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俺は小説家を目指している。

1某経大生:2004/06/12(土) 05:10 ID:Vrdb/e4Y
俺は小説家を目指している。
主人公は高崎経済大学の学生だ。
それだけは譲れない。
冴えないダメ男が恋愛や挫折、色々な事件によって
成長していく話だ。

165イチゴ大福:2005/02/18(金) 19:11:34 ID:8efMvF4U
「先生殿の携帯電話に登録されているアドレスデータをまず盗みだす。これは時間がかかりそうだが、まぁとにかくやってみようか。Javaでスクリプトを組んでみる。少し時間をくれ、携帯にハッキングするのは俺も初めてだ。」
時間をくれといいながらも間良はすぐにスクリプトを組み上げた。彼はそれを、架空請求を装ったメールに偽装して根路銘に送りつけた。メールを展開するだけで間良のスクリプトが感染し、データを転送してくれることになっている。携帯電話の性能の向上は便利な一方でこのような危険も伴っているのだと改めて感じた。
彼はどこかのサーバを呼び出して、表形式に次々と更新されていくデータを確認した。
データを保存するとサーバデータを消去した。
「よし、では誰を使おうか?どうせ釣るなら思いっきり食いついてくれるほうが楽しい。」
名前で検索にかけ、身元を確認する。彼の携帯のアドレスには有名な大学病院の院長や弁護士、政治家や企業家の名前がずらりと並んでいた。
「酒池肉林だな。」
「それをいうなら「よりどりみどり」だろ?ちょっと待て、梧桐彦一警視正の名前がある。」
前田はそれを見逃さなかった。
「ほほう、どうやらお友達らしいな。一覧をプリントアウトしてやるよ。これはプレミアものだ。」
「プレミアどころじゃない。こんなのが流れた日には大変なことになる。」
間良はアドレスにあった弁護士のアドレスを偽装して、根路銘教授の携帯電話にメールを送り、教授宛のメールサーバにはどこからか拾ってきた意味のない文章を送りつけた。「重要な文書を添付したので今すぐ目を通して欲しい」という内容のメールが教授の携帯電話に届いた十分後、学内のメールサーバに教授がアクセスしたことが確認できた。間良は、教授のコンピュータがネットワークに接続していることを確認するとスクリプトを走らせた。
すると予想通り、前年度の推薦入学者のリストが発見できた。
梧桐冬樹の備考欄は2,000,000となっていた。
「単純に考えて二百万か。意外と少ないな?」
前田もうなずく。
「ああ、なぜだろう。明らかに他の推薦入学者よりも少ない。これ以外で一番低いのは八百万だ。」
「こういうケースでは警察はどう考える?警察は給料が少ないとか?」
「公僕とはいっても警察官僚だ。そんなことは考えられない。梧桐警視正と梧桐冬樹は伯父と甥という関係だ、六年前の事件では警視正は甥のために証拠の隠滅まで図っている。まぁ、自分のキャリアに傷がつくという保身の意味もあっただろうが・・・・・・。梧桐警視正と根路銘教授が既知の仲だとして、甥の進学の便宜を図るのは当然か。だとすれば、この金額にはそういう意味があるのか?」
「だったら金なんて取るか?この二人はそこまで仲良しじゃないようだ。」
「じゃ、何か二人の間でなんらかの金額を減らすインセンティヴを誘発する要因が介在したということか?だとすれは、梧桐警視正と根路銘教授の間でなんらかの取引があったと考えることができる。」
「作成するべき調書がまた増えたようだな。」
間良はそういって笑ったが、前田にとっては笑いごとではなかった。

166イチゴ大福:2005/02/19(土) 17:01:07 ID:UJ1is712
17.中華の王様。Guest in crime scene. ⑦
その後、梧桐彦一警視正と根路銘国盛教授の経歴を間良が調査し、二人が国立T大学の同期だということが分かった。梧桐彦一は大学ニ年次に医学部から法学部に移籍し、国家一種試験に合格、警察官僚のキャリアとして現在に至っている。
前田はそれらのデータをプリントアウトしてもらい、大事にバックの中にしまい込んだ。
「この世で一番保存性が高いのは紙媒体だよ。」
間良はいう。それはいい過ぎだと思ったが、情報化が進展すれば情報量は増加し、情報の密度も増すが、相対的に人の目に触れる情報の量は希薄になる。確かに、二千年以上も昔に羊皮紙に書かれた文書が存在するのだから、記録媒体が貴重で、劣化が激しいほど、保存のために工夫し、大切に扱うものだ。情報化社会の抱えるパラドクスといえるだろう。
二人は一時間ほどして外に出た。昼食を取るためだ。
「ちょっと遠いけどうまい店があるんだ。」
間良のお奨めだ。体格に似合わず前田並に食べるのだ。
中華街を通り抜け、伊勢佐木通りに入る。いかにも古びた外観の中華料理屋に入った。
「中華か、中華街でよかったんじゃないか?」
「あそこは高すぎだ。安くてうまい中華を出す店はいくらでもある。」
二人はほぼメニューを上から順番に頼み、次から次へと平らげていった。エビチリ、ホイコーロー、シュウマイ、レバニラのピーナッツ炒め、マーボー、タンタンメン。あとはいうだけで胸焼けがしてくる。
細身の間良と寝不足の前田、どちらもそんなに空腹である要因はないはずだ。いや、認識の問題なのかもしれない。彼らはそれでも遠慮しているのだとしたら説明はつくだろう。
最後に二人は杏仁豆腐を二つずつ注文した。
「どうだった?いけただろう?」
「ああ、うまかった。」
「ま、しかしお前も大変だな。群馬から新幹線でここまで、交通費は自腹だろう?警察官の薄給じゃもたないんじゃないか?」
「それをいうなよ。それにもう六人も犠牲者がでているんだ。これ以上被害者をだすわけにもいかない。」
「お前は偉いよ。しかし、高崎から横浜までどれくらいかかるもんなんだ、時間は?」
「だいたい一時間半といったところかな。」
「行き帰りで三時間か・・・・・・まぁ、犯行は深夜から朝方にかけてだからな、梧桐冬樹にできないことはないか。それにしても、そんな長距離通学してたら、俺だったらそんな面倒なことしようとも思わないけどな。」
「しかし、奴の犯行は尋常じゃない。きっとまた・・・・・・。」
「六年の沈黙を破って犯行を再開したということか。警察はどうしてその六年前の事件と今回の事件につながりがあると考えたんだ?何か証拠がでたのか?」
「まだだ、昨日の犯行では凶器が発見されたが、今は科捜研からの結果待ちだ。六年前の事件との関連性に気づいたのは、今回の事件には犯行に偏執的な傾向があることが指摘されていたからだ。」
「偏執的?今時はやらないな。変質者なんてどこにでもいるぞ?」
前田はバックの中から書類を取り出した。
「これは六年前の「あいうえお事件」の調査書類をまとめたものだ。そしてこれは今回の事件をまとめたもの、見てくれ。」
「いいのか、俺が見ても?」
「一応警察の関係者だろ?かまわない。」
間良は二枚の書類を手に取って眺めた。

167イチゴ大福:2005/02/19(土) 17:02:06 ID:UJ1is712
「ふんふん、こりゃ確かにパラノイアの犯行だな。内容はお前がまとめたのか?」
「そうだ。それがどうした?」
「なるほど、どおりで。お前の頭の中ではすでに事件が硬直化してるんだ。まとめかたはさすがだよ、うまい。しかし、事件に関する先入観・・・・・・つまりお前の考えや推論が多すぎる。」
「いろいろな意見がある。私一人だけの考えじゃない。」
「そうだろうとも、だからこそ事実を認識する必要がある。誰が、いつ、どこで、どのように殺されたか。犯人像に余計な先入観を与えないためにもな。」
「お前は同僚のようなことを話す。」
「え?」
「今コンビを組んでる警部がいるんだが、その人も同じことをいっていた。犯人が証拠も痕跡も残さないから捜査員は犯人をゴーストと呼んでいるんだけど、「犯人像をいたずらに歪曲するだけだ」といってたしなめられた。まぁ、どこまで本気かわからないような人だけど。」
「面白い人だ。お前にはそれぐらい冷めた人でちょうどいいよ。」
そういって再び資料に目を落とす。
「六年前の事件、これは被害者の苗字があいおうえお順に殺されているからそう呼ばれるようになった。一人目の被害者は藍沢春子、二人目は井ノ頭夏美、三人目は鵜飼秋子、四人目は江合美冬、五人目は・・・・・・不明?どういうことだ?」
「分からないんだ。警察の資料室にあった資料なんだが、五人目の被害者の資料が欠けていた。」
「他には?」
「梧桐冬樹の調書も消えていた。」
「それは誰の仕業かは容易に想像がつくな。しかし、警察の資料だろ?外部の人間が持ち出すとは考えにくいな。梧桐冬樹の資料といっしょに持ち出したケースも考えられるが必然性がないし。」
「警察の中に,誰か五人目の被害者の調書を隠さなければならない人物がいたということか?」
「そう考えるのが自然だろう?」
「しかしなぜ?被疑者の調書を隠したり、盗み出したりするのならわかる。警察のデータベースに個人データを残したくないと考える人間もいるだろうし、または被害者の遺族が被疑者に復讐するために、被疑者の住所を知りたいと考えるかもしれない。しかし、被害者の名前は新聞にも載るから、隠そうと思っても事実上隠蔽することはできない。それに、例え住所を変えても、必要とあれば、裁判所に令状を申請して、合法的に住基ネットにアクセスし、検索することだってできる。」
「まじめな顔でよくそんな恐いことをすらりといえるもんだな。この国にはプライバシーというものがないのか?
しかし、お前のいうことももっともだ。だが、一つお前は見落としていることがある。」
「え?」
前田はわけがわからないというように六年前の事件の調書を手に取る。
「何を見落としているんだ?」
「名前だ。」
「名前?・・・・・・まさか、名前に季節が入っているということか?」
「犯人はなかなか風流な奴らしいな。」
「なんだ、頭が混乱してきたぞ!犯人はあいうえお順に殺してたんじゃなかったのか?」
「その可能性に境界条件を与えることで、なぜ五人目の被害者の調書がないかという疑問に根拠を与えることができる。」
「五人目の被害者は、初めからいなかったということか?」
唖然とする前田を尻目に、間良の手は前田の手付かずの杏仁豆腐に伸びていた。

168イチゴ大福:2005/02/20(日) 15:58:21 ID:9FlSJmaw
18.真実は情報の精度に依存するという事実。Guest in crime scene. ⑧
五人目の被害者がいないのになぜ「あいうえお殺人事件」と呼ばれるようになったのか、彼は帰りの電車に揺られながらノートパソコンを開いて調べていた。
六年という歳月は新たに堆積する情報のために古い記憶を埋没するものだ。それに、T経済大学生殺人事件発生から今日でまだ六日目、昨日の事件があって夕方から頻繁に取り上げられるようになったくらいで、マスコミや週刊誌の反応はまだ鈍いといえる。
しかし、一部のアングラサイトでは早くも六年前の事件との関連性を指摘し、当時の事件をわざわざ図書館まで行って調査までしていた。それによればなんということはない、五人目の被害者の名前が佐伯亜季。四人の被害者から検出された犯人のDNAサンプルと比較したところ一致し、同一の犯人による犯行とされたのだ。佐伯亜季には双子の姉があり、本人のプライバシー保護のため姓名は不明ということだったが、どうやら佐伯亜季の双子の姉は当時結婚していて苗字が変わり、その苗字のイニシャルが“O”だったらしい。犯人はただ単にターゲットを間違えていたのだ。これに関しては間良の推測は残念ながら外れたことになる・・・・・・前田の混乱を誘い、彼の杏仁豆腐を狙うための作戦、というのなら確信犯だが・・・・・・。
しかし、それでもまだ疑問は残る。犯人が被害者を選ぶのに、苗字のイニシャルが「あいうえお」順であること、そして、その通りの順番で名前に「春−夏−秋−冬」がつく人物を選んでいたことから、五人目の被害者になるはずだった人物の名前が一体なんだったのかということだ。
よく「春夏冬中」と書いて「商い中」と読ませることがある。こういった言葉遊びは一般的に知られたことだが、それに似たようなものなのだろうか?
被害者の名前が分かったところで事件が解決するわけではないが、前田は気になって仕方なかった。
また、なぜ佐伯亜季の調書だけが抜き取られていたのか、この理由も解決していない。警察関係者の仕業だとしたら、六年前の事件に関わっていた捜査員があやしいが、やはりそれをする理由が見当たらなかったし、なぜ五人目の被害者だけなのかという疑問がある。
前田はとりあえず分かったことをノートパッドに記してOSをシャットダウンした。ノートパソコンをバックの中に仕舞い込む。
まだ午後の三時だ。間良との食事が前田には楽しかった。あんなに食べ、あんなに話し、あんなに愉快だと感じたのは、やはり間良と過ごした高校時代の思い出のためだろう。大学ももちろん楽しかった。部活に没頭し、単位もなんとか四年で全て取れた。仲間もたくさんできたし、それはそれで楽しかった。しかし、間良ほどトリッキーで頭の回転の速く、自分に素直で正直な人間は、彼の周りにはいなかった。
どこかで自分をよく見せようとする人間・・・・・・人を利用しようとしたり、陰口を叩く人間。性欲を持て余し、女の前では態度を変える男。そして男の前では態度が変わる女。人を貶めて自分を良く見せようとする人間。一人では何もできないくせに、人を揶揄する人間。どこか駆け引きの場に引き込まれたような感覚さえ覚えた大学の人間関係には辟易したこともあったが、それでもこれが社会では当たり前の人間関係なのだろうと思い、適応した。今でも、同窓会やラグビー部のOB・OG会から同窓会の誘いがあるが、仕事を理由に一度も出席したことはない。きっと、彼のことを口悪くいって笑いに興じていることだろう。そういう話を彼はよく聞いていたからだ。そんなレヴェルでしか、彼らの会話は成立しないのだ。それでも彼は腹も立たなかった。それはある意味、彼の父の存在があり、彼の妻の存在があり、大洗や間良といった、数少ない聡明な人間の存在が彼の周囲にいたことの幸運といえるだろう。
警察官になったのは成り行きのようなところもあるが、今にして思えば彼には天職だったといえる。特に、大洗の相棒として県警に配属されてからの前田は水を得た魚だった。所轄から県警に転属になって三年、日々の激務にありながら愚痴ひとつこぼさない理由は大洗と関わっていると時間などあっという間に過ぎてしまうからだ。光のように速い大洗の頭脳をトレースするのは、前田にとっては苦痛どころか楽しくさえあった。大学に在学中には経験できなかった感覚、それなのに高校時代は体験していたセンス。飛躍した思考の行き場のなさは大学では持て余す邪魔な存在でしかなかった。
「つまらない人生はつまらない人間のものだ。」
彼はひとり口のなかで呟いた。

169イチゴ大福:2005/02/21(月) 11:44:07 ID:QYpEv7pY
19.殺人者は眠らない、前田くんは眠ることすら許されない。
高崎駅に着くと、彼は車をとりに戻った。その足で一度帰宅し、仮眠をとる。
梧桐冬樹を監視しているとはいえ、その行動を把握できない以上、長期戦に備えてなるべく体力を温存しておく必要があった。
「こんな技術があるなら、お前に知りえないことなんてないんだろうな。」
そういった前田に間良はこういった。
「ネットワークにアクセスすればどんな情報でも収集できると考える安易な人間がいるようだが、それは間違いだ。
ネットワークの充実によって確かに共有される情報の量は増えたが、しかし、それでもひとりの人間が触れることのできる情報量というのは限られている。それに、情報が他者によって知覚されるためには、情報の占有者がその情報を発信しなくてはならない。それは言葉であり、文書であり、ネットワークであったりする。だが、占有した情報、または処理、加工し再構築した情報をすべてアウトプットすることは不可能だ。つまり、すべての人間が脳をニューラルなネットで並列化し、情報を共有できるインフラが整わなければ、本当の意味で“すべてを知る”ことはできない。
しかし、考えてみてほしい。もし、すべての人間の脳がすべて同じ情報を共有するとして、他者と自己を比較する境界線とはいったいなんだろう?文化や価値尺度、歴史認識や主義思想、こうした複雑かつ繊細で膨大な情報がまったく同じく共有することで、はたして個と他を隔てるものはいったいなんだろうか?まぁ、人間の脳は非常に複雑精緻な構造をしているし、今いったような要因だけで個と他の差異性を無意味化することはできないが、自己を社会のシステムに投影することでシステムとしての人間であることに適応することはある種個の没個性化であり、それによって多くのシステムとなった没個性が相対的に自己認識という覚醒にいたるのは偶然であるよりはむしろ必然だ。個を喪失することで必然的に知覚される“個”は、しかし、あくまで共通認識のレヴェルであり、それ自体には意味がない。重要なのは、それが自分の頭の中で起こったという事実だけだ。
すべてを知ることができないという物理的制約は神が人間に与えた最後の足枷だが、それをはずしてまで知りたい情報があるとすれば、その瞬間、その情報を求めること自体が意味を失い、個は全体となり、全体は個に集約され、絶対的な個という存在の不確定的事実のために人間という集合は存在しえなくなる。」
午後十時過ぎに梧桐冬樹が帰宅、それから午前一時に彼の部屋から明かりが消えると、前田は午前二時まで監視を続けた。前田は、今日はこれ以上動きがないだろうと考え梧桐冬樹の実家を後にした。
情報の共有が不完全な世界では、何かを知ろうとすれば大変な時間と努力が必要になる。たとえそれが前田のように正義をなすために必要と認識されるような類の情報でもだ。
前田は家族のことを考える。例え仕事のためとはいえ、家族に費やす時間より他人の、しかも犯罪者のために費やす時間のほうが多くていいのだろうか?他の警察官はどんな思いでこの仕事についているのだろうか?それは家族をもつものの悩みであった。そしてふとあることに思い当たる。「警部の家族って聞いたことがなかったな。」
フロントガラスに何かが付着したのに気づいた。赤信号で停車した彼は、前のめりになって空を眺めた。雪が降り始めていた。

170イチゴ大福:2005/02/22(火) 18:10:10 ID:o5whT8Qc
20.今宵、高崎に降る雪よ・・・・・・。
その夜は不思議な夜だった。
白い綿毛のような雪が降りながらも空は晴れ渡り、鋭い寒気のために星空の眺めが冴えるようだった。
「それでも月は見ていてくれている。」
舞い降りる雪の一片が彼女の手に触れる。それは感激の瞬間であり、安堵の予感だった。
誰かが見ていてくれていることで安らぎを感じたのは、彼女にはこれが初めての経験だった。
雪がすべてを隠そうとする。
彼女を隠し、大地を隠し、出来事のすべてを隠してくれる。
流された血も、殺意の理由も、彼女の存在も、それが触れた瞬間それはそれでなくなる。雪の白というメタフォリック。浄化された色。着色されない意志。それは染まらないことで保たれた純粋なる魂。
「私は血を取り戻しただけ。」
滑らかなピアニストの手が血に触れる。
血に染まる白、侵食される白。
白は弱く、自らを守る術もない。
「まだ血が足りない。」
染まることで得られる力。彼女の信じた力。
求める力。得られない力。
「力、力、力・・・・・・力が欲しい。」
雪は降り続ける。そして、月は照らし続ける。

171イチゴ大福:2005/02/22(火) 18:21:42 ID:o5whT8Qc
21.金の生る木。Fanatic for the fantastic. ①
昨夜遅くから降り始めた雪は関東一帯を久しぶりの雪で覆った。
電車やバス、高速道路や空の便で一部支障がでてきてはいるが、前田がタイヤ交換のために外にでたころには雪はだいぶ小降りになっていた。
日本海側から張り出した低気圧は、日本海で水分を含み、偏西風にのって関東平野に吹きすさぶが、赤城や浅間、榛名といった山々で雨となり雪となって降りつくすため、いわゆる「空っ風」と呼ばれる冷たく乾いた風が吹くことになる。太平洋側からの高気圧が北関東に上昇すると、今日のような、晴れていながら雪が降るという面白い天気が見られる。
前田は奥さんの軽自動車もいっしょにタイヤを交換した。群馬では一人一台自家用車の風潮があるが、実際車がないと不便どころか生活ができないといっていい。公共交通が発達していない地方都市ではどこも似たようなものだと感じるかもしれないが、群馬は異質だ。
自動車の所有に関する執着と、それによるステータス意識が他県とは度合いが違うかもしれない。その分、前田のようにタイヤ交換で苦労する人間も多くいるということだ。
三日ぶりのまともな朝食にありついた前田は、おそらく人よりも温かい飯のありがたみを知っている人間だろう。十分で食べて仕事にいくはずだったが、ついついじっくり一時間も食卓についていた。何も食事だけで一時間もかかったわけではない。日頃、なかなか時間が合わないだけに、生活にかかわる雑事を奥さんと話し合ったりしていたのだ。保険や住宅ローン、自動車のローンに教育費と積み立て。積み立てとはいっても家計は火の車だ。積めるほどあるわけがない。
「このまま積み立てて、まぁこの子を大学まで出すとしてよ、今のまま定年退職まで働いてだいたいこれくらいの生涯所得でしょう?そこに退職金がはいって、これくらい。ここからローンと金利を差し引いてだいたいこれくらいね。」
前田がその額を見て驚く。普段事件のことばかり考えている彼には予想だにしなかった金額だ。
「す、少ないな?」
「年金の受給額はどんどん先延ばしにされてるでしょう?現段階だと年金が受け取れるまでに何年か空白期間があるのよ。でも、この金額じゃ生活できないでしょう?」
「す、すまない。」
前田はうなだれた。奥さんは笑って返す。
「別にあなたを責めてるわけじゃないのよ。だから、今から何かしらの資産運用を考えようと思うのよ。それでね、この前銀行に行ったとき、今積み立ててる定期預金が結構な金額になってるでしょう?どうせ金利なんてついてもないようなもんなんだから、少しずつ運用してみませんかって誘われて。」
「株やるの?」
「どんな銘柄の株を買うかは銀行が紹介してくれるんだけど・・・・・・」
ほとほと金には無頓着な前田は一時間ほどで食卓から離れた。結局は奥さんに任せるのが一番うまくいくのだということを、彼は経験的に知っていた。もちろん、前田もサポートはする。だが、前田にできるサポートは、彼女が前に踏み出すためのあと一歩を後押しすることだけだ。
「良さそうじゃないか。君がそんなに自信があるならやってみたらいいよ。」
とはいいつつも、実際彼には株の何がいいのかわからなかった。
「財形貯蓄?資産運用?非課税対象銘柄?」
彼の疑問がどんなに空回りしていたとしても、時間はとどまることを知らない。
捜査本部が設置されている高崎警察署に到着した彼はまっすぐ会議室に向かった。案の定、大洗はパイプ椅子をベット代わりにして眠っていた。自宅には帰らないのだろうか?
前田はコーヒーを淹れ、それを簡易テーブルの上においた。
「警部、おはようございます。気持ちのいい朝ですよ。」
いうと、大洗はいかにも不機嫌そうな顔で前田を睨んだ。
「まったく、寒くて眠れやしなかった。暖房くらいけちんなや!」
「コーヒー淹れました。どうぞ。」
それを見ると大洗は手元にあったスティック砂糖を二本とクリームをたっぷり入れた。
「甘そうですね。」
「甘くないコーヒーなんざコーヒーじゃない。」
「ドイツの諺ですか?」
「そういう人間もいるという例えだ。」
カップを飲み干し、今度は自分でコーヒーを注いだ。
「で、どうだった、梧桐冬樹の動きは?」
前田はバックから梧桐冬樹の調書を取り出した。

172イチゴ大福:2005/02/22(火) 18:23:18 ID:o5whT8Qc
「昨晩から張り込んでみましたが、とくに目立った動きはありませんでした。現在は大学に通っているらしく、大学までつけてみたんですが、有名私立のK大学でキャンパスが横浜にあるんです。往復で三時間以上かかりましたよ。これが調書です。」
大洗はカップをテーブルの上に置くと、書類を手にした。
「医学部の一年生です。一浪しているようなんですが・・・・・・。」
「いや、六年前の事件のあと奴はしばらく学校を休んでいたんだ。その後、ほとぼりが冷めた頃に転校していったが、進級は認められずに一年留年したんだ。で、何を言いかけた?」
「いえ、梧桐はK大の医学部に推薦で合格しているんですが、このとき彼の身内から不正な金の流れがあったようなんです。これを見てください。これは去年の医学部の推薦入学者のリストです。」
「ほぉ、この備考欄というのがそれだな?」
「梧桐の金額を見てください。たった二百万です。他は少なくても一千万に近い金額はでています。それから、このリストを見てください。このアドレスのリストは、K大医学部学部長の、根路銘教授の携帯電話のものです。」
「おい、どうやってこんなもの見つけたんだ!?」
「友人にその手のプロがいまして。快く協力してくれました。」
「恐い奴だな。それで?」
「これです。梧桐警視正の名前があるんです。ここがわからないんです。梧桐警視正と根路銘教授がT大の同期だということは分かっているんですが、だとして、どうしてこんな中途半端な額を渡したりしたんでしょう?おそらく裏口入学の相場というものがあるのでしょう。根路銘にしてみれば、一千万単位の額の金を運んでくれる鴨はわんさかいたわけじゃないですか?梧桐警視正の便宜を図るのだとすれば、二百万なんて受け取らないほうがより良好な関係を築けるでしょうし、梧桐警視正にしてもですよ、いくらなんでも他の人間が一千万も払っているのを知らないわけじゃないでしょう?「だったら値引いて二百万くらい受け取ってくださいよ」なんてケチなことをいうとは思えないんです。」
「金の出所は梧桐警視正の弟であり梧桐冬樹の父である政治家の梧桐彦次だろう。同期のよしみを利用して梧桐警視正を経由して根路銘教授に金が渡った。しかし、その途中どこかで金を落としてしまったらしいな。」
「そんな、子供のお使いじゃあるまいし。」
「宗教法人“ファイの証人”を知っているか?」
“ファイの証人”は全国的に展開している日本でも有数の大規模な宗教法人で、団体の名前は勿論、空集合を表す“φ”のことである。「木火土金水の陰陽五行説を独自の解釈で体系化し、世界に真の救済を齎す」、という謳い文句だが、実情は信者に多額のお布施を要求したり、財産を寄付させたりと、えげつない詐欺紛いの行為で、信者の家族からは、詐欺や拉致監禁、致傷や名誉毀損、脅迫やそれに準ずる罪などで告発されており、団体施設が隣接している地域住民とのいざこざは後を絶たない。

