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仮投下スレ2

419パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:48:55 ID:YrRABrO.


−−時間を別の視点から少しばかり巻き戻す。

キョンを追う三人の男女。
その途中で何かを察知したレイジングハートが報告する。
暗闇と雑木林で視界が悪い世界でキョンの動向を探るには、彼女の報告が頼りだった。
ギュオーには彼らが、こんな高性能なAIと索敵能力を持つデバイスを所持してることは知らないだろう。
レイジングハートには、キョンとギュオーの動向はある程度までサーチできていた。

『Mrキョンの近くにもう一つの生命反応を察知しました』
「生命反応? 他に誰かがいるってこと?」

その反応こそギュオーであるが、この時点の彼女たちは知らない。
さらにレイジングハートはリアルタイムで報告を続ける。

『待ってください・・・・・・!
エネルギー反応を感知。
Mrキョンと何者かが戦闘をしている可能性があります!』
「戦闘、まさかキョン君が・・・・・・!」

スバルは焦る。
戦闘と聞いて思いあたる節は、恐慌状態のキョンが何者かに襲いかかったか、逆に何者かにキョンが襲われているか。
今のキョンでは、何をするかわからないし、何をされるかわからない。
止める意味でも守る意味でも、早く保護しなければ・・だが、状況は次々と変化していく。

『・・・・・・?
Mrキョンと何者かが急速に我々の方から離れていきます。
速度は先程までより若干早く、このままではすぐに私の索敵範囲外へ離脱してしまいます』
「・・・・・・急ごう。
スバル、俺はペースを上げるが、君はまだ走れるか?」
「ハイ!」

報告を受け、キョンを追って走る速度を早めるウォーズマンとスバル。
進んだ先には、刃のカケラ−−折れた高周波ブレードが落ちていた。
それが三人の不安を加速させる。

『スバル、あれを見て!』
「あれはキョン君の!?」
「嫌な予感がする。
キョンの奴はいったい・・・・・・」

追跡しつつ、不安を募らせていく三人。
その中で、数十m先の何かが崩れて倒れるのが見えた。

「あそこにキョン君がいる!」

スバルたちは、戦闘が起きてるであろう方向へ向けて駆け出す。

「このやろぉ!」
「私を舐めるな!!」

420パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:49:41 ID:YrRABrO.
二人の男の声が聞こえる距離まで三人は接近し、最後に背の高い草を押しのけて、ようやくキョンと異形の怪物・ギュオーが視界に入った。
ウォーズマンは怪物の纏う雰囲気から、それがギュオーであることを理解した。
そして、キョンを見つけたスバルは第一声に彼の名を呼ぶ。

「キョン君!」

だがその時に、キョンを中心にした爆発が起こった。
幸い、距離が離れていたスバルたちは突風を喰らうしか被害はなかった。
爆発が止み、煙が晴れるとそこには見る限り無傷で倒れている怪物−−ギュオー。
そして爆発によって生み出されたクレーター、そこに横たわるキョン。
そのキョンの身体は肉塊と言っても謙遜ないくらいボロボロであり、その様子に一行は一時、言葉を失った。

「う・・・・・・うぅ・・・・・・」

だがキョンが呻きなら微動だにし、彼にまだ息があると知るやいなや、スバルとウォーズマンは気持ちを切替えて、すぐにキョンの元に向かう。

「キョンくぅーーんッ!!」
「キョン、大丈夫かぁ!!」

−−−−−−−−−−−

421パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:51:30 ID:YrRABrO.

「ああ・・・ああ!!」

メガスマッシャーの暴発によって、キョンの身体は凄惨を極める酷い有様になった。
強殖細胞の大部分が融解・または身体から外れている。
特に爆心地になった上半身は酷く、あばら骨や一部臓器を露出している(ガイバーの機能により不必要な臓器が消えるため、今曝されている臓器は必然的に必要な器官となる)。
熱で肉が炭化した部分もあり、各部からの出血も酷い。
四肢は繋がっていても、ほとんどが複雑に折れて変な方向を向いている。
そして、頭部の装甲の大半が外れて初めてスバルたちの前に晒された苦悶に満ちていた。
今のキョンには『死に体』という言葉が似合いそうだ。
そんな身体で生きているのは、ガイバーの仕業であろう。
暴発によって引き起こされた爆発からキョンの身を守り・・・・・・守りきれていないが、ガイバーが無ければキョンの身体は全て消し飛んでいただろう。
また、ほとんどの頭部装甲が吹き飛んだ中で額のコントロールメタルとその周辺はいまだ健在であり、ガイバーとしての機能は損なっていない。
今もまだ宿主の身体を再生中であり、体が一部炭化しようとも、内臓を露出して出血多量でも、キョンはまだ生きていた。
・・・・・・だが、強殖装甲による再生が、刻一刻と失われていくキョンの生命力に追いついていない。
脳がやられようと再生できる強殖装甲だが、ここまでダメージが酷いとどうなのだろうか?
ガイバーである晶がコントロールメタルを奪われて実質、全ての肉体を失ったが、ユニットに付着した僅かな強殖細胞から復活したことがある。
しかし、それが強者に様々な制限を与えられるこの会場ならばどうか?
制限は参加者のみならずガイバーユニットにもかけられているのが道理だろう。
よって、中途半端な再生能力はキョンに生きたまま激痛地獄を味あわせるに過ぎない。
動くこともできず、叫ぶ力もないので、キョンは苦痛に呻き声をあげるしかなかった。

焦燥のスバルたちはそんな彼を助けようと近寄る。
キョンの首から下を、スバルは直視できない。
見てしまえば、吐き気を催しキョンを助けることに集中できなくなりそうだからだ。
直視できないほど酷かったのである。

「キョン君! しっかりして!」
『これはヒドイです・・・・・・生きてる方が不思議ですよ!』

422パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:52:32 ID:YrRABrO.
スバルたちがキョンを助けようとする一方で、ウォーズマンは彼女たちの背中を守るように後ろに立ち、ギュオーと向き合う。

「ギュオー!
これはいったいどういうことなんだ!」

ウォーズマンはギュオーに向けて語気を強めて問い掛ける。
決して、ギュオーが殺し合いに乗ったとわかったためではなく、元々の彼への疑念に加えて感情が入っているのだ。
問い掛けに対し、できるだけ誠実に繕って無害そうに装うギュオー。

「待ってくれ、君らは奴を追っていたんではないか?
奴は敵じゃなかったのか?」
「・・・・・・保護すべき相手だ。
詳しい経緯は省くが、見張り、守らなくてはいけない奴だったんだ」
「な、なんと!?」

ウォーズマンたちから逃げているので、てっきりキョンが敵対しているのだと思ったギュオー。
実際には、(言い回しからして何か事情があるみたいだが)味方だったのである。
つまり、誤ってギュオーは味方を攻撃してしまったのだ。
良心の呵責がないギュオーには、それ自体のことはどうでも良いことなのだが、問題なのはそれによりウォーズマンたちとの友好関係にヒビが入ったことである。
ギュオーにとって利用価値のあるウォーズマンたちとは、関係を悪化させたくなかった。

(クソッ、合流するタイミングが最悪だ!)

再会のタイミングはちょうどキョンを攻撃した所、目撃される気はなかったのに、キョン(おそらく死ぬ)を襲っていたことがバレてしまった。

ウォーズマンに見せる誠実そうな態度の裏で、自分の思い通りに行かないことに腹を立てる。
だが、あらかじめガイバーが自分にとっての敵であると教え込んでいるため、今なら誤殺や事故でごまかせるかもしれない。
関係そのものの悪化は避けられなくとも、交戦は回避できるハズだ。
ここはなんとか凌ごう−−と、ギュオーは肝に銘じる。
そんなギュオーの心の内を知りもせず、ウォーズマンはギュオーに問い掛け続ける。

「一緒にいたタママはどこに行った?」
「タママ君なら火事になっている北の市街地へ向かった」
「そんな危険かもしれない所へ一人で行かせたのか!?」
「止めようとしても話を聞かなかったんだ!
頭に血でも昇っていたのだろう」

それは嘘ではない。
タママが出ていったことで、一人でにこの殺し合いに関しての考察ができたのは秘密だが。

423パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:54:59 ID:YrRABrO.
タママの動向についてわかった所でウォーズマンの質問は次に移る。

「おまえを疑いたくはないが、キョンに襲いかかったのは故意ではないんだな?」
「待ってくれ!
私にとってガイバーは敵なんだ。
やらなきゃやられると思ったのだよ。
それを君たちの仲間と知らずに討ってしまった事には責任を感じてる・・・・・・
信じてくれ、あくまで自分の身を守ろうとしてやってしまった事なんだ・・・・・・!」
「ぬぬぬ、おまえを信じてやりたい気持ちはあるが・・・・・・」

偽りの自責の念を見せつけるギュオーと、彼の真意に気づかず気を許してしまいそうなウォーズマン。

(これで良い。
まだ先は長いのに争って消耗したくはないし、コイツらには戦闘面で利用価値があるんだ。
それにどうやら、あのガキの持つユニットにも制限があるのか、再生力には限界があるみたいだな。
制限をかけないと、ユニットを持つ者の優勝が簡単になってしまうし、無理もないか。
う〜む、わざわざ禁止エリアにほうり込む必要はなかったか?)

ギュオーはユニットにもある程度の制限がかけられている事に気がついたようだ。
その上で考えを練る。

(ユニット自体はまだ健在だ。
このガキが死ねばその内ユニットが手に入る。
私が襲った真相についてもあやふやになる。
今は粘るんだ!)

野望に燃える男は、キョンの死を待ち望む。
ロボ超人は疑念を持ちつつも、それに確信に変えることができないでいた。

−−そんな一方で、スバルはキョンを助けるべく方法を模索する。

「がはぁ、くうう・・・・・・」
「キョン君!
・・・・・・早く助けないと!」

だが、スバルやリイン程度の魔法による治癒では、瀕死のキョンを助けるには至らない。
今のキョンを助けられそうな魔導士はシャマルぐらいしかいないが、この殺し合いの場にはいない。
他に助ける方法も思い浮かばず、キョンの苦しむ声を聞きながら焦るのが関の山だった。
方法が無いとはいえ、衰弱するキョンをスバルは見ていられない。
ガルルと同じく、目の前にいるのに助けられないのは、もう沢山なのだ。
悲しみと無力感でスバルの目頭が熱くなる・・・・・・そこへ、ギュオーと話していたハズのウォーズマンが励ましの言葉を送りながら現れる。

「諦めるなスバル!!」
「・・・・・・ウォーズマンさん?」

ウォーズマンはスバルの側にしゃがみこみ、デイパックを開ける。

424パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:57:52 ID:YrRABrO.
「支給品の中にはキョンを助けられる道具があるかもしれん。
俺もデイパックの中身を全て把握しきっていない。
だからデイパックを調べて何か使える物が無いか探すんだ!』
「そうか、それなら!」

キョンを救える道具がデイパックの中に眠っているかもしれない。
それを思いたったウォーズマンは自分のデイパックを漁り始める。
僅かでも希望が見えたことにスバルは眼を輝かせ、リインと共にさっそく自身のデイパックを調べ始める。

スバルのデイパックには、円盤状の石、首輪、SDカード、カードリーダー、巨大化させる銃・・どう考えても役に立ちそうな物は見当たら無い。
ウォーズマンのデイパック。
スナック菓子に木の美・・・・・・役に立つ物がなかなか見つからない中で、ウォーズマンが何かを発見する。

「これはいったいなんだ?」

金属で覆われたハンドサイズのカプセル状の物体。
一瞬、キョンを救える物かと期待したが・・・・・・

『それはN2地雷って言う一エリアをほとんど吹き飛ばすトンでもない爆弾みたいです』

付属の説明書を読んだリインが、謎の物体が爆弾であることを告げる。
期待通りに行かず、落胆せざる追えなかった。
爆弾じゃなかったら、それを地面に叩きつけてたぐらいにだ。

425パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 22:58:48 ID:YrRABrO.

「爆弾なのか、チッ。
・・・・・・ん?」

自分たちがキョンを助けようと道具を探している横で、傍観者のように動かないギュオーを見つけたウォーズマンは、今ある苛立ちをぶつけるように言った。

「何してるギュオー!
おまえも責任を感じているなら手伝うんだ!」
「あ・・・・・・ああ、すまない、今すぐに私もデイパックから使える道具を捜してみる」

指示を受けたギュオーは内面的に渋々、デイパックから道具を探す『フリ』をする。

(まったく、誰に物を言ってるつもりなんだウォーズマンは。
・・・・・・いかんいかん、ここはガキが死ぬまで適当に道具を探すフリをしていれば良い)

ウォーズマンの態度に不満気でありながら、演技を続ける。
デイパックが開けば、首輪についていた血の臭いも解放されたが、キョンの流す更に濃い血の臭いで掻き消されてしまう。
ここまでのギュオーの目論みは、ほぼ順調だったに違いない。

ギュオーが作業を仕出したのを確認すると、ウォーズマンは視線をキョンに戻し、まだ手に持っているN2地雷をデイパックに戻す・・・・・・のを忘れて、地面に置く。
彼は大分苛立っている様子だ。

「まだ道具はあります!
きっと助けられる道具があるハズなんだ!」

426パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:05:12 ID:YrRABrO.

スバルはウォーズマンにそう言い聞かせた。
こうしている間にもキョンは弱っていく、かろうじて息はあるが、呻くことももうできなくなっている。
キョンはもはや限界だった。
だからこそ、諦めてはならない。
デイパックの中に都合良くキョンを助けられる支給品があるとは限らないが、それでも自分たちが探さなければ助けられる可能性もゼロになる。
何よりガルルやメイの時と同じく、スバルもウォーズマンも、何もできないまま、目の前で人が死ぬのはもう沢山なのだ。

「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない。
キチンと罪を償って元の世界に帰すまで、あたしはあなたを生かしてみせる!」

キョンを必ず助けたい強い意思から、スバルは祈りながらデイパックの中へ腕を突っ込み、道具を探し続ける。

(お願い!
キョン君を助けられる道具が出てきて・・・・・・!)

「コレはたしか・・・・・・?」

祈りが通じたのか、デイパックの中から出した隣のウォーズマンの手には宝石のようなものが握られていた。
その宝石こそ、幸福と不幸をもたらす青い魔石−−ロストロギア。
それを見たスバルとリインは思わず声を揃えて驚く。

「これは・・・・・・」
『まさか・・・・・・』
「『ジュエルシード!!』」

−−−−−−−−−−−

427パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:07:34 ID:YrRABrO.

最悪だ。
まさかこんな形で俺が終わるなんて・・・・・・

利用するつもりだったギュオーが、有無を言わさずに襲いかかってくるなんて想定できるハズがない。
おまけにそのギュオーに殺されるなんてビックリ展開だぜ。

結果、俺の身体はメガスマッシャーの暴発で体中ボロボロのバラバラ。
もう、首から下の感覚が痛すぎて、どう痛いのかよくわからん。
気が狂いそうな痛みと、死の恐怖って奴が、現在襲進行形で俺を襲いかかっている。
どれだけ痛くとも叫ぶ気力すらない。
こんなんで何で生きてるかって?
ガイバーのおかげだろ、たぶん。
まあ、こうやって考え込む程度の正気はギリギリで保っている。

・・・・・・俺の命はたぶんもう持たないな、自分の身体だからよ〜くわかる。
強殖細胞が俺を再生させようとしてるが、ほとんど間に合ってないようだ。
あの女が必死で俺を助けようとしているが、無駄だろう。

すまない、ハルヒ、朝比奈さん、妹・・・・・・
俺はここでリタイアのようだ。
あとは、一人にしちまって迷惑をかけるが、古泉が頑張ってくれることを期待するしかない。
でも、アイツがパソコンの掲示板を見ていたら、きっと怒ってるだろうな。
ひょっとして、仮にアイツが優勝したら、望みが俺だけ生き返しさないとかだったりして・・・・・・報いだとしても正直、嫌だな。


ハァ・・・・・・それにしても俺はどこで間違っちまったのかな?
俺が自分を抑えて、あの女たちから逃げなければ良かったのか?
ハルヒを殺した時点からか?
殺し合いに乗らなかった方が良かったのかもな?
そもそも、この殺し合いに連れてこられた時点で、俺の運命は最初から終わってたのかもしれない。

・・・・・・思い返して見ても、守るつもりだった奴を斬ったり、仲間や兄妹を売ったり、蛇の舎弟にされたり、土下座したり。
揚句の果てに、勝手に暴走して泣きわめきながら逃げて、ぶざまに死ぬ・・・・・・俺はこの殺し合いでろくなことは何一つしてないな。
汚いことを色々やって、何もしないまま、俺は死ぬのか・・・・・・
ハルヒたちにあの世で笑われても文句が言えないな。

まぁ、全ては過ぎたことだ。
後は殺し合いが終わった時に長門が生き返してくれることを祈ろうか。

428パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:08:35 ID:YrRABrO.
「・・・・・・ッ、まだ道具はある。
きっと助けられる道具が!」

眼中ではまだ、あの女−−スバルが頑張ってやがった。
黒い男がなんか一エリアのほとんどを吹き飛ばすらしい爆弾を地面に置いて、二人ともめげずに『俺を助けるために』デイパックを漁っている。
何を奴らは、必死になってるんだ?
俺なんてヤツは見殺しにしちまえば良いのに。
『あたしはただの甘ちゃん、偉くはないよ。
でも、そんな甘ちゃんの理想を貫けと言ってくれた人がいる。
だからあたしは、誰であろうと一人でも多くの人を救うと決めた。
キョン君も、これから会う人も、殺し合いに乗った人だって、助けてみせる!』
そういえば、そんなこと言ってたっけ?
しかし、味方はともかく敵だったヤツにまで手を差し延べるなんて、この殺し合いの場じゃバカか変人だぞ。



本当にスバルには変人って言葉は適切なのか?
ふと、疑問に思う。
そして、ここにきて俺がスバルが嫌いだった理由がようやくわかった気がする。

−−スバルが信念を曲げずに戦っているからじゃないのか。
敵にまで手を差し延べ助けようとし、誰であろうが死ねばその悲しみを受け止める。
力の差が歴然な相手にも、立ち向かおうとする。
一人でも多く助けたいという理想を貫こうとするその様は、あまりにもヒロイズムで気高い。
それは同時に、守りたかった少女を殺し、自分が助かりたいために仲間を売ったり、殺し合いのためには仕方ないとわかっていながら仲間の死を聞いて心が耐え切れずに醜態をさらしてしまったり。
所々で信念が揺らいでいたキョンにとって嫉妬の対象になり、彼女の近くにいると自分の惨めさを思い知ってしまう。
この殺し合いにおける進む道は真逆でも、信念を貫く彼女の姿勢は、キョンが自分に求めていた姿だったのかもしれない−−

俺は守りたいものを自分の手で壊しちまった。
必要悪だとわかっていても仲間が死んで芯が折れそうになった。
同盟を組んでいた古泉に対しての仕打ちは、明らかに俺の裏切りだ。

・・・・・・なのにコイツは俺とは逆で、ぶれずにやりたいことをできる。
いったいどうすりゃそこまで強くなれるんだ?
戦闘力じゃなくて、精神的な意味で。
俺もそうなりたかった・・・・・・できれば教えて欲しかった。

429パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:10:10 ID:YrRABrO.

でも、スバルの強くなった理由を知りたくても、もう・・・・・・それはできそうにない。
いい加減、意識が遠退いてきやがった。
視界が徐々に真っ暗になってきやがる。
いよいよ俺は死ぬみたいだな・・・・・・

俺にできることは、スバルと黒い男と小さい女とに看取られながら、仲間を裏切ったことへの後ろめたさを感じつつ、自分を殺したギュオーを憎んで、生きているだろう古泉に殺し合いを早く終わらせてくれるよう期待しながら死ぬだけだ。

・・・・・・虚しいな。
そんでもってSOS団の皆に裏切る以外の何もしてやれないまま終わるんだ。
だが、文句をたれた所でもう遅いんだ。
俺は自分の不甲斐なさを悔いながら死ぬとするか・・・・・・



「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない−−」



誰かの声が聞こえた。
その言葉に俺の意識は溺れきる前に引き戻される。
−−そうだ、俺は裏切ってしまった仲間への償いをまだしていない。

今思えば俺は自分の事しか考えてなかった。
自分の生存率をあげるために古泉を落としめた。
自分は立ち止まるべきじゃないのに、ハリボテのような覚悟で朝比奈さんと妹の死を聞いて、つぶれてしまいそうになった。
優勝して、皆を生き返して日常に帰ることにだって、俺は本気で挑んでいたのか?
優勝そのものが保険になり、目的が殺し合いを促進させることが中心になっても、できるだけ早く皆を生き返らせたい気持ちはあるんだ。

もし、もう一度チャンスがあるのなら、俺は今度こそ本気で殺し合いに挑もう。
その時はスバルと同じく、自分の信念を曲げたくない。

挑むからに、命をかけるぐらいの覚悟で頑張ろう。
弱い俺が誰にも負けないようにするには命を張るしかない。

そして、一秒でも早く皆をを日常に帰す、それこそが不器用な俺なりの償い方だ。
これからは自分の都合ではなく、償いのために戦いたい!



−−死ぬ寸前にも関わらず、そんな決意を固めると、天は俺を見放さなかったのか、閉じかけた視界の奥で青い輝きが見えた。

その輝きを見て思い出すのは、SOS団での日々。
ハルヒによってSOS団に無理矢理入れられた事に始まって。

430パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:11:02 ID:YrRABrO.
長門が宇宙人で、朝比奈さんが未来人だったり、古泉が超能力者だと名乗った事に最初は戸惑ったっけ?
朝倉に殺されかけ、長門が身体張って俺を守ってくれた事。
大人の朝比奈さんに出会いもした。
たまに遊びにきた妹。
島に行ったり、野球やったり、アホで電波な映画を作ったり、コンピ研とゲームをしたりもした。
俺はその思い出の全てが、口ではなんやかんや言いつつも、楽しかったに違いない。
俺はそれらを取り戻し、その日常の続きを皆で見たい。
だが、俺がそのために努力しなくてどうするってんだ!
何もしなくちゃ、皆と一緒にSOS団に戻る資格はねえ!!


俺が意気込むと、例の青い輝きが一層強くなった気がする。
そこで『この輝きに触れれば、俺はもう一度立ち上がることができる』と、直感が告げていた。
これこそ、俺の願いを聞いてくれた神様が与えた最後のチャンスに思えた。
もちろん、今度こそ揺るぎない決意を胸に秘めた俺は、迷うことなくその輝きを掴む。

そして強く願った。

−−−−−−−−−−−

もう迷わないし逃げない。
ハルヒたちSOS団を早く日常に帰してやるためだけに頑張りたい!!
だから・・あと一回だけチャンスをくれ!

−−−−−−−−−−−

そう願い終えると、手の中の輝きが大きくなり、やがて俺を包んだ。
身体中が隅々まで生まれ変わるような感覚を味わう。
もう一度、眼を覚ました時には、俺は以前とは別物になっているかもしれないな。

そして、輝きの先にはハルヒがいた。
表情がよく見えないが、俺を見ていることだけはわかる。
彼女に俺は微笑みながら、自分の胸の内を告白する。

「待っていてくれハルヒ。
朝比奈さんや妹、それに古泉も、すぐにみんな一緒にあの日常に帰してやるからな。
あと・・・・・・口ではああだこうだ言ってたけど・・・・・・俺はやっぱりおまえの作ったSOS団に入れて良かっ−−」



瞬間、硝子を割ったかのように粉々に砕け散る俺の魂。

−−−−−−−−−−−

431パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:12:30 ID:YrRABrO.

スバルとリインが、ウォーズマンがジュエルシードを引き当てたことに驚いている隙に、どこにそんな力が残っていたのか、ボロボロになっている右腕を伸ばし、ウォーズマンの手元からジュエルシードを掠め取ってしまう。
ジュエルシードを持つ手がキョンの心臓の前に添えられると、彼は光に包まれた。
目の前でジュエルシードを奪われ、突然に光だしたキョンに呆気に取られる三人。
多少遠巻きにいるギュオーもすぐに事態の変化に気づき、驚く。
その中でレイジングハートがスバルたちに警告を促す。

『膨大な魔力の発生を感知・・・・・・ジュエルシードが暴走している可能性があります!
早急にMrキョンから離れてください!!』
「でも・・・・・・キョン君が!」
『巻き込まれて死ぬつもりですか!?
上官命令です、早く離れて!!』
「・・・・・・くッ」

デバイスの警告とリインの指示を受けて、二人は仕方なくデイパックを拾ってはキョンから離れた。
スバルは光り続ける彼を心配そうに見つめる。
なぜなら、スバルはジュエルシードが良き結果をもたらさないことを知っているからだ。


やがて、キョンを覆っていた光が消えていく。
すると、キョンがいた位置には『何か』が立っていた。
その『何か』の姿にその場にいた全員が驚くことになる。

『何か』はキョンであった。
キョンはついさっきまでの肉塊状態では無く、人型のフォルムに戻っていた。
しかし、その姿は異様かつ不可解。
目立った特徴をあげるなら、ガイバーと人間がぐちゃぐちゃに合わさっている姿。
言うなればガイバーとは何かが違うのだ。
首から下の外見特徴はガイバーに近けれど、型の合わないパズルを無理矢理押し込んではめ込んだように所々がイビツであり、アプトムのコピー並にガイバーとしての再現率が低い。

432パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:14:46 ID:YrRABrO.
胸の装甲部分の下・ちょうど中心には、キョンのこの変身の原因となったジュエルシードが嵌まっていた。
この場にエヴァの関係者がいたとしたら、ゼルエルを喰らい、S2機関を取り込んだ初号機に似ていると言うだろう。
もっともアレの場合は赤で、こちらの場合は青いが。

首から上はもっと異様だ。
頭部の装甲は角や額部分を除いて剥がれ落ちたままなのか、素顔や頭髪が見える。
血の気を持ってかれたのか、茶色みを帯びていた頭髪は全て老人のように真っ白になっている。
ガイバーの特有の前から後ろに伸びる一本角は、頭から直接生えているようにも見えた。
額に残っていた装甲はヘッドビームの発射口と、コントロールメタルはそのまま。
最後にもっとも異様なのは、頬など一部が強殖細胞に侵された顔は、マネキンのように張り付いたような無表情であり、眼は光も闇も無い虚無を写している。

総じて纏う雰囲気は異様、身体はガイバーでも人でも無いまったく別のクリーチャーのようだ。
当の本人は黙ったまま直立不動であり、その様子がさらに不気味さを掻き立てる。


起死回生したキョンに対して、状況が飲み込めないギュオーとウォーズマン。

「な、何が起きたんだ・・・・・・?」
「さぁ・・・・・・俺にもさっぱりわからん」

逆に、キョンの身に起きた事象の原因を知っているスバルとリインには、キョンが死の淵から蘇ったことに素直に喜べないでいた。
キョンに関して悪い予感がしてならないのである。

「キョン・・・・・・君?」

呟くようにスバルは声をかける。

「・・・・・・」

声にキョンがぴくりと反応を示し、ゆっくりと視線を動かして周りを確認する。
顔色一つも変えずにロボットのように見回し−−突然、問答無用で他の四人に向けて額からヘッドビームを放った。

『わあああ、いきなり撃ってきた〜!』
「キョン君!?」

スバルはサイドステップで、側にいたリインは宙を宙返りして回避する。

「キョン!」
「うぬ!」

ウォーズマンはしゃがみ込んでかわし、ギュオーはバリアを張って防ぐ。
防いだギュオーは、ビームがバリアに当たった時の手応えで違和感を感じた。

(ビームの出力が、私の知っているスペックより強いぞ!?)

433パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:15:53 ID:YrRABrO.
ギュオーは違和感を感じている一方でスバルには、キョンがいきなり周りを攻撃してきたことについて思い当たる節があった。

(ジュエルシードの暴走!?)

悪い予感が的中してしまった。
攻撃してくるのはジュエルシードの暴走かわからないが、現在のキョンは目に見えておかしいのである。

『今のビームには魔力が付加されて出力が上がっていました。
おそらく胸部にあるジュエルシードの影響と思われます』
『ひぇぇぇ、パワーアップまでしているんですか?』

デバイスの分析、それを聞いてリインは驚きを隠せない。
口には出さないが、スバルもリインが言ったことと同じ心境だ。

その三人を尻目にキョンは次の行動へ移る。
駆け出し、ウォーズマンとギュオーの元へ向かう。

「よくわからんが・・・・・・止めなくはならないみたいだな!」

最初に迎撃に出たのはウォーズマン。
向かってくるキョンに向けて、まずはパンチを放つ。
腕力も速さも技術も常人を上回る拳撃、ガイバーになって一日足らずのキョンには避けること不可能のハズだった。
しかし、キョンは拳が当たる寸前に素早く体で捻って回避する。
そして、お返しと言わんばかりに、ウォーズマンにプレッシャーカノンを喰らわせようとするが、すぐに後退して攻撃を避ける。
プレッシャーカノンが直撃した地面は爆音とともに大きなクレーターを作っていた。

「驚いたぞ。
攻撃の威力はもちろん、反応速度まで上がっているとはな」

超人の一撃をかわし、この前に戦ったギガンティックの時には及ばないものの、ガイバーに比べれば攻撃の威力が上がっている。
素直に危険だと感じ、油断はできないと悟った。

そして、次の標的をギュオーに変更するキョン。
ウォーズマンはギュオーに注意を促す。
ギュオーが殺し合いに乗っている疑いの要素は大きいが、今はまだ味方の内に入っている。
敵でない限りは、守らなくてはいけない味方だ。

「ギュオー!
そっちで行ったぞ、気をつけるんだ!」

ギュオーは内心で、(そのまま死んでくれれば後が楽になったのに・・・・・・腹いせも兼ねてもう一度地獄に送ってやるわ!)などと思いながら構える。

434パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:16:32 ID:YrRABrO.
重力指弾による迎撃を行おうとするが、そこへキョンは片手に持っていたカプセル状の物体を見せつける。
その物体に気づいたスバルとリインは戦慄する。
物体の正体はN2地雷、ウォーズマンのデイパックから取り出したものだが、焦っていたため、回収をし忘れていたのだ。
それをいつの間にかキョンに拾われてしまったらしい。

「?」

アレは何だと疑問に思うギュオー。
その疑問を持ちながらも、構わずに攻撃しようとするギュオーにリインが必死に説明して止めようとする。

『それは爆弾です!!
それを爆発させたらここにいる皆が吹っ飛んじゃいますーッ!!』
「なんだと!?」

リインが説明を終えたのはギュオーが攻撃を放とうとする直前、キョンが持つ爆弾を爆発させてはならないと慌てて攻撃を中止する。
ところが、攻撃中止により硬直したそのタイミングを、今のキョンが見逃すハズはなかった。
すかさず、ギュオーに向けてプレッシャーカノンを発射した。

「ぬううううん!!」

ギュオーは防ぐが、その威力はバリアを最大出力にしないと防ぎきれるものではなくなっていた。
すでに攻撃の出力が上がっていたことは予想済みだったのでバリアの出力を上げたのが幸を成したが、それも束の間。
防御をしたことで更に隙を産み、そこへ胸部装甲を開く。
先にも記したが、片肺のメガスマッシャーでも、バリアで防ぐことはできないことをギュオーは身を持って知っている。
そこへさらに、魔力とやらにより出力が上がってるだろうメガスマッシャーの直撃を受ければいくらゾアロードである自分でも危険は必至。
おまけに、爆弾を盾にされているせいでこちらからは満足に攻撃できない。
よってギュオーは回避を選択した。

しかし遅すぎた、否、キョンのチャージの方が早かった。
胸の二つの球体から膨大な粒子の魔力が合わさった極大の閃光が放たれる。

「間に合わん・・・・・・ぬわああああああああ!!」

回避に失敗したギュオーは断末魔を上げて閃光の中へと消えていった。

「ギュオーーーッ!」
「ギュオーさん!」

スバルとウォーズマンが無事を願って名を呼んだ時には、ギュオーがいた場所は焼き払われた雑木林だけが残っていた。

435パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:17:21 ID:YrRABrO.
ギュオーが閃光に包まれる瞬間を見ていた二人にとって、その場に何も残されてないということはすなわちギュオーの死を意味していた。

「そんな・・・・・・」
「やられてしまったのか、ギュオー!?」

あっけなく死したギュオーに悲壮感を覚えるが、キョンは二人の都合など考えずに、再びN2地雷を盾にする戦法をとって襲いかかってくる。

『あれじゃあ迂闊に攻撃できないです!』

自分の腕の中で爆破させることはまずないだろうが、下手に攻撃が加えられず、逆に向こうから撃ち放題である。
彼を助けようとした際にN2地雷の威力を聞いていたのだろう。
でなければ、爆弾を盾にする奇策など使ってこない。
スバルたちが人殺しを嫌うスタンスであり、N2地雷の威力を知っていればこそ通用し、絶大な効果を持つ作戦である。
ウォーズマンが舌を巻くほどだ。

「あれが奴の手元にある限り、ろくに戦えん!」

しかし、リインもまた策を思いつき、二人に耳打ちする。

『(二人とも、一度しか言わないからよく聞いてください。
リインがリングバインドでキョンの動きを封じます。
そこを突いてください)』

パワーアップした今のキョンにリングバインドによる拘束がしきれるかも怪しい。
それでも隙を作ることができ、反応速度が上がって捉えづらい今のキョンから爆弾を奪うには打ってつけの作戦だ。
スバルとウォーズマンは策の意図を理解し了承する。

「了解!」
「任せろ!」

爆弾を盾にヘッドビームやプレッシャーカノンを放ちながら近づいてくるキョン。
スバルとウォーズマンは射撃を避け、右と左の二方向からキョンへ接近、リインはバインドを唱えるタイミングを伺う。
そして、キョンとスバル・ウォーズマンの距離が無くなった時に、リインは唱える。

『今だ! リングバインド!』

魔法の拘束具がキョンにかかる、今度は念入りに頭までかけられた。
しかし、ジュエルシードによる魔力があるせいか、バインドは力技ですぐに消されてしまったが、僅かでも動きに制限がかかり、そこを目論み通りにスバルとウォーズマンが狙う。
高くなった反応速度を持つキョンにより、スバルは爆弾を奪うことに失敗したが、もう一方からウォーズマンが爆弾を霞めとることに成功する。

436パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:19:07 ID:YrRABrO.
「それはおもちゃじゃない! 返してもらうぞ!」

パッと腕からN2地雷を奪い返し、二人はリインの下まで後退し、自分のデイパックにしまい込む。

「やりましたねウォーズマンさん」
『作戦成功ですぅ』
「ああ、後は技を決めてキョンには眠ってもら・・・・・・ん?」

爆弾を奪ってしまえば、あとは全力でキョンを叩いて気絶させるなりして暴走の原因を断ってしまえば良いのみ。
最大の威力を持つメガスマッシャーも、撃ったばかりでチャージが終わってないようだ。
叩くなら今がチャンス!・・・・・・そう思っていた三人だが、行動に移す前にキョンの変化に気づく。

キョンが口を大きく開いている。
・・・・・・暗いためか、喉奥に光る金属球があることにまで三人は気が回らなかった。
そして、放たれる音波攻撃。

『いけない! 早急に退避してください』

レイジングハートが警告するが、三人がその警告の意味を理解する前に怪物・キョンは口から直接、ソニックバスターを放たれた!!

「うわああああああ!!」
「がはっ!?」
『うぐっ・・・・・・』

身体を襲う強烈な痛みにスバルが悲鳴を上げ、ウォーズマンが片膝を付き、リインが羽虫のように地面に落ちる。
前はダメージを受けても根気があれば動く事ができたが、パワーアップしたソニックバスターは動いただけで全身がバラバラになるような想像を絶するダメージが与えられる。
一度倒れてしまえば、二度と立てない気にさせるほどの激痛だ。

射程から離れるほどの力が出ないため、逃れようにも逃れられない。
そんな動こうにも動けない三人に、ソニックバスターを放ちながらキョンは接近する。
トドメを刺すつもりらしい。
最初に目をつけたのはかろうじて立っているスバル、立つことで精一杯の彼女にじりじりと詰め寄っていく。

『ス・・・・・・バル!』
「逃げるんだ・・・・・・スバル!」
「ダ・・・・・・ダメです、身体が動けない!」

1mもしない距離までキョンが腕を振り上げる。
構えからして高周波ブレードで斬り掛かろうとするつもりだ。

「ああ・・・・・・」
『protec・・・・・・振動波で魔力の供給が阻害されてます!』

437パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:22:06 ID:YrRABrO.
レイジングハートもスバルを守ろうと自動で障壁を張ろうとするが、デバイスに送られる魔力が足りず、発動できない。
スバルは逃げられない恐怖の中で死を覚悟した。
そして、キョンの高周波ブレードでスバルが袈裟斬りされる。
バリアジャケットの硬度も虚しく、袈裟型に斬られた傷から血液が飛散する。

「う・・・・・・」
『スバル、いやあああぁあああぁあああ!!』
「キサマーーーッ!!」

仰向けに倒れるスバルに絶叫するリイン。
斬るつけたキョンに激しい怒りを覚えたウォーズマン。

「うおおおおお!!」

怒りを爆発させたウォーズマンは、自身を襲う痛みを押し切り、体内の回路がいかれかけるようなな無茶を押して立ち上がり、渾身の力でキョンの顔面に殴りつける。
パンチが顔面にめり込ませ、直撃したキョンは大きく吹っ飛ばされ背中で地面を滑った。
同時に、ソニックバスターによる音波攻撃は止み、身体の自由が利くようになった。

「コーホー・・・・・・」
「うぅ・・・・・・!」
『生きてた、良かった〜!』
「無事だったのかスバル!」
「な、なんとか・・・・・・傷は浅いです」

438パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:22:55 ID:YrRABrO.
致命傷を受けていたと思っていたスバルが起き上がり、ウォーズマンもリインも安心した。
スバル自身も斬られ、身体に大きな斜め線が引かれるような広範囲の傷を受けたが、傷は浅く、出血はあっても量はたいしたことなかった。
その理由は、キョンの高周波ブレードが短くなっていたことにある。
倒れたキョンの高周波ブレードを見てみると、ギュオーに折られてナイフ並に短くなっていた。
口部金属球は形を変えて再生したが、こちらは再生が間に合わなかったようである。
さらに本人もそれを感知してなかった結果、リーチが足りず、スバルに致命傷を負わせることはなかった。
もし、高周波ブレードが元の長さだったら彼女は真っ二つに両断されていただろう。
今回は運に助けられた。

戦いはまだ終わらない。
倒れたキョンはむくりと上半身を起こし、口内で折れた歯を吐き出して、何事もなかったように立ち上がる。
顔は腫れ上がっているが、超人の拳をその身に受けても痛みは全く感じてないようだった。
そして遠巻きからヘッドビームを放ってくる。
三人はそれを避けながら、会話をかわす。

「ロボ超人である自分が言うのもなんだが、アイツはロボットにでもなってしまったのか!?」

以前のキョンならダメージを受ければ素直に痛がったりし、攻撃が効いたとわかると調子に乗る面があったが、今はそれが無い。
しかし、ただ感情が無いからといって、本能だけで戦っているわけでもなく、時に知恵を働かせて攻撃してくる。
全体的にギガンティックにパワーこそ劣るが、動きは過剰防衛行動モード並、さらに絡め手を使ってくる分だけ厄介に感じられた。
見た目も戦闘力もまさしく怪物である。
スバルはキョンの怪物化はジュエルシードが原因と思い、早く止めなくてはと思っている。

(このままでは、他の人にもキョン君自身にも危害が及ぶ。
ギュオーさんのような犠牲が出る前に止めなくちゃ・・・・・・)

ウォーズマンは自分が迂闊だったばかりに、キョンにジュエルシードを取られ、怪物にさせてしまった。
さらにN2地雷を回収を忘れてしまい、その結果、ギュオーが命を落とした。
ウォーズマンは心を痛ませる程の強い責任を感じている。

439パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:24:17 ID:YrRABrO.
「奴を怪物にさせたのも、ギュオーが死んだのも俺のせいだ・・・・・・絶対に俺が止めなくてはならん!」

だからこそ、キョンを全力を尽くして止める腹づもりだった。
キョンを止めたい気持ちは、スバル・ウォーズマンともに同じである。
・・・・・・しかし、レイジングハートがそれを許さなかった。

『いいえ、この場は即座に撤退してください』
「なんですって?」

二人は耳を疑った。
自分たちはまだ戦えると意気込んでいたからだ。
だが、デバイスは誰よりも冷静に状況を読んでいた。

『今のMrキョンを相手にするには、体力・打撃力が不足しています』
「ここでキョンを止めないと被害が増えるぞ!」

正義超人として、己の責任として、キョンを見逃したくないウォーズマンは反論する。

『しかし、スバルは消耗が激しく、Msリインフォースではパワー不足。
あなたに至っては動きが鈍くなってます、おそらく内部のパーツをいくつかやられたのでしょう』
「ぐっ・・・・・・気づいていたのか」
「ウォーズマンさん、怪我をしていたんですか!?」
「おそらく、さっきの音波攻撃の時に無茶をしたのが祟ったんだろう」

このデバイスは細かい所にも目を配ってたようだ。
ウォーズマンの表面では見えない負傷(故障?)も見抜いていたらしい。

『よって、Mrキョンを止めるには戦力が不安要素が多過ぎです。
再度、撤退を提案します』
(キョン君は止めたい・・・・・・
でも無茶をして空曹長やウォーズマンさんまで犠牲にしたくない・・・・・・)
(被害を食い止めたい。
しかし自分だけならまだしも、スバルたちにまで危険で犯させるわけにもいかない)

自分たちでは力が及ばない悔しさを感じながらも、仲間は犠牲にできないと二人は思い苦渋の決断をする。

「わかった。
この場は引こう」
「あたしも・・・・・・引くしか無いんですね」

三人はキョンの下から逃走することを決定した。
しかし、キョンの方がやすやすと見逃してくれるとは思えない。
そこでリインが申し出た。

『リインが殿になって、二人の背中を逃げきるまで守ってあげます』
「リインフォース・・・・・・頼めるか?」
『二人がやられる姿は見たくありません。
キョンに一発も当てさせる気はありませんから早く任せてください』

リインは自信ありげに指示を出す。

440パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:24:57 ID:YrRABrO.
「わかりました。
頼みます、空曹長」
『もちろんですよ』
「よし、では任せたぞリインフォース!」

その会話を最後に、スバルとウォーズマンはキョンから逃走を始めた。

西方面はキョンが塞いでいるので、通ることはできない。
無理に通り抜けようとして、ソニックバスターでも喰らえば今度こそおだぶつだ。
だから、東方面へと、キョンに背を向けて逃げるしかなかった。

背中を見せる二人に、キョンは容赦なくビームやカノンを撃ち込もうとするが、リインの魔法攻撃がそれを阻む。
魔法で出した剣や得意の氷結系魔法で迎え撃つ。
倒すには些か攻撃力が足りないが、牽制と時間稼ぎが目的なので問題無い。
要は、一歩でも多くキョンを進ませず、一発でも多くキョンに撃たせず、一発もスバルたちに当てさせなければ良いのだ。
キョンが逃げるスバルたちを追おうとすると、必ずリインに邪魔をされ、キョンは思うように追跡できない。
その間にだんだん、一人と三人の距離は離されていく。

しかし、撤退戦の中、リインは疑念を抱き始めていた。

(攻撃の頻度がだんだん落ちてる気がする?)

ついさっきまでは、乱射というレベルで射撃をしていたキョンだが、だんだん一辺に撃つ回数が少なくなっていた。

よく考えれば先程からおかしな行動も目立つ。
音波攻撃の時だって、こちらは全員が動けないのだから高周波ブレードを使わずともビームなどで撃ち殺せば簡単にケリがついたハズだ。
なのに、それをしなかったのはどうしてか?

(消耗をしているんですか?
いや、油断を誘う作戦かもしれません。
どちらにしろ気は抜けないです)

リインはキョンについては深く考えるのを止めた。

やがて、キョンが見えない距離にまで離れた三人。
キョンからの攻撃も止んでいる所からして、だいぶ距離を稼げたのだろうか?

「逃げ切れたのか?」
『油断しないで!
まだ足を止めるには早いです!』
「わかった、とにかく走るぞ」

リインはまだまだ逃げたりないことを二人に促し、スバルたちは駆け続ける。

「キョン君・・・・・・」

その中で、怪物になった少年の名を呟く少女の顔は、疲労の色が濃くなっていた。

−−−−−−−−−−−

441パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:26:28 ID:YrRABrO.

キョンは願い通りに、修羅の道を歩むことに迷わず、責任から逃げず、目的を忘れない、怪物になって強くなった。
死にかけた自分の命を繋がれ、もう一度殺し合いの場に立つチャンスを与えられたのだ。
ジュエルシードはキョンの望みを、酷く歪んだ形で叶えてくれたのだ。
その代償として、感情の全てを失った。
つまり彼は、大切なSOS団での日常を取り戻すために、感情を失い、SOS団での日常の何が大切なのかがわからなくなってしまったのだ。
彼が即席で支払える「大切なもの」はそれしかなかったので仕方なかったのかもしれない。

今のキョンは、自我の一切が消えているため・・・・・・
良心の呵責も無く、平気で人を殺せる。
慢心が無いため、調子に乗ってドツボにはまることは無い。
恐怖が無いため、恐れずに敵に立ち向かえる。
怒りが無いため、我を忘れない。
悲しみが無いため、朝比奈みくるや自分の妹が死んだことに何の感慨も抱かない。
彼の心はもはや冷徹な殺戮マシーンである。
イメージとしてはスバル・ナカジマが未来に戦う相手、洗脳され心無い破壊兵器と化した姉ギンガ・ナカジマに近い。
いちおう、殺し合いを促進させ優勝を目指す目的と記憶・思考だけは残されたが、前者はそれ自体が願いに関わるから、後者の二つは無くすとキョンが優勝を目指す=目的を果たせなくなるため、残されたのだろう。
目的と計算だけで生きる者を魂があるとはとうてい言えないことであるが。


精神的に多大な代償を払って得た力は確かなものだった。
ジュエルシードによって、ガイバーには無い魔力の付加により、武器の攻撃力は軒並み上昇。
超人のパンチもある程度は避けられる反応速度を手に入れた。
そこへ、戦いに邪魔な感情が無いことにより、より無駄の無い戦いをできるようになった。

だが、代償を払ったにも関わらず、この強さには副作用がある。
力を使う度に体調が悪化し、寿命を擦り減らしていくように感じるのだ。
「・・・・・・ぐふッ」

戦闘が終わり、スバルたちも去ったしばらく後、彼は人知れず吐血をした。
吐血の原因はウォーズマンに殴られたからではなく、自分の内側からくる崩壊によるものである。

442パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:27:09 ID:YrRABrO.
元々、無茶苦茶な融合をしたため、身体のバランスを欠いてしまっているのだろう。
頭髪が全て白髪化したのも、急激な肉体の変化に追いつけなかった証である。

さらに。戦う度にそのバランスが崩れていき、元に戻せないほどバランスが崩れれば死ぬ。
同じく戦闘に特化した調整を行ったために、生命体としてのバランスを欠いて寿命が一週間足らずになってしまったネオ・ゼクトールという前例もある。
キョンの場合はあまりにも計算度外視の融合だったため、ゼクトールよりも生命体としてのバランスが悪く、寿命は短くなっている上に、戦うだけで死に近づく。


ヘッドビーム、プレッシャーカノン、ソニックバスター、メガスマッシャーと立てつづけに使ったので、体調は一気に悪化し、局面においてそれらの武器を使わなかったり、使用の頻度が下がったのはそのためである。
先程の戦いはキョンの圧倒的な優勢に見えて、実はキョンも戦えば戦うほど消耗していた(ただし、顔には出ない)、故にスバルたちを追うこともしなかった。
あと一人、ナーガレベルの強さの参加者がいたら負けていたのは自分だろう。
と、キョン自身も自覚していた。

今から会場の参加者を皆殺しに回ろうとしても、多く長く戦闘も不可能な調子の身体では4・5回も戦えば倒れるだろう。
基本的には遠巻きから狙撃するなり、嘘を流して殺し合いを加速させることに専念し、あくまで直接正面から戦うのは最終手段にするべきだと頭に刻む。

結局の所、高い代償を払って得た力は、一歩間違えれば自滅しかねないイビツて不安定な強さだったのである。

443パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:30:21 ID:YrRABrO.

さて、ギュオーやスバルたちを襲った理由だが、これは無差別ではなくわけがある。

まず、ギュオーは自分のガイバーユニットを狙っていたので殺しておくべきだと判断した。
仲間にしてもいつかは寝首をかかれるからだ。
それだけではなく、先の発言より自分から首輪も奪うつもりだったことがわかった。
つまり、この男は単純に優勝を目指しているわけではなく、首輪を解除して主催者に対抗するつもりなのだ。
主催者たちにはまず勝てないとしても、首輪を外されれば禁止エリアでも自由に行き来ができてしまう。
そうなれば殺し合いが停滞してしまい、ゲームの終了が遅れてしまう。
それを許さないために、ギュオーを抹殺した。

続いて、スバルとウォーズマンたち。
この二人はギュオーと違って自分を殺すことは無いだろうが、代わりに自分が殺し合いをしようとする度に邪魔になるのは明白だった。
邪魔をされては目的の遂行が遅くなる。
警戒心があり隙もないので利用しようにも利用できない。
だから排除しようとした。
しかし、戦闘中に自分が消耗してしまい、取り逃がしてしまった。
自分の危険性を言い触らされるだろうが、どっちにしろ醜い今の姿では見られただけで警戒されるとも思える。
だったら姿を極力曝さないように心掛けた方が良かろう。
また、向こうは強力な爆弾を持っているので、自決ついでに爆発に巻き込まれたら、いくらパワーアップしたとはいえ持たないだろう。
よって追跡は諦めた。


過程はともかく、ようやく一人になることができた。
自由になったキョンは次の行動方針を考える。

まず、火事になっている北の市街地、ハルヒの死体が燃えてしまうのではないかと、前には思っていたが、それは流した。
ハルヒを殺し合いに参加させた以上、ハルヒの身に何があっても良いように考慮されているハズなのだ。
例え、死のうと、死体が焼かれようと、もっと酷いことになっていようと、万能な力を持つ統合思念体ならば生き返す問題無いハズだ。
だから北の市街地へ向かうのは止めておいた。

そして、18時に古泉と採掘場で待ち合わせをする約束を思いだす。
もっとも肝心の18時はとっくに過ぎてしまったが、古泉がいないとしてもあそこは隠れる場所にはちょうど良い。

444パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:30:55 ID:YrRABrO.
高周波ブレードも折れたままであるし、休憩をして体力を回復させて武器の再生を待つこともできる。
古泉がいれば、殺し合いを加速をさせるために再度、連携を取ろうと思う。
掲示板を見て怒っており、言うことを聞かないようなら力で捩伏せて言うことを聞かせよう。
全ては目的のためだ。
−−善悪の概念や罪悪感を失っているため、古泉をおとしめた事に今は何も感じず、仲間を強引に言うことを聞かせようとする非道な行いなど、今の彼は平気で考えられるのだった。

しかし、東方面はスバルたちが逃走した方向。
採掘場で接触してしまう可能性は大いに有り得る。
彼女らは、ナーガから手に入れた首輪を所持している。
殺し合いの停滞を防ぐためには、ギュオー同様に消す必要がある。
されど、自分もかなり消耗しているため、また取り逃がすかもしれないし、最悪の場合は負けてしまう。
もし、見かけたら隙をついて殺すか、遠くから見張るくらいが関の山だろう。
それでも今は他にいく当てもなく、さっき放送をろくに聞けなかったせいで、禁止エリアはともかく現状の死亡者については曖昧にしか覚えていない。
この殺し合いに、再度挑むからには態勢を立て直す必要がある。

また、やり方や思想の違いはともかく、首輪の解除を狙う者が多いとも知った。
殺し合いを加速させるためには、思想に問わず、首輪解除を考える者や技術を持つ者を率先して殺す必要があるとキョンは思い至る。
逆に、純粋に優勝を考える者ならゲーム終盤までは隠れて支援するのも一つの手だろう。
余計な事は考えずに、優勝を狙う参加者だけになれば殺し合いはより円滑に進めるだろう。
そして、最終的に自分が死んでしまっても長門によりハルヒたちと共に生き返れるだろうが、自分がこのゲームを掻き乱す事で、一秒でも早く日常に帰れるなら、一秒でも多く生きのびておこうとも、キョンは思考している。
・・・・・・何にせよ、それらは態勢を整えて、ペースを安定させなければ始まれないようだが。

とりあえずの行動方針は決まり、キョンは一路、採掘場へ向かうことにした。


−−道化だったキョンはもういない。
ここにいるのは、キョンという名の抜け殻である。

445パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:34:09 ID:YrRABrO.
【G‐5 森/一日目・夜】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】ジェエルシードを通したガイバーユニットとの融合、両腕高周波ブレード破損(再生中)、生命力減退、白髪化、自我喪失
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0、手段を選ばず優勝のために手段を選ばない。参加者にはなるべく早く死んでもらう。
1、採掘場へ行き、隠れて態勢を立て直す。できれば古泉に会い、再度連携を取る。
2、戦う度に寿命が擦り減るので、直接戦闘は最終手段。基本的には殺し合いの促進を優先。
3、殺し合いの停滞を防ぐため、首輪解除や脱出方法を練る者(例えマーダーでも)を優先して攻撃。
純粋に優勝を狙うマーダーは殺し合いが終盤になるまで、ある程度は支援。

【備考】
※ジュエルシードの力で生を繋ぎ、パワーアップしてますが、力を行使すればするほど生命力が減るようです。
※自我を失いました。
思考と記憶はあっても感情は一切ありません。
※第三回放送の死者について、古泉・朝倉が生きていること、朝比奈みくるとキョンの妹が死んだこと以外は頭に入ってませんでした。
※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っています。自我が無いので考え直す可能性は低い?
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。

446パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:37:12 ID:YrRABrO.
−−−−−−−−−−−

その頃、無事にキョンから逃走を果たしたスバルたちはG‐6を走り続けていた。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
「コー・・・・・・ホー・・・・・・」

スバルは度重なるダメージと疲労で息を切らし、ウォーズマンは内部にダメージを受けたためどこか動きが鈍い。
リインもまた、二人と比べればマシではあるが、傷や疲れが無いわけではない。
消耗が激しいのは一目瞭然だ。

「・・・・・・!」

 ドサッ

『スバル?』
「おい、大丈夫かスバル! スバルーッ!」

そして、今までの消耗が少女の許容限界を越えたのか、とうとうスバルは地に倒れてしまった。
魔力の供給が途絶えたため、レイジングハートは杖から宝石の形状に戻り、維持できなくなったバリアジャケットも消えて、元の制服姿に戻っていた。
スバル自身もまた、まるで死んだようの雰囲気で、起きる気配が無い。
その様子にウォーズマンたちの脳裏に最悪の展開が思い当たる。

『ご安心ください、過労による気絶です。
命に直接関わるような損害は何一つありません』
『・・・・・・ただの気絶ですか、心臓が止まるかと思ったです』

レイジングハートがスバルに死ぬほどの異常は無いことを聞くとリインは安堵する。
しかし、ウォーズマンはあくまで緊張を維持している。
彼は眠るスバルを抱き抱えて持ち上げる。

「いや、スバルがいっそう無防備になったことに変わりない。
キョンだってまだ追ってくるかもしれないんだ。
俺が全力で守ってやらないといけないな・・・・・・」
『リインのことを忘れてるです、ウォーズマンさん』
「ああ、すまない」

スバルを守る者の中に、自分だけしか頭に入れてなかったのをリインに謝ると、スバルを両腕に抱えたまま逃走を再会した。

『しかし、どこへ行くんですか?』
「ああ・・・・・・、このまま逃げ続けるほどの余裕は無いし、危険人物に狙われるようなふきっさらしの場所ではない、ちゃんとした施設でスバルを休ませたい。
俺自身もガタがきてる、どこかで休みたい」

本当は、怪物になってしまったキョンを止めたかった。
しかし、今の消耗した自分では、挑んだとしても死体が増えるだけだとも理解していた。
ならば、生き延びて万全な状態でキョンを止めにいった方が良い。

447パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:38:10 ID:YrRABrO.
今逃げているのははあくまで力を蓄えるための戦略的撤退だ。
まず、力を取り戻すためには、どこかで休む必要がある。
外よりも施設の中の方が、動けないスバルを休ませるためには比較的に安心できるだろう。

だが、疑問もある。
ここしか逃げ場がなかったとはいえ、東方面にはメイを襲ったマスクの男がいる可能性が大きい。
そこへ向かったハズのギュオーが死んでしまい、いるのかいないか、捕まえたのかどうなのかもわからなくなってしまった。
ウォーズマンにとって、どうなっているかわからない東方面は、進むだけで危険があるかもしれない未知の領域なのだ。

施設ごとのデメリットとしては−−
採掘場はこのG‐6から最も近いが、その分だけキョンがすぐに追いついてくるかもしれない。
博物館は採掘場よりは遠く、キョンと出くわす可能性も減るが、マスクの男のような危険人物と鉢合わせになるかもしれない。
レストランは一度行ったことがあるし、マスクの男と出くわす可能性も減るが、今度は北の市街地から遠くなってしまう。
モールや山小屋を目指すにしても、距離からして自分の体力が持つだろうか?

(参った・・・・・・、俺はどうすれば良い?
どの選択も間違っている気がしてきた)

八方塞がりという感覚に苦悩するウォーズマン。そんな折に彼の頭に過ぎったことは、ジュエルシードで怪物と化したキョンと、それにより犠牲になったギュオーのこと。
ギュオーには大きな疑いがあったものの、自分が焦ってN2地雷の回収を忘れてなければ、死ぬことはなかったハズだ。
キョンを見張りつつも守るつもりが、一度逃してしまい、自分の隙でジュエルシードを奪われ怪物と化させてしまった。
どちらも自身の過失であり、非常に強い責任を感じていた。

(俺がしっかりしていれば、キョンもギュオーも・・・・・・!)

メイを始めとする今まで守りきれなかった者たちの顔が思い浮かぶ。
新たにギュオーがその中に加わった。
自分がしくじる事で、今度はスバルまでその中に入れたくはなかった。

(ギュオーのような犠牲者を出さないためにも、もう二度としくじりたくはない!
例えこの身がボロボロであろうとも、これ以降は絶対に守ってみせる!)

448パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:39:18 ID:YrRABrO.
彼はクヨクヨ悩むよりも、二度と間違えないようにする道を選んだ。
それが多少の無茶をすることであっても、それは正義超人らしい選択でもある。

(・・・・・・キン肉マンだって、ヨボヨボの身体でありながらも、ここまで生き抜いているということは、この会場のどこかで人を守るために戦っているんだ。
俺も同じ正義超人である以上、くじけるわけにはいかない!
ウジウジと悩むわけにもいかない!)

強く、優しく、正義感の強い超人キン肉マンの事を思い、ウォーズマンは自分を奮い起たせる。

選択は慎重にするべきだが、選択することに臆病になってはいけない。
その思いで彼は良く考えた上で自信を持ち、リインに向けて自分の決断を述べる。

「よし、決めたぞ。
俺たちの向かう先は−−」

449パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:41:58 ID:YrRABrO.
【G‐6 森/一日目・夜】

【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、草壁姉妹やホリィ(名前は知らない)ギュオーへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン、、クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の実@キン肉マン
、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
デイバッグ(支給品一式入り)
リインフォースⅡ(ダメージ・小/魔力消費・中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS

【思考】
1、とにかく今はキョンから離れる。どこかの施設でスバルや自分を休ませたい。
2、タママの仲間と合流したい。
3、もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
4、スエゾーとハムを見つけ次第保護。
5、正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒せる。
6、超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
7、暴走したキョンは戦力が万全になり次第、叩きのめす。
8、ギュオー・・・・・・俺の不注意のせいで・・・・・・すまない!
9、機会があれば、レストラン西側の海を調査したい。
10、加持が主催者の手下だったことは他言しない。
11、紫の髪の男だけは許さない。
12、パソコンを見つけたら調べてみよう。
13、最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。

【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました。
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました。
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています。
※加持リョウジが主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくらクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。

450パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:43:00 ID:YrRABrO.


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(極大)、魔力消費(極大)、胸元に浅い切り傷、過労による気絶
【持ち物】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹
【思考】
0、(気絶)
1、機動六課を再編する。
2、何があっても、理想を貫く。
3、人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4、戦力が万全になったらジュエルシードで暴走したキョンを止めに行く。
5、ギュオーさんが死んでしまうなんて・・・・・・
6、人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう(ケロン人優先)。
7、オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
8、中トトロを長門有希から取り戻す。
9、ノーヴェのことも気がかり。
10、パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。

【備考】
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)



【N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン】
超強力な爆弾。
見た目は零号機(綾波レイ搭乗)が使用した物と似てる。
劇中に登場したサイズでは参加者が扱えないので、人間が片手で携帯できるサイズで支給されている。
小型化に伴い、その分だけ威力も大幅に下がったが、それでも一エリアのほとんどが跡形も無く消し飛ぶ絶大な威力を秘めている。
さらに詳しい威力については次の書き手さんにお任せいたします。

451パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:45:17 ID:YrRABrO.





諸君らの愛するギュオーは死んだ!
なぜか!?







・・・・・・実は彼はまだ生きている。

その理由をとくと解説しよう。

−−−−−−−−−−−

回避が間に合わずにメガスマッシャーの閃光に包まれた瞬間、ギュオーはある方法により死を免れていた。
最大出力のバリアでも、例え制限下で無くともメガスマッシャーは防ぐ事はできない。
増してや両肺で、魔力により強化されたメガスマッシャーの前ではいくらゾアロードでも一たまりも無い、と思われる。

そこでギュオーのとった判断は、防御では無く攻撃である。
攻撃対象は迫る閃光・・・・・・ではなく、己自身!
重力使いであるギュオーは、自分に重力攻撃を当てて反動で吹っ飛ばし、メガスマッシャーの直撃を避けてしまおうというのを閃いたのだ。
ちなみに中途半端な力をメガスマッシャーにぶつけても弾かれてしまい、結局自分が蒸発してしまうハメになるので、これが一番ベストな選択のようだ。
その時のギュオー自身には、それ以上迷ったり考えたりする時間も無く、すぐに実行に移した。
即座に出力のある限り、パワーを集中し、自分に向けて放つ。

「・・・・・・ぬわああああああああ!!」

自分に殺傷能力のある技などかけた事が(おそらく)無いギュオーは、己の技に悲鳴をあげる。
だが、生き延びるためには必要なダメージだ。
あとは自分のタフネスさを信じるしかない。

そして、目論み通りにメガスマッシャーの直撃を受ける前に反動でギュオーは飛ばされることができた。
他の者の目には、閃光が眩し過ぎてギュオーが飲み込まれたように見えた。
レイジングハートですら、エネルギーの奔流が激し過ぎてギュオーが死んだと誤認してしまった。撃った本人であるキョン自身も死んだ錯覚したようだ。
実際は、少しばかり大きく吹っ飛び、人知れず戦いの輪から外れていただけである。

高出力で放ったため、けっこう遠くまで飛び、最後は川に水しぶきをあげて着水する。
ぷかんと巨体を仰向けで浮かせて、ゆっくりと流されていく。
川から上がりたいが、自分に放った攻撃のダメージですぐには動くことができず、少しの間は川から上がることができそうになかった。
ついでに私は今までこんな痛みを敵にぶつけてたんだな〜と感想を漏らす。

452パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:46:19 ID:YrRABrO.

「しかし、キョンの奴め。
私にナメた真似をしやがって・・・・・・必ず八つ裂きにしてくれる」

キョンへプライドを傷つけられた恨みをギュオーは呟く。
キョンは確かにパワーアップしたが、あれぐらいなら全力を出せば倒す事はできそうだ。
実際に、ダメージを受けたのは脱出のために自分を攻撃した時だけであり、キョンの攻撃そのものは防ぐか避けている。
しかし、周りを消し飛ばせるかもしれない強力な爆弾を持っていたらしく、未知の爆弾を爆発させるわけにもいかず、こちらの実力を出し切れないまま、撃たれてしまった。
まだ負けを認めたわけではないが、あのような者に一杯くわされたことに非常に腹を立てている。
将来の帝王になる男をてこづらせたキョンへの殺意は十分だった。

「首を洗って待っていろよ。
いつか、殺してユニットを奪って・・・・・・ん?」

流されながら、物騒な言葉を呟くギュオーの耳に、ある音が聞こえてきた。
ザーーーーッと、何かを叩きつけるような音がどんどん自分に近づいてくる・・
いったいなにごとだ?
と、ギュオーは地図の内容を思い返してみる。
位置関係的にはG‐4の高所の川を、ギュオーは流れている。
つまり、流れた先にあるのは−−滝。

「!!」

この先が滝であることを思い出したギュオーは焦る。
制限された肉体では、多少なりともダメージは受けてしまうかもしれない。
それを避けるためにギュオーは岸に揚がろうとするが、身体のダメージがいまだに抜けきってないのか、思うように動けない。
そうしてる間にも、滝に近づく度に流れは早くなっていき、ギュオーの焦りも加速していく。
そして−−

「このままでは滝に落ち・・・・・・ってア〜〜〜ッ!!」

何もできぬまま、ギュオーは滝によって頭から真っ逆さまに落ちることになった。
水面に落ちる時には、やたらと盛大な水しぶきを立てた。
さらに、その大きな巨体と重量のためか、落下勢いが余って川の底に額及びゾアロードクリスタルをぶつけてしまう。
しばらくしてから、プカ〜ンとギュオーは浮力によって水面から顔を出した。

「・・・・・・」

頭を強く打ったためか、どうやら彼は気絶してしまったらしい。
頭の上にヒヨコが回っていてもおかしくないくらい眼を回している。

453パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:47:35 ID:YrRABrO.
彼の災難はそれだけに留まらず、額のクリスタルにもヒビが入っていた。
そのクリスタルが獣神将にとって大事かは、わかるだろうか?
きっと普段ならば、あの程度の落下の衝撃で割れることはまず無いハズだ。
だが悲しきかな、制限によるものでクリスタルの硬度までも落ちてしまったのだろう。

クリスタルにヒビが割れた影響によるものかは不明だが、ギュオーは魔人の如き姿から全裸の大柄でガチムチボディな黒人男性の姿に戻っていた。

後はただ流れに従い、流れに委ねるしか、気を失っているギュオーにはできないのである。



そして人知れず、ドンブラコ、ドンブラコと全裸の男はゆっくりと川を流れていったのである・・・・・・

454パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:49:23 ID:YrRABrO.
【G‐4 川/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】気絶、全身打撲、全裸、大ダメージ、疲労(中)、ゾアロードクリスタルにヒビ、回復中
川に流されています
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本、毒入りカプセル×4@現実
空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリヲン、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー
博物館のパンフ
【思考】
0、(気絶中)
1、優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2、、自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
3、首輪を解除できる参加者を探す。
4、ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
5、タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
6、キョンはいつか殺してユニットを奪う。

【備考】
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分を破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の「加持リョウジ」に関するページは破り取られていてありません。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています
※ゾアロードクリスタルにヒビが入りました。変身などに影響が出るかもしれません。治るかどうかは次の書き手さんにお任せいたします。





※キョンもスバルもウォーズマンも、ギュオーが死亡したと思っています。

455 ◆igHRJuEN0s:2009/07/07(火) 23:51:31 ID:YrRABrO.
以上で投下を終了いたします。

456もふもふーな名無しさん:2009/07/08(水) 00:38:17 ID:.ONDy3CI
少し指摘をば。
ギュオーがキョンの顔を確認するのは無理かと。ガイバーの上からでは誰かまでは解らないでしょうし。

それと提案なんですが、キョンの処遇についてはこうしてはどうでしょう。
・死に際、スバルの呼び掛けでキョンが覚悟を決める。
・復活したキョンが自身の強化を知り、万が一にも決意が揺らがないようにスバル達を殺そうとする。
・取り逃がすも、キョンは覚悟完了。
とりあえず、実質洗脳とも言える展開では、強い反発は免れないと思います。
キョンには自分の意思で戦って欲しいという人がほとんどの様ですし。

457もふもふーな名無しさん:2009/07/08(水) 00:40:19 ID:.ONDy3CI
書く所間違えた……

458 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:01:32 ID:/WCPsINo
高町なのは、冬月コウゾウ、ケロロ 仮投下させていただきます。

前編・中編・後編と、無駄に3話構成だったりします……

459脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:02:38 ID:/WCPsINo


「こ……子供になっちゃった……?」
「ケロ〜! 高町殿〜!!」

 ここはG−2エリアにある温泉の施設の中。
 ちょっとしたトラブルから、夢成長促進銃によってなのはは子供の姿になってしまった。
 そんな彼女を前にして呆然とするケロロ。
 そしてさすがの冬月もこの異常事態に驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。
 放送はもう始まっているのだ。

「高町君、ケロロ君。とにかく放送を聞くんだ。
 私は要点をメモしておくが、君たちもよく聞いておいて後で確認してくれ」

 冬月は2人にそう言って手に持っていた3枚のDVDを手近な机の上に置き、デイパックを開いた。
 そして支給されている基本セットの中にある紙と鉛筆を取り出し、メモを取る準備をする。

「あ、はいっ。わかりました」
「わ、わかったであります、冬月殿!
 マッハキャリバー殿もよろしくであります」
『了解です。放送の内容を記録します』

 なのはとケロロが、そしてマッハキャリバーが冬月にそう答えて放送に耳を傾ける。
 なのはは9歳の頃の姿になって夢成長促進銃を持ったまま。
 ケロロは濡れた床で滑って転んだあと、立ち上がろうと起き上がった所だ。

 ちなみになのはは子供になったせいで浴衣がだぶだぶになっていて、とっさに胸元を押さえている。
 ここには老人と宇宙人ガエルしかいないので、誰も気にしていないのだが、乙女のたしなみと言った所だろうか。

 放送では草壁タツオがなにやら前置きを語っていたが、3人はあまりそれを聞く事はできなかった。
 だが、重要な事は言っていなかったようなので、3人は禁止エリアの発表に意識を集中する。

「19時、F−5。
 21時、D−3。
 23時、E−6か……」

 そうつぶやきながら冬月はメモを取っていく。
 今回はかなり島の中央が指定されたようで少し気になったが、今はそれを確認する暇はない。
 放送はまだ続いており、次は死亡者が発表されるはずだったからだ。

460脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:03:09 ID:/WCPsINo

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

 そんな草壁タツオの前置きには耳を貸さず、冬月は死亡者の名前だけを聞き逃さないように集中する。
 なのはとケロロも思う所はあるのだろうが、今は黙って耳を傾けていた。

 だが、なのはの幼い顔には悲痛な表情がはっきりと浮かんでいる。
 何しろ、あの火事の中からヴィヴィオという少女とその仲間が生きて逃げ出せたかがこれでわかるはずなのだ。
 無理もない事だと思いつつ、冬月もまた、加持やアスカ、シンジ、タママ、小砂らの無事を祈る。

 そして、死亡者の名前が次々に発表されていく。

『朝比奈みくる』

「ん? この名前は……」

 そうつぶやいた冬月になのはとケロロがどうしたのかと視線を送る。
 冬月は掲示板に目を通していたため、この名前を知っていたのだが、今は放送の最中である。
 説明は後でいいだろうと判断し、黙って首を振っておく。

『加持リョウジ』

「加持君が……?」
「ケ、ケロ〜〜! 加持殿っ……!!」
「加持さんっ……!!」

 加持の名前があげられ、3人が全員思わず声を上げる。

『草壁サツキ』

「…………」

 知っていたとは言え、サツキの名前を聞くと3人の間に重苦しい空気が流れた。

『小泉太湖』

「この名前、小砂君か!?」
「そんな。小砂ちゃんまで……」

 冬月となのはがつぶやく。
 貴重な協力者だった。守るべき人の1人だった。
 あの小さくともたくましい少女にはもう会う事はできないのか。

461脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:03:42 ID:/WCPsINo

『佐倉ゲンキ』

 3人は反応しない。
 誰も知らない人物だったようだ。

『碇シンジ』

「シンジ君もか……!」

 冬月が再び小さく声を上げる。
 とうとうシンジと冬月はこの島で会えないまま、永遠の別れを迎えてしまった。

(碇……すまない。お前とユイ君の息子を守ってやれなかった……)

 冬月は心の中でそうつぶやき、無念そうに顔を伏せる。

『ラドック=ランザード』

『ナーガ』

 この2名は続けて誰の知り合いでもなかったようだ。

『惣流・アスカ・ラングレー』

「そうか……アスカ君も……」
「アスカ殿が……」
「アスカ……」

 3人ともアスカには複雑な思いがあるが、死を望んではいなかった。
 むしろ冬月やなのはにとってはいまだにアスカは保護すべき対象ですらあったのだ。
 だが、そのアスカもどこかで命を落とした。また救えなかったのだ。

『キョンの妹』

 その名前には誰も反応しない。
 そして、その名を最後に今回の死亡者発表は終わったようだった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

「なんという言いぐさでありますか……!」
「ケロロ君。気持ちはわかるが放送が続いているから今はこらえてくれ……」
「ケ、ケロ〜……」

462脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:04:29 ID:/WCPsINo

 その後の草壁タツオの話は、主催者に反抗して命を落とした参加者が居たというものだった。

『念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
 あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
 勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう?
 愚かな犠牲者が二度と出ない事を切に願うよ。』

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

 こうして第3回、18時の放送は終了した。







「加持さん、サツキちゃん、小砂ちゃん、アスカ……」

 風呂場の脱衣所で、なのはが死んでしまった知り合いの名前をつぶやく。

 放送の後すぐに禁止エリアや死亡者の確認をしてから、彼女は改めて小さい浴衣に着替えに来たのだ。
 さっきまで着ていた浴衣は大きすぎて体に合わず、万が一の場合にも邪魔になるからだ。

 だが、着替えに来た理由はもう一つある。
 少しだけ落ち着いて考える時間が欲しかったのだ。
 あまりにも多くの死亡者。守れなかった人たち。
 それらを受け入れ、気持ちと考えを整理する時間がなのはには必要だった。

「ヴィヴィオや朝倉さんやスバルが生きていた事は嬉しいけど、喜ぶわけにはいかないよね。
 あんなにたくさんの人が亡くなっているんだから。
 それに、あの小砂ちゃんまでが……」

 だぶだぶの浴衣を脱いで小さいサイズの浴衣に袖を通しながら、なのはは悲痛な面持ちでつぶやく。
 自分の腕の短さに少し違和感を感じたが、今はそれよりも死んでしまった人たちの事に意識が向かっていた。

463脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:05:10 ID:/WCPsINo

 例えば、なのはを師匠と呼んで慕ってくれた小砂。 
 サツキが冬月を刺した場所で別れてから行方が知れなかったが、あの後一体何があったのか。
 一体どんな死に方をしたのだろう。
 やはり誰かに殺されたのか。
 自分の居ない所で起こった事はわからない。
 側にいない人は守れない。何もできない。後から結果を知って後悔するだけ。

 これからもこんな事を繰り返すのか。
 知らない所で死んでいく人の名前を放送で告げられて後悔して。
 目の届く場所にいる人を守ろうと必死になって、守れなくて後悔して。
 でも事態は何も変わっていなくて。
 それどころか悪くなっていく一方で。

「このままじゃ……いけないんだ。
 ちっとも前に進んでない。
 時間が流れて死ぬ人は確実に増えていくのに、事件の解決には少しも近づいてない。
 ただみんなを守るだけじゃ足りないんだ。
 ここからみんなで生きて元の世界に帰るには、あの主催者たちを何とかしなきゃ。
 でも、一体どうすればいいのかな、マッハキャリバー……」

 浴衣の前をあわせながら、なのはは胸元にぶら下がっている青いクリスタルのペンダントに話しかける。
 なのはが風呂から上がったので、マッハキャリバーは再びなのはが持つ事になったのだ。

『主催者を打倒するには我々の状況はあまりにも不利と言えます。
 しかし、それでもなお戦う事を選ぶのであれば、
 まず首輪を外すか無力化する方法を考える事が先決ではないでしょうか』
「そう……だね。
 この首輪がある限り、私たちは逆らえない。
 戦うどころか逃げる事さえできないし、逆らったらあの男の子みたいに液体に……」

 首輪に触りながらなのはは小さくため息をつく。

『まだ道が断たれたと決まったわけではありません。
 及ばずながら私も微力を尽くします。
 元気を出して下さい。Ms.高町』
「マッハキャリバー……ありがとう。
 うん。私、諦めたりしない。絶対ヴィヴィオを、みんなを守って、ここから助け出してみせるよ」

 そう言いながらなのはは浴衣の腰ひもを結び、その上に温泉に置いてあった紺色の羽織を着る。
 しばらくはこの格好で居る事になりそうなので、浴衣一枚ではさすがに体を冷やすからだ。

464脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:06:18 ID:/WCPsINo

 そして、着替えを終えたなのはは改めて鏡を見る。
 そこに写っているのは温泉備え付けの浴衣を着た小さな女の子。
 エースオブエースと呼ばれた自分ではない。
 なのはな思わずくすりと小さく笑ってしまった。

「こんな時に、こんな事で笑ってたら不謹慎かな。
 でも、なんだか変な感じ。私ってこんなに小さかったんだね」

 そうつぶやいてなのはは鏡の前でくるっと回ってみたりポーズを取ってみたりする。

 しかし、動いてみて実感したのだが、腰のあたりに微妙に違和感がある。
 体が小さくなったせいで相対的にショーツがかなり大きくなっており、ぶかぶかなのだ。

 ――ちなみに、胸がぺったんこになっているので、すでにブラジャーは外している。

「……ずり落ちて来そうでいやだな。
 いっそ履かない方がいいのかな?
 万が一戦闘中にずり落ちてきてそれが元で死んじゃったりしたら冗談にもならないし」
『バリアジャケットをズボン型に変更すれば対応できるとは思いますが……』
「そうだけど、ずっとバリアジャケットを装着してもいられないし……」
『休息を取ろうという時には特にそうですね。
 Ms.高町が気になさらないのであれば、私としてもこの状況で大きすぎる下着は履かない事を推奨しますが』
「う〜〜ん……」

 乙女の羞恥心と現実の板挟みになってなのはは少し迷ったが、しばらくうなった末に決断する。

「決めた! 脱いじゃう!
 浴衣の時は下着つけないって聞いた事あるし、こんな状況で気にする人いないよね、きっと!」

 そう言ってなのはは一旦羽織を脱ぐと、腰ひもをほどいて浴衣をはだけてショーツを脱ぎ捨てる。
 下着を履かなくても別に害は無いのだが、心理的に違和感は拭えない。
 しかし、万が一にもパンツがずり落ちたせいで死ぬのは嫌だし、せいぜい大人に戻るまでの辛抱だ。
 なのははそう考えて、顔を少々赤くしつつ、また浴衣の前を合わせて腰ひもを締め直す。
 そして、最後にまた羽織を着て着替えは完成だ。

「うん。大丈夫。たぶん一見しただけじゃわからない……よね?」
『そうですね。それに、子供の体型であればさほど気にする必要はないかと思われます』
「うん。ただ、元に戻る時は気をつけないとね……」

465脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:07:01 ID:/WCPsINo

 なのははそうつぶやきながら改めて自分の姿を鏡で確認する。
 戦闘などで動き回ればひどく危険な状態になりそうだが、戦闘になればバリアジャケットに着替えるはずだ。
 今のなのはのバリアジャケットはミニスカートで危険だが、バリアジャケットの変更は可能である。
 少女時代に使っていたバリアジャケットならスカートは長いので、おそらくなんとかなるだろう。



 そして、ひとしきり自分の姿をチェックして一息つくと、なのははまっすぐに立って鏡に写る自分の姿を見つめる。

 そうやって幼い頃の自分の姿を見ていると、その頃に出会った幼いフェイトの姿が自分の横に見えるような気がした。
 あれだけ泣いたのに、死んでしまった親友の事を思うとまた目頭が熱くなって涙が出そうになる。
 だが、なのははそんな感情を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ぐっと両拳を握って気合いを入れた。

「よしっ! 戻ろう!
 まだまだ、私は元気なんだもん。くよくよしてる場合じゃないよ。
 行こう、マッハキャリバー!」
『はい。Ms.高町』

 そう言ってなのはは脱いだ下着の上下と大人用の浴衣を抱えて脱衣所を出た。
 なんとなく口調が子供っぽくなっているのは鏡で今の自分の姿を確認したせいかもしれない。
 しかし、そのおかげでこれまでの自分と今の自分を切り替える事ができたとも言える。
 温泉でいくらか回復できた事もいい方向に作用したのかもしれない。
 いずれにせよ、子供になってしまった事は、なのはにとって悪い事ばかりでもなかったようだ。

(フェイトちゃんも、きっと私に頑晴れって言ってくれる)

(ヴィヴィオを。スバルを。この島に連れてこられた人たちみんなを助けて欲しいって願ってる)

(だから行くよ私。負けない。絶対諦めない。最後までくじけない)

(フェイトちゃん。だから、ヴィヴィオを、みんなを、……そして、私を見守っていて下さい――)

 そんな思いを胸に、冬月とケロロの元に向かうなのはの背を、窓から入った夜風が優しく押す。
 その風から自分を励ますフェイトの想いを感じたような気がして、小さな少女は少し表情を和らげた。

466脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:07:32 ID:/WCPsINo





「加持殿……さぞや無念だったでありましょう。一体誰が加持殿を……
 しかし、我輩きっと犯人を見つけて償わせるであります。
 冬樹殿やメイ殿を殺したヤツらと同じように……
 だから、草葉の陰から見ていて欲しいであります……」

 なのはが着替えに行った後、温泉施設のロビーでケロロがつぶやいた。
 だが、その表情は怒りに震えているといった様子ではない。
 何か不安を感じているような。どこか犯人に怒りをぶつけるのをためらうような雰囲気があった。

 そんなケロロを少し心配そうに冬月が見ている。

(ケロロ君も気付いているのか? タママ君が加持君を殺したという可能性に……)

 ケロロもタママと加持の間がうまく行っていない事は知っていた。
 だからこそ彼らを二人っきりにして話し合わせ、仲良くなってくれる事を期待していたのだ。
 だが、2人は転移装置によってどこかへ消えてしまった。
 そして加持の死。

 冬月のようにマッハキャリバーから2人が消える直前まで争っていた事を知らなくとも、想像はするかもしれない。
 そして、その事を知っている冬月にとっては、タママへの疑いはケロロよりも強い。

(しかし、タママ君はタママ君なりにケロロ君やサツキ君を守ろうとしていたのだ)

(仮に、犯人がタママ君だったとしても、タママ君への対応は難しくなるな……)

 タママが思い違いからそんな行動を取ったのなら説得して罪を理解させる事が正しい道だろう。
 だが、冬月にも加持が何かを企んでいた可能性は否定できないのだ。
 彼は基本的には頼れる男だったが、有能であるがゆえに信用ならないという面も確かにあった。
 加持がサツキの支給品を盗んだというタママの言葉も嘘や見間違いとは限らない。
 だとすれば、充分疑う余地はある。

(だが、たとえそうだったとしても、加持君を殺して決着をつけるという方法を選ぶべきではない)

(少なくとも私にとってはそれが正しい。だが、味方に害が及ぶ前に何とかしようという考えもひとつの正解だろう)

 だから冬月はもしタママが犯人でもタママを罰する事には気が進まなかった。
 たとえ考えが違っても、タママは大事な仲間なのだ。
 やり方に問題があるとしても、望みは同じだったはずだ。
 今冬月達に必要なのは固く結びついた絆である。
 冷たいようだが、たとえ加持の死が原因であっても、できる事なら仲間同士で争う事は避けたいのだ。

467脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:08:14 ID:/WCPsINo

(絆か。タママ君が加持君を殺したとして、それを隠して絆を結ぶなどとは。ただの欺瞞なのではないか……)

(いかんいかん。いつの間にかタママ君が加持君を殺したと決めつけている。私とした事が、軽率だな)

 何もタママが加持を殺したと決まったわけではないのだ。
 ならば今はタママが殺したのではないと信じてやるべきだろう。
 もしも再開できてその時に何か明確に疑わしい事があったならその時に考えればいい。
 今からタママを擁護する事を考えるなど、タママに対しても失礼だ。



「冬月殿。何か考え事でありますか?」

 冬月がタママについての考えに区切りをつけようとしていると、ケロロが声をかけてきた。
 どうやら難しい顔をして考えていたので心配されてしまったようだ。

(いかんな。顔に出てしまっていたようだ。なるべくケロロ君には余計な心配をさせないほうがいい)

 冬月はそう考えて、とっさに平静を装ってケロロに答えた。

「……いや、たいしたことではないんだ。
 これから考えねばならない情報の事を頭の中で整理していただけだよ」
「そうでありますか。
 確かにこれからどうするべきか。考える事は多いでありますなあ」

 どうやらケロロにはそんな冬月の考えは気取られなかったようだ。
 冬月は長年の人生経験から身につけた厚い面の皮を今はありがたく感じつつ、言葉を続ける。

「ああ。だが、何とかせねばならない。
 このままあの草壁という男を喜ばせてなどやれるものか」
「もちろんであります!
 力を合わせて、必ずあの男ともう1人の主催の娘っこをギャフンという目にあわせるでありますよ、冬月殿!」

 ケロロのそんな言葉に冬月は心からの肯定の意を込めて頷いた。

(そうだ。このまま皆の命を、そして私の命をあいつらの好きになどさせてはならんのだ……)

(そのためにできる事は。やらねばならない事はなんだ。考えろ、冬月コウゾウ)

 打倒主催者を叫び気合いを入れるケロロとはまた別のベクトルで冬月も気を引き締めていた。

 戦う力を持たず、特殊な能力もない自分にできる事は考える事だけだ。
 ならばそこに全力を尽くさねばならない。
 冬月はそんな思いを胸に、静かに闘志を燃やすのだった。

468脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:10:24 ID:/WCPsINo


 着替えを終えたなのはが温泉施設のロビーに戻った後、冬月は2人に発見したノートパソコンの説明を始めた。
 ケロロが発見したDVDの事も気にはなったが、内容を見るには時間がかかりそうだった。
 だから一旦その3枚のDVDはデイパックにしまっておき、パソコンの方を優先する事になったのだ。

 ロビーのソファーに座り、パソコンを立ち上げた冬月がまず最初に2人に見せたのは掲示板だった。

「掲示板? こんなものがあったなんて……」
「すでにいくつか書き込みがあるようでありますな」
「うむ。それで、まずこの最初の書き込みを見て欲しい。
 この朝比奈みくるという人物は先ほど死亡者として名前があがっていただろう」

 冬月にそう言われて2人は掲示板の最初の書き込みを読んでみる。
 そこには『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』と書かれていた。
 ちなみにこの書き込みはシンジによるものだが、冬月たちがそれを知る術は無い。

「この掲示板を見ていたから冬月さんは彼女の名前を知っていたんですね?」
「そういう事だ。ただ、この書き込みが真実かどうかは何とも言えない所だ。
 そもそも主催者の仲間だから殺してくれというのが短絡的すぎる。
 私としては、いささか感情的すぎるという印象を受けるな」
「そうでありますなあ。
 しかし、その朝比奈という方も亡くなってしまったわけであります。
 もしやこの書き込みを読んだ参加者に殺されたのでありましょうか?」
「それもわからないな。
 わからないが、そういう可能性もある。
 掲示板に書き込む時はそういう事も考えておかないと無用の衝突を生みかねないという事だな」
「そう言えば、朝比奈みくるっていう名前はさっきのDVDにもありましたね。
 長門ユキ、朝比奈ミクル、古泉イツキの3人……なぜこの3人なんでしょうか?」
「この3人に何らかの繋がりがあると見る事もできるな。
 そうするとこの書き込みもあながち嘘ではないという事になるが……
 しかし、はっきりした事はあのDVDを見てみない事にはなんとも言えないだろう。
 このパソコンでも見られるかもしれないが……まあ、それは後にしようか」

 冬月の言葉に2人は頷き、さらに掲示板の書き込みを読み進めていった。

469脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:11:06 ID:/WCPsINo

「おっ? この書き込みは……ドロロのやつでありましょうか?」
「む? 知っているのかねケロロ君?」

 次の書き込みを見たケロロは、『東谷小雪の居候』という名前にすぐに気付いた。
 東谷小雪というのはドロロが一緒に生活している地球人の少女の名前である。

「この名前からして、ほぼ間違いないでありますよ。
 ドロロは我輩の仲間の中でも特に真面目な男でありますから、
 この書き込みは信用していいと思うであります」
「ふむ。となると、このギュオー、ゼロス、ナーガという3人は危険人物に間違いないというわけか。
 しかし、ナーガはすでに死亡したと先ほどの放送で言っていた。
 となると、我々が知る危険人物は、深町晶・ズーマ・ギュオー・ゼロスの4人。
 それにあの空を飛びミサイルを撃ってきたカブト虫の怪人を加えて5人という事になるか」

 冬月はそう言って、自分をミサイルで攻撃してきた異形の怪人の姿を思い出す。

(あの時はうまく逃げる事ができたが、できれば二度と会いたくはないな……)

「我輩も少しだけその怪人の姿を見たであります。
 体から高熱を放射して森に火を放ったのもそいつでありますよ」
「市街地で激しい攻撃を加えてきた上空の敵も、そのカブト虫の怪人ですよね?」
「状況からすればそうだと考えて間違いないだろうな。
 残念ながら名前はわからないが。
 そう言えば彼は何人かの参加者の事を私に尋ねてきたな。
 確か……アプトム、高町君、キン肉スグル、ウォーズマンの4人だったと記憶しているが」

 そこで自分の名前が出された事になのはは少し驚く。

「どうして私を……?
 他の3人の名前は名簿でしか知りませんし……」
「ああ。彼の目的を聞き出す事はできなかったが、どうやら殺し合いそのものとは違う目的があったように思う。
 アプトムという人物を特に探したがっていて、あとの3人はついでという印象だったが、それも憶測にすぎん。
 結局そこから何かを読み取るのは難しいと言わざるを得ないな」

 仕方がないのでとりあえずアプトム、キン肉スグル、ウォーズマンの3人の名前だけ覚えておこうという事になる。
 そして、3人はさらに掲示板を読み進めていった。

470脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:11:38 ID:/WCPsINo
「中・高等学校内に危険人物……これもドロロが言うのでありますから、気をつけた方がいいでありますな。
 と言っても、この書き込みはお昼前のものでありますから、今どうなっているかはわからないでありますが」
「あんな大火事があったからね。
 ところで、ドロロっていう人は生け花が趣味なの?」

 なのはがケロロに尋ねる。
 掲示板の名前の欄に『生け花が趣味の両きき』と書いてあったからだ。

「やつはペコポンですっかり日本の文化に染まってしまったのであります。
 元々暗殺兵だったでありますが、ペコポンに来て忍者にクラスチェンジしてしまったでありますからなあ」
「に……忍者? 忍者ってあの手裏剣を投げたりどこかに忍び込んだりする忍者?」
「そうであります。
 この東谷小雪というのが忍者の少女で、小雪殿に会った事が忍者になったきっかけのようであります。
 あ、誤解の無いように言っておくでありますが、
 暗殺兵だったと言ってもドロロはまったく危険な人物ではないでありますよ?
 自然を愛し、ペコポンを愛し、正座して茶をすするのがお似合いの温厚なヤツであります。
 その上戦闘能力は武装したケロロ小隊の他の隊員4名を一度に相手にできるほどであります。
 もしドロロが一緒に居てくれればかなり心強いでありますなあ」

 『……時々存在を忘れるけど』と心の中でケロロは思ったが、あえて口にはしなかった。

 そして、その後の書き込みは1つだけ。
 古泉という学生服を着た茶髪の男が危険人物だという内容だった。
 古泉イツキもDVDに名前があった1人だが、DVDを見ていないのでそれが意味する所は不明である。
 また、この書き込みも誰が書いたかわからないので、一応心にとめておくだけにしようと言う事で意見が一致した。







「これで一通り読み終わったでありますな。
 しかし、せっかく掲示板があるのなら我輩たちからもドロロに何か伝えたい所であります。
 我輩たちしか知らない言葉を使って暗号を作れば、
 危険人物にバレないように合流する事だってできるかもしれないであります」

471脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:12:13 ID:/WCPsINo

 そのケロロの言葉を聞いて、なのはも真剣に考え始める。

「そうだね……
 もしヴィヴィオ達がどこかで掲示板の存在を知っていてくれればヴィヴィオ達とも合流できるかもしれない。
 それだけじゃない。スバルとだって……
 でも、ヴィヴィオにも解読できて、危険人物には絶対わからないような暗号が作れるかな?」
「喫茶店で使ったサツキ君の『狸の伝言』を使うという手はあるな。
 ヴィヴィオ君にも解読できるようにとなると、ヒントはなるべくわかりやすくせねばならないが、
 朝倉君も一緒にいるなら気付いてくれるかもしれん」
「おお、その手がありましたな!
 ドロロならばその暗号、気付いてくれそうであります。
 あとは誰の名前を暗号に使うかでありますなあ……
 小雪殿は掲示板に名前が書かれているでありますからやめておくとして、桃華殿かサブロー殿か……」

 ケロロは冬月の提案に賛成らしく、暗号で使う名前を考え始める。
 だが、喫茶店の暗号を知らないなのはは話が飲み込めず、冬月に質問する。

「その『狸の伝言』って、どういうものですか?」
「ある特定の文字を抜くと意味が通じるようにした文章の事だよ。
 喫茶店では『仲間の事は気にしないで』とヒントをつけ、
 私とタママ君の名前の文字を抜くと意味が通じるようにしておいた」
「なるほど。『た』だけを抜くような簡単な暗号なら気付かれやすくても、
 それだけたくさん字を抜くのは見抜かれにくいですね。
 ヴィヴィオやスバルが知っている人なら……はやてちゃんかアイナさんあたりかな?」

 狸の伝言の説明を受けてなのはも納得したらしく、暗号を考え始める。
 だが、冬月は少し申し訳なさそうにそれを遮って言う。

「確かに掲示板に暗号を書き込んで合流を目指すのは悪くないのだが、
 うまい暗号を考えるには少し時間がかかるだろう。
 だからそれは後回しにして欲しいんだ。
 もう一つ、検討したい事があるのでね」



 冬月はそう言ってタッチパッドを操作し、掲示板から画面をトップページに戻してkskコンテンツをクリックする。
 そうするとディスプレイにキーワード入力の画面が表示される。
 そして、その画面の下の方には小さくヒントが表示されていた。

472脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:12:59 ID:/WCPsINo

「冬月さん。これは……?」

 冬月が開いた画面を見て、なのはが尋ねる。

「この画面から先に進むにはキーワードを入力しなければならないようなんだ。
 キーワードのヒントはここに小さく、背景に近い色で表示されているんだが、私にはさっぱりわからなくてね」
「どれどれ。『ケロロを慕うアンゴル一族の少女の名前(フルネームで)』
 ……って、なぜ我輩の事がヒントになっているでありますか?」
「それは私にもわからない。
 だが、わざわざキーワードを入力させるのだから、君たちにだけ公開されている情報があるのかもしれないな」
「我輩たちにだけ、でありますか?
 一体なんでありましょうか。まあ、とにかく入れてみるであります」

 ケロロは考えを打ち切ってキーワードを入力してみる事にした。
 そして、ケロロが「アンゴル・モア」と入力してエンターキーを押すと、画面が切り替わる。
 そこには『参加者状態表:第3回放送時』と書かれている。
 その下には参加者の名前と、ダメージ(大)、疲労(大)、などと言った情報が一覧表になって表示されていた。
 ただし、何人かの状態は『死亡』とだけ表示されている。
 まったく予想外の情報が表示された事に3人とも驚きを隠せない。

「こ、これは……なぜこんなものを我輩たちに見せるでありますか?」
「わからないが、状態に『死亡』と表示されている参加者は私が記憶している情報と一致しているようだ。
 それに、我々の情報に関しては間違っていないようだね。
 例えば私の状態は『元の老人の姿、疲労(大)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意』だ。
 誰が書いたのかは知らないが、なかなか的確に現在の状態を表現していると言えるな」

 そう言って冬月は自分の腹のあたりを左手で軽く撫でる。
 老人の体に戻ったせいもあり、疲労も怪我もなかなかに厳しいようだ。
 一方、ケロロの状態表には『疲労(大)、ダメージ(大)、身体全体に火傷』と書かれている。
 全身が痛み、皮膚がひりひりするのを感じつつ、ケロロもこの情報が間違いないようだと納得する。

「私の状態……『疲労(中)、魔力消費(中)、温泉でほこほこ』って。
 温泉でほこほこなんて事まで書いてあるんだね」
「間違いなく放送直前の高町殿の状態でありますな。
 高町殿が子供になられたのはほとんど放送と同時ではありますが、
 ここに書かれてなくて、元に戻っていない所を見ると、
 子供になったのは放送直後と判断されたのでありましょう」

473脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:13:40 ID:/WCPsINo

 納得する2人に、冬月がやや明るい口調で話しかける。

「だが、我々は運がいいのかもしれないぞ。
 ここに書いてある説明によると、どうやらこの情報は放送の時にだけ更新されているようだ。
 つまり、今このコンテンツを開いたおかげで、我々は参加者の現在の状態を知る事ができるわけだ。
 例えばタママ君の状態は……『疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷』か。
 疲れてはいるが、この処置済みの裂傷というのは早朝にネブラ君と戦った時のものだろうし、
 大怪我はしていないようだな」

 タママの状態を確認しながら、冬月は加持の事を思い浮かべる。
 だが、状態表にはタママと加持に何があったかを示すような記述は無い。
 だから、冬月も今はその事を考えるのはやめておく事にした。

(今はタママ君が無事であった事を素直に喜ぶべきだろうな……)

 そして、冬月がそう考える間にも、なのはとケロロは状態表を読み進めていく。

「ヴィヴィオは『疲労(中)、魔力消費(小)、覚醒直後』
 覚醒直後って事は気絶でもしていたのかもしれないけど、怪我はしてないみたい」

 ヴィヴィオに怪我が無い事を知り、小さななのははほっとした表情を見せる。

「朝倉君の『疲労(特大) 、ダメージ(中)』というのは気になるがね。
 一緒にいたもう1人の子供は名前がわからないので調べようがないか。
 3人がどこか安全な場所で休んでいるのならいいのだが……」
「そうでありますなあ」

 冬月たちはヴィヴィオたちの安全を祈らずにはいられなかった。

 次になのははスバルとノーヴェの状態を確認する。
 ノーヴェの方は『疲労(中)、ダメージ(中)』で、怪我はしているようだが朝倉よりは元気なようだ。
 しかし、スバルの状態表には『全身にダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)』と書かれている。
 どう見ても満身創痍、倒れる寸前としか思えない状態だった。

「スバル……きっと力の限り戦っているんだね。
 でも、早く合流してあげないと、このままじゃ……」
『…………』

 無事とは言えそうにないスバルの状態を見て、なのはは不安な表情を浮かべる。
 マッハキャリバーは何も言わなかったが、きっとスバルを心配しているのだろう。
 マッハキャリバーにとってスバルはかけがえのないパートナーなのだ。
 そう、なのはにとってのレイジングハートがそうであるように。

474脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:14:10 ID:/WCPsINo

 一方、ケロロもまたドロロの状態を確認して少なからずショックを受けていた。

「切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯。
 あのドロロが片目をやられたでありますか?
 現在のダメージは小さいようでありますが……」

 そして、冬月はというと、小砂から名前と特徴を聞いていた川口夏子の状態を確認していた。

「川口君の状態は、『ダメージ(微少)、無力感』か。
 肉体的には問題ないが、精神的にまいっているのかもしれんな。
 無理もない事だ。小砂君のためにもできれば早く合流したい所だが、手がかり無しか……」

 3人の間に重い沈黙が流れる。
 しかし、ここで3人が落ち込んでいても何の役にも立たないのだ。
 だからなのははあえて気持ちを切り替えて他の情報に目を移し、分析を始めた。

「危険人物のギュオーは状態表では全身打撲、中ダメージ、回復中。
 ゼロスは絶好調。
 深町晶は精神疲労(中)、苦悩って書いてありますね。
 ズーマは偽名みたいだからこの表では確認できませんが」
「ギュオーはそれなりにダメージを受けているようだが、他の危険人物は元気なようだな。
 まあ、そうそうやられるような連中ではないという事か」

 続いてなのはは古泉の状態に注目する。

「この古泉一樹という参加者は掲示板に危険人物として書き込まれていましたが、状態は
 『疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り』となっています。
 悪魔の精神ってどういう意味かわかりませんけど、危険な印象は受けますね」
「右腕欠損(再生中)というのも奇妙な記述だな。
 まさか失った腕を再生できるような怪物なのだろうか?」
「学生服を着た茶髪の男って書いてありましたけど……わかりませんね」
「あの書き込みの通り、涼宮ハルヒという参加者を殺したのは古泉という男なのでありましょうか?」

 ケロロは2人に疑問を投げかける。
 あの書き込みは誰が書いたのかわからないが、古泉が危険な人物という事であれば真実かもしれない。

「それはわからないけど、可能性はあるかな。
 DVDに名前が書いてあった事とか、この『キョンに対する激しい怒り』って言うのも気になるし。
 でも、これだけじゃまだ何とも言えないかも」
「キョンと言えば、この『0号ガイバー状態』というのもわからないでありますなあ。
 これは本当に何かの状態を示す言葉なんでありますか?」
「わからんな。主催者にとっては何か意味のある言葉なのかもしれんが」

475脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:14:40 ID:/WCPsINo

 この状態表の記述は確かに正確らしいのだが、たまに意味のわかりにくい所がある。
 『0号ガイバー状態』と書いてあるからにはそうなのだろうが、この3人にはそれが何の事だかわからなかった。
 わからないので、なのははカブト虫の怪人が探していたという人物の状態を見てみる。

