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仮投下スレ2

1 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:32:18 ID:SF0f54Dw
SS投下時に本スレが使えないときや
規制を食らったときなど
ここを使ってください

2 勝利か? 土下座か?(中編)  ◆gAZmQu0Bos :2009/05/15(金) 20:35:01 ID:SF0f54Dw


 ……ん、どこだ、ここは?
 ……おい。もしかしてまたあれか。夢の中か。
 冗談じゃない。またもう1人の俺とご対面か。
 もう二度とあんな夢は御免だ。こりごりだ。早く起きないと――

「……キョン。……キョン! 起きなさいよ、キョン!」

 なんだ? ハルヒの声……か? 
 そういやこんな状況が前にもあったな。夜寝てたらいきなりハルヒに起こされて、しかも場所は学校で……

「いいかげんに、起きろーーーっ!!」
「うわっ! なんだ! 耳元ででかい声出すんじゃない!」

 俺が目を覚ますと、そこは見慣れたSOS団の部室だった。
 俺はいつもの席に座ってうたた寝でもしていたらしい。状況から見てたぶん放課後だろうか。
 横を見るとハルヒが仁王立ちで腕を組み、目を吊り上げて俺を睨んでいた。
 おいおい、そんなに怒る事無いだろう。俺にだって考えがあってやってる事なんだ。
 ん? 考え? 俺が何をやってるって?

「何言ってんのよ! ようやくあんたを捕まえたんだからさっさとしなさいよ!
 たぶんあんたがここにいられる時間そんなにないわよ?」
「ようやく捕まえたって何だ? ここに居られるって……
 いよいよ生徒会か先生たちが動いて、この部屋を追い出される事にでもなったのか?」

 そこまで言って俺は自分で気がついた。
 俺はさっきまで殺し合いをするという島にいて、ウォーズマンとかいうまっくろくろすけと戦っていたはずだ。

 ……いや、そんなバカな事ってあるか? 冷静に考えてあっちが夢だろう。
 なんだ、夢か。ひどい夢を見たものだ。よりによって俺がハルヒを……

「夢のわけがないだろう!!!」
「うわっ! ど、どうしたのよいきなり! 時間ないんだから手こずらせないでよ!」
「これは夢なんだろう? ハルヒ!
 俺は……俺はお前を……お前を……っ!!」

 夢の中だってのに必死にすがりついたハルヒの肩はやわらかく、温かかった。
 それなのに俺の手は震えが止まらず、心臓の鼓動はやけに速く感じるのに体は冷たい。
 なんだこれは。俺はどうなっちまったんだ。ハルヒ。俺は一体……

3 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:35:39 ID:SF0f54Dw

 空間がゆがむ。ぼやける。なんだ、やっぱりこっちが夢か。
 そうか。俺はハルヒを殺した事を忘れようとしてこんな都合のいい夢を……

「キョン! 歯ぁ食いしばれぇーーーッ!!!」
「ごふぅーーーーーっ!!」

 ハルヒのヤツがいきなりアッパーかまして来やがった。
 歯を食いしばれってお前、殴るのと同時に言ったら間に合わないだろ。相変わらず無茶苦茶なヤツだ。

「ちょっと落ち着きなさいよ! 古泉君はすぐに納得してくれたのに、あんたと来たら!
 いいからあたしの話を聞く! わかった!?」

 きれいにアゴを殴られて腰が抜けて床に座り込んだ俺に、人差し指を突きつけてハルヒが言った。
 なんだこの夢は。最近の夢は本人の意図を無視してツッコミ入れてくるのか?
 あと、何でもいいけど人を指差すな。

「いい? キョン! あんたがやってることは全然あたしのためになんかならないからね!
 あたしを理由にして人殺しなんて冗談じゃないわ!」

 ああ、ハルヒが言いそうなセリフだな。
 こんな夢を見て、俺はハルヒを殺した罪から逃れて自由になろうと……

「ちょっと聞いてんの? キョン!
 あたしがあんたに願うことがあるとしたら、元のままのあんたで居て欲しいって、ただそれだけよ!
 あんたに人殺しなんて似合わないしガラじゃないってわかってるんでしょ!
 あたしだってそんなあんたより普通にしてるあんたの方が……」
「方が……どうした?」

 なんだよ。途中まで言いかけてやめるなよ。気になるだろう。
 いや、夢なんだから俺がそうしてるのか。一体どういうつもりだ、俺の深層意識。
 早くハルヒに続きを言わせろ。

4 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:36:09 ID:SF0f54Dw

「と、とにかく! 罪を償うとか馬鹿な事考えるんじゃないわよ?
 まったく、全然、ちっともあたしはそんなこと望んでないんだからね!」

 ハルヒは顔を赤くしてそう言った。
 なんだこれ。俺はハルヒに「普通にしてるあんたの方が好き」とでも言わせるつもりだったのか。ツンデレか。
 俺にとってハルヒはそんなキャラだったのか。
 自分で言うのもなんだが、それはどうなんだ、俺。
 こんな夢見たとは死んでも言えんな。言う相手ももう居ないだろうけどな。

「……あんた、さっきからずっと何か変な事考えてない?
 まさかこれは夢だから自分に都合のいい事をあたしに言わせてるとか、そんな事考えてるんじゃないでしょうね?」

 ハルヒはそう言って疑いの目で俺を見た。
 しかしさすが俺の夢だ。ピンポイントに俺の考えを言い当ててきやがる。

「そりゃあ思うだろう。俺にだってそのぐらいの事はわかるさ。
 亡くなった人間が夢枕に立つって話は知ってるが、そんな非現実的な事を信じるほど俺も子供じゃ……」

 非現実的? しかし俺の周りは宇宙人や未来人や超能力者といった非現実的な連中だらけだったじゃないか。
 ましてやハルヒはその中心人物。夢枕に立つぐらいの事があってもおかしくないんじゃないか?
 いや、しかしいくらなんでもそんな都合のいい事が……

「いいから信じなさい! 命令よ!
 あたしはあんたに殺された事なんか別に怒ってないの!
 そりゃあ死にたくはなかったけど、それを言うとヴィヴィオちゃんもかわいそうだし、事故だと思う事にしたのよ。
 それより問題はあんたが殺し合いに乗ってるって事よ!
 そもそもあんたがヴィヴィオちゃんに襲いかかったりしなきゃこんな事にならなかったのよ?
 そこに責任感じなさいよ!」
「そ……それは……しかし殺し合いに乗る以外、SOS団のみんなや俺の妹や朝倉を生きたまま戻す方法なんてないだろ!」
「有希はどうするつもりよ?」

 ハルヒは俺を睨んでそう言った。
 俺は頭が真っ白になった。どうするだって? どうする? どうすればいいんだ?

5 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:36:52 ID:SF0f54Dw

「ど……どうするも何も、あいつは主催者の側なんだからどうとでもするだろ!」
「あんたは有希が望んであんな事してると思ってんの?」
「あ……う……」

 答えられなかった。そりゃあ俺だって長門があんな事を望んでするとは思ってなかったさ。
 だからおそらくあいつの上にいる情報統合思念体がそういう命令を下したんだろう。
 あいつ自身はどちらかと言えば俺たちの味方だったはずだ。
 いや、俺がそう思いたいだけだろうか。しょせんあいつは俺たちを、いや、ハルヒを観察する観察者……
 観察者。そうだよ。長門は俺たちを観察してるんだ。だったら……

「わかったぞ。長門はきっとみんなを生き返らせるつもりなんだ。
 ハルヒ、お前だって生き返る。みんな生き返るんだ。口ではあんな事言ってたが、それは観察のためだ」
「何よ、観察って?」
「お前も俺の夢なんだからわかるだろう? 長門はこの状況を観察してるんだよ。
 欲しいのはそのデータだけだ。全部終わったら元通りにする。そうだ。そうに違いない」
「ちょっと! そもそも有希がみんなを生き返らせるって、そんなこと出来ると思ってるの?」
「できるさ! 本人たちが出来ると言ってるんだ。きっと出来る」
「あんた、ちょっと落ち着きなさいよ。あたしが言いたいのはそんな事じゃなくて……
 ねえ、聞きなさいってば!」

 ハルヒは長門の力を知らないからな。何を言っても無駄だろう。放置しとこう。
 そうだ。草壁のおっさんだってその気ならみんな生き返らせるぐらいできそうな口ぶりだったしな。
 きっとそうに違いないぞ。

 でも、長門はハルヒの観察者なんだから、ハルヒが死んだらこの殺し合いに意味はないんじゃないだろうか。
 そんな思いも浮かぶが、それは……その答えは……
 そうか! それなら説明がつく。

6 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:37:25 ID:SF0f54Dw

「もしかしたらお前は本当に死んでも消えてないのかもな。
 だとしたら殺し合いが続いてる理由もわかる。そうだとしたら俺のやることは決まってる。
 一刻も早くこの殺し合いを終わらせなきゃならん。そうだ。そうしよう」

 ハルヒが消えていないなら情報爆発とやらも起こる可能性がある。
 だから殺し合いが続いてるんだ。実験続行ってわけだな。

「ちょ、ちょっとどうしたの? キョン。
 そりゃ、殺し合いを終わらせるのはいいけど、あんた何か変よ?」

 ハルヒが何か言ってるが、あいつには何も知らせない方がいい。長門もそう望んでいるだろう。
 俺はただこの殺し合いをさっさと終わらせて、元の世界に早く帰れるようにすればいいんだ。
 そうさ。何も俺が殺して回る必要はない。殺し合いをスムーズに進める手伝いをすればいい。
 そうだ。それがいい。そして俺たちは元の生活に戻るんだ……

「こら、キョン! あたしの言ったこと本当にわかってんの!? ねえ!」

 まったく、死んでもうるさいヤツだ。
 いいから大人しく待ってろ、なるべく早く殺し合いを終わらせてやるから。
 そう。なるべく早く、全員が死ぬように頑張るから――

7 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:38:05 ID:SF0f54Dw





「う……ぐわあぁああぁあーーーーっ!!」

 目が覚めた時、俺はウォーズマンにわけのわからない関節技を極められていた。
 ガイバーになったって痛みがなくなるわけでも関節が自由に曲がるわけでもない。
 つまり、めちゃくちゃ痛かった。

「むっ!? キョン! 目が覚めたのか!」
「な……なんだ……こりゃあ! うわあぁっ!!」

 さらにまずい事に、俺はなぜか空中に浮かんでいたらしい。
 それなのに、状況がわからない俺は思わず重力制御球をストップさせてしまった。
 結果的に俺と背中に乗っているウォーズマンは落下する。

「うおっ……うっぎゃあああぁあぁああーーーーっ!!!」

 落ちた高さは1メートルほどだったが、ウォーズマンを背負って腕を極められたまま着地したのがまずかった。
 ウォーズマンの全体重が俺の腕関節や腰や脚を襲い、全身が悲鳴を上げる。
 痛いってレベルじゃねーぞ。俺がガイバーじゃなかったら即死だった。

『ああーーっ。あいつ目が覚めたみたいですぅ!』
「よかった。キョンくん! 早くギブアップした方がいいよー!」

 檻の外で観客と化した2人が何か言ってやがる。
 そうだった、俺はウォーズマンと戦ってる最中に気絶してたんだ。
 それで俺が気絶してる間にこの有様ってわけか。
 いや、おかしいだろ。普通気絶したらそこで試合終了じゃないのか?

「き……気絶してる間に関節技極めるなんて、お前それでも正義の味方か!」
「何を言っている。お前が気を失っている間も、お前は戦い続けていたんだぞ。
 もっとも、お前自身よりよほど手強かったがな」

 俺の腕を締め上げながら背中でウォーズマンがそう言った。
 どういう事だ? 俺は無意識でも戦う武術の達人にでもなったのか?

8 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:38:43 ID:SF0f54Dw

「これは予想だけど、キョン君のその鎧が勝手に戦ってたみたいだよー!」
『その状態になってもギブアップしないからどうしようかと相談していたですよー!』
「……そう言うことだ。いっそのこと腕をへし折ろうかとも思っていたところだぞ?」

 思うな! 恐ろしいことを考えるやつだな。
 しかし痛い。これは痛い。やばいって。腕がもげそうだ!
 小学生が真似したらどうするんだ。下手に真似できてしまいそうなところがまた危険だ。
 いっそ相手を逆さまに持ち上げてジャンプするぐらい荒唐無稽なら真似もできないだろうに。

「ぐおおおぉおお! わ、わかった! ギブアップ! ギブアップだ!」

 だが、ウォーズマンはなかなか技を解かない。くそ、やっぱり俺を痛めつけようって魂胆か。

「お前が改心して殺し合いをやめると約束するまで、技を解くわけにはいかんな。どうだ、反省したか?」
「わかった! わかったから! 反省した! もう殺し合いなんかに乗らない!
 約束するから勘弁してくれ!」
「ふむ、どうかな? 口だけなら何とでも言えるが」
「ぐわああぁぁあーーーー!」

 ウォーズマンのヤツ、この期に及んでさらに腕をひねり上げて来やがった。
 何するんだこの野郎! お前本当にやめる気あんのか! このサディストめ!
 しかし、この状況では下手に出るしかない。どうせプライドなんかとうに捨てた俺だ。構うもんか。

「わ、わかりましたァーーッ!! 私キョンめは深く反省し、殺し合いにはもう乗らないと誓いますーーっ!!
 これからは心を入れ替えて、皆様のお手伝いをさせていただきたいと存じ上げますーーーっ!!」
「……ウォーズマンさん。もうそれぐらいで許してあげてもいいんじゃないですか?」

 恥を捨てた甲斐あって、スバルが同情したらしく、助け船を出してくれた。
 相変わらず安っぽい同情だ。まあ、おかげで助かったけど。

「うむ。これぐらいやっておけば少しは懲りただろう。
 審判。これで試合は終了だ。文句はないな」

 俺からは見えないが、長門はウォーズマンの言葉を了承したらしく、ウォーズマンの技が解かれ、俺は自由になった。
 自由になってから改めて見ると、長門が『試合終了。勝者、ウォーズマン』と書いたプラカードを掲げていた。
 それとほぼ同時に檻の出入り口が開き、スバルたちが入ってくる。

9 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:39:25 ID:SF0f54Dw

『ウォーズマンさん、お怪我はありませんかぁ?』
「ああ。最後の力比べで体が疲れているぐらいで、外傷は無い」
『無事で何よりです〜』

 ちっこいのとウォーズマンがそんな会話をしている。
 そしてスバルはおれの方へ来て、膝をついて俺の怪我を確認し始めた。

「この鎧着てるからよくわかんないけど、大丈夫?
 でも、これで少しは懲りたでしょう?」

 何を言ってやがる。不良少年を教育する青春ドラマじゃあるまいし。
 俺はちっとも改心なんかしてないんだよ。この偽善者どもめ。
 しかし、俺はガイバーで顔が見えないのをいいことに、殊勝な振りをする。

「ああ。俺はどうかしていたんだと思うよ。やっぱり人殺しなんて許される事じゃないよな。
 こんな所に連れてこられて、こんな力を手に入れて、俺は気が動転していたのかもしれない」
「…………ふーーーん」

 な、なんだスバル、その疑いの目は。人が下手に出てやってるって言うのに。

『いくら何でも急に変わりすぎって気がします〜
 この人がそんなにあっさり心を入れ替えるとは考えにくいですよ〜?』

 くそ! こいつまで余計な事を言い出しやがって!
 しかしさすがにあれだけ頑なにこいつらを拒絶し続けて、いきなり手のひら返したらリアリティが無いか。
 だったらもうこれぐらいしかない!

「す、すまん!! 確かに俺は心から改心したとは言わない!
 でも、もうお前たちに何かをしようなんて事は思ってないんだ。これだけは信じてくれ!
 俺も迷ってるんだ。どうしたらいいのかわからないんだ。
 でも、お前たちが道を示してくれるなら、俺もそれを信じられるかもしれない。
 だから、どうか俺を許してくれ! この通りだ!」

 俺は最後の手段、土下座を使った。
 ここまですればきっとお人好しのこいつらは俺を許すだろう。
 完全に許さなくても、捕虜扱いで命までは取らない。
 そう、どのみちこいつらに俺を殺す気は無いんだ。要は納得する材料を与えてやればそれでいい。

10 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:40:00 ID:SF0f54Dw

『なんだか調子いいですぅ』
「まあそう言うな、リイン。こいつも一応は懲りて反省したのだろう。
 あまり信用はできないが、この辺で勘弁してやろう」

 よーし。計算通りだ。スバルもこれで……おいおい、なんだよ。あんまり近くでじーっと見るなよ。
 いくらガイバー着てたって女の子に見つめられたら恥ずかしいだろ。
 そう思って戸惑う俺に、スバルはこんな事を言ってきやがった。

「君が本当に改心したかどうかは私にはわからないよ。
 でも、これだけは覚えておいて。
 君が何度道を間違えても、私たちがかならず引き戻す。
 そして、きっと私たちが君を、みんなを元の世界に戻してあげるから。
 私の力は小さくて、信じられないかもしれないけれど、私はずっとそのつもりで居るから。
 今は信じなくてもいいから。それだけは覚えていてね」

 ……なんてヤツだ。こいつは一度は俺とナーガのおっさんに叩きのめされたじゃないか。
 それなのに、なんでこうまで戦えるんだ。なんで前向きなんだ。
 なんで……俺に笑いかけるんだ……

 いかん、ウォーズマンに負けたせいで気が弱くなってるのかもしれん。
 そうだ、そう言えば長門。長門はどうしたんだ。
 俺がそう思ってあたりを見回すと、いつの間にか長門が近くに来ていてぎょっとさせられた。

「な……長門……」
「あなたはさっきのナーガでちょうど3人殺した。ご褒美をもらう権利がある」

 そうか、小学校で最初に殺したやつと、……ハルヒ。そしてナーガのおっさんで3人ってわけか。
 遊園地で妹と一緒にいた子供は死ななかったんだろうな。
 今の俺にはよかった、などとはとても思えんが。

「キョン! 貴様、すでにナーガ以外にも2人も手にかけたのか!」
「キョン君……もしかしたらと思っては居たし、今君を責めても仕方ないかもしれないけど……」
『この事件の解決後には、あなたには相応の刑罰が待っている事は覚悟して下さいですぅ。
 もちろん状況が状況なので、情状酌量の余地はあると思うですけどぉ……』

 あー、まずいな。せっかく治まった奴らの怒りがまた再発しそうだ。特にウォーズマンとか。
 刑罰とやらは一向に構わんが、今ここで死刑にされるってのはまずい。非情にまずいぞ。

11 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:40:54 ID:SF0f54Dw
「誰だ! 誰を殺したんだ! 白状してもらおうか!」

 ウォーズマンが俺に詰め寄ってくる。そんなことを聞いてどうしようってんだ。
 いや、しかし残りの2人もじっとこっちを見てるし、言わずに済ませられる雰囲気じゃないな。
 仕方ない。もしこいつらの知り合いを殺していたらその時はその時だ。

「1人は俺の知り合いで、涼宮ハルヒっていう女子高生だ……です」

 俺がそう言うと、心なしか長門がぴくりと反応したような気がしたが、気のせいか?
 いや、今はそれより他の反応の方をどうにかしないとな。

「もしかして、知り合いを殺したって放送で言ってたのは……君だったの?」

 スバルがつらそうな顔で俺に言った。
 そうだよ。俺だよ。この間抜けな男が守ろうとした女を殺しちまったんだよ。

「そうです。俺が……殺してしまいました」

 重い沈黙がリングを包む。
 しかし、長門はそんなことどうでもいいのか、自分の話を進めていた。

「……ご褒美は、どうする? いらないなら、拒否してもいい。好きにして」
「長門……! あなたって人は……!」

 スバルが拳を振るわせながら言ったが、襲い掛かりはしなかった。
 他の2人もどうやら同じように怒りをこらえているようだ。
 さすがに今長門に向かって行く事の無意味さはわかってきたようだな。
 しかし、長門ももうちょっと伝え方を考えてくれればいいんじゃないか?
 わざとやってるとしたらものすごい嫌がらせだ。

「どうする? あまり長くは待たない」

 スバルのことはまるっきりスルーして長門は言った。あくまでも事務的だな。
 そうだ、これはこいつらをなだめるのに使えるんじゃないか?
 その線で一丁試してみるか。

12 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:41:26 ID:SF0f54Dw

「あー、わかった、長門。ちょっとだけ待ってくれ。
 俺が殺したもう1人の名前は知りません。小学校で開始直後に出会った中学生ぐらいの少年でした。
 その事は後でいくらでも聞いて下さい。でも今はこのご褒美とやらをどうするかだと思うんです。
 長門。そのご褒美ってのは確か、昼までの他の参加者の居場所を教えてくれるってやつだな?」
「そう」

 長門の返事はいつもながら短いな。だが、今はそれはどうでもいい。

「それは1人だけか?」
「そう」
「そうか。……と言うことらしいですが、俺には別に場所を知りたい相手は居ません。
 昼までと言うともうかなり前の情報になりますが、もし皆さんが探している相手が居るなら代わりに聞きましょう。
 せめてもの罪滅ぼし、と言うのもおこがましいし筋も通らないかもしれませんが、無駄にするよりはいいでしょう?
 どうしますか?」

 3人は顔を見合わせる。やっぱり主催者からのご褒美で自分の探し人を探すのは気が引けるんだろうな。
 しかし、それを言ったら食べ物も地図も支給品も全部そうなんだ。割り切った方がいいと思うんだが。
 そう思っていたら、最初に口を開いたのはちっこいの――リインという妖精っぽい少女だった。

『ここは彼の申し出を受けてもいいとリインは思います。
 この長門っていう人に頼るみたいで嫌ですけど、情報は情報ですぅ』

 すると、その言葉に動かされたのか、スバルも自分の意見を言い始めた。

「私が探している人は多いです。でも、一番優先的に保護したいのはヴィヴィオちゃんという小さな女の子です。
 ウォーズマンさんはどうですか?」
「俺は……キン肉スグルやキン肉万太郎といった仲間は居るが、彼らとて正義超人。
 合流できればいいとは思うが、できなくともきっと独自に悪と戦っているだろう。
 メイを殺した男は残念だが名前がわからん。ホリィを殺した男もそうだ。
 ホリィに頼まれた、ゲンキ・ハム・スエゾーの3人のうち誰か1人を選ぶのも難しい。
 ……となれば、やはりそのヴィヴィオという少女を優先するべきだろう」
『そうですねえ。ヴィヴィオちゃんは早く保護してあげた方がいいとリインも思うですぅ』

 いや、待て。確かそのヴィヴィオっていうのはハルヒと一緒に居た……
 いかん、色々思い出してしまった。落ち着け、落ち着くんだ俺。

13 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:41:58 ID:SF0f54Dw
「ヴィヴィオという女の子には会いました。最初の放送の直前ですけど。その時は高校に居ました」
「本当? キョン君」
「ああ。間違いない、いや、間違いありません」
「いや、キョン君。無理に丁寧語使わなくていいよ?」
「で、でも俺は立場的にアレだからな……」
「そんな事より、それが本当でも昼前にどこにいたかわかるならそれに越したことはないだろう」

 そんな事って言うなよ。気を使ってやってるんだから。

「早く、決めて」

 長門がぼそりと俺たちを急かす。あいつの気が変わらないうちにさっさと決めた方がよさそうだな。

「じゃ、じゃあそのヴィヴィオって子の居場所を聞くって事でいいですね?
 長門。そういう事だ。ヴィヴィオちゃんが昼前にどこにいたか教えてくれ」
「わかった。ちょっと待って」

 長門はそう言うとスカートのポケットから1枚の折りたたんだ紙を取り出すと、広げて読み始めた。
 おいおい、ずいぶんとローテクだな。それプリンタで打ち出したのか?
 ていうかその紙を手を伸ばして取ったら読み放題だな。いや、どうせ無理だろうから取らないけど。

「ヴィヴィオという参加者は、12時の放送直前には高校にいた」

 長門はそれだけ言って、また紙を折りたたんでポケットに戻す。

「なんだ、あの子俺と会ってからずっと移動してなかったのか」
『……というか、まさかあなた、ヴィヴィオちゃんにまで襲いかかったりしてないですよね〜?』

 リインが疑わしそうな目つきで俺を見ながらそう言うと、他の2人も俺を同じ目で見た。
 
「ま、待って下さいよ。大丈夫です。怪我はさせてませんから」
「怪我はさせてないって……それはもしかして襲ったけど、って事?」

 スバルが悲しそうな目で俺を見る。やめろ、そういう目はやめろ。
 余計な罪悪感が呼び起こされる。
 しかし、あのヴィヴィオがスバル達の仲間だって事は、このまま一緒にいればいずれバレるかもしれん。
 いつまでも一緒にいる必要はないが、逃げられない可能性もある。
 隠しておくより今の内に言ってしまう方がダメージは少ない……と思う。

14 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:42:30 ID:SF0f54Dw
「この際だ。正直に言う。確かに俺はヴィヴィオちゃんを襲った。
 だが、今は悪かったと思ってる。今度会ったらそんなことはもうしない。約束します」
『なんだか無理して言ってるように見えるですぅ』
「ま、まあまあ。空曹長、キョン君も少しは改心したと思いますし、今その事を言っても仕方ないですし……」
『ぶーー。なんだかスバルはキョンをやけにかばうですねぇ』
「そういうつもりはないんですけど、一応彼を止めた責任があるっていうか……」

 この中では一番甘いのがスバルだから必然的に俺をかばう形になるんだろうな。
 実に気苦労の多そうなヤツだ。
 と、そんな事を俺たちが言い合っていると、突然長門が光の柱に包まれ出した。
 どうやら来た時と同じような演出で戻るつもりらしい。

『じゃあ、私は帰る』

 しかも最後までそのプラカードでしゃべるのか。普段のお前らしからぬユニークさだな。
 ていうか、さっきまでは喋ってただろう。役割によってキャラを変えてるのか?

「…………」

 まさか俺の考えを読んだわけではないだろうが、長門が無言でこちらを見つめていた。
 何か言いたいことでもあるのか。それはあいつの表情からはまったくわからない。
 でも、少なくとも嬉しそうではない。……ような気がした。
 もっとも、俺の願望がそう思わせただけかもしれないが。

 そんな事を俺が思っているうちに、長門の姿は薄れ、光の中に消えていった。

「長門…… いつか貴方の事も、きっと捕まえるから。
 中トトロも、きっと助け出してみせる……」

 消えていく長門を見ていたスバルが、そんな事を言っていた。
 言葉は穏やかだったが、拳を強く握っている。
 こいつの事だ。きっと自分の力不足が悔しいんだろう。わかりやすいヤツだから想像しやすい。

15 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:43:02 ID:SF0f54Dw

「もちろん俺もあの女や草壁タツオを許しておくつもりはない。力を合わせて頑張ろう、スバル」
『リインも及ばずながら頑張るですぅ!』

 ウォーズマンとリインがスバルにそう言った。
 だが、俺はあえて口を挟まない。
 ここで俺が「きっとできますよ」とか言っても、またリインに嘘くさいとか言われるに決まってるからな。

「ええ。ありがとうございます、ウォーズマンさん。リイン空曹長。
 それで、これからどうしますか? もう夕方だし、放送も近いと思うんですけど」
「俺はタママ達と合流する事になっている。
 スバルが止めたいと言っていたナーガとキョンは止めることができたし、今から向かおうと思っているが」

 ウォーズマンがそう言った。なるほど、ウォーズマンには他にも仲間がいたのか。

「そうですか。私は……ヴィヴィオちゃんの事も気になりますが、ウォーズマンさんとご一緒したいと思います。
 私は水野灌太という人とホテルで落ち合う約束をしていたんですが、それはお昼の待ち合わせでもう間に合いません。
 それに、すでにお話したように、ガルル中尉にはとてもお世話になったんです。
 だから、タママさんに中尉の事を自分の口で伝えたいんです」
『そうですねえ。高町一等空尉とも合流したいですけど、情報も無しで探し回るのも効率が悪いですしね〜
 ヴィヴィオちゃんの事も心配ですけど、ひとまずはそれでいいと思うですよ〜』
「そうか。もちろん俺には異論はない。君のような仲間が居れば俺たちも心強い。
 みんな喜ぶだろう。じゃあ早速で悪いが出発するか」

16 勝利か? 土下座か?(後編)  ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/15(金) 20:44:32 ID:SF0f54Dw

 どうやら行き先も決まったようだな。あとは……

「なあ。ナーガのおっさんのデイバッグが落ちてるけど、放っておくのか?」

 俺がそう言うと、3人がこっちを見て、それからおっさんのデイバッグに視線を移した。
 別に俺の口調が戻ったのが気に入らないってわけではないようだ。じゃあ、この喋り方のままでいいか。

「どう……しますか?」
「死んだものの持ち物を奪うようで気は引けるが……」
『この際ですからもらっていくですよ。何か役に立つものが入ってるかもしれないですぅ』

 そう言ってデイバッグを拾いに行ったのはリインだった。
 口うるさい上に図々しいヤツだ。見た目はロリ巨乳のくせに。
 ……いや、もちろん俺にはそんな趣味はないぞ? 誤解の無いように。

『う〜〜ん! よいしょっと。……どうやら地図とか食料とかの基本セットしか入ってないみたいですね〜』
「そうですか。でも食料ならいくらでも必要ですし、やっぱりいただいて行きましょうか」
「それがよさそうだな。ナーガ。お前の荷物、悪いが使わせてもらうぞ」

 そう言ってウォーズマンが黙祷を捧げたのを見て、リインとスバルも手を合わせる。
 ナーガのおっさんの冥福でも祈っているのだろう。仕方ないので俺も手を合わせる。
 自分で殺した相手の冥福を祈るというのも変な感じだが、そこは深く考えない事にしよう。
 ナーガのおっさんを殺した事を蒸し返すわけにはいかない。大人しくしていなければ。

「じゃあ、そのデイバッグはウォーズマンさんのデイバッグにでも入れておいて下さい」
「スバルがそれでいいならそうするが。もし必要になったらいつでも言ってくれ」
「はい。もしそういう事があったらお願いします」
『荷物と言えば……キョンさんの荷物はそのままでいいですか〜?』

 くそっ! こいつ、余計なことに気付きやがって。このまま行けるかと思ったのに。
 おっさんの荷物の事なんか言わない方がよかったか?

17 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:45:05 ID:SF0f54Dw

「そうだな。危険な支給品を持っているかもしれん。一応取り上げておくか」
「そうですね。あ、確か体を大きくする光線銃があったよね?」
『もしかして、それでスバルはさっき大きくなってたですね〜?』
「あ〜、はい。でも結局負けちゃったんですけども……」
「さあ、キョン。デイバッグを見せてもらおうか」

 仕方がない。ここは素直に従っておくか。
 空を飛べば逃げられるかもしれないが、せっかく土下座までして取り入ったんだ。
 惜しいものはあの光線銃ぐらいだし、もっと確実なチャンスが来るまで我慢しておこう。
 こいつらの情報も知っておくに越したことはないし、ダメージもそのうち回復するだろうしな。

「わかったよ。好きなだけ持っていってくれ」
「ふむ……」

 ウォーズマンが俺のデイバッグから中身を取り出していく。
 あの銃と、変な種と、SDカードの入ったカードリーダー。あとは基本セットだけ。
 うん。間違いない。

「この銃は俺が預かっておこう。……いや、スバルに渡しておくか。
 いざという時には役に立つだろう」
「えーと、じゃあお預かりします。必要ならいつでも言って下さい。お預かりするだけですから」

 お預けするのは俺なんだがな。
 まあ、俺だって元々の持ち主じゃないし、俺が言っても返してはくれないんだろうが。

「うむ。あとは……この種はタムタムの木の種? ジェロニモの持っていたものらしいな。
 これも何かの縁かもしれない。俺が預かっておいていいか? スバル」
「はい。お知り合いに関係のあるものなら是非そうなさって下さい」
『最後に残ったこれは……データの入ったカードみたいですね〜?
 キョンさん。中に何のデータが入っているか知ってますか?』

18 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:45:36 ID:SF0f54Dw
 ここで嘘を言ってもいいんだが、どうせ後でばれるんだろうな。
 殺し合いを加速するいい嘘でも思いつけば別だが、あいにくそんなもの思いつかん。
 小説の主人公みたいには行かないな。
 仕方ない。正直に言うか。

「えーと、確かパソコンに繋いでみた時は変な模様が出ただけだったな。
 そう、お前達が魔法を使う時に出るような感じの」
「魔法陣……? なんで魔法陣をこんなデータカードに?」
『リインが直接読み取れればよかったんですが、どうやら無理そうですねえ。
 今のところパソコンに繋ぐしか確認する方法は無さそうです』
「パソコンはコテージにあったんだが、壊しちまったよ。
 他にはどこにあるか知らないが、掲示板に書き込みがあったから他にもいくつかはあると思う。
 コテージには他にもあったかもしれないが、無事かどうか微妙だな」

 なにせコテージはあの有様だ。
 全部が全部ぶっこわれてはいないが、パソコンがあったとして、運良く生き残っているかは疑問だな。

『掲示板があるって事はネットに繋がっているですかあ?』
「そ、そこになんて書いてあったの?」

 ええい、違う質問を同時にするな。ややこしい。

「えーと、1つずつ答えるぞ。
 ネットには繋がってると思うが、インターネットじゃないぞ。
 なんて言うか、この島だけの限定されたネットだ。確か掲示板とチャットとkskっていうのがあった。
 kskっていうのはよくわからんが、キーワードを入れないと入れなかったから重要なコンテンツかもな」
「ネットか。主催者たちが用意したにしては妙な設備だな」
『kskですか〜。何の略でしょうねぇ。一般的に使われている用語には無いと思いますが〜』

 知らん。俺はパソコンの専門家じゃないからな。
 ホームページだってソフトがあったから説明読みながら作っただけだ。

19 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:46:06 ID:SF0f54Dw
「掲示板には、誰が危険人物だとか、どこに危険な人が居そうだとか、そんなことが書いてあったと思う。
 危険人物は確か〜ゼロス、ナーガ、ギュオーだったかな」

 朝比奈さんや古泉の事は別にいいだろう。後で掲示板を見て聞かれたら忘れてたって言おう。
 いや、やっぱり言った方がいいか? しかし嘘の書き込みをしたとか言いにくいしな。
 と思っていたら、ウォーズマンがギュオーという名前に反応しやがった。

「ギュオーだと? そいつは俺と行動を共にしている1人だ。
 その書き込み、間違いはないのか?」
「書き込んだヤツの名前は、なんか変な名前でしたね。
 仲間内でしかわからないことを名前欄に書くって書いてたが、少なくとも俺の知り合いじゃなかった。
 もし知り合いならそいつが信用できるかどうかわかったと思うが」

 さらに俺は掲示板に書いてあったギュオーの容姿や変身能力について説明してやった。
 すると、ウォーズマンは俺の言った内容に心当たりがあるようで、何やら考え込み出した。

「うーむ。ギュオーの事は元々100%信用していたわけではなかったが、もっと疑うべきだろうか?
 そこにはギュオーがどんなふうに危険だと書いてあったんだ?」
「はっきりは覚えていないが、殺し合いに乗っているって事だったと思う。
 書き込んだ連中を襲ってきたとかなんとか」

 確かそんな内容だったと思うが、色々あってはっきりとは覚えてないな。
 まあ大筋間違ってはいないだろう。うん。

「俺が出会った時、ギュオーは確かに戦闘で傷ついていたが、あいつも襲われたと言っていた。
 どちらかが嘘を言っているという事かもしれんが。ウーム」
『ウォーズマンさん、ここでじっと考えていても仕方ないです。
 夕方までに神社に集合って話になっていたですよ?
 早く行かないと放送にも間に合わないですぅ』
「おっと、そうだったな。よし、後は移動しながら考えよう。
 それで、このカードリーダーとカードはスバルが持っていてくれ。
 俺には魔法のことはわからないからな」
「わかりました。お預かりします」

20 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:46:36 ID:SF0f54Dw

 スバルはそう言ってSDカードごとカードリーダーを手にとって自分のデイバッグに放り込んだ。
 それ以外の支給品は返してもらえるようだな。
 食料は無くてもかまわんが、地図や名簿が無いと困りそうだから助かった。
 俺は慌てて基本セットを自分のデイバッグに詰め込んでいった。

「少し走っても大丈夫か? スバル、キョン」
「俺は一応走れると思うけど……」
「ええ。私もなんとか」
『スバル、大丈夫ですか? 無理はいけないですよ?』
「はい、空曹長。ずっと走るのは無理でも少しぐらいなら……」
『――スバル。あなたの疲労は危険なレベルに達しつつあります。少し休んでいくことを推奨します』

 ん? 今の声は誰だ? 聞いたことあるような気もするが。

「レイジングハート! 修復が終わったの?」
『言語機能の修復は完了しました。ただ、デバイスとしての機能は引き続き修復中です』
「そっか。でもよかった! 本当によかった!」

 何かと思ったらスバルの赤いペンダントがしゃべってやがる。
 今更その程度では驚かないけどな。

『レイジングハートさん、リインも居るですよ〜』
『こんにちは、リインフォース空曹長。貴方もこの島に来ておられたのですね』
『はいです〜。せっかくですから情報交換しておくですか?』
『そうですね。直接接触すればデータ通信可能かもしれません。試してみましょう』
『はい〜。リイン頑張るですよ〜』

 リインはそう言ってレイジングハートというスバルの首にぶら下がっているペンダントを両手で掴んだ。
 するとリインとペンダントがぼんやり光り始める。
 さっきの話からするとデータのやり取りでもしているんだろう。
 ファンタジーなのかハイテクなのかよくわからん連中だ。

21 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:47:07 ID:SF0f54Dw

「スバル。そのペンダントは君やリインの仲間なのか?」
「そうでした。ウォーズマンさんに紹介がまだでしたね。
 これは私の上司、高町なのは一等空尉のデバイス。レイジングハートです」
『初めまして、Mr.ウォーズマン。レイジングハートと申します。どうぞよろしく。
 そちらの方はMr.キョンですね。リイン空曹長のデータにありました。よろしくお願いします』
「あ、ああ。よろしく頼む」

 てっきり俺はスルーされてると思ったが、礼儀正しいペンダントだったようだ。
 しかしリインからデータをもらってるなら俺が何をしたか知ってるだろうに。
 まあ社交辞令って事なんだろうな。

「それでこれからどうするんだ? スバル。なんなら俺だけでも先に神社に向かうが?」
「いえ、やっぱり私も行きます。ただ、できれば歩いて行くわけには行きませんか?」
「うむ。多少遅れるかもしれんが、やむを得んだろう。
 弱っている者を守ることも正義超人のつとめだ」
「ありがとうございます。じゃあ、行きましょう」
『キョン。貴方はなるべく先頭を歩いて下さい。要注意人物なんですからね!』

 スバルの肩に座って、赤い宝石のペンダントを抱えたままリインが言う。
 へいへい、わかったよ。先に行けばいいんだろ。
 俺にとってはお前こそ要注意人物だ。いや、要注意妖精か。

 結局隊列は、俺、ウォーズマン、スバル+リイン+レイジングハートという並びになった。
 ウォーズマンは道案内をするから先頭を歩こうとしたようだが、結局は2番目を歩くことになった。
 俺のヘッドビームで奇襲されたら危険だとリインが言ったからである。
 さすがに後ろから撃たれたら回避できないだろうからな。妥当な選択だ。




 こうして俺はこの偽善者達に連行されて森のリングを後にして、神社に向かう事になった。
 神社にいるギュオーってやつが本当に危険人物なら、うまく行けば逃げるチャンスかもしれない。
 ついでに何人か殺せるかもな。できれば強いヤツはつぶし合ってもらいたいが。

22 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:47:40 ID:SF0f54Dw
 夢で見た事がきっかけで行動を変えるなんて我ながら馬鹿馬鹿しいが、基本は変わってない。
 要するにこの殺し合いが早く終わってくれればいい。
 ただ、最悪の場合ハルヒだけでも生き返らせてもらえるように、これまで通り優勝も目指す。
 うん。今までとやる事は同じだ。

 情報統合思念体とやらの趣味の悪さには吐き気がするが、元に戻してくれるなら仕方ないから付き合ってやろう。
 そうだ。元に戻してくれるなら。

 戻してくれるよな? 長門――

23 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:48:19 ID:SF0f54Dw

【I-4 森のリング/一日目・夕方】


【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、0号ガイバー状態
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0:手段を選ばず優勝を目指す。参加者にはなるべく早く死んでもらおう。
1:とりあえずウォーズマン、スバル、リインに従うふりをしておく。
2:ギュオーが危険人物ならどうにか利用して逃げる?
3:午後6時に、採掘場で古泉と合流?
4:ナーガが発見した殺人者と接触する。
5:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。
6:博物館方向にいる人物を警戒。


※巨人殖装の残存エネルギーはあまり無いと思われます、どの程度で尽きるのかは次の書き手にお任せします。
※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っていますが、考え直すかもしれません。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。

24 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:49:00 ID:SF0f54Dw
【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品0〜1) ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の種@キン肉マン
     リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
     デイバッグ(支給品一式入り)
【思考】
1:スバルたちを連れて神社に向かい、タママ達と合流する。
2:ギュオーが危険人物かどうか気になる。
3:タママの仲間、特にサツキと合流したい。
4:もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
5:ゲンキとスエゾーとハムを見つけ次第保護。
6:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。
7:超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
8:キョンを見張る。殺し合いに戻るようならまた叩きのめす。
9:機会があれば、レストラン西側の海を調査したい
10:加持が主催者の手下だったことは他言しない。
11:紫の髪の男だけは許さない。
12:パソコンを見つけたら調べてみよう。
13:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。


【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています
※ギュオーのことは基本的に信用していますが、彼の発言を鵜呑みにはしていません
※加持リョウジを主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくろクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
 本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。
※リインフォースⅡは、レイジングハートとデータを交換しています。どの程度進んだかは次の書き手に任せます。
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)

25 もふもふーな名無しさん :2009/05/15(金) 20:49:45 ID:SF0f54Dw

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)
【装備】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【持ち物】支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6、
     ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
     大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、
【思考】
0:ウォーズマンと神社に行き、タママに中尉の事を伝える。
1:機動六課を再編する。
2:何があっても、理想を貫く。
3:人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4:キョンを見張る。殺し合いに戻るようならまた止める。
5:人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
6:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
7:中トトロを長門有希から取り戻す。
8:ノーヴェのことも気がかり。
9:パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。


※レイジングハートは、リインフォースⅡとデータを交換しています。どの程度進んだかは次の書き手に任せます。

26 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/15(金) 20:51:59 ID:SF0f54Dw
以上です。

前スレの投下分のタイトルは「勝利か? 土下座か?(前編)」になります。

27 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/16(土) 16:26:30 ID:SF0f54Dw
さるさん食らってしまいました。やっぱり夜にした方がよかったかもしれませんね……
上で投下したものと重複する形になりますが、微妙に修正した部分もあるので投下させてもらいます。

よろしければどなたか代理投下お願いします。

28 勝利か? 土下座か?(前編)  ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/16(土) 16:28:10 ID:SF0f54Dw
本スレ投下分の続きからです。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「スクリュー・ドライバーッ!!」

 ウォーズマンの体が再び黒い弾丸となってガイバー目がけて飛んでいく。

「やった! 今度はナーガに使ったのと同じスクリュー・ドライバー! あれを食らったら今度こそ……」
『やっちゃえですぅーー!!』

 2人の期待を裏切ることなく、黒い弾丸は今度も狙い違わずガイバーに命中する……はずだった。
 しかし、ガイバーに残された右側頭部のセンサーはウォーズマンを見失ってはいなかった。
 そしてガイバーは振り向きざまに高周波ソードを伸ばしつつウォーズマンを切り裂こうとする。

「ちぃぃーーっ!!」

 持ち前の分析力で高周波ソードの切れ味を見抜いたウォーズマンは、とっさに体を反転させる。
 そしてスクリュー・ドライバーの回転力を利用してガイバーの腕を蹴り飛ばし、さらにガイバー自身をも蹴り倒す。
 しかし、それはガイバーを遠くに飛ばしただけで、たいしたダメージは与えていない。

 現に、ガイバーは蹴り飛ばされても平気な様子ですっと立ち上がり、戦いに備えて身構えていた。

「これはつまり……スクリュー・ドライバーが破られたという事か。
 おのれ! あんな男に後れを取るとは、俺としたことが!」

 こちらも立ち上がりつつ、ウォーズマンは悔しそうに呻いた。

「そんな! あの技をキョン君が破るなんて!」
『どうもあいつさっきからおかしいです! 別人が戦ってるようにしか見えません!』
「でも、空曹長。別人と言っても……」

 スバルはリインの言うことをもっともだと思いつつも、その原因が思いつかずに口ごもった。

『リインの見たところではあの鎧が怪しいです!
 これは推測ですが、キョンって人はもう、一度目のスクリュー・ドライバーで気絶してると思います。
 急に喋らなくなったのもきっとそのせいです。
 今はあの鎧が勝手に動いて戦ってるとリインは思うですよ〜』
「そんな……鎧が勝手にだなんて……」

 あるはずがない。そう言おうとしたが、あの生き物っぽい鎧を見ると、そういう事もありそうな気がしてくる。
 実際そうとでも思わなければ説明のしようがなかった。
 だが、そうだとすれば今ウォーズマンが戦っている相手はキョンよりずっと手強いという事ではないか。

29 勝利か? 土下座か?(前編)  ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/16(土) 16:29:07 ID:SF0f54Dw
「ウォーズマンさん! キョン君は今自分の意志で戦ってません!
 きっと鎧が勝手に戦ってるんだって空曹長が!!」
『今のそいつは危険ですぅーー! 気をつけて下さいですぅーー!』

 もちろん2人の必死の声はウォーズマンの耳に届いた。
 そして、その事はウォーズマンの方でも薄々感じていた事であった。

「なるほどな。確かにそう考えれば納得が行く。
 だとすれば、少々気合いを入れてかからねばなるまいな!」




 リインたちの予想はまさに正鵠を射ていた。
 ガイバーには殖装者が意識を失った時に作動する自己防護プログラムがそなわっているのだ。
 この状態のガイバーは己の前に立ちふさがる者は何者であっても区別無く撃破する。
 そうすることによって強殖装甲は意識を失った殖装者を守ろうとするのだ。

 もちろん本来のキョンの意図からすれば黙って気絶していてよかったはずだ。
 だが、キョンの中にあるウォーズマンへの敵意と、気を失う瞬間に感じていた恐怖がシステムを作動させてしまったのだ。

「隙のない攻撃……ウォーズマンさん大丈夫かな?」
『う〜ん。油断さえしなければ鎧の自動攻撃なんかには負けないと思うですが……』

 ガイバーの攻撃はその後も絶えることなく続いていた。
 それも、ヘッドビーム、高周波ソード、ソニックバスターと、ガイバーの武器を自在に使いこなしている。
 ウォーズマンが大きな隙を見せればメガスマッシャーさえ撃ってきたかもしれない。

 しかし、リインの言う通り、ウォーズマンとて一流の超人レスラー。
 ガイバーの自己防護プログラムごときに容易く倒されはしない。
 むしろ、正確で隙のない今のガイバーの攻撃は、ファイティングコンピューターには予想しやすい部分もあった。
 だからウォーズマンはたくみにガイバーの攻撃をかわし続けていたが、むろんいつまでも防戦一方ではない。

「フッ。もはや貴様の動きは見切ったぞ!
 そろそろ終わりにさせてもらおうか!」

30 勝利か? 土下座か?(前編)  ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/16(土) 16:30:00 ID:SF0f54Dw
『防戦一方に見えたウォーズマン。いよいよ反撃にでるか?』

 長門が律儀にプラカードで実況する中、ウォーズマンの攻撃が始まった。
 ヘッドビームの的を絞らせぬように左右に体を振りつつガイバーに接近。
 接近する途中でガイバーは一発ヘッドビームを撃ってきたが、発射の瞬間を見極めれば避けることは容易い。
 格闘の間合いに入ったウォーズマンを今度は高周波ソードで切り裂こうとするガイバー。
 しかし、その動きをすでに予想しているウォーズマンは、片手で下からガイバーの腕を跳ね上げて攻撃をかわす。
 ガイバーの剣は肘にあるため、攻撃時は前に移動しながら斬りかかる形になる。
 だから、そうやって回避してしまえばウォーズマンは容易くガイバーの後ろを取ることができた。

 そして、ウォーズマンはガイバーに後ろから襲いかかり、あっという間に『ある形』にガイバーを捕らえてしまった。
 相手の背後から自分の両足を前に出して相手の両足を内側から引っかける。
 相手の両腕をチキンウイングでひねるように絞り上げ、高く差し上げる。
 ウォーズマンがガイバーに背負われるような形でありながら、ガイバーは腕を極められて脱出不可能。
 そう、この形こそがウォーズマンのもう一つの必殺技――

「長門よ! 貴様に見せるのはもったいないが、やむを得まい!
 スバル! リイン! よく見ておけ! これが俺のもう一つの必殺技。パロ・スペシャルだ!!」

 パロ・スペシャルのかかり具合は完璧だった。
 ガイバーに超兵器が多数備わっていると言っても、ほとんどが体の前面についている。
 肘の高周波ソードもパロ・スペシャルが極まった後は前に向いていて後ろは死角になってしまう。
 もはや、ガイバーにウォーズマンを攻撃する手段は残されていないかのように思われた。

「す……すごい! 完全にキョン君の動きを封じ込めている!」
『パロ・スペシャル、かっこいいですぅーー!』

 完全に実況役が板についてきた2人組が驚きの声を上げる。

『キョンは動けない。このままウォーズマンの勝利か?』

 長門もプラカードでウォーズマンの優勢を伝える。
 と言っても他の3人から見て、あまり意味のある行動とは言い難かったが。

31 勝利か? 土下座か?(前編)  ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/16(土) 16:30:36 ID:SF0f54Dw
 だが、ガイバーはその怪力でウォーズマンを振り払おうとし続けていた。
 なにしろ相手は自己防護プログラムである。諦めるという概念はないのだろう。
 しかし、いかに怪力と言ってもウォーズマンとて腕力は人並みではない。
 圧倒的なパワーが売りのバッファローマンやネプチューンマンならいざ知らず、ガイバーにまで必殺技を破られはしない。

「往生際が悪いヤツだ。おとなしくギブアップしろ!」

 ウォーズマンはそう言ったが、そもそも会話もしないガイバーがギブアップするはずはない。
 その事に気付いていたリインがウォーズマンに叫ぶ。

『ウォーズマンさん! そいつは意識がないんですぅーー! ギブアップはしないと思うですぅーー!』
「むむっ! そうか! しまった。
 このまま腕をへし折ってもいいが、キョンを懲らしめると言ってもそこまでやってしまっていいものか……
 そうだ、審判! この状況では決着がつかんぞ! どうするんだ!」

 ウォーズマンは一応この試合の審判である長門に判断を仰ぐ。
 だが、長門の下した裁定は事態を解決するものではなかった。

『彼はギブアップしていないし、意識を失ってもいない、戦闘不能にもなっていない。試合は続行』

 長門が出したプラカードの文字を読んで、ウォーズマンは抗議の声を上げる。

「何を言っている! そもそもこいつは気絶しているんだろう!
 さっきから一言も喋らないのがその証拠だ!」

 ウォーズマンの訴えにリング外の2人もうんうんと頷いたが、長門はそうではなかった。

『現に動いている以上戦う意志があると見なされる。
 実際、あなたが技を解けば彼にもまだ勝つ可能性はわずかにあると予想される』

「技を解けばだろう! このまま腕をへし折ってもいいんだぞ!」

『問題ない。その結果彼が戦闘不能になれば試合はあなたの勝利』

 頑としてウォーズマンの勝利を認めない長門。
 どうやらとことんまでやらせるつもりのようだ。
 長門にしてみればこんな殺し合いを運営しているのだから当然なのだろう
 だが、ウォーズマンはまた長門に対して怒りを強くする。

32 勝利か? 土下座か?(前編)  ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/16(土) 16:31:07 ID:SF0f54Dw
「長門め……どこまでも冷酷な女だ。
 しかし、このままじっとしていても仕方がない。どうしたものか……」
「長門! そんなに私たちを戦わせたいの!?
 キョン君は明らかに意識を失ってるじゃない!」

 スバルがなおも長門に抗議するが、長門はただ首を横に振るだけだ。

(長門……少しは心が通じる相手だと思ったのは、やっぱり私の思いこみだったの……?)

 スバルが悔しそうに唇を噛む。しかしその時、動かないと思われたリング内の状況に変化が起きた。

「うおっ! な、何だ……!!?」

 キョンをどうするかを考えていたウォーズマンの体がふらついていた。
 しかし、パロ・スペシャルは完璧に極まっているはず。
 ガイバーが多少動こうとも、よりきつく締め上げる事はあっても揺らぐことはありえないのだが。

 そう思ってウォーズマンが改めて確認すると、ガイバーはウォーズマンを背負ったまま空中に浮かび上がろうとしていた。
 ガイバーの腹部にある重力制御球が作動して、2人を持ち上げようとしていたのだ。

「おのれ……こしゃくな!
 こんな事で俺のパロ・スペシャルが破られると思うか!」

 とは言え、パロ・スペシャルは重力下において相手を床に立たせていてこそ成り立つ技である。
 いかにファイティングコンピューターと言えども浮遊状態での対策は想定外だった。
 相手を押さえつけるために自分の体重を利用しづらくなり、パロ・スペシャルの拘束力が弱まる。

「くそっ! スクリュー・ドライバーに続いてパロ・スペシャルまでもこんな男に破られてたまるか!
 この状態でも全身をロックしている事に変わりはない! この足も手も、死んでも離さんぞ!」

 フラフラと1メートルほど浮かび上がった状態で、しかしまだパロ・スペシャルは破られていなかった。
 だが、ガイバーは不安定になったパロ・スペシャルを振りほどこうと、怪力でもがき続ける。

「まさか、あのままの状態で浮かび上がるなんて……」
『鎧のくせに嫌なこと考えつくやつですねえ。キョンよりよっぽど賢そうですぅ』
「空曹長、そんな事言ってる場合じゃありませんよ。ウォーズマンさんが……」
『だ〜いじょうぶです。あの技はリインの見立てではそう簡単に破れるとは思えないです』

 リインの言う通り、いくらガイバーが空中で怪力をふるってもパロ・スペシャルは崩れることがなかった。
 もっとも、それは技の完成度だけではなく、ウォーズマンの必殺技を破られまいとする意地がそうさせたのかもしれない。
 だが、その意地に引き寄せられたのか、幸運の女神は確実にウォーズマンに味方しつつあった。

33 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/16(土) 16:48:22 ID:SF0f54Dw
自分で投下できました。スレ汚し、申し訳ありませんでした。 orz

34 スープになっちゃいました :スープになっちゃいました
スープになっちゃいました

35 スープになっちゃいました :スープになっちゃいました
スープになっちゃいました

36 スープになっちゃいました :スープになっちゃいました
スープになっちゃいました

37 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:00:24 ID:SF0f54Dw
ドロロ・リナ・朝倉・ヴィヴィオ・晶・スエゾー・雨蜘蛛の仮投下です。
また使わせていただきます。

38 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:01:36 ID:SF0f54Dw
 ここはズーマとの戦いが終わった直後の遊園地(D−2)。
 支柱を折られて倒れた観覧車などの、戦いの余波による破壊の跡が生々しい。


「あなたたちのおかげで助かったわ。本当にありがとう」

 なぜかメイド服を着て、金髪の幼い少女を背負っているいる女子高生、朝倉涼子。
 彼女の顔には疲労の色が見られたが、それでも微笑みを浮かべながらリナとドロロに礼を言って、ぺこりと頭を下げる。
 すると彼女の長い黒髪がさらりと流れる。

 その容姿を見れば、多くの人は優しそうだとかお淑やかそうだとか、そんな印象を抱くのだろう。
 ――もちろん、必ずしも全ての人が朝倉にそういう印象を抱くわけではないが。

「こっちこそ闇の霧を消してもらって助かっちゃったわ。
 最後のレーザーブレスもどきからも助けてもらったし。
 それにあいつにはずっと命を狙われてたからね。ここで倒せたのはラッキーだったかもしんない」

 リナ=インバースは明るく、軽い口調で朝倉に答える。
 本音を言えばリナはこの朝倉という少女を完全には信用していない。
 彼女の言動にはどこか空々しさを感じてしまうのがその理由だった。
 どことなくあの微笑みを絶やさない魔族、ゼロスを思い出させる。そんな気がしたのだ。
 そもそもさっきズーマの虚霊障界(グーム・エオン)を打ち消したあの能力。おそらく普通の人間ではあるまい。

 だが、朝倉が背中に背負っているヴィヴィオという小さな女の子を守っているのは確かなようだ。
 それに会話していると、少なくともゼロスよりは性根が曲がっていないとも感じられる。
 だからリナは多少の不信感は胸にしまって、朝倉と協力関係を結ぶ方向で話を進めようと考えていた。

「拙者からも礼を言うでござるよ、朝倉殿。
 しかしリナ殿。あのズーマというのは何者だったのでござるか?」

 ドロロがリナに尋ねる。

39 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:02:35 ID:SF0f54Dw
「それが、あたしの世界に居た一流の暗殺者……って事ぐらいしかわかんないのよ。
 個人的にあたしに恨みがあるみたいだったんだけど、何の恨みがあるのか結局聞けずじまいだったし。
 本名、出身、年齢、家族構成、その他もろもろ、一切わかんない」
「そうでござるか。そんな相手がわざわざ連れてこられていたとは、主催者の悪意が感じられるでござるな」
「まあ、殺し合いの場に連れてくるには丁度いいヤツだったんでしょうけどね。
 それよりドロロ、大丈夫? かなりやられてたみたいだけど」
「これしきの傷、ギュオーにやられた左目に比べればたいした怪我ではござらんよ」

 リナにそう答えたドロロではあったが、それでもズーマから受けた傷は浅くはない。
 しかし、それでも暗殺兵として忍者として訓練を積んだドロロにとっては、支障なく活動が可能なレベルでもあった。

「うーん、あんたがそう言うならいいけど。無理しないでよ?
 そうだ。ねえ! アサクラはどう? 大丈夫?」

 朝倉もかなりダメージを受けているはずだと気づき、リナは朝倉に声をかける。
 だが、リナに声をかけられた朝倉はヴィヴィオを背負ったまま何かを探すようにあたりを見回していて気付かない。

「どうしたの〜? アサクラ〜?」
「あ、ごめんなさい。クロスミラージュ……この銃の銃身が落ちていないかと思って探していたのよ」
「銃身……? ああ。こりゃひどいわね。真っ二つだわ」

 リナは朝倉の持つ銃のグリップを見て驚きの声を上げる。

「ガイバーの肘のブレードはどんなものも切り裂くとは聞いていたが、まさにその通りの威力でござったな。
 よかろう。しばし待たれよ、朝倉殿。拙者が探してみるでござる。ニンニンッ!」
「ああっ、ドロロ! あんた一応怪我人でしょうが!
 もう、しょうがないヤツね〜」

 ニンニンと言い残して一瞬で姿を消したドロロにリナは不満の声を上げるが、すでにドロロは見える場所には居なかった。

「ドロロさんって本当に忍者なのね。
 それも小説とか映画とかマンガの中みたいな『らしい』感じの」
「うーん。あたしはそのニンジャってよくわからないんだけど。
 でも、とりあえず何をするにも頼りになる仲間ではあるわね」

40 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:03:17 ID:SF0f54Dw
 2人がそんな話をしている間にもう周囲の探索を終えたのか、ドロロが不意に姿を現す。

「朝倉殿。お探しのものはこれではござらぬか?」

 そう言ってドロロが朝倉に差し出したのは、まさしく切断されたクロスミラージュの銃身であった。
 朝倉は嬉しそうにそれを受け取り、ドロロに礼を言う。

「そう。これよ。ありがとう、ドロロさん」
「少し離れた所に落ちていたでござるよ。
 しかしその状態ではもはや修理も難しいのではござらぬか?」
「そうね。これは私でも直すのは無理みたい。
 くっつけるだけならできるけれど、機能までは回復できそうにないわ。
 ただ、今までいろいろと助けてくれた銃だからなんとなく持っていたかったの……かな?」

 壊れて、直す見込みもない武器を持ち歩くなど、非合理的である。
 だが、なぜか今の朝倉はそうしたいと思った。
 普段の朝倉からすれば少々おかしな行動だったかもしれないが、不思議とそう悪い気分ではない。

 朝倉はヴィヴィオを背負ったまま、受け取ったクロスミラージュを器用にポケットに入れながら、そんな事を思うのだった。

「それで、あなたは大丈夫なの? アサクラ」

 リナは改めて朝倉に怪我のぐあいを尋ねる。
 そして、今度は朝倉もちゃんとそれに答えた。

「そうね。私が自分で治せるのは表面だけだから、まだ結構きついかも」

 苦笑いしながらそう言った朝倉は、確かにかなり具合が悪そうだった。
 何しろバリアジャケット越しとは言え、ガイバー・ズーマの蹴りを受けている朝倉である。
 ヘッドビームで貫かれた脚も、外見上はほとんどわからないほど治っているが、完全にとは行かなかったようだ。
 また、その前に火事の中で吹き飛ばされたりして受けたダメージも無視できない。

41 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:03:57 ID:SF0f54Dw

「じゃあもう一回治癒(リカバリィ)をかけるわ。じっとしてて?」
「ごめんなさい。助かるわ」
「その子は治療が済むまで拙者が支えておくでござる」
「ありがとう。じゃあ、お願いするわ」

 朝倉はドロロに一旦ヴィヴィオを預け、地面に座り込む。
 それを見てリナは朝倉に近寄り、痛みがひどい部分を聞きながら魔法で治療していった。
 ちなみにヴィヴィオが小さいと言っても、ドロロでは抱えきれないので、上半身を支えて地面に座らせている。

「この子は大丈夫なのでござるか? 朝倉殿」

 ドロロがヴィヴィオの様子を見ながら朝倉に尋ねる。
 朝倉はリナの治療を受けながらドロロの方を見て、ヴィヴィオの状態について答えた。

「この子はズーマの攻撃を受けて気絶してしまったの。
 それにズーマに会う前にも市街地で大変な目にあったから疲れているんだと思うわ。
 でも、外傷はないみたいだから、このまま寝かせておきましょう」
「そうでござるな。拙者の見たところでも、たいして怪我はしておられぬようでござる」




 そうしてしばらく経って、リナが朝倉の治療を終える。

「あ〜〜。さすがにちょっと疲れたわね〜〜」
「ありがとう。リナさん。おかげでずいぶん楽になったわ」

 朝倉が立ち上がって、メイド服についた土を払う。
 もちろん今の治療だけで完治したわけではないが、とにかく動くのに支障は無くなったと言える。

「でも……ちょっと体の力が抜けてきた感じもするんだけど」
「あー。治癒(リカバリィ)は回復速度を速めるけど、怪我を治す力は本人のものだからね。
 食べて寝たら治ると思うからそこは我慢しといて〜」

 リナの説明に朝倉は少し落胆するが、すぐに気を取り直して言う。

42 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:04:37 ID:SF0f54Dw

「そうなの…… まあ、それぐらいの代償は仕方ないかな」

 そう言って朝倉はドロロからヴィヴィオを受け取ろうとするが、疲労のせいで思わずよろめいてしまう。

「朝倉殿。その様子ではヴィヴィオ殿を背負うのは危ないのではござらんか?」
「そ、そうかもね。でも、誰かが背負って行かなきゃ……」

 朝倉はヴィヴィオを守るという約束をしたせいか、あくまでも自分でヴィヴィオを背負っていこうとする。
 だが、どう見ても無理をしているのがわかるので、やむなくリナが助け船を出す。

「しょうがないからあたしが背負って行くわよ、アサクラ。
 あたしも疲れてはいるけど、それは魔力を消費してるだけだしね」
「拙者が抱えて運んでもよいのでござるが、この体の大きさゆえ、いささか無理があるでござるな……」

 そう言われて朝倉は少し考えるが、確かに今の自分がヴィヴィオを運ぶのは少々危険なように思えた。

「じゃあ、悪いけどリナさん、お願いできるかしら?」
「ええ。どのみちこんな小さな子、放ってもおけないしね」

 リナはそう答えて自分のデイバッグをドロロに渡し、ヴィヴィオを背負う。

「ああ、軽い軽い。これぐらいなら大丈夫だわ。
 そんじゃ、そろそろ移動を始めましょうか」
「リナさんたちは行くあてがあるの?」
「うむ。拙者たちは放送前に遠くにいる協力者と連絡を取ることになっているでござる。
 そのためにここのスタッフルームに向かう途中で、お二人を助けに来たのでござるよ」
「あら、そうだったの。じゃあ早く行かないとその協力者さんに悪いわね。
 でも、遠くにいる相手とどうやって連絡を取ってるの?」
「パソコンっていう道具があってね。それでチャットっていうのをするのよ」
「パソコンでチャット……? この島でそんな事ができるの?」
「できるでござるよ。朝倉殿はこの島で今までパソコンを見かけたことは無かったでござるか?」
「1回見たんだけど、その時はパソコンのせいで一緒にいた仲間がいなくなっちゃって……
 そう。この島にはネットがあったのね……」

 中学校の3階にあったパソコンは、調べる間もなくゲンキ君たちの方へ向かったから詳しく調べなかったのよね。
 まさかこの島でそんな事ができるようになっていたなんて思わなかったわ……

43 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:05:20 ID:SF0f54Dw
 朝倉はそんな事を考えていたが、リナとドロロはその朝倉の発した言葉に疑問を抱いた。

「パソコンと仲間がいなくなるのと何か関係があんの?」
「ああ、そうね。説明するわ。
 でも、このまま立ち話するのはちょっと…… せめて移動しながらでいいかしら?」
「あ〜〜、そうね。あたしもこのまま立ち話はきついわ」
「おっと、そうでござるな。さあ、こっちでござる。
 そう遠くはないはずでござるよ」

 こうして4人はパソコンのある遊園地のスタッフルームを目指して移動する事になった。




「転移装置? そんなのがあるの?」

 ヴィヴィオを背負って歩きながら朝倉の説明を聞いたリナが驚きの声を上げる。

「ええ。SOSっていうマークが出てるパソコンと、床に変な模様が描かれた部屋。
 他にもあるかもしれないわね。
 もっとも、SOSマークは仲間が消えたと同時に消えちゃって使えないし、
 模様のある部屋からはどこに移動するかわからなかったけどね。
 そうだ、ここに中高生ぐらいの男の子と若い女性とドロロさんに似た感じのカエルっぽい人が来なかった?
 そんなに時間は経ってないはずなんだけど。
 女性の方は茶色の長い髪をこう、左側に結んだ、私よりちょっと年上って感じの人よ。
 その人が『なのは』っていう、ヴィヴィオちゃんのお母さんなの」

 朝倉は自分の頭の左側を指差しながらそう言って冬月やなのは、そして名前を知らないケロロのことを尋ねた。

「申し訳ないが、拙者たちもここにたどり着いたばかりゆえ、わからないでござる。
 しかし少なくとも先ほどの捜し物の時には、誰の気配も感じなかったでござるよ」
「そう…… じゃあやっぱり違う所に転移したってことかしら。
 そうだ。バルディッシュ。あなたは何かわからない?」

 朝倉はヴィヴィオが持っているバルディッシュの事を思い出し、話しかける。

44 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:05:53 ID:SF0f54Dw
『I am sorry. 常に周囲をサーチしては居ますが、あなた方以外の生命反応・魔力反応を感知できません』
「そう。でもあなたが探知できる範囲もそんなに広くはないのよね?」
『Yes. 我々デバイスの探知能力は近距離に制限されています』
「仕方ないか。今は彼女たちは居ないものと思っておきましょう」

 朝倉は納得したようだが、自分の背中から突然誰かの声が聞こえたリナはさすがに驚きを隠せない。

「アサクラ、あんた誰と話してたの? この子の声じゃなさそうだったけど」
「通信機のようなものでござるか?」
「ああ。今話してた相手はバルディッシュって言って、ヴィヴィオちゃんが持ってるデバイスよ。
 デバイスって言うのはヴィヴィオちゃんの世界のアイテムで、魔法をサポートするものらしいわ。
 人工知能が組み込まれていて会話もできるし、ある程度の索敵もやってくれるの。
 さっきドロロさんに探してもらったクロスミラージュもデバイスだったの。
 ねえ、バルディッシュ、2人に挨拶して?」

 朝倉がそう呼びかけると、ヴィヴィオの首に掛かっていたペンダントが少し浮かび上がってちかちかと光を発する。

『私がバルディッシュです。よろしくお願いします』
「バルディッシュはちょっと無口だけど、信用できる相手よ」
「よろしく、バルディッシュ。
 暇になったら魔法のサポートっていうのをちょっとやってみせてくれる? 興味があるわ」
『了解しました。Miss.リナ』

 少々面食らっていたのも最初の内だけだったようで、リナはあっさりデバイスの存在を受け入れていた。
 元々魔法の世界の住人なので、喋るペンダントぐらいは驚愕するほどのものではなかったらしい。
 もちろんそれはドロロにしても同じ事。
 もっとも彼が見慣れている喋るアイテムはクルルが作った発明品などの科学の産物ではあるが。

45 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:06:30 ID:SF0f54Dw
「バルディッシュ殿、よろしくお願いするでござる。
 しかし、朝倉殿が言われたカエルっぽい人というのはおそらく拙者の仲間の誰かでござるな。
 体の色は何色でござったか?」
「炎の中だったからはっきりしないけど、たぶん……緑色だったと思うわ」
「ではそれはきっと隊長殿でござるな。
 拙者が居た世界で、拙者の所属する部隊の隊長をしておられるケロロ軍曹殿でござるよ」

 ドロロはそう言ったが、残念ながらそれがわかった事についてあまり他の2人の反応は芳しくない。
 そもそも彼らが今どこに居るかがわからないのではあまり意味がないのだ。

「ねえアサクラ。その人たちも変な模様の部屋からどこかへ移動したって事?」
「ええ。この目で見たわけじゃないけれど、首輪探知機の反応が一度に消えたからたぶん……」
「へえ〜、首輪探知機なんてあるんだ。今もあるの?」
「それが市街地で誰かの攻撃に巻き込まれて無くしちゃったのよ。
 火事の中だったから、もう回収しても使えないと思う」
「そっか〜。残念ね。役に立ちそうなのに」
「首輪探知機などというものがあるなら、それを調べれば首輪のことも少しはわかったかもしれないでござるが……
 惜しいことをしたでござるな」
「そうね。あの時は思いつかなかったけど、そういう使い方もあったかもしれない。
 壊れていても回収すれば首輪の分析に少しは足しになるかもしれないわね」




 その後一行は黙って歩き続けたが、しばらく経ってからドロロが口を開いた。

「朝倉殿たちは市街地に居たようでござるが、あそこで何があったのでござるか?
 拙者たちもここに来る途中、遠くから煙を見たのでござるが」

 その問いに対して、朝倉は自分の知る限りの事をリナとドロロに話し始めた。
 特に隠したり出し惜しみする事はなく、ヴィヴィオがなのはに会ってすぐに引き離された事なども話す。
 その流れで、朝倉はアスカや小砂と自分達の間に起こった事件の事にも言及していく。

46 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:07:00 ID:SF0f54Dw
 それまで朝倉の話を黙って聞いていた2人だが、その事件の犠牲者の名前には反応せずに居られなかった。

「ゲンキ殿……! ゲンキ殿は死んだのでござるか?」
「知ってるの? ゲンキ君は名前通りの元気そうな男の子だったんだけど……ね。
 優しすぎる性格が災いしたの。
 アスカを助けて、身代わりになって小砂に撃たれたのよ。
 今思えば小砂はアスカだけを狙っていたんだと思う。
 アスカは殺されても無理ないと思うぐらいひどい女の子だったもの。
 現にアスカはゲンキ君や妹ちゃんも、私やヴィヴィオちゃんも、怪物だって決めつけて殺そうとしていたの。
 どこかおかしくなっていたのかもしれないけど、あれじゃ救いようがなかったわ。
 それなのに、ゲンキ君は、自分達を殺そうとしたアスカをかばって……」
「…………」

 ドロロとリナは何も感想を返すことができなかった。
 できれば合流したいと思っていた参加者の1人が、既に死んでいた。
 それも、そんな悲しい死に方をしたと聞かされたのだ。

 そして、そのためにゲンキの友人であるキョンの妹が復讐の末の自殺を望んでいる事も朝倉は話した。
 何とか出来るものならしてやりたい。
 だが、市街地ではぐれたというキョンの妹を助けに行くには少々場所が遠い。
 それに、ヴィヴィオの安全も考えねばならないだろうし、晶たちとの約束もある。
 ズーマとの戦いで受けたダメージや疲労・魔力の消費も考慮しなければならない。
 2人の間に決着がつくまでに2人を発見できるかどうかわからない。
 そして、仮に間に合って駆けつけたとして、どうやって彼女を説得できるというのだろう。
 もはや彼らにはキョンの妹の無事を祈る他に出来ることはないように思えたのだ。

「ゲンキって子は、今から連絡を取る相手の知り合いなのよ。
 もし見つけたら一緒に行動しようと思ってたんだけどね」
「そうなの……
 そう言えば、そろそろその協力者っていう人の事も教えてもらえないかしら?
 どういう人たちなの?」

 朝倉にそう聞かれて、リナはドロロと一瞬視線を交わす。
 ドロロはそれに無言の頷きで答えたが、リナはまだ朝倉を信じ切ってはいなかった。
 ここまでの話を聞けばうっかり感情移入してしまいそうになるが、まだ朝倉が嘘を言っている可能性もある。
 ヴィヴィオも寝たままで、証言できそうなのはバルディッシュのみ。
 リナの冷静な判断では、まだ朝倉を信じ切るには材料が足りない。

47 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:07:36 ID:SF0f54Dw
「まあ、名前ぐらいは教えておいた方がいいわね。
 深町晶とスエゾー。あと、参加者じゃないけど小トトロっていうのが一緒にいるらしいわ。
 知ってる名前はある?」
「うーん。残念だけど知らないわね。
 トトロって言う参加者の事は少しだけ聞いたことがあるけど。小トトロっていうのはその関係者なのかしら?」
「たぶんそうみたいなんだけど、はっきりとはわかんないのよね〜」
「うむ。喋らない小動物のような生き物のようで、どうやらトトロの関係者らしいという事しかわからないそうでござるよ」
「ふうん。私はトトロっていうのは体格のいい外国人か何かだと思ってたんだけど、違うのかしらね」
「外国人? アサクラ、あんたなんでそう思ったの?」
「ある人に聞いた話から想像したのよ。
 その人が、トトロは大きくて強いって言っていたから。
 でも、不思議な力も使えるって言っていたし、人間じゃないと考えた方が辻褄が合うかもしれないわね」
「その、ある人というのは誰でござるか?」
「うーん…… まあいいか。これからあなたたちとは仲良くやって行きたいし。
 草壁メイっていう小さな女の子よ」

 わざわざもったいぶった言い方をしたのは2人に少しでも恩を売っておこうという打算なのだろう。
 だが、2人はそんな事よりも朝倉の言った名前に強く興味を引かれて食い付いていた。

「草壁メイ? 草壁メイに会ったの?」
「草壁メイは小さな女の子でござったか。やはり草壁タツオの関係者だったでござるか?」
「それが残念なんだけど、メイちゃんとはこの殺し合いが始まってすぐに会って、すぐに別れちゃったのよ。
 変なマスクとマントを着けた変態っぽい人にさらわれちゃってね。
 一緒にいたウォーズマンっていう人が探しに行ったんだけど……」
「放送で名前を呼ばれていたという事は、助けられなかったでござるな……」
「そうね。私はその後ウォーズマンと合流できなくて、仕方なく別れて行動する事になったの。
 ウォーズマンっていうのは全身まっ黒でヘルメットとマスクで顔を隠した体格のいい男の人でね。
 自分の事を正義超人だって言っていたわ。
 その後会った参加者のキン肉マンって人もそのウォーズマンの知り合いで、正義超人って名乗っていたわね。
 そう名乗るだけあって、悪は許さず弱い者を守るって感じの人たちだったわよ。
 ……外見は変だったけど」

48 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:08:20 ID:SF0f54Dw
 朝倉の話を聞いて、リナは図書館で見つけた本で読んだ知識を思い出す。
 だが、あの本に書いてあった内容を思い出して何とも言えない気分になり、あえてその事を口にはしないのだった。

「しかし、草壁メイとトトロはやはり関係者でござったか」

 少しの沈黙の後、そうつぶやいたドロロに朝倉が話しかける。

「メイちゃんは友達だって言っていたわ。
 あと、言っていた事といえば、草壁サツキがおねえちゃんだって事ぐらいね」
「おねえちゃん、でござるか。そうなると草壁サツキもやはりまだ子供と考えてよいでござろうな」
「それはわからないけど……もう草壁サツキは死んでいると思うわ」
「……思うって事は誰かに聞いたって事かしら?」

 朝倉の驚くべき発言を聞いて、リナは真剣な顔で確認する。

「ええ。さっき話したアスカって女の子が殺したって言っていたわ。
 草壁サツキが彼女の味方に襲いかかってきたからって。
 主催者の手先だったとも言っていたけど、彼女の言う事じゃ信用はできないと思う」
「う〜む。それは……また……」

 ドロロも、そしてリナも言葉を失った。
 むろん2人ともこんな殺し合いに巻き込まれているのだから、そういう事が起こりうるのは予想していた。
 だが、現実に狂ったように人を攻撃している人物の話を聞くとさすがに嫌な気分にさせられる。
 朝倉から聞いたアスカの発言内容も、朝倉に言われるまでもなくあまり信じていなかった。

「そっか。じゃあもう直接草壁サツキから話を聞くことはできないのね」
「残念だけど、そう言うことになるわね。
 アスカの勘違いであってくれればとは思うけど、そんな幸運は期待できないかな……」

49 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:08:56 ID:SF0f54Dw
 朝倉の言葉に一行の足取りは重くなる。

「しかし、まだ草壁姉妹の情報を調べる手段はあるでござるよ。
 草壁タツオに繋がる線が完全に絶たれたわけではござらん」

 ドロロがそう言うと、朝倉がそれに興味を持って尋ねてくる。

「ということは、何か調べるあてがあるの?」

 そう聞かれて、ドロロは朝倉に悟られぬように素早くリナの方を伺う。
 リナは首を振ったりはしないが、あまりいい顔はしていない。直前まで伏せておこうという事だろう。

「確かに今から行く先にあてはあるでござる。でも、それはその時になってからのお楽しみとさせて下され。
 もし上手く行かずにぬか喜びさせてしまっては申し訳ないゆえ」
「……そう。わかったわ。楽しみにしておくわね」

 こうしてある程度の会話を進めた一行は、少々重苦しい空気の中、スタッフルームに向かって歩き続けた。







「……ふう。やっと映像を確認できたな。
 これでドロロさんとチャットを再開した時に伝えるべき事はわかったぞ」

 場面は変わって、ここはH−8エリアにある博物館。
 その中にある学習室の中に設置されているパソコンの前で晶がつぶやく。
 ちなみに食事の時に解除していたガイバーは念のため再び殖装している。

50 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:09:40 ID:SF0f54Dw
 晶・スエゾー・小トトロはドロロ・リナ=インバースの2人とこのパソコンから見られる映像を確認する約束をしていた。
 だが、川口夏子とチャットしたり、食料を探したり、雨蜘蛛と話をしたりしていたために、今やっと確認が済んだのだ。

「しかし、異世界ってやつは底が知れねえな〜〜
 その映像に出てきたアシュラマンにしてもオメガマンにしても、想像を絶するバケモンだ。
 スバルって女もそいつらに勝っちまうんだから同じようなモンだな。
 ガルルってカエルの最後はあっけなかったが、あんな生き物が居るって事自体が不思議発見だぜぇ〜〜?」

 同じ部屋で脚を組んで椅子に座り、帽子とゴーグルとマスクで顔を隠した怪しい男、雨蜘蛛が晶に話しかけた。
 そして、やはり同じ部屋にいるスエゾーも話に加わる。

「オレから見たらまだ理解できる範囲内やったけどな。
 せやけど、このオメガマンっちゅうやつはホンマに許せんやっちゃ。
 今度会うたら……いててて」

 オメガマンへの怒りで力んだせいか、スエゾーが体の痛みで顔をしかめる。
 一応怪我の応急処置はしてあるが、万全の状態とは言い難い。

「無理するなよスエゾー。もしオメガマンを見つけたら俺も一緒に戦うから」
「おんやあ? 晶。お前は確かみんなで生き残るつもりじゃなかったのか?
 こいつだって生き残るために割り切って人を襲ってるだけで、被害者には違いないんじゃねえの?」

 雨蜘蛛がからかうように晶に問いかける。
 ふだんの雨蜘蛛ならばいちいち青臭い相手にツッコミなど入れなかった。
 いや、むしろ近づきたがらなかっただろう。
 だが、雨蜘蛛は空を飛べる深町晶を利用するつもりなので、とりあえず近くに居るのは避けられない。
 それでついなんとなく口を出してしまった。要するに暇つぶしだ。

「そ、それは…… でも、このオメガマンは力を合わせて殺し合いを潰そうと言っても聞くような相手とは思えません」
「話を聞かないやつは力でぶっ潰す、か。いいねえ。それが正解ってもんだ。
 お前さんにその覚悟があるなら何も言うことはないぜえ〜
 だがまあ。途方もない大仕事をやろうって時には、それだけじゃ足りない事もあるがなぁ〜?」
「足りないって……何がですか?」

51 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:10:51 ID:SF0f54Dw
晶のその返事を聞いて、雨蜘蛛は呆れたよう椅子に座ったまま天を仰ぎながら言った。

「カ〜〜ッ。まったく、お前はどうしようもない唐変木だな。
 少しは考えるとかしたらどうなんだ、このドテカボチャ!
 利用するんだよ。ヤツが殺しを望んでいようが、その考えを読めば利用する隙はあるもんだ。
 敵だけじゃねえ。この島のありとあらゆるものを利用できる知恵がなくちゃ到底脱出なんざ不可能だぜ?
 お前さん、本気で殺し合いを潰す気があるのか?」
「あ、あります! こんな殺し合いに乗るなんて絶対できません。
 俺の進む道は、殺し合いを潰す事しかないんです」
「そうかい。だがな、こうして話してる内容があの草壁ってオッサンや長門って小娘に筒抜けになってるとは思わないのか?
 もし筒抜けだったらどうする? 今頃あいつらお前の話を聞いて大爆笑してるぜ〜? ひ〜っひっひっひぃ」
「うっ……」

 言われてみればその通りだ。
 首輪に発信器のようなものがついている事は間違いないだろう。
 だからこそ主催者たちは死亡者を発表することができるのだ。
 だったらマイクだって仕込まれているかもしれないと、晶とて薄々わかっては居たのだ。

 まだ具体的にどうやって主催者に立ち向かうか何もわかっていないので油断していたかもしれない。
 だが、殺し合いを潰すための行動を続けていれば、いずれ目をつけられて殺されるかもしれないのだ。
 ――あの、最初に液体にされた少年のように。

「それぐらい相手はでっけえってこった。
 どうだ? なんだったら諦めて殺し合いに乗ってみるか?
 俺だって主催者どもを信用してるわけじゃあねえが、立ち向かうよりはマシだと思わねえか? んん〜?」
「ダメです! そんなことできるもんか!」
「そうやそうや! 強い相手やから言うていいなりになって人殺しなんかできるかいな!」

 晶もスエゾーも殺し合いに乗る気は欠片もなさそうだ。

「まったく、おめでたい連中だぜ。
 だが、それが本物の信念ならいいが、本当の地獄を見てもまーだ言ってられるかねえ〜?」

52 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:11:29 ID:SF0f54Dw
 雨蜘蛛は手をひらひらさせながらそう言って、晶とスエゾーをあしらう。
 だが、晶はひるまずに雨蜘蛛を正面から見据えて答えた。

「地獄なら……もう見ました。ここに連れて来られる前に」
「オレかて地獄のひとつやふたつ、見てへんて思うなや!?」

 スエゾーもでっかい一つ目で雨蜘蛛を見据えて言う。
 
「ほ〜う。言うじゃ〜ねえか。
 だったらもっと真面目に頭を使ってやるこったなぁ〜
 あんまりお粗末だとだ〜れもお前らの所になんか来てくれねえぜ?
 もちろん、俺だってお前らがダメだと思ったらそれまでさ。俺は自分の命が助かることが最優先だからなぁ〜」
「雨蜘蛛さん……」

 晶はそう言った雨蜘蛛を苦しそうな顔で見つめた。
 スエゾーもしかめっ面で雨蜘蛛を見ている。
 雨蜘蛛は言い過ぎたか? と少し後悔したが、言ってしまったものは仕方がない。
 本来の雨蜘蛛の目的からすれば、晶たちに調子を合わせて利用するはずだったのだが、どうも話が違ってきた。

(どうやら俺はこいつらにちょいと興味が湧いてきたようだなぁ〜)

 ヘンテコな鎧を着込んだ、自称・地獄を見てきた少年と目玉お化け、それとおまけのもふもふ。
 何が雨蜘蛛の興味を引いたかはわからないが、人の縁の始まりなどこんなものかもしれない。
 もちろん雨蜘蛛の性格からして、いつ切れるかわからない縁ではある。
 ある瞬間、あっさり晶たちの敵に回る時が来るのかもしれない。
 だが、少なくとも利用価値があるうちはこいつらに肩入れしてやってもいいかと雨蜘蛛は思うのだった。

53 遊園地に日は暮れる ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:12:08 ID:SF0f54Dw


 ぽむ ぽむ


 雨蜘蛛の言葉に自分の無策を改めて自覚させられて黙り込んだ晶の手に何かが当たる。
 晶がそっちを見ると小トトロが机の上に置いたガイバーの手の上で跳びはねていた。

「どうしたんだ、小トトロ? あっ、チャットか!」

 振り返った事でパソコンの画面が目に入り、晶はチャットに変化があったことに気付いた。
 いつドロロたちから連絡があってもいいように、『ゴーレムの友』という名前でチャットに入ったままにしておいたのだ。

「そ、そうやった。そろそろドロロから連絡がある頃やったな」
「お〜っ? やっと来たか〜 そいつらから何かいい情報が入るといいんだがな〜?」
「まだ遊園地のパソコンにたどり着いただけかもしれませんけどね」

 そう言って晶はパソコンに向かってキーボードを叩き始めた。

54 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:13:01 ID:SF0f54Dw
まだ続きます。実は全部で4本あるんです……

55 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:13:58 ID:SF0f54Dw


 少し時間はさかのぼる。


「少々遅くなってしまったでござるな」

 遊園地(D−2)のスタッフルームにあるパソコンを立ち上げながら、ドロロがつぶやいた。
 同じ部屋には、ドロロがここまで行動を共にしてきた魔法使いの少女、リナ=インバースの他に新たに2人の人影がある。
 1人はメイド服を着た女子高生、朝倉涼子。
 もう1人は5歳ぐらいの金髪の女の子、ヴィヴィオである。
 ちなみにヴィヴィオはまだ目を覚ましておらず、スタッフルームのソファーに寝かされている。

「少しぐらい遅れたって仕方ないわよ。あんな事があったんだし。
 放送前には充分間に合ってるんだから、問題ないわよ」
「確かにそうかもしれぬでござるな。あとはあちらに何事も起こっておらねばよいのでござるが……」

 そうつぶやいてドロロはパソコンが立ち上がるのを待つ。
 しばらく経つとデスクトップ画面が表示された。
 壁紙は青いもふもふした生物とそれより一回り小さい白いもふもふした生物がてくてくと歩いている画像だ。
 そしてアイコンは『Ksknet Explorer』のみ。
 最初に見た時となんら変化はない。
 だが、ドロロはふとその白い生物に注意を引かれ、しげしげと観察し始めた。

「リナ殿。この白いもふもふした生物はもしや小トトロでござろうか?」
「え? ああ、そう言えば白くてもふもふしてるわね。じゃあ横の青いのがトトロかしら?」
「うーむ。とりあえず後で晶殿に聞いてみるしかないでござるな」

 実物を見ていないのだからどうしようもないと思い直し、ドロロは『Ksknet Explorer』をダブルクリックした。
 すぐにksknetの画面が表示され、掲示板、チャットルーム、kskという3つのコンテンツが表示される。

「へえ〜。こんな風になってるのね。でもさすがにインターネットには接続してないか……」

 朝倉がそう言ってドロロの左側にやって来て椅子に座り、画面を覗き込む。
 リナも右横に座って画面を見ているので、ドロロは両手に花といった状態である。
 もっとも、ドロロはその事を特に意識してはいないのだが。

56 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:14:34 ID:SF0f54Dw
「そうだ、ドロロの治療もついでにやっといた方がいいわね。この先も何が起こるかわかんないし」

 リナはそう言って、またドロロの傷に治癒(リカバリィ)をかけ始める。

「リナ殿も魔法を使い続けて疲れておられるのではござらんか?
 ここまでヴィヴィオ殿を背負ってきたのでござるし。無理はせぬ方がよいでござるよ?」
「心配しなくても大丈夫よ、ドロロ。落ち着ける時間があれば回復する方法もあるしね」
「う〜む。リナ殿がそう言うのであれば……」

 ドロロはまだ遠慮しているようだが、それ以上は何も言わない事にしたようだった。
 そこで、ふと気になってドロロが朝倉に尋ねる。
 
「朝倉殿。ヴィヴィオ殿は見ていなくてよいのでござるか?」

 ヴィヴィオが眠っているソファーはパソコンのある机から4メートルほど後にあった。
 放っておいても問題は無いのだろうが、小さな子をほったらかしにするというのは心情的に少し気になったのだ。

「ええ。寝ているだけみたいだし、何かあったらすぐに教えるようにバルディッシュに頼んでおいたから大丈夫よ」
「なるほど。こういう時もデバイスというのは頼りになるでござるな。
 では早速、と言いたい所でござるが、まずは掲示板のチェックをしておいた方がよいでござろう」

 ドロロはそう言ってまず掲示板をクリックする。
 掲示板の内容はほとんど既に読んだものや自分で書き込んだものだが、1つ新しい書き込みが増えている。
 書き込んだ時間は昼過ぎ。書き込んだ人物の名前は「名無しさん@kskいっぱい」
 つまり名前無しの書き込みである。

57 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:15:23 ID:SF0f54Dw
『学生服を着た茶髪の男は危ない、気を許したと思ったら隙を見て襲い掛かってきた。古泉、という奴だ
 そいつは既に人を殺してる、涼宮ハルヒという元の世界の知り合いを高校で殺したと俺に言った』


「確かに第1回の放送で友達に殺された人が居るとは聞いてござったが……」
「これを書いたヤツが誰なのかわからない以上、話半分に聞いておくしかないわよね」

 新しい書き込みへの感想を言ったドロロに、治癒の魔法をかけ続けているリナが答えた。
 しかし、朝倉は彼らの知らない情報を持っていたため、より踏み込んだ意見を述べる。

「これはたぶん嘘よ。涼宮さんを殺したのはキョン君。たぶんそれは間違いないわ。
 目撃者はヴィヴィオちゃんだからね。
 ただ、キョン君はさっきのズーマと同じ変な鎧を着ていたから、顔を見たわけじゃないらしいけど。
 でも、涼宮さんと話していたそうだから、間違いだとは考えにくいの。
 キョン君も涼宮さんの親しい人間だからね」
「うーむ、その鎧はガイバーでござるな。鎧の色は何色だったと言っておられたでござるか?」
「あの鎧、ガイバーって言うの? でも色までは聞いてないわね」
「そうでござるか。ガイバーⅠ殿という事はないであろうが、0号ガイバーという可能性はあると思ったのでござるが」

 ドロロはあえて晶がガイバーⅠだとわからぬように注意しながらそう言った。
 朝倉にそれを打ち明けるのはどうしても必要になってからでいいだろうという配慮であった。

「ガイバーⅠとか0号っていうのがいるの?」
「うむ。ガイバーⅠ殿は水色。0号ガイバーは緑色だと聞いているでござる」
「確かズーマの鎧は黄色だったわね。ガイバーってこの島に一体いくつあんのかしら?」
「さあ。それはなんとも言えぬでござるな。
 あと、気になったのでござるが、涼宮殿を殺したキョンというのはつまり、先ほど話された妹殿の……」

 ドロロが朝倉の方を向いてそう尋ねると、朝倉は少しうつむいて答えた。

「ええ。実のお兄さんよ」
「やはり、そうでござるか……」

 気まずい沈黙が流れる。
 だが、リナがその沈黙を破って、チャットを開始する事を促す。

58 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:15:57 ID:SF0f54Dw
「まあ、その話はその辺でいいんじゃない?
 あんまりこの事で時間潰してもしょうがないわ。ドロロ、チャットを始めましょう」
「そうでござるな。わかったでござる」

 リナに言われて、ドロロはすぐにチャットに移ろうとするが、朝倉がそれを止めた。

「ちょっとだけ待って。他の書き込みも私は見てないの」

 朝倉がそう言って横からキーを操作して画面を上にスクロールさせたので、ドロロは椅子を引いて朝倉に場所を譲る。
 そして、ドロロの治療を続けているリナも、必然的に少し移動する。
 朝倉は「ありがとう」と礼を言って、素早く書き込みのチェックをする。

(朝比奈みくるは主催者の仲間……か。ある意味間違ってないけど、それなら私の方がよっぽど長門さんに近いわね)

 朝倉は自分と長門の関係を告げるかどうか一瞬考えたが、結局話さない事にした。
 今のところ良好な関係になれそうなのに、疑われるような事を進んで話すのはデメリットが大きすぎるからだ。
 後でばれた時にスパイだなどと疑われるのも嫌だが、この2人はかなり冷静に物事を見るタイプのようだ。
 自分に懐いているヴィヴィオも一緒だし、弁明できる可能性は高いと判断した。

 その他の書き込みは危険な人物について警戒を促す同一人物によると思われる書き込みだった。
 だが、その中でゼロスに関する書き込みを発見し、朝倉は興味を引かれる。

「このゼロスって人には会ったわ。
 問答無用で襲いかかって来たりはしなかったし、むしろ友好的と言っていい相手だったけどね。
 でも、確かに何か信用ならない感じのする人ではあったわね」
「この一連の書き込みをしたのは拙者でござる。
 ゼロス殿についてはリナ殿が詳しくご存じなので、書いたことに嘘はないはずでござるよ」

 ドロロの言葉に、朝倉は思わずリナの方を向いて確認する。

59 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:16:42 ID:SF0f54Dw
「本当? リナさん」
「ええ。本当よ。
 ただ、あいつが友好的に接してきたってのもわからなくはないわね。
 あいつだってこの殺し合いの島から出来れば逃げ出したいと思ってるだろうし。
 そのために情報や味方を集めてるって事はありそうだわ」
「拙者が会った時も、首輪に関係する人物は殺さないと言っていたでござるな」
「ふ〜ん。あ、そう言えば、ゼロスさんは『セイギノミカタ』を探してるみたいだったわよ?」

 朝倉のその発言に、リナは少し不思議そうな表情になる。

「正義の味方? なんでかしらね?」
「さあ、それはちょっと……」

 聞かれてもゼロスの考えなどわかるわけはない。朝倉はあやふやな返事をして他の書き込みに感心を移した。
 その後の中・高等学校に危険人物がいるという書き込みについてもリナといくらか話をして朝倉は掲示板を見終える。
 そして、その頃にちょうどリナによるドロロの治療も終了する。

「ほい、これでとりあえず目立つ怪我はふさがったわよ」

 リナはぽんとドロロを軽く叩きながらそう言って、ひとつため息をつく。
 制限を受けているせいか、やはり回復魔法を使うのにも結構な疲労が伴うようだ。

「かたじけないでござる。疲れているようでござるが、大丈夫でござるか? リナ殿」
「う〜ん、結構疲れたわね。回復しときましょっか」

 リナはそう言って自分のデイバッグから赤い宝石――レリックを取り出し、意識を集中させる。
 その様子を見て、朝倉がドロロにパソコン前の場所を譲りながら尋ねる。

「ありがとう。もういいわ、ドロロさん。
 ところでその、リナさんが持ってる宝石は何なの?」

 まあ、突然リナが宝石を持ち出して見つめだしたのを見て、疑問に思うのは当然だろう。

「ああ。あれはリナ殿の精神力の回復を早める効果がある宝石でござる。
 他にも使い道があるかもしれないでござるが、説明書きが無くてわからないのでござる」
「ふ〜ん。あれを使えば私も少しは疲れが回復するかしら?
 こうして座れたのはよかったけど、そろそろ眠るとかしないと限界が近いかもしれないわ」

60 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:17:27 ID:SF0f54Dw

 実際朝倉はかなり疲れがたまっていたのでそう尋ねてみる。
 だが、リナの返事は朝倉を喜ばせる内容ではなかった。

「それは無理だと思うわよ? あたしは魔力を取り込んで自分の精神の疲労を回復してるわけだから。
 アサクラには、っていうか魔法を使う人じゃなきゃ難しいんじゃないかしらね」
「そう……残念ね。
 でも、ヴィヴィオちゃんは魔力を使うみたいだからもしかしたら…… ちょっと見せてくれる?」

 朝倉はそう言うと立ち上がり、リナの座っている方、ドロロの右斜め後方あたりへ椅子ごと移動する。

「チャットは始めてよいでござるか?」
「あたしは別にいいわよ? アサクラはこの宝石が気になるみたいだけど」
「あ、ごめんなさいドロロさん。気にしないで始めて?」

 ドロロは急に他のことを始めた2人に一応確認する。
 そしてどうやら問題なさそうなので、マウスを操作して掲示板からトップページに戻り、チャットのページに入った。
 それからチャットの名前入力画面に移ると、そこには現在チャットに1人入室していると表示されている。

「おお、ちゃんと待っていてくれたようでござるな」
「まあ、深町晶だからね」

 リナのその言葉に、朝倉は深町晶だと待っていてくれるという事になるのだろうかと疑問を抱くがあえて口にはしない。
 そして朝倉はそれよりもこっちが先だと、リナから受け取ったレリックをよく観察する。

 朝倉には本来魔力というものの情報がなかったものの、クロスミラージュを扱った事で多少は理解できていた。
 その事がレリックを理解する上で役に立つ。
 どうやらこれは内部に膨大なエネルギーを蓄えた物質のようだった。

 そうして朝倉が考えている間に、ドロロは名前欄に『泥団子先輩R』という名前を入力してチャットに入室する。
 それに気付いた朝倉がちらりとドロロの肩越しに画面を除いて、ドロロに尋ねる。

「……なんなの? その泥団子先輩Rっていう名前」
「いくら何でもチャットに本名で入るのは抵抗があったゆえ、知り合いだけにはわかりそうな名前を考えたのでござる。
 この名前を見ればたぶん拙者の知り合いにはわかるはず。わかると思う。わかったらいいな……」
「ちょ、ちょっとドロロさん、どうしたの?」

61 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:18:09 ID:SF0f54Dw
 タママあたりが「こんな名前知らないですぅ」と言っている姿が容易に想像できたので、ドロロは落ち込みそうになる。
 だが、こんな所で鬱になっていても2人や晶たちに迷惑なのでどうにか持ちこたえるドロロであった。

「い、いや、なんでもないでござるよ。
 うむ、やはり中にいたのは晶殿でござったな」

 チャットに入ると、画面右側には『ゴーレムの友』という名前が表示されている。
 ドロロは手早くキーを叩き、チャットを開始する。


  (泥団子先輩Rさんが入室しました)
  泥団子先輩R>お待たせしたでござる。


 だが、なかなか晶からの返事がない。

「離席してるのか、画面を見てないんじゃないかしら。
 いくら待ってるとは言っても、ずっと画面に張り付いてるのも疲れるだろうし」

 朝倉が推測を述べる。
 そして、ドロロとリナもそれには納得したので、しばらく待ってみることになった。

 ちょうどいい暇が出来たと、朝倉はレリックに意識を戻し、情報改変のプランを頭の中で構築していく。
 リナは難しいと言っていたが、これなら少し手を加えればリナのやっている事をもっとやりやすくできる。
 朝倉はそう考えたのだった。

「ねえ、リナさん。この宝石にちょっと手を加えてもいいかしら?」
「手を加えるって……どうするかにもよるわね。
 それ、うっかり手を出すと大爆発する可能性もあるわよ?」
「だ、大爆発でござるか?」

 リナの説明でドロロが少し緊張する。こんな所で大爆発など起こされてはたまらない。
 しかし朝倉はそういう心配はまったくないと説明する。

62 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:18:56 ID:SF0f54Dw
「大丈夫。急激にエネルギーを解放するようなヘマはしないわ。
 リナさんがやってる作業がやりやすくなるように改変するだけだから」
「う〜ん。アサクラを疑ってるようで悪いけど、ちょっと心配ね。
 本当の本当に大丈夫?」
「ええ。宝石の構造そのものには手は出さないから危険はないわ」

 リナはそれを聞いても少し迷っていたが、結局は朝倉の言うことを信じることにした。
 精神力の回復が楽にできるようになれば、リナにとっては願ってもない事だったからだ。

「わかったわ。じゃあお願い。アサクラ」
「まかせて。すぐに済むから」

 リナにそう言って朝倉は数秒間異常なスピードで呪文のような複雑な発音をする。
 あとはあっけないものだった。ただレリックが一瞬ぼんやり光を放ったぐらいで、朝倉の作業は終わってしまった。

「はい、リナさん。試しに魔力を引き出してみて?」

 朝倉はそう言ってリナにレリックを返す。
 あまりに簡単に終わったのでリナは半信半疑だったが、言われた通りにやってみる。

「あ、確かにさっきより楽ね。回復量はそんなに増えてないけど、ほとんど集中してなくてもいいみたい」

 リナはそう言って素直に朝倉の改変の効果を認めた。
 これなら手に持ってさえいれば、普通に会話や考え事をしながらでも回復ができるだろう。

「でも、やってもらってこう言うのは悪いんだけど、それでもアサクラには使えないと思うわよ?」
「それはいいんだけど、後でそれをヴィヴィオちゃんにも貸してくれないかしら?
 ヴィヴィオちゃんならそれを使えると思うの」

 そう言われてリナは少し考えるが、手を加えてもらった恩があるので、ここは素直に頼みを聞いておく事にする。

「そうねー。うん、いいわ。あの子が起きたら自由に使ってちょうだい」
「ありがとう、リナさん」
「ううん。こっちこそ感謝しないとね。ありがと、アサクラ」

63 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:19:41 ID:SF0f54Dw
 そう。朝倉がわざわざこんな事をしたのはリナに恩を売るためだけではなく、ヴィヴィオの回復にレリックを使うためだ。
 さっきのままでは高度な技術を持つリナには可能でも、ヴィヴィオには魔力の回復は難しかっただろう。
 だから、朝倉はレリックに改変を施して、ヴィヴィオにも精神の回復ができるようにしたのだ。

 だが、朝倉は知らない。
 かつてヴィヴィオがスカリエッティによってレリックを体内に埋め込まれた事を。
 それによってヴィヴィオが大きな力を得て、操られ、育ての母であるなのはと戦ってしまった事を。




「リナ殿、朝倉殿。あちらから返事が来たでござるよ!」

 リナと朝倉のやりとりに耳を傾けながらも画面を見ていたドロロが、晶たちからの返事が来たことを告げた。

「ん。わかったわ。ちゃっちゃと始めちゃってちょうだい。ドロロ」

 リナはレリックを手に持って精神力の回復を続けながらドロロに答える。
 回復のスピードはあまり変わっていないが、楽に回復できるぶん他にちょっかいも出せるというものだ。

「心得たでござる。
 それでは、まずは互いの状況確認からでござるな」

 リナにそう答えると、ドロロはキーを叩き始め、チャットが本格的に再開された。
 そして、リナの方へ移動していた朝倉も、画面をよく見るために再びドロロの左側へと椅子を持って移動する。


  ゴーレムの友>返事が遅れてすいませんでした。
  泥団子先輩R>いやいや、こちらこそ待たせて申し訳ないでござる。
  泥団子先輩R>そちらは何事も無かったでござるか?
  ゴーレムの友>危険な事は何もありませんでしたが、2人の参加者とコンタクトが取れました。
  ゴーレムの友>1人は川口夏子という人で、そちらが退室した後にチャットに参加して来た人です。
  ゴーレムの友>もう1人は雨蜘蛛という男の人で、こちらは博物館で直接会った人です。
  泥団子先輩R>直接会ったという事は、今も近くにいるでござるか?
  ゴーレムの友>はい。
  ゴーレムの友>雨蜘蛛さんはその、今は殺し合いには乗っていませんが、生き残ることが最優先という方です。

64 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:20:18 ID:SF0f54Dw
「あー、なんか変なのに引っかかってる気がするわね…… なんとなくだけど」

 リナが目を細めながら少々呆れた口調で言う。

「まあ、人が集まれば晶殿のような信用できそうな相手ばかりというのもあり得ない事だとは思うでござるが……」
「ねえ。深町さんたちが何者かに人質を取られたりして脅されているっていう可能性はないの?」

 朝倉はかわいい顔をしてずばっと嫌な可能性に言及した。
 と言っても、もちろん雨蜘蛛の姿と名前が一致しない朝倉が雨蜘蛛の正体に気付いたわけではない。
 単に気になったことを口にしただけだ。

「そうね。その可能性もあるかも」
「しかし、今のところ判断できる情報がなさ過ぎでござる。
 とりあえず話を進めるしかないのでは?」

 ドロロとリナは少しの間う〜んとうなって考えたが、リナが決断を下した。

「まあいいわ。とりあえず余計なことは言わないように釘を刺しておいて、話を進めましょ。
 チャットしてて助けを求めているようなそぶりがあればその時に考える。それでいいわ」
「釘を刺す、でござるか。とにかくやってみるでござるが……」


  泥団子先輩R>その雨蜘蛛殿には失礼かもしれぬでござるが、拙者たちが信用しているのは晶殿とスエゾー殿でござる。
  泥団子先輩R>よって、こちらの情報はあまり伝えぬようにしていただきたいのでござるが、よろしいでござろうか?
  ゴーレムの友>わかりました。合言葉も誰にも教えていません。
  ゴーレムの友>そちらに迷惑がかかることだけは無いように注意します。
  ゴーレムの友>ただ、そちらの名前や多少の情報は伝わってしまいますが、よろしいでしょうか?
  泥団子先輩R>名前程度であれば構わないでござろう。
  泥団子先輩R>一緒に行動する以上、ある程度やむを得ない事は理解できるでござるよ。
  ゴーレムの友>ありがとうございます。ご心配をかけてすいません。


「とりあえず助けを求めている感じは無さそうだけど……どうなのかしら?」
「う〜〜ん。たぶん普通にややこしい参加者を引き込んじゃったって感じだとは思うけど。
 考えても仕方ないわね。ドロロ。話を続けて」
「了解でござる」

65 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:20:50 ID:SF0f54Dw








「おいおい〜。こいつ、俺の事を信用できないって言ってるぜ〜〜
 おじさん傷ついちまうなあ〜〜」
「いや、それはしょうがないんじゃないかな。
 雨蜘蛛さんの事を相手は何も知らないんですから」
「そうやで。タダでさえ相手の顔が見えへんのに、生き残るんが最優先やって聞いたら心配すんのもしゃあないで」

 博物館の学習室のパソコンを前にして、ガイバーⅠ、スエゾー、雨蜘蛛、小トトロの2人と2匹が話し合っていた。
 話し合いと言っても「泥団子先輩R」に釘を刺されたことに雨蜘蛛が愚痴を言っているだけなのだが。
 ついでに言えば小トトロはみんなの顔を見回して頷いたり首をかしげたりしているだけなのだが。

「おいおい。お前らちょっと俺に冷たくないか〜?
 生き残るのが最優先なんて、誰だって同じだぜ?
 なあ〜、俺怒っていいかな〜? なあおい、晶、どうなんだ? ヴルルゥァ〜〜」

 そう言って雨蜘蛛はガイバーをまとった晶の肩をグーでゴンゴンと叩く。
 ガイバーは丈夫なのでその程度では痛みも感じないのだが、精神的にはかなり気になる。

 この雨蜘蛛という人物は確かに晶に無いものを持っている。
 それはきっと狡猾さとか非情さとか言ったたぐいのものだ。
 それは0号ガイバー・キョンとの戦いを経験した晶が欲したもの。
 そして、それはこの島で生き抜いて殺し合いを潰すために必要になる事もあるだろう。
 だが、それに呑まれてしまうわけにはいかない。それが晶の動かせないスタンスであった。

「我慢して下さい、雨蜘蛛さん。
 とりあえず今は情報のやり取りをする事が先決なんですから」
「ちっ。しょうがねえなあ。まあ、俺はこっちで休んでるから、さっさと終わらせちまいな〜〜」

66 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:21:26 ID:SF0f54Dw
 晶に説得されて、雨蜘蛛はしぶしぶパソコン画面から離れた椅子に腰掛けて脚を組み、腕を組んでふんぞり返った。
 無駄に偉そうである。

「しゃあないやっちゃなあ。まあ、食いもんとか荷物とかの恩もあるし悪いヤツやないとは思うんやけど」
「いや、俺はどっちかっていうと、あの人は悪い人に分類できるような気がするよ……」

 雨蜘蛛が語った彼の世界。
 どこもかしこも砂漠で覆われた砂の世界。
 そこでは人が野垂れ死にしようが誰も気にしない。盗賊や人買いは風景の一部だと言っていた。
 人の命がひどく軽く、法も道徳も役に立たない。雨蜘蛛はそんな世界の住人なのだろう。
 そこでは当たり前の考え方は、晶たちにとっては悪だと思える事も充分ありえる。
 そうでなければいいとは思うが、この島ですでに人を殺している可能性だって0ではないと晶は考えていた。

「悪人やったらアカンやんけ! どうするつもりやねん晶!」
「……それでも俺たちはあの人をも味方にして行かなきゃいけない。そう思うんだ。
 あの人が一緒に居ることは、きっと俺たちにもプラスになると思うからね。
 もちろん全部を受け入れるとは言わない。俺たちの絶対譲れない所を譲歩するつもりはないよ。
 それにあの人だって手加減してくれていると思う。
 本気で俺たちを利用するつもりなら、騙すにしろ脅すにしろ、あの人はもっとうまくやれる気がするんだ」

 晶とスエゾーがそんな事を話し合っていると、後ろから雨蜘蛛のツッコミが入る。

「おお〜ぅい! 小声で言っても聞こえてんぞぉおお〜〜ぅ!」
「やかましいわ! ちょっとおとなしゅう待っとれ!」
「前途は多難かなぁ……」

 そうつぶやく晶の方を見て、小トトロが首をかしげる。

 しかし、そんなやり取りをしながらも晶はちゃっかりチャットを進めていた。
 晶も少しこの空気に慣れてきたのかもしれない。

67 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:21:57 ID:SF0f54Dw







  ゴーレムの友>そちらは何事もありませんでしたか?
  泥団子先輩R>こちらも2人の参加者と合流したでござる。
  泥団子先輩R>朝倉殿という若い女性と、ヴィヴィオ殿という幼い少女でござる。
  泥団子先輩R>どうやら信用に足る相手のようでござるよ。
  泥団子先輩R>とは言え、もちろんこちらも簡単には晶殿やスエゾー殿の事を話さぬようにはするつもりでござる。
  ゴーレムの友>わかりました。
  泥団子先輩R>あと、ズーマという危険人物を倒したでござる。
  泥団子先輩R>と言っても名簿に名前が載っておらぬのでござるが。
  泥団子先輩R>首輪はしていたようなので、おそらく名簿には別の名で載っているのだと思うでござる。
  泥団子先輩R>ズーマはリナ殿の世界にいた暗殺者なのでござるが、なぜか黄色いガイバーをまとっていたでござる。
  ゴーレムの友>私の知っている黄色いガイバーはガイバーⅡと呼ばれています。
  ゴーレムの友>私の世界ではかなり前に私が破壊したのですが、この世界にはあったんですね。
  ゴーレムの友>もっとも、大昔の存在である0号ガイバーが存在するのですからそれも不思議ではないのでしょう。
  泥団子先輩R>主催者は失われたものも手に入れられるという事でござろうか?
  ゴーレムの友>もしかしたら異世界を行き来するように時間も移動できるのかも。
  ゴーレムの友>いや、これは考えすぎでした。すいません。

68 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:22:39 ID:SF0f54Dw
「時間移動……できると思うわ」
「しかし、拙者たちの科学でも時間移動は困難でござるが……」
「あたしも時間移動ってのはさすがに難しいと思うけど……」

 時間移動をあっさり肯定した朝倉に対し、ドロロとリナの反応は否定的であった。

「私は自分の世界で実際に時間移動していた人物を知っているし、主催者にもできると思うわ。
 私たちにとっては必ずしも不可能な事ではないしね」
「じゃあアサクラもできるの?」
「今は無理よ。元の世界でも必要もなく安易にできるようなものじゃないし。
 でも、主催者が異世界を渡り、その技術を全て持っているのならできても不思議じゃないわ」
「それ、信じていいのね?」
「ええ。ただし、時間移動と言っても自由自在というわけではないけどね。
 さまざまな制約の中で出来る事と出来ない事があるの。
 それでも、限定された過去から人や物を取ってくるぐらいの事なら充分できると思うけど」
「そうでござるか……これは一応晶殿たちにも伝えておくでござる」


  泥団子先輩R>いや、あやまる必要はないでござるよ。
  泥団子先輩R>どうも朝倉殿の意見では主催者が時間を移動できる可能性は高いようでござる。
  ゴーレムの友>そうですか。我々にとってはどうにも困った話ですね。
  泥団子先輩R>ただし、時間移動と言っても自由自在というわけではないようでござる。
  泥団子先輩R>と言ってもそれで充分やっかいではあるのでござるが。
  ゴーレムの友>そうですね。