173イチゴ大福:2005/02/22(火) 18:24:06 ID:o5whT8Qc
現在でも、一部の狂信的な信者が殺人をしたのではないかとの噂もながれたことがあり、信者家族から団体施設内部の立ち入り検査が可能かどうかが法的にどう解釈されるのかが争点となっている。とにかく危ない宗教団体であることは確かだ。
「ええ、知っています。」
「梧桐警視正がファイの証人に強請られてたらしい、という情報がある。どんなおいしいネタで強請られていたのかははっきりしないがな。」
「まさか、梧桐冬樹の件がファイの証人に流れて、それをネタに?」
「六年前の事件では梧桐冬樹は未成年者だったこともあり、奴のデータは流れなかった。一部週刊誌が報道協定を破り、連続強姦殺人魔の写真からプロフィールまで洗いざらい載せようとしたが、公安の迅速な活躍で事前に阻止された。今では、事件は、当時の捜査員の頭の中にのみ残るだけだ。
もしファイの証人のなかに当時の警察関係者、または報道関係者がその当時の記録、つまり梧桐警視正と検察との取引を阻止するために警察が流したデータを持っている人間がいたとしたら、実に愉快な出来事だとは思わないか?」
「愉快ではありませんが、説明はつきますね。そのために梧桐警視正は金の準備に困っていた。そこで、梧桐冬樹の大学受験を利用して金を捻出したということですね?」
「自分の弟に、大学の同期にK大医学部の学部長をしている奴がいるとでも吹き込んだんだろう。いくらふんだくったのかは知らないが、根路銘教授には「世間知らずで駆け出しの代議士だ。金はないが政財界とのコネクションはある。少ないがこれで一つ頼む。」なんて芝居を打ったのかもしない。金が流れた事実があれば両者ともにそれ以上口は開く理由はないだろう。まぁ、なんにしてもピンはねした金はファイの証人に流れたといっていいだろう。」
「泥沼ですね。しかし、今回の事件との関連性はなさそうですが。」
「なに、持ち札はいくらあっても足りなくなることはない。要は、梧桐警視正と対等に渡り合える“力”が必要なだけだ。奴がどんな妨害工作にでても、それに対抗できるだけの切り札は必要だ。幸い、梧桐警視正は、人に話せないような大問題を抱えているといえる。その尻尾を掴んで損はない。それに、もうひとつ面白い話を聞かせてやろう、六年前の「あいうえお事件」の最初の被害者、藍沢春子はファイの証人のメンバだった。そして、今回の事件の一人目の被害者、藍沢由布子は、彼女の妹だ。」
「え?・・・・・・調書にはそんなことは書かれていませんでしたが!」
「藍沢春子が生まれるとすぐに両親は体調を崩して入院してしまった。父親には弟が一人いて、これには子供がいなかった。そこで、将来どうなるかもわからない夫婦の子供でいるよりは、弟夫婦の養子にしたほうがいいと考えたんだろう、春子は生まれてすぐに弟夫妻の養子になった。その後、兄夫婦は元気になり、二人目の子供にも恵まれた。それが由布子だった。戸籍は違うが、紛れもなく姉妹だ。これも、当時捜査に関わった人間しか知りえない情報だ。」
「それで・・・・・・悲劇としかいいようがありませんね。」
「六年前、春子が殺害されたとき、彼女がファイの証人の信者だったことから団体の犯行説が俄かに囁かれたことはいうまでもない。しかし、梧桐冬樹の登場で団体の存在は舞台から消えてしまった。」
「六年前の事件と今回の事件には教団が関係しているということですか?」
「ふん、それだけだといいがな。」
前田がカップを口に運ぶ。すでに冷たく、苦さだけが咽喉に残った。
そのとき、彼の無線に捜査本部から入電が入った。
七人目の被害者がでたという報せだった。

174イチゴ大福:2005/02/23(水) 18:44:51 ID:ica9eRow
22.七人目の理由。空間的非整合性と知覚的不合理性。Fanatic for the fantastic. ②
二月七日早朝、七人目の被害者が大学キャンパス内で発見された。キャンパス内の清掃を委託されている業者の従業員が、業務中に発見し、110番通報した。
「午前二時まで自宅近くで張り込んでいたのですが・・・・・・。」
前田は言葉を噤んだ。言葉が出なかったのだ。それを大洗が宥める。
「気にするな、職務中ではなかったんだしな。それに、お前はろくに寝もせずによくやってるよ。」
「いいえ、どうせ今日はもう動かないだろうとたかをくくってた自分の責任です。」
「朝の七時半にでて、帰ってきたのが夜の十時過ぎだろ?そう考えるのは普通だ。完璧にこなそうとするな。うざい!」
大洗が突然切れるのは珍しいことではないし、前田も決して驚かない。ごく当たり前のことだった。前田は気を取り直して話題をかえることにした。
「わかりました。しかし、キャンパス内とは犯行が大胆になってきていますね。」
前田がいう。大洗は憚ることなく大きな欠伸をしていた。事件よりも眠気のほうが重要らしい。
「ひと気がないからな、あそこの付近は。むしろ、どうやって真夜中にキャンパスに呼び寄せたのか、そっちのほうが疑問だ。」
「そうですね。知り合いの犯行でしょうか?」
「事件が相次いでいるんだ、いくらなんでも警戒くらいするだろ。よっぽどのっぴきならない事情があったんだ。」
「では、警部は、今回の犯行はゴーストの仕業ではないと考えているんですか?しかし、のっぴきならない事情といっても、・・・・・・まさか、弱みを握られていたとか?梧桐の件じゃありませんが、K大学ならまだしも、T経済大学で裏口入学なんて意味がないと思いますけど。」
「奴の犯行かどうかは現場を見ればわかることだ。それに、人に知られたくないことなんていくらでもあるもんだろう?」
「警部はどうです?人に知られたくないことって、やっぱりあるんですか?」
「秘密というのは、秘密があると知られた時点で既に秘密ではなくなる。」
「なるほど、それはいえてますね。しかし、警部は、私にいわせてもらえれば、警部のことをほとんど知らないので、秘密というより謎の存在ですよ。」
「ミステリアスで結構じゃないか。」
そういって笑う。
謎というのは疑問が表面化することでのみ生じる限定的な現象であるといえる。
前田の疑問であった、大洗警部は結婚しているのか、という疑問は、彼の指に輝く銀の指輪によって解消された。知ろうと思えばいつでも知りえた事実。今まで疑問に思わなかったのは、それが知る必要のない情報だったからかもしれない。
「じゃ、なんで今頃必要になったんだ?」
それは、前田にとっての新たな謎であった。
謎は解決しないことによってのみ不合理であると認識される。つまり、結果さえわかれば納得はいくものだ。
そう考えて、自分がなんて当たり前のことをいっているのだろうかと頭を振った。
「私たちの仕事は謎を解決することです。」
「おいおい、俺のプライベートは解決しなくていいぞ。」
現場に到着するとすでに所轄の刑事がたむろっていた。現場は図書館入り口の目の前だった。前田は、大胆にもほどがある、と思いながらも、やはり自分があのとき・・・・・・、という思いで苦虫を噛み潰した面持ちだった。
現場には、三件目の荻野悠貴の事件で会った松山刑事と、一昨日の捜査会議で「あいうえお事件」との関連性を指摘した報告をした刑事もいた。

175イチゴ大福:2005/02/23(水) 18:45:46 ID:ica9eRow
「また会っちゃった。」
大洗がおどけたようにいう。松山も調子を合わせていう。
「なんとかが触れるも多少の縁ってね。警部、お疲れ様です。」
「まぁ、腐れ縁ってやつでね。どうもお疲れさん。仏さんはどうです?やっぱり?」
“心臓に一突き”という動作を大洗がすると、松山はこくりと頷いた。
「一日お休みと思ったら、まぁ、よくコンスタントにやるもんですよ。今、鑑識が入ってますがね、死因はそれで間違いないらしい。死亡時刻は今朝方の四時ごろとみてほぼ間違いないでしょうな。」
「年寄りのいうことはあてになんないやぁね?どれ、仏さん、拝ませてもらえます?」
松山はブルーシートをめくると、中を隠すように体を前に覆った。
後ろから続いてきた前田がいう。
「警部、さっきのなんです?」
「なんですって、何がだ?」
「年寄りがどうのこうのって?」
「早起きは三文の得っていうだろ?殺されちゃかなわないってことだ。」
「午前四時というのは、早朝の部活にしては早過ぎますね。かといって、そんな時間まで飲んでいたなら、飲みなおすにしても寝るにしても、図書館の前に来る理由はありません。」
被害者はやはりゴーストの犯行を裏付ける傷を受けていた。犯人しか知りえない殺し方。手足に二十箇所の刺し傷と心臓へのたった一突きの致命傷。犯人は、自分が殺したことを警察に観て貰いたがっているのだろうか?自分が殺したという証を、自分以外には殺せないという真実を、そして、まだ殺す意思があるのだという確信を、我々に見せつけたいのだろうか?前田はそこで我に返った。大洗は一人でしゃべり始めていた。
「これは喜多川のケースに似ているな?そう思わないか?」
「喜多川は室内でした。」
「踊り場で殺されてるんだ、しかも午前四時、刃物を持った人間が近づいてきたら嫌でも気づくだろう?なぜこいつは逃げなかった?」
「さぁ・・・・・・刃物を隠した顔見知りだった?でも、やはり最初の疑問は残ります。なぜこんな時間にこんな場所にいたのか?犯人はどんな手を使って呼び出したのか?」
「もうひとつだ、なぜこいつが殺されなければならなかったか?」
「あっ!今回は、学籍番号はどうなんです?」
前田は思い出したように尋ねた。大洗は手元にあった学生証を渡した。
「犯人はそろそろ考えることをやめたらしい。」
見ると、“×××−003”だった。
「どういうことでしょう?やはり、学生も警戒しはじめたために数字合わせの殺人が困難になってやけくそになった、とういうことでしょうか?」
「わからないぞ。今度は素数に興味がでたのかもしれない。」
「素数なら、ざっと思い浮かべただけでも“3”、“5”、“7”、“11”、“13”、“17”とけっこうありますね?一昨日までの事件ですでに“2”、“4”、“6”、“8”、“12”、“16”の学籍番号は殺されています。まるで、二十以下の学籍番号の学生を集中的に狙ってるようにも受け取れますね。」
「たしかに、四学年、ニ学部あるのを考慮しなければ、そういう見方もできるな。」
「本当に、学生の間にはなんらつながりはないんでしょうか?藍沢春子と藍沢由布子の件といい、やはり“ファイの証人”が関係しているんじゃ?」
「まだ、事件発生から七日目だ。被害者に関する情報も充分であるとはいえない。しかし、犯人が誰かは検討がついている。あとは、根気比べだ。足元を見てれば霧のなかでも綱渡りはできる。どれだけの距離を歩いたかは、渡りきったあとに知ったって遅くはない。」

176イチゴ大福:2005/02/24(木) 14:11:31 ID:ZVTzKnuc
23.現実という名の幻想。幻想という名の狂気。Fanatic for the fantastic. ③
「五里霧中とはこういうことをいうのだろうか?」前田はひとりごちた。
梧桐冬樹が今回の事件の犯人だとすれば、犯行に規則性、法則性があるのもうなずける。偏執的傾向のある犯罪者はその自己顕示欲や几帳面な性格から同じ手口で再犯を繰り返すというのは一般的に犯罪心理学の分野では知られたことだ。それに、六年前の事件の最初の被害者と、今回の事件の最初の被害者に関係があったというのも、犯行が同一人物のものであり、頑なに六年前の事件を模倣しているといえなくもない。しかし、まるで幽霊のように、現場に髪の毛一本すら証拠を残さない今回の犯行は、六年前の事件とはまるで別人のもののような印象すら受ける。それに、今回の事件の被害者のほとんどが男であるというのも重要な点であった。六年前の事件では被害者は全員が女であった。これは、強姦目的の犯行でもあったことからも説明がつくのだが、今回は藍沢由布子を除いて被害者はすべて男である。しかも、生殺しともいえるような時間をかけた殺し方は、正気の人間のすることとは思えなかった。
とうの犯人と目される人物、梧桐冬樹は、伯父のコネを借りて有名私立大学であるK大学医学部に推薦で入学していた。他人の人生を踏みにじった人間がこんなにも恵まれた生活をしているというのは、どだい前田には納得のいくものではなかった。「なんとかして捕まえたい」そう思えば思うほど、彼の怒りはやり場をなくし、空回りするのだった。犯人検挙につながる手がかりが、六年前の犯行との類似性以外指摘できないというのは、大洗の言葉ではないが、濃い霧の中を綱渡りしているような、気の遠くなるような絶望感があり、それが前田を一層焦らせていた。
「一昨日の事件のレポートです。喜多川のアパートと、葛西の実家の鑑識結果がでました。」
捜査会議室に戻ると所轄の刑事がレポートを手渡してくれた。
喜多川の背中に残された包丁は本人のもので、指紋はでておらず、室内には複数の指紋が確認されたが、喜多川の携帯電話のアドレスから確認のとれた人物のものと照会したところ、すべて一致していたようだ。
毛髪、体毛の類もすべて照会したが、本人と彼の友人のもの以外には発見されなかった。
「やはり何も残していませんね?」
「体毛を処理しているのかもしれないな。オカマを掘られているのだとしたら、鬘を被っていた可能性もあるからな、毛髪がでないのも納得はいく。指紋は、何か手袋でもしていたんだろう。」
「しかし、梧桐冬樹はK大の学生ですよ。T経済大の学生の名簿なんてどうやって入手したんでしょう?」
「手に入れるだけならいくらでも方法はあるだろう?お前のお友達だって、人には言えないようなことで根路銘教授の携帯アドレスを盗んだわけだしな。」
そういって意地悪く笑う。
「あまり大きい声でいわないでください。」
「なんにしてもだ、名簿が流れる以上、流した人間がいることは確かだ。在学生の名簿を持ってる人間なんてたかが知れてるだろう?そこでだ、T経済大学OBである前田巡査長の出番、というわけだよ。」
「私・・・・・・ですか?」
「お前が一番詳しいだろ、そういう情報のルートは?なんだ、知らないのか?」
「い、いえ。知らないということはありませんが・・・・・・。」
「よし、じゃ連れて行け。」

177イチゴ大福:2005/02/25(金) 13:02:41 ID:YKzgiseg
24.犬の町のひとたち。Fanatic for the fantastic. ④
前田は大学に問い合わせ、応援団団長の住所と氏名、連絡先を教えてもらった。前田は対応した事務職員に「あくまで参考までに訊きたいことがあるだけ」だと念を押したが、職員の表情は硬直していた。無理もない、一週間で七人も同じ大学から被害者を出したのだ。この時期に警察に事情聴取を受ける人間がどんな誤解を受けるかは想像するまでもない。
「で、その応援団長が名簿を持っているのか?」
「私は応援団にいたことはないので詳しくはわかりませんが、学内では非常に優遇されていたことは確かです。新入生の勧誘でも、やはり情報がどこからか流れているらしくて、応援団の勧誘がきたのを覚えてますよ。」
「今の若いのが、応援団なんて、汗臭いうえに男臭い集団に入るのか?信じられんな。」
確かに、応援団ははたから見ていても大変そうだとは思っていた。
完全な縦社会で、軍隊並の上意下達が徹底されており、服装はたいがいジャージか学ラン。髪型も長髪や茶髪などいるはずもなく、昼休みには図書館前の広場で応援歌の練習をしている。この歌声に何度、図書館でいらいらしたか分からないのは、何も前田だけではないはずだ。
最近の音楽の傾向やファッションには疎い前田だったが、渋谷に深夜までたむろする中学生の存在や、B系と呼ばれるようなファッションが、どういう音楽を愛好する人たちに好まれるかくらいは知っていたので、さすがに時代に変化に適応できず、あとは化石のような、緩慢な死を待つだけの死に体になっているのでは、という考えが頭の隅にはあった。
しかし、大学の事務がその連絡先を教えてくれたということは、まだ顕在ということなのだろう。「さすが」と思う反面、「どんな人間がやってるんだ?」という不安が頭を擡げていた。一瞬、黒ずくめのジャージ姿でスノーボードやラップを歌っている団員の姿が思い浮かび、噴出しそうになった。
団長の茂田井勝宏は現在学部の三年生で、四月には四年生になる。団長役の引継ぎは既に終えているらしく、三年の茂田井が団長についていた。
彼のアパートに着くと、アパートの前で茂田井と思しき男子学生が、学ラン姿で待っていた。団長にしてはどこか貫禄に欠けていた。
おそらく学生事務から連絡があったのだろう、この風の強い中、よく外で待つものだと感心する反面、愚直さが滑稽に感じた。
「おはようございます、群馬県警の大洗警部です。こちらは前田巡査長。どうぞよろしく。」
「お勤めご苦労様です!私くしは茂田井勝宏であります。以後よろしくお願いいたします!」
深々と頭を下げた茂田井に大洗は呆れた顔をしてみせたが、前田は無言でそれを諌めた。大洗も「お付き合いなら仕方ない」といった顔で茂田井に向き直った。
「ちょっと訊きたいことがあるんですがね。在学生の名簿って、持ってます?」
茂田井は「はぁ?」という顔をしたが、気を取り直して答えた。
「ええ、新入生のでしたら持っておりますが。」
「それは、学生全員分載ってるの?」
「新入生だけです。勧誘に使うので、新入生以外はあっても意味がありませんので。」
「そう。ところで、その使い終わった名簿ってどうしてます?」
「管理しておりますが。」
「誰かに売ったり、渡したりしたことはあります?」
「いいえ、それはありません。」
「絶対?前の団長とか、過去に誰かに渡ったことってないの?」
大洗の顔が徐々に刑事のそれになっていく。「隠しても無駄だよ、だって僕ら刑事だもん」といわんばかりの言い知れぬ迫力が、茂田井を圧迫していた。
茂田井は少し考え、そして重たい口を開き始めた。
「私は末端ですので、詳しいことは分かりませんが、昔はそういうことがあったというようなことは聞いています。」

178イチゴ大福:2005/02/25(金) 13:03:36 ID:YKzgiseg
団長のくせに末端とはよく言えたものだと思いながらも、前田は黙って聞いていた。
「ほぉ、昔ねぇ。どれくらい昔なの?」
「え?・・・・・・その、去年ですとか、一昨年ですとか。・・・・・・うちは公立でから、前期日程も始まってないので、今年はまだ名簿を作ることすらできませんよ。」
「でさ、どんな人に渡ってるのかな?」
「渡すとはいっても、結局は学内で流通するくらいで、外には出ていないかと。」
「じゃあさ、昔、ホモの団長とかいなかった?」
茂田井はその質問に一瞬顔を硬直させた。大洗はそれを見逃さなかった。
「悪いようにはしないからさ、教えてくれない?」
茂田井は観念したようにうなだれ、話し始めた。
「私が言ったことはどうか内密にしておいてください。実は、応援団の先輩から聞いたことなんで、確かかどうかは分からないんですが、六年前にいた団長というのがゲイだったらしくて、みんな大変だったと聞いたことがあります。」
「ほぉ、六年前?その方の名前は?」
「熊田孝治さんです。その手の店にも出入りしてたらしくて、本物だったらしいですよ。なんでも、警察の偉い人のお坊ちゃんとも関係があったそうなんですけどね・・・・・・あの、今起きてる殺人事件と関係があるんですか?」
「うん、あるよ。でもね、今私らが話したことは一切口外しないでもらいたんですよ?話したらどうなるか、わかってると思いますけど、もしそんな話がこちらの耳に入ってきたら、私らも仕事上、君をなんとかしなくちゃならないんでね。」
とても元音楽家とは思えない脅しっぷりで、大洗は簡単に礼をいうとその場を後にした。
車に乗り込み、行き先もまだ決まらないうちに前田は車を走らせた。
「いましたね?」
「あんまり想像はしたくないが、六年前から梧桐冬樹と熊田孝治の関係が継続しているとすれば、どんな経路でも名簿の入手は可能だろうな。」
「では、熊田孝治を洗いますか?」
「いや、熊田から名簿が流れているということが分かっただけで充分だ。次は六年前の事件の第一被害者、藍沢春子の実家へ行くぞ。」
「なぜです?」
「梧桐冬樹が藍沢姉妹を狙った理由がなんのか、それを調べるためだ。」
「確かに、藍沢春子を初めとした事件は、その理由がわりとすんなり解釈できますし、犯罪に対する固執した傾向は終始貫徹しています。しかし、藍沢由布子を始めとする今回の事件に関しては、数字の意味づけは、殺人のためのあてつけのような感じもしますし、法則性には、気づかなければ誰もわからないような要素まで入っています。殺し方も、四件目の喜多川だけは違いますし、異常者を装ったというか、状況に応じて柔軟に行動しているという点も不可思議です。」
「時間の経過や環境の変化によって多少の変化は考えられなくもない。または、今回の事件が模倣犯の犯行だとしても、やはり、なぜ藍沢由布子が真っ先に殺されたのか、ただの偶然で処理するにしても根拠は欲しいだろう。藍沢由布子の代わりはあと七人いたんだからな。」
「藍沢春子と藍沢由布子は、戸籍上は姉妹ではないですから、確かに気にはなりますね。」
「確か住所は前橋だったな。さて、今から行って昼頃か。誰かいてくれるといいが。」
「アポはとらないんですか?」
「実質、娘が二人も死んだんだ、「はい、どうぞ」なんて話しに応じてくれるはずがない。こういうのは突然お邪魔して何気に話を誘導するんだよ。ほら、ヨネスケのやってた“隣の晩御飯”っていう番組しらないか?意表をついて尚且つ相手に考える余地を与えない。ヨネスケの極意だよ。でなかったら、あんなオッサンに晩御飯なんかやらんぞ。」
「落語協会の理事ですよ、ヨネスケは。ていうか、なんで隣の晩御飯を知ってるんですか!?」

179イチゴ大福:2005/02/26(土) 11:59:25 ID:D0p7jBWY
25.突撃!前橋の昼ごはん。Fanatic for the fantastic. ⑤  
県庁所在地でありながら隣接する高崎市に新幹線や在来線などの、北陸地方や北関東各地への足を含め、商業基盤を奪われた形の前橋市は、高崎市とは歴史的にも非常に根深い“関係”をもっており、その人口規模や産業形態も非常に良く似たところがある。ただし、やはり両者の一筋縄ではいかない“関係”は、第三者から観るものとはまた異なり、前橋と高崎、両市の異質性を強調するともに、言葉尻には決まって「うちのほうが良さげだんべぇ!」と上州気質を顕にする。
前田もその一人であり、彼の父がM工科大学の教授であることからも分かるように、前橋出身者である。利根川にかかる群馬大橋を渡ると、左手に見えた県庁を眺めて満足そうに微笑む。
「やっぱり前橋はいいですね。」
「お前はT経済大のOBだろ?」
「それとこれとは別ですよ。なんていうか、風情があるじゃないですか?」
「風情だぁ?」
大洗は車内から商店街を見渡した。平日の昼だというのに人通りは少なく、自動車の交通量も少ない。ケヤキ並木が整備された綺麗な道路だとは思うが、鬱蒼と光を遮るその姿はどこか寂しげだ。大洗はそれでも満足そうな前田を見て返す言葉が見つからなかった。
機嫌の良い前田と、そんな彼に一抹の不安を抱える大洗を乗せた車は、正午を少し過ぎた頃、藍沢由布子の実家に到着した。
県内有数の製造業社の会社役員という藍沢由布子の父、藍沢満寿夫は、国内製造業が不況に見舞われている経済状況をものともせず、好調な業績を堅持していた。前田は、そんな藍沢の成功の象徴ともいうべき巨大な注文住宅を眺め、溜息をついた。
「やはり会社役員にもなると、給料もいいんでしょうね?」
「お前もぼんやりしてないで、給料分は働け。」
「もっと貰っても罰はあたらない働きはしていると思いますが・・・・・・。」
大洗はインターフォンを押す。「警察のものですが」そういうと、すぐに玄関から中年の女性が現れた。汚いものを見るような目は警察を軽蔑しているのだと察することができた。
「この度はたいへんご愁傷様でした。」
「警察の方にはもう何度も同じことをお話いたしました。これ以上お話するようなことは・・・・・・。」
「六年前に被害に遭われた春子さんは、あなたの実のお子さんですよね?」
女性の顔に変化が現れた。明らかに驚いている顔だった。
「え、ええ・・・・・・義弟夫婦に聞いたんですね?で、どんなご用で?」
「春子さんは生前、ファイの証人という宗教団体に所属していらしたと伺いまして、少しお話をと思い、ご迷惑も顧ず、お邪魔いたしましたもので。」
「ああ、そのことですか。・・・・・・当時だって、あいつらが怪しいって言ったのに今更!・・・・・・いえ、ごめんなさい、ちょっとイライラしていて。・・・・・・立ち話もなんですから、どうぞお上がりください。」
柵を開けて中に入る。夫人に誘導され、客間に通された。ソファとテーブルがあり、壁にはいくつか絵画が見られた。
「高そうな絵ですね?」
「イミテーションだ。十八世紀のフランドル派が好みらしい。悪い趣味じゃない。」
「警部、絵も詳しいんですか?」
「嗜みだよ、た・し・な・み。」
そういって皮肉な笑みを浮かべる。三年の付き合いになるが、相変わらず喰えない人だと前田は思う。
しばらくして夫人が茶菓子と緑茶を持って客間に姿を現した。
「どうぞ、お構いなく。」

