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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

22:2004/04/11(日) 00:04

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その1」



 ――夢を見た。

 なぜか、夢とはっきり分かる。
 BGMのように、寂しげな旋律が流れていた。
 確か、じぃを殺した夜に聞いたメロディと同じ…


 古い屋敷の前に、男は立っていた。

 ――あれは、俺だ。
 現代ではない。
 今から、百数十年ほど昔だ。
 欧州のどこかの風景。
 森の中に存在する古い屋敷の前に、俺である男は立っていた。
 
 男は、バヨネットを手にしていた。
 サングラス… いや、黒眼鏡と言った方がいいだろうか。
 とにかく、男はサングラスをかけていた。
 まるで、視界を遮断するかのように。

 ゆっくりと、男は屋敷の扉を開けた。
 正面のホールには、人間… いや、人間を辞めたモノが3匹。
「いきなり上がり込んで… 何ですか、貴方は…」
 吸血鬼は人間を装い、不服そうに口走る。

「――良い知らせと、悪い知らせがある。どちらが先に聞きたい?」
 男は、口を開いた。

「じ、じゃあ… 悪い知らせの方を先に…」
 雰囲気に呑まれ、律儀に答える吸血鬼。
 男は、無表情で告げた。
「お前達の人生は、今日で終わりだ」

「じゃあ、良い知らせは…!」
 吸血鬼が声を荒げる。
 それに対し、表情を崩さない男。
「――苦痛は感じない」

 男は、サングラスを外した。

 ――『アウト・オブ・エデン』。


  (周囲に、視線が満ちる。)

                (場の空気。敵の呼吸。全てを把握。)

 (まるで、視線で構成された空間。)

                       (「…お前、代行者か!」 正面の吸血鬼が叫ぶ。)


       ( −mental sketch modified− )


                              (瞬く間に――)

 ――3人の吸血鬼は身体を寸断されていた。
 3人分の肉塊が、湿った音を立てて床に落ちる。

「さて、後は…」

 壁を突き破って、吸血鬼が飛んできた。
 その生命はすでに無い。
 …いや、吸血鬼に元々生命は存在しないか。
 吸血鬼の肉体は、地面に落下した瞬間に炎上した。
 どうやら、あっちもカタが付いたようだ。

「やれやれ… こんな雑魚相手に、私達が出張る必要もありませんでしたね…」
 壁の穴をくぐって、黒のロングコートを着用した青年が現れた。
「…全くだ」
 男はバヨネットを服の中にしまうと、再びサングラスを着用した。
 面倒そうにため息をつくロングコートの青年。
 彼は、『蒐集者』と呼ばれていた。

「さて。帰りますか、『破壊者』…」
 『蒐集者』はロングコートを翻すと、出口の方へ歩いていった。

23:2004/04/11(日) 00:04


          *          *          *



 あれから、時が流れた。
 これは、夢だ。
 懐かしい夢。
 哀しい旋律は鳴り止まない。


 男は、ドアをノックして書斎に入った。
 『蒐集者』が、『教会』から与えられた部屋。
 事実上、そこは彼の実験室と化していた。

 中の照明は薄暗い。
 『蒐集者』は、机に向かっていた。
 なにやら、熱心にノートに走り書きをしている。
 時計の音と、文字を書く音だけが場を支配していた。

「…『破壊者』か」
 『蒐集者』は作業を続けたまま、男に語りかけた。
「あまり研究に根を詰めすぎるな。身体に悪い」
 男は『蒐集者』の後ろに立って言った。

 『蒐集者』は本を開き、書かれている数値とノートの数値を比較している。
「…その言葉、有難く受け取りますよ。
 とは言え、吸血鬼化技術の完成には程遠いですからね。
 老化阻止の技術は何とか確立したが、それより先が進まない。
 臨床データが決定的に不足している状態ですからね…」

