 きょとんとした顔でタカラギコが答える。

「さっきの女の人からこれ貰ったんです。
 これでタカラギコさんの武器を買いに行きませんか?」
 オオミミが懐から金貨の詰まった巾着袋を取り出した。

 オオミミ、君は何を言ってるんだ?
 せっかくの大金を他人の為に使うなんて。
 それだけのお金があれば、何回フルコースを食べられるか分かっているのか!?

「いえ、そんなの悪いですよ。」
 口では遠慮しながらも、明らかに嬉しそうな顔をするタカラギコ。

「お、おい、オオミミ!
 お前どこでそんな金…」
 吃驚した様子でニラ茶猫がオオミミに質問した。

「さっき恐い女の人に誘拐されちゃってね、
 それで、その人に貰ったんだよ。」
 オオミミが答える。

「ああ!?
 誘拐されて金を貰うってどういうこった!?
 普通逆だろ……ってまあいいや。
 それよりオオミミ、ものは相談だがその金を少し俺に預けて…」
 下品な顔でニラ茶猫がすりよってくる。
 どうせ、ろくな事を考えてはいないだろう。

「駄目。
 ニラ茶猫に渡したって、どうせ博打かエッチな事にしか使わないもん。」
 にべも無くオオミミが断った。

「…!
 馬っ鹿野郎!
 オオミミ、お前俺を何だと思ってやがるんだ!!」
 ニラ茶猫が必死に否定する。

「図星だろう?
 何せお前のベッドの下には『無毛天ご…」
「わーーー!わーーー!!わーーー!!!」
 三月ウサギが何か言おうとした所に、
 ニラ茶猫が大声を張り上げてそれを妨害した。
 『無毛天ご…』?
 一体何の事だ?

「いやはやすみませんね、オオミミ君。
 私が女性であれば、迷わず抱かれたい男ナンバーワンに君を投票しますよ。」
 タカラギコがこれ以上無い笑顔を見せる。
 まるで、新しい玩具を買って貰う子供のように。

「…自分で買い与えた武器が、自分に向けられなければいいがな。」
 三月ウサギがぼそりと呟く。

「そういう事言うの、やめてよ…」
 オオミミが悲しそうな顔をした。
「ふん。」
 三月ウサギがオオミミから視線を逸らす。
 個人的には僕も三月ウサギと同感だ。
 いくら敵意が見られないからとはいえ、オオミミは無防備過ぎる。

「…そういやオオミミ、女に誘拐された、っつてたけど、
 どんな奴だったんだ?」
 重苦しくなった空気を察したのか、ニラ茶猫が話題を変えた。

「あ、うん。
 確か、コートに全身をすっぽり包んでて、
 それから、凄く大きな武器を持ってた。
 何か、銃とハルバードがくっついたみたいな…」

「…!?」
 その時、ニラ茶猫の表情が一瞬だけ変わった。
「…?
 どうしたの?」
 不思議そうに、オオミミがニラ茶猫に尋ねる。

「…いや、何でもねぇ。
 多分、思い違いだ。」
 ニラ茶猫が会話を打ち切る。
 それにしてもさっきの彼の表情は?
 何か思う事でもあったのだろうか。

「どうでもいいが、買い物に行くなら早くしろ。
 『紅血の悪賊』が居たと分かった以上、のんびりは出来んぞ。」
 低い声で三月ウサギが告げる。

「あ、そうだね。」
 頷くオオミミ。

 そうだ、今は考えていたってしょうがない。
 とにかく先に進まなければ。

(オオミミ。何があろうと、君は僕が守ってみせるからな。)
 色々と解けない問題を山積みにしながらも、
 僕はそこで思考を中断させるのであった。



     TO BE CONTINUED…

483( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:48
「ダズヴィダーニャ(ごきげんよう)・・。巨耳モナー・・。」
「ネクロ・・マラ・・ラーッ!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『ピッチャーデニー』

雨がしきりに降っている。
そして雨と濃い霧のせいでお互いの輪郭がギリギリ見えるくらいの状態の俺と・・ネクロマララー。
「・・かなりわかりやすい輪郭だなぁ。テメェは。」
「君に言われたくはないよ・・。」
・・ムカつく返し方をしてきやがる
まるで『犬を勝手に吠えさせてる』みたいな風に流しやがって
「・・先輩を殺した時から、テメェは俺の手で『逮捕』すると決めていた。」
「・・それで?」
ネクロマララーは頭の後ろをかきながら、面倒くさそうに言った
「・・テメェを今ココで、『逮捕』するッ!『ジェノサイア act2』ッ!」
俺は思いっきり地面を叩きつけた。
すると地面がブレ、ガチャピン戦とは比べ物にならない量の針が現れる。


「フン・・。まだコッチの少女の方が威圧感があったな・・。」
ネクロマララーのスタンドらしき物が何かを投げる。
・・雨霧のせいで良く見えない。
「『重力弾』。」
一気に地面の針が消える
・・・先輩の時と一緒だ・・・・。
「私は君を助けてやったのだぞ・・?逮捕より先に礼が欲しいがな・・。」
抜かせアホが。
「お前のした事はただの『殺人罪』だ。助けられたから何だ。俺が頼んだ覚えもない。」
「・・そうか。」


・・・!?
なんだこりゃ・・ッまわりの空気が・・薄い・・ッ!
・・あの時と同じだ・・『矢の男』や『殺ちゃん』。『ガチャピン』と同じ様な『威圧感』
だが・・その中でも格別だ・・ッ!『矢の男』と同じくらいの威圧感がありやがる・・ッ!
「しかしがっかりだな。君はまだ『弱い』。スタンドが進化したと聞いて期待したんだがな・・。
私が相手するまでも無いな・・『大ちゃん』ッ!!」


ネクロマララーが一歩引くと後ろからハゲ頭の男が現れた。
「・・ピッチャーデニー・・。」
・・?
何を言ってやがるコイツ・・?
「それじゃあ。大ちゃん。後は頼んだぞ。」
「了解。」
ネクロマララーは雨と霧の中に消えていった
「ちょ・・っ待ちやが・・ッ!」
俺がネクロマララーを追おうとするとハゲ頭の『大ちゃん』と呼ばれる男が立ちはだかった
「・・ッ!邪魔ァッ!」
大ちゃんを思いっきり殴ろうとすると大ちゃんの目の前に現れたキーホルダーくらいの大きさのスタンドに防がれる
「クソがッ!・・?」

484( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:49
俺がもう一発殴ろうとした時。その『異変』に気付いた。
「『右手』が動かない・・?」
俺がその右手を見ていると。キーホルダーくらいの大きさのスタンドが喋り始めた
「キシシッ!オマエ、イマオレヲナグッタダロ?ヨッテ、『ペナルティ』ヲウケテモラウゼッ!」
良く見ると俺の右腕に×印がついていた。
「こ・・これは・・ッ!?」
「イッタダロ?テメェハコトバモワカンネェノカッ!クソガッ!『ペナルティ』ダッツッテンダロガッ!」
プチッ
「テメェッ!図に乗ってんじゃねぇぞッ!スタンドごとk・・」
!?口が開かない・・ッ!?
「キシシシシッ!テメェ、イマオレニ『ボーゲン』ハイタダロ?『ペナルティ』ダゼッ!」


・・ッ!そういう事か・・ッ!
つまり・・アイツに対して『失礼』な事をすると『失礼』をした部分が使えなくなるんだッ!
だからあんな野球の監督の様な格好をしていたのか・・ッ
だとするとどうする・・。矢張り本体のほうを攻撃するしか・・
その時、俺の足元に植物が這う様な感触がした
その感触に反応し後ろを向くと、その植物は殺ちゃんの方向へのびていった。
そして植物の元をたどるとムックの手から伸びていた。
(・・!!ムック・・意識が戻ったのかッ!?)
・・いや、戻ってはいるが・・自分の力で起き上がる事もまだ出来ない様だ
相当なダメージがまだ体にこもってるらしい。
だとすると・・・気付かれるのはマズい。
多分ムックは殺ちゃんを回復させようとしているのだ。
だがソレが見つかってしまうと瀕死のムックがとてつもない危険な状態になる上
殺ちゃんも回復しない。更に殺ちゃんは早く治療しないとヤバい状況だ。
(頼む――ッ気付かれないでくれッ・・)


俺がそう願うと植物は殺ちゃんのスカートの中に入っていった。
殺ちゃんが『あッ――』という声をもらし少し痙攣した。
・・そしてその時、俺の中の『何か』が確実にキレた


「ンンンンンンンンンン(こンのドグサレが)ァ――ッ!!!!!」
俺は瀕死のムックに向かって思いっきりキックを食らわす
「ンンン!ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンァーッ!!ンンンンンッ!ンンンンンァ―ッ!
(テメェッ!気絶してる無防備な少女に何してんだコラァーッ!!言ってみろッ!言ってみろァーッ!)」
・・・ハッ
・・・マズい、ついつい我を忘れてムックを――ッ
「・・・タシカ、ソイツノノウリョクハ・・『ショクブツヲハヤス』ダッタヨナァ・・ソシテソノショクブツノヨウブンヲ・・ヒトニオクリ・・『カイフク』サセルコトモ
デキルンダッタヨナァ――ッ!?」
奴のスタンドが叫ぶ
クソッ!何をやってんだ俺はッ!
「ソノケダマノリョウテニ『ペナルティ』ヲアタエルゼェッ!」

485( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50

ムックの両手に×マークがつく
・・すまない、ムック。
・・おや?
頭から血流しているムックの手から出ている植物は未だ、伸びていく。
今度はちゃんとスカートの上を登って
・・・でも何故か逆にエロい。
だが一体・・何故・・?ムックの両手は封じられているからこれ以上植物の成長・・!


その時俺は空がいつの間にか晴れている事に気付いた。
そしてさっきまで降っていた雨で濡れている植物・・っていうか雨で濡れてると信じたい(特に先端は)
(・・そうかッ!ムックの出す植物の成長性はとてつもないッ!だからこの少量の雨水(?)と太陽光で成長を続けられるのかッ!)
そして伸びた植物が思いっきり殺ちゃんの腕に突き刺さる。そして殺ちゃんの体が少し打ち震えた
「――ッ・・ここ・・は・・?」
殺ちゃんの傷がみるみる癒えて立ち上がる殺ちゃん。
「チィッ!アノケダマメッ!」
「・・状況がイマイチ理解できないが・・闘っている事は確か・・だな?」
殺ちゃんは大ちゃんに銃を向ける
「ンンンンッ!ンンッ!ンンンンンンン――(殺ちゃんッ!待てッ!アイツの能力は――)」


無常にも喋れない俺の言葉は届かず、弾丸が発射された
そして物凄いスピードで弾丸にあたりに来るスタンド
「キハッ!テメェ・・イマ・・オレヲ『ウッタ』ナッ!?」
自分からあたりに言っただけだろがッ!
そう脳内ツッコミを入れている間に殺ちゃんの右手に×マークがつく
「・・!?馬鹿なッ!右腕が動かんッ!・・このハゲがッ!私に何をしたァッ!」
「キハハハハッ!テメェッ!コンドハ・・ボウゲンヲハキヤガッタナッ!『ペナルティ』ダッ!」
てめぇに暴言吐いたんじゃなくて本体にだろッ!
また脳内ツッコミいれている間に殺ちゃんの口に×マークがつく
「ンンンンッ!?ンンン・・・」
どうやら殺ちゃんもアイツの能力に気付いて来たようだ。


さて・・現在の状況を整理してみようか。
俺は右手・口がつかえない。よって後は左手 両足 ・・。まぁ戦闘に使えるのはこれくらい・・か。
殺ちゃんも俺と同じ・・もしかして『おっぱいミサイル』の出番もッ!?・・ドキドキ。
んでムックは両腕が使えない。その上俺のダメ押しキックで完全に意識を失ってやがる・・。

486( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50

俺が頭ん中で必死に考えていると殺ちゃんがアイコンタクトで『左に行け』と指示をする。
そうか・・両側から攻撃する気か・・
殺ちゃんの合図と同時に俺は左へ、殺ちゃんは右へ走る
「ンンンンンンンンンンンーッ!(ジェノサイアact.2―ッ!)」
「ンーンンンンンンッ!(リーサル・ウエポンッ!)」
俺と殺ちゃんは同時に攻撃した
スタンドはとまどったが即座に俺の攻撃を受けた。
そして銃弾は大ちゃんめがけてあと何秒かで着弾する位置にきた
「ンンンン・・(終わりだ・・。)」


しかしその時、俺たちは信じがたい物を目撃した
「まだだ・・まだ終わらんよッ!」
なんと、鉄のグローブの様な物で全ての銃弾を受け止めていた
「ン・・ンンンッ(ば・・馬鹿なッ)!?」
俺と殺ちゃんは同時に叫ぶ
「これでも野球選手時代は名キャッチャーでな・・。銃弾くらいなら何発でもとれるぞ?」
大ちゃんは得意げに笑いながら言う。
・・・っていうか野球ボールと銃弾じゃ格が違うだろっ!
「キシシッ!ソシテ巨耳ィッ!テメェニハ、ペナルティダッ!」
俺の左腕に×マークがつく。・・もう両手がつかえねぇのか・・


「ンンン・・ンンンンンンン?(ならば・・これでどうだ?)」
殺ちゃんは左手から大きな銀色の物をだした
その銀色の武器は横からチューブが出ていて、そのチューブは背中についてる大きなドラム缶の様な物についてる
・・・・!そうか、これは!
「ンンンンン・・ンンンンッンンンンンン(火遊びは・・ママと一緒にやりな)・・・。」
殺ちゃんはそう言うと左手に力を込める
そして次の瞬間、銀色の武器から大量の火炎が放たれる。
そう。コレは火炎放射器だ。流石に実体の無い砲撃にはアイツも・・


しかし 俺は 次の瞬間 またもや 眼を 疑った
奴のスタンドが炎を全て飲み込んだのだ
「ブフゥ〜・・テメェ、オレニホノオヲ『ノマセタ』ナッ!『ペナルティ』ダゼッ!」
火炎放射器に×マークがつく
クソッ!やられたっ!もう後がない・・あとは蹴りか・・お・・おっぱいミサイr・・
いやいや違う違う違う。まじめに考えろ俺
しかし無常にも俺の頭にはおっぱいミサイルのイメージばかりが浮かぶ


「ンン、ンッンン!ンッンンンンン・・(なぁ、殺ちゃん!おっぱいミサイ・・)」
俺が殺ちゃんに声をかけようとすると殺ちゃんは後ろを振り向き、俺にアイコンタクトを送った。
『逃げろ』
必死な眼だった為、すぐに伝わった。
そして、俺がどれだけ馬鹿な事を考えてたかわかって恥ずかしくなった。


そして殺ちゃんは手話で『ムックを担げ』と俺に命令する
了解だ。とりあえずここから逃げるしかない・・ッ!
合図と共に一斉に走り出す俺と殺ちゃん
そして途中で枝分かれし、ムックを担いで殺ちゃんの元へ戻った
後ろを振り向くと、大ちゃんが必死で追ってきてるがこの距離だ。多分間に合わないだろう。


しかし俺が前を向いたその時殺ちゃんが大きく弧を描いて宙を舞い、地に落ちた
「グゥッ―ァッ!?」
矢張り自力で成長しただけの花では回復量が少なかったのか
地に落ちた殺ちゃんの古傷から血が吹き出し殺ちゃんは呻き声をあげる

487( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50
まだ状況が良く理解できない。何が起こった?あいつら・・何をした・・?
そしてパニクった頭を落ち着かせ、前方を見るとマッチョで野球ボールの様な顔をした監督の様な奴が立っていた
・・まさか・・コイツは・・。


「『敵前逃亡』は最大のペナルティを与えるしかないな・・。」
声にも体つきにも面影は残ってないが・・・こいつは間違いない・・さっきのスタンドだっ!
俺は必死で背を向け逃げようとしたが俺が振り向いた場所にすぐに奴は移動してきた
「――ッ!」


「この世から・・――退場しろ」
両腕が塞がれ、ガードもできない俺の顔面に奴のパンチが入る
そして鈍い音がなる俺の口
・・・顎と歯が折れた音と思われる。


「退場ッ!」
そしてさらにもう一発パンチがくる
頭が揺れる。周りの景色がゆがんでみえてきた
「退場退場ッ!」
そんな俺に非常にももう一発食らわされるパンチ。
それも鳩尾に入れられ俺は宙を舞う


「退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場――ッ!」


宙を舞った俺の体に『退場』ラッシュがあてられる
声にならない叫びが虚空に消える
「この世からァ―――ッ!退場しろォ――ッ!」
そして駄目押しの一発で思いっきり吹っ飛ぶ俺


「さて・・次は・・あの少女だ。」
マッチョなスタンドは殺ちゃんの方へ歩いていく。
しかしその瞬間。スタンドが消えた


「――えッ!?」
大ちゃんは素っ頓狂な声をあげる。
そして次の瞬間、殺ちゃんの回し蹴りを思いっきり食らう大ちゃん
更に手錠をかけた

488( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:51
「く・・そっ!こんなも・・の・・。」
大ちゃんの顔色が変る
俺からは殺ちゃんの後姿しか見えないが、このドス黒く息苦しい感覚
良くわかる。『魔眼』だ。


「外したければ外せ、スタンドを使いたければ使え。ただし・・」
大ちゃんのスタンドが消えて効果が切れたのか、殺ちゃんは自由自在に喋った。
「・・・・貴様のスタンドや、グローブじゃ護れないほどの砲撃をかましてやる。」
深紅に輝いているだろう殺ちゃんの眼に、体中に現れた火器に、流石の大ちゃんも戦意喪失している
「は・・はひ・・ごめんなはひ・・。」


大ちゃんの体がかなり震える。どうやら小便も漏らしているようだ。
こうなってしまうと上級幹部ってのも情けないなぁ・・。
「し・・しかし・・どうやって私めのスタンドをお消しになったのですか?」
大ちゃんは恐る恐る聞く


「その問いには・・俺がお答えしよう・・。」
ヨロヨロしながら俺は立ち上がった。
「ある・・二人の兄弟が・・俺のジェノサイアの応援で力を貸してくれた・・。」
そう。流石兄弟だ彼らに俺のジェノサイアを向かわせて、応援を要請した。
・・・しかしこれでまた出費が・・ッ!


「彼らの能力を使えばアンタのスタンドを『削除』するくらいわけなかった。って訳よ」
本当に頼りになる兄弟だこと。・・・金の問題に眼を瞑ればな。
「・・・・・一応、教えておこう。」
殺ちゃんに連行されてる時、大ちゃんはつぶやいた
「・・・何だ?」
「ハートマンに・・気をつけろ。」
「・・・・?」
俺が頭の上に疑問符を浮かべると、そこから大ちゃんは押し黙ってしまった


「おい。気になるだろ。話せ。」
殺ちゃんが脅迫するも
「よせ。それだけの忠告がもらえただけでありがたいんだ。」
俺は殺ちゃんの肩を叩き言った。
「・・・・・・ああ。」
殺ちゃんはそう言うと、大ちゃんを連行した。
「ハートマン・・か。アイツとも決着をつけなきゃならないな・・。」
俺は雨上がりの青く輝く空を見上げ呟いた

489( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:51
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


〜キャンパス〜

「ふむ・・。まさか大ちゃんがやられるとはな・・。」
『神』が呟く
「なぁ、神さんよぉ。」
後ろにたっていた男が呟く。・・ハートマンだ。
「・・・何だ?」
「ココの『門番』。是非俺様にやらせてくれないか?」
ハートマン軍曹はニヤニヤしながら言った。
「・・ふむ。まぁ良い。・・しかし、珍しいな。貴様が門番などと言うのは・・。」
『神』が言う。
「まぁいいだろ・・。あのウジ虫どもを始末するのは俺だ。どこぞのケツの汚れた豚に渡すことは無い。」


ふいに、ハートマンの口から銀色に輝く牙が見えた
「!!・・まさか・・貴様・・。」
「安心しろ。すぐに片付けてきてやる。俺の戦歴に傷を付けたあのウジ虫どもをな・・。」
ハートマンの眼が紅く輝く
「・・・まぁ良いだろう。期待してるぞ。軍曹・・。」
「Thank you ・・。あ。言い忘れていたが。一応、行けるのは夜だけだからヨロシク・・。」
漆黒のマントをはためかせ軍曹は言った。

490( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:52
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


〜夜・キャンパス前〜

「狙うなら夜しかない・・か。嫌な予感がしてならなくなってきたぜ。」
俺は不服そうに呟く
「まぁ確かに・・。逆に闇夜から奇襲されたらまずいしな・・。」
殺ちゃんもため息をつく
「・・・・。」
そして汗だくで押し黙るムック。
そう。この計画はムックがたてた物だった。


「ま、まぁいいじゃないですKA!とにかく早KU――。」
その瞬間。とてつもない轟音が当たりに響く。
手だ。巨大な手が振り落とされた。それを紙一重でかわすムック
「――なッ!?」
ムックが錯乱する
「落ち着け!この手の野郎は・・アイツしかいねぇッ!」
葉のこすれる音が聞こえると、門の前から人が現れた。
「久しぶりだな。『ハートマン』。」
「軍曹をつけろッ!便所虫がッ!」      リ ベ ン ジ
肌を叩くような強い夜風の中、ハートマンの『復讐戦』が始まった・・。

←To Be Continued

491( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:52
キャンパスでの最終決戦寸前!ここでキャラ復習

登場人物

――――――――――巨耳派――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

492( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:53
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(逮捕)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。ムックの手により逮捕。動物園送り

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

493( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:54
  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(故)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。
 ガチャピンに頭部を食われ、両者ともに死亡。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

   /ノ 0ヽ
  _|___|_
 ヽ( # ゚Д゚)ノハートマン軍曹(逃亡)

・『キャンパス』の上級幹部。教育係。
 超スパルタで有名でムックを『育てた』張本人。
 口が悪いながらも人望は結構厚い人
 対巨耳戦で片手を失いながらも逃亡。キャンパスに逃げ込んだ。

 スタンドの能力の詳細は不明。
 どうやら床や壁に体をもぐらせ、巨大化させて出す能力



 |::::::::::   (●)    (●)   | 
 |:::::::::::::::::   \___/    |  
 ヽ:::::::::::::::::::.  \/     ノ 大ちゃん(逮捕)

・某野球チームの元監督らしいが、詳細は明らかになっていない。
 頭はスキンヘッドで『ピッチャーデニー』が口癖
 若かりし頃は甘いルックスをもっていたらしい。
 昔、大勢の人達に色々罵倒された事がある為、今の世界が嫌になり『キャンパス』に入った。
 スタンドにも相当の力があり、入ってからすぐに上級幹部まで上り詰めた。トムの恩師
 しかし流石兄弟兄者のスタンドによってスタンドを破壊された上、殺ちゃんの魔眼によって脅迫、逮捕された。
 最後に「ハートマンに気をつけろ」と謎の言葉を残した。

 スタンドは『ニューロシス』。容姿は帽子を被った野球ボール大の顔に小さい体。
 大きさはキーホルダーくらい 能力は自分に対して『失礼』な事をした者に『ペナルティ』を与える事
 例えば左手に持ってる銃で攻撃すれば銃を持っている左手全体を、右手で殴れば右手全体を動けなくさせる
 更に遠隔操作系から近距離パワー型に変化もでき、かなり有能なスタンド。
 結構理不尽な能力の為『理屈が通じないスタンド』と恐れられている。


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはドス黒い顔に鉄製のマスクをつけたスタイル抜群のメイド。
 能力は通常の重力の1.5倍の重力を与える『重力球』と150〜200倍の重力を与える『重力弾』を作り、放つ事。
 因みに重力球の重力発動条件は『相手に当てるor触れる』事だが重力弾の重力発動条件はわかっていない。

494( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:54

――――――――――謎の敵――――――――――

   〆⌒ヽ
  ( Θ_Θ)ガチャピン(消息不明)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 好きな物はスタンド使いの肉。決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。
 現在、対巨耳モナー戦後消息不明。

 スタンドは『ジミー・イート・ワールド』。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。

  ∧_∧
  ( :::::::::::)矢の男(消息不明)

・すべてにおいて謎の男。『弓と矢』でスタンド使いを増やしているが
 その目的は不明。部下を殺す非情さと全てを支配するかのような眼をもっている。
 その眼に睨まれた者は精神がイッてしまったりする。
 更に彼がいるだけで周りの空気が変貌し、かなり重くなるらしい。
 スタンドについてはまだ何もわかっていないが、かなりの実力者。
 現在、対巨耳モナー戦後消息不明

495ブック:2004/05/30(日) 00:52
     EVER BLUE
     第二十一話・ONE=WAY TRAFFIC 〜それでも進むしか〜


 出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、
 出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない。
 その言葉が、奇形モララーの頭を埋め尽くしていた。

「俺は…出来損ないじゃねえぇ!!」
 力の限り壁を叩く。
 壁の一部が拳の形に陥没した。

「…ならば、結果でそれを証明すればいいだろう?」
 と、そこへいつの間にか長耳の男が現れた。
 長耳の男は、試すような視線を奇形モララーに向ける。

「ああ、そうだ…
 俺は出来損ないなんかじゃねぇんだ…
 俺は出来損ないなんかじゃねえええええええEEEEEEEAAAAAAA!!!」
 奇形モララーの咆哮が辺りに響き渡る。

「……」
 叫ぶ奇形モララーの足元に、長耳の男が一枚の紙切れを落とす。
「…何だ、こりゃあ?」
 その紙を拾い上げる奇形モララー。

「ようやく『奴』から連絡員に、あの『カドモン』の居場所を掴んだとの情報が入った。
 どうするかは好きにするがいい。
 ただ一つ言っておくが、私はここには来なかった。」
 後ろに振り返る長耳の男。

「ふっ…ははっ、ふふはははははははははははははははは!!」
 狂ったように、奇形モララーが笑い出す。
「OKOK分かったぜぇ…
 待ってろ爺共。
 もう俺を出来損ないなんて呼ばしゃしねぇ。
 手前らの前に、あの『変異体』を引っ下げて来てやるァ…!」
 奇形モララーが再び笑い出す。
 その目には、真っ黒い炎が煌々と燃え盛っていた。

496ブック:2004/05/30(日) 00:52



     ・     ・     ・



「いやー、やっぱりハンドガンは良い!
 この手の平にすっぽりと収まる安心感。
 久し振りだと感慨も一入ですねぇ。」
 『GREADER SINGLEHAND』という銘柄のハンドガンを握りながら、
 タカラギコが目を輝かせた。
 結局オオミミがタカラギコに買い与えたのは、
 拳銃二丁に予備のマガジン十本。
 それから弾丸を数百発。
 加えて小刃、中刃、大刃のナイフをそれぞれ何本かずつ。
 それで、あの女から貰ったお金はすっかり底をついてしまった。
 糞。

「…買い物の途中、暫く姿が見えなかったが?」
 三月ウサギが、牽制するようにタカラギコに言った。

「あ、すみません。
 恥ずかしながら、ちょっと憚りに行ってまして…」
 頭を掻きながらタカラギコが答える。
 嘘を言ってる風には見えないが、それでも油断は禁物だ。
 何せ、『特技は人を騙す事』と自分で言うような人間なのだから。

「ふん…」
 これ以上追求するだけ無駄と感じたのか、三月ウサギがタカラギコから顔を離す。

「…どうでもいいが、お前ら……」
 突然サカーナの親方が口を開いた。
 心なしか、血圧が高くなってるように見受けられる。

「あれだけ騒ぎ起こすな、つってたのに、
 何で大爆発なんざやらかしてんだ!!!
 お前ら本当に俺の話聞いてたのか!!?」
 顔を真っ赤にするサカーナの親方。
 予想はしていたが、やっぱりか。

「俺は関係無い。
 文句があるならそこの馬鹿に言え。」
 三月ウサギがニラ茶猫に視線を移す。

「し、しょうがねぇだろう!?
 俺だってわざとあんな事した訳じゃ……っ痛ぇ!」
 弁解しようとするニラ茶猫の頭に、サカーナの親方の拳骨が落ちる。

「言い訳すんな!
 全く、どう落とし前つけるんだこの馬鹿が!!
 それとも賞金首にでもなるつもりか!?」
 サカーナがさらに拳骨を振るう。

「呆れてものも言えませんわね…」
 高島美和がお茶を啜る。
「ニラ茶猫さん、HELL2U(地獄に逝きやがれ)です〜。」
 可愛い声でさらりと罵倒するカウガール。
 一応ニラ茶猫と付き合っている筈なのにこの言いよう。
 酷いな、この女。

「皆、もうやめなよ。
 ニラ茶猫だって仕方なかったんだろうし…」
 誹謗中傷の集中砲火を浴びるニラ茶猫を、オオミミが庇い立てする。
「心の友よ〜〜!
 やっぱり信じれるのはお前だけだ〜〜〜!!」
 泣きながらニラ茶猫がオオミミに抱きついてくる。
 寄るな、鬱陶しい。

497ブック:2004/05/30(日) 00:53



「阿呆は放っておいて…
 オオミミ、そういえば吸血鬼らしい女に連れ去られかけた、って聞いたが、
 本当なのか?」
 サカーナの親方がオオミミに尋ねた。
「あ、うん。」
 オオミミが頷く。

「…『紅血の悪賊』でしょうか?」
 高島美和が考え込む素振りをみせる。
「多分、違うと思う。」
 首を振るオオミミ。

「そういえばタカラギコさん、
 この前『常夜の王国』も動いている、って言ってましたよね?」
 不意にカウガールがタカラギコに聞いた。

「ええ、そうですが…」
 拳銃を懐にしまい、タカラギコが答える。

「ということは、そこの手合いの可能性もある、と。」
 高島美和が湯飲みを机の上に置いた。

「……」
 静まり返るブリッジ。
 どうやら、僕達は本当にとんでもない事に巻き込まれているようだ。
 今までにも何回か危ない橋を渡る事はあったが、
 恐らく今回のは桁が違う。
 正真正銘とびきりの厄ネタだ。
 その不安が、皆に重く圧し掛かっていた。

「と、兎に角だ!
 落ち込んでても埒が開かねぇんだし、
 今は『ヌールポイント公国』を目指そうぜ!!」
 暗い雰囲気を払拭しようと、サカーナの親方が明るい声で告げる。
 誰の所為でこうなってると思ってるんだ、誰の。

「…士気を高めようとなさっている所悪いですが、一つ忠告させて頂きます。」
 と、高島美和が口を開いた。
 全員の視線が、彼女に集まる。

「今回の一件で、私達の明確な位置を『紅血の悪賊』に掴まれてしまったでしょう。
 そして、当然彼等も私達が近隣の国の勢力圏に侵入すると予測している筈です。
 その事から、これからの道中かなりの確立で妨害が入ると予想されます。」
 高島美和が冷静な声で告げる。

「で、その妨害の件ですけど…」
 高島美和の声と同時に、ディスプレイに地図が映し出される。

「ここが私達の現在位置、そしてこれが『ヌールポイント公国』の領空内への
 最短ルートです。」
 地図に赤いマーカーが示され、そこからさらに赤い線が伸びる。

「見ての通り、このルートの途中には幾つかの島が近在しています。
 もしそこに『紅血の悪賊』の戦力があるとしたならば、
 私達をその近くで迎え撃つ位はやってくるでしょうね。
 いえ、それだけではありません。
 『ヌールポイント公国』内の仲間も外へと出張って来るかもしれません。
 連中にとっては、私達が『ヌールポイント公国』に入る事が敗北条件ですからね。」
 高島美和が大きく息を吐く。

「遠回りをすればいいんじゃないの?」
 天が不思議そうに尋ねる。

「遠回りしたとしても、私達が燃料を補給した所で結局は足がついてしまいます。
 そして、もたもたしていたら『紅血の悪賊』の本隊に追いつかれるやもしれません。
 時間が経てば経つ程、こちらが不利です。
 残念ですが、少々の危険を冒してでも最短距離で『ヌールポイント』公国に入る事が、
 最も安全な手段としか考えられませんね。」
 高島美和が顔を曇らせる。
 つまり、どうあっても戦いは避けれそうにないという事か。

「糞ったれ…!」
 ニラ茶猫が足で壁を蹴る。
「たまらんな…」
 溜息を吐く三月ウサギ。

「まあまあ皆さん、そうお気を落とさず。
 何があるかは分かりませんが、私が居る限りそう簡単には手出しさせませんよ。」
 タカラギコが得意気にパニッシャーを担いだ。

「貴様が一番信用ならんのだがな…」
 三月ウサギがタカラギコを見据える。

「そんな殺生な…」
 情けない声を出すタカラギコ。

「よっしゃ、取り敢えずミーティングはここまでだ!
 野郎共、持ち場へ戻れ!
 こっから先、一秒も気を抜くんじゃねぇぞ!!」
 サカーナの親方が激を飛ばす。

(……)
 いつもなら、その威勢の良い声でどんな不安も吹き飛んでしまうのだが、
 今回は何故か気が晴れなかった。
 何かがおかしい。
 何か、果てしなくどす黒いものが、ゆっくりと這い寄って来るような…

「どうしたの、『ゼルダ』?」
 オオミミが僕に尋ねた。
(何でもないよ、オオミミ。)
 考えるのはよそう。
 ただの思い過ごし、確証の無い漠然とした不安じゃないか。
 わざわざ自分から深みに嵌ってどうする。

(オオミミ…きっと、大丈夫だよね。)
 僕はそうオオミミに囁いた。

498ブック:2004/05/30(日) 00:54



     ・     ・     ・



 荘厳な部屋の中で、二人の豪華な服を着た二人の老人が話し合っていた。
「…又もや『ジャンヌ・ザ・ハルバード』を取り逃がしたらしい。」
「流石は『常夜の王国』の懐刀、そう易々とはとれんか。
 忌々しや…」
 老人の一人が舌打ちする。

「岡星精一もやり過ぎておるようで、あちこちから苦情が来ている。」
 老人が眉を顰める。
「あ奴は確かに有能だが、限度を知らぬのが玉に瑕だな…」
 渋い顔を見せる老人達。

「聖王様は何と―――?」
 老人の一人がそう聞いた。
「…岡星精一の代わりに、『切り札』(テトラカード)を遣わせろ、との事だ。」
 もう一人の老人が口を開く。

「まあ確かに、岡星精一を抑えられ、且つ『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』と
 渡り合えるといったら彼奴等しかおらんか。
 で、誰を送り込むのだ?」
「K(キング)とJ(ジャック)は別件で派遣中。
 Q(クイーン)も休暇で旅行中だ。
 今残っているのはA(エース)だけだな。」
 老人が重苦しく口を開いた。

「A……あの新参者の『闘鬼』か。
 あの守銭奴しか残っておらぬとはな…」
 老人が渋い表情になる。
「そう言うな。
 確かに奴は金は掛かるが、それに見合った働きはする。
 何せ、この『聖十字騎士団』に入って僅か一年で、
 騎士として最高の誉れたる、
 『切り札』(テトラカード)の地位にまで上り詰めた程の者なのだからな。
 これ以上の適任者は他に居るまい?」
 もう一人の老人が相方を宥める。

「仕方が無い。Aに遣いを遅るか。
 どうせあの『家』に居るのだろう?」
 老人がやれやれと肩を竦める。

「…それでは手並みを見せて貰おうか、あのAの称号を持つ男に。」
 老人が険しい声で呟いた。



     TO BE CONTINUED…

499ブック:2004/05/31(月) 00:25
     EVER BLUE
     第二十二話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その一


 〜オオミミ達が『紅血の悪賊』に襲われる一年程前〜



 炎上する小型飛行機から、俺は何とか体を這い出した。
「はあ…はあッ、糞……!」
 足を引きずりながら悪態をつく。

「冗談じゃねぇぜ…
 どこなんだよ、ここ!?」
 全く訳が分からない。

 …そうだ、俺は何でこんな目に遭っているのだ?
 確か、あの奇形に呼ばれて来てみれば、そこは陰気臭い場所で…
 それで何かヤバい気がしたから、隙をついて逃げ出そうとしたんだ。
 で、勿論飛行機の乗り方なんか分からないから適当に動かそうとしたら、
 いきなり飛行機が発進して、それで案の定ここに墜落して…

「……!」
 足がもつれ、その場に倒れ込む。
 まずい。
 マジで死んでしまいそうだ。

 …死ぬ?
 ちょっと待てよ。
 俺は、確かもう死んだ筈…

「…なんて事考えてる場合じゃねぇぞ。
 このままじゃ、寂しくて死んじまうぞ…」
 体中の力を総動員し、何とか立ち上がった。
 とにかく、どこか休める場所と、食い物を探さないと。
 復活して間も無く、再びくたばるなんて笑い話にもなりゃしない。

「くっ…!」
 しかし、もう体は限界だった。
 またもや倒れる俺の体。
 畜生め、ここまでか…!

「……?」
 と、近くに人の気配を感じた。
 思わず顔を上げて、気配のした方向を見る。

「あ……」
 そこに居たのは、まだ幼い少女だった。
 怯えたような目で、俺を見ている。

「…ちょ……助け……」
 必死に声を絞り出し、その少女に助けを求めた。
 頼む。
 人を呼んで来てくれ。

「……!!」
 しかし、少女は俺が呻くのを見ると怯えたように走り去ってしまった。

(待て、待ってくれ!!!)
 だが、俺の叫びはもう声にはならなかった。
 何てこった。
 最後のチャンスかもしれなかったのに。
 ああ、そろそろ走馬灯が…

「……」
 すると、俺が諦めかけた所に再び少女がやって来た。
 …?
 逃げたんじゃ、なかったのか?

「お水…」
 震える手で、少女が俺にコップに入った水を差し出した。
 そうか、さっきはこれを汲んで来てくれたのか。

「……」
 コップを受け取り、一気に水を飲み干す。
 美味い。
 今迄に、これほど水を美味く感じた事などなかった。

「…ありがとう、助かっ―――」
 …そうお礼を言おうとした所で、俺の意識は遠ざかった。

500ブック:2004/05/31(月) 00:25





「…よっと。」
 掛け声を上げ、雑貨の詰まった箱を棚の上に置いた。

「悪いわねぇ。病み上がりだってのに、お手伝いして貰っちゃって。」
 恰幅の良いおばちゃんが、俺に冷えたお茶を手渡した。
「いや、別にいいですよ。
 厄介になってるんだから、これ位お安い御用ってなもんですって。」
 礼を言い、おばちゃんからお茶を受け取る。

「トラギコ兄ちゃ〜ん!
 遊ぼ〜〜〜〜〜!!」
 そこに、子供達が駆け寄ってくる。
「お〜〜う!
 ちょっと待ってろ!!」
 急いでお茶を飲み干し、子供達と共に広場に走っていく。

 あの女の子に助けられ、この孤児院に担ぎ込まれて早十日。
 ここの人達の献身的な介護のお陰で、体はすっかり良くなっていた。
 まさかこっちの世界でも孤児院にお世話になるとは、つくづく因果なものだ。

「おっし、何して遊ぶ?
 鬼ごっこか?かくれんぼか?警泥か?六むしか?缶蹴か?ドッヂボールか?」
 子供達に服を引っ張られながら、何をして遊ぶのか提案する。

「缶蹴りがいい!」
「うん、それがいい!」
 子供達が無邪気な笑みを浮かべながら答えた。

(…二度と、こんな事が出来るなんて思っていなかったのにな。)
 そんな子供達の笑顔を見て、自嘲気味に笑う。

 俺にはもう、こいつらを抱く資格なんて有りはしないのに、
 何故俺はここにいるんだ?
 これも、神のおぼしめし、ってやつなのか?
 それなら、俺は…

「……?」
 と、建物の影に寂しそうにこちらを見つめる人影を発見した。
 俺を見つけてくれた、あの女の子だ。
 確か名前はちびしぃと言ったか。

「どうした?
 こっちに来て皆と一緒に遊ぼうぜ。」
 俺は笑いながら手招きする。

「……!」
 しかし、ちびしぃはそのままどっかに行ってしまった。
 いつもそうだ。
 あの子もここの孤児院の子供なのだが、
 ここに来て十日というものの、あの子が他の子供と遊んでいるのを見た事が無い。
 いや、それどころか、笑顔の一つすら見れなかった。
 他の子があの子を虐めている訳でもないのに、一体どうしてだ?

「なあ、ちびしぃも呼んで来てやれよ。
 仲間外れは悪い子のする事だぜ?」
 俺は近くの坊主にそう促した。

「違うんだよ。
 あいつの方から逃げてんだって。
 少し前までは、一緒に遊んでたのに…」
 顔を曇らせて坊主が答える。

 前までは一緒に遊んでた?
 それなら余計に変だ。
 あの子に、何かあったのか?

「!!!!!」
 その時、俺の頭を何か固い物が直撃した。
 これは、空き缶か?

「や、やば!
 当たっちゃった…」
 向こうの方で子供達がしまったという顔をする。
 どうやら、缶蹴りの缶を蹴ったのが、俺に命中したらしい。

「こぉの悪餓鬼共ーーーーー!!」
 頭からたんこぶを生やしながら、子供達を追いかける。
「逃げろーーーーー!!」
 子供達が蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

501ブック:2004/05/31(月) 00:26





 俺は子供達の寝室のドアを静かに開け、中の様子を確認した。
 時計は既に夜の十一時を指しており、子供達はスヤスヤと寝息を立てている。
「……」
 俺はそれを確認すると、音を立てないようにドアを閉めた。
 昼間しっかり遊んだ所為か、ぐっすりと眠っているようだ。

「トラギコさん、ちょっとお茶でもいかが?」
 俺が自分の部屋に戻ろうと、食堂の前を通りかかった所に、
 この孤児院の職員である、恰幅のいいおばちゃんが声を掛けてきた。

「あ、それじゃ馳走になります。」
 折角なので、一杯頂く事にする。
 食堂に入り、おばちゃんの前の席に腰をかけた。

「ごめんなさいね、家の子供達がヤンチャばっかりしちゃって。」
 ティーカップに紅茶を注ぎながら、おばちゃんが苦笑した。

「いえ、全然構いませんよ。」
 笑いながら熱い紅茶に口をつける。
 甘苦い琥珀色の液体が、口の中に広がっていく。

「でも大変ねぇ。
 事故のショックで記憶を無くしてるなんて…」
 心配そうな顔でおばちゃんが尋ねる。

 本当は記憶はばっちり残っているのだが、
 『実はラギは別の世界の住人だったラギよ!』、と言った所で
 変人扱いしかされないのは分かりきっている事なので、
 記憶喪失という事にしておいた。
 この方が、何かと問題も少ない。

「…すみません。
 こんなに長い間ご厄介になってしまって…
 もう少ししたら、すぐ出て行きますから。」
 俺は申し訳無い気持ちで一杯になりながら口を開いた。
「あらあら、そんな事気にしなくていいのよ。
 ここの子達も懐いているし、好きなだけゆっくりして行きなさいな。」
 おばちゃんが屈託無く笑う。

 口ではそう言っているが、
 この小さな孤児院では大人一人を余分に養うのでも大きな負担だろう。
 ここの人達の為にも、早くここから出なくては。

「それにしても、あなた子供と触れ合うのが上手ね。
 もしかしたら、元は孤児院か育児園で働いていたのかもね。」
 おばちゃんが微笑みながら話す。
 大正解だ、おばちゃん。



「…あの、ちびしぃの事なんですけど。」
 紅茶を飲み終えた所で、俺はそう話題を切り出した。

「ええ…」
 おばちゃんが暗い顔になる。

「…元々大人しい子だったけど、
 それでも少し前までは皆と笑いながら遊んでいたのよ。
 だけど、急に心を閉ざしてしまって…」
 沈痛な面持ちで喋るおばちゃん。
 やっぱり、この人もあの子の事は心配していたようだ。

「何か心当たりはあるんですか?」
 俺はおばちゃんに尋ねた。

「…いえ、特に何も。
 あの子に直接聞いてみた事もあるんだけど、
 『何でもない』の一点張りで…」
 おばちゃんが首を振る。

「そうですか…」
 俺は呟いた。
 あの子の顔、決して『何でもない』なんてものじゃない。
 詳しい事は分からないけど、間違い無く何かを思い詰めている。
 まるで、独りぼっちで何かと闘っているような、そんな悲壮感…

「…分かりました。
 それじゃ、そろそろ失礼します。
 お休みなさい。」
 カップを流しに入れ、俺は食堂を出た。


 …どうする。
 いや、どうするかなんて、もう決まってるじゃないか。
 あの子を、助けてやる。
 あの子には、命を救って貰った借りがある。
 今度は、俺が助けてやる番だ。

(お前に何が出来る?
 かつて手を血に汚した咎人の分際で、正義の味方気取りか?)
 俺の心の影から聞こえる嘲りの声。
 何とでも言え。
 例え偽善でも、あの子を放ってなんておけるものか。
 これが、俺の生き方だ。

「…俺は、今度こそ間違えない。
 俺は……!」
 拳を固め、唇を強く噛む。

 そうだ。
 俺はもう、間違える訳にはいかない。
 それが、向こうの世界で守り切れなかった、置き去りにしてしまった、
 あの孤児院の人達に対するせめてもの償いだ。
 だからあの子だけは、何としても助けてみせる…!

「悪いな、親父、お袋。
 どうやら、まだそっちには逝けないらしい。」
 夜の闇の中、俺は決意を固めるのであった。



     TO BE CONTINUED…

502ブック:2004/06/01(火) 05:05
     EVER BLUE
     第二十三話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その二


 たった一つの命を捨てて
 生まれ変わった縞々の体。
 金を稼いで孤児院に送る。
 トラギコがやらねば誰がやる。



 次の日、やっぱりちびしぃは独りぼっちのままだった。
 いや、むしろ自分から皆と距離を取っているような気さえする。

「どした?
 一人で遊んでてもつまんねぇだろ?」
 見かねてちびしぃの後ろから声をかける。

 子供ってのは、笑いながら遊ぶのが仕事なんだ。
 こんな寂しそうなのを放っておく訳にはいかない。

「……!」
 しかし、ちびしぃはすぐに俺から逃げ出してしまった。
 …俺、何かまずい事でもしたのかな?

「トラギコ兄ちゃ〜〜〜ん!
 こっち来て遊ぼうよ!!」
 そこに、他の子供達が俺を呼んでくる。

「あ、ああ。
 ちょっと待ってろ!」
 …まあいい。
 焦る事はないんだ。
 ゆっくりと、あの子の心を解きほぐしてやりゃあいい。

 気になる事はあったものの、俺は取り敢えずそれを置いといて
 子供達と一緒に遊ぶ事にした。

503ブック:2004/06/01(火) 05:05





「悪い、ちょっと便所な。」
 鬼ごっこの途中、急に尿意を催した。

「え〜、すぐ戻って来てよ。」
「ああ、分かってるって。」
 口を尖らせる子供達に笑って答える。

(え〜っと、確か便所はこっちだったよな…)
 回りを確認しながら、厠目指して進む。
 矢張り、慣れない場所ではこういう時に困ってしまう。

「……?」
 と、その途中でちびしぃの姿を見かけた。
 何だ?
 あいつこんな人気の無い所で何を…

「お―――」
 俺が声をかけようとした瞬間、ちびしぃは孤児院を囲う柵を超え、
 外へと駆け出して行ってしまう。

(…?あいつ、何処へ?)
 俺は便意も忘れ、ちびしぃの後を追った。
 もしかしたら、あいつが塞ぎ込んだのと何か関係有るのかもしれない。



「……」
 ちびしぃに見つからぬようこっそりと後を尾けていくと、
 いつの間にか近くの街まで辿り着いていた。

「あいつ、こんな所に何しに来てんだ?」
 呟きながら、尾行を続ける。
 ちびしぃは通りにある玩具屋やお菓子屋に寄り道するでもなく、
 一直線にどこかに向かって歩いていた。
 一人で勝手に街に言っちゃ駄目だ、ってあのおばさんに言いつけられてる筈だってのに、
 こいつはどうしてこんな所に…

「……?」
 と、ちびしぃがようやく足を止めた。
 その目の前には、白い壁のやや大きめな建物。
 入り口のあたりには、十字架型のレリーフが飾られている。
 あれは、この世界の教会のようなものだろうか。
 だとすれば、こっちの世界にも宗教はあるって事か。

「……」
 ちびしぃは少し躊躇うような素振りをした後、
 意を決したように教会らしき建物へと入っていった。

「ここが目的地って事か…」
 お祈りでもするつもりなのだろうか?
 でも、だとしたら何で一人でこっそりと。
 おばちゃんや他の子供と一緒に来ればいいだろうに…

「!!!」
 そこへ、強烈な尿意が襲い掛かってきた。
 やばい。
 そういえば、便所に行く途中だった…!

「う〜〜、トイレトイレ。」
 今トイレを求めて全力疾走しているラギは
 いきなり変な世界に飛ばされたごく一般的なスタンド使い。
 強いて違うところをあげるとすれば、寂しいと死んじゃうってとこかナー。
 名前はトラギコ。

「…って、そんな事言ってる場合じゃねぇぞ!」
 もう限界寸前だ。
 糞、仕方が無い。
 今ちびしぃの入っていった教会に、トイレを借りる事にする。
 出来ればちびしぃにはバレたくなかったが、背に腹は変えられない。

「ちょっと邪魔するぜ!」
 勢いよく教会の中へ駆け込む。

「どうされました?」
 驚いた顔で尋ねる聖職者らしき格好をした男。

 ウホッ! いい男…

「…って違う!
 わりぃ、便所貸してくれ!!」
 俺は必死に男に頼んだ。

「あ、向こうのドアを開けて左です。」
 男が指を差して答えた。

「サンキュー!」
 俺はすぐさま男の指差したドアを開け、便所の中へと飛び込んだ。
 急いでチャックを下ろし、逸物を取り出して用を足す。

「はふぅ〜〜〜〜〜…」
 心の底から安堵の溜息を吐く。
 よかった。
 もう少しで生き恥を晒すところだったぜ…


「いや〜、どうも助かりました。」
 便所から出て、照れ隠しの笑みを浮かべながら男に礼を言う。
 さて、ちびしぃと一緒にお祈りでもするとするか。
 向こうの世界じゃ、神にあんま良い思いではないけどな…

「……?」
 そこで、俺は異変に気づいた。
 ちびしぃが、居ない。
 変だな。
 確か、ここに入った筈なのに…

「如何なされました?」
 きょろきょろする俺に、神父が尋ねてきた。

「いや…ここに女の子が来た筈なんだけど、知らないか?」
 周りをもう一度探してみるも、やっぱりちびしぃはどこにも居ない。

「いえ、そのような方はここには来ておりませんが…」
 神父が素っ頓狂な顔で答える。
 馬鹿な。
 それとも本当に俺の見間違いだったのか…?

「…分かった。
 お邪魔しちまったな。」
 俺はそう告げて、教会から一旦出る事にした。

504ブック:2004/06/01(火) 05:06





 夕暮れも近くなった頃、教会の入り口から一人の子供が出てきた。
 辺りを見回し、力ない足取りで外へ出る。
 そのまま、独りぼっちでとぼとぼと帰路を歩んでいた。

「…おい。」
 教会から大分離れた事を見計らい、
 俺はその子供の後ろから声を掛け、肩に手を置いた。

「……!」
 子供がびっくりして振り返る。
 そして俺の顔を見ると、すぐさま逃げ出そうとした。

「待て、ちびしぃ!」
 俺はちびしぃの腕を掴んで、彼女を引き止める。
 教会の前に張り込んでて正解だった。
 やっぱりこの子はあそこに居た。

「一人で街に来ちゃ駄目だ、って言われてたろ?
 何でこんな事したんだ?」
 出来るだけ優しい声で、ちびしぃに尋ねる。
 怒ってはいけない。
 怒ったら、全くの逆効果だ。

「お願いです、皆には言わないで…!」
 俺から逃げられないと察したちびしぃは、泣きながら俺に懇願した。
 その体が小刻みに震えている。

「…?
 どういう事だ?」
 確かに一人で街に来たのはいけない事だが、それでもこの震えようは異常だ。
 あのおばちゃんは、そこまで厳しく怒るのか?

「…何があった。
 俺に、話してみろ。」
 ちびしぃの目を真っ直ぐ覗き込む。
 目を逸らす、ちびしぃ。

「何でもないです。だから…」
 ちびしぃが俺の腕から逃れようとする。

「嘘吐け、何でもないって事はないだろう?」
 俺が逃がすまいと力を加えると…

「嫌ぁ!!!」
 ちびしぃが、悲痛な顔で拒絶の声を上げた。
 おかしい。
 尋常の、恐がり方ではない。

「…大丈夫だ。
 今聞く事は、絶対に誰にも言わない。
 だから、一人で抱え込まないで話してみな。
 何があったのか知らないけど、俺はお前の味方だ。
 大した力にゃなれないけど、二人で一緒に考えようぜ?」
 俺は腕から力を抜き、ちびしぃを見据えて言った。

「…本当に、誰にも言わない?」
 おずおずと聞き返すちびしぃ。
「ああ、約束する。」
 俺は微笑みながら返した。

「…言ってみろ。
 何が、あったんだ?」
 俺はゆっくりとちびしぃに尋ねた。
 ちびしぃはしばし沈黙した後、やがて意を決したように口を開く。
「私―――…」

505ブック:2004/06/01(火) 05:06





「……!!!!!!」
 ちびしぃの話を聞いた俺は、自我を保つのに精一杯だった。
 わなわなと肩を打ち震わせるのが、自分でもよく分かる。

「お願い、皆にはこの事言わないで…!
 私なら、平気だから…!」
 ちびしぃがしゃっくり交じりの声で告げる。

 馬鹿な。
 平気な訳ないだろう…!

「……!」
 歯を喰いしばり、激情に駆られそうになるのを抑える。
 糞が。
 何で、この子がこんな目に…!

「…今迄、誰にもこの事は言わなかったのか?」
 俺は怒りに震える、それでも出来るだけ平静を保った声でちびしぃに聞いた。

「……」
 泣きながらちびしぃが頷く。

「…私達のお家は、教会の人からお金貰ってるんでしょ?
 だから、私がこの事をしゃべったらおばちゃんや皆に迷惑かけちゃう。
 痛いのや気持ち悪いのは嫌だけど、
 皆が困るのはもっと嫌だもん…」
 ……!
 この子は、俺だ。
 あの家の人達を守る為に、その小さい体で必死に闘ってきたのだ。
 本当は泣き叫びたかっただろうに、
 誰かに縋りたかっただろうに、
 それなのに、こいつは逃げなかった。
 独りぼっちで、闘ってきたのだ。

 今、ようやく分かった。
 こいつが他の皆と距離を取っていたのは、皆が嫌いだからじゃない。
 好きだから、
 優しくされると、助けを求めてしまうから、
 だから無理して心を閉ざした。
 それが、どれだけこの子にとって辛かった事か…!

「私は、大丈夫だよ。
 最初は痛かったけど、だんだん楽になってきたもん。
 だから…」
「……!」
 無理して笑おうとするちびしぃを、俺は強く抱きしめた。

「…もういい。
 もういいんだ…!
 もう平気なふりなんかすんな!
 もう一人で頑張るな!
 大丈夫だ!
 俺が助けてやるから!
 絶対に、何とかしてやるから!
 だから、一人で傷を抱え込むのはもうやめろ…!!」
 涙を流しながら、ちびしぃをしっかりと抱きとめる。
 許さない。
 あの教会の奴等、絶対に許さない…!!

「―――ぁ…うああああああああああああああああ!!!!!!」
 ちびしぃが、俺の腕の中で泣き叫ぶ。
 まるで、今迄溜め込んでいた痛みを一気に解き放つかのように。

「あああああああああああああああああああああ!!!!!!」
 ちびしぃの泣き声が、夕暮れの空にいつまでもいつまでも響き渡っていった。

506ブック:2004/06/01(火) 05:06





 日もとっぷりと暮れた夜更け、俺は再び教会の前へと佇んでいた。
「!!!!!」
 教会の扉を勢いよく開け放つ。

「!!あなたは昼間の…」
 便所を借りる時に会った神父が、吃驚した様子で俺を見る。

「……!!」
 俺は構わず、神父の胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
 神父の喉元からくぐもった声が漏れる。

「…何を……!
 このような事をされては、必ずや神の罰が…」
 苦しそうに呟く神父。
 神の罰?
 なら、お前らに最初に下されるべきだ。

「!!!」
 片腕で神父を持ち上げ、今度は床に背中をぶち当てる。
「ぐはっ…!」
 神父が苦しそうに声を上げた。

「…司教は、どこだ?」
 神父の襟首を押さえながら、俺は低い声でそう告げるのだった。



 神父に司教の部屋の場所を聞き出した俺は、一直線に司教の部屋へと突き進んだ。

 …見つけた。
 あの部屋か…!

「!!!!!」
 力任せに扉を蹴破る。
 蝶番が外れ、扉が半壊して床に倒れた。

「何だ、騒がしい。」
 薄暗い部屋の中から、落ち着いた男の声が聞こえてくる。
 声のする方向を見ると、髭を生やした壮年の男。
 どうやらこいつが、司教のようだ。
 その傍らには、半裸の少年と少女。
 ついさっきまで、お楽しみだったって訳か。

「貴様、どこの賊だ?」
 男が俺を見る。

「…地獄の鬼さ。
 閻魔様の言いつけで、お前を地獄に送りに来た。」
 ありったけの怒りを込めて、司教を睨みつける。

「地獄…?
 さて、そんな場所に連れていかれる覚えは無いが…」
 この期に及んで白を切る司教。
 こいつ、心底腐ってやがる…!

「よくもそういけしゃあしゃあと抜かせるな!!
 手前のやった事は全部知ってるんだよ!!!」
 腹の底からの声で叫ぶ。
 ここまで怒ったのは、あのでぃに対して以来だった。

「ふん…あの小娘か。
 後で仕置きをしておく必要があるな。」
 ようやく司教も俺が何の為にここに来たのか思い当たったようだ。
 あの小娘とは誰なのかは聞くまでもない。
 ちびしぃの事だ。

「…話は全部聞いてんだ。
 ここの有り金全部あの孤児院に寄付して自首しろ。
 そうすりゃ、命だけは助けてやる。」
 司教ににじり寄りながら、俺はそう告げた。
 半裸の少年と少女は、俺達が睨み合っている間に部屋から逃げ出す。
 それでいい。
 ここからは、子供が見ていい世界じゃない。

「はっ!
 誰が自首すると!?
 それともお前が裁判所に訴えるか!?
 薄汚い孤児院の餓鬼と、何処の誰かも分からないチンピラの言う事など、
 誰が信じるものか!!」
 高らかに笑う司教。
 ここで、こいつの寿命は決定した。

「そうかい…
 なら、ここで死ね。」
 俺は一気に司教へと駆け寄ろうとする。

「間抜けめ、私がただの司教と思ってか!
 見ろ、『聖十字騎士団』の力を…!」
 司教の背後に人型のビジョンが浮かび上がる。
 驚いた。
 こいつも、スタンド使いか。
 だが…

507ブック:2004/06/01(火) 05:07

「『オウガバトル』!!」
 奴の右腕辺りで空間を分断。
 遅い。
 その程度の力で、接近戦で俺の『オウガバトル』に敵うものか。

「ぎゃああああああああああああ!!!!!」
 右腕を斬り落とされ、血飛沫をあげながら司教が絶叫する。
 何だ。
 それしきの事で情けない。
 あの子はもっと痛かった。
 なのに、泣き言一つ言わなかった…!

「ま、待て!
 私を殺していいのか!?
 あの孤児院には、私が特別に金を多く回しているからこそ経営出来ているのだぞ!?
 私があいつらを飼ってやっているんだ!!
 そこの子供の一人や二人に手を出した所で、何が悪―――」
 五月蝿い。
 豚がそれ以上喋るな。
 今度は左足をちょん切ってやる。

「ひぎいいいいいいいいいいい!!!」
 片脚を失い、地べたをのた打ち回る司教。
 これでもまだ手緩いものだ。
 あの子の受けた十分の一の苦しみでも、じっくりと味わうがいい。

「…だったら、これからは俺が稼いでやるよ。
 泥水を啜っても、再びこの手を血で汚しても、
 俺が金を稼いでやる!」
 結局、世の中は金か。
 金が無きゃ、何も出来はしない。
 それは、こっちの世界でも同じだったみたいだ。

「あんな、まだ毛も生え揃ってねぇような小さな餓鬼に、
 重たい荷物背負い込ませやがって…
 笑顔すら、奪い去っていきやがって…!
 手前は、手前だけは、絶対に許さねぇ!!!」
 『オウガバトル』が腕を大きく凪ぐ。
 奴の首の部分で、空間を分断。

「待、やめ―――」
 それが、司教の最後の言葉だった。
 恐怖に歪んだ顔のまま。司教の首が床に転がる。

508ブック:2004/06/01(火) 05:08



「どうやら、また間違っちまったみたいだな…」
 呟き、『オウガバトル』を解除する。
 この呪われし力(スタンド)、
 二度と使うまいと思っていたのに…

「…感傷に浸ってる暇はねぇぞ。
 金目の物見つけたら、さっさとここからトンズラして…」
 そう一人ごちつつ部屋の中に視線を這わせ―――

「!!!!!!!!!」
 不意に、部屋の入り口に人の気配を感じた。
 『オウガバトル』を発動させ、咄嗟に構えを取る。

「誰だ…!」
 俺は入り口の方に向いて叫んだ。
 そこに居たのは、二人組みの男達。
 一人は、ギコ種の目をした変な犬。
 もう一人は、モララー種の目をしたギコだった。
 しかもこいつら、相当強い…!

「無駄な抵抗はやめ、大人しく投降しなさい!」
 モララーの目をしたギコが俺に告げる。
 その横には、白と黒のストライプの入った服に身を包んだ人型のビジョン。
 こいつも、スタンド使いか!

「…君が、そこの司教を殺したのかね?」
 隣の犬男が、落ち着き払った声で俺に尋ねた。

「だったらどうした?」
 鼻で笑いながらその質問に答える。

「何故殺したのです!
 あなたは、命を何だと思っているのですか!」
 モララーの目をしたギコが噛み付いてくるような勢いで俺につっかかる。

「何故殺した?
 お前、こいつが何をしたのか知ってるのか?
 こいつはな、何の罪もねぇ餓鬼を、欲望の捌け口にしてたんだぞ!?」
 思い出すだけでむかっ腹が立ってくる。
 こいつの所為で、あのちびしぃは…

「だからといって、殺して言い訳がないでしょう!
 それとも、あなたは自分が神の代理人だとでもいうのですか!?」
 呆れる位真っ直ぐな視線。
 それが、余計に俺を苛立たせた。

「…一つ教えておいてやるよ、坊主。
 世の中にはな、殺さなきゃどうしようもねぇ野郎が、腐る程存在するんだ。
 そこでくたばってる司教や、俺みたいな連中がな。」
 そう言い放ち、地面に唾を吐く。
「それに、すぐ殺した分だけまだ慈悲深いと思って欲しいぜ。
 この屑に傷つけられた子供は、一生痛みを引きずって生きていかなきゃならねぇのに、
 こいつは一瞬の苦痛で済んだんだからな。」
 このモララー目のギコは何も分かっちゃいない。
 世の中は、奇麗事だけで出来てる訳じゃないんだ。

「あなたは…!」
 俺を睨むモララー目のギコ。
 今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だ。

509ブック:2004/06/01(火) 05:08

「よせ、セイギコ。」
 と、横の犬男がモララー目のギコを諌めた。
「ですが、ギコ犬さん…!」
 何か言いた気な目で犬男を見るセイギコと呼ばれた男。

「お前も『切り札』(テトラカード)のJだろう?
 それが、そんなに取り乱してどうする。」
 その言葉に、セイギコとかいう男は押し黙る。
 やれやれ、少しは静かになったか。

「…見苦しい所すまないな。
 そういえば申し遅れた。
 私はギコ犬。
 『聖十字騎士団』、『切り札』(テトラカード)のKだ。」
 丁寧に自己紹介する犬男。
 物腰こそ柔らかいが、この男、恐らく横のセイギコより実力は上…!

「…ふん、そこの下種のお仲間さんか。」
 司教の死体を一瞥し、俺はそう口を開く。

「僕達を愚弄する気か…!」
 と、セイギコが再び牙を剥く。

「よせ。」
 ギコ犬と名乗った男が、セイギコを抑える。
「……!」
 悔しそうにセイギコが俺をねめつけた。

「…私達も児童性的虐待の件で、そこの司教を連行しに来たのだ。
 対処が遅れて、誠に申し訳なかった。」
 ギコ犬と名乗った男が、俺に深々と頭を下げる。

「…謝るなら、俺じゃなくて傷ついた子供達に謝るんだな。」
 俺はそう言うと、外へ出ようと窓を開け放った。

「どこへ行く!?」
 後ろから、セイギコが声をかけてくる。

「外へ、金を稼ぎに行く。」
 俺は振り返らないまま答えた。

「待て!
 人を殺しておいて、逃げれると思っているのか!!」
 空間が圧縮されたかのような緊迫感。
 どうやら、セイギコとそのスタンドが臨戦態勢に入ったらしい。

「…俺はあの子と約束した。
 俺が助けてやる、と。
 絶対に何とかしてやる、と。
 だから、俺はどんな事をしてでも金を手に入れる。
 その邪魔をするってんなら、お前らを殺してでも行かせて貰う…!」
 『オウガバトル』発動。
 鬼の姿をしたビジョンが、俺の横に現れる。

「貴様!!」
 セイギコが吼えた。
 いいのか?
 そこはもう俺の射程距離だ。
 瞬き一つで、その首を斬り落とせるぞ…!?