「ドロロ〜。困った困ったって言っててもしょうがないから話進めない?」
「む、そうでござるな。失礼したでござる」

 その後、ドロロは朝倉に聞いた話を元に、市街地であった火事についても簡単に晶たちに伝えた。
 ただし、キョンの妹やアスカ、そしてゲンキについてはあえてここでは伝えなかったが。
 そして、話題はようやく本題に入る。

69 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:23:21 ID:SF0f54Dw

  泥団子先輩R>それはともかく、リングの映像で何かわかったことはあったでござるか?
  ゴーレムの友>はい。
  ゴーレムの友>あの後、リングに例の背中に手のある怪人が現れたんです。
  ゴーレムの友>怪人の名前もわかりました。オメガマンです。
  ゴーレムの友>オメガマンとアシュラマンは殺し合いに乗った者同士協力してスバルさんやガルルさんと戦いました。
  ゴーレムの友>でも、激しい戦いの末にスバルさんとガルルさんはその2人に勝ったんです。
  ゴーレムの友>スバルさんはアシュラマンに自分が勝ったら殺し合いをやめるようにと約束させていました。
  ゴーレムの友>そして、アシュラマンはそれに従おうとしていたのです。
  ゴーレムの友>その時に試合の勝敗のルールを無視してオメガマンが襲ってきて、不意を突かれた3人は重傷を負いました。
  ゴーレムの友>オメガマンはスバルさん、ガルルさんだけでなく、アシュラマンも攻撃したのです。
  ゴーレムの友>おそらくガルルさんの致命傷と思われる、銃で撃たれた傷はこの時のものです。
  ゴーレムの友>スバルさんはオメガマンに一矢報いましたが、特に重傷だったガルルさんを抱いて去っていきました。
  ゴーレムの友>スバルさんはアシュラマンの事も気になっていたようですが、仕方なかったと思います。
  ゴーレムの友>その後、アシュラマンは改めてオメガマンと戦いましたが、敗れて殺されたのです。
  ゴーレムの友>これがあの戦いで起こった事の大まかな流れです。
  泥団子先輩R>なるほど。あいわかり申した。


「どうやらこのオメガマンってヤツはかなり危険なヤツみたいね」
「不意打ちも人殺しもなんとも思っておらぬようでござるな」
「この深町さんが嘘を言っている可能性は?」

 深町晶をよく知らない朝倉はおもむろにそんな疑問をぶつけてきたが、2人はかなり晶を信用しているようだった。

「考えにくいわね。もちろん100%とは言わないけど、9割以上信じられると思うわ」
「うむ。晶殿が何者かに脅されているという線も考えにくいでござる。
 少なくとも前回のチャットの時と比べて違和感は感じられないでござるよ」

 2人にそう言われては朝倉もある程度深町晶の発言を信じざるを得ない気がしてくる。

70 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:24:01 ID:SF0f54Dw

「そうすると、アシュラマンは悪い人に戻っていたのかしらね。
 話を聞くと最後は改心しつつあったみたいだけど」
「アサクラはアシュラマンってやつを知ってるの?」
「ええ。キン肉マンやウォーズマンから話を聞いたの。
 昔は悪い人だったんだけど、今は改心して正義超人になったって聞いてたんだけど……」
「じゃあなんでスバルとガルルを襲ってきたのかしら?
 深町晶……ショウは最初に襲ってきたのはアシュラマンで、しかも不意打ちを仕掛けてきたって言ってたわよ?」
「何か誤解があったか、この場に連れてこられてから悪人に逆戻りしていたのでござろうか?」

 2人の疑問を聞きながら、キン肉マンやウォーズマンの発言を思い返し、朝倉は少し考える。
 確かにこの殺し合いに連れてこられて心変わりするという可能性は充分あるだろう。
 だが、キン肉マンやウォーズマンのあの信頼からすると、アシュラマンが容易く心変わりすることは考えにくい気がする。
 深町の話を信じるなら、アシュラマンは殺し合いに乗ってもなお約束は守るような人物なのだ。
 そこからも簡単に心変わりしたという予想はしっくり来ない。
 となれば残された可能性は……

「アシュラマンは改心する前の時代から連れてこられたのかも……」

 その朝倉の発言をリナはしばらく頭の中で検討し、意見を述べる。

「その可能性はあるかもしれないわね。ショウもキン肉マンたちも嘘は言ってなさそうだし」
「でも、時既に遅し、といった感があるでござるな。
 アシュラマン殿はもう……」
「それは仕方ないでしょ。他にも別の時代から来てる人がいるかもって事がわかっただけでも収穫だわ。
 っていうか、そうとでも思わなきゃ虚しくなるじゃない!」

 そう叫ぶリナにドロロが少し気圧されつつも同意する。

「ま、まあ、確かにそうでござる。おっと、まだあちらの話は続くようでござるな」

71 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:24:44 ID:SF0f54Dw


  ゴーレムの友>あと、リングで戦いが始まった際に実況中トトロという生物が現れました。
  ゴーレムの友>小トトロに似ていますが、体は青くて少し大きいです。
  ゴーレムの友>会話はできないようですが、不思議なプラカードで文字を使って意思の疎通ができるようです。
  ゴーレムの友>本人は特設リングのレフェリー兼実況兼観客だと主張しています。
  ゴーレムの友>実際にこの中トトロが試合の審判をしていました。
  ゴーレムの友>つまり、彼は主催者側の存在ということなのですが、小トトロとも無関係ではないようです。
  ゴーレムの友>というのは「仲間か?」と尋ねたら本人が頷いたような気がしたからですが。
  ゴーレムの友>ただ、私たちはそれでも小トトロを疑ってはいませんが。


「中トトロ……体が青いもふもふって確かさっきの絵に居たのよね?」
「そうでござった。壁紙の件を尋ねてみるいい機会でござる」


  泥団子先輩R>1つお尋ねするでござる。
  泥団子先輩R>そちらのパソコンの壁紙は何が表示されているでござるか?
  泥団子先輩R>こちらには青いもふもふした生物と小さくて白いもふもふした生物が歩いている画像なのでござるが。
  ゴーレムの友>そうですね。こちらの壁紙も同じです。
  ゴーレムの友>この小さいのが小トトロで、少し大きいのが中トトロで間違いありません。


「やっぱりそうなのね〜
 と言っても、そんなことがわかったってどうって事もないんだけどさぁ」
「でも、パソコンの壁紙に使うって事は、このゲームのシンボル、マスコット的な存在なのかもしれないわね。
 なんていうか、イメージキャラクターみたいな?」
「うーん。でも、特に意味があってそうしてるとは思えないんだけど……」
「とにかく中トトロについてもう少し聞いてみるでござる」

72 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:25:19 ID:SF0f54Dw
 その後、ドロロは晶に中トトロの能力を尋ねる。
 だが、プラカードに文字を表示させる以外は特殊な能力の無い、ただの審判ということらしい。
 そして、さらに深町晶の話は続く。


  ゴーレムの友>そして、スバルさんについてですが。
  ゴーレムの友>彼女はオメガマンに銃で撃たれたガルルさんを連れて西に移動したっきり映像に出てきません。
  ゴーレムの友>だから、彼女の行った先はわかりませんが、島の南西に居る確率が高いかもしれませんね。
  ゴーレムの友>スバルさんはアシュラマンを改心させようとしたほどの人ですから、きっと味方になれると思います。
  泥団子先輩R>同意するでござる。
  泥団子先輩R>もし会うことができたら協力するように努めるでござる。


「そう言えばスバルって……クロスミラージュに聞いたわ。
 ヴィヴィオちゃんの知り合いだと思う」
「えーと、クロスミラージュって確かデバイスっていうヤツね。
 だったらもしかしてバルディッシュもスバルの事知ってるのかしら?」
『Yes. スバル・ナカジマ二等陸士の事は存じ上げています』

 ソファーで眠るヴィヴィオの首にかけられたバルディッシュがそう答える。
 ただし、ヴィヴィオを起こさないようにとの配慮か、あまり大きな声ではなかったが。

「それなら後でバルディッシュにも話を聞いた方がいいみたいね」
「そうでござるな。他にもいろいろ聞けることがあるやもしれぬでござる。
 この事は一応晶殿たちにも伝えておくでござるか?」
「う〜ん。そうね。隠しておくのもアレだし。
 アサクラはどう? ショウたちに教えてもいいかしら?」
「私は構わないわ。それで困るという事は無いだろうし」
「では伝えておくでござる」

73 時間の謎 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:25:53 ID:SF0f54Dw

  泥団子先輩R>スバル殿については、ヴィヴィオ殿が持っておられるデバイスというものが知っているようでござる。
  泥団子先輩R>デバイスというのは喋るペンダントなのでござるが、魔法のサポートをする品物らしいでござる。
  泥団子先輩R>今は少々都合が悪いゆえ、後で話を聞くつもりでござる。
  ゴーレムの友>わかりました。
  ゴーレムの友>映像の話の続きですが、オメガマンのその後も確認しました。
  ゴーレムの友>しばらくオメガマンはリングの跡で休んでいました。
  ゴーレムの友>その後、空から大きなカナブンが現れて、オメガマンの怪我を治したのです。
  ゴーレムの友>さらにオメガマンはそのカナブンの背中に無理矢理乗って、北の方へ飛んでいったようです。
  ゴーレムの友>その後、私が確認した範囲ではオメガマンもここには戻ってきていません。
  泥団子先輩R>カナブンが怪我を治した、で間違いないのでござるか?
  ゴーレムの友>はい。空を飛んだまま不思議な光をオメガマンに当てて治していました。
  ゴーレムの友>良く映像を確認したのですが、首輪はしていないので参加者ではなさそうです。


「まあ、カナブンに首輪ってのも難しいでしょうしねえ?」
「参加者でないとしたら、支給品かしら?」
「う〜む。この島で起こることはよくわからぬ事が多いでござるなあ……」

 そうつぶやくドロロ。頷いて同意するリナと朝倉。
 そして、チャットはまだまだ続くのであった。

74 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:26:53 ID:SF0f54Dw
ここで2本目終わり。次から3本目です。

75 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:27:36 ID:SF0f54Dw

 「むむ。また何か追加情報でござろうか?」

 ドロロがそう言ってディスプレイを見たので、リナと朝倉も画面に目を向ける。


  ゴーレムの友>あと、雨蜘蛛さんからの情報で0号ガイバーの名前がわかりました。
  ゴーレムの友>彼はキョンという名前のようです。


 その書き込みを見た朝倉の表情が少し硬くなる。

「キョン君? 0号ガイバーって……」
「さっきも少し話に出たでしょ? ショウとスエゾーを襲ったガイバーよ。
 雨蜘蛛って人の情報なのが気に入らないけど、これが本当ならヴィヴィオちゃんの証言と辻褄は合うわね」
「襲ったっていう事は、やっぱり殺し合いに乗っていたのね?」
「ショウはそう言ってるわね。たぶん嘘じゃないわ。
 確か叶えてもらいたい願いがあるとか言って襲ってきたって言ってたっけ?」
「そうでござったな。説得する晶殿を偽善者だと言って話を聞こうとしなかったとも」
「……キョン君。何やってんの……」

 彼の叶えたい願いなど、そんなに大それた事とは思えない。
 これはあくまでも朝倉の予想だが、彼は自分が勝ち残って仲間たちの復活でも願うつもりなのではないか。
 そんなに自己犠牲精神にあふれた人物とは思わなかったが、今ある情報を総合するとその確率は高い。
 しかしそれならなぜ涼宮ハルヒを彼が殺したのか。
 やはり何かの手違いで殺してしまったのか。あるいはいっそ自分の手でと思ったのか。

 だが、朝倉の知る限り、情報統合思念体にも涼宮ハルヒを復活させる事はできないはずだ。
 なんという短慮。なんという愚行であろうか。

(ま、いずれにせよ彼を殺すという私の方針には変更無しね)

 そんな物騒な事を考える朝倉だったが、表情からはそんなそぶりは見られない。
 リナが朝倉からゼロスに似た印象を受けたのも、こういう所が原因だろう。

 そして、考え事をして何も言わなくなった朝倉を気にしつつも、ドロロは晶とのチャットを続けていた。

76 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:28:25 ID:SF0f54Dw


  泥団子先輩R>川口夏子という方とはどういうやり取りをしたのでござろう?
  泥団子先輩R>もちろんそちらに不都合のない範囲でかまわないでござるが。
  ゴーレムの友>川口さんにはこちらの持っている危険人物の情報だけは伝えてあります。
  ゴーレムの友>あちらからの情報はオメガマンが10時過ぎぐらいにモールに居たという事だけでした。
  ゴーレムの友>ただ、川口さんは18時に公民館で仲間と待ち合わせていると言っていたのが心配です。


「公民館ねえ。確か火事の中心近くにあったはずよねえ?」
「そうでござるな。もし早めに向かっていたのなら火事の中に居たのかもしれないでござる」
「でも、その人本当に信用できるのかしらねえ?
 なにしろショウの言うことだしねえ……」
「正確なやり取りがわからぬ以上、なんとも言えぬでござるよ。
 でも、そんなに心配なら一応注意だけはしておくでござる」







  泥団子先輩R>余計な気遣いかもしれぬでござるが、くれぐれも相手を信用するかどうかの判断は慎重にして下され。
  泥団子先輩R>リナ殿の言うには、晶殿は正直すぎるという事らしいでござる。
  泥団子先輩R>人を疑う事も時には必要と拙者も思うでござるよ。
  泥団子先輩R>もし気を悪くされたなら謝るでござるが、これもそちらを心配するがゆえと考えて下され。

77 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:28:56 ID:SF0f54Dw

「晶。お前ドロロとリナに心配されてるで?」
「…………」

 晶はガイバーの中で顔を赤くしていたが、幸いガイバーをまとっているせいでスエゾーには見られていなかった。
 確かに自分が狡猾でも疑い深くもない事は承知しているが、付き合いの短い相手にも言われてしまうのは恥ずかしかった。
 それだけに晶はなるべく気をつけようとは思ったのだが、性格というのはそう簡単に直るものでもない。

「ぶわ〜〜っはっはっは!
 晶! お前こんな通信越しの相手にまで心配されてんのか!
 これじゃあダメだな。ああ、ダメだ。とても主催者になんか対抗できねえなあぁ?」
「なんや雨蜘蛛、また来たんか?」

 いきなり声をかけられて見るといつの間にやら雨蜘蛛が再びパソコンの近くに来ていた。
 まったく油断のならない男である。

「こ、これからなんとかしますよ」
「なんとか? なんとかねえ〜? まあそうしてくれりゃあ俺も助かるって〜もんだけどなぁ〜」
「わかってます。このままじゃどうしようもないって事は」
「わかってりゃいいってもんじゃ〜ないぜ?
 必要なのは結果だ。結果を出せない意気込みなんてのは他人からすりゃあゴミみてえなもんさ」
「じゃあ雨蜘蛛さんはどうすればいいって思うんですか!?」

 晶がそう反撃すると、雨蜘蛛はドカッと手近な椅子に腰掛けた。
 そしてマスクと共に彼の顔を隠しているゴーグルを鈍く光らせながら言う。

「そうだなぁ〜。お前が何も思いつかないって言うなら、最終的には主催者の言う通りにするしかねえなあ……」
「ぐっ……」

78 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:29:35 ID:SF0f54Dw

 そうなのだ。結局雨蜘蛛は晶がどうにかしてくれるなら付き合おうと言ってくれているだけなのだ。
 その雨蜘蛛に知恵を求めてもこう返されるのは仕方のない事かもしれない。
 でもこれはずるい。自分には考えろと言っておいて言った本人は何も考えないなんて。
 そうしてこの世の理不尽を噛みしめる晶にスエゾーが声をかける。

「おい晶、チャット続いてんで?」
「ああ。わかってる……」


  泥団子先輩R>そして、こちらから1つ悪い情報があるでござる。
  泥団子先輩R>伝えるべきかどうか拙者には判断がつかぬゆえ、そちらで決めて欲しいのでござる。
  泥団子先輩R>聞くか。聞かないか。選んで下され。
  泥団子先輩R>もっとも、いずれは嫌でも知ることになる情報でござるが。


「しょ……晶。こ、これって、どういう意味やろうな?」
「…………」

 晶は答えなかった。相手の書き方からある程度予想は出来ていたが、それを認めてしまうのがつらかったのだ。
 だが、ここにはそんな事に頓着しない人間がいる。約一名。

「はは〜ん。こいつはアレだな。いずれ嫌でも知ることになるってのがポイントだ。
 この島にいる参加者が必ず知ることになる情報って言やあ、アレだろ? アレ」

 雨蜘蛛がまったくいつも通りの調子で言いにくいことをさらっと言い始めた。
 マスクとゴーグルのせいでわからないが、なんとなく楽しそうな顔をしているような気がする。
 晶は空気を読んでくれと思いつつも、いずれわかることならはっきりさせてしまうべきかとも思う。

「なァ、晶。こいつぁアレだぜぇ? アレ。
 早く聞いちまえよ晶。いずれわかることだって相手も言ってくれてんだからよおぉ?」

 雨蜘蛛に従ったというわけではないだろうが、晶は無言でキーを叩き始める。
 スエゾーは蒼白になって打ち込まれる文字を黙って見つめるのみだった。
 小トトロもスエゾーを心配しているのか、スエゾーの頭の上に乗ってしゅんとしていた。

79 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:30:27 ID:SF0f54Dw


  ゴーレムの友>それはこちらの探している仲間に何かあったという情報ですか?
  泥団子先輩R>その通りでござる。聞きたくないかもしれぬが、知ってしまった以上は伝えるべきかと迷ったのでござる。
  ゴーレムの友>それはこちらの探している仲間が死んだという情報ですか?
  泥団子先輩R>その通りでござる。どうするでござるか?


「どうする? スエゾー」
「…………」

 スエゾーは一層蒼白になって画面を見つめ、何も答えなかった。
 晶たちがドロロたちに伝えた「探している仲間」とはゲンキとハムの2人しかいない。
 晶にはこの島に来ている仲間がいなかったからだ。
 つまり、死んだのはゲンキかハム。どちらにせよスエゾーの仲間なのだ。

 そして、2人の雰囲気からそれに気付いたのか、雨蜘蛛は絡む相手をスエゾーに絞ってきた。

「おいおい、どうしたスエゾー?
 お前さん言ったよなあ。地獄ぐらい見てきたって言ったよなあ。
 どうしたんだ? 言っちまえよ。誰が死んだか教えてくれって言っちまえよ〜
 それとも何か? 地獄はくぐってきたけど、いつも仲間が一緒にいてくれました〜とでも言うつもりか?
 まさかそんな甘っちょろい事は言わねえよなあ? さあ、言ってやれよ。さあさあさあさあ!」
「雨蜘蛛さん!」

 マスクのままでスエゾーに顔を近づけて決断を迫る雨蜘蛛の肩をガイバーⅠの手が掴む。

「おい、どうした晶? なんだぁ〜? この手はぁ〜」
「ダメです。雨蜘蛛さん。
 確かに雨蜘蛛さんにしてみれば、仲間の死にショックを受けるのは甘い事なのかもしれません。
 でも、それ以上はダメです。それ以上は…… こ の 俺 が 許 し ま せ ん !!」




 長い沈黙が博物館の学習ルームを覆った。
 もしかしたら雨蜘蛛は晶たちを見限るかもしれない。
 だが、晶はこれ以上スエゾーを雨蜘蛛が追い詰めるのを見過ごすことはできなかった。




 その沈黙を破ったのは雨蜘蛛だった。

80 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:31:45 ID:SF0f54Dw
「ふっ。なあ〜〜んでえい。これぐらいの事でよぉぉ〜〜
 まあいいんじゃねえの? お前らの事はお前らの好きにすりゃあよ〜〜!」

 雨蜘蛛はそう言うとガイバーⅠの手を振りほどいて、またパソコンから遠い椅子にドサッと腰を下ろした。
 晶はほっとして雨蜘蛛に振り払われた手を下ろし、改めてスエゾーに目を向ける。

「スエゾー……」

 スエゾーは相変わらず蒼白になっていたが、心なしかさっきよりも表情は穏やかになっているように見えた。
 雨蜘蛛に追い詰められ、晶に本気でかばってもらった。
 その事が止まりかけていたスエゾーの心を少し動かしたのかもしれない。
 小トトロもそれを感じているのか、下がっていた耳が少し上がっているように見える。

「すまんな。晶。小トトロも、雨蜘蛛もな。
 オレのせいでこんな大騒ぎさせてもうて、ホンマにオレは情けないヤツや……」
「スエゾー。当たり前だよ。仲間が、大事な人が死んだって聞いたらそうなるのは当然だ。
 俺だって父さんが死んだ時は苦しかった。悔しくて、悲しかった。
 小田桐主任や村上さんが死んだ時だって……!
 誰だって、誰だってそうなんだよ! スエゾー!」
「晶……」

 ガイバーⅠの手にしっかり支えられて、スエゾーの大きな目から涙がこぼれる。
 それは仲間が死んだという悲しみだけが流させた涙ではない。
 晶が本当に自分を思いやってくれている事を感じた、スエゾーの心の震えが流させた涙でもあった。




(晶の野郎、なんてぇ迫力だ…… 俺としたことがちょっくらビビっちまったぜ〜〜)

81 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:32:30 ID:SF0f54Dw
 雨蜘蛛は見た。ガイバーⅠの額の金属円盤のリング状のスリットからすさまじい光が発せられたのを。
 マスクをしていてよかった、と雨蜘蛛は思う。
 もし素顔だったら、晶とスエゾーにみっともない顔を見られていたかもしれない。
 同じガイバーをまとっているというのに、以前に見たキョンとはまったく異質なもののように感じた。
 もしかしたらガイバーという鎧は装着者の精神によって強さが違ってくるのかもしれない。
 さっきのガイバーⅠには雨蜘蛛にそう思わせるほどの何かがあった。

(あいつ……普段はただの青二才だが、爆発力だけは一流かもしれんな……)

 確実な勝利を得るためならば爆発力などというものをあてにするのは愚かだと雨蜘蛛は考える。
 だが、普通にやって勝てない相手と戦うときは?
 ああいう手合いは最後の希望ってやつになる可能性がある。

 ……まあ、雨蜘蛛としては、しなくて済むならそんな一か八かの勝負など御免被りたいところだ。
 だが、もし晶と戦うとしたら意外に手こずらされるかもしれない。

 雨蜘蛛は態度には表すことなくそんな事を考えながら、スエゾーをいたわる晶に荒っぽく声をかけた。

「おい、晶よぅ! スエゾーの世話を焼くのもいいが、チャットの方は放っておいていいのかよおぅ?」

 雨蜘蛛にそう言われて晶は確かにチャットを放っておくわけにも行かないと気付く。

「スエゾー。今は聞かずにいよう。詳しいことを聞くのは、放送で告げられてからでいいじゃないか」
「……ああ。そうやな。どうせこのチャットが続いとるうちに放送になるやろうし。
 その後で詳しい話聞いたらええ」
「よし。じゃあそれで行こう」


  泥団子先輩R>晶殿、何かあったでござるか?


 晶が画面に目を戻すと、チャットの画面にはいつの間にかドロロの晶たちを心配する発言が表示されていた。
 かなり待たせてしまったようだ。晶は急いでそれに返事を返す。

82 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:33:22 ID:SF0f54Dw

  ゴーレムの友>大丈夫です。さっきの件ですが、詳細は放送の後で聞かせていただけますか?
  泥団子先輩R>わかったでござる。もし何かさっきの事でトラブルがあったのなら申し訳なかったでござる。
  ゴーレムの友>いえ。情報を伝えるかどうかが難しかったのはわかります。気にしないで下さい。
  泥団子先輩R>かたじけないでござる。
  泥団子先輩R>もう1つ、申し訳ないのでござるが、提案があるでござる。
  泥団子先輩R>もしかしたらどこかの特設リングが動いているかもしれないでござる。
  泥団子先輩R>もし動いているリングがあったら、放送後にすぐ映像をチェックできるでござる。
  泥団子先輩R>予定に問題が無ければそちらのkskコンテンツを今一度調べてみてはどうでござろう?


「そうか。映像は6時間ごとに解禁されるから、放送直後に見れば直前の映像を見られるんだ」
「な〜〜るほどなァ。多少は考えてるヤツがいるようだぜ。
 そういやぁ、お前らと話す前、そのパソコンの地図を見させてもらったが、作動してるリングがあったと思うぜぇ?」
「本当ですか? 雨蜘蛛さん」
「ばぁ〜かやろう。嘘ついてどーすんだ。確か湖の所にある点が青になってたぜ。
 あとは、この博物館前のリングはもうわかってるとして、レストランとコテージ群の間のも青くなってたかなぁ〜?」
「もしかしたら今も作動してるかもしれませんね。見てみます。……あれ? 地図が無い」

 晶は地図を表示させていた画面を開こうとするが、どこにもその画面が無い。

「あ〜。悪い。操作がよくわからなかったんで間違えて消しちまったみてえなんだな。これが」

 雨蜘蛛のその言葉を聞いて晶はがくっと力が抜けるが、すぐに気を取り戻す。
 今はドロロたちとチャットで会話できるのだから、いくらでもキーワードを教えてもらえるだろう。
 地図が消えたことはたいした問題ではない。

「そうですか…… じゃあドロロさんたちにキーワードを聞かないといけないですね。
 え〜と、どうだろう? スエゾー。小トトロ。
 ドロロさんたちの言う通りにしていいかな?」
「あ、ああ。そうやな。それがええやろ……」

 スエゾーはやはり元気がないが、さっきより少しは顔色もいい。
 そしてスエゾーの頭の上の小トトロもどうやらドロロたちの意見に従うことに異議はなさそうだ。
 ……いや、そもそもどこまで話が通じているのかも疑問だが。

83 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:34:10 ID:SF0f54Dw

「問題無さそうだな。じゃあ答えるぞ」


  ゴーレムの友>わかりました。私たちは夜にやる事がありますが、それまでは特に予定がありません。
  ゴーレムの友>今から調べようと思いますが、地図の画面を消してしまったので、キーワードをお願いできますか?
  ゴーレムの友>ヒントは「冥王(ヘルマスター)の名を持つ、魔王の腹心の1人」です。


「……どうしたんだろう? なかなか返事がこないな」
「あっちでもなんか、取り込んどるんちゃうか?
 たまにはそういう事もあるやろ」
「まあ、そうだな。少し待ってみるか。
 しかし、やっぱりチャットっていうのも結構疲れるな。あんまり長く続けたくはないよ」

 そう言って晶が背伸びなどしながら少し待ってみると、ほどなくして返事が来た。


  泥団子先輩R>お待たせしたでござる。答えは「フィブリゾ」でござる。
  ゴーレムの友>ありがとうございます。


「よし。これで地図が見られるな。フ・ィ・ブ・リ・ゾっと」
「さぁ〜〜てぇ〜〜、動いてるリングはあるかなぁ〜〜?」
「雨蜘蛛、お前その変な喋り方どうにかならんか……?」
「うるせぇ〜〜。お前ら相手に気を使って喋ってられるかっつーんだ」
「いや、頼むからちょっとだけ静かにしてくれないかな、2人とも……」


 現在の時間は17時48分。
 果たして作動中のリングがあるのか。
 仮にあったとして、利用価値のある映像データを見ることができるのか。
 それは18時を過ぎなければわからない――

84 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:34:43 ID:SF0f54Dw
【H-8 博物館/一日目・夕方(放送直前)】

【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】軽度の船酔い(回復中)、胸に軽い切り傷 マントやや損傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、有刺鉄線@現実、枝切りハサミ、レストランの包丁多数に調理機器や食器類、各種調味料(業務用)、魚捕り用の網、
     ゴムボートのマニュアル、スタングレネード(残弾2)@現実、デイパック(支給品一式)×2、RPG-7@現実(残弾三発) 、ホーミングモードの鉄バット@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:晶、スエゾーを利用して洞窟探検を行う(ギリギリまで明かさない)
3:水野灌太と決着をつけたい。
4:暫くは博物館で時間を潰す。
5:ゼクトール(名前は知らない)に再会したら共闘を提案する?
6:キョンの妹・朝比奈みくるをちょめちょめする。
7:草壁サツキに会って主催側の情報、及び彼女のいた場所の情報の収集。その後は……。(トトロ?ああ、ついででいいや)
8:キョンを利用する。午後六時に採掘場に行くかは保留。
9:ボートはよほどの事が無い限り二度と乗りたくない。
10:晶の可能性だけは認めてやってもいい。


【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
 索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
※メイのいた場所が、自分のいた場所とは異なる世界観だと理解しました。
※サツキがメイの姉であること、トトロが正体不明の生命体であること、
 草壁タツオが二人の親だと知りました。サツキとトトロの詳しい容姿についても把握済みです。
※サツキやメイのいた場所に、政府の目が届かないオアシスがある、
 もしくはキョンの世界と同様に関東大砂漠から遠い場所だと思っています。
※長門有希と草壁サツキが関係あるかもしれないと考えています。
※長門有希とキョンの関係を簡単に把握しました。
※朝比奈みくる(小)・キョンの妹・古泉一樹・ガイバーショウの容姿を伝え聞きました。
※蛇の化け物(ナーガ)を危険人物と認識しました。
※有刺鉄線がどれくらいでなくなるかは以降の書き手さんにお任せです。

85 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:35:16 ID:SF0f54Dw
【深町晶@強殖装甲ガイバー】
【状態】:精神疲労(中)、苦悩
【持ち物】 小トトロ@となりのトトロ、首輪(アシュラマン)、博物館のメモ用紙とボールペン、デイパック(支給品一式)
      手書きの地図(禁止エリアと特設リングの場所が書いてある)
【思考】
0:ゲームを破壊する。
1:雨蜘蛛に借りを返す。
2:雨蜘蛛を受け入れて仲間にしたいが、流されはしない。
3:しばらくは博物館で待機。
4:もっと頭を使ったり用心深くなったりしないと……
5:巻島のような非情さがほしい……?
6:スエゾーの仲間(ゲンキ、ハム)を探す。
7:クロノスメンバーが他者に危害を加える前に倒す。
8:もう一人のガイバー(キョン)を止めたい。
9:サツキの正体を確認し、必要なら守る。
10:巻き込まれた人たちを守る。


【備考】
※ゲームの黒幕をクロノスだと考えていましたが揺らいでいます。
※トトロ、スエゾーを異世界の住人であると信じつつあります。
※小トトロはトトロの関係者だと結論しました。スパイだとは思っていません。
※参戦時期は第25話「胎動の蛹」終了時。
※【巨人殖装(ギガンティック)】が現時点では使用できません。
  以後何らかの要因で使用できるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ガイバーに課せられた制限に気づきました。
※ナーガ、オメガマンは危険人物だと認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子を信用できる人物と認識しました。

86 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:36:29 ID:SF0f54Dw
【スエゾー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜】
【状態】:全身に傷(手当済み)、火傷(水で冷やしただけ)、貧血気味、激しく動揺中
【持ち物】 なし
【思考】
0:晶、小トトロと行動を共にする。
1:ゲンキ、ハム。無事でおってくれ……
2:オメガマンにあったら……もう、逃げへん。
3:雨蜘蛛はいまいち信用できない。


【備考】
※スエゾーの舐める、キッス、唾にはガッツダウンの効果があるようです。
※ガッツダウン技はくらえばくらうほど、相手は疲れます。スエゾーも疲れます。
※スエゾーが見える範囲は周囲一エリアが限界です。日が昇ったので人影がはっきり見えるかも知れません。
※ギュオー、ゼクトール、アプトムを危険人物と認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子をたぶん信用できる人物と認識しました。








 時間は少しさかのぼって、場所は遊園地(D−2)のスタッフルーム。

87 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:37:01 ID:SF0f54Dw


  ゴーレムの友>それはこちらの探している仲間に何かあったという情報ですか?
  泥団子先輩R>その通りでござる。聞きたくないかもしれぬが、知ってしまった以上は伝えるべきかと迷ったのでござる。
  ゴーレムの友>それはこちらの探している仲間が死んだという情報ですか?
  泥団子先輩R>その通りでござる。どうするでござるか?


「……反応無いわね。やっぱりショックが大きかったのかしら?」
「そうでござるな。拙者たちですら少なからずショックを受けたのでござる。
 あちらが大きなショックを受けたとしても当然でござるよ」
「放送を待つべきだったかな〜?
 でも、放送の後で実は知ってましたって打ち明けるのもなんか気まずいしね〜」

 しかし伝えてしまったからには相手の返事を待つしかない。
 ただ待つことを強いられる結果になり、スタッフルームは気まずい沈黙に包まれる。
 ドロロが一応相手の様子を伺うために発言してみる。


  泥団子先輩R>晶殿、何かあったでござるか?


 だが、やはり反応はない。どうやら腰を据えて待つしか無さそうだ。

「……そう言えば、ここに来る前に草壁姉妹について調べるあてがあるって言ってたけど、アレは結局なんだったの?」

 どうせ暇ならばと思ったのか、朝倉がドロロに尋ねてきた。
 ドロロは朝倉に気取られぬようにリナの様子を伺ってみるが、さすがにリナももう隠そうとは思っていないようだ。

88 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:37:54 ID:SF0f54Dw

「このチャットに入る前の画面に『ksk』というコンテンツがあったでござろう?
 そこをクリックするとパソコンごとに違う様々な情報が見られるようになっているのでござる。
 ただ、ページを移動するごとにキーワードを求められるので、簡単には閲覧できぬでござるが」
「あっちのパソコンで見られる映像っていうのも、そのkskの情報なのよ」
「ふう〜ん。映像って、そこのリングの映像だけなの?」
「いや、島の中に設置されているいくつかの特設リングのどこの映像でも見られるようでござるよ」
「特設リングってたくさんあるの?」
「ええ。何個かはあるみたいね。
 ただ、映像は6時間ごとに解禁だから、直前の放送よりも前の映像しか見られないけど」

 リナたちから博物館のパソコンの使い方を聞いて、朝倉は少し考え、思いついたことを言ってみた。

「へえ……面白いわね。そう言えばもうすぐ放送よね。
 今の説明だと、放送直後なら直前までの映像がすぐに見られるわけよね?」
「そうでござるが、リングはたくさんあるゆえ、どこを見るのかがわからねば徒労に終わる可能性が高いでござるよ」
「あ、でも確かリングが作動してるかどうかは地図の形で見られるんじゃなかったっけ?
 だったら作動しているリングを探せばいいんじゃない?」
「そんな機能まであるの?」
「確かにそう言っておられたでござるな。試してみる価値はあるやもしれぬでござる」
「どうせこっちが調べ物してる間はあっちにやることは無いでしょうしね」
「もしかして調べ物って、ここのパソコンの情報の事ね?」

 話の流れからそう予想した朝倉に、リナは頷きながら説明する。

「ええ。そう言うことよ。あたしたちはここのパソコンのkskコンテンツっていうのに用があって来たの。
 このパソコンの情報は参加者の名簿なんだけどね。
 はっきり断言はできないけど、どうやら配布されてる名簿よりは詳しい情報が書いてありそうなのよ」

 その説明を聞いて朝倉も納得したように頷き、その使い道に考えを巡らせる。

89 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:38:45 ID:SF0f54Dw
「なるほどね。それは確かに役に立ちそう。
 でも、今正体を知りたいと思う参加者って言ったら……草壁姉妹とトトロぐらいかしら?
 そうだ。冬月コウゾウっていう人もちょっと気になるわね」
「冬月コウゾウ? 確かにそんな名前の参加者が居たでござるが、なにゆえ気になるでござるか?」
「さっき言ったなのはさんとケロロさん……だっけ?
 その2人と一緒にいた少年が冬月コウゾウって名乗ったのよ。
 たぶん味方になれると思うんだけど、どんな人か気になるでしょ?」
「確かに知っておいて損は無さそうね。あと、他にも正体がわからない参加者はチェックしてみるつもりよ。
 この首輪をなんとかできる人物を捜さなきゃいけないからね」
「ああ、それは確かに必要な事ね。でも、首輪なら私がなんとかできるかもしれないわよ?」
「ええっ!?」
「なんと!?」

 朝倉の発言に驚く2人。
 しかし、同時にチャットの画面に変化が起こる。
 どうやらやっと反応が返ってきたようだ。

「朝倉殿。その話、後で詳しく聞かせて下され」
「ええ。ただ、今すぐどうにかできるってわけじゃないから、あまり期待しない方がいいわよ?」
「少しでも見込みがある人間が居るってだけでもありがたいわ。後でゆっくり聞かせてね。アサクラ」
「わかったわ」


  ゴーレムの友>大丈夫です。さっきの件ですが、詳細は放送の後で聞かせていただけますか?
  泥団子先輩R>わかったでござる。もし何かさっきの事でトラブルがあったのなら申し訳なかったでござる。
  ゴーレムの友>いえ。情報を伝えるかどうかが難しかったのはわかります。気にしないで下さい。
  泥団子先輩R>かたじけないでござる。


「さきほどの話をしてみるでござるか?」
「そうね。一応聞いてみたら? あっちに予定があれば断ってくるだろうし」
「うむ。では聞いてみるでござる」

90 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:39:25 ID:SF0f54Dw


  泥団子先輩R>もう1つ、申し訳ないのでござるが、提案があるでござる。
  泥団子先輩R>もしかしたらどこかの特設リングが動いているかもしれないでござる。
  泥団子先輩R>もし動いているリングがあったら、放送後にすぐ映像をチェックできるでござる。
  泥団子先輩R>予定に問題が無ければそちらのkskコンテンツを今一度調べてみてはどうでござろう?


「ねえドロロ。そろそろこっちも参加者名簿を調べてみる?」
「そうでござるな。そもそもそれが目的でここまで来たのだし、そうするでござるか」

 ドロロはリナにそう答えると、チャットの画面を一度最小化してもう一つ『Ksknet Explorer』を起動する。
 そして、画面が表示されると迷わず「ksk」をクリックした。
 すると画面には"現在地:遊園地と判断。キーワードを入力してください"という文字と入力欄が表示される。
 さらに、画面の下の方には小さくヒントが表示されていた。
 今回のヒントは「スクライア一族出身の無限書庫司書長の名前。フルネームで」である。

「これはまた手強そうな問題でござるな……」
「やるっきゃないでしょ。今度は手がかりがあるんだから」

 そう言ってリナは自分のデイバッグからずぼっと1冊の本を抜き取る。
 本のタイトルは『プロジェクトF 〜挑戦者たち〜』
 リナが図書館から失敬してきた虎の巻であった。
 その本を手近な机の上に広げ、左手にレリックを握ったままで、リナは本のページをめくってキーワードを探し始める。

「う〜ん。無限書庫の司書長、無限書庫の司書長……」
「スクライア一族というからにはファミリーネームは『スクライア』という事なんでござろうか?」
「そうね〜。でもファーストネームがわからなきゃ……無限書庫無限書庫……」
「……つまり、そのヒントの答えがキーワードなわけね。クイズみたいなものかな」

 しばらく黙ってリナとドロロのやることを観察していた朝倉が、だいたいの事情を把握して、ドロロに確認する。

「そういう事でござるな。しかしいかに手がかりがあるとは言え、なかなか骨が折れそうでござる。
 いっそのこと次のヒントに行った方が早いやもしれぬでござるなあ」

91 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:39:57 ID:SF0f54Dw
 そうしてドロロが弱音を吐きそうになっていると、突然後ろから声が聞こえてくる。

『ユーノ・スクライアです』
「はぁ?」

 リナは思わず聞き返す。誰よいきなり後ろから、と思いながら振り返るが誰もいない。
 居るのはソファーで眠っているヴィヴィオだけだ。

『無限書庫の司書長は、ユーノ・スクライアです』

 いや、居た。声の主はヴィヴィオのペンダント。デバイスのバルディッシュであった。
 リナはようやくそれに気付いてバルディッシュに確認してみる。

「バルディッシュ? あんた知ってんの?」
『Yes. その端末のキーワードは、我々の世界の言葉である可能性が極めて高いと分析します』

 それを聞いてリナががっくり肩を落とす。
 博物館のパソコンの時も結局リナが答えられるキーワードだったので、本が必要なかった。
 そして、今回もこの本は必要なくなったと気がついたからだ。

「あーー。な〜んだ。この本も使う必要なかったわね……」
「ま、まあいいではござらんか。立て続けに都合良くキーワードがすらすら出てくる状況を作れたのでござる。
 むしろこれは幸運。僥倖というべきではござらんか、リナ殿」

 そうしてドロロがリナを励まそうとしていると、今度は朝倉がドロロに声をかけてくる。

「ねえ、ドロロさん。そろそろチャットの方見なくていいの?」
「おっと、そうでござった。えー、チャットチャット。
 む。晶殿から返事がもう来ていたでござる。早くお答えせねば」

92 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:40:51 ID:SF0f54Dw


  ゴーレムの友>わかりました。私たちは夜にちょっとやる事がありますが、それまでは特に予定がありません。
  ゴーレムの友>今から調べようと思いますが、地図の画面を消してしまったので、キーワードをお願いできますか?
  ゴーレムの友>ヒントは「冥王(ヘルマスター)の名を持つ、魔王の腹心の1人」です。


「晶殿がキーワードを聞いてきているでござる。リナ殿。わかるでござるか?」
「ええ。やっぱりその世界の人間にはすぐわかる問題みたいね。答えは『フィブリゾ』よ」
「承知したでござる」


  泥団子先輩R>お待たせしたでござる。答えは「フィブリゾ」でござる。
  ゴーレムの友>ありがとうございます。


「さてと。うまく行ったらお慰みってとこね」


 こうしてリナたちは晶たちからの連絡を待つことになった。
 現在時間は17時48分。
 放送を目前にして、彼らのこれからの運命は?――

93 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:41:25 ID:SF0f54Dw
【D-02 遊園地/一日目・夕方(放送直前)】

【リナ=インバース@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】疲労(小)、精神的疲労(中)
【持ち物】ハサミ@涼宮ハルヒの憂鬱、パイプ椅子@キン肉マン、浴衣五十着、タオル百枚、
     レリック@魔法少女リリカルなのはStrikerS、 遊園地でがめた雑貨や食糧、ペンや紙など各種文房具、
     デイパック、 基本セット一式、『華麗な 書物の 感謝祭』の本10冊、
     ベアークロー(右)(刃先がひとつ欠けている)@キン肉マンシリーズ
【思考】
0.殺し合いには乗らない。絶対に生き残る。
1.晶たちとチャットしつつ、参加者名簿を調べながら、放送を聞く。
2.当分はドロロと一緒に行動する。
3.ゼロスを警戒。でも状況次第では協力してやってもいい。
4.草壁サツキの事を調べる。
5.後で朝倉と首輪解除の話をする。
6.後でバルディッシュからスバルの話を聞く。


【備考】
※レリックの魔力を取り込み、精神回復ができるようになりました。
 魔力を取り込むことで、どのような影響が出るかは不明です
※レリックは魔力を引き出しやすいように改変されました。
 これによってリナ以外がレリックで魔力を回復する事もできそうです。
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン(名前は知らない)、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。

94 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:41:57 ID:SF0f54Dw
【ドロロ兵長@ケロロ軍曹】
【状態】切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯
【持ち物】匕首@現実世界、魚(大量)、デイパック、基本セット一式、遊園地で集めた雑貨や食糧、
【思考】
0.殺し合いを止める。
1.晶たちとチャットしつつ、参加者名簿を調べながら、放送を聞く。
2.リナとともに行動し、一般人を保護する。
3.ケロロ小隊と合流する。
4.草壁サツキの事を調べる。
5.後で朝倉と首輪解除の話をする。
6.後でバルディッシュからスバルの話を聞く。
7.「KSK」という言葉の意味が気になる。


【備考】
※なのは世界の単語が車に関することだと思っていましたが、違うような気がしてきました。
※ガイバーの能力を知りました。
※0号ガイバー、オメガマン(名前は知らない)、アプトム、ネオ・ゼクトールを危険人物と認識しました。
※ゲンキ、ハムを味方になりうる人物と認識しました。
※深町晶、スエゾー、小トトロをほぼ味方であると認識しました。
※深町晶たちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※参加者が10の異世界から集められたと推測しています。

95 輝く光輪 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:42:29 ID:SF0f54Dw
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(特大) 、ダメージ(中)
【持ち物】鬼娘専用変身銃@ケロロ軍曹、小砂の首輪
     メイド服@涼宮ハルヒ、ディパック(支給品一式)×2、新・夢成長促進銃@ケロロ軍曹、
     リチウムイオンバッテリー(11/12) 、クロスミラージュの銃身と銃把@リリカルなのはStrikerS
【思考】
0、ヴィヴィオを必ず守り抜く。
1、ドロロたちに協力しつつ、放送を聞く。
2、キョンを殺す。
3、長門有希を止める。
4、古泉、みくるを捜すため北の施設(中学校・図書館・小学校の順)を回る。
5、基本的に殺し合いに乗らない。
6、ゼロスとスグルの行方が気がかり。
7、まともな服が欲しい。
8、できればゲーム脱出時、ハルヒの死体を回収したい。
9、ヴィヴィオの変化が気になる。


【備考】
※長門有希が暴走していると考えています。
※クロスミラージュを改変しました。元に戻せるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※クロスミラージュは銃身とグリップに切断され、機能停止しています。
 朝倉は自分の力ではくっつけるのが限界で、機能の回復は無理だと思っています。
※制限に気づきました。
 肉体への情報改変は、傷を塞ぐ程度が限界のようです。
 自分もそれに含まれると予測しています。
※アスカが殺しあいに乗っていると認識。

96 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:43:43 ID:SF0f54Dw
終わってるように見えますが、もうちょっとだけ続きます。

97 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:44:33 ID:SF0f54Dw

 ヴィヴィオは見知らぬ部屋にいた。
 いや、どこかで見たような気もする。どこだっただろう?

 左側に本棚。右側にキレイな服がたくさん。
 正面に窓を背にした机があって、その上に……コンピューターの画面かな。

「そっか…… ハルヒお姉ちゃんのお部屋……」

 そう。ここは昼過ぎに見た夢と同じ部屋。
 ハルヒと会ったあの部屋だった。

「ハルヒお姉ちゃんは……?」

 居た。ハルヒは前と同じく、正面の窓際の席に座っていた。
 しかし、その表情はなんだか不機嫌そうだ。

(なんでだろう? もしかしてヴィヴィオがキョンさんをまだ助けないから怒ってるのかな?)

 ヴィヴィオがそう思っておそるおそる近づいていくと、ハルヒはヴィヴィオに気付いてヴィヴィオに話しかけた。

「……………………」

 でも、ハルヒはヴィヴィオに話しかけているのに、上手く聞き取れない。
 ハルヒは優しい笑顔で話しているから、自分に対して怒っていない事はわかったが、声がうまく聞こえない。
 こんなに近くにいるのに、まるでずっと遠くから聞こえてくるような小さな声だった。

「聞こえないよ? ハルヒお姉ちゃん」

 ヴィヴィオがそう言うと、ハルヒは驚いたような顔でまた何事か言ったが、ヴィヴィオには聞こえなかった。

「なんて言ってるの? お姉ちゃん。ハルヒお姉ちゃん」

98 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:45:06 ID:SF0f54Dw

 ヴィヴィオはその事が悲しくて不安になり、ハルヒにまた話しかける。
 するとハルヒは困ったような顔で頭をかいて、それから腕を組んで考え始めた。
 それからおもむろに手元でなにかを紙に書くと、ヴィヴィオに見せる。

「なあに? 何が書いてあるの?」

 ヴィヴィオは近寄ってそれを見るが、そこに何かが書いてあるのはわかるのに、何が書いてあるかがわからない。
 難しかったり知らなかったりで読めない文字とも違う。ただ、ぼやけていて読めない。

「読めないよ、ハルヒお姉ちゃん」

 ヴィヴィオがそう告げると、ハルヒはがくっと肩を落としてまた頭をひねり始めた。
 だが、しばらくすると観念したようにため息をついて、顔を上げて情け無さそうにヴィヴィオに微笑んだ。

「ハルヒお姉ちゃん、お話できないの?」

 ヴィヴィオの問いにハルヒは頷き、何事か言いながら残念そうに首を横に振る。
 それからハルヒは立ち上がってヴィヴィオの肩を抱いて中央の机の方に連れて行き、座らせた。
 ヴィヴィオがわけがわからないでいると、ハルヒは隣の椅子に座って身振り付きで何事かヴィヴィオに話しかけた。

 聞こえないのでよくわからないが、なんとなくヴィヴィオに言いたいことを話せと言っている気がした。

「ヴィヴィオにお話して欲しいの?」

 そう尋ねると、ハルヒは少し考えた後で、うんうんと頷く。
 大筋では間違っていなかったようだ。

「じゃあ、ヴィヴィオの事お話しするね」

 ハルヒにそう告げて、ヴィヴィオは話し始める。
 今までに起こったこと。困っていること。考えていること。心配なこと。不安なこと。
 ハルヒはそれを時には机に肘をつきながら笑顔で。
 時には心配そうに。時には頭を抱えて。時には無言で。(まあ、元々無言なのだが)
 そして時にはガタンと椅子をならして立ち上がり、たぶん大声で何か言いながら怒り心頭で聞いてくれた。

99 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:45:42 ID:SF0f54Dw

 そうやっていろいろな事をハルヒに話してから、ヴィヴィオは今一番気になっている事をハルヒに話す。

「あのね。妹さんが……キョンさんの妹さんが、アスカお姉ちゃんを……殺すって言ってるの。
 あんな事があって、つらいのはわかるよ? ヴィヴィオもすごく悲しかったよ。
 でも、ヴィヴィオはゲンキ君の気持ちがわかるの。
 アスカお姉ちゃんも本当は悪い人じゃないと思う。
 きっと、きっと、だから。妹さんがアスカお姉ちゃんを殺すなんていけないと思う。
 おかしいかな? ヴィヴィオが変なのかな?」

 ハルヒは笑顔でヴィヴィオを見つめて、首を振る。

「でも。でもね。妹さんにはヴィヴィオが何を言ってもわかってもらえないの。
 妹さんはヴィヴィオなんかより、ずっと、ずーーっとゲンキ君の事が好きだったんだと思うの。
 だから、きっとものすごく悲しくて、やりきれなくて、悔しくて。
 それはヴィヴィオにもわかるの。
 でも、でも、だからって、アスカお姉ちゃんを殺してゲンキ君の所に行くなんて……」

 そう言って顔を両手で覆ってうつむいたヴィヴィオの頭をハルヒは優しく撫でていた。

「ヴィヴィオが何を言ってもダメなの。届かないの。
 なんとかしたいのに。しなきゃいけないのに。
 ゲンキ君に、妹さんを頼むってお願いされたのに。
 ゲンキ君の、最期のお願いだったのに……」

 両手で顔を覆ったままのヴィヴィオを慰めるように、ハルヒはその頭を撫で続けていたが、突然その手が止まった。
 何事かと思ってヴィヴィオが見ると、ハルヒは手と首を振って否定の仕草をしている。

「え……? ヴィヴィオ、間違ってるの?」

 その問いに対して、ハルヒは人差し指と親指で何かの厚みを示すような仕草をした。
 ちょっとだけ、と言いたいようだ。

100 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:46:14 ID:SF0f54Dw

「ちょっとだけ? わからないよ」

 そこからハルヒは少し考えて、あれやこれやとジェスチャーで何かを伝えようとした。
 ヴィヴィオはよく考えてみたが、結局ハルヒが何を言わんとしているかがわからない。
 だが、なんとなくヴィヴィオに元気を出せ、気にするなと言っているような印象を受けた。

「うん……
 元気を出さなきゃいけないのはわかるよ。
 ヴィヴィオが悲しんで落ち込んでいちゃ誰も助けられないよね。
 でも、どうしたらいいかわからないの。
 もう、ヴィヴィオには何も出来ないのかな?
 妹さんがアスカお姉ちゃんを殺して、ゲンキ君の所へ行こうとするのを見ているしかないのかな?」

 するとハルヒはさらに何やらジェスチャーをしてヴィヴィオに何かを伝えようとする。

「口で言うだけじゃだめってこと?
 胸? 心? 交換するの?
 ……引き替えにする。……賭ける?
 うーーん……」

 何か大事なことを言われている気がするのだが、ヴィヴィオにはなかなかわからない。
 だが、ハルヒがしつこく伝えようとするので、ヴィヴィオは頑張って解読を続けた。

「賭けているものが足りない……? そう言うこと?」

 ハルヒは頷く。どうやらそういう事が言いたかったらしい。

「確かにヴィヴィオは、口で説得しようとはしたけど、何にも無くしてないよね……
 じゃあ、もし何かを賭けて説得すれば聞いてもらえるかな?」

 ハルヒは「さあ?」というジェスチャーをする。
 これはわかりやすかったが、ヴィヴィオはわけがわからなくなる。

101 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:46:46 ID:SF0f54Dw
「違うの? ヴィヴィオよくわからないよ。ハルヒお姉ちゃん」

 ハルヒはさらにジェスチャーで何かを伝えてくる。

「うまく行くかどうかはわからない、そういう事?
 うん。そうだよね。絶対うまく行く方法なんてないよね」

 ハルヒはその言葉にはうんうんと頷いて、それからヴィヴィオに指を突きつけて何事か言い放ったように見えた。
 もちろんヴィヴィオには聞こえないのだが、ハルヒはやれるだけやってみろ、と言うような事を言っている気がした。

「うん。ハルヒお姉ちゃん。ヴィヴィオやってみるよ。
 まだちゃんとどうしたらいいかわからないけど、それでも、最後まで諦めずにやってみる。
 きっと、なのはママもフェイトママも、そうすると思うの。
 そしてヴィヴィオも、ヴィヴィオもそうしたいの。
 それでいいんだよね? ハルヒお姉ちゃん」

 その問いには、ハルヒは笑顔で満足そうに頷いた。

「ありがとう。ハルヒお姉ちゃん。
 キョンさんも、きっと助けるから。私、できるだけ頑張るから。頑張るからね」

 ヴィヴィオはハルヒを安心させたくて、改めて約束するようにそう言った。
 だが、ヴィヴィオの予想に反して、ハルヒはなぜか困ったような顔をした。

「え? ダメなの? 違うの?」

 それにはハルヒは手と首を横に振って否定する。
 頑張るなとか、助けるなと言いたいわけではないようだ。
 そして、ハルヒはなにやらいろいろと難しいジェスチャーを始めた。
 呆れたように首を振ったり、腹の立つ相手を殴るような仕草をしたり、土下座する仕草をしてまた首を振ったり。

 話の流れから言ってキョンについて何かを言っているのだろうかと思うが、何を言っているかがわからない。

102 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:47:16 ID:SF0f54Dw

 しかし、しばらく見ていてヴィヴィオはなんとなくハルヒの言わんとすることがわかった気がした。

「つまり、キョンさんが色々悪いことや間違ったことをしていて、それに腹が立ったり呆れたりしたって事?」

 ヴィヴィオがそう言うと、ハルヒは「それだ!」と言わんばかりにヴィヴィオを指差した。
 どうやらうまくハルヒの言いたいことを読み取れたらしい。

「キョンさんは、やっぱり何か悪いことをしているの?」

 その問いにハルヒは頷いたり首をかしげたりする。
 どうも悪いことをしてもいるが、それだけが嘆かわしいわけではないようだ。

「うーーん。じゃあ、とにかく早く助けてあげないといけないよね。
 キョンさんはあの鎧のせいでおかしくなっているんだよね」

 ヴィヴィオはずっとそう思っていたのでそう言ったのだが、ハルヒはちょっと考えて首を振った。

「ええっ! でも、だったらどうしてキョンさんはあんな事したの?」

 そこからのハルヒのジェスチャーはまた色々と複雑だった。
 だが、簡単にまとめると「キョンが馬鹿だから」と言っているようにヴィヴィオには見えた。

「えーと。違ってたら本当にごめんなさい。キョンさんが……馬鹿だからってこと?」

 すごく言いにくかったが、ヴィヴィオは思った通りに言ってみた。
 そしてハルヒはそれにこれ以上ないというぐらい肯定の意味を込めて頷いて見せた。

 しかし、そう言われてもヴィヴィオはコメントに困るのでしばらく黙ってしまう。
 それに対してハルヒはまた何やら言いながら身振り手振りを始める。

 だが、残念ながら今度のそれはヴィヴィオには読み取れない。
 大まかにわかった事は、ハルヒとキョンの間に何かのやりとりがあったらしいという事ぐらいだ。

103 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:47:47 ID:SF0f54Dw
「う〜ん。ごめんなさい。よくわからないよ、ハルヒお姉ちゃん。
 でも、とにかく、なるべく早くキョンさんも助けられるように頑張るね?」

 すると、ハルヒは少し心配そうな顔で頷いて、こう言った。

「うん。ありがとう、ヴィヴィオちゃん。
 でも、あんまり無理はしないでね。あなたは絶対、元の世界に帰らなきゃいけないんだから……」

 不思議な事に、今まで聞こえなかったハルヒの声がなぜか聞こえた。

「ハルヒお姉ちゃん! 声が聞こえたよ! あっ……」

 しかし、声が聞こえたと思った瞬間に、ハルヒの姿がぼやけていく。
 そして、すべてがやわらかい光の中に包まれて見えなくなっていく。

「ハルヒお姉ちゃん……! また、またきっと会えるよね……!」

 ハルヒはそれに答えるように微笑んだようにヴィヴィオには見えた。
 だが、その微笑みはどこか力無く、儚くも見えてヴィヴィオは悲しくなる。
 そして、それを最後にヴィヴィオは夢の世界から消えてしまうのだった。




「……あれでよかったのかしら? ヴィヴィオちゃんに余計なアドバイスしちゃった気もするけど」

 ヴィヴィオがいなくなったSOS団の部室でハルヒは1人つぶやく。

104 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:48:18 ID:SF0f54Dw

「本当に、無理だけはしないでね、ヴィヴィオちゃん。
 あなただけでも、生き延びて、元の世界へ帰るのよ……」

 それからハルヒは座ったまま机に倒れ込み、両腕を枕にしてそこに横向きに頭を預けて考える。

 キョンのやつ、どうもあたしの言ったことわかってない気がするわ。
 古泉君も変な一団に混ざっちゃって悪の怪人みたいな事やってるみたいだし。
 有希は……
 みくるちゃん……
 妹ちゃん……
 それに朝倉さん……

「あたし、いつまでこうしていられるかわからないのよ?
 そのうち消えちゃうかもしれないのよ? それなのに余計な心配させないでよ……キョン……」

 1人つぶやくハルヒの声は虚空に吸い込まれ、誰にも届くことはない――







『はい――端末の――ワードは、我々の――可能性が極めて――します』

 声が聞こえた。知っている声。

105 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:49:03 ID:SF0f54Dw
「んんっ……バル……ディッシュ?」

 ヴィヴィオは、バルディッシュと誰か他の人との会話の声で、ようやく眠りから覚醒した。
 眠っていた間、ハルヒお姉ちゃんの夢を見ていた気がする。
 少し思い出してみる。今なら思い出せる気がする。

 ハルヒお姉ちゃんがいっぱい話を聞いてくれた。
 お姉ちゃんの声は最後の少しだけしか聞こえなかったけど、色々身振りで伝えてくれた。
 身振りだったから、はっきりとはわからないけど、一生懸命何かを伝えてくれた。

 キョンさんが殺し合いに乗っているのは鎧のせいじゃないって言ってた。
 ハルヒお姉ちゃんは、キョンさんが馬鹿だからって言ってたみたいだけど……
 詳しい事情はよくわからなかった。

 ハルヒお姉ちゃんは、妹さんの事も相談に乗ってくれた。
 妹さんに復讐や自殺をやめてもらうには、ヴィヴィオも何か賭けなきゃいけないって。
 でも、何を賭けたらいいのかな。妹さんにとっての復讐やゲンキ君の所に行くことと同じぐらい大切なもの。
 フェイトママのバルディッシュをあげたらいいの?
 なのはママ……なのはママに会わないって約束したら、聞いてくれる?
 でも、なのはママ、あの時泣いてた。
 ヴィヴィオ、なのはママが心配だよ。助けたいよ。

 ……そうか。妹さんもそうだったんだね。ゲンキ君を助けたかったのに、それが叶わなくて。
 だから、あんなに……

106 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:49:34 ID:SF0f54Dw


 とにかく頑張ろう。妹さんも、キョンさんも、なのはママたちも。
 そして、できることならアスカお姉ちゃんも、みんな無事で元の世界に帰れるように。


 遠くで声が聞こえる。知らない声。1人じゃないみたい。


「晶殿がキーワードを聞いてきているでござる。リナ殿。わかるでござるか?」
「ええ。やっぱりその世界の人間にはすぐわかる問題みたいね。答えは『フィブリゾ』よ」
「承知したでござる」
「さてと。うまく行ったらお慰みってとこね」


 すぐにバルディッシュもヴィヴィオの覚醒に気付くだろう。
 現在時間は17時48分。
 困難の待ち受ける現実に帰還したヴィヴィオが選ぶ道は?――

107 Dream of a silence ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:50:06 ID:SF0f54Dw


【D-02 遊園地/一日目・夕方(放送直前)】

【ヴィヴィオ@リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(小)、気絶から覚醒直後
【持ち物】バルディッシュ・アサルト(6/6)@リリカルなのはStrikerS、SOS団の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
0、みんなが無事で元の世界に帰れるように頑張る
1、キョンの妹を助けたい
2、なのはママが心配、なんとか再開したい。
3、キョンを助けたい。
4、ハルヒの代わりに、SOS団をなんとかしたい。
5、スバル、ノーヴェをさがす。
6、スグルとゼロスの行方が気になる。
7、ゼロスが何となく怖い。
8、アスカお姉ちゃんもできれば死んで欲しくない


【備考】
※ヴィヴィオの力の詳細は、次回以降の書き手にお任せします。
※長門とタツヲは悪い人に操られていると思ってます。
※キョンが殺し合いに乗っているのはガイバーのせいではないと夢の中のハルヒに教えられました。
※149話「そして私にできるコト」にて見た夢に影響を与えられている?
※アスカが殺しあいに乗っていると認識。
※ガイバーの姿がトラウマになっているようです。

108 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/05/19(火) 00:51:00 ID:SF0f54Dw
以上で仮投下終了です。
4本目のヴィヴィオの話は時期的にキョンの夢に近すぎるし、
安易に続けてこのネタを使うのは芸がないなあと自分でも思ったのですが、
書いていてヴィヴィオを起こすイベントを挟みにくくて後に後に伸ばしていたら最後まで起こせなかったため、
後から追加で4本目を書いた結果こういう形になってしまいました。
ちなみにこれの前に書いた話はもっとはっちゃけていたのですが、自主的に没にしましたw

最悪4本目は破棄しても、ヴィヴィオがずっと寝てるなあ、という以外は別に支障はないので、
その方が良ければそうしようと思います。
その場合ヴィヴィオは最後まで眠ったままで、3本目の最後にヴィヴィオの状態を追加する事になります。

砂ぼうずのチャット参加は、ここまでですでにかなり長くなっているので申し訳ないですが断念しました。
後の人に丸投げしちゃってすいません……

109 ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 00:52:57 ID:BWzY8uBA
◆O4LqeZ6.Qs氏の仮投下直後で申し訳ありません、続けて私も書き込ませていただきます。

110 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 00:54:05 ID:BWzY8uBA



―――ザ、ザザ……ザァザザザザ……ザ

まどろみの中で音が聴こえてくる、本物で無い音が。
砂が空を、地上の全てを覆いつくして走る音、砂漠の住民にとっては避けられぬ災厄―――砂嵐。

雨蜘蛛にとって母親の胎内に有った時より聞いてきた、いわば子守唄同然の音。
背中を壁に預け、警戒を怠り無く休む男にはそんな幻聴が聴く自分が可笑しかった。

(砂が恋しいって身体が戸惑ってやがる、まだ一日も経っちゃいないのにな)

砂漠に適応しきってしまっているせいか環境の変化にどこか付いていけないのだろう。
素肌を晒せる程の穏やかな日差し、豊かな緑に無尽蔵の水、砂の飛んでこない世界。

昨日まで生きてきた世界では天国か有り得ぬユートピアと語られる場所に雨蜘蛛は居る。
ここは静か過ぎた。
喧騒が無いという意味ではない、今まで当たり前だった音がしないのだ。

(静かなもんだ……、砂漠にも砂が動かない日は有るってのに静かさまで違うのかよ)

荒ぶる土地のうたた寝と実りある地の眠りの差か、それとも唯の錯覚か。
雨蜘蛛はただ遠くに来たという想いだけを強くした。

視線の先にはパソコンに見入る晶達の背中、隙だらけのその姿が雨蜘蛛への信用を物語っている。
だからこそこうして休める、襲撃者が来たとしても晶達が盾と囮になってくれるだろう。
見終わるまでまだ掛かるな、とまどろみかけたその時だった。

「雨蜘蛛さん」
「……何だ?」

唐突に声を掛けられて意識を引き戻される。
ファイヤーデスマッチの録画はまだ終わっていない、晶が画面を見たまま雨蜘蛛を呼んだのだ。

「さっき俺が言った事を覚えてますか? 俺達が10の異世界から集められたかもしれないって、雨蜘蛛さんは信じますか?」

時間はあるのだし話は後でも出来る、今聞きたいというのは晶の疑問の大きさを物語っていた。
スエゾー達も「ん?」とそんな晶に視線を向ける。

111 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 00:54:46 ID:BWzY8uBA

「覚えているぜ、確かパソコンの向こうの奴が言い出した話だったよな」

それは情報交換の中で告げられた仮説、その時は他に語るべき事が多く触れただけで次へ移った。
始めは広く浅く、突っ込んだ事を語るのはもう少し休んでからと思ったが雨蜘蛛としてもこの話題に興味が有る。

「スエゾー、そしてここに写っている魔法使いや喋るカエルといった俺の世界では有り得ない存在、信じるしかないと思ったんですが雨蜘蛛さんの考えも聞きたいんです」

晶の問いも当然かもしれない。
知らない常識に有り得ない存在、確かに異世界に来たと考えればしっくり来るが所詮他人の仮説だ。
言われるまま信じる前に自分達で考えてみるのは悪くない。

「なんや晶、まだそんな事言っとるんか。ワイはとっくに信じとるで〜、ゲンキの奴も違う世界から来たって言ったやないか」

スエゾーが呆れた声を出した。
ゲンキという彼にとって異世界の住人と旅していただけに元々受け入れる余地があったのだろう、間違ってないんやないかと晶に言う。

「悪いがお前らが何を言っているのか良く解らん、そもそも異世界って何だ? まずそこから話してみろ」

雨蜘蛛にとってそれは初めて聞く単語だった。
各々が元々暮らしていた場所だとは解る、見た事の無い連中だから遠い場所だとも解る、解らないのはその”スケール”だ。
晶は何を知っているのか、果たして此処は何処なのか手掛かりを掴むべく雨蜘蛛は言葉を待つ。

「あ、そうですよね。俺の場合は哲郎さんがSF研究会だったりテレビや漫画の影響で馴染みがあったので雨蜘蛛さんも知っていると思ってしまいました」

現代社会を生きる晶にとって異世界とはある意味身近な存在でもあった。
思慮が足りなかったと頭を下げる、さすがにデスマッチを見たまま謝る訳にはいかず椅子を動かして雨蜘蛛と向かい合う形となる。
こうなるとスエゾーと小トトロも鑑賞を続けにくくなり一緒に雨蜘蛛と向き合った。

「解りやすく言えば……天国、地獄や魔界なんて言われるのが異世界です。おどろおどろしい場所って訳じゃないですよ、普通の方法ではまず行けない場所の事です」

何て言えばいいかなと悩みながら晶は語った。
車や飛行機を使って何年進んでも行けない場所、外国なんかよりもずっと遠く、次元を隔てた向こう側をどう説明するか考えた末に選んだのは天国という単語。
死後の世界観も違ったらどうしようと困りながら晶は反応を窺った。

「……天国ねえ、確かにここは俺にとっちゃ天国だわ」

思わずそんな声が出る、この島で雨蜘蛛は砂漠のどんな金持ちも出来なかった体験をしたのだ。
恐らく暗黒時代の遺物でも来る事は出来ないだろう、難解な説明をされるよりはよっぽと解りやすい。
感傷に浸ってると奇妙な視線に気付く、見れば天国などと言った雨蜘蛛に晶達が戸惑っていた。

112 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 00:55:33 ID:BWzY8uBA

「悪ぃな〜、お前らには変に聞こえたかもしれねえが殺し合いが楽しいって意味じゃねえよ」

違う意味に取られる前に火消しに移る、それに何となく語りたい気分だった。
この島に来て初めて知った事は多過ぎた、島という概念さえ初めて知ったのだ。

「俺が住んでいたのは砂漠のど真ん中だったんだぜ? 昼は灼熱、夜は極寒、こんなスーツが無けりゃ即座にオダブツのほ〜〜〜んとロクデモナイ世界よ」

スエゾーが不審者呼ばわりした砂漠スーツをヒラヒラさせる、あの世界の異常さがここに来て初めて解った。
そんな世界を這いずり回って生きてきた自分がたまらなく滑稽で自然と軽口になる、何しろ始めは砂漠に戻ろうなんて考えで行動してたのだ。
晶やスエゾーは黙って話を聞いていた、茶化す事が出来ない空気だった。

「水は貴重品だ、オアシスは全て国に管理されているし金持ち以外はチビチビやるだけで精一杯、食べ物ときたら少ない上に砂が混じるのが当たり前だわ」

別に自分の世界の悲惨さを訴えている訳でもない、ただ淡々とありのままを述べる。
晶も知識としてそんな人々が外国に居るのは知っている、しかしテレビに映る映像とは違う生きた言葉は重みが違う。
クロノスという敵と戦ってはいるが日本という恵まれた国に生きてきた晶には雨蜘蛛をどんな目で見ればいいのか解らない、戸惑いの中言葉は続く。

「人が野垂れ死にしようが誰も気にしちゃいない、盗賊や人買いは風景の一部だ。お前ら、海って見た事があるか?」

すると全員が無言で頷く。
晶もスエゾーも海には何度か行っていた、小トトロは不明だが島に連れてこられた時に見たのかもしれない。

「俺はここに来て初めて見たぜ〜、海っていう言葉も初めて知った、いや本当人生感変わったわ」

さも可笑そうに雨蜘蛛は笑った。
晶達は言葉も無い、ただ背後のパソコンから音声が流れていくだけだ。

「下らない事喋っちまったが異世界とやらは信じるぜ〜。俺は確かに遠くに来たんだ、そこに写ってる様な変わった奴が居るからじゃねえ、あんなに水を見たのは初めてだからだ」

初めて海を知り、初めて水の怖さを知った。
一生を過ごすと思っていた砂漠とは違う世界があった、外国をすっと飛ばして次元を超えた異世界だろうが信じてやろうと男は思った。
そんな気分だった。

晶は恥ずかしかった、雨蜘蛛の本心を知らずに疑いの目を向けてしまったことが。
そして苛烈な世界を生きてきた男に一つの疑問が浮かんできた。

(じゃあ……雨蜘蛛さんは人を殺した事があるんですか?)

ここでする質問でない事は解ってる、しかし晶には行動を共にする仲間としてそれが気になった。
もし”ある”と返事が返って来たらどうすればいいのだろう?
彼は日本人でも何でもない、生きる為と言われたら晶には責められない。

113 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 00:56:06 ID:BWzY8uBA

出て行ってもらう? それとも目を瞑って協力する?
聞く事も答えを出す事も出来ず迷っていると突然声を掛けられた。

「とっくに終わっているぜ、晶」

晶が慌ててパソコンを見ると写っていたのは壊れたリングとアシュラマンの無残な死体。
そして勝利の疲れを癒すオメガマンの勝ち誇った姿。
スバルやガルルの姿は何処にも見当たらなかった。

肝心な場面を見逃してしまったが巻き戻せば済む、ひとまず一時停止させて後で見直そうと晶は決めた。

「で、感想は? 異世界って奴を信じる気になったか?」
「はい……、スバルという人についてはよく解りませんでしたけど」

完全に聞くタイミングを逃してしまった。
しかし晶はその事にホッとしてもいた、やはり答えを聞くのが怖かったのだ。

(これでいいんだ、雨蜘蛛さんの過去がどうであれ俺達を助けてくれた事は変わりないじゃないか)

疑問を振り払って改めて雨蜘蛛と向き合う、今は黙って皆が異世界から集められてる確信をくれた事を感謝する。
座りながらも隙を見せないその姿、どことなく巻島さんに似たものを感じてしまう。
この人はきっと非情さも持ち合わせているという予感がした。

(雨蜘蛛さんを見習えば俺も強くなれるかもしれない)

自分が甘いという事を晶は良く解っている。
小トトロを質に取られた事は今でも悔いを感じている、雨蜘蛛に学べるかもしれないと期待した。

「俺からもいいか? お前クロノスって組織が今回の事に関わってるかもしれないって言ってたな?」

そんな晶の内心を他所に今度は雨蜘蛛が質問する。
雨蜘蛛は既にキョンから長門の情報を、メイからタツオの情報を聞き出している、しかし尚もピースは不足していた。
そこに飛び込んで来たのが黒幕となりえる巨大組織の存在だ、雨蜘蛛としても生存の為に詳しい話を聞いておきたい。

「最初はそう思ってました……今は可能性が低くなりましたがゼロとも言い切れません」

晶から質問したのだ、雨蜘蛛の質問にも答えなければならない。
困惑した声で解らないと言う、晶にとって何度考えても結論が出せない問題だった。

その代わりとして知っている限りのクロノスの事を話した、降臨者から始まって獣化兵の事までを。
雨蜘蛛は途中口を挟まなかった、しかし話を聞き終えると同時に胸に突き刺さるような一言を晶に投げかける。

114 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 00:56:52 ID:BWzY8uBA

「俺にはお前さんが解らないぜ晶。そのクロノスの幹部ギュオーって奴が居るんなら直接聞くのが一番手っ取り早いんじゃないか? 何故そうしない?」
「あ……」

途端に晶は答えに詰まった。
確かにクロノスが関わっているならギュオーが何らかの情報を知っている可能性は有る、しかし当初から相容れない敵という印象が先行してその事に思い至らなかったのだ。

「おいおい、まさか今まで気付かなかったとでも言うつもりじゃねえだろうな? 砂漠の住民ならかっさらってでも聞き出すぜ〜」

パンパンと背中を叩かれる。
キョンに荷物を奪われた事といい、今まで何をやっていたのかとますます自分が恥ずかしく思えた。

「元々の敵? 手強い相手? そんなもん本当に殺し合いを壊したいなら仲間に引き込むなりなんなりしろよ晶、主催者はも〜〜〜っと強いんだぜ?」

あのギュオーから話を聞きだす? いやそれどころか仲間に引き込む?
無理難題を言われている気がした、しかし何の反論も出来なかった、確かにそれだけの事をやらなければ殺し合いは壊せない。
傍らのスエゾー達も何と言っていいのか解らないのか交互に二人を見比べるだけだ。

(俺は……何をやっているんだ、いっそ雨蜘蛛さんにこれからの行動を任せた方がいいのかもしれない)

自信が揺らぐ、この先は生きるか死ぬかの世界で生きてきた雨蜘蛛に頼るべきだという考えが生じた。
元々晶はごく普通の一般人だったのだ、頼りになりそうな人に縋るのは悪くない選択に思える。
しかしそれをする前にどうしても確かめなければならない事があった。

「じゃ、じゃあ聞かせて下さい! 雨蜘蛛さんの考えを! この先殺し合いの中でどうするつもりなんですか!?」

もし優勝を目指すなど言われたらどうすればいい?
その答えも用意しないまま晶は聞いた、聞きたかった。

「簡単だ、俺は何としても生き残りたい。殺し合いから逃げる方法も探すが最終的には可能性の高い方を選ぶぜ」

即答だった。
安心しろ、殺し合いなんかするかよ―――そんな当たり障りの無い答えを言うべき場面で雨蜘蛛は優勝を目指す事に含みを持たせた。
どこまでも甘い晶という少年を見ていると突き放したい気分になったのだ、打算より感情が勝った瞬間だった。

「そ、それってワイ達を殺すかもしれんって事やないか!」

答えを聞いてスエゾーが下がる、晶も俯いて黙ってしまった。
さすがに雨蜘蛛もまずったかなと舌打ちする、今協力を断られればもう一度人探しから始めなければならない。
こいつは何と言い訳しようかなと思っていると突然晶が顔を上げた。

115 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 00:57:36 ID:BWzY8uBA

「生き延びたいって雨蜘蛛さんの気持ちは解ります、だからその考えを俺は責められません……でも!」

砂漠で生きてきた男の半生を知って晶は返ってくる答えが予想できた。
晶もスエゾーも生きたいのは同じだ、彼の気持ちも解る―――それでも。

「優勝を目指すって事だけは許せません! 俺がさせません!」

雨蜘蛛の返答を聞いて晶もまた答えを得た、これだけは決して譲れない、己の正義感を偽る事は出来ない!
返答次第ではそのまま戦いとなりそうな勢いで雨蜘蛛に詰め寄る、スエゾーと小トトロはその迫力とガッツに押されて更に下がった。

(甘い、甘すぎるぜ晶。お前は現実が解っちゃいないお坊ちゃんだ)

雨蜘蛛はスッと椅子から立ち上がる。
マントが揺れたと思うと拳銃がガイバーの額に向けて突きつけられる、これが雨蜘蛛の返答だった。
一気に緊張が高まる、引き金が僅かに引かれるが晶は雨蜘蛛が本気で無いと感じたのか微動だにしない。

「ふん、随分と偉そうだな晶よ。一つ聞くがお前ならゲームをぶっ壊せるのか? もし勝算一つ無しに言ってるのなら本気で怒らせてもらうぜ!」

やっちまったかな、売り言葉に買い言葉とはいえ抜いたのは短気過ぎたかもしれん。
だがここはキッチリこの甘ちゃんに現実を解らせないと気が済まない、後で足を引っ張られるのはご免だからな。
関東大砂漠にお前の様な奴は居なかった、当たり前だ。居たらとっくにくたばっちまってる。

「……正直今は勝算どころか何も解りません。今までやってきてそれが俺の限界でした」
「何言うとんのや晶! お前はワイや小トトロを助けてくれたやないか! 役立たずなんかとは絶対に違うで!」

言い訳一つせずに晶は無力さを認めた、慌ててスエゾーがフォローするが二人の耳には届いてはいなかった。
認めた上で尚も雨蜘蛛に主張する、最後の一人になろうとするのは絶対に正しく無いと。
雨蜘蛛としても晶がこうも粘るとは意外だった、荷物を奪われ死ぬ寸前まで行って変えないその態度に苛立ちが募る。

「砂ぼうず以外にもお前みたいな馬鹿がいたとはな! それがお前の世界の常識って奴なのか?」
「そうです! それが俺の世界の、いえ俺の正義です!」

今度は晶が即答した、銃口を見据えたまま揺るがぬ声が雨蜘蛛に放たれる。
おーっ、とスエゾーが歓声を上げた。小トトロもパチパチと手を叩いて晶を褒めている。
だがすぐに雨蜘蛛の怒声がそれを打ち消した。

116 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 00:59:34 ID:BWzY8uBA

「一つ言っておくぜ晶、お前さんはいろんな世界から人が集められている事を認めたよな? なら何故自分だけが正しいと言える? 他の世界の常識は認めないって事か?」

雨蜘蛛、いや関東大砂漠の常識からすれば晶の思考は甘いなんてもんじゃない。
せっかくの命をわざわざ危険に晒す愚かな行為だ。
そんな『非常識』が正しいと勝手に押し付けられるのは迷惑以外の何者でもない。

「ひょっとしたら主催者連中も自分達の常識で正しい事をしてるつもりかもな! 全く異世界人の考えてる事は解らないぜ!」

ガイバーの肩を掴んで一気に怒鳴った。
頭ではこりゃぶち壊しかな〜と思っていたが止められない。
スエゾーと小トトロはお互いに晶と雨蜘蛛を引き離そうとするが全くの無駄だった。

「お前の世界と常識はそんなに偉いってのかよ! 答えてみろ晶!」

思わず熱くなってしまった事にちっと舌打ちする。
その時だった、急に晶が腕を伸ばして雨蜘蛛の両肩を掴んだ。

「言ってる事は解ります! そして俺達だけで殺し合いを止められないというのも言った通りです! だから……だから雨蜘蛛さんに力を貸して欲しい!」

それは責めでも決別でも無く協力の依頼、戸惑う雨蜘蛛を見据えて晶は一気にまくし立てる。
晶は砂漠の常識を否定しきれない、そして自らの正義を覆すつもりも無い、なら取るべき行動は―――脱出の可能性を高める事!

「要は雨蜘蛛さんは生き延びられればいいんでしょう? 目的は最後の一人になる事じゃない、ならそこに俺やスエゾー、他の皆が加わってもいいはずだ!」

雨蜘蛛はやがては可能性の高い方を選ぶと言っていた、それなら希望の方を高めればいいというのが晶の結論。
そうすればこの人を止められる、晶はそのように考えた。

「どうです? これならお互いの世界の常識でも最良の結果に違いない筈です! 俺だけでは無理でも……雨蜘蛛さんと一緒ならきっと出来る!」
「そやそや! 晶とアンタが組めば鬼に金棒やで!」

おいおいと雨蜘蛛は思った。
支給品に恵まれただけのお人好しと砂漠の一取立て屋で異世界を行き来する相手に歯向かおうって事か? こいつは本物の馬鹿だ。
何だかこいつに何を言っても無駄な気がしてきた。

「ふん……威勢が良いのは結構だが本当に危ないときは遠慮なく逃げさせてもらうぜ?」
「決まりですね……それでは改めてよろしくお願いします!」

承諾したつもりなぞ全くない、しかし有無を言わせず手を握られちまった。
横ではスエゾーと小トトロがワイ達の事も忘れんでや〜と騒いでまでいる。

(どうなるかと思ったがこいつらがお人好し過ぎて助かったぜ)

ワイワイと騒ぐ晶達を見て思わず溜息が出る。
とにかく決裂は避けられた、それだけでも良しとして雨蜘蛛は再度椅子に腰掛ける。
ただ、握られた腕がほんの少し―――痛く感じられた。

117 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 01:00:17 ID:BWzY8uBA


              ※



―――ザザァ……ザァァァ、ザザザザ

(また砂の音が聞こえてきやがった)

落ち付いた後で晶達は再びビデオを見始めた。
俺はまたその背中を見ながら休んでいる。

さっきは喧嘩別れをしてもおかしくはなかった、あいつの甘さには調子狂うぜ。
利用できる内はいい、優勝以外の選択肢が出来る事は悪くない。
だが状況が変わったらとっとと切り捨てさせてもらう、それ迄は勝手に勘違いしてもらうとするか。

(ガキの頃の砂遊びを思い出すぜ)

砂の建物はあっけなく崩れる、どんなに手間をかけて作っても変わりはしない。
この関係も同じだ、いつ壊れてもおかしくない、まさに砂の器だ。

(どこまで持つかね〜、長持ちはしないだろうが早過ぎても困る、せめてあの洞窟を調べるまでは続かせないとな)

そして砂遊びの醍醐味はそのあっけなさだ。
壊れるか、自分から壊すか、どう転ぼうが面白い。
その時はどんなカタルシスが得られるのか楽しみだぜ。


―――ザァー、ザ……ザザ、ザ、ザ、ザ


砂の音が強くなる。
それは嵐の予感なのか、見せ掛けの結束の暗示か。
答えはまだ解らない、彼らはただ静かに連絡を待つ。

生き延びる為に、それは全員が同じくする志。

それだけが―――砂を繋ぎ止めている。

118 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 01:01:00 ID:BWzY8uBA



【H-8 博物館/一日目・夕方】



【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】軽度の船酔い(回復中)、胸に軽い切り傷 マントやや損傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、有刺鉄線@現実、枝切りハサミ、レストランの包丁多数に調理機器や食器類、各種調味料(業務用)、魚捕り用の網、
     ゴムボートのマニュアル、スタングレネード(残弾2)@現実、デイパック(支給品一式)×2、RPG-7@現実(残弾三発) 、ホーミングモードの鉄バット@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:晶、スエゾーを利用して洞窟探検を行う(ギリギリまで明かさない)
3:水野灌太と決着をつけたい。
4:暫くは博物館で時間を潰す。
5:ゼクトール(名前は知らない)に再会したら共闘を提案する?
6:キョンの妹・朝比奈みくるをちょめちょめする。
7:草壁サツキに会って主催側の情報、及び彼女のいた場所の情報の収集。その後は……。(トトロ?ああ、ついででいいや)
8:キョンを利用する。午後六時に採掘場に行くかは保留。
9:ボートはよほどの事が無い限り二度と乗りたくない。



【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
 索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
※メイのいた場所が、自分のいた場所とは異なる世界観だと理解しました。
※サツキがメイの姉であること、トトロが正体不明の生命体であること、
 草壁タツオが二人の親だと知りました。サツキとトトロの詳しい容姿についても把握済みです。
※サツキやメイのいた場所に、政府の目が届かないオアシスがある、
 もしくはキョンの世界と同様に関東大砂漠から遠い場所だと思っています。
※長門有希と草壁サツキが関係あるかもしれないと考えています。
※長門有希とキョンの関係を簡単に把握しました。
※朝比奈みくる(小)・キョンの妹・古泉一樹・ガイバーショウの容姿を伝え聞きました。
※蛇の化け物(ナーガ)を危険人物と認識しました。
※有刺鉄線がどれくらいでなくなるかは以降の書き手さんにお任せです。

119 砂の器(修正版) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 01:01:44 ID:BWzY8uBA


【深町晶@強殖装甲ガイバー】
【状態】:精神疲労(小)、苦悩
【持ち物】 小トトロ@となりのトトロ、首輪(アシュラマン)、博物館のメモ用紙とボールペン、 デイパック(支給品一式)
      手書きの地図(禁止エリアと特設リングの場所が書いてある)
【思考】
0:ゲームを破壊する。
1:雨蜘蛛に借りを返す。
2:しばらくは博物館で待機。
3:巻島のような非情さがほしい……?
4:スエゾーの仲間(ゲンキ、ハム)を探す。
5:クロノスメンバーが他者に危害を加える前に倒す。
6:もう一人のガイバー(キョン)を止めたい。
7:サツキの正体を確認し、必要なら守る。
8:巻き込まれた人たちを守る。



※ゲームの黒幕をクロノスだと考えていましたが揺らいでいます。
※トトロ、スエゾーを異世界の住人であると信じつつあります。
※小トトロはトトロの関係者だと結論しました。スパイだとは思っていません。
※参戦時期は第25話「胎動の蛹」終了時。
※【巨人殖装(ギガンティック)】が現時点では使用できません。
  以後何らかの要因で使用できるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※ガイバーに課せられた制限に気づきました。
※ナーガ、オメガマンは危険人物だと認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子を信用できる人物と認識しました。



【スエゾー@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜】
【状態】:全身に傷(手当済み)、火傷(水で冷やしただけ)、貧血気味
【持ち物】 なし
【思考】
0:晶、小トトロと行動を共にする。
1:ゲンキ、ハムを探す。
2:オメガマンにあったら……もう、逃げへん。



※スエゾーの舐める、キッス、唾にはガッツダウンの効果があるようです。
※ガッツダウン技はくらえばくらうほど、相手は疲れます。スエゾーも疲れます。
※スエゾーが見える範囲は周囲一エリアが限界です。日が昇ったので人影がはっきり見えるかも知れません。
※ギュオー、ゼクトール、アプトムを危険人物と認識しました。
※放送直後までの掲示板の内容をすべて見ました。
※参加者が10の異世界から集められたという推理を聞きました。おそらく的外れではないと思っています。
※ドロロとリナをほぼ味方であると認識しました。
※ケロロ、タママを味方になりうる人物と認識しました。
※ドロロたちとの間に4個の合言葉を作り、記憶しています。
※川口夏子をたぶん信用できる人物と認識しました。

120 ◆5xPP7aGpCE :2009/05/19(火) 01:03:18 ID:BWzY8uBA

以上、「砂の器」の修正版を投下させていただきました。
問題がなければwikiの作品を差し替えたいと思います。
氏の仮投下直後というタイミングで申し訳ありませんでした。

121 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:52:19 ID:7QWhozu2
妹事情組、仮投下します

122 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:53:02 ID:7QWhozu2
ふと見上げた視線の先にはふらふらと立っている『化け物』

「それがアンタの本性?やっと正体を表したわね」

(あんな力の無い立ち方なら、簡単に殺せる。だから、今殺すわ。)

「このっ、化け物めぇ!」
アスカはとめどなく立ち上る煙の中を『化け物』に向かって突進する。
ナイフをその手に携えて。

「死ねぇっ!」

アーミーナイフを握る左手と腹に力をこめて、全身の体重をナイフに乗せながら一歩踏み込む。
突き出したアスカの手に衝撃が伝わる。

『化け物』は崩れるように地に落ちた。

(煙のせいでよく見えないけど、起き上がってくる気配はない…… やった?…… やった!)

「あは、あはは………… あははははは!『化け物』があたしに勝てるわけがないじゃないっ!」
(そうよ、あたしは選ばれた人間だもの!ママが見ていてくれるのに失敗するはずないわ!)

カチャン、カチャンと明るく澄んだ音が暴力の過ぎ去った場所に響く。
勝利に酔いしれる少女は足下に散らばる破片を蹴散らしながら、踊るように歩を進めた。
煙の隙間をぬうように降り注ぐ沈みかけの夕日が、彼女をさながら舞台女優のように照らす。

「ねぇ、ママ見ててくれたよね?あたし、がんばったの」

赤の似合う少女は両の膝をつき、恍惚とした様子で光の方へ血まみれの両腕を掲げる

「ねぇ、ママ…… 」

123 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:54:50 ID:7QWhozu2
***************************************


時は少しさかのぼる
炎の檻の中には少女が2人、いた。
2人の少女は明確な敵意をぶつけ合いながらにらみあう。
周りの建物はほとんどといっていいほど火だるまで、じわじわとその内径を縮めていく。


あつい。流れてくる汗がとってもきもちわるい。息も、なんだか苦しい。
けどそんなこと気にしてられない、だって目の前にはアスカがいるんだもん。
ハルにゃんをバカにしたアスカ、朝倉さんやヴィヴィオちゃんにひどいこと言ったアスカ。
アスカがいなければゲンキ君も死ななかったのに!
だから、私は仇をとる。
アスカは私が殺すんだ。
さっき1発撃っちゃったから銃の残りは2発。
慎重に使わなくちゃダメだよね。うん、ちゃんとーーーー殺さなくっちゃ。


思わず、足に力が入る。
ジャリッというちいさな土音は、開戦のゴングになった。



「せぇりゃあぁぁぁぁぁ!!!」

アスカがナイフを握りしめて地面を蹴る。
鋭い切っ先が命を刈り取ろうと夕日にきらめく。
キョンの妹は変にこわばった足に力を入れ直して、銃の引き金にかけた指をひく。
が、その一瞬の隙をアスカは逃さない。
反復横跳びの要領で一歩横に跳ぶ。
青い制服の端にS&W M10の弾丸を通過させながら、着地した脚のバネでそのまま加速。
一気に近づいて、首元へ横なぎに一閃。

124 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:55:31 ID:7QWhozu2

しかし、


『シールド転送!』

ガキンと盛大な音をならして
刃はパワードスーツから出現する盾に阻まれる。
状況の変化に素早く対応しアスカは体を引いた。

再び2人は距離をとって向かい合う。

じりじりと間合いを取り合いながらアスカは冷静に状況について思考する。


やっぱり、いきなり出てくるあの盾がジャマだわ。
相手は銃を持っていて、こっちには刃こぼれしたナイフが一丁。
加えて装甲の厚さも段違い。
……武装に関しては悔しいけどあちらのほうが上ね。

だけどそれは付属品のお話。
あのガキ自体はぬくぬくと育ったであろうなんの戦闘力も無いただのガキンチョだわ。
あたしは違う。だてにエヴァに乗って闘ってるわけじゃないし、そのための訓練だってさんざん受けてきたのよ!
だから、つけ込むならそこ。戦闘経験の差だ。
さっきのであいつの反応速度はそんなに早くないことがわかった。
だけどバカ正直に突っ込んだらダメ。そんなことしたら死ぬ。
なにかあの防御を突破できる方法は……。

125 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:56:11 ID:7QWhozu2



脳みそをフル回転させてそこまで考えると目の前のガキが口を開く。

「ねぇ、あやまってよ」
「はぁ?」
「ゲンキ君に!あやまってよ!」

このガキは何を言っているんだろう

「何それ。なんでアタシが謝んなくちゃいけないのよ」
「ゲンキ君にひどいことしたじゃない!ゲンキ君の友達をわるく言ったし、銃も向けた!ゲンキ君はアスカをかばったのにとどめまでさそうとした!だから!あやまってよ!」

わけわかんない。けどまぁあの盾をどうにかするのを考えるのにちょうどいいかもね。
少しだけ、付き合うふりをしてやろう。

「謝らないわよ。あの化け物を殺したのはアタシじゃなくて小砂じゃない。アタシにあたる前にそっちに文句を言ったらぁ?」


会話に応じるふりをしながら、目の前の相手を観察する。
武装は、さっき見たとおり。
銃を撃ってこないのは会話をするためか…もしくはもう残り弾数が少ないのかもしれない。
口調はずいぶんしっかりしてるけど目がずいぶんイっちゃってるわね。
これはほっといてもボロを出してくるでしょ。
油断は禁物だけど。


「小砂は……間に合わなかった。見つけたときにはもう死んじゃってた。」
「あーらそう。それはお気の毒さま。けどあいつも化け物の仲間なんだから死んで当然よね」
『アスカ!てめぇってやつは!』
『化け物化け物って……アスカ殿にはそれしかないのでありますか!?』
「ナビさん達は黙っててよ!」
「そうね、化け物の声なんか聞き続けたら耳がおかしくなっちゃいそうだわ」

126 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:57:19 ID:7QWhozu2

次はこの状況に対する有効打。
今までの戦闘経験のなかにきっとヒントがある。クールになるのよ、アスカ。
何度も死にそうになったけど、アタシはその度に正解をつかみ取ってきたはずよ。
アタシはできる。またここでも正解をつかみ取ってやるんだから!

ユニゾン攻撃…これは違う、ここにいる人間はアタシ1人。
衛星軌道上の使徒の狙撃作戦…これもダメね。あれは武器に頼った作戦だわ。
元の場所での戦闘は参考にならないわね、エヴァに乗ってたときと今とは状況が違いすぎるわ。

無駄話をしてる間も火がどんどん回ってきてる。

考え方を切り替えよう。この島に、来てからは……
…………あぁ、ヒントは意外に近いところにあったんじゃない。
ここにきてから「あの化け物」に使った手。あれが使えそうだわ。


「っ!小砂は別にしてもっ!アスカなんかかばわなかったらゲンキ君は死ななかったよ!アスカがいなければゲンキ君は生きてたんだ!」
「そんなの言いがかりじゃない!」

ガラリと民家の一部が焼け落ちる音がする。一瞬妹がこちらから目を離したスキに「準備」をした。
これで、いつでも作戦開始オッケー。
あとはタイミングをはかるだけ。

「とにかく!あやまってよ!ゲンキ君にも、朝倉さんにもヴィヴィオちゃんにもハルにゃんにもゲンキ君の友達にも!」
「いやよ。アタシは化け物なんかに謝らないわ。しかも、とーっくに死んだヤツになんて謝る意味がわかんない。」
「アスカぁ!」

さっきからずっと銃を構え続けてきたあのガキの腕が震えだしてる。
その腕から力が抜けたときが勝負。

「あぁ、けどひとつアンタに言いたいことがあるわ」
「な、何?」

127 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:58:01 ID:7QWhozu2


もう少し……もう少し。

「アタシは、惣流・アスカ・ラングレーは、『キョンの妹』だなんて誰かを引き合いにされないとアイデンティティを証明できないヤツなんかに」

銃口がわずかに下がった。

「負けたりしないってことよ!」


先ほど逆手に持ち替えたナイフを銃身に思いっきり叩き付ける。
その勢いで発砲されるがアスカには当たらない。
銃口をさらに下に向かせてそのままナイフは上へ跳ね上げる!
喉元を正確に狙った切っ先はまたもや出現した盾に阻まれてしまった。
・・・・・・
それが狙いだ。
盾が出現すれば攻撃を防ぐが、それは彼我のあいだに壁を作るということ。
引き換えに攻撃者は一瞬視界から消えてしまうのだ。
その隙に先ほどあけておいたシェルショットポーチからグレネードの弾を取り出し、手近な炎の中に投げ込む!
間髪あけずに思いっきり地面をけってとれるだけの距離をとった。

あの男につかったときのように弾がダメージを受ける。
あの時はガス弾だったが今度はグレネード弾だ。
爆発に巻き込まれればあんな盾どころじゃひとたまりも無い。
そこでこの化け物はジ・エンド。

128 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:58:57 ID:7QWhozu2











そのはずだった。

「なんで、爆発、しないのよっ!」
銃を捨て、ナイフで応戦してきた妹の攻撃をかわしながらアスカはわめく。
(火じゃ、だめだった?だって、さっきは。…そんな!)

打ち合うナイフで火花を散らしながら、剣戟は続く。
右に刃がくれば逆へ身を逃がす。
そのまま横へ薙がれるなら自分のナイフでそれを受け止めはじく。
反撃とばかりに打ちおろせば向こうは一歩引いてやりすごす。
深追いすればまた相手の突きがこちらを襲う。
こうなればスーツのナビたちも手出しはできない。
両者の立ち位置はくるくると入れ替わる。
しばらくしてそっくり入れ替わった場所で2人は停止した。

「「はぁ、はぁ……」」
お互いに、細かい切り傷だらけで、おもいっきり息を切らしている。
無理もない、酸素の薄くなってきている火事場のまんなかで大運動会をやらかしているのだから。

「チクショウ……」
口をひらいたのはアスカだった。

「チクショウ、チクショウ、チクショウ!」
策がはずれた悔しさから、正解できなかったことにいらだちながら思わず足を地面に叩き付ける。

129 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 20:59:39 ID:7QWhozu2

さっきはうまくいった、今度はうまくいかなかった。
戦闘経験を活かした戦術だったはずなのに。
いままでの自分が否定されたような気がして、アスカの感情のボルテージは上昇を続ける。







「負けてらんないのよぉぉぉぉっ!」

この島で何度も何度もそうやったように、フットスタンプを繰り出す。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

「アンタなんかにぃぃぃぃxぃぃっ!!!!!!!」

もう何度目になるだろうか、ひときわ高くあげた足を地面に打ちおろしたとき、




ーーーーーーーーーー地面が爆発した。



彼女が激昂していたのはさきほどキョンの妹が立っていた場所。
何回も踏みつけた地面にはさきほどの不発のグレネード弾が転がっていた。
事実は小説より奇なり。なんども打ちおろす踵の下に運悪くグレネード弾の信管があるなんてありえない、そう言いきることが誰にできるだろう。
とにかく、先ほど職務放棄をしたその弾丸は、仕掛人の思わぬところで役目を全うし、白い膨大な光と共にあたりを蹂躙したのだった。

130 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 21:00:20 ID:7QWhozu2




(いたた。吹き飛ばされた時にどこかぶつけたかなぁ。……そうだ、アスカは!?)

グレネードの爆発で吹き飛ばされはしたもののスーツのおかげでたいしたケガはしていない。
もうもうと粉塵の舞うあたりを見回すと、ゆらりと動く影を見つけた。
もとは美容室かなにかであろう天井の高い建物の中でそれは立ち上がった。
しかし、キョンの妹にはその影がアスカだとすぐにはわからない。


なぜなら、視界の悪さもさることながら、その影は判別できないほど顔にも体にもひどいやけどを負っていたから。
皮膚はずるむけになり、ぬけるように白かった肌は今やただれた赤と黒のグラデーションをなしているし、
水ぶくれでもつぶれたのか血だか組織液だかの体液が体中からぐじゅぐじゅとしみ出している。
右脚などは真っ黒に炭化してしまっている。
さきほどなのはに整えてもらった髪も見るも無惨な状態だ。
見た目はすでに充分な異形。
そして、なによりも恐ろしいのは本人がそれに気づいていない様子であることだ。

その生き物はとてもアスカには見えなかった。
けどこの炎の檻で生きているのはキョンの妹とアスカだけ。
そして自分はここに立っているからあれはアスカだと妹はそう結論づけた。

アスカは美容室特有の大きな『鏡』をじっと見つめたかと思うと『鏡』に向かってわめくというわけのわからない一人芝居を繰り広げている。
背中はがら空きだ。

(今なら……殺せるよね)

ナイフを握りしめてアスカのいるほうへ近づこうとする。
「このっ、化け物めぇ!」アスカが大声をだして動いた。
妹はびくりと動きを止めるがアスカはあらぬ方向へ突進していく。
ガシャーンとけたたましい音をたてて『鏡』を破壊した。
しばらく動きを止めて様子を見ているとアスカのほうからこちらへ向かってくる。
なにやらうわごとを言いながら今割った『鏡』を蹴散らして軽やかに歩き、そのまま建物の外へ出て、へたり込んだ。

131 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 21:01:07 ID:7QWhozu2










(大丈夫、もう、迷ってないから)
そっと、妹はアスカの背後へ忍び寄る。
(化け物……ね)アスカの異様な気配を感じ取りながら歩を進める。
アスカのすぐ後ろに、たどり着いた。

「あなたのほうが、よっぽど化け物だよ」

復讐の鬼に身をやつした少女はそして右手に握りしめたナイフをおおきく振りかぶり、幸福な幻を見る少女の脳天にその刃をめり込ませた。




アスカは母親の幻影を見ながら『化け物』を倒した満足感を抱えて息絶えた。
けれどある意味でその認識は正しかったのかもしれない。
彼女はこの島にいるどんな異形にも負けない『化け物』をその心のなかに飼っていたのだから。




ナイフを抜く。
アスカの体から吹き出す血が妹を赤く濡らす。

(血が、たくさん出てる。生暖かくて、気持ち悪い……生きている人って、こんなにも温かいんだね)

おびただしい量の赤い血を見てアスカの死を実感する。
かつてヴィヴィオが彼女に伝えたかったことは、不幸にもまったく別の角度で理解されてしまった。

132 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 21:02:00 ID:7QWhozu2



「やったよ、ゲンキ君。仇、とったよ!」

やっと終わったよ。
ゲンキ君は怒るかな。けど私、すっごくがんばったんだよ?
小砂は間に合わなかったけど、アスカはちゃんとこの手で殺したよ。
きちんと、仇を討てたの!
今度はちゃんと間に合った。私が殺せたんだよ。
火事で死んじゃったわけじゃない。
まだアスカが生きてるときに私が刺したんだもん。
殺した感触だって手にしっかり感触だって残ってる!
頭のほねと脳みそをぶちまける感覚!
私がちゃんとアスカを殺せた証拠。
しっかりこの手に残ってる。
しっかり……残ってる。

誇らしい、証拠のはずなのに。

「なんで…………なんでぇ?」

手に残った感触は、すこしも私を満足させてくれない。
ただ、
この手に残ったのは血と人を殺したきもちわるさと、ぽっかり穴があいたようなきもち。

アスカはひどい人だったから、ゲンキ君にひどいことするような人だったから、
許せなくて、仇をとろうと思った。
ゆるしちゃいけないと思った。
だから私はがんばったのに。
人をきずつけるのなんて怖くて怖くてたまらなくて、それでもがんばったのに。

アスカは後悔なんかちっともしてなかったし、あやまりもしなかった。
それどころか、最後にアスカは笑ってた!
顔はわけわかんなくなってたけどしあわせそうだった!

なのに今の私には人を殺しちゃったきもち悪さしかない。
アスカを殺してすっきりしたはずなのに、こんなの、

「こんなのちっとも……うれしくないよおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」








(大丈夫、もう、迷ってないから)
そっと、妹はアスカの背後へ忍び寄る。
(化け物……ね)アスカの異様な気配を感じ取りながら歩を進める。
アスカのすぐ後ろに、たどり着いた。

「あなたのほうが、よっぽど化け物だよ」

復讐の鬼に身をやつした少女はそして右手に握りしめたナイフをおおきく振りかぶり、幸福な幻を見る少女の脳天にその刃をめり込ませた。




アスカは母親の幻影を見ながら『化け物』を倒した満足感を抱えて息絶えた。
けれどある意味でその認識は正しかったのかもしれない。
彼女はこの島にいるどんな異形にも負けない『化け物』をその心のなかに飼っていたのだから。




ナイフを抜く。
アスカの体から吹き出す血が妹を赤く濡らす。

(血が、たくさん出てる。生暖かくて、気持ち悪い……生きている人って、こんなにも温かいんだね)

おびただしい量の赤い血を見てアスカの死を実感する。
かつてヴィヴィオが彼女に伝えたかったことは、不幸にもまったく別の角度で理解されてしまった。

133 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 21:03:29 ID:7QWhozu2



「やったよ、ゲンキ君。仇、とったよ!」

やっと終わったよ。
ゲンキ君は怒るかな。けど私、すっごくがんばったんだよ?
小砂は間に合わなかったけど、アスカはちゃんとこの手で殺したよ。
きちんと、仇を討てたの!
今度はちゃんと間に合った。私が殺せたんだよ。
火事で死んじゃったわけじゃない。
まだアスカが生きてるときに私が刺したんだもん。
殺した感触だって手にしっかり感触だって残ってる!
頭のほねと脳みそをぶちまける感覚!
私がちゃんとアスカを殺せた証拠。
しっかりこの手に残ってる。
しっかり……残ってる。

誇らしい、証拠のはずなのに。

「なんで…………なんでぇ?」

手に残った感触は、すこしも私を満足させてくれない。
ただ、
この手に残ったのは血と人を殺したきもちわるさと、ぽっかり穴があいたようなきもち。

アスカはひどい人だったから、ゲンキ君にひどいことするような人だったから、
許せなくて、仇をとろうと思った。
ゆるしちゃいけないと思った。
だから私はがんばったのに。
人をきずつけるのなんて怖くて怖くてたまらなくて、それでもがんばったのに。

アスカは後悔なんかちっともしてなかったし、あやまりもしなかった。
それどころか、最後にアスカは笑ってた!
顔はわけわかんなくなってたけどしあわせそうだった!

なのに今の私には人を殺しちゃったきもち悪さしかない。
アスカを殺してすっきりしたはずなのに、こんなの、

「こんなのちっとも……うれしくないよおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

134 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 21:04:16 ID:7QWhozu2


仇を討つことを行動の原動力としていた少女の精神は、その支えを失ってとうとう決壊した。

「ひっく、うぇ、ゲンキ、くん、ごめ、ごめんなさ、ひっく、う、ごめ、くぅ、あ、わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

紅蓮の炎のなかを慟哭と、嗚咽が響く。
もう、この殺し合いの島にきてからの度重なる悲劇に耐えていた少女の心は限界だった。
とっくのとうにすり切れた心をつないでいたのは小砂への、そしてアスカへの殺意であったが彼女は自らそれを断ち切った。
今ようやく彼女は小学生らしくただ、泣きわめくことができるようになったのだ。
糸の切れたマリオネットが自力で起き上がることはかなわない。
ずいぶんと長い時間、声も涙も枯れ果てるまで彼女は泣き続けた。




(あぁ、もうだめかな)

泣き続けたせいで酸欠になった頭でぼんやりとそう考える。

(熱いなぁ、空気がからからしてる。のど、いたいな)

身にまとうパワードスーツは外的なショックに強い。そりゃあ強い。
制限さえ無ければもともとはミサイルでもかすり傷一つつけられない代物なのだ。
もしかしたら熱にもしばらく耐え得るのかもしれない。
しかし装着者が吸い込む熱く焼けた空気はどうしようもなかった。

「こういうのって、蒸し焼き状態っていうんだよね……」

(そういえばテレビで蒸し焼きにしたお料理はおいしくてヘルシーとか言ってたっけ)

「私も、蒸し焼きになったらおいしいのかな。ね、ゲンキ……く…ん……」

少女は、燃え盛る紅蓮の壁の迫り来るはざまで、そっと意識を手放した。

135 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 21:07:59 ID:7QWhozu2

【惣流・アスカ・ラングレー@新世紀エヴァンゲリオン 死亡】


【B-6 市街地北部/一日目・夕方】

【キョンの妹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(大)、顔に傷跡(鼻より上の位置を横一線に斬られている、治療済み)、地球人専用専守防衛型強化服(起動中)、
【持ち物】『人類補完計画』計画書、地球人専用専守防衛型強化服(起動中)@ケロロ軍曹、ディパック(基本セット一式×2)
     ボウイナイフ、S&WM10(リボルバー)(0/6)、佐倉ゲンキの死体入りディパック
【思考】
0、もう、つかれたよ。ゲンキ君


【備考】
※キョンはハルヒの死を知って混乱していたのではないか、と思っています。
※kskネット内の「掲示板」のシンジの書き込みのみまともに見ました。
ゼロス以外のドロロの一回目の書き込み、および二回目の書き込みについては断片的にしか見えていません。
※アスカと小砂(顔は未確認)が殺しあいに乗っていると認識。


※アスカの荷物はB-6に落ちています

136 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/19(火) 21:10:51 ID:7QWhozu2
投下は以上です。

ご意見ご指摘よろしくお願いします。

タイトルは

レフェリー不在のファイヤー・デスマッチ

です

137 スープになっちゃいました :スープになっちゃいました
スープになっちゃいました

138 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:39:24 ID:BWzY8uBA


リヒャルト・ギュオーの出生や履歴は謎に包まれている。
我々は主催者の知る情報の欠片程も彼を知らない。それでも降臨者の遺産を探求してきた彼に科学者としての一面と異世界を受け入れる下地が有った事は認められる。

白亜の建物に近付くにつれ彼の表情は遺跡を前にした様に引き締まりつつあった、この先に未知の世界が待っているのだ。
主催者は何の目的で博物館など用意したのか? 殺し合いをさせる人員に何を見せたいのいうのか?

他に用意されている施設とは明らかに違う、参加者に”教える”事を目的とした場所はここと市街地の図書館のみ。
入り口の扉はあっけなく開いた、当然かもしれないが殖装者しか入れぬ遺跡宇宙船の厳重さとは対照的だ。

ひんやりとした感覚が肌を包む、内部は冷房がよく効いていた。
戦闘の痕跡は何処にも無い、その事にギュオーは安堵して奥を目指す。

博物館そのものは地球のごく一般的なそれと変わらなかった。
立体映像の案内人が登場する訳でも異空間が広がっている訳でもない、順路を辿って展示品を見回るお決まりの内容だ。
案内図を見る限り陳列室は大きく10に分けられているらしい。

そして最初の陳列室、ギュオーはあまりにも予想外の内容に面食らってしまった。
スペースの中央で展示のメインとなっているのは学校らしき部屋の一室。
ホワイトボート、『団長席』と書かれた置物のある机、パソコン、本棚にハンガーに掛けられた数々の女物の衣装がスポットライトを浴びている。

『再現! SOS団部室』

説明プレートにはそんな事が書かれていた、何でも”世界を大いに盛り上げるための部屋”だとか。
だがそれ以上の詳しい解説は無い、ぐるりと見渡せば陳列ケースに収まっているのは殆どがこのSOS団関連のものらしかった。

”SOS団の訪問地”が解説された日本地図、”SOS団メンバーの自宅”とある一般家庭の模型、”SOS団メンバーが映画撮影で着用した衣装”とあるファンタジー風の服。
不思議な事にそれだけ詳細でありながらそのメンバーの個人情報は名前すら発見できなかった。
ふと思い出して参加者詳細名簿を取り出しページをめくる、心当たりがあったのだ。

「涼宮ハルヒ、SOS団の団長にして『どんな非常識なことでも思ったことを実現させる』いわば『神』……」

この名簿に嘘は書いてない事は確認済みだ、現役女子高生の神が居て何でも有りの活動をしていた―――馬鹿馬鹿しいが信じる他に無い。
だがその『神』は殺し合いの中であっけなく死んだ。
カチューシャをつけた女子高生の顔写真と陳列ケースを交互に見る、果たしてどの様に受け止めればいいのか。

「フン、神といっても日本には八百万もの神が居るのだ。このハルヒとやらが貧乏神かタタリ神だったのかは知らんが大した力を持っていなかったのだろう」

神は死んだ、などと嘆く程ギュオーは信心深い人間でも無い。
要するに彼女を始めとするメンバーは主催者に負けた、確かなのはそれだけだ。
高校生の活動をわざわざ博物館で見せる意味については他の部屋を見終わってから考えても遅くは無いと考える。

139 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:39:55 ID:BWzY8uBA

膨らんだ疑問を胸に順路に従って次の部屋へ入る。
今度彼を出迎えたのは巨大な金属塊に地軸や海岸線が異常としか思えない地球儀。
展示内容は大きく三つに分けられいた、惑星規模の災害となった”セカンドインパクト”の記録、襲来する使徒の模型、特務機関ネルフと第3新東京市の解説である。

テーマは『残酷な天使の災厄』

それはギュオーが知らない地球の歴史でもあった。
国は同じだが時代が違う、ギュオーが連れてこられたのは90年代、なのにここで解説されているのは2000年代から2010年代にかけてである。
登場するいくつかのキーワードは詳細名簿でも見た記憶がある、ここはそれらの人物に縁の世界という事か。

「神の次は天使とはな。使徒……知恵の実を得た人類と対極に位置する存在、しかも『人類は第二使徒リリスより生まれし存在、それ故にリリンとも呼ばれる』だと?」

異世界の存在は既に受け入れている、そこで時間の進み具合が異なっているとしても驚きはしない。
だがヒトの根源さえ異なる事実はギュオーの驚きと興味を誘った。

ギュオーやクロノスのごく一部のみが知る真実がある。
かって地球に降り立った『降臨者』、彼等の遺伝子操作で戦闘生物として創造された存在が―――ヒト。

ギュオーの生きてきた世界でそれは確かな事だ。
外見も言語も、文明も同じ。だが表面が同じでも遥かな隔絶がある。

そして思う、自らを縛る枷の事を。
宇宙人と明らかなケロン人も含め、似て非なるヒトに全て同じ効果をもたらすこの首輪はどのような仕組みなのか?
個々の身体に合わせてカスタムされているのか、それとも次元を超えた全ての生命に共通する生物的特長が有りそれに干渉するのか?