 男は、そこらに転がっていた椅子に腰を下ろした。
 周囲は本棚ばかり。
 そこには、溢れんばかりの書籍が詰まっている。

「老化阻止の技術も、完全とは言えない。肉体、精神共に頑健な者にしか施せませんからね…」
 そう言いつつ、机に並んで置かれていた3つの写真立てに視線を送る『蒐集者』。
 写真の中では、礼服の若い男がこちらに向けて微笑んでいた。
 それぞれ違った人物の写真が、3つ。

 彼等は、『教会』に所属する若い青年だった。
 試験的に、老化阻止の手術を受けたのだ。
 当然、本人達も同意していた。

 その結果は… 3人とも失敗に終わった。
 老化阻止どころか精神汚濁と新陳代謝の異常が発生し、彼等は帰らぬ人となった。
 その日、『蒐集者』は自らの机に彼等の写真を並べたのだ。

 ――あの写真は、『蒐集者』の懺悔である。

「だから、この研究は大成させねばならない。彼等に報いる為にもね…」
 そう言って、『蒐集者』はノートに視線を戻した。

「…余り、自分を責めるな。自責感に駆られて成果を急いだところで、ロクな事にならん。
 気ままにやっていれば、いつか何とかなるものだ…」
 男は椅子にもたれて言った。
「貴方は楽観的に過ぎますがね、ブラム…」
 『蒐集者』は男の名を呼んで、柔らかな笑みを浮かべた。
 時計の音が、時間を刻み続ける。

 そして『蒐集者』は一息つくと、男に視線を向けた。
「吸血鬼化… そして、究極生物。興味は尽きませんね。
 『矢』によるスタンド発現のメカニズムも、是非研究してみたい。
 まだまだ私のやる事は山積みですよ。のんびりしている暇はない」

24:2004/04/11(日) 00:05

「吸血鬼化…か。わざわざ吸血鬼を増やす必要性に疑問を感じるがな。
 我ら代行者は、吸血鬼を討つのが使命のはずだ」
 男はため息をついた。
 『蒐集者』は肩をすくめる。
「何度も言っている通り、吸血鬼そのものを増やそうという訳ではありませんよ。
 その不死性、超越性を探り応用する事で、『教会』はさらに大きな力を手にする事ができるかもしれません。
 『ロストメモリー(失われし者達)』が蘇生できれば、『教会』にとって大きな戦力となりますしね」

 『ロストメモリー』とは、『教会』が保存している遺体の通称である。
 いずれも、生前はかなりの腕前を持つスタンド使いであったらしい。
 無論、その肉体は完全な状態で保存されている。

「しかし、吸血鬼化の技術を応用し、死者を蘇生させようとは… 上も無茶な事を考える」
 男は顎に手を当てた。
「吸血鬼が死体をゾンビ化させたのは、多くの前例があります。決して夢物語ではありませんよ」
 『蒐集者』は少し不服そうに言った。
 そして、思い詰めたように表情を強張らせる。
「吸血鬼化の技術により、『教会』の戦力は抜本的に上昇する。
 そうなれば、あの『レーベンス・ボルン(生命の泉)』を撤廃できる…」
 トーンを落として呟く『蒐集者』。

 ――『レーベンス・ボルン(生命の泉)』計画。
 強力なスタンド使い同士を交配させ、それを繰り返す事により『最強のスタンド使い』を産み出す計画。
 700年も前から続き、『蒐集者』自身もその計画によって生を受けたのだ。

「お前は… 『教会』を恨んでいるのか?」
 表情を曇らせ、男は訊ねた。
 『蒐集者』は視線を落とすと、軽く首を振る。
「――いいえ。恨みはありません。
 ですが、あんな計画は早々に終わらせなければならない。私のような人間が増える前にね…」

 『蒐集者』の机の正面に備え付けられた窓からは、学校の校舎のような建物が見える。
 あれこそが、『レーベンス・ボルン』。
 あの中に、今も大勢のスタンド使いが暮らしている。
 子供から老人まで。
 家畜同然に、ただ交配させる目的で。
 あの建物の中に食堂、教育施設、医務室などが備え付けられ、彼等は生まれてから一歩も外へ出られる事はない。

 窓の外に建つ『レーベンス・ボルン』を睨みつける『蒐集者』。
「あそこから出れたのは、最強のスタンドである『アヴェ・マリア』を授かった私だけだ。
 故に、私が皆を解放する責務がある…」