「待て。」
 俺とセイギコが攻撃を繰り出そうとした瞬間、ギコ犬がその間に割って入った。

「……」
「……!」
 気を外され、俺とセイギコは一旦矛を収める。

「…そこの君、取引をしないか?」
 と、ギコ犬が俺に向き直って告げた。
「取引…?」
 思わず聞き返す。

「そうだ。
 見た所、君は相当凄腕のスタンド使いらしいし、
 根っからの悪人という訳でもなさそうだ。
 今回の件にしても、情状酌量の余地は充分にある。
 いや、寧ろ対処の遅れた我々にこそ非があると言えよう。」
 ギコ犬が一歩俺の前に進み出た。

「そこで、だ。
 君、『聖十字騎士団』に入ってみるつもりはないか?
 もし入隊するならば、この一件は私が上手く揉み消しておくが。」
 つまり、罪は見逃してやるから仲間になれ、か。
 この男、見かけによらず食えない野郎だ。

「ギコ犬さん、何を言ってるんですか!!
 俺は反対です!!
 こんな奴…」
 信じられないといった顔をするセイギコ。

「そう言うな。
 それに、『切り札』(テトラカード)も、
 Jには君が就任したが、Aは未だに空席のままだ。
 『聖十字騎士団』も人材不足で困る。」
 ギコ犬が苦笑する。

「…どうする?
 選択は自由だ。
 但し、断るのであればこちらも全力で君と闘うが。」
 膨れ上がる闘気。
 負ける気はしないが、二人掛かりでは流石にしんどいか。

「…一つ、教えろ。」
 俺はギコ犬を見据えて言った。
「その仕事は、儲かるのか?」

510ブック:2004/06/01(火) 05:09





〜一年後〜

「トラギコ兄ちゃん、おめでと〜〜〜〜〜!!」
 子供達の声と共に、クラッカーが鳴らされる、
 テーブルの上には、慎ましやかだが、この孤児院で精一杯の御馳走が並ぶ。
 俺がここの孤児院に来て早一年。
 今日は、ここの皆がそんな俺の為にパーティーを開いてくれていた。

「……」
 ちびしぃが俺に微笑む。
 たった一年かそこらで、あれだけの傷が癒えたとは思えない。
 それでも、時々は笑顔を見せてくれるようになった。
 ならば、もはや俺に出来るのは見守ってやる事だけだ。

「はい、これプレゼント!」
 男の子が、赤いリボンで包んだ箱を俺に差し出す。
「お、ありがとう。」
 俺はそれを両手で受け取ろうと―――

「……!!」
 一瞬、俺の両手が真っ赤に血で染まったように見える。

 殺した。
 『聖十字騎士団』に入ってから、金の為に殺した殺した殺した。
 何人も殺した殺した殺した殺した殺した殺した。
 しかも、殺したのは人だけじゃない。
 吸血鬼とかいう御伽噺のような化け物も殺した殺した殺した。
 俺はもう人殺しですらない。
 この両手は人外の血で汚れきっているのに。
 俺はここに居る資格なんて無いのに…

「…?
 どうしたの?トラギコ兄ちゃん。」
 子供の声で、はっと我に返る。

「…いや、何でもねぇ。」
 無理矢理笑顔を作り、プレゼントを受け取る。
 プレゼント箱が、とても重く感じられた。


「失礼する。トラギコは在宅か?」
 と、パーティーの最中に礼服の男が孤児院を尋ねてきた。
 …『仕事』か。

「悪いな、ちょっと席を外すぜ。」
 子供達に謝り、礼服の男と共に部屋を出る。
 子供達の前で、『仕事』の話はしたくない。

「…で、何の用だよ。
 見ての通り、取り込み中なんだがな?」
 全く、折角のパーティーを台無しにしやがって。
 いつもより多く、報酬をふんだくってやる。

「聖王様より直々の勅命だ。
 トラギコ、たった今より貴殿に『切り札』(テトラカード)のAとしての任務を下す。
 貴殿の都合は考慮されないと心得よ。」
 礼服の男が無闇に豪華な紙切れを取り出し、俺に突き出す。
 聖王から直接の命令とは、俺も偉くなったものだ。

「まず前金として報酬の一割だ。
 言っとくが、それを貰わない限り梃子でも動かねぇからな。」
 俺が手を差し出すと、礼服の男は憮然とした表情で俺に包みを渡す。
 その中には、札束がぎっしりと詰まっていた。

「…毎度あり。」
 指で札束の枚数を数える。
 一割でこの大金。
 これは、かなりあがりを期待出来そうだ。

「守銭奴め…」
 礼服の男がわざと聞こえるように呟く。
 好きなだけ言ってろ。
 手前には、金の本当の価値など分かるまい。

「…で、『仕事』の中身は何だ?」
 …結局、俺にはこれしか出来ないみたいだ。
 罪を犯し、その代価として金を得る。
 血塗られた業深き生き方。
 汚れきった両手。

 でも、それでいい。
 それであいつらを守れるなら。
 泥を被るのは、俺一人で充分だ…!

(…枕が変わっても、やっぱりするこた同じ、ってか。)
 金を見つめながら、俺は自嘲気味に笑うのであった。



     TO BE CONTINUED…

511:2004/06/01(火) 16:58

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その5」



          @          @          @



「これは…!」
 ギコはブラックホークから身を乗り出して、眼下の光景を見据えた。
 横列に並んだ2艦が、ミサイルの集中砲火を受けている。

「退屈な毎日って言ってたが… モナーの奴、これで退屈なのか?」
 ギコは汗をぬぐって言った。
「…そんなわけなぃょぅ。右側の艦、後部甲板が破損して、長くは持たなぃょぅ」
 ぃょぅが告げる。

「参ったな… これなら、レモナかモララーを連れてくるべきだったぜ…」
 ギコはそう言って、操縦席のぃょぅに視線をやった。
「モナー達の乗ってる艦に着艦できるか!?」

「…昔の血が騒ぐぃょぅ」
 ぃょぅはそう呟くと、急速に機体の高度を下げた。
 ヘリ内が大きく揺れる。
「うおっ!! 大丈夫なのか!?」
 ギコは叫んだ。
「何かに掴まらないと危なぃょぅ!!」
 そう言ったぃょぅの目には、炎が灯っている。
 2人の乗ったヘリは、『ヴァンガード』に向けて急速下降を始めた。

「久々に燃えてきたぃょぅ!!」
「うおぁぁぁぁぁ――ッ!!」
 自由落下と変わらないほどの加速に、ギコは大声で悲鳴を上げた。



          @          @          @



 リナーは、海上自衛隊護衛艦『くらま』の艦内を駆けていた。
 CICさえ制圧してしまえば、この艦は無力になる。

「CICに踏み込ませるな!!」
 正面から、ショットガンを持った艦員達が姿を現した。
「撃てッ!!」
 艦員たちは素早く横列に並ぶと、一斉にショットガンを構える。

「セミオートショットガン…? ベネリM4か。
 いいのか、自衛隊が装備年鑑に載っていない銃器を使っても…?」
 ショットガンの銃声が通路に響く。
 だが狙いをつけられた少女の姿は、すでに正面にない。
 リナーは通路の角に飛び込むと、拳銃を連射して艦員達の足先を撃ち抜いた。

「うわぁッ!!」
 艦員達は次々に足を押さえて倒れていく。
 足の小指の負傷だけで、事実上人間は戦闘不能となるのだ。
 リナーは通路に横たわる無数の身体を飛び越えると、CICへ向かって突き進んだ。
 正面の通路から、さらに艦員達が押し寄せてくる。
 ショットガンによる銃撃を避けながら、リナーは艦員達の足先を撃ち続けた。

512:2004/06/01(火) 16:59

「くそッ! 挟み撃ちかッ!!」
 ショットガンを構えて、正面の艦員が叫ぶ。
 その足先に、リナーは素早く銃弾を撃ち込んだ。
「ぐあッ!!」
 艦員はショットガンを取り落とし、床に転がる。

「挟み撃ち…?」
 確かに、内部の警備は若干薄い。
 艦後部からも誰か入り込んだのだろうか。
 ASAがスタンド使いを派遣して、サポートでもしているのか…?

「いたぞ! 第1通路だッ!!」
 多くの足音が近付いてくる。
 リナーは銃を構えた。
 向かいは曲がり角だ。
 姿が見えた瞬間、銃撃を…

 まるでミシンのような音が、曲がり角の向こうから響いた。
 間違いなく、フルオート射撃での銃声。
 そして、ドサドサと人が倒れる音。

「…?」
 リナーは異常を察知した。
 先程、フルオートで発射された弾丸は7発。決して聞き逃しはしない。
 艦員の倒れる音も、ちょうど7人分。
 フルオートの弾丸を、1人に1発ずつ当てた…?
 それも、艦員に悲鳴すら上げさせることなく。
 戦闘技能に特化した代行者の中でも、そこまでの精密射撃ができるのは自分か師匠くらいだ。

 カツカツという足音が近付いてくる。
 間違いなく、先程の芸当を行った当人。
 足音に水気が混じった。血を踏んだのだろう。
 歩き方、歩幅などで男と分かる。
 こいつは…!!
 リナーは、銃を構えて背後に飛び退いた。

 曲がり角から、その男が姿を現した。
 見間違えるはずはない。
 グレーのSS制服。
 髑髏が刺繍された制帽。
 襟には、42年型SS大将タイプの襟章。
 右袖にアルテケンプファー章。
 左袖にSS本部長級プリオンカフ。
 胸にハーケンクロイツを抱いた鷲のパイロット兼観測員章と、昼間戦闘徽章銀章。
 そして、両手に携えた2挺の拳銃…

「ほう。妙な所で会うな、『異端者』よ」
 男は、リナーの姿を見て言った。
「それはこちらの台詞です、師匠…」
 リナーは、正面に立つ男を見据えた。
 枢機卿…
 『教会』の最高権力者。
 そして、自分に戦闘技術や兵器の扱いを叩き込んだ男。
 その衣服は、なぜか水で濡れている。

「随分とお若くなられて。ですがSS正装で寒中水泳とは… 奇行癖は変わらない御様子ですね」
 リナーは言った。
 その軽口と裏腹に、掌に汗が滲む。

「母艦に戻る途中、ふとこの艦を見つけてな。
 ついでに制圧しておこうと思えば… よもや、君と鉢合わすとはな」
 枢機卿は事もなげに言った。
 その姿を、リナーは真っ直ぐに見据える。
「お教え願いたい。貴方がここにいる真意。私をこの国へ寄越した理由。他の代行者への、私に対する追討命令…」
 両手を下ろす仕草で、スカートの中に収納している2挺のベレッタM93Rに手を添えた。
 枢機卿との距離は、約10m。

 その質問に、軽い笑みを浮かべる枢機卿。
「1つ目の質問の答えは先程言ったはず。2つ目、『monar』への干渉。
 3つ目、君自身が一番よく知っているだろう、『異端者』よ…?」

「そんな表面的な事が聞きたいのではありません。何を企んでいるのか… 
 一体、どんな図を大局的に描いているのか聞いているのです!」
 リナーは、殺気を込めて枢機卿を睨んだ。

「答えると思うかね、この私が…」
 枢機卿はP09の片方を軽く回転させた。
 そして、銃口をリナーの方へ向ける。
「君には、私の持てる技術の全てを仕込んだ。久々に実戦演習といこうか。我が弟子よ」

 リナーは目の前の枢機卿を見据えた。
「貴方に教わった技能で、私は幾度の戦場を生き延びる事ができました。
 …まずは、その事に礼が言いたい」
「誰にでも習得できる戦い方ではない。私と同じ次元にまで到達できたのは、後にも先にも君だけだ。
 まさに、誇るべき私の唯一の弟子だよ。君の余生がもっと長ければ、捨て石のような扱いはしなかった」
 枢機卿は名残惜しげに言う。

 リナーは言葉を続けた。
「先程、貴方に教わった技能で生き延びれたと言いましたが… 正直、私はいつ死んでも構わなかったんです。
 無為な人生、早く終わった方が良かった。ですが…
 生還を望んではいなかったのにもかかわらず、この戦闘技能と吸血鬼の肉体が邪魔をした。
 私は、嫌いだったんです。吸血鬼も、スタンドも、この戦闘技能も、私の生も、全て…」
 そう言って、視線を落とすリナー。
 枢機卿はその物憂げな瞳を見る。
「…そうだろうな。君の吸血鬼に対する憎悪は、自己否定の裏返しだ」

513:2004/06/01(火) 17:01


 リナーは再び枢機卿に視線をやると、柔らかな笑みを浮かべた。
「…ですが、事情が変わったんです。嫌いだったものも、幾つかは好きになれました。
 今まで私を生かしてきた、貴方から教わった技能に感謝しています。
 ならばこの技能… これからも生き延びる事に使わせて頂く!!」
 スカートから2挺のM93Rを抜くと、その銃口を真っ直ぐ枢機卿に向けた。

「…ならば見せてもらおうか。君の、生きようとする力とやらを…!!」
「お相手させて頂きます、師匠…!」
 2人は、同時に前方に向って駆けた。
 走りながら、互いの銃を互いに向かって連射する。
 正確な射撃、そして正確な回避。
 それは、左右が逆にならない鏡に映したように同一だった。

「…腕は衰えておらんな」
「そちらこそ、全盛期の強さを手にしておられるようで…!」
 両腕の銃を連射し、相手の射線を避けながら突進する。
 両者の距離は、2mまで縮まった。
 2人ともそれぞれ右方に飛び退くと、同時に壁を蹴る。
 空中で接近する2人。
 互いの体に銃口を突きつけようとした右腕の手の甲が、空中で激突する。

 そして、同時に発射される銃弾。
 2人とも、同じタイミングで身体を逸らして避けた。
 なおも同時に着地する2人。

「互いに確率・統計的に最適な行動パターンを行使すれば、同じ動きにしかならんか…」
「そのようですね。効果的な占位、効果的な射撃… 全てが同じ」
 着地と同時に、両者は身を翻す。
 リナーは、右腕のM93Rを枢機卿の頭部に突きつけた。
 同時に、枢機卿は右腕のP09を突きつけてくる。

「…!」
 リナーは右手の銃を枢機卿に突きつけたまま、左手の銃を無造作に落とす。
 そのまま、目の前のP09に左手を伸ばした。
 素早くマガジン・キャッチを押し、リアサイト前部を引く。
 そのままスライドを後退させ、スライド・ストップを引き抜く。
 1/10秒にも満たない時間でのフィールド・ストリッピング。
 突きつけられていた枢機卿のP09は、一瞬の間にバラバラになった。
 同様に、枢機卿の頭部に突きつけていたM93Rも分解されている。
 分解の速度も、それに至る思考も全て同じ。

 リナーは残ったグリップを投げ捨てると、懐に手を入れた。
 各指の間に挟んだ4本のバヨネットを、爪のように相手の身体に振るう。
 枢機卿は、全く同様に4本のバヨネットで相殺した。
 両者とも一歩退くと、バヨネットを1本ずつ投げつける。
 上段に2本。下段に2本。
 枢機卿が同じ軌道で投げたバヨネットと空中衝突し、8本全てが床に転がった。

 その投擲は、相手に隙を作る為のフェイント。
 最後のバヨネットが手を離れると同時に、リナーの腕は背に回っていた。
 その手で、素早く日本刀の柄を掴んだ。
 枢機卿の腕も、自らの背後に回っている。

 リナーは日本刀を抜くと、大きく踏み込んだ。
 同時に、枢機卿が大きく踏み込む。
 その手には、カッツバルゲル。
 刺突より斬撃に特化した15〜17世紀の刀剣だ。
 長さ、ウェイトともに日本刀と同等。

 全く同じタイミングで、同じ角度で両者は打ち合った。
 違うのは、立ち位置のみ。
 激しく互いの武器をぶつけ合わせると、両者は飛び退いて大きく距離を開けた。

 同時に刀剣を投げ捨てる2人。
 リナーはP90を、枢機卿はMP40を懐から取り出した。
 そして、同時に互いの短機関銃の銃口を向ける。

「ふむ。さすが我が弟子。全て互角か…」
「そちらこそ。さすが我が師匠…!」
 2人は言葉を交わすと、同時に引き金を引いた。

514:2004/06/01(火) 17:01



          @          @          @



「あれは、一体…?」
 『フィッツジェラルド』の艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授。
 その目は、『ヴァンガード』の後部に激突した戦艦を見据えていた。

『ビスマルク級戦艦… なぜ、あんな骨董品が?』
 無線機から丸耳の声が聞こえる。
 彼のいるCICにも画像が届いているようだ。
 しぃ助教授は、その戦艦の武装を注意深く観察した。
「…主砲をよく見てみなさい。あれが、60年も前の艦装ですか?
 砲口制退器や排煙器、水冷式砲身に垂直鎖栓式砲尾…
 発射速度や反応時間は、このイージス艦に搭載されている127mm単装艦載砲と変わらないはず。
 威力だけが38cm砲クラスです。あの連装高角砲も、おそらく30mmクラスのCIWS…!」

『最新装備で身を固めた戦艦… もしかして、『教会』の艦…?』
 丸耳は、信じられないように呟いた。
「…」
 しぃ助教授は答えない。
 おそらく、その可能性が一番高いからだ。
 正面を見据えるしぃ助教授。
 その空は、先程までとは打って変わって静かである。
「ミサイル攻撃が止んだ… 向こうにも、何かあったのか…」

 『フィッツジェラルド』が大きく揺れた。
 艦体に、ミサイルを3発ほど喰らっているのだ。
 『セブンス・ヘブン』で直撃は避けたとはいえ、決して軽いダメージではない。
「丸耳、被害状況は…?」
 しぃ助教授は訊ねる。
『後部甲板への一撃が効いていますが… まだ何とか』
 丸耳は、暗い声で言った。
 この艦も、余り長くは持たないようだ。

「退艦命令は、丸耳の判断で出しなさい。無駄な犠牲は避けるように」
 しぃ助教授は告げる。
『しぃ助教授はどうする気です…? まさか、艦と共に…!』
 丸耳は慌てたように言った。
 ため息をつくしぃ助教授。
「艦と運命を共にする気はありませんよ。ですが、ギリギリまでは…」
 突然、丸耳は声を上げた。
『…ちょっと待って下さい! 南西方向から接近物あり! 速度は… マッハ7だって…?』

「馬鹿な! 極超音速飛行を可能とする航空機は、まだ実用化されていないはず…!」
 しぃ助教授が叫ぶ。
『航空機じゃありません…! 人間大の大きさです!!』
 丸耳は興奮した口調で言った。
『凄まじく速いです! この艦に到達するまで、あと10秒…!!』

「一体、何が…!!」
 しぃ助教授は、南西の方向に視線をやった。
 風を切るような音。
 音速域での轟音が響く。

 『それ』は、凄まじい速度で飛来してきた。
 間違いなく、このまま突っ込んでくる…!!

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授はスタンドを発動させた。
 マッハ7で激突されては、艦が危うい。

「逸れろォッ!!」
 しぃ助教授は叫んだ。
 そして、飛翔物の移動方向に修正を加える。
 艦から20mほど離れた位置で、『それ』の動きが止まった。
 まるで、見えない力に抑えつけられるように。
 凄まじい風圧が周囲に吹き荒れ、海は大きく波立った。
 艦がグラグラと揺れる。

「くッ…!!」
 しぃ助教授は唇を噛んだ。
 『セブンス・ヘブン』による指向性の操作でも、その勢いは殺しきれない。
 その余りの圧力に、しぃ助教授の腕が震える。

「ASA三幹部を… 舐めるなァッ!!」
 しぃ助教授は、両腕を思いっきり上げた。
 飛翔物は大きく上に逸れる。
 そのまま、『それ』は天高くすっ飛んでいった。

 しぃ助教授は確認した。
 『それ』は、確かに人型をしていたのを…
 すかさず、『それ』が吹っ飛んでいった方向に視線を向ける。

「…凄いなァ。僕の突進を止めるなんて…」
 ゆっくりと。
 それは降臨する天使のように、天からゆっくりと降りてきた。
 その背には、大きな羽根。
 しかし、しぃ助教授が思わず連想した『天使のように』という表現は誤っている。
 その背中に生えているのは、天使の羽根などではない。

 確かに、月光が透け虹色に輝く羽は美しい。
 だが、それは蝶の凶々しい羽だった。
 羽の男は、艦橋に立つしぃ助教授を見下ろす。
 ニヤニヤとした、下卑た笑みを浮かべて。

「…凄い凄い。良く頑張ったよアハハハハハハハハハハハハ…………………じゃあ死ね」

 その羽から、虹色の光が放たれる。
 鮮やかな光が周囲に照散した。

515:2004/06/01(火) 17:02

 この光は、ヤバイ…!!
 しぃ助教授は、そう直感した。
「『セブンス・ヘブン』!!」
 自身のスタンドで、全ての『力』を押し返すしぃ助教授。
 鮮やかな光は、艦を大きく逸れた。
 そのまま、光は海面に当たる。
 大きな水飛沫が幾重にも上がった。
 凄まじい風圧に、艦が大きく揺れる。

「…何だって? オマエ、一体何なんだ? 何をやったんだ?」
 羽の男から、ヘラヘラした表情が消える。

 …何者かだって?
 それは、こちらの台詞だ。
 今の鮮やかな光は、とてつもなく重い。
 まともに艦に当たれば、それだけで撃沈していただろう。
 こいつのスタンド能力は、一体…

「こんなのがいるなんて、聞いてなかったなァ…
 まあいいや。スタンドの力比べなんて、今までやった事なかったからね」
 男は再び笑みを浮かべる。
「名前を聞かせな、覚えといてやるよ。僕はウララー。こいつは、『ナイアーラトテップ』だ」
 ウララーと名乗った男は、背の羽を示して言った。

 『ナイアーラトテップ』…!
 あの報告書にあったスタンド名だ。
 確か、『教会』が保有しているというスタンド使いの死体…
「吸血鬼化による死者の蘇生、完成していたという訳ですか…」
 しぃ助教授は、ウララーを見据えて呟いた。

「へぇ。なかなか知ってるんだね。でも、蘇生技術は完成なんかしちゃいないさ。欠陥だらけだ。
 まあいいか。僕も名乗ったんだぜ? そっちも名乗りなよ、レディ…」

「全く… 普段は人外みたいに思われて、レディ扱いされたかと思ったら、貴方みたいな化物からとは…
 ホント、嫌になりますね」
 そう言って大きなため息をつくと、しぃ助教授はハンマーをウララーに向けた。
「私はASA三幹部の1人、しぃ助教授。私に挑むなら、死を賭しなさい…!」



          @          @          @



 俺は、よろけながら再び立ち上がった。
 バヨネットは… 離れた位置に転がっている。

「止めておけ。お主の技量では、あと100年続けたところで勝てはせぬ」
 山田は、背を向けたまま言った。

 …その通りだ。
 こいつには、今の俺の技量では決して敵いはしない。
 その凄絶なまでに緻密な斬撃。
 それは、血の滲む鍛錬と度重なる実戦で身につけたものだろう。
 俺の野良な戦闘技術では、どれだけ頑張ったところでこいつに傷一つ付ける事はできない。
 そう。
 今の俺の技量ならば――

 視たものを『破壊』できる以上、その逆も可能。
 『殺人鬼』は、夢の中で俺に告げた。

 『創造』すること。
 視たものを…
 視た技術を、俺の身体に再現すること。

 『アウト・オブ・エデン』――!!
 俺は、眼前の山田の背中を視た。
 こいつの技術を『創造』したところで、オリジナルに勝てるはずがない。
 何より、山田の技量をほとんど視ていない。
 それなら…
 山田の、洗練された武芸に打ち勝つならば…

 ――『アウ■・オブ・エ■ン』起動。
 ――創造、■始。
 ――対象1:『Giko』。
 ――対■2:スタンド『LAYLA』。
 ――構成要素、抽出中………

 脳内にノイズが混ざる。
 俺の脳に、幾多もの記憶が錯綜した。
 思い出せ。
 思い出せ。
 あの型。
 あの技。
 あの構え。
 あの気迫。
 あの殺気。
 あの呼吸。
 あの踏み込み。
 あの剣撃。
 思い出せ。
 思い出せ。

 ――そして、俺の体で。

516:2004/06/01(火) 17:03


「…」
 俺は懐から短剣を取り出すと、正眼に構えた。

「…?」
 山田が、ゆっくりとこちらを振り向く。
「肉体を強化する類のスタンド…? それにしては、闘気の質が先程までとはまるで違う…」

「スタンド能力をいちいち説明する義理があるのか…?」
 山田を真っ直ぐに見据えて、俺は言った。

「…ふむ、それも道理」
 山田は完全に身体をこちらに向けると、両腕で青龍刀を構えた。
「ならばこの山田、全力を持って相手をしよう…」

 俺は驚愕した。
 2度まで俺を倒した刃は、まるで本気ではなかったのだ。
 その構えから漏れる殺気。
 歴戦の戦士のみに許された必殺の気迫。

 俺は、山田の構えを視た。
 それは、まるで強固な陣。
 踏み込めば、倒れるのは俺。
 あれを破る方法は、全く視えない。
 ああなってしまえば、どのような攻撃も通用しないのではないか?

 あらゆる可能性を脳内でシミュレートした。
 上段からの斬りも、中段斬りも、下段も防がれる。
 突きも払いも薙ぎも通用しない。
 短刀を投げて殴りかかっても、甲板の破片を利用して攻撃しても、CICに砲撃するよう依頼しても、
 背後を飛んでいるヘリを落として巻き込んでも、艦ごと沈めても…
 何をしても、この構えは決して破れないのではないか…?

「相手の強さを理解する。それも、強さのうちだ」
 山田は、構えたまま言った。
「もう一度言う。背を向けるなら、斬りはせぬぞ…」

「誰が逃げるかッ…!!」
 俺は、大きく踏み込んだ。
 ギコと『レイラ』の神速の踏み込み。
 それを全身で再現する。

 その勢いを殺さず、山田の頭部に渾身の力を込めた斬り下ろしを放った。
 ――もらった。これならば!

 その攻撃を、容易く青龍刀の柄で弾く山田。
「…その一撃、見事」
 そう言いながら、山田は青龍刀を軽く回転させた。
 ――袈裟切り。
 俺の攻撃を弾いた動きから、一分の無駄もなく。
 その刃は俺の右肩口から入り、股下に抜けた。

「…!!」
 俺の上半身と下半身… いや、右半身と左半身に一筋のラインが走る。
 そこから、俺の体は真っ二つに裂けた。
 痛みはすでに麻痺している。
 『殺人鬼』の話では、痛覚を残してくれたらしいが…
 精神が耐えられる許容を超えたのだろう。
 俺の体は2つに分断され、甲板に転がった。

「…捨て置けるほどの凡夫ではなかったようだな。止めを刺させてもらう」
 山田が、俺の左半身に歩み寄った。
 まずい。
 頭部を完全に潰されれば、吸血鬼の肉体でも…!

 しかし、直後に来るはずの頭部への斬撃はなかった。
 山田は、俺を無視して前方を凝視している。
 何を見ている…?

「また、ひどいやられようだな。ゴルァ…」
 聞き覚えのある声がした。
 ヘリのローター音と、こちらへ歩み寄る足音。
 その腕には日本刀。
 背後には、これも日本刀を携えた着物の女性のヴィジョン。

「遅れて悪いな、着艦に手間取っちまった」
 そう言って、ギコは頭上のヘリを見上げた。
 そのヘリの操縦席から、ぃょぅ族の男が顔を出している。

「山田… そいつの刀は、さっきの俺の3倍は速いぞ…」
 俺は、山田を見上げて言った。
「…なるほど。お主の戦友か」
 山田はギコを見据える。

 ギコは、俺の左半身の脇に屈み込んだ。
「こりゃまた、随分と派手にやられたな。まさか真っ二つたぁ… 大丈夫なのか?」
「頭さえ潰されなかったら、再生はできるモナ…」
 俺は力無く言った。
 山田は、そんな俺達の様子を無言で見ている。
 隙を突いて斬りかかるような男ではないようだ。

「そりゃ便利な体だ。さて…」
 ギコは腰を上げると、山田を見据えた。
「そいつ、とんでもなく強いモナよ…」
 俺はギコに忠告する。

「ああ。そんなのは、物腰一つ見りゃ分かる…」
 そう言って、ギコは日本刀を抜いた。
 『レイラ』も、本体の挙動をなぞるような動きで刀を抜く。
「あいつは多分、俺の相手だ…!」

 ギコと『レイラ』、そして山田が、同時に互いの得物を構えた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

517ブック:2004/06/02(水) 19:35
     EVER BLUE
     第二十四話・BEFORE BATTLE 〜嵐の前の静けさ〜


「船長、お茶です。」
 高島美和が、サカーナに一杯のニラ茶を差し出した。
「お、悪いな。」
 サカーナが右手で受け取り、緑色の液体を啜る。

「どうです?
 雑巾の絞り汁入り特性ニラ茶のお味は。」
 高島美和がそうサカーナに告げる。
「ぶうーーーーー!!!」
 口からニラ茶を噴射するサカーナ。
 霧吹き状に吐き出されたニラ茶に虹がかかった。

「お前な、そういう陰険な事やめろよ!!」
 ぺっぺと唾を吐きながらサカーナが怒る。
「嘘ですよ。
 そんなもの入れるなら、青酸カリでも混ぜています。」
 顔色一つ変えずに高島美和が答えた。

「お前な…そっちの方がもっとやばいだろうが……」
 呆れたようにサカーナが呟く。
 高島美和の場合、これが冗談に聞こえないから恐い。

「…しかし、不気味な位動きがありませんね。」
 高島美和が重苦しく口を開いた。
「…『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)か?」
 そのサカーナの問いに、高島美和は頷く事で答える。

「どうなんだろうな。
 俺達を見失ってるのか、
 見逃してくれるつもりなのか、
 それとも着々と迎え撃つ準備をしてるのか…」
 サカーナが腕を組んで考え込む。

「恐らく最後のが正解でしょうね。
 一番と二番の答えは、些か楽観的過ぎるでしょう。」
 高島美和が溜息を吐いた。

「全くしょうがねぇなぁ…」
 サカーナがブリッジの船長席の椅子にもたれ掛かり、おおきく伸びをした。
「…大半はあなたの責任ですけどね。」
 高島美和が刺すような視線をサカーナに向る。


「…無事に『ヌールポイント公国』まで着いたら、お前ら船を降りな。
 これ以上、お前らが巻き込まれる必要はねぇさ。」
 珍しく真面目な顔をして、サカーナが高島美和に告げた。

「折角ですが、謹んでお断りさせて頂きます。
 再就職先も決まっていないのに、無職になるのは御免ですし。
 …それに、あなた一人では何も出来ないでしょう?」
 高島美和が微笑を浮かべる。

「お前…」
 感極まってサカーナが言葉を詰まらせる。

「あと、今辞めた所で退職金は受け取れなさそうですしね。
 加えて貰っていない給料だって山程残っているんです。
 船から降ろすつもりなら、まずそれらをきっちりと払って下さい。」
 サカーナを突き放すように高島美和が言った。

「…現金な女だな。
 折角のムードが台無しじゃねぇか。」
 サカーナがうんざりしたように呟く。

「あなたが金銭面においてズボラ過ぎるんです。
 船長ならもう少し自覚を持って下さい。」
 高島美和は子供を叱るかの如くサカーナを叱責するのであった。

518ブック:2004/06/02(水) 19:35



     ・     ・     ・



「百五十一…百五十二…百五十三……」
 口で数を数えながら、三月ウサギが右腕だけで腕立て伏せをしていた。
 彼の体中からは汗が流れ、それが玉となって滴り落ちる。
 しかし、それでもペースが乱れる様子は一向に無かった。

「…百九十七…百九十八…百九十九…二百…!」
 そこで右腕での腕立て伏せをやめ、
 汗を拭って小休止を取った後で、今度は左腕での片腕立て伏せを始める。
 これも、右腕と同じく二百回。
 その後、続けて両腕での腕立て伏せを二百回。
 しかも、その後半の百回は指でのプッシュアップだった。

「百九十九…二百…!」
 この一連の動作を、計二セット三月ウサギは行った。
 それから、今度は腹筋とヒンズースクワット。
 それらが全て終わった後に、丹念にストレッチをして筋肉をじっくりほぐす。

「……」
 ストレッチを終えた後、三月ウサギはマントの中から一振りの剣を取り出した。
 そしてそれを左手だけで握り、上段に大きく振りかぶって勢いよく下ろす。
 この時、剣は下まで振り切るのではなく上段の位置でしっかり止める。
 いわゆる、素振りというものであった。

「一…二…三…四…五…」
 三月ウサギは、この素振りを左腕だけで千本、右腕だけで千本、
 そして両腕を添えたもので千本繰り返す。
 これを、全部で三セット。

 腕立て伏せなどの筋力トレーニングは、
 超回復の為の時間を空けておく必要があるので毎日は行わないが、
 この素振りだけは一日たりとも欠かす事は無かった。

 勿論、只漫然と素振りをするのではない。
 鏡を見ながらフォームを確認しつつ、一本一本全力を込めて振り下ろす。
 振り切った時に手で絞りを入れるのも怠らない。

 実戦ではこのような基本技など何の役にも立たないと、
 知ったような事を抜かす輩もいるが、
 戦闘で使う応用技は基本の上にこそ成り立つのである。
 故に基本をしっかりと身に染み込ませ、
 錆付かせない為にも、反復練習は決して欠かせないものだった。

「五百三十三…五百三十四…五百三十五…」
 取り憑かれたように、三月ウサギは剣を振り続ける。
 もっと強く。
 昨日より強く。
 今日より強く。
 明日はなお強く。
 その飽くなき力への渇望こそが、三月ウサギをこの荒行に駆り立てていた。

 彼は何故、ここまでして力を求めるのか。
 それはオオミミですら知りはしない。
 全ては三月ウサギの心中にこそ秘められていた。
 それが白日の下に晒されるのは、まだ少し先の話である。



     ・     ・     ・



「……!」
 三月ウサギがトレーニングを行っている頃、
 奇しくもタカラギコもまた研鑽を積んでいた。

「…!……!」
 片手に拳銃を持ち、壁に書いた点に照準を合わせて構えを取る。
 そのまま、照準をコンマ一ミリもずらさずにその体勢を堅持。
 既に、タカラギコが銃を構えて一時間が経過しようとしていた。

「!!!!!」
 と、机の上に置いてあった時計のベルが鳴る。
 丁度一時間が来た事を、タカラギコに告げたのだった。

「ふぅ…」
 汗を拭い、息を整えた後で今度はウエイトトレーニングを始める。
 銃の反動を抑え、あらゆる種類の銃を自在に操る為にも、
 膂力を鍛える事は銃使いにとって不可欠である。
 ましてやタカラギコの使うのは、
 『パニッシャー』という規格外の化け物兵器。
 並大抵の筋力では到底御し切れない。

 彼は、強くなる必要があった。
 死ぬ訳には、いかないから。
 死ぬのが、恐いから。
 それが、タカラギコが強くあろうとする理由だった。

519ブック:2004/06/02(水) 19:36



     ・     ・     ・



 僕とオオミミは、甲板の柵に掴まりながら流れる雲を眺めていた。
 夕暮れの太陽が雲を金色に染め上げ、幻想的な景色を創り出す。
 夕暮れの空を見るのは、僕とオオミミの日課みたいなものであった。

「何そんな所で辛気臭くなってんのよ。」
 と、後ろから聞きなれた憎まれ口を叩かれる。
 それが誰かは振り向いて確認するまでもない。

「あ、天。」
 オオミミがゆっくりと後ろに顔を向ける。
 この女、僕とオオミミの折角のアバンチュールを邪魔しやがって。

「この前の島で誘拐されかけたんですってね?
 全く、鈍臭い男ね。」
 天がズカズカと歩み寄り、オオミミの横の柵にもたれ掛かる天。
 この野郎。
 そろそろ一発殴ったろか?

「うん。
 三月ウサギとタカラギコさんが来てくれなかったら危なかったよ。」
 オオミミが笑いながら答える。

(一応、僕も居たんだけどね…)
 僕が小さく苦言を漏らす。
 心外だ。
 僕は戦力として数えて貰えないのか?

「ご、ごめん、『ゼルダ』!」
 オオミミが慌てて謝る。
(いいよ、別に。
 どーせ僕はヤムチャなのさ…)
 ついつい臍を曲げてオオミミを困らせてやる。
 これ位の仕返ししたって、罰は当たらないだろう。

「…あんた達って、本当に仲がいいわねぇ。」
 天が半ば呆れ気味に呟いた。
 当たり前だ。
 この僕とオオミミとの間柄が、君みたいな薄っぺらい藁の家と比べられるものか。

「……」
「……」
 話題が無くなったのか、オオミミと天がお互いに黙りこくる。
 沈黙が、風と共に僕達の間に流れた。

520ブック:2004/06/02(水) 19:36


「…あんたってさ。」
 不意に、天が口を開いた。

「何?」
 オオミミが聞き返す。

「あんたってさ、何でこんな船に乗ってる訳?
 まだ子供のくせに、
 どう見たってこんな物騒な所には向いてないじゃない。」
 天がオオミミに尋ねた。
 子供って、お前もそうじゃないか。
 余計なお世話だ。

「うん…俺も、そう思う。」
 オオミミが苦笑する。
 何言ってんだ。
 『関係ないだろ』、ってガツンと言ってやれ。

「だったら何で今迄ここに居たのよ?
 親御さんだって心配してるんじゃないの?」
 ……!
 僕は絶句した。
 こいつ、オオミミに向かって言ってはいけない事を…!

「…お父さんとお母さんは、もう居ないんだ。」
 オオミミが、顔を曇らせた。

「―――!あ…ごめ……」
 天がようやく、自分がオオミミを傷つけた事に気がついたらしい。
 遅いんだよ、この売女。
 短い間とはいえ、オオミミと一緒に過ごしてきたんだろう?
 それ位、察せ。

「…!大丈夫、気にしないで。」
 オオミミが、硬直する天にフォローを入れた。
 馬鹿。
 何で君はいつもいつもそうやって。
 今君は、怒ったっていいんだぞ!?

「ごめんなさい、アタシ…」
 何と、この女が素直に謝っている。
 明日は雪でも振るんじゃないか?

「いいって。別に気にしてないから。」
 オオミミが微笑む。

 …嘘吐け。
 本当は、嫌な事を思い出して傷ついた筈なのに。

521ブック:2004/06/02(水) 19:37



「オオミミ。」
 と、後ろから低い声が掛けられた。
 この声は、三月ウサギだ。

「どうしたの?三月ウサギ。」
 オオミミが三月ウサギに尋ねる。

「悪いが、少し組み手に付き合ってくれ。」
 …まずい。
 三月ウサギの鍛錬に付き合わされるのか。
 彼は無茶をするので、三月ウサギはいいだろうが付き合わされるこっちは身が持たない。
 それでも、三月ウサギに言わせれば手加減をしているつもりなのだろうが。

「…ニラ茶猫は?」
 オオミミも三月ウサギとの組み手は嫌なのか、ニラ茶猫にその役目を転嫁しようとする。
「あいつは今ベッドの上で交戦中だ。
 下らな過ぎて、邪魔する気にもならん。」
 …あの色情狂め。
 この大変な状況下でもギシギシアンアンかよ。
 お目出てーな。

「…?天、どうして顔赤くしてるの?」
 オオミミが、セクハラと取られても仕方無い質問を天にぶつけた。
 案の定、天に思い切り足を踏みつけられてオオミミが悶絶する。

 …君は馬鹿か。
 今のは、さっき天が君に言ったのと同じ位の失言だぞ。

「そういう訳で、だ。
 すまんが、無理にでも付き合って貰う。
 そろそろ、体が鈍ってきているのでな。」
 三月ウサギがオオミミを見据える。
 やばい。
 彼は、本気だ…!

522ブック:2004/06/02(水) 19:37


「でしたら、私がお相手させて頂けませんか?」
 そこに、呑気な声が飛び込んできた。
 大きな十字架を背負った背広の優男。
 タカラギコ、いい所に来てくれた!

「…お前が?」
 いぶかしむ三月ウサギ。

「ええ。実は私も、そろそろ運動不足かな〜、と思いましてね。
 よろしければ、軽く手合わせして貰えれば助かるのですが。」
 タカラギコが笑いながら答える。
 よし、三月ウサギ。
 折角タカラギコがこう言ってるんだ。
 遠慮なく相手をしてやれ。
 僕達は、審判役をするからさ。

「…俺は貴様を信用していない。
 悪いが、手加減は出来んぞ…」
 三月ウサギが、ぞっとするような視線をタカラギコに向けた。
「いやそんな、どうか一つお手柔らかにお願いしますよ。
 私は弱っちいんですから。」
 にも拘らず、相変わらずの飄々とした笑みを見せるタカラギコ。
 そう、相変わらずの―――

「!!!!!!!!」
 その時、僕とオオミミは尻の穴に氷柱を突っ込まれたような錯覚に襲われた。

 違う。
 これは、違うぞ。
 タカラギコの顔は、いつも通りの笑顔だ。
 だけど、違う。
 何かが決定的に違っている…!

「……」
 三月ウサギもそれを感じ取ったのか、黙ったままタカラギコを睨み続ける。

「ではすみませんがオオミミ君、審判をお願い出来ますか?
 何、硬くならないで下さい。
 唯の稽古ですよ…」
 オオミミに顔を向けずに、タカラギコが告げる。
「……」
 三月ウサギは、何も喋らない。

 全身に鳥肌が立つ。
 天は、二人に気圧されるように後ろに下がり始めた。

(オオミミ…)
 僕は心配そうにオオミミに声をかけた。
 オオミミも緊張しているのか、返事は返ってこない。

 先程タカラギコが言ったのは大嘘だ。
 これは、けっして唯の稽古なんかじゃない。

 だけど、僕もオオミミも天も、二人を止めに入る事は出来なかった。
 それはある意味当然の事だろう。
 二匹の猛獣が入っている檻の中に、おいそれと入れる奴はいない。

「……」
「……」
 三月ウサギとタカラギコが、お互いに向き合ったまま立ち尽くす。
 二人は完全に臨戦態勢に入っており、
 そこから流れる気迫が空気を張り詰めさせる。

「は、始め!!」
 耐え切れなくなったオオミミが、悲鳴を上げるように開始の合図をした。



     TO BE CONTINUED…

523ブック:2004/06/03(木) 17:06
     EVER BLUE
     第二十五話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その一


「は、始め!!」
 オオミミが開始の合図をしたが、三月ウサギとタカラギコは構えを取らなかった。
 それどころか得物すら取り出さずに、
 それぞれお互いに向かってゆっくりと歩いていく。

「そういえば…
 ルールはどうしますか?」
 歩きながらタカラギコが三月ウサギに聞いた。
 そしてパニッシャーを横に投げ捨てる。
 近接戦闘では、あの大きな得物は不利と考えたからだろう。
「お前は、戦場で今と同じ質問を敵にするつもりか?」
 質問を質問で返す三月ウサギ。

「成る程、道理ですね。」
 三月ウサギとタカラギコの距離がどんどんち縮んでいく。
 制空圏と制空圏が触れ合い、双方が必殺の間合いに入る。
 しかし、それでもなお二人は構えなかった。

「……」
「……」
 二人がすれ違い、背中を向き合せて一メートル程間合いをとった所で立ち止まる。
 まだ、二人共構えない。

「来いよ。」
 三月ウサギが尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコが答える。

「来いよ。」
 三月ウサギがもう一度尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコがもう一度答える。

「来いよ。」
 三月ウサギが尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコが答える。

 ―――沈黙。
 時が止まったように空間が凍りつき…

524ブック:2004/06/03(木) 17:07



 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 爆。

 三月ウサギとタカラギコが、一瞬の狂いも無く全くの同時に、
 振り向きざまに斬撃を繰り出した。
 三月ウサギの剣とタカラギコの大刃のナイフが打ち合わされ、赤色の火花を散らす。

「!!!」
 既に二人の両手には、それぞれ刃物が握られている。
 一体、彼らはいつ剣を抜いたのだ?
 近距離パワー型の僕ですら、抜刀の瞬間が全く見えなかった…!

「はぁっ!!」
 三月ウサギが右手の剣で、左からの袈裟斬り。
「!!!」
 それを右手のナイフで受けるタカラギコ。

「!!!!!!!!」
 休む間も無く、三月ウサギから次々と斬撃が飛んでくる。
 しかし、その全てをタカラギコは受け切っていた。

 右から、左から、上から、下から、正面から―――
 あらゆる方向からの白刃の閃き。
 それを弾き、流し、受けるもう一つの銀の光。
 もう解説など全く追いつかない。
 どちらかが何か行動を起こした時点で、既に次の攻撃が始まっている。
 そしてそのスピードが尋常の速さではない。

「!!!!!!!!」
 タカラギコの左手のナイフが弾き飛ばされた。
 矢張り、剣術では三月ウサギの方に一日の長があるみたいだ。

「死ィ―――」
 三月ウサギが両腕を交差させるようにタカラギコに斬りかかる。
 あれでは、一本しか得物を持たないタカラギコでは
 必ずどちらかの斬撃を喰らってしまう!

「!!!!!!!!」
 しかしタカラギコは受けなかった。
 身を屈め、ギリギリの所で必殺の刃をかわす。

「貰いましたよ!!」
 そのまま、タカラギコは右手のナイフを三月ウサギの胴目掛けて突き出した。
 だが…

「!?」
 タカラギコのナイフを握る腕が、三月ウサギのマントの中へと吸い込まれた。
 そう、あれこそが三月ウサギの『ストライダー』の恐ろしさ。
 あらゆる物理攻撃の一切合切を、全くの無効とする。

「ふっ!」
 三月ウサギが、無防備となったタカラギコの体に剣を振り下ろす。
 ここで、勝負有りか―――

「!!!!!!」
 しかし、タカラギコが自ら三月ウサギのマントの中に飛び込む事で、
 その一撃を回避した。

「ちィッ!!」
 三月ウサギが、剣をマントの中に突き入れようとする。
 だが、その直前にタカラギコはマントの中から転がり出た。

「ちょこまかと…!」
 三月ウサギがタカラギコに追撃を仕掛けようとする。

「!!!!!」
 しかし、その三月ウサギの試みはタカラギコの投擲した剣によって阻まれた。
 三月ウサギが投げつけられた剣を左手に持つ剣で弾く。

 あれは、三月ウサギの剣。
 さっきマントの中に入った時に、手に入れておいたのか。

 …化け物共め。
 斬り合いを開始してからまだものの数十秒しか経っていないが、
 もし僕があの場にいたら軽く二桁は死んでいる。
 近距離パワー型スタンド並の、いや、もしかしたらそれ以上の戦闘術。
 どれ程の修練を積めば、あそこまでの領域に到達出来るというのだ?

525ブック:2004/06/03(木) 17:07


「いやはや、見事な剣捌きです。
 私も白兵武器によるCQCを少々嗜んではいるのですが、
 どうやらあなたの方が一枚も二枚も上手なようだ。
 加えてその不可思議なスタンド能力。
 どうやらこのまま剣術で張り合うのは、得策ではないようですね。」
 距離を離した所で、苦笑しながらタカラギコが口を開く。

「……」
 三月ウサギが、そんなタカラギコの言葉には耳も貸さずに斬りかかろうとする。
 もう、これは稽古ではない。
 スタンド使い同士による殺し合いだ…!

「!!!!!」
 タカラギコが、左からの剣撃を右手のナイフで受ける。
 しかし三月ウサギは構わず逆の腕での連撃を…

「!!!!!!!」
 しかし、三月ウサギの剣がタカラギコに到達するより早く、
 まるで手品のような神業めいた速さで、タカラギコは懐から銃を取り出した。

「…ですので、私も得手(オハコ)を使わせて頂きます。」
 マントに守られていない三月ウサギの頭部目掛けて、
 躊躇する事なく引き金を引く。

「くっ!!」
 頭を横に傾け、紙一重で銃弾をかわす三月ウサギ。
 それと同時に、剣を横に凪いでタカラギコに反撃する。

「!!!!!」
 銃声。
 それと同時に三月ウサギの剣がタカラギコに喰らいつく前に軌道を変えた。
 有りえない。
 まさか、剣を狙い撃つ事で三月ウサギの攻撃を防いだ!?

「JACKPOT!」
 そこに生まれた僅かな隙を逃さず、
 タカラギコが三月ウサギ向けて拳銃を乱射する。

「『ストライダー』!」
 だがその銃弾は全て、三月ウサギのマントの中へと飲み込まれる。

「……!」
 タカラギコの拳銃がホールドアウトする。
 どうやら、弾切れのようだ。

「はあっ!!」
 勿論それを見逃す程、三月ウサギは甘くない。
 リロードを行ったり、新しい得物を取り出したりする前に、
 勝負を決めるべくタカラギコに踊りかかる。

526ブック:2004/06/03(木) 17:08

「!!!!!」
 と、三月ウサギがいきなり横に跳んだ。
 直後、タカラギコの眼前から眩い光の線が打ち出され、
 さっきまで三月ウサギの居た場所を恐ろしい速さで過ぎ去っていく。

「……!!」
 直撃こそしなかったものの、三月ウサギのマントには一センチ大の穴が開けられていた。
 馬鹿な。
 あの『ストライダー』に対抗出来るような武器が、タカラギコに?

「…どうやら、火や光等の純エネルギー体までは取り込めないみたいですねぇ。」
 拳銃のマガジンを交換しながら、タカラギコが呟くように言った。
 その回りには、幾つかの銀色の飛行物体が飛び交っている。
 あれは、確かタカラギコのスタンド。
 さっきの光の線は、あれによるものか!?

「…だからどうした。
 言っておくが、『ストライダー』を無効化する攻撃がある位では俺には勝てんぞ。」
 三月ウサギが無表情のまま答える。

「でしょうね…
 正直、今の一撃であなたを倒せなくて結構焦っています。」
 タカラギコが本気とも嘘とも取れない声で言った。
 その顔にはあの人の良さそうな笑みが浮かんだままだ。

「さて、それではそろそろ再開するとしますか。」
 タカラギコが右手のナイフをしまい、代わりにもう一つ拳銃を取り出した。
 どうやら、ここからは二丁拳銃で闘うらしい。

「ふん。」
 対する三月ウサギのマントの中からも、
 大量の剣が現れては甲板に突き刺さっていく。

「…行きますよ。」
 タカラギコが両手の拳銃をクルクルと回転させ、
 三月ウサギに照準を合わせて構えた。

「……」
 三月ウサギも剣を手の中で回し、
 右手を剣を順手に、左手の剣を逆手に持って構えを取る。

「……」
「……」
 二人が、無言のまま向かい合った。
 息が詰まるような静寂。
 その中で、二人の男の姿が夕日に美しく彩られるのだった。



     TO BE CONTINUED…

527ブック:2004/06/05(土) 02:10
     EVER BLUE
     第二十六話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その二


 三月ウサギとタカラギコが、得物を握ったまま向かい合っている。
 ふたりは、まるで彫刻のように微動だにしない。

「……!」
 最初に均衡を破ったのは三月ウサギだった。
 両手に持っていた剣をタカラギコに投げつけ、
 さらに地面に突き刺さっている剣を取っては次々と投擲する。

「勘弁して下さいよ…」
 タカラギコが、それらを全て銃で撃ち落としていく。
 なんという精密射撃。

 しかし銃で剣を打ち落とすという事は、
 それだけ三月ウサギへの攻撃が手薄になるという事でもあった。
 三月ウサギがその合間を縫ってタカラギコとの距離を詰める。

「喰らえ…!」
 充分に接近した所で、三月ウサギが剣を振るった。
「くッ!」
 タカラギコが、その剣を右手の銃で受ける。
「!!!」
 三月ウサギが、もう片方の剣でタカラギコに斬り掛かる。
 タカラギコは、それも別の手の拳銃の銃身で防御した。
 響き渡る金属音。

「!!!!!」
 銃声。
 タカラギコが拳銃を発砲した。
 だが、攻撃の為に発砲したのではない。
 発砲の反動を利用して、受け止めている三月ウサギの剣を弾き返したのだ。

「ちッ!」
 三月ウサギがやや体勢を崩した。
 タカラギコはその隙にバックステップ。
 三月ウサギとの距離を取って、剣の間合いから離脱する。
「逃がすか…!」
 すぐさま三月ウサギはタカラギコとの間合いを詰めた。
 そのままタカラギコの胴体を左から切り払い―――

「!?」
 しかし、三月ウサギの剣はタカラギコの体をすり抜けて、
 次の瞬間タカラギコの体が消失した。
 これはッ!?
 いや、似たようなものを僕は一度見た事がある。
 確か、tanasinn島で『紅血の悪賊』に襲われた時に…

「!!!!!」
 刹那、三月ウサギの背後にタカラギコが出現した。
 三月ウサギに向かって銃の照準を合わせている。
「くっ…!」
 三月ウサギが振り向きながらタカラギコに剣を投げつける。
 だが、またもやタカラギコの体を剣がすり抜ける。
 これも虚像(フェイク)…!

「……!」
 三月ウサギがタカラギコを探して周囲を見回す。
 しかし、タカラギコの姿はどこにも見えない。
 音で探ろうにも周りには物音一つ立たず、
 気配でさぐろうにも嘘みたいに気配が掻き消えている。
 完璧な隠身術。
 本当にタカラギコはここにいるのかという錯覚すら覚えてしまう。

「!!!!!」
 三月ウサギの死角からあの光の線が発射される。
 まずい。
 このままだと、三月ウサギは―――

528ブック:2004/06/05(土) 02:11

「!!!」
 と、直撃の寸前で三月ウサギの体がその場から消え去った。
 いや、消え去ったと言うのは正しくない。
 語弊を恐れず言うが、三月ウサギの体が甲板の床へと『落ちた』のだ。

「!?」
 よく見ると、三月ウサギの消えた場所の床に
 黒い水溜りのような染みが生まれている。
 あの中に、三月ウサギは落ちたのか?
 !!
 まさか、あれが『ストライダー』!?

「!!!!!!!」
 次の瞬間、光線が放たれた場所目掛けて黒い水溜りから大量の剣が飛び出した。
 金属と金属の衝突音と共に、何も無い筈の空間で剣が弾かれる。
 そこから、徐々にタカラギコの姿が浮き出てきた。

「…褒めてやる。
 俺にここまで『ストライダー』を使わせた奴は、そう多くない…」
 黒い染みから、三月ウサギがゆっくりと這い出した。

「あなたこそ流石です。
 私の同僚にも凄腕の剣客の女性が居たのですが、
 あなたならば充分互角に張り合えますよ…」
 タカラギコが笑いながら言う。
 あの三月ウサギと互角に張り合える女!?
 一体それはどんな怪物なんだ。

「ほう。
 そんな女が居るのなら、是非とも会ってみたいものだな。」
 剣を構えながら三月ウサギが口を開く。

「…残念ですが、それは無理な相談ですね。」
 タカラギコが、不意に寂し気な表情を見せた。
 と、瞬く間にタカラギコの姿が再び消えていく。

「同じ手が何度も通用すると思うな…!」
 タカラギコが消えていくのを見て、
 三月ウサギがマントの中から大量の取り出して空に撒いた。
 一体、彼は何を…

「…オオミミ、そこの女、死にたくなければ動くなよ?」
 三月ウサギが僕達に目を向けずに告げる。
 一体、彼は何をするつもりなんだ?

「!!!!!」
 その時、僕はようやく三月ウサギの狙いに気がついた。
 空に撒かれた剣が、重力に導かれて上空より飛来する。
 それはまさしく、剣の雨であった。

「うわああああああああ!!!」
「きゃああああああああ!!!」
 オオミミと天が叫び声を上げる。
 しかし、剣の雨は二人の居る場所だけには降らなかった。
 何という技。
 いや、これはもはや技(スキル)なんてレベルじゃない。
 業(アート)そのものの領域だ…!

「くっ…!」
 舌打ちと共に、何も無い空間で剣の雨が弾かれる。
 タカラギコは、あそこか!

529ブック:2004/06/05(土) 02:11

「……!」
 三月ウサギがその場所に向かって高速で突進する。
「……!」
 タカラギコも最早姿を消しても遅いと考えたのか、
 姿を現して三月ウサギを迎え討つ。

「はあッ!!」
 三月ウサギが剣で斬り掛かる。
「ふっ!!」
 タカラギコが拳銃を抜く。
 お互いの距離が一瞬にして縮まり―――

「!!!!!!!」
 全くの同時に、三月ウサギとタカラギコが必殺の型に入った。
 三月ウサギは右手の剣をタカラギコの首筋に当て、
 タカラギコも拳銃を三月ウサギの眉間へと突きつけている。
 まさか、これ程までに伯仲した勝負だったとは…!

「……」
「……」
 三月ウサギとタカラギコは、得物を突きつけあったまま動かない。
 なのに、次の瞬間にもどちらかが死ぬかもしれないという圧迫感。
 見ているこちらが、先にどうにかなってしまいそうだ。

「……ふ。」
 と、タカラギコが微笑みながら銃を床に落とした。
「…ふん。」
 三月ウサギも、それに毒気を抜かれたのか剣を納める。
 どうやら、組み手はここで終わりのようだ。

「いやぁ、いい汗を掻かせて貰いました。
 またお手合わせ願いたいものですね。」
 タカラギコがにこやかに手を差し出した。
「……」
 しかし、三月ウサギはそれを知らん振りして後ろに振り返り、
 さっさとそこから去って行ってしまう。

「…嫌われちゃってますねぇ。」
 タカラギコが苦笑する。

「そうでもないと思いますよ?
 ああ見えて、三月ウサギは結構優し―――」
「オオミミ!
 適当な事を喋るな!!」
 オオミミの言葉を三月ウサギが遮る。
 あんな遠くからオオミミの声が聞こえるとは。
 長い耳は伊達ではないという事か。

「怒られちゃったね。」
 オオミミが舌を出しながら僕に囁く。
(君は余計な事言い過ぎだよ。)
 僕はそう相槌を打つのだった。

530ブック:2004/06/05(土) 02:12



     ・     ・     ・



「た、大変です歯車王様!
 奇形の奴が、勝手に出て行きました!!」
 軍服に身を包んだ兵士が、慌てた様子で歯車王の下へと駆けつけた。

「何ィ!?」
 信じられないといった風に答える歯車王。

「警備の者を強引に振り切り、
 一体の『カドモン』と数人の乗組員を脅して引き連れ、
 小型快速戦闘船『黒飛魚』を強奪した模様です!
 現在追跡隊を編成しておりますが、
 果たしてあの『黒飛魚』に追いつけるか…」
 軍人が顔を曇らせて告げる。

「貴様、何故おめおめとそのような事を!」
 電子音の入った怒声が、軍人に叩きつけられる。
 軍人が、その声を受けて身を萎縮させた。

「申し訳御座いません!
 ですが、あの奇形もスタンド使い。
 私達ではとても―――」
 軍人がそう弁解しようとする。

「言い訳は聞いておらぬ!
 首を落とされぬうちにさっさと奴を引っ立てて来い!!」
 歯車王が激昂する。
「は、はいっ!!」
 軍人は、逃げるように部屋を飛び出していった。



     ・     ・     ・



「速い!速い速い速い!
 流石は『黒飛魚』、金がかかっているだけはあるねぇ。」
 奇形モララーが、椅子にふんぞり返りながら満足そうに言った。

「き、奇形モララー様、本当にこのような事をなさって大丈夫なのでしょうか…」
 操舵士が不安そうに奇形モララーに尋ねる。

「あア?
 誰がお前に意見を許可した?」
 奇形モララーがその男を睨む。

「も、申し訳ございません!!」
 慌てて操舵士が謝る。
 その顔には冷や汗がびっしりと流れ出ていた。

「…う〜……うう…」
 と、奇形モララーの横に居る拘束具で包まれた人型の『何か』が、
 呻くような声を上げた。

「…はン。
 同族の気配を感じ取ってるようだなァ。
 しっかり仕事してくれよ…」
 奇形モララーが足で『何か』を小突く。
 『何か』がさらにくぐもった声を出して身悶えた。

「さて…
 大人しく待ってろよ、『成功体』ちゃんよォ…」
 奇形モララーが凄絶な笑みを浮かべる。
 その異様な雰囲気が乗組員の恐怖をさらに煽っていた。

「速いぜ速いぜ、速くて死ぬぜぇ…!」
 奇形モララーが舌なめずりをしながら呟いた。



     TO BE CONTINUED…

531ブック:2004/06/06(日) 00:37
 次の回からいよいよ血みどろの展開になる予定ですが、
 ちょっとその前に閑話休題。
 息抜きのつもりでどうぞ。
 あと勿論、このストーリーは本編とは一切関係がありません。



     番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
        出会い編


 やあ皆、僕の名前は『ゼルダ』。
 自他共に認めるオタクゲーマーさ。
 今日は新しい美少女ゲームソフトを買ってきたんだ。
 面白いゲームだといいなぁ…

(さて、と。)
 さっそく封を破り、ソフトを取り出す。
 僕が買ったのはあの有名なゲームメーカであるコ@ミのソフト。
 そう、もう言わなくても分かるよね。
 あの超有名な美少女ゲームソフトといえば…

(『ときめきEVER BLUE』…?)
 僕はパッケージに書かれてあるゲーム名を呼んで首を傾げた。
 ち、違う。
 似ているけど何か違うぞ!?

(ま、まあいいや。
 とにかく始めてみよう。)
 気を取り直し、ゲームをスタートする。
 あのお馴染みの曲が流れ…
 ではなく、黒の背景に何やら美少女キャラが太極拳みたいな踊りをし始めた。
 ちょっと待て。
 これってセンチメンタ(ryじゃねぇかよ!
 別の会社のゲームのパクリじゃねぇかよ!!

 そして画面に表示されるゲームタイトル。
 しかし、やはり何度見ても『ときめきEVER BLUE』。
 もういい。
 肝心なのは中身だ。
 オープニングにはこの際目を瞑ろう。

(まずは主人公の名前の入力か…)
 自分の分身である主人公の名前。
 これは結構重要な選択だ。
 さんざん悩んだ末、『オオミミ』と入力する。
 そして、いよいよゲームスタート。

「ふあああああああ…」
 主人公のオオミミの欠伸の声。
 どうやら、まずは主人公の自宅からストーリーが展開するらしい。
「さあ、今日は高校の入学式だ。
 新しい生活が始まるけど、楽しい毎日だといいなあ。」
 妙に説明臭い台詞。
 まあ、ゲームだから仕方無いか。

532ブック:2004/06/06(日) 00:37

「ちょっと、一人で何ぶつぶつ言ってるのよ。」
 画面が切り替わり、全裸の少女がベッドに横たわる絵が表示される。

 待てよ!!
 何でいきなり彼女がいるんだ!!
 しかももう既成事実作っちゃってんのかよ!!
 つーかこれエロゲーの展開じゃねぇか!!
 なのに何でパッケージに全年齢対象のラベルが貼ってあるんだよ!!

:名前『天』。
 主人公の幼馴染で、わがままな女の子。
 主人公と親密な関係になりたいと思っているものの、素直になれないでいる。

 身長162cm 体重48kg
 B82 W59 H83

 属性・幼馴染 お転婆 同級生:

 何だよこのキャラクター紹介は!
 親密な関係になりたいが素直になれないとかいってるのに、
 しっかりともうやってんじゃねぇかよ!
 しかも『属性』って何なんだよ!

「あ〜眠。
 アタシ今日学校休むわ。」
 入学式早々サボりかい。
 なんてただれた生活してるんだ。

「それじゃ、行ってきまーす。」
 両親に挨拶をしてオオミミが学校に行く。
 というか両親、高校生になったばかりの息子が家に女連れ込んでるのに、
 お咎めの一つも無しか。

「遅刻遅刻〜。」
 パンを口に咥えながら走るという、
 現実世界でこんな事やったらイタい奴確定の姿で登校するオオミミ。

「きゃあああああ!!」
 角を曲がった所で、女の子と激突する。
 ここまでくると、マンネリを通り越して予定調和の世界だ。

「痛たたたた…」
 頭を押さえてしゃがみこむ女の子。
 もちろん、サービスカットのパンチラは忘れない。
 純白の白いパンツ。
 だが、そんな事よりその後ろに担いだどでかい十字架は何だ?

1・「ご、ごめん。大丈夫!?」
2・「悪いけど急いでるんだ。じゃっ。」
3・「あア!?人にぶつかっといて詫びの一つも無しか!?
  しゃぶらすぞこのアマ!」

 突如出現する選択肢。
 これぞ美少女ゲーならではだ。
 しかし、三番目の選択肢は存在する事自体間違っているような…
 まあいいや。
 取り合えず1、と。

「ご、ごめん。大丈夫!?」
 僕が選んだ選択肢の通りにオオミミが発言する。
「え、ええ、何とか。
 こちらこそごめんなさい。」
 照れて顔を赤くする十字架女。

「ああ!もうこんな時間!!
 急がないと!!」
 十字架女はそのまま走り去ってしまった。
 あんな大きな物担いで、よく走れるものだ。

「おっと、こっちも急がないと!」
 躁鬱病患者のように、一々独り言を言ってからオオミミが行動する。

533ブック:2004/06/06(日) 00:38



 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜〜ン

 舞台が学校の正門前に移る。
「良かった、どうやら間に合ったみたいだ…」
 オオミミが画面の中でほっと息を吐いた。

「待ちな!
 そこの新入生!」
 と、そこに声が掛かる。
 現れたのは、長スカートを穿いた絶滅危惧種のヤンキー女。
「この学校で生活しようってのに、アタイに一つ挨拶も無しかい?」
 いきなり無茶な事を言い始めるヤンキー女。
 こいつ、学校でなく精神病院行った方がいいんじゃないか?

:名前『三月ウサ美』
 私立きらめき学園を仕切る女番長。
 スカートの内側に大量の剃刀を隠している事から、
 剃刀三月と呼ばれている。

 身長174cm 体重57kg
 B90 W62 H89

 属性・年上 上級生 不良 グラマー:

 キャラクター紹介が出たという事は、攻略対象キャラという事だろう。
 しかし、こんな変人攻略する奴いるのか?