疑問は尽きない、しかし今首輪を調べている時間は無い。
熱心にメモをとりながら災厄の世界を後にして奥へと進む、そこにはまた新たな世界が陳列されていた。
白骨都市と呼ばれる暗黒時代の遺跡が埋もれる砂漠だらけの世界、魔族や神族と人間が共存する中世を思わせる世界、魔法と機械文明が共に発達している世界等々……

当然ギュオーの世界もその中に在った。
『解剖! アリゾナ総本部』、メサに偽装された総本部を縦割りした模型はクロノスの機密も何もかも全てが主催の知るところだとギュオーに事実を突きつけていた。
陳列ケースに並んでいるのは多数の獣化兵のぬいぐるみ、ここだけが特撮関係の博物館と思わせられる程バリエーションに富んでいた。

かって幹部であったギュオーには展示に一つの嘘も混じっていない事がそれで知れた。
クロノスこそが世界を支配すると信じ、アルカンフェルとの権力闘争に挑んでいた己は如何に井の中の蛙であったのか。

「フフ、だが私はポジティブだ。新たな世界で再び頂点を狙える可能性が出来た事を喜ぶとしよう」

優勝したいという想いを再確認するギュオー、そして部屋の中にはもう一つ目を引くものがあった。
『貴方も一日でムキムキマンに! クロノス調整槽のひみつ』、人間を獣化兵に遺伝子操作する時に使用する円筒形の水槽である。
始めは唯の展示品かと思ったが操作パネルが点灯しているので調べたところ驚いた。

140 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:40:27 ID:BWzY8uBA

「体験コーナーだと? この調整槽は実際に使えるというのか!」

だがギュオーの知識では調整は短くても一日がかりの時間が必要、使えそうに無いと一度思うがすぐ覆された。
『三時間で終わります』、主催者の力からすれば嘘では無いだろうとギュオーは唸った。
もし本当に獣化兵を作れるのなら忠実な手駒が手に入るのだ。

「普通に考えてそれでは私に有利すぎる……何か裏があるのか? 思念波を受け付けない、実際に其処までの調整は出来ない……」

説明を読んでもそこまで触れられてはいなかった。
操作パネルも非常に簡略化されておりONOFF程度の操作しか出来そうない。
実際に試して見ない限り答えは出ないだろう、当然ながらギュオー自身が試す気はない。

「加持のような奴を連れてこられれば試せるのだがな、次の機会があれば考えてみるか」

そこで忘れかけていた犯人の事を思い出す、もし近くに居れば実験台には最適だ。
いずれにせよ後の話、今はモルモットも時間も無い。
クククと笑いながらギュオーはその部屋を立ち去った。



               ※       



改めて場面が変わりこちらはタママ二等兵。
犯人を発見できないまま海岸沿いに北上した結果、辿り着いたのは終着点とも言えるショッピングモールだった。
ここまで手掛かり無し、約束の時間まで採掘場に向かわなければならない事を考えるとモールが最後の捜索場所になる。

奴はあそこに居ますかぁと意気込んだのも束の間、ただならぬ気配を感じて咄嗟に茂みに身を潜めた。
タママには解る、これは腹黒などとは次元の違う純粋な漆黒のオーラ。

(な、なんですかぁ!? このボクに冷や汗を流させるなんてぇ!)

生物的本能がモールへ近付く危険を告げていた、そのまま気配を消していると人影が見えた。
距離は離れていたが判別に不自由しない程姿を現した人物は特徴的だった。

最初に出てきたのは銀色の巨人、彼にヘッドロック状態で拘束されたホッケーマスクの男。
禍々しいオーラはその巨人が放っていた、先程より弱まっているがタママの掌がじっとりと汗ばむ。

遅れて別の人影が現れる。
今度は気絶した男を背負ったまっくろくろすけ、クロエの知り合いですかねぇと何となく思った。
背負われている男は体格の良いマッチョだったが戦闘の結果か酷く傷だらけだった。

141 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:41:10 ID:BWzY8uBA

そして最後、ボディースーツを着た赤毛の少女がその後をついていく。
瓦礫が踏まれたのか何かが捻じ曲がるような音が時折聴こえる。

(犯人を知ってるかもしれませんけどぉ、あまり係わり合いになりたくない人たちですねぇ……)

銀色の巨人以外は戦えない事もない、しかしいくらタママといえ話しかけられそうな雰囲気ではない。
遠目にも解るモールの惨状といい相当な争いがあったのは確実だろう。

関係ない厄介ごとに関わるのはご免ですぅとそのまま背中を見送った。
気になったのは背負われていた男がクロエの探し人に似ていた事、再開した時伝えますぅとだけ決める。
やがて百鬼夜行は完全に去り、タママもまたモールに犯人無しとして採掘場の方角に消えた。




               ※       



全ての陳列室を巡り終えたギュオーは新たな疑問に直面していた。
10の部屋は10の異世界を示している、これは間違いないと思っていい。

第一の疑問は展示内容のちぐはぐさだった。
異なる世界を知らしめるのが目的ならそれぞれの文明の産業機械や代表的な美術品、歴史の解説を展示するのが一般的な博物館だ。
確かにそのような説明がなされている部屋も有るには有ったが、高校生の一活動をメインに紹介する意味はどう受け止めれば良いのか。
自らの世界の部屋を基準にギュオーは考える、あの部屋の主な展示はクロノスという組織についてだった。

「その気になれば全てを網羅する展示も連中には可能だった筈、同一といっていい文明が多いので最も異なる点を取り上げたという事か?」

主催者はギュオーが想像も出来ない程多くの世界からの収集を行っているのかもしれない。
この展示は彼等の為では無い、参加者の為にごく一部を貸し出したに過ぎないだろう。
籠の鳥である事を知らしめるのが目的か、異文化コミュニケーションを円滑にさせる為なのかは推し量るのも不可能だ。

「次を考えるとしよう。この島については結局何も触れられていなかったな、その意味は何だ?」

多くの博物館は地元に関する展示がある、ギュオーとしても手掛かりが掴めるのではと僅かながら期待していた。
考えられる可能性は二つ。
この島は『11番目の異世界』に存在する、もう一つは10の異世界の何処かだという事だ。

「神社があるのなら日本だが島全体が舞台ならセットと考えるのが自然、植物も日本で普通に自生しているものだがそれだけでは手掛かりにならんか……」

異世界を渡り歩く主催者がその気になれば何も無い場所に島を再現する事も不可能では無いだろう。
星を見ていれば何か解ったかもしれないが戦ったり気絶したりでまともに見た記憶が無い。
日が暮れたら今度は観察しなければと決めた所で時計を見た。

142 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:41:48 ID:BWzY8uBA

「いかんなもうこんな時間か。つい夢中になりすぎた」

ギュオーが気付いた時には既にかなりの時間が進んでいた。
タママはとっくに採掘場で待っているかもしれない、こちらも早く出なければ約束に間に合いそうない。
見落としたものは無いかと案内図を見ると『ロッカールーム』という文字に目が留まった。

今来ているのは女物の服が一着だけ、しかも目立つ。
ギュオーも人並みに羞恥心は有る、躊躇い無く部屋を目指した。

「我がクロノス戦闘員の服に加持が着ていたものと似た制服や知らない制服、それに一般的な学生服か……十分な成果だ」

10分後、そこには元気に上機嫌なリヒャルト・ギュオーの姿が!

ロッカールームには何十着もの衣服が入っていた。
サイズの合うものは限られていたがそれでも服の心配が無くなったのは大きい。

「フフ……これで緊急時に躊躇い無く獣化できる」

変身の度に服を脱ぐのではいつかは隙を付かれる、その心配が無くなってギュオーは満足げに出口に向かった。
まだプラグスーツ姿だが落ち着いた時に着替えよう、そんな事を考えていたが―――突然足を止める。

視界の端に写った何気ない掲示、博物館なら有って当たり前のもの。
『今年度展示情報』、ギュオーが気にしたのはそんな張り紙だった。

カレンダーが示す現在は初夏、対応する日付には今日から『第○回BR参加世界展』が始まった事が書かれている。
終了予定日は―――空白、その先も空白が続いている。
だが過去は違う、間隔を開けて春の頃に三日間だけの特別展示が行われた事が記されていた。

その意味は明らか、ギュオーは軽く唇を噛んだ。
だがそれ以上に解る事は無い、見れば時間はギリギリまで進んでいる。

(フン、この島で何があったにせよ今は関係無い。そして私は上手く生き延びてみせる)

軽い胸のむかつきを感じたままギュオーは博物館を後にした。
連中は強大だ、だからどうした? ならばその力、都合のいいように利用すれば良い。
必ず優勝して異世界に行く、男は決意を新たにして森へと消えた。



「大丈夫だスエゾー、きっと何処かに食べ物が置いてある」
「ホンマならええんやけどな、あ〜早く食いモンが欲しいわ〜」

ギュオーが立ち去って数分後、階段を降りてくるガイバーとモンスターの姿があった。
彼らは今の今まで部屋に篭りきりでパソコンに集中していたので下の階への訪問者には気付く事が無かった。

そしてギュオーも陳列室への強い興味の為に彼らの存在を見逃した。
こうして第二のニアミスは誰一人気付かぬまま過ぎ去ったのである。

143 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:42:30 ID:BWzY8uBA

               ※       



「こんなに探して居ないなんてぇ……ギュギュッチは本当に真面目に捜してくれたんですかぁ?」

G−7採掘場、互いに成果が無かった事を確認した二人は今後の相談に移っていた。
いきなりタママが疑いの目でギュオーを見る、本性モードで凝視されるとさすがの獣神将も思わず顎を引く。

「も、もちろんだタママ君、私は熱意を持って博物館を捜索したが奴の姿は影も形も見当たらなかったのだよ!
「そうですかぁ? じゃあ奴は何処に隠れてるですかねぇ?」

熱意を持って博物館を回ったのは本当だ、探し物は違うが嘘は何一つ言っていない。
タママとしても確かめる術は無い、それでも不機嫌さは治まらないまま愚痴を吐いている。

「タママ君、そもそも犯人は本当に東に向かったのか? ここは最初から考えてみる事から始めようではないか」

このままでは不審がられる、それはマズいとギュオーは矛先を逸らす事を試みる。
そうしなければこの腹黒蛙、いつ態度を翻すかわかったものではない。

地面に地図を広げるとタママが話を聞く構えを見せた。
成功だとほくそえみながら間髪を入れずに話を続ける。

「メイが拉致されたのは明け方の神社だ、遺体発見現場がこの辺り……そして昼間にレストランを訪れている」

指で地図をなぞりながらギュオーは一つ一つ判明している事を確認する。
不明なのはレストランからの行動だ、一度は東と信じたがタママも今は首を傾げていた。

「クロエから奴が東に向かった理由を聞いておけば良かったですねぇ、ひょっとしなくてもハズレだったんですかねぇ?」

二人がウォーズマンから聞いたのは海岸に残された痕跡のみ、肝心の根拠は伝えられていなかった。
聞くにはもう一度会わねばならない、それでは遅いとばかりギュオーは独自の推理を展開する。

「では考えてみよう、まずウォーズマンが見つけた食事の跡が確かに犯人のものであるのか? 答えはYESだ」

その理由は何ですかぁ?と聞きたげなタママの視線を受けながらギュオーは理由を説明した。
奴を探す別の理由も出来たのだ、本気で考えてみる。

「朝の食事か昼の食事かは煮炊きの跡を調べれば解る。機械超人であるウォーズマンの分析は十分信ずるに足る、放送の前か後かは不明だが昼間に奴が海岸に居たのは間違いない」

ギュオーはトントンと地図の海岸線を叩く。
殆ど端といっていい辺鄙な場所だ。

144 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:43:02 ID:BWzY8uBA

「わざわざそんな場所を選んだのは食事中に隙が出来るからだろうが……自炊したのは食料を節約する為か他の理由か。奴がメイの荷物を手に入れてる事から食料を失ったとは考え難い」

そこまでは解らないがさして重要とは思えない部分、タママも気にせず話は先に続く。

「成る程ですぅ〜、それで東に向かった理由はどう考えるです?」

ここからが肝心な部分だ。一度咳払いしてからギュオーは口を開いた。

「私が彼の考えを知らない以上、その結論も一度忘れるとしよう。ここは奴の気持ちになってみる事だ」

犯人の気持ち、と言った途端タママの目元が歪むが他に言いようが無い。
その程度で爆発してくれるなよと思いながら話を続ける。

「奴の行き先に放送が影響したのか不明な以上、まずは聞いてないという前提で考えてみよう。ボートに乗る目的は何だねタママ君?」
「それは移動する為ですぅ!」

即答が来た、当然の答えだ。
それに満足そうな表情を浮かべギュオーは地図に置いた指を海上に伸ばした。

「奴が海に出た時点ではJ−3の禁止エリアは無かった、となれば西回りと東回りのどちらで移動を始めた……」

ギュオーの指が東に動く、海岸沿いを進んでぐるりと曲がり真っ直ぐ北へ。
そしてF−10で止まる、これ以上は禁止エリアで先に進めない。

「東回りなら誰だってモールを目指しますよねぇ、でもそこに居た連中が犯人とは思えなかったですぅ。そして東の海岸には足跡一つ無かったですう」

納得の行かないという表情のタママ、余程熱心に捜索した事が窺える。
だがモールで他者を見たというのは初めて聞いた、その連中について尋ねたかったが今話の腰を折るのは得策ではないと思い直す。
タママもその事に気付いたのだろう、後で話しますぅとだけ目で合図してきた。

「なら理由はわからんが南部の何処かに上陸したとしか考えられん、しかし途中出会わず施設にも姿が見えんという事はどういう事だ?」

まさか船酔いというファクターがポイントだとは気付かなくとも責められない。
追跡を避ける事を優先して近場の施設に立ち寄らなかった可能性をギュオーは考えた。
南部海岸から森の中をそのまま北上すれば現在地の採掘場、近いのは山頂の神社か北上した先に有る山小屋だ。

「犯人は犯行現場に戻る、軍曹さんのマンガだとよく有るパターンですねぇ」

タママは神社が気になったらしい、ギュオーもありえなくは無いと思う。
その場合海に出たのはカムフラージュ目的となる、まんまと自分達は欺かれたという訳だ。

「……とはいっても決め手は無い、今度は西回りの可能性を考えるとしようタママ君」

結論を急ぐことは無いとギュオーは再び指を南部の海岸に戻す。
全ての可能性を探るのが科学者のあり方だ、先程の考察は忘れて最初から考える。

145 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:43:37 ID:BWzY8uBA
「西に有るのはコテージだがこの距離ならわざわざボートで移動する必要は無い、次は岬を回った温泉だが―――」

”温泉”

その単語を何気なく口にした途端ギュオーの脳裏を突如仮説が駆け抜けた。
温泉を指し示していた指はそのままに、瞬きもせず島全体を注視する。

「ギュギュッチー? 何でいきなり固まっているですかぁ?」

タママが不思議そうな目で訊ねてくるがギュオーの耳には入らない。
もはや犯人の事など頭からは消えうせていた。

「すまんタママ君。気になったんだがあの坑内を調べても構わんかね? ……もしかしたら犯人が潜んでいるやもしれん」
「あっ! そうですねぇ、実はボクも気になっていたんですぅ!」

考察からいきなり話が変わった事がタママは不思議そうだった。
しかしまだ捜索していなかった場所なので確かめるのが先だろうととりあえず納得した様子である。

ギュオーが気付いた事、それはこの島の奇妙さであった。



               ※       



「証明設備は撤去済みか、これは廃坑と考えるのが自然だな」

基本支給品のランタンを頼りに一人と一匹は地下世界に入り込んだ。
奇襲の心配があったが重力使いのギュオーにとって銃弾など無意味、それより内部の観察が重要だ。

広い坑内は落盤も無く起伏も乏しい、分岐も少なくあったとしてもすぐ行き止まりでほぼ一本道といって良かった。
ここは潜伏場所としては不適当過ぎる、追跡をやり過ごすには複雑さが不足している。
唯一の出口を塞がれれば窒息死か餓死か、或いは自ら死を選ぶか。

タママもすぐに気付いたのだろう、見れば犯人はそんなお馬鹿さんなのですかぁと言いたげな表情だった。
それでも可能性がある以上彼は引き返せない、隠し通路が無いか調べつつ奥に進む。

「やっぱり無駄足だったですぅ! ギュギュッチも慎重なのは構いませんけどもっと早く見切りをつけるぺきだったですぅー」

終わりはあっけなく訪れた。
何も無い行き止まり、それが終点だった。
不満を口にするタママをなだめながらギュオーは元の道を引き返す、タママと違って彼の顔は満足げだった。

146 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:44:11 ID:BWzY8uBA

「ギュギュッチー、出るまでにさっきの続きを話すですぅ!」
「いいだろう、ボートで移動した奴が関心を持ちそうなのは二つの禁止エリアに囲まれた遊園地だ、如何にも興味をそそられる場所と思わんかね?」

考察の続きを求めるタママにギュオーは語る。
だがその口とは裏腹に脳内では全く別の考察が成されていた。

最初に立ち返って考えてみよう、何故ギュオーは温泉に閃くものを感じたのか?
温泉のある島など珍しくは無い、彼も博物館に行く迄は気にしなかっただろう。
島の素性を疑えばこそ導きだせたのだ。

温泉がある―――即ち地下に大規模な熱源が存在する。

更に島の不自然さを探した結果気付いた事があった。
この島は―――水が豊富過ぎるのだ。

殆どの離島は水を天水に頼っている、滝が出来る程川が流れるのは多くの雨を集められるだけの面積を持つ島だけだ。
二つもの川、滝と湖さえを持つにしてはこの島はあまりにも小さすぎる、自然の摂理に反している。

”それだけの雨量があるのではないか””山がスポンジのように豊富な水を蓄えているのではないか”

その可能性は当然ギュオーも考えた。
まずこの島が多雨である可能性、これは地盤剥き出しの採掘場に土砂崩れどころか流水の跡一つ無い事から否定される。
次に元々この山が水を蓄えやすい性質を持っている可能性、それなら坑道は出水に悩まされ水没していてもおかしくない。
入り口から奥まで壁面に触れてみたが湿気を感じる程度で地下水は何処にも湧き出ていなかった。

絶海の孤島に見えるこの島に膨大な淡水を供給するメカニズムと熱源の存在。
キーワードは地下だ、ギュオーの世界では不自然極まりない地下構造をこの島は持つ。

「でも、奴が放送を聞いてから海に出た可能性もあるんですよねぇ。そしたら西は危ないと避けませんかぁ?」
「逆だ、むしろそちらに何か有ると気付いた可能性がある。遊園地の禁止エリアが意図的ならその前に立ちふさがるJ−3も意図的……そう思わんかね?」

口でメイ殺しの犯人を語りつつ地下を調べるには何処に行けばいいのか考える。
重力波で奥を掘削するのも可能だ、しかし行き止まり地点にて軽い重力波を送ったところ近くに空間は存在しない事を探査済みだ。

「とにかく一度神社に戻ってウォーズマンと改めて相談だ、奴の推理の根拠も聞く必要があるからな」

犯人探しと歩調を合わせつつ調べなければならないのが辛いところだが身の安全の為には仕方ない。
スバルやリインという新顔が不安要素だが扱いやすいウォーズマンとタママを誘導できれば問題ないだろう。
先程の推理の効果かタママの機嫌も落ち着いていた。

147 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:44:58 ID:BWzY8uBA

「そうです、忘れるところだったけどモールで見た連中について話しておくですぅ」

タママもギュオーも忘れかけていた事、モールで穏やかならぬ雰囲気だった五人についてタママは見たままを語った。
他人の事だけあってそれほど熱心さは無かったが危険人物らしいとあってギュオーも耳を傾ける。

「赤毛の女と黒い着ぐるみだと……!?」

話を聞くに従って調査一色だったギュオーの頭がまたもや急ハンドルを切らされた。
タママが語る赤毛の女とはノーヴェで間違いない、黒い着ぐるみとはガイバーⅢに間違いない。

(どういう事だ、ガイバーⅢはノーヴェのものになっていた筈……まさかリムーバーも支給されていたというのか!?)

ガイバーを殖装者から引き剥がせるのはそれ以外に無い、ユニットが支給されている以上リムーバーの存在も有り得ると衝撃を受ける。
今すぐ飛び出したい気分だった、自分がガイバーになるチャンスが再び巡ってきたのだ。

(落ち着け、落ち着くのだギュオーよ……いくら私でも五人を相手にするのは無謀極まりない)

スーハースーハーと深呼吸して興奮を鎮める。
そしてタママから聞いた特徴を記憶にある詳細名簿と比較する。

(いかにも危険な銀色の男……悪魔将軍だな。名簿でも”サタン”などと書かれていた飛び切りの危険人物だ)

背中に腕を背負っていたのはオメガマンとすぐ解った、とさか頭のツルッパゲはスグルか万太郎のどちらかだろうと見当を付ける。
後一人、ガイバーⅢとなっている者の正体が解らないがいずれにせよ油断は出来ない。

(強者ばかりではないか! これではリムーバーどころか私の命まで危ない!)

タママの話によれば争っていたそうだが下手にギュオーが介入すれば一致団結しないとも限らない。
悔しいが今はそちらは諦めるしかなかった、出向くとすれば仲間が増えてからか。

(そういえばゼクトールはどうした? 話を聞く限り見なかったそうだが別行動でもしているのか?)

あの特徴的な姿を見逃すとは思えない。
ならばあの場には居なかったという事だろう。
最初に出会った相手と行動し続けているとは限らないといえあの力は厄介だなとますますギュオーの表情が曇った。

(くそっ! こんな苦労をせねばならんのも全ては深町晶のせいだ)

奴が居なければ今頃はガイバーを殖装してクロノスの頂点に立っていた筈、拉致されたとしても今より上手く動けたかもしれない。
だからといって現状では何の解決にもならない。
やれやれと思いつつ出坑したギュオーを出迎えたのは―――立ち上る煙だった。

148 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:45:43 ID:BWzY8uBA

               ※       



その煙は太く、黒く、山向こうにも関わらず噴火の様に激しかった。
明らかに市街地で何かが起きていた、そしてそれはタママの仲間が居る場所でもあった。

「大変ですぅ! 軍曹さんとサッキーが危ない、ボクが助けに行かないとですぅ!」

煙の方角を確かめてタママは浮き足立った。
後でもどうにかなる犯人よりは生きているケロロとサツキ、それに冬月を心配するのは当然の反応だ。

「待て! タママ君、一度神社でウォーズマンと合流してからでも遅くないではないのかね?」

飛び出そうとするタママを引き止める。
別にタママの身を気遣っている訳でもなんでもない、純粋に戦力の分散は愚かだと思っただけだ。
それにギュオーは危険を冒してまで市街地に行く理由が無い。

「解っているですぅ! でも今は少しの時間も無駄にしたくないので行ってくるですぅ、ボクの事は心配しないで欲しいですぅ!」

タママが止まったのは数秒に過ぎなかった。
ウォーズマンへの伝言を頼むと黒い弾丸となって木々の間に消える。

ギュオーは舌打ちした、これでリムーバーを取り戻す戦力が一人欠けた事になるのだ。
誰の仕業か知らないが計画が大幅に狂ったと煙を睨む。
そうしてばかりもいられないので今後の事も考える。

あの煙はウォーズマンもやがて知るところだろう、お人好しな奴の性格からして火元に向かうのは間違いない。
地下の探索とリムーバー奪還はその分遅れる、果たしてこのまま神社に向かうべきだろうか?

(いや……駄目だ、単独ではリムーバーを取り戻すのは難しく一度失った信頼を取り戻すのは難しい。回り道も止むを得ないな)

首を振って一度浮かんだ考えを否定する。
有力な仲間は得がたい存在だ、今失うのはあまりにも惜しい。

とにかくウォーズマンにタママの先行を伝え一緒に合流を目指す。
スバルやリインも恐らく同行するだろう、危険はそれだけ分散される。
結果新たな仲間と更なる信頼が得られれば万々歳、晴れてリムーバー奪還に挑める。

「私は諦めんぞっ! 何としてもユニットを手にし、タママもウォーズマンも始末して頂点に立ってやるっ!」

神社への道を走りつつギュオーは吼えた。

その先に―――何が待ち受けているとも知らずに。

149 蜘蛛は何処に消えた?(修正) ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:47:29 ID:BWzY8uBA




【G-7/採掘場/一日目・夕方】



【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身打撲、中ダメージ、回復中
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、首輪(草壁メイ) 首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本
     空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、時空管理局の制服@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー、毒入りカプセル×4@現実
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2:神社に向かい、仲間を待つ。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。


※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。




【タママ二等兵@ケロロ軍曹】
【状態】 疲労(中)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷
【持ち物】ディパック、基本セット、グロック26(残弾0/11)と予備マガジン2つ@現実
【思考】
0.市街地へ向かう
1.草壁メイの仇を探し出し、殺す。
2.軍曹さん、サッキーを守り、ゲームを止める。妨害者は排除。
3.次にアスカに会ったら絶対に逃がさない。
4.サツキ、ケロロ、冬月が心配。
5.ウォーズマン、ギュオーに一目置く。
6.ギュオーを気に入っているが、警戒は怠らない



※色々あってドロロの存在をすっかり忘れています(色々なくても忘れたかもしれません)。
※加持がサツキから盗んだものをグロック26だと思っています。

150 ◆5xPP7aGpCE :2009/05/24(日) 16:48:23 ID:BWzY8uBA
wiki収録分の修正となります。
差し替えてよいかどうか意見お願いいたします。

151 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:50:56 ID:L7g3hoig


夢は叶います。
私はほんの小さなころ、お父さんとお母さんにそう教わりました。
私がいい子でいて頑張りさえすれば、私の願いはなんだって叶えられるんだって。

でも、今の私はちゃんと知ってます。
本当は、叶わないこともあるんだってことくらい。
もう、それも分からないほど、子供じゃあないんです。

だって。
人の夢って書いて、儚いって読むのですから。
お兄ちゃんに教わりました。

それでも。
私の夢なんて、儚いものだったとしても。
それでも信じたい。
信じてみたい。

夢は叶うって。
奇跡は、きっと起こるって―――



『……くそっ』
『ま、まずいでありますよ、もっとスピードは出ないでありますか!?』
B−6地区。
かつては住宅地が広がっていたそこは今―――赤に包まれている。
赤色の正体は、炎。
膨大な量の炎が―――街を呑みこんでいた。
住宅地は炎により火柱を上げて燃え上がり、緑はところどころしか残されていない。
この中で気絶している人間がいたならば―――間違いなく命は助からないだろう。

しかし、『彼女』はまだ生きていた。
自らの武器であるナビ達の力によって。
『……これが限界だ!我慢しろ!……くそ、まずいな……』
思った以上に、事態は悪化していた。
炎は市街地全域を覆い尽くし、炎を縫って進むだけでも時間がかかる。
更に言うならば―――このシールド機能は、あと数十分しか持たないのである。
殺し合い下の制限で使用時間を6時間にまで抑えられた防衛型強化服は、じきに限界が来てしまうのだ。
それまでにここを抜け出せるか―――可能性は、五分五分―――いや、それ以下だろう。
地図上の一ブロックは縦横約1キロメートル。この移動方法で、この速度で、いったいその距離を進むのにどのくらいかかるというのか。
何せ、移動速度があまりにも遅い。
土をざりざりとこすりながら、少しずつ妹の体を動かすことしかできないのだから。
妹が意識さえ取り戻せば助かる確率は段違いに上がるのだが―――そんなことに期待はできない。
彼女が精神的に落ち、そして不安定だというのは彼らが一番良く知っていた。

『……中尉、あっちも通れないですぅ!』
タママの人格を持ったナビが声を上げたその先には、ごうごうと燃え上がる大木。
炎が高く宙まで伸びており、そのまま進めば妹の体は炎に焼かれてしまうことは明白だった。
『……くそ、避けるぞ!北に舵を取れ!』
『くーくっくく、しかし、北は行き止まりだぜ?どうするんだ?』
『北に向かえば海があるはずだ!さすがに海までくれば炎は途絶えているはず。……やるぞ!』
『イエッサー!』
妹の体は、ところどころ火傷を負っている。
シールドは確かに存在している。しかし、制限故か、それとも所有者である妹の意識がないからか、防御が完璧ではないのだ。
体に傷を負っても尚、妹は目を覚ますことはない―――このまま死んでしまってもおかしくない状態だといえた。
それでも、まだあきらめない。
少しずつでも進み続けること、それがナビ達にできる唯一のことだった。
『妹殿……負けてはいかんでありますよ……どうか……』

152 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:51:41 ID:L7g3hoig


そして、その願いは通じたのだろうか。

一時間ほど経った頃。
まだ制限時間こそ来ていないものの、妹の体力は限界に近く、このままでは火傷以前に脱水症状で死んでしまうのではないか、と思えた、その瀬戸際。
『……中尉!海、海が見えたでありますよ!』
緑のナビが、喜びの声を上げた。
彼に体があればその先の景色を指差し、飛び跳ねていただろうが、ナビの姿ではそれもかなわない。
悔やんでもどうにかなることではないのだが。
『よし、ここまで来たぞ、あと少しだ!』
これで、妹は助かるはずだ。
惣希望を持ち、進む。
そして、森を抜け、視界が開けたその先に待っていたのは―――
『……なっ!?』
『炎が……!?』
………………赤い、世界だった。
海が見えたことに気を取られた故の失態。

あと、もう少しだというのに。
数十メートル先には、砂浜が広がっているのが確認できるのに。
目の前に広がるのは、燃え盛る炎。
―――行き場がない。
緑が次々と枯れ、燃え尽きていく。
四方八方を囲まれてしまっていたのだ。
そして、それは次第に―――無抵抗な少女とナビへと触手を伸ばす。
逃げるためには、炎の中を正面突破する必要がある。
しかし、そんなことができるだろうか?
この妹の体調では―――先に喉がやられてしまう。
『そ、そんな、そんなことってないですう……』
それは、絶望を告げる合図だった。
背後に襲いかかる、炎。
その速度は、もはやカウントするまでもなく明らかだ。
……じきに、ここは炎に呑まれてしまう。
右も左も、赤一色。
妹の口から洩れるのは、弱弱しく乾いた息遣いのみ。
逃げ場は、もはやなかった。
せっかく、助かったと思ったのに。
もう少し、あと少しで水辺までたどり着くというのに―――
ナビの人格たちは、終わりを悟った。
『……そ、そんな……吾輩達は……もう終わりでありますか……?』
『せ、せっかくこの子を助けたのにあんまりですぅ!』
ここであきらめたくはないのに、浮かぶ選択肢にはろくなものがありはしない。
このまま、ここで終わるなんて―――
『……信じろ』
しかし、赤のナビだけは―――違っていた。
『な、何を信じろと言うのでありますか!だってこんな―――』
『このままじゃ、ただボクたちごと焼け死ぬだけですぅ!』
『まだ助かる方法はある!妹が意識を取り戻しさえすればここから脱出できる!だからまだあきらめるな!』
『そ、そんな……そんなに上手くいくはず……』
『ああそうだ、そう上手くことが運ぶはずはない……しかし、そんなことを言うなら彼女が今まで生きていたことが奇跡なんだ。……もう一度くらい奇跡が起きることを祈って何の問題がある?』
『くーっくっくっく、まあ、賭けてみてもいいかもしれないなあ』
赤が、そう叫ぶ。
黄色が、笑う。
そして、残された二人は。
しばしの沈黙ののち―――ゆっくりと。
『……そう、であります。……こんなところで……こんなところで妹殿を失う訳にはいかないでありますよ!』
『で、でも……仮に意識を取り戻したとして……この子は生きたいと思うかどうかわからないですぅ……あの状態じゃ、もしかしたら自殺したいって思うかも……』
『何を弱気なことを言っているでありますか二等兵!お前らしくもないでありますよ!』
緑のナビが、叱責する。
『で、でも―――ぐ、軍曹さあん……』
『ああそうだ、そう思うかもしれない。だがそれがどうした!
俺達は何のための人格だ!……あいつを説得することくらいはできるだろう!』
『……う、うう……』
この場にいる全ての人間は―――否、ナビは思っていた。
妹を救いたい、と。
自分たちは支給品であり、例え焼け焦げようとも本体が死ぬことはない。
しかし、妹は生身の人間―――防衛服の制限を迎えた時点で、おそらく命はないだろう。それ以前に、水分が枯渇して死ぬ方が先かもしれない。
救われる方法などほとんどない。それでも。
『……やるでありますよ。全員に告ぐ!妹殿の無事を祈り少しでも前へ進むであります!』
そんなことをしても、妹に届かないかもしれない。
そもそも彼らは、ただのナビにすぎない。
それでも。
無意味だとしても。
ほんのわずか、妹の体を動かす。
少しでも、炎から逃れようと―――抵抗し続ける。
それでも―――救いたかった。
この、あまりにも悲しい少女のことを。

彼らは知っていた。
壊れてしまう前の妹の様子を。
笑ってほしい。
ゲンキと一緒にいた頃のように、和やかに、穏やかに、華やかに、無邪気に、ただ。
赤が、迫る。
それでも尚―――彼らはシールドを展開し、まっすぐに進み続ける。
民家さえも薙ぎ倒す灼熱が彼らのところにたどりつくまで、あと―――

153 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:52:21 ID:L7g3hoig


気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち、悪いよ。ゲンキ君。

私―――何でこんなところにいるんだろう。
何で、こんなふわふわしたところにいるんだろう。
もしかして、死んじゃったのかな?
あはは―――別に、いっか。
それでもいいよ。
だって、ゲンキ君のところに行けるなら。
それだけで、嬉しいよ。
アスカだって殺したんだ。もう死のう。
死んでも、いいよね。

もう、いいよ。
もう、――-疲れたよ。
だからもう、ゴールして……いいよね。

『だめよ!』
……あれ、誰?
どこかで、聞いたことがある声だ。
ゲンキ君?……ううん、違う、女の人だ。
これは……
『だめよ妹ちゃん……こんなところで、そんな悲しそうな顔で死ぬなんて、私は認めないわ!』

ハル……にゃん?
私の目の前にいたのは―――ハルにゃんだった。
あれ、おかしいな。ハルにゃんは死んだはずなのに。
あ、そっか。そうだよね。私も死んだんだった。だから関係ないんだよね。あはは。

『……』
ハルにゃんの顔は、哀しそうだった。
私のことを、じっと見つめている。

何で?何でそんな顔するの?
私、ハルにゃんがそんな顔してると悲しいよ。

もう、いいの。
もういいんだよ、ハルにゃん。
私、頑張ったよね?
アスカを殺したんだ。これで幸せなんだ。
ゲンキ君の仇をとったんだから、それでいいはずなんだよ。

『……妹ちゃん、一つ聞いてもいい?』
ハルにゃんが、私にそう言ってきた。
私はただ、何も考えずに頷く。
何を聞かれてもどうでもよかった。
だって、私はもう死んでるんだもん。

『……ゲンキ君に……会いたい?』
何で?
何で、そんなこと言うんだろう。
すぐにでも、会えるよ?
だって、私もすぐに死ぬもん。
その時に話すから。
だから、ハルにゃんはそんなこと考えなくていいんだ。
もう―――いいんだよ。

私は言った。
もういいよ、って。
どうせもう私も死ぬんだから、すぐに会えるんだよ、って。
でも言ってたから気づいた。
あ、そっか。
もしかしたら私―――死んでもゲンキ君に会えないかも。
あ、そうだ、きっと会えないや。
悲しいなあ。
だって私は、人殺しだもん。地獄に落ちるに決まってる。
アスカみたいな最低な奴さえ助けたゲンキ君なら、絶対に天国へ行くよね。
……あ、そうか……会えないんだ。

仕方ないのかな。
だって、私はいけない子だもん。
ゲンキ君の復讐のために人を殺したんだから―――
このまま、ゲンキ君に会えずに一人で死んでいくんだ。

『そういうことじゃなくて……』
なのに。
ハルにゃんは、まだ私の目の前にいて。

……なんで?
なんで、そんなこと言うの?ハルにゃん。
……ううん、理由は分かってる。
私が悪い子だからだよね。
やっぱり、私が地獄に落ちちゃうから。
ハルにゃんは、私がアスカを殺したこと、知ってるんだね。
そうだよ、ちゃんと分かってる。
もう、私は―――ゲンキ君に会うことなんてできないんだ。

『違うわ。妹ちゃんは悪い子なんかじゃない。だからアスカのことは気にしなくていいのよ。私が聞きたいのは、』
ありがとう。
私をかばってくれるんだね。
でももういいんだ。
すごく、哀しいけど。
本当はすごく、すごく会いたいけど。
でも、しかたないよね。
だって私は、犯罪者なんだもん。
だから―――

154 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:53:03 ID:L7g3hoig

『………………あああああああもう!妹ちゃんも人の話を聞きなさいっ!どうしてあんたたち兄妹は二人とも人の話を聞かないのよ!』
突然、ハルにゃんは大きな声を上げて髪を掻き毟った。
兄弟って……キョン君のことかな?
ハルにゃんは、キョン君ともここでお話したのかな。

『いい、妹ちゃん、よおく聞くのよ。いいわね?』
なんだかハルにゃんはちょっと怖い顔だった。
ごめんなさい、私が悪いんだよね。
でも、ゲンキ君の仇を討つためには仕方なく―――

『私は、聞いたのよ。……ゲンキ君に会いたい?って』
ゲンキ、君に。
今度は、ハルにゃんの質問をちゃんと聞いていた。
ゲンキ君に、会いたいか?
そんなの、当たり前だ。

―――会いたい。
―――会いたいよ。
でも、そんなの―――無理だよ。
私は人を殺しちゃった。
アスカを殺したら幸せになれると思ったのに―――私は今、全然幸せじゃない。
ただの、人殺しだよ。
そんな私が、ゲンキ君に会う資格なんて―――

『資格?そんなものいるわけないじゃない!だって、妹ちゃんは何も―――何も間違ってないわ』
ハルにゃん、そんなこと言ってくれなくてもいいよ。
だって、私は人殺しなんだ。
分かってる。
どうにも、ならないよ―――
私はこのまま、ただ死んじゃうだけなんだよ―――

『……そう、確かにアスカを殺したかもしれないわ。それは、いけないことよ。でも、それでも、誰も妹ちゃんを責めたり、しないから。だからどうでもいいなんて言わないで』
どうして。
どうして、ハルにゃんにそんなことが分かるの?
ハルにゃんは、私じゃないのに。
ただの―――キョン君の『お友達』……じゃない。

『……分かるのよ、私は』
なんで、どうして?
そんなの変だよ。
……それに、そうだ。さっきから、どうしてハルにゃんは私の気持ちを勝手に読み取ってるの?
私、何も口にしてなんかいない!
ハルにゃんは私じゃないんだから、勝手に人の心を覗かないでよ。
もう、私はどうでもいいんだから―――
もう私なんか、一人ぼっちで死んじゃったほうがいいんだ―――

『……いい加減にしなさい!』
ハルにゃんは―――今度こそ、大きな声で怒鳴った。
思わず、びくりとする。

『……どうでもいいなんて、言わないでって言ったでしょ!?……私が聞いてるのはただ一つよ、ゲンキ君に会いたいの?資格なんてどうでもいい!ただ、会いたいかどうか、それを聞いてるのよ』
……そんな、めちゃくちゃだよ。
会いたいからって、そんな簡単に会えないよ。
私は、悪い子なんだから。
もう誰も、私を許してくれないよ。

『私がいいって言っているんだからいいのよ!他の人たちが何を言おうと、私は妹ちゃんの味方だからね!だから―――ちゃんと本当のこと言いなさい!貴方の口からね!』
むちゃくちゃだよ、ハルにゃん。
ハルにゃんが許してくれても、皆は許してくれないよ。
ハルにゃんが味方になってくれても、私はもう笑えないよ―――

155 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:53:38 ID:L7g3hoig

でも。
でも―――
でも――――――

会いたいよ。
本当は、会いたいよ。
会いたいよ―――

「……あい、たいよ……」
それだけは、本当だ。
ハルにゃんの質問に私は―――それだけ答えた。

今度は、言葉になった。
声が、震えた。
「……会いたい、会いたい、会いたい……会いたいよっ!」
止まらない。
どうでもよかったはずなのに。
もう―――会えないだろうなあって思っていたはずなのに。
もう、死んじゃうって思っていたのに。
それなのに―――一度言葉にすると、何でだろう、止まらないよ……

「本当は!もっとお話したかった!もっと遊びたかった!こんな場所じゃないところで、ゲンキ君の仲間やハルにゃんたちと一緒に!楽しいことしたかったよ!!!
助けてくれてありがとう、ってまだ言い足りてないよ!私―――いつだってゲンキ君に助けられてばっかりだったのに、なのに、なのに―――何も、何もできなかったよお!」
本当は―――
本当は、分かってたんだ。
ゲンキ君が、私がアスカを殺すことなんて望んでいなかったことくらい。
だって、ゲンキ君はあのアスカを助けるような人なんだよ?
私が人殺しになるのを喜んだりするはずない。
だから―――私がアスカを殺しても、それはゲンキ君の仇を討ったことにはならないんだって。
アスカを殺して―――喜ぶのは私だけなんだ。
結局、私も全然嬉しくなかったんだけど。

だって―――
私は、今でもアスカのことを許せないけれど。
アスカなんて、死んじゃえって思っていたけど。
それでも。
殺したくは、なかったんだよ。
本当は―――アスカのことも殺したくなんかなかった!
当たり前だ。
だって、私は普通の女の子だったんだから。
人を殺したいだなんて思えるはずないよ。

それなのに、私は―――
もう、取り返しのつかないことをしてしまったんだ―――
ゲンキ君、私―――
悪い子だけど―――貴方に会いたいよ。

「……会いたい……会いたいよおおおおお!」
私―――どうして気付かなかったんだろう。
アスカを殺しても―――私も、ゲンキ君も、もちろんアスカも、誰も嬉しくないんだってことに。

……あれ、何で私、泣いてるんだろう?
喉はからからなのに、目から水は出るんだね。
「……う、うあ……ああ……ああああああああああああああ!」
どうしてかな。
もう―――何も思いつきもしないのに。
ただ、ゲンキ君に会いたいってことだけは―――はっきり分かるんだ。

私、ね。
ちょっとだけ、キョン君の気持ちが分かった気がするんだ。
キョン君は、私を殺そうとしてきたよね?
私、それがすごく怖かったんだ。
普段は素直じゃないけど優しいキョン君が、私を殺そうとしてくるなんて、理解できなかった。
でも、ね。
今ならちょっとだけ、ううん―――すごく、よく分かる。
キョン君が、私を殺そうとした理由。
間違いない、って思えるよ。

キョン君はきっと―――ハルにゃんを救えなかったんだ。
私と、同じように。

156 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:54:24 ID:L7g3hoig

何があったのかはよく分からないよ?
キョン君の目の前で、ハルにゃんが誰かに殺されてしまったのかもしれない。
ハルにゃんがゲンキ君みたいに、誰かからキョン君をかばったのかもしれない。
それとももしかしたら、もしかすれば―――キョン君がハルにゃんを殺しちゃったのかもしれない。
どれが正しいかは、私には分からない。
それでも、きっとそれだけは間違ってないはずだ。

だって、私とキョン君は―――兄弟なんだもん。
それくらい、分かるよ。
もう、子供じゃないもん。

妹舐めたら―――おしおきなんだからね。

『……そう言うと、思ってたわ』
ハルにゃんは、今度は笑っていた。
私の大好きな、明るくて自信満々の笑顔だった。
『ごめんね、強く言っちゃって。でも、今の妹ちゃんが見てられなくってね』
そう言って、私の頭を撫でる。
少しだけ、気持ちが落ち着いた。

『……そうよね、ゲンキ君に会いたいわよね。……でも、まだ早いわ』
ハルにゃんは、私の顔を真剣に見つめた。
こんな顔のハルにゃんは―――初めて見た。
「……早い……?」
だって、私はもう少しで死んじゃうのに―――

『……ううん、まだ死なない。今なら、まだ間に合うから。……だから、お願い。生きるのよ。絶対に。何があっても―――貴方はまだ生きなきゃ』
でも、生きててもゲンキ君に会えないよ。

『会えるわよ。これから妹ちゃんが頑張れば―――いつか会えるわ。……だってゲンキ君は―――』
ハルにゃんは、すっと私の左胸を指差し―――

『妹ちゃんの心の中にずっといるじゃない』

あ―――-
何かが、すっと溶けた。
そっと、左胸に手を伸ばす。
友達に比べて全然発育はしていないけれど―――それでも、聞こえる。
とくん、とくんという、規則的な音が。

ああ、そうか。
―――これが、ゲンキ君なんだね。
私の左胸にいる―――この音がゲンキ君の命の音なんだ。

『……そうよ、いつだってゲンキ君は、貴方の傍にいるの。だから、がんばって目を覚まして』
そうか。
そうなんだ。
ゲンキ君は―――私の中にいるんだ。
ゲンキ君は、私と一つになったんだ。
ゲンキ君は―――私なんだ。
そうなんだね?

私がここで死んだら―――ゲンキ君は、また死んじゃうんだ。

『……』
ハルにゃんは、また何か言っていた。
でも、その言葉は聞こえない。
何を言っているのかは気になったけど……でも、いいや。
私は、――-決めた。

私―――
私、生きたい。
そして、ゲンキ君を今度こそ守りたい。

悪いこと、しちゃった。
分かってる。分かってるよ。
それでも、私は―――
死にたくない。死にたくないんだ。
ゲンキ君を死なせないために。

ゲンキ君、ごめんね。
私、もうこんなことしない。
これからは、がんばって生きる。
ゲンキ君は許してくれないかもしれないけど―――
それでも―――
今からでも、貴方を守りたい。

157 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:54:59 ID:L7g3hoig

涙がこぼれた。
気づけば、私は泣いていた。
『ああ、そうだ、がんばるんだ、『   』』
ゲンキ君の声。
こんな状態じゃ、たぶん喋ることもできないと思うから、聞き間違いかもしれない。
もしかしたら、妄想かも。
それでも、いい。
だって、私は……

―――あはは。
私ったら、そっか。
そうだったんだ。
今更、気付いちゃったのか。
遅いなあ。
もう少し、早くから気付けばよかったのに。
―――ううん、それは違うかな。
気づいてたんだ。
気づいていたのに、気付いてなかったんだ。
だって、恥ずかしかったんだもん。

会って、ほんの少しの時間だったけど。
今なら、はっきりと言おう。
私は―――


―――私はゲンキ君が―――大好きだよ。

あ、……笑えた。
変だな、こんな場面なのに―――
なんだか体が熱いのに―――
私今、――-笑えている。

本当にありがとう、ハルにゃん―――とっても、嬉しい。
ハルにゃんのおかげで、私、分かったよ。
私が―――今から何をするべきなのか。
こんなところで死んでる場合じゃないって。
私が今度は、ゲンキ君を『生きて』助ける番だって。
本当にありがとう、ハルにゃん。
まるで、神様みたいだね。
ううん、もしかしたらキョン君たちにとっては本当に女神様だったのかな?
神様なハルにゃん―――うん、なんだか、すごくしっくりくるや。

「ねえ―――」
ハルにゃんは、まだそこにいるかな。
問いかけてみると、返事が返ってきた。
さっきより、声が少し小さくなった気もするけど。
『何、妹ちゃん?』
「……お願いが、あるの」
私は、もう大丈夫だよ。
もう、笑えるから。
もう、ちゃんとまっすぐに歩けるよ。
何があっても、もう道を間違えたりしないから。
ゲンキ君のために―――進むから。
だから、お願い。
「……キョン君が―――キョン君が、もし、もしね、」
人を殺そうとしているのなら。
「……止めてあげてほしいんだ」
怒られちゃうかな。
キョン君はお前が心配することじゃない、って言うかもしれない。
でも。
でもね。
それでも―――私には今のキョン君の気持ちが分かる気がするから。
大切な人が死んだ後の、どうしようもない気持ちっていうのが。

158 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:55:52 ID:L7g3hoig

『……』
ハルにゃんは、何も言わなくなった。
「……どうしたの?」
『……ま、……任せて』
あれ、なんかハルにゃんの様子が変だな。
もしかして、いけないこと頼んじゃった?
「……我儘かな」
『……そんなことないわ!分かった、私に任せて!
キョンは―――貴方のお兄ちゃんは私が何とかするから!』
ありがとう。
ありがとうね、ハルにゃん。
これで―――私も起きられるね?

私、生きるよ。
生きなくちゃ。
ゲンキ君のために。
こんなところで、死ぬわけにはいかない。

……喉が、熱いなあ。
体中がからからする。
このままじゃ、死んじゃう。
水か何かを呑まないと、まずいかも。
嫌、死にたくない。死んじゃダメだ。
生きたい。生きたい。生きたい。
ゲンキ君、私、
生きたいよ―――!



そして―――少女は、……『生きたいと願った』。


熱い。
熱い、熱い、熱い。
早く、何か、冷たいものが欲しい。
このままじゃ。
私は―――ゲンキ君を殺してしまう―――

159 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:56:35 ID:L7g3hoig


意識を取り戻した少女は、――-誰もが予想だにしたなかった行動に出た。
突然立ち上がり、――-真っ直ぐに費消したのだ。
向かう先は、…………ただ一直線。

否、その表現は少しばかり間違っていた。
彼女は、意識を取り戻してなどいない。
ただ、その生存本能が―――彼女の身体をひたすらに動かしていた。
全身を焼かれた体を癒す、水を。
―――生きなきゃ。
―――ゲンキ君のために生きなきゃ。
本能が告げる。
生きなければ、と。
閉じたままの瞳の裏の表情は、分からない。
しかし、その口元は―――笑っていた。
希望を見つけたことに対する喜びに。
そう―――彼女は、すでに壊れていたのかもしれない。
『佐倉ゲンキ』を失ったその瞬間から、彼女はすでに取り返しなどつかないところに来ていたのかもしれない。
そして、そのような状況下、夢で『生きる』ことを選択した彼女がとる行動は―――

『飛び込む』。

襲う、冷たさ。
爽やかな冷気が―――妹の肌を刺す。
『警告、キョンの妹の指定範囲外地域への侵入を確認。一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る 』
何かが、聞こえる。
しかし届かない、聞こえない。
ナビはすでに―――言葉を発しはしない。
いや、何か言っているのかもしれないが、妹には聞こえない。
もはや彼女の頭にあるのは―――『ゲンキのために生きること』だけ。

ゲンキ君。
待ってて。
私―――生きて見せるよ。
今はまだ体が熱いけど―――もう少ししたらすっきりするから。
だから、ね。
ちょっと、待ってて。

―――ああ、気持ちいいなあ。
すっごく気持ちいいよ、ゲンキ君。
ゲンキ君も気持ちいいかな?
……えへへ、なんだかこういうの、照れちゃうね。
私とゲンキ君は、今、一つなんだよね。
この『気持ちいい』って感覚も―――ゲンキ君と同じかな?
こんな気持ち―――初めてだよ。

あのね。
朝倉さんとヴィヴィオちゃんの言いたかったこと―――よく分かったよ。
朝倉さんが、私を怒った理由も分かった。
朝倉さんは―――私に生きてほしかったんだね。
今からでもゲンキ君を守れ、って言いたかったんだね。
何で、気付かなかったんだろう。
でも、今は分かったよ。
ハルにゃんが教えてくれた。

もう、ハルヒの声は聞こえない。
実にすがすがしい気分だった。

『10、9、8、7……』

ああもう、五月蠅いなあ。
私が今から頑張ろうとしているのに、邪魔しないでよ。
ねえ、ゲンキ君。
私、がんばるから。
だから―――これからも一緒にいてね。
私、今度こそゲンキ君を守るから。
だから、一緒に『いこう』?
一緒に、生きようね。

『ああ、当たり前だろ』

そうだね。
ありがとう、ゲンキ君―――

―――絶対、だからね。約束♪

『       』


『0』

海の一辺に、小さな水飛沫が上がった。

160 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:58:07 ID:L7g3hoig



B−8、そこに広がるのは紅い炎。
そこには、誰もいない。
だから、そこで何が起こったのか、誰にも分からない。
知っていた少女と動かない体に正義の意思を持ったヒーローは、既にオレンジ色の液体と化してしまったから。
しかし、それでも確かに一つ言えることは。


少女の命が消えるその瞬間―――幸せそうに笑っていたということだ。
憎しみに染まった笑顔でもなく。
不安を打ち消すための作り笑いでもなく。
心の底から『誰か』に向けた―――子供らしい純粋な笑顔を。
たとえ、それが心が壊れた後であったとしても。
彼女が死ぬその瞬間幸せだったということは―――誰にも否定できるものではないだろう。



【キョンの妹@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】

※キョンの妹の支給品は全て火災で燃えつきました。

161 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 01:58:48 ID:L7g3hoig







しかし、ここでこの物語は終わらない。
視点を、この殺し合いの観察者たる二人に移してみよう。



「……ふう、いやあ、キョン君は実に面白い参加者だねえ」
『その空間』に帰ってくるなり、草壁タツオは楽しそうにそう言った。
「彼のような人間には、もっと頑張って人を殺してもらいたいところだね。そう思うだろう、長門君?」
そして、いつの間にかそこにいた長門は、しかし何も答えない。
帰ってくるなりパソコンに向きなおり、何かの作業をしているようだった。
「……長門君、少しくらい休んだらどうだい?」
「……心配は要らない」
相も変わらず愛想もなくそう返す長門。
草壁タツオは、そんな長門の背中に視線を向け―――一言呟いた。
「……そうかい?それならいいんだけどねえ。
……それより、長門君。……一つ気になることがあってね」
長門はその言葉に、表情は変えずに振り向いた。
タツオは満足そうに、言葉をつなげる。
「実はね、さっきまでこのモニターの様子を見ていたんだよ。そしたらね……ところどころノイズのような……うん、どういえばいいのかな、僕は専門ではないからよく分からないけど……
……『何かが干渉したかのような痕跡』がね、残っていたんだ。」
長門が、何か呟いた気がした。
しかし、それは何も聞こえない。
「偶然だといいんだけど、とてもそうは思えなくてね―――」
タツオは天井まで埋め尽くされるように並んだモニターの前に立ち、そして指差した。
途端画面は切り替わり、誰も映っていなかったモニターに二つの人影が映し出される。
一人は、学生らしき茶髪の青年。
一人は、異形の姿をした『ガイバーⅢ』。
超能力者・古泉一樹と、戦闘機人・ノーヴェである。
「……一度目は、第一回放送の後。これが、はじまりだね。
地点は、F−8。時刻は朝。ネオ・ゼクトールが、ノーヴェの脳髄を叩きつぶした少し後だね。
……て、長門君にわざわざ説明するまでもなく分かるか。まあいいや、一応口に出しておくよ。
ノーヴェは殺されかけたことで過剰防衛反応に出、その際に襲いかかったのが古泉一樹だった。
そこでジ・エンドかとも思ったんだけど、結局ノーヴェは意識を覚醒させ、二人は協力してネオ・ゼクトールを撃退することに成功する。いやあ、少年漫画みたいだね!
……そう、そしてここからだよ。……わずかな異常があるのは」
タツオはそう言いながら、モニターのボタンを押した。
ピ、という音とともに画面が再生される。高性能なビデオのようなものらしい。
「……長門君、見てるかい?……まあ君のことだから既に知っているかもしれないけどね」
古泉が仮面を取り、ノーヴェが殖装を解除する。
そして二人が何度か言葉を交わした後―――『それ』は、起きた。

ザッ---―――

それは、ほんの短い時間だった。
鈍感な人間なら、見逃してもおかしくないくらいの、小さな違和感。
一瞬、ほんの一瞬間だけ―――画面が暗転したのだ。
そして、そのわずかな刹那のあとは、何事もなかったかのように画面は動き続けていた。
声が聞き取れない以上、何が起こっているのか分からないが―――ノーヴェの慌てた様子から判断するに、古泉が意識を失ったのだろう。

「…………分かるね?」
草壁タツオは、微笑を浮かべる。
「……これ、だよ。この、謎のブラックアウト。
ここだけなら、僕もそう気にしはしないさ。機械の調子が悪いなんてよくあることだからね。
でも、これと同じ事態が―――他に三か所も見られたんだ。
一度は二回放送後、高校で。
一度は、今から数十分前―――僕たちがいたリングから。
そしてもう一度は―――今、ついさっき。B−7の火災現場からだ」

162 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 02:00:08 ID:L7g3hoig
草壁タツオは、滑らかに言葉を紡いでいく。
無言の長門を、置き去りにするようにして。
「一度ならともかく―――四度も。さすがにこれは何かあるって思わないかい?」
長門は、やはり何も言わない。
何も、言おうとはしない。
確かに長門は、常から無口で、多くを語る人物―――否、宇宙人ではない。
しかし、今の彼女は、普段すらしのぐほどに寡黙だった。
「……不思議でね、僕は今までのデータを全部洗ってみた。そうすると、この現象が起こっている時にはある共通点が存在しているんだ。
それは―――その中の特定の『誰か』が、意識を失っているときだということだ。キョン君の例は、僕たち自身がこの目で直接見たよね?」
ウォーズマンに技をかけられ気絶し、過剰防衛反応により戦い続けていたキョン。
先ほど確認したところ、キョンのその気絶時間中―――すなわち、自分の無意識で戦い続けていたその最中に、件の現象が見られたのである。
「……そしてあと二人、ヴィヴィオちゃんと彼の妹の時も同じ。ヴィヴィオちゃんは転送装置で仲間と離れ離れになった際意識を失っていて、妹は支給品によって身体を動かさせられていた状態だった。……二人が目を覚ます前に、暗転は起こっているんだよ」
草壁タツオの表情は、変わらない。
「さすがに、変だよねえ。気絶した人間が画面にいる時だけ、こんなことが起こるなんて―――まるで、『何かが気絶した人間に干渉している』みたいだ」
タツオは長門の顔を見る。
もう一度、今度は何かを促すように。
しかしそれでも、長門の口は一向に開く気配を見せない。
「……まあ、やや極論だけどね、僕はあり得ると思ってる―――それどころか、ほぼ間違いないんじゃないかって思ってるんだ。特に証拠があるわけじゃないけどね」
「……全く、面倒だよ」
疑問形のような問いかけでいて―――その表情には、確信が浮かんでいた。
タツオは、理解していたのだ。
この殺し合いに、働きかけている何か、がいると。
そして、その正体についても、それができる人間についても、あらかたの目星をつけていた。
だからこそ、タツオは―――少女に言葉を紡ぐ。
「……もっとも、今回は余計な首を突っ込んだせいで逆に彼女を殺すことになってしまったみたいだけどね?困るなあ、そういうのは。
僕がしてほしいのは殺し合いじゃなくて、自殺じゃないんだけどなあ」
妹の命が潰える瞬間を繰り返し見て、タツオは溜息を吐く。
「ま、誰がどんな意図で何をしているのか―――そもそも死人に意思があるのかすら分からないけど、これでさすがに懲りてくれるでしょ。次のことはまた同じ現象が起こるようなら考えればいい。……それにしても、」
タツオは画面を元通り、リアルタイムの会場へと戻す。
そして視線を向けるのは―――目の前にいる、一人の少女。
長門有希という名の―――自分の『協力者』に。

「不思議だよねえ」
草壁タツオは―――笑う。
なんの曇りもない、澄み切った笑顔だった。
疑わしげな表情が一切浮かんでいないことが、逆に不気味なくらいに。
「この場所にいる参加者は48人―――まあ今は30人くらいだけどね。彼らのうち、意識を失う人間が4人くらいいたとしても、それはそんなに妙なことじゃない」
タツオの眼鏡の奥の表情は、分からない。
「むしろ、4人どころじゃない。君のような強者ならともかく、僕や娘たちのような普通の人間がこんなところにいたら、そりゃ意識を飛ばしたくもなる。現に、モニターで見た限りでも疲労のあまり気絶した人間なんてざらにいる」
こつん、とモニターの一つを人差し指で叩く。
何か、言いたげに―――しかし、それは口にせず。
「さっき僕が言ったように、『何か』が、気絶した人間に干渉している、ということが実際に起こったとしよう。それ自体は不思議なことじゃない。中にはそういう能力を持った人物だっている。それは事実なんだからさ。でも―――」

163 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 02:01:15 ID:L7g3hoig

長門は、無反応。
指一本すら、動かそうとしない。

「―――キョン」
タツオの呼んだ名前に、長門がわずかに反応した。
しかしそれは微々たるもので、一瞬で元に戻る。
「―――そして古泉一樹、ヴィヴィオ、キョンの妹―――この異常の原因と思われる参加者の名前だ」

「そう、あれだけの人数がいるにもかかわらず、―――夢を見たのは全員が君の、……正確に言えば『涼宮ハルヒ』の知り合いだ。
キョン君と彼の妹、古泉君は君たちの友人、そしてヴィヴィオちゃんは彼女と行動し、彼女に守られた存在だ。
……これは無関係なのかな、本当に。……彼女が『思ったことを現実に変える』という力の持ち主だというのは知っているけど、……そういう能力には君に制限をかけるように頼んだはずだけど?」

―――まさか、君は彼女の『干渉』を予想していたのではないか?
そう、暗に問いかけるタツオ。
どう応えてほしかったのかは分からない。
頷いてほしかったのか、首を横に振ってほしかったのか。
そもそも、タツオに人の心が残っているのかすら―――分からないのだ。

「……涼宮ハルヒの願望が、制限を上回ったという可能性はある」
長門は呟く。
淡々と、事実だけを。
「……しかし今の段階で証明はできない。少なくとも、私は何もしていない」
「……」

落ちる、沈黙。
神妙な顔つきで長門を見つめていた草壁タツオは無言で立ち上がり、―――長門に歩み寄る。
爽やかな笑顔で。
「うん、うん、そうだよねえ。いや、疑うようなことを言って済まなかったねえ!」

そう言いながら、――-
タツオは、長門を殴りつけた。
長門は抵抗しなかった。
草壁タツオに殴られたまま―――微動だにしなかった。
本来なら、躱せないはずなどないにもかかわらず。
タツオは長門のセーラー服の襟をつかみ、相変わらずの笑顔で淡々と問い詰める。

「本当に……そうかな?
君はあの涼宮ハルヒの監視者だろう?君ほどの人間が『分からない』だなんて……にわかに信じがたいんだけどねえ。
それに……あのカナブンも、君の世界の存在らしいじゃないか。僕はあんなイレギュラーを投入した覚えはないし……
異変はいつも君の知る人間から起こっているね。悪いけど―――はいそうですか、なんて納得はできないよ。……もう一度聴こう、本当に君には関係ないんだね?」

「……無関係」
長門は、答える。
ただ、機械的に。
自分の今の状況が理解できていないようにも思えるくらいに微動だにせずに。
草壁タツオが常に笑顔なのと同様に―――常なる無表情で。

164 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 02:02:38 ID:L7g3hoig

「私の任務は―――この殺し合いを加速させ、円滑に運営する―――それだけ。それ以外のことは何もしていない」
「だから―――信じて」

かたかたと、窓が鳴る。
風が吹いている訳でもないのに―――そもそもここがどこなのかも判然としないのに―――何かが、外壁を叩きつけていた。
それはもしかしたら、長門の無言の圧力だったのかもしれない。

「……そうか、分かったよ」
草壁タツオは長門のその答えを聞き―――
「……疑って本当に悪かったね。君を信じることにするよ……よし、じゃあもうすぐ時間だ。僕は放送の準備に取り掛かってくるから、そちらはよろしく頼むね」
するりと、長門の横を素通りした。
何もなかったかのように。
先ほどまで長門に向けていた疑惑など、全くなかったかのような、態度で。

長門は、何も言わない。
無言で―――キーボードを高速で叩き始める。
タツオが部屋を離れるのに、振り向きもせず。

「……満足?」
その呟く声は、おそらく長門の者だっただろう。
しかし、誰もそれを証明するものはいない。

聞こえない。
長門の言葉は―――誰にも聞こえないのだから。



そして、第三回目の放送は始まる。

165 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 02:06:40 ID:L7g3hoig
以上です。
タイトルは>>160までが「笑って、笑って、笑って。」
>>161からは「長門有希は草壁タツオを前に沈黙する」でお願いします。

妹のあれとか、主催関連とか、夢に関して触れてしまったのでかなりグレーだと思います。
遠慮ない意見お願いします。

166 ◆h6KpN01cDg :2009/05/26(火) 02:14:47 ID:L7g3hoig
うわミス〜
>>160の冒頭はBー8ではなくAー6です。

167 ◆igHRJuEN0s :2009/05/26(火) 23:57:32 ID:YrRABrO.
それでは、これよりSSを投下いたします。

168 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:00:42 ID:YrRABrO.


「どこだ、アプトム・・・・・・!!」

ボロボロの羽で空を駆ける異形の復讐者・ゼクトールは、復讐すべき対象・アプトムの名前を、ありったけの憎しみをこめて呟く。
彼は先程まで、仲間の仇であるアプトムを見つけ、己の手で殺す事ができるハズだった。
だがそれは叶わず、黄色いガイバー(消失したハズのガイバーⅡ?)により阻まれ、右腕を失い、アプトムを取り逃がすハメになった。

黄色いガイバーの戦闘力は並外れていた。
下手をすればガイバーⅠやガイバーⅢと同じかそれ以上に・・・・・・おそらく今の自分では勝つ事は難しい。
それをわかっていたゼクトールは、少なくとも今は死ぬ気はなかった。
自身が死ぬより先にアプトムを殺すために、死を伴うリスクを背負う事は、今はまだしたくないのである。
それ故にガイバーとの戦闘は、可能な限り回避したかった。
・・・・・・だが例のガイバー、ついでに言うなら他の参加者も、いつの間にやらどこかへといってしまったらしい。
ガイバーについては、本当に遠くへ行ってくれたのなら僥倖である。

しかし、当のアプトムも燃える市街地の煙に紛れて、どこかへ消えた。
せっかくのチャンスを、ガイバーのせいで失ったことにより、ゼクトールはかなり苛立っていた。
それはゼクトールにとって、目に入った物を全て壊したいほどの苛立ちである。
仇が取れる事の喜びを、仲間である四人の魂が報われる機会を、一人のガイバーに踏みにじられたからである。

「クソ・・・・・・ッ!
・・・・・・落ち着けゼクトール」

ゼクトールはかなりの怒りと憎悪を胸に抱きながらも、冷静さは失ってなかった。
復讐の機会はアプトムが生きている限りはまだある。
また、羽はボロボロで早くも高くも飛べないが、飛べること事態のアドバンテージは失っていない。
無理をしなければまだ飛び続けられるし、時間が経てば再生もできる。
憎きアプトムを捜すための機動力は残っている。
それらを思いだしたゼクトールは、苛立ちを胸の中にしまっておくことにした−−少なくともアプトムを見つけだすまでは。

その思いを胸に、飛ぶゼクトールはB-6を越え、B-7へと入る。
そこで彼の目に、ある物が目につく。

169 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:01:22 ID:YrRABrO.

「人影・・・・・・?」

それを見つけられたのは彼の集中力の賜物か。
とある喫茶店の中でうごめく影を発見したのである。
その建物の中に確実に誰かがいることをゼクトールは確信する。
もしかしたらアプトムがこの喫茶店に逃げこんでいるのかもしれない・・・・・・そうでなくとも人影の人物との接触、または殺害できれば件の褒美のための点稼ぎにより、アプトム捜索に数歩前進することができる。
そう思考したゼクトールは、喫茶店の近くへと降り立つことにした。


−−−−−−−−−−−

170 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:04:03 ID:YrRABrO.

ガチャ カランカラン


「クッ!」
「ムハ?」

ゼクトールが喫茶店の扉を開けて入ると同時に、扉に立て付けられたチャイムが鳴り響き、内部にいた一人の人間と一匹の獣が反応する。
軍人−−夏子は即座に来訪者・ゼクトールに向けて銃を構え、獣−−ハムもまた身構える。
来訪者であるゼクトールといえば、人間に銃を向けられても、野兎のようなゾアノイド(彼はそう思っている)が居ようとも、動じる事はなかった。
いくら身体がボロボロのボコボコとはいえ、銃で撃たれても、並のゾアノイドに襲われても倒されない自信があるからだ。
そんなゼクトールは、まずはアプトムの行方について尋ねようとする。

「貴様らはアプトムという奴の居場所を−−」
「ここから出ていきなさい!
さもないと発砲するわよ!」
「そ、そうです!
怪我をしたくなかったらとっとと出ていくのが懸命ですよ?」

「−−知らないか?」と言う前に質問は遮られ、目の前の一人と一匹は、ゼクトールにこの喫茶店から出ていくようにと要求する。

「・・・・・・言っておくが、俺はこのゲームの優勝に興味はないぞ」

それは先程、彼が殺した(と思っている)少年と会話の時に使った言葉と同じであった。
実際、嘘は言っていない。
だが、優勝に興味がないからとはいえ、それが二人の命を保証するという意味でもない。
彼が先程、小僧と呼んだ少年に襲いかかったのと同じ手口で、仇であるアプトムや筋肉スグルのような強者たちの情報を知らないようなら・・・・・・
いや、仮に喋ったとしても襲いかかる気である。
悪魔将軍が戦いたがっている強者たちについてはともかく、アプトムの行方は嘘でごまかされては痛い。
だったら、ここで目の前の二人を殺して、いっきに殺戮数を3にし、確実な情報になるであろうご褒美を得た方が都合が良い。
ゼクトールはそのつもりであった、が・・・・・・

「その言葉は信用に値しませんぞ」
「私たちはここから、あなたのような化け物同士の戦いを見せてもらったわ」
「・・・・・・」

171 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:05:16 ID:YrRABrO.

夏子とハムは先程から、ゼクトールを含めた者たちの乱戦をリアルタイムで目撃していた。
当然、ゼクトールの立ち回りや実力も、それなりに見ていたのである。
彼女と野兎には、ゼクトールがさぞかし危険な存在に見えていることだろう。

(どうやら、警戒されているらしい)と思いつつ。
(まあいい)ともゼクトールは思っていた。
最初から殺すつもりではあったのだ。
(恨みはないが、死んでもらおう)

「そうか、ならば仕方があるまい・・・・・・」

冷たくそう言い放つと、ゼクトールから急激に殺気が放たれる。
それを肌で感じた夏子とハム。

「何かするつもりなら容赦なく射殺する!」

夏子はあくまで平静を保とうとし、後退りながらも銃を下ろさずに強気そうな態度を見せる。
しかし、ゼクトールは抗戦の意を見せる彼女に対して余裕を見せ付ける。

「俺の戦いを見ていたならわかるだろう?
そんな銃が俺に効くと思うか?」
「くっ・・」
「あわわわわ」

化け物相手に拳銃で太刀打ちできるとは思えない。
夏子もハムも、それは理解している。
しかし、ゼクトールの強力なレーザーから推測するに、喫茶店の裏口から逃げようものなら、避ける暇も無く一瞬で灰と化すだろう。

退こうにも退けず、背中も見せられない。
実力が違いすぎる怪物相手に真正面から戦うなど問題外だ。
しかし、状況をひっくり返せるような道具や武器も持ち合わせておらず、一人と一匹にできるのは相手が手を出してくる前に、逃げる手段や隙を探すのが関の山である。

一方で、ゼクトールも何も考えずに二人を殺そうとしているわけではない。
接触してから今まで、相手を値踏みしていたのだ。
店の外からミサイルやレーザーを撃ち込めば、事は済むとも思っていた。
だが、少年の後に殺そうとした母子に向けてレーザーを放った時の事を思いだす。
結果的に、仲間による援護・魔法か支給品と思わしきものの力によって、殺し損ねてしまった。
よって、ゼクトールなりに学習をした。

172 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:06:00 ID:YrRABrO.
弱者と見える者でも、支給品や隠された力によって攻撃を凌がれる場合がある。
あえて余裕を見せたりしていたのは、そういった支給品や力を持っているかを測るため。
しかし、目の前の女性とゾアノイドの余裕の無い雰囲気からして、状況を打破できる物はもっていない事を看破できていた。
額から流れる汗や慌てようからして、実力を隠すための芝居にも到底見えない。
実力の意味でも、装備面の意味でも、弱者を発見できたことにゼクトールは、内心で微笑む。
また、より確実に相手を殺すために、近距離からレーザーを撃ち込むべく、自ら喫茶店の中に入った。
扉の前にいる自分には、即座に脱出できる退路があり、一人と一匹には裏口まで逃げるにも距離がありすぎて脱出は困難。
将棋で例えるなら、ゼクトールは王手・夏子とハムは詰み、である。

(よし、もう良いだろう。
時間が惜しい、さっさと殺そう)

痺れを切らしたゼクトールが、レーザー発射口にエネルギーをチャージすせる。
あと数秒も立てば、夏子とハムは灰燼と化すだろう。

173 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:08:17 ID:YrRABrO.





−−だが、そうはならなかった。

突然、夏子とハムの視線がゼクトール・・・・・・の頭上に移動する。
その表情は、まるで信じられない物でも見ているように、驚愕していた。
これもまた、芝居には見えない。


(なんだ、何事か!?)

視線の先に何かがあるのかと思ったゼクトールは、上を見上げる。

そこにいたのは、天地逆転状態でゼクトールを見ている上半身だけのネコミミつけた男。
正確には、下半身をスライム状にして天上に張り付かせ、上半身だけを具現化させたネコミミを頭につけた男が、ゼクトールを見下ろし(見上げ)ている。
そして、ゼクトールと男との頭の差は僅か10センチ。

奇妙にして異常に不可解な姿の男だが、それができる者はゼクトールは一人しか知らない。
それは、復讐心と仲間への想い以外は全てかなぐり捨てまで殺そうとしていた相手。
仲間の仇。
組織の造反者。
殺すことこそが、己の唯一の救いである者。

抑えきれない憎悪が溢れ、ゼクトールは力強く叫ぶ。

「アプトォォォーーーーーム!!」
「やれ! ネブラ!!」
『了解した』

夏子やハムが押されてしまうくらいの気迫にアプトムは負けず、即座にネブラに指示を出す。
そして、アプトムの頭の上で変形したネブラから何本もの触手が放たれ、その全てがゼクトールに向かう。
お互いの距離は1mもなく、いくら損種実験体のゼクトールでも逃れられはしない!

まず、触手のうち、数本がゼクトールの首や腕に絡みつき、彼の逃亡を防がせた。

「許せ!」

アプトムがそれを言った直後に、ゼクトールを縛りつけた触手以外の複数の触手が、鞭のようにゼクトールにたたきつけられる。

「ぐああああああああ!!」

ネブラから伸びる触手の鞭の威力はゼクトールにダメージを与えるには十分であった。
その鞭が複数本あり、縦横から嵐のように絶え間無く叩きつけられている。

バシバシバシバシバシバシ・・・・・・ッ
はたして一秒間に何本で何回叩きつけられていることか。
並の人間ならばとっくに失神しているほどの威力だ。

「ふ、ふざけ−−」

そんな反撃を許さないような鞭のマシンガンラッシュの中でも、ゼクトールは意地で至近距離からのレーザーを発射しようとする。

174 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:09:30 ID:YrRABrO.

『そうはさせん』

だが、それに気づいたネブラが攻撃を阻止すべく、触手を一本だけ先をナイフ状にし、レーザーを撃たれる前に横一閃する。

「なにぃ!?」

レーザー発射口が切り裂かれ、チャージされていたエネルギーが霧散する。
ゼクトールの反撃は失敗に終わったのだった。
そして、トドメと言わんばかりに、一際太い触手がゼクトールの頭に叩きつけられる!!

「ぐわあぁぁ・・・・・・!!」

脳みそがシェイクされ巨大なハンマーで砕かれたような衝撃が襲う。
元からボロボロであり、ダメージを耐えてきた彼だが、ここでとうとう限界を超えてしまったらしい。
すーーーっとゼクトールの意識がブラックアウトしていく。

「おのれぇ・・・・・・アプト・・・・・・ム・・・・・・」

その言葉を最後に、ゼクトールは意識を手放し、その巨体が床に沈むことになる。

−−−−−−−−−−−

175 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:11:52 ID:YrRABrO.

数分前。
ゼクトールから逃れるべく、市街地で起きた火災による煙に紛れつつ、喫茶店へ逃げ込んだアプトム。
(ちなみに、逃げることに夢中でお目当てでもあったガイバーに気づけなかったようだ)
文字通りゼクトールを煙に撒き、見失なわせることができた。
しかし、それも一時的なもので、すぐにでも追ってくるだろうとアプトムは予感していた。
そこで、喫茶店の先客であった人間の女と、雰囲気からしてゾアノイドには見えない二足歩行の巨大野兎に自身を匿うように要求した。
もちろん唯ではなく、金貨の詰まった箱を代金として取引とした。
しかし、返ってきた反応は・・・・・・

「悪いけど、できないわ。
あなたを匿う気も、この箱を受け取る事も」

人間の女−夏子はアプトムに箱を返還し(余談だが、箱が返された時に野兎−ハムは、勿体ない、と惜しそうな顔をしていた)、銃口を向ける。

「あなたを信用するわけにはいかないわ。
即刻、でていかなかったら撃たせてもらうわよ」

厳しい顔をして、夏子は非常に濃い警戒の色を見せる。
交渉は決裂だった。

「そうか・・・・・・」


アプトムは諦めを思わせるような態度を取ると、突如・その直後に片腕を伸ばして夏子の首を強引に掴み、圧迫する。

「がっ!? な、なにを・・・・・・!!」

突然の思わぬ攻撃に、夏子は焦燥する。
しかし、それでも軍人である夏子は反撃することは忘れず、手に持っていた拳銃の銃口をアプトムの額に向け引き金を引こうとする。
撃たれるよりも早く察知できたアプトムは、もう片方の腕を延ばして拳銃を奪い取る。
一瞬で攻撃手段を奪われてしまった夏子は唖然とする。

「馬鹿が!
こんな所で発砲すれば、奴を呼び込む事になるぞ!?」

アプトムは、火力の低い銃撃では簡単に死なないとは自覚しているが、問題なのは銃声でゼクトールが招きよせられてしまう事。
それを防ぐために夏子の拳銃を奪ったのだった。

「ハ、ハム!!」

武器を奪われた夏子はハムに助けを求めようとした。
しかし、返ってきたのは情けなく謝る彼の言葉と、喋るネコミミの報告。

176 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:12:41 ID:YrRABrO.

「す、すいません夏子さん。
助けたくとも助けられなくなってしまいました・・・・・・」
『飛び掛かろうとしたのか、逃げようとしたのかわからないが、何やら動きがありそうだったので無力化させてもらったまでだ』

夏子がハムを見ると、ハムはいつの間にやら彼女同様に捕縛されていた。
もっとも、ハムを縛りつけていたのはアプトムが頭に装着しているネブラであり、自身を変形させて大鎌の形状を作り、それをハムの首に当てていた。
その鎌の存在感は、何かすれば首と胴体をお別れさせると語っている。
そういう意味でハムは動けなくなっていた。
相変わらずの掴み所の無い飄々とした態度を取ってはいるが、心中は外見ほどの余裕は持っていない。

「め、面目ないです」
「くぅ・・・・・・」

こうして、一人と一匹はあっさりと無力化されてしまった。
夏子の絞殺刑準備とハムの斬首刑準備は、アプトムとネブラによって整った。
ハムは打つ手無しと諦めたのか、両手を上げて降参のポーズをする。
夏子は力の無さを余計に痛感し、悔しさで泣きたくなる気分を持っていた。
二つ分の生殺与奪を握ったアプトムは冷徹に言葉をかける。

「わかるか?
これが力の差というものだ。
首をへし折られるか、切り落とされるのが嫌なら俺に逆らわない方が懸命だぞ」

取引できないなら、強行手段により強引に従わせる。
それがアプトムのとって方法だった。
いくらダメージを負っていたとしても、銃に頼るようなヤワな人間なら捩伏せられる。
また、ダークレイス(おそらく人間以外)ならネブラも快く戦ってくれる。
そして、制圧は簡単に成功したのである。

「どうだ?
従う気になったか?」
「だ、だからといってあなたのような危険のある人物を近くに置くわけには−−がふっ」
「まだわからないのか?
この店に匿うだけで良いのに、なぜ嫌がる?」
「夏子さん!」

いまだに反抗の意思を持つ夏子の首を伸ばした身体でギリギリと締め付ける。
夏子は首を締め付ける腕を外そうともがくが、まったく外れる様子がない。

ある程度苦しめた所で、アプトムは腕の力を一時的に抜き、夏子は窒息から解放される。
首を締められたことにより、顔は充血で真っ赤だ。

177 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:14:04 ID:YrRABrO.
「ゴホゴホ」とむせ返っているのは酸欠によるものである。

今度は穏やかな口調でアプトムは夏子とハムに語りかける。

「おまえたちだって死にたくはないだろう? それは俺も一緒だ。
だが、徒党を組むなりしなければ、殺し合いを生き延びることは難しいだろう?
それはおまえたちとて同じハズだ」

アプトムの言う通り、夏子とハムの最低限度の目的は生き残ること。
そのためには優勝だろうと、脱出だろうと−−
少なくとも夏子は、シンジやみくるたちと徒党を組んだのも、優勝や脱出を目指すというより、生き延びる確率を上げるために徒党を組んでいたにすぎない・・・・・・最初の内は間違いなくそうだった。
つまり、アプトムは夏子たちと同じ考えを持っていたとも言える。
だが、どうしても、感情やら得体の知れなさによりアプトムを拒絶したくなるのだ。
夏子をその拒絶反応を睨みつける事で顕にする。
しかし、アプトムは至って涼しい顔をしていた。

「安心しろ。
今すぐとって喰おうとは思わん。
安易に殺して、情報などが手に入らなくなるのは痛いからな」
「よく言うわね。
こんなことをしておきながら・・・・・・」
「危機的に状況に陥れば誰だってこうするだろう。
立場と実力が逆だったら、きっとおまえたちもそうする」
「なるほど・・・・・・この仕打ちはあなたなりの手荒い交渉といった所ですか」
「そういうことだ」

何やら納得したハムに、ハムの解答を肯定するアプトム。

「あの・・・・・・そろそろ、この鎌を退けて欲しいのですが」
「返答は?」
「わ、我輩はあなたを匿うしかない・・いや、匿っても良いと思いますよ」

先に折れたのはハムだった。
どこか調子が良く、飄々とした言葉には抵抗の意思が見られない。
そんなハムを一度怒鳴る夏子。

「ハム!!」
「だって夏子さん!
この状況はどう見たって我輩たちに勝ち目はありませんぞ!!
彼の方が何枚か上手だったんですよ」

ハムもまた、弁解をする。
言っている事は正しい事であり、このまま逆らうものなら犬死に確実。
犬死にを避けるには、今だけでもアプトムに従うしかないのである。

178 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:16:28 ID:YrRABrO.
夏子もそれは頭ではそれを理解している。
ただ、折れるということは負けるということ。
自身の力不足を感じている彼女には、辛酸を舐めさせられるという事だ。
それでも例え辛かろうと、プライドに命は変えられない。
生き延びるためにはプライドを捨てることも、時には必要なのである。

「・・・・・・クソッ
仕方がないのね・・・・・・」
「よろしい」

結果、苦味を潰したような顔をしながらも、彼女も折れる事を宣言した。
それを聞いたアプトムは、これでゼクトールから逃れる事ができると、口を三日月にしてニヤリと笑う。
だが、その笑顔も、ネブラの報告により一瞬で掻き消える。

『奴が近づいてくるぞ、アプトム君』
「何ッ!?」

今まで二人に恐怖を与えていたアプトムが、今度は戦慄させられる。
ネブラはいち早くゼクトールの気配を察知し、その事をアプトムに伝えた。
すぐに夏子の首を締めていた腕と、ハムの首にかけていた大鎌からネブラの形状を元に戻し、割れた窓から外の様子を見る。
解放された夏子とハムも、アプトムに続いて窓を見た。
そこには、まだ距離としては遠いものの、ゼクトールが空を飛んでいた。

「来るにしても予想より早過ぎる・・・・・・!」
『どうする?
目的はここかどうかは知らんが、確実に近づいてきているぞ』

迫るゼクトール。
人間程度なら軍人相手でも、問題なく押すことはできたが、流石に自分を痛め付けた当人である超獣化兵に勝てる自信はない。
アプトムに焦りがつのっていく・・・・・・
そんな彼に、ネブラはあくまで冷静に質問する。
アプトムもまた、ただ焦ってばかりではなく、頭を働かせて考える。
そして−−

「よし、俺に考えがある」

そう言った途端、アプトムは身体をスライム状に変えて、床に沈むように薄く広がる。
そして自分の体色を周りの景色に合わせる、つまりはカメレオンのように保護色を帯びたのだ。
唯一身体からはみ出ている首輪とネブラとディパックだけその場にポツンと残ったが、すぐにそれらにスライム状の肉体を覆い被せることで、完全に姿を消すに至った。

179 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:17:16 ID:YrRABrO.
夏子はその様子に絶句する。
ハムのような人外の生物は見慣れたつもりでいたが、生物的にはまずありえない、身体を自由自在に変形させてしまう者までいたことは、遥かに予想外だった。
故にアプトムを更に脅威に思えてしまう。
一方でハムも驚いてはいたものの、夏子ほどではない。
ハムのいた世界にも、身体がスライム状の種族は存在しているのである。
・・・・・・流石に、アプトムほど万能の力は持ち合わせていなかっただろうが。

なにはともあれ、ものの数秒でアプトムは、夏子とハムの視界から姿を消した。
視覚的な意味では周囲に溶け込んだのである。

アプトムがいるであろう床から声がする。

「これは返す」
「!」

それだけ言うと、アプトムは夏子に先程奪った拳銃を投げて返した。
それはまるで床が銃を吐き出したみたいな、奇妙な光景だ。
夏子が拳銃をキャッチしたのを確認すると、二人に命令を下す。

「奴がきたら、俺がここにいることは隠し通せ」
「ちょっと待ってください!
我輩たちはどうなるんですか!?」
「策はある・・・・・・俺を信じろ。
いちおう、殺されないように動いてやる」

−−−−−−−−−−−

180 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:17:55 ID:YrRABrO.

一方その頃、ゼクトールも喫茶店の中の人影を発見する。
アプトムがいる可能性は考慮していても、アプトムの存在に気づいている様子は無い。


−−−−−−−−−−−

181 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:19:08 ID:YrRABrO.


『奴がこちらに気づいたようだ、明らかにこちらに近づいてくる』
「そうか、では行動開始と行こう」

アプトムは素早く床から壁を伝って天井に移動する。
床及び自分を踏まれた時の感触で、所在を気づかれるのはマズイと思ったからだ。
ゼクトールが来るまでの短い間に、アプトムとネブラは小声での会話をする。

『(策とは何かね?)』
「(単純な奇襲だ、奴があの二人に気を取られている隙に後ろを取って反撃を許さないように攻撃を浴びせる。
それにはおまえの力が必要だろう)」
『(心得た)』
「(あと、もう一つ。
絶対に殺さず無力化させてくれ)」
『(なぜだ?)』

アプトムは自分の障害になる者には情け容赦をするつもりはなかったハズだ。
それが急に、「殺すな」と注文してきたことに、ネブラは無い首を傾げる。

「(理由は後で話す。
今は俺の指示に従う事だけ考えていろ。
さぁ、来たぞ!)」

そうこうしている内にゼクトールが喫茶店に入ってきた。

−−−−−−−−−−−

182 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:20:51 ID:YrRABrO.

あまりに現実離れしたものを見せられて半ば呆けていた夏子とハムは、ゼクトールの出現にいやがおうにも現実に引き戻される。

「クッ!」
「ムハ?」

ネブラの忠告から、ここへ何者かがやってくるのはわかっていたが、甲虫の怪人・ゼクトールがやって来たのがその忠告から間もなくだったため、対応が遅れてしまった。
また夏子は、反応と仕草からして、甲虫の怪人はアプトムと何かしら関連性があり、アプトムとの公約を破って売りつけてしまおうか、とも考えた。
しかし、それをやれば姿を消したアプトムが何をしてくるかわからない。
結局、生殺与奪は握られたままなのだ。
第一、アプトムの事をゼクトールに話したからといって、そのゼクトールが自分たちを助けてくれるとは限らない。
戦闘力の差は日を見るより明らかであり、結局の所、アプトムがやろうとしている事を信じるしかないのだ。
もちろん、アプトムが土壇場で裏切ったり、失敗すれば全てはおじゃん。
彼女たちにやれることは、詰み将棋状態の状況下で、アプトムを信じるか、見つけるのが非常に困難な逃亡手段を自力で考えるしかなかったのだ。


ゼクトールが最初にとったのは対話だった。
最初に「俺は優勝に興味がない」と踏み出したが、夏子はゼクトールを拒絶する。
ゼクトールの様子を窓から伺っていたからでもあるが、何より先程までアプトムから虫けらのような扱いを受けていたことの要因が大きい。
要は、怖くて恐ろしいものだから拒絶しているのだ。

だが、夏子たちの警戒は間違ってなかったのかもしれない。
何せ、ゼクトールは夏子たちを殺す気でいたのは確かなのだから・・・・・・


打って変わって、ゼクトールの頭上−−天井に張り付いているアプトムは様子を伺う。
目論み通り、囮に気を取られているゼクトールは、アプトムに気づいている様子もなかった。
そして、ゼクトールの真上から上半身を天地逆転状態でゆっくりと形づくり、奇襲をかける準備をする。
天井から男の上半身が現れる奇妙な光景に、夏子とハムは眼を丸くして見ていたが、こんなものを見た経験の無い彼女らには無理もないだろう。
二人の視線の先を察知したのか、ゼクトールが天井を見上げるが、もう遅い。

183 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:22:03 ID:YrRABrO.
ゼクトールが攻撃してくる前に、アプトム及びネブラは一気に畳みかけた。
アプトムの指示により、殺すなと命じられたネブラが考えた攻撃手段は『殺傷力の低い打撃』だった。
その解答が触手による鞭撃である。
鞭は与える痛みが大きいが殺傷力が低く、相手を無力化するにはうってつけだった。
殺傷力が低いとはいえ、ダメージ超過によるショック死もあるが、アプトムより実力が上の怪物であるゼクトールに限ってそんなに簡単には死にはしないだろう。
むしろ、鉄骨すら雨細工のように曲げる甲殻の持ち主だ。
人間なら殺せるぐらい打撃を与え続けなければ、まず倒れなかっただろう。
元から耐久力があるのか執念のためか、なかなか倒れないゼクトールに、ネブラは一際太い触手による鞭撃を頭目掛けて喰らわせた。
異常な硬度を持つ甲殻は割れなかったが、そこから内側には強い振動によるダメージを与えたのだ。
振動により、ゼクトールに脳震盪を引き起こさせ、制圧に成功する。
気を失う瞬間に、ゼクトールはアプトムへの恨み言葉を口にしながら、床に倒れ伏した。
ネブラは触手を引っ込めて、アプトムに言った。

『勝ったな』
「ああ・・・・・・」



−−単純な戦闘力で劣るアプトムが、ネオ・ゼクトールに勝つには奇襲しかなかった。
アプトムは勝つために自分の能力と、囮や装備など、使える者は全て利用した。
ゼクトールも決して驕っていたわけではないが、彼は二手三手先を読み切れず、チェスの達人が不慣れな将棋をやらされるように、相手の土俵に立ってしまった。
これがアプトムの勝因であり、ゼクトールの敗因である。

仇を討つつもりが、逆に返り討ちにあったことは、ゼクトールにとっては、さぞ苦痛だろうに。
ただ、不幸中の幸いとして、勝者であるアプトムが、敗者であるゼクトールの命を取ろうとは考えていなかったのである。
少なくとも、今はまだ・・・・・・

−−−−−−−−−−−

184 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:24:07 ID:YrRABrO.

アプトムは身体をまたスライム状にしてそのまま床へと降りる、身体をスライム状にしたため落下の衝撃は分散、そして通常の身体を形作って人間の男性の形を取る。
そこでふと、違和感に気づく。

「あの二人はどこへ行った?」
『我々が戦っている最中に逃げ出したようだ』

いつの間にやら、夏子とハムは喫茶店からいなくなっていた。
戦闘中の隙をついて、裏口から逃げ出したのだ。
奇襲に集中していたアプトムたちは、一人と一匹まで気が回らなかったのである。
だが、アプトムはそれを気にする様子も無かった。

「まあいい、囮にぐらいは約に立った。
あいつらは後回しで構わん。
それよりも・・・・・・」

アプトムは床に倒れたゼクトールに眼を向ける。

(コイツはなぜ、俺に襲いかかってきた?
しかも、面識のない俺へなぜ、あそこまで感情を剥き出しにして襲いかかってきたんだ?)


再調整を受けたアプトムが組織から離反し、ゼクトールの仲間たちを目の前で補食した事により、ゼクトールの復讐が始まった。
・・・・・・それは、アプトムにとってはまだ先の未来の話であり、知るよしもない。
『今この場にいる』アプトムには無関係なのだ。
アプトムから見れば、身に覚えのない恨みで追われているようにしか思えないのである。

『ところで、君が言っていたことは結局なんなんだ?』
「ああ、その事か」

ネブラはアプトムが先程言っていた「考えがある」についての話を尋ね、アプトムは答える。

「コイツを味方につけることだ」
『・・・・・・それは本気か?
起き上がってきたら再び襲いかかってくるかもしれんぞ』
「おまえもコイツの戦闘力を見ていただろう」

強力なレーザー光線、その発射口が破壊されても、格闘だけでも十分な攻撃力を持ち、ケタ外れの頑丈さを誇っている。
それを見ていたアプトムは、味方に引き込めばこれほど力強い者はないと確信していた。
補食すれば能力をまるまる吸収−−の能力は、この時点のアプトムには持ち合わせていない。
せいぜい劣化コピーが限界である。
だから、力を手に入れるには、味方に引き込むしかないのだ。

185 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:26:08 ID:YrRABrO.

「可能な限り、説得または取引をして徒党を組み、生存率を上げる。
生き残るにはどうしても力がいる。
そのためにコイツを生かしたのだ」

それがアプトムの真の目論みであった。
だが、その目論みにネブラは疑問を投げかける。

『だが、もしも従わなかった場合はどうするつもりなのだ?』
「・・・・・・俺も、そう易々とコイツを味方にできるとは思っていない。
仲間にならないなら、容赦なく殺すつもりでもある」

既に徒党を組めない場合の処理も、アプトムは考えていた。
そんなアプトムは、床のゼクトールを冷たく見下しながら、ネブラに指示をする。

「ネブラ、コイツを拘束しておけ。
ついでに念のため、いつでも殺せる状態にしろ」
『了解した』

指示を受けたネブラは、触手を伸ばしてゼクトールの四肢と武器が飛び出しそうな部位を拘束し、その首には、ハムに施したような大鎌状に触手を変形させ、いつでも首を跳ねられる状態にした。

「まぁ、無理はしない。
ただ、この殺し合いに関する情報だけでも手に入れたい。
・・・・・・なぜ、俺を狙っているかの理由もな」

独り言のように呟き、次に喫茶店の中に立てかけてあった時計を見る。

「放送の時刻が迫っているな・・・・・・」

頭からネコミミ改め複数の触手を伸ばした、珍妙な姿をした男が、そう呟いた。

186 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:27:36 ID:YrRABrO.
【B-7 喫茶店/一日目・夕方(放送直前)】


【ネオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー】
【状態】脳震盪による気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、ミサイル消費(中)、羽にダメージ(飛行に影響有り)、右腕の先を欠損(再生中)
ネブラによる拘束
【持ち物】デイパック(支給品一式)、黄金のマスク型ブロジェクター@キン肉マン、
不明支給品0〜1、ストラーダ(修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0、(気絶中)
1、ズーマ(名前は知らない)に対処する(可能な限り回避を優先)
2、正義超人、高町なのはと出会ったら悪魔将軍が湖のリングで待っているとの伝言を伝える。ただし無理はしない。
3、機会があれば服を手に入れる(可能なら検討する程度)。
4、ヴィヴィオに会っても手出ししない?
5、アプトムを倒した後は悪魔将軍ともう一度会ってみる?

【備考】
※キン肉スグル、ウォーズマン、高町なのはの特徴を聞きました。(強者と認識)
※ストラーダの修復がいつ終わるかは次以降の書き手さんに任せます。
※死体は確認していないものの、最低一人(冬月)は殺したと認識しています。
※羽にはダメージがあり、飛行はできても早くは飛べないようです。無理をすれば飛べなくなるかもしれません。

187 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:29:22 ID:YrRABrO.
【アプトム@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身を負傷(ダメージ大)、疲労(大)、サングラス+ネコミミネブラスーツ装着
【持ち物】碇指令のサングラス@新世紀エヴァンゲリオン、光の剣(レプリカ)@スレイヤーズREVORUSION
ヴィヴィオのデイパック、ウィンチェスターM1897(1/5)@砂ぼうず、デイパック×2(支給品一式入り、水・食糧が増量)、金貨一万枚@スレイヤーズREVO、ネブラ=サザンクロス@ケロロ軍曹、
ナイフ×12、包丁×3、大型テレビ液晶の破片が多数入ったビニール袋、ピアノの弦、スーツ(下着同梱)×3、高校で集めた消化器、砲丸投げの砲丸
【思考】
0、なんとしても生き残る。
1、ゼクトールと仲間になるように交渉及び情報を聞き出す。
反抗的だったり、徒党を組めないようなら容赦なく殺害。
2、遭遇した人間は慎重に生殺を判断する。
3、冬月コウゾウ他、機会や生体化学に詳しい者と接触、首輪を外す為に利用する。
4、情報を集め、24時に警察署に戻ってきて小砂と情報を交換する。
5、強敵には遭遇したくない。
6、深町晶を殺してガイバーになる。
7、水野灌太を見つけても手出しはしない。たぶん。
8、女と野兎(夏子・ハム)はどうでもいい。

【備考】
※光の剣(レプリカ)は刀身が折れています。
※首輪が有機的に参加者と融合しているのではないか?と推測しています。
※ネブラは相手が“闇の者“ならば力を貸してくれます。
※ゼクトールは自分を殺そうとしていると理解しました。
※ガイバーⅡの存在には気付いていませんでした。

−−−−−−−−−−−

188 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:31:46 ID:YrRABrO.

一方、その頃。
二体の怪物が戦っている隙に、喫茶店から逃げ出した夏子とハムは、市街地を駆け足で北上していた。
南は悪魔将軍、西は火事と危険人物と思わしきものたちが多数。
逃げられるのは北方面ぐらいなものだった。

突拍子もない出来事の連続で、夏子の頭はろくに働かなかった。
彼らの予測を越えた力を目の当たりにして、ただ夏子は愕然とし、無力なまま何もできなかった・・・・・・
逃走を提案したのも冷静な判断を下せたハムであり、自分は結局、なし崩し的に動いていたに過ぎない。
それが夏子には何より悔しくたまらなかった・・・・・・

「・・・・・・夏子さん。
泣いているのですか?」

夏子の前方を走るハムが振り返り話しかける。
夏子が泣いているとハムが思ったのは耳に二人の足音の他に、鼻をすするような音がしたからだ。
しかし夏子はそれを一言で否定する。

「・・・・・・泣いてない」
「そうですか」

ハムはそれ以上、追求せずに前に向き直った。
とにかく、あの二体の怪物から逃げる事に専念する。


夏子は泣いていないと言ったが、本当は半ベソをかいていた。
涙はなんとか眼の中に押し止めているが、鼻水を抑えている鼻は真っ赤である。

(悪魔将軍の時と同じようにまったく歯が立たなかった・・・・・・
私は何がしたかったのよ!?)

心の中で、自分を罵る夏子。
責任感とプライドが高い夏子は、無力で何もできなかったという事に、強い自己嫌悪を抱いていた。
さらに、集まる予定だった公民館は既に火に包まれ、思い通りに集まる事はできなくなってしまった。
そのことからの焦りが、自己嫌悪を加速させる。

(深町晶を甘いヤツだと言っておきながら、このザマよ。
私だって大概甘いじゃない・・・・・・)

急に自分が、いつもよりちっぽけな人間に思えてきた。
故により一層、力への渇望が強くなる。

(本当に・・・・・・力が欲しい。
どんな怪物にも負けない力が欲しい!)

今日ほど、彼女が力を求めた日はないだろう。
それぐらいに、自分の無力が許せなかった。

(力さえあったら、朝比奈さんもシンジ君を守ることだって!
この殺しあいから生きて帰ることだって・・・・・・!!)

その時の彼女は、ただただ力を求めていた。
力を持つことこそが、仲間や自分を守るための最良の手段にも思えた。
もっとも、心の中でたらればを吐いているだけとも言えるのだが・・・・・・

189 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:32:41 ID:YrRABrO.

夏子は気づいけなかっただろう。
自分が半ベソをかきながら走っている前方で、賢い野兎が厳しい顔をしていたのを。

彼女には走る野兎の後ろ姿しか見えない。
野兎は後ろを見なくとも、彼女のだいたいの心境を把握できていた。

ハムはとにかく、厳しい顔をしていたが、それだけでは彼が何を考えているのかを読み取れない。



一人と一匹が疾走するさなかに、放送が始まる。
そして、彼女らに限ったわけではないが、残酷な知らせと未来も待っている・・・・・・

190 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:35:31 ID:YrRABrO.
【B-7 市街地(北方面)/一日目・夕方(放送直前)】


【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(微少)、無力感
【持ち物】ディパック、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、怪物(アプトム、ゼクトール)から逃げる。
2、シンジとみくるに対して申し訳ない気持ち。みくるのことが心配。
3、万太郎と合流したいが、公民館が燃えてしまった・・
4、ハムを少し警戒。
5、シンジの知り合い(特にアスカ)に会ったらシンジのことを頼みたい。
6、力への渇望。
7、水野灌太と会ったら−−−−
8、シンジに会ったら、ケジメをつける

【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※万太郎に渡したメモには「18時にB-06の公民館」と合流場所が書かれています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、アプトム(名称未確認)、ゼクトール(名称未確認)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。

191 痛快娯楽復讐劇 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:37:22 ID:YrRABrO.