180イチゴ大福:2005/02/26(土) 12:00:39 ID:D0p7jBWY
こういう言葉は事件といっしょで、持ってこられてから言っても効果がないわけで、かといって持ってくる前にいえば逆に催促しているようにも思えて難しい。
「粗茶ですので。」
そういってお茶を配ると、夫人は二人の前に腰を落ち着けた。
「もう葬儀はお済に?」
「ええ、内々に済ませました。主人はもう仕事にでておりますし、正直なところ早く忘れてしまいたいんです。こんな悲しいこと、三度目も経験してますから、精神衛生上良くないでしょう?だから、四十九日の法要まではもう何もしないつもりなんです。」
「三度目ですか?」
大洗の問いに、夫人は笑って返す。
「最初の子、春子のことですけど、産むとすぐに体調を崩してしまって、主人もタイミングよく入院してしまって、それで養子に出したんですよ。義弟に預けたとはいえ、最初の子供でしたから、やはり辛くて・・・・・・。」
「なるほど、お気持ちはお察しします。」
「湿っぽい話ばかりでごめんなさいね。どうも、一人でいると、嫌なことばかり考えちゃって。いい機会だから、なにか習い事でも始めようかと思っているんですけどね。・・・・・・ところで、春子のことでお話があるんでしたね?どういったことだったかしら?」
「ええ、生前、春子さんがファイの証人という宗教団体に所属していた件で、お話をお伺いに。」
「そうだったわね。あの子がファイの証人なんてインチキ臭い宗教にのめり込んだのは病気のせいなんですよ。でなければ、あんな元気で、明るくて、可愛らしい子が宗教になんて興味を示す理由がありませんでしたから。」
「病気ですか?」
「白血病です。あの子、昔大きな怪我をして、手術をしなくてはならなかったんですけど、その時に輸血された血液に、検査に引っ掛からなかったレトロウィルスが侵入していたらしくて。私も詳しいことはわからないんですけど、白血病っていうのは遺伝も伝染もしないそうなんですね。どうも、遺伝子の異常が原因らしいのですが、春子の場合、そのウィルスが遺伝子を傷つけたために白血病になってしまったということなんです。」
「病院からの補償は?」
「ええ、ありました。とはいっても雀の涙ほどですし、骨髄移植をすれば治る、ということでしたが、骨髄移植って、適合する人がなかなか現れないらしくて、それにたくさんの方が移植手術を待っているんです。もう、抗癌剤の副作用で日に日に衰弱していきますし、何よりも本人にとって辛かったのは、あの綺麗な黒髪を失ったことです。まだ二十歳そこそこの、花でいったら一番綺麗な盛りじゃなりませんか?頑張れなんて言葉、気休めにもかけられませんでした。」
「それで、ファイの証人に?」
「いえ、それだけでは・・・・・・。白血病患者とその親族、遺族が情報交換を行うコミュニティーがあるんです。春子もそこに通うようになりまして、そこでいいお友達ができたんです。とても綺麗なお嬢さんで、春子と知り合った当時、国立のG大学の医学部に在籍していらして、「重病なのに諦めないで勉強してるなんて偉い」と娘も大変元気付けられていました。実際、とても勉強のできる方だったらしくて、でなきゃ治療の傍らに勉強なんて、患者を診ているからいえることですが、薬の影響でほとんど無理なんです。
名前は確か・・・・・・志ノ田比呂さん、っていったかしら。彼女は春子に「もうじき抗癌剤に代わる、効果の高くて副作用の少ない新薬ができるから、それまでがんばって」って励ましてくれてまして、それで春子のほうも、とても期待していたんです。
でも、それからしばらくして比呂さんとの音信が途絶えてしまいまして。やっぱりそうなのかな、って思っていたんですけど、でも春子がどうしてもハッキリさせておきたいというものですから、知り合いの方に訊いたんです。そしたら、比呂さんがおっしゃっていた、抗癌剤の未承認薬の臨床実験に参加していて、その最中に亡くなられていたそうで。ほんとに惜しい方でした。
さすがに、あの時の春子の塞ぎようといったら、末世が到来したみたいな悲壮な顔で・・・・・・そんな折、あの宗教のことを知ったのです。」
「しかし、どうしてファイの証人を選ばれたんでしょう?」
「なんでも、病気を治すとかいうらしくて。でもその宗教ときたら、何かにつけては金、金、金で、しかも最後にはあんな無残な殺され方をして・・・・・・。」
夫人は嗚咽を堪えると立ち上がった。
「たしか、その宗教が発行してる冊子があったと思います。ちょっとお待ちになって。」
口を開く間もなく、夫人は客間を出た。
気まずい空気だけがずっしりと二人の肩にのしかかっていた。
前田はお茶を啜ったが、すでに冷たくなったお茶はただ渋いだけだった。

181イチゴ大福:2005/02/26(土) 12:04:27 ID:D0p7jBWY
26.孤独の城、不幸の砦。Fanatic for the fantastic. ⑥
孤独は誰にも理解されないから孤独なのだ。
今の夫人はまさにその“孤独”な人だった。
前田は、二人も子供を失った夫人の心境を察するとともに、やはり、自分の子供が殺された悲しみは、そうなってみなければ分からないのだろうと、夫人を見ていて思った。それほどに、何か普通の人間とは違う重い影が、彼女にはまとわりついていた。
夫人が持ってきたのは色の違う二冊の小冊子で、どちらも内容は同じだった。
「宗教のことなんかよくわからないんですけどね。」
「ええ、私もこの手のものは良く分かりません。」
大洗は前田に一冊を渡すと、ペラペラと捲った。前田も内容を確認した。
『陰陽道には“木”“火”“土”“金”“水”の五つの属性を頂点とする、調和の取れた五芒星を描くことができます。五つの属性は世界の物質的、霊的な存在の根源となるエネルギーを与える偉大な力をもっており、五芒星の中心にあたる核にあっては、そこをもっとも調和の取れたエネルギーの隙間という意味で、我らが尊師はそれを“ファイ(φ)”と名づけられました。私たち信者は、その“ファイ”を発見した尊師の“証人”であることから、“ファイの証人”と呼ばれるのです。』
「胡散臭いですね?」
大洗がいう。夫人も「そうでしょ?」と淡白に返した。
「修行をすれば治るとか、いくら寄付すれば効果がでてくるとか、患者の弱みにつけこんだ悪徳商法ですよ。」
「白血病も治るといわれたんですか?」
「ええ、気の持ちようで免疫機能が高まるという話も、臨床心理学ではいわれてますでしょう?まぁ、体のいいことばかり言って、実際は金集めのためのデマなんでしょうけどね。」
「春子さんが被害にあったとき、どうして教団の犯行だと思われたんですか?」
大洗の質問に、夫人の態度に少し緊張がでた。明らかに怒っているぞ、というサインだった。
「そんなことはいうまでもありませんわよ。春子の後に殺された人たち、あなたたちだって知ってるでしょう?」
「しかし、教団がやったという証拠はでていません。」
「それを読めばわかりますよ。苗字が「あいうえお」順で、しかも名前に季節が入った人を殺すなんて・・・・・・こんな馬鹿げたことをするの、あの教団以外に考えられますか!?」
「ええ、もちろん警察はあらゆる可能性を考慮して捜査を展開しています。ですから、本日もその件でお伺いしたわけで。」
「ああ、そうだったわね。でも、まだ捕まらないのね、犯人は。」
「全力で捜査にあたっているところです。どうかご理解ください。」
「ええ、もともと期待はしていませんから。」
そういう夫人の声は、皮肉というよりは、そのままの意味のように聞こえた。

182イチゴ大福:2005/02/26(土) 12:05:41 ID:D0p7jBWY
もはや、何ものもこの不幸の女性を煩わすものはなくなったのだという、嵐のあとの静けさにも似た平安が、その言葉には漂っていた。
大洗はそろそろ切り上げ時と察したのか、おもむろに立ち上がると、「本日はどうも、お忙しいところお邪魔いたしました」などと愛想笑いを浮かべた。
玄関まで見送られ、二人は神妙な面持ちで車に乗り込んだが、エンジンをかけるとすぐにいつもの調子に戻った。
「梧桐冬樹が教団に入っていたということはないでしょうか?」
前田がいう。大洗は待ってましたとばかりに前田を睨んだ。
「だからお前は馬鹿だってんだよ。もしそうだったら、当時から教団には様々な嫌疑がかれられてたし、地検の特捜も目をつけていたんだ、ここぞとばかりにガサ入れしてただろうよ。」
「ああ、そうか。・・・・・・しかし、教団はあくどいですね。病気の弱みにつけこんで金を毟り取るなんて。」
「どこの宗教だって似たようなもんだろ?信仰が物質と入れ替わればそれはもはや商売だ。もし、ブッタと道ですれ違ったらお前はどうする?」
「え?ブッタって、あの沙羅双樹の下で涅槃したブッタですか?そうですね、取りあえず拝んでおきます。」
「殺すんだよ。ブッタは信仰の中の存在だ。だから目の前のブッタは、ブッタの姿をしたブッタではないものだ。」
「乱暴ですね。」
「本来の宗教とはそういうものだ。物質に対する興味や欲望を喪失すれば、人間の悩みの多くは解消される。」
「コンビニ強盗もなくなりますね。」
「かといって、人間は生きていくうえでは、やはり物質に依存しなくてはならない。コンビニがある限り強盗はなくならないんだよ。」
前田はそこで、頭の隅に引っ掛かっていたことを話すことにした。
「ところで、警部。夫人がいっていた、G大医学部の臨床実験って、まさか八年前の、G大学付属病院で起こった、新薬の臨床試験事故のことでしょうか?」
八年前、これまでの抗癌剤に代わる副作用の少ないという、未承認の新薬の、患者への投薬実験が、G大医学部付属病院で行われていた。すでにラットやサルでの実験には成功しており、あとは人間への薬の安全性が証明されれば、多くの抗癌剤の副作用に悩む、白血病を始めとした癌患者の希望となるはずだった。
しかし、臨床試験中に患者が変死し、遺族は病院側を相手に、慰謝料の請求とともに、臨床試験のレポートや患者のカルテなどを要求して告訴した。しかし、第一審で地裁は、病院には、臨床試験に関わる検体についてその健康状態などの管理に落ち度があったと指摘したが、臨床試験に参加した他の検体には異常がなく、新薬を投与したことと志ノ田比呂の死に因果関係を認めることは難しいと判断を下した。しかし、実際、病院側から遺族に提出された証拠は不十分であり、カルテには不備や捏造された形跡があったことが、医療関係者や専門家からも指摘されていた。だが、「裁判の証拠となる物件は原則として原告が提出する」ことになっている法制度のもとでは、遺族に大病院相手に証拠を出させる力があるわけでもなく、裁判にかかる莫大な費用もあり、結局遺族は病院側との和解に応じたのだった。
「そうだ。医局と検察、警察の間でなんらかの取引があったとも噂されていた件だ。」
「大学病院ですからね、かわいそうに。亡くなった子、自分で病気を治すつもりだったんでしょうね?」
「そうだ。」
あまりにきっぱりとした物言いに、前田は返す言葉を失った。
「え?・・・・・・あの、警部。志ノ田比呂をご存知なんですか?」
「お前と組む前の二年間、俺の相棒だった人の娘だ。」

183イチゴ大福:2005/02/27(日) 13:02:13 ID:ica9eRow
27.渇望する肉体、枯渇した精神。Fanatic for the fantastic. ⑦
「しかし、梧桐冬樹と熊田孝治につながりがあるとして、六年前の事件では名簿はなんの役にもたっていませんね。むしろ、パンフを見たかぎりでは教団の犯行であるほうが納得できます。」
「教団の仕業に見せた犯行だったんだ。まぁ、名簿が意味を持つのは今回の事件くらいだろうな。」
「梧桐冬樹はあくまで、教団の思想や行動を真似て犯行を行ったと?」
「それ以外に考えられないだろう?当時、梧桐冬樹がやったという証拠はでていたんだ。」
前田はしばらく口を閉ざした。運転中に考え事をするのは、彼には珍しいことだった。頭の中で澱となって引っ掛かっているものがなんなのかを、彼は理解しようとしていた。
事件が発生してからまだ一週間と日は浅いが、調べれば調べるほど、次々と現れる、隠された事実と、その遠からず浅からぬ関連性との折り合いがつかないでいた。
どこまでが必要な情報で、どこまでが必要でない情報なのか、前田は寝不足の頭をフル回転させていた。
「結局、六年前の事件はなんだったんでしょう?T経済大の名簿が六年前の事件と関係がない以上、当時の応援団長、熊田孝治との関係も無意味です。しかし、今回の事件では、やはり熊田が梧桐に名簿を渡している可能性があります。喜多川の件でもそうですが、犯人が男である可能性、そして、名簿が大学外部に流出している可能性から、やはり梧桐と熊田の関連性は濃厚です。では、六年前から続く熊田と梧桐の関係とは一体なんだったんでしょう?
単純に肉体的な関係だとしても、梧桐が六年前の犯行当時から熊田と関係を持っていたというのは、なんだか出来過ぎたことのようにも思えます。まさか、今回の事件は六年前から計画されていたもの、だとは考えにくいですし。」
「現象は結果の総合として知覚しえる情報の表層というだけのものだ。偶然の可能性というのは必然の寓意ではない。しかし、事件がまだ全貌を見ていない現状において安易に結論を導き出すことは非常に危険だ。まぁ、考えられるだけ考えろ。考えるだけなら罪にはならない。」
「しかし、ここまで証拠を隠蔽できるものなんでしょうか?六年前は毛髪から体液まで残していた奴です。それが、今回は現場にしても証拠にしても、まるで別人のような気が・・・・・・。」
そこまで話して、所詮、何一つ手がかりがない原状では水掛け論にすぎないと思い直し、言い留まった。
「梧桐冬樹が六年前の事件で、教団の犯行に見せかけて犯行に及んだとすれば、教団の教義にある陰陽五行説に則った法則性を模倣したものだというのは納得いきます。しかし、今回はそうした様子はありません。手足に二十箇所以上の刺し傷と、心臓への致命傷。何か意味があるような気がするんですが、まるでわかりません。
それに、六年前の事件で藍沢春子が殺されたのは、非常に宗教色の濃い意味合いがあると思うんです。つまり、名前にしてもそうですが、名前に季節が入っていること、そして彼女の病気。尚且つ、彼女自身が教団のメンバでした。
被害者がどんな気持ちでファイの証人に入信したのかは、察するところがあります。夫人の話からも、それはうかがい知れるところです。夢や希望を断たれたような、ひじょうに困難な心理状態だったでしょう。まさしく藁にも縋るような思いではなかったでしょうか?抗癌剤のために苦しむ毎日、友人も死に、悲しむ間もなく自分も死の恐怖に晒されている。藍沢春子はもう自棄になって、ファイの証人に入信したのかもしれませんね。」
「で、何がいいたい?」
「ふと思ったんですが、藍沢春子は自分から進んで殺されたんじゃないでしょうか?つまり、現実にもう治る見込みがないのなら、あの世とか、来世とか、そういうものがあることを信じて、何か宗教的な儀式に参加した結果、六年前の事件のようなことが起こったんじゃないでしょうか?つまり、全員、宗教的、信仰上の問題で死んだんじゃないでしょうか?」

184イチゴ大福:2005/02/27(日) 13:03:14 ID:ica9eRow
前田の頭の隅に残る澱とは、犯人の名前ばかりが先行して、事件の背景や意図、被害者たちの情報とその関係性という点が疎かだ、というものだった。
事件の異常性や偏執性から六年前との事件が指摘されてはいるが、その分、比較検証すればするほど両事件の特異点は尚更浮き彫りになってくる。
前田は、今回の事件は梧桐冬樹とは無関係なのではないかと考え始めていた。
「今回の事件は本当に梧桐冬樹の犯行なんでしょうか?」
前田が言うと、大洗は溜息をついた。
「お前がさっき指摘した名簿の件はどうなる?今回の事件がやつに関係ないとすれば、元々名簿なんて必要なかったことになる。それなら、梧桐と熊田はただのゲイだったことになるが、まぁそれはそれでいいとしよう。しかし、今回の事件に名簿は不可欠だ。つまり、在学生の名簿が確実に流れる経路でいえば、梧桐冬樹で間違いない。
それにだ、証拠の件も考えてみろ、六年前の事件では見事に隠蔽されたんだぞ。今回も、おそらく捜査に梧桐警視正の息のかかったものがいるのかもしれない。」
「ま、まさか、現場で証拠隠滅を図ってる人間がいると!?」
「不可能ではない。証拠を保存して、検分するのは俺たちの仕事じゃないからな。」
「それじゃ、所轄の松山刑事や、「あいうえお事件」との関連性を指摘したあの刑事も?」
「警視正にモーションをかけたのか・・・・・・まぁ、その可能性は否定できない。いや、信用できる人間がどれだけいるか、見極めるのは難しいだろう。いいか、俺たちの相手は梧桐冬樹一人じゃない。それを忘れるな?」
「組織にいるのに、組織を相手にしているだなんて、警察官でいることがばかばかしくなってきました。」
「飢えた肉体を抱え、窮乏する精神を宿し現世を彷徨っている。そのために、人間がそんなに賢かったことなどあったためしはない。・・・・・・狂人と空想家の違いは何か分かるか?」
「さぁ・・・・・・なんですか?」
「狂人よりも空想家のほうが、狂気じみた変態だということだ。」
「へ?・・・・・・どういう意味です?」
「お前は英語が苦手らしいな。要は、お前が何を成すか、ということだ。」
「今のはあてつけでしょう?」

185イチゴ大福:2005/02/27(日) 13:06:42 ID:ica9eRow
28.瞑想する前田。迷走する事件。
「大洗警部に関しては知らないことが多すぎる。」彼は独り言を口にする回数が増えていた。自覚症状があるのはまだいい、無意識にし始めたらさすがに危険だ、そう彼は自覚しているので、まだ安心していいだろう。
大洗が、早朝未明に起きた事件の調書を作成している間、前田は志ノ田比呂について調べていた。
大洗の、前田の前の相棒といえば、六年前の「あいうえお事件」を追っていたという刑事なのだろうが、まさか、その娘が事件の被害者と関係があったというのは、偶然の恐ろしさを感じさせるものだと、前田は思った。白血病というたった一つの接点を通じて、一方は医学に、一方は宗教に・・・・・・人間の歩む道というのが、ちょっとしたことで千変万化する態様は、現象としては面白い反面、現実としては悲しい気もする。
志ノ田比呂が新薬臨床試験事故で死亡したのは今から八年前のことだった。当時、国立G大学医学部の五年生で、医学部が六年生であることから、あと一年で卒業だったのだろう。専攻は遺伝学と免疫学。自分の病気を効果的な形で克服しようとする彼女の執着が強く感じられる経歴だった。
臨床試験には自発的に参加したものと記録にはあり、試験自体は大学の研究室が開発した新薬の、生体への安全性を試験するものだった。彼女にとってみれば、一刻もはやく、抗癌剤の苦しみから解放されるためには必要だったのだろう。しかし、彼女の期待とは裏腹に、試験中に死亡することになる。
司法解剖では、被験者の病状は当時すでに末期症状にあり、新薬の効果や副作用は影響がなかったとの報告をだした。確かに、同じく投薬を受けていた他の被験者からは異常が報告されていない。しかし、司法解剖の所見を書いた検察医の名を見て、前田は唖然とした。
“Kuniyori Nerome”
安易に、K大医学部学部長、根路銘国盛教授と関係があるのかどうかを指摘することはできないだろう。しかし、さらに裁判所の記録を読み進めていくうちに、新薬を開発した研究室のメンバの名前が記載された欄を見つけ、驚愕することになる。そう、“根路銘国盛”の名があったのだ。当時は助教授として、G大付属病院に勤務していたのだ。研究室は当時、新薬開発の指揮をとっていた石田二三夫教授の名が前面にでていたので、誰も彼の存在に気づかなかったのだ。また、被験者のうち、白血病患者は志ノ田比呂だけだったにも関わらず、その点について検察が言及を避けているというのも、不自然であった。
今回の事件には関係ないかもしれないが、なにか裏を感じさせるものはある。前田は、意図的に、うやむやのうちに闇に葬られた志ノ田比呂の死を無念に感じた。抑えがたい怒り、こみあげて来る激情。警察という、法を取り締まる組織の中で不正が行われ、そればかりか司法の場にまで蔓延していることに、激しい怒りを禁じえなかった。そして、病気と闘い、自ら運命を切り開こうと懸命に生きた志ノ田比呂のことを思うと、その死がなんて理不尽で惜しいものだろうと、彼は同じ警察組織の一人として自分を情けなく思った。
それと同時に、一つの思考が彼の脳裡を擡げた。
「志ノ田比呂の死の裏側。検察と大学病院の不正の一翼を担った根路銘教授と同姓の検察医。そして、志ノ田比呂の父は、「あいうえお事件」を追っていた刑事。その犯人と目されている人物、梧桐冬樹はT経済大殺人事件にも関わりがある。彼の伯父、梧桐警視正はK大の根路銘教授とはT大の同期で、甥の不正入学に手を貸している。しかも、梧桐警視正はファイの証人に強請られていた。そして、一連の犯行は教団のものと見せかけたもののように行われている・・・・・・これは、つながっているのか?」
誰もいない部屋にぼんやりと響く彼の声。空気を振動するだけの無意味な現象。しかし、その言葉は彼の脳に化学変化をもたらし、重要な意味の芽を芽生えさせようとしていた。

186イチゴ大福:2005/02/28(月) 12:46:46 ID:Mo5eFkiY
29.沈黙の八年。
「六年前に端を発したように思われていた一連の事件に関わる複雑な要因は相関関係を有し、複数の無関係な人間を巻き込みながらも、数人の主要なメンバを折り込んで、一つの事件につながっているのではないだろうか?」
八年前の事件を調べた前田が朧げに感じたことは、なんとも漠然としたことだったが、釈然としない事件性と判然としない理由、その関連性に整合性を与えるとすれば、一連の事件がさらに根深いところで関係しているのではないか、という推測は、推論に奥行きと柔軟性とを与え、議論に幅を与えることができるだろう。
前田の頭につっかえていた澱はまさにその点であった。大洗はおそらく、前田の疑問の枢要には気づいていないだろう。それは、大洗の言を聞いていれば明らかであった。
前田がここまでで気づいた、事件に共通する点といえば、「未解決」ということだった。無意味な指摘であり、しかしながら重要な論点である。
八年前の「新薬臨床試験事故」では和解が成立しているとはいえ、病院や検察側、主にここでは検察医であると指摘できるのだが、それらの証拠の隠蔽、捏造といった工作は、警察の介入も含め、形式だけで力のない原告やその遺族に泣き寝入りを強いるものだった。
六年前の「あいうえお連続殺人事件」では、事件当初はファイの証人の犯行ではないかとの噂があったものの、捜査員の懸命の捜索と非合法活動が犯人検挙につながった。しかし、警察内部で起こった隠蔽工作と検察との取引は、結果として証拠不十分による不起訴で終わり、犯人不在のまま捜査は継続中ということにはなっているが、事実上停滞しているといえる。
そして、一週間で七人という驚異的な早さで犯行を繰り返している「T経済大生連続殺人事件」は、証拠はおろか犯人を裏付ける根拠は、六年前の事件との関連性を除いて何一つ指摘するものがなく、このままいけば未解決事件になることは必至である。
一連の事件の犯人は梧桐冬樹ではないかとの憶測はこの際置いておき、ここでは事件を客観的に評価するために、今回の事件の犯人のことは「ゴースト」という呼称を与えることにして、ゴーストは何者なのか、という疑問が第一に。第二に、ゴーストの目的は何なのか、が問われるところだろう。
第一の疑問については、ゴーストは六年前の事件との類似性、模倣性とその宗教的偏執性から梧桐冬樹であるとの見方が強い。六年前の事件についていえば、その証拠などから梧桐冬樹と見て間違いないのだが、今回の事件についてはその確信を得るまでに至っていない。名簿については、熊田の所在を確認する必要があり、これから捜査しなくてはならない点であるが、応援団のずさんな管理状況を考慮すれば、ほぼ誰でも入手できたと考えるべきだろう。また、現場の警察官の中に証拠を隠した人間がいたとする見方ができないわけではないが、なぜ今回の事件と六年前の事件の犯人に関連があるのか、その異常性だけを指摘して根拠とするのには無理がある。それに、六年前の事件では、藍沢春子がファイの証人のメンバであったことと、連続した同一犯による犯行の異常性から、教団の犯行であることは指摘されていた。だとすれば、やはり現段階で今回の事件が教団の者による犯行でないとは決して言い切れないのではないだろうか?