「アプトムという人は『全身を負傷(ダメージ大)、疲労(大)、サングラス+ネコミミネブラスーツ装着』ですね」
「ネコミミネブラスーツ……そういえばネブラ君はネコミミの形をしていたな。
 それをこの人物が持っているという事はもしやこの人物が小砂君を……?
 いや、そう考えるのは早計すぎるか。単に取引をして譲ったのかもしれん」

 一瞬アプトムが小砂を殺した犯人ではないかという考えが冬月の頭をよぎったが、冬月はすぐにそれを否定した。
 情報が少なすぎるのだ。憶測だけで何かわかった気になるのは危険だし、トラブルの元にしかならないだろう。

「キン肉スグルは『脇腹に小程度の傷(処置済み) 、強い罪悪感と精神的ショック』でありますな。
 罪悪感を感じるという事は善人のようにも思えるでありますが……」
「それも早計すぎるだろう。
 罪悪感を持っていても殺し合いに乗っている可能性はある。
 むしろ殺し合いに乗った事に罪悪感を感じている可能性もあるしな。
 やはりこの情報だけでは判断できないようだ」
「ウォーズマンの状態は『全身にダメージ(中)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感』ですね。
 この人も罪悪感……それもサツキちゃんに対して。
 サツキちゃんに何かしてしまったという事でしょうか?」
「我輩、サツキ殿とはこの殺し合いの最初から行動を共にしていたでありますが、
 ウォーズマンという人物の話は聞かなかったでありますな……」
「この『ゼロスに対しての憎しみ』というのも気になるな。
 ドロロ君の情報によるとゼロスは危険人物という事だから、何か被害にあったのかもしれない」

 それぞれ気になる事は書いてあるのだが、情報としては弱すぎて参考にはできないようだった。
 しかし、他に何か情報が得られれば合わせて判断の材料にはできるかもしれない。
 このアプトム、キン肉スグル、ウォーズマンの3人に関してはそれ以上言える事はなさそうだった。

476脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:15:12 ID:/WCPsINo

 その後、さらに状態表を調べていた冬月がある事に気付く。

「む? ケロロ君、高町君。このネオゼクトールという参加者の状態を見てくれ」
「えーと、なになに? やけに長いでありますなあ。
 『脳震盪による気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、ミサイル消費(中)、羽にダメージ(飛行に影響有り)』
 ミサイル消費? それに羽にダメージで飛行に影響有りという事はもしやこいつは……」
「そうだ。ミサイルを持ち、羽で空を飛ぶ参加者がそうそう居るとは思えない。
 確証はないが、こいつがあのカブト虫の怪人である可能性はかなり高いだろう」
「それに『右腕の先を欠損(再生中)、破損によりレーザー使用不可、ネブラによる拘束』ってあります。
 この人は腕を再生できてレーザーも使えるんですね。それと、このネブラによる拘束というのは……」
「うむ。おそらくネオゼクトールはアプトムによって気絶させられ、捕まっているのだろう。
 カブト虫の怪人が本当にネオゼクトールであるなら、探していた相手に捕まってしまったという事になるな。
 あのような怪物を捕まえるのは難しいとは思うが、ネブラ君が一緒なら可能かもしれない。
 むろん、アプトム本人の能力によるものかもしれないがね」
「ネブラっていうのは頭に装着すると羽を広げて空を飛んだり触手で攻撃したりできる生き物なんですよね?」
「うむ。確かタママ君の知っている相手だったが、ケロロ君も知っているかね?」
「ケロケロリ。確かにネブラ殿は知り合いであります。
 もっともあまりいい関係とは言えなかったでありますが、
 色々な事があって、最近はそれなりに平和的な関係になっていたであります。
 まあ、それはともかく、ネブラ殿の力であればあの怪物ともやり合えるかもしれないでありますな。
 元々怪物退治は得意とする所でありますからして」

 こうしてネオゼクトールがカブト虫の怪人である可能性が高い事やアプトムに捕まっているらしい事はわかった。
 だが、今のこの3人にとってはそれは行動を決める上で重要な情報ではない。
 危険な参加者が捕まっているというのは安心できるのでいいのだが、それを利用してどうするという事でもないのだ。

 だからこの話はそれ以上に発展せず、なのはは別の参加者に目を向けたのだが、そこに気になる記述を発見した。

「あ、このトトロっていう参加者の状態が『温泉でぽかぽか』になってる。
 もしかしてこの近くにいるんでしょうか?」

 そして、なのはが口にしたトトロという名前にケロロが反応する。

「ケロッ? トトロと言えば、確かサツキ殿が言っておられた名前であります。
 この近くにいるのであれば、お会いしてサツキ殿の事をお伝えするべきかもしれないでありますな。
 しかし、少なくとも我輩があたりを探索した時には誰も居なかったはずでありますが……
 そうでありましたな。マッハキャリバー殿」
『はい。探知可能な範囲には参加者らしき反応はありませんでした。
 ですが、露天風呂の垣根を破壊した跡があり、その状態からまだそれほどの時間は経っていないと思われます』
「おお、そうでありましたな。
 露天風呂の男湯の方の垣根が壊れていたであります」
「ふむ……ケロロ君。そのトトロという人物はどういう人なのかね?
 サツキ君の知り合いならば悪い人間ではないのだろうが、
 一応確認しておきたいのでね」

477脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:15:43 ID:/WCPsINo

 冬月はケロロにそう尋ねたが、ケロロは困ったようにこう答えた。

「それが、我輩もトトロという人物についてよく知らないのであります。
 サツキ殿から詳しく聞いておけばよかったのでありますが、聞きそびれたままになっていたのでありますよ。
 サツキ殿の言い方からして味方してくれそうな人物だろうとは思うのでありますが……」
「少しでもわかる事は無いの?
 男か女かとか、年齢とか、人種とか。
 名前からして日本人じゃなさそうだけど」
「いやあ、それがさっぱりなのでありますよ。
 そう言えばサツキ殿も直接の知り合いという感じではなかったような気もするでありますなあ」
「うーむ。それではその垣根が破壊された露天風呂の様子はどうだったのかね?
 何かわかった事があれば言ってみてくれ。ケロロ君」

 冬月にそう聞かれて、ケロロは眉間に皺を寄せながら腕を組んで、露天風呂の様子を思い出しながら答える。

「一見した所、垣根は戦闘があって破壊してしまったという感じではなかったでありますな。
 何というか、建物の中を通る事を考えずに一直線に温泉に入ろうとして壊したというか」
「うーん。ものぐさな性格の人なんでしょうか?
 ずいぶん乱暴な行動のようにも思えますが……」
「そうだな。いくらこんな殺し合いの島だからと言っても、普通は入口から入るだろう。
 仮に中に誰かがいる事を警戒したとしても、空いている窓を探すなど、他にやりようはありそうなものだ。
 垣根を破壊して入ってくればその音で気付かれてしまうからな」

478脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:16:15 ID:/WCPsINo

 3人はすっかりトトロの正体をつかみかねていたが、そこでマッハキャリバーが自分の推測を述べた。

『痕跡から推測する限り、入ってきたのはかなり大型の生物だったようです。
 人間であるとすればかなり特殊な体格の人物ですね。
 例えば相撲取りのような体型でしょうか』
「相撲取り……?
 すごく太った外人さんって事でしょうか?
 原始的な生活をしている部族か何かで、こういう建物の入り方を知らなかったとか」
「ふむ。これは一度露天風呂をよく調べてみた方がいいかもしれんな」
『確かに、体が大きい分はっきり足跡が残っている可能性がありますので、
 露天風呂で足跡をよく調べればもっと詳しく分析できるかもしれません』

 マッハキャリバーのその言葉を聞いて冬月は頷き、ケロロとなのはに確認を取る。

「では、後回しにすると痕跡がわかりにくくなる可能性もあるので、
 さっそく露天風呂を調べようと思うのだが、2人ともそれでいいだろうか?」
「我輩はもちろん賛成であります。
 トトロ殿がサツキ殿の関係者である事は間違いないのでありますからして。
 できればどういう人物か調べて、いい人そうならサツキ殿の事をお伝えしたいであります」
「私もそれでいいと思います。
 トトロがサツキちゃんの知り合いなら、どういう人で今どうしているのか気になりますし、
 できれば合流して一緒に行動したいですしね」
「よし。それでは露天風呂に向かうとしよう」
「はい」
「了解であります。冬月殿」

 こうして、一行はトトロの事を調べるために露天風呂の調査に向かう事になった。

479脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:17:30 ID:/WCPsINo



「おっと。露天風呂に行く前に1つやっておきたい事があったな。少し待ってもらえるかな?」

 トトロの調査で露天風呂に向かおうとした所で冬月はそう言って2人を止めた。
 2人が快くそれに応じると、冬月はまずノートパソコンの電源を切ってデイパックにしまう。
 そしてノートパソコンをしまった手でデイパックの中を探り、冬月は夢成長促進銃を取り出した。

「なるほど。冬月殿ももう一度ヤングな姿になっておくのでありますな?」
「ああ。若返っておけばいくらかは回復も早まるだろうし、万が一の事態にも対応しやすいだろう。
 それに高町君のような若者には弱体化する面も大きいだろうが、私のような老人にはデメリットは少ない。
 使用回数に制限があるかどうかはわからないが、この銃を使わせてもらってもいいかな?」
「私はいいと思います。
 戦闘で使う可能性もありますけど、冬月さんが少しでも楽になるならぜひ使って下さい」
「我輩ももちろん異論はないでありますよ」
「ありがとう。では遠慮無く使わせてもらうよ」

 2人の同意も得られたので、冬月は少し2人から離れて自分に銃口を向け、夢成長促進銃の引き金を引く。
 すると冬月は銃から放たれた光線に全身を包まれ、あっという間に十代半ばの少年の姿になった。
 結果的に一行の外見は、中高生ぐらいの少年、9歳の少女(浴衣+羽織)、立って歩くカエルという事になった。

「よし。これでいいだろう。
 では行こうか。高町君、ケロロ君」
「はい。でも目の前で見るとやっぱりその銃はすごいって思いますね。
 まるで魔法みたい。……と言っても私はそんな魔法使えないんですけどね」
「まあ、ケロン星の科学力はペコポンとは比べものにならないでありますからな。
 その銃を作ったクルル曹長の技術も我が軍屈指のレベルでありますし」

480脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:18:02 ID:/WCPsINo

 ケロロはまんざらでもなさそうにそう言ったが、それを聞いて冬月はふとある事を思い出した。

「そう言えばケロロ君。
 そのクルル曹長というのはもしや黄色い体で度の強そうな丸いメガネをかけたケロン人ではないかね?」
「ケロッ? 確かにその通りでありますが、冬月殿はクルルを知っていたでありますか?」
「いや、タママ君からも何も聞いては居なかったのだが、その人を夢で見たんだよ。
 知らない人物を夢で見るというのは不思議な事だがね。
 そう言えばその夢にもう1人出てきたのが、高町君が着ていたようなデザインの茶色い軍服を着た少女だったよ。
 名前は聞けなかったが、年齢は高町君より少し下ぐらいに見えたな。
 アスカ君のようなオレンジ色に近い色の髪で……確か長い髪を頭の両側で結んでいたかな」
「……ティアナ……
 それはティアナという私の知人によく似ていますね。
 その子はなんて言っていましたか?」
「まあ、ただの夢の話だがね。
 立ち話していると時間ももったいない。歩きながらでよければ話そう」

 冬月の言うのももっともだと2人が同意したので、3人は歩き始める。
 同じ建物の中なので露天風呂はそう遠いわけではない。
 だから少し話しただけで一行は露天風呂に到着し、冬月はそのまま調査をしながら話を続ける事になった。

「今思い出してみても不思議な夢だったよ。
 起きてすぐには思い出せなかったが、こうして話してみると意外によく覚えていたものだな。
 あまりに不思議な夢で印象が強かったせいだろうか?」

 露天風呂の男湯には土のついた素足で歩き回ったトトロやライガーの足跡が残されていた。
 その足跡を調べながら、冬月はそんな事を話す。

 この時点での冬月はこの夢の事をまだ「不思議な夢」ぐらいにしか認識していなかった。
 だが、話を聞いた2人の考えは少し違っていたようだ。

481脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:18:36 ID:/WCPsINo

 冬月と同じく風呂場の床の足跡を調べていたなのはが冬月に尋ねた。

「ひとつお尋ねしますが、冬月さんは予知夢を見るような特殊能力を持って居るんですか?」
「いや。私はただの人間だよ。今はこうして若返るという不思議な体験をしているがね」
「では、冬月さん自身の認識では、夢でまったく知らない情報を見る事はあり得ないと思いますか?」
「偶然の一致はあると思うがね。
 『虫の知らせ』などという現象も多くはそれで説明がつくだろう。
 ただ、私も今回の夢はどこか普通ではないような気はしていたんだが……
 やはり君たちから見ても普通ではないと思うかね?」

 なのはは冬月の問いかけに深く頷く。
 そして、破壊された垣根を調べていたケロロも同じように頷いてこう言った。

「冬月殿が知らないはずのクルルとティアナ殿の容姿や言葉遣いを知った事。
 それに、そのティアナ殿が告げたという我輩たちに迫っていた危機というのははっきりとはわからないでありますが、
 冬月殿が遭遇したというカブト虫の怪人がそうだったとすれば辻褄があうであります。
 ここまで来ると偶然の一致では説明できないでありますよ」
「しかし、だとしたら2人はあの夢は何だったと思うのかね?
 私は超能力者なんかじゃない。それなのに不思議な夢を見たという事は、何者かに見せられたという事だろうか?
 だが、一体誰が? どうやって? 何のために?」

 冬月のその問いにすぐに答えられるものは居ない。
 冬月の見た夢が異常なものである事は3人とも理解しつつあったが、それが何だったのかは推測の域を出ない。

「予想はいくつかできます。
 主催者が何らかの意図があってやった可能性もありますね。
 例えば、私たちを諦めさせないためにあえて励ますような夢を見せたとか。
 そして、私たちの味方をする何者かが見せたという可能性もあります。
 その場合、その人物は主催者の監視をかいくぐってそんな事ができるという事になりますね。
 しかも、その人物はクルルやティアナの事を知っている。
 もしかしたら、本当にクルルやティアナが外から干渉して来たのかもしれません」
「冬月殿に夢を見せたのが味方だとしても、主催者があえてそれを見逃した可能性もあるでありますな。
 そこの所はまだ何とも言えないであります。
 今の情報だけではどうにもならないという事でありましょうか」
「もう一度眠って同じ現象が起こるならいいのだがね。
 私は後で交代で仮眠をとる事を考えていたのだが、その時に何か起こるかもしれんな。
 だが、とりあえず夢の話はここまでにしよう。
 今はトトロの事を調べるだけ調べておかなければ」

 なのはとケロロもそれには賛成だったので、一行は露天風呂の調査に専念した。

482脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:19:31 ID:/WCPsINo







 一通り露天風呂の男湯を調べてみると、トトロやライガーの足跡はかなり残っていた。
 だが、ピクシーやフリードリヒのものは見つからなかった。
 彼らは基本的に空を飛ぶので、足に泥があまり付いていなかったからである。
 そのため、一行は露天風呂に侵入したのは2匹の獣であると推測する。

『足跡や破壊の跡から推測すると、一方の生物は2足歩行で身長は2メートル前後。
 かなり大型の生物のようです。
 強いて言うなら熊に近いでしょうか。
 一方の4足歩行の動物は大型の犬科の生物だと推測できます。
 体長は1.5メートルと言った所でしょうか』
「そんな大きな獣が2匹も……
 それは本当にサツキちゃんの知り合いのトトロなんでしょうか?」

 マッハキャリバーの分析を聞いて、なのはが冬月とケロロに疑問をぶつける。

「種類の違う野生の獣が行動を共にするというケースは珍しいな。
 まったく無いとは言わないが……
 可能性としてはどちらか片方か、あるいは両方が参加者であると考えた方がいいのではないかな?」
「あるいは、トトロ殿はこの獣たちとはまったく別に温泉に入って去っていったのかもしれないであります。
 このお湯で濡れて読めなくなった手紙のようなものも気になるでありますし」

 そう言ってケロロが差し出したのはトトロが残していった古泉の手紙である。
 濡れて読めない上にビリビリに破れていたが、何か文字が書いてあった事だけは判別できる。

483脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:20:20 ID:/WCPsINo

「誰かが書いた手紙なのは間違いないみたいだし、
 これを残していったのがトトロっていう人なのかもしれませんね」
「ふむ。しかしこれはさっぱり読めんな。
 間違って落としたものを獣が破ってしまったといったところだろうか」
「しかし、そうなると足跡を残していった大きな獣たちはなんなのでありましょうか。
 ケロッ。そういえば最初に集められた時にでっかい毛むくじゃらの生き物を見たような気がするであります」

 マッハキャリバーの推測から獣の姿を想像したケロロは、唐突にその事を思い出した。
 そして、ケロロにそう言われて初めて冬月となのはもその事を思い出す。

「そう言えば、大きな丸い毛むくじゃらの……」
「そうか。あれは二本足で立っていたような気がするな。
 ではあれがトトロで、我々の少し前に犬科の獣を引き連れて温泉に入って去っていったという事か」
「そう考えるのが一番辻褄が合いそうでありますな」

 そう言ったケロロの言葉に冬月となのはもおおむね同意する。
 落ちていた手紙がなんなのかというような謎も残るが、基本的にはこの推測は正しいと思われた。

 こうして3人の間ではトトロの正体はとりあえずあの獣だと仮定する事になった。
 だが、これからどうするかは決まっていないので、なのはは2人に質問してみる。

「トトロの正体はあの獣だとして、これからどうしましょうか?
 トトロを探して今から出発しますか?
 それともやっぱりここで休んで行きましょうか?」
「そうだな……トトロとどうしても合流したいのであれば足跡を追いかけるという手はあるが、
 私としては気が進まないな。
 もうすっかり日も暮れてしまった。今から足跡を追って進むのは難しいと思う。
 それに、サツキ君が味方だと考えていたにしても、トトロというのがあの獣だとなると、
 果たして合流する事に意味があるかどうか。
 意思の疎通がどこまで可能なのかも疑わしくなる。
 また、我々の状態が良くないという理由もある。
 だから私はここでじっくり体力を回復させる事を提案するよ」

484脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:20:51 ID:/WCPsINo

 若返った冬月は、年齢に似合わぬ落ち着いた口調でそう言った。
 ケロロもそれに同意してこう続ける。

「我輩としてはサツキ殿の事をトトロ殿に教えてさしあげたいという気持ちに変わりはないであります。
 ただ、そのために我輩たちが無理をする事はないとも思うのでありますよ。
 もちろんトトロ殿の事を抜きにしても、タママやドロロ、
 それにヴィヴィオ殿や他の善良な参加者を見つけて合流したいという気持ちもあるのでありますが、
 今はその時ではないと思うであります」

 なのはから見ても、2人の意見はもっともだと言えた。
 今は気を張って行動しているが、本来なら2人は安静にしているべきなのだ。
 なのはは子供になっていても、夜であっても必要ならば行動するつもりでいるが、それを2人に求める事はできない。

 しかし、ヴィヴィオを探したいという感情は、今のなのはの中で何よりも強い感情だった。
 だからなのははいっその事1人でも出発できないかとも考えたが、それはできなかった。
 こんな殺し合いの中で得られた大切な仲間を。
 それも、こんな傷だらけの仲間を残して行く事はできない。

 それになのはが1人で行くとなるとマッハキャリバーをどうするかという問題もある。
 マッハキャリバーが無ければ子供になったなのはではどこまで戦えるかわからない。
 だが、冬月達にとってもマッハキャリバーは接近する敵を察知してくれる貴重なアイテムだ。
 デバイスが1つしか無い以上、別れて行動すればどちらかがリスクを負う事になる。

 だからなのはは1人で行きたいという気持ちをぐっとこらえて、2人にこう言った。

「……そうですね。
 私もまだ回復しきっているわけではありませんし、
 もう少し休んで体調を万全に整えてから行動した方がいいと思います」
「それでは、もう少しこの温泉で休息を取る事で決まりでありますな。
 そうと決まれば我輩たちも温泉に入らせてもらうでありますか。冬月殿」

485脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:21:22 ID:/WCPsINo

 うつむき気味になって言葉を発したなのはにケロロも多少違和感を感じてはいた。
 だが、何を思っているかまでは気付かなかった。

 しかし、冬月は目の前の小さな少女が何をこらえているか察していた。
 市街地でヴィヴィオに会った時、普段の彼女からは考えられないほど取り乱したなのはである。
 彼女が1人でもヴィヴィオを探したいと思っている事はある程度見当がついた。

「高町君。すまない。
 我々が一緒にいるせいで、君には不自由をさせてしまっているね。
 だが、私も一晩中ここに留まるつもりはない。
 温泉に浸かって、栄養をとり、10分でも20分でも交代で仮眠を取ったら、
 すぐに出発してヴィヴィオ君や朝倉君たちを探そう。
 だから、それまで少しだけ我慢してもらいたい。
 この通り、お願いする」

 そう言って冬月はなのはに深々と頭を下げる。
 そして、慌ててそれを制止するなのは。

「そんな、頭を上げて下さい、冬月さん!
 大丈夫です。ヴィヴィオが無事だって事はわかっているんですから。
 朝倉さんも怪我をしてはいましたが、重傷ではないようでしたし、きっともう1人の子も無事だと思います。
 思い返せばあの時不思議な盾や障壁がヴィヴィオ達を守っていました。
 きっとヴィヴィオ達には何らかの身を守れる装備があるんです。
 だから、ここで体力や魔力を回復しておくのはきっと最良の選択なんだと思います。
 だって、私たちはみんなで生きて帰らなきゃいけないんですから……」

 浴衣の小さな胸に両手を当て、目をつぶって冬月にそう伝えるなのは。
 その様子はどこか、自分を納得させているようでもあったが、表情は安らかだった。

「高町殿。我輩たちのためにすぐにヴィヴィオ殿を探しに行けず、申し分けないであります……」

 遅ればせながら事情を察してケロロもなのはに頭を下げる。

「ううん。大丈夫だから気にしないで、ケロロ。
 信じてる。ヴィヴィオは弱い子じゃない。だって私の娘なんだもの。
 きっと……きっと私が行くまで無事で待っていてくれる」
「そうでありますな。
 我輩も信じるでありますよ。
 ヴィヴィオ殿も、タママも、ドロロも、みんなきっと無事で待っていてくれると」

486脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:21:52 ID:/WCPsINo

 そう言ってケロロはなのはと一緒に胸に手を当てて祈るように目をつぶった。
 冬月も2人と思いは同じであったが、あまり長くこうしても居られないと思い、2人に話しかける。

「それではそろそろ動き出そうか。
 まず私とケロロ君は温泉。高町君にはその間万が一に備えて待機していてもらいたい。
 私たちが温泉を出たら交代で仮眠を取ろう。
 あまりゆっくり寝ていられないが、ただじっとしているよりは確実に疲れが取れるはずだ。
 その後、準備を整えて出発する。
 目安としては……20時から遅くとも21時までには出発すると考えておこうか。
 高町君どうだろう? もっと早い方がいいだろうか?」
「私はそれでいいと思います。
 でも、私の事よりケロロはこのスケジュールでいいの?
 冬月さんの怪我は私の魔法でもある程度治せるけど、ケロロの怪我は治せないし……」

 なのはは心配そうな顔でケロロにそう確認した。
 自分の魔力が回復して冬月の治療をすれば最終的に一番重傷なのはケロロになる事が予想されたからだ。

「我輩もそのスケジュールに異論は無いでありますよ。
 こう見えても我輩、厳しい訓練を乗り越えてきた軍人。
 それに普段から夏美殿にしょっちゅうぶっとばされているでありますが、大抵すぐに復活しているであります。
 これしきの怪我、温泉に入って少し休めばどうという事はないでありますよ。ゲ〜ロゲロ」
「そ、そうなんだ?
 それならいいんだけど……」
「まあ、本人が言うのだからここは信じよう、高町君。
 それではおおまかなスケジュールはさきほど言った内容で決まりと言う事で、
 我々は早速施設内の男湯に入ってこようか、ケロロ君」

 ケロロの発言に少し笑いながら、強がっているその気持ちも感じた上で冬月はそう言って話をまとめる。

「わかったであります。
 ではデイパックは高町殿に預けるとして、
 その中のナイフとスタンガン、それから催涙スプレーと夢成長促進銃をもらって行くでありますよ。
 万が一に備えて用心はしておいた方がいいでありますからな」
「そうだな。では、あとの荷物は高町君に持っていてもらおう」
「わかりました。確かにお預かりします」

487脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:23:30 ID:/WCPsINo

 こうして露天風呂の調査は終わり、一行は一旦二組に分かれる事になった。
 だが、冬月は歩き出すとすぐに何かを思いついて、2人にある提案をした。

「そうだ。今のうちにもうひとつやっておきたい事があるのだがね……」







「いやー、極楽極楽。温泉とはやはりいいものでありますなあー」

 温泉の内風呂の湯船に浸かったケロロはすっかり上機嫌であった。

 ちなみに元々明るくはないのだが、風呂場の中はかなり薄暗くなっている。
 これは先ほどの冬月の提案で、あえて最低限の明かりを残して施設内の明かりを消しておいたからだ。

 元々この施設は昼も夜も関係なく明かりがつけっぱなしになっており、発見されやすかった。
 それに明かりをつけていると、外からは丸見えで中から外は見えにくい。
 つまり、明かりを暗くしたのは少しでも危険を回避しようという苦肉の策であった。

「うむ。まさか温泉に入る事になるとは思わなかったが、やはりいいものだな。
 それに、こうして裸になってみると皺だらけだった体も若返ったせいでつるりとしていて、
 何やら生まれ変わったような気分だ」

 ケロロの隣で湯船に浸かる冬月もなかなかに上機嫌であった。
 この温泉の効能は「火傷、切り傷、打ち身、身体の疲れ、魔力の消費、虚弱体質」と表示されていた。
 どうやらその表示に嘘は無かったらしく、全身を火傷したケロロが入っても不思議とあまりしみる事もないようだ。

「この温泉には通常とは異なる特別な成分でも入っているのかもしれんな」
「確かにこの温泉に浸かっていると、心なしかじわじわと『回復してる〜』という気がするでありますなあ」
「しかし……よく見るとこの温泉、LCLのようにも……いや、気のせいか?」

 この温泉のお湯は薄いオレンジ色をしていた。
 これはエヴァのエントリープラグを満たす液体であるLCLと酷似している。
 本当のところどうなのかは主催者のみぞ知るといったところだが。

488脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:24:00 ID:/WCPsINo

「冬月殿。そのLCLとはなんなのでありますか?」
「LCLというのは言ってみれば羊水のようなものだ。
 その中に居るものを守り、包み込む液体だ。
 その中に居るものはその液体を肺に入れても溺れる事はなく、LCLから酸素を吸収する事ができる。
 だが、同時にそれはATフィールドを失った生命体の『かたち』でもある。
 そう、最初に主催者に首輪の効力で液体にされた少年が居ただろう。あの液体がLCLだよ」

 冬月はあえて隠す必要もあるまいと思い、素直にLCLの事を説明する。
 だが、それを聞いたケロロはさすがに驚いたらしく、ザバッと湯船から立ち上がって叫んだ。

「ゲ、ゲローーッ!? この温泉のお湯があれと同じという事でありますか!?
 そんなものに浸かっていて我輩たち大丈夫なんでありますか!?」
「落ち着いてくれ、ケロロ君。
 同じだと決まったものでもないのだ。
 仮に万が一同じだとしても、LCLに浸かっていて害があるという事はない。
 何も心配する事はないんだよ」

 冬月の説明でケロロはどうにか落ち着きを取り戻したようで、再び湯船に浸かってほっと息をつく。

「そうでありますか。いや、ほっとしたであります。
 しかし、冬月殿はそのLCLやATフィールドというものに詳しいようでありますが、
 もしやこの首輪についても何かご存じなのでありますか?」
「いや、残念だがこの首輪の原理については私にもわからないのだよ。
 ATフィールドを破壊するアンチATフィールドというものが存在する事は確かだ。
 それによってATフィールドを破壊された全ての生物はLCLに還元され、『個』を保てなくなる。
 この首輪が人間をLCLに変えてしまうのは、おそらくアンチATフィールドを発生しているからだろう」

 話はまだ続きそうではあったが、冬月がそこまで言った所で思わずケロロが一言口を挟む。

「……冬月殿。それは充分わかっておられるのではありますまいか?」

 言われた冬月は話を遮られて怒るでもなく、生徒に話を聞かせるようにこう続ける。

489脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:25:15 ID:/WCPsINo

「そうではないのだよ、ケロロ君。
 そのアンチATフィールドをどうやって発生させているかが皆目見当もつかないのだ。
 私の知るアンチATフィールドとは、
 鯨よりも巨大な『ある生物』の特定の器官に特殊な刺激を与える事によって発生するものだ。
 特に生命をLCLに還元するほどのアンチATフィールドともなればな。
 だが、この首輪はこの大きさでそれを実現しているのだ。
 いかなる技術を用いたのか、私の理解を超えているよ」
「しかし冬月殿。大きさの問題であれば、ある程度は我々宇宙人の技術でどうにかなるかもしれないでありますよ?
 原理さえわかっていれば、我輩にも少しは構造を理解できる芽が出てくるであります。
 我輩こう見えても発明のまねごとぐらいはやった事もあるのでありますよ。
 さすがに我輩1人では心許ないでありますが、ドロロやタママの知恵も借りればあるいは……」

 ケロロのその話を聞いて冬月はあごに手をあて、考えながらこう言った。

「……そうか。そうだったな。
 君は宇宙人で、しかもあの夢成長促進銃を作ったテクノロジーを持っていたんだったな。
 そうか、もしかすると君たちの協力があれば……
 いや、君たちだけでなく高町君や他の世界の人間の知恵も借りればこの首輪を無力化する事ができるかもしれない。
 正直言ってどこまで見込みがあるかわからんが、できねば我々は終わりなのだからやるしかないな」

 冬月はこれまでに様々な参加者と出会ってその話を聞いてきた。
 だからその経験から、すでにこの島に集められたのが多数の別世界の住人であると理解しつつあった。
 ただ、ここまでそれをはっきりと意識し、考える余裕がなかったのである。

 この世界が人類補完と関係があろうが無かろうが、今は目の前にある状況を受け入れて対処しなければならない。
 となれば、自分にない知識や技術を持つものの力を借りる事は当然の発想であった。

(首輪を解除する方法を考えねばと思ってはいたが、今まで生き延びるのに必死で考えが及ばなかったな……)

(だが、気付いたからにはその方向で動いていかねばなるまい)

 冬月は心の中でそうつぶやくと、ケロロにも聞こえるように言葉に出して考え始めた。

490脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:25:46 ID:/WCPsINo

「ただ、それには最低でも一度は首輪を分解してみねばならんか……」
「分解でありますか……
 しかし、分解するとなると生きた参加者の首輪を使うわけには行かないでありますな」
「うむ。亡くなった参加者の遺体から首輪を取り外して分解するしかないだろうな。
 高町君などはいい顔をしないかもしれないが、どうしても必要な事だ。
 こらえてもらわねばなるまい」
「きっと、高町殿もわかってくれるでありますよ。
 まあ、実際に参加者の死体を発見するのがいつになるかもわからないでありますし、
 ゆっくり納得していただけばよいでありましょう」
「そうだな。
 我々はしばらくは休息せねばならない。
 それにドロロ君やタママ君とも合流しておかねば首輪を分解できても解析は難しくなるだろうし、
 他の参加者にも協力を仰げるならそうしたい。
 首輪を分解できるのは当分先の事になるか……」

 そう言って冬月はばしゃりと湯船の湯を両手ですくって顔にかけ、ごしごしと顔を洗う。
 そして、顔の湯をぬぐって一息つくと、ざばっと湯船で立ち上がり、そのまま歩いて湯船を出た。

「そろそろ上がるとしようか、ケロロ君。
 ゆっくり入っていたいのはやまやまだが、状況的にそうも言っておれんだろう」

 それを聞いてケロロもじゃぶじゃぶと泳いで湯船の端にたどり着き、ざばっとお湯から出て言った。

「そうでありますな。
 では温泉はこのぐらいにして、上がるとするでありますか」
「ああ。あまり高町君を1人にもしておけないからね」

 こうして2人は籠に入れて近くに置いてあった服を持って風呂場を出て脱衣所に向かう。
 服を近くにおいておかないと万が一の事態に対応できないので風呂場に持ち込んでいたのである。
 もちろんケロロは服など持っていないが、夢成長促進銃やナイフやスプレーを入れた籠は持ってきている。

 そして、2人は脱衣場で体を拭き、ケロロはそのまま裸で、冬月は元の服を着る。
 ちなみに脱衣場も明かりはほとんどつけておらず、薄暗い。

 着替えながら冬月がふと窓の外を見ると、外はもう完全に日が落ちて暗くなっていた。

491脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:26:22 ID:/WCPsINo

「もうすっかり夜だな。
 休息を取る間、危険な人物が寄ってこなければいいのだが」
「冬月殿の指示で施設の明かりはほとんど消しておいたでありますから、
 そうそう明かりを見てここに来る参加者は居ないと思うでありますが……
 温泉につられて誰かが来ないとは言い切れないでありますなあ」
「明かりを消したのは気休めと思った方がいいだろう。
 それでも、煌々と明かりをつけておくよりはずっといいとは思うがね。
 まあ、もし何者かが侵入してきたらそれはその時に対応するしかあるまい。
 それより、着替えも済んだ事だしそろそろロビーに戻るとするか。ケロロ君」
「了解であります。冬月殿」

 ケロロは敬礼しながら冬月にそう答え、2人は脱衣所を出てなのはが待つロビーへ向かった。







「……ふう。これで調整は万全だね」
『はい。現在の私に可能な調整は全て完了しました』

 冬月とケロロが温泉に入っている頃。
 薄暗い温泉施設のロビーでバリアジャケット姿のなのはとマッハキャリバーが会話していた。

 もう温泉に入っているなのはは警戒のために残ったのだが、この時間を利用してデバイスの調整を行っていたのだ。
 ズーマとの戦闘の際にも調整はしていたが、しょせん急場しのぎである。
 2人が温泉に入って無防備になっている今、なのはだけでも万全の状態にしておかねばならない。

 とは言え、前衛のスバルと後衛のなのはでは戦闘スタイルに大きな違いがある。
 そのため、調整した今でも100%の力を発揮するとは行かないが、かなり戦いやすくはなっただろう。

 冬月の発見したノートパソコンやケロロが発見したDVDも今はデイパックに入れてここに置いてある。
 風呂に入っている時に何かあった場合に備えての事である。
 そして、2人が風呂から上がったらまたこのロビーに集合する予定だ。

492脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:27:00 ID:/WCPsINo

「リボルバーナックルもこれでなんとか使えそうだね」
『ですが、現在のMs.高町の体格では格闘戦はお勧めできません。
 リーチもパワーも、そして物理耐久力も著しく低下しています』
「わかってる。できるかぎり砲撃向けに調節したし、これで殴り合いをするつもりはないよ。
 今の私じゃ、魔法の補助と防御に使うぐらいだね」

 なのはのバリアジャケットは9歳の頃使っていたものに変わっている。
 これは下着を履いていないのでミニスカートは(乙女的な意味で)危険すぎると判断したためである。
 また、デザイン的にも今使っているジャケットを縮めるよりこちらの方がいいだろうと考えての事でもあった。

 ただし、昔と違ってその両手には頑丈そうな籠手がはめられ、両足にはローラーブーツをはいている。
 右手の籠手はマッハキャリバー内蔵のリボルバーナックル。
 左手の籠手はケロロが拾ってきたリボルバーナックル。
 両足のローラーブーツはマッハキャリバーの本体である。

 正直言うとリボルバーナックルは今のなのはの小さな手には大きすぎるのだが、サイズを調節して装着している。
 それでもやはりごつすぎる印象は否めないが、デバイスとして、防具としては役に立つだろう。

「どっちかというとローラーブーツを使いこなせるかどうか心配かな。
 まあ、できる限りやってみるけどサポートはよろしくね、マッハキャリバー」
『お任せ下さい。ウィングロードの自動詠唱も含め、ある程度はこちらでコントロールできます』
「うん。じゃあバリアジャケットは解除しようか。
 左のリボルバーナックルも収納できる?」
『はい。それではバリアジャケットを解除します』

 マッハキャリバーがそう告げると同時になのはの姿はバリアジャケットから温泉の浴衣姿に一瞬で戻る。
 それほど膨大ではないにしてもバリアジャケットの維持には魔力を消費する。
 必要のない時には解除しておいた方がいいのだ。



 とりあえず戦闘準備が整って、なのはは一息ついて外の様子を伺う。
 外はすっかり日が落ちて暗くなり、視界はかなり悪い。
 だが、ロビーもかなり薄暗いため、少しは外が見やすくなっている。

493脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:27:34 ID:/WCPsINo

 冬月の提案で3人は温泉施設全体の明かりを暗くしておいた。
 そのため、このロビーもかなり暗くはなっているが、それでも字が読める程度の明るさはかろうじて保っている。
 少々不便ではあるが、どうせ休息を取るのだから、問題ないだろうという判断であった。

「これからの事……考えなきゃね……」

 なのははそうつぶやいて自分の首輪を触る。
 この首輪を外さなければ自分達に勝ち目はない。
 冬月たちにはまだ相談していないが、2人が風呂から出たら話してみようと思う。

 残念ながらはっきりとはわからないが、首輪からは特徴的な魔力波動を感じる。
 冬月やケロロと話し合えば、少しは何か道が開けるかもしれない。
 しかし、それでもやはりネガティブな思考がなのはの頭に浮かんでくる。

(首輪を外す方法なんて見つかるんだろうか? 主催者たちがそんな事を許すとも思えないし)

(でも、なんとかしなきゃ。諦めないって決めたもの。絶対になんとかなる。してみせる)

(幸い私は1人じゃない。冬月さんやケロロが一緒に居てくれる。だから、絶対負けない。負けられない!)

 そう考えながら、外からなるべく姿を見られないように隠れてロビーの窓から外の様子を伺うなのは。
 その小さな胸に宿る決意の炎はまだ小さいが、少しずつ確実に強さを増していた。

 だが……

(それはともかく……やっぱり、ちょっとスースーするかな……)

 一方でそんな事も考えてしまうなのはであった。
 人間、どんなときでもシリアスに徹するのは難しいようである。

494脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:28:26 ID:/WCPsINo
【G-2 温泉内部/一日目・夜】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(中)、小さな決意
【服装】浴衣+羽織(子供用)
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、デイパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ、
     ハンティングナイフ@現実、
     マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
     リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン
     血で汚れた管理局の制服、女性用下着上下、浴衣(大人用)
【思考】
0、絶対なんとかしてみせる。
1、冬月、ケロロと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロ、夏子たちを探す。
4、冬月とケロロに首輪の外し方を相談してみる。
5、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
6、トトロとも合流できたらいいけど……


※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。

495脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:28:57 ID:/WCPsINo

【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】10代半ば、短袖短パン風の姿、疲労(中)、ダメージ(中)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意、温泉でつやつや
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
0、今は休息を取ろう。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
4、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
5、なのはと共にヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)を探す。
6、タママとケロロとなのはを信頼。
7、首輪を解除するためになるべく多くの参加者の力を借りたい。
8、トトロとは会えれば会ってみてもいいか……
9、後でDVDも確認しておかねば。


※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、かなり内容を思い出したようです。
※再び夢成長促進銃を使用し、10代半ばまで若返りました。





【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、身体全体に火傷、温泉でほかほか
【持ち物】スタンガン@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、今は休息を取るであります。
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
2、タママやドロロと合流したい。
3、加持、なのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
4、冬樹とメイの仇は、必ず探しだして償わせる。
5、加持の仇も探して償わせたいが、もし犯人がタママだったら……
6、協力者を探す。
7、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
8、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
9、トトロにサツキの事を伝えてやりたい。
10、後でDVDも確認したい。


※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです

496 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/23(木) 23:32:31 ID:/WCPsINo
以上です。

書いておいてなんですが、前編だけで終わっていてもいいような気もします。
でも書いてしまいました……すいません。

497脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:09:20 ID:UOrY/ZqE



「こ……子供になっちゃった……?」
「ケロ〜! 高町殿〜!!」

 ここはG−2エリアにある温泉の施設の中。
 ちょっとしたトラブルから、夢成長促進銃によってなのはは子供の姿になってしまった。
 そんな彼女を前にして呆然とするケロロ。
 そしてさすがの冬月もこの異常事態に驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。
 放送はもう始まっているのだ。

「高町君、ケロロ君。とにかく放送を聞くんだ。
 私は要点をメモしておくが、君たちもよく聞いておいて後で確認してくれ」

 冬月は2人にそう言って手に持っていた3枚のDVDを手近な机の上に置き、デイパックを開いた。
 そして支給されている基本セットの中にある紙と鉛筆を取り出し、メモを取る準備をする。

「あ、はいっ。わかりました」
「わ、わかったであります、冬月殿!
 マッハキャリバー殿もよろしくであります」
『了解です。放送の内容を記録します』

 なのはとケロロが、そしてマッハキャリバーが冬月にそう答えて放送に耳を傾ける。
 なのはは9歳の頃の姿になって夢成長促進銃を持ったまま。
 ケロロは濡れた床で滑って転んだあと、立ち上がろうと起き上がった所だ。

 ちなみになのはは子供になったせいで浴衣がだぶだぶになっていて、とっさに胸元を押さえている。
 ここには老人と宇宙人ガエルしかいないので、誰も気にしていないのだが、乙女のたしなみと言った所だろうか。

 放送では草壁タツオがなにやら前置きを語っていたが、3人はあまりそれを聞く事はできなかった。
 だが、重要な事は言っていなかったようなので、3人は禁止エリアの発表に意識を集中する。

「19時、F−5。
 21時、D−3。
 23時、E−6か……」

 そうつぶやきながら冬月はメモを取っていく。
 今回はかなり島の中央が指定されたようで少し気になったが、今はそれを確認する暇はない。
 放送はまだ続いており、次は死亡者が発表されるはずだったからだ。

498脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:09:51 ID:UOrY/ZqE

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

 そんな草壁タツオの前置きには耳を貸さず、冬月は死亡者の名前だけを聞き逃さないように集中する。
 なのはとケロロも思う所はあるのだろうが、今は黙って耳を傾けていた。

 だが、なのはの幼い顔には悲痛な表情がはっきりと浮かんでいる。
 何しろ、あの火事の中からヴィヴィオという少女とその仲間が生きて逃げ出せたかがこれでわかるはずなのだ。
 無理もない事だと思いつつ、冬月もまた、加持やアスカ、シンジ、タママ、小砂らの無事を祈る。

 そして、死亡者の名前が次々に発表されていく。

『朝比奈みくる』

「ん? この名前は……」

 そうつぶやいた冬月になのはとケロロがどうしたのかと視線を送る。
 冬月は掲示板に目を通していたため、この名前を知っていたのだが、今は放送の最中である。
 説明は後でいいだろうと判断し、黙って首を振っておく。

『加持リョウジ』

「加持君が……?」
「ケ、ケロ〜〜! 加持殿っ……!!」
「加持さんっ……!!」

 加持の名前があげられ、3人が全員思わず声を上げる。

『草壁サツキ』

「…………」

 知っていたとは言え、サツキの名前を聞くと3人の間に重苦しい空気が流れた。

『小泉太湖』

「この名前、小砂君か!?」
「そんな。小砂ちゃんまで……」

 冬月となのはがつぶやく。
 貴重な協力者だった。守るべき人の1人だった。
 あの小さくともたくましい少女にはもう会う事はできないのか。

499脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:10:21 ID:UOrY/ZqE

『佐倉ゲンキ』

 3人は反応しない。
 誰も知らない人物だったようだ。

『碇シンジ』

「シンジ君もか……!」

 冬月が再び小さく声を上げる。
 とうとうシンジと冬月はこの島で会えないまま、永遠の別れを迎えてしまった。

(碇……すまない。お前とユイ君の息子を守ってやれなかった……)

 冬月は心の中でそうつぶやき、無念そうに顔を伏せる。

『ラドック=ランザード』

『ナーガ』

 この2名は続けて誰の知り合いでもなかったようだ。

『惣流・アスカ・ラングレー』

「そうか……アスカ君も……」
「アスカ殿が……」
「アスカ……」

 3人ともアスカには複雑な思いがあるが、死を望んではいなかった。
 むしろ冬月やなのはにとってはいまだにアスカは保護すべき対象ですらあったのだ。
 だが、そのアスカもどこかで命を落とした。また救えなかったのだ。

『キョンの妹』

 その名前には誰も反応しない。
 そして、その名を最後に今回の死亡者発表は終わったようだった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

500脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:10:52 ID:UOrY/ZqE

「なんという言いぐさでありますか……!」
「ケロロ君。気持ちはわかるが放送が続いているから今はこらえてくれ……」
「ケ、ケロ〜……」

 その後の草壁タツオの話は、主催者に反抗して命を落とした参加者が居たというものだった。

『念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
 あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
 勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう?
 愚かな犠牲者が二度と出ない事を切に願うよ。』

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

 こうして第3回、18時の放送は終了した。







「加持さん、サツキちゃん、小砂ちゃん、アスカ……」

 風呂場の脱衣所で、なのはが死んでしまった知り合いの名前をつぶやく。

 放送の後すぐに禁止エリアや死亡者の確認をしてから、彼女は改めて小さい浴衣に着替えに来たのだ。
 さっきまで着ていた浴衣は大きすぎて体に合わず、万が一の場合にも邪魔になるからだ。

 だが、着替えに来た理由はもう一つある。
 少しだけ落ち着いて考える時間が欲しかったのだ。
 あまりにも多くの死亡者。守れなかった人たち。
 それらを受け入れ、気持ちと考えを整理する時間がなのはには必要だった。

「ヴィヴィオや朝倉さんやスバルが生きていた事は嬉しいけど、喜ぶわけにはいかないよね。
 あんなにたくさんの人が亡くなっているんだから。
 それに、あの小砂ちゃんまでが……」

 だぶだぶの浴衣を脱いで小さいサイズの浴衣に袖を通しながら、なのはは悲痛な面持ちでつぶやく。
 自分の腕の短さに少し違和感を感じたが、今はそれよりも死んでしまった人たちの事に意識が向かっていた。

501脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:11:34 ID:UOrY/ZqE

 例えば、なのはを師匠と呼んで慕ってくれた小砂。 
 サツキが冬月を刺した場所で別れてから行方が知れなかったが、あの後一体何があったのか。
 一体どんな死に方をしたのだろう。
 やはり誰かに殺されたのか。
 自分の居ない所で起こった事はわからない。
 側にいない人は守れない。何もできない。後から結果を知って後悔するだけ。

 これからもこんな事を繰り返すのか。
 知らない所で死んでいく人の名前を放送で告げられて後悔して。
 目の届く場所にいる人を守ろうと必死になって、守れなくて後悔して。
 でも事態は何も変わっていなくて。
 それどころか悪くなっていく一方で。

「このままじゃ……いけないんだ。
 ちっとも前に進んでない。
 時間が流れて死ぬ人は確実に増えていくのに、事件の解決には少しも近づいてない。
 ただみんなを守るだけじゃ足りないんだ。
 ここからみんなで生きて元の世界に帰るには、あの主催者たちを何とかしなきゃ。
 でも、一体どうすればいいのかな、マッハキャリバー……」

 浴衣の前をあわせながら、なのはは胸元にぶら下がっている青いクリスタルのペンダントに話しかける。
 なのはが風呂から上がったので、マッハキャリバーは再びなのはが持つ事になったのだ。

 なお、夢成長促進銃は冬月に預け、代わりになのははケロロからリボルバーナックルを預かっている。
 左手用のリボルバーナックルは、右手用と一緒にマッハキャリバーの中に収納する事ができたからである。

 そして、なのはの問いかけに冷静な声で答えるマッハキャリバー。

『主催者を打倒するには我々の状況はあまりにも不利と言えます。
 しかし、それでもなお戦う事を選ぶのであれば、
 まず首輪を外すか無力化する方法を考える事が先決ではないでしょうか』
「そう……だね。
 この首輪がある限り、私たちは逆らえない。
 戦うどころか逃げる事さえできないし、逆らったらあの男の子みたいに液体に……」

 首輪に触りながらなのはは小さくため息をつく。

502脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:12:20 ID:UOrY/ZqE

『まだ道が断たれたと決まったわけではありません。
 及ばずながら私も微力を尽くします。
 元気を出して下さい。Ms.高町』
「マッハキャリバー……ありがとう。
 うん。私、諦めたりしない。絶対ヴィヴィオを、みんなを守って、ここから助け出してみせるよ」

 そう言いながらなのはは浴衣の腰ひもを結び、その上に温泉に置いてあった紺色の羽織を着る。
 しばらくはこの格好で居る事になりそうなので、浴衣一枚ではさすがに体を冷やすからだ。

 そして、着替えを終えたなのはは改めて鏡を見る。
 そこに写っているのは温泉備え付けの浴衣を着た小さな女の子。
 エースオブエースと呼ばれた自分ではない。
 なのはな思わずくすりと小さく笑ってしまった。

「こんな時に、こんな事で笑ってたら不謹慎かな。
 でも、なんだか変な感じ。私ってこんなに小さかったんだね」

 そうつぶやいてなのはは鏡の前でくるっと回ってみたりポーズを取ってみたりする。

 しかし、動いてみて実感したのだが、腰のあたりに微妙に違和感がある。
 体が小さくなったせいで相対的にショーツがかなり大きくなっており、ぶかぶかなのだ。

 ――ちなみに、胸がぺったんこになっているので、すでにブラジャーは外している。

「……ずり落ちて来そうでいやだな。
 いっそ履かない方がいいのかな?
 万が一戦闘中にずり落ちてきてそれが元で死んじゃったりしたら冗談にもならないし」
『バリアジャケットをズボン型に変更すれば対応できるとは思いますが……』
「そうだけど、ずっとバリアジャケットを装着してもいられないし……」
『休息を取ろうという時には特にそうですね。
 Ms.高町が気になさらないのであれば、私としてもこの状況で大きすぎる下着は履かない事を推奨しますが』
「う〜〜ん……」

 乙女の羞恥心と現実の板挟みになってなのはは少し迷ったが、しばらくうなった末に決断する。

503脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:12:50 ID:UOrY/ZqE

「決めた! 脱いじゃう!
 浴衣の時は下着つけないって聞いた事あるし、こんな状況で気にする人いないよね、きっと!」

 そう言ってなのはは一旦羽織を脱ぐと、腰ひもをほどいて浴衣をはだけてショーツを脱ぎ捨てる。
 下着を履かなくても別に害は無いのだが、心理的に違和感は拭えない。
 しかし、万が一にもパンツがずり落ちたせいで死ぬのは嫌だし、せいぜい大人に戻るまでの辛抱だ。
 なのははそう考えて、顔を少々赤くしつつ、また浴衣の前を合わせて腰ひもを締め直す。
 そして、最後にまた羽織を着て着替えは完成だ。

「うん。大丈夫。たぶん一見しただけじゃわからない……よね?」
『そうですね。それに、子供の体型であればさほど気にする必要はないかと思われます』
「うん。ただ、元に戻る時は気をつけないとね……」

 なのははそうつぶやきながら改めて自分の姿を鏡で確認する。
 戦闘などで動き回ればひどく危険な状態になりそうだが、戦闘になればバリアジャケットに着替えるはずだ。
 今のなのはのバリアジャケットはミニスカートで危険だが、バリアジャケットの変更は可能である。
 少女時代に使っていたバリアジャケットならスカートは長いので、おそらくなんとかなるだろう。



 そして、ひとしきり自分の姿をチェックして一息つくと、なのははまっすぐに立って鏡に写る自分の姿を見つめる。

 そうやって幼い頃の自分の姿を見ていると、その頃に出会った幼いフェイトの姿が自分の横に見えるような気がした。
 あれだけ泣いたのに、死んでしまった親友の事を思うとまた目頭が熱くなって涙が出そうになる。
 だが、なのははそんな感情を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ぐっと両拳を握って気合いを入れた。

「よしっ! 戻ろう!
 まだまだ、私は元気なんだもん。くよくよしてる場合じゃないよ。
 行こう、マッハキャリバー!」
『はい。Ms.高町』

 そう言ってなのはは脱いだ下着の上下と大人用の浴衣を抱えて脱衣所を出た。
 なんとなく口調が子供っぽくなっているのは鏡で今の自分の姿を確認したせいかもしれない。
 しかし、そのおかげでこれまでの自分と今の自分を切り替える事ができたとも言える。
 温泉でいくらか回復できた事もいい方向に作用したのかもしれない。
 いずれにせよ、子供になってしまった事は、なのはにとって悪い事ばかりでもなかったようだ。

504脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:13:20 ID:UOrY/ZqE

(フェイトちゃんも、きっと私に頑晴れって言ってくれる)

(ヴィヴィオを。スバルを。この島に連れてこられた人たちみんなを助けて欲しいって願ってる)

(だから行くよ私。負けない。絶対諦めない。最後までくじけない)

(フェイトちゃん。だから、ヴィヴィオを、みんなを、……そして、私を見守っていて下さい――)

 そんな思いを胸に、冬月とケロロの元に向かうなのはの背を、窓から入った夜風が優しく押す。
 その風から自分を励ますフェイトの想いを感じたような気がして、小さな少女は少し表情を和らげた。







「加持殿……さぞや無念だったでありましょう。一体どこの誰が加持殿を!
 しかし、我輩きっと犯人を見つけて償わせるであります。
 冬樹殿やメイ殿を殺したヤツらと同じように……
 だから、草葉の陰から見ていて欲しいであります!!
 ああ、だけど一緒にいたタママは無事なんでありましょうか。心配であります」

 なのはが着替えに行った後、温泉施設のロビーでケロロが無念そうにつぶやいた。
 ケロロが命の恩人とも思っている加持が死んだのだ。
 その怒りは冬樹やメイを殺した犯人へのそれと比べても勝るとも劣らぬものなのだろう。

 そんなケロロを少し心配そうに冬月が見ている。

(ケロロ君は気付いていないのか? タママ君が加持君を殺したという可能性に……)

 ケロロもタママと加持の間がうまく行っていない事は知っていた。
 だからこそ彼らを二人っきりにして話し合わせ、仲良くなってくれる事を期待していたのだ。
 だが、その後2人は転移装置によって共にどこかへ消えてしまった。
 そして加持の死。

 もし2人の事をよく知らない人ならば、タママが加持を殺したと考えたかもしれない。
 だがケロロは、2人が喧嘩をしていたとしても殺し合う事はないと信じて疑っていないのだろう。

 あるいは冬月のようにマッハキャリバーから2人が消える直前まで争っていた事を聞いていれば違ったかもしれない。
 でも、冬月はまだその事をケロロには伝えていないのだ。

505脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:13:51 ID:UOrY/ZqE

(仮に、犯人がタママ君だったとすると、タママ君への対応は難しくなる)

(しかし、タママ君はタママ君なりにケロロ君やサツキ君を守ろうとしていたのだろうな……)

 タママが思い違いからそんな行動を取ったのなら説得して罪を理解させる事が正しい道だろう。
 だが、冬月にも加持が何かを企んでいた可能性は否定できないのだ。
 彼は基本的には頼れる男だったが、有能であるがゆえに信用ならないという面も確かにあった。
 加持がサツキの支給品を盗んだというタママの言葉も嘘や見間違いとは限らない。
 だとすれば、充分疑う余地はある。

(だが、たとえそうだったとしても、加持君を殺して決着をつけるという方法を選ぶべきではない)

(少なくとも私にとってはそれが正しい。だが、味方に害が及ぶ前に何とかしようという考えもひとつの正解だろう)

 だから冬月はもしタママが犯人でもタママを罰する事には気が進まなかった。
 たとえ考えが違っても、タママは大事な仲間なのだ。
 やり方に問題があるとしても、望みは同じだったはずだ。
 今冬月達に必要なのは固く結びついた絆である。
 冷たいようだが、たとえ加持の死が原因であっても、できる事なら仲間同士で争う事は避けたいのだ。

(絆か。タママ君が加持君を殺したとして、それを隠して絆を結ぶなどとは。ただの欺瞞なのではないか……)

(いかんいかん。いつの間にかタママ君が加持君を殺したと決めつけている。私とした事が、軽率だな)

 何もタママが加持を殺したと決まったわけではないのだ。
 ならば今はタママが殺したのではないと信じてやるべきだろう。
 もしも再開できてその時に何か明確に疑わしい事があったならその時に考えればいい。
 今からタママを擁護する事を考えるなど、タママに対しても失礼だ。



「冬月殿。何か考え事でありますか?」

 冬月がタママについての考えに区切りをつけようとしていると、ケロロが声をかけてきた。
 どうやら難しい顔をして考えていたので心配されてしまったようだ。

(いかんな。顔に出てしまっていたようだ。なるべくケロロ君には余計な心配をさせないほうがいい)

506脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:14:22 ID:UOrY/ZqE

 冬月はそう考えて、とっさに平静を装ってケロロに答えた。

「……いや、たいしたことではないんだ。
 これから考えねばならない情報の事を頭の中で整理していただけだよ」
「そうでありますか。
 確かにこれからどうするべきか。考える事は多いでありますなあ」

 どうやらケロロにはそんな冬月の考えは気取られなかったようだ。
 冬月は長年の人生経験から身につけた厚い面の皮を今はありがたく感じつつ、言葉を続ける。

「ああ。だが、何とかせねばならない。
 このままあの草壁という男の思い通りになどさせられるものか」
「もちろんであります!
 力を合わせて、必ずあの男ともう1人の主催の娘っこをギャフンという目にあわせるでありますよ、冬月殿!」

 ケロロのそんな言葉に冬月は心からの肯定の意を込めて頷いた。

(そうだ。このまま皆の命を、そして私の命をあいつらの好きになどさせてはならんのだ……)

(そのためにできる事は。やらねばならない事はなんだ。考えろ、冬月コウゾウ)

 打倒主催者を叫び気合いを入れるケロロとはまた別のベクトルで冬月も気を引き締めていた。

 戦う力を持たず、特殊な能力もない自分にできる事は考える事だけだ。
 ならばそこに全力を尽くさねばならない。
 冬月はそんな思いを胸に、静かに闘志を燃やすのだった。







 その後、着替えを終えたなのはが温泉施設のロビーに戻り、3人は再びロビーに集合した。
 そこで冬月は、まず2人にノートパソコンの説明を始める。
 ケロロが発見したDVDの事も気にはなったが、内容を見るには時間がかかりそうだった。
 だから一旦その3枚のDVDはデイパックにしまっておき、パソコンの方を優先する事になったのだ。

507脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:14:57 ID:UOrY/ZqE

 ロビーのソファーに座り、パソコンを立ち上げた冬月がまず最初に2人に見せたのは掲示板だった。

「掲示板? こんなものがあったなんて……」
「すでにいくつか書き込みがあるようでありますな」
「うむ。それで、まずこの最初の書き込みを見て欲しい。
 この朝比奈みくるという人物は先ほど死亡者として名前があがっていただろう」

 冬月にそう言われて2人は掲示板の最初の書き込みを読んでみる。
 そこには『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』と書かれていた。
 ちなみにこの書き込みはシンジによるものだが、冬月たちがそれを知る術は無い。

「この掲示板を見ていたから冬月さんは彼女の名前を知っていたんですね?」
「そういう事だ。ただ、この書き込みが真実かどうかは何とも言えない所だ。
 そもそも主催者の仲間だから殺してくれというのが短絡的すぎる。
 私としては、いささか感情的すぎるという印象を受けるな」
「そうでありますなあ。
 しかし、その朝比奈という方も亡くなってしまったわけであります。
 もしやこの書き込みを読んだ参加者に殺されたのでありましょうか?」
「それもわからないな。
 わからないが、そういう可能性もある。
 掲示板に書き込む時はそういう事も考えておかないと無用の衝突を生みかねないという事だな」
「そう言えば、朝比奈みくるっていう名前はさっきのDVDにもありましたね。
 長門ユキ、朝比奈ミクル、古泉イツキの3人……なぜこの3人なんでしょうか?」
「この3人に何らかの繋がりがあると見る事もできるな。
 そうするとこの書き込みもあながち嘘ではないという事になるが……
 しかし、はっきりした事はあのDVDを見てみない事にはなんとも言えないだろう。
 このパソコンでも見られるかもしれないが……まあ、それは後にしようか」

 冬月の言葉に2人は頷き、さらに掲示板の書き込みを読み進めていった。

「おっ? この書き込みは……ドロロのやつでありましょうか?」
「む? 知っているのかねケロロ君?」

 次の書き込みを見たケロロは、『東谷小雪の居候』という名前にすぐに気付いた。
 東谷小雪というのはドロロが一緒に生活している地球人の少女の名前である。

508脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:15:33 ID:UOrY/ZqE

「この名前からして、ほぼ間違いないでありますよ。
 ドロロは我輩の仲間の中でも特に真面目な男でありますから、
 この書き込みは信用していいと思うであります」
「ふむ。となると、このギュオー、ゼロス、ナーガという3人は危険人物に間違いないというわけか。
 しかし、ナーガはすでに死亡したと先ほどの放送で言っていた。
 となると、我々が知る危険人物は、深町晶・ズーマ・ギュオー・ゼロスの4人。
 それにあの空を飛びミサイルを撃ってきたカブト虫の怪人を加えて5人という事になるか」

 冬月はそう言って、自分をミサイルで攻撃してきた異形の怪人の姿を思い出す。

(あの時はうまく逃げる事ができたが、できれば二度と会いたくはないな……)

「我輩も少しだけその怪人の姿を見たであります。
 体から高熱を放射して森に火を放ったのもそいつでありますよ」
「市街地で激しい攻撃を加えてきた上空の敵も、そのカブト虫の怪人ですよね?」
「状況からすればそうだと考えて間違いないだろうな。
 残念ながら名前はわからないが。
 そう言えば彼は何人かの参加者の事を私に尋ねてきたな。
 あの後色々あったせいで聞かれた名前は忘れてしまったが、確か高町君の事を聞かれたのは覚えている。
 もちろん私は何も教えなかったがね」

 そこで自分の名前が出された事になのはは少し驚く。

「どうして私を……?
 聞かれた他の参加者というのはスバルやヴィヴィオやフェイトちゃんではないですよね?」
「ああ。少なくともそれはなかったな。
 それに、彼の目的を聞き出す事はできなかったが、殺し合いそのものとは違う目的があったように思う。
 とは言ってもそれも私の憶測にすぎないがね。
 結局そこから何かを読み取るのは難しいと言わざるを得ないだろう」
「気になりますけど、今は何もわかりませんね……」

 仕方がないのでとりあえずこの話はここまでにして、3人は掲示板を読み進めていった。

「中・高等学校内に危険人物……これもドロロが言うのでありますから、気をつけた方がいいでありますな。
 と言っても、この書き込みはお昼前のものでありますから、今どうなっているかはわからないでありますが」
「あんな大火事があったからね。
 ところで、ドロロっていう人は生け花が趣味なの?」

 なのはがケロロに尋ねる。
 掲示板の名前の欄に『生け花が趣味の両きき』と書いてあったからだ。

509脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:16:15 ID:UOrY/ZqE

「やつはペコポンですっかり日本の文化に染まってしまったのであります。
 元々暗殺兵だったでありますが、ペコポンに来て忍者にクラスチェンジしてしまったでありますからなあ」
「に……忍者? 忍者ってあの手裏剣を投げたりどこかに忍び込んだりする忍者?」
「そうであります。
 この東谷小雪というのが忍者の少女で、小雪殿に会った事が忍者になったきっかけのようであります。
 あ、誤解の無いように言っておくでありますが、
 暗殺兵だったと言ってもドロロはまったく危険な人物ではないでありますよ?
 自然を愛し、ペコポンを愛し、正座して茶をすするのがお似合いの温厚なヤツであります。
 その上戦闘能力は武装したケロロ小隊の他の隊員4名を一度に相手にできるほどであります。
 もしドロロが一緒に居てくれればかなり心強いでありますなあ」

 『……時々存在を忘れるけど』と心の中でケロロは思ったが、あえて口にはしなかった。

 そして、その後の書き込みは1つだけ。
 古泉という学生服を着た茶髪の男が危険人物だという内容だった。
 古泉イツキもDVDに名前があった1人だが、DVDを見ていないのでそれが意味する所は不明である。
 また、この書き込みも誰が書いたかわからないので、一応心にとめておくだけにしようと言う事で意見が一致した。







「これで一通り読み終わったでありますな。
 しかし、せっかく掲示板があるのなら我輩たちからもドロロに何か伝えたい所であります。
 我輩たちしか知らない言葉を使って暗号を作れば、
 危険人物にバレないように合流する事だってできるかもしれないであります」

 そのケロロの言葉を聞いて、なのはも真剣に考え始める。
 ヴィヴィオと一刻も早く合流したいなのはにしてみれば、わずかな望みも見過ごせないという心境なのだろう。

「そうだね……
 もしヴィヴィオ達がどこかで掲示板の存在を知っていてくれればヴィヴィオ達とも合流できるかもしれない。
 それだけじゃない。スバルとだって……
 でも、ヴィヴィオにも解読できて、危険人物には絶対わからないような暗号が作れるかな?」

 スバルなら多少難しい暗号でも解読してくれるかもしれないが、ヴィヴィオはそうは行かない。
 そのため考え込んでいるなのはに、冬月がアドバイスをする。

510脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:16:47 ID:UOrY/ZqE

「暗号なら、喫茶店で使ったサツキ君の『狸の伝言』を使うという手はあるな。
 ヴィヴィオ君にも解読できるようにとなると、ヒントはなるべくわかりやすくせねばならないが、
 朝倉君も一緒にいるなら気付いてくれるかもしれん」
「おお、その手がありましたな!
 ドロロならばその暗号、気付いてくれそうであります。
 あとは誰の名前を暗号に使うかでありますなあ……
 小雪殿は掲示板に名前が書かれているでありますからやめておくとして、桃華殿かサブロー殿か……」

 ケロロは冬月の提案に賛成らしく、暗号で使う名前を考え始める。
 だが、喫茶店の暗号を知らないなのはは話が飲み込めず、冬月に質問する。

「その『狸の伝言』って、どういうものですか?」
「ある特定の文字を抜くと意味が通じるようにした文章の事だよ。
 喫茶店では『仲間の事は気にしないで』とヒントをつけ、
 私とタママ君の名前の文字を抜くと意味が通じるようにしておいた」
「なるほど。『た』だけを抜くような簡単な暗号なら気付かれやすくても、
 それだけたくさん字を抜くのは見抜かれにくいですね。
 ヴィヴィオやスバルが知っている人なら……はやてちゃんかアイナさんあたりかな?」

 狸の伝言の説明を受けてなのはも納得したらしく、暗号を考え始める。
 だが、冬月は少し申し訳なさそうにそれを遮って言う。

「確かに掲示板に暗号を書き込んで合流を目指すのは悪くないのだが、
 うまい暗号を考えるには少し時間がかかるだろう。
 だからそれは後回しにして欲しいんだ。
 もう一つ、検討したい事があるのでね」







 冬月はそう言ってタッチパッドを操作し、掲示板から画面をトップページに戻してkskコンテンツをクリックする。
 そうするとディスプレイにキーワード入力の画面が表示される。
 そして、その画面の下の方には小さくヒントが表示されていた。

511脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:17:21 ID:UOrY/ZqE

「冬月さん。これは……?」

 冬月が開いた画面を見て、なのはが尋ねる。

「この画面から先に進むにはキーワードを入力しなければならないようなんだ。
 キーワードのヒントはここに小さく、背景に近い色で表示されているんだが、私にはさっぱりわからなくてね」
「どれどれ。『ケロロを慕うアンゴル一族の少女の名前(フルネームで)』
 ……って、なぜ我輩の事がヒントになっているでありますか?」
「それは私にもわからない。
 だが、わざわざキーワードを入力させるのだから、君たちにだけ公開されている情報があるのかもしれないな」
「我輩たちにだけ、でありますか?
 一体なんでありましょうか。まあ、とにかく入れてみるであります」

 ケロロはそう言って考えを打ち切り、キーワードを入力してみる事にした。
 案ずるより産むが易し。やってみればわかる事を考えていても仕方がない。

「えー、ア・ン・ゴ・ル・点・モ・アっと。
 ゲロゲロリ。何が出てくるか見てのお楽しみでありますな。
 あ、それポチっとな」

 答えを入力し終わったケロロがエンターキーを押し、画面が切り替わる。
 そして、そこに現れたものとは――

512脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:17:57 ID:UOrY/ZqE


【G-2 温泉内部/一日目・夜】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(中)、温泉でほこほこ、小さな決意
【服装】浴衣+羽織(子供用)
【持ち物】マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)
【思考】
0、役に立つ情報だといいけど……
1、冬月、ケロロと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
4、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?


※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。

513脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:18:47 ID:UOrY/ZqE

【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】元の老人の姿、疲労(大)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、ディパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ
     スタンガン&催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、果たして何が出てくるかな。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
3、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
4、タママとケロロとなのはを信頼。
5、首輪を解除する方法を模索する。
6、後でDVDも確認しておかねば。


※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、断片的に覚えています。



【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、身体全体に火傷
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン、
【思考】
0、一体何が見られるんでありましょうか?
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
2、タママやドロロと合流したい。
3、加持となのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
4、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
5、協力者を探す。
6、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
7、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
8、後でDVDも確認したい。
9、で、結局トトロって誰よ?


※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです

514 ◆O4LqeZ6.Qs:2009/07/25(土) 18:22:32 ID:UOrY/ZqE
2回目の仮投下、終了です。
いや、ただ縮めただけじゃんって言われるとその通りすぎて何も言えませんが、
一応これだけ書いておけば「放送を聞いてすぐの反応」と「掲示板への感想」は消化できたのではないかと……

515なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:36:30 ID:rXOZgaF.

『スバル! 山の向こうで凄い煙が上がってるですぅ!』

偵察から戻ってきた性悪妖精ことリインフォースのその言葉でその場にいる全員に緊張が走った。
まっくろくろすけことウォーズマンが声を投げかける。

「リインよ、何処が燃えていたかは判るか?」
『ここからじゃ煙しか見えなかったです。……山頂の神社からならもっとよく見えると思いますけどぉ』
「フウム……その山頂の神社は見えたか?」
『はい、少し行った所に階段があって、その上にそんな感じの建物が建ってました』

性悪妖精のその報告を聞き終えるとウォーズマンが勢いよく俺たちの方へと振り向いた。元気な事だ。

「聞いてのとおり、神社はもうすぐだ。スバル、そしてキョンよ。歩けるな?」
「はい!」

と、力強く答えるスバルだが、その動きはどうにも鈍い。
まあ……動きが鈍いのは俺も一緒なのだが。

俺たちは疲労していた。

ウォーズマンに痛めつけられた俺と、ボコボコにされ(まあ半分は俺のせいなんだが)疲労しているスバル。
そんな身体での山登りなので、俺たちの移動速度はどうしても鈍かった。

そんなこんなで結局、俺たちは放送までに神社にたどり着く事が出来なかった。
性悪妖精が戻ってきてから数分も歩かないうちに、辺りには草壁のおっさんの声が響いたのだ。



「グ……な、なんて事だ〜〜っ。草壁サツキとゲンキが死んでしまったと言うのか……」

がっくりとうなだれるウォーズマンの姿を見て、フリーズしていた俺の思考もようやく再起動する。
そしてその頃になって俺の頭にもようやく事態が飲み込め始めた。
そうだ、いま確かに草壁のおっさんは朝比奈さんと俺の妹の名前を呼んだんだ。
つまりこれは……朝比奈さんと妹が死んだという事なのだろうか?
ハルヒの時のように、あっさりと。

原因はなんだろうか。二人はどんな風に死んでしまったのだろうか?
……いや待て、朝比奈さんと妹が死んだ理由? 
俺は理由を知っている気がする。
なんだっけな。確か、ああそうだ――俺が二人の殺害を頼んだんじゃないか。

『だから、雨蜘蛛さん…もしこの二人に出会ったら……二人を…』
『みなまで言うな――お前さんの望み、この雨蜘蛛様が叶えてやろう』

そうだ、あの時の約束通りに雨蜘蛛のおっさんが二人を殺してくれたのだ。
ははは……運良く雨蜘蛛のおっさんは二人に出会えたんだのだろう。
俺自身が立て続けに妹・ハルヒ・古泉と出会えたんだ。そんな偶然が起こっても今更驚かないぞ。

「…………」

眩暈がする。

516なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:37:02 ID:rXOZgaF.

「キョン君!?」

ああ……俺をそう呼ぶのは誰だ?
朝比奈さん? それともあいつか?
いやいや、どうした俺? 冷静になれ。二人はもう死んだんだ。
草壁のおっさんがそう言ったんだから間違いない。
もう俺がそんな風に呼ばれる事はないはずなんだ……二度と。

眩暈が――する。

なんだ、これは?
まるで、まるで混乱しているみたいじゃないか。
馬鹿げている。二人を殺してくれと頼んだのは俺だ。
自分で頼んだ事が実現してショックを受けるなんてどうかしている。
俺はこう思うべきだ。
『雨蜘蛛のおっさんのお陰で二人を殺さなくて済んでよかった』ってな。
なあ、そうだろ? あとはもう生き返るだけで、二人はこれ以上苦しまないで済むんだ。
喜べよ俺。なんでこんなに胸が苦しいんだ。

これじゃあまるで――。

【ああ、そうさ。後悔してるんだよ】

唐突に聞こえたその声に俺は凍りついた。視線だけを動かして声の方向を見やると。
……そこには『俺』が居た。

【だから言ったんだ。今のお前じゃ悪魔になんてなれないって】
「なんで、お前が……」

思わず呻いてしまう。
二度と見たくなかった顔がそこにはあった。

目の前には俺そっくりな『俺』が俺を見下ろしていた。

おいおい。なんなんだよこれは。俺はいつの間に眠っちまったんだ?
よりによってなんでこいつがここに居る?

「なんでお前がここに居る。大体、悪魔になれないだって?
 はっ、お前も知ってるだろ? 俺はあれから古泉を罠に嵌めて、ナーガのおっさんを殺した。
 もう十分悪魔なんだよ。……そんな俺がいまさら何を後悔するって言うんだよ」
【よりによってあの雨蜘蛛のおっさんなんかに殺人を依頼しちまった。それを後悔している……違うか?】

その言葉に――胸が、軋む。

「そ、そんな事は――」

ない。
と……どうしても口に出しては言えなかった。
理性はそう言い切りたかったのだが、感情が、口がついてこない。
そう、感情。
俺は初めて理解する。さっきからこの胸をギリギリと締め付けるような痛みの正体を。

「そんな馬鹿な……なんで今更」

517なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:37:33 ID:rXOZgaF.

こいつの言葉を肯定なんてしたくなかったが、今回ばかりは正しいのかもしれない。
くやしいがそんな風に内心で認めてしまった。
胸を締め付け、俺を苦しめているこの感情は恐らく――――後悔。
いくら後で生き返るとは言っても、あの拷問狂な雨蜘蛛のおっさんに朝比奈さんと妹の殺害を依頼しちまったのだ。
後悔……しているのかもしれない。
あのおっさんはきっと俺の時のように朝比奈さんを――妹を――拷問したのだ。
有刺鉄線で体を縛り、眉間に銃を突きつけながら、枝切りハサミで徐々に指を切る。
顔を殴られ、腹を貫かれ、そしてあの少年のように徐々にミンチにされ、「キョン君」と俺の名を呼びながら事切れ――。

「うげえっ!」

喉の奥に熱いものが込み上げくる。

ああ――吐き気がする。

そしてそんな嘔吐感の中で、俺は何故かスバルの言葉を思い出した。
『君が殺した男の子にもいっぱいいっぱい大切なものがあった筈だよ』
ああ、そうかよ。つまりこういう事なんだな。
癪だが認めてやるよ……いや、認めざるをえない。

【な、後悔してるんだろ?】
「……ああ。そうなのかもな」

俺は静かに認めた。認めちまった。
殺し合いが終われば生き帰って記憶が無くなるとはいえ、俺は朝比奈さんや妹に苦しんでほしくはなかったんだ。
そして俺が殺したあの子供やナーガのおっさんにも、そう思う人間がいるのかもしれない。
今更そんな事に気付いちまった。

最悪だ――俺は全然悪魔になんてなれてない。
そんな偽善めいた良心みたいなモノがまだ残っていたんだ。

【なあ、もうこんなバカな事は止めにしないか?】

『俺』が呆れたように肩をすくめる。
その言葉に、俺は流されたくなった。
だってそうだろ? 俺が殺さなくても雨蜘蛛のおっさんあたりがきっと殺し尽くしてくれる筈だ。
俺はこのままスバルたちと一緒に殺し合いを止めるなんていう無駄な足掻きをしてればいい。
どうせ長門の計画を止める事なんて出来っこないんだしな。

【どうした? 気味が悪いぐらいまともな事を考えてるじゃないか。ついでにもう一つの方も誤魔化すのは止めないか?】
「急になんだ。俺がいったい何を誤魔化してるっていうんだよ?」
【終われば元通りになるっていう、その現実逃避をだよ】

……またそれか、しつこい奴だな。
後悔は確かにしてるみたいだが、それは現実逃避でもなんでもない。

「あのな、長門の目的は観察なんだ。観察が終われば生きかえらせてくれるに決まってるだろう」
【アホか。仮に観察が目的だったとしても観察対象はハルヒだけだろ? 
 なら長門、いや――情報統合思念体はハルヒだけしか生き返らせないんじゃないか?】

鼓動が早くなる。何を言ってるんだこいつは? 
理解できない。いや理解したくない。

【こんな事にも気付けないのは単にお前が目を――】
「ぐああああああああああああああああああああああああ!!」

俺は絶叫する。その先は聞きたくなかった。理解したくなかった。
だと言うのに『俺』はしつこく言い続ける。俺は再び叫び。

「キョン君!」

叫んだ瞬間、頬をはたかれたような衝撃が俺を襲い、視界が真っ白になった。
頬が痛え……だけどその痛みに同時に安堵を覚えていた。
その痛みのお陰で『俺』の声がまったく聞こえなくなっていたからだ。
真っ白な視界が明けると、目の前にいつの間にか青い髪の女が――スバルが居た。

「よかった、気が付いた?」
「……気が付いたって、何の話だ?」

518なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:38:04 ID:rXOZgaF.

俺は見下ろすスバルに向かって憮然と尋ねる。
……というか俺はいつのまにか地面に横たわっていた。一体何がどうなってるんだ?
俺のその疑問が分かったのかスバルが説明した。

「放送を聴いてキョン君は倒れたんだよ、覚えてない?」

情けない事に……どうやら俺は気絶していたらしい。
道理で『俺』が現れる筈だ。しっかりしろ俺。情けないぞ。

「フムウ……」

頭を振りながら立ち上がると、何故かウォーズマンがじっと俺を見ていた。
俺はその視線に嫌な感じを受けて目を逸らしながら尋ねる。

「なんだよ?」
「いや。……歩けるようならもういくぜ。早くギュオーたちと合流し、このエリアから離れねばならないからな」
『そうです、あと一時間でここが禁止エリアになっちゃうんですから、キリキリ歩いてください』

そんな憎まれ口を叩く陰険妖精すら何処となく心配そうな顔で俺を見てやがる。
くそ、それだけ無様に気絶しちまったって事か。

「わかった、わかりましたよ」

俺はため息をつきながら歩き始める。
……なんとか歩けそうだが、妙に足がふらついていた。

「キョン君、大丈夫?」

うしろからスバルがそんな事を聞いてくるが、俺はそれを無視して歩き続けた。
こいつの言葉を――キョン君というその呼び名を――聞いてると、胸が軋む。
理由は知らん。たぶん疲労のせいで心が弱っているのさ。だから俺はスバルを無視する。
疲労。疲労なんだ。
胸が軋むのも、気絶したのも、あの悪夢も全部疲労のせいだ。

疲れていた。
酷く疲れきっていた。

今だけは何も考えたくない。殺し合いの事も、死んでしまった――の事も。
何も考えず、ただ重い足を前へと動かす事だけに集中する。
だというのに。

なんで身体の震えが止まらないんだ。



リヒャルト・ギュオーはそれを聞いたとき、その金色の瞳に驚愕と疑惑を浮かべた。
主催者が放送を通して告げてきたその言葉は彼にとってそれほど予想外だったのだ。

「何故よりによってここを禁止エリアにする……!」

彼は苛立ち紛れに床を蹴破りながらそう叫ばずにはいられなかった。
前回といい今回といい、まるで主催者は狙ったかのようにギュオーがいる場所を禁止エリアにしていた。
そう、あたかもギュオー個人に悪意があるかのように。

519なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:38:52 ID:rXOZgaF.

(いや――もしやあるのか?)

苛立ち紛れに浮かんだその考えが意外と正解なのではないかとギュオーは気付く。
前回のH-5といい今回のF-5といい、ギュオーにとって都合の悪い場所が選ばれていたのだ。
それにより前回は草壁メイの死体をウォーズマンに発見される危険が生まれ、
今回はそのウォーズマンとの合流を阻まれかけている。
偶然というにはあまりに出来すぎていた。

(となると原因はなんだ? ……まさか草壁メイか?)

放送が聞こえてきた空へと視線を投げながら、ギュオーが思いついたのはそれだった。
つまり、娘の死体を粉砕された事に怒った草壁タツオが嫌がらせをしているのではないかと考えたのだ。

(いや、それはありえんな。娘をこのような場所に放りこんだ父親がそんな事で怒りを覚えるはずがない。
 ならばなんだ? 他に主催者たちに恨まれる覚えなどないのだが……)

思考の迷宮へと迷い込みそうになったギュオーだったが、彼はその事ばかりに気を取られているわけにはいかなかった。
主催者により神社から追い出されかけている彼は、早々に移動先を決め、別のエリアへと脱出しなければならないのだ。
恨まれている理由の究明はひとまず横に置き、ギュオーは目前に迫った問題に目を向けた。

(しかし何処へ行ったらいい? 北は大火災がおきている。恐らく今回の死者の多さはあの火災のためだろう。
 となると北は危険だ。行って得られるものがあるとも思えん……ならば南か?)

未だ煙があがっている北の空から平穏そうな南の空へと視線を動かしながらギュオーは頷く。

(ふむ、それがいいような気がするな。上手くすればウォーズマンとも合流出来るだろうしな)

この場で合流予定のウォーズマンは未だに姿を現さない。
放送で呼ばれていないのだから死んではいないのだろうが、何か問題が起きているのは間違いないのだろう。
そんな事を考えながらギュオーが視線を空から山道へと移したのだが――その瞬間、彼の瞳は再び驚愕に染まった。

(あれは! まさか……ガイバー!?)

視線の先、この場へと続く山道――僅か百メートル程度の至近に宿敵ガイバーの姿を発見してしまったのだ。
それを見てギュオーは咄嗟に鳥居の影へと身を潜める。
鳥居の影からそっと窺うと、その横には印象的な黒い男――ウォーズマンと少女――恐らくあれがスバル・ナカジマだろう―

―が居た。どうやらウォーズマンたちはガイバーと行動を共にしているらしい。

(……まずい、まずいぞ。ガイバーと居るという事はまさか俺の事がばれたのか?)

夕闇のせいではっきりとは見えないがあのガイバーが深町晶ならば全てがばれている可能性もあった。

(いや待て、そう考えるのは早計だ! ユニットを支給されただけの無関係な奴かもしれん……ん?
 待てよ……もしそうならば、これで俺が知らない二つ目のユニットがあったという事になるな)

自身の考えにギュオーは息を呑んだ。
ユニットが量産されている可能性は予想していたが、他にも何かを思いついた気がしたのだ。

(というなるとこの島にはかなりの数のガイバーが居る事になる。ならば主催者たちはユニットに手を加え……た?)

その瞬間、稲妻に打たれかのようにギュオーの心に衝撃がはしる。

(そうだ! 手を加えなければガイバーは例え一片の細胞片からでも全身を復元してしまう。
 そして細胞から復元したガイバーには首輪が――この殺し合いの要たる首輪がない!
 この殺し合いを成立させているのはこの首輪だ、主催者がそんなミスをするだろうか?)

自身の首にある冷たいそれに触りながらギュオーは今までの主催者の行動を思い浮かべる。

520なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:39:24 ID:rXOZgaF.

(いや、草壁タツオと長門有希はそこまでマヌケではないだろう。
 となると、ガイバーの復元能力はかなり衰えている可能性が高い。
 最低でも首が切断されたら二度と復元できないレベルまで抑制されているはず。
 ……そうでなければ簡単に首輪を外されてしまうからな)

そしてギュオーは思考の迷宮を走破した末に、自身の未来すら左右する重要な疑問へと遂に到達した。

(……では装着者が殺された場合、ユニットはどうなる?
 本来ならガイバーは細胞の一片からでも復元するが、この島では恐らくそれはない)

ギュオーは自身の思考の先にある希望の香りに、ひどく興奮していた。

(そのまま機能を停止する可能性も否定できんが、もう一つの可能性も考えられる)

そしてにやりと声に出さずに笑いながらギュオーはガイバーを見やる。

(そう、つまりユニット・リムーバーがなくとも、この手にユニットGを手に入れられるという可能性が!)

視界の先では倒れていたそのガイバーがゆっくりと起き上がっていた。
ウォーズマンたちと一緒にこちらへと登ってくるユニットG。
ギュオーにはすでにあれがガイバーではなくユニットに見えていた。

(どうする? ガイバーごとウォーズマンたちを不意打ちで殺してしまうか?)

そっと神社の奥へと身を隠しながらギュオーは思索する。
見ていて判ったのだが奴らの動きはどうも鈍い。戦いでもあったのか酷く消耗していた。
不意をつけば一息で倒す事も可能だろう。

(いや、落ち着けギュオー! ウォーズマンにはまだ使い道がある。
 いま奴らとの信頼関係を失うのは惜しい。……ここはチャンスを待つべきだ)

ギュオーは顔を歪ませながら、そのチャンスをどうやって引き起こすか夢想する。

(そうだな、ガイバーが一人となった所を狙えばいい。
 殺した後は深町辺りが襲いかかってきたとでも言えば単純なウォーズマンは誤魔化せるだろう。
 ……そして獣神将たる俺がガイバーを纏い、世界の王となるのだ!)

口から漏れそうになる笑いを堪えながら、ギュオーはウォーズマンたちを出迎えに階段へと向かった。



「よく戻ったな、ウォーズマン!」
「おお、ギュオーか! 遅くなって済まない」

ギュオーはウォーズマンとしっかりと握手を交わし、再会を喜んで見せた。
そして初対面の二人へと視線を動かし、怪訝な表情で疑問を投げかける。

「その二人は?」
「ああ、スバルとキョンだ……詳しい話をする前にまずはここから離れよう」
「そうだな、ここが禁止エリアになってしまう前に移動した方がいいだろう」

ウォーズマンの言葉にとりあえず頷きながら、ギュオーはキョンという名前から詳細名簿の内容を思い出そうとした。
印象が薄い為に全ては思い出せなかったが、たしか普通の学生だったはずだ。
殺しても問題ない――そんな事を考えていたのだが、ふとウォーズマンが辺りを見ながら尋ねてきた。

「ところでギュオー、タママはどうしたんだ?」
「ああ、タママ君か……それなのだが実は彼は一人で北へと走り去ってしまったのだよ」
「たった一人でか!?」

521なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:39:54 ID:rXOZgaF.

驚くウォーズマンにギュオーは肩をすくめて言った。

「私も引き止めはしたのだよ? だが、ケロロ軍曹たちを助けると言って聞かなくてね」
「……ギュオーよ。タママは本当に自ら走り去ったのか?」
「ん、どういう意味だね?」

何故か鋭くなったウォーズマンの口調に眉をしかめながら聞き返す。

「本当にタママは自分の意思で走り去ったのか、と聞いているんだ」
「……なにがいいたい?」

知らず、声に困惑の響きが混ざる。ウォーズマンの口調に珍しく毒のような物を感じたからだ。
そしてウォーズマンは姿勢を正してこちらを見やると決定的な一言を放った。

「単刀直入に聞くぜ。ギュオーよ、俺はお前が殺し合いに乗っていると聞いたんだ」
「……ッ!?」

その時、ギュオーは表情に走った衝撃を隠そうとして失敗した。
そしてウォーズマンの後方にいるスバルも、同じように驚いてウォーズマンを見上げた。

「ウォーズマンさん……?」
「ここはオレに任せろ。この問題はやはり放置するわけにはいかない。
 ……スバル、そしてリイン。お前たちはキョンと一緒にそこで見ていてくれ」

そのウォーズマンの言葉に何かを感じたのか、スバルはその青い髪を僅かに揺らして頷いた。

「わかりました」
『キョンの見張りはお任せです』

そんな会話を横目に、ギュオーは脂汗を浮かべながら必死に打開策を考えていた。

(ええい、俺が殺し合いに乗っている事がどこから漏れた。
 魔法使いの小娘……いやそれとも深町晶か? とにかくここはなんとか誤魔化さなければな)

深くそして深刻な動揺からギュオーはなんとか立ち直り、細心の演技をこらして驚いてみせた。

「なんという事だ……一体誰がそんな嘘を? ウォーズマン、私は殺し合いになど乗ってはいない。
 恐らくこれは私を陥れるための罠なのだろう……」
「そう信じたいところだが、オレはお前に襲われたという人物に話を聞いたのだ」

腕を組みながらウォーズマンは悠然とそんな事を告げてくる。
それを聞いてギュオーの顔から余裕が弾けとび、焦燥が踊った。

(ぬ……う。そういう事か。
 奴らと直接会話をしたというのなら、いくらこのお人よしでも誤魔化しきれんかもしれん)

簡単に誤魔化せると思っていただけに、この予想外の事態にギュオーの背中に冷や汗が流れる。

「ま、待てウォーズマン! そいつらが真実を話しているとは限らない――」
「ギュオー。お前は何故そんなに焦っている?」

声を上ずらせたこちらの言葉を遮り、ウォーズマンが鋭く尋ねてくる。
その表情は苛烈といっていいほど引き締められており、その視線は矢のように鋭かった。

「心拍数もひどく上がっているな……そしてその額から流れる大量の汗」

そこで一拍、間を置き――ウォーズマンは言った。

522なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:40:25 ID:rXOZgaF.

「お前は……嘘をついているな?」

その時になってようやくギュオーはウォーズマンを侮っていた事に気付いた。

(……迂闊だったな。お人よしだと思って甘く見すぎていたが、こいつはコンピューターの分析力を持つロボ超人。
 そう簡単に誤魔化せるような相手ではなかったという事か……。
 ええい! こうなっては仕方がない。ここでウォーズマンたちを始末し、ユニットGを手に入れてくれるわッ!)

ここまで疑惑が深いのならば、いっそここで始末したほうが後腐れが無くていい。
そんな風にあっさりと方向転換する事を決めると、ギュオーは静かに拳を固めた。

「どうなんだ、ギュオー。お前は殺し合いに乗っていたのだな?」

鋭く尋ねるウォーズマンの視線を睨み返しながらギュオーはその質問に答えた。

「答えは………… ” Y E S ” だッ!!」
「ぐおっ――!」

一瞬で獣神将へと転じながらギュオーは重力衝撃波でウォーズマンを吹き飛ばす。
だがウォーズマンもそれを予想していたのか、上手く受け流して数メートル後方であっさりと地面に着地した。

「『ウォーズマンさん!』」

遠巻きに見ていたスバルとリインが動きかけるが、それをウォーズマンが軽く手を振って制止する。
そしてウォーズマンはこちらに顔を向けながら何故か深いため息をついてきた。

「なんという事だ……まさか本当にお前が殺し合いに乗っていたとはな――ギュオー!」

その言葉に何か嫌な予感を覚えて思わず問い返す。

「なんだと? ま、まさかウォーズマン今のは!?」
「その通りだ。オレにはお前が殺し合いに乗っているという確信はなかった。見事に馬脚を現したなギュオーよ」

ブラフに――よりによってウォーズマンに騙されてしまったのだ。
目が眩むほどの怒りを覚えながら、ギュオーは言葉を搾り出す。

「ちがう……。私はユニットを手に入れる為に自ら正体を明かしてやったのだ!
 そしてウォーズマン! ユニットさえ手に入れば貴様の力など最早必要ない!」
「おのれ――っ!」

距離を詰めようとウォーズマンが接近してくるが――遅い。
すでにギュオーは重力を制御し終えている。
全身に埋まっている球体――グラビティ・ポイントが煌き光る。そして圧倒的な重力が渦巻く。

「地 獄 へ …… 行 け ッ ー ー ー !」

解放された超重力に囚われてウォーズマンが木の葉のように舞う。
そしてウォーズマンごと周辺の大地十メートルほどを超重力が押し潰す。

「……そ、そんな」
『ウォーズマンさん!?』

大量に舞う土煙の向こうでスバルとリインが再び悲鳴をあげていたが、今度はそれに答えるウォーズマンの姿はなかった。
土煙が収まると、そこにあったのはクレータのみ。
すり鉢上に抉れた地面と欠片も残さず消滅したウォーズマンを見て、ギュオーは大きく笑った。

「はっはっは! 意外とあっけなかったな! ……さて、それではユニットをいただくとするか」

523なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:41:01 ID:rXOZgaF.

残っているのは時空管理局とやらの新人とガイバーの力を手に入れたただの学生。
さっさと殺してユニットを頂こうと腕を前に――出そうとして、腕が動かない事に気付いた。

「……なんだ?」

視線を落とすと獣神将の身体を何か光る鎖のようなものが縛っていた。

『そこまでです!』

すっかり忘れていたリインフォースが声をあげて言った。

『バインドをかけました、大人しく投降するです!』
「小賢しいわ、この羽虫があッ!!」

咆哮と共に噴き出る怒りを重力子に変え、生成した衝撃波をリインに解き放つ。
リインの仕業と判った瞬間、吹き荒れた怒りをそのままぶつけたのだ。

『きゃふ!』
「空曹長!? ……このおっ!」

いつの間にかギュオーの間合いへと接近していたスバルが拳を掲げながら吼えてくる。
だがリインが吹き飛んだ瞬間、ギュオーを縛る魔力の鎖もまた消滅していたのだ。

「その程度で私を止められるかとでも思っていたかッ!!」

拘束が解け、自由となった腕でスバルの拳に合わせるように――ギュオーも拳を放つ。

「がっ……は……!」

クロスカウンター。
自身の突進力に獣神将の腕力が加わったその一撃を喰らい、スバルは激しく跳ね飛び、転げ、地面を滑っていった。
そんなスバルを一顧だにせずギュオーは笑いながらガイバーの元へ――逃げ出そうとしていたキョンへと指を向け。

「おっと、逃がしはしないぞ」

指を弾いた。
いや、正確には重力で出来た弾丸を指で射出したのだが……それは見事にキョンへと炸裂する。

「ぐああああああ!」
「40%の威力の重力指弾(グラビティ・ブレット)だ。まだ死んではいないだろう?」

重力指弾を背中に食らい吹き飛ぶキョンに機嫌よくギュオーは話しかけた。
もうすぐ手に入るとなると、機嫌が悪くなる理由など何もなかった。
その時、キョンが急に起き上がり頭をこちらへと向ける。

「こ、この!」

だが――あまりに遅い。
その攻撃を予測していたギュオーは前方に生み出したバリアであっさりとヘッドビームを防ぐ。
そして動揺したキョンを蹴りとばして、背中を踏みつけた。

「がっ……!」
「もう終わりかガイバー? フフフ、ならばこれでようやく私が世界の王となれるわけだ!」

押さえ切れない哄笑が思わず口からこぼれ出す。
それが聞こえたのか、足元で呻くキョンが苦しげに聞いてくる。

「世界の王? い、一体何の話だ……」

524なるか脱出!? 神社の罠(前編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:41:31 ID:rXOZgaF.

その問いにギュオーは機嫌よく答えてやった。

「ふ、よかろう。あと数分の命だ、冥土の土産に教えてやろう」

そして、ユニットガイバーが捕食したものの身体能力を強化・増幅すること。
元から強力なものが――例えば獣神将が殖装すれば限りなく神に近い存在となれることを教えてやる。

「つ、つまりお前はガイバーになりたいって事か。ならガイバーは渡す! だから!」
「まあ、落ち着きたまえ。まだ話には続きがあるのだよ」

キョンを宥めて更に説明する。

「ユニットはな、本来はユニットリムーバーという物を使わねば解除は出来んのだよ。
 だが、私の予想ではこの島では装着者を殺せばユニットが手に入る可能性が高いと睨んでいる」

それを聞いて足元のキョンが驚いたように叫ぶ。

「そ、それって……つ、つまり俺を殺すって事か!?」
「そういう事になるな。さて、理解できたところでそろそろ死んでもらおうか……私の為になッ!」

そしてギュオーはキョンを思いっきり踏みつける。

「ぐあ……ああああああああああああああああああああ!」

ガイバーのせいだろうか、意外にもキョンの背骨はあっさりと折れはしなかった。
絶叫するキョンを踏み抜こうと、ギュオーは更に足に力を込めようとして。

「リボルバーシュート!」
「――ぐぬ!?」

吹き飛んだ。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
なにしろ気迫に満ちた声が聞こえたかと思えば次の瞬間には身体が吹き飛んできたのだから。
……とはいえ多少吹き飛びはしたが、それほど大した衝撃ではない。
すぐに体勢を整えて声が聞こえた方に視線を動かすと――そこには青の少女が拳を向けて立っていた。




525なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:42:02 ID:rXOZgaF.


「ほう、私の一撃を食らって生きていたとはな。そうか、そういえば貴様も戦闘機人だったな」

ギュオーがそんな言葉を漏らすが、それに返事をする余裕なんてスバルにはなかった。
キョンの悲鳴を聞いて意識を取り戻しのだが、咄嗟に撃った魔法が当ったのは奇跡に近い。
視界が揺れ、ふらつく身体に何とか活を入れる。

(痛っ〜……!)

木の幹に強かに叩きつけられたせいで背中が酷く痛んだ。でも背骨が折れていなかっただけ幸運だったのかもしれない。
それほどギュオーの一撃は凄まじかったのだ。

「く、ちくしょう!」

スバルがギュオーと睨みあって出来たその一瞬の合間を拾い、キョンが駆け出す。
神社の外を目指して一目散に。

「ええい、往生際の悪い! 逃がさんといってるだろうがッ!!」

ギュオーが咄嗟に重力指弾を放とうとしたが、その隙を逃すわけにはいかなかった。

「うおおおおおおおおおっ!」

スバルは残った力を振り絞って真正面から飛びかかった。
そして叫びながら全力で打ち出したスバルの右拳が今度こそギュオーの顔に突き刺さった。

「お……のれッ!」

だがギュオーは顔面を歪ませながら僅かに後退しただけだった。
そしてその巨体から繰り出される拳をなんとか避けながらスバルはうしろへと大きく跳ぶ。
信じられないタフネスだった。
しかしキョンにはそれで十分だったのだろう。
スバルがちらりと視線を動かすと、キョンはすでに神社の境内から姿をくらませていた。

「そんなに先に死にたいのなら、望みどおり貴様から先に殺してくれる!」

獣神将のその殺気に押され、一歩だけ後ずさる。
だけど、なんとかそこで踏み止まる。身体は既に限界に近い。
時間をかければかけるだけ勝率が下がっていく事をスバルは悟っていたからだ。
故に――狙うは一撃必倒。

(接近してバリアブレイク、そのままディバインバスターでノックダウン……それに賭けるしかない)

それにはデバイスの――レイジングハートの協力がどうしても必要だった。
スバルはそっとレイジングハートに問いかける。

「レイジングハート、戦える?」
『はい。ただしリカバリーは60%程度しか終わっていません。
 今の状態では魔法が安定しない可能性がありますので、注意を』
「わかった。レイジングハート……セットアップ!」
『stand by ready.set up.』

刹那の後、スバルの左手には杖状のレイジングハートが、そして身体にはバリアジャケットが現れた。

「ほう、それがベルカ式魔法という奴か?」
「……?」

526なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:42:32 ID:rXOZgaF.

ギュオーのその言葉に僅かに疑問が湧くが、スバルはそれをあえて思考から追い出す。
一点集中、それしか活路はないのだから。

「いっくぞおおお!!」

だんっ! と、地面を踏み抜き前進する。
だがギュオーはスバルの接近を許さず、重力指弾でこちらの接近を阻む。

(これじゃあ、近付けない……!)

間断なく襲い掛かってくる重力の弾丸を避けているうちに、次第にギュオーとの距離が開いていくのを自覚する。
距離が開けば開くだけ不利になる――こちらの切り札は接近しなければ使えないのだ。
ジリジリと追い詰められるスバルにギュオーがじっとこちらを見据えて低く笑った。

「もう接近などさせんよ。IS『振動破砕』だったか? そんなものを使われては堪らないからな」
「……なんで」

それを知っているの?
その言葉にスバルは一瞬、気を逸らされた。――刹那、ギュオーが手を振り上げて衝撃波を放つ。

「――――っ!」

レイジングハートの自動防御が……僅かに間に合わない。
衝撃がバリアジャケットを通り抜けていくのを、スバルは声なき悲鳴をあげながら理解した。
痛みとショックに耐えながら、地面の上を転がり、スバルはその場に倒れこんだ。

「貴様の事は全て知っているぞ、スバル・ナカジマ――いや、タイプゼロ・セカンドよ!」

にやりと笑う獣神将。スバルの背筋にぞくりと冷たい物が走った。
スバルは圧倒的な力と全てを見通すようなその眼差しに確かに恐怖を覚えてしまったのだ。

(勝てない……の? あたしの力じゃ……)

膝が震えて立ち上がることは出来ない。目が霞んで視界がぼやける。

「さて、私も忙しい。そろそろ死んでもらうとしよう」

ギュオーの全身に埋まっている球体が発光し、その腕の中に力が渦巻くのを感じた。
ウォーズマンを倒したあの技だと――そう意識した瞬間。

スバルの脳裏に急激にさまざまな思い出が浮かんだ。

ウォーズマンの顔が。
ナーガの顔が。
ガルルの顔が。
アシュラマンの顔が。
フェイトの顔が。

死んでいった人たちの顔が思い浮かぶ。

(これって……走馬灯?)