「こら!お前達何をしている!!」
 そこへ、先生が駆けつけて来た。
「ちッ、先公が来やがった!
 今回だけは見逃してやるよ!」
 そのまま退場する三月ウサ美。

「君もすぐに入学式に行きなさい!」
 そのまま入学式へと画面が移行したのだが、
 特に何も無かったのでこの部分ははしょる。
 そして入学式を済ませたオオミミは、割り振られたクラスへと入っていった。

「よお、そこのお前。」
 いきなり、後ろの席の奴が馴れ馴れしく話しかけてきた。
「俺はニラ茶猫っていうんだ。
 よろしくな。」
 ああ、こいつはあれか。
 女の子の高感度とか、丸秘情報とかを教えてくれる便利キャラか。

「所でお前、この学校に伝わる伝説って知ってるかフォルァ?」
 突如として何の脈絡も無い話題を持ちかけるニラ茶猫。
 どうやらこのゲームのキャラは、精神破綻者の集まりらしい。

「何だい、それ?」
 オオミミが尋ね返す。

「良くぞ聞いてくれました!
 いいか、この学校にはな、『伝説の樹』っていうものがあるんだ。
 何で伝説なのかっていうと、
 卒業式の日に、そこで女が男に告白をしてだな…」
 ああ、そこで生まれたカップルは一生幸せになるとかいうのか。
 ようやくまともな恋愛ゲームっぽくなってきた。

「そこで振られた女が、計五人もその樹で首を吊ってるんだ。
 そして毎晩そこではその少女達の泣き声が…」
 全然ハッピーエンドじゃねぇじゃねぇかよ!
 そんな所で告白受けるのがこのゲームの目的かよ!
 つーかそれ、伝説じゃなくて七不思議の類じゃねぇかよ!
 切り倒せよそんな不吉な樹!!

「そうなんだ。知らなかったよ。」
 礼を言うオオミミ。
 何でそんな大きなニュースになってそうな事知らないんだよ!

「よーしお前ら、俺がこの教室の担任だ。
 早速だが転校生を紹介する。」
 何で入学式の日に転校生が来るんだよ!
 普通に新入生でいいじゃねぇか!

「それじゃ入って来い。」
 先生に促され、一人の女の子が教室に入ってくる。
 その背中には大きい十字架を背負っており…

「ああ〜〜〜!!」
 オオミミと少女が同時に声を上げた。
 登校中にぶつかった女の子だ。
 これまたなんつうベタベタな…

「?どうしたお前ら、知り合いか?」
 お約束の質問をする担任。

「いえ、別に…」
 バツの悪い顔で答える女の子。

「よし、それじゃあ自己紹介してみろ。」
 担任の先生がそう女の子に告げた。

「は、はい。
 名前はタカラギ子と言います。
 皆さん、どうかよろしくお願いします。」
 ペコリと頭を下げるタカラギ子。

:名前『タカラギ子』。
 大きな十字架を背負った転校生。
 不意に見せる寂し気な表情。
 何やら人に言えない秘密があるようだが…

 身長166cm 体重46kg
 B80 W56 H81

 属性・転校生 同級生 家庭的 暗い過去:

「よし、それじゃあお前の席はオオミミの隣だ。」
 担任が僕のオオミミの横の席を指差した。

「それじゃ、よろしくお願いしますね!」
 着席しながら、にっこりと微笑むタカラギ子。

 …こうしてこの糞ゲー、『ときめきEVER BLUE』は
 静かに幕を開けるのだった―――



     TO BE CONTINUED…

534丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:57
「じゃあ、戦闘系スタンドの招集よろしく頼んだデチ…」
 ぱさり、とクリップで留められた書類がデスクの上に放られた。

 診療所で久々にしっぽりまったりと愛を交わし合った後のこと。
徹夜で<インコグニート>の能力を書類にまとめ上げたせいで、二人の顔には深いクマが刻まれていた。

(無理は厳禁デチねぇ。眠いデチ…)
(ぎゃあ激しく同意を)
 『スタンド』の声でそんなしょうもない会話をかわすが、テーブルを挟んで座っているSPM構成員の顔に笑みはない。
ふと原因に思い当たり、笑みを浮かべてぱたぱたと手をふった。

「そんなに心配しなくても大丈夫デチよ。読んだりしないから」
「…左様ですか。承知いたしました」
 全然緊張を解かず、構成員が頭を下げた。

(…全ッ然、承知してないデチねぇ)
(ぎゃあ無理もないことかと)
 確かに、彼等がここまで恐れられること自体はそう珍しいことでもない。
赤の他人に心の奥底までを覗かれるなど、あまりされたくはないだろう。
「ぎゃあふさたん達はもう帰るので、後をよろしくお願いします」
「はい」

 用件は済んだし、これ以上いても大して意味はない。踵を返して、さっさとドアに向かった。

「…デチ?」
 ぐらり、と急にフサの身体が傾ぐ。
そのまま『チーフ』が振り向く間もなく、リノリウムの床に倒れ込んだ。

  ごどっ。

「フサ!?」
 人が倒れるような音ではない。
長い体毛はぴくぴくと痙攣を繰り返し、口の端からは涎が滴る。

  ひゅ、ひゅうーっ、ひっ、ぜぇーっ…!

「ぎ…あ…っ!クス…リィ…!」
「フサッ!…そこの君!水持ってきて!」
 呆気にとられる構成員に『力』を乗せて叫び、大慌てで内ポケットに手を突っ込んだ。
パッキングされた黒い錠剤をもどかしそうに取り出し、自分の口に含んで噛み砕く。

535丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:58

「水ですっ!」
 ひったくるようにコップを受け取り、口に含んで痙攣を繰り返すフサに流し込んでやった。
咳き込みながらも口移しで薬と水を飲み下し、ようやくフサの震えが収まったのは数分が経過した後。


「…大丈夫?」
「はい。…心配、かけましたね」
 真面目な口調で、フサが頷く。
何が起こったのか理解しかねている構成員に、『チーフ』が向き直った。

「そこの君…今起こった事は、誰にも言わないようにして貰えるデチか?」
「な…今のは、何なのですか!?」
 直後、構成員は自分の愚かさを後悔した。
外見だけなら自分の息子と大して変わらない『チーフ』からの殺気が、爆発的に膨れ上がったのだ。
「質問を質問で返すな。学校じゃ疑問形に疑問形で返せって教わったのか?
 これは頼みじゃない。命令だ。もしうっかり口を滑らせたりしてみろ…!
 クソの世話すらできない廃人に変えてやる」

「―――――ッ !! !!」                              ・ ・ ・ ・ ・
 心の底から、恐怖がわき出てきた。コイツは、いざとなれば躊躇なくそれをやる。
スタンド使いではない彼にもわかる。今自分が対峙しているモノは、もはや人間ではない。
 反射的に腰のホルスターに手を伸ばしかけ―――

「…ぎゃぁ…」

 ―――フサの呻きで、二人が我に返った。
「…イヤ、悪かったデチね。ゴメンゴメン。ともかく、誰にも言っちゃダメデチよ?…じゃ、また」
 そう言うと、まだぐったりをしているフサを担いでドアを出て行った。

 SPMの廊下で『チーフ』の背中におぶわれたまま、フサが小さく声を漏らした。
「…貴方まで…私に付き合う必要は無かったのですよ?
 いつ私のようになるやも解らないし…普通に歳を取れないのは、とても辛い事」
「馬鹿。死ぬときも生きるときも一緒だよ」
「………‥‥ぎゃあ」

536丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:59





 ほぼ同時刻、S市繁華街。
オヤジ狩りやクスリの密売に人気がありそうな路地裏で、一人のッパ族が絡まれていた。
ツバ カシジロウ
津葉 樫二郎…表の顔はケチな飲んだくれ、裏の顔もやっぱりケチなスリ師。仲間内ではッパと呼ばれている。

「おうコラァそこのふぐり野郎ァ」
「テメェ棚真会の金スろうたぁ…いい度胸やのぉ」

 ラメ入りスーツにオールバック。
 パンチパーマにサングラス。

(…つーても、スリが見つかったのはあっしのドジだから文句は言えないさねぇ)

「この落とし前、つけて貰わんとあかんなぁ」
 関西弁のパンチパーマが距離を詰める。
小柄なッパに比べれば、頭一つ分の差があった。

「ウダラ何ニヤついてンだッメェ!」
 がしりと財布を持っていた巻き舌のオールバックが、手首を掴む。
スられた右手の財布を奪い取ろうとして―――動きを止めた。

「あ…兄貴…コイツ…」
 財布に回されている指には、親指がある。人さし指がある。中指がある。薬指が小指がある。
そして、更にもう一本指があった。 ・ ・ ・ ・ ・
 小指の外側、更にもう一本細い六本目の指が付いていた。
「…片輪モンか。ちょうどエエな。…その手、押さえとけや」
 ばちん、と折りたたみ式のナイフを開く。

「極道も結構ユルくなったんやけどな。流石に金ギられて黙っとる程甘くないんや」

 壁に押さえつけられた六本指の手に、ゆっくりとナイフを近づける。
「ま、六本もあるんしの。コレに懲りて、カタギにでもなったらエエわ」
     ヤク
「どうせ麻薬で儲けた金でしょうが。それならあっしが貰っても問題はないでしょ」
「ンだとァテメェァ!」
 いきり立つオールバックを片手で制し、パンチパーマが静かに言った。
「ま、そうやろな。気持ちは判るわ。薄汚い金や。…けど、ワシらの金じゃ。棚真会のな。
 盗ろうとしたら、それなりのケジメってモンつけへんとなぁ」

 六本目の指にナイフが当てられる。刃が押され、皮膚が破れる寸前―――

「げぼっ!?」

 ―――突然、パンチパーマが吹き飛んだ。

537丸耳達のビート:2004/06/06(日) 11:00

 解放された右腕で、ポケットのチョコを取り出す。
口に放り込んで、倒れ込むパンチパーマを見下ろした。
「…薄汚い金、ね。そこまで判ってんのに、なんでそれを続けちまうのかねぇ。
 将来有望な少年少女にクスリ売って、それでも止めない…クズな人だ。
 …ま、スリのあっしも人の事ぁ言えないけど、ね」
「て…ッてめ…」
 ひくひくと二,三回パンチパーマが痙攣し、ぐたりと意識を失った。
顔面は蒼白、白目を剥いている。
「ンッ…の野郎ォ!」

 オールバックがッパの片手を押さえたまま、六連発のリボルバーを抜いた。
慣れた手つきでハンマーを上げ、ッパの側頭部に押しつけ、トリガーを引く。
弾丸の尻にある雷管が叩かれ、パン、と小気味良い音が鳴り―――ッパはその場に平然と立っていた。

 一瞬の自失。勘違いかと思い、もう一度引き金を引いた。
パン、と小気味よい音。ッパは平然と立っている。
 僅かに顔をしかめているが、これはただ単にうるさいだけ。血の一滴も流れてはいない。

  ―――いやまて、変だろ。

 通常、銃声という物はもっと大きい筈だ。
サイレンサーも付けてないのに『パン』なんて爆竹と変わらないようなショボい音がするはずはない。

「探し物は…コレですかい?」
 と、ッパが手を開く。
ころん、と弾丸が。ぱらぱら、と火薬が。
ッパの右手から零れてきた。

 驚愕に目を見開く暇もなく、巻き舌オールバックの意識はそこで途切れた。



「…ふぅーい」
 表通りに出て、溜息を一つ。

  カマカマカマ ハ・カ・マ〜♪

 ―――と、持っていた携帯から着歌が流れ出した。

「はいー、津葉ですー」
『ッパさん?私です』
「ああ、どーも」
 私です、で誰だか察したのか、当然のように挨拶を返す。
『ッパさん日本に住んでるんですよね。ちょっと依頼あるんですけど、いいですか?』
「『ディス』御大の命令でしょ?何でも言って下せぇ」
 少女の声に喜びが含まれる。
『ありがとうございます。……一人、捕まえて欲しい人がいるんです』

 親指が、人さし指が、中指が薬指が小指が、六本目の鬼指が、さわり、と蠢いた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

538丸耳達のビート:2004/06/06(日) 11:01
          ___
         /    \
        |/\__\
       ○   (*★∀T)  更ニ簡略化ッ!
          と(⌒Y⌒)つ  コレデ次回から小ネタ活躍ガ…ッ!
             \ /
              V

           上半身のみのナヨいピエロ…
       実際のサイズはこのくらいなんだけどなぁ。
                ∨
               ∩_∩    ∩ ∩ 
              (´∀`;) 旦 (ー` )<何か貧相じゃの。
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~


          ___
         /    \ 貧相ッ!?
        |/\__\
       ○ と(|i★дT)Σ
          と(⌒Y⌒)
             \ /
              V

         ああ、言っちゃいけないことを…
       っていうか何でおじいちゃん見えてるの?
                ∨
               ∩_∩    ∩ ∩ 
              (;´∀`) 旦 (ー` )<小ネタ時だけの心眼じゃ。
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~

539ブック:2004/06/07(月) 00:25
     番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
        告白編


 入学式も終わり、家に帰って来る主人公のオオミミ。
 そこに、選択肢が現れてくる。

『これから何をしようか?』
 1・体力を上げる
 2・知力を上げる。
 3・容姿を上げる。

 おお?
 何かここら辺はまともっぽいじゃないか。
 そうだな…
 体力も知力も大切だけど、やっぱり女の子にモテる為には容姿だよね。
 3を選択、と。

『どうやって容姿を上昇させようか?』
 1・プチ整形で瞼を二重に。
 2・どうせならプチといわずに顔全部を…
 3・いっその事、マイケ@・ジャク@ンみたいに黒人から白人に!

 何で選択肢が整形ばっかりなんだよ!!
 いや、そりゃあそれ位しないと目だった効果は無いだろうけど、
 幾ら何でも生々し過ぎだろ!!
 もういい、だったら1の『体力を上げる』だ!

『どうやって体力を上昇させようか?』
 1・アンドリオル
 2・アナボル
 3・HCG

 全部ステロイドじゃねぇか!!
 お前ジャックハンマーにでもなる気か!?

(……)
 嫌な予感がするが、ならば2の知力はどうだ?

『どうやって知力を上昇させようか?』
 1・カンニングペーパー作成。
 2・替え玉にテストを受けさせる。
 3・教師の弱みを握って脅迫。

 知恵は知恵でも悪知恵なんかい!!
 つーか、普通に努力するような選択肢無いのか!?

 もうパラメーターを上昇させるのは諦めて、寝る事にする。
 ベッドにはまだ天が居たが、邪魔なので窓から放り捨てておいた。
 全く、先が思いやられるぜ…

540ブック:2004/06/07(月) 00:26

「ラギ!」
 と、いきなりベッドの中から変な女が飛び出してきた。
 何だよこいつ。
 というか、主人公は一体何人の女をベッドで飼っているのだ?

「お兄ちゃん酷いラギ〜!」
 お兄ちゃんなどと抜かす奇怪な生物。
 どう考えてもおかしいだろ?
 朝起きたとき、妹のいの字も出て来なかったじゃないか。

:名前『トラギ子』
 主人公の一つ下の妹。
 お金が大好きで寂しいと死んでしまう。

 身長156cm 体重41kg
 B78 W55 H77

 属性・妹 年下 守銭奴 寂しがりや:

 何なんだよこのキャラ紹介は…

「ラギは寂しいと死んじゃうラギよ!?
 さ、お兄ちゃん。
 今こそここで恥ずかし合体を…」
 いきなり服を脱ぎ始めるトラギ子。
 だから、何で全年齢対象ソフトでベッドシーンがあるんだ。

『どうしようか・・・』
 1・釘バットで殴り殺す。
 2・日本刀で刺し殺す。
 3・サブマシンガンで撃ち殺す。

 どうやら、どうあってもトラギ子を殺すしかないらしい。
 一々殺した時の感触が手に残るのもいやなので、3番を選択する事にする。

「おじさん、いかっちゃうぞ?」
 訳の分からない台詞と共に、オオミミのサブマシンガンが火を吹いた。
「ラギニャーーーーーーーーーーン!!!」
 蜂の巣になりながら、トラギ子が断末魔の悲鳴を上げた。

「さあ、明日に備えてゆっくりと休もう!」
 肉親を惨殺したばかりだというのに、さわやかな顔で眠りにつく主人公。
 どうだっていい。
 この程度の理不尽さなど、もう慣れた。

541ブック:2004/06/07(月) 00:26



 目覚ましの音と共に、シーンが次の日へと移る。
「さあ、今日も元気に学校へ行こう!」
 足元に転がるトラギ子の死体を無視して、オオミミが気合を入れる。
 そして、そのまま舞台は学校へと移行した。

「では、今回の授業はこれまで。」
 一時間目の授業が終わり、休み時間が始まる。

「あ、あの、オオミミ君…」
 そこに、一人の女の子が話しかけてきた。
 見ると、その頭には猫耳がついている。

:名前『みぃ』
 オオミミの同級生。
 最早説明の必要の無い猫娘。
 猫耳はいいものです。
 とてもとてもいいものなのです。
 はにゃーん。

 身長143cm 体重32kg
 B71 W49 H70

 属性・同級生 人外 猫耳 ちっこい つるぺた 従順 内気:

 キャラクター紹介が出たという事は、この子も攻略対象キャラか。
 しかし、この作者はよっぽど猫耳が好きなんだな。
 色々言いたい事はあるけど、取り敢えず死ねばいいと思うよ?

「どうしたの?」
 オオミミが聞き返す。
「あ、あの、相談に乗って欲しいんだけど、いいですか…?」
 おずおずとみぃが尋ねてくる。

『どうしよう?』
 1・いいよ、話してみて。
 2・後でゆっくり聞くから、今はパス。
 3・俺はお前の相談役じゃねぇんだ。
   チラシの裏にでも書いてろ、な?

 そうだな…
 ここで優しさをアピールしておけば、他の女の子の好感度も上がるかもしれない。
 ここは1、と。

「いいよ、話してみて?」
 主人公であるオオミミが、選択肢の通りに聞く。

「あ、あの…
 恋人の子供が出来たみたいなんだけど、どうすればいいのか、って…」
 何でそんなハードな相談、ただの同級生に持ちかけてんだよ!
 俺は金八先生かっつーの!!
 つーか、それってもうこいつには彼氏が居るって事じゃねぇか!!
 全然攻略対象キャラじゃないだろうが!!

『どう答えようか?』
 1・ちゃんと彼氏と相談するべきだよ。
 2・ああ、あいつなら産んでもいい、って言ってたよ?
 3・堕 ろ せ。

 これ以上面倒事に巻き込まれてたまるか。
 1を選択してとっとと女を追い払う。

542ブック:2004/06/07(月) 00:27


「よお、オオミミ。」
 と、今度は別の奴が話しかけてきた。
 どうやらニラ茶猫のようだ。

「いやー、さっき彼女から妊娠しちゃった、って言われてびっくらこいたぜ。」
 あれはお前の子かよ!
 避妊位しろこの猿が!
 というかびっくりしただけかい!
 もっと二人で話し合う事あるだろうが!!

「お前がジャンヌを傷つけた、って噂が流れてるぜ?」
 もうさっきの話題終了かよ!?
 つーかジャンヌって誰だよ!!
 何で会ってもいないような奴を、傷つけられるんだよ!!

「そうなんだ、ありがとう。」
 平然と答える主人公。
 いや、少しは疑問に思え。

 もういい。
 これ以上会話するだけ時間の無駄だ。
 さっさと自分の席に戻る。

「……?」
 と、オオミミが机の中に何かを見つけた。
 これは、手紙?
 何が書かれて…

『伝説の樹の下で待っています。』
 何でもう告白の手紙貰ってんだよ!!
 ゲーム開始から一日しか経ってないだろうが!!
 普通こういうのはデートとか積み重ねてから貰うもんだろ!?

「よし、宇宙へ行こう。伝説の樹の下に行こう!」
 どう考えてもいたずらとしか思えない手紙を鵜呑みにして、
 伝説の樹の下へと急ぐオオミミ。

 あはははは。
 こんな時にギャグを言うなよ、あははは。

「……!」
 樹へと駆けつけると、そこには一つの人影があった。
 あれが、手紙の差出人か。
 一体、誰が…

「私、あなたの事が…」
 突然の告白。
 その相手は―――

「ずっと好きだったぞ、フォルァ!!」
 ってお前か、ニラ茶猫!!!!!

「さあ、誓いのキスを…」
 唇を近づけてくるニラ茶猫。
 やめろ。
 来るな。
 やめろ。
 やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

543ブック:2004/06/07(月) 00:27





(うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!)
 僕は叫びながら目を覚ました。

「!?
 どうしたの、『ゼルダ』!?」
 オオミミが布団から跳ね起き、慌てて尋ねる。
 周りにみえるのは、お馴染みの『フリーバード』の船室。
 …今のは、夢だったのか?

(いや、何でもない。
 嫌な夢を見ちゃってね…)
 苦笑しながらオオミミに答える。
 そうだよ、あんな事が現実にある訳…

「それってもしかしてこんな夢か、フォルァ。」
 突然の声。
 見ると、ベッドの中には全裸のニラ茶猫が横たわっていた。

(うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!)
 僕は、あらん限りの声で絶叫するのだった。



     NIGHTMARE NEVER END…





       __,,,,..-_─_一_-、、,,,,__
    ,r'´-_-_‐‐_‐-_-、`-、 ヾ`ヽ、   
   /,r',.-_‐_‐‐-_-、ヾ ヽ `ヾ 、ヽ
  /(.'´_-_‐_‐___-、ヾ ヽヾ)) )) ), )))ヘ
 l(i,i'´⌒ヾト、ヾ ヾヾ))_,ィ,'」 川 jノjノ}
 !iゝ⌒))}!ヾヽ),'イ」〃'″  フ;;;;;;;;;;;;;l  
 ヾ、ニ,,.ノノ〃ィ"::::::::::::::   /;;;;;;;;;;;;;;!  
/⌒ヽ  / ''''''     '''''' |;;;;;;;;;;;;;;;|  
|  /   | (●),   、(●)\;;;;;;;;|  好き勝手やり過ぎました。
| |   |    ,,ノ(、_, )ヽ、,,     | ごめんなさい。
| |   |    `-=ニ=- '      |  次回からは、ちゃんと本編に戻ります。
| |   !     `ニニ´      .! 
| /    \ _______ /  
| |    ////W\ヽヽヽヽ\
| |   ////WWWヽヽヽヽヽヽヽ
| |  ////WWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E⊂////WWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E////WWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
| |  //WWWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ

544ブック:2004/06/08(火) 00:01
     EVER BLUE
     第二十七話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その一


「首尾はどうなっていますか?」
 山崎渉が、近くの兵士に声をかけた。
「はっ、現在索敵活動を行いつつ、戦力を集めております。
 しかし、まだまだ充分には…」
 兵士が言葉を濁した。

「…まあ、急に一ヶ所に兵を集めろと言っても、無理でしょうね。
 仕方がありません。
 出来るだけ、急ぎなさい。
 連中が馬鹿でなければ、私達の準備が整う前に安全圏に入ろうとするでしょうからね。」
「はっ!」
 その山崎渉の言葉を受け、兵士がいそいそと立ち去ろうとする。

「ああ、君、ちょっと待ちなさい。」
 と、山崎渉が兵士を呼び止めた。
「これからも、僕を応援して下さいね?」
 山崎渉がにっこりと微笑んだ。



     ・     ・     ・



「凄い闘いだったねー。」
 三月ウサギとタカラギコが去って行った後、
 オオミミの奴が呑気な声で言った。

「…あんたの所の船って、あんな怪物ばっかが乗ってる訳?」
 アタシはオオミミにそう尋ねる。
 荒事には疎いアタシでも、さっきのが尋常の域の闘いで無い事位は分かっていた。

「まさか。
 三月ウサギが特別なだけだよ。
 でも、その三月ウサギとあそこまで闘えるなんて、
 タカラギコさんも物凄いよ。」
 オオミミが笑いながら話す。
 こいつ、いっつも笑っているな…


     ドクン


「―――――!!!」
 突如、私の体の内側で大きな鼓動が起こった。
 これは…!?
 いや、知っている。。
 知っている。
 アタシはこれを知っている…!

「…?
 どうしたの、天、『ゼルダ』?」
 オオミミが心配そうに声を掛ける。

「何でもないわ…」
 必死で強がりながら、何とかそう答える。
 違う。
 何でも無いなんて事は無い。

 来る。
 来ている。
 間違い無くこっちに向かっている。
 来る。
 来る。
 『奴』が来る…!

 だけど、言えない。
 言える訳が無い。
 この船の人達に、こいつに、
 アタシの秘密を知られる訳にはいかない。

「?どうしたんだよ。
 二人共、何か変だよ?」
 オオミミが不思議そうな顔をした。

 …二人?
 そういえば、さっきもアタシと『ゼルダ』に大丈夫かと聞いていた。

 まさか、『ゼルダ』もこの事に気がついている?
 …いや、そんな事ある筈無い。

「アタシ、気分が悪いから部屋に戻っとくわ…」
 アタシはそう告げて、その場から離れるのであった。

545ブック:2004/06/08(火) 00:01



     ・     ・     ・



「凄い闘いだったねー。」
 三月ウサギとタカラギコが去って行った後、
 オオミミが呑気な声で言った。

「…あんたの船って、あんな怪物ばっかが乗ってる訳?」
 天が呆れた風にオオミミに尋ねる。
 失敬な。
 僕達の船は猛獣小屋か何かか。

「まさか。
 三月ウサギが特別なだけだよ。
 でも、その三月ウサギとあそこまで闘えるなんて、
 タカラギコさんも物凄いよ。」
 オオミミが笑いながら答える。
 全く君は。
 少しは同じ男として悔しいとか思わないのか…


     ドクン


(―――――!!!)
 突如、僕の内側で大きな鼓動が起こった。
 何だ。
 今のは何だ。
 一体僕に、何が起こった…

(あ     ア  A   あ
           あ A   アあaあ!!!!!)
 僕の意識に何かがなだれ込んでくる。
 いや、違う。
 これは、呼び起こされている…!?

 見た事も無い風景。
 聞いた事も無い声。
 なのに、どこか懐かしい―――

 何だ。
 これは何だ!?
 僕は、僕は一体何者だっていうんだ…!

「…?
 どうしたの、天、『ゼルダ』?」
 オオミミが、心配そうに声を掛ける。

(…大丈夫だよ、オオミミ。)
 本当は大丈夫じゃないが、無理矢理平気そうな声で答えた。
 駄目だ。
 この大変な時に、オオミミに心配をかける訳にはいかない…!

 だけど。
 この感覚は何だ。
 来る。
 来る。
 何かが来る…!
 いや、待て。
 この感じ、以前、どこかで…?

「?どうしたんだよ。
 二人共、何か変だよ?」
 …二人?
 そういえば、さっきも天と僕に大丈夫かと聞いていた。

 天も僕と同じ事を感じた?
 だとしたら、一体どうしてだ!?

「アタシ、気分が悪いから部屋に戻っとくわ…」
 僕がオオミミに天に質問するように言おうとした所で、
 天はそう告げてその場を離れていってしまった。


(オオミミ…)
 僕は、オオミミに囁いた。
「どうしたの、『ゼルダ』?」
 いつもと変わらぬ微笑で聞き返してくるオオミミ。

(僕達、友達だよね。)
 …僕は何を言っているのだ。
 こんな事聞いても、オオミミを困らせるだけじゃないか。
 でも、それでも僕は―――

「うん、そうだよ。」
 はっきりとオオミミがそう答えた。

 …ああ、僕は。
 だから、僕は君が。
 例え僕が何者であっても、君だけは…

(オオミミ…)
 僕は呟くように言った。
「ん?」
 オオミミが耳を傾ける。
(…ありがとう。)
 僕はそれ以上、何も言う事が出来なかった。

546ブック:2004/06/08(火) 00:02



     ・     ・     ・


〜三月ウサギとタカラギコが組み手をした次の日の夜〜

 ブリッジの椅子に座っている高島美和が、『シムシティ』のディスプレイを
 食い入るように見つめていた。
「……!」
 と、何かを見つけて高島美和の顔が強張る。

「船長。」
 高島美和がサカーナの方に顔を向けた。
「…来たか。」
 みなまで聞かずに、サカーナが告げる。
「はい。」
 頷く高島美和。

「で、敵さんの数は?」
 サカーナが彼らしからぬ真面目な表情で尋ねる。
「戦艦級が三隻。
 赤い鮫のロゴマークから、『紅血の悪賊』と見て間違い無いでしょう。」
 冷静な声で高島美和が答えた。

「やれやれ。
 『ヌールポイント公国』の寸前まで来て、奴らの出迎えかよ…」
 サカーナが肩を竦める。

「この船が『ヌールポイント公国』に入り、
 憲兵が騒ぎに気がついて駆けつけて来るまで、
 どれだけ短く見積もっても三時間との計算が出ました。
 率直な感想を述べますと、生存確率は1パーセントもありませんね。」
 高島美和が顔色一つ変えずに告げた。

「それって死ぬも同然って事じゃないですか〜〜!」
 カウガールが悲鳴にも似た声を上げる。
 口には出さないが、他の乗組員も同様の気持ちだろう。

「…0パーセントとは言わねぇんだな。
 その僅かな勝算は何だ?」
 サカーナが高島美和の顔を覗き込んだ。

「詳しい目的は分かりませんが、
 『紅血の悪賊』は私達の船にある何かを喉から手が出る程欲しがっており、
 一撃で私達の船を沈めるような攻撃はしてこない事。
 そしてそれを前提にした上での、
 あなたのスタンド『モータルコンバット』の力です。」
 高島美和がサカーナの顔を見返す。

「嬉しい事言ってくれるねぇ…」
 サカーナが顔を緩ませた。
「勘違いしないで下さい。
 私が頼りにしているのは、あくまであなたのスタンド能力だけです。
 そもそも、誰の所為でこうなったのかをじっくりと考えてみる事ですね。」
 高島美和がつっけんどんに言い放った。
「そっすか…」
 肩を落とすサカーナ。

「高島美和さん、素直じゃないです〜。」
 茶化すようにカウガールが言った。
「お黙りなさい!」
 即座に高島美和がカウガールを叱咤した。
 カウガールがてへへと頭を掻く。

「…まあ仕方がねぇか。
 久々に『モータルコンバット』を使わにゃなるめぇ。
 お前らに、俺の下についてきたのが間違いじゃなかったって事を
 きっちりと証明してやるぜ…!」
 サカーナが、ペキペキと手を指を鳴らしながら呟いた。



     TO BE CONTINUED…

547ブック:2004/06/08(火) 00:03


 番外
 ちびしぃの宿題の作文 〜私の家族について〜


  わたしは、みんなといっしょに大きな家にすんでいます。
 そこのみんなが、わたしのかぞくです。
 わたしは、いえのみんなが大好きです。
 大きなお母さんも、小さなお母さんも、
 かみのけのすくないお父さんも、
 ちびモナくんも、ちびモラくんも、ちびつーちゃんも、ちびふさちゃんも、
 みんなみんな大好きなかぞくです。
  そして、このまえいえに新しいかぞくができました。
 なまえは、トラギコおにいちゃんです。
 トラギコおにいちゃんは、とってもおもしろくて、強くって、
 それよりもっともっとやさしいおにいちゃんです。
 わたしは、トラギコおにいちゃんのことも大好きです。
 トラギコおにいちゃんは、おしごとがいそがしくってあんまり家にはかえってきませんが、
 家にかえってきたらいっぱいおみやげをくれて、いっぱいあそんでくれます。
  でも、おしごとからかえってきたトラギコおにいちゃんは、
 いつもなきそうな目をしています。
 みんなのまえではわらっているのに、とってもかなしそうです。
 トラギコおにいちゃんは、ほんとうは今のおしごとがきらいなんだと思います。
 このまえおにいちゃんにそのことを言ったら、
 『こどもはそんなこと気にしなくていいんだ』とおこられました。
  だけど、トラギコおにいちゃんがかなしいと、わたしもかなしいです。
 だから、わたしが大きくなったらいっぱいおかねをかせいで、
 トラギコおにいちゃんがはたらかなくてもいいようにしたいです。
 それで、みんなといっしょにいつまでもいれたらいいなと思います。

548アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:16
合言葉はWe'll kill them!第九話―初めての吸血鬼戦その②

しばらく、アヒャと吸血鬼どもの間で睨み合いが続く。
お互い、相手の手の内がわからないから迂闊に手出しができない
(どうするべ・・・・ 早く倒す方法を考えて、んで被害を出さないようにしなくっちゃな。
 まず、波紋が使えねーオレとしては、太陽の光でこいつらを一掃したい。
 だけどよォ…今は夜の7時。神様でもない限り太陽を出すなんて不可能だ。
 さて、どうしたモンだ…。)

そして吸血鬼も作戦を練っていた。
(あのガキ・・・・想像以上に手ごわいぞ・・・。あっと言う間に2体もの屍生人を攻撃した。
 だから、まずヤツを倒すための作戦を考えなければナ。
 きっちりとした作戦をたてていけば、どんな戦いも勝利することが出来る。
 どんな手段を使っても、勝てばよかろうなのだッ!
 とりあえず、この状況での最善の方法は・・・・・
 ヤツの注意を屍生人どもでひきつけた後、ヤツの死角からオレが奇襲をかける!
 そして一撃で葬り去る!)

「行けィ!者ども!」
リーダー格の吸血鬼の叫びによって、「睨み合い」という均衡した状態は破れた。

「URRRYYYYYY!!」
コンビネーションもへったくれもない。三体の無傷の屍生人達は本能の赴くままに、血をすすろうと大口を開けて飛び掛ってくる。
「犬の卒倒・・・・ワンパターンだな。ただ突っ込んでくるだけじゃさっきの二体の二の舞だぜ!」
アヒャはスタンドのラッシュを叩き込んでやろうと身構えた。
しかしアヒャは最も重要な事を忘れていた。
そう、奴らが普通の人間じゃないという事を。

ドヒャアアアアッ!

「なっ・・・・何だァ!?」
屍生人の体から無数の血管針が飛び出してきた!
次々に襲い掛かる血管針は、まるで網を張るかのようにアヒャをを追い詰めていく。
しかしアヒャも負けてはいない。
血を集めて壁を作り出す!
そして襲い掛かってきた血管針はその壁に突き刺さってしまった。

「ボディが甘いぜ!」
アヒャは壁から飛び出すと屍生人にラッシュを叩き込んだ!
「ウシャアアアアアーッ!!」
バゴバゴバゴバゴォォォォッ!!
屍生人二体は頭部を大破してあっけなく動かなくなった。

しかし次の瞬間。
ガシィッ!
足首に何かが取り付いた。
(な、何ィ!?何だこの腕は!?・・・・殺されていた女!?)
「AHYAHAHAHAHAHAHAHA! ブァ〜〜〜〜カめがッ!吸血鬼に噛まれた人間は屍生人になる事を知らなかったか!」
しかも最悪のタイミングで頭上から始末し損ねた右腕が崩れた屍生人が飛び掛ってくる!
(しまった!身動きがとれねえ!)

次の瞬間、アヒャは頭を砕かれ、その生涯を閉じた。

アヒャ(死亡)

……マジですか?
当然ウソです。

549アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:17

「!なんだぁコイツは・・・!?」
アヒャは生きていた。
しかし顔面はひしゃげ、グズグズに崩れていた。鼻が陥没し目玉が反転し、顎は千切れかけている。

「ギャハハハッ!騙されてやんのバ〜〜〜〜〜〜〜〜カッ!」
アヒャの体が一瞬でゼリーのように飛び散り、女と右手無しを捕らえた。
そう、壁を作ったときにアヒャはブラッドを自分に化けさせていたのだ。

「MUH!?」
屍生人たちは動かない。いや、全身を包み込まれ動けないのだ。
「……ガ、ガガァ〜……」
今や屍生人は地面に転がった血の色の粘土像だ。完全に全身を包み込まれてしまっている。
と、そこへ一撃!

「注意一秒、ケガ一生ってな!」

ドグシャァ!!

いきなりフリスビーの様にマンホールの蓋が飛んできた。
そして二体の頭にクリーンヒット!
「やりィ〜ビンゴ!」
両手にマンホールの蓋を持っているアヒャがガッツポーズを取った。
・・・・しかし奴がマンホールを軽々と投げれるほどの馬鹿力を持っていたとは。

(これで残りは吸血鬼のオッサンと屍生人一匹か………ン!?オッサンも屍生人も見あたらねぇ!?)
慌てて辺りを見回すが、それらしき姿は無い。
(チクショーッ、何処へ消えたんだ?)
その時背後からヒュッという音がする。
「後ろか!」
とっさに横に転がった。だが・・・・

 ガボォッ!!
突然の衝撃。左足の肉が……噛み千切られている!
 ブシュウウ……!

「うぐえええええええ! うおおおおおなんだああああああ……!?」
アヒャはおびただしい出血の激痛に絶叫した。
「ヘッヘッへ!もう自由に動き回れねーなぁ!」
吸血鬼は愉快そうに笑みを浮かべている。
「チクショオオオオ俺の足があああああ」
足は切り取られずに済んだが、肉と皮でどうにかぶら下がっている状態だった。
そこへ追撃!
死角から屍生人が一匹襲ってきた。
マンホールが脳を完全に破壊していなかったのだ。
アヒャは脇腹をえぐられた。

「うぐッ」
「俺たち吸血鬼ならともかく、お前ら人間は一度千切れた足は元通りにならねーよな!
 不便だねぇ〜。」
「クッ・・・・下半身が千切れた屍生人は何処へ?」
「ああ、アイツなら『仲間』を増やしに行ったぜ。ま、その必要も無いけどな。」
「チィ!絶体絶命だぜ!どうすりゃいいんだよォ・・・」
アヒャは傷口の血液を操作して神経、骨、筋肉を無理やり繋ぎ止める。
しかしすぐに動けるわけではない。
腹部のダメージも結構ひどい。
だけど吸血鬼は待ってくれない。躊躇無く襲ってくる。
何とか壁を作り防御するが、ダメージが大きい分スタンドパワーがいつ切れるか分からない。

550アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:18
(このまんまじゃジリ貧だぜ…この状態であいつの相手ができるのかァ!?
 3択。ひとつだけ選びなさい、ってやつだな。
 答え①、逃げるんだよぉぉぉ〜〜〜
 答え②、仲間が来て助けてくれる。
 答え③、このままアイツのディナーに。現実は非情である…。
 さてと・・・・・
 答え①は・・・・・この足じゃ無理か。
 答え②・・・・さっき蜥蜴の旦那にあったけど、そんなちゃららっちゃら〜って都合よく来るわけないよなぁ〜
 となると答え③・・・・
 こっちの方がスタンド使える分有利に見えるけどスピードはあっちが上だ。おまけに仲間を連れてくるって言っていたな〜。
 俺の人生ここで終劇か!?)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
            __,,,,_
             /´      ̄`ヽ,             /
             / 〃  _,ァ---‐一ヘヽ          ☆ +
          i  /´       リ}
           |   〉.   -‐   '''ー {!
           |   |   ‐ー  くー |
            ヤヽリ ´゚  ,r "_,,>、 ゚'}
          ヽ_」     ト‐=‐ァ' !< 貴方はもう死んでいます。
           ゝ i、   ` `二´' 丿
               r|、` '' ー--‐f´        η
          _/ | \    /|\_      (^^〉
        / ̄/  | /`又´\|  |  ̄\  / ̄/

   アヒャの内的宇宙におわす皇太子様が、死兆星を指差されました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(嫌〜!!こんな悲惨な人生の終わりなんて〜!!)
ってそんなこと考えているうちにッ!
 
シュゴオオッ! ドガドガッ!!
血の壁の一部が「空裂眼刺驚」によって穴を開けられた。
そしてアヒャの太腿を貫く。
・・・・・・アヒャちゃん踏んだり蹴ったり。
「うわあッ!」
あまりの激痛のせいで集中力がとぎれ、血の壁が崩れてしまった。

「おっし、壁が崩れた!行けぇぃ!」
吸血鬼の叫びと同時に屍生人が飛び掛ってくる。
もう絶体絶命!

551アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:19

(ああ・・・・・死ぬ前にいいとも増刊号見たかったな・・・・。)
アヒャは死を覚悟して目をつぶった。
と、そこへ!

グサッ!
「ANGYAAAAH!!」
(・・・・・・ん?)

恐る恐る目を開けると屍生人の頭に一本の石でできた槍が突き刺さっている。
「な、何ぃ!?」
「やれやれ、間一髪と言った所か。」
矢の飛んできた方向には一人の男。
それは・・・・

「死んだはずのッ!」
そう、『矢の男』こと蜥蜴だった。
「旦那!」
「YES I AM!・・・って何を言わせるんだ。」

しかも蜥蜴だけではない。
さっき仲間を増やしにいった屍生人が首だけになって捕らえられていた。
「アア〜ッ!助ケテクレェェェッ!見ノガシテクレヨオォォォォッ!」
「うるせえッ!ギャーギャーやかましいんだよッ!」
蜥蜴が生首に一喝する。

(嘘だろ・・・・助けがきた!けどこれは夢かもしれねぇ・・・・ちょっとホッペを
 ・・・イテッ!・・・・間違いねえ 夢じゃねぇ〜〜〜〜ポヘ――ッ)

「ぎゃあああああああああああ―――!!!」
「わはははははははははははははははははははははははは」

 ドーン  ドーン  ドーン
  "JOJO" "HAPPY"

「やったァ――ッ メルヘンだッ!ファンタジーだッ!奇跡体験アンビリーバボーだ!
 こんな体験できるやつは他にいねーっ!」
アヒャは暫く痛みを忘れてうかれていたが、ふと疑問に思った。

「って言うか旦那、どうしてこの場所が?」
「さっきコイツに襲われたのさ。ま返討にしてやったけどね。
 その時上半身だけだったのが不思議に思っていろいろ問いただしてみたんだ。
 そしたら君がこの場所で戦っていることを教えてくれたのさ。」
その時アヒャは見た。蜥蜴の背後にたたずむスタンドビジョンを。

「シ、シ、シ、死ニタクナイヨオッ!」
生首がが必死の命乞いをする。
「馬鹿め、お前はすでに死んでいるんだ。」
ドゴォッ!
生首は蜥蜴のスタンドに殴られ、そして「消えた」
波紋で溶けたのとは違う。一瞬で消えたのだ。
「な!?旦那、今何をしたんですか?」
「俺の能力のほんの一部だ。気にするな。」

そしてあっけにとられている吸血鬼の方を向いた。
子供のころに吸血鬼に兄弟を殺された恨みからだろうか、蜥蜴のいる空間だけは、空気が張り詰めている。
「貴様のような吸血鬼はは……俺が断罪するッ!」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

552アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:26
久しぶりに書いたら下げ忘れていました。すいません。

553ブック:2004/06/09(水) 00:02
     EVER BLUE
     第二十八話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その二


 『フリーバード』の中に警報機が鳴り響く。
 船員達が、それを聞きつけて慌しく戦闘態勢を取る。

「親方!」
 オオミミが、ブリッジへと駆けつけた。
「おお、来たか。」
 サカーナの親方が待ちかねていたかのようにオオミミの方を向いた。

「…ついに来たか。
 『紅血の悪賊』が…!」
 ニラ茶猫が武者震いをする。
 僕も、深呼吸をしながら気合を入れていく。

「…敵は戦艦級が三隻と言っていたな。
 高島美和、どうするよ?」
 サカーナの親方が高島美和に尋ねた。
 いや、あんた船長なら少しは自分で考えろよ。

「先程も述べましたように、向こうはこちらを即座に討ち堕とす事はしない筈です。
 恐らく、急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)による拿捕。
 もしくは前回のように吸血鬼が直接この船に飛び移るなど、
 内部から制圧する手法を取ってくると思われます。」
 高島美和がお茶を飲みながら告げる。

「へっ!殴り合いなら俺達の得意技だぜ!!」
 ニラ茶猫が拳を打ち合わせた。

「殴って倒す、そんな簡単な問題ではありません。
 まず、戦闘要員の数は向こうが圧倒的に上。
 しかも、その中にはスタンド使いもいるでしょう。
 私達の船にスタンド使いが居るというアドバンテージなど、無いものと思ってください。
 それに、あなたなら兵士を何人相手にしても大丈夫なのかもしれませんが、
 人質を取られたらどうしますか?
 見殺しにして闘うだけの覚悟はおありですか?
 仮にあなた一人が生き残ったとして、船の操縦はどうするつもりですか?
 機関室を破壊されたら、どうするつもりですか?
 もしくは、敵が私達が奪ったものを取り返すのを諦めて、
 『他の勢力に目当ての物が渡る位なら』と、
 一気に攻め立ててくる事も充分に有り得るのですよ?
 そうなっては、こんな船などあっという間に空の藻屑ですね。」
 ニラ茶猫の軽薄な言動を攻め立てるように、高島美和がまくしたてる。

「ご…ごめんなさい……」
 しょぼんとしょげ返るニラ茶猫。

「分かればよろしいのです。
 兎に角、向こうの歩兵をこの船に入れてしまった時点で、
 私達の負けはほぼ確定します。
 加えて、私達が向こうの船を撃沈するのは不可能。
 以上から、いかにして憲兵の到着まで持ち堪えるかが今回の勝利条件と考えます。」
 高島美和が大きく息をついた。

「…俺に異論は無い。
 で、どうするのだ?」
 三月ウサギが高島美和に聞いた。

「…本来ならこんな状況に陥らない事が一番の作戦なのですけど、
 こうなってしまっては四の五の言っていられません。
 三月ウサギ、船長、
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)はあなた達に何とかして貰うとして、
 残るは上から飛び降りてくる吸血鬼ですが…」
 高島美和が視線を落として考え込む。

554ブック:2004/06/09(水) 00:03

「でしたら、それについては私に任せて貰えませんか?」
 そこに、タカラギコが立候補してきた。

「あなたが?」
 聞き返す高島美和。

「ええ。
 射撃には少し嗜みがありまして。
 なに、心配はいりません。
 残らず射ち堕としてごらんにいれますよ。」
 パニッシャーを担ぎながら、タカラギコが微笑んだ。

「…では、お願いしましょうか。
 信用がおけるかどうかは別として、あなたの腕前は確かなようですし。」
 躊躇いながらも、高島美和がタカラギコにお願いする。
 まあ、三月ウサギとあそこまで張り合える男だ。
 かなり心強い戦力という事は間違い無い。

「それではオオミミ、ニラ茶猫、
 あなた達は船内の警備をお願いします。
 万一船に敵が侵入してきた場合、あなた達が頼りですよ。」
 高島美和がオオミミとニラ茶猫の顔を見据えた。
 オオミミとニラ茶猫が、小さく頷く。

「カウガールはいつも通り船の操縦、
 私は、『シムシティ』を展開させながら皆さんのサポートを行います。」
 高島美和の周りに、四匹の目玉蝙蝠が出現した。

「敵機、接近中!
 間も無く戦闘射程圏に入ります!!」
 カウガールが舵を握りながら叫んだ。

「…よっしゃ、それじゃあそろそろ往くか!
 野郎共!!
 …死ぬんじゃねぇぞ!」
 そのサカーナの親方の言葉が終わると同時に、
 皆はそれぞれの持ち場へと散ってゆくのだった。

555ブック:2004/06/09(水) 00:03



     ・     ・     ・



「……」
 包帯とベルトでグルグルに巻かれた、とてつもなく巨大な何かを担いだ女、
 『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』が、小さな商船の甲板の上に佇んでいた。
 今は夜の為全身をコートで包む必要もなく、
 その美しい要望を余す事無く周囲に晒している。

「キイ、キイイ。」
 と、そこに小さな蝙蝠が女の下へと舞い戻って来た。
 蝙蝠はジャンヌの肩にとまると、キイキイとか細い声でジャンヌに何かを伝える。

「…そうか。
 よし、ご苦労じゃったな。」
 ジャンヌは蝙蝠の頭を指で撫でると、褒美にお菓子の欠片を与えてやる。
 蝙蝠が、嬉しそうにお菓子を頬張り始めた。

「あんたのペットかい?
 随分と変わったもの飼ってるんだな。」
 船の主らしき男が、後ろからジャンヌに声を掛けた。

「…親仁、頼みがある。」
 男の質問には答えず、ジャンヌが男の目を見て尋ねる。

「…?
 何だい?」
 きょとんとした顔で聞き返す男。

「この船を、ここから北東辺りの『ヌールポイント公国』の国境沿いにまで
 動かしてくれんか?」
 そのジャンヌの言葉を聞いて、男は見る見るうちに顔色を変えた。
「じょ、冗談じゃねぇや!
 あそこら辺には今、『紅血の悪賊』がたむろしてるんだぜ!!
 そんな所、自殺志願者でもなきゃ行かねぇよ!!」
 男が怒鳴るようにジャンヌに答えた。

「約束の金の倍…いや、三倍の額を支払うが、駄目か?」
 平然と口を開くジャンヌ。
「駄目なもんは駄目だ!
 幾ら金を積まれようが、命には代えられねぇよ。」
 男がつっけんどんに返す。

「…仕方が無い。
 まあ、ここまで近づければ大丈夫か…」
 と、ジャンヌがぶつぶつと独り言を言い出した。

「ああ?
 何だって?」
 怪訝そうに男がジャンヌに尋ねる。

「いや、こちらの話じゃ。
 親仁、無理言って送って貰ってすまなんだ。
 ここまでで結構じゃ。」
 ジャンヌが金を男に渡しながらそう言った。

「ここまで、って…
 あんた、こんな周りに島も無い所で一体どうする―――」
 そこで言うのを止めて、男は大きく目を見開いた。
 何と、ジャンヌは平然と甲板の柵の上に昇ったのだ。
 下は落ちたら助からない雲の海だというのに、である。

「お、おい!あんた!!
 危ないぞ!!!」
 男は必死に呼びかけるも、ジャンヌはそ知らぬ顔で柵の上に立ち続ける。
 彼女自慢の金髪が、夜風を受けて煌びやかにたなびいた。

「ラ・ウスラ・デラ・ギポン・デ・リルカ…」
 ジャンヌが呟くように呪文を唱えると、彼女の影から大量の蝙蝠が飛び出した。
 そしてそれらは次々と一つ所に集まり、
 黒い閃光と共に大きな一匹の蝙蝠へと姿を変える。
 『使い魔』(サーヴァント)。
 上級の吸血鬼だけが使える、吸血鬼の特殊能力の一つだ。

「な…あ……あ……」
 男が、その超常の光景を目の当たりにして放心状態に陥る。

「では親仁、世話になった。」
 ジャンヌはそんな男に一瞥をくれると、
 大きな蝙蝠の背に乗ってすぐさまその船から飛び去っていった。



     TO BE CONTINUED…

556ブック:2004/06/10(木) 00:42
     EVER BLUE
     第二十九話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その三


 山崎渉は、三隻の戦艦のうちの真ん中の船のブリッジから、
 正面に『フリーバード』を見据えていた。
「山崎渉様、
 敵艦を急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)の射程内に捉えました。」
 オペレーターが事務的な声で山崎渉に告げる。

「分かりました。
 急襲用迫撃射出錨発射準備。
 そして敵艦に錨を撃ち込んだ後に、
 両脇の艦を、敵艦を挟み込む形で配置するよう命令を伝達しておきなさい。」
 山崎渉がそうオペレーターに伝えた。

「了解。
 …急襲用迫撃射出錨、照準セット完了。
 いつでも、撃てます。」
 オペレーターが山崎渉に顔を向けた。

「結構です。
 それでは、急襲用迫撃射出錨、発射!」
 山崎渉が『フリーバード』を指差しながら叫んだ。
「了解。
 急襲用迫撃射出錨、発射。」
 そのオペレーターの声と共に、山崎渉の乗る戦艦から特大の錨が撃ち出された。
 膨大な質量を持つ金属の塊が、猛スピードで『フリーバード』へと飛来する。
 そしてそれはあっという間に『フリーバード』の甲板へと―――


「『モータルコンバット』!!」
 その時、襲い来る錨の前に一人の男が立ちはだかった。
 顔に大きな傷を持ち、右目を眼帯で隠した男。
 『フリーバード』の船長、サカーナである。
 その横には、青いプロテクターに身を包んだ男のビジョンが浮かんでいた。

 常識的に考えて、高速で直進する巨大な錨の前には
 唯の人間の力など及びはしない。
 その体ごと、甲板を撃ち抜かれるのが落ちである。
 しかし、それは『唯の人間』であった場合の話だ。

「!!!!!!!!!!!!」
 錨が今まさにサカーナに直撃しようとしたその瞬間、
 突如錨の進行方向が右方向に折れ曲がった。
 『モータルコンバット』は錨には触れさえしていなかったのに、である。

「!?」
 驚愕に目を見開く山崎渉。
 軌道を変えられた錨はそのまま直進し、
 『フリーバード』の代わりに山崎渉の乗る戦艦の左脇の船へと突き刺さった。

「……!
馬鹿な!
 一体、何が起こったのですか!?」
 山崎渉が信じられないといった顔をする。

「分かりません。
 ですが、恐らくは敵のスタンド能力と何か関係があるものと…」
 オペレーターが混乱した様子で口を開く。

「…そう簡単にはやらせないという訳ですか。
 ガードの固い恋人ですね。」
 顎に手を当て、山崎渉が苦虫を噛むような表情を浮かべる。
「急襲用迫撃射出錨を被弾した艦より通信!
 戦闘には支障は無いとの事です!」
 オペレーターが無線機を耳に当てながらそう伝えた。

「当たり前です。
 あれ位で撃沈されては、大枚叩いて立派な船を拵える意味がありませんよ。
 …仕方ないですね。
 両艦に伝達。
 両サイドから、それぞれあの船に向かって急襲用迫撃射出錨を発射するように
 連絡を入れて下さい。」
 山崎渉が落ち着いた声で命令する。

「了解しました。」
 それを受け、オペレーターが急いで残り二つの艦に連絡を入れる。
 程無くして、山崎渉の船へと通信が帰って来た。

「山崎渉様、発射の準備が整ったようです。」
 オペレーターが山崎渉に向いて言った。

「分かりました。
 きっかり二十秒後に、同時に発射するよう折り返しの連絡を入れなさい。
 しかし、面倒な事この上ない。
 撃墜するだけなら、どうとでもなるというのに…」
 山崎渉が忌々し気に舌打ちをした。

557ブック:2004/06/10(木) 00:43





「いや〜、見事命中ってなもんだぜ!
 流石俺、流石『モータルコンバット』!!」
 折れ曲がった錨が右の敵艦に直撃するのを見ながら、
 サカーナが自慢気な顔を見せた。

「調子に乗るのは後にして下さい。
 すぐにでも追撃が来るかもしれないのですから。
 それと、私の『シムシティ』が着弾地点、侵入角度諸々を計算して、
 どれくらい『傾ければ』いいのかをあなたにお伝えしたからこそ、
 今の結果が出せた事をお忘れなく。」
 無線越しに、高島美和の冷たい声がサカーナの耳へと届く。

「はあ、さいでがすか…」
 肩を落としてうなだれるサカーナ。

「…と、敵艦のうち三隻が、右と左に分かれました。
 どうやら、挟撃を仕掛けてくるみたいですね。」
 高島美和のその言葉に、サカーナが顔を曇らせる。
「ちっ、やっぱそう来たか。
 三月ウサギ!
 俺は右に回る!
 お前は左の方を任せたぞ!!」
 サカーナが向かい側にいる三月ウサギに向かって大声で告げた。

「…分かった。」
 三月ウサギが頷く。

「船長はそこから右にもう10メートル、
 三月ウサギは左に15メートル程移動して下さい。」
 高島美和が、『シムシティ』から送られてくる数値や記号の情報を元に、
 錨が着弾する位置をはじき出して二人に伝える。

「りょーかい。」
「……」
 サカーナと三月ウサギが、高島美和に言われた通りに場所を移す。

「……!
 敵船、急襲用迫撃射出錨発射!!
 来ます!!!」
 そう高島美和が叫ぶのが速いか否か、
 サカーナと三月ウサギが即座にスタンドを発動させた。

「『ストライダー』…!」
 三月ウサギが、錨を正面に見据えてマントを翻した。
「!!!」
 錨が、マントの中へと吸い込まれるように侵入していく。

「『モータルコンバット』!!」
 甲板の反対側で、同様にサカーナが叫んだ。
 同時に、青いプロテクターを着た男のビジョンのスタンドが右腕を突き出す。

 その時、信じられない事が起こった。
 『モータルコンバット』が腕を突き出した付近に一匹の虫が飛んでいたのだが、
 それが突然左90度に向きを変えたのだ。
 しかも、それは飛びながら向きを変えたというのではない。
 何の予備動作も無く、何の予兆も無く、
 いきなり『向きだけ』が変わったのだ。

「来たな…!」
 サカーナが獰猛な笑みを見せた。
 急襲用迫撃射出錨が勢いよく突っ込んでくる。
 だが、ある程度サカーナの『モータルコンバット』に近づいた所で、
 『虫の向きが変わった方向と全く同じ方向』に軌道が折れ曲がった。

「!!!!!!!!」
 そして向きを変えられた錨は、山崎渉の乗っている船へと撃ち込まれる。
 ブリッジの中では、山崎渉がその衝撃でバランスを崩した。

「へっ、どんなもんでぇ!
 来るなら来やが…」
 そう言いかけ、サカーナがハッと上の方を見上げた。

「しまっ…!
 いつの間に!!」
 『フリーバード』の上空を、小型プロペラ機が数機飛び回る。
 そして、そこから次々と人影が『フリーバード』甲板目掛けて飛来してきた。
 サカーナはそれを見ただけで、何が起こるのかを一瞬で理解する。
 忘れられる筈も無い。
 これは、つい先日『紅血の悪賊』の吸血鬼が取った戦法なのだから。

「まずい!
 あいつらを船に―――」

558ブック:2004/06/10(木) 00:43


 ―――!!!!!!!

 サカーナの言葉を、無数の銃声が掻き消した。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
「OAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!!!!」
 12・7mm機関砲の掃射を浴びて、吸血鬼達が悲鳴を上げる。
 銃弾を体中に撃ち込まれた吸血鬼達は、
 そのまま『フリーバード』の甲板に着地する事無く奈落の底へと落ちていった。

「…吸血鬼は並外れた身体能力を持ち、銃弾すら回避するそうですが、
 羽でも生えていない限り、空中での軌道修正は不可能。
 自由落下という檻に囚われている下降中ならば、
 この距離から撃ち堕とすのはそう難しくありません。」
 パニッシャーを構えながら、タカラギコが誰に言うでもなく呟いた。

「さて、お次は…」
 タカラギコがパニッシャーを逆向きにして肩に担いだ。
 音を立て、パニッシャーの上の胴体部分が開く。
 その中から、ロケットランチャーの砲門が姿を見せた。

「いきますよ…!」
 銃口を飛来してくるプロペラ機の一つへと合わせ、髑髏型の引き金を引く。
 風を切る発射音と共に、ロケット弾が生き物のようにプロペラ機に襲い掛かった。

「!!!!!!!」
 着弾。
 ロケット弾が爆発し、プロペラ機がこっぱ微塵になって墜落していく。
「AAAAAAAAAHHHHHHHHH!!!!!」
 体を炎上させ、断末魔の悲鳴を上げながら、
 操縦していた吸血鬼がプロペラ機と共に遥か下の大地へと落ちていった。

「…まさに天国から地獄、ですか。
 ぞっとしませんねぇ。」
 苦笑しながら、タカラギコがパニッシャーを構え直す。

「さて、私の目の黒いうちには、易々とこの船には足を踏み込ませませんよ…!」
 さらに飛来してくるプロペラ機を見つめながら、タカラギコが呟いた。



     TO BE CONTINUED…

559:2004/06/10(木) 17:40

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その6」



 ギコと『レイラ』は、日本刀を正眼に構えた。
 それに対し、山田は青龍刀の切っ先を下方に向けて構え、僅かに腰を落としている。
 いわゆる、下段の構えに近い。
 周囲は真夜の闇。
 だが艦に灯る明かりのおかげで、視界に問題はない。

「――行くぜ!」
 『レイラ』、そしてギコが駆けた。

 『レイラ』は大きく踏み込むと、刀を大きく薙いだ。
 山田は、俺の時のように柄で受け止める。
 あの防御の次に来るのは、攻防一体の斬撃――

「うおおッ!!」
 ギコは、その攻撃を『レイラ』の刀で受け止めた。
 大きく打ち負け、体勢が崩れる『レイラ』。
 さらに踏み込む山田の胴に向かって、ギコは鋭い突きを放った。
 『レイラ』の刀ではなく、ギコ本体が手にしている刀による突きだ。
「…!」
 山田はそれを青龍刀の刃で受けると、大きく背後に飛び退いた。

 そして、再び青龍刀を構える。
「スタンドと本体の連携攻撃… 初めて戦うタイプだな…!」
 山田は、微かな笑みを浮かべて言った。
 戦士の笑み。
 好敵手を見つけたという笑みだ。

「それにしても…」
 山田は、半身だけで甲板に転がっている俺に目線をやった。
 再生には、まだ時間がかかりそうだ。
「ここは侍の国だとは聞いたが… この国の少年は皆、そこまでの武芸を身につけているのか…?」

「俺が特別製なだけだ。そこのそいつもな」
 俺を指して、ギコは言った。
 そして、山田を真っ直ぐに見据える。
「――それと、今の打ち合いで3つ気付いた事がある」

「ほう?」
 山田は興味深げな表情を浮かべた。
 ギコは刀をくるりと回転させると、その切っ先を山田に向ける。
「まず1つ。お前の武器は、1対1の戦いに適していない。
 お前の戦いはそうだな… 大勢に1人で斬り込んで、一気に撫で斬りにする戦い方だ。
 圧倒的な『攻』のラッシュで敵勢を黙らせる。
 そもそも、その武器… 地上で扱うようなモンじゃないだろう?」

「…いかにも。この『青龍鉤鎌刀』、馬上で大勢を斬る為の武器だ」
 山田は、『青龍鉤鎌刀』を下段に構えたまま言った。
 軽く語っているようで、少しも気を抜いてはいない。
 もっとも、それはギコも同様だが。
「2つ目。お前のスタンドは、その『青龍鉤鎌刀』とやらだ。『レイラ』の刀を受け止めたからな。
 これはただの勘だが、物質と合成しているタイプじゃないか?」

「…その通り。この『青龍鉤鎌刀』、我がスタンドと空気中の炭素で構成されている」
 山田はあっさりと答えた。
 彼の技を破る上で、そんな事は重要ではない。
 それでも… 彼のスタンドにヴィジョンは存在しないという事だ。

 ギコは続けた。
「3つ目。お前は勝負を焦っている。
 普通に振る舞ってるようだが、斬撃に顕れる感情までは隠せねぇ。
 これも勘だが、スタンドに時間制限があるからだ。 …違うか?」

「…フッ」
 山田は軽く笑みを浮かべた。
「…それは違うな。『青龍鉤鎌刀』を構成している私のスタンド『極光』に、制限時間などはない。
 いったん『青龍鉤鎌刀』を精製してしまえば、破壊されない限り消失しない」

「ありゃ、外したか…」
 ギコは残念そうに呟いた。
 山田は、そんなギコを見据える。
「…だが、私が焦っているという指摘は間違ってはいない。
 その理由は… 今から5分後、この艦は私の仲間によって大規模な爆撃に見舞われるからだ」

「何だとッ!!」
 ギコは叫び声を上げた。
 山田は、下段に傾けている『青龍鉤鎌刀』を僅かに引いた。
 その構えからの殺気が増す。
「単独での艦制圧は私が申し出た。爆撃開始までに敵将全てを討ち取ってしまえば、この艦は制圧できる。
 みすみす沈める事もない…」

「んな事はさせねーよ…」
 ギコは、再び正眼に刀を構えた。
 そして、殺気を込めて山田を睨む。
「お前を追い返し、爆撃部隊とやらも叩き落とす」

 ギコの殺気を軽く受け流すように、山田は口を開いた。
「2つ教えよう。この『青龍鉤鎌刀』、スタンドをも斬れる以外は普通の武器だ。妙な警戒は不要。それと――」
 人差し指で、自らの額をトントンと叩く山田。
「――狙うならここにしろ。私は吸血鬼だ。頭部を破壊しない限り死ぬ事はない」

560:2004/06/10(木) 17:41

「余裕だな…」
 ギコは呟く。
「武士道と言ってもらえないか、サムライよ!」
 そう言って、山田は神速でギコの眼前に踏み込んだ。
 上段への大薙ぎ。
 『レイラ』が、その初撃を弾いた。
 山田は、その勢いのまま舞うように回転する。
 それに続く中段への薙ぎ。

「このッ!!」
 『レイラ』の刀で、『青龍鉤鎌刀』を受け止める。
 それでも、山田の勢いは殺しきれない。
 逆に、『レイラ』の刀が大きく弾かれた。
 そして、下段への薙ぎが繰り出される。

 ――流れるような三段薙ぎ。
 全て喰らえば、たちまち輪切りだ。

「うぉぉぉぉッ!!」
 ギコは手にしている日本刀で、下段を薙ぎ払う『青龍鉤鎌刀』を大きく払った。
 その隙に、体勢を立て直した『レイラ』が突きを放つ。
「…!」
 山田はその攻撃を『青龍鉤鎌刀』で受け止めた。

 そのまま、山田の『青龍鉤鎌刀』と『レイラ』の刀が何度もぶつかり合う。
 その激突に、本体であるギコの斬撃も混じる。
 『レイラ』で隙を作り、ギコ自身がそれを突くという戦法だ。

 刃と刃の応酬。
 激突した刃が、空中で火花を散らす。
 山田は『レイラ』とギコの刀を受け、それでもなお有利。
 『レイラ』の刀と『青龍鉤鎌刀』を激しくぶつかり合わせると、両者は素早く距離を置いた。

 山田は再び、『青龍鉤鎌刀』を下段に構える。
「その齢にして、本体、スタンド共にその腕前。一体、どれほどの鍛錬を積んだのだ…?」

 …そうなのだ。ギコがスタンドを身につけて、3ヶ月。
 長いと思うか短いと思うかは人それぞれだろう。
 そして、何度も激戦を繰り広げてきた。
 『レイラ』の腕が上がるのは分かる。
 だが、ギコ自身の剣の腕前も上がってはいないか…?
 とても、剣道で鍛えた程度のレベルじゃない。

「毎日、血を吐くまで最強の剣士とガチンコで打ち合ってたのさ――」
 ギコは、そう言って自らの背後に立つ『レイラ』を指差した。
「――こいつとな」

「…鍛錬がすなわち実戦だったという事か。剣士型のスタンドともなれば、相手にとって充分。
 なるほど、合点がいった」
 納得したように告げる山田。
 ギコは刀を山田に向けた。
「お前こそどうなんだ? 『人を1人斬れば、初段の腕』と俗に言うけどな。
 その武芸を身につけるまでに、お前は一体何人斬った…?」

 少しの沈黙の後、山田は口を開いた。
「正確に数えているわけではないが… 濮陽で400。烏巣で200。倉亭で400。陰安で200。
 常山で300。遼東で200。江夏で500。柳城で300。赤壁で100。そして、合肥で1200。
 …合わせて、3800人程度だ」

「…歴戦の勇将って訳か」
 ギコは呟くと、背後に『レイラ』を従えた。
「仕方ねぇ。これは切り札にしときたかったんだが…」

 日本刀を両手で構えている『レイラ』のヴィジョンが大きく揺らぐ。
 柄に添えていた左手を離すと、腰元に差していたもう1本の刀を抜いた。

「ニュー・モードってやつだ…!」
 ギコは言った。
 『レイラ』は、両腕を交差して2本の刀を構える。
 『鷹羽』と呼ばれる、心形刀流における二刀の構えだ。

「…二刀流か」
 山田は、『レイラ』の構えを見据えて言った。
「一応言っとくが、付け焼刃って訳じゃねぇ。侮ると死ぬぜ…」
 そう言いながら、ギコは構えた。
 正眼の構えではなく、それより僅かに右側に刀が開いている。

 ――『平晴眼』。
 天然理心流における、斬りと突きに即座に対応できる型だ。
 『レイラ』の『鷹羽』とギコの『平晴眼』。
 流派も用途も違う2つの構えを前にして、山田の動きが止まった。
 それぞれの型の欠点は明白。しかし、その複合は破り難い。

「来ねぇのか? 時間の余裕はないはずだがな…」
 ギコは言った。
 しかし、山田は微動だにしない。
 『青龍鉤鎌刀』を下段に構え、真っ直ぐにギコを見据えている。

「仕方ねぇ、こっちから行くぜ!!」
 なんと、ギコは腰側に回していたアサルトライフルの銃口を山田に向けた。
 そして、そのまま乱射する。

 山田は、完全に意表を突かれた。
 ここまで剣技の体勢に入った男が、まさか銃器を使うとは思わない。
「くッ…!」
 山田は『青龍鉤鎌刀』で、自らに向けられた弾丸を叩き落した。
 その振りに、大きな隙が生まれる。

 その瞬間、ギコと『レイラ』は大きく踏み込んだ。
「――心形刀流、『二心刀』」
 『レイラ』の2本の刀が、山田を捉えた。
 そのまま、山田の身体に2本の刀が振り下ろされる――

561:2004/06/10(木) 17:42

「はァァァッ!!」
 その瞬間、山田は大きく腰を落とした。
 そこから、『青龍鉤鎌刀』を大きく振り上げる。
 山田の周囲に、嵐のような上昇気流が発生した。

「うおッ!!」
 その風圧で、『レイラ』の攻撃が弾かれる。
 しかし、ギコ本体は『レイラ』の背後に退いていた。
 もう1歩踏み込んでいれば、嵐の直撃を受けていただろう。
 そして彼の刀は、戦闘の最中にもかかわらず鞘に納まっている。
 これは… 抜刀術!?