 男はため息をついた。
 『レーベンス・ボルン(生命の泉)』に囚われている者達は、全員が『蒐集者』の家族なのだ。
 彼の父も、母も、兄弟も、友人もあの中にいる。
 そして、『最強』のスタンド使いである『蒐集者』は、あそこから出る事ができた。

 ――しかし、普遍的な『最強』など世の中にありえない。
 ありえないものを追い求め、ありえないものにすがる。
 それは、もはや『妄執』だ。
 故に『最強』とは、『妄執』に過ぎない。

 だが… 目の前の友人、『蒐集者』は『最強』として生きようとしている。
 『最強』となる為に生を受け、『最強』として扱われた男。
 
「『最強』とは、どういう意味か―――」
 男は、不意に目の前の『蒐集者』に訊ねた。

25:2004/04/11(日) 00:06



          *          *          *



 さらに時は流れた。
 10年? 20年? それも分からない。
 時間の感覚は一切ない。
 …俺は、誰だ?


「エイジャの赤石、『矢』、共に捜索ははかどっておりません」
 男は、初老の神父に告げた。

「ふむ…」
 神父は、窓の外の星空を眺めている。
「よりによって、『教会』の秘宝を盗み出すとは… 誰か知らんが、かなりの手練だな」
 神父の言葉に、男は頷いた。
「…そうでしょうな。常人にできる事ではありません」

 神父はこちらに向き直ると、忌々しそうに腕を組んだ。
「…ASAの仕業、という可能性は?」
「その線はないでしょう。『矢』はともかくとして、エイジャの赤石に手を出す理由がない」
 男は即答する。

 神父はため息をついた。
「その理屈で言えば… 犯人は『蒐集者』でしか有り得んな。
 満足な波紋使いがおらん現状では、波紋が増幅できたとて意味はない。
 もはや、あれには研究対象以上の価値はないと言える。赤石に興味を示していたのは、『蒐集者』だけだ」

 男は、それを否定する。
「だからと言って、『蒐集者』の可能性もないでしょう。
 彼は、あれを私益していたも同然です。盗み出すなどという行動を取る必要すらない」

「何の関連もない者が欲しがるとも思えんがな…」
 神父は再びため息をつく。
「…ともかく、調査を続行したまえ。君の『アウト・オブ・エデン』に期待している」
「はい…」
 男は軽く頭を下げた。

「ところで、話は変わるが…」
 少しの沈黙の後、神父は口を開いた。
「…私も、老化阻止の手術を受けてみようと思う」

 それを聞いて、男は額に皺を寄せた。
「…枢機卿。あの手術は危険を伴います。老化阻止を施して、命があったのは――」
「私のみ、と言いたいのだろう? 『破壊者』よ…」
 神父は、冷ややかな笑みを浮かべて言った。

 男は、かなり前に老化阻止の手術を受けていた。
 老化阻止は、吸血鬼化技術の一端という事もあり、新陳代謝に大幅な歪みを及ぼす。
 ほとんどの場合は、脳が遅延化した新陳代謝に耐えられない。
 老化自体は止まっても、どんな副作用が起きるか分からないのが現状だ。
 しかし、男は自ら望んで手術を受けた。

「私には、実現すべき理想がある。その日を見るまで、老いて死ぬ訳にはいかないのだよ」
 枢機卿は笑みを浮かべて言った。
 男と同じ、理念の為ならリスクを犯す。枢機卿も、そういう人種なのだ。

 枢機卿は言葉を続けた。
「神は、望まぬ能力をこの私に押し付けた。『リリーマルレーン』、使いたくはない…
 故に、私は肉体を磨く事でスタンドの使用を抑制してきた。
 …だが、老いてはそれもできんからな。
 老化阻止は精神・肉体共に頑強でなければ耐えれんというが… 私にも、それは備わっているだろう」

 男は、枢機卿の言葉を過信とは思わない。
 目の前の神父は、それだけの能力を備えている。
「…成功する事を期待しています」
 男は言った。


 一礼して、男は部屋を出た。
 長い廊下を歩き、礼拝堂の外へ出る。
 外は真っ暗だ。もう夜も遅い。
 宿舎へ戻ろうとした時、男は妙な空気を感じ取った。

 ――怒り、悲しみ、怨念。
 幾多のマイナスの感情が渦巻いている。
 これは…!