187イチゴ大福:2005/02/28(月) 12:48:23 ID:Mo5eFkiY
ここで、第一の疑問に対する疑問が生まれる。なぜ警部は梧桐冬樹犯行説に固執するのか?常に冷静な観察眼で、事件の解決に最前線で貢献してきた警部が、まさか六年前の事件への妄執にとり憑かれて、感情的になっているとでもいうのだろうか?確かに、警部の前の相棒であり、志ノ田比呂の父、志ノ田悟郎は、六年前の事件を追いかけていた刑事だった。しかし、それだけで警部が冷静さを失うほどに感情的になるだろうか?それは考えられない。とすれば、警部自信の問題だといえるかもしれない。つまり、警部は個人的にどうしても梧桐冬樹を被疑者に仕立てあげなければならない理由がある、ということだ。
「天才と評されたヴァイオリニストが、その名声を棄ててまで刑事になった理由?」
第二の疑問、ゴーストの目的である。ゴーストは一見、ある法則に則ってT経大生を殺害しているが、しかし、時折、その法則を無視したり、変更したりと落ち着かない。学籍番号による数字遊びという犯人の特徴は、犯行の異常性を物語ってはいるが、やはり、犯罪そのものに対する「意思」よりも、誰かを殺さなければならないという「目的」の存在を感じる。つまり、学籍番号が“×××−020”よりも若い番号のうちで、ゴーストが殺害を企図して目的とする人物がいるということになる。これは現段階での推論であり、今後、犯行が更に継続すればまた変更はしなくてはならないものだが、数字が“3”と一桁台に戻った事から見ても、その公算は高いといえるだろう。また、ゴーストの犯行の早さを考えれば、ゴーストは、自分が狙っている「目標」の情報が少ないという見方ができないわけでもない。つまり、T経済大生に在籍する学籍番号が“20”番以下の学生が、ゴーストの狙う人物の手がかりを知っているということができる。なおかつ、数字のトリックに隠れた、それ以外の犯行は、その意図を隠しつつ、かつ「目標」に気取られないように犯行を行うための「ブラフ」である可能性があるといえなくもない。
ここで、第二の疑問に対する疑問が生じる。ゴーストはいったい誰を殺したいのか?すでに七人もの被害者が出ている以上、新たに被害者の身辺調査を行うのは簡単なことではないだろうし、今後、ゴーストが犯行のためにブラフをかますとすれば、犯行を未然に防ぐことは不可能だ。
「幽霊が人間らしくなってきた?」
大洗の言葉が甦る。
前田は大洗にこのことを話し、事情を訊こうかと考えたが、すぐに考え直した。警部が警察官になったのは五年前。つまり、六年前の事件が警察官になったことの理由だとすれば、警部は六年という時間をかけて、今回の事件で何かを企んでいることになる。だとすれば、素直に「ヤー」というはずがない。逆に、警部に後ろめたいことがないとしたら、やはり警部は「ノイン」というのは自然なことだ、結局は無意味なのだ。
前田はひどく悩んだ。腕時計を見る。彼の父が、彼の大学卒業時に彼に送った記念の品だった。大洗が書類を片付け始めてから二時間ほど経っていた。すでに調書の作成も終わって、事件の報告書でも読んでいるかもしれない。前田はそして一つの結論に達した。
「警部、お話が。」
大洗はパイプ椅子にふんぞり返って、コーヒーを飲みながら書類に目を通していた。振り返ると、書類を置いて「ああ、俺もだ。ちょうど良かった。」という。
意を決して話を持ちかけただけに、出足を挫かれた感じの前田は呆気にとられながらも、「お先にどうぞ」といっていた。
「明日からしばらく仕事休むから、あとはよろしくな。」
突然の言葉に前田は言葉を失う。

188イチゴ大福:2005/02/28(月) 12:49:11 ID:Mo5eFkiY
「はぁ?いったいどうしたんです?」
「ああ、うちのかみさんがさ、倒れちゃってさ。さっき電話があったんだよ。お互い近くに身内がいるわけじゃないから、俺がついていなくちゃならなくてな。」
日頃自分のことをあまり話さない大洗だけに、前田には妻の話をする大洗がどこか微笑ましく、そして失礼な話だが違和感を感じずにはいられなかった。曲りなりにも西欧の血が流れているのだ、遺伝子だけでなく、愛妻家の伝統や文化も受け継いでいるのかもしれない、と前田は柄に合わない大洗の愛妻ぶりを想像して噴出すのを堪えた。
「この忙しい時期に悪いな。あいつはけっこう丈夫なほうだとは思ってたんだけどなぁ、やっぱり女性の更年期っていうの?恐いらしいんだ。お前も、あの何とかってモデルに似てるかみさん、気をつけろよ。」
「私の妻はまだ更年期の心配なんてありませんよ。それより早く帰ってあげたほうがいいんじゃないですか?」
心配する前田をよそに、大洗は平然としている。
「ああ、大丈夫。もう病院のベットにいるらしいんだ。着替えとか届けないといけないから、定時には帰るけど、ほんとに悪いな。」
「病院にいるなら大丈夫なわけないじゃないですか!とりあえず、あとは私が引き継ぎますので、お大事にしてあげてください。梧桐の張り込みも継続しますから。」
「ああ、頼む。無理だけはしないでくれ。」
前田は実は、大洗に単独行動の許可を求める心積もりでいた。調査をするにしても、大洗に関係がある可能性がある以上、やりにくいことはこの上ないだろう。そこで、ファイの証人とT経済大殺人事件との関連性を調査するのに時間が欲しい、というのを口実に、一時コンビを解散することを提案するつもりでいた。それが、大洗の家庭の事情でまったくの徒労に終わってしまったというのは、大洗に余計な不信感を与えないで済むという点では幸運だといえるが、しかし大洗が事件と関係あるとして、この時期に妻が体調を崩したから仕事を休むということは、やはり元々大洗は、事件とは関係がないのでは、という考えが擡げ、早くも彼の推理の一部が否定されたことに、安堵とも無念ともつかぬ心境でいた。
「おい、前田。なんだか元気がないな?寝不足で疲れがでてきたか?」
「いえ、事件のことをいろいろ考えていて、ぼぅっとしてました。」
「まぁ、明日からしばらく俺はいないんだ。お前の頭と足が頼りだからな。ヘマするなよ。」
ずいぶん身勝手な人だ、と思いながらも、三年間ずっとそうだったじゃないか、と改めて思い直し、やはり警部のようにはいかないと気づいた。
「自信がなくなりました。」
「お前が馬鹿みたいに自信満々でいるよりはいい。いつもどおりやれ。」

189イチゴ大福:2005/02/28(月) 12:51:02 ID:Mo5eFkiY
30.Invisible incident.
彼女はなんのために人を殺しているのか、ともすれば理由など忘れてしまいそうなほど、彼女の肉体は苦痛に苛まれていた。
蒙昧とした意識は、既に彼女の視覚的作用を現実からのフィードバックとして耐えるものではなかったからだ。
平衡感覚の喪失、常時悩まされる嘔吐と頭痛。筋という筋が、神経という神経が、彼女を体内から蝕み、侵食する。五感は既に痛感を知覚するだけのものであり、痛感は彼女にとって、決して姿を現さない、体内に寄生する憎き存在でしかなかった。
見えない力に支配されている彼女の「痛み」は、その見えない恐怖は、苦痛によってのみその存在を知らしめようとする「幽霊」の存在の確固たる根拠となって、彼女の現実に悪夢となって顕在していた。
決して姿を現さない、しかし、確実に存在する「意思」が、彼女の中に憑いていた。
「殺したことの報いなの?」
彼女には殺す以外の方法は考えられなかった。
殺すことで、徐々に癒され、回復するはずだったのだ。
「何を間違っていたの?」
天空にぽっかりと浮かぶ月を仰いだ。欠け始めた月。闇にその支配の光を奪われ、ネオンや人工の厭わしい光線に存在感を奪われた、儚くも佇む無気力な月。
彼女はもの言いたげに口を開いた。黒い光沢のある染みが、彼女の口元にうっすらと浮かんでいた。
血だった。
彼女の足元に横たわる命の抜け殻。“力”を失い、動くことの適わぬ忌まわしき肉塊。
彼女は血を受けていた。喜びのための血、求めた血、“力”のための血。
血、血、血・・・・・・血だ。数分前まで人を動かし、知性を与え、精神を宿した血だった。
「まだ、足りないの?」
月は、彼女が答えを仰ぐには無口すぎた。
なにものも、この世の摂理を変えるものはないのだといわばかりに、その態度は毅然として無関心を装っているかのようにすら見えた。
月はすでに、その眼を彼女から背けていた。
「私を・・・・・・助けて。」
か細い声が、その薔薇の蕾のような唇から、朝露の一滴のような心もとなさで零れ落ちる。
「助けて・・・・・・助けて・・・・・・助けて・・・・・・助けて・・・・・・。」
白い吐息が彼女の声を凍らせ、無意味化しているようだった。
そう、呼吸のように当たり前で、意味のない動作だったのだのだ。
何一つ意味を成さず、何一つ変化をもたらさない現実。
時間と空間と場所によって与えられる同時性は、ただ単にそれを同定する以外の意味を見出すことはできなかった。
瞳から零れた一筋の涙が、月明かりを受けて一条の光を彼女の頬に灯した。
彼女は涙を拭い、その恩恵を手のひらに見ることができた。
「あと一人・・・・・・。あと一人できっと・・・・・・。」

190イチゴ大福:2005/03/01(火) 11:16:19 ID:JhNqU1Yk
31.警部の休日。
金属同士の激突音と耳鳴りにも似た電子音がホールを包み込む。平日の昼間だというのに、多くのオジサンたちの熱気とタバコの煙に満ちたパチンコ店は、その喧騒が証拠であるといわんばかりの音量を垂れ流し、店内を活気づけていた。
パチンコのパの字すら興味のない彼には、この喧騒は害悪以外のなにものでもなく、小さな台を何時間も真剣に見つめ、微塵とも動かない彼らの思考回路を、人間のものと疑わずにはいられなかった。それと同時に、他にすることはないのかと、その場にいる人間たちの平和と幸福の意義を自問いしてみるのだった。
ホール内の無秩序な喧騒とは逆に、秩序正しく一列に整然と並んだ座席の中に、彼の求める姿があった。ハンチング帽を被り、サングラスをかけてはいるが、年は初老の男性だとすぐにわかった。年相応の白いものが混じった髭と深い皺が、体全体から年齢だけでない、何かを感じさせる雰囲気を滲み出していた。
隣の座席に座る。男の手元は銀のパチンコ玉にあてがわれていたが、すでに心もとなく、男もそれには気づいているらしく、大きく溜息をついた。
「はぁ、駄目だな。また持っていかれた。」
「俺のを使ってくれ。どうせやったことなんてないんだし、つい居心地が悪くて買っただけなんだ。」
そういうと、初老の男に玉の入ったバスケットを渡した。
「すまんな。」
再び勢いよくパチンコ玉が飛び出した。
「こんなもののどこが面白いんだ?時間の無駄だ。」
「休日という広大無辺の無為の時間を使って、せっせと資産形成に励んでるんじゃないか。何が無駄なものか?」
「効率が悪すぎる。取るより取られる額の方が多いだろう?収支計算をした上での結論か?」
「今月はプラス二千円だ。だが、たった今一万呑まれたから、収支はマイナス八千円だ。」
「どうやら、順調に資産を形成してるのはパチンコ屋のほうだ。」
「まぁそういうな、人生いろいろ経験したほうが、年を取ってから俺みたいに伯がつくんだ。ところで、事件のほうはどうだ、大洗?」
大洗は緩慢な反応を見せた。しかし、視線は厳しさを増していた。
「今のところ事件に進展はない、志ノ田さん。」
志ノ田と呼ばれた初老の男性は、一瞬大洗を見たが、すぐに台に向き直った。
「そうか。梧桐の件はどうなっている?」
「今組んでる奴に当たらせている。」
「前田とかいったか?所轄から引き抜いてきた奴だろ?どうだ、使えそうか?」
「面白いやつだ。それによく働く。今時あんなに仕事熱心なやつも珍しいし、それなりに頭も働くようだ。」
「それは結構なことだ。松山や齋藤も捜査に加わっているのか?」
「ああ。まぁ、齋藤は頭に血が上って、「あいうえお事件」の名前を捜査会議で出してしまったがな。あいつはいつか脳溢血で死ぬぞ。」
「違いない。しかし、梧桐彦一は遅かれ早かれ、いずれは突破しなければならない障害だ。問題はないだろう。」
当たりを知らせるシグナルだろうか?台に設置された電飾が激しい電子音とともに点滅を始めた。台の中にある小さな液晶パネルのアニメーションが動き始めたが、大洗には意味がわからないし、知りたいとも思わなかったので、すぐに目を逸らした。
「特捜はどう睨んでいる?本当に“ファイの証人”の犯行だと?」
「ん?なぜだ?」
「少々気になる節がある。」

191イチゴ大福:2005/03/01(火) 11:17:46 ID:JhNqU1Yk
「なんだ?」
「志ノ田さん、あんた六年前の事件で、本当は誰を狙ってた?」
パチンコ台の電子音が激しくなった。台から零れ出る銀の玉。声は掻き消され、それが相手の耳に届いたか不安になる。
「意味が分からんな?特捜は梧桐冬樹を突破口に警察内部の不正の証拠を掴み、内々に処理したいだけだ。これは警察庁の意思でもある。今回の事件の犯人・・・・・・お前たちが“ゴースト”と呼ぶ人物が、教団の者であれ誰であれ、俺たちに利益のあることじゃない。それに、お前は六年前の復讐がしたいんじゃないのか?そのために警官にまでなって、このときを六年も待っていたんだろ?」
「八年前、G大付属病院の新薬臨床試験事故であんたの娘が亡くなった。かわいそうなことをしたよ。挙句、法は事故の真相を暴くことなく、責任者への訴追もなくうやむやにしてしまったしな。」
「そんなことを今頃蒸し返してどうする?お前が知らなかったわけでもあるまいに。」
「蒸し返さなければならないのは、当時の研究室のメンバだ。あんたの娘、比呂が在学中に所属していた研究室には、梧桐彦一のT大同期、根路銘国盛がいた。あの事件のあと、K大付属病院に移っていたようだがな。まぁ、元々腕のいい医者だったんだ、引取り手はいくらでもあったんだろう。」
大洗は柄にもなく緊張しているなと感じていた。手のひらのうっすらと浮かんだ汗を握りつぶし、この熱気と臭気のせいだと決め込んだ。
志ノ田は動じる素振りを見せることはなかった。ただ単に、か細い神経の挙動をサングラスの下に押し隠しているだけなのかもしれないが、志ノ田の視線はパチンコ台を注視していた。
「俺は特捜の刑事だ、事件に私情を挟むほど馬鹿じゃねぇぞ。」
志ノ田の、低く、力のこもった声は、長年現場の第一線で活躍してきた刑事の威厳をそのまま表現しているような凄みがあった。
「だから、六年前、お前のカミさんが教団に殺されたときも、妹の佐伯亜季との摩り替えに協力した。相手を間違えた教団は、再び殺しにくる、そう考えたからだろう?」
「その通りだ。あんたは確かに刑事だよ。事件への執着と信念には、同じ警官として敬服する。だが俺が言いたいのはそんなことじゃない。俺が思うに、あんたは六年前の事件を利用して、T大同期の梧桐彦一と根路銘国盛、そして県警と検察との不正な司法取引の実態を暴こうとしているんじゃないのか、ということだ。六年前は、梧桐彦一とその派閥が動いて見事に事件は隠蔽されたが、実はそこから八年前の事件を再び引っ張り出すつもりだった。やはりあんたも今回の事件を心待ちにしていた一人だろう?」
じゃらじゃらと流れでる銀の玉とその騒音が、外界とのつながりをすべてシャットダウンしてしまったようにも感じた。大洗は続ける。
「あんたはただ警察官として、警察内部の不正の実態を是正するためにこんなことをしているわけじゃない。警察と検察、そして外部の不正な介入の実態を暴き、白日の下に晒すつもりなんだろう?警察組織の秩序と司法の健全性を世論に訴えるつもりだ。六年前、ゴシップ雑誌にネタを流したのも、あんたの仕業なんだろう?」
「そうだとしてどうする?」
大洗は言葉に詰まる。だからどうなるというものでは、やはりなかった。
二の句が継げないでいる大洗を他所に、パチンコ玉の溜まったバスケットを足元に置くと、新しいバスケットを置き、玉をソケットから流しいれた。
「ゴーストがファイの証人である可能性は、こちらが握っている情報では信用できるということだ。」
「根拠は?ゴーストがファイの証人である根拠が欲しい。実行犯のリストアップはできているのか?」
「ああ。これだ。」
大洗は志ノ田から紙切れを受け取った。三人の名前が書かれており、名前だけで、住所は書かれていない。しかし、調べればすぐに分かることだし、教団施設にいる可能性のほうが高いだろう。
「お前も分かっているだろうが、今回の事件では教団は、数字にあてはめて学生を殺害している。教団内部で最近不穏な動きがあるとの報告も受けている。犯行はまだ続くかもしれないぞ。」
「なぜ、途中の番号が抜けた?奴らは途中まで2の乗数に倣って殺していた。」
「奴らのドグマだ。奴らにとって“6”は存在しないんだよ。」
「なるほど、陰陽五行と、奴らのいう“φ”か。それで、わざと“16”から“256”の間を空けたんだな?」
「その隙間は奴らにとって宗教上、意味があるらしい。」
「法則を変えたのはなぜだ?」
「そこまではこちらもまだ把握していない。しかし、素数をあてる可能性は高いな。」
「他の意味は考えられないか?」

192イチゴ大福:2005/03/01(火) 11:18:29 ID:JhNqU1Yk
「他の意味だと?」
志ノ田が振り返る。喰い付きのよさに大洗は一瞬たじろいだが、食わせ物の志ノ田だ、弱みを見せるわけにはいかない。すぐに威儀を正した。
「ほら、手元。まだ出てるんだろ?」
「ああ、そうだった。・・・・・・他の意味とはなんだ?」
「例えば、苗字が“A”で始まる学生を狙っている。ターゲットの情報が少なく、そのイニシャルは知っていたという場合、犯人が若い番号だけを狙ったのも納得がいく。」
「無茶な。暴論だ。」
「まぁ待て。犯人がファイの証人だという点に疑問を持ったのはその点だ。確かにあんたの言は筋が通っている。しかし、あてつけの感が強い。だが殺人事件そのものを見てみれば、ある番号より若い番号の人間を片っ端から殺していることになる。」
「では訊くが、“K”で始まる人間も殺されているが、それはどう説明する?」
「ブラフだ。今回の事件では、犯人が被害者に気取られてはまずい何かがあるはずだ。」
「それで、ファイの証人の犯行ではないと言いたいのか?」
「そうは言ってない。慎重なだけだ。」
「まぁいい。とにかく渡すものは渡したぞ。俺はそろそろ帰る。」
志ノ田は席を立つと、店員を呼んでバスケットの玉を精算させた。帰ろうとする大洗を、志ノ田は呼び止めた。
「・・・・・・あ、そうだ。お前のカミさんの妹に、なにかお土産やるよ。少し待ってろ。」
大洗は手を振る。
「今、入院しているんだ。」
志ノ田の目が険しくなる。
「どこが悪いんだ?」
「何の因果か、白血病だ。」
「そうか・・・・・・まだ刑事は続けるのか?」
「ああ、そのつもりだ。」
「そうだな、六年も待ったんだ。・・・・・・呼び止めてすまなかったな、お大事にしてくれ。」
大洗はうなずくと、その場を後にした。志ノ田は店員のやけに明るい声質にイライラしていた。
「難儀な奴だ。」
そう呟いた志ノ田の声は、喧騒と精算機に呑み込まれ、掻き消されていった。

193イチゴ大福:2005/03/02(水) 11:28:46 ID:xLJuwFUE
32.群青色の夢をみる。
八年前の事件と六年前の事件が「白血病」という病名によって抽象的な関係性を有している点は、前田にとって気になる点ではあったが、今のところ、T経済大生を狙うゴーストを検挙するのが、これ以上の被害の拡大を防ぐ最も有効な手段であり、前田にとっては、再び眠れない日々の到来を告げるものだった。
大洗の妻が入院しているのは国立病院で、前田は大洗をそこまで送り届けると、一時帰宅した。食事をし、しばしの仮眠をとる。寝起きが辛かったが、奥さんの笑顔に勇気づけられている自分がなんとも微笑ましく感じていた。
ノートパソコンと充電池、奥さんが淹れてくれたコーヒーと夜食を抱えた前田は、愛娘の寝顔に別れを告げると、ひとり、梧桐宅の張り込みに向かった。
梧桐が帰宅するのはだいたい午後十時過ぎである。講義の変更やイベントなどでスケジュールを変更することは考えられるが、梧桐冬樹のように長距離の通学をしている学生は、最終には間に合うように電車を選ぶはずだし、移動時間の窮屈を考えて、できるだけ効率よく時間を使おうとするはずだ。帰宅時間に大きな狂いはないとみてほぼ間違いはなかった。
実際、この日も十時過ぎには到着していた。
前田は梧桐冬樹の姿を確認すると、ノートパソコンを開いた。
うっすらとディスプレイの明かりが暗い車内に仄かに充満した。強い光が目に痛く、照度を下げる。暗い世界にぼんやりと浮かぶディスプレイは、群青色の淡い光を放ち、車内を異様な光で浮かび上がらせていた。
ネットに接続し、メールをチェックする。エロサイトや架空請求のメールがほとんどだったが、その中に間良からのメールを見つけた。
内容は先日の再会のことについてだった。勿論、彼の働きに報い、大変な量の食事を奢ったことへの、前田への些細なお礼だった。
前田は返信とともに、彼が指摘した“存在しない”五人目の被害者のことも報せた。また、事件が予想以上に複雑であり、根が深いこと。そして、大洗警部が戦列を離れたことで明日から単独での捜査になることを書き添えた。
返信の数十秒後に、メッセンジャーにログインしてきた間良は、開口一番こう書いた。
『ひとりで大丈夫か?』
いろいろな意味に取れなくはないが、「初めてのお使いじゃないんだ。何を心配してる?」と返す。きっと、仕事の片手間にメールを書いているのだろう。ソフトウェア関係の仕事は勤務時間が一定しないというのはよく聞く話だ。前田のタイピング速度を考えれば彼に文句をいう資格はないだろう。一分ほど経って、レスポンスがあった。
『お前みたいなガタイのいいおっさんの心配なんか誰がするか。昨日は相当煮詰まっていたように見えたが、仕事の相談相手がいなくなるのはマイナスじゃないのか、と訊いたんだ。』
間良の言うのはもっともだ、と前田は一人でうなずいた。
「今回の事件はまだ何一つ犯人に結びつく手がかりが得られていない。それでいえば煮詰まっているという原状に変わりない。おかげで今も張り込み中だ。」
『さっきのメールだが、六年前の事件には五人目がいたんだって?』
「そうだ。佐伯亜季という名前だ。双子の姉が、苗字のイニシャルが“O”で、それで間違われて殺害されたらしい。」
『で、その姉の名前は?』
「わからない。まだ生きているし、プライバシーの保護要請から記録に残っていなかった。」
『俺が当ててやろうか?』
「また、どこかのサーバにハッキングして調べるのか?」
『簡単なクイズだ。殺された妹は“亜季”だ。“亜”という漢字を辞書で調べたことはあるかな?』
突然先生口調になる。
「たしか、「主たるものの下になる」といった、準ずるという意味合いがあったはずだ。」
『その通りだ。しかし、被害者の名前から導かれる法則性から季節性を考慮する必要があるから、ここでは転じて“次ぐ”という意味で捉えたほうがいいだろう。そこから、亜季の名は、姉の次の季節を念頭に置いた名前だったといえないだろうか?つまり、姉の名前とは同時の次元にありながら、尚且つ姉に準ずる存在として認識されていた、ということだ。』
「じゃ、姉の名前は、その前の季節になることになる。しかし、亜季はどんな季節を表しているんだ?」
『やっぱりお前を一人で捜査に出すのは危険だな。姉の名前は“四季”だ。一年という、移ろいゆく季節の経過を見事に言い表した名前だよ。』
「ああ、なるほど!」
前田は思わず声を上げていた。目から鱗が落ちる、とはこのことをいうのだろうか、と一人ほくそえんだ。
そのとき、不審な影が梧桐宅から出てくるの発見した。
前田は「事件だ。切る」とだけ打ち込むと、OSのシャットダウンもままならずディスプレイを閉じた。光を遮る必要があったからだ。そして、後部座席から高感度カメラを引っ張り出し、そっとドアを開けた。