「――天然理心流、『無明剣』」
 ギコは山田の攻撃を右半身で受け流し、同時に抜刀した。
 神速の斬り上げ。
 山田は『青龍鉤鎌刀』を振り上げた体勢だ。
 胴部の大きな隙に、ギコの刀が迫る。

「…甘い!」
 山田は、ギコの腹に蹴りを見舞った。
 ギコの身体が大きくグラつく。
 その瞬間、山田は体勢を整えると『青龍鉤鎌刀』を構えなおした。
 そして、ギコの頭上に振り下ろす。

「くッ…!」
 ギコはそれを受け止めるように、頭上に刀を構えた。
 『青龍鉤鎌刀』での一撃を受け止める気だ。

 ――駄目だ。
 ギコの腕力で、あの一撃は止められない。
 完全に押し負け、そのまま両断される…!

「無駄だッ!!」
 山田の『青龍鉤鎌刀』が、ギコの刀と彼の頭上でぶつかり合った。
 勢い・腕力共に、向こうの方が上。
 ギコの刀は、振り下ろされる『青龍鉤鎌刀』を僅かに押し止めたに過ぎない。
 その一撃は、このままギコの頭部に――

「これでよかったんだよ。ほんの少し、勢いを緩めるだけでな…!」
 勝利の確信が込もった口調で、ギコは言った。
 その背後で、二刀を掲げた『レイラ』が躍る。
 そして、ギコが押し留めている『青龍鉤鎌刀』に向けて、二刀を交差させて振り下ろした。

「…最初から武器破壊が狙いかッ!!」
 山田は『青龍鉤鎌刀』を退こうとするが、間に合わない。
 その柄に、『レイラ』の斬り下ろしが直撃した。
 音を立てて真っ二つになる『青龍鉤鎌刀』。

「…」
 山田は、驚きの表情を浮かべて押し黙った。
 沈黙の中、その切っ先は甲板に転がる。

「信じられん…」
 山田は、刃を失いただの棒と化した『青龍鉤鎌刀』を呆然と見詰めた。

 ギコは勝ち誇って口を開く。
「…勝負あったな。お前は、武器と共に強くなったタイプだ。その『青龍鉤鎌刀』がないと、武芸を発揮できない」
 そして、手にした日本刀を山田に向けた。
「降伏するんだな。お前ほどの武人、好んで殺戮に身を任せてる訳じゃねぇだろう?」

 山田は目線を上げると、ギコを見据える。
「…ふむ。お主の言う通り。我が武、手慣れた刃がなければ振るえん」
「ああ。お前の『青龍鉤鎌刀』は完全にブチ壊した。これで――」
 ギコの言葉は、山田に遮られた。
「だが、私を屈服させたいなら… 同じ事をあと43回繰り返さねばならんな!」
 一転して、山田は笑みを浮かべる。

「…なんだって!?」
 ギコは眉を潜める。
 山田は、柄だけになった『青龍鉤鎌刀』を甲板に落とした。
 そして、何も持っていない右手を前方に構える。
「『極光』、第弐拾七番『蛇矛』…!!」

 一瞬の眩い光。
 それが収まると、山田の右手には1本の槍のようなものがあった。
 先端の刃は幅広で、蛇のようにくねった形である。

「…何をした?」
 ギコは、その様子を見据えて呟いた。
 慣れた手付きで、その槍を構える山田。
「――四十四の刃の1つ、『蛇矛』。
 これが我が『極光』の能力だ。『青龍鉤鎌刀』も我が刃の1つに過ぎぬ」

「…なるほど。43回繰り返すってのは、そういう事か」
 ギコと『レイラ』は、再び刀を構えた。
 その額に、一筋の汗が流れる

 あと43回…?
 『青龍鉤鎌刀』を破壊した時でさえ、ギコは捨て身に近かった。
 少しでもタイミングが狂えば、ギコの体は真っ二つだ。
 あれを43回だなんて、到底無理な話ではないか。

「人真似は好かぬが… 我が二刀、お見せしよう」
 山田は、さらに左手を大きく広げる。

「――『極光』、壱番『麒麟牙』!」

 一瞬の光の後、その手に1.5mはある大型の剣が収まっていた。
 片刃で弧を描いている刃は分厚く、かなり幅広である。
 本来は両手で扱う武器であろう。

 山田は、『蛇矛』と『麒麟牙』を交差するように構えた。

「――さて、参るぞ」

562:2004/06/10(木) 17:43


 俺の体は、ほとんど再生し終えた。
 右半身と左半身が、自分でも不気味なくらい元通りに結合している。
 それでも、この勝負には手が出せない。

 両者が同時に間合いを詰めようとしたその瞬間、空を切るような爆音が響いた。

「!!」
 山田を含む3人は、同時に音の方向を見上げた。
 水平線の彼方から、多くの黒い点が近付いてくる。
 間違いなく、航空機の群れだ。

「馬鹿なッ!! 予定の時刻より早いではないかッ!!」
 航空編隊を見据えて、山田は叫んだ。
 その憤りは、ギコに向けられた殺意よりも強いように感じる。

「この船はもはや死に体、さらに鞭打つと言うか…」
 山田は呟くと、ギコの方に視線を移した。
 いつの間にか、両手の刃は消えている。もう戦意はないようだ。
「――名乗られよ、少年」

「俺はギコ、こいつは『レイラ』だ」
 ギコは、自らを親指で示した。

「次に戦場で会う時まで、その命大切にせよ…とは言わん」
 山田は、乗ってきた馬に飛び乗った。
「我が『青龍鉤鎌刀』を破るほどの者に、そのような言など無用だろうからな…」

「望むところだ。テメェは、絶対に俺が倒す!」
 ギコは、馬上の山田に叫んだ。
「次に来る時は、馬に乗って来やがれ。相応に相手してやるぜ!」

 …ギコも馬に乗れたのか?
 いろいろ特技が多い奴だが、乗馬が趣味だという話は聞いた事がない。

「…次に仕合う時を楽しみにしている」
 山田は手綱を引く。
 彼の乗った馬は、甲板に乗り上げている戦艦の艦首に飛び移った。
 その禍々しい戦艦は、山田が乗り移ると同時に離れていく。
 後には、無惨に押し潰されたヘリ用甲板が残った。

「戦艦は攻撃してこない…? 弾薬を温存してるのか…?」
 ギコは呟く。
 確かに、この艦はボロボロだ。
 反撃能力など、ほとんど残されていない。
 弾薬の無駄だろうが… 爆撃にしても同じように思える。

 ギコは、俺の方に視線をやった。
「さて、再生も終わったみたいだな… ってか、治ったんなら加勢しろよゴルァ!!
 解説役に徹してんじゃねぇ!!」
 大声で叫ぶギコ。

「…加勢したらしたで、どうせ男同士の戦いに横槍入れるなとか言うモナ?」
 俺は抗議する。
「当然だゴルァ! 一対一の決闘を汚すつもりかゴルァ!」
 ギコは当たり前のように言った。
 理不尽な事を抜かす友人は無視して、俺は頭上を見上げる。
 さっきは点ほどにしか見えなかった航空機が、形状が認識できる距離まで近付いている。

563:2004/06/10(木) 17:44

 迫り来る爆撃機を控え、ギコは口を開いた。
「Ju87急降下爆撃機…!? 『悪魔のサイレン』か…!!」

 俺は、ギコに疑問を込めた視線を送る。
 それを受けて、ギコは言った。
「大戦中の機体は詳しくないんだが… 確か、ナチスドイツを代表する急降下爆撃機だ。
 急降下の時に放つダイブブレーキ展張時の音から、『悪魔のサイレン』と呼ばれて恐れられてたらしい」

「ナチス…? なんでそんなのが…」
 俺は思わず呟いた。
 ギコが肩をすくめる。
「俺が知るわけねぇだろ。そもそも急降下爆撃自体、もう歴史から消え去った戦術なんだ。
 高々度爆撃の方が効果的だし、何より現代には精密誘導兵器があるからな。
 今さらそんな戦術にこだわる奴は、頭のネジがぶっ飛んだ奴くらいだ」

 ともかく、俺達に高度2000mを飛行する爆撃機を落とす能力はない。
 この艦の対空ミサイルも、もう残ってはいないだろう。
 どうする…!?
「クソッ!! 何にも出来ないのかよッ!!」
 高速で急降下してくるJu87を見据え、ギコが叫んだ。

 爆音が響く。
 Ju87が艦尾へ向けて急降下して、そのまま突っ込んだのだ。

「…!?」
 俺とギコは、その様子を呆然と見つめていた。
 爆撃ではなく、体当たり…?

 しかし、俺の『アウト・オブ・エデン』は見逃さなかった。
 艦尾との激突の瞬間、人影がコックピットから飛び出したのを。
 航空機の機体は、艦尾に刺さり炎上している。
 主翼を真横に広げたその姿は、まるで十字架のようだ。

 炎を背に、人影はゆっくりと歩いてくる。
 そいつは、軍服を着用していた。
 そして、俺達に向けて機関銃を構える。

「Bluhe… deutsches Vaterland!! Uryyyyyyyyyyy!!」
 軍服の男は狂声を上げながら機関銃を乱射した。
「『レイラ』ッ!!」
 ギコのスタンドが、素早く弾丸を弾く。
 あいつは… 吸血鬼!?

 さらに、艦首にJu87が突っ込んできた。
 その衝撃で、『ヴァンガード』が大きく揺れる。
 爆発炎上する機体の残骸。
 次々に飛来するJu87。
 そして、コックピットから飛び降りる吸血鬼達。
 そいつらは全員が軍服に身を包み、銃器を手にしていた。

「カミカゼ・アタック… とは言えねぇな。パイロットは平気そうだし。
 いいだろう、ちょうど昂ぶってたとこだ…」
 ギコは背後に『レイラ』を従えると、自らも刀を構えた。
「…全員ぶった斬ってやるぜ!!」

 俺は、漆黒の軍服に身を包んだ吸血鬼達を見据えた。
 ヘルメット、バックパック、そして各部に収納された数々の武装…
 いわゆる、空挺装備というやつだ。
 だが、空挺に不可欠なパラシュートはない。
 こいつらは、慣性落下で着地しているのだ。

『…吸血鬼で構成された軍隊というのを考えています』
 奴の… 『蒐集者』の言葉が俺の脳裏に飛来した。
 何十年か何百年か前、奴はそう告げたのだ。

「これが、そうだと言うのか…?」
 俺は呟いた。
 『殺人鬼』は、以前言っていたではないか。
 『教会』の最高権力者は元ナチスのSS、そしてこの世で最も悪魔に近い男だと。

 『蒐集者』が思い起ち、枢機卿が完成させた忌むべき軍隊。
 それが、こいつらか――!!
 こいつらが『教会』の手先なら、滅ぼすべき敵だ。
 俺と、そしてリナーの為に。

 墓標のように甲板に突き刺さり、燃え続ける航空機。
 その灯りは、夜の闇の中で不死の兵隊達のシルエットを浮かべた。
 人を辞めたモノ。血塗られた吸血鬼。死を越えた肉体。そして、唯の塵。
 塵ならば、塵に還れ――

 俺は懐からバヨネットと短剣を取り出した。
 軽く手許で回転させると、逆手に構える。

「Dust to Dust… 塵は塵に。亡者は骸に。亡兵は戦場の闇に…!」

564:2004/06/10(木) 17:44



          @          @          @



 海上自衛隊護衛艦『くらま』。
 その艦内通路で、2人の男女が戦火を交えていた。
 高校生ほどの少女と、20代前半の男。
 ほとんど同じ世代に見える両者。だが、その実年齢は80ほど離れていた。

 リナーのP90と枢機卿のMP40が同時に火を噴いた。
 互いに銃弾を避けつつ、両者は短機関銃を連射する。
 その動作は、同一と言える程に似通っていた。

「『エンジェル・ダスト』は完全に解除しないのかな?」
 枢機卿は撃ちながら口を開いた。
「そちらこそ、『リリーマルレーン』は使われないのですか…?」
 火力を緩めずに、リナーは訊ねる。

「愚問だな…」
「そう、愚問ですね…」
 2人はそう口走った。
 リナーは撃ちながら距離を詰める。
 枢機卿も同様に間合いを詰めてきた。
 相手の銃は、そろそろ弾切れ。
 むろん、自分も同じ事だ。

 2人は手の届く距離まで接近すると、素早く短機関銃を投げ捨てた。
 そして、同時に懐から拳銃を取り出す。
 リナーのファイブ・セブンと枢機卿のワルサーP38。
 その銃口が、至近距離で互いの身体に向いた。

「…ところで、法儀式済みの弾丸はそろそろ切れたのではないかね?」
 リナーの手にしたファイブ・セブンの銃口を眼前に控え、枢機卿は言った。
「ええ。『教会』からの補給が断たれましたからね…」
 リナーは表情を変えずに答えた。
 すでに、法儀式が済んでいる武器は手許にない。
 枢機卿は、微かな笑みを浮かべて口を開く。
「…実は、私の武器には最初から法儀式などなされてはいないのだよ」

 その刹那、2挺分の銃声が響いた。
 2人は同時に引き金を引いたのだ。
 互いの服に穴が開き、血が溢れ出る。

「…!!」
 さらに銃口を向け、至近距離から引き金を引く両者。
 2人の身体に幾つもの穴が空く。
 何発もの銃声が響き、血飛沫が廊下を染めた。
「Liebster Gott… wenn werd ich sterben!!」
「うぉぉぉぉぉぉッ!!」
 ありったけの弾丸を、お互いの身体に叩き込む2人。

 弾が切れた拳銃を投げ捨てると、2人は同時に同型の軽機関銃を取り出した。
 そして、互いの腹に押し当てる。
「MG42…? 君は、ナチス関連の品は嫌いではなかったかな…?」
「そうでしたが… 貰い物ですよ。女性の機微が分からない男からのね…」
 両者は血を吐きながら会話を交わした。
 そして、同時に引き金を引く。
 艦の通路に、MG42独特の発射音が響いた。

 1分に1200発もの弾丸を発射する機関銃。
 その弾丸を、2人はその身で受けた。
 リナーの右腹が、ズタズタにちぎれて吹き飛ぶ。
 枢機卿も、右腹部に大きな穴が空いた。

 2人はよろけながら一歩退がった。
「ごほッ…」
 リナーは血を吐きながら、服の中からバヨネットを取り出した。
 そして、その刃を枢機卿の胸に叩きつける。
 同時に、リナーの胸をバヨネットが貫通した。

「効きませんよ、この程度ではね…!」
「私にもな…」
 2人は次々に服からバヨネットを抜くと、互いの身体に突き立てた。
 その胸に、腹に、肩に、足に、腕に…
 次々と、その身をバヨネットが貫いていく。
 両者は、よろけて背後に一歩踏み出した。

「効かんと言っている!!」
 枢機卿は再び踏み込むと、バヨネットをリナーの首に突き刺した。
 その勢いは首を貫き、刃先は背後の壁に達した。
 同時に、枢機卿の首に突き立てられたバヨネットが背後の壁に突き刺さる。

「ぐッ…」
 咳込みながら、2人はそれぞれの背後の壁に体重を掛けた。
 体を貫通して背側に突き出ていた無数のバヨネットが、壁に当たって抜け落ちる。
 床に落ちた何本ものバヨネットが、金属質の乾いた音を立てた。

 リナーは喉を貫通しているバヨネットを引き抜くと、正面の枢機卿に向かって大きく薙いだ。
 全く同じ動きで、枢機卿がバヨネットを振るう。
 バヨネットが空中で激突し、大きく弾け飛んだ。
 両者の首の穴から、大量の血がボタボタと零れ落ちる。

 その瞬間、艦が大きく揺れた。
 艦後部から爆音が響く。

565:2004/06/10(木) 17:45

「…これは?」
 リナーが天井を見上げた。
 艦は大きく傾く。
 爆発音も止む事はない。
 艦に異常があった事は明白だ。

「我が配下の爆撃部隊だ。ようやく来たか…」
 枢機卿は薄い笑みを浮かべて飛び退くと、そう呟いた。
 同様に飛び退いて、リナーは口を開く。
「爆撃部隊…? 何を企んでいるんです?」

 枢機卿は、無造作に口元の血を拭った。
「この艦… いや、自衛隊の艦隊を攻撃させていてな。どうやらこの艦に致命傷を与えたようだ」
「貴方の部下は、司令官が艦内にいるのにも構わず攻撃を仕掛けるのですか…?」
 リナーは呆れたように言った。
「信頼の表れと思ってもらいたいね…」
 枢機卿は軽く肩をすくめる。

 再び、艦が大きく揺れた。
 かなり大規模な爆撃を喰らっているようだ。

 2人は、同時に通路を駆け出した。
 リナーの真横を、まるで徒競走のように枢機卿が走っている。
「この判断まで同じとは… つくづく私は、いい弟子の育て方をしたな…!」
 枢機卿は通路を駆けながら、リナーにバヨネットを振るった。
 リナーも並走しつつバヨネットで応戦する。
「それはどうも。光栄な事です…!」

 通路を駆け、艦の後部甲板に出る2人。
 リナーは素早く周囲を見回す。
 周囲にはジェット音と爆発音が響いていた。
 そして、空を埋め尽くすような航空編隊。
 この艦は、あと1分も持たないだろう。

 枢機卿とバヨネットを交えながら、リナーはヘリ格納庫に駆け込んだ。
 格納庫内では、艦員が呆気に取られた顔で固まっている。
 奇抜な服を着た少女とナチの軍装に身を包んだ男が、剣を打ち合わせながら駆け込んできたのだから無理もない。
 格納庫の真ん中には、対潜ヘリ・SH−60Kの姿があった。
 シャッターでヘリの出口は閉じられている。

 リナーと枢機卿が、左右から同時にヘリ内に駆け込んだ。
 枢機卿は右操縦席、リナーは左操縦席に占位する。
 そして、真ん中の操縦パネルの上で2人はバヨネットを打ち合わせた。
 操縦パネルには、キーが刺さったままだ。
 枢機卿は、右腕だけで素早くパネルを操作する。

 メインローターが作動し、ヘリが格納庫内で浮き上がった。
 そのままゆっくりと前進すると、シャッターに激突する。

「おいおい、勘弁してくれよッ…!」
 先程の艦員が、柱のスィッチを押した。
 サビついた音と共に、シャッターが開く。
 ヘリは、そのまま夜空に飛び出していった。


「…さて、厄介な状況だな」
 枢機卿は、右手でヘリを操作しつつ左手のバヨネットを振るっている。
「…狭い機内。ここでは、決着がつきませんね」
 リナーは、バヨネットを打ち返して言った。
「ふむ、戦いはここまでか。ランデブーはまたの機会にしよう」
 枢機卿は襟元に手をやった。
 リナーの想定した戦闘パターン外の動き。
 どうやら無線機を操作しているようだが…
 その瞬間、リナーは枢機卿の意図を理解した。

「くッ、そうはいくか…!!」
 リナーは、枢機卿のバヨネットを弾き飛ばそうと大きく振るった。
「座り位置の問題だったな。こちらの方が近い…」
 そう言って、枢機卿は操縦パネルにバヨネットを突き立てた。
 同時に、操縦桿をヘシ折る。
 ヘリが大きく傾いた。

「…Auh Widekseh(それではごきげんよう)」
 枢機卿は操縦席から腰を上げると、真横の窓を破って外に飛び出した。
 落下する枢機卿の身体を掬い上げるように、Bf109が飛来する。
 そのまま、枢機卿はBf109の背に着地した。

「くッ…」
 リナーは、素早くヘリの操縦席に座った。
 そして、ヘシ折れた操縦桿の根元を掴む。
「何とか、体勢を…」
 フラフラと、前方に進むヘリ。

 下は海である。
 この高さなら、飛び降りても問題は無いはず。
 そう思った瞬間、前方に船が見えた。
 あれは、『ヴァンガード』…
 いや、しぃ助教授の乗っている『フィッツジェラルド』だ。
 前部甲板に、なんとか着艦を…!

566:2004/06/10(木) 17:46



          @          @          @



「何なんだ、オマエ… この僕の『ナイアーラトテップ』の前で、これだけ立ってられるなんて…」
 ウララーは、艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授に言った。
 彼の背に生えた羽、『ナイアーラトテップ』から鮮やかな光が迸る。
「楽しいなァ。楽しいよ、オマエェェェッ!!」

「くッ!!」
 しぃ助教授は、『セブンス・ヘブン』でその光を逸らす。
 逸らし損ねた光が海を削り、艦にダメージを与えた。
 グラグラと艦体が揺れる。
「貴方こそ、大したものですね。この私が、守勢にしか回れないなんて…」

 この能力は… いや、この光は一体…
 『セブンス・ヘブン』で方向を変えられる以上、質量を持った攻撃なのには違いない。
 そう。質量のある光。

「どうしたァッ!? 守りを固めるだけかッ!!」
 ウララーは羽を大きくはためかせた。
 燐粉が飛び散り、周囲に光が乱反射する。

「このッ…!!」
 しぃ助教授は、その力を押し返した。
 宙に浮いているウララーの体目掛けて、光の方向を変える。

「跳ね返そうッたって、無駄だなァ!!」
 鮮やかな光が、ウララーの周囲を包むように広がった。
 しぃ助教授が跳ね返した光が、それに溶け込んでいく。
「攻防一体ってヤツさァッ!! さあどうする!? いつまで我慢比べやってるんだ!?
 いい加減、そのボロ船は見捨てろよ。アンタ1人なら、もっと楽しくできるだろうがッ!!」

「艦長が、艦を見捨てる? 冗談を言わないで下さい」
 しぃ助教授は笑みを浮かべた。
「…なら、死ぬだけだなァッ!!」
 鮮やかな光が、『フィッツジェラルド』を覆い尽くすように広がる。
 その、凄まじい重圧と破壊力。

「…!!」
 しぃ助教授はそれを抑えながら、唇を噛んだ。
 抑えそこなった鮮やかな光が、艦に当たる。
 甲板が砕け、砲塔が折れる。
 光に削り取られた鉄片が宙に舞った。

 …妙だ。
 個人のスタンドにしては、余りにも強力すぎる。
 これだけの破壊力、たった1人のスタンドパワーで生み出せるとは思えない。
 スタンドは決して魔法ではないのだ。
 となると、指向性を操作する『セブンス・ヘブン』と同じタイプ。
 自然界に元から存在する何らかのエネルギーを操る能力…!

「ダークマター…!?」
 しぃ助教授は呟いた。
「へぇ。知ってるのか…」
 ウララーは腕を組んで笑みを浮かべる。
 周囲に照散していた鮮やかな光が、一時的に収まった。

 しぃ助教授は、目の前に滞空しているウララーを見据える。
「宇宙全体に存在する物質の総質量というのは、数学的な試算で求める事が可能です。
 それには、2つの方法があります。各銀河の明るさから求める方法と、各銀河の運動から求める方法。
 ところが… この両者は、計算ミスでもないのに何故か一致しない。
 各銀河の運動から求めた質量の方が、各銀河の明るさから求めた質量より10倍近く多いんです。
 不思議ですよね。同じ値が出るはずなのに、一桁も違う答えが出るんですから…」

 ウララーは、腕を組んで薄笑いを浮かべている。
 しぃ助教授は続けた。
「これは、未だに宇宙物理学における大きな謎です。
 宇宙に存在する全ての質量を足しても、銀河を回転させるほどのエネルギーには手が届きません。
 ここから導かれる結論は1つ。この宇宙には、見えない質量が存在しているという事。
 その仮定の物質を、学者達は『ダークマター(暗黒物質)』と定義しました」

 しぃ助教授は、ハンマーをウララーに向けた。
「ダークマターの正体は、質量を帯びた光…!
 貴方の『ナイアーラトテップ』は、ダークマターを操るスタンドですね。
 直接対象に照射して破壊したり、周囲に展開して防御壁にしたり、推進力に変換したり…
 なにせ計算上、宇宙の総質量の9割はダークマターですから。その供給元は底なしでしょう」

「フ… フフフハハハ…!」
 しぃ助教授の言葉を聞いて、ウララーは大いに笑った。
「ハッ、ハハハハハハ!! その通り! 意外に博識じゃぁないか!!」
 しぃ助教授は笑みを浮かべる。
「『助教授』という肩書き、ただの飾りだと思いましたか…?」

567:2004/06/10(木) 17:46

「ハハハ!! それが分かったから… どうだって言うんだァァァッ!?」
 ウララーの叫びと共に、虹色の光が周囲を覆い尽くす。
 さらに大きな重圧が艦に向けられた。

「丸耳ッ!!」
 しぃ助教授は叫んだ。
 いつの間にか、前部甲板に丸耳の姿がある。
「…はい。『メタル・マスター』!」
 丸耳は背後にスタンドを浮かべると、軽く指を鳴らした。

 ウララーの頭上に、砲塔や瓦礫が雨のように降り注ぐ。
 先程、ウララー自身が破壊した艦の破片だ。

「何だい、そりゃ… 僕をナメてるのかッ!?」
 ウララーは羽を一閃させた。
 あっという間に、頭上に飛来した数々の鉄片が砕け散る。
「僕を潰したいんなら、軍艦でも落とすんだなァァァッ!!」

「…では、お言葉に甘えて」
 丸耳は再び指を鳴らす。
 ウララーの頭上の空間が裂け、150m近くある巨大な艦が空中に現れた。
 先程、『ヴァンガード』のミサイルが直撃して戦闘不能になった自衛隊艦だ。

「なッ…!?」
 流石のウララーも、驚きの表情を浮かべる。
 丸耳のスタンド『メタル・マスター』は、掲げていた右手を振り下ろした。
 ウララーの頭上に浮遊していた巨艦が、重力に縛られたように落下する。

「うおおおおおおおおおおぁぁぁぁッ!! ブッ潰れろォォォォッ!!」
 ウララーは、羽から大量の光を放った。
 その光は、落下してくる頭上の艦に照射される。
 鮮やかな光が艦を叩き潰し、引き裂いた。
 轟音と共に、艦は真ん中から真っ二つに裂ける。
 砕け散る艦体が周囲に飛び散った。

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授は、『フィッツジェラルド』の上に降り注いだ艦の破片をウララーに弾き返した。
 破片といっても、1mを越えているものも多い。
 その鉄片は、高速の凶器となってウララーに飛来する。

「…徒労だァッ!! そんなものが通じるかァァァッ!!」
 艦の破片は、鮮やかな光の渦に呑みこまれる。

 バラバラになった艦体が、海面に叩きつけられた。
 総排水量5000トンを越える巨体。
 轟音と共に、津波と見間違うような水飛沫が上がる。

 ウララーの視界が、シャワーのように飛び散る水飛沫に染まった。
「ハハハッ!! どうだッ!! アハハハハハハハハハハッ!!」
 狂笑するウララー。
 その身体に、霧のような水飛沫を浴びる。

 ――背後から殺気。
 ハンマーを構えたしぃ助教授が、水飛沫に紛れて跳んだのだ。

「水飛沫は目潰しって訳かい!? そんなショボイ手が僕に通用するとでも――」
 ウララーは、虹色の光を背後のしぃ助教授に向けた。
「――思ッたのかァァァァァァァァッ!!!」
 質量を持った光は、空中でハンマーを振り上げているしぃ助教授に直撃する。

 ――手応えが薄い。
 光を浴びて、ニヤリと笑うしぃ助教授。
「な…!?」
 ウララーは声を上げた。
 その脳内に疑問が渦巻く。
 何故だ? 
 確かに、確かに確かに確かに身体に直撃させたはずなのに…!!

「光は微粒子に当たると散乱し、水面などでは屈折します。
 微細な水飛沫なんて、両方の性質を満たしていますよねぇ…」
 しぃ助教授はそのままハンマーを構えると、渾身の力を込めてウララーの身体に叩きつけた。
 ベキベキと骨の砕ける音が伝わってくる。
「光の性質くらいは知っておきなさい。仮にも、それを操るスタンド使いなのならね…!」

「が… ぐぉぁぁぁぁッ!!」
 ハンマーの直撃を受けたウララーの半身は、無惨なまでに潰れた。
 そのまま、『フィッツジェラルド』の前部甲板の方へ吹っ飛んでいく。
 全身から血を撒き散らしながら、ウララーの体は艦首に激突した。
 その余りの勢いに、艦が大きく揺れる。

「とは言え… もろに浴びたのは事実。こちらも無傷とはいきませんでしたね」
 しぃ助教授は空中で身体を翻すと、『フィッツジェラルド』の前部甲板に着地した。
 肋骨が何本か、そして左上腕骨が損傷したようだ。
 だが、倒れている暇はない。
 相手は吸血鬼。
 頭部以外への攻撃は、すぐに再生してしまうのだ。
 さっきの一撃すら、致命傷には程遠い。

 目の前の甲板に、血塗れのウララーがめり込んでいる。
「覚悟!!」
 しぃ助教授は、その頭部目掛けてハンマーを振り下ろした。

568:2004/06/10(木) 17:48

「ウォォォォォォォァッ!!」
 ウララーの周囲に、幾重もの光が広がった。
 甲板がベキベキと砕ける。
 振り下ろされようとしていたハンマーは弾かれ、甲板に落ちた。

「ぐゥゥッ…」
 フラフラと立ち上がるウララー。
 彼はゆっくりと頭に手をやる。
 ぬるりとした感触。
 その掌を、じっと眺めた。
 べっとりと血で濡れている手を。

「何だよ、これ…」
 ウララーは、熱に浮かされたように呟く。
 じっと、掌を凝視しながら。
「…何なんだよ。これ、血だぜ? 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 ちゃァァァァァァァァんと痛いじゃねェェェェェェかァァァァァァァァァよォォォォォォォッ!!」
 叫び続けるウララーの周囲で、鮮やかな光が渦を巻いた。
 
「…抑えろッ! 『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授はスタンドを発動させた。
 『セブンス・ヘブン』で散らしているにもかかわらず、その光は甲板を破壊する。
 ウララーが立っている艦首部分は、大きく抉られた。
 艦の破片が、そのまま海面に音を立てて崩れ落ちる。

 ウララーの体はゆっくりと浮かび上がった。
 そして、眼前に立つしぃ助教授を真っ直ぐに見据える。
「…決めた。『矢の男』の次はオマエだ。この痛み、65536倍にして返してやるよ…」
 そう言って、ウララーは背後を見せた。
 その背に、凶々しい蝶の羽が煌く。

「…楽しいなァ! こんなに殺したい奴がいるなんて、初めてだよ…!!」
 そう言って、ウララーは飛び去っていった。
 しぃ助教授は、瞬く間に遠くなっていくウララーの姿を見つめる。

 駆けつけてきた丸耳が口を開いた。
「…妙ですね。さっきの男、勝負を先延ばしにするタイプには見えませんが」
 しぃ助教授は頷く。
「…ええ。おそらく、ウララーの襲来は波状攻撃の第一波でしょう」

「では、第二波が…!!」
 驚愕の表情を浮かべ、しぃ助教授の顔を凝視する丸耳。
 しぃ助教授は、甲板に転がったハンマーを拾い上げる。
「…その確率が高いですね。丸耳、ただちにCICに戻って艦を指揮しなさい。
 私は、ここでギリギリまで攻撃を防ぎます」

「了解しました。お気をつけて!」
 そう言うが早いか、丸耳はたちまちのうちに姿を消した。
 その直後、前方から僅かな飛行音が響く。
「…来ましたね!」
 しぃ助教授は、夜の闇を凝視した。

 何か、飛行物体がフラつきながら近付いてくるようだ。
 あれは… 自衛隊の哨戒ヘリコプター!?
 動きから見て、操縦系統に損傷があるようだが…

 ヘリは徐々に接近してくる。
 狙いは、間違いなくこの艦だ。
 しぃ助教授は、その操縦席に座る人影を確認した。
 シートに座っている女と目が合う。
 あれは…!

「…『セブンス・ヘブン』!!」
 メインローターの回転を阻害し、機体を傾かせる。
 もともとフラフラだったヘリは、そのままバランスを崩して水没した。
 だが、操縦席に座っていた人影は墜落直前に脱出したようだ。
 しかもパラシュートを使わずに、ただの跳躍で。
「…チッ」
 しぃ助教授は舌打ちをした。
 人影は、驚くべき跳躍力で『フィッツジェラルド』の艦首に飛び移ってくる。

「…おっと、貴女が乗ってたんですか。それは気付きませんでした」
 しぃ助教授はその人影を見据え、笑みを浮かべて告げた。
「完全に目が合ったように思ったが… どうやら、その目は飾りらしいな」
 ヘリから飛び移ってきた女、リナーは表情を変えずに言う。
 その服は各所が破け、穴だらけである。

「…これはまた涼しそうな格好ですね。モナー君を誘惑でもする気ですか?」
 しぃ助教授は、挑発的な笑みを浮かべて言った。
 リナーはその視線を軽く受け流す。
「それなら、服1枚犠牲にしなくとも足る。
 …それより、もうすぐ『教会』の航空隊が押し寄せてくるぞ」

569:2004/06/10(木) 17:49

「まったく… 次から次へと」
 しぃ助教授はため息をついた。
 そして、素早く無線機を操作する。
「…私です。到着を急いで下さい。自衛隊の潜水艦は、まだ付近に潜伏していると思われます…」

「ASAの潜水艦艦部隊か?」
 リナーが訊ねる。
 しぃ助教授は無線のスィッチを切ると、リナーに視線を戻した。
「まあ、そんなとこですね。あれだけ暴れた敵潜水艦が、全く動きがないのは妙です」

「自衛隊の艦隊も、『教会』の航空部隊の襲撃を受けている。救援に向かったんじゃないか?」
 リナーは腕を組んで言った。
「…だとしたらいいんですがね。司令官たるもの、楽観的な判断を下すわけにはいきません」
 しぃ助教授はため息をついて視線を落とした。
 早々に護衛艦が全て沈められたのも、司令官たる自分のミスなのだ。
 被害だけを見れば、ASAの完全敗北に近い。


 前方から、航空機のエンジン音が響いてきた。
「…来るぞ!!」
 リナーは、銃口が大きく開いたスナイパーライフルを取り出した。

 ――バレット・M82A1。
 通称『バレットライフル』。
 12.7mm50口径弾を使用する、強力な対物ライフルだ。

「さて、サクサク落としますか…」
 しぃ助教授は、ハンマーを頭上で軽く回した。
 その背後に、『セブンス・ヘブン』のヴィジョンが浮かぶ。

 空は、たちまちにして敵機で染まった。
「落ちろッ!!」
 リナーの放った弾丸が、Bf109の主翼を直撃する。
 コントロールを失い、炎に包まれる機体。
 そのコックピットから、吸血鬼が飛び降りた。

「Hallelujaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
 空中で機関銃を乱射しつつ、軍服の吸血鬼は前部甲板に着地した。
 そのまま、しぃ助教授に飛び掛かる。

「やれやれ。ダンスの誘いは遠慮しておきますよ…」
 しぃ助教授は、その吸血鬼の頭部をハンマーで叩き潰した。
「…1人で踊りなさい」

 リナーが、次々に航空機を撃ち落していく。
 コックピットから飛び出した吸血鬼が、次々に甲板に降り立った。
 その頭部に、ハンマーを叩きつけるしぃ助教授。

「…私もヴァンパイアハンターみたいじゃないですか? こんな風にハンマー持ってると。
 これでありすの服でも着て…
 『汝、魂魄なき虚ろの器。カインの末裔、墓無き亡者。Ashes to ashes Dust to dust…』
 …なんて言うのも結構似合ってません?」
 しぃ助教授はハンマーを軽く振って言った。

「外見的に、20は若返らないと無理だな」
 リナーは、視線を合わせずに吐き捨てる。
「それより、次々に来るぞ。どうやら、艦を制圧するつもりらしいな…!」

 航空機から、次々に軍服の吸血鬼が飛び降りてくる。
 リナーはバレットライフルを甲板に投げ捨てると、バヨネットを取り出した。
 それを、十字の形に交差させるリナー。

「Dust to dust… 塵は塵。灰は灰。土は土。水は高きより落ち、万物はその至るところに終焉ず。
 塵たる貴様達の居場所など、世界のどこにもありはしない…!」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

570丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:37

  くるっぽー。くるっぽー。くるぽっぽー。くるくるー。くるぽー。

 茂名王町西公園の一角に、数十羽の鳩が集まっていた。

  くーくるくるっ。くるるるっ。ぽぽー。ぽっくるー。

「ほーらお食べーおいしーよー」

 その中心で、車椅子に乗ったしぃが盛大にパンくずを撒いている。
「マルミミ君もどうー?」
「いや、いい…」
 鳩でみっしり覆われた車椅子。
誘惑に負けて血を吸ってしまってから今日で二日が経つ。
吸血鬼化も免れ、身体の麻痺も治まりかけてはきたものの、まだしぃの下肢には麻痺が残っていた。

 『マルミミが投薬を間違えた』と、ある意味本当のことよりもマズイ言い訳でとりあえず口裏は合わせてある。
あんまり閉じこもっていても体に悪いので、今日は買い物ついでの散歩だった。

(今頃は、もう退院できてる筈なのに…僕がもっと)「えいっ」

 やけに可愛らしいかけ声とともに、こっちに向かってパン屑袋が投げられてきた。
「え」
 反射的に受け取ってしまい、そこに向かって飛んでくる鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩―――――
「うおぉぉわーっ!」
 平和の象徴だろうが何だろうが、徒党を組んで向かってくるモノは例外なく怖い。
遠慮も容赦も躊躇もなく飛んでくる鳩が、マルミミの身体をつつくつつくつつく。
「痛痛痛痛ッ!」
 慌てて逃げまどうが、鳩たちはパン屑袋に向かってくるっぽくるっぽと追いすがってくる。

こっちの葛藤も知らず面白そうに笑うしぃを視界の端にとどめながら、それなりに必死で走り回った。





「…あ」
「マルモラしゃん?どうしたんれすかぁ?」
 ベンチから少し離れた茂みの向こう。
マルモラと呼ばれた少年の呟きに、隣の女の子が舌っ足らずな声で答えた。
「ほら、アレ」
 す、と少年が、向こうの鳩の群れに追い回される丸耳の少年を指さす。
「おや、マルミミしゃんですねぇ。おぉ〜い」

571丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:38



「おぉ〜い」
 ―――どこからか聞こえて来た声で、ふと我に返った。
しぃに向けてパン屑袋を投げ返し、足を止める。

「マールミーミしゃぁーん」
 声のした方を見ると、髪を両側で束ねた幼い感じの少女と、丸耳のモララーが軽く手を振っていた。
「丸茂と…ののちゃん」
「よ、久しぶり。マルミミは今日学校いいの?」
「丸茂こそサボりでしょ。僕は休み…あ、紹介するね」
 二人の視線に気がついて、鳩と戯れるしぃを指し、
「シュシュ・ヒューポクライテ…ウチの患者さん。んで、」
 くるり、としぃに向き直って二人を指し、
      マルモ リョウイチ        ジン ノゾミ
「コイツが『丸茂 良一』で、こっちが『辻希美』ちゃん」
「初めまして」「よろしくなのれす〜」
 長身を折りたたんで丸茂が、舌っ足らずな声でののが頭を下げる。
「あ、こちらこそ」
 体中に鳩を止まらせたまま、しぃが恐縮したようにお辞儀を返した。


 マルミミ以外に同世代の人間と付き合っていなかった反動か、他愛もない雑談が始まった。
趣味は何だの、好きなタレントは誰だの、どのくらいで退院できるだの―――

「―――ちょっとマルミミ借りてっていい?」

 そんな下らない話を続けて数分程経った頃、急に丸茂がそう言った。
きょとんとした二人の視線に、笑って手を振る。
「ホラ、男同士女同士でしか喋れないこともあるし、十分くらいしたらまた戻ってくるから」

「…わかりました。行ってらっしゃいなのれす」
「うん、それじゃ」
そう言うと、マルミミの手を強引に引っ張って公園の奥へと消えていった。

「…どうしたんだろ?」
「ンフフン。男同士で秘密の会話なのれすよ〜」
どこかわかっていない様子のしぃに、ののが楽しそうに笑った。

572丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:40





 公園の奥で、丸茂がベンチに座る。
ここならしぃからは死角になっているから、込み入った話もできるだろう。
 長い脚をきざったらしく組み上げて、背もたれにふんぞり返りながら聞いてきた。

「…で、マルミミ。なんか相談したいって思ってただろ」

 顔を合わせて十分もしないのに見破られてしまった。…全くコイツは、人の心を読むのが上手い。
内心どきりとしながらも、冗談めかした口調で誤魔化す。
「相談というか聞きたいことは…ある、かな。ののちゃんの服にあった怪しげなシミとかシワとか掛け違えたボタンとか…」
「マ・ル・ミ・ミ」

 …笑いが消えた真剣な顔。話すべきか隠すべきか。
数秒ほど躊躇したが、結局真面目に相談することにした。

「…全部は言えない」
「それでもいいよ。マルミミの話を話せる分だけ聞いて、それで言えることだけ答える」

 ありがと、と小さく呟いて、どこから話すべきか考える。

―――いやぁ僕ホントは吸血鬼でさ、ケガした勢いで魔眼使って血ぃ吸っちゃったんだよねー。
     で、もしかしたらまた吸っちゃうかもしれないんだよ。すっごく美味しくて。

 …いやいや、口が裂けてもこんな事は言えない。
とりあえず当たり障りのないところをまとめて、口を開いた。

「…一昨日…しぃに、さ。酷いことしちゃったんだよ。本人は覚えてないんだけどね」
「覚えてないんだろ?普通にやってればいい」
 不思議そうに答える丸茂に、弱く笑いかける。
「簡単そうに言うけどね…怖いのは、僕がまた酷いことしちゃうんじゃないか…って事なんだよ。
 僕は、しぃの事を大事に思ってるんだと…思う。けど、それが純粋な想いなのか単なる欲望なのか解らないんだ」

 うつむいて話すマルミミに、呆れたように丸茂が言った。
「…馬鹿」
「なぁっ…!人が折角真面目に話してるのにっ!」
「そんなこと真面目に話してるから馬鹿って言ったんだよこの恋愛初心者の潔癖性」

 立て板に水の口調でさらさらさらさらと畳み掛けられる。
一言くらい言い返してやりたかったが、あいにく馬鹿も恋愛初心者も本当の事。

573丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:42

「ぅぅううるさいっ!学校サボって公園で青○やってる奴に言われたくないっ!」
 どうにか絞り出した反論に、丸茂はぴっと指を立てて頷いた。
「そ。僕だってそうだよ。ののを見てる目に欲望が無いか、って言えば…やっぱり、ある。
 けど、好きな娘を自分の物にしたいとか…そういうのは誰にでもある事だろ?
 そんなありふれた事で目一杯悩んでるんだから、恋愛初心者なんだよ。
 酷いことするんじゃないか…つまり、傷つけたくないって思ってるんだろ?なら、酷い事なんてする筈ない。
 保証してもいいけど、お前さんは善人なんだから。もっと胸張って接してやれ。
 さもないと…只でさえ小さい背が更に小さく見えるぞ」

 ばん、と強めに背中を叩かれる。慰めではない、本心からの言葉。

「―――ありがと。楽になった」
 そう言って、マルミミがにっこりと笑う。
「ならよかった。…じゃ、そろそろ戻ろ。ののが寂しがってる」
 とん、とベンチから立ち上がり、鳩の群れを散らしながら女二人の元へと戻る。
そのまま雑談会はお開きとなり、マルミミとしぃが公園から出て行った。


「…マルモラしゃん、何のお話してたんれすか?」
 自分たち以外は誰もいなくなった公園の真ん中、舌っ足らずな声でののが問う。
「青臭い恋の悩み…かな。けど…大して役には立たなかったみたい」
 溜息一つ、呆れ混じりの声。

…全くアイツは、自分の心を隠すのがヘタだ。
あそこまで悩んでた奴が、そんな簡単に『ありがと。楽になった』なんて言えるはずが無い。
顔色も声色も変えないのに…いや、変えないからこそ、嘘と見抜きやすい。

「まあ…最後の最後は、僕等の問題じゃ無いからね…」
 そう言うと、どこか呆れの混じった溜息を吐いた。

574丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:43



「今日のご飯…シチューでいいね?」
「うん」
 車椅子を押しながら、畑を耕しているおじさんに手を振った。
おじさんもでっかい声で、手を振り替えしてくる。
「おーぅ!マルミミ君、お使ぇか?」
「そうですー」
「偉ぇなぁ!」
「どうもー」
 しぃも散歩がてらに何度か挨拶したことがあるので、彼とは面識がある。
「…そういや、お嬢ちゃんどうした?この前は車椅子なんか乗ってなかったに」
「えーと…ちょっと医療ミス」
「あっはっは、そりゃ大ぇ変だ!」
 冗談と思ったのか、大声で笑い飛ばしてくれた。
実際は更に酷いことしたとは、口が裂けても言えない。

「ま、病気も怪我もうめぇモン食や治るわ!待ってろ、じゃがいも分けたるけ、早く治しゃあ」
「ありがとう。助かります」
 隣でも、しぃがぺこりと頭を下げる。
「何ぁーに、気にすんなや」

 もう一度深々と頭を下げ、畑を後にした。

更に近くの港や農場でも、
「おーう、マルミミ君!ブリのアラ持ってけ!」
「看病も大変だろ。タマゴどうだー?」
「お嬢ちゃん、怪我にいいよ!逝きのいいギコの干物やる!」

 畑や漁船のそばを歩くと沢山の人がマルミミに野菜や作物を放ってきた。

「…人気者だねぇ、マルミミ君」

 みんな、彼の身の上に起きたことを知っているのだ。
それはけして同情とか哀れみではなく…上手くは言えないが、人の繋がりとでも言うのだろうか。
虐待だの何だので物騒な世の中でも、ここの優しさだけは平和だと思う。
「…そうだねぇ」



 そして、茂名王町の商店街に着く頃には。
「…結局、どこにも寄らないで材料殆ど揃っちゃったな」
 商店街まで歩いて、何も買わずに帰るというのも無駄な気がして辺りを見回す。
と、『伊予書房』と看板が掛かった小さな本屋が目にとまった。
店の規模の割に品揃えも良く、隠れた穴場となっている。
もっとも、店主が茂名の茶飲み友達なのでエロ本を買えないのが難点と言えば難点か。
「本屋、寄ってこうか」
「はーい」
 きぃ、と音を立てて、階段横のスロープに車椅子を押した。

575丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:44


「こんにちわー」                        イヨ
 からこん、とドアベルが鳴り、本を読んでいた店主の伊予さんが愛想良く眼鏡を外した。
「ぃょぅ、マルミミ君。女の子連れで何をお探しかね?」
「スタンドに関する文献を…じゃなくて、適当に面白そうなもの買っていこうかと」
「そうかょぅ。ゆっくりしてけばいぃょ〜ぅ」
 軽く伊予さんに手を振って、車椅子を押したまま奥の棚へと進む。
と、絵本コーナーの前で車椅子のブレーキが引かれた。
「…しぃ?」
どうしたのかと前に回ると、しぃが一冊の絵本をじっと見つめていた。
「…『はなをなくしたぞうさん』…?」
「あ、ゴメン…懐かしくて、つい」
 ふっと我に返ったように、小さくマルミミへと笑みを返す。
「思い出の本?」
「…小さい頃ね。母さんに、よく読んでもらったんだ。一日に何回もねだって困らせちゃったのを覚えてる。
 懐かしいな…まだ、出版されてたんだ。―――むかし あるところに いっとうの としおいた ぞうが おりました―――」

 そう言うと、すらすらと本の中身を暗唱し始めた。
マルミミも絵本を手にとって、しぃの言葉に合わせて絵を追っていく。

 鼻をなくした一匹のぞう。
その一生を描いた、ほんのりと悲しい物語。

「凄いね…中身、全部覚えてるんだ。一字一句漏らさずに」
「記憶力には自信あるからね。…案外、これが始まりかも。…けど、ホントに懐かしいな」

 そっと本を裏返し、さりげなく値段を確認する。

…絵本って、高いんだなぁ。
(しかも、内容全部を暗記してるなら…あんまり意味無い…よねぇ…)

 『また今度ね』と言いかけた瞬間、B・T・Bの思考が割り込んできた。
(ナニ シミッタレタ 事言ッテルン デスカ。買ッテ アゲナサイ、御主人様。ケチケチ シナイノ)
(だってねぇ、B・T・B…僕の小遣い少ないんだよ…?)

(後デ茂名様ト 交渉シテ アゲマス カラ。ホラ、プレゼント シナキャ)
「そうなの…?うーん…じゃ、伊予さーん?コレ、買いますー」
 まいどありーぃ、と手を振る伊予さんを横目に、しぃが弾んだ口調で聞いてきた。
「え、いいの?」
「いいよ、別に。僕も欲しいって思ったし」
「…わぁ…ありがと!大事に読むから!」

―――ああ、そう言えば。しぃは診療所に来てから一度も何かをねだった事が無かった。
     そんなしぃが初めて物を欲しがったんだ。よっぽど、大事な思い出があったんだろう。

(そう考えると…この本も、まんざら高い買い物でも無かったかな)
 鼻歌交じりで大切そうに袋を抱きしめるしぃを後ろから見下ろして、ぽつり、とそう思った。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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576丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:45

  ∩_∩
 (・∀・ ) ∋oノハヽo∈
と(    つ  (´酈` ) 
   Y 人   ⊂   ⊃
  (_)_)  (__ (___)

マルモリョウイチ
丸茂 良一

長身痩躯を持つ、マルミミのクラスメート。
勉強・運動・恋愛を人並み以上にこなし、ルックスもイケメン。
初登場で○姦疑惑の羨ましい奴。

…なんか書いててイラつくことこの上ないので近いうちに死にます。
そして頭蓋骨を削られただけで助かります。


ジンノゾミ
辻 希美

童顔巨乳を持つ、丸茂の恋人。
おバカだけどいつもニコニコ。鬼畜な事をされてるけど純愛。
アイドルとは一切何の関係もありません。

…口調書いててイラつくことこの上ないので近いうちに死にます。
そしてSPMの科学力によって復活します。


はなをなくしたぞうさん

絵本。しぃが親元にいるとき、何回も読んで貰ったお気に入りの作品。
本作における重要なキーアイテム。嘘かも。
デッドマンズQの『鼻をなくしたゾウさん』とは一切関係とかありません。

577:2004/06/12(土) 20:55

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その7」



          @          @          @



「敵は、吸血鬼ですッ!!」
 背後から、慌しい声が響く。
 ブリッジに駆け込むなり、艦員が叫んだのだ。
 立派な椅子に座っている男が、ゆっくりと顔を上げた。
 そして、息を切らしている艦員の顔を見据える。

「…確かに吸血鬼だな? スタンド使いでもその他の何かでもなく、吸血鬼なんだな?」
 第1護衛隊群の旗艦『しらね』。
 その艦を任されている海将補は、椅子から立ち上がって言った。

 ――吸血鬼。
 一般人ならいざ知らず、国防にかかわっている人間ならその実在は知っている。
 だが… 奴等は闇に潜む存在。西洋の古い町などで、ひっそりと屍生人を増やす連中なのだ。
 その吸血鬼が集団で襲撃を掛けてきたという事例など、初めて耳にする。

「間違いありません! 銃器で武装した吸血鬼です!」
 艦員は慌てた様子で告げる。
「すでに多数が艦内に侵入しています。指示をお願いします、司令!」

「軍律によって統制された吸血鬼か…」
 海将補は立ち上がると、ブリッジに備え付けられているコンソールを操作した。
 彼の肩章には、2つの桜が並んでいる。
 単にこの『しらね』の艦長というだけでなく、第1護衛隊群そのものの司令でもあるのだ。
 ここで判断を誤れば、艦隊は全滅する。

「僚艦は――?」
 コンソールを素早く操作しながら、海将補は訊ねる。
「大規模な爆撃と侵攻を受けていますが…
 ASAのミサイル攻撃を受けた『たかなみ』を除き、全艦がなんとか健在です。
 ただ、第2護衛隊群の旗艦『くらま』の損傷は大きく、すでに退艦命令が出されています…!」

「指揮権移譲か…」
 海将補は呟いた。
 自分の肩に、第2護衛隊群の運命までもがのしかかってしまったようだ。
 このままでは、制圧されるのも時間の問題。
 余裕があるうちに全員退艦の命を出すか?

 ――いや。
 15艦に及ぶ大艦隊の総艦員が退艦すれば、誰がそれを救助するのだ?
 4500人を超える人員だ。
 それだけの大人数を救助など、どう足掻いても不可能。
 まして現在の海水温度は低く、2時間も持たないだろう。
 本土からの救助船など、確実に間に合わない。
 下手に退艦すれば、全滅どころか全員死亡の可能性も――

 防衛庁のデータベースに接続し、情報を引き出す。
 ディスプレイに大量の文字が躍った。
 それを素早く参照する海将補。
「…よし」
 あらゆる情報を叩き込んで、海将補は視線を上げた。

 吸血鬼…
 その言葉に惑わされるな。
 相手は、ゴシックホラーの主役である妖怪などではない。
 闇夜にマントを翻す、貴族然とした不死の超越者などでは断じてない。
 石仮面により、未知の脳の機能を発揮した『元人間』なのだ。

 連中は、銀の弾丸もニンニクも流水も白木の杭も恐れない。
 ただ、日の光に身を焼くのみ。
 目から体液をウォーターカッターのように放ったり、体毛を刃物のように扱ったりするという例もあるが…
 己の身体を武器にするのは、野生動物の牙や爪と同じ。
 一般的な伝承のように、魔術を使ったりコウモリや霧に変化したりする訳ではない。

 吸血ならコウモリでもやる。
 再生なら原生生物ですらやってみせる。
 生物的強度は人間を遥かに越えるが、生物そのものを超越した訳ではない。
 確かに脅威の化物だが… 決して殺せない相手ではないのだ。

「艦内の発光信号用大型ライトを掻き集めて、予想侵攻ルート上に並べろ」
 海将補は部下に命令を下した。
 あれなら、微量ながら紫外線を照射できるはず。
 足止め程度にはなるだろう。
 あとは…

「艦員からただちに射撃経験者を集め、要所に配置だ。
 7.62mm弾で頭部のみを狙え。決して近接戦闘には持ち込むな。こちらに勝ち目はない。
 以上の内容を、至急全艦に通達せよ!!」
 海将補は指示を出す。
「はっ!!」
 艦員は敬礼すると、素早くブリッジから出ていった。

「外国との交戦経験は一切なく、スタンド使い、そして吸血鬼と初めて戦った軍になるとは…
 つくづく数奇な運命だな、我が国の軍隊は…」
 呟きながら、海将補は時計を見る。
 現在、午前5時。
 あと1時間30分ほどすれば、太陽が昇る。
 それまで何とか持ちこたえれば…

578:2004/06/12(土) 20:56



          @          @          @



「ゴルァ!!」
 『レイラ』の刀が一閃し、軍服の吸血鬼の上半身と下半身が真っ二つに分かれた。
 そして、甲板に転がった上半身の頭部に刀を振り下ろす。

 そのギコの背を襲う、機関銃の弾丸。
 俺はその射線に割り込むと、弾丸をバヨネットで叩き落した。
 弾きそこなった弾丸が、幾つか俺の身体にめり込む。

「…痛いモナッ!!」
 俺はすかさず踏み込むと、吸血鬼の顔面にバヨネットを突き立てた。

「ったく… キリがねぇな、これじゃ!!」
 ギコはM4カービンライフルを構えると、正面の吸血鬼の群れに掃射した。
 致命傷にはならないものの、向こうの体勢を崩す事はできる。
 俺はその隙に飛び込んで、次々に吸血鬼の頭部を『破壊』した。

 それでも、吸血鬼達は次から次へ降下してくる。
「ギコ! 後ろッ!!」
 俺は叫んだ。
 ギコの背後から、吸血鬼がスコップを振りかざしてまっすぐに接近している。

「直線の攻撃が、俺に通じるかゴルァァァァァッ!!」
 ギコは吸血鬼の腕を掴むと、そのまま背負い投げを掛けた。
 吸血鬼の体は甲板に叩きつけられ、そのまま柵を破って海面に落下していく。

「ハァハァ… 向こうの艦は大丈夫なのかよッ!!」
 ギコは、息を切らしながら叫んだ。
 俺は、『アウト・オブ・エデン』で『フィッツジェラルド』の様子を視る。

 甲板上を舞い躍るバヨネットとハンマー、そして山積みになった吸血鬼の骸。
「本当にもう… 次から次へとッ!!」
 しぃ助教授が、ハンマーを振り回している。
 次々に潰されていく吸血鬼。

「――我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん。
 汝、黒鉄の杖をもて、彼等を打ち破り、陶工の器物の如くに打ち砕かんと。
 されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ――」
 リナーも、バヨネットで吸血鬼達を斬り刻んでいた。

「…どうだ、向こうは?」
 ギコが訊ねる。
「…詩篇2・8〜10節のフレーズも飛び出してノリノリモナ。あっちのコンビは、全然大丈夫!」
 俺は、バヨネットを構えて言った。
 ギコが、目の前の吸血鬼を斬り倒す。
「ヤバいのはこっちか… 今でこそまともに戦えてるが、長期戦になると…」

 そうだ。
 俺はともかく、ギコの肉体は普通の人間だ。
 何時間も戦い続けられるはずがない。
 ましてや、刀を振るうには多大な集中力も必要だろう。

「しかしこいつら、一体何なんだ!!」
 ギコは大きく刀を薙ぐ。
 俺は身を翻すと、正面の吸血鬼の首を斬り落とした。
「多分、『教会』の奴等モナ…」

「教会だと…ッ!」
 ギコの背後で、吸血鬼が短剣を振りかざす。
 ギコは素早く懐から拳銃を抜くと、振り向き様に射撃した。
 吸血鬼がほんの少しよろけた瞬間、『レイラ』の刀が脳天に振り下ろされる。
「畜生、くっちゃべってる余裕もないか…!」

579:2004/06/12(土) 20:59

 …!?
 不穏な気配を感じる。
 これは… 何だ…?
 とても、巨大な…

「どうした、モナー?」
 俺の動揺を感じ取ったギコが、声を掛けてきた。
 『アウト・オブ・エデン』が、またしても巨大な艦艇の接近を捉えたのだ。
 かなりの速度で、こちらに接近してくる。
 もう、今さら何が来ても驚かないと思っていたが…

 それは、350mを越える大きさの空母だった。
 『スーパー・キャリアー(巨大空母)』というヤツだ。
 おそらく、吸血鬼達の母艦…
 艦横部には、『Graf ZeppelinⅡ』と刻まれている。
 たぶんドイツ語だろう。
 『グラーフ・ツェッペリンⅡ』と読むのか…?

「ギコ、『グラーフ・ツェッペリンⅡ』について薀蓄を頼むモナ!」
 俺は、吸血鬼の攻撃を避けながら言った。
「『グラーフ・ツェッペリンⅡ』なんぞ知らんが… 『グラーフ・ツェッペリン』なら有名だ。
 ナチスドイツ初の航空母艦になる予定だったが、戦況の悪化にしたがって計画が中止になった…ッ!」
 背後に立った吸血鬼を斬り倒すギコ。
「もう少し語りてぇが、今は余裕がねぇッ!!」

 またナチスか。
 すなわち、『教会』の艦。
 カトリック教会とナチスドイツは、ある程度癒着していたという話は聞いた事がある。
 虐殺を黙認し、ナチス残党の国外脱出に手を貸したとか…

 …?
 妙な気配に、俺は空を見上げた。
 1機のヘリが飛行している。
 それも、押し寄せる航空機とは逆行する方角に…
 そう。『グラーフ・ツェッペリンⅡ』の方向だ。
 撃墜されないところを見ると、『教会』側の機体なのだろう。
 中に乗っているのは…

 …!!