 男は走り出した。
 奇妙な気配を感じた、『レーベンス・ボルン』の方向に向かって。

26:2004/04/11(日) 00:07

 男は、白くそびえ立つ建物の前にたどり着いた。
 『レーベンス・ボルン』を見上げる男。
 中に入るのに、かなりの躊躇を感じる。
 まるで、建物自体が外界からの接触を拒むように。

 …衛兵はいない。
 多くのスタンド使いを閉じ込めている以上、管理は万全のはず。
 しかし、建物の周囲には人っ子一人いない。
 やはり、妙だ。
 男はドアを開け、『レーベンス・ボルン』に侵入した。


 ――死の気配。
 それも、まだ新しい。
 男は歩を進めた。
 外見だけでなく、内部もまるで学校のようだ。

 立ち込める死の気配とは別に、『アウト・オブ・エデン』は妄念と腐敗を感じ取った。
 『最強』のスタンド使いを作る為だけに、彼等はここに監禁されてきた。
 何代も何代も、約800年に渡って。
 時の止まった場所。
 ――ここは、生きた建物ではない。

 廊下に、倒れている人の姿を発見した。
 一瞥しただけで、既に命はない事は判る。
 それだけではない。
 その肉体は何かが大きく欠けていた。
 目に見える変化はない。
 しかし、その死体は物体として大きく欠落している。
 あれは既に抜け殻だ。

 ――『特性の同化』。
 『アヴェ・マリア』のスタンド能力。

 男は走り出した。
 『アウト・オブ・エデン』で、奴の位置を把握する。
 5階の突き当たり。
 技能教務用の部屋… 一般的に言う教室だ。
 そこに、奴はいる…!!

 廊下を突き進み、階段を上がるにつれて、死体の数は多くなっていった。
 いや、あれは死体ですらない。
 特質を失った、ただの抜け殻だ。

 奴は、もう――


 男は、蹴破る勢いでドアを開けた。
 木製のドアは、派手な音を立てて外れる。

 教室は、死体の山だった。
 20人、30人… いや、もっと。
 老若男女、分け隔てない死体。
 その全てが、既に『奪われて』いる。

 『蒐集者』は、若い女の顔を掴んでいた。
 その背後には、『アヴェ・マリア』のヴィジョンが浮かび上がっている。
 黒のロングコートが激しくはためいた。
 女は、たちまちにして『特性』を吸い取られる。
 そのまま、無造作に投げ捨てられる女の残骸。

「『蒐集者』、お前…!」
 男は、異形の青年に語りかけた。
「ああ、ブラムか… どうしました?」
 『蒐集者』は歪んだ笑顔を見せる。
 その瞬間、激しく咳き込む『蒐集者』。
 口から溢れ出る血を、右手で押さえる。

「お前…! 自分が何をやったか分かっているのか…!?」
 男は叫んだ。
「…分かっているさ。こうする為に、私は生まれてきたんだからなァァァ!!」
 『蒐集者』は、絶叫しながら身を反らせる。
 その全身が、不気味に脈動した。
 ポタポタと床に垂れる血。

「…気をしっかり持て。自分を見失うな!!」
 男は、『蒐集者』の元に駆け寄って叫んだ。
「黙れ…! お前に分かるのか、この苦痛がァッ!!」
 『アヴェ・マリア』が、業火を伴った拳を振るう。

「…分かるものか。私はお前じゃない」
 男は、『アウト・オブ・エデン』で火炎を『破壊』した。
「それとも… 『蒐集者』ともあろう者が、同情でも欲しいのか?」

「そんな事…」
 よろける『蒐集者』。
「ぐッ…! ぐァァァォォォッ!!」
 そのまま、『蒐集者』は大きくのけぞった。
 机の上に手を置く。
 たちまちにして、机はドロドロに溶けてしまった。