そして中トトロの顔が。
キョンの顔が。

思い浮かんではまた消えた。

(やだ……まだ、死にたくない。まだ、死ぬわけにはいかない)

527なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:43:07 ID:rXOZgaF.

まだ助けられてない、まだ何も出来ていない、まだ……まだっ! 
歯を食いしばり、足に力を込める。
その意思に――身体が応えてくれた。

(まだ……立てる。そうだよ、今のあたしは……泣いてるだけのあの頃のあたしじゃないんだから!)

厳しい教導に耐え抜いた身体はまだ動く、動いてくれた。
地面に手をつき、身体を支える、ゆっくりと立ち上がってレイジングハートを構える。
レイジングハートも応えてくれた。魔力がスバルの眼前に障壁を生み出す。

障壁じゃ防げないかもしれない――そんな弱気が脳裏に閃くが、負けるもんかと歯を食いしばって弱気を振り払う。
スバルとは逆にギュオーは勝利を確信しているのか――笑みを浮かべていた。そして。

「では、さらばだ――ん?」

と。
収束した力をこちらに向けた瞬間。突如ギュオーの身体がぐらついた。彼の足元が揺れていたのだ。

「……地震か?」
「ギュオオオオオオオオォォォ――――っ!!」

地震――ではなかった。
それはドリル、それは竜巻、それは――螺旋回転する超人だった。
地下から飛び出してきた黒い竜巻は土を吹き飛ばしながらギュオーの身体をも弾き飛ばす。

「なんだとッーーー!?」

叫ぶギュオーと驚くスバルの間にその超人は着地し――呼吸する。

「コーホー」

と、腕を交差させてしっかりと。
そこには確かに彼が居た。死んだと思った黒い伝説超人(レジェンド)が。

「ウォーズマン! 馬鹿な、なぜ貴様が生きている!?」
「簡単な事だ。オレはセンサーが重力異常を感じたその瞬間、
 自ら超人削岩機(マッハ・パルバライザー)で地面への奥へ潜ることで、ダメージを最小限に抑えたのだ」

平然とそんな事を言われたギュオーが絶句する。

「ウォーズマン……さん?」

倒れそうになりながら名前を呼ぶと、黒い伝説超人は大きく頷いてくれた。

「遅れてすまない。固くなった地盤から抜け出すのに時間が掛かってしまった……大丈夫か?」
「はい……なんとか!」

本当は立ってるのがやっとだと言うのに、不思議と力が沸いてくるのを感じていた。
自分が決して一人じゃない、その事が挫けかけていたスバルの心に不屈の力を与えてくれていた。

「リインとキョン?」
「空曹長は……ここです」

短く聞いてくるウォーズマンにそう簡潔に答える。
すぐ近くで気絶していたリインをそっと手のひらの上に乗せながら、そしてスバルはもう一人の行方を告げる。

「キョン君は……その、逃げました」
「なんだと!?」

528なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:43:38 ID:rXOZgaF.

ウォーズマンが驚愕すると同時に、超人の凄まじさに絶句していたギュオーもそこでようやく立ち直ったのか。

「ぐううッ、このくたばりぞこないどもがッ!!」

怒鳴りながら猛然と重力指弾を撃ち出してきた。
ウォーズマンはスバルの身体を抱きかかえながら、大きく飛び退き重力指弾の雨から逃れる。
そして追うようにとんできた重力指弾が様々な物が破壊していく。
神木を、鳥居を、そして狛犬を……ギュオーとの射線上にあったあらゆるモノが破壊されていく。

そしてその時、不思議な事が起こった。
急に大地が鳴動し始めたのだ。

「な、なんだ!?」

再度振動する地面に流石に警戒したのかギュオーは空中へと跳び退る。
だが、今度はギュオーの足元だけではなく神社全体が鳴動していた。
物陰に隠れながらそれを見ていたウォーズマンが口を開く。

「スバル。ここはオレに任せてお前はキョンを追え」
「え、でも……ウォーズマンさんは?」
「オレは正義超人としてギュオーとの決着をつけなければならない。
 ……だが、このままキョンを放っておくわけにもいかないんだ」

そこまで厳しい表情だったのだがふと、表情を緩めてウォーズマンは続ける。

「元・残虐超人だったオレにはわかる。
 放送時のあの動揺……奴は自らが行った残虐行為を後悔している。
 だが、一人になれば奴はまた罪を犯してしまうだろう。しかし……お前が居れば。
 お前のテンダーハート(優しい心)が隣にあれば……奴は正道へ帰る事が出来るかもしれないぜ!」

そのウォーズマンの言葉に、スバルは嬉しさと不安がない交ぜになる。

「で、でも! いくら何でもウォーズマンさん一人じゃ!」
「行けスバル! これはギュオーを信じたオレの責任。お前はお前が出来る事をするんだ!」

その強い言葉に押されるようにスバルは吹っ切る。

「わかり……ました! ウォーズマンさん、どうか無事で!」
「ああ、お互いやるべき事が済んだら先ほどのリングで合流しようぜ!」
「はい!」

そしてギュオーが振動する神社に気を取られているのを確認するとウォーズマンが叫ぶ。

「いまがチャンスだ。行けっ、スバーーール!」

ギュオーの注意が逸れているその隙に――スバルはキョンが消えた草むらへと飛び込んでいった。





沈みかけの太陽の光が木々の隙間から僅かに漏れる。
そんな薄暗い山道を俺はひたすら走り続けた。
視界ははっきり言って悪い。何度も木の根に足を取られかけて転びかけていたぐらいだ。

こういう薄暗い夕暮れ時の事を逢魔時とか言うんだったか。
確か魔物が出るような時間帯って話だったはずだが――現状では洒落にもならない。
今現在俺は魔物から命がらがら逃げ出しているんだからな。

529なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:44:08 ID:rXOZgaF.

逃げる、逃げる、後ろも見ずにひたすら逃げた。
魔物から?

いや、何も考えたくないのに次から次へと襲い掛かってくるこの現実からもだ。
頼むから休ませてくれよ。今だけは何も考えたくないんだ。
だというのに、なんであんな怪物に命を狙われなきゃならないんだ。
ああ、ハルヒの声が聞きたい。……そう思わずにはいられない。
一日前の俺が聞いたら笑っちまうだろうが今だけは真剣にあいつの声を聞きたい……そう真剣に思った。
あいつの声が聞こえたら、何も考えずに済むんだ。
ただあいつを生き返らせるために、ゲームを終わらせる事だけを考えてればいい。
あいつの為に殺せばいいんだ。

そしてまた後悔するのか?

胸が軋む。
朝比奈さんと妹が死んだ、たったそれだけの事で俺はおかしくなっちまった。
なんだか知らんが、妙な事ばかり思い浮かぶ。

もう止めようぜ、俺には無理だったんだ。
古泉を殺せるのか? それにたとえば長門を殺せるか?
無理だ。朝比奈さんと妹が死んだと知ったぐらいでこんなに無様に迷っている俺が、殺せるわけがない。
それともまた雨蜘蛛のおっさんにでも頼むか? 殺してくれって。

胸が軋んだ。
そして激しい胸の痛みに思わず足を止めて胸を押さえていたら――バクン、と。
突然、強殖装甲が解除された。

「う……がっ」

殖装が解けて俺の身体に強烈な痛みが襲いかかってくる。
ガイバーじゃなくなったからだ。……気が遠くなる。
なんでガイバーが解除されちまったんだ?
なんだよ、これは。わけがわからねえぞ!

「ガイバーーーーー!」

地面に転がりながら俺は力の限りガイバーを呼ぶ。
……だが呼んだと言うのに何も変わらない。
たしか解除されても呼べば次元の狭間から来るはずだろ?
なんで来ないんだよ。説明書に書いてあったあれは嘘だったのか?

くそ、痛みで気が遠くなる。
どうなってるんだ……ガイバーがなければ、殺せない。
ああ、気が遠くなる、だが意識は……失いたくはない。
また『俺』に……会うのはごめんだ、せめて、ハルヒに会わせてくれ。
そうすれば……俺は……。



何か声の様なものが聞こえて思わず振り向いた。

「?」

そしてトトロがその声の聞こえたほうへと歩いていくと、そこには人間が倒れていた。

「ガルッ!」

530なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:44:39 ID:rXOZgaF.

血の臭いを感じてライガーが唸る。
その人間のから濃い血の臭いがしたからだ。
びっくりした顔でトトロが見ていると、その横をすり抜けピクシーがその人間に近づく。

「〜〜?」

ピクシーはその人間が動かない事を確認すると、抱き起こした。
その拍子にうつ伏せに倒れていたその人間の顔がトトロにも見えた。

「!」

トトロの目が見開かれる。
それは見た事のある顔だったからだ。

「――ハァ!」

ピクシーがその人間に気合を込めて回復魔法をかける。
トトロはそれを横目に手のひらに僅かに残っていた手紙の切れ端をじっと見つめた。

「キュクルー?」
『それは……先ほどの手紙。もしかしてこの人物が?』

フリードとその首にかかっているケリュケイオンが尋ねてくる。
それにトトロは無言で頷き、倒れている人間に近寄った。
近くで見るとその人間が負っている傷は――深い。

「フ〜〜」

しばらく魔法を使い続けていたピクシーだが、そんな声をあげてへたり込んでしまう。
どうやらこれ以上、回復魔法を使うのは無理のようだった。
人間の傷は、まだ治りきっていない。

「…………」

トトロはゆっくりとその両腕でそっとその人間を抱え上げる。

『どうするのですか?』

ケリュケイオンの言葉にトトロはにっ、と笑って駆け出した。
風のように、疾風のように。
木々がつくり出す、森の抜け道を全力で走り続ける。
トトロは知っていたのだ。

傷ついた動物が温泉で療養するという事を。

531なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:45:09 ID:rXOZgaF.


【G-3 森/一日目・夜】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.キョンを温泉にいれて療養させる
4.????????????????

【備考】
※ケリュケイオンは現在の状況が殺し合いの場であることだけ理解しました。
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます
※男露天風呂の垣根が破壊されました。外から丸見えです。
※G-3の温泉裏に再生の神殿が隠れていました。ただしこれ以上は合体しか行えません。
※少なくともあと一つ、どこかに再生の神殿が隠されているようです。


【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】気絶、ダメージ(中)、疲労(特大)
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0:ハルヒの声が聞きたい。
1:手段を選ばず優勝を目指す。参加者にはなるべく早く死んでもらおう。
2:ギュオーから逃げる。
3:採掘場に行ってみる?
4:ナーガが発見した殺人者と接触する。
5:ハルヒの死体がどうなったか気になる。
6:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。

※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っていますが、考え直すかもしれません。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※みくると妹の死に責任を感じて無意識のうちに殺し合いを否定しています。
 殺す事を躊躇っている間はガイバーを呼び出せません。



『スバル。対象が移動を開始しました』

エリアサーチでキョンらしき『複数』の反応を捉えていたレイジングハートがそんな報告をしてくる。

『キョンとその人たちが一緒に歩き始めたって事ですかぁ? ……それって危険ですぅ!』

少し前に意識を取り戻したリインが、スバルが頭にしがみ付きながら悲鳴をあげる。
リインの言う通り――危険だった。
キョンと一緒に居るのが殺し合いに乗っている人間だったら、キョンが。
そして乗ってない人間だったら場合は、その人たちの命が。
スバルはふらつく身体をなんとか前進させながら、レイジングハートに問いかける。

532なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:45:39 ID:rXOZgaF.

「レイジングハート、まだ……見失ってないよね?」
『はい。ですが対象は異常な速度で移動しています。
 このままではあと数十秒ほどでサーチエリアの外へと離脱されてしまいます』
「もっと速度を上げないと……追いつけないって事だね」

萎えた足に力を込める。大丈夫――走れる。
身体も魔力も限界なんてとっくに超えている。
だけど、それでも――走る。まだ走れた。

闇に覆われ始めた漆黒の森をレイジングハートの誘導に従いスバルは駆け続けた。
足はしっかりと動いてくれていた。だけど。

「ごほっ……ごほっ」

突然、咳が出る。
息が詰まり、流石に立ち止まって手で口を押さえた。

『スバル!?』

頭上からリインの驚いたような悲鳴が聞こえる。
そしてリインが何に驚いているのか、スバルにもすぐに判った。
口に当てた手のひらが――赤く染まっていたのだ。
一瞬、何が起こったのかまったく理解できず、スバルは硬直する。

『危険ですスバル。すでにダメージは危険領域を越えています。休息を進言します』
『ですぅ! 無茶はいけませんよ。もしかしたら内臓にダメージがあるのかも……』

レイジングハートとリインがそう警告してくれたが、スバルは笑って言う。

「大丈夫ですよ。さっきの戦いでちょっと口の中を切っただけですから」
『でもぉ……』
「ここで止まれません。止まるわけには行かないんです!」

ギュッと腕で口を拭いながら、心配そうなリインを安心させるように力強く、宣言するように言った。

『キョンの為ですかあ?』
「それもあります……でも、それだけじゃないんです。これは自分の為でもあるんです。
 今ここで止まったら、今ここで出来る事をやらなかったら、絶対後悔するって思うんです」

理想を信じてくれたウォーズマンやガルルの為にも……止まるわけにはいかなかった。

『スバルの決意はわかりました……。でもキョンを捕まえたら絶対に休んでくださいね?』

心配そうに、だがそれでもリインはそう言って認めてくれた。
それにしっかりと頷いてスバルは再び駆け始める。自身の信じるモノの為に。

533なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:46:10 ID:rXOZgaF.


【F-4 森/一日目・夜】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】ダメージ(特大)、疲労(特大)、魔力消費(特大)、今の状態で身体を酷使すると吐血します
【装備】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(修復率60%)@魔法少女リリカルなのは

StrikerS
【持ち物】支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6、
     ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、
     リインフォースⅡ(ダメージ(中))@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0:キョンを追う。殺し合いに戻るようなら絶対に止める。
1:機動六課を再編する。
2:何があっても、理想を貫く。
3:人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4:I-4のリングでウォーズマンと合流したあとは人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
5:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
6:中トトロを長門有希から取り戻す。
7:ノーヴェのことも気がかり。
8:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。

※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
 本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。





それはある意味ショッキングな光景だった。
特にギュオーにとっては。

「神社が変形する……だと……!」

ギュオーが呆れたような驚いたような微妙な呻きを漏らした。
そう、ギュオーの言うとおり神社は機械的な動きで変形をしていった。
屋根だけは原型を留めているが、他は壁だろうが床だろうが関係なく、動き、曲がり、合体していく。
そして神社だったものはウォーズマンにとって見慣れたある物へとその姿を変態し終える。
それは。

「……リングか」

ウォーズマンも思わず呟く。
そう、スポットライトに照らされたそれは――どう見てもリングだった。
屋根とそれを支える柱だけを残して神社の壁や床は変形してリングとなっていたのだ。

「な、なんだこの……ありえん変形は……!」

変形してリングに変わる神社など始めて見たのだろう。ギュオーはその瞬間、完全に戦いを忘れていた。
だが、長い年月様々なリングを見てきたウォーズマンはその驚愕から立ち直るのもまた早かった。

「スクリュー・ドライバー!」

回転する黒いドリルとなり空中で佇むギュオーに向かって牙を剥く。
しかし、ギュオーはやはり只者ではなかった。
直前でそれに気付くと咄嗟にバリアを張って受け止める――が。

534なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:46:50 ID:rXOZgaF.

「なにいッ!?」

それでも尚、ギュオーは驚愕の声をあげた。
確かにバリアで受け止めはしたのだが――黒い竜巻はバリアごとギュオーを押し始めたのだ。

「ぬ……!」

荒れ狂う黒の奔流に押しやられるようにギュオーはリングの上へと着地した。
そしてウォーズマンも回転を止め、リング上へと着地しながら宣告する。

「ギュオーよ。このリングで相手をしてやる!」

ウォーズマンは超人レスラーだ。
リングの上でこそ100%の力を発揮できる。故にリングでの決着を望んだ。
ただ、それだけだったのだが――それはウォーズマンにも予想しえない事態を引き起こした。

『警告。シールデスマッチモードの発動を確認。現時点からリング外は全て禁止エリアとなる。繰り返す。警告――』

首輪からそんな警告が発せられ、

「……!」
「なんだとッ!」

図らずも二人の動きが同時に止まった。
そして首輪は数度警告をすると沈黙してしまい、それ以上の情報は何も得られなかった。

「どういう事だ……まさか主催者どもは私達をこのリング上に閉じ込めたのか?」
「首輪の警告を信じるならばそういう事になるな……」

敵同士だというのにギュオーが漏らした独白に思わず返事をしてしまう。
距離を取りながら、思考の迷宮に入りかけていた二人だが、
異常事態は止まる事をしらなず、更に襲い掛かってきた。

ゴゴゴゴ。

と。
再び地面が鳴動した。

「今度はなんだ?」

ギュオーが呻きながら尋ねてくるがウォーズマンに答えられる筈もない。
そしてしばらくするとリングの中央の床から何かがせり出してきた。



 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 | 僕は実況中トトロ!,|
 |_________|
    .∧ | ∧     
   ,i  |_,! i、    
   i .。 |_ 。, `i    
   i -ー、―-、 |    
   i ,/"^ヘ^i i   
   i i'       | |   
   i ヽ_,._,/ ,'   
    ゙ー---―'  


呆然とした二人が正気に戻るのには数分を要した。

535なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:47:20 ID:rXOZgaF.



「そうか、お前がスバルが言っていた中トトロか」
『スバルを知ってるの?』
「ああ。少し前までこの場に居たぜ」
『スバル……元気だった?』
「ええい、関係ない話をしている場合か! 動物ッ! つまり貴様はこの試合のジャッジをするというのだな?」

ウォーズマンが主導となり中トトロから事情を聞きだしていたのだが、話が逸れた事に苛立ったギュオーが割り込んで来た。
その苛立たしげな様子は先ほどの放送で『主催者への攻撃のペナルティ』、『かわいい部下も対象』という
あの警告がなければ中トトロを締め上げていただろう、とウォーズマンが確信するぐらい激怒していた。

『実況役でもあり、観客でもあるよ』
「なるほど、つまりは先ほど長門がやっていた――」
「貴様の立場は判った。それでシールデスマッチモードとはなんだ? 何故リング外がすべて禁止エリアとなったのだ!」

などと、ウォーズマンを押しのけて、またギュオーが質問をする。
言葉を遮られ、内心で思うところもあったが――その疑問はウォーズマンも持っていたので黙って見守る。

『じゃあ説明するね』

と、二人の視線を浴びた中トトロは軽く頷きながら説明をはじめた。
たどたどしいその説明を簡単に纏めるとこうだ。

・シール(封印)デスマッチモードとはリング上での決着がつくまで場外が全て禁止エリアとなり、
 勝負から逃げ出す事が出来ない特殊なデスマッチである。
・ただし場外でも一分間は首輪は発動しない。
・勝者がリングの上に設置されている籠の中に敗者を入れることで試合終了。
 その時点でシール・デスマッチモードは解除され、リング外全禁止エリア化は消滅する。

「なるほどな、大体わかった。つまり変則のケージマッチみたいなものだな?」

ウォーズマンは天井から吊るされていた鉄柵で出来た籠の様なものを見ながら尋ねる。
気になってはいたのだが、恐らくあれが敗者を放り込む檻なのだろう。

『その通りだよ! それで、あの……』
「まだ何かあるのか?」

僅かに躊躇ったような中トトロの言葉を聞いてウォーズマンは先を促す。

『今回は少し問題があって、その、あと三十四分以内に勝負がつかなかった場合、二人とも……溶けちゃいます』

あっさりと告げられた、そのとんでもない言葉にギュオーが驚愕したように絶叫する。

「な ん だ と !」
「……! しまった、そういう事か〜〜っ!」
「そういう事とは……どういう事だウォーズマン!?」

接近してくるギュオーに思わず先制攻撃をしそうになったが、
ウォーズマンのフェアプレイ精神がそれを辛うじて押し留める。
それでも流石に冷静ではいられず早口でその事実をギュオーへと伝えた。

536なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:48:28 ID:rXOZgaF.

「ギュオーよ、先ほどの放送を思い出せ。
 このエリアはあと三十四分……いや、正確にはあと三十三分二十四秒後には禁止エリアになるんだぜ――っ!」
「そうか! つまりそれまでに決着をつけ、このエリアから離れなければ二人して液体化する……そう言う事か!?」

ギュオーの問いかけに中トトロが頷く。

『そういう事です。なので早く試合を開始して決着を――』

そんな中トトロの言葉を最後まで聞くまでもなくギュオーは動いた。

「うおおおおおおおお! いくぞ、ウォーズマンッ!!」
「よかろう、来いギュオーーーっ!!」

カーン、と。高らかに試合開始のゴングが鳴り響いた。
今、主催者すら予測しなかったであろうデスマッチが始ったのだった。

F-5が禁止エリアになるまであと――三十三分。



【F-5/神社/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、ダメージ(中)、疲労(中)
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、首輪(草壁メイ) 首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグス

ーツ@新世紀エヴァンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、
     毒入りカプセル×4@現実、博物館のパンフ
     ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲

ガイバー
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2:ウォーズマンを倒しこの場から脱出する。その後、キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。

※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「

ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。

537なるか脱出!? 神社の罠(後編) ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:49:09 ID:rXOZgaF.

【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(大)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品0〜1) ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の種@キン肉マン
     日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
     デイバッグ(支給品一式入り)
【思考】
1:ギュオーを倒し、この場から脱出する。その後はI-4のリングでスバルを待つ。
2:タママの仲間と合流したい。
3:もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
4:スエゾーとハムを見つけ次第保護。
5:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。
6:超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
7:機会があれば、レストラン西側の海を調査したい
8:加持が主催者の手下だったことは他言しない。
9:紫の髪の男だけは許さない。
10:パソコンを見つけたら調べてみよう。
11:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。

【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)、サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました。
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています
※加持リョウジを主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくろクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。


※【シールデスマッチ用特設リング】
神社が変形して出現したリングです。
リング起動用のスイッチは神社にあった狛犬の石像の口の中……だったのですがギュオーの攻撃で破壊され、運悪くスイッチが入ってしまいました。
名前の通りリングの外に逃げられないようにリング外が全て禁止エリアになるというシール(封印)されたリングです。
リングに二人以上の人間が立つとシール(封印)が発動。
リング外禁止エリア化という封印を解除する為には天井付近に設置されている檻に敗者を叩き込むか、あるいはリングアウト等で敗者が死亡した場合のみ解除されます。

敗者を放り込む檻は頑丈で、一旦閉まると簡単には脱出できないようになっています。

538 ◆YsjGn8smIk:2009/07/27(月) 18:50:45 ID:rXOZgaF.
以上で仮投下終了です。
長い間お待たせして、申し訳ないです。

539Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:12:13 ID:HUBhMMTs



太陽は今尚海と空を紅く染めていたが既に水平線の彼方に半ば以上没していた。
さほど時間を経ずして完全に沈むだろう、そして日中暖められた気温は心地良い程度にまで下がる。
だが例外もある、島の最北部では最も陽が高かった時の気温を更に更新し続けていた。

街とは人類が生み出した可燃物の集合体でもあった。
強風に煽られて火勢は一向に衰えない、何一つ消火活動が行われない無人の街を飲み込み尽くさんと寧ろ勢いを増している。
既にその尖兵は海岸までを制圧し、東西に前線を押し広げていた。

数十分前まで集っていた者達の姿は既に無い。
脱出手段を見つけた者は早々と去り、戦いを選んだ者は命を失った。
今や炎が主人として闊歩する街に残るのは僅か、その中に敗残兵の様に追い立てられる者が居た。



               ※       



―――遠くへ、化け物と災から出来るだけ遠くへ!

一人と一匹の逃亡者はひたすら走っていた。
人間の川口夏子とモンスターのハム。姿形は異なっても危険を避けるという生物的本能は変わらない、僅かでも安全な場所を求めて東を目指す。
だが走っても走っても熱気からは逃れられなかった、市街地全体がオーブンに放り込まれたと錯覚する程に灼熱地獄と化していた。
汗は忽ち蒸発し呼吸の度に喉が痛んだ、風すらも熱せられ天然のドライヤーとして丸干しにしようと吹き付ける。

シンジの地図に合流場所として記したデパートはとうに過ぎ去っていた。
元々期待薄であった上、来ていたとしてもこの大火の前では逃げ去っているだろうと思うしかない。
今は自分達の身の安全が何より優先なのだ。

川口夏子は今の自分が許せなかった。
強者の争いに巻き込まれたのは運が悪かったと納得できる、結果撤退したとしても何ら恥ずかしくは無い。
しかし過程はどうだ、自分は冷静に対処し最善の道を選べたのか?
―――否
では持てる力を振り絞り納得のいく戦いが出来たのか?
―――それも否

『わかるか? これが力の差というものだ。首をへし折られるか、切り落とされるのが嫌なら俺に逆らわない方が懸命だぞ』

何も出来なかった、化け物に呆然とし交渉すら成立せず単なる囮として利用された。
その上涙目で考えた事は現実逃避とも言える力への渇望、最初から最後まで子供同然の有様だった。

540Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:12:52 ID:HUBhMMTs

(女だから、弱いからいけないんだ! 無知だからヒドイ目にばかり遭うんだ!)

あの日以来何度も自分に言い聞かせてきた、大事だった家の手伝いも止めて努力し続けて来た。
西オアシス政府の軍人になれたのはそれだけの汗と血を流したからだ、何もせず強くなりたいなど―――自分自身を侮辱するに等しいというのに。
何と無様な事か! これでは糞に塗れたあの時の自分と変わらないではないか。

『だ、だからといってあなたのような危険のある人物を近くに置くわけには――がふっ』

何故あの時の自分はあんなに情け無い声を出した?
危険な連中など灌太を始め幾度も相手して来たではないか、姿形が違うだけであれ程取り乱すなんて!
今迄生きてきた結実がこれか、自分はここまで弱かったというのか!

己を取り戻すに従ってまざまざと記憶が蘇る。
とてつもなく耐え難い感情が渦を巻く。
衝動的に壁に頭を叩き付けたくなった、絶対にこのままの気分でいたくない!

「……殴って」
「ムハッ、何を言っているのですか夏子さん?」

それは罰。
それは二度と同じ事を繰り返さぬ為の誓い。
身に塗れた弱さを打ち払う為の夏子の選択。

「いいから殴って! これはケジメよ!」

ハムは急にそんな事を言われ戸惑いの表情を浮かべる。
だがすぐに夏子の顔を見て合点が行ったらしい、走るのを止めてブンブンとシャドーボクシングをしてみせる。

「言っておきますが我輩の拳は痛いですよ、本当に良いのですかな?」
「ええ手加減は無用よ、ガツンとして頂戴!」

目を閉じた夏子が横を向く、それは頬を殴れという意思表示。
夏子が立ち直ってくれるのはハムにとっても歓迎だ、女性を理由に断れば恐らく更に夏子を怒らせる。
ならやるべき事は只一つ、ハムは躊躇無くそれを実行した。

跳躍力に優れる兎の後脚が大地を蹴る。
更に屈めた身体がバネを効かせて上体を加速、固く握り締められた拳はフック気味の軌道を描いて夏子の顔面に激突した。

”ガゼルパンチ”

野生の獣が放ったそれを受けて夏子は3メートル余りも吹き飛んだ。
言われた通り手加減無しの本気の一撃、道路をマネキンの様に転がる彼女を見てハムの表情に不安が浮かぶ。
駆け寄ろうとした矢先、ヨロヨロと夏子が立ち上がった。

「いいパンチだったわ……、あんたウチの隊でも十分やっていけるんじゃない?」
「お褒めに預かり光栄です、正直立ち上がれないのかと思いましたよ」

鼻血と口元の血を袖で拭いながらも夏子は笑う、酷い顔だが憑き物が落ちたように目は光を取り戻していた。
これでいい、弱い自分とは決別しなければならないと彼女は自分に言い聞かせる。
砂漠で弱気になれば絶望を呼び込む、ここから新しいスタートを切れるかどうかが生死を分ける。
ぱん、と自分でも頬を叩いて気合を入れる。激痛が走るが死ぬ事と比べたらどうという事は無い。

541Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:13:44 ID:HUBhMMTs

「ハム、こんな頼りない同行者を見捨てたくなった? だとしても文句一つ言わないわよ」

夏子はここで改めて自分が認められているのかを問う。
さっきといい今迄といい本当に情け無い所を見せてしまった、賢い兎が別れを望むならば止めはしない。
信頼を失った相手と同行を続けたところでその末路は知れている。

「我輩を見くびらないで下さい夏子さん、先程の夏子さんならともかく今の貴方とは寧ろこちらから同行をお願いしたい程ですよ。
 第一ここで夏子さんを見限ったところで何一つ我輩の有利にならないじゃないですか」

ハムは当然のように首を振る。
確かに夏子は弱さを見せたがそれは彼とて同じ事。
悪魔将軍、アプトム、ゼクトールといった力の及ばない強者を知った、その上で別れるなど彼ならずとも愚策と判断するだろう。
幸い夏子は自ら立ち直った、彼女の気概を見せられてハムは自ら頬を出す。

「次は夏子さんがお願いします、私にとっても先の事は失態でしたし報いを受ける理由はあります」
「そして信頼も得たいという所かしら? まあいいわ、お互い貸し借り無しでやりましょう!」

言うが早いか夏子が動く、腰を軸に上体を捻り反作用が脚を勢い良く加速する。
横薙ぎの踵が先程のお返しとばかりハムの横っ面を猛打した、踏ん張りも効かずに二足兎は体操選手の様に回転する。
それでも受身はキッチリとこなすのはさすがモンスターという所か。

「イタタタ……、夏子さんも本当に手加減しないんですから危うく気を失うかと思いましたよ」
「それはお互い様じゃないの? さて、貴方のこれからの考えを聞かせて貰えないかしら」

頬を押さえるハムを夏子は助け起こした、今は早急に行動方針を決めなくてはならない。
策士として警戒していたが今や一蓮托生といっていい状況である事はハムとて解っている筈だ。

「我輩達の選択肢は限られてます、逃げるか引き返してあの人達に取り入るかです」

強者を味方に付けるのは街に来た目的の一つだった、頭を下げてでも仲間になるメリットはある。
あの時は先に夏子が断ってしまったが話し合いの余地は十分に有るとハムは睨んでいた。

「後者は反対ね、私達の感情を抜きに考えても決着が付いた後で仲間にしろというのは今更過ぎるわ」
「同意見です。それに夏子さんは感情的に申し出を受け付けなかったみたいですが合わないと思う勘は案外当たるものです。
 あの人達とたとえ組めても長続きしなかったと割り切りましょう」

こぼれた水は戻らない、ハムとて一度決裂した以上望みは薄いと思っている。
二人以外の他人は所在が知れない、なら逃げるしかない。言葉を交わすまでも無く頷き合う。
逃げ道についても選択の余地は無い、西側は完全に塞がれた、北や東は海に追い詰められるだけ。
火災の鎮火を期待するのは砂漠で雨乞いをするも同然、夏子とハムは既に市街地の運命を見限っている。

風が急速に強くなっていた。
偶然の追い討ちでは無い、火災の高熱が猛烈な上昇気流を生み出して周囲の空気を引き寄せているのだ。
それは新たな酸素を供給し、個々の火災を集束させ、巨大な塊となって渦を巻く。

”火災旋風”

大火や山火事で非常に恐れられる現象が起こり始めていた。
数百度の高温ガスが荒れ狂う炎の嵐、パゴダの様に立ち上るそれは今遠くともやがて襲い来る地獄。
危険を承知で南下する以外に道は無かった、もはや悪魔将軍を恐れてはいられない。

542Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:14:43 ID:HUBhMMTs

「急ぐべきです、下手すると南に火が回ってしまいます」

ハムが促す。ここからでは良く見えないが南の山腹でも盛んに煙が立ち昇っていた。
燃え方次第では炎に囲まれてしまう、ハムはそれを心配しているのだ。
夏子もそれは解っている、だが目の前の建物に気付いて立ち止まる。
ハムもすぐにそれに気付いた、看板に書かれた文字がはっきりと建物の役目を教えていた。

「診療所ですか、こんな街外れに在ったんですねね。まさかあそこに立ち寄りたいと!?」
「ええ、傷の手当てに使えるものが残っていれば是非回収しておきたいわ」

ハムはもう一度振り返って炎が到達する時間を推し量る、多少の品を持ち出す程度の余裕は有りそうだ。
これは不幸続きの一人と一匹に与えられた果実なのかもしれない。
ここまで来て何も得ずに引き返すのかという気持ちはハムにも有る、程無くして失われるとわかっているだけに一層美味として瞳に映る。

「異論はありません、ですが夏子さんはそれらの品を使えるのですか? 宝の持ち腐れというのは勘弁いただきたいのですが」
「当然よ、応急措置程度なら実務経験を何年も重ねてるわ」

録に医者が居ない関東大砂漠では自分で怪我の措置をするのは当たり前だった。
既に走り出した夏子を追いながらハムはやはり別れなくて正解だったという思いを新たにした。

(それにしても―――何故この施設は地図に載ってなかったのでしょうかね?)

ハムの疑問は尤もであった、確かに目立つ建物ではないが命のやり取りが行われる舞台では海の家や廃屋などよりよっほど重要度が高い筈。
なのはに朝倉、リナの様に治癒の技能を持つ存在が居る故か? だとしても医療施設としての価値を減じるとは思えない。
だがそれを言うのならこの島そのものが不可解なのだ、一施設の不記載などそれに比べればほんの些細な事に事に過ぎない。



               ※       



一般に離島の診療所は設備が充実しているとは言い難い、重病の患者は本土の基幹病院へ搬送するのが基本であるからだ。
それ故に市街地の外れなのだろう、ヘリポートを併設する診療所となればどうしても立地が限られる。
この島はレジャー施設が多いリゾート地という理由からか、離島としては充実した診療所であった。

「包帯、消毒薬、手術道具に医薬品各種、白衣まで有るわね。出来る限りの物は持っていくわよ!」
「ムハ〜、では我輩は病室を見回るついでに毛布やシーツでも集めるとします」

奇妙な言い方だがここは誰一人として訪れた事の無い処女地であった。
全ての物が手付かずのまま残っている、棚には整然と薬品の瓶が並び、掃き清められた室内にはゴミ一つ落ちていない。
手分けして有用と思われるものをバッグに詰めた、特に縫合糸や鎮痛剤など外傷の治療に役立つものは真っ先に確保した。

彼女らの貪欲さはこれまでの失ったものを少しでも埋め合わせようとしているかに見えた。
仲間とは離散し戦力も不足、せめて道具をと思うのは自然かもしれない。
それらが役立つ時が来るのかはわからない、それでも、賽の河原だとしても希望は積み上げていかねばならないのだ。

夏子が腕を止めた時、収納が全て開け放たれ台風や地震の被災地さながらの光景がそこに在った。
薬品はあらかたバッグに詰めた、急いだ為に高血圧や糖尿病の薬といった役に立ちそう無いものも混じっているだろうが元の世界の土産にはなる。
医学書までも回収したがさすがに手術台やレントゲンは諦めた。

543Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:15:39 ID:HUBhMMTs

時計に目を遣れば放送まであと僅か、一通りの物は手に入れた事だしハムと合流して一緒に聞くべきだろう。
念の為取りこぼしは無いかと別の部屋を覗いてみる。医療品が第一だったがそれは終わった、他に何か有れば僥倖だ。
探すまでも無くそれはあった、診療室らしきその部屋の机に設置されていたのはモールとゴルフ場で見たアイボリーの箱、即ちパソコン。
だが夏子の瞳は険しかった。

「S、O、S? こんな文字は前見たパソコンには無かったわね……」

そのパソコンは奇妙であった。
モールのパソコンもゴルフ場のパソコンも最初は電源が入っておらず当然画面も消えていた。
なのにこのパソコンは点いている、三文字のアルファベットが浮かんでいる―――となれば。

まさか他に誰かが入り込んだのか!? 夏子は銃を取り出して警戒を強める。
しかし気配は何処にも無い、不審に思いながらも夏子は銃を下ろさない。
パソコンを調べる? いや時間が無さ過ぎる、ここは一旦ハムと相談して―――

「夏子さん」

―――!!!

突然背後から声が掛けられた。
一瞬で振り向くと銃口の先には見慣れた兎が立っていた、危うく発砲しかけた指先が脱力する。

「何よ、脅かさないで。本気で焦ったわよ」
「それはこちらの台詞ですよ夏子さん、放送が近いから来てみたのですが……何かあったのですか?」

夏子の銃と共にハムも思わず上げた両手を下ろす。
視線だけで夏子が示す、ハムも視線を追って文字の浮かんだパソコンに気付く。

「言っておくけど私は何もしてないわよ、最初に見たときからあの状態だったの」

ここには誰も来てない筈、奇妙だと言いたげな声で夏子は語った。
薄暗い部屋に浮かぶSOSの文字、得体の知れないそれは確かに不気味な雰囲気を放っている。
ハムは一瞬目を細めたもののすぐ夏子に視線を戻した、夏子も理解して頷く。
今構ってる暇は無い、パソコンはひとまず放置してその場で地図と名簿を広げる。その直後に放送は始まった。

『全員聞こえているかな? まずは君達におめでとうと言ってあげるよ。
 辛く厳しい戦いを乗り越えてここまで生き残っているなんてそれだけで褒められるものだしね』

夏子もハムも一言も発しなかった。
一語一句を聞き逃すまいと集中する、夏子達にとって放送は数少ない情報源だ。
特に今回は繰り広げられる動乱を目撃しただけに敏感にならざるを得ない、ペンを構えながら言葉を待つ。

(炎上する市街地といい、この言い方といい、よほど今回は動きがあったらしいわね……)

その内容はどうせすぐに解る、今は覚悟だけを決めておく。

『だからといって油断しちゃ駄目だよ? 友達が出来た人も多いみたいだけどその人は隙を伺ってるだけかもしれないんだからね。
 できれば堂々と戦って死んでくれる方がいいなあ。
 あ、これはあくまで僕の好みの話だよ? 油断させて仲間を裏切るのは賢い方法だし大いに結構さ』

チラリ、と顔を上げたハムと目が合った。
お互い何も感情を顔を表わさずに視線を戻す。
夏子にとってハムに限らず他人は全てが警戒の対象だ、ハムとて似たようなものだろう。
しかし今は利害が一致している、仲違いしたところで得るものが無いと解っているからこそ隙を見せられる。
わざわざタツヲがそんな事を言うという事は参加者の結束は思った以上に固いのかもしれない、一瞬だけそんな可能性を考える

544Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:16:20 ID:HUBhMMTs

『さて、皆が気になる禁止エリアを発表するよ。九箇所にもなるとさすがに危ないから聞き逃さないようにね。
 暗くなってきたけどしっかりメモしておく事を薦めるよ』

そんな事は彼に言われるまでも無い、自然とペンを握る手に力が篭る。
一粒の汗が地図の脇にポトリと落ちた。

『午後19:00からF-5』

最初に指定されたのは島の山頂だった。
遠くてまず影響は無い。

『午後21:00からD-3』

遊園地を包囲する禁止エリアに追加の一箇所、これも遠い。
一見何かありそうな配置だが調べるのは時間からして難しい。

『午後23:00からE-6』

またしても島の中央部、今回は海は一箇所も指定されなかった。
そして気付く、この配置が意味するものを。

『覚えてくれたかな? 近い人は危ない場所に入り込まないようによく考えて行動すべきだよ。
 そんな死に方も僕にとっては面白くないからね』

(島が分断されかけているわね、通れる場所が狭まっている)

すぐに塞がれる訳ではないが意識しない訳にはいかないだろう。
だが今は深く考えている暇は無い。

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

いよいよだ。
仲間の生死がこれで解る、みくる、万太郎、そして―――シンジ。
他にも知った名前が呼ばれる可能性がある、覚悟を決めて言葉を待つ。

『朝比奈みくる』

いきなりその名前は呼ばれた。
だが夏子もハムも厳しい表情を見せたものの驚きはしなかった。

―――やはり

それが共通の認識であった。
悪魔将軍の元に置き去りにした時から半ば予想していた結末。
重い空気の中で生前の彼女を想いながら名簿に横線を引く。

『加持リョウジ、草壁サツキ、小泉太湖 ……』

続けて何人もの名前が呼ばれた。
加持はシンジから知り合いと聞いていた、サツキは全員にとって見知らぬ他者、そして夏子は一人前を目指していた少女の死を知らされる。
砂漠の住民にとって死は隣り合わせ、夏子もそうだか師匠の灌太も悲しむ事すらないだろう。

545Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:16:56 ID:HUBhMMTs

『佐倉ゲンキ、碇シンジ』

前者には誰も反応しなかった、だが後者は一時は仲間として行動した少年だ。
みくるを死に追いやったのは彼の責、再び合うような事があれば夏子はケジメをつけさせるつもりだった。
何が原因で死んだか解らない、悪魔将軍かその一味である古泉やノーヴェの手によるものか。
それを知ったところで無意味だろう、いずれにせよ彼は報いを受けたのだ。

『ラドック=ランザード、ナーガ、惣流・アスカ・ラングレー、キョンの妹』

放送は続き更に四人もの名前が呼ばれた、ラドックとやらは知らないが危険人物の可能性が高いナーガが死んだ事は唯一の朗報か。
既に無意味となったがシンジを説得可能な人物として目星を付けていた少女も命を落としていた。
最後に呼ばれたキョンの妹。直接の面識は無いが夏子にとってみくるから保護して欲しいと頼まれた対象の一人。
果たして彼女の兄は何を思うか、そしてみくるが

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

重い空気の中でタツヲの機嫌良い声が響く。
これで終わりかと思われたが放送は尚も続いた。

『ただ―――残念なお知らせというか、改めて君達全員肝に銘じてほしい事があるんだ。
最初の説明で言ったよね? 僕達に逆らっちゃいけないってさ』

(残念? 何があったというのかしら)

一転して声のトーンが変わった事に夏子もハムも怪訝な表情を浮かべる。
どうやらタツヲが望まない何かが起こったらしい。

『さっき呼ばれた人の中にはね、実際に反抗して命を落とした人が含まれているんだよ。
 僕だって不本意だったけどどうしても態度を改めてくれなかったんでこの有様という訳さ』

本当に詰まらなそうなタツヲの声。
嘘や脅しの類では無いだろう、絶望を与えたいのならもっとマシな方法がいくらでも有る。
誰かは知らないが立ち向かう者が死んだのは残念だ、と彼女らは思う。

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

励ましの言葉で放送が終わる。
主催者への怒りなど時間の無駄とばかりに軍人と詐欺師はすぐさま得られた情報を整理する。

「状況は悪くなるばかりです、死者の多さといい大火といい考えるまでもありませんね」
「ええ、私も認識が甘かった事を認めます。方針も見直さなければ追い詰められるだけでしょう」

厳しい視線が交わされる。
18時間で参加者が半減する勢いながら今尚脱出の目処は立っていない。
加えて常識外の強者の存在、更に厄介な事に悪魔将軍の様に徒党を組む者も中にいる。

「マンタさんが生きていてくれた事は喜ぶべきですが何処で何をしているかわかりません、オメガマンに捕まったのか追いかけっこでもしているのか……」

ハムが手を広げてわからないとジェスチャーした。
そうなのだ、戦力として最も期待できる万太郎は八時間以上前に別れたきり。彼の脚力ならばとうに追いついても良さそうなのに未だ姿を現さない。
オメガマンが尚も生存している事に関わりが有るのかもしれないが所詮は推測、確かなのは合流場所を失ったという事実のみ。

546Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:17:41 ID:HUBhMMTs

「もはや早期の再開は望めません、よって今後は彼に拘らず行動します」
「止むを得ませんでしょうね、マンタさんを探しに戻って悪魔将軍やオメガマンに出遭ったら元も子もありませんし」

切り捨てる訳ではないがこの状況で彼一人ばかりを探してもいられない。
合流は成り行きに任せ、死者と生存者を改めて検討する。

残り28人となった名簿をざっと眺めると参加者が急速に淘汰されているという事実が浮かぶ。
力の無い者が次々に死んでいる、みくるやシンジは言うに及ばず戦闘経験が豊富とはいえただの人間である砂も死んだ。
加持、アスカ、キョンの妹とは面識が無いが力無き一般人と聞いている、強者も混じっていたかもしれないが死者に弱者が多い事に変わりない。

このままでは強者や化け物ばかりが残る、ますます弱い自分達の立場は悪くなる。
例え万太郎のような正義感の強い人物が含まれているとしても力の差がある者に囲まれるという事実は非常に重い。
天秤が傾く前に取れる手段は取らねばならない。

他者と接触せずに徹底的に逃げ回り強者の共倒れを待つという方法もある、しかしそんな砂漠で宝石を拾うような幸運を夏子もハムも期待していない。
モールのパソコンでは参加者の位置が知れた、似たような情報が敵に渡らないとは限らないのだ。

それに後になればなる程既存のグループに加わるのが難しくなる。
特殊技能や情報が有るのならともかく唯逃げ回るしかしなかった人物など歓迎される筈が無い。
それが夏子の認識だった、晶の様なお人好しはそこまで生き延びているか怪しいものだ。

「これからは積極的に行動し他者との接触を試みます、一刻も早く戦力として役立つグループを作らねば私達に未来はありません」
「我輩も止むを得ないと思います、このままでは確実にジリ貧ですからな」

ついに夏子は方針を翻した、言いながら遅すぎた決断だったと彼女は思う。
生き延びるためには仲間、情報、有用な支給品を集めなければならない、慎重を意識し過ぎていかに多くの機会を失った事か。
リスクを恐れてはリターンは無い、もっと早く公民館を目指していれば他グループとの接触も可能だったろう。

そこで新たな仲間になりそうな人物を探してみる。
もちろん候補をリストアップしたところで居場所が解らねば無意味だが頭に入れておく必要はある。

「まずオメガマン、悪魔将軍、古泉、ノーヴェ、アプトム、ゼクトール、雨蜘蛛は危険人物として候補から除外します。
 加えてパソコンで名前が挙がっていたギュオーとゼロスも警戒すべきでしょう」
「逆に信頼できそうなのはマンタさんが言っていた正義超人の方々……キン肉スグルさんにウォーズマンさん、そして博物館に居た深町さんぐらいですな。
 シンジさんの知り合い冬月さんは静かな人と聞きましたが乗っていないかどうかはわかりません、あの人達の名前が解れば良かったのですが」

ハムと夏子が目撃した再開と別離の光景、恐らく自分達と同じく徒党を組む弱者なのだろう。
離れすぎていた為に表情や声が解らなかったのが惜しまれる、服装や体型からして女性や子供が多かった様だが特殊な才能を持っていないとも限らない。
だが直後の激しい攻撃と火災だ、何人かは放送で呼ばれたのかもしれないと過剰な期待を押し留める。
灌太は限りなく黒に近いグレーだ、下手すると強者に差し出される事にもなりかねない。

「一匹抜けていますぞ夏子さん、我輩とマンタさんが巨大なモンスターを見たとお話したでしょう」

ハムが告げたのは街道で出会った巨体の獣。
夏子もそれを聞いてモールで見た背中を思い出す、忘れていた訳では無いのだが分類不明の為にどう考えるべきかと思っていた。

「シンジ君を運んでいたという動物ね、万太郎君はいい奴じゃないかと言っていたけど名前も目的もわからないのでは何とも言えないわよ」

元より万太郎の判断を当てにするつもりは夏子には無かった、考えの判らない強者など警戒対象以外の何者でもない。
ハムも基本的には同じ思いだ、その瞳に擁護が混じってないのに気付いて沈黙する。
一体何が言いたいのか?

547Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:18:27 ID:HUBhMMTs

「夏子さん、我輩には気になる事があのです。ゴルフ場で見たパソコンの画面にあのモンスターが写っていた事を覚えておいででしょうか?
 ああそういえば夏子さんは背中だけしか見ておりませんでしたね、ともかく我輩が見たモンスターと画面のモンスターは同じでした」
「その動物ならモールのパソコンにも出てきたわ。特に気にしなかったけど参加者をそんな形を見せるなんて確かに不審に思えるわね」

即ち、あのモンスターは特別扱いされている。
ハムは夏子がこの事実を共通認識として受け入れた事を確認して話を続けた。

「これから語る事は我輩の考えすぎかもしれません……ですが思い至った以上夏子さんには話しておくべきだと思ったのです。
 そもそも我輩達がここまで追い詰められたのはシンジさんが引き起こした災害の結果なのは夏子さんもご存知と思います。
 そのシンジさんを我輩達に押し付けたのがあのモンスターなのですぞ、あの時山小屋にもモンスターが居座っていましたがおかげでその場から動くことが出来ませんでした」

その結果シンジの手引きで悪魔将軍に追いつかれた、とまでは口に言わずとも理解できる。
夏子はハムの言いたい事を悟って反論した。

「つまり、あの獣は私達の不利になるように導いたという事? 結果論過ぎるわ、シンジ君をモールに運んだのは万太郎君と貴方だし動かないと決めたのも私達自身よ?」
「その通りです、しかし我輩にはどうしても気になるのですよ。あのモンスターは近くに居たにも関わらず悪魔将軍から我輩達を助けてはくれませんでした。
 それにシンジさんの時は偶然ではないのです、我輩とマンタさんが北へ向かう事を決めた直後にモンスターが出てきたのですよ」

頬をかきながらハムが淡々と事実を述べる。
もし会話が主催者に漏れていたとすれば、主催者からモンスターに情報が伝わったとすれば―――偶然では有りえない。
パソコン画面に登場したというだけで主催者との関係を疑うのは早計かもしれない、だからこそハムも慎重な物言いなのだろう。

「……」

夏子は思わず沈黙した。
ハムもまた自分と同じく盗聴の可能性に気付いていたのだ。
そして筆談という方法を取らないのは先程の放送を聞いたからだろう、反抗の末の死を残念と語る草壁ならこの程度で罰するとは思えまい。
尤もそれ以前に正解かわからない、罰せられればそれが答えという事になる。

有り得なくは無い、そういった殺し合いをコントロールするゲームマスター的な存在が参加者に混じっていても不自然では無い。
だとすれば―――あの獣は、敵だ。

ギリッと夏子は歯を軋ませた。
今迄の屈辱と無念を思い出す、自然と腕が拳銃に触れる。

「ま、あくまで可能性が有るいうだけですよ。とにかく今後あのモンスターとは出来るだけ接触を避けるべきでしょう。その上でお尋ねしたいのですが」

ハムが夏子を宥めつつ更なる問いを投げかける。
夏子も怒りに我を忘れる事無くハムの言葉をじっと待つ。

「夏子さんは冷静な判断が出来ると我輩は買っているのですが……もし今後シンジさんみたいに混乱した人が現れたらどうなさいますか?」

予想だにしない質問であったがその答えは既に夏子の中で決まっていた。
弟と重ねて甘くした結果がこの有様だ、誓った以上二度と過ちを犯す積りは無い。

「殺すわ。そんな弱い奴なんか生かしたところでロクな事にならないってこれ以上無い程良く解ったから。
 もし他の誰かと一緒なら気付かれないように始末する。腐ったものは早く取り除かないと取り返しが付かなくなるものよ」

不敵な笑みを浮かべながら銃を構える。
それこそがハムの望んだ答え、満足して大きく頷いた。

「だとすればますますマンタさんとは合流しづらくなりましたね、あの人なら絶対に止めるでしょうしむしろ別行動の法が都合が良いと思います」
「やっぱりアンタは油断ならない考えの持ち主だったわね、案外うまくやっていけそうな気がするわ」

548Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:19:13 ID:HUBhMMTs

改めて決めた事を確認する。
・今後は安全に接触できるパソコンも活用しつつ他者と積極的に交渉する。
・足手まといは特殊技能の持ち主は別として殺す事も厭わない。
・万太郎との合流には拘らない、合流の意志は有るが成り行きに任せる。
・有用な支給品を手に入れる、特に武器を優先する。

窓の外を見れば先程よりも炎が迫っていたがまだ遠い。
地図や名簿を仕舞い終えたその時だった、突然真昼のような明るさに続いて耳を劈くような爆発音と衝撃が診療所を震わせた。
窓が一斉に飛び散り夏子とハムは直ちに伏せる。

そして爆発が遠いとみるや割れた窓から慎重に外の様子を窺った。
立ち上る煙の中でも一際目立つ建物がある、窓という窓から黒煙を吹き上げる高層建築。

デパートだ。
遠目でも屋上が大破したと解るデパートが爆発の中心地に間違いなかった。
化け物同士の争いかと先程の二人を思い浮かべる、だとすれば巻き添えを喰わないうちに退避すべきかもしれない。
だがパソコンを一度も調べもせずにここを去るのも惜しい気がする、とにかく状況を見極めようともう一度外を眺めた。

「ムハ〜、何ですかあの光跡は?」

夏子もハムが指し示すものにすぐ気付いた。
デパートの屋上から空高くに上昇してゆく何かがある。
怪物にしては小さすぎる、ロケットだとすぐに気付く。
恐らく決着が付いたのだろう、軍人としての勘がそう告げていた。

「何かを曳いているわ……南の方に向かっている。どうする、ハム?」

一方のハムはロケットなど初めて見る。
最初は驚いていたが夏子からそれが物を飛ばす道具だと教えられて考え込む。

あれを追うか、ここに留まってパソコンを調べるか。
二兎を追うもの一兎を得ず、だが二手に別れる方法も有る。
いずれにせよここが焼けるのも時間の問題、すぐに決めなければならない。

そんな彼等の悩みを他所にロケットは尚も飛び続ける。
夕日を浴びて輝きながら一人の男の想いを込めて。
繋がっているのは一つのバッグ、意志を持つものが中には入っている。


更に高く。
更に速く。
更に遠くへ。


下界の喧騒を見下ろしながらロケットは南を目指す―――

549Hard Luck Duo ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:19:53 ID:HUBhMMTs




【B-08 市街地診療所/一日目・夜】



【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】顔にダメージ、強い決意。
【持ち物】ディパック、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
 各種医療道具、医薬品、医学書
【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、パソコンを調べる? 光跡を追う?
2、怪物(アプトム、ゼクトール)と火災から逃げる。
3、キン肉スグル、ウォーズマン、深町晶と合流を目指す。
4、万太郎と合流したいが難しいと思っている。
5、ハムは油断ならないと思っているが今は自分を見放せないとも判っている。
6、生き残る為に邪魔となる存在は始末する。
7、水野灌太と会ったら――――



【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※万太郎に渡したメモには「18時にB-06の公民館」と合流場所が書かれています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。




【ハム@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜】
【状態】顔にダメージ
【持ち物】基本セット(ペットボトル一本、食料半分消費)、
 ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、チャットに関するハムのメモ、大量のシーツと毛布類
【思考】
0、頼りになる仲間をスカウトしたい。
1、パソコンを調べる? 光跡を追う?
2、万太郎と合流したいが難しいと思っている。
3、キン肉スグル、ウォーズマン、深町晶と合流を目指す。
4、殺し合いについては乗るという選択肢も排除しない。


【備考】
※ゲンキたちと会う前の時代から来たようです。
※アシュラマンをキン肉万太郎と同じ時代から来ていたと勘違いしています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※現在スタンスは対主催だが状況を見極めて判断する。

550 ◆5xPP7aGpCE:2009/07/30(木) 03:20:41 ID:HUBhMMTs
以上で仮投下終了となります。
度重なる延長申し訳ありませんでした。

551 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:32:52 ID:YrRABrO.
これより仮投下を開始いたします。

552鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:34:11 ID:YrRABrO.

北に顕在していた市街地郡、その東側。
そこはB‐6を中心にした大火災により、地獄と化していた。
炎の勢いは尚も止まらず、轟々と燃え続けている。
さらに、炎が建物を焼くことによって発生した煙で地獄の中の様子は、高い場所でも無い限りほとんど伺えない。
この中にいたとしたら、火炎に対する消火手段も防御手段も持たなければ、炎や煙によって命が危ないだろう。
それぐらいのことは、若きケロン軍の兵士・タママ二等兵もわかっている。
彼はケロロ・草壁サツキ・冬月コウゾウが無事に火災地帯から移動していることを祈り、そして一秒でも早く合流または救出のために、火災地帯を東に遠回りすることを決めた。
そして今、C‐6の境界を抜けて、だいたいC‐7に入った辺りだ。

「ハァハァ・・・・・・軍曹さん、サッキー、フッキー・・・・・・!」

時間が過ぎる度にタママの心に焦りが募っていく。
仲間たちが無事であることを強くは信じているが、一瞬でも気を緩ませば最悪のケースが頭に浮かんでくる不安に押し潰されそうだ。
おまけに距離はそれなりに離れているとはいえ、火災地帯からの熱気がタママをイライラさせる。
ケロン人は体質的に湿気を好み、乾燥が天敵なのだ。
つまり、地球人以上に乾燥に敏感であり、乾燥に対するストレスも地球人より大きい。
僅かながらも熱気に曝されている現状は、タママのストレスを加速させるには十分だった。

「早く・・・・・・早く!
はやぐうううぅぅぅ!!」

タママは不安からくるストレスに対し、足をできるだけ早く動かすことで発散させようとする。
不安を忘れるために眼を血走らせ、恐持ての顔で唸りをあげる。
結果、土煙をあげて地面を蹴れるほど走るスピードが速くなり、狂気じみた表情で走る彼はまるで走る獣のようだった。
それだけタママが必死であることを理解してほしい。


そして、走る彼がC‐7の真ん中ぐらいに差し掛かった辺りだろうか、タママが第三回放送を耳にしたのは。

『全員聞こえているかな? まずは君たちにおめでとうと言ってあげるよ−−』

553鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:35:04 ID:YrRABrO.
「放送・・・・・・ゴクッ」

主催者・タツヲの声が流れる放送に、タママは心臓の鼓動が早くなり、唾を飲んだ。
今までは放送一つでこれほど緊張することはなかった。
最初の放送はケロロやサツキたちが目の届く距離にいたため、親しき者だけは死なない安心感があった。
二回目の放送は加持の一方的な折檻(本人いわく仲間のため)をしていて、聞いた後はともかく、聞く前はそれほどの実感もなかった。
三回目にあたるこの放送を聞くのは、今までと状況が違う。
仲間たちとは離ればなれになり、いまだに合流は果たされていない。
つまり、自分の眼の届かない内に仲間たちが死んでいる可能性は大いに有り得る。
仲間たちがいたと思わしき公民館とその周辺が火事になっているのが、タママの不安を誘う。

(いいや、軍曹さんたちはきっと無事ですぅ。
僕はそれを信じるだけですぅ)

不安も弱気も振り払い、ただ愚直に仲間の生存を信じてタママは走り続けることを選んだ。
悠長に記録している暇があるくらいなら、ケロロたちとできるだけ早く捜した方が良いと思い、メモは取らずに走りながら聞き耳を立てることにした。


禁止エリアは、F-5・D-3・E-6。
いずれも気にするほど近場にできるわけでもなく、市街地にいるハズの仲間たちが困るような配置でもないだろうと安堵する。

問題はここからだ。
禁止エリアの発表の次は、死者の発表になる。
タママの胸の高鳴りがいっそう速くなる。

(神様、仏様、ご先祖様・・・・・・一生のお願いですぅ、軍曹さんやサッキーとフッキーが無事でいるようにお願いしますですぅ)

死者の名前が呼ばれ始める前にタママは不安に押し潰されないように強く神頼みをした。

そして、いよいよ死者の名前が発表される。
これが一生の中で最も長い数分間になりそうだと、タママは予感していた。


『朝比奈みくる』

−−知らない、どうでも良い、他に死人がいるならとっとと言ってくれ。
それが面識の無い朝比奈女史への、タママの感想である。

『加持リョウジ』

「ターマタマタマタマ!
ざまぁみやがれですぅ!!」

554鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:36:02 ID:YrRABrO.
加持の死はわかっていたため、放送を聞かなくとも知っている。
しかし、加持は気にいらない奴もといサツキを殺そうとした人物。
それが死んだという喜びを思い出し、口に出して笑いたくなったのだ。
本人にその笑いを抑える気はまったくなく、なおもケロン人独特の笑い声を発しながら笑い続けるが・・・・・・

「ターマタマタマタマ−−」
『草壁サツキ』
「−−タマタマ・・・・・・タマ?」

・・・・・・サツキの名前が呼ばれた瞬間、タママから笑い声が消え失せ、足を動かすスピードは急減速し、やがてゼロになった。
一気に突き飛ばされたような感覚を覚え、思考が覚束なくなる。

放送は、そんなタママのことを尻目に続けている。

いちおうの仲間だった小砂、冬月が保護したいと言っていた碇シンジ、加持の手下であるアスカ、彼らが死んだことも知る。
他の名前も聞いたことが無い連中に関してはどうでもよかった。
呼ばれていない所からして、ケロロと冬月がまだ生きているのは僥倖である、僥倖ではあるのだが今のタママはそれを素直に喜べない。

最後にタツヲからの警告、要約するなら「自分たちに刃向かおうとして死んだ者がいたので、同じことはしないように」ということを言っていたが、ほとんどタママの耳に入ることはなかった。
それらのことよりも、もっと大きなショックによってタママは動けずにいるのだ。


放送が終わると同時に思考が回復して現状を理解できるようになったタママは、その場で両腕と両膝を地面につけ、嗚咽を漏らしだした。

「うわああぁああぁん!
なんで死んじゃったんですかサッキーーーッ!!」


付き合った時間は短けれど、確かにサツキはタママにとっての掛け替えの無い友達であった。
ケロロに関する嫉妬で一方的な暴力な奮った愚かな自分を許してくれた優しい少女だった。
心の強さと広さを兼ね備え、妹思いの良い女の子だった。

しかし、その少女に会うことはもう二度と、ない。

555鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:36:36 ID:YrRABrO.
放送をデタラメだと思いたくとも、死んだ加持も放送された所からして、嘘でも無いようだ。
以上のことを頭では理解しつつも、若輩の兵士タママの心は友の喪失を受け入れきれるほど強くはなかった。
彼はただただ泣き喚いた。

「サッキーーーッ!!」



−−−−−−−−−−−

556鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:38:21 ID:YrRABrO.


放送が終わって、泣きだしてからどれほど時間が経っただろう。
涙を流す度に体内の水分が失われていったため、身体がだいぶ乾いているのがわかる。
サツキ喪失のショックによるものか、今までの疲れがどっと押し寄せ、再び立ち上がる気力が湧かない。
知り合いの冬樹やガルルが死のうとも、たいした感情は抱かなかったが、ここにきて初めて『大切な友』を失ったがために大きな精神的ダメージを負った。
共に泣く者も慰める者も叱る者もいない中では、心の痛みを和らげることもできない。


そのように彼が弱っている中で突如、二つの聞き覚えのある声が聞こえてきた。
それらはうなだれるタママを嗤う。

『守りたかった女の子を守りきれなくて残念でした。トンだお笑い草ね、あははははははははは』

一つはアスカ。
放送で死を告げられたハズなのだが、何故かタママの耳には、彼女が気に障る言葉で嘲笑ってくるのがわかった。

『俺を引き離したからあの子は安全だとでも思ったか?
 殺し合いに乗ったのは俺一人とは限らないんだぜ?』

もう一つは加持。
間違い無く死んだ男だが、口調こそ涼しいが腹の中は真っ黒であり、タママを責めてくる。
それ以前に死人が語りかけてくるなどありえないことだが、今のタママには、そんな細かいことを気にしていられるほどの心の余裕はなかった。

「黙れ・・・・・・黙りやがれですぅ」
『あはははははは』
『ハハハハハハハ』

普段から高い声であるタママにしては低い声で言葉を吐き出し、血走った眼を涙の染みた地面から二つの声がする方向へギロリと向ける。
彼の放つ言葉にも眼力にも、激しい怒りと憎悪が宿っている。
しかし、タママの怒りなど知ったことかと言わんばかりに、加持とアスカは嘲笑い続ける。
それが余計にタママのハラワタを煮え繰り返させ、虫酸を走らせる。
まず、怒りを叩きつけるようにタママは言い放った。

「おめーらのような奴らのせいでサッキーが死んだんですぅ!」
『それは違うんじゃないか?
 俺らのような殺し合いに乗った奴らからサツキ君を守れなかったのは君のせいだろ?』
「僕は、サッキーを守ろうとしてたですぅ!!」
『言い訳がましく「自分は頑張ったから仕方ないんだ」みたいなことをほざいてんじゃないわよ』

557鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:39:19 ID:YrRABrO.

「むぐっ・・・・・・」
『せめて俺を連れ込むなら、例の部屋に何かしら仕掛けがあることぐらい調べておけばよかったのにな。
 君がそれを怠ったから、仲間と離ればなれになっちまって、サツキは命を落としたんだ。
 しかもその後の、正義の味方気取りでメイの仇討ちなんか考えているから、その間にサツキは死んだんだろうな』
「・・・・・・うるさい」

加持たちが言ったことは、尤もかもしれない。
今さら、取り返しのつかないミスに自分の行動を正当化するようなことを言っても虚しいだけだ。
加持の企てに気づき、仲間から一時的に引き離して腹の中を暴こうとしたものの、部屋にどこかへワープする仕掛けがあることに気づけなかったために、サツキたちとは遠くに引き離された。
彼女を守る者が減った分、サツキの生存率を引き下げられたのだろう。
一方のタママは離れた後も合流を考えず、メイの仇捜しに時間を費やしてしまった。
見方によればタママの過失だろう。
それでも、タママは加持たちにだけはミスの指摘をされたくなかったのだ。

『守りたい者は守れない、守れなかったら過失を認めず言い訳をする惨めな奴。
 君は所詮その程度だってことだ』
『本当よね〜。
 果たして、こんな奴にサツキの死の責任なんて取れるのかしら?』
「黙れって言ってるんですよ、聞こえねーんですかこのゴミめらども・・・・・・!」

自分を笑う二つの声に対して、タママは立ち上がり、血が出るほど拳を握りしめ、顔中にマスクメロンばりのあおすじを作る。

『まったく、こんな情けない奴に殺されたのなら、俺を殺した責任も取ってほしいぐらいだぜ、なぁタママ君?』

プッチーン

加持の煽り文句が、とうとうタママの怒髪天をついてしまった。
タママの口から放たれる、大地を揺るがしそうな怒声。

『おめーみてぇなウジムシどもの命と、サッキーの命を同じにするんじゃねぇ!!
 おめーらのような不愉快な奴らは全員地獄に落ちればいいんだよぉ!!
 さっさと消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ、消えろぉぉぉーーーッ!!』

558鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:39:53 ID:YrRABrO.
轟く重機関銃のように言葉が放たれるが、それだけでタママの気は納まらない。
加持たちの声がした方へトドメにタママインパクトまで放とうとする。
止めてくれる者はこの場に誰一人いない。

煮えたぎる憎悪共にタママインパクトが放たれようとした、その時。


ドォーーーーーン


空気を震わせるほどの爆音。


爆音による驚きが憎悪を上回ったタママは、その場で仰向けに倒れた。

「なんですぅ!? 何が起こったんですぅ!!?」

身を起こしたタママが周囲を確認すると、火災地帯の中のある場所が一際激しく黒煙を吐いて場所があるのを発見した。

559鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:42:55 ID:YrRABrO.
位置関係的にはデパートの辺り、この場所である者たちが因縁に決着をつけようとしていたのだが、それはまた別の話。
ともかくとして、皮肉にもデパートの大爆発によってタママは我に返り、多少なりとも精神も安定してきた。

「ただのガス爆発ですかね?
 それとも、あそこで殺し合いが・・・・・・」

あそこで何が起きているのかを冷静に考えようとする。
事故なら気にすることも無いが、殺し合いが起きているのなら大変だ。
ケロロと冬月が巻き込まれている可能性があるからだ。
それを確かめるべく、中の様子を伺いたいのだが、かなりの距離がある上に炎と煙が邪魔でよく見えない。

しばらくすると、何かの飛翔体がタママの直上数10mを通っていった。

「流れ弾!?」

夜の暗さも手伝って、それをあまり視界に捉えられなかったタママは、飛翔体をただの流れ弾だと思うことにした。
実際は、ミサイルにディパックがぶら下がっているのだが、タママをそれらを確認しきれなかった。
例の飛翔体は湖の方へ飛んでいったことだけを確認して、タママは再び自分の置かれてる状況の確認に移る。


「・・・・・・あれは幻だったんですか?」

先程まで語りかけてきた加持たちの声はいつの間にか消えていた。辺りに誰かがいる気配も無い。
常識的に考えれば、もう死んでいる二人が話し掛けてくること事態ありえない、死人に口なしだ。

「ハァ・・・・・・何をやってんたんですかね僕は・・・・・・」

幻に惑わされ、幻相手にトサカにきていたさっきの自分に馬鹿馬鹿しさを感じ、ため息を吐く。
おそらく、サツキを失ったショックと疲れで幻聴でも聞いたのだろう・・・・・・タママはそう処理することにした。

あの声が幻聴だとわかるようになった点でも、タママは落ち着きを取り戻している証拠だろう。
しかし、落ち着きは取り戻せても、サツキを失った悲しみはどうにもならない。

「くぅ、サッキー・・・・・・妹まで失った上にあの幼さで死んじゃうなんて、かわいそうに・・・・・・」

前の放送を聞いて、妹が死んだことを知った彼女はどんなに悲しい顔をしたか。
死ぬ時はどんなに痛かっただろうか・・・・・・
考えれば考えるほど、タママの胸が苦しくなってくる。
また涙を流したい気分になってきた・・・・・・

そこへ(幻聴だったが)加持たちの言葉がのしかかってくる。

560鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:44:18 ID:YrRABrO.
−−守りたい者は守れない、守れなかったら過失を認めたがらず言い訳をする惨めな奴。
 君は所詮その程度だってことだ
−−こんな奴にサツキの死の責任なんて取れるのかしら?

「うう、奴らは勘に障るんですけど、サッキーを守れなかったのは事実だし、僕にサッキーを死なせてしまった責任を背負うことができるかと言うと何も言えないですぅ・・・・・・」

加持たちの幻の前では強く否定したが、本当はサツキが死んだ可能性の一つとして自分のミスが絡んでいると思い、強く責任も感じている。
そして、自分がサツキが生存できるを可能性を大なり小なり殺したことに、必要以上の重圧を感じていた。

「僕のせいで・・・・・・やっぱり僕のせいでサッキーはもう戻らない・・・・・・うぐぐっ」


サツキの微笑む顔を、声をもう一度聞きたいと思っていた。
彼女が死んだ今、それはもはや叶わぬ。
・・・・・・ふと、タママは思う。
それは本当に叶わないことなのか?

「いっそのこと、優勝を目指してみる?」

この殺し合いで優勝すれば、サツキを生き返すことができるかもしれない。
だが、その考えはすぐに切って捨てた。

「それは無理ですぅ、僕に愛する軍曹さんを殺せるわけがないですぅ・・・・・・」

仮に、サツキと共にケロロが生き返る前提で殺し合いに乗るにしろ、タママにはケロロを殺せる自信・心構えはありはしない。
例え、自分が手を下さず、知らないどこかでケロロが死んでしまうことも、タママには許容できない。
さらに優勝者には願いを叶えると言った主催者の技術力も不確かな物であり、信頼できるかどうかは怪しいものだ。
よって、殺し合いに乗る意思は生まれなかった。

「・・・・・・だけど、サッキーには生きて欲しかったですぅ。
 もっともっとお話がしたかったですぅ・・・・・・」

それでもまだ、サツキとの再開を諦められない、死を認めたくない。
なら、どうする?
普通なら、死んだ以上、その者と生きて再開することは諦めざるおえないのだ・・・・・・普通なら。





「ああーーーっ! 閃いたですぅ!!」





そうして悩んでいたタママは一つの答えを見つけ出したのだ。

561鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:45:16 ID:YrRABrO.
「根暗カレー・・・・・・じゃなくてクルル曹長の存在をポッキリ忘れていたですぅ」

急にケロン軍屈指の技術者・クルル曹長の名前を口にしだしたタママの目を輝いていた。
その理由とは、

「ケロボールとタイムマシンは作れないくせに、それ以外はどんなマシンでも作れる技術力を持っているクルル曹長なら、きっと死人を生き返らせるマシンだって作れるハズですぅ!」

タママの言う通り、クルルは悪戯目的のアイテムから星一つをまとめて消せる大量破壊兵器まで作れるトンでもない技術者だ。
クルルの作った物を実際に何度も使ったことがあり、時にはそれらの犠牲になったケロロ小隊員だからこそわかる話である。
これで万能アイテム・ケロボールやタイムマシンまで作れたねなら、神の領域すら侵せる男になっているかもしれない。
だからこそ、夢の話のような死人を生き返らせるマシンが作れると言っても、驚異的なテクノロジーをもつクルルなら説得力があるのだ。
そして、タママはそれ思い至ったわけである。

「クルル曹長ならできるかもしれない・・・・・・いや、『作らせる』!
 そのためなら、カレー百年分を奢ってでも、半殺しにしてでも・・・・・・!!」

サツキを生き返すためなら、多大な代価を支払っても、小隊の仲間に暴力を振るうことも厭わない。
それだけ、タママの想いと期待は強いのだ。

「サッキーだけじゃない、フッキーやメイちゃんも生き返すことができれば、軍曹もサッキーも泣いて喜んでくれるです、ふふふふふ」

まだクルルが死人を生き返す装置が作れるわけでも、ましてやその過程に必要な殺し合いからの脱出もしていないのにも関わらず、タママには、ケロロとサツキが大喜びで自分を褒めてくれる明るい未来が見えていた。
サツキを蘇生できる方法を見つけたタママは、その考えに酔い、既に先程までの自己嫌悪と責任の重圧から解放されていた。

「ついでにコサッチやフッキーⅡが大事にしていたシンジって子も生き返してやりますか。
 加持のようなゴミはもう一度生き返して、殺すのも面白そうですねぇ・・・・・・タマタマタマタマ」

562鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:48:31 ID:YrRABrO.
やがて、タママの中では『死』の概念は永遠の別れというイメージが薄れ出していた。
生き返すことが前提ならば、サツキの死も一時の別れのように思えるからであろう。
その考え自体が『捕らぬ狸の皮算用』かもしれない可能性もあると考えもせず・・・・・・
少なくとも幸いだったのは、そういった妄想で沈んでいた気持ちを持ち直せたという所か。

「おっとっと、考えだけにフケっている場合じゃない。
 サッキーは生き返せるからともかく、これからどうするかも考えなきゃ!」

ようやく、脱出後の希望から、現状について考えることに頭を切り替え、ニヤついた顔は真剣なものへと変わる。
なんとかグラついていた気分は落ち着き、物事を冷静に考えられるようになった。


手始めに、放送から状況に関する考察を張り巡らす。

まず、死者に関して。
コサッチこと小砂もサツキ同様に死んでしまったらしい。
サツキと比べれば愛着も無く、同盟を組んだ当初はいずれ殺す気もあった。
サツキと会ったことで殺す予定は立ち消え、殺意もどこかへ失せたのかもしれない。
だからこそ死んでしまったことが、今となってはちょっとだけ可哀相に思えた。
ついでに彼女の頭に引っ付いていたネブラはどうなったのか?
こっちは個人的な恨みがあるとはいえ、やはり生死は気になる。
小砂と一緒に果てたか、それともどこでまだ生きているのか・・・・・・参加者では無いネブラは死んでも放送で呼ばれないため、直接会わない限りタママには知る由も無い。

・・・・・・実はついさっき、そのネブラ知らぬ内にタママの頭上を通っていったのは、余談である。


続いてアスカ、(タママから見れば)加持の手先である彼女も死んだようだ。
放送こそ同時に言われたが、死ぬ前にサツキを殺した可能性は十分にある。
もしそうなら、先の考えで生き返した後にもう一度殺すくらいの憎しみをタママは抱いている。
何にせよ、加持の手先は死に絶え、自分やケロロたちに降り懸かる火の粉は一つでも消えたと考えれば良いニュースにも聞こえる。

563鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:49:35 ID:YrRABrO.
次にサツキ。
ケロロの次か同じくらいに守りたかった少女。
もし彼女を殺した犯人がまだ生きているとしたら、メイを殺したマスクの男同様、必ず見つけだしてこの手で殺してやるつもりだ。
そしてサツキは絶対に生き返してやろうと強く望んでいる。
タママにとっては、仇討ちと蘇生こそ、サツキへの責任の取り方だと思っているようだ。


最後に、ケロロ軍曹と冬月コウゾウ、ウォーズマンとスバル、そしてギュオー。
放送で呼ばれていないということは現時点では彼らが無事である証拠。
ウォーズマンも無事にスバルを助けられたようだ。
特にケロロが生きていたことは、それだけでタママの心の救いになった。

「軍曹まで死んじゃってたら僕はどうなってたことか・・・・・・サッキーを失った時のような思いはコリゴリだから早めに合流したいですぅ」

ケロロたちが生きているとはいえ、まだまだ予断は許せない。
詳しい場所がわからない今は、二人が火災から逃れたのを信じつつ、できるだけ早く捜し出す必要がある。

「それに軍曹さんには、サッキーたちを生き返す方法を考えついたことも教えなきゃならないですね。
 きっと軍曹さんもそれを聞けば、喜んでこの案を受けとってくれると思うですぅ」

ケロロと合流できた暁には、自分が思いついた死者を助けられる方法を教えるつもりだ。
それは単純にケロロに褒められたいだけではなく、サツキを失って落ち込んでるかもしれないケロロに希望を持たせようと、タママなりの気遣いもあるのだ。

「しかし、今回だけで10人も死人が出た。
 殺し合いに乗った連中がかなりいるみたいなのが厄介ですねぇ・・・・・・」

殺し合いに乗った者である加地とアスカは死んだが、それでもまだまだ殺戮者はいる。

「僕や軍曹さんたちが生き残るためには、やっぱり殺し合いに乗った奴らを叩いておく必要があるみたいですぅ。
 でも・・・・・・」

メイちゃんを殺したらしいマスクの男、湖にいた見るからに危なそうな連中、そういった者たちは一目で殺し合いに乗っているかわかるので対処のしようがある、しかし・・・・・・

564鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:50:15 ID:YrRABrO.

「加持の時はなんとか尻尾を掴めましたけど、また似たような奴に出会ったら厄介この上ないですぅ・・・・・・」

全て殺戮者が、公に殺し合いに乗っていることを言い張ってるとは限らない。
中には加地のようにコソコソと人の中に紛れて、裏で何かを企んでいる者だっている。
これで厄介なのが、人を上手く騙して仲間からの信頼を勝ち得ている場合もあること。
そのせいで、冬月に加持が怪しいことを告白しても、まともに取り合ってはもらえなかった。

565鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:52:19 ID:YrRABrO.

「きっと今回死んだ人たちの中には、加持のような奴に騙されて殺された人だっているですぅ。
 だからと言って、加持と同じく殺し合いに乗っている証拠を見つけられるとは限らないし・・・・・・
 証拠が無かったら、流石にやりづらいし・・・・・・」

殺し合いに反対する集団の中に紛れ込み、チャンスがあれば襲いかかってくる。
さらに上手く立ち回られると、仕掛けられた罠により集団が一瞬で壊滅したり、疑心暗鬼を振り撒かれて仲間同士での争いに発展させられる危険がある。
その鱗片を味わったタママには、そう言った『隠れた殺戮者』の怖さがわかる。
しかし、殺し合いに乗っていると証明できるものが無ければ、その者を殺せる大義名分が立たない。
何より、疑いだけが先行し、本当に殺し合いに乗ってなかった者を殺してしまったら眼も当てられない。
このように、積極的に殺し合いに乗っている者よりも、陰でコソコソやる者の方が遥かにやりづらいのだ。
そして、いくらなんでも直感などのような根拠の無い理由で殺戮者と決めつけるわけにもいかない。
されど、タママの結論は早かった。

「ま、いいや。
 少しでも疑いのある奴は片っ端から叩いてしまえば良いですぅ」

・・・・・・なんとも単純かつ短絡的な答えなのだろう。
ただ、タママとしても投げやりにこの答えを出したわけではない。

「ふっふっふ。
 どうせ誤って殺し合いに乗ってない人を殺したとしても、根暗カレーが『生き返してくれる』、だからノープログレムですぅ。
 それよりも大事に到る前に潰す、迷うぐらいなら斬る、全ては疑われる方が悪いんですぅ!!」

疑しきは皆殺し、中には殺し合いに乗ってなかった者が混じっていても後で生き返せば良い。
それが先の答えを出せた理由である。

合理的な面から見れば、疑いが少しでもある者は全て消した方が生き残る確率は高くなるだろう。
だが、罪の無い者まで巻き込み兼ねないこの考えは、人道面には大いに問題がある。
それでもタママに聞けば「生き返せるから大丈夫」と、笑顔で答えるのだろう。

566鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:52:56 ID:YrRABrO.
ちなみに自分と同じ腹黒属性があるギュオーについてタママはこう語る。

「ギュギュッチも怪しいっちゃ怪しいですけど、加持の首輪を狙っていたところからして、どっちかっつーと脱出を目指してるかもしれないですね。
 もちろん、警戒はするし殺し合いに乗ってたら叩くけど、そうでなければ戦いたくないなぁ」

同じ腹黒であり、気にいっているギュオーに関しては、できるだけ敵対したくないようである。
警戒は怠らない様子であるが、強まりもしていない。
簡潔に言うなら、ギュオーへの対応は今までと変わらないようだ。



以上でタママの行動方針はまとまった。
このゲームから脱出した後、クルルにサツキたちを生き返せる装置を作らせること。
脱出の過程で、障害になる者だけでなく疑いのある者もまとめて消すこと。
仮に罪無き者を誤殺しても、後で生き返らせる前提なので気にしてはならない。

それは別として、今やらなくてはならないことはケロロたちとの合流。
詳しい居場所はわからないので、火災地帯の周りを東に回り込んで捜し続けること、これは今まで通りである。

「よし、行くですぅ!」

考えがまとまった所で、タママは再び東へと駆け出した。

−−−−−−−−−−−

567鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:54:19 ID:YrRABrO.

走るタママの表情は、放送前や放送を聞いた直後よりも清々しいものになっている。
殺し合いが行われているこの場所においては不釣り合いなぐらいの輝く笑顔だ。

「なんだか身体がさっきよりも軽く感じるですぅー!」

放送によってケロロたちの生存が確認され、サツキが生き返る可能性を見つけたために、抱えていた緊張と悲壮感がほとんど抜け落ちたため、肩の荷が軽くなったのである。

「それになんだろう、心が高ぶってくる・・・・・・」

死んだサツキを救えることへの希望によるものか、精神が高揚していくのがわかる。
さらに心は、サツキとケロロへの一途な思い、サツキを生き返すことへの使命感でいっぱいになってくる。

「そうか、きっと−−」

タママいわく、これすなわち。



「−−この気持ち、まさしく 愛 ですぅ!!」



気持ち高ぶったタママは、どこぞの誰かの如く『愛』を叫んだのだった。



やがて、タママの視界にまだ火の手があまり回っていないB‐8が見えてきた。
タママはそこに仲間たちがいると信じて向かっていく。
胸の内に秘めた、サツキやケロロたちと笑いあえる明るい未来−−理想を現実に近づけるために、悲しみから立ち上がったタママは走り続けるのだ。

−−−−−−−−−−−

568鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:55:10 ID:YrRABrO.


しかし、彼は前だけしか見てないのではないか?

サツキのために、クルルに死者を蘇生させる装置を作らせるとしても、まだまだ仮定の段階であり、妄想の域を出ていない。
実際にクルルがそんな装置を作ったところなど見たことが無いにも関わらず、タママはもう、作れる気でいる。
また、そのために多少の犠牲は止むなしときている・・・・・・単に思慮が浅くなっただけではないか?
人によってはタママが妄想に縋り、サツキが生き返るということに甘えているようにも見えることだろう。

前を向いて進むことは大事だが、進むのに足元を見ないのは問題だ。
転べば大惨事になりかねない。
そんな未熟な兵士の先行きは、かなり不安だ・・・・・・

569鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:56:44 ID:YrRABrO.

【C-7 森林地帯(北東)/一日目・夜】

【タママ二等兵@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷、精神高揚
【持ち物】ディパック(水消費)、基本セット、グロック26(残弾0/11)と予備マガジン二つ@現実
【思考】
0、軍曹さんを守り、ゲームを止める。
 妨害者及び殺し合いに乗っている疑いが少しでもある者を排除。
1、東回りに火事を避けて市街地に向かい、ケロロたちを捜す。
2、その後はギュオーやウォーズマンの下へ向かう?
3、草壁メイ・草壁サツキの仇を探し出し、殺す。
4、ウォーズマン、ギュオーに一目置く。
5、ギュオーを気に入っているが、警戒を怠らない。
6、脱出の後、クルルに頼んでサツキや親しき者を生き返させる装置でも作らせる。
7、6の案をケロロに伝える。

※色々あってドロロの存在をすっかり忘れています(色々なくても忘れたかもしれません)。
※加持がサツキから盗んだものをグロック26だと思っています。
※ネブラ入りディパックのミサイルを流れ弾だと思っています。
※少しでも疑いがある者は倒す過程で、うっかり誤殺してしまっても、後でクルルの手により生き返すから問題ないと考えています。

570 ◆igHRJuEN0s:2009/08/08(土) 20:58:03 ID:YrRABrO.
これより投下を終了いたします。
 
タイトル元ネタはTVアニメ、フルメタルパニック! 第一話タイトル「気になるあいつは軍曹(サージェント)」より

571 ◆igHRJuEN0s:2009/08/11(火) 23:21:40 ID:YrRABrO.
これより修正版を投下いたします。
>561からの修正になります。

572鬼になるアイツは二等兵 ◆5tKMRH/5ZU:2009/08/11(火) 23:23:35 ID:YrRABrO.
「根暗カレー・・・・・・じゃなくてクルル曹長の存在をポッキリ忘れていたですぅ」

急にケロン軍屈指の技術者・クルル曹長の名前を口にしだしたタママの目を輝いていた。
その理由とは、

「ケロボールとタイムマシンは作れないくせに、それ以外はどんなマシンでも作れる技術力を持っているクルル曹長なら、きっと死人を生き返らせるマシンだって作れるかもしれないですぅ!」

タママの言う通り、クルルは悪戯目的のアイテムから星一つをまとめて消せる大量破壊兵器まで作れるトンでもない技術者だ。
クルルの作った物を実際に何度も使ったことがあり、時にはそれらの犠牲になったケロロ小隊員だからこそわかる話である。
これで万能アイテム・ケロボールやタイムマシンまで作れたのなら、神の領域すら侵せる男になっているかもしれない。
だからこそ、夢の話のような死人を生き返らせるマシンが作れると言っても、驚異的なテクノロジーをもつクルルなら説得力があるのだ。
そして、タママはそれを思い至ったわけである。

「クルル曹長ならできるかもしれない・・いや、できなくても『作らせる』!
 そのためなら、カレー百年分を奢ってでも、半殺しにしてでも・・・・・・!!」

サツキを生き返すためなら、多大な代価を支払っても、小隊の仲間に暴力を振るうことも厭わない。
それだけ、タママの想いと期待は強いのだ。

「サッキーだけじゃない、フッキーやメイちゃんも生き返すことができれば、軍曹もサッキーも泣いて喜んでくれるです、ふふふふふ」

まだクルルが死人を生き返す装置が作れるわけでも、ましてやその過程に必要な殺し合いからの脱出もしていないのにも関わらず、タママには、ケロロとサツキが大喜びで自分を褒めてくれる明るい未来が見えていた。
サツキを蘇生できる方法を見つけたタママは、その考えに酔い、既に先程までの自己嫌悪と責任の重圧から解放されていた。

「ついでにコサッチやフッキーⅡが大事にしていたシンジって子も生き返してやりますか。
 カジオーのようなゴミはもう一度生き返して、殺すのも面白そうですねぇ・・・・・・タマタマタマタマ」

573鬼になるアイツは二等兵 ◆5tKMRH/5ZU:2009/08/11(火) 23:25:33 ID:YrRABrO.
やがて、タママの中では『死』の概念は永遠の別れというイメージが薄れつつあった。
生き返すことが前提ならば、サツキの死も一時の別れのように思えるからであろう。
その妄想自体が『捕らぬ狸の皮算用』かもしれない可能性もあるが、タママはそんなことを考えたくはなかった。
少なくとも幸いだったのは、そういった妄想で沈んでいた気持ちを持ち直せたという所か。

「おっとっと、考えだけにフケっている場合じゃない。
 サッキーは生き返せる希望が見えてきたからともかく、これからどうするかも考えなきゃ!」

ようやく、脱出後の希望から、現状について考えることに頭を切り替え、ニヤついた顔は真剣なものへと変わる。
なんとかグラついていた気分は落ち着き、物事を冷静に考えられるようになった。

手始めに、放送から状況に関する考察を張り巡らす。

まず、死者に関して。
いちおう、サツキたち以外の、朝比奈みくるを初めとする面識も無い死者たちの名前も覚えていたが、特に思うところは無いだろうと、考えないことにした。


次にコサッチこと小砂もサツキ同様に死んでしまったらしい。
サツキと比べれば愛着も無く、同盟を組んだ当初はいずれ殺す気もあった。
サツキと会ったことで殺す予定は立ち消え、殺意もどこかへ失せたのかもしれない。
だからこそ死んでしまったことが、今となってはちょっとだけ可哀相に思えた。
ついでに彼女の頭に引っ付いていたネブラはどうなったのか?
こっちは個人的な恨みがあるとはいえ、やはり生死は気になる。
小砂と一緒に果てたか、それともどこかでまだ生きているのか・・・・・・参加者では無いネブラは死んでも放送で呼ばれないため、直接会わない限りタママには知る由も無い。

・・・・・・実はついさっき、そのネブラ知らぬ内にタママの頭上を通っていったのは、余談である。


続いてアスカ、(タママから見れば)加持の手先である彼女も死んだようだ。
放送こそ同時に言われたが、死ぬ前にサツキを殺した可能性は十分にある。
もしそうなら、先の考えで生き返した後にもう一度殺すくらいの憎しみをタママは抱いている。
何にせよ、加持の手先は死に絶え、自分やケロロたちに降り懸かる火の粉は一つでも消えたと考えれば良いニュースにも聞こえる。

574鬼になるアイツは二等兵(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/08/11(火) 23:26:59 ID:YrRABrO.


次にサツキ。
ケロロの次か同じくらいに守りたかった少女。
もし彼女を殺した犯人がまだ生きているとしたら、メイを殺したマスクの男同様、必ず見つけだしてこの手で殺してやるつもりだ。
そしてサツキは絶対に生き返してやろうと強く望んでいる。
タママにとっては、仇討ちと蘇生こそ、サツキへの責任の取り方だと思っているようだ。


最後に、ケロロ軍曹と冬月コウゾウ、ウォーズマンとスバル、そしてギュオー。
放送で呼ばれていないということは現時点では彼らが無事である証拠。
ウォーズマンも無事にスバルを助けられたようだ。
特にケロロが生きていたことは、それだけでタママの心の救いになった。
「軍曹まで死んじゃってたら僕はどうなってたことか・・・・・・サッキーを失った時のような思いはコリゴリだから早めに合流したいですぅ」

ケロロたちが生きているとはいえ、まだまだ予断は許せない。
詳しい場所がわからない今は、二人が火災から逃れたのを信じつつ、できるだけ早く捜し出す必要がある。

「それに軍曹さんには、サッキーたちを生き返せるかもしれない方法を教えなきゃならないですね。
 きっと軍曹さんもそれを聞けば、喜んでこの聞いてくれると思うですぅ」

ケロロと合流できた暁には、自分が思いついた死者を助けられる可能性を教えるつもりだ。
それは単純にケロロに褒められたいだけではなく、サツキを失って落ち込んでるかもしれないケロロに希望を持たせようと、タママなりの気遣いもあるのだ。

「しかし、今回だけで10人も死人が出た。
 殺し合いに乗った連中がかなりいるみたいなのが厄介ですねぇ・・・・・・」

殺し合いに乗った者である加地とアスカは死んだが、それでもまだまだ殺戮者はいる。

「僕や軍曹さんたちが生き残るためには、やっぱり殺し合いに乗った奴らを叩いておく必要があるみたいですぅ。
 でも・・・・・・」

メイを殺したらしいマスクの男、湖にいた見るからに危なそうな連中、そういった者たちは一目で殺し合いに乗っているかわかるので対処のしようがある、しかし・・・・・・

575鬼になるアイツは二等兵(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/08/11(火) 23:30:02 ID:YrRABrO.
「カジオーの時はなんとか尻尾を掴めましたけど、また似たような奴に出会ったら厄介この上ないですぅ・・・・・・」

全て殺戮者が、公に殺し合いに乗っていることを言い張ってるとは限らない。
中には加地のようにコソコソと人の中に紛れて、裏で何かを企んでいる者だっている。
これで厄介なのが、人を上手く騙して仲間からの信頼を勝ち得ている場合もあること。
そのせいで、冬月に加持が怪しいことを告白しても、まともに取り合ってはもらえなかった。

「きっと今回死んだ人たちの中には、カジオーのような奴に騙されて殺された人だっているですぅ。
 だからと言って、カジオーと同じく殺し合いに乗っている証拠を見つけられるとは限らないし・・・・・・証拠が無かったら流石にやりづらいし・・・・・・」

殺し合いに反対する集団の中に紛れ込み、チャンスがあれば襲いかかってくる。
さらに上手く立ち回られると、仕掛けられた罠により集団が一瞬で壊滅したり、疑心暗鬼を振り撒かれて仲間同士での争いに発展させられる危険がある。
その鱗片を味わったタママには、そういった『隠れた殺戮者』の怖さがわかる。
しかし、殺し合いに乗っていると証明できるものが無ければ、その者を殺せる大義名分が立たない。
何より、疑いだけが先行し、本当に殺し合いに乗ってなかった者を殺してしまったら眼も当てられない。
このように、積極的に殺し合いに乗っている者よりも、陰でコソコソやる者の方が遥かにやりづらいのだ。
そして、いくらなんでも直感などのような根拠の無い理由で殺戮者と決めつけるわけにもいかない。
されど、タママの結論は早かった。

576鬼になるアイツは二等兵(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/08/11(火) 23:31:10 ID:YrRABrO.
「ま、いいや。
 少しでも疑いのある奴は片っ端から叩いてしまえば良いですぅ」

・・・・・・なんとも単純かつ短絡的な答えなのだろう。
ただ、タママとしても投げやりにこの答えを出したわけではない。

「ふっふっふ。
 どうせ誤って殺し合いに乗ってない人を殺したとしても、根暗カレーが『生き返してくれる』、だからノープログレムですぅ。
 それよりも大事に到る前に潰す、迷うぐらいなら斬るべきですぅ」

疑しきは皆殺し、中には殺し合いに乗ってなかった者が混じっていても後で生き返せば良い。
それが先の答えを出せた理由である。

確かに、合理的な面から見れば、疑いが少しでもある者は全て消した方が生き残る確率は高くなるだろう。
だが、脱出後に生き返すにしろ、罪の無い者まで巻き込み兼ねないこの考えは、人道面には大いに問題がある。

「僕は誰よりも早く、カジオーが悪い奴だと気づけたですぅ。
 きっと僕の判断は間違えないハズですぅ、だから僕に疑われる方が悪いんですぅ」

タママは加持が殺し合いに乗っていたことを見抜けたことから、自分の判断に自信を持っていた。
それは過信と言ってもいいが、いちおうタママなりに、判断ミスを起こした時の対処は考えている。

「まぁ、仮に間違えちゃっても後で証拠をでっちあげちゃえば良いんですぅ。
 大義名分さえ立てば、軍曹さんに言い訳ができるですぅ、ぬっふっふっふっふ」

一際、黒く笑うタママ。
自身の正義を証明できるものがあれば、誤殺も正義の行いになるのだ。
自分に不都合な事実は、揉み消して改竄でもしてしまえば良い。
それでもタママは仲間たちを守るため、脱出のため=正義と言い張れるのだろう。
その正義は限り無く黒かろうとも・・・・・・

「僕は正しいんだ!
 アイ アム ジャスティ〜ス!」

577鬼になるアイツは二等兵(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/08/11(火) 23:31:42 ID:YrRABrO.
ちなみに自分と同じ腹黒属性があるギュオーについてタママはこう語る。

「ギュギュッチも怪しいっちゃ怪しいですけど、カジオーの首輪を狙っていたところからして、どっちかっつーと脱出を目指してるかもしれないですね。
 もちろん、警戒はするし殺し合いに乗ってたら叩くけど、そうでなければ戦いたくないなぁ」

同じ腹黒であり、気にいっているギュオーに関しては、できるだけ敵対したくないようである。
警戒は怠らない様子であるが、強まりもしていない。
簡潔に言うなら、ギュオーへの対応は今までと変わらないようだ。



以上でタママの行動方針はまとまった。
このゲームから脱出した後、クルルにサツキたちを生き返せる装置を作らせること。
脱出の過程で、障害になる者だけでなく疑いのある者もまとめて消すこと。
仮に罪無き者を誤殺しても、後で生き返らせる前提なので気にしてはならない。

それは別として、今やらなくてはならないことはケロロたちとの合流。
詳しい居場所はわからないので、火災地帯の周りを東に回り込んで捜し続けること、これは今まで通りである。

「よし、行くですぅ!」

考えがまとまった所で、タママは再び東へと駆け出した。

−−−−−−−−−−−

578鬼になるアイツは二等兵(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/08/11(火) 23:33:18 ID:YrRABrO.

走るタママの表情は、放送前や放送を聞いた直後よりも清々しいものになっている。
殺し合いが行われているこの場所においては不釣り合いなぐらいの輝く笑顔だ。

「なんだか身体がさっきよりも軽く感じるですぅー!」

放送によってケロロたちの生存が確認され、サツキと再開できる可能性を見つけたために、抱えていた緊張と悲壮感がほとんど抜け落ち、肩の荷が軽くなったのである。

「それになんだろう、心が高ぶってくる・・・・・・」

死んだサツキを救えることへの希望によるものか、精神が高揚していくのがわかる。
さらに心は、サツキとケロロへの一途な思い、サツキを生き返すことへの使命感で胸が高鳴る。

「そうか、きっと−−」

タママいわく、これすなわち。



「−−この気持ち、まさしく 愛 ですぅ!!」



気持ち高ぶったタママは、どこぞのパイロットの如く『愛』を力強く叫んだのだった。



やがて、タママの視界にまだ火の手があまり回っていないB‐8が見えてきた。
タママはそこに仲間たちがいると信じて向かっていく。
胸の内に秘めた、サツキやケロロたちと笑いあえる明るい未来−−理想を現実に近づけるために、悲しみから立ち上がったタママは走り続けるのだ。

−−−−−−−−−−−


しかし、彼は前だけしか見てないのではないか?
サツキを失った動揺と絶望の中で、慰める者も叱る者もいないまま、思いついた希望はいかほどのものか?


