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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

559:2004/06/10(木) 17:40

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その6」



 ギコと『レイラ』は、日本刀を正眼に構えた。
 それに対し、山田は青龍刀の切っ先を下方に向けて構え、僅かに腰を落としている。
 いわゆる、下段の構えに近い。
 周囲は真夜の闇。
 だが艦に灯る明かりのおかげで、視界に問題はない。

「――行くぜ!」
 『レイラ』、そしてギコが駆けた。

 『レイラ』は大きく踏み込むと、刀を大きく薙いだ。
 山田は、俺の時のように柄で受け止める。
 あの防御の次に来るのは、攻防一体の斬撃――

「うおおッ!!」
 ギコは、その攻撃を『レイラ』の刀で受け止めた。
 大きく打ち負け、体勢が崩れる『レイラ』。
 さらに踏み込む山田の胴に向かって、ギコは鋭い突きを放った。
 『レイラ』の刀ではなく、ギコ本体が手にしている刀による突きだ。
「…!」
 山田はそれを青龍刀の刃で受けると、大きく背後に飛び退いた。

 そして、再び青龍刀を構える。
「スタンドと本体の連携攻撃… 初めて戦うタイプだな…!」
 山田は、微かな笑みを浮かべて言った。
 戦士の笑み。
 好敵手を見つけたという笑みだ。

「それにしても…」
 山田は、半身だけで甲板に転がっている俺に目線をやった。
 再生には、まだ時間がかかりそうだ。
「ここは侍の国だとは聞いたが… この国の少年は皆、そこまでの武芸を身につけているのか…?」

「俺が特別製なだけだ。そこのそいつもな」
 俺を指して、ギコは言った。
 そして、山田を真っ直ぐに見据える。
「――それと、今の打ち合いで3つ気付いた事がある」

「ほう?」
 山田は興味深げな表情を浮かべた。
 ギコは刀をくるりと回転させると、その切っ先を山田に向ける。
「まず1つ。お前の武器は、1対1の戦いに適していない。
 お前の戦いはそうだな… 大勢に1人で斬り込んで、一気に撫で斬りにする戦い方だ。
 圧倒的な『攻』のラッシュで敵勢を黙らせる。
 そもそも、その武器… 地上で扱うようなモンじゃないだろう?」

「…いかにも。この『青龍鉤鎌刀』、馬上で大勢を斬る為の武器だ」
 山田は、『青龍鉤鎌刀』を下段に構えたまま言った。
 軽く語っているようで、少しも気を抜いてはいない。
 もっとも、それはギコも同様だが。
「2つ目。お前のスタンドは、その『青龍鉤鎌刀』とやらだ。『レイラ』の刀を受け止めたからな。
 これはただの勘だが、物質と合成しているタイプじゃないか?」

「…その通り。この『青龍鉤鎌刀』、我がスタンドと空気中の炭素で構成されている」
 山田はあっさりと答えた。
 彼の技を破る上で、そんな事は重要ではない。
 それでも… 彼のスタンドにヴィジョンは存在しないという事だ。

 ギコは続けた。
「3つ目。お前は勝負を焦っている。
 普通に振る舞ってるようだが、斬撃に顕れる感情までは隠せねぇ。
 これも勘だが、スタンドに時間制限があるからだ。 …違うか?」

「…フッ」
 山田は軽く笑みを浮かべた。
「…それは違うな。『青龍鉤鎌刀』を構成している私のスタンド『極光』に、制限時間などはない。
 いったん『青龍鉤鎌刀』を精製してしまえば、破壊されない限り消失しない」

「ありゃ、外したか…」
 ギコは残念そうに呟いた。
 山田は、そんなギコを見据える。
「…だが、私が焦っているという指摘は間違ってはいない。
 その理由は… 今から5分後、この艦は私の仲間によって大規模な爆撃に見舞われるからだ」

「何だとッ!!」
 ギコは叫び声を上げた。
 山田は、下段に傾けている『青龍鉤鎌刀』を僅かに引いた。
 その構えからの殺気が増す。
「単独での艦制圧は私が申し出た。爆撃開始までに敵将全てを討ち取ってしまえば、この艦は制圧できる。
 みすみす沈める事もない…」

「んな事はさせねーよ…」
 ギコは、再び正眼に刀を構えた。
 そして、殺気を込めて山田を睨む。
「お前を追い返し、爆撃部隊とやらも叩き落とす」

 ギコの殺気を軽く受け流すように、山田は口を開いた。
「2つ教えよう。この『青龍鉤鎌刀』、スタンドをも斬れる以外は普通の武器だ。妙な警戒は不要。それと――」
 人差し指で、自らの額をトントンと叩く山田。
「――狙うならここにしろ。私は吸血鬼だ。頭部を破壊しない限り死ぬ事はない」

560:2004/06/10(木) 17:41

「余裕だな…」
 ギコは呟く。
「武士道と言ってもらえないか、サムライよ!」
 そう言って、山田は神速でギコの眼前に踏み込んだ。
 上段への大薙ぎ。
 『レイラ』が、その初撃を弾いた。
 山田は、その勢いのまま舞うように回転する。
 それに続く中段への薙ぎ。

「このッ!!」
 『レイラ』の刀で、『青龍鉤鎌刀』を受け止める。
 それでも、山田の勢いは殺しきれない。
 逆に、『レイラ』の刀が大きく弾かれた。
 そして、下段への薙ぎが繰り出される。

 ――流れるような三段薙ぎ。
 全て喰らえば、たちまち輪切りだ。

「うぉぉぉぉッ!!」
 ギコは手にしている日本刀で、下段を薙ぎ払う『青龍鉤鎌刀』を大きく払った。
 その隙に、体勢を立て直した『レイラ』が突きを放つ。
「…!」
 山田はその攻撃を『青龍鉤鎌刀』で受け止めた。

 そのまま、山田の『青龍鉤鎌刀』と『レイラ』の刀が何度もぶつかり合う。
 その激突に、本体であるギコの斬撃も混じる。
 『レイラ』で隙を作り、ギコ自身がそれを突くという戦法だ。