27:2004/04/11(日) 00:07

「…自分を保て。このままだと、お前は自身の能力に呑まれるぞ」
 男は、『蒐集者』に声をかける。
「私は…」
 片膝を付き、血を吐く『蒐集者』。
 その瞳は胡乱だ。
 極端に濃くなった血統。
 『最強』であるはずのスタンドが、奴の精神を蝕んでいる。

「――自らの能力などに屈するな。お前は、『最強』なのだろう?」
 男は、ゆっくりと告げた。

 自らの顔面を掴みながら、フラフラと立ち上がる『蒐集者』。
「そう… 私は『最強』だ…」
 『蒐集者』は、うわ言のように呟いた。
 彼の感情が、突然に爆発する。
「…そう、『最強』だ! 『最強』にならなければ、私には生きる価値などない!!
 神が私に『最強』を望むなら、いかなる犠牲を払ってでもそれを甘受しよう!!
 どうせ私は、呪われた存在なんだからなァァッ!!」

「…いい加減にしろ」
 男は『蒐集者』の首を掴むと、そのまま教卓に叩きつけた。
「お前は呪われた存在などではない。生まれた形は歪でも、祝福された生命に違いはないんだ」

「フ、フフ… ハハハハハハ!!」
 『蒐集者』は教卓に突っ込んだまま、表情を歪ませて笑い出した。
 その狂笑が、夜の教室に響く。
「なァ… 私は何なんだ!? こうやって、他人を糧に生きていく化物か!?」
 悲痛な叫び。
 男は、黙って『蒐集者』の顔を見据えていた。

「他人の生命を奪う事が罪なら、私の存在自体が罪なのか!?
 なぜ神は私にこんな能力を与えた!?
 私には、自らの幸せを願う事すら許されないのか!? なァ、ブラム!!」

「…お前は、悲観的に過ぎる。何でも思い詰めるな。
 世の中の不幸が全部、自分に原因があるとでも思っているのか?」
 男は、柔らかな目で『蒐集者』を見下ろした。
 しばしの沈黙。
 木屑を払い、『蒐集者』は立ち上がった。

「貴方ほど楽天的にはなれないさ… 私は、もう壊れているからな」
 幾分落ち着いた様子で、『蒐集者』は言った。

「お前は弱い。誰よりも弱いからこそ、『最強』などに憧憬するんだ」
 男は、窓の脇まで歩み寄った。
 …月が出ている。

「自分の弱さを認めろ。『最強』なんて、最初から幻想に過ぎん。
 故に、『レーベンス・ボルン』など最初から頓挫している計画に過ぎない。
 重要なのは、これから何を為すかだ。偽りの『最強』など、追い求める必要はない」

「あの月は、変わりはしない…」
 『蒐集者』は、月を見上げて言った。
「私は、いつまで自分を保つ事ができるのか…」

 男は腕を組み、割れた教卓にもたれた。
「思い詰めるなと言っている。お前は弱いが、それなりに強いさ。
 物語の終わりは、いつだってハッピーエンドだ。 …そうだろう?」

 無言で笑みを見せる『蒐集者』。
 男と『蒐集者』は、死体だらけの教室でいつまでも月を眺めていた。

28:2004/04/11(日) 00:08



          *          *          *



「――いい手段を思いついた」
 不意に『蒐集者』は言った。
「…『アナザー・ワールド・エキストラ』と『矢』を、同時に得る事が出来る手段だ」

「同時に…だと?」
 男は困惑した。
 『レーベンス・ボルン』壊滅以来、『蒐集者』に変化はない。
 結局、彼は自分を取り戻したようだ。

 ――本当にそうだろうか。
 不安は残った。
 確かに『蒐集者』に変化はないが、どこか無感情になってしまったような気がする。
 『アウト・オブ・エデン』で視た限り、特に異常はないが…