【ハム@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜】
【状態】健康
【持ち物】基本セット(ペットボトル一本、食料半分消費)、
 ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、チャットに関するハムのメモ
【思考】
0、頼りになる仲間をスカウトしたい。
1、???
2、夏子に同行する。
3、万太郎と合流するつもりが、公民館が燃えてしまっている・・
4、シンジの知り合い(特にアスカ)を探し彼の説得と保護を依頼する。
5、殺し合いについては・・・・・・。

【備考】
※ゲンキたちと会う前の時代から来たようです。
※アシュラマンをキン肉万太郎と同じ時代から来ていたと勘違いしています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、アプトム(名称未確認)、ゼクトール(名称未確認)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※スタンスは次のかたにお任せします。仲間集めはあくまで生存率アップのためです。

192 ◆igHRJuEN0s :2009/05/27(水) 00:40:15 ID:YrRABrO.
以上で仮投下を終了いたします。
矛盾や指摘があれば受け付けます。

タイトル「痛快娯楽復讐劇」の元ネタは、
TVアニメ「ガン×ソード」のキャッチコピーから。

193 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/28(木) 22:56:51 ID:7QWhozu2
さるさんです・・・
続きはこちらに落としますのでどなたか転載おねがいします

194 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/28(木) 22:57:48 ID:7QWhozu2

「だから、この首輪をそのまま埋めてしまうわけにはいかないんですよ」

「む、むぅ。だったら……だったら仕方ないのう……。たくさんの人の命が懸かっとるかもしれんのじゃから。
……なら、はやくしてやってくれ。」

1秒だってこの酷い地上にいさせてやりたくない。そう思いながらシンジの遺体を地面に横たえ、その前をゼロスに譲ろうとする。

「いえ、これはスグルさん、あなたにしてもらいましょう。」
「何ィーーーッ!?」

背を向けようとしていた体を思いっきり反転させる。

「わ、私はその子に本当に謝っても謝りきれんようなことをしてしまったんじゃ!これ以上、これ以上その子に酷いことをするなんて……」
「だから、あなたがするんです。この子はあなたが近づいていっただけで心が耐えきれなくなるほどひどい目にあってきたんですよ。
さっきの人の話からもたぶんひどい目に遭わされたのはひとりやふたりじゃないでしょうねぇ。怖いですねぇ、恐ろしいですねぇ。
今はもう死体とはいえこの子にひどいことをする人間が増えるのは申し訳ないと思いませんか?」
「グ、グムー……っ!!し、しかし!」

苦渋の表情でうなるキン肉マンに畳み掛けるようにことばを続ける。

195 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/28(木) 22:58:46 ID:7QWhozu2

「それにね、あなたはこの子のことをしっかりと覚えててやるべきじゃないかなーなんて思うんです」
「覚えてて、やる?」
「言ってませんでしたが、僕はこの子の前に一人、すでに目の前で死ぬのを見てるんです。
一緒にいる間ずいぶんとツライ思いをさせましたし、最後は熱い火に焼かれて死んでしました」
「なんと……ゼロス君」
「けど僕は、あの人が負った背中の傷も苦悶の表情も感情も全部覚えています。忘れられるものじゃありませんね。」

そう、あんな甘美な感情は。

キン肉マンは立ち尽くしたまま悲痛な表情をゼロスに向ける。
ゼロスは一転、口調をもとの軽い調子に戻す。

「個人的意見からいうと、本当はどちらでもいいんですよ」
(首輪が手に入れば多分誰かが解析できますしねぇ。誰のものでもかまいませんし。)
「あなたの意思を尊重します。」


スグルはゆっくりと噛み締めるように目をとじた。










西からの風がかさかさと葉をくすぐって逃げていく。
闇が空の中程まで支配を進めた頃、キン肉スグルは首輪を持って即席の墓の前に立っていた。

196 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/28(木) 22:59:58 ID:7QWhozu2

血と土にまみれた手で持つ首輪の裏側に刻んであるのは少年の名前。
その名をゆっくりとなぞりながら、こんなものからではなく本人からその声で名前を聞きたかったと、強くそう思った。

「Shinji Ikari……シンジ君、君がその命をなげ出したことで、私はこのバトルロワイアルの戦いでやるべきことを教えられたよ」

先ほど己が手でかぶせた土の山に目線をうつしてさらに独白は続く。

「私の目の前で起こる悲劇は君を最後にしたい。そして愛と平和、笑顔の溢れる世界を守りたい」

スグルは首輪を握りしめたまま墓の前にひざまずいた。

「だからこの悪趣味な戦いを終わらせられたらもういちど……もういちど君にあやまらせてほしい」

そう言った後、スグルは頭を垂れて少しだけ、すこしだけ泣いた。





墓の前で死者に語りかけるスグルを見ながらゼロスは思考を巡らせていた。


いやー、今回の説得はすこし骨が折れましたね。

あの手のひとを立ち直らせるのには怒らせるのが手っ取り早いとはいえ、そのあと首輪を手に入れるまでにだいぶ無駄話をしてしまいました。
ちょっとしゃべりすぎましたかね。
でもまぁ僕は嘘をついてませんよ。言ってないことがたくさんあるだけです。

けどスグルさんに首輪の回収をさせたのは正解でしたね。
この罪悪感があるかぎり、いろいろとうまく仕向けられるでしょう。
スグルさんが、ここでは敵を倒すことが殺すことに直結してるのを理解してるのかは疑問なんですけど、まぁそれはいいでしょう。







西からの風がかさかさと葉をくすぐって逃げていく。
闇が空の中程まで支配を進めた頃、キン肉スグルは首輪を持って即席の墓の前に立っていた。

197 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/28(木) 23:00:29 ID:7QWhozu2


そういえばそろそろ放送の時間ですね。
スグルさんは森の中にいるせいで気づいてないようですけど北の方で大乱闘があったみたいですし、だいぶ人が減ったかもしれませんね。
知識ある者とセイギノミカタが生き残っていてくれればいいんですが、どうでしょうかねぇ。

この後の方針も考えたいところですし、とりあえずは放送を待ちましょうか。

しかしゲンキさんといい、スグルさんといい、僕はいったい何人のセイギノミカタを励まさなくちゃいけないんでしょうか。

そんなことを思いながらゼロスは空を見上げた。
向きの変わった風が死のにおいを運んでくる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーもうすぐ闇がやってくる。

198 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/28(木) 23:01:30 ID:7QWhozu2






【E-4 森林地帯/一日目・夕方放送直前】
【ゼロス@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】絶好調
【持ち物】デイパック(支給品一式(地図一枚紛失))×2、草壁タツオの原稿@となりのトトロ
【思考】
0:首輪を手に入れ解析するとともに、解除に役立つ人材を探す
1:放送を聞く
2:A.T.フィールドやLCLなどの言葉に詳しい人を見つけたい。
3:悪魔将軍の元へ行くか朝倉と合流するかをスグルと話し合う。
4:ゲンキとヴィヴィオとスグルの力に興味。
5:ヴィヴィオの力の詳細を知りたい。
6:セイギノミカタを増やす。 

 
【キン肉スグル@キン肉マン】
【状態】脇腹に小程度の傷(処置済み) 、強い罪悪感と精神的ショック
【持ち物】ディパック(支給品一式)×4、タリスマン@スレイヤーズREVOLUTION、
     ホリィの短剣@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜、金属バット@現実、100円玉@現実、不明支給品0〜1
【思考】
0:悪を倒して一般人を守る
1:ゼロスと協力する。
2:学校へ行って朝倉とヴィヴィオと合流する。
3:ウォーズマンと再会したい
4:キン肉万太郎を探し出してとっちめる
5:一般人を守り、悪魔将軍を倒す。
6:シンジのことは忘れない

※砂ぼうずの名前をまだ知りません。

199 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/28(木) 23:03:37 ID:7QWhozu2
以上です。申し訳ありませんが代理投下をお願いしますです。

あと今更うっかりに気づきました
>>196

西からの風がかさかさと葉をくすぐって逃げていく。
闇が空の中程まで支配を進めた頃、キン肉スグルは首輪を持って即席の墓の前に立っていた。

は抜いてください

200 ◆MADuPlCzP6 :2009/05/28(木) 23:11:59 ID:7QWhozu2
タイトルは

魔族は嘘をつきません

です

201 もふもふーな名無しさん :2009/05/28(木) 23:16:34 ID:eK9xEQBk
>>◆MADuPlCzP6氏
本スレへ転載させていただいた者ですが、>>199までは投稿できましたが>>200は規制されました…
すいませんが>>200はまた別のどなたかお願いしますー

202 スープになっちゃいました :スープになっちゃいました
スープになっちゃいました

203 もふもふーな名無しさん :2009/05/30(土) 00:07:31 ID:L7g3hoig
夢は叶います。
私はほんの小さなころ、お父さんとお母さんにそう教わりました。
私がいい子でいて頑張りさえすれば、私の願いはなんだって叶えられるんだって。

でも、今の私はちゃんと知ってます。
本当は、叶わないこともあるんだってことくらい。
もう、それも分からないほど、子供じゃあないんです。

だって。
人の夢って書いて、儚いって読むのですから。
お兄ちゃんに教わりました。

それでも。
私の夢なんて、儚いものだったとしても。
それでも信じたい。
信じてみたい。

夢は叶うって。
奇跡は、きっと起こるって―――

信じていいかな?
本当に―――そうかな。

うん、そうだね、『    』
私、信じるよ。

まだ―――私は『しあわせ』になれるんだって。



『……くそっ』
『ま、まずいでありますよ、もっとスピードは出ないでありますか!?』
B−6地区。
かつては住宅地が広がっていたそこは今―――赤に包まれている。
赤色の正体は、炎。
膨大な量の炎が―――街を呑みこんでいた。
住宅地は炎により火柱を上げて燃え上がり、緑はところどころしか残されていない。
この中で気絶している人間がいたならば―――間違いなく命は助からないだろう。

しかし、『彼女』はまだ生きていた。
自らの武器であるナビ達の力によって。
『……これが限界だ!我慢しろ!……くそ、まずいな……』
思った以上に、事態は悪化していた。
炎は市街地全域を覆い尽くし、炎を縫って進むだけでも時間がかかる。
更に言うならば―――このシールド機能は、あと数十分しか持たないのである。
殺し合い下の制限で使用時間を6時間にまで抑えられた防衛型強化服は、じきに限界が来てしまうのだ。
それまでにここを抜け出せるか―――可能性は、五分五分―――いや、それ以下だろう。
地図上の一ブロックは縦横約1キロメートル。この移動方法で、この速度で、いったいその距離を進むのにどのくらいかかるというのか。
何せ、移動速度があまりにも遅い。
土をざりざりとこすりながら、少しずつ妹の体を動かすことしかできないのだから。
妹が意識さえ取り戻せば助かる確率は段違いに上がるのだが―――そんなことに期待はできない。
彼女が精神的に落ち、そして不安定だというのは彼らが一番良く知っていた。

『……中尉、あっちも通れないですぅ!』
タママの人格を持ったナビが声を上げたその先には、ごうごうと燃え上がる大木。
炎が高く宙まで伸びており、そのまま進めば妹の体は炎に焼かれてしまうことは明白だった。
『……くそ、避けるぞ!北に舵を取れ!』
『くーくっくく、しかし、北は行き止まりだぜ?どうするんだ?』
『北に向かえば海があるはずだ!さすがに海までくれば炎は途絶えているはず。……やるぞ!』
『イエッサー!』
妹の体は、ところどころ火傷を負っている。
シールドは確かに存在している。しかし、制限故か、それとも所有者である妹の意識がないからか、防御が完璧ではないのだ。
体に傷を負っても尚、妹は目を覚ますことはない―――このまま死んでしまってもおかしくない状態だといえた。
それでも、まだあきらめない。
少しずつでも進み続けること、それがナビ達にできる唯一のことだった。
『妹殿……負けてはいかんでありますよ……どうか……』

204 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:09:51 ID:L7g3hoig
すみません、↑もです。



そして、その願いは通じたのだろうか。

一時間ほど経った頃。
まだ制限時間こそ来ていないものの、妹の体力は限界に近く、このままでは火傷以前に脱水症状で死んでしまうのではないか、と思えた、その瀬戸際。
『……中尉!海、海が見えたでありますよ!』
緑のナビが、喜びの声を上げた。
彼に体があればその先の景色を指差し、飛び跳ねていただろうが、ナビの姿ではそれもかなわない。
悔やんでもどうにかなることではないのだが。
『よし、ここまで来たぞ、あと少しだ!』
これで、妹は助かるはずだ。
惣希望を持ち、進む。
そして、森を抜け、視界が開けたその先に待っていたのは―――
『……なっ!?』
『炎が……!?』
………………赤い、世界だった。
海が見えたことに気を取られた故の失態。

あと、もう少しだというのに。
数十メートル先には、砂浜が広がっているのが確認できるのに。
目の前に広がるのは、燃え盛る炎。
―――行き場がない。
緑が次々と枯れ、燃え尽きていく。
四方八方を囲まれてしまっていたのだ。
そして、それは次第に―――無抵抗な少女とナビへと触手を伸ばす。
逃げるためには、炎の中を正面突破する必要がある。
しかし、そんなことができるだろうか?
この妹の体調では―――先に喉がやられてしまう。
『そ、そんな、そんなことってないですう……』
それは、絶望を告げる合図だった。
背後に襲いかかる、炎。
その速度は、もはやカウントするまでもなく明らかだ。
……じきに、ここは炎に呑まれてしまう。
右も左も、赤一色。
妹の口から洩れるのは、弱弱しく乾いた息遣いのみ。
逃げ場は、もはやなかった。
せっかく、助かったと思ったのに。
もう少し、あと少しで水辺までたどり着くというのに―――
ナビの人格たちは、終わりを悟った。
『……そ、そんな……吾輩達は……もう終わりでありますか……?』
『せ、せっかくこの子を助けたのにあんまりですぅ!』
ここであきらめたくはないのに、浮かぶ選択肢にはろくなものがありはしない。
このまま、ここで終わるなんて―――
『……信じろ』
しかし、赤のナビだけは―――違っていた。
『な、何を信じろと言うのでありますか!だってこんな―――』
『このままじゃ、ただボクたちごと焼け死ぬだけですぅ!』
『まだ助かる方法はある!妹が意識を取り戻しさえすればここから脱出できる!だからまだあきらめるな!』
『そ、そんな……そんなに上手くいくはず……』
『ああそうだ、そう上手くことが運ぶはずはない……しかし、そんなことを言うなら彼女が今まで生きていたことが奇跡なんだ。……もう一度くらい奇跡が起きることを祈って何の問題がある?』
『くーっくっくっく、まあ、賭けてみてもいいかもしれないなあ』
赤が、そう叫ぶ。
黄色が、笑う。
そして、残された二人は。
しばしの沈黙ののち―――ゆっくりと。

205 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:10:23 ID:L7g3hoig
『……そう、であります。……こんなところで……こんなところで妹殿を失う訳にはいかないでありますよ!』
『で、でも……仮に意識を取り戻したとして……この子は生きたいと思うかどうかわからないですぅ……あの状態じゃ、もしかしたら自殺したいって思うかも……』
『何を弱気なことを言っているでありますか二等兵!お前らしくもないでありますよ!』
緑のナビが、叱責する。
『で、でも―――ぐ、軍曹さあん……』
『ああそうだ、そう思うかもしれない。だがそれがどうした!
俺達は何のための人格だ!……あいつを説得することくらいはできるだろう!』
『……う、うう……』
この場にいる全ての人間は―――否、ナビは思っていた。
妹を救いたい、と。
自分たちは支給品であり、例え焼け焦げようとも本体が死ぬことはない。
しかし、妹は生身の人間―――防衛服の制限を迎えた時点で、おそらく命はないだろう。それ以前に、水分が枯渇して死ぬ方が先かもしれない。
救われる方法などほとんどない。それでも。
『……やるでありますよ。全員に告ぐ!妹殿の無事を祈り少しでも前へ進むであります!』
そんなことをしても、妹に届かないかもしれない。
そもそも彼らは、ただのナビにすぎない。
それでも。
無意味だとしても。
ほんのわずか、妹の体を動かす。
少しでも、炎から逃れようと―――抵抗し続ける。
それでも―――救いたかった。
この、あまりにも悲しい少女のことを。

彼らは知っていた。
壊れてしまう前の妹の様子を。
笑ってほしい。
ゲンキと一緒にいた頃のように、和やかに、穏やかに、華やかに、無邪気に、ただ。
赤が、迫る。
それでも尚―――彼らはシールドを展開し、まっすぐに進み続ける。
民家さえも薙ぎ倒す灼熱が彼らのところにたどりつくまで、あと―――



気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち、悪いよ。ゲンキ君。

私―――何でこんなところにいるんだろう。
何で、こんなふわふわしたところにいるんだろう。
もしかして、死んじゃったのかな?
あはは―――別に、いっか。
それでもいいよ。
だって、ゲンキ君のところに行けるなら。
それだけで、嬉しいよ。
アスカだって殺したんだ。もう死のう。
死んでも、いいよね。

もう、いいよ。
もう、――-疲れたよ。
だからもう、ゴールして……いいよね。

『だめよ!』
……あれ、誰?
どこかで、聞いたことがある声だ。
ゲンキ君?……ううん、違う、女の人だ。
これは……
『だめよ妹ちゃん……こんなところで、そんな悲しそうな顔で死ぬなんて、私は認めないわ!』

ハル……にゃん?
私の目の前にいたのは―――ハルにゃんだった。
あれ、おかしいな。ハルにゃんは死んだはずなのに。
あ、そっか。そうだよね。私も死んだんだった。だから関係ないんだよね。あはは。

『……』
ハルにゃんの顔は、哀しそうだった。
私のことを、じっと見つめている。

何で?何でそんな顔するの?
私、ハルにゃんがそんな顔してると悲しいよ。

もう、いいの。
もういいんだよ、ハルにゃん。
私、頑張ったよね?
アスカを殺したんだ。これで幸せなんだ。
ゲンキ君の仇をとったんだから、それでいいはずなんだよ。

『……妹ちゃん、一つ聞いてもいい?』
ハルにゃんが、私にそう言ってきた。
私はただ、何も考えずに頷く。
何を聞かれてもどうでもよかった。
だって、私はもう死んでるんだもん。

『……ゲンキ君に……会いたい?』
何で?
何で、そんなこと言うんだろう。
すぐにでも、会えるよ?
だって、私もすぐに死ぬもん。
その時に話すから。
だから、ハルにゃんはそんなこと考えなくていいんだ。
もう―――いいんだよ。

私は言った。
もういいよ、って。
どうせもう私も死ぬんだから、すぐに会えるんだよ、って。
でも言ってたから気づいた。
あ、そっか。
もしかしたら私―――死んでもゲンキ君に会えないかも。
あ、そうだ、きっと会えないや。
悲しいなあ。
だって私は、人殺しだもん。地獄に落ちるに決まってる。
アスカみたいな最低な奴さえ助けたゲンキ君なら、絶対に天国へ行くよね。
……あ、そうか……会えないんだ。

206 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:10:55 ID:L7g3hoig
仕方ないのかな。
だって、私はいけない子だもん。
ゲンキ君の復讐のために人を殺したんだから―――
このまま、ゲンキ君に会えずに一人で死んでいくんだ。

『そういうことじゃなくて……』
なのに。
ハルにゃんは、まだ私の目の前にいて。

……なんで?
なんで、そんなこと言うの?ハルにゃん。
……ううん、理由は分かってる。
私が悪い子だからだよね。
やっぱり、私が地獄に落ちちゃうから。
ハルにゃんは、私がアスカを殺したこと、知ってるんだね。
そうだよ、ちゃんと分かってる。
もう、私は―――ゲンキ君に会うことなんてできないんだ。

『違うわ。妹ちゃんは悪い子なんかじゃない。だからアスカのことは気にしなくていいのよ。私が聞きたいのは、』
ありがとう。
私をかばってくれるんだね。
でももういいんだ。
すごく、哀しいけど。
本当はすごく、すごく会いたいけど。
でも、しかたないよね。
だって私は、犯罪者なんだもん。
だから―――

『………………あああああああもう!妹ちゃんも人の話を聞きなさいっ!どうしてあんたたち兄妹は二人とも人の話を聞かないのよ!』
突然、ハルにゃんは大きな声を上げて髪を掻き毟った。
兄弟って……キョン君のことかな?
ハルにゃんは、キョン君ともここでお話したのかな。

『いい、妹ちゃん、よおく聞くのよ。いいわね?』
なんだかハルにゃんはちょっと怖い顔だった。
ごめんなさい、私が悪いんだよね。
でも、ゲンキ君の仇を討つためには仕方なく―――

『私は、聞いたのよ。……ゲンキ君に会いたい?って』
ゲンキ、君に。
今度は、ハルにゃんの質問をちゃんと聞いていた。
ゲンキ君に、会いたいか?
そんなの、当たり前だ。

―――会いたい。
―――会いたいよ。
でも、そんなの―――無理だよ。
私は人を殺しちゃった。
アスカを殺したら幸せになれると思ったのに―――私は今、全然幸せじゃない。
ただの、人殺しだよ。
そんな私が、ゲンキ君に会う資格なんて―――

『資格?そんなものいるわけないじゃない!だって、妹ちゃんは何も―――何も間違ってないわ』
ハルにゃん、そんなこと言ってくれなくてもいいよ。
だって、私は人殺しなんだ。
分かってる。
どうにも、ならないよ―――
私はこのまま、ただ死んじゃうだけなんだよ―――

『……そう、確かにアスカを殺したかもしれないわ。それは、いけないことよ。でも、それでも、誰も妹ちゃんを責めたり、しないから。だからどうでもいいなんて言わないで』
どうして。
どうして、ハルにゃんにそんなことが分かるの?
ハルにゃんは、私じゃないのに。
ただの―――キョン君の『お友達』……じゃない。

『……分かるのよ、私は』
なんで、どうして?
そんなの変だよ。
……それに、そうだ。さっきから、どうしてハルにゃんは私の気持ちを勝手に読み取ってるの?
私、何も口にしてなんかいない!
ハルにゃんは私じゃないんだから、勝手に人の心を覗かないでよ。
もう、私はどうでもいいんだから―――
もう私なんか、一人ぼっちで死んじゃったほうがいいんだ―――

『……いい加減にしなさい!』
ハルにゃんは―――今度こそ、大きな声で怒鳴った。
思わず、びくりとする。

207 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:11:34 ID:L7g3hoig
『……どうでもいいなんて、言わないでって言ったでしょ!?……私が聞いてるのはただ一つよ、ゲンキ君に会いたいの?資格なんてどうでもいい!ただ、会いたいかどうか、それを聞いてるのよ』
……そんな、めちゃくちゃだよ。
会いたいからって、そんな簡単に会えないよ。
私は、悪い子なんだから。
もう誰も、私を許してくれないよ。

『私がいいって言っているんだからいいのよ!他の人たちが何を言おうと、私は妹ちゃんの味方だからね!だから―――ちゃんと本当のこと言いなさい!貴方の口からね!』
むちゃくちゃだよ、ハルにゃん。
ハルにゃんが許してくれても、皆は許してくれないよ。
ハルにゃんが味方になってくれても、私はもう笑えないよ―――

でも。
でも―――
でも――――――

会いたいよ。
本当は、会いたいよ。
会いたいよ―――

「……あい、たいよ……」
それだけは、本当だ。
ハルにゃんの質問に私は―――それだけ答えた。

今度は、言葉になった。
声が、震えた。
「……会いたい、会いたい、会いたい……会いたいよっ!」
止まらない。
どうでもよかったはずなのに。
もう―――会えないだろうなあって思っていたはずなのに。
もう、死んじゃうって思っていたのに。
それなのに―――一度言葉にすると、何でだろう、止まらないよ……

「本当は!もっとお話したかった!もっと遊びたかった!こんな場所じゃないところで、ゲンキ君の仲間やハルにゃんたちと一緒に!楽しいことしたかったよ!!!
助けてくれてありがとう、ってまだ言い足りてないよ!私―――いつだってゲンキ君に助けられてばっかりだったのに、なのに、なのに―――何も、何もできなかったよお!」
本当は―――
本当は、分かってたんだ。
ゲンキ君が、私がアスカを殺すことなんて望んでいなかったことくらい。
だって、ゲンキ君はあのアスカを助けるような人なんだよ?
私が人殺しになるのを喜んだりするはずない。
だから―――私がアスカを殺しても、それはゲンキ君の仇を討ったことにはならないんだって。
アスカを殺して―――喜ぶのは私だけなんだ。
結局、私も全然嬉しくなかったんだけど。

だって―――
私は、今でもアスカのことを許せないけれど。
アスカなんて、死んじゃえって思っていたけど。
それでも。
殺したくは、なかったんだよ。
本当は―――アスカのことも殺したくなんかなかった!
当たり前だ。
だって、私は普通の女の子だったんだから。
人を殺したいだなんて思えるはずないよ。

それなのに、私は―――
もう、取り返しのつかないことをしてしまったんだ―――
ゲンキ君、私―――
悪い子だけど―――貴方に会いたいよ。

「……会いたい……会いたいよおおおおお!」
私―――どうして気付かなかったんだろう。
アスカを殺しても―――私も、ゲンキ君も、もちろんアスカも、誰も嬉しくないんだってことに。

……あれ、何で私、泣いてるんだろう?
喉はからからなのに、目から水は出るんだね。
「……う、うあ……ああ……ああああああああああああああ!」
どうしてかな。
もう―――何も思いつきもしないのに。
ただ、ゲンキ君に会いたいってことだけは―――はっきり分かるんだ。

208 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:12:16 ID:L7g3hoig

私、ね。
ちょっとだけ、キョン君の気持ちが分かった気がするんだ。
キョン君は、私を殺そうとしてきたよね?
私、それがすごく怖かったんだ。
普段は素直じゃないけど優しいキョン君が、私を殺そうとしてくるなんて、理解できなかった。
でも、ね。
今ならちょっとだけ、ううん―――すごく、よく分かる。
キョン君が、私を殺そうとした理由。
間違いない、って思えるよ。

キョン君はきっと―――ハルにゃんを救えなかったんだ。
私と、同じように。

何があったのかはよく分からないよ?
キョン君の目の前で、ハルにゃんが誰かに殺されてしまったのかもしれない。
ハルにゃんがゲンキ君みたいに、誰かからキョン君をかばったのかもしれない。
それとももしかしたら、もしかすれば―――キョン君がハルにゃんを殺しちゃったのかもしれない。
どれが正しいかは、私には分からない。
それでも、きっとそれだけは間違ってないはずだ。

だって、私とキョン君は―――兄弟なんだもん。
それくらい、分かるよ。
もう、子供じゃないもん。

妹舐めたら―――おしおきなんだからね。

『……そう言うと、思ってたわ』
ハルにゃんは、今度は笑っていた。
私の大好きな、明るくて自信満々の笑顔だった。
『ごめんね、強く言っちゃって。でも、今の妹ちゃんが見てられなくってね』
そう言って、私の頭を撫でる。
少しだけ、気持ちが落ち着いた。

『……そうよね、ゲンキ君に会いたいわよね。……でも、まだ早いわ』
ハルにゃんは、私の顔を真剣に見つめた。
こんな顔のハルにゃんは―――初めて見た。
「……早い……?」
だって、私はもう少しで死んじゃうのに―――

『……ううん、まだ死なない。今なら、まだ間に合うから。……だから、お願い。生きるのよ。絶対に。何があっても―――貴方はまだ生きなきゃ』
でも、生きててもゲンキ君に会えないよ。

『だからそんなことないってば。全然大丈夫よ。第一、ゲンキ君はそんな簡単に人を嫌いになるような子?』
違う。そうなら、アスカを助けたりしないよ。
ゲンキ君は優しくて、強くて、かっこいい男の子だもん。
そう、分かってるよ。
分かってるからこそ、私みたいな悪い子とは―――

『会えるわよ。これから妹ちゃんが頑張れば―――いつか会えるわ。……だってゲンキ君は―――』
ハルにゃんは、すっと私の左胸を指差し―――

『妹ちゃんの心の中にずっといるじゃない』

あ―――-
何かが、すっと溶けた。
そっと、左胸に手を伸ばす。
友達に比べて全然発育はしていないけれど―――それでも、聞こえる。
とくん、とくんという、規則的な音が。

ああ、そうか。
―――これが、ゲンキ君なんだね。
私の左胸にいる―――この音がゲンキ君の命の音なんだ。

『……そうよ、いつだってゲンキ君は、貴方の傍にいるの。だから、がんばって目を覚まして』
そうか。
そうなんだ。
ゲンキ君は―――私の中にいるんだ。
ゲンキ君は、私と一つになったんだ。
ゲンキ君は―――私なんだ。
そうなんだね?

私がここで死んだら―――ゲンキ君は、また死んじゃうんだ。

209 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:12:54 ID:L7g3hoig
『……』
ハルにゃんは、また何か言っていた。
でも、その言葉は聞こえない。
何を言っているのかは気になったけど……でも、いいや。
私は、――-決めた。

私―――
私、生きたい。
そして、ゲンキ君を今度こそ守りたい。

悪いこと、しちゃった。
分かってる。分かってるよ。
それでも、私は―――
死にたくない。死にたくないんだ。
ゲンキ君を死なせないために。

ゲンキ君、ごめんね。
私、もうこんなことしない。
これからは、がんばって生きる。
ゲンキ君は許してくれないかもしれないけど―――
それでも―――
今からでも、貴方を守りたい。

涙がこぼれた。
気づけば、私は泣いていた。
『ああ、そうだ、がんばるんだ、『   』』
ゲンキ君の声。
こんな状態じゃ、たぶん喋ることもできないと思うから、聞き間違いかもしれない。
もしかしたら、妄想かも。
それでも、いい。
だって、私は……

―――あはは。
私ったら、そっか。
そうだったんだ。
今更、気付いちゃったのか。
遅いなあ。
もう少し、早くから気付けばよかったのに。
―――ううん、それは違うかな。
気づいてたんだ。
気づいていたのに、気付いてなかったんだ。
だって、恥ずかしかったんだもん。

会って、ほんの少しの時間だったけど。
今なら、はっきりと言おう。
私は―――


―――私はゲンキ君が―――大好きだよ。

あ、……笑えた。
変だな、こんな場面なのに―――
なんだか体が熱いのに―――
私今、――-笑えている。

本当にありがとう、ハルにゃん―――とっても、嬉しい。
ハルにゃんのおかげで、私、分かったよ。
私が―――今から何をするべきなのか。
こんなところで死んでる場合じゃないって。
私が今度は、ゲンキ君を『生きて』助ける番だって。
本当にありがとう、ハルにゃん。
まるで、神様みたいだね。
ううん、もしかしたらキョン君たちにとっては本当に女神様だったのかな?
神様なハルにゃん―――うん、なんだか、すごくしっくりくるや。

「ねえ―――」
ハルにゃんは、まだそこにいるかな。
問いかけてみると、返事が返ってきた。
さっきより、声が少し小さくなった気もするけど。
『何、妹ちゃん?』
「……お願いが、あるの」
私は、もう大丈夫だよ。
もう、笑えるから。
もう、ちゃんとまっすぐに歩けるよ。
何があっても、もう道を間違えたりしないから。
ゲンキ君のために―――進むから。
だから、お願い。
「……キョン君が―――キョン君が、もし、もしね、」
人を殺そうとしているのなら。
「……止めてあげてほしいんだ」
怒られちゃうかな。
キョン君はお前が心配することじゃない、って言うかもしれない。
でも。
でもね。
それでも―――私には今のキョン君の気持ちが分かる気がするから。
大切な人が死んだ後の、どうしようもない気持ちっていうのが。

210 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:13:28 ID:L7g3hoig

『……』
ハルにゃんは、何も言わなくなった。
「……どうしたの?」
『……ま、……任せて』
あれ、なんかハルにゃんの様子が変だな。
もしかして、いけないこと頼んじゃった?
「……我儘かな」
『……そんなことないわ!分かった、私に任せて!
キョンは―――貴方のお兄ちゃんは私が何とかするから!』
ありがとう。
ありがとうね、ハルにゃん。
これで―――私も起きられるね?

私、生きるよ。
生きなくちゃ。
ゲンキ君のために。
こんなところで、死ぬわけにはいかない。

……喉が、熱いなあ。
体中がからからする。
このままじゃ、死んじゃう。
水か何かを呑まないと、まずいかも。
嫌、死にたくない。死んじゃダメだ。
生きたい。生きたい。生きたい。
ゲンキ君、私、
生きたいよ―――!



そして―――少女は、……『生きたいと願った』。


熱い。
熱い、熱い、熱い。
早く、何か、冷たいものが欲しい。
このままじゃ。
私は―――ゲンキ君を殺してしまう―――



意識を取り戻した少女は、――-誰もが予想だにしたなかった行動に出た。
突然立ち上がり、――-真っ直ぐに費消したのだ。
向かう先は、…………ただ一直線。

否、その表現は少しばかり間違っていた。
彼女は、意識を取り戻してなどいない。
ただ、その生存本能が―――彼女の身体をひたすらに動かしていた。
全身を焼かれた体を癒す、水を。
―――生きなきゃ。
―――ゲンキ君のために生きなきゃ。
本能が告げる。
生きなければ、と。
瞳の裏の表情は、分からない。
しかし、その口元は―――笑っていた。
希望を見つけたことに対する喜びに。
そう―――彼女は、すでに壊れていたのかもしれない。
『佐倉ゲンキ』を失ったその瞬間から、彼女はすでに取り返しなどつかないところに来ていたのかもしれない。
そして、そのような状況下、夢で『生きる』ことを選択した彼女がとる行動は―――

211 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:14:04 ID:L7g3hoig

『飛び込む』。

襲う、冷たさ。
爽やかな冷気が―――妹の肌を刺す。

もし、強化服が制限時間に達していたとしたら。
妹はそもそも泳ぐことすらかなわず、こんなことにはならなかったかもしれない。
もしかしたら、そのまま溺れ死んでいたかもしれない。
もし、彼女が夢を見なかったなら。
彼女は絶望のまま、炎に呑まれていたかもしれない。
そんなことは―――ただの『if』にしかすぎない。
ここで語られるのは、妹が不安定な中自ら『選び取った』、『幸せ』なのだから。

『妹殿……で……あ……』
『こ……禁……死……』
『こ……だ、……すぅ……』
がやがやとした音が、妹の耳に飛び込んできた。
普段なら、それがナビの言葉だと、彼女は判断できるだろう。
しかし、今の妹には、そんなことを考えられる余裕がない。
早く、早く、早く。
ゲンキ君を、守るんだ。
今度こそ、私が、何とかして、ゲンキ君を―――

泳ぐ。泳ぐ。泳ぐ。
水を浴びるために、それほど長い距離を往く必要などどこにもない。
それでも、妹は、ひたすらに進み続ける。
更にその妹を励ますように―――波は妹の体を沖へ沖へと押し流していく。
(ああ、ゲンキ君が、頑張ってって言っている)
(ゲンキ君も、私に助けてほしいんだよね)
それを妹は―――危険視するどころか、幸せそうにほほ笑み。
(分かった、ゲンキ君―――もっと頑張って前に行こうか)
更に、その泳ぎを加速させる。

ある程度のところまで来たときだっただろうか。
『警告、キョンの妹の指定範囲外地域への侵入を確認。一分以内に指定地域への退避が確認されない場合、規則違反の罰則が下る 』
何かが、聞こえる。
しかし届かない、聞こえない。
ナビはすでに―――言葉を発しはしない。
いや、何か言っているのかもしれないが、妹には聞こえない。
もはや彼女の頭にあるのは―――『ゲンキのために生きること』だけ。

ゲンキ君。
待ってて。
私―――生きて見せるよ。
今はまだ体が熱いけど―――もう少ししたらすっきりするから。
だから、ね。
ちょっと、待ってて。
もうちょっと、がんばるから。

―――ああ、気持ちいいなあ。
すっごく気持ちいいよ、ゲンキ君。
ゲンキ君も気持ちいいかな?
……えへへ、なんだかこういうの、照れちゃうね。
私とゲンキ君は、今、一つなんだよね。
この『気持ちいい』って感覚も―――ゲンキ君と同じかな?
こんな気持ち―――初めてだよ。

あのね。
朝倉さんとヴィヴィオちゃんの言いたかったこと―――よく分かったよ。
朝倉さんが、私を怒った理由も分かった。
朝倉さんは―――私に生きてほしかったんだね。
今からでもゲンキ君を守れ、って言いたかったんだね。
何で、気付かなかったんだろう。
でも、今は分かったよ。
ハルにゃんが教えてくれた。

もう、ハルヒの声は聞こえない。
実にすがすがしい気分だった。

『10、9、8、7……』

ああもう、五月蠅いなあ。
私が今から頑張ろうとしているのに、邪魔しないでよ。
ねえ、ゲンキ君。
私、がんばるから。
だから―――これからも一緒にいてね。
私、今度こそゲンキ君を守るから。
だから、一緒に『いこう』?
一緒に、生きようね。

『ああ、当たり前だろ』

そうだね。
ありがとう、ゲンキ君―――

―――絶対、だからね。約束♪

『       』


『0』

海の一辺に、小さな水飛沫が上がった。

212 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:17:05 ID:L7g3hoig




A−6、そこに広がるのは紅い炎。
そこには、誰もいない。
だから、そこで何が起こったのか、誰にも分からない。
知っていた少女と動かない体に正義の意思を持ったヒーローは、既に文字通り海の藻屑、オレンジ色の液体と化してしまったから。

果たして、少女はこの殺し合いで何をなしたのか?
何を思い、何を考え、どのような苦しみを抱えていたのか。
どうして、火災がこれほどまでに市街地に広がったのか。
この状況だけを見たところで、一向に答えは出ない事ばかりだ。

しかし、それでも確かに一つ言えることは。

少女の命が消えるその瞬間―――幸せそうに笑っていたということだ。

憎しみに染まった笑顔でもなく。
不安を打ち消すための作り笑いでもなく。
心の底から『誰か』に向けた―――子供らしい純粋な笑顔を。
たとえ、それが心が壊れた後であったとしても。
彼女が死ぬその瞬間幸せだったということは―――誰にも否定できるものではないだろう。

そう、少女は、『幸せ』に、なったのだ。
自分の罪も、思いも全て乗り越えて―――誰よりも、幸福な存在に。

【キョンの妹@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】

※キョンの妹の支給品はA−6に放置されています。
焼けてしまったかどうかはわかりません。

213 笑って、笑って、君の笑顔が――― ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:17:52 ID:L7g3hoig











しかし、ここでこの物語は終わらない。
視点を、この殺し合いの観察者たる二人に移してみよう。



「……ふう、いやあ、キョン君は実に面白い参加者だねえ」
『その空間』に帰ってくるなり、草壁タツオは楽しそうにそう言った。
「彼のような人間には、もっと頑張って人を殺してもらいたいところだね。そう思うだろう、長門君?」
そして、いつの間にかそこにいた長門は、しかし何も答えない。
帰ってくるなりパソコンに向きなおり、何かの作業をしているようだった。
「……長門君、少しくらい休んだらどうだい?」
「……心配は要らない」
相も変わらず愛想もなくそう返す長門。
草壁タツオは、そんな長門の背中に視線を向け―――一言呟いた。
「……そうかい?それならいいんだけどねえ。
……それより、長門君。……一つ気になることがあってね」
長門はその言葉に、表情は変えずに振り向いた。
タツオは満足そうに、言葉をつなげる。
「実はね、さっきまでこのモニターの様子を見ていたんだよ。そしたらね……ところどころノイズのような……うん、どういえばいいのかな、僕は専門ではないからよく分からないけど……
……『何かが干渉したかのような痕跡』がね、残っていたんだ。」
長門が、何か呟いた気がした。
しかし、それは何も聞こえない。
「偶然だといいんだけど、とてもそうは思えなくてね―――」
タツオは天井まで埋め尽くされるように並んだモニターの前に立ち、そして指差した。
途端画面は切り替わり、誰も映っていなかったモニターに二つの人影が映し出される。
一人は、学生らしき茶髪の青年。
一人は、異形の姿をした『ガイバーⅢ』。
超能力者・古泉一樹と、戦闘機人・ノーヴェである。
「……一度目は、第一回放送の後。これが、はじまりだね。
地点は、F−8。時刻は朝。ネオ・ゼクトールが、ノーヴェの脳髄を叩きつぶした少し後だね。
……て、長門君にわざわざ説明するまでもなく分かるか。まあいいや、一応口に出しておくよ。
ノーヴェは殺されかけたことで過剰防衛反応に出、その際に襲いかかったのが古泉一樹だった。
そこでジ・エンドかとも思ったんだけど、結局ノーヴェは意識を覚醒させ、二人は協力してネオ・ゼクトールを撃退することに成功する。いやあ、少年漫画みたいだね!
……そう、そしてここからだよ。……わずかな異常があるのは」
タツオはそう言いながら、モニターのボタンを押した。
ピ、という音とともに画面が再生される。高性能なビデオのようなものらしい。
「……長門君、見てるかい?……まあ君のことだから既に知っているかもしれないけどね」
古泉が仮面を取り、ノーヴェが殖装を解除する。
そして二人が何度か言葉を交わした後―――『それ』は、起きた。

ザッ---―――

それは、ほんの短い時間だった。
鈍感な人間なら、見逃してもおかしくないくらいの、小さな違和感。
一瞬、ほんの一瞬間だけ―――画面が暗転したのだ。
そして、そのわずかな刹那のあとは、何事もなかったかのように画面は動き続けていた。
声が聞き取れない以上、何が起こっているのか分からないが―――ノーヴェの慌てた様子から判断するに、古泉が意識を失ったのだろう。

「…………分かるね?」
草壁タツオは、微笑を浮かべる。
「……これ、だよ。この、謎のブラックアウト。
ここだけなら、僕もそう気にしはしないさ。機械の調子が悪いなんてよくあることだからね。
でも、これと同じ事態が―――他に三か所も見られたんだ。
一度は二回放送後、高校で。
一度は、今から数十分前―――僕たちがいたリングから。
そしてもう一度は―――今、ついさっき。B−7の火災現場からだ」
草壁タツオは、滑らかに言葉を紡いでいく。
無言の長門を、置き去りにするようにして。
「一度ならともかく―――何回も。この場で気絶した人間のほとんど、と言っていいかもね。さすがにこれは何かあるって思わないかい?」
長門は、やはり何も言わない。
何も、言おうとはしない。
確かに長門は、常から無口で、多くを語る人物―――否、宇宙人ではない。
しかし、今の彼女は、普段すらしのぐほどに寡黙だった。

214 長門有希は」 ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:19:07 ID:L7g3hoig
「……不思議でね、僕は今までのデータを全部洗ってみた。そうすると、この現象が起こっている時にはある共通点が存在しているんだ。
それは―――その中の特定の『誰か』が、意識を失っているときだということだ。キョン君の例は、僕たち自身がこの目で直接見たよね?」
ウォーズマンに技をかけられ気絶し、過剰防衛反応により戦い続けていたキョン。
先ほど確認したところ、キョンのその気絶時間中―――すなわち、自分の無意識で戦い続けていたその最中に、件の現象が見られたのである。
「他にも、若返った冬月コウゾウとか、佐倉ゲンキ―――ああ、もう彼は死んでしまったけどね、ヴィヴィオなどの参加者が気絶していたと思われる場面でも同じことが起こっている」
草壁タツオの表情は、変わらない。
「さすがに、変だよねえ。気絶した人間が画面にいる時だけ、こんなことが起こるなんて―――まるで、『何かが気絶した人間に干渉している』みたいだ」
タツオは長門の顔を見る。
もう一度、今度は何かを促すように。
しかしそれでも、長門の口は一向に開く気配を見せない。
「……まあ、やや極論だけどね、僕はあり得ると思ってる―――それどころか、ほぼ間違いないんじゃないかって思ってるんだ。特に証拠があるわけじゃないけどね」
「……全く、面倒だよ」
疑問形のような問いかけでいて―――その表情には、確信が浮かんでいた。
タツオは、理解していたのだ。
この殺し合いに、働きかけている何か、がいると。
そして、その正体についても、それができる人間についても、あらかたの目星をつけていた。
だからこそ、タツオは―――少女に言葉を紡ぐ。
「……もっとも、今回は余計な首を突っ込んだせいで逆に彼女を殺すことになってしまったみたいだけどね?困るなあ、そういうのは。
僕がしてほしいのは殺し合いじゃなくて、自殺じゃないんだけどなあ」
妹の命が潰える瞬間を繰り返し見て、タツオは溜息を吐く。
「ま、誰がどんな意図で何をしているのか―――そもそも死人に意思があるのかすら分からないけど、これでさすがに懲りてくれるでしょ。次のことはまた同じ現象が起こるようなら考えればいいよね、もうこんなことあってほしくないけど」
タツオはため息をつきながら画面を元通り、リアルタイムの会場へと戻す。
そして視線を向けるのは―――目の前にいる、一人の少女。
長門有希という名の―――自分の『協力者』に。

「不思議だよねえ」
草壁タツオは―――笑う。
なんの曇りもない、澄み切った笑顔だった。
疑わしげな表情が一切浮かんでいないことが、逆に不気味なくらいに。
「この場所にいる参加者は48人―――まあ今は30人くらいだけどね。彼らのうち、意識を失う人間が4人くらいいたとしても、それはそんなに妙なことじゃない」
タツオの眼鏡の奥の表情は、分からない。
「むしろ、4人どころじゃない。君のような強者ならともかく、僕や娘たちのような普通の人間がこんなところにいたら、そりゃ意識を飛ばしたくもなる。」
こつん、とモニターの一つを人差し指で叩く。
何か、言いたげに―――しかし、それは口にせず。
「さっき僕が言ったように、『何か』が、気絶した人間に干渉している、ということが実際に起こったとしよう。それ自体は不思議なことじゃない。中にはそういう能力を持った人物だっている。――-そうだろう?」
探るように。
問いただすように。

215 長門有希は草壁タツオを前に沈黙する ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:19:49 ID:L7g3hoig
「……不思議でね、僕は今までのデータを全部洗ってみた。そうすると、この現象が起こっている時にはある共通点が存在しているんだ。
それは―――その中の特定の『誰か』が、意識を失っているときだということだ。キョン君の例は、僕たち自身がこの目で直接見たよね?」
ウォーズマンに技をかけられ気絶し、過剰防衛反応により戦い続けていたキョン。
先ほど確認したところ、キョンのその気絶時間中―――すなわち、自分の無意識で戦い続けていたその最中に、件の現象が見られたのである。
「他にも、若返った冬月コウゾウとか、佐倉ゲンキ―――ああ、もう彼は死んでしまったけどね、ヴィヴィオなどの参加者が気絶していたと思われる場面でも同じことが起こっている」
草壁タツオの表情は、変わらない。
「さすがに、変だよねえ。気絶した人間が画面にいる時だけ、こんなことが起こるなんて―――まるで、『何かが気絶した人間に干渉している』みたいだ」
タツオは長門の顔を見る。
もう一度、今度は何かを促すように。
しかしそれでも、長門の口は一向に開く気配を見せない。
「……まあ、やや極論だけどね、僕はあり得ると思ってる―――それどころか、ほぼ間違いないんじゃないかって思ってるんだ。特に証拠があるわけじゃないけどね」
「……全く、面倒だよ」
疑問形のような問いかけでいて―――その表情には、確信が浮かんでいた。
タツオは、理解していたのだ。
この殺し合いに、働きかけている何か、がいると。
そして、その正体についても、それができる人間についても、あらかたの目星をつけていた。
だからこそ、タツオは―――少女に言葉を紡ぐ。
「……もっとも、今回は余計な首を突っ込んだせいで逆に彼女を殺すことになってしまったみたいだけどね?困るなあ、そういうのは。
僕がしてほしいのは殺し合いじゃなくて、自殺じゃないんだけどなあ」
妹の命が潰える瞬間を繰り返し見て、タツオは溜息を吐く。
「ま、誰がどんな意図で何をしているのか―――そもそも死人に意思があるのかすら分からないけど、これでさすがに懲りてくれるでしょ。次のことはまた同じ現象が起こるようなら考えればいいよね、もうこんなことあってほしくないけど」
タツオはため息をつきながら画面を元通り、リアルタイムの会場へと戻す。
そして視線を向けるのは―――目の前にいる、一人の少女。
長門有希という名の―――自分の『協力者』に。

「不思議だよねえ」
草壁タツオは―――笑う。
なんの曇りもない、澄み切った笑顔だった。
疑わしげな表情が一切浮かんでいないことが、逆に不気味なくらいに。
「この場所にいる参加者は48人―――まあ今は30人くらいだけどね。彼らのうち、意識を失う人間が4人くらいいたとしても、それはそんなに妙なことじゃない」
タツオの眼鏡の奥の表情は、分からない。
「むしろ、4人どころじゃない。君のような強者ならともかく、僕や娘たちのような普通の人間がこんなところにいたら、そりゃ意識を飛ばしたくもなる。」
こつん、とモニターの一つを人差し指で叩く。
何か、言いたげに―――しかし、それは口にせず。
「さっき僕が言ったように、『何か』が、気絶した人間に干渉している、ということが実際に起こったとしよう。それ自体は不思議なことじゃない。中にはそういう能力を持った人物だっている。――-そうだろう?」
探るように。
問いただすように。

216 長門有希は草壁タツオを前に沈黙する ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:20:34 ID:L7g3hoig
タツオは、笑顔のまま、長門に話題を振る。

長門は、無反応。
指一本すら、動かそうとしない。
タツオの言わんとしていることが、「分からない」訳でもないだろうに。

「たとえば―――『思ったことを現実に変える力の持ち主』、とかね」

―――まさか、君は涼宮ハルヒの『干渉』を予想していたのではないか?
そう、暗に問いかけるタツオ。
どう応えてほしかったのかは分からない。
頷いてほしかったのか、首を横に振ってほしかったのか。
そもそも、タツオに人の心が残っているのかすら―――分からないのだ。

「……証拠はない。……今のところ断定はできない」
長門は、ぽつりとそれだけ答えた。
ただ、機械的に。
自分の今の状況が理解できていないようにも思えるくらいに微動だにせずに。
草壁タツオが常に笑顔なのと同様に―――常なる無表情で。
「……今から調査は行っておく」

落ちる、沈黙。

かたかたと、窓が鳴る。
風が吹いている訳でもないのに―――そもそもここがどこなのかも判然としないのに―――何かが、外壁を叩きつけていた。
それはもしかしたら、長門の無言の圧力だったのかもしれない。

神妙な顔つきで長門を見つめていた草壁タツオは無言で立ち上がり、―――長門に歩み寄る。
爽やかな笑顔で。
「……うん、そうか、助かるよ。じゃあ後のことは長門君、君に任せようかな」
その答えに対して―――何も触れようとはしなかった。
「もうすぐ放送だからね。僕はそっちをやってくるから、後のことは君に頼むよ。くれぐれも、無理はしないように」
タツオはそう言いながら、するりと、長門の横を素通りした。
何もなかったかのように。
先ほどまで長門に向けていた疑惑など、全くなかったかのような、態度で。
部屋を出掛けたところでぴたりと立ち止まり、そしてドアノブに手をかけたまま、言う。
長門にしか届かないくらいの、小さな声で。
「僕たちは―――『共犯者』なんだからさ」

長門は、何も言わない。
無言で―――キーボードを高速で叩き始める。
タツオがその部屋を離れるのに、振り向きもせず。
その顔に浮かぶ本当の表情は、何色か。

バックアップが、反逆を誓った。
超能力者が、宣戦布告を行った。
『一般人』の少年が、救いを求めすがった。
『神』が、――-最期の瞬間まで信じ続けた。
それが、……この長門有希という少女なのだ。

「……」
何か、呟いたのかもしれない。
でも、それは聞こえない。
仲間たちも、タツオも、誰にも―――今の長門の声を聞ける者はいなかった。

217 ◆h6KpN01cDg :2009/05/30(土) 00:23:21 ID:L7g3hoig
以上です。
すみません、ミスしていました。
>>213からが「長門有希は草壁タツオを前に沈黙する」です。
そして>>214はミスなので>>213の次は>>215でお願いします。

……そしてこんなにややこしい状態なのに規制なのでどなたか問題なさそうでしたら代理投下お願いします。

どうして地元は田舎なんだ、新ハルヒが見れねeeeeeee!

218 もふもふーな名無しさん :2009/05/30(土) 17:18:31 ID:zG04jV6w
さるさんになりました
誰か代わりにお願いします

219 もふもふーな名無しさん :2009/05/30(土) 17:54:32 ID:qCfgI2s.
私もさるさんを喰らいました。どなたかお願いします。

220 ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:02:29 ID:YrRABrO.
それではこれより修正版を投下いたします。
修正をするのは>>174から先の部分です。
>>173までは同じでお願いします。

221 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:04:32 ID:YrRABrO.
『そうはさせん』

だが、それに気づいたネブラが攻撃を阻止すべく、触手を一本だけ先をナイフ状にし、レーザーを撃たれる前に横一閃する。

「なにぃ!?」

レーザー発射口が切り裂かれ、チャージされていたエネルギーが霧散する。
反撃は失敗に終わったのだ。

(ま、まだだぁ!!)

それでもゼクトールは諦めない。
執拗に攻めてくる触手を電撃で吹き飛ばそうと、体内でエネルギーをすぐにチャージする。
しかし、それも未遂に終わる。
電撃が体内から放たれるより先に、トドメと言わんばかりに、一際太い触手がゼクトールの頭に叩きつけられた!!

「ぐわあぁぁ・・・・・・!!」

ゼクトールの脳みそがシェイクされ巨大なハンマーで砕かれたような衝撃が襲う。
元からボロボロであり、ダメージを耐えてきた彼だが、ここでとうとう限界を超えてしまったらしい。
すーーーっとゼクトールの意識がブラックアウトしていく。

「おのれぇ・・・・・・アプト・・・・・・ム・・・・・・」

その言葉を最後に、ゼクトールは意識を手放し、その巨体が床に沈むことになる。

−−−−−−−−−−−

222 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:06:58 ID:YrRABrO.

数分前。
ゼクトールから逃れるべく、市街地で起きた火災による煙に紛れつつ、喫茶店へ逃げ込んだアプトム。
(ちなみに、逃げることに夢中でお目当てでもあったガイバーに気づけなかったようだ)
文字通りゼクトールを煙に撒き、見失なわせることができた。
しかし、それも一時的なもので、すぐにでも追ってくるだろうとアプトムは予感していた。
そこで、喫茶店の先客であった人間の女と、雰囲気からしてゾアノイドには見えない二足歩行の巨大野兎に自身を匿うように要求した。
もちろん唯ではなく、金貨の詰まった箱を代金として取引とした。
しかし、返ってきた反応は・・・・・・

「悪いけど、できないわ。
あなたを匿う気も、この箱を受け取る事も」

人間の女−夏子はアプトムに箱を返還し(余談だが、箱が返された時に野兎−ハムは、勿体ない、と惜しそうな顔をしていた)、銃口を向ける。

「あなたを信用するわけにはいかないわ。
即刻、でていかなかったら撃たせてもらうわよ」

厳しい顔をして、夏子は非常に濃い警戒の色を見せる。
交渉は決裂だった。

「そうか・・・・・・」


アプトムは諦めを思わせるような態度を取ると、その直後に片腕を伸ばして夏子の首を強引に掴み、圧迫する。

「がっ!? な、なにを・・・・・・!!」

突然の思わぬ攻撃に、夏子は焦燥する。
しかし、それでも軍人である夏子は反撃することは忘れず、手に持っていた拳銃の銃口をアプトムの額に向け引き金を引こうとする。
撃たれるよりも早く察知できたアプトムは、もう片方の腕を延ばして拳銃を奪い取る。
一瞬で攻撃手段を奪われてしまった夏子は唖然とする。

「馬鹿が!
こんな所で発砲すれば、奴を呼び込む事になるぞ!?」

アプトムは、火力の低い銃撃では簡単に死なないとは自覚しているが、問題なのは銃声でゼクトールが招きよせられてしまう事。
それを防ぐために夏子の拳銃を奪ったのだった。

「ハ、ハム!!」

武器を奪われた夏子はハムに助けを求めようとした。
しかし、返ってきたのは情けなく謝る彼の言葉と、喋るネコミミの報告。

223 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:07:50 ID:YrRABrO.

「す、すいません夏子さん。
助けたくとも助けられなくなってしまいました・・・・・・」
『飛び掛かろうとしたのか、逃げようとしたのかわからないが、何やら動きがありそうだったので無力化させてもらったまでだ』

夏子がハムを見ると、ハムはいつの間にやら彼女同様に捕縛されていた。
もっとも、ハムを縛りつけていたのはアプトムが頭に装着しているネブラであり、自身を変形させて大鎌の形状を作り、それをハムの首に当てていた。
その鎌の存在感は、何かすれば首と胴体をお別れさせると語っている。
そういう意味でハムは動けなくなっていた。
相変わらずの掴み所の無い飄々とした態度を取ってはいるが、心中は外見ほどの余裕は持っていない。

「め、面目ないです」
「くぅ・・・・・・」

こうして、一人と一匹はあっさりと無力化されてしまった。
夏子の絞殺刑準備とハムの斬首刑準備は、アプトムとネブラによって整った。
ハムは打つ手無しと諦めたのか、両手を上げて降参のポーズをする。
夏子は力の無さを余計に痛感し、悔しさで泣きたくなる気分を持っていた。
二つ分の生殺与奪を握ったアプトムは冷徹に言葉をかける。

「わかるか?
これが力の差というものだ。
首をへし折られるか、切り落とされるのが嫌なら俺に逆らわない方が懸命だぞ」

取引できないなら、強行手段により強引に従わせる。
それがアプトムのとった方法だった。
いくらダメージを負っていたとしても、銃に頼るようなヤワな人間なら捩伏せられる。
また、ダークレイス(おそらく人間以外)ならネブラも快く戦ってくれる。
そして、制圧は簡単に成功したのである。

「どうだ?
従う気になったか?」
「だ、だからといってあなたのような危険のある人物を近くに置くわけには−−がふっ」
「まだわからないのか?
この店に匿うだけで良いのに、なぜ嫌がる?」
「夏子さん!」

いまだに反抗の意思を持つ夏子の首を伸ばした身体でギリギリと締め付ける。
夏子は首を締め付ける腕を外そうともがくが、まったく外れる様子がない。

ある程度苦しめた所で、アプトムは腕の力を一時的に抜き、夏子は窒息から解放される。
首を締められたことにより、顔は充血で真っ赤だ。
「ゴホゴホ」とむせ返っているのは酸欠によるものである。

224 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:09:21 ID:YrRABrO.

今度は穏やかな口調でアプトムは夏子とハムに語りかける。

「おまえたちだって死にたくはないだろう? それは俺も一緒だ。
だが、徒党を組むなりしなければ、殺し合いを生き延びることは難しいだろう?
それはおまえたちとて同じハズだ」

アプトムの言う通り、夏子とハムの最低限度の目的は生き残ること。
そのためには優勝だろうと、脱出だろうと−−
少なくとも夏子は、シンジやみくるたちと徒党を組んだのも、優勝や脱出を目指すというより、生き延びる確率を上げるために徒党を組んでいたにすぎない・・・・・・最初の内は間違いなくそうだった。
つまり、アプトムは夏子たちと同じ考えを持っていたとも言える。
だが、どうしても、感情やら得体の知れなさによりアプトムを拒絶したくなるのだ。
夏子をその拒絶反応を睨みつける事で顕にする。
しかし、アプトムは至って涼しい顔をしていた。

「安心しろ。
今すぐとって喰おうとは思わん。
安易に殺して、情報などが手に入らなくなるのは痛いからな」
「よく言うわね。
こんなことをしておきながら・・・・・・」
「危機的に状況に陥れば誰だってこうするだろう。
立場と実力が逆だったら、きっとおまえたちもそうする」
「なるほど・・・・・・この仕打ちはあなたなりの手荒い交渉といった所ですか」
「そういうことだ」

何やら納得したハムに、ハムの解答を肯定するアプトム。

「あの・・・・・・そろそろ、この鎌を退けて欲しいのですが」
「返答は?」
「わ、我輩はあなたを匿うしかない・・・・・・いや、匿っても良いと思いますよ」

先に折れたのはハムだった。
どこか調子が良く、飄々とした言葉には抵抗の意思が見られない。
そんなハムを一度怒鳴る夏子。

「ハム!!」
「だって夏子さん!
この状況はどう見たって我輩たちに勝ち目はありませんぞ!!
彼の方が何枚か上手だったんですよ」

ハムもまた、弁解をする。
言っている事は正しい事であり、このまま逆らうものなら犬死に確実。
犬死にを避けるには、今だけでもアプトムに従うしかないのである。

夏子もそれは頭ではそれを理解している。
ただ、折れるということは負けるということ。
自身の力不足を感じている彼女には、辛酸を舐めさせられるという事だ。

225 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:11:49 ID:YrRABrO.
それでも例え辛かろうと、プライドに命は変えられない。
生き延びるためにはプライドを捨てることも、時には必要なのである。

「・・・・・・クソッ、仕方がないのね・・・・・・」
「よろしい」

結果、苦味を潰したような顔をしながらも、彼女も折れる事を宣言した。
それを聞いたアプトムは、これでゼクトールから逃れる事ができると、口を三日月にしてニヤリと笑う。
だが、その笑顔も、ネブラの報告により一瞬で掻き消える。

『奴が近づいてくるぞ、アプトム君』
「何ッ!?」

今まで二人に恐怖を与えていたアプトムが、今度は戦慄させられる。
ネブラはいち早くゼクトールの気配を察知し、その事をアプトムに伝えた。
すぐに夏子の首を締めていた腕と、ハムの首にかけていた大鎌からネブラの形状を元に戻し、割れた窓から外の様子を見る。
解放された夏子とハムも、アプトムに続いて窓を見た。
そこには、まだ距離としては遠いものの、ゼクトールが空を飛んでいた。

「来るにしても予想より早過ぎる・・・・・・!」
『どうする?
目的はここかどうかは知らんが、確実に近づいてきているぞ』

迫るゼクトール。
人間程度なら軍人相手でも、問題なく押すことはできたが、流石に自分を痛め付けた当人である超獣化兵に勝てる自信はない。
アプトムに焦りがつのっていく・・・・・・
そんな彼に、ネブラはあくまで冷静に質問する。
アプトムもまた、ただ焦ってばかりではなく、頭を働かせて考える。
より最善の方法を考えて店内を見回し、そして−−

「よし、俺に考えがある」

そう言った途端、アプトムは身体をスライム状に変える。
だが、このスライム状態を正確に説明すると、元の姿から別の姿へ移るための中間形態である。
これを維持するには、かなりの無理をする必要がある。
よって、そこに現れたのはグロテスクな泥人形のごとき物体。


「ひッ!」
「うわぁ・・・・・・」

夏子はその様子に絶句し、恐怖する。

226 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:12:37 ID:YrRABrO.
ハムのような人外の生物は見慣れたつもりでいたが、生物的にはまずありえない、身体を自由自在に変形させてしまう者までいたことは、遥かに予想外だった。
現状のアプトムの形態だけでも、良くも悪くも普通の感性を持つ彼女にはおぞましい姿に見えた。
故にアプトムを脅威的な化け物と思えてしまう。
一方でハムも驚いてはいたものの、夏子ほどではない。
ハムのいた世界にも、身体がスライム状の種族は存在しているのである。
・・・・・・流石に、アプトムほどの力は持ち合わせていなかっただろうが。

元・アプトムだった気味の悪い物体が声を発する。

「これは返す」
「!」

それだけ言うと、アプトムは夏子に先程奪った拳銃を投げて返した。
それはまるで泥人形が銃を吐き出したみたいな、奇妙な光景だ。
夏子が拳銃をキャッチしたのを確認すると、二人に命令を下す。

「奴がきたら、俺がここにいることは隠し通せ」
「ちょっと待ってください!
我輩たちはどうなるんですか!?」
「策はある・・・・・・俺を信じろ。
いちおう、殺されないように動いてやる」

−−−−−−−−−−−

227 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:13:07 ID:YrRABrO.

一方その頃、ゼクトールも喫茶店の中の人影を発見する。
アプトムがいる可能性は考慮していても、アプトムの存在に気づいている様子は無い。


−−−−−−−−−−−

228 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:14:52 ID:YrRABrO.



『奴がこちらに気づいたようだ、明らかにこちらに近づいてくる』
「そうか、では行動開始と行こう」

アプトムは素早く床から壁を伝って天井に移動する。
床及び自分を踏まれた時の感触で、所在を気づかれるのはマズイと思ったからだ。
ゼクトールが来るまでの短い間に、アプトムとネブラは小声での会話をする。

『(策とは何かね?)』
「(単純な奇襲だ、奴があの二人に気を取られている隙に後ろを取って反撃を許さないように攻撃を浴びせる。
それにはおまえの力が必要だろう)」
『(心得た)』
「(あと、もう一つ。
絶対に殺さず無力化させてくれ)」
『(・・・・・・なぜだ?)』

アプトムは自分の障害になる者には情け容赦をするつもりはなかったハズだ。
それが急に、「殺すな」と注文してきたことに、ネブラは無い首を傾げる。

「(理由は後で話す。
今は俺の指示に従う事だけ考えていろ)」

そして自分の体色をカメレオンのように周りの景色に合わせようと保護色を帯びさせようとする。
しかし、能力的には未熟なアプトム、彼が変身した部分は天井の色とは違うシミのようになっていた。
されど、決してそれは不自然では無く、周りの景色に溶け込んでいた。
なぜなら、先の爆風で天内は荒れていたため、ガラスの破片が散乱し、テーブルやイスが無造作に倒れている。
他にも汚れや傷だらけの店内で、天井に大きなシミが一つくらいあっても、不自然ではなかった。
これはアプトム自身が己のコピー能力の未完成さを知っているからこそできた技である。
最後に、唯一身体からはみ出ている首輪とネブラとディパックを、スライム状の肉体を覆い被せることで、隠す。

そして、全ての準備が整った所で、ゼクトールはやってきた・・・・・・

−−−−−−−−−−−

229 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:16:47 ID:YrRABrO.

あまりに現実離れしたものを見せられて半ば呆けていた夏子とハムは、ゼクトールの出現にいやがおうにも現実に引き戻される。

「クッ!」
「ムハ?」

ネブラの忠告から、ここへ何者かがやってくるのはわかっていたが、甲虫の怪人・ゼクトールがやって来たのがその忠告から間もなくだったため、対応が遅れてしまった。
また夏子は、反応と仕草からして、甲虫の怪人はアプトムと何かしら関連性があり、アプトムとの公約を破って売りつけてしまおうか、とも考えた。
しかし、それをやれば姿を消したアプトムが何をしてくるかわからない。
結局、生殺与奪は握られたままなのだ。
第一、アプトムの事をゼクトールに話したからといって、そのゼクトールが自分たちを助けてくれるとは限らない。
戦闘力の差は日を見るより明らかであり、結局の所、アプトムがやろうとしている事を信じるしかないのだ。
もちろん、アプトムが土壇場で裏切ったり、失敗すれば全てはおじゃん。
彼女たちにやれることは、詰み将棋状態の状況下で、アプトムを信じるか、見つけるのが非常に困難な逃亡手段を自力で考えるしかなかったのだ。


ゼクトールが最初にとったのは対話だった。
最初に「俺は優勝に興味がない」と踏み出したが、夏子はゼクトールを拒絶する。
ゼクトールの様子を窓から伺っていたからでもあるが、何より先程までアプトムから虫けらのような扱いを受けていたことの要因が大きい。
要は、怖くて恐ろしいものだから拒絶しているのだ。

だが、夏子たちの警戒は間違ってなかったのかもしれない。
何せ、ゼクトールは夏子たちを殺す気でいたのは確かなのだから・・・・・・


打って変わって、ゼクトールの頭上−−天井に張り付いているアプトムは様子を伺う。
目論み通り、囮に気を取られているゼクトールは、アプトムに気づいている様子もなかった。
ゼクトールの真上から上半身を天地逆転状態でゆっくりと形づくり、奇襲をかける準備をする。
天井から上半身が現れる奇妙な光景に、夏子とハムは眼を丸くして見ていたが、こんなものを見た経験の無い彼女らには無理もないだろう。
二人の視線の先を察知したのか、ゼクトールが天井を見上げるが、もう遅い。

230 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:18:00 ID:YrRABrO.
ゼクトールが攻撃してくる前に、アプトム及びネブラは一気に畳みかけた。
アプトムの指示により、殺すなと命じられたネブラが考えた攻撃手段は『殺傷力の低い打撃』だった。
その解答が触手による鞭撃である。
鞭は与える痛みが大きいが殺傷力が低く、相手を無力化するにはうってつけだった。
殺傷力が低いとはいえ、ダメージ超過によるショック死もあるが、アプトムより実力が上の怪物であるゼクトールに限ってそんなに簡単には死にはしないだろう。
むしろ、鉄骨すら雨細工のように曲げる甲殻の持ち主だ。
人間なら殺せるぐらい打撃を与え続けなければ、まず倒れなかっただろう。
元から耐久力があるのか執念のためか、なかなか倒れないゼクトールに、ネブラは一際太い触手による鞭撃を頭目掛けて喰らわせた。
異常な硬度を持つ甲殻は割れなかったが、そこから内側には強い振動によるダメージを与えたのだ。
振動により、ゼクトールに脳震盪を引き起こさせ、制圧に成功する。
気を失う瞬間に、ゼクトールはアプトムへの恨み言葉を口にしながら、床に倒れ伏した。
ネブラは触手を引っ込めて、アプトムに言った。

『勝ったな』
「ああ・・・・・・」



−−単純な戦闘力で劣るアプトムが、ネオ・ゼクトールに勝つには奇襲しかなかった。
アプトムは勝つために知恵、囮や装備、己の能力やその未熟さすらも、使える物は全て利用した。
ゼクトールも決して驕っていたわけではないが、彼は二手三手先を読み切れず、チェスの達人が不慣れな将棋をやるように、相手の土俵に立ってしまった。
これがアプトムの勝因であり、ゼクトールの敗因である。

仇を討つつもりが、逆に返り討ちにあったことは、ゼクトールにとっては、さぞ苦痛だろうに。
ただ、不幸中の幸いとして、勝者であるアプトムが、敗者であるゼクトールの命を取ろうとは考えていなかったのである。
少なくとも、今はまだ・・・・・・

−−−−−−−−−−−

231 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:21:36 ID:YrRABrO.

アプトムは身体をまたスライム状にしてそのまま床へと降りる、身体をスライム状にしたため落下の衝撃は分散、そして通常の身体を形作って人間の男性の形を取る。
そこでふと、違和感に気づく。

「あの二人はどこへ行った?」
『我々が戦っている最中に逃げ出したようだ』

いつの間にやら、夏子とハムは喫茶店からいなくなっていた。
戦闘中の隙をついて、裏口から逃げ出したのだ。
奇襲に集中していたアプトムたちは、一人と一匹まで気が回らなかったのである。
だが、アプトムはそれを気にする様子も無かった。

「まあいい、囮にぐらいは約に立った。
あいつらは後回しで構わん。
それよりも・・・・・・」

アプトムは床に倒れたゼクトールに眼を向ける。

(コイツはなぜ、俺に襲いかかってきた?
しかも、面識のない俺へなぜ、あそこまで感情を剥き出しにして襲いかかってきたんだ?)


再調整を受けたアプトムが組織から離反し、ゼクトールの仲間たちを目の前で補食した事により、ゼクトールの復讐が始まった。
・・・・・・だがそれは、アプトムにとってはまだ先の未来の話であり、知るよしもない。
『今この場にいる』アプトムには無関係なのだ。
アプトムから見れば、身に覚えのない恨みで追われているようにしか思えないのである。

『ところで、君が言っていたことは結局なんなんだ?』
「ああ、その事か」

ネブラはアプトムが先程言っていた「考えがある」についての話を尋ね、アプトムは答える。

「コイツを味方につけることだ」
『・・・・・・それは本気か?
起き上がってきたら再び襲いかかってくるかもしれんぞ』
「おまえもコイツの戦闘力を見ていただろう」

強力なレーザー光線、その発射口が破壊されても、格闘だけでも十分な攻撃力を持ち、ケタ外れの頑丈さを誇っている。
それを見ていたアプトムは、味方に引き込めばこれほど力強い者はないと確信していた。
補食すれば能力をまるまる吸収−−の能力は、この時点のアプトムには持ち合わせていない。
せいぜい劣化コピーが限界である。
だから、力を手に入れるには、味方に引き込むしかないのだ。

「可能な限り、説得または取引をして徒党を組み、生存率を上げる。
生き残るにはどうしても力がいる。
そのためにコイツを生かしたのだ」

232 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:23:56 ID:YrRABrO.
それがアプトムの真の目論みであった。
だが、その目論みにネブラは疑問を投げかける。

『だが、もしも従わなかった場合はどうするつもりなのだ?』
「・・・・・・俺も、そう易々とコイツを味方にできるとは思っていない。
仲間にならないなら、容赦なく殺すつもりでもある」

既に徒党を組めない場合の処理も、アプトムは考えていた。
そんなアプトムは、床のゼクトールを冷たく見下しながら、ネブラに指示をする。

「ネブラ、コイツを拘束しておけ。
ついでに念のため、いつでも殺せる状態にしろ」
『了解した』

指示を受けたネブラは、触手を伸ばしてゼクトールの四肢と武器が飛び出しそうな部位を拘束し、その首には、ハムに施したような大鎌状に触手を変形させ、いつでも首を跳ねられる状態にした。

「まぁ、無理はしない。
ただ、この殺し合いに関する情報だけでも手に入れたい。
・・・・・・なぜ、俺を狙っているかの理由もな」

独り言のように呟きつつ、さらにゼクトールからディパックも没収する。
その中身を確認しようとした所で、ネブラが割り込む。

『アプトム君、火の手が迫っているぞ』
「・・・・・・そのようだな」

外を見ると、隣のエリアから伸びた火の手は喫茶店の近くまで来ていた。
もうあまり長く喫茶店にはいられないようだ。

『わかったのなら、早く出よう。
この建物が燃えるのも時間の問題だ』
「・・・・・・いや、ちょっと気になる事がある」
『なんだ?』
「これだ」

喫茶店を出ることを促すネブラに、アプトムは壁一面に書かれた大きな文面に指をさす。
壁には、
『うとたまなこりふうのぞうえたまつまりあのなたまうがつあたゆきるばうにいたるぞ
ともそうはふおまきおいたこま

仲間のことは気にしないで コサッチへ』と、意味不明の言葉を大半で埋めつくされた形で書かれている。
何かの暗号だろうか?
どうやら、その文面にアプトムは興味を持ったらしい。

233 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:24:49 ID:YrRABrO.
「さっきから気になっていたんだ。
燃える前に書き写していきたい」
『悠長にそんなことをしてる暇はないだろうに』
「三分もいらん。
少しくらい待ってろ」

アプトムはすぐにメモとペンを取り出し、すぐにスラスラと書き写す。
火は迫ってるが、どうしてもこの暗号を自分の手元に置いておきたいらしい。
ここで書き写さねば、炎に包まれてこの情報は二度と手に入らなくなるからだ。
この暗号を残す価値があるならば失うわけにはいかないし、価値が無くても邪魔な荷物にはならない。
生き残るためには、親友以外は何もかも利用し、何もかも無駄しないアプトムらしいと言えば、この行動はアプトムらしかった。


「これでいい。
よし、ここを出るぞ」

約一分後、作業が終わり、ディパックにメモをしまい、アプトムはようやく喫茶店を出ることにする。
この店は火の手が上がり始めていたが、幸い、まだ出られないほど激しく燃えてはいないため、ゼクトールを引きずっても脱出は容易であった。
アプトムは、ネブラから伸びる触手でゼクトールを引っ張りながら喫茶店を後にした。
重いゼクトールを引っ張る力をネブラが補正してくれるので、引っ張っていくのに疲労は感じず、少しばかり重い程度の荷物の感覚である。
しいていうなら、頭からネコミミ改め複数の触手を伸ばし、巨大なカブトムシを引きずる姿は、とても珍妙な姿であろう。



燃えていく喫茶店を背中に離れていくアプトムは、ふと、空を仰ぎ見る。
彼のカンが正しければ、時間的には−−

「−−そろそろ放送の時刻だな・・・・・・」

234 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:27:18 ID:YrRABrO.


【B-7 市街地/一日目・夕方(放送直前)】


【ネオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー】
【状態】脳震盪による気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、ミサイル消費(中)、羽にダメージ(飛行に影響有り)、右腕の先を欠損(再生中)
ネブラによる拘束
【持ち物】なし
【思考】
0、(気絶中)
1、ズーマ(名前は知らない)に対処する(可能な限り回避を優先)
2、正義超人、高町なのはと出会ったら悪魔将軍が湖のリングで待っているとの伝言を伝える。ただし無理はしない。
3、機会があれば服を手に入れる(可能なら検討する程度)。
4、ヴィヴィオに会っても手出ししない?
5、アプトムを倒した後は悪魔将軍ともう一度会ってみる?

【備考】
※キン肉スグル、ウォーズマン、高町なのはの特徴を聞きました。(強者と認識)
※死体は確認していないものの、最低一人(冬月)は殺したと認識しています。
※羽にはダメージがあり、飛行はできても早くは飛べないようです。無理をすれば飛べなくなるかもしれません。

235 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:29:10 ID:YrRABrO.
【アプトム@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身を負傷(ダメージ大)、疲労(大)、サングラス+ネコミミネブラスーツ装着
【持ち物】碇指令のサングラス@新世紀エヴァンゲリオン、光の剣(レプリカ)@スレイヤーズREVORUSION
ヴィヴィオのデイパック、ウィンチェスターM1897(1/5)@砂ぼうず、デイパック×2(支給品一式入り、水・食糧が増量)、金貨一万枚@スレイヤーズREVO、ネブラ=サザンクロス@ケロロ軍曹、
ナイフ×12、包丁×3、大型テレビ液晶の破片が多数入ったビニール袋、ピアノの弦、スーツ(下着同梱)×3、高校で集めた消化器、砲丸投げの砲丸、喫茶店に書かれていた文面のメモ
ディパック(支給品一式)黄金のマスク型ブロジェクター@キン肉マン、
不明支給品0〜1、ストラーダ(修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS

【思考】
0、なんとしても生き残る。
1、ゼクトールと仲間になるように交渉及び情報を聞き出す。
反抗的だったり、徒党を組めないようなら容赦なく殺害。
2、遭遇した人間は慎重に生殺を判断する。
3、冬月コウゾウ他、機会や生体化学に詳しい者と接触、首輪を外す為に利用する。
4、情報を集め、24時に警察署に戻ってきて小砂と情報を交換する。
5、強敵には遭遇したくない。
6、深町晶を殺してガイバーになる。
7、水野灌太を見つけても手出しはしない。たぶん。
8、女と野兎(夏子・ハム)はどうでもいい。

【備考】
※光の剣(レプリカ)は刀身が折れています。
※首輪が有機的に参加者と融合しているのではないか?と推測しています。
※ネブラは相手が“闇の者“ならば力を貸してくれます。
※ゼクトールは自分を殺そうとしていると理解しました。
※逃げるのに夢中だったため、ガイバーⅡに気付いていませんでした。
※ストラーダの修復がいつ終わるかは次以降の書き手さんに任せます。


−−−−−−−−−−−

236 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:32:04 ID:YrRABrO.

一方、その頃。
二体の怪物が戦っている隙に、喫茶店から逃げ出した夏子とハムは、市街地を駆け足で東方面へ向かっていた。
北も火の手が回り、南は悪魔将軍、西は火事と危険人物と思わしきものたちが多数。
逃げられるのは東方面ぐらいなものだった。

突拍子もない出来事の連続で、夏子の頭はろくに働かなかった。
彼らの予測を越えた力を目の当たりにして、ただ夏子は愕然とし、無力なまま何もできなかった・・・・・・
逃走を提案したのも冷静な判断を下せたハムであり、自分は結局、なし崩し的に動いていたに過ぎない。
それが夏子には何より悔しくたまらなかった・・・・・・

「・・・・・・夏子さん。
泣いているのですか?」

夏子の前方を走るハムが振り返り話しかける。
夏子が泣いているとハムが思ったのは耳に二人の足音の他に、鼻をすするような音がしたからだ。
しかし夏子はそれを一言で否定する。

「・・・・・・泣いてない」
「・・・・・・そうですか」

ハムはそれ以上、追求せずに前に向き直った。
とにかく、あの二体の怪物から逃げる事に専念する。


夏子は泣いていないと言ったが、本当は半ベソをかいていた。
涙はなんとか眼の中に押し止めているが、鼻水を抑えている鼻は真っ赤である。

(悪魔将軍の時と同じようにまったく歯が立たなかった・・・・・・
私は何がしたかったのよ!?)

心の中で、自分を罵る夏子。
責任感とプライドが高い夏子は、無力で何もできなかったという事に、強い自己嫌悪を抱いていた。
さらに、集まる予定だった公民館は既に火に包まれ、思い通りに集まる事はできなくなってしまった。
そのことからの焦りが、自己嫌悪を加速させる。

(深町晶を甘いヤツだと言っておきながら、このザマよ。
私だって大概甘いじゃない・・・・・・)

急に自分が、いつもよりちっぽけな人間に思えてきた。
故により一層、力への渇望が強くなる。

(本当に・・・・・・力が欲しい。
どんな怪物にも負けない力が欲しい!)

今日ほど、彼女が力を求めた日はないだろう。
それぐらいに、自分の無力が許せなかった。

(力さえあったら、朝比奈さんもシンジ君を守ることだって!
この殺しあいから生きて帰ることだって!!)

237 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:33:49 ID:YrRABrO.

その時の彼女は、ただただ力を求めていた。
力を持つことこそが、仲間や自分を守るための最良の手段にも思えた。
もっとも、心の中でたらればを吐いているだけとも言えるのだが・・・・・・



夏子は気づいけなかっただろう。
自分が半ベソをかきながら走っている前方で、賢い野兎が厳しい顔をしていたのを。

彼女には走る野兎の後ろ姿しか見えない。
野兎は後ろを見なくとも、彼女のだいたいの心境を把握できていた。

ハムはとにかく、厳しい顔をしていたが、それだけでは彼が何を考えているのかを読み取れない。



一人と一匹が疾走するさなかに、放送が始まる。
そして、彼女らに限ったわけではないが、残酷な知らせと未来も待っている・・・・・・

238 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:35:47 ID:YrRABrO.


【B-7 市街地(東方面)/一日目・夕方(放送直前)】


【川口夏子@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(微少)、無力感
【持ち物】ディパック、基本セット(水、食料を2食分消費)、ビニール紐@現実(少し消費)、
 コルトSAA(5/6)@現実、45ACL弾(18/18)、夏子とみくるのメモ、チャットに関する夏子のメモ
【思考】
0、何をしてでも生き残る。終盤までは徒党を組みたい。
1、怪物(アプトム、ゼクトール)から逃げる。
2、シンジとみくるに対して申し訳ない気持ち。みくるのことが心配。
3、万太郎と合流したいが、公民館が燃えてしまった・・・・・・
4、ハムを少し警戒。
5、シンジの知り合い(特にアスカ)に会ったらシンジのことを頼みたい。
6、力への渇望。
7、水野灌太と会ったら−−−−
8、シンジに会ったら、ケジメをつける

【備考】
※主催者が監視している事に気がつきました。
※みくるの持っている情報を教えられましたが、全て理解できてはいません。
※万太郎に渡したメモには「18時にB-06の公民館」と合流場所が書かれています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。

239 痛快娯楽復讐劇(修正版) ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:37:10 ID:YrRABrO.

【ハム@モンスターファーム〜円盤石の秘密〜】
【状態】健康
【持ち物】基本セット(ペットボトル一本、食料半分消費)、
 ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、チャットに関するハムのメモ
【思考】
0、頼りになる仲間をスカウトしたい。
1、???
2、万太郎と合流するつもりが、公民館が燃えてしまっている・・・・・・
3、シンジの知り合い(特にアスカ)を探し彼の説得と保護を依頼する。
4、殺し合いについては・・・・・・。

【備考】
※ゲンキたちと会う前の時代から来たようです。
※アシュラマンをキン肉万太郎と同じ時代から来ていたと勘違いしています。
※ゼロス、オメガマン、ギュオー、0号ガイバー、ナーガ、怪物(ゼクトール、アプトム)を危険人物と認識しました。
※悪魔将軍・古泉を警戒しています。
※深町晶を味方になりうる人物と認識しました。
※スタンスは次のかたにお任せします。仲間集めはあくまで生存率アップのためです。

240 ◆igHRJuEN0s :2009/05/30(土) 22:43:27 ID:YrRABrO.
これで修正版の投下は以上です。
まだ指摘があれば連絡をお願いします。
不備が無ければ、どなたか代理投下をお願いします。

241 嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:28:29 ID:BWzY8uBA


『あと50メートル西を進んだ方が良いでしょう、安全の為にお願いします』
「わかったよレイジングハート、禁止エリアに近付いたら大変だからね。調子は大分良くなった?」
『はいスバル、完全な修復にはまだ時間がかかりますがナビゲーション機能は回復しました』
「キョン君、そういう訳だからもっと左を歩いて。ペースは体力に合わせてゆっくりでいいから」

わかったよ、と言いながら俺はガサガサと草を掻き分けて左に寄って歩いた。
邪魔な茂みはブレードを鉈代わりに切り開いて進む、後ろにはウォースマンにスバル、そしてリインとかいうちっこい妖精が付いてくる。
先頭を歩く、いや歩かされるって事は草刈りまでさせられるのかよ!
後から付いてくるお前らは楽でいいよな、ちくしょう!

あー、わからない奴の為に状況を説明するぞ。
俺達は山登りの最中だ。
試合という名のしごき……いやあれは『かわいがり』ってレベルだったぞ、思い出すだけで腕が痛くなる。

それでも命が助かっただけマシか、とにかく俺は逃げる事も出来ず捕まっちまった。
荷物も殆ど取り上げられ、今は連中の仲間が待つ神社目指してるって訳だ。

それにしても疲れてんのに山登りかよ……待ち合わせすんならもっと楽な場所を選べと言いたくなる。
いや、あいつら揃いも揃って体力馬鹿だから気にする筈無いか。
自分のペースで歩いていいってのがせめてもの救いだ、とはいっても後ろからプレッシャーが掛かるので好きに休むなんて事は出来ないけどな。

更にやっかいな事に最短距離に禁止エリアが出来ちまったので回り道する羽目になっちまってる。
確実に放送には間に合わないな、まあ俺が困る訳じゃないし問題無いだろう。

『データ交換終了ですぅ〜、ふええ〜スバルがこんなに苦労してたのに私はぼんやりとしてただけなんてぇ〜』

後ろだから見えないがちっこい奴の涙声が聞こえて来た、俺の苦労もわからせてやりたいぞ。
ガイバーのお陰で後ろの話もよく聞こえる、俺は歩きながら連中の会話に聞き耳を立てた。
どうやら仲間が信用できるかどうかについて話してるらしい。



               ※

242 嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:29:07 ID:BWzY8uBA



空曹長とレイジングハートのデータ交換がやっと終わった、こんなに時間が掛かったのはレイジングハートの状態もあるけど制限も大きいのかな。
今まで何もしていなかった私は軍人失格ですぅ、なんて言われても逆にあたしの方が困ってしまう。
泣きべそをかく空曹長をなだめて落ち着いてもらって改めて皆でこれからの事を話し合う。

「あの、空曹長達はギュオーさんを知っているんですよね? それならもっと詳しく聞かせてください!」

今頃は神社で待っている筈のギュオーさんとタママ二等兵、キョン君が話してくれた情報でギュオーさんが人を襲った可能性が浮かんできた。
人を疑うなんて嫌だけどはっきりさせなければいけない、結果乗っているとすればキョン君と同じく止めてみせる!
ギュオーさんに会ったのはウォーズマンさんと空曹長だけ、直接会う前にどんな人か聞いておきたかった。

『う〜ん、確かにリインはギュオーって人に会いましたけどぉ、たった数分ですよぉ? 話もしないうちに別れてしまったのにどんな人かなんてわからないですぅ』
『私もデータを精査してみましたが彼に対する情報は皆無でした、申し訳ありません』

空曹長は困ってるけどしょうがないよ、誰だってそんな短時間で相手の事がわかる筈無いんだから。
キョン君も掲示板の情報以外は知らないみたいだし、だとすればウォーズマンさんの情報だけが頼りかな。

「お前達が解らないなら仕方ない。とにかく俺がギュオーを出会った時から話すとしよう、始めて会った時あいつは酷い怪我をしていた―――」

ウォーズマンさんはすぐに頷いてギュオーさんが倒れていた状況や会話の内容を丁寧にあたし達に話してくれた。
『リナ』という栗色の髪の女性と水色のケロン人に襲われたっていうのがギュオーさんの言い分、その二人が掲示板に書き込んだのは間違いないとあたしも思う。
でもお互い相手から襲われたと言い合っている状態ではどちらも疑えない、不幸な誤解って可能性もあるんだから。

「どちらにも心当たり無いですね〜、ギュオーって人は他に何か言ってませんでしたかぁ?」
「そうだな……本来は黙っているべきなのだがお前達になら話してもいいだろう、あいつが言うには”クロノス”という闇の組織に狙われているそうだ」
『そのような名を持つ組織を私は知りません、別世界の存在とみるのが自然ですね』

また初めて聞く名前が出てきた、その組織は殺し合いに何か関わりが有るのかな?
ウォーズマンさんの言い方だといろいろ複雑な話みたいだけど。

「クロノスとゲームの関わりは俺にもわからん、とにかくギュオーは元々組織の一員だったが裏切って逃げていたところを連れてこられたらしい。
 名簿に載っている組織の構成員はネオ・ゼクトール、アプトム、深町晶だとあいつが言っていた、お前達は会ったか?」
『いえ、その誰にも会いませんでした』

その話が本当ならギュオーさんは正義感が強い人って事になるのかな?
三人については残念だけど会った事の無い人ばかりでわからない、そうだキョン君にも聞いてみよう。

「キョン君も聞こえてるんだよね、ウォーズマンさんが言った五人に心当たりは無いの?」
「……知らん、聞いた事もない」

キョン君は振り返りもしないでそんな返事を返してくる、本当に知らないのかわからないけれど土下座までしてくれたのに疑うのも悪いよね。
とにかくその人達も止めなければいけない、ギュオーさんにもクロノスの事を詳しく聞きたい。

243 嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:29:47 ID:BWzY8uBA

「知らないなら話を続けるぞ、とにかくギュオーはその三人を倒す事が当面の目的らしい……おっともう一人を忘れていた、ノーヴェという女性がその一人と手を組んだと言っていたな」
「ノーヴェ! 彼女の事なら知ってます、コテージでお話ししたセインの妹で私の世界の人間です!」

正直わだかまりが無いわけじゃないけどミッドチルダでの事は終わった後で考えればいい、会えたらセインの事をちゃんと伝えてあげたい。
少なくとも三人のうち一人は無差別に人を殺すような性格じゃない事がわかっただけでも大きいと思う。

「知り合いだったとは驚きだな、悪いが彼女が何処に向かったのか聞いていない。確か開始直後の話だと言っていたから同じ方角に居るとは限らんだろうが会ったら聞くとしよう。
 その後からスバルに会うまでの経緯は既に話した通りだ。うーむ、こうしてみるとギュオーを疑うには証拠が少なすぎるな」
『話に出た誰か一人でも会っていれば良かったんですけどぉ、うまくいかないものですねぇ〜』

二人の言う通りだとあたしも思う、はっきりした証拠も無しに悪人とは決め付けられない。
予定通り神社に向かって直接ギュオーさんとタママ二等兵に会ってみよう、いろいろ話をしてから改めて考えてみても遅くない。

『これ以上考えても答えは出ないので話題を変えるですぅ。キョン! 貴方にはまだキチンと話を聞いてなかったですねぇ』
「うっ、やっぱり聞くのかよ……」

そうだった! キョン君にはまだまだ聞きたい事が一杯有る。
殺した人の事、ヴィヴィオの事、市街地で見た事や出会った人の事、どれ一つとっても大事だ。


それに―――何故知り合いの子を殺したの、キョン君?



               ※



俺は後ろの連中の話を聞いて俺は心の中で笑っちまった。
間違いなくギュオーって奴は危険人物だ。そしてマヌケなウォーズマンを利用してるんだってハッキリ解ったんだからな。

ギュオーって奴が敵と言った深町晶、ガイバーショウに俺は会っている。あいつは一緒にクロノスと戦ってくれなんて俺を説得してきた。
おまけに小動物なんか助けようと荷物まで捨てた、あれで逆にクロノスの構成員だったのならガイバーショウはアカデミー賞目指せる名優って保証してやるぞ。

もちろん連中に教えるつもりなんてない、この状況を上手く利用すれば逃げられるかもしれないからな。
他の四人には本当に会ってないんだがガイバーショウ並みにお人好しなら儲け物だし名前はちゃんと覚えておこう。

そんな事を思ってるとあのちっこい妖精が俺に話を振ってきやがった。
まあいい、何か聞かれるには予想してたんだし三人殺したって事もとっくにバレてんだからな。
今更何を話したところでこれ以上状況が悪化しやしないだろう、もちろんガイバーショウの事は伏せるつもりだがな。

244 嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:32:08 ID:BWzY8uBA

「キョン君……もう一度聞くけど君は反省してくれたんだよね?」

振り向きもしないで歩いていると後ろからスバルの声が聞こえていた、いかにも偽善者らしい心配そうな声だ。
何を聞かれるかと身構えたつもりだが最初にそんな質問とは恐れ入るな。
まぁ、ここは無難に答えておくか。

「そうです、俺は反省しました」
『まだ信用できないですぅ! 本当に反省している人はそんな軽々しく言えないですぅ!』

またちっこい奴が口を出してきた、人を信じるって事を知らんのかこの性悪妖精は。
まあ当たってはいるんだがな。

「それなら知ってる事を全部話して! 私達はどんな小さな情報でも欲しいの!」

いかにも必死そうな口ぶりでスバルの奴が聞いてきた、断ってどんな顔するか見てやりたいが反省したフリを続けなきゃならん。
面倒くさいなと思いつつ俺はわざと弱気な声を出してやった。

「すまん……歩き通しで疲れていて投げやりな口調になっちまった。とりあえずどんな事から話せばいいんだ?」
『それなら貴方のここまでの行動を全て白状するですぅ、おかしな部分があったら反省してないとみなしますよぉ!』

間髪入れずに性悪妖精の声が背中に飛んできた、疲れてると言ったのが聞こえなかったのかこいつは?
しかし愚痴をこぼす訳にもいかん、下手に嘘を付くとボロが出るかもしれんしここは正直に答えてやるか。

「俺がスタートしたのは小学校だ、このガイバーって鎧を手に入れてすぐ……既に言った通り中学生ぐらいの奴を殺した」

いろんな事が起こり過ぎたせいだろうか、一日も経ってないのにやけに昔の事に思えちまう。
まさか人殺しになるなんてハルヒに振り回されていた時ですら予想していなかったな。

「何故……そんなに早く人を殺す気になったの? キョン君はどうしてそんな道を選んだの?」
「フン、ナーガの時みたいに度が過ぎた力を手に入れて調子に乗ったのかもしれんな」

いきなり話の腰を折るな! しかし困った、ハルヒや長門の事を何て説明すりゃいいんだ。
統合情報思念体を満足させる為に殺し合いに乗ったなんて言ったら余計話がややこしくなる気がするし草壁のおっさん達を怒らせてしまうかもしれん。

正直に答えるつもりだったのは確かだがそれはあくまで行動の事だ、こんなやっかいな事を言わされるなんて思ってなかったぞ!
……いや、どうせこいつらには解らないんだ。長門に迷惑の掛からない範囲で済ませりゃ問題無いじゃないか。

『何を黙ってるですかぁ? 怪しいですぅ』
「う、うるさい! とにかく俺は早く元の日常に戻りたかったんだよ! その為なら何でもしてやるって思ったんだ!」

嘘は言ってないぞ! 身勝手な理由と思われようが今更気にしてられるかよ。
後ろの連中は見えないが視線が背中に突き刺さってやがる、まるで針のムシロに座らされてる気分だぞ。

245 嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:33:04 ID:BWzY8uBA

「その為に……知っている人まで殺すつもりだったの? 一人だけで帰るなんて、それでいい訳がないよ」
「どうせ生き返るんなら問題無い、そう思っちまったんだよ。今じゃあ本当に馬鹿な事考えたと反省してる」

本当は大真面目に考え中なんだが当然口には出さない、視線が痛いが反省したふりを続けてとっとと話を進ませちまおう。
お前らだって俺なんかよりも俺の知ってる情報が欲しいんだろうからな。
決して考えてたらあいつを踏み潰した時の感触が蘇ったからじゃないぞ!

「とにかく俺が次に向かったのは遊園地だ、そこでヴィヴィオと同じぐらいの小僧と……女の子を襲った、けど逃げられちまった。
 すぐその後でナーガのおっさんに襲われて気絶したんでそいつらが何処に向かったのかは知らん、本当だぞ?」
『ん〜、何途中で口ごもっているんですかぁ? 気になりますぅ』

事務的に手早く済ませるつもりだったのに性悪妖精の言う通りあいつの部分で止まっちまった。
あいつを、実の妹を―――初めて殴ったんだ。乗り気になった今だって思い出したい光景じゃない、どうしても胸クソが悪くなる。

「まさかとは思うけど……知ってる人だったの? キョン君より小さな女の子の知り合い―――”キョンの妹”と名簿に有る子だったとか」
「―――っ!!!」

この女超能力者かよ!
絶句していると肯定と受け取られたのかもしれない、背中に突き刺さる視線がいきなり強くなった。
ガイバーを着ている今は関係無い筈なのに喉がカラカラだ、罪悪感や居心地の悪さがミックスされてとてつもなく気持ち悪い。

「つ、続けるぞ! その後目を覚まして高校に行ったらハルヒとヴィヴィオに会ったんだ。後は言わなくても解るだろう?」
『ヴィヴィオを襲ってハルヒって女子高生を殺したって事ですね〜、一応何が起こったのか説明してくれますかぁ?』

人が思い出したくない事を言わせるつもりかよ! 性悪なんてもんじゃない、こいつは極悪妖精だ。
あの時のハルヒの顔、腕に伝わった柔らかい感触―――それだけで本当に気が狂いそうになる。
口に出せない代わりに邪魔な潅木を大げさに切り開く、するとスバルの奴が察したのか知らんが助け舟を出してきやがった。

「空曹長……キョン君だってそんな事は言い辛いと思いますから簡単に話すだけで許してあげてください」
『む〜、スバルがそう言うのなら仕方ないですねぇ。でも甘いと思いますよぉ?』

俺は聞こえない程小さくほっと息を吐いた。その代わり罪悪感が若干増した気がするが気にしたら負けだ。
あの時の光景を出来るだけ頭の隅に追いやって必要な事だけを早口で言う。

「ハルヒとヴィヴィオは一緒に行動してた、アスカとモッチーっていう仲間が後から来るとか言っていた。
 そういやヴィヴィオにはクロスミラージュとバルディッシュって喋る機械を持っていたぞ」
「ティアのデバイス! それにやっぱりと思っていたけどバルディッシュも在ったんだ……」

ひょっとして、こいつらの持ち物だったのか?
よく考えれば喋るペンダントなんてものがある時点でその可能性を考えとくべきだった。

「それから……ヴィヴィオを襲おうとして、ハルヒを……しちまった後は動揺して学校を飛び出した」
「………………」

極力無味乾燥に言おうとした、けどやっぱり無理だった。
何度も思い出しちまってる筈なのにどうして慣れないんだ……最後の方は変な声になっちまった。
極悪妖精のツッコミも偽善者の励ましもまっくろくろすけの怒鳴り声も何故かやって来やしない、ただ惨めにとぼとぼ歩き続ける。

246 嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:34:04 ID:BWzY8uBA

呆れてんのか? それとも同情してんのか? 赤の他人に余計な気遣いされるのは却って腹立つんだよ。
とっとと話を終わらせちまおう、しかし気が動転しちまっていたからその後の記憶が定かじゃないんだよな。
高校を逃げ出したところで誰かを見た気がするかどんな奴だったのかまるで思い出せん、気が付いたら採掘場に居たんだよな。

放送前で時間を気にしてたから学校に居た時間は覚えている、何でワープしたみたいにあんなに遠くに行けたんだ?
超常現象といってもいい移動具合だ、ワープポイントでもあったのか? ひょっとしてハルヒの不思議パワーが関係してんのか?

―――馬鹿馬鹿しい、現実逃避もいい加減にしろよ俺。

変な事を考え出した俺を別の俺が冷めた目で見詰めていた。
確かにその通りだ、思い出すのが辛いからってそんな下らない事考えも仕方ないな。

「とにかく気が付いたら採掘場に居た、そこで最初の放送があった事は覚えている。
 で、その直後に古泉って奴と会った。こいつも元の世界の知り合いだ」

あの時俺は古泉に何て言ったっけな、罪を被るのは俺一人で十分だとか随分青臭い台詞を口にした覚えがある。
本気で言ったのか古泉に少しでも善人ぶりたくて無意識に飛び出した出任せなのか―――考えるまでもないよな。

結局数時間も続かなかったんだ、その古泉に罪を被せた以上後者って事になる。
……とことん下らない奴だったんだな、俺は。

「古泉一樹君だね、その人にも襲い掛かったの?」
「逆だ、古泉の方から協力を申し出て来た。俺は西、古泉と分担して参加者を減らしましょうってな。
 さっきは聞かれなかったから言わなかったんだが……ちょうど18時に採掘場で会う約束だ」
『何故そんな大事な事を言わなかったんですかぁ! 今からではとても間に合わないですよぉ!』

せっかくの機会だから約束の事を教えてやった。
これで俺達全員とはいかなくても一人でも採掘場に向かってくれれば俺が逃げられる可能性が高くなるって寸法だ。
古泉があの書き込みを見たか気付いてないかは関係ない、どっちにしろ連中との間で騒ぎが起こってくれればいいんだからな。

「仕方ないだろう? お前達が神社に行くって決めた以上立場の弱い俺が口を挟める道理もないじゃないか」
「く……俺だけなら間に合うかもしれんがお前達や待っている筈のギュオー達を放り出して行く訳にはいかん」
『私も現状での戦力の分散は得策ではないと進言します、ここは次の機会を待つべきかと』

俺の話を聞いて連中はガヤガヤと言い合っていたがどうやら失敗か、さすがに今の時間からじゃあ遅すぎるからな。
リングに居た時に言っておけばと思ったが今更だし仕方無い、まあこれで連中も古泉を危険人物と見なした筈だし良しとしよう。
騒ぐ連中を見ていたら少し気分が紛れてくれたしな。

「その後だが……博物館辺りからでかい爆発を聞いたな、レーザーみたいな光も見た。
 古泉が博物館にはアシュラマンって危険人物が居たと話してたからそいつと誰かが戦っていたのかもしれないぞ」
「その時戦っていたのはあたしだよ。その時からそんな近くに居たんだ、奇遇だね」

247 嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:34:37 ID:BWzY8uBA

げっ! するとアシュラマンを殺したのはまさかこいつか!?
殺さないとは言ってるが力加減を間違えました……この女ならありそうだ。
とにかくこいつが当事者なら次に移ってもいいよな、ここからは嘘吐きタイムだ。

「そんな訳で警戒して森の中を歩いてたんたが途中目玉お化けみたいな奴を見たぞ、遠くでチラッと見ただけだったが博物館の方に行っちまった」
「目玉の参加者だと? 超人にもそんな奴はいないな、スバルは出会わなかったのか?」
「はい、あたしはすぐ採掘場に向かったから会えなかったんだと思います」

誰にも出会わなかったと言っちまうと後で矛盾が出るかもしれんし知らない参加者と擦れ違ったとだけ言っておく、要はガイバーの事が知られなきゃいいんだ。
今頃あいつら何やってんだ? お人好しの奴らの事だ、ひょっとして古泉に騙されて採掘場で待ちぼうけしてるかもしれないな。

「次寄ったのはレストランだ。そこで顔を隠したおっさんに会った」
「顔を隠した男だと!? そいつは俺は探している奴かもしれん、奴と一体何を話した?」

おいおい、雨蜘蛛のおっさんはウォーズマンに追われてんのかよ! うーん、ここは何と答えようか。
雨蜘蛛のオッサンに痛い目に遭わされたのは確かだが今は手を組んでんだ、俺があれこれ喋ったと知れたら間違いなく裏切ったと思われるな。
再生した筈の指が疼く、あんな目に遭わされるには二度と御免だ。

「おっさんの名前は知らんし目的も解らん、銃を突きつけられて色々喋らされたがなんとか隙を見て逃げ出すだけで精一杯だったんだぞ」
「くっ、せっかく奴を追う有力な手掛かりを掴めたと思ったんだがな」

真っ赤な嘘だ、雨蜘蛛のおっさんからはいろいろ話が聞けたし逃げ出した訳じゃない、一緒に皆殺しの相談をして平和裏に別れたんだ。
妹と朝比奈さんを殺してくれと頼んだ事は―――本当に正しかったのか? 馬鹿な、決まってるじゃないか。

「じゃあレストランに落ちていた指は君のだったんだね、もう大丈夫なの?」

いきなりスバルが俺の手を取ってまじまじと見やがった、もう治ってるからほっとけ!
苛立って振り払おうとする前にパッとスバルが腕を離す、すっぽ抜けた腕はぶんと音を立てて立ち木にめり込んじまった。
そんな俺をスバルは笑って見てやがる、治って良かっただと? 普通いい気味だと思う所だろう?
……何だかくすぐったいな、次だ次!

「で、コテージにはナーガのおっさんが居て戦った結果手を組むことになりました。適当に電話を掛けたらそこのスバルさんに繋がりました。後は知っている通りです」

喋り続けて疲れたせいもあるがロクな体験してこなかった所為で投げやり気味に説明を打ち切る。
おっさんには腹を抉られたし次は変な夢見ちまった。俺、ハルヒと来て次寝たら誰が夢に出てくるんだ?

「キョン君が電話を掛けた相手はあたしだけ? それとも他にも誰かに同じ事言ったの?」
「掛けてません、そんな事したらダブルブッキングしちまうじゃないか。俺だってそこまでマヌケじゃないぞ」

全くしつこいな、こんな奴に繋がった事自体が不運としか言いようが無いぜ。
うまく呼び出せたと思ったら嘘は見破られていて、殺したと思ったら生きていて追いかけてきやがって。
……ストーカーかこいつは、こりゃよっぽど上手くやらないと逃げられそうないな。

248 嘘と沈黙 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:35:09 ID:BWzY8uBA

『聞く限り行動に矛盾は無いみたいですね〜、あくまで矛盾だけですけどぉ』
「隠し事をしてないとはいえんが一応は信じてやろう、但し嘘が混じっていた場合は相応の報いを受ける事になるがな」

物騒な事話してやがる、だがいくら疑ったところで証拠は何もないんだし当分はこのまま行ける筈だ。
連中も少し話し合っていたが結局は信じる事にしたらしい、何の突っ込みも来ないまま俺は先頭を歩く。
その方が気が楽だ、嘘付いた相手の顔を見ずに済むというのは現状で唯一マシな部分かもしれない。


―――疲れた


従うふりをしなければいけないとはいえ思い出したくもない事を延々と喋らされたんだ、気が滅入って当然だろう?
振り返ってみたらスタートしてから楽しい事なんて何一つ無かった、スプラッタと激痛の繰り返しばかりエンドレスで再生されてる気分だ。

ナーガや雨蜘蛛のおっさんは互いに利用するだけの関係でSOS団みたいに仲間なんて呼べる付き合いなんかしなかった。
そういう関係になれるかもしれなかった古泉は俺の方から裏切った。
善人と出会ったら殺しにかかり、悪人相手には惨めに負けたり殺しの相談を持ちかけた。

ガイバーじゃなきゃとっくに死んでいただろう。
いや、支給品がガイバーじゃなかったらもっと慎重に行動しててハルヒを殺すなんて事は無かったかもしれない。
―――一わかってるさ、たらればを考えても無意味だって事ぐらい。

ルーベンスの絵を見たがっていた少年じゃないが今の俺はちょっと弱気になっちまってるらしい。
ずっと走り続けてきたんだ、途中休みたくなっても自然かもしれん。
まずいな……ギュオーって奴を利用して逃げる為にもとっとと気力を回復させてこんな気分をオサラバしたいところだ。

俺は少しでも休息を取りたくて緊張を緩めた。
歩くペースも更に落とす。山頂が近づいて登りもきつくなってきたし不自然には思われないだろう。
このまま神社まで黙って歩かせてくれよ、と思っていたその時だった。

「キョン君、隣いいかな?」

突然スバルの奴が前に出てきて俺と横並びになった。
おい、返事した覚えは無いぞ!

『スバル、近付き過ぎると危ないですよ〜!』

俺の抗議と同時に極悪妖精の人を動物扱いした警告が飛んできたがスバルの奴は全然気にしちゃいない。
平気な顔でジロジロと俺を眺めてやがる、何だか口元が笑ってるぞ?

249 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:35:49 ID:BWzY8uBA


あたしは前を歩くキョン君の背中を眺めていた。
気のせいかさっきより小さく見える、ペースも落ちてきたし随分疲れていたのかな?
無理に話を聞いてごめんなさい―――一でも、あと少しだけ聞いてみたい。

さっきのキョン君はどこまで本当の事を言ってくれたのかわからない。
あたしだって無条件で全部信じている訳じゃない、ひょっとして隠している事もあるかもしれない。

でも、一つだけわかった。
キョン君はまだ戻れる、人間として大事な心が残っている。

だってハルヒって人の事を話す時、とっても辛そうだったから。
殺して動揺したって言っていた、本当はその子を殺したくなかったんだってあたしにもわかる。
草壁と長門に生き返らせれるかって念入りに聞いていたのはひょっとしてその子の為でもあるの?

けどそれは絶対間違ってる、本当に出来るとしても決してその子は喜ばないと思う。
それをキョン君に認めさせるのは―――一辛い思いをさせる事になるとわかってるけど、やらなければいけない。
偽りの希望なんて持っていても貴方の為にならないよ!

代わりにあたしがキョン君の支えになってあげたい。
あたしに何処まで出来るのかわからないけど、ガルル中尉の様に導いてあげられないかもしれないけど、傍にいてあげるぐらいは出来る。

誰かが一緒に居てくれるのは―――一とっても安心するんだから。
ティアがいてくれたあたしにはわかる。

だから教えて、キョン君の事。
あたしはウォーズマンさんを追い抜いてキョン君に並んだ。
すぐ空曹長から注意されたけど今は見逃してくださいね?

一緒に歩きながらキョン君の横顔を見ると顔を逸らされた。
でもそうしてると危ないよ? ほら、すぐ木にぶつかった。

キョン君の表情は見えないけどムスッしている気がして思わず笑う。
するとキョン君はあたしに構わず歩き出す、機嫌悪くしたのなら謝るよ。

「……話はもう終わったじゃないか、何じろじろ見てんだよ?」

構うなって言いたげな声、やっぱりすぐには打ち解けてくれないよね。

「ううん、まだ終わってないよ。キョン君の世界と……キョン君の事を聞かせて?」

キョン君の事が知りたい、友達の事も。
まだ君の事を何も知らないんだから今のうちに聞いておきたい。

どんな生活をして、どんなことで遊んで、どんな友達がいたのか。
ハルヒって子や古泉という人、妹さんはどんな人なのか。

鎧の下でキョン君があたしを怪訝な目で見ているのがなんとなくわかった。
あたしはにっこりと笑って早く話してと催促した。

250 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:36:20 ID:BWzY8uBA



               ※


何なんだ、一体。
スバルがいきなり馴れ馴れしく近付いてきたかと思うと俺について知りたいと抜かしやがった。
やっぱりこいつは真性のストーカーなのか? だが無視し続けるのも居心地が悪い。

「聞いても詰まらないと思うぜ……日本のごく普通の高校生の日常なんてな」
「全然そんな事ないよ。日本でのキョン君はどんな毎日だったの?」

妙に笑顔が眩しい奴だな。
まあどうせ殺し合いには関係の無い事だ、ちょっと話すぐらいはいいだろう。
ハルヒの不思議パワーについては抜きで普通の部分だけ言っておけば長門にも迷惑は掛からないだろうしな。
そして俺は喋りだした、つい昨日まで当たり前だった日常の世界を。

(キョン君、キョン君。もう朝だよ)

朝ベッドの中で寝ぼけていると妹の奴が起こしに来る、年齢よりガキっぽいのにしっかりした奴なんだよな。
そして我が家の飼い猫シャミセンを一緒に撫でたり遊んだりしてそこらは見た目どおりかわいいんだけどさ。

学校に行けばアホの谷口と下らない事を言い合ったりして、後ろの席には……あいつが居てちょっかい出して来たりして。
どんな事習ってるの? とも聞かれたので適当に問題を思い出してスバルの奴に出してやる。
数学の難しい問題にどう反応するかと思ったんだが即答されちまった、答えは合ってるかどうか俺の方が戸惑っちまった。
国語の問題はスバルが答えられない代わりにウォーズマンの奴が答えやがった、ひょっとしてこいつら頭いいのか?

そして……放課後SOS団の部室に行けば長門が、朝比奈さんが、古泉が、あいつが俺を待っていてくれている。
コンピ研の連中とゲームで勝負したり映画の撮影をしたり……そこまで話すつもりは無かったのに自慢するみたいに次々に話してた。

「凄く楽しそうで羨ましいよ。キョン君は本当にそのSOS団が好きなんだね」

ああ、その通りさ。
こんな事になっちまった今、素直にそれを認めちまえる。
ハルヒのわがままに振り回されて、それでも時折笑うあいつが可愛くて。
ハルヒだけじゃない、長門も、古泉も、朝比奈さんも、妹も、一人だって俺の日常に欠かせない大事な奴ばかりなんだ。

―――一そんな奴らを俺はどうした?

また木にぶつかっちまった、おかしいな前がちっとも見えないじゃうか。
前だけじゃない、気が付くとスバルやウォーズマンの輪郭がやけにぼやけていた。

どうしたんだよ俺は!? 何でこんなに胸と―――一目元が熱くなっちまってんだ!

スバル達に気付かれたくなくて前に出ようとした、けど木の根っこに躓いたのか膝を突いちまった。
はは……何情けない事やってんだ俺は。どうせ優勝すれば元通りになるって解ってる筈なのにな。
景色がぼやけてるのだって目にゴミでも入ったに違いない、ガイバーだって完璧じゃないだろうからな。

251 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:36:53 ID:BWzY8uBA

ぱふっ。

俺はさっさと立ち上がろうとした。
しかし立てなかった、何故なら―――一スバルの奴が俺を抱きしめたのだから。

構うなと振り払おうとするが無理だった、スバルは首を振ってギュウと強く俺を抱く。
頭がこいつの胸に納まっちまった、近くで妖精が騒いでいたが全然耳に入ってこなかった。

「泣くって……とっても大事な事だよ? そうしないと悲しみがどんどん溜まっちゃうよ」

何言ってんだこいつは、お前に俺の何がわかるってんだ。
ほら、早く突き飛ばして勘違いするなと言ってやれ。

そうしたいのに、そう言ってやりたいのに―――一出来なかった。
ガイバーの中で何時の間にか俺は泣いていた。

ちきしょう……ちきしょう!
何でだよ! 何でこんに偽善者の腕があったかいんだよ!



               ※


腕の中でキョン君が泣いている、今まで辛い事ばっかり続いてたんだからそれでいいんだよ。
楽しかった日は取り戻せなくても、きっとまた笑える日が来るよ。

今のキョン君に言葉なんて必要ない、あたしから少しでも温もりが伝わってくれればそれでいい。
抱きしめられるって本当に安心すんだから、立ち直れる勇気をくれるんだから。

空曹長とウォーズマンもキョン君の様子を見て警戒を緩めてくれていた。
あたしはキョン君の気が済むまでこうしてあげたい、ここで放送を迎えても構わない。

二人を見るとそれだけで判ってくれた、安心てあたしは震えているキョン君を抱きしめ続ける。
それにしても時間の割りに随分暗くなってる、天気が悪くなったのかな?

『では私が確かめてくるですぅ〜』

雨が降る可能性もあるので調べるため空曹長が枝の合間を縫って上空へ抜け出してゆく。
すぐその姿は見えなくなった、キョン君の背中を撫でながら上を向いて帰りを待つ。

この時のあたしは全然警戒なんてしていなかった。
誰か近付いたら警告してくれるレイジングハートも何も言っていなかった。

『スバル! 山の向こうで凄い煙が上がってるですぅ!』

空曹長が厳しい顔で急降下してきたその瞬間、あたしの背中から刃が飛び出した。

252 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:37:34 ID:BWzY8uBA

―――一え?

感じたのは途方も無い熱さ、灼熱した鉄棒を突き刺されたと錯覚する程の感覚がお腹で爆発した。
スパークしたみたいに頭が真っ白になる、訳が解らなかった。

―――一どうして、キョン君が?

あたしを貫いた何かかが真一文字に動く、お腹をケーキみたいに切断して脇へ飛び出す。
ガイバーの高周波ブレード、血塗れになったそれがキョン君の答え。

こんな事した理由を聞きたいのに声が出ない、もう一度止めたいのに身体が全然動かない。
あたしの中で何かが切れた、身体から血がどんどん流れていくのがわかった。

「キサマーーーッ!!!」

ウォーズマンさんの凄い声が聞こえた。
空曹長も何か言ったかもしれないが聞こえなかった。

二人にビームを放ったキョン君はあたしを突き飛ばして急斜面を転がるように森に消えた。
元気……まだ残ってんだ。

―――一とめなきゃ。

何度道を間違えても私たちが必ず引き戻すって言ったんだから。
寝てる場合じゃないのに、早く追いかけないといけないのに。

―――一何で指一本動かせないの?

目の前がだんだん暗くなる、日はそんなに早く沈むのだったかな?
地面に液体が広がっていた。
あたしの……血だ。



               ※



俺は必死で森の中を突っ走っていた。
方角なんて気にしちゃいられない、ひたすら走り続けて連中から逃げるしかなかった。

ギュオーって奴を利用して逃げるはずだったとかそんな考えはとっくに頭から追い出されていた。
そんなのんびりしてられなかった、悠長に時間をかけてられなかった。
だって本当にヤバかったんだ!

253 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:38:06 ID:BWzY8uBA

「スバル……」

これ以上お前の傍にいたら、これ以上お前に抱きしめられていたら。
あの温かさに縋っちまったら、


―――一俺は本当に止められちまう!


それだけは絶対に嫌だった、俺はハルヒを生き返らせて皆で元に戻るんだ。
悪いのはスバルだ、俺をこんな気持ちにさせなかったらもう少し長生きできたんだ。

それでも走りながら俺は泣いていた。
悲しいってのか、あの偽善者を傷付けた事が悲しいってのかよ!
胸がズキズキ痛む、やっぱりそうなのかよ!

決めた。
優勝を目指すのは変わりない、けど全員生き返らせれないってんならもう一つ決めてやる。
スバル、俺は。


―――一ハルヒを生き返らせたら、次はお前を生き返らせてやる!





【G-5 森/一日目・放送直前】




【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、0号ガイバー状態
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0:手段を選ばず優勝を目指す。参加者にはなるべく早く死んでもらおう。
1:ウォーズマンから逃げる。
2:採掘場に行ってみる?
3:ナーガが発見した殺人者と接触する。
4:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう。
5:博物館方向にいる人物を警戒。




※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っていますが、考え直すかもしれません。
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。
※どの方角に向かったのかは次の書き手にお任せします

254 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:38:48 ID:BWzY8uBA



ウォーズマンがこれ程怒りを感じたのは長い人生の中でも初めてだった。
キョンに対する怒り、それに劣らぬ自らへの怒り。
すぐキョンを追おうとした、しかし三歩も進まないうちに小さな少女の悲鳴に引き止められた。

『ウォーズマンさん! スバルが! スバルがーっ!!』

広がる血だまりを見ればどちらを優先するべきかは明らかだった。
リインは何度も魔法をかけ続けていた、ウォーズマンもすぐ救命措置を取ったがスバルの状態は酷すぎた。

胴体が半分以上切断されていた。
その出血量だけでも致命傷は明らかだった、例え戦闘機人だとしても。

いかに魔法として失った血液までは戻らない。
休息にスバルの身体から体温が失われてゆくのを感じて二人は絶叫した。

「スバル! 必ずお前を助ける! だから諦めるな!」
『一緒に帰るですぅ! スバルだってまたギンガ達に会いたくは無いですかぁ!』

光が失われつつあるスバルの瞳がゆっくりと動いた。
そして普段の彼女からは考えられないような微かな声が喉から聞こえた。

「おね……がいです。キョ……ン……くんを…ゆ…る……して……あげ……て」
『こんな時に何言ってるんですかぁ! スバルは……スバルは本当に甘すぎるですぅ!』

泣きながら叫ぶリインに対し、スバルの目は確かに笑っていた。
何があろうと理想を貫かんとする少女の意思が其処に込められていた。
ウォーズマンはそれに答える事ができずただしっかりとスバルの腕を握り締めていた。

「ギン姉のこ……と……お願い……します。 それ……と、わ……たしの……くび…わ……を……つかっ……て」
『リインは嫌ですぅ! スバルが自分でやらなくてどうすんですぅ……ぅぅ』

ポロポロとリインの涙がスバルの顔に落ちた。
わかっている、スバルはもう助からない。

『スバルはそれでいいんですかぁ!! こんな所で死んで満足なんですかぁ!!』

それでもリインは認めたくなかった。
スバルはこんなところで倒れていい存在なんかじゃない、奇跡があるのなら今起こるべきだと。

「……い、や」

泣いて縋り付く上司の想いは届いたのだろうか、笑っていた筈のスバルがそんな声があふれ出た。
ウォーズマンの腕が握られる。
スバルの双眸からその名前を思わせる光の玉が落ちてゆく。

255 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:39:51 ID:BWzY8uBA

「死にたくないよ……、みん……な助け…て……帰り……たい……よ」

それがスバルの本心だった。
キョンも中トトロも、今島に居る全員を助けたい。
ミッドチルダに戻ってギンガと危険に巻き込まれている人を助けたい。

「まだ……ま……だ、いっ……ぱい……や……りた……い……こと……が」

スバルは生きたいと強く願う。
たがそれは適わぬ願い、ウォーズマンが握り締めるスバルの腕から力が抜ける。

『スバルーーーッ!!!』
「スバル……お前の無念、俺が必ず晴らしてやる!」

ここに一つの星が落ちた。
その星は強く輝いて他人を導く事のできる星だった。
そして道標の喪失は直後に島の隅々にまで伝えられる事になっていた。








【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】
【残り27人】

256 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:41:06 ID:BWzY8uBA


【G-5 森/一日目・放送直前】


【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感、深い悲しみ、キョンに対する途轍もない怒り
【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品0〜1) ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の種@キン肉マン
     リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
     デイバッグ(支給品一式入り)
【思考】
1:???
2:ギュオーが危険人物かどうか気になる。
3:タママの仲間、特にサツキと合流したい。
4:もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
5:ゲンキとスエゾーとハムを見つけ次第保護。
6:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。
7:超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
8:機会があれば、レストラン西側の海を調査したい
9:加持が主催者の手下だったことは他言しない。
10:紫の髪の男だけは許さない。
11:パソコンを見つけたら調べてみよう。
12:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。



【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています
※ギュオーのことは基本的に信用していましたが、今は疑いを強めています。
※加持リョウジを主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくろクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
 本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。

257 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:41:46 ID:BWzY8uBA


気が付いたらあたしはオレンジ色の海の中で浮かんでいた。
死んだはずなのに……どうしてだろう?
息が出来るのは不思議じゃないよね、だってあたしは死んじゃっているんだし。

見渡しても全てがオレンジ一色で何もわからない。
これからどうなるのかな、ここから一人で天国に行かなきゃならないのかな。

(スバル……)
(―――一!?)

あたしの背中を電撃が走り抜けた、この声を間違えるはずなんて無い!
何故かどの方向から聞こえたのか全然解らない、不思議に思いながら辺りを見渡すと離れた位置に突然人影が現れた。

(スバルもこっちに来ちゃったんだ……。来て欲しくなかったな……)
(ティアッ!! どうしてティアがこんな所に? ここって一体!?)

あたしの目の前にいるのはティア、ティアナ・ランスター!
今頃ミッドチルダで戦っている筈のティアがどうして?

見ればティアはとても悲しそうな目をしていた。

何故呼ばれなかった筈のティアが居るのか、ここは何処なのか。
一つ確かなのはあたしはまだ終わった訳ではないみたいという事だけ。

(わからない事だらけだよ、説明してティア!)