 刃と刃の応酬。
 激突した刃が、空中で火花を散らす。
 山田は『レイラ』とギコの刀を受け、それでもなお有利。
 『レイラ』の刀と『青龍鉤鎌刀』を激しくぶつかり合わせると、両者は素早く距離を置いた。

 山田は再び、『青龍鉤鎌刀』を下段に構える。
「その齢にして、本体、スタンド共にその腕前。一体、どれほどの鍛錬を積んだのだ…?」

 …そうなのだ。ギコがスタンドを身につけて、3ヶ月。
 長いと思うか短いと思うかは人それぞれだろう。
 そして、何度も激戦を繰り広げてきた。
 『レイラ』の腕が上がるのは分かる。
 だが、ギコ自身の剣の腕前も上がってはいないか…?
 とても、剣道で鍛えた程度のレベルじゃない。

「毎日、血を吐くまで最強の剣士とガチンコで打ち合ってたのさ――」
 ギコは、そう言って自らの背後に立つ『レイラ』を指差した。
「――こいつとな」

「…鍛錬がすなわち実戦だったという事か。剣士型のスタンドともなれば、相手にとって充分。
 なるほど、合点がいった」
 納得したように告げる山田。
 ギコは刀を山田に向けた。
「お前こそどうなんだ? 『人を1人斬れば、初段の腕』と俗に言うけどな。
 その武芸を身につけるまでに、お前は一体何人斬った…?」

 少しの沈黙の後、山田は口を開いた。
「正確に数えているわけではないが… 濮陽で400。烏巣で200。倉亭で400。陰安で200。
 常山で300。遼東で200。江夏で500。柳城で300。赤壁で100。そして、合肥で1200。
 …合わせて、3800人程度だ」

「…歴戦の勇将って訳か」
 ギコは呟くと、背後に『レイラ』を従えた。
「仕方ねぇ。これは切り札にしときたかったんだが…」

 日本刀を両手で構えている『レイラ』のヴィジョンが大きく揺らぐ。
 柄に添えていた左手を離すと、腰元に差していたもう1本の刀を抜いた。

「ニュー・モードってやつだ…!」
 ギコは言った。
 『レイラ』は、両腕を交差して2本の刀を構える。
 『鷹羽』と呼ばれる、心形刀流における二刀の構えだ。

「…二刀流か」
 山田は、『レイラ』の構えを見据えて言った。
「一応言っとくが、付け焼刃って訳じゃねぇ。侮ると死ぬぜ…」
 そう言いながら、ギコは構えた。
 正眼の構えではなく、それより僅かに右側に刀が開いている。

 ――『平晴眼』。
 天然理心流における、斬りと突きに即座に対応できる型だ。
 『レイラ』の『鷹羽』とギコの『平晴眼』。
 流派も用途も違う2つの構えを前にして、山田の動きが止まった。
 それぞれの型の欠点は明白。しかし、その複合は破り難い。

「来ねぇのか? 時間の余裕はないはずだがな…」
 ギコは言った。
 しかし、山田は微動だにしない。
 『青龍鉤鎌刀』を下段に構え、真っ直ぐにギコを見据えている。

「仕方ねぇ、こっちから行くぜ!!」
 なんと、ギコは腰側に回していたアサルトライフルの銃口を山田に向けた。
 そして、そのまま乱射する。

 山田は、完全に意表を突かれた。
 ここまで剣技の体勢に入った男が、まさか銃器を使うとは思わない。
「くッ…!」
 山田は『青龍鉤鎌刀』で、自らに向けられた弾丸を叩き落した。
 その振りに、大きな隙が生まれる。

 その瞬間、ギコと『レイラ』は大きく踏み込んだ。
「――心形刀流、『二心刀』」
 『レイラ』の2本の刀が、山田を捉えた。
 そのまま、山田の身体に2本の刀が振り下ろされる――

561:2004/06/10(木) 17:42

「はァァァッ!!」
 その瞬間、山田は大きく腰を落とした。
 そこから、『青龍鉤鎌刀』を大きく振り上げる。
 山田の周囲に、嵐のような上昇気流が発生した。

「うおッ!!」
 その風圧で、『レイラ』の攻撃が弾かれる。
 しかし、ギコ本体は『レイラ』の背後に退いていた。
 もう1歩踏み込んでいれば、嵐の直撃を受けていただろう。
 そして彼の刀は、戦闘の最中にもかかわらず鞘に納まっている。
 これは… 抜刀術!?

「――天然理心流、『無明剣』」
 ギコは山田の攻撃を右半身で受け流し、同時に抜刀した。
 神速の斬り上げ。
 山田は『青龍鉤鎌刀』を振り上げた体勢だ。
 胴部の大きな隙に、ギコの刀が迫る。

「…甘い!」
 山田は、ギコの腹に蹴りを見舞った。
 ギコの身体が大きくグラつく。
 その瞬間、山田は体勢を整えると『青龍鉤鎌刀』を構えなおした。
 そして、ギコの頭上に振り下ろす。

「くッ…!」
 ギコはそれを受け止めるように、頭上に刀を構えた。
 『青龍鉤鎌刀』での一撃を受け止める気だ。

 ――駄目だ。
 ギコの腕力で、あの一撃は止められない。
 完全に押し負け、そのまま両断される…!