「『ロストメモリー』の中に、『アルカディア』というスタンドが存在するのは知っているでしょう?」
 『蒐集者』は話を続けた。

「ああ。『空想具現化』の『アルカディア』だろう?」
 男は、記憶からその名を探る。
 『アルカディア』は、厳密に言えば『ロストメモリー』の定義には当て嵌まらない。
 『ロストメモリー』はスタンド使いの死体なのに対し、『アルカディア』はスタンドそのものだからだ。
 しかし、『アルカディア』も『ロストメモリー』の一員として扱われている。
 『ロストメモリー』とは、事実上『教会』の予備戦力であるからだ。
 もっとも、死体蘇生の技術が確立すればの話だが。

「『アルカディア』の力で、『矢』と『アナザー・ワールド・エキストラ』を復元する気か?
 しかし、いかに『空想具現化』とはいえ出来る事に限度があるだろう…」
 男は腕を組む。
 それに対し、『蒐集者』は笑みを見せた。
「普通にやるならば…ね。ここで、『矢の男』という存在を仮定する」

「『矢の男』…? 工夫のない名前だな」
 男は口を挟んだ。
「…失礼ですね。一晩に渡って頭を捻り、7つの候補から選び抜いた名前ですよ」
 『蒐集者』は不服そうな表情を浮かべる。
 男は軽く笑った。
「他にどんな候補があったのかも気になるが… とにかく、その『矢の男』とやらをどう使う?」

 再び、語り出す『蒐集者』。
「確かに、『アルカディア』に『矢』と『アナザー・ワールド・エキストラ』の特性を伝えただけでは、
 復元は不可能でしょう。実現する事を前提にした『希望』は、どうしても具現化に制限がかかる」

「…実現する事が分かっていれば、それはもはや『希望』ではないからな。無意識に望む事が重要だろう」
 腕を組んだまま男は言った。
 それに対し、『蒐集者』は頷く。
「ここで『矢の男』の存在を流布し、噂にする。センセーショナルな噂ほど良い。
 万単位の人間が『矢の男』の存在を信じれば、具現化のエネルギーはかなりの量になります」
 
「…なるほど」
 男は、口許に手をやった。
「だが、人々が『矢の男』の存在を噂にする、というのは難題ではないか?
 普通の人間は、そんなものの存在を望むまい」

「それが、次の課題なんですよ…」
 肩をすくめる『蒐集者』。
「『アナザー・ワールド・エキストラ』や『矢』について知識を持ち、なおかつ精神力に満ちた実力者が、
 『矢の男』の存在を無意識に望めば文句はないんですがね…」

29:2004/04/11(日) 00:08
 男は軽く笑みを浮かべた。
「そんな上手い話がある訳がないだろう?」
 『蒐集者』はため息をつく。
「エイジャの赤石の消失で、究極生物の研究も進みませんしね…
 吸血鬼化を応用した蘇生技術も、上手くいったところで寿命が15年では何とも…」
「まあ、気長にやればいいさ」
 男は腕を組んだ。

「…とは言え、吸血鬼化技術の研究は進んできました。
 外科手術によって、吸血鬼が量産できるのも時間の問題ですからね」
 表情を変えずに『蒐集者』は告げる。

「量産… だと?」
 男は『蒐集者』の顔に視線を向けた。
 その顔は、先程までと同じ無表情だ。
「…それはそうでしょう?」
 『蒐集者』は笑みを見せる。

 ――いや、笑ってなどいない。
 こいつの感情は、能面に過ぎない。
 こいつは――誰だ?

「出来る技術があるのなら、やるべきですよ。さらなる力を得るのに、不都合はないでしょう?」
 作り物の笑みを浮かべて、目の前の青年は言う。
「さらに、私は吸血鬼で構成された軍隊というのを考えています。
 数万人ほどさらってきて、全員を吸血鬼化させる。その無類の戦闘力を目にしたくありませんか?」

「何を言っている…!? 吸血鬼など、血塗られた存在だ。
 普通の人間に、そんな十字架を背負わせる気か…?
 望まぬ力を押し付けられた苦痛は、お前が一番良く分かっているはずだろう!」
 男は、『蒐集者』の顔を睨んで言った。
 『蒐集者』は、その視線を逸らさない。
「妙な事を言う… 私は、『教会』に感謝していますよ。
 私を『最強』として産んでくれてね… ハッ、ハハハハハハハハ!!」
 突如として、大声で笑い出す『蒐集者』。