泳いて近付こうとする必要も無かった、思っただけであたしはティアの傍に居たんだから。
あたしの戸惑いをティアは黙って眺めていたけどすぐ真剣な顔であたしに説明しだした。

(スバル、ここはね―――一)

258 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/03(水) 03:42:30 ID:BWzY8uBA

以上で仮投下終了いたしました。
大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

259 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:31:06 ID:1IE6bSgg
陽が傾く。



赤い光が湖面を反射し、青々とした周囲の植物を幻想的に照らす。

風に揺れる木々のざわめき。
わずかな水の流れる音。

何もかも忘れて、それらにだけ意識を集中することができればどれだけ気が楽だろう…と
湖上に設置されたリングの隅で座っていた古泉は思った。


リングから落ちたキン肉万太郎の姿は視認できないままである。
あれだけフラフラの状態で威力は低いとはいえヘッドビームの直撃を受けたのだ。
陸地に着いたか、あるいは溺れ死んだか分からない。
常識的に考えれば溺れ死んだ可能性のほうが高いだろう。
なにせ、あの『将軍』ですら死んだと思っているのだから。

周囲の景色からリング上へと目を向ける。


古泉とは対面のリングの隅で腰を下ろしロープに背中を預ける姿勢でいるジ・オメガマン。
今現在は仲間という間柄である。
実力のほどは嫌というほど思い知らされた。
先程、少し会話をしてみたが話が分からない人物ではない。
しかし、一本筋の通った信念を感じれるような人物でもない。
信用しないに越したことはないだろう。


リングの審判兼実況兼観客の中トトロを抱えて撫でながら
市街地から上がる煙を見つめているのはノーヴェ。
直情的で男勝り、攻撃的。しかしその実、心優しい女性である。
ときおり風でなびく髪をかきあげたり押さえたりする仕草は年頃の古泉には美しいとすら思える。

戦闘能力も決して低くはない。
その分、最近の敗戦続きや『訓練』が堪えたのだろう。強さに対して貪欲である。
純粋ゆえにその貪欲さがどこに向くかはわからないが…
彼女の存在は古泉の『目的』にとって間違いなくキーマンとなるであろう。

260 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:31:53 ID:1IE6bSgg
夕陽を身に纏う鎧に反射させながらリングの外を見続ける悪魔将軍。
実力・知能ともに恐るべき人物。そして、古泉の殺意の対象。
最初は手を組むにはリスクこそ大きいがリターンも大きい相手だと思った。
そして、それは正しかった。
将軍は、古泉から大切なものを奪っていった。

無造作に。
無遠慮に。

結果、悪魔将軍を見ている今の古泉一樹は『涼宮ハルヒの望む古泉一樹』ではなくなった。
この付け入る隙のない要塞を陥落させるためなら泥でもすするような男へと変貌させた。
ガイバーの仮面の下でどのような表情をして悪魔将軍を見ているかは知る術はない。



陽が傾いていく。



「古泉」

ノーヴェが市街地から昇る煙を発見し、会話が途絶えてから十分以上経っただろうか。
岸のほうを見ていた悪魔将軍が、視線はそのままに突如口を開いた。

「…なんでしょうか?」

穏和な口調で古泉は返事をする。
常日頃から自分を殺した演技をしていた賜物か、殺意の類は微塵も感じさせない。
ピリピリしていた雰囲気も、敗戦のあとは鳴りを潜めていた。

「生身のノーヴェと違い、貴様はもう十分に動けるだろう」

「ええ」

座ったまま軽く左腕を挙げてみる。問題なく動く。
さすがに右腕はまだ完全ではないが…
しかし身体全体では疲労もダメージも随分と軽減されている。
相手次第では戦闘行動を行うにはもう支障はない。

「来客が来る気配は今のところない。
 そこで、次の放送までに貴様にひとつ働いてもらう」

「分かりました、何をすればいいのでしょうか」

261 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:32:36 ID:1IE6bSgg
殺そうとしている相手の命令を聞くのは不本意ではあるが、仕方がない。
『来客が無い限り放送後南に向けて出発する』
と言っていたのだ。もう放送まで時間はないから大がかりなことではないだろう。
せいぜい、北から逃げてきた参加者がいないかの捜索や
南方向への斥候といったところだろう、そう踏んですぐに返事したのであったが。

悪魔将軍はノーヴェに目を向け、こう言った。

「ノーヴェの抱えているもののけを拷問しろ」



陽が赤暗くなっていく。



古泉も、ノーヴェも一瞬何を言っているのか分からなかった。
その戸惑っている様子を察したのだろう、悪魔将軍がさらに口を開く。

「お前達は、この悪魔将軍が
 そんなもふもふした主催のまわし者をただで見逃すと思ったか?」

このリングをノーヴェとの特訓のために使用した際に
悪魔将軍が中トトロを尋問をしたということは古泉もノーヴェから聞いていた。
そして、そのときは大した情報を得られなかったことも。

ノーヴェの腕の中で中トトロがきゅっと身を固くする。
そんなことは意に介さず悪魔将軍は古泉を見続け、言葉を発するのを待った。

今の古泉の力ならば中トトロを拷問や殺害することなんて造作もない。
『あの』長門有希の配下である獣を一匹殺すことなどに躊躇する理由なども微塵もない。

だというのに、なぜ将軍の命令に"YES"と即答できないのだろうか。
理由は分からない。いや、本当は理解している。
ノーヴェと一緒にいる中トトロを見て知ってしまったからだ。
憎むべき主催の部下であるこの獣は…古泉にとって不都合なことに心優しく、
手を出して良いような生物ではないということを。

目的のためなら手段を選らばないと決心したのはいつだったか。その決心に嘘偽りはない。
ただ、タッグマッチ戦前にノーヴェの言った通りだったということだろう。
『古泉一樹』はどこまでいっても所詮は『古泉一樹』なのだ。
少なくとも半日やそこらで『古泉一樹』は消えない。
身も心も『ガイバーⅢ』になるには時間が足りなさすぎる。

262 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:33:11 ID:1IE6bSgg
(だけど、俺は…ノーヴェさんがああ言おうとも…『古泉一樹』を捨てることはできなくても
 目的を果たすまでは『ガイバーⅢ』でいたい。そのためには甘い心を捨てるべきでしょう)

「分かりました」

「なっ…古泉!?」

許諾したのが意外だったのだろう。
ノーヴェは素っ頓狂な声を上げ、古泉や悪魔将軍から隠すように中トトロを背に回した。

「クォクォクォ、誰もいないか確認もせずに隠すとは相変わらず大間抜けよ〜〜〜」

そして、いつのまにか背後に回り込んでいたオメガマンが
ひょいっと中トトロの首根っこをひっつかんだ。
慌てて『放して!』と書いた看板を掲げてジタバタする中トトロだったが
その程度で超人の拘束がはずれるはずもない。

「あ、このヤロ!」

「ほぅら、受け取れ〜〜〜っ」

そして文句を言うノーヴェは無視して
オメガマンは中トトロを下手投げで古泉へと放り投げた。
古泉も難なくキャッチし抱きかかえる。

「待てよ、将軍、古泉!中トロに攻撃なんかしたら
 あの銀髪ヤローみたいに主催にスープにされちまうかもしれないぞ!!」

「案ずるな、ノーヴェ。主催者に対して反抗の意を持っている者は多くいる。
 その中に内情を知るかもしれない部下を送ればどうなるかは考えるまでもない。
 これくらいは想定の範囲内だろう」

言われてみればそうなのだ。
今まで中トトロが襲われなかったのは運が良かっただけともいえる。
もっとも、一度オメガマンに蹴っ飛ばされているが情報を聞き出す目的ではなかった。

「そして私が主催者ならば…少なくともいきなり殺したりはしない。
 警告もなしに殺すのは惜しいからな。というわけだ。古泉よ、遠慮なくやれ」

263 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:33:43 ID:1IE6bSgg
「………それで、何について聞けば…いや、どうすればよいでしょうか?」

古泉が将軍へと問いかけた。中トトロは露骨におびえた表情を見せる。

「そのぐらい自分で考えろ」

古泉のほうに身体を向けながら、ぶっきらぼうに将軍は言い放った。
早い話が、これらは古泉に対する追加課題のようなものなのだ。
何を聞くか、そしてどう聞き出すか、
これらの課題を通じて古泉が悪魔超人として成長するのを狙っているのだろう。

どうしたものかと思案しながら腕の中の中トトロを見る古泉。
目が合った。おびえている動物の潤んだ瞳を思いっきり見てしまった。
わずかにながら決心が揺らぎ、ひるんでしまう。

「迷いがあるようだな、古泉よ」

そんな心の機敏を感じ取り、悪魔将軍が古泉に歩み寄ってきた。

「いえ、そんなことは…」

「このもののけが参加者で、殺すべき相手だった場合はそれが命取りになりかねん。
 お前はこの悪魔将軍の部下としての覚悟が足りないのではないか?」

悪魔将軍の言葉に古泉は強殖装甲の下で強く歯を噛みしめる。
否定したいが、できなかった。
一瞬とはいえ二度も躊躇したのは事実だ。
部下として、のくだりはともかくとして覚悟が足りていないといわれても仕方ない。

「将軍ッ!いきなり拷問しろっていってもできるわけないだろ!
 それに中トロは真面目なヤツだ。拷問したって口を割らないよ!!」

「お前は黙っていろ、ノーヴェ。
 そもそも口を割らない者から情報を得るために拷問をするのだ」

悪魔将軍のもっともな意見に「うっ…」と口ごもるノーヴェ。

「…なんなら、私に意見するほどに体力が回復したのなら、
 お前に拷問をやらせてもよいのだぞ」

264 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:34:19 ID:1IE6bSgg
さらにこんなことを言われたのだからノーヴェは俯くしかなかった。

「いえ、俺がやります」

ノーヴェをかばうようにすぐに古泉が話に割って入ってきた。
中トトロも小さく震えながら健気に『僕は大丈夫!』と看板を掲げている。
ちなみにオメガマンはといえばまたリングの隅に座り込んで
つまらない茶番を見るかのように3人+1匹のやり取りを見ていた。

彼らの様子を、どこか満足げに眺めた後、悪魔将軍はこう言った。

「そうか、ならばお前が拷問をしろ、ノーヴェよ」

「なっ…!?」

これには古泉もノーヴェも絶句する。

「古泉は何か勘違いしているようだな。
 なぜ、嫌がる事を自ら進んでやる?お前達には仲間がいる。
 仲間とは利用するためにいるのだ。仲間をかばう、守るという考えは
 敵に付け入る隙を与えるだけだ」

古泉は、反論したくなる気持ちを必死で抑えた。
反論したところで何も変わらないだろうということは理解している。

「これはノーヴェをかばった古泉に対する罰だ。古泉への罰はノーヴェ、お前が受けろ。
 そしてノーヴェへの罰は古泉へと下す。
 これから、お前達がこの悪魔将軍の部下として相応しくない行動をとれば
 時と場合により懲罰を下す。心しておけ」

悪魔のルールを守ればその行動により自身の心が悪に染まっていき
悪魔のルールを守らなければその行動により苦しめられた相方は
憎しみから仲間を想う心を失っていく。
そのような魔の制約を悪魔将軍は二人に課した。

「話が脱線したな。さぁ、ノーヴェよ。このもののけを拷問しろ」

265 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:34:49 ID:1IE6bSgg
古泉から中トトロをぶんどり、ノーヴェへと投げつける将軍。
反射的に「俺がやります」と言おうとして、古泉は思いとどまった。
下手にかばうと、どのようにノーヴェが罰せられるか分かったものではない。



陽が傾き影が彼らを長く不気味に投影する。



空中を舞う中トトロをノーヴェは優しくキャッチした。
さっき将軍が説明したルールによると、
ここで躊躇したりしたら古泉に嫌な思いをさせることになるのだろう。

実際に中トトロつかんでみて、さっきよりも震えが大きくなっていることがわかった。
だからといってノーヴェがどうこうできるわけはないのだが…
中トトロは看板を出すこともせずにただノーヴェを見ていた。
彼(?)も事情は十分に理解しているのだ。
腹を括ったような眼をしていた。

「いいか、中トロ。さっさと喋っちまったほうがお前の身のためだからな」

そう言って、ノーヴェは目を瞑り大きく深呼吸した。
そして意を決し目を開くと―――

―――そこにはいないはずの『彼女』がいた。



陽が傾き影が闇へと溶け込んでいく。



無表情な瞳が、直情的な少女の顔を映していた。
殺意も敵意も、何の感情も感じ取れないのに確かな息苦しさがノーヴェを襲っていた。
中トトロを抱えているノーヴェの目と鼻の先に『彼女』―――長門有希は現れた。

266 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:35:21 ID:1IE6bSgg
「お前はな、が…ッ!!?」

ノーヴェの言葉は最後まで紡がれなかった。
腹部に衝撃。視界が暗転し、天地の感覚がなくなる。背中に柔らかな衝撃を受け
そこでようやくノーヴェは自身がロープ際まで吹っ飛ばされたことに気がついた。
すぐさま長門のほうに目を遣る。
先程まで自身が抱えていたはずの中トトロはこの一瞬の間に奪取され
長門の腕の中に収まっていた。

その長門の背後に高速で迫る影があった。
古泉だ。
長門の死角から音もなく跳びかかり、その後頭部へと左の拳を伸ばす。

だが、長門はわずかに横に移動するだけでそれを回避。
古泉が横を通り過ぎる直前に
長門はサッカーのヒールキックをするように擦れ違いざまに古泉の脛を蹴り飛ばした。
高速で下半身を跳ね上げられ腰を中心にして回転し古泉は額からリングへと墜落する。

「足元がお留守」

二人を一瞬で倒したにも関わらず、息一つ乱さずに軽口を叩く。

「くっそ…!」

ノーヴェはロープに身体を預けすぐに起き上がろうとするが、
中腰ぐらいまでどうにか体勢を立て直したところで腰が抜けたように前のめりに倒れた。
頭を思い切りぶつけた古泉は額から落ちたため、またリング上だったこともあり
気絶するまでには至らなかったものの意識がはっきりせず立ち上がることもままならない。

長門は二人が動けなくなったのが手応えで分かっているのだろう。
一瞥すらすることなく残り二人の参加者へと目線を遣る。

オメガマンは明らかに動揺していたが、構えるだけで攻撃する様子はない。
悪魔将軍に至っては悠然と成り行きを見守っていた。
彼らを攻撃する必要はないと判断し本題へと移る。

267 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:36:09 ID:1IE6bSgg
「主催者への反逆は禁止事項。今回は警告のみ。
 同様のことを行えば次回以降は制裁を下す可能性がある」

そうとだけ言い、長門は周囲を支配しつつある闇に溶けるように消え去った。
彼女が消えた後には、中トトロどころか毛の一本すら落ちていなかった。



オメガマンは距離をおいて一連のやり取りを観察していた。
そして、戦慄していた。

ほんの一瞬だけ現れた主催者の肩割れは目にも止まらぬ攻撃を連続で繰り出し
ガイバーⅢと小娘をねじ伏せた。
それだけならまだいいのだ。
体調次第ではその二人が相手ならオメガマンでもやってやれないことはない、と自負できる。

問題はといえば…

(一瞬で現れたり消えたりするなんて反則すぎるぜ〜〜〜っ!?)

長門有希は高速で動いたのではない。文字通り、瞬間移動してこの場に現れそして去ったのだ。
元から優勝狙いのオメガマンではあったがこんなものを見せられては反抗する気も失せるというものだ。

(そして、あんな連中を殺そうとしている悪魔将軍にいつまでも付き合ってられんぜ〜〜〜。
 とばっちりを受けるようなことになったら困る、さっさと始末してしまわんとな〜〜〜!!)

そのためには体力の回復が最優先。
放送まで残りわずかな時間ではあるが、オメガマンは休息に集中し始めた。



長門が消えるとほぼ同時に、ノーヴェはようやく腰に力が入るようになってきた。
ロープを掴みながらよろよろとどうにか起き上がる。

268 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:36:41 ID:1IE6bSgg
長門の攻撃を受けた腹部を触る。
あれだけ吹っ飛ぶほどの衝撃を防御することなくクリーンヒットしたのだ。
内出血どころか、内臓にダメージを受けていても何の不思議もない。
それなのに身体に残るようなダメージはほぼなかった。
理由は予想がつく。殺し合いの参加者に無駄なダメージを負わせたくなかったのだろう。

つまりは、長門にとってノーヴェは
『手加減をした攻撃』で『反撃する隙すら与えず』『あしらえる』相手でしかないのだ。

ギリリッ、とノーヴェの歯が鳴った。
たびたび口に出していた「主催者を蹴り飛ばしにいく」というのは、
今のノーヴェの実力では妄言以外の何物でもないということを噛み締める羽目になった。

(力が…欲しいッ!!)

そう願ったのは何度目だっただろうか。
この島に来た当初よりは確実に強くなっているはずだ。
でも、まだだ。まだ、全然足りない。
どうせすぐに別れる予定だったのだ、中トトロを失ったことによるショックはない。
ただ、それでも悔しさのみが心に渦巻く。
空いた両手を強く握りしめ、ノーヴェは拳をリング隅の柱へと叩きつけた。



古泉も、力が欲しいという想いは同じだった。
わざわざ宣言してやったのだ。自分が長門の命を狙っていることは彼女も十分に知っているだろう。
だというのにわざわざ姿を見せたのだ。
殺せるものなら殺してみろ、ということだろうか。

そして結果は見ての通り、自分から触ることすらさせてもらえなかった。
それどころか、長門は古泉の姿を見ることすらしなかった。
眼中にないというのを体現したかのような敗北である。
今も立つことすらままならず、地面に這いつくばっているのだ。

分かってはいたが、長門を前にして確信を深めた。やはり仲間が必要だ。
キョンのような者ではない。トトロのような者でもない。ましてや悪魔将軍のような者でもない。
主催者を叩き潰すという信念を同じくできる真の仲間が。

万太郎のような無駄に戦力を殺ぐ結果にならぬよう将軍とは逆方向へ―――北進したい。
市街地からの煙を見て、正義超人たちが集まっているかもしれない。
機をみて悪魔将軍から離れる、まずはそれが第一だ。

269 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:37:12 ID:1IE6bSgg
(もっとも…将軍を上手く出し抜いて別行動することができるかは未知数ですがね)

冷たく自嘲的に笑う古泉。底冷えするような空気が生まれたように感じる。
今はただ、機が熟すのを待つしかない。



中トトロへの拷問は失敗した。
突如現れた主催者に対し、傷をひとつ負わせることすらかなわなかった。
だが、悪魔将軍は動じない。

拷問を加えようとしてから主催者側が行動を起こすまでの時間。
この事態で長門有希自らが行動を起こしたこと。
長門有希の実力。
その他諸々。

この短時間で起きた出来事の全てが他では得難い貴重なデータだった。
悪魔将軍にとっては使い走りである中トトロを拷問して得られたであろう情報よりもよほど有用だ。

ただ、ひとつ気に食わない。

(主催者もそれらをわざわざこの悪魔将軍に見せつける行為が
 どれほどの情報の損失になるか分かっていないわけではあるまい。
 その程度は影響はないということか…その高慢な態度、高くつくぞ)

ほの暗い炎を胸の中で燃え上がらせながら悪魔将軍はリングの外を見る。



まもなく、陽が沈む。


【E-09 湖のリング/一日目・放送直前】





【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】健康
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(6/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
     ディパック(支給品一式、食料ゼロ)、朝比奈みくるの死体(一部)入りデイパック
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.古泉とノーヴェを立派な悪魔超人にする。
2.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
3.殺し合いに主催者達も混ぜ、更に発展させる。
4.強者であるなのはに興味
5.シンジがウォーズマンを連れてくるのを待つ

270 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:37:46 ID:1IE6bSgg
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(中)、ダメージ(中)
【持ち物】 ディパック(支給品一式)、小説『k君とs君のkみそテクニック』、不明支給品0〜2
【思考】
0.もっともっと強くなって脱出方法を探し、主催者を蹴っ飛ばしに行く。
1.ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
2.親友を裏切り、妹を殺そうとするキョンを蹴り飛ばしたい。
3.タイプゼロセカンドと会ったら蹴っ飛ばす。
4.強くなったらゼクトール、悪魔将軍も蹴っ飛ばす?
5.ジェットエッジが欲しい。




※参戦時期は原作の第18話〜第21話の間と思われます。






【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、ケーブル10本セット@現実、
     ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
     基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
     コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
     高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.時が来るまで悪魔将軍に叛意を悟られなくない。
3.キン肉万太郎は……
4.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子を優先。そのために北進?
5.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
6.キョンの妹を捜す。
7.午後6時に、採掘所でキョンと合流。そして―――
8.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。




※『超能力』は使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています。
 禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※古泉のノートパソコンのkskアクセスのキーワードは、ケロロ世界のものです。





【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×3、不明支給品1〜3、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、夏子のメモ
【思考】
1:皆殺し。
2:今は悪魔将軍に従う。だが、いつか機を見つけて殺す。
3:完璧超人としての誇りを取り戻す。
4:スエゾーは必ず殺す。
5:スバルナカジマンにも雪辱する。




※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。

271 憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:38:24 ID:1IE6bSgg
◇ ◇ ◇

「やぁ有希君。お疲れ様。何度も何度も会場に行ってもらって悪いね」

長門が『その空間』に戻るなり笑顔のタツオが迎えてくれた。

「こちらも放送の準備が忙しくてね。何が起こったかあまり把握してないんだ。
 中トトロ君を抱えているところを見ると湖上のリングで何かあったのかい?」

本当に忙しいのか、実は分かって聞いているんじゃないかと疑わしくなるような
楽しげな様子でタツオは長門へと質問を投げかけた。

「中トトロへ危害を加えようとしていた参加者がいただけ。問題ない」

「おやおや、それは本当かい?中トトロ君、怖かっただろう?」

相も変わらず無表情を崩さない長門から中トトロを抱き上げ撫で撫でするタツオ。
中トトロはどことなく嫌そうである。

「制裁は加えたのかい?」

「一部に。連帯責任を全員に負わせることも思考したが放送時間が近いため帰還を優先した」

「そうか、御苦労さま。放送が終わればディナータイムも近いよ。
 どんな晩御飯なのか楽しみだねぇ」

レストランに行く少年のようにタツオはご機嫌だ。
お子様ランチについてくるおもちゃは筋書きのない殺し合いといったところか。

「それじゃあ、いつでも放送できるように僕も準備するとしよう」

「そう」

タツオの言葉を会話の終了と受け止め、長門はすぐにパソコンへと向かう。
つれないなぁ、と言いつつもタツオも中トトロを抱えたまま部屋を後にした。

キーボードを叩く音だけが部屋に鳴ること十数秒。
タツオがふらっと戻ってきた。その腕の中から中トトロが消えている以外は何も変化はない。

「そうそう、次の放送だけどね。ちょっとだけ僕のアレンジを加えてもいいかな?
 何かをするってわけじゃないんだ。ちょっと言い回しを僕流にしてみるだけだよ」

キーボードを叩く指を止めることなく長門は小さく肯いた。

「ありがとう、有希君。それじゃあ今後もお互いベストを尽くして頑張ろうね」

そうとだけ言って、タツオは部屋から出て行った。
再びキーボードを叩く音が部屋を支配する。

「………関係ない」

カタカタという音に紛れて、そのような音が聞こえた気がした。

272 ◆321goTfE72 :2009/06/09(火) 23:38:54 ID:1IE6bSgg
以上で仮投下終了です。

273 ◆321goTfE72 :2009/06/11(木) 20:24:22 ID:g1IfTQPQ
さるさんが来てしまいましたので
たいして変わってませんが続きはこちらに投下します。

274 ◆321goTfE72 :2009/06/11(木) 20:24:52 ID:g1IfTQPQ
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、ケーブル10本セット@現実、
     ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
     基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
     コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
     高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.時が来るまで悪魔将軍に叛意を悟られなくない。
3.キン肉万太郎は……
4.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子を優先。そのために北進?
5.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
6.キョンの妹を捜す。
7.午後6時に、採掘所でキョンと合流。そして―――
8.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。




※『超能力』は使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています。
 禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※古泉のノートパソコンのkskアクセスのキーワードは、ケロロ世界のものです。





【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×3、不明支給品1〜3、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、夏子のメモ
【思考】
1:皆殺し。
2:今は悪魔将軍に従う。だが、いつか機を見つけて殺す。
3:完璧超人としての誇りを取り戻す。
4:スエゾーは必ず殺す。
5:スバルナカジマンにも雪辱する。




※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。

275 ◆321goTfE72 :2009/06/11(木) 20:25:25 ID:g1IfTQPQ
◇ ◇ ◇

「やぁ有希君。お疲れ様。何度も何度も会場に行ってもらって悪いね」

長門が『その空間』に戻るなり笑顔のタツオが迎えてくれた。

「こちらも放送の準備が忙しくてね。何が起こったかあまり把握してないんだ。
 中トトロ君を抱えているところを見ると湖上のリングで何かあったのかい?」

本当に忙しいのか、実は分かって聞いているんじゃないかと疑わしくなるような
楽しげな様子でタツオは長門へと質問を投げかけた。

「中トトロへ危害を加えようとしていた参加者がいただけ。問題ない」

「おやおや、それは本当かい?中トトロ君、怖かっただろう?」

相も変わらず無表情を崩さない長門から中トトロを抱き上げ撫で撫でするタツオ。
中トトロはどことなく嫌そうである。
もしこれがネコであったならひっかいて逃亡しているだろう。

「制裁は加えたのかい?」

「一部に。連帯責任を全員に負わせることも思考したが放送時間が近いため帰還を優先した」

「そうか、御苦労さま。放送が終わればディナータイムも近いよ。
 どんな晩御飯なのか楽しみだねぇ」

レストランに行く少年のようにタツオはご機嫌だ。
お子様ランチについてくるおもちゃは筋書きのない殺し合いといったところか。

276 ◆321goTfE72 :2009/06/11(木) 20:26:08 ID:g1IfTQPQ
「それじゃあ、いつでも放送できるように僕も準備するとしよう」

「そう」

タツオの言葉を会話の終了と受け止め、長門はすぐにパソコンへと向かう。
つれないなぁ、と言いつつもタツオも中トトロを抱えたまま部屋を後にした。

キーボードを叩く音だけが部屋に鳴ること十数秒。
タツオがふらっと戻ってきた。その腕の中から中トトロが消えている以外は何も変化はない。

「そうそう、次の放送だけどね。いつものことだけど有希君の放送草案は事務的すぎるよ。
 今回もちょっとだけ僕のアレンジを加えてもいいかな?」

キーボードを叩く指を止めることなく長門は小さく肯いた。

「ありがとう有希君。それじゃあ今後もお互いを支え合い、ベストを尽くして頑張ろうね」

そうとだけ言って、タツオは部屋から出て行った。
通路から、意味深な笑い声が漏れてくる。
しばらくすると再びキーボードを叩く音のみが部屋を支配した。

「………関係ない」

カタカタという音に紛れて、そのような音が聞こえた気がした。

277 ◆321goTfE72 :2009/06/11(木) 20:27:49 ID:g1IfTQPQ
以上で投下終了です。
どなたか代理投下してくださると助かります。

既に放送案を考えている人に影響を与えかねない表現だったので
>>276のように修正しました。

他にも指摘ありましたらよろしくお願いします。

278 第三回放送 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/17(水) 01:45:17 ID:BWzY8uBA


―――しゅっ


紙箱の側薬に擦られたマッチがぼおっと燃える。
草壁タツヲはゆらゆらと指先を動かして炎が揺れるさまを楽しげに眺めながら紙巻たばこに火を付けた。

チリチリと先端が燃えたところでゆっくり息を吸う、安たばこの苦い煙は口内を満たし、続けて鼻腔へと抜ける。
香りを存分に味わった後、タツヲはふぅと煙を吐き出した。

ぷかり、と白い煙が輪っかを形作ってゆらゆらと天井に昇ってゆく。
片手に紙箱をもてあそびながらタツヲは数度同じ行為を繰り返した。

嗜好品を嗜む間に身体を反らせば目に入るのは古びた木張りの天井と吊るされた白熱電球。
首を傾ければ目に入るのは壁に掛けられた時計と補修の跡が目立つふすま。

時折ちゃぶ台の灰皿にトントンと灰を落とす、何本もの吸殻がそこには溜まっていた。
六畳の和室はそれらの燃焼の結果として霞がかかった様に白っぽい。

まるで築数十年のアパートを彷彿させる光景だった、タツヲは座布団で胡坐をかきながら半分になったたばこを灰皿で揉み消す。
時計の針は間も無く長針と短針が垂直に並ぼうとしている、放送を滞りなく行うのが彼の仕事であり、そして楽しみでもあった。

「もう三回目の放送か、わかってるけど楽しい時間が過ぎるのは早いものだね。随分煙たくなっちゃったけど有希君は平気かい?」

軽い調子の声が部屋の片隅に向けられる、そこには木製の勉強机を構えた長門が座っていた。
ヤニとタールの臭いに燻される中彼女が何を考えているのかは解らない、その視線は机のパソコンに向けられたまま微動だにしない。

「……問題ない」

気遣いなど無用とばかりにカチカチとキーボードが叩かれる、これが彼女の返答。
平然と、静かに、感情を表に出さないまま正確にやるべき事をこなす。
それが―――長門有希という存在である。

「それじゃあ始めよう、ここまで生き残った運のいい人達に僕らの声を届けなきゃね」

どんな顔してくれるのか楽しみだよ、とタツヲは灰皿の横に置いてあったマイクを手にとった。
まるで子供の様に本当に楽しそうな表情でスイッチをONにする。

これで島の隅々、あらゆる場所に放送が届く、その仕掛けは電磁気的なものか魔法その他の力が働いているのかは一切が不明。
時計の針が18時に差し掛かった瞬間に男は勢い良く喋りだした。

279 第三回放送 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/17(水) 01:46:30 ID:BWzY8uBA

               ※       



『全員聞こえているかな? まずは君達におめでとうと言ってあげるよ。
辛く厳しい戦いを乗り越えてここまで生き残っているなんて、それだけで褒められるものだしね。

だからといって油断しちゃ駄目だよ? 友達が出来た人も多いみたいだけどその人は隙を伺ってるだけかもしれないんだからね。
できれば堂々と戦って死んでくれる方がいいなあ。
あ、これはあくまで僕の好みの話だよ? 油断させて仲間を裏切るのは賢い方法だし大いに結構さ。

さて、皆が気になる禁止エリアを発表するよ。九箇所にもなるとさすがに危ないから聞き逃さないようにね。
暗くなってきたけどしっかりメモしておく事を薦めるよ。


午後19:00からF-5
午後21:00からD-3
午後23:00からE-6


覚えてくれたかな? 近い人は危ない場所に入り込まないようによく考えて行動すべきだよ。
そんな死に方も僕にとっては面白くないからね。

次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
会いたい人には早く会っておけば良かったのに―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?


朝比奈みくる
加持リョウジ
草壁サツキ
小泉太湖
佐倉ゲンキ
碇シンジ
ラドック=ランザード
ナーガ
惣流・アスカ・ラングレー
キョンの妹


以上十名だ、いやあ素晴らしい!
前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だって自分の家で寝たいよね?

280 第三回放送 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/17(水) 01:47:26 ID:BWzY8uBA

ただ―――残念なお知らせというか、改めて君達に肝に銘じてほしい事がある。
最初の説明で言ったよね? 僕達に逆らっちゃいけないってさ。

わかる人にはわかると思うけど僕達は何度か会場に出向いているんだ。
理由は色々だけどそういう時は黙って見ていてくれないかな、襲い掛かってくるなんてもっての他だよ。

さっき呼ばれた人の中にはね、反抗した末に命を落とした人がいるんだよ。
僕だって不本意だったけどどうしても態度を改めてくれなかったんでこの有様という訳さ。
普段の生活でも困るよね、そんな人。

念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう? 
愚かな犠牲者が続かない事を切に願うよ。

話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』



               ※       



マイクのスイッチをOFFにするとタツヲはうーんと身体を伸ばした。
その表情は一つの仕事をやり遂げただけあって爽やかだ、殺し合いが加速した事実も彼を喜ばせている一因だろう。

「三度目ともなると結構自信が出るものだね、これが板についてきたという事かな?」
「恐らくそう、貴方は十分アナウンサーとしてやっていける」

嬉々としてマイクを片付けるタツヲを長門は冷静に評した。
棒読みでも無い、一言もどもる事ない正確な喋り、声だけでもクッキリとした輪郭のあるキャラクター、素質としては及第点だ。
リスナーの好感度が低いのが玉に傷だが彼は立派に仕事を務めていると言えるだろう。

「嬉しい事を言ってくれるじゃないか、何だか殺し合いが長く続けばいいと思えてきたよ。放送がもっと楽しめるからね」

本気では無いだろうがタツヲはそんな軽口を叩く。
そしてガラリとふすまを開けると用意されていたものに目を輝かせた。

「おーっ! もう届いてるなんて気が利くねえ、有希君は何を頼んだんだい?」

出前のおかもちをちゃぶ台に乗せて早速タツヲは中身を改めた。
中には丼が二つ、ラップを掛けられた表面は湯気で曇ってよく見えない。

長門は無言で自分の分を引き寄せる、しかし丼のサイズが明らかに大きい気がするのは気のせいだろうか?
タツヲの丼と比べると大人と子供程も違う、もちろん大人が長門でタツヲが子供だ。

「僕はカツ丼だよ、美味しいし”勝つ”なんて本当に縁起がいい食べ物だ。有希君は……ラーメンかい?」
「……ニンニクラーメン特盛、チャーシュー増量」

それだけを言うと長門はパチンと割り箸を割った。
いただきますと言うべきだよ、というタツヲに遠慮せずおかもちから取り出した小さめの器にラーメンを移す。

281 第三回放送 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/17(水) 01:48:09 ID:BWzY8uBA

「これ……貴方の分」

長門が招いたのだろう、何時の間にか中トトロがちゃぶ台の足元に座っていた。
おずおずと器を受け取って長門とタツヲの顔を交互に見比べている。

「ふうん、気が利くんだねぇ。中トトロ君は何度も働いてくれたんだから考えたらそのくらいしてあげて当然だよね」

タツヲが微笑ましく見守る中、中トトロは受け取った割り箸を器用に動かして食べ始めた。
それを確認して長門も麺を掬って食べ始める。

「僕からも中トトロ君へのねぎらいだ、カツ丼のグリーンピースをプレゼントしよう」
(ふるふる、僕は好きじゃない)

微かに中トトロが首を振った気がしたがタツヲは構わずグリーンピースを何粒か器に投入する。
これが旨いんだよと言いたげな彼の目線に押されて中トトロも我慢して食べざるを得なかった

「……ごちそうさま」
(えっ!? な、なんて早さだ!)

男と獣の微笑ましいやりとりの間に少女は全てを食べ終えていた。
明らかにオーバーサイズのラーメンがスープも底に残さず消えうせた事に中トトロは目を丸くして驚いた。

「いけないなあ、食事はゆっくりと楽しんだ方がいいよ有希君」
「……今は時間が大事」

まだ半分を残してるタツヲを尻目に長門はさっさとおかもちに丼を片付けてパソコンに戻ってしまった。
やれやれと言いながらタツヲは中トトロと共に食事の続きに取り掛かる。

(ノーヴェからもらったおにぎりの方が美味しかったな。口になんて出せないけど)

もぐもぐと口を動かしながら中トトロは残してきた少女の事を思う。
―――ちくり、と胸が痛んだ。

ノーヴェが自分よりも悪魔将軍を選ぶ事は予想しなかった訳でもない、だからといってショックが軽くなる訳でもない事を中トトロは実感した。
抱かれていた時の温もりを思い出す、彼女は本当に自分を想ってくれていた。

ところが将軍の命令はその上にあった、いや古泉という少年の為でもあった。
早い話が中トトロの位置は将軍や古泉の下でしかないと否応なく実感させられたのだ。

(ノーヴェは悪くない、この人達の手先になっている僕が狙われるのは当然なんだから……)

胸の痛みを忘れようと中トトロは口を盛んに動かした。
グリーンピースの青臭い味が口一杯広がる、何も考えずにガツガツと麺とスープを咀嚼する。
食欲旺盛だね、と笑みを浮かべるタツヲの横で中トトロは黙って食べ続けた。



―――何故か、最初に食べた時よりも塩辛かった。

282 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/17(水) 01:49:24 ID:BWzY8uBA
以上で放送案の投下終了です。
問題点ありましたらご指摘ください。

283 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:13:20 ID:7JgOXQ1g
「走る二等兵・待つ獣神将」の修正版を投下します。

284 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:14:01 ID:7JgOXQ1g
 ここは島のほぼ中央にある神社(F−5)。
 タママとギュオーの2人はウォーズマンと合流するために早々とここに到着していた。

「……モールで見た連中は今言った5人ですぅ」
「むう……そうか。その銀色の巨人がその一団のボスかもしれんな」
「たぶんそうですぅ。あいつどう見てもまともな雰囲気じゃなかったですぅ」

 到着したはいいが、一向にウォーズマンが現れる様子はない。
 それでギュオーはタママがモールで目撃したという5人の参加者について聞いていたのだ。
 2人は彼らの名前を知らないが、それは悪魔将軍率いる一党と彼らに捕まった2人。

 銀色の巨人・悪魔将軍。
 黒い鎧(ガイバーⅢ)の男・古泉一樹。
 青いボディスーツを着た赤い髪の少女・ノーヴェ。
 悪魔将軍にヘッドロックされて連行されていった、背中に巨大な手がついたホッケーマスクの怪人・オメガマン。
 気絶して黒いガイバーに背負われていた、頭にトサカのついたマッチョ男・キン肉万太郎。

 それがタママが目撃した5人である。
 ただし、彼らの名前はここにいる2人にはまだほとんどわかっていない。

「ギュギュッチはあいつらの事知ってるですかぁ?」
「うーむ。その赤い髪の女というのは会ったことがあるな。
 間違いでなければノーヴェという参加者のはずだ」
「う〜ん。そいつ、悪いヤツだったですかぁ?」
「うむ。そいつも私を襲ってきた危険人物だな。
 仲間がいたのならおそらく徒党を組んでいるのだろう。迂闊に手は出さない方がいい」
「そうですねぇ。ボクもそう思って声はかけなかったですぅ」

 実際はギュオーがノーヴェを襲ったのだが、タママは少なくとも表面上は気付いていないように見えた。
 しかし、黒い鎧というのが気になる所だ。
 タママの説明を聞く限り、特徴はガイバーⅢそのものだ。
 だが、ガイバーⅢはノーヴェが殖装者になったのではなかったのか。
 あるいは、ノーヴェが殖装していたユニットは新たな別のユニットなのか。
 そう言えばノーヴェのガイバーは色が少し違っていた気もするが。
 あとは、最初に会った時は一緒にいたゼクトールが居ないのが少し疑問だが、2人の目的が違ったのかもしれない。
 一度別れたが、後で合流するという可能性もある。

「しかし、すでにそれだけの人数を集めている危険人物がいるとなると、こちらも戦力を集めねばな」
「クロエがあのスバルっていうでっかいのを連れてくるかもしれないですぅ。
 いつまでもでっかいまんまじゃあ無いとは思いますけどぉ」
「確か、人間を巨大化する発明品があると言っていたな。本当にそんなものが?」

 ギュオーの質問を受けて、タママはめんどくさそうにクルルの発明品について説明する。

285 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:14:32 ID:7JgOXQ1g
「クルル先輩の作るものは確かにすごいんですけど、大抵使うとろくな事にならないですぅ。
 合体巨大ロボットとかはいいですけど、若返らせたり、大人にしたり、性格を逆にしちゃったり。
 動物や機械をペコポン人に変えちゃったり、他人の心の中に入り込んだり。
 周りが真っ暗になったり、時間が遅くなったり。
 履いたら踊り出しちゃう靴とか、人の足の小指に自分からぶつかっていくタンスとかもあったですねえ。
 サブローって人が持ってた書いたものが実体化する実体化ペンも黄色先輩があげたみたいですぅ」
「お、恐ろしいテクノロジーだな……いろんな意味で」

 ケロン軍脅威のテクノロジーについて教えられたギュオーは驚愕するばかりであった。
 タママによると、ワープやテレポートのような技術も彼らにとってはさほど珍しいものではないらしい。
 クルル曹長に作れないものはケロボールとタイムマシンぐらいのものだという話だ。
 ケロボールというのはケロン軍の隊長が持つ万能兵器で、それ1つで地球を制圧できるほどの力があるそうだ。
 一小隊の隊長にそんなものを与えている宇宙の侵略者ケロン軍。すさまじい強敵である。
 ただ、それでも地球を侵略できずにいるというケロロ小隊のやる気のなさも相当なものだが。

「タママ君がそんなに科学の進んだ世界の住人なら、この首輪もどうにかできないか?」
「そんなの無理ですぅ。
 クルル先輩なら道具さえあれば分析して外すと思いますけど、ボクはそんなに機械に詳しくないですから。
 それより、ボクの事ばっかり聞いてないでギュギュッチの方も話して欲しいですぅ。
 博物館には何か面白いものとかなかったですか?」
「博物館には全部で10個の展示があったな。どうやら我々参加者の出身世界についての展示らしい。
 犯人捜しをしていてあまり詳しくは見ていないが……」
「具体的にどんな展示があったですか?」

 そう尋ねるタママに、ギュオーは大まかに10個の展示のおおざっぱな説明をする。

「ふぅ〜ん。なんだかペコポンのアニメとかマンガとかに出てきそうな世界が多いみたいですねぇ。
 まあ、その話は役に立ちそうにないからもういいですぅ。
 それよりギュギュッチの事を聞いておきたいですぅ。
 ギュギュッチは何で変身なんかできるんですか? 変な支給品でも手に入れたですか?」

 その問いに対して、ギュオーはウォーズマンにしたのと同じような説明をする。
 つまり、自分はクロノスに改造された被害者であり、クロノスから逃げ出した逃亡者であると説明したのだ。
 そして、ギュオーは念のため降臨者(ウラヌス)についても説明し、タママに意見を求めてみる。

286 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:15:19 ID:7JgOXQ1g
「ペコポン人が誕生する遙か以前からペコポンの生物の進化を操作してた宇宙人なんて知らないですぅ。
 あの腹の立つ女は500年前ぐらいにペコポンに来たらしいですし、
 他にも大昔にペコポンにやって来た宇宙人は居ると思うですけどぉ……」

 「あの腹の立つ女」というのはわからないが、たぶん500年以上生きている宇宙人の知り合いが居るのだろう。
 それよりも、タママたちはやはり降臨者とは無関係と確認し、ギュオーは1人頷いて納得する。




 だがその時、何気なく窓の外を見たギュオーの目に気になるものが飛び込んできた。

「煙……か? ここからではよく見えんが」
「煙って、どこですかぁ?」

 ギュオーの言葉を聞いてタママも窓の外を見るが、身長が低すぎてよく見えない。

「見えないですけど、どっかでたき火でもしてるんですかねぇ?」
「気になるな。何か見えるかもしれん。外に出てみるか」

 そう言ったギュオーにタママも同意し、2人は一緒に神社を出て煙の出所を探す。

「どうやら北の方で大きく何かが燃えているようだが……
 火事のようだな。これはかなり燃えているかもしれんぞ」
「北って事は……軍曹さんやサッキーやフッキーⅡがいる方ですぅ!」

 黒煙の上がっているのがケロロたちの居る方向だとわかり、タママが思わず叫ぶ。
 木々に阻まれて街の様子が見えるわけではないが、煙の上がっているのはほぼ真北。心持ち東よりだろうか。
 支給されているコンパスで確かめてみても間違いない。
 そこはまさしくケロロ達が居るはずの公民館のある方向だ。

「やべえ……やばいですうぅぅ!!
 メイちゃんを殺したヤツを探すのに夢中になってて、軍曹さん達を放っておいたから……
 ボクは……ボクはまた間違ってしまったというのですかああぁあぁぁ!!」
「タママ君。落ち着きたまえ。
 まだそのケロロ軍曹たちに何かがあったとは限らないではないか」

 ギュオーは目に見えて狼狽しているタママをなだめようと声をかけるが、タママの動揺は収まらない。

「うるさいですぅ!! てめーらがもたもたしてやがるから軍曹さんの所に戻るのが遅れたですう!!
 もし軍曹さん達に何かあったらどうすんだよこのクソ野郎ーーーっ!!
 こんな事ならカジオーが死んだ後、すぐに北に向かっていれば……
 軍曹さんもサッキーもフッキーⅡも、たいした武器は持ってないし、もしかしたら、もしかしたら……!」

287 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:16:15 ID:7JgOXQ1g

 そう言っている間にも、煙は激しくなってゆくように見えた。
 何かの事故で火がついたのか、あるいは何者かが火をつけたのであろうか。

「やはりこれは大きな火事になるかもしれんな……」
「落ち着いてる場合じゃねーですぅ!!
 こうしちゃいられないです! ギュギュッチ! 今すぐ街に向かうですぅ!!」
「いや、しかしタママ君。我々はウォーズマンと合流せねばならん。
 危険人物が徒党を組んでいるんだ。我々も人数を集めねば……」

 ギュオーはあまり迂闊に危険に飛び込みたくはない事もあってそう答えた。
 それを聞いたタママは説得する時間も惜しいと言った様子で叫ぶ。

「ああーーーっ!! もういいですぅ!! ギュギュッチはここに残ってクロエを待ってて下さい!
 ボクは軍曹さんたちを助けに行くですぅ!!」
「お、おい。タママ君!」

 ギュオーが止めるのも聞かず、タママは自分のデイパックを担いで猛烈な勢いで北に向かって走り出す。
 北へ、北へ、北へ。

「軍曹さん! サッキー! フッキーⅡ!
 ボクが今すぐ行きますぅ! 待ってて下さいですぅ! 生きていて下さいですぅーーっ!!」

 行く手を阻む木々の間を縫うようにして、道なき道を黒い小さな影が走る。
 本来なら腹黒いその生物の心に今あるのはただ1つの思いだけ。
 3人を助ける。3人を守る。その事だけを願ってタママは走り続ける。







 タママが走り去ったあと、1人残されたギュオーは少し考えた後で小声でつぶやく。

「フッ。まあいい。兵隊が減るのは避けたかったが、あの様子では止められん。
 私を連れて行く事を早々に諦めてくれただけでもよしとするか」

288 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:16:53 ID:7JgOXQ1g

 そしてギュオーは周囲を確認してから来ていた赤いプラグスーツを脱ぎ、獣神変して空に浮かび上がる。
 そして周囲の木々の高さと同じぐらいの高さまで上がると停止し、北の様子を観察する。

「うーむ。やはり大きな火事になっているようだな。
 ここからでは遠すぎて詳しい事はわからんが、それだけは間違いなさそうだ。
 そう簡単にここまで燃え広がっては来ないだろうが……
 風向きによってはわからんかもしれんな。消火活動をする者もおらんのだろうし」

 あまり長くこうしていれば誰かに発見されてしまう。
 ギュオーは上がってから10秒ほどで下に降り、獣神変を解いて今度は博物館で手に入れたネルフの制服に着替える。

「まあ、当分は大丈夫と見ていいだろう。
 それよりもせっかく1人の時間ができたのだ。この機会を存分に利用させてもらおうか」

 ギュオーはそれからすぐに神社の中に戻り、参加者詳細名簿を取り出して、ぱらぱらとめくり始める。
 いろいろと確認したい事があったのだが、これまではタママの目があってそれができなかったのだ。

 詳しく調べればメイを殺した男も見つかるかもしれないが、それは時間がかかりそうなので後に回す。
 だが、ホリィという少女を殺した紫の髪の男は名簿の目次の小さい顔写真からすぐに発見できた。

「名前はゼロスか。どうやらリナ=インバースと同じ世界の出身らしいな。魔族? 異種族か。
 いや、もっとおぞましい悪魔のような生き物のようだな。常に笑顔だが冷酷で残忍。
 外見も印象もウォーズマンの話と一致する。
 精神世界に本体がある、だと……? そんな生物に物理攻撃が通用するのか?
 一応制限を受けてはいるようだから大丈夫だとは思うが……
 魔王の腹心直属の部下か。よくはわからんが、とてつもない強さのようだな。
 本来はリナ=インバースなどよりも桁違いに強いようだ。
 それなのに人間相手に本気で戦えないとは、魔族とは不自由な存在だな。
 いずれにせよ、もし見つけても迂闊に戦うべき相手ではないか」

 次にタママが見たという銀色の巨人の事を調べてみる。
 銀色のマスクで顔を覆った人物を試しに調べてみると、たぶんその人物に間違いなさそうだった。

「悪魔将軍。悪魔超人、悪魔騎士たちを束ねる首領か。なるほど、名前の通り悪魔の将軍というわけだ。
 ウォーズマンたち正義超人とは敵同士か。ウォーズマンも悪魔将軍は敵だと言っていた気がするな。
 こいつも要注意人物に違いないだろう。
 遠距離から攻撃すれば反撃は来ないかもしれんが、これほどの相手ともなると一撃で倒せるとも思えんな。
 接近戦に持ち込まれて痛い目を見ないとも限らん。
 戦う時はこちらもタダでは済まぬ事を覚悟してかからねばな」

289 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:17:32 ID:7JgOXQ1g

 そして次々にギュオーはページをめくり、気になる参加者の情報をチェックしていく。
 幸いにして、ウォーズマンも他の参加者も神社には現れなかった。
 気をよくして名簿を読むついでに食事も済ませてしまうギュオーであった。
 幸い加持のデイパックには水も残されていたので、ビールの空き缶に入れた水も飲まなくて済む。
 ギュオーは支給された高級幕の内弁当をゆっくり味わいつつ、詳細名簿を読み進めて行った。





 その後、ギュオーは一通りチェックを終えた詳細名簿を再びめくりながら各参加者の情報を整理していく。

 草壁メイを殺したのは外見特徴やその性格などからして雨蜘蛛という男である可能性が高い。
 まあ、ギュオー自身は別にそいつをどうこうしたいわけではないが、味方にならない参加者が減るのは悪くない。
 しかし、ウォーズマンにその名前を教える事はできないので、この情報にはたいした価値はない。

 また、タママが目撃した悪魔将軍と一緒にいた連中の正体もほぼ確定できた。
 ただし、ガイバーⅢとマッチョ男についてはわからない。
 マッチョ男はキン肉万太郎とキン肉スグルのどちらかである事はわかったが、ガイバーⅢはさっぱりだ。
 しかし、ガイバーである以上強敵である事に違いはあるまい。
 状況から見てオメガマンは協力者ではなさそうだが、マッチョ男がどちら側かはわからない。
 キン肉一族は正義の味方のようだから、悪魔将軍と手を組む可能性は低いのだろうが……

 なんにせよ、この一団と出会ってしまったらウォーズマンと合流しても分が悪いかもしれない。
 実にやっかいな連中だ。

 他に気になった参加者は2人。
 まずは朝倉涼子という参加者だ。
 ウォーズマンはそんな事は言っていなかったが、どうやらこいつは人間ではない。
 情報統合思念体のヒューマノイド型インターフェースと書いてある。人造生命のようなものか?
 しかも、長門有希のバックアップをしていたと書いてある。
 どうやら長門と対立して敗れたようだが、それならば重要な情報を握っている可能性が高い。

「あるいは、この名簿の内容も嘘でこの女が主催者の手下である可能性もある。
 いずれにしても情報を握っている可能性は高いが……
 もし名簿に嘘があるとなるとやっかいな事になる。そうは考えたくない所だな。
 とにかく、会う事があれば情報を引き出す努力はしてみなければなるまい。
 首輪についても何か知っているかもしれんからな」

290 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:18:05 ID:7JgOXQ1g

 気になるもう1人の参加者は冬月コウゾウ。
 タママが気にしていた人物の1人だが、元大学教授であったと書かれている。
 専門分野は形而上生物学という聞いた事のない学問だが、多少は頭の切れる人物だという期待は持てる。
 もぐりの医者をしていた事もあるという事なので、そっち方面でも多少は使えるかもしれない。
 できれば首輪解除のために精密機械分野に精通した人間が欲しかったが、居ないものは仕方がない。
 今のところは、この男が一番期待できそうだとギュオーは判断した。

 他の参加者は大まかに言って5種類に分けられる。

 1つ目は、悪魔将軍やゼロス、ナーガなどの強くて暴力や殺人を好む危険人物。
 彼らは状況に応じて協力関係になってもいいが、できれば早めにつぶし合ってもらいたい存在である。
 戦って負けるつもりはないが、苦戦してダメージを受けた所を誰かに狙われたら危険だ。

 2つ目は、なのは、スバル、正義超人などの、言うなれば『正義の味方』だ。
 こいつらは高い戦闘能力がありながら、罪のない者を傷つけないので、騙して利用するには最適である。
 ただ、ウォーズマンのようにいつでも上手く騙せるとは限らず、失敗した時は面倒な事にもなりかねない。
 さっさと危険人物にぶつけるか、毒でまとめて始末したい連中だ。

 3つ目は、リナ=インバースや朝倉のように、一定以上の戦闘能力があり、なおかつ中立的な存在だ。
 こいつらは特に殺しを好むわけでもなく、かといって禁忌としているわけでもないと予想される。
 正義の味方どものように甘くはないし、おそらく用心深く、簡単に騙せる相手ではないだろう。
 まあ、リナ=インバースに至ってはすでに敵対しているのだが。
 水野灌太や雨蜘蛛なども殺し合いに積極的に乗っていなければこちらかもしれない。
 こいつらへの対処はなかなか難しい所だ。個別に考えていくしかあるまい。

 4つ目は、戦闘能力はないが戦闘以外の利用価値のある人物。
 冬月コウゾウや未来人であるという朝比奈みくるなどはこれに相当する。
 彼らからは色々と聞いておきたい事がある。
 戦力にはならんだろうが、できれば殺される前に接触しておきたい。
 こいつらの強さはギュオーと比べれば問題外のレベルである。
 協力を拒むようなら拷問でもしてやればいいだろう。

 5つ目は、戦闘でもそれ以外でも特別の利用価値をほとんど見いだせない連中だ。
 価値があるとすれば、人質や首輪の実験台といった所か。
 まあ、ガイバーのような支給品があるのだから、支給品によって戦えるようになっているかもしれないが。
 殺せるチャンスがあれば殺してしまってもいいが、ウォーズマンなどと一緒に行動しているとそれも難しいか。
 正義の味方どもはそのグループに潜り込んで毒殺するには向いているが、そういう点で余計なリスクも大きい。
 現に今もウォーズマンは人助けに行っていてここには居ない。
 まあ、スバルという参加者は戦力になりそうなので、連れてきてくれるならそれもいいかもしれないが。

291 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:18:49 ID:7JgOXQ1g

「あと、気になるのは参戦時期という記述か。
 アプトムはバルカスが再調整を施す前から。ゼクトールは私がアルカンフェルに敗れてからずっと後から。
 これはどういう事なのだ? 主催者どもは別の時間から我々を連れてきたというのか?」

 もしそうだとするならば、あのガイバーⅢのユニットも巻島顎人が殖装する前から持ってきたのか。
 いや、そんな事より主催者は我々の世界の好きな時間に移動できるという事なのか。
 驚異的なテクノロジーを持つケロン人のクルルという男もタイムマシンは作れないという話だが……

「ふっ。そんな事を考えても仕方がないか。
 この詳細名簿に嘘が無いのならこれは現実なのだ。そのまま受け入れるしかあるまい。
 主催者どもを倒し、その力を手にする事が私の目標。
 ならば手に入る力が予想より大きかった。それだけの話だ」




 ギュオーはそうつぶやいて詳細名簿を閉じ、自分のデイパックにしまい込む。

 ふと、外が気になって試しに神社の外に出てみると、北の方では広範囲から激しい煙が上がっていた。
 市街地はかなり大規模な火事になっているようだ。
 タママはまだ走っているだろうか?
 あんな火事のまっただ中に飛び込んで無事で済むとも思えないが。
 とは言え、ウォーズマンがここに来れば自分も向かおうとするかもしれない。
 そうなったらさすがに放っておくわけにも行くまい。
 悪魔将軍率いる一団の事を考えると、ここまで来て単独行動というのも得策とは思えない。

「しかし、これだけゆっくりしていたというのにウォーズマンめ、いつになったら現れるのだ。
 夕方の放送までは待ってもいいが、いいかげんやる事も無くなって来たぞ?」

 さすがに待ちくたびれてきたギュオーはそうぼやきながらまた神社の中に戻る。
 外で待っていてもいいが、あまりウロウロしていて危険人物に見つかるのも馬鹿らしいからだ。

「首輪の分解でもしてみるか?
 いや、いつウォーズマンが来るかもわからん以上、それはさすがに油断しすぎというものか。
 しょうがない。もうしばらくあの名簿でも読んで待つとしよう。
 まだ何か見落としがあるかもしれんしな」

292 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:19:29 ID:7JgOXQ1g

 そう言ってギュオーは再びデイパックから詳細名簿を取り出して読み始めた。
 だが、ギュオーが何回読み直しても思い出さなかった事がひとつだけあった。
 それは、名簿を破り捨てたドロロの事である。
 名簿の目次の写真を見れば名前を思い出せたのだが、何故だかすっかりその事を失念していたのだ。
 これもすべてはドロロの存在感の薄さのなせる技であろうか。


 待ちぼうけのギュオーの元にウォーズマンが現れるのはいつになるのだろう?
 そして、その時ウォーズマンはどんなものを持ってくるのだろう?
 役に立つ戦力か、はたまたやっかいの種か?

 それがわかるのはもう少し後の事になりそうだ。




【F-5/神社/一日目・夕方】


【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】 全身打撲、中ダメージ、回復中
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、首輪(草壁メイ) 首輪(加持リョウジ)、E:アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、
     ガイバーの指3本、空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリオン、
     毒入りカプセル×4@現実、博物館のパンフ
     ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー
【思考】
1:優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2:詳細名簿を読みながら神社でウォーズマンを待つ。
3:自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
4:首輪を解除できる参加者を探す。
5:ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
6:タママを気に入っているが、時が来れば殺す。


※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分が破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の「加持リョウジ」に関するページは破り取られていてありません。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています。

293 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:20:30 ID:7JgOXQ1g







「ハア……ハア……今すぐ……ハア……ハア……行くですぅ!」

 息を切らせながらそうつぶやいてタママは森の中を走っていた。
 道もない山の中を走っているにしてはその速さは相当なもので、すでに街までの距離は半分まで縮まっていた。
 しかし、前方・北の市街地の方向を見上げると、火事のものと思われる煙はかなり広範囲に広がりつつあるようだ。
 このまま真っ直ぐ向かっても火事に阻まれて市街地には入れないかもしれない。

 だが、タママは何としてでもケロロやサツキや冬月の下に駆けつけたかった。
 もしも3人に何かあったらと思うと気が気ではない。
 いや、ぶっちゃけ冬月はそれほどでもないのだが、彼もそれなりに信用のおける仲間には違いない。
 だから1人も死なせたくない。それがタママの思いだった。

(ボクが早く街に戻っていたら軍曹さんやサッキーを守れたのに)

(ボクが余計な事をしていたせいで2人……とついでにフッキーⅡに何かあったらボクはどうしたらいいですか?)

(もしも……もしも3人が襲われて死んじゃってたりしたら……)

(そいつは……その犯人だけは死んでも許さねぇですぅうううぅ!!)

(あああぁああぁぁあ!!! ちくしょう! ちくしょう! ちくしょおおおおおーーー!!)



 まだ見ぬ襲撃者への殺意で目を血走らせながら、タママは走り続けた。
 そして、走りに走って、ついに燃えさかる森の前までたどり着いたのである。
 地図で言えば、そこはC−6とD−6の境界線付近である。

「くそおおっ! これじゃあ軍曹さんの所に行けないですうぅ!
 どこにいるですかあああーーー! 軍曹さあーーーん! サッキーーーー! フッキーーーー!」

294 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:21:28 ID:7JgOXQ1g

 力の限り叫べども答えはない。そもそも公民館まではまだ1エリアほどもあるのだ。
 ここで叫んだとて声が届くはずはない。

 ここまで走り続けてきたせいで荒くなった息を整えながら、タママは必死に考える。

(ぼーっとしてる暇はないですぅ。ここは火事を避けて遠回りしていくしか道はないですぅ)

 しかし、西か、東か、どっちに向かえばいいだろう?
 タママはデイパックから地図を取り出して考える。

 3人が火事を避けて北の海の方へ逃げたのなら少なくとも火事から逃げ延びる確率は高い。
 危険な参加者に見つかる可能性はあるが、それはそうならない事を祈るほかないのだ。
 西と東を比べた場合、西は施設が多く、東は少ない。
 ケロロたちが向かうならどっちだろう?

(いや、軍曹さんたちがどっちに向かったかなんてここで考えてる暇はないですぅ)

(ここはとにかく急ぐべき所ですぅ。よし、東に決めるですぅ!)

(なんとなく火事の燃え方が東の方が小さい気がするし、距離が短くて済むような気がするですぅ!)

 ほとんど勘だけに頼った判断だったが、一旦そう決めればタママの行動は早い。
 さっさと地図をデイパックにしまって燃える木々に沿うようにして東へと走り出す。
 少しの間立ち止まっていたとは言え、走り続けてきたタママの疲労はかなりのものだ。
 息も苦しいし、火事の側にいるため温度も高く暑苦しい。

 だが、タママの意志は、執念は、それをものともせずに払いのけ、体を動かしていた。
 東へ、東へ、一刻も早く火事を避けて市街地へ。

(軍曹さん、サッキー、フッキー。もうちょっとです。もうちょっとだけ、待ってて下さいですぅ……!!)

295 走る二等兵・待つ獣神将 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:22:11 ID:7JgOXQ1g

 必死の思いで走り続けるタママ。
 タママがこうして走っている間にも事態は大きく変化し、たどり着く頃には全てが終わっているかもしれない。
 それでも、ただひたすら走り続ける。
 それだけがタママに今できる事だった。





【C-6/森林地帯/一日目・夕方】


【タママ二等兵@ケロロ軍曹】
【状態】 疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷
【持ち物】ディパック、基本セット、グロック26(残弾0/11)と予備マガジン2つ@現実
【思考】
0.軍曹さん、サッキーを守り、ゲームを止める。妨害者は排除。
1.東回りで火事を避けて市街地に向かい、ケロロたちを探す。
2.ギュオーやウォーズマンの事は後回し。
3.草壁メイの仇を探し出し、殺す。
4.次にアスカに会ったら絶対に逃がさない。
5.ウォーズマン、ギュオーに一目置く。
6.ギュオーを気に入っているが、警戒は怠らない



※色々あってドロロの存在をすっかり忘れています(色々なくても忘れたかもしれません)。
※加持がサツキから盗んだものをグロック26だと思っています。

296 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/19(金) 21:25:02 ID:7JgOXQ1g
以上でした。

本スレで言った通り、ギュオーたちが音ではなく煙を見て火事に気付くようにしたのと、
アプトムをギュオーが目撃していたのを無かった事に修正しました。
あとは悪魔将軍一行についてギュオーが名前を確認している所を加えた程度です。

297 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/06/20(土) 12:32:15 ID:7JgOXQ1g
今さら誤字発見……
>>288の1行目、
>そしてギュオーは周囲を確認してから来ていた赤いプラグスーツを脱ぎ、獣神変して空に浮かび上がる。
「来ていた」じゃなくて「着ていた」でした。

298 ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:00:58 ID:YrRABrO.
これより投下を開始します。

299 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:02:31 ID:YrRABrO.


『スバル! 山の向こうで物凄い煙りが上がってるですぅ!!』

空から偵察していたリインフォースが降りてきた、慌てたような報告が彼女の第一声だった。

日が落ちて夜の闇に包まれ始めたG‐5の森の中にいた蒼き髪の少女・スバル、黒きロボ超人・ウォーズマン、0号ガイバー・キョンに緊張が走る。


「山の向こうは市街地・・・・・・まさか!」

スバルは焦燥する。
記憶が正しければ、山の向こう−−島の北側は市街地。
そこには上官・高町なのはが実の娘のように大切に保護していた少女・ヴィヴィオがいる可能性がある。
正確な位置は小・中学校だが、ヴィヴィオがそこから動かないとも、危害が及ばないとも考えにくい。
そうでなくとも、市街地には火災が発生するほどの騒乱が発生しているのである。
今、こうしている内にも誰かが犠牲になっているかも知れないのだ。
それは正義感の強いスバルを焦らせるには十分な要素だ。


一方のキョンは、スバルとは違う理由で焦っていた。

(オイオイ!
まさか、学校まで燃えてねえだろうな!?
・・・・・・もしハルヒの死体が燃えちまったらどうなるんだ?)

彼にとって、他の参加者−−あえて言うなら仲間である古泉以外は火事で死のうが構わない。
殺すべきライバルが減って、後が楽になる。
ところが、自らの手で殺してしまったハルヒの遺体については別だ。
彼女の死体が燃えて消失してしまった場合、生き返せなくなってしまうかもしれない気がするのだ。
・・・・・・そんな気がするだけなのだが、先程、顔を合わせた主催者タツヲの『優勝しても全員生き返すのは無理だね』という言葉が頭に引っかかているのだ。
まだ優勝する気が無くなったわけではないが、本人の気づいていない内に主催者二人への疑心は微かに生まれている。
頭によぎる可能性の一つに「死体が燃えたら生き返せないのでは?」と、彼の心には確実に揺らぎが生まれていた。


最後の一人のウォーズマンは、まったく動じていなかった。
それはリインフォースの報告に何の感慨も抱いていなかったわけではなく、むしろ彼の熱い魂は、被害が少しでも減らせるように速く市街地へ向かいたかった。
だが、焦るわけにはいかない。
彼は衰えを見せぬ身体に反し、少なく見積もっても40か50以上は年齢を重ねている。

300 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:03:50 ID:YrRABrO.
その分だけ戦う者としての経験も長く、貫禄も備えている。
これが数十年前のウォーズマンならわからないが、ケビンマスクのセコンドを勤めるように、自分がどうやって動けば良いかも、若者をどうやって引っ張っていけば良いかもわかる気がした。
故にこの場にいる誰よりも、冷静でいられた。

「落ち着くんだスバル、リィン、・・・・・・キョンもだ」
「ウォーズマンさん・・・・・・」
「・・・・・・」

ウォーズマンの言葉に、焦燥を感じているスバルとキョンに冷静さを思い出させる。
キョンに至っては、遠回しに焦りを指摘されたのが面白くなかったのか、無言でそっぽを向いたが・・・・・・
それはとやかくとして、ウォーズマンは二人に指示を出す。

「まずはこれから、この先にある神社に向かい、タママたちと合流する。
彼らと合流ができ次第、市街地へ向かうぞ」

まだ、ゼロスや悪魔将軍のような強敵が生き残っている可能性は十分にある。
被害を減らすためには、戦力は多い方が良いだろう。
オーバーワークのスバルや、目を離していると殺しあいに乗る可能性があるキョンへの監視のためにも、最低限タママとは合流したかった。
だが、その合流についての懸念材料はあり、ウォーズマンは考える。

(ギュオーが殺し合いに乗った危険人物でなければ良いがな)

ギュオーがクロだった場合は、タママの安全のためにもギュオーから引き離す必要がある。
できれば、被害を出さないためにも、殺し合いに乗ってる者は早々に叩いて起きたい。
しかし、前述の通り、こちらには消耗しているスバルと、まだ信用仕切れないキョンがいるので、無理に戦うのも良くないとも思っている。
だが、正義超人として、そこに悪があるなら見逃したくはない信念がある。
逆にギュオーがシロだった場合は、疑う事自体が杞憂で終わることができる。
ウォーズマンは、どちらかと言えばギュオーをまだ信じている。
仲間だと思っていられるからこそ信じていたいのだ。

301 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:05:25 ID:YrRABrO.
(とにもかくにも、殺し合いに乗っているかいないかを見極めるためにも、ギュオーは今一度きっちり問い詰める必要がある。
そうすれば、俺が彼に感じていた違和感もすっきりするハズだ。
もし殺し合いに乗っていたとしたら・・・・・・タママ、無事でいてくれ)

考えを整理し、まだ薄いがギュオーへの疑惑を持ちつつ、仲間の無事を祈るウォーズマン。

他の人間が話をしている傍で、キョンは一人、ただ黙って考え事をしていた。
考え事とはもちろん、どうやってギュオーに取り入るかである。

(どうやってギュオーを味方につけるかな・・・・・・
賄賂でも送って「おぬしも悪よのう」と言われつつ取り入るのも・・・・・・
いや、今の俺は何にも持ってなかったんだな・・・・・・
気は進まないが、ナーガのおっさんの時のように下僕になるフリをするか?
そもそも、あのまっくろくろ男と一緒に行動している所からして、立ち回りは長門たちと戦おうとしている奴らの中に潜り込んで、油断した隙に後ろから襲いかかるタイプなのかも・・・・・・
その場合は俺もその方針に従って・・・・・・でも、もし、殺し合いに乗ってなかったらどうしよ・・・・・・)
『なーに、考えてるですか?』
「って、うわぁ!?」

一人、黙々と思考している最中に、妖精のように小さな人型デバイス・リインが、彼の眼前にいきなり現れた。
あまりに唐突だったので、キョンは思わず驚いてしまった。

リインもまた、スバルとウォーズマンの相談している横で、一人だけ何も喋らないキョンに不信を抱き、声をかけたのだった。

「な、なんだよ。
いきなり脅かしやがって」
『一つ、聞いて言いですか?
変な事は企んでませんでしょうね?』
「!」

図星を突かれ、ギョっとするキョン。
ガイバーの装甲を上に纏っていなかったら、その驚きの表情が顕になっていただろう。
それでもキョンは、首を横に降ってリインの疑いを否定する。

「いいや、何にも企んでおりません!」
『本当ですかぁ?』

尚も疑い続けるリイン。
というよりも、彼女の場合はキョンを最初から信頼していない様子である。

302 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:06:37 ID:YrRABrO.
おそらく、この場で誰よりもキョンを疑っているのは彼女だろう。
大きい胸の下に両腕を組み、宙に仁王立ちしながら睨みつつ、キョンに改めて警告をする。

『例え、あなたが後ろから私を含めた誰かを襲いかかろうとしても、残りの二人が襲いかかろうとするのを忘れないでください。
そしたら、あなたはすぐにボッコボコのギッタンギッタンですよ?』
「・・・・・・ハイハイ、肝に銘じておきますよ」

睨みつけてきてもあまり迫力がないリインに対して、キョンはそっけなく言葉を返す。
しかし、リインの脅しに臆したわけではないが、それとは別の事で焦りを感じていた。

(クソッ・・・・・・
コイツらといるとペースが狂ちっまう!)

そのペースとは、自分の企ての事か、自分自身の精神的なものか、はたまた両方か。
詳しくはわからないが、とにかくこの三人といる限りは、いろんな調子が揺らいでしまうのをキョンは実感していた。

(ああ、とっととコイツらとオサラバしたい・・・・・・)

−−さもないと、狂いが生じて思うように動けなくなってしまう。
現状、スバルたちは殺意こそ持っていないが警戒はされ、隙も見せないため、迂闊に襲いかかろうとすれば返り討ちに合うのは目に見えている。
自由に動けるようになるのは、ギュオー次第と言ったところか。

(頼むぜ、ギュオーさんよ。
俺が思うような使える奴であってくれ。
ついでにコイツらから俺を解き放ってくれ、いやマジで)
『本当に何も企んでないんですよね?』
「しつこいぞ、アンタ」

また黙り込んだキョンに、リインは釘を刺す。
考え事すらゆっくりさせてくれないリインに、キョンの中にだんだんストレスが溜まっていく。

(いい加減、イライラしてきたぞ。
このチビおん・・・・・・な・・・・・・?)

ガイバーの装甲の下からリインを睨み返そうとした時、キョンは彼女の異変に気づく。
大きかった彼女が胸が風船のように萎んでいくのだ。
リインはそれに気づいている様子は全くない。
しかし、その奇怪でシュールな光景に、目撃者であるキョンは目を丸くせざるおえなかった。

−−放送が始まったのは、その珍事が起きたのとほぼ同時だった。



−−−−−−−−−−−

303 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:07:18 ID:YrRABrO.

場所は変わってG‐5にある神社。
その神社の境内に座りながら放送を聞いている赤いスーツを纏った男・ギュオー。
やがて、今回の放送が終わる。
その頃には参加者名簿には死亡した者たちの名前に線を引かれ、地図には新たな禁止エリアを示す×印が書かれていた。

「むぅ、どうしたものか・・・・・・」

参加者名簿と地図を広げているギュオーの顔は不満気だ。
自分の思うように事が進んでいかないのである。
まず、今回の死亡者について、10人も出たのに関わらず自分の死んで欲しい者が死んでくれなかった。
自分の命を狙ってきたゼクトール、互角以上の実力を見せつけてきたリナ・インバース、一度は対峙したノーヴェもだ。
アプトムについては、詳細名簿に書かれていた内容及び連れて来られた時間によれば利用価値がありそうなので、生きてても良い。
深町晶については、彼が所持するガイバーユニットを奪いたいため、自分の知らない所で死んでくれなくて良かったとも言える。
だが同時に、自分を知っている事と自分には及ばずながら高い戦闘力を持つ要素から、生きている限り障害になるのは明らかである。
ユニットは他にも支給されている可能性があるので、晶への生存優先度は以前よりは低めなものの、危険度は変わりない。
複雑な所である。

304 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:10:19 ID:YrRABrO.

さらに、詳細名簿と死亡者を照らし合わせて見る。
小泉太湖、碇シンジ、惣流=アスカ=ラングレー、キョンの妹、そして自分が殺した加持リョウジ。
この者たちはスパイだったり、過酷な砂漠で生きてきたのでサバイバル能力が高い、巨大な決戦兵器のパイロットである特異点を含めても、ただの人間に過ぎない。
首輪を分析できるような技術力も無さそうなので、生きていた所で邪魔になるだけで価値は無い。

次に佐倉ゲンキ、ナーガ、ラドック=ランザート。
戦闘力が高く、敵に回すと厄介な相手になっていただろう。
人間の子供である佐倉ゲンキすらワルモン(ギュオーはゾアノイドのような存在だと思っている)を相手に素手で渡り合える力の持ち主だ。
性質上、殺し合いに乗りそうもない佐倉ゲンキはともかく、後の二人は生きていれば参加者をもっと殺してくれただろうが・・・・・・
そこはポジティブに考えて、後の障害が減ったと見るべきだと、ギュオーは割り切った。

次に草壁サツキ。
主催者である草壁タツヲとの繋がりを持っていた少女。
妹の草壁メイが死に、この会場で草壁タツヲを知る最後の一人となり、主催者に関する貴重な情報を失ったかに思えた。
しかし、詳細名簿を読む限りでは姉妹共に極めて平凡な人間であり、そこから察するに草壁タツヲも元は平凡な人間なのだろう。
では、主催者として立つ草壁タツヲは何者なのか?

(おそらく、あの男自身に大した力はない。
自分の娘を殺し合いに参加させるほどの狂人か、洗脳されて操れてでもいるのだろう。
まぁ、そんな事は考えてもしょうがないが)

人の親は人。
ただの人である草壁姉妹の親が、人間でないハズがない。
ゾアノイドのように調整でも受けない限りは、人間は人間なのだ。
しかし、情報も少なく、ギュオーにとっては打破するべき相手に過ぎないので、草壁親子の事情についての考えは打ち切った。
もっとも、問題は草壁自身ではなく、草壁サツキの死によって招かれるかもしれない不祥事である。

「草壁サツキの死にタママが変な気を起こさねば良いが・・・・・・」

305 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:11:39 ID:YrRABrO.
先程、市街地が燃えているのを見ると血相を変えて神社から出ていったタママ。
タママの慌て具合からして、サツキをとても大事にしていたようだ。
そんな彼女の名前が放送で挙がった今、これを市街地の辺りで聞いているであろうタママは何を思っているのだろうか?
短絡的で頭に血が昇りやすい性格のタママが、暴走して自分に不都合な問題を引き起こさなければ良いが、とギュオーは祈る。

最後に未来人・朝比奈みくる。
彼女には、会って(拷問などで脅しつつ)未来の行き来の方法などを聞きたかったが、それも叶わなくなった。

「惜しいな・・・・・・
優れた技術力を持つクルルとやらですら作れない時間を移動する技術や知識は是非知りたかったのだがな。
まあいい、主催者共が似たような事をやっている以上、奴らも同じ力を持ち合わせているようだ。
その力をいずれ奪うのだから問題無い」

朝日奈みくるの損失は小さくはなかったが、時間移動などの力は主催者から奪えば良いと結論づけたのだった。

死亡者についてのギュオーなりの考察は以上である。
深町晶やリナ・インバースのような自分に不都合な参加者がなかなか減らず、タママのような懸念材料も増えた。
それでも、冬月コウゾウのように首輪を解除できそうな人間はまだ生きているため、ギュオーの望みは潰えていない。
故にまだまだ前向きな考えができるのだった。


だが、死亡者とは違う問題もできてしまった。
今、彼がいるF‐5が禁止エリアに指定されてしまったのである。
ここが禁止エリアとして定まる時間は一時間の猶予もないようだ。

「やれやれ、ここから移動する必要があるようだな。
しかしウォーズマンめ、放送時になっても戻ってこないとは、どこで油を売っているのだ?」

自分のするべき事と、ついでに神社に戻ってこないウォーズマンに文句を垂れるギュオー。
一方のスバルを助けだしに向かったウォーズマンは、スバルと合流した道中でナーガ達と激しい闘いを繰り広げていたのだが、そんな事情はギュオーの知った事ではない。

それでもウォーズマンは利用価値のある駒。
まだまだ先が長いこの殺し合いにおいては、自分の保身のためにも合流しておきたい。

306 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:12:42 ID:YrRABrO.
北方向には、単体で接触するには危険が伴いそうなゼロスや筋肉スグルがいるため、やはり戦力が必要になる。

「・・・・・・仕方がない。
この私が直々に捜しに行ってやろう」

こうしてギュオーは、ウォーズマンを捜しに神社を後にする。
とりあえずは南方向へと歩き出すが、炎でそこそこの明かりができている北方面と違い、光が射さない南方面は夜の闇で真っ暗だ。
見えないため、進行の邪魔になる木々や草も多く、ろくに進めない。

「ええい、面倒だな。
ここはとりあえず・・・・・・」

人間形態ではろくに進めないと思ったギュオーはプラグスーツを脱いで獣神変をし、その姿を魔人のごときものへと変える。
変身に伴って上昇した知覚のおかげで、暗闇の中でも視野が広がり、だいぶ歩きやすくなった。

「さて、行くとするか」

再びギュオーは南へと歩き出す。
移動ペース的には、F‐5が禁止エリアに指定されるより早く出られそうだ。
そして、彼の向かう南方面・G‐5では・・・・・・


−−−−−−−−−−−

307 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:13:42 ID:YrRABrO.



−−朝比奈みくる
−−キョンの妹

その名前が放送に出た時、俺の頭が真っ白になった。
覚悟はしていたさ。
いずれ朝比奈さんや妹の『  』が死んで、こうやって放送が流れるくらいはな。
・・・・・・でもな、情けない事に、聞いた途端にぽっかりと心に穴が空いた気分になっちまった。
平常心を保とうと意識しているのに思うように冷静になれん。
タツヲさんが他の死亡者の名前とか、殺し合いについてうんたらかんたら言ってるがほとんど耳に入らねぇ。
せいぜい、古泉や朝倉の名前が呼ばれなくて、自分が殺したナーガのおっさんの名前が呼ばれたのがわかる程度だ。

二人はどうやって殺されたんだろうな?
雨蜘蛛のおっさんが依頼通りに殺してくれたのか?
だとすると、二人が死んだのは俺の責任になるんだな。
しっかし、あの趣味の悪そうなおっさんの事だろうから、ろくな殺され方はしてないだろうな・・・・・・
いや、まてまて、何も雨蜘蛛のおっさん以外にも二人を殺したかもしれない奴らはいるだろう。
下手すりゃ、おっさんよりも趣味が悪い奴に殺されたのかもしれない。

銃で貫かれたのだろうか。
刀でばっさりと斬られたのか。
素手で死ぬまでボコボコにされたのか。
鈍器で頭を砕かれたのか。
炎に包まれ、身体を燃やされたのか。
毒を盛られて血ヘドを吐いていたのか。
禁止エリアにでも引っ掛かってスープと化したのか。
爆弾でバラバラになったのか。
首の骨をへし折られたのか。
誰かに騙されて殺されたのか。
死ぬ前に性的な暴行でも受けたのか。
それとも・・・・・・
二人の死に際(シチュエーション)のイメージが、俺の頭の中でグルグル回る。
朝比奈さんも、妹も、最後は苦しみながら助けを求めていた・・・・・・そんな気がしてならない。
もしくは、七代まで祟るくらい俺を恨みながら死んでいった気もする・・・・・・

二人の死を想像すればするほど、俺はなんだか−−


−−−−−−−−−−−

308 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:14:54 ID:YrRABrO.

「そんな・・・・・・サツキもゲンキも死んでしまったなんて・・・・・・」

それが、放送が終わった直後のウォーズマンの悲壮感に満ちた感想である。
自分が不甲斐ないばかりに幼いメイがマスクの男に殺され、今度は姉のサツキまで何者かに殺されてしまった。
また、死にいく少女に頼まれた仲間の一人、ゲンキも死んだしまった。
自分の目の届かない所で起こった事とはいえ、責任感の強いウォーズマンがコレを悔やまないハズはない。

「済まない・・・・・・
君達の大切な者すら守ってやれなかった・・・・・・」

彼が機械超人でなければその二つの眼から涙を流していたかもしれない。
代わりに、拳をミシミシとヒビが入りかけるほど力強く・硬く握りしめ、自分の情けなさと殺し合いに乗った者への怒りで震えさせる。

スバルもまた、ウォーズマンと同じように悲しみや怒りを覚えている。
違いと言えば、眼からほろりと涙を流せる事だろう。
なのはやヴィヴィオ、ノーヴェやケロン軍人の面子が現時点で無事なのは確認できた。
だが、前の放送から今回の放送の間に、今までの倍近い人数が死んでしまった。
つまり、殺し合いの激化を意味している、それを殺し合いを止めようとしている彼女にとっては脅威に他ならない。
そして、善き人も悪しき人も含めた10人が死んでしまった・・・・・・
自分がもっと強ければ・上手く立ち回れば、その中から(その人物の善し悪しに関係なく)数人は助けられたかもしれない。
ウォーズマンと等しく正義感の強い彼女が、それを悔しくないわけがない。

彼女にはもう一つ大きな心配事があった。
放送を聞いてから石のように動かなくなっているキョンである。
友達と彼の妹の名前が放送で流れたからだろうか、あれからノーリアクションで立ち尽くす姿は返って不気味である。
元は殺し合いに乗っていたとはいえ、やはり親しい者の死はショックだったのだろう。

(私も、ギン姉とティアナたちを失ったら、今のキョン君と同じ気持ちになるのかな・・・・・・)

309 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:15:57 ID:YrRABrO.
自分が掛け替えのない姉・ギンガがナンバーズにさらわれた時、心が軋むようだった。
さらに誘拐された先で姉が命を落としていたら・・それ以上、スバルは想像できなかった、というより想像したくなかった。
厳密には姉を喪失したわけではないが、スバルにはキョンの今の心境がわかるような気がしていたのである。
そんな彼女は、キョンにかける言葉が見つからず、ただただ動かない彼を見ているしかなかった。


『こんなに死人が出ているなんて・・・・・・』

昼になるまでデイバックの中にいたリインフォースは、スバル達と比べれば、この会場で活動していた時間が短い。
元々の仲間を除けば、知り合いも少ないため、面識が無い相手にはスバル達ほどの悲しみを抱けない。
しかし何も感じていないわけではなく、少なくともこの殺し合いへの嫌悪はスバル・ウォーズマンのそれと変わりない。

『それにあの人は他人どころか、自分の娘が死んで何も思わないんですか!』

そして、人を人とは思わない主催者を憎む気持ちも同じである。
キョンいわく迫力に欠けてはいるが、間違いなく彼女は怒りを顕にしていた。
その怒りには、口には出さないもののウォーズマンもスバルも同意見だった。


『・・・・・・そろそろ行動を再開しましょう。
より早く行動する事によって救える命はあるはずです』

状況を切り上げるに提案したのは、完全な機械であるレイジングハートである。

310 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:18:14 ID:YrRABrO.
デバイスである彼女には、涙を流す事も怒る事もできないが、機械だからこそ、より効率的かつ冷静なアドバイスをする事ができる。
悲しみも怒りも顕す事はできなくとも、持ち主たちを全力でサポートする事が彼女なりの誠意なのだ。

「レイジングハート・・・・・・そうだね、立ち止まってる暇は無いね」
「いつまでも悲しみや悔やみを引きずっている暇があるくらいなら、一人でも多くの命を助けるために尽力しろ、という事だな?」
『わかってくれましたか、スバル。
その通りですMrウォーズマン』

レイジングハートの言葉に、スバルもウォーズマンも理解を示し、悲しみや悔やみや怒りを今は心の奥に留めておくことにした。

踏ん切りをつけた所で、ウォーズマンは次の立ち回りについて話そうとする。

「今後の方針についてだが、神社でタママたちと合流する・・・・・・つもりだったが禁止エリアになってしまったな」

タママたちが禁止エリアになろうとしている神社にわざわざ留まっている・または近づこうとは思わないだろう。

「おそらく神社にはもういないと思って良いだろう、だから二人と合流しやすくするために次に行く所を決めて−−
キョン、聞いているのか?」
「・・・・・・キョン君?」

いまだ棒立ち状態のキョンが目につき、ウォーズマンは話を中断して話しかける。
スバルも心配そうにキョンに目をやる。

二人に見られていても放心状態なのかやはり無反応なキョン。
そんなキョンを痺れを切らしたリインは叱咤する。

『もう!
なんとか言ってください!
それでもし、何かを良からぬ事を企んでいるなら口約通り容赦無く・・・・・・』

リインはスバル、ウォーズマンと比べれば、圧倒的にキョンを信頼してない様子だ。
その証拠に、いつでも魔法攻撃ができる事を見せつけて威嚇する。

「やめてください空曹長」
『ちょっと、スバル!』

威嚇するリインの小さな身体を押しのけて、威嚇されても動く様子を見せないキョンにスバルは近寄って諭すように話しかける。
いちおう、キョンがいきなりスバルに襲いかからないように、ウォーズマンとリインは警戒し、レイジングハートもいつでも障壁を張れる準備をする。

311 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:20:27 ID:YrRABrO.
「言い辛いけど・・・・・・
キョン君が妹や友達を失って悲しいのはわかる・・・・・・わかる気がするよ」
「・・・・・・」
「その・・・・・・私もフェイトさんやガルル中尉のような素晴らしい人たちを失って、ものすごく悲しかった。
ここでの出来事じゃないけど、ギン姉・・・・・・大切な姉さんをさらわれた時はとっても胸が痛かった」
「・・・・・・」

言葉を投げかけてもキョンは何も喋らない。
それでもスバルは更に気持ちを乗せて、諭し続ける。

「あなたは確かに人を殺し、誰かの大切な家族や誰かの大切な友達を奪ってきてしまった。
今キョン君が味わっている悲しみは、まさしく大切な人を奪われた悲しみだよ」
「・・・・・・」
「だからって、あなたが奪ったから大切な人を奪われても自業自得だから仕方ない・・・・・・とは私は思わない。
妹さんや朝比奈さんは死んで良いハズはなかったんだ」
「・・・・・・プッ」
「?」

今、キョンから声がはっせられた気がするが・・・・・・そうとは思いつつも、スバルは構わずに話を続ける。

「でも、キョン君がこれから殺し合いを止めるように力を出す事で、罪を償っていけると思う。
法的な物はともかく、それがあなたの救いになれる。
友達の古泉君だってまだ生きてるんだ、殺し合いを止めればきっとその人も助かる」
「・・・・・・」
「だから、こんな所で立ち止まらないで!
悲しみに溺れないで、動いて、生きて、罪を償って、元の世界に帰ろうよ!
それがきっと・・・・・・殺してしまった人や、殺されてしまった掛け替えのないさ人たち・・・・・・何よりあなたのために−−」
「・・・・・・へへへ」
「!?」

とうとう、キョンが反応を示してくれた。
しかし、それは不適な笑い声によるものだった。
そして−−

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

キョンは奇声じみた不気味な笑い声を腹から大きく吐き出した。
その笑い声に驚いて後退るスバル、気味悪く思うリイン、怒るウォーズマン。

「なッ!?」
『うわぁ・・・・・・』
「何が可笑しい、キョン!!」

ウォーズマンの質問にキョンは腹を抱えて笑いながら答える。

312 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:22:01 ID:YrRABrO.
「アハハハハハ、わからねぇよ。
ただただ可笑しくて・・・・・・笑いたくてたまらねぇんだ、アヒ・・・・・・ヒヒ、アハハハハハハハハ、笑いが止まんねえ!」
「こ、こいつ!
自分の妹や友達が死んでいるというのに!!」
『なんて奴ですか!』

キョンの笑い声は、ウォーズマンとリインの二人の怒らせるには十分な要素になっていた。
それはもう、ショックで棒立ち状態になっていた方が可愛く思えたぐらいである。

一方で、スバルの反応は怒りではなく眼の瞳孔が開くほどの驚愕だった。
大切な人が死んだにも関わらず、大笑いしているキョン。
ずっと悲しんでいるのだと思っていたスバルにとっては裏切られた気分だ。
驚嘆するスバルの気持ちなどは尻目に、キョンは煽るように語りかけてくる。

「ハハハハ、どうだスバルさんよ?
俺、悲しんでないだろ?
アヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハ・・・・・・ゴホッゴホッ・・・・・・(ズズッ)・・・・・・ハハハハハハハハハハハハ」
「!」

笑い過ぎてむせかえっても、尚笑い続けるキョンをスバルは理解できない・・・・・・だが、彼女は『何か』に気づきだしていた。
他方で、ウォーズマンとリインはキョンへの怒りを高めている。

「いい加減にしろキョン!
おまえを励まそうとしたスバルはもちろん、それが死者が出た時に取る態度か!」
「待ってくれよウォーズマンさん、俺はただただ笑いたい気分なんだハハハハハハ。
また殺し合いに乗るってわけじゃないから別に良いだろ、これくらい?
それでも、気に入らないだけでアンタらは俺を殴るのか?
アハハハハハハヒハハハハハハハァハァハハハハハハハ」
『この人って人は!』

いくら殺し合いには乗らないと言ってるとはいえ、死者やスバルのような人を侮辱するように嘲笑うキョンに対して、ウォーズマンたちはもう一度シメてやろうかと考え出していた。

「待って! 落ち着いて二人とも!」
「『スバル?』」

今にも手をあげそうな怒る二人を制したのは、スバルだった。
その彼女の顔は、さっきの驚きの表情から哀れみの表情へと変わっていた。
そして静かに語りかける。

「キョン君・・・・・・」
「なんだぁ?
俺に・・・・・・ヒヒヒ・・・・・・笑うなって言うのかよ?」

キョンは笑いつつ、他人を小馬鹿にした態度を取り続ける。
そんな態度や口ぶりにも構わず、スバルは真剣な眼差しで、優しく囁いた。

313 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:23:22 ID:YrRABrO.

「泣いているのを、悲しんでいるのを、隠すために無理をして笑う必要はないんだよ・・・・・・」
「ハハハハハァハァ・・・・・・ハ?」

言葉が耳に入った瞬間、キョンの笑い声がぱったりと止んだ。
スバルの後ろにウォーズマンとリインも、『キョンが泣いてるのを隠しているために笑っている』という言葉に疑問を浮かべる。

『スバル、どうしてこの人が無理をして笑っていると思ったんですか?』
「・・・・・・笑ってる中で鼻水を啜る音が聞こえる。
普通に笑っていたら、鼻水なんて啜らないんじゃないかな?」

キョンは些か怒気を孕んだ口調でスバルの言葉を否定する。

「ハァ?
そんな曖昧な理由でか?
馬鹿らしい」
「そうだね・・・・・・だけど−−」

確かに、確信を得る証拠としては弱い。
それでもスバルは、キョンが悲報を聞いて笑ってられるような人間だとは思いたくなかったからこそ、問い掛ける。

「あなたが本当に泣いていないのなら、素顔を見せて」
「な、何言ってんだ!
そのためだけに、俺に殖装を解除しろっていうのか?
俺の身体はまだボロボロなんだぞ!」

あからさまに怒りだしたキョン。
まだ再生途中の怪我の多い中で彼に殖装解除させてしまえば、その身では立ってられなくなってしまうだろう。
しかし、スバルもそこは無配慮でものを言ったわけではない。

「なら、顔の部分の装甲だけ剥がしてみてよ。
顔は見たところ無傷だから、剥がして問題無いと思うよ」
「オイ待て!
それじゃあ顔の部分が無防備になって、殺し合いに乗った奴に襲われた時にフリになるじゃねーか!!」

スバルの提案にキョンは不満という不満を吐いて拒否しようとする。
そこへウォーズマンとリイン、そしてレイジングハートが横槍を入れる。

『いえ、Mrキョンが纏ってるガイバーは、再生能力を持っています。
狭い範囲の損傷ならば、再生に時間はかからないハズです』
「なるほど。
そもそも、おまえは戦闘の事は自分の身を守る事以外考えなくて良い」
『そっちの方が、後ろから狙われる心配が無くて楽ですしね!』
「こ、こいつら・・・・・・」

他の二人とデバイスもスバル同様に、素顔を見せるように求めようとする。
キョンとしては非常に気まずい流れになってきた。

314 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:24:31 ID:YrRABrO.
「キョン君、私はあなたが冷血な人間じゃないと信じてる・・・・・・だから」
「そんなに無理強いしたって、できねーもんは・・・・・・」
『おや?
本当は泣き顔を見られるのが恥ずかしいだけじゃないですか、ん?』
「・・・・・・なんだと?
俺をなめんのもたいがいにしてくれ!」

リインの煽りがトドメになったのか、頭にきたキョンは決断してしまう。

「そこまで言うなら外してやろうじゃねーか!
俺は泣いてなんかいないって証拠を見せてやるぜ!」

そして、勢い任せに顔面の装甲を自分で剥がし出す。
装甲化した強殖細胞が肉の軋む音を立てて剥がされていき・・・・・・宿主の素顔がさらけ出された。


−−その時のキョンは冷静さを欠いていたのかもしれない。
そのまま隠し通そうとすれば隠し通せただろう。
だが、彼は元々普通の少年。
感情に流されてしまう時は流されてしまうし、なめられればプライドが傷つく。
今回はただ、意地を張ってしまっただけの話・・・・・・

−−−−−−−−−−−

315 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:25:19 ID:YrRABrO.





「どうだ?
俺は・・・・・・泣いてねえだろ?」

「・・・・・・いや、あなたはやっぱり泣いてるよ、キョン君」

・・・・・・今までガイバーという名の鎧とマスクに隠されていたキョンの素顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
その様子がキョンの人間性を証明し、スバルは自分の考えが正しかった事を知りつつも哀れむ。
ウォーズマンとリインも、彼が悲しみの感情を持っていた事を知ると、それを気味悪く思うことも嘲笑うこともなく、ただ哀れに思い、黙りこんだ。

316 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:28:46 ID:YrRABrO.

「・・・・・・なんだよ、そんな目で俺を見るな!
ああ、そうだよ!
俺は泣いていましたよ!!」

キョンにとっては、三人の視線が気に入らない模様だ。
そして今度は逆ギレである。
自分から、自身が泣いていた=悲しんでた事を告白していた。

「笑ってごまかしでもしないと、気が狂いそうで仕方なかったんだよ・・・・・・だから笑ってたんだ」

それがついさっき、狂ったように笑っていた真意である。
別に何かが可笑しいわけではなく、精神の均衡が崩れておかしくならないために笑った。
笑い飛ばせば、血の繋がった妹と可愛い先輩を失ったショックを忘れられる・・・・・・そんな気がしていたのだ。
それも、些細な事をきっかけにスバルに暴かれてしまい、こうして逆上している始末だ。

「男の泣き顔なんてぶざまだろ?
笑ってくれてももいいんだぜ。
むしろ、嘲笑ってくれた方が気が楽だ。
どうしたんだ? 笑えよ」

ヤケっぱちになっているキョンに対して、スバルはあくまで真剣な眼差しで応える。

「あたしは笑わない。
大切な人を失って涙を流す人を笑う最低な真似は絶対にしない。
それに、悲しみから逃げたくて笑ってごまかそうとしていたのも責める気はない!」
「へへ、随分とヒロイックな慰め方をしてくれるじゃないか・・・・・・
こんな何人も殺した男の味方をしてくれるのか、おまえは?」

卑屈になり、皮肉った言い方でキョンは言葉を返す。
それだけ彼の心は荒み、精神はグラついていた。
そうだとしても、スバルの彼に対する対応は変わる事はない。

「ええ、あたしは味方だよ。
もう一度殺し合いに乗らないよう見張るためだけあたしはいるんじゃない。
ここから生きて脱出させて、犯した罪を償わせて、それから元の世界にあなたを帰そうと思っている」
「どうだろうな・・・・・・もしもの場合は、みんなして俺を盾にして逃げるんじゃないのか?」
「そんなことをするわけなかろう。
むろん、スバルも俺もだ」
『あなたは信用ならない要注意人物ですが、同時に保護対象でもあるのでちゃんと守る時はちゃんと守るですぅ』
「チッ・・・・・・」

偽善者同士で肩を持ちやがって−−などと、キョンは彼らを快く思えなかった。

317 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:29:56 ID:YrRABrO.
「俺はもう心が折れそうなんだよ!
例え殺し合いに乗った因果応報だとしても、いっぺんに知り合いを二人が死んじまったんだ!
おまえらに二人の代わりはできるのか!?
できないよなぁ!!」

それは半ば本音であった。
修羅の道を突き進み、優勝を目指すと決めたが、妹とみくるを失った悲しみはただの少年に過ぎないキョンには想像以上だった、例え生き返ることが前提だとしてもだ。
そこへ、自分がしくじればハルヒを含めた三人を生き返すこともできなくなる、そんなプレッシャーものしかかる。
キョンを襲うその悲しみと重圧は、殺し合いすら続行できなくなりそうなくらいに大きく、心を折りそうなのだ。

「・・・・・・私に朝比奈さんや妹さんの代わりはできない。
でも、折れそうなあなたの心を支える事はできる!
たとえ、二人には及ばなくても支えてあげる!」
「聖人みたいなをことを言って・・・・・・おまえはそんなに偉いのかよ!!」

キョンは綺麗事を言い続けるスバルがいちいち気に入らなかった。
同時にそんな綺麗事を真剣な表情で力強く言う彼女に嫉妬も覚えていた。
そしてスバルがまた、言葉を力強く熱を持たせて、キョンがキライな綺麗事を口に出す。

「あたしはただの甘ちゃん、偉くはないよ。
でも、そんな甘ちゃんの理想を貫けと言ってくれた人がいる。
だからあたしは、誰であろうと一人でも多くの人を救うと決めた。
キョン君も、これから会う人も、殺し合いに乗った人だって、助けてみせる!」

その理想こそ、彼女の志。
この殺し合いに連れてこられる前なら、ただの甘ちゃんの戯れ事に過ぎなかったそれは、ある異星の軍人の仕業で、磨きかかり理想にまで押し上げられた。

キョンは今、初めてスバルの理想を聞いた。
その心境は−−

(こいつ・・・・・・ただの脳筋バカじゃねぇ。
バカの遥か上を行く善人(バカやろう)なのか!?)

−−もはや彼女のあまりの善人(バカ)っぷりに清々しさすら感じていた。
次第に怒気が薄れて、気を抜けば、気を許してしまいそうなくらいに。
だんだん器がデカイのか、自分より幼いから綺麗事を平気で言えるのかわからなくなってきた。
もう優勝を目指すのも億劫になってきた弱気なキョンの信念が揺れる。
故に、ある意味での弱音を吐く。

318 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:31:08 ID:YrRABrO.
「俺に・・・・・・やり直しがきくのか?」
「やり直せるさ。
泣いていたってことは、キョン君が人間性を残している証だよ。
あなただって、こんな場所に連れてこられなければ、誰かを殺すことなんてなかったと思う。
だけど罪を償うには、このゲームの主催者たちを倒して、ここから生きて脱出しなきゃいけない、だから−−」

そう言うと、スバルは片手を差し出す。

「−−民間人であるあなたに戦えとは言わない。
でも、一緒に行こう、あたしたちと一緒に!」

そして、彼女は微笑んで言った。


キョンは思う。
『主催者たちを倒して、ここから脱出する』・・・・・・無理だ。
長門のバックには、常軌を逸した力を持つ情報統合思念体がいる。
おそらく、この殺し合いは情報統合思念体が観測か何かを目的に実行したものだ。
倒そうとしても、力の次元が違い過ぎて勝てる道理が見つからない。
第一、端末に過ぎない長門すら反則じみた戦闘力を持ち、それを目の当たりにしてもまだ戦おうと言うのか?
だが、そんな無茶な姿勢すらカッコよく見える自分がいる。

それに、『こんな場所に連れてこられなければ、誰かを殺すことなんてなかったと思う』・・・・・・あながち間違ってない気はする。
そこへ魔が刺し、ガイバーになり、結果的に守るつもりだったハルヒを殺めてしまった。
今思えば、殺し合いに乗ったのも、深く考えずに状況に流されてしまったせいでもあると思う。
ハルヒを殺した今は手遅れだが、スバルはそれすらも許してくれそうな気がしていた。

(・・・・・・もう疲れた。
本当に殺し合いに乗るのをやめてしまおうか)

例え、主催者たちに勝てない前提でも良い。
スバルの手をとれば犯してしまった罪の全てが許される。
肩に乗っている重荷を降ろして、気分が楽になれそうだ。
そんな気がしたから、キョンは無言でありながらも、スバルの手を取ろうと、ゆっくりと片手を向かわせる。

キョンの反応が、自身が求めていたものであった事に喜びを覚えるスバル。
ウォーズマンとリインも、あえてあまり口出ししなかったのは正解だと確信する。
何せ、二人はスバルほどキョンを信頼していなかったため、キョンにはスバルこそ適任だと思ったからだ。

319 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:32:59 ID:YrRABrO.
結果的に、キョンの心を少しだけ開かせることができたのだろうか。
念のため、いつ襲われても良いように、三人とも気は許さず警戒は忘れてないが、キョンに心は許しはじめていた。



スバルとキョンの手が重なるまで、あと少し。
あと少しだった・・・・・・



−−−−−−−−−−−

320 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:34:53 ID:YrRABrO.

『キョン君、痛イヨ、助ケテ・・・・・・』
「ハッ!?」

キョンの正面、詳しくはスバルの背後からキョンの妹が現れた。
しかし、妹はいつもの妹ではなく、ミイラのように包帯で全身がグルグル巻きだ。
包帯の僅かな隙間から皮をひん剥かれたかのように肉が見え、そこから血が漏れて、包帯をところどころ赤く汚している。
助けを求め、いかにも苦しそうな姿をしていた・・・・・・

『ドウシテ私タチを売ッタンデスカ? キョン君・・・・・・』
「ひっ・・・・・・!」

次に現れたのはみくる。
何者かに『襲われた』のか、衣服があちこちはだけている。
ただそれだけでは無く、こめかみから鉛玉によって作られた風穴があり、そこからダラダラと血を垂れ流し、両目はそれぞれあらぬ方向を向いていた。
元の可愛い少女の顔を知っているキョンを戦慄させるには、過剰なインパクトだ。

そして、極めつけは彼女だった。

『許・・・・・・サナイ』
「う、うわああああ!!」

最後に現れた彼女は、裂かれた腹から片手でおさまりきらないほどの大量の臓物を剥き出しにし、口からは血へどを吐き、眼からは赤い涙を流している。

『イマサラ逃ゲルツモリナノ?
絶対ニ許サナイ・・・・・・!』

表情は元の輝く精悍な顔つきが崩れるくらいの憎悪。
その憎悪をキョンに向けていた彼女こそ、ハルヒである。

『助ケテクレナイナラ呪ワレロ・・・・・・ノロワレロォーーーッ!!!』

その憎悪に塗れた怒声は、キョンの顔を恐怖で引き攣らせ、一気に血の気を引かせる。

『キョン君、キョン君・・・・・・』
『汚サレタ、痛カッタ、苦シカッタ・・・・・・』
『死ネ、死ネェ!!』

辛み、恨み、憎しみ・・・・・・彼女たちのその全てを向けられ、恐怖を味わうキョンは確信する。

(ダメだ・・・・・・俺はもう引き返せないんだ。
引き返しちゃいけないんだ・・・・・・!)





ここで断っておくが、彼女たちは幽霊でもなんでもない、キョンの勝手なイメージで作られた被害妄想である。
だが、それを見たキョンには・・・・・・

−−−−−−−−−−−

321 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:36:09 ID:YrRABrO.

「う、うわああああ!!」

突然、装甲から剥き出しのキョン君の素顔が引き攣ったと思えば、いきなり彼は叫び出した。
まるで、何か怖いものでも見たかのように。
ウォーズマンさんも空曹長も驚き、顔をしかめて警戒する。
私といえば彼が心配になり、声をかける。

「どうしたのキョン君!?」
「お、俺に触るんじゃねぇ!!」

彼は怒鳴ると、握手を求めようとした私の手をぴしゃりと払った。
手の痛みは大したことはないけど、キョン君の眼はまるで私をすごく怖いものを見ているようだった。
それはどうしてなの?

「怖がらないで!
いったい何をそんなに恐れているの?」
「うるせえメスゴリラ!」
『年頃の女の子をゴリラ呼ばわりするなんて!
なんてことを言うんですか!』
「空曹長はちょっと黙っててください・・・・・・」

わざとなのか素なのか、とりあえず空気を読まない発言をする空曹長を喋らせないようにさせておく。
それは置いておくとして、突然恐慌したキョン君は私たちから遠ざかるようにゆっくりと後ろに下がってゆく。
彼を逃がしたりするわけには行かない私たちも、警戒しながらキョン君へと近づいていく。

「本当にどうしたんだキョン!
いったい何を恐れている?」
「来るな・・・・・・俺に近寄るな!!」

混乱しているキョン君が手から高周波ブレードを抜き出す。
一度は全員が警戒レベルを上げた。
私も変身してバリアジャケットに身を包む。
だけど、キョン君自身は近づかれないように剣をぶんぶんと振り回すだけで、それ以上してくる様子が無い。
いわゆる錯乱状態にも見えた。

「キョン君、落ち着いてよ!」
「嫌だ! 俺たちはおまえたちと一緒にいたくない!!」
「なっ・・・・・・?」

なぜ、そんな事を言うのキョン君?
私たちの何かを恐れているのがわかるけど、それが何なのか私にはわからなかった・・
そんな中でキョン君は私に向けて叫ぶ。

「スバル・・・・・・
俺は、おまえらのように強くねえんだよ!!」

322 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:39:42 ID:YrRABrO.

吐き捨てるように言うと、彼はすぐに私たちに背を向けて駆け出した。

「逃げるつもりか!」
「キョン君・・・・・・仕方がない、バインド!」

仲良くなれるかもしれない相手に、手荒な真似は極力したくなかった。
だけど、今のあなたを逃がすわけには行かない。
そこで魔法の捕縛錠、バインドを唱えた。
しかし・・・・・・生成されたバインドは逃げるキョン君を捕らえきる前に断ち消えてしまった。

「あれ?」
「なんだ、どうした?」
『消耗により、魔力のコントロールが効いてないよう模様です』

レイジングハートの的確な分析によって、バインドができない理由がわかった。
・・・・・・そこまで私は消耗してたのか。

キョン君はその間に鬱蒼と生い茂る木々と草の雑木林の中へと飛び込む。

『あぁーー!
逃げられたぁ!?』

そうこうしている内にキョン君はどんどん私たちから距離を離していく。
まだ彼の背中が見える内に、私とウォーズマンさんは走って追いかけることにした。
走力には二人とも自信があった。
消耗はしていても、陸曹である私は走るのは得意だ。
キョン君との距離をぐんぐんと縮めていく。

「クソッ・・・・・・そうだ!」

それに気づいたキョン君は、何か思いついたのか、顔を空に向けてヘッドビームを放つ。
正確にはビームは、天へと伸びる木々の枝を狙って放っていた。
ビームが当たり、本体である木々から切断された大量の葉のついた枝が地面に落ち、私たちの行く手を阻むハードルになった。

「足止め!?」
「キョンの奴め、こんな時に知恵を回し追ってからに!」

ここは深い森。
木々の間が狭く、枝の塊によって阻まれた道は、塊を退かすか迂回しない限り通る事ができない。
生憎、私にもウォーズマンさんにも、塊をどかす技も道具も技術もない。
迂回するしかなかった。
しかし、その先にもキョン君はいくつも同じ手の障害物を作り上げ、あたしたちの進行を阻んでいく。
やがて、夜の闇も手伝って見えない距離にまで差をつけられてしまった。

「しまった・・・・・・」
『まだ諦めないでください。
見た目ほど遠くへは行ってません。
距離、約30m前後。
このまま前進してください!』

323 もふもふーな名無しさん :2009/06/29(月) 00:40:32 ID:YrRABrO.
デバイスであるレイジングハートの索敵能力が感知できる距離には、キョン君がいるようだ。
逃してキョン君をまた殺し合いをさせるわけにも、危険人物がウヨウヨいるこの島を一人で歩かせるわけにもいかない。
レイジングハートの索敵範囲にいる内に、絶対にキョン君を連れ戻してみせる!



・・・・・・それにしても、何がキョン君をあそこまで怖がらせてしまったのだろう?

『嫌だ! 俺たちはおまえたちと一緒にいたくない!!』
『俺は、おまえらのように強くねえんだよ!!』

責める気は更々なかった。
だけど、あたしの何かが彼を傷つけてしまったのか、胸が痛くなる・・・・・・

−−−−−−−−−−−

324 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:42:30 ID:YrRABrO.

ただ、ひたすら走り、ビームで落とした枝の塊で障害物を作り、俺はあの女たちから必死に逃げていた。
後ろを振り向くと、あの女たちは見えなくなっていた。
逃げきれた・・・・・・?

「待てェー、キョン!」
「戻ってきてキョン君!」
『逃げないでください!』

・・・・・・いや、暗闇でよく見えないだけで数十mの差で追ってきてやがる。
こんなんじゃ逃げきれた内に入らねぇ!


もし、俺が普通だったら逃げるなんてことしなかっただろう。
元から奴らとは別れたかったが、ギュオーと合流するまでは我慢する予定だったんだ。
でも、そんな予定をご破算にしてまで、奴らから・・・・・・正確にはスバルから逃げたくなったんだ。
もはや、心の舵が効かなくなるぐらいの本能的なレベルで。
今、俺が逃げてるのは計算や打算があるわけじゃなくて、ただただ、どんな醜態を曝そうとも、あの女から離れたくてたまらないんだよ。



あの女と一緒に行けば、俺を救ってくれそうな気がした。
だが、それは精神的に弱った時に、甘い事を言われると、そっちに走りたくなる衝動的なものだ。
あの女の言う通り、この殺し合いを放棄してしまったら、今度こそハルヒたちが生き返る道が閉ざされちまう!
俺はそれで楽かもしれないが、それじゃあハルヒや朝比奈さんや妹に、二度と会うことができなくなっちまうじゃねーか!
ハルヒたちを日常に返すことができなくなっちまう。
きっとあの世で恨むだろうな、ハルヒたちは・・・・・・

−−痛イヨォ
−−苦シイ・・・・・・
−−呪ワレロ

ああ・・・・・・、思い出したくもないのに、さっき頭に浮かんだグロテスクなハルヒたちの姿が眼に浮かんじまう。
一瞬でも優勝を諦める方に浮気しかけた俺を許してくれよ・・・・・・もうしないから。
だが、優勝すれば統合思念体がきっと生き返してくれる。
そしたら、何事もなかったように皆が日常に帰ることができるんだよ。
そうなりゃ嬉しい限りだろ、ハルヒ、朝比奈さん、妹。
統合思念体にはそれを実現できる力を持ってるのを俺は知っているんだ。
俺がしくじらなければ大丈夫な話なんだ。
もう諦めないし、しくじるつもりもない。
だから・・・・・・だから・・・・・・、あんな姿で俺の前に出てこないでくれよ!

325 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:47:27 ID:YrRABrO.



いつの間にか、死んだハルヒたちが恐怖の対象になりかけていた。
甘えるな・戦いを放棄するなと、頭の中の彼女たちが俺に警告してきやがる。
だから、俺はハルヒたちを恐怖の対象にしたくないためにスバルを恐れているんだ。
あの『ヤサシイ』女と一緒にいたら、目的も信念もハルヒとの約束も全部失っちまう、そしたら他が俺を許しても死んだハルヒたちが俺を許さない、今度は魂まで抜けるぞ。
言うなれば、あの女から逃げてるのは精神からの拒絶反応なんだ。
俺にあの女は毒なんだ。

ただ、今は本能と感情に従い逃げている。

もっと早く、もっと遠くへ!

その時の俺に、後のことはどうでもよくなっていた。
逃げる他は何も考えたくなかった。

さっき顔面の装甲を剥がして、まるだしになった顔面が涙と鼻水と汗で汚れ、恐怖で引き攣って酷い顔になるなど、どれだけ喚き散らして醜態を曝そうともどうでもよかった。

今いる、この殺し合いの場についての危険性もすっかり忘れてた。
・・・・・・それがいけなかった。
あの女たちが見えないことで、完全に失念していた。
殺し合いに乗ってる奴に襲われる可能性を−−



ガシッと、何者かに俺の首根っこを後ろから鷲づかみにされ、やたらとゴツイ手で口も塞がれる。
俺は何者かに持ちあげられて、そのままどこかへと連行される。

「もがっ、もがが・・・・・・!?(な、なんだ・・・・・・!?)」

首を掴まれ、口を塞がれてるだけあって、呼吸が苦しい。
精一杯もがいてみるが、腕を外そうとしてもその力は万力のように強く、外れない。
しかも、後ろから掴まれてるから、メガスマッシャーもプレッシャーカノンもヘッドビームも使えない!