「無駄だッ!!」
 山田の『青龍鉤鎌刀』が、ギコの刀と彼の頭上でぶつかり合った。
 勢い・腕力共に、向こうの方が上。
 ギコの刀は、振り下ろされる『青龍鉤鎌刀』を僅かに押し止めたに過ぎない。
 その一撃は、このままギコの頭部に――

「これでよかったんだよ。ほんの少し、勢いを緩めるだけでな…!」
 勝利の確信が込もった口調で、ギコは言った。
 その背後で、二刀を掲げた『レイラ』が躍る。
 そして、ギコが押し留めている『青龍鉤鎌刀』に向けて、二刀を交差させて振り下ろした。

「…最初から武器破壊が狙いかッ!!」
 山田は『青龍鉤鎌刀』を退こうとするが、間に合わない。
 その柄に、『レイラ』の斬り下ろしが直撃した。
 音を立てて真っ二つになる『青龍鉤鎌刀』。

「…」
 山田は、驚きの表情を浮かべて押し黙った。
 沈黙の中、その切っ先は甲板に転がる。

「信じられん…」
 山田は、刃を失いただの棒と化した『青龍鉤鎌刀』を呆然と見詰めた。

 ギコは勝ち誇って口を開く。
「…勝負あったな。お前は、武器と共に強くなったタイプだ。その『青龍鉤鎌刀』がないと、武芸を発揮できない」
 そして、手にした日本刀を山田に向けた。
「降伏するんだな。お前ほどの武人、好んで殺戮に身を任せてる訳じゃねぇだろう?」

 山田は目線を上げると、ギコを見据える。
「…ふむ。お主の言う通り。我が武、手慣れた刃がなければ振るえん」
「ああ。お前の『青龍鉤鎌刀』は完全にブチ壊した。これで――」
 ギコの言葉は、山田に遮られた。
「だが、私を屈服させたいなら… 同じ事をあと43回繰り返さねばならんな!」
 一転して、山田は笑みを浮かべる。

「…なんだって!?」
 ギコは眉を潜める。
 山田は、柄だけになった『青龍鉤鎌刀』を甲板に落とした。
 そして、何も持っていない右手を前方に構える。
「『極光』、第弐拾七番『蛇矛』…!!」

 一瞬の眩い光。
 それが収まると、山田の右手には1本の槍のようなものがあった。
 先端の刃は幅広で、蛇のようにくねった形である。

「…何をした?」
 ギコは、その様子を見据えて呟いた。
 慣れた手付きで、その槍を構える山田。
「――四十四の刃の1つ、『蛇矛』。
 これが我が『極光』の能力だ。『青龍鉤鎌刀』も我が刃の1つに過ぎぬ」

「…なるほど。43回繰り返すってのは、そういう事か」
 ギコと『レイラ』は、再び刀を構えた。
 その額に、一筋の汗が流れる

 あと43回…?
 『青龍鉤鎌刀』を破壊した時でさえ、ギコは捨て身に近かった。
 少しでもタイミングが狂えば、ギコの体は真っ二つだ。
 あれを43回だなんて、到底無理な話ではないか。

「人真似は好かぬが… 我が二刀、お見せしよう」
 山田は、さらに左手を大きく広げる。

「――『極光』、壱番『麒麟牙』!」

 一瞬の光の後、その手に1.5mはある大型の剣が収まっていた。
 片刃で弧を描いている刃は分厚く、かなり幅広である。
 本来は両手で扱う武器であろう。

 山田は、『蛇矛』と『麒麟牙』を交差するように構えた。

「――さて、参るぞ」

562:2004/06/10(木) 17:43


 俺の体は、ほとんど再生し終えた。
 右半身と左半身が、自分でも不気味なくらい元通りに結合している。
 それでも、この勝負には手が出せない。

 両者が同時に間合いを詰めようとしたその瞬間、空を切るような爆音が響いた。

「!!」
 山田を含む3人は、同時に音の方向を見上げた。
 水平線の彼方から、多くの黒い点が近付いてくる。
 間違いなく、航空機の群れだ。

「馬鹿なッ!! 予定の時刻より早いではないかッ!!」
 航空編隊を見据えて、山田は叫んだ。
 その憤りは、ギコに向けられた殺意よりも強いように感じる。

「この船はもはや死に体、さらに鞭打つと言うか…」
 山田は呟くと、ギコの方に視線を移した。
 いつの間にか、両手の刃は消えている。もう戦意はないようだ。
「――名乗られよ、少年」

「俺はギコ、こいつは『レイラ』だ」
 ギコは、自らを親指で示した。

「次に戦場で会う時まで、その命大切にせよ…とは言わん」
 山田は、乗ってきた馬に飛び乗った。
「我が『青龍鉤鎌刀』を破るほどの者に、そのような言など無用だろうからな…」

「望むところだ。テメェは、絶対に俺が倒す!」
 ギコは、馬上の山田に叫んだ。
「次に来る時は、馬に乗って来やがれ。相応に相手してやるぜ!」

 …ギコも馬に乗れたのか?
 いろいろ特技が多い奴だが、乗馬が趣味だという話は聞いた事がない。

「…次に仕合う時を楽しみにしている」
 山田は手綱を引く。
 彼の乗った馬は、甲板に乗り上げている戦艦の艦首に飛び移った。
 その禍々しい戦艦は、山田が乗り移ると同時に離れていく。
 後には、無惨に押し潰されたヘリ用甲板が残った。

「戦艦は攻撃してこない…? 弾薬を温存してるのか…?」
 ギコは呟く。
 確かに、この艦はボロボロだ。
 反撃能力など、ほとんど残されていない。
 弾薬の無駄だろうが… 爆撃にしても同じように思える。

 ギコは、俺の方に視線をやった。
「さて、再生も終わったみたいだな… ってか、治ったんなら加勢しろよゴルァ!!
 解説役に徹してんじゃねぇ!!」
 大声で叫ぶギコ。

「…加勢したらしたで、どうせ男同士の戦いに横槍入れるなとか言うモナ?」
 俺は抗議する。
「当然だゴルァ! 一対一の決闘を汚すつもりかゴルァ!」
 ギコは当たり前のように言った。
 理不尽な事を抜かす友人は無視して、俺は頭上を見上げる。
 さっきは点ほどにしか見えなかった航空機が、形状が認識できる距離まで近付いている。