クルルに死者を蘇生させる装置を作らせ、道徳や倫理を無視すれば、それによって死者を救おうとする考えは、確かに良いことなのかもしれない。
だが実際にクルルがそんな装置を作ったところなどタママは見たことが無い。
つまり、タママが求める蘇生はできない可能性だってあるのだ。
子供のような甘えのためか、動揺がまだ残っているためか、タママはそこまで深く考えられない。
仮にそうなった時に、タママはどんなに悲しい思いをするだろうか・・・・・・希望しか見たがらないタママは考えられない。


前を向いて進むことは大事だが、進むのに足元を見ないのは問題だ。
転べば大惨事になりかねない。
足元を注意してくれる者がいない今、未熟な兵士の先行きはとてつも無く不安だ・・・・・・

579鬼になるアイツは二等兵(修正版) ◆igHRJuEN0s:2009/08/11(火) 23:34:36 ID:YrRABrO.
【C-7 森林地帯(北東)/一日目・夜】

【タママ二等兵@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷、精神高揚
【持ち物】ディパック(水消費)、基本セット、グロック26(残弾0/11)と予備マガジン二つ@現実
【思考】
0、軍曹さんを守り、ゲームを止める。
 妨害者及び殺し合いに乗っている疑いが少しでもある者を排除。
1、東回りに火事を避けて市街地に向かい、ケロロたちを捜す。
2、その後はギュオーやウォーズマンの下へ向かう?
3、草壁メイ・草壁サツキの仇を探し出し、殺す。
4、ウォーズマン、ギュオーに一目置く。
5、ギュオーを気に入っているが、警戒を怠らない。
6、脱出の後、クルルに頼んでサツキや親しき者を生き返させる装置でも作らせる。
7、6の案をケロロに伝える。

※色々あってドロロの存在をすっかり忘れています(色々なくても忘れたかもしれません)。
※加持がサツキから盗んだものをグロック26だと思っています。
※ネブラ入りディパックのミサイルを流れ弾だと思っています。
※少しでも疑いのある者を殺す過程で、誤殺してしまっても、証拠の捏造・隠滅+クルルによって生き返せるハズなので、問題無いと考えています。

580 ◆igHRJuEN0s:2009/08/11(火) 23:38:39 ID:YrRABrO.
投下終了です。
途中のトリが変化しているのは入力ミスによるものです。
まだ修正すべき点がある場合は、指摘願います。

581 ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:05:24 ID:kTlD9VdQ
仮投下開始します

582耐えきれる痛みなどありはしない ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:06:19 ID:kTlD9VdQ
「これは……」

切り替わったノートパソコンの画面を見て、その場の全員が息をのむ。
そこに表示されているのは、この殺し合いの会場となっている島の地図。
その各所にいくつもの名前と時刻が記入されている。
そして、記入されている全ての名前に三人は覚えがあった。

「フェイト、ちゃん……」
「ゲロ……冬樹殿、ガルル中尉……」
「……死亡した者たちの位置と、その時刻か」

『第三回放送までの死亡位置・時刻』と地図の横に書かれているのが冬月の目に入る。
時間に関しては「朝」や「夕方」等かなりアバウトであったが、死亡した順番も書かれておりそれを考慮すればかなり有利となり得る情報だ。

例えば学校近辺を見てみる。
殺し合いの開始からそれほど経たない内にケロロの知り合いでもある日向冬樹が殺され、別所のフェイト・モッチーを挟んで明け方には涼宮ハルヒという人物が殺されている。
つまり朝方あの付近には危険人物が潜んでいたはずだ、同じころなのはがズーマと名乗る男と交戦している、小砂を殺そうとしていたということも考えると、二人を殺したのもこの男である可能性が高い。
冬月も同じころには市街地の東に入っていたがその男とは出会っていない、このことから恐らくは南下したか、学校に潜んだかと予測が立つ。
更に昼頃なのはが再びズーマと交戦した、そしてその後の夕方、小砂と佐倉ゲンキの二人が近辺にて殺害されている、一連はズーマの犯行と見て間違いないだろう。
……これにより、ズーマという男の殺し合い開始からつい先ほどまでの行動ルートが特定できた、上手く使えば大きなアドバンテージとなる。

他に目を引くのは加持とキョンの妹の死亡位置。
そこに記された加持の名前にわずかに目を伏せるが、悔むだけではそれこそ彼の死は無駄となってしまう。
彼らと自分達が別れたのは昼前だった、そして加持が死亡したのが昼過ぎ。
あの部屋にあった転移装置でH-4まで飛ばされ、そこで何者かの襲撃を受けたといったところか。
近くの死者を見れば、掲示板で危険な相手と書かれていたナーガが夕方に死亡している。加持がナーガに殺され、そのナーガをタママが殺した……という図式も一応は成り立つ。

(しかし、やはりこの件に関しては決め手に欠けるな)

せめてもう少し詳しく時間が出ていればよかったのだが、と思うが無いものねだりをしても始まらない。
続けてキョンの妹へと目を移す。
彼女に関して自分たちが知っていることは何もないに等しい、気になったのは死亡位置だ。

「やっぱり、ただ脱出するだけじゃダメみたいですね」
「ゲロ、用意周到でありますな……」

二人の声に頷き同意する。
彼女が死亡したのは海上……それも地図の外のようだ。
なのはのような魔法で空を飛んでいったか、それともイカダのようなものでも用意したのか、何らかの方法で島からの脱出を試みたのだろう。
だが、草壁タツオ達は脱出しようとする彼女を殺害した、共に脱出しようとした他の参加者に殺されたという可能性もあるが、この島から脱出したというのに殺す理由は少ない、可能性は低いと思われる。
ただ脱出するだけでは草壁タツオ達の手から逃れられない、そのことを認識させられ思わず表情を顰めてしまう。

「そういえば……」
「何かね?」
「いえ、この位置や時刻って、どうやって調べてるのかなって」

なのはの言葉にハッとし周囲を見渡す。
その程度では目当ての物は見つからない。

「冬月殿、どうしたのでありますか?」
「監視されているとは思っていたが、具体的にその監視方法に考えを回していなかった事に気づいてね、このままでは脱出方法を見つけたところで向こうに筒抜けになってしまうかもしれん」
「あ……!?」
「げ、ゲロッ!?」

わずかに焦りの感情を出しながら首輪に触れる。
自分たちは殺し合いを望む草壁タツオ達にとって面白くない会話を繰り返している。
そんなこと不可能だと思われているから見逃されているのだろうが、実際に脱出できそうになったらこの首輪によってLCLとされかねない。
脱出に関する情報については筆談を……とも考えたが音声だけの監視なはずがない、焼け石に水だろう。
二人もどれだけ危険な状況か理解できたのだろう、顔を青くしている。

583耐えきれる痛みなどありはしない ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:06:54 ID:kTlD9VdQ
「……とにかく、今はそのことを悩んでも打つ手はない。今後はより慎重に行動をすることとしよう」
「わかりました……」
「りょ、了解であります」

些か気落ちしているが、それは仕方のないことだろう。
一先ずこの先どう動くかを話そうとし、

「……? 今何か聞こえませんでしたか?」
「ゲロ? 吾輩は何も……」
「念のため静かにして様子を見よう、高町君、何が聞こえたのかね?」
「えっと、何か木が折れるような、めきっって音が……」

『うわああああああああ!?』

「悲鳴!? 二人はここで待っててください!」
「ゲロ! 高町殿、一人では危険であります!」
「二人とも待ちたまえ――ぐっ……」

聞こえてきた悲鳴になのはが駆け出し、ケロロがそれを追いかける。
冬月は二人を止めようとするが、老いた身体に戻ったことにより腹の傷が痛みだしその場に蹲ってしまう。





……俺は何やってんだ。
何度も踏み止まるチャンスはあったはずだ、何度も何度もうざったくなるほど色んな奴が一線越えちまった俺を引き戻そうとしてたじゃないか。
それを全て無視して、みんな振り払って、それでいて結局俺は元の場所に戻りたがってやがる。
なぁ『俺』、お前が言いたかったのはこう言うことなんだろ? 
俺はただ強がってるだけ、偽善者だのなんだの言って突き放してるくせに、まだ諦めずに引き止めてくれなんて情けないことを願ってる大馬鹿野郎。

…………

ははっ、ハルヒどころか『俺』すらでてこないなんてな、自分にも見限られるとはいよいよもって危ないな。
……もう止めにするか? 長門が生き返らせてくれるのは一人だけ、他のみんなは……
それよりもスバルやウォーズマンと一緒に長門に反抗して……

「はっ」

馬鹿げてる、そんな事は不可能だとナーガのおっさんが身を持って教えてくれたじゃないか。
それに、長門に勝ったところでみんなを生き返らせてくれるとは思えない。
もう朝比奈さんも死んだ、『あいつ』も死んだ、ハルヒも……死んだ。
俺の知り合いは三人も死んだ、しかもこの全員が俺のせいで死んだも同然なんだぞ。
今更あの日常に戻ってどうしろっていうんだ? 長門をどうにかしたところで、古泉と俺の二人だけのSOS団なんて……

ああ、どうしてこうなっちまったんだろうな。
ガイバーになろうと根本的な疲労まではどうにもならない、もう体も心も限界に達してる、何も考えずにぐっすりと眠りたい。
この殺し合いに参加させられてからもうすぐ丸一日、ゆっくり眠れたことなんてありやしない。この島で気絶すると決まって『俺』が出てくるしな……

『――ヴォ』

噂をすれば、って奴か? 随分遅かったじゃないか『俺』。
……いや待て、「ヴォ」って何だよ? 『俺』は獣になった覚えは――




584耐えきれる痛みなどありはしない ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:07:31 ID:kTlD9VdQ
「ヴォ」
「…………………うわああああああああ!?」

今俺のことを情けないとか思った奴は考えてみるがいい。
心身ともにボロボロな状態で気絶して、次に目を開けたら何故か全身ずぶ濡れで目の前にどでかい化け物がいるんだぞ!?
化け物自体はナーガのおっさんやらギュオーとかいう奴やらで見なれたとはいえ、心構え抜きにドアップで迫られたらそりゃあ怖い。
しかも視線をずらせば明らかに普通の生物ではない方々が揃って俺のことを見ていやがる。

「な、なんだ、俺を食ってもうまくないぞ!」

ガイバーは相変わらずどれだけ念じても来てくれない、今こいつらに襲いかかられたら俺は数秒でおいしく頂かれてしまうだろう。
それ以前に俺は今どうなっているんだ? お湯に入れられているみたいだが、もしや煮込まれているのだろうか? なんてこった、料理ができる獣がいるなんて。
ちくしょう、こうなりゃ素手でもやれるだけやってやる、まだ全身は痛いし気を抜いたらまたぶっ倒れちまいそうだが、このまま黙って獣の餌なんて絶対にごめんだ。

『落ちついてください、こちらに危害を加える気はありません…………恐らく』

な、何だ今の逆に不安になる声は!?
いや、落ち着け俺、似たような響きの声を聞いた覚えがあるぞ?

『できれば彼らを刺激しないようにしてください、私と話していただけると嬉しいです』
「……わ、わかった、あんたを信用する」
『ありがとうございます』

そうだ、この機械音声、スバルが持ってたあれと同じ感じだ。
それならきっと俺に危害を加えるような思考はしないだろう、スバルの仲間っぽかったし、あいつの仲間なら他人を傷つけるような真似はしないだろうしな。
交渉次第では俺が体を休める間、この獣たちに守ってもらえるかもしれん、何とかしてガイバーを戻さないと今の俺は自衛手段すら乏しいからな。

『そうですね、何から話せば……まずはここにおける状況を』
「止まりなさい! その人から離れて!」
「ゲロ―!? なんでありますかこの動物たちはー!」

……ほんと、休む暇ぐらい欲しいもんだぜ。





『やはりここは殺し合いの場なのですね……Ms.高町と合流できて助かりました』
「ううん、ケリュケイオンも大変だったね」
「キュルー」
「ん、フリードもね」

「無事だったからよかったが、あまり無茶な行動は控えてもらいたい」
「げ、ゲロ、申し訳ないであります」

「ガウ……」
「ヴォ」

何ともカオスな光景が俺の前に広がっている。
羽の生えたごついトカゲのような生き物の足についた宝石と会話する少女、カエルを人間っぽくデフォルメしたような生物を諌めるおっさん、何だか落ちつきのない狼をなだめるどでかい化け物。ついでに俺はずぶ濡れになった服を脱いで浴衣を着ている。
……頭が痛くなってきそうだ、俺自身ガイバーなんかになったり性悪妖精なんかと会話したりもしたが、まだ常識ってやつを捨て切れていなかったらしい。

「それで、キョン君だったかね?」
「あ、はい……」

585耐えきれる痛みなどありはしない ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:08:07 ID:kTlD9VdQ
状況を解説すると俺は煮込まれていたわけではなく温泉に入れられていたらしい、動物なりに俺を助けようとしたのだろうか? その気持ちは感謝するが気絶した人間をお湯にぶち込んだら溺死しかねないぞ。
俺に話しかけていたのはケリュケイオンというデバイスって奴だそうだ、俺を助けようと勇敢にも化け物に向かっていったなのはちゃんと知り合いだとか。
……そのなのはちゃんが首にかけているマッハキャリバーとかいうのはスバルの相棒だと言っている、やっぱりあいつの知り合いだったんだな。
それはともかく、なのはちゃんとケリュケイオンが知り合いだったおかげでこの獣たちと戦うはめにならずに事態は収まり、なのはちゃん達の仲間である冬月さんのとこまで連れてこられたってわけだ。
勿論俺が殺し合いに乗っているなんてことは伏せている、ガイバーがない今これだけの数の相手と戦うなんて不可能だしな。
それに……どうにもなのはちゃんと話しているとやりにくい、今の俺には『あいつ』を思い出す年頃の女の子の相手は無理がある。
話がずれた。殺し合いのことを伏せているとはいえ、それまで何やってたかを聞かれると面倒だ、適当に嘘をついて後々ばれるとやっかいだし、こんな短時間で筋の通った嘘を思いつくほど俺の頭は回らない。
ならどうしたかって? 聞いて驚け、画期的な方法だ。

「記憶がない、ということだが……」
「記憶っていうか、覚えてないのはここの事だけですけどね……殺し合いなんて冗談でしょう?」

…………笑いたきゃ笑えよ、咄嗟に浮かんだのはこれぐらいだったんだ。
だがこんな自分でも笑いたくなるようなアイデアは意外と効果があるようだ、三人とも俺を同情するような目で見てくる……やめてくれ、そんな顔したって俺はもう戻れない。

『外傷がいくつか見受けられます、恐らく何者かに襲われ、そのショックで一時的な記憶障害を引き起こしているのでしょう』
「そうだよね、突然こんな場所で殺し合いなんてさせられて、大丈夫なわけないよ」
「ゲロ、ですが安心してくださいキョン殿! 必ず我々がお守りするであります!」
「はあ、どうも……」

こっちが言い訳する間もなく勝手に納得してくれる。
その上守ってくれるっていうんだから俺にとっては願ってもないことだ、こいつらはスバルと同じような根っからの善人らしい。
注意するべきは何考えてるのかわからないこの獣たちと冬月さんか、疑ってるってわけじゃなさそうだが、一人だけ俺の事を見ては何かを考えこむ素振りを見せてやがる。

「……二人とも、相談がある」
「ゲロ?」
「何ですか?」
「彼にこれを見せたいと思うのだが……」

彼、ってのは俺のことだろう、置かれているノートパソコンを見ながら冬月さんが言い、その言葉に二人は表情を強張らせる。
パソコンか……なるほど、掲示板を見れば俺の知り合いである朝比奈さんや古泉に関することが書いてあるしな。
大丈夫だ、前もって覚悟しておけばそのぐらいで何かボロを出しちまうこともないだろう。

「冬月さん、でも……」
「いずれは分かることだ、手荒い方法ではあるが、これによって記憶が戻る可能性もある」
「げ、ゲロ……」

おいおい、確かに知り合いのことを悪く書かれてるってのは気分がいいもんじゃないだろうが、そこまで渋るものか?

「あの、何かは知らないですけど俺なら構いませんよ」

このまま押し問答を続けられても面倒だ、自分からパソコンの前に移動する。
画面には二匹のもふもふとしか形容しがたい生き物が映し出されている……ん? こいつら、この化け物と似ているような……いや、それ以前にこの小さい方はガイバーショウと一緒にいた奴じゃないか!?

「……」
「うぉ!?」

思わず化け物に視線を移そうと思ったら、いつの間にかすぐ横まで来て画面を覗きこんでいやがった、この巨体でどうやったら気づかれないように動けるんだ。
画面に穴が空くんじゃないかと思うぐらいじっくりと見つめ、とても悲しそうに目を伏せた、気のせいか周りの獣たちも悲しげに見える。
やはり何か関係があるようだが、あいにく俺はこいつの言葉など解りはしない、迂闊な行動をしちまうより先にとっとと話を進めたい。

「えっと、見せたいのってこの画面ですか?」
「いや、その先だ……君にとってかなりつらいものだが、本当にいいんだね?」

頷いて答える。そんなこと言われたって、記憶のない人間の選択肢なんざ一つしかないだろう。
何、大丈夫だ。朝比奈さんたちの名前を見て、ちょっとショックを受けたようにしながら「はは、ネットなんて根も葉もない悪口ばっかですよ」とでも返してやればいい。

「わかった……ケロロ君、頼む」
「了解であります」

586耐えきれる痛みなどありはしない ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:08:46 ID:kTlD9VdQ
ネットを開き、そのまま掲示板へ行くのかと思いきやカーソルは掲示板の文字を通り過ぎてkskと書かれた項目をクリックする。
そういえばこんなのもあったな、確かまったく答えの解らない質問ばかりでてきて結局先に進めなかったはず。
こいつらはあの問題を解いたっていうのか。

「『ケロロ小隊の中で赤い体をした者の名前は?』 ギ・ロ・ロ、と……」

……確かケロロ軍曹とか名乗ってたな、こいつにしか解けない問題ってわけか。
そういう仕組みなんだと理解しても、何だか理不尽に感じてしまう。自分の仲間の名前なんて考えなくてもわかるじゃないか。
まあそれは置いておこう、この先に何が書いてあるのかはちょっと気になるしな。
俺は画面に目を移すが、そこに出ていたのは何度も見たこの島の地図だ、ただ何人かの名前が書き込まれて……

「っ―――――」

『その名前』が何を意味するかを悟り、俺は突然襲ってきた吐き気を堪えるように口元を抑える。
ダメだ、見るな、考えるな! くそっ! 何でぶっ倒れたい気分だってのに俺の目は動かない!?

「う―――あ……!」
「大丈夫かね!?」

冬月さんが俺の肩に手をかけたようだが、それを感じる感覚すらないみたいだ、しっかりと床を踏みしめているはずなのに足元が頼りなく、まるで宙に浮かんでるような気分になる。
こんなになってもまだ俺の目は動かない、地図に記された『キョンの妹』という文字から目を逸らせない。
ハルヒは、俺が殺した、朝比奈さんは、位置から考えて雨蜘蛛のおっさんに殺されたんだろう、そこまではわかる。
なら、『あいつ』を殺したのは誰だ!? 何で死亡位置が地図の外なんだよ!?
朝比奈さんが死んだのが夕方、『あいつ』が死んだのも夕方、雨蜘蛛のおっさんの仕業とは考えにくい。
違う、考えにくいのは雨蜘蛛のおっさんだけじゃない、参加者全員だ。
だって地図の外ってことは、この島から逃げだしたってことだろ? そこで誰に殺されるっていうんだよ? そんなことする奴、あいつらしかいないじゃないか。

「あ、ああ……!」
「いかん、ケロロ君どこか寝れる場所を探してくれ、休ませた方がいい」
「ゲロ!」

長門が、『あいつ』を殺した……!?
そりゃあ、殺し合いをしないのは困ると草壁のおっさんも言っていた、だけど逃げ出した奴まで……
いや、何を言ってるんだ俺は、逃げだしたら殺されるのは当たり前だろう、だから空を飛べる奴だってこの島に残っているんだ。
違う、俺が言いたいのはそんなことじゃない、『あいつ』が、長門が……

「う……が――」
「キョンさん! しっかりしてください!」

587耐えきれる痛みなどありはしない ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:09:30 ID:kTlD9VdQ
――やめろ。
その眼で、その姿で俺を呼ばないでくれ。
スバルと同じ眼で、『あいつ』と同じ背格好で。

『何を今更動揺してるんだ?』

――っ! 声だけで出てくるとは器用な真似だな、『俺』!

『あいつが死んだことを悲しんでるのか? あいつを殺してほしいと頼んだくせに?』

――うるせぇ……!

『長門があいつを殺すのがそんなに意外だったのか? とっくにわかってたことじゃないか』

――黙れよ……俺が悲しむなんてふざけたことだってことぐらい、わかってんだよ!

『……ああ、そうだよな。それでも』

――そうだよ、それでも……!

「ふぇ!? きょ、キョンさん!?」

あいつは、たった一人の……

「う……」

俺の、妹だったんだよ――――!

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



【G-2 温泉内部/一日目・夜】

【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0:ちくしょう……!
1:手段を選ばず優勝を目指す。参加者にはなるべく早く死んでもらおう。
2:ガイバーが戻るまで記憶喪失のふりをして冬月達に守ってもらう。
3:採掘場に行ってみる?
4:ナーガが発見した殺人者と接触する。
5:ハルヒの死体がどうなったか気になる。
6:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。

※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っていますが、考え直すかもしれません。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※みくると妹の死に責任を感じて無意識のうちに殺し合いを否定しています。
 殺す事を躊躇っている間はガイバーを呼び出せません。

588耐えきれる痛みなどありはしない ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:10:12 ID:kTlD9VdQ
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(中)、温泉でほこほこ、小さな決意、はいてない
【服装】浴衣+羽織(子供用)
【持ち物】マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)
【思考】
0、キョンさん……
1、冬月、ケロロと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
4、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?


※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。


【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】元の老人の姿、疲労(大)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、ディパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ
     スタンガン&催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、むう……
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
3、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
4、タママとケロロとなのはを信頼。
5、首輪を解除する方法を模索する。
6、後でDVDも確認しておかねば。


※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、断片的に覚えています。


【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、身体全体に火傷
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン、
【思考】
0、休憩場所の確保であります!
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
2、タママやドロロと合流したい。
3、加持となのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
4、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
5、協力者を探す。
6、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
7、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
8、後でDVDも確認したい。
9、で、結局トトロって誰よ?

※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです

589耐えきれる痛みなどありはしない ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:10:45 ID:kTlD9VdQ
【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.????????????????

【備考】
※ケリュケイオンは現在の状況が殺し合いの場であることだけ理解しました。
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます
※男露天風呂の垣根が破壊されました。外から丸見えです。
※G-3の温泉裏に再生の神殿が隠れていました。ただしこれ以上は合体しか行えません。
※少なくともあと一つ、どこかに再生の神殿が隠されているようです。


[備考]
ノートパソコンから"ksk"に接続するとケロロ世界のキーワードが尋ねられるようです。
ノートパソコンのkskコンテンツから得られる情報は『死亡者の位置と時刻』。
更新は放送毎、放送時に死亡していた参加者の死亡位置と、その時刻が地図に書きこまれます。
地図の画像は>>3の物と同じで、右側のロゴが「第n回放送までの死亡位置・時刻」と書かれ、その下に死亡順が表となっている。

590 ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 00:11:52 ID:kTlD9VdQ
投下終了です。
どなたか代理投下していただけたらありがたいです。

疑問点、矛盾、指摘、感想等ありましたらお願いします。

591 ◆0O6axtEvXI:2009/08/12(水) 15:20:24 ID:tInoqNN2
代理投下ありがとうございます。

本スレ>>22
指摘ありがとうございます、失念していました。
wiki登録後該当部分を「首からかけている」に修正します。

592もふもふーな名無しさん:2009/08/12(水) 19:17:39 ID:qWPqgP5U
さるさん喰らった
誰か代わりお願い

593 ◆qYuVhwC7l.:2009/08/16(日) 07:57:45 ID:v1uzORM6
カットカットなので、途中からの投下になります。

※ ※ ※



異変が、起きた。


音が、消えた。
視界から、色が消えた。
断続的に自分の体を襲っていた、振動が消えた。
先ほど夏子と話していた時と全く違う、灰色の空間がハムの事を出迎えた。

「こ……これは……いったい……!?」

扉を開ける直前まで、あれほど良く聞こえていたあの怪物の挙げていた奇声すらもこの部屋の中では一向に聞こえない。
まさか良く出来た防音、と言う事もないだろう。なぜならば、窓ガラスは先のデパートの爆発以来そのほとんどが割れている。
明らかに、異常な空間が診察室の中を覆っていた。
しばし混乱しながら周囲を見渡していたハムだったが、やがてその視線は一か所に固定される。
見つめているのは、今から自分が調査するハズだったパソコンの画面。
なぜかほとんどの物が灰色に覆われているこの空間の中で、唯一そこで輝く『SOS』マークのみがサイケデリックな輝きを放っていた。
ゴクリ、と自分が唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
ドクンドクン、と自分の中の鼓動が速くなっているのが感じられる。
だが、いつまでもそうしてぼーっと立っている訳にも行かない。
ハムはゆっくりとパソコンの前に近づくと、マウスを手に取った。

何が起こったのかはさっぱりわからない。だが、この原因、もしくは解除法はこのパソコンにあると見て間違いないはずだ。

半ば祈るような気持ちでしばらく画面のマウスカーソルを移動させる。
が、ゴルフ場のパソコンを操作した時のように、kskネットにアクセスする事が出来ない。
そもそも、アクセスする為にクリックするアイコン自体が見つからない。
デスクトップに映っているのは、目に悪く気味も悪いマークのみ。スタートボタンすら、そこには存在していなかった。
ムハ〜、と弄りながら当て所も無くカーソルを動かしていたハムだったが、事態の解決は意外に早く訪れた。

ピコン、というアラームと共に突然画面にダイアログが表示されたのだ。
kskネットでkskにアクセスしようとした時、夏子が言っていたようなキーワード入力画面にそれは酷似していた。
だが、それはハムの知る物とは決定的な違いがいくつか存在している。
その中の一つ、見なれぬ文章の幾つかを思わず読み上げる。

「プログラム……それに、鍵、ですと……?」

そこにはこんな文章が書かれていた。


<!-プログラム起動条件・鍵をそろえよ-->
鍵1…複数回の訪問  Clear
鍵2…一定時間の操作 Clear
鍵3…SOS団の正式名称  ?


最後の文章、『鍵3』と書かれたそれの下には、文章が入力できるフォームが存在していた。
試しにそこをクリックし、適当な文章を入れてみるがなんの問題もない。
とりあえず、この設問に答える権利はあるようだと結論づけた所で、ハムは渋い顔で顎に手をあてた。

「ムハ〜〜〜……正直言って、何がなんだかさっぱりですな…そもそもプログラムとは何なのかが……」

元々、パソコンが一般的に普及していない世界からやってきたハムにとっては、基礎用語自体を理解する事が出来ない。
それでも、分かる範囲で一つ一つの要素について考察していく事にする。
まず、『プログラムの起動条件』とは何か。
プログラムと言う物が何かはわからないが、ともかくその条件を満たせば『何か』が起こるという事。
現在進行形で自分を覆っているこの灰色の空間がそのプログラムではないかと一瞬だけ予想するが、未だに『鍵』の入力についてが終わっていないのでそれも違うだろう。
次に、『鍵1…複数回の訪問』について。
読んで字のごとく、『何回かこのパソコンの前に訪れる事』、だろうか。
実際、ハムは夏子との会話をこの部屋で行い、その後で見送りに行くためにこの部屋を退室したため、ここを訪問したのはこれで二度目だ。
そういう意味では、確かに条件は満たされているといえる。
次に、『鍵2…一定時間の操作』について。
これはパソコンの操作の事だろう。なんのアイコンも存在せず、クリックする場所もない画面上ではあるが、諦めずにマウスを動かし続けろという事か。
特に操作の指定がない所を見れば、キーボードを適当に打ち続けていても条件を満たせるのかもしれない。

594 ◆qYuVhwC7l.:2009/08/16(日) 08:00:19 ID:v1uzORM6
そして最後に『鍵3…SOS団の正式名称』。
これが最大の関門であると同時に、最大の謎でもある。
この文章のすぐ下に入力フォームがある所をみれば、質問文である事はわかるのだがその質問自体の意味がわからないのでは意味がない。

しばらくの間、頭を捻りながら自分の中で『SOS団』という単語に思い当たる節がないかと悩むが、結果は惨敗。
ひとまずそこで考えるのを諦めたハムは、適当な文字を入力して様子を見る事にした。

(まぁ、虎穴に入らずんば虎児を得ずとも言いますし…試した所でまさか命を奪われるような羽目にはならないでしょうしねぇ?)

そんな事を考えながら適当な文字列を入力し、エンター。
すぐに、画面のダイアログに変化が現れる。


<!-プログラム起動条件・鍵をそろえよ-->
鍵1…複数回の訪問  Clear
鍵2…一定時間の操作 Clear
鍵3…SOS団の正式名称  Error
<!-プログラム起動失敗。転移を開始する-->


その文章を確認した刹那、画面の中のSOSマークが強烈に光り輝き、ハムの視界を塗りつぶした。

※  (もう一度カット)


「吾輩が適当な文字を入力した瞬間、あのマークが光り輝いたのは覚えています……そしてその後、気が付いた時にはここにいた……つまり、あのマークは転位装置の一種と言う事ですかな…?」

顎に手を当て、うーんと唸りながらそこまで状況を整理するが、たった一つだけ腑に落ちない事があった。
先ほどのマークが光り輝いた瞬間、眩い白に視界が塗りつぶされていく中で、確かにハムは一つの文章が新たに表示されるのを見たのだ。

『<!-次回転移場所・B-1-->』と。

しかし、自分がこうして現れているのは、間違いなくA-6の海の家のすぐそば。パソコンに表示されていたB-1とは似ても似つかない場所だ。

「つまり、B-1には吾輩では無い何かが転移されたという事……? ハッ、もしや吾輩のディパック!! ……は、ちゃーんと背負っておりますな……ムハ?」

もしや裸一巻で砂浜まで飛ばされたのかと慌てて自分の背中を探ってみるが、そこにはずっしりとしたディパックがちゃんと存在していた。
一先ずの心配が杞憂に終わった事に安堵の息を吐いたハムは、ふと自分の足もとに何かがある事に気づく。
今の今まで気付かなかったが、自分が立っている地点は砂浜とは思えぬほどに硬い地面をしていた。
てっきり岩の上にでも乗っていたのかと思ったが、自分の足の下に目をやればそこにあったのは砂でも岩でもない、まっ平らに整備された地面。
周りを見渡してみるが、自分が立っている場所はちゃんと砂浜らしく砂が敷き詰められている。
いぶかしがりながらその場所からゆっくりと後ずさったハムは、今の今まで自分が乗っていた地面に書かれていた物をみて絶句する。

さっきまでパソコンで見ていたマークが、いやそれを中途半端に反転させたような…『ZOZ』マークとも言うべき物が、そのつるつるとした硬い地面に彫られていた。

「………なるほど……これが、SOSマークの出口と言うわけですかな?……いや、しかし……?」

単純に、ワープ地点として現れているだけのマークかと結論づけそうになったが、たった一つだけハムの中で引っかかったある事がそれを引き留める。
先ほど、自分は『プログラム』の起動に失敗した筈だ。
だというのに自分はこうしてワープに成功し、SOSマークからZOZマークへとたどり着いている。

「…いや、その表現は正しくありませんな。正確には『罰としてこの場所に飛ばされた』というのが正しいのでしょう」

そもそも、この突然の転移はハムにとって予想外の事だ。
飛びだした先が、B-8とそれほど遠く離れてはいないA-6では無かった物の、これがもっと遠い、たとえば島の南部だったりしたら目も当てられない。
夏子との待ち合わせ時間である19時半はおろか、20時にも間に合わずに、自分は失意の中で危険な単独行動をしなければならなかっただろう。
一体ワープ後にどこに飛び出すのかわからない事を考えれば、確かにこれは罰ゲームとも言える。
しかし、だとしたら。

「もしも、プログラムの起動に成功していたら……いったい何が起こっていたんでしょうか?」

ピクンピクンとハムの耳が動く。
詐欺師として生きてきた彼の勘が、痛いほどに反応しているのがわかる。
今まで幾度となく嗅ぎつけてきた金づるの臭い……それとは別種だが、確かに自分に利益をもたらす何かの臭いに、詐欺師兎は盛んに反応する。

595 ◆qYuVhwC7l.:2009/08/16(日) 08:01:02 ID:v1uzORM6
※ (最後にもう一度カット)


潮の香りが漂う、島の北西部にて。
とある施設の中で、三度パソコンに奇妙なマークが浮かぶ。
それは、『神』とも呼ばれた少女が作り上げたミステリックサイン。
明らかな『意味』を持ってその場に存在している『SOS』が、次に起動されるのは果たして―――――



※パソコンに表示された『SOSのマーク』は、三つの条件を満たすことで何らかのプログラムが起動するようです。
※一度でも『その部屋にあるパソコンでSOSマークを確認した者』が、『もう一度部屋に入る』事によって疑似閉鎖空間が発生します。
※次に、『条件は問わず、ただ僅かな間パソコンを操作し続ける』事によって、キーワード入力のダイアログが開きます。
※最後に、入力フォームに『SOS団の正式名称』を入力する事によってプログラムが起動します。

※現在、『SOSマーク』はB-1の何処か、地図には載っていない施設の中のパソコンに浮かび上がっています。

596 ◆qYuVhwC7l.:2009/08/16(日) 08:01:39 ID:v1uzORM6
以上です。
かなり大胆にSOSマークのフラグを展開させてしまったので、これで大丈夫なのかどうか…

597キン肉万太郎は燃えているか ◆5xPP7aGpCE:2009/08/26(水) 01:37:34 ID:HUBhMMTs


London Bridge is falling down,    ロンドン橋 おちた 

Falling down, falling down,       おちた おちた    

London Bridge is falling down,    ロンドン橋 おちた 

Falling down, falling down,       おちた おちた

London Bridge is falling down,    ロンドン橋 おちた 

Falling down, falling down,       おちた おちた

My fair lady.               きれいなおじょうさまを捧げましょう。


                                

Build it up with wood and clay,     木と粘土で つくろうよ 

Wood and clay, wood and clay,     木と粘土 木と 粘土 

Build it up with wood and clay,     木と粘土で つくろうよ 

My fair lady.                きれいなおじょうさま捧げましょう。



Wood and clay will wash away,      木と粘土は ながされる 

Wash away, wash away,          ながされる ながされる

Wood and clay will wash away,      木と粘土は ながされる 

My fair lady.                 きれいなおじょうさま捧げましょう。 



                    〜マザーグース『London Bridge Museum』〜





湖の周辺は墨を流したような闇が広がっていた。
北部の大火は今尚空を赤々と染めてはいたがここは地形の制約でその恩恵に与れない。
濃密な煙も空を覆い、星空を殆ど隠していた。

598キン肉万太郎は燃えているか ◆5xPP7aGpCE:2009/08/26(水) 01:38:07 ID:HUBhMMTs

リーリー、リーリー

草むらの中で虫が鳴く。
人口密度を更に減らした島内でも小さな命は数多く存在していた。
彼らは島の出来事にも何ら関心も抱く事なく気ままに動いている。

その小さな音楽会が無粋な乱入者によって中断する。
闇の中から突如現れた異形の怪人が茂みを踏み締めて会場を荒らしたのだ。

闇そのものの様な漆黒の体躯が歩いていた。
虫の鳴き声など何ら意に介さずガサガサを草を掻き分けて進んでゆく。
彼は―――古泉一樹という名前だった。

「くっ……!」

古泉の足が乱れる。
本気ではなかったとはいえ悪魔将軍の技は易々と回復するようなものではない。
骨が粉々に砕けたような激痛を気力で耐えてきたが遂に休まざるを得なくなる。
表情は窺えないが、ガイバーの下では脂汗がポタポタと流れていてもおかしくはない。

本来ならガイバーの回復力を期待して動かずにいるのが賢明だろう。
制限されているとはいえ時間が有れば脳髄や腕の欠損さえも治癒に至るのだ。

「こんな事をしてる場合ではありません、急ぎませんと……」

だが古泉はそれを良しとせずに立ち上がる。
激しい頭痛を堪えつつ何とか両足を踏み締める。
これは時間との戦いだ、万太郎が追いつける場所に居るうちに動かなければならない。
重傷を負った彼はそう遠くに行ってない筈、そう信じて古泉は再び歩き出す。

目の前で細かい何かが蠢いている。
無数の羽音、それは巨大な蚊柱であった。
構わず突っ込む、忽ちヤブ蚊が群がるがイバーの皮膚に口吻は通らない。
それでも執拗にまとわり付くそれを古泉は振り払おうとしなかった。
いや、振り払う程の余裕が無かった。

痛みが増して再び膝を突く。
荒い呼吸を繰り返しながら朦朧としがちな意識を覚醒させようと古泉は頭を振った。
気が付けば真っ直ぐ歩けているのかさえ怪しかった、何時の間にか岸から大分離れてしまっている。

禁止エリアに突っ込んでしまっては後悔してもし切れない。
目印が乏しい闇の中でしっかり方角を確かめようと周囲を見渡す。
すると視界の端に違和感を感じた。

夜目の効くガイバーの目を凝らす、明らかに人工物と解るものが草の中に置かれている。
一見して投棄された冷蔵庫、気になって近寄った古泉は軽い失望を味わった。

599キン肉万太郎は燃えているか ◆5xPP7aGpCE:2009/08/26(水) 01:38:44 ID:HUBhMMTs


               ※       



「ムグーッ! 待っていろ悪魔将軍めーっ!!」

同じ頃、湖面をミズスマシの様に動く影があった。
小さなボートを操っているのはキン肉星の王子、万太郎だった。

一目見て満身創痍と解る。
だが闘志は全く衰えていない、むしろ一層強く燃えている。
湖畔で偶然発見したボート、それはリングを利用する者の為に用意されていたもの。
自らが信じる正義の為、若き超人は強大な敵に挑まんとする。

モーターが唸る、ボートは一直線に孤島の如きリングを目指す。
やがてそのシルエットが闇に浮かぶ、接岸と同時に正義に燃える男がその中へと着地する。

「待たせたなーーーっ!! 悪魔将軍、何でお前が生きてるのかは知らないけど僕が必ず……って、あれ???」

カッコ良くポーズを決めたと思ったのも束の間、万太郎は一人目をパチクリさせた。
確かにここはさっきまで戦っていたリングの筈、しかし悪魔とその仲間は影も形も無い。

「誰も居ない……ひょっとして僕、置いてきぼり?」

空しくファイテングポーズをとり続けてるとピュ〜と寒い風が吹き抜けた。
どうやら来るのが遅すぎたらしい、万太郎は肩透かしを食らって脱力する。
同時に戦わずに済んで良かったという安堵も沸きあがるがそれは何とか押し留めた。

「ぐずぐすしてる場合じゃない、早く奴の後を追わないと大変な事になる!」

すぐさま気を取り直して対岸を見渡すが陽が落ちてすっかり暗くなっている。
人影はおろか岸が何処なのかも殆ど見分けが付かない状態だ。
キョロキョロと焦る万太郎は知らなかった、今対岸に味方となりえる存在が居た事を。

そして―――彼が今何をしようとしているのかを。



               ※       



古泉が見つけたもの、それはリングの起動スイッチだった。
話には聞いていたものの直接目にするのはこれが初めてだ、ただそれだけで今の彼には意味など何もない物体。
確かめた直後で立ち去っても良かった、しかし古泉の胸には燻るものがあった。

600キン肉万太郎は燃えているか ◆5xPP7aGpCE:2009/08/26(水) 01:43:42 ID:HUBhMMTs

「これが、こんなものが有ったから……」

ガイバーの下で古泉はドス黒い想いを吐き出す。
湖にリングがあったからこそ古泉と赤毛の少女は悪魔将軍と出会ったのだ。

リングなど無ければ悪魔将軍は早いうちに湖を後にして古泉を発見する事は無かっただろう。
古泉もリングの存在を知らされて将軍と共に行動する気持ちになった。あの時、確かに悪魔の頭脳に心惹かれてた。
危険はあれど、彼とならより早く舞台の裏を暴けると本気で期待した。

その結果がみくるの死であり、万太郎との不本意な戦いであった。
やり切れない気分が全身を覆う、八つ当たりと解っていても発散せずにはいられなかった。
渾身の力を込めて拳を叩き付ける、あっけなくスイッチは台ごとバラバラの破片になる。

「うう……っ」

負の感情が高ぶった事と忌まわしい記憶が蘇った事で古泉は強い頭痛に襲われた。
遠く湖の方から音が聞こえる、恐らく壊した所為でリングが沈み始めたのだろう。
それでいい、ノーヴェと一緒に戦った場所など隠れてくれた方が気が楽だ。

古泉は知らなかった。
無人の筈の特設リングに探し求めた相手が居た事に。



               ※       



全ては突然に起こった。
リングの水没と同時に万太郎は独り湖に投げ出された。
それでも乗ってきたボートに戻れさえすれば何も問題は無い筈であった。

だが、彼には命取りとなる欠点があった。
それは、重度のカナヅチであるという超人らしからぬ特徴。
シャンプーハット無しにはシャワーさえ恐怖を感じる程の彼が暗い水に落ちたのだ。
その恐怖は察するに余りある。

バシャバシャと水面が激しく掻き混ぜられる。
本人は泳ごうとしているつもりらしい、だが一向に同じ場所を動かない。
数メートル離れてボートがゆらゆらと揺れている。
必死に手が伸ばされるが届かない。

逆に立てた波によって少しずつボートが離れてゆく。
それと共に万太郎の心が絶望に染まる。
今迄戦ってきた多くの悪行超人よりも、悪魔将軍よりも恐ろしい恐怖を万太郎は味わっていた。

601キン肉万太郎は燃えているか ◆5xPP7aGpCE:2009/08/26(水) 01:44:50 ID:HUBhMMTs

いくら両手両足を動かしても全く浮かび上がらない。
パニックで顔が歪む。今迄どんな技を掛けられてもこれ以上の絶望は感じなかった。

胴が、首が、頭が、そして伸ばした腕が沈んでゆく。
完全にその姿が没すると代わりにブクブクと激しい泡が立ち上った。





  特設リング 落ちた

  おちた おちた

  特設リング 落ちた

  おちた おちた

  ああ どうしましょう



  特設リング 落ちた

  おちた おちた

  特設リング 落ちた

  おちた おちた

  ああ どうしましょう



  万太郎は 泳げない

  万太郎では 流される  

  万太郎を捧げましょう




―――やがて、漆黒の湖に静寂が戻った。


ぴしゃぴしゃと激しい水音はもうしない。
鏡の様な水面に浮かぶのはだあれも乗っていない小さなボートが一艘だけ。

おお、勇敢な超人だったあの人は冷たい水の中。
助けたかった相手に殺されるとは何という皮肉でしょう。
残念ですがここで彼のお話は終わりです。

602キン肉万太郎は燃えているか ◆5xPP7aGpCE:2009/08/26(水) 01:45:28 ID:HUBhMMTs


               ※       



黒いガイバーは休息の後、フラフラとその場を立ち去った。
気のせいか一層激しくなった頭痛を堪えながら何も知らずに彼は歩く。

むしろ知らぬ方が彼にとっては幸せであろう。
相手を二度も死なせたなど、知ったところで闇に近付く事はあれど正義からは遠ざかるだけなのだから。


「必ず、万太郎さんと……」

その呟きは空しく闇に消えた。


古泉は加速する。
より深い闇の中へ―――加速してゆく。









【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ 死亡確認】
【残り25人】



【E-09 湖畔/一日目・夜】

【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、
     ケーブル10本セット@現実、 ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
     基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
     コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
     高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.キン肉万太郎を見つけ、仲間になってもらう
3.時が来るまで悪魔将軍に叛意を悟られなくないが……。
4.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子を優先。
5.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
6.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。

603狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:41:52 ID:DJQC8KhE
仮投下します。

2人の魔道師を乗せ、木々の合間を縫うように駆ける2頭の獣。
森の主、トトロの背には、傷付きながらも他者を守ろうとした、熱き二等陸士。
青き狼、ライガーの背には、仲間と共に現状の打破を目指す、不屈の一等空尉。
この島でたった2人の分隊は、獣達の背に乗せられ仲間の待つ地へと突き進む。

『――これが、この島に来てからの出来事です』

その背の上で、長い報告を今まさに語り終えたのは、杖型のインテリジェントデバイス、レイジングハート。
聞き手にまわっていたのはその長年にわたる使用者。
身体は子供、頭脳は大人。魔法少女なのはだ。

「そっか。そんな事が……」

この島で、最初期からレイジングハートと行動を共にした自分の部下、スバル・ナカジマの身に降りかかった出来事を聞き終え、なのははそんな一言を漏らす。
艱難辛苦の連続と言ってもいい数々の戦いは、スバルの負った傷に顕著に現れている。
そんな中でも自分を見失わず、信じる道を突き進んだスバルに驚きと賞賛の思いを抱くなのは。

『なのはさんも色々と大変だったみたいですね。……まさかそんな姿になっているとは思わなかったです』

やはり、一番目立つところからツッコミが入る。
融合型デバイス、リインフォースの言葉に、なのはは苦笑いを浮かべる。
(――まったく、若返ったり巨大化したりと、この島に存在する魔法はとんでもないものがそろっている。
 しかも、魔力の有無に係わらず引き金を引くだけで発動すると言うのだから驚きだ。
 ――いや、そもそもそれは魔法なのだろうか。
 高度に発達した科学は魔法と同義であるなどという言葉をどこかで聞いた事があるけど、もしかすると――
 って、今はそんな事考えている場合じゃなかった!
 まずはスバルの治療と――)
脱線しかけた思考を軌道修正し、差し迫った問題に頭を巡らす。
スバルの容態はかなり悪い。体の各所に見える傷跡はもとより、内臓にも吐血するほどのダメージを負っている。
なのはとリインフォースが全力で治療を行ったとしても、快方に向かうかどうかは判断がつかない。
一刻も早く、温泉に着き次第手当てを初めなければならない状態である事は一目瞭然だ。だが――
思案顔で前方を見つめるなのはの横で、リインフォースが呟きを漏らす。

『それにしても……あいつはどこに逃げやがったんですか。変な気を起こさないでくれればいいんですが……』

(――そう。キョン君のことも何とかしなくっちゃ……)

もう一つの問題、危険人物とリインフォースに評され記憶喪失と自らのことを語った男。
0号ガイバー、キョン。
果たして彼は黒か白か――

604狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:42:24 ID:DJQC8KhE

『な、なんですってーーーっ!?』

青天の霹靂。
行方を追っていた人物の意外な消息に、リインフォースは思わず驚きの声をあげる。

『た、確かに方向からして温泉に向かっている可能性はあったですが……
 記憶喪失!?
 そんな都合よくタイミングで記憶を無くすなんてできすぎてます!
 あいつを見失ってからそれほど時間が経っている訳ではないんですよ!
 絶対嘘に決まってます!』

もともとキョンの言動に不信感を抱いていたリインフォースからしてみれば、記憶喪失などと言う話は到底信じがたい。
その話は十中八九嘘だと決め付け、キョンの危険性を力強く説く。
『大体あいつは一緒に闘っていた筈の仲間を裏切って殺すわ危険が迫ると見るや一人だけ逃げ出すわで全く信用のならないヤツなんです!
 「反省した」だの「悪い事をした」だの「正直すまんかった」だの「サーセン」だの……
 後の方の言葉は言ってなかったかもしれませんが、とにかくあいつの言葉は何処となく薄っぺらで、どうにも怪しかったです!
 あいつにあったら絶対化けの皮剥いでとっちめてやるです!』

多分に主観の入った発言だが、客観的な事実も確かに含まれている。どう見ても共闘していた相手を殺害したという事実は信用を害する行為に値するだろう。

「だめだよリインフォース。たとえ過去にそんな事をしたとしても、それだけで嘘だと決め付けるのはよくないよ。
 もしかしたら何かの拍子に本当に記憶喪失になったのかもしれない。
 まずはお話しすることから始めないと」

――だがなのはは相手を信じる。対話による解決を望むのは、子供のころから変わらず行ってきた事だ。
その信念を崩さずキョンを疑うよりも話し合う事から進めていく。それが高町なのはのやり方だ。
……尤も、そのやり方で行くとキョンが話を聞こうとしないのであれば強引に“お話する”ことになるのだが。

『……油断しちゃ駄目ですよ? あまり想像したくないですが、最悪の場合既に本性を表して犯行に及んでいる事も――』

一度言い出したら梃子でもきかないというなのはの性格をよく知っているリインフォースは、それ以上制止の言葉をかけようとせず、それでも不安げな表情で警戒の必要性を主張する。
だがその言葉を言い終わる前に、急激な制動がかかりリインフォースは思わず前につんのめる。

『な、何ですかーーー!?』

突然の停止に驚くリインフォース。いち早く理由を察したなのはは前方を見やり解答を告げる。

「着いたよ。温泉に」

605狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:44:31 ID:DJQC8KhE
「……これで、後はスバルの頑張りにかけるしかないかな」

脱衣所で横たわるスバルを見つめながら、なのはは硬い表情で呟く。
温泉に到着したなのは達は、すぐさまスバルを運び込み、人を呼ぶと同時に治療に移った。
なのは、リインフォースに加え、ピクシーも行った治療と、冬月、ケロロの手当てを受け、スバルの容態は心なしか回復したように見える。
だが、依然として危険な状態にあるのは変わらず、今尚スバルの目は閉じられたままだ。
……ちなみに何故脱衣所なのかというと、止血などに使える布製品が多くあるという理由もあるのだが、一番の理由は怪我人を背負ったトトロがなぜかダイレクトに温泉に直行したため、そこから一番近い屋内を選んだというものだろう。

「なのは君もリインフォース君も十分に頑張ったよ。
 だが、これ以上の無理はしないほうがいい。でないと君たちが持たないよ。
 あとはスバル君の精神力を信じるんだ」

冬月が諭すように声を掛ける。彼の言葉の通り、なのはとリインフォース、ピクシーは、総力を尽くしてスバルの治療にあたり、限界を超えそうになるのを見かねた冬月達によって止められるまで、手を休めず治療に専念し続けていた。

「ええ。スバルならきっと元気になってくれます。……冬月さん。お話したい事があります」

「――それは、キョン君のことかね?」

唐突な言葉にもかかわらず、冬月は間を置かず質問を投げかける。
胸の内を見透かされたかのような問いに、なのはは若干の驚きと共に答えを返す。

「……ええ。そうです。――どうしてそう思われたんですか?」

「まあ、半分はあてずっぽうだったが……キョン君のやってきた方向からスバル君が現れた。
 そしてスバル君と一緒に帰ってきたなのは君が話があるという。
 なによりリインフォース君は、私とケロロ君と顔をあわせたときに何故か安堵したような表情になり、直後私達がやってきた方向に敵意の混じった視線を向けた。
 何かがあると思ったのはそんな所が原因かな」

なのはの問いに整然と答えた冬月。なのははその考察に素直に感心しながら本題を切り出す。

「鋭いですね。それに観察眼もさすがです。では、冬月さんの目からみてキョン君の状態はどのように見えますか?」

「そうだね……。彼の精神状態は極めて不安定なようだ。状況が状況なだけに仕方ないと言えなくもないが。
 いまはロビーで落ち着くようにと言ってあるよ。
 話してみたのだが、随分混乱しているようでね。落ち着くまで暫く中に入らないほうが――」

唐突に言葉を切って顔を横に向ける冬月。なのはもつられて顔をそちらに向ける。
そこ――冬月達が先程出てきた戸口に立っているのは、他でもない渦中の人物、キョン。
近くにいる冬月達に視線を向け、彼はおもむろに口を開いた。

606狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:45:31 ID:DJQC8KhE
「すみません冬月さん、手伝えなくて。
 気分の方はだいぶマシになりましたし、何か手伝える事があれば……」

そこまで語ったところで周囲の異様な空気に気付き、口を噤む。

「……あの、出来れば状況を説明して頂けたら――」

いかにも不安げな表情で再度口を開いたキョン。あたりを見回す彼の目前にリインフォースが躍り出た。

『説明!? そんなの無くてもリインの姿を見ればどんな状況かわかるはずです!
 ここが年貢の納め時ですよ、キョン!』

言葉と共にビシッと人差し指を向けるリインフォース。
対するキョンは不意打ちの登場に目を白黒させる。
むごんで固まるキョンに追い討ちをかけるように、リインフォースは続けざまに言葉を並べ立てる。

『ここでもまたよからぬ事を企んでいたようですが、このリインフォースが来たからにはそうはいきません!
 リインの目の黒い内は――
 って、キョン? ちゃんとリインの話聞いてるですか?
 そんなにリインがここにいる事が信じられないのなら――』

「…………ぅ」

『――え? 何ですか?」

キョンの様子に違和感を覚え、詰問するような口調になったリインフォースだったが、彼が何かを呟いたのを聞きとめ、再度言うよう促す。

「あ、いや……」

『だから、なんて言ってるか聞いてるです!』

「……えーとだな。もしかして俺はとてつもなく間抜けな事を聞いてるのかも知れないが――
 おまえ、なんだ? 人形……な訳無いよな」


『な、なに言ってるですか! ふざけるのもいい加減にするです!
 シラをきろうとしても無駄ですよ! リインは騙されないです!」

キョンの発言をあくまでとぼけようとしているものだと取ったリインフォースは、激しい口調で彼を攻め立てる。

「待ってくれ! 騙すって何だ? 一体俺が何をしたっていうんだ!
 ――またハルヒの仕業か? 今度は何だってんだ!」

声を荒げるキョンの様子に、もはや引っ込みがつかなくなったリインフォースは感情のままに言葉を紡ぐ。

『本当に記憶を無くしたって言いたいんですか!? 
 冗談じゃないです! あれだけの事をしておいて、その全てを忘れてしまったなんて、そんなの……許されるはずが無いです!
 キョンの為に、スバルがどれだけ頑張ったか! キョンのことをどれだけ心配していたか!
 それなのに、自分が何をしたのか覚えていないだなんて、スバルの苦労はどうなるんですか!』

「な……」

「リイン、もう止めよう?」

“信じられない”てはなく、“信じたくない“。
スバルの行動を間近で見ていたリインフォースだからこそ、キョンの記憶喪失を強く否定してしまう。もはや完全に感情論だ。
キョンとリインフォースのやり取りを呆気に取られながら見ていたなのはも、ここに来てリインフォースを制止に入る。
だが、増幅した憤りは止める事ができず、はけ口たるキョンへと殺到し、ついに臨界点を越え――

『何をしたのか忘れたんだったら思い出させてあげます!
 キョン、これはあなたが言ったんですよ!
 この島に来てすぐの頃、学校にいた中学生の子と――』

「リインフォース君、止めるんだ!」

「リイン、それは――!」

キョンの精神が不安定である事を直に目にしている二人はリインフォースを止めようと声を掛ける。
だが、一度出た言葉は止まらず――

『――涼宮ハルヒって人を殺したって!』

「――っ! ぐ、あぁぁーーっ!」

「「キョン君!」」

――どうしてこんな事に――
リインフォースは、頭を押さえ崩れ落ちるキョンを目前にしながら、呆然とした表情でそんな事をふと思った。

607狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:46:10 ID:DJQC8KhE


――そう、あれは私がケロロ君との会話を終え、再びキョン君の様子を見に行ったときの事だった。
ロビーに入ったとき、彼は横になって、随分と何かにうなされていた。
話しかけようと近寄ると、化け物でも見たかのように飛び跳ね、いきなり後ずさり始めた。
おそらく私を、うなされていた元凶と混同したのだろうな。
私はすぐに近寄って彼をなだめ、ようやく落ち着いたところで彼に話しかけた。
まずは精神状態を尋ねたんだが

「すみません、取り乱してしまって。
 もうだいぶ落ち着きました。
 ――それで、冬月さん……でしたっけ?
 ここは、何処なんですか?」

逆に質問を返されて、私は彼がパソコンの画面を見て錯乱を起こした事、彼を落ち着かせるためにここにつれてきた事を話した。

「パソコン……?
 駄目だ。思い出せない。
 教えてください。そこには何が映っていたんですか?」

これには正直迷ったよ。
様子を見る限り、彼があの場面の事を覚えていないのはどうやら本当らしい。
だとすると、原因が他に考えられない以上、パソコンに表示された情報に衝撃を受け、その事を記憶に留めることを頭が拒否したのだろう。
あの情報は彼にとってそれだけショックだったようだ。
もしここで彼に情報を伝えた場合、また錯乱してしまうのは明らかだ。
だが、黙っていたとしても彼は何れその事を知るだろう。

悩んだ末、私は彼に全てを語ることにした。
一からゆっくり説明したおかげか、予想したほど取り乱す事はなかったが、やはり話の内容には大きなショックを受けたようだった。
特に驚いていたのは主催者の名前を出したときで、あの様子ではおそらくどちらかが彼の知る人だったのだろう。
そして説明の最後、あのパソコンの所まで来て、私はためらってしまった。
彼の錯乱する様子を思い出して、本当にこの先を話してもいいのだろうかと自問自答を繰り返したのだ。
私のそんな様子を見て焦れたのだろう。彼は急かすように聞いてきた。

「教えてください。俺が見た画面には、誰の名前があったんですか?」

ここまで来て隠しておける事ではない。
私は覚悟を決めて告げた。
君の妹だと。
錯乱するような事はなかったが、暫くこめかみを押さえて辛そうにしていたところを見ると、ショックは大きかったのだろう。
あるいは、パソコンを覗いた時の記憶がフラッシュバックしたのかもしれない。
しばらくしてようやく顔を上げた彼は、大丈夫かという私の問いかけに首肯すると

「……一つ聞かせてください。
 なぜあいつが俺の“妹”だとわかったんですか?
 冬月さんの話だと、妹と直接会ったわけではないようだ。
 妹の名前だけを知っているなら、あいつが俺の親族だという事ぐらいは想像がつくかもしれないが、妹だと言い切る事はできないはずだ。
 それとも今更、記憶を失う前の俺はそんな事を冬月さんに教えるほどの関係だったって言うんですか?」

私は正直驚いた。
彼の疑問に対する答えは簡単なものだ。
彼の妹は、この島では「キョンの妹」という名詞で呼称されている。ただそれだけの話だ。
どうやっても姉や母と間違えようが無い。
それは、この島にいる全ての者が承知していることだろう。

――では、何故彼はそんな単純な事実に気付かなかったのだろうか。
導き出される答えは一つ。彼がその事を覚えていないからだ。
彼が私を欺いているという可能性は即座に棄てた。
一度でも「キョンの妹」という呼称を見たら、そのような発想など容易には思いつかないだろう。
しかも、私の話を聞いてからの短い時間の間にだ。
実はこのときまで、私は彼の記憶喪失を疑っていたのだが、この言葉を聞いてようやく彼の話が正しいと信じる事ができた。

「そろそろ本当のことを話してください。
 どうせあなたも仕掛け人か何かなんでしょう?
 これはどういう筋書きなんですか?
 またハルヒが何かやらかしたんですか?」

こういってくる彼には悪いが、私は最初の質問に対する答えと、この事態が嘘偽りでは無く現在進行形で実際に行われている事だと重ねて説明した。
ちょうどそんな時だ。なのは君達が帰ってきたのは。

新たな情報に混乱する彼に、気持ちの整理がつくまでここにいるよう告げ、なのは君達の元に向かう前に、一つだけ質問をした。
スバル君のことを知らないかと。

「すばる……? プロジェクト×ですか?」

――そこから先は、君達も知っての通りだよ。

608狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:48:53 ID:DJQC8KhE



ゴツい化け物に追いかけられるような、酷い悪夢から目覚めた俺は、目の前の人物と夢の中の化け物とがごっちゃになって思わず取り乱してしまった。
――まあ、仕方ないだろ?
いきなり目の前に、会った事もない人間の顔があったら誰だって驚く物じゃないか?
その老人は、俺をなだめるときに

「落ち着け! 私だ、冬月だ!」

と声を掛けてくれたおかげで名前だけはわかったが、俺の記憶にはサッパリ無かった。
俺は何処にいるのか。彼は何者なのか。何が何だか理解できない。
とりあえず俺のことを心配してくれているらしい彼――冬月さんにそこらへんを聞いてみたのだが、

「ここはロビーだよ。キョン君がパソコンを見てだいぶ混乱していたようなので、落ち着くまでここにつれて来たのだが……」

――全く記憶に無い。
だが、パソコンを見て異変が起こるという状況には心当たりがある。
ハルヒがSOS団のホームページを作ろうとした時の事件だ。
夢で出た化け物は、ひょっとしてあの時出現したヤツと関係があるのだろうか。
それを確かめるためにも、おれはその画面に何が映っていたのかを冬月さんに聞いた。
――結果から言えば、俺の勘違いだった。

「今から話す事は、キョン君にとって衝撃的な話かもしれないが、落ち着いて聞いてくれ。
 何処まで話したかな……。
 そう。ここが殺し合いの場だという所までは話したか。
 まずは私達が最初に集められたときの話からしよう――」

そこから語られた話は、正直冗談としか思えないものだった。
いつの間にか集められた大勢の人獣。
主催者の登場と見せしめと称して液体に姿を変えさせられた少年。
そしてこの島へと送り出され――
おいおい、なんだそりゃ。
いくら俺が(というかハルヒが)天然トラブル巻き込まれ体質だからといって、今回のは異常すぎないか?
しかも主催の片割れはわれらがSOS団の万能少女、長門だって言うんだから――
そんなところで何やってるんですか、長門さん? 情報統合思念体とやらのお達しだとでも?
それともやはりハルヒの火消しですか?
――わからん。
長門の考えをつかめないのはよくある話だが、何だってそんな馬鹿げたことをやってるのか……。
全く、頭が痛いぞ。いや、これ本気で痛いぞ!?
……長門のことだから何らかの意図はあるんだろうが、それがわからないうちから迂闊な事はできん。ここはおとなしくしているべきなのだろうか。
これがもし――映画の撮影か何かだったとしたら、一言でもいいから俺に言ってほしかったんだが……。
それともこれはドッキリカメラとか、そういう趣旨でやっているのか?
だとしたら説明が無い事にも納得がいくんだが……。
そんな考えをまとめているうちに、冬月さんの話は終わりに近付き、ついに俺が話に登場した。

609狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:49:52 ID:DJQC8KhE

「――それで、君にパソコンの画面を見せたのだが、君にはショックが強すぎたようで……」

考えながら話を聞いていたせいでいくつか話を聞き逃した気がするが、大筋は掴んでいる。
冬月さんはここで幾度か戦闘に巻き込まれ、傷を負い、爆発や火災も起こったようだ。
――やりすぎだぞ、これ。
ひょっとして、主催者は長門じゃなくて朝倉じゃないのか? これじゃ本気で死人が出るぞ。
――いや、確か話の中に朝倉の名前も出てこなかったか?
何だ、情報統合思念体とやらも随分と大盤振る舞いだな。
……それにしても、話の続きはまだか? どうも俺は画面に出てきた名前に反応したらしいのだが。
その事を冬月さんに急かすと、彼はようやく口を開いた。

「それは……君の妹さんだよ」

何だ? また頭が痛む……。
いや、何とか持ち直した、か?
……しかし、まさかあいつも参加していたとは。今頃、舞台裏ではしゃぎまわってるんだろうな。
それとも、名前だけの登場とかか?
……ん? 名前?
まてよ。何で名前だけであいつが俺の妹だってわかる?
冬月さんは俺と初対面のはずだ。本人も話の中でそのようなことを言っていた。
だとしたら、おかしい事になるんじゃ――?
おれは、そこから急速に湧き上がる疑問「冬月さんは共犯なのか?」を、彼に直接尋ねてみる事にした。

――ああ。勘違いだったさ。
というか、「キョンの妹」はないだろ!?
まあ、そんなわけで冬月さんから説明を受けたわけだが、彼は同時にこの島で行われている事は全て現実だと強く念を押された。
現実? この常識離れした話が、全て現実!?
……駄目だ。超常現象にも大概慣れたが、俺にはこれを信じる事はできない。
かといって冬月さんが嘘を言っているようにも見えない。
俺は一体何を信じればいいんだ?
頭の中を整理できず、混乱していると、不意に外が騒がしくなった。
どうやらなのはって人が帰ってきたらしい。
立ち上がろうとする俺より一瞬早く、冬月さんが俺に声を掛けた。

「私は向こうに行っているよ。キョン君は気持ちの整理がつくまでここにいたほうがいい。
 落ち着いたらまた話そう」

ロビーから去る冬月さんは、最後に一つだけ意味のよくわからない質問をしていった。
あれは一体なんだったのだろうか。
質問の意図するところはわからないが、とにかくもう少しして落ち着いたら、冬月さんの元へ向かおう。
どうやら向こうでは一騒ぎ起こっているようだし、介抱してもらったお礼に何か手伝える事があれば……。
それに、冬月さんには色々話を聞いて、この島で起こっている事を突き止めないと――

610狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:50:27 ID:DJQC8KhE

――さて、何処まで話したかな。
そうそう、キョン君との会話を全て語ったところだったかな。
ここから先の話は、私の専門分野ではないのではっきりした事は言えない。
だが、彼の症状は明らかに記憶喪失の症例だ。
原因は心因性なのか外傷性なのかはわからないが、彼の様子から見て心因性のごく短期の記憶障害も併発している。
これが記憶喪失と関係があるとは言い切れないが、ほぼ同時期に発症した以上、因果関係は疑ってしかるべきだろう。
キョン君のやってきた事を聞くに、パソコンを見て錯乱したのは彼が行った凶状が死者の名前として連ねてあったからかもしれないな。

……記憶障害は、頭部に大きなダメージを負ったときや、ストレスや心的外傷を負ったときに発症するケースが多い。
どちらもこの状況では起こりうる事だ。
そして、重度のストレスなどによる記憶喪失の事を、解離性健忘とも呼ぶ。
解離とは、強いショックを受けたときに自己防衛として自己の同一性を失う事などを指す。
平たく言えば、病気としての現実逃避のようなものと思ってもらっていい。
この解離が起こる事によって、記憶を失ったり突如として放浪しだすなどの症状が出る。

それ以外で例を挙げるとすれば、そう――解離性同一性障害、俗に言う多重人格などもこれが原因だ。

キョン君にこれらの症状が現れていたのかはわからないが、彼の動向にはやはり注意が必要なのかもしれない。
彼が悪意を抱いているというわけではない。
ただ、彼の行動は彼の本来の意思と異なる事があるかも知れないという事を心の片隅に留めておいてほしい。

さて、話が長くなってしまったが、本題である私達のこれからの行動について私案を披露させてもらおう。
大前提として、肉体的、精神的に弱っているスバル君、キョン君両名は、ここを移動させるのは極力避けたほうがいいだろう。
だが、この人数で全員がこの場で固まっているのも惜しい。
そこでこのグループを二つに割りたいと思う。
そして一方には島内の探索、特にスバル君たちが待ち合わせを行っていたI-4のリングと、キョン君が待ち合わせを行っていたという採掘場を調べてもらいたい。
また、これだけの施設がある島であれば、どこかに病院ないしは診療所があるはずだ。
出来ればそのような場所を見付けて、スバル君のための医療品を調達できればいいのだが……。
これに関しては高望みはするべきではない。あくまでも発見できれば幸運と考えなければ駄目だ。

具体的な人選については、待ち合わせをしている人物の知人を優先したい。
このほうが合流の際、余計な軋轢を生じずにすむ。
つまり、古泉君と接点があり、足も早いトトロ君、スバル君たちと同行していたリインフォース君、そしてレイジングハートを持つなのは君に探索班を担当してもらいたいと思う。
……話を聞く限りでは、古泉君は危険人物である可能性が高い。
約束していた時間は過ぎてしまっているし、採掘場は余裕が無ければ無視しても構わない。
――伝言の一つでも残っていればいいのだが。
そして、残りの人員でこの温泉を外敵から守る事になる。
これに関しては特に言う事はない。ただ、最悪の場合この場所を放棄する事も視野に入れて行動すべきだろうか。

……どうだろうか。異論があれば遠慮なく言ってもらいたい。

611狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:51:01 ID:DJQC8KhE



再び俺が目覚めたとき、ちょうど何人かがここを出て行くところだった。
倒れる前に冬月さんと一緒に会話をしていた女の子(どうもなのはちゃんというらしい)は、

「用事が終わったらすぐに戻ってきます。
 ですから、あとでお話しましょう」

と俺に声を掛けてくれた。
実にいい子だ。よく出来ている。
俺の妹なんかとは――
……今さっき頭がズキンと来たのは気のせいだろうか?

俺が倒れる直前まで口論を繰り広げていたあのちっこい女の子(たしかリインフォースとか呼ばれてたっけ?)は

『……さっきはちょっと言いすぎたですぅ』

と一言残すと外へ行ってしまった。
あいつが言っていた内容からするに、俺が記憶を失った間に、何か致命的な事をしてしまったのだろう。
本来だったら俺が誤るべきだったのかもしれない。
……俺は一体何をやったんだ? あいつとの口論の、最後の言葉だけはどうしても思い出す事ができない。

最後の離脱者は、俺が考え込んでるうちに俺のすぐ真横まで来て俺を眺めていた。
心配して見に来てくれたのかもしれんが、あいにく俺はそいつの姿を見た瞬間再び意識が飛ぶかと思った。
……あいつを見たら、もうそのほかの人ならざるものを見ても大して驚かなくなったのだから、悪いことばかりでもなかったのかもしれない。
だが、無音で間近に寄るのだけは勘弁してくれ。

全員が去った後、俺はさまざまな事を聞くべく冬月さんの後を追った。
まだ混乱は続いているが、それよりも俺は数々の疑問を解消したかった。
たとえば――俺の夢の中に出てきた、ゴツい装甲のようなものをまとった怪物の正体なんかを。



キョンの身に起こった症状。
それは冬月が想像するように己の凶行を再認識したからでは当然無い。
最後の拠り所としていた長門という存在に芽生えた不信と、被害者となった妹に対する感情。
それらがこの島に来てから彼の心に生じたさまざまな傷をついに押し破ったが為に生起したものだ。

この事態は偶然起きた事なのか、何らかの作為が介入していたのか。
キョンが聞いた数々の心の中の声は、全て彼が自己防衛の為に生み出したものだったのか。
それは当人たるキョンにも判断できないだろう。
神と呼ばれた少女。
ガイバーユニット。
不確定要素を数多くその身に寄せる少年は、不完全ながらリセットされたこの状況で、どの道を歩むのだろうか――

612狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:51:39 ID:DJQC8KhE



【G-2 森/一日目・夜中】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(大)、決意
【装備】レイジングハート・エクセリオン(修復率70%)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【服装】浴衣+羽織(子供用・下着なし)
【持ち物】ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)、
【思考】
0、もう迷わない。必ずこのゲームを止めてみせる!
1、待ち合わせ場所へ行き、可能であれば相手と合流する。
2、診療所等を見つけたら、医療品を調達する。
3、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
4、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
5、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
6、温泉へ戻ったらキョンと話し合う。
※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。
※リインからこれまでのスバルの動向を聞きました。



【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
     支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6、
     ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、
     リインフォースⅡ(ダメージ(中)、魔力消費(大))@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.なのはと共に島内を探索
4.????????????????
【備考】
※ケリュケイオンは現在の状況が殺し合いの場であることだけ理解しました。
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます
※男露天風呂の垣根が破壊されました。外から丸見えです。
※G-3の温泉裏に再生の神殿が隠れていました。ただしこれ以上は合体しか行えません。
※少なくともあと一つ、どこかに再生の神殿が隠されているようです。
※スバルを運んだときにスバルの荷物を取得しました。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
 本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。

613狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:52:21 ID:DJQC8KhE



【G-2 温泉内部/一日目・夜中】
【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】元の老人の姿、疲労(中)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、ディパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ
     スタンガン&催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
【思考】
0、キョンと対話を行う。 話の内容は……。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
3、スバル、キョンの状態を快方へ向かわせる。
4、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
5、タママとケロロとなのはを信頼。
6、首輪を解除する方法を模索する。
7、後でDVDも確認しておかねば。
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、断片的に覚えています。
※古泉がキョンとハルヒに宛てた手紙の内容を把握しました。
※リインフォース、なのはからこれまでのスバルの動向をある程度聞かされました。
※キョンの記憶喪失については、慎重に扱わなければならないと考えています。



【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(中) 、部分的記憶喪失
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
1: ここで何が起こったのかを知りたい。
2:自分が何をやったかを知りたい。
3:妹は……結局どうなったんだ?
※心因性の記憶喪失を発症しました。開始以降の記憶を失っています。
 回復の可能性は不明です。(次の書き手さんにお任せします)
※みくると妹の死に責任を感じて無意識のうちに殺し合いを否定しています。
 殺す事を躊躇っている間はガイバーを呼び出せません。
※スバルの声は、精神的に不安定な状態にあったため聞き逃しました。

614狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:53:03 ID:DJQC8KhE

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】ダメージ(特大)、疲労(特大)、魔力消費(特大)、気絶、覚悟完了
【装備】マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS メリケンサック@キン肉マン、
【持ち物】なし
【思考】
0:………………。
1:キョンが殺し合いに戻るようなら絶対に止める。
2:なのはと共に機動六課を再編する。
3:何があっても、理想を貫く。
4:人殺しはしない。ヴィヴィオと合流する。
5:I-4のリングでウォーズマンと合流したあとは人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
6:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
7:中トトロを長門有希から取り戻す。
8:ノーヴェのことも気がかり。
9:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)



「……なんでだろう。
 何かさびしい気がするのは。
 一応、ケロロ小隊の隊長で、軍曹なんだけどな……」

残念ながら、この場には戦技教導官にして分隊長である士官と、特務機関の副司令が存在していた。
彼等以上の指揮能力を発揮しなければ、相対的に影が薄くなるのである。
あるいはまったく別の方向性を確立するのも一つの手である。

「……はぁ〜」

ため息をつくケロロの背中は、哀愁に満ちていた。



【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、身体全体に火傷、唖然
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
0、自分の存在意義に僅かに疑問。
1、キョンとスバルの容態がよくなるよう尽力する。
2、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
3、タママやドロロと合流したい。
4、加持となのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
5、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
6、協力者を探す。
7、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
8、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
9、後でDVDも確認したい。
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです。

615狼少年の午後 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 06:56:31 ID:DJQC8KhE
以上で仮投下終了です。

メタな突っ込みでも構いませんので、指摘等お願いします。

616614微修正版 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 08:31:48 ID:DJQC8KhE


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】ダメージ(特大)、疲労(特大)、魔力消費(特大)、気絶、覚悟完了
【装備】マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS メリケンサック@キン肉マン、
【持ち物】なし
【思考】
0:………………。
1:キョンが殺し合いに戻るようなら絶対に止める。
2:なのはと共に機動六課を再編する。
3:何があっても、理想を貫く。
4:人殺しはしない。ヴィヴィオと合流する。
5:I-4のリングでウォーズマンと合流したあとは人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
6:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
7:中トトロを長門有希から取り戻す。
8:ノーヴェのことも気がかり。
9:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。



「……なんでだろう。
 何かさびしい気がするのは。
 一応、ケロロ小隊の隊長で、軍曹なんだけどな……」

残念ながら、この場には戦技教導官にして分隊長である士官と、特務機関の副司令が存在していた。
彼等以上の指揮能力を発揮しなければ、相対的に影が薄くなるのである。
あるいはまったく別の方向性を確立するのも一つの手である。

「……はぁ〜」

ため息をつくケロロの背中は、哀愁に満ちていた。



【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、身体全体に火傷
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
0、自分の存在意義に僅かに疑問。
1、キョンとスバルの容態がよくなるよう尽力する。
2、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
3、タママやドロロと合流したい。
4、加持となのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
5、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
6、協力者を探す。
7、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
8、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
9、後でDVDも確認したい。
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです。

617603修正版 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 13:26:16 ID:DJQC8KhE
2人の魔道師を乗せ、木々の合間を縫うように駆ける2頭の獣。
森の主、トトロの背には、傷付きながらも他者を守ろうとした、熱き二等陸士。
青き狼、ライガーの背には、仲間と共に現状の打破を目指す、不屈の一等空尉。
この島でたった2人の分隊は、獣達の背に乗せられ仲間の待つ地へと突き進む。

『――これが、この島に来てからの出来事です』

その背の上で、長い報告を今まさに語り終えたのは、杖型のインテリジェントデバイス、レイジングハート。
聞き手にまわっていたのはその長年にわたる使用者。
身体は子供、頭脳は大人。魔法少女なのはだ。

「そっか。そんな事が……。
 ウォーズマンさんのことも気になるけど、もう――」

『ええ。今からでは間に合いません。
 おそらく神社が禁止エリアになる前に脱出しているでしょうが、それに関しては信じるほかありません』

この島で、最初期からレイジングハートと行動を共にした自分の部下、スバル・ナカジマの身に降りかかった出来事を聞き終え、なのははそんな言葉を漏らす。
スバルと同行していたという男、ウォーズマンについては、今はもうどうしようもない。
時間の関係もある上、現状ではそちらに戦力を割く余裕は無い。
どうしようもないといえば、市街地の火災についても同様だ。
この話題が出たとき、その場になのはがいて、ヴィヴィオも姿を見かけたことをポツリと漏らすと、その様子から察したのかそれ以降は話題に触れないようになった。
なにせ、火災に巻き込まれた者の安否を一番知りたがっているはずなのは、彼女なのだから。

『なのはさんも色々と大変だったみたいですね。……ま、まさかそんな姿になっているとは思わなかったです』

やはり、一番目立つところからツッコミが入る。
融合型デバイス、リインフォースの言葉に、なのはは苦笑いを浮かべる。
リインフォースの前半の言葉は、まさにヴィヴィオのことを指して言ったわけだったのだが、直後に禁句に気付いたリインフォースが話題を強引に軌道修正した結果、一番目立つこの話題に収束する事となった。
その心遣いを察したのかどうか、なのはは暗い話題から離れる。
――まったく、若返ったり巨大化したりと、この島に存在する魔法はとんでもないものがそろっている。
しかも、魔力の有無に係わらず引き金を引くだけで発動すると言うのだから驚きだ。
――いや、そもそもそれは魔法なのだろうか。
高度に発達した科学は魔法と同義であるなどという言葉をどこかで聞いた事があるけど、もしかすると――

(って、今はそんな事考えている場合じゃなかった!
 まずはスバルの治療と――)

脱線しかけた思考を軌道修正し、差し迫った問題に頭を巡らす。
スバルの容態はかなり悪い。体の各所に見える傷跡はもとより、内臓にも吐血するほどのダメージを負っている。
なのはとリインフォースが全力で治療を行ったとしても、快方に向かうかどうかは判断がつかない。
一刻も早く、温泉に着き次第手当てを初めなければならない状態である事は一目瞭然だ。だが――
思案顔で前方を見つめるなのはの横で、リインフォースが呟きを漏らす。

『それにしても……あいつはどこに逃げやがったんですか。変な気を起こさないでくれればいいんですが……』

(――そう。キョン君のことも何とかしなくっちゃ……)

もう一つの問題、危険人物とリインフォースに評され記憶喪失と自らのことを語った男。
0号ガイバー、キョン。
果たして彼は黒か白か――

618610修正版 ◆qa9kJ2E3OY:2009/08/29(土) 13:28:00 ID:DJQC8KhE
――さて、何処まで話したかな。
そうそう、キョン君との会話を全て語ったところだったかな。
ここから先の話は、私の専門分野ではないのではっきりした事は言えない。
だが、彼の症状は明らかに記憶喪失の症例だ。
原因は心因性なのか外傷性なのかはわからないが、彼の様子から見て心因性のごく短期の記憶障害も併発している。
これが記憶喪失と関係があるとは言い切れないが、ほぼ同時期に発症した以上、因果関係は疑ってしかるべきだろう。
キョン君のやってきた事を聞くに、パソコンを見て錯乱したのは彼が行った凶状が死者の名前として連ねてあったからかもしれないな。

……記憶障害は、頭部に大きなダメージを負ったときや、ストレスや心的外傷を負ったときに発症するケースが多い。
どちらもこの状況では起こりうる事だ。
そして、重度のストレスなどによる記憶喪失の事を、解離性健忘とも呼ぶ。
解離とは、強いショックを受けたときに自己防衛として自己の同一性を失う事などを指す。
平たく言えば、病気としての現実逃避のようなものと思ってもらっていい。
この解離が起こる事によって、記憶を失ったり突如として放浪しだすなどの症状が出る。

それ以外で例を挙げるとすれば、そう――解離性同一性障害、俗に言う多重人格などもこれが原因だ。

キョン君にこれらの症状が現れていたのかはわからないが、彼の動向にはやはり注意が必要なのかもしれない。
彼が悪意を抱いているというわけではない。
ただ、彼の行動は彼の本来の意思と異なる事があるかも知れないという事を心の片隅に留めておいてほしい。

さて、話が長くなってしまったが、本題である私達のこれからの行動について私案を披露させてもらおう。
リインフォース君からこれまでの経緯を聞いて、私なりに考えてみたのだが……。
大前提として、肉体的、精神的に弱っているスバル君、キョン君両名は、ここを移動させるのは極力避けたほうがいいだろう。
だが、この人数で全員がこの場で固まっているのも惜しい。
そこでこのグループを二つに割りたいと思う。
そして一方には島内の探索、特にスバル君たちが待ち合わせを行っていたI-4のリングと、キョン君が待ち合わせを行っていたという採掘場を調べてもらいたい。
また、これだけの施設がある島であれば、どこかに病院ないしは診療所があるはずだ。
出来ればそのような場所を見付けて、スバル君のための医療品を調達できればいいのだが……。
これに関しては高望みはするべきではない。あくまでも発見できれば幸運と考えなければ駄目だ。

具体的な人選については、待ち合わせをしている人物の知人を優先したい。
このほうが合流の際、余計な軋轢を生じずにすむ。
つまり、古泉君と接点があり、足も早いトトロ君、スバル君たちと同行していたリインフォース君、そしてレイジングハートを持つなのは君に探索班を担当してもらいたいと思う。
……話を聞く限りでは、古泉君は危険人物である可能性が高い。
約束していた時間は過ぎてしまっているし、採掘場は余裕が無ければ無視しても構わない。
――伝言の一つでも残っていればいいのだが。
そして、残りの人員でこの温泉を外敵から守る事になる。
これに関しては特に言う事はない。ただ、最悪の場合この場所を放棄する事も視野に入れて行動すべきだろうか。

……どうだろうか。異論があれば遠慮なく言ってもらいたい。

619I returned ◆5xPP7aGpCE:2009/08/31(月) 03:02:24 ID:HUBhMMTs


太陽が姿を隠し、世界は闇に支配される。
スカイブルーに輝いていた湖は今、墨汁を蓄えたかのように黒く染まっていた。

ゲーゴゲゴゲコ

岸辺で無数の蛙が鳴いている。
人口を更に減らした島内でも小さな命は数多く存在していた。
彼らは島の出来事にも何ら関心も抱く事なく自由気ままに動いている。

その小さな音楽会が無粋な機械音によって邪魔される。
ぱしゃぱしゃと蛙達が慌しく散ってゆき、直後葦の茂みをかき分けて水面に小さな影が現れる。
ボートだ、二人乗り程度の小型艇がゆっくりと沖の方へと進み出している。

船尾のモーターを操る影がある、生傷の癒えない超人が独りそこに座っている。
彼は、真っ直ぐに沖を見詰めていた。
その先で自分が成すべき事があると言いたげに。

やがてボートは闇に溶け込むように沖へと消え、余韻として岸に微かな波だけが残る。
それも長くは続かない、何事も無かったかのように蛙が戻って音楽会が再開される。
彼らは歌う、ただ無心に歌い続ける。

まるで―――悲しき魂を慰めるかのように。


               ※       


「ボートが他にも有って助かったよ、ボクには泳ぐなんて無理だからね〜」

自他と共に認めるカナヅチ超人、キン肉万太郎は操船しながら泳がずに済んだことを感謝した。
リングの起動と共に島の各所にはボートが現れる、運良くその一つを見つける事ができたのだ。

「まるで巌流島の血統だよね、すると僕は宮本武蔵って訳だよね〜」

振り向けばボートは順調に岸から離れている、やがては沖の水上リングも見えてくるだろう。
そして、視界を上げれば遠くに赤々と染まる夜空が見える。
それが大火災による照り返しである事は既に万太郎も気付いていた。

先程は湖にまで爆発音が届いてきた、市街地は非常に危険な状況とみて間違いない。
だが、わかっていながら万太郎に引き返すつもりは無かった。

「ハム、君は言ってくれたよね……仲間を信じて手分けして人助けするのが賢いやり方だって」

遠くでの火災発生、似たような場面は朝にもあった。
その時に賢い獣が助言してくれた事を万太郎は覚えている。
あれ程目立つ大火だ、父上やウォーズマンがきっと駆けつけてくれていると信じて任せると決める。

620I returned ◆5xPP7aGpCE:2009/08/31(月) 03:03:20 ID:HUBhMMTs

「でも悪魔将軍がここにいるって事はボクしか知らない、あいつを止めるのはボクにしか出来ないんだ!」

強い決意を胸に万太郎は叫ぶ、それきり振り返らずに前だけを見る。
今、彼はたった一人で悪魔の将に戦いを挑もうとしていた。
だがコンディションは最悪だ、オメガマンとガイバーⅢ相手の連戦で肉体は悲鳴を上げている。

万全で無い身体で戦うだけならばノーリスペクト戦を始め過去に幾度もあった。
しかし今は適切なアドバイスで支えてくれるミートは居ない。
劣勢からの逆転を後押しするギャラリーの熱い応援も存在しない。

数の上でも4VS1、しかも相手は最強の将。
これ程悲観的な条件を突きつけられながら操船する万太郎に迷いは無い。
全てを承知の上でただ決戦の場を目指す。

「ボクは地球で六十億もの人間を守らなくちゃいけない……けど、今生きている二十数人も助けられなくちゃ帰る資格なんて無いよ!」

全てが自分の責任で無いにしろ、みすみす他人が死ぬのを止められなかった。
それが万太郎には堪らなく悔しい、これ以上の後悔はしたくなかった

「ミート、凛子ちゃん、農村マン、キッド……そしてケビンマスク。ごめん、もう少し待ってて」

拉致される直前の万太郎は超人オリンピック決勝のケビンマスク戦に向け特訓中であった。
リングから落下するイリューヒンを庇って入院中のミート。
数々の場面で声援を送ってくれた今時のギャル、二階堂凛子。
スパーリングパートナーとして手を差し伸べてくれた農村マン。
友情という固い絆で結ばれた親友、今頃は自らの失踪を逃亡と馬鹿にしているかもしれない対戦相手に一人一人詫びてゆく。

「必ずボクは帰るから。一人でも多くの人を救って帰らなきゃ決勝のリングに上がる資格なんて無いんだから……」

偉大な父親がかって巻いていたチャンピオンベルト、正義超人としての役目を果たさなければ勝っても胸を張って受け取れない。
誰も見ていないからといって逃げるという卑怯なマネはしたくない。
ハンゾウの襟巻きが励ますように風に揺れる、今はそれだけが味方。
だが、万太郎は遠く離れた中間達と確かな絆で繋がっている。

「見えてきた、でも妙だな〜。プレッシャーとかが全く伝わってこないんだよね〜」

ぼんやりとシルエットが見えてきた。
進路を修正しつつ万太郎は不審がる。
タッグ戦の最中で一番プレッシャーを感じたのはガイバーでも赤毛の少女でも無かった、セコンドとして控えていた悪魔将軍がその場の空気を支配していた。
あの威圧感を今は残り香程度にしか感じない、胸中に一つの懸念が芽生えてゆく。
やがて疑問は確信に変わった。

「遅かったーーーっ!! 既にここはモヌケの空じゃないかーーーーっ!!!」

上陸したそこは抜け殻でしかなかった。
悪魔の将もビームで自らを撃ったガイバーⅢも消えている、プラカードを掲げた小さな審判は影も形も見当たらない。
さては気絶している間に去ったのか。放送まで寝ていた事が悔やまれるが今更後の祭りだ。
同時に戦わずに済んで良かったという安堵しかけたがそれは何とか押し留めた。

621I returned ◆5xPP7aGpCE:2009/08/31(月) 03:03:51 ID:HUBhMMTs

「ぐずぐすしてる場合じゃない! 早く奴の後を追わないと大変な事になる!」

すぐさま気を取り直して対岸を見渡すが陽が落ちてすっかり暗くなっている。
人影はおろか陸地と水の境目さえも殆ど見分けが付かない、勘だけで追うのは干草の山から針を探すも同然だ。
早々と追跡を諦めた万太郎がとったのは逆転の発想、即ち―――『相手の方から来てもらう』

「悪魔将軍ーーーーーっ! オメガマーーーーンッ!! ガイバーーーーースリィィーーッッッ!!! ノーヴェちゃーーーん!!!! ボクチンはここだよーーーーっっ!!!!!」

万太郎は両手でメガフォンを形作りあらん限りの声で叫んだ。
南にも西にも、四方八方に繰り返し絶叫する。

「悪魔将軍ーーっっ!! お前の母ちゃんでーべーそーーっっっ!!! お尻ペンペンしちゃうからねーーーーーっっっ!!!」

コーナーポストの上でペシペシと尻を叩く。
低レベルの挑発だが悪魔将軍が聞いていれば必ず飛んでくると万太郎は思っていた。
叫ぶだけ叫んでようやく一息付くが、冷静になるに従いプルプルと身体が震えてきた。
なんとなく寒気を感じて思わず自分を抱きしめる。

「うう〜、ひょっしてボクとんでもない事しちゃったのかな〜」


……やっぱり万太郎は万太郎であった。




               ※       



この万太郎メッセージというべきものは彼の執念通り広い範囲に響き渡った。
その範囲は正確には解らない、少なくとも湖の周囲では確実に聞くことが出来た。

古泉は川辺を探している時にメッセージを聞いた。
それは彼が考えていたプランを根底から覆すものだった。

「何を考えているんですか! あの人は!!」

どうしても叫ばずにはいられなかった。
直前に将軍と万太郎の技を受けた古泉には解る、今戦った所で勝ち目は殆ど無いという事が。
二人のコンディションには決定的な差がある、将軍はそんな身体で勝てる甘い相手では無い。

万太郎と共に体調を整え更に仲間を増やし、作戦を立てて将軍に挑む。それが古泉の計画だった。
なのにここで万太郎に死なれては最初から躓いてしまう。
彼がやろうとしている事は匹夫の勇、バンザイアタック、唯の自己満足だ。

もし将軍が聞いていたら確実に引き返してくるだろう。
ぐずぐすしてる暇は無い、一秒でも早く万太郎を黙らせてここから離れる必要がある。
下手するとノーヴェも目を覚ましてしまったかもしれない、だとすればますます厄介だ。

何よりも苦しいのはこっちから叫び返せない事だ、下手な事を言えば聞いているかもしれない将軍に裏切りが発覚する。
無難な台詞を叫んでもノーヴェが聞きつければ彼女がやって来る。
つまりは直接相対する以外に方法は無い。

古泉は誰よりも早く水上リングに辿り着ける事を祈って全力で湖へと引き返し始めた。
だが彼は将軍の技を受けて間もない、当然走る度に骨が砕けるような激痛が立て続けに脳髄を貫いている。
果たして彼は一着になれるのか、ここに万太郎を目指すレースが始まった。

622I returned ◆5xPP7aGpCE:2009/08/31(月) 03:04:22 ID:HUBhMMTs

               ※       



川口夏子は救急車を停止させた時に偶然声を耳にした。
それは一時は行動を共にした仲間の声、だが喜ぶ真似などしなかった。

(つまり危険人物四人が近くにいるってワケか、せいぜい連中を引き付けて置いてくれれば助かるわ)

わざわざ火種の中心に飛び込むつもりは無い。
無理に万太郎を助ける義理は何処にも無い。
むしろ彼の望み通り悪魔将軍達が集ってくれたほうが探しものに専念できる。
草木でカムフラージュを念入りにして救急車を後にする。

ロケットは予想以上に長距離を飛翔していった。
道路事情に制約されて追いきれなかったがこの辺りに落ちたのは間近い無い。
慎重に砂利道を進むと林が途切れ一気に視界が開けてきた。
それを見た瞬間、砂漠の住民として生きてきた彼女を再び驚かせる。

オアシス―――大量の水がそこには有った。



               ※       



悪魔将軍は暗い森の中でその声を聞いた。
立ち止まり、自らへ叩き付けられた挑戦を無言で受け止める。
声の主は部下に任せた死に損ない、下らぬ挑発になど乗らず採掘場に向かっても良い筈だった―――オメガマンと話す前ならば。

一切の躊躇い無しに悪魔の将は引き返す、もはやキョンの事など頭に無いとばかりに。
何故か―――それは万太郎の真実に気付いたからだ。

先程までは『偽キン肉マン』と認識していた、だからこそ古泉達に始末させようとしたのだ。
だが今は違う、万太郎が正真正銘キン肉スグルの息子である可能性が高まった以上自らその命を奪ねば気が済まない。

オメガマンは語った、自分はキン肉スグルに倒されたと。
万太郎もまた自分の事を知らなかった、奴の生きていた時代で自分は復活すら果たせずにいるらしい。
つまり万太郎の存在は自らが敗北し正義超人が栄えた未来の産物、悪魔の思い描く未来とは決して相容れない。

「そのような未来はここで消える! 万太郎よ、私がお前の存在を否定する。血一滴、肉片一つ残さずにこの世から消し去ってやろう!!」

真実は悪魔の逆鱗に触れた。
凍て付くような禍々しいオーラが将軍の全身から溢れ出る。
森の樹が畏れるように竦んでゆく。



次第に風が強まってゆく。
舞台となる湖も波だっている。


―――嵐が、近付いていた。

623I returned ◆5xPP7aGpCE:2009/08/31(月) 03:05:06 ID:HUBhMMTs



【E-09 水上リング/一日目・夜】


【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)
【持ち物】ザ・ニンジャの襟巻き@キン肉マンシリーズ
【思考】
1.悪魔将軍を倒し、ガイバーを解放する。
2.危険人物の撃退と弱者の保護。
3.夏子たちと合流する。
4.頼りになる仲間をスカウトしたい。
  父上(キン肉マン)にはそんなに期待していない。 会いたいけど。
【備考】
※超人オリンピック決勝直前からの参戦です。





【E-09 湖畔/一日目・夜】


【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、
     ケーブル10本セット@現実、 ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
     基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
     コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
     高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.キン肉万太郎を見つけ、仲間になってもらう
3.時が来るまで悪魔将軍に叛意を悟られなくないが……。
4.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子を優先。
5.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
6.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。

624I returned ◆5xPP7aGpCE:2009/08/31(月) 03:05:46 ID:HUBhMMTs


【D-09 湖畔/一日目・夜】


【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】顔にダメージ、強い決意。
【持ち物】ディパック、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
 各種医療道具、医薬品、医学書
【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、万太郎が馬鹿やっている間に落下したロケットを見つけ出す。
2、19時半を目安に、ゴルフ場の事務室でハムと待ち合わせ。20時までに来なければ、単独行動を行う。
3、キン肉スグル、ウォーズマン、深町晶、キョン、朝倉涼子を探してみる。
4、万太郎と合流したいが難しいと思っている。
5、ハムは油断ならないと思っているが今は自分を見放せないとも判っている。
6、生き残る為に邪魔となる存在は始末する。
7、水野灌太と会ったら――――



【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※悪魔将軍、古泉、ノーヴェ、ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※トトロ(名前は知らない)は主催と繋がりがあるかもしれないと疑いを持っています。
※救急車は湖から遠くない場所に停車しています、カムフラージュされています。



【F-8 森/一日目・夜】


【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】健康
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(6/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
     ディパック(支給品一式、食料ゼロ)、朝比奈みくるの死体(一部)入りデイパック
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.万太郎を自らの手で殺す。
2.古泉とノーヴェを立派な悪魔超人にする。
3.強い奴は利用、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
4.殺し合いに主催者達も混ぜ、更に発展させる。
5.強者であるなのはに興味
6.採掘場に向かい、キョンとの接触を試みる。
7.もしもオメガマンに再会したら、悪魔の制裁を施す。


※参加者が別の世界、また同じ世界からでも別の時間軸から集められてきた事に気付きました。

625 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 19:56:32 ID:YrRABrO.
長らくお待たせいたしました、これよりSSを投下いたします。

626それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:00:19 ID:YrRABrO.

桜色のオーラのようなガッツを纏った目玉のモンスター・スエゾーが空間の壁を越えて、どこかへと向かっていく。
必殺技・テレポートを使って転移している最中であり、その身は今、空間と空間の間、時間としては刹那の瞬間にいる。


彼はこの殺し合いによって、愛する女性や親友たちを奪われた。
その報復のために、スエゾーは主催者の長門有希と草壁タツオへ挑むべく、二人の元へ向かう。
・・・・・・例え、死ぬにしろ、彼は主催者の元へ向かう。
しかし、命は惜しくない、主催者たちにキツイ一撃でを与え、土下座させるためにスエゾーは向かうのだ。

そんなスエゾーの頭の上には小トトロがしがみついている。
喋る口を持たない小トトロは、何を考えているかを仕草以外で判別するしかないのだが、少なくともスエゾーが心配でついてきたことぐらいは、他者の眼でもわかるだろう。
そんな二匹は、主催者たちの下・・・・・・おそらく死地になるかもしれない場所へ向かっていく・・・・・・
今のスエゾーには、長門有希と草壁タツオたちがいる場所がなんとなくわかる。
そして、自分がそこへ行けるのだと確信を持っていた。
それは勘が告げているだけなのか、溢れるガッツのおかげなのか、スエゾーにはわからない。
わからなくても、スエゾーはただ、それを信じて向かうだけだった。
しかし・・・・・・!

(・・・・・・ッ!!)

突然、首輪が自分を絞めつけてくるような圧迫感に襲われる。
『首輪』は主催者たちの下へ行けば行かせないと言わんばかりに、見えない力でスエゾーの力を抑えこもうとする。

(ク、クソッ!)

スエゾーがいくらガッツを注いでも、首輪の抵抗−−『制限』の力は増すばかり。
制限はスエゾーたちを会場へ押し戻そうと圧力をかけてくる。
このままでは、スエゾーは主催者の下へは辿り着けないだろう。
下手をすれば、すぐにスエゾーはオレンジ色の液体と化すかもしれない。
・・・・・・だが、スエゾーは最後まで諦めなかった。

(負けへん・・・・・・!
 例えワイがどんなことになろうとも、眼鏡とチビ女を一発ドツきまわさにゃ、ワイは死んでも死にきれんのや!!)

スエゾーの纏うガッツがより一層輝いていく。
それに伴い、彼の中に眠るヒノトリの一部が呼応したのだろうか。
スエゾーは大きな力・ガッツの塊となった!

627それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:01:45 ID:YrRABrO.
「ぬおおおおおおりゃああああああああああ!!」

絶大なガッツと共に叫ぶスエゾー、力に耐えられる許容量を越えたためか、首輪はスパークを走らせると、スエゾーの力に屈したように機能を失い、スエゾーを主催者への下へと通したのだった。

見えない力に勝ったことを確信したスエゾーは、僅かながら笑みを零し、物思いにふける。

(ゲンキ、モッチー、ホリィ・・・・・・ワイはもうすぐそっちに行くかもしれへんで。
 おまえらはたぶん悲しむやろうけど、ワイは馬鹿やから、こんな真似しかできへん。
 だがせめて、あのタコスケどもはシバき倒してくるから−−)

今、スエゾーの頭にあるのは、憎っき主催者たちへの怒りと、失われた仲間たちへの悲しみ。
スエゾーはそれを力へと変えていく。

(−−ワイに少しばかりの勇気とガッツを貸してくれや!!)

死に行く覚悟を完了したスエゾーは、テレポートを無事に成功させたのだった。
実際にかかった時間は一分足らず、しかしスエゾーにはそこへ辿りつくまでの体感時間はかなりかかったように思えた。
それを乗り越え、彼らが辿りついた先は、どの参加者もいまだに踏み込んだことのない沈黙の領域である・・・・・・

−−−−−−−−−−−

628それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:03:24 ID:YrRABrO.





「ここはどこや?」



辿りついた地でスエゾーが最初に受けた印象は、拍子抜け、だった。
なぜなら、目の前に広がる光景は、明かりのついてない古い一つの民家が静かな森に囲まれたのどかな場所。
森独特の澄んだ空気に、夏の虫や鳥たちのさえづりをBGMにしたこの場所は、日本的な部分を除けば、スエゾーの知る田舎の雰囲気と同じだった。
スエゾーの抱いていた主催者たちの本拠地のイメージは、物騒な要塞や砦、もしくは厳かな宮殿や城である。
以前戦っていたワルモン四天王たちも、たいていがそのような場所に根付いていたためである。
しかし、この平凡な光景、特に例の民家に対してはとても悪の本拠地には見えなかった。
これにはズッコケたくなる手前までスエゾーは呆れかえるしかなかった。

一方でいつの間にかスエゾーの頭上から降りていた小トトロ。
小さな獣には光景が懐かしく映り、まじまじと眺めていたが、そんな些細な変化に気を回すほど、スエゾーには余裕がなかった。


首輪も発動している様子もない(発動したら発動したで困るのだが)。
敵の本拠では発動しない仕様なのか・禁止エリア以外の会場のどこかか、周りの森が先程まで晶たちと共にいた博物館周りの森と謙遜無いところから後者の可能性が大きい。
さらに、お目当てである主催者たちだけでなく、人が周辺にいる気配も感じとれない。

「・・・・・・まさか、ワイはテレポートに失敗したんか?」

スエゾーは焦りを感じていた。
ここは主催者たちのいる場所ではなく、間違えて会場のどこかに飛んだだけなのではないか?
ガッツを大きく注いだテレポートは失敗に終わったかもしれない、スエゾーはそう思い始めていた。
それでもスエゾーは、まだそれを認める気にはなれなかった。

「いいや、確かに手応えはあったんや。
 きっと奴らはここにおる、ここにおるハズやなきゃおかしいんや!」

スエゾーは、自信とガッツを持って行ったテレポートが失敗で終わったとは考えないようにした。
少なくとも、確証を持つまでこの答えは変わらないだろう。

629それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:04:02 ID:YrRABrO.
また、テレポートされた先の風景に呆然とし、それと同時にヒートアップしていた頭も少しばかり冷やされたが、それは逆にスエゾーに良い効果をもたらす。
まずは、周りをよく見てから行動しようとするぐらいの冷静さは取り戻せたのだ。

「となると怪しいんは・・・・・・」

まず、スエゾーの目に止まったのはそびえ立つ古い木造の一軒家。
ひょってしたら、あの中に主催者たちがいるかもしれないし、中に何かしらの秘密でもあるかもしれないと睨んだスエゾーは、一軒家へと一本足でひょこひょこと向かっていく。
今でこそ雰囲気が穏やかなれど、何がいきなり飛び出すかもしれない可能性にスエゾーは緊張を覚え、体に冷や汗をかきながら警戒をする。
そんなスエゾーを止めることはできないと悟っているのか、彼を引き止めることはせずに、小トトロは子犬のように追随するだけだった。

−−−−−−−−−−−

630それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:05:37 ID:YrRABrO.