 ――真実だ。
 こいつは、真実を語っている。
 『蒐集者』は、心の底から『教会』に感謝しているのだ。
 それは、つまり――
 
 男は笑い続ける『蒐集者』をその場に放置して、駆け出した。
 もう、『蒐集者』は元の『蒐集者』ではない。
 …吸血鬼の軍隊?
 口振りからして、枢機卿にも話は通っているのは明らかだ。
 『蒐集者』1人が暴走している訳ではない。

 この組織は… 『教会』は、完全に道を誤った。
 『蒐集者』が産まれてから…?
 いや、『レーベンス・ボルン』などという狂気の計画が実行された800年前からか…

 急ぐ必要がある。
 一刻も早く、『Model of Next-Abortion Relive』の作成に着手しなければ。

30:2004/04/11(日) 00:09



          *          *          *



 男は、月光の下を走っていた。
 『アウト・オブ・エデン』で半径40Km以内を確認しながら、ひたすらに一本道を走る。

 前方に、ロングコートの青年が立っていた。
 腕を組んで、道の真ん中に立ち尽くしている。
 何の能力を使ったのか、『アウト・オブ・エデン』では捉えられなかった。
 まあ、黙って見送ってくれる筈はないとは思っていたが…

「…どこへ行くんです?」
 道を塞いでいる『蒐集者』が、無表情な視線を向けた。
「…『教会』の手の届かないところだ」
 男は答える。

「なぜ… なぜ貴方が、『教会』を裏切る!?」
 『蒐集者』は言った。
 ほんの少し、感情の揺らぎが見て取れる。
「貴方は、自分がどれほど重要な存在か分かっているのですか?
 あの『破壊者』が遁出したとなれば、他の代行者に与える影響も…」

「…『破壊者』の名など、もう不要だ。欲しい奴にくれてやれ」
 男は吐き捨てた。
 その名は、もはや自らの過ちの象徴だ。

「…それで、なぜ『教会』を去るのです? それすら、私に告げる必要はないと…?」
 『蒐集者』は言った。
「もう、お前達のやり方にはついていけないだけだ。
 正義の御旗の後ろに屍を転がすのは、もう充分だろう?」
 男は、見透かすような視線を『蒐集者』に向ける。
「…なるほど」
 ため息をつく『蒐集者』。

「…では、お前にも1つ聞きたい事がある」
 男は、『蒐集者』を真っ直ぐに見据えた。
「なぜ… あの哀れな姉妹を、吸血鬼化の被検体にした!?」

 『蒐集者』は、視線を男に向けた。
 狂気でも虚無でもない胡乱な視線。
「…それは誤解です。被検体は姉の方だけだ。
 あの娘は、実に面白いスタンドを所持していますからね。臨床データとしても最適だ。
 妹のスタンドも代行者に向いている。貴方は、実に素晴らしい拾い物をしてくれた」

「そんなことをさせる為に… あの姉妹を保護した訳ではない!」
 男は声を荒げる。

「ハッ、ハハハハハハハハ!!」
 『蒐集者』は笑い出した。
「それは残念だ。吸血鬼の血と、あの娘の肉体はどうやら相性が悪い。
 理性を保てるのも、ひとえにスタンド能力によるものだ。
 あの娘、どのみち長くはない。成人を待たずして、人格は崩壊するでしょうね!」

「その前に、私が殺すさ…
 お前のように、人間としての道を踏み外す前にな…!」
 男は、かっての友を睨んだ。

「…さて、話は終わりです。多少手荒くしてでも、貴方には『教会』に戻ってもらう…」
 『蒐集者』はバヨネットを抜く。
 その様子を、鋭い目で睨む男。
 そして、男は静かに告げた。
「今までずっと黙っていたが… 私は、『お前を殺す者』なんだ」