563:2004/06/10(木) 17:44

 迫り来る爆撃機を控え、ギコは口を開いた。
「Ju87急降下爆撃機…!? 『悪魔のサイレン』か…!!」

 俺は、ギコに疑問を込めた視線を送る。
 それを受けて、ギコは言った。
「大戦中の機体は詳しくないんだが… 確か、ナチスドイツを代表する急降下爆撃機だ。
 急降下の時に放つダイブブレーキ展張時の音から、『悪魔のサイレン』と呼ばれて恐れられてたらしい」

「ナチス…? なんでそんなのが…」
 俺は思わず呟いた。
 ギコが肩をすくめる。
「俺が知るわけねぇだろ。そもそも急降下爆撃自体、もう歴史から消え去った戦術なんだ。
 高々度爆撃の方が効果的だし、何より現代には精密誘導兵器があるからな。
 今さらそんな戦術にこだわる奴は、頭のネジがぶっ飛んだ奴くらいだ」

 ともかく、俺達に高度2000mを飛行する爆撃機を落とす能力はない。
 この艦の対空ミサイルも、もう残ってはいないだろう。
 どうする…!?
「クソッ!! 何にも出来ないのかよッ!!」
 高速で急降下してくるJu87を見据え、ギコが叫んだ。

 爆音が響く。
 Ju87が艦尾へ向けて急降下して、そのまま突っ込んだのだ。

「…!?」
 俺とギコは、その様子を呆然と見つめていた。
 爆撃ではなく、体当たり…?

 しかし、俺の『アウト・オブ・エデン』は見逃さなかった。
 艦尾との激突の瞬間、人影がコックピットから飛び出したのを。
 航空機の機体は、艦尾に刺さり炎上している。
 主翼を真横に広げたその姿は、まるで十字架のようだ。

 炎を背に、人影はゆっくりと歩いてくる。
 そいつは、軍服を着用していた。
 そして、俺達に向けて機関銃を構える。

「Bluhe… deutsches Vaterland!! Uryyyyyyyyyyy!!」
 軍服の男は狂声を上げながら機関銃を乱射した。
「『レイラ』ッ!!」
 ギコのスタンドが、素早く弾丸を弾く。
 あいつは… 吸血鬼!?

 さらに、艦首にJu87が突っ込んできた。
 その衝撃で、『ヴァンガード』が大きく揺れる。
 爆発炎上する機体の残骸。
 次々に飛来するJu87。
 そして、コックピットから飛び降りる吸血鬼達。
 そいつらは全員が軍服に身を包み、銃器を手にしていた。

「カミカゼ・アタック… とは言えねぇな。パイロットは平気そうだし。
 いいだろう、ちょうど昂ぶってたとこだ…」
 ギコは背後に『レイラ』を従えると、自らも刀を構えた。
「…全員ぶった斬ってやるぜ!!」

 俺は、漆黒の軍服に身を包んだ吸血鬼達を見据えた。
 ヘルメット、バックパック、そして各部に収納された数々の武装…
 いわゆる、空挺装備というやつだ。
 だが、空挺に不可欠なパラシュートはない。
 こいつらは、慣性落下で着地しているのだ。

『…吸血鬼で構成された軍隊というのを考えています』
 奴の… 『蒐集者』の言葉が俺の脳裏に飛来した。
 何十年か何百年か前、奴はそう告げたのだ。

「これが、そうだと言うのか…?」
 俺は呟いた。
 『殺人鬼』は、以前言っていたではないか。
 『教会』の最高権力者は元ナチスのSS、そしてこの世で最も悪魔に近い男だと。

 『蒐集者』が思い起ち、枢機卿が完成させた忌むべき軍隊。
 それが、こいつらか――!!
 こいつらが『教会』の手先なら、滅ぼすべき敵だ。
 俺と、そしてリナーの為に。

 墓標のように甲板に突き刺さり、燃え続ける航空機。
 その灯りは、夜の闇の中で不死の兵隊達のシルエットを浮かべた。
 人を辞めたモノ。血塗られた吸血鬼。死を越えた肉体。そして、唯の塵。
 塵ならば、塵に還れ――

 俺は懐からバヨネットと短剣を取り出した。
 軽く手許で回転させると、逆手に構える。

「Dust to Dust… 塵は塵に。亡者は骸に。亡兵は戦場の闇に…!」

564:2004/06/10(木) 17:44



          @          @          @



 海上自衛隊護衛艦『くらま』。
 その艦内通路で、2人の男女が戦火を交えていた。
 高校生ほどの少女と、20代前半の男。
 ほとんど同じ世代に見える両者。だが、その実年齢は80ほど離れていた。

 リナーのP90と枢機卿のMP40が同時に火を噴いた。
 互いに銃弾を避けつつ、両者は短機関銃を連射する。
 その動作は、同一と言える程に似通っていた。

「『エンジェル・ダスト』は完全に解除しないのかな?」
 枢機卿は撃ちながら口を開いた。
「そちらこそ、『リリーマルレーン』は使われないのですか…?」
 火力を緩めずに、リナーは訊ねる。

「愚問だな…」
「そう、愚問ですね…」
 2人はそう口走った。
 リナーは撃ちながら距離を詰める。
 枢機卿も同様に間合いを詰めてきた。
 相手の銃は、そろそろ弾切れ。
 むろん、自分も同じ事だ。

 2人は手の届く距離まで接近すると、素早く短機関銃を投げ捨てた。
 そして、同時に懐から拳銃を取り出す。
 リナーのファイブ・セブンと枢機卿のワルサーP38。
 その銃口が、至近距離で互いの身体に向いた。

「…ところで、法儀式済みの弾丸はそろそろ切れたのではないかね?」
 リナーの手にしたファイブ・セブンの銃口を眼前に控え、枢機卿は言った。
「ええ。『教会』からの補給が断たれましたからね…」
 リナーは表情を変えずに答えた。
 すでに、法儀式が済んでいる武器は手許にない。
 枢機卿は、微かな笑みを浮かべて口を開く。
「…実は、私の武器には最初から法儀式などなされてはいないのだよ」