「Sieeeeeeeeeeeeeeg Heeeeeeeeeeeil!! Uryyyyyyyyyyyyyyyyy!!」
 吸血鬼が奇声を上げながら飛び掛ってくる。
 俺は、その額にバヨネットを突き刺した。

 ヘリは一瞬のうちに飛び去っていく。
 中に乗っていたのは、5〜6人。
 その中に、よく知った顔があった。
 奴は微かな笑みを浮かべながら、この『ヴァンガード』を見下ろしていたのだ。

 独特にカールした前髪。
 ありふれた眼鏡。
 一見、知的そうな瞳。
 そして、見覚えのあるTシャツ。
 そう。ヤツも、『教会』側の人間なのだ。

「キバヤシィィィィィィィッ!!」
 俺は、ヘリが去った方角に叫んでいた。



  /└────────┬┐
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580ブック:2004/06/13(日) 01:17
     EVER BLUE
     第三十話・LUCK DROP ~急転直下〜 その四


「どうなっています?」
 山崎渉が、オペレーターに尋ねた。
「未だ敵船への乗艦は叶っていません。
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)も、変な力に遮られて…」
 オペレーターが申し訳無さそうに告げる。
「…存外に苦戦していますね。」
 山崎渉が、呟くように言った。

「さて、このままではジリ貧の消耗戦。
 埒が開きませんね。」
 山崎渉が考え込む。
 そして、何か思いついたようにはっと顔を上げた。

「仕方ありません。
 福男と、ヒッキーをこれへ。」
 山崎渉がパチンと指を鳴らした。

「御前に。」
「オンマエニ…」
 全身を黒のスプリンタースーツに包んだ丸坊主の男と、
 暗い顔をした小柄な男が山崎渉の前に現れた。

「もう何を言われるかは分かっていますね。
 なかなか敵さんがしぶとくて困っています。
 全滅させろとまではいいません。
 その能力を活用して敵艦へ乗船、思うように埒を開けて来なさい。」
 山崎渉が二人を見据えて命令する。

「御意。」
「ギョイ…」
 福男とヒッキーが同時に返事を返す。

「それではお願いしますよ。
 あなた達のスタンド『テイクツー』と『ショパン』には、
 期待していますからね…」
 山崎渉が不気味な笑みを浮かべた。

581ブック:2004/06/13(日) 01:18



     ・     ・     ・



「AHHHHHHHHHHHHH!!!」
「GAAAAAAAAAAAAA!!!」
 プロペラ機から飛び移ろうとする吸血鬼達が、
 次々とタカラギコのパニッシャーに撃ち落されていく。
 辛うじて着艦した者もいはするのだが、
 その者達も即座に銃弾を叩き込まれて絶命した。
 しかし、そらより飛来する戦闘機の数は一向に減る気配は無い。

「やれやれ、藪蚊みたいにやって来ますね…」
 タカラギコが溜息を吐く。
 しかし、愚痴は漏らしても撃ち漏らしは決して生じなかった。

「……さて。」
 タカラギコが上を見上げて、プロペラ機の一つを見定めた。
 その飛行機から人影が跳躍してくる。
 手馴れた様子でそれに照準を合わせるタカラギコ。
 そのままパニッシャーのトリガーを引いて…

「『テイクツー』!!」
 タカラギコが目を見開いた。
 タカラギコの放った銃弾を、掛け声と共に飛来する人影から現れた人型のビジョンが
 その腕で弾き飛ばしたのだ。

「…!スタンド使い!」
 舌打ちをするタカラギコ。
 さらに引き金を絞りその人影にパニッシャーを乱射するも、
 その悉くを人影は弾き返す。

「!!!!!」
 人影が『フリーバード』の甲板に着地した。
 飛び移って来たのは二人の男。
 黒いスプリンタースーツの男と、それに背負われた小柄な男。
 そう、福男とヒッキーである。

「!!!!!」
 そのまま、福男は近くのサカーナへと向かって突進した。
「サカーナさん!」
 タカラギコが、サカーナに向かって叫ぶ。

「『テイクツー』!!」
 福男がサカーナに向かって自身のスタンドを繰り出した。

「『モータルコンバット』!!」
 サカーナがスタンドを出現させた。
 しかし、もう既に福男の『テイクツー』の右腕は直前まで迫り―――

582ブック:2004/06/13(日) 01:18


「!?」
 福男は驚愕した。
 完全にサカーナを捉えたと思われた彼のスタンドの右腕は、
 サカーナに命中しなかったのだ。
 それどころか、彼の打ち出した腕が180度折れ曲がる形で目の前の空間から出現し、
 逆に彼に襲い掛かる。

「なっ!?」
 咄嗟に福男が飛びのき、寸前で彼の拳をかわす。
 すぐさま自分の腕を確認したが、特に変わった様子は見られない。

「…それが、急襲用迫撃射出錨の向きを変えた能力か。」
 福男がサカーナを睨む。
「当たり。
 どういう原理かは、自分で考えるこったな。」
 サカーナが得意げに答える。

「…いいのか?
 そんなにのんびりしていて。」
 福男がそう口を開いた。
「ああ?
 一体何の話だ…」
 そこで、サカーナがようやく何かに思い当たったのかすぐさま後ろに振り返る。
 するともう彼の目前にまで、
 『紅血の悪賊』の戦艦から発射された急襲用迫撃射出錨が迫っていた。

「おわァ!?」
 サカーナが情けない声を上げながら『モータルコンバット』を発動させる。
 直角に進路を折り曲げ、スレスレでサカーナとの直撃を回避する。

「貰った!『テイクツー』!!」
 その隙をついて、福男が再びサカーナへと突撃した。
「しまっ…!」
 急襲用迫撃射出錨をかわす事に完全に気を取られていたサカーナには、
 迎撃の態勢が整っていない。
 タカラギコも、空から来る吸血鬼達を撃ち落すのに手一杯である。

「!?」
 今度こそ福男のスタンドの拳がサカーナに当たるかと思われたその時、
 いきなり福男の足元の床に円形の亀裂が走った。
 それにより、福男とそれに背負われたヒッキーが居る場所の床が抜け落ち、
 二人は切り抜かれた床板と共に『フリーバード』船内に落下する。

「なっ!?」
 思わず驚きの声を出す福男。
「悪いが、上の奴の邪魔をしねぇでくれるかなフォルァ。」
 驚く福男に、ニラ茶猫が声をかけた。
 その右腕からは、『ネクロマンサー』によって作り出した刃が生えている。
 先程はこれで、福男の足元の床をくりぬいたのだった。

「貴様…!」
 福男がニラ茶猫に向かって構える。

「モウヒトリイルヨ…」
 と、福男の背中のヒッキーが呟いた。
 見ると、オオミミが福男とヒッキーをニラ茶猫とで挟む形で立ちはだかっている。
 その横には、『ゼルダ』の姿が出現していた。
「コッチノオトコハボクガシマツスルヨ…」
 ヒッキーは福男の背中から降りると、愛用らしきライフルをその手に担いだ。

「そうか、任せた。」
 背中合わせの状態で、福男が答える。

「……」
 一瞬の沈黙。
 互いが、視線や構えで互いの相手を牽制し合う。
 しかし、それも長くは続かなかった。

「『ゼルダ』!!」
「『ショパン』!!」
 オオミミとヒッキーが跳ぶ。

「『ネクロマンサー』!!」
「『テイクツー』!!」
 それと同時に、ニラ茶猫と福男が激突するのだった。

583ブック:2004/06/13(日) 01:18



     ・     ・     ・



 時を同じくして、山崎渉の乗る艦の左側に位置する戦艦。
 その甲板で警戒態勢を取る兵士の何人かが、夜空より来る黒い影をその目に捉えていた。

「…!?
 何だ、あれは!?」
 その影を指差し、兵士達は銃を構える。
 そんなこんなしているうちにもどんどん影は近づき、その輪郭を顕にしていった。
 それは、大きな黒き翼だった。

「!!
 撃てーーーーー!!」
 掛け声と共に、その黒き翼に向かって銃弾が放たれる。

「!!!!!」
 しかし銃弾が命中する寸前に、その大きな翼は無数の小さな翼へと姿を変えた。
 そして兵士達は見ていた。
 翼が飛散する直前に、一つの人影がその背から飛び出していた事を。

「!!!!!!」
 ストンと、一人の女がその艦上へと着地した。
 あれだけの高さから、あれだけの速度で飛び移ったにも関わらず、
 まるで手品のように、優雅に、ストンと。

 輝くような金色の髪。
 血のように赤い瞳。
 透き通るような白い肌。
 黒を基調とした、艶やかなドレス。
 そしてそのような出で立ちには凡そ似合わぬ、無骨で巨大で凶悪な得物。
 その姿が、月明かりに照らされ更に美しく彩られていた。

「…退け。
 これ以上の暴挙は、この儂が赦さん。」
 女が短く兵士達に告げる。
 薄くルージュのかかった少女のような唇とは裏腹、
 そこから紡がれる言葉は冷たく、鋭い。

「貴様…!
 貴様は!!」
 兵士達が女に向かって一斉に銃を構える。

「貴様は、『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』!!!」
 逃げ場の無い位に向けられる銃口。
 しかし、ジャンヌはそれでも微動だにはしなかった。

「もう一度言うぞ。
 退け。
 同朋は、斬りとうない…」
 『ガンハルバード』を左手に持ち、ジャンヌが言った。

「同朋!?
 言う事に欠いて何をぬかすか、『同族殺し』(ガンハルバード)!!
 腰抜けの女王に首輪を繋がれた雌狗め!!」
 憎しみの込められた視線が、銃口と共にジャンヌに突きつけられる。
 最早、いかなる言葉もそこでは意味を成さなかった。

「馬鹿者共が…!」
 ジャンヌが歯を喰いしばりながら、
 二つ名を冠する得物(ガンハルバード)を構える。
 その顔には、悲痛な表情が浮かべられていた。



     TO BE CONTINUED…

584新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:05
ネーノが大好きだったんで、ネーノ番外編勝手ながら書かして貰いましたー
(設定が違ってたりしたらニダーさんヨロスク)

〜NENO〜

―出会い編―

腹が空いた。もう時間の感覚さえない。
昨日、人を襲った。食い物を持ってなかったから体を食ってやった。
不味かった。矢張り無茶して食べる物じゃないか・・。
ココは・・ドコなんだ?そして今・・イツなんだ?

――貧民街。
俗にそういわれる街に俺は住んでいた。
どうしてココに居るのかわからない。
物心ついた時からココにいる。
もう何人人を殺したろう。・・覚えられる数は越したろう。

「お・・おい!ぼ・・ぼぼぼ・・坊主コラァッ!」
浮浪者の男がボロっちいコートを抱きかかえ、包丁を持ちながらコッチを睨み、叫んだ
「オッ・・オレッチのコートをぎ・・ぎ・・盗(ぎ)ろーったって!そうはいかねーぞッ!」
男は錯乱していた。まぁいつもこんな感じにワケのわからない因縁をつけてくる野郎が居る。

「邪魔・・」
ポツリとつぶやく
「ああッ!?聞こえねェよォ――!」
狂いながら包丁を振り下ろす男。
「邪魔だってつってんじゃネーノ?」
俺が手を振り下ろすと男の右腕が消える

「GYAAAAAAAAAAAAA!HYYYYYYYYYYYYYY!」
男はガタガタ震えながら叫び、腰を抜かす
「オレッチの・・腕が・・腕がァァァァ・・HYYYYYYY!」
しかし男の右腕がなくなるのと同時に、俺にも複数の穴がボツボツと空く
そして痛みが襲う。だが気にしてる暇なんて無い。俺の意思でしまえる『物』でもないしな・・。
「キ・・キッサマァァァァッ!」
男の目は変な方向に向いている。相当錯乱しているのか。

『ブーン』と羽音がした後に男の頭部が消え去った。
男がその場に崩れると、更に体が消え去る。
体がなくなるのを確認する前にひたすら走る俺。
このままじゃあ、俺まで『食われる』。まぁもう慣れっこだがな。

俺が走ってる途中に見えた人々は皆吹き飛んでいく
頭とか、腕とか足とか、胴体とか、目とか。色々。
そして500mくらい走りきった地点で『奴ら』が消える。
満腹になったのだろう。

疲れきった俺はその場にへたりこむ。
・・・・こんな事もう日常茶飯事だ。
だが、あの日だけは違った・・・。
俺が『あの人』と出会った『あの日』だけは・・。

585新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:06
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・・腹が減った。そう想い腹を押さえながら歩いていると前から人がやってきた。
真っ白なローブで包まれている茶色い毛が生えたギコ。
ローブに身を隠しているがそのローブは真新しく高級品だ。
貧民街の連中になりつくそうったってそうはいかねぇ。間違いない。コイツは
――外から来た人間だ。

「SYAッ!」
俺はソイツに襲い掛かる。
だが華麗な身のこなしでよける男。
ム・・流石『外』の連中・・浮浪者どもとは身のこなしが違う。
・・だが、それだけじゃあ無いな。

「フム・・。どうやら血の気の多い奴は矢張り居るらしいな・・。」
『外』の人間はふぅ。とため息をついて身構える
見た事の無い特殊な構え。一体・・?

「妙な構えとったって・・無駄なんじゃネーノォッ!?」
俺は一気に突っ込んで行く
「ただ道として通り抜けたかっただけなのだがな・・。」
次の瞬間俺は驚愕する

背の高い男・・いや、顔についている画面状の物に『TO』と表示され、本体と酷似した外見をし、手の長い物体。
そいつに首根っこを掴まれているのだ。
「・・体中の水分を吸い込まれるのと、体の水分量を増やして内部から爆破されるの、どっちが良い?」
男はニヤリと微笑みながらつぶやく。
馬鹿な。何を言い出すのだコイツは!?

「くそッ!コイツの手を・・離しやがれェーッ!」
『奴ら』を出現させる俺。
無数の穴が男の手に空いていく
「何ィッ!?ば・・馬鹿なッ!貴様も・・『スタンド』をォッ!?」
男はバク宙しながら4〜5歩分間合いを取る

「アァ?『スタンド』何を言ってるかわかんないんじゃネーノッ!?」
こうしている間にもあの男の体にはボツッボツッと穴が空き続けている
しかし平然とする男。
馬鹿な。
何故そんな涼しい顔して立っていられるのだ。

「フム・・軍隊型の虫で遠距離操作型と見たが・・精密動作性は低い様だな。俺の頭を一撃で食い尽くさず、それで居てお前は距離をとっている。
きっと近づくとお前も食われてしまうのだろう。」
見事に当てる。
だが何を言っているのだ?全くわからん。
「まぁこの程度じゃあ・・僕は倒せんよっ!」
男が体中に力を入れると『奴ら』が吹っ飛んでいく。
ありえない程の血管が男に浮き出て行く。

586新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:07
「ハァァァァァァッ!」
アドレナリンが多量に出ているのだろうか。
出血が一瞬で止まる。
だが、甘いな。そんな風に『奴ら』を退けると・・『闘争本能』に火をつけるぜ。

俺の予想通り男に突っ込んでいく『奴ら』。
しかしその一撃は奴の背後に居る者にさえぎられる。
とてつもないスピードで全匹掴まれた。驚異的スピード。だがソレはあの背後の者のスピードではない。
奴の方だ。あのローブの男・・奴のスピードに背後の者は合わせたのだ。

「どんなに速く・・顎が強かろうが・・たかが虫。流石に人の拳を遮るほどのパワーは無い様だね・・?」
微笑む男。
「クソッ!いけすかんッ!その笑顔・・食い尽くしてやるんじゃネーノッ!」
まだ数百匹残っている『奴ら』ならアイツの顔くらい貫ける。
あのスカし顔を二度と見ない様にさせてやるよォッ!

「これだから若い奴は血の気が多くていかんな・・。」
ククッと笑う
「おい坊主っ!無駄に本気を出すなよっ!・・こちらも本気を出しかねん。」
今までとは全く違う真剣な表情で、それでいて地を這う様な低い声で言う。
「黙りやがれッ!その口も聞けない様にしてやるんじゃネーノォッ!」
負けじと相手を指差し威嚇する俺

「んじゃあ口が聞けなくなる前に聞いとこうかな?坊主っ。お前・・名は?」
「ネーノ・・ネーノだッ!」
男はうつむき、少し微笑むと
「俺の名は『トオル』っ!超巨大掲示板サイト『2ちゃんねる』の支配者ひろゆき様の親衛隊であるッ!」
指を指してくる男

「『ディープ・ウォーター』・・。乾き尽くせッ!」
・・名前。そうだ。俺も奴らに『名前』を・・
「・・インセクト・・『インセクト』ッ!アイツを・・あのスカし顔を・・くらい尽くすんじゃネーノッ!」
今思えば、最悪で最高の出会いだったのかもしれない・・。
『トオル』さんとの『出会い』は・・。

TO BE CONTINUED

587丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:24


  ―――――全て…いや、ある一点を除けば全て計算通り。

 希薄な意識の中で、ゆったりとそう考える。
全くもって、忌々しい。あの道化どもがいなければ、今頃は王座で高笑いできただろうに。

 …いや、しかし問題はない。既に力は手に入った。駒も動いてくれる。布石もばらまいた。
二十年近い歳月をかけた計画…今さら遅れようと、さしたる苦でもないだろう。

 しかし、主よ。
貴方は私を従えて世界を手に入れた後…何をする気だったのだろうな。
最後の最後まで、私の主はそれを話してはくれなかった。

 今になっては解らない。結局のところ、主は誰も信用してはいなかったのだろうか。

 それも寂しい物だな、と薄く笑い、まだ再生しない右手に力を集めながら眠りについた。

588丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:25





  同時刻―――日本。

 空港で、二人の少女とガリガリに痩せた男がスーツケースの上に座っていた。
二人の少女はとても似た顔立ちをしていたが、片方はどこか焦点の合わない目で虚空を見つめている。
 それでも、二人は仲がよさそうに肩を組んでいた。

「ねぇ、キキーンのおじさん?いいよねぇ、『ディス』の御大は。税関のあの待ち時間ナシで通れるんでしょ?」
 痩せた男に向けて、少女が話しかける。
「何…シャム。これが、分相応、と…言うものだ」

 痩せた男が答えた。不健康そうな、かすれた声。
「上を見れば…キリは、ない。旨い…飯が、食える…それだけ、で…満足する、のが、幸せだ」
「…ま、それも一つの真実…かな?ねぇ、お姉ちゃん」

 返事はない。隣の少女はただ虚ろに、そして幸せそうに笑っていた。
「あ、みんな来たみた…い…」
「ックク…怪しげ…だな。通、報…されても、文句は、言えない…」

 引きつった表情の少女にそう言うと、ベンチに座ったまま歩いてくる集団に手を振った。
種族も性別もバラバラだが、半数を超える人間がコートをしっかりと羽織っている。
 残りも顔中に包帯を巻いていたりサングラスにマスクをしていたりと、とんでもなく怪しい。
大勢の旅行客でごった返すロビーの中、彼等の周りだけぽっかりと空白地帯が作られていた。
 こっちだ、と手を振る痩せた男に気付き、集団がこちらへ歩いてくる。
                               エクス
「お待たせ。途中で取り調べ受けちゃってさ…御大と『X』は?」
「VIP待遇、で…先に、行った…よ」
 顔面を包帯でぐるぐる巻きにした女に答える、痩せた男。

 不健康なその声を、異様に背の低い男が妖しい色気を含む声で笑った。
「うふふふ…僕みたいな奴でも無いのに相変わらず物が食べられないようだね」
「黙れ…糞眉」
「しかしねぇ…シャム?何でまたこんな極東の島国に呼びつけたんだ?」
「そうだよなぁ。SPMへの復讐にしたって、もそっとでっかいトコ潰した方が良いんじゃないか?」
 コートを羽織った二人の少女が、男じみた口調で言った。
二人とも、片方の袖がぷらぷらと揺れている。

589丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:26

「甲ちゃん乙ちゃん…サラウンドで文句を垂れるものではありませんよ」
 二人の少女をぽんぽんと撫でながら、角帽にコートの男がたしなめる。
「…しかし気になりますね。私達は、本部を派手に潰す実力も有しているのに…」
     ウラギ
「ええ、浦木さん…『ディス』御大きっての希望なの。ここには、彼がずっと求めていた…『変動因子』がいる」
 ざわざわと、集団にどよめきが走る。


  吸血鬼と波紋使いの間で生まれた変わり種。

  才能もなしに『矢』の洗礼を受けながら、生き長らえる、可能性のジャグラー。
                      運 命 の 歪 み
  常に確率論を無視し続ける、『ディスティニー・ディスティネーション』。
                         トリックスター
  我等の御大がずっと探し続けてきた『変動因子』がここにいる―――――!


「SPMの奴らが隠蔽してたんだけどね。とうとう見つかったらしいよ。今もッパさんが動いてるみたい」

 その言葉に、サングラスとマスクの少女が首を傾げる。
「…けど、腑に落ちないね。それにしたって、 私達が雁首をそろえる程の事じゃないよ?
  トリックスター                                 エクス
 『変動因子』の確保なら御大の『エタニティ』だけで、復讐にせよ、『X』の『エデン』だけで充分でしょ?」

「メクラ…裏、2ちゃんねる、くらい…見ておけ…いや、無理…だった、な。仕方、ない。説明、して…やろう。
 茂名王町の…スタンド、使い…を…増やして、いる…『矢の男』が…進化、した。御大は…彼も、倒す、つもりで…いる…」
「うむ、我等も見ましたぞ。世界征服を企んでいるそうじゃな。
 確か<インコグニート>と言うたか… 『名無しさん』じゃな。 あんなの、デマじゃ無かったんですか?」

 足下まであるロングコートを着た男が、どこかバラついた声で言う。
「ええ。本気だそうだ。世界征服だろうが何だろうが、それは私達をも縛るかもしれない。
 私達『ディス』の目的は、ただ自由である事だけ…だから、それを妨げようとする奴らは…潰す」
「そう…全ては…我等、『ディス』御大の、為…行くぞ」
 一同が頷き、とんでもなく怪しい集団はぞろぞろと空港を後にした。

590丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:27






 …日本、茂名王町、診療所への帰り道。舗装のされていない道路のそばには、綺麗に手入れされた竹林が広がっている。
そっ、とB・T・Bを具現化し、しぃの心臓に何発か打ち込んだ。
「はにゃ…っ、ぁん」
 色っぽい声を上げて、かくん、と首が折れる。
五感までが完璧にシャットアウトされた、これ以上ない程の熟睡状態。
  B ・ T ・ C
 静寂のビート…これで、揺すぶろうがひっぱたこうが水をぶっかけようが、何があっても当分は目を覚まさない。
くるりと振り向いて、後ろを歩いていたッパと目を合わせる。
   ツ
「…尾行けてるのは判ってるよ。おじさん」
 その言葉に、がさがさと竹笹を揺らしながらッパが顔を出した。
「あっしは三十五…まだまだ華の三十代なんですけどねぇ」
「四捨五入すれば立派におじさんでしょ。…で、何かご用?」

 ゆらり、とッパの背後にある空間が蜃気楼のように揺らめいた。

「人違いじゃ困ることなんで…茂名・マルグリッド・ミュンツァー君…で、よろしいですね?
 あっし等の御大の命令でね。アンタのことを生け捕りにさせて頂きやす。
 殺しゃしませんから、大人しく捕まって頂きたいんですが…」

 上唇をぷるぷると指で弾きながら首を傾げるッパを、鋭い目つきでにらみ据える。
「…ヤダ…って言ったら?」
「変わりやせんねぇ。無理矢理連れてきます」
 揺らぎが広がり、形を作る。筋骨逞しい人型のヴィジョン。
「『プライベイト・ヘル』ッ!」


                 B ・ T ・ H
 太陽はまだ高い。ここで情熱のビートでも使おうものならこんがりと焦げついてしまう。
隣には車椅子のしぃがいる。今逃げても、診療所に着く前には追いつかれてしまう。

―――やるしか、無いか…!

すっ、とポケットにある『ジズ・ピクチャー』の写真を三枚取り出した。

 一つは太くて長い化け物みたいなリボルバー、二つはプラスチックの玩具みたいなオートマチック。
SPM謹製、454カスール弾使用の化け物拳銃『セラフィム』と、38口径弾使用の低反動拳銃『ケルビム』。

 二丁の『ケルビム』をB・T・Bに放り、マルミミは『セラフィム』を腰だめに構える。

591丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:29



 狙いを付け、引き金を絞り―――「うぁ痛ぁーっ!」爆音と共にかなり明後日の方向へ着弾した。
考えてみれば当然だろう。銃などセイフティの外し方と弾込めくらいしか習っていない。
銃の撃ち方は知っていても、弾の当て方などは知らなかった。

 その上、この化け物みたいなリボルバー『セラフィム』は454カスール弾使用。
パワー狂の銃器マニアが道楽で撃つような物で、こんな物を実戦で使う奴はまずいない。
普通はパワー型のスタンドに撃たせるような代物で、生身の今なら肩が外れないだけ大したものだろう。

「痛った〜…!」

 ジンジン痺れる掌をさするマルミミに構わず、B・T・Bが両手の『ケルビム』を連射する。
反動を極限まで抑えてあるため、B・T・Bの細腕でも十分に扱えた。
(流石SPM 、イイ 仕事ヲ シテ イマスガ…)

(丸耳の坊ちゃんは銃に慣れてない…スタンドの銃弾はあっしでも充分に防げる)

 銃を乱射するこちらに構わず、悠々とッパは距離を詰めてくる。
だが、問題は無い。
 もともと銃弾だけで倒せるなどとは、露ほども思っていなかった。

 『生命のビート』を分析するための、時間稼ぎができればいい。
両手の『ケルビム』を放り捨てた。伝わってくる『生命のビート』に干渉させるため、生命エネルギーを拳に集める。

 サ・ノ・バ
「Son・of・a…」

 そして、ッパの足が『一メートル』のラインを超えた。
ビ――――ッチ
「Biiiiitcccch !!」
                    B ・ T ・ C
 神速のラッシュ。狙い違わず『静寂のビート』の拳は、全てッパの胸へと突き刺さり…

592丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:29

「悪いね」

 完璧に心臓を止められた筈のッパは、何事もなかったかのようにスタンドを動かした。

「ナ…ッ!」

 一瞬の驚愕。B・T・Bが全ての動きを止めていることに気付く間もなく、とん、とマルミミの胸に軽い衝撃。
「え…?」

 視界が暗転する。息が苦しい。
肺で吸収された酸素が、身体に運ばれていかない。
意識が遠のき、地面へとへたり込む。

「坊ちゃん…スらせて貰ったよ」

 びくん、びくん、と『プライベイト・ヘル』の掌で蠢く肉塊。
おじいちゃんの医学書に載っていた。握り拳くらいの大きさで、永遠に疲れることのない器官―――

「心…臓…ダトッ!?」
「っこの…!返…!」
「悪いね…坊ちゃん」

 鳩尾に衝撃。スタンドを使わずに、ッパの右拳がめり込む。
そのままぐったりと倒れ込み、マルミミの意識はぷっつりとそこで途切れた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

593丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:31

〜丸耳達のビート・オマケ劇場〜

                   『黄昏』

          ___
         /    \
        |/\__\ ズズッ
       ○  ( ★д)コ ∩
           ( ⌒Y⌒) /
             \ /
              V
                    ∩_∩
                   ( ´−`) 旦~
                   / ============= 
                  (丶 ※※※※※ゞノ,)

      じっと、考える。B・T・Bの帽子の中身を。


① 丸耳
             ∩_∩
           ( ★∀T)<ンフフン。
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
   確かに僕の母さんも丸耳だったし、かなりあり得る。



② 猫耳
             ∧_∧
           ( ★∀T)<ハニャーン♪
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
    いやしかし、スタンドが必ず本体に似るとは限らないよね。

594丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:32

③ アフロ…と言うかパーマ?

           (⌒⌒⌒⌒)
           (        )
           (( ★∀T))<ォゥィェ
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
    やっぱりピエロだし、もこもこヘアーなのか?



④ 三倍角
                 /|
              //
           ( ★∀T)<足ナド 飾リデス
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
     …いや、赤いし、速いし、足無いし…



⑤ ハゲ
            +  +
           +/ ̄\+   サノバビ――――ッチ
         Σ∩( ★ДT)∩<Son・of・a・Biiiiitcccch!
          ヽ( ⌒Y⌒)/
             \ /
              V
     …………………………………………。



          ___
         /    \
        |/\__\
       ○   (;★∀T)<アノ、何カ?
           ( ⌒Y⌒)つ旦
             \ /
              V
                    ∩_∩ ヤッパ ハズスノ ヤメトコ…
                   (´д`;) 旦~
                   / ============= 
                  (丶 ※※※※※ゞノ,)

             …どれも微妙にキモイ…ッ!


                                                     続かない。

595:2004/06/13(日) 19:12

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その8」



          @          @          @



 『フィッツジェラルド』のヘリ整備員は、空を見上げていた。
 空を埋め尽くす程の航空機、そして降下してくる吸血鬼。
 その中で、1機の黒いヘリが縦横無尽に駆けていた。
 あれは、『ブラックホーク』。
 多くの国の軍隊で採用されている、優良な汎用ヘリコプターだ。

 どれだけ性能のいいヘリでも、戦闘機を敵に回せばひとたまりもないはず。
 だが、そのブラックホークは違った。
 海面スレスレの超低空飛行で、巧みに敵ミサイルのホーミングを逃れている。
 戦闘機の死角を熟知し、低空に占位している。
 そして、対地ミサイルであるヘルファイアを降下中の吸血鬼に命中させている。
 あのヘリは一体…
 我がASAのヘリではないし、自衛隊のものでもないようだが。

 しかしそれだけの神業でも、敵数の多さには抗えなかった。
 囲い込むように発射されたサイドワインダーの直撃を受け、たちまちのうちに炎上したのだ。
 いかに耐弾性が重視されたヘリといえども、ミサイル相手ではひとたまりもない。
 そのままブラックホークは海面に突っ込むと、水没していった。

「…」
 ヘリ整備員は、海面を眺める。
 だが、他人の事を心配している余裕はない。
 この艦が沈むのも時間の問題なのだ。

 がっしりと甲板の柵を掴む手。
「!?」
 それを直視して、ヘリ整備員は驚愕した。
 海から、何かが這い上がってきたのだ。
 あれは… ぃょぅ族の男?

 そのまま、ズブ濡れのぃょぅは甲板に上がってきた。
 口から水をピューと噴き出す。
 そして、ヘリ整備員の方に視線をやった。
「ぃょぅ!」
 シュタッと片手を上げるぃょぅ。

「…ぃょぅ」
 ヘリ整備員は、困惑しながら挨拶を返す。
 ぃょぅは甲板に置いてあるV−22・オスプレイに目をやった。
 ヘリと航空機の性能を合わせ持った、ASAの誇る機体だ。
 スタスタと歩くと、オスプレイの操縦席のドアに手を掛けるぃょぅ。

「あっ、ちょっと…」
 ヘリ整備員は、慌ててぃょぅに声を掛ける。
「この機体、武装はされてるのかょぅ?」
 ぃょぅは、ヘリ整備員に視線をやって訊ねた。

「あ、はい。しぃ助教授が、アパッチと同程度の武装は備え付けろとおっしゃったので…
 って、あの… ちょっと!!」
 ぃょぅはヘリ整備員の制止にも耳を貸さず、オスプレイに乗り込んだ。
 このオスプレイは、ASAにも1機しかない機体だ。
 そして、しぃ助教授のお気に入りでもある。
 この機に何かあれば、責任者である自分はどんな目に合わされるか…

「ちょ、ちょっとッ!!」
 ヘリ整備員は、オスプレイに飛び乗った。
「…整備員が同乗してくれると助かるょぅ」
 操縦席に座って、ぃょぅが言う。

「そういう事ではなくてですねぇ…!」
「離陸するょぅ」
 ぃょぅは、操縦席に並ぶパネルを操作した。
 オスプレイの機体が、ゆっくりと浮かび上がる。

「操縦性も優良、良い機体だょぅ」
 ぃょぅは満足そうに言った。
「…それはどうも」
 ヘリ整備員は肩を落とすと、副操縦席に力無く腰を下ろした。

596:2004/06/13(日) 19:14



          @          @          @



 『教会』の新鋭原子力空母『グラーフ・ツェッペリンⅡ』。
 その甲板上に、枢機卿は立っていた。
 周囲を護衛するように、機関銃・MG42を手にした軍服の吸血鬼5人が控えている。
 そして、その眼前にメガネを掛けた男が片膝をついていた。

「…『解読者』、報告は受け取った」
 ほとんど乾いたSS制服の襟を正して、枢機卿は言った。
「はっ。『Monar』より、奪い返した『矢』はここに…」
 『解読者』は丁寧な口調で告げると、古めかしい『矢』を差し出す。

「ふむ…」
 枢機卿は『矢』を受け取ると、懐に仕舞った。
「残る『矢』は、『アルカディア』によるコピーか。確か『異端者』が所持しているという事だが…」

 『解読者』は片膝をついたまま視線を上げた。
「『異端者』や『Monar』及びその仲間の反撃は激しく、我々といえど無傷で殲滅は不可能と判断しました。
 こちらに死者がでる可能性がある以上、私の判断で事態を展開させる訳にもいかず…」
「お前が丁寧な口調を使っていると、何かを取り繕っているような感じがしてならんな…」
 枢機卿は冷薄な笑みを浮かべると、『解読者』の言葉を遮った。

「…御冗談を。それほど不遜ではありませんよ」
 『解読者』は静かにメガネの位置を直す。
「とにかく、『異端者』側の勢力も無視してはおけません」

「…そういう訳らしいな、山田殿」
 枢機卿は、背後に控えている山田に話を振った。
 彼の手にしている青龍刀は、今までとは異なる形だ。
 普段愛用している『青龍鉤鎌刀』は、どうやら破壊されてしまったらしい。

「…私が相対した少年は、類稀なる武芸を誇っていた」
 山田は静かに告げた。
「あれを討ち取るのは、そこらの吸血鬼では困難であろう」

 それを聞いて、枢機卿は顎に手をやる。
「ふむ… 山田殿がそうまで言うのなら、『異端者』側も相当にやるのだろうな」

「はい。 …そういう訳で、『異端者』追討はなりませんでした」
 言いながら、『解読者』はゆっくりと周囲を見回した。
 『ロストメモリー』の面々は、艦上で思い思いの行動を取っている。
 こちらを注視している者、風景を眺めている者、横たわって眠っている者…

「…では、次の任務は後ほど言い渡す。しばらく休むがいい」
 枢機卿はSS制服の裾を翻すと、背を向けて告げた。
「はっ…!」
 『解読者』はうやうやしく頭を下げる。
「…ですが、1つ伺いたい事があります」

「…何だ?」
 枢機卿は背後を向いたまま、『解読者』の方に視線をやった。
 『解読者』は少し間を置いた後に口を開く。
「我等が『教会』は、吸血鬼を殲滅することを目的とした機関。
 何ゆえ、その『教会』が吸血鬼を製造するのです? 納得できる回答を伺いたい」

 枢機卿は僅かに笑みを見せた。
 呆れたようにも受け取れる。
「『解読者』ともあろう者が、愚かな事を…
 元より吸血鬼を悪魔的、異端的なものとして捉えたのは、『教会』が絶対正義を行使する為であろう?
 神の楽園を守る為、汚れた者は排除する。分かりやすい物語こそ、大衆は必要とするのだ」

 『解読者』は視線を上げた。
 枢機卿の目をまっすぐに見る。
「千何百年もの間、人心を支配する為の… 方便に過ぎなかったとおっしゃられるのですか?
 そこに信仰心など欠片もないと?」

597:2004/06/13(日) 19:14

「フフ…」
 笑い声を漏らしながら振り返る枢機卿。
 胸の前で組んでいた両腕が、ゆっくりと下がる。
「…知れた事。信仰とは、統治の為の手段に過ぎん。
 己を十字架から降ろす事すら出来なかった男に、一体何が出来ると言うのだ…?」

「だから、自身も吸血鬼になられたという訳ですか…」
 『解読者』は、懐から何かを取り出した。
 あれは… 何の変哲もないワイングラスだ。

「ならばその御身、塵に還させて頂く――!」

 『解読者』は、そのままワイングラスを甲板に落とした。
 ガラスの破壊音が周囲に響く。

 その瞬間、5人の護衛が一斉に動いた。
 素早い動きで、枢機卿の頭部に機関銃の銃口を突きつける。
「…!!」
 枢機卿は即座に拳銃を抜くと、瞬時に護衛吸血鬼達の頭部を撃ち抜いた。
 頭を失った5人の吸血鬼が、ドサドサと力無く甲板に転がる。

「裏切るかッ! キバヤシッ!!」
 枢機卿の両耳からは、血が流れ出ていた。
 ワイングラスが割れる瞬間、自ら鼓膜を破ったのだ。

「…職務を実行しているに過ぎません。代行者は、吸血鬼を滅ぼすために存在していますので。
 強いて言うなら、裏切ったのはあなたの方かと…」
 『解読者』・キバヤシは、身を翻して立ち上がった。

 肥満した男が、素早くキバヤシに走り寄る。
 この男も『ロストメモリー』の1人であろう。
「ガァァァァァァァァッ!! この曙の前で…!」

 キバヤシは、甲板に自らの靴を強く擦り付けた。
 高い音が周囲に響く。

「なッ!!」
 曙と名乗った男の背後に、がっしりとしたスタンドのヴィジョンが浮かぶ。
 そのスタンドは、本体である曙の頭部に強烈な張り手を食らわした。
「…」
 曙の頭部は粉々に吹き飛び、その巨体は甲板の上に横たわった。
 吸血鬼といえど、ここまで頭部を破壊されては再生は不可能である。

「俺と相対した時から、既に勝負は決まっていたんだよ…!」
 キバヤシは、不様に転がった曙の亡骸を見下ろして言った。

「覚悟――ッ!!」
 山田の青龍刀が、隙だらけのキバヤシに迫る。
「させんよッ!!」
 その瞬間、キバヤシの影から1人の男の姿が浮き上がった。
 手にしている狙撃銃・ドラグノフで、青龍刀での一撃を受け止める。

「…ッ!」
 男は、その余りの勢いによろけて1歩退がった。
「大した威力だ。全ての影を一点に集めて、なお受け切れんとはね…」
 素早く体勢を立て直す男。

「…すまんな、ムスカ」
 キバヤシは男に告げた。
「礼は後にしろ! 来るぞ!!」
 ムスカは叫ぶ。

「キモーイ!」
「キモーイ!」
 酷似した2人の女学生が、キバヤシとムスカを囲むように立った。
 さらに、山田の第二撃が迫る。
 キバヤシは、懐から拳銃を取り出した。

「そのようなもので、我が斬撃が止められるかァッ!!」
 山田が咆哮する。
 ムスカの反応は間に合わない。
 その青龍刀が、キバヤシの頭部に振り下ろされる…

「退け、山田殿ッ!! ヤツの『イゴールナク』は、音に暗示を重ねる能力だッ!!」
 枢機卿が怒鳴る。
「…!?」
 だが山田が退くより、キバヤシが銃を撃つ方が僅かに早かった。

 銃声が響き、その銃弾は甲板にめり込む。
 元より誰かを狙ったわけではない。
 山田は、その銃声を至近距離で耳にしてしまった。

「…!」
 山田は素早く転進すると、女学生の1人に斬りかかる。
「…キモーイ!!」
 女学生がスタンドを発動させる間もなく、山田は女学生を斬り伏せた。
 返す刃で、もう1人の女学生の身体を両断する。

「…もらったよ、お嬢さん」
 ムスカはドラグノフを軽く回転させると、2人の女学生の頭部を撃ち抜いた。
 法儀式が施され、波紋の威力を帯びた弾丸だ。
 女学生2人の体はたちまち塵と化した。

「うぉぉぉぉぉッ!!」
 そのまま、山田は枢機卿に斬りかかる。
「くッ!!」
 枢機卿は、懐から指の間に挟んで4本のバヨネットを取り出した。
 そして、山田の攻撃を受け止める。
 青龍刀とバヨネットがぶつかり合い、激しい音を立てた。

「…さすが山田殿。我が剣術では、及ぶべくもないか…」
 枢機卿のバヨネットが4本とも砕け落ちる。
 その右腕は根元から断ち切られ、甲板の上に落ちた。
 すかさず、山田が斬りかかる。

598:2004/06/13(日) 19:15

「歯車王!!」
 枢機卿は、飛び退きながら叫んだ。
 彼の背後から、山田目掛けバルカン砲が発射される。
 完全に攻撃態勢に入っていた山田は、その弾丸を不意討ちに近い形で受けた。
「ぐゥッ!!」
 胴部にバルカン砲の掃射を食らい、山田は甲板の上に崩れ落ちる。

「行け、歯車王!!」
 枢機卿は自らの右腕を拾うと、背後に立つ円筒状の機械人形に命令した。

「…私/我々ハ排除スル。オマエ達、『教会』ニ仇ナス異端者ヲ…」
 歯車王は、ローラー移動でキバヤシとムスカに高速接近する。
 そして、胴部に備え付けられたバルカン砲を掃射した。

「機械…? あれも『ロストメモリー』かね? 過去に命を落としたスタンド使いには見えないが…
 ラピュタ王である私の前で、王を名乗るとは何事だッ!! 『アルハンブラ・ロイヤル』!!」
 ムスカは、影の盾を眼前に展開した。
 バルカン砲の弾丸は、影の盾によって叩き落される。

 その瞬間に、歯車王はムスカとキバヤシの目前まで接近していた。
 ボディーから突き出した腕部の先に、高出力のレーザーで構成された剣が突き出る。
「『デウスエクスマキナ』… 破壊/解体/殲滅ヲ実行スル…」

「機械には暗示が効かないとでも…?
 随分と俺の『イゴールナク』を過小評価しているな、枢機卿!!」
 キバヤシは懐から硬貨を取り出すと、歯車王に向けて弾いた。
 硬貨は歯車王のボディに当たり、軽い金属質の音が響く。

「…? 我ハ我ハ/我々我々ハ我々々々々々々々/々々々々々…」
 突如、歯車王は暴走を始めた。
 キバヤシとムスカをすり抜け、そのまま直進していく。
 歯車王は甲板から飛び出し、そのまま海中に没した。

「プログラムの基幹部に、何箇所かヌルポを埋め込んだ。デバッグでもしてやるんだな…」
 キバヤシは、枢機卿を見据えて言った。

 その瞬間、遥か彼方から銃声が響く。
 ――狙撃。

「…!!」
 ムスカは、頭部目掛けて放たれた弾丸をドラグノフのストックで弾き飛ばす。
「チッ! 気取られたかッ!!」
 艦橋に立って狙撃銃PSG1を構えていた男が、大きく舌打ちした。
 軍装からして、おそらく米海兵隊だ。

「ムスカ、何か言ってやれ」
 キバヤシは軽い笑みを浮かべて、ムスカに視線を送る。
「…『暗殺者』の私を暗殺しようなど、10年は早いんじゃないかね?」
 狙撃銃の男を見据え、ムスカは言い放った。

「油断するなよ、ハートマン軍曹… 『暗殺者』の異名、伊達ではないぞ」
 枢機卿は、艦橋に立つ狙撃銃の男に告げる。
「キサマ、この俺の前でソ連の銃など持ちおって…
 この、アカ野郎がッ!! クソでできた心根を叩き直してやるわぁぁぁッ!!」
 ハートマンは、艦橋から飛び降りた。

「すまんな、キバヤシ… 少し離れるぞ…!」
 ムスカはドラグノフの銃身下部にバヨネットを嵌めると、突進してくるハートマンの方向に駆け出した。

「さて…」
 キバヤシは、枢機卿に視線をやる。
 バルカン砲を食らい、倒れていた山田がゆっくりと起き上がった。
「…私は、何を…?」
 困惑した様子で周囲を見回す山田。

「…ヤツの放つ音に注意しろ。我々ならば音に暗示が含まれているかどうかを、届く前に何とか察知できる」
 枢機卿は、山田に警告する。
「了解した。もう、その術は通じんぞ…!」
 山田はキバヤシを見据えると、青龍刀を下段に構えた。

「ここで我々全員を討ち取るつもりか…?」
 枢機卿は両袖から拳銃を抜くと、キバヤシに訊ねた。
 その右腕は元通り再生している。

599:2004/06/13(日) 19:15

「そんな面倒な事はしない。…ただ、この空母を沈めるだけなんだよッ!!」
 キバヤシは指を鳴らした。
 彼の影から、ヌケドときれいなジャイアンが飛び出す。
「影の中に息を潜めていたか…!」
 枢機卿と山田は素早く飛び退いた。

 奇抜な衣装とメイクで身を固めた男が、ゆっくりと前に出る。
「頼んだぞ、ヌケド…!」
 黄色い背中に声を掛けるキバヤシ。
 ヌケドは軽く頷くと、大きく両腕を広げた。
「『カナディアン・サンセット』… 表へ出ろ」

 ヌケドの声と共に、海面が大きく隆起する。
 海は波立ち、空母が大きく揺れた。
 ゆっくりと、海中から何かが…

「クマ――――!!」
 咆哮とともに、海中から80mはある大きさのクマが姿を現した。
 そのクマは甲板に並んでいた飛行機を掴み上げると、無造作に枢機卿の方向に放り投げる。
 機体は甲板に激突し、小規模な爆発が起きた。

「くッ…!!」
 枢機卿は素早く飛び退き、爆発から逃れる。

「クマ――――!!」
 さらに、クマは甲板に爪を叩きつけた。
 破壊音が響き、甲板に爪跡が刻まれる。
 その衝撃で、空母の艦体が大きく傾いた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁッ!!」
 ヌケドは甲板を転がり柵に激突する。
 そのまま柵を乗り越え、海中に没するヌケド。

「クマクマクマ――――!!」
 さらに、クマは爪を何回も艦体に叩きつけた。
 甲板が無惨に凹み、さらに激しく空母が揺れる。
「相変わらず、こっちの被害もお構いなしだな…」
 揺れる艦体によろけながら、キバヤシは呟いた。

「…『ビスマルクⅡ』、あのクマを潰せ」
 枢機卿は無線機で指示する。
 10Km離れた位置で航行していた『ビスマルクⅡ』から、トマホーク巡航ミサイルが発射された。
 その数、30発。
 時速900Kmで、『グラーフ・ツェッペリンⅡ』を攻撃しているクマに向かって飛来してきた。

「ボクは『音界の支配者』…」
 きれいなジャイアンが、ギターケースからギターを取り出す。
「…『クロマニヨン』!!」

 周囲に奇妙な高音が響き渡った。
 クマ目掛けて飛来してきたミサイルが、次々に空中爆発する。
 一瞬の間に、30発のトマホークは全て空の塵となった。

 きれいなジャイアンは口を開く。
「ミサイルの起爆について勉強しよう。
 ミサイル先端の信管から放った電波は、目標物に当たって反射するんだ。
 この時、ドップラー効果によって周波数が変わるんだよ。
 この急激な振動数の違いを探知し、信管が作動するんだ…」

 きれいなジャイアンは、目を輝かせて涼やかな微笑を浮かべた。
「このドップラー効果を、同周波数で擬似的に発生させてやれば…
 ミサイルは目標物に当たったと錯覚するんだよ。ボクが今やった通りさ」

「なら、お主を斬れば済む話だ…!」
 山田は青龍刀を下段に構えると、大きく踏み込んだ。
「無理だよ。ボクの超広帯域空気振動は、絶対に避けられない…」
 ギター型のスタンド、『クロマニヨン』から強力な振動波を放つきれいなジャイアン。

「…!!」
 山田は、素早く青龍刀を甲板に突き立てる。
「――『極光』、壱拾番『月妖』!」
 一瞬の光の後、その手には華美に装飾された大型の横笛があった。
 それを素早く口許に当てる山田。
 『月妖』から放たれた美しい旋律が、『クロマニヨン』の超広帯域空気振動を掻き消す。

「避けれなくとも、中和することは出来たようだな…」
 『月妖』を手許で回転させ、山田は言った。

「…すごいなぁ。ボクのスタンド能力を防ぐなんて」
 きれいなジャイアンの爽やかな笑みが、少しだけ崩れる。
「武人とて、雅楽を解さないという訳でもないのでな」
 山田は、きれいなジャイアンを見据えた。

 空母が再び大きく揺れる。
 クマが空母に膝蹴りを見舞ったのだ。
「さて、この空母… 『カナディアン・サンセット』の前でいつまで持つかな…?」
 キバヤシは揺れる艦に立って言った。
 それに対し、枢機卿は冷たい笑みを見せる。
「特に問題はない。私が呼んだのは、トマホークだけではないのでな…」

600:2004/06/13(日) 19:16

 遥か彼方から高速で飛来する影。
「あはははははははははハハハハハハハハハァァァァァッ!!」
 それは、笑い声を上げながらクマにぶち当たった。

「クマァ――――ッ!!」
 飛翔物の直撃を腹に食らったクマは、大きく吹っ飛んだ。
 轟音を立てて海面に激突するクマの巨体。
 水飛沫が巻き上がり、大きな津波が発生する。

「やれやれ、今度は怪獣退治か…」
 美しい蝶の羽を翻し、空母の上に浮遊するウララー。

「…クマッ!!」
 クマが起き上がろうとする。
「今は冬だッ!! クマは大人しく冬眠してなァッ!!」
 ウララーの『ナイアーラトテップ』から、虹色の光が幾重にも迸る。
 その直撃を受け、さらに吹き飛ぶクマ。

「ハハッ…! どうだどうだどうだァッ!!」
 狂声を上げながら、鮮やかな光を周囲に照射するウララー。
「ク、クマ――――ッ!!」
 光を浴びてよろけながらも、クマはウララーに突進する。
「な…ッ!」
 そのまま、クマはウララーの身体を掴んだ。

「クマ――――ッ!!」
 そして、渾身の力を込めてウララーをブン投げる。
「うおおおおおおォォォォォォッ!!」
 ウララーの体は、凄まじい勢いで海面に叩きつけられた。


「…戦いに巻き込まれては敵わん。ただちに、この場から離れろ。
 進路は… そうだな、ASAの艦艇の方向だ」
 枢機卿は、無線機でCICに指示を出す。

「そうはさせないんだよ!!」
 キバヤシは、携帯電話を取り出した。
「これが、俺の切り札だ…!」
 キバヤシは携帯に向かって何かを喋ると、無造作に甲板上に投げ捨てた。

「…!!」
 山田が音に警戒して、素早く背後に飛び退く。
 しかし、携帯が甲板に落ちる音に暗示は含まれていないようだ。

「…どこに連絡した?」
 枢機卿は口を開いた。
 キバヤシは静かに腕を組む。
「すぐに分かるさ。それより、いいのか? 俺達にいつまでも構っていて…」
 
「…!! 時間稼ぎか!!」
 枢機卿は大声を上げた。
 キバヤシは笑みを浮かべる。
「言ったはずだ。この空母を沈めるのが目的だってな。
 そろそろ、スミスと阿部高和がCICを制圧している頃合だ…」

「山田殿ッ!!」
 枢機卿が叫ぶ。
「承知!!」
 山田が、艦橋に向かって駆け出した。
 その瞬間、山田の足が逆方向に曲がる。

「…!?」
 バランスを崩し、山田は甲板に倒れた。
 だが、すぐに再生できる程度の負傷だ。

「…すでに仕込んでいたか。たった1人で、我々2人を足止めするとはな…」
 枢機卿は、腕を組んで立ちはだかるキバヤシを見据えた。

「くッ…!」
 山田は立ち上がると、素早く青龍刀を構える。
「止めておけ。奴への直接攻撃は、スィッチになっている可能性が高い…!」
 枢機卿は山田を諌めた。

「下手に動かない方がいい。俺の暗示は、言葉の呪縛だ…」
 枢機卿と山田を正面に見据え、キバヤシは告げた。
「人間は、火とともに言葉を武器にした。
 言語を解する生物である限り、『言葉』と言う呪縛からは逃れられないんだよ…!」

601:2004/06/13(日) 19:16



          @          @          @



 スミスと阿部高和が、艦内通路を駆ける。

「Uryyyyyyyyy!!」
 軍服に身を包んだ吸血鬼の集団が、正面に展開して機関銃を構えた。

「…お前達は、人海戦術しか能がないのか?」
 通路に、瞬時にして沢山のドアが並ぶ。
 そして一斉にドアが開き、大勢のスミスが出現した。
 スミス達は皆、大型拳銃・デザートイーグルを手にしている。

「疲れたろう。もう眠りたまえ」
 集団で、一斉にデザートイーグルを掃射するスミス。
 専用の50AE弾は、頭部に当たれば吸血鬼ですら殺せる威力を持つ。
 まして法儀式済みなので、吸血鬼などひとたまりもない。
 たちまち、弾丸を浴びた吸血鬼達の体は塵と化した。

「さて…」
 スミスが一歩踏み出した瞬間、爆音が響いた。
 先頭にいたスミス3人が吹き飛び、背後に並ぶスミス達に激突する。

「…クレイモア(指向性対人地雷)か」
 阿部高和は呟いた。
 その瞬間、部屋の隅から気配を察知する。
「おっと、誰だい…!?」

「俺も以前、大型のタンカーに潜入した事がある…」
 通路に男の声が響く。
 しかし、姿は見えない。

 突如、スミスの1人が頭を撃ち抜かれて倒れた。
「どこだ…?」
 スミス達は周囲を見回す。
 その瞬間、また1人スミスが倒れた。
 だが、どこにも狙撃手の姿はない。

「こういう場所での戦闘は、慣れなければ難しい。
 室内戦のセオリーがそのままでは通じないからな…」
 別の方向から、男の声。
 次々にスミスは倒れていく。

「仕方ないな…」
 スミスはデザートイーグルの銃口を自らの額に当てると、その引き金を引いた。
 彼の頭がスイカのように割れ、噴き出した血がシャワーのように周囲に散る。
 通路は、たちまちのうちに血塗れになった。

「…俺に色でも付けようと言うのか? それとも、血の池に浮かぶ足跡で動きを察知しようと?」
 再び、至近距離より男の声。
 銃声と共に、スミスの頭部が撃ち抜かれた。
 血塗れの廊下にびちゃりと横たわるスミスの亡骸。

「…ウホッ! 単に、透明になれるスタンド能力って訳じゃないみたいだな…」
 阿部高和は、表情を歪めて言った。
「こりゃ、頭の中がパンパンだぜ…」

「構う事はない。吸血鬼なら、葬るだけだ…」
 スミスは、減った人数を補充するかのように数を増やした。

「お前と違って、俺は1人しかいないんだよな…」
 阿部高和は呟く。
「まあ元々が強い奴ほど、『メルト・イン・ハニー』で強力なスタンドに変換できる。
 アンタがどんなスタンドになるか、楽しみだぜ…!」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

602ブック:2004/06/14(月) 01:38
     EVER BLUE
     第三十一話・MIGHT 〜超力招来〜


「『ネクロマンサー』!!」
 ニラ茶猫が、右腕に生やした刃を福男目掛けて薙ぐ。
「『テイクツー』!!」
 自身のスタンドで、その斬撃を苦も無く受け止める福男。
 そのまま、受けに使ったのとは別の腕でニラ茶猫に拳を突き出す。

「くッ!!」
 左腕で、ニラ茶猫がその一撃を受ける。
 しかし生身の体では近距離パワー型のスタンドの力に敵う筈も無く、
 ニラ茶猫の体は勢いよく後方に吹っ飛ぶ。

「がはッ…!!」
 壁に叩きつけられ、ニラ茶猫が苦悶の声を上げる。
 受けに使用した左腕の骨は無残に砕け、
 その皮膚はない出血でどす黒く変色していた。

「ちッ!
 この野郎が…!」
 打撃による損傷は、斬撃や銃撃のそれと比べて修復が難しい。
 『ネクロマンサー』を砕けた骨などに擬態させて治癒を行うも、
 その再生速度は遅かった。

「…!オオミミ!!」
 と、ニラ茶猫がヒッキーと闘っているであろうオオミミの方を心配そうに見やる。
 しかし、オオミミは既に闘いの場を移したらしく、
 既にさっきまで居た場所には居ない。

「…人の心配をしている余裕があるのかな?」
 福男が嘲笑を浮かべながら口を開いた。
「へっ、ほざいてろ。
 さっきのはラッキーパンチってやつだフォルァ。
 手前なんざ、あと一分で蹴散らして…」
 そこでニラ茶猫はようやく自分の左腕の異変に気がついた。
 左腕の『テイクツー』の拳を受けた部分が、締め付けられたように縮んでいる。
 普通骨折をした場合には、その箇所が腫れ上がるものなのだが、
 今回は逆にしぼんでいるのだ。
 これは、明らかに異常だった。

「なっ!?
 これは…!!」
 ニラ茶猫が驚くのとはお構い無しに、左腕はどんどん圧縮されていった。
「うあああああああああああああああ!!!」
 肉が、骨が、中心めがけて収縮していく。
 その圧力に耐え切れなくなり、皮膚が裂けて血がそこから噴出する。

 ―――グシャリ。

 音を立てて、ニラ茶猫の左腕がレモンの絞りかすのように潰れきった。

「ぎゃああああああああああああああ!!!」
 ニラ茶猫が発狂したかの如く叫んだ。
 打撃、斬撃、銃撃。
 彼も今までに幾つもの痛苦を味わってはきたものの、
 流石に今回のそれは初めて受ける痛みであった。
 当然といえば当然である。
 体の一部が圧縮されるなど、余程の拷問でもない限り味わう事は無い。

「『テイクツー』!」
 痛みに苦しむニラ茶猫に、福男が止めを刺すべく飛び掛かる。

「うあああああああああああ!!!」
 身を捩じらせ、ニラ茶猫が寸前で追撃を回避する。
 いや、それは最早『回避』というよりも『避難』といった方が近かった。

603ブック:2004/06/14(月) 01:39

「畜生がああぁぁぁ…!
 それが、手前の能力か…!!」
 息を切らしながら、ニラ茶猫が福男を睨む。
 その左腕から滴り落ちた血が、足元に赤い水溜りを作っていた。

「だとしたら?」
 構えを取る福男。
 ニラ茶猫との間の距離は凡そ十五メートル。
 互いに、一足飛びに攻撃できる距離ではない。

「…どうやら、そのスタンドのお手手には迂闊に触れられない方がよさそうだな。
 頭までこの左腕みたいになるのは勘弁だぜ…!」
 『ネクロマンサー』で、ズタズタになった骨や筋肉を復元しながらニラ茶猫が呟いた。
 痛みは、『ネクロマンサー』を脳内麻薬に擬態させる事で和らげる。

「…お前も吸血鬼か何かか?」
 ものの十秒程で復元されたニラ茶猫の左腕を見て、福男が尋ねる。

「へっ、さてなァ。」
 ニラ茶猫が懐からドリンク剤の瓶を何本か取り出し、一気に飲み干した。
「…?」
 その余りに突飛な行動に、首を傾げる福男。

「心配すんな。
 これは只の、何の変哲も無いドリンク剤さ…!」
 直後、ニラ茶猫が大きく跳躍する。
 闘うには問題無い位に復元した左腕からは『ネクロマンサー』の刃を生やし、
 右手にはドリンク剤の空き瓶を持っている。

「らあァ!!!」
 上段からの振り下ろし。
 福男が、それをスウェイバックでかわす。
「せいッ!!」
 そこから返す形での切り上げ。
 しかし、そのニラ茶猫の攻撃を虚しく空を切る。

「無駄だ!
 近距離パワー型に、その程度の体術が通用するかっ!!」
 福男が反撃に打って出ようとする。
 寸前、ニラ茶猫はそんな福男の眼前にドリンク剤の瓶を投げつけた。
 それと同時に、ニラ茶猫は後ろへと飛んで福男から距離を離す。

「小細工をっ!!」
 福男が腕でその瓶を薙ぎ払おうとする。
 彼のスタンド『テイクツー』の腕が、瓶に触れ―――

604ブック:2004/06/14(月) 01:39


「!!!!!!!!!」
 その瞬間、ドリンク剤の瓶が大爆発を起こした。
 ガラス片が飛び散り、血飛沫が周囲に舞う。

「…ニトログリセリン。
 大変危険な為、その扱いには充分注意を払いましょう。
 俺の切り札は、ドリンク剤の中身じゃなくて空き瓶の方だったんだよな。」
 そう、ニラ茶猫は空になった空き瓶の中に、
 『ネクロマンサー』をニトログリセリンに擬態させて入れておいたのだ。

「さて、オオミミの方に加勢しに行く…」
 そこで、ニラ茶猫は言葉を止めた。
 爆発時に生じた煙の中に、立ち上がる人影を発見したからだ。

「…やって……くれたな…」
 全身を黒こげにしながらも、福男がよろめきながら立ち上がる。
 火傷が、徐々にではあるが回復していった。

「…だからお前らって嫌いなんだよ。」
 呆れたように肩を竦めるニラ茶猫。
 だがそんな軽薄な態度とは裏腹、その首筋には冷や汗が伝う。

「『テイクツー』!」
 目を血走らせ、福男がニラ茶猫目掛けて突進する。
「ちっ!!」
 接近戦では分が悪いと判断したニラ茶猫が、後方へ飛びずさる。
 しかし急所には命中しなかったものの、
 『テイクツー』の拳はニラ茶猫の右足を捉えた。

「!!!!!!
 ぐああぁッ!!!!!!!」
 悲鳴と共に、ニラ茶猫の右足が音を立てて潰れていく。
 片足を失ったニラ茶猫は、バランスを崩して地面に倒れた。

「死ね…!」
 そこに襲い来る福男とそのスタンド。
「おわあア!!」
 床を転がりながら、ニラ茶猫が何とかその一撃をかわそうとする。
 しかし完全には避け切れず、修復したばかりの左腕が再び圧壊していった。
 それでもなおニラ茶猫は転がり続け、
 その勢いを利用して地面を跳び、片足で着地する。

「逃がすか!」
 福男がニラ茶猫を追いかけながら、スタンドの拳を繰り出す。
「!!!!!!!!」
 刹那、福男の眼前で閃光が迸り彼の目を灼いた。
 マグネシウム。
 火を点ける事で、激しく発光しながら燃え上がる金属。
 ニラ茶猫は着火剤としてリンを使う事で、
 マッチやライター不要のお手製閃光弾を作ったのだ。
 リンならば、指先で擦るだけでも充分に発火させられる。

「なッ…!
 糞…!!」
 視界を奪われ、一時的に前後不覚になる福男。
 ニラ茶猫は、その隙に福男から命辛々距離を取って再生を始める。
 このダメージは、かなり大きい。

605ブック:2004/06/14(月) 01:40

(ひいいいィィィィィィィィィ…
 ひいいいいいいいいいいイイイイイイイィィィィィ…!
 痛え。
 痛えエェ…
 ぅ痛うぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!)
 位置を悟られる訳にはいかないので、
 絶叫を何とか喉の位置で外に出さぬよう押し込める。
 『ネクロマンサー』で痛みを消し去る事も出来ないでもないが、
 過度の麻酔の投与は戦闘に重大な悪影響を及ぼす。
 動くのに差し支えの無いギリギリの量で、ニラ茶猫は何とか我慢する事にした。

(で、どうするよ…
 恐らく奴の能力は、触れたものをその中心を基点に圧縮する事。
 あの拳で頭や胴体を触られたら、その時点でアウトだ。
 三月ウサギなら、触らせる間も無く解体出来るんだろうが…
 俺には無理だ。
 接近戦じゃ勝ち目はねぇ。
 かといって逃げる訳にもいかねぇし…)
 『ネクロマンサー』に擬態による回復を急がせながら、ニラ茶猫が思考を巡らせる。

(毒ガス攻撃…
 …駄目だ。
 この船の中じゃ、俺だけでなく他の奴らまで巻き添えだ。
 それに、あいつに通用するかも分からねぇ。
 糞。万事休すかよ…!)
 ニラ茶猫が小さく舌打ちする。

「…そこにいたのか。」
 視界を取り戻した福男が、ニラ茶猫に向き直った。
「お早いお目覚めで…」
 軽口を叩きながらも、内心大焦りのニラ茶猫。

(兎に角、もう少しで肉や骨への擬態が完了する。
 だけど、回復してるだけじゃ奴には勝てねぇ…
 …待てよ。
 『肉』と『骨』に擬態だって!?)
 ニラ茶猫が、はっと顔を見上げた。

「これで決める!!」
 そんなこんなしているうちに、福男が飛び掛ってくる。
「ちッ!!」
 横に跳び、ニラ茶猫が寸前で拳をかわす。
 『テイクツー』の腕が、深々と船内の通路の壁に突き立てられた。

「おおらあああああああああああ!!」
 がら空きになった胴に福男の、ニラ茶猫が『ネクロマンサー』の刃を突き出す。
「当たるかッ!」
 しかし、福男は後ろに跳躍してその刃を軽々と避けた。

(糞がッ!
 だけど、もう少しだ。
 もう少しで、何かが繋がる。
 『ネクロマンサー』の、新しい可能性が…!)

「!!!!!!!!」
 その時、先程『テイクツー』の拳が突き刺さった周囲の壁が、奇妙に盛り上がった。
 ニラ茶猫がそれに気づくも、もう遅かった。
 通路の壁が次々と盛り上がり、ニラ茶猫を巻き込む形で中心目掛けて潰れる。
 ニラ茶猫の体は、たちまち潰れていく壁の中へと飲み込まれた。

606ブック:2004/06/14(月) 01:40


「…流石にこうなっては、自慢の再生も役には立たないだろう。
 おあつらえの棺桶といった所か。」
 ひしゃげた通路を眺めながら、福男が呟いた。
 通路は跡形も無く圧縮され、最早見る影も無い。
 当然、その中のニラ茶猫も―――

「!!?」
 その時、押し潰された通路から、一つの刃が突き出された。
 目を見開く福男。
 見間違える筈も無い。
 それは、ニラ茶猫の腕から生えていた―――

「!!!!!!!!」
 轟音と共に、潰れた通路の壁が吹き飛んだ。
「…礼を言うぜ。
 ここまで追い詰められて、ようやく『ネクロマンサー』の新しい応用を思いついたぜ。
 何で、こんな簡単な事に気がつかなかったんだろうなぁ…」
 その中から、一つの人影がゆっくりと姿を現す。
 特徴的な緑の頭髪。
 それは紛れも無く、ニラ茶猫のトレードマークであった。
 しかしその体躯は二周り以上にも肥大し、
 その表皮は亀甲の如く硬質な鎧で覆われている。
 刃を精製する応用で、全身を鎧に包み込む。
 この硬い皮膚こそが、先程の壁からニラ茶猫を守ったのだった。

「…!!」
 福男が絶句する。
 最早それは断じて人ではなく、怪物との呼び名こそが相応しかった。
「何を驚いてんだよ。
 ちょっとした、ドーピングみたいなもんさ。」
 怪物が、笑う―――

「!!!!!!!!!」
 直後、福男の体が紙切れのように吹き飛んだ。
 『ネクロマンサー』を筋肉に擬態。
 それにより引き出される驚異的な膂力と敏捷力。
 それらを余す事無く注ぎ込んだ、腕の一振りが福男に叩きつけられたのだ。

「……!!」
 悲鳴を上げる暇も無く、血と臓物を撒き散らしながら福男がすっ飛ばされる。
 そのまま福男は壁に叩きつけられ、
 赤黒い色の版画を壁に貼り付けて絶命した。

「…俺に触れる事は死を意味する、ってか。」
 ニラ茶猫は力なく笑うと、床に肩膝をついた。
 スタンドの酷使によって『ネクロマンサー』の擬態が強制的に解除され、
 彼の体が見る見る元の姿へと戻っていく。

「がはッ…!」
 口から血を吐き、その場に倒れるニラ茶猫。
「…やっぱ、スタンドパワーにも俺の体にも、
 相当の無茶だったみてぇだな……」
 力無く、ニラ茶猫が口を開く。
 それでも満身創痍の体に鞭を打ち、彼は何とか立ち上がった。

「…寝てる暇はねぇのが辛い所だよなぁ、ほんと。
 待ってろよオオミミ。
 すぐにいくぜぇ…」
 ニラ茶猫はそう呟きながら、体を前へと引きずるのであった。



     TO BE CONTINUED…

607ブック:2004/06/15(火) 03:10
     EVER BLUE
     第三十二話・SIDEWINDER 〜魔弾〜


 僕とオオミミは、暗い顔の小柄な男に向かって構えを取っていた。
 男の手には、木製グリップのやや古めかしい狙撃銃。
 あれが、男の得物という事か。

「…ボクノナマエハヒッキー。
 キミハナノラナクテイイヨ。
 ドウセ、ココデシヌンダカラ…」
 男が自己紹介しながら銃口をこちらに向けた。
 それに耳を傾けながら、オオミミがじりじりと距離を詰める。
 それでも、ヒッキーとの間合いはまだ二十メートル近くある。
 この距離では、こちらの攻撃は届かない。

「ぎゃああああああああああああああ!!!」
 後ろの方から、ニラ茶猫の悲鳴が聞こえてくる。
 まさか、彼の身に何かあったのか!?