194イチゴ大福:2005/03/02(水) 11:31:29 ID:xLJuwFUE
33.思惟と死と、その使途。
「死が明確に知覚される状況とはどんなものだろう?」
まるで一個の意思をもった動物であるかのように、その足は大洗の意思とはかけ離れていた。すでに面会時間はすぎていたが、「荷物だけ届けたらすぐに帰る」と無理をいい、老練の看護士に入れてもらっていた。まだ消灯前とはいえ、暮れの病院はどこか薄気味悪く、悲しみと恐怖の詰まったような、言い知れぬ雰囲気を漂わせていた。
「その場に居合わせれば、理解できるだろうか?」
答えがでないのは、それを定義するにはあまりにも問題が複雑で、一般化の適わぬ現象だからだろう。そう、元々現実に一般化できる現象のほうが少ないはずなのだ。
エナメル張りの廊下に、彼の靴のあたる音だけが静かに響いていた。
一歩一歩、何かを確かめるような慎重さで、大洗は足を運んでいた。ともすれば、それはこれから訪れるであろう現実との対面を、少しでも遅らせようとするかのようだった。
だが、その思惟とは裏腹に、すでに彼は病室のドアの前で立ち止まっていた。
ノックする。中からか細い女性の「どうぞ」という声がした。
ドアを開ける。
「やぁ、調子はどうだ?」
彼の口からでた言葉は、職場で見せるいつもの調子とは異なり、物腰の柔らかな静かな口調だった。
起き上がろうとする彼女を彼は諌めた。
「そのままでいい、どうせすぐにでなくちゃならないから。」
「そお?悪いわね、お使いに行かせたみたいで。」
「いいんだよ、水臭いことはいうな。」
鼻腔をつくアルコールとアンモニアの混じった臭い。点滴の管が、静寂に満ちた病室に、ゆっくりと、そして静かに時を刻んでいる。命の鼓動も、躍動もない無機質の世界。小さな小さな、もっとも終わりに近い世界。
青白く力を失ったピアニストの手を、彼は手にとった。彼を見つめるその黒く、憂いに満ちた瞳は、儚くなりゆくものの残り香を放っていた。・・・・・・美しかった。
「ごめんなさい。私、死んでしまうわね。まだ、遣り残したことがあるのに。」
彼は咄嗟に、その意味を察した。それは姉妹を殺されたことの復讐を意味するのだろう。
彼は、もう一方の手で彼女の手を包んだ。
「君は死なないよ。これまでだって生きてきた。こんな簡単に人は死なない。しっかりしなさい。」
最後の一言は、まるで、駄々を捏ねる子供を諭すような優しさがあった。
彼女は愛らしい、三日月の瞳と共に彼に微笑みかけた。

195イチゴ大福:2005/03/02(水) 11:32:29 ID:xLJuwFUE
「私はあなたが思っているほど強い人間ではないのよ。」
「いいや、強いさ。君が気づいていないだけだ。」
「ふふ、ありがとう。そうだと信じたいわ。」
彼は握り締めたその手をそっとベットの上に置くと、背中に隠していたものを取り出した。
「綺麗だろ?」
それは白い薔薇の花束だった。
「あら、この時期に薔薇なの?綺麗だわ。今日は何かの記念日だったかしら?」
「いいや、君にと思って。」
「ありがとう。あとで看護士さんに活けてもらうわ。」
「俺がやるよ。花瓶あるか?」
「ええ、病院のだけど。」
小さな物入れの中に黴臭い紺青のプラスティック製の花瓶が入っていた。水をいれ、その中にいれる。
「どうだ、映えるだろう?」
「そうね。」
それから、彼は着替えなどの入ったバックを彼女に見せた。
「これを。着替えは看護士に手伝ってもらうんだぞ。」
「ええ、明日にでも着替える。あなたはそろそろ帰ったほうがいいわ。」
そうは言いながらも、彼女の表情は寂しげだった。闘病生活に疲れ、肉体的にも、精神的にも辛い状況だった。しかし、それとはまた違ったものだった。
「そうだな。また来るよ。なにか欲しいものはないか?果物とか、本でもいい。」
「いいえ、なにもいらないわ。」
それを聞くと、彼は静かに彼女の唇に唇を重ねた。彼女も心持ち唇を押し返したが、重なった時間はほんとに一瞬のものだった。
「また来る。ゆっくりお休み。」
彼女は瞳で答えた。
後ろ髪を引かれる思いを断ち、彼は静かに病室を後にした。じんわりと口の中に広がる鉄の匂いは、血の味だった。

196イチゴ大福:2005/03/02(水) 18:50:17 ID:XZIh7iwc
34.不在対象要件の偏在可能性。
一瞬先は闇、という言葉はあるが、先のことが知りえないからこそ、現実社会は複雑怪奇に錯綜した多様な人間の意志のもと、不整合を容認し、不合理を寛容し、その理解を妨げるものだといえる。所詮、一個人の触れることのできる情報の量などたかがしれているのだ。
「事実は小説よりも奇なり」
一瞬そんな言葉が浮かんだが、前田の意識はすぐに眼前に突きつけられた現実に引き戻された。
時刻は午前一時、すでに日付は変わり、二月八日である。自宅から梧桐冬樹が出てきて五分ほど歩いたが、携帯電話を取り出すと誰かと話し始めた。会話はすぐに途切れたが、それとほぼ同時に黒いFTOが彼の前で停車した。「しまった」と思う間もなく、梧桐冬樹は助手席に乗り込んだ。物陰に潜んでいた前田は飛び出し、去り行くFTOの後ろ姿を、望遠レンズを覗く間もなく一瞬の静止のあとシャッターを切った。
高感度のデジタルカメラだ。撮ったばかりの写真を小さな液晶パネルに呼び出す。前田の腕がよかったのか、ただ単に運がよかったのか、車のナンバはかすかに写っていた。
すぐに車に戻り、カメラをパソコンに接続してデータを転送する。
画像を呼び出し、拡大する。陰影をつけるとハッキリと字を見ることができた。
イグニッションを回し、後方確認もままならないまま自動車を走らせた。減速すら惜しいといった様子でコーナーに車体を滑り込ませる。日頃の彼の運転からはまるで想像のつかない荒い運転だった。コーナーからの立ち上がりで滑らかに車体を安定させ、アクセルを踏み込む。黒のFTOの姿は見当たらない。焦る前田。アクセルを踏み込む足にも力が入っている。すれ違う対向車のビームライトに悪態をつきながら、眠りについた市街地を走り抜ける。じきに十八号線にでた。
「どっちだ!?」
ハンドルをとる手に汗が滲む。そのとき、彼の目の前を黒のFTOが走り去った。彼は反射的に方向旗を挙げると、ハンドルを回し、アクセルを踏み込んだ。右手でハンドルを握りながら左手でカメラの望遠レンズを覗き込む。ナンバプレートを確認すると、梧桐冬樹が乗り込んだものだと確認できた。
「これも運がいいからか?」
思わずにんまりする。カメラを助手席に置くと、前方との車間を開け、追跡を開始した。
一定の距離が開いてはいたが、FTOは馬鹿に飛ばしていた。前田が自動車のメーターを見ると百二十キロを超えていた。いくら仕事中とはいえ、スピード違反で同業者に捕まりたくないものだという思いが頭を巡っていた。
経大通りに入り、更に加速する。細い路地を何度か曲がる。見失いそうになったが、なんとかテールランプの筋を追いかけ、そのうちアパートに入っていくのを突き止めた。通り過ぎた振りをして路肩に止めるとすぐにエンジンを切った。温まったエンジンが深夜の切るような冷気に悲鳴をあげるかのような金属音が小さく響く。自動車のドアを閉じる乱暴な音が二つ、続いて階段を上がる足音が聞こえた。
前田はカメラを構えて階段を見やった。梧桐冬樹と、その隣には学生風の男がいる。
前田はカメラを下ろした。「梧桐はあの男を殺す気なのか?」しかし、それでは男が車で梧桐を迎えに来た理由がわからない。わざわざ、見ず知らずの人間に「殺してやるから迎えに来い」といわれて、のこのこ出て行く人間はいないだろう。では、あの男は梧桐冬樹の知り合いなのだろうか?だとすれば、梧桐冬樹の共犯者だろうか?
二人がアパートの一室に入っていった。
エンジンを切ったためにすっかり冷え切ってしまった車内では、寒さなど気にもならないほどに前田は考えこんでいた。
「しかし、二人はどんな繋がりがあるというのだろうか?」
FTOの男がアパートに住んでいることから考えても、少なくとも市内出身者ではないだろう。榛名、安中、館林でも車か電車、バスで通学するはずだ。むしろ県外と考えるべきだろう。では、どうやって知り合ったのだろうか?大学間の交流で知り合ったか、ネットで知り合ったか、他にも考えればいくらでも説明のつく理由はあるだろう。
問題は、梧桐冬樹との関係性だった。FTOの男が今回の事件と関連している可能性があるとすれば、今夜、これから犯行を仕掛けるならば、このまま車内で見張っているのが確実だ。犯行現場で取り押さえれば、殺人未遂容疑の現行犯で逮捕できる。幸い、カメラのバッテリーはまだたっぷりとあった。いくらでも証拠を保存できる。
すべては、二人が動き出せば分かることだ。

197イチゴ大福:2005/03/02(水) 18:52:22 ID:XZIh7iwc
35.実験的境界値の設定と境界条件の不確定性。
彼にとっては三人の名前がでたことよりも、むしろ、なぜその三人が実行犯と同定されたのか、そちらのほうが問題としては重要だった。
特捜がどのような経路で情報を得たにしろ、ソースのはっきりしないものを真に受けるほど、彼は浅はかな人間ではなかった。いずれにせよ、彼は志ノ田を始め、特捜を完全に信じてはいなかった。
志ノ田の狙いが特捜とは別にあり、そのために何人かのスケープゴートを必要としていることに気づくのに、彼はそれほど時間を必要としなかった。志ノ田は八年前の事件に片をつけたいのだ。そのためにはどんな代償でも払うつもりだろう。志ノ田の事件への執念は、一重に“復讐”のための“憎悪”によって支えられていたといえる。志ノ田が警察庁上層部の意向で動いているとはいえ、身内の恥がマスコミに流れることを快くは思わない。志ノ田が個人的意思に基づいて動いているのは、その“不愉快”で“私的”な部分だった。そして、志ノ田を“喰わせ者”と表現したのは、まさにその点だった。しかし、そのために志ノ田が何を狙っているのか分からない以上、慎重に行動することが必要だった。
「信用する、しない」の問題ではなく、「どう動くか」が重要だった。彼にはまだ確信がなかった。血の味の後に彼を襲った電撃のような閃光。思考は飛躍し、変化し、結合し、再構築してはまた無意味化するアルゴリズムの非線形性。どれだけ虚空を睨んでいただろう、自分で自分の頭の中に入り込むかのような永久循環を繰り返し、彼はひとつの、非常に不安定な境界条件を与えることで結論に至った。しかし、それは彼にとってはあってはならない事実であり、信じたくないという意思が裏切る絶望であった。
絶望は死に向かうインセンティヴを伴う“力”だ。そして“力”はどんな形であれ“暴力”を生み出す。絶望から暴力が生み出された歴史は、なにも珍しい出来事ではない。飢餓、貧困、搾取、抑圧、殺人、圧政、拷問、強姦、苦痛、屈辱、喪失、無感覚・・・・・・。“ない”ものたちはそのために耐えた。耐えて、耐えて、苦しみ抜いて、声を噛み殺して、自我を殺して、自分を失って、人間であることを否定して、醜い肉の塊となって、そしてようやく得た“絶望”という名の膿んだ海から、わずかばかりの暴力の種を探し出すのだ。そうして得られた種は、誰か特定の者に向けられた怒りに帰結する結実ではない。無目的に発散する、更なる暴力だ。人から人へ、親から子へ、子から子へ、そして、その子へと、歪なる精神は伝染し、感染力を強め、伝播するのだ。
彼は血の匂いを思い出していた。
「まだ裏付けられたものではない。」
冷静な彼は訴える。
「志ノ田が俺を嵌めるために用意した布石の可能性も考えられる。」
藍沢由布子の母親の顔が思い出される。妻の悲壮な顔が思い出される。苦しみ、六年間を耐えぬいた自分がいる。
拳を堅く握る。
「まだだ、まだ動くな!」
聞き分けの悪い犬を叱り付ける飼い主の厳しさで己を押さえつける。
「まだ早い、・・・・・・まだ早いんだ!」
薄暗い部屋の一室に、俄かに朝靄の、光の粒子が反射した柔らかな明かりが部屋を照らし出した。空はまだ暗いが、日差しの予感を感じさせる、力強い光線の照り返しを、遠くにみることができた。
夜の闇を引き裂く朝の光に、彼はそれまでの鬱積した怒りの感情が薄れていくのを感じた。それと同時に、自分が疲れていることにも気づいた。
「年なんだろうか?」
誰に問うともなしに言う。目の前に彼女の顔を思い浮かべてみる。それはとても自然な光景に感じた。手を伸ばせば今にも届きそうな・・・・・・その滑らかな肌の感触が手に伝わってくるような錯覚を、彼は覚えていた。
「少し眠ったら?」
彼女の声が聞こえる。頬に添えた手に自分の手を添え、その感触の具合を確かめるように瞳を閉じる。
「疲れてはいない。」
「いつもそういうのね?」
「君だって。いつも質問するのは君のほうだ。」
ふっと引きずられるような感覚で彼は目覚めた。ベットの上で、服も着たまま、彼は倒れるように横になっていた。横になった視界が、夢と現実との境界線を曖昧にし、彼を混乱させた。
緩慢な動作で起き上がる。
「夢か。」
部屋に差し込む強烈な光線。先ほどまで見ていた光景が何だったのか、現実の目の前にあるものとの差異、その意味の誤差を抽出するのに時間がかかった。
彼は自分が寝ていたことすら気づかなかった。それほどに疲れていたのか、それとも何かが彼を眠りの井戸の底へ引きずりこんだのか、だとすれば、さきほど見た夢にどんな意味があるのか。だが、何もかも合理的に解釈することは難しい。
そして、彼は考えることをやめる。
考えるべきことは他にあるのだと、自分に納得させるために。
そう、彼はまだ留まるわけにはいかなかった。

198イチゴ大福:2005/03/03(木) 15:10:51 ID:4uwDCqB.
36.不連続の要請。断片化された意思の表層。
寝不足と仕事の疲れを抱えたまま、監視を続けるというのは蛇の生殺しにも似た辛さがある。前田はガムを噛みながら、眠りを求める体を叩きつつ、梧桐冬樹が入り込んだ部屋を監視していた。時刻はもう午前五時にさしかかろうとしていた。頭はぼんやりとして、腸は消化不良を起こしている。一時間でも寝れば違うだろう、しかし、被害者の拡大をこれ以上許すわけにはいかないと思うと、とても寝る気にはなれなかった。結局、今か今かと待ち続けるうちに、もうすぐ夜明けである。前田はもはや、昏睡してもおかしくない、と本気で考え始めていた。
「全部、梧桐冬樹のせいだ。あいつさえいなければ・・・・・・。」
もはや親の仇だとも言わんばかりの調子で、前田は瞼の裏にうつらうつらと浮かぶ梧桐冬樹の虚像を睨んでいた。しかし、鼓膜を震わせるエンジン音で、それが虚像でないとわかる。前田の意識は彼岸から引き戻され、緊張とともに意識が覚醒していった。駐車場から黒のFTOが出る。前田は五秒待って、イグニッションを回した。梧桐の家を出てから約四時間、FTOの男のアパートで何があったのかはわからないが、ナンバは控えてある。道路をいっぱいに使って方向転換すると、アクセルを踏み込んだ。
これまでの犯行時間は深夜から朝方にかけて。これから二人が犯行にむかう可能性は充分に考えられた。しかし、それと同時に疑問が生じる。
「いったい、梧桐はいつ寝ているんだ?」
アメリカに一度も寝たことがない人がいた、という話は聞いたことがあったが、そんな人間は稀な特異体質に違いないはずだ。それとも、若いということなのだろうかと、いつもより更にハンドルを握る手が慎重になっている自分を呪う。
黒のFTOは来た道を戻り、経大通りを抜けて十八号に入った。梧桐を送る気なのだろうか?だとしたら、もう“用事”は済んだことになる。いったいあの部屋で二人はなにをやっていたのだろうか?
徐々に空が明るくなっていくのが分かる。薄明かりにぼんやりと白衣観音の姿が浮かび上がっていた。
結局、黒のFTOは梧桐冬樹の自宅のそばで彼を下ろすと、そのまま走り去ってしまった。梧桐の表情を読み取ることはできなかったが、そのまま自宅に入っていったことから、今日はもう何もないのだろう。二人の関係が共犯であるとすれば、今朝未明の密会は、ただ犯行計画の打ち合わせをしていただけかもしれない。誰を、どのように殺し、どう意味づけるか、奸計を巡らしていたのかもしれない。とすれば、まだ今後も犯行を継続するつもりなのだろうか?
もはや帰宅しても、仮眠をとる時間もないと判断した前田は、そのまま署に車を走らせた。夜勤の警官が彼の姿を目に留める。
「前田じゃないか。張り込みか?」
「ああ、ちょっとな。お互いご苦労様だな。これから少し寝るよ。」
「県警に行ってから忙しそうだな。会議室、まだ誰も来てないから使えよ。」
「おお、悪いな。」
前田は会議室に向い、ソファに体を沈め、毛布を被ると目を閉じた。室内は寒かったが、気にはならなかった。しかし、いざ目を閉じても、一向に眠れる気配はなかった。

199イチゴ大福:2005/03/03(木) 15:11:43 ID:4uwDCqB.
屋外を走行する自動車の排気音、カラスやスズメの鳴き声がかすかに聞こえ、それは朝の到来を告げていた。体は睡眠を求めていたが、脳はなぜか眠ることを拒絶していた。
眠れない原因が何か、それは前田には分かっていた。事件の謎が、彼を捕らえて放さないのだった。
「梧桐冬樹は犯人、梧桐冬樹は医学生、梧桐冬樹は強姦魔、梧桐冬樹は美男子」
頭の中で梧桐冬樹の情報が走馬灯のように交錯する。
「梧桐冬樹は人殺し、梧桐冬樹はK大学の学生、梧桐冬樹は名簿を持っている、梧桐冬樹は・・・梧桐冬樹は・・・梧桐冬樹は・・・・・・誰だ?」
彼は毛布を剥いで起き上がった。インスタントコーヒーを淹れ、ゆっくり飲み込む。
「一週間で七人も、大学の医学部に往復三時間もかけて通いながら、どうやって殺すことができるんだ?私でさえこんなに疲労しているのに、奴は新幹線の中でも音楽を聴きながら本を読んでいた。計画を立て、立て続けに犯行を実行したのに、なぜ、そんなに疲れないでいられるんだ?私たちが追っていた梧桐冬樹は、いったい何者なんだ?」
しかし、そこで前田は思考を切り替える。コーヒーを一口飲み、虚空を睨んだ。
「いや、そもそも、六年前の事件ではどうやって遺伝子のサンプルを採ったんだ?」
当時、梧桐冬樹は中学生だ。中学生の行動範囲がどれほどのものか、断定するのは難しいが、指紋、髪の毛、血液、皮膚組織、体液などを採取できる場所はそうあるものではないだろう。第一、保存もされていない現場で採取しても他人のものとの区別がつくはずがない。高崎市内なら、せいぜいがカラオケ店かゲームセンターくらいだろう。暴走族などとの付き合いがない彼には、背景に暴力団とのつながりがあるとも思えない。代議士の息子だ、それくらいのことは理解しているはずだ。
「それ以前に、熊田と梧桐の関係はなんなんだ?どうしてあの二人が接触することができたんだ?FTOの男といい、梧桐冬樹はT経済大生と長期に渡ってどんな関係があるんだ?」
カメラに収めたFTOのナンバを思い出す。「陸運局に悪質なスピード違反の常習者の疑いで照会できないだろうか?」おそらくT経大の学生だろう、ならば熊田との関係も洗う必要がある。スピード違反だけで照会するのは難しいだろうが、なにかよい口実はないか、彼は考えていた。
梧桐冬樹の遺伝子サンプルの入手経路が非合法であるという点に、もっと客観的な評価ができれば、梧桐冬樹が悪意ある何者かに利用されただけという見方ができる。
まだ根拠は曖昧だが、梧桐冬樹が事件の犯人であるには、あまりにも事件の背景が硬直化していた。それは八年前の事件との関連性も含めてのことである。梧桐が何らかの理由で事件に利用されていたとすれば、更に広く、深い問いが与えられているのではないだろうか?
前田は考えていた。
それには、FTOの男とその関係、そして、熊田との関係を洗い直してみる必要がある。彼は冷えた体を伸ばした。時計を見ると、すでに八時を回っていた。

200イチゴ大福:2005/03/04(金) 11:53:17 ID:1gws7aYE
37.形骸化するアポトーシス。形式化するエンドサイトーシス。
一週間足らずの時間がこんなにも長く感じたことは、今までにはない経験だった。
時間の流れに取り残された意識は、感覚を鈍重にし、そして動作を緩慢にしているようでさえあった。余計な感情と、その矛先の向けられた先にあるものが、彼を動揺させ、激怒させ、憎悪を生み出し、冷静な判断を鈍らせていたことは確かだった。
しかし、まだ冷静さを失っていない彼の理性の部分が、まだ霞に包まれた事件の全様を究明しようと頭をフル回転させていた。それと同時に、事件の解決を早期に何らかの形で早急に導かなければならないことを、彼は考えていた。
彼には今回の事件の犯人がすでに分かっていた。そして、もう、ゴーストには犯罪を行えないことも、彼には分かっていた。分からないのは、なぜ六年間の沈黙を破って、それも今というときになって、ゴーストは行動を起こそうと考えたのか、その点だった。
六年前の事件が今回の事件のトリガーになっていたことは確実である。つまり、ゴーストは六年前の事件の恨みを晴らすべく、甦った被害者なのだ。まさにゴーストの呼称に相応しい存在だといえる。
しかし、六年前の事件と今回の事件の犯行が同一犯のものでない以上、六年前の事件の犯人が誰なのか、やはり謎に包まれたままだった。
梧桐冬樹犯行説はあくまで、県警と検察の不正を暴くための、特捜がでっち上げたデコイである。前田には悪いと思いながらも、彼がそれを利用し、梧桐の周辺を洗わせているのは、六年前の教訓からだった。前田は予想以上の働きをし、梧桐彦一と根路銘国盛との不正な金の流れまで突き止めたが、この事実はむしろあらかじめ予想されていた出来事だといっても良かった。それは、八年前の事件との関係が予想以上に根深いものであったことからも頷ける。彼の理解を妨げているものは、志ノ田と彼を隔てる、二年の差だった。
志ノ田が前田に隠していたことは、八年前の新薬臨床試験事故の際、研究室に根路銘国盛がいたということだった。そして、事件の捜査を指揮していたのは、もちろん梧桐彦一である。志ノ田が個人的に、組織の“力”を利用してまで、八年前の事件に何らかの引導を渡すつもりでいる以上、彼にとっての六年間は志ノ田の捨て駒としての役割でしかなかったことになる。
そこで問題になるのが、志ノ田は真犯人を知っているのか、という点である。六年前の事件は“起こった事件”を利用して、梧桐冬樹の仕業に仕立て上げただけのことで、真犯人は存在していない。死人が出ている以上、どこからか死体を運んできて殺人事件をでっちあげるなどということはありえない。必ず、六年前の事件には、まだ彼の知らない事実と人物がいるはずだった。そして、六年前の事件こそは、ファイの証人の犯行に相応しいものだろう。志ノ田が当時、ファイの証人に辿り着かなかったか、または目撃者情報を含め証拠がでなかったことを利用したか、どちらにしろ、殺害現場に残されたメッセージ性と偏執的傾向は宗教的狂気以外のなにものでもなかった。
彼は志ノ田から手渡された紙を見つめた。
「殺してなにが変わるのか?」
複雑な構造が自壊するシステムは、単純な構造の再構築のための慣例化であるといえる。
壊れる機会がなければ、造る要請は発生しないからだ。むしろ、造る必要があるからこそ、壊れなければ困るのである。カフカの作品に「万里の長城」という短編があるが、バベルの塔が完成しなかった原因を、「新しい技術の登場」とそのための「新しい基礎」のための工事が、延々と破壊と建設を繰り返し、とうとう完成しなかったのだと書いている。硬直化した一面的な合理化の失敗と目的的視点の共有化の困難を、この隠喩で説明しているのは、面白い着眼点である。
壊し、集め、再び作り上げる。しかし、一度壊してしまえば二度と同じものは作れない。
「犯罪者の命は尊いのだろうか?」
尊いのではない、二度と現れない現象だから貴重なのだ。
「現実世界すらも、ひとつの現象ではないのか?」
知覚できるかどうか、問題は境界条件によって導出される特殊解を選ぶ。
「ならば、この殺意は許されなくてはならない。このやり場のない憎悪と、報われない人生にあっては、生きる意味など味気ない。」
そのとき、ピンダロスの詩句を思い出す。『ああ、私の魂よ、不死の生に憧れてはならぬ、可能なものの領域を汲みつくせ。』しかし、この不条理の世界にどんな可能性を見出すというのだろうか?そこで、更に彼は、その詩句を引用した人物の名を思い出した。不条理の哲学者、アルベルト・カミュである。彼は初めて、カミュが「シーシュポスの神話」の冒頭にピンダロスの詩句を引用したのか、その直接的で、感情的な言葉の意味を悟った。

201イチゴ大福:2005/03/04(金) 11:54:33 ID:1gws7aYE
「ピンダロスの言葉は、それ自体が不条理だ。」
彼は病室の前に立った。ノックする。しかし返事はなかった。彼はそっとドアを開け、中に入った。しかし、そこに人影はなかった。白い薔薇が薄暗い病室に光を与えていた。
シーツの皺が、人がいた形跡を留めていた。手で触れると冷たく、彼女の温もりを感じることはできなかった。
「トイレだろうか?」彼は思い、パイプ椅子に腰掛けた。
十分ほど待ったが、現れない。何かあったのだろうかと心配になり、看護士を呼び出す。病人がいないことを告げると、看護士は「そんなはずはありません」と、売店や担当医の所へ足を運んだが、やはり見つからなかった。
「いないのか?」
「ええ、どこにも。どうしちゃったのかしら、ひとりで動けるような体じゃないのに。」
「なにか、言っていませんでしたか?」
「いえ、でも昨晩から痛みが激しいらしくて、鎮痛剤を処方したんです。だからてっきり寝てるばかり・・・・・・。」
彼は思い出したようにベットをまさぐり始めた。ベットの下、戸棚の中、魔法瓶の下、花瓶の陰、そして最後に、枕を持ち上げ、それを見つけた。アイボリーの封書だった。皺になってはいたが、上質の紙だ。
「とりあえず、警察に連絡して、保護してもらいましょう?」
看護士がいう。
「私がその警察です。それにはおよびません。」
すでに事務的な口調に戻っていた彼は、職業的態度でもって、看護士にそうであることを認識させていた。看護士は一瞬驚いたが、すぐに納得したようだった。
「あら、そうですか。では、お任せしてよろしいですか?」
「ええ、そのほうが面倒がないでしょう。どうぞ、お仕事にお戻りください。見つけたらすぐに連れ戻しますので。」
「容態が悪いようでしたら、すぐに救急車を呼んでください。奥様は、考えておられるよりも悪いんですから。」
奥様、という言葉に彼は一瞬身も凍る思いで震えたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「ありがとう、そうします。」
封書をスーツの下にしのばせ、彼は足早に病室をでた。