 その刹那、2挺分の銃声が響いた。
 2人は同時に引き金を引いたのだ。
 互いの服に穴が開き、血が溢れ出る。

「…!!」
 さらに銃口を向け、至近距離から引き金を引く両者。
 2人の身体に幾つもの穴が空く。
 何発もの銃声が響き、血飛沫が廊下を染めた。
「Liebster Gott… wenn werd ich sterben!!」
「うぉぉぉぉぉぉッ!!」
 ありったけの弾丸を、お互いの身体に叩き込む2人。

 弾が切れた拳銃を投げ捨てると、2人は同時に同型の軽機関銃を取り出した。
 そして、互いの腹に押し当てる。
「MG42…? 君は、ナチス関連の品は嫌いではなかったかな…?」
「そうでしたが… 貰い物ですよ。女性の機微が分からない男からのね…」
 両者は血を吐きながら会話を交わした。
 そして、同時に引き金を引く。
 艦の通路に、MG42独特の発射音が響いた。

 1分に1200発もの弾丸を発射する機関銃。
 その弾丸を、2人はその身で受けた。
 リナーの右腹が、ズタズタにちぎれて吹き飛ぶ。
 枢機卿も、右腹部に大きな穴が空いた。

 2人はよろけながら一歩退がった。
「ごほッ…」
 リナーは血を吐きながら、服の中からバヨネットを取り出した。
 そして、その刃を枢機卿の胸に叩きつける。
 同時に、リナーの胸をバヨネットが貫通した。

「効きませんよ、この程度ではね…!」
「私にもな…」
 2人は次々に服からバヨネットを抜くと、互いの身体に突き立てた。
 その胸に、腹に、肩に、足に、腕に…
 次々と、その身をバヨネットが貫いていく。
 両者は、よろけて背後に一歩踏み出した。

「効かんと言っている!!」
 枢機卿は再び踏み込むと、バヨネットをリナーの首に突き刺した。
 その勢いは首を貫き、刃先は背後の壁に達した。
 同時に、枢機卿の首に突き立てられたバヨネットが背後の壁に突き刺さる。

「ぐッ…」
 咳込みながら、2人はそれぞれの背後の壁に体重を掛けた。
 体を貫通して背側に突き出ていた無数のバヨネットが、壁に当たって抜け落ちる。
 床に落ちた何本ものバヨネットが、金属質の乾いた音を立てた。

 リナーは喉を貫通しているバヨネットを引き抜くと、正面の枢機卿に向かって大きく薙いだ。
 全く同じ動きで、枢機卿がバヨネットを振るう。
 バヨネットが空中で激突し、大きく弾け飛んだ。
 両者の首の穴から、大量の血がボタボタと零れ落ちる。

 その瞬間、艦が大きく揺れた。
 艦後部から爆音が響く。

565:2004/06/10(木) 17:45

「…これは?」
 リナーが天井を見上げた。
 艦は大きく傾く。
 爆発音も止む事はない。
 艦に異常があった事は明白だ。

「我が配下の爆撃部隊だ。ようやく来たか…」
 枢機卿は薄い笑みを浮かべて飛び退くと、そう呟いた。
 同様に飛び退いて、リナーは口を開く。
「爆撃部隊…? 何を企んでいるんです?」

 枢機卿は、無造作に口元の血を拭った。
「この艦… いや、自衛隊の艦隊を攻撃させていてな。どうやらこの艦に致命傷を与えたようだ」
「貴方の部下は、司令官が艦内にいるのにも構わず攻撃を仕掛けるのですか…?」
 リナーは呆れたように言った。
「信頼の表れと思ってもらいたいね…」
 枢機卿は軽く肩をすくめる。

 再び、艦が大きく揺れた。
 かなり大規模な爆撃を喰らっているようだ。

 2人は、同時に通路を駆け出した。
 リナーの真横を、まるで徒競走のように枢機卿が走っている。
「この判断まで同じとは… つくづく私は、いい弟子の育て方をしたな…!」
 枢機卿は通路を駆けながら、リナーにバヨネットを振るった。
 リナーも並走しつつバヨネットで応戦する。
「それはどうも。光栄な事です…!」

 通路を駆け、艦の後部甲板に出る2人。
 リナーは素早く周囲を見回す。
 周囲にはジェット音と爆発音が響いていた。
 そして、空を埋め尽くすような航空編隊。
 この艦は、あと1分も持たないだろう。

 枢機卿とバヨネットを交えながら、リナーはヘリ格納庫に駆け込んだ。
 格納庫内では、艦員が呆気に取られた顔で固まっている。
 奇抜な服を着た少女とナチの軍装に身を包んだ男が、剣を打ち合わせながら駆け込んできたのだから無理もない。
 格納庫の真ん中には、対潜ヘリ・SH−60Kの姿があった。
 シャッターでヘリの出口は閉じられている。

 リナーと枢機卿が、左右から同時にヘリ内に駆け込んだ。
 枢機卿は右操縦席、リナーは左操縦席に占位する。
 そして、真ん中の操縦パネルの上で2人はバヨネットを打ち合わせた。
 操縦パネルには、キーが刺さったままだ。
 枢機卿は、右腕だけで素早くパネルを操作する。

 メインローターが作動し、ヘリが格納庫内で浮き上がった。
 そのままゆっくりと前進すると、シャッターに激突する。

「おいおい、勘弁してくれよッ…!」
 先程の艦員が、柱のスィッチを押した。
 サビついた音と共に、シャッターが開く。
 ヘリは、そのまま夜空に飛び出していった。


「…さて、厄介な状況だな」
 枢機卿は、右手でヘリを操作しつつ左手のバヨネットを振るっている。
「…狭い機内。ここでは、決着がつきませんね」
 リナーは、バヨネットを打ち返して言った。
「ふむ、戦いはここまでか。ランデブーはまたの機会にしよう」
 枢機卿は襟元に手をやった。
 リナーの想定した戦闘パターン外の動き。
 どうやら無線機を操作しているようだが…
 その瞬間、リナーは枢機卿の意図を理解した。