玄関らしき扉まで来た所でスエゾーはあることに気づく。

「草壁・・・・・・!!」

スエゾーが見つけたのは一つの表札、そこには『草壁』と書かれていた。
今のスエゾーの中で、草壁の名前で思い浮かぶのは一人しかいない・・・・・・主催者・草壁タツオである。

「やっぱり、ここは奴らと関係がある所なんや!」

主催者と関連性があると思わしきものを見つけたスエゾーは、一度は喜びで表情を歪めさせるが、すぐに表情を怒りでさらに歪ませる。

「出てこいや!
このドグサレどもが!!」

玄関の引き戸をしっぽアタックで強引に倒して中へ入り、激情のままに吠える。
普通なら他人の玄関でやってはいけない傍若無人極まりない振る舞いで、主催者たちが向こうからやってくるのなら、スエゾーにとっては僥倖だ。
人の家の玄関で狼藉を働こうとも反応は無く、主催者どころか人がいる気配も相変わらず無い。

「う〜ん、やっぱりただのボロっちいだけの家にしか見えへんなぁ・・・・・・」

やはり、自分は間違えて会場のどこかへテレポートしただけなんじゃないだろうか・・・・・・
ふと、弱気になるが、スエゾーは首を横にぶんぶんと振ってネガティブな発想をとりやめる。

「いいや、それを言うのはこの建物をちゃんと調べきってからや。
札には草壁の名前もあったんやしな」

結論を出すのはまだ早いと思ったスエゾーは、建物の中を調査することにした。
調査している最中に敵と接触したり、罠が仕掛けられている可能性も十分考えられるため、一つ眼を赤く血走らせるほど細心の注意を払って暗い家の中を進むスエゾー。
そんなスエゾーを怖いと思いながらも、小トトロはしっかりと後ろについてくる。

明かりのついてない暗い建物の中で、木の床は歩く度にギシギシと音を鳴らす。
それがスエゾーの緊張を高めていく。
何か得体の知れない物が飛び出してくるかもしれない雰囲気が、この建物にはあるのだ。
・・・・・・しかし、スエゾーの緊迫感を裏切るように、家の中はスエゾーにはよくわからない日本風なことを除いて、どこまでも普通だった。
具体的にはあちこちに普通の家具が規則正しく置かれ、リビングにはちゃぶ台が、寝室には布団が、風呂場には風呂桶がある、あまりにも当たり前過ぎる民家だった。
落とし穴や槍が降ってくるような罠も見当たら無い。

631それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:06:44 ID:YrRABrO.
日本という異文化である点以外は特殊性のカケラも無く、やっぱりただの民家だったのだ。

「ハァ・・・・・・」

命を捨ててくる覚悟で挑んだつもりが、主催者は見当たらず、この民家に関しても何かが隠されている様子も無い。
それによる落胆と苛立ちからスエゾーは狭い廊下でため息を吐いた。

「・・・・・・!」

そんな中、小トトロがスエゾーの一本足を引っ張って、何かを催促する。

「ん、どしたんや小トトロ?」

スエゾーが自分に気づいてくれたのを見ると、小トトロはある一方を見つめる。
何気なく小トトロが見つめている先をスエゾーも見ると、そこには2階へと続く階段があった。

「おお、こんな所に階段があったんかいな」

見つけ次第、すぐに階段の近くまで移動するスエゾー。
今度こそ、主催者がいること・何かがあることを期待している。

「・・・・・・小トトロ、何が潜んでいるかわからへん、今まで通りにワイの後ろにいてくれや」

スエゾーの指示通りに、小トトロは背後に回る。
これから踏み出す2階には何が待っているかわからないため、小トトロを前に立たせるわけにはいかなかった。
頭に血が昇っていても、仲間への気遣いを忘れてないのはスエゾーらしいと言える。
そして二匹は、気を引き締めながら2階・・・・・・正確には屋根裏部屋へと上がっていく。
一本足でぴょこぴょこと一段づつ上がっていくスエゾー、一段上る度に緊張が高まっていき冷や汗が流れる。
果たして、階段を上りきった先にあるのは−−





「なんや、何もあらへんで?」


−−何もなかった。
家具の一つも置かれていない、ただの薄汚れた屋根裏部屋があるだけだった。
何かあると思っていたスエゾーは、苛立ちを通り越して呆れすら覚え始めていた。

632それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:09:19 ID:YrRABrO.


(本当にこの屋敷には何もあらへんのか・・・・・・?)

この屋根裏部屋をもって、この家屋はあらかた調べつくしたことになる。
生活感こそはあったものの、得られたものは何もなく、結局主催者たちも見つからなかった。
ここまでくると、この家屋は本当に主催者たちとは何も関係ないのではと、いいかげん疑わしくなってくる。
玄関口にて見つけた草壁の表札も、今となっては主催者たちが施したイタズラにしか思えなくなってくる。
そうなると、テレポートが失敗したかもしれない可能性と消化できない主催者への怒りで、頭に血が昇ってくる。

「クソッ!
どこにおるんや草壁たちは!
結局、このボロ家はなんなんやねん!」

苛立ちからスエゾーは怒りの限り、誰に向けてでもなく言い放つ。
あまりの怒気に、後ろにいる小トトロが怯えているが、そんなことはお構いなしだ。
さっきから爆発寸前の怒りをある程度、発散させないとスエゾーの身が持たないのであり、スエゾー自身も自覚している。
できるなら抑え込みたいが、元々の性分がそれを許してくれないである。
今はただ、怒りに委ねていたい衝動に駆られる。
誰かが止めなくては、スエゾーは感情のままに喚き散らし続けるだろう。

・・・・・・だが。


ざわ・・・・・・
 ざわ・・・・・・


「ん?」

・・・・・・何かがいる。
そんな気配をスエゾーは感じ、言葉を吐くことを中断して、気配の正体を探ることに専念し始める。

気配は辿っていくと、近くの壁にできていた僅かな隙間の中に、『何か』がうごめいていた。
それをすぐに発見できたスエゾーは、その壁から少し距離を取り、警戒を強めて臨戦態勢に入る。

「何かいるで!
 小トトロ、ワイから離れんな!」

次に仲間である小トトロに注意を呼びかけ、下がらせる。
小トトロが自分の後ろに隠れたのを確認すると、スエゾーは壁の中にうごめく『何か』を睨みつける。

「なにもんや!
 正体を見せい!!」

633それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:10:49 ID:YrRABrO.
怒鳴りつけるように正体を問うが、向こうは答える素振りを見せない。
ただ、静かにうごめいているだけなのである。
スエゾーの見たところ、裂け目の中にいるのはまるで虫のようであり、流石に草壁や長門ではなかろう。
気配を感じた時から少しばかり立ったが攻撃などはしてこない。
だが、攻撃をしてこないからといって、無害とも限らない。
スキを見せれば襲いかかってくるかもしれないし、主催者が用意した罠の可能性だってあるのだ。
何より部屋の暗さが手伝って、正体が掴みづらいのだ。
これらのことを踏まえて、スエゾーは警戒を一瞬でも怠るわけにはいかなかった。

しかし、相手が何もしてこないことも返って不気味だ。
何かを企んでいる可能性も十分ある。
そういうことから、スエゾーは逆に自分から相手を刺激して見ることにした。

「『ツバはき』!!」

スエゾーは口から唾の塊を、例の隙間に向けて放つ。
遠巻きから放ったため、何かの攻撃や罠があった場合でも、それなりに対処できるだろう。
ちなみに唾を吐いただけのようにも見えるが、これはれっきとした技である。
そして唾は壁に当たり、『何か』は反応を示した。


ぶわーーーっ!!


「うわあ!?」
「!!」

刺激したためか、黒い物体が隙間の中から物凄い勢いで飛び出し、滝が逆流するかの如く、上へと昇っていく。
それによる見た目のインパクトはスエゾーの神経を尖らせ、小トトロをびっくりさせるほどだった。

・・・・・・しかし、黒い『何か』はスエゾーたちを攻撃するでも無く、逃げるように裂け目から天井へと昇っていき・・・・・・やがて消えていった。

いや、一つだけ、『何か』が降りてきた。

「な、なんやコレ?」

『何か』は黒くて小さい、ケサランパサランのように毛むくじゃら、さらにつぶらな眼が二つついている、謎の物体あるいは生物だろうか?
それが重さを感じさせないように、ゆっくりと宙を漂うように降りていき、やがてスエゾーの足元の近くに落ちた。

「ほんと・・・・・・なんなんやコレは?」

うごめいていた『何か』の姿を確認したものの、その生物(?)の不可解さに余計に首傾げるスエゾー。
一見、害の無さそうな姿形から、こんな形状をしたモンスターがいただろうか、それとも異世界の生物なのだろうかと悩む。

634それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:12:09 ID:YrRABrO.

スエゾーが悩み出したすぐ後に、黒い物体は再び宙を漂いだし、スエゾーの下から逃げようとする。

「あっ、コラ待てやぁ!」

逃げようとする物体を、スエゾーは舌を伸ばし、巻き付けて捕まえる。
コレは草壁の表札がついた屋敷にいた、つまり、断定こそできないが、主催者たちと何か繋がりがあるかもしれない以上、スエゾーは見逃すわけにはいかなかった。

「・・・・・・オエッ。
 あんやホレ、アズ・・・・・・(なんやコレ、マズ・・・・・・)」

捕まえたは良かったが、物体が埃に似た味をだしていることを、スエゾーは舌を通して感じていた。
そこで一度、巻いていた舌を広げてみる。

「うわっ、舌が真っ黒や!?」

物体を捕らえていた部分が、ピンク色の舌を黒く染まっている。
さらに、例の物体までいずこへと消えていた。

「アイツはどこへ行ったんや?
 確かに捕まえたと思ったんに!」

捕まえた瞬間の感触はあったが、気がつくと物体は無くなっていた。
死んだのか?
どこかへとテレポートしたのか?
スエゾーにはわからない。
わからないことづくめの事態に、スエゾーは小トトロと一度眼を合わせるが、小トトロもまた首を傾げるだけであった。
ただ舌の上には苦い味が残っているだけである。

いつまでも呆けているわけにもいかないので、舌を口の中へしまい込んだスエゾーは、ペッペッと唾液と共に埃または灰のような汚れを吐き出し、一息つく。

「ふぅ・・・・・・」

一度、スエゾーは状況を整理してみる。
草壁の表札がついていたこの屋敷を見つけ、屋敷を隅々まで探索していった結果、さっきの黒いケサランパサランのような生物らしき物体を見つけた。
『物体』自身からは特に何も見つけられず、気配も完全に消えてしまったが、主催者と関わりがあるかもしれない屋敷見つけたという点は大きい、確かに何か秘密がありそうな可能性はあるのだ。
すなわち、屋敷とこの周囲を探索していく価値はあり、その内に討つべき主催者とあいまみえる可能性だってある。
スエゾーは、その可能性にかけてみたくなり、探索の続行を決意する。

「やっぱり、ここら辺には何かあるハズや。
もうちょい探り続けて見るで」

635それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:13:48 ID:YrRABrO.
探索を続ける道を選んだスエゾーは、一階へと降りる階段の近くへと移動する。

「この屋敷はあらかた調べ尽くしたし、次は外の方を探してみよかー」

この家で見つけられそうなものは、もうなさそうだと感じたスエゾーは、一路、家の周囲を調べる段階に移った。
そのためにまずは一階に移動するべく、階段を一段一段ずつしっぽで降りていく。


先を行くスエゾーに小トトロも小さな足でついていくが、何かに躓いて転んでしまう。
自力で床から立ち上がり、身体を打って痛かったのか少しウル目になりながら、自分を躓かせた原因の物を見る。

−−そこには、塊・・・・・・もっとも小トトロのサイズでの話だが、金属のような物があった。
これはなんだ? 小トトロは興味深そうにそれを拾う。
スエゾーのものらしき唾液がついているということは、スエゾーが捕まえようとした『黒い物体』−−・・・・・・いや小トトロは知っているかもしれないのでここでは『まっくろくろすけ』と言おう−−が持っていたのだろうか?
さらによく見ると、金属は機械のような物がついている。
・・・・・・こんな小さな機械は小トトロやスエゾーたちが元いた時代や世界では作成できないオーパーツだろう。
機械知識皆無の小トトロには、その価値や意味がまったくわからなかった。
だが、興味だけはあったため、小トトロは誰とも知れずその『金属のようなもの』を回収し、もふもふとした毛皮の中へしまい込んだ。


「小トトロー?
 何しとるんや、はよこんかい!」
「!」

一階では、中々降りてこない小トトロにスエゾーが催促をかける。
呼ばれた小トトロは、すぐに階段を降りていき、スエゾーを追いかける。

−−−−−−−−−−−

636それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:15:15 ID:YrRABrO.

家屋から出た二匹。
今度は家屋の周囲を調べてみるべく、探索を開始する。

目の前に広がる夜の森。
静かで豊かな自然が広がっているが、さっきの黒い物体同様、何が飛び出すかさっぱりわからないので、スエゾーは今まで通り一つ眼を凝らして全周囲への警戒を怠らない。
・・・・・・しかし、スエゾーが注意をしていたのは、人物や罠に対するもの。

ドカッ
「痛ッ!」

−−まさか、『景色とぶつかる』など、スエゾーは思わなかっただろう。

「な・・・・・・ここに見えない壁でもあったんか?」

いきなり壁か何かにぶつかったスエゾーは、小トトロと共に目の前の景色へと注意を向ける。
そこで彼は、今まで気づかなかった景色への違和感に気づくことになる。

「・・・・・・おかしい、おかしいで、この真ん前にある景色は何かがおかしいで!」

上下左右を見回し、『見えない壁』を舌で舐めたりして、違和感の正体を探る。
わかったのは、この感覚をどこか別の場所で知っていること。
そしてスエゾーは、一つの答えに辿りつく。

「こりゃあ・・・・・・まるで、晶が扱っていたパソコンの画面とそっくりやないかい!!」

よく調べ、その質感を感じることで、ようやく『景色』の正体がわかった。
一見すると、景色の前に見えない壁があるだけのように見えるが、実際には壁の中に『景色がある』のだ。
詳しく述べると、画面の中に景色が映っている・・自然が広がる夜の森に見えたそれは、精巧な『映像』だったのだ。
晶や雨蜘蛛と共に、パソコンのディスプレイを見てきたスエゾーだからこそわかったことである。

自然の映像を映し出した非常に大きな画面が、スエゾーの目の前に壁としてたちはだかっている。
それだけではなく、一度、景色の正体を見破ったスエゾーは、感づき始めていた。
正面だけで無く、前後左右に映し出された遠くの景色は、全て巨大な画面に映し出された映像。
月夜を映す空すら、映像にしか思えなくなってきた。
ここは四方を画面に囲まれた大きな部屋であり、そこに家屋や草や木を置いてあるのではないか。
頭が良い方では無いスエゾーにも、なんとなくそれがわかるような気がしていた。

637それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:17:49 ID:YrRABrO.
「ワケがわからへん・・・・・・こりゃあ一体・・・・・・」

スエゾーとしては、疑問に思うこと、ツッコミたいことが山ほどある。
なんでわざわざ景色を映した画面に囲まれた部屋を作り、その中に人が住めそうな家屋を用意したのか。
虚像に囲まれた部屋に意味はあるのか?
映像を使ってまで自然を再現するぐらいなら、普通の自然の中に家を建てた方が早いんじゃないだろうか。
そもそも、どうやってこんな箱庭を作りあげたのだろうか?

「アカン、考えだしたら余計に混乱してきてもうたわ・・・・・・」


わからない以上、意味や理屈を考えた所で答えは導き出せない。
元々、常識的にも人物的にも、不可解さや理不尽さを持つ敵なので理解しようとするだけ無駄だろう。
あまり、深くは考えず、敵はこんなものを作り出せる凄い奴らなんだ、と頭に入れておけば良い。
それが驚きと戸惑いを隠せないスエゾーの結論となった。

この空間の景色は、映像で作られていることは理解した。
いちおう、探索は進んだことになるんだろう。
その空間の中で、まだ探せるものはないかとスエゾーと小トトロは、自然の映る壁を伝い、草を掻き分けながら移動する。

すると、スエゾーと小トトロは、また何かを発見することになる。

638それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:18:36 ID:YrRABrO.
「今度はなんや? こんな所に木の棒が立ってるで?」

進んだ先には、スエゾーが言った通りに、細長い木製の角材が立っていた。
ただ、木の棒が突っ立っててあるだけにも見えるが、この空間の中で不思議なものを見てきたスエゾーには、それも何か秘密がありそうに見えるのだ。

「おっ、やっぱり何かあるで〜」

木の棒が刺さっている下を見てみると、何かを埋めたように、地面が盛り上がっていた。

「よし、掘ってみるで」

また主催者に関わる物が発見できるんじゃないかと、興味が湧いたスエゾーは埋められた部分を掘り返してみることにした。
腕の無いスエゾーは、しっぽを使って器用に掘り進んでいく・・・・・・


−−−−−−−−−−−

639それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:19:30 ID:YrRABrO.

スエゾーが地面を掘り、埋められていた物が顔を出した。


「な、な、な・・・・・・」
「・・・・・・!!」

だが、さっきまで興味を持って掘る作業をしていたスエゾーは一つ眼を丸くして動揺している。
言葉を出そうとしているが、呂律が回らず、上手く捻り出せない。
スエゾーと同じく、小トトロもガタガタと震えている。
彼らの目線の先には何があるのか?
その答えは、ようやく具体的な言葉を捻り出せるようになったスエゾーが語ってくれる。


「−−なんでコイツが、 草 壁 タ ツ オ がこんなところにおるんねん!?」


スエゾーの驚愕。
掘り返した結果、現れた物は一つの死体。
そう、木の棒が建てられていたその場所は墓だったのだ。

問題なのは、そこが墓だったことではなく、墓を暴いて見つけた死体である。
どこにでもいそうな平凡そうな成人男性の顔つき、それはゲーム開始時に見た草壁タツオそのものだった。
違いと言えば、死んでからそれなりに時間が立っているのか、肌には血の気が抜け白く、酷く腐敗臭がすること。
そして表情は、放送の時の、人の命を弄ぶこのゲームを、楽しそうに笑っていた顔ではなく、化け物にでも襲われたように苦悶に満ちていた。
骸に多少の差異はあったが、原形はほとんど留めていたため、それが草壁タツオだとスエゾーにはわかった。

−−だが、これが草壁タツオだとしたら、大きな疑問が残る。
繰り返すが、この死体は外見上、どう見ても草壁タツオのものだ。
ならば、長門有希といざこざでもあって殺されのかと言うと、それも違うだろう。
スエゾーに医学知識は無いが、死体の状態からして、だいぶ前に殺されたことぐらいはわかる。
さっきまで参加者に、放送を通して元気な姿を晒していたのに、死んだとはいえ、小一時間程度で鼻をつくほどの腐臭はしない。

640それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:21:06 ID:YrRABrO.
・・・・・・だとすれば、今まで草壁タツオだと思っていた人物は誰なのか?
主催者として放送をしていた草壁タツオと、ここで死んでいた草壁タツオは別人だとしたら、不可解さを通りこして不気味な話である。
まるで、亡霊を相手にしているようではないか。
途端に、主催者・草壁タツオの存在がスエゾーの中で得体のしれないものとなり、何がどうなっているのかわからないことに対してスエゾーは混乱せざるおえなかった・・・・・・








「−−そこで何をしているんだい」
「!!」

背後から突然、聞き覚えのある男の声が聞こえた。
とても混乱しているさなかで、今、その存在について考えていた者に声をかけられ、スエゾーと小トトロは心臓を跳ね上がらせる。
二匹は、背後にいる者の正体を確かめるべく後ろを振り向く。

「草壁・・・・・・タツオ!!」
「やぁ、こんばんわ、スエゾー君に小トトロ君」

背後にいた者は主催者の一人・草壁タツオだった。
驚くスエゾーと小トトロとは対象的に、まるで友人に挨拶するかの如く、フレンドリーな態度と姿勢でタツオは二匹に接してきた。
されど、口は笑っていても、眼鏡のレンズが光ってその先にある二つの眼がどんな形をしているかわからず、表情は窺い知れない。

(さっきまで気配はなかったんに・・・・・・コイツはほんまに幽霊か何かなんか!?)

タツオが現れたこと自体にも不可解な点があり、声をかけてくるまでは気配などなかった。
テレポートでもしてきたのかのように現れたのだ。
印象としては、パッと現れたと言うよりは、闇の中からヌルリと現れたようだが。
それが余計にスエゾーを混乱させ、不気味さに恐怖すら覚えさせる。

一先ず、スエゾーはタツオへ問い掛ける。
答えを求めているというよりは、率直な気持ちを吐き出すように。

「こ、・・・・・・ここで死んでいるヤツはなんなんや!?」
「・・・・・・」

土の中に埋まっていたタツオとそっくりの死体について問う。
しかし、タツオは微笑み面のまま、答えない。
確かな不安を感じつつ、スエゾーは問い続ける。

641それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:22:36 ID:YrRABrO.

「今、ワイの目の前におるオマエは・・・・・・いったいなにもんなんや!」
「・・・・・・」

それでも、タツオは微笑み面のまま、答えない。
スエゾーは不安を募らせ、表情にも現れはじめる。

「答えろやぁ!!」

今度は語気を強くするが、そしてようやく、タツオは微笑み面で答える。
だがそれは、スエゾーの疑念に対する答えではなく、解答拒否だった。

「残念だけど答える気にはならないね。
 −−今から死んでいく君には」
「・・・・・・ぐっ」
「長門君と一緒に見ていたよ、君が僕たちを叩くために転移できる技を使った瞬間をね。
 『制限』をかけていたから、どうせ僕らの元へは辿りつけないと思っていたけど、会場を捜してみても君はどこにもいなかった。
 まさか、本当に『制限』を打ち破ってここに辿りついたとは思わなかったよ。
 スエゾー君の力を過小評価しすぎてたみたいだ、いやぁ〜失敬失敬、はっはっはっはっは」
「な、何をワケわからんことを言っとるねん!」

あくまで放送していた時と同じ飄々とした態度で物を言うタツオ。
人を小ばかにしたようなその態度がスエゾーのカンに障る。

「・・・・・・だけど、ルール違反には違いないよ。
 君は僕たちへの反抗を企て、テレポートを使ってそれを実行しようとしたんだからね。
 あぁ残念だ、楽しませてもらったのに、ここで殺してしまわないといけないなんてね」

態度やノリは呑気で軽いが、銃口を向け、冷たい空気を辺りに呼び込むように、スエゾーに死刑を宣告する。

一方でスエゾーは、タツオ放つ不気味な雰囲気、さらにその存在自体への不可解さに闘志を鈍らせ始めていた。
生物は正体のわからない敵には本能的に恐怖を感じるようにできている。
スエゾーもまた、タツオの得体の知れなさに、少なからず恐怖を感じているのだ。

(結局、ワイが今、敵にまわしているコイツはなにもんなんや?
 そもそもコイツはホンマに『草壁タツオ』なんか?
 見た目は人間やが、実はトンでもない化け物とちゃうんか!?
 わからへん・・・・・・コイツの正体も、コイツの力も、コイツに勝てるのかも・・・・・・)

やがて草壁タツオが恐ろしいものに見え、プレッシャーは加速していく。

642それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:23:51 ID:YrRABrO.


ところが、スエゾーは恐怖一つで戦いをやめてしまうほど、ヤワなモンスターではない。

(・・・・・・わからないならそれでもええ。
 最初からワイは知るためにここへきたんやない、戦うためにここへきたんや!!)

一時は曇っていた眼にはすぐに闘志が戻り、戦う態勢を整えるべく身構えると、スエゾーは不適に笑う。

「おや?
 武器も無しに僕と戦うつもりなのかい?」
「おう!
 てめーみたいなヒョロくさい眼鏡野郎をシバき倒すには、素手で十分やねん!!」

タツオを相手にスエゾーは挑発をする。
そんなスエゾーを見て、小トトロは小さな身体で足を引っ張ってスエゾーを止めようとする。

「どうやら、彼は力量の差ってものがわかっているみたいだね」

小トトロはスエゾーとは違い、タツオの存在を臆し続けているのだ。
タツオはそれを見抜き、嘲笑っている。

「どけ!! 小トトロ!!」

小トトロがスエゾーを止めようとしているのは、単なる臆病かもしれないし、仲間が殺されるのを嫌う優しさからかもしれない。
どっちにしても、スエゾーには邪魔でしかなかった。
だから、小トトロを怒鳴りつけ厳しくあたり、邪魔させないようにする。
スエゾーの目論み通り、気迫に負けた小トトロはスエゾーとタツオの戦いを、第三者として傍観できる場所まで離れた。
止められない戦いを見守る立場に徹したようだ。

「さぁ、邪魔者はもういないで!」
「う〜ん、彼は賢明だったと思うんだけどなぁ〜。
 でもまぁ、それでも君の死は決定なんだよね。 ああ、素直にこのゲームに乗って優勝すれば、友達を生き返らせることもできたかもしれないのに・・・・・・勿体ない勿体ない」
「クサレ外道どもの思惑に乗って、殺し合いに乗るほどスエゾー様は落ちぶれちゃあらへんで!!」

スエゾーの怒りに触れてもなお、人を馬鹿にしたような皮肉を言うタツオ。
スエゾーの怒りのボルテージは上昇していき、同時に身体は桜色のオーラに包まれていく・・・・・・
それをタツオは興味深そうに眺める。

「それはガッツというものだね、つくづく君は面白いものを見せてくれるよ。
 だから−−」

タツオは懐から銃を取り出すと、ニッコリと微笑みながら銃口をスエゾーに向ける。

643それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:24:34 ID:YrRABrO.

「−−わざわざここまできてくれた君に敬意を払って、僕が直接殺してあげるよ」

首輪を使えばスエゾーを液体と化させ、いとも簡単に殺すことができる。
ただただ、自分の怒りに動じた気配もない、タツオの余裕がスエゾーには気に入らなかった。
また、その余裕に付け込んで一気に叩きのめせるチャンスであるとも感じていた。

「本当に良いんやな?  首輪をつこうて殺さなかったことを後悔させたるで!」

主催者が首輪を使わずに戦おうとしてくれることにより、同じ土俵に立てると意気込むスエゾー。
だが、彼は知らない。
タツオの持つ銃が絶対に狙いを外さない銃であること、それだけなく、まだまだ未知の能力があるかもしれないこと。
能力だけでなく、最後までタツオの正体もわからなかった。
しかし、実力を知っていたとしても、例え自分よりも実力が上だとしても、タツオの正体が想像を絶するものだとしても、彼は戦うのだろう。
スエゾーを突き動かすのは桜色の怒り。
失った親友たちのために・自分の心の在り方のために敵を叩きのめし、この馬鹿げたゲームを開いたことに対して謝罪をさせる。
そのために、後先のことや自分が負ける可能性はあえて考えない。
某二等兵のような投げやりな考えではなく、不器用な男なりの不器用な戦い方であり、覚悟でもあるのだ。
故に今は戦うことだけに集中する。

644それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:25:44 ID:YrRABrO.

(相手がどんなヤツだろうがワイはただ、うつべし・打つべし・討つべしや!!
 ホリィ、モッチー、ゲンキ・・・・・・きっと勝ってみせるからな)

心の中で自分を奮いたたせ、あの世で見守っているであろう仲間へ勝利を約束する。
ガッツも身体をまわりきり、肉体も精神も戦う準備は万端だ。

「小トトロ・・・・・・」

もうすぐ、いつでも戦いが始まりかねない緊張の中で、スエゾーは最後に小トトロに声をかける。
小トトロは、闘志と怒りで燃えているスエゾーと眼を合わせる。

「よ〜く、見とれよ」

小トトロと眼を合わせつつ、スエゾーはしっぽに力を込めていく。

「これが!」

しっぽだけではなく、声も大きく張り上げることによって気合いを充填。

「漢の!!」

瞬時に視線を小トトロからタツオへと移す。

「闘いやあああああああああああああああ!!!」

腹から出した大きな声とともに、力を溜めていた足をバネのようにして、タツオに飛び掛かる!!


ここに、スエゾーと草壁タツオの戦いは切って落とされた!!

645それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:29:41 ID:YrRABrO.

「主催者への明確な反抗を確認、首輪を用いての排除を開始」
ピッ



パシャッ



怒りと覚悟を込めて、飛び込んでいったスエゾーは、とある少女の声と共に、オレンジ色の液体−−LCLと化した。

それでもスエゾーとして形を象っていた頃の慣性は失われておらず、鉄砲水のようにタツオへと襲いかかっていく。
まるで、スエゾーの魂の如く・・・・・・

・・・・・・しかし、それもタツオの前に現れたバリアーのようなもの−−A.T.フィールドにより、一滴もタツオに届かないまま弾かれ、地面を濡らすだけに留まった。
まるで、無念のまま墜ちていく魂のように・・・・・・

こうして、漢の闘いは、終わった・・・・・・
いや、闘いにすらならず、意思も誓いも、一方的に踏みにじられただけだ。
第三者として小トトロの眼に映ったのは、無情と絶望だけ・・・・・・



【スエゾー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜 死亡確認】


そして、いつの間にか、もう一人の主催者・長門が草壁タツオの隣に現れていた。


−−−−−−−−−−−

646それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:30:47 ID:YrRABrO.

「ちょっと長門君、せっかく良いところだったのに、割り込むなんて意地悪じゃないか」

顔と口調は穏やかだが、戦いの邪魔をされ、さぞかし不服そうに長門へ文句をつけるタツオ。

「本拠への侵入者は即排除が優先されている。
 私はこのゲームの管理者の一人として当然のことをしたまでに過ぎない。
 むしろ、今まで連絡を入れず、あまつさえ私闘をしようとしたあなたの方に問題がある」

長門はあくまで機械的に分析し、タツオの責任問題を述べる。
そのことをタツオも素直に受け入れたように、笑顔で謝罪をする。

「ごめんごめん、僕もついつい、悪ノリしちゃったみたいだ」
「以後気をつけるように」
「はい、反省するよ」

タツオは、本当に反省しているかどうかわからない軽いノリで長門に言葉を返す。

小トトロを涙を流しながら、物言わぬ液体と化した親友の下へと駆け寄り、どうにかして元に戻らないかと慌てふためいている。
その様子を見ながら、会話をかわす呑気なタツオと鉄面皮の長門。

「それにしても驚きだったねぇ〜。
 まさか制限を打ち破って自力で僕らの休憩室までこれる参加者がいたとはね〜」
「不確定要素『ヒノトリ』の力は、ゲーム開始前には解析不可能だったので仕方なかった。
 ヒノトリにより、力が制限を超過したのだろう、結果的にここへの空間転移を許してしまった」
「う〜ん、スエゾー君ってヤツは面白い奴だったね〜
 でも首輪であっさり死んじゃうのはがっかりだったなぁ〜」

獣に過ぎない小トトロには、主催者たちが何を言っているかさっぱりだったか、気にしてられるほど心に余裕はない。
今はただ、無念のまま散った友のために涙を流してあげたいのだ。

「だが、あなたのせいで、我々のゲーム運営に支障が出そうになった」
「別に僕は負けるつもりはなかったし、スエゾー君もちゃんと殺すつもりだったよ?」
「・・・・・・違う。
 スエゾーがもし、あなたと真正面から戦うことを選ばず、また空間転移を使って会場へ戻り、参加者に我々の内情を一言でも言えば、それだけでゲームに否定的な者が増え、最悪誰も殺し合いに乗らなくなる」
「誰も殺し合いに乗らないって言うのはいくらなんでも言い過ぎじゃないかい?」
「可能性はなくはない・・・・・・それに」

647それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:32:06 ID:YrRABrO.
長門がタツオを見つめる。
その瞳は睨みつけているようにも見えなくはない。

「あなたはいい加減で、非効率的な面が目立つ。
 この待機室をこんな風に飾る必要も無い、『草壁タツオ』の死体の処分も墓など建てる必要も無いのに建てた。
 スエゾーに関しても同じく、自分が愉しむために途中までわざと泳がせていたようにしか思えない。
 私に会場の監視を任せて、侵入者の排除に行ったと思ったら、勝手に私闘をする始末。
 内情に触れる参加者がいなかった今までは進言しなかったが、今は言わせてもらう」
「アバウトな点はオリジナル譲りだから許してくれない・・・・・・かなぁ?」
「今後は、その性格でゲームの運営に支障が出さないで欲しい。
 あなたは本来、表面上だけで『草壁タツオ』を装えば良いのだから」
「はいはい」

タツオのアバウトな返答を皮切りに話は別の段階に移る。
二人の視線が小トトロへと向けられる。

「ところで小さい彼の処分はどうするんだい?」

ピクリと、視線と言葉の意味に気づいた小トトロの身体が硬直する。

「小トトロは、生物とはいえ支給品扱い。
 参加者とは違う適切な処分は送還、または我々が所持することにあると思われる」
「それもそうだねぇ、でも・・・・・・」

勇気を持って振り返った小トトロは銃口を向けられることに気づく。
小さな身体が恐怖でガタガタと震え冷や汗がとめどなく流れる。
さっさと逃げ出したいのに、腰が抜けて思うように逃げられない。
本能までがタツオの弾丸からは逃げられず、死は目前まで迫っていることを悟り、「諦めろ」とすら言っているようだった。

「どうせだったら、スエゾー君と同じく反抗を企てていそうな晶君たちへのみせしめとして、小さな彼を無惨な姿で送還しようと思うんだ」

恐ろしいことを微笑みながら、さらっと言うタツオ。
口調は軽いが、向けられた銃口と空気は重い。

「だめ、私たちは必要以上に参加者たちへ介入するべきでは無い」

怯える小トトロに救いの手が差し延べられた。
差し延べたのは皮肉にも、親友を殺した長門。

648それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:33:01 ID:YrRABrO.
「わかってないなぁ、これはゲームに乗ろうとしない全ての者への懲罰なんだよ?
 ただ単に、僕らの強さを見せつけるんじゃなくて、殺し合いに乗った方がより効率的に生を手にできるってことを教えてあげるんだよ。
 それに、まだ5時間近く後にある放送よりも、見せしめはすぐに見せて、できるだけ残酷な仕打ちを加えた方が効果があるんじゃないかい?
 キョン君のようにアメを与えてばかりじゃなくて、たまにはムチも与えないと殺し合いは停滞してしまうよ?」
「・・・・・・」

タツオが一言何か言う度に、心臓が止まりそうになる。
長門の沈黙が怖い。
息がつまるどころが、息が止まりそうな恐怖の中、小トトロは長門の慈悲を信じるしかなかった。




「ゲームの停止はさせるべきではない、懲罰なら仕方ない、支給品なら問題ない。
 ゲームの運営のために必要ならば、やらぬべきでは無い」


希望を打ち砕かれた小トトロの肉体を、無慈悲な弾丸が貫いた−−



−−−−−−−−−−−

649それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:34:51 ID:YrRABrO.


長門が次元間の穴らしき物を開く。
きっと、それは会場に繋がっているのだろう。

「これより送還を開始する」

長門の足元には、スエゾーの首輪と小さな小さな麻袋。
ともに、入ってはいけない領域に踏みいってしまった者の成れの果てである。
それを長門は拾い、穴の中へと放り込む。

「送還完了」

ひとこと言うと、次元の穴は閉じ、作業が終わる。
その周りにはタツオが、なにやら楽しそうにニコニコ笑っている。

「これを見た晶君と雨蜘蛛君がどんな反応をするか楽しみだよ〜!」

同行者たちはどんな顔をするだろうか。
そんなことを思い浮かべて楽しめるのは真っ当な感性の持ち主では理解できないだろう。
はしゃぐタツオとは対象的に、長門は何の感情も抱いておらず、あくまで事務的に行動する。

「私は待機室の修復作業をする、あなたには引き続き会場の監視を任せる」
「わかった!
 この気持ち、最近の若者の言葉で言うなら、wksk・・・・・・じゃなくてwktkって奴かな長門君?
 ああ、とってもとっても楽しみだ!
 では早速モニタールームへレッツラゴー!」

悲劇を、今から好きなアニメでも見る子供のようにワクワクしながらタツオはどこかへと消えていった。


長門は、そんなタツオを見送り、スエゾーに荒らされた休憩室または待機室の修復に移る前に、地面の上に浮いているスエゾーのLCLを見る。

「あなたは己の感情に負けて、反抗する時期を見誤った。
 もっと大局を見なかった結果、己を滅ぼし、同行者を悲惨な合わせ、さらに別の同行者まで精神的な負荷を加えようとしている」

誰に言うでもなく、返事などしないLCLを見ながら、ぶつぶつと長門は一人語る。

「こうなったのはあなた自身のせい、あなた自身の責任、あなたが悪い・・・・・・でも−−」

ふと、上から見下ろすようにLCLを見ていた長門がしゃがみ込み、そして、

「−−ごめんなさい」

ただ一言、謝った。
顔は相変わらずの無表情だったが、醸し出す雰囲気に、さっきの機械のような色はなくなっていた。
少なくとも、その一瞬だけは・・・・・・


−−−−−−−−−−−

650それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:35:42 ID:YrRABrO.


場所は変わって、会場に設置された博物館。
スエゾーと小トトロがテレポートする前にいた場所。
その入口のど真ん中には、麻袋と首輪が置かれている。

突如、麻袋がもぞもぞと動き出し−−中から現れたのは小トトロであった。
そう、小トトロは生かされていたのだ。

タツオの良心が働いたのか、武士の情けをかけられたのか−−そんな理由ではない。
麻袋から出た小トトロを見てみると、白い毛皮は所々が血で汚れ、今もまだ腹の辺りから出血している。
つまり小トトロは瀕死の身体のまま、返されたのだった。

出血の度に失われていく自分の命、断続的に続く撃たれた腹の痛み、主催者への恐怖が小トトロへ襲いかかってくる。
これだったら殺した方が慈悲と言えるくらいの仕打ちを、小トトロをその身に受け続けているのだ。
なんのために?
小トトロが一秒でも多く苦しむほど、悲劇性が増すからだろう。
それをタツオが愉しむためか、主催者に抗おうとする者たちの感情を揺さぶるには死体より瀕死体の方が効果があるとでも思ったのか。
いずれしろ、残虐極まりないことに変わりない。

小トトロ自身もまた、このままでは助からないと自覚しているためか、床に血を垂らしながら晶と雨蜘蛛がいるであろう部屋へと向かう。
一秒でも早くそこへ辿りつき、二人に助けてもらわねば生きる道はないだろう。

同時に、心は主催者二人への恐怖心に支配され、あの二人には何をしても勝てないような絶望感に支配される。
親友をあっさりと殺され、凶弾を受けた身であるからこそ、そう思えるのかもしれない。
何より彼は獣、ひょっとしたら本能的な面でも恐怖を刷り込まれてもおかしくはない。
ゆえに、今は心の寄りどころでもある仲間に会うことしか頭にない。

スエゾーの形見である首輪も入口に置き去りにしてきた・・・・・・仕方ないことだ。

自分の毛皮の中には、まっくろくろすけから拾った小さな『金属のようなもの』が張り付いたままであることも忘れている・・・・・・仕方がないことだ。

651それは、侵してはならない「領域(ライン)」−−。 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:39:36 ID:YrRABrO.
【H−8 一日目・夜】

※小トトロの状態は以下の通りです。
・腹部に銃創、出血、主催者への恐怖心。
・『金属のようなもの』所持(忘れている)。
・晶や雨蜘蛛に会って助けてもらおうとしています。

※まっくろくろすけから入手した『金属のようなもの』がなんなのかは次の書き手さんにお任せします。
※まっくろくろすけに何の意味があるかは、次の書き手さんにお任せします。
※草壁タツオの死体を発見しました。主催者をしている草壁タツオは、『草壁タツオ』の偽者のようです。

652 ◆igHRJuEN0s:2009/09/02(水) 20:45:38 ID:YrRABrO.
これにて投下終了です。
主催者に大きく触れる内容であり、可能な限り議論チャットの内容から外れないように書いたつもりですが、正直、これで良いのか自信がありません。
以前のチャットに参加していた書き手様方の意見が欲しいです。
ご指摘等お願いします。

653Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:35:59 ID:HUBhMMTs



空気というものはここまで変わるものなのか。
何故人はこうも容易く苛立ちや暴力的衝動に流されるのか。

(それはヒトの宿命、陳腐かつ永遠の課題)

今回のケースも同様だ。
ほんの数十分前、和気藹々とピザを囲んでいた雰囲気は既に無い。
顔ぶれも変わった、二匹の消失とその後の軋轢は大きな負の遺産を生み出した。
きっかけは放送、しかし始まりが何であれ分裂という最悪の結果を選択したのは紛れも無く彼ら自身であった。

先程の結束は砂のお城だったのか、仮初めの形だけの存在だったのか。
だとすれば崩れるのは当然の成り行き、やがては跡形も無く平らに戻る。
しかし時には固く締まりそのまま岩と化す事も起こりえる。

ただ見守ろう、崩れた城の行く末を。

―――残骸は、まだ辛うじて形を保っていた



『第一幕:仮面劇』


重厚な博物館の奥の院、そこにあるのは島を繋ぐ端末の一つ。
残された者はただ黙って画面の動画を眺めていた。

深町晶と雨蜘蛛、生まれも育ちも正逆の二人は先程から一言も言葉を交わしてない。
特に晶は雨蜘蛛の方を見ようともしない、時折肩を震わせるのは尚も感情を抑えきれない為か。
対する雨蜘蛛は静かだった、まるで柳のように向けられる感情を受け流している。

今再生されているのは『森のリング』の記録だった。
されど続くのは森に開けた芝生の光景、時々聞こえてくるのは小鳥のさえずり。
まるで環境ビデオを思わせる癒しの世界、肝心のイベントはまだ先らしい。

早送りするか、と雨蜘蛛がマウスに手を伸ばす。
だがポインタを合わせて後はクリックという状態でその動きが止まる。
代わりに空いている掌が画面の前で上げ下げされた。

―――コイツ、全然前を見てやがらねえな

腕を払いのけも抗議も発しないガイバーの反応に雨蜘蛛は確信する。
これから見るシーンに晶の知識が必要にならないとも限らない、世話を焼かせるなと苛立ちつつマウスから手を離す。
いつまで女みたいにウジウジしてやがんだ、と怒鳴りかけたその瞬間、

「……便利過ぎるんです」

いきなり晶が声を発した。
搾り出されたのは彼の中をずっと駆け巡っていた疑問。

654Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:37:16 ID:HUBhMMTs

”スエゾーは何故テレポートが出来たのか?”

主催者への苛立ちも含まれていた、もしテレポートが完全禁止されていたのならばスエゾーが死地に向かう事も無かったのだ。
ガイバーの制限に悩み、一方で仲間の能力を制限しろとは何とも理不尽な話だがそう思いたくもなるものだ。

「俺のガイバーは空を飛んだり壁を砕いたりと強力に見えますが……本来よりかなり力が抑えられてます。
 理由はいろいろ考えられますが、反逆を抑える目的があるだろうって事ぐらいは俺にだって判ります!」

晶は勢いのまま喋り続ける。
この怒りや訳のわからない現象をどうしても胸に溜めておけなかったのだ。
何故か雨蜘蛛は黙ったままだ、好きに吐かせて気が済むようにさせた方がやり易いという考えだろうか。

「それがさっき喚いてた制限って奴か? 俺にはそんな縛りは感じられないがな〜」

いや、雨蜘蛛も何の気まぐれか口を挟む。
それは独り言にみえて問い掛け、話を進める為の撒き餌だろうか?
そして晶には答えが想像できた、恐らくは雨蜘蛛も判っていて言わせようとしているのだろう。

「全員に同じ縛りがあるとは考えられません……ガイバーや恐らくギュオーのように強過ぎる道具、人物に限って制限されているんじゃないでしょうか」
「ま、それなら納得だわな。てぇ事は何だ? スエゾーの奴がテレポート出来たのはおかしいんじゃねえかって思ってんのかよ?」

晶は無言で頷いた、わだかまりは残っているが他の感情がそれを上回る程に強いのだ。
ここにきて雨蜘蛛も晶が焦った理由に気付く、制限の存在とテレポートへの影響、そのまま聞き流すには惜しいと男は考える。
映像に未だ人影は現れない、視線だけは前を見ながら男達の話は続く。

「確かにね〜、居所のわからない連中の元へ行き来できるような能力が使えるなんざ不自然だわな」

スエゾーや小トトロの生死など雨蜘蛛にとってはどうでも良い、しかし主催者がそのような抜け道を許すかどうかについては関心がある。
晶のガス抜きも兼ねて男は付き合う気分になる。

「考えられるケースは二つ……狙い通り主催者の元へ飛べたか、それ以外の場所に行ってしまったかです」
「前者なら成功だがまず帰ってこれねえわな、後者なら何処まで飛んだのかって問題だわな〜。禁止エリアなんつー可能性もあるんだよな〜」

心から心配そうに語る晶に雨蜘蛛は茶化す。
晶は突っかかる気にもなれなかった、心配の余りギュッと拳を握り締める。

「閑話休題だ。こっちもようやくお出ましだぜ〜、見れば懐かしい顔じゃねえか」

ここにきて画面にも変化が訪れた、初めて見る蛇の怪物と二人にも見覚えのある0号ガイバーが現れたのだ。
その指が揃っているのを見て雨蜘蛛は一人ほくそ笑む。

一端会話が途切れるが様子がおかしい。会話の内容や立ち振る舞いからして彼らは主従関係と直ぐに知れた。
仲間割れの様子も無い、だとすればリングで戦う相手は誰なのか?
その相手を待つ間に話の続きが行われる。

「ま、連中がよっぽどのマヌケでも無い限り懐に入り込むのを許す筈が無いよなぁ。今頃奴はどっかで悔しがってるんじゃねぇのか〜」
「……むしろその方が良いです、少しでもスエゾー達が無事でいられる可能性が有るのなら」

雨蜘蛛の言う通りだ、贔屓目に見てもスエゾーが本当に敵の本拠地に飛び込めた可能性は低いだろうと晶も思う。
それがどれ程無念だろうが生きててさえくれればきっとチャンスは来る、そう信じている。

655Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:37:46 ID:HUBhMMTs

―――だとすればスエゾーは何処に行ってしまったのか?

晶は腕を組み、冷えてきた頭で考える。
これは制限から推測するしか無い、まず既知の例を挙げてみる。
ガイバーに掛かっているそれは『威力、出力の制限』と『回復力、消耗度の悪化』、いずれも身をもって経験した事だ。
テレポートに当て嵌めれば前者は移動距離の制限、後者はより疲労するという事だろう。

その場合許される距離が問題だが島の端から端まで移動できるとは思えない。
数エリア、いや一エリアに抑えられても厳しすぎる事は無い。
連続使用も難しい筈だ、便利さを考えればマラソン並みの消耗を課されてもおかしくない。

それならばスエゾーは案外近くに居るのではないか、長距離のテレポートが出来ないなら禁止エリアにも引っ掛からない筈だ。
待ってれば諦めて戻ってくるかもしれない。
そんな希望を抱きかけるがどうしても晶の胸からは不安が消えなかった。

「もしスエゾーが本当に連中の元へテレポートしていたとしたら……、そうじゃなくても未知の制限がかかっていて何か問題が……」

つい独り言のように呟いてしまう、何故だろうかこの胸騒ぎは。
恐らくスエゾーの気合の入れ方を見てしまったからだ、万が一制限の枠を超えたのだとしたら考察には何の意味も無くなる。
そう考えるとまた居ても立ってもいられない気持ちになる、これでは堂々巡りではないか。

「……静かにしろ晶」

突然冷たい声が掛かる、気が付けば雨蜘蛛が晶の腕を掴んでいた。
まるで氷に触れたように冷え冷えとした感触、感情さえも削ぎ落とされるような―――
思わず意地を張っていたのも忘れて雨蜘蛛に顔を向けて気付く、男は警戒態勢に入っていた。

一体何に気付いたのか、雨蜘蛛は銃を抜き扉の方を向いていた。
だが動画はそのままでボリュームも絞られていない、気付いた事を知らせない為だという事は晶にも判る。
晶もすぐ扉に向き直り警戒した、背後の音声が空しく二人の間を通り抜ける。

―――スエゾーが帰ってきたのか?

その可能性が真っ先に浮かんだ。
しかしそれなら一声ぐらい有ってもいいはず、落胆してるとしても主催者への罵りぐらいは言うだろう。
だとすれば―――敵か。

もはや二人に動画の事など頭に無い。
雨蜘蛛は銃を、晶はヘッドビームを何時でも撃てるように構えながら無言で入り口を注視する。

(スエゾー……でしょうか雨蜘蛛さん)
(俺に聞くな、ツラを拝めばすぐにわかる)

とん、と僅かに扉が揺れた。
間を置いてもう一度揺れる、先程より力が強くボールがぶつかったような音がした。
―――続けて間違いなくその向こうには何かがいる。

しかし数分経過しても扉は空かない。
襲撃ならとっくに済ませている筈、さすがに雨蜘蛛も不審に思う。
一つの可能性に気付いて晶が動く。

656Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:38:27 ID:HUBhMMTs

(もしかして誰かが助けを求めているのかもしれません、俺が行って開けてみます)
(声も出せない程重傷って訳か〜? お前さんの好きにしな)

都合良く自ら先鋒を買って出た晶の背後に雨蜘蛛は続く。
ドアノブに手を掛けて一気に開け放った次の瞬間、世界から時が消えた。

またしても空気が変わる。
鉛の様に重かった空気は凍えるように凍りつく。

誰も見ていない映像は尚も空しく流れ続けていた―――





『第二幕:罪と罰』




おお、何故我らはこれ程苦しまねばならぬのだろう。
因果はあるのか、我らが一体何をしたというのか、神は死んでしまったのか―――


晶の予感は当たっていた。
そこに居たものは確かに助けを求めていた。
『彼』が、声を出さなかったのもやはり体調が原因であった。

だが何故晶は『彼』を励ましたり手当てしようともしないのか。
何故これ程までに驚き、畏れ、立ちすくんでいるのか。
何が―――晶と雨蜘蛛の元へやって来たのか。

それは、来訪者を知っていたからこその反応。
それは、あまりにも予想だにしない展開だったからこその驚き。
静寂が、暫くの間続いた。

扉が開け放たれた途端、ゴロリと室内に転がり込んできた毛むくじゃらの存在。
蛍光灯の直下に晒された生き物の姿に晶のみならず銃口を突きつけた雨蜘蛛ですら絶句した。

『彼』がずりずりと床を這う。
やがて、ガイバーの脚に触れるとそれが何かを確かめるように肌を擦り付けてくる。
恐らくそれで理解できたのだろう、『彼』が上向くと混濁した単眼が晶を見上げた。

「ス……エゾー……? お前、なのか?」

震える手でその肌に触れる、斑に生えた毛の感触が感じられる。
そうであって欲しい、欲しくないとの相反する願いが晶の胸中で交錯する。

”スエゾーであって欲しい、また会えて良かった”
”スエゾーの筈が無い、こんな事ってあんまりだ”

彼もどう受け止めていいのかわからないのだ、あまりにも―――救いの無い結末に。

657Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:39:01 ID:HUBhMMTs

スエゾーがこんな姿をしている筈が無い、だって白い毛なんか生えてなかったじゃないか。
第一スエゾーは一つ目なんだ、確かに正面の眼は大きいけど脇に豆粒ぐらいの目玉が有る。
ほら、手だって付いている。変な位置に脚だって生えている。あいつはしっぽみたいな足しか無かった。
口だってこんな口唇裂みたいに裂けてないし……

そんな思いもプルプルと弱弱しい震えが伝わるとたちまちの内に瓦解した。
理屈でなく直感で理解する、『彼』は間違いなくスエゾーだと。
スエゾーと小トトロはやはり主催者の元へ飛べなかった、失敗して戻ってきた。


―――ひとつの身体に解け合って


晶は昔見た映画を思い出す。
『ザ・フライ』というタイトルのそれは科学者とハエがテレポーテレションの失敗で融合するというものだった。
人間の姿を失い、文字通りの化け物と化していくそれを見た時は面白さしか感じなかった。

だが、現実に起こったこれは面白さなど一片も存在しない。
晶自身まだ腕が震えている、あまりの辛さにスエゾーを直視すらできない。
それでも―――見なければならなかった。

眼と眼が遭う、まるで視線を感じない。
赤く濁り切ったそれは既に視力が失われていた、脇の小さな眼は本来小トトロのものだったのだろう。
晶や小トトロを気遣って元気付けてくれた口からは意味のある言葉一つ聞こえない。
いくら語りかけても返ってくるのはうーうーといううなり声のみだ。
融合で多くの器官が正常に機能を果たせなくなったのだろう、恐らく内臓にも重篤な疾患を抱えている。
時々苦しそうに身体を震わせるのがその証拠だ。

遺伝子が損傷した場合、多くの生物は短時間で死に至る。
それが胎児なら畸形として生まれてくる、今のスエゾーのように。

そして、生まれた直後に死んでしまう。
機能しない肉体は生命を維持出来ないのだ。
キメラと化したスエゾーはそれだけではない。

ある細胞は遺伝子の損傷で癌化、また別の細胞は増殖すらできず次々に壊死して腐ってゆく。
これが禁じられた力を使った報い、スエゾーに与えられた罰。

「あう……うううううううっ、あう……」

晶の腕の中で変わり果てたスエゾーが泣いている。
見えない巨眼から血交じりの涙を零し、先走った己の愚かさを悔いている。
自分の我が侭で小トトロをはじめ全員に迷惑を掛けたと今の彼にも解るのだろう。

晶には掛ける言葉が無かった、何を言っていいのか解らなかった。
ただガイバーの腕の中で抱きしめてやるぐらいしか出来なかった。
何時までそうしていたのだろう、気が付けば雨蜘蛛がリボルバーを晶に差し出していた。

658Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:39:32 ID:HUBhMMTs

「楽にしてやりな、晶。それがこの場合情けってものだぜ」
「……ッ!!」

怒りが込み上げて差し出された手を振り払う。
どうしてもそんな真似はしたくなかった。

「スエゾーは、スエゾーと小トトロは死なせません! 俺が必ず助けます!」

今度こそ譲るつもりは無かった。
何が出来るか解らないが絶対にスエゾーを救うと晶は決意する。
恩知らずと罵られようが構わない。

「てめぇはまだわからねえのか? そいつの苦しみを長引かせるだけだぜ〜?」
「……だとしても殺すなんて嫌です! スエゾーを治せる人だって何処かにいるかもしれない!!」

晶に引く様子が無い事を見て取った雨蜘蛛は自ら銃を向けた。
これ以上足を引っ張られたくない、さっさと片付けるとばかりに引き金を引きかけるが出来なかった。

ガイバーがビームを放ったのだ。
額の金属球から放たれたそれは雨蜘蛛の真横を掠めて壁を穿った。
狙いは威嚇だったが次がどうなるかはわからない。

一気にその場が緊張する。
このまま決裂に至ると思われたその時、またしても予想外の事態が起こる。
雨蜘蛛、スエゾーを抱えた晶と三角形を描く位置に一人の少女が出現した。

それは灰色の髪にセーラー服、その上にガーディガンを纏った小柄な少女。
名を長門有希、れっきとした主催者の一人が其処に居た。




『第三幕:救いと絶望』




「主催のガキ……!」
「長門! よくもスエゾーを!」

突然の乱入者に雨蜘蛛も晶も動きを止めざるを得なかった。
雨蜘蛛は放送で語っていた主催者の制裁を警戒し、晶はスエゾーを巻き込みたくないという思いが何よりも上回った。

対する長門は場違いな程涼しい顔をしている。
まるでケース越しに水族館を見るように、自分が安全圏に居る事を確信しているかのように。

「私は貴方達の邪魔をする気は無い、その人の事で来た」

彼女の視線は晶の腕の中に向けられていた。
雨蜘蛛も晶も他に心当たりが無い以上、それを素直に受け入れた。

659Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:40:03 ID:HUBhMMTs

「だったらさっさと済ませやがれ、言っとくが俺はそいつの行いには関わりがねえぜ〜」

雨蜘蛛は対象がスエゾーと知るや、銃を下ろして傍観の構えを見せる。
念の為自分がスエゾーの反抗とは無関係とアピールする事も忘れない。

「スエゾーを、これ以上スエゾーをどうするつもりなんだ!!」

晶はスエゾーを腕で隠し守りながら長門の意図を問い詰める。
戦闘や逃亡は選択出来なかった、この場でスエゾーを救えるとしたら敵である彼女しかいないと解っているのだ。
プライドもへったくれもなく頭を下げて救いを求めてもいいとさえ晶は思った。

長門はじっとしたままその場を動かなかった。
警戒する晶に対し静かにスエゾーの身に起こった事を説明する。

「彼のテレポートは本来禁則事項、まさかガッツの力で制限を打ち破るとは思わなかった」
「……やっぱり!」

やはり便利すぎる力は禁止されていたのだ。
その言い方から晶は今回の事が主催者にとってもイレギュラーなのだと気付く。

「でも彼の努力もそこまで、力で制限を破ろうとしてもその分大きな反動が返ってくる。
 一度素粒子に分解された彼と小トトロは本来の復元力が働かず混ざり合ってしまった」
「てな事は知らずに俺がテレポートさせてたら全員がミックスつー事かよ、やらなくて良かったわ〜」

長門の言葉に雨蜘蛛が安堵する。
逃がしたと思ったお宝能力は実はトンでもない爆弾とは何が幸いするか解らない。

「じ、じゃあのこの結果はお前達も望んじゃいないんだな!? だったらスエゾーと小トトロを助けてくれ!!」

一縷の望みを抱いて晶は頼んだ。
タツヲの正確からすれば参加者が戦わずに脱落する事は避けたい筈、予想外のトラブルが原因なら尚更だ。
スエゾーの意志はこの際関係ない、後で怒鳴られようと助けたい!

「貸して」
「お願い、します……」

迷ったが他に選択肢は無い、晶は断腸の思いでスエゾーを手渡した。
おいおい助けちまうのかよ、とその様子を見ていた雨蜘蛛からツッコミが入る。

しかし長門はじっとしたまま動かない。
スエゾーを抱えたまま晶と雨蜘蛛を交互に見た。

「ここからは彼だけと話を進める、貴方達にはその間眠ってもらう」

何一つリアクションする猶予は無かった、その言葉と同時に突然二人が床に沈む。
その意識が無い事を確認してようやくスエゾーの身体が輝きだした。
ガッツとは違う光、それは長門の全てを思うままにする力。

やがて―――コブから小さな塊が分離した。

660Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:40:35 ID:HUBhMMTs


晶は夢を見ていた。
いや、本当にこれは夢なのだろうか?

「はぁ、はぁ……」

もう何日歩き続けただろうか、少なくとも太陽が四回以上昇っただけは覚えている。
雲一つ無い大快晴の空から注ぐ灼熱の陽光。
風と共に舞う砂埃、乾ききった熱い風……

顔を上げると―――地の果てまでに砂が広がる世界であった。
ガイバーの内側が絶望に歪む、既に飢えと乾きは極限に達している。

苦しい。
なのに死ねない、ガイバーが死ぬ事を許さない。
そもそもこの状態が奇妙なのだ、飢え知らずのガイバーを殖装して苦しむなど。
これも制限なのか、と朦朧しながら晶は思った。

村上さんの事もスエゾーの事も遠い昔に思えてくる。
このまま見知らぬ砂漠で野たれ死ぬのか、と諦めかけた―――が踏みとどまる。

「こんな所で終わってたまるか……!」

必死に自分を鼓舞しながら蒸し釜の上を歩く歩く。
遠くには逃げ水が見えた、何度も追いかけては膝を突いたそれは死の淵で一層美味に見えた。

「み、ず……」

フラフラと手が伸びる。
それだけでも肉体は悲鳴を上げ、ゆっくりと意識が遠くなっていった―――



雨蜘蛛もまた見知らぬ世界で死の淵を足掻いていた。
男が気が付いた時には深い森、そこは血に飢えた猛獣、獣化兵の闊歩する修羅場であった。

「ちっ!! これで弾は残り一発……また死ぬのはおぢさんごめんだね〜」

マスクもコスチュームも既に無残な男が軽口を叩く。
だが覗いた素顔は蒼白だ、それは食い千切られた左腕の出血によるものだった。
もはや立ち上がるのも億劫だ、なのに全周囲からは獣の方向が迫っている。

事態を把握してから極力弾丸を温存し逃げに回っても結局は死ぬ―――これで5回目。
奴らはどんな手掛かりからも追ってきた、間も無く獣の群れが半死の身体を引き裂くだろう。

「嫌だね〜、どうせ死ぬならポックリといきたいわ〜」

ザッザッと足音が迫ってくる、今度はもっと上手く逃げてやると誓いながら雨蜘蛛は銃をこめかみに当てた銃を引いた。
瞬間、途切れる意識。
だが少しのまどろみも許されずに目が覚める。

そこは変わらず森の中、服も装備も全てが元通り。
獣の咆哮が聞こえるのも同じ―――

661Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:41:08 ID:HUBhMMTs


彼らの悪夢が続く間、長門の措置は終わっていた。
パタパタと跳ね回る小トトロ、キョロキョロと周囲を見渡すスエゾー。
そして―――無言で二匹を見詰める長門有希。

「オレは……助かったんか、ホンマに元に戻ったのか?」

スエゾーは暫く戸惑っていた状況を把握するにつれ喜びを露にした。

「ハッ、アハハハハハハ!!!!!! なんちゅーいい気分や! なあ小トトロもそう思うやろ!!」
(こくこく)

だがそれも長続きはしない、スエゾーはすぐに怒りに顔を歪ませて長門に向き直る。
小トトロはその迫力に押されるように後ろに下がった。

「言っとくがな……お前に感謝なんかこれっぽっちもせえへんで! そもそもオマイら無理矢理オレ達を連れてきたのが原因やないか!!」

ツバを吐きながらスエゾーは長門をさんざんに罵倒した。
あれだけの目に遭いながら反抗の意志は失われて無いらしい。
それでも、長門は鉄面皮のように表情を変えなかった。

「貴方への対応については私達の間でも判断が別れた。本人が無意識に制限を破った行為をどう裁くかが問題になった」
「ああ?! 何ゆーとんじゃ、ボケェ!! ゲンキ達に謝らんかい!!」

スエゾーは訳の解らない事を言い出した長門に耳を貸さなかった。
このまま謝らなければ噛み付いてやるわ、といつでも飛びかかれる体勢をとる。

「結果は有罪、貴方にはここで死んでもらう」
「その為にわざわざオレの事を戻したっちゅうわけか!! 上等や、お前らの好きにされてたまるかい! 返り討ちにしたるわ!!」

先手必勝とばかりにスエゾーが飛び掛る。
だが、その一撃が当たる事は無かった。

「何や!! 何処に行ったんや!!」

スエゾーが気付いた時長門は部屋の反対側にいた。
それはまさしくテレポート、完全にスエゾーのお株を奪われる。

「貴方の相手は、彼」

長門がバチンと指を鳴らす。
その瞬間、スエゾーの背後からブチブチという異音が発生した。
視界もいきなり暗くなる、まるで巨大な影に包まれたかのような―――

「な、何や! お前ら、小トトロに一体何をしたんや!?」

増大する質量、異常な速度で形成される筋骨隆々とした肉体。
四つの瞳に黒光りする鍵爪、その体躯は雪の様に白く―――とてつもない凶暴さを内に秘めている。

662Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:43:09 ID:HUBhMMTs

「し、小トトロ!! 気をしっかり持てや!! オレや! スエゾーや!!」

叫びながらスエゾーは既視感を覚えていた。
こんなモンスター見たことあらへんと思いながらやがては心当たりに辿り着く。
それはほんの数時間前、食料探しに博物館内部を巡っていた時にとある部屋で見た人形の姿。

「そ、そうや! あの展示品にソックリやないけ! 確か……エンザイムっつー名前やったで!!」

既にその姿はガイバーの体格を上回り、天井に届くまでになっていた。
スエゾーが最後にみたもの、それは視界を埋める巨獣の拳であった。




「う……ん、砂漠じゃない……俺は、戻れたのか?」

ぺちぺちと小トトロが顔を叩いている。
何かべっとりとしたものが顔に付いている。

晶は自分が博物館の硬い床に寝ている事に気付くとようやく悪夢からの帰還を悟った。

「スエゾー……? 雨蜘蛛さん……?」

まだ視界ははっきりとしない、寝ていた筈なのに身体もやけに疲労している。
どうやら長門は去ったらしい、小トトロが起こしてくれたという事はスエゾーも助かったのだろうか。

霧がかかったような視界を動かすと赤いシミのようなものが眼に留まった。
やがて視力が戻るに従い、そのシミが次第に輪郭を明瞭にする。
そして―――凄まじい血の臭いに気が付いた。

「あー……おじさん酷い夢みたよ〜」

雨蜘蛛も目を覚ましたらしく頭を抑えて起き上がる。
その声からするに晶に負けず劣らずの体験をしたらしい。

そこで雨蜘蛛は見た、壁を見て呆然と立つガイバーの姿を

壁は―――ある一点を中心に蜘蛛の巣のにようにひび割れが走っていた。
その一転は真っ赤で、今尚ボドボドと赤い液体を滴らせていた。
その直下に歪んだわっかが落ちていた。

破損しているが色形からして一目で首輪とわかる。


それは即ち、窪んだ穴にめり込んだ煎餅の様な肉塊が―――スエゾーである事を意味していた。

663Monster(反逆者の結末) ◆5xPP7aGpCE:2009/09/12(土) 10:43:40 ID:HUBhMMTs


【スエゾー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜 死亡確認】
【残り25人】



【H-8 博物館/一日目・夜】


【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】胸に軽い切り傷 マントやや損傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、有刺鉄線@現実、枝切りハサミ、レストランの包丁多数に調理機器や食器類、各種調味料(業務用)、魚捕り用の網、
     ゴムボートのマニュアル、スタングレネード(残弾2)@現実、デイパック(支給品一式)×3、RPG-7@現実(残弾三発) 、ホーミングモードの鉄バット@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:パソコンからリングの動画を調べて、19時にドロロ達と情報交換する。
3:晶を利用して洞窟探検を行う(ギリギリまで明かさない)。出発は22時。
4:22時までは博物館で時間を潰す。
5:晶の怒りを上手く主催者側に向ける事で、殺し合いの打開の一手を模索する。
6:水野灌太と決着をつけたい。
7:ゼクトール(名前は知らない)に再会したら共闘を提案する?
8:草壁サツキに会って主催側の情報、及び彼女のいた場所の情報の収集。その後は……。(トトロ?ああ、ついででいいや)
9:キョンを利用する。
10:ボートはよほどの事が無い限り二度と乗りたくない。


【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
 索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
※メイのいた場所が、自分のいた場所とは異なる世界観だと理解しました。
※サツキがメイの姉であること、トトロが正体不明の生命体であること、
 草壁タツオが二人の親だと知りました。サツキとトトロの詳しい容姿についても把握済みです。
※サツキやメイのいた場所に、政府の目が届かないオアシスがある、
 もしくはキョンの世界と同様に関東大砂漠から遠い場所だと思っています。
※長門有希と草壁サツキが関係あるかもしれないと考えています。
※長門有希とキョンの関係を簡単に把握しました。
※朝比奈みくる(小)・キョンの妹・古泉一樹・ガイバーショウの容姿を伝え聞きました。
※蛇の化け物(ナーガ)を危険人物と認識しました。
※有刺鉄線がどれくらいでなくなるかは以降の書き手さんにお任せです。
※『主催者は首輪の作動に積極的ではない』と仮説を立てました。



【深町晶@強殖装甲ガイバー】
【状態】:精神疲労(中)、強い自己嫌悪、主催者への強い怒り、雨蜘蛛に対して…?
【持ち物】 首輪(アシュラマン)、博物館のメモ用紙とボールペン、デイパック(支給品一式)
      手書きの地図(禁止エリアと特設リングの場所が書いてある)
【思考】
0:ゲームを破壊する。
1:スエゾー…小トトロ…無事でいてくれ…!!
2:ひとまずパソコンからリングの動画を調べて、19時にドロロと情報交換。
3:22時に博物館を出発し、雨蜘蛛に同行する?
4:雨蜘蛛を受け入れて仲間にしたいが……
5:やはり、どうにかしてスエゾーと小トトロを探したい。だが……
6:もっと頭を使ったり用心深くなったりしないと……
7:巻島のような非情さがほしい……?
8:スエゾーの仲間(ハム)を探す。
9:クロノスメンバーが他者に危害を加える前に倒す。
10:もう一人のガイバー(キョン)を止めたい。
11:巻き込まれた人たちを守る。


【備考】
※ゲームの黒幕をクロノスだと考えていましたが揺らいでいます。
※トトロ、スエゾーを異世界の住人であると信じつつあります。
※小トトロはトトロの関係者だと結論しました。スパイだとは思っていません。
※参戦時期は第25話「胎動の蛹」終了時。
※【巨人殖装(ギガンティック)】が現時点では使用できません。
  以後何らかの要因で使用できるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ガイバーに課せられた制限に気づきました。
※ナーガ、オメガマンは危険人物だと認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子を信用できる人物と認識しました。
※雨蜘蛛から『主催者は首輪の作動に積極的ではない』という仮説を聞きました。

664 ◆MADuPlCzP6:2009/09/27(日) 02:38:36 ID:7QWhozu2
修正部分をこちらに投下します

本スレ>>106
俺とスバルは元々一緒に行動をしていた、もとい、させられていたのだし、
ギュオーのおっさんを振り切ったあと偶然同じ方向に向かったとしても不自然じゃない。
あの真っ黒正義感がいないのをみるとはぐれたか、正義の味方よろしくおっさんの足止めに残ったと考えていいだろう。
さらに言えばスバルのヤツは俺を追ってきた可能性だっておおいにありえる。

この部分を

俺とスバルは元々一緒に行動をしていた、もとい、させられていたのだし、
ギュオーのおっさんを振り切ったあと偶然同じ方向に向かったとしても不自然じゃない。
あの真っ黒熱血漢がいないのはやっぱりあの時ギュオーのおっさんにやられちまったみたいだな。
偉そうなことを言ってた割にあっけないもんだな。ざまあみろ。
さらに言えばスバルのヤツは俺を追ってきた可能性だっておおいにありえる。

とします


以降、各人の状態表です

【G-2 温泉の外/一日目・夜】
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
1:手段を選ばず優勝を目指す。参加者にはなるべく早く死んでもらおう。
2:スバル…すまん。
3:採掘場に行ってみる?
4:ナーガが発見した殺人者と接触する。
5:ハルヒの死体がどうなったか気になる。
6:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。
※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っていますが、考え直すかもしれません。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※みくると妹の死に責任を感じて無意識のうちに殺し合いを否定しています。
 殺す事を躊躇っている間はガイバーを呼び出せません。
※スバルの声は、精神的に不安定な状態にあったため聞き逃しました。
※今回「スバルを救う(歪んだ方向に)」という感情から一時的にガイバーの殖装が復活しました。以降どうなるかは分かりません。
※キョンがどちらへ向かうかは次の書き手さんにお任せします


【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.????????????????
【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます
※男露天風呂の垣根が破壊されました。外から丸見えです。
※G-3の温泉裏に再生の神殿が隠れていました。ただしこれ以上は合体しか行えません。
※少なくともあと一つ、どこかに再生の神殿が隠されているようです。

665 ◆MADuPlCzP6:2009/09/27(日) 02:39:18 ID:7QWhozu2
【G-2 温泉内部・脱衣所/一日目・夜】
【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】元の老人の姿、疲労(中)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、落胆
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、ディパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ
     スタンガン&催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0、キョンくんのことにもっと気を配っていれば……。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
3、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
4、タママとケロロとなのはを信頼。
5、首輪を解除する方法を模索する。
6、後でDVDも確認しておかねば。
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、断片的に覚えています。
※古泉がキョンとハルヒに宛てた手紙の内容を把握しました。
※スバルとキョンが同じ方角から来たことから、一度接触している可能性もあると考えています。
※キョンの記憶喪失については、一応嘘の可能性を考慮していますが、極力信じたいと思っています。

【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、身体全体に火傷、落胆
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
1、キョン殿のことは残念でありますが、スバル殿が無事で良かったであります。
2、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
3、タママやドロロと合流したい。
4、加持となのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
5、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
6、協力者を探す。
7、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
8、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
9、後でDVDも確認したい。
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです。

666 ◆MADuPlCzP6:2009/09/27(日) 02:39:55 ID:7QWhozu2
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(小)、魔力消費(特大)、失意
【装備】レイジングハート・エクセリオン(修復率70%)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【服装】浴衣+羽織(子供用・下着なし)
【持ち物】ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)、
     リインフォースⅡの白銀の剣十字
【思考】
0、もう迷わない。必ずこのゲームを止めてみせる!
1、スバルが無事で良かった…リインフォース……
2、冬月、ケロロと行動する。
3、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
4、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
5、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。
※リインからキョンが殺し合いに乗っていることとこれまでの顛末を聞きました。

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】ダメージ(回復中)、疲労(中)、魔力消費(大)、気絶、覚悟完了
【装備】 メリケンサック@キン肉マン、
【持ち物】支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6、
     ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、
     
【思考】
0:………………。
1:キョンが殺し合いに戻るようなら絶対に止める。
2:なのはと共に機動六課を再編する。
3:何があっても、理想を貫く。
4:人殺しはしない。ヴィヴィオと合流する。
5:I-4のリングでウォーズマンと合流したあとは人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
6:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
7:中トトロを長門有希から取り戻す。
8:ノーヴェのことも気がかり。
9:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)


※フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
 がトトロについていったか部屋に残ったかは後続の書き手さんにお任せします


以上になります。
修正が遅くなってすみません

667 ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:29:29 ID:Hjfhj94g
規制に巻き込まれてしまったので、こちらに投下します

668カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:30:31 ID:Hjfhj94g
F-5。この地に存在した神社は、今はリングへと姿を変えていた。
そしてそのリング上では現在、漆黒の姿を持つ戦士と漆黒の魂を持つ戦士が死闘を繰り広げている。
正義超人ウォーズマンと、獣神将リヒャルト・ギュオーである。


◇ ◇ ◇


「フハハハハハ!! どうした、ウォーズマン! このリングの上こそが、貴様のホームグラウンドではなかったのか!」
「クッ……」

序盤、試合のペースを握ったのはギュオーだった。彼は遠距離から重力指弾を連発し、ウォーズマンを近づけさせないという戦法を取ったのである。
超人レスラーとしてはオーソドックスなタイプであるウォーズマンは、遠距離から攻撃する術を持たない。
また威力よりも連射性を重視して出力を抑えているとはいえ、ギュオーの重力指弾はそれなりの威力。
被弾覚悟で無理に近づいて接近戦に持ち込むのも、得策とは言えない。
すなわち、現状ウォーズマンは手詰まりと言える状況であった。
しかしウォーズマンとて、「ファイティング・コンピューター」と呼ばれた男。いつまでも自分が不利な状況に甘んじているわけがない。
彼の明晰な頭脳は、すでにこの戦況の打開策を導き出していた。

(ロビンマスク……。あなたの策を使わせてもらうぞ!)

敬愛する師匠の教えを脳内に再生させながら、ウォーズマンは脚に込める力を強める。
そして、ある軌道に沿って走り始めた。

「ロビン戦法、円は直線を包む!」
「何ぃっ!」
『あーっと! ウォーズマン、ギュオーの周囲をグルグルと回り始めたー!』

そう、中トトロの解説の通り、ウォーズマンはギュオーを中心に円を描くようにして走っているのだ。
狙いを定めることが出来ず、ギュオーはわずかに狼狽の色を顔に浮かべる。

「ええい! この程度で私をかく乱できると思ったか!」

それでもギュオーは、すぐさま冷静さを取り戻す。だがそれまでのわずかな隙があれば、ウォーズマンが反撃の口火を切るのには充分であった。

『ウォーズマン、回転運動からドロップキックに移行だー! ギュオー、避けられない!
 ウォーズマンの両足がギュオーの胸板を捉えるー!』

ドロップキックの直撃をくらい、よろけるギュオー。そこにウォーズマンは、ナックルの連打を叩き込む。

『いった、いった、ウォーズマンがいったー!!』

興奮気味に中トトロがプラカードを掲げるが、いつまでもこんなワンサイドゲームを許すほどギュオーも貧弱な存在ではない。

「調子に乗るな!」

拳の雨の合間を縫い、ギュオーはおのれの右脚を振るってウォーズマンの左脚に叩きつけた。
その一撃でバランスを崩したウォーズマンに、さらに右の拳が叩き込まれる。

「グムッ!」

短い声と同時に、ウォーズマンの体が後方へと吹き飛ばされる。だが彼はすぐさま体勢を立て直し、両の足でマットを踏みしめた。

(なるほど……。やはり重力波による攻撃だけが頼りというわけではないか……。
 肉弾戦だけに限定しても、おそらくバッファローマンレベルかそれ以上のパワー……。
 正面からやり合っても分が悪いだろうな……)

攻撃を受けた箇所からは、強い痛みが発せられている。だがウォーズマンはその痛みに取り乱すことなく、冷静にギュオーの強さを測る物差しへと変える。

669カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:31:14 ID:Hjfhj94g
「何をぼさっとしているのだ! まだまだ決着はついていないぞ!」

分析を進めるウォーズマンに、ギュオーの重力指弾が襲いかかる。
だがウォーズマンは、大きく跳躍してそれを回避。
距離が空いたといっても、その距離は先程までと比べれば微々たるもの。
一回の跳躍で簡単に肉薄できる程度の間だ。
空中で大きく開脚したウォーズマンは、その脚でギュオーの顔を挟み込む。
そして体のひねりを利用して、ギュオーの巨体を投げ飛ばした。

『メキシコ殺法、コルバタが炸裂ーっ! しかしギュオー、平然と立ち上がります!』
「くだらん。こんなちゃちな投げ技で、私を倒せると思ったか!」

余裕の笑みさえ浮かべながら立ち上がったギュオーは、すぐさま反撃に移る。
しかしウォーズマンはその攻撃を軽々と回避し、逆にフロントスープレックスでギュオーを投げ飛ばした。
さらに、ウォーズマンの攻撃は止まらない。

『ボディースラム! サイドスープレックス! 一本背負い! ウォーズマンの投げ技が次々とギュオーに炸裂するー!』

しかしウォーズマンの猛攻も、ギュオーに致命的なダメージを与えるにはいたらない。

「効かぬと言っているのがわからんのか!」

連劇の隙を突き、ギュオーが再び攻勢に出る。
だがウォーズマンもギュオーの猛攻をしのぎつつ、打撃を繰り出しギュオーの手足にダメージを蓄積させていく。

「その程度か、ウォーズマン! そんな蚊の刺したような攻撃で、私に勝とうとは片腹痛いわ!」

自らの優勢を確信し、ギュオーは吠える。だが、ウォーズマンは焦らない。
なぜなら、ここまでの展開は全て彼の計算通りだからだ。
超人レスリングは、ただ大技を連発すればいいというものではない。
どんなに強力な必殺技も、相手が万全の状態では強い抵抗を受けその威力を最大限に発揮することは出来ない。
まずは小技を多用して相手の体力を削り、ここ一番でフィニッシュホールドを繰り出す。
これこそが超人レスリングの常道である。
今、ウォーズマンはそれを忠実に実践していた。すなわち一撃でギュオーを倒そうとするのではなく、ギュオーを消耗させることに専念しているのである。
だが、口で言うほどそれは簡単ではない。
ギュオーの攻撃力は、ウォーズマンを優に上回る。当たり所が悪ければ、一撃でK.Oもありうるだろう。
敵の体力を削りきる前に自分の体力が尽きてしまったのでは、笑い話にもならない。
相手の攻撃は直撃を許さず、こちらの攻撃は確実に当てる。それは技術的も精神的にも、非常に困難な戦略である。
しかし、ウォーズマンなら可能だ。正確無比なコンピューターの頭脳と、百戦錬磨の経験を併せ持つウォーズマンなら。
とは言っても、相手はこのバトルロワイアル内で屈指の戦闘力を持つギュオー。
一瞬の判断ミスがすぐさま敗北に繋がる、ウォーズマンの能力を持ってしても薄氷を踏むような戦いである。
だが、今のところ致命的なミスはない。ギュオーが圧倒しているように見えて、実際に場を支配しているのはウォーズマンである。

『あーっと! ギュオーの一瞬の隙を突いて、ウォーズマンがギュオーの首を捉えたー!
 そして、すぐさまフロントネック・チャンスリー・ドロップー!』
「ぐおっ!」

マットに叩きつけられ間の抜けた声を漏らすギュオーだが、すぐさま体勢を立て直して距離を取る。
だがウォーズマンもすぐさま距離を詰め、遠距離戦に持ち込むことを許さない。

(おのれ、たいした攻撃もできんくせにしぶといやつだ……。残された時間は決して多くないというのに!)

ギュオーは焦りを感じつつあった。このデスマッチには、偶然の産物とはいえ制限時間がもうけられている。
神社のあるF-5が禁止エリアに指定される19時までの間に決着がつかなければ、二人揃ってLCL化という結末が待っているのである。
いや、別のエリアに移動する時間を考えれば、試合時間はさらに短縮しなければならない。
戦いに勝ったのに死ぬなどという、間抜けな結末を迎えるのはごめんである。

(これ以上時間を浪費してたまるか……。プロレスごっこに付き合うのはもうおしまいだ!)

決着を急ぐギュオーは、拳を大きく振りかぶる。だがそれは、ウォーズマンに対してみせるにはあまりに大きな隙だった。

670カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:32:15 ID:Hjfhj94g
「もらった! マッハパルバライザー!」

ここぞとばかりに、ウォーズマンは温存していた大技を繰り出す。
高速回転しながらの突進により両の腕で相手の体を穿つ打撃技、マッハパルバライザー。
至近距離からの発動ゆえ充分に加速できず威力は半減しているが、カウンターで放ったがゆえにそれでも破壊力は充分。

「ぬあああああ!!」

攻撃のことしか考えていなかったためにバリアを張ることもままならず、胸を抉られたギュオーは苦悶の声をあげる。

(さあ、ここからは反撃の時間だ……。一気に勝負を決めさせてもらうぞ、ギュオー!)

痛みがギュオーを硬直させている間に、ウォーズマンは股抜きスライディングで相手の背後に廻る。
そしておのれの両手両足を全て使い、ギュオーの四肢をホールドした。

『こ、これはー! ウォーズマンの伝家の宝刀! 超人界の名門・ロビン一族に代々伝えられてきたとされる至高のサブミッション!
 パ ロ ・ ス ペ シ ャ ル だ ー!!』

興奮気味の中トトロの前で、ウォーズマンは容赦なく両手両足に込める力を強めていく。

「貴様相手に、ギブアップに追い込もうなどという中途半端な心構えは命取りになる。
 ギュオー、貴様の手足を破壊させてもらうぞ!」
『パロ・スペシャルが、さらにギュオーの体に食い込んでいくー! これはウォーズマンの勝利も時間の問題かー!』
「脱出しようとしても無駄だぞ。このパロ・スペシャルは、別名『アリ地獄ホールド』と呼ばれている。
 抜け出そうともがけばもがくほど、技はさらに極まっていくのだ!」

ウォーズマンの言葉を証明するように、彼の手足はさらにギュオーの体を締め付けていく。
だがこの状況においても、ギュオーはその表情に余裕を残していた。

「ククク……。アリ地獄ホールドだと?」
「なんだ……。何がおかしい!」
「アリ地獄にかかったのは貴様の方なのだよ、ウォーズマン!」
「何を言って……」

ウォーズマンがギュオーの言葉に異を唱えようとした、その瞬間。彼の体は、急激な圧力の増加により木の葉の如く吹き飛ばされていた。

「ハーハッハッハ! 私が重力使いであることを忘れていたのか?
 重力指弾だけが私の技ではない! 自分を中心に、重力波を全方位へ放射することも可能なのだ!
 相手に密着する技を選んだのが、貴様のミスよ!」

自らの技で大きく変形したリングの上で高笑いをしてみせるギュオーだが、その息は荒い。
自分にかかる負担も大きい技を使用したのだから、それも当然のことである。
だが、ウォーズマンのダメージはそれ以上に深刻だった。
ロープが絡まってリングアウトは避けられたが、それが些細に思えるほどの重傷だ。
至近距離から避けることも出来ずに重力波を受けたせいで、ダメージは全身に及んでいる。
そしてダメージで破損した機械部分が皮膚を突き破り、血とオイルを吹き出させていた。
超人としての驚異的な生命力がなければ、とうに死んでいておかしくないほどの状態である。
一撃。たった一回の攻撃で、ギュオーはウォーズマンの体をここまで破壊したのだ。

(くそっ、俺としたことが……。やつの実力を把握しきれていなかった……。まだ仕掛けるには早かったのか……!)

どうにか体を起こすウォーズマンの脳内には、後悔が渦巻いていた。
一瞬の判断ミスが命取りになることは、十分に理解していたはずだった。
だというのに、そのミスを犯してしまったのだ。全ては、ギュオーという男の器を計り損ねた自分の責任だ。

(だが……! まだ勝負は決していない! 正義超人が、悪に屈してたまるか!)

671カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:32:58 ID:Hjfhj94g
きしむ体を引きずり、ウォーズマンは改めてギュオーの前に立つ。
その体からは、未だ勝利を諦めぬ気迫の炎がみなぎっていた。
だがそんなウォーズマンの姿も、ギュオーの目には滑稽としか映らない。

「哀れだな、ウォーズマン。それほどの深手を負って、まだ私に勝てるとでも思っているのか。
 ならばこの私が直々に引導を渡し、そのわずかな希望を粉砕してくれる!」

醜悪な笑いを浮かべながら、ギュオーはウォーズマンに殴りかかる。
その拳を回避しようとするウォーズマンだが、脚へのダメージが回避運動を遅れさせる。

『あーっと! ギュオーの豪拳が、ウォーズマンの顔面に直撃ーっ!
 ボロボロのウォーズマンに、これはきつい! 勝負が決まってしまったかー!』

プラカードを掲げる中トトロの顔に、汗が浮かぶ。だが彼の予想とは裏腹に、ウォーズマンはギュオーの拳を受けてもしっかりと立っていた。
その代わり、その一撃はウォーズマンの象徴たるものを葬り去っていた。
ウォーズマンの顔面を覆う、漆黒の仮面。先程の重力波ですでにヒビが入っていたそれが、完全に粉砕されたのである。

「ほう……」

あらわになったウォーズマンの顔を、ギュオーはまじまじと見つめる。その顔に浮かぶのは、侮蔑という感情だ。
ひときわ目をひく、作り物めいた眼球。むき出しの基盤。密集した機械の中に組み込まれた、赤い筋肉。
ギュオーが目撃したウォーズマンの素顔は、目にしたものが十中八九嫌悪感を示すであろうグロテスクなものだった。

「なるほどな。貴様の仮面は、その醜悪な素顔を隠すためのものだったか」
「ああ、否定はしない」

嘲りの色を多分に含んだギュオーの言葉に、ウォーズマンは淡々とした口調で答える。

「たしかに俺が仮面を付けたのは、醜い素顔を衆目に晒すのがいやだったからだ。
 俺は自分の素顔を疎み、幼い頃からずっと素顔を隠して生きてきた。
 だが今となっては、俺の仮面はただ素顔を隠すためのものではない。
 貴様が砕いた仮面は、伝説超人(レジェンド)ウォーズマンとしての誇り。
 長年身につけて悪と戦ってきた、俺の体の一部だ。それを破壊したつけ、ただで済むと思うな!」

咆吼と共に、ウォーズマンは跳躍。ギュオーの顔面目がけ、跳び蹴りを放つ。
だがそのキックは、ギュオーの腕にあっさり防がれてしまった。

「貧弱だなあ、ウォーズマン! こんな蹴りでは、私を殺すのに100年かかるぞ!」

自信に満ちたセリフとともに、ギュオーは空中のウォーズマンに対し空いた片腕から重力指弾を飛ばす。
宙を滑る重力の弾丸は吸い込まれるようにウォーズマンに命中し、その体をはじき飛ばした。

「終わったな……」

勝利を確信したギュオーは、余裕の笑みをその顔に浮かべる。だが、その笑みはすぐに消え去る。
マットに伏したウォーズマンが、すぐさま立ち上がったのだ。

「終わっただと? 何を言っているのだ、ギュオー。貴様の相手は、こうして貴様の目の前に立っているではないか」
「貴様ぁ……」

今にも息絶えそうな無惨な姿でありながら、飄々とした台詞を吐くウォーズマン。
その態度は、ギュオーの怒りを掻き立てる。

「なぜだ! 貴様はもう、立っているのがやっとのダメージのはず。なのになぜ、そんななめた口がきける!」

激情のままに、ギュオーはウォーズマンへ幾度も拳を振るう。だが、ウォーズマンはボロボロの腕を盾にしてその拳を受け止める。
そのたびに彼の腕はさらに傷つき、赤い液体と黒い液体が飛び散る。それでも、ウォーズマンは一切苦痛を表に出さない。

672カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:33:30 ID:Hjfhj94g
「なぜ、か……。偉大なる正義超人の先人は、こんな言葉を残している。
 『常識では計り知れない奇跡を起こすのも、ひとえに正義のなせる業だ』とな。
 俺の心に正義がある限り、そう簡単に俺は倒れない。まあ、これは奇跡というほどのことでもないかもしれんがな」

それにあいつが起こす奇跡は、こんなものじゃない。
戦友のひょうきんな顔を思い描きながら、ウォーズマンは反撃のミドルキックをギュオーに叩き込む。
ギュオーの顔がわずかに歪むが、すぐにそれは憤怒に飲み込まれる。

「死にかけがえらそうに……! ならばその奇跡とやらで、このリヒャルト・ギュオーを倒してみるがいい!
 出来るはずもないがなあ!」

ギュオーの放った重力波が、今一度ウォーズマンの体を吹き飛ばす。
抵抗も出来ぬまま宙を舞ったウォーズマンは、コーナーポストに叩きつけられマットに沈んだ。

「これはおまけだ!」

さらにギュオーは、重力指弾を連射。グロッキー状態のウォーズマンの体を、さらに蹂躙する。
ウォーズマンの皮膚が裂け、肉が抉られる。だが、彼の心には未だ闘志が燃えさかっていた。
痛みなど、苦痛など、心を折る要因にはならない。ウォーズマンはただひたすらに、おのれが勝つ方法だけを考えていた。

(どうする……。やつは強い。俺は傷を負いすぎている。さらに、時間もない。
 冷静に分析すれば、俺の勝ち目などないに等しい。だが、ゼロではない。
 俺に残された全ての力を、一回の攻撃に込めれば……)

ふいに、ウォーズマンはリングサイドに置いていた自分のデイパックに手を突っ込む。
そして、そこから粒状の何かが入った小瓶を取り出した。
迷いのない手つきで小瓶の蓋を開けたウォーズマンは、取り出した中身をリング外へ放り投げる。

「……どういうつもりだ?」

いぶかしんだギュオーが思わず攻撃の手を止める中、ウォーズマンはさらにペットボトルを取り出し中の水を地面に撒く。
すると、地面から猛烈な勢いで数本の木が生えてきた。突如出現した木は、2メートルほど伸びたところで成長を止める。
そう、ウォーズマンが撒いたのは彼と同じく正義超人であるジェロニモの所持物である、タムタムの木の種。
わずかな土と水さえあれば成長するこの種を、ウォーズマンはリングのすぐそばに育てたのだ。

「わけがわからん……。いったい何を考えている、ウォーズマン!」
「ふむ、この程度の水の量ではたいして伸びないか……。だが、これだけの大きさがあれば充分だろう。はあっ!」

ギュオーの問いかけを無視し、ウォーズマンはタムタムの木に向かって跳躍した。

「トリャトリャトリャトリャー!」

さらにウォーズマンは、蹴りの連射を木に浴びせる。頑丈なタムタムの木もこれには耐えられず、次々と細かく砕け散っていった。

「さっきからなんなんだ……? 死を目前にして、気でも触れたか?」

ウォーズマンの行動が何を意味するかわからず、ギュオーは怪訝な表情を浮かべる。

「あいにくだがギュオーよ、俺はいたって正常だぜー!」

ウォーズマンの奇行は、まだ終わらない。彼は適当な大きさの破片を手に取ると、手刀でそれをさらに削っていく。
やがて、ウォーズマンの手の中には8本の木串が生み出されていた。
そして彼は、その串を自分の手の甲に突き刺す。

「強度に不安はあるが……。これで即席ベアークローの完成だ」
「ベアークロー……? ああ、そうか。貴様はそんな武器を使うのだったな、ウォーズマン。
 手元にない武器を、即興で再現したというわけか。まあ、そんな付け焼き刃でこの私に勝てるとはとうてい思えんがな。
 さあ、来い。今度こそ引導を渡してくれる」

673カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:34:26 ID:Hjfhj94g
余裕綽々といった様子で、ウォーズマンを挑発するギュオー。それに対し、ウォーズマンは両手を高々と上げながら答える。

「言われなくてもいくさ……。そして、これで終わらせる」
『ま、まさか! あの体勢はー!』

中トトロは、ウォーズマンが何をしようとしているのか気づいた。
超人レスリングに魅せられた彼がチェックした、過去のウォーズマンの試合。
その中に、今とそっくりのシーンがあったのだ。

「俺の超人強度は100万パワー……。ベアークロー二刀流で200万パワー!」

ウォーズマンがコーナーポストを蹴り、大きく跳躍する。

「いつもの2倍のジャンプが加わって200万×2の400万パワーっ!」

空中で、ウォーズマンが改めてベアークローを構える。

「そしていつもの3倍の回転を加えれば、400万×3の……」

ウォーズマンが、きりもみ回転をしながらギュオー目がけて降下を始める。


「1200万パワーだーっ!!」


一体いかなる原理なのか。高角度でリングへと突き進む漆黒の超人の体が、まばゆい光を放ち出す。
その姿は、まさに――

『あ〜っと、ウォーズマンの体が1200万パワーの光の矢となったーっ!!』

そう、その勇姿は天空から放たれし聖なる矢のごとし。一本の矢と化したウォーズマンは、邪悪を滅ぼすべくギュオーに狙いを定めて前進する。

(な……なんだこれは!)

ギュオーは、大きく目を見開いて驚愕をあらわにしていた。その様子に、つい数十秒前まで満ちあふれていた余裕はまったく残っていない。
ギュオーの五感は、ことごとく警告を放っていた。あの矢に貫かれれば、自分は死ぬと。
死にかけの生物が絞り出したとは思えぬ莫大なエネルギーに、ギュオーは戦慄していた。

「ふざけるな……! 勝つのはこの私だ!」

ギュオーは雄叫びと共に、残された体力を振り絞って重力のバリアを展開する。
そのバリアに、ウォーズマンは真っ向から激突。それでも、光り輝く竜巻の勢いは止まらない。
バリアを突破すべく、ひたすらに回転を続ける。

「突破など……させてたまるかあああああ!!」

ギュオーは、こめかみの血管が切れそうなほどの気迫をバリアに込める。もはやここまで来れば、精神力が頼みの綱である。
その気迫が功を奏したのか、バリアは少しずつウォーズマンを押し返していく。
バリアと直接接している即席ベアークローはすでに過半数が折れ、腕そのものも滅茶苦茶に破壊されている。
だが、それでもウォーズマンは諦めない。

「出し惜しみなどしていられる状況ではないな……。キン肉マンよ、力を貸してくれ!
 火事場の……クソ力ーっ!」

674カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:35:16 ID:Hjfhj94g
「火事場のクソ力」。その言葉を口にした瞬間、ウォーズマンから放たれる光がさらに輝きを増した。
火事場のクソ力とは、何もキン肉族王家の専売特許ではない。全ての超人、いや、全ての生き物が少なからず似たような力を持っている。
ただキン肉族王家の火事場のクソ力は、他者のそれより並はずれて発揮されるパワーが大きいというだけなのだ。
ウォーズマンもかつて、バッファローマンとの試合で一度だけ火事場のクソ力を使用していた。
だが、彼にとって火事場のクソ力とは諸刃の剣であった。
ウォーズマンの機械の体には、火事場のクソ力はあまりに負担が大きすぎるのだ。
それ故ただでさえ30分というリミットがある彼の戦闘時間が、さらに短縮されてしまう。
あまりに大きなデメリット。それを危惧してウォーズマンは、バッファローマン戦以降火事場のクソ力を封印した。
しかし彼は、ギュオーという強敵に勝つためその禁断の力を解放したのだ。
ただでさえボロボロだったウォーズマンの体は、さらなる負荷がかかったことでますます崩壊していく。
体の至る所からはスパークが起き、肩口からは黒煙が吹き出している。それでもウォーズマンは、前に進むことをやめない。
もはや彼は、己の命を捨てることすら覚悟していた。たとえ自分の命と引き替えにしてでも、ギュオーは倒さなければならない。
ウォーズマンは、ギュオーをそれほどまでの脅威と認識していたのだ。

「うおおおおおお!!」

気合いの雄叫びをあげながら、ウォーズマンはバリアに突っ込み続ける。
限界を超えた即席のベアークローが、砕け散る。さらに指が、手が、吹き飛んでいく。
それでもなお、ウォーズマンは止まらない。

「両手がなくとも、スクリュードライバーは決められるわー!!」

先端を失った両腕で、ウォーズマンはバリアに挑み続ける。そして、その執念はついに結果を引き寄せた。
傷つき回路と骨と肉とがむき出しになった腕が、バリアを突き抜けたのだ。
それに続き胴が、脚が、バリアの向こう側へと抜けていく。

「ば、馬鹿な! 私のバリアがこんなやつに……!」

最後の砦を突破され、もはやギュオーになすすべはない。
立ちすくむ彼の頭上から、光に包まれた正義の鉄槌が振り下ろされる。
勝った。ウォーズマンは、心の中でそう確信していた。


だが、現実は非情である。

『あーっと! なんということだー! ウォーズマンの決死の一撃は、ギュオーの肩を抉っただけだー!!』

あまりにも強大なバリアとの激突。それはスクリュードライバーの軌道を大幅にずらしていた。
そのために心臓を狙った一撃は大きく狙いを外し、ギュオーの肩に命中することになったのである。

「はーっはっはっは! 自慢のコンピューターも最後の最後で計算が狂ったようだな!」

勝利の高笑いと共に、ギュオーは右の拳をウォーズマンの腹に叩き込む。
すでに裂傷だらけだったウォーズマンの体は、拳の侵入を易々と許してしまう。
拳は勢いそのままに背骨を粉砕し、背中から飛び出した。

「さんざん苦しめてくれたが……。勝ったのはこの私! リヒャルト・ギュオーだ!」

ウォーズマンを貫いた腕を、ギュオーは乱暴に振り回す。
もはやぴくりとも動かぬウォーズマンの体は勢いに吹き飛ばされ、天井に設置されたケージの中に叩き込まれた。


神社リング・シールデスマッチ
勝者:リヒャルト・ギュオー

675カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:36:13 ID:Hjfhj94g
◇ ◇ ◇


終わったなあ……。
戦いが終わったリングの上で、僕は試合の余韻に浸っていた。
ギュオーは禁止エリアが解除されるとすぐに、ウォーズマンの荷物を回収だけして大急ぎで走り去っていった。
あいつの身体能力なら、F-5そのものが禁止エリアになる前に脱出できるだろう。
まあ、途中で力尽きなければだけど。さっきの戦いで、ギュオーもほとんど体力を使い切ったはずだからね。
さて、あと2分か……。時刻を確認して、僕は小さく溜め息を漏らしていた。
あと2分で、19時。ここが禁止エリアとなる。そうなれば、檻の中で眠っているウォーズマンの亡骸もスープになってしまう。
僕としては偉大なる超人レスラーの死体ぐらいは残してあげたいんだけど、それは叶わぬ願いだ。
僕の小さな体じゃ、彼の体をタイムリミットまでにエリアの外まで運ぶなんて出来やしない。
僕はもう一度溜め息を漏らす。
その時だった。僕の頭上から、ガタリと物音が響いたのは。

え……?

僕は、自分の目を疑った。てっきり死んだと思っていたウォーズマンが、動いていたのだ。
彼はケージから出ようと、無惨に傷ついた体を閉じた出入り口にぶつけていた。
たしかにもう試合は終わっているのだから、彼がケージから出ても何ら問題はない。
だけど、出たところでどうにもならない。あと2分……いや、1分半でエリア外まで移動するなんでいくら超人でも不可能だ。
たとえ移動できたとして、それからどうする。両手を失い、腹に穴まで開けられた体で、この先のバトルロワイアルを生き抜いていけるわけがない。
そんなこと、ウォーズマンほどの超人ならわかっているはずだ。なのに、なんで。

『どうして君は、こんな絶望的な状況でも諦めないの?』

思わず、僕はそんなことを書いたプラカードを掲げていた。
それにウォーズマンは気づいてくれたらしく、生と死の狭間にいるにもかかわらず答えを返してきた。

「悪に敗れ……ただそのまま黙って倒れているやつなど正義超人とは言えん!
 たとえ生き残る可能性が0.1%だろうと、悪に屈せず最後まで戦い続ける。
 それが……正義超人だろう!!」

僕に向かってそう叫んだウォーズマンは、ボロボロの体だというのにすごく格好良く見えた。
ウォーズマンは、なおもケージに体当たりを続ける。
けど、神様は彼にこれ以上の奇跡をもたらしてはくれなかった。
やがて、時計が19時を示す。それと同時に、ウォーズマンの体はスープとなって溶けた。
それは数々の激闘を戦い抜いてきた伝説超人としては、あまりに静かであっけない最期だった。

もう、ファイティングコンピューターはこの世にいない。だけど、僕は彼のことを忘れない。
彼の最期を見届けた唯一の存在として、僕はずっと彼のことを覚えていよう。
この中トトロが、ウォーズマンという勇気ある超人が生きたという証人だ。
本拠地へ帰還する僕の肩には、黒く輝く金属片が担がれていた。
試合中に砕け散った、ウォーズマンの仮面の破片だ。
これを持ち帰ることに、深い意味はない。
ただ、ウォーズマンを弔うために形のあるものが欲しかった。それだけの話だ。


◆ ◆ ◆


LCLとなりその命を散らす寸前、ウォーズマンは幻を見た。
それは己が伝授した秘技「OLAP」で万太郎を破り、チャンピオンベルトを手にする愛弟子・ケビンマスクの姿だった。
その光景はウォーズマンの願望が見せた、単なる幻覚だったのか。
あるいは運命の女神が気まぐれで見せた、未来の光景だったのか。
それを知る者は、誰もいない。


【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ 死亡】

676カッコつけた言葉じゃない強さを見せてくれ ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:37:09 ID:Hjfhj94g


【F-5周辺/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、左肩負傷、ダメージ(大)、疲労(大)
【持ち物】支給品一式×4(一つ水損失)、参加者詳細名簿、首輪(草壁メイ) 首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、
     毒入りカプセル×4@現実、博物館のパンフ 、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、
     クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー 、クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、
     日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。その際、主催者も殺す。
2:キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。

※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。

※ギュオーがどの方向に向かったかは、次の書き手さんにお任せします

677 ◆NIKUcB1AGw:2009/10/29(木) 21:41:06 ID:Hjfhj94g
以上で投下終了となります
どなたか、本スレへの代理投下をお願いします

それから容量がwiki収録路に分割になるか微妙なところなので、
もし分割になった場合は>>671の「終わったな……」からを後編としてください

678 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:01:33 ID:wOPEoI2k
規制に巻き込まれたようなので、自分もこちらに仮投下します。

679鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:02:34 ID:wOPEoI2k


さわわっと、夜風が草根を分けそよぐ。
草原に群ぐ雑草たちが、陽光の名残を惜しんでさんざめき。
明日の我が身を鑑みることもなく、ただただ光を求めて揺れる刹那草。
この殺人ゲームを模すかのように、今を生き足掻いていて美しい。
そんな草叢を掻き分け、夜闇に熔けて強殖装甲が駆ける。
草原を、抜ける。次なるフィールドは水辺。強化された脚力で泥底を踏みしめたその瞬間。
異形が、割れる。甲殻を思わせる鎧が弾けるように外れ、"中身"が露出していく。
泥と藻に足を取られ、"中身"は転倒した。押し寄せる水に、全身が翻弄される。
熱を、寒気を、怖気を、良識を、後悔を、内外あらゆる障害物を排除し、装着者を守ってきた鎧が、今はもうない。
そうして"中身"は無防備だった。肉体はもちろん、精神すらも、磨耗しきっていた。
辛うじてそんな"中身"に存在意義と存在理由を与えていた強殖装甲。
無機質なそれは、自己を否定する者に恩恵を与える情など持ち合わせない。
不幸と失態の果てに、全てを拒絶した"中身"は。
遂に、己の『根』をも手放しつつあった。

「う……ごおええええ!!! ごえええええ!!! 」

嘔、吐。黄色じみた血の混ざった吐瀉物が、水面を汚して広がって。
たった今まで仮面に覆われていた顔からは苦痛しか読み取れない。
体内の全ての水分を吐き出した、と思えるほどの穢れを垂れ流しながら、"中身"は泣いていた。

「――――●∴→!! φ〆!!!」

のたうちまわり、仰向けになった"中身"が激しく痙攣しながら声にもならない雄叫びを飛ばす。ズキン、ズキン。
はて、"中身"の頭にズキン、と響くもの。それは痛み? 心の痛み? いや、"中身"の心は既に痛みを感じない。
何故なら"中身"は壊れているから。この場の仲間を見捨て、この場の肉親を見捨て、日常へ戻る事だけを求めてきた。
そう、"中身"はその実最初から――この島に降りたった瞬間から、その為だけに生き、殺してきたのだ。

680鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:03:12 ID:wOPEoI2k
                 .....
(そうだ……俺は、最初に何をした!?)