「ヨソミヲスルナ…!」
 ヒッキーの狙撃銃から、激発音と共に銃弾が放たれた。
「『ゼルダ』!」
 オオミミが叫ぶ。
「応!」
 僕の右腕で、飛来する銃弾を弾き飛ばす。
 フルオートによる斉射なら兎も角として、
 この程度の銃撃ならば僕でも充分に防御は可能。

「…退くならば、俺は追わない。」
 オオミミが低く呟く。
 あの狙撃銃では、自分を倒せないと確信しての言葉だろう。

「ヨウスミノイチゲキヲカワシタクライデ、ナニヲイイキニ…」
 ヒッキーが再び銃を構えた。
 何のつもりだ?
 そんな銃など僕には通用しない事は、さっきので分かっているだろうに。
 だけど、彼からの殺気にハッタリの風は無い。
 気を抜く訳にはいかないようだ。

「レッドスネークカモンカモン…」
 ヒッキーが呟くと、半透明の赤い管のようなものが幾つか周囲に出現した。
 その管はまるで蛇のようにグネグネと蠢いている。
 これが、奴のスタンドか…!

608ブック:2004/06/15(火) 03:11

「コレガボクノ『ショパン』…
 キミハモウ、ニゲラレナイ。」
「!!!」
 半透明の赤い蛇が、オオミミに襲い掛かる。
 咄嗟に僕は腕でオオミミを庇おうとした。

「!?」
 だが、僕の腕には何ら手応えが感じられなかった。
 見ると赤い蛇は僕の体をすり抜け、オオミミまで伸びている。

「なっ!?」
 思わず声を漏らすオオミミ。
 どういう事だ?
 この蛇はみたいなスタンドには、お互いに干渉出来ないのか!?

「シンパイシナクテイイヨ。
 ソノヘビノカラダニオサマラナイサイズノモノニハ、マッタクエイキョウハオヨバナイ。
 ダケド…」
 ヒッキーが赤い蛇の胴体目掛けて照準を合わせる。
「コノジュウダンナラバ、ヘビノドウタイノナカニジュウブンオサマル…!」
 ヒッキーが狙撃銃の引き金を引いた。

「!!?」
 発射された弾丸が蛇の胴体へと収まった瞬間、銃弾が突如その軌道を変えた。
 いや、これは、赤い蛇の中を通って来ている!?

「くッ!!」
 弾丸が、蛇の胴体の中を進みながら僕達へと向かってくる。
 だけど、速度自体はさっきのと一緒だ。
 構わず弾き飛す。

「!!!」
 しかし、弾丸の弾かれた先には既に半透明の蛇が待ち構えていた。
 弾丸が蛇の胴体に取り込まれると、
 再びその中を通って僕達に襲い掛かる。

「ぐあッ!!」
 弾丸はそのまま蛇の体を通り、オオミミの肩口へと喰らいついた。
 オオミミが痛みに顔を歪める。

「!!!」
 しかし、それだけでは終わらなかった。
 ヒッキーがさらに銃弾を撃ち出してくる。
 蛇の胴体へと入り込み、その中を突き進んでくる弾丸。
 そして、蛇自体もその身に弾丸を宿したまま僕達に襲い掛かる。

(あの蛇から離れろ!オオミミ!!)
 僕は叫んだ。
 どうやらあの半透明な蛇の中に入った物体は、
 その体内に沿う形で移動するらしい。
 それは逆に言えば、弾丸は必ずそこを通るという事だ。

「!!!!!」
 オオミミが、必死に赤い蛇から逃れようとする。
 だが赤い蛇はそれを許さじと、僕達に向かって襲い掛かる。
 胴体をくねらせ、その姿を自在に変える蛇。
 しかも、そのスピードはかなり速い…!

(オオミミ!!)
 半透明の蛇の胴体が、オオミミの左腕と重なる。
 そこを高速で通過する弾丸。

「ぐぅッ!」
 咄嗟に僕が腕で弾丸を止めようとするも間に合わず、
 銃弾がオオミミの左腕を貫いた。
 そして、貫通した弾丸はまたもや半透明の蛇の胴へと潜り込み、
 僕達へと突き進んでくる。

「ムダダヨ。
 ボクノ『ショパン』カラハノガレラレナイ…」
 弾込めをしながらヒッキーが呟く。
 そうかい、なら…

「直接、本体であるお前を叩く!!」
 オオミミがヒッキー目掛けて突進した。
 これ以上、向こうお得意の間合いに付き合う必要などありはしない。

「サセナイ!」
 蛇の胴体がオオミミの眼前を遮る。
 そこを一瞬にして通過する銃弾。
「うわあ!」
 オオミミが、慌てて立ち止まった。
 その鼻先を銃弾が掠める。
 あと少し停止が遅れたら、頭を打ち抜かれていた所だ。

609ブック:2004/06/15(火) 03:11

「!!!!!!」
 だが、そこで動きを止めたのがまずかった。
 立ち止まったオオミミの足に、
 蛇の体の中をカーブしながら進んできた銃弾が喰い込む。
 しまった。
 いつの間にか足元にも蛇を配置されていたか…!

「……!!」
 足にダメージを負い、床に横転するオオミミ。
 しかし、このまま倒れていては鴨撃ちだ。
 僕の足をオオミミと重ね、そのまま後ろへ跳躍する。

「!!!!!」
 そこに襲い来る赤い半透明の蛇と、その中の銃弾。
(無敵ィ!!)
 僕はすぐさま拳を振るい、蛇の体内を駆ける銃弾を叩き落そうとする。

「!!!!!」
 しかし僕の拳が弾丸に触れる直前で、
 蛇の体が大きくよじれた。
 スカを食らう僕の右拳。
 だが銃弾は止まらない。
 オオミミが身をかわそうとするも、
 銃弾は蛇の体内を通りながら無慈悲にオオミミの脇腹へと突き刺さった。

(オオミミ!!)
 がっくりと膝をつくオオミミ。
 内臓を痛めたらしく、その口からは一筋の血が伝う。

「ククク…イイキミダ……」
 ヒッキーが嫌らしい笑みを浮かべる。
 糞。
 僕がついていながら何て様だ…!

「サテ、イツマデイキテイラレルノカナ…」
 ヒッキーが狙撃銃の引き金に指をかけた。

「…『ゼルダ』。」
 オオミミが、小声で僕に囁いた。
(…分かってる。)
 そう、オオミミの言いたい事は分かっていた。
 あのヒッキーのスタンドは、銃撃と組み合わせる事で威力を発揮するスタンド。
 ならば銃撃さえ封じてしまえば、そのスタンドは全くの無力と化す。
 そして、僕の能力による結界ならばそれが可能。
 問題は、能力が完全に発動するまで持ち堪えられるかどうかだ…!

「『ゼルダ』…!!」
 オオミミが、精神を集中させる。
 場を支配していく圧迫感。
 結界を張る為の力場が、周囲に展開していく。

「ナニヲスルツモリダ…!?」
 勿論、その隙を逃す程敵も馬鹿ではない。
 オオミミ目掛けて、次々と銃弾を撃ち込んでくる。

「無敵ィ!!」
 僕はその弾丸を何とか防ごうとする。
 しかし、能力の発動の為に大半の力を注いでいる上に、
 変幻自在の軌道で襲い掛かる銃弾。
 僕に出来るのは、何とか急所だけは外す事ぐらいだった。

「…!!」
 オオミミの体に、次々と銃弾が突き刺さる。
 だが、それでもオオミミは集中を解かなかった。

610ブック:2004/06/15(火) 03:12

「宿し手は宿り手に問う。汝は何ぞ。」
 痛みと闘いながら、オオミミが結界展開の為の詠唱を開始する。
(我は業(チカラ)。道を進まんが為の、業なり。)
 それに答える形で、僕も言葉を紡ぐ。

(宿り手は宿し手に問う。汝は何ぞ。)
「我は意志(チカラ)。道を定めんが為の意志なり…!」
 脂汗を流しながら、オオミミが詠唱を続ける。

「ナニヲゴチャゴチャト…!」
 ヒッキーが更に銃弾を放つ。
 蛇の中を通って飛び掛かる銃弾。
「……!!」
 オオミミが、咄嗟に身をよじる。
 しかし弾丸は彼の背中へと着弾した。
 オオミミが大きく体を崩す。

(業だけでは存(モノ)足らず。)
「意志だけでは在(モノ)足らず。」
 徐々に展開されていく力場。
 あと少し。
 あと少しだ…!

「孤独な片羽は現世を彷徨う。」
 銃撃を受け、体勢を崩しながらも、オオミミは詠唱を止めない。

(ならば我等一つとなりて。)
「業と意志で存在(ヒトツ)となりて。」

「高き天原を駆け巡らん!」(高き天原を駆け巡らん!)

「クタバレ…!」
 撃ち出される弾丸。
 そして、それが次々とオオミミの体に穴を開ける。
 痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛み。
 それでもなお、オオミミは歯を喰いしばって耐える。

 あと少し。
 あと少し。
 あと少し―――!

「折れし翼に安息を。」
(傷つきし翼に祝福を。)

「翼失いし心に羽ばたきを!」(翼失いし心に羽ばたきを!)
 僕は、溜め込んでいた力を一気に解放した。

「!!!!!!!!!!!!!!!」
 空間に、
 いや、世界に亀裂が走った。
 そしてそのひび割れた部分がガラスのように崩れ落ち、
 別の空間を構築していく。

「ナッ…!?」
 狼狽するヒッキー。
 だが、もう遅い。
 僕の能力は、既にここに完成した…!

(我は最早人ではない。)
「空手に入れし、鳥(ツバサ)なり―――」


「…the world is mine.(かくて世界は我が手の中に)」

611ブック:2004/06/15(火) 03:12





 ――――――――空。

 辺りに広がる、一面の空。
 何処までも続く、永遠の青。
 これはオオミミの内的宇宙の具現。
 …『ゼルダ』である僕の力。

「ナッ、コレハナンダ…!」
 ヒッキーがオオミミを睨む。

「…これが俺の『ゼルダ』の力だよ。」
 血塗れになった体で、オオミミが一歩ヒッキーへと歩み寄る。

「クソ!コレシキノコトデ…!」
 ヒッキーがスタンドを発動させ、狙撃銃の引き金を絞った。

「!?」
 ヒッキーが驚愕する。
 いくら引き金を引いても、銃弾が発射されなかったからだ。

「…悪いけど、この空間では銃を使えないように『ルール』を決めさせて貰いました。」
 息を切らしながら、オオミミが告げる。

「『ルール』…!?」
 思わずヒッキーが聞き返す。

「そう。
 だから、ここでは俺も銃は使えない…』
 オオミミがさらにヒッキーに近づいた。
 このダメージ。
 オオミミの体はそろそろ限界だ。
 もうあまり長くは結界を持続させる事は出来ない為、早く決着をつける必要がある。

「…!
 ジュウヲフウジタクライデ、ソノカラダデボクニカテルトデモ…!」
 ヒッキーが銃を捨て、満身創痍のオオミミ目掛けて飛び掛かった。
 だが―――

(無敵ィ!!!)
 遅い。
 三月ウサギやタカラギコの速さに比べれば、
 止まっているようなものだ。
 いくら本体のオオミミが傷ついているとはいえ、それしきで僕が倒せるか…!

「無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵ィィィィ!!!」
 続けざまにヒッキーに拳を打ち込んでいく。
 体に残された僅かな力を全て攻撃に注ぎこむ!

「ウボアマーーーーーーーーーーー!!!」
 全身を挽肉に変えながら、ヒッキーが吹っ飛ぶ。
 殴り飛ばされたヒッキーは地面に落ち、そのまま二度と動かなくなった。

612ブック:2004/06/15(火) 03:12



「……!」
 オオミミががっくりと膝をついた。
 それと同時に、スタンドパワーが底をついて張り巡らした結界が解除される。
 一面の空から、景色が見慣れた船内の通路へと戻っていった。

(大丈夫か!?オオミミ!!)
 僕はオオミミに声をかけた。
「…大丈夫。
 まだ、やれるよ。」
 力無く微笑みを返すオオミミ。
 馬鹿。
 嘘ばかり言いやがって…!

「…!
 ちょっとあんた、大丈夫なの!?」
 と、そこへあまり聞きたくない声が響いてきた。
 天の声だ。

「天、何でこんな所に!
 危ないから物置の中に隠れてろって…!」
 珍しくオオミミが語尾を荒げる。
 個人的には、この女には闘いに巻き込まれて死んでくれればスカッとするのだが。

「あんたの情けない悲鳴が聞こえてきたから、
 わざわざ助けに来てあげたってのに、何よその言い草。
 大体、今はあんたの方が危ないんじゃなくて!?」
 偉そうにのたまう天。
 うるさい余計な事言うなシバくぞ。

「オオミミ!」
 そこに、ニラ茶猫も駆けつけてきた。
 どうやら、向こうも片付いたらしい。

「ニラ茶猫…」
 オオミミがニラ茶猫へと顔を向ける。
 壁にもたれ掛かりながら、ひこずるように体を動かしながらやってくるニラ茶猫。
 『ネクロマンサー』での回復が出来なくなる程、
 力を使い果たしてしまったらしい。
 これでは、オオミミの怪我を治してもらうのは無理か。

「酷くやられたな、フォルァ。」
 ニラ茶猫が苦笑する。
「ニラ茶猫だって…」
 掠れた声で受け答えするオオミミ。

「…治癒してやりてぇのは山々だが、
 見ての通り自分の頭の蝿も追えねぇ有様でな…
 悪いが、ちょっと我慢しといてくれ。」
 ニラ茶猫がすまなそうに言う。
「大丈夫。
 これ位、なんて事無いよ…」
 明らかになんて事ある体で、オオミミが答える。
 全く、やせ我慢も程々に―――


     ドクン


(―――!!)
 僕の内側を、覚えのある鼓動が襲った。
 これは、三月ウサギとタカラギコとの稽古の後の―――
 だが、その時よりずっと大きくなっている…!

「……!」
 天も、体を震わせている。

 何だ、これは。
 何なんだこれは。
 来る。
 来ている。
 何かが来る…!!

「『ゼルダ』、天…?」
 オオミミが不思議そうに尋ねた。

(オオミミ…気をつけろ。
 何かがヤバい…!)
 何の根拠も無い、
 しかしコーラを飲んだらゲップが出る位に確実な予感が、僕の脳裏をよぎっていた。

「『ゼルダ』…?」
 オオミミが心配そうに僕に声をかける。
 しかし、その間にもなお、
 不吉な予感はさらに影を大きくするのであった。



     TO BE CONTINUED…

613N2:2004/06/15(火) 14:59

━━━━━━━━━━━━━━

 まもなく
 『ギコ兄教授の何でも講義 2時限目』が
 始まります

              ∩_∩
━━━━━━━━━ |___|F━━   ∧∧
              (・∀・ ;)        (゚Д゚;)
        ┌─┐   /⊂    ヽ    /⊂  ヽ
        |□|  √ ̄ (____ノ   √ ̄ (___ノ〜
      |   |  ||    ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | あのさ、あれって一発ネタじゃなかったっけ?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ………だよなあ。
         \________________

614N2:2004/06/15(火) 15:01

 椎名先生の華麗なる教員生活 第3話 〜運命の出会い〜

暗い部屋に、一人。
視覚も、嗅覚も、聴覚も、触覚も絶たれて、
私は暗い部屋に一人。

ああ、これは夢だ、と私はすぐに気が付く。
今まで何度も苦しめられてきた、いつもと同じあの夢に決まっている。
しかし、それは『彼』の夢ではない。
それよりも、もっと陰湿で、果てしなく悲しい夢。

おぼろげな気配。
それは無邪気な子供たち。
しかし、その心中には果てしない程の邪気。

浮かび上がる子供たちの姿。
私には分かる。
この子らが私にどんな悪意を抱いているか。これから何をするか。
ああ、私に近寄るな。

「てめえッ、親が偉いからって図に乗るんじゃねえ!!」
私に近付くなり、私の顔を殴りつける一人の少年。
一人が動けば、皆が動く。
皆で動けば、怖くない。
良心の呵責が仲間外れの疎外感に負け、
一撃の痛みが更なる痛みを連鎖する。
響く邪気に満ちた声々。

「あんた、『おやのななひかり』ってやつで自分が目立ってるとか思ってるでしょ?
…そういう態度が気に入らないの!!」
「『こっかいぎいん』の娘だか何だか知らないけど、所詮はお前も『しぃ』だ!」
「『しぃ』はおとなしく殴られてればいいって、お父さんが言ってたぞ!」
「みんな、やっちゃえやっちゃえ!!」

殴られ、蹴られ、張り倒され、言葉の雨に打たれ続け…
痛い。辛い。悲しい。
もうやめて。



新しい気配。
それは大人たち。
傷付く私の姿を見る目は、しかし凍り付いていた。

「しぃってうざいよね〜」
「だよね〜、あの娘も誰か殺してくれないかな?」
「ったく、サルみてーな不細工な顔引っ下げて歩いてんじゃねーよゴルァ!!」

痛い。痛い。痛い。
もうやめて。

615N2:2004/06/15(火) 15:02

「えーマジしぃ族!?」
「キモーイ」
「しぃ族はどこまで行っても被虐キャラだよねー」
「キャハハハハハハ」

耐え切れない。私は…一体何なの?

私は…何で生きているの?

私は……


暗闇から浮かび上がるお父さんの姿。
私の唯一愛する、私の唯一信頼出来るお父さん。
助けて、と腹から叫んだ。
しかし、声は出ない。
口から出た途端、私の言葉は何か得体の知れないものにかき消された。

お父さんは私を見ている。
今まで見せたこともない、氷細工のように冷たい目で。
お父さんは、動かない。
傷付く私を見て、少しも救おうと動きはしない。

そして…嘲笑。
無言でお父さんは去って行く。
私の唯一愛するお父さんは、私を愛していない。
そして、遂に私はひとりになった。

私は…何の為に生きている?
私は…誰の為に生きている?

愛されたい。愛され尽くしたい。
愛したい。愛し尽くしたい。
誰か、私に愛を。

否、私に生の価値は存在しなかったのだ。
無価値なゴミに、愛は要らない。



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「ジリリリリリリリ!!!!」
枕元で騒がしく鳴るベルが、私を深い眠りから覚ました。
真っ先に私は、びしょ濡れになったパジャマに不快感を覚える。

「夢…か…」
恐怖の体験が真のものではなかったと知り、私はほっと溜め息を吐いた。
しかし、それは今確かに体験した現実ではなくとも、
私自身の心には過去の現実として刻み込まれている。

616N2:2004/06/15(火) 15:04



私の父は、国会議員だった。
地元民の圧倒的な支持を得て、父は『国』の一部になった。
私はそんな父が誇らしかった。

母は私が生まれてすぐ、病気で亡くなったと聞く。
だから私は、母を写真でしか知らない。
父と写る母は、とても幸せそうに、穏やかな笑みを浮かべている。
私は決して手に入れられない、母の優しさに飢えていた。

父は非常に生真面目な人間だった。
物事の道理に敵わないものは、頑として拒絶した。
例え相手が自分よりも年上であれ、目上であれ。

結果、父は敵を増やした。
地元民の利益よりも国益を優先し、露骨な活動を続けた結果、
期待を裏切られた支持者達はその怒りの矛先を私に選んだ。

学校で親の差し金としか思えぬいじめの数々。
謂れの無い誹謗・中傷など受けなかった日を思い出すことが出来ない。
暴力を受けずに過ごせた日など、あっただろうか。

父はそんな私をいつも励ましてくれた。
大丈夫だ、気にすることはないと。
そして大きな腕で、私を抱きしめてくれた。
でも、私は幼心に思っていた。
本当なのか、と。

父は私が大学在学中に死んだ。
まだ若すぎる死だった。
葬式では、一度も会ったことの無い親族が上辺だけのお悔やみを述べ、
遺産を全てかっさらっていった。
私はこの時初めて父の世間での評価を体感したと言っても良い。

その日からである。
あの悪夢を見るようになったのは。
私を殴り、蹴り、蔑み、そして見捨ててゆくものども。
そしてそんな私を無関心に置き去りにしてゆく父。
勿論、父は生前私にそのような仕打ちをしたことは一度として無かった。
それでも私の妄想は、実体験した現実の過去よりも真実であった。

『彼』に走ったのも、それが一番の原因だったのだろう。
私に優しく、父親のように暖かく接してくれた『彼』。
私は彼を本気で愛した。
それは、本気で愛されたかったから。
でも、私には完全な「Only One」であった『彼』にしてみれば、
私は「One of 数ある遊び相手」でしかなかったのだ。
『彼』は私を捨て、私はまた一人になった。

『愛が、欲しい』
今の私には、それしかなかった。
新しい恋人が欲しい、とかそんな事ではなく、
それが私の今生きる唯一の理由でもあった。

617N2:2004/06/15(火) 15:05



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



いつも通り、何も変わらぬ日常がスタートした。
いつも通りの朝会、いつも通りのつまらない会議。
しかし、そんな中に唯一つ明確な変化があった。
熊野がまだ戻らない。
既に失踪から1週間近くが経っても、何の進展も無いと言う。
熊野は一体、どこへ消えてしまったのか?
真相は闇の中だ。

「熊野さん…まだ戻らないらしいわね。
昨日もご両親が学校までお出でになっていたわ」
隣からモネ姐がどことなく沈んだ声で話してきた。
何だかんだ言ってもモネ姐と熊野の付き合いは結構長いらしい。
憎たらしい相手ではあるが、そんな奴でも突然姿を消せばモネ姐でも心配になるようだ。

…二度と戻って来なくても良い。
私は、しかし残酷にも自然にそう思っていた。

「ええ、そうらしいですね」
私は本心を隠してそう返事をした。

「…こういう事言うのも何だけど、熊野さんやっぱり何かあったんじゃないかしら?
最近集団失踪事件がここまで大事になっているんだし、何か事件に巻き込まれたとしか…」
ちなみに、この時点で失踪者数は既に200人を超えていた。
連日町内では全国ネットのTV局クルーが最新情報を求めて町内を慌しく駆け回っている。

「かも…分かりませんね。
でもこればかりは気を付けようがありませんから、もし本当にそうだとしたらお気の毒としか…」
この時、失踪事件は新たなる段階へと突入していた。
外出中の人だけでなく、一家全員が丸ごと一晩の内に消えてしまうというケースが現れたのだ。
こうなると、最早集団登校とか休校とかでは対処出来なくなる。
当然国のお役人さんとか警視庁の公安当局だかが直々にお出でになって調査しているようだが、
進展という進展は全く見られていなかった。

618N2:2004/06/15(火) 15:06



「えー、皆さんお早う御座います。
今日も皆さんお元気なご様子で…と言いたいのですが、
今日も熊野先生はお休みのようですね…」
初ケ谷校長の話が始まった。
今日も話の始まりは熊野についてである。
しかし、今日の話はこれまでのものとは趣旨が違った。

「さて、熊野先生が失踪されてから今日で丸一週間が経ってしまいました…。
我々としては先生の一日も早い復帰を…まあ…願わなくてはならない訳ですが、
いつまで先生がすぐに戻って来るとの見込みをあてにしているだけでも色々と問題が御座いまして」
あれでも熊野は校内の様々な事務を受け持っていた為、
奴が消えたお陰でそのつけは我々に降りかかって来た。
正直なところ、人手がもう一人だけでも欲しいと皆が思っていただろう。

「それで、突然の話ですが今日から非常勤講師の方がいらっしゃることになりました。
まだお若いですがどうやら相当優秀な方だそうなので、
まあ皆さんとにかく仲良くして下さいね」
突然の校長の宣言には、我々全員が驚いた。
普通、そういう人が来るのであれば前以って連絡するのが普通であろう。
それが当日朝に発表されるなんて話、聞いたことがない。

「何とも無茶苦茶な話ですね…。
本当にそんな事で大丈夫なんですかね?」
私はちょっとニヤつきながらモネ姐にそう言った。
昨日の今日で決まったような話では、どこまでその非常勤講師も当てになるか分からない。

「あら、そう? それだけ急に決まる位優秀な先生かも知れないじゃない。
…それに、『まだ若い』って…!楽しみじゃない…!!」
モネ姐は私よりも更にほころんだ顔をしていた。
ああ、この人もこういう趣味があるのか、と私は始めて思い知らされたと同時に、何だかがっかりした。

「そんな、第一まだ男だとも言われてないのに期待してて…」
私は軽い軽蔑の意も込めた薄ら笑いをして、
机の上に乗せたカバンから荷物を取り出しながらそう言おうとした。
その時、校長が私の言葉を遮るように叫んだ。

「それじゃあ、入ってきて貰いましょう。
どうぞー!」
校長に呼ばれ、職員室の扉が開く。
私はその様子に興味を示すことなく、必要なものを机の上に置いてゆく。

「おお……!」
「カッコいい…!」
どこからともなく、そんな呟きが聞こえてくる。
しかしその時の私には、ノートの間に隠れた筆箱の行方の方が大事だった。

どよめきを掻い潜り、乾いた足音が少しずつ近付いて来る。
そしてそれは校長の辺りで止み、今度は若い男の声が届いた。

「本日からこちらで働かせて頂くことになりました、毛利と申します。
経験不足故に皆様にはご迷惑をお掛けすると思いますが、どうかよろしくお願いします!」
ハキハキして活き活きとした、力の有る男の声。
それに呼応して、職員室内には盛大な拍車が巻き起こった。
私もそろそろ何事かと思い、いい加減その男の姿を見ることにした。

619N2:2004/06/15(火) 15:08



驚愕、としか言いようがなかった。
長い美しい髪に、整った極めて美しい顔立ち。
そして全身から醸し出される知性的な空気。
そこには、完璧な美が存在した。

「えー、では親睦を深める為にこれから先生へいくつか質問してみることにしましょう。
どなたか質問のある方は?」
熱気が冷め止まぬ内に校長がそう言うと、早速神尾先生が手を上げた。

「あの、えっと、猫田先生はどちらの大学を出てらっしゃるんですか?」
いつもは強気な彼女が珍しくモジモジしている。
下心は丸見えだ。

「…東京ギコ大学です。
それと、私は猫田じゃありません。毛利です」
不機嫌そうに毛利先生は言う。
だか彼のそんな気も知らず、周囲からは、おお、という溜め息が漏れた。

「え…っと……、次は私から………」
神尾先生よりも更に恥ずかしそうに、静川先生が手を上げる。

「あの……犬飼先生は…今…おいくつなんですか……?」
静川先生と今一番年が近いのは私である。
この間の一件があったとは言え、年下の女とでは流石に友達にはなりにくい(無論、彼にとってはの話だが)。
彼も年の近い仕事仲間が欲しいのだろう。

「…今年で23になります。
それと、私の名前は犬飼でもありません。毛利です」
彼の言葉に私はかなり度肝を抜かれた。
まさか、私よりも年下だなんて。
若いとは言っても、まさかここまでだとは思わなかった。

「……凄い…! それじゃあ大卒で教務員試験を一発合格したんですか…!?
…凄いなぁ……。僕なんて3年も落っこちてようやく先生になれたから……。
あ…あの……、これから仲良く…して……下さい…」
静川先生は完全に赤くなってしまった。
でも、彼なりには精一杯やったのだろう。
私達の中には、そんな彼を馬鹿にする者はいなかった。

「…ええ……考えておきます…。
名前さえ覚えて下されば……」
そして毛利先生は再び名前を間違われたことでそろそろ頭に来ているようであった。
だが、そこに更なる一撃が加わった。
それをしたのは八木先生だった。

「えーと、海老沢先生…っしたっけ?
海老沢先生はどちらの出身なんっすか?」

そこに質問された訳でもない先の二人が反撃する。
「ちょっと、八木先生! この人は猫田先生ですが、なにか?」
「あ…あの…、この人は犬飼先生だから……」

そう言われて、八木先生も頭に来たのか二人を怒鳴りつけた。
「馬鹿言うんじゃねえ! この人は海老沢先生だッつーの!」


「…毛利です…毛利…」
大乱闘にまで発展した三人を恨めしそうに眺めながら、毛利先生はそう呟いていた。

620N2:2004/06/15(火) 15:09

「まあまあ、そう気を落とさないでくれよ。
俺だって名前のことでいつも苦労してるんだからさ」
そんな毛利先生に鳥井先生が優しく声を掛ける。
同じ悩みを持つ者を放っておけないのだろう。

「すみません、余計な心配をお掛けして。
これからもよろしくお願いします、鳥井先生」
…あ、言ってはいけないことを…。

予想通り、ペチューンという勢いのある音が辺りに響き渡った。
何をされたのか分からない毛利先生と、顔に青筋を立てている鳥井先生。

「なんだよ!人の痛みがわかるやつだと思ってたら期待を裏切りやがって!
苗字で呼ぶなコラァ!」
鳥井先生は結局そのままドンチャン騒ぎを続ける三人の横を素通りして、そのまま机に戻ってしまった。
そろそろいい加減にしないと毛利先生がマジ切れしそうだ。

「え…えっと…それじゃあとりあえず毛利先生には熊野先生の席を使って貰いましょう」
差し迫った事態に危機感を覚え、校長が強引に話を締め出した。
毛利先生もそれに静かに頷く。

(ほら、言わんこっちゃないわ、いい男じゃない!)
モネ姐が子供のように無邪気な笑みを浮かべて機嫌良さそうに言った。
…この人にも、こんな一面があったのか。
呆れた私は荷物を出し終えたカバンを机の下へと潜り込ませ、
1時間目の算数の仕度を始めようと立ち上がった。
と、そこへ、何も前触れも無しに毛利先生が歩み寄ってきた。

「始めまして。椎名先生ですよね?」
柔和な笑みを浮かべて毛利先生が挨拶してきた。

「…ええ、はい。そうです。
これから、よろしくお願いしますね」
過剰なまでに親しみの込められた言葉に、私は同じ様に親しみを込めて返すことが出来なかった。
馴れ馴れしさにどこか不気味さを感じていたのであろうか。
しかし、毛利先生はそんな私の気も知らず、何か考えているような面持ちで
私の顔をじっと見つめていた。

「あの…以前お会いしましたっけ?」
彼の表情は、まさにそういう経験をした人のそれである、と考えた私は
思い切って彼にそう尋ねてみた。

「いや、今日こうして会うのが初めてです」
彼はあっけらかんとした感じであっさり言い切った。

「…そうですか…」
では、彼は一体何を考えているのだろう。
逆に考え始めてしまった私の耳に、私だけに聞こえる声で、
思いも寄らぬ言葉が飛び込んできた。

(ただ、貴女はとても美しい、と思いまして)

思考が混乱し、立ち尽くす私をよそに、毛利先生はそのまま元熊野の席へと静かに歩き始めた。
ただその場に呆然と静止している私に、モネ姐が心配そうに尋ねてきた。
「ちょっと椎名先生どうしたの?
顔赤いみたいだけど、どっか具合でも悪いんじゃない?」

左耳から入る声はそのまま右から抜けていったが、私の意識は歩く彼の姿を完全に認識していた。
突然の、告白。
何故?どうして?
恥ずかしさと疑問と性的興奮がぐるぐると全身を巡り続ける。
私には暫くの間、この1分ちょっとのやり取りで交わされた彼との言葉を頭の中で渦巻かせることしか出来なかった。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

621N2:2004/06/15(火) 15:10

何故前回こいつらだけ見落としていたのか…。

              、 l ,シャイタマシャイタマ !
             - (゚∀゚) -
                 ' l ` ∧∧
             ∧∧ ヽ(゚∀゚)/シャイタマ !
    シャイタマ〜 ! ヽ(゚∀゚)/  | |
                vv     W

NAME シャイタマー

擬古谷第一小学校に9月付けで転校してきた小学1年生。
クラスは3組(担任は椎名)。
理由は不明だが3人は血の繋がりもないのにいつも一緒に生活し、
本来別々のクラスに入るべきところを各々の親までもが強く希望したことにより
特例で同じクラスに入ることとなる。
3人は生まれついてのスタンド使いではないが、ずっと一緒に暮らしている内に
いつの間にか全く同じスタンドが発現してしまった。
それが種族的な理由なのか、はたまた前世の因縁なのかは誰にも分からない。

擬古谷町には夏休みの内から来ていたが、そこで『もう一人の矢の男』に
スタンド能力を見出され、亡霊に取り憑かれて洗脳される。
とは言え元々も子供だし取り憑いたのも子供の霊だったので
殺人などの凶行に及ぶことはなかったが、
主人の命によって標的であるギコ屋達に対しては一切容赦しなかった。

622N2:2004/06/15(火) 15:11
1/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  地獄の底から甦った、ギコ兄教授の何でも講義。
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      どんどんいくでー

                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | だからさ、こりゃ一回ポッキリで終わりじゃなかったのかと小一時間(ry
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ちゃんとそれなりの理由があるんだろうな?
         \________________

2/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  理由は簡単、絶賛の声が有ったからだ。
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 421 名前: 新手のスタンド使い 投稿日: 2004/05/23(日) 17:10

 ワロタ。N2氏乙!

 ※スタンド小説スレッド3ページより抜粋
                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    | 絶 対 こ れ 宛 じ ゃ な い ! !
    \__________________

623N2:2004/06/15(火) 15:12

3/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ま、雑談ばっかじゃ何の為の小説スレか分からんから
|  いい加減本題入るぞ。
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 考察・小説スレ各作品のサブタイトルについて

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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | そもそも先代したらばスレで小説スレを立てた上に
    | 小説スレでの文とAAの比は1:1とか言い出したのは
    | どこのどいつかと小(ry
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  …で、こんな問題起こしそうな内容で何話すんだ?
         \________________

4/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ご存知の通り、小説スレ連載中のほとんどの作品には
|  サブタイトルが付いている。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 各作者のシリーズ物作品一覧

 「モナーの愉快な冒険」:さ氏
 「合言葉はWe'll kill them!」:アヒャ作者氏
 「丸耳達のビート」:丸餅氏
 「救い無き世界」「EVER BLUE」:ブック氏
 「―巨耳モナーの奇妙な事件簿―」:( (´∀` )  )氏
 「スロウテンポ・ウォー」:302氏

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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 一応言っとくけど、小説スレ参加順に並んでるよ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ま、これが一番妥当だろうな。
         \________________

624N2:2004/06/15(火) 15:12

5/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ところが………
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 N2の連載中作品
 「モナ本モ蔵編」「逝きのいいギコ屋編」

                ∩_∩
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    |         ……………あ。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  すっかり気が付かなかったぞゴルァ…。
         \________________

6/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  では、どうしてこんな事になってしまったのか?
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   ちゃんと理由は存在するッ!

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    |   あ、そうなの?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  是非ともお聞かせ願いたいもんだな。
         \________________

625N2:2004/06/15(火) 15:13

7/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  長引かせたくないから表でまとめたが、1つ目はこれだな。
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━━━∨━━━━━━━━━━━━

  N2「モナ本モ蔵編」連載開始
     ↓
  さ氏、連載開始
     ↓
  N2「逝きのいいギコ屋編」開始
     ↓
  アヒャ作者氏「合言葉はWe'll kill them!」開始
     ↓
  さ氏、「プロローグ・〜モナーの夏〜」完結
  作品名「モナーの愉快な冒険」と命名
     ↓
  自分の作品のタイトルなんてろくに考えないまま月日が経過
     ↓
  みんなサブタイトル付いてる
     ↓
  (+д+)マズー

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    |   要するにN2のミス、と…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |    言わずもがなでしょ…。
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8/11

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|  ところが、もう1つ理由がある。
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━━━∨━━━━━━━━━━━━

 N2が本編のあらすじ製作中にサブタイトルが無い作品を
 「○○編」としたことにより、本編関連のモ蔵は元より
 本編との絡みを予定しているギコ屋も
 サブタイトルを付けようなんて思わなかった

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    | …でさ、結局何が言いたかったの?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  作者の意図が分からん…。
         \________________

626N2:2004/06/15(火) 15:14

9/11

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|  ま、言いたい事はこれだ。
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 サブタイトル無くても(゚ε゚)キニシナイ!!

                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
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    | 気 に し て い る の は お 前 だ け だ ! !
    \__________________

10/11

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|  お、そろそろ時間のようだな。
|  んじゃ、宿題はこれだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 近日、剣士系(刀)のキャラを登場させる予定があるが
 いまいちナイスで強そうなキャラが見つからないので
 良さげなキャラを知ってたら報告すること

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
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    |       …ちょっと待った。
    \____              ∧
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         |  それ、俺達じゃなくて読者に言ってないか?
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         ,. -─- 、   なんだ
       (⌒) ┃┃ ヽ-、   もんくあるか
    .rt-;ヘ! ゙:,'' ∇ '' !‐'
   .,rl. | ! !  _,ヽ_,.ノ‐、
   ヽ!_f_i_,」‐´ _ ̄)ー‐ '

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. <   To Be Continued...?  | |
  \┌─────────┴┘

627ブック:2004/06/15(火) 22:18
     EVER BLUE
     第三十三話・MADMAX 〜悪鬼再臨〜


「…福男、ヒッキー両名からの通信が途絶えました。」
 オペレーターが、暗い声で山崎渉に伝えた。

『ザザッ…
 こちら三号艇…只今、『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』と交戦中…!
 何とか食い止めてはいますが、防戦だけで精一杯です……!!』
 備え付けの無線機から、ノイズ交じりの連絡が入ってくる。
 忌々しそうに舌打ちする山崎渉。

「…仕方ありません。
 これ以上長引かせては、憲兵が来てしまいます。
 この一号艇と二号艇に連絡。
 砲撃開始。
 無力化させるだけが望ましいですが、
 万一の場合は撃墜も已むを得ずと伝えておきなさい。」
 山崎渉が溜息を吐きながら告げる。

「了解!」
 それを受けて、オペレーターが直ちに通信を繋げた。

628ブック:2004/06/15(火) 22:18



     ・     ・     ・



「皆、大丈夫…!?」
 傷ついた体をおしながら、僕とオオミミとニラ茶猫が甲板へと駆け上がった。
 何故か、天までついてきている。

「ああ。
 …!それより、お前らの方がヤバそうじゃねぇか!!」
 オオミミとニラ茶猫の有様を見て、サカーナの親方が怒鳴る。

「こちらは問題ありません。
 あなた達は中で休んでおいて下さい。」
 パニッシャーを担ぎながら、タカラギコが微笑みかけた。
 こんな時に、よくそんな余裕の笑みを作れるものだ。

「…!?
 あれは!?」
 と、オオミミが敵の船の一つを見やった。
 よく見ると、その戦艦の甲板上で誰かが闘っている。
 いや、待てよ。
 あの大袈裟な得物には見覚えがある。
 あれは、確か…

「あの人は…!」
「あいつは…!」
 オオミミとニラ茶猫が同時に驚きの声を上げた。
 あの人は、この前オオミミを誘拐した女の人だ!

「ニラ茶猫、あの人の事知ってるの?」
 オオミミがニラ茶猫に尋ねた。
 そういえば妙だ。
 ニラ茶猫は直接あの女に会った訳ではないのに。

「いや、ちょっとな…
 って、そんな事いってる場合じゃねぇだろう!」
 ニラ茶猫が一方的に会話を切る。
 まあ確かにその通りだ。
 今は、ここから何とか乗り切る事に専念しなければ…!


『!!!!!!
 敵船、こちらに砲門の照準を合わせています!!』
 スピーカーから、悲鳴のような高島美和の声が響き渡った。

 何だって!?
 砲門の照準を合わせた!?
 いよいよ、多少のリスクを犯してでもこの船を強引に制圧しにきたか…!

『船の中に逃げて下さい!
 敵船が攻撃を開始し―――』

 !!!!!!!!!!

 その高島美和の声と、砲撃の音が重なった。
 爆音と共に、無数の砲弾が僕達の船に襲い掛かる。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!
 『モータルコンバット』!!!」
 サカーナの親方が叫んだ。
 刹那、『フリーバード』が一瞬にしてその向きを変える。
 それと共に、砲弾は全て『フリーバード』が向きを変えた方向へと逸れていった。
 無茶だ。
 まさか、サカーナの親方はこの船全体を包むほどの空間に能力を使用したのか!?

「……!!」
 スタンド能力の過度の使用の所為で、
 サカーナの親方が目鼻耳口あらゆる穴から血を流して横転する。

「親方!!」
 オオミミがサカーナの親方に駆け寄る。
「へッ…
 流石に…これだけの範囲の空間の向きを変えるのは…
 無茶だったみたいだな…」
 息も絶え絶えに、サカーナの親方が呻くように呟く。
 スタンドパワーの使い過ぎだ。
 死にはしないだろうが、暫くは戦闘不能だろう。
 いや、このままだと、どっちみち皆死んでしまう。

「後にしろ、オオミミ!
 二撃目が来るぞ!!」
 三月ウサギが怒鳴った。
 だけど、最早僕達に何が出来るっていうんだよ…!



「!!!!!!!!!!!!!!!」

 その時、全身を氷柱で貫かれたような、
 ゾッとするものが僕の全身を駆け巡った。
 これは、さっき感じたのと一緒の気配だ。
 禍々しく、気味の悪い、この世のものとは思えないような威圧感。
 何だ。
 さっきから、一体何が来ている―――

「!!!!!!!」
 その場の全員の目が、一つ所に集中した。
 突如やってきた、黒い小型戦艦。

『あれは、『帝國』最新の小型快速艇『黒飛魚』…!
 『帝國』の船がたった一艘で、
 こんな『ヌールポイント公国』の国境ギリギリまで!?』
 高島美和の驚きの声がスピーカー越しに伝わる。
 馬鹿な。
 こんな所に戦艦なんか持ち込んだら、両国の関係に軋轢が生まれるのは明白だ。
 それなのに、何故そんな危険を冒してまで『帝國』の船が!?

「……!!」
 オオミミが、拳を硬く握って『黒飛魚』を見据えた。

629ブック:2004/06/15(火) 22:19



     ・     ・     ・



 『黒飛魚』の甲板に、奇形モララーと全身を拘束具で縛られた人物が佇んでいた。
「くははははは。
 来たぜ来たぜ来たぜえええェェ…!」
 身体を震わせながら、奇形モララーが笑う。
 そして、懐から携帯電話大の大きさの四角い箱を取り出す。

「しっかり働けよ、『カドモン』…」
 四角い箱から太い針のような物が飛び出る。
 奇形モララーは、それを『カドモン』と呼ばれた人物の首筋へと突き刺した。

「ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
 顔をすっぽりと包んだ頑堅な仮面から、苦悶の声が漏れる。
 痛みの為か、『カドモン』は身体を数回ビクンビクンと痙攣させた。

「これで良し、と…」
 奇形モララーはそれを見て満足そうに微笑む。

「さて、それじゃあお呼びするとしようかねぇ…!」
 奇形モララーはそう呟くと、精神を集中させる。
「『ディアブロ』…!!」
 『カドモン』の頭上に、どす黒い穴が開いた。
 そこから、それよりもなお昏きオーラが『カドモン』の中へと侵入していく。

「ヴヴルルルオオオオオオオオオアアアアアアアアア!!!!!!」
 身を捩じらせながら、『カドモン』が悶え狂う。
 しかし、昏きオーラはさらに『カドモン』へと潜り込んでいった。

「…!!」
 穴が閉じ、奇形モララーが膝をつく。
 その顔には、脂汗がびっしりと流れていた。

「…はァ、はぁ……
 たった一回でこれか…
 相変わらず、何てぇ『化け物』だよ…!」
 肩で息をしながら奇形モララーが呟く。

「ウルロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
 刹那、『カドモン』の腕と脚の拘束具が弾け飛んだ。
 そこから、およそこの世のものとは思えない異形の手足が現れる。

「オオオオオオオアアアアアアアアアアア!!!」
 さらに背中の部分の拘束具が破れ、悪魔のような翼が突き出る。
 それは、まさに『化け物』以外に呼び名が思いつかない程の存在だった。

「…うまくいったみたいだな。」
 奇形モララーが、『化け物』を満足気に見据える。
「いいか、あのチンケな船は攻撃するな。
 壊していいのは周りの戦艦だけだ。」
 奇形モララーがスイッチのようなものを弄ると、
 先程『カドモン』に取り付けておいた機械から電流のようなものが流れる。
 『化け物』に姿を変えた『カドモン』が、それを受けてゆっくりと頷いた。

「よし…
 行けぇ!!!」
 奇形モララーが山崎渉率いる『紅血の悪賊』の戦艦を指差した。

「ルアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
 『化け物』は翼をはためかせると、
 凄まじい速度で『黒飛魚』の甲板から飛び去っていった。

630ブック:2004/06/15(火) 22:19



     ・     ・     ・



「山崎渉様!!
 『帝國』の『黒飛魚』より、何かが飛び立ちました!!
 こちらに向かって、驚異的な速度で飛来してきています!!!」
 オペレーターが甲高い声をあげた。

「糞…!
 ここにきて、何故『帝國』が!?」
 歯軋りをする山崎渉。
「構いません、撃ち落とすのです!」
 声を荒げて山崎渉が指令を飛ばした。
「はッ!」
 返答するオペレーター。
 すぐさま、向かってくる『化け物』目掛けて何発もの砲弾が発射される。

「……!!!」
 しかし『化け物』はその砲撃の悉くをかわしながら、
 『紅ちの悪賊』の艦隊目指して突進した。

「!!!!!!!!!」
 『化け物』が、ジャンヌが闘っていた戦艦に突貫する。
 轟音と共に、『化け物』のぶちあたった船体に大穴が穿たれた。

「なッ!?」
 激しく揺れる船上。
 ジャンヌが、バランスを崩しながら驚愕の声を漏らした。

「ロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
 『化け物』が、吼える。
 大気を震わす叫び声。
 それに平行する形で、『化け物』が飛び込んだ戦艦の中で暴れまわる。

「AAAAAAHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 その戦艦の中にいた吸血鬼達が、あっという間に屠り去られていった。
 最早これは殺し合いですらない。
 唯々一方的な虐殺である。

「!!!!!!!!!!!!」
 次々と戦艦の内側から爆発が起こり、
 船のあらゆる場所から火の手が上がる。
 瞬く間に一艘の戦艦は寿命を迎え、黒煙を上げながら墜落していった。

「ちッ!」
 ジャンヌは舌打ちをすると、落ちていく船の甲板から飛び降りた。
 その体の周りに無数の蝙蝠が集まり、大きな蝙蝠へと姿を変えてジャンヌを背に乗せる。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
 それとほぼ同時に、『化け物』も戦艦の中から飛び出した。
 そして残った二艘の戦艦のうち、山崎渉の乗っていない方の船へと目標を移す。

「リュオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
 砲撃を掻い潜りながら戦艦まで接近し、『化け物』がその異形の腕を船体へと突き立てる。
 そのまま腕を船体に突っ込んだままで飛行し、
 戦艦をまるで紙風船のように引き裂いていく。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 穴だらけになり、爆破炎上する戦艦。
 一通り破壊を終えた『化け物』が、落ちゆく戦艦の船首へと足を下ろした。

「何だ…
 何なんだあれはああああああああああああああああ!!!?」
 山崎渉が狂ったように叫んだ。

「落ち着いて下さい、山崎渉様!
 退避命令を!
 このままでは我々まで巻き込まれてしまいます!!」
 オペレーターが必死な形相で山崎渉にそう言った。

「…分かりました!
 総員退避!
 早くあの『化け物』から…!」
 その時、山崎渉の乗る戦艦のブリッジに、
 壁をぶち破りながら『化け物』が突っ込んできた。

「アアアアアアアアアアアアアアアア…」
 首を回しながら、『化け物』が大きく息を吐く。
 異形の腕が、異形の脚が、異形の翼が、
 仮面に包まれた顔が、
 山崎渉達に絶望という言葉を刻み込む。

「この、化け物めええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
 それが、山崎渉の最後の言葉だった。

631ブック:2004/06/15(火) 22:20





「よーし、よしよしよしよしよし。
 上出来だ。
 戻れ『カドモン』。」
 奇形モララーが、墜落していく『紅血の悪賊』の三艘の戦艦を見据えながら
 手元のスイッチを操作した。

「…!?」
 しかし、『化け物』には一向に反応が見られない。

「おい、どうした!?
 もうお終いだ、『カドモン』!!」
 叫びながら、奇形モララーはスイッチを何度も操作する。

「ルルルルルルウウウウウウ…」
 『化け物』の首筋の機械から電流が流れる。
「ウウウウウウウアアアアアアアアアアア!!!!!」
 だが、『化け物』はお構い無しに機械を首筋から強引に引き剥がした。
 そして、豆腐のようにその機械を握り潰す。

「なッ…!」
 絶句する奇形モララー。
 『化け物』が首を動かし、そんな奇形モララーを見据える。
「やべえ、暴走だ!!
 逃げろおおおおおおおおおおおお!!!」
 その奇形モララーの叫びと共に、
 『黒飛魚』は全速力でその場を離脱していった。



     ・     ・     ・



「な……あ…あ…!」
 開いた口が塞がらないといった様子で、オオミミがポカンと『化け物』を見つめる。
 他の人達も同様だ。

 無理も無い。
 この短時間で、あの『化け物』は『紅血の悪賊』の戦艦を三隻とも沈めてしまったのだ。
 絶対的な威圧感。
 心臓が破裂する程の圧迫感。
 格が違うとか、そんなレベルの問題じゃない。
 あれは…
 あの『化け物』は、同じ次元の存在ですら無い。

「何なんだよありゃああああああああ!?」
 ニラ茶猫が狂乱する。
「…まあ、どう控えめに見ましても、
 デートのお誘いに来た訳ではないでしょうねぇ…」
 相変わらずの軽口を叩くタカラギコ。
 だが、その表情にはいつもの笑みは微塵も残っていなかった。
「……!」
 三月ウサギまでが、冷や汗を流している。
 何だ。
 何なんだ、あの『化け物』は…!

「…!!」
 『化け物』と、目があった。
 オオミミとではない。
 今、間違いなくあの『化け物』は僕の事を見ていた…!

(!!!!!!!!!!)
 その時、僕の頭に幾つもの映像が流れ込んできた。
 変な矢。
        それを持った男。
    醜い姿の少年。
                    あの『化け物』の姿

 これは何だ!?
 いや、知っている…
 僕はこれを知っている…!?

632ブック:2004/06/15(火) 22:21


「!!!!!!!!!」
 直後、『化け物』が僕達の船に向かって飛び掛ってきた。

「あれを船の上に上げてはなりません!!」
 タカラギコが、叫びながらパニッシャーを乱射した。
 三月ウサギも、『化け物』に向けて何本もの剣を投げつける。

「!?」
 だが、銃弾も剣も、
 全て『化け物』の目の前で動きを止めた。
 そのまま止まった銃弾や剣は、雲の下へと落ちていく。

「何…!?」
 驚きに顔を歪める三月ウサギ。
 馬鹿な。
 一体今、何が起こったのだ。
 あれが『化け物』の能力なのか!?

「手を止めてはいけません!
 兎に角攻撃を続けて下さい!!」
 タカラギコがさらにパニッシャーを撃ち込んでいく。
 しかし、矢張り銃弾は全て『化け物』に到達する事なく動きを終える。

「!!!!!!!!」
 そうこうしている間に、
 『化け物』は僕達の船に…
 いいや、『僕』目掛けて突っ込んできていた。

 駄目だ!
 このままじゃ、あの『化け物』がこの船の上に―――

「『モータルコンバット』…!」
 その時、いつの間にか立ち上がっていたサカーナの親方がスタンドを発動させた。
 僕達の目の前で百八十度角度を変えて、
 『化け物』が来たのとは真逆の方向に向かって飛んでいく。
 『モータルコンバット』で、
 『化け物』が進んで来るのとは逆方向に空間の向きを変えてくれたのか。
 もう殆ど、スタンドパワーなんて残っていなかった筈だのに…!

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 しかし、それも一時凌ぎに過ぎなかった。
 僕達から離れていった『化け物』が、再び向きを変えて僕達の船に襲い掛かる。

「させません!!」
 タカラギコのパニッシャーが火を吹いた。
 だけど、今度もまた…

「!!!!!!」
 だが、今回は違った。
 『化け物』の身体に、次々と銃痕が穿たれる。

「どうやら、能力はもう打ち止めみたいですねぇ!!」
 タカラギコがさらに弾をばら撒く。
 そう言えば、心なしか『化け物』の動きが鈍くなっている。
 もしかして、あの化け物持続力が低いのか?

「冥府に堕ちろ…!」
 三月ウサギも負けじと剣を投げつける。
 刀剣が、剣山のように『化け物』の身体に突き刺さった。
 倒せるのか!?
 あの『化け物』を…!

「貰いましたよ!」
 タカラギコがパニッシャーを担ぎ上げた。
 それと同時に、マシンガンが内臓されているのとは反対側の十字架の胴体が開き、
 そのからロケットランチャーが姿を見せる。
「吹き飛びなさい!」
 タカラギコが、髑髏型のトリガーを引いた。
 銃口から放たれるロケット弾。
 それが、生き物のように『化け物』へと突き進んだ。


 !!!!!!!!!!!!!!!

 爆発。
 『化け物』の身体が、ロケット弾の爆炎の中に包まれた。
 やったか…!?

633ブック:2004/06/15(火) 22:21


「……!!」
 その場の全員の顔が凍りついた。

 生きていた。
 銃弾を受け、剣で貫かれ、爆発の中に巻き込まれながらもなお、
 あの『化け物』は生きていた…!
 何だ。
 あいつは一体何なんだ!!!

「オオオオオオオオアアアアアアア…」
 しかし流石の『化け物』も全くの無傷という訳ではなく、
 身体のあちこちが崩れかかっている。
 『化け物』は苦しそうに呻いており、僕達に襲い掛かってくる様子は無い。
 よし、この隙に逃げる…

「!?」
 オオミミの目が大きく見開かれた。
 『化け物』の顔につけられていた趣味の悪い仮面が、
 爆発のショックで壊れている。
 そして、その中から覗いた顔は―――

「!!!!!!!!」
 その瞬間、電撃のようなショックが僕を襲った。
 全身が、全力で僕に危険を伝えてくる。
 ヤバい。
 何かがヤバい!

「…!!
 今すぐ、ここから離れて下さい!!!」
 タカラギコも同様に危険を察知したのか、大声で避難勧告をする。

「分かりました!
 全速前進、離脱しま〜す!」
 カウガールの無闇に明るい声と共に、船が一気に加速する。
 早く。
 一秒でも早く、この場所から…!


「ルウウウウウオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!!!!」
 『化け物』が断末魔のような叫び声を上げた。
 刹那―――――

634ブック:2004/06/15(火) 22:22





 ――――――消えた。
 『化け物』の半径数十メートルの空間の中にあったものが、
 雲も、『紅血の悪賊』の戦艦の破片も、綺麗サッパリと。
 まるで、始めからそこには何も無かったかのように。
 もしかしたら、空間自体も無くなっていたのかもしれない。
 光も無かった。
 音も無かった。
 そこでは、何もかもが消え去っていた。

「……」
 オオミミ達が、呆然と何もかもが消え去った空間を見詰めていた。
 そこに『化け物』の姿はもう無い。
 一緒に、消え去ってしまったのだろうか…

「……」
 と、三月ウサギが天へと顔を向けた。
「……」
 三月ウサギだけでない。
 サカーナの親方も、ニラ茶猫も、タカラギコも、オオミミも、
 その場にいた全員が天を見る。
 恐らくブリッジの高島美和もカウガールも、
 動揺に天を見ているだろう。

「ち…違う。
 アタシは違う……」
 天がよろよろと後ろずさった。

 …あの『化け物』の仮面の中から現れた顔。
 それは、紛れも無く天と全く同じ―――

「アタシはあんな『化け物』なんかじゃない…!!」
 天の悲痛な叫びが、甲板に響き渡っていった。



     EVER BLUE・序章
          〜完〜

635ブック:2004/06/15(火) 22:23

    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\    今日、おやつにバナナミルキーを食べたんですが、
  . |(●),   、(●)、.:|   下品だけどその…
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|   勃起してしまいましてね。
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::|   だって、『バナナ』で『ミルキー』なんですよ?
   \  `ニニ´  .:::::/    これはもう狙っているとしか思えない…
   /`ー‐--‐‐―´\


という訳で、ようやく大きな区切りがつく所まで物語を進める事が出来ました。
それもこれも全て皆様のお陰です。
展開が遅く、設定とかキャラとか出しっぱなしの気もしますが、
これからいよいよ様々なキャラクターや伏線同士を絡めていきますので、
どうかその点につきましてはお許し下さい。
それと申し訳ないのですが、さすがに疲れてきたので暫く休憩をさせて頂きます。
勿論何もしない訳ではなく、
キャラクター紹介や何故か異様に反響のあった番外編、
『ときめきEVER BLUE 〜交際編〜』をゆっくりながら書いていくつもりです。
最後に、皆様の暖かいご声援誠にありがとうございます。
無闇に長くなりそうな『EVER BLUE』ですが、
もう暫くお付き合い頂ければ幸いです。
これからも、どうぞこの不肖ブックをよろしくお願いいたします。

・追記・
正直、今の『EVER BLUE』には猫耳成分が足りないと思うのです。
はにゃーん。

636丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:18





  むかーし昔十六世紀、イタリアはベネツィアのお話。

 ベネツィアの貿易商アントーニオは、親友バッサーニオの為に金貸しのシャイロックから結婚資金を借りてやる。
しかしバッサーニオの船が難破し、借りた金を返せなくなってしまった。

 その上彼は、金貸しシャイロックから金を借りるときの証文にこう書いている。

  『期限までに全額を返せなければ胸の肉一ポンドを差し出す』―――と。

 裁判の場で胸にナイフを突き立てようとするシャイロックだが、裁判長はこう言った。

「待つがよいシャイロック。確かに胸の肉一ポンドはお前の物だ。しかし、皮や肉、骨はその限りではない。
 一筋でもその皮に傷をつければ、一滴でも血をこぼしたなら、私達はお前を捕らえ、牢へ入れる―――」

 シャイロックはどうすることもできず、アントーニオは金も返さずにめでたしめでたしどっとはらい。

637丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:19






「―――『ベニスの商人』って…なんで『ベネツィアの商人』って言わないのかねぇ。
 昔ずっと『ぺ』だと思ってて仲間内から大笑いされて…あーいや、ンな事ぁともかく」

 ぷらぷらと六本指の手首を揺らしながら、ッパがマルミミへと近づいてくる。

「あれに出てくる金貸しのシャイロックって、さも悪徳商人みたいに書かれてやすよね?
 …けど、彼はなーんも悪いことなんてしておりやせん。…実は彼、ユダヤの人種だったそうなんです。
 そう考えると酷い話でしょ?胸の肉一ポンド…要するに、『命張って返せよゴルァ』って証文まであったのに、
 裁判官の贔屓で踏み倒されちまった。…あっしみたいなッパ族もね。結構そんな感じですよ」

 よっこらしょ、と気を失ったマルミミを担ぎ上げる。
先程スリ取った心臓をスタンドの掌で転がしながら、マルミミに向けて語りかけた。

「ふぐりだの何だのと結構迫害受けてましてね…その上あっしはこんな六本指でしょ?
 底辺の更に底辺扱いされて…気が付きゃいつの間にか橋の下。
 けど、あっしの『プライベイト・ヘル』ならね。血も流さず、皮も切らずに、胸の肉をえぐり出せる…ん?」

 ぷにぷに、とマルミミの心臓を『プライベイト・ヘル』で軽くつつくが、スタンドの気配がない。
辺りを見回すと、少女の乗っていた車椅子がどこかに消えていた。
「…ッチ。油断しちまったねぇ…あのスタンド…女のカラダに入って逃げたかい」

 前と後ろは舗装されていない、平坦な田舎道。右手には田んぼが広がっている。
どれも、隠れられる所はない。

「っつーと…こっちの竹林か」
 一人呟き、ガサガサと音を立てて左手の竹林へ足を踏み入れた。


  ―――何なんだ、あの男は。

 しぃの鼓動を借りながら、B・T・Bが冷や汗を流した。
掌を広げて、鼓動を感知する。探るのはリズムではなく、『生命のビート』の正確な位置。
 通常なら胸の真ん中よりも少し左寄りにある、鼓動の中心部…
              ・ ・ ・ ・ ・
それがどういう訳か、尻にあった。
「―――ヤハリ…!」

638丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:21

 肌に一筋の傷さえも付けずにマルミミの心臓を抜き取った所を見れば、
おそらく能力は『対象の中身を抜き取る』事。
それで本体の心臓を抜き取って、静寂のビートをやり過ごした。
 心臓を抜き取られる瞬間にしぃの体へと潜り込まなければ、自分も一緒に捕獲されていただろう。


「シカシ…取リ出シタ 心臓ヲ ドコニ シマッテル カト 思エバ ヨリニヨッテ 尻ノ ポケット……」

 …いや、確かに理にはかなっている。
 B ・ T ・ C
静寂のビートは、心臓に衝撃を与えないと効果はない。

 心臓など大抵は左胸にあるのでいちいち何処にあるかなど調べはしないし、
よもや尻に心臓があるなど逆立ちしても思いつくまい。

「ダカラト イッテ 尻…」

 鼓動を扱うスタンドとして、敵の物とはいえあんまりな扱いをされている心臓に同情しかけてハッと我に返る。
いやいやいやいや、考えるべき事は尻がどうこうではない。

                 B ・ T ・ C
自分の心臓を取り出して、静寂のビートを無効化。
しぃの鼓動をエネルギー源にしているのを判っていたかのような言動。
私が本体から離れて活動できるスタンドだと一瞬で見抜き、追ってきている。

 これらから考えられる結論はただ一つ。
あの男は静寂のビートの特性を…B・T・Bの能力を知っていた。つまり…


(能力ガ…バレテイル !?)

639丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:22

 B・T・Bの白塗りメイクが青ざめる。
心拍を停止させるには、その特性上何回かに分けて衝撃を与えなくてはならない。
             マイクロセカント
 単純なスピードなら一万分の一秒単位で動ける自信があるが、問題は本体。
車椅子で気を失っている病み上がりのしぃと、パッチリ起きている健康体のあの男。
 油断させての不意打ちならともかく、一から十まで見抜かれてる今では―――

(圧倒的不利…ト、言ウワケカ…)

 ッパが尻ポケットから、アクリルケースに入った自分の心臓を取り出した。
フタを開けると心臓がふわりと舞い上がり、ッパの胸へと吸い込まれる。
 代わりにスタンド…『プライベイト・ヘル』と言ったか…の持っているマルミミの心臓を中に放り込み、フタを閉めた。
ケースの中でびくびくと脈動しているが、血は血管の断面から一滴も流れていない。

「さーて…もう気付いてやすね?ビート・トゥ・ビート君。アンタの主人の心臓は預からせて貰ってやす。
 辛うじて生きてるくらいに血流は通してやっておりやすが…大人しく出てきて捕まるなら、コレは返してあげやすよ?」

 余裕たっぷりのッパの声に、B・T・Bが小さく舌を打った。

  ―――大人しく出てくれば捕まれば心臓を返す?
そんな約束を守るほど紳士的な物腰では無かったろうに、何を言っているやら。
 ここで出て行こうものなら、ほぼ間違いなく御主人様ごと縛られて拉致される。
そうなってしまえば銃を向けられても平然としていた奴らのこと、何をされるか判らない。

 …と言うかそもそも、あいつらは何者だろう。先程は、『うちらの御大の命令』と言った。
『御大』というのが<インコグニート>の事だとしても、御主人様を殺さないのはおかしい。
あそこまでプッツン切れた奴が、わざわざ生け捕りにするものだろうか…?