「くッ、そうはいくか…!!」
 リナーは、枢機卿のバヨネットを弾き飛ばそうと大きく振るった。
「座り位置の問題だったな。こちらの方が近い…」
 そう言って、枢機卿は操縦パネルにバヨネットを突き立てた。
 同時に、操縦桿をヘシ折る。
 ヘリが大きく傾いた。

「…Auh Widekseh(それではごきげんよう)」
 枢機卿は操縦席から腰を上げると、真横の窓を破って外に飛び出した。
 落下する枢機卿の身体を掬い上げるように、Bf109が飛来する。
 そのまま、枢機卿はBf109の背に着地した。

「くッ…」
 リナーは、素早くヘリの操縦席に座った。
 そして、ヘシ折れた操縦桿の根元を掴む。
「何とか、体勢を…」
 フラフラと、前方に進むヘリ。

 下は海である。
 この高さなら、飛び降りても問題は無いはず。
 そう思った瞬間、前方に船が見えた。
 あれは、『ヴァンガード』…
 いや、しぃ助教授の乗っている『フィッツジェラルド』だ。
 前部甲板に、なんとか着艦を…!

566:2004/06/10(木) 17:46



          @          @          @



「何なんだ、オマエ… この僕の『ナイアーラトテップ』の前で、これだけ立ってられるなんて…」
 ウララーは、艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授に言った。
 彼の背に生えた羽、『ナイアーラトテップ』から鮮やかな光が迸る。
「楽しいなァ。楽しいよ、オマエェェェッ!!」

「くッ!!」
 しぃ助教授は、『セブンス・ヘブン』でその光を逸らす。
 逸らし損ねた光が海を削り、艦にダメージを与えた。
 グラグラと艦体が揺れる。
「貴方こそ、大したものですね。この私が、守勢にしか回れないなんて…」

 この能力は… いや、この光は一体…
 『セブンス・ヘブン』で方向を変えられる以上、質量を持った攻撃なのには違いない。
 そう。質量のある光。

「どうしたァッ!? 守りを固めるだけかッ!!」
 ウララーは羽を大きくはためかせた。
 燐粉が飛び散り、周囲に光が乱反射する。

「このッ…!!」
 しぃ助教授は、その力を押し返した。
 宙に浮いているウララーの体目掛けて、光の方向を変える。

「跳ね返そうッたって、無駄だなァ!!」
 鮮やかな光が、ウララーの周囲を包むように広がった。
 しぃ助教授が跳ね返した光が、それに溶け込んでいく。
「攻防一体ってヤツさァッ!! さあどうする!? いつまで我慢比べやってるんだ!?
 いい加減、そのボロ船は見捨てろよ。アンタ1人なら、もっと楽しくできるだろうがッ!!」

「艦長が、艦を見捨てる? 冗談を言わないで下さい」
 しぃ助教授は笑みを浮かべた。
「…なら、死ぬだけだなァッ!!」
 鮮やかな光が、『フィッツジェラルド』を覆い尽くすように広がる。
 その、凄まじい重圧と破壊力。

「…!!」
 しぃ助教授はそれを抑えながら、唇を噛んだ。
 抑えそこなった鮮やかな光が、艦に当たる。
 甲板が砕け、砲塔が折れる。
 光に削り取られた鉄片が宙に舞った。

 …妙だ。
 個人のスタンドにしては、余りにも強力すぎる。
 これだけの破壊力、たった1人のスタンドパワーで生み出せるとは思えない。
 スタンドは決して魔法ではないのだ。
 となると、指向性を操作する『セブンス・ヘブン』と同じタイプ。
 自然界に元から存在する何らかのエネルギーを操る能力…!

「ダークマター…!?」
 しぃ助教授は呟いた。
「へぇ。知ってるのか…」
 ウララーは腕を組んで笑みを浮かべる。
 周囲に照散していた鮮やかな光が、一時的に収まった。

 しぃ助教授は、目の前に滞空しているウララーを見据える。
「宇宙全体に存在する物質の総質量というのは、数学的な試算で求める事が可能です。
 それには、2つの方法があります。各銀河の明るさから求める方法と、各銀河の運動から求める方法。
 ところが… この両者は、計算ミスでもないのに何故か一致しない。
 各銀河の運動から求めた質量の方が、各銀河の明るさから求めた質量より10倍近く多いんです。
 不思議ですよね。同じ値が出るはずなのに、一桁も違う答えが出るんですから…」

 ウララーは、腕を組んで薄笑いを浮かべている。
 しぃ助教授は続けた。
「これは、未だに宇宙物理学における大きな謎です。
 宇宙に存在する全ての質量を足しても、銀河を回転させるほどのエネルギーには手が届きません。
 ここから導かれる結論は1つ。この宇宙には、見えない質量が存在しているという事。
 その仮定の物質を、学者達は『ダークマター(暗黒物質)』と定義しました」

 しぃ助教授は、ハンマーをウララーに向けた。
「ダークマターの正体は、質量を帯びた光…!
 貴方の『ナイアーラトテップ』は、ダークマターを操るスタンドですね。
 直接対象に照射して破壊したり、周囲に展開して防御壁にしたり、推進力に変換したり…
 なにせ計算上、宇宙の総質量の9割はダークマターですから。その供給元は底なしでしょう」

「フ… フフフハハハ…!」
 しぃ助教授の言葉を聞いて、ウララーは大いに笑った。
「ハッ、ハハハハハハ!! その通り! 意外に博識じゃぁないか!!」
 しぃ助教授は笑みを浮かべる。
「『助教授』という肩書き、ただの飾りだと思いましたか…?」

567:2004/06/10(木) 17:46

「ハハハ!! それが分かったから… どうだって言うんだァァァッ!?」
 ウララーの叫びと共に、虹色の光が周囲を覆い尽くす。
 さらに大きな重圧が艦に向けられた。

「丸耳ッ!!」
 しぃ助教授は叫んだ。
 いつの間にか、前部甲板に丸耳の姿がある。
「…はい。『メタル・マスター』!」
 丸耳は背後にスタンドを浮かべると、軽く指を鳴らした。