気付いた。"中身"は、自分の『根』に、今始めて目を向けた。
この殺し合いの舞台に落とされ、"中身"が最初にとった行動。
それは、他者の身を案じる事ではなく、自分の武器の確認だった。

(SOS団の仲間を救う? その為にハルヒとここで仲良くなった奴を殺して長門の親玉を満足させる!?
 うっかりハルヒを殺しちまって、ええと次は何だっけ? そうそう、長門に皆を生き返らせてもらって、
 都合よく記憶を消してもらって万々歳! ああ、そんな感じだったそんな感じだった、俺の思考ッ!!!
 仕方ないよなぁ、そういう思考なら俺以外の奴を皆殺しにしてもいいんだ、仕方ない、仕方なかったよなぁ。
 って馬鹿か! 死んだ人間は生きかえらねえし、長門一人ならまだしも、草壁のおっさんがいるんだぞ、
 殺し合いの結果を無意味にする願いなんて叶えるわけがないだろ! はっきりしない口約束だけで、
 なんで俺は信じちまったんだ? 信じなけりゃ、それで終わりだったからさ! ああ、希望に縋りついて何が悪い!?
 畜生、痛え、痛くねえっ! こんなもん、ハルヒに比べりゃ全然痛くねえだろ、多分。って俺誰に話してんだ?
 【俺】か? 【俺】って誰だよぉぉぉぉぉっ!!! そんな奴、どこにもいねえよ! 俺は一人! 生き残るのも一人!
 だからって、何で殺しちまったんだろうな? そんなの決まってんだろ……生き残りたかったからだよ……。
 怪物がいっぱい居るこんな島で生き残るには、こっちから攻めるしかないんだ! 俺は力を手に入れたんだから!
 でも、もうガイバーもなくなっちまった! スバルを殺したのがそんなに堪えたのか? もう何人も殺したのになぁ、
 おかしいなぁ……はは、はははは……ハルヒィィィィィィィーーーー!!!! ハルヒィィィィィィィーーーー!!!!)

激しく流れる、まとまらない、指針のない思考で痛みが麻痺し始める。
鎧を失った"中身"には、狂気、恐怖、憐憫、忘失志願、自己肯定etcetc...数多の感情が飛来していた。
力によって抑制され、押さえつけられてきたいわゆる人間らしい感情が、窯窪にくべられた様に燃え上がる。
それが一段落着くと、次は一旦棚上げされた痛みが帰ってきた。
痛みの出所は、ウォーズマンのスクリュー・ドライバーを喰らった左頭部の挫傷。
そのダメージの回復中に起こった、"中身"の揺らぎ。仲間と肉親の死による、大きな揺らぎ。
心が壊れていても、"中身"には変えられない過去があり、変わらない精神がある。揺らぎも無理ならぬ事。
だが、その揺らぎの代償は大きい。途中で回復を中止された挫傷からは、じわじわと血が流れ始めていた。
血は"中身"の目に入って、視界を赤く染めていた。仰向けに倒れた"中身"は、四肢で水の流れを感じながら、
口元にたどり着いた血を舌で拭う。味を感じているのかいないのか。"中身"は無表情のまま、空を見上げる。

「星が、星が見えないぞ……長門、そりゃお前は天体観測なんてする必要ないだろうがな、風情って物がなぁ……」

うわ言のように呟き、ふらりと立ち上がる。おぼつかない足取りで水場から離れて、草原に戻る。

681鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:03:49 ID:wOPEoI2k


「まったく……なんで、こんな事になったんだろうなぁ……一日足らずで人間ってここまで変われる物なのか?」

自分が何をしてきたのか。"中身"は、それを無性に誰かに話したい気分になっていた。
がさり、と背後から物音。今はガイバーならぬ身、気付かなかったのは当然。
背後から近寄ってくる物がなんであれ、"中身"に抗う術はない。
だから、"中身"は"振り向いた"。この島に来てから恐らく初めて、何の計算もなしに、自然に。

「キュックルー!」「ガウウ……」「キュア〜♪」「ヴォー!」『Mr.キョン……』

「よりにもよってお前らかよ……」

『キョン』。
それは、"中身"の名前ではない。
それでも、今現在の"中身"にとっては。

『……キョ、ン? な、何なのよその変な格好はー!!!』

最も心地よい、呼ばれ方だった。

「ヴォー?」

「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」

682鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:04:32 ID:wOPEoI2k




「……いいよな、お前らは……何も考えてなさそうでさ……」


少年……ケリュケイオンが言うには、キョンと言うらしいが……キョン少年は、ぼそりとそう呟いた。
全く、人型種族ってのはいつもこうだな。自分達が最も賢いと思っていやがる。
まあ、ライガー族の俺からすれば賢さなんぞ二の次。
忠義と敵を食い破る牙さえあれば生きていける事が、俺達の誇りだ。
さて、俺の御主人様はどうこいつに接するのかね……?

「ヴォー」

おいおい……また見逃すつもりか。
今までの流れから見ても、こいつが御主人に害をもたらす存在であることは明らか。
本来ならこの場で俺がこのキョンとやらの首を噛み千切っているところだ。
だが、この島では俺は(恐らくは、ピクシーのババアも、フリードさんもだろうが)、
御主人様の意志に沿う行動しか取れない。俺が御主人様の為を思っても、命令があるまで動けない。
そして御主人様は今まで、自分の身に危険が迫っても俺やババアやフリードさんを矢面には立たせなかった。
その優しさには胸を打たれるが、それでは何故俺達を召喚したのか分からないではないか。
今のところ賑やかしとしてしか活動してないぞ、俺達……。別に戦いたいわけではないが、俺もあと数時間の命。
どうせ死ぬならこの命、せめて御主人様のために燃やし尽くしたいものだが……。

『Mr.キョン。貴方を追って温泉から飛び出してきたMr.ケロロから話は聞きました。今すぐ我々と共に……』

「どの面下げて戻れってんだ? 俺はスバルを殺した……」

『Ms.スバルは死んでいません。マッハキャリバーが身を呈して守ったそうです』

「……そうかよ、まだあいつを戦わせたいってわけか……せっかく楽にしてやろうと思ったのに」

『どうやら錯乱して起こした行動ではなかったようですね。それならばなおさら、温泉に出頭するべきです。
 貴方はMs.高町達に裁かれなければならない。このまま人殺しを続ける事は、貴方にとってよくない事です』

「いや。もう、俺は戻れない」

683鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:07:16 ID:wOPEoI2k

ケリュケイオンの野郎が、キョンに話しかける。そうそう、このキョンが温泉から尋常ならぬ様子で飛び出してきて、
皆で何事かと温泉の前まで向かった時にあの旨そうなカエルが飛び出してきて、俺達に一部始終を説明したのだ。
しかしこのデバイスって連中は何故俺達と違って共通語が喋れるのだろう。動けないからか?
マッキャリ君や一口サイズのボインちゃんも喋れてたよなぁ……いいよなぁ……御主人様の言葉は分かるが、
こっちの言葉が通じてるのか分からないのは地味にやり辛いのだ。って、そうだった! コイツ……キョン野郎!

「ガウガウ! ガガウ!(てめえよくも貴重なロリ巨乳を殺してくれたなぁ! 俺はボインちゃんが大好きなんだよ!)」

「吼えるなよ……俺はお前らとは違うんだ……今から話すよ、俺がやってきた事を。聞いてくれ……頼む……」

全く、言葉が通じないのは不便だ。誰もお前の言い訳なんぞ聞きたくないってんだ。
罪悪感を感じてるならさっさと自殺でもなんでもしやがれ、この災害野郎。
と、御主人様が俺の方を見て、ヴォーと鳴く。……ああ、ボインちゃんを殺したのはコイツじゃないのか。
あのカエルの慌てた口ぶりじゃコイツのせいでボインちゃんとマッキャリ君が死んだって印象だったが……。
御主人様には、他者の感情を深読みする力があるのかもしれない。
だからか、御主人様は俺に大人しくキョンの話を聞くように、ともう一度短く鳴いた。

「俺はここに来てからすぐ、男の子を殺した。大人しそうな、中学生くらいの子だったよ。
 軍曹とか姉ちゃんとか、死に際に言ってたなぁ……殺した理由は、ほら、覚えてないか?
 最初にルールを説明したあの女の子。あの子、俺の仲間なんだよ。楽しくやってた、仲間だったんだ……。
 涼宮ハルヒ、古泉一樹、朝比奈みくる、それとあの長門有希。SOS団、なんてもんを作ったりして、
 学校で本当に仲良くしてたんだぜ? でも、ハルヒって奴にはちょっとした不思議な力があってな。
 俺以外のメンバーはそれを調べるためにハルヒに近づいてたんだ、最初はな。
 でも、あいつの無茶苦茶に振り回されるうちに、俺達は本当に"団"になってたと思うんだよ。
 だから長門も、目的……ハルヒがこういう舞台に巻き込まれてどういう反応をするかって事だと思う……それをさ、
 その目的さえ達成すれば、俺達を元に戻してくれると思ったんだ。笑えるだろ? 笑えよ、アクセサリー」

『……』

「次に俺は、妹を殴った。運悪く出会っちまってさ。で、そのバチが当たったのか、ナーガっておっさんに負けた。
 で、その後に、肝心要のハルヒを殺した。本当はヴィヴィオとかって子供を殺して、ハルヒを刺激しようとしたんだ。
 長門の目的の為に、な。でも、ハルヒは死んじまった。だから俺は……参加者を皆殺しにして、優勝して長門達に
 全部元通りにしてもらおうと決めたんだ。最初は俺自身は日常に戻るつもりはなかったんだが、
 雨蜘蛛やナーガに何度も負けたり、土下座したりしてるうちに、俺にも"生きたい"って気持ちがある事に気付いた」

684鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:08:28 ID:wOPEoI2k

『虫のいい話ですね。死者の蘇生? そんな世迷言を本気で信じていて、しかも自分も生きたい、と?』

「アクセサリーに説教されるようじゃ、俺もいよいよだな……。ああそうだ、白状するよ。俺は、帰りたかった。
 ハルヒのためだ、みんなのためだって口では言ってたし頭でも無理矢理そう思ってたが、本当はきっと、
 あの日常に帰って、何もかもを忘れたかったんだよ、そんな甘っちょろい考えだったから、【俺】だの夢だの、
 くっだらねえ現実逃避をうじうじ続けて、目的も手段もダメにしちまったんだろうなぁ……。
 でもよ、俺は何で責められなきゃいけないんだ? 俺はお前らみたいな戦いが日常の奴等とは違う、
 まともな人間だったんだよ。いきなり殺人鬼になんてなれるわけないじゃないか。ヒーローなんてもっと無理だ。
 だから俺はショウやスバルを偽善者と呼んで見下し、ナーガのおっさんには"様"をつけて服従した。
 芯のある奴を、真っ直ぐ見れなかったんだ……我ながら、情けないって思うよ。もう嫌だ……辛い……」

『自分を客観視することは更正への第一歩です。しかし貴方はまだ本当の意味で自分に向き合っていない。
 貴方がどれだけの心痛を感じていたかは理解しましたし、貴方の行動の動機も大方分かりました。
 しかし、貴方が殺した人にはそんな事は問題にはならない。貴方は現実に裁かれなければならない』

「現実なんて糞くらえだったよ。普通に考えれば死んだ人は生き返らないし、こんな事をした長門が全部を元通りにして、
 更に元のSOS団に戻るなんてことはありっこないって、最初ッから分かってはいたさ。でもそれを認めたら、
 俺には何も出来なかった。ナーガのおっさんを巨人殖装で殺したときに、長門に会ったんだ。その時、
 長門は俺に対して特に感情を見せなかった。いや、普段から感情を見せないのが普通な奴なんだが。
 それでも俺には、あいつが変わっちまったことくらいは分かる。それでも、もう戻れなかったんだ。
 その後、長門が俺の妹を殺したって分かってから、そこで初めて、長門の変化を実感した、そう思う。
 俺はもう何人も殺した。全部元通りになる、なんて馬鹿げた夢も捨てた。もうバトルもロワイヤルもないんだよ……。
 だからって死ぬのは嫌だ。殺すのも、うんざりだ。全部忘れて元の世界に戻れないなら、俺はどうすればいいんだ?
 もう、後の事を考えないで妄想レベルの希望にだけ進むなんて事は出来ない。自分の本心に気付いちまったからな」

『確かに、死んだ人間は蘇りません。貴方自身が殺したというMs.涼宮も。しかし、死者は無価値ではない。
 貴方からMs.スバルを守って死んだマッハキャリバーが決して無価値ではないように。
 Ms.涼宮も、親友だった貴方に今のような醜態を晒して欲しいとは思わないでしょう。
 死ぬのも殺すのも、現実逃避さえも嫌だというのなら、貴方はさながら悪夢のように彷徨うしかない。
 死んでいても生きていても同じ、無価値な存在になる。それはとても悲しいことです。だから、私達と共に来なさい。
 Ms.長門達に逆らい、勝利しましょう。そして貴方は仲間のいない貴方の世界に戻り、貴方の世界の裁きを受けなさい。
 それで初めて、貴方が殺したMs.涼宮達に、貴方は顔向けが出来る様になる、と私は判断します』

「そういう異世界じみた考えとは相容れないってんだよ……。 俺は普通の人間だと言ってるのが分からないのか?
 俺の生きてきた人生には、殺し殺され殺しあうなんてイベントはなかった。だからこそ、人を殺すってのがどれだけ
 おかしくて、許されないことかっていうのが分かるんだよ。俺はもう、お前たちの側にはいけない。
 俺は人を殺した。人を殺したんだよ……。お前らみたいな、戦いに明け暮れてるヒーローワールドの住民には
 分からないだろうがな、人間が人間を殺すってのは、普通の感覚だと在り得ないんだ。だから、俺ももう在り得ない。
 俺はもうどこに戻れないしどこへも行けないんだ。無価値な存在? ああそれでいい、それでいいからほっといてくれ。
 スバル達に伝えてくれ、俺にはもう構わないでくれってな。俺はもう疲れた。もう何も考えたくない」

『……』

685鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:09:09 ID:wOPEoI2k


川にゲロが流れていくのを見てもらいゲロしそうになってたら、会話が途切れた。っていうかセリフ長えな、オイ。
キョンの野郎、「僕はもう疲れたからほっといて!」って言うのにどれだけかかってんだよ。
あとケリュケイオン、機械仕掛けの癖によく喋るなぁ、ウゼえ。御主人様の方を見ると、悲しそうな顔でキョンを見ている。
御主人様にこういう顔をさせるだけで本来なら死刑確定なんだが、命令がないのでストレスが溜まるぜ。
会話にも参加できないので、余計にゲージが上がるって感じだ。今なら大技が出せる、気分的に。
大体何だコイツ、のほほんとした世界にいた事が免罪符みたいな口を聞きやがって。
俺の勘では、こういう情けない声の奴は俺達の世界にいても凶悪なワルモンになっていたに違いない。
と、ケリュケイオンが再びキョンに話しかけた。こいつの声の調子は常に一定だが、やや不快なニュアンスを孕ませて。

『わかりました。Ms.高町たちにはその旨伝えます。スバルは貴方を更正させられると思っていたようですが、
 客観的に見てそうは考えられませんので、貴方の申し出を拒否する理由はありませんから。……ここからは私見、
 デバイスである私が私見など、本当は言いたくないのですが、あなたが我々に二度と近づかないよう、あくまで
 Ms.高町たちの為に申し添えます。私もインテリジェント・デバイスとしての機能上、多くの悪党と相対してきましたが、
 貴方ほど美点を見出せない醜い人間は滅多に見ません。自分の行為を恥じ、後悔している風に振る舞いながら、
 それを改めも戒めもしない。それは、貴方が貴方の心の平穏の為に後悔を装っているだけだからです。
 貴方は悪党ですらありません。貴方の言うような普通の人間でもありません。要らない人間、まさしくそれです。
 Mr.キョン、さようなら。今後もし貴方に出会っても、私やMs.スバル達が貴方に関心を寄せることはないでしょう』

「う……」


キョンがたじろぐ。全てを否定しても、自分が否定されるとこれか。コイツ、本当に見所ねえな……。
多分ケリュケイオンは自分のマスターの同僚に危険が迫るのを避けるために、
機械的な動作でこういう毒舌を吐いているんだろうが、大体俺も同じ意見だった。ババアやフリードさんもそうだろう。
が……我らが御主人様は、違う。

「ヴォーヴォーロォーーー!!!」

『Mr.troll……? 何をおっしゃりたいのですか?』

686鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:09:54 ID:wOPEoI2k

翻訳もしてやれねえが、簡潔に言うとこういうことだよ、ケリュケイオン。
『それでも、放っておきたくない』。御主人様は既に自分が守ろうと思っていた子供を何人か失っている。
ここでキョンを放っぽり出せば、メイやサツキ、シンジの二の舞は確定だからな。
こんな無意味なこいつを見捨てない、それが俺達の御主人様なんだよ、ケリュケイオン……。
お前もそのうち、理解してくれるだろう。少しづつだが、俺達の意思を汲み取れるようになってるみたいだしな。
さて、御主人様の意向は分かった。御主人様への忠誠心と、キョンへの嫌悪感を天秤にかける。
忠誠心は俺の心のテーブルをぶち破り、地球の反対側まで沈んでいった。当たり前だ、この小僧と御主人様を
比べること自体が不忠。俺は御主人様の方を見て、小さく唸る。御主人様は少し驚いた顔をしながらも、
ニカーッと微笑んで、俺に命令(御主人様からすればお願い、だろうが……)を下さった。

『Mr.ライガー……?』

「ガウ、ガーウ……(あばよ、ケリュケイオン、ババア、フリードさん……いつか必ず再びあなたの御前に、御主人様)」

俺が、目が死にきったキョンの目の前まで歩き、背に乗るように促す。
キョンは驚いたように一歩後ずさったが、御主人様を見て無言で首を垂れ、俺の背に乗った。
不快だが、感じる体重にさえもう生気がない。惨めな野郎だ。
消える瞬間に御主人様の側に居られないのは、無論辛い。だが、御主人様が俺を信頼して、任せてくれたのだ。
もちろん本当は御主人様自身がキョンを運びたいのだろうが、せっかく仲間と会えたケリュケイオン達をそれに
付き合わせるのはどうか、と考えておられた。だから、俺が単独でコイツを運ぶ役を買って出た。
御主人様は、キョンがきっといつか改心できると信じている。善の極地におられる御方だからな。
その是非はどうでもいい。俺は忠義を果たすのみ、ライガー族の誇りにかけて、キョンを落ち着ける場所へ運ぼう。
俺が消えるまで後数時間、それでどこまでコイツを運べるか。御主人様の命令では、なるべく安全な場所がいいらしい。
御主人様の身の安全を考えるなら禁止エリアに突撃するのがいいのだろうが、俺が従うのは御主人様の御心。
俺は走り出す。決して振り向かない。御主人様が俺に求めたのは、劣情と隷属ではなく、友情と共生。
友達が泣く姿など、御主人様は見たくはないだろう。御主人様――どうか、御無事で。 最後の忠義、御覧あれ。
いや――最後はあえて、こう呼ぼう!


さらば、我が友!

687鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:11:27 ID:wOPEoI2k





狼みたいな獣の背に乗って、視界が激しく変わっていく。
ガイバーでもないのに、このスピードはキツイ。あの怪獣も、余計な気を回してくれたもんだ。
もっとも、もう俺には今までみたいに偽善者の気遣いを蹴って悪態をつくような余裕もなかったんだがな。
殺し合いに乗ってもどうせ全て元通りになんかならない、と認めちまった以上、もうそんな意地を張る意味もない。
襲われたら抵抗するだろうし、朝倉辺りが襲われてたら助けるかもな。でも、自分からはもう戦う気はない。
で、利用できる物は全部利用するだけだ。今までやってきた事を考えれば、そんな物はもうほとんどないだろうけどな。
狼をチラリと見ると、なんか泣いていた。泣くほど嫌なら乗せなければいいのにな。可哀想に。

「採掘所は……ダメだな、掲示板の書き込みで古泉を裏切った以上、もうノコノコいけるわけもない」

「ガウ」

俺が操縦しているわけでもないが、そう言うと狼は多少進路を変えたように感じた。
それ以外にどこか行きたくない所、行きたいところを思い浮かべてみたが、特に浮かばなかった。
強いて言うなら、ハルヒの死体の場所だろうか。放置されているなら、埋葬したい。
もう、誰も殺さなくていいんだから、それくらいの時間は悠々取れるだろう。
まあ、この狼がたまたまあの学校にたどり着いたりしたら、そうしようかな。
その後は……ハハ、何も思い浮かばねえや。誰にも会わなけりゃ、それが一番なんだろうなぁ……。

あれ?

それだと、死んじゃうのか。オレンジジュースになって。
死にたくねえよ。どうすりゃいいんだ? 死ななくても、どうにもならないんだろうけどな。
あーあ。誰か、俺を導いてくれよ。『団長』とかって腕章をつけた、ポニーテールが似合う無軌道凶悪女子高生とかさ。
全くどうして……。

「どうしてこんなことになったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!! 」

答えてくれる奴は、もちろんどこにもいなかった。


【G-5 草原/一日目・夜】
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(中)、疲労(大) 無気力
【持ち物】デイパック(支給品一式入り) ライガー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
【思考】
1:もう何も考えたくない。
2:誰か俺を導いてくれ。
3:もし学校に着いたら、ハルヒを埋葬する。
【備考】
※「全てが元通りになる」という考えを捨てました。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※あと3〜4時間程でライガーは消えます。ライガーはそれまで『キョンを安全な場所に運ぶ』為に行動します。
※ガイバーは使用不能になりました。以後使えるようになるかは後の書き手さんにお任せします。

688鎧袖一触〜鎧の端の心に触れろ〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:14:32 ID:wOPEoI2k


『Mr.troll、何故……?』

「ヴォー……」

『彼の弱さに同情しているのなら、それは間違いです。彼は強い。この世で最も悪い方向に、ですが』

温泉へと戻りながら、ケリュケイオンは問い掛ける。
……理解不能。何故、あんなものに情けをかけるような真似をするのだろうか?
Mr.ライガーはあと数時間の命。Mr.キョンなどをどこかに運ぶことが最後の活動など、あまりに残酷だ。
Ms.高町たちから遠ざけると言う意味では、悪くないが……それより、彼女達にMr.キョンの事をどう話すかが問題だろう。

『Ms.ヴィヴィオ……』

Mr.キョンが襲ったという、Ms.高町の娘。
これを聞いて、Ms.高町がどういう行動を取るかは大方予測できる。
Ms.スバルが重傷の今(更に、もうすぐ夜中だ)、戦力の分散は出来るだけ避けたい。
言うべきか、言わざるべきか……。

インテリジェントデバイス、ケリュケイオンは、早くもキョンをメモリーから消しつつ、深く考えるのであった。

【G-4 草原/一日目・夜】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(支給品一式)、スイカ×5@新世紀エヴァンゲリオン
     ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、デイバッグにはいった大量の水
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1.自然の破壊に深い悲しみ
2.誰にも傷ついてほしくない
3.????????????????
【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※大量の水がデイバッグに注ぎ込まれました。中の荷物がどうなったかは想像に任せます。

689 ◆2XEqsKa.CM:2009/10/30(金) 21:15:15 ID:wOPEoI2k
以上で投下終了となります
どなたか、本スレへの代理投下をお願い致します

690 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:09:32 ID:Uw68TWIc
ちょっと不安があるため、一度こちらに仮投下します。

6913・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:11:59 ID:Uw68TWIc
リナとドロロは決断を迫られていた。

目の前には様変わりした協力者たちがいる。
服装がガラっと変わっていたり、明らかに体型・年齢が変わっていたりするが…
変身やらそういったものに耐性がある2人にとってはそれはさほど問題ではない。
いや、問題ではあるにはあるが―――今対処すべきことは他にあった。

2人が操作していた、そして今、朝倉が凝視しているパソコンのディスプレイには
プロフィールが表示されている。

"県立北高校1年、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"である
朝倉涼子のプロフィールを。


友好的な振舞いを見せていた人物が、裏でこそこそと自分の素姓を調べていた―――
これを面白く思う者はいないでござろう。

―――ドロロは素直に謝罪すべきか否か、真剣に吟味していた。


もう画面は見られてしまった。ごまかしが効くような相手とは思えない。
あたしの世界では普通のことだと言い張るか、ドロロが言い出したことにするか…

―――リナは開き直るか責任転嫁するか、真剣に吟味していた。





気まずい沈黙が辺りを漂う。
沈黙を保てば保つだけ悪いことをしたと思っていると言っているようなものだ、
そう判断したあたし、剣士にして美少女天才魔道士であるリナ=インバースが
意を決して開き直ろうとしたとき。

「それが、キーワードを入力した結果得られる情報というわけね」

アサクラが先に口を開いた。
突然の反応に思わずあたしはビクっと肩を震わす。
となりのドロロがハラハラしている雰囲気も伝わってくる。

「なるほど、参加者の顔写真と簡単なプロフィールさらに最初の支給品まで分かるのね。
 ちょっと面倒だけど、これを全員分覚えておけば…かなり有用なのは間違いないわね」

あたしとドロロの脇を通り抜け、パソコンの前まで歩を進めながら飄々と言葉を紡ぐ。
画面を覗き込んでいるのでその表情は伺いしれないがえらくあっさり風味である。

6923・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:12:50 ID:Uw68TWIc
「あ…朝倉殿。気を悪くしてないのでござるか?」

なんだかあまりにあっさりしすぎているので不審に思たようでドロロが尋ねた。
ディスプレイを覗き込んでいた朝倉は、ゆっくりと身体を反転させる。

「ええ」

短い一言を言ったその表情は、笑顔だった。
無理して作った笑顔でもなければゼロスのような胡散臭さも感じさせない、
バックで光がきらきらしている満面の笑顔。
その見事なまでのスマイルが
『気を悪くしない?うん、それ無理』
と逆に物語っているような気がしてドロロ、あたしのみならず
ヴィヴィオちゃんまでも思わず後ずさった。


● ● ●


場は丸く…かどうかは非常に怪しいけど、とりあえず収まった。
そしてまずアサクラはあたしとドロロにヴィヴィオがどうして突然"成長"したのか説明してくれた。

新・夢成長促進銃―――効果を目の当たりにしなければ絶対に信用しないようなアイテムであるが…
肉体年齢を操作することができるなんて、異世界って広い。
これが平時なら解体してその原理を調べレポートするなり転売するなりしてひと儲けするところだが
あいにくとそんなことをやっている場合ではない。
まずは、今後の方針をしっかりさせておく必要がある。

「…いまさら確認するまでもないかもしれないけど、念のため。
 あたしもドロロもさっきのズーマのときのような状況にならなきゃ
 進んで殺し合いをする気はないわ。アサクラたちもそうと思っていいわね?」

あたしの問いに大きくなったヴィヴィオちゃんがこくりと頷く。
しかし、その隣にたたずむアサクラは凛とした瞳でこちらを見据え、はっきりと言った。

「私は少し違うわ」

静かに言った。
これはすぐに肯定されるだろうと思っていたあたしはちょっと面食らい、場の空気が張り詰める。

「もちろん、無駄な争いは起こさないつもりだし、進んで殺し合うつもりもない。
 ………だけど。例外もいる」

ヴィヴィオちゃんの左腕につけてある、メイド服とは不釣り合いな腕章に目をやりきっぱりと言った。
その"例外"が誰なのか察したヴィヴィオちゃんは物哀しげな様子を見せる。

「…オーケー。その人に関してはアサクラの判断に任せるわ。
 今は話を進めるわよ」

ある程度話は聞いていたのであたしも言いたいことを推察できた。
あとで話を聞くことにして会議を進行させる。
何せあと30分ないし40分もすればまたショウたちとのチャットが始まる。
情報が増えるまでにできる限り情報整理は終えておきたい。

6933・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:13:42 ID:Uw68TWIc
「時間が惜しいから、あたしがアサクラたちに聞きたいことをざっと挙げるわ。
 まず第一にあなた達の知り合いについての情報。危険人物については最優先で。
 次に、首輪について。
 アサクラが『どうにかできるかもしれない』って言った根拠も教えてもらいたいわ。
 あとそれと―――」

「"対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"とは何か―――
 とかもどうかしら?」

素晴らしき笑顔でそういった朝倉に思わず、うぐっと言葉に詰まる。

確かに気になってる、気にはなってるけども………
ああああああ、やっぱりこっそりプロフィール見たの根に持ってる!!?

などと頭の中で冷や汗を流しながらも、

「あはははは、うんそれもお願い…」

とりあえずひきつった笑顔で返事するぐらいしかできない。
………彼女から話してくれるまで、この話題には触れないでおこう…。

「…朝倉殿たちが拙者らに聞きたいことは何かあるでござるか?」

トラブルを引き起こしたくないとか言ってたドロロが助け舟を出してくれたおかげで、
話の軌道が修正された。ガウリイにはできない気遣いである。ナイス。

「そうね…私たちもあなた達の知り合いについては最低限押さえておきたいわ。
 それにこの殺し合いのシステムやパソコンなどの情報においても
 二人のほうが知っていることは多いようだし、教えてほしいところね。
 そんなに悪くない条件のはずよ。情報交換に関してはこれでどうかしら?」

「こちらとしてもそれでいいわ」

あたしは内心ほっとしていた。
"首輪解除"についての情報は脱出を目論む参加者としては必須の情報、
その価値はあたしたちが考察したり集めたりした情報全ての価値よりも上になり得る。
最悪、アサクラが首輪の情報と引き換えにこちらの情報から支給品まで全て要求してきたとしても
突っぱねるかどうかは非常にきわどいほど、最最最重要なもの。
それがこの程度の対価で得られるならば願ってもない。

だからといってここであからさまに喜べば足元見られる可能性もある。
あたしとしてはそこらへんで手を抜くはずにもいかない。
ここは冷静に、そういった感情は伏せて情報交換をしよう。

6943・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:14:22 ID:Uw68TWIc
「よし、それじゃあ情報交換を始めましょう」

「拙者はそれと並行して参加者のことをkskコンテンツで調べるでござる。
 晶殿とチャットする前に『雨蜘蛛』『川口夏子』について調べておきたいでござるからな」

「それがいいわ。
 ついでに、『草壁姉妹』と『トトロ』、『冬月コウゾウ』についても
 調べてもらってもいいかしら、ドロロさん?」

「承知したでござる。それだけでいいでござるか?」

ドロロの問いにアサクラは綺麗な眉をぴくりと動かし眼を右上の虚空へと遣る。
他に何かなかったのだろうかと思案しているようだ。

やがて、何か思い至ったのか手をポンと叩き口を開いた。

「そうそう。大柄で浅黒い肌の中年男がいたら教えてちょうだい」

アサクラのその言葉にあたしとドロロは目を合わす。
なんつーか…あんまり思い出したくないんだけど………思い当たる節があるという説が…

「ねぇドロロ…」

「察するに…彼奴でござろうなぁ…」

ドロロは布越しにでも分かるほどの大きな溜息を吐き、
あたしは眉間をひっつかんで頭が痛いことをアピール。
皆まで言うなかれ、あたしのような繊細な心を持つ乙女にはあれを思い出すのは精神衛生上よろしくない。

「二人とも、彼に会ったの?」

「明け方に………一戦交えたでござる。この眼も彼奴――ギュオーにやられたのでござるよ」

そう言ってドロロは左目を指差した。
その痛々しさに、ヴィヴィオちゃんは思わず目を背ける。
対照的にアサクラは平然としているが。

「そうなの。それについては情報交換のときに聞かせてもらってもいいかしら」

「もちろんでござる。
 リナ殿とヴィヴィオ殿は他に何か調べておくことはござらんか?」

ヴィヴィオちゃんはドロロのほうを向いて首を横に振る。
あたしはしばらくあごに手を当て考えてみた。

6953・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:15:02 ID:Uw68TWIc
このkskコンテンツとやらには各参加者が最初に持っていた支給品情報が記述されているようだ。
逆に言えば特定の支給品が誰の手に渡っているかの手がかりにもなるし、
この島の中に存在するアイテムを特定することもできる。
そうなるとすると、その存在を確認しておきたいアイテムはいくらかあった。

あたしは口を開く。

「『光の剣』別名『烈火の剣(ゴルンノヴァ)』、それと『タリスマン』。
 あとさすがにないと思うけど異界黙示録(クレアバイブル)。
 こいつらが支給品にないかチェックして」

「有用なアイテムなのね?」

アサクラが微笑を浮かべながらこちらを見る。
あたしはその眼を見てこくんと頷いた。

「ええ。もし支給品としてこの島にあるのなら説明するわ。
 それじゃ、時間もないし―――始めましょうか」

『All Right』

かくして、kskコンテンツを用いた情報収集と4人+1機による情報交換という一大イベントは幕を上げた。


● ● ●


これまでの軌跡。
出会った人物。
元の世界の知り合いetc.

情報交換は滞りなく行われた。
ドロロにしても朝倉にしても、誰も言ってくれないので自分で言っちゃうがあたしも
"聡明"と称して差し支えがない程度には切れ者だと思う。
語り手は話す内容は最低限に絞り、聞き手も実に的確に質問をするという理想的な情報交換であった。
ヴィヴィオだけはそうもいかないが、そこはバルディッシュがいる。
彼が手早くフォローに入るため問題なかった。

「………と、拙者についてはこんなものでござる。
 他に質問はござらんか?」

最後の一人であったドロロが全てを語り終え、キーボードを叩く手を休め3人に目を遣る。
もっとも道中はほとんどあたしと一緒だったし出身世界の仲間たちの話をしたのみ。
よって大した量ではなかったのですぐに終わったけど。

見渡してもアサクラもヴィヴィオちゃんも手を挙げる様子も口を開く様子もない。

「うん、それじゃあ…これで最低限だけど、情報交換は終了でいいわね?」

ふぅ、と息を吐き一息入れるためにあたしは首をコキコキ鳴らした。

6963・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:15:34 ID:Uw68TWIc
アサクラの話によると、どうやらギュオーはあたしたちとの戦闘直後に滝付近で倒れていたらしい。
そこをウォーズマンとかいうまっくろくろすけが保護して治療したということだ。

ちぃっ、余計な真似を。

それにしても、ウォーズマンが滝に駆け付けた時は周囲には誰もおらず
ギュオーだけがいたそうで、荷物も盗られていなかったようだ。
ということは誰かに奇襲を受けて倒れたわけではなく
あたしたちとの戦闘によるダメージによって力尽きたのだと推測できる。

竜破斬を受けてまだ戦っていたりドロロとあたしを撃退したことからしても
タフなのは間違いないようだが…その後倒れちゃうようじゃマヌケとしか言いようがない。
もしかしたらギュオーのおつむは発酵してるんじゃなかろうか。
おまけにストーカーな上に変態なので脳みそが半分溶けてるガウリイよりもタチが悪い。
だが、性格もなんとなく掴んでるし上手くやれば利用してやれるかもしんない。
………できればもう会いたくないもんだけど。

「それじゃドロロ、kskコンテンツのほうはどう?」

「報告するでござる。
 まず、これを見てほしいでござる」

ドロロはそう言い、マウスを操作してページを送る。
瞬間的に誰かの写真が映り、すぐにまた別の写真が映る。
クリックに反応してまたすぐに別の写真に切り替わる。
そんなことを繰り返して映し出された画面には―――

「あっ…あの温泉の怪物!?」

風格漂う、獲物を狙うヘビの眼を持つ紫の怪物の写真が映されていた。
肩書きは『ワルモン四天王』。
非常に悪そうな団体名?と四天王というなんだか強そうな肩書き。
分かりやすいのはいいけどもうちょっとどうにかならなかったのか…などと
心の中でツッコミを入れるがこの際どうでもいいので捨て置く。

その名前を見ると―――

「こいつが、やっぱりナーガか」

「先程放送で呼ばれた名前ね」

「ええ。ショウから名前は聞いてたけど…間違いなかったみたいね」

「それと、この写真も見てほしいでござる」

ドロロがそう言いもう一度カチカチとマウスを操作する。
顔写真が流れるように表示されていき映ったのは。
顔を覆った布から鋭い瞳と針のような髪を覗かせる、見慣れた顔。

6973・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:16:20 ID:Uw68TWIc
「っ…ズーマ」

「やはりそうでござったか。拙者は顔こそ知らないでござるが
 『凄腕の暗殺者』という肩書きを見てそうではないかと思ったでござる。
 ラドック=ランザード…それが彼奴の本名のようでござるよ」

「あたしも初めて知ったわ。けど…」

この名前は先程の放送でも呼ばれていた。
だが、今まで散々苦しめられた相手の名前だろうと今知ったところで役に立つわけでもない。

「殺し合いに乗って死んだような連中はどうでもいい。他になんかなかった?
 光の剣が支給されてました―――とか」

「リナ殿が探してほしいと言われたアイテムは光の剣とタリスマンが確認できたでござる。
 もっとも、光の剣はレプリカでござったが…」

「れぷりかぁ?」

「レプリカ…ね。ということは別に入手する必要はないかしら」

「んー…でも普通の剣よりはずっと便利なのよね、レプリカのほうでも」

光の剣のレプリカといえば、
おそらくポコタが持っていたタフォーラシアの技術で作られたものであろう。
レプリカと聞いてアサクラはパッチもんの劣悪品というイメージを持ったのかもしれない。
だが、美術品でもそうであるようにレプリカでも出来がいいものは結構ある。
このレプリカもその類で、本物にこそ及ばないものの使い勝手は十分に良いのだ。

「どういった効果の剣なの?」

「物質的な破壊力と、相手の精神そのものを断ち切る、
 持ち主の意志力を具現化した光の刀身を生み出す剣で切れ味はそれなりにいいわ。
 魔法を上からかけてやることで威力を上げたり光の刀身だけを打ち出したりと応用も利くし
 あるに越したことはないんだけどね」

「で、それは誰に支給されたの?」

「…彼でござる」

そういってドロロが表示させた画像は………
銀色のマスクが光る強面でごつい身体。
肩書きは『悪魔超人軍の首領』!
その名は悪魔将軍!!

どう見ても悪人です本当にありがとうございました。

6983・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:17:23 ID:Uw68TWIc
「また厄介そうな人の支給品になっちゃったものね…」

「でも、この人が持ってない可能性もあるんだよね?」

「ヴィヴィオちゃんの言う通りね。
 もうここに連れてこられてからかなり経ってるし…
 こいつの手を離れてても全然不思議じゃないわ」

うまく手に入るといいんだけどなー、と思うが…まぁそう都合よくはいかないだろう。
島の中にあるのが分かっただけでも良しとしよう。

「で、ドロロ。タリスマンは?」

「彼でござる」

カチリと手元を動かし表示させたその画面に映ったのは
ブタ鼻とタラコ唇、額に『肉』と書かれたマスクを付けた
できれば関わり合いになりたくないようななかなかお目にかかれないブ男の画像だった。

全身写真じゃないため断言こそできないがいい身体つきをしている。
筋肉も見せ筋ではなく実戦で鍛えたもののようだ。
肩書きの『キン肉星王子』やら『超人オリンピックV2達成』が
どれほどすごいのかあたしにはイマイチ判断できないが…
なんだか単純そうだなぁ、とか直感的に思った。
あと『正義超人』という肩書きもあたしに言わせれば非常にうさんくさい。
と、散々な評価をあたしは下していたが
ヴィヴィオちゃんとアサクラには別に思うところがあったようだ。

「キン肉マンさん!」
「あら、キン肉マンさんじゃない」

「こいつがゼロスと一緒にいなくなったっていう奴なの?」

「ええ」

ゼロスと同じところに転移したのかどうか知らないけど…
もし今も一緒にいるのならいいようにされてないことを祈るばかりである。

「キン肉マンさんはあたしが確認した時点では初期支給品は全て持っていたはずよ。
 ところでそのタリスマンはどういったアイテムなの?」

「魔法発動前に短い増幅魔法と唱えてやると使用者の魔力容量が一時的に上がるのよ。
 これがあると使える魔法のレパートリーも威力も増えるし便利なんだけど…」

6993・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:18:17 ID:Uw68TWIc
そこでふとある考えが頭をよぎった。
『タリスマンがあると使える魔法』というのはあたしの場合は
獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)だったり神滅斬(ラグナ・ブレード)だったり
暴爆呪(ブラスト・ボム)だったりするわけだが…

この暴爆呪、火炎球(ファイアー・ボール)よりも数倍の火力を誇る火球を数発撃ち出す
凶悪無比な火系統の魔法なのだが何を隠そうタリスマンがあればゼロスくんも使用可能なのである。

ゼロスと一緒に消えたタリスマン(+ブタ鼻)。
そしてさっき市街地のほうであった大規模な火事。
アサクラの話では迷惑極まりない放火犯はゼロスではなかったそうであるが、
精神生命体である魔族にとって外見なんてかりそめのもの。
高位魔族である彼は少なくとも元の世界では外見を自由に変えることができる。

つーことはつまり。

………まさか…ね。



……

………ゼロスならやりそうだなぁ。

「リナさん、どうしたの?」

アサクラの声ではっと我に返る。
そうそう、んなこと考えてる場合じゃなかった。
時間を見るともう19時直前、ショウたちとチャットをする約束の時間だ。

「ドロロ、もう時間がないわ。冬月コウゾウとかそこらへんについてはあとからでもいいけど、
 川口夏子と雨蜘蛛についても調べてくれた?」

「全員分の記述は一応は目を通したでござる。
 もちろん、川口夏子と雨蜘蛛に対する記述にも。
 前者は『元オアシス政府軍下士官』『反政府組織特殊部隊所属』だそうでござる。
 後者は『魂すら取り立てる地獄の取立人』だそうでござる」

レジスタンスと取立人。…どうも、これだけの情報で彼らが
ショウを利用しようとしているかどうかの判断を下すのは難しそうだ。
じゃあどうするか?

7003・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:18:57 ID:Uw68TWIc
「その二人の顔を表示してくれる?
 もうかったるいし人相で判断しちゃいましょ」

「人を見た目で判断するのは良くないでござるよ。
 それにもう約束の時間が―――」

「"深町晶"だし待たせても問題ないわ」

「どんな理由でござるか!?」

あたしがこう主張しても、ドロロは『約束は守るべき』の一点張り。
ヴィヴィオちゃんも非難するような目でこっちを見てくるし
アサクラも『協力者の信頼を損ねる行為は慎むべきよ』と笑顔で言ってきた。
………"やっちゃった"あたしとしては彼女にそう言われると反論できない。

「分かったわよ。それじゃドロロ、そっちは頼むわね」

「…リナ殿、どこかに行く気でござるか!?」

あたしが自分のディバックを担いでいるのを見て、ドロロが驚きの声を上げた。

「ちょっと遊園地を調査してくるわ。昼間に来た時は使える道具がないか、って調べてたけど
 リングとかそういったギミックが仕掛けられている可能性があるって分かったし
 そういうのをちょっと探してみようかなって」

あたしは遊園地に何かしらが仕掛けられている可能性は非常に高いと推測していた。
もし何もないのなら禁止エリアをわざわざ3つも使ってここを封鎖する理由が説明できなくなる。
ドロロと考えていても結局何も思い浮かばなかったが―――なら実際に見て調べてみるっきゃない!

………本当に気まぐれで禁止エリアを選んでるとかだったら泣くぞあたしは。

「しかし一人で行くのは―――」

「だいじょーぶだって。魔力もそこそこ回復したし、何かあってもムチャする気はないから。
 それに深町晶とのやりとりはずっとドロロがやってきたから
 ここをアサクラに任せてドロロ連れていくってのも向こうが戸惑うでしょ」

ドロロが心配そうにこちらを見てくるが、あたしは手をぱたぱた振ってそう答えた。
アサクラかヴィヴィオちゃんのどちらか一人を連れていく…というテもあるけど、
これまでの二人の様子を見る限りヴィヴィオちゃんはアサクラのことをかなり信頼しているようだ。
今の外見こそあたしやアサクラと大差ない年齢になっているが精神年齢はまだまだ子供。
しかも、今は落ち着いているが放送直後の様子からしても精神的にかなり負担がきているのは
会ったばかりのあたしでも容易に想像がつく。
そんな彼女とアサクラを引き離すのはどーも忍びない。

7013・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:19:33 ID:Uw68TWIc
「しかし…」

あたしの考えを知ってか知らずかなおも心配そうなドロロ。
うーん、仕方がない。譲歩してあげよう。

「ドロロはあたしが一人だと、もしギュオーとかズーマみたいなのに襲われたら危険だ。
 …こう言いたいのね?」

「そ、そうでござる」

まぁ、それはそうだろう。
正直なところ、一人だったらとっくに放送で名前を呼ばれてたはずだ。

「ならこうしましょう。あたしとアサクラとヴィヴィオちゃんの3人で調査に行く。
 ドロロはここに残る。うん、完璧」

「拙者が一人!!?」

ドロロが不服のツッコミをいれる。我儘なヤツである。

「それじゃ、いっそ何かトラブルに巻き込まれたことにして
 ショウのことはほったらかしに―――」

「ヴィヴィオちゃん、リナさんに付き合ってあげて」

予想外の人物の予想外の発言によりあたしの発想の転換をしたナイス提案はストップさせられた。
あたしもドロロもヴィヴィオちゃんも驚きの目でその発言者、アサクラのほうを見る。

「え…でも、涼子お姉ちゃん…?」

ヴィヴィオちゃんも戸惑いの色が強いようで、目をぱちくりしながらどうにかその言葉を発した。
アサクラがそれを制し、言葉を続ける。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 さっき言ったように自分で自分の身も守れるようになっておいたほうがいい。
 けれど、有機生命体というものはそんなすぐに簡単に強くなれるように作られてないわ。
 そして、私はあなたを守ってあげることはできても強くしてあげることは――残念ながらできない」

そこまで言い終えたところで、アサクラはすっと腕を上げ―――
こともあろうにあたしのほうを指差した。

「でも、リナさんは同じ魔法使い。リナさんにアドバイスをもらえば、
 少なくともあたしといるよりは強くなることができると思うの」

いや、確かにそうかもしんないけど…あたしの意思は!?
正直なところヴィヴィオちゃんがどれほど戦えるのか知らないが頼りに出来るとは思っちゃいない。
ドロロが心配しているような有事の際には足手纏いになること請け合いである。
そもそも、ヴィヴィオちゃんもアサクラと一緒にいたいはずだ。
何か反撃してやれっ!

7023・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:20:46 ID:Uw68TWIc
「………」

何か考えるように伏目になるヴィヴィオちゃん。
考えるちゃいけない、感じるのよ!そして反論してあげなさい!!

「涼子お姉ちゃんがそういうなら…うん、私リナさんと一緒に行くことにする」

少し悩んだ末、力強い瞳でヴィヴィオちゃんは言った。
流されるなぁぁぁっ!!!
仕方ないのでここはあたしも口を出すことにしよう。

「アサクラ。悪いけどあたしはヴィヴィオちゃんを連れていくことに賛同できない。
 一人なら逃走できるような場面でも二人だとそうもいかないこともあるし―――」

「けれど、ヴィヴィオちゃんを連れていけば"逃走するような場面"を
 回避できるかもしれないわよ。ね、バルディッシュ?」

『Yes.』

ヴィヴィオの胸元のブローチが金色に光り、返事した。
ああ、そっか。ヴィヴィオちゃんが装備してるデバイス・バルディッシュ。
そういえば索敵機能みたいなものがついているんだっけ。
少々彼女には失礼な考え方かもしれないが、もれなくバルディッシュが付いてくるのならば
まわりへの警戒はバルディッシュに任せてあたしは調査に集中できるし確かに悪くはない。
異世界の魔法についてじっくり話を聞くいい機会でもあるが―――

「言っておくけど、最善は尽くすけども、
 いざってときにヴィヴィオちゃんを絶対に守れるなんて保証はちょっと…」

「それを保証してくれるのなら――さっきのあなたたちの行動は許してあげるわ」

笑顔でアサクラが言った。
さっきの行動、とやらは…もしかしなくてもこっそりkskコンテンツでアサクラの情報を見たことだろう。
………まだ根に持ってたのね…。

「それに…なんで私が"一番あなたたちが知りたい話"をしてないか。
 単に時間が足りなかったというのもあるけど…どうしてか分かる?」

7033・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:21:26 ID:Uw68TWIc
そう、実はまだ首輪についてやアサクラの正体については一切話を聞いていない。
"あたしたちが一番知りたい話"とは十中八九、首輪解除についてのことだろう。
つまりは彼女、『私の言うこと聞かないと首輪のことしんないゾ☆』と言ってるのだ。
さっき教えてくれるって言ったぢゃないか、ヒドい!
…なーんて思うが後の祭り。
まぁ、この提案自体はさっき考えたように悪いことばかりではない。
もっとも今後も首輪をネタに同じような脅迫を繰り返すならそれ相応の応酬をさせてもらうが。

「―――仕方ないわね。あんまり無茶しないように1時間かそこらで帰ってくるようにするわ。
 よろしくね、ヴィヴィオちゃん、バルディッシュ。」

やり口はちょっと不服だけど、まぁいっか。
あたしはウインクをしながらヴィヴィオちゃんに手を差し出した。
その手を見たヴィヴィオちゃんはパーッと明るい顔をしてあたしの手を握る。

その笑顔は…悔しいがかわいい。
背も胸もあたしより大きいし…くそぅどいつもこいつも。

ヴィヴィオちゃんと手をつないだまま部屋を出ようとして―――
危ない危ない、これだけは確認しとかないと。

「アサクラ。あなた、空を飛ぶことはできる?」

もし、何かトラブルに巻き込まれた際にはドロロとアサクラを置いてきぼりにして
遊園地を離脱する必要があるかもしれない。
そうなったとき、置いてきぼりにした二人が禁止エリアのせいで立ち往生しました―――
とか笑い話にもならない。
そう考えて念のために尋ねたのだが―――

「…涼子お姉ちゃん?」

「どうなさった、朝倉殿!?」

その質問を境に突然アサクラの笑顔がひきつったものに変わる。
よく見ると冷や汗までかき始めている。
………なんか聞いてはいけないことだったのだろうか?

7043・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:23:02 ID:Uw68TWIc
「飛べない…ことはない、わ」

消え入りそうな声でアサクラはぼそっと呟いた。
…何がそんなに嫌なのかは知らないが、飛べるのだったら話は早い。

「もし遊園地が封鎖されちゃった後に、
 あたしたちが帰ってこなかったりここを離れないといけない事情ができたりしたら
 ドロロを抱えて飛んで脱出してもらっていい?
 安心して、ヴィヴィオちゃんはちゃんと面倒みるから」

「………分かったわ」

ものすごく躊躇の混じった返答。
………何がそんなに嫌なのか。

「できればそういう状況にならないように祈りたいけどね。
 じゃ、リナさんも気をつけて。
 さっき話をしたようにこの会場には転送装置がいくらかあるみたい。
 ヴィヴィオちゃんとはぐれるのだけは避けたいからそれだけは注意してね」

『お願い』と手を目の前で合わせてウインクする彼女に、あたしはコクリと頷いた。
―――はぐれたくないのならなんでわざわざ別行動を促すような真似をしたのか分からないけど…
ゼロスといい彼女といい笑顔を絶やさないヤツはホント何考えているんだか。

「それじゃ二人とも、ショウの相手よろしく。
 アサクラ、首輪については戻ってきてからちゃんと聞かせてもらうわよ?」

あたしはディバックを担ぎそのまま部屋を出た。
左手に引いているのはサイドポニーの綺麗な茶色い長髪を持つオッドアイの美少女メイド。
ふと目が合い、彼女はニコっと笑いかけてくれた。
その笑顔にはどうも緊張の色がある。
まぁ状況を考えればそりゃ緊張もするだろうけど。

引率なんてガラじゃないんだけどな…。

あたしは彼女の手を引き、夜の遊園地へと繰り出した。
………デートに行くカップルじゃあるまいし何やってるんだろ。


◆ ◆

7053・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:23:52 ID:Uw68TWIc
「さて、それでは晶殿が待ちわびているやもしれないでござる。
 すぐにチャットを―――」

リナたちが出て行ったのを確認したドロロがマウスを握ろうとして―――
いつのまにかそのマウスを朝倉が握っていることに気付いた。

そして操作する。今はキン肉マンのページが表示されているkskコンテンツを。
マウスに連動する矢印は支給品情報が書かれている下の
青い『→』のマークに移動し、

カチカチカチカチカチッとクリック連打。

「あ、朝倉殿!?」

「ごめんなさい、ドロロさん。どうしてもこれだけは確認しておきたいの」

そう言ってページを送り続けた先に表示されたのは―――
金髪の髪とオッドアイの瞳を持つ少女のページだった。

朝倉は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースである。
そのためか、相手の外見にとらわれず冷静に相手の性質に気付くことができる。
ギュオーもゼロスも直感的にただの人間ではない、
もしくは人間ではないと気付いたのはそのためだ。

そんな彼女がヴィヴィオに抱いたわずかな"違和感"。
最初は『異世界の人間だからだろう』ぐらいにしか思っていなかった。
だが、どうも違うと確信したのはリナと出会ってからだろうか。
同じく『異世界の人間』で『魔法を使う』存在でありながら彼女には"違和感"を感じなかった。

こうやってその違和感の正体を突き止めようとしているのは単純に知的好奇心からだけではない。
疑問や迷いは咄嗟の判断を遅らせる。
そしてこの"違和感"というノイズは有事の際に自身の判断を鈍らせるかもしれない。
だからこそ、彼女を守り通すためにはそれを知っておくのも必要なことだと結論付けた。
とは言っても本人やバルディッシュに
「ヴィヴィオちゃんは普通の人間と何か違う。その理由を教えて♪」
と言えるわけもなく、一時的にリナにヴィヴィオを預けこういう行動に出たのだった。

7063・40分の取捨選択 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:25:27 ID:Uw68TWIc
そして、朝倉はヴィヴィオの肩書きを見る。

"魔法学院初等科所属、聖王の器"

「聖王………の…器?」

「器…とはまた面妖な表現でござるな」

朝倉もドロロも怪訝とする。
『聖王』というだけならまだ理解できるのだが…『器』の意味がさっぱり分からなかった。
だが、わざわざここに特記事項として書かれているのだ。
"違和感"の正体の鍵は、この言葉が握っている可能性が高い。

(機をうかがって、本人かバルディッシュに聞いてみればいいかな)

「ありがとう、もういいわ」

朝倉はそう言いマウスを手離した。
溜息を吐きつつ、ドロロがそのマウスを握る。

「ここで出会う女性は押しが強いでござるな…」

苦笑しながら、ドロロはマウスを操作し始めた。


【D-02 遊園地(スタッフルーム)/一日目・夜】

【ドロロ兵長@ケロロ軍曹】
【状態】切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯
【持ち物】匕首@現実世界、魚(大量)、デイパック、基本セット一式、遊園地で集めた雑貨や食糧、
【思考】
0.殺し合いを止める。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.リナとともに行動し、一般人を保護する。
3.ケロロ小隊と合流する。
4.草壁サツキの事を調べる。
5.後で朝倉と首輪解除の話をする。主催者が首輪をあまり作動させたがらない事も気になる。
6.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
7.「KSK」という言葉の意味が気になる。

【備考】
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※晶達から、『主催者は首輪の発動に積極的ではない』という仮説を聞きました。
※参加者プロフィールにざっと目を通しました。



【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(大) 、ダメージ(中)、自分の変質に僅かに疑問、ドロロとリナに対してちょっと不快感?
【持ち物】鬼娘専用変身銃@ケロロ軍曹、小砂の首輪
     綾波のプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ディパック(支給品一式)、新・夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     リチウムイオンバッテリー(11/12) 、クロスミラージュの銃身と銃把@リリカルなのはStrikerS、遊園地で回収した衣装(3着)
【思考】
0.ヴィヴィオを必ず守り抜く。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.武器もないので、気は進まないが鬼娘専用変身銃を使う事も辞さない。
3.キョンを殺す。
4.長門有希を止める。
5.古泉を捜すため北の施設(中学校・図書館・小学校の順)を回る。
6.基本的に殺し合いに乗らない。
7.ゼロスとスグルの行方が気がかり。
8.『聖王の器』がどういう意味なのか気になる。
9.できればゲーム脱出時、ハルヒの死体を回収したい。


【備考】
※長門有希が暴走していると考えています。
※クロスミラージュを改変しました。元に戻せるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※クロスミラージュは銃身とグリップに切断され、機能停止しています。
 朝倉は自分の力ではくっつけるのが限界で、機能の回復は無理だと思っています。
※制限に気づきました。
 肉体への情報改変は、傷を塞ぐ程度が限界のようです。
 自分もそれに含まれると予測しています。
※遊園地で適当な衣装を回収しました。どんな服を手に入れたかは次回以降の書き手さんにお任せします。
※kskコンテンツはドロロが説明した参加者情報しか目を通していないため
 晶たちといる雨蜘蛛が神社で会った変態マスクだと気づいていません。

707それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:26:41 ID:Uw68TWIc
◆ ◆ ◆


「わぁ…きれい…」

あたしの隣でメイド服に身を包んだ美少女、ヴィヴィオちゃんが感嘆の声を漏らした。

あたしたちを乗せた船は水上をゆっくりと移動し、
色とりどりのイルミネーションをあたしたちの視界へと運んできてくれる。

近くで突如水が噴きあがった。
何者かが潜んでいたのかと慌てて呪文を唱えながら身構えるあたしだったが、取り越し苦労だったようだ。
何色ものイルミネーションに水しぶきが照らされ、空間が虹色になっている。
空中に散った水により本物の虹まで見えていた。

周囲の幻想的な雰囲気にあたしの戦いで荒んだ心も癒されていく。


勘違いがないように言っておくと、あたしたちは決して遊んでいるわけではない。
遊園地の調査をするといったが、昼間に来た時に既にドロロと二人であらかた調べたのだ。
しかし、『使えるようなものはないだろう』と思って調べなかった箇所がいくらかある。
それがこういったアトラクションだ。

やがてあたしたちが乗っていた船が発着点に到達する。
このアトラクションにも、仕掛けらしきものも見当たらなかった。

「リナさん!次はあれに乗ろうよ!!」

そういってヴィヴィオちゃんは指差したのは―――馬や馬車の彫像が円上をぐるぐる回るもの。
やれやれ、とあたしは苦笑しながら
ヴィヴィオちゃんに手を引かれそちらのほうに移動し始めた。

落ち着いてこそいたが、情報交換のときに明るい表情をすることはほとんどなく、
話にもほとんど参加してこなかった(会話の内容が彼女が付いてくるには難しかったからかもしれない)。
そんな彼女が…あくまで"表面上"ではあるが
楽しそうに、そして友好的に話しかけてくれることは好ましいことではある―――

だけども。

大事なことなので2回言っておく。

「まったく、仕方ないわねー」

あたしたちは決して遊んでいるわけではない。

708それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:27:22 ID:Uw68TWIc
● ● ●


「ねぇ、リナさん…」

その後もいくらかのアトラクションに乗ったがめぼしい発見は何もなく
次はどの乗り物に乗ろうかと思案していると、
さっきまでのトーンとは打って変わった声で
ヴィヴィオちゃんがためらいながらも後ろから呼びかけてきた。

「私…リナさんから見て、みんなに迷惑掛けていると思いますか?」

尋ねてきた内容はそれだった。
『そんなことないわよ』と軽く返そうかと思ったが、振り返った先にいる
彼女の表情は、深刻な顔をしていた。

「ここに来てから私は色々な人に会いました。
 けれど、誰も助けることはできませんでした。
 私がどうにかできるほど世界は優しくない―――そう涼子お姉ちゃんに言われました」

ぽつりぽつりと彼女は語り始めた。
風が彼女の後ろからあたしのほうへと吹き抜け、あたしたちの髪をなびかせる。
あたしは黙って彼女の言葉に耳を傾けた。

「私にできる最善のことをしていた―――涼子お姉ちゃんはそうも言ってくれました。
 けど、それじゃダメなんです。
 どんなに私が頑張っても、それでも迷惑をかけるんじゃ…ダメなんです。
 だから―――」

「で、あたしが『迷惑だ』って言ったら…ヴィヴィオちゃんはどうするの?」

あたしはわざと彼女の言葉に割り込みこう言った。
子供の愚痴に付き合ってあげるほどあたしは暇でもなければ優しくもない。

「だから、私は"今の"私よりももっと強くなりたいと思ってます」

「口だけなら何とでも言えるわ。
 …問題はどうやって強くなるかよ」

今度は語気を強めてちょっときつめに言ってやった。
アサクラも言っていたが、人が『強くなる』のは簡単なことではない。
もしこの程度で折れるぐらいなら彼女が強くなることはないだろう。
ここらへんで殻を破る必要がある。
たぶん、アサクラもそう思って短時間とはいえあえて別行動させたのではないか。
あたしはそういうふうに考え始めていた。

709それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:28:15 ID:Uw68TWIc
「そこで、リナさんにお願いがあります」

ヴィヴィオちゃんはあたしを見た。
オッドアイの瞳に宿る光が力強い。
彼女が何を言いたいのか予想はついている。
おそらく、こう言うだろう。

「私にレリックを譲ってください!!」

『私に魔法を教えてください!!』と―――って…あれ?
目の前でメイド服のヴィヴィオちゃんが頭を下げているが―――ちょい予定外。

「………レリックって何?」

「リナさんが持っている赤い宝石のことです」

おそらく、あの魔力が詰まった宝石のことだろう。
レリックというらしい。
どうやら、ヴィヴィオちゃんに縁があるもののようだが―――

「嫌よ」

あたしはきっぱりと言った。

「アレがどういったものかは知らないけど、
 あたしなりにアレは有効活用しているし、ないと困る。
 残念だけどヴィヴィオちゃんにあげることはできない」

「でも、あれがあれば私は―――」

『Stop』

そこで割り込んでくる機械的な第三者の声。
ヴィヴィオの胸のバルディッシュだった。

『Ms.インバース。ヴィヴィオにレリックを渡してはいけません』

「バルディッシュ!!」

バルディッシュが強めの口調で言い、
それに対してヴィヴィオちゃんが珍しく語気を強めた。
今まで必要がないと喋らなかったバルディッシュが割り込んできたということは
どうもただ事ではないようだ。

『レリックは超高エネルギー結晶体です。
 その性質故、魔力波動などを受けると爆発する危険があります。
 かつて、レリックが原因の周辺を巻き込む大規模な災害が幾度か起きました』

ゲゲッ…両手に握って魔力の回復なんかに使っていたが、そんな危険物だったのか。
これからは注意して使うようにしよう。

710それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:29:14 ID:Uw68TWIc
『ヴィヴィオ。貴女が持つには危険すぎます。
 また、レリックを埋め込まれた貴女が何をやったか忘れたわけではないでしょう』

「っ…それは…」

『それに、我が主が望んでいない。そう思います』

「………。…ずるいよ、そんなの」

バルディッシュの説得に、ヴィヴィオちゃんは反論したが最後のほうはか細く、
風上にいればほとんど聞こえなかっただろう。
確か、バルディッシュは彼女の母親が使っていたデバイスだったか。
バルディッシュの言葉にどれほどの重みがあったのかはあたしには分からないが…
それっきりヴィヴィオちゃんは黙ってしまった。

次に向かうつもりだったアトラクションのほうへと歩き出す。
一応、ヴィヴィオちゃんも後ろをとぼとぼと付いてきてはいるが…

うーん、こりは気まずい。
さっきまでのほのぼの〜とした雰囲気が見事にぷち壊れてしまった。
さてどうしたものか。


◆ ◆ ◆ ◆


ヴィヴィオはひどく落ち込んでいた。
一時的とはいえ大人の身体になり、レリックまで見つけた。
これならきっと自分の身を守れる。それだけじゃなく、涼子お姉ちゃんやなのはママだって守れる。
周りにいる大事な人たちを守る力を手に入れることができる。

そう思ったのだが―――。

(バルディッシュまで…あんなこと言うんだもん)

きっとバルディッシュなら自分の想いを分かってくれる、協力してくれる。
ヴィヴィオはそう信じていたが現実は甘くなかった。

フェイトママが望んでいない。

確かにそうかもしれない。
でも、ママが間違っていると言っても自分で考えて正しいと思ったことは
やらなくちゃいけないのではないか。

ヴィヴィオは落ち込み半分、恨めしさ半分の眼で胸元のバルディッシュを見た。
考えていることを知ってか知らずか、当然無反応である。

711それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:30:09 ID:Uw68TWIc
「…ーー…ー……ーー…」

そのとき、ヴィヴィオの前方から声が聞こえてきた。
リナが発した言葉なのは間違いないが―――何と言ったかはさっぱり分からなかった。

「身の程を過ぎた力は身を滅ぼすわよ」

突然、リナが言った。
ヴィヴィオのほうからは前方を歩いている彼女の表情を窺い知ることはできない。

「あたしも経験あるのよ。
 自分じゃ扱えないような魔法を無理やり唱えて、危うく世界を滅ぼしかけたこと」

もはや身を滅ぼすとかいう次元ではないが
とりあえず誰もツッコミを入れず黙って聞いていた。

「あなたが過去にレリックで何をやらかしたのかは知んないけど―――
 もしここで厄介なトラブルを引き起こしたりなんかしたら
 あたしもドロロも、もちろんアサクラも、下手すればみんな死ぬわ」

あまりにそっけないリナの言葉。
そのそっけなさが、逆に『死』が身近なものと感じさせ
ヴィヴィオの背筋を凍らせる。

「アサクラも言ってたけど、人が一段階強くなるのは簡単なことじゃない」

リナは歩みを止め、振り向いた。
それまでの厳しい基調とは裏腹に、彼女は優しい顔をしていた。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 あなたはあなたができる精一杯を全力でやればいいのよ。
 ヴィヴィオちゃんにしかできないことだってあるんだから。
 みんなを魔法で守る、なんてのはあたしに任せときなさい」

親指をグッと立てたリナの優しい言葉が染み込むが―――それじゃヴィヴィオは納得できなかった。

「…私にしかできないことってなんですか?
 今までも、情報交換のときもそうでした。
 私にしかできないことなんて全然―――きゃっ」

712それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:31:07 ID:Uw68TWIc
ヴィヴィオの言葉は途中で中断された。
―――何を思ったか、リナがでこぴんしたのだ。

「じゃ、あたしがヴィヴィオちゃんが使える
 とっておきの魔法を教えてあげるわ。
 いい、よく聞きなさい。



 ――――――『頑張って!』」

「………はい?」

リナの突飛な行動と突飛な発言により、ヴィヴィオの思考が一時停止させられる。

「オトナってものはね、肝心な時にどーでもいいこと考えていたりするわけよ。
 ものすごく強い敵を相手に『こりゃ勝てないわ』と戦う前から諦めたり、とかね。
 そういうときに『勝てるよ!頑張って!!』って魔法かけてあげなさい。
 本当に力が湧いてきちゃうんだから。
 可愛いコにしか使えない高等魔法なのよ」

リナはヴィヴィオの肩をぽんぽんっ、と叩きながら笑った。

     負けるつもりで戦えば、勝てる確率もゼロになる。
     たとえ勝利の確率が低くても、必ず勝つつもりで戦うっ!

これはかつてリナが言った言葉。
しかし、本当に絶望的な戦いのときはリナさえもそれを忘れかけることがある。
それをみんなに思い出させるのには"不屈の心"を示すことが必要だ。

あるときは叱責かもしれない。
あるときは開き直りかもしれない。
あるときは応援かもしれない。

それを示す鍵が何か分からない。
でもヴィヴィオならそれをみんなに伝えられるんではないか。
それが彼女のできる、彼女しかできないことなのではないだろうか。
根拠なんて何もないけど、リナはなんとなくそんなことを思ったのだった。

713それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:32:06 ID:Uw68TWIc
どれくらいの時間が静かに過ぎただろう。
しばらく呆然としていたヴィヴィオだったが、少しずつ顔が綻んでいく。

「えへへ…ありがとう、リナさん」

胸のつっかえがひとつ取れたような笑顔。
遊園地ではしゃいでいた時よりも幾分清々しいように思える。

「私、みんなに"魔法"かけるよ」

力強い少女の声が朗々と響いた。

「でも"魔法"かけても恥ずかしくないように私も頑張る。
 もっと強くなる。少しずつでも、ちゃんと順番追って強くなってく。
 リナさんや涼子お姉ちゃんに迷惑かけないように。
 なのはママにエヘンと胸を張って会えるように。
 フェイトママにもう心配させないように!」

爽やかな笑顔。オッドアイの瞳に映る確かな輝き。
まだまだ小さい彼女に言うには少々難しいことだったかもしれないが―――
どうやら余計な心配だったらしい。
一回り大きくなったかな、とリナは思った。

「…ーー…ー……ーー…」

再びヴィヴィオに背を向けたリナが、ゆっくりと言った。先程言っていた謎の言葉だ。
ヴィヴィオにはさっぱり理解できなかったのだが―――

「炎の矢(フレア・アロー)!」

リナが『力ある言葉』を放つと同時に、リナの目の前に燃え盛る炎の矢が生まれた。
そのままにしておくことも消すこともできないのか、とりあえず手近な地面に放つ。
レンガ造りの地面を一か所を黒く焦がし、炎は消え去った。

「この魔法の詠唱は訳すと『全ての力の源よ 我が手に集いて力となれ』ってとこね。
 呪文は短いから丸暗記できるだろうし、割と実用的な魔法よ」

そう言ってリナはもう一度ヴィヴィオのほうを見た。
ニヤッともニコッともとれる、不敵な笑みを浮かべて。

714それが彼女にできるコト ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:33:36 ID:Uw68TWIc
「ちょっとヴィヴィオちゃんが考えていたような順番じゃなくなっちゃうかもしんないけど―――
 覚えてみる?」

「―――よろしくおねがいします!」

深々と頭を下げ、ヴィヴィオが言った。
すぐに使えるようになるかどうかはリナにも分からないし
そもそも余計なお節介かもしれないが…リナ=インバースにそんなこと関係ない。


【D-02 遊園地/一日目・夜】

【リナ=インバース@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】疲労(小)、精神的疲労(小)
【持ち物】ハサミ@涼宮ハルヒの憂鬱、パイプ椅子@キン肉マン、浴衣五十着、タオル百枚、
     レリック@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 遊園地でがめた雑貨や食糧、ペンや紙など各種文房具、
     デイパック、 基本セット一式、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊、
     ベアークロー(右)(刃先がひとつ欠けている)@キン肉マンシリーズ
【思考】
0.殺し合いには乗らない。絶対に生き残る。
1.遊園地を調べながらヴィヴィオと行動する。
2.20時が過ぎた頃にはスタッフルームに戻りドロロ達と合流する。
3.朝倉の正体が気になる。涼宮ハルヒについても機を伺い聞いてみる。
4.当分はドロロと一緒に行動したい。
5.ゼロスを警戒。でも状況次第では協力してやってもいい。
6.草壁サツキの事を調べる。
7.後で朝倉と首輪解除の話をする。
8.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
9.時間ができれば遊園地のkskコンテンツにしっかりと目を通しておく。

【備考】
※レリックの魔力を取り込み、精神回復ができるようになりました。
 魔力を取り込むことで、どのような影響が出るかは不明です。
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※市街地の火災の犯人はもしかしたらゼロスではないかと推測しました。



【ヴィヴィオ@リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、16歳程の姿、腕章を装備、メイド服の下に白いレオタードを着ている。
【持ち物】バルディッシュ・アサルト(6/6)@リリカルなのはStrikerS、SOS団の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱  メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱 
     ディパック(支給品一式)、ヴィヴィオが来ていた服一式
【思考】
0.誰かの力になれるように、強くなりたい。
1.リナと一緒に行動する。
2.なのはママが心配、なんとか再会したい。
3.キョンを助けたい。
4.ハルヒの代わりにSOS団をなんとかしたい。
5.スバル、ノーヴェをさがす。
6.スグルとゼロスの行方が気になる。
7.ゼロスが何となく怖い。
8.涼子お姉ちゃんを信じる。

【備考】
※ヴィヴィオの力の詳細は、次回以降の書き手にお任せします。
※長門とタツヲは悪い人に操られていると思ってます。
※キョンはガイバーになったことで操られたと思っています。
※149話「そして私にできるコト」にて見た夢に影響を与えられている?
※アスカが殺しあいに乗っていると認識。
※ガイバーの姿がトラウマになっているようです。
※炎の矢(フレア・アロー)を教わり始めました。すぐに習得できるかどうかは不明です。

715 ◆321goTfE72:2009/10/31(土) 01:35:08 ID:Uw68TWIc
以上で投下終了です。
指摘がありましたらよろしくお願いします。

ちなみに題名は仮題ですので変えるかもしれません。

716 ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:49:18 ID:Uw68TWIc
本投下しようと思ったのですが
今日に限って規制くらってしまいました。
こちらに投下しますので、申し訳ありませんがどなたか代理投下よろしくお願いします。

717彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:50:05 ID:Uw68TWIc
リナとドロロは決断を迫られていた。

目の前には様変わりした協力者たちがいる。
服装がガラっと変わっていたり、明らかに体型・年齢が変わっていたりするが…
変身やらそういったものに耐性がある2人にとってはそれはさほど問題ではない。
いや、問題ではあるにはあるが―――今対処すべきことは他にあった。

2人が操作していた、そして今、朝倉が凝視しているパソコンのディスプレイには
プロフィールが表示されている。

"県立北高校1年、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"である
朝倉涼子のプロフィールを。


友好的な振舞いを見せていた人物が、裏でこそこそと自分の素姓を調べていた―――
これを面白く思う者はいないでござろう。

―――ドロロは素直に謝罪すべきか否か、真剣に吟味していた。


もう画面は見られてしまった。ごまかしが効くような相手とは思えない。
あたしの世界では普通のことだと言い張るか、ドロロが言い出したことにするか…

―――リナは開き直るか責任転嫁するか、真剣に吟味していた。





気まずい沈黙が辺りを漂う。
沈黙を保てば保つだけ悪いことをしたと思っていると言っているようなものだ、
そう判断したあたし、剣士にして美少女天才魔道士であるリナ=インバースが
意を決して開き直ろうとしたとき。

「それが、キーワードを入力した結果得られる情報というわけね」

アサクラが先に口を開いた。
突然の反応に思わずあたしはビクっと肩を震わす。
となりのドロロがハラハラしている雰囲気も伝わってくる。

「なるほど、参加者の顔写真と簡単なプロフィールさらに最初の支給品まで分かるのね。
 ちょっと面倒だけど、これを全員分覚えておけば…かなり有用なのは間違いないわね」

718彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:50:46 ID:Uw68TWIc
あたしとドロロの脇を通り抜け、パソコンの前まで歩を進めながら飄々と言葉を紡ぐ。
画面を覗き込んでいるのでその表情は伺いしれないがえらくあっさり風味である。

「あ…朝倉殿。気を悪くしてないのでござるか?」

なんだかあまりにあっさりしすぎているので不審に思たようでドロロが尋ねた。
ディスプレイを覗き込んでいた朝倉は、ゆっくりと身体を反転させる。

「ええ」

短い一言を言ったその表情は、笑顔だった。
無理して作った笑顔でもなければゼロスのような胡散臭さも感じさせない、
バックで光がきらきらしている満面の笑顔。
その見事なまでのスマイルが
『気を悪くしない?うん、それ無理』
と逆に物語っているような気がしてドロロ、あたしのみならず
ヴィヴィオちゃんまでも思わず後ずさった。


● ● ●


場は丸く…かどうかは非常に怪しいけど、とりあえず収まった。
そしてまずアサクラはあたしとドロロにヴィヴィオがどうして突然"成長"したのか説明してくれた。

新・夢成長促進銃―――効果を目の当たりにしなければ絶対に信用しないようなアイテムであるが…
肉体年齢を操作することができるなんて、異世界って広い。
これが平時なら解体してその原理を調べレポートするなり転売するなりしてひと儲けするところだが
あいにくとそんなことをやっている場合ではない。
まずは、今後の方針をしっかりさせておく必要がある。

「…いまさら確認するまでもないかもしれないけど、念のため。
 あたしもドロロもさっきのズーマのときのような状況にならなきゃ
 進んで殺し合いをする気はないわ。アサクラたちもそうと思っていいわね?」

あたしの問いに大きくなったヴィヴィオちゃんがこくりと頷く。
しかし、その隣にたたずむアサクラは凛とした瞳でこちらを見据え、はっきりと言った。

「私は少し違うわ」

静かに言った。
これはすぐに肯定されるだろうと思っていたあたしはちょっと面食らい、場の空気が張り詰める。

「もちろん、無駄な争いは起こさないつもりだし、進んで殺し合うつもりもない。
 ………だけど。例外もいる」

ヴィヴィオちゃんの左腕につけてある、メイド服とは不釣り合いな腕章に目をやりきっぱりと言った。
その"例外"が誰なのか察したヴィヴィオちゃんは物哀しげな様子を見せる。

719彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:51:24 ID:Uw68TWIc
「…オーケー。その人に関してはアサクラの判断に任せるわ。
 今は話を進めるわよ」

ある程度話は聞いていたのであたしも言いたいことを推察できた。
あとで話を聞くことにして会議を進行させる。
何せあと30分ないし40分もすればまたショウたちとのチャットが始まる。
情報が増えるまでにできる限り情報整理は終えておきたい。

「時間が惜しいから、あたしがアサクラたちに聞きたいことをざっと挙げるわ。
 まず第一にあなた達の知り合いについての情報。危険人物については最優先で。
 次に、首輪について。
 アサクラが『どうにかできるかもしれない』って言った根拠も教えてもらいたいわ。
 あとそれと―――」

「"対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース"とは何か―――
 とかもどうかしら?」

素晴らしき笑顔でそういった朝倉に思わず、うぐっと言葉に詰まる。

確かに気になってる、気にはなってるけども………
ああああああ、やっぱりこっそりプロフィール見たの根に持ってる!!?

などと頭の中で冷や汗を流しながらも、

「あはははは、うんそれもお願い…」

とりあえずひきつった笑顔で返事するぐらいしかできない。
………彼女から話してくれるまで、この話題には触れないでおこう…。

「…朝倉殿たちが拙者らに聞きたいことは何かあるでござるか?」

トラブルを引き起こしたくないとか言ってたドロロが助け舟を出してくれたおかげで、
話の軌道が修正された。ガウリイにはできない気遣いである。ナイス。

「そうね…私たちもあなた達の知り合いについては最低限押さえておきたいわ。
 それにこの殺し合いのシステムやパソコンなどの情報においても
 二人のほうが知っていることは多いようだし、教えてほしいところね。
 そんなに悪くない条件のはずよ。情報交換に関してはこれでどうかしら?」

「こちらとしてもそれでいいわ」

あたしは内心ほっとしていた。
"首輪解除"についての情報は脱出を目論む参加者としては必須の情報、
その価値はあたしたちが考察したり集めたりした情報全ての価値よりも上になり得る。
最悪、アサクラが首輪の情報と引き換えにこちらの情報から支給品まで全て要求してきたとしても
突っぱねるかどうかは非常にきわどいほど、最最最重要なもの。
それがこの程度の対価で得られるならば願ってもない。

だからといってここであからさまに喜べば足元見られる可能性もある。
あたしとしてはそこらへんで手を抜くはずにもいかない。
ここは冷静に、そういった感情は伏せて情報交換をしよう。

720彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:51:57 ID:Uw68TWIc
「よし、それじゃあ情報交換を始めましょう」

「拙者はそれと並行して参加者のことをkskコンテンツで調べるでござる。
 晶殿とチャットする前に『雨蜘蛛』『川口夏子』について調べておきたいでござるからな」

「それがいいわ。
 ついでに、『草壁姉妹』と『トトロ』、『冬月コウゾウ』についても
 調べてもらってもいいかしら、ドロロさん?」

「承知したでござる。それだけでいいでござるか?」

ドロロの問いにアサクラは綺麗な眉をぴくりと動かし眼を右上の虚空へと遣る。
他に何かなかったのだろうかと思案しているようだ。

やがて、何か思い至ったのか手をポンと叩き口を開いた。

「そうそう。大柄で浅黒い肌の中年男がいたら教えてちょうだい」

アサクラのその言葉にあたしとドロロは目を合わす。
なんつーか…あんまり思い出したくないんだけど………思い当たる節があるという説が…

「ねぇドロロ…」

「察するに…彼奴でござろうなぁ…」

ドロロは布越しにでも分かるほどの大きな溜息を吐き、
あたしは眉間をひっつかんで頭が痛いことをアピール。
皆まで言うなかれ、あたしのような繊細な心を持つ乙女にはあれを思い出すのは精神衛生上よろしくない。

「二人とも、彼に会ったの?」

「明け方に………一戦交えたでござる。この眼も彼奴――ギュオーにやられたのでござるよ」

そう言ってドロロは左目を指差した。
その痛々しさに、ヴィヴィオちゃんは思わず目を背ける。
対照的にアサクラは平然としているが。

「そうなの。それについては情報交換のときに聞かせてもらってもいいかしら」

「もちろんでござる。
 リナ殿とヴィヴィオ殿は他に何か調べておくことはござらんか?」

ヴィヴィオちゃんはドロロのほうを向いて首を横に振る。
あたしはしばらくあごに手を当て考えてみた。

このkskコンテンツとやらには各参加者が最初に持っていた支給品情報が記述されているようだ。
逆に言えば特定の支給品が誰の手に渡っているかの手がかりにもなるし、
この島の中に存在するアイテムを特定することもできる。
そうなるとすると、その存在を確認しておきたいアイテムはいくらかあった。

721彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:52:43 ID:Uw68TWIc
あたしは口を開く。

「『光の剣』別名『烈火の剣(ゴルンノヴァ)』、それと『タリスマン』。
 あとさすがにないと思うけど異界黙示録(クレアバイブル)。
 こいつらが支給品にないかチェックして」

「有用なアイテムなのね?」

アサクラが微笑を浮かべながらこちらを見る。
あたしはその眼を見てこくんと頷いた。

「ええ。もし支給品としてこの島にあるのなら説明するわ。
 それじゃ、時間もないし―――始めましょうか」

『Yes』

かくして、kskコンテンツを用いた情報収集と4人+1機による情報交換という一大イベントは幕を上げた。


● ● ●


これまでの軌跡。
出会った人物。
元の世界の知り合いetc.

情報交換は滞りなく行われた。
ドロロにしても朝倉にしても、誰も言ってくれないので自分で言っちゃうがあたしも
"聡明"と称して差し支えがない程度には切れ者だと思う。
語り手は話す内容は最低限に絞り、聞き手も実に的確に質問をするという理想的な情報交換であった。
ヴィヴィオだけはそうもいかないが、そこはバルディッシュがいる。
彼が手早くフォローに入るため問題なかった。

「………と、拙者についてはこんなものでござる。
 他に質問はござらんか?」

最後の一人であったドロロが全てを語り終え、キーボードを叩く手を休め3人に目を遣る。
もっとも道中はほとんどあたしと一緒だったし出身世界の仲間たちの話をしたのみ。
よって大した量ではなかったのですぐに終わったけど。

見渡してもアサクラもヴィヴィオちゃんも手を挙げる様子も口を開く様子もない。

「うん、それじゃあ…これで最低限だけど、情報交換は終了でいいわね?」

ふぅ、と息を吐き一息入れるためにあたしは首をコキコキ鳴らした。

アサクラの話によると、どうやらギュオーはあたしたちとの戦闘直後に滝付近で倒れていたらしい。
そこをウォーズマンとかいうまっくろくろすけが保護して治療したということだ。

ちぃっ、余計な真似を。

それにしても、ウォーズマンが滝に駆け付けた時は周囲には誰もおらず
ギュオーだけがいたそうで、荷物も盗られていなかったようだ。
ということは誰かに奇襲を受けて倒れたわけではなく
あたしたちとの戦闘によるダメージによって力尽きたのだと推測できる。

722彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:53:38 ID:Uw68TWIc
竜破斬を受けてまだ戦っていたりドロロとあたしを撃退したことからしても
タフなのは間違いないようだが…その後倒れちゃうようじゃマヌケとしか言いようがない。
もしかしたらギュオーのおつむは発酵してるんじゃなかろうか。
おまけにストーカーな上に変態なので脳みそが半分溶けてるガウリイよりもタチが悪い。
だが、性格もなんとなく掴んでるし上手くやれば利用してやれるかもしんない。
………できればもう会いたくないもんだけど。

「それじゃドロロ、kskコンテンツのほうはどう?」

「報告するでござる。
 まず、これを見てほしいでござる」

ドロロはそう言い、マウスを操作してページを送る。
瞬間的に誰かの写真が映り、すぐにまた別の写真が映る。
クリックに反応してまたすぐに別の写真に切り替わる。
そんなことを繰り返して映し出された画面には―――

「あっ…あの温泉の怪物!?」

風格漂う、獲物を狙うヘビの眼を持つ紫の怪物の写真が映されていた。
肩書きは『ワルモン四天王』。
非常に悪そうな団体名?と四天王というなんだか強そうな肩書き。
分かりやすいのはいいけどもうちょっとどうにかならなかったのか…などと
心の中でツッコミを入れるがこの際どうでもいいので捨て置く。

その名前を見ると―――

「こいつが、やっぱりナーガか」

「先程放送で呼ばれた名前ね」

「ええ。ショウから名前は聞いてたけど…間違いなかったみたいね」

「それと、この写真も見てほしいでござる」

ドロロがそう言いもう一度カチカチとマウスを操作する。
顔写真が流れるように表示されていき映ったのは。
顔を覆った布から鋭い瞳と針のような髪を覗かせる、見慣れた顔。

「っ…ズーマ」

「やはりそうでござったか。拙者は顔こそ知らないでござるが
 『凄腕の暗殺者』という肩書きを見てそうではないかと思ったでござる。
 ラドック=ランザード…それが彼奴の本名のようでござるよ」

「あたしも初めて知ったわ。けど…」

この名前は先程の放送でも呼ばれていた。
だが、今まで散々苦しめられた相手の名前だろうと今知ったところで役に立つわけでもない。

「殺し合いに乗って死んだような連中はどうでもいい。他になんかなかった?
 光の剣が支給されてました―――とか」

723彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:54:11 ID:Uw68TWIc
「リナ殿が探してほしいと言われたアイテムは光の剣とタリスマンが確認できたでござる。
 もっとも、光の剣はレプリカでござったが…」

「れぷりかぁ?」

「レプリカ…ね。ということは別に入手する必要はないかしら」

「んー…でも普通の剣よりはずっと便利なのよね、レプリカのほうでも」

光の剣のレプリカといえば、
おそらくポコタが持っていたタフォーラシアの技術で作られたものであろう。
レプリカと聞いてアサクラはパッチもんの劣悪品というイメージを持ったのかもしれない。
だが、美術品でもそうであるようにレプリカでも出来がいいものは結構ある。
このレプリカもその類で、本物にこそ及ばないものの使い勝手は十分に良いのだ。

「どういった効果の剣なの?」

「物質的な破壊力と、相手の精神そのものを断ち切る、
 持ち主の意志力を具現化した光の刀身を生み出す剣で切れ味はそれなりにいいわ。
 魔法を上からかけてやることでそれを収束・増幅して威力を上げたり
 光の刀身だけを打ち出したりと応用も利くし、あるに越したことはないんだけど」

「で、それは誰に支給されたの?」

「…彼でござる」

そういってドロロが表示させた画像は………
銀色のマスクが光る強面でごつい身体。
肩書きは『悪魔超人軍の首領』!
その名は悪魔将軍!!

どう見ても悪人です本当にありがとうございました。

「また厄介そうな人の支給品になっちゃったものね…」

「でも、この人が持ってない可能性もあるんだよね?」

「ヴィヴィオちゃんの言う通りね。
 もうここに連れてこられてからかなり経ってるし…
 こいつの手を離れてても全然不思議じゃないわ」

うまく手に入るといいんだけどなー、と思うが…まぁそう都合よくはいかないだろう。
島の中にあるのが分かっただけでも良しとしよう。

724彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:54:48 ID:Uw68TWIc
「で、ドロロ。タリスマンは?」

「彼でござる」

カチリと手元を動かし表示させたその画面に映ったのは
ブタ鼻とタラコ唇、額に『肉』と書かれたマスクを付けた
できれば関わり合いになりたくないようななかなかお目にかかれないブ男の画像だった。

全身写真じゃないため断言こそできないがいい身体つきをしている。
筋肉も見せ筋ではなく実戦で鍛えたもののようだ。
肩書きの『キン肉星王子』やら『超人オリンピックV2達成』が
どれほどすごいのかあたしにはイマイチ判断できないが…
なんだか単純そうだなぁ、と直感的に思った。
あと肩書き。
先程の悪魔将軍みたいなのが『人を超えた』とか名乗るのはまだ納得いくのだが
こんな不細工な奴が『超人』、おまけに『正義』なんか名乗っていたら胡散臭さ大爆発だ。
と、散々な評価をあたしは下していたが
ヴィヴィオちゃんとアサクラには別に思うところがあったようだ。

「キン肉マンさん!」
「あら、キン肉マンさんじゃない」

「こいつがゼロスと一緒にいなくなったっていう奴なの?」

「ええ」

ゼロスと同じところに転移したのかどうか知らないけど…
もし今も一緒にいるのならいいようにされてないことを祈るばかりである。

「キン肉マンさんはあたしが確認した時点では初期支給品は全て持っていたはずよ。
 ところでそのタリスマンはどういったアイテムなの?」

「魔法発動前に短い増幅魔法と唱えてやると使用者の魔力容量が一時的に上がるのよ。
 これがあると使える魔法のレパートリーも威力も増えるし便利なんだけど…」

そこでふとある考えが頭をよぎった。
『タリスマンがあると使える魔法』というのはあたしの場合は
獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)だったり神滅斬(ラグナ・ブレード)だったり
暴爆呪(ブラスト・ボム)だったりするわけだが…

この暴爆呪、火炎球(ファイアー・ボール)よりも数倍の火力を誇る火球を数発撃ち出す
凶悪無比な火系統の魔法なのだが何を隠そうタリスマンがあればゼロスくんも使用可能なのである。

725彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:55:31 ID:Uw68TWIc
ゼロスと一緒に消えたタリスマン(+ブタ鼻)。
そしてさっき市街地のほうであった大規模な火事。
アサクラの話では迷惑極まりない放火犯はゼロスではなかったそうであるが、
精神生命体である魔族にとって外見なんてかりそめのもの。
高位魔族である彼は少なくとも元の世界では外見を自由に変えることができる。

つーことはつまり。

………まさか…ね。



……

………ゼロスならやりそうだなぁ。

「リナさん、どうしたの?」

アサクラの声ではっと我に返る。
そうそう、んなこと考えてる場合じゃなかった。
時間を見るともう19時直前、ショウたちとチャットをする約束の時間だ。

「ドロロ、もう時間がないわ。冬月コウゾウとかそこらへんについてはあとからでもいいけど、
 川口夏子と雨蜘蛛についても調べてくれた?」

「全員分の記述は一応は目を通したでござる。
 もちろん、川口夏子と雨蜘蛛に対する記述にも。
 前者は『元オアシス政府軍下士官』『反政府組織特殊部隊所属』だそうでござる。
 後者は『魂すら取り立てる地獄の取立人』だそうでござる」

レジスタンスと取立人。…どうも、これだけの情報で彼らが
ショウを利用しようとしているかどうかの判断を下すのは難しそうだ。
じゃあどうするか?

「その二人の顔を表示してくれる?
 もうかったるいし人相で判断しちゃいましょ」

「人を見た目で判断するのは良くないでござるよ。
 それにもう約束の時間が―――」

「"深町晶"だし待たせても問題ないわ」

「どんな理由でござるか!?」

あたしがこう主張しても、ドロロは『約束は守るべき』の一点張り。
ヴィヴィオちゃんも非難するような目でこっちを見てくるし
アサクラも『協力者の信頼を損ねる行為は慎むべきよ』と笑顔で言ってきた。
………"やっちゃった"あたしとしては彼女にそう言われると反論できない。

726彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:56:20 ID:Uw68TWIc
「分かったわよ。それじゃドロロ、そっちは頼むわね」

「…リナ殿、どこかに行く気でござるか!?」

あたしが自分のディバックを担いでいるのを見て、ドロロが驚きの声を上げた。

「ちょっと遊園地を調査してくるわ。昼間に来た時は使える道具がないか、って調べてたけど
 リングとかそういったギミックが仕掛けられている可能性があるって分かったし
 そういうのをちょっと探してみようかなって」

あたしは遊園地に何かしらが仕掛けられている可能性は非常に高いと推測していた。
もし何もないのなら禁止エリアをわざわざ3つも使ってここを封鎖する理由が説明できなくなる。
ドロロと考えていても結局何も思い浮かばなかったが―――なら実際に見て調べてみるっきゃない!

………本当に気まぐれで禁止エリアを選んでるとかだったら泣くぞあたしは。

「しかし一人で行くのは―――」

「だいじょーぶだって。魔力もそこそこ回復したし、何かあってもムチャする気はないから。
 それに深町晶とのやりとりはずっとドロロがやってきたから
 ここをアサクラに任せてドロロ連れていくってのも向こうが戸惑うでしょ」

ドロロが心配そうにこちらを見てくるが、あたしは手をぱたぱた振ってそう答えた。
アサクラかヴィヴィオちゃんのどちらか一人を連れていく…というテもあるけど、
これまでの二人の様子を見る限りヴィヴィオちゃんはアサクラのことをかなり信頼しているようだ。
今の外見こそあたしやアサクラと大差ない年齢になっているが精神年齢はまだまだ子供。
しかも、今は落ち着いているが放送直後の様子からしても精神的にかなり負担がきているのは
会ったばかりのあたしでも容易に想像がつく。
そんな彼女とアサクラを引き離すのはどーも忍びない。

「しかし…」

あたしの考えを知ってか知らずかなおも心配そうなドロロ。
うーん、仕方がない。譲歩してあげよう。

「ドロロはあたしが一人だと、もしギュオーとかズーマみたいなのに襲われたら危険だ。
 …こう言いたいのね?」

「そ、そうでござる」

まぁ、それはそうだろう。
正直なところ、一人だったらとっくに放送で名前を呼ばれてたはずだ。

「ならこうしましょう。あたしとアサクラとヴィヴィオちゃんの3人で調査に行く。
 ドロロはここに残る。うん、完璧」

「拙者が一人!!?」

ドロロが不服のツッコミをいれる。我儘なヤツである。

「それじゃ、いっそ何かトラブルに巻き込まれたことにして
 ショウのことはほったらかしに―――」

727彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:57:20 ID:Uw68TWIc
「ヴィヴィオちゃん、リナさんに付き合ってあげて」

予想外の人物の予想外の発言によりあたしの発想の転換をしたナイス提案はストップさせられた。
あたしもドロロもヴィヴィオちゃんも驚きの目でその発言者、アサクラのほうを見る。

「え…でも、涼子お姉ちゃん…?」

ヴィヴィオちゃんも戸惑いの色が強いようで、目をぱちくりしながらどうにかその言葉を発した。
アサクラがそれを制し、言葉を続ける。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 さっき言ったように自分で自分の身も守れるようになっておいたほうがいい。
 けれど、有機生命体というものはそんなすぐに簡単に強くなれるように作られてないわ。
 そして、私はあなたを守ってあげることはできても強くしてあげることは――残念ながらできない」

そこまで言い終えたところで、アサクラはすっと腕を上げ―――
こともあろうにあたしのほうを指差した。

「でも、リナさんは同じ魔法使い。リナさんにアドバイスをもらえば、
 少なくともあたしといるよりは強くなることができると思うの」

いや、確かにそうかもしんないけど…あたしの意思は!?
正直なところヴィヴィオちゃんがどれほど戦えるのか知らないが頼りに出来るとは思っちゃいない。
ドロロが心配しているような有事の際には足手纏いになること請け合いである。
そもそも、ヴィヴィオちゃんもアサクラと一緒にいたいはずだ。
何か反撃してやれっ!

「………」

何か考えるように伏目になるヴィヴィオちゃん。
考えるちゃいけない、感じるのよ!そして反論してあげなさい!!

「涼子お姉ちゃんがそういうなら…うん、私リナさんと一緒に行くことにする」

少し悩んだ末、力強い瞳でヴィヴィオちゃんは言った。
流されるなぁぁぁっ!!!
仕方ないのでここはあたしも口を出すことにしよう。

「アサクラ。悪いけどあたしはヴィヴィオちゃんを連れていくことに賛同できない。
 一人なら逃走できるような場面でも二人だとそうもいかないこともあるし―――」

「けれど、ヴィヴィオちゃんを連れていけば"逃走するような場面"を
 回避できるかもしれないわよ。ね、バルディッシュ?」

『Yes』

728彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:58:37 ID:Uw68TWIc
ヴィヴィオちゃんの胸元のブローチがきらりと金色に光り、返事した。
ああ、そっか。ヴィヴィオちゃんが装備してるデバイス・バルディッシュ。
そういえば索敵機能みたいなものがついているんだっけ。
少々彼女には失礼な考え方かもしれないが、もれなくバルディッシュが付いてくるのならば
まわりへの警戒はバルディッシュに任せてあたしは調査に集中できるし確かに悪くはない。
異世界の魔法についてじっくり話を聞くいい機会でもあるが―――

「言っておくけど、最善は尽くすけども、
 いざってときにヴィヴィオちゃんを絶対に守れるなんて保証はちょっと…」

「それを保証してくれるのなら――さっきのあなたたちの行動は許してあげるわ」

笑顔でアサクラが言った。
さっきの行動、とやらは…もしかしなくてもこっそりkskコンテンツでアサクラの情報を見たことだろう。
………まだ根に持ってたのね…。

「それに…なんで私が"一番あなたたちが知りたい話"をしてないか。
 単に時間が足りなかったというのもあるけど…どうしてか分かる?」

そう、実はまだ首輪についてやアサクラの正体については一切話を聞いていない。
"あたしたちが一番知りたい話"とは十中八九、首輪解除についてのことだろう。
つまりは彼女、『私の言うこと聞かないと首輪のことしんないゾ☆』と言ってるのだ。
さっき教えてくれるって言ったぢゃないか、ヒドい!
…なーんて思うが後の祭り。
まぁ、この提案自体はさっき考えたように悪いことばかりではない。
もっとも今後も首輪をネタに同じような脅迫を繰り返すならそれ相応の応酬をさせてもらうが。

「―――仕方ないわね。あんまり無茶しないように1時間かそこらで帰ってくるようにするわ。
 よろしくね、ヴィヴィオちゃん、バルディッシュ。」

やり口はちょっと不服だけど、まぁいっか。
あたしはウインクをしながらヴィヴィオちゃんに手を差し出した。
その手を見たヴィヴィオちゃんはパーッと明るい顔をしてあたしの手を握る。

その笑顔は…悔しいがかわいい。
背も胸もあたしより大きいし…くそぅどいつもこいつも。

ヴィヴィオちゃんと手をつないだまま部屋を出ようとして―――
危ない危ない、これだけは確認しとかないと。

「アサクラ。あなた、空を飛ぶことはできる?」

もし、何かトラブルに巻き込まれた際にはドロロとアサクラを置いてきぼりにして
遊園地を離脱する必要があるかもしれない。
そうなったとき、置いてきぼりにした二人が禁止エリアのせいで立ち往生しました―――
とか笑い話にもならない。
そう考えて念のために尋ねたのだが―――

「…涼子お姉ちゃん?」

「どうなさった、朝倉殿!?」

729彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:59:13 ID:Uw68TWIc
その質問を境に突然アサクラの笑顔がひきつったものに変わる。
よく見ると冷や汗までかき始めている。
………なんか聞いてはいけないことだったのだろうか?