  がさっ。

 笹の葉を踏みしめる音で我に返る。
後ろを見ると、ッパはもう数メートル程に迫っていた。
「見つけやしたよ。遮蔽物の多いトコなら…逃げ切れるとでも思いやしたか?」
「Oh Shit―――Son・of・a・Biiiiitcccch…!」

640丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:23







「さーて…もう気付いてやすね?ビート・トゥ・ビート君。アンタの主人の心臓は預からせて貰ってやす。
 辛うじて生きてるくらいに血流は通してやっておりやすが…大人しく出てきて捕まるなら、コレは返してあげやすよ?」

 竹林から、男の声が聞こえてくる。
かひ、かひ、と、途切れ途切れの呼吸音。
 口元を流れる涎と鼻水が気持ち悪い。

「く…そぉ…っ!」
 銃の一丁も扱えなかった。
吸血鬼化できずに、肉弾戦でも役に立たなかった。
挙句の果てに心臓を奪われて、棺桶に片足を突っ込んだ状態でB・T・Bの足を引っ張っている。
  B ・ T ・ H
 情熱のビートを使っていたときでさえ、自分の弱さに嫌気がさしたのに。
何にも助けて貰えない僕だけの僕は、それよりも更ににちっぽけな存在だった。
酸欠と涙で、視界が滲む。


  また、九年前と同じ。

  誰かを守るなんて、軽々しい覚悟でできる事じゃ無いんだ。

  そう、生きていくだけで精一杯の弱い僕は。

  自分以外は何も守ることなど出来ないから。

641丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:24

―――だから僕は。

―――――弱い、僕が。

――――――――何かを守ろうと、思ったのなら。


(…命を捨てる覚悟で…守らなくちゃいけなかったんだ…!)


 キヒィ―――ッ…と自分でも心配になるような音と共に息を吸い、肺から血液へと酸素を溶かし込む。

(確かに…僕は弱い)
                     ゼンドウ
 体内に意識を集中する。血管壁を蠕動させて、滞っていた血流を僅かずつだが巡らせていった。

(…だけど、それでも、だからこそ―――――)

 靄のかかった思考が、だんだんと晴れてくる。
それでも呼吸はキヒィ―――ッ、キヒィ―――ッ、と半死人。
 不随意筋を動かすのは神経を使う。
激しい運動の中では、この処置も出来なくなるだろう。

(僕は……)

 だが、その目に宿るのは強靱な意志。
チャンスは一回。少しでも酸素を巡らせておいて、一気に仕留めなくてはならない。
 ジャケットの裏に吊った、格闘用ナイフに手を伸ばす。
メリケンサックの端から刃が伸びているような感じの品で、力が入らなくても取り落とすことはない。
涙と鼻水と涎を乱暴に拭い、ぎゅっ、と目を瞑り、開き―――気合いと共に、体を起こした。


(強く、なりたい…!)




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

642丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:25

  (丸)
 ( ´∀`)<今回のスペシャルサンクスー!

               / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               | 提供してくれた新手のスタンド使いさんミテルカナ?
               | 『プライベイト・ヘル』、アイデア提供ありがとうございます!
               \      ___________________
                  ̄ ̄ ̄|/
                    ∩_∩ オ茶ドゾー
                   ( ´∀` )つ旦~
                  m9 =============
                  (丶 ※※※※※ゞノ,)

643丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:26

武器いろいろ。


╋━━━

『三段式警棒』
いつもマルミミのジャケット裏に吊ってある特殊警棒。
振ると小気味よい音を立てて伸びる。
特に仕掛けがあるわけでもないが、SPM財団の最先端技術を使っているため強度は高い。


∞∞二フ

『格闘用ナイフ』                                  ∩_∩
今回初登場、マルミミのサブウエポン。                    ( ´∀`)<コンナカンジデス。
メリケンサックの端から刃が出ているような感じで、逆手に持って使う。(    つ
                     (丸)                        リ
…AAがショボい?聞こえなーい。( ;´3`)〜♪


『セラフィム』

スピードモナゴン謹製の拳銃。
454カスール弾使用、装弾数六発のリボルバー。
象狩りに使われるような銃弾で、パワー型のスタンドでも撃ち抜ける。
『銃の一丁も扱えなかった』と言われてるけど、
初心者が打てば狙いより肩が外れる。
興味ない人は、『デカくて重い凄い銃』と思って下さい。


『ケルビム』
スピードモナゴン謹製の拳銃その二。
38SP弾使用、装弾数十八発のオートマチック。
人は充分殺せるが、スタンドにはあまり効かない。
反動が少なく軽いため、B・T・Bでも撃てる。
興味ない人は『扱いやすい豆鉄砲』と思って下さい。

 (丸)
(;´д`) 拳銃のAAは勘弁して〜。

644丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:52

  ―――――例えば。

 千メートルを無呼吸で走れる人間はいないが、百メートルを無呼吸で走るのならば何とか可能。
時間が長いから当然だとも思うが、これは使う筋肉の違いもある。
百メートルのような短距離走では酸素無しで動ける白筋という筋肉を使っているからだそうだ。
この『白筋』の持久力はせいぜい七十メートルから八十メートルと言われる。

 そして、ッパへの距離は目算三十メートル。
普通に考えれば余裕かもしれないが、距離を詰めた後で殴り倒さねば話にならない。

 ほぼ心臓停止状態の今では、全力を振り絞っても五十メートル走ればぶっ倒れるだろう。
その上、足音を殺して走る余裕もない。


  彼の元へたどり着き、殴るか蹴るか刺すかして気絶させれば、僕の勝ち。

  たどり着いても、頭でもぶん殴られれば僕の負け。

  スタミナ切れで力尽きてしまっても僕の負け。

  一発で気絶させられなくても僕の負け。


(―――けど…やるしか、無いんだっ!)

 左手のナイフを竹に突き刺して、体を引き上げる。
「――――ッ !! !! !! !!」

 途端に襲ってくる、酸欠の苦しみ。
息が出来ないとかそんなモノは比較にならない。なにせ、心臓がまるまる引っこ抜かれているのだ。
ぐっ、とヘソの下に力を入れて、がくがく震える膝に力をいれる。

(…足が震えるのを『膝が笑う』って言うから…これはさしずめ大爆笑かな)
 意味のないことを考えるも、そんな余裕はない。

  ―――無駄な思考は切り捨てろ…脳を動かすと酸素が足りなくなるぞ…。

 全ての神経が、両足と左手に集中させた。
僅かな下り坂になった竹林。ナイフを目の高さで構えたまま、背中を丸めた前傾姿勢でひた走る。
綺麗に手入れを受けているため、竹の密度は走るのに邪魔なほどではない。

645丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:53

 ざざざざざっ、と笹の葉を散らす音に、ッパとB・T・Bの二人が振り向いた。
「なっ…!?」
「ゴ…御主人様!?」
 B・T・Bとッパ、二人の声が重なる。
もっとも、マルミミには聴覚に神経をまわしている暇も無いためにその言葉を聞くことはない。

「ちぃっ…!何てぇ坊やだ!」
 このままでは二対一と判断し、ざっ、とB・T・Bから距離を取った。

「―――ッ!」
 同時にマルミミの繰り出す格闘用ナイフの一撃を、大きく飛び退いてかわす。

―――丸耳の坊やはくたばりかけ、スタンドの方も病み上がりの嬢ちゃんにすがりついてる。
     しぶとさは認めるけど…御大のためだ。負けてやるわけにゃいかないよ。

 更に、マルミミから間合いをあけた。距離さえ取れば、マルミミもB・T・Bも大した驚異ではない。
一人一人確実に気絶させれば任務は完了。

「…ッ!」
 ナイフを振り切ってしまったためか、マルミミが大きく躓いた。
両足が地面から離れ、空中でつんのめる体勢になる。

(今ッ!)
 ぎり、と『プライベイト・ヘル』が拳を握り締め―――


「―――――――――ッッッッッッッッッッ!! !! !! !! !!」
 空中で体を捻りながら、マルミミが何かを投げつけてきた。
黒く細い、十五センチ程度の棒のようなモノ。
マルミミの右手から放たれた複数本のそれは、狙い違わずッパの肩口へと突き刺さる。

(…五寸…釘…ッ !?)

 茂名家の武術は『波紋法』だけではない。
試合に勝つための武術ではなく、戦場で生き残るための武術だ。
故に、格闘術は言うに及ばず武器から投擲までを多岐にわたり扱っている。
 そして、これもその内の一つ。
                 シノビヤ
  茂名式武術 投擲之型 "忍矢"。

 ざっ、と空中で一回転し、マルミミが右手をついて再び跳ぶ。

646丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:54


  ―――恐れていたのはただ一つ、スタンドでも失敗でもなく『逃げられる』ことだけ。
もしほんの十メートルでも距離を開けられてしまえば、放っておくだけで死にかけの僕は力尽きて気を失う。
だから、それだけは避けなくちゃいけなかった。
                       シノビヤ
 躓いたかのように見せたフェイントと"忍矢"で動きを止める…博打だったけど、何とか体も持ってくれた。

『さあ…どの内臓でも盗ってみろ。何処を盗んでも僕は止まらないぞ…!』

 ナイフを目の高さで構えて、唯一ヤバイ器官である脳はガードしている。
全ての力を左腕に収束させて、ッパへの距離を削り取る。

「ッこの……ドァァゾァァァアアアアアッ!!」
 ッパの叫びと共に、プライベイト・ヘルがラッシュを繰り出した。
だが、スタンド自体の破壊力は大したものでも無いから力負けもしない。
 能力にしても、頭部へのヒットは紙一重で避けている。
後は肝臓を盗られようが腎臓を盗られようが、駆け寄って斬りつけるのに支障はない。
もう一歩で、ほぼ密着の…マルミミの間合い。逆手に持ったナイフを、最後の踏み込みと共に右へと振りかぶり―――

「……ッ !?」

 ―――振りぬけなかった。
左腕から力が抜ける。反射的に視線をやると、信じがたい物が目に入った。

 だらん、とタコのように垂れ下がる自分の腕。
ちょうど、トレーナーの袖から腕だけ引っこ抜いたような感じ…
いや、肌色をしたゴム手袋とでも言うべきか。
              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『あっしの能力…誰が内臓をぶっこ抜くだけなんて言ったね?』

 ッパから発せられる『スタンド』の声。『プライベイト・ヘル』の六本指に、白く長い物が握られている。
確か、診療所に似たような物が飾ってあった。

 一本の上腕骨から伸びる、二本一組の前腕骨。
手関節から始まり、手首を構成する手根骨、掌を構成する中手骨、指を構成する指骨。
それらが、ぷらぷらとスタンドの手の中で揺れていた。

  ―――ッこいつ…左腕の骨を…!

 再び、連続した軽い衝撃。
ばしゃっ、と赤い液体がプライベイト・ヘルの掌から流れ落ちた。
「内臓だけじゃぁ無い…骨も血液も、こんな風に『盗れる』。
 あっしの能力を見極めた気になって、応用まで気が回らなかったのが坊やの敗因だよ」
「っあ…」
 心臓を盗られた上に大量の血液を失い、目の前が暗転する。

  ざしゃっ。

 自分の意思に反して膝が折れ、笹の葉の中に倒れ込んだ。

647丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:56




「…しっかし…バケモンかぃ、この坊や」

 心臓を奪われたにも関わらず、あそこまでの運動が出来るとは。
最初の不意打ちが失敗していたら、たぶんこっちが殺されていた。

 致死量ギリギリまで血を抜いておいたが、それでも気は抜けない。
マルミミの手を背中に回して手錠をかけ、本体の方はとりあえずこれで良し。残るはあのピエロのみだ。

 車椅子の嬢ちゃんなら、この竹林の中で大して遠くに行けるはずもない。
案の定、十メートルも進まない内に車椅子がひっくり返ってしぃの体が投げ出されていた。
坊やのスタンド能力か、ぐったりと深い眠りについている。
 成程、これなら遠慮無く丸耳の坊やも能力を使えたという訳か。


「さてと…出てきな!」
 『スタンドだけえぐり取れ』とプライベイト・ヘルに命令して、とっ、としぃの左胸を軽く叩く。
たゆん、とふくよかな乳房が揺れた。
「おぉ、目の保養…って…あらら?」

 眼福眼福と目尻を擦りかけるが、『プライベイト・ヘル』の掌には何も握られていなかった。
再び左胸を叩くが、やはり手応えが無い。
心臓が右胸にあるのかと思い右の胸を叩くが、結果は同じ。

  ―――スタンドが…いない?
                            エクス
 丸耳の坊やからスタンドが消えたのは判る。『X』さんから貰った資料によれば、
鼓動の生命エネルギーさえあれば誰にでも寄生できるそうだ。
ちょうど近くにいたお嬢ちゃんの鼓動を利用して、体を操って逃げた。それはいい。凄ーく分かる。
―――じゃあ、今は何処にいるんだ。

 …虫か何かの鼓動で動いてる?
(いや…いくら何でも無理がある)

 …偶然犬か猫でも近くを通りかかった?
(いやいや…ここいらは野良犬とか少ないしねぇ)

 …『生け捕り』と言う目的からすれば一番最悪の結論になるが…スタンドが死滅した?
(いやいやいや…エネルギー源の嬢ちゃんもいるし、そいつはおかしい。だったら何処に…)

648丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:57


「…誰ヲ、探シテイル?」
「―――――ッ!」
 声のした方から、慌てて飛び退く。
綺麗に手入れされた竹林の間、B・T・Bのヴィジョンが揺らめいていた。

「おいおい…鼓動がなけりゃ役立たずなんじゃありやせんでしたか?」
 緊張を走らせながら、再び『プライベイト・ヘル』を具現化させる。
B・T・Bの近くには、犬猫どころか竹しかない。
ひょっとしたら虫くらいはいるのかもしれないが、そんなモンで動けるとはとうてい―――

(いや…『竹』かい…!)

「…木ノ幹ニ 耳ヲ アテタ 事ハ アルカ?御主人様ハ、昔ココデ ヨク ソウシテイタ」
 よく見ると、B・T・Bの指がピアノを弾くように竹の表面を踊っている。

 ―――植物の鼓動。
生きとし生けるものである限り、『生命のビート』は存在する。

「…ソレハ微弱デ弱々シイ モノダガ…コノ竹林 全テノ 鼓動ヲ 揃エレバ ドウナルト思ウ?
 大人シク 御主人様ノ 心臓ヲ 返シテ、知ッテイル事ヲ 全テ 吐ケ。慣レナイ鼓動デナ…手加減ハ、シテ ヤレナイ」

 その言葉に、ッパが奥歯を噛み締める。
「ふざけたコト言っちゃいけやせんね。あっしにゃ人質があるんですよ?その上、今のアンタは慣れない鼓動でしか動けない…
 スピードなら勝てるでしょうが…そんな状態であっしの『プライベイト・ヘル』と渡り合えやすか?」
「ヤッテミロ…オマエハ 今ノ 言葉デ、生キラレル 可能性ヲ 自分カラ 摘ミ取ッタ」
  B ・ T ・ C
 静寂のビートはその特性上、僅かでもタイミングをずらすことが出来れば不発に終わる。
対してこちらは頭部か心臓を一発殴れれば、一発で勝ちを決められる。

(そう…アイツの言葉は全部ハッタリ。あっしが負ける可能性なんぞ、これっぱかしも無ぇんだ)

649丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:57

 ざっ、とッパが踏み込む。
(心臓を掴みだして捕まえて、こいつらを御大に持ってく…そうすりゃ、仕事は完了だ!)

「ドォォァァァゾァァァァァァァアアアアアア―――――ッ !!」
 『プライベイト・ヘル』が拳を握り、全力でラッシュを打ち込んだ。

 狙いはスタンドではなく、憑依していた『竹』。
B・T・Bの憑依していた竹が中身を抉られて脆くなり、ぱきりと折れた。
どんなスピードがあろうと、その『本体』となった物の動きには限度がある。
何に取り憑こうと、その取り憑いているモノを壊してしまえば―――――

「ヤハリ ソノ 程度ノ 考エカ」
「ッ!?」

 鼓動の源である竹を壊した筈なのに、B・T・Bから感じるスタンドパワーが消えていない。

『ワンパターンナ 作戦ガ、二度モ 三度モ 通用スルト 思ッタカ?コノ…』

 スタンドの声が頭に響く。
意味を理解する間もなく声にスタンドを向ける間もなく、背中に数発の軽い衝撃が叩き込まれた。
  雌 犬 ノ 仔 ガ ァ ―――――ッ
「Son・of・a・Biiiii―――――tcccch !! !! !! !!」
                  B ・ T ・ C
 正真正銘、手加減無しの『静寂のビート』。
単純な心臓麻痺とは訳が違う。『生命のビート』を止める―――
精神も肉体も全ての活動を停止させる、だれも覚ますことの出来ない永遠の眠り。
―――すなわち、『命』の停止。

スタンドが消滅し、抜き取られていた血液や骨、心臓が元へと戻る。
「…エネルギー供給ヲ 止メルト 言ウナラ、ソレニ 対応シタ 作戦ヲ 立テレバ イイダケダ。
 言ッタ ダロウ?『竹林全テ ノ 鼓動ヲ 揃エタ』…ト」

 竹という物は、全ての株が地下で繋がっている。
鼓動の源となっている竹を一つ壊されても、地下茎を伝って他の株へと移ればいい。
もし御主人様があの場で気絶したままだったら、こうして竹林全てを制御する暇は無かっただろう。

 御主人様が立ち上がったときにB・T・Bから注意をそらした時点で、彼の負けは決まっていた。


「私ト 御主人様…ソレゾレヲ 見クビッタ ノガ 貴様ノ 敗因ダヨ」




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

650丸耳達のビート:2004/06/19(土) 17:02
        __
      ∠・ω)
   /~~⌒ヽⅡ ⌒~~\ * ■ +  ッパ
  ∠ Ⅱ_♀×♀ ||  + *
   ヽⅡ \†††   ヽ ⌒⊂m)
  ミ\_|ⅡⅡ /   ̄ ̄  ̄
     |ⅡⅡ/
     /=×=|
    |Ⅱ|Ⅱ|
    |Ⅱ|Ⅱ|
    / ノ \ \
   (_ノ     \ \
   ∧_∧  У   ヽ_ヽ
    (・ω・)丿 ッパ
.  ノ/  /
  ノ ̄ゝ


 ツバ カシジロウ
 津葉樫二郎

貧民街生まれの多指症。
迫害を受けて橋の下に捨てられていたが、拾われて『ディス』の一員となる。
表の顔はケチなプータロー、裏の顔もやっぱりケチなスリ師。
致死量ギリギリで血流を止めたり血液を抜いたりと、
『ディス』で拷問とかやってたんだろーなーと書いてて思った。
エセ任侠口調が素敵な三十五歳。

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  スタンド名 プライベイト・ヘル                     ┃ 
┃  本体名  津葉 樫二郎(ッパ)                         ┃ 
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫ 
┃   パワー - C    ┃  スピード - A.     ┃ 射程距離 - E (2m) ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃   持続力 - C  . ┃ 精密動作性 - B  ┃ 成長性 - C.       ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 拳を握った状態で殴るときのみ発動する。                 ┃
┃ 殴ったモノの中身をッパと取り出すことが出来る。           ┃
┃ 本体が気絶するかスタンドを消すかすると、取り出したモノは.   ┃
┃ 元に戻る。これを利用し、財布をスリ取っていた。.            ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

   ∩_∩
  ( `д´)<うぉりゃっ!  ー二三━
 と      )      一二三━
  ノ  と/彡        ―二三━
 (__丿\_)

  シノビヤ
 "忍矢"

袖に隠し持った手裏剣を投げつける投擲術。
マルミミは手裏剣の代わりを五寸釘で代用している。
接近戦の武器にもなり、使い勝手は広い。
まだ下手なため、B・T・Bの補助無しでは複数本投げないと当たらない。

651ブック:2004/06/22(火) 00:30
遅くなりましたが、十五話〜三十三話までの人物紹介を。
『ときめきEVER BLUE』は明日あたりに。


『サカーナ商会』…サカーナ率いる人格破綻者の集まり(全員が全員ではないが)。
         何かとトラブルに巻き込まれる事をサカーナは嘆いているが、
         その原因の大半は自分の責任。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オオミミ…最早存在意義が怪しくなりつつある本編の主人公。
   灰汁が無い分でぃより始末が悪い。
   活躍は大分先の話か?

スタンド…名称『ゼルダ』。近距離パワー型。
     自立意志を持ち、物語の主な語り手として活躍している。
     あと、突っ込み役としても非常に優秀で、
     暴走しつつある番外編『ときめきEVER BLUE』唯一の良心。
     能力は特殊な結界を張る事で、
     その結界の中では一つだけ自由にルールを定める事が出来る。
     制限としては、一歩でも動いたら死ぬ等、
     余りにも理不尽なルールは作れない事と、
     自身もそのルールの影響を受けてしまう事。
     何やら秘密が隠されている予感。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
天…オオミミ同様、空気になりつつあるヒロイン。
  だが、三十三話で重大な事実が明かされたため、
  これからは活躍が増える筈。
  主人公とヒロインの活躍が無くて辟易されている方がおられるかもしれませんが、
  下地が固まったら思い切り暴れさせる予定なのでしばしばお待ちを。
  あと、ヒロインのくせに猫耳じゃないのはどういう事ですか!?

スタンド…名称『レインシャワー』。
     ビジョンの無い、結界展開型スタンド。
     結界の中で雨より様々なものを作り出し、
     とある手法により力を与えて闘わせる。
     オオミミ以上に戦闘で活躍してない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
サカーナ…サカーナ商会の親分であり、『フリーバード』船長。
     豪快な面が目立つものの、実は結構小心者でもある。
     馬鹿なように見えるがやっぱり馬鹿。
     高島美和に頭が上がらない。

スタンド…名称『モータルコンバット』。
     近距離パワー型で、能力は力の指向性の操作…ではないです。
     本当は一定の範囲の空間の向きを変える事。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
三月ウサギ…主人公より目立っちゃってる人その一。
      感情の沸点が低い乗組員の多い中、一人遠巻きに見ているタイプ。
      剣術の達人で、スタンド能力が直接戦闘向きでない弱点を、
      自分を鍛え上げる事で補っている。

スタンド…名称『ストライダー』。
     三月ウサギはこのスタンドを使って自分の使う得物を大量に持ち歩いている。
     制限として、火・電気・スタンド等の純エネルギー体は入れられないらしい。
     それ以外の詳細は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ニラ茶猫…ロ・リ・イ・タ、僕〜はロリ〜コ〜〜ン。
     もう何も言うまい。
     少々特殊な性的嗜好を持つ我等が同朋。
     誰がその趣味を責める事が出来るだろうか。
     でも彼女持ち。
     畜生が、殺すぞ。
     ジャンヌと何かしらの関係がある?

スタンド…名称『ネクロマンサー』。
     体内に発動しているスタンドで、あらゆる物質に擬態する事が可能。
     ニラ茶猫の大脳皮質の皺が少なそうな言動とは裏腹、
     頭を使ったトリッキーな闘い方こそがその真骨頂。
     応用性が高く、攻撃から回復まで何でもこなせる。
     というか、自分で作ったキャラながら便利過ぎ。

652ブック:2004/06/22(火) 00:30
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
高島美和…『フリーバード』のオペレーター。
     頭の螺子の緩い乗組員の面々の奇行に日夜頭を悩ませる、
     幸薄き大和撫子。
     サカーナと一緒に仕事をする事になったのが、彼女の人生最大の過ちか。

スタンド…名称『シムシティ』。遠隔操作型。
     蝙蝠みたいな羽のついた大きな四体の目玉がそのビジョン。
     別に発動したディスプレイに、
     目玉の視界が記号化、数値化されて映し出される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カウガール…高島美和の友人。
      『フリーバード』操舵士。
      今の所空気ですが、後でちゃんと活躍させるつもりではあります。
      今更ながら、キャラクター出しすぎたかもしれません。

スタンド…名称『チャレンジャー』。
     子鬼のビジョンをしており、能力は機械を故障させる事。
     遠隔操作型。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タカラギコ…主人公より目立っちゃってる人その二。
      というか、実質彼が第二の主人公かも。
      何故か異様に人気があり、その甘いマスクに奥様達もメロメロ。
      嘘です。

スタンド…名称『グラディウス』。
     銀色の小型球形飛行物体のビジョンで、
     光を自在に操作する事が出来る。
     光を操作して姿を消す、虚像を作り出す等、隠密行動に最適。
     また、光の収束により簡易レーザー砲を発射する事も可能。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

     ・     ・     ・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)…この世界で屈指の勢力を誇る空賊集団。
        『帝國』より軍事機密を盗むも、サカーナ達に図らずも横取りされる。
        赤い鮫がそのシンボルマーク。
        その組織員の中には、吸血鬼もいる。

頭首…『紅血の悪賊』を束ねる男。
   名前はまだ無い。

スタンド…今の所不明。
     マジレスマンを触れもせずに殺した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
山崎渉…『紅血の悪賊』の中でもかなり上の位にいる実力者…だったのだが、
    スタンドも出さないうちにあっさりと退場。
    人生って儚いものね。
    あと、彼は吸血鬼ではなかったです。

スタンド…不明のまま死亡した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
マジレスマン…脳味噌筋肉男。
       その足りない頭の所為で失策を犯し、頭首に粛清される。

スタンド…名称『メタルスラッグ』。
     周囲の無機物を取り込み実体化する、同化実体化型。
     オオミミと闘うも、オオミミの機転によりまんまと逃げられる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
波平…言わずと知れた磯野家の大黒柱。
   だがこの作品ではただの敵キャラ。
   ニラ茶猫との戦闘により、爆死。

スタンド…名称『アンジャッシュ』。
     近距離パワー型で、その指先より打ち出した針を刺し、
     それを抜いた瞬間に周囲の物質を消失させる。
     針が刺さっている時間が長い程、消失する範囲は大きい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
福男…『紅血の悪賊』の一員である吸血鬼。
   地元の祭りで不正を行い、肩身が狭くなっていた所をスカウトされた。
   ニラ茶猫と闘い、追い詰めるも死亡。

スタンド…名称『テイクツー』。
     近距離パワー型で、拳で触れたものを圧壊させる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ヒッキー…福男と共に『フリーバード』の中に潜入してきた吸血鬼。
     旧型の単発式狙撃中が愛用の得物。
     だが、オオミミによってあえなく撃退されてしまう。

スタンド…名称『ショパン』。
     赤い半透明の蛇みたいに動く管がそのビジョン。
     その管の中に入った物体は、管の中を通るように移動する。

653ブック:2004/06/22(火) 00:31
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

     ・     ・     ・

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『聖十字騎士団』…聖王と呼ばれる人物が統治する集団。
         実体は不明。
         その中でも特に選りすぐりの四人に対しては、
         最大の誉れとして『切り札』(テトラカード)の称号が与えられる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トラギコ…タカラギコと同じく男塾パワーで蘇った。
     蘇った先でも孤児院を守る為に闘い続ける苦労人。
     お金が何よりの好物で、番外編ではキャラが変わっている。
     『切り札』のA(エース)。

スタンド…名称『オウガバトル』。
     近距離パワー型で、射程内の空間を分断する事が出来る。
     その戦闘能力は恐ろしく、『聖十字騎士団』に入って一年足らずで、
     トラギコは『切り札』のAにまでのし上がる事が出来た。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ギコ犬…『切り札』のK(キング)。
    落ち着いた男性で、しばし融通の利かないJ(ジャック)をたしなめる事が多い。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
セイギコ…『切り札』のJ(ジャック)。
     多少潔癖症な所があり、その所為かトラギコとは仲が悪い。

スタンド…今の所不明。
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『切り札』のQ(クイーン)…今の所その実体は不明。

654ブック:2004/06/22(火) 00:32
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     ・     ・     ・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『常夜の王国』…女王により統治されている、吸血鬼の国。
        『紅血の悪賊』について探っているみたいだが…?
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ジャンヌ…『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』の異名を持つ美しき女吸血鬼。
     身の丈程もある巨大な得物を振るい、使い魔も使役する。
     実は結構常識人?

スタンド…名称『ブラックオニキス』。
     第二部が始まってすぐに、その能力は明かす予定。
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     ・     ・     ・
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『帝國』…武力により他国を制圧せんとする軍事国家。
     『カドモン』と呼ばれる物騒極まりない兵器を所持している。
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歯車王…帝國の統治者。
    全身の機械化により、延命処置を行っている。
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長耳の男…正式名称は今の所不明。
     歯車王の右腕として、暗躍している。
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奇形モララー…出来損ないと呼ばれ、蔑まれている男。
       馬鹿にする連中を見返すために行動を起こすも、
       『カドモン』の暴走により失敗。

スタンド…名称『ディアブロ』。
     詳細は不明。
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     ・     ・     ・
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ちびしぃ…トラギコを助けた少女。
     『聖十字騎士団』所属の司教の慰み者になっていた所を、
     トラギコにより救出される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
恰幅のいいおばちゃん…孤児院を切り盛りしている職員の一人。
           気前がよく、根っからの善人。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
司教…『聖十字騎士団』所属の男。
   ニラ茶猫にも劣るペド野郎。
   トラギコにより斬殺される。
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ダディクール…その実体は謎に包まれている奇妙なAA。
       変幻自在、神出鬼没。
       その可能性は無限大である。


     人物紹介終了。

655ブック:2004/06/22(火) 00:33
     〜おまけ〜

まあ、ブックの猫耳への思い入れは凄まじいものがあるからな。

連載休止してる間に、何となく暇だったから、近くの古本屋に嫌々行ってみたんだが、
まずそこで買った猫耳古本が凄い。キロ単位で山積みで買ってくる。
隣に陳列されてたグラビア写真集を見て、「それじゃ萌えないよ、一般人」という顔をする。
真っ当な人間はいつまでも二次元に慣れないらしい、みたいな。
絶対、その猫耳古本4キロより、一ヶ月の食費の方が安い。っつうかそれほぼ陵辱ものじゃねぇか。

で、それを家に持って帰る。やたら持って帰る。
たまたま遊びに来てた友人もこの時ばかりはブックを尊敬。
普段、ろくに飯も奢らない友人がブッククールとか言ってる。
目当ては猫耳古本だけか?畜生、氏ね。

他の本も凄い、まずマニアック。小学生とか題名についてる。
売れ。逮捕される前に売れ。つうか人生やり直せ。

で、やたら読む。読んで友人と共に悦に浸る。良い本から読む。譲り合いとかそんな概念一切ナシ。
ただただ、読む。キモオタが読んで、オタがオタに本を回す。俺には回ってこない。畜生。
あらかた読み終えた後、「どうした読んでないじゃないか?」などと、
あからさまなハズレ本を寄越す。畜生。

で、廃人オタク共、4キロくらい猫耳本を読んだ後に、みんなでアニメとゲームの主題歌を聞く。
「今日はプリキュアにしよう」とかオタ友達が言う。
お前、一番どころか絶対二番まで熱唱出来るだろ?
隣の奴も、「ああ、STORM聞いちゃった。影山ヒロノブって素敵ね」とか言う。こっち見んな、頃すぞ。
プリキュアの奴が「買いすぎちゃったな」とか言って、隣の奴が「どうせブックの金だから大丈夫さ」とか言う。
さんざん人の本勝手に読んでたくせに意味がわかんねぇ。
畜生、何がおかしいんだ、氏ね。

まあ、おまえら、現在『EVER BLUE』には猫耳成分が足りないので、要注意ってこった。


     注)このコピペ改変は、ある程度フィクションです。

656ブック:2004/06/22(火) 21:36
     EVER BLUE番外編
     ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜 交際編


 やあ皆、また会ったね。
 僕の名前は『ゼルダ』、夢ばかり見て現実を見ない廃人ゲーマーさ。
 今日はまたもや新しい美少女ゲーを買って来たんだ。
 早速始めるとしよう!

「さて、と…」
 ハード機体を起動して、ソフトを差し込む。
 今日買って来たのは『トゥルルルルルルンラブストーリー』。
 二重人格で道端に落ちてるものを電話と勘違いしてしまう、
 ちょっと気弱な男の子が主人公のゲームさ。
 全く、この前は変な糞ゲー掴まされて酷い目に遭った…

「ときめきEVER BLUE〜〜〜〜〜〜!!」
 だが、テレビのステレオから流れてきたのは聞き覚えのある男の声だった。
 ニラ茶猫だ。

「!?」
 急いでゲームのパッケージを確認する。
 やっぱり、何度見ても『トゥルルルルルルンラブストーリー』だ。
 なのに何でこの男が!?

「誰だ?って顔してるんで自己紹介させて貰うぜ。
 俺の名前はニラ茶猫、このゲームの案内役さ。」
 ちょっと待て。
 何でゲームの中身が変わってるんだよ!!

「何でパッケージと中身が違うのかは単純明快。
 お前の行きそうなゲームショップのゲームソフトの中身を、
 全部『ときめきEVER BLUE』にすり替えておいたのさ。」
 それは営業妨害じゃねぇかよ!
 お前警察に捕まるぞ!?

「つーわけで、前回の感想にデートの描写も見たいって感想があったんで、
 再び登場させて頂きました。
 このエンドルフィン駄々漏れの番外編に、
 何でここまでの反響があったのか作者も戸惑ってますが、
 お呼びがあるならば例え火の中水の中…」

 …ブツッ―――

 即座にゲームの電源を切る。
 反響があったか何だかは知らんが、これ以上あんなゲームに付き合ってられるか。
 すぐにお払いをした後粗大ゴミに捨てて…

「勝手に電源を切るな〜〜〜…」
 テレビから這い出して来るニラ茶猫。
 お前は貞子か!?

「人助けと思ってゲームスタートしてくれや、な?
 あとこの番外編の題名が『ときエヴァ』と略されてますが、あれか?
 主人公が汎用人型決戦兵器に乗って
 『逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ』とか言ったりする訳か?
 そんで最後には皆からおめでとうとか言われて…」
「分かったよ!
 始めてやるからさっさと帰れ!!」
 強引にニラ茶猫をテレビ画面の中に押し返す。
 本当は嫌だが、このままゲームを始めなかったら呪われそうなので、
 渋々コントローラーを握る。
 前回同様、主人公の名前はオオミミにしておいた。

657ブック:2004/06/22(火) 21:36


 ジリリリリリリリリリリリリ!!

 テレビから聞こえてくる目覚まし時計の音。
 どうやら自宅からスタートするらしい。
 ベッドの横では矢張り天が全裸で寝ていた。
 もう驚かない。
 慣れた手つきで窓から放り投げる。
 「げくっ」という呻き声と共に、天が道路を血で染めた。
 清掃業者さんごめんなさい。

「オオミミ、起きるラギ!!」
 部屋に入ってくるトラギ子。
 こいつ、サブマシンガンで撃ち殺した筈なのに、何で生きてんだ。
 というか、妹キャラだったのに、何か雰囲気違ってないか?

「復ッ活!!」
 いきなりトラギ子が絶叫した。
 こいつ、ついに持病の水虫が脳まで回ったか?
「トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!
 トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!
 トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!」
 狂ったように『トラギ子復活!』を連呼する。
 人間、こうなったらおしまいだな。

「ラギは寂しいと死んじゃうラギよ!?
 にもかかわらず、今回更なるパワーアップを遂げて帰ってきたラギ!
 この前は単なる妹キャラでしかなかったけど、今は違うラギ!
 妹萌えの時代はもう古い、これからは姉萌えの時代ラギ!
 よって、ラギは今度は姉属性キャラとして復活したラギ!
 さあ、オオミミ。
 今こそおねーたまと恥ずかし合体を…」


  1・釘バットで殴り殺す。
  2・日本刀で刺し殺す。
 →3・サブマシンガンで撃ち殺す。


 次の瞬間、オオミミのサブマシンガンが火を吹いた。
「ラギニャーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」
 血飛沫をあげトラギ子が蜂の巣になった。
 念の為、ガソリンをかけて焼却しておく。

「さあ、今日はタカラギ子さんとのデートの約束の日だ。」
 ゲーム開始早々二人の人間を殺しておきながら、爽やかな顔でオオミミが言う。
 こいつ、絶対悪魔か何かだよ。

658ブック:2004/06/22(火) 21:37



 兎に角場所は移り、タカラギ子との待ち合わせの公園のベンチ。
「ちょっと早く来すぎちゃったかな。」
 待ち合わせの午前十時まであと五分。
 まあ、これ位が妥当だろう。

「……」
 しかし、五分経っても十分経ってもジャンヌは来なかった。
 あのアバズレ、なにやってやがる。

「ごっめーーん、待った?」
 三十分遅れでようやく現れるタカラギ子。
 時間厳守という言葉は脳内に存在しないらしい。


『どう答えようか?』
 1・ううん。こっちも今来たとこ。
 2・待ちくたびれたよ。
 3・遅ぇんだよこの売女!その臭ぇ穴に俺のマグナムぶち込むぞ!!

 現れる選択肢。
 相変わらず、三番目のものは人として間違っている。
 まあしょうがない。
 ここで目くじら立てても、好感度が下がりそうだから取り敢えず1、と…

「ううん。こっちも今来たとこ。」
 選択肢通りに答えるオオミミ。
 ここは、懐の深い所をアピールしとかないとね。

「うっわ最低!
 じゃあ、もし私が遅刻しなかったら、私を待ちぼうけさせるつもりだったのね。
 信じられなーい!!」
 ぶち殺すぞこの糞女ァ!!
 手前社交辞令とかそういうのも分からんのか!!!
 こっちは待ち合わせの五分前にはとっくに到着しとったわ!!!

「それじゃあ、早速遊びに行こう。」
 あれだけの暴言にも関わらず、さして気にしない様子でオオミミが答える。
 何て野郎だ。
 天とトラギ子は容赦無く殺したくせに。


『どこに遊びに行こう?』
 1・ラブホテル
 2・ビジネスホテル
 3・人気の無い廃工場

 どれもこれも下心丸出しじゃねぇか!!
 特に一番下!
 お前犯罪者にでもなる気か!?
 もっとまともな選択肢無いのかよ!!


『ちッ、仕方ねぇなぁ…』
 1・遊園地
 2・ゲームセンター
 3・カラオケ

 うわ。今舌打ちしたよ、舌打ち。
 ゲームのキャラがプレイヤーに向かって舌打ちしたよ。
 せっかく警察のご厄介にならないように注意してやったのに、
 舌打ちしやがったよ。
 畜生、氏ね。
 それじゃあ3のカラオケだ。

「よし、遊園地に行こう。」
 元気な声で、オオミミがタカラギコに促す。
「ちッ。」
 お前まで舌打ちかよ!
 もういい。
 無理矢理にでも連れて行く。

659ブック:2004/06/22(火) 21:37



 そしてオオミミ達は遊園地に到着した。
 さて、これからどうしようか。

『まず何から乗ろうか?』
 1・ジェットコースター
 2・観覧車
 3・コーヒーカップ

 そうだな…
 ジェットコースターに乗って、恐怖によって新密度を上げるのもいいし、
 まずはまったりとコーヒーカップで肩慣らしという手もある。
 でもここは、観覧車から乗る事にしようか。
 2を選択、っと。

「観覧車に乗ろう。」
 タカラギ子と共に観覧車に乗り込むオオミミ。
 二人を乗せた観覧車が、ゆっくりと動き出す。

「…こうやって二人きりになるのって初めてだね。」
 タカラギ子が急にしおらしくなる。
 おっ?
 何か普通の美少女ゲーみたいになってるじゃないか?

「そういえば、私達ってお互いの事あんまり知らないよね。
 オオミミ君、何か聞きたい事ってある?」
 うんうん。
 やっぱりこうじゃなくっちゃ。
 救いようの無い糞ゲーと思いきや、ちゃんとしたイベントもあるじゃないか。
 さて、ここではどんな選択肢が出てくるんだろう。


『何を質問しよう?』
 1・好きな体位は何ですか?
 2・一人エッチは週何回?
 3・乳首何色?

 全部セクハラじゃねぇか!!
 こんな質問したら、一発で嫌われるぞ!!

「好きな体位は松葉崩し。
 一人エッチは週五回。
 乳首は黒ずんだピンクです。」
 お前も何答えてんだよ!!
 つうか、エロゲーでもこんな展開ありえねぇよ!!!

「そうなんだ。
 俺知らなかったよ。」
 そうなんだじゃねぇよ!!
 んな事知ってる方が恐ぇよ!!
 何なんだよその満足そうな笑顔は!!
 変態か!?
 お前は生粋の変態か!!?

660ブック:2004/06/22(火) 21:37

「おっと、もう観覧車が一周したみたいだな。」
 再び乗降り場に戻ってくるオオミミ達の観覧車。
 二人は観覧車から降りる。

「それじゃあそろそろお昼ごはんにしましょうか。」
 観覧車から降りた所で、タカラギ子が弁当箱を差し出す。
 こんな所だけはしっかりと王道だな…

「いいね。
 それじゃあ、どっかの建物の中で食べようか。
 それとも外の芝生にする?」
 オオミミがタカラギ子に尋ねた。

「嫌ぁ!!
 中は駄目!!!
 中は駄目!!!
 中はやめてえええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」
 あからさまに誤解を招く表現してんじゃねぇよ!!
 お前オオミミを逮捕させる気か!?

「分かった。
 それじゃあ外で食べよう。」
 お前もタカラギ子に何とか言えよ!!
 何でそんなにケロッとしてるんだよ!!

 そんなこんなで、舞台は遊園地の芝生に移った。
 ビニールシートを引き、二人はその上にちょこんと座る。

「はい、た〜んと召し上がれ。」
 弁当箱の蓋を開けるタカラギ子。

 いや、タカラギ子さん。
 あなたがオオミミの為に弁当を作ってくれたのはよく分かる。
 非常によく分かる。
 だけど、おにぎりとか鮭とかに書かれてある『毒』の文字は何なのかな?
 僕、そこだけはちょっと分かんないや。

「つべこべ言わずに喰えオラァ!!」
 無理矢理タカラギ子がオオミミに弁当を食わせようとする。
 やめろ!
 誰か、助けて!!
 殺され…

「!!!!!!!!!!!!」
 と、突如飛来した剃刀がタカラギ子の弁当箱を弾き飛ばした。
 オオミミとタカラギ子の視線が、同時に剃刀の飛んできた方向へと向く。
 そこにいたのは、スケバンルックに身を包んだ絶滅危惧種の女、三月ウサ美だった。

「愛と正義の美少女戦士、ブルセーラームーン!
 月に代わって、折檻よ!!」
 アブドゥル〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 わしゃあもう泣きそうじゃあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!


     TO BE CONTINUED…

661ブック:2004/06/24(木) 01:16
     EVER BLUE番外編
     ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜 死闘編


〜前回までのあらすじ〜

「さあ、今日はタカラギ子さんとのデートの約束の日だ。」
「好きな体位は松葉崩し。
 一人エッチは週五回。
 乳首は黒ずんだピンクです。」
「嫌ぁ!!
 中は駄目!!!
 中は駄目!!!
 中はやめてえええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」
「愛と正義の美少女戦士、ブルセーラームーン!
 月に代わって、折檻よ!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さあ覚悟しなこの薄汚い雌犬め。
 抜け駆けしてオオミミを寝取ろうなんざ、いい度胸だな。」
 剃刀を指に挟んで構え、三月ウサ美が見得を切る。

「くっ…!
 あなたは東洋の紅蠍、三月ウサ美!
 まさかこんな所で出会うなんてね…!」
 パニッシャーを肩に担ぐタカラギ子。

「ふふふふふ。
 ここが貴様の墓場となる。
 死ねーーーーーーーー!!!」
 使い古された脅し文句と共に三月ウサ美が剃刀を投げつけた。
 パニッシャーでそれを受けるタカラギ子。
「ほう。
 よく今のを受け止めたな。
 ならばこれならどうだ。
 超絶無限覇王雷神青竜滅砕派ーーーーーーーー!!」
 何かいかにも小学生が考えたような名前の必殺技来た―――――!

「ぐあああ!!」
 エネルギー派を食らい、タカラギ子が吹っ飛ばされる。
「ふっふっふ…
 どうした、まだ十分の一の力も出してはいないぞ?」
 笑う三月ウサ美。
 お前その台詞…
 一体いつの時代の人間だよ。

「うう…
 大丈夫子、猫ちゃん。」
 見ると、タカラギ子はその胸に子猫を抱え、先程の攻撃から庇っていた。
 いや、その猫絶対さっきまで居なかったじゃん。
 それにしても何だこの展開は。
 黄金期のジャンプ漫画の世界にでもトリップしているのか?

「遊びはこれまでだ!
 今度こそくたばれ、超絶無限爆炎風神暗剣殺ーーーーー!!
 この技は核爆発を防ぐ金属すら破壊する!!!」
 名前変わってるじゃねぇかよ!!
 つうか、核爆発すら防ぐって、最強厨かお前は!?

「絶対無敵バリアー!!」
 しかし、タカラギ子の展開したバリアーがその一撃を受け止めた。
「何だと!?
 ありえない、富士山すら消し飛ばすこの技が!!」
 驚愕する三月ウサ美。

「あなたは強い…
 だけど、決定的なものが欠けているわ。
 それは人の愛よ!!」
 愛って…
 そんなの今日び週間少年マガジンの漫画でも言わねぇよ。

「これが人の愛の力というものよ!
 受けなさい、
 スーパーウルトラミラクルスペシャルハイパーゴールデンゴージャスワンダーマッハ
 ドラゴンタイガーフェニックスゴッドパワークラッシュブラストソードブレイドネオ
 カイザーキングスラッシュボンバーメテオラストファイナルアタック零式!!!!!」
 三月ウサ美以上に厨臭い必殺技だーーーーーーー!!
 ていうか愛全然関係無いじゃねぇかよ!!

「馬鹿な!
 この人を超えた私がーーーーーーーーー!!!」
 お約束過ぎる断末魔の台詞と共に、三月ウサ美は倒れた。
 しかし、どうやらまだ辛うじて生きてはいるようだ。

662ブック:2004/06/24(木) 01:16

「…どうした。
 止めを刺さないのか…?」
 息も絶え絶えに呻く三月ウサ美。

「…急所は外してあるわ。
 これからは今迄犯してきた罪を償いながら生きなさい。」
 お前は最近少年漫画で流行の、ろくに信念も無い不殺主人公か!!
 殺せ!!
 この世の為にきっちり殺しとけ!!

「!!!!!!!!」
 その時、三月ウサ美の頭を銃弾が打ち抜いた。

「全く…使えない奴だったわねぇ…」
 硝煙の昇る狙撃銃を片手に現れる女。
 また病人が現れやがった。
 誰か医者呼んで来い、医者。

「私の名前はサカー奈。
 魔王様に仕える四天王の一人。
 三月ウサ美を倒した位でいい気にならないでね。
 そいつは、四天王の中でも一番弱かったのよ。」
 うわすっげ。
 二十一世紀にもなって、こんなカビが生えたような台詞を聞くとは思わなかった。

「何で仲間を殺したの!?」
 タカラギ子が叫ぶ。
「仲間?
 くくく、とんだ勘違いだ。
 負けるような役立たずなど、仲間の価値などないわ!!」
 銃をタカラギ子に向けて構えるサカー奈。

「許さない!!」
 さっきあわよくば三月ウサ美を殺そうとしていた事など棚に上げて、
 タカラギ子が飛び掛かる。

「甘い!
0.2536秒遅いわ!!」
 だが、サカー奈は苦も無くタカラギ子の胸に銃弾を放った。
 心臓の位置で、タカラギ子の服が爆ぜる。
 つーか、もうこのゲームギャルゲーじゃねぇよ。

「!!!!!」
 しかし、タカラギ子が何事も無かったかのように立ち上がってきた。
 何故だ?
 今ので死ななかったのかよ?

「…!
 これはオオミミ君が渡してくれたワッペン。
 オオミミ君が守ってくれたのね…」
 渡してねぇよそんなもん!!
 いつそんな描写があったよ!?
 ていうかワッペンなんぞで銃弾が防げるか!!

「くっ…!
 これが愛の力か…!!」
 サカー奈が怯む。
 だから愛なんか関係ないだろうが!
 お前ら揃いも揃って痴呆か!?

「ならばその力の源を消し去る!
 死ね!!」
「!!!!!!!!!」
 次の瞬間、オオミミの胸部がサカー奈によって撃ち抜かれた。

「…!
 オオミミ君!!」
 駆け寄ってくるタカラギ子。
「うう…俺はもう駄目だ……
 せめてお前だけは幸せになってくれ、ぐふっ。」
 死んだ!
 主人公死んだ!!
 おい、死んだぞ!?
 死んだぞ主人公!!
 主人公殺しちまっ、一体どうすんだよ!!

663ブック:2004/06/24(木) 01:17

「オオミミ君…!
 許さない…あなただけは絶対に許さない!!」
 タカラギ子の周りにオーラが漂い、髪が逆立つ。

「何ぃ!?
 あいつのどこにこんな力が…!」
 何の脈絡も無く、怒りの力でパワーアップ来たーーーーー!!

「人は一人では生きていけない…
 だけど、だからこそ手と手を取り合って生きていける。
 それが人間の力!!」
 死ぬ!
 死ぬ死ぬ!!
 臭過ぎて死ぬ!!!
 頼むからもう助けてくれ!!!!
 お前どこのRPGのキャラクターだ!?

「受けなさい!
 スーパー(中略)零式!!!」
 大幅に必殺技の名前はしょったーーーーーーー!!

「うっぎゃああああああああああああああああああああ!!!」
 光の奔流に吹き飛ばされるサカー奈。
「うぐぐ…!
 見事ね!
 だが、本当に恐ろしいのはこれからよ!!
 残りの四天王は、私の百倍は強い!!
 あなたなど、一秒で殺されるわ!!」
 血を吐きながらサカー奈が口を開く。

「今日の所はこの辺で退いてあげる。
 だけど、次に会った時は覚悟していなさい!
 ギルガメッシュナイトと、馬鹿殿様のおっぱい神経衰弱の復活、
 果たしてあなたに止められるかしら!?」
 そう言い残し、サカー奈はワープでその場から消え去った。
 で、これって何のゲームだったけ?


「オオミミ君…!」
 絶命したオオミミに、タカラギ子が縋りついた。
「ごめんなさい、私が弱い所為で…」
 いや、お前、
 前回毒入りの弁当食わせようとしてたじゃん。
 いまさら何言ってんの?

「う…うう……」
 その時、オオミミの身体が僅かに動いた。
「!?」
 タカラギ子が目を見開く。

「タカラギ子さんの涙で生き返ったよ。
 これが愛の力さ。」
 生き返るかよ!!
 お前心臓打ち抜かれてただろ!!
 涙なんかで復活するか!!

「さあ、すぐに旅に出よう。
 俺達の闘いは、今始まったばかりだ!」

  〜第一部・完〜
  ブック先生の次回作にご期待下さい。

664ブック:2004/06/24(木) 01:20
:.,' . : : ; .::i'メ、,_  i.::l ';:.: l '、:.:::! l::! : :'、:i'、: : !, : : : : : :l:.'、: :
'! ,' . : i .;'l;' _,,ニ';、,iソ  '; :l ,';.::! i:.!  : '、!:';:. :!:. : : : :.; i : :'、:
i:.i、: :。:!.i.:',r'゙,rf"`'iミ,`'' ゙ ';.i `N,_i;i___,,_,'、-';‐l'i'':':':':‐!: i : : '、
i:.!:'、: :.:!l :'゙ i゙:;i{igil};:;l'   ヾ!  'i : l',r',テr'‐ミ;‐ミ';i:'i::. : i i i : : :i どっから見ても
:!!゚:i.'、o:'、 ゙、::゙''".::ノ        i゙:;:li,__,ノ;:'.、'、 :'i:::. i. !! : : !:  打ち切り漫画の終わり方じゃねぇか!
.' :,'. :゙>;::'、⊂‐ニ;;'´          '、';{|llll!: :;ノ ! : !::i. : : : : i :   あやまれ!!
: :,' /. :iヾ、   `        、._. ミ;;--‐'´.  /.:i;!o: : : :i :   読者の皆さんにあやまれ!!
: ; : ,' : : i.:      <_       ` ' ' ``'‐⊃./. :,: : : O: i. :
: i ,'. . : :',      、,,_            ,.:': ,r'. : , : : !: :
:,'/. : : . :;::'、     ゙|llllllllllllF':-.、       ,r';、r': . : :,i. : ;i : :
i,': : : :.::;.'.:::;`、    |llllH". : : : :`、    ,rシイ...: : ; : :/:i : i:!::i:
;'. : :..:::;':::::;':::::`.、  |ソ/. : : : : : : ;,! ,/'゙. /.:::: :,:': :./',:!: j:;:i;!;
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もう本当に好き勝手電波を垂れ流してごめんなさい。
というか生まれてきてすみません。
次からは本編に戻ります。

665 ( (´∀` )  ):2004/06/24(木) 19:45
「魅せてやろう。ひれ伏せよジャップどもッ!『トットリ・サキュー』ッ!

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『トットリ・サキュー』

・・・?
今アイツなんていった・・?
『鳥取・・砂丘』・・?
「・・ネーミングセンスが無いな、貴様。」
殺ちゃんがため息をついて言う
「な・・貴様ッ!この極東の小島ごときに存在する唯一の名所『鳥取砂丘』をバカにするのかッ!」
・・コイツ日本大好きなんじゃないか?

「・・・・ブフッ。」
後ろで必死で笑いをこらえていたムックが耐えられず吹き出す
「キ・・サッマ・・ラァAHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!こンの種無しピーマン野郎がァァァァッ!」
流石のハートマンもブチ切れすっ飛んでくる
しかしハートマンの体はムックには全く届かない地面に落ちる
そしてその体はズブズブと地面に溶け込まれていった。

「・・ッ!これは・・」
俺の脳裏に病院での闘いのビジョンが蘇る。
あの恐ろしい能力がまたか・・ッ!
「『トットリ・サキュー』ッ!」
ハートマンが恥ずかしいスタンド名を叫ぶ

そしてムックの後方に巨大な手が現れる
ソレを紙一重で避けるムック
「・・・・?」
俺はその光景を見て疑問を覚えた。
「あの手・・・右腕・・?」
頭に病院戦の様子が思い出される

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なんだこれは・・右腕が・・戻せんッ!」
ハートマンの右腕はブレ、砂になった
「あああああああああッ!ク・・ソ・・ッ!貴様・・何をォーッ!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

666( (´∀` )  ):2004/06/24(木) 19:46
!!
そうだ!確かアイツの右腕は俺がジェノサイアで砂にしてやったはずじゃ・・ッ!
でも・・どうみてもあの腕は・・右腕にしか・・

そんな事を考えていると俺の後方にも腕が現れる
「――ッそ!」
ギリギリで避ける俺
しかし、これで奴の両手が揃ってしまった。
一体何故・・・ッ!?

「・・『一体何故』そんな事を思っているな?巨耳モナー・・。」
ハートマンの口がニヤける
・・?何故だかわからんが相当不気味だ。
「教えてやろう。ソレはな・・。」

「すまぬ。特に興味は無い。――死ぬが良い。」
いつのまにかハートマンの死角にいた殺ちゃんの体から無数の重火器が現れ、
大きな音と閃光が走った。

何とかよけようとしたハートマンだったが、そのスピードは間に合わず、
半身が完全に砕ける。
そして横に倒れた。
「ふん・・・あっけない。」
殺ちゃんは銃に息を吹き、キメポーズをする

だが次の瞬間殺ちゃんの体は遥か彼方の道路に落ちた。
何だ?一体何が――?
「殺ちゃ・・っ」
俺が殺ちゃんのもとへと駆け寄ろうとすると巨大な手が現れる。
コレは・・『トットリ・サキュー』・・?

俺は即座にハートマンの死体へと目を向ける
――無い。
馬鹿な。
確かにアソコに――

考える暇も無く、俺の体は宙を舞い、地面に叩きつけられた
「ッグァッ!?」
マズい。背骨がイっちまったかもしれない。

そんな激痛が襲う俺の背中に更にパンチがくる
「『ソウル・フラワー』ッ!!」
無数のパンチと共に、花が咲き、養分が送られ、背中が元に戻る。
痛い。ぶっちゃけありがた迷惑だ。

意識が朦朧としながらも立ち上がると、ピンピンしたハートマンが目に入る。
馬鹿な。どうやっていやがる?幻覚?能力?残像?魂?
だがその時、俺の脳裏にある単語がよぎる
「―『吸血鬼』・・?」

ハートマンが微笑んだ。間違いない。コイツはそうだ。あの『狂いのバレンタイン』事件で見た
『吸血鬼』だ・・・。
馬鹿な・・。コイツはあの悪夢を・・また・・?
あの・・『悪夢』を・・?

「・・・YESYESYES・・。私こそ『吸血鬼』だよ・・。巨耳モナー・・。」
「『吸血鬼』・・『石仮面』と呼ばれる仮面によって生み出される悪魔・・。『骨針』により脳を刺激し・・
人間では出す事の出来ない領域の力を生み出す・・。日の光に当てるか、頭部を完全に破壊するまで再生し続けるバケモノ・・。」
俺はハートマンを睨みつける
「・・・『狂いのバレンタイン』を起こした忌むべき存在・・っ」
そして、低くつぶやいた。
「ほぅ。貴様。国によって掻き消され、うやむやにされた事件・・『狂いのバレンタイン』を知っているのか・・。」
「・・・『狂いのバレンタイン』・・とは?」
体をひきずり、殺ちゃんがやってきた。

「『狂いのバレンタイン』・・。日本で起きた最凶で最悪な事件だったよ・・。」
「ある人物・・今となっては誰かもわからんが、その者が吸血鬼になり、一人の女に最高の花火をプレゼントした。」
俺は拳を握り締めた
「そう・・あの女に・・あの・・女にッ―――!!」

「確か女の名は『ドキュソちゃん』・・。彼女の美貌に惚れた男が彼女に『花火が見たい。最高の花火が』。そういわれて・・。」
ハートマンの顔は少し笑っていた。
「吸血鬼の跳躍力で・・飛んでいる旅客機を・・・。」
「墜落させた。」
俺とハートマンは同時につぶやいた。
「それでHANABI・・。」
ムックはあっけにとられた顔をする。

「生存者は無し。犯人ですらドキュソの手によって太陽光で葬られてる・・。しかもドキュソの刑は証拠不十分で執行猶予がついた。」
嘲笑混じりで言うハートマン
「・・・そのドキュソも何者かの手によって葬られてる。」
俺は怒りを込めた声でつぶやいた。
「・・・しかもあの旅客機の中に・・俺の彼女が乗っていた。」
「ほぅ・・?」
ハートマン以外は驚愕の表情をする。

「・・・アイツに殺されたんだ・・『吸血鬼』に・・。」
俺は小さく、打ち震えつぶやいた。
「・・何故そんな大きな事件が消されて?」
「当時の情勢が複雑だったのでな。上の方のバカどもは人命より国が大事だったらしい。
そんな事件が起こったと知ったら観光客も減る、国民も恐れる、そしてその虚を狙いテロもあるかもしれん。」
「ヒドいですNA・・。」

667( (´∀` )  ):2004/06/24(木) 19:46
「・・そうだ。面白い事を思いついたぞ。――貴様の『処刑』についてだ。巨耳モナー。」
ハートマンは物凄い笑みをみせつける。
「あの『悪夢』を再来させてやろうッッ!!」
ハートマンは思いっきりしゃがむとかなりの跳躍をし、夜空に消えた。
「馬鹿な・・やめろ・・・やめろォォォ―――ッッ!!!」
俺は空に向かって叫んだ

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィッ!
もう・・止められんよォォォォォォォォォッ!HYAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
とてつもないスピードでハートマンと旅客機が垂直に落ちてきた。
まるで、ミサイルの如く。
俺はその場にへたり込み、震えた。
後ろからジェノサイアが出てくる。

「巨耳くんッ!立ってっ!たたないと・・死んじゃうッ!立ってッ!早く・・立って―――ッ!」
しかし俺にはもう何の声も聞こえない。
無理だ。俺はもう・・
今すぐそっちへ行くよ・・――マリア。

「ムック・・死ぬ覚悟は?」
「出来てませんZO。」
「よし。それでよい。神に祈るのは・・死んだ後で良いッ!!」
殺ちゃんは叫び、仁王立ちをした。

だが、その叫びはむなしくも、旅客機がついらくする轟音に掻き消され
その姿は閃光に飲み込まれるのであった。

←To Be Continued

668:2004/06/24(木) 21:58
ちょっと今日中に貼らないといけないので、新スレ立つまで待てませんよ…

669:2004/06/24(木) 21:59

かって、1人の神父がいた。
『覚悟する事が、人類の幸福に繋がる――』
そう結論付けた神父は、世界を1巡させたという話がある。
そうならば…
これから語られる話は、一体何巡した世界なのか分からない。
だが、ただ1つ言える事は…

この番外編は、モナ冒本編と関連性はありません。





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      「モナーの愉快な冒険」
       番外・モナヤの空、キバヤシの夏(前編)

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「――6月24日はUFOの日なんだよ!!」

 受話器の向こうで、キバヤシは告げた。

「…そ、そうモナか」
 俺は、呆れながら言った。
 早朝から電話がかかってきたと思ったら、いきなりこれだ。

 キバヤシは熱に浮かされたように話を続ける。
「1947年6月24日、ケネス・アーノ○ドという実業家は、飛行機の窓から信じられないものを見たんだよ!!」

「…ちょっといいモナか?」
 俺は口を挟んだ。
「なんで伏字を使ってるモナ?」

「…一応、実在の人物だからな。とにかく、彼は信じられないものを見た。
 編隊を組んで飛んでいた、9機の飛行物体をな。
 彼はこれを、マスコミのインタビューで『フライング・ソーサー(空飛ぶ円盤)』と呼んだんだよ!!」
 受話器の向こうで、キバヤシの顔がアップになる気配。
 だが、まだだ。
 『なんだってー!』にはまだ早い。

「物体との距離から判断して、それはマッハ1.5で動いていたと彼は証言した。
 これが… 世界初のUFOの目撃例なんだよ!!」
 キバヤシは大声を張り上げた。

「異議あり!!」
 俺は負けずに大声を上げる。
「最初の目撃例と言うが、火球やフー・ファイター(幽霊戦闘機)の目撃例は以前からあったモナ!!
 さらに彼は、『フライング・ソーサー』とは言っていないモナ!!
 彼は『ソーサー(皿)のような動きをしていた』と言っただけ…
 つまり水切りの要領で水面を跳ねる皿を想定していたわけで、形状ではなく動きについて語られたものモナ!」

「…!!」
 キバヤシが息を呑むのが、受話器越しに伝わってくる。
 俺は続けた。
「そして、彼が用いた『ソーサー』という言葉が独り歩きしてしまったモナ。
 『フライング・ソーサー』と言い出したのは彼ではなく新聞記者であり、そもそも誤謬があった言葉モナ!!
 さらに、彼が述べたマッハ1.5という表現も怪しいモナ。
 ベテランのパイロットでさえ、離れた距離にある物体の距離を判断するのは難しい…
 物体がもっと近かった可能性もあり、そうだと速度は遅くなるモナ!
 何より彼は… 自分が目撃したものを、ソ連の最新軍用機と思っていたモナ!!」

「…」
 キバヤシは黙っている。
 すかさず俺は畳み掛けた。
「このア○ノルド事件、現在伝わっているのは歪曲された姿モナ。
 再現フィルムなど、ジグザグに飛んでいたり、凄まじい光を放ったり…
 でも実際は、太陽光を反射して軽く光った程度モナよ。
 彼が見た物は今となっては分からないけど、観測気球の可能性が高いモナ。
 当時は、複数の気球をロープで繋いで打ち上げる方式があったモナ。
 それが気流に乗ってしまうと、かなり速いスピードで飛ぶモナ。
 ちょうど、彼が目撃した飛行物体のように…」

「くっ、モナヤ… やるようになった!」
 キバヤシは吐き捨てた。
「まあ、今のは話の触りだ。さっき、MMR宛に読者から手紙が届いたんだよ…」
 何やら、ガサガサという音が聞こえる。
 手紙とやらを取り出しているのだろう。
 と言うか、読者って何だ?

670:2004/06/24(木) 22:00

 少しの間の後、キバヤシは口を開いた。
「…読み上げよう。
 『拝啓。こんにちわ、ミステル・キバヤシさん。毎週、楽しみに見ております。
  私は、何の変哲もないドイツ人です。
  先日私は裏弐茶県の首吊り島にUFO基地があるという情報を掴み、潜入しました。
  ですが即座に発覚し、襲い来るエイリアンを5体までは撃退したのですが…
  流石に敵は大勢、涙を呑んで逃走しました。
  今にして思えば、撃退したエイリアンの数は10体だったかもしれません。
  ですが敵の追撃は厳しく、メガ粒子砲の直撃を受けてしまい怪我をしました。
  偶然、エイリアン達と交戦していたアメリカ宇宙軍に救助されましたが…
  その際にUFOの写真を撮影しましたので同封しておきます。
  おそらく、あの島には秘密があるに違いありません。
  そこでMMRの皆さんには、その首吊り島の調査をお願いしたいのです。
  どうか、よろしくお願いします。            Mr.Z』
 …という事だ。あと、詳細な住所が記されている。モナヤ、どう思う?」

「…拝啓で始まってるのに、敬具が抜けてるモナね」
 俺はとりあえず言った。
 どうやら、俺の知らないところで宇宙戦争は始まっていたらしい。
 かってない壮大なスケールだ。
「それで、UFOの写真っていうのは…?」

「かなり粗いが… 確かにUFOだな。下部には砲台もついてる」
 キバヤシは言った。
「そこでだ、モナヤ。MMRは、裏弐茶県に調査に向かう事になった」
「ええっ! モナも行くモナか?」
 返事を聞くまでもない。
 MMRには、俺とキバヤシしかいないのだから。
「…いつからモナ?」

「無論、今からだ。ちゃんと、首吊り島にあるペンションに予約を入れてある。
 安心しろ、費用は全てこちらで持つ」
 キバヤシは当然の事のように告げた。
 相変わらず、俺の予定など何も考えていない。
 俺は、少し考えて言った。
「…リナーを連れて行ってもいいモナ?」
「別に、何人随伴しようが構わんさ。じゃあ、午前10時に駅前で」
 そう言って、キバヤシからの電話は切れた。

「リナー!! 一緒に、島にバカンスに行かないモナ?」
 俺は受話器を置くなり、リナーの部屋に呼びかけた。
「…バカンス?」
 リナーが、部屋から目をこすりながら出てきた。
「別に構わんが… 何でいきなり?」

「6月24日はUFOの日だからモナよ…」
 俺はニヤリと笑って言った。
 まあ、リナーと2人っきりで休日を潰すのも悪くはない。
 …あれ、なんで今日は休日なんだ?