 ウララーの頭上に、砲塔や瓦礫が雨のように降り注ぐ。
 先程、ウララー自身が破壊した艦の破片だ。

「何だい、そりゃ… 僕をナメてるのかッ!?」
 ウララーは羽を一閃させた。
 あっという間に、頭上に飛来した数々の鉄片が砕け散る。
「僕を潰したいんなら、軍艦でも落とすんだなァァァッ!!」

「…では、お言葉に甘えて」
 丸耳は再び指を鳴らす。
 ウララーの頭上の空間が裂け、150m近くある巨大な艦が空中に現れた。
 先程、『ヴァンガード』のミサイルが直撃して戦闘不能になった自衛隊艦だ。

「なッ…!?」
 流石のウララーも、驚きの表情を浮かべる。
 丸耳のスタンド『メタル・マスター』は、掲げていた右手を振り下ろした。
 ウララーの頭上に浮遊していた巨艦が、重力に縛られたように落下する。

「うおおおおおおおおおおぁぁぁぁッ!! ブッ潰れろォォォォッ!!」
 ウララーは、羽から大量の光を放った。
 その光は、落下してくる頭上の艦に照射される。
 鮮やかな光が艦を叩き潰し、引き裂いた。
 轟音と共に、艦は真ん中から真っ二つに裂ける。
 砕け散る艦体が周囲に飛び散った。

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授は、『フィッツジェラルド』の上に降り注いだ艦の破片をウララーに弾き返した。
 破片といっても、1mを越えているものも多い。
 その鉄片は、高速の凶器となってウララーに飛来する。

「…徒労だァッ!! そんなものが通じるかァァァッ!!」
 艦の破片は、鮮やかな光の渦に呑みこまれる。

 バラバラになった艦体が、海面に叩きつけられた。
 総排水量5000トンを越える巨体。
 轟音と共に、津波と見間違うような水飛沫が上がる。

 ウララーの視界が、シャワーのように飛び散る水飛沫に染まった。
「ハハハッ!! どうだッ!! アハハハハハハハハハハッ!!」
 狂笑するウララー。
 その身体に、霧のような水飛沫を浴びる。

 ――背後から殺気。
 ハンマーを構えたしぃ助教授が、水飛沫に紛れて跳んだのだ。

「水飛沫は目潰しって訳かい!? そんなショボイ手が僕に通用するとでも――」
 ウララーは、虹色の光を背後のしぃ助教授に向けた。
「――思ッたのかァァァァァァァァッ!!!」
 質量を持った光は、空中でハンマーを振り上げているしぃ助教授に直撃する。

 ――手応えが薄い。
 光を浴びて、ニヤリと笑うしぃ助教授。
「な…!?」
 ウララーは声を上げた。
 その脳内に疑問が渦巻く。
 何故だ? 
 確かに、確かに確かに確かに身体に直撃させたはずなのに…!!

「光は微粒子に当たると散乱し、水面などでは屈折します。
 微細な水飛沫なんて、両方の性質を満たしていますよねぇ…」
 しぃ助教授はそのままハンマーを構えると、渾身の力を込めてウララーの身体に叩きつけた。
 ベキベキと骨の砕ける音が伝わってくる。
「光の性質くらいは知っておきなさい。仮にも、それを操るスタンド使いなのならね…!」

「が… ぐぉぁぁぁぁッ!!」
 ハンマーの直撃を受けたウララーの半身は、無惨なまでに潰れた。
 そのまま、『フィッツジェラルド』の前部甲板の方へ吹っ飛んでいく。
 全身から血を撒き散らしながら、ウララーの体は艦首に激突した。
 その余りの勢いに、艦が大きく揺れる。

「とは言え… もろに浴びたのは事実。こちらも無傷とはいきませんでしたね」
 しぃ助教授は空中で身体を翻すと、『フィッツジェラルド』の前部甲板に着地した。
 肋骨が何本か、そして左上腕骨が損傷したようだ。
 だが、倒れている暇はない。
 相手は吸血鬼。
 頭部以外への攻撃は、すぐに再生してしまうのだ。
 さっきの一撃すら、致命傷には程遠い。

 目の前の甲板に、血塗れのウララーがめり込んでいる。
「覚悟!!」
 しぃ助教授は、その頭部目掛けてハンマーを振り下ろした。

568:2004/06/10(木) 17:48

「ウォォォォォォォァッ!!」
 ウララーの周囲に、幾重もの光が広がった。
 甲板がベキベキと砕ける。
 振り下ろされようとしていたハンマーは弾かれ、甲板に落ちた。

「ぐゥゥッ…」
 フラフラと立ち上がるウララー。
 彼はゆっくりと頭に手をやる。
 ぬるりとした感触。
 その掌を、じっと眺めた。
 べっとりと血で濡れている手を。

「何だよ、これ…」
 ウララーは、熱に浮かされたように呟く。
 じっと、掌を凝視しながら。
「…何なんだよ。これ、血だぜ? 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 ちゃァァァァァァァァんと痛いじゃねェェェェェェかァァァァァァァァァよォォォォォォォッ!!」
 叫び続けるウララーの周囲で、鮮やかな光が渦を巻いた。
 
「…抑えろッ! 『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授はスタンドを発動させた。
 『セブンス・ヘブン』で散らしているにもかかわらず、その光は甲板を破壊する。
 ウララーが立っている艦首部分は、大きく抉られた。
 艦の破片が、そのまま海面に音を立てて崩れ落ちる。

 ウララーの体はゆっくりと浮かび上がった。
 そして、眼前に立つしぃ助教授を真っ直ぐに見据える。
「…決めた。『矢の男』の次はオマエだ。この痛み、65536倍にして返してやるよ…」
 そう言って、ウララーは背後を見せた。
 その背に、凶々しい蝶の羽が煌く。