「・・・・・・!!」

後ろへと伸ばす事ができる高周波ブレードで反撃しようとするが、出した瞬間に壁みたいなものにぶっかってバキリと折られちまった・・・・・・

「足掻くな」

それだけ言うと、首を掴んだまま尋常じゃない威力の膝蹴りを、俺の背中に寄越しやがった。

「ガ・・・・・・ハ・・・・・・」

326 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:48:02 ID:YrRABrO.
その蹴り一つで背骨がもっていかれそうになる。
叫ぼうにも呼吸がろくにできてないせいか、大きな声を出せない。
しかも、反撃も覚束ない俺を見て何者かは笑ってやがる。
・・・・・・万事休すだ。

−−−−−−−−−−−

327 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:49:01 ID:YrRABrO.

F‐5から出たギュオーは、さっそく何かから逃げるガイバーを発見した。
一瞬、ガイバーⅠのそれと見間違い兼ねないフォルムを持つそれは、よく眼を懲らせば細部が違うことに気づけた。
つまり、ノーヴェと同じく支給品としてガイバーユニットを渡され、ガイバーと化した参加者であるようだ。
そして、耳を澄ませば、聞き覚えのある男の声と、聞き覚えのない女の声。
どうやらウォーズマンはあのガイバーを追っているらしい。

これは念願のガイバーユニットを手に入れられるチャンスであり、急がねばウォーズマンたちの邪魔が入ってこのチャンスを逃してしまう。
ギュオーはすぐに行動に移った。

理由はわからないが、このガイバーはウォーズマンたちから逃げている。
しかし、後ろから追ってくるウォーズマンたち以外の警戒が無い。
それに気づいたギュオーは側面から背後に回り込み、ガイバーの首根っこと口を掴む。
ガイバーの武装はたいてい前面に出ている。
後ろから掴めば一部例外を除いて反撃手段が無くなってしまうのだ。
また、簡単に捕まえられ、捻りのない反撃をする所からして、ガイバーの中身は戦い慣れてない素人であることもわかった。
おぞましいゾアロードの姿をしたギュオーは笑う。
ちなみに、下手に気絶させるとガイバーの防衛本能が働いて面倒なことになるので、手加減をする必要がある。
そのため、普段なら簡単にできる、腕で首をへし折ることや顎を砕くこともせず、先に放った蹴りにも気絶しないギリギリの力でやったのである。
それでキョンは、ダメージを与えられつつも、気を失うことはなかった。

ウォーズマンに見つからないように、彼らの気配がする方向から離れるべくガイバーを手に持ったまま走る。
途中で騒がれても困るので、重力を纏った拳を背中に打ち込んで黙らせた。


ところで、ギュオーはガイバーユニットをどうやって手に入れるつもりなのか?
殖装者とユニットを分離する装置・リムーバーがあれば非常に簡単なのだが、それは今、ギュオーの手元には無い。
リムーバーが期待通りに誰かに支給されているとは限らないとギュオーは思っている。

328 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:49:35 ID:YrRABrO.

では、他に殖装者とユニットを分離する方法は無いのか?
それに対してのギュオーの答えは単純明解、『殖装者の殺害』である。
しかし、殖装者は身体をバラバラにされようとも、ユニットに強殖細胞が少しでも付着していれば復活する(主催者からの制限によりできないかもしれないが、復活できる可能性はゼロでもない)。
間違って何もかも灰にしてしまえばユニットが消失する。
さらに、周辺にはウォーズマンたちがいて、死体をうまく隠さないと後々厄介になりそうだ。

−−そこでギュオーは思いつく。

(禁止エリアに放り込んでみてはどうか?)

もうじき、この場所に近いF‐5は禁止エリアになる。
そこへこのガイバーを放り込めば、たちまち身体はLCLとやらになるだろう。
流石に液体と化した殖装者が復活できないハズの上、ユニットと分離できるかもしれない。
新しい首輪が手に入り、実際にこの眼でLCL化した者の姿を見る事ができ、一石三鳥という計画だ。
また、LCLをウォーズマンたちが発見したとしても、コイツが誤って禁止エリアに入ってしまったことにできる。
ウォーズマンに真意を悟られることもないという計算だ。

この計画を実行するためには、まずウォーズマンたちから離れることが前提だ。
見つからない距離にまで離れて、このガイバーを液体化させる!

そんなことを思いつつ、ふとギュオーはガイバーの顔を少しだけ見てみる。
詳細名簿で見た未来人・朝比奈みくるの友人・キョンのようだ。
朝比奈みくる及び未来の技術について聞き出そうと思ったが、恐慌状態とダメージでまともに会話できそうに無い。

329 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:51:52 ID:YrRABrO.
元は戦闘力も技術力も無い役立たずであるし、ウォーズマンとも対立してるようだ。
やはり殺した方が約に立ちそうだ、とギュオーは思い、キョンの耳元で囁く。

「ふふふ、喜べ。
貴様のような冴えない男でも、私のために約に立てるのだ。
ガイバーユニットと首輪を私に捧げることでな」

ガチャッ

「ん?」
「・・・・・・」

ギュオーが囁いた後に、キョンは静かに胸部の装甲を開く。
ギュオーに後ろから掴まれているため、必然的にメガスマッシャー発射口はギュオーとは反対の方向を向く。
その時点では、ギュオーはキョンの意図が全く読めなかった。

−−そして、発射口からまばゆい破壊の閃光が吐き出される。

「ぬ、ぬわあああああああああああああああ!?」

制限下でパワーダウンしたギュオーの力では、メガスマッシャーで勢いのついたキョンを支えきれず、キョンを持ったままのギュオーは後ろへと突き飛ばされた。

前面についているメガスマッシャーで、後ろにいるギュオーを撃つ事はできない。
キョンはそれを逆手に取り、メガスマッシャーをロケットブースターのような動力にして、自分ごと相手を突き飛ばすようにした。
これは、撃たれなければ武器を潰さなくても良いと侮っていたギュオーの失策である。
結果、メガスマッシャーで生み出された力は前方の雑木林を焼きながら二人を突き飛ばし、後ろのギュオーを盾にしながら数m先の木々へと盛大に叩きつけた。
それで多少なりともダメージを受けたギュオーは、キョンの首を掴んでいた手を離してしまう。

「お、おのれ・・・・・・」

ギュオーから解放されたキョンは、先に受けたダメージでフラフラになりながらも立ち上がる。
自分が咄嗟に思いついた策が功を成し、今度こそまともに反撃ができるようになった。

「こ、このやろぉ!」

相手を確実に仕留めるべく、至近距離から攻撃に移ろうとする。
だが、ギュオーは腐っても一騎当千の戦闘力を持つゾアロード。
怪力を込めた拳で、キョンよりも早く反撃する。

「私を舐めるなぁ!!」

破壊の拳が、キョンの剥き出しの顔面を潰さんと向かう。
キョンは反射的にそれを避けようとする。


・・・・・・お互いのその行動が、悪い結果を産む。

330 弦が飛ぶ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 00:53:03 ID:YrRABrO.

ギュオーの拳はキョンの顔面に直撃する事は無く、額を霞め、金属製のパーツが外れて地面に落ちる。
パキンッと地面に金属の澄んだ音が立つ。

「・・・・・・!!」
「し、しまったぁ!!」

キョンの額から外れて落ちたパーツこそ・・・・・・ガイバーを形成する核となるパーツ『コントロールメタル』。
キョンが避けた事により拳の本来の軌道から逸れ、この金属片に当たって外れたのだ。
それがガイバーから外れたのを見た二人は驚愕する。
片や、ついうっかり勢いでやってしまったことを・・・・・・
片や、自分の命運が尽きる予感−−『マジでくたばる5秒前』を感じて。

コントロールメタルとは、その名が表す通り、強殖細胞を制御するための金属。
これを失う事が意味することを、ギュオーは以前から知り、キョンは付属の説明書を通して知っていた。

そこへスバルたちが草を掻き分けて現れる。

「キョン君!」

スバルがキョンの名前を呼んだ時を同じくして、コントロールを失ったキョンの纏う強殖細胞が暴走を始める。

装甲がスライムのように溶けだし、宿主だったキョンの肉体を喰らい始める!

「う、うわあああぁああああぁあああぁあああ!!」

身体を肉塊に蝕まれる恐怖と、生きたまま喰われていく想像絶する痛みに、キョンはこれ以上無いくらい顔を歪ませ叫び、のたうち回る。

それが哀れな道化の末路だった・・・・・・

331 (緊急連絡) ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 01:00:36 ID:YrRABrO.
皆様に申し訳ないのですが、体調が優れないため、今日はここで一旦仮投下を中断させていただきです。
話の流れ(二話構成型)では、ここまでが前編です。
後編は明日にでも投下させていただきます。
申し訳ありません。
5x氏様、私のSSは途中ですが、投下しても構いません。

332 もふもふーな名無しさん :2009/06/29(月) 01:28:46 ID:vZIcJnC6
乙です
どうかお体をご自愛ください

333 ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:26:45 ID:YrRABrO.
これより昨夜中断したSSの続きを投下いたします。

334 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:32:15 ID:YrRABrO.

−−時間を別の視点から少しばかり巻き戻す。

キョンを追う三人の男女。
その途中で何かを察知したレイジングハートが報告する。
暗闇と雑木林で視界が悪い世界でキョンの動向を探るには、彼女の報告が頼りだった。
ギュオーには彼らが、こんな高性能なAIと索敵能力を持つデバイスを所持してることは知らないだろう。
レイジングハートには、キョンとギュオーの動向はある程度までサーチできていた。

『Mrキョンの近くにもう一つの生命反応を察知しました』
「生命反応? 他に誰かがいるってこと?」

その反応こそギュオーであるが、この時点の彼女たちは知らない。
さらにレイジングハートはリアルタイムで報告を続ける。

『待ってください・・・・・・!
エネルギー反応を感知。
Mrキョンと何者かが戦闘をしている可能性があります!』
「戦闘、まさかキョン君が・・・・・・!」

スバルは焦る。
戦闘と聞いて思いあたる節は、恐慌状態のキョンが何者かに襲いかかったか、逆に何者かにキョンが襲われているか。
今のキョンでは、何をするかわからないし、何をされるかわからない。
止める意味でも守る意味でも、早く保護しなければ・・・・・・だが、状況は次々と変化していく。

『・・・・・・?
Mrキョンと何者かが急速に我々の方から離れていきます。
速度は先程までより若干早く、このままではすぐに私の索敵範囲外へ離脱してしまいます』
「・・・・・・急ごう。
スバル、俺はペースを上げるが、君はまだ走れるか?」
「ハイ!」

報告を受け、キョンを追って走る速度を早めるウォーズマンとスバル。
進んだ先には、刃のカケラ−−折れた高周波ブレードが落ちていた。
それが三人の不安を加速させる。

『スバル、あれを見て!』
「あれはキョン君の!?」
「嫌な予感がする。
キョンの奴はいったい・・・・・・」

追跡しつつ、不安を募らせていく三人。
すると、三人には見覚えのある閃光により前方の雑木林の中が光る。

『前方で高出力のエネルギー粒子反応!』
『あの光はナーガがやられる時に見た・・・・・・』
「メガスマッシャーか!」
「あそこにキョン君がいる!」

閃光がメガスマッシャーの光であると確信を持ったスバルたちは、戦闘が起きてるであろう前方へ向けて駆け出す。

335 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:32:50 ID:YrRABrO.

「このやろぉ!」
「私を舐めるな!!」

二人の男の声が聞こえる距離まで三人は接近し、最後に背の高い草を押しのけて、ようやくキョンと異形の怪物・ギュオーが視界に入った。
ウォーズマンは怪物の纏う雰囲気から、それがギュオーであることを理解した。
そして、キョンを見つけたスバルは第一声に彼の名を呼ぶ。

「キョン君!」

だがその時に、コントロールメタルを失ったキョンの纏う強殖細胞が暴走し、装甲化していた細胞がぶよぶよと溶けだし、キョンの肉体を喰らい始めたのだった。
キョンが絶叫を始める。

「う、うわあああぁああああぁあああぁあああ!!」

ドロドロに溶けた装甲がキョンを蝕んでいる−−ガイバーの全てを知っているわけではないスバルたちは、一瞬、言葉を失った。
だが、それが緊急事態であると知るやいなや、スバルとウォーズマンは気持ちを切替えて、すぐにキョンの元に向かう。

「キョンくぅーーんッ!!」
「キョン、大丈夫かぁ!!」

−−−−−−−−−−−

336 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:33:33 ID:YrRABrO.

「があああ、うああぁあ!!」

強殖細胞が身体を蝕んでいき、キョンは呻き悶える。
その肉体的・精神的痛みは、唯一外気に晒されている顔面の歪んだ表情から伺える。
焦燥のスバルはそんな彼を助けようと、リインと共に近寄る。

「キョン君! しっかりして!」
『これはいったい何がどうなってるんですかぁ!?』


スバルたちが異常状態のキョンに対処している側から離れて、ウォーズマンは彼女たちの背中を守るように後ろに立ち、ギュオーと向き合う。

「ギュオー!
これはいったいどういうことなんだ!」

ウォーズマンはギュオーに向けて語気を強めて問い掛ける。
決して、ギュオーが殺し合いに乗ったとわかったためではなく、元々の彼への疑念に加えて感情が入っているのだ。
問い掛けに対し、できるだけ誠実に繕って無害そうに装うギュオー。

「待ってくれ、君らは奴を追っていたんではないか?
奴は敵じゃなかったのか?」
「・・・・・・保護すべき相手だ。
詳しい経緯は省くが、見張り、守らなくてはいけない少年なんだ」
「な、なんと!?」

ウォーズマンたちから逃げているので、てっきりキョンが敵対しているのだと思ったギュオー。
実際には、(言い回しからして何か事情があるみたいだが)味方だったのである。
つまり、誤ってギュオーは味方を攻撃してしまったのだ。
良心の呵責がないギュオーには、それ自体のことはどうでも良いことなのだが、問題なのはそれによりウォーズマンたちとの友好関係にヒビが入ったことである。
ギュオーにとって利用価値のあるウォーズマンたちとは、関係を悪化させたくなかった。

(クソッ、ガイバーユニットは壊してしまうし、出会うタイミングは最悪だ!)

奪うつもりだったガイバーユニットは、思わぬ反撃(と自分のミス)で破壊してしまう。
再開のタイミングはちょうどコントロールメタルを破壊した所を、目撃される気はなかったのに、キョン(確実にもうじき死ぬ)を殺してしまう所を見られてしまった。
ウォーズマンに見せる誠実そうな態度の裏で、自分の思い通りに行かないことに腹を立てる。
だが、あらかじめガイバーが自分にとっての敵であると教え込んでいるため、今なら誤殺や事故でごまかせるかもしれない。

337 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:35:01 ID:YrRABrO.
関係そのものの悪化は避けられなくとも、交戦は回避できるハズだ。
ここはなんとか凌ごう−−と、ギュオーは肝に銘じる。
そんなギュオーの心の内を知りもせず、ウォーズマンはギュオーに問い掛け続ける。

「一緒にいたタママはどこに行った?」
「タママ君なら火事になっている北の市街地へ向かった」
「そんな危険かもしれない所へ一人で行かせたのか!?」
「止めようとしても話を聞かなかったんだ!
頭に血でも昇っていたのだろう」

それは嘘ではない。
タママが出ていったことで、一人でにこの殺し合いに関しての考察ができたのは秘密だが。
タママの動向についてわかった所でウォーズマンの質問は次に移る。

「おまえを疑いたくはないが、キョンに襲いかかったのは故意ではないんだな?」
「待ってくれ!
私にとってガイバーは敵なんだ。
やらなきゃやられると思ったのだよ。
それを君たちの仲間と知らずに討ってしまった事には責任を感じてる・・・・・・
信じてくれ、あくまで自分の身を守ろうとしてやってしまった事なんだ・・・・・・!」

偽りの自責の念を見せつけるギュオー。
しかし、そこへ彼の予想してなかった横槍が入る。

「う・・・・・・嘘をつくなあああ!!
・・・・・・俺の・・・・・・ユニットと首、輪を頂くとほざいてやがった癖にぃ!!」
「「!?」」

キョンは死ぬような痛みを押し切り、自分をこんな身体にしたギュオーへのありったけの憎しみを込めて、記憶のままの事実を告げる。
それによりギュオーへのウォーズマンたちから向けられた視線が、疑念から敵意に変わりかける。

「よくも・・・・・・よくも・・・・・・ぐうう!!」
「それ以上喋らないでキョン君!
ギュオーさん、あなたはまさか!」
「ギュオー!
それが本当なら貴様を叩きのめさねばならないぞ!!」

意外な伏兵・キョンの言葉により、話の流れが一気に悪化したことにギュオーは焦りを覚える。

(あやつにはまだ喋れる気力が残っていたのか!?
まずい、完全に疑われてしまってた。
もはやこれまでか・・・・・・仕方ないがここでこいつらをまとめて始末・・・・・・)

自分ならば、浮遊する小さな妖精を含めた三人を消せる自信があった。
一度は懐柔するのを諦めて、三人を抹殺しようとして・・・・・・やはりやめた。

338 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:36:24 ID:YrRABrO.

(いや、短気は損気だ。
まだ先は長いのに戦って消耗したくはないし、コイツらには戦闘面で利用価値があるんだ。
・・・・・・無ければ容赦なく殺してるが。
あのガキはもうすぐ細胞に取り込まれて死に、死ねば事実はわからなくなる。
そこまで粘るんだ!)

「ち、違う!
彼は何か誤解しているんだ!
被害妄想か何かではないのか!?」

とりあえずは、ギュオーは懐柔する道を選ぶ。
既にウォーズマンたちはかなり疑いだしてるので、それもまた難しそうだ。
それでも件のキョンも、先に告白したのを最後に呻く以外は何も言わなくなった。
もうすぐ死ぬのだろう、そうすればどうにかごまかせるかもしれないと思っていた。

『それが本当ならいいですけどね・・・・・・』
「本当だよ妖精君、ウォーズマンも信じてくれ!
私はそんなやましいことは一切考えてないんだ!!」
「・・・・・・だと良いがな。
ところでなぜ変身を解かない?」
「婦女子の前で裸になれと言うのか君は!?」

疑念をうやむやにするために、ギュオーは場をもたせようとする。


−−そんなやり取りをしている一方で、スバルはキョンを助けるべく方法を模索する。

「がはぁ、くうう・・・・・・」
「キョン君!
クソッ、早く助けないと・・!」

だが、ガイバーの事を聞いた分しか知らないスバルには、助ける方法が思い浮かばず、キョンの苦しむ声を聞きながら焦るのが関の山だった。
方法が無いとはいえ、次第に侵食され衰弱するキョンをスバルは見ていられない。
ガルルと同じく、目の前にいるのに助けられないのは、もう沢山なのだ。
悲しみでスバルの目頭が熱くなる・・・・・・そこへ、ウォーズマンの側からこちらへ移ってきたリインが励ましの言葉を送りながら現れる。

『スバル〜! 諦めちゃダメです』
「・・・・・・空曹長?」

リインはその小さな身体で誰かのデイパックを持っていた。
デイパックをスバルの側に降ろすと、リインはウォーズマンからの頼みを伝える。

『ウォーズマンさんが言うには、支給品の中にはキョンを助けられる道具があるかもしれません。
だからデイパックを調べて何か使える物が無いか探せ、という事です』
「そうか、それなら!」

339 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:38:07 ID:YrRABrO.

キョンを救える道具がデイパックの中に眠っているかもしれない。
それを思いたったウォーズマン自身は疑いがあるギュオーを見張らなくてはいけないので、その役目をスバルに任せたのだ。
僅かでも希望が見えたことにスバルは眼を輝かせ、リインと共にさっそく二つのデイパックを調べ始める。

スバルのデイパックには、円盤状の石、首輪、SDカード、カードリーダー、巨大化させる銃・・・・・・どう考えても役に立ちそうな物は無い。
次にウォーズマンのデイパックを開ける。
スナック菓子に木の美・・・・・・求める物がなかなか見つからない中で、スバルは何かを発見する。

「これはいったいなに?」

金属で覆われたハンドサイズのカプセル状の物体。
一瞬、キョンを救える物かとスバルは期待したが・・・・・・

『スバル、それはN2地雷って言う一エリアの1/4を吹き飛ばすトンでもない爆弾みたいです』

付属の説明書を読んだリインが、謎の物体が爆弾であることを告げる。
期待通りに行かず、スバルは落胆せざる追えなかった。
爆弾じゃなかったら、それを地面に叩きつけてたぐらいにだ。

「・・・・・・ッ、まだ道具はある。
きっと助けられる道具があるハズなんだ!」

340 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:40:19 ID:YrRABrO.

こうしている間にもキョンは弱っていく、もはや叫ぶ気力も無いのか、弱々しく呻くくらいしかできなくなっている。
キョンはもはや限界だった。
だからこそ、スバルは諦めてはならない。
デイパックの中に都合良くキョンを助けられる支給品があるとは限らないが、それでも自分が探さなければ助けられる可能性もゼロになる。
何よりガルルと同じく、何もできないまま、目の前で人が死ぬのはもう見たくなかった。

「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない。
キチンと罪を償って元の世界に帰すまで、あたしはあなたを生かしてみせる!」

キョンを必ず助けたい強い意思から、スバルは祈りながらデイパックの中へ腕を突っ込む。

(お願い!
キョン君を助けられる道具が出てきて・・・・・・!)

祈りが通じたのか、デイパックの中から出したスバルの手には宝石のようなものが握られていた。
その宝石こそ、幸福と不幸をもたらす青い魔石−−ロストロギア。
それを見たスバルとリインは思わず声を揃えて驚く。

「これは・・・・・・」
『まさか・・・・・・』
「『ジュエルシード!!』」

−−−−−−−−−−−

341 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:41:50 ID:YrRABrO.

最悪だ。
まさかこんな形で俺が終わるなんて・・・・・・

利用するつもりだったギュオーが、有無を言わさずに襲いかかってくるなんて想定できるハズがない。
おまけにそのギュオーに殺されるなんてビックリ展開だぜ・・・・・・

結果、俺の身体はコントロールメタルをやられて制御不能になった強殖細胞に蝕まれ・・たぶん喰われてやがる。
もう、首から下の感覚がぐちゃぐちゃでよくわからん。
気が狂いそうな痛みと、死の恐怖って奴が、現在襲進行形で俺を襲いかかっている。
さっきまでは喚いて叫んで泣いてたが、もうその気力すらない。
こうやって考え込む程度の正気はギリギリで保っている。

・・・・・・俺の命はもう持たない。
あの女が必死で俺を助けようとしているが、無駄だろう。
すまない、ハルヒ、朝比奈さん、妹・・・・・・
俺の手で皆を日常に返したかったが、それももう叶いそうにない。
あとは、一人にしちまって迷惑をかけるが、古泉に任せるしかない。
でも、アイツがパソコンの掲示板を見ていたら、きっと怒ってるだろうな。
ひょっとしたらアイツが優勝しても俺だけ生き返してもらえんかもしれん・・・・・・俺への報いだとしても正直、嫌だな。


ハァ・・・・・・それにしても俺はどこで間違っちまったのかな?
俺が自分を抑えて、あの女たちから逃げなければ良かったのか?
ハルヒを殺した時点からか?
殺し合いに乗らなかった方が良かったのかもな?
そもそも、この殺し合いに連れてこられた時点で、俺の運命は最初から終わってたのかもしれない。

・・・・・・思い返して見ても、守るつもりだった奴を斬ったり、仲間や兄妹を売ったり、蛇の舎弟にされたり、土下座したり。
揚句の果てに、勝手に暴走して泣きわめきながら逃げて、ぶさまに死ぬ・・・・・・俺はこの殺し合いでろくなことは何一つしてないな。
汚いことを色々やって、それでも願いを叶えられないまま、俺は死ぬのか・・・・・・
ハルヒたちにあの世で笑われても文句が言えないな。


「・・・・・・ッ、まだ道具はある。
きっと助けられる道具が!」

眼中ではまだ、あの女−−スバルが頑張ってやがった。
なんか一エリアのほとんどを吹き飛ばすらしい爆弾を地面に置いて、めげずに『俺を助けるために』デイパックを漁っている。

342 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:42:52 ID:YrRABrO.
何をスバルは、必死になってるんだ?
俺なんてヤツは見殺しにしちまえば良いのに。
『あたしはただの甘ちゃん、偉くはないよ。
でも、そんな甘ちゃんの理想を貫けと言ってくれた人がいる。
だからあたしは、誰であろうと一人でも多くの人を救うと決めた。
キョン君も、これから会う人も、殺し合いに乗った人だって、助けてみせる!』
そういえば、そんなこと言ってたっけ?
しかし、味方はともかく敵だったヤツにまで手を差し延べるなんて、この殺し合いの場じゃバカか変人だぞ。



本当にスバルには変人って言葉は適切なのか?
ふと、疑問に思う。
そして、ここにきて俺がスバルが嫌いだった理由がようやくわかった気がする。

−−スバルが信念を曲げずに戦っているからじゃないのか。
敵にまで手を差し延べ助けようとし、誰であろうが死ねばその悲しみを受け止める。
力の差が歴然な相手にも、立ち向かおうとする。
一人でも多く助けたいという理想を貫こうとするその様は、あまりにもヒロイズムで気高い。
それは同時に、守りたかった少女を殺し、自分が助かりたいために仲間を売ったり、優勝のためには仕方ないとわかっていながら仲間の死を聞いて心が耐え切れずに醜態をさらしてしまったり。
所々で信念が揺らいでいたキョンにとって嫉妬の対象になり、彼女の近くにいると自分の惨めさを思い知ってしまう。
この殺し合いにおける進む道は真逆でも、信念を貫く彼女の姿勢は、キョンが自分に求めていた姿だったのかもしれない−−

俺は守りたいものを自分の手で壊しちまった。
必要悪だとわかっていても仲間が死んで芯が折れそうになった。
同盟を組んでいた古泉に対しての仕打ちは、明らかに俺の裏切りだ。

・・・・・・なのにコイツは俺とは逆で、ぶれずにやりたいことをできる。
いったいどうすりゃそこまで強くなれるんだ?
戦闘力じゃなくて、精神的な意味で。
俺もそうなりたかった・・・・・・できれば教えて欲しかった。


でも・・・・・・スバルの強くなった理由を知りたくても、もうそれはできそうにない。
いい加減、意識が遠退いてきやがった。
視界が徐々に真っ暗になってきやがる。
いよいよ俺は死ぬみたいだな・・・・・・

343 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:43:46 ID:YrRABrO.
俺にできることは、スバルと小さい女に看取られながら、仲間を裏切ったことへの後ろめたさを感じつつ、自分を殺したギュオーを憎んで、生きているだろう古泉に期待しながら死ぬだけだ。

・・・・・・虚しいな。
そんでもってSOS団の皆に裏切る以外の何もしてやれないまま終わるんだ。
だが、文句をたれた所でもう遅いんだ。
俺は自分の不甲斐なさを悔いながら死ぬとするか・・・・・・



「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない−−」



誰かの声が聞こえた。
その言葉に俺の意識は溺れきる前に引き戻される。
−−そうだ、俺は裏切ってしまった仲間への償いをまだしていない。

今思えば俺は自分の事しか考えてなかった。
自分の生存率をあげるために古泉を落としめた。
自分は立ち止まるべきじゃないのに、ハリボテのような覚悟で朝比奈さんと妹の死を聞いて、つぶれてしまいそうになった。
優勝して、皆を生き返して日常に帰ることにだって、俺は本気で挑んでいたのか?

もし、もう一度チャンスがあるのなら、俺は今度こそ本気で優勝を目指すために頑張ろう。
その時はスバルと同じく、自分の信念を曲げない。

優勝するためには、命をかけるぐらいの覚悟で頑張ろう。
弱い俺が誰にも負けないようにするには命を張るしかない。

そして、皆をを日常に帰す、それこそが不器用な俺なりの償い方だ。
これからは自分の都合ではなく、償いのために戦いたい!



−−死ぬ寸前にも関わらず、そんな決意を固めると、天は俺を見放さなかったのか、閉じかけた視界の奥で青い輝きが見えた。

その輝きを見て思い出すのは、SOS団での日々。
ハルヒによってSOS団に無理矢理入れられた事に始まって。
長門が宇宙人で、朝比奈さんが未来人だったり、古泉が超能力者だと名乗った事に最初は戸惑ったり。
朝倉に殺されかけ、長門が身体張って俺を守ってくれた事。
大人の朝比奈さんに出会いもした。
たまに遊びにきた妹。
島に行ったり、野球やったり、アホで電波な映画を作ったり、コンピ研とゲームをしたりもした。
俺はその思い出の全てが、口ではなんやかんや言いつつも、楽しかったに違いない。
俺はそれらを取り戻し、その日常の続きを皆で見るんだ。

344 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:45:16 ID:YrRABrO.

俺が意気込むと、例の青い輝きが一層強くなった気がする。
そこで『この輝きに触れれば、俺はもう一度立ち上がることができる』と、直感が告げていた。
これこそ、俺の願いを聞いてくれた神様が与えた最後のチャンスに思えた。
もちろん、今度こそ揺るぎない決意を胸に秘めた俺は、迷うことなくその輝きを掴む。

そして強く願った。

−−−−−−−−−−−

もう迷わないし逃げない。
あの輝いていた日常を取り戻すためなら全てを捧げても良い!
だから・・・・・・あと一回だけチャンスをくれ!

−−−−−−−−−−−

345 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:46:10 ID:YrRABrO.

そう願い終えると、手の中の輝きが大きくなり、やがて俺を包んだ。
身体中が隅々まで生まれ変わるような感覚を味わう。
もう一度、眼を覚ました時には、俺は以前とは別物になっているかもしれんないな。

そして、輝きの先にはハルヒがいた。
表情がよく見えないが、俺を見ていることだけはわかる。
彼女に俺は微笑みながら、自分の胸の内を告白する。

「ハルヒ・・・・・・口ではああだこうだ言ってたけど・・・・・・
俺はおまえの作ったSOS団に入れて良かっ−−」



瞬間、硝子を割ったかのように粉々に砕け散る俺の魂。

−−−−−−−−−−−

346 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:47:52 ID:YrRABrO.

スバルとリインがジュエルシードを引き当てたことに驚いている隙に、どこにそんな力が残っていたのか、強殖細胞でドロドロになっている腕を伸ばし、スバルの手元からジュエルシードを掠め取ってしまう。
強殖細胞の中にジュエルシードが取り込まれた時、キョンが光に包まれた。
目の前でジュエルシードを奪われ、突然に光だしたキョンに呆気に取られるスバルとリイン。
多少遠巻きにいるウォーズマンとギュオーもすぐに事態の変化に気づき、驚く。
その中でレイジングハートがスバルたちに警告する。

『膨大な魔力の発生を感知・・・・・・ジュエルシードが暴走している可能性があります!
早急にMrキョンから離れてください!!』
「でも・・・・・・キョン君が!」
『巻き込まれて死ぬつもりですか!?
上官命令です、早く離れて!!』
「・・・・・・くッ」

デバイスの警告と上官の命令を受けて、仕方なく二人分のデイパックを拾ってスバルはキョンから離れつつ、光り続ける彼を心配そうに見つめる。
なぜなら、スバルはジュエルシードが良き結果をもたらさないことを知っているからだ。


やがて、キョンを覆っていた光が消えていく。
すると、キョンがいた位置には『何か』が立っていた。
その『何か』の姿にその場にいた全員が驚くことになる。

『何か』はキョンであった。
キョンはついさっきまでの肉塊状態では無く、人型のフォルムに戻っていた。
しかし、その姿は異様かつ不可解。
目立った特徴をあげるなら、ガイバーと人間が合わさっている姿。
もっと詳しく追求すると、殖装者はガイバーという装甲を『纏って』いるのが普通であるが、今のキョンの場合は装甲と『一体化』しているのである。
首から下の外見特徴はガイバーに近けれど、型の合わないパズルを無理矢理押し込んではめ込んだように所々がイビツであり、アプトムのコピー並にガイバーとしての再現率が低い。

347 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:49:07 ID:YrRABrO.
首から上はもっと異様だ。
頭部の装甲は角や額部分を除いて剥がれ落ちたのか、素顔や頭髪が見える。
血の気を持ってかれたのか、茶色みを帯びていた頭髪は全て老人のように真っ白になっている。
ガイバーの特有の前から後ろに伸びる一本角は、頭から直接生えているようにも見えた。
額に残っていた装甲はヘッドビームの発射口と、コントロールメタルが嵌まっていた場所には、おそらくキョンのこの変身の原因となったジュエルシードが代わりに納まっていた。
最後にもっとも異様なのは、頬など一部が強殖細胞に侵された顔は、マネキンのように張り付いたような無表情であり、眼は光も闇も無い虚無を写している。

総じて纏う雰囲気は異様、身体はガイバーでも人でも無いクリーチャーのようだ。
当の本人は黙ったまま直立不動であり、その様子がさらに不気味さを掻き立てる。


起死回生したキョンに対して、状況が飲み込めないギュオーとウォーズマン。

「な、何が起きたんだ・・・・・・?」
「さぁ・・・・・・俺にもさっぱりわからん」

逆に、キョンの身に起きた事象の原因を知っているスバルとリインには、キョンが死の淵から蘇ったことに素直に喜べないでいた。
キョンに関して悪い予感がしてならないのである。

「キョン・・・・・・君?」

呟くようにスバルは声をかける。

「・・・・・・」

声にキョンがぴくりと反応を示し、ゆっくりと視線を動かして周りを確認する。
顔色一つも変えずにロボットのように見回し、そして−−突然、問答無用で他の四人に向けて額からヘッドビームを放った。

『わあああ、いきなり撃ってきた〜!』
「キョン君!?」

スバルはサイドステップで、側にいたリインは宙を宙返りして回避する。

「キョン!」
「うぬ!」

ウォーズマンはしゃがみ込んでかわし、ギュオーはバリアを張って防ぐ。
防いだギュオーは、ビームがバリアに当たった時の手応えで違和感を感じた。

(ビームの出力が、私の知っているスペックより強いぞ!?)

ギュオーを違和感を感じている一方でスバルには、キョンがいきなり周りを攻撃してきたことについて思い当たる節があった。

(ジュエルシードの暴走!?)

348 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:51:34 ID:YrRABrO.

悪い予感が的中してしまった。
攻撃してくるのはジュエルシードの暴走かわからないが、現在のキョンは目に見えておかしいのである。

『今のビームには魔力が付加されて出力が上がっていました。
おそらく額にあるジュエルシードの影響と思われます』
『ひぇぇぇ、パワーアップまでしているんですか?』

デバイスの分析、それを聞いてリインは驚きを隠せない。
口には出さないが、スバルもリインが言ったことと同じ心境だ。

その三人を尻目にキョンは次の行動へ移る。
駆け出し、ウォーズマンとギュオーの元へ向かう。

「よくわからんが・・・・・・止めなくはならないみたいだな!」

最初に迎撃に出たのはウォーズマン。
向かってくるキョンに向けて、まずはパンチを放つ。
腕力も速さも技術も常人を上回る拳撃、ガイバーになって一日足らずのキョンには避けること不可能のハズだった。
しかし、キョンは拳が当たる寸前に素早く体で捻って回避する。
そして、お返しと言わんばかりに、ウォーズマンにプレッシャーカノンを喰らわせようとするが、すぐに後退して攻撃を避ける。
プレッシャーカノンが直撃した地面は爆音とともに大きなクレーターを作っていた。

「驚いたぞ。
攻撃の威力はもちろん、反応速度まで上がっているとはな」

超人の一撃をかわし、この前に戦ったギガンティックの時には及ばないものの、ガイバーに比べれば攻撃の威力が上がっている。
素直に危険だと感じ、油断はできないと悟った。

そして、次の標的をギュオーに変更するキョン。
ウォーズマンはギュオーに注意を促す。
ギュオーが殺し合いに乗っている疑いの要素は大きいが、今はまだ味方の内に入っている。

「ギュオー!
そっちで行ったぞ、気をつけるんだ!」

ギュオーは(そのまま死んでくれれば後が楽になったのに・・・・・・ユニットを取れなかった腹いせも兼ねてもう一度地獄に送ってやるわ!)などと思いながら構える。
重力指弾による迎撃を行おうとするが、そこへキョンは片手に持っていたカプセル状の物体を見せつける。
その物体に気づいたスバルとリインは戦慄する。
物体の正体はN2地雷、ウォーズマンのデイパックから取り出したものだが、焦っていたため、回収をし忘れていたのだ。
それをいつの間にかキョンに拾われてしまったらしい。

349 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:53:41 ID:YrRABrO.

「?」

アレは何だと疑問に思うギュオー。
その疑問を持ちながらも、構わずに攻撃しようとするギュオーにリインが必死に説明して止めようとする。

『それは爆弾です!!
それを爆発させたらここにいる皆が吹っ飛んじゃいますーッ!!』
「なんだと!?」

リインが説明を終えたのはギュオーが攻撃を放とうとする直前、キョンが持つ爆弾を爆発させてはならないと慌てて攻撃を中止する。
ところが、攻撃中止により硬直したそのタイミングを、今のキョンが見逃すハズはなかった。
すかさず、ギュオーに向けてプレッシャーカノンを発射した。

「ぬううううん!!」

ギュオーは防ぐが、その威力はバリアを最大出力にしないと防ぎきれるものではなくなっていた。
すでに攻撃の出力が上がっていたことは予想済みだったのでバリアの出力を上げたのが幸を成したが、それも束の間。
防御をしたことで更に隙を産み、そこへ胸部装甲を開く。
片肺のメガスマッシャーでも、バリアで防ぐことはできないことをギュオーは身を持って知っている。
そこへさらに、魔力とやらにより出力が上がってるだろうメガスマッシャーの直撃を受ければいくらゾアロードである自分でも危険は必至。
おまけに、爆弾を盾にされているせいでこちらからは満足に攻撃できない。
よってギュオーは回避を選択した。

しかし遅すぎた、否、キョンのチャージの方が早かった。
胸の二つの球体から膨大な粒子の魔力が合わさった極大の閃光が放たれる。

「間に合わん・・ぬわああああああああ!!」

回避に失敗したギュオーは断末魔を上げて閃光の中へと消えていった。

「ギュオーーーッ!」
「ギュオーさん!」

スバルとウォーズマンが無事を願って名を呼んだ時には、ギュオーがいた場所は焼き払われた雑木林だけが残っていた。
ギュオーが閃光に包まれる瞬間を見ていた二人にとって、その場に何も残されてないということはすなわちギュオーの死を意味していた。

「そんな・・・・・・」
「やられてしまったのか、ギュオー!?」

あっけなく死したギュオーに悲壮感を覚えるが、キョンは二人の都合など考えずに、再びN2地雷を盾にする戦法をとって襲いかかってくる。

『あれじゃあ迂闊に攻撃できないです!』

350 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:54:50 ID:YrRABrO.

自分の腕の中で爆破させることはまずないだろうが、下手に攻撃が加えられず、逆に向こうから撃ち放題である。
スバルが彼を助けようとした際にN2地雷の威力を聞いていたのだろう。
でなければ、爆弾を盾にする奇策など使ってこない。
スバルたちが人殺しを嫌うスタンスであり、N2地雷の威力を知っていればこそ通用し、絶大な効果を持つ作戦である。
ウォーズマンが舌を巻くほどだ。

「あれが奴の手元にある限り、ろくに戦えん!」

しかし、スバルもまた策を思いつき、ウォーズマンに耳打ちする。

「(あたしがバインドを仕掛けます。
今の魔力じゃ一瞬で消えてしまいますが、一瞬だけ隙ができるハズです。
そこを突いてください)」

バインドは今のスバルでは消耗によって制御が利かず、拘束魔法として機能しずらい。
それでも一瞬でも隙を作ることができ、反応速度が上がって捉えづらい今のキョンから爆弾を奪うには打ってつけの作戦だ。
ウォーズマンは策の意図を理解し了承する。

「任せろ!」

爆弾を盾にヘッドビームやプレッシャーカノンを放ちながら近づいてくるキョン。
ウォーズマンは射撃を避けながらキョンへ接近、彼の後方のスバルはバインドを唱えるタイミングを伺う。
そして、キョンとウォーズマンの距離が無くなった時に、スバルは唱える。

「今だ! バインド!」

魔法の拘束具がキョンにかかる。
バインドはすぐに消えてしまったが、僅かでも動きに制限がかかり、そこを目論み通りにウォーズマンが狙う。

「それはおもちゃじゃない! 返してもらうぞ!」

パッと腕からN2地雷を奪い返し、スバルの下まで後退し、自分のデイパックにしまい込む。

「やりましたねウォーズマンさん」
『作戦成功ですぅ』
「ああ、後は技を決めてキョンには眠ってもら・・・・・・ん?」

爆弾を奪ってしまえば、あとは全力でキョンを叩いて気絶させるなりして暴走の原因を断ってしまえば良いのみ。
最大の威力を持つメガスマッシャーも、撃ったばかりでチャージが終わってないようだ。
叩くなら今がチャンス!・・・・・・そう思っていた三人だが、行動に移す前にキョンの変化に気づく。

キョンが口を大きく開いている。
・・・・・・暗いためか、喉奥に光る金属球があることにまで三人は気が回らなかった。
そして、放たれる音波攻撃。

351 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:56:11 ID:YrRABrO.

『いけない! 早急に退避してください』

レイジングハートが警告するが、三人がその警告の意味を理解する前に怪物・キョンは口から直接、ソニックバスターを放ったのだ!!

「うわああああああ!!」
「がはっ!?」
『うぐっ・・』

身体を襲う強烈な痛みにスバルが悲鳴を上げ、ウォーズマンが片膝を付き、リインが羽虫のように地面に落ちる。
前はダメージを受けても根気があれば動く事ができたが、パワーアップしたソニックバスターは動いただけで全身がバラバラになるような想像を絶するダメージが与えられる。
射程から離れるほどの力が出ないため、逃れようにも逃れられない。
そんな動こうにも動けない三人に、ソニックバスターを放ちながらキョンは接近する。
トドメを刺すつもりらしい。
最初に目をつけたのはかろうじて立っているスバル、立つことで精一杯の彼女にじりじりと詰め寄っていく。

『ス・・・・・・バル!』
「逃げるんだ・・・・・・スバル!」
「ダ・・・・・・ダメです、身体が動けない!」

1mもしない距離までキョンが腕を振り上げる。
構えからして高周波ブレードで斬り掛かろうとするつもりだ。

「あ・・・ああ・・・・・・」
『protec・・・・・・振動波で魔力の供給が阻害されてます!』

レイジングハートもスバルを守ろうと自動で障壁を張ろうとするが、デバイスに送られる魔力が足りず、発動できない。
スバルは逃げられない恐怖の中で死を覚悟した。
そして、キョンの高周波ブレードでスバルが袈裟斬りされる。
バリアジャケットの硬度も虚しく、袈裟型に斬られた傷から血液が飛散する。

「う・・・・・・」
『スバル、いやあああぁあああぁあああ!!』
「キサマーーーッ!!」

仰向けに倒れるスバルに絶叫するリイン。
斬るつけたキョンに激しい怒りを覚えたウォーズマン。

352 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 21:58:46 ID:YrRABrO.

「うおおおおお!!」

怒りを爆発させたウォーズマンは、自身を襲う痛みを押し切り、体内の回路がいかれかけるようなな無茶を押して立ち上がり、渾身の力でキョンの顔面に殴りつける。
パンチが顔面にめり込ませ、直撃したキョンは大きく吹っ飛ばされ背中で地面を滑った。
同時に、ソニックバスターによる音波攻撃は止み、身体の自由が利くようになった。

「ハァハァ・・・・・・」
「うぅ・・・・・・!」
『生きてた、良かった〜!』
「無事だったのかスバル!」
「な、なんとか・・・・・・傷は浅いです」

致命傷を受けていたと思っていたスバルが起き上がり、ウォーズマンもリインも安心した。
スバル自身も斬られ、身体に大きな斜め線が引かれるような広範囲の傷を受けたが、傷は浅く、出血はあっても量はたいしたことなかった。
その理由は、キョンの高周波ブレードが短くなっていたことにある。
倒れたキョンの高周波ブレードを見てみると、ギュオーに折られてナイフ並に短くなっていた。
口部金属球は形を変えて再生したが、こちらは再生が間に合わなかったようである。
さらに本人もそれを感知してなかった結果、リーチが足りず、スバルに致命傷を負わせることはなかった。
もし、高周波ブレードが元の長さだったら彼女は真っ二つに両断されていただろう。
今回は運に助けられた。

戦いはまだ終わらない。
倒れたキョンはむくりと上半身を起こし、口内で折れた歯を吐き出して、何事もなかったように立ち上がる。
顔は腫れ上がっているが、超人の拳をその身に受けても痛みは全く感じてないようだった。
そして遠巻きからヘッドビームを放ってくる。
三人はそれを避けながら、会話をかわす。

「ロボ超人である自分が言うのもなんだが、アイツはロボットにでもなってしまったのか!?」

以前のキョンならダメージを受ければ素直に痛がったりし、攻撃が効いたとわかると調子に乗る面があったが、今はそれが無い。
しかし、ただ感情が無いわけでも、本能だけで戦っているわけでもなく、時に知恵を働かせて攻撃してくる。

353 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:00:04 ID:YrRABrO.
全体的にギガンティックにパワーこそ劣るが、動きは過剰防衛行動モード並、さらに絡め手を使ってくる分だけ厄介に感じられた。
見た目も戦闘力もまさしく怪物である。
スバルはキョンの怪物化はジュエルシードが原因と思い、早く止めなくてはと思っている。

(このままでは、他の人にもキョン君自身にも危害が及ぶ。
ギュオーさんのような犠牲が出る前に止めなくちゃ、それに・・・・・・)
「彼を怪物にしてしまったのはあたしの過失です。
あたしが絶対に止めないと・・・・・・!」

自分が迂闊だったばかりに、キョンにジュエルシードを取られ、彼は怪物になった。
さらにN2地雷を回収を忘れてしまい、その結果、ギュオーが命を落とした。
スバルは心を痛ませる程の強い責任を感じていた。
だから、キョンを全力を尽くして止める腹づもりた、った。
・・・・・・しかし、レイジングハートがそれを許さなかった。

『いいえ、この場は即座に撤退してください』
「なんですって?」

スバルとウォーズマンは耳を疑った。
自分たちはまだ戦えると意気込んでいたからだ。
だが、デバイスは誰よりも冷静に状況を読んでいた。

『今のMrキョンを相手にするには、体力・打撃力が不足しています』
「ここでキョンを止めないと被害が増えるぞ!」

正義超人として、キョンを見逃したくないウォーズマンは反論する。

『しかし、スバルは消耗が激しく、Msリインフォースではパワー不足。
あなたに至っては動くが鈍くなってます、おそらく内部のパーツをいくつかやられたのでしょう』
「ぐっ・・・・・・気づいていたのか」
「ウォーズマンさん、怪我をしていたんですか!?」
「おそらく、さっきの音波攻撃の時に無茶をしたのが祟ったんだろう」

このデバイスは細かい所にも目を配ってたようだ。
ウォーズマンの表面では見えない負傷も見抜いていたらしい。

『よって、Mrキョンを止めるには戦力が不安要素が多過ぎです。
再度、撤退を提案します』
(キョン君は止めたい・・・・・・
でも無茶をして空曹長やウォーズマンさんまで犠牲にしたくない・・)
(被害を食い止めたい。
しかし自分だけならまだしも、スバルたちにまで危険で犯させるわけにもいかない)

354 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:01:03 ID:YrRABrO.
自分たちでは力が及ばない悔しさを感じながらも、仲間は犠牲にできないと二人は思い苦渋の決断をする。

「わかった。
この場は引こう」
「あたしも・・・・・・引くしか無いんですね」

三人はキョンの下から逃走することを決定した。
しかし、キョンの方がやすやすと見逃してくれるとは思えない。
そこでリインは申し出た。

『リインが殿りになって、二人の背中を逃げきるまで守ってあげます』
「リインフォース、一人で大丈夫なのか?」
『マスターにもう一度会うまでに壊される気はありません。
リインは二人が逃げきったらすぐに追いかけます。
時間を稼ぎますから早く行ってください』

リインは二人に微笑みかけながら指示を出す。

「わかりました。
絶対にやられないでくださいね、空曹長」
『もちろんですよ』
「よし、では任せたぞリインフォース!」

その会話を最後に、スバルとウォーズマンはキョンから逃走を始めた。
背中を見せる二人に、キョンは容赦なくビームやカノンを撃ち込もうとするが、リインの魔法攻撃がそれを阻む。

『あなたの相手は私ですよキョン!』

−−−−−−−−−−−

355 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:02:03 ID:YrRABrO.

魔法で出した剣や得意の氷結系魔法で戦うリイン。
倒すには些か攻撃力が足りないが、牽制と時間稼ぎが目的なので問題無い。
再度、逃げたスバルたちを追おうとすると、必ずリインに邪魔をされ、キョンは追跡できない。

仕方なくキョンは標的をリインに変えて、ヘッドビームとプレッシャーカノンで応戦する。
自律型デバイスと怪物の撃ち合いが始まった。
リインは小回りが利く小さな身体を活かして、宙を自由に飛び回りながら数多のビームや衝撃破を避けていく。
またソニックバスターを喰らうと厄介なので、一定の距離には近づかないなど警戒も怠らない。
スバルたちが撤退してからある程度の時間が立ち、目的も果たされそうである。

しかし、撃ち合いの中、リインは疑念を抱き始めていた。

(攻撃の頻度がだんだん落ちてる気がする?)

ついさっきまでは、乱射というレベルで射撃をしていたキョンだが、だんだん一辺に撃つ回数が少なくなっていた。

よく考えれば先程からおかしな行動も目立つ。
音波攻撃の時だって、こちらは全員が動けないのだから高周波ブレードを使わずともビームなどで撃ち殺せば簡単にケリがついたハズだ。
なのに、それをしなかったのはどうしてか?

(消耗をしているんですか?
いや、油断を誘う作戦かもしれません。
どちらにしろ気は抜けないです)

リインはキョンについて深く考えるのを止めた。
それにそろそろ稼いだ時間からして引き際にはちょうど良い頃合いだろう。

「キョン!
次に会った時、リインたちは今度こそ負けませんよ!
覚えといてください!」

捨て台詞を吐くと、リインはスバルたちと合流するべく、ピューッとその場から飛び去った。



−−−−−−−−−−−

356 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:03:07 ID:YrRABrO.

キョンは願い通りに、修羅の道を歩むことに迷わず、責任から逃げず、目的を忘れない、怪物になって強くなった。
そして強殖細胞に喰われかけた自分の命を繋がれ、もう一度殺し合いの場に立つチャンスを与えられたのだ。
ジュエルシードはキョンの望みを、酷く歪んだ形で叶えてくれたのだ。
その代償として、感情の全てを失った。
つまり彼は、大切なSOS団での日常を取り戻すために、感情を失い、SOS団での日常の何が大切なのかがわからなくなってしまったのだ。

今のキョンは、自我の一切が消えているため・・・・・・
良心の呵責も無く、平気で人を殺せる。
慢心が無いため、調子に乗ってドツボにはまることは無い。
恐怖が無いため、恐れずに敵に立ち向かえる。
怒りが無いため、我を忘れない。
悲しみが無いため、朝比奈みくるや自分の妹が死んだことに何の感慨も抱かない。
彼の心はもはや冷徹な殺戮マシーンである。
イメージとしてはスバル・ナカジマが未来に戦う相手、洗脳され心無い破壊兵器と化した姉ギンガ・ナカジマに近い。
いちおう、優勝を目指す目的と記憶・思考だけは残されたが、前者はそれ自体が願いに関わるから、後者の二つは無くすとキョンが優勝を目指す=目的を果たせなくなるため、残されたのだろう。
目的と計算だけで生きる者を魂があるとはとうてい言えないことであるが。
だが、代償はそれだけでは止まらず、キョンの生命力までも死なない程度に奪う。
頭髪が全て白髪化したのも、生命力をジュエルシードに吸われた証である。

だが、精神的・肉体的に多大な代償(これ以外に払う代償がなかったとも言える)を払って得た力は確かなものだった。
ジュエルシードを通して、深町晶よりもさらに深く強殖細胞と融合。
ガイバーには無い魔力の付加により、武器の攻撃力は軒並み上昇。
超人のパンチもある程度は避けられる反応速度を手に入れた。
そこへ、戦いに邪魔な感情が無いことにより、より無駄の無い戦いをできるようになった。

だが、代償を払ったにも関わらず、この強さには副作用がある。
力を使う度に体調が悪化し、寿命を擦り減らしていくように感じるのだ。
「・・・・・・ぐふッ」

357 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:04:14 ID:YrRABrO.
戦闘が終わり、リインも去ったしばらく後、彼は人知れず吐血をした。
吐血の原因はウォーズマンに殴られてではなく、自分の内側からくる崩壊によるものである。
元々、無茶な融合をしたため、身体のバランスを欠いてしまっているのだろう。
戦う度にそのバランスが崩れていき、元に戻せないほどバランスが崩れれば死ぬ。
同じく戦闘に特化した調整を行ったために、生命体としてのバランスを欠いて寿命が一週間足らずになってしまったネオ・ゼクトールという前例もある。
キョンの場合はあまりにも無茶苦茶な融合だったため、ゼクトールよりも生命体としてのバランスが悪く、寿命は短くなっている上に、戦うだけで死に近づく。
ヘッドビーム、プレッシャーカノン、ソニックバスター、メガスマッシャーと立てつづけに使ったので、体調は一気に悪化し、局面においてそれらの武器を使わなかったり、使用の頻度が下がったのはそのためである。
先程の戦いはキョンの圧倒的な優勢に見えて、実はキョンも戦えば戦うほど消耗していた(ただし、顔には出さない)、故にスバルたちを追うこともしなかった。
あと一人、ナーガレベルの強さの参加者がいたら負けていたのは自分だろう。
と、キョン自身も自覚していた。

今から会場の参加者を皆殺しに回ろうとしても、多く長く戦闘もできない調子の身体では2・3回も戦えば倒れるだろう。
基本的には遠巻きから狙撃するなり、嘘を流して殺し合いを加速させることに専念し、あくまで直接正面から戦うのは最終手段にするべきだと頭に刻む。

結局の所、高い代償を払って得た力は、一歩間違えれば自滅しかねないイビツて不安定な強さだったのである。

358 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:05:34 ID:YrRABrO.

さて、ギュオーやスバルたちを襲った理由だが、これは無差別ではなくわけがある。

まず、ギュオーは自分のガイバーユニットを狙っていたので殺しておくべきだと判断した。
仲間にしてもいつかは寝首をかかれるからだ。

続いて、スバルとウォーズマンたち。
この二人はギュオーと違って自分を殺すことは無いだろうが、代わりに自分が殺し合いをしようとする度に邪魔になるのは明白だった。
邪魔をされては目的が果たし難くなる。
警戒心があり隙もないので利用しようにも利用できない。
だから排除しようとした。
戦闘中に自分で消耗してしまい、取り逃がしてしまった。
自分の危険性を言い触らされるだろうが、どっちにしろ醜い今の姿では見られただけで警戒されるとも思える。
だったら姿を極力曝さないように心掛けた方が良い。
また、向こうは強力な爆弾を持っているので、自決ついでに爆発に巻き込まれたら、いくらパワーアップしたとはいえ持たないだろう。
よって追跡は諦めた。


過程はともかく、ようやく一人になることができた。
自由になったキョンは次の行動方針を考える。

まず、火事になっている北の市街地、ハルヒの死体が燃えてしまうのではないかと、前には思っていたが、それは流した。
ハルヒを殺し合いに参加させた以上、ハルヒの身に何があっても良いように考慮されているハズなのだ。
例え、死のうと、死体が焼かれようと、もっと酷いことになっていようと、万能な力を持つ統合思念体ならば生き返す問題無いハズだ。
だから北の市街地へ向かうのは止めておいた。

そして、18時に古泉と採掘場で待ち合わせをする約束を思いだす。
もっとも肝心の18時はとっくに過ぎてしまったが、古泉がいないとしてもあそこは隠れる場所にはちょうど良い。
高周波ブレードも折れたままであるし、休憩をして体力を回復させて武器の再生を待つこともできる。
古泉がいれば、殺し合いを加速をさせるために再度、連携を取ろうと思う。
掲示板を見て怒っており、言うことを聞かないようなら力で捩伏せて言うことを聞かせよう。
全ては目的のためだ。
−−善悪の概念や罪悪感を失っているため、古泉をおとしめた事に今は何も感じず、仲間を強引に言うことを聞かせようとする非道な行いなど、今の彼は平気で考えられるのだった。
とりあえずのキョンの行動方針は決まり、一路採掘場へ向かうことにした。

359 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:06:35 ID:YrRABrO.


−−もう、ここから先はキョンと言われた少年の物語ではない。
ここにいる怪物は、ハルヒたちを蘇生し、日常へ帰る目的のためだけに動く、キョンという名の抜け殻である。

360 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:09:37 ID:YrRABrO.
【G-5 森/一日目・夜】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】ジェエルシードを通したガイバーユニットとの融合、高周波ブレード破損(再生中)、生命力減退、白髪化、自我喪失
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0、ハルヒたちを蘇生し日常に帰る及び優勝のために手段を選ばない。この目的のためだけに行動する。
1、採掘場へ行き、隠れて休憩。できれば古泉に会い、再度連携を取る。
2、戦う度に寿命が減るので、直接戦闘は最終手段。基本的には殺し合いの促進を優先する。

【備考】
※ジュエルシードの力で生を繋ぎ、パワーアップしてますが、力を行使すればするほど生命力が減るようです。
※自我を失いました。
思考と記憶はあっても感情は一切ありません。
※第三回放送の死者について、古泉・朝倉が生きていること、朝比奈みくるとキョンの妹が死んだこと以外は頭に入ってませんでした。



−−−−−−−−−−−

361 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:12:28 ID:YrRABrO.

その頃、キョンから逃走を果たしたスバルたちはG‐4にいた。
詳しい場所は川の近くである。
そこを、スバルとウォーズマンは走っていた。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
「コー・・・ホー・・・・・・」

スバルは度重なるダメージと疲労で息を切らし、ウォーズマンは内部にダメージを受けたためどこか動きが鈍い。
消耗が激しいのは一目瞭然だ。

そんな折にスバルが考えていたことは、ジュエルシードで心無き怪物と化したキョンと、それにより犠牲になったギュオーのこと。
ギュオーには大きな疑いがあったものの、自分が焦ってN2地雷の回収を忘れてなければ、死ぬことはなかったハズだ。
キョンを見張りつつも守るつもりが、一度逃してしまい、自分の隙でジュエルシードを奪われ怪物と化させてしまった。
どちらもスバルの過失であり、非常に強い責任を感じていた。

(私がしっかりしていれば、キョン君もギュオーさんも・・・・・・!)

悔しさから次第に俯いていくスバル。
しかし、同時に決意も固めていく。

(次は絶対、ギュオーさんのような犠牲者を出さないためにも同じ過ちは繰り返さない!
キョン君も絶対に救ってみせる!)

彼女はクヨクヨ悩むよりも、ミスを糧にしてミスを繰り返さないようにする道を選んだようだ。

(だから・・・・・・暴走したキョン君による犠牲者が出ませんように・・・・・・!)

本当は、同行者として、怪物になってしまったキョンを自分で止めたかった。
しかし、今の消耗した自分では、挑んだとしても死体が一つ増えるだけだとも理解していた。
ならば、生き延びて万全な状態でキョンを止めにいった方が良い。
今逃げているのははあくまで力を蓄えるための戦略的撤退、
それまで、キョンの手が新しく誰かの血で染まらないことを祈るしかない。
考えをまとめたスバルは下を向いていた顔を、再び正面にむけた。

その横で、スバルの顔ををウォーズマンは見ていた。

(一瞬だけ俯いたが、すぐに揺るぎない意思を持つ顔に戻った。
思う以上に彼女は強いようだ。
クヨクヨしているようなら、背中を押してあげようと思ったが、そんな必要はなかったな)

そんなことをウォーズマンが思っていると、後方から、殿りの勤めを果たしたリインが後ろから飛んできて合流した。

362 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:13:45 ID:YrRABrO.
『お〜い、大丈夫みたいですねスバル〜、ウォーズマンさ〜ん!』
「空曹長!」

そんな彼女たちの後方から、殿りの勤めを果たしたリインが後ろから飛んで合流した。
二人をリインを温かく向かえる。

「無事でいてホッとしたぞリイン!」
『ハイ、リインはちゃんと時間稼ぎをしてきましたよ、えっへん。
とりあえずはこのペースならキョンに追いつかれないと思いますよ』

自分の成果を自慢しつつ、報告をするリイン。
スバルはリインに微笑み、お礼を言う。

「あたしたちも空曹長のおかげで助かりました。
あなた自身も無事で何よりです」

一先ず、キョンを除いた全員が集まれたことにより、少しは安堵する三人。



−−それも、デバイスの突然の報告により破られる。

『後方よりエネルギー反応!』
「え・・・・・・?」

安心しかけた心が、一気に緊張していく。
後を振り返ると、遥か後方に暗くてよくわからないが、誰かがいた。

それを見た瞬間、スバルは直感で嫌な予感がして、反射的にウォーズマンとリインの前に飛び出してきた。
瞬時にデバイスへ指示を出す。

「いけない! 障壁を!」
『protection』

魔力による障壁が現れ、同時に見えない攻撃が障壁にぶつかる。
しかし、攻撃は障壁の硬度を僅かに上回っていた。
障壁が破られ、殺しきれなかった余波がスバルに襲いかかる。

「うわああああああ!?」

余波を受けたスバルが仰向けに倒れ、デバイスへの魔力の供給が完全に途絶えたのか、レイジングハートは杖から赤い宝石に戻り、バリアジャケットが消えて、元の制服姿に戻る。
ようやく、スバルが何者かの攻撃から自分たちを守るために盾になったことにウォーズマンは気づき、倒れた彼女の名前を叫ぶ。

「スバルーーーッ!!」
「ふむっ、あの一撃を受けてバラバラにならないとは・・・・・・」
「その声は・・・・・・!」
『なんでここにいるんですか!?』

突如、自分たちを襲った襲撃者が、聞き覚えのある声を発したことにウォーズマンもリインも驚く。
その声の主こそ、死んだと思われた男・ギュオーである。

−−−−−−−−−−−

363 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:15:05 ID:YrRABrO.

回避が間に合わずにメガスマッシャーの閃光に包まれた瞬間、ギュオーはある方法により死を免れていた。
最大出力のバリアでも、例え制限下で無くともメガスマッシャーは防ぐ事はできない。
増してや両肺で、魔力により強化されたメガスマッシャーの前ではいくらゾアロードでも一たまりも無い、と思われる。

そこでギュオーのとった判断は、防御では無く攻撃である。
攻撃対象は迫る閃光・・・・・・ではなく、己自身!
重力使いであるギュオーは、自分に重力攻撃を当てて反動で吹っ飛ばし、メガスマッシャーの直撃を避けてしまおうというのを閃いたのだ。
その時のギュオー自身には、それ以上迷ったり考えたりする時間も無く、すぐに実行に移した。
即座に出力のある限り、パワーを集中し、自分に向けて放つ。

「・・・・・・ぬわああああああああ!!」

自分に殺傷能力のある技などかけた事が(おそらく)無いギュオーは、己の技に悲鳴をあげる。
だが、生き延びるためには必要なダメージだ。
あとは自分のタフネスさを信じるしかない。

そして、目論み通りにメガスマッシャーの直撃を受ける前に反動でギュオーは飛ばされることができた。
他の者の目には、閃光が眩し過ぎてギュオーが飲み込まれたように見えた。
レイジングハートですら、エネルギーの奔流が激し過ぎてギュオーが死んだと誤認してしまった。実際は、少しばかり大きく吹っ飛び、人知れず戦いの輪から外れていただけである。

気がつけば、戦いからはやや遠い場所にいた。
高出力で放ったため、けっこう遠くまで飛んだようだ。
同時に全身の打撲が、もう一度上塗りされたように痛み、私は今までこんな痛みを敵にぶつけてたんだな〜と理解する。

「しかし、キョンの奴め。
私にナメた真似をしやがって・・・・・・必ず八つ裂きにしてくれる」

キョンへプライドを傷つけられた恨みをギュオーは呟く。
キョンは確かにパワーアップしたが、あれぐらいなら全力を出せば倒す事はできそうだ。
実際に、ダメージを受けたのは脱出のために自分を攻撃した時だけであり、キョンの攻撃そのものは防ぐか避けている。
しかし、周りを消せるほどの強力な爆弾を持っていたらしく、こちら実力を出し切れないまま、撃たれてしまった。

364 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:15:57 ID:YrRABrO.
まだ負けを認めたわけではないが、あのような者に一杯くわされたことに非常に腹を立てている。
将来の帝王になる男をてこづらせたキョンへの殺意は十分だった。

とりあえずは、そのキョンを八つ裂きにするために戦闘に戻ろうかと考えていたが、ビームなどが飛び交う戦闘の音が途絶えた。
やがて、遠くにキョンと戦っていたハズの二人が見えてくる。
元からそれなりにボロボロだったが、さらにボロボロになっているところからして、キョンに負けて敗走中ということか。
ギュオーを含めた殺し合いに乗った者から見れば、絶好の獲物であろう。

そこでギュオーは考える。
一体の怪物・キョン、ろくに戦えそうも無い手負いの二人、どちらを狙うべきか。
キョンは自分が全力を出せば殺せる。
例の爆弾を持っているが、今度は可能な限り遠距離から攻撃する、または奪ってしまえば良い。
ただし今はそれなりにダメージを受けているため、安心して戦うためには少し時間をかけて回復する必要がある。
一方で、ウォーズマンたちは手練れのようであり、行動に支障が出るほどのダメージを受ければ話は別だ。
しかも、自分が優勝を目指している事を強く疑っている。
このまま、生かしておくと疑いが広まって会場が歩きづらくなる。
先はまだまだ健全だったために、どんなに疑われても引き止めようとしたが、手負いの今はもう必要無い。
今から合流しても、足手まといと懸念材料が増えるだけで意味が無い。
だったらまとめて殺して首輪と支給品を奪った方が利益は大きいかもしれない。
逆に別の殺し合いに乗ってる者に首輪や支給品を奪われるのは癪だ。

365 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:17:43 ID:YrRABrO.
戦うとして、ギュオーもダメージがあるが、こちらが近・中・遠距離の技を一通り持っているのに対し、向こうはどちらも近接攻撃型だ。
負けない自信はギュオーにはある。

・・・・・・ここまでくれば、ギュオーにとってキョンと目の前の二人のどちらを狙うか、おわかりだろうか?
ギュオーは一定距離まで近づき、後から二人にリインが合流して安心している所を襲撃のチャンスと見て、三人をまとめて吹き飛ばせそうな威力の重力波を放ったのだった。

−−−−−−−−−−−

366 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:18:42 ID:YrRABrO.

リインが小さな体で、倒れたスバルの肩を必死に揺さぶるが、スバルは起きる気配を見せない。

『起きてスバル! 起きて!』
『落ち着いてください、過労で気を失ってるだけです。
命に関わるようなダメージはありません!』

レイジングハートは焦燥している仲間たちに、スバルの身の安全を教える。
あの一撃で生きていたスバルには安心するが、今の状況そのものは予断を許せる事態じゃない。
ウォーズマンは襲撃をしてきたたギュオーに怒鳴る。

「何のつもりだ、ギュオーッ!!」
「見てわからないのかね。
諸君を抹殺しにきたのだよ。
生かしておくと後々面倒になりそうだからな」

物騒な事を余裕の表情を浮かべるギュオーに、ウォーズマンは苛立ちを覚える。

「キサマ、本当に殺し合いに乗っていたのか」
「そういうことだ。
安心したまえ、その怪我では二人ともあまり長生きできないだろう。
だから君らの死は私の糧とさせてもらうぞ」

これかる狩る対象の怒りを嘲笑うギュオーは、重力指弾を容赦無く放つ。
最初の狙いは気絶して自力で動けないスバル。

「クソッ」

ウォーズマンは即座に気絶したスバルを抱え、側面へ大きく動いて指弾を回避する。

『動けない相手を狙うなんて、この卑怯者ぉーー!!』
「なんとでも言うが言い。
勝てれば言いのだよ」
「三流悪行超人みたいなことをほざくな!」

ギュオーの卑怯な行いにウォーズマンたちは怒るが、ギュオーは気に止める様子も無くバンバン攻撃を加え続ける。
ウォーズマンはひたすら回避するが、少女を抱えたままでは動きが制限され、反撃することができない。

『えーい!』

代わりにリインが魔法によって生み出した剣で応戦しようとする。
が、ギュオーの張ったバリアに防がれてしまう。

『そんな・・・・・・』
「無力だな。
そんな攻撃が私に通じると思っていたのか。
こちらのエネルギーはまだまだ余裕があるぞ!」

唯一攻撃ができるリインでもバリアを貫くことは叶わない。
焦りと絶望感がウォーズマンを襲う。

(ギュオーは強い。
それ以前にスバルを抱えたままでは反撃もできない。
彼女が起きる気配もないから、自分で身を守らせるのも期待できない。
いつまでも抱えたまま避け続けられはしない、このままでは二人とも死ぬ。
だからといって仲間を見捨てる事など論外だ!
何か良い方法は無いのか・・・・・・?)

367 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:19:59 ID:YrRABrO.

現状の打破を模索する彼の目に、水が流れる川が止まる。
その時、彼の脳裏にスパークが走る。

「イチがバチかになるが・・・・・・リイン、レイジングハートと一緒にスバルの制服のポケットに入れ」
『え?』
「早く!」
『は、はい!』

唐突に指示を出したウォーズマンの意図が見えず、戸惑いつつも言われるがまま、スバルの制服のポケットの中にレイジングハートを先に入れ、自身も顔を残してすっぽりと収まる。

『こうですか?』
「そうだ・・・・・・
リイン、後はおまえだけが頼みの綱だ」


「スバルを守ってくれ」

その言葉を送ると、ウォーズマンは全力でスバルを遠くへぶん投げた!

『ウォ、ウォーズマンさぁぁぁぁぁん』
『Mrウォーズマン!?』

予告も無しにいきなり投げ飛ばされ、ジェットコースター状態のポケットの中で悲鳴と疑問をあげるリインとレイジングハート。
投げ飛ばされたスバルは宙に孤を描き、自由落下で川へと水しぶきをあげて着水した。
しばらくして、デイパックが浮き具代わりとなり、どうにか顔だけでも水面から持ち上がり、運よく気動だけは確保できた。
リインもまた、レイジングハートを抱えて水面から上がり、スバルを足場に上がる。

『ゴホッゴホッ・・いきなり酷いですよウォーズマンさん!』

プンスカという擬音が似合いそうなくらい、ウォーズマンに文句を言うリイン。
だが彼女の視界にあるウォーズマンとギュオーはどんどん小さくなっていく。
いや、彼女の足場になっているスバルが流されているのだ。

『流されてる・・・・・・ウォーズマンさん、これって!』

思わず、浮遊してウォーズマンの所へ向かおうとするリインを、レイジングハートは呼び止める。

『いけません!
あなたが動けばスバルが無防備になってしまいます!』
『えぇ、それじゃあ・・・・・・』

彼が別れ際に言った、スバルを守れという言葉、その意味をリインフォースが理解したのはその時だった。



「荷物を川に捨てたか」
「荷物呼ばわりするな! 立派な仲間だ!」

ウォーズマンはスバルを守る手段として、川へ彼女を投げ込んだのだ。
後は水の流れに任せて彼女はこの戦いの場からでていく。

368 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:20:49 ID:YrRABrO.
自身も、彼女を守る必要が無くなり行動の自由を取り戻せる。
スバルの安否についてはリインに頼る他ないが、この場で戦えないままギュオーに殺されるよりは遥かにマシだと判断した。
あとは彼女の身の安全を信じるつつ、ギュオーと戦うだけである。
しかし、ギュオーも彼女を見逃す気はなかった。

「それであの小娘を守ったつもりか、ウォーズマン?」

ギュオーは流れていくスバルが視界にいる内に、追撃をかけようとする。
それをウォーズマンは許さない。

「させるかぁーーー!」

ウォーズマンは駆け出し、そして地面を蹴って飛び、身体を捻りながら拳を突き出し、技の名前を言い放つ。

「喰らえ、マッハ・パルパライザーッ!!」

回転する弾丸のように突進するウォーズマン。
ギュオーはそんな攻撃にも余裕の態度でバリアを張るが・・・・・・

「怪我人の攻撃など、このバリアの前では−−」


拳の弾丸が、最大出力ではなかったとは言え、やすやすとバリアを突き破り、ギュオーの腹に直撃する。


「−−ぐはああああ!?」

表情を余裕のから苦悶に変え、勢いあまって後方に吹っ飛ぶギュオー。

「怪我人の攻撃ではバリアが、何だって?」

ウォーズマンがニィとスマイルをする。
そのしたり顔にも見える表情はギュオーを怒りのベクトルをあげる。

「お、おのれえぇぇ!!」

スバルはこの間に二人の視界の外へと流れていった。

(なぜこうまで動ける?
手負いではなかったのか!?)

怪我をしているのだからまともに戦えるハズは無い・・ギュオーはそう思っていた。
実際には、さっきまでフラフラしてたとは思えない、普段と謙遜無い動きに戻っている。
ギュオーには理由がわからなかった。

ギュオーの目測通り、ウォーズマンは手負いで間違っていない。
ウォーズマンは身体のダメージはかなり蓄積されているにも関わらず、無理を押して戦っている。
そんな無理をしてまで、身体を動かそうとする原動力は正義超人としての魂だ。
悪を許さない正義感が、傷ついても立ち上がろうとする闘志、仲間を守ろうとする思いやりが彼を支えているのだ。
ギュオーにはこの内の一つでも理解できるだろうか?

ウォーズマンはギュオーを指差し、挑戦状を叩きつける。

「ギュオー、一対一の真剣勝負だ!!」

369 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:21:42 ID:YrRABrO.

ギュオーはウォーズマンほど、こういった挑戦を素直に受けるタイプではない。
しかし、プライドが高い彼にはウォーズマンにナメられたままこの場を引く気にはなれなかった。
スバルも既に視界の外へ流れていき、その少女を殺すためにもウォーズマンと戦って勝たねばならない。
よってギュオーは挑戦を受けることにした。

「面白い!!
貴様を全力で叩き潰し、あの小娘も追いかけて殺してやるわ!」

睨むあう両雄。
ロボ超人と獣神将の戦いが始まる−−

370 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:23:56 ID:YrRABrO.
【G-4 川辺/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身打撲・火傷、大ダメージ、疲労(小)、回復中
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本、毒入りカプセル×4@現実
空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリヲン、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー
博物館のパンフ
【思考】
0、自分が殺し合いに乗ってることが広まらない内に手負いのウォーズマンとスバルを抹殺する。
1、優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2、、自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
3、首輪を解除できる参加者を探す。
4、ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
5、タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
6、キョンはとりあえず後回し。いつかは殺す。

【備考】
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分を破棄されました。
※首輪の内側に名前が彫られていたことに気づいていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※首輪に『Mei』『Ryoji』と名前が掘られていることに気づいてません。

371 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:24:45 ID:YrRABrO.

【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、草壁姉妹やホリィ(名前は知らない)への罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン、、クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の実@キン肉マン
、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
デイバッグ(支給品一式入り)
【思考】
1、ギュオーを倒し、スバルを助けにいく。
2、今は暴走したキョンから離れ、スバルをどこかで休ませてやりたい。
3、タママの仲間と合流したい。
4、もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
5、スエゾーとハムを見つけ次第保護。
6、正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒せる。
7、超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
8、暴走したキョンは戦力が万全になり次第、叩きのめす。
9、機会があれば、レストラン西側の海を調査したい。
10、加持が主催者の手下だったことは他言しない。
11、紫の髪の男だけは許さない。
12、パソコンを見つけたら調べてみよう。
13、最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。

【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました。
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました。
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています。
※加持リョウジが主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくらクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。


−−−−−−−−−−−

372 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:26:26 ID:YrRABrO.

川の流れによって戦場から離脱することができたスバル。
その上を追従するように浮遊するリイン。

リインは酷く緊張していた。

『・・・・・・責任重大です』

ウォーズマンにスバルを守るように頼まれたリイン。
肝心のスバルは、叩いても起きず、バリアジャケットもないため完全に無防備なのだ。
今なら銃弾の一発でも喰らわせられれば簡単に殺される。
だから、リインが護衛についているわけだ。
しかし・・・・・・

『ギュオーみたいなのが現れたら、リインでは止められたもんじゃ無いです』

自分の魔法攻撃をたやすく弾いたバリアを持ち、攻撃力も高いギュオー。
もしくは同じレベルの敵が現れたらスバルを守り通せる自信がリインにはない。
思わずため息を吐きたくなるほどだ。

『自信を持ってくださいリインフォース。
私も、誰かが接近してくる時は位置を知らせるなどをしてサポート致します』
『レイジングハート・・・・・・』

弱気なリインを気遣ってか、レイジングハートがサポートを約束することを兼ねて応援する。
すると、気が楽になり使命感が湧いていた。
表情は眉を寄せて真剣なものへと変える。

『そうですね、上官は部下を守らなきゃいけないのに、上官のリインが弱気じゃいけませんよね』

そして、眠っているスバルへと堅い誓いを立てる。

『ウォーズマンさんは、リインたちを逃がすためにギュオーと戦いにいったんです。
リインはウォーズマンさんからスバルを守る役目をもらいました。
何があってもスバルはリインがお守りします』

スバルから返事は無い。
気絶しているので返事は無くて当然だ。
リインにとっては、むしろ自分に言い聞かせるために決意を口にしたのかもしれない。

『だからウォーズマンさん・・・・・・必ず勝って、リインやスバルたちに合いにきてくださいです』

小さな人型デバイスは、男の無事を祈った・・・・・・

彼女たちの流れつく未来は、神のみぞ知る。

373 さよなら 蒼き日々よ ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:27:48 ID:YrRABrO.
【G-4 川/一日目・夜】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(極大)、魔力消費(枯渇)、胸元に浅い刀傷、意識朦朧
川に流されてます
【持ち物】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹
リインフォースⅡ(ダメージ・小/魔力消費・中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0、(意識朦朧)
1、機動六課を再編する。
2、何があっつも、理想を貫く。
3、人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4、戦力が万全になったらジュエルシードで暴走したキョンを止めに行く。
5、人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう(ケロン人優先)。
6、オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
7、中トトロを長門有希から取り戻す。
8、ノーヴェのことも気がかり。
9、パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。

【備考】
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が元に戻りました(気づいてない)。



【N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン】
超強力な爆弾。
見た目は零号機(綾波レイ搭乗)が使用した物と似てる。
劇中に登場したサイズでは参加者が扱えないので、片手で携帯できるサイズになっている。
小型化に伴い、その分だけ威力も大幅に下がったが、それでも一エリアの1/4が跡形も無く吹き飛ぶ絶大な威力を秘めている。

374 ◆igHRJuEN0s :2009/06/29(月) 22:28:54 ID:YrRABrO.
以上で、投下終了です。

375 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:02:01 ID:HUBhMMTs



『この勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

激励の言葉と共に数えて三度目の放送が終わる。
響き渡った声はとても弾んでいた、聞いた者全てが草壁タツヲの歓喜に満ちた表情を容易く思い浮かべられる程に。
理不尽な催しに招かれた参加者は殆どが憤るであろうが動揺しない者もここに居た。

アプトムは冷静にメモを取り終えると椅子を軽く傾けた。
体重を預けられてオフィスチェアの背もたれがギギィと軋む。
人を人とも思わない扱いをされるなど損傷実験体の男には慣れきっている。
憤りを感じぬ訳ではないが今無駄に頭に血を上らせる気など更々無い。

「ギュオー閣下は無事か。そしてやはり深町晶も生き延びている」

新たな禁止エリア、前回に倍する死者、そして最後に草壁が言っていた事よりも先にアプトムが考えたのがそれだった。
合流を目指す上司と自ら手を下したいと望む相手、両者の名が呼ばれなかった事に軽く安堵する。
二人に比べれば他に誰が死のうと些細な事に過ぎない。

『ズーマ、それにあのアスカという少女も死んだか。特に小砂君とは協力を続けられると思ったのに残念な事だ』

アプトムの頭上で参加者ならぬ暗黒生物も感想を述べる。
残念と言うにも関わらずその口調は淡白だ、かっての所有者とはいえ偶然自分を手にしたにすぎない相手など悼むつもりはないらしい。
彼が本当に情を注ぐのは娘のみだ、もし現パートナーのアプトムが斃れたとしても何ら感じる事は無いだろう。
アプトムとてネブラに仲間意識など持ってはいない、あくまで利害が一致しただけの関係に過ぎない。

「口だけで役に立たん小娘だったな。まあいい、いくらか情報を得られただけでもマシというものだ」

砂漠の便利屋などと大層な肩書きを名乗っていた割にあっけなく死んだ小砂をアプトムは吐き捨てた。
予想してなかった訳ではない、彼女が追った筈のアスカがあの場所に現れた時から可能性は頭に有った。
期待を裏切られたのは残念だがアプトムは早々と思考を切り替える。哀れな少女の事など頭から追い出して物言う道具に今すべき事を言い放つ。

「今回も禁止エリアは遠い、主催者が姿を現したとしても勝ち目の無い限り戦う気など無い、まずはこいつから話を聞く」

クイと顎で示した先に在ったのは壁一面のモニター、そこに映し出されていたのはこの建物の各所に配置された監視カメラの映像。
無論アプトムが設置したものではない、これは元々備わっていた設備。
ここは市街地でも一際目立つデパート内部の保安室、本来防災とセキュリティを担う筈の部屋に居るのはその対極、破壊と殺人を目的として創られし獣化兵。

地階を映す一画面をアプトムは見ていた、デパートお馴染みの食品売り場が液晶の向こうに存在している。
その中の惣菜を調理する厨房の一つ、カメラを操作してズームすると異形の存在が画面に広がった。

『ちょうど彼が目を覚ましたようだぞ。さて、君の目論見道理に事が運ぶのかね?』

ネブラの言うとおり囚われの甲虫は動き始めていた。
存在については小砂より聞いた、しかしエリートたる超獣化兵と損傷実験体の自分では接触したところでいい様に使われるのが明らかな為会う気は無かった。
―――そのエリートが弱者が多く居たあの場で何故自分に狙いを定めたのか?

アプトムはそれが疑問だった。しかし彼は答えを知りたくて殺さなかったのでは無い。
ましてや同じクロノスに属する者だからでも無い、敵視された以上殺す事に躊躇いは無い。
狙いはこの甲虫、ネオ・ゼクトールを自分に協力させる事。

376 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:02:33 ID:HUBhMMTs

「試す価値は有ると言った筈だネブラ。決裂も想定してわざわざこの場所まで運んだのだからな」

アプトムの目的は生存だ。
悪魔将軍を筆頭に自分を軽くあしらう強者の存在に対抗するには何としても力が欲しい。
だからこそ危険を承知でゼクトールを生かしたのだ。

デパートという場所を選んだのも交渉のアドバンテージを握る為。
アプトムはネオ・ゼクトールの能力を全ては知らぬ、ネブラの拘束と大鎌が有っても直接の対峙はリスクが大き過ぎる。
生存を第一とする男にとってその方法は選べない、下手すれば会話も成立せずに逆襲されるやもしれぬ。

危険は可能な限り避ける為にやって来たのがこのデパート。
相手を一方的に観察し、姿を見せずに対話が出来る。その設備が整っている。
交渉が不調に終わったとしても地階と保安室は複数の階層で隔たっている、戦闘するにも待避するにも時間を稼げる。

特にネブラがデパートを知っていると助言した事が大きかった。
家具売り場で小砂によって取り出されのがネブラのスタート。彼女との接触の中で内部構造や設備についても観察し覚えていたという。
そのお陰で短時間で準備を整えられたのだ、これもゼクトールに対するアドバンテージの一つとなる。

『ふむ、現状ではこれがベターか。それにしても彼の持ち物に大した物が無いのは残念だったな』
「幻覚を見せるマスクが脅かしに使える程度だな、後は壊れた腕時計に拘束具。お前やユニット程のものはさすがに希少らしいな」

モニターではゼクトールが全身の拘束を外そうと足掻いている。
時空管理局が犯罪者拘束に用いるものらしいが最強の超獣化兵相手は荷が重い、見る間に形が歪んでゆく。
長くは持たないだろうが準備が整うまで動きを止めておければ良いのだ、十分役に立ったといえるだろう。

「頃合だな、始めるぞネブラ」

全ての拘束が破壊されたのはすぐだった、遂にゼクトールは己の自由を取り戻す。
それを見て取ったアプトムもまた動く、内線電話を手に取って地階の番号をプッシュした。

コールは長く続かない、数回で目当ての相手が応対する。
地階では苛立ったゼクトールが乱雑に受話器を取っていた、その様子は監視カメラで筒抜けだった。
情報で優位に立っている事を実感してアプトムは口元を歪める。

だが勝負はここからだ、猛獣を手懐けて初めて成功と呼べる。
一度は殺されかけた恨みを胸に仕舞ってアプトムは喋りだす。

ここに二人の復讐者はホットラインで繋がれた、しかし両者の隔たりはあまりに大きい。
同じ世界から来たにも関わらずアプトムもゼクトールも相手に不可解な点を感じていた。

コンタクトは疑問を解きほぐす糸口となるかもしれない。
しかし、その答えがどのような結果をもたらす事になるのかはわからないのだ。

377 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:03:15 ID:HUBhMMTs


               ※       



ゼクトールは久しぶりに仲間の夢を見た。

エレゲン、ダーゼルブ、ザンクルス、ガスター……

クロノスを知り、激しい選抜試験を潜り抜け、幹部候補生となって超獣化兵への調整。
それから十二神将が一人、バルガスの部下としての数々の功績を上げた。

(俺の傍らにはいつもあいつ等が居てくれた)

彼等との出会いは時期も場所もバラバラであったが深い絆で結ばれるまでに時間は掛からなかった。
苦楽を共にした彼等と共に将来クロノスが治める世界を支えるつもりであった。

思い出すのは自らの黄金時代と胸を張って言える過去の日々。
未来への道は開けている筈だった、だがその夢は一瞬で黒く塗り潰された。

―――アプトム

自らを調整したバルガス最大の失敗、仲間を次々と捕食された光景、そして脚を奪われた悔しさが蘇る。
結果奴はガイバーと並ぶクロノス最大の敵とされるまでになった。

(クソッ! あの時仕留めておけば―――)

タールを満たしたような漆黒の中、浮かび上がるように何かがゼクトールの眼前に現れる。
それは薄笑いするアプトムの顔、忽ち怒りは頂点に達した。
殴りかかろうとしたが身体は何故か動かない、見れば黒いスライムが水飴の様に絡み付いている。

ゼクトールは唐突に喫茶店の出来事を思い出した、
女と直立する兎を追い詰めた筈が隠れ潜んでいたアプトムによって不覚を取った。
その時に自分を拘束・攻撃したのが今絡み付いているものと似た黒い触手。
だとすれば絡みつくこれもアプトムの一部か。

(おのれ、二度と失敗を繰り返してたまるか―――)

更なる力を四肢に込めた瞬間にゼクトールは覚醒した。
そこはやはり暗い場所だった、しかしアプトムの憎らしい面構えは何処にも無かった。

(夢を見ていたのか、俺は)

気絶してる間捕食されなかった事は不思議ではない。
再調整によってゼクトールの体内にはアプトムの捕食を阻む抗体と代謝を狂わせるウイルスが存在しているのだ。
だが何故殺さずこんな場所に放置したのか?

378 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:03:47 ID:HUBhMMTs
「何を考えているアプトム……」

見渡せば建物の中らしいが照明は切られ非常灯だけがぼんやりと闇の中を照らしている。
意識を取り戻すに従い強い異臭が鼻を突いた、腐った野菜を思わせる不愉快な臭いだ。
そして感じる息苦しさと何処かから聞こえてくる警報音、何が起こっているのか明らかだった―――

ガス漏れ、それも既にかなりの量がフロアに満ちている。
すぐさま動こうとしたが身体を締め付ける拘束具に阻まれた、複数のリングが腕と脚を縛り付けていたのだ。
何を考えてかしらないが、こんな姑息な方法で俺を殺せるかとゼクトールは怒る。

フンッ、と気合と共に力を込めるとミチミチと拘束具が悲鳴を上げた。
右腕は未だ再生途上だが引き千切るのに不都合は無い、結果数分と持たずに時空管理局の官給品は不燃ゴミと化す。
予想通りというべきか荷物は何処にも見当たらない。奴は何処だと考えた直後に闇の中で赤いランプが点滅した。

それは電話だった、わざわざここに掛けてくるような奴は一人しか居ない。
耳障りな呼び出し音を続かせずに左手で受話器を取る、すぐに神経を逆撫でする不敵な声が聞こえてきた。

『グッドモーニング、エリートさんのお目覚めは随分遅いな』

危うく受話器を握り潰しかける、ぬけめけとよくそんな事が言えるものだ。
だが奴がこの建物に居るのがわかったのは大きい、電話機にはしっかり『ナイセン』と表示されているからな。

『単刀直入に言わせて貰う、俺と手を組まないか?』

奴は何を言っている? 手を組もうだと?
どの口でそんな事を言えるのかと憤る俺に奴は更に続けた。

『貴様が何の為に俺を狙ったのかは知らん。だが生き残りたいと思うなら悪い話ではない筈だ。
 ギュオー閣下とも合流すれば生存の確率は更に上がる、深町晶と戦うにも有利だ』

俺は一言も返さずに奴の言葉を聞き続けた、内容は返事をする気にもなれん。
奴とギュオー、裏切り者同士が組むのはお似合いだが俺も仲間に加われだと!?
これ程の厚顔無恥とはな、怒りが突き抜けると案外に冷静になれるらしい。
返事せず黙っていると勘違いした奴がまた喋りだす。

『迷うのも無理も無い、だがお前は荷物を失った上に放送を聞き逃した。
 近くには誰も居ない、しかし承諾すれば荷物は戻り死者と禁止エリアの情報も手に入る』

そんなものに釣られるか! どれだけ人を舐めるつもりだアプトムめ。
ガス漏れも脅しの一つという訳か、だが俺は命など惜しいとは思わん。

『罠と思うか? 安心しろ、殺すつもりならとっくに殺している。
 頭を冷やせゼクトール、信じるかは自由だがこの島には閣下並みの実力者も存在する。
 全身銀色の男だ、万全で無い貴様では危うい。ここで俺を殺して何が変わる、後の事を考えれば今は組むのが最善だ』

悪魔将軍を知っている事からして声を偽った他者でもない。
俺を怒らせるのが目的でもない、奴は―――本気でこの俺を仲間にしようと考えている!!

379 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:04:45 ID:HUBhMMTs

『今すぐ返事できんならそれでも良い、だが情報を交換する程度はお前も支障は無いだろう?』
「ほう、お前は何が知りたいというのだ?」
『まずお前は何故俺を感情剥き出しで襲った? 俺には何一つ心当たりが無いのだが』

その瞬間、俺の中で何かが切れた。

「……アプトム、これが俺の返事だ!」

どこまでふざけた奴だ、エレゲン達の恨みを忘れるとでも思ったか。
これ以上の話は無意味だ、俺は監視カメラに向けて受話器を握り潰す。
俺は天井を見上げた、ここが地階ならば奴が居るのは間違いなく上。

「心当たりが無いだと? ならば直接身体で解らせてやる!」

復讐者の心が燃え滾る。
今度こそアプトムを葬らんとゼクトールは三度目の戦いに挑む。

二人の間には重大な齟齬があった。
アプトムの問いかけは彼にしてみれば当然の事。
しかしゼクトールはアプトムの無知を侮辱と捉え、結果―――逆鱗に触れたのだ。

アプトムは知らなかった。
ゼクトールが生存に全く興味が無い事を。
その命全てを仇と狙う自分の為に使うつもりである事を。


               ※       


「チッ、損得勘定一つ出来ないのか奴は。どう考えても俺と組む方がマシだろうが!」

モニターを見ていたアプトムが罵声を吐きながら受話器を捨てる。
決裂だ、しかも情報は何一つ引き出せていないという最悪の結果ともなれば彼ならずとも罵りたくなるものだ。

『やはり失敗か、君の言葉がよほど腹に据えかねたらしいな。本気で心当たりが無いのかね?』
「無い。そもそも実験体の俺と奴では顔を合わせてすらいないんだぞ! もういい、やれ」

ネブラに苛立った声がぶつけられる、承知したとばかりに触手が配電パネルに伸びる。
落とされていた地階のブレーカーが全て上げられた、これが決裂への備えであった。

ゼクトールが目覚める前に地階の照明と電気機器の配線は故意の損傷が付けられていた。
そこに電子の流れが再開する、銅線を伝わった電流は忽ち同時多発的な漏電と短絡が発生される。
地階に満ちていたのは適度な混合比で空気と交じり合ったLPガス、即席の点火プラグを種火として音速を超えて燃焼した―――

380 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:05:56 ID:HUBhMMTs

それは爆弾並みの爆発だった。
落雷の様な轟音と同時に鉄骨鉄筋コンクリートのデパートが突き上げる様に揺さぶられる。
地階防犯カメラの映像は全てが砂嵐に変わり監視パネル一面に赤いランプが点灯した。

『こちらはまあまあ上手くいったな、彼はタフだから安心は出来ないがね』

アプトムとネブラは単純に元栓を開放しただけではない、爆発を発生させその威力を高める為にいくつかの工作を行っていた。
一つは建物の空調を停止させガスが排気されないようにした事。
二つは防犯シャッターを下ろして地階を密閉空間と化していた事。
三つはスプリンクラー等の消火設備が作動しない様にしていた事。
四つはデパートへの途中で発見したガスボンペをゼクトールと同時に運び込んでいた事。

結果大量のガスが短時間で充満した、そして消火設備も働かない以上階層全域が燃え続ける。
爆発だけでゼクトールが死ぬとはアプトムも期待していない。
爆発、熱、酸欠、有毒ガスの災害コンプレックスと呼ぶべき大火災を作り出して包み込む。
結果死なずとも体力を削り弱体化させられれば御の字だ、煙に紛れて隙を付く。
今度は躊躇無くゼクトールの命を奪う。

「出るぞネブラ、この建物はもう終わりだ」

アプトムは荷物を持って立ち上がる。
地階以外の防犯カメラには既に炎と煙で充満する各階が映し出されていた。
これもまた決裂への備えだった、放送前に着火した衣料品売り場の火災は既に上階の家具売り場まで及んでいた。
目的は煙と炎のバリケード、化学繊維の燃焼は大量の有毒ガスをフロア一面に撒き散らしていた。

だが上階の保安室にまでその煙は届かない。
何枚もの防火防犯シャッターで侵入を阻み、予め開放しておいた窓が煙突の役目を担って保安室を避ける排煙ルートを確保していた。
もちろん限界はある、建物全体が煙に包まれればやがて全ての空間に有毒ガスが侵入する。

だからその前に脱出するのだ、アプトムが保安室を出るとすぐ屋上に向かう階段が目の前に現れる。
このデパートは最上階が従業員の更衣室や休憩室、、機械室、保安室に割り当てられていたのだ、これもまたネブラに教えられた事だった。
しかし客向けの案内図をいくら眺めてもそのような情報は載っていない、ゼクトールが迷っている間にアプトムは遠くへと逃げられる。

屋上に出た途端ムンとした熱気がアプトムの全身を包む。
今しがた発生した火災によるものだけでてはない、市街地の大火も既にデパートに到達する寸前であったのだ。
時間が無いと見て取るやネブラが翼を広げ大きく羽ばたきだす。

火災の副産物ともいえる上昇気流に乗ってアプトムが空の人となったその時だった。
炎の全身を侵食され猛烈に煙を噴き出すデパートの奥底、爆炎に隅々まで舐め尽された筈の地階。
そこから、超高エネルギー粒子が空へ向け真っ直ぐ建物を貫いた―――

381 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:07:31 ID:HUBhMMTs


               ※       



爆発に見舞われた地階食品売り場は大釜の底さながらに燃えていた。
爆風はシャッターを吹き飛ばし、そこからは猛烈に煙が流れ込んでいる。
消火設備は作動せず、難燃材も抗する事を諦めて次々に炎に屈していた。

彼の能力が本来のままであったら無傷とはいかなくても軽傷で終わっていたかもしれない。
この舞台、弱体化された肉体は本来耐えられる筈の爆発から容易にダメージを受けてしまう。

それでもゼクトールは生きていた。
爆発の衝撃で内臓を叩かれ、全方向から襲い来る熱に装甲を焼かれ、充満する煙は容赦無く呼吸器官を苦しめる。
既に常人なら酸欠で倒れているだろう場所で何も感じてないかのように立っている。
元々地中はおろか成層圏すら行動範囲とする能力の持ち主、酸素が欠けようがある程度は耐えられるのだ。

顔面を保護していた左腕を下ろし飛び散った破片を踏みしめる。
ゼクトールはこれより上を目指す、しかし闇雲に突っ込むつもりは無かった。
先程は喫茶店で女と獣に気を引かれた隙を付かれた、今回も同じ事が起こりえる。
それにこの煙の勢いと火の回りの早さ、恐らく他の階にも火は回っている。

(何があろうが吹き飛ばすまで、ここで奴を逃がす訳にはいかん!)

ゼクトールは燃える地階で羽を広げた。
辛うじて飛ぶ事ができる程度の損傷した羽、しかし今は飛ぶのが目的ではない。

―――ブラスター・テンペスト、ゼクトールの切り札

急速に周囲の熱が奪われてゆく、温度差が空気の流れを変えてゆく。
アプトムが放った炎が形を変えてゼクトールの体内に蓄積する、何時の間にか周囲にはダイヤモンドダストが舞っていた。
そして腹部の生体熱線砲発射器官が露出する、喫茶店で使わなかったそれは無傷。
そこに全てのエネルギーが集束される、敵より来たものは敵へと戻す。

(―――ッ!)

僅かに目が霞み、足が揺らいだ。
ダメージによるものか制限か、エネルギーの蓄積は彼の肉体に更なる負荷をもたらした。
しかしゼクトールは撃つのを止めない、どれ程自らの命を縮める行為かを知りながら迷う事は無い。
羽が万全ならファイナル・ブラスター・テンペストを撃っていたかもしれない、だがそれは仮定の話。

「食らえアプトムゥゥゥッッ!!! ブラスター・テンペストォーーーーーーーッッッ!!」

遂にそれが放たれる、地下の炎も惨状も全ての景色が恒星の表面並みの光によって塗り潰される。
全獣化兵最強、ガイバーのメガスマッシャーにも匹敵する威力の粒子の奔流。

382 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:08:01 ID:HUBhMMTs

そこから全ては一秒にも見たぬ時間に起こった。
地下から屋上に至る十数枚の床と天井が紙の様に光のランスが貫いたのだ。

だがその射線の延長にアプトムはいない、ゼクトールもそこまで期待した訳ではない。
建物全体は不可能としても罠を粉砕し最短距離での追撃ルートを開削するのがその狙い。
それのみでも十分成功した、そしてゼクトールも予想しなかった効果をもたらした。

断熱材とコンクリートを粒子と化したエネルギーが行き着いた先に有ったのは屋上の貯水タンク。
ステンレスの皮に蓄えられた数千リットルの水道水、それが全てのエネルギーを受け止めた。
原子の全てが加速する、数千度に熱せられた水は液体の姿を保てず数百倍以上に膨張した。

単純な水蒸気爆発では無い、到達したあまりの高温の為に分子の結合は断ち切られ水は水素と酸素に分解した。
超高熱の金属蒸気を纏ったガスの雲が屋上の半分程度に広がった時、水素と酸素が再結合し大規模な二次爆発が発生した。
これらは全て超獣化兵ですら認識できぬ刹那の間の出来事である。

アプトムとネブラは空中で爆発に巻き込まれた。
彼等の感覚では何が起こったのか理解できなかった、爆風は二人を飲み込み尽くし更に周囲へと拡大した。
衝撃波が建物を伝わる、上階から下へ全ての窓ガラスを粉々に砕きながらデパートを揺るがせる。

地下のゼクトールにもその異変は伝わった。
建物が崩壊するかと思う程の激しい揺れと流れ込む爆風、そして穿たれた穴を大小の破片が落下する。
原因を考えるのは無意味、ここに追撃の道は拓けた。

羽をコンパクトに畳みゼクトールは垂直上昇する。
デパートを貫通した大穴は巨大煙突となり炎と煙を噴き出していた。
上がるたびに羽が燃えてゆく、それでもゼクトールは飛び続ける。

そして視界が一気に開ける、炎に飲み込まれる市街地がそこにあった。
眼下には爆発で瓦礫の山と化した屋上の光景、着地するとそれだけで足元に亀裂が走る。

(アプトムは何処だ? 間違いなく奴は近くに居る筈だ)

空には姿が無い、先程上空から見回した限りでは人影も見当たらなかった。
かといって焼け落ちる建物の中に留まり続けているとも考え難い。
ゆっくりと爆発で陥没した跡地を歩いてゆく、追うものとしての勘が”奴はここに居る”と告げていた。

風の為時折煙が流れて視界を奪う、警戒を怠り無く歩を進める。
ジャリ、と踏み出したその時だった、煙の向こうで何かが動いた。
布切れの身間違いではない、確かに生物の動きで瓦礫の影から影に走っている。

383 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:08:39 ID:HUBhMMTs

「そこかっッ!!」

躊躇わずにミサイルを撃ち込んだ、寸分違わず狙った位置に着弾する。
ゼクトールの意識がそこに集中したその瞬間、真横の瓦礫から黒い触手が飛び出した。

それは、腕の無い右側から襲い掛かってきた。
それは、爆煙に紛れて一直線に首輪に狙いを定めていた。
煙の中でシルエットが交錯する、槍となった触手は甲虫の身体を貫いた様に見えた。

『馬鹿な……』

槍の先端は確かに首輪に触れていた、しかし表面を削ったのみだった。
勝負を決めたのは些細な事、ゼクトールの足元が崩れてネブラの狙いが僅かにズレたという事実のみ。

すぐさまゼクトールが触手を掴む、電撃をネブラに流し自らが巻き込まれるのも構わず根元に向けミサイルを連射する。
更なる屋上の爆発と破壊、遂に仇の姿が現れた。

鉄筋の残骸の中にアプトムは潜んでいた、その状態は酷かった。
一糸纏わぬ肉体は全身の火傷で爛れ、叩き付けられた際の裂傷であちこちでベロリと皮膚が剥けている。
それでもあれだけの爆発に巻き込まれて生きているだけ脅威だった、ネブラスーツは立派にその役割を果たしていた。
代償は反撃の手数、同じく巻き込まれたネブラは一本の触手を出すのが精一杯だったのだ。
あの影のタネも知れた。アプトムの手元に有ったのは黄金のマスク、幻覚を囮に逆転の一撃を狙ったのだろう。
もはや同じ手は通用しない、ネブラは三番目の主人から引き離され餅状の姿に戻っていた。

それを見るゼクトールもまた酷い姿だった。
自慢の装甲は焼け爛れて歪み、割れた隙間からは赤黒い液体がただ漏れとなっている。
全身から立ち上る水蒸気は彼が自らの肉体を限界以上に酷使した事を示していた。
あのブラスター・テンペストは彼の内臓までも焼いたのだ。

お互い命は尽きる寸前、ならその前に決着を付けるのみ。

「なぜ、だ……」

何故そうまでして自分を追うのか最後までアプトムには解らなかった。
命乞いしようが恐らくゼクトールは自分の生存を許さない。
問いかけは時間稼ぎの狙いもあった、しかし返ってきたのは膨れ上がる殺気。

「うおおおおおぉぉぉぉっっっっーーーーーー!!!」

望みは消えたとみるやアプトムは起死回生の反撃を試みた。
狙いはただ一点、傷付いた首輪のみ。
体液を撒き散らしながら獣化すると同時に黄金のマスクを起動、周囲の瓦礫が一斉にワニと化す。
アプトムにとってもここで死ぬ訳にはいかないのだ、損傷実験体の仲間を殺された仇を取る為に。

384 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:09:11 ID:HUBhMMTs

伸ばした腕は届かなかった。
ゼクトールの高周波ブレードがアプトムの身体を袈裟切りに切り裂いた。

(―――ソムルム、ダイム、すまん)

それがアプトムの最後の意識、二つに分かたれた獣は臓物を撒き散らして倒れ伏す。
ピクピクと痙攣はするものの血まみれの肉塊となったそれを誰も生きているなどは思わないだろう。
―――ただ一人を除いて。

ブチャリ! グチュッ! ブバッ!

ゼクトールは渾身の力で肉塊を踏みつけた、足で磨り潰し繰り返し拳を叩きつける。
物言わぬ骸を砕き、引き千切り、赤黒い液体へと変えてゆく。
ここまでせねばアプトムは何度でも蘇る、肉片一つあれば再生する事をゼクトールは知っていた。

それは言い訳でもあった、肉体を滅失させるのが目的ならばもっと手っ取り早い方法がいくらでもある。
こうせねば気が済まなかった、それ程憎んでいた相手であった。

肉塊が肉片に変わる頃、汚れきったゼクトールはアプトムの首輪を掴む。
この島では首輪が壊されれば誰であろうと死ぬルール、握り潰せばアプトムが再生する可能性はゼロになる。
最初からそれをしなかったのはゼクトールの気持ちの問題、少しでも仲間の苦しみを味わわせたかった。
その願いも果たせた、焼け落ちる寸前の屋上にやがて金属がひしゃげる音が響く。
それが復讐は終わりを告げる鐘の音であった。



               ※       


―――終わった


ゼクトールはただそれだけを思った。
支えるものを失った肉体は立つ事もおぼつかず何時の間にか座り込んでしまっている。

命も開かれた未来も全てを捨てて追っていたアプトムは討ち果たした。
悪夢が全て過去になり、もはやこのまま朽ち果てた所で悔いは無い。
実際そうなるだろう、このデパートは間も無く全焼する筈だ。
苦しむ事も無い、その前に自分は死んでいるだろうから。
残された僅かな時間の使い道を考えていた時、突然語りかける声があった。

385 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:10:17 ID:HUBhMMTs

『気は済んだかね? ネオ・ゼクトール君』

首を動かしたゼクトールが見た物は黒い餅状になったネブラであった。
一瞬アプトムの分体かと警戒するも首輪を破壊した事を思い出す。

「何者だ……?」
『初めましてと言うべきだな、私はネブラ。アプトム君の支給品だったものだ』

自己紹介しながらもネブラは目を出すだけで全く動かなかった。
他人の頭に乗せられて初めて本領を発揮できるものだという事をネブラ自身が説明する。

『君は生きたいと思わないのかね? 飛べんというなら私が力を貸そう、ここで消し炭になりたくないのでね』

それは新たなる主人への誘いであった。
小砂、ズーマ、アプトム……以前の主人は皆死んだ、そして今度はゼクトールに使われたいとネブラは望んでいるのだ。

「蝙蝠め」

ゼクトールは吐き捨てた。
彼は忘れてはいない、ネブラがどれ程障害になったのかを。
アプトムだけならば喫茶店で終わっていた、ここまで手間取ったのはこの支給品が触手を振るったからなのだ。
なのにアプトムが死んだ直後にぬけぬけと協力を申し出る変わり身の早さ、一つの組織に忠誠を誓っていた彼には不愉快でしかない。

『私は君達と違って恥を感じないのでね。第一動けない私にはそうするしか無いのだ』
「そして俺が死ねば次の主に取り入るつもりか? 生憎お前の様な死神はここで焼け死ねとしか言いようが無いな」

血塗れの拳を黒い塊に叩きつける。
飛び散りはしなかったが餅の様に粘るそれは潰れて大きく変形した。

『う……止めてくれたまえ、せめて話ぐらいはさせてくれんかね?』
「いいだろう、最後に話すのが貴様の様な蝙蝠とは残念だがな!」

助けを求める気は更々無いが死を待つ状態で他にする事も無い。
一方のネブラにとっては会話を繋ぐことが生存の鍵、冷静な口調だが内心薄氷を踏む思いであった。
屋上は既に煙と炎に包まれて灼熱地獄と化している。
ガス爆発に始まって、ブラスター・テンペストと屋上の水素爆発と続いた災厄はいつ建物が倒壊してもおかしくない程のダメージを与えていた。
何としてもゼクトールを変心させ、生存の糸口を掴まねばならなかった。

『では聞くが君は何故あれ程までにアプトム君を狙ったのだね?』

ネブラもそこが気になっていた、アプトムは最後まで知らぬままだったがゼクトールにここまでさせた理由は彼を動かす鍵となりえる。

「奴は俺の大切な仲間を殺した、俺は最後に一人残された」
『それは本当かね? アプトム君は君と顔を合わせた事も無いと言っていたが』
「間違いなどあるか! 奴は俺の脚を奪ったのだぞ!」

386 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:11:10 ID:HUBhMMTs

明らかに矛盾していた、しかし声を荒げるゼクトールに嘘など感じられなかった。
アプトムの言っていた事も恐らくは正しい、どう考えるべきかと思うネブラは似た事があったのを思い出した。
あの時の自分とアプトム、考えれば考える程酷似している。

『一つ訊ねるが……君はアプトム君に何かおかしな点を感じなかったのかね? どんな違和感でも構わない』
「奴は弱かった、俺を襲った時の奴とは比べ物にならん程弱体化していた。だがそれがどうした!? 奴は間違いなく本物のアプトムだった」

ゼクトールは素直に違和感を述べた、悪魔将軍から話を聞いた時から感じていた疑問。
しかし目的は謎解きではなく殺す事、だから本物と確信した以上考える事はしなかった。
―――奴は確かに仲間を殺したのだ!

『話を聞いて欲しい、私もこの島でとある参加者に身に覚えの無い恨みをぶつけられた。知ってはいるが会ってない相手にだよ。
 実に奇妙だ、君に私にアプトム君、皆が同じ違和感を感じている』
「それは興味を惹かせて俺に使わせようという魂胆か?」
『正直に言えばその通りだ。だが君自身が興味を惹かれなくとも伝えたい誰かは居ないのかね?
 その人に役立ててもらえれば君も悪い気はしないだろう?』

その様な謎を知りたがる人物―――確かに心当たりは有る。

(考えれば将軍に一つも借りを返していないか……)

仇を討てたのは悪魔将軍の情報があったからこそ、なのに自分は何もしていない。
この蝙蝠の口車に乗せられるのは癪だがこのまま灰になるよりは残せるものがあるだけマシかもしれない。

「だが俺が何を頼もうがお前は拾われた奴に媚びてそのままの気がするのだがな!」
『手に取ってくれた者に協力するのは仕方ない、それは判ってくれたまえ。それでも伝言ぐらいは会えば確実に伝えると約束しよう』
「ふむ……」

ゼクトールは考える、しかしすぐに結論を出した。
時間が残されてなかったのだ、足元から立て続けに伝わる揺れは建物が崩壊し始めた事を知らせている。
それに次第に目の前が薄れてきた、体力の限界も近付いていたのだ。

387 決着! 復讐の終わり ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:12:02 ID:HUBhMMTs


               ※       



俺は南の方角に飛び去っていくミサイルの噴煙を眺めていた。
あのミサイルはバッグを曳航している、そこには荷物とネブラが入っている。
もし拾った奴がキン肉マン、ウォーズマン、高町なのはを知っていたなら悪魔将軍が湖で戦いたがっていたと伝えておけとネブラには言い含めた。
荷物も巡り巡って将軍の役に立つかもしれん、これで思い残す事は何もない。

地鳴りの様に建物全体が振るえ始めた、そろそろ眠らせてもらうとしよう。
俺は睡魔に抵抗する事を止めた、こんなにも気持ちの良い眠りにつけるのは久しぶりだった。


エレゲン、ダーゼルブ、ザンクルス、ガスター、今そちらにゆくぞ……





【アプトム@強殖装甲ガイバー 死亡確認】
【ネオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー 死亡確認】
【残り26人】



【拘束具@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
管理局員が用いる物理拘束具。対象の動作と魔力発動を阻害して行動を封じる。
普段は薄いボックス状で、使用の際に金具とベルトに展開させる。
第12話でルーテシアとアギトの拘束に使用したものと同型。

388 ◆5xPP7aGpCE :2009/06/30(火) 02:12:42 ID:HUBhMMTs

以上で投下終了となります。
お待たせして本当に申し訳ありませんでした。

389 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:00:25 ID:YrRABrO.
これよりSSの投下いたします。
非常に長いですが、よろしくお願いします。

390 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:01:36 ID:YrRABrO.


『スバル! 山の向こうで物凄い煙が上がってるですぅ!!』

空から偵察していたリインフォースが降りてきた、慌てたような報告が彼女の第一声だった。

日が落ちて夜の闇に包まれ始めたG‐5の森の中にいた蒼き髪の少女・スバル、黒きロボ超人・ウォーズマン、0号ガイバー・キョンに緊張が走る。


「山の向こうは市街地・・・・・・まさか!」

スバルは焦燥する。
記憶が正しければ、山の向こう−−島の北側は市街地。
そこには上官・高町なのはが実の娘のように大切に保護していた少女・ヴィヴィオがいる可能性がある。
正確な位置は小・中学校だが、ヴィヴィオがそこから動かないとも、危害が及ばないとも考えにくい。
そうでなくとも、市街地には火災が発生するほどの騒乱が発生しているのである。
今、こうしている内にも誰かが犠牲になっているかも知れないのだ。
それは正義感の強いスバルを焦らせるには十分な要素だ。


一方のキョンは、スバルとは違う理由で焦っていた。

(オイオイ!
まさか、学校まで燃えてねえだろうな!?
・・・・・・もしハルヒの死体が燃えちまったらどうなるんだ?)