 そして、俺達は駅前に立っていた。
 予想通り、多くのオマケを連れて…
「で、ちゃんとしたペンションなんだろうなゴルァ!」
 大きなリュックを背負ったギコは言った。
 その脇には、しっかりとしぃもいる。
 しぃも例外なく、大きな荷物を抱えていた。
「…知らないモナよ。予約したのはキバヤシモナ」
 俺は憮然として答える。
 全く、リナーと楽しい2人旅だったはずが…

「清潔なところがいーなー!」
「あと、風呂が大きいところだね。20畳以上はないと、僕は風呂とは認めないよ?」
「アッヒャー!!」
 そして、当然のように喚き立てる三馬鹿。
 奴等の山のような荷物。
 モララーなど、自分の身長ほどもあるスポーツバックを背負っている。
 どう見ても、泊まる気マンマンだ。
 もういい、どうせこうなるんだ…

「オマエラ、俺の事を忘れてはいないかッ!!」
 きなり、大声で叫ぶ三角頭。
「随分と久し振りモナね…」
 俺は彼に視線をやって呟いた。
「…俺はいつまでも…、俺はッ…ううっ!!」
 突然、泣き出す三角頭。
 ウザい事この上ない。

 …あれ、おかしいな。
 確か、毎日学校で顔を合わせていたはずが…
 ってか、日中歩いて大丈夫なのか、俺?
 まあいい。
 UVクリームとかでOKだ。
 なお、この設定はモナ冒本編では適用されないぞ。

「待たせたな、モナヤ」
 背後からキバヤシの声。
 『MMR』と書かれたシャツを着込んだキバヤシが、5分遅れで到着したようだ。
 そして、彼は俺達を見回した。
「随分沢山いるな… まあいい、MMR出動だ!!」
 キバヤシは、背を向けて改札口を進んでいった。
 俺達も後に続く。
 首吊り島とやらの近くまでは、電車で行くようだ。

671:2004/06/24(木) 22:01



 電車の中で、俺は今回の調査の目的について説明した。
 本来はキバヤシの役割なのだろうが、奴が電車に酔って使い物にならなかったからである。
「…じゃあ、ここでこいつを窓から投げ落とせば、訳の分からん調査とやらはバカンスに早変わりか…」
 ギコは、目を細めてぐったりしているキバヤシを見た。
 いくら相手がキバヤシでも、その扱いはひどすぎる。

「いいじゃない? ミステリーの調査なんて、ロマンチックで…」
 レモナは目を輝かせて言った。
「モナーくん、私が宇宙人にさらわれたら助けに来てね!」

「お前を連れ去れる宇宙人なんかいたら、人類じゃ太刀打ちできないモナ」
 俺はため息をついて言った。
 つーは、どうでも良さそうに窓の外の景色を眺めている。
「UFOか… でも、そういうのってワクワクするね」
 モララーは、割と乗り気のようだ。
「ギコ君は、本当に宇宙人がいると思う?」
 しぃは興味深そうに訊ねた。
 ギコは腕を組む。
「俺達がここに存在している以上、結局は確率論だからな…
 広い宇宙のどっかにゃいるかもしれないが、わざわざ地球に来てる可能性はないと思うなぁ…」

「リナーはどう思うモナ?」
 俺は、リナーに訊ねた。
「定番の返答だが、UFOは異星人の乗り物を示す用語ではない。単に未確認飛行物体の英略だ。
 観測した本人が対象を定義できないなら、例え気球でもUFOになる」
 そう言って、リナーは顔を上げた。
「…だから、特に感想はない」

 しぃやレモナ、モララー達は、宇宙人の存在について議論していた。
 いつもなら真っ先に炸裂するキバヤシは、電車酔いで完璧にダウンしている。
「でも、私はUFO見た事があるんだよ!?」
 そう主張するしぃ。
「金星か何かの見間違いだろ? 普通は星なんかと見間違えないと思うだろうが、金星だけは特殊で…」
 ギコはしぃの意見を否定している。
 どうやら、わりと議論は白熱しているようだ。
 調査はこいつらにでも任せて、俺はリナーとペンションでのんびりしとこう…



「…凄い田舎モナね」
 駅から出た途端、俺は呆れて言った。
 目の前に広がる海。
 そして、かろうじて人が住んでいると分かる微かな建築物。
 まるでさびれた漁村だ。
 ここから、首吊り島への船に乗るらしいが…

「無人駅なんて、10年振りだよ…」
 モララーは、駅の方へ振り返って言った。
 そもそも、こんな所に船なんて来るのか?

「現地の人が、ボートで迎えに来るはずだ… ウップ」
 そう言って、キバヤシは気分が悪そうに錆びたベンチに腰を下ろした。
 ボートか…
 低予算だが、全てはキバヤシに委ねている以上、仕方ないのかもしれない。
 だが…
 あんまり妙なペンションは困るな。

「予約入れてるってのは、どんなペンションなんだ? 変なところじゃないだろうな?」
 俺と同じく不安に思ったのか、ギコは訊ねた。
「やけにこだわるモナね。ペンションに悪い思い出でもあるモナか?」

 ギコはため息をつく。
「それが大アリなんだよ。去年の冬に行ったとこなんか、風呂が滅茶苦茶汚くてなぁ…」
「 で 、 誰 と 行 っ た の ? 」
 ギコの言葉をしぃが遮った。

「…で、どんなペンションモナ?」
 俺は、ぐったりとしているキバヤシに訊ねた。
「…ん?」
 キバヤシは視線を上げる。

「…『砕ける』」
「ギコハニャーン!!」
 背後から妙な声が聞こえてくるが、気にしないでおこう。

「『マサクゥル』という名の、ナウいペンションだよ」
 力無く呟くキバヤシ。
「…『マサクゥル』か。名前は強そうだね」
 モララーは口を開いた。
 キバヤシは続ける。
「首吊り島にある唯一の建物で、屋敷と言ってもいいほど立派なペンションだ。
 もっとも、写真でしか見た事がないけどな…」
 キバヤシはそう言って、ため息をついた。
 顔色は、先程より良くなってきている。

「あんたら、都会から来なすったのかね?」
 ベンチの周囲に固まる俺達に、老婆が声をかけてきた。
 いかにも、古老といった感じだ。

「…はい。首吊り島っていうところに行くんですよ」
 しぃは頷いて答える。
「な…! 首吊り島となッ!」
 老婆は驚きの声を上げた後、顔を引き攣らせて固まってしまった。

「…?」
 その様子を見たキバヤシが、腰を上げて老婆に訊ねる。
 どうやら全快したようだ。
「…首吊り島に、何かあるんですか?」

672:2004/06/24(木) 22:01

「知らん! あんな呪われた島の事など、ワシは何も知らんぞッ!!」
 そう言って、老婆は背を向けた。
 そのまま、ちらりとこちらへ視線を向ける。
「あんたら、命が惜しかったらあの島に近付くでないぞッ!!」
 そう言い残して、老婆はそそくさと去っていった。
 まるで、関わり合いになりたくないといった具合に。

「…判で押したような反応だな」
 ギコは呆れたように言った。
 そして、おそらくボートで迎えに来た現地の人とやらが、この島の因縁について語ってくれるのだろう。

「…そう言えば、Mr.Zとやらが手紙に同封したUFOの写真ってのは?」
 俺は、キバヤシに訊ねた。
「おっと、忘れるところだった…」
 キバヤシはポケットから1枚の写真を出すと、俺に渡す。

 俺は、その写真を見た。
「どれどれ…?」
 ギコ達が、俺の背後から写真を覗き込む。
 不鮮明だが、妙な物体がかなり大きく写っていた。
 まさに、円盤型。
 キバヤシの言った通り、その下部には砲台のような物がついていた。
 まるで、戦車の砲塔を逆さにしてくっつけたみたいな…

「何だこれ、パンターじゃねぇか」
 ギコは言った。
「…パンター?」
 俺は振り返って訊ねる。
「ドイツが、ナチス時代に開発した戦車だよ」
 ギコは告げた。
 何だ、本当に戦車の砲塔だったのか…

「じゃあ、合成したトリック写真って事?」
 しぃは訊ねる。
「ああ、本当にこんなモンを作ったんじゃない限りはな…」
 ギコは馬鹿馬鹿しそうに言った。
 それも当然だ。
 未知の飛行物体を製造しておきながら、パンターの砲塔を逆さにしてくっつける馬鹿が存在するとは思えない。

「じゃあ、無駄足だったって訳?」
 モララーは不服そうに言う。
 俺は、そっちの方が有難いんだがな。
「あきらめない…」
 キバヤシは呟きながら顔を上げた。
「『あきらめない』というのが、俺達に出来る唯一の戦い方なんだよ!!」
 …つまり、調査を止める気はないらしい。

「つーか、Mr.Zとかいうヤツ、怪しすぎないか…?」
 ギコは言った。
 何を今さら。その名前で怪しまない奴は失格だ。
「手紙の方も見せてくれないか?」
 ギコは、キバヤシに手を出した。
「ああ… どこに仕舞ったかな」
 カバンをごそごそするキバヤシ。
「あった、これだこれだ…」
 キバヤシは封筒から手紙を出すと、ギコに渡した。

「うおっ!! 怪しッ!!」
 それを見て、俺は思わず叫んだ。
 まるで一昔前の脅迫状のように、手紙の文字は切り抜いた活字の貼り付けだったのだ。
「…今どき、こんなことするヤツいるんだね…」
 モララーは呆れたように言った。
 字の大きさもマチマチで、所々ずれている
 もう、怪しさ大爆発だ。

「…ん、迎えが来たようだ」
 キバヤシは腰を上げた。
 海面に古臭いボートが浮いている。
 俺達全員+荷物が乗ったら、沈んでしまいそうな…

 現地の人と思われる筋肉質のニワトリが、キバヤシと視線を絡めた。
 ゆっくりと頷くニワトリ。
「じゃあみんな、ボートに乗ってくれ」
 そう言いつつ、キバヤシがボートに乗り移った。
 その衝撃だけでボートは大きく揺れる。

「オイオイ、こんなボロで大丈夫なのか? みんな乗ったら沈んじまうんじゃねーか?」
 三角頭は言った。
 ってか、いたのか。

「…」
 ニワトリが、三角頭を睨んだ。
 そして地上に飛び移ると、腕をクイクイさせる。

「左側の海苔頭! きさまの頭の形が気にくわん! 今から痛メツケテヤル!! …だそうだ」
 キバヤシはボートに腰を下ろして言った。

「はァ〜〜〜〜? おれのことか? なんだてめー! いきなり何いいだすのん? 頭パープリンなのか?」
 ニワトリを挑発する三角頭。
 パープリンなのは、間違いなくお前だ…

673:2004/06/24(木) 22:02



「じゃあ、出発だ!」
 キバヤシは言った。
 ニワトリはおもむろに海に飛び込むと、ボートの背面に回る。
 そしてボートを押しながら、激しくバタ足を始めた。
 その勢いで、ボートはゆっくりと進み出す。
 オールは、三角頭を叩き潰した時に折れてしまったのだ。

「…まあ、全員乗ってたら沈んでたかもしれないモナね。1人足りないくらいがちょうどいいモナ」
 俺は、ポジティブに物事を考える事にした。
「つーか、こんな重要な事を今まで聞かないのもアレだけど…」
 ギコはおもむろに口を開いた。
「何泊する予定なんだ?」

「この船が出るのは1週間に1回だ。つまり、次にこの船が来るのは1週間後だな…」
 キバヤシは澄まして言った。
 どうやら、海の上だと酔わないらしい…って、それどころじゃねー!!

「じゃあ、1週間は本土から帰れないのかい!?」
 モララーは叫んだ。
「その通りだが、心配する事はない。食料や生活用品は、1週間分以上は備蓄されてあるからな…」
 そう言って爽やかなスマイルを見せるキバヤシ。
 何と言うか、最もタチが悪いシュミレーションだ。

「まあ、大丈夫なんじゃないか?
 いざとなったら、モララーの『アナザー・ワールド・エキストラ』もあるし…」
 ギコは腕を組んで言った。
 確かにそうだな。
 仮にも俺達はスタンド使いだ。

「…ほら、島が見えてきたぞ!」
 しばらくして、キバヤシが水平線を指差した。
 うっすらと、首吊り島がその姿をあらわす。

「なかなか大きい島だな…」
 ギコは呟いた。
 つーが島を見てはしゃぐ。
 確かに大きい。人里離れている事といい、秘密基地を作るなら絶好の場所だろう。

 俺達は、この時は思いもしなかったのである。
 ペンション『マサクゥル』が、忌まわしい殺人事件の舞台となる事を…



 ボートが砂浜に乗り上がる。
 ここには、港はないらしい。

「よっと…」
 俺は、島に上がった。
 海の傍にもかかわらず、うっそうと茂った森が視界に広がる。
 獣道が、森の中を真っ直ぐに走っていた。

「…まさか、歩いていくの?」
 しぃはうんざりしたように言った。
 その気持ちは良く分かる。

「そう、ここから真っ直ぐに30分ほど歩けば『マサクゥル』に到着だ」
 キバヤシは言った。
 その背後で、ニワトリはボートを発進させた。
 ボートを押しながらバタ足で水面を蹴るニワトリの姿が、みるみる遠くなっていく。

「たかだか30分だろう、大した距離じゃない」
 リナーは言った。
 確かにそうだ。
 現在4時半。5時には『マサクゥル』に着く計算だ。
 俺達は、『マサクゥル』に向かって歩き出した。



 ――午後5時。

 俺の眼前に、大きな門がそびえ立っていた。
 …デカい。
 とにかくデカい。
 これはもはや洋館だ。ペンションとは言わんだろう。
 外観からして、3階建て。
 中世の貴族が舞踏会とか始めそうな雰囲気だ。
 キバヤシは立派な扉に歩み寄ると、無造作に呼び鈴を鳴らした。

 しばらくの間の後、ゆっくりと扉が開く。
 その間から、にこやかな笑みを浮かべた男が顔を出した。
 良く言えば立派な体躯、悪く言えば肥満した肉体。
 彼はゆっくりと扉から出てくると、キバヤシと握手をした。

「『マサクゥル』へようこそ。MMRの皆さんですネ。
 ワタシはこのペンションのオーナー、曙と言いマス」
 第一犠牲者… じゃない、曙はどこか英語めいた発音で言った。
「さあ、中へドーゾドーゾ…」

 見た目はいかついが、どうやら曙はいい人のようだ。
 俺達はペンションに入った。
 高級そうな内装。
 廊下には、高そうな調度品が並んでいる。
 落ちてくれば数人は命を落とすであろうシャンデリアも見逃せない。
 何か、リュックを背負っている俺達が気後れするほどに豪華だ。
 周囲を見回して、キバヤシは口を開いた。
「…いいペンションだ。ナウなヤングにバカウケだな」
「そうでショう? ドゥォッホッホッホォッホォホォッ!!」
 キバヤシの言葉を聞いて、曙は豪快に笑った。

674:2004/06/24(木) 22:03

「さて、客室は2階になりマス」
 曙は、ロビーの正面にある階段を上った。
 俺達はぞろぞろと後に続く。
 立派な階段を上ったら、広い廊下が目の前に続いていた。
 両側には、客室のドアが延々と連なっている。

「8名様ですから… 205〜212室をご利用下さい」
 ドアを指して、曙は言った。
「朝食は午前8時。昼食は正午、夕食は午後7時です。間取り図が各部屋にあるので、見ておいて下サイ」
「…ああ、分かった」
 キバヤシは頷く。

「では…」
「あっ、ちょっと!」
 背を向ける曙を、俺は慌てて呼び止めた。
「…誰か、あなたを憎んでいる人間はいるモナ?」
 俺は訊ねる。
「…いきなり何を言っている?」
 リナーが眉を寄せる。
「いや、死人に口無しになる前に、重要な事は聞いておこうかと思って…」
 俺はポケットからメモを取り出して言った。

「…別に心当たりはないですネ。ドゥォッホッホッホォッホォホォッ!!」
 曙は笑う。
「…分かったモナ」
 俺は『敵なし』とだけ書いて、メモを仕舞った。
 曙は軽く頭を下げると、階段を降りていった。

「さて、部屋だが…」
 ギコは口を開く。
「私はモナーくんの隣ねー!!」
「アアン! 僕も、モナー君の隣にするんだからな!!」
「じゃあ、モナはリナーと同じ部屋で!!」
「ノストラダムス…!」
 俺達は、口々に喚き立てた。

 ギコは両手をかざしてそれを制する。
「どうせ穏便にゃ決まらんだろうし、事件発生の前に無駄な犠牲を出すのもアレだからな…
 ここは潔く、ジャンケンでどうだ?
 いったん決まったら、後は誰と同室しようが個人の自由って事で…(俺は最初からそうするつもりだけどな)」
 …ギコの心の声が聞こえた。

 まあ、揉めずに決めるにはジャンケンが一番問題が無いだろう。
「…それもいいかもね」
 モララーは承諾する。
 レモナも黙って頷いた。

「じゃあ、ジャーンケーン……ホイ!!」
 ギコの音頭と共に、全員が手を出した。
 普通8人の大人数ともなると、あいこが連続するものだ。
 しかし、1発で勝負がついた。
 キバヤシだけがチョキ、残り全員がパーだったのだ。

「別にどこでもいいんだけどな… じゃあ、211号室にしようか。素数だしな…」
 そう言って、キバヤシは211号室へ入っていった。
 まさか、何かやったんじゃないだろうな…

「じゃあ行くぞ! ジャーンケーン……ホイ!!」
 続くギコの掛け声。
 何回かあいこを繰り返した後、俺、つー、しぃ、リナーがパーを出し、ギコ、レモナ、モララーがグーを出した。
「くそ――ッ!!」
 モララーが絶叫する。

 俺、つー、しぃ、リナーでジャンケンを繰り返し、リナー、つー、俺、しぃの順に部屋を選べる事になった。
「別に私はどこでもいいんだが… じゃあ、一番手前の部屋で」
 リナーは205室を指差した。
「アッヒャー! オレハ、212シツダ!!」
 つーは、一番奥の部屋に走っていった。
 そのまま、ドアを開けて室内に飛び込む。
 どうやら、端っこ狙いだったみたいだ。

「じゃあ、モナはリナーの隣で…」
 俺は206号室を指定する。
 残りは、207〜210号室。両脇2つずつが埋まり、ちょうど真ん中が空いてしまった。
「ん〜 どれにしようかな?」
 しぃが部屋を見回す。
 レモナとモララーの、『207号室は行くな…』という思念を背に受けながら。
「…じゃあ、210号室で」
 しぃは無難に選択した。

 後は、ギコ、モララー、レモナの3人だ。
「事実上、207号室の争奪戦って訳ね…」
 レモナはモララーを見据えた。
「ああ。容赦はしないよ…」
 それを睨み返すモララー
「…俺、残った部屋でいいわ。下手に恨みを買うのも御免だし」
 そう言って、ギコとしいは素早く210号室に入っていった。
 もう、特に言う事はない。

 一方、睨み合うモララーとレモナ。
 今にも浮遊しながらジャンケンを始めそうな雰囲気だ。

「…リナー、ペンションの探検に行かないモナ?」
 俺は、リナーに声をかける。
「そうだな。いざという時の避難経路も確かめておく必要がある」
 そういう事で、俺とリナーはその場から離れた。

675:2004/06/24(木) 22:03


「2階には、客室しかないっぽいモナね…」
 廊下に延々と続く客室を見て、俺は呟いた。
 部屋数はかなりの数になる。
 おそらく、50人は宿泊できるだろう。

 次に、1階に降りる俺達。
 ロビーにある大きな休憩用のテーブルに、見覚えのある4人がいた。
 しぃ助教授、丸耳、ありす、ねここ…
 なんと、ASAの面々だ!!

「おや、モナー君じゃないですか」
 ティーカップを手にしていたしぃ助教授は、リナーを意図的に無視して言った。
「モナーさ〜ん! リナーさ〜ん!」
 俺達にねここが手を振る。
「しぃ助教授…? どうしてここへ…」
 それに応えながら、俺は呟いた。
 もしや、もう事件が発生したのか?

「休暇ですよ。1週間ほど、羽根を広げようかと思って」
 しぃ助教授は紅茶をすすりながら言った。
「…首吊り島なんていう不気味な名前のところに、好き好んでやってきたモナか…?」
 その悪趣味振りは、流石しぃ助教授だ。

「放っといて下さい。それより、モナー君達は何しに来たんですか?」
 しぃ助教授は、ティーカップをテーブルに置いて訊ねた。
「それが…」
 俺は、事情を説明する。
 その間、リナーは調度品を見回っていた。
 話を終えて、しぃ助教授は腕を組む。
「うーん、UFOの秘密基地ですか… 楽しそうな話ですね」

「私達も探しに行きましょうか!?」
 ねここは楽しそうに言った。
「止めはしませんよ、私は…」
 しぃ助教授は再び紅茶をすする。
 つまり、自分は行く気はないという事だろう。

「リナーさん、かなりヒマそうですよ…」
 ねここが、こっそりと告げた。
 見ると、確かに暇そうだ。
 心なしか機嫌が悪そうにも見える。

「そうモナね… じゃあ…」
 俺は、慌ててリナーに駆け寄った。
「待たせたモナね…」
 リナーもしぃ助教授も、互いを存在しないものとして扱っていた。
 両者とも、最大限の譲歩をしていたのだろう。
 大人になったものだ…
 腕を組んで、俺は大きく頷いた。

 ロビーを真っ直ぐに進むと、食堂の扉に突き当たる。
 扉は開いていた。
 かなり大きいテーブル。
 食堂と言っても、大衆食堂などでは断じてない。
 まるで中世ヨーロッパの大邸宅における食卓だ。
 食堂内では、メイド服を着たピエロとクマがハンバーガーを盛った皿を並べていた。
 何か、見てはいけないものを見てしまったような気が…

 俺は慌てて視線を逸らした。
 食堂の扉の左右にも通路がある。
 そこから、風呂や従業員達の部屋などに繋がっているのだろう。
「…って言うか、他の従業員はいるモナ?」
 俺はいぶかしんで言った。
「もちろんいるだろう。そうでなければ、ここまで大きいペンションなど維持できるはずがない」
 リナーはそう言うが、ここはペンションの定義から外れているような気がしてならないんだが…

 俺とリナーは通路を進んだ。
 壁に張られた案内プレートに視線をやる。
「で、こっちが大浴場モナね…」

 『ゆ』と書かれた大きなのれん。
 どう見ても、大きな純和風大衆浴場。
 洋館仕立てが台無し… と言うか、ミスマッチにも程がある。

「おや、お二人サン…」
 曙が後ろから声をかけてきた。
「フロはいつでも入れマスよ。30分も歩いてきたんですから、汗を流してみてハ?」

「風呂…」
 そう呟いて、ニヤリと笑う俺。
「そうモナね。たまにはみんなで銭湯気分も悪くないモナ…」

 ふと、俺は曙に訊ねた。
「他にも客は来るモナか…?」
 曙は腰に手を当てる。
「ASなんとかいう役所の人達が4人と… 上院議員さんが1人。
 釣り客の方が3人、警察の人が2人来る予定デス。それと、Mr.Zとか言う方も…」

「Mr.Zだって!?」
 俺は思わず大声を上げた。
 そいつは、確かMMRに手紙を送ってきたヤツだ。
 そもそも、俺達がここへ来た発端とも言える。
「…妙な話だな。調査して下さいと言っておいて、自分も出向くとは…」
 リナーは腕を組んで言った。

「これは、みんなに知らせる必要があるモナね…」
 俺は、リナーに告げた。
 ついでに、みんなを風呂に誘いにいこう。

676:2004/06/24(木) 22:04


 ロビーには、すでにASAの人達の姿は無かった。
 部屋に戻ったのだろうか。
 不意に、玄関の扉が開いた。

「へぇ… なかなかいいペンションじゃないですか」
 内装を見回して、そう口を開く男。
「ペンションと言うには、いささか大きすぎると思いますが…」
 そう言いかけた女の言葉が、俺と目が合った瞬間に止まった。
「…モナーさん!?」

 なんと… 女はリル子さん、男は局長だった。
 すると、曙の言っていた警察の人と言うのは…

「また、珍しいところで顔を合わせますね」
 局長はため息をついて言った。
 全くその通りだ。
「未成年が2人でこんな所に泊まるとは感心しませんねぇ…」
 しかも、誤解爆発である。

「あと6人来てるモナよ。ちゃんと引率もいるモナ…」
 そう言った後、俺は思った。
 キバヤシって何歳?
 若そうに見えるが、結構年食ってるのかもしれない。
 20は越えているのだろうが…
 でも、あれで30超えているのも何か嫌だ。
 …まあ、ムーミンみたい生物と同じようなものだと思おう。

「なるほど… それは、失礼しました」
 そう言いながら、局長はずかずかとロビーに踏み込む。
 食堂の方から、曙が走ってきた。
 そして、曙、局長、リル子の3人は階段を上がっていく。

「…あの人達、何しに来たモナ?」
 俺はリナーに言った。
「休暇か、それとも何かあったのか…」
 呟くリナー。
 まあ、リナーに聞いても仕方がない。
 俺達は、2階に上がった。


「…という訳で、みんなで風呂に行くモナ」
 一番奥のつーの扉を叩いて、俺は言った。
「ワカッタ。チョット マテ!」
 中から、つーの声。
 これで全員に告げた事になる。
 俺は、風呂セットを取りに自分の部屋に戻った。


 入浴セットを手に部屋から出ると、ねここに鉢合わせた。
「あれ? お風呂の準備ですか?」
 ねここは俺の抱えている風呂セットに視線をやる。
 どうやら、ねここの部屋は向かいの219号室のようだ。
「ちなみに、みんなの部屋番号とかは全く覚える必要がないモナよ」
 俺はおもむろに告げる。
「…誰に言ってるんですか?」
 首を傾げて訊ねるねここ。
「……さあ? 誰にだろ…」
 俺は呟いた。
 そうだ、それより…

「大浴場の風呂は、いつでも入れるみたいモナ。
 モナ達も、みんなで入りに行くモナ。ASAのみんなもどうモナ?」
 俺はねここに告げた。
「お風呂ですか… みんなで入るのは楽しそうですね!」
 ねここは両手を上げて、頭上で軽く叩く。
「じゃあ、こっちのみんなも誘ってきます!」
 そう言って、ねここは他の部屋をノックしだした。
 ククク… ククククク…

「じゃあ、行くか!」
 ギコは言った。
 俺達の方は全員揃ったようだ。
 こうして、俺達8人は大浴場へ向かった。


 『ゆ』と書かれたのれんの前で、俺達は2グループに分かれた。
 男湯組の俺、ギコ、モララー、キバヤシ。
 女湯組のリナー、しぃ、レモナ、つー。
 性別不詳のつーは、女湯で問題ないようだ。
 まあぶっちゃけ、つーのAAの構成要素の96%はしぃだしな。

 脱衣所で、俺達は即座に服を脱ぐ。
「…先客がいるようだな」
 カゴに入った服を見て、ギコは言った。

 服を脱ぐ俺を見て、ニヤニヤしているモララー。
 ホモと銭湯に行くのは、なかなかスリリングだ。
 視線の角度や向こうの動きを『アウト・オブ・エデン』で解析し、最適な位置に占位する俺。

「おや、みなさん…」
 脱衣所に、風呂セットを抱えた丸耳が入ってきた。
 ASAの一団も来たのだろう。
 思えば、向こうは4人中3人が女性である。
 言わばハーレム状態だが、銭湯などでは寂しいだろう。
「ご一緒させてもらうとしますか…」
 そう言って、丸耳は服を脱いだ。

 戸をガラガラと開けて、丸耳を含む俺達5人は浴室に入る。
 予想通り、かなり広い。
 大きい湯船に、広い洗い場。
 そして、壁で隔てられた向こうには…
 ククク、ククククク…!

「――『アウト・オブ・エデン』」
 俺は、スタンドを発動させた。
 その、全てを見通す目を。

「ギャー!!」
 その刹那、頭部に鋭い衝撃。
 俺がスタンドを発動させた瞬間に、ギコと丸耳が同時に後頭部を殴ったのだ。
 …なんで丸耳まで。

「次にやったら、『レイラ』でぶった切るからな」
「ASAの一員として、スタンド能力を悪用する者を見逃してはおけません」
 ギコと丸耳は同時に言った。

677:2004/06/24(木) 22:05

 洗い場に人影がある。
 先に来ていたらしい局長が、頭を洗っているのだ。
「風呂ぐらい静かに入れませんか?
 私達は知り合いだからいいようなものの、第三者に迷惑をかけるのは頂けませんね」
 局長は呆れたように言った。
 彼の眼鏡は、湯気で真っ白になっている。

「…眼鏡、外さないモナか?」
「後ろの彼もそうでしょう?」
 局長は言った。
 確かに、キバヤシも眼鏡を掛けたままだ。
「俺がメガネを外すと、死の線が見えたりオプティックブラストが暴発したりするからな…」
 キバヤシは視線を落として呟いた。

「って事は、リル子さんもあっちにいるの?」
 モララーは、女湯の方を指差して局長に訊ねた。
「ええ。ですが、劣情に走るのはお勧めしませんよ…」
 局長は頭を泡立てながら言った。
 確かに、覗きなどしようものなら恐ろしい事になりそうだ。

「ふ〜〜〜〜極楽極楽…」
 肩まで湯船に浸かる俺達。
 これに勝る快楽などない。

「モナ〜く〜ん! 聞こえる〜!?」
 不意に、女湯の方から声がした。
 レモナの声だ。
「聞こえるモナよ〜!」
 俺は返事をした。

「うわ〜 広いですね!!」
 ねここの声が響く。
「では、お待ちかねの… ねここチェーック1!!
 リナーさん、意外と胸大きく… ありませんね。がっかり」
「…悪かったな」
 こちらはリナーの声。
 そして、ザバーというお湯を流す音。

「ねここチェーック2!! しぃさんは… マル!! 合格!! ちゃんと揉んでもらってるんですね!!」
 ねここは大きな声を上げている。
「まあ、当然だな…」
 何故かふんぞり返るギコ。

「あっ! リナーさんが僅かに自らの胸元に視線をやったーッ! 気にしているッ! 確かに気にしてガバゴベブボ」
 ねここの声に水音が混ざる。
 恐らく、湯船に沈められたのだろう。

 その何だ、女湯のこういうのって、わざとやってんじゃないかって思うな。
 多分、わざとやってるんだろうけど。
「…対抗する?」
 シャンプーハットを被ったモララーが言った。
「男がやると、とんでもない事になるモナ」
 俺は突っぱねる。

「じゃあ、俺の出番だな…」
 突然、湯船の中から海坊主のように男が顔を出した。
 あれは… 阿部高和だ!!

「ホ、ホモだッ!! 変態がいるッ!!」
 モララーは、自分の事を棚に上げて叫ぶ。
 あんまりそういう言い方は、ゲイの方に失礼だぞ。

「行こうか、モララー君。たっぷりよろこばせてやるからな…」
 阿部高和は、モララーの足を掴んだようだ。
「イ、イヤアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ…」
 モララーは、そのまま湯の中に引きずり込まれていった。
「…」
 俺達は湯船から上がると、体を洗い始めた。

 再び、ねここの声が響く。
「話がまとまったところで、ねここチェーック3!! レモナさん…」
「私は、ある程度なら自由に可変できるわよ。モナーくんの好みに合わせてね…キャッ!!」
 レモナは大声でこちらに聞こえるように言った。
「恋する乙女のパワーだッ!! いやぁモナーさん、男冥利につきますね…!」
 ねここの嬉しそうな声。
 ギコが俺の肩にポンと手を置く。
 他人事だと思って…
「いや、つきないつきない…」
 俺は右手をヒラヒラと振った。

「ねここチェーック4!! つーちゃん………!? !!!!?」
 絶句するねここ。
 な、なんだ!?
 何を見たんだ!?

「さて、ねここチェーック5!! リル子さん… おぉッ!!」
 その刹那、凄まじい打撃音がした。
 静まり返る女湯。

678:2004/06/24(木) 22:06

「やれやれ…」
 湯船に浸かって局長が呟いた。
 その眼鏡は完全に湯気で真っ白で、前は見えていないだろう。
 体を洗い終えた俺達は、再び湯船に浸かる。

「いたた… ねここチェーック5!! しぃ助教授… は止めて、ありす!!
 うーん、年齢を考えれば、こんなもんですかねー」
 ねここチェックはまだまだ続く。
 胸編を終えた後は、全体の総括と今後の課題へと…

「結論から言えば、スタンドを使用すればあの程度の壁を登る事は可能だ」
 ギコは、おもむろに言った。
「そこまでは問題ありません。その後ですね。こちらはほぼ無防備、向こうの攻撃を回避できるとは思えません」
 丸耳が真面目な顔で呟く。

「いやお前ら、さっきモナを殴ったのは何だったモナ…?」
 俺は呆れて言った。
「あなたが利益の独占を狙ったからです。
 スタンドの能力でみんなが幸せになるのなら、ASAの理念には抵触しません」
 丸耳は悪びれずに告げる。

 ギコは話を元に戻した。
「俺の『レイラ』とモナーの『アウト・オブ・エデン』、そしてお前のスタンドで、向こうとどの程度戦える?」
 そう言って、ギコは丸耳に視線をやる。
「どの程度も何もありません。しぃ助教授1人にすら太刀打ちできませんよ」
 丸耳はさらりと言った。
 ギコはため息をついて腕を組む。
「そもそも、戦力に偏りがありすぎるな…
 リナー、しぃの『アルカディア』、レモナ、つー、しぃ助教授、ありす、リル子の『アルティチュード57』…」

 丸耳が捕捉した。
「ねここの『ドクター・ジョーンズ』も侮れませんよ。
 近距離パワー型ほどではありませんが、バランスの取れた遠距離型で厄介です」
 …確か、あの死神みたいなヤツか。
 こっちに比べて、女性陣が強力過ぎる。
 『ロストメモリー』が加われば、こちらにも勝機が見えてくるんだが…

「あんたはその気はないのか?」
 ギコは局長に視線をやった。
 局長は肩をすくめる。
「学生時代ならそういうノリも悪くはありませんが、この年になってしまうとねぇ…」

「…」
 丸耳は視線を落とした。
 彼も、年齢はよく分からない。
「…そろそろ出るか」
 ギコの声に頷くと、俺達は風呂を出た。

 ペンション備え付けのステッキーな浴衣を着用する。
「ヴァ〜〜〜〜〜〜〜」
 モララーが、回転する扇風機に向かって奇声を上げていた。

「おっ、自動販売機じゃねぇか… 牛乳でも飲むか」
 ギコが、洗い場の隅の方に歩いていった。
 本当に、ここだけ銭湯そのものだな…

「おやおや、皆さんは上がったところデスカ…」
 のれんをくぐって、曙が脱衣所に入ってくる。
「オーナーも風呂ですか?」
 眼鏡の湯気を拭きながら、局長は訊ねた。
「エエ。食事の前にはひとっ風呂浴びないとネ。ドゥォッホッホッホォッホォホォッ!!」
 豪快に笑う曙。
 そして服を脱ぐと、浴室へ入っていった。

「おいッ!! 大変だ!!」
 突如、ギコが大声を上げた。
「この自販機、コインが入らねぇんだよ!!」

 ギコは、必死で円筒状の物体にコインを投下しようとしている。
「…それは、歯車王モナ」
 俺は告げた。

679:2004/06/24(木) 22:08


 局長を含む6人で、俺達は男湯を出た。
 女性グループも同時に出てきたようだ。
 何となく灰色な俺達に比べて、向こうは異様に華やいでいる。
 …浴衣! 
 …半乾きの髪!!!
 …身体からホコホコと沸き立つ湯気!! 
 もう、ハァハァものだ。

 合流した俺達は、2階の部屋へ向かった。
「…もうすぐ、夕食ですね」
 しぃ助教授は言った。
「部屋に戻って荷物を置いたら、すぐに再集合しましょうか」

 みんな揃って食堂へ行こうという事か。
 どうでもいいが、先程からリナーとしぃ助教授は一切目を合わせていない。
 まあ諍いを起こさないだけマシだろう。
 俺達はしぃ助教授の誘いに乗って、荷物を置くとみんなで食堂に向かった。


 食堂には、3人の異様な男が座っていた。
 あれが、曙の言っていた3人の釣り客だろう。
 だが、どう控え目に見ても釣り客には見えない。
 それより、軍人とか兵士とか戦士とか傭兵とか、そういう種族に見える。
 釣竿より、武器が似合う人種だ。
 まあ、所詮はバナナとダンボールとオッサンだが。

 …と言うか、どうやって来たんだ?
 船は週に1回しか来ないはず。
 既に設定が破綻してないか?
 取り合えず、思い思いの席に座る俺達。

「私は山田、ダンボールの彼がモナーク、あっちがハートマン軍曹だ。よろしく」
 山田と名乗ったバナナは、俺達に言った。
 あくまで最低限の自己紹介である。
 黙っているのも不自然だから名乗っただけで、こちらとコミュニケートするつもりはないのだろう。
 現にモナークとハートマンとやらは、視線を上げようとすらしない。
 あれ? そう言えば、風呂場で『ロストメモリー』がどうとか思ってた気が…
 まあいい、彼等とはあくまで初対面だ。

「…随分と、皆さんお集まりですな」
 立派な身なりをした紳士が、食堂に姿を現した。
 こいつが、間違いなく曙の言っていた上院議員とやらだ。

「…誰か、貴方を憎んでいる人はいませんか?」
 俺は、上院議員に訊ねる。
「意外と、こういうキャラが最後の方まで生き残ったりするもんだけどな…」
 そんな俺を見て、ギコは呟いた。

「憎んでいる人? こんな職をやっている限り、数え切れんほどいますのう。フォフォフォ…」
 上院議員は柔和な笑みを見せて言った。
 そして、テーブルに腰を下ろす。
「そう言えばこの食堂に来る時、通路でオーナーと会いましたぞ。6時40分ですな」
 唐突に、やけに正確な時間を口にする上院議員。
 
「6時40分までは生きていた、と… ただし、上院議員が偽証していない場合」
 ギコは手帳に素早くメモを取った。
 俺は時計を見る。現在、6時45分。
 それから俺達は他愛ない会話を交わした。


 7時の鐘が鳴る。
 曙は現れない。
 俺達の前には夕食のハンバーガーが並んでいるのだが、オーナーを差し置いて食事を始める訳にもいかないだろう。

「…寝てるのかな?」
 しぃは言った。
「さぁなぁ… このままだと、冷めちまうぞ」
 ギコは、食卓に並ぶハンバーガーに視線をやる。

「仕方ない、モナが様子を見に行くモナよ…」
 俺は、椅子から身体を起こした。
「私も行こう」
 リナーが立ち上がる。
 俺は、みんなを見渡して言った。
「念の為に、もう何人か来て欲しいモナ。出来れば、死亡時間の割り出しとかできる人が…」

「じゃあ、私とリル子君がご一緒しましょう」
 公安五課の2人が腰を上げた。
「丸耳、貴方も行きなさい」
 しぃ助教授は、隣の丸耳に視線をやった。
「了解しました」
 丸耳が立ち上がる。

「じゃあ、行くモナ…」
 俺を先頭に、リナー、局長、リル子、丸耳の5人がオーナーの部屋に向かった。

680:2004/06/24(木) 22:09


「すごく和風な扉モナね…」
 オーナーの部屋の前に立って、俺は呟いた。
 そして扉に手をやる。
 ノブが回らない。
「…鍵が掛かってるモナ」

「どれどれ… 本当ですね」
 局長がノブをガチャガチャと捻った。
「…どいてろ」
 リナーは拳銃を取り出すと、ドアの取っ手に発砲する。
 たちまち、ノブは弾け飛んだ。
 俺は、ゆっくりとドアを開けた。

 中は、立派な和室だった。
 そして、予想通りの風景。

 |    |         .|           そこには、曙さんがうつ伏せに倒れていた。
 |    |   @ソ  │           その弛緩した肉体、和室に伸びた体躯。
 |    |  (ゞl,ノ@   │             とうとう、事が起こってしまった。
 |    |   ヾl/)    |            彼は、死んでいるのだ。
 |    |/ [____]  ̄.|            背後から、皆の息を呑む気配が伝わってきた。
 |      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄           僕は…
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         __,,,,,,               |> A:慌てて曙さんに駆け寄った。
     ,.-'''":::::::::::`ー--─'''''''''''''-、,,
  ,.-::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\     B:「誰もこの部屋に入れるな! 
  ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ノ ヽ-、::::::''ー'''"7  食堂にいるメンバーを確認するんだ!!」そう叫んだ。
  `''|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}      ``ー''"
    !::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i          C:「この中に犯人がいます!!」
    '、:::::::::::::::::::'ー''ヽ、:::::::::::::ヽ、-─-、,,-::::ヽ   振り返って言った。
     \::::::/     ヽ--ヽ::::::::::::::::-----、::ヽ
                  ``"       \D:「イシャはどこだ! 先生! シリツをして下さい!」
                              取り乱して叫んだ。

「…Bモナね」
 俺は呟いた。
 とりあえず、現場保持だ。
 こういう局面では、誰が犯人で証拠隠滅を図るか分からない。
 誰も部屋に入れない事が重要だ。
 なおかつ、全員の状況を把握する。
 食堂にいるメンバーの確認が第一だ。
 殺害状況の把握など、その後でいい。

「誰もこの部屋に入れては駄目モナ! 食堂にいるメンバーを確認するモナ!」
 俺は叫ぶ。

「では、ここは私が見張っていよう」
 リナーはそう言って扉を閉めた。
 これで、証拠隠滅は不可能だ。
 まさか、リナーが犯人なんて事はないだろうし… 多分。
 俺、局長、リル子、丸耳は食堂に向かって走り出した。

「確かに、食堂には全員いたモナ!?」
 俺は走りながら言った。
「宿泊客は全員いたでしょうが… このペンションの従業員までは確認していませんねぇ」
 局長が告げる。
「従業員…?」
 俺は局長に視線をやった。
「ペンション備え付けの施設が、いくつかあるそうです。教会とか、BARとか…」
 リル子が答えた。
 なんでペンションにそんなものがあるんだ…?

681:2004/06/24(木) 22:10


 俺達は食堂になだれこんだ。
「大変モナ!! オーナーが殺されてるモナ!!」
 それを聞いて、ギコ、モララー、レモナ、キバヤシ、しぃ助教授、ねここ、そしてモナークが腰を上げた。
「お前はここにいろ、いいな!!」
 ギコはしぃに告げた。
「いよいよ事件発生って訳ね!!」
 どこか嬉しそうにレモナが口走る。
「(つーちゃん、ここに残るメンバーを見張っていてほしいモナ…)」
 俺は、こっそりとつーに耳打ちした。
「アッヒャー! マカセロ!」
 つーは右手を振り上げる。
 人数を増やした俺達は、再びオーナーの部屋に向かった。


「私が見張っている間、ここには誰も来なかった」
 リナーは言った。
 俺は、こっそりとドアに唾でくっつけた髪の毛に目をやる。
 ドアが開けば、この髪の毛が落ちる仕組みだ。
 別にリナーを疑っていた訳ではないが、念の為だ。
 いつの間にこんなものをくっつけたとか、そもそもモナーに髪の毛があるのかとか言ってはいけない。
 とにかく、髪の毛はちゃんとくっついていた。
 つまり、中は殺害時そのままに保たれている。

 俺は、中に踏み込んだ。
 次に局長が続く。
 後ろの連中は人数が多いので、列になってドアをくぐっていった。

 うつ伏せに倒れている曙は、完全に息絶えていた。
 頭に大きな傷がある。
 凹んでいると言っても良い。
 明らかに、これが致命傷だろう。

 よし、ここは『アウト・オブ・エデン』で過去のヴィジョンを…
 その瞬間、俺の目からモクモクと煙が出てきた。
 しまった! オーバーヒートだ!!
 これでは、あと1週間は『アウト・オブ・エデン』を使えない!
 もう他人の心も視えないぞッ!!
 何て御都合主義なんだッ!!

「窓の鍵が閉まってるな…」
 混乱する俺を尻目に、ギコは窓付近を確認して言った。
「私達が最初にここへ来た時、入り口の鍵も閉まっていましたよね…」
 丸耳が呟く。
「…ええ。確かにかかっていましたよ」
 局長は頷いた。

「密室殺人って訳ね! 面白くなってきたわぁ!」
 レモナは不謹慎な事を言った。
 まあギコもキバヤシも、どう見ても探偵気分な訳だが。

 机の上には、半分ほど水の入ったグラスが置かれている。
 風呂上りに、冷やした水を飲んだのだろう。
 まさか、毒じゃないよな…
 俺は、曙の死体に視線をやった。
 しかし、どう見ても撲殺だ。

 ノートが閉じた状態で机の上に投げ出されていた。
 もしや、これに何か秘密が…
 俺はノートを開いた。
 『春はあけぼの』で始まる文章が続いている。
 どうやら、何の変哲も無い日記のようだ。

 『ぬるぽ』と書かれた掛け軸が下がっている。
 まさか、これのせいで頭を殴られたのか…?
 掛け軸の後ろを確かめてみたが、別に秘密の通路も何もない。

 他には、花瓶に入った花。妙な形の壷。
 何かトリックが…
 調べてみたが、ごく普通。
 怪しいと思えば全てが怪しい。
 そもそも、これはそういう類のトリックなのか?

「呼吸音は… 聞こえませんね。呼吸はしていません」
 局長はそう言ってかがみこむと、耳を畳につけた。
「心音も聞こえませんね…」
 そして懐から拳銃を取り出すと、曙に向けて発砲した。
 弾丸が背中に当たり、一筋の血が流れ出す。
「どうやら、完全に死んでいるようですね…
 『死んだように見せかけて、実は生きてました』なんてトリックは却下です」
 そう言って、局長は曙の死体に歩み寄る。
「こうなっちゃうと、私のスタンドでもどうしようもないですね…」
 ねここはため息をついた。

682:2004/06/24(木) 22:11

「外傷は頭と… ちょっと、そっち持って下さい」
 局長は俺に言った。
 うつ伏せに倒れている曙を、仰向けにしようと言うのだ。
「いいのか? 勝手に動かしても…」
 モナークが訊ねる。
「私がOKを出します。問題ありませんよ」
 局長は言った。

「よっと…」
 俺と曙は、その巨体を引っくり返す。
 そして彼の死に顔を見た瞬間、俺は吐き気に見舞われた。
 周囲の人間も、思わず息を呑んでいる。
 それもそのはず、彼の体はところどころが切り取られているのだ。
 片目、両耳…
 そして、腹にも大きな傷がある。
 おそらく、内臓も…

「これは、思った以上の猟奇殺人モナね…」
 俺は、口元を押さえて呟いた。
「随分と綺麗に抉り取られてるな。まるで、鋭利な刃物で切り取ったみたいだ…」
 ギコが、切り口を観察する。
「…しぃを連れて来なくて良かったぜ」

「キャトルミューティレーション…!!」
 キバヤシが、思い詰めた顔で呟いた。
「それは何モナ?」
 俺は訊ねる。

 キバヤシは、まるで探偵のように全員を見回した。
「…キャトルミューティレーションとは、1970年代にアメリカで相次いだ牛の虐殺事件の事なんだよ。
 その特徴は、鋭いメスのようなもので内臓や眼球などが抉り取られている事。
 その報告は全米各地で1万件を越えていて、個人の悪戯などではありえない。
 一説では、これは宇宙人による生体実験だと言われているんだよ!!」

「な、なんだって――!!」
 俺は叫んだ。
 そして、曙の亡骸に視線をやる。
 確かに、キバヤシが告げた特長と酷似しているのだ。

「宇宙人による生体実験か… そもそもこの島にはUFOの秘密基地があると言う噂があります。
 この奇妙な符合、少し引っかかりますねぇ…」
 局長は、曙の亡骸の横にかがみこんで言った。
「馬鹿な事を言わないで下さい。これは、れっきとした人間による犯行です。
 全くの偶然か、もしくはキャトルミューティレーションを模しただけとも考えられます」
 リル子はため息をついて言った。

「見立て殺人か…!」
 モララーが呟く。
「何ですか、それ」
 ねここは、首を傾げてモララーに視線をやった。

「童謡とか俳句になぞらえて、死体を装飾したりする殺人だ。犯罪用語ではなく、推理小説用語だな…」
 答えたのは、モララーではなくモナークだった。
「例えば、アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』という小説では、
 『10人のインディアンが食事に出かけた。1人が喉を詰まらせて9人になった。
  9人のインディアンが夜遅くまで起きていた。1人が寝過ごして8人になった。
  8人のインディアンがデヴァンを旅してた。1人が残ると言い出して7人になった。
  7人のインディアンが薪を割っていた。1人が自分をかち割って6人になった。
  6人のインディアンが蜂の巣いじって遊んでた。蜂が1人を刺し殺し5人になった。
  5人のインディアンが法律学んでた。大法院に1人が残り4人になった。
  4人のインディアンが海に出かけた。燻製ニシンに1人が呑まれ3人になった。
  3人のインディアンが動物園を歩いてた。熊が1人を抱きしめ2人になった。
  2人のインディアンが日向に座った。1人が焼けて1人になった。
  1人のインディアンが残された。彼は首を吊り、そして誰もいなくなった』
 というマザーグースの歌が最初に提示される。
 そして、登場人物が歌と同じ死因で殺されていくという話だ」

「で、最後はどうなるモナか?」
 俺はモナークに訊ねた。
「生きて帰れたら… 答えを教えてやる!」
 モナークはそう言って背を向ける。

「見立て殺人…! 犯人は、キャトルミューティレーションに見立てて殺人を…」
 丸耳は呟いた。
「まだ断定はできませんよ。さらなる事件が起きない限りはね…」
 今まで黙って周囲を調べていたしぃ助教授が、首を振る。

683:2004/06/24(木) 22:12

「まあ殺人である以上、私達ではどうしようもないですね。ここは警察を呼ぶのが賢明でしょう」
 局長は全員に告げた。
「いや、アンタが警察モナ!!」
 俺はすかさず突っ込む。
「管轄が違いますよ。あくまで私達は、公安五課ですから…」
 そう言いつつ、局長は腰を上げた。
「ちなみに、死因は頭を殴られた事でしょうね。耳や目を切り取ったのは、出血量からして死後でしょう。
 そして、今から1時間以内の犯行です。6時40分に上院議員と会ったんですから、まあ当然なんですが。
 …これ以上は鑑識待ちですね」

「とは言え、このままにしてはおけんな… いつ発見されるか分からん」
 モナークは曙の亡骸の足を掴んでずるずると引き摺ると、押入れの中に詰め込んだ。
 職業病みたいなものだろう。

 俺達はぞろぞろとオーナーの部屋を出ると、電話があるロビーに向かった。
 局長は、ロビーの電話の受話器を手に取る。
「おや…?」
 受話器に耳を当て、局長は呟いた。

「どうした?」
 ギコが訊ねる。
 局長はギコに視線をやって言った。
「何の音も聞こえない… 電話線が切られたようですね」

「な、何だって!!」
 俺は思わず叫んだ。
「まあ、ここは文明の利器という事で。そう容易く推理小説のようには行きませんよ」
 局長は携帯電話を取り出した。
 そして、それを耳に当てる。
「…繋がらない。どういう事でしょうね。圏外でもあるまいし…」

「何かあったんじゃないのか…?」
 ギコはロビーのTVをつけた。
 ちょうどニュースをやっているようだ。
 アナウンサーが口を開く。
『繰り返します。裏弐茶県を震源とした地震が発生し、電話局が壊滅。
 さらにアンテナに雷が落ち、もう携帯電話は使えません。
 そして大火事が発生し、港は壊滅状態。
 とどめに自衛隊が出動し県内の重要拠点を攻撃、復旧は最低でも1週間以上はかかる見込みです…』

「地震雷火事オヤジ、全部揃っちまったな…」
 ギコは呟いた。
 さらにアナウンサーは続ける。
『また大規模な電波障害、空間歪曲が発生しています。
 これにより高速飛行での脱出や、スタンド能力での移動はいっさい不可能となっております』

「もう、意地でもこの島から出さないつもりモナね…」
 俺はため息をついて言った。
 まあ、予想は出来ていたことだ。

「仕方ありませんね。食堂に戻って、これからについて話し合いましょう」
 しぃ助教授の提案に、異論を挟む者はいなかった。
 俺達は、食堂に向かった。


「…という訳です」
 局長は、説明を終えた。
「…」
 しぃが絶句しているが、無理もない。
 俺はハンバーガーの包みを開けると、口に放り込んだ。

「例によって、この中に犯人がいると思われます」
 リル子は当然のように言った。
「…いや、最初は外部の人間による犯行を疑って、その後に内部に疑いを向けない?
 こういう場合のセオリーとしては…」
 モララーは口を挟む。

「そのものが鈍器になるくらい分厚い推理小説と比べないで下さい。
 各人の感情の変化や心情の機微までいちいち書いてたら、行数がいくらあっても足りません」
 リル子は、感情を害したように言った。

684:2004/06/24(木) 22:13

「…もしかして、お前の中の人じゃないのか?」
 ギコは、俺に視線を送る。
「モナの中の人は、番外には顔を出すタイプじゃないと思うけど…」
 完全には否定しきれない。
 中の人なら、もっと綺麗にバラせるような気もするが。

 キバヤシが黙っているのが不気味だ。
 キバヤシスパイラルは炸裂しないのか…
 と言うか、キバヤシが犯人だったら何でも出来るんじゃないか?
 犯人でなかったとしても、犯人当てなど容易いはず…

「俺の能力は、御都合主義なんで使えないんだよ!!」
 キバヤシは突然言った。
 そういうのが逆に御都合主義だと思うが…

「そもそも、スタンド使いが大多数なのに推理モノをやろうなんて時点で無茶なんだよ!!」
 キバヤシは立ち上がって大声を上げる。
 さっきから、地の文を読むな!!

 だが… 確かにスタンド能力を使えば、大抵の犯行は可能となる。
 『アナザー・ワールド・エキストラ』の瞬間移動を使えば、密室殺人など意味がないに等しい。
 『アルカディア』なんて何でもありだ。
 そもそも、スタンド能力が判明していない奴まで混じっているのである。

「現場には凶器は残されていませんが、パワー型のスタンドならば充分に可能です。
 位置関係を考えて、背後からぶん殴ってたと思われます」
 全員が黙るのを見計らって、リル子は告げる。

「まあ、他にもこのペンションには従業員がいるみたいですしね…」
 しぃ助教授はハンバーガーを頬張りながら言った。
 …そうだ。
 ペンション内に、教会やBARといった施設があると聞いている。
 BARはともかく、教会か… やだなぁ。
 そして、俺達をこの島に呼んだMr.Zとやらも無関係とは思えない。
 俺は5個目のハンバーガーを口に放り込むと、大きくため息をついた。
 こうして、悪夢の7日間は幕を開けたのである…

            __,,,,,,
       ,.-'''"-─ `ー,--─'''''''''''i-、,,
    ,.-,/        /::::::::::::::::::::::!,,  \
   (  ,'          i:::::::::::::::::::::;ノ ヽ-、,,/''ー'''"7
  /└────────┬┐:}     ``ー''"
. <   To Be Continued... | |::::i
  \┌────────┴┘/ヽ、-─-、,,-'''ヽ
       \_/     ヽ--く   _,,,..--┴-、 ヽ
※曙からのお願い        ``"      \>
 もし、犯人が分かっても… どうか、心に秘めておいて下さいね。
 もっとも、今の時点での特定は不可能ですが…

685:2004/06/24(木) 22:22
**お詫びと訂正**

曙が死んでいるにもかかわらず動いているシーンがありますが、
伏線でもなんでもなくただのミスです。申し訳ありません。

686N2:2004/06/25(金) 01:15

□『スタンド小説スレッド3ページ』作品紹介


◎完全番外編

.  ∧_,,,.
  (#゚;;-゚)
救い無き世界(完結)  (作者:ブック)
☆第二部
◇目的はただ一つ。愛する女を護るため。
降臨した『神』を、そして自身に宿る『悪魔』を抹殺すべく、でぃは最終決戦の地・東を目指す。
しかしその身体は着実に『デビルワールド』に支配されつつあった!
果たして彼はその身に渦巻く因縁を全て断ち切ることが出来るのか!?
ハイスピード連載で繰り広げられる壮大なストーリー、堂々の完結!!

 第六十二話・常闇 〜その一〜──>>3-7
 第六十三話・常闇 〜その二〜──>>11-14
 第六十四話・常闇 〜その三〜──>>32-35
 第六十五話・迷宮組曲 〜その一〜──>>43-45
 第六十六話・迷宮組曲 〜その二〜──>>46-48
 第六十七話・迷宮組曲 〜その三〜──>>49-53
 第六十八話・空高くフライ・ハイ! 〜その一〜──>>54-56
 第六十九話・空高くフライ・ハイ! 〜その二〜──>>57-59
 第七十話・空高くフライ・ハイ! 〜その三〜──>>70-74
 第七十一話・決死──>>75-77
 第七十二話・泥死合 〜その一〜──>>78-80
 第七十三話・泥死合 〜その二〜──>>86-89
 第七十四話・斗縛 〜その一〜──>>90-93
 第七十五話・斗縛 〜その二〜──>>94-99
 第七十六話・終結 〜その一〜──>>108-111
 第七十七話・終結 〜その二〜──>>112-116
 第七十八話・終結 〜その三〜──>>123-126
 最終話・祈り──>>127-133
 エピローグ・陽の当たる場所で──>>134-136

 人物紹介──>>366

687N2:2004/06/25(金) 01:16

               /!
          !\ ,-ー'-'、
  (\_/)  `ー/,ノノノハヽ
  ( ´∀`)   ./|iハ ゚ -゚ノ!
EVER BLUE  (作者:ブック)
☆序章
◇馬鹿が付くほどお人よしの青年オオミミと、彼のスタンド『ゼルダ』。
何でも屋のサカーナ商会に所属する彼らは
襲撃してきた空賊・『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の船内から謎の少女・天を救い出す。
だがその出会いから、彼らの運命は少しずつ大いなる流れへと巻き込まれてゆく…。
天空を駆ける船で繰り広げられる航空冒険ロマン!!

 第零話・VORTEX 〜始まりはいつも雨〜──>>148-151

 第一話・BOY MEETS GIRL 〜出会いはいつも雨〜──>>164-168
 第二話・ESCAPE 〜土砂降りの逃避行〜──>>180-186
 第三話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その一──>>194-201
 第四話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その二──>>217-220
 第五話・GUN=HALBERD 〜血塗れの鋼〜 その一──>>246-250
 第六話・GUN=HALBERD 〜血塗れの鋼〜 その二──>>251-254
 第七話・SMILE 〜貌(かお)〜──>>255-258
 第八話・RUMBLE FISH 〜疾風怒濤〜 その一──>>279-281
 第九話・RUMBLE FISH 〜疾風怒濤〜 その二──>>302-307
 第十話・NIGHT FENCER 〜夜刀(やと)〜──>>308-311
 第十一話・PUNISHER 〜裁きの十字架〜──>>322-326
 第十二話・FORCE FIELD 〜固有結界〜──>>327-330
 第十三話・BATTLE FORCE 〜力の矛先〜──>>337-340
 第十四話・WHO ARE YOU? 〜タカラギコ〜──>>341-348

 番外・されどもう戻れない場所 〜その一〜──>>349-352
                         〜その二〜──>>360-365

 第十五話・CLOUD 〜暗雲〜──>>388-390
 第十六話・TALK 〜探り合い〜──>>436-439
 第十七話・TROUBLE MAKER 〜歩く避雷針〜──>>447-449
 第十八話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その一──>>457-461
 第十九話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その二──>>462-466
 第二十話・BREAK 〜水入り〜──>>479-482
 第二十一話・ONE=WAY TRAFFIC 〜それでも進むしか〜──>>495-498
 第二十二話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その一──>>499-501
 第二十三話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その二──>>502-510
 第二十四話・BEFORE BATTLE 〜嵐の前の静けさ〜──>>517-522
 第二十五話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その一──>>523-526
 第二十六話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その二──>>527-530

 番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
    出会い編──>>531-533
    告白編──>>539-543

 第二十七話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その一──>>544-546

 番外
 ちびしぃの宿題の作文 〜私の家族について〜──>>547

 第二十八話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その二──>>553-555
 第二十九話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その三──>>556-558
 第三十話・LUCK DROP ~急転直下〜 その四──>>580-583
 第三十一話・MIGHT 〜超力招来〜──>>602-606
 第三十二話・SIDEWINDER 〜魔弾〜──>>607-612
 第三十三話・MADMAX 〜悪鬼再臨〜──>>627-635

 人物紹介・おまけ──>>651-655

 ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜 交際編──>>656-660
                                  死闘編──>>661-664

688N2:2004/06/25(金) 01:16

    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
モナーの愉快な冒険  (作者:さ)
◇ASAとの交戦、そして政府要人拉致・監禁。
フサギコ率いる自衛隊によって引き起こされた事態に、
モナー達は二手に分かれてASAと公安五課に協力することとなる。
だがその戦闘が激化した時、遂に『教会』が動き出した!!
三つ巴の壮絶なる大混戦が今、幕を開ける!!

 灰と生者と聖餐の夜・その6──>>8-10

 人物紹介・その3――>>15-21

 夜の終わり・その1──>>22-31
.          その2──>>60-67
.          その3──>>142-147
.          その4──>>187-193

 そして新たな夜・その1──>>259-268
           その2──>>293-301
           その3──>>312-315
           その4──>>331-336
           その5──>>354-359
           その6──>>367-374

 吹き荒れる死と十字架の夜・その1──>>375-379
                         その2──>>422-435
                         その3──>>440-446
                         その4──>>467-478
                         その5──>>511-516
                         その6──>>559-569
                         その7──>>577-579
                         その8──>>595-601

 番外・モナヤの空、キバヤシの夏(前編)──>>668-685

689N2:2004/06/25(金) 01:17

◎番外編(茂名王町内)

   ∩_∩    ∩_∩
  (´ー`)  ( ´∀`)
丸耳達のビート  (作者:丸餅)
☆丸耳達のビート Another One
◇マルミミの両親、二郎とシャマード。
アメリカ・ニューヨークでの二人の運命の出会いが
B・T・Bの記憶の中で鮮明に蘇る…。

 第一話──>>36-42
 第二話──>>100-107
 第三話──>>117-122
 第四話──>>169-179
 第五話──>>221-234

☆丸耳達のビート・本編
◇傷付き、弱った身体の中で徐々に抑えられなくなってゆく
マルミミに流れる『吸血鬼の血』。
理性と本能の葛藤の前に現れたしぃに、彼の取った行動は…。
そして、そのマルミミを狙う集団『ディス』が彼を得るべくその牙を剥く!!

 第12話──>>239-244
 第13話──>>282-291
 第14話──>>316-321
 第15話──>>380-387
 第16話──>>450-456
 第17話──>>534-538
 第18話──>>570-576
 第19話──>>587-594
 第20話──>>636-643
 第21話──>>644-650


   / ̄ ) ( ̄\
  (  ( ´∀`)  )
―巨耳モナーの奇妙な事件簿―  (作者:( (´∀` )  ) )
◇かつて自分を見捨て、一人『キャンパス』に下ったムックに
多大なる殺意を抱く『緑色の男』ことガチャピン。
恐るべき凶悪性を誇る彼のスタンド『ジミー・イート・ワールド』に
巨耳モナーは絶体絶命の危機に追い詰められてしまう…。
しかしその時、彼のスタンド『ジェノサイア』は新たなる次元へと到達する!!

 ディスプレイの奥に潜む恐怖──>>81-85
 『奪う力』と『与える力』──>>139-141
 『生まれし力』ジェノサイアact2──>>202-204
 『ピッチャーデニー』──>>483-494
 『トットリ・サキュー』──>>665-667


   ∧_∧
  (  ゚∀゚ )
合言葉はWe'll kill them!  (作者:アヒャ作者)
◇茂名王町内で実しやかに噂されている「吸血鬼殺人」。
しかしそれは紛れも無い真実であった!
偶然吸血鬼に遭遇してしまったアヒャは、脅威の運動能力を誇る吸血鬼達に
絶体絶命の危機に追い詰められてしまう!
死を覚悟したアヒャだったが、そんな彼の前に現れたのは…?

 初めての吸血鬼戦──>>236-238
 初めての吸血鬼戦その②──>>548-551

690N2:2004/06/25(金) 01:17

◎番外編(茂名王町外)

   ∩_∩
 G|___|   ∧∧   |;;::|∧::::...
  ( ・∀・)  (,,゚Д゚)   |:;;:|Д゚;):::::::...
逝きのいいギコ屋編  (作者:N2)
◇あのですね、女性が強いのはまあ良いと思うのですよ。
ですがね、その…今スレでのギコ屋編駄目じゃないかと思うのですよ。
だって、今回主人公目立ってないもん。リル子さんが主役みたいなんだもん。
そんな不条理が通るのもギコ屋編、嗚呼。

 リル子さんの奇妙な見合い その③──>>205-216
                    その④──>>391-420

 椎名先生の華麗なる教員生活 第3話 〜運命の出会い〜──>>613-626

◎本編(連載)

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   、/
  /`
モナ本モ蔵編  (作者:N2)
◇『矢の男』の存在を知らされたひろゆき家臣団。
ひろゆきの勅令を受けた4人は『矢の男』抹殺に向け動き出すが、
彼らの間に生じた歪みは少しずつ拡大しつつあった…。

 2ちゃんねる運営委員会 ―始動― ──>>152-160


※敬称略


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