「…楽しいなァ! こんなに殺したい奴がいるなんて、初めてだよ…!!」
 そう言って、ウララーは飛び去っていった。
 しぃ助教授は、瞬く間に遠くなっていくウララーの姿を見つめる。

 駆けつけてきた丸耳が口を開いた。
「…妙ですね。さっきの男、勝負を先延ばしにするタイプには見えませんが」
 しぃ助教授は頷く。
「…ええ。おそらく、ウララーの襲来は波状攻撃の第一波でしょう」

「では、第二波が…!!」
 驚愕の表情を浮かべ、しぃ助教授の顔を凝視する丸耳。
 しぃ助教授は、甲板に転がったハンマーを拾い上げる。
「…その確率が高いですね。丸耳、ただちにCICに戻って艦を指揮しなさい。
 私は、ここでギリギリまで攻撃を防ぎます」

「了解しました。お気をつけて!」
 そう言うが早いか、丸耳はたちまちのうちに姿を消した。
 その直後、前方から僅かな飛行音が響く。
「…来ましたね!」
 しぃ助教授は、夜の闇を凝視した。

 何か、飛行物体がフラつきながら近付いてくるようだ。
 あれは… 自衛隊の哨戒ヘリコプター!?
 動きから見て、操縦系統に損傷があるようだが…

 ヘリは徐々に接近してくる。
 狙いは、間違いなくこの艦だ。
 しぃ助教授は、その操縦席に座る人影を確認した。
 シートに座っている女と目が合う。
 あれは…!

「…『セブンス・ヘブン』!!」
 メインローターの回転を阻害し、機体を傾かせる。
 もともとフラフラだったヘリは、そのままバランスを崩して水没した。
 だが、操縦席に座っていた人影は墜落直前に脱出したようだ。
 しかもパラシュートを使わずに、ただの跳躍で。
「…チッ」
 しぃ助教授は舌打ちをした。
 人影は、驚くべき跳躍力で『フィッツジェラルド』の艦首に飛び移ってくる。

「…おっと、貴女が乗ってたんですか。それは気付きませんでした」
 しぃ助教授はその人影を見据え、笑みを浮かべて告げた。
「完全に目が合ったように思ったが… どうやら、その目は飾りらしいな」
 ヘリから飛び移ってきた女、リナーは表情を変えずに言う。
 その服は各所が破け、穴だらけである。

「…これはまた涼しそうな格好ですね。モナー君を誘惑でもする気ですか?」
 しぃ助教授は、挑発的な笑みを浮かべて言った。
 リナーはその視線を軽く受け流す。
「それなら、服1枚犠牲にしなくとも足る。
 …それより、もうすぐ『教会』の航空隊が押し寄せてくるぞ」

569:2004/06/10(木) 17:49

「まったく… 次から次へと」
 しぃ助教授はため息をついた。
 そして、素早く無線機を操作する。
「…私です。到着を急いで下さい。自衛隊の潜水艦は、まだ付近に潜伏していると思われます…」

「ASAの潜水艦艦部隊か?」
 リナーが訊ねる。
 しぃ助教授は無線のスィッチを切ると、リナーに視線を戻した。
「まあ、そんなとこですね。あれだけ暴れた敵潜水艦が、全く動きがないのは妙です」

「自衛隊の艦隊も、『教会』の航空部隊の襲撃を受けている。救援に向かったんじゃないか?」
 リナーは腕を組んで言った。
「…だとしたらいいんですがね。司令官たるもの、楽観的な判断を下すわけにはいきません」
 しぃ助教授はため息をついて視線を落とした。
 早々に護衛艦が全て沈められたのも、司令官たる自分のミスなのだ。
 被害だけを見れば、ASAの完全敗北に近い。


 前方から、航空機のエンジン音が響いてきた。
「…来るぞ!!」
 リナーは、銃口が大きく開いたスナイパーライフルを取り出した。

 ――バレット・M82A1。
 通称『バレットライフル』。
 12.7mm50口径弾を使用する、強力な対物ライフルだ。

「さて、サクサク落としますか…」
 しぃ助教授は、ハンマーを頭上で軽く回した。
 その背後に、『セブンス・ヘブン』のヴィジョンが浮かぶ。

 空は、たちまちにして敵機で染まった。
「落ちろッ!!」
 リナーの放った弾丸が、Bf109の主翼を直撃する。
 コントロールを失い、炎に包まれる機体。
 そのコックピットから、吸血鬼が飛び降りた。

「Hallelujaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
 空中で機関銃を乱射しつつ、軍服の吸血鬼は前部甲板に着地した。
 そのまま、しぃ助教授に飛び掛かる。

「やれやれ。ダンスの誘いは遠慮しておきますよ…」
 しぃ助教授は、その吸血鬼の頭部をハンマーで叩き潰した。
「…1人で踊りなさい」

 リナーが、次々に航空機を撃ち落していく。
 コックピットから飛び出した吸血鬼が、次々に甲板に降り立った。
 その頭部に、ハンマーを叩きつけるしぃ助教授。

「…私もヴァンパイアハンターみたいじゃないですか? こんな風にハンマー持ってると。
 これでありすの服でも着て…
 『汝、魂魄なき虚ろの器。カインの末裔、墓無き亡者。Ashes to ashes Dust to dust…』
 …なんて言うのも結構似合ってません?」
 しぃ助教授はハンマーを軽く振って言った。

「外見的に、20は若返らないと無理だな」
 リナーは、視線を合わせずに吐き捨てる。
「それより、次々に来るぞ。どうやら、艦を制圧するつもりらしいな…!」

 航空機から、次々に軍服の吸血鬼が飛び降りてくる。
 リナーはバレットライフルを甲板に投げ捨てると、バヨネットを取り出した。
 それを、十字の形に交差させるリナー。

「Dust to dust… 塵は塵。灰は灰。土は土。水は高きより落ち、万物はその至るところに終焉ず。
 塵たる貴様達の居場所など、世界のどこにもありはしない…!」



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