彼にとって、他の参加者−−あえて言うなら仲間である古泉以外は火事で死のうが構わない。
殺すべきライバルが減って、後が楽になる。
ところが、自らの手で殺してしまったハルヒの遺体については別だ。
彼女の死体が燃えて消失してしまった場合、生き返せなくなってしまうかもしれない気がするのだ。
・・・・・・そんな気がするだけなのだが、先程、顔を合わせた主催者タツヲの『優勝しても全員生き返すのは無理だね』という言葉が頭に引っかかているのだ。
この殺し合いを放棄する気が無くなったわけではないが、本人の気づいていない内に主催者二人への疑心は微かに生まれている。
頭によぎる可能性の一つに「死体が燃えたら生き返せないのでは?」と、彼の心には確実に揺らぎが生まれていた。


最後の一人のウォーズマンは動じてなかった。
それはリインフォースの報告に何の感慨も抱いていなかったわけではなく、むしろ彼の熱い魂は、被害が少しでも減らせるように速く市街地へ向かいたかった。
だが、焦るわけにはいかない。
彼は衰えを見せぬ身体に反し、少なく見積もっても40か50以上は年齢を重ねている。

391 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:02:48 ID:YrRABrO.
その分だけ戦う者としての経験も長く、貫禄も備えている。
これが数十年前のウォーズマンならわからないが、ケビンマスクのセコンドを勤めるように、自分がどうやって動けば良いかも、若者をどうやって引っ張っていけば良いかもだいたい心得ている。
故にこの場にいる誰よりも、冷静でいられた。

「落ち着くんだスバル、リィン、・・・・・・キョンもだ」
「ウォーズマンさん・・・・・・」
「・・・・・・」

ウォーズマンの言葉に、焦燥を感じているスバルとキョンに冷静さを思い出させる。
キョンに至っては、遠回しに焦りを指摘されたのが面白くなかったのか、無言でそっぽを向いたが・・・・・・
それはとやかくとして、ウォーズマンは二人に指示を出す。

「まずはこれから、この先にある神社に向かい、タママたちと合流する。
彼らと合流ができ次第、市街地へ向かうぞ」

まだ、紫の髪の男や悪魔将軍のような強敵が生き残っている可能性は十分にある。
被害を減らすためには、戦力は多い方が良いだろう。
オーバーワークのスバルや、目を離していると殺し合いに乗る可能性があるキョンへの監視のためにも、最低限タママとは合流したかった。
だが、その合流についての懸念材料はあり、ウォーズマンは考える。

(ギュオーが殺し合いに乗った危険人物でなければ良いがな)

ギュオーがクロだった場合は、タママの安全のためにもギュオーから引き離す必要がある。
できれば、被害を出さないためにも、殺し合いに乗ってる者は早々に叩いておきたい。
しかし、前述の通り、こちらには消耗しているスバルと、まだ信用仕切れないキョンがいるので、無理に戦うのも良くないとも思っている。
だが、正義超人として、そこに悪があるなら見逃したくはない信念がある。
逆にギュオーがシロだった場合は、疑う事自体が杞憂で終わることができる。
ウォーズマンは、どちらかと言えばギュオーをまだ信じている。
仲間だと思っていられるからこそ信じていたいのだ。

(とにもかくにも、殺し合いに乗っているかいないかを見極めるためにも、ギュオーは今一度きっちり問い詰める必要がある。
そうすれば、俺が彼に感じていた違和感もすっきりするハズだ。
もし殺し合いに乗っていたとしたら・・・・・・タママ、無事でいてくれ)

392 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:04:03 ID:YrRABrO.
考えを整理し、まだ薄いがギュオーへの疑惑を持ちつつ、仲間の無事を祈るウォーズマン。

他の人間が話をしている傍で、キョンは一人、ただ黙って考え事をしていた。
考え事とはもちろん、どうやってギュオーに取り入るかである。

(どうやってギュオーを味方につけるかな・・・・・・
賄賂でも送って「おぬしも悪よのう」と言われつつ取り入るのも・・・・・・
いや、なにも持ってなかったんだな、俺。
気は進まないが、ナーガのおっさんの時のように下僕になるフリをするか?
そもそも、あのまっくろくろ男と一緒に行動している所からして、立ち回りは長門たちと戦おうとしている奴らの中に潜り込んで、油断した隙に後ろから襲いかかるタイプなのかも・・・・・・
その場合は俺もその方針に従って・・・・・・でも、もし、殺し合いに乗ってなかったらどうしよ・・・・・・)
『なーに、考えてるですか?』
「って、うわぁ!?」

一人、黙々と思考している最中に、妖精のように小さな人型デバイス・リインが、彼の眼前にいきなり現れた。
あまりに唐突だったので、キョンは思わず驚いてしまった。

リインもまた、スバルとウォーズマンの相談している横で、一人だけ何も喋らないキョンに不信を抱き、声をかけたのだった。

「な、なんだよ。
いきなり脅かしやがって」
『一つ、聞いて言いですか?
変な事は企んでませんでしょうね?』
「!」

図星を突かれ、ギョっとするキョン。
ガイバーの装甲を上に纏っていなかったら、その驚きの表情が顕になっていただろう。
それでもキョンは、首を横に降ってリインの疑いを否定する。

「いいや、何にも企んでおりません!」
『本当ですかぁ?』

尚も疑い続けるリイン。
というよりも、彼女の場合はキョンを最初から信頼していない様子である。
おそらく、この場で誰よりもキョンを疑っているのは彼女だろう。
大きい胸の下に両腕を組み、宙に仁王立ちしながら睨みつつ、キョンに改めて警告をする。

393 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:05:55 ID:YrRABrO.
『例え、あなたが後ろから私を含めた誰かを襲いかかろうとしても、残りの二人が襲いかかろうとするのを忘れないでください。
そしたら、あなたはすぐにボッコボコのギッタンギッタンですよ?』
「・・・・・・ハイハイ、肝に銘じておきますよ」

睨みつけてきてもあまり迫力がないリインに対して、キョンはそっけなく言葉を返す。
しかし、リインの脅しに臆したわけではないが、それとは別の事で焦りを感じていた。

(クソッ・・・・・・
コイツらといるとペースが狂ちっまう!)

そのペースとは、自分の企ての事か、自分自身の精神的なものか、はたまた両方か。
詳しくはわからないが、とにかくこの三人といる限りは、いろんな調子が揺らいでしまうのをキョンは実感していた。

(ああ、とっととコイツらとオサラバしたい・・・・・・)

−−さもないと、狂いが生じて思うように動けなくなってしまう。
現状、スバルたちは殺意こそ持っていないが警戒はされ、隙も見せないため、迂闊に襲いかかろうとすれば返り討ちに合うのは目に見えている。
自由に動けるようになるのは、ギュオー次第と言ったところか。

(頼むぜ、ギュオーさんよ。
俺が思うような使える奴であってくれ。
ついでにコイツらから俺を解き放ってくれ、いやマジで)
『本当に何も企んでないんですよね?』
「しつこいぞ、アンタ」

また黙り込んだキョンに、リインは釘を刺す。
考え事すらゆっくりさせてくれないリインに、キョンの中にだんだんストレスが溜まっていく。

(いい加減、このチビ女にイライラしてきたぞ。
それに小さい体に無駄に大きな胸をしやがっても、俺人形に欲情する趣味なんて持ち合わせちゃいない。
俺を萌えさせるにはせめてポニテになって出直してこい!)

心の中で小妖精に悪態をつく。
ついでに彼女の胸が目についても、性的な興味はわかなかったらしい。
しかし、彼は気づく。

(・・・・・・ああ、ポニテなんてくだらないこと考えてやがる。
駄目だ、本当に調子が狂い始めてるみたいだ)

いつの間にか、殺し合いやハルヒたち以外のことを考える自分がいた。
主にツッコミなど。
こんな場所でどうでもいいことを考えている自分に呆れたくなる。



−−放送が始まったのは、彼が『くだらいないこと』を考えていた直後だった。



−−−−−−−−−−−

394 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:06:41 ID:YrRABrO.


場所は変わってG‐5にある神社。
その神社の境内に座りながら放送を聞いている白い制服を纏った男・ギュオー。
やがて、今回の放送が終わる。
その頃には参加者名簿には死亡した者たちの名前に線を引かれ、地図には新たな禁止エリアを示す×印が書かれていた。

「むぅ、どうしたものか・・・・・・」

参加者名簿と地図を広げているギュオーの顔は不満気だ。
自分の思うように事が進んでいかないのである。
まず、今回の死亡者について、10人も出たのに関わらず自分の死んで欲しい者が死んでくれなかった。
自分の命を狙ってきたゼクトール、互角以上の実力を見せつけてきたリナ・インバース、一度は対峙したノーヴェもだ。
アプトムについては、詳細名簿に書かれていた内容及び連れて来られた時間によれば利用価値がありそうなので、生きてても良い。
深町晶については、彼が所持するガイバーユニットを奪いたいため、自分の知らない所で死んでくれなくて良かったとも言える。
だが同時に、自分を知っている事と自分には及ばずながら高い戦闘力を持つ要素から、生きている限り障害になるのは明らかである。
ユニットは他にも支給されている可能性があるので、晶への生存優先度は以前よりは低めなものの、危険度は変わりない。
複雑な所である。


さらに、詳細名簿と死亡者を照らし合わせて見る。
小泉太湖、碇シンジ、惣流=アスカ=ラングレー、キョンの妹、そして自分が殺した加持リョウジ。
この者たちはスパイだったり、過酷な砂漠で生きてきたのでサバイバル能力が高い、巨大な決戦兵器のパイロットである特異点を含めても、ただの人間に過ぎない。
首輪を分析できるような技術力も無さそうなので、生きていた所で邪魔になるだけで価値は無い。

次に佐倉ゲンキ、ナーガ、ラドック=ランザート。
戦闘力が高く、敵に回すと厄介な相手になっていただろう。
人間の子供である佐倉ゲンキすらワルモン(ギュオーはゾアノイドのような存在だと思っている)を相手に素手で渡り合える力の持ち主だ。
性質上、殺し合いに乗りそうもない佐倉ゲンキはともかく、後の二人は生きていれば参加者をもっと殺してくれただろうが・・・・・・

395 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:09:09 ID:YrRABrO.
そこはポジティブに考えて、後の障害が減ったと見るべきだと、ギュオーは割り切った。

次に草壁サツキ。
主催者である草壁タツヲとの繋がりを持っていた少女。
妹の草壁メイが死に、この会場で草壁タツヲを知る最後の一人となり、主催者に関する貴重な情報を失ったかに思えた。
しかし、詳細名簿を読む限りでは姉妹共に極めて平凡な人間であり、そこから察するに草壁タツヲも元は平凡な人間なのだろう。
では、主催者として立つ草壁タツヲは何者なのか?

(おそらく、あの男自身に大した力はない。
自分の娘を殺し合いに参加させるほどの狂人か、洗脳されて操れてでもいるのだろう。
まぁ、そんな事は考えてもしょうがないが)

人の親は人。
ただの人である草壁姉妹の親が、人間でないハズがない。
ゾアノイドのように調整でも受けない限りは、人間は人間なのだ。
しかし、情報も少なく、ギュオーにとっては打破するべき相手に過ぎないので、草壁親子の事情についての考えは打ち切った。
もっとも、問題は草壁自身ではなく、草壁サツキの死によって招かれるかもしれない事態である。

「草壁サツキの死にタママが変な気を起こさねば良いが・・・・・・」

先程、市街地が燃えているのを見ると血相を変えて神社から出ていったタママ。
タママの慌て具合からして、サツキをとても大事にしていたようだ。
そんな彼女の名前が放送で挙がった今、これを市街地の辺りで聞いているであろうタママは何を思っているのだろうか?
短絡的で頭に血が昇りやすい性格のタママが、暴走して自分に不都合な問題を引き起こさなければ良いが、とギュオーは祈る。

最後に未来人・朝比奈みくる。
彼女には、会って(拷問などで脅しつつ)未来の行き来の方法などを聞きたかったが、それも叶わなくなった。

「惜しいな・・・・・・
優れた技術力を持つクルルとやらですら作れない時間を移動する技術や知識は是非知りたかったのだがな。
まあいい、主催者共が似たような事をやっている以上、奴らも同じ力を持ち合わせているようだ。
その力をいずれ奪うのだから問題無い」

朝日奈みくるの損失は小さくはなかったが、時間移動などの力は主催者から奪えば良いと結論づけたのだった。

396 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:10:15 ID:YrRABrO.

死亡者についてのギュオーなりの考察は以上である。
深町晶やリナ・インバースのような自分に不都合な参加者がなかなか減らず、タママのような懸念材料も増えた。
それでも、冬月コウゾウのように首輪を解除できそうな人間はまだ生きているため、ギュオーの望みは潰えていない。
故にまだまだ前向きな考えができるのだった。


だが、死亡者とは違う問題もできてしまった。
今、彼がいるF‐5が禁止エリアに指定されてしまったのである。
ここが禁止エリアとして定まる時間は一時間の猶予もないようだ。

「やれやれ、ここから移動する必要があるようだな。
しかしウォーズマンめ、放送時になっても戻ってこないとは、どこで油を売っているのだ?」

自分のするべき事と、ついでに神社に戻ってこないウォーズマンに文句を垂れるギュオー。
一方のスバルを助けだしに向かったウォーズマンは、スバルと合流した道中でナーガ達と激しい闘いを繰り広げていたのだが、そんな事情はギュオーの知った事ではない。

それでもウォーズマンは利用価値のある駒。
まだまだ先が長いこの殺し合いにおいては、自分の保身のためにも合流しておきたい。
精神的な面で扱いづらいタママよりは、安心できるため、早め合流して損は無い。

「・・・・・・仕方がない。
この私が直々に捜しに行ってやろう」

こうしてギュオーは、ウォーズマンを捜しに神社を後にする。
とりあえずは南方向へと歩き出すが、炎でそこそこの明かりができている北方面と違い、光が射さない南方面は夜の闇で真っ暗だ。
見えないため、進行の邪魔になる木々や草も多く、ろくに進めない。

「ええい、面倒だな。
ここはとりあえず・・・・・・」

人間形態ではろくに進めないと思ったギュオーはネルフ製の制服を脱いで獣神変をし、その姿を魔人のごときものへと変える。
変身に伴って上昇した知覚のおかげで、暗闇の中でも視野が広がり、だいぶ歩きやすくなった。

「さて、行くとするか」

再びギュオーは南へと歩き出す。
移動ペース的には、F‐5が禁止エリアに指定されるより早く出られそうだ。
そして、彼の向かう南方面・G‐5では・・・・・・


−−−−−−−−−−−

397 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:11:49 ID:YrRABrO.



−−朝比奈みくる
−−キョンの妹

その名前が放送に出た時、俺の頭が真っ白になった。
覚悟はしていたさ。
いずれ朝比奈さんや妹の『  』が死んで、こうやって放送が流れるくらいはな。
・・・・・・でもな、情けない事に、聞いた途端にぽっかりと心に穴が空いた気分になっちまった。
平常心を保とうと意識しているのに思うように冷静になれん。
タツヲさんが他の死亡者の名前とか、殺し合いについてうんたらかんたら言ってるがほとんど耳に入らねぇ。
せいぜい、古泉や朝倉の名前が呼ばれなくて、自分が殺したナーガのおっさんの名前が呼ばれたのがわかる程度だ。

二人はどうやって殺されたんだろうな?
雨蜘蛛のおっさんが依頼通りに殺してくれたのか?
だとすると、二人が死んだのは俺の責任になるんだな。
しっかし、あの趣味の悪そうなおっさんの事だろうから、ろくな殺され方はしてないだろうな・・・・・・
いや、まてまて、何も雨蜘蛛のおっさん以外にも二人を殺したかもしれない奴らはいるだろう。
下手すりゃ、おっさんよりも趣味が悪い奴に殺されたのかもしれない。

銃で貫かれたのだろうか。
刀でばっさりと斬られたのか。
素手で死ぬまでボコボコにされたのか。
鈍器で頭を砕かれたのか。
炎に包まれ、身体を燃やされたのか。
毒を盛られて血ヘドを吐いていたのか。
禁止エリアにでも引っ掛かってスープと化したのか。
爆弾でバラバラになったのか。
首の骨をへし折られたのか。
誰かに騙されて殺されたのか。
死ぬ前に性的な暴行でも受けたのか。
それとも・・・・・・

二人の死に際(シチュエーション)のイメージが、俺の頭の中でグルグル回る。
朝比奈さんも、妹も、最後は苦しみながら助けを求めていた・・・・・・そんな気がしてならない。
もしくは、七代まで祟るくらい俺を恨みながら死んでいった気もする・・・・・・

二人の死を想像すればするほど、俺はなんだか泣きたくなってきた。
この感情を抑えるのは無理だ・・・・・・でも−−

−−−−−−−−−−−

398 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:13:05 ID:YrRABrO.

「そんな・・・・・・サツキもゲンキも死んでしまったなんて・・・・・・」

それが、放送が終わった直後のウォーズマンの悲壮感に満ちた感想である。
自分が不甲斐ないばかりに幼いメイがマスクの男に殺され、今度は姉のサツキまで何者かに殺されてしまった。
また、死にいく少女に頼まれた仲間の一人、ゲンキも死んだしまった。
自分の目の届かない所で起こった事とはいえ、責任感の強いウォーズマンがコレを悔やまないハズはない。

「済まない・・・・・・
君達の大切な者すら守ってやれなかった・・・・・・」

彼が機械超人でなければその二つの眼から涙を流していたかもしれない。
代わりに、拳をミシミシとヒビが入りかけるほど力強く・硬く握りしめ、自分の情けなさと殺し合いに乗った者への怒りで震えさせる。

スバルもまた、ウォーズマンと同じように悲しみや怒りを覚えている。
違いと言えば、眼からほろりと涙を流せる事だろう。
なのはやヴィヴィオ、ノーヴェやケロン軍人の面子が現時点で無事なのは確認できた。
だが、前の放送から今回の放送の間に、今までの倍近い人数が死んでしまった。
つまり、殺し合いの激化を意味している、それを殺し合いを止めようとしている彼女にとっては脅威に他ならない。
そして、善き人も悪しき人も含めた10人が死んでしまった・・・・・・
自分がもっと強ければ・上手く立ち回れば、その中から(その人物の善し悪しに関係なく)数人は助けられたかもしれない。
ウォーズマンと等しく正義感の強い彼女が、それを悔しくないわけがない。

彼女にはもう一つ大きな心配事があった。
放送を聞いてから石のように動かなくなっているキョンである。
妹の名前が放送で流れたからだろうか、あれからノーリアクションで立ち尽くす姿はかえって不気味である。
元は殺し合いに乗っていたとはいえ、やはり親しい者の死はショックだったのだろう。

(あたしも、ギン姉を失ったら、今のキョン君と同じ気持ちになるのかな・・・・・・)

自分の掛け替えのない姉・ギンガがナンバーズにさらわれた時、心が軋むようだった。
さらに誘拐された先で姉が命を落としていたら・・それ以上、スバルは想像できなかった、というより想像したくなかった。

399 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:13:56 ID:YrRABrO.
厳密には姉を喪失したわけではないが、スバルにはキョンの今の心境がわかるような気がしていたのである。
そんな彼女は、キョンにかける言葉が見つからず、ただただ動かない彼を見ているしかなかった。


『こんなに死人が出ているなんて・・・・・・』

昼になるまでデイバックの中にいたリインフォースは、スバル達と比べれば、この会場で活動していた時間が短い。
元々の仲間を除けば、知り合いも少ないため、面識が無い相手にはスバル達ほどの悲しみを抱けない。
しかし何も感じていないわけではなく、少なくともこの殺し合いへの嫌悪はスバル・ウォーズマンのそれと変わりない。

『それにあの人は他人どころか、自分の娘が死んで何も思わないんですか!』

そして、人を人とは思わない主催者を憎む気持ちも同じである。
キョンいわく迫力に欠けてはいるが、間違いなく彼女は怒りを顕にしていた。
その怒りには、口には出さないもののウォーズマンもスバルも同意見だった。


『・・・・・・そろそろ行動を再開しましょう。
より早く行動する事によって救える命はあるはずです』

状況を切り上げるに提案したのは、完全な機械であるレイジングハートである。

デバイスである彼女には、涙を流す事も怒る事もできないが、機械だからこそ、より効率的かつ冷静なアドバイスをする事ができる。
悲しみも怒りも顕す事はできなくとも、持ち主たちを全力でサポートする事が彼女なりの誠意なのだ。

「レイジングハート・・・・・・そうだね、立ち止まってる暇は無いね」
「いつまでも悲しみや悔やみを引きずっている暇があるくらいなら、一人でも多くの命を助けるために尽力しろ、という事だな?」
『わかってくれましたか、スバル。
その通りですMrウォーズマン』

レイジングハートの言葉に、スバルもウォーズマンも理解を示し、悲しみや悔やみや怒りを今は心の奥に留めておくことにした。

踏ん切りをつけた所で、ウォーズマンは次の立ち回りについて話そうとする。

400 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:16:13 ID:YrRABrO.
「今後の方針についてだが、神社でタママたちと合流する・・・・・・つもりだったが禁止エリアになってしまったな」

タママたちが禁止エリアになろうとしている神社にわざわざ留まっている・または近づこうとは思わないだろう。

「おそらく神社にはもういないと思って良いだろう、だから二人と合流しやすくするために次に行く所を決めて−−
キョン、聞いているのか?」
「・・・・・・キョン君?」

いまだ棒立ち状態のキョンが目につき、ウォーズマンは話を中断して話しかける。
スバルも心配そうにキョンに目をやる。

二人に見られていても放心状態なのか、やはり無反応なキョン。
そんな彼に痺れを切らしたリインは叱咤する。

『もう!
なんとか言ってください!
それでもし、何かを良からぬ事を企んでいるなら口約通り容赦無く・・・・・・』

リインはスバル、ウォーズマンと比べれば、明らかにキョンを信頼してない様子だ。
その証拠に、いつでも魔法攻撃ができる事を見せつけて威嚇する。

「やめてください空曹長」
『ちょっと、スバル!』

威嚇するリインの小さな身体を押しのけて、威嚇されても動く様子を見せないキョンにスバルは近寄って諭すように話しかける。
いちおう、キョンがいきなりスバルに襲いかからないように、ウォーズマンとリインは警戒し、レイジングハートもいつでも障壁を張れる準備をする。

401 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:18:06 ID:YrRABrO.

「言い辛いけど・・・・・・
キョン君が妹さんを失って悲しいのはわかる・・・・・・わかる気がするよ」
「・・・・・・」
「その・・・・・・私もフェイトさんやガルル中尉のような素晴らしい人たちを失って、ものすごく悲しかった。
ここでの出来事じゃないけど、ギン姉・・・・・・大切な姉さんをさらわれた時はとっても胸が痛かった」
「・・・・・・」

言葉を投げかけてもキョンは何も喋らない。
それでもスバルは更に気持ちを乗せて、諭し続ける。

「あなたは確かに人を殺し、誰かの大切な家族や誰かの大切な友達を奪ってきてしまった。
今キョン君が味わっている悲しみは、まさしく大切な人を奪われた悲しみだよ」
「・・・・・・」
「だからって、あなたが奪ったから大切な人を奪われても自業自得だから仕方ない・・・・・・とは私は思わない。
妹さんは死んで良いハズはなかったんだ」
「・・・・・・プッ」
「?」

今、キョンから声がはっせられた気がするが・・・・・・そうとは思いつつも、スバルは構わずに話を続ける。

「でも、キョン君がこの殺し合いから生き延びれば、罪を償っていけると思う。
法的な物はともかく、それがあなたの救いになれるハズだから」
「・・・・・・」
「だから、こんな所で立ち止まらないで!
悲しみに溺れないで、動いて、生きて、罪を償って、元の世界に帰ろうよ!
それがきっと・・・・・・殺してしまった人や、殺されてしまった掛け替えのないさ人たち・・・・・・何よりあなたのために−−」
「・・・・・・へへへ」
「!?」

とうとう、キョンが反応を示してくれた。
しかし、それは不適な笑い声によるものだった。
そして−−

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

キョンは奇声じみた不気味な笑い声を腹から大きく吐き出した。
その笑い声に驚いて後退るスバル、気味悪く思うリイン、怒るウォーズマン。

「なッ!?」
『うわぁ・・・・・・』
「何が可笑しい、キョン!!」

ウォーズマンの質問されたにも関わらず、キョンは腹を抱えて笑い続ける。

「アハハハハハ、ヒィヒィ、アハハハハハハハハ!」
「こ、こいつ!
自分の妹が死んでいるというのに!!」
『それにスバルが心を込めて励まそうとしていたのに、なんて奴ですか!』

402 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:20:15 ID:YrRABrO.
キョンの笑い声は、ウォーズマンとリインの二人の怒らせるには十分な要素になっていた。
それはもう、ショックで棒立ち状態になっていた方が可愛く思えたぐらいである。

一方で、スバルの反応は怒りではなく眼の瞳孔が開くほどの驚愕だった。
大切な人が死んだにも関わらず、大笑いしているキョン。
ずっと悲しんでいるのだと思っていたスバルにとっては裏切られた気分だ。
驚嘆するスバルの気持ちなどは尻目に、キョンは煽るように語りかけてくる。

「ハハハハ、アヒハハハハハハハハハヒハハハハハハハハ・・・・・・ゴホッ、ゴホッ・・・・・・ヒヒハハハハハハハハハハハ」
「・・・・・・?」

笑い過ぎてむせかえっても、尚笑い続けるキョンをスバルは理解できないだが同時に、彼女は彼に何かしらの違和感を感じてもいた。
他方で、ウォーズマンとリインはキョンへの怒りを高めている。

「いい加減にしろキョン!
おまえを励まそうとしたスバルはもちろん、それが死者が出た時に取る態度か!」
「待ってくれよウォーズマンさん、俺はただただ笑いたい気分なんだハハハハハハ。
また殺し合いに乗るってわけじゃないから別に良いだろ、これくらい?
それでも、気に入らないだけでアンタらは俺を殴るのか?
アハハハハハハヒハハハハハハハァハァハハハハハハハ」
『ようやく喋ったと思ったら・・・・・・この人って人は!』

いくら殺し合いには乗らないと言ってるとはいえ、死者やスバルのような人を侮辱するように嘲笑うキョンに対して、ウォーズマンたちはもう一度シメてやろうかと考え出していた。

「待って! 落ち着いて二人とも!」
「『スバル?』」

今にも手をあげそうな怒る二人を制したのは、スバルだった。
その彼女の顔は、さっきの驚きの表情から哀れみの表情へと変わっていた。
そして静かに語りかける。

「キョン君・・・・・・」
「なんだぁ?
俺に・・・・・・ヒヒヒ・・・・・・笑うなって言うのかよ?」

キョンは笑いつつ、他人を小馬鹿にした態度を取り続ける。
そんな態度や口ぶりにも構わず、スバルは真剣な眼差しで、優しく囁いた。

「泣いているのを、悲しんでいるのを、隠すために無理をして笑う必要はないんだよ・・・・・・」
「ハハハハハァハァ・・・・・・ハ?」

403 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:21:43 ID:YrRABrO.
言葉が耳に入った瞬間、キョンの笑い声がぱったりと止んだ。
スバルの後ろにウォーズマンとリインも、『キョンが泣いてるのを隠しているために笑っている』という言葉に疑問を浮かべる。

『スバル、どうしてこの人が無理をして笑っているとか思ったんですか?』
「・・・・・・根拠はありません。
ただ、無理をして笑ってるようにも見えた。
・・・・・・それだけです」

キョンは些か怒気を孕んだ口調でスバルの言葉を否定する。

「ハァ?
そんな曖昧な理由でか?
馬鹿らしい」
「そうだね・・・・・・だけど−−」

確かに、確信を得る証拠としては弱い。
それでもスバルは、キョンが悲報を聞いて笑ってられるような人間だとは思いたくなかったからこそ、問い掛ける。

「ひょっとしたら、君の纏っているガイバーのせいで泣くに泣けないんじゃないのかな?」
「!!」

スバルの言葉が図星だったのか、ピクリと反応するキョン。
ガイバーの装甲でわからないが、さぞ驚いた表情をしていたろう。
子供のように(子供で間違ってないが)。

「な、何言ってやがんだ!
その根拠もあるのかよ!」
「ただの勘だよ。
あたしがそう思っただけ」
「勘て・・・・・・」

スバルのあっさりとした解答にキョンは不満を感じつつ、呆れる。
そこへウォーズマンとリイン、そしてレイジングハートが横槍を入れる。

『女の勘って言うのは割と当たるもんなんですよ〜』
「茶化すなリインフォース。
だが、実際の所はどうなんだ?」
『我々も、もしくはMrキョンもそれほど把握してないでしょうし、詳しい原理は不明ですが、異世界の技術で涙を流せなくさせるような機能がついていてもおかしくありません。
具体的には余分な身体機能をカットしてしまう機能がついている可能性は考えられることです』
「こ、こいつら・・・・・・」

他の二人とデバイスもスバルに同調し始める。
特にレイジングハートの考えは的確だ。
キョンはとうとう観念し、自分の鎧を指差しながら真相を口にする。

「・・・・・・もういい、隠すのもめんどくさくなった。
おまえの言う通りだよ!
俺はコイツのせいで涙を流せねぇんだ!!」

ガイバーと融合中は、戦闘に不必要な臓器は全て無くなる。
涙腺も例外では無いだろう。

404 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:23:16 ID:YrRABrO.

「・・・・・・本当は泣きてえさ。
おまえらがいる前で女々しくオイオイ泣く気は無いが、ちょっとくらいでも涙を流したいさ。
−−それすらもできねえ。
泣きたい時に泣けないことがこんなに辛いなんて思ってもみなかったよ!!」

涙を流すことは精神的ストレスを軽減させる、生理現象の一つだ。
それができなくなったキョンは、元・平凡な少年には耐え難いストレスを発散できずにいる。
声を荒げて話すキョンの様子から、その精神的負荷がいかに深いかが伺える。
・・・・・・ガイバーユニットを外せば、身体が元に戻って涙は流せるが、既に周りの人間にユニットを脱げないことを教えてしまっている。
教えると何かと面倒になるからだ。
それより、外した所で自分がみっともなく泣いている恥ずかしい姿を三人に見られ、更なる精神負荷を招きそうなので、どちらにせよ脱ぐ気はなかった。

キョンが涙を流せないということを知ったウォーズマンとリインの瞳は怒りから哀れみに変わっていった。
彼らなりに怒鳴ったり罵ったりしたのが悪かったと思っているのだ。

「何十年と生きてきたが、おまえの気持ちまで読み切れなかった。
さっきはすまん、そんな事情があったのか」
『リインも、流石に言いすぎたと』
「・・・・・・なんだよおまえら、そんな目で俺を見るな!!
可哀相な奴として見られているみたいでムカつくんだよ!!」

キョンにとっては、三人の視線や態度が気に入らない模様だ。
そして今度は逆ギレである。
自分から、自身が泣いていた=悲しんでた事を告白していた。

「泣けない・・・・・・だから、笑ってごまかしでもしないと、気が狂いそうで仕方なかったんだよ・・・・・・だから笑ってたんだ」

それがついさっき、狂ったように笑っていた真意である。
別に何かが可笑しいわけではなく、精神の均衡が崩れておかしくならないために笑った。
涙を流せない分、笑い飛ばせば、血の繋がった妹と可愛い先輩を失ったショックを忘れられる・・・・・・
彼女たちを自分が間接的に殺した可能性があることすら忘れられる・・・・・・そんな気がしていたのだ。
それも、スバルをきっかけに暴かれてしまい、こうして逆上している始末だ。

405 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:24:02 ID:YrRABrO.

「男が泣きたいなんてぶざまだろ?
笑ってくれてももいいんだぜ。
むしろ、嘲笑ってくれた方が気が楽だ。
どうしたんだ? 笑えよ」

ヤケっぱちになっているキョンに対して、スバルはあくまで真剣な眼差しで応える。

「あたしは笑わない。
大切な人を失って涙を流したい人を笑う最低な真似は絶対にしない。
それに、悲しみから逃げたくて笑ってごまかそうとしていたのも責める気はない!」
「へへ、随分とヒロイズムな慰め方をしてくれるじゃないか・・・・・・
こんな何人も殺した男の味方をしてくれるのか、おまえは?」

卑屈になり、皮肉った言い方でキョンは言葉を返す。
それだけ彼の心は荒み、精神はグラついていた。
そうだとしても、スバルの彼に対する対応は変わる事はない。

「ええ、あたしは味方だよ。
もう一度殺し合いに乗らないよう見張るためだけあたしはいるんじゃない。
ここから生きて脱出させて、犯した罪を償わせて、それから元の世界にあなたを帰そうと思っている」
「どうだろうな・・・・・・もしもの場合は、みんなして俺を盾にして逃げるんじゃないのか?」
「そんなことをするわけなかろう。
むろん、スバルも俺もだ」
『あなたは信用ならない要注意人物ですが、同時に保護対象でもあるのでちゃんと守る時はちゃんと守るですぅ』
「チッ・・・・・・」

406 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:27:41 ID:YrRABrO.
偽善者同士で肩を持ちやがって−−などと、キョンは彼らを快く思えなかった。

「俺はもう心が折れそうなんだよ!
例え殺し合いに乗った因果応報だとしても、知りあ・・・・・・」

知り合いと言おうとした所で踏み止まる。
少しでも目の前の連中に情報を明かすべきではないとの判断だが、みくるとは何の関係は何もなかったかのように口に出せないことに、キョンは心を痛ませる。

「・・・・・・妹が死んじまったんだ!
おまえらにそいつの代わりはできるのか!?
できないよなぁ!!」

それは半ば本音であった。
修羅の道を突き進み、優勝を目指すと決めたが、妹と朝比奈みくるを失った悲しみはただの少年に過ぎなかったキョンには想像以上だった。
例え生き返ることが前提だとしてもだ。
そこへ、自分が雨蜘蛛を使って二人の殺しを依頼したことへの、自己嫌悪が上乗せされる。
キョンを襲うその悲しみと重圧は、殺し合いすら続行できなくなりそうなくらいに大きく、心を折りそうなのだ。

「・・・・・・私に妹さんの代わりはできない。
でも、折れそうなあなたの心を支える事はできる!
たとえ、二人には及ばなくても支えてあげる!」
「聖人みたいなをことを言って、おまえはそんなに偉いのかよ!!」

キョンは綺麗事を言い続けるスバルがいちいち気に入らなかった。
同時にそんな綺麗事を真剣な表情で力強く言う彼女に嫉妬も覚えていた。
そしてスバルがまた、言葉を力強く熱を持たせて、キョンがキライな綺麗事を口に出す。

「あたしはただの甘ちゃん、偉くはないよ。
でも、そんな甘ちゃんの理想を貫けと言ってくれた人がいる。
だからあたしは、誰であろうと一人でも多くの人を救うと決めた。
キョン君も、これから会う人も、殺し合いに乗った人だって、助けてみせる!」

その理想こそ、彼女の志。
この殺し合いに連れてこられる前なら、ただの甘ちゃんの戯れ事に過ぎなかったそれは、ある異星の軍人の仕業で、磨きかかり理想にまで押し上げられた。

キョンは今、初めてスバルの理想を聞いた。
その心境は−−

(こいつ・・・・・・ただの脳筋バカじゃねぇ。
バカの遥か上を行く善人(バカやろう)なのか!?)

−−もはや彼女のあまりの善人(バカ)っぷりに清々しさすら感じていた。

407 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:28:47 ID:YrRABrO.
次第に怒気が薄れて、気を抜けば、気を許してしまいそうなくらいに。
だんだん器がデカイのか、自分より幼いから綺麗事を平気で言えるのかわからなくなってきた。
もう優勝を目指すのも億劫になってきた弱気なキョンの信念が揺れる。
故に、ある意味での弱音を吐く。

「俺に・・・・・・やり直しがきくのか?」
「やり直せるさ。
泣いていたってことは、キョン君が人間性を残している証だよ。
あなただって、こんな場所に連れてこられなければ、誰かを殺すことなんてなかったと思う。
だけど罪を償うには、このゲームの主催者たちを倒して、ここから生きて脱出しなきゃいけない、だから−−」

そう言うと、スバルは片手を差し出す。

「−−民間人であるあなたに戦えとは言わない。
でも、一緒に行こう、あたしたちと一緒に!」

そして、彼女は微笑んで言った。


キョンは思う。
『主催者たちを倒して、ここから脱出する』・・・・・・無理だ。
長門のバックには、常軌を逸した力を持つ情報統合思念体がいる。
おそらく、この殺し合いは情報統合思念体が観測か何かを目的に実行したものだ。
倒そうとしても、力の次元が違い過ぎて勝てる道理が見つからない。
第一、端末に過ぎない長門すら反則じみた戦闘力を持ち、それを目の当たりにしてもまだ戦おうと言うのか?
だが、そんな無茶な姿勢すらカッコよく見える自分がいる。

それに、『こんな場所に連れてこられなければ、誰かを殺すことなんてなかったと思う』、あながち間違ってない気はする。
そこへ魔が刺し、ガイバーになり、結果的に守るつもりだったハルヒを殺めてしまった。
今思えば、殺し合いに乗ったのも、深く考えずに状況に流されてしまったせいでもあると思う。
ハルヒを殺した今は手遅れだが、スバルはそれすらも許してくれそうな気がしていた。

(・・・・・・もう疲れた。
本当に殺し合いに乗るのをやめてしまおうか。
そもそも、殺し合いを促進させようにも、頭を使ったりすることはそんなに得意じゃないんだ。
向いてないことをするよりは、流れに身を任せちまった方が、俺らしくていいかもしれない)

例え、主催者たちに勝てない前提でも良い。
スバルの手をとれば犯してしまった罪の全てが許される。
やらなくてはいけない事をやらなくていい気がする。

408 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:29:29 ID:YrRABrO.
肩に乗っている重荷を降ろして、気分が楽になれそうだ。
そんな気がしたから、キョンは無言でありながらも、スバルの手を取ろうと、ゆっくりと片手を向かわせる。

キョンの反応が、自身が求めていたものであった事に喜びを覚えるスバル。
ウォーズマンとリインも、あえてあまり口出ししなかったのは正解だと確信する。
何せ、二人はスバルほどキョンを信頼していなかったため、キョンにはスバルこそ適任だと思ったからだ。
結果的に、キョンの心を少しだけ開かせることができたのだろうか。
念のため、いつ襲われても良いように、三人とも気は許さず警戒は忘れてないが、キョンに心は許しはじめていた。



スバルとキョンの手が重なるまで、あと少し。
あと少しだった・・・・・・



−−−−−−−−−−−

409 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:31:17 ID:YrRABrO.

『キョン君、痛イヨ、助ケテ・・・・・・』
「ハッ!?」

キョンの正面、詳しくはスバルの背後からキョンの妹が現れた。
しかし、妹はいつもの妹ではなく、ミイラのように包帯で全身がグルグル巻きだ。
包帯の僅かな隙間から皮をひん剥かれたかのように肉が見え、そこから血が漏れて、包帯をところどころ赤く汚している。
助けを求め、いかにも苦しそうな姿をしていた・・・・・・

『ドウシテ私タチを売ッタンデスカ? キョン君・・・・・・』
「ひっ・・・・・・!」

次に現れたのはみくる。
何者かに『襲われた』のか、衣服があちこちはだけている。
ただそれだけでは無く、こめかみから鉛玉によって作られた風穴があり、そこからダラダラと血を垂れ流し、両目はそれぞれあらぬ方向を向いていた。
元の可愛い少女の顔を知っているキョンを戦慄させるには、過剰なインパクトだ。

そして、極めつけは彼女だった。

『許・・・・・・サナイ』
「う、うわああああ!!」

最後に現れた彼女は、裂かれた腹から片手でおさまりきらないほどの大量の臓物を剥き出しにし、口からは血へどを吐き、眼からは赤い涙を流している。

『イマサラ逃ゲルツモリナノ?
絶対ニ許サナイ・・・・・・!』

表情は元の輝く精悍な顔つきが崩れるくらいの憎悪。
その憎悪をキョンに向けていた彼女こそ、ハルヒである。

『助ケテクレナイナラ呪ワレロ・・・・・・ノロワレロォーーーッ!!!』

その憎悪に塗れた怒声は、キョンの顔を恐怖で引き攣らせ、一気に血の気を引かせる。

『キョン君、キョン君・・・・・・』
『汚サレタ、痛カッタ、苦シカッタ・・・・・・』
『死ネ、死ネェ!!』

辛み、恨み、憎しみ・・・・・・彼女たちのその全てを向けられ、恐怖を味わうキョンは確信する。

(ダメだ・・・・・・向かないとかそんな問題じゃなくて、俺はやらなくちゃいけないんだ。
引き返しちゃいけないんだ・・・・・・!)





ここで断っておくが、彼女たちは幽霊でもなんでもない、キョンの勝手なイメージで作られた被害妄想である。
だが、それを見たキョンには・・・・・・

−−−−−−−−−−−

410 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:32:33 ID:YrRABrO.

「う、うわああああ!!」

キョン君が声を跳ね上げて絶叫した。
まるで、何か怖いものでも見たかのように。
ウォーズマンさんも空曹長も驚き、顔をしかめて警戒する。
私は彼が心配になり、声をかける。

「どうしたのキョン君!?」
「お、俺に触るんじゃねぇ!!」

彼は怒鳴ると、握手を求めようとした私の手をぴしゃりと払った。
手の痛みは大したことはないけど、キョン君の視線が、私をすごく怖いものを見ているように感じる。
それはどうしてなの?

「怖がらないで!
いったい何をそんなに恐れているの?」
「うるせえメスゴリラ!」
『年頃の女の子をゴリラ呼ばわりするなんて!
なんてことを言うんですか!』
「空曹長はちょっと黙っててください・・・・・・」

わざとなのか素なのか、とりあえず空気を読まない発言をする空曹長を喋らせないようにさせておく。
それは置いておくとして、突然恐慌したキョン君は私たちから遠ざかるようにゆっくりと後ろに下がってゆく。
彼を逃がしたりするわけには行かない私たちも、警戒しながらキョン君へと近づいていく。

「本当にどうしたんだキョン!
いったい何を恐れている?」
「来るな・・・・・・俺に近寄るな!!」

混乱しているキョン君が手から高周波ブレードを抜き出す。
一度は全員が警戒レベルを上げた。
私も変身してバリアジャケットに身を包む。
だけど、キョン君自身は近づかれないように剣をぶんぶんと振り回すだけで、それ以上してくる様子が無い。
いわゆる錯乱状態にも見えた。
装甲の下の表情は恐怖で引き攣っていると予想づく。

「キョン君、落ち着いてよ!」
「嫌だ! 俺たちはおまえたちと一緒にいたくない!!」
「なっ・・・・・・?」

なぜ、そんな事を言うのキョン君?
私たちの何かを恐れているのがわかるけど、それが何なのか私にはわからなかった・・・・・・
そんな中でキョン君は私に向けて叫ぶ。

「スバル・・・・・・
俺は、おまえらのように強くねえんだよ!!」


吐き捨てるように言うと、彼はすぐに私たちに背を向けて駆け出した。

「逃げるつもりか!」
「キョン君・・・・・・仕方がない、バインド!」

仲良くなれるかもしれない相手に、手荒な真似は極力したくなかった。
だけど、今のあなたを逃がすわけには行かない。

411 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:33:59 ID:YrRABrO.
そこで魔法の捕縛錠、バインドを唱えた。
しかし・・・・・・生成されたバインドは逃げるキョン君を捕らえきる前に断ち消えてしまった。

「あれ?」
「なんだ、どうした?」
『消耗により、魔力のコントロールが効いてないよう模様です』

レイジングハートの的確な分析によって、バインドができない理由がわかった。
そこまであたしは消耗していたのか。

『ここはリインに任せてくださいです。
リングバインド!』

ろくにバインドもできないあたしの代わりに、空曹長が捕縛魔法を唱える。
それは見事にキョン君を捕らえることができた。

「がッ!?」
『よし、やりましたです!』

魔法の錠で両手両足を拘束され、地面に倒れるキョン君。
彼を捕まえたことによる活躍を喜ぶ空曹長。

「は、外れない!」
『リインのバインドは簡単には外れないですよ〜だ』

キョン君はもがくけど、バインドは力技では簡単には外れない。
だけど、喜ぶにはまだ早かった。

「・・・・・・だったらぶっ壊すまでだ!!」

キョン君はヘッドビームを放ち、右手のバインドに直接ビームを当てる。
ビームの威力がバインドの耐久力を上回り、手のバインドが破壊されて消滅する。

『し、しまったです!
頭にも武器があることを忘れてました!』

一つの失念により、キョン君に付け入る隙を与えてしまった空曹長は驚愕する。
破壊できる方法を知ったキョン君は矢継ぎ早に、ヘッドビームでバインドを破壊していき、ついに縛る物を全て取り払って立ち上がり、逃走を再開する。

「待ってキョン君!」
「逃がすわけにはいかん!」
『もう一度、リングバインドを!』

逃げだそうとする彼を、あたしとウォーズマンさんが取り押さえようとし、空曹長は再びバインドを試みる。

「来るんじゃねぇぇぇ!!」

あたしたちに捕まるまいと、キョン君はこちらに頭からのビームを乱射してきた。

「うわっ」
「避けろ!」
『ひぃぃぃ!』

あたしたちはそれぞれ、ビームを避けていく。
しかし、これでは思うように彼を捕まえにいくことができず、空曹長もバインドに集中できない。
キョン君はその隙に鬱蒼と生い茂る木々と草の雑木林の中へと飛び込む。

『あぁーー!
逃げられたぁ!?
バインド・・・・・・間に合わないです!』

412 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:37:11 ID:YrRABrO.

そうこうしている内にキョン君はどんどん私たちから距離を離していく。
アッという間に空曹長のバインドの効果範囲外に出てしまった。
まだ彼の背中が見える内に、私とウォーズマンさんは走って追いかけることにした。
走力には二人とも自信があった。
消耗はしていても、陸曹である私は走るのは得意だ。
キョン君との距離をぐんぐんと縮めていく。

「クソッ・・・・・・そうだ!」

それに気づいたキョン君は、何か思いついたのか、顔を空に向けてヘッドビームを放つ。
正確にはビームは、天へと伸びる木々の枝を狙って放っていた。
ビームが当たり、本体である木々から切断された大量の葉のついた枝が地面に落ち、私たちの行く手を阻むハードルになった。

「足止め!?」
「キョンの奴め、こんな時に知恵を回し追ってからに!」

ここは深い森。
木々の間が狭く、枝の塊によって阻まれた道は、塊を退かすか迂回しない限り通る事ができない。
生憎、あたしにもウォーズマンさんにも、塊をどかす技も道具も技術もない。
バインドも維持できなかったあたしが、空中に道を作って移動できるウィングロードも使えるかも怪しい。
迂回するしかなかった。
しかし、その先にもキョン君はいくつも同じ手の障害物を作り上げ、あたしたちの進行を阻んでいく。
やがて、夜の闇も手伝って見えない距離にまで差をつけられてしまった。

「しまった・・・・・・」
『まだ諦めないでください。
見た目ほど遠くへは行ってません。
距離、約30m前後。
このまま前進してください!』

デバイスであるレイジングハートの索敵能力が感知できる距離には、キョン君がいるようだ。
逃してキョン君をまた殺し合いをさせるわけにも、危険人物がウヨウヨいるこの島を一人で歩かせるわけにもいかない。
レイジングハートの索敵範囲にいる内に、絶対にキョン君を連れ戻してみせる!



・・・・・・それにしても、何をキョン君をあそこまで怖がらせてしまったの?

『嫌だ! 俺たちはおまえたちと一緒にいたくない!!』
『俺は、おまえらのように強くねえんだよ!!』

責める気は更々なかった。
だけど、あたしの何かが彼を傷つけてしまったのか、胸が痛くなる・・・・・・

−−−−−−−−−−−

413 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:38:31 ID:YrRABrO.

ただ、ひたすら走り、ビームで落とした枝の塊で障害物を作り、俺はあの女たちから必死に逃げていた。
後ろを振り向くと、あの女たちは見えなくなっていた。
逃げきれた・・・・・・?

「待てェー、キョン!」
「戻ってきてキョン君!」
『逃げないでください!』

・・・・・・いや、暗闇でよく見えないだけで数十mの差で追ってきてやがる。
こんなんじゃ逃げきれた内に入らねぇ!


もし、俺が普通だったら逃げるなんてことしなかっただろう。
元から奴らとは別れたかったが、ギュオーと合流するまでは我慢する予定だったんだ。
でも、そんな予定をご破算にしてまで、奴らから・・・・・・正確にはスバルから逃げたくなったんだ。
もはや、心の舵が効かなくなるぐらいの本能的なレベルで。
今、俺が逃げてるのは計算や打算があるわけじゃなくて、ただただ、どんな醜態を曝そうとも、あの女から離れたくてたまらないんだよ。



あの女と一緒に行けば、俺を救ってくれそうな気がした。
だが、それは精神的に弱った時に、甘い事を言われると、そっちに走りたくなる衝動的なものだ。
あの女の言う通り、この殺し合いを放棄してしまえば、俺はそれで楽かもしれない。
だがそれじゃあ、ハルヒや朝比奈さんや妹に、何もしなくなった俺は顔向けできなくなっちまうじゃねーか!
そんなんじゃ、きっとあの世で恨むだろうな、ハルヒたちは・・・・・・

−−痛イヨォ
−−苦シイ・・・・・・
−−呪ワレロ

ああ・・・・・・、思い出したくもないのに、さっき頭に浮かんだグロテスクなハルヒたちの姿が眼に浮かんじまう。
一瞬でも殺し合いに消極的になって、戦いから逃げる方に浮気しかけた俺を許してくれよ・・・・・・もうしないから。
だが、この殺し合いが終われば長門がきっと生き返してくれる。
そしたら、何事もなかったように皆が日常に帰ることができるんだよ。
そうなりゃ嬉しい限りだろ、ハルヒ、朝比奈さん、妹。
統合思念体にはそれを実現できる力を持ってるのを俺は知っているんだ。
俺がこの殺し合いをできるだけ早く終わらせるように動けば、その分だけハルヒたちは苦しい思いをしなくて済むんだ。
まぁ、死人に苦痛があるかはわからんけど。
俺が彼女たちを早く生き返らせたい気持ちは変わらない。

414 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:39:58 ID:YrRABrO.
だから・・・・・・だから・・・・・・、あんな姿で俺の前に出てこないでくれよ!



いつの間にか、死んだハルヒたちが恐怖の対象になりかけていた。
一秒でも早く生き返してくれと俺を恨みながらせがんでくる。
甘えるな・戦いを放棄するなと、頭の中の彼女たちが俺に警告してきやがる。
だから、俺はハルヒたちを恐怖の対象にしたくないためにスバルを恐れているんだ。
あの『ヤサシイ』女と一緒にいたら、目的も信念もハルヒとの約束も全部失っちまう、そしたら他が俺を許しても死んだハルヒたちが俺を許さない、今度は魂まで抜けるぞ。
言うなれば、あの女から逃げてるのは精神からの拒絶反応なんだ。
俺にあの女は毒なんだ。

ただ、今は本能と感情に従い逃げている。

もっと早く、もっと遠くへ!

その時の俺に、後のことはどうでもよくなっていた。
逃げる他は何も考えたくなかった。

れだけ喚き散らして醜態を曝そうともどうでもよかった。

今いる、この殺し合いの場についての危険性もすっかり忘れてた。
・・・・・・それがいけなかった。
あの女たちが見えないことで、完全に失念していた。
殺し合いに乗ってる奴に襲われる可能性を−−



ガシッと、何者かに俺の首根っこを後ろから鷲づかみにされ、やたらとゴツイ手で口も塞がれる。
俺は何者かに持ちあげられて、そのままどこかへと連行される。

「もがっ、もがが・・・・・・!?(な、なんだ・・・・・・!?)」

首を掴まれ、口を塞がれてるだけあって、呼吸が苦しい。
精一杯もがいてみるが、腕を外そうとしてもその力は万力のように強く、外れない。
しかも、後ろから掴まれてるから、メガスマッシャーもプレッシャーカノンもヘッドビームも使えない!

「・・・・・・!!」

後ろへと伸ばす事ができる両腕の高周波ブレードで反撃しようとするが、出した瞬間にバリアみたいなものにぶっかって二本ともバキリと折られちまった・・・・・・

「足掻くな」

それだけ言うと、首を掴んだまま尋常じゃない威力の膝蹴りを、俺の背中に寄越しやがった。

「ガ・・・ハ・・・・・・」

その蹴り一つで背骨がもっていかれそうになる。
叫ぼうにも呼吸がろくにできてないせいか、大きな声を出せない。
しかも、反撃も覚束ない俺を見て何者かは笑ってやがる。
・・・・・・万事休すだ。

−−−−−−−−−−−

415 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:40:37 ID:YrRABrO.

F‐5から出たギュオーは、さっそく何かから逃げるガイバーを発見した。
一瞬、ガイバーⅠのそれと見間違い兼ねないフォルムを持つそれは、よく眼を懲らせば細部が違うことに気づけた。
つまり、ノーヴェと同じく支給品としてガイバーユニットを渡され、ガイバーと化した参加者であるようだ。
そして、耳を澄ませば、聞き覚えのある男の声と、聞き覚えのない女の声。
どうやらウォーズマンはあのガイバーを追っているらしい。

これは念願のガイバーユニットを手に入れられるチャンスであり、急がねばウォーズマンたちの邪魔が入ってこのチャンスを逃してしまう。
ギュオーはすぐに行動に移った。

理由はわからないが、このガイバーはウォーズマンたちから逃げている。
しかし、後ろから追ってくるウォーズマンたち以外の警戒が無い。
それに気づいたギュオーは側面から背後に回り込み、ガイバーの首根っこと口を掴む。
ガイバーの武装はたいてい前面に出ている。
後ろから掴めば一部例外を除いて反撃手段が無くなってしまうのだ。
また、簡単に捕まえられ、捻りのない反撃をする所からして、ガイバーの中身は戦い慣れてない素人であることもわかった。
おぞましいゾアロードの姿をしたギュオーは笑う。
ちなみに、下手に気絶させるとガイバーの防衛本能が働いて面倒なことになるので、手加減をする必要がある。
そのため、普段なら簡単にできる、腕で首をへし折ることや顎を砕くこともせず、先に放った蹴りにも気絶しないギリギリの力でやったのである。
それでキョンは、ダメージを与えられつつも、気を失うことはなかった。

ウォーズマンに見つからないように、彼らの気配がする方向から離れるべくガイバーを手に持ったまま走る。
途中で騒がれても困るので、重力を纏った拳を背中に打ち込んで黙らせた。


ところで、ギュオーはガイバーユニットをどうやって手に入れるつもりなのか?
殖装者とユニットを分離する装置・リムーバーがあれば非常に簡単なのだが、それは今、ギュオーの手元には無い。
リムーバーが期待通りに誰かに支給されているとは限らないとギュオーは思っている。

では、他に殖装者とユニットを分離する方法は無いのか?

416 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:41:17 ID:YrRABrO.
それに対してのギュオーの答えは単純明解、『殖装者の殺害』である。
しかし、殖装者は身体をバラバラにされようとも、ユニットに強殖細胞が少しでも付着していれば復活する(主催者からの制限によりできないかもしれないが、復活できる可能性はゼロでもない)。
間違って何もかも灰にしてしまえばユニットが消失する。
さらに、周辺にはウォーズマンたちがいて、死体をうまく隠さないと後々厄介になりそうだ。

−−そこでギュオーは思いつく。

(禁止エリアに放り込んでみてはどうか?)

もうじき、この場所に近いF‐5は禁止エリアになる。
そこへこのガイバーを放り込めば、たちまち身体はLCLとやらになるだろう。
流石に液体と化した殖装者が復活できないハズの上、ユニットと分離できるかもしれない。
新しい首輪が手に入り、実際にこの眼でLCL化した者の姿を見る事ができ、一石三鳥という計画だ。
また、LCLをウォーズマンたちが発見したとしても、コイツが誤って禁止エリアに入ってしまったことにできる。
ウォーズマンに真意を悟られることもないという計算だ。

この計画を実行するためには、まずウォーズマンたちから離れることが前提だ。
見つからない距離にまで離れて、このガイバーを液体化させる!

そんなことを思いつつ、ふとギュオーはガイバーの顔を少しだけ見てみる。
詳細名簿で見た未来人・朝比奈みくるの友人・キョンのようだ。
朝比奈みくる及び未来の技術について聞き出そうと思ったが、恐慌状態とダメージでまともに会話できそうに無い。

元は戦闘力も技術力も無い役立たずであるし、ウォーズマンとも対立してるようだ。
やはり殺した方が約に立ちそうだ、とギュオーは思い、キョンの耳元で囁く。

「ふふふ、喜べ。
貴様のような冴えない男でも、私のために約に立てるのだ。
ガイバーユニットと首輪を私に捧げることでな」

417 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:43:28 ID:YrRABrO.

ドオンッ

「ん?」
「・・・・・・」

ギュオーが囁いた後に、キョンは彼の気づかぬ内にプレッシャーカノンを放っていた。
衝撃波が放たれた先にあるのは一本の大木−−ギュオーのすぐ目の前にあったものだ。

「ぬわあああああ!?」

そして、衝撃波により折られた大木はそのままギュオーに向かっていき、ズドォォンと大地が揺れる音を立ててギュオーを下敷きにした。
その際、キョンは運良くギュオーの腕から離脱できた。

前面にある武装では、後方にいるギュオーを攻撃できない。
キョンはそれを逆手に取り、周りにある木々に向けて攻撃し、折れた木を使って脱出しようとしたのだ。
これは、撃たれなければ武器を潰さなくても良いと侮っていたギュオーの失策である。
結果、ギュオーは大木の下敷きになり、キョンの首を掴んでいた手を離してしまう。
自分にのしかかる大木を怪力でどけようとしても、いかんせん俯せという体勢が悪すぎて、すぐにはどかせられない。

「お、おのれ・・・・・・」

ギュオーから解放されたキョンは、先に受けたダメージでフラフラになりながらも立ち上がる。
自分が咄嗟に思いついた策が功を成し、今度こそまともに反撃ができるようになった。

「こ、このやろぉ!」

相手がバリアを張れる事を知ったキョンは、敵を確実に仕留めるべく、胸の装甲を両方外して近距離から最高の火力を持つメガスマッシャーによる攻撃に移ろうとする。
両肺の球体にエネルギーが収束していく・・・・・・

(まずい!!)

ゾアロードであるギュオーでも、この距離・この耐性で両肺のメガスマッシャーを喰らえば、例え全力でバリアを張ったとしても蒸発させられる。
片肺のメガスマッシャーを喰らい、防ぎきれなかったことを覚えているギュオーだからこそ焦った。

「私を舐めるなぁ!!」

そうはさせまいと、ギュオーは大木から片腕を抜き出して、重力波を放つ。

そして、キョンの身体が後方に吹き飛ばされ、その時の重力攻撃によって両方の球体にヒビが入った。

一度溜め込んだ莫大なエネルギーは、元に戻す事はできない。
方法はあったとしてもその術をキョンは知らない。
エネルギーを解き放つ機構であった球体は壊された。
それは故障した銃と同じであり、そんな銃の引き金を引いてしまったら最後・・・・・・

418 パターン・青 接触編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:44:17 ID:YrRABrO.



そこへスバルたちが草を掻き分けて現れる。

「キョン君!」

スバルがキョンの名前を呼んだ時を同じくして、メガスマッシャーは暴発した。
発射機構である球体の破損、それによる収束されたエネルギーの暴走、・・・・・・爆発。



それなりの距離があったスバルたちへの影響は爆発による突風を喰らう程度で済んだ。
ギュオーはバリアを張って難を逃れ、自身を下敷きにしていた大木は軽く吹っ飛ばされた。
しかし、爆心地となったキョンは爆発の中で体中をちぎられていき・・・・・・



それが哀れな道化の末路だった。

419 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:48:55 ID:YrRABrO.


−−時間を別の視点から少しばかり巻き戻す。

キョンを追う三人の男女。
その途中で何かを察知したレイジングハートが報告する。
暗闇と雑木林で視界が悪い世界でキョンの動向を探るには、彼女の報告が頼りだった。
ギュオーには彼らが、こんな高性能なAIと索敵能力を持つデバイスを所持してることは知らないだろう。
レイジングハートには、キョンとギュオーの動向はある程度までサーチできていた。

『Mrキョンの近くにもう一つの生命反応を察知しました』
「生命反応? 他に誰かがいるってこと?」

その反応こそギュオーであるが、この時点の彼女たちは知らない。
さらにレイジングハートはリアルタイムで報告を続ける。

『待ってください・・・・・・!
エネルギー反応を感知。
Mrキョンと何者かが戦闘をしている可能性があります!』
「戦闘、まさかキョン君が・・・・・・!」

スバルは焦る。
戦闘と聞いて思いあたる節は、恐慌状態のキョンが何者かに襲いかかったか、逆に何者かにキョンが襲われているか。
今のキョンでは、何をするかわからないし、何をされるかわからない。
止める意味でも守る意味でも、早く保護しなければ・・だが、状況は次々と変化していく。

『・・・・・・?
Mrキョンと何者かが急速に我々の方から離れていきます。
速度は先程までより若干早く、このままではすぐに私の索敵範囲外へ離脱してしまいます』
「・・・・・・急ごう。
スバル、俺はペースを上げるが、君はまだ走れるか?」
「ハイ!」

報告を受け、キョンを追って走る速度を早めるウォーズマンとスバル。
進んだ先には、刃のカケラ−−折れた高周波ブレードが落ちていた。
それが三人の不安を加速させる。

『スバル、あれを見て!』
「あれはキョン君の!?」
「嫌な予感がする。
キョンの奴はいったい・・・・・・」

追跡しつつ、不安を募らせていく三人。
その中で、数十m先の何かが崩れて倒れるのが見えた。

「あそこにキョン君がいる!」

スバルたちは、戦闘が起きてるであろう方向へ向けて駆け出す。

「このやろぉ!」
「私を舐めるな!!」

420 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:49:41 ID:YrRABrO.
二人の男の声が聞こえる距離まで三人は接近し、最後に背の高い草を押しのけて、ようやくキョンと異形の怪物・ギュオーが視界に入った。
ウォーズマンは怪物の纏う雰囲気から、それがギュオーであることを理解した。
そして、キョンを見つけたスバルは第一声に彼の名を呼ぶ。

「キョン君!」

だがその時に、キョンを中心にした爆発が起こった。
幸い、距離が離れていたスバルたちは突風を喰らうしか被害はなかった。
爆発が止み、煙が晴れるとそこには見る限り無傷で倒れている怪物−−ギュオー。
そして爆発によって生み出されたクレーター、そこに横たわるキョン。
そのキョンの身体は肉塊と言っても謙遜ないくらいボロボロであり、その様子に一行は一時、言葉を失った。

「う・・・・・・うぅ・・・・・・」

だがキョンが呻きなら微動だにし、彼にまだ息があると知るやいなや、スバルとウォーズマンは気持ちを切替えて、すぐにキョンの元に向かう。

「キョンくぅーーんッ!!」
「キョン、大丈夫かぁ!!」

−−−−−−−−−−−

421 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:51:30 ID:YrRABrO.

「ああ・・・ああ!!」

メガスマッシャーの暴発によって、キョンの身体は凄惨を極める酷い有様になった。
強殖細胞の大部分が融解・または身体から外れている。
特に爆心地になった上半身は酷く、あばら骨や一部臓器を露出している(ガイバーの機能により不必要な臓器が消えるため、今曝されている臓器は必然的に必要な器官となる)。
熱で肉が炭化した部分もあり、各部からの出血も酷い。
四肢は繋がっていても、ほとんどが複雑に折れて変な方向を向いている。
そして、頭部の装甲の大半が外れて初めてスバルたちの前に晒された苦悶に満ちていた。
今のキョンには『死に体』という言葉が似合いそうだ。
そんな身体で生きているのは、ガイバーの仕業であろう。
暴発によって引き起こされた爆発からキョンの身を守り・・・・・・守りきれていないが、ガイバーが無ければキョンの身体は全て消し飛んでいただろう。
また、ほとんどの頭部装甲が吹き飛んだ中で額のコントロールメタルとその周辺はいまだ健在であり、ガイバーとしての機能は損なっていない。
今もまだ宿主の身体を再生中であり、体が一部炭化しようとも、内臓を露出して出血多量でも、キョンはまだ生きていた。
・・・・・・だが、強殖装甲による再生が、刻一刻と失われていくキョンの生命力に追いついていない。
脳がやられようと再生できる強殖装甲だが、ここまでダメージが酷いとどうなのだろうか?
ガイバーである晶がコントロールメタルを奪われて実質、全ての肉体を失ったが、ユニットに付着した僅かな強殖細胞から復活したことがある。
しかし、それが強者に様々な制限を与えられるこの会場ならばどうか?
制限は参加者のみならずガイバーユニットにもかけられているのが道理だろう。
よって、中途半端な再生能力はキョンに生きたまま激痛地獄を味あわせるに過ぎない。
動くこともできず、叫ぶ力もないので、キョンは苦痛に呻き声をあげるしかなかった。

焦燥のスバルたちはそんな彼を助けようと近寄る。
キョンの首から下を、スバルは直視できない。
見てしまえば、吐き気を催しキョンを助けることに集中できなくなりそうだからだ。
直視できないほど酷かったのである。

「キョン君! しっかりして!」
『これはヒドイです・・・・・・生きてる方が不思議ですよ!』

422 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:52:32 ID:YrRABrO.
スバルたちがキョンを助けようとする一方で、ウォーズマンは彼女たちの背中を守るように後ろに立ち、ギュオーと向き合う。

「ギュオー!
これはいったいどういうことなんだ!」

ウォーズマンはギュオーに向けて語気を強めて問い掛ける。
決して、ギュオーが殺し合いに乗ったとわかったためではなく、元々の彼への疑念に加えて感情が入っているのだ。
問い掛けに対し、できるだけ誠実に繕って無害そうに装うギュオー。

「待ってくれ、君らは奴を追っていたんではないか?
奴は敵じゃなかったのか?」
「・・・・・・保護すべき相手だ。
詳しい経緯は省くが、見張り、守らなくてはいけない奴だったんだ」
「な、なんと!?」

ウォーズマンたちから逃げているので、てっきりキョンが敵対しているのだと思ったギュオー。
実際には、(言い回しからして何か事情があるみたいだが)味方だったのである。
つまり、誤ってギュオーは味方を攻撃してしまったのだ。
良心の呵責がないギュオーには、それ自体のことはどうでも良いことなのだが、問題なのはそれによりウォーズマンたちとの友好関係にヒビが入ったことである。
ギュオーにとって利用価値のあるウォーズマンたちとは、関係を悪化させたくなかった。

(クソッ、合流するタイミングが最悪だ!)

再会のタイミングはちょうどキョンを攻撃した所、目撃される気はなかったのに、キョン(おそらく死ぬ)を襲っていたことがバレてしまった。

ウォーズマンに見せる誠実そうな態度の裏で、自分の思い通りに行かないことに腹を立てる。
だが、あらかじめガイバーが自分にとっての敵であると教え込んでいるため、今なら誤殺や事故でごまかせるかもしれない。
関係そのものの悪化は避けられなくとも、交戦は回避できるハズだ。
ここはなんとか凌ごう−−と、ギュオーは肝に銘じる。
そんなギュオーの心の内を知りもせず、ウォーズマンはギュオーに問い掛け続ける。

「一緒にいたタママはどこに行った?」
「タママ君なら火事になっている北の市街地へ向かった」
「そんな危険かもしれない所へ一人で行かせたのか!?」
「止めようとしても話を聞かなかったんだ!
頭に血でも昇っていたのだろう」

それは嘘ではない。
タママが出ていったことで、一人でにこの殺し合いに関しての考察ができたのは秘密だが。

423 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:54:59 ID:YrRABrO.
タママの動向についてわかった所でウォーズマンの質問は次に移る。

「おまえを疑いたくはないが、キョンに襲いかかったのは故意ではないんだな?」
「待ってくれ!
私にとってガイバーは敵なんだ。
やらなきゃやられると思ったのだよ。
それを君たちの仲間と知らずに討ってしまった事には責任を感じてる・・・・・・
信じてくれ、あくまで自分の身を守ろうとしてやってしまった事なんだ・・・・・・!」
「ぬぬぬ、おまえを信じてやりたい気持ちはあるが・・・・・・」

偽りの自責の念を見せつけるギュオーと、彼の真意に気づかず気を許してしまいそうなウォーズマン。

(これで良い。
まだ先は長いのに争って消耗したくはないし、コイツらには戦闘面で利用価値があるんだ。
それにどうやら、あのガキの持つユニットにも制限があるのか、再生力には限界があるみたいだな。
制限をかけないと、ユニットを持つ者の優勝が簡単になってしまうし、無理もないか。
う〜む、わざわざ禁止エリアにほうり込む必要はなかったか?)

ギュオーはユニットにもある程度の制限がかけられている事に気がついたようだ。
その上で考えを練る。

(ユニット自体はまだ健在だ。
このガキが死ねばその内ユニットが手に入る。
私が襲った真相についてもあやふやになる。
今は粘るんだ!)

野望に燃える男は、キョンの死を待ち望む。
ロボ超人は疑念を持ちつつも、それに確信に変えることができないでいた。

−−そんな一方で、スバルはキョンを助けるべく方法を模索する。

「がはぁ、くうう・・・・・・」
「キョン君!
・・・・・・早く助けないと!」

だが、スバルやリイン程度の魔法による治癒では、瀕死のキョンを助けるには至らない。
今のキョンを助けられそうな魔導士はシャマルぐらいしかいないが、この殺し合いの場にはいない。
他に助ける方法も思い浮かばず、キョンの苦しむ声を聞きながら焦るのが関の山だった。
方法が無いとはいえ、衰弱するキョンをスバルは見ていられない。
ガルルと同じく、目の前にいるのに助けられないのは、もう沢山なのだ。
悲しみと無力感でスバルの目頭が熱くなる・・・・・・そこへ、ギュオーと話していたハズのウォーズマンが励ましの言葉を送りながら現れる。

「諦めるなスバル!!」
「・・・・・・ウォーズマンさん?」

ウォーズマンはスバルの側にしゃがみこみ、デイパックを開ける。

424 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:57:52 ID:YrRABrO.
「支給品の中にはキョンを助けられる道具があるかもしれん。
俺もデイパックの中身を全て把握しきっていない。
だからデイパックを調べて何か使える物が無いか探すんだ!』
「そうか、それなら!」

キョンを救える道具がデイパックの中に眠っているかもしれない。
それを思いたったウォーズマンは自分のデイパックを漁り始める。
僅かでも希望が見えたことにスバルは眼を輝かせ、リインと共にさっそく自身のデイパックを調べ始める。

スバルのデイパックには、円盤状の石、首輪、SDカード、カードリーダー、巨大化させる銃・・どう考えても役に立ちそうな物は見当たら無い。
ウォーズマンのデイパック。
スナック菓子に木の美・・・・・・役に立つ物がなかなか見つからない中で、ウォーズマンが何かを発見する。

「これはいったいなんだ?」

金属で覆われたハンドサイズのカプセル状の物体。
一瞬、キョンを救える物かと期待したが・・・・・・

『それはN2地雷って言う一エリアをほとんど吹き飛ばすトンでもない爆弾みたいです』

付属の説明書を読んだリインが、謎の物体が爆弾であることを告げる。
期待通りに行かず、落胆せざる追えなかった。
爆弾じゃなかったら、それを地面に叩きつけてたぐらいにだ。

425 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 22:58:48 ID:YrRABrO.

「爆弾なのか、チッ。
・・・・・・ん?」

自分たちがキョンを助けようと道具を探している横で、傍観者のように動かないギュオーを見つけたウォーズマンは、今ある苛立ちをぶつけるように言った。

「何してるギュオー!
おまえも責任を感じているなら手伝うんだ!」
「あ・・・・・・ああ、すまない、今すぐに私もデイパックから使える道具を捜してみる」

指示を受けたギュオーは内面的に渋々、デイパックから道具を探す『フリ』をする。

(まったく、誰に物を言ってるつもりなんだウォーズマンは。
・・・・・・いかんいかん、ここはガキが死ぬまで適当に道具を探すフリをしていれば良い)

ウォーズマンの態度に不満気でありながら、演技を続ける。
デイパックが開けば、首輪についていた血の臭いも解放されたが、キョンの流す更に濃い血の臭いで掻き消されてしまう。
ここまでのギュオーの目論みは、ほぼ順調だったに違いない。

ギュオーが作業を仕出したのを確認すると、ウォーズマンは視線をキョンに戻し、まだ手に持っているN2地雷をデイパックに戻す・・・・・・のを忘れて、地面に置く。
彼は大分苛立っている様子だ。

「まだ道具はあります!
きっと助けられる道具があるハズなんだ!」

426 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:05:12 ID:YrRABrO.

スバルはウォーズマンにそう言い聞かせた。
こうしている間にもキョンは弱っていく、かろうじて息はあるが、呻くことももうできなくなっている。
キョンはもはや限界だった。
だからこそ、諦めてはならない。
デイパックの中に都合良くキョンを助けられる支給品があるとは限らないが、それでも自分たちが探さなければ助けられる可能性もゼロになる。
何よりガルルやメイの時と同じく、スバルもウォーズマンも、何もできないまま、目の前で人が死ぬのはもう沢山なのだ。

「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない。
キチンと罪を償って元の世界に帰すまで、あたしはあなたを生かしてみせる!」

キョンを必ず助けたい強い意思から、スバルは祈りながらデイパックの中へ腕を突っ込み、道具を探し続ける。

(お願い!
キョン君を助けられる道具が出てきて・・・・・・!)

「コレはたしか・・・・・・?」

祈りが通じたのか、デイパックの中から出した隣のウォーズマンの手には宝石のようなものが握られていた。
その宝石こそ、幸福と不幸をもたらす青い魔石−−ロストロギア。
それを見たスバルとリインは思わず声を揃えて驚く。

「これは・・・・・・」
『まさか・・・・・・』
「『ジュエルシード!!』」

−−−−−−−−−−−

427 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:07:34 ID:YrRABrO.

最悪だ。
まさかこんな形で俺が終わるなんて・・・・・・

利用するつもりだったギュオーが、有無を言わさずに襲いかかってくるなんて想定できるハズがない。
おまけにそのギュオーに殺されるなんてビックリ展開だぜ。

結果、俺の身体はメガスマッシャーの暴発で体中ボロボロのバラバラ。
もう、首から下の感覚が痛すぎて、どう痛いのかよくわからん。
気が狂いそうな痛みと、死の恐怖って奴が、現在襲進行形で俺を襲いかかっている。
どれだけ痛くとも叫ぶ気力すらない。
こんなんで何で生きてるかって?
ガイバーのおかげだろ、たぶん。
まあ、こうやって考え込む程度の正気はギリギリで保っている。

・・・・・・俺の命はたぶんもう持たないな、自分の身体だからよ〜くわかる。
強殖細胞が俺を再生させようとしてるが、ほとんど間に合ってないようだ。
あの女が必死で俺を助けようとしているが、無駄だろう。

すまない、ハルヒ、朝比奈さん、妹・・・・・・
俺はここでリタイアのようだ。
あとは、一人にしちまって迷惑をかけるが、古泉が頑張ってくれることを期待するしかない。
でも、アイツがパソコンの掲示板を見ていたら、きっと怒ってるだろうな。
ひょっとして、仮にアイツが優勝したら、望みが俺だけ生き返しさないとかだったりして・・・・・・報いだとしても正直、嫌だな。


ハァ・・・・・・それにしても俺はどこで間違っちまったのかな?
俺が自分を抑えて、あの女たちから逃げなければ良かったのか?
ハルヒを殺した時点からか?
殺し合いに乗らなかった方が良かったのかもな?
そもそも、この殺し合いに連れてこられた時点で、俺の運命は最初から終わってたのかもしれない。

・・・・・・思い返して見ても、守るつもりだった奴を斬ったり、仲間や兄妹を売ったり、蛇の舎弟にされたり、土下座したり。
揚句の果てに、勝手に暴走して泣きわめきながら逃げて、ぶざまに死ぬ・・・・・・俺はこの殺し合いでろくなことは何一つしてないな。
汚いことを色々やって、何もしないまま、俺は死ぬのか・・・・・・
ハルヒたちにあの世で笑われても文句が言えないな。

まぁ、全ては過ぎたことだ。
後は殺し合いが終わった時に長門が生き返してくれることを祈ろうか。

428 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:08:35 ID:YrRABrO.
「・・・・・・ッ、まだ道具はある。
きっと助けられる道具が!」

眼中ではまだ、あの女−−スバルが頑張ってやがった。
黒い男がなんか一エリアのほとんどを吹き飛ばすらしい爆弾を地面に置いて、二人ともめげずに『俺を助けるために』デイパックを漁っている。
何を奴らは、必死になってるんだ?
俺なんてヤツは見殺しにしちまえば良いのに。
『あたしはただの甘ちゃん、偉くはないよ。
でも、そんな甘ちゃんの理想を貫けと言ってくれた人がいる。
だからあたしは、誰であろうと一人でも多くの人を救うと決めた。
キョン君も、これから会う人も、殺し合いに乗った人だって、助けてみせる!』
そういえば、そんなこと言ってたっけ?
しかし、味方はともかく敵だったヤツにまで手を差し延べるなんて、この殺し合いの場じゃバカか変人だぞ。



本当にスバルには変人って言葉は適切なのか?
ふと、疑問に思う。
そして、ここにきて俺がスバルが嫌いだった理由がようやくわかった気がする。

−−スバルが信念を曲げずに戦っているからじゃないのか。
敵にまで手を差し延べ助けようとし、誰であろうが死ねばその悲しみを受け止める。
力の差が歴然な相手にも、立ち向かおうとする。
一人でも多く助けたいという理想を貫こうとするその様は、あまりにもヒロイズムで気高い。
それは同時に、守りたかった少女を殺し、自分が助かりたいために仲間を売ったり、殺し合いのためには仕方ないとわかっていながら仲間の死を聞いて心が耐え切れずに醜態をさらしてしまったり。
所々で信念が揺らいでいたキョンにとって嫉妬の対象になり、彼女の近くにいると自分の惨めさを思い知ってしまう。
この殺し合いにおける進む道は真逆でも、信念を貫く彼女の姿勢は、キョンが自分に求めていた姿だったのかもしれない−−

俺は守りたいものを自分の手で壊しちまった。
必要悪だとわかっていても仲間が死んで芯が折れそうになった。
同盟を組んでいた古泉に対しての仕打ちは、明らかに俺の裏切りだ。

・・・・・・なのにコイツは俺とは逆で、ぶれずにやりたいことをできる。
いったいどうすりゃそこまで強くなれるんだ?
戦闘力じゃなくて、精神的な意味で。
俺もそうなりたかった・・・・・・できれば教えて欲しかった。

429 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:10:10 ID:YrRABrO.

でも、スバルの強くなった理由を知りたくても、もう・・・・・・それはできそうにない。
いい加減、意識が遠退いてきやがった。
視界が徐々に真っ暗になってきやがる。
いよいよ俺は死ぬみたいだな・・・・・・

俺にできることは、スバルと黒い男と小さい女とに看取られながら、仲間を裏切ったことへの後ろめたさを感じつつ、自分を殺したギュオーを憎んで、生きているだろう古泉に殺し合いを早く終わらせてくれるよう期待しながら死ぬだけだ。

・・・・・・虚しいな。
そんでもってSOS団の皆に裏切る以外の何もしてやれないまま終わるんだ。
だが、文句をたれた所でもう遅いんだ。
俺は自分の不甲斐なさを悔いながら死ぬとするか・・・・・・



「負けないでキョン君。
あなたはまだ何の罪も償っていないじゃない−−」



誰かの声が聞こえた。
その言葉に俺の意識は溺れきる前に引き戻される。
−−そうだ、俺は裏切ってしまった仲間への償いをまだしていない。

今思えば俺は自分の事しか考えてなかった。
自分の生存率をあげるために古泉を落としめた。
自分は立ち止まるべきじゃないのに、ハリボテのような覚悟で朝比奈さんと妹の死を聞いて、つぶれてしまいそうになった。
優勝して、皆を生き返して日常に帰ることにだって、俺は本気で挑んでいたのか?
優勝そのものが保険になり、目的が殺し合いを促進させることが中心になっても、できるだけ早く皆を生き返らせたい気持ちはあるんだ。

もし、もう一度チャンスがあるのなら、俺は今度こそ本気で殺し合いに挑もう。
その時はスバルと同じく、自分の信念を曲げたくない。

挑むからに、命をかけるぐらいの覚悟で頑張ろう。
弱い俺が誰にも負けないようにするには命を張るしかない。

そして、一秒でも早く皆をを日常に帰す、それこそが不器用な俺なりの償い方だ。
これからは自分の都合ではなく、償いのために戦いたい!



−−死ぬ寸前にも関わらず、そんな決意を固めると、天は俺を見放さなかったのか、閉じかけた視界の奥で青い輝きが見えた。

その輝きを見て思い出すのは、SOS団での日々。
ハルヒによってSOS団に無理矢理入れられた事に始まって。

430 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:11:02 ID:YrRABrO.
長門が宇宙人で、朝比奈さんが未来人だったり、古泉が超能力者だと名乗った事に最初は戸惑ったっけ?
朝倉に殺されかけ、長門が身体張って俺を守ってくれた事。
大人の朝比奈さんに出会いもした。
たまに遊びにきた妹。
島に行ったり、野球やったり、アホで電波な映画を作ったり、コンピ研とゲームをしたりもした。
俺はその思い出の全てが、口ではなんやかんや言いつつも、楽しかったに違いない。
俺はそれらを取り戻し、その日常の続きを皆で見たい。
だが、俺がそのために努力しなくてどうするってんだ!
何もしなくちゃ、皆と一緒にSOS団に戻る資格はねえ!!


俺が意気込むと、例の青い輝きが一層強くなった気がする。
そこで『この輝きに触れれば、俺はもう一度立ち上がることができる』と、直感が告げていた。
これこそ、俺の願いを聞いてくれた神様が与えた最後のチャンスに思えた。
もちろん、今度こそ揺るぎない決意を胸に秘めた俺は、迷うことなくその輝きを掴む。

そして強く願った。

−−−−−−−−−−−

もう迷わないし逃げない。
ハルヒたちSOS団を早く日常に帰してやるためだけに頑張りたい!!
だから・・あと一回だけチャンスをくれ!

−−−−−−−−−−−

そう願い終えると、手の中の輝きが大きくなり、やがて俺を包んだ。
身体中が隅々まで生まれ変わるような感覚を味わう。
もう一度、眼を覚ました時には、俺は以前とは別物になっているかもしれないな。

そして、輝きの先にはハルヒがいた。
表情がよく見えないが、俺を見ていることだけはわかる。
彼女に俺は微笑みながら、自分の胸の内を告白する。

「待っていてくれハルヒ。
朝比奈さんや妹、それに古泉も、すぐにみんな一緒にあの日常に帰してやるからな。
あと・・・・・・口ではああだこうだ言ってたけど・・・・・・俺はやっぱりおまえの作ったSOS団に入れて良かっ−−」



瞬間、硝子を割ったかのように粉々に砕け散る俺の魂。

−−−−−−−−−−−

431 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:12:30 ID:YrRABrO.

スバルとリインが、ウォーズマンがジュエルシードを引き当てたことに驚いている隙に、どこにそんな力が残っていたのか、ボロボロになっている右腕を伸ばし、ウォーズマンの手元からジュエルシードを掠め取ってしまう。
ジュエルシードを持つ手がキョンの心臓の前に添えられると、彼は光に包まれた。
目の前でジュエルシードを奪われ、突然に光だしたキョンに呆気に取られる三人。
多少遠巻きにいるギュオーもすぐに事態の変化に気づき、驚く。
その中でレイジングハートがスバルたちに警告を促す。

『膨大な魔力の発生を感知・・・・・・ジュエルシードが暴走している可能性があります!
早急にMrキョンから離れてください!!』
「でも・・・・・・キョン君が!」
『巻き込まれて死ぬつもりですか!?
上官命令です、早く離れて!!』
「・・・・・・くッ」

デバイスの警告とリインの指示を受けて、二人は仕方なくデイパックを拾ってはキョンから離れた。
スバルは光り続ける彼を心配そうに見つめる。
なぜなら、スバルはジュエルシードが良き結果をもたらさないことを知っているからだ。


やがて、キョンを覆っていた光が消えていく。
すると、キョンがいた位置には『何か』が立っていた。
その『何か』の姿にその場にいた全員が驚くことになる。

『何か』はキョンであった。
キョンはついさっきまでの肉塊状態では無く、人型のフォルムに戻っていた。
しかし、その姿は異様かつ不可解。
目立った特徴をあげるなら、ガイバーと人間がぐちゃぐちゃに合わさっている姿。
言うなればガイバーとは何かが違うのだ。
首から下の外見特徴はガイバーに近けれど、型の合わないパズルを無理矢理押し込んではめ込んだように所々がイビツであり、アプトムのコピー並にガイバーとしての再現率が低い。

432 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:14:46 ID:YrRABrO.
胸の装甲部分の下・ちょうど中心には、キョンのこの変身の原因となったジュエルシードが嵌まっていた。
この場にエヴァの関係者がいたとしたら、ゼルエルを喰らい、S2機関を取り込んだ初号機に似ていると言うだろう。
もっともアレの場合は赤で、こちらの場合は青いが。

首から上はもっと異様だ。
頭部の装甲は角や額部分を除いて剥がれ落ちたままなのか、素顔や頭髪が見える。
血の気を持ってかれたのか、茶色みを帯びていた頭髪は全て老人のように真っ白になっている。
ガイバーの特有の前から後ろに伸びる一本角は、頭から直接生えているようにも見えた。
額に残っていた装甲はヘッドビームの発射口と、コントロールメタルはそのまま。
最後にもっとも異様なのは、頬など一部が強殖細胞に侵された顔は、マネキンのように張り付いたような無表情であり、眼は光も闇も無い虚無を写している。

総じて纏う雰囲気は異様、身体はガイバーでも人でも無いまったく別のクリーチャーのようだ。
当の本人は黙ったまま直立不動であり、その様子がさらに不気味さを掻き立てる。


起死回生したキョンに対して、状況が飲み込めないギュオーとウォーズマン。

「な、何が起きたんだ・・・・・・?」
「さぁ・・・・・・俺にもさっぱりわからん」

逆に、キョンの身に起きた事象の原因を知っているスバルとリインには、キョンが死の淵から蘇ったことに素直に喜べないでいた。
キョンに関して悪い予感がしてならないのである。

「キョン・・・・・・君?」

呟くようにスバルは声をかける。

「・・・・・・」

声にキョンがぴくりと反応を示し、ゆっくりと視線を動かして周りを確認する。
顔色一つも変えずにロボットのように見回し−−突然、問答無用で他の四人に向けて額からヘッドビームを放った。

『わあああ、いきなり撃ってきた〜!』
「キョン君!?」

スバルはサイドステップで、側にいたリインは宙を宙返りして回避する。

「キョン!」
「うぬ!」

ウォーズマンはしゃがみ込んでかわし、ギュオーはバリアを張って防ぐ。
防いだギュオーは、ビームがバリアに当たった時の手応えで違和感を感じた。

(ビームの出力が、私の知っているスペックより強いぞ!?)

433 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:15:53 ID:YrRABrO.
ギュオーは違和感を感じている一方でスバルには、キョンがいきなり周りを攻撃してきたことについて思い当たる節があった。

(ジュエルシードの暴走!?)

悪い予感が的中してしまった。
攻撃してくるのはジュエルシードの暴走かわからないが、現在のキョンは目に見えておかしいのである。

『今のビームには魔力が付加されて出力が上がっていました。
おそらく胸部にあるジュエルシードの影響と思われます』
『ひぇぇぇ、パワーアップまでしているんですか?』

デバイスの分析、それを聞いてリインは驚きを隠せない。
口には出さないが、スバルもリインが言ったことと同じ心境だ。

その三人を尻目にキョンは次の行動へ移る。
駆け出し、ウォーズマンとギュオーの元へ向かう。

「よくわからんが・・・・・・止めなくはならないみたいだな!」

最初に迎撃に出たのはウォーズマン。
向かってくるキョンに向けて、まずはパンチを放つ。
腕力も速さも技術も常人を上回る拳撃、ガイバーになって一日足らずのキョンには避けること不可能のハズだった。
しかし、キョンは拳が当たる寸前に素早く体で捻って回避する。
そして、お返しと言わんばかりに、ウォーズマンにプレッシャーカノンを喰らわせようとするが、すぐに後退して攻撃を避ける。
プレッシャーカノンが直撃した地面は爆音とともに大きなクレーターを作っていた。

「驚いたぞ。
攻撃の威力はもちろん、反応速度まで上がっているとはな」

超人の一撃をかわし、この前に戦ったギガンティックの時には及ばないものの、ガイバーに比べれば攻撃の威力が上がっている。
素直に危険だと感じ、油断はできないと悟った。

そして、次の標的をギュオーに変更するキョン。
ウォーズマンはギュオーに注意を促す。
ギュオーが殺し合いに乗っている疑いの要素は大きいが、今はまだ味方の内に入っている。
敵でない限りは、守らなくてはいけない味方だ。

「ギュオー!
そっちで行ったぞ、気をつけるんだ!」

ギュオーは内心で、(そのまま死んでくれれば後が楽になったのに・・・・・・腹いせも兼ねてもう一度地獄に送ってやるわ!)などと思いながら構える。

434 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:16:32 ID:YrRABrO.
重力指弾による迎撃を行おうとするが、そこへキョンは片手に持っていたカプセル状の物体を見せつける。
その物体に気づいたスバルとリインは戦慄する。
物体の正体はN2地雷、ウォーズマンのデイパックから取り出したものだが、焦っていたため、回収をし忘れていたのだ。
それをいつの間にかキョンに拾われてしまったらしい。

「?」

アレは何だと疑問に思うギュオー。
その疑問を持ちながらも、構わずに攻撃しようとするギュオーにリインが必死に説明して止めようとする。

『それは爆弾です!!
それを爆発させたらここにいる皆が吹っ飛んじゃいますーッ!!』
「なんだと!?」

リインが説明を終えたのはギュオーが攻撃を放とうとする直前、キョンが持つ爆弾を爆発させてはならないと慌てて攻撃を中止する。
ところが、攻撃中止により硬直したそのタイミングを、今のキョンが見逃すハズはなかった。
すかさず、ギュオーに向けてプレッシャーカノンを発射した。

「ぬううううん!!」

ギュオーは防ぐが、その威力はバリアを最大出力にしないと防ぎきれるものではなくなっていた。
すでに攻撃の出力が上がっていたことは予想済みだったのでバリアの出力を上げたのが幸を成したが、それも束の間。
防御をしたことで更に隙を産み、そこへ胸部装甲を開く。
先にも記したが、片肺のメガスマッシャーでも、バリアで防ぐことはできないことをギュオーは身を持って知っている。
そこへさらに、魔力とやらにより出力が上がってるだろうメガスマッシャーの直撃を受ければいくらゾアロードである自分でも危険は必至。
おまけに、爆弾を盾にされているせいでこちらからは満足に攻撃できない。
よってギュオーは回避を選択した。

しかし遅すぎた、否、キョンのチャージの方が早かった。
胸の二つの球体から膨大な粒子の魔力が合わさった極大の閃光が放たれる。

「間に合わん・・・・・・ぬわああああああああ!!」

回避に失敗したギュオーは断末魔を上げて閃光の中へと消えていった。

「ギュオーーーッ!」
「ギュオーさん!」

スバルとウォーズマンが無事を願って名を呼んだ時には、ギュオーがいた場所は焼き払われた雑木林だけが残っていた。

435 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:17:21 ID:YrRABrO.
ギュオーが閃光に包まれる瞬間を見ていた二人にとって、その場に何も残されてないということはすなわちギュオーの死を意味していた。

「そんな・・・・・・」
「やられてしまったのか、ギュオー!?」

あっけなく死したギュオーに悲壮感を覚えるが、キョンは二人の都合など考えずに、再びN2地雷を盾にする戦法をとって襲いかかってくる。

『あれじゃあ迂闊に攻撃できないです!』

自分の腕の中で爆破させることはまずないだろうが、下手に攻撃が加えられず、逆に向こうから撃ち放題である。
彼を助けようとした際にN2地雷の威力を聞いていたのだろう。
でなければ、爆弾を盾にする奇策など使ってこない。
スバルたちが人殺しを嫌うスタンスであり、N2地雷の威力を知っていればこそ通用し、絶大な効果を持つ作戦である。
ウォーズマンが舌を巻くほどだ。

「あれが奴の手元にある限り、ろくに戦えん!」

しかし、リインもまた策を思いつき、二人に耳打ちする。

『(二人とも、一度しか言わないからよく聞いてください。
リインがリングバインドでキョンの動きを封じます。
そこを突いてください)』

パワーアップした今のキョンにリングバインドによる拘束がしきれるかも怪しい。
それでも隙を作ることができ、反応速度が上がって捉えづらい今のキョンから爆弾を奪うには打ってつけの作戦だ。
スバルとウォーズマンは策の意図を理解し了承する。

「了解!」
「任せろ!」

爆弾を盾にヘッドビームやプレッシャーカノンを放ちながら近づいてくるキョン。
スバルとウォーズマンは射撃を避け、右と左の二方向からキョンへ接近、リインはバインドを唱えるタイミングを伺う。
そして、キョンとスバル・ウォーズマンの距離が無くなった時に、リインは唱える。

『今だ! リングバインド!』

魔法の拘束具がキョンにかかる、今度は念入りに頭までかけられた。
しかし、ジュエルシードによる魔力があるせいか、バインドは力技ですぐに消されてしまったが、僅かでも動きに制限がかかり、そこを目論み通りにスバルとウォーズマンが狙う。
高くなった反応速度を持つキョンにより、スバルは爆弾を奪うことに失敗したが、もう一方からウォーズマンが爆弾を霞めとることに成功する。

436 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:19:07 ID:YrRABrO.
「それはおもちゃじゃない! 返してもらうぞ!」

パッと腕からN2地雷を奪い返し、二人はリインの下まで後退し、自分のデイパックにしまい込む。

「やりましたねウォーズマンさん」
『作戦成功ですぅ』
「ああ、後は技を決めてキョンには眠ってもら・・・・・・ん?」

爆弾を奪ってしまえば、あとは全力でキョンを叩いて気絶させるなりして暴走の原因を断ってしまえば良いのみ。
最大の威力を持つメガスマッシャーも、撃ったばかりでチャージが終わってないようだ。
叩くなら今がチャンス!・・・・・・そう思っていた三人だが、行動に移す前にキョンの変化に気づく。

キョンが口を大きく開いている。
・・・・・・暗いためか、喉奥に光る金属球があることにまで三人は気が回らなかった。
そして、放たれる音波攻撃。

『いけない! 早急に退避してください』

レイジングハートが警告するが、三人がその警告の意味を理解する前に怪物・キョンは口から直接、ソニックバスターを放たれた!!

「うわああああああ!!」
「がはっ!?」
『うぐっ・・・・・・』

身体を襲う強烈な痛みにスバルが悲鳴を上げ、ウォーズマンが片膝を付き、リインが羽虫のように地面に落ちる。
前はダメージを受けても根気があれば動く事ができたが、パワーアップしたソニックバスターは動いただけで全身がバラバラになるような想像を絶するダメージが与えられる。
一度倒れてしまえば、二度と立てない気にさせるほどの激痛だ。

射程から離れるほどの力が出ないため、逃れようにも逃れられない。
そんな動こうにも動けない三人に、ソニックバスターを放ちながらキョンは接近する。
トドメを刺すつもりらしい。
最初に目をつけたのはかろうじて立っているスバル、立つことで精一杯の彼女にじりじりと詰め寄っていく。

『ス・・・・・・バル!』
「逃げるんだ・・・・・・スバル!」
「ダ・・・・・・ダメです、身体が動けない!」

1mもしない距離までキョンが腕を振り上げる。
構えからして高周波ブレードで斬り掛かろうとするつもりだ。

「ああ・・・・・・」
『protec・・・・・・振動波で魔力の供給が阻害されてます!』

437 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:22:06 ID:YrRABrO.
レイジングハートもスバルを守ろうと自動で障壁を張ろうとするが、デバイスに送られる魔力が足りず、発動できない。
スバルは逃げられない恐怖の中で死を覚悟した。
そして、キョンの高周波ブレードでスバルが袈裟斬りされる。
バリアジャケットの硬度も虚しく、袈裟型に斬られた傷から血液が飛散する。

「う・・・・・・」
『スバル、いやあああぁあああぁあああ!!』
「キサマーーーッ!!」

仰向けに倒れるスバルに絶叫するリイン。
斬るつけたキョンに激しい怒りを覚えたウォーズマン。

「うおおおおお!!」

怒りを爆発させたウォーズマンは、自身を襲う痛みを押し切り、体内の回路がいかれかけるようなな無茶を押して立ち上がり、渾身の力でキョンの顔面に殴りつける。
パンチが顔面にめり込ませ、直撃したキョンは大きく吹っ飛ばされ背中で地面を滑った。
同時に、ソニックバスターによる音波攻撃は止み、身体の自由が利くようになった。

「コーホー・・・・・・」
「うぅ・・・・・・!」
『生きてた、良かった〜!』
「無事だったのかスバル!」
「な、なんとか・・・・・・傷は浅いです」

438 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:22:55 ID:YrRABrO.
致命傷を受けていたと思っていたスバルが起き上がり、ウォーズマンもリインも安心した。
スバル自身も斬られ、身体に大きな斜め線が引かれるような広範囲の傷を受けたが、傷は浅く、出血はあっても量はたいしたことなかった。
その理由は、キョンの高周波ブレードが短くなっていたことにある。
倒れたキョンの高周波ブレードを見てみると、ギュオーに折られてナイフ並に短くなっていた。
口部金属球は形を変えて再生したが、こちらは再生が間に合わなかったようである。
さらに本人もそれを感知してなかった結果、リーチが足りず、スバルに致命傷を負わせることはなかった。
もし、高周波ブレードが元の長さだったら彼女は真っ二つに両断されていただろう。
今回は運に助けられた。

戦いはまだ終わらない。
倒れたキョンはむくりと上半身を起こし、口内で折れた歯を吐き出して、何事もなかったように立ち上がる。
顔は腫れ上がっているが、超人の拳をその身に受けても痛みは全く感じてないようだった。
そして遠巻きからヘッドビームを放ってくる。
三人はそれを避けながら、会話をかわす。

「ロボ超人である自分が言うのもなんだが、アイツはロボットにでもなってしまったのか!?」

以前のキョンならダメージを受ければ素直に痛がったりし、攻撃が効いたとわかると調子に乗る面があったが、今はそれが無い。
しかし、ただ感情が無いからといって、本能だけで戦っているわけでもなく、時に知恵を働かせて攻撃してくる。
全体的にギガンティックにパワーこそ劣るが、動きは過剰防衛行動モード並、さらに絡め手を使ってくる分だけ厄介に感じられた。
見た目も戦闘力もまさしく怪物である。
スバルはキョンの怪物化はジュエルシードが原因と思い、早く止めなくてはと思っている。

(このままでは、他の人にもキョン君自身にも危害が及ぶ。
ギュオーさんのような犠牲が出る前に止めなくちゃ・・・・・・)

ウォーズマンは自分が迂闊だったばかりに、キョンにジュエルシードを取られ、怪物にさせてしまった。
さらにN2地雷を回収を忘れてしまい、その結果、ギュオーが命を落とした。
ウォーズマンは心を痛ませる程の強い責任を感じている。

439 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:24:17 ID:YrRABrO.
「奴を怪物にさせたのも、ギュオーが死んだのも俺のせいだ・・・・・・絶対に俺が止めなくてはならん!」

だからこそ、キョンを全力を尽くして止める腹づもりだった。
キョンを止めたい気持ちは、スバル・ウォーズマンともに同じである。
・・・・・・しかし、レイジングハートがそれを許さなかった。

『いいえ、この場は即座に撤退してください』
「なんですって?」

二人は耳を疑った。
自分たちはまだ戦えると意気込んでいたからだ。
だが、デバイスは誰よりも冷静に状況を読んでいた。

『今のMrキョンを相手にするには、体力・打撃力が不足しています』
「ここでキョンを止めないと被害が増えるぞ!」

正義超人として、己の責任として、キョンを見逃したくないウォーズマンは反論する。

『しかし、スバルは消耗が激しく、Msリインフォースではパワー不足。
あなたに至っては動きが鈍くなってます、おそらく内部のパーツをいくつかやられたのでしょう』
「ぐっ・・・・・・気づいていたのか」
「ウォーズマンさん、怪我をしていたんですか!?」
「おそらく、さっきの音波攻撃の時に無茶をしたのが祟ったんだろう」

このデバイスは細かい所にも目を配ってたようだ。
ウォーズマンの表面では見えない負傷(故障?)も見抜いていたらしい。

『よって、Mrキョンを止めるには戦力が不安要素が多過ぎです。
再度、撤退を提案します』
(キョン君は止めたい・・・・・・
でも無茶をして空曹長やウォーズマンさんまで犠牲にしたくない・・・・・・)
(被害を食い止めたい。
しかし自分だけならまだしも、スバルたちにまで危険で犯させるわけにもいかない)

自分たちでは力が及ばない悔しさを感じながらも、仲間は犠牲にできないと二人は思い苦渋の決断をする。

「わかった。
この場は引こう」
「あたしも・・・・・・引くしか無いんですね」

三人はキョンの下から逃走することを決定した。
しかし、キョンの方がやすやすと見逃してくれるとは思えない。
そこでリインが申し出た。

『リインが殿になって、二人の背中を逃げきるまで守ってあげます』
「リインフォース・・・・・・頼めるか?」
『二人がやられる姿は見たくありません。
キョンに一発も当てさせる気はありませんから早く任せてください』

リインは自信ありげに指示を出す。

440 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:24:57 ID:YrRABrO.
「わかりました。
頼みます、空曹長」
『もちろんですよ』
「よし、では任せたぞリインフォース!」

その会話を最後に、スバルとウォーズマンはキョンから逃走を始めた。

西方面はキョンが塞いでいるので、通ることはできない。
無理に通り抜けようとして、ソニックバスターでも喰らえば今度こそおだぶつだ。
だから、東方面へと、キョンに背を向けて逃げるしかなかった。

背中を見せる二人に、キョンは容赦なくビームやカノンを撃ち込もうとするが、リインの魔法攻撃がそれを阻む。
魔法で出した剣や得意の氷結系魔法で迎え撃つ。
倒すには些か攻撃力が足りないが、牽制と時間稼ぎが目的なので問題無い。
要は、一歩でも多くキョンを進ませず、一発でも多くキョンに撃たせず、一発もスバルたちに当てさせなければ良いのだ。
キョンが逃げるスバルたちを追おうとすると、必ずリインに邪魔をされ、キョンは思うように追跡できない。
その間にだんだん、一人と三人の距離は離されていく。

しかし、撤退戦の中、リインは疑念を抱き始めていた。

(攻撃の頻度がだんだん落ちてる気がする?)

ついさっきまでは、乱射というレベルで射撃をしていたキョンだが、だんだん一辺に撃つ回数が少なくなっていた。

よく考えれば先程からおかしな行動も目立つ。
音波攻撃の時だって、こちらは全員が動けないのだから高周波ブレードを使わずともビームなどで撃ち殺せば簡単にケリがついたハズだ。
なのに、それをしなかったのはどうしてか?

(消耗をしているんですか?
いや、油断を誘う作戦かもしれません。
どちらにしろ気は抜けないです)

リインはキョンについては深く考えるのを止めた。

やがて、キョンが見えない距離にまで離れた三人。
キョンからの攻撃も止んでいる所からして、だいぶ距離を稼げたのだろうか?

「逃げ切れたのか?」
『油断しないで!
まだ足を止めるには早いです!』
「わかった、とにかく走るぞ」

リインはまだまだ逃げたりないことを二人に促し、スバルたちは駆け続ける。

「キョン君・・・・・・」

その中で、怪物になった少年の名を呟く少女の顔は、疲労の色が濃くなっていた。

−−−−−−−−−−−

441 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:26:28 ID:YrRABrO.

キョンは願い通りに、修羅の道を歩むことに迷わず、責任から逃げず、目的を忘れない、怪物になって強くなった。
死にかけた自分の命を繋がれ、もう一度殺し合いの場に立つチャンスを与えられたのだ。
ジュエルシードはキョンの望みを、酷く歪んだ形で叶えてくれたのだ。
その代償として、感情の全てを失った。
つまり彼は、大切なSOS団での日常を取り戻すために、感情を失い、SOS団での日常の何が大切なのかがわからなくなってしまったのだ。
彼が即席で支払える「大切なもの」はそれしかなかったので仕方なかったのかもしれない。

今のキョンは、自我の一切が消えているため・・・・・・
良心の呵責も無く、平気で人を殺せる。
慢心が無いため、調子に乗ってドツボにはまることは無い。
恐怖が無いため、恐れずに敵に立ち向かえる。
怒りが無いため、我を忘れない。
悲しみが無いため、朝比奈みくるや自分の妹が死んだことに何の感慨も抱かない。
彼の心はもはや冷徹な殺戮マシーンである。
イメージとしてはスバル・ナカジマが未来に戦う相手、洗脳され心無い破壊兵器と化した姉ギンガ・ナカジマに近い。
いちおう、殺し合いを促進させ優勝を目指す目的と記憶・思考だけは残されたが、前者はそれ自体が願いに関わるから、後者の二つは無くすとキョンが優勝を目指す=目的を果たせなくなるため、残されたのだろう。
目的と計算だけで生きる者を魂があるとはとうてい言えないことであるが。


精神的に多大な代償を払って得た力は確かなものだった。
ジュエルシードによって、ガイバーには無い魔力の付加により、武器の攻撃力は軒並み上昇。
超人のパンチもある程度は避けられる反応速度を手に入れた。
そこへ、戦いに邪魔な感情が無いことにより、より無駄の無い戦いをできるようになった。

だが、代償を払ったにも関わらず、この強さには副作用がある。
力を使う度に体調が悪化し、寿命を擦り減らしていくように感じるのだ。
「・・・・・・ぐふッ」

戦闘が終わり、スバルたちも去ったしばらく後、彼は人知れず吐血をした。
吐血の原因はウォーズマンに殴られたからではなく、自分の内側からくる崩壊によるものである。

442 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:27:09 ID:YrRABrO.
元々、無茶苦茶な融合をしたため、身体のバランスを欠いてしまっているのだろう。
頭髪が全て白髪化したのも、急激な肉体の変化に追いつけなかった証である。

さらに。戦う度にそのバランスが崩れていき、元に戻せないほどバランスが崩れれば死ぬ。
同じく戦闘に特化した調整を行ったために、生命体としてのバランスを欠いて寿命が一週間足らずになってしまったネオ・ゼクトールという前例もある。
キョンの場合はあまりにも計算度外視の融合だったため、ゼクトールよりも生命体としてのバランスが悪く、寿命は短くなっている上に、戦うだけで死に近づく。


ヘッドビーム、プレッシャーカノン、ソニックバスター、メガスマッシャーと立てつづけに使ったので、体調は一気に悪化し、局面においてそれらの武器を使わなかったり、使用の頻度が下がったのはそのためである。
先程の戦いはキョンの圧倒的な優勢に見えて、実はキョンも戦えば戦うほど消耗していた(ただし、顔には出ない)、故にスバルたちを追うこともしなかった。
あと一人、ナーガレベルの強さの参加者がいたら負けていたのは自分だろう。
と、キョン自身も自覚していた。

今から会場の参加者を皆殺しに回ろうとしても、多く長く戦闘も不可能な調子の身体では4・5回も戦えば倒れるだろう。
基本的には遠巻きから狙撃するなり、嘘を流して殺し合いを加速させることに専念し、あくまで直接正面から戦うのは最終手段にするべきだと頭に刻む。

結局の所、高い代償を払って得た力は、一歩間違えれば自滅しかねないイビツて不安定な強さだったのである。

443 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:30:21 ID:YrRABrO.

さて、ギュオーやスバルたちを襲った理由だが、これは無差別ではなくわけがある。

まず、ギュオーは自分のガイバーユニットを狙っていたので殺しておくべきだと判断した。
仲間にしてもいつかは寝首をかかれるからだ。
それだけではなく、先の発言より自分から首輪も奪うつもりだったことがわかった。
つまり、この男は単純に優勝を目指しているわけではなく、首輪を解除して主催者に対抗するつもりなのだ。
主催者たちにはまず勝てないとしても、首輪を外されれば禁止エリアでも自由に行き来ができてしまう。
そうなれば殺し合いが停滞してしまい、ゲームの終了が遅れてしまう。
それを許さないために、ギュオーを抹殺した。

続いて、スバルとウォーズマンたち。
この二人はギュオーと違って自分を殺すことは無いだろうが、代わりに自分が殺し合いをしようとする度に邪魔になるのは明白だった。
邪魔をされては目的の遂行が遅くなる。
警戒心があり隙もないので利用しようにも利用できない。
だから排除しようとした。
しかし、戦闘中に自分が消耗してしまい、取り逃がしてしまった。
自分の危険性を言い触らされるだろうが、どっちにしろ醜い今の姿では見られただけで警戒されるとも思える。
だったら姿を極力曝さないように心掛けた方が良かろう。
また、向こうは強力な爆弾を持っているので、自決ついでに爆発に巻き込まれたら、いくらパワーアップしたとはいえ持たないだろう。
よって追跡は諦めた。


過程はともかく、ようやく一人になることができた。
自由になったキョンは次の行動方針を考える。

まず、火事になっている北の市街地、ハルヒの死体が燃えてしまうのではないかと、前には思っていたが、それは流した。
ハルヒを殺し合いに参加させた以上、ハルヒの身に何があっても良いように考慮されているハズなのだ。
例え、死のうと、死体が焼かれようと、もっと酷いことになっていようと、万能な力を持つ統合思念体ならば生き返す問題無いハズだ。
だから北の市街地へ向かうのは止めておいた。

そして、18時に古泉と採掘場で待ち合わせをする約束を思いだす。
もっとも肝心の18時はとっくに過ぎてしまったが、古泉がいないとしてもあそこは隠れる場所にはちょうど良い。

444 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:30:55 ID:YrRABrO.
高周波ブレードも折れたままであるし、休憩をして体力を回復させて武器の再生を待つこともできる。
古泉がいれば、殺し合いを加速をさせるために再度、連携を取ろうと思う。
掲示板を見て怒っており、言うことを聞かないようなら力で捩伏せて言うことを聞かせよう。
全ては目的のためだ。
−−善悪の概念や罪悪感を失っているため、古泉をおとしめた事に今は何も感じず、仲間を強引に言うことを聞かせようとする非道な行いなど、今の彼は平気で考えられるのだった。

しかし、東方面はスバルたちが逃走した方向。
採掘場で接触してしまう可能性は大いに有り得る。
彼女らは、ナーガから手に入れた首輪を所持している。
殺し合いの停滞を防ぐためには、ギュオー同様に消す必要がある。
されど、自分もかなり消耗しているため、また取り逃がすかもしれないし、最悪の場合は負けてしまう。
もし、見かけたら隙をついて殺すか、遠くから見張るくらいが関の山だろう。
それでも今は他にいく当てもなく、さっき放送をろくに聞けなかったせいで、禁止エリアはともかく現状の死亡者については曖昧にしか覚えていない。
この殺し合いに、再度挑むからには態勢を立て直す必要がある。

また、やり方や思想の違いはともかく、首輪の解除を狙う者が多いとも知った。
殺し合いを加速させるためには、思想に問わず、首輪解除を考える者や技術を持つ者を率先して殺す必要があるとキョンは思い至る。
逆に、純粋に優勝を考える者ならゲーム終盤までは隠れて支援するのも一つの手だろう。
余計な事は考えずに、優勝を狙う参加者だけになれば殺し合いはより円滑に進めるだろう。
そして、最終的に自分が死んでしまっても長門によりハルヒたちと共に生き返れるだろうが、自分がこのゲームを掻き乱す事で、一秒でも早く日常に帰れるなら、一秒でも多く生きのびておこうとも、キョンは思考している。
・・・・・・何にせよ、それらは態勢を整えて、ペースを安定させなければ始まれないようだが。

とりあえずの行動方針は決まり、キョンは一路、採掘場へ向かうことにした。


−−道化だったキョンはもういない。
ここにいるのは、キョンという名の抜け殻である。

445 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:34:09 ID:YrRABrO.
【G‐5 森/一日目・夜】

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】ジェエルシードを通したガイバーユニットとの融合、両腕高周波ブレード破損(再生中)、生命力減退、白髪化、自我喪失
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)
【思考】
0、手段を選ばず優勝のために手段を選ばない。参加者にはなるべく早く死んでもらう。
1、採掘場へ行き、隠れて態勢を立て直す。できれば古泉に会い、再度連携を取る。
2、戦う度に寿命が擦り減るので、直接戦闘は最終手段。基本的には殺し合いの促進を優先。
3、殺し合いの停滞を防ぐため、首輪解除や脱出方法を練る者(例えマーダーでも)を優先して攻撃。
純粋に優勝を狙うマーダーは殺し合いが終盤になるまで、ある程度は支援。

【備考】
※ジュエルシードの力で生を繋ぎ、パワーアップしてますが、力を行使すればするほど生命力が減るようです。
※自我を失いました。
思考と記憶はあっても感情は一切ありません。
※第三回放送の死者について、古泉・朝倉が生きていること、朝比奈みくるとキョンの妹が死んだこと以外は頭に入ってませんでした。
※ゲームが終わったら長門が全部元通りにすると思っています。自我が無いので考え直す可能性は低い?
※ハルヒは死んでも消えておらず、だから殺し合いが続いていると思っています。

446 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:37:12 ID:YrRABrO.
−−−−−−−−−−−

その頃、無事にキョンから逃走を果たしたスバルたちはG‐6を走り続けていた。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
「コー・・・・・・ホー・・・・・・」

スバルは度重なるダメージと疲労で息を切らし、ウォーズマンは内部にダメージを受けたためどこか動きが鈍い。
リインもまた、二人と比べればマシではあるが、傷や疲れが無いわけではない。
消耗が激しいのは一目瞭然だ。

「・・・・・・!」

 ドサッ

『スバル?』
「おい、大丈夫かスバル! スバルーッ!」

そして、今までの消耗が少女の許容限界を越えたのか、とうとうスバルは地に倒れてしまった。
魔力の供給が途絶えたため、レイジングハートは杖から宝石の形状に戻り、維持できなくなったバリアジャケットも消えて、元の制服姿に戻っていた。
スバル自身もまた、まるで死んだようの雰囲気で、起きる気配が無い。
その様子にウォーズマンたちの脳裏に最悪の展開が思い当たる。

『ご安心ください、過労による気絶です。
命に直接関わるような損害は何一つありません』
『・・・・・・ただの気絶ですか、心臓が止まるかと思ったです』

レイジングハートがスバルに死ぬほどの異常は無いことを聞くとリインは安堵する。
しかし、ウォーズマンはあくまで緊張を維持している。
彼は眠るスバルを抱き抱えて持ち上げる。

「いや、スバルがいっそう無防備になったことに変わりない。
キョンだってまだ追ってくるかもしれないんだ。
俺が全力で守ってやらないといけないな・・・・・・」
『リインのことを忘れてるです、ウォーズマンさん』
「ああ、すまない」

スバルを守る者の中に、自分だけしか頭に入れてなかったのをリインに謝ると、スバルを両腕に抱えたまま逃走を再会した。

『しかし、どこへ行くんですか?』
「ああ・・・・・・、このまま逃げ続けるほどの余裕は無いし、危険人物に狙われるようなふきっさらしの場所ではない、ちゃんとした施設でスバルを休ませたい。
俺自身もガタがきてる、どこかで休みたい」

本当は、怪物になってしまったキョンを止めたかった。
しかし、今の消耗した自分では、挑んだとしても死体が増えるだけだとも理解していた。
ならば、生き延びて万全な状態でキョンを止めにいった方が良い。

447 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:38:10 ID:YrRABrO.
今逃げているのははあくまで力を蓄えるための戦略的撤退だ。
まず、力を取り戻すためには、どこかで休む必要がある。
外よりも施設の中の方が、動けないスバルを休ませるためには比較的に安心できるだろう。

だが、疑問もある。
ここしか逃げ場がなかったとはいえ、東方面にはメイを襲ったマスクの男がいる可能性が大きい。
そこへ向かったハズのギュオーが死んでしまい、いるのかいないか、捕まえたのかどうなのかもわからなくなってしまった。
ウォーズマンにとって、どうなっているかわからない東方面は、進むだけで危険があるかもしれない未知の領域なのだ。

施設ごとのデメリットとしては−−
採掘場はこのG‐6から最も近いが、その分だけキョンがすぐに追いついてくるかもしれない。
博物館は採掘場よりは遠く、キョンと出くわす可能性も減るが、マスクの男のような危険人物と鉢合わせになるかもしれない。
レストランは一度行ったことがあるし、マスクの男と出くわす可能性も減るが、今度は北の市街地から遠くなってしまう。
モールや山小屋を目指すにしても、距離からして自分の体力が持つだろうか?