「飛べない…ことはない、わ」

消え入りそうな声でアサクラはぼそっと呟いた。
…何がそんなに嫌なのかは知らないが、飛べるのだったら話は早い。

「もし遊園地が封鎖されちゃった後に、
 あたしたちが帰ってこなかったりここを離れないといけない事情ができたりしたら
 ドロロを抱えて飛んで脱出してもらっていい?
 安心して、ヴィヴィオちゃんはちゃんと面倒みるから」

「………分かったわ」

ものすごく躊躇の混じった返答。
………何がそんなに嫌なのか。

「できればそういう状況にならないように祈りたいけどね。
 じゃ、リナさんも気をつけて。
 さっき話をしたようにこの会場には転送装置がいくらかあるみたい。
 ヴィヴィオちゃんとはぐれるのだけは避けたいからそれだけは注意してね」

『お願い』と手を目の前で合わせてウインクする彼女に、あたしはコクリと頷いた。
―――はぐれたくないのならなんでわざわざ別行動を促すような真似をしたのか分からないけど…
ゼロスといい彼女といい笑顔を絶やさないヤツはホント何考えているんだか。

730彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 17:59:48 ID:Uw68TWIc
「それじゃ二人とも、ショウの相手よろしく。
 アサクラ、首輪については戻ってきてからちゃんと聞かせてもらうわよ?」

あたしはディバックを担ぎそのまま部屋を出た。
左手に引いているのはサイドポニーの綺麗な茶色い長髪を持つオッドアイの美少女メイド。
ふと目が合い、彼女はニコっと笑いかけてくれた。
その笑顔にはどうも緊張の色がある。
まぁ状況を考えればそりゃ緊張もするだろうけど。

引率なんてガラじゃないんだけどな…。

あたしは彼女の手を引き、夜の遊園地へと繰り出した。
………デートに行くカップルじゃあるまいし何やってるんだろ。


◆ ◆


「さて、それでは晶殿が待ちわびているやもしれないでござる。
 すぐにチャットを―――」

リナたちが出て行ったのを確認したドロロがマウスを握ろうとして―――
いつのまにかそのマウスを朝倉が握っていることに気付いた。

そして操作する。今はキン肉マンのページが表示されているkskコンテンツを。
マウスに連動する矢印は支給品情報が書かれている下の
青い『→』のマークに移動し、

カチカチカチカチカチッとクリック連打。

「あ、朝倉殿!?」

「ごめんなさい、ドロロさん。どうしてもこれだけは確認しておきたいの」

そう言ってページを送り続けた先に表示されたのは―――
金髪の髪とオッドアイの瞳を持つ少女のページだった。

731彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:00:24 ID:Uw68TWIc
朝倉は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースである。
そのためか、相手の外見にとらわれず冷静に相手の性質に気付くことができる。
ギュオーもゼロスも直感的にただの人間ではない、
もしくは人間ではないと気付いたのはそのためだ。

そんな彼女がヴィヴィオに抱いたわずかな"違和感"。
最初は『異世界の人間だからだろう』ぐらいにしか思っていなかった。
だが、どうも違うと確信したのはリナと出会ってからだろうか。
同じく『異世界の人間』で『魔法を使う』存在でありながら彼女には"違和感"を感じなかった。

こうやってその違和感の正体を突き止めようとしているのは単純に知的好奇心からだけではない。
疑問や迷いは咄嗟の判断を遅らせる。
そしてこの"違和感"というノイズは有事の際に自身の判断を鈍らせるかもしれない。
だからこそ、彼女を守り通すためにはそれを知っておくのも必要なことだと結論付けた。
とは言っても本人やバルディッシュに
「ヴィヴィオちゃんは普通の人間と何か違う。その理由を教えて♪」
と言えるわけもなく、一時的にリナにヴィヴィオを預けこういう行動に出たのだった。

そして、朝倉はヴィヴィオの肩書きを見る。

"魔法学院初等科所属、聖王の器"

「聖王………の…器?」

「器…とはまた面妖な表現でござるな」

朝倉もドロロも怪訝とする。
『聖王』というだけならまだ理解できるのだが…『器』の意味がさっぱり分からなかった。
だが、わざわざここに特記事項として書かれているのだ。
"違和感"の正体の鍵は、この言葉が握っている可能性が高い。

(機をうかがって、本人かバルディッシュに聞いてみればいいかな)

「ありがとう、もういいわ」

朝倉はそう言いマウスを手離した。
溜息を吐きつつ、ドロロがそのマウスを握る。

「ここで出会う女性は押しが強いでござるな…」

苦笑しながら、ドロロはマウスを操作し始めた。

732彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:01:16 ID:Uw68TWIc
【D-02 遊園地(スタッフルーム)/一日目・夜】

【ドロロ兵長@ケロロ軍曹】
【状態】切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯
【持ち物】匕首@現実世界、魚(大量)、デイパック、基本セット一式、遊園地で集めた雑貨や食糧、
【思考】
0.殺し合いを止める。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.リナとともに行動し、一般人を保護する。
3.ケロロ小隊と合流する。
4.草壁サツキの事を調べる。
5.後で朝倉と首輪解除の話をする。主催者が首輪をあまり作動させたがらない事も気になる。
6.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
7.「KSK」という言葉の意味が気になる。

【備考】
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※晶達から、『主催者は首輪の発動に積極的ではない』という仮説を聞きました。
※参加者プロフィールにざっと目を通しました。



【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(大) 、ダメージ(中)、自分の変質に僅かに疑問、ドロロとリナに対してちょっと不快感?
【持ち物】鬼娘専用変身銃@ケロロ軍曹、小砂の首輪
     綾波のプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ディパック(支給品一式)、新・夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     リチウムイオンバッテリー(11/12) 、クロスミラージュの銃身と銃把@リリカルなのはStrikerS、遊園地で回収した衣装(3着)
【思考】
0.ヴィヴィオを必ず守り抜く。
1.晶たちとチャットで情報交換する。
2.武器もないので、気は進まないが鬼娘専用変身銃を使う事も辞さない。
3.キョンを殺す。
4.長門有希を止める。
5.古泉を捜すため北の施設(中学校・図書館・小学校の順)を回る。
6.基本的に殺し合いに乗らない。
7.ゼロスとスグルの行方が気がかり。
8.『聖王の器』がどういう意味なのか気になる。
9.できればゲーム脱出時、ハルヒの死体を回収したい。


【備考】
※長門有希が暴走していると考えています。
※クロスミラージュを改変しました。元に戻せるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※クロスミラージュは銃身とグリップに切断され、機能停止しています。
 朝倉は自分の力ではくっつけるのが限界で、機能の回復は無理だと思っています。
※制限に気づきました。
 肉体への情報改変は、傷を塞ぐ程度が限界のようです。
 自分もそれに含まれると予測しています。
※遊園地で適当な衣装を回収しました。どんな服を手に入れたかは次回以降の書き手さんにお任せします。
※kskコンテンツはドロロが説明した参加者情報しか目を通していないため
 晶たちといる雨蜘蛛が神社で会った変態マスクだと気づいていません。

733彼女らのやったコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:01:50 ID:Uw68TWIc
◆ ◆ ◆


「わぁ…きれい…」

あたしの隣でメイド服に身を包んだ美少女、ヴィヴィオちゃんが感嘆の声を漏らした。

あたしたちを乗せた船は水上をゆっくりと移動し、
色とりどりのイルミネーションをあたしたちの視界へと運んできてくれる。

近くで突如水が噴きあがった。
何者かが潜んでいたのかと慌てて呪文を唱えながら身構えるあたしだったが、取り越し苦労だったようだ。
何色ものイルミネーションに水しぶきが照らされ、空間が虹色になっている。
空中に散った水により本物の虹まで見えていた。

周囲の幻想的な雰囲気にあたしの戦いで荒んだ心も癒されていく。


勘違いがないように言っておくと、あたしたちは決して遊んでいるわけではない。
遊園地の調査をするといったが、昼間に来た時に既にドロロと二人であらかた調べたのだ。
しかし、『使えるようなものはないだろう』と思って調べなかった箇所がいくらかある。
それがこういったアトラクションだ。

やがてあたしたちが乗っていた船が発着点に到達する。
このアトラクションにも、仕掛けらしきものも見当たらなかった。

「リナさん!次はあれに行きましょう!!」

そういってヴィヴィオちゃんは指差したのは―――馬や馬車の彫像が円上をぐるぐる回るもの。
やれやれ、とあたしは苦笑しながら
ヴィヴィオちゃんに手を引かれそちらのほうに移動し始めた。

落ち着いてこそいたが、情報交換のときに明るい表情をすることはほとんどなく、
話にもほとんど参加してこなかった(会話の内容が彼女が付いてくるには難しかったからかもしれない)。
そんな彼女が…まだ無理している感じはあるが、それでも"表面上"だけでも
楽しそうに、そして友好的に話しかけてくれることは好ましいことではある―――

だけども。

大事なことなので2回言っておく。

734彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:03:03 ID:Uw68TWIc
「まったく、仕方ないわねー」

あたしたちは決して遊んでいるわけではない。


● ● ●


「ねぇ、リナさん…」

その後もいくらかのアトラクションに乗ったがめぼしい発見は何もなく
次はどの乗り物に乗ろうかと思案していると、
さっきまでのトーンとは打って変わった声で
ヴィヴィオちゃんがためらいながらも後ろから呼びかけてきた。

「私…リナさんから見て、みんなに迷惑掛けていると思いますか?」

尋ねてきた内容はそれだった。
『そんなことないわよ』と軽く返そうかと思ったが、振り返った先にいる
彼女の表情は、深刻な顔をしていた。

「ここに来てから私は色々な人に会いました。
 けれど、誰も助けることはできませんでした。
 私がどうにかできるほど世界は優しくない―――そう涼子お姉ちゃんに言われました」

ぽつりぽつりと彼女は語り始めた。
風が彼女の後ろからあたしのほうへと吹き抜け、あたしたちの髪をなびかせる。
あたしは黙って彼女の言葉に耳を傾けた。

「私にできる最善のことをしていた―――涼子お姉ちゃんはそうも言ってくれました。
 けど、それじゃダメなんです。
 どんなに私が頑張っても、それでも迷惑をかけるんじゃ…ダメなんです。
 だから―――」

「で、あたしが『迷惑だ』って言ったら…ヴィヴィオちゃんはどうするの?」

あたしはわざと彼女の言葉に割り込みこう言った。
子供の愚痴に付き合ってあげるほどあたしは暇でもなければ優しくもない。

「だから、私は"今の"私よりももっと強くなりたいと思ってます」

「口だけなら何とでも言えるわ。
 …問題はどうやって強くなるかよ」

今度は語気を強めてちょっときつめに言ってやった。
アサクラも言っていたが、人が『強くなる』のは簡単なことではない。
もしこの程度で折れるぐらいなら彼女が強くなることはないだろう。

ここらへんで殻を破る必要がある。

たぶん、アサクラもそう思って短時間とはいえあえて別行動させたのではないか。
あたしはそういうふうに考え始めていた。

735彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:03:58 ID:Uw68TWIc
「そこで、リナさんにお願いがあります」

ヴィヴィオちゃんはあたしを見た。
オッドアイの瞳に宿る光が力強い。
彼女が何を言いたいのか予想はついている。
おそらく、こう言うだろう。

「私にレリックを譲ってください!!」

『私に魔法を教えてください!!』と―――って…あれ?
目の前でメイド服のヴィヴィオちゃんが頭を下げているが―――ちょい予定外。

「………レリックって何?」

「リナさんが持っている赤い宝石のことです」

おそらく、あの魔力が詰まった宝石のことだろう。
レリックというらしい。
どうやら、ヴィヴィオちゃんに縁があるもののようだが―――

「嫌よ」

あたしはきっぱりと言った。

「アレがどういったものかは知らないけど、
 あたしなりにアレは有効活用しているし、ないと困る。
 残念だけどヴィヴィオちゃんにあげることはできない」

「でも、あれがあれば私は―――」

『Stop』

そこで割り込んでくる機械的な第三者の声。
ヴィヴィオの胸のバルディッシュだった。

『Ms.インバース。ヴィヴィオにレリックを渡してはいけません』

「バルディッシュ!!」

バルディッシュが強めの口調で言い、
それに対してヴィヴィオちゃんが珍しく語気を強めた。
今まで必要がないと喋らなかったバルディッシュが割り込んできたということは
どうもただ事ではないようだ。

736彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:04:29 ID:Uw68TWIc
『レリックは超高エネルギー結晶体です。
 その性質故、魔力波動などを受けると爆発する危険があります。
 かつて、レリックが原因の周辺を巻き込む大規模な災害が幾度か起きました』

ゲゲッ…両手に握って魔力の回復なんかに使っていたが、そんな危険物だったのか。
これからは注意して使うようにしよう。

『ヴィヴィオ。今の貴女が持つには危険すぎます。
 また、レリックを埋め込まれた貴女が何をやったか忘れたわけではないでしょう』

「っ…それは…」

『それに、我が主はそのようなことを望んでいない。そう思います』

「………。…ずるいよ、そんなの」

バルディッシュの説得に、ヴィヴィオちゃんは反論したが最後のほうはか細く、
風上にいればほとんど聞こえなかっただろう。
確か、バルディッシュは彼女の母親が使っていたデバイスだったか。
バルディッシュの言葉にどれほどの重みがあったのかはあたしには分からないが…
それっきりヴィヴィオちゃんは黙ってしまった。

次に向かうつもりだったアトラクションのほうへと歩き出す。
一応、ヴィヴィオちゃんも後ろをとぼとぼと付いてきてはいるが…

うーん、こりは気まずい。
さっきまでのほのぼの〜とした雰囲気が見事にぷち壊れてしまった。
さてどうしたものか。


◆ ◆ ◆ ◆


ヴィヴィオはひどく落ち込んでいた。
一時的とはいえ大人の身体になり、レリックまで見つけた。
これならきっと自分の身を守れる。それだけじゃなく、涼子お姉ちゃんやなのはママだって守れる。
周りにいる大事な人たちを守る力を手に入れることができる。

そう思ったのだが―――。

737彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:05:08 ID:Uw68TWIc
(バルディッシュまで…あんなこと言うんだもん)

きっとバルディッシュなら自分の想いを分かってくれる、協力してくれる。
ヴィヴィオはそう信じていたが現実は甘くなかった。

フェイトママはそんなこと望んでいない。

確かにそうかもしれない。
でも、ママが間違っていると言っても、それがみんなのためになるのなら。
自分で考えて正しいと思ったことのならばやらなくちゃいけないのではないか。
バルディッシュはフェイトママのために作られたデバイス。それができない。
それをするのは娘である私の役目じゃないのか。

ヴィヴィオは落ち込み半分、恨めしさ半分の眼で胸元のバルディッシュを見た。
考えていることを知ってか知らずか、当然無反応である。

「…………………」

そのとき、ヴィヴィオの前方から声が聞こえてきた。
リナが発した言葉なのかも判然としない。
単なる空耳だろうか?

「身の程を過ぎた力は身を滅ぼすわよ」

今度は間違いない。リナが言った。
ヴィヴィオのほうからは前方を歩いている彼女の表情を窺い知ることはできない。

「あたしも経験あるのよ。
 自分じゃ扱えないような魔法を無理やり唱えて、危うく世界を滅ぼしかけたこと」

もはや身を滅ぼすとかいう次元ではないが
とりあえず誰もツッコミを入れず黙って聞いていた。

「あなたが過去にレリックで何をやらかしたのかは知んないけど―――
 もしここで厄介なトラブルを引き起こしたりなんかしたら
 あたしもドロロも、もちろんアサクラも、下手すればみんな死ぬわ」

あまりにそっけないリナの言葉。
そのそっけなさが、逆に『死』が身近なものと感じさせる。
腕章をつけている左腕がズキンと痛んだ気がした。

738彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:05:40 ID:Uw68TWIc
「アサクラも言ってたけど、人が一段階強くなるのは簡単なことじゃない」

リナは歩みを止め、振り向いた。
それまでの厳しい基調とは裏腹に、彼女は優しい顔をしていた。

「いい、ヴィヴィオちゃん?
 あなたはあなたができる精一杯を全力でやればいいのよ。
 ヴィヴィオちゃんにしかできないことだってあるんだから。
 魔法で戦うとか守る、なんてのは…あたしに任せときなさい!」

親指をグッと立てたリナの優しい言葉が染み込むが―――それじゃヴィヴィオは納得できなかった。

「…私にしかできないことってなんですか?
 今までも、情報交換のときもそうでした。
 私にしかできないことなんて全然―――きゃっ」

ヴィヴィオの言葉は途中で中断された。
―――何を思ったか、リナがでこぴんしたのだ。

「じゃ、あたしがヴィヴィオちゃんが使える
 とっておきの魔法を教えてあげるわ。
 いい、よく聞きなさい。



 ――――――『頑張って!』」

「………はい?」

リナの突飛な行動と突飛な発言により、ヴィヴィオの思考が一時停止させられる。

「オトナってものはね、肝心な時にどーでもいいこと考えていたりするわけよ。
 ものすごく強い敵を相手に『こりゃ勝てないわ』と戦う前から諦めたり、とかね。
 そういうときに『勝てるよ!頑張って!!』って魔法かけてあげなさい。
 本当に力が湧いてきちゃうんだから。
 可愛いコにしか使えない高等魔法なのよ」

739彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:06:11 ID:Uw68TWIc
リナはヴィヴィオの肩をぽんぽんっ、と叩きながら笑った。

     負けるつもりで戦えば、勝てる確率もゼロになる。
     たとえ勝利の確率が低くても、必ず勝つつもりで戦うっ!

これはかつてリナが言った言葉。
しかし、本当に絶望的な戦いのときはリナさえもそれを忘れかけることがある。
それをみんなに思い出させるのには"不屈の心"を示すことが必要だ。

あるときは叱責かもしれない。
あるときは開き直りかもしれない。
あるときは応援かもしれない。

それを示す鍵が何か分からない。
でもヴィヴィオならそれをみんなに伝えられるんではないか。
それが彼女のできる、彼女しかできないことなのではないだろうか。
根拠なんて何もないけど、リナはなんとなくそんなことを思ったのだった。


どれくらいの時間が静かに過ぎただろう。
しばらく呆然としていたヴィヴィオだったが、少しずつ顔が綻んでいく。

「えへへ…ありがとう、リナさん」

胸のつっかえがひとつ取れたような笑顔。
遊園地ではしゃいでいた時よりも幾分清々しいように思える。

「私、みんなに"魔法"かけるよ」

力強い少女の声が朗々と響いた。

740彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:06:49 ID:Uw68TWIc
「でも"魔法"かけても恥ずかしくないように私も頑張る。
 もっと強くなる。少しずつでも、ちゃんと順番追って強くなってく。
 リナさんや涼子お姉ちゃんに迷惑かけないように。
 なのはママにエヘンと胸を張って会えるように。
 フェイトママにもう心配させないように!」

爽やかな笑顔。オッドアイの瞳に映る確かな輝き。
まだまだ小さい彼女に言うには少々難しいことだったかもしれないが、
どうやら余計な心配だったらしい。
大したものね、とリナは素直に感心した。

「…ーー…ー……ーー…」

再びヴィヴィオに背を向けたリナが、ゆっくりと言った。
聞き取れはするのだが、何と言っているのかはよく分からない。
もちろんその言葉の意味もヴィヴィオにはさっぱり理解できないだが―――

「炎の矢(フレア・アロー)!」

リナが『力ある言葉』を放つと同時に、彼女の目の前に燃え盛る炎の矢が生まれた。
そのままにしておくことも消すこともできないのか、とりあえず手近な地面に放つ。
レンガ造りの地面を一か所を黒く焦がし、炎は消え去った。

「この魔法の詠唱は訳すと『全ての力の源よ 我が手に集いて力となれ』ってとこね。
 呪文は短いから丸暗記できるだろうし、割と実用的な魔法よ」

そう言ってリナはもう一度ヴィヴィオのほうを見た。
ニヤッともニコッともとれる、不敵な笑みを浮かべて。

「ちょっとヴィヴィオちゃんが考えていたような順番じゃなくなっちゃうかもしんないけど―――
 覚えてみる?」

一瞬、何を言われたのかよく分からなかったのか
ヴィヴィオはきょとんとしていた。
その瞳が、徐々に輝きを増していく。

「―――よろしくおねがいします!」

深々と頭を下げ、ヴィヴィオが言った。
すぐに使えるようになるかどうかはリナにも分からない。
無駄手間になるかもしれないしそもそも余計なお節介かもしれないが―――
戦場の一端、遊園地の光に照らされた彼女らの顔にはそれぞれの笑みがあった。

741彼女らにできるコト ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:07:22 ID:Uw68TWIc
【D-02 遊園地/一日目・夜】

【リナ=インバース@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】疲労(小)、精神的疲労(小)
【持ち物】ハサミ@涼宮ハルヒの憂鬱、パイプ椅子@キン肉マン、浴衣五十着、タオル百枚、
     レリック@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 遊園地でがめた雑貨や食糧、ペンや紙など各種文房具、
     デイパック、 基本セット一式、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊、
     ベアークロー(右)(刃先がひとつ欠けている)@キン肉マンシリーズ
【思考】
0.殺し合いには乗らない。絶対に生き残る。
1.遊園地を調べながらヴィヴィオと行動する。
2.20時が過ぎた頃にはスタッフルームに戻りドロロ達と合流する。
3.朝倉の正体が気になる。涼宮ハルヒについても機を伺い聞いてみる。
4.当分はドロロと一緒に行動したい。
5.ゼロスを警戒。でも状況次第では協力してやってもいい。
6.草壁サツキの事を調べる。
7.後で朝倉と首輪解除の話をする。
8.後で朝倉やバルディッシュとさらに詳しい情報交換をする。
9.時間ができれば遊園地のkskコンテンツにしっかりと目を通しておく。

【備考】
※レリックの魔力を取り込み、精神回復ができるようになりました。
 魔力を取り込むことで、どのような影響が出るかは不明です。
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。
※市街地の火災の犯人はもしかしたらゼロスではないかと推測しました。



【ヴィヴィオ@リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、16歳程の姿、腕章を装備、メイド服の下に白いレオタードを着ている。
【持ち物】バルディッシュ・アサルト(6/6)@リリカルなのはStrikerS、SOS団の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱  メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱 
     ディパック(支給品一式)、ヴィヴィオが来ていた服一式
【思考】
0.誰かの力になれるように、強くなりたい。
1.リナと一緒に行動する。
2.なのはママが心配、なんとか再会したい。
3.キョンを助けたい。
4.ハルヒの代わりにSOS団をなんとかしたい。
5.スバル、ノーヴェをさがす。
6.スグルとゼロスの行方が気になる。
7.ゼロスが何となく怖い。
8.涼子お姉ちゃんを信じる。

【備考】
※ヴィヴィオの力の詳細は、次回以降の書き手にお任せします。
※長門とタツヲは悪い人に操られていると思ってます。
※キョンはガイバーになったことで操られたと思っています。
※149話「そして私にできるコト」にて見た夢に影響を与えられている?
※アスカが殺しあいに乗っていると認識。
※ガイバーの姿がトラウマになっているようです。
※炎の矢(フレア・アロー)を教わり始めました。すぐに習得できるかどうかは不明です。

742 ◆321goTfE72:2009/11/01(日) 18:08:57 ID:Uw68TWIc
投下完了です。
少しミスしまして、>>733から【彼女らにできるコト】になります。
では、本スレに投下できる方がいればどなたかよろしくお願いします。

743もふもふーな名無しさん:2009/11/01(日) 20:36:57 ID:sxxn9wRo
「代理っす」です
連続投稿で閉め出し喰らいました
731から先誰かお願いします

744もふもふーな名無しさん:2009/11/01(日) 21:18:04 ID:sxxn9wRo
「代理っす」です
何とか>>733までは行けたので、後お願いします
閉め出しきついです

745もふもふーな名無しさん:2009/11/01(日) 21:19:00 ID:sxxn9wRo
すいません
>>732まででした

746もふもふーな名無しさん:2009/11/01(日) 22:41:32 ID:Z3.0zEr.
乙です
代理代理やっときましたー

747もふもふーな名無しさん:2009/11/03(火) 13:46:53 ID:sxxn9wRo
「代理っす」です
お手数おかけ致しました

748 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:44:56 ID:OQFqoiZc
規制中につきこちらで投下します

749鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:45:58 ID:OQFqoiZc



――――身を隠す。
視界に突如飛び込んできた大量の水、オアシス。
砂漠で生きる川口夏子にとってそれは二度目に見る威容。
だが彼女が素早く林の中に引き返したのは、湖に気圧されたからではない。
湖の中心、リングの上に二つの影が見えたからだ。
星の光を反射して、周囲より僅かに明るいリング上。
そこにあった影は、双方とも彼女が知るものだった。

(万太郎君と……古泉! まさか、悪魔将軍もすぐ近くにいるの!?)

先刻の万太郎の叫び声から予測はしていた事だが、あれからまだ2分も経っていない。
悪魔将軍の手先である古泉がこうも早く万太郎に接敵している事を考えれば、それは容易に推測できた。
万太郎と一度戦っているはずのオメガマンも、今や悪魔将軍に与しているのだろう。
敵は四人……万太郎に引きつけさせておけばいいという考えは捨てるべきか?

(朝比奈みくると離れ離れになった時、私達は隠れていたのに悪魔将軍たちに発見された……この距離はマズイ!)

リングからここまで、おおよそ200mといった所だろうか?
ガイバーの能力ならば、派手に動けば察知される可能性は決して低くないだろう。
彼女は数十m先まで救急車で来ていたが、その駆動音が気付かれているのでは、という懸念は捨てた。
気付かれているなら、既に攻撃されているはずと考えたのだ。
夏子は息を潜め、同時に嗅覚を研ぎ澄ます。
この近くに落ちたはずのロケットが噴出していたガスの臭いを捉える。
発臭元を目で追えば、ギリギリ視界に入る位置に地面にめり込んだ弾頭と、それに括られたディバックが見えた。
林の中だ。リング上からは見えないはず……夏子は僅かに身を揺らす。
今は動けない。運よくやり過ごせる事を願うしかない……。
身を焼くは悔しさ、憎悪、怒り。自分の弱さが情けなかった。力があれば、こんな雌伏で時間を取られる事もないだろうに。
歯軋りも出来ず、視線を再びリングに戻す。
激しく言い争いをしていた万太郎と古泉の様子に、異変が生じていた。
静かな夜に、音を反射する水面の上での会話だ、耳を澄ませば内容もよく聞こえる。
目を凝らし、静かに銃を抜いて、事の成り行きを見守る。

(ごめんなさい、万太郎君……私には君を助けてあげることは出来ない。
 だからせめて一人でも多く、連中を道連れにしてね……?)

これからここで確実に起こるであろう、惨劇の成り行きを。

750鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:46:49 ID:OQFqoiZc





背後で水音が聞こえ、飛沫があがったと万太郎が気付き、振り向いた時。
既に古泉一樹は、ガイバーの飛行能力によってリング上に飛び込んでいた。
湖から爆風で流れ込んだ水でマットを濡らし、万太郎を睨みつける。

「ガ……ガイバーⅢーーーっ! 一番手はキミってことだね! さっきみたいにはいかないよ!」

「あなたは……」

ボロボロの体でファイティング・ポーズを取る万太郎。
そんな正義超人に向け、殺意すら込もった呆れ声で古泉が言葉を繋ぐ。

「あなたは、バカですか?」

「な……なんだってぇ!? 超人界でプロフェッサーとまで呼ばれたボクに対して何たる暴言!」

「ヘタレ。貴方は俺をそう呼びましたよね。これでおあいこって事で」

「あ、あれは単なる挑発だよ! ひょ、ひょっとして悪魔将軍も今の君くらい怒ってた?
 ヒャワワワ〜〜ッ! お、お前のカーチャンデベソは言い過ぎたかな〜〜っ」

「知りませんよ」


つい先ほど勇猛果敢な叫び声を上げたとは思えない取り乱し様の万太郎の問いに、冷たく答える古泉。
その返答と態度は、狼狽する万太郎の目にも奇怪に映った。

「知らないって……キミは悪魔将軍の手下だろう? ひょ、ひょっとして正義の心に目覚めてヤツと別れたとか……。
 そうか! やっぱりあの時のビームはボクを生かす為に手加減してくれてたんだね!」

「……そう、なりますかね」

無難な言葉を返しながら、万太郎を観察する古泉。
コンディションだけ見ても、仮にこれから自分と二人がかりで悪魔将軍に立ち向かったところで返り討ちにされるだろう。
反逆の時には、やはりまだ満ち足りない。一刻も早くここを離れるべきだと、万太郎に注進する。

「それはできないよ! 悪魔将軍を放っておけば必ずその犠牲者は増えていく……だから、ボクはここに来たんだ!」

「勝てないとわかっているのに、ですか」

「勝てるさ! キミが協力してくれれば、きっと勝てるよ! あのノーヴェって娘も悪い子には見えなかったし、
 彼女だって説得すれば協力してくれると思うんだけど、ガイバースリーはどう思う?」

「いえ、それはないです。だから一刻も早くここを……」

言いつつ、古泉は万太郎の言葉に妙な説得力を感じていた。

(流石は将軍が恐れていた"キン肉マン"の眷属といったところですか……ヒーロー的なカリスマがありますね。
 追い詰められる程、それが表面化するタイプと見ました。しかし、それも万全ならば、の話です)

751鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:47:41 ID:OQFqoiZc

古泉は、激しく脳を働かせて策を練る。
悪魔将軍とオメガマンはまもなくこの場に来るだろう。
ノーヴェは……来たとしても、もう自分の味方になるとは思えなかった。

(俺は彼女を裏切ったんですからね。希望的観測は避けるべきでしょう)

必ず悪魔将軍たちを倒そうとポジティブに自分に詰め寄る万太郎を適当にいなしながら、古泉は周囲に気を配った。
……気配は感じない。まだ僅かに猶予はあるか。と、万太郎が聞き捨てならない言葉を発した。

「悪魔将軍やオメガマンはそりゃ強いけど、決して無敵じゃない。だって20年以上前にボクの父上に負けてるんだからさ。
 今じゃ没落した悪魔超人軍の首領が何故ここにいるのかはわからないけど、勝てない相手じゃないはずだよ。
 いや……むしろ奴等に勝てなきゃ、ボクは超人オリンピック二世代制覇なんて到底なし得ないんだ!
 ボクだって父上の血を引いて火事場のクソ力を習得したキン肉マン2世! きっと勝てるさ、ガイバースリー! 」

「え……? 20年前って……どういうことですか、万太郎さん!?」

「く、食いつくところおかしくないかな……?」

万太郎が、淡々と悪魔将軍たちの出自、そしてその末路を語る。
それは彼にとっては訓練所の授業で習った当たり前の、常識とも言えるものであった。
が、古泉はその情報に大きな衝撃を受ける。数秒の逡巡。古泉の頭を様々な情報が駆ける。

超人。正義超人。悪魔超人。悪魔将軍のプライド。ノーヴェ。オメガマン。朝比奈みくる。復讐。未来。没落。"彼"。

様々な要素を組み重ね、やがて古泉は会心の"策"に辿り付いた。

「万太郎さん。悪魔将軍とオメガマンがここに着き、俺とあなたにタッグマッチを挑むとします。
 そうすれば、我々のコンディションでは絶対に勝てない。それは理解してくれますか?」

「ム……そ、それはそうかもしれないけど、正義超人はどんな苦境でも逃げない――」

「俺は正義超人じゃありません。でも、あなたと同じく悪魔将軍に危険を感じている。
 彼は俺の目の前で俺の仲間を殺した。そして、俺を悪魔超人として改造しようとしている……。
 これはまだ言っていませんでしたね? 将軍は自分のためなら、他者をどこまでも利用し、蹴落とすことが出来ます。
 いずれは自分の意に沿わない者全てを殺しつくすでしょう。間違いなく、彼は最も優勝に近い参加者の一人です」

「なんだって! そ……そうか!やはりキミは仲間を殺されて、脅されてあんな悪魔と同行してたのかい?
 ボクとしたことが告白されるまではっきりそうだと分からかったなんて! 必ず仇は討つ……いや、一緒に討とう!」

自分の事のように古泉の仲間が殺されたことに憤慨する万太郎。
そんな男に僅かに心を和まされる古泉だったが、その安息を即座に捨てる。
自分は"駒"として万太郎を利用しようとしているのだ。情は捨てろ、要点だけを話せ、と心に刻む。

752鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:48:30 ID:OQFqoiZc

「ですから……ここは一時撤退すべきなんです。失礼ですが、今貴方は感情的になりすぎている。
 試合をするならベストコンディション、これはどんな格闘技にも通じる常識のはずでは?」

「ボクが感情的になってるって? それはないよ、ガイバースリー。ボクは今『無我』の教えを取り戻してる!
 例え相手がどんな酷いやつで、こっちがどんなにボロボロでも、リングの上では正々堂々戦えるよ!」

「……」

ダメだ、と古泉は説得を諦めた。自分とはあまりに考え方が違いすぎる。
自分のように、憎しみで動く者の冷静な打算など、この万太郎にとっては一生無縁の物なのだろう。
体育会系と文科系、なんて生易しい差異ではない(もっとも、古泉はそのどちらでもないが)。
ならば、と古泉はシンプルに、万太郎をこの場から離す為の簡易策を発動させる。

「あっ! ノーヴェさん! いくら湖で夜だからって裸で何を!?」

「えっ!? あの子そんなに大胆なタイプだったの?」

「ふんもっふ!」

股間を隆起させながら凄い勢いで振り返った万太郎の腹部に、古泉はガイバーの武器、"重圧砲"を打ち込んだ。
呼吸を激しく乱され、口をパクパクさせながら気絶する万太郎。

「やっぱりダメじゃないですか……」

万全の状態でも万太郎は振り向いただろうが、こんな弱い一撃で気絶はしなかったはず。
苦笑しながら古泉は自分のディバックから紙を一枚取り出し、サラサラと"策"を記す。
リング中央に、風などで飛ばされないように、そしてちょっとした演出を狙い、コンバットナイフで紙を突き立てる。

「さて……」

古泉は気絶した万太郎を抱え、迷わず湖に身を投げる。
激しく痛む身体を歓喜でなんとか持たせ、ガイバー・ユニットによる重力制御で水面上を飛ぶ。
歓喜。古泉には、今その感情しかない。
なぜならば――遂に、憎っくき悪魔将軍に挑戦状、下克上を叩きつけたのだから。

753鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:49:10 ID:OQFqoiZc





何が、間違いだったのか。
私は荒々しく歩を進めている。キン肉万太郎への制裁を行うべく、だ。
しかし、その歩みは決して早いものではない。
当然だ、自分が"負けた"歴史の存在を聞かされたのだからな。
オメガマンは嘘を言っているようには見えなかった。
ならば、私はキン肉スグルに負けたのだろう。奴の生きた時代ではな。
時間超人の存在を知る私にとっては、それは大した問題ではない。
心を乱される必要もない、これからその"敗北"の歴史を塗り替えればよいのだから。

「とはいえ、キン肉マンが私に勝った時空もあるならば、それについて考える意味はある」

ぼそりと呟き、キン肉マンが自分に勝利するイメージを浮かべる。
キン肉マンが持つ不可思議なスキル、火事場のクソ力以外に自分が遅れを取る事は想像できなかった。

「万太郎がキン肉王家の一員であることは間違いあるまい。あんなセンスのないマスクを選ぶのは奴らくらいだ」

ならば、万太郎が火事場のクソ力を持つ可能性もなくはない。時空が入れ乱れて参加者が集っているとわかった今、
キン肉万太郎はキン肉スグルの実子である、などといった無茶苦茶な可能性すら許容されるのだ。
だからこそ、私自らが赴いているのだからな。火事場のクソ力を奪う事はあのバッファローマンにも出来なかった。
だがこの悪魔将軍ならば、それも不可能ではないはず。キン肉マンの唯一の長所を得られれば、私の勝ちは揺らがない。

「……少し急ぐか」

別に本気で火事場のクソ力を欲している訳ではないが、もし自分より先に古泉やノーヴェが万太郎を始末しては拙い。
キン肉王家はこの手で断絶したいし、古泉たちが自分の命令を無視したならそれに対する制裁もせねばならない。
私は歩幅を広げ、数分で湖にたどり着いた。しかし。

「万太郎の姿がない……逃げたわけではないだろうが……む?」

私の視界に、リングに突き立てられたナイフが映った。
何かを固定しているのか……?

「ボートを漕ぐのは面倒だな」

すぐ側にボートがあったが、ノロノロ漕いでいっては何分かかるか分からん。
私はディバックからユニット・リムーバーを取り出し、全力で投げる。
自身もプラネットマンの宇宙的レスリングを彷彿とさせる跳躍でリムーバーに飛び乗り、
一直線に湖中央のリングに向かった。リムーバーがマットに突き刺さり、着地成功。リングに刺さったナイフを抜く。
そのナイフは、一枚の紙切れをリングに縫い付けていた。

754鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:50:02 ID:OQFqoiZc

「汚い字だな……」

灯りを取り出し、紙切れに書かれた文字を読む。
それは、挑戦状だった。万太郎からのではなく、我が部下からの。


『拝啓 悪魔将軍様
 
 俺はあなたを裏切ります 理由は単純 あなたと居るメリットが消滅したからです
 驚愕しましたよ あなたがあれほど雄弁に語っていた悪魔超人軍の権威が地に落ちていたとはね
 もはやあなたに就く意味なし そう判断させていただきました そしてあなたへケジメをつけさせて頂きます
 翌日 09:00 あなたにここ湖上リングでタッグマッチを申し込みます そちらのパートナーは誰でも構いません
 こちらのパートナーはもちろんあなたを破ったキン肉マンの息子 あなたにとっては未来の超人、キン肉万太郎氏です
 歴史を繰り返したくなければ逃げることをお勧めしますよ 我々マッスル&ガイバーズからね

                                                   正義超人  古泉一樹より   』


「ほう」

薄々古泉の叛意には気付いていたが、こうも明確に反逆するとはな。
小癪にも時間稼ぎの為に時間指定までしておるわ。
ヤツと同行していたノーヴェも恐らく既に殺されているだろう。
まったく、愚かなヤツよ。だから古泉には気を許すなと忠告したものを。

「マットはまだ温かい……そう遠くへは行っていないだろうが……」

挑戦状を懐にしまい、私は古泉について考えを廻らせる。
奴が裏切ったのは、万太郎が私の未来について語ったからだろう。
この文面を見てもそれは明らかであり、悪魔超人界に入ることを断念した理由としては妥当だ。
何らかの理由で正義超人に鞍替えする悪行超人などそう珍しくもない。だが、私は古泉の本心を見抜いていた。

「愚かな……オメガマンもそうだが、この私に一度仕えた者が私から離れて生きていけると思うのか……!」

古泉は、結局朝比奈みくるの死と涼宮ハルヒの呪縛から逃れられなかったのだ。
やはり人間が手に入れ得る悪魔の精神など、あの程度が限界だったか。
少しは期待していたが、恥知らずにも正義超人を名乗るようではもう見込みはない。
アシュラマンの替わりは他で探すとしよう。

「……が、この悪魔将軍に挑戦状を叩きつける気概は買ってやらねばな。いいだろう、古泉よ!
 貴様の挑戦、しかと受け取った! 聞いているなら精々身を休め、引退試合に恥じぬ状態でリングに上がるのだな!」


今すぐ追えば容易に捕らえられるだろうが、試合を挑まれてそんな無粋な真似をする超人はいない。
最も、私とて紳士というわけではないから、試合前に"偶然"出くわせばそこで決着をつけることになるだろうがな。
湖全体に轟く叫び声を上げ、私は再びユニット・リムーバーを投擲、騎乗する。
さて……適当なタッグ・パートナーを探さねばな。
湖上の深々とした裂風を身に浴びながら、迫る陸地。
私の目に、水色の髪が映った。

755鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:50:46 ID:OQFqoiZc




「……僥倖でしたね、オメガマンが将軍を裏切っていたとは」

E-8中央部分、湖の畔の木々の枝根にて。
湖上を飛ぶ悪魔将軍に憎悪の目を向けながら、指向性マイクから耳を離して古泉が一人ごちる。
片脇には気絶した万太郎。いびきや鼻息で悪魔将軍に気取られては笑い話にもならないので、布で口を縛られている。
古泉にとっては悪魔将軍があの挑戦状を受け入れる事は予想通り。
悪魔超人の首領が、正義超人から試合を挑まれて受けないはずがない。
最も、あの場に留まって直接試合を申し込んでも素直に時間を与えてくれるような人物ではない。
ゆえに、噴飯物の古風な挑戦状などを使わざるを得なかったのだが……。

「あのリムーバーがある以上、俺は悪魔将軍の前ではほとんど無力……だから、今まで大人しく従ってきたわけですが」

遂に、悪魔将軍の行動を操作できるチャンスが来た。
"明日" "朝九時" "ここ"に、悪魔将軍は確実にやってくるだろう。
しかし、古泉が狙う好機はその瞬間ではない。
古泉は超人ではなく、リング上での試合に拘ることもない。

「万太郎さんをどう言いくるめるか……それも面倒ですが、俺にとっての理想の展開は一つ。
 そこに持っていく為に、早速行動するとしましょう」

古泉の計画は、果し合いではない。奇襲。試合前の緊迫した時間……七時から八時辺りになるだろうか。
その時間帯に、できるだけ多くの仲間を集めて悪魔将軍をリング外で襲撃し、打ち倒す。
人数が居れば、前衛に将軍を抑えてもらってリムーバーの効果が及ばない距離から援護に徹することも出来る。

「オメガマンの協力はなんとしても欲しいところですが……危険が大きい。ノーヴェさんや"彼"は論外として……。
 朝比奈さんと行動していた女性と動物や、朝倉涼子……知り合いの中にはそう信頼を置けそうな人物はいない、か」

戦力的にも、関係的にも、自分が知っていて現在生き残っている者に期待を寄せるのは難しそうだった。
まだ見ぬ強者に加勢を望むしかないのか……幸い、時間は10時間近くある。ガイバーのままなら、眠くなることもない。
必死で会場を駆けずり回り、悪魔将軍が見込んでいた『高町なのは』や『キン肉スグル』を探し出す、それしかないか?
蜘蛛の糸を渡るような、ハイリスクでローリターンすら期待できない作戦だ。
だが、古泉が悪魔将軍への復讐を遂げる為には、この薄氷を踏み砕く覚悟と、冗談のような強運が必要なのも事実。

「将軍としばらく過ごしていて、寝首を掻くのは不可能だと分かりましたからね。裏を掻くのが無理ならば、
 正面から――いえ、側面から、といったところですか。横合いから殴りつける、これしかありません」

漁夫の利を狙うつもりなどない。
あくまで、将軍を倒すのは自分だと古泉は胸中に言質を込める。
強者を集め、彼らの協力の下で将軍を倒す。言葉にすれば簡単だが、
古泉自身がこの計画の問題点を深く理解している事は彼の仮面の下の苦悶の表情からも明白であった。
彼は自分が仲間だと思っていた者に偽の悪評を流され、悪魔に加担していたという事実さえある。
参加者に広まる自己の風評次第では、この計画は一瞬で崩れ去るだろう。

「それでも……引き返すわけにはいかないんですよ、ノーヴェさん」

自分が裏切り、下手をすれば将軍に処刑されるかもしれない状況に追い込んだ女性に詫びるように呟き、
古泉……ガイバーⅢは、自分が滅ぼすべき悪鬼が去ったことを確認し、暗く沈む闇の中に消えていった。

756鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:51:47 ID:OQFqoiZc

【E-8 森林/一日目・夜】

【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(大) 気絶 勃起
【持ち物】ザ・ニンジャの襟巻き@キン肉マンシリーズ
【思考】
1.悪魔将軍を倒し、ガイバーを解放する。
2.危険人物の撃退と弱者の保護。
3.夏子たちと合流する。
4.頼りになる仲間をスカウトしたい。
  父上(キン肉マン)にはそんなに期待していない。 会いたいけど。
【備考】
※超人オリンピック決勝直前からの参戦です。


【E-8 森林/一日目・夜】

【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、みくるの首輪、
      デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、 ケーブル10本セット@現実、
      ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
     基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
     七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個) 高性能指向性マイク@現実、ノートパソコン@現実?

【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.この場から離れる。
3.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子、高町なのはを優先。
4.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
5.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。

757鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:53:10 ID:OQFqoiZc



「起きろ」

「んあ……?」

戦闘機人、ノーヴェが湖が見える位置まで着いたと思った瞬間。その眼前には悪魔将軍が佇んでいた。
バチン、と電源が落ちたような音。取り戻したばかりの意識が、再び一瞬消滅する。
身体がうつ伏せになっている事に気付き、寝ぼけ眼で立ち上がろうとする。
……立ち上がれない。悪魔将軍が、ノーヴェの背中を踏みつけていた。

「え……? しょ、将軍……?」

「お前は……要らん」

冷たく言うと、悪魔将軍はその体重をノーヴェの矮躯に押し付けた。
メリメリと、機械と肉が軋む音。
悲鳴すら上げられずに、ノーヴェは激痛にその身を支配されていた。

「ッガッ……ァ……」

「ふん」

体重を除け、ノーヴェの短い髪を掴み、持ち上げる。
堰を切ったように咽込むノーヴェの顔を、殴る。悪魔将軍は、殴る。

「え……? なぁ……?」

殴られながら、しかしノーヴェは反撃できない。
痛みに苛まれているから、ではない。
明確な殺意。それを今まで向けられる事のなかった彼女は、混乱していた。
敵意とは違う。彼女が過去向けられた害意は、あくまで対等な"敵"あるいは"標的"が放つものだった。
蠅を潰すような動作で、躊躇なく自分を破壊しようとする……こんなものでは、決してなかった。
混乱は戦慄に、戦慄は恐怖にシフトしていく。目の前の存在は、先ほどまで同行していたモノと同じとは思えなかった。

(これ……将軍……だよな? なんで、だ? 古泉が裏切ったからか?)

「私のくれてやったアドバイスを言ってみろ」

「え……ひっ……」

「復唱しろ!」

「こ、ここ古泉に対して、けけ警戒をおをお怠るな、だよな? わわ、悪かったよ、あた、あたしがあ、甘」

がくがくと膝を笑わせながら、呂律の回らない謝罪をするノーヴェ。
表情にはうっすらと笑いを乗せ、自分に対し殺意を向ける悪魔将軍に媚び、宥めるような意志を伝えている。
しかし、それは将軍の拳で遮られる。
顔面を殴られて「ひっ」と声を漏らし、涙を漏らす戦闘機人に、普段の勝気な性格は欠片も見えない。

「貴様が甘いことなど、その様を見れば知れるわ。最も、古泉も甘い……貴様を生かしていったのだからな」

「ご、ごめん。ごめん。あたしが悪い、わる、悪かったって。今度から、今度から気をつけ」

「貴様に次などあると思うか?」

悪魔将軍は淡々と呟き、渾身の力でノーヴェを近くの木に押し付けた。
    .......
いや、押し込んだというべきだろう。木に押し付けられたノーヴェが、僅かに樹皮にめり込むほどの勢いだった。

758鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:53:55 ID:OQFqoiZc

「ちょ、ちょっと待てって、ま、まだ放送、放送来てないよな? ま、万太郎を殺せば、って、って約、約束」

「……貴様を倒した古泉はその万太郎と合流し、私に挑戦状を叩きつけていったぞ?」

「えっ」

一瞬、恐怖が追いやられ、ぎょっとした顔になるノーヴェ。
本当に将軍を裏切ったのかよ……? と目で語るノーヴェの腕を取り、悪魔将軍は少女を地面に叩きつけた。
最初の態勢と同じ、うつ伏せの形に戻るノーヴェの腹部に、容赦なく横からの蹴りが入る。

「はッアッッ……アアアッ! ガッ! や、やめ……」

「ノーヴェ」

「……ぁ、ァァ……」

「ノーヴェ!」

「なな、なんだ、なんで、なんですすす、か」


蹴りがやみ、仰向けにされるノーヴェ。血と涎の混ざった汁を吐き出しながら、空ろな目で将軍を見上げる。
慣れない敬語を使おうとしたのか、戦々恐々とした顔で尻切れトンボに小さく呟いている。

「貴様、強くなりたいのではなかったのか」

「……」

「ならば、何故私のアドバイスに背く。何故甘さを捨てない」

「……」

「貴様のやり方では、永遠に強くなどなれんぞ」


断じるように言う将軍に、普段なら反発の色を露わにするノーヴェも、一言も言い返せない。
今の彼女は、この恐怖から、初めて感じる"死"の恐怖から逃れることだけを、求めている。

「……わ、分かった、分かったよ。もう将軍の言う事に逆らわないから。逆らわないから。ごめん。ごめんな、さい」

「いや、もういい」

貴様は要らんといっただろう、と悪魔将軍が吐き捨てる。

――殺される。

そう直感したノーヴェは、悪魔将軍の足元に縋りつき、体を震わせながら懇願した。

「もう……もう、将軍の言う事を疑ったりしないから! み、見捨てないでくれ……あたし、あたし強く、強く……」

なりたいんだ、と吐露する。ノーヴェは、今まで真面目に将軍の下につく意味を考えたことがなかった。
しかし、それを今直感で理解する。将軍が自分に向けた殺意を、自分が他人に向けるイメージを持つ。
今――ノーヴェは、悪魔の精神の土壌を得た。戦闘機人のプライドが、将軍の配下である事のプライドに置き換わる。
しかし、返答は無情。

759鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:55:22 ID:OQFqoiZc

「仏の顔も、三度まで。そう言ったはずだ。貴様は三度誤った」

「……」

「……だが、三度も謝った貴様に対し、私も少々思うところがないでもない。そうだな……。
 後一度、チャンスをやろう。可愛い部下よ、キョンという奴の事は覚えているな? そいつを探して連れてくるのだ。
 そいつ以外にも、私と気が合いそうな者がいたら集めて来い。タッグ戦の日取りが決まったのでな。
 パートナーが必要なのだ。……オメガマンには気をつけろ、奴も私を裏切ったからな」

「あ、あたし一人で、か?」

「休息は許さん。行け。私はモールにでも行って貴様を待っていることにしよう」

いましがた、製造(うま)れて初めての恐怖を味わったノーヴェにとって、夜道を一人で歩く事は厳しい試練であった。
だが、将軍はそんな怯えを許さない。縮こまるノーヴェを一瞥すると、ディバックからユニット・リムーバーを取り出した。
腕に装着し、振りかぶる。ノーヴェの脳裏によぎるのは、このユニットで無惨な姿になった女性の死化粧。

「い、行く、行くよ! キョンって奴と、将軍と気が合いそうな奴だな! わかった!」

「ノーヴェ」

「な、なななんだよ」

「弱い貴様は、今死んだ。心に悪魔のプライドがあれば、誰にも負けることはない」

「!! ……行ってくるぜ、将軍!」

見ようによっては不器用な励ましにも取れる将軍の言葉を胸に、僅かに覇気を取り戻し、ノーヴェが駆ける。
それをつまらないものを見るような目で見送り、悪魔将軍もまた反対方向へと駆け出した。
      ...
「あんなものが悪魔を名乗れると考えていたとはな。我ながら不覚、だ」

――冷たい、鎧の拳を握りながら。

【F-09 森林/一日目・夜】
【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】健康、万太郎への激しい敵意。
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(6/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
 ディパック(支給品一式、食料ゼロ)、朝比奈みくるの死体(一部)入りデイパック コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.翌日09:00に湖上リングへ行き、万太郎、古泉を自らの手で殺す。
2.ノーヴェは見限る、使い捨てとして扱う。
3.強い奴は利用、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
4.殺し合いに主催者達も混ぜ、更に発展させる。
5.強者であるなのはに興味。
6.もしもオメガマンに再会したら、悪魔の制裁を施す。
7.モールでタッグパートナーを待つ。

【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(小)、ダメージ(大) 悪魔の精神(弱) 恐慌
【持ち物】 ディパック(支給品一式)、小説『k君とs君のkみそテクニック』、不明支給品0〜2
【思考】
0.強くなる
1.悪魔将軍の命令に従う
2.ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
3.タイプゼロセカンドと会ったら蹴っ飛ばす。
4.ジェットエッジが欲しい。
5.キョン、悪魔将軍と気が合いそうな奴を探してモールまで連れて行く。

※参加者が別の世界、また同じ世界からでも別の時間軸から集められてきた事に気付きました。

760鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:55:54 ID:OQFqoiZc




誰も居なくなった湖のリングを眺めながら。
川口夏子は、先ほど聞いた情報を頭の中で組み替えていた。

(……あの悪魔将軍たちも一枚岩ではない、ということね。付け入る隙があると分かったのは良かったわ)

9時から始まるという内戦。自分がどうこの島で立ち回るにしても、有益な情報を入手できた。
万太郎がそれに巻き込まれている様子なのは同情を誘ったが、自分にはどうしようもない。
夏子はわずかに笑みを浮かべ、念のため這ってロケットの元に向かう。

(悪魔将軍……危険なのは確かだけど、戦力として見れば彼以上の逸材はいない)

口先での説得が可能だとは思えないが、リングの上での様子を見る限り実力を重視するタイプの人間に見えた。
少なくとも先ほどまでの、ロボット兵のような意思疎通すら困難な怪物という認識は薄れた。

(恩を売って、有用と言えるほどの力を見せれば協力できない事もないでしょうけど……何を考えてるんだか、全く)

知り合いを最低でも一人は殺している参加者と共闘を考えるなど、と己を軽く律する。
ロケットに括り付けられたディバックに到達。中身を引っくり返し、出来るだけ素早く確認。
ハムとの待ち合わせ時間まで、そう時間はない。

壊れた剣。金貨がぎっしりつまった箱。ディバッグ複数(食料も水もある!)。更に首輪の残骸。
ウィンチェスターM1897。これは確か、水野灌太が愛用していた銃だ。
他にもガラクタが大量に詰まっていた。これらも、使い方次第によっては十分な利器となるだろう。
総合してみれば、時間を割いて回収しに来た甲斐はあったといえるだろう。
と、ディバッグの隅に押し込まれた饅頭を見つける。

「包みもなしとはね」

苦笑しながら口に運ぶ。緊張で小腹が空いていたのだ、丁度いい。

『……噛まないでもらいたい』

「そげぶっ!?」

彼女、砂漠の凄腕美人・川口夏子を知る者なら想像も出来ない声。
だが無理もない。食べようとしていた饅頭がしゃべり、耳を突き出してギョロ目で彼女を見たのだから。
あたふたと饅頭を取り落とし、懐から無駄のない動作で拳銃を取り出し、構える。

「ななっ!? えっ? じゅ、銃を……う、動くな!」

『今はそんな事をしている場合ではない! 一刻も早く私を連れてここから離れてもらいたい!』

喋る饅頭に指図されるという異常事態。しかし考えて見ればウサギやブタが喋るのだ、饅頭が喋ったって……。
と、そこまで考えたところで、夏子が饅頭に見覚えがある、と気付く。これは……。

「あなた、アプトムの頭に付いてた……えっと、ネブラ、だったかしら?」

『そうだ。君は確かアプトムに脅されていた女性だな。私の能力を知っているなら手っ取り早い。
 私を頭につけてくれたまえ。君はそれで飛べるようになる、この場を離れられるのだ』

「……」

正直、かなり抵抗があった。夏子にとってネブラ(というかアプトム)には悪い思い出しかない。
しかし、このネブラという生物……なんというか、可愛……いや、妙な安心感がある気がする。
結果、夏子は自分に憧れていた小砂のように、嫌悪していたアプトムのように、ホイホイネブラを身に付けてしまった。

761鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:56:49 ID:OQFqoiZc

「……はい、これでいいかしら。ああ、飛ばなくてもいいわよ。車があるから」

『車……ああ、地球の機械か。飛んだほうが早いと思うが……』

「お断りよ。目立ちすぎるわ」

きっぱりと斬り捨てつつ、夏子は頭部でウニョウニョ動くネブラの異様な感触に参っていた。
フラフラと立ち上がり、戦利品を全て抱えながら歩く。

『ちょっといいかね?』

「荷物でも持ってくれるの?」

『いや、私の前の持ち主が産んだミサイルを私の中に入れて欲しいのだ。
 私に装填していればすぐに発射できるし、君の頭部が重くなる事もない』

「……どんな奴よ、ミサイル産むって」

なんとなく予想はつく気はしたが(市街地で暴れていた奴だろう)、一応突っ込む夏子。
と。

「……」

ミサイルを自身に収納するネブラを見て、夏子の目つきが変わる。
湖畔に目を向け、中心にあるリングへの距離を目で測る。

「ネブラ。そのミサイル、あそこまで届くかしら」

『あのリングまで、かね? 届くと思うが……』

「あなた、自在に動けるのよね? 銃、扱える?」

『教えてもらえば大抵の作業はできる。今は平常時よりテンポが遅れるかも知れんがね。
 それより早くここを離れよう。君は見ていたのだろうが、先ほどここにいた闇の者(ダークレイス)は……。
 あれは、マズイ。アレは、私の処理能力を大幅に超えている。今のままでは勝てないだろう』

「悪魔将軍の事? ……そうね、待ち合わせの時間ももうすぐだし、あまり時間を潰すわけにもいかないわ」

『頼む。私がここに来た詳しい経緯や、私の詳細は追って教える。今はここを離れてくれ』

はいはい、と請け合いながら、夏子は隠してある救急車の元へ歩き出す。
満面の笑みで。いかな色にも染まる、真っ白な満面の笑みで。
"力"を手に入れた、実感を伴いながら。

この湖周辺に集った五名。

復讐鬼:古泉一樹。復讐の殖鎧を纏う者。
セイギノミカタ:キン肉万太郎。筋肉の正鎧を纏う者。
無始無終:悪魔将軍。虚ろな邪鎧を纏う者。
隷属者:ノーヴェ。恐怖の弱鎧を纏う者。
傍観者:川口夏子。白地の黒鎧を纏う者。

さて、一番恐ろしいのは誰か。
それは今後のお楽しみ、と。

762鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:57:39 ID:OQFqoiZc

【D-09 湖畔/一日目・夜】

【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】顔にダメージ、強い決意。
【装備】ネブラ=サザンクロス@ケロロ軍曹 ゼクトールの生体ミサイル(10/10) 救急車
【持ち物】デイパック×4(支給品一式入り、水・食糧が増量)、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
 各種医療道具、医薬品、医学書 光の剣(レプリカ、刀身折損)@スレイヤーズREVORUSION、
 金貨一万枚@スレイヤーズREVORUSION ヴィヴィオのデイパック、ウィンチェスターM1897(1/5)@砂ぼうず
 ナイフ×12、包丁×3、大型テレビ液晶の破片が多数入ったビニール袋、スーツ(下着同梱)×3
 消火器、砲丸投げの砲丸、喫茶店に書かれていた文面のメモ 首輪の残骸(アプトムのもの)
 黄金のマスク型ブロジェクター@キン肉マン、ストラーダ(修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、、

【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、19時半を目安に、ゴルフ場の事務室でハムと待ち合わせ。20時までに来なければ、単独行動を行う。
2、キン肉スグル、ウォーズマン、深町晶、キョン、朝倉涼子を探してみる。
3、ハムは油断ならないと思っているが今は自分を見放せないとも判っている。
4、生き残る為に邪魔となる存在は始末する。
5、翌日09:00に湖上リングに向かい、臨機応変に行動。
6、ネブラと情報交換する。
7、水野灌太と会ったら――――

【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※悪魔将軍、古泉、ノーヴェ、ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※トトロ(名前は知らない)は主催と繋がりがあるかもしれないと疑いを持っています。

763鎧袖一触〜鎧は殴るために在る〜 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/13(金) 21:58:55 ID:OQFqoiZc
以上で投下終了です。
よろしければどなたか代理投下していただけるとありがたいです

>>754の最後の
>私の目に、水色の髪が映った。はミスです

正しくは

>私の目に、赤色の髪が映った。

でお願いします。

764>>749修正 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/14(土) 10:52:53 ID:uCWpLj4U

――――身を隠す。
視界に突如飛び込んできた大量の水、オアシスといったところか。
砂漠で生きる川口夏子にとってそれは二度目に見る威容。
だが彼女が素早く林の中に引き返したのは、湖に気圧されたからではない。
湖の中心、リングの上に二つの影が見えたからだ。
二人以上の侵入者を感知し、試合に備えてライト・アップされたリング上。
そこにあった影は、双方とも彼女が知るものだった。

(万太郎君と……古泉! まさか、悪魔将軍もすぐ近くにいるの!?)

先刻の万太郎の叫び声から予測はしていた事だが、あれからまだ2分も経っていない。
悪魔将軍の手先である古泉がこうも早く万太郎に接敵している事を考えれば、それは容易に推測できた。
万太郎と一度戦っているはずのオメガマンも、今や悪魔将軍に与しているのだろう。
敵は四人……万太郎に引きつけさせておけばいいという考えは捨てるべきか?

(朝比奈みくると離れ離れになった時、私達は隠れていたのに悪魔将軍たちに発見された……この距離はマズイ!)

リングからここまで、おおよそ200mといった所だろうか?
ガイバーの能力ならば、派手に動けば察知される可能性は決して低くないだろう。
彼女は数十m先まで救急車で来ていたが、その駆動音が気付かれているのでは、という懸念は捨てた。
気付かれているなら、既に攻撃されているはずと考えたのだ。
夏子は息を潜め、同時に嗅覚を研ぎ澄ます。
この近くに落ちたはずのロケットが噴出していたガスの臭いを捉える。
発臭元を目で追えば、ギリギリ視界に入る位置に地面にめり込んだ弾頭と、それに括られたディバックが見えた。
林の中だ。リング上からは見えないはず……夏子は僅かに身を揺らす。
今は動けない。運よくやり過ごせる事を願うしかない……。
身を焼くは悔しさ、憎悪、怒り。自分の弱さが情けなかった。力があれば、こんな雌伏で時間を取られる事もないだろうに。
歯軋りも出来ず、視線を再びリングに戻す。
激しく言い争いをしていた万太郎と古泉の様子に、異変が生じていた。
静かな夜に、音を反射する水面の上での会話だ。
先ほど万太郎の声を聞きつけたように、この距離で耳を澄ませばある程度の大声なら内容も聞こえるのではないか?
目を凝らし、静かに銃を抜いて、事の成り行きを見守る。

(ごめんなさい、万太郎君……私には君を助けてあげることは出来ない。
 だからせめて一人でも多く、連中を道連れにしてね……?)

これからここで確実に起こるであろう、惨劇の成り行きを。

765>>753修正 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/14(土) 10:56:08 ID:uCWpLj4U




何が、間違いだったのか。
私は荒々しく歩を進めている。キン肉万太郎への制裁を行うべく、だ。
しかし、その歩みは決して早いものではない。
当然だ、自分が"負けた"歴史の存在を聞かされたのだからな。
オメガマンは嘘を言っているようには見えなかった。
ならば、私はキン肉スグルに負けたのだろう。奴の生きた時代ではな。
時間超人の存在を知る私にとっては、それは大した問題ではない。
心を乱される必要もない、これからその"敗北"の歴史を塗り替えればよいのだから。

「とはいえ、キン肉マンが私に勝った時空もあるならば、それについて考える意味はある」

ぼそりと呟き、キン肉マンが自分に勝利するイメージを浮かべる。
キン肉マンが持つ不可思議なスキル、火事場のクソ力以外に自分が遅れを取る事は想像できなかった。

「万太郎がキン肉王家の一員であることは間違いあるまい。あんなセンスのないマスクを選ぶのは奴らくらいだ」

ならば、万太郎が火事場のクソ力を持つ可能性もなくはない。時空が入れ乱れて参加者が集っているとわかった今、
キン肉万太郎はキン肉スグルの実子である、などといった無茶苦茶な可能性すら許容されるのだ。
だからこそ、私自らが赴いているのだからな。火事場のクソ力を奪う事はあのバッファローマンにも出来なかった。
だがこの悪魔将軍ならば、それも不可能ではないはず。キン肉マンの唯一の長所を得られれば、私の勝ちは揺らがない。
と、湖の方から言い争う声が聞こえる。ここからでは内容までは聞き取れないが、万太郎に誰かが接触しているのか?

「……少し急ぐか」

別に本気で火事場のクソ力を欲している訳ではないが、もし自分より先に古泉やノーヴェが万太郎を始末しては拙い。
キン肉王家はこの手で断絶したいし、古泉たちが自分の命令を無視したならそれに対する制裁もせねばならない。
私は歩幅を広げ、数分で湖にたどり着いた。しかし。

「万太郎の姿がない……逃げたわけではないだろうが……む?」

私の視界に、リングに突き立てられたナイフが映った。
何かを固定しているのか……?

「ボートを漕ぐのは面倒だな」

すぐ側に新しいボートがあったが、ノロノロ漕いでいっては何分かかるか分からん。
私はディバックからユニット・リムーバーを取り出し、全力で投げる。
自身もプラネットマンの宇宙的レスリングを彷彿とさせる跳躍でリムーバーに飛び乗り、
一直線に湖中央のリングに向かった。リムーバーがマットに突き刺さり、着地成功。リングに刺さったナイフを抜く。
そのナイフは、一枚の紙切れをリングに縫い付けていた。

766>>754修正 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/14(土) 11:00:56 ID:uCWpLj4U

「汚い字だな……」

灯りを取り出し、紙切れに書かれた文字を読む。
それは、挑戦状だった。万太郎からのではなく、我が部下からの。


『拝啓 悪魔将軍様
 
 俺はあなたを裏切ります 理由は単純 あなたと居るメリットが消滅したからです
 驚愕しましたよ あなたがあれほど雄弁に語っていた悪魔超人軍の権威が地に落ちていたとはね
 もはやあなたに就く意味なし そう判断させていただきました そしてあなたへケジメをつけさせて頂きます
 翌日 09:00 あなたにここ湖上リングでタッグマッチを申し込みます そちらのパートナーは誰でも構いません
 こちらのパートナーはもちろんあなたを破ったキン肉マンの息子 あなたにとっては未来の超人、キン肉万太郎氏です
 歴史を繰り返したくなければ逃げることをお勧めしますよ 我々マッスル&ガイバーズからね

                                                   正義超人  古泉一樹より   』


「ほう」

薄々古泉の叛意には気付いていたが、こうも明確に反逆するとはな。
小癪にも時間稼ぎの為に時間指定までしておるわ。
ヤツと同行していたノーヴェも恐らく既に殺されているだろう。
まったく、愚かなヤツよ。だから古泉には気を許すなと忠告したものを。

「マットはまだ温かい……そう遠くへは行っていないだろうが……」

挑戦状を懐にしまい、私は古泉について考えを廻らせる。
奴が裏切ったのは、万太郎が私の未来について語ったからだろう。
この文面を見てもそれは明らかであり、悪魔超人界に入ることを断念した理由としては妥当だ。
何らかの理由で正義超人に鞍替えする悪行超人などそう珍しくもない。だが、私は古泉の本心を見抜いていた。

「愚かな……オメガマンもそうだが、この私に一度仕えた者が私から離れて生きていけると思うのか……!」

声のトーンが危険さを増し、湖全てに流れ込むように私の怒りが漏れる。かまうものか。
古泉は、結局朝比奈みくるの死と涼宮ハルヒの呪縛から逃れられなかったのだ。
やはり人間が手に入れ得る悪魔の精神など、あの程度が限界だったか。
少しは期待していたが、恥知らずにも正義超人を名乗るようではもう見込みはない。
アシュラマンの替わりは他で探すとしよう。

「……が、この悪魔将軍に挑戦状を叩きつける気概は買ってやらねばな。いいだろう、古泉よ! 明日九時、ここで!
 貴様の挑戦、しかと受け取った! 聞いているなら精々身を休め、引退試合に恥じぬ状態でリングに上がるのだな!」


湖全体に轟く叫び声を上げ、私は再びユニット・リムーバーを投擲、騎乗する。
今すぐ古泉たちを追えば容易に捕らえられるだろうが、試合を挑まれてそんな無粋な真似をする超人はいない。
無論、私とて紳士というわけではないから、試合前に"偶然"出くわせばそこで決着をつけることになるだろうがな。
さて……適当なタッグ・パートナーを探さねばな。
湖上の深々とした裂風を身に浴びながら、陸地が迫る。
私の目に、風になびく赤い髪が映った。

767>>760修正 ◆2XEqsKa.CM:2009/11/14(土) 11:03:39 ID:uCWpLj4U




誰も居なくなり、数分ほど置いて灯りも消えた湖のリングを眺めながら。
川口夏子は、先ほど聞いた情報、特に将軍の怒声の内容を頭の中で組み替えていた。
結局小声での会話の内容までは聞き取れなかったが、手に入れた情報は三つ。

・古泉が万太郎を気絶させ、リングになんらかのメッセージを残して去った。
・そのメッセージを読んだ悪魔将軍の叫びによれば、オメガマンと古泉が悪魔将軍を裏切った。
・明日9時にここで古泉らと悪魔将軍の戦闘が起こる可能性大。

古泉と万太郎の関係、悪魔将軍達と共にいた赤髪の少女の行方など不明な点も多かったが、これだけ分かれば十分だ。

(……あの悪魔将軍たちも一枚岩ではない、ということね。付け入る隙があると分かったのは良かったわ)

9時から始まるという内戦。自分が今後どのようにこの島で立ち回るにしても、有益な情報を入手できた。
万太郎がそれに巻き込まれている様子なのは同情を誘ったが、自分にはどうしようもない。
夏子はわずかに笑みを浮かべ、念のため這ってロケットの元に向かう。

(悪魔将軍……危険なのは確かだけど、戦力として見れば彼以上の逸材はいない)

口先での説得が可能だとは思えないが、リングの上での様子を見る限り実力を重視するタイプの人間に見えた。
少なくとも先ほどまでの、ロボット兵のような意思疎通すら困難な怪物という認識は薄れた。

(恩を売って、有用と言えるほどの力を見せれば協力できない事もないでしょうけど……何を考えてるんだか、全く)

知り合いを最低でも一人は殺している参加者と共闘を考えるなど、と己を軽く律する。
ロケットに括り付けられたディバックに到達。中身を引っくり返し、出来るだけ素早く確認。
ハムとの待ち合わせ時間まで、そう時間はない。

壊れた剣。金貨がぎっしりつまった箱。ディバッグ複数(食料も水もある!)。更に首輪の残骸。
ウィンチェスターM1897。これは確か、水野灌太が愛用していた銃だ。
他にもガラクタが大量に詰まっていた。これらも、使い方次第によっては十分な利器となるだろう。
総合してみれば、時間を割いて回収しに来た甲斐はあったといえるだろう。
と、ディバッグの隅に押し込まれた饅頭を見つける。

「包みもなしとはね」

苦笑しながら口に運ぶ。緊張で小腹が空いていたのだ、丁度いい。

『……噛まないでもらいたい』

「そげぶっ!?」

彼女、砂漠の凄腕美人・川口夏子を知る者なら想像も出来ない声。
だが無理もない。食べようとしていた饅頭がしゃべり、耳を突き出してギョロ目で彼女を見たのだから。
あたふたと饅頭を取り落としつつも、懐から無駄のない動作で拳銃を取り出し、構える。

「ななっ!? えっ? じゅ、銃を……う、動くな!」

『今はそんな事をしている場合ではない! 一刻も早く私を連れてここから離れてもらいたい!』

喋る饅頭に指図されるという異常事態。しかし考えて見ればウサギやブタが喋るのだ、饅頭が喋ったって……。
と、そこまで考えたところで、夏子が饅頭に見覚えがある、と気付く。これは……。

「あなた、アプトムの頭に付いてた……えっと、ネブラ、だったかしら?」

『そうだ。君は確かアプトムに脅されていた女性だな。私の能力を知っているなら手っ取り早い。
 私を頭につけてくれたまえ。君はそれで飛べるようになる、この場を離れられるのだ』

「……」

正直、かなり抵抗があった。夏子にとってネブラ(というかアプトム)には悪い思い出しかない。
しかし、このネブラという生物……なんというか、可愛……いや、妙な安心感がある気がする。
結果、夏子は自分に憧れていた小砂のように、嫌悪していたアプトムのように、ホイホイネブラを身に付けてしまった。

768 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:29:28 ID:7QWhozu2
ちょっと不安なところがあるのでこちらに投下します

769 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:30:12 ID:7QWhozu2
◆ ◆ ◆ ◆ ◆


その時、時刻は19時56分27秒。
警告時間の1分間を足すと残り時間は4分33秒。

4分33秒間。
それがリヒャルト・ギュオーに許された逃走のための時間だった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ずるずると重く、動かない体を引きずってエリアの端を目指す。
先ほどウォーズマンとの激しい戦いを経た体はなかなか言うことを聞かない。
木の根に足を取られた巨躯がぐらりと傾いだ。

「くそっ!ウォーズマンめ!」

俺は生きて、世界の支配者となるのだ!
だから、この俺がーー

「このリヒャルト・ギュオーがっ!こんな所で潰えることがあってはならんのだああぁぁぁぁあああっっっ!!!」

咆哮を上げ走り出す。
それは演奏開始の合図。
ギュオーは振り上げたのだ。
自分に残された4分33秒を奏でる指揮のタクトを。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ざわざわざわ、びゅうびゅうびゅう。
副旋律は、風を切る音、闇に塗りつぶされた木々がざわめく音。
ぜぇぜぇぜぇ、どくどくどく。
主旋律は己の体の悲鳴。呼吸の音、心臓の早鐘。
体の外から、内から、音はF-5と名付けられた範囲に響き渡る。

時間は淀むことなく勤勉に進み、ついには最終楽章に至る。
演奏記号はcrescendoでPrestissimo。
その身にまとわりつく音はどんどん大きく速度を上げていく。

果たしてその旋律はこの男の耳に届いているのだろうか?

残された力を振り絞るようにギュオーは前へ進む。
生にしがみつく精神はすでに限界を叫ぶ体をさらに加速させる。
軋む体に鞭を打つように、両の足を交互に繰り出すことにのみ全神経を傾ける!

残り1分を刻んだところで
ひとつ、音を奏でる楽器が増えた。

『警告。
 リヒャルト・ギュオーの指定範囲外地域への侵入を確認。
 一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る。
 繰り返す……』

走りながら落ち着きなく目玉を動かす。
そろそろエリアの端に出るはずなのだが明確な目印があるわけではない。
首筋から這い寄る死の影がやかましくわめき続けてる。

『10、9、8、7……』

「えぇい!くそぅっ!!」

追いつめられた彼は最後に賭けに出た。
出ざるを得なかった……自分の命をチップにした賭けに!!

どん!と最後の跳躍。
男の体は宙を舞った。

770 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:30:44 ID:7QWhozu2

◆ ◆ ◆ ◆ ◆


とける。
リヒャルト・ギュオーをリヒャルト・ギュオーたらしめている輪郭が解け消える。
慣性の法則に従い、人であった橙色は恐ろしく美しい弧を描く。
投げ出されたオレンジ・ジュースはパシャリと音を立てて、
死線を越えた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
その時、男は肩で大きく息をついていた。
その体は、濃く暗い木の陰の中。
彼の後ろには目に見えない線がある。深くて暗い線が在る。
エリアを分つ線を越えた液体は、まるで壊れたビデオが逆再生をするように輪郭を取り戻した。

同時に「それ」は再び名前を得る。
名前はギュオー。リヒャルト・ギュオー。

「うぅっ!な、何だ、今のは……。この身に何が起きたというのだ……?」

がくがくと体を震わせ、わななく唇でそう呟いた。

「それに今の感覚はなんなのだ……!? まるで俺が俺でなくなるような…………!」

変化の瞬間に感じていたのは想像していたような痛みでも灼熱感でもない。
ただ自分という個が消えてしまうような感覚だった。

ギュオーは野心の強い男である。
支配者アルカンフェルをも打ち倒し、成り代わろうとする業の深い男である。
故に彼は誰も信用せず、己の力と存在のみを拠り所としていた男。
         ・・・・・・・・・・
その男が唯一信ずる自分が自分でなくなるとしたらーー

びくり
突然、体を震えを止める。
おもむろに褐色の指を自らの喉元へ。

「……まさかっ!『あれ』が俺の体内に入り込んだのではあるまいなっ!?」

ギュオーは『あれ』を知ってしまっていた。
首輪の中に潜む未知の存在を。
そしてそれが参加者の体を離れる時に体内に潜り込むということを。

自分はまだ生きている。気のせいに違いない。
だが思ってしまったのだ。
この首輪、少し軽くなってやしないか? と。

「フ、フハ、フハハハハハッハハハハッハハハハハッ!!!!」

男は笑う。
その身に起こった異変に動じず、さながら王のように。

「今のが禁止エリアの発動というものか! くくく……面白い、面白いぞ雑魚がぁ!!」

狂ってはいない。
その振る舞いは髪の先まで、常の彼と微塵も違わない。

「俺はユニットを手に入れ神に、支配者になる男だ!
 たとえ一度死んだとてハクがついたというものよっ!」

男は歩く。
先ほどとは別人のように、ゆったりと余裕さえ見えるようで。

しかし、黒い恐怖は彼の背に貼り付いて放さない。
音もなく、べたりと。

ただべったりと。

771 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:31:16 ID:7QWhozu2
【F-5周辺/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、左肩負傷、ダメージ(大)、疲労(大)
買@ンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、 毒入りカプセル×4@現実、
bガイバー 、
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹、
     ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、不明支給品0〜1
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。その際、主催者も殺す。
2:キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。

※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。
※ギュオーの体内に首輪内蔵の植物のようなものが侵入した可能性があります
 また、一度ギュオーをLCL化させたことで首輪に変化があるかもしれません。

※ギュオーはF-5以外の、F-5を中心とする9コマのエリアどこかにいます。どこにいるかは、次の書き手さんにお任せします

772 ◆MADuPlCzP6:2009/11/15(日) 01:33:29 ID:7QWhozu2
以上です

首輪の扱いのあたりがちょっと不安なのでご意見いただければと思います

773 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:49:45 ID:7QWhozu2
規制中につき、こちらに決定稿投下します

774『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:50:33 ID:7QWhozu2
◆ ◆ ◆ ◆ ◆


その時、時刻は19時56分27秒。
警告時間の1分間を足すと残り時間は4分33秒。

4分33秒間。
それがリヒャルト・ギュオーに許された逃走のための時間だった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ずるずると重く、動かない体を引きずってエリアの端を目指す。
先ほどウォーズマンとの激しい戦いを経た体はなかなか言うことを聞かない。
木の根に足を取られた巨躯がぐらりと傾いだ。

「くそっ!ウォーズマンめ!」

俺は生きて、世界の支配者となるのだ!
だから、この俺がーー

「このリヒャルト・ギュオーがっ!こんな所で潰えることがあってはならんのだああぁぁぁぁあああっっっ!!!」

咆哮を上げ走り出す。
それは演奏開始の合図。
ギュオーは振り上げたのだ。
自分に残された4分33秒を奏でる指揮のタクトを。

775『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:51:24 ID:7QWhozu2
◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ざわざわざわ、びゅうびゅうびゅう。
ベースラインは、風を切る音、闇に塗りつぶされた木々がざわめく音。
ぜぇぜぇぜぇ、どくどくどく。
主旋律は己の体の悲鳴。呼吸の音、心臓の早鐘。
体の外から、内から、音はF-5と名付けられた範囲に響き渡る。

時間は淀むことなく勤勉に進み、ついには最終楽章に至る。
演奏記号はcrescendoでPrestissimo。
その身にまとわりつく音はどんどん大きく速度を上げていく。

果たしてその旋律はこの男の耳に届いているのだろうか?

残された力を振り絞るようにギュオーは前へ進む。
生にしがみつく精神はすでに限界を叫ぶ体をさらに加速させる。
軋む体に鞭を打つように、両の足を交互に繰り出すことにのみ全神経を傾ける!

残り1分を刻んだところで
ひとつ、音を奏でる楽器が増えた。

『警告。
 リヒャルト・ギュオーの指定範囲外地域への侵入を確認。
 一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る。
 繰り返す……』

走りながら落ち着きなく目玉を動かす。
そろそろエリアの端に出るはずなのだが明確な目印があるわけではない。
首筋から這い寄る死の影がやかましくわめき続ける。

『10、9、8、7……』

「えぇい!くそぅっ!!」

追いつめられた彼は最後に賭けに出た。
出ざるを得なかった……自分の命をチップにした賭けに!!

どん!と最後の跳躍。
男の体は宙を舞った。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『……6、5、4、……』
その巨躯は数瞬空を舞った。
それは獣神将の力によるものではなく、男・ギュオーとしての挑戦。
慣性の法則に従い、人体の通過点は放物線を構築する。
『……3、2、……』
未だ生存ラインに届かない、警告音は鳴り止まない。
しかしその足はすでに再び地に着こうとしている。
『1、ゼ………………』

男は死線を越えた。

776『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:52:21 ID:7QWhozu2
◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
男は肩で大きく息をついていた。
その体は、濃く暗い木の陰の中。
彼の後ろには目に見えない線がある。深くて暗い線が在る。

『退避確認』
曲の最後の音は勝利を歌った。

男は賭けに勝ったのだ。
しかし生を勝ち得た男は快哉を叫ぶこともなく、ただうずくまる。

「うぅっ!な、何だ、今のは……」

がくがくと体を震わせ、わななく唇でそう呟いた。
蠢いたのだ、何かが自分の首元で。
それが自分の中で起こったものか、首輪の側で起こったものかは判然としない。
だが、確実にこの幾ばくもない隙間で何かが起こっていた。
ギュオーの脳裏に『あれ』の存在がかすめていく。
加持を殺めたときに知った存在、首輪に潜む『あれ』が。

「それに今の感覚はなんなのだ……!? まるで俺が俺でなくなるような…………!」

もう駄目かと思うほど崖っぷち、その瞬間、感じたのは想像していたような痛みでも灼熱感でもない。
ただ自分という個が消えてしまうような感覚だった。

ギュオーは野心の強い男である。
支配者アルカンフェルをも打ち倒し、成り代わろうとする業の深い男である。
故に彼は誰も信用せず、己の力と存在のみを拠り所としていた男。
         ・・・・・・・・・・
その男が唯一信ずる自分が自分でなくなるとしたらーー

「フ、フハ、フハハハハハッハハハハッハハハハハッ!!!!」

男は笑う。
その身に起こった異変に動じず、さながら王のように。

「今のが禁止エリアの発動の片鱗というものか! くくく……面白い、面白いぞ雑魚がぁ!!」

狂ってなどいない。
その振る舞いは髪の先まで、常の彼と微塵も違わない。

「俺はユニットを手に入れ神に、支配者になる男だ!一度死にかけたとてハクがついたというものよっ!」

男は歩く。
先ほどとは別人のように、ゆったりと余裕さえ見えるようで。

しかし、黒い恐怖は彼の背に貼り付いて放さない。
音もなく、べたりと。

ただべったりと。

777『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:52:54 ID:7QWhozu2
【F-5周辺のエリアのどこか/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身軽い打撲、左肩負傷、ダメージ(大)、疲労(大)
買@ンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、 毒入りカプセル×4@現実、
bガイバー 、
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹、
     ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、不明支給品0〜1
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。その際、主催者も殺す。
2:キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。

※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」「加持リョウジ」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されていると推測しました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。
※一度ギュオーをLCL化させかけた影響で首輪に変化があるかもしれません。

※ギュオーはF-5以外の、F-5を中心とする9コマのエリアどこかにいます。どこにいるかは、次の書き手さんにお任せします

778『4分33秒』 ◆MADuPlCzP6:2009/11/16(月) 22:54:40 ID:7QWhozu2
以上になります。

たくさんのご意見ありがとうございました。
どなたか代理投下していただければと思います。

779 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/08(月) 15:47:32 ID:XnKZIjdU
最後の状態表だけ連投規制に引っかかってしまったので、どなたか代理投下よろしくお願いします。





【G-2 温泉内部・脱衣所/一日目・夜中】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、魔力消費(中)、睡眠、覚悟完了
【持ち物】支給品一式×2、メリケンサック@キン肉マン、砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、
     スリングショットの弾×6、SDカード@現実、カードリーダー、リボルバーナックル@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、ナーガの円盤石
【思考】
0:何があっても、理想を貫く。
1:キョンを絶対に止める。
2:なのはと共に機動六課を再編する。
3:人殺しはしない。ヴィヴィオやノーヴェと合流する。
4:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。
5:ケロロにガルルの遺文を見せる。
6:必要に迫られれば、命を捨てて戦うことも辞さないが、可能な限り生き抜いてみせる。無駄死には絶対にしない。
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)
※無理をすれば傷が悪化し、甚大なダメージを受ける可能性があります。

【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、身体全体に火傷、熟睡
【持ち物】ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
1、なのはとヴィヴィオを無事に再会させたい。タママやドロロと合流したい。
2、加持となのは、スバルに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
3、冬樹とメイと加持の仇は、必ず探しだして償わせる。
4、協力者を探す。ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです。

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、魔力消費(大)、睡眠
【装備】レイジングハート・エクセリオン(修復率95%)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【服装】浴衣+羽織(子供用・下着なし)
【持ち物】ハンティングナイフ@現実、女性用下着上下、浴衣(大人用)、リインフォースⅡの白銀の剣十字
【思考】
0、もう迷わない。必ずこのゲームを止めてみせる!
1、冬月、ケロロ、スバルと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロたちを探す。
4、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
5、休息が済んだらキョンを探し出し、スバルのためにも全力全開で性根を叩き直す。
※リインからキョンが殺し合いに乗っていることとこれまでの顛末を聞きました。

780 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/08(月) 15:48:39 ID:XnKZIjdU
投下は以上です。
誤字や矛盾など、指摘がありましたらお願いします。

781 ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 14:47:31 ID:YrRABrO.
お待たせしました。
これよりSSを投下いたします。

782war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 14:50:22 ID:YrRABrO.
森の中を前進していく、ふくよかな毛皮に包まれた巨躯なケモノ・トトロと、妖精型モンスター・ピクシーに小さな竜のフリードリヒ、手袋の姿をしたデバイス・ケリュケイオンを含めたケモノたち一行。
危険人物だったキョンを、トトロの意思によっていずこへ逃がした後、高町なのはたちがいる温泉へ戻るハズであった・・・・・・
だが、彼らは真っ直ぐ温泉へ向かっているわけではないようだ。

『Mr.troll、どうしたのですか?
 温泉はそちらではありませんよ?』

温泉へ戻るコースから外れていることに関してケリュケイオンは持ち主に忠告を述べる。
しかし、持ち主であるトトロは「ヴォウ」と短い返事だけをして前進を続ける。
人の言葉ではないトトロの返事の内容はさっぱりだが、前進を続けている様子からして、忠告は聞き入れてもらってないようだとケリュケイオンは理解した。

『帰還が遅いとMs.高町たちが心配します。
 あなたが彼女らに心配をかけたくないのでしたら、寄り道はせずに早めの帰還を推奨します』

今度は先の言葉に仲間の事情などを付け加えて発言するが、これも聞き入れては貰えず、獣たちは前進を続ける。
温泉のある西ではなく、北へ、北へと前進していく。

ケリュケイオンもだんだん、獣たちの意図に気づき始める。
トトロは気まぐれで北へ向かうのではなく、ある目的のためにそこへ向かうのではないかと予測を立てる。
『ある目的』に該当しそうな事柄をメモリーから検索した結果、スバルの同行者だったウォーズマンの存在が浮上する。
手持ちの情報によると、ウォーズマンはF-5の神社にて危険人物であるギュオーと交戦状態に陥った。
現時刻では、F-5は禁止エリアとなっているため、その戦闘はすでに終了していると見るのが妥当だろう。
そして、必然的に周辺の9エリアのどこかに流れつき、特にキョン及びスバルが移動した方角へと向かう可能性は高い。

783war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 14:52:08 ID:YrRABrO.
つまり、ウォーズマンの安否を確認もしくは接触・温泉への誘導のためにあえて神社周辺のエリアへと、トトロは移動しているのかもしれない。
下手にこちらから動くとニアミスするリスクはあるが、トトロに限ってはその心配は薄い。
獣ならば、人や機械では感じとれない臭いや微かな異音・僅かな地面の振動を感じて目標を捜すことができる。
実際に獣たちは、なんとなく進んでいるわけではなく、一点を目指して前進している。
ケリュケイオンにとって索敵外の先にある何かを感じ取り、彼らはそこを目指して突き進んでいるように見える。
これが単なる気まぐれによる行動だとしたら、今後もこの殺し合いの中で付き合っていくであろう持ち主に対して、ケリュケイオンは腕が無いのに頭を抱えることになるだろう。


仮に、ウォーズマンと合流できたのなら僥倖である。
ウォーズマン自身の生存の確認ができ、脱出のための協力者も得られる。
だが、反対の悪いケースも考えうる。
戦いにおいてウォーズマンが討たれ、勝者のギュオーが存命している場合もある。
もしそうならば、危険人物は生きていると、温泉にいる仲間に注意を呼びかけなくてはならない。
・・・・・・と、ケリュケイオンは思考を働かせつつ、いつ何が起きても良いように警戒レベルを最大限に引き上げる。


やがてケリュケイオンも、索敵範囲内に一人の人物を捉えた。
現在地はF-4、深い森の中においてトトロたちは参加者を発見する。
しかし、その者はケリュケイオンが求めていた人物ではなかった。

赤いラバースーツのようなものを纏うその怪物は−−



−−−−−−−−−−−

784war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 14:54:08 ID:YrRABrO.


−−リヒャルト・ギュオー。
覇道を歩むべく、ガイバーユニットを求め、邁進する者。
だが、その道程は本人が想像しているよりも遥かに険しいようだ。

「どこだ・・・・・・どこへ行ったんだあの小僧は!」

ガイバーユニットを持ったキョンが神社から西側へ出ていったのを知っているため、彼を追うために禁止エリアになったF-5から西のF-4の森へと移った。
しかし、西側へ出たはよかったがキョンの詳しい行き先は掴めないでいる。
足跡でも見つければ、いずれキョンの居所へ辿りつけるだろうが、その足跡すら見つかってない。
ちなみに禁止エリア脱出の時は、下を見ている余裕などなかったため、足跡は見ていない。
今はどうにかキョンの足どりを掴むために森をさ迷っている。
ギュオーに降り懸かる障害はそれだけではない。

「くそぅ、動くのも億劫だぞ。
 先の戦いで消耗し過ぎたか?」

神社のリングマッチではウォーズマンに勝利し、結果的に死に至らしめた。
だが、その勝利は易々と手に入れたものにあらず。
ギュオーは戦闘の中で多大なダメージと疲労を被り、損耗を強いられることになる。
それは常人の何倍もの強化が施された肉体が軋みを上げ、ゼェゼェと息は上がるほどだ。
禁止エリアになる神社からの脱出の際には猛ダッシュを見せたが、それは首輪が発動しかけるギリギリの状況下によって発揮された興奮状態による火事場の馬鹿力であり、あくまで一時的なものである。
興奮が冷めた今となっては、忘れていた傷の痛みと疲労を身体に思い出させ、おまけに首輪の発動寸前において味わった気味の悪い出来事・それによって生まれた焦りが加算され、ズッシリとギュオーにのしかかっている。

「おのれぇ〜、あのポンコツのガラクタめ」

思うように進まない足、怪我の痛みにギュオーは苛立ちを覚え、その原因を作ったウォーズマンに対して侮蔑の言葉を叩き付ける。

「待っていろよ!
 おまえが守ろうとしたガキを墓場に、サイボーグの小娘はスクラップ置場に送ってやろう!
 そしてユニットを手に入れ、私は神への道を踏み出すのだ! フハハハハハハ!!」

785war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 14:55:21 ID:YrRABrO.
続けてギュオーの口から吐き出されたのは、なんともヒールチックなスローガン。
少年少女を殺し、ガイバーユニットを手に入れ、自分は勝者になると声高々に宣言するのだった。
これは苛立ちを戦意に変えるためのパフォーマンスでもある。

「・・・・・・ぬぅ」

だが、いかに戦意を高ぶらせようとも、それ以上に消耗は大きい。
今もまた、足がグラついた所だ。

「しばし休むべきか・・・・・・いいや、ダメだ」

獣神将である以上、怪我は時間が経てば再生し、休憩をとれば疲労も取り除かれるだろう。
されど、今のギュオーに休む暇は無い。
時間の都合から考えてキョンが『足の早い者に運ばれない限り』、そう遠くへは行ってないだろう。
しかし、休んでる間に目的のガイバーユニットを持ったキョンはどんどん逃げていく。
その上でユニットが他者に奪われたり、合流されたりすると事態がややこしくなってしまう。
ギュオーが神になるには、誰よりもいち早く手に入れる必要があるのだ。
せっかく目前まで迫ったチャンスを手放す気はギュオーにない。
今こそが、多少の無理は承知の上で走り続ければならぬ踏ん張り時なのである。


「しかし・・・・・・」

そこで、ギュオーの脳裏に懸念材料が浮かぶ。
もしも他の参加者と出会い、戦闘になってしまったら?
戦闘の心得が無いキョンや満身創痍のスバルなら、疲弊した今でも殺せる自信が己にはある。
しかし、ウォーズマンクラスの実力者と出会い、それでまかり間違えれば命が危うい。
詳細参加者名簿の内容をかなり把握しているため、参加者ごとの対処法はそれなりに心得ているが、その対処法を実行できる余力が少ない。

「・・・・・・何か良いものはないか?」

そこでギュオーは、支給品の中に傷や体力をいち早く回復できるものは無いかとディパックを漁り始める。
回復に纏わる支給品は元は持ち合わせてなかったが、ウォーズマンから奪った支給品の中にはあるかもしれないと期待してのことである。

786war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 14:58:00 ID:YrRABrO.
ディパックを探った結果、加持リョウジの詳細の書かれた紙切れ・どこかで見た黒い布・謎の宝石・玩具の銃・スナック菓子、などを見つけた。
上から順に支給品を分析する。

加持リョウジの詳細が書かれた紙切れは、加持に関する情報を隠蔽するために詳細参加者名簿から破り捨てたものを、ウォーズマンが拾ったものだろう。
回復には役立ないが、紙切れ一つで嘘がバレることに繋がることはわかったので、今後から証拠の隠滅は徹底的にやろうと肝に銘じ、ディパックにしまう。

黒い布は、ウォーズマンが『真っ黒クロエ』に変身するために使ってたものだ。
ならば、自分もクロエの姿に化けて他の参加者を欺けるのではないかと、自分の身体に布を巻き付けたが、変身はできなかった。
おそらく、ウォーズマン以外では変身できない代物なのだろう。
変身できないならただの布切れなので、捨てた。

次は青い宝石・ジュエルシード。
説明書が無くなってるため、ギュオーはこの宝石の名前すらわからない。持てばエネルギーらしきものを感じ取れるが、肝心の使用用途がさっぱりだ。
エネルギーの塊ということだけはわかるので、そのうち何かに使えるかもしれないと思い、いちおうは所持しておくことにする。

次は玩具の銃・・・・・・否、デザインこそオモチャのようだが、決してオモチャでは無い。
『ケロロ小隊の光線銃』という立派な武器である。
ケロロ小隊と名前がついている所から、ケロロ軍曹やタママ二等兵と繋がりがありそうだが、ギュオーに取ってはそんなことはどうでも良い。
トリガーを引けば丸い銃口から実弾の代わりにビームが飛び出す。
格闘主体のウォーズマンにはそぐわない武器だからか、それともデザインから本当に玩具だと思い込んでしまったのか、どっちにしろ、未使用の状態でギュオーの手に渡ることになった。
「これは使えるな」とギュオーは評する。
この光線銃が重力指弾程度の代わりにはなりそうであり、体力の節約はできる。
体力に自信がない今はこの銃に頼ることにする。

787war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:00:53 ID:YrRABrO.
最後にスナック菓子。

「これは奴に支給された食料のようだな」

一見、何の変哲も無い菓子だが、正体は『日向ママDNAスナック』。
食べたものを巨乳にしてしまう、つぶれアンパンの人には喉から手が出るほど欲しい一品である(理由はお察しください)。
だが、ギュオーはこれをただの食料と思い込んでいる。
説明書はディパックの中にまだ入っているが、ギュオーは主催から支給された食料と思い込んでいる故に確認しない。
そして、ギュオーはその中から一袋を開ける。

「こんなものでも、食せば少しは足しにはなるだろう」

栄養摂取−−食べることで、体力の回復に繋げる。
今は僅かでも体力にプラスになることをしたかった。

そしてギュオーは、そのスナックの真の価値と恐ろしさを理解せぬまま口に入れ、咀嚼し飲み込み。


パリパリサクサク・・・・・・ゴクッ


「味はまあまあだな、少なくとも喰えないレベルではない。
 だが物足りん。もう一袋、食してみるか」

食べた物への感想を漏らしつつ、ギュオーはスナック菓子の袋をもう一つ開ける。
その一方でギュオーの二つの胸に変化が現れ−−



だがしかし、自身の異変に気づくより早く、ギュオーは何者かの気配を感じ、スナックを口に詰める作業を中断する。
あまりに突然だったため、ギュオーの額に冷や汗が流れる。

現状の自分でもキョンやスバル程度ならまだ良いが、リナ・インバースのような強者と鉢合わせになるのはマズイ−−とギュオーは危機感を抱く。
この目で見るまで気配の正体はわからないが、ギュオーの卓越した感覚と戦闘経験からして、確実にわかることは一つ。

(・・・・・・いる!
 それも一人ではなく、二人もしくは三人以上!)

788war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:03:48 ID:YrRABrO.
自分の近くにいる参加者は複数。
これで囲まれたり、正体がわからぬまま後手に回るのは面白くない。
ギュオーは素早く菓子袋をディパックにしまい、光線銃を構えながら周囲に気を配るなどの索敵行動に移る。
あくまで冷静に対処すべし、と心中で自分に言い聞かせ、神経を研ぎ澄ます。


ガサリッと草村が揺れる音と共に、標的は向こうから現れた。

「コイツらは・・・・・・!」

ギュオーの前に現れたのは巨大な毛むくじゃらの生き物、両端には有翼ゾアノイドのような女と小さな空飛ぶトカゲ。

ギュオーは一定の距離を保って、それらの正体を探りはじめる。
女とトカゲは首輪を付けてないので参加者ではない、支給品か何かだろう。こちらはとりあえず後回し。
問題なのは中央の巨大な生物だ。
特徴は、熊のような巨体・肉食獣を思わせる鋭い爪・大きな瞳に人を飲み込めそうな大きな口・ふくよかな毛皮・・・・・・
詳細参加者名簿の中に、それらの特徴に一致する参加者がいたことを、ギュオーは思い出す。


−−トトロ。
ギュオーの記憶が正しければ、見ようによっては恐ろしげな姿をしているが、心優しく無垢で温厚な生物。
かなりの巨体に反して俊敏で身軽。
通常は一定の年齢以下の子供にしか見えないようだが、この殺し合いにおいては大人も見れるように制限されたらしい。
その代わり、トトロ自身は喋れないが、人の言葉を理解できる程度に知能を強化されている。
他にも植物の成長を促す魔法の如き力があるが、こちらも制限を受けているらしい。
以上の情報を持って、ギュオーはトトロについて思案する。

(色々厄介な能力を持っていたらしいが、そのほとんどが封じられたようだな。
 こいつ一匹だけなら取るにたらない相手だ)

カタログスペック上では、このトトロと戦っても勝てるとギュオーは見込む。
だが、同時に疑念も過ぎる。

(そう言えば、神社のリングでレフェリーをしていたのも『トトロ』だったな。
 アレは主催者からの使者でもあった、つまり同種であるこの『トトロ』も主催者の差し金ではないのか?
 知覚を強化されたとは、主催者が『調整』など何らかの手を加えたのも明らかではないか?)

789war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:04:54 ID:YrRABrO.
トトロと主催者とは、なんらかの関連性があるかもしれない。
そう睨んだギュオーはトトロに悟られないように、心の中で邪悪な笑みを浮かべる。

(仮に主催者の手先だとしても、それでも都合が良い。
 どうせ喋れないのなら情報の取りようが無い。
 尋問もでき無いだろうが、死体にすれば色々物語ってくれそうだ。
 また、主催者との関わりは無くとも、奴の支給品が奪えるだけでも儲けものだ)

トトロを殺害する意思と打算が強まる。
それと反対にトトロは、敵意も殺意も警戒心も持たず、三日月のような口を作りながらこちらに近づいてくる。
トトロはギュオーを敵と見なしてないのだ。
だが、ギュオーに相手からの害意のありなしは関係ない。
あるのは、殺すメリットと殺さぬメリットのみ。
喋れぬトトロに生かすメリットは無いので、殺すメリットをギュオーは選ぶ。

(゛温厚で心優しい゛か・・・・・・私にとっては調度いいカモだな。
 知能を強化されても所詮は疑うことも知らぬ野生動物だ。
 さて、そろそろ・・・・・・)

考えがまとまった所で、いざギュオーが光線銃でトトロを撃とうとした瞬間、女性のものらしき声が響く。

『Mr.troII、何をしてるんですか!?
 彼はギュオー、危険なの男−−』



ビシューン バスッ



丸い銃口から一筋の閃光が放たれた!



しかし、トトロは咄嗟にジャンプをして光線をかわす。
トトロの代わりに背後にあった木に光線が命中し、命中した部分が焼けて焦げる。
当のトトロは木の上へ移っていた。

790war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:06:52 ID:YrRABrO.
(奴の俊敏さを侮ったわ、まさかあの距離でかわすとは。
 そして、抜かった・・・・・・奴は喋れずとも付属品が喋れる可能性を忘れていた・・・・・・
 声を発したあの手袋・・・・・・スバル・ナカジマが持っていた杖と同種の物か?)

ギュオーが予想外だったのは、トトロは予想以上に身が軽く、喋る手袋(ケリュケイオン)の存在に気づかなかったこと。
前者はもとい、後者の警告さえなければ一撃で仕留められたのに、とギュオーは手袋への疎ましさを感じた。

羽付きの女−ピクシーとトカゲ−フリードリヒが、ギャアギャアと威嚇しながらトトロの側に寄る。
トトロは他の二匹ほど、ギュオーへの敵意を向けてはいないが、先程の友好的な雰囲気も感じとれない。
その中でケリュケイオンは提案を出す。

『見ての通り、彼は危険です。
 すぐに逃げましょう』

ケリュケイオンのその言葉を聞くと、トトロたちは逃走を開始した。
トトロはまず木から降り、二足の足で素早く逃げる。
ピクシーとフリードリヒは羽根を動かして、トトロの背中を追うようについていく。

「逃がすか!」

ギュオーは逃げるケモノたちに光線を数発撃ち込むが、トトロたちの素早さに加えて木々に光線を阻まれ、当たらなかった。


ギュオーはケモノたちを追いかけながら思考する。

(なぜ奴らが私の名前を知っていた?
 ひょっとすると、あのガキや小娘と接触したのか?)