 『蒐集者』は、一瞬呆気に取られた顔をした。
「『私を殺す者』…? そうか、そういう事か…」

 そして、歓喜のような表情を浮かべる『蒐集者』。
「…なるほど。思ってもみなかった。確かに、存在しても不思議ではなかった!!」
 大声で笑いながら、『蒐集者』は叫ぶ。
「なァ、こんな愉快な事があるか!? 貴方も、さぞかし愉快だっただろう!!」
 『蒐集者』の狂声が、夜の闇に響いた。
「なにせ、百年近くも私を騙してきたんだからなァ!!!」

「隠してはいたが… 騙すつもりはなかった」
 男は、視線を落とした。
「思う存分笑いたまえ! 愚かな事に、私は貴方を無二の親友だと思っていた! 尊敬すらしていた!!
 ハハハハ!! ピエロもいい所だ!! どうだった!? 楽しかっただろう、ブラム!!」

31:2004/04/11(日) 00:10


「…それは違う。私も、お前を親友だと思っていた」
 男は、視線を落としたまま告げる。
「もういい、もう嘘は充分ですよ。あの時の教室の言葉も、全て嘘だったんですからね――」
 『蒐集者』は、月を見上げた。
「――私が、愚かだった」

「『蒐集者』、私は…」
 男の言葉を、『蒐集者』は遮った。
「すると、エイジャの赤石と『矢』を奪ったのも貴方か…」
 男は答えない。
 その通りだからだ。

「では、貴方が『私を殺す者』なら…」
 『蒐集者』は、憎しみを込めた目で男を睨んだ。
「…なぜあの時、私を殺してくれなかったァァァッ!!」

 『アウト・オブ・エデン』は、壮絶な怒りと苦痛を感じ取った。
 発狂する程の苦痛。
 全てを焼き尽くす程の怒り。
 これは、元々の『蒐集者』の感情か…
 それとも、壊れてしまった事によるものか。
 分からない。
 もう分からない。

「――さよなら、我が友ブラム」
 『蒐集者』は、バヨネットを構えた。
 その背後に、『アヴェ・マリア』が浮かび上がる。

「やめろ、『蒐集者』!!
 私は、『お前を殺す者』と言ったはずだ! 相対消滅を望むか!?」
 『蒐集者』の殺気に押され、男は一歩下がる。

「…それもいいでしょう。そんな結末も、なかなかに面白い!!」
 『蒐集者』は退かない。
 彼は、もう一歩も退かない。

「止むをえんか…!」
 男は、説得を諦めた。
 そして、サングラスを外す。

「アウト・オブ・エデン――」

 全てが視える眼。
 その視線を、世界を覆う程に展開させる。

「――レクイエム」




          *          *          *



 …
 ……
 ………
 …目が覚めた。

 ここは… 俺の家?
 俺は頭を上げた。
 俺は、誰だ…?
 目をこすりながら、ゆっくりと周囲を見回す。

「…おはよう。よく眠れたか?」
 横から声がした。
 …リナーだ。

「…おはよう」
 俺の枕の横に座っていたリナーに挨拶した。
「…ブラムって何?」
 なんとなく、リナーに訊ねる俺。

 リナーは、少しだけ眉を吊り上げた。
「ユダヤ系の一般的な名前、『エイブラハム』の愛称だが… それが何だ?」

「いや、何でもない…」
 俺は布団から身体を起こした。
 リナーが寝かせてくれたのだろう。

「公安五課局長が待っている。全員揃ったところで、話があるそうだ」
 リナーは無表情で言った。
 という事は… 全員、俺が起きるのを待っていたという訳か。
 随分とみんなに迷惑をかけたようだ。

 俺は立ち上がると、ドアを開け…
 ふと思い立って、背後にいるリナーに告げた。
「リナーは、何があっても俺が守るからな」

「…と、突然何を言い出すんだ?」
 そう言って目を逸らすリナー。
「…それより、さっさと居間に行くぞ。みんな待ちくたびれている」
 リナーはそう言って、俺より先に部屋から出ていってしまった。

 リナーは、絶対に俺が守ってみせる。
 …そう、今度こそは。



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