(参った・・・・・・、俺はどうすれば良い?
どの選択も間違っている気がしてきた)

八方塞がりという感覚に苦悩するウォーズマン。そんな折に彼の頭に過ぎったことは、ジュエルシードで怪物と化したキョンと、それにより犠牲になったギュオーのこと。
ギュオーには大きな疑いがあったものの、自分が焦ってN2地雷の回収を忘れてなければ、死ぬことはなかったハズだ。
キョンを見張りつつも守るつもりが、一度逃してしまい、自分の隙でジュエルシードを奪われ怪物と化させてしまった。
どちらも自身の過失であり、非常に強い責任を感じていた。

(俺がしっかりしていれば、キョンもギュオーも・・・・・・!)

メイを始めとする今まで守りきれなかった者たちの顔が思い浮かぶ。
新たにギュオーがその中に加わった。
自分がしくじる事で、今度はスバルまでその中に入れたくはなかった。

(ギュオーのような犠牲者を出さないためにも、もう二度としくじりたくはない!
例えこの身がボロボロであろうとも、これ以降は絶対に守ってみせる!)

448 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:39:18 ID:YrRABrO.
彼はクヨクヨ悩むよりも、二度と間違えないようにする道を選んだ。
それが多少の無茶をすることであっても、それは正義超人らしい選択でもある。

(・・・・・・キン肉マンだって、ヨボヨボの身体でありながらも、ここまで生き抜いているということは、この会場のどこかで人を守るために戦っているんだ。
俺も同じ正義超人である以上、くじけるわけにはいかない!
ウジウジと悩むわけにもいかない!)

強く、優しく、正義感の強い超人キン肉マンの事を思い、ウォーズマンは自分を奮い起たせる。

選択は慎重にするべきだが、選択することに臆病になってはいけない。
その思いで彼は良く考えた上で自信を持ち、リインに向けて自分の決断を述べる。

「よし、決めたぞ。
俺たちの向かう先は−−」

449 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:41:58 ID:YrRABrO.
【G‐6 森/一日目・夜】

【ウォーズマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、草壁姉妹やホリィ(名前は知らない)ギュオーへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン、、クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ、タムタムの木の実@キン肉マン
、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
デイバッグ(支給品一式入り)
リインフォースⅡ(ダメージ・小/魔力消費・中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS

【思考】
1、とにかく今はキョンから離れる。どこかの施設でスバルや自分を休ませたい。
2、タママの仲間と合流したい。
3、もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
4、スエゾーとハムを見つけ次第保護。
5、正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒せる。
6、超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
7、暴走したキョンは戦力が万全になり次第、叩きのめす。
8、ギュオー・・・・・・俺の不注意のせいで・・・・・・すまない!
9、機会があれば、レストラン西側の海を調査したい。
10、加持が主催者の手下だったことは他言しない。
11、紫の髪の男だけは許さない。
12、パソコンを見つけたら調べてみよう。
13、最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。

【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました。
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました。
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています。
※加持リョウジが主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくらクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。

450 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:43:00 ID:YrRABrO.


【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(極大)、魔力消費(極大)、胸元に浅い切り傷、過労による気絶
【持ち物】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
ナーガの円盤石、ナーガの首輪、SDカード@現実、カードリーダー
大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹
【思考】
0、(気絶)
1、機動六課を再編する。
2、何があっても、理想を貫く。
3、人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4、戦力が万全になったらジュエルシードで暴走したキョンを止めに行く。
5、ギュオーさんが死んでしまうなんて・・・・・・
6、人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう(ケロン人優先)。
7、オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(雨蜘蛛)を止めたい。
8、中トトロを長門有希から取り戻す。
9、ノーヴェのことも気がかり。
10、パソコンを見つけたらSDカードの中身とネットを調べてみる。

【備考】
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)



【N2地雷@新世紀エヴァンゲリオン】
超強力な爆弾。
見た目は零号機(綾波レイ搭乗)が使用した物と似てる。
劇中に登場したサイズでは参加者が扱えないので、人間が片手で携帯できるサイズで支給されている。
小型化に伴い、その分だけ威力も大幅に下がったが、それでも一エリアのほとんどが跡形も無く消し飛ぶ絶大な威力を秘めている。
さらに詳しい威力については次の書き手さんにお任せいたします。

451 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:45:17 ID:YrRABrO.





諸君らの愛するギュオーは死んだ!
なぜか!?







・・・・・・実は彼はまだ生きている。

その理由をとくと解説しよう。

−−−−−−−−−−−

回避が間に合わずにメガスマッシャーの閃光に包まれた瞬間、ギュオーはある方法により死を免れていた。
最大出力のバリアでも、例え制限下で無くともメガスマッシャーは防ぐ事はできない。
増してや両肺で、魔力により強化されたメガスマッシャーの前ではいくらゾアロードでも一たまりも無い、と思われる。

そこでギュオーのとった判断は、防御では無く攻撃である。
攻撃対象は迫る閃光・・・・・・ではなく、己自身!
重力使いであるギュオーは、自分に重力攻撃を当てて反動で吹っ飛ばし、メガスマッシャーの直撃を避けてしまおうというのを閃いたのだ。
ちなみに中途半端な力をメガスマッシャーにぶつけても弾かれてしまい、結局自分が蒸発してしまうハメになるので、これが一番ベストな選択のようだ。
その時のギュオー自身には、それ以上迷ったり考えたりする時間も無く、すぐに実行に移した。
即座に出力のある限り、パワーを集中し、自分に向けて放つ。

「・・・・・・ぬわああああああああ!!」

自分に殺傷能力のある技などかけた事が(おそらく)無いギュオーは、己の技に悲鳴をあげる。
だが、生き延びるためには必要なダメージだ。
あとは自分のタフネスさを信じるしかない。

そして、目論み通りにメガスマッシャーの直撃を受ける前に反動でギュオーは飛ばされることができた。
他の者の目には、閃光が眩し過ぎてギュオーが飲み込まれたように見えた。
レイジングハートですら、エネルギーの奔流が激し過ぎてギュオーが死んだと誤認してしまった。撃った本人であるキョン自身も死んだ錯覚したようだ。
実際は、少しばかり大きく吹っ飛び、人知れず戦いの輪から外れていただけである。

高出力で放ったため、けっこう遠くまで飛び、最後は川に水しぶきをあげて着水する。
ぷかんと巨体を仰向けで浮かせて、ゆっくりと流されていく。
川から上がりたいが、自分に放った攻撃のダメージですぐには動くことができず、少しの間は川から上がることができそうになかった。
ついでに私は今までこんな痛みを敵にぶつけてたんだな〜と感想を漏らす。

452 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:46:19 ID:YrRABrO.

「しかし、キョンの奴め。
私にナメた真似をしやがって・・・・・・必ず八つ裂きにしてくれる」

キョンへプライドを傷つけられた恨みをギュオーは呟く。
キョンは確かにパワーアップしたが、あれぐらいなら全力を出せば倒す事はできそうだ。
実際に、ダメージを受けたのは脱出のために自分を攻撃した時だけであり、キョンの攻撃そのものは防ぐか避けている。
しかし、周りを消し飛ばせるかもしれない強力な爆弾を持っていたらしく、未知の爆弾を爆発させるわけにもいかず、こちらの実力を出し切れないまま、撃たれてしまった。
まだ負けを認めたわけではないが、あのような者に一杯くわされたことに非常に腹を立てている。
将来の帝王になる男をてこづらせたキョンへの殺意は十分だった。

「首を洗って待っていろよ。
いつか、殺してユニットを奪って・・・・・・ん?」

流されながら、物騒な言葉を呟くギュオーの耳に、ある音が聞こえてきた。
ザーーーーッと、何かを叩きつけるような音がどんどん自分に近づいてくる・・
いったいなにごとだ?
と、ギュオーは地図の内容を思い返してみる。
位置関係的にはG‐4の高所の川を、ギュオーは流れている。
つまり、流れた先にあるのは−−滝。

「!!」

この先が滝であることを思い出したギュオーは焦る。
制限された肉体では、多少なりともダメージは受けてしまうかもしれない。
それを避けるためにギュオーは岸に揚がろうとするが、身体のダメージがいまだに抜けきってないのか、思うように動けない。
そうしてる間にも、滝に近づく度に流れは早くなっていき、ギュオーの焦りも加速していく。
そして−−

「このままでは滝に落ち・・・・・・ってア〜〜〜ッ!!」

何もできぬまま、ギュオーは滝によって頭から真っ逆さまに落ちることになった。
水面に落ちる時には、やたらと盛大な水しぶきを立てた。
さらに、その大きな巨体と重量のためか、落下勢いが余って川の底に額及びゾアロードクリスタルをぶつけてしまう。
しばらくしてから、プカ〜ンとギュオーは浮力によって水面から顔を出した。

「・・・・・・」

頭を強く打ったためか、どうやら彼は気絶してしまったらしい。
頭の上にヒヨコが回っていてもおかしくないくらい眼を回している。

453 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:47:35 ID:YrRABrO.
彼の災難はそれだけに留まらず、額のクリスタルにもヒビが入っていた。
そのクリスタルが獣神将にとって大事かは、わかるだろうか?
きっと普段ならば、あの程度の落下の衝撃で割れることはまず無いハズだ。
だが悲しきかな、制限によるものでクリスタルの硬度までも落ちてしまったのだろう。

クリスタルにヒビが割れた影響によるものかは不明だが、ギュオーは魔人の如き姿から全裸の大柄でガチムチボディな黒人男性の姿に戻っていた。

後はただ流れに従い、流れに委ねるしか、気を失っているギュオーにはできないのである。



そして人知れず、ドンブラコ、ドンブラコと全裸の男はゆっくりと川を流れていったのである・・・・・・

454 パターン・青 発動編 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:49:23 ID:YrRABrO.
【G‐4 川/一日目・夜】

【リヒャルト・ギュオー@強殖装甲ガイバー】
【状態】気絶、全身打撲、全裸、大ダメージ、疲労(中)、ゾアロードクリスタルにヒビ、回復中
川に流されています
【持ち物】参加者詳細名簿&基本セット×2(片方水損失)、アスカのプラグスーツ@新世紀エヴァンゲリオン、ガイバーの指3本、毒入りカプセル×4@現実
空のビール缶(大量・全て水入り)@新世紀エヴァンゲリヲン、ネルフの制服@新世紀エヴァンゲリオン、北高の男子制服@涼宮ハルヒの憂鬱、クロノス戦闘員の制服@強殖装甲ガイバー
博物館のパンフ
【思考】
0、(気絶中)
1、優勝し、別の世界に行く。そのさい、主催者も殺す。
2、、自分で戦闘する際は油断なしで全力で全て殺す。
3、首輪を解除できる参加者を探す。
4、ある程度大人数のチームに紛れ込み、食事時に毒を使って皆殺しにする。
5、タママを気に入っているが、時が来れば殺す。
6、キョンはいつか殺してユニットを奪う。

【備考】
※詳細名簿の「リヒャルト・ギュオー」「深町晶」「アプトム」「ネオ・ゼクトール」「ノーヴェ」「リナ・インバース」「ドロロ兵長」に関する記述部分を破棄されました。
※首輪の内側に彫られた『Mei』『Ryouji』の文字には気付いていません。
※擬似ブラックホールは、力の制限下では制御する自信がないので撃つつもりはないようです。
※ガイバーユニットが多数支給されている可能性に思い至りました。
※名簿の裏側に博物館で調べた事がメモされています。
※詳細名簿の「加持リョウジ」に関するページは破り取られていてありません。
※詳細名簿の内容をかなり詳しく把握しています
※ゾアロードクリスタルにヒビが入りました。変身などに影響が出るかもしれません。治るかどうかは次の書き手さんにお任せいたします。





※キョンもスバルもウォーズマンも、ギュオーが死亡したと思っています。

455 ◆igHRJuEN0s :2009/07/07(火) 23:51:31 ID:YrRABrO.
以上で投下を終了いたします。

456 もふもふーな名無しさん :2009/07/08(水) 00:38:17 ID:.ONDy3CI
少し指摘をば。
ギュオーがキョンの顔を確認するのは無理かと。ガイバーの上からでは誰かまでは解らないでしょうし。

それと提案なんですが、キョンの処遇についてはこうしてはどうでしょう。
・死に際、スバルの呼び掛けでキョンが覚悟を決める。
・復活したキョンが自身の強化を知り、万が一にも決意が揺らがないようにスバル達を殺そうとする。
・取り逃がすも、キョンは覚悟完了。
とりあえず、実質洗脳とも言える展開では、強い反発は免れないと思います。
キョンには自分の意思で戦って欲しいという人がほとんどの様ですし。

457 もふもふーな名無しさん :2009/07/08(水) 00:40:19 ID:.ONDy3CI
書く所間違えた……

458 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:01:32 ID:/WCPsINo
高町なのは、冬月コウゾウ、ケロロ 仮投下させていただきます。

前編・中編・後編と、無駄に3話構成だったりします……

459 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:02:38 ID:/WCPsINo


「こ……子供になっちゃった……?」
「ケロ〜! 高町殿〜!!」

 ここはG−2エリアにある温泉の施設の中。
 ちょっとしたトラブルから、夢成長促進銃によってなのはは子供の姿になってしまった。
 そんな彼女を前にして呆然とするケロロ。
 そしてさすがの冬月もこの異常事態に驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。
 放送はもう始まっているのだ。

「高町君、ケロロ君。とにかく放送を聞くんだ。
 私は要点をメモしておくが、君たちもよく聞いておいて後で確認してくれ」

 冬月は2人にそう言って手に持っていた3枚のDVDを手近な机の上に置き、デイパックを開いた。
 そして支給されている基本セットの中にある紙と鉛筆を取り出し、メモを取る準備をする。

「あ、はいっ。わかりました」
「わ、わかったであります、冬月殿!
 マッハキャリバー殿もよろしくであります」
『了解です。放送の内容を記録します』

 なのはとケロロが、そしてマッハキャリバーが冬月にそう答えて放送に耳を傾ける。
 なのはは9歳の頃の姿になって夢成長促進銃を持ったまま。
 ケロロは濡れた床で滑って転んだあと、立ち上がろうと起き上がった所だ。

 ちなみになのはは子供になったせいで浴衣がだぶだぶになっていて、とっさに胸元を押さえている。
 ここには老人と宇宙人ガエルしかいないので、誰も気にしていないのだが、乙女のたしなみと言った所だろうか。

 放送では草壁タツオがなにやら前置きを語っていたが、3人はあまりそれを聞く事はできなかった。
 だが、重要な事は言っていなかったようなので、3人は禁止エリアの発表に意識を集中する。

「19時、F−5。
 21時、D−3。
 23時、E−6か……」

 そうつぶやきながら冬月はメモを取っていく。
 今回はかなり島の中央が指定されたようで少し気になったが、今はそれを確認する暇はない。
 放送はまだ続いており、次は死亡者が発表されるはずだったからだ。

460 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:03:09 ID:/WCPsINo

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

 そんな草壁タツオの前置きには耳を貸さず、冬月は死亡者の名前だけを聞き逃さないように集中する。
 なのはとケロロも思う所はあるのだろうが、今は黙って耳を傾けていた。

 だが、なのはの幼い顔には悲痛な表情がはっきりと浮かんでいる。
 何しろ、あの火事の中からヴィヴィオという少女とその仲間が生きて逃げ出せたかがこれでわかるはずなのだ。
 無理もない事だと思いつつ、冬月もまた、加持やアスカ、シンジ、タママ、小砂らの無事を祈る。

 そして、死亡者の名前が次々に発表されていく。

『朝比奈みくる』

「ん? この名前は……」

 そうつぶやいた冬月になのはとケロロがどうしたのかと視線を送る。
 冬月は掲示板に目を通していたため、この名前を知っていたのだが、今は放送の最中である。
 説明は後でいいだろうと判断し、黙って首を振っておく。

『加持リョウジ』

「加持君が……?」
「ケ、ケロ〜〜! 加持殿っ……!!」
「加持さんっ……!!」

 加持の名前があげられ、3人が全員思わず声を上げる。

『草壁サツキ』

「…………」

 知っていたとは言え、サツキの名前を聞くと3人の間に重苦しい空気が流れた。

『小泉太湖』

「この名前、小砂君か!?」
「そんな。小砂ちゃんまで……」

 冬月となのはがつぶやく。
 貴重な協力者だった。守るべき人の1人だった。
 あの小さくともたくましい少女にはもう会う事はできないのか。

461 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:03:42 ID:/WCPsINo

『佐倉ゲンキ』

 3人は反応しない。
 誰も知らない人物だったようだ。

『碇シンジ』

「シンジ君もか……!」

 冬月が再び小さく声を上げる。
 とうとうシンジと冬月はこの島で会えないまま、永遠の別れを迎えてしまった。

(碇……すまない。お前とユイ君の息子を守ってやれなかった……)

 冬月は心の中でそうつぶやき、無念そうに顔を伏せる。

『ラドック=ランザード』

『ナーガ』

 この2名は続けて誰の知り合いでもなかったようだ。

『惣流・アスカ・ラングレー』

「そうか……アスカ君も……」
「アスカ殿が……」
「アスカ……」

 3人ともアスカには複雑な思いがあるが、死を望んではいなかった。
 むしろ冬月やなのはにとってはいまだにアスカは保護すべき対象ですらあったのだ。
 だが、そのアスカもどこかで命を落とした。また救えなかったのだ。

『キョンの妹』

 その名前には誰も反応しない。
 そして、その名を最後に今回の死亡者発表は終わったようだった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

「なんという言いぐさでありますか……!」
「ケロロ君。気持ちはわかるが放送が続いているから今はこらえてくれ……」
「ケ、ケロ〜……」

462 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:04:29 ID:/WCPsINo

 その後の草壁タツオの話は、主催者に反抗して命を落とした参加者が居たというものだった。

『念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
 あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
 勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう?
 愚かな犠牲者が二度と出ない事を切に願うよ。』

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

 こうして第3回、18時の放送は終了した。







「加持さん、サツキちゃん、小砂ちゃん、アスカ……」

 風呂場の脱衣所で、なのはが死んでしまった知り合いの名前をつぶやく。

 放送の後すぐに禁止エリアや死亡者の確認をしてから、彼女は改めて小さい浴衣に着替えに来たのだ。
 さっきまで着ていた浴衣は大きすぎて体に合わず、万が一の場合にも邪魔になるからだ。

 だが、着替えに来た理由はもう一つある。
 少しだけ落ち着いて考える時間が欲しかったのだ。
 あまりにも多くの死亡者。守れなかった人たち。
 それらを受け入れ、気持ちと考えを整理する時間がなのはには必要だった。

「ヴィヴィオや朝倉さんやスバルが生きていた事は嬉しいけど、喜ぶわけにはいかないよね。
 あんなにたくさんの人が亡くなっているんだから。
 それに、あの小砂ちゃんまでが……」

 だぶだぶの浴衣を脱いで小さいサイズの浴衣に袖を通しながら、なのはは悲痛な面持ちでつぶやく。
 自分の腕の短さに少し違和感を感じたが、今はそれよりも死んでしまった人たちの事に意識が向かっていた。

463 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:05:10 ID:/WCPsINo

 例えば、なのはを師匠と呼んで慕ってくれた小砂。 
 サツキが冬月を刺した場所で別れてから行方が知れなかったが、あの後一体何があったのか。
 一体どんな死に方をしたのだろう。
 やはり誰かに殺されたのか。
 自分の居ない所で起こった事はわからない。
 側にいない人は守れない。何もできない。後から結果を知って後悔するだけ。

 これからもこんな事を繰り返すのか。
 知らない所で死んでいく人の名前を放送で告げられて後悔して。
 目の届く場所にいる人を守ろうと必死になって、守れなくて後悔して。
 でも事態は何も変わっていなくて。
 それどころか悪くなっていく一方で。

「このままじゃ……いけないんだ。
 ちっとも前に進んでない。
 時間が流れて死ぬ人は確実に増えていくのに、事件の解決には少しも近づいてない。
 ただみんなを守るだけじゃ足りないんだ。
 ここからみんなで生きて元の世界に帰るには、あの主催者たちを何とかしなきゃ。
 でも、一体どうすればいいのかな、マッハキャリバー……」

 浴衣の前をあわせながら、なのはは胸元にぶら下がっている青いクリスタルのペンダントに話しかける。
 なのはが風呂から上がったので、マッハキャリバーは再びなのはが持つ事になったのだ。

『主催者を打倒するには我々の状況はあまりにも不利と言えます。
 しかし、それでもなお戦う事を選ぶのであれば、
 まず首輪を外すか無力化する方法を考える事が先決ではないでしょうか』
「そう……だね。
 この首輪がある限り、私たちは逆らえない。
 戦うどころか逃げる事さえできないし、逆らったらあの男の子みたいに液体に……」

 首輪に触りながらなのはは小さくため息をつく。

『まだ道が断たれたと決まったわけではありません。
 及ばずながら私も微力を尽くします。
 元気を出して下さい。Ms.高町』
「マッハキャリバー……ありがとう。
 うん。私、諦めたりしない。絶対ヴィヴィオを、みんなを守って、ここから助け出してみせるよ」

 そう言いながらなのはは浴衣の腰ひもを結び、その上に温泉に置いてあった紺色の羽織を着る。
 しばらくはこの格好で居る事になりそうなので、浴衣一枚ではさすがに体を冷やすからだ。

464 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:06:18 ID:/WCPsINo

 そして、着替えを終えたなのはは改めて鏡を見る。
 そこに写っているのは温泉備え付けの浴衣を着た小さな女の子。
 エースオブエースと呼ばれた自分ではない。
 なのはな思わずくすりと小さく笑ってしまった。

「こんな時に、こんな事で笑ってたら不謹慎かな。
 でも、なんだか変な感じ。私ってこんなに小さかったんだね」

 そうつぶやいてなのはは鏡の前でくるっと回ってみたりポーズを取ってみたりする。

 しかし、動いてみて実感したのだが、腰のあたりに微妙に違和感がある。
 体が小さくなったせいで相対的にショーツがかなり大きくなっており、ぶかぶかなのだ。

 ――ちなみに、胸がぺったんこになっているので、すでにブラジャーは外している。

「……ずり落ちて来そうでいやだな。
 いっそ履かない方がいいのかな?
 万が一戦闘中にずり落ちてきてそれが元で死んじゃったりしたら冗談にもならないし」
『バリアジャケットをズボン型に変更すれば対応できるとは思いますが……』
「そうだけど、ずっとバリアジャケットを装着してもいられないし……」
『休息を取ろうという時には特にそうですね。
 Ms.高町が気になさらないのであれば、私としてもこの状況で大きすぎる下着は履かない事を推奨しますが』
「う〜〜ん……」

 乙女の羞恥心と現実の板挟みになってなのはは少し迷ったが、しばらくうなった末に決断する。

「決めた! 脱いじゃう!
 浴衣の時は下着つけないって聞いた事あるし、こんな状況で気にする人いないよね、きっと!」

 そう言ってなのはは一旦羽織を脱ぐと、腰ひもをほどいて浴衣をはだけてショーツを脱ぎ捨てる。
 下着を履かなくても別に害は無いのだが、心理的に違和感は拭えない。
 しかし、万が一にもパンツがずり落ちたせいで死ぬのは嫌だし、せいぜい大人に戻るまでの辛抱だ。
 なのははそう考えて、顔を少々赤くしつつ、また浴衣の前を合わせて腰ひもを締め直す。
 そして、最後にまた羽織を着て着替えは完成だ。

「うん。大丈夫。たぶん一見しただけじゃわからない……よね?」
『そうですね。それに、子供の体型であればさほど気にする必要はないかと思われます』
「うん。ただ、元に戻る時は気をつけないとね……」

465 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:07:01 ID:/WCPsINo

 なのははそうつぶやきながら改めて自分の姿を鏡で確認する。
 戦闘などで動き回ればひどく危険な状態になりそうだが、戦闘になればバリアジャケットに着替えるはずだ。
 今のなのはのバリアジャケットはミニスカートで危険だが、バリアジャケットの変更は可能である。
 少女時代に使っていたバリアジャケットならスカートは長いので、おそらくなんとかなるだろう。



 そして、ひとしきり自分の姿をチェックして一息つくと、なのははまっすぐに立って鏡に写る自分の姿を見つめる。

 そうやって幼い頃の自分の姿を見ていると、その頃に出会った幼いフェイトの姿が自分の横に見えるような気がした。
 あれだけ泣いたのに、死んでしまった親友の事を思うとまた目頭が熱くなって涙が出そうになる。
 だが、なのははそんな感情を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ぐっと両拳を握って気合いを入れた。

「よしっ! 戻ろう!
 まだまだ、私は元気なんだもん。くよくよしてる場合じゃないよ。
 行こう、マッハキャリバー!」
『はい。Ms.高町』

 そう言ってなのはは脱いだ下着の上下と大人用の浴衣を抱えて脱衣所を出た。
 なんとなく口調が子供っぽくなっているのは鏡で今の自分の姿を確認したせいかもしれない。
 しかし、そのおかげでこれまでの自分と今の自分を切り替える事ができたとも言える。
 温泉でいくらか回復できた事もいい方向に作用したのかもしれない。
 いずれにせよ、子供になってしまった事は、なのはにとって悪い事ばかりでもなかったようだ。

(フェイトちゃんも、きっと私に頑晴れって言ってくれる)

(ヴィヴィオを。スバルを。この島に連れてこられた人たちみんなを助けて欲しいって願ってる)

(だから行くよ私。負けない。絶対諦めない。最後までくじけない)

(フェイトちゃん。だから、ヴィヴィオを、みんなを、……そして、私を見守っていて下さい――)

 そんな思いを胸に、冬月とケロロの元に向かうなのはの背を、窓から入った夜風が優しく押す。
 その風から自分を励ますフェイトの想いを感じたような気がして、小さな少女は少し表情を和らげた。

466 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:07:32 ID:/WCPsINo





「加持殿……さぞや無念だったでありましょう。一体誰が加持殿を……
 しかし、我輩きっと犯人を見つけて償わせるであります。
 冬樹殿やメイ殿を殺したヤツらと同じように……
 だから、草葉の陰から見ていて欲しいであります……」

 なのはが着替えに行った後、温泉施設のロビーでケロロがつぶやいた。
 だが、その表情は怒りに震えているといった様子ではない。
 何か不安を感じているような。どこか犯人に怒りをぶつけるのをためらうような雰囲気があった。

 そんなケロロを少し心配そうに冬月が見ている。

(ケロロ君も気付いているのか? タママ君が加持君を殺したという可能性に……)

 ケロロもタママと加持の間がうまく行っていない事は知っていた。
 だからこそ彼らを二人っきりにして話し合わせ、仲良くなってくれる事を期待していたのだ。
 だが、2人は転移装置によってどこかへ消えてしまった。
 そして加持の死。

 冬月のようにマッハキャリバーから2人が消える直前まで争っていた事を知らなくとも、想像はするかもしれない。
 そして、その事を知っている冬月にとっては、タママへの疑いはケロロよりも強い。

(しかし、タママ君はタママ君なりにケロロ君やサツキ君を守ろうとしていたのだ)

(仮に、犯人がタママ君だったとしても、タママ君への対応は難しくなるな……)

 タママが思い違いからそんな行動を取ったのなら説得して罪を理解させる事が正しい道だろう。
 だが、冬月にも加持が何かを企んでいた可能性は否定できないのだ。
 彼は基本的には頼れる男だったが、有能であるがゆえに信用ならないという面も確かにあった。
 加持がサツキの支給品を盗んだというタママの言葉も嘘や見間違いとは限らない。
 だとすれば、充分疑う余地はある。

(だが、たとえそうだったとしても、加持君を殺して決着をつけるという方法を選ぶべきではない)

(少なくとも私にとってはそれが正しい。だが、味方に害が及ぶ前に何とかしようという考えもひとつの正解だろう)

 だから冬月はもしタママが犯人でもタママを罰する事には気が進まなかった。
 たとえ考えが違っても、タママは大事な仲間なのだ。
 やり方に問題があるとしても、望みは同じだったはずだ。
 今冬月達に必要なのは固く結びついた絆である。
 冷たいようだが、たとえ加持の死が原因であっても、できる事なら仲間同士で争う事は避けたいのだ。

467 脱ぎ捨てしもの(前編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:08:14 ID:/WCPsINo

(絆か。タママ君が加持君を殺したとして、それを隠して絆を結ぶなどとは。ただの欺瞞なのではないか……)

(いかんいかん。いつの間にかタママ君が加持君を殺したと決めつけている。私とした事が、軽率だな)

 何もタママが加持を殺したと決まったわけではないのだ。
 ならば今はタママが殺したのではないと信じてやるべきだろう。
 もしも再開できてその時に何か明確に疑わしい事があったならその時に考えればいい。
 今からタママを擁護する事を考えるなど、タママに対しても失礼だ。



「冬月殿。何か考え事でありますか?」

 冬月がタママについての考えに区切りをつけようとしていると、ケロロが声をかけてきた。
 どうやら難しい顔をして考えていたので心配されてしまったようだ。

(いかんな。顔に出てしまっていたようだ。なるべくケロロ君には余計な心配をさせないほうがいい)

 冬月はそう考えて、とっさに平静を装ってケロロに答えた。

「……いや、たいしたことではないんだ。
 これから考えねばならない情報の事を頭の中で整理していただけだよ」
「そうでありますか。
 確かにこれからどうするべきか。考える事は多いでありますなあ」

 どうやらケロロにはそんな冬月の考えは気取られなかったようだ。
 冬月は長年の人生経験から身につけた厚い面の皮を今はありがたく感じつつ、言葉を続ける。

「ああ。だが、何とかせねばならない。
 このままあの草壁という男を喜ばせてなどやれるものか」
「もちろんであります!
 力を合わせて、必ずあの男ともう1人の主催の娘っこをギャフンという目にあわせるでありますよ、冬月殿!」

 ケロロのそんな言葉に冬月は心からの肯定の意を込めて頷いた。

(そうだ。このまま皆の命を、そして私の命をあいつらの好きになどさせてはならんのだ……)

(そのためにできる事は。やらねばならない事はなんだ。考えろ、冬月コウゾウ)

 打倒主催者を叫び気合いを入れるケロロとはまた別のベクトルで冬月も気を引き締めていた。

 戦う力を持たず、特殊な能力もない自分にできる事は考える事だけだ。
 ならばそこに全力を尽くさねばならない。
 冬月はそんな思いを胸に、静かに闘志を燃やすのだった。

468 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:10:24 ID:/WCPsINo


 着替えを終えたなのはが温泉施設のロビーに戻った後、冬月は2人に発見したノートパソコンの説明を始めた。
 ケロロが発見したDVDの事も気にはなったが、内容を見るには時間がかかりそうだった。
 だから一旦その3枚のDVDはデイパックにしまっておき、パソコンの方を優先する事になったのだ。

 ロビーのソファーに座り、パソコンを立ち上げた冬月がまず最初に2人に見せたのは掲示板だった。

「掲示板? こんなものがあったなんて……」
「すでにいくつか書き込みがあるようでありますな」
「うむ。それで、まずこの最初の書き込みを見て欲しい。
 この朝比奈みくるという人物は先ほど死亡者として名前があがっていただろう」

 冬月にそう言われて2人は掲示板の最初の書き込みを読んでみる。
 そこには『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』と書かれていた。
 ちなみにこの書き込みはシンジによるものだが、冬月たちがそれを知る術は無い。

「この掲示板を見ていたから冬月さんは彼女の名前を知っていたんですね?」
「そういう事だ。ただ、この書き込みが真実かどうかは何とも言えない所だ。
 そもそも主催者の仲間だから殺してくれというのが短絡的すぎる。
 私としては、いささか感情的すぎるという印象を受けるな」
「そうでありますなあ。
 しかし、その朝比奈という方も亡くなってしまったわけであります。
 もしやこの書き込みを読んだ参加者に殺されたのでありましょうか?」
「それもわからないな。
 わからないが、そういう可能性もある。
 掲示板に書き込む時はそういう事も考えておかないと無用の衝突を生みかねないという事だな」
「そう言えば、朝比奈みくるっていう名前はさっきのDVDにもありましたね。
 長門ユキ、朝比奈ミクル、古泉イツキの3人……なぜこの3人なんでしょうか?」
「この3人に何らかの繋がりがあると見る事もできるな。
 そうするとこの書き込みもあながち嘘ではないという事になるが……
 しかし、はっきりした事はあのDVDを見てみない事にはなんとも言えないだろう。
 このパソコンでも見られるかもしれないが……まあ、それは後にしようか」

 冬月の言葉に2人は頷き、さらに掲示板の書き込みを読み進めていった。

469 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:11:06 ID:/WCPsINo

「おっ? この書き込みは……ドロロのやつでありましょうか?」
「む? 知っているのかねケロロ君?」

 次の書き込みを見たケロロは、『東谷小雪の居候』という名前にすぐに気付いた。
 東谷小雪というのはドロロが一緒に生活している地球人の少女の名前である。

「この名前からして、ほぼ間違いないでありますよ。
 ドロロは我輩の仲間の中でも特に真面目な男でありますから、
 この書き込みは信用していいと思うであります」
「ふむ。となると、このギュオー、ゼロス、ナーガという3人は危険人物に間違いないというわけか。
 しかし、ナーガはすでに死亡したと先ほどの放送で言っていた。
 となると、我々が知る危険人物は、深町晶・ズーマ・ギュオー・ゼロスの4人。
 それにあの空を飛びミサイルを撃ってきたカブト虫の怪人を加えて5人という事になるか」

 冬月はそう言って、自分をミサイルで攻撃してきた異形の怪人の姿を思い出す。

(あの時はうまく逃げる事ができたが、できれば二度と会いたくはないな……)

「我輩も少しだけその怪人の姿を見たであります。
 体から高熱を放射して森に火を放ったのもそいつでありますよ」
「市街地で激しい攻撃を加えてきた上空の敵も、そのカブト虫の怪人ですよね?」
「状況からすればそうだと考えて間違いないだろうな。
 残念ながら名前はわからないが。
 そう言えば彼は何人かの参加者の事を私に尋ねてきたな。
 確か……アプトム、高町君、キン肉スグル、ウォーズマンの4人だったと記憶しているが」

 そこで自分の名前が出された事になのはは少し驚く。

「どうして私を……?
 他の3人の名前は名簿でしか知りませんし……」
「ああ。彼の目的を聞き出す事はできなかったが、どうやら殺し合いそのものとは違う目的があったように思う。
 アプトムという人物を特に探したがっていて、あとの3人はついでという印象だったが、それも憶測にすぎん。
 結局そこから何かを読み取るのは難しいと言わざるを得ないな」

 仕方がないのでとりあえずアプトム、キン肉スグル、ウォーズマンの3人の名前だけ覚えておこうという事になる。
 そして、3人はさらに掲示板を読み進めていった。

470 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:11:38 ID:/WCPsINo
「中・高等学校内に危険人物……これもドロロが言うのでありますから、気をつけた方がいいでありますな。
 と言っても、この書き込みはお昼前のものでありますから、今どうなっているかはわからないでありますが」
「あんな大火事があったからね。
 ところで、ドロロっていう人は生け花が趣味なの?」

 なのはがケロロに尋ねる。
 掲示板の名前の欄に『生け花が趣味の両きき』と書いてあったからだ。

「やつはペコポンですっかり日本の文化に染まってしまったのであります。
 元々暗殺兵だったでありますが、ペコポンに来て忍者にクラスチェンジしてしまったでありますからなあ」
「に……忍者? 忍者ってあの手裏剣を投げたりどこかに忍び込んだりする忍者?」
「そうであります。
 この東谷小雪というのが忍者の少女で、小雪殿に会った事が忍者になったきっかけのようであります。
 あ、誤解の無いように言っておくでありますが、
 暗殺兵だったと言ってもドロロはまったく危険な人物ではないでありますよ?
 自然を愛し、ペコポンを愛し、正座して茶をすするのがお似合いの温厚なヤツであります。
 その上戦闘能力は武装したケロロ小隊の他の隊員4名を一度に相手にできるほどであります。
 もしドロロが一緒に居てくれればかなり心強いでありますなあ」

 『……時々存在を忘れるけど』と心の中でケロロは思ったが、あえて口にはしなかった。

 そして、その後の書き込みは1つだけ。
 古泉という学生服を着た茶髪の男が危険人物だという内容だった。
 古泉イツキもDVDに名前があった1人だが、DVDを見ていないのでそれが意味する所は不明である。
 また、この書き込みも誰が書いたかわからないので、一応心にとめておくだけにしようと言う事で意見が一致した。







「これで一通り読み終わったでありますな。
 しかし、せっかく掲示板があるのなら我輩たちからもドロロに何か伝えたい所であります。
 我輩たちしか知らない言葉を使って暗号を作れば、
 危険人物にバレないように合流する事だってできるかもしれないであります」

471 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:12:13 ID:/WCPsINo

 そのケロロの言葉を聞いて、なのはも真剣に考え始める。

「そうだね……
 もしヴィヴィオ達がどこかで掲示板の存在を知っていてくれればヴィヴィオ達とも合流できるかもしれない。
 それだけじゃない。スバルとだって……
 でも、ヴィヴィオにも解読できて、危険人物には絶対わからないような暗号が作れるかな?」
「喫茶店で使ったサツキ君の『狸の伝言』を使うという手はあるな。
 ヴィヴィオ君にも解読できるようにとなると、ヒントはなるべくわかりやすくせねばならないが、
 朝倉君も一緒にいるなら気付いてくれるかもしれん」
「おお、その手がありましたな!
 ドロロならばその暗号、気付いてくれそうであります。
 あとは誰の名前を暗号に使うかでありますなあ……
 小雪殿は掲示板に名前が書かれているでありますからやめておくとして、桃華殿かサブロー殿か……」

 ケロロは冬月の提案に賛成らしく、暗号で使う名前を考え始める。
 だが、喫茶店の暗号を知らないなのはは話が飲み込めず、冬月に質問する。

「その『狸の伝言』って、どういうものですか?」
「ある特定の文字を抜くと意味が通じるようにした文章の事だよ。
 喫茶店では『仲間の事は気にしないで』とヒントをつけ、
 私とタママ君の名前の文字を抜くと意味が通じるようにしておいた」
「なるほど。『た』だけを抜くような簡単な暗号なら気付かれやすくても、
 それだけたくさん字を抜くのは見抜かれにくいですね。
 ヴィヴィオやスバルが知っている人なら……はやてちゃんかアイナさんあたりかな?」

 狸の伝言の説明を受けてなのはも納得したらしく、暗号を考え始める。
 だが、冬月は少し申し訳なさそうにそれを遮って言う。

「確かに掲示板に暗号を書き込んで合流を目指すのは悪くないのだが、
 うまい暗号を考えるには少し時間がかかるだろう。
 だからそれは後回しにして欲しいんだ。
 もう一つ、検討したい事があるのでね」



 冬月はそう言ってタッチパッドを操作し、掲示板から画面をトップページに戻してkskコンテンツをクリックする。
 そうするとディスプレイにキーワード入力の画面が表示される。
 そして、その画面の下の方には小さくヒントが表示されていた。

472 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:12:59 ID:/WCPsINo

「冬月さん。これは……?」

 冬月が開いた画面を見て、なのはが尋ねる。

「この画面から先に進むにはキーワードを入力しなければならないようなんだ。
 キーワードのヒントはここに小さく、背景に近い色で表示されているんだが、私にはさっぱりわからなくてね」
「どれどれ。『ケロロを慕うアンゴル一族の少女の名前(フルネームで)』
 ……って、なぜ我輩の事がヒントになっているでありますか?」
「それは私にもわからない。
 だが、わざわざキーワードを入力させるのだから、君たちにだけ公開されている情報があるのかもしれないな」
「我輩たちにだけ、でありますか?
 一体なんでありましょうか。まあ、とにかく入れてみるであります」

 ケロロは考えを打ち切ってキーワードを入力してみる事にした。
 そして、ケロロが「アンゴル・モア」と入力してエンターキーを押すと、画面が切り替わる。
 そこには『参加者状態表:第3回放送時』と書かれている。
 その下には参加者の名前と、ダメージ(大)、疲労(大)、などと言った情報が一覧表になって表示されていた。
 ただし、何人かの状態は『死亡』とだけ表示されている。
 まったく予想外の情報が表示された事に3人とも驚きを隠せない。

「こ、これは……なぜこんなものを我輩たちに見せるでありますか?」
「わからないが、状態に『死亡』と表示されている参加者は私が記憶している情報と一致しているようだ。
 それに、我々の情報に関しては間違っていないようだね。
 例えば私の状態は『元の老人の姿、疲労(大)、ダメージ(大)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意』だ。
 誰が書いたのかは知らないが、なかなか的確に現在の状態を表現していると言えるな」

 そう言って冬月は自分の腹のあたりを左手で軽く撫でる。
 老人の体に戻ったせいもあり、疲労も怪我もなかなかに厳しいようだ。
 一方、ケロロの状態表には『疲労(大)、ダメージ(大)、身体全体に火傷』と書かれている。
 全身が痛み、皮膚がひりひりするのを感じつつ、ケロロもこの情報が間違いないようだと納得する。

「私の状態……『疲労(中)、魔力消費(中)、温泉でほこほこ』って。
 温泉でほこほこなんて事まで書いてあるんだね」
「間違いなく放送直前の高町殿の状態でありますな。
 高町殿が子供になられたのはほとんど放送と同時ではありますが、
 ここに書かれてなくて、元に戻っていない所を見ると、
 子供になったのは放送直後と判断されたのでありましょう」

473 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:13:40 ID:/WCPsINo

 納得する2人に、冬月がやや明るい口調で話しかける。

「だが、我々は運がいいのかもしれないぞ。
 ここに書いてある説明によると、どうやらこの情報は放送の時にだけ更新されているようだ。
 つまり、今このコンテンツを開いたおかげで、我々は参加者の現在の状態を知る事ができるわけだ。
 例えばタママ君の状態は……『疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷』か。
 疲れてはいるが、この処置済みの裂傷というのは早朝にネブラ君と戦った時のものだろうし、
 大怪我はしていないようだな」

 タママの状態を確認しながら、冬月は加持の事を思い浮かべる。
 だが、状態表にはタママと加持に何があったかを示すような記述は無い。
 だから、冬月も今はその事を考えるのはやめておく事にした。

(今はタママ君が無事であった事を素直に喜ぶべきだろうな……)

 そして、冬月がそう考える間にも、なのはとケロロは状態表を読み進めていく。

「ヴィヴィオは『疲労(中)、魔力消費(小)、覚醒直後』
 覚醒直後って事は気絶でもしていたのかもしれないけど、怪我はしてないみたい」

 ヴィヴィオに怪我が無い事を知り、小さななのははほっとした表情を見せる。

「朝倉君の『疲労(特大) 、ダメージ(中)』というのは気になるがね。
 一緒にいたもう1人の子供は名前がわからないので調べようがないか。
 3人がどこか安全な場所で休んでいるのならいいのだが……」
「そうでありますなあ」

 冬月たちはヴィヴィオたちの安全を祈らずにはいられなかった。

 次になのははスバルとノーヴェの状態を確認する。
 ノーヴェの方は『疲労(中)、ダメージ(中)』で、怪我はしているようだが朝倉よりは元気なようだ。
 しかし、スバルの状態表には『全身にダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)』と書かれている。
 どう見ても満身創痍、倒れる寸前としか思えない状態だった。

「スバル……きっと力の限り戦っているんだね。
 でも、早く合流してあげないと、このままじゃ……」
『…………』

 無事とは言えそうにないスバルの状態を見て、なのはは不安な表情を浮かべる。
 マッハキャリバーは何も言わなかったが、きっとスバルを心配しているのだろう。
 マッハキャリバーにとってスバルはかけがえのないパートナーなのだ。
 そう、なのはにとってのレイジングハートがそうであるように。

474 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:14:10 ID:/WCPsINo

 一方、ケロロもまたドロロの状態を確認して少なからずショックを受けていた。

「切り傷によるダメージ(小)、疲労(大)、左眼球損傷、腹部にわずかな痛み、全身包帯。
 あのドロロが片目をやられたでありますか?
 現在のダメージは小さいようでありますが……」

 そして、冬月はというと、小砂から名前と特徴を聞いていた川口夏子の状態を確認していた。

「川口君の状態は、『ダメージ(微少)、無力感』か。
 肉体的には問題ないが、精神的にまいっているのかもしれんな。
 無理もない事だ。小砂君のためにもできれば早く合流したい所だが、手がかり無しか……」

 3人の間に重い沈黙が流れる。
 しかし、ここで3人が落ち込んでいても何の役にも立たないのだ。
 だからなのははあえて気持ちを切り替えて他の情報に目を移し、分析を始めた。

「危険人物のギュオーは状態表では全身打撲、中ダメージ、回復中。
 ゼロスは絶好調。
 深町晶は精神疲労(中)、苦悩って書いてありますね。
 ズーマは偽名みたいだからこの表では確認できませんが」
「ギュオーはそれなりにダメージを受けているようだが、他の危険人物は元気なようだな。
 まあ、そうそうやられるような連中ではないという事か」

 続いてなのはは古泉の状態に注目する。

「この古泉一樹という参加者は掲示板に危険人物として書き込まれていましたが、状態は
 『疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り』となっています。
 悪魔の精神ってどういう意味かわかりませんけど、危険な印象は受けますね」
「右腕欠損(再生中)というのも奇妙な記述だな。
 まさか失った腕を再生できるような怪物なのだろうか?」
「学生服を着た茶髪の男って書いてありましたけど……わかりませんね」
「あの書き込みの通り、涼宮ハルヒという参加者を殺したのは古泉という男なのでありましょうか?」

 ケロロは2人に疑問を投げかける。
 あの書き込みは誰が書いたのかわからないが、古泉が危険な人物という事であれば真実かもしれない。

「それはわからないけど、可能性はあるかな。
 DVDに名前が書いてあった事とか、この『キョンに対する激しい怒り』って言うのも気になるし。
 でも、これだけじゃまだ何とも言えないかも」
「キョンと言えば、この『0号ガイバー状態』というのもわからないでありますなあ。
 これは本当に何かの状態を示す言葉なんでありますか?」
「わからんな。主催者にとっては何か意味のある言葉なのかもしれんが」

475 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:14:40 ID:/WCPsINo

 この状態表の記述は確かに正確らしいのだが、たまに意味のわかりにくい所がある。
 『0号ガイバー状態』と書いてあるからにはそうなのだろうが、この3人にはそれが何の事だかわからなかった。
 わからないので、なのははカブト虫の怪人が探していたという人物の状態を見てみる。

「アプトムという人は『全身を負傷(ダメージ大)、疲労(大)、サングラス+ネコミミネブラスーツ装着』ですね」
「ネコミミネブラスーツ……そういえばネブラ君はネコミミの形をしていたな。
 それをこの人物が持っているという事はもしやこの人物が小砂君を……?
 いや、そう考えるのは早計すぎるか。単に取引をして譲ったのかもしれん」

 一瞬アプトムが小砂を殺した犯人ではないかという考えが冬月の頭をよぎったが、冬月はすぐにそれを否定した。
 情報が少なすぎるのだ。憶測だけで何かわかった気になるのは危険だし、トラブルの元にしかならないだろう。

「キン肉スグルは『脇腹に小程度の傷(処置済み) 、強い罪悪感と精神的ショック』でありますな。
 罪悪感を感じるという事は善人のようにも思えるでありますが……」
「それも早計すぎるだろう。
 罪悪感を持っていても殺し合いに乗っている可能性はある。
 むしろ殺し合いに乗った事に罪悪感を感じている可能性もあるしな。
 やはりこの情報だけでは判断できないようだ」
「ウォーズマンの状態は『全身にダメージ(中)、疲労(中)、ゼロスに対しての憎しみ、サツキへの罪悪感』ですね。
 この人も罪悪感……それもサツキちゃんに対して。
 サツキちゃんに何かしてしまったという事でしょうか?」
「我輩、サツキ殿とはこの殺し合いの最初から行動を共にしていたでありますが、
 ウォーズマンという人物の話は聞かなかったでありますな……」
「この『ゼロスに対しての憎しみ』というのも気になるな。
 ドロロ君の情報によるとゼロスは危険人物という事だから、何か被害にあったのかもしれない」

 それぞれ気になる事は書いてあるのだが、情報としては弱すぎて参考にはできないようだった。
 しかし、他に何か情報が得られれば合わせて判断の材料にはできるかもしれない。
 このアプトム、キン肉スグル、ウォーズマンの3人に関してはそれ以上言える事はなさそうだった。

476 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:15:12 ID:/WCPsINo

 その後、さらに状態表を調べていた冬月がある事に気付く。

「む? ケロロ君、高町君。このネオゼクトールという参加者の状態を見てくれ」
「えーと、なになに? やけに長いでありますなあ。
 『脳震盪による気絶、疲労(大)、ダメージ(中)、ミサイル消費(中)、羽にダメージ(飛行に影響有り)』
 ミサイル消費? それに羽にダメージで飛行に影響有りという事はもしやこいつは……」
「そうだ。ミサイルを持ち、羽で空を飛ぶ参加者がそうそう居るとは思えない。
 確証はないが、こいつがあのカブト虫の怪人である可能性はかなり高いだろう」
「それに『右腕の先を欠損(再生中)、破損によりレーザー使用不可、ネブラによる拘束』ってあります。
 この人は腕を再生できてレーザーも使えるんですね。それと、このネブラによる拘束というのは……」
「うむ。おそらくネオゼクトールはアプトムによって気絶させられ、捕まっているのだろう。
 カブト虫の怪人が本当にネオゼクトールであるなら、探していた相手に捕まってしまったという事になるな。
 あのような怪物を捕まえるのは難しいとは思うが、ネブラ君が一緒なら可能かもしれない。
 むろん、アプトム本人の能力によるものかもしれないがね」
「ネブラっていうのは頭に装着すると羽を広げて空を飛んだり触手で攻撃したりできる生き物なんですよね?」
「うむ。確かタママ君の知っている相手だったが、ケロロ君も知っているかね?」
「ケロケロリ。確かにネブラ殿は知り合いであります。
 もっともあまりいい関係とは言えなかったでありますが、
 色々な事があって、最近はそれなりに平和的な関係になっていたであります。
 まあ、それはともかく、ネブラ殿の力であればあの怪物ともやり合えるかもしれないでありますな。
 元々怪物退治は得意とする所でありますからして」

 こうしてネオゼクトールがカブト虫の怪人である可能性が高い事やアプトムに捕まっているらしい事はわかった。
 だが、今のこの3人にとってはそれは行動を決める上で重要な情報ではない。
 危険な参加者が捕まっているというのは安心できるのでいいのだが、それを利用してどうするという事でもないのだ。

 だからこの話はそれ以上に発展せず、なのはは別の参加者に目を向けたのだが、そこに気になる記述を発見した。

「あ、このトトロっていう参加者の状態が『温泉でぽかぽか』になってる。
 もしかしてこの近くにいるんでしょうか?」

 そして、なのはが口にしたトトロという名前にケロロが反応する。

「ケロッ? トトロと言えば、確かサツキ殿が言っておられた名前であります。
 この近くにいるのであれば、お会いしてサツキ殿の事をお伝えするべきかもしれないでありますな。
 しかし、少なくとも我輩があたりを探索した時には誰も居なかったはずでありますが……
 そうでありましたな。マッハキャリバー殿」
『はい。探知可能な範囲には参加者らしき反応はありませんでした。
 ですが、露天風呂の垣根を破壊した跡があり、その状態からまだそれほどの時間は経っていないと思われます』
「おお、そうでありましたな。
 露天風呂の男湯の方の垣根が壊れていたであります」
「ふむ……ケロロ君。そのトトロという人物はどういう人なのかね?
 サツキ君の知り合いならば悪い人間ではないのだろうが、
 一応確認しておきたいのでね」

477 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:15:43 ID:/WCPsINo

 冬月はケロロにそう尋ねたが、ケロロは困ったようにこう答えた。

「それが、我輩もトトロという人物についてよく知らないのであります。
 サツキ殿から詳しく聞いておけばよかったのでありますが、聞きそびれたままになっていたのでありますよ。
 サツキ殿の言い方からして味方してくれそうな人物だろうとは思うのでありますが……」
「少しでもわかる事は無いの?
 男か女かとか、年齢とか、人種とか。
 名前からして日本人じゃなさそうだけど」
「いやあ、それがさっぱりなのでありますよ。
 そう言えばサツキ殿も直接の知り合いという感じではなかったような気もするでありますなあ」
「うーむ。それではその垣根が破壊された露天風呂の様子はどうだったのかね?
 何かわかった事があれば言ってみてくれ。ケロロ君」

 冬月にそう聞かれて、ケロロは眉間に皺を寄せながら腕を組んで、露天風呂の様子を思い出しながら答える。

「一見した所、垣根は戦闘があって破壊してしまったという感じではなかったでありますな。
 何というか、建物の中を通る事を考えずに一直線に温泉に入ろうとして壊したというか」
「うーん。ものぐさな性格の人なんでしょうか?
 ずいぶん乱暴な行動のようにも思えますが……」
「そうだな。いくらこんな殺し合いの島だからと言っても、普通は入口から入るだろう。
 仮に中に誰かがいる事を警戒したとしても、空いている窓を探すなど、他にやりようはありそうなものだ。
 垣根を破壊して入ってくればその音で気付かれてしまうからな」

478 脱ぎ捨てしもの(中編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:16:15 ID:/WCPsINo

 3人はすっかりトトロの正体をつかみかねていたが、そこでマッハキャリバーが自分の推測を述べた。

『痕跡から推測する限り、入ってきたのはかなり大型の生物だったようです。
 人間であるとすればかなり特殊な体格の人物ですね。
 例えば相撲取りのような体型でしょうか』
「相撲取り……?
 すごく太った外人さんって事でしょうか?
 原始的な生活をしている部族か何かで、こういう建物の入り方を知らなかったとか」
「ふむ。これは一度露天風呂をよく調べてみた方がいいかもしれんな」
『確かに、体が大きい分はっきり足跡が残っている可能性がありますので、
 露天風呂で足跡をよく調べればもっと詳しく分析できるかもしれません』

 マッハキャリバーのその言葉を聞いて冬月は頷き、ケロロとなのはに確認を取る。

「では、後回しにすると痕跡がわかりにくくなる可能性もあるので、
 さっそく露天風呂を調べようと思うのだが、2人ともそれでいいだろうか?」
「我輩はもちろん賛成であります。
 トトロ殿がサツキ殿の関係者である事は間違いないのでありますからして。
 できればどういう人物か調べて、いい人そうならサツキ殿の事をお伝えしたいであります」
「私もそれでいいと思います。
 トトロがサツキちゃんの知り合いなら、どういう人で今どうしているのか気になりますし、
 できれば合流して一緒に行動したいですしね」
「よし。それでは露天風呂に向かうとしよう」
「はい」
「了解であります。冬月殿」

 こうして、一行はトトロの事を調べるために露天風呂の調査に向かう事になった。

479 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:17:30 ID:/WCPsINo



「おっと。露天風呂に行く前に1つやっておきたい事があったな。少し待ってもらえるかな?」

 トトロの調査で露天風呂に向かおうとした所で冬月はそう言って2人を止めた。
 2人が快くそれに応じると、冬月はまずノートパソコンの電源を切ってデイパックにしまう。
 そしてノートパソコンをしまった手でデイパックの中を探り、冬月は夢成長促進銃を取り出した。

「なるほど。冬月殿ももう一度ヤングな姿になっておくのでありますな?」
「ああ。若返っておけばいくらかは回復も早まるだろうし、万が一の事態にも対応しやすいだろう。
 それに高町君のような若者には弱体化する面も大きいだろうが、私のような老人にはデメリットは少ない。
 使用回数に制限があるかどうかはわからないが、この銃を使わせてもらってもいいかな?」
「私はいいと思います。
 戦闘で使う可能性もありますけど、冬月さんが少しでも楽になるならぜひ使って下さい」
「我輩ももちろん異論はないでありますよ」
「ありがとう。では遠慮無く使わせてもらうよ」

 2人の同意も得られたので、冬月は少し2人から離れて自分に銃口を向け、夢成長促進銃の引き金を引く。
 すると冬月は銃から放たれた光線に全身を包まれ、あっという間に十代半ばの少年の姿になった。
 結果的に一行の外見は、中高生ぐらいの少年、9歳の少女(浴衣+羽織)、立って歩くカエルという事になった。

「よし。これでいいだろう。
 では行こうか。高町君、ケロロ君」
「はい。でも目の前で見るとやっぱりその銃はすごいって思いますね。
 まるで魔法みたい。……と言っても私はそんな魔法使えないんですけどね」
「まあ、ケロン星の科学力はペコポンとは比べものにならないでありますからな。
 その銃を作ったクルル曹長の技術も我が軍屈指のレベルでありますし」

480 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:18:02 ID:/WCPsINo

 ケロロはまんざらでもなさそうにそう言ったが、それを聞いて冬月はふとある事を思い出した。

「そう言えばケロロ君。
 そのクルル曹長というのはもしや黄色い体で度の強そうな丸いメガネをかけたケロン人ではないかね?」
「ケロッ? 確かにその通りでありますが、冬月殿はクルルを知っていたでありますか?」
「いや、タママ君からも何も聞いては居なかったのだが、その人を夢で見たんだよ。
 知らない人物を夢で見るというのは不思議な事だがね。
 そう言えばその夢にもう1人出てきたのが、高町君が着ていたようなデザインの茶色い軍服を着た少女だったよ。
 名前は聞けなかったが、年齢は高町君より少し下ぐらいに見えたな。
 アスカ君のようなオレンジ色に近い色の髪で……確か長い髪を頭の両側で結んでいたかな」
「……ティアナ……
 それはティアナという私の知人によく似ていますね。
 その子はなんて言っていましたか?」
「まあ、ただの夢の話だがね。
 立ち話していると時間ももったいない。歩きながらでよければ話そう」

 冬月の言うのももっともだと2人が同意したので、3人は歩き始める。
 同じ建物の中なので露天風呂はそう遠いわけではない。
 だから少し話しただけで一行は露天風呂に到着し、冬月はそのまま調査をしながら話を続ける事になった。

「今思い出してみても不思議な夢だったよ。
 起きてすぐには思い出せなかったが、こうして話してみると意外によく覚えていたものだな。
 あまりに不思議な夢で印象が強かったせいだろうか?」

 露天風呂の男湯には土のついた素足で歩き回ったトトロやライガーの足跡が残されていた。
 その足跡を調べながら、冬月はそんな事を話す。

 この時点での冬月はこの夢の事をまだ「不思議な夢」ぐらいにしか認識していなかった。
 だが、話を聞いた2人の考えは少し違っていたようだ。

481 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:18:36 ID:/WCPsINo

 冬月と同じく風呂場の床の足跡を調べていたなのはが冬月に尋ねた。

「ひとつお尋ねしますが、冬月さんは予知夢を見るような特殊能力を持って居るんですか?」
「いや。私はただの人間だよ。今はこうして若返るという不思議な体験をしているがね」
「では、冬月さん自身の認識では、夢でまったく知らない情報を見る事はあり得ないと思いますか?」
「偶然の一致はあると思うがね。
 『虫の知らせ』などという現象も多くはそれで説明がつくだろう。
 ただ、私も今回の夢はどこか普通ではないような気はしていたんだが……
 やはり君たちから見ても普通ではないと思うかね?」

 なのはは冬月の問いかけに深く頷く。
 そして、破壊された垣根を調べていたケロロも同じように頷いてこう言った。

「冬月殿が知らないはずのクルルとティアナ殿の容姿や言葉遣いを知った事。
 それに、そのティアナ殿が告げたという我輩たちに迫っていた危機というのははっきりとはわからないでありますが、
 冬月殿が遭遇したというカブト虫の怪人がそうだったとすれば辻褄があうであります。
 ここまで来ると偶然の一致では説明できないでありますよ」
「しかし、だとしたら2人はあの夢は何だったと思うのかね?
 私は超能力者なんかじゃない。それなのに不思議な夢を見たという事は、何者かに見せられたという事だろうか?
 だが、一体誰が? どうやって? 何のために?」

 冬月のその問いにすぐに答えられるものは居ない。
 冬月の見た夢が異常なものである事は3人とも理解しつつあったが、それが何だったのかは推測の域を出ない。

「予想はいくつかできます。
 主催者が何らかの意図があってやった可能性もありますね。
 例えば、私たちを諦めさせないためにあえて励ますような夢を見せたとか。
 そして、私たちの味方をする何者かが見せたという可能性もあります。
 その場合、その人物は主催者の監視をかいくぐってそんな事ができるという事になりますね。
 しかも、その人物はクルルやティアナの事を知っている。
 もしかしたら、本当にクルルやティアナが外から干渉して来たのかもしれません」
「冬月殿に夢を見せたのが味方だとしても、主催者があえてそれを見逃した可能性もあるでありますな。
 そこの所はまだ何とも言えないであります。
 今の情報だけではどうにもならないという事でありましょうか」
「もう一度眠って同じ現象が起こるならいいのだがね。
 私は後で交代で仮眠をとる事を考えていたのだが、その時に何か起こるかもしれんな。
 だが、とりあえず夢の話はここまでにしよう。
 今はトトロの事を調べるだけ調べておかなければ」

 なのはとケロロもそれには賛成だったので、一行は露天風呂の調査に専念した。

482 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:19:31 ID:/WCPsINo







 一通り露天風呂の男湯を調べてみると、トトロやライガーの足跡はかなり残っていた。
 だが、ピクシーやフリードリヒのものは見つからなかった。
 彼らは基本的に空を飛ぶので、足に泥があまり付いていなかったからである。
 そのため、一行は露天風呂に侵入したのは2匹の獣であると推測する。

『足跡や破壊の跡から推測すると、一方の生物は2足歩行で身長は2メートル前後。
 かなり大型の生物のようです。
 強いて言うなら熊に近いでしょうか。
 一方の4足歩行の動物は大型の犬科の生物だと推測できます。
 体長は1.5メートルと言った所でしょうか』
「そんな大きな獣が2匹も……
 それは本当にサツキちゃんの知り合いのトトロなんでしょうか?」

 マッハキャリバーの分析を聞いて、なのはが冬月とケロロに疑問をぶつける。

「種類の違う野生の獣が行動を共にするというケースは珍しいな。
 まったく無いとは言わないが……
 可能性としてはどちらか片方か、あるいは両方が参加者であると考えた方がいいのではないかな?」
「あるいは、トトロ殿はこの獣たちとはまったく別に温泉に入って去っていったのかもしれないであります。
 このお湯で濡れて読めなくなった手紙のようなものも気になるでありますし」

 そう言ってケロロが差し出したのはトトロが残していった古泉の手紙である。
 濡れて読めない上にビリビリに破れていたが、何か文字が書いてあった事だけは判別できる。

483 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:20:20 ID:/WCPsINo

「誰かが書いた手紙なのは間違いないみたいだし、
 これを残していったのがトトロっていう人なのかもしれませんね」
「ふむ。しかしこれはさっぱり読めんな。
 間違って落としたものを獣が破ってしまったといったところだろうか」
「しかし、そうなると足跡を残していった大きな獣たちはなんなのでありましょうか。
 ケロッ。そういえば最初に集められた時にでっかい毛むくじゃらの生き物を見たような気がするであります」

 マッハキャリバーの推測から獣の姿を想像したケロロは、唐突にその事を思い出した。
 そして、ケロロにそう言われて初めて冬月となのはもその事を思い出す。

「そう言えば、大きな丸い毛むくじゃらの……」
「そうか。あれは二本足で立っていたような気がするな。
 ではあれがトトロで、我々の少し前に犬科の獣を引き連れて温泉に入って去っていったという事か」
「そう考えるのが一番辻褄が合いそうでありますな」

 そう言ったケロロの言葉に冬月となのはもおおむね同意する。
 落ちていた手紙がなんなのかというような謎も残るが、基本的にはこの推測は正しいと思われた。

 こうして3人の間ではトトロの正体はとりあえずあの獣だと仮定する事になった。
 だが、これからどうするかは決まっていないので、なのはは2人に質問してみる。

「トトロの正体はあの獣だとして、これからどうしましょうか?
 トトロを探して今から出発しますか?
 それともやっぱりここで休んで行きましょうか?」
「そうだな……トトロとどうしても合流したいのであれば足跡を追いかけるという手はあるが、
 私としては気が進まないな。
 もうすっかり日も暮れてしまった。今から足跡を追って進むのは難しいと思う。
 それに、サツキ君が味方だと考えていたにしても、トトロというのがあの獣だとなると、
 果たして合流する事に意味があるかどうか。
 意思の疎通がどこまで可能なのかも疑わしくなる。
 また、我々の状態が良くないという理由もある。
 だから私はここでじっくり体力を回復させる事を提案するよ」

484 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:20:51 ID:/WCPsINo

 若返った冬月は、年齢に似合わぬ落ち着いた口調でそう言った。
 ケロロもそれに同意してこう続ける。

「我輩としてはサツキ殿の事をトトロ殿に教えてさしあげたいという気持ちに変わりはないであります。
 ただ、そのために我輩たちが無理をする事はないとも思うのでありますよ。
 もちろんトトロ殿の事を抜きにしても、タママやドロロ、
 それにヴィヴィオ殿や他の善良な参加者を見つけて合流したいという気持ちもあるのでありますが、
 今はその時ではないと思うであります」

 なのはから見ても、2人の意見はもっともだと言えた。
 今は気を張って行動しているが、本来なら2人は安静にしているべきなのだ。
 なのはは子供になっていても、夜であっても必要ならば行動するつもりでいるが、それを2人に求める事はできない。

 しかし、ヴィヴィオを探したいという感情は、今のなのはの中で何よりも強い感情だった。
 だからなのははいっその事1人でも出発できないかとも考えたが、それはできなかった。
 こんな殺し合いの中で得られた大切な仲間を。
 それも、こんな傷だらけの仲間を残して行く事はできない。

 それになのはが1人で行くとなるとマッハキャリバーをどうするかという問題もある。
 マッハキャリバーが無ければ子供になったなのはではどこまで戦えるかわからない。
 だが、冬月達にとってもマッハキャリバーは接近する敵を察知してくれる貴重なアイテムだ。
 デバイスが1つしか無い以上、別れて行動すればどちらかがリスクを負う事になる。

 だからなのはは1人で行きたいという気持ちをぐっとこらえて、2人にこう言った。

「……そうですね。
 私もまだ回復しきっているわけではありませんし、
 もう少し休んで体調を万全に整えてから行動した方がいいと思います」
「それでは、もう少しこの温泉で休息を取る事で決まりでありますな。
 そうと決まれば我輩たちも温泉に入らせてもらうでありますか。冬月殿」

485 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:21:22 ID:/WCPsINo

 うつむき気味になって言葉を発したなのはにケロロも多少違和感を感じてはいた。
 だが、何を思っているかまでは気付かなかった。

 しかし、冬月は目の前の小さな少女が何をこらえているか察していた。
 市街地でヴィヴィオに会った時、普段の彼女からは考えられないほど取り乱したなのはである。
 彼女が1人でもヴィヴィオを探したいと思っている事はある程度見当がついた。

「高町君。すまない。
 我々が一緒にいるせいで、君には不自由をさせてしまっているね。
 だが、私も一晩中ここに留まるつもりはない。
 温泉に浸かって、栄養をとり、10分でも20分でも交代で仮眠を取ったら、
 すぐに出発してヴィヴィオ君や朝倉君たちを探そう。
 だから、それまで少しだけ我慢してもらいたい。
 この通り、お願いする」

 そう言って冬月はなのはに深々と頭を下げる。
 そして、慌ててそれを制止するなのは。

「そんな、頭を上げて下さい、冬月さん!
 大丈夫です。ヴィヴィオが無事だって事はわかっているんですから。
 朝倉さんも怪我をしてはいましたが、重傷ではないようでしたし、きっともう1人の子も無事だと思います。
 思い返せばあの時不思議な盾や障壁がヴィヴィオ達を守っていました。
 きっとヴィヴィオ達には何らかの身を守れる装備があるんです。
 だから、ここで体力や魔力を回復しておくのはきっと最良の選択なんだと思います。
 だって、私たちはみんなで生きて帰らなきゃいけないんですから……」

 浴衣の小さな胸に両手を当て、目をつぶって冬月にそう伝えるなのは。
 その様子はどこか、自分を納得させているようでもあったが、表情は安らかだった。

「高町殿。我輩たちのためにすぐにヴィヴィオ殿を探しに行けず、申し分けないであります……」

 遅ればせながら事情を察してケロロもなのはに頭を下げる。

「ううん。大丈夫だから気にしないで、ケロロ。
 信じてる。ヴィヴィオは弱い子じゃない。だって私の娘なんだもの。
 きっと……きっと私が行くまで無事で待っていてくれる」
「そうでありますな。
 我輩も信じるでありますよ。
 ヴィヴィオ殿も、タママも、ドロロも、みんなきっと無事で待っていてくれると」

486 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:21:52 ID:/WCPsINo

 そう言ってケロロはなのはと一緒に胸に手を当てて祈るように目をつぶった。
 冬月も2人と思いは同じであったが、あまり長くこうしても居られないと思い、2人に話しかける。

「それではそろそろ動き出そうか。
 まず私とケロロ君は温泉。高町君にはその間万が一に備えて待機していてもらいたい。
 私たちが温泉を出たら交代で仮眠を取ろう。
 あまりゆっくり寝ていられないが、ただじっとしているよりは確実に疲れが取れるはずだ。
 その後、準備を整えて出発する。
 目安としては……20時から遅くとも21時までには出発すると考えておこうか。
 高町君どうだろう? もっと早い方がいいだろうか?」
「私はそれでいいと思います。
 でも、私の事よりケロロはこのスケジュールでいいの?
 冬月さんの怪我は私の魔法でもある程度治せるけど、ケロロの怪我は治せないし……」

 なのはは心配そうな顔でケロロにそう確認した。
 自分の魔力が回復して冬月の治療をすれば最終的に一番重傷なのはケロロになる事が予想されたからだ。

「我輩もそのスケジュールに異論は無いでありますよ。
 こう見えても我輩、厳しい訓練を乗り越えてきた軍人。
 それに普段から夏美殿にしょっちゅうぶっとばされているでありますが、大抵すぐに復活しているであります。
 これしきの怪我、温泉に入って少し休めばどうという事はないでありますよ。ゲ〜ロゲロ」
「そ、そうなんだ?
 それならいいんだけど……」
「まあ、本人が言うのだからここは信じよう、高町君。
 それではおおまかなスケジュールはさきほど言った内容で決まりと言う事で、
 我々は早速施設内の男湯に入ってこようか、ケロロ君」

 ケロロの発言に少し笑いながら、強がっているその気持ちも感じた上で冬月はそう言って話をまとめる。

「わかったであります。
 ではデイパックは高町殿に預けるとして、
 その中のナイフとスタンガン、それから催涙スプレーと夢成長促進銃をもらって行くでありますよ。
 万が一に備えて用心はしておいた方がいいでありますからな」
「そうだな。では、あとの荷物は高町君に持っていてもらおう」
「わかりました。確かにお預かりします」

487 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:23:30 ID:/WCPsINo

 こうして露天風呂の調査は終わり、一行は一旦二組に分かれる事になった。
 だが、冬月は歩き出すとすぐに何かを思いついて、2人にある提案をした。

「そうだ。今のうちにもうひとつやっておきたい事があるのだがね……」







「いやー、極楽極楽。温泉とはやはりいいものでありますなあー」

 温泉の内風呂の湯船に浸かったケロロはすっかり上機嫌であった。

 ちなみに元々明るくはないのだが、風呂場の中はかなり薄暗くなっている。
 これは先ほどの冬月の提案で、あえて最低限の明かりを残して施設内の明かりを消しておいたからだ。

 元々この施設は昼も夜も関係なく明かりがつけっぱなしになっており、発見されやすかった。
 それに明かりをつけていると、外からは丸見えで中から外は見えにくい。
 つまり、明かりを暗くしたのは少しでも危険を回避しようという苦肉の策であった。

「うむ。まさか温泉に入る事になるとは思わなかったが、やはりいいものだな。
 それに、こうして裸になってみると皺だらけだった体も若返ったせいでつるりとしていて、
 何やら生まれ変わったような気分だ」

 ケロロの隣で湯船に浸かる冬月もなかなかに上機嫌であった。
 この温泉の効能は「火傷、切り傷、打ち身、身体の疲れ、魔力の消費、虚弱体質」と表示されていた。
 どうやらその表示に嘘は無かったらしく、全身を火傷したケロロが入っても不思議とあまりしみる事もないようだ。

「この温泉には通常とは異なる特別な成分でも入っているのかもしれんな」
「確かにこの温泉に浸かっていると、心なしかじわじわと『回復してる〜』という気がするでありますなあ」
「しかし……よく見るとこの温泉、LCLのようにも……いや、気のせいか?」

 この温泉のお湯は薄いオレンジ色をしていた。
 これはエヴァのエントリープラグを満たす液体であるLCLと酷似している。
 本当のところどうなのかは主催者のみぞ知るといったところだが。

488 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:24:00 ID:/WCPsINo

「冬月殿。そのLCLとはなんなのでありますか?」
「LCLというのは言ってみれば羊水のようなものだ。
 その中に居るものを守り、包み込む液体だ。
 その中に居るものはその液体を肺に入れても溺れる事はなく、LCLから酸素を吸収する事ができる。
 だが、同時にそれはATフィールドを失った生命体の『かたち』でもある。
 そう、最初に主催者に首輪の効力で液体にされた少年が居ただろう。あの液体がLCLだよ」

 冬月はあえて隠す必要もあるまいと思い、素直にLCLの事を説明する。
 だが、それを聞いたケロロはさすがに驚いたらしく、ザバッと湯船から立ち上がって叫んだ。

「ゲ、ゲローーッ!? この温泉のお湯があれと同じという事でありますか!?
 そんなものに浸かっていて我輩たち大丈夫なんでありますか!?」
「落ち着いてくれ、ケロロ君。
 同じだと決まったものでもないのだ。
 仮に万が一同じだとしても、LCLに浸かっていて害があるという事はない。
 何も心配する事はないんだよ」

 冬月の説明でケロロはどうにか落ち着きを取り戻したようで、再び湯船に浸かってほっと息をつく。

「そうでありますか。いや、ほっとしたであります。
 しかし、冬月殿はそのLCLやATフィールドというものに詳しいようでありますが、
 もしやこの首輪についても何かご存じなのでありますか?」
「いや、残念だがこの首輪の原理については私にもわからないのだよ。
 ATフィールドを破壊するアンチATフィールドというものが存在する事は確かだ。
 それによってATフィールドを破壊された全ての生物はLCLに還元され、『個』を保てなくなる。
 この首輪が人間をLCLに変えてしまうのは、おそらくアンチATフィールドを発生しているからだろう」

 話はまだ続きそうではあったが、冬月がそこまで言った所で思わずケロロが一言口を挟む。

「……冬月殿。それは充分わかっておられるのではありますまいか?」

 言われた冬月は話を遮られて怒るでもなく、生徒に話を聞かせるようにこう続ける。

489 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:25:15 ID:/WCPsINo

「そうではないのだよ、ケロロ君。
 そのアンチATフィールドをどうやって発生させているかが皆目見当もつかないのだ。
 私の知るアンチATフィールドとは、
 鯨よりも巨大な『ある生物』の特定の器官に特殊な刺激を与える事によって発生するものだ。
 特に生命をLCLに還元するほどのアンチATフィールドともなればな。
 だが、この首輪はこの大きさでそれを実現しているのだ。
 いかなる技術を用いたのか、私の理解を超えているよ」
「しかし冬月殿。大きさの問題であれば、ある程度は我々宇宙人の技術でどうにかなるかもしれないでありますよ?
 原理さえわかっていれば、我輩にも少しは構造を理解できる芽が出てくるであります。
 我輩こう見えても発明のまねごとぐらいはやった事もあるのでありますよ。
 さすがに我輩1人では心許ないでありますが、ドロロやタママの知恵も借りればあるいは……」

 ケロロのその話を聞いて冬月はあごに手をあて、考えながらこう言った。

「……そうか。そうだったな。
 君は宇宙人で、しかもあの夢成長促進銃を作ったテクノロジーを持っていたんだったな。
 そうか、もしかすると君たちの協力があれば……
 いや、君たちだけでなく高町君や他の世界の人間の知恵も借りればこの首輪を無力化する事ができるかもしれない。
 正直言ってどこまで見込みがあるかわからんが、できねば我々は終わりなのだからやるしかないな」

 冬月はこれまでに様々な参加者と出会ってその話を聞いてきた。
 だからその経験から、すでにこの島に集められたのが多数の別世界の住人であると理解しつつあった。
 ただ、ここまでそれをはっきりと意識し、考える余裕がなかったのである。

 この世界が人類補完と関係があろうが無かろうが、今は目の前にある状況を受け入れて対処しなければならない。
 となれば、自分にない知識や技術を持つものの力を借りる事は当然の発想であった。

(首輪を解除する方法を考えねばと思ってはいたが、今まで生き延びるのに必死で考えが及ばなかったな……)

(だが、気付いたからにはその方向で動いていかねばなるまい)

 冬月は心の中でそうつぶやくと、ケロロにも聞こえるように言葉に出して考え始めた。

490 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:25:46 ID:/WCPsINo

「ただ、それには最低でも一度は首輪を分解してみねばならんか……」
「分解でありますか……
 しかし、分解するとなると生きた参加者の首輪を使うわけには行かないでありますな」
「うむ。亡くなった参加者の遺体から首輪を取り外して分解するしかないだろうな。
 高町君などはいい顔をしないかもしれないが、どうしても必要な事だ。
 こらえてもらわねばなるまい」
「きっと、高町殿もわかってくれるでありますよ。
 まあ、実際に参加者の死体を発見するのがいつになるかもわからないでありますし、
 ゆっくり納得していただけばよいでありましょう」
「そうだな。
 我々はしばらくは休息せねばならない。
 それにドロロ君やタママ君とも合流しておかねば首輪を分解できても解析は難しくなるだろうし、
 他の参加者にも協力を仰げるならそうしたい。
 首輪を分解できるのは当分先の事になるか……」

 そう言って冬月はばしゃりと湯船の湯を両手ですくって顔にかけ、ごしごしと顔を洗う。
 そして、顔の湯をぬぐって一息つくと、ざばっと湯船で立ち上がり、そのまま歩いて湯船を出た。

「そろそろ上がるとしようか、ケロロ君。
 ゆっくり入っていたいのはやまやまだが、状況的にそうも言っておれんだろう」

 それを聞いてケロロもじゃぶじゃぶと泳いで湯船の端にたどり着き、ざばっとお湯から出て言った。

「そうでありますな。
 では温泉はこのぐらいにして、上がるとするでありますか」
「ああ。あまり高町君を1人にもしておけないからね」

 こうして2人は籠に入れて近くに置いてあった服を持って風呂場を出て脱衣所に向かう。
 服を近くにおいておかないと万が一の事態に対応できないので風呂場に持ち込んでいたのである。
 もちろんケロロは服など持っていないが、夢成長促進銃やナイフやスプレーを入れた籠は持ってきている。

 そして、2人は脱衣場で体を拭き、ケロロはそのまま裸で、冬月は元の服を着る。
 ちなみに脱衣場も明かりはほとんどつけておらず、薄暗い。

 着替えながら冬月がふと窓の外を見ると、外はもう完全に日が落ちて暗くなっていた。

491 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:26:22 ID:/WCPsINo

「もうすっかり夜だな。
 休息を取る間、危険な人物が寄ってこなければいいのだが」
「冬月殿の指示で施設の明かりはほとんど消しておいたでありますから、
 そうそう明かりを見てここに来る参加者は居ないと思うでありますが……
 温泉につられて誰かが来ないとは言い切れないでありますなあ」
「明かりを消したのは気休めと思った方がいいだろう。
 それでも、煌々と明かりをつけておくよりはずっといいとは思うがね。
 まあ、もし何者かが侵入してきたらそれはその時に対応するしかあるまい。
 それより、着替えも済んだ事だしそろそろロビーに戻るとするか。ケロロ君」
「了解であります。冬月殿」

 ケロロは敬礼しながら冬月にそう答え、2人は脱衣所を出てなのはが待つロビーへ向かった。







「……ふう。これで調整は万全だね」
『はい。現在の私に可能な調整は全て完了しました』

 冬月とケロロが温泉に入っている頃。
 薄暗い温泉施設のロビーでバリアジャケット姿のなのはとマッハキャリバーが会話していた。

 もう温泉に入っているなのはは警戒のために残ったのだが、この時間を利用してデバイスの調整を行っていたのだ。
 ズーマとの戦闘の際にも調整はしていたが、しょせん急場しのぎである。
 2人が温泉に入って無防備になっている今、なのはだけでも万全の状態にしておかねばならない。

 とは言え、前衛のスバルと後衛のなのはでは戦闘スタイルに大きな違いがある。
 そのため、調整した今でも100%の力を発揮するとは行かないが、かなり戦いやすくはなっただろう。

 冬月の発見したノートパソコンやケロロが発見したDVDも今はデイパックに入れてここに置いてある。
 風呂に入っている時に何かあった場合に備えての事である。
 そして、2人が風呂から上がったらまたこのロビーに集合する予定だ。

492 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:27:00 ID:/WCPsINo

「リボルバーナックルもこれでなんとか使えそうだね」
『ですが、現在のMs.高町の体格では格闘戦はお勧めできません。
 リーチもパワーも、そして物理耐久力も著しく低下しています』
「わかってる。できるかぎり砲撃向けに調節したし、これで殴り合いをするつもりはないよ。
 今の私じゃ、魔法の補助と防御に使うぐらいだね」

 なのはのバリアジャケットは9歳の頃使っていたものに変わっている。
 これは下着を履いていないのでミニスカートは(乙女的な意味で)危険すぎると判断したためである。
 また、デザイン的にも今使っているジャケットを縮めるよりこちらの方がいいだろうと考えての事でもあった。

 ただし、昔と違ってその両手には頑丈そうな籠手がはめられ、両足にはローラーブーツをはいている。
 右手の籠手はマッハキャリバー内蔵のリボルバーナックル。
 左手の籠手はケロロが拾ってきたリボルバーナックル。
 両足のローラーブーツはマッハキャリバーの本体である。

 正直言うとリボルバーナックルは今のなのはの小さな手には大きすぎるのだが、サイズを調節して装着している。
 それでもやはりごつすぎる印象は否めないが、デバイスとして、防具としては役に立つだろう。

「どっちかというとローラーブーツを使いこなせるかどうか心配かな。
 まあ、できる限りやってみるけどサポートはよろしくね、マッハキャリバー」
『お任せ下さい。ウィングロードの自動詠唱も含め、ある程度はこちらでコントロールできます』
「うん。じゃあバリアジャケットは解除しようか。
 左のリボルバーナックルも収納できる?」
『はい。それではバリアジャケットを解除します』

 マッハキャリバーがそう告げると同時になのはの姿はバリアジャケットから温泉の浴衣姿に一瞬で戻る。
 それほど膨大ではないにしてもバリアジャケットの維持には魔力を消費する。
 必要のない時には解除しておいた方がいいのだ。



 とりあえず戦闘準備が整って、なのはは一息ついて外の様子を伺う。
 外はすっかり日が落ちて暗くなり、視界はかなり悪い。
 だが、ロビーもかなり薄暗いため、少しは外が見やすくなっている。

493 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:27:34 ID:/WCPsINo

 冬月の提案で3人は温泉施設全体の明かりを暗くしておいた。
 そのため、このロビーもかなり暗くはなっているが、それでも字が読める程度の明るさはかろうじて保っている。
 少々不便ではあるが、どうせ休息を取るのだから、問題ないだろうという判断であった。

「これからの事……考えなきゃね……」

 なのははそうつぶやいて自分の首輪を触る。
 この首輪を外さなければ自分達に勝ち目はない。
 冬月たちにはまだ相談していないが、2人が風呂から出たら話してみようと思う。

 残念ながらはっきりとはわからないが、首輪からは特徴的な魔力波動を感じる。
 冬月やケロロと話し合えば、少しは何か道が開けるかもしれない。
 しかし、それでもやはりネガティブな思考がなのはの頭に浮かんでくる。

(首輪を外す方法なんて見つかるんだろうか? 主催者たちがそんな事を許すとも思えないし)

(でも、なんとかしなきゃ。諦めないって決めたもの。絶対になんとかなる。してみせる)

(幸い私は1人じゃない。冬月さんやケロロが一緒に居てくれる。だから、絶対負けない。負けられない!)

 そう考えながら、外からなるべく姿を見られないように隠れてロビーの窓から外の様子を伺うなのは。
 その小さな胸に宿る決意の炎はまだ小さいが、少しずつ確実に強さを増していた。

 だが……

(それはともかく……やっぱり、ちょっとスースーするかな……)

 一方でそんな事も考えてしまうなのはであった。
 人間、どんなときでもシリアスに徹するのは難しいようである。

494 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:28:26 ID:/WCPsINo
【G-2 温泉内部/一日目・夜】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】9歳の容姿、疲労(中)、魔力消費(中)、小さな決意
【服装】浴衣+羽織(子供用)
【持ち物】基本セット(名簿紛失)、デイパック、コマ@となりのトトロ、白い厚手のカーテン、ハサミ、
     ハンティングナイフ@現実、
     マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
     リボルバーナックル(左)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
     SOS団創作DVD@涼宮ハルヒの憂鬱、ノートパソコン
     血で汚れた管理局の制服、女性用下着上下、浴衣(大人用)
【思考】
0、絶対なんとかしてみせる。
1、冬月、ケロロと行動する。
2、一人の大人として、ゲームを止めるために動く。
3、ヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)、タママ、ドロロ、夏子たちを探す。
4、冬月とケロロに首輪の外し方を相談してみる。
5、掲示板に暗号を書き込んでヴィヴィオ達と合流?
6、トトロとも合流できたらいいけど……


※「ズーマ」「深町晶」を危険人物と認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢成長促進銃を使用し、9歳まで若返りました。

495 脱ぎ捨てしもの(後編) ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:28:57 ID:/WCPsINo

【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】10代半ば、短袖短パン風の姿、疲労(中)、ダメージ(中)、腹部に刺し傷(傷は一応塞がっている)、決意、温泉でつやつや
【服装】短袖短パン風の姿
【持ち物】催涙スプレー@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン
【思考】
0、今は休息を取ろう。
1、ゲームを止め、草壁達を打ち倒す。
2、仲間たちの助力になるべく、生き抜く。
4、夏子、ドロロ、タママを探し、導く。
5、なのはと共にヴィヴィオ、朝倉、キョンの妹(名前は知らない)を探す。
6、タママとケロロとなのはを信頼。
7、首輪を解除するためになるべく多くの参加者の力を借りたい。
8、トトロとは会えれば会ってみてもいいか……
9、後でDVDも確認しておかねば。


※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています
※「深町晶」「ズーマ」を危険人物だと認識しました。ただしズーマの本名は知りません。
※「ギュオー」「ゼロス」を危険人物と認識しました。
※マッハキャリバーから、タママと加持の顛末についてある程度聞きました。
※夢については、かなり内容を思い出したようです。
※再び夢成長促進銃を使用し、10代半ばまで若返りました。





【ケロロ軍曹@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、身体全体に火傷、温泉でほかほか
【持ち物】スタンガン@現実、ジェロニモのナイフ@キン肉マン、夢成長促進銃@ケロロ軍曹
【思考】
0、今は休息を取るであります。
1、なのはとヴィヴィオを無事に再開させたい。
2、タママやドロロと合流したい。
3、加持、なのはに対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
4、冬樹とメイの仇は、必ず探しだして償わせる。
5、加持の仇も探して償わせたいが、もし犯人がタママだったら……
6、協力者を探す。
7、ゲームに乗った者、企画した者には容赦しない。
8、掲示板に暗号を書き込んでドロロ達と合流?
9、トトロにサツキの事を伝えてやりたい。
10、後でDVDも確認したい。


※漫画等の知識に制限がかかっています。自分の見たことのある作品の知識は曖昧になっているようです

496 ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/23(木) 23:32:31 ID:/WCPsINo
以上です。

書いておいてなんですが、前編だけで終わっていてもいいような気もします。
でも書いてしまいました……すいません。

497 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:09:20 ID:UOrY/ZqE



「こ……子供になっちゃった……?」
「ケロ〜! 高町殿〜!!」

 ここはG−2エリアにある温泉の施設の中。
 ちょっとしたトラブルから、夢成長促進銃によってなのはは子供の姿になってしまった。
 そんな彼女を前にして呆然とするケロロ。
 そしてさすがの冬月もこの異常事態に驚きを隠せなかったが、今はそれどころではない。
 放送はもう始まっているのだ。

「高町君、ケロロ君。とにかく放送を聞くんだ。
 私は要点をメモしておくが、君たちもよく聞いておいて後で確認してくれ」

 冬月は2人にそう言って手に持っていた3枚のDVDを手近な机の上に置き、デイパックを開いた。
 そして支給されている基本セットの中にある紙と鉛筆を取り出し、メモを取る準備をする。

「あ、はいっ。わかりました」
「わ、わかったであります、冬月殿!
 マッハキャリバー殿もよろしくであります」
『了解です。放送の内容を記録します』

 なのはとケロロが、そしてマッハキャリバーが冬月にそう答えて放送に耳を傾ける。
 なのはは9歳の頃の姿になって夢成長促進銃を持ったまま。
 ケロロは濡れた床で滑って転んだあと、立ち上がろうと起き上がった所だ。

 ちなみになのはは子供になったせいで浴衣がだぶだぶになっていて、とっさに胸元を押さえている。
 ここには老人と宇宙人ガエルしかいないので、誰も気にしていないのだが、乙女のたしなみと言った所だろうか。

 放送では草壁タツオがなにやら前置きを語っていたが、3人はあまりそれを聞く事はできなかった。
 だが、重要な事は言っていなかったようなので、3人は禁止エリアの発表に意識を集中する。

「19時、F−5。
 21時、D−3。
 23時、E−6か……」

 そうつぶやきながら冬月はメモを取っていく。
 今回はかなり島の中央が指定されたようで少し気になったが、今はそれを確認する暇はない。
 放送はまだ続いており、次は死亡者が発表されるはずだったからだ。

498 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:09:51 ID:UOrY/ZqE

『次はいよいよ脱落者の発表だ、探し人や友人が呼ばれないかよく聞いておいた方がいいよ。
 後悔しない為には会いたい人には早く会っておく事だよ―――せっかくご褒美を用意してあげたんだから、ね?』

 そんな草壁タツオの前置きには耳を貸さず、冬月は死亡者の名前だけを聞き逃さないように集中する。
 なのはとケロロも思う所はあるのだろうが、今は黙って耳を傾けていた。

 だが、なのはの幼い顔には悲痛な表情がはっきりと浮かんでいる。
 何しろ、あの火事の中からヴィヴィオという少女とその仲間が生きて逃げ出せたかがこれでわかるはずなのだ。
 無理もない事だと思いつつ、冬月もまた、加持やアスカ、シンジ、タママ、小砂らの無事を祈る。

 そして、死亡者の名前が次々に発表されていく。

『朝比奈みくる』

「ん? この名前は……」

 そうつぶやいた冬月になのはとケロロがどうしたのかと視線を送る。
 冬月は掲示板に目を通していたため、この名前を知っていたのだが、今は放送の最中である。
 説明は後でいいだろうと判断し、黙って首を振っておく。

『加持リョウジ』

「加持君が……?」
「ケ、ケロ〜〜! 加持殿っ……!!」
「加持さんっ……!!」

 加持の名前があげられ、3人が全員思わず声を上げる。

『草壁サツキ』

「…………」

 知っていたとは言え、サツキの名前を聞くと3人の間に重苦しい空気が流れた。

『小泉太湖』

「この名前、小砂君か!?」
「そんな。小砂ちゃんまで……」

 冬月となのはがつぶやく。
 貴重な協力者だった。守るべき人の1人だった。
 あの小さくともたくましい少女にはもう会う事はできないのか。

499 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:10:21 ID:UOrY/ZqE

『佐倉ゲンキ』

 3人は反応しない。
 誰も知らない人物だったようだ。

『碇シンジ』

「シンジ君もか……!」

 冬月が再び小さく声を上げる。
 とうとうシンジと冬月はこの島で会えないまま、永遠の別れを迎えてしまった。

(碇……すまない。お前とユイ君の息子を守ってやれなかった……)

 冬月は心の中でそうつぶやき、無念そうに顔を伏せる。

『ラドック=ランザード』

『ナーガ』

 この2名は続けて誰の知り合いでもなかったようだ。

『惣流・アスカ・ラングレー』

「そうか……アスカ君も……」
「アスカ殿が……」
「アスカ……」

 3人ともアスカには複雑な思いがあるが、死を望んではいなかった。
 むしろ冬月やなのはにとってはいまだにアスカは保護すべき対象ですらあったのだ。
 だが、そのアスカもどこかで命を落とした。また救えなかったのだ。

『キョンの妹』

 その名前には誰も反応しない。
 そして、その名を最後に今回の死亡者発表は終わったようだった。

『以上十名だ、いやあ素晴らしい!
 前回の倍じゃないか、これなら半分を切るのもすぐだと期待しているよ。
 ペースが上がればそれだけ早く帰れるんだ、君達だってどうせなら自分の家で寝たいよね?』

500 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:10:52 ID:UOrY/ZqE

「なんという言いぐさでありますか……!」
「ケロロ君。気持ちはわかるが放送が続いているから今はこらえてくれ……」
「ケ、ケロ〜……」

 その後の草壁タツオの話は、主催者に反抗して命を落とした参加者が居たというものだった。

『念の為言っておくけど僕達のかわいい部下も対象だよ?
 あと逆らった人が敵だから自分は無関係というのも無し、その場に居た人は全員連帯責任さ。
 勝手な一人の所為でとばっちりを食らうなんて君達も嫌だろう?
 愚かな犠牲者が二度と出ない事を切に願うよ。』

『話が長くなったけどこの勢いで最後まで頑張ってくれたまえ! 六時間後にまた会おう!』

 こうして第3回、18時の放送は終了した。







「加持さん、サツキちゃん、小砂ちゃん、アスカ……」

 風呂場の脱衣所で、なのはが死んでしまった知り合いの名前をつぶやく。

 放送の後すぐに禁止エリアや死亡者の確認をしてから、彼女は改めて小さい浴衣に着替えに来たのだ。
 さっきまで着ていた浴衣は大きすぎて体に合わず、万が一の場合にも邪魔になるからだ。

 だが、着替えに来た理由はもう一つある。
 少しだけ落ち着いて考える時間が欲しかったのだ。
 あまりにも多くの死亡者。守れなかった人たち。
 それらを受け入れ、気持ちと考えを整理する時間がなのはには必要だった。

「ヴィヴィオや朝倉さんやスバルが生きていた事は嬉しいけど、喜ぶわけにはいかないよね。
 あんなにたくさんの人が亡くなっているんだから。
 それに、あの小砂ちゃんまでが……」

 だぶだぶの浴衣を脱いで小さいサイズの浴衣に袖を通しながら、なのはは悲痛な面持ちでつぶやく。
 自分の腕の短さに少し違和感を感じたが、今はそれよりも死んでしまった人たちの事に意識が向かっていた。

501 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:11:34 ID:UOrY/ZqE

 例えば、なのはを師匠と呼んで慕ってくれた小砂。 
 サツキが冬月を刺した場所で別れてから行方が知れなかったが、あの後一体何があったのか。
 一体どんな死に方をしたのだろう。
 やはり誰かに殺されたのか。
 自分の居ない所で起こった事はわからない。
 側にいない人は守れない。何もできない。後から結果を知って後悔するだけ。

 これからもこんな事を繰り返すのか。
 知らない所で死んでいく人の名前を放送で告げられて後悔して。
 目の届く場所にいる人を守ろうと必死になって、守れなくて後悔して。
 でも事態は何も変わっていなくて。
 それどころか悪くなっていく一方で。

「このままじゃ……いけないんだ。
 ちっとも前に進んでない。
 時間が流れて死ぬ人は確実に増えていくのに、事件の解決には少しも近づいてない。
 ただみんなを守るだけじゃ足りないんだ。
 ここからみんなで生きて元の世界に帰るには、あの主催者たちを何とかしなきゃ。
 でも、一体どうすればいいのかな、マッハキャリバー……」

 浴衣の前をあわせながら、なのはは胸元にぶら下がっている青いクリスタルのペンダントに話しかける。
 なのはが風呂から上がったので、マッハキャリバーは再びなのはが持つ事になったのだ。

 なお、夢成長促進銃は冬月に預け、代わりになのははケロロからリボルバーナックルを預かっている。
 左手用のリボルバーナックルは、右手用と一緒にマッハキャリバーの中に収納する事ができたからである。

 そして、なのはの問いかけに冷静な声で答えるマッハキャリバー。

『主催者を打倒するには我々の状況はあまりにも不利と言えます。
 しかし、それでもなお戦う事を選ぶのであれば、
 まず首輪を外すか無力化する方法を考える事が先決ではないでしょうか』
「そう……だね。
 この首輪がある限り、私たちは逆らえない。
 戦うどころか逃げる事さえできないし、逆らったらあの男の子みたいに液体に……」

 首輪に触りながらなのはは小さくため息をつく。

502 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:12:20 ID:UOrY/ZqE

『まだ道が断たれたと決まったわけではありません。
 及ばずながら私も微力を尽くします。
 元気を出して下さい。Ms.高町』
「マッハキャリバー……ありがとう。
 うん。私、諦めたりしない。絶対ヴィヴィオを、みんなを守って、ここから助け出してみせるよ」

 そう言いながらなのはは浴衣の腰ひもを結び、その上に温泉に置いてあった紺色の羽織を着る。
 しばらくはこの格好で居る事になりそうなので、浴衣一枚ではさすがに体を冷やすからだ。

 そして、着替えを終えたなのはは改めて鏡を見る。
 そこに写っているのは温泉備え付けの浴衣を着た小さな女の子。
 エースオブエースと呼ばれた自分ではない。
 なのはな思わずくすりと小さく笑ってしまった。

「こんな時に、こんな事で笑ってたら不謹慎かな。
 でも、なんだか変な感じ。私ってこんなに小さかったんだね」

 そうつぶやいてなのはは鏡の前でくるっと回ってみたりポーズを取ってみたりする。

 しかし、動いてみて実感したのだが、腰のあたりに微妙に違和感がある。
 体が小さくなったせいで相対的にショーツがかなり大きくなっており、ぶかぶかなのだ。

 ――ちなみに、胸がぺったんこになっているので、すでにブラジャーは外している。

「……ずり落ちて来そうでいやだな。
 いっそ履かない方がいいのかな?
 万が一戦闘中にずり落ちてきてそれが元で死んじゃったりしたら冗談にもならないし」
『バリアジャケットをズボン型に変更すれば対応できるとは思いますが……』
「そうだけど、ずっとバリアジャケットを装着してもいられないし……」
『休息を取ろうという時には特にそうですね。
 Ms.高町が気になさらないのであれば、私としてもこの状況で大きすぎる下着は履かない事を推奨しますが』
「う〜〜ん……」

 乙女の羞恥心と現実の板挟みになってなのはは少し迷ったが、しばらくうなった末に決断する。

503 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:12:50 ID:UOrY/ZqE

「決めた! 脱いじゃう!
 浴衣の時は下着つけないって聞いた事あるし、こんな状況で気にする人いないよね、きっと!」

 そう言ってなのはは一旦羽織を脱ぐと、腰ひもをほどいて浴衣をはだけてショーツを脱ぎ捨てる。
 下着を履かなくても別に害は無いのだが、心理的に違和感は拭えない。
 しかし、万が一にもパンツがずり落ちたせいで死ぬのは嫌だし、せいぜい大人に戻るまでの辛抱だ。
 なのははそう考えて、顔を少々赤くしつつ、また浴衣の前を合わせて腰ひもを締め直す。
 そして、最後にまた羽織を着て着替えは完成だ。

「うん。大丈夫。たぶん一見しただけじゃわからない……よね?」
『そうですね。それに、子供の体型であればさほど気にする必要はないかと思われます』
「うん。ただ、元に戻る時は気をつけないとね……」

 なのははそうつぶやきながら改めて自分の姿を鏡で確認する。
 戦闘などで動き回ればひどく危険な状態になりそうだが、戦闘になればバリアジャケットに着替えるはずだ。
 今のなのはのバリアジャケットはミニスカートで危険だが、バリアジャケットの変更は可能である。
 少女時代に使っていたバリアジャケットならスカートは長いので、おそらくなんとかなるだろう。



 そして、ひとしきり自分の姿をチェックして一息つくと、なのははまっすぐに立って鏡に写る自分の姿を見つめる。

 そうやって幼い頃の自分の姿を見ていると、その頃に出会った幼いフェイトの姿が自分の横に見えるような気がした。
 あれだけ泣いたのに、死んでしまった親友の事を思うとまた目頭が熱くなって涙が出そうになる。
 だが、なのははそんな感情を振り払うようにぶんぶんと首を振り、ぐっと両拳を握って気合いを入れた。

「よしっ! 戻ろう!
 まだまだ、私は元気なんだもん。くよくよしてる場合じゃないよ。
 行こう、マッハキャリバー!」
『はい。Ms.高町』

 そう言ってなのはは脱いだ下着の上下と大人用の浴衣を抱えて脱衣所を出た。
 なんとなく口調が子供っぽくなっているのは鏡で今の自分の姿を確認したせいかもしれない。
 しかし、そのおかげでこれまでの自分と今の自分を切り替える事ができたとも言える。
 温泉でいくらか回復できた事もいい方向に作用したのかもしれない。
 いずれにせよ、子供になってしまった事は、なのはにとって悪い事ばかりでもなかったようだ。

504 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:13:20 ID:UOrY/ZqE

(フェイトちゃんも、きっと私に頑晴れって言ってくれる)

(ヴィヴィオを。スバルを。この島に連れてこられた人たちみんなを助けて欲しいって願ってる)

(だから行くよ私。負けない。絶対諦めない。最後までくじけない)

(フェイトちゃん。だから、ヴィヴィオを、みんなを、……そして、私を見守っていて下さい――)

 そんな思いを胸に、冬月とケロロの元に向かうなのはの背を、窓から入った夜風が優しく押す。
 その風から自分を励ますフェイトの想いを感じたような気がして、小さな少女は少し表情を和らげた。







「加持殿……さぞや無念だったでありましょう。一体どこの誰が加持殿を!
 しかし、我輩きっと犯人を見つけて償わせるであります。
 冬樹殿やメイ殿を殺したヤツらと同じように……
 だから、草葉の陰から見ていて欲しいであります!!
 ああ、だけど一緒にいたタママは無事なんでありましょうか。心配であります」

 なのはが着替えに行った後、温泉施設のロビーでケロロが無念そうにつぶやいた。
 ケロロが命の恩人とも思っている加持が死んだのだ。
 その怒りは冬樹やメイを殺した犯人へのそれと比べても勝るとも劣らぬものなのだろう。

 そんなケロロを少し心配そうに冬月が見ている。

(ケロロ君は気付いていないのか? タママ君が加持君を殺したという可能性に……)

 ケロロもタママと加持の間がうまく行っていない事は知っていた。
 だからこそ彼らを二人っきりにして話し合わせ、仲良くなってくれる事を期待していたのだ。
 だが、その後2人は転移装置によって共にどこかへ消えてしまった。
 そして加持の死。

 もし2人の事をよく知らない人ならば、タママが加持を殺したと考えたかもしれない。
 だがケロロは、2人が喧嘩をしていたとしても殺し合う事はないと信じて疑っていないのだろう。

 あるいは冬月のようにマッハキャリバーから2人が消える直前まで争っていた事を聞いていれば違ったかもしれない。
 でも、冬月はまだその事をケロロには伝えていないのだ。

505 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:13:51 ID:UOrY/ZqE

(仮に、犯人がタママ君だったとすると、タママ君への対応は難しくなる)

(しかし、タママ君はタママ君なりにケロロ君やサツキ君を守ろうとしていたのだろうな……)

 タママが思い違いからそんな行動を取ったのなら説得して罪を理解させる事が正しい道だろう。
 だが、冬月にも加持が何かを企んでいた可能性は否定できないのだ。
 彼は基本的には頼れる男だったが、有能であるがゆえに信用ならないという面も確かにあった。
 加持がサツキの支給品を盗んだというタママの言葉も嘘や見間違いとは限らない。
 だとすれば、充分疑う余地はある。

(だが、たとえそうだったとしても、加持君を殺して決着をつけるという方法を選ぶべきではない)

(少なくとも私にとってはそれが正しい。だが、味方に害が及ぶ前に何とかしようという考えもひとつの正解だろう)

 だから冬月はもしタママが犯人でもタママを罰する事には気が進まなかった。
 たとえ考えが違っても、タママは大事な仲間なのだ。
 やり方に問題があるとしても、望みは同じだったはずだ。
 今冬月達に必要なのは固く結びついた絆である。
 冷たいようだが、たとえ加持の死が原因であっても、できる事なら仲間同士で争う事は避けたいのだ。

(絆か。タママ君が加持君を殺したとして、それを隠して絆を結ぶなどとは。ただの欺瞞なのではないか……)

(いかんいかん。いつの間にかタママ君が加持君を殺したと決めつけている。私とした事が、軽率だな)

 何もタママが加持を殺したと決まったわけではないのだ。
 ならば今はタママが殺したのではないと信じてやるべきだろう。
 もしも再開できてその時に何か明確に疑わしい事があったならその時に考えればいい。
 今からタママを擁護する事を考えるなど、タママに対しても失礼だ。



「冬月殿。何か考え事でありますか?」

 冬月がタママについての考えに区切りをつけようとしていると、ケロロが声をかけてきた。
 どうやら難しい顔をして考えていたので心配されてしまったようだ。

(いかんな。顔に出てしまっていたようだ。なるべくケロロ君には余計な心配をさせないほうがいい)

506 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:14:22 ID:UOrY/ZqE

 冬月はそう考えて、とっさに平静を装ってケロロに答えた。

「……いや、たいしたことではないんだ。
 これから考えねばならない情報の事を頭の中で整理していただけだよ」
「そうでありますか。
 確かにこれからどうするべきか。考える事は多いでありますなあ」

 どうやらケロロにはそんな冬月の考えは気取られなかったようだ。
 冬月は長年の人生経験から身につけた厚い面の皮を今はありがたく感じつつ、言葉を続ける。

「ああ。だが、何とかせねばならない。
 このままあの草壁という男の思い通りになどさせられるものか」
「もちろんであります!
 力を合わせて、必ずあの男ともう1人の主催の娘っこをギャフンという目にあわせるでありますよ、冬月殿!」

 ケロロのそんな言葉に冬月は心からの肯定の意を込めて頷いた。

(そうだ。このまま皆の命を、そして私の命をあいつらの好きになどさせてはならんのだ……)

(そのためにできる事は。やらねばならない事はなんだ。考えろ、冬月コウゾウ)

 打倒主催者を叫び気合いを入れるケロロとはまた別のベクトルで冬月も気を引き締めていた。

 戦う力を持たず、特殊な能力もない自分にできる事は考える事だけだ。
 ならばそこに全力を尽くさねばならない。
 冬月はそんな思いを胸に、静かに闘志を燃やすのだった。







 その後、着替えを終えたなのはが温泉施設のロビーに戻り、3人は再びロビーに集合した。
 そこで冬月は、まず2人にノートパソコンの説明を始める。
 ケロロが発見したDVDの事も気にはなったが、内容を見るには時間がかかりそうだった。
 だから一旦その3枚のDVDはデイパックにしまっておき、パソコンの方を優先する事になったのだ。

507 脱ぎ去りしもの ◆O4LqeZ6.Qs :2009/07/25(土) 18:14:57 ID:UOrY/ZqE

 ロビーのソファーに座り、パソコンを立ち上げた冬月がまず最初に2人に見せたのは掲示板だった。

「掲示板? こんなものがあったなんて……」
「すでにいくつか書き込みがあるようでありますな」
「うむ。それで、まずこの最初の書き込みを見て欲しい。
 この朝比奈みくるという人物は先ほど死亡者として名前があがっていただろう」

 冬月にそう言われて2人は掲示板の最初の書き込みを読んでみる。
 そこには『朝比奈みくるは主催者の仲間です。あの女を殺してください』と書かれていた。
 ちなみにこの書き込みはシンジによるものだが、冬月たちがそれを知る術は無い。

「この掲示板を見ていたから冬月さんは彼女の名前を知っていたんですね?」
「そういう事だ。ただ、この書き込みが真実かどうかは何とも言えない所だ。
 そもそも主催者の仲間だから殺してくれというのが短絡的すぎる。
 私としては、いささか感情的すぎるという印象を受けるな」
「そうでありますなあ。
 しかし、その朝比奈という方も亡くなってしまったわけであります。
 もしやこの書き込みを読んだ参加者に殺されたのでありましょうか?」
「それもわからないな。
 わからないが、そういう可能性もある。
 掲示板に書き込む時はそういう事も考えておかないと無用の衝突を生みかねないという事だな」
「そう言えば、朝比奈みくるっていう名前はさっきのDVDにもありましたね。
 長門ユキ、朝比奈ミクル、古泉イツキの3人……なぜこの3人なんでしょうか?」
「この3人に何らかの繋がりがあると見る事もできるな。
 そうするとこの書き込みもあながち嘘ではないという事になるが……
 しかし、はっきりした事はあのDVDを見てみない事にはなんとも言えないだろう。
 このパソコンでも見られるかもしれないが……まあ、それは後にしようか」

 冬月の言葉に2人は頷き、さらに掲示板の書き込みを読み進めていった。

「おっ? この書き込みは……ドロロのやつでありましょうか?」
「む? 知っているのかねケロロ君?」

 次の書き込みを見たケロロは、『東谷小雪の居候』という名前にすぐに気付いた。
 東谷小雪というのはドロロ