ギュオーがウォーズマンと戦っている間に、キョン・スバルもしくは両方と出会い、情報を流されたのかもしれない。

(ちょうど小僧がどこへ行ったかわからずに困っていたところだ・・・・・・あの手袋から、小僧の場所を聞き出すとしよう。
 もし小僧の居場所がわからずとも、私が殺し合いに乗っていることを言い触らされるのを黙って見過ごす気も無い。
 ・・・・・・やはり、ケモノは殺して、手袋を手に入れておくべきだな)


改めてトトロを殺すことに決めたギュオーは走行の加速度をあげる。
元々、人間どころかゾアノイドの何倍もパワーやスピードを強化された獣化兵。
その足の速さは人間や動物とは比較にならず、トトロたちと離された距離がぐんぐんと縮まっていく。

791war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:08:00 ID:YrRABrO.

そのさなかでギュオーは違和感を感じていた。

(肩が重い、胸に妙な苦しさを感じる・・・・・・私が思っていた以上に怪我と疲労は大きいのか、死んでも足を引っ張るウォーズマンめ!)

違和感の正体をウォーズマン戦での消耗が響いていると決めつけるギュオー。
違和感は拭えないが、ギュオーは構わずに走り続ける。

(ええい、些細な事などいちいち気にしてられん! 今は耐えるべきなのだ!
 そして、どんな相手でも全力で殺すと決めた以上、このギュオーは容赦せん!)

些細な違和感は無視する方針を固め、ただただ獲物を正面に見つめ、全力で追いかける。
例え、さっきまで求めていたガイバーの足跡がすぐそこにあることも知らないまま−−今は目の前の獲物に集中する。

「逃がさんよぉ!」

邪悪なスマイルと共に、トトロとの相対距離が大分埋まってきた所で、ギュオーは光線銃のトリガーを引いた・・・・・・


−−−−−−−−−−−

792war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:10:05 ID:YrRABrO.


『Mr.troII・・・・・・あなたは何をやっていたか理解しているのですか?』

ギュオーから逃げる獣の一行。
そのグループの中心であるトトロは森を走りつつ、ケリュケイオンからの嗜めを受けていた。

『彼、ギュオーは危険人物であるとリインフォースが警告しています。
 しかし、あなたのギュオーへの対応は理解しかねます』

トトロの行動は、危険人物と知って逃げる・隠れ戦うではなく、自分から踊り出て笑顔を振る舞った。
これでは相手に殺してくれと頼んだようなものだ。
トトロ自身も攻撃されてから、ようやく相手が危ないと気がついたのか、逃げる事を選んだらしい。
だが、ケリュケイオンは持ち主の不可解すぎる行動に、人間で言うところの『呆れた』様子である。

『今までの行動よりMr.troIIがとても優しい気性なのはわかりました。
 Ms.高町たちと協調して瀕死状態のMs.ナカジマを助け、Mr.キョンのような危険人物にすら身を案じる方ですしね。
 ・・・・・・ですが、今回に至っては危機感と慎重さに欠き過ぎています。
 その結果が、危険人物に追われているこの状況です』

あくまで持ち主の行動を分析しつつ、トトロへ注意を促すケリュケイオン。
言葉を喋れない動物なので、意味を理解しているかは謎だが、とにかく持ち主のパートナーであるデバイスとして、必要事項はどうしても言わなくてはならないと思考回路が判断したのだ。
ところがケリュケイオンの注意に対し、トトロの反応は無言。
理解していての無言か、その逆か、最初から聞き耳を立ててないのか、イマイチわからない。
ちなみにピクシーはケリュケイオンに向けて「キュイキュイ!」とやかましく鳴き声をあげている・・・・・・主人が蔑まされたと怒っているのか?
それでも、ケリュケイオンは反応が無い持ち主に続けて忠告する。

『次からはもっとよく考えて行動してください。
 でなければ−−』

−−自分で自分の身を滅ぼすことになります、と言葉を紡ごうとする寸前で、それを打ち切る。
その理由は、内蔵された索敵機能が異様な動きを捉え、即座にそれを報告するためである。

『−−目標急接近!!』
「ヴォオ」
「ギャウ!」
「キュイ?」

793war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:12:02 ID:YrRABrO.
テバイスの報告から、ケモノたちが首を振り向かせると、そこにいたのは怪物と化したギュオー。
それも、先程までそれなりの距離を稼いでいたハズが、いつまにか10mほどまで距離を詰められていた。
そして、銃から四度目の光線が放たれる。

『Mr.troII、右へ回避を!』

ケリュケイオンからの指示通り、トトロは近距離からの射撃を右に避けることで光線の直撃を回避する。
完全な回避は叶わずに、ディパックに掠って大穴を開けるが、それが幸をもたらした。
ディパックが支給品を溜め込む機能を失い、欠損部分から中身が吐き出される。
そして−−









−−濡れた紙類やスイカを含んだ大量の水が、鉄砲水のようにギュオーへ襲いかかる!!

「どわあああああああ!?」

水の勢いは強く、後ろへと押し流されるギュオー。
さらに追い撃ちをかけるように濡れた名簿やスイカが体に当たり、極めつけは円盤石がギュオーの顔面にクリーンヒットする。

ガツンッ
「うわらばッ」

水の勢いと、頭に飛んできた円盤石に負けたギュオーは仰向けに倒れる。


「ヴォ?」
『これは温泉の水?』

ディパックから飛び出した水はオレンジ色、温泉のお湯だ。
おそらく数刻前に温泉に入った時に、ディパックに入りこんだものだと、ケリュケイオンは理解する。
何はともあれ、ディパックが水を吐き出しきった頃にはギュオーはだいぶ後方へと流されていた。
しかし、ギュオーはすぐに起き上がってケモノたちを追跡してくるだろう。
油断はできない。

『チャンスです! 今の内に退却すべきです!』
「ヴォウ・・・・・・」

トトロはディパックから水と同時に出ていった三つ目の円盤石を見つめる。
だが、当の円盤石はギュオーのすぐ側に落ちている。
当然、取りに行くのは危険だ。
それでもトトロは、その円盤石を取り戻そうと一歩、足を動かすが・・・・・・

『戻っては駄目です!』
「ヴォ・・・・・・」
『あなたはもちろん、フリードリヒたちまで危険に巻き込む気ですか?』
「・・・・・・!」

ケリュケイオンに注意され、一度は静止を振り切れうとするが、仲間たちまで危険に曝せないと思っただろう。
トトロは淋しそうな表情を浮かべつつも、南へと向き直る。
デバイスに促されてトトロとケモノたちは逃走を再開する。
F-4からG-4、北から南へ、南へと駆けていく。

794war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:15:18 ID:YrRABrO.
ずぶ濡れのギュオーがムクリと起き上がり、沸々と怒りを覚える。

「この私に舐めた真似を・・・・・・!
 絶対に殺して、手袋から小僧の居場所を吐かせるぞ!!」

距離を大きく離されたが、見失うほど離れてはいない。
まずは自分の顔に一撃を食らわした円盤石を腹いせに踏み付ける。
普通なら円盤石が割れてもおかしくないギュオーの力だったが、水でぬかるんでいるため、地面にめり込む程度で済んだ。

そして、ギュオーは追跡を再開する。
後に残ったのは、ぐちゃぐちゃに濡れた紙類・割れたスイカがいくつか・円盤石、そして水溜まりだけである。


−−−−−−−−−−−

795war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:16:13 ID:YrRABrO.



追撃戦の過程で、ケモノたちは森の深くにある滝に連なる川の前までさしかかる。

『こうなっては仕方ありません。
 早く温泉へ向かい、Ms.高町たちと合流しましょう』

トトロではギュオーには敵わない(そもそも戦う意思が無い)。
このままでは命が危ないと判断したケリュケイオンは、温泉にいる仲間たちとの合流を提案する。
またしてもトトロからの返事は無いが、理解してくれるのならそれで良いとケリュケイオンは思った。


トトロはジャンプ、他の二匹は飛行して、川を越える。
そして針路を東へ、東へと・・・・・・

『待ってください、そちらは反対の方角です!』

温泉が西側にあるのに、東側へと走り込むトトロにケリュケイオンは警告を出す。
それでもトトロは警告を無視するように、ひたすら東へ走る。

(『どういうことなのでしょう・・・・・・?』)

単純に考えれば彼らが東へ行けば行くほど、仲間のいる温泉から遠退き、自分の都合が悪くなる。
それがわかってると仮定すると、デメリットしか背負わないのに東へ向かう意味をケリュケイオンが理解するのは、しばらく経ってからである。

796war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:16:55 ID:YrRABrO.

(『もしや、Mr.troIIは仲間のために、わざと東へとギュオーを誘導している?』)

ケリュケイオンが読んだトトロの意図は以下の通りだ。
トトロが温泉へ到着して仲間と合流できたとする。
しかし、ギュオーも確実についてくるだろう。
その際に、温泉にいるのは芯まで疲弊したエース・死に体から復活したばかりの魔導士・戦いには不向きな老人に実力が定かでは無い異星の軍人・・
総合ポテンシャルで考えるなら、真っ当に戦えたものでは無い。
ギュオーを撃退できたとしても、死人が出かねない被害が出る。
だから、ギュオーを温泉から引き離すために東へ向かうのだ。
トトロがそこまで深く考えてないにしろ、東へ誘導することで時間稼ぎはできる。
時間を稼いだ分だけ、温泉の仲間たちは失った体力・魔力を取り戻せる。
ついでに南方向へライガーと共に去ったキョンから注意を逸らすこともあり、キョンの安全はもちろん、ギュオーにガイバーユニットが渡ることを避けられる。
だが、それは自分がギュオーを撒くまで追われ続けなければいけない。
命掛けのリスクを背負っても、トトロはその道を選んでいるというのか?

(『−−自分から囮となるつもりですか、下手をすれば命を失うというのに、それでも構わないのでしょうか?』)

思い返せば、トトロはただ争いを好まないだけでなく、自分から率先して人を助け、争いや暴力を良しとはせず、他人が傷つけ合うことを嫌う。
そして誰とも優しく振る舞い仲良くしようとする姿は、まるで無垢な子供のようだ。
無垢ゆえに危険人物というレッテルは意味を成さず、トトロは公平に誰であろうと助けようとする。
複数人の人間を危めたキョンも怖れずに(具体的な解決はできてないが)手助けした。
ついさっき、ギュオーと自分から接触しようとしたのも、手を差し延べて仲良くなりたかっただけかもしれない。
しかし、その優しさが必ずしも良い方向に傾くとは限らず、今こうしてギュオーに追われているのも、悪い結果の一つと言える。

797war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:17:52 ID:YrRABrO.
相手が何者だろうと公平に優しく、非暴力主義なのは素晴らしいことではあるが、それは同時に危うさを秘めている。
誰しもがその優しさに応えるとは限らず、呼吸と人殺しが同義の人物にはまず通用しない。
殺人を厭わない人物が多くいるこの殺し合いでは、強い優しさは己の身を滅ぼしかねない両刃の剣でもあるのだ。
しかし、自身の危険を省みず怖れない姿勢は、一種の献身さを感じ取れる。
ゆえに、ただの他者に甘いだけの偽善者とは言い切れない。

(『−−これは考え過ぎでしょうか?
 でも、この考えが全て当て嵌まるなら、Mr.troIIは素晴らしい動物なのでしょう。
 ただし、この殺し合いの過酷な環境では長生きできないタイプでしょう』)

それが、ケリュケイオンのトトロの行動に関する考察と、人物像の評価である。


ケリュケイオンが思考している内に、ギュオーもまた川を越えて追いかけてきた。

『目標、再接近!』
「待てぃ! 黙って私に殺されるがいい!!」


ギュオーに追われながら、尚も東へ向かうケモノたち。

(『東側にも殺し合いに乗ってない者や、逆に殺し合いに乗った人物もいるでしょう。
そうなった場合は、臨機応変に対応するしかありませんが、人の言葉を喋れないMr.troIIだけでは心もとないでしょう。
私が全力でカバーしなければならないようです』)

東側へ向かうほど、温泉から離れていく。
これではしばらく仲間と合流するのは無理だろう。
きっと仲間たちは帰りが遅いトトロたちを心配する。
それでも−−

(『−−いつかは、Mr.trollたちをMs.高町たちと無事に合流させるために力を尽くします』)

そのように、ケリュケイオンは思考回路に書き込む・・・・・・人間の言葉で置き換えるならば゛心に誓った゛のだった。

798war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:18:30 ID:YrRABrO.
−−デバイスが思考をしている裏で、トトロは悲しそうな表情を浮かべている。
その表情を知るのは、側にいるフリードリヒとピクシーのみ。
二者は悲しむトトロを労うように鳴く。

「キュックル〜」
「キュイ・・・・・・」

トトロが悲しんでいるのは
追跡者に追われる恐怖からか?
好意をギュオーに裏切られたことか?
蛮獣の如く、コミュニケーションの余地も無く襲いかかったギュオーへの哀れみか?
仲良くしたいのに、思い通りにいかなかったからか?
その表情の正しい意味を知るのは、本人とケモノたちくらいだろう。

誰でもわかるのは、夜明けと争いの終焉はまだ先だということ、のみ・・・・・・




−−−−−−−−−−−

799war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:20:26 ID:YrRABrO.

〜 お ま け 〜



(『しかし、リインフォースからの情報では、ギュオーの胸が大きいとはありませんでしたが・・・・・・』)

豊乳になったギュオー本人は獲物を狩るのに集中力を割いているため、気づいていない。
着ている人間の体型にがっちりフィットする、つまりは胸が弾まないほど圧迫するプラグスーツを着ているのも、ギュオーが気づけない要因の一つである。
だが、ケリュケイオンは本人よりも早く、胸部の異変に気づいていた模様。
ケモノたちは・・・・・・わからない、そもそも興味がないかもしれない。

(『とにかく、なるべく情報を的確にするために、ギュオーが゛豊乳゛の持ち主であると加える必要があるでしょう。
 殺し合いに乗っていない人物に出会い次第、伝えなくてはなりません』)

゛ギュオーが豊乳゛であることを伝えることは、決して悪気や茶目っ気があるわけではない。
ケリュケイオンが、あくまで情報を正確に伝えるためである。
だがそれは、ギュオーがトトロを逃がすと、ケリュケイオンによって゛ギュオーが豊乳=巨乳゛という情報が広まるのである。

また、ギュオーも、いずれは自分の胸が女性のように大きくなっていることを、たぶん、知る。
ギュオーに善意や友愛の心はなくとも、羞恥心ぐらいはあるだろう。
ギュオーは自分の大きくなった胸を見てなんと思うことか・・・・・・
そして、デバイスによってその事実が拡散されようとしている・・・・・・

どうなるギュオー!?


こうして獣神将リヒャルト・ギュオーは、某妖怪いわく゛ボインちゃん゛の仲間入りを見事に果たしたのだった。

ギャフン。

800war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:22:20 ID:YrRABrO.
【G-4 森(川周辺)/一日目・夜】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(損壊)、ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1、自然の破壊に深い悲しみ
2、誰にも傷ついてほしくない
3、?????????????????

【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※東へ向かっています。
ケリュケイオンの読みでは、ギュオーを仲間から引き離すために東側へ誘導していると思っています。
本当にそうかは、次の書き手さんにお任せします。
※ギュオーの巨乳化にケリュケイオンは気づいています。トトロたちは不明です。

801war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:23:19 ID:YrRABrO.

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身軽い打撲、左肩負傷、頭部にダメージ(小)、ダメージ(大)、疲労(大)、巨乳
【持ち物】支給品一式×4(一つ水損失)、参加者詳細名簿、首輪(草壁メイ)、首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリヲン、毒入りカプセル×4@現実
     博物館のパンフ、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー
     詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、日向ママDNAスナック×11@ケロロ軍曹
     ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、E:ケロロ小隊の光線銃(16/20)@ケロロ軍曹
【思考】
0、トトロを殺し手袋からキョンの行方を聞き出す。
 キョンの行方を知らなくとも、自分の情報の漏洩を防ぐために殺す。
1、優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2、キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3、自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4、首輪を解除できる参加者を探す。
5、ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6、タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
7、疲労とダメージのせいで違和感を感じるが、今は耐える。(巨乳化に気づいていない)

【備考】
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分を破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の「加持リョウジ」に関するページは破り取られていてありません。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています
※一度ギュオーをLCL化させかけた影響で首輪に変化があるかもしれません。
※日向ママDNAスナックを食べて巨乳化しました。本人は気づいてません。

802war war! stop it ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:24:32 ID:YrRABrO.


※F-4のどこかに、クロエ変身用黒い布、濡れた支給品一式、スイカ×5(いくつか割れてる)、円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜が放置されています。



【ケロロ小隊の光線銃@ケロロ軍曹】
ケロロ小隊が劇中でよく使う光線銃。
光線(ビーム)を放って攻撃できる。最大発射数は20。
銃口が丸いのを除けば、デザインが『機動戦士ガンダム』のビームライフルにそっくり。

調べてもこの武器の正式名称がわからないので、この名前で載せました。

803 ◆igHRJuEN0s:2010/02/23(火) 15:26:35 ID:YrRABrO.
以上で投下を終了いたします。
矛盾や誤字がある場合はご指摘願います。


タイトル元ネタは『超生命体トランスフォーマー ビーストウォーズ』のOPテーマ曲より。

804もふもふーな名無しさん:2010/02/23(火) 17:41:34 ID:4SjSwl7w
仮投下乙です。
単純な疑問なのですがケリュケイオンは神社での戦いやギュオーの事を知っていたでしょうか?
ケリュケイオンはマッハキャリバーやリインⅡとデータのやり取りを行っていなかった気がするのですが……

805もふもふーな名無しさん:2010/02/23(火) 17:51:55 ID:4SjSwl7w
あとこれは指摘では無いのですが日向ママDNAスナックを食べた効果が胸に脂肪が付くだけではもったいない気がします。
大量に食べた効果でギュオーが日向ママに変身してそこでトトロ達と鉢合わせしたり
敵対するのは同じものの「謎の女性に襲われた」と誤解フラグを作る手もあるかと思います。
せめて声変わりぐらいはしてもいいかと思いました。

806もふもふーな名無しさん:2010/02/25(木) 01:31:24 ID:ezHPqTSk
投下されてたのに気付けなかった…遅まきながら投下乙です!

修正中という事なので感想は後ほど。
だけど一つだけ言いたい、ボイン閣下www

それと指摘というほどじゃないですけど
>その代わり、トトロ自身は喋れないが、人の言葉を理解できる程度に知能を強化されている。
トトロって人の言葉を理解できる程度の知能は元々あったような…。

807 ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:43:00 ID:YrRABrO.
お待たせしました。
かなり微妙な時刻ですが、修正版をこの仮投下スレに投下いたします。

808war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:46:22 ID:YrRABrO.
森の中を前進していく、ふくよかな毛皮に包まれた巨躯なケモノ・トトロと、妖精型モンスター・ピクシーに小さな竜のフリードリヒ、宝石の姿をしたデバイス・ケリュケイオンを含めたケモノたち一行。
危険人物だったキョンを、トトロの意思によっていずこへ逃がした後、高町なのはたちがいる温泉へ戻るハズであった・・・・・・
だが、彼らは真っ直ぐ温泉へ向かっているわけではないようだ。

『Mr,troll、どうしたのですか?
 温泉はそちらではありませんよ?』

温泉へ戻るコースから外れていることに関してケリュケイオンは持ち主に忠告を述べる。
しかし、持ち主であるトトロは「ヴォウ」と短い返事だけをして、前進を続ける。
人の言葉ではないトトロの返事の内容はさっぱりだが、前進を続けている様子からして、忠告は聞き入れてもらってないようだとケリュケイオンは理解した。

『帰還が遅いとMs,高町たちが心配します。
 あなたが彼女らに心配をかけたくないのでしたら、寄り道はせずに早めの帰還を推奨します』

今度は先の言葉に仲間の事情などを付け加えて発言するが、これも聞き入れては貰えず、獣たちは前進を続ける。
温泉のある西ではなく、北へ、北へと前進していく。

ケリュケイオンもだんだん、獣たちの意図に気づき始める。
トトロは気まぐれで北へ向かうのではなく、足跡を辿ってどこかへ行こうとしている。
その根拠に、ケモノたちはなんとなく進んでいるわけではなく、一点を目指して前進している。
前進した先にあるモノをケリュケイオンは、少なくともまだ、捉えていない。
しかし、獣は人や機械では感じとれない臭いや異音・大地の微妙な揺れもわかるものだ。
時にその探索能力は、精密機械を越える。
そしてケモノたちは、ケリュケイオンにとって索敵外の先にある何かを感じ取り、彼はそこを目指して突き進んでいるように見える。
向かう先に何かがあるのは確かだろう。


先にあるのが死体ならば、トトロに温泉まで運んでもらい、ゲーム脱出のために不可欠と思われる、首輪を解除するための分析に役立ててもらおう。
支給品があるなら、拾って役立てる。
神殿のような隠れた施設があるなら、よく調べた上で温泉の仲間たちに報告などをする。

809war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:47:45 ID:YrRABrO.
そして、殺し合いに乗っていない参加者と合流できたのなら僥倖である。
参加者自身の安全の確保でき、実力や技術があるならば脱出のための協力を頼みこめる。
だが、殺し合いに乗った危険人物がいるケースも考えうる。
もしそうならば、接触は避けるべきであり、斥候のように温泉にいる仲間に注意を呼びかけなくてはならない。
また、キョン(及びスバル)を拾ったのもこの辺りである。
当事者と言えるレイジングハート・リインフォースと情報を交換できないほど、状況が急に急を重ねたため、詳しい事情はよくわかっていない。
キョンがスバルから逃げていたとも考えられるが、早々安易に決めつけられるものではない。
二人とも危険人物に襲われ、逃げてきた可能性もあるのだ。
そんな危険人物との接触には断然、注意を払うべきだろう。


・・・・・・と、ケリュケイオンは思考を働かせつつ、いつ何が起きても良いように警戒レベルを最大限に引き上げる。


やがてケリュケイオンも、索敵範囲内に一人の人物を捉えた。
現在地はG-4を越えたばかりのF-4、深い森の中においてトトロたちは参加者を発見する。
しかし、その者はケリュケイオンが求めていた人物ではなかった。

赤いプロテクトスーツのようなものを纏うその怪人は−−



−−−−−−−−−−−

810war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:48:50 ID:YrRABrO.



−−リヒャルト・ギュオー。
覇道を歩むべく、ガイバーユニットを求め、邁進する者。
だが、その道程は本人が想像しているよりも遥かに険しいようだ。

「どこだ・・・・・・どこへ行ったんだあの小僧は!」

ガイバーユニットを持ったキョンが神社から西側へ出ていったのを知っているため、彼を追うために禁止エリアになったF-5から西のF-4の森へと移った。
しかし、西側へ出たはよかったがキョンの詳しい行き先は掴めないでいる。
足跡でも見つければ、いずれキョンの居所へ辿りつけるだろうが、その足跡すら見つかってない。
ちなみに禁止エリア脱出の時は、下を見ている余裕などなかったため、足跡は見ていない。
今はどうにかキョンの足どりを掴むために森をさ迷っている。
ギュオーに降り懸かる障害はそれだけではない。

「くそぅ、動くのも億劫だぞ。
 先の戦いで消耗し過ぎたか?」

神社のリングマッチではウォーズマンに勝利し、結果的に死に至らしめた。
だが、その勝利は易々と手に入れたものにあらず。
ギュオーは戦闘の中で多大なダメージと疲労を被り、損耗を強いられることになる。
それは常人の何倍もの強化が施された肉体が軋みを上げ、ゼェゼェと息は上がるほどだ。
禁止エリアになる神社からの脱出の際には猛ダッシュを見せたが、それは首輪が発動しかけるギリギリの状況下によって発揮された興奮状態による火事場の馬鹿力であり、あくまで一時的なものである。
興奮が冷めた今となっては、忘れていた傷の痛みと疲労を身体に思い出させ、おまけに首輪の発動寸前において味わった気味の悪い出来事・それによって生まれた焦りが加算され、ズッシリとギュオーにのしかかっている。

「おのれぇ〜、あのポンコツのガラクタめ」

思うように進まない足、怪我の痛みにギュオーは苛立ちを覚え、その原因を作ったウォーズマンに対して侮蔑の言葉を叩き付ける。

「待っていろよ!
 おまえが守ろうとしたガキを墓場に、サイボーグの小娘はスクラップ置場に送ってやろう!
 そしてユニットを手に入れ、私は神への道を踏み出すのだ! フハハハハハハ!!」

811war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:49:56 ID:YrRABrO.
続けてギュオーの口から吐き出されたのは、なんともヒールチックなスローガン。
少年少女を殺し、ガイバーユニットを手に入れ、自分は勝者になると声高々に宣言するのだった。
これは苛立ちを戦意に変えるためのパフォーマンスでもある。

「・・・・・・ぬぅ」

だが、いかに戦意を高ぶらせようとも、それ以上に消耗は大きい。
今もまた、足がグラついた所だ。

「しばし休むべきか・・・・・・いいや、ダメだ」

獣神将である以上、怪我は時間が経てば再生し、休憩をとれば疲労も取り除かれるだろう。
されど、今のギュオーに休む暇は無い。
時間の都合から考えてキョンが『足の早い者に運ばれない限り』、そう遠くへは行ってないだろう。
しかし、休んでる間に目的のガイバーユニットを持ったキョンはどんどん逃げていく。
その上でユニットが他者に奪われたり、合流されたりすると事態がややこしくなってしまう。
ギュオーが神になるには、誰よりもいち早く手に入れる必要があるのだ。
せっかく目前まで迫ったチャンスを手放す気はギュオーにない。
今こそが、多少の無理は承知の上で走り続ければならぬ踏ん張り時なのである。


「しかし・・・・・・」

そこで、ギュオーの脳裏に懸念材料が浮かぶ。
もしも他の参加者と出会い、戦闘になってしまったら?
戦闘の心得が無いキョンや満身創痍のスバルなら、疲弊した今でも殺せる自信が己にはある。
しかし、ウォーズマンクラスの実力者と出会い、それでまかり間違えれば命が危うい。
詳細参加者名簿の内容をかなり把握しているため、参加者ごとの対処法はそれなりに心得ているが、その対処法を実行できる余力が少ない。

「・・・・・・何か良いものはないか?」

そこでギュオーは、支給品の中に傷や体力をいち早く回復できるものは無いかとディパックを漁り始める。
回復に纏わる支給品は元は持ち合わせてなかったが、ウォーズマンから奪った支給品の中にはあるかもしれないと期待してのことである。


ディパックを探った結果、加持リョウジの詳細の書かれた紙切れ・どこかで見た黒い布・謎の宝石・玩具の銃・スナック菓子、などを見つけた。
上から順に支給品を分析する。

812war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:50:42 ID:YrRABrO.
加持リョウジの詳細が書かれた紙切れは、ギュオーが加持に関する情報を隠蔽するために捨てたものを、ウォーズマンが拾ったものだろう。
回復には役立ないが、紙切れ一つで嘘がバレることに繋がることはわかったので、今後から証拠の隠滅は徹底的にやろうと肝に銘じ、ディパックにしまう。

黒い布は、ウォーズマンが『真っ黒クロエ』に変身するために使ってたものだ。
ならば、自分もクロエの姿に化けて他の参加者を欺けるのではないかと、自分の身体に布を巻き付けたが、変身はできなかった。
おそらく、ウォーズマン以外では変身できない代物なのだろう。
変身できないならただの布切れなので、捨てた。

次は青い宝石・ジュエルシード。
説明書が無くなってるため、ギュオーはこの宝石の名前すらわからない。持てばエネルギーらしきものを感じ取れるが、肝心の使用用途がさっぱりだ。
エネルギーの塊ということだけはわかるので、そのうち何かに使えるかもしれないと思い、いちおうは所持しておくことにする。

次は玩具の銃・・・・・・否、デザインこそオモチャのようだが、決してオモチャでは無い。
『ケロロ小隊の光線銃』という立派な武器である。
ケロロ小隊と名前がついている所から、ケロロ軍曹やタママ二等兵と繋がりがありそうだが、ギュオーに取ってはそんなことはどうでも良い。
トリガーを引けば丸い銃口から実弾の代わりにビームが飛び出す。
格闘主体のウォーズマンにはそぐわない武器だからか、それともデザインから本当に玩具だと思い込んでしまったのか、どっちにしろ、未使用の状態でギュオーの手に渡ることになった。
「これは使えるな」とギュオーは評する。
この光線銃が重力指弾程度の代わりにはなりそうであり、体力の節約はできる。
体力に自信がない今はこの銃に頼ることにする。


最後にスナック菓子。

「これは奴に支給された食料のようだな」

813war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:51:39 ID:YrRABrO.
一見、何の変哲も無い菓子だが、正体は『日向ママDNAスナック』。
食べたものを巨乳にしてしまう、つぶれアンパンの人には喉から手が出るほど欲しい一品である(理由はお察しください)。
だが、このスナックにはまだとてつもない秘密があるが−−これはまだ伏せておこう。
ギュオーはこれをただの食料と思い込んでいる。
説明書はディパックの中にまだ入っているが、ギュオーは主催から支給された食料と思い込んでいる故に確認しない。
そして、ギュオーはその中から一袋を開ける。

「こんなものでも、食せば少しは足しにはなるだろう」

栄養摂取−−食べることで、体力の回復に繋げる。
今は僅かでも体力にプラスになることをしたかった。

そしてギュオーは、そのスナックの真の価値と恐ろしさを理解せぬまま口に入れた。


パリパリサクサク・・・・・・


「味はまあまあだな、少なくとも喰えないレベルではない。
 だが物足りん。もう一袋、食してみるか」

食べた物への感想を漏らしつつ、ギュオーはスナック菓子の袋をもう一つ開ける。
その一方でギュオーの二つの胸に変化が現れ−−



だがしかし、胸の異変に気づくより早く、ギュオーは何者かの気配を感じ、スナックを口に詰める作業を中断する。
あまりに突然だったため、ギュオーの額に冷や汗が流れる。

現状の自分でもキョンやスバル程度ならまだ良いが、リナ・インバースのような強者と鉢合わせになるのはマズイ−−とギュオーは危機感を抱く。
この目で見るまで気配の正体はわからないが、ギュオーの卓越した感覚と戦闘経験からして、確実にわかることは一つ。

(・・・・・・いる!
 それも一人ではなく、二人もしくは三人以上!)

814war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:55:33 ID:YrRABrO.
自分の近くにいる参加者は複数。
これで囲まれたり、正体がわからぬまま後手に回るのは面白くない。
ギュオーは素早く菓子袋をディパックにしまい、光線銃を構えながら周囲に気を配るなどの索敵行動に移る。
あくまで冷静に対処すべし、と心中で自分に言い聞かせ、神経を研ぎ澄ます。


ガサリッと草村が揺れる音と共に、標的は向こうから現れた。

「コイツらは・・・・・・!」

ギュオーの前に現れたのは巨大な毛むくじゃらの生き物、両端には有翼ゾアノイドのような女。

ギュオーは一定の距離を保って、それらの正体を探りはじめる。
女は首輪を付けてないので参加者ではなく、支給品か何かだろう。こちらはとりあえず後回し。
問題なのは巨大な生物の方だ。
特徴は、熊のような巨体・肉食獣を思わせる鋭い爪・大きな瞳に人を飲み込めそうな大きな口・ふくよかな毛皮・・
詳細参加者名簿の中に、それらの特徴に一致する参加者がいたことを、ギュオーは思い出す。


−−トトロ。
ギュオーの記憶が正しければ、見ようによっては恐ろしげな姿をしているが、心優しく無垢で温厚な生物。
かなりの巨体に反して俊敏で身軽。
通常は一定の年齢以下の子供にしか見えないようだが、この殺し合いにおいては大人も見れるように制限されたらしい。
自身は喋れないが、人の言葉をある程度なら理解できる高い知能を持ち合わせている。
他にも植物の成長を促す魔法の如き力があったりするが、こちらも制限を受けているらしい。
以上の情報を持って、ギュオーはトトロについて思案する。

(色々厄介な能力を持っていたらしいが、そのほとんどが封じられたようだな。
 こいつ一匹だけなら取るにたらない相手だ)

カタログスペック上では、このトトロと戦っても勝てるとギュオーは見込む。
だが、同時に疑念も過ぎる。

(そう言えば、神社のリングでレフェリーをしていたのも『トトロ』だったな。
 アレは主催者からの使者でもあった、つまり同種であるこの『トトロ』も主催者の差し金とも考えられるか?)

トトロと主催者とは、なんらかの関連性があるかもしれない。
そう睨んだギュオーはトトロに悟られないように、心の中で邪悪な笑みを浮かべる。

815war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:57:43 ID:YrRABrO.

(仮に主催者の手先だとしても、それでも都合が良い。
 どうせ喋れないのなら情報の取りようが無い。
 尋問もでき無いだろうが、死体にすれば色々物語ってくれそうだ。
 また、主催者との関わりは無くとも、奴の支給品が奪えるだけでも儲けものだ)

トトロを殺害する意思と打算が強まる。
それと反対にトトロは、敵意も殺意も警戒心も持たず、三日月のような口を作りながらこちらに近づいてくる。
トトロはギュオーを敵と見なしてないのだ。
だが、ギュオーに相手からの害意のありなしは関係ない。
あるのは、殺すメリットと殺さぬメリットのみ。
喋れぬトトロに生かすメリットは無いので、殺すメリットをギュオーは選ぶ。

(゛温厚で心優しい゛か・・・・・・私にとっては調度いいカモだな。
 知能を高くても所詮は疑うことも知らぬ野生動物だ。
 さて、そろそろ・・・・・・)

考えがまとまった所で、いざギュオーが光線銃でトトロに向け撃とうとした瞬間。

『Mr.troII、迂闊です! その人が危険人物である可能性も−−』



ビシューン バスッ



女性の警告が聞こえたのと同時に丸い銃口から一筋の閃光が放たれる。



しかし、それよりも早くトトロの背後に隠れていたフリードリヒが飛び出して、ギュオーの手に噛み付き、照準を逸らした。
光線はトトロの頬を掠めて、体毛を焦がす程度ですんだ。

「離せ、このぉ!」
「キュゥゥゥ!?」

手を噛まれたギュオーは、素手でフリードリヒを振り払う。
フリードリヒは、運よく弾かれた先にいたトトロがキャッチしたため、大きなダメージを受けることはなかった。
しかし、トトロに直に触れているフリードリヒとケリュケイオンには、トトロの毛が逆立っているとわかる。
流石のトトロも、撃たれかけて肝を冷やしたということか。

(小癪な! まさか陰にもう一匹トカゲが隠れていたとは!
 そして、抜かった・・・・・・奴自身は喋れずとも付属品が喋れる可能性を忘れていた・・・・・・
 声を発したあの宝石は、スバル・ナカジマが持っていた杖と同種の物か?)

失敗とそれによる苛立ちを抱えながらも、相手を分析するギュオー。
トトロの側にいる羽付きの女−ピクシーとトカゲ−フリードリヒはギャアギャアと威嚇している。

816war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:59:00 ID:YrRABrO.
トトロ自身は他の二匹ほど、ギュオーへの敵意を向けてはいないが、先程の友好的な雰囲気も感じとれない。
その中で、目の前の人物・ギュオーが危険だと知ったケリュケイオンは提案を出す。

『相手は話しあいの余地もなく撃ってきました!
 彼は間違いなく危険です、逃げてください!』

ケリュケイオンのその言葉を聞くと、トトロたちは逃走を開始した。
トトロは踵を返し、二足の足で素早く逃げる。
ピクシーとフリードリヒは羽根を動かして、トトロの背中を追うようについていく。

「逃がすか!」

ギュオーは逃げるケモノたちに光線を数発撃ち込むが、トトロたちの素早さに加えて木々に光線を阻まれ、当たることはなかった。


ギュオーはケモノたちを追いかけながら思考する。

(私が殺し合いに乗っていることを言い触らされるのを黙って見過ごしたくは無い。
 しかし、ユニットも捜さねばならん・・・・・・どうする?)

トトロを殺すか?
ガイバーユニットを手に入れるのが先か?
悩んでいる間に一つの事象が、ギュオーの脳裏を過ぎる。
自分がウォーズマンと戦っている間に、キョン・スバルもしくは両方と出会っていたとしたら?

(−−有り得る。
 小僧と小娘がこの辺りへ逃げ込んだのは確かだし、出会っていてもおかしくはない。
 もしそうならば、ケモノを殺して喋る宝石を奪い、居場所を聞き出す必要がある。
 ちょうど小僧がどこへ行ったかわからずに困っていたところだしな。
 一石二鳥か一石一鳥の違いだが、それに賭けてみるか)

改めてトトロを殺すことに決めたギュオーは走る加速度をあげる。
元々、人間どころかゾアノイドの何倍もパワーやスピードを強化された獣化兵。
その足の速さは人間や動物とは比較にならず、トトロたちと離された距離がぐんぐんと縮まっていく。


そのさなかでギュオーは違和感を感じていた。

(肩が重い、胸に妙な苦しさを感じる、おまけに低い声が出ずらい・・・・・・
 私が思っていた以上に怪我と疲労は大きいのか、死んでも足を引っ張るウォーズマンめ!)

身体の違和感の正体をウォーズマン戦での消耗が原因だと決めつけるギュオー。
違和感は拭えないが、ギュオーはそれでも構わずに走り続ける。

817war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 00:59:31 ID:YrRABrO.
(ええい、些細な事などいちいち気にしてられん! 今は耐えるべきなのだ!
 そして、どんな相手でも全力で殺すと決めた以上、このギュオーは容赦せん!)

些細な違和感は無視する方針を固め、ただただ獲物を正面に見つめ、全力で追いかける。
例え、さっきまで求めていたガイバーの足跡がすぐそこにあることも知らないまま−−今は目の前の獲物に集中する。

「逃がさんよぉ!」

邪悪なスマイルと共に、トトロとの相対距離が大分埋まってきた所で、ギュオーは光線銃のトリガーを引いた・・・・・・


−−−−−−−−−−−

818war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:01:00 ID:YrRABrO.


『Mr.troII・・・・・・あなたは自分で何をやっていたか理解しているのですか?』

ギュオーから逃げる獣の一行。
そのグループの中心であるトトロは森を走りつつ、ケリュケイオンからの嗜めを受けていた。

『フリードリヒがいち早く行動してくれたおかげで最悪の結果−−あなたの死亡は免れました。
 ですが、その結果を招きかけたのは、他ならぬあなたなのです』

トトロの行動は人を見かけると隠れたり、様子を伺ったり、相手を確かめることもしないまま、自分から踊り出て笑顔を振る舞った。
これでは殺戮者相手には、殺してくれと頼んだようなものだ。
トトロ自身も攻撃されてから、ようやく相手が危ないと気がついたのか、逃げる事を選んだらしい。
だが、ケリュケイオンは持ち主の不可解すぎる行動に、人間で言うところの『呆れた』『ご立腹な』様子である。

『今までの行動よりMr.troIIがとても優しい気性なのはわかりました。
 Ms.高町たちと協調して瀕死状態のMs.ナカジマを助け、Mr.キョンのような危険人物にすら身を案じる方ですしね。
 ・・・・・・ですが、今回に至っては危機感と慎重さに欠き過ぎています。
 その結果が、あの怪人物に追われているこの状況です』

あくまで持ち主の行動を分析しつつ、トトロへ注意を促すケリュケイオン。
言葉を喋れない動物なので、意味を理解しているかは謎だが、とにかく持ち主のパートナーであるデバイスとして、必要事項はどうしても言わなくてはならないと思考回路が判断したのだ。
ところがケリュケイオンの注意に対し、トトロの反応は無言。
理解していての無言か、その逆か、最初から聞き耳を立ててないのか、イマイチわからない。
ちなみにピクシーはケリュケイオンに向けて「キュイキュイ!」と騒がしく鳴き声をあげている・・・・・・主人が蔑まされたと怒っているのか?
とりあえず、ケリュケイオンは反応が無い持ち主に続けて忠告する。

『次からはもっとよく考えて行動してください。
 でなければ−−』

−−自分で自分の身を滅ぼすことになります、と言葉を紡ごうとする寸前で、それを打ち切る。
その理由は、内蔵された索敵機能が異様な動きを捉え、即座にそれを報告するためである。

819war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:03:55 ID:YrRABrO.
『−−目標急接近!!』
「ヴォウ」
「ギャア!」
「?」

テバイスの報告から、ケモノたちが首を振り向かせると、そこにいたのは怪人・ギュオー。
それも、先程までそれなりの距離を稼いでいたハズが、いつまにか10mほどまで距離を詰められていた。
そして、銃から四度目の光線が放たれる。

『Mr.troII、右へ回避を!』

ケリュケイオンからの指示通り、トトロは近距離からの射撃を右に避けることで光線の直撃を回避する。
完全な回避は叶わずに、ディパックに当たって大穴を開けるが、それが幸をもたらした。
ディパックが支給品を溜め込む機能を失い、欠損部分から中身が吐き出される。
そして−−










−−濡れた紙類やスイカを含んだ大量の水が、鉄砲水のようにギュオーへ襲いかかる!!

「どわあああああああ!?」

水の勢いは強く、後ろへと押し流されるギュオー。
さらに追い撃ちをかけるように濡れた名簿やスイカが体に当たり、極めつけは円盤石がギュオーの顔面にクリーンヒットする。

ガツンッ
「うわらばッ」

水の勢いと、頭に飛んできた円盤石に負けたギュオーは仰向けに倒れる。


『これは・・・・・・温泉の水?』

ディパックから飛び出した水はオレンジ色、温泉のお湯だ。
おそらく以前に温泉に入った時に、ディパックに入りこんだものだと、ケリュケイオンは理解する。
何はともあれ、ディパックが水を吐き出しきった頃にはギュオーはだいぶ後方へと流されていた。
しかし、すぐに起き上がってケモノたちを追跡してくるだろう。
油断はできない。

『チャンスです! 今の内に退却すべきです!』
「ヴォウ・・・・・・」

トトロはディパックから水と同時に出ていった三つ目の円盤石を見つめる。
だが、当の円盤石はギュオーのすぐ側に落ちている。
当然、取りに行くのは危険だ。
それでもトトロは、その円盤石を取り戻そうと一歩、足を動かすが・・

『戻っては駄目です!
 諦めてください!』
「ヴォ・・・・・・」
『あなたはもちろん、フリードリヒたちまで巻き込む気ですか?』
「・・・・・・」

ケリュケイオンに注意され一度は静止を振り切れうとするが、仲間たちまで危険に曝せないとわかったのだろう。
トトロは淋しそうな表情を浮かべつつも、南へと向き直る。
デバイスに促されてトトロとケモノたちは逃走を再開する。
F-4からG-4、北から南へ、南へと駆けていく。

820war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:06:04 ID:YrRABrO.
ずぶ濡れのギュオーがムクリと起き上がり、沸々と怒りを覚える。

「この私に舐めた真似を・・・・・・!
 絶対に殺して、あの宝石から小僧の居場所を吐かせるぞ!!」

距離を大きく離されたが、見失うほど離れてはいない。
まずは自分の顔に一撃を食らわした円盤石を腹いせに踏み付ける。
普通なら円盤石が割れてもおかしくないギュオーの力だったが、水でぬかるんでいるため、やわい地面にめり込む程度で済んだ。

そして、ギュオーは追跡を再開する。
後に残ったのは、ぐちゃぐちゃに濡れた紙類・割れたスイカがいくつか・円盤石、そして水溜まりだけである。


−−−−−−−−−−−


追撃戦の過程で、ケモノたちは森の深くにある滝に連なる川の前までさしかかる。

『こうなっては仕方ありません。
 早く温泉へ向かい、Ms.高町たちと合流しましょう』

トトロではあの怪人には敵わない(そもそも戦う意思が無い)。
このままでは命が危ないと判断したケリュケイオンは、温泉にいる仲間たちとの合流を提案する。
またしてもトトロからの返事は無いが、理解してくれるのならそれで良いとケリュケイオンは思っていた。


トトロはジャンプ、他の二匹は飛行して、川を越える。
そして針路を東へ、東へと・・・・・・

『待ってください、そちらは反対の方角です!』

温泉が西側にあるのに、東側へと走り込むトトロにケリュケイオンは警告を出す。
それでもトトロは警告を無視するように、ひたすら東へ走る。

(『どういうことなのでしょう・・・・・・?』)

単純に考えれば彼らが東へ行けば行くほど、仲間のいる温泉から遠退き、自分の都合が悪くなる。
それがわかってると仮定すると、デメリットしか背負わないのに東へ向かう意味をケリュケイオンが理解するのは、しばらく経ってからである。


(『もしや、Mr.troIIは仲間のために、わざと東へと怪人を誘導している?』)

821war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:06:56 ID:YrRABrO.
ケリュケイオンが読んだトトロの意図は以下の通りだ。
トトロが温泉へ到着して仲間と合流できたと仮定する。
その場合は怪人も確実に追跡してくるだろう。
その際に、温泉にいるのは芯まで疲弊したエース・死に体から復活したばかりの魔導士・戦いには不向きな老人・特別な能力は感じられない異星の軍人・・・・・・
総合ポテンシャルで考えるなら、真っ当に戦えたものでは無い。
ギュオーを撃退できたとしても、死人が出かねない被害を覚悟しなければならない。
だから、ギュオーを温泉から引き離すために東へ向かうのだ。
トトロがそこまで深く考えてないにしろ、東へ誘導することで時間稼ぎはできる。
時間を稼いだ分だけ、温泉の仲間たちは失った体力・魔力を取り戻せる。
ついでに南方向へライガーと共に去ったキョンから注意を逸らすこともあり、キョンの安全はもちろん、ギュオーにガイバーユニットが渡ることを避けられる。
だが、それは自分が怪人を撒くまで追われ続けなければいけない。
命掛けのリスクを背負っても、トトロはその道を選んでいるというのか?

(『−−自分から囮となるつもりですか、下手をすれば命を失うというのに、それでも構わないのでしょうか?』)

思い返せば、トトロはただ争いを好まないだけでなく、自分から率先して人を助け、争いや暴力を良しとはせず、他人が傷つけ合うことを嫌う。
そして誰とも優しく振る舞い仲良くしようとする姿は、まるで無垢な子供のようだ。
無垢ゆえに危険人物というレッテルは意味を成さず、トトロは公平に誰であろうと助けようとする。
複数人の人間を危めたキョンも怖れずに(具体的な解決はできてないが)手助けした。
ついさっき、恐ろしげな怪人・ギュオーと自分から接触しようとしたのも、手を差し延べて仲良くなりたかっただけかもしれない。
されど、その優しさが必ずしも良い方向に傾くとは限らず、今こうして怪物に追われているのも、悪い結果の一つと言える。

822war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:07:43 ID:YrRABrO.
相手が何者だろうと公平に優しく、非暴力主義なのは素晴らしいことではあるが、それは同時に危うさを秘めている。
誰しもがその優しさに応えるとは限らず、呼吸と人殺しが同義の人物にはまず通用しない。
殺人を厭わない人物が多くいるこの殺し合いでは、強い優しさは己の身を滅ぼしかねない両刃の剣でもあるのだ。
しかし、自身の危険を省みず怖れない姿勢は、一種の献身さを感じ取れる。
ゆえに、ただの他者に甘いだけの偽善者とは言い切れない。

(『−−これは考え過ぎでしょうか?
 でも、この考えが全て当て嵌まるなら、Mr.troIIは素晴らしい動物なのでしょう。
 ただし、この殺し合いの過酷な環境では長生きできないタイプでもあります』)

それが、ケリュケイオンのトトロの行動に関する考察と、人物像(動物像?)の評価である。


ケリュケイオンが思考している内に、ギュオーもまた川を越えて追いかけてきた。

『目標、再接近!』
「待てぃ! 黙って私に殺されるがいい!!」


ギュオーに追われながら、尚も東へ向かうケモノたち。

(『東側にも殺し合いに乗ってない者や、逆に殺し合いに乗った人物もいるでしょう。
そうなった場合は、臨機応変に対応するしかありませんが、人の言葉を喋れないMr.troIIだけでは心もとないですね。
私が全力でカバーしなければならないようです』)

東側へ向かうほど、温泉から離れていく。
これではしばらく仲間と合流するのは無理だろう。
きっと仲間たちは帰りが遅いトトロたちを心配する。
それでも−−

(『−−いつかは、Mr.trollたちをMs.高町たちと無事に合流させるために力を尽くします』)

そのように、ケリュケイオンは思考回路に書き込む・・・・・・人間の言葉で置き換えるならば゛心に誓った゛のだった。

823war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:08:40 ID:YrRABrO.

−−デバイスが思考をしている裏で、トトロは悲しそうな表情を浮かべている。
その表情を知るのは、側にいるフリードリヒとピクシーのみ。
二者は悲しむトトロを労うように鳴く。

「キュックル〜」
「キュイ・・・・・・」

トトロが悲しんでいるのは
追跡者に追われる恐怖からか?
好意をギュオーに裏切られたことか?
蛮獣の如く、コミュニケーションの余地も無く襲いかかったギュオーへの哀れみか?
仲良くしたいのに、思い通りにいかなかったからか?
その表情の正しい意味を知るのは、本人とケモノたちくらいだろう。

誰でもわかるのは、夜明けと争いの終焉はまだ先だということ、のみ・・・・・・

824war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:10:17 ID:YrRABrO.
【G-4 森(川周辺)/一日目・夜】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】腹部に小ダメージ
【持ち物】ディパック(損壊)、ピクシー(疲労・大)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜
     フリードリヒ(ダメージ・小)魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1、自然の破壊に深い悲しみ
2、誰にも傷ついてほしくない
3、?????????????????

【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※東へ向かっています。
ケリュケイオンの読みでは、怪人(ギュオー)を仲間から引き離すために東側へ誘導していると思っています。
トトロが本当にそう考えているかは、次の書き手さんにお任せします。

825war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:10:55 ID:YrRABrO.

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身軽い打撲、左肩負傷、頭部にダメージ(小)、ダメージ(大)、疲労(大)、巨乳、低い声が出づらい
【持ち物】支給品一式×4(一つ水損失)、参加者詳細名簿、首輪(草壁メイ)、首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリヲン、毒入りカプセル×4@現実
     博物館のパンフ、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー
     詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、日向ママDNAスナック×11@ケロロ軍曹
     ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、E:ケロロ小隊の光線銃(16/20)@ケロロ軍曹
【思考】
0、トトロを殺し宝石からキョンの行方を聞き出す。
 キョンの行方を知らなくとも、自分の情報の漏洩を防ぐためにトトロは殺す。
1、優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2、キョンを殺してガイバーを手に入れる。
3、自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4、首輪を解除できる参加者を探す。
5、ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6、タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
7、疲労とダメージのせいか身体に違和感を感じる・・・・・・しかし、今は耐える!

【備考】
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分を破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の「加持リョウジ」に関するページは破り取られていてありません。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています
※一度ギュオーをLCL化させかけた影響で首輪に変化があるかもしれません。

826war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:11:50 ID:YrRABrO.


※F-4のどこかに、クロエ変身用黒い布、濡れた支給品一式、スイカ×5(いくつか割れてる)、円盤石(1/3)+αセット@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜が放置されています。



【ケロロ小隊の光線銃@ケロロ軍曹】
ケロロ小隊が劇中でよく使う光線銃。
光線(ビーム)を放って攻撃できる。最大発射数は20。
銃口が丸いのを除けば、デザインが『機動戦士ガンダム』のビームライフルにそっくり。

調べてもこの武器の正式名称がわからないので、この名前で載せました。


−−−−−−−−−−−

827war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:14:21 ID:YrRABrO.

〜 お ま け 〜



(『あの危険人物・・・・・・怪人と言うべきでしょうか?
 とにかく、あのような怪人がいることを伝えなくてはいけませんね』)

ケモノたちは、名前のわからぬ怪人・ギュオーに現在進行形で襲われている。
ケリュケイオンは彼の者の特徴を、殺し合いに乗っていない参加者のために、より正確に伝えなければならない。

(『見た目は鬼のようにおどろおどろしいですが、胸部が大きく、声が女性に近いものに聞こえます。
 この怪物は女性なのでしょう』)

怪物を女性と判断するケリュケイオン。
この判断は半分正解で半分間違いと言える。
なぜなら、今のギュオーのDNAは゛とある女性゛にある程度まで書き換わっているのだから。


ここでギュオーの身体に何が起こっているかを解説しよう!
鍵となるのは、ギュオーはトトロと接触する直前まで食べていた゛日向ママのDNAスナック゛。
日向ママとは参加者の一人・日向冬樹の母親・日向秋のことである。
日向秋の特徴を簡潔に答えるなら、二児の母親とは思えぬナイスバディなスーパーウーマンと言っておこう。
以前に彼女のDNA入りスナックを食べたリインフォースは、日向ママの如く、格段に胸が大きくなった。
ドラマタの人には、このスナックの存在は感涙ものである。
某妖怪がビーストモードにトランスフォームするほどの、豊乳の持ち主を量産できるとお思いの方もいることでしょう。

と こ ろ が ギ ッ チ ョ ン

このスナックの本当の効果は胸が大きくなるのではなく、食べれば食べるほどDNAが゛日向ママ゛に書き換えられていくことである。
すなわち、リインの胸が大きくなったのは、彼女のDNAが日向ママに近づいた効果の過程なのだ。
胸が大きくなったのは、スナックの効果の鱗片に過ぎない。
食べ過ぎれば、身体がより日向ママに近いものへと変化していき、最終的には身体は日向ママそのものと化す。

828war war! stop it(修正版) ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:15:46 ID:YrRABrO.
ギュオーはこのスナックを一袋丸々たいらげている。
そして、確認できる効果は豊乳化と低い声が出づらい=女性のような高い声が出る。
DNAの日向ママ化は、リイン以上に進んでいるものと思われる。
これ以上、ギュオーがスナックを食べると、身体の日向ママ化が加速度的に進行する恐れがある。
・・・・・・すでに手遅れかもしれないが。

ギュオー本人はこの異変を、怪我と疲労のせいだと決めつけ、獲物を狩るのに集中するために、今はろくに確かめようとしない。
着ている人間の体型にがっちりフィット、つまり密着するプラグスーツを着ているのも、ギュオーが気づけない要因の一つである。
彼に善意や友愛の心はなくとも羞恥心はあるだろうし、いずれ彼が肉体の変化を知った時は何を思うだろうか・・・・・・

ケリュケイオンはそんな事情など知らない。
ただありのままに、外見などのわかりうる情報を受け止めるだけである。
そして、なるべく情報を的確に伝えるのだ。

(『怪人の特徴は、大柄・鬼のような顔・額に宝石のようなもの・赤いプロテクトスーツ・女声・豊乳・・・・・・おそらく女性。
 現状でわかることはこのぐらいでしょう。
 とにかく、殺し合いに乗っていない人物に出会い次第、このことを伝えなくては』)

決して、誤報ではない。
相手が女性かどうかはケリュケイオンの推測だが、それ以外はまごうことなき事実である。

最後に付け加えると、支給品の力で老いたスグルや若返った冬月は、放送とともに元の身体に戻った。
しかし、リインの胸は放送の時刻になっても、まったく戻ることはなかった。
リインと同じスナックを食べたギュオーは、何か特別な要因でもない限り、二度と同じ身体に戻ることはないだろう。


どうなるギュオー!?


こうして獣神将リヒャルト・ギュオーは、゛ボインちゃん゛の仲間入りを見事に果たしたのだった。

ギャフン。




※ギュオーは日向ママのDNAスナックを一袋食べました。
確認できる変化は巨乳化・低い声が出にくい=高い声が出るなど、いずれも本人は気づいてません。
まだ他にも肉体に変化があるかもしれません。
※ケリュケイオンは怪物(ギュオー)を、身体的特徴から女性だと推測しています。

829 ◆igHRJuEN0s:2010/02/26(金) 01:16:38 ID:YrRABrO.
以上で修正版の仮投下を終了いたします。

830ハジカレテ……ハジカレテ…… ◆MZbbkj1l7.:2010/06/22(火) 21:46:31 ID:DIROyZWk
さるったので、こちらに残りを投下します。どなたか代理投下お願いします。

831ハジカレテ……ハジカレテ…… ◆MZbbkj1l7.:2010/06/22(火) 21:47:14 ID:DIROyZWk

●●

巨獣が駆ける。
トトロが駆ける。
何かを目指して、駆け続ける。
ここで疑問なのだが、彼は何故こうも人助けをするのだろう?

親切だから?ノン。

森の妖精で、自然(人間含)を守りたいから?ノン。

なにか下心がある?ノン。

じゃあ、こういう仮説はどうだろう?



――――誰にも傷ついて欲しくない。




―――――――――食べるところが、無くなるから。



戯言ですよ。本気にしないでください。
彼の気持ちは、彼にしか分からないんですから。


【G-06 森林/一日目・夜中】

【トトロ@となりのトトロ】
【状態】首に小ダメージ、腹に大ダメージ、左手に中ダメージ、疲労(中)、背中にビームライフルの直撃ダメージ(小)
【持ち物】ディパック(損壊)、ピクシー(疲労困憊)@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜 、
     ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
1、自然の破壊に深い悲しみ
2、誰にも傷ついてほしくない
3、?????????????????


【備考】
※ケリュケイオンは古泉の手紙を読みました。
※ケリュケイオンは怪物(ギュオー)を、身体的特徴から女性だと推測しています。
※どの方角へ向かっているかは後の書き手さんにお任せします

832ハジカレテ……ハジカレテ…… ◆MZbbkj1l7.:2010/06/22(火) 21:48:01 ID:DIROyZWk





一方、ギュオーは気絶していた。


【G-07 採掘場/一日目・夜中】


【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】睡眠、全身軽い打撲、左肩負傷、頭部にダメージ&火傷(小)、ダメージ(大)、疲労(極限)、巨乳、低い声が出づらい
【持ち物】支給品一式×4(一つ水損失)、参加者詳細名簿、首輪(草壁メイ)、首輪(加持リョウジ)、
     E:ケロロ小隊の光線銃(9/20)@ケロロ軍曹 、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本、
     空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリヲン、毒入りカプセル×4@現実、
     博物館のパンフ、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、
     クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、
     日向ママDNAスナック×11@ケロロ軍曹、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、


【思考】
0、トトロを追いキョンとノーヴェを殺し、ガイバーになる。
1、優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2、自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
3、首輪を解除できる参加者を探す。
4、ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
5、タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
6、耐えられませんでしたにゃ……むにゃむにゃ……


【備考】
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」
  に関する記述部分を破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の「加持リョウジ」に関するページは破り取られていてありません。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています
※一度ギュオーをLCL化させかけた影響で首輪に変化があるかもしれません。
※F-4のどこかに、クロエ変身用黒い布、濡れた支給品一式、スイカ×5(いくつか割れてる)、円盤石(1/3)+αセット@モンスターファー ム〜円盤石の秘密〜が放置されています。
※ギュオーは日向ママのDNAスナックを一袋食べました。
確認できる変化は巨乳化・低い声が出にくい=高い声が出るなど、いずれも本人は気づいてません。
まだ他にも肉体に変化があるかもしれません。
※無理が祟って気絶してしまいました。無防備ってレベルじゃねーぞ!(いろんな意味で)

833ハジカレテ……ハジカレテ…… ◆MZbbkj1l7.:2010/06/22(火) 21:48:38 ID:DIROyZWk
以上で投下終了です
kskありがとうございました。

834 ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:38:02 ID:YrRABrO.
これよりSSの投下を開始します。

835名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:39:27 ID:YrRABrO.
街灯とやや離れたエリアの火事で照らされた市街地を走る一台の軍用車両。
その車両を運転しているのは砂漠の妖怪・砂ぼうずこと水野灌太。


彼のおかれてる状況を簡潔に説明すると、少し前に高校でチャットをした事に始まり。
自身は匿名で、お目当ての一人・朝倉を初めとする遊園地の人間、疎ましき雨蜘蛛とオマケ一人、そしてノーヴェを偽っていた悪魔将軍とのネット上の接触をした。
ちょっぴり改竄した被殺害者・殺害者情報を流すなり等の情報のやり取りをしている最中に、他の二組には秘密利に悪魔将軍が灌太へ取引を持ち出してきた。
取引内容とは゛ノーヴェをやるから定時までに涼宮ハルヒの死体をモールまで持ってこい゛というものだった。
ノーヴェをどうしても手に入れたい灌太は、高校にて(なぜか腐ってない)ハルヒの死体を掘り当て、更に朝倉の助け(?)によって足となる車両も見つけたのである。
一時は悪魔将軍のいるモールへ向かうべく、車両に乗り込むが・・・・・・すぐに「少し行動が軽率過ぎないか、悪魔将軍が正直に取引を守る保障はあるのか」と疑問を持ちだした。
ここまでが前回の粗筋である。


そして、灌太は次に何をするべきか悩んだ結果、モールにはすぐに向かわずに、高校から近くにある図書館などの建物を探索する事に決めた。
それはなぜか?
まず、取引とは本来、実力が均衡している者同士がやるもの。
権力・財力・暴力・・・・・・なんにせよ実力の差が開いている場合、力が勝る方が取引を一方的に破ることもできる。
取引相手の悪魔将軍の場合、殺害数はキョンに劣るものの、一塊の実力者であるフェイトを殺害した男だ。
支給品や運の都合があったとしても、それなりの実力があると見て良い。
反対に灌太の武器は拳銃のみで、ナーガ以上の戦闘力を持つ者を相手にするには厳しい。
悪魔将軍に関する弱点や注意点すらも灌太は知らない。
これで悪魔将軍がナーガよりも格段に強かったら目も当てられないだろう。
また、悪魔将軍が約束を守るという保障はどこにもない。
万が一、相手が裏切られても、装備と情報が乏しい今のままでは為すがままになってしまう。
それを避けるために、灌太としては悪魔将軍に対しての抑止力や弱みを握り、対抗手段を持つのが望ましいと考える。

836名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:40:29 ID:YrRABrO.

灌太にとって幸運と言えるのは、取引までに時間は指定されていないということ。
もちろん、悪魔将軍がいつまでも待ってくれるというわけではないだろうが、ある程度の時間的猶予はあると考えられる。
この余裕を活かさず、ノーヴェ欲しさに焦って取引現場へ直行することは愚策。
賢い選択は『急がば回れ』、状況が許すかぎりは主要な建物を探索し、使える武器・道具・情報・人材をかき集めるべきだろう。
コンテンツkskにアクセスできるパソコンがあれば、情報を得る事ができる。
使えそうな武器や道具があれば回収するべし。
人材は・・・・・・変態でもないかぎり死体運びをする者に好感を持つとは思えず、これから危険人物と取引しようとしいる人間に手を貸そうなどとする人間は少ないだろう。
なので他の参加者に会ったら゛ノーヴェを助けるため゛だとはぐらかして、最低でも自身の風評を落とさぬように心掛ける。
運が良ければ後ろ盾や弾避けになる同行者も得られるだろう。

そして探索する場所に選んだのは、図書館・警察署・倉庫群・小学校の四つ。
理由は高校から比較的近く、進入できるエリアであるということ。
海と禁止エリアに阻まれた遊園地は車両では進入できず、警察署のあるB-4から先は火災地になっていて探索はできない。
探索は、例の四つの施設を巡るくらいが妥当だろうと灌太は結論づけたのだった。

以上が、灌太がモールへ直行せずに、寄り道することを選んだ理由である。
灌太は欲深いが用心も深く、意外にもお金はコツコツ貯めて無理な一攫千金は狙わず、仕事にしろ罠にしろ用意は周到に済ますタイプである。
故に彼は急がずに足場を固めていくことを選択したのである。

全ては安全にノーヴェを手に入れて快楽を貪るため、力や情報を手に入れて己が生存を守るため−−つまるところ、何もかも自分のために灌太は車を走らせている。
そんな彼が最初の探索に選んだ場所は中学校から最も近い図書館であった。


−−−−−−−−−−−

837名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:41:36 ID:YrRABrO.

車両を運転した事があまりないと思われる灌太のドライビングテクニックは、たいしたことはないと思われる。
しかし、キーを回してハンドルを握り、アクセルとブレーキのペダルを使い分けながら、車を進ませる事ぐらいなら小学生でもできる。
対向車もなく歩行者もいない舗装された道路ならば、素人でもスピードを出しすぎない限り事故の心配は薄い。
会場には警察もいないので、無免許運転だろうが逮捕される心配も皆無。
灌太が運転する分には何ら支障は無いという事だ。
・・・・・・もっとも、灌太は左手でハルヒの乳を揉み、ハンドルを握るのは右手のみの片手運転をしているのだが。

「やわこい乳のボインちゃ〜ん、ウヒヒヒヒ♪」

そのために集中力が散漫なのか、車の機動が多少フラフラしている。
素人の片手運転は第三者から見ればヒヤヒヤさせられるものだが、どうしても快楽を優先させたい灌太は構わずに片手運転を続ける。
現在までは大丈夫だが、その車はいつか事故でも起こしそうな匂いを漂わせていた。
良い子も悪い子も、片手運転はやめましょう。




・・・・・・幸いにも灌太は事故を起こさずに図書館に辿り着く事ができた。
参加者に襲われるなどの障害もなかった。
そもそも参加者そのものが周辺に一人もいなかったため、襲来はおろか接触する事すらないのだった。


「ふぅ、何事もなく辿り着けたな」

なにはともあれ、無事に到着した灌太は図書館の入口前に車を止めて降車する。
車を後にする前に灌太は涼宮ハルヒの乳房を軽く一揉みし、声をかける。

「それじゃ、ちょっくら言ってくるぜハルちゃん」

返事は無い。
相手は腐ってないとはいえ、屍だからだ。
屍は返事はしないし、セクハラしようとも嫌がる事も悶える事も無い。
ついでにハルちゃんとは、灌太が勝手につけたハルヒの呼び名である。

(・・・・・・死体が喋らねーのは当たり前だけど、なんだか味気ねーなぁ)

ハルヒの外見はほぼ生前のまま。
しかし、死体ゆえに反応が無いのは当然であり、灌太の行いは人形で遊んでいるのとほぼ変わらない。
それに対して彼は一抹の寂しさを感じていた。

838名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:43:32 ID:YrRABrO.
(ノーヴェをおいしくいただくまでの繋ぎだと割り切れば良いか。
 それに、乳の揉み心地は動かず喋らずを補うには十分だぜ・・・・・・ヌフフ♪)

このようなポジティブ思考により、寂しさはすぐに払拭された。
それから灌太は車のドアを閉めて鍵をかける。
鍵をかけられた事により、余程の事が無い限りはハルヒの盗難を避けられるだろう。
盗難を避ける最も良い手段は、彼女をディパックに詰める事なのだが、彼はその可能性をまだ知らない。
そして灌太は、ハルヒの遺体を乗せた車両を後にして無人のksk図書館の中へと入っていった。

−−−−−−−−−−−


「これは・・・・・・先客が既にいたみてぇだな」

それが、図書館に入ってから数分の間、内部を一通り探索した灌太の感想である。
図書館の床にある二・三種類の足跡や僅かな食べ物のカスや一部持ち去られた本が、以前に人が出入りしていた事を物語っている。
ゲーム開始から18時間以上経っており、誰かが先に図書館を探索しているのは十分に考えられる可能性だった。
問題なのは、それにより有益なアイテムや情報が持ち去られているかもしれないということ。
実際に『華麗な 書物の 感謝祭』とプレートに書かれていながら、その真下にあった棚には本など一冊も入ってなかった。
天井から吊り下げられたプレートに意味はなく、最初から棚には何もなかったというのは考え難い。
元からあったものを誰かが根こそぎ持ち去ったと考えるのが自然だろう。
持ち去ったという事は、この殺し合いで役に立つ書物があったかもしれないのだ。

839名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:44:09 ID:YrRABrO.

一方で持ち去られてない書物、例えばそこらに陳列している本棚の本を調べてみたが、たいした物は何もなかった。
辞書や参考書、小説や絵本、偉人の本など、殺し合いには約立たないだろう。
中身まで全部調べたわけではないので中には数冊くらい使える書物はあるかもしれない。
しかし、灌太は『森』の意味をセインに教えられるまで知らなかったほど、関東大砂漠の事柄以外の知識は希薄だ。
雨蜘蛛が草壁姉妹をオアシスの手が届かない場所に住んでいたと思い込んでいるのと、夏子が朝比奈みくるからSOS団や未来人の事を聞いても全く理解できなかったのと同義である。
それでも読みながら分析を重ねれば、言葉の意味を正しく解読していけるかもしれない。
ただ、一冊ごとにわからない事柄を解読しながら読んでいたら、夜が明けて昼を過ぎ夕暮れになっても終わらないだろう。
そんな事に時間を割ける余裕は流石に無い。
数多の本に関する詮索は断念せざるおえなかった。

ここまでの収穫は無し、探索で時間をだいぶ浪費してしまった。
だが、灌太はそれを嘆きはしない。
ある物の存在が、灌太に嘆くにはまだ早いと無言で語りかけていた。

ある物−−それは机の上に鎮座するパソコンである。
コンテンツkskしかりチャットしかり裏口しかり、情報収集の面ではとてもお世話になっている有り難い代物である。

「さ〜て、何がでるかなっと」

図書館をあらかた巡っても何も得られなかった分、パソコンから得られる情報に期待を膨らませる灌太。
そして、幾度の使用によって使い慣れたマウスとキーボードを手に取る。
手始めにチャットルームに眼をやるが、現状で使用者は無し。
誰もいない以上、通常のやり取りも裏口による盗見もできない。
しかし、フォームには前の使用者によるチャットの発言ログが残されていた。
これは使用者が任意で消すことができるが、その事を気がつかずにドロロたちは消し忘れたのだろう。
それを灌太に運悪く見られてしまい、後続に筒抜けとなってしまった。

840名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:45:57 ID:YrRABrO.
「迂闊だぞドリル兵長・・・・・・じゃなくてドロロ兵長!
 つうわけで、この残り物は俺様が美味しくいただかせてもらうぜ」

残されたログから、前の使用者がドロロだと知った灌太は、その場にいないドロロを嘲笑う。
発言ログには、すでに灌太が既に知っている事柄や、相手(クロノスと書かれている所から話し相手はアンチクロノスのネームでチャットをしていた晶だと思われるが)の書き込みは見れないため、全容がわからないものもある。
灌太が理解できる範疇かつ有用な情報だけを抽出し、それを大まかに分けると、

○泥団子先輩=掲示板の東谷小雪の居候(つまりドロロ)
○ドロロとリナ、ドロロの知人のケロロ・タママの特徴(灌太としてはリナがボインちゃんかどうか知りたかった)
○チャット上の四つの合言葉(成り済ましに使える?)

・・・・・・の3つである。
大半は有益な情報と言える。
中でも朝倉の同行者たちの人物の特徴と、合言葉を知った利点は大きい。
卑しい笑顔をしている灌太の表情からして、後々に利用する気満々だとわかる。


チャットの次に閲覧するはコンテンツksk。
対応のオブジェをクリックして中に入ろうとするとキーワードを要求される。
表示された『瀕死のピクシーとブルーマウンテンが融合して産まれたモンスターは?』の答えを灌太は持ち合わせてなどいない。
にも関わらず、灌太の表情は余裕そのものだった。

841名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:48:19 ID:YrRABrO.

「ここでセインが遺した忘れ形見の出番だぜ!」

無意味に意気揚々な灌太はディパックから一枚のCDを取り出し、パソコンの本体に挿入する。
すぐあとに、CDの効果によってキーワードが自動的に『ヴィーナス』と書き込まれ認証に成功、コンテンツへすんなりと進入できた。
キーワードの防壁は、『ksknetキーワード入りCD』という秘密兵器を持つ灌太の前には意味を成さないのだ。
そして数瞬間の画面切替の後、灌太の目に映ったは時間と場所の羅列。
最初は意味がわからずに首を傾げたが、自分がパソコン及びコンテンツkskを使用した時間と、画面に表示された時間が同じであるとわかると、これがアクセスログであるとすぐに理解した。
画面を見つめながら灌太は考察を始める。

(こいつで確実にわかる事は、パソコンがいくつあってどこにあるかだな。
 この図書館にあるのと俺のぶっ壊したのを除けば、遊園地・コテージ・・博物館・ゴルフ場・温泉・モールにパソコンはある。
 ついでにモールは書店と電気店で別れてる所からして二つあるようだな)

コンテンツkskのアクセスは、大前提としてパソコンが必要になる。
つまり、ログで表示された場所は使えるパソコンがある場所と同じというわけであると言える。

(・・・・・・良く見ると、どれもこれも地図で名前が記された場所にあるな。
 さっき確かめた廃屋とか例外もあるんだろうが、名前のついてる場所はたいていパソコンがあるんだろうな。
 それもただのダミーじゃなくて、kskに入れる奴が)

ログには全て、地図に名前が載っている場所があがっている。
反面、どことも知れぬ民家などには一つもない。
地図に記されてない場所にもパソコンそのものはあるやもしれないが、高校で見つけた基本設定しか使えないダミーの件もあり、ともすれば使える物は名前の記された場所の物と見るべきだろう。
ここから灌太はある可能性を見出だす。

(・・・・・・って事は、後で行く警察署や倉庫群・小学校にもパソコンはあるかもしれねー。
 コレに載ってないって事は、パソコンは『無い』か『手付かず』のどちらかだ。
 前者はともかく、後者なら情報を独占できて御の字だな)

842名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:49:12 ID:YrRABrO.

ログに表示された場所はコンテンツkskが使用された場所であるという情報と、パソコンがあるのは地図に名前が記載された場所という予測を照らし合わせれば、『ログに載って無い、地図に記された場所には、手付かずのパソコンがあるかもしれない』とも思えるのだ。
まだ確証はない仮説に過ぎないが、視野の一つとしては持っても良い考えだろう。

ここまでが灌太がアクセスログから読み取れた情報である。
コンテンツkskのページを閉じ、最後に掲示板のページを開く。


掲示板には新しい書き込みがあった。
灌太が探索をしている間に更新されていたらしい。
灌太は既読済みの1〜6番目を飛ばして、7番目のレスに目を通す。

「これは・・・・・・涼子ちゃんの書き込みか?」

そのレスには彼が追い求める女性の一人、朝倉涼子の名前が載っていた。
『ママへ。
お子さんは無事。怪我一つないわ。
わたしと出会った場所とE-09、二点のマスの左下同士を直線で結んで。
その線上のマスにある一番目立つ場所で明日の午前七時までお子さんと一緒に待ってるわ。
そこが禁止エリアになった場合は、付近にある次の目立つ場所で。

会える事を期待して、朝倉涼子』

・・・・・・という内容である。
朝倉を装った者の罠ではないか、とも疑えるが灌太は偽者の類ではないと見る。
なぜなら、゛朝倉涼子゛と大々的に名乗っている部分からして、これがもし偽者の書き込みだとしても、本人がパソコンに触れればすぐ嘘を暴かれるからだ。
おまけに複数の同行者を持ち、禁止エリアと海に阻まれた陸の孤島にいる彼女はしばらくは存命し、24時には雨蜘蛛たちとチャットもするため、パソコンは確実に使用するのだ。
それでも本当に別の誰かが朝倉を装って書いたなら、その誰かは馬鹿者と言えよう。

書き込み自体の検証に移ろう。
書き方からして具体的な人物や集合地点がぼかされており、一種の暗号文のようにして投下されたのだろう。
『ママへ』『わたしと出会った場所』などは普通、当事者たちにしかわからない。
だが、この書き込みを見た灌太は地図を取り出し何かを考え、その数分後にはほくそ笑んでいた。

843名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:50:24 ID:YrRABrO.

「へへへ、なんとなくわかっちゃった気がするぜ」

彼は朝倉の書き込みから、暗号を読み解いたらしい。
どうやって?
それについての灌太の推理は、以下に記しておこう。

※ ※ ※
裏口やkskページでかなりの情報アドバンテージを灌太は持っている。
それでも書き込み一行の『ママへ』というのが具体的に誰を示しているのか、灌太にはわからない。
いちおう、お子さんに当たる人物はヴィヴィオが妥当と考えられる。
情報上、朝倉・ドロロ・リナは大人だ。
四人の中で唯一の児童であるヴィヴィオが『お子さん』で間違いないだろう。
では、『ママ』に当たる人物は誰か?
高町なのはがヴィヴィオの義理の母親であると、灌太は知らない。
セインは二人と同じ世界から来たが、二人が親子になる前の時系列から連れてこられたため、二人が親子関係だとは知らない。
知らないなら、灌太にそこまで教えられたハズがない。
さらに『わたしと出会った場所』=『朝倉涼子とママ』が接触した場所までは知らない。
仮に『ママ』が高町なのはだとわかったとしても、灌太は二人が初めて接触した市街地での乱戦を見ていないのだ。

『ママ』『朝倉とママが出会った場所』等重要な部分を知らないので灌太の謎解きは詰み・・・・・・はしなかった。
謎掛けを解くためにチェス版をひっくり返す。
すなわち相手の思考を読んだり・正攻法ではない別の発想から解決の糸口を灌太は探してみることにした。


灌太は目をつけた焦点は『E-09の左下から線を引いた場所』。
わざわざ例の二者が出会った場所は考える必要は無い。
E-09から線を引いて集合場所に適切な位置を割り出すのだ。
『一番目立つ場所』とも書かれている事から、『地図に名前を記された場所』を指しているのだろう。
ともすれば、線上にある『名前付きの場所』を見ていけばいい。

それで見えて来た事象は、E-09から北もしくは北西にから線を引くと、必ずゴルフ場か山小屋に当たってしまう。
その場合、小学校や倉庫群などが二人の出会った場所(以下『例の場所』)の場合、山小屋と図書館か警察署になってしまい、線上にある場所が二つになってしまう問題が発生する。
これでは、読み手であるママが混乱してしまうにも関わらず、書き込みに重なった場合の配慮が無いところして、線上に二つ以上の場所が重なる事はないと見るべきだろう。

844名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:50:57 ID:YrRABrO.
よって、『例の場所』が市街地だった場合、必ず山小屋かゴルフ場を含めて線上に二つの場所が入ってしまうため、市街地方面が集合場所というのはダウト。
同じく二つ以上の場所が重なってしまうので、温泉・コテージ・レストラン・砂丘もダウト。

残るはゴルフ場・山小屋・廃屋・採掘場・博物館・モール・滝(禁止エリアの神社を省いた場合)である。
ここから更に絞るには、書き手側の配慮を考えると良い。
朝倉たちと違い、ママにあたる人物はチャットに参加していないので、モールなどに危険人物がいるとは知らないハズである。
殺し合いにでも乗ってないかぎり、危険人物の潜んでいる場所にわざわざ人を誘導しようとは思わないだろう。
よって、明確な危険人物である悪魔将軍のいるモールは集合場所には選んべない。
博物館にいる雨蜘蛛も危険な男には違いなく、傍らにいる晶はバットで気絶させられたりと頼りない。
博物館もアウト、博物館から近すぎる採掘場もアウト。

集合場所候補はまだまだ絞れる。
今度は書き込みの『そこが禁止エリアになった場合は、付近にある次の目立つ場所で』の部分を掘り下げてみよう。
仮に集合場所が山小屋であって、そこが禁止エリアになったら近隣のゴルフ場へ行けば良い、逆のゴルフ場もまたしかり。
同じように滝の近隣にはコテージがある。
ところが、廃屋の周辺には禁止エリアになった神社しかない。
まさか禁止エリアである神社に行く・行かせるわけは無いだろうし、少し離れた位置には滝と山小屋があるが、相対距離がほぼ同じでどちらに行けば良いかわからないだろう。
廃屋は高く見積もっても、優先順位の低い集合場所候補だと灌太は位置づけする。

残ったのは山小屋・ゴルフ場・滝のみ。
最後の一絞りは書き込みにおいて、『E-09』から線を引く形にしたという意図を読むことだ。
『E-09』で灌太が思い当たる事柄は一つ、掲示板の6番目のレス『古泉+万太郎VS悪魔将軍+誰かのタッグマッチ(明日九時・E-09にて開催)』という書き込み。
先刻のチャットに参加した人間ならば全員が見ているレスであり、これからパソコンに触れる者も皆、目を通すだろう。

845名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:51:57 ID:YrRABrO.
このレスを見た朝倉たちの考えはおそらく、脱出派の脅威・障害になる悪魔将軍を討伐もしくはノーヴェを救助するために、『ママ』と合流して戦力を増強する。
せっかく悪魔将軍が自分から場所や時間を指定してまで出向くというのに、ここで足並を揃えずに迎え撃たないのは勿体ない。
『E-09』というのも、みんなで力を合わせて悪魔将軍を倒そう、などの意味合いが込められてそうだ。
また、悪魔将軍と敵対しているらしい古泉・万太郎の二人と手を組めれば、朝倉たちのグループはかなりの勢力となれる。
いくら管理局のエースを殺せるほど強い将軍でも、複数の参加者が一斉に畳みかければ勝ち目は薄かろう。

そして、悪魔将軍をより確実に倒すとなると、グループの足並みを揃える拠点が必要になるわけだ。
書き込みには『明日の午前七時までお子さんと一緒に待ってる』ともあり、つまり最低でも二時間後の試合開始に間に合う距離にある場所が拠点となる。
だとすれば、滝はE-09から遠すぎる。
この距離間隔では、七時から泉のリングに向けて出発すると、とっくに試合が始まってるか・終わってるかだろう。
ドロロのような怪我人も混ざってる中では、全体の行進スピードも減り、距離が開いている拠点はそれだけ効率が悪い。
滝は集合場所に適切な場所とは言えない。

上記の消去法で残った集合場所候補は、山小屋とゴルフ場の二つとなった。
二つの場所はすぐに行き来できる距離でもあるので、この二カ所を押さえれば集合場所はわかったも同然である。

灌太の最終的な解答は、D-7の山小屋かC-8のゴルフ場。
情報と推理の余地が無いのでこれ以上は絞り込めないが、『朝倉とママが出会った場所』を知らないで推理した事を考えるなら上々と言える。

※ ※ ※

846名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:55:18 ID:YrRABrO.
「山小屋かゴルフ場辺りだと思うんだけどなぁ。
 もし、本当に当たってたら涼子ちゃんはまだまだ甘いよな」

などと、首を捻りながら推理の感想を呟く灌太。
事実、答えは山小屋である。
朝倉たちが手を込めて作った暗号は、妖怪にほぼ解かれてしまった。
しかし・・・・・・

「ま、俺の考えも所詮は憶測に過ぎね〜し。
 暗号を難しくし過ぎて、ママさんが解読できなかったら本末転倒だしな」

灌太も自分の考えの何もかもが当たっていると思わず、間違っている可能性も考慮する。
推理の確証を得るにはやはり、朝倉とママが出会った場所を知るしかない。
謎掛けについても、他者に解読されるのを怖れるあまり、極端にわかりづらい内容にして、『ママ』がわからなかったら逆効果である。
それらの点でこの書き込みは、暗号としての及第点はクリアしていると言える。

「それにしても、将軍様を退治しようとする動きがあるみたいだな」

今度は焦点を悪魔将軍とその周りの動きに注目している。
6番目のレスは約二名の対立者との決闘を表明。
7番目のレスは連携による将軍の排除を仄めかしているように見える。
どうやら悪魔将軍はあちこちで敵を作っているみたいだ。

「・・・・・・となると、取引ならまだしも、使える奴だからって安易に将軍様と手を組むわけにはいかねーな」

悪魔将軍と手を組めば、自分もまた複数人の攻撃対象になりかねない。
自分の身を守りたい灌太は、敵を増やす真似をして生存率を引き下げるのは望まない。
危ない橋は基本的に渡らない性分なのだ。

「品定めの上に、流れを見て勝てそうな方につく・・・・・・これで良いか」

もはや悪魔将軍が有用な人物かどうかだけでは、手を組むに値できるかどうかを決めるには至らない。
視野を広げて、全体を見て、勝てる=生存率の高い側に身を寄せる。
と、灌太は新たに算段を打ち立てたのだった。

「後は良く見て、良く考え、慎重に行動することだな。
 さてと・・・・・・」

更新された掲示板の内容も把握し、パソコンでの情報収集作業も終了。
これで図書館はあらかた探索しつくした事になる。

「ここで貰えそうなもんは全部貰った」

847名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:56:31 ID:YrRABrO.
そう言う灌太は、図書館を去る前の仕上げとして、パソコンに拳銃を向ける。
中・高等学校でやったように、壊す事で有益な情報は独占・不利益な情報は隠蔽を計るのだ。
そして、いざ引き金を引こうとして・・・・・・やめた。
拳銃を降ろした灌太はパソコンを見つめながら思案する。

(なんでもかんでも壊すのは良くないか。
 コンテンツのアクセスログは、せいぜいパソコンの位置がわかるくらいだし、見られても俺が不利になることはなさそうだな。
 チャットの発言ログは消しちまえば問題ねーし、掲示板はどのパソコンでも見れちまう)

懸念が生まれ、引き金を引かせる事を躊躇わせる。
さらに新たな懸念が灌太の脳裏に浮かんだ。

(バカスカ壊して、後で俺自身やボインちゃんたちが困るのは悪手だからな)

パソコンは情報収集の面で優れた有り難い代物であるが、その数はおそらく有限。
壊し過ぎれば、情報収集が困難になり、自分や自分の求めるボインたちの首を絞めてしまう。
灌太としては、それは避けたいハズだ。

「これは残しておくか」

思考の末に灌太はパソコンの破壊を中止。
とりあえず、後続に情報が漏れないようにチャットの発言ログだけを消去する。

「よし、行こう」

その言葉を最後に、灌太は図書館の出入口から出ていった。
惜しむらくは悪魔将軍の弱点に関わる情報はなかったが、それは次に行く施設で期待するしかない、と思いつつ。

−−−−−−−−−−−

「たっだいまー、ハルちゃん!
 それじゃあさっそく・・・・・・モミモミ〜」

灌太は車両に戻るなり、ハルヒの胸を揉んでいた。
探索中に大事な取引材料+貴重な乳の彼女が他者に盗難されなくて何よりだ。
探索でちょっと疲れたので卑しを・・・・・・いや、癒しを求めて灌太は乳を揉む、揉む、揉む!
ついでに口には朝倉の髪の毛を加えて、充電効率は倍増。
周りに参加者の気配はないので、顔がニヤけてようが気にしない!

「ふぅ、エネルギー充填完了っと!」

ほんのしばらくして、色々と満たされた灌太は爽やかな表情になっていた。
そして、車のキーを回してエンジンを始動させる。

「じゃ、次はどこ行っこかな」

848名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:57:39 ID:YrRABrO.

探索すると決めた警察署・小学校・倉庫群の残り三カ所。
その中で灌太は図書館の次に行く場所は決めていなかった。
なぜ、あらかじめ探索する順番を決めてなかったかと言うと、それには灌太なりの思惑があるのだ。

(小学校→倉庫群→警察署の順だと警察署が火事に飲まれて探索できなくなるかもな。
 警察署の中に、将軍様にも対抗できる代物があったら後で泣きを見る)

市街地の東側は大規模な火災が発生している。
鎮静化の兆候はまだ無く、火災地帯は広がり続けている。
いずれは警察署も炎に包まれるだろう。

(警察署→倉庫群→小学校の順番なら、警察署が燃えちまう前に探索できるけど、モールからはちょっと遠回りになっちまうな)

火災地帯になる心配の薄い倉庫群や小学校を後回しにして警察署から探索すると、取引現場からの距離が若干離れてしまう。
それだけノーヴェを手に入れるまでの時間が長くなってしまう。

(いっそ、倉庫群から先に行ってみるか?
 倉庫と名前が付く所からして何か保管されてそうだし、誰かに先に奪われると癪だしよ。
 とっくに奪われてたら無駄足だけど)

(たぶん遊園地からC-2辺りに流れてくるだろう涼子ちゃんの顔と乳を余裕があれば拝んでみたいんだよなぁ〜。
 でも0時に雨蜘蛛とのチャットがあって、それ以降まで遊園地から動かなそうだな。
 それに死体運びしていると知られると彼女に白い目で見られそうで、個人的にはそっちが不安だ・・・・・・)

「あ〜、どうしよ」

様々な考えが灌太の脳裏にひしめき合い、次の目的地を決めさせてくれない。
しかし、時間的な余裕は刻一刻と減っていく、いつまでも悩んでるわけにはいかない。

「ハルちゃんはどこへ行きたいと思う?」

悩む灌太は助手席に座る屍に話しかける。
屍は返事はしないし、セクハラしようとも嫌がる事も悶える事も無い・・・・・・ハズだったが−−

『そうねぇ、私は砂ぼうず君の望む所ならどこでも良いけど・・・・・・』

−−その声の色は、まごうことなき涼宮ハルヒのものだった。
なんと、死体がひとりでに喋ったのだ。

・・・・・・否、断じて違う。
ハルヒの口は全く動いてない。
つまり、死体であるハルヒが声を発したわけではない。

849名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 18:59:40 ID:YrRABrO.
声を発したのはゼロスから取引で手に入れたリボン型変声機を使う、水野灌太である。
変声機をハルヒの声に調整して、あたかもハルヒが喋っているように見せているのだ。
気分はさながら、眠るオッサンの吹き替えをする某眼鏡少年探偵。
しかし死体という名の人形で一人遊んでいるのは、滑稽を通り越して愉快だ。
常識的に考えてとても異常な光景だが、本人は特に気にしている様子は無い。
気にとめる者が周りに誰もいないのだから。

『でも、どこに言ってもメリットはあるし、デメリットもあるみたいね』
「その通り。
 それに、ひょっとしたら次にどこに行くかで俺の命運が変わりそうだと思うと自分一人じゃ中々決められなくてさ」
『わかったわ。
 そんな砂ぼうず君のために、この私が次の行き先を決めてあげるね』
「あぁ、助かるよハルちゃん」

ハルヒ(中の人は灌太)に答えを委ねると言っても、決めるのは結局灌太一人である事に変わりない。
その事にツッコミを入れてくれる要員は、この場に誰一人いない。

ともかく、涼宮ハルヒ(灌太)による水野灌太のためのご神卓が、今、下ろうとしていた。

『砂ぼうず君のためになり、もっとも最良な選択、それに当たる次の行き先は−−』

彼女の答えが、悩める灌太の次の行き先となった。

「オッケェーイ!
 ありがとうハルちゃん!」

自分の代わりに答えを出してくれたハルヒ(灌太)に感謝の意を込めて、彼女の乳をまた一揉みする。

「次の場所は決まったぜ!
 砂ぼうず号、出発進行!」

ハンドルを握りアクセルペダルを踏んで、次の目的地に向けて図書館から発進した。


一人の変態妖怪は、今回も己の野望のために知恵と勇気と悪辣さを振り絞って突っ走るのだった。
次回もたぶん、それは変わらない。






「はぁ・・・・・・それにしても死体しか話し相手がいないのは、ちょいと虚しいぞ。
 『砂ぼうず』ならぬ『砂ボッチ』、なんつって・・・・・・はぁ・・・・・・」

850名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 19:00:44 ID:YrRABrO.
【B-3 図書館前/一日目・夜】

【水野灌太@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(小)
【持ち物】オカリナ@となりのトトロ、手榴弾×1、朝倉涼子・草壁メイ・ギュオーの髪の毛
 ディパック×2、基本セット×4、レストランの飲食物いろいろ、手書きの契約書、フェイトの首輪、
 ksknetキーワード入りCD、輸血パック@現実×3、護身用トウガラシスプレー@現実、リボン型変声器@ケロロ軍曹
 FirstGood-Bye@涼宮ハルヒの憂鬱、コルトM1917@現実、第ニ回放送までの殺害者と被害者のメモ、チャットの情報を書いたメモ
 ksk車両位値一覧のメモ、ノートパソコン、KRR‐SP@ケロロ軍曹
【思考】
0、何がなんでも生き残る。脱出・優勝と方法は問わない。
1、取引現場のモールに向かう前に、小学校・倉庫群・警察署を探索して悪魔将軍への抑止力になる武器や情報を集め、足元を固める。
2、遊園地にいる朝倉涼子とヴィヴィオには何が何でも接触したい。
3、モールに向かい、悪魔将軍にハルヒの死体を渡し、ノーヴェをおいしくいただく。
4、首輪を外すにはA.T.フィールドとLCLが鍵と推測。主催者に抗うなら、その情報を優先して手に入れたい。
5、悪魔将軍が有用であり、流れが良ければ手を組んでもいい。有用でなければ将軍と対立する側につく。
6、首輪を分析したい。また、分析できる協力者が欲しい。
7、関東大砂漠に帰る場合は、川口夏子の口封じ。あと雨蜘蛛も?
8、死体としか話し相手がいなくてちょっと虚しい・・・・・・
【備考】
※セインから次元世界のことを聞きましたが、あまり理解していません。
※フェイトの首輪の内側に、小さなヒビが入っているのを発見しました。(ヒビの原因はフェイトと悪魔将軍の戦闘←灌太は知りません)
※シンジの地図の裏面には「18時にB‐06の公民館で待ち合わせ、無理の場合B−07のデパートへ」と走り書きされています。
※晶達とドロロ達のチャットを盗み見て、一通りの情報を暗記しました。
※図書館のアクセスログから使用されたパソコンの位置を把握しました。

851名探偵スナボゲリオン ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 19:01:20 ID:YrRABrO.
※図書館のチャットの発言ログ(152話・10個の異世界〜153話・情報を制す者はゲームを制す?(前編)まで)から、情報を得ました。
具体的には『東谷小雪の居候=ドロロ』『ドロロとリナ・ケロロ・タママの特長』『チャットでの合言葉』。図書館の発言ログは灌太によって消去されました。
※掲示板での七番目の書き込みにおける集合場所は、山小屋かゴルフ場と予測しています。
※次に小学校・倉庫群・警察署のうち、どこへ行くかは次の書き手さんにお任せします。

852 ◆igHRJuEN0s:2010/07/02(金) 19:03:09 ID:YrRABrO.
これにて投下終了です。
不備や矛盾点などがあればご指摘してくださると助かります。

タイトルの元ネタは、PS2ゲーム「名探偵エヴァンゲリオン」より

853 ◆YsjGn8smIk:2011/02/16(水) 21:22:34 ID:Alu75hwE
規制されたので残りはこちらへ投下します。

854ケロロ大失敗!であります ◆YsjGn8smIk:2011/02/16(水) 21:23:03 ID:sKx9wxsc

「しかし情報と違う奴らが偶然居ただけ……なんて可能性もあるぜ? いったいその時はどうするんだい?」
「誰だろうと関係ないわー−−! どうせ全員殺すんだからなあ!」

あっさりtそう切り捨てるオメガマンに、雨蜘蛛は知らず笑っていた。

「フフフ……いいねえ、その簡潔さは。どっかの甘ちゃんにも聞かせてやりたいぐらいだ。
 ところで俺はパートナーとやらにしてもらえるのかい?」
「おまえはまだ役に立ってないではないか。これからの働き次第だぜ……耳を貸せ」

そしてオメガマンは小声で狩りの詳細を語り始めた。


そもそも何故二人が温泉に来ているかといえば――話は三十分前に遡る。
滝壺で邂逅した二人の悪のマスクドマン……完璧超人ジ・オメガマンと地獄の取立人・雨蜘蛛の二人は。

「フォーフォフォ!」
「ハハハハハハッ!」

とても馬が合った。

「つまり遊園地に朝倉涼子が居るってわけだ! ……やっぱり醤油があったほうが旨いぜー!」
「まあな。で、そっちは温泉にいる獲物を狩りにいくってわけだ……おにぎりに醤油かけて焼いてみたが、食うかい?」
「いただこう」

手を伸ばすオメガマンに、雨蜘蛛は醤油に浸し手早く炙り作った焼きおにぎりを渡す。

「オオー、なんと芳ばしい匂いっ! おまえ、ただものではないな?」
「俺は地獄の取立人だぜぇ? この程度は朝飯前だぜ」
「フォフォフォフォフォ! 気に入ったぜ、この焼き加減。実にパーフェクトだ!」
「ハハハハハ! そうかそうか、まだまだあるぜ?」

焼きおにぎりを旨そうに食べながらオメガマンが笑えば雨蜘蛛も笑う。
二人はまるで十年来の友人のように息がぴたりとあっていた。

「俺と手を組まないかい、ジ・オメガマン?」

そして、そう話を持ちかけていたのは雨蜘蛛からだった。

雨蜘蛛は住んでいた世界・関東大砂漠が溶けてしまった事を知り……動揺はしなかったが、行動方針は大きく動いていた。

すなわち優勝するという方向へ。

なにしろ主催者を倒しても帰る場所は無く、それどころか倒したせいで「この世界」までも溶けてしまうんじゃないかと「あの光景」を見た雨蜘蛛は危惧していたのだ。
そんな危険を冒すよりは優勝して主催者の――たとえば晶との約束を守った長門有希の部下にでもなったほうが生き残れる可能性は高いのでは、と雨蜘蛛は考えた。

しかし晶、深町晶。
雨蜘蛛は彼にたいしてある予感を抱いてもいた。

(あいつの爆発力は侮れねえ。もしかしたら主催者を倒し、なおかつ溶けないですむ方法を見つけだすかもしれねえな……)

855ケロロ大失敗!であります ◆YsjGn8smIk:2011/02/16(水) 21:23:21 ID:Alu75hwE

焼きおにぎりを食いながらそんなことを考えていた雨蜘蛛は結局、
「ギリギリまではどちらにもいける」ように行動しようと思い至った。
すなわち晶たちが上手くやりそうならば、これから行う殺しの責任は全てオメガマンになすりつけ、最後にオメガマンを殺して口封じ。
ダメそうな場合はそのまま優勝を目指し、最後にオメガマンを殺す。
結局、雨蜘蛛はオメガマンをとことん利用しようとしていたのだった。

「そうだな……何か役に立てば手を組んでやってもいいぜ」

しかし利用しようと考えていたのはオメガマンも同じだろう。
雨蜘蛛をいつでも殺せるという余裕からかオメガマンは雨蜘蛛の提案を条件付きとはいえのんだ。
役に立たなければいつでも殺す、という無言の脅迫を突きつけながら。

「涼子ちゃんとリングの場所を教えてやったのは役に立った内に入らないのかい?」
「そいつは殺さず話を聞いてやった代償だぜ」

お互いがお互いを利用することだけを考える関係。
二人の馬が合ったのも当然の成り行きだったのかもしれない。

「なら温泉って所から逃げた連中を俺が追跡してみせるってのはどうだい?」
「そんな事が出来るなら確かに役には立つが……」
「足跡が残ってれば簡単だ。で、どうだい?」
「フォッフォッフォ! いいだろう、上手く追跡できたらパートナーにしてやってもいいぜ!」

そしてその三十分後。驚異的な速さで川沿いの道を走り抜けた二人は共に温泉の前に立っていたのだった。
狩人の気配に獲物たちはまだ……気付かない。

856ケロロ大失敗!であります ◆YsjGn8smIk:2011/02/16(水) 21:23:52 ID:Alu75hwE


【G-2 温泉至近の茂み/一日目・夜中(放送直前)】


【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】胸に軽い切り傷、マントやや損傷、軽い疲労
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、有刺鉄線@現実、枝切りハサミ、レストランの包丁多数に調理機器や食器類、各種調味料(業務用)、魚捕り用の網、
     ゴムボートのマニュアル、スタングレネード(残弾2)@現実、デイパック(支給品一式)×3、RPG-7@現実(残弾三発) 、ホーミングモードの鉄バット@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:オメガマンを利用する。
3:晶の怒りを上手く主催者側に向ける事で、殺し合いの打開の一手を模索する。
4:水野灌太と決着をつけたい。
5:ゼクトール(名前は知らない)に再会したら共闘を提案する?
6:キョンを利用する。
7:ガイバーに興味がある。

【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
 索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
※メイのいた場所が、自分のいた場所とは異なる世界観だと理解しました。
※サツキがメイの姉であること、トトロが正体不明の生命体であること、
 草壁タツオが二人の親だと知りました。サツキとトトロの詳しい容姿についても把握済みです。
※サツキやメイのいた場所に、政府の目が届かないオアシスがある、
 もしくはキョンの世界と同様に関東大砂漠から遠い場所だと思っています。
※10の異世界の終末の光景を見ました。
※長門有希とキョンの関係を簡単に把握しました。
※朝比奈みくる(小)・キョンの妹・古泉一樹・ガイバーショウの容姿を伝え聞きました。
※『主催者は首輪の作動に積極的ではない』と仮説を立てました。
※ドロロたちとの間の4個のダミー合言葉を記憶しています
 (うち一つはダミー・本物の共有合言葉ですが、それをチャット開始時に用いると次の合言葉が要求されます)。
※第三回放送までの死亡者・殺害者リスト(一部改竄)を知りました。


【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】アシュラマンの顔を指に蒐集、軽い疲労
【持ち物】デイパック(支給品一式×3&食料1/2入り)、不明支給品0〜1、5.56mm NATO弾x60、
    マシンガンの予備弾倉×3、 スーパーアンチバリア発生装置@ケロロ軍曹×2、
    スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発 超高性能小型盗聴器(受信)@ケロロ軍曹
【思考】
1:皆殺し。
2:今のところは、古泉の策に乗っておく。
3:雨蜘蛛を利用する。
4:スエゾー、スバルナカジマン、悪魔将軍に復讐する。

【備考】
※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。
※E-6の川底のスイッチを押したことにより、そこから南の地で何かが起こった(あるいは何かが動作した)ようです。
 (詳細は以降の書き手さんにお任せします)

857 ◆YsjGn8smIk:2011/02/16(水) 21:24:54 ID:Alu75hwE
ksk支援感謝します。
以上で投下終了です。


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