202イチゴ大福:2005/03/04(金) 11:57:40 ID:1gws7aYE
38.トポロジカルにラジカル、クリティカルにシニカル。
前田は陸運局でナンバを照会し、FTOの男の氏名を突き止めた。男の名前は佐久間武志。今度は大学に向かい、佐久間武志が学生かどうかを照会してもらう。事務職員は、前回の応援団長の件と同様、やはり怪訝そうな表情で対応してくれた。いっしょに、六年前の同窓会の卒業名簿を借り出し、熊田孝治の住所を突き止めた。県内の銀行に就職しており、勤務先を割り出すのは難しい作業ではなかった。
どちらからあたろうかと考えたが、まずは梧桐冬樹と佐久間武志の関係を洗い出す必要があった。梧桐冬樹が悪意の何者かに利用されているとすれば、今回のT経済大生の殺人事件の一翼を担っているのは、なんらかの関係のある佐久間である可能性は高い。そして、六年前にその役割を担ったのが、熊田孝治という按配だ。
前田は、今朝方追跡したアパートの前に再び舞い戻っていた。
今朝とは違い、今度はこそこそする必要はなかった。車を降り、アパートの階段を上る。表札を確認してインターフォンを押した。出てきたのは、昨夜の男で、寝起きらしい不機嫌な顔をしていた。
「誰?」
「警察の者です。」
「警察?もう渡すもんは渡したでしょう?」
前田は口から出かけたクエスチョンマークを飲み下した。変だ、前田以外に梧桐冬樹を張り込んでいる刑事はいない。それに何を渡したというんだ?前田は芝居を打つことにした。
「いや、もう一つほしいと上の者から言われましてね。ありません?」
佐久間が怪訝な表情をする。
「あんなもん二つも取っておくかよ。一回だけって約束だろ?あんたら国家権力を傘にまた脅す気?」
一回?脅す?いったい警察の誰が佐久間とどんな取引をしたのだろうか?おそらく、悪質なスピード違反か酒気帯び運転を見逃す代わりに、それをしろと命令されたのかもしれない。それが梧桐冬樹と関係があるのだろうか?だとすれば、警察内部の誰かが梧桐冬樹を追っていることになる。
「まぁ、無理にとはいいませんがね。しかし、そんなに大変なことでもないでしょう?」
前田の足はすでに扉を固定していた。一歩前に踏み出すと、佐久間はたじろいで身を引いた。「警察が民間人を脅して何かをさせている?」そう考えると、忸怩たる思いで情けなくなったが、それが何なのか、その疑問が彼に演技を続けさせる勇気を与えていた。
「分かってるでしょう、自分の立場?」
佐久間は大きく舌打ちすると、「分かったよ。」と小さくいい、手を出した。
握手かと思い、差し出した手を握ろうとすると、佐久間はそれをはねのけた。
「金だよ金!早く出せよ。」
「金?」
「奴の体を買う金だよ。それがなくちゃサンプルなんて取れねぇだろ!?」
前田の脳に衝撃が走った。目まぐるしく情報が駆け巡る。絡まった糸がほぐれ、一つの糸になっていく。まだ完全ではないが、それでも大方のピースは組みあがった。
六年前、梧桐冬樹を犯人に仕立て上げたのは、志ノ田悟郎を始めとした警察だったのだろう。熊田を、佐久間と同じように落とし入れ、そして体液のサンプルを取るように仕向けた。六年前の事件ではそうやって手に入れたサンプルを使い、現場に残したのだろう。志ノ田悟郎は始めから現場を仕立て上げていたのだ。今回の事件ではそれが何のために必要なのかはわからないが、警察が裏でなんらかの作意を巡らせていることは確実だ。梧桐冬樹はやはり利用されていた。
「いくらかな?」
「五万。」

203イチゴ大福:2005/03/04(金) 11:59:14 ID:1gws7aYE
「高くない?」
「相場だっつうの。ざっけんな。」
前田は財布を見もせずに言う。
「やっぱりいいや。起こしてごめんね。また何かあったらよろしく。」
前田は体格に似合わぬ素早さでアパートを出た。
「ちょっ、まっ・・・・・・。」佐久間は言いかけたが、ドアを開けて追いかけてくるまでには至らなかった。車に乗り込むと、すぐに出した。前田は携帯電話をハンズフリーにして、大洗にコールをかける。しかし、電波が届いていない。おそらく病院にいるのだろう。最近の病院では携帯電話の電波による機器の誤作動を懸念して、電波をシャットアウトしていると聞いたことがある。前田はとりあえずコールするのを諦めて、病院に進路をとった。
いったい警察の誰が、こんなことを仕組んでいるのか?おそらく志ノ田悟郎で間違いないだろう。志ノ田悟郎は八年前の事件で娘の比呂を失い、梧桐警視正と根路銘国盛教授に恨みがあった。六年前の事件で梧桐冬樹を犯人に仕立てたのは、おそらく、梧桐冬樹を立件して家宅捜索し、梧桐警視正と根路銘教授の間に行われた不正を暴くためだろう。
しかし、疑問は残る。なぜなら、梧桐冬樹の父は梧桐警視正の弟、梧桐彦次だからだ。志ノ田悟郎の狙いが他にある可能性も考えられる。そして、大洗への疑惑が再燃する。なぜ彼は梧桐冬樹犯行説に固執していたのか?あるいは、志ノ田悟郎に利用されているだけなのだろうか?それともグルなのか?
すべては病院にいけば分かることである。病院に車を乗り入れたときは、もうすでに昼近くだった。ナースステーションで大洗夫人の病室を訊ね、そこへ向かった。慌てていたので何も用意していなかったことに気づき、売店で果物の詰め合わせを買う。病室の入り口にある名札には「大洗四季」とマジックで書かれていた。間良が推測した、五人目の被害者の姉の名前と同じだ。被害者、佐伯亜季の姉の苗字のイニシャルは“O”だが、ただの偶然だろうか?
「それとも・・・・・・。」
彼はノックをしてドアを開けた。中には誰もいない。アルコールとアンモニアの混じった臭いが、静かで無機質な空間に漂っていた。ベットは人のいた痕跡は残っていたが、とても整っているという状態ではなかった。生命の欠落した病室だったが、窓際には白い薔薇が飾ってあり、陽の光を受け、より一層華やかに見えた。
「あの、何か御用ですか?」
後ろを振り返ると、看護士が訝しげな表情で立っていた。
「私は大洗さんの知り合いです。」
そういうと、表情が緩んだ。
「あの、奥さんと旦那さんはどこに?」
「それが、今朝、旦那様がお見舞いにいらっしゃったんですけど、奥様がいなくなってしまわれて。旦那様が警察のかただそうで、捜しにいかれましたけど。あなたは同僚の方?」
「ええ、そうです。どこに行くか言っていませんでしたか?」
「いいえ、警察には自分から連絡したほうが面倒がないからって言ってましたからねぇ。あんな重病で、いったいどこに行ってしまわれたのかしらね?あなた同僚の方なのにご存じないの?」
「重病って、更年期障害ってそんなに重症になるんですか?」
「白血病ですよ。それももう末期で、抗癌剤の副作用もひどいのに。」
「白血病!?」
「あら、知らなかったの?」
「いえ。そうだ、そろそろ行きますので、失礼します。お忙しいところすみませんでした。」
「いいえ。でも、あの方ほんとに奥様想いのいい方ね。今時珍しいわ、お見舞いにあんな高価な花を持ってくるなんて。」

204イチゴ大福:2005/03/04(金) 12:00:10 ID:1gws7aYE
「白い薔薇ですか?」
「白い薔薇の花言葉を知ってます?」
前田は知っていたが、話が長くなりそうなので切り上げたかった。
「いいえ。」
そういうが、看護士の話は止まらない。
「“純愛”ですよ。でもね、他にも薔薇は、四季を通じて花のあることから“長春花”とも呼ばれているんですよ。きっと、奥様の名前のためね。素敵だわ。」
「そうなんですか。お詳しいですね。では私はそろそろ。お仕事の邪魔をしてすいませんでした。」
彼は看護士の言葉も待たず、病室を後にした。
薔薇には他にも意味があったはずだ。それは確か、“秘密”だったはず。古代ギリシャ、スパルタ人とアテナイ人がペルシャの王と手を組み、ギリシャを征服しようと、ミネルヴァ神殿にある薔薇の木陰で陰謀したのがその謂れの始まりだと聞いたことがある。
前田は、深読みのしすぎだ、と考えたが、やはり胸騒ぎがしてならなかった。特に、大洗の妻の名前が“大洗四季”であることは、大洗警部が六年前の事件の被害者と関係がある可能性を、もはや否定はできないだろう。天才の名も、名誉も、約束された成功も、すべてを投げ打ってまで駆り立てた衝動が何なのか、まだそれは謎だが、その謎が薔薇に秘められたものだとすれば、やはり大洗は事件に関係しているはずだ。しかも、四季は白血病だったのだ。
しかし、大洗四季はどこに消えたのだろうか?末期にあって、もはや動くことすら思い通りにならないはずだ。まさか、六年前の復讐にでかけた?佐伯亜季の実の姉だとして、四季は重病の体を引きずって復讐にでたというのだろうか?それは飛躍だ、と思い直す。
謎を抱えながらも、前田はいったん署に車を走らせた。会議室に戻ると、所轄の松山刑事とすれ違った。
「あれ、前田君じゃないか?」
「どうも、お疲れ様です。」
「君、大洗警部といっしょじゃないのか?」
「ええ、今日から奥さんの看病で休みだそうですよ。」
「そうなの?あれ、さっき見たけどな。」
「見た!?どこでですか?」
前田の鬼の形相に一瞬たじろぐ。松山は暑苦しいような表情で前田を見た。
「保管庫だよ。なにか忘れものじゃないのか?」
最後まで聞かず、保管庫に急ぐ。記帳をみると、確かに一時間程前に大洗が入っていた。持っていったものは「書類」とあるが、前田は不安を感じていた。中に入り、押収した武器などを保管している金庫に向かう。予想通り、扉が開いていた。すぐに管理帳を取り出し、金庫の中を確認する。予想通り、オートマティックのハンドガンが一丁と弾薬がカートンごと消えていた。オーストラリア軍が正式採用しているグロックだ。軍用拳銃だけに火力は、警察官が携行しているニューナンプとは比べ物にならない。
「誰かを、殺す気なのか?」
大洗は誰かを殺そうとしている。六年前の事件の真犯人を見つけだしたのか?しかし、志ノ田が仕組んだブラフの可能性は、志ノ田が大洗を利用しようとしていることを否定できない以上、鵜呑みにはできない。だとすれば、大洗が早まらないよう止めなくてはならない。
しかし、いったい大洗はどこへ行ったのだろうか?そもそも、消えた妻を捜しに出たはずの大洗が、なぜ武器を用意しなくてはならなかったのか、疑問は残る。
この疑問の答えを知っている人物がいるとすれば、それはただの一人だろう。前田は思った。この事件は、すべて志ノ田につながっているのだ。
「志ノ田に訊くしかない。」

205イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:31:07 ID:5cN.MTjs
39.完璧なる間隙、そして惨劇。
車の中でマガジンに弾丸を装填し、グロックの台尻からセットした。セーフティを下ろし、スライドを後ろに引いて初弾を薬室に装填する。ロングマガジンの無骨さが、グリップからはみ出した鋼鉄の金属の冷たさに滲み出ていた。真上から除くと、黄金色の薬莢が南中の日差しを受けて煌めいている。スライドを固定していた手を離すと、機械の正確さで金属の摩擦音が車内に響いた。その先に伸びた延長バレルにはサイレンサーが装着してあり、こんなものを誰が日本に持ち込んだのか、と彼は眉間に皺を寄せた。「人間を殺す」という明快な目的と意図によって製造された軍用拳銃は、彼の手の中で、我関せずといった風体で、まさに俎上の鯉の姿をしてはいたが、その金属の光沢の放つ、火薬と血の臭いの予感は、充分に持つものに圧迫感と恐怖を与えていた。そこには、造られた目的も意図もなく、ただ銃の意志によって、そのグリップを握らされているような、自らの意識とはかけ離れた、何者かに手を支配されたような感覚があった。
彼はセーフティをロックすると、それを助手席に無造作に投げた。
彼には目的があった。まずは彼女を捜すこと。そして、彼女がするだろうことを止めること。
彼女が残した手紙は、六年前の事件の真相を書き綴ったものであり、それがどうして六年の歳月を経て、今再び現れたのか、そのすべてを説明するに足りるものだった。
一遍の詩の美しさで綴られた長い手紙には、その文面からは想像できない彼女の憎悪が込められていた。それは人間への憎悪であり、生きていることへの憎悪であり、彼女を蝕む“血”への憎悪だった。そして、最後の“血”の一滴のために、彼女はすべてを終わらせるつもりでいることがわかった。それを思い留まらせるか、それとも目を瞑るのか、彼はまだ迷っていた。迷ってはいたが、いずれにせよ、留まっている時間はなかった。
「思えば四日前、ここを走りながら愚痴をこぼしたのは自分だった。あの時気づいていれば、こんなにも彼女を悩ます必要はなかった。」
十八号を百キロ近いスピードで飛ばし、前方車輌にパッシングする。強引な車線変更は追い越す車の運転主の顔を強張らせ、悪態をつかせるのに充分だった。彼は「文句があるか」とでもいわんばかりに、露骨にスピードを上げ、猛然と追い抜いていった。
彼女のすることにどんな意味があれ、彼女の憎しみがどんなに深いものであれ、それを肯定するつもりは彼にはなかったが、かといって、それは自分にも責任があるのだと、彼は考えていた。そもそも、思い返せば、自分が陳腐な復讐心に駆られて、志ノ田の取引に乗ったのが間違いではなかったか、彼は今更ながら、身につまされる思いでいた。
「六年前、彼女を連れてドイツに帰っていればよかったのだ。静かに、音楽を続けていればよかったのだ。」
今更としかいいようがないことばかりだが、それでも何かに縋っていなければ、ハンドルごとどこかに吹き飛ばされてしまいそうなほどに動揺し、そのためか、アクセルを踏み込む力に加減がなく、彼は知らぬうちに百四十キロも出していた。一瞬、メーターに目を奪われた隙に、前方の減速していた自動車に追突した。いくら前方の車が走行中だったとはいえ、百四十キロでは、追突したほうもされたほうも無事ではいられないだろう。エアバックが作動したが、車体は大きく横滑りし、ガードレールに激突した。前方の車輌はそのまま横向きになって、車道を完全に塞いでしまった。
方向感覚を失った彼は、エアバックを除けるのもたどたどしく、朦朧とした意識のなか、助手席をまさぐった。金属の感触。グロックのグリップを握ると、ドアを開けて外に出た。後続の車輌は自動車を止め、何人か野次馬が事故を見物していた。まぶしいくらいの日差しで、風は少なかったが、空気は冷たい。野次馬の一人、若い男が彼に声をかけようと近づくが、彼の手に握られた黒い物体を見て後退りした。昼間から事故を起こして、しかも助手席からフル装備の自動拳銃を持って降りてくる人間がどんな人間か、少なくとも堅気の人間でないと誤解されるには充分だろう。そう予感させるに充分なほど、彼は殺気じみていた。面白半分で車を降りたその場の人間は、皆一同に自分の安易な好奇心を呪った。
彼は野次馬の一人に銃を向けた。
蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことだろう、若い男は条件反射で手を上げていた。
「おい、君。緊急事態だ。車を貸してくれ。」
男は無言で頷き、キーを彼に投げた。
「どれだ?」
男が指を指したのは、インプレッサだった。助手席に滑り込み、イグニッションを回す。エンジン音が多少大きいと感じたが、マニュアルの感覚を取り戻すのに集中した。
事故車の間をかわすと、あとにはインプレッサの爆音の余韻だけが残った。

206イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:32:59 ID:5cN.MTjs
40.最後の血の一滴。
石畳のフロアに冷たく響く靴の音で、彼女はその存在を知覚していた。そして、その笑顔や、指のなめらかさ、言葉の妙なる調べや、彼女を包む優しい動作を思い返し、それを憶えている身体が、愛おしさを、中枢神経を伝って、視床下部、視床、下側回頭、室傍などから大脳とその運動野、視覚野、そして連合野に上向させ、前頭葉と大脳、その辺縁系において激しい化学反応を示す。細胞に侵入する神経伝達物質のエンドサイトーシス。軸索が求めるシナプス受容器のモノアミン・レセプター。膜電位変換を期待するニューロン細胞の連結構造。細胞のひとつひとつが、彼を記憶し、思い出し、再現していた。
「ただいま。四季、いるのか?」
彼はヴァイオリンケースを抱えたまま、薄暗いリビングに足を踏み入れた。そこには、弱い月明かりを受け、立ち尽くす四季の姿があった。腰まである長い黒髪は、まるでそうであることが当たり前であるかのうな几帳面さで、重力に従い、まっすぐに、光沢を放って下を向いていた。そこに存在するためにだけに造られた石膏彫像のような、非現実的な、そして安易な感情を受け付けない完璧ともいえる美貌で、四季はそこに佇んでいた。
「ただいま。暗くしてどうしたんだ?寒くないか?」
「明かりを点けないで!」
彼が明かりを点けようとするのを冷徹な氷の冷気の鋭さで止めた。彼は腕を止め、スイッチから手を離した。
「ケルトナー。あなたをいつも近くに感じるわ。」
うっとりとするような、甘味な言葉の調べ。ケルトナーは四季の様子がおかしいと気づき始めた。恍惚とした、夢でも見ているようなぼんやりとした表情で、彼女は欠けた月を眺めていた。月の魅せる狂気なのだろうか?彼はあくまで平静をよそおう。
「最近忙しかったからね、寂しい想いをさせたかな?しばらくは海外公演もないから、来週のコンサートが終わったら外で食事でもしよう。」
彼はヴァイオリンケースを置いて、彼女のそばに近づいた。
彼女も彼の方へ身体を向ける。その手には銀のナイフが、冴えた月の光を受けて煌いていた。ケルトナーはナイフの意味を察したのか、それを見るなり彼女に飛び掛った。彼女の手に握られたナイフを奪おうと、ケルトナーは彼女の腕を引っ張った。しかし、それに抵抗しようとした四季は、手首を返し、ナイフの先をケルトナーの身体に向けていた。ケルトナーが勢いよく引っ張った腕はナイフを固定したまま、ケルトナーの表皮を貫き、心臓細胞を深く貫いていた。激しい鮮血が迸しった。それは彼女を濡らし、床を濡らし、壁にまで彼の血で染めた。それが最後の、彼のメッセージであるかのような、生命の力強さを見せ付けようとするかのような血飛沫が、部屋を静かに塗り替えていた。
心臓を貫かれたケルトナーはナイフを身体に残しながら、仰向けに倒れた。仰臥するケルトナーの頭を自分の膝に乗せ、その冷たい身体を抱きしめる。しかし、すでにケルトナーの意識はなかった。黒い真珠のような瞳からは、大粒の涙がこぼれていた。ぶるぶると震え、彼を殺してしまったことの後悔が彼女の思考を支配していた。
「ケルトナー。あなたを殺すつもりはなかった。あなたに見ていて欲しかった。私が生まれ変わる瞬間を、あなたに見届けて欲しかっただけだった。」
微塵も動かない彼の顔に、彼女は頬を押し付けた。涙と鼻水とが彼の顔に流れ落ちる。彼の髪の毛をくしゃくしゃに撫で回し、そこにケルトナーのいた証を見出そうとしたが、それは既に、“力”を失った肉の塊でしかなかった。彼は人間と死人を隔てる境界線の向こう側にいってしまったのだった。もはや、そこには死と残された肉の塊の腐敗しか存在してはいなかった。
彼女はとめどなく溢れる涙を拭うこともせず、ケルトナーの肉体からナイフを抜き去った。血が噴出したが、その勢いはもはやたいしたものではなかった。
無言でナイフを自分に向けて握り締めると、一瞬のためらいもなく、自分の胸を貫いた。噴出した血はケルトナーの血に混じり、覆い、侵食して、さらに広がっていった。彼女は彼の上に覆いかぶさるようにして倒れた。
静寂の中に二つの死体と一本の銀のナイフ。静謐さの暗黒に取り残された肉体は、もはや時の流れを拒むかのように、静かな眠りについていた。
人の死とはなんとも呆気ないものだろうか?そこには、天使の歌声も、神の祝福も招かれず、劇的な変化や感動的な幕切れすら用意されてはいなかった。「すべて死はこうあるべく予見されていたためしはない」と、死神が二人の遺体に説教を垂れるわけでもなく、粛々と、時は腐敗の時間を刻んでいた。それは、自然という閉鎖系のシステムにあって、当然そうでなくてはならない物理現象であり、誰も疑いようのない真実だった。
そう・・・・・・二人の時間は、その時すでに終わっていたのだった。

207イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:37:49 ID:5cN.MTjs
41.失われゆく記憶。再起する追憶。
インプレッサがT経済大学の正門の前に滑り込んだとき、すでに“こと”は始まっていた。誰もが想像していた、なのに誰も止められなかった恐怖の力は、今現実に、人の力によって咆哮をあげ、地獄の底から呼び起こされた堕天使の復活を祝福するかのように、キャンパスは暴力と死からの逃避のために阿鼻叫喚に包まれていた。
天使の姿をした悪魔の最初の生贄は、バスの運転手だった。運賃を支払わないこの美しき天使を止めようと追いかけたところを、彼女の鋭利な牙の餌食となった。血糊の着いた刃物を持った天使が正門から堂々と入るのを守衛が見つけ、警察に110番通報したが、その時、五号館の方からスクーターに乗った男子学生が、すれ違い様に刃物を胸部に突き立てられ、スクーターから放り出された。地面に背中から叩きつけられた学生は、息も絶え絶えにもがいたが、それも天使がナイフを抜き去るまでのことだった。
初老の守衛が木刀を手に取り、図書館の方へ向かう虐殺の天使を追いかけた。
「止まれ!」
守衛が叫ぶ。天使はこの世のものとは思えぬ優雅な仕草で振り返ると、緊張と恐怖で顔の強張った守衛に微笑みかけた。それは、他の場面であれば間違いなく天使のものと見紛えるものだったろう。しかし、眼前に立つのは血に塗れた堕天使のそれだった。
守衛は乾坤一擲とばかりに一撃を打ち込んだ。多少、剣道の心得があるのかもしれない、彼の木刀は天使の左鎖骨をとらえた。鈍い、硬質のものが砕け、折れる感触が、彼の手を伝わり、脳神経に伝わる。彼は途端に罪悪感にとらわれ、木刀を引いた。なぜ罪の意識を感じているのか、彼にはその理由が判然としなかった。それは、天使の微笑みのためだろうか?それとも、傷を負わせたことへの自責の念からだろうか?金閣寺の美しさに嫉妬して火をつけた僧侶の話を、三島由紀夫の本で読んだことが彼にはあった。美しいものを傷つけるとは、こういうものなのだろうか?どちらにしろ、天使は意に関せずといったようで、痛みに苦悶する様子もなく、表情一つ変えることはなかった。そして、その殺意の矛先が血を求めるのも、躊躇う必要などなかった。たじろいだ守衛の腹部にナイフを突き立てると、さもそれが当たり前の動作であるかのように抜き去った。守衛はその場に倒れた。血の海が、辺りに波打って広がっていた。
図書館からでてきた女子学生がそれを目撃する。自動ドアを抜け、誰だろうと目を凝らすと、守衛が血の海に溺れており、その目の前には美しい姿態と黒髪の女性がいる。彼女は瞬座に状況を察して、図書館の中に飛び込んだ。
「誰かぁぁぁぁぁ!!人殺しぃぃぃぃぃ!!」
彼女の腹の底から轟くあらん限りの声は、それまでコンピュータの駆動音が静かにまどろんでいたホールの沈黙を破るのに充分だった。そこにいた職員、学生、院生、たまたま来ていた一般人。全員がその声を聞き、そして声のする方向に振り向いた。

208イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:39:00 ID:5cN.MTjs
最初に動いたのは、論文雑誌を読んでいた院生だった。「どうせ馬鹿が喧嘩でもしてんだろう」そう内心悪態をつきながら、学部長に説教の一つでもしてもらうつもりで、名前と学籍番号を控えようと席を立った。ゲートを出て階下を見ると、先ほど大声を上げたであろう女の子の姿が見えたが、それを追いかけるようにしてホールに入ってきたのは、ナイフを手にした女性だった。その歩き方の美しさは天性のものかもしれない。彼は一瞬、呆然と、その黒い、硬質の瞳を収めた完璧な造形美に見とれていたが、すぐにそのナイフの事情に気がついた。それは、最近T経済大学を騒がせている“ゴースト”のためだった。彼は階段を駆け下りた。ゴーストは女の子をホールの奥に追い詰めていた。彼は休憩所の椅子を手にとり、ゴーストに投げつけた。椅子は頭部を直撃したが、彼女はまるで無反応だった。まるで、その椅子はおろか、痛みすらこの世のものではないといった風に。彼は恐怖に駆られてもう一つの椅子を手にとった。そしてつかつかと近寄り、大きく椅子を振り上げた。力ずくでゴーストをフロアに捻り倒そうと考えたのかもしれない。しかし、動作が大きすぎた。椅子を振り下ろす前に、ゴーストの刃が彼の心臓を貫いていた。彼は胸部にナイフを容れながら、椅子を振り上げた状態で静止していた。死の恐怖、苦痛への恐怖が、彼にそれ以上の思考を困難にさせていた。彼女がナイフを抜き去ると、大量の血を噴出して仰向けに倒れた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
悲鳴がホールに響き渡る。地獄の時代の到来か?それとも神の国の門が開いたのか?すべての死者は甦り、今再びその命の重さを計りに掛けているのだろうか?
「それは違うぞ、亜季!!」
うつろな瞳がそのとき何をとらえていたにせよ、そこには彼がいたし、それは実に自然な光景のようにも思われた。彼がそのとき答えたことは、彼女の行動の意味そのものを否定するために他ならなかった。それは、困難といわれる意志の疎通という作業を通じて行われた、二人が長い時間をかけて培ってきた、心の通ったコミュニケーションのなせる業だった。二人は、愛によって育まれ、愛によって理解されていた。
冷たい金属の銃口がその冷徹な殺人の興味を彼女に向けていた。若干、彼の指によって反抗されていたとはいえ、それは確実に彼女の命を奪うことを彼に約束していたし、そうしたくて仕方なかった。彼は、それを理性によって押さえつけていた。
「違うぞ亜季!!君のやっていることは、なんの問題の解決にもならないんだ!!」
血の痕跡を追ってみれば、そこには血にまみれた美しき悪魔の変貌があった。左肩が変形し、額からはどす黒い血を滴らせてはいたが、それでも彼女は美しかったし、その双眸は、やはり彼の心の奥底の深いところに眠る、彼女への愛を掴んで放さなかった。
「手紙を読んでくれたのね?」
「君らしい、綺麗な文面だった。」
「四季はファイの証人のクゾガキどもに犯され、殺されたの。そのクソガキどもが今、この大学にいることをあの馬鹿女が教えてくれたわ。」
「藍沢由布子か?彼女は勘違いをしていただけだ。」
「あの馬鹿がなにもかも話したの。あなたも知ってるでしょ、四季も、春子も、あいつらのクソ儀式のために殺されたって?」
彼女は怯えて蹲った女の子の襟首を掴むと、自分の目の高さまで持ち上げた。日本人の女性としては珍しく百八十センチ近くある長身のため、持ち上げられた女の子は首が吊られる形になり、息苦しいせいか激しくもがいた。
「このクズどもに殺されたのよ!!」
亜季は女の子をフロアに叩きつけた。か細い、病をかかえた痩躯のいったいどこに、あんなに激しく荒々しい力が宿っているのだろうか?彼女は膝をつくと、女の子に刃を突きつけた。
「やめるんだ亜季。その子は六年前の事件にはなんの関係もない。」
「それは問題にはならないの。必要条件を満たせばいいの。あとは報われたいだけ」
「殺人に報いる裁きはある。」
「それを望む人のための裁きなら、私にはあまりにも不満だわ。」

209イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:39:57 ID:5cN.MTjs
「その不満は死人のためのものだ。君はどう足掻いても被害者の遺族にしかなれない。」
「だから当事者になろうとしたの。由布子は警察から六年前の事件のことを聞いたといっていたわ。それとも、あなたは私に緩慢な死を要求するの?」
「その警察官は、白血病患者の会にいた、春子の友人、比呂の父親じゃないのか?」
「そうらしいわね。でも、そんなことどうでもいいことよ。」
「よくはない!その人間は嘘をついてるんだ。俺たちを罠にはめるために!」
「それでもいいのよ。分からない?これは必要なことなのよ。」
「なんのために必要なんだ?」
「必要だと認識するもののために必要なのよ。」
「必要を喚起する必要など、幻想と夢想の襞に包まれた虚像だ。」
「現実はそれを認識するものにとって現実たりえればいい。虚像が虚像だと気がつくまでは、それは現実に血の通った肉体の出来事なのよ。」
「亜季、君はこれを現実だと認識できるのか!?」
「ええ、だからしたの。現実にしたかったから、したのよ。四季を殺したゴミを、クソを、綺麗に排除してやりたくて。だから、あなたも分かって。ね?お願い。」
そして、右手に煌く白銀の殺意が、ゆっくりと女の子の背後に影を差した。
「さぁ、あなたもいっしょに・・・・・・。」
言い切らないうちに、静かな挙動が正確な機械の動作を実現していた。それは誰も望まなかった意志の発露であり、かといって誰かがすることを望んでいた、無責任な作動だった。
無用な爆炸音を、豆鉄砲のような空気の振動に変えて、鉛の玉は亜季の白い大理石の額に一点の穴を穿っていた。一瞬遅れて、薬莢の打つ、乾いた金属音が辺りに響いた。何一つ満足な終わり方でないことは、そこにいる誰もが理解していることだったが、なにより、彼ほどその“不満足”の意味を噛み締めている者はいなかっただろう。ひとりのかけがえのない人生であっても、それが愛した人であっても、死ぬときは一瞬の閃光の瞬きよりも短い時間の追憶に過ぎないのだから。
蹲り、泣き崩れる女の子を他所に、彼は亜季の死体を抱きかかえた。大きく見開かれた目を、赤子をあやすような優しさで閉ざしてやる。
「なんて馬鹿げているんだ?」
彼は既に活動を停止した亜季の形をした肉の塊を見つめ、呟いた。
「あんまりだ・・・・・・君はあんまりだよ。」
一粒の涙が彼の瞳から流れ落ちた。だが、それだけだった。
静かに、冷たいフロアに遺体を寝かせると、彼は立ち上がった。すでに涙の痕跡もなく、むしろ、双眸に宿る狂気じみた雰囲気のために、誰も彼が悲しんでいることなど気づかなかっただろう。
「あ、あの、あなた警察の方?」
職員らしき中年の男性がたどたどしい口で問う。彼は頷いた。
「ええ、そうです。警察と消防署に連絡して救急車を呼んで、現場はそのままにしておいてください。いいですね?」
それだけ言って彼は立ち去ろうとする。
「ちょっと、どこ行くんですか?あんた警察でしょ?これ、どうするの?」
四人もの死体を置いてまで一体どこに行く必要があるのか?それは至極まっとうな質問だった。しかし、彼はもう聞いてはいなかった。
その目は、憎しみしか見つめてはいなかった。

210イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:42:40 ID:5cN.MTjs
42.疾風怒涛
志ノ田悟郎を捜すために県警や警察学校に片っ端から電話をかけてコンタクトを試みたが、いずれもブラフだった。始めから志ノ田悟郎という人間が警察にはいなかったのだ。
大洗が嘘をついていたのか、それとも志ノ田が組織を背景としたグループの一員として、警察にいたように見せかけ、大洗を騙し続けていたのか、いずれにせよ、大洗が誰かを殺そうとしている事実に変わりはなかった。時間だけが無常にも過ぎ、前田は手を拱くしかなかった。検問と大洗の捜索の手配、今できることはこれくらいのものだった。次の一手が出ない以上、何一つ打開策など見出せるわけもなく、前田はやり場のない苛立ちをデスクにぶつけた。
十八号線で大きな玉突き事故が起こった以外、大洗が姿を消してから一時間の間、目だった事件はなく、それがなお一層前田を憔悴させていた。
しかし、事件の鍵は思わぬところで向こうから舞い込んできた。それは、刑事が違法な武器を装備して逃走中だという話をどこからか聞きつけた、東○地検特捜部の初老の男性だった。白髪交じりの顎鬚を短く蓄え、顔から伺える年齢に似合わず体躯ががっしりとしていた。
「なぜ地検がこんなところに?」
疑問は緊急捜査会議が召集されるとすぐに解けた。
「こちらは、大洗警部捜索の担当にあたられる、東○地検特捜部の志ノ田さんだ。異例のことだが、以後、現場の指揮を彼に一任する。」
梧桐警視正が志ノ田を紹介すると、彼はそそくさと会議室を出て行った。
梧桐冬樹の遺伝子のサンプルと、志ノ田がここで繋がるのか?志ノ田は梧桐警視正から警察組織の権力を掌握するために、彼を脅す材料に梧桐冬樹を使ったのか?
「みなさん始めまして。大洗警部についてはもうご承知かとは思うが、改めてここで説明しておこう。
彼は、六年前の「あいうえお事件」で、妻の妹、佐伯亜季を殺された。犯人不詳のままとはなっているが、おそらく彼は、宗教法人「ファイの証人」の犯行だと疑っている可能性が高い。これは、佐伯亜季が当時白血病を患っていたこと。彼女の通っていた白血病患者の会には、六年前の事件の第一被害者である藍沢春子がおり、彼女は当時、亜季と交友関係があり、ファイの証人に入信していたこと。そして、今回の事件の第一被害者、藍沢裕子が、被害に遭う直前、大洗警部と接触していたという情報から、信憑性は高いといえ、警部が同宗教法人への復讐のために銃を持ち出したとの公算が高い。
これから、ファイの証人群馬支部の教団施設の警邏にあたるが、一同に伝えておく、怨嗟の犯行ほど狂気に満ちた心理状態はない。警部が銃口を向けたら躊躇わずに撃て!以上だ。」
「茶番だ。」前田は呟いた。それを志ノ田は聞き逃さなかった。
「何だ?」
威圧する視線で前田を睨みつける。
「そもそも、なぜ東京から地検がわざわざ地方の事件に首を突っ込むんだ!?梧桐冬樹の精液を買ったことも、あんたが八年前の事件で恨みを持っていることも知っているんだ。梧桐警視正を落としいれ、大洗警部を騙し、お前らは何を狙っているんだ!?」
志ノ田の口元が歪んだ。それは笑っていた。
「そうか、お前が前田か?なるほど、たいした奴だ、この俺に楯突くとはいい度胸だ。」

211イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:43:57 ID:5cN.MTjs
「六年前の事件は全部あんたが仕組んだことだ。そうだな?犯人を梧桐冬樹の仕業に仕立てたのは、梧桐警視正と根路銘国盛の不正を暴露するためだ。そして、警部には、真犯人はファイの証人だと伝えた。確かに、彼らの教義に即したもののように見えなくもないが、実際には他の人間の犯行じゃなかったのか?または、まったく関連性のない事件をつなげてそうしたのか?そこまでは確認することはできないが、あんたはどうしても警部にファイの証人を殺させたかった。そうしなければならない理由があった。」
「さぁ、なんのことだかな?いい加減に仕事にでたらどうだ?」
「こんなものがまかりとおって警察の仕事だというのなら、法とはなんだ?私は警察官だ。そのために法が定めた権力を行使する。」
「どの道、お前の警部はもう免職は免れないし、信者の一人や二人は殺すだろう。法は殺人者を裁くだろうな。」
「貴様!」
前田が怒りに駆られて右腕を打ち込んだ。志ノ田は早かった。彼の手首を右手でがっちりと鷲掴みにする。年とは思えない握力で前田の動きを封じる。
「悪いが喧嘩をしてる暇はないんでな。」
言うと、腕を思いっきり自分の方へ引っ張った。前田の姿勢が崩れる。志ノ田は余った左手で前田の右肩を押さえると、前田の右手を固定して、彼の膝を後ろから蹴りつけた。前田は膝をがくりと折って、膝をついた。手首を捻り上げた姿勢で前田の腰から手錠を取り出す。
「悪いが静かにしとけよ、邪魔になる。」
手錠を掛けようと志ノ田が左手を右手に持ってきた瞬間、前田は左手を軸に身体を移動し、仰向けの姿勢になった。左手で手錠をもつ志ノ田の左手首を掴み、引っ張る。前田を拘束するために前かがみになっていた志ノ田は簡単に慣性に従って前につんのめった。すかさず前田が右足を伸ばし、体重をかけて志ノ田の身体を頭の方へ投げ飛ばした。志ノ田の巨体が空中に弧を描いて、激しくフロアに打ち据えられた。前田は立ち上がり、フロアに転がる志ノ田の巨躯を見下ろした。
ギャラリーは増えていたが、誰も間に入ろうとはしなかった。そもそも、二人以外になぜ県警の刑事と地検の捜査員が喧嘩をしているのか、その理由が分かるものなどいなかったのだから、仲裁に入りたくても入れないといったほうが適切かもしれない。
志ノ田はゆっくりと起き上がった。無言だが、前田をとらえる志ノ田の視線には殺気が漂っていた。
「おい、ええかげんにせぇよ。」
「六年前、本当は何があったんだ?」
「ほんとに困った奴だな。・・・・・・よし、俺からもう一本取ってみろ。そしたら教えたる。」
「時間稼ぎか?警部にファイの証人を殺させたいんだ?なぜ、梧桐彦次の息子、梧桐冬樹を犯人に仕立て上げたいんだ?」
「いずれ全国民が知ることだ。今知る必要などない。」
「六年前の真犯人を言え!」
「だから、俺から一本取ってみろ。教えたる。」
前田は左手で志ノ田の左手首をとった。少々強引な引きで志ノ田の身体を持ち上げ、投げ飛ばそうとする。しかし、志ノ田は腰を落とし、左手で前田の右足太股を抱え、持ち上げると、そのまま投げ落とした。今度は前田がフロアに転がる番だった。しかし、前田の次の動きは早かった。うつ伏せになると、四つん這いのまま駆け出し、志ノ田の腹部めがけてタックルした。志ノ田は予期せぬ反撃に防御が遅れ、そのまま会議室の壁に背中を打ち据えられた。前田は志ノ田に馬乗りのなると、両の襟首を掴んだ。

212イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:44:35 ID:5cN.MTjs
「約束だ。吐け!」
「馬鹿野郎、無茶しやがって!警察学校で何を習った!」
「法の下の正義を成す。それだけだ!さぁ潔く言え!」
志ノ田の表情がだんだん薄れていく。観念したのだろうか?大きく溜息をついた。
「俺も焼きが回ったな。・・・・・・六年前の事件はお前の想像通り、梧桐冬樹の犯行ではない。」
「では誰が?」
「最初の四人は同一犯によって殺された。今回の事件同様、何一つ証拠を残さずに。しかし、最後の四季だけは違っていた。彼女は自殺したんだ。」
「なに?四季は生きているんじゃ?」
「双子の姉妹の名前を摩り替えたんだよ。事件を発見したのは大洗だが、それを提案したのは奴だ。」
「何のために?」
「儀式が失敗したとなれば、教団がまた犯行を繰り返す可能性がある、とでも考えたんだろう。当時、俺たちは現場工作をしなくてはならなかったからな、その提案に乗ったんだ。」
「なんてひどい・・・・・・。警部は、四季が自殺したことを知らないのか?」
「さぁな。第一発見者は奴だ。遺体の状況を見れば、自殺かどうかはたいがい分かるもんだ。仮に当時わからなくても、今なら分かるだろう?それにな、四季は藍沢春子に誘われてファイの証人に通っていたという証言も得ている。四季が自殺した理由を、ファイの証人の責任に転嫁しないとも限らないだろ。なんにせよ、奴の積年の恨みを発散させることができるのは、もはやファイの証人にしかないし、いずれにせよ血は流れる。」
「なぜ、ファイの証人を殺させたい。」
「それは機密にかかわる問題だ。お前ごときが聞き出したと分かれば、更迭しなくてはならんぞ。」
「機密だと?」
「政治的な問題、ということだ。」
前田は立ち上がった。志ノ田に手を差し伸べるわけでもなく、前田は会議室を飛び出した。
呆然と立ち尽くす捜査員たちを残し、ただ、前田だけがすべきことを心得ていた。それは、大洗の殺人を止めることだった。
その時、T経済大学で殺人事件が発生したと入電が入った。

213イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:46:01 ID:5cN.MTjs
43.混沌の狭間に。
前田は先ほどの痛めた体に鞭打って車に乗り込んだ。
多くの謎は解決しつつあった。
今回起こった事件の大きな問題点は、情報の非対称性と偏在、そして寡占と、未必の悪意によってもたらされたものだった。
情報を歪曲し、操作し、特定の人間が情報を独占することでもたらされた弊害が、事件を長期化し、解決を困難にし、背景を無駄に複雑にしていったといえなくもない。
梧桐冬樹の張り込みは事件の背景を探る大きな助けとなったが、事件との直接的な関係がない以上、意味がないとしかいいようがないのである。ましてや、第三者によって意図的に捏造された現場が存在するというのは、本物であるという前提の現場から先入観を取り去るとすれば、信じる意義すらなくなるのであり、無用な混乱をもたらすだけのものであった。
六年前の事件も、今回の事件も、仕組んだのはやはり志ノ田だった。
彼ら地検の特捜は、彼らのいう“政治的な問題”のために事件をでっち上げた。それが、梧桐冬樹を被疑者にでっち上げたことからもわかるように、代議士である梧桐彦次に関係することは明白だろう。梧桐彦一と根路銘国盛の関係は、いわば、群馬県警と地検の動きを牽制するための手札以上のなにものでもなかったのだ。始めから狙いは梧桐彦次にあり、そのための布石にすぎなかった。おそらく、前田が調査した書類も志ノ田を含め、流れたことだろう。
多くのことが故意に秘匿され、歪曲され、複雑な人間関係のもと事件の全容解明を困難にしているが、地検がなにを企んでいるのであれ、大洗がすでに行動を起こしている可能性は高かった。
先ほど110番通報があったというT経済大学では、守衛が、正門から刃物を手にした女性が入ってきたと通報したとのことだった。その後、十分ほどして、おなじT経済大学から再び110番通報があり、刃物を持った女性が何人か刺して殺したが、銃を持った男性によって撃たれて死んだ、とオペレータ言ったという。
おそらく男性は大洗とみて間違いないだろう。だとすれば、T経済大学に白昼侵入したのは、四季・・・・・・いや、四季を名乗っていた亜季ということだろう。亜季の次の行動が予測できたからこそ、大洗は病院からまっすぐ署に向かい、銃を装備し、そして大学に向かったのだ。
では、大洗は次にどんな行動にでるのだろうか?
前田は彼の思考をトレースしようと神経を集中した。運転中ではあったが、彼の意識はほとんど虚空を彷徨っていた。
“銀の指輪”、“白薔薇の秘密”、“四季の死とその後の六年間”、“亜季に向けた銃口”
そして、その時、看護士が言った“純愛”の一言が思い出された。
それはあまりにも人間的で、泰然とした静寂の調べだった。
「そうだ、警部は亜季を愛していたのだ。愛している人は、もともとそこにいたのだ。」
飛躍する思考、明鏡止水、一滴の雫が前田の中に息づき、一瞬の爆発的な変態を認めた。前田は始めて大洗のことを理解できた心境だった。
「警部は、大洗ケルトナーではない!」
その言葉を口の中で咀嚼し、頭の中で反芻した。
その時、警察無線が入った。大洗宅で火事が発生したとのことだった。前田は回転灯を車の屋根に乗せると、大きく車を方向転換した。
前田には確信があった。
そこに大洗の名を語る何者かがいる、と。

214イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:47:30 ID:5cN.MTjs
44.終わり行く人々。
熱波が容赦なく消防士の侵入を阻む。
燃え尽きようとする意志、そして頑迷なる決意が、その炎には宿っていた。
前田が大洗宅に到着すると、すでに火の手は建物全体に回っていた。芸術家らしい、型にはまらぬ建築美は、どこか古い日本の平屋建築を思い出させるような、懐かしさがあった。アントニー・レーモンドの意匠に触発された、有名な建築家がデザインしたと聞くが、それも火の中にあっては、すでに灰になる運命を待つばかりだった。
駆けつけた消防士が消化活動に励んでいたが、一向に火の勢いが収まる気配はなかった。
前田は野次馬を掻き分けて消防士の一人の肩をつかんだ。
「中に人がいる!」
消防士は驚いた表情を見せたが、すぐに険しい表情に戻った。
「離れてろ!消化の邪魔だ!」
「私は警察だ。人がいるかもしれない。なんとか中に入れないか?」
「この火の回りの早さを見れば無理なことくらい分かるだろう!?薬品をばら撒いて点火した可能性が高い。」
「薬品?」
「ベンゼン、シンナー、グリセリン!言えば切がないが、消化剤の効果がない以上、自然鎮火を待つしかない!」
「くそ!」
舌打ちすると、建物の裏に回った。不幸中の幸いともいうべきか、周囲には建物がなかった。周囲の木に火が飛び移るのを防ぐため、駆けつけた警察が消防と協力して木を切り倒す作業を始めていた。前田は無造作に乗り捨てられたインプレッサを見つけ、中を覗いた。
キーは入ったままで、助手席にはサイレンサーを装備したグロックが横たわっていた。手にとり、マガジンを取り出す。弾丸は一発も入っていなかった。おそらくどこかに棄てたのだろう。そして、一枚の紙片が残されていた。
『今日は、太陽の再生をお祝いしよう!』
前田は眉根をひそめた。言葉の意味がつかめなかったからだ。
彼は紙片をポケットに押し込み、あとは呆然と邸宅を眺めているだけだった。

215イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:50:33 ID:5cN.MTjs
45.エピローグは簡潔に。
事件のあと、大きな変化が三つ起こった。
一つ目は、火事の後から、男性と思しき遺体が発見されたこと。二つ目は、何者かがファイの証人群馬支部に侵入し、信者数名を殺害し、自信も自決したこと。三つ目は、梧桐彦次が所属する与党最大派閥の党員と幹部数人を、贈収賄容疑で東○地検特捜部が立件したこと、だった。
一つ目については、遺体の損傷がはげしく、すっかり炭化しており、DNA鑑定は不可能との見解が示された。しかし、警察の懸命な捜索にも関わらず、大洗の消息が依然つかめない以上、遺体は大洗ではないかとの見解が主流を占めるようになった。確かに、それには間違いないのだが、その事実は、おそらく志ノ田も知らないであろう。
二つ目に関しては、まるで謎である。おそらく、“彼”と同じように志ノ田に利用された、ファイの証人に恨みのある人間の犯行だろう。志ノ田の言った、「いずれ血は流れる」とはこのことを意味していたのだ。教団への怨恨による犯行ということで決着がついている。
三つ目に関しては、志ノ田が虎視眈々と狙っていた獲物の存在がなんなのかを知らしめるものだった。おそらく、背後には野党の暗躍があったのだろう。歴代総理大臣を三人も出した与党の牙城を崩し、新たな地盤を確立したいと目論んだのかもしれない。野党陣営からは堰を切ったように総理の辞任と内閣の解散請求が叫ばれるようになったのは、ごく自然な動きだったといえるだろう。地元地盤の候補者の人脈を断ち、また、他の選挙区でも逮捕者を出したことは、与党にとって大きなイメージダウンとなった。かといって、原状で辞職勧告をだせば、補欠選挙は確実に負けるだろう。その鬩ぎ会いの中で、政党内部の意見も膠着状態にあり、当分尾を引きそうな話題となることは確かだろう。
ここまできて、たった一つ疑問が残ってしまった。
そう、大洗ケルトナーを名乗っていた人物が一体誰だったのか、という点だ。
この疑問を解決したのが、前田の父である博士だった。
『賢くなるには年をとらねばならないが、実際、年をとって身を保つことは難しい』とエッカーマンに愚痴をこぼした、文豪ゲーテに共感して、最近ではゲーテ全集を読んでいた。
事件がひと段落し、前田が実家に家族を連れて行ったときのことだった。彼がふと思い出し、紙片を博士に見せたところ、「これはゲーテの言った言葉だな」と漏らし、問い詰めたのだ。それはエッカーマンの「ゲーテとの対話」で、一八ニ三年十ニ月ニ十一日のところに記されていた。続いて、ベルリンに母に会うために向かう若夫人が去ると、こんなことを言っていた。
「私は、あまりにも年を取ってしまったから、母親に再会する場所があちらだろうとここだろうと、その喜びはちっとも変わらぬなどといって、彼女に逆らってまで、彼女を説得する真似はできないね。こんな冬の旅は、労多くして、得るところがないよ。だが、こういう無駄は、若い頃は数限りなくよくあるものさ。そして、全体的に見れば、それは何にもならないことなのさ!ただ、ほんのしばらくのあいだ改めて人生を満喫するために、馬鹿げたことも時折仕出かさなければならないのだ。私だって、若い頃に、今よりもっと賢明だったわけではない。けれども、まぁなんとか切り抜けてきたというわけだね。」
だからなんだといわれればそれまでだが、事件を通じて“彼”が感想を漏らすとすれば、こんな疲れた言葉ではないだろうか?そして、最後の一文が引っ掛かった。
“彼”は生きていることを伝えようとしたのだろう。前田にはその事実だけで充分だったのかもしれない。
そして今、見知らぬ土地で“彼”の後ろ姿を見つけたのは、まったくの偶然だった。
“彼”は六年の時間を遡り、今ようやく本来の姿に戻っていた。草臥れたスーツが、時間とのギャップを埋めるかのように見えた。
「お前か、時間がかかったな?」
“彼”は少し疲れたように見えた。その落ち窪んだ目が、彼の精神的疲労を顕わしているようだった。
「偶然ですよ。でなきゃ分かるはずがない。」
「まぁ、招待したつもりもないしな。旅行か?」

216イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:51:43 ID:5cN.MTjs
「ええ、家族旅行です、警部。」
「警部はやめろ。俺がケルトナーじゃないことくらい、知ってるだろ?」
「ええ、佐伯さん、ですね?」
佐伯は無言で頷いた。
「家にあった遺体こそが、あなたの双子の兄、ケルトナーですね?きっと、四季は自殺したとき、いっしょにケルトナーも殺しんでしょうね?それを佐伯さん、あなたが見つけ、そして遺体を隠した。あの広い家だ。隠すところはいくらでもあったでしょう。志ノ田も気づいていませんでした。
始めからこうなることは予見していたんですか?」
「保険だよ。六年前、二人の死体を発見したとき、事件の犯人が四季だとわかった。四季は白血病が治らないことにひどく憔悴していた。そのため、すっかりファイの証人に感化されてしまったんだ。
四季は自殺だとすぐにわかったよ。むしろ、四季にあんなことをさせたファイの証人が許せなかった。そして、ケルトナーの命を奪ったことも。」
「なぜ、ファイの証人を襲わなかったんです?」
「単純なことだ。それをさせようとする怒りが、あのときもう既に消えていたからだ。」
彼は溜息をついた。
「ケルトナーのヴァイオリンはほんとうに素晴らしかった。まさに、神の手をもって生まれたような奴だった。小さいころからいろいろ比べられ、嫌な思いをしたこともあったが、それでもケルトナーに嫉妬したことはなかった。誰かと比べるなんて、そんなおこがましいことが許される演奏ではなかった。それ自体が、すでにそうあるべくしてあったのだと、聴く者に納得させるものだ。」
「尊敬していたんですね?」
「あらゆる意味で、いい兄だった。だから、死体をみたときは発狂したよ。恐ろしかった。」
「それで、復讐を?」
「奴らが再び犯行を始めるのを待っていた。それが、六年も続いた。俺も、亜季が残した手紙を読むまでは信じられなかったよ。亜季が犯人だという可能性は考慮していた。名簿は俺が持っていたし、警察の動向も俺から知ることができる。まさに灯台下暗しだな。」
「なぜ、亜季さんは犯行を?」
「藍沢由布子だ。彼女は、志ノ田悟郎と接触していたんだ。彼は、六年前の犯人は四季だと彼女に伝えた。それで、本当かどうか確かめようとしたんだろう。しかし、亜季はそれを聞いて発狂した。なぜなら、亜季はファイの証人の犯行だと思っていたからだ。亜季は由布子をファイの証人だと思い込んだ。そして、仲間の名前を聞き出すために、あんなむごい殺し方をしたんだ。番号のメッセージは、四季が持っていたファイの証人のパンフレットにあった。殺された学籍番号と同じ番号のページだけ、抜けていたんだ。」
「パンフレットは二枚ありました。だから、“3”に戻ったんですね?」
「そうだ。それに、彼女は抗癌剤のために体毛がすべて抜け落ちていた。もちろん、髪の毛も鬘だ。自分の変化と過去のショックがあまりに大きすぎた。亜季はもう、思考がまともではなくなっていた。すべて六年前の事件のショックのためだ。それ以前の彼女とは、想像もつかなくなってしまった。」

217イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:52:18 ID:5cN.MTjs
前田は次の言葉が見つからなかった。すべての謎が解決したはずなのに、むしろ聞かなければ良かったという後悔のほうが大きかった。この不幸の人に、もはやどんな慰めの言葉も無味乾燥としていた。
「彼女を撃ったとき、すべてが終わったと思ったよ。文字通りだ、すべてが終わったと思った。」
「でも生きている。」
「そう、死のうかとも思ったが、死ねなかった。もう少し生きてみないか、とケルトナーに言われたような気がした。そして、亜季の目が、死を映していた。そこに行くわけには、まだいかないのだと思ったんだ。」
「それでよかったんですよ。」
「認識の問題だ。」
「確認してください、私のいう通りですから。」
「なら信じてみよう。」
買い物をしていた前田夫人が店から出てくると、二人の姿を見つけた。
「ねぇ、あなた、お知り合い?」
前田は気づいて彼女を前に通した。
「佐伯さん・・・・・・でいいですか?」
「ああ、なんでもいいよ。」
「こちら、私の奥さんです。奥さん、こちらは佐伯さん。前の同僚だよ。」
「ああ、あの。どうも始めまして。ちなみにこちらは私の娘のモモです。」
モモの姿を目にとめると、ドイツ人らしい寛容さで、彼は抱き上げ、まんべんの笑みを浮かべた。頬にキスをし、降ろしてやると、奥さんの頬にもキスを送る。それだけで充分だった。あとは、取り留めない、そして、幸福な会話が続くだけなのだから。

218イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:54:19 ID:5cN.MTjs
46.あとがき。
まず最初に、本文中ではいろいろと書いてしまい、これを読まれる方の中には不満を抱かれた方もいらっしゃると存じます。その点につきまして、私が理解している範疇で、言い訳させていただきたいと思います。

・第一点、応援団に関する描写。
大学名を容易に想像させることから、応援団の方には本文中の描写に嫌悪されたかたもいらっしゃるかと存じます。ここで登場するのはあくまで架空の団体、架空の人物であり、ストーリの進行上、必要なものであったとご理解くださることをお願いするとともに、応援団の寛大な態度に感謝を申し上げるものです。
しかし、その一方で、応援団の保守性、組織としての硬直性が、彼らの存在意義を孤立化しているようにも感じます。「死に体」という表現は、本文中でも使用しましたが、我らが応援団が近い将来、時代の変化に呑まれ、その意義を見失ってしまうのではないかと危惧するのです。
大学内でも大きな存在感をもった組織であるだけに、是非がんばってもらいたいと想い、役不足ではありますが叱咤激励のつもりで筆をとった次第です。

・第ニ点、白血病患者に関する描写。
本文中では、あくまで“患者の弱みにつけこんだ宗教のため”に犯行を行ってしまった人物の描写であり、白血病患者のかたの人格を否定したり、精神状態を一般化するものでは毛頭ありません。ご理解くださいませ。
一般的に「白血病」として認識されている病気が、その治療にあっては精神的、肉体的に大きな負担を生じるものであり、大変な苦労をされているのは、私も依然、白血病の友人を見、浅学ながら認識しているつもりです。
そして、そうした患者さんの苦しみに付け入った、悪意ある人間を許すことはできないのです。

・第三点、警察機構に関する描写。
あくまでフィクションであり、このような事実があったことはありません。日夜がんばっておられる警察関係者、法曹関係者の方々に、感謝と激励を送る次第です。
また、ハッキング行為は立派な犯罪です。テクニックがあっても、しようなんて思わないでください。取り締まる警察の方や、ご両親だけでなく、友人知人、見ず知らずの方にまで迷惑がかかることがあります。
さらに、交通規則は守りましょう。あなたの助手席に誰も座っていなくても、あなたのそばには、いつもあなたを愛する人がいることを、忘れないでください。

219イチゴ大福:2005/03/04(金) 20:55:01 ID:5cN.MTjs
・第四点、殺人の描写について。
これにつきましても、大学が容易に特定されることから、読まれた方にあっては無用な心配された方もいるものと存じます。
これから、高崎経済大学にご入学をなされるかた、または希望される方や、そのご両親様。我らが高崎経済大学は安全そのものです。学生へのケアも一通り整っておりますので、安心してご入学ください。

・第五点、引用・参考文献について、紹介。
本文中で引用または参考にさせていただいたものを紹介いたします。なお、「タイトル」「作者」の順に、出版社やその発行年日、編者については省かせていただきます。
『シーシュポスの神話』・・・アルベルト・カミュ
『万里の長城(短編集より)』・・・フランツ・カフカ
『ゲーテとの対話』・・・エッカーマン
『日本の色辞典』・・・吉岡幸雄
『ヴァイオリンを愛する友へ』・・・ユーディ・メニューイン
他にも、作中にはさまざまな作品に影響を受けたと思しき箇所は散見できますが、ひとつひとつ記憶の糸を手繰るのは困難なため、省略させていただくとともに、よき教訓と知恵とを与えてくださった先達に対し、深い感謝を申し上げる次第です。

最後に、製作中には意図しなかった誤字、脱字については、可能な限り訂正いたしましたが、それでも私が気づかず見落としている点があるかと存じます。どうぞ、ご容赦くださいませ。
また、ポップアップ広告を作ってくださいました管理人さん、そして、応援をいただきましたコピペ板住人の皆様に、この場をお借りしまして、御礼申し上げます。m(_ _)m

・追記
本作は、ニ00五年二月五日に制作を開始し、ニ00五年三月四日に終了いたしました。
文字数は一0三四一三字(スペース含まず)、書式【四十×四十】で一0五項となりました。
なお、著作権は、作者であるイチゴ大福が有することといたします。
なお、作者は高崎経済大学演劇部、映画研究会が、これをもって作品を制作してくださることを期待します。興味ありましたら、下記までメールをいただければ幸いです。
連絡先E-mail:ichigodaifuku_13@hotmail.co.jp

220管理人:2005/03/05(土) 22:30:41 ID:y16F/TRY
イチゴ大福さま、お疲れ様。
知性と才能が滲み出た力作でしたね。

応援してます。

221イチゴ大福:2005/03/06(日) 09:55:02 ID:HYbdju8Y
>>220
管理人さん、ありがとうございます。
pop広告すばらしいですね。
いつの間にやら背景にゴ○ゴAAまでいて、二度びっくりでした。
今月は忙しくなりそうなのですが、暇をみてボチボチ新作を
投稿したいと思います。
生暖かく見守ってください。

222あぼーん:あぼーん
あぼーん

223イチゴ大福:2005/05/03(火) 22:50:56 ID:NK842Kvo
前回、面白いほどに(現実世界での)反応がなかったので、とりあえず
明日から新作をうpしていきたいと思います。
もはや使ってくれなどとおこがましいことはいいません。
とりあえずマターリ暇つぶしで読めるものを書きましたので、読んでみてく
ださい。

224あぼーん:あぼーん
あぼーん

225某K大生:2005/05/04(水) 01:33:40 ID:pA5vpVzc
>>224
どうせあぼーんだよアフォが

226某経大生:2005/05/04(水) 18:10:07 ID:6QUi.IhQ
ほんとだ!

227イチゴ大福:2005/05/05(木) 08:19:23 ID:sjEHst0w
先日掲載を宣言したのですが、わけあって延期します。
ところで>>224は何が書かれていたのでしょう?
また誰かの本名でも晒したのでしょうか?

228某K大生:2005/05/05(木) 15:02:48 ID:SvvkiViA
>>227
ホムペの宣伝だたよ…

229イチゴ大福:2005/07/07(木) 03:30:46 ID:w/Ef44lE
久しぶりにのぞいてみたら、見事に落ちそうですね、このスレw
いったい>>1さんはいずこに行かれたのか・・・。

230あぼーん:あぼーん
あぼーん

231某経大生:2005/12/13(火) 12:24:55 ID:sDyUUuuc
ほう

232某経大生:2006/01/17(火) 20:39:40 ID:y12SsLBo
保守

233某経大生:2006/09/06(水) 03:02:13 ID:WLVLBEvI
大学に入ったとき、ノートパソコンを買ってもらった。
前からとても欲しかったので、のめりこんでしまった。
インターネットのあるサイトですごいのを見つけた。
『オーダーコスプレ○○交際なんてものが、世の中にあったのか?』
今まで、小心者の僕は、彼女もいなかったし…。
でも、内に秘めた願望は、抑えきれないほどのものがあった。
勇気を出して電話した。
高校生のコスプレを希望した。

234某経大生:2006/09/08(金) 04:27:46 ID:cNcUYIAM
驚いた(!)ことに、選択肢がけっこう多かった。
ためしに群馬県の高校があるかきいたら、高崎商大附属高校もある。
本当の商附生ではないが、どこかで手に入れた制服が用意してあり、
連絡された場所で待つと、商附(娼婦ではない)の女子生徒になりきった
かわいい女の子が現れて・・・(イイノカイ?)・・・ってことになるという。
携帯を手に持ったまま、全身硬直して興奮している自分に気づいた。

235某経大生:2006/09/08(金) 04:34:17 ID:cNcUYIAM
■■■■■■■■■■■■ここで、とうとうこらえきれず・・・■■■■■■■■■■■■

□□□(主人公=高経大生○○は)一回放出。ハ〜ァ、すっきり。 □□□□□□□□□

236さおり:2006/09/09(土) 02:38:37 ID:JA8pm7Ew
『どうか聞いてください・・・。』―誰にも言えなかったわたしの過去―

バイトが終わって私服に着替え業務員用の休憩室まで行きました。
そしたら店長が、店の新メニューの試食をして欲しいと言いました。
バイト代も出してくれると言われたのですぐにOKしました。
待つように言われていましたが、店長はまだ来ていなかったので
ソファーに座って待っていたら、5分くらいして店長が手ぶらで現れたのです。
何かおかしいと思った時にはすでに遅く、後ろ手に部屋の鍵を閉め、さおりに迫ってきました。
もちろん抵抗しました。でも、最後には・・・。
血走った目つきで無理やり服を剥ぎ取られて、バックから挿入されてしまいました。
けもののような叫び声をあげながら、わたしをむさぼり、思いをとげました。
万札を2枚出すと、『また、頼むからね』と言いながら出て行きました。

237さおり:2006/09/09(土) 02:39:32 ID:JA8pm7Ew
*********************************

実は高校生の頃に、あるできごとがありました。
サイクリングロードを通って女の子の友だちといっしょに帰ってきました。その子とは信号のある交差点で別れたあと、いつものように田んぼの中の用水路沿いの道を通って家に向かっていました。
家といっても、実家が遠いわたしは母方のおじいさんの家に世話になっていたのです。
その家まであと300mくらいのところでした。バイクが後ろから来て、ヘルメットのような固いもので頭を殴られたのです。
痛かったのと、自転車に乗ったままで倒れたのは覚えているのですが・・・。それから、どうなったのか記憶がありません。
どうやら意識を失ったのは殴られたばかりでなくて、何か薬物を注射されていたらしいのです。

どこだかわからない場所で、わたしは・・・。服もすっかり剥ぎ取られた姿で・・・。
何人もの男たちにわたしは・・・。気が遠くなるほど・・・。そして、体じゅうがめちゃくちゃになるまで犯されつづけたのです。
顔や背中まで精液や何かで汚れていました。もう、なにもかもボロボロでした・・・。
持ち物や自転車もどこにいったのかわかりませんでした。自転車は警察の人が用水路の中から発見したそうですが。犯人はつかまらなかったようです。

それからのわたしは、男の人が恐いだけでなくて、何年かは女の子の友だちと付き合うのも、なぜか出来なくなってしまいました。

238さおり:2006/09/09(土) 02:40:29 ID:JA8pm7Ew
***********************************

わたしが、やっとのことで立ち直れるようになったのは・・・
群馬をはなれて、ある大都市の女子大に入ってからのことでした。都会でのひとり暮らしを周囲のものは心配しました。
でも、いやなことの記憶から少しでも逃れたい気持ちもありました。
電機メーカーに勤めていた父は、もう2年前に早期退職していたので多少のたくわえはあるが今後の収入は無いからと言いつつもわがままを許してくれました。
普通の下宿ではなくて、管理作業婦が住み込みで勤務している女子学生専用のマンションを見つけてくれました。

あの事件のことなどもありやめてしまったテニスをもう1度始めることにしました。1学年上の部活の先輩が、同じアパートの違う階に住んでいて親しくなりました。
その人は地方の短期大学に入ったけれど、何度か受験しなおして入学したそうで,年はわたしよりも3歳もおねえさんだったのです。
でも、他の人には、そのことは内緒にしているみたいでした。さわやかな感じの美人で、面倒見のいいおねえさんのような人ができて本当に良かったと思いました。

ところが、そんなおねえさん(ユキさん)の本性をわたしはついに知ることになってしまったのです。ユキさんが以前通っていた短大をやめたわけもそれだったのかもしれません。
ちょっと言いにくいのですが、少しヤバイというか(かなりヤバイ?)お仕事をしていたのです。ある駅前の繁華街から少し歩いたあたりで、偶然にユキさんを見かけて、声をかけようとしたのですが混雑していたのと、ちょっと距離があったのでユキさんの方に小走りで駆け寄ろうとしました。

ユキさんはわたしには気づかないようでした。別に用があるわけでもなかったのですが、何となく気になって追いかけてしまいました。そうするうちに・・・。何だか悪いと思いながらも後をつけるようなことになってしまいました。細い路地に入る前にユキさんはバックから携帯を出して開けると、着信でも確認しただけなのかまたすぐにしまって歩き出しました。
しばらくしてサングラスをかけた男の人とすれ違うときにポッケトティッシュだか名刺のようなものだか、何かを片手で受け取りました。注意して見ていなければ、ただすれ違っただけに見えるでしょう。

まずいものを見てしまったと直感しました。わたしは足を止めました。ユキさんがこちらを振り返りました。距離はかなりあったのでわからなかったようでしたが、わたしは一瞬ギクッとしてしまいました。

そのことは、わたしの心の中にひっかかっていました。でも、とても面と向かって言うことなどできません。今までと同じように振舞っていました。

そして、ある秋の夕方六時半頃だったでしょう。相談があるから部屋に来てくれないかというのです。ユキさんの方から、こんなことを言い出すのは初めてでした。『わたしは、ちょっと待ってくださいね。』と言って、一度自分のところに戻ってから、5回の512室(ユキさんのお部屋)にいきました。ドアの前に立つと胸がドキドキしていました。
『悪かったわね。急に呼んだりして。』 ユキさんはわたしをかけせると、コップにりんごジュースをいれてくれました。『今日はわたし飲まずにいられない気持ちなの。こんなの買ってきちゃった。』といってワインのビンを見せました。ユキさんの実家は裕福らしくて、おじいさんは地元銀行の重役もしていたと聞いたことがありました。『ドンペリって知ってるでしょう。けっこう高いんだけど、ホントは貰っちゃったんだぁ。』なんだか、いつもと少し感じが違いました。(もしかしたら、もうお酒をのんでるのかなぁ〜なんて思った。)ユキさんは、クッキーやかっぱえびせんなんかも出してきた。

『さおりちゃんも飲まない?』
『いぇ・・・お酒なんて。 ワインだって飲んだこともないし・・・』
『これはシャンパン。飲めばわかるけど、サイダーみたいな感じよ。甘くて口当たりもいいわ。』
そう言うと、もうグラスを2つ持ってきました。ポンといい音がして、びんの口から泡があふれました。
『乾杯!』
すすめられるままにわたしも飲みました。ツーんとしたお酒くささがなくて、ユキさんの言ったとおり美味しかった。

239さおり:2006/09/09(土) 02:41:31 ID:JA8pm7Ew
『さおりちゃんと飲むとなんだか楽しい。わたし、前にもちょっと話したけど、今までいろいろとわけありだったでしょ。大学に入っても何となく人付き合いが上手くいかなくてね。あなたみたいな、かわいい妹みたいな子となかよしになれてよかったわ。この大学の女の子たちって、お高くとまっているみたいなところってあるでしょ。言葉づかいなんかも何となくそんな感じじゃない。正直言って、合わせるのも大変だよね・・・。ああ、もっとだそうね。缶チューハイでいいでしょう。』何だかユキさんのペースにのせられてきたなと思いながらも、時間が経ってしまいました。

そして、相談があるって言われて来たのに、なかなか切り出さないのを少し気にかけていたのです。わたしから言ってみようかなと、思いましたがやはりためらいました。自分の部屋に帰らなくてはと思ってチラッと時計を見ました。
『さおり、あのね。』
(あっ、とうとうきたわ。何かとんでもないことでも言い出すのでは?という直感がしました。)
『この間、街でわたしを見かけなかった?』
(その瞬間、わたしの胸のドキドキが頭の中まで響いてきたような気がしました。)
『わたしは気づかなかったけど、バイト先の男の人があなたがわたしの後をつけていたようだって言ったの。』

『いえ・・・そんな』
何と答えたらいいのか。ずっと口を閉ざしているわけにも行かないし・・・。
(あぁ、どうしたらいいんだろう。)
『実は、あなたのことも調べさせて貰ったの。こんなことはしたくなかったんだけど、わたしにも他人から知られたくないことはあるし、その人から口止めするには覚悟がいるぞなんて怖いこと言われてしまったものだから・・・。』
(どういうことなのか?)ますます頭が混乱する自分をどうしたらいいのかわからなかった。
『ずばり、言わせてもらってもいいかしら。気を悪くするかも知れないけれど…。』
とにかく、話を聞かなけりゃ、何が何なのかどういことがあったのか、今の自分にはちっともわけがわからない。

『その人にあなたのことを調べて貰ったって言ったけど、その前にあなたがわたしのアルバイトを調べようとしたのは、どうしてなのかだけ訊いておきたいわ。悪いようにはしないから正直に言ってちょうだい。』
別に、わたしには悪気があったわけでもないし、もう話すしかないと決心しました。
『駅から通りに出てきたあたりで、ユキさんを見つけて声かけようとしたんだけど、急いでいたようで…。わたしも別に用があるわけじゃなかったんだけど、何だか話しかけたかったんで、ユキさんの行く方に早歩きで付いていったんです。でも、大声出すのも気がひけたし、もっと近づいて呼びかけようとしているうちに、何だか後を付けるような感じになったんだけど…。』

『そうだったの。それから、お店の近くまで来てバイト先を確かめて帰ったのね。』
(いえ、そんなことはありません)という言葉がとっさに出ませんでした。
『わかってしまったらしょうがないけど、ヤバイことしてしまったのよ、あなたって子は。』
『知らないです。そんなことは…。』
『もうだめよ。言い逃れしようったって。ああいうお店の人って、すごく恐い人がいるのよ。わかるでしょう。明日の朝、わたしといっしょに来てちょうだい。わたしだって困っちゃって、どうしようもないんだから。』

240さおり:2006/09/09(土) 02:43:18 ID:JA8pm7Ew
ユキさんに言われるままに、次の日―平日のお昼少し前頃に、バイトしているお店というところへ出かけたのです。いわゆる風俗店なんだろうかと思うと、どういうことになるのか想像もつかないまま彼女の後を付いていきました。ところが、意外にも(?)ありきたりの小さなオフィスビルに入っていきます。エレベーターを降りて通路の先にある事務所のようなところは出版社のような会社名のプラスチック・プレートが貼ってありました。

『あゆみだけど、笹川さん呼んで。』
(えっ? ユキさん、ここでは「あゆみ」って名乗っているの?)
普通の女子大生ではないような気もしていましたが、ユキさんて、いったいどんなことをいつもここでやっているのどろうかと思うとわたしの頭の中は真っ白で、今日も今までずっと夢でも見つづけていたのではないかと、後先のこともわからないほどでした。
ひとりの男が現れて、サングラスを外しながら・・・。
『まあ、こっちに掛けてもらおうか。あゆみ、だいたい話はついているのか。』
(この人、ヤクザか何かなんだろうか?まさか?)
その場の雰囲気に圧倒され、体じゅうが固まってしまいそうでした。

部屋の隅に置かれたソファーにユキさんと二人して隣り合って座りました。
『まだ、最後までは話をしていないのよ。』
『おや、そうかい。』
『わたしから、ここで話していい?』
(えっ? わたしは何もわかっていないのに、どうして? どんな話になってしまうの?)
『さおり、いいでしょう?』
そう言われても、固くなって言葉を発することもできませんでした。

『おれが話してもいいけど、見ず知らずのあんちゃんから言われるより、なかよしのお姉さんから話してもらうほうがいいだろう。自分じゃ、そんなつもりはないんだけどさ、何だか若い娘たちからは、ちょとばかり恐がられているようなんでさぁ。』
『・・・じゃあ、わたしが話そうね。』
(逃げ出したい。)と思っても、どうやっても逃げられないんだろうと思いましたが、恐さで瞬きひとつできませんでした。

少し考えるように間をおいて、ユキさんは話し始めました。
『あなたがどんな女の子なのか、まだほんとによくはわかっていないけれど、見るからに純情そうな娘だから・・・、とても話しずらいんだけれど…。』
そう言ってユキさんはこちらを見ました。わたしはユキさんとも目を合わせられません。うつむいたままじっとして話を聞いていました。

『もう、こっちもはっきりと手の内を明かせばいいよね。』
ユキさんは、男に言いました。
『ああ、そうだ。こうなっては、それしかないだろう。』
(わたしにだけは、わからないが…、わたしの行く先にはのがれられないレールがもう敷かれているような気がしました。何かわからないけれど、とんでもないナニモノかにわたしは足を踏み入れてしまったんだゎ。)
(いったいどうして?)と心の底から叫びたかった。

『わたしね、何ていったらいいのかな。まあ、お金が欲しかったってことなんだけど…。でバイトやっているんだけど・・・。この事務所が経営してるのは、表向きは普通のカラオケボックスみたいだけども、ここに来る客さんに、ただ歌って楽しんでもらうだけじゃなくていろいろと接客するのよ。お客さんとお店の外に出ることもあるわけ、この前みたいに。』
そこで、言葉を止めて男のほうを見ながら、さらに、
『とりあえず、お店を見てもらおうか?まだ、この時間帯ならすいているだろうから。』
と言いました。

笹川というサングラスの男とユキさん(ここでは、あゆみと呼ばれてるらしいけど…)の後についてエレベータを降りて、少し先の駐車場に置いてあったワゴン車に乗りました。しばらく走ってその場所に着きました。建物は1Fが駐車場で2Fから上が雑居ビルのようになっているらしくて、4Fがそのカラオケボックスになっていました。男はさっさと歩いて店に入っていきます。受付で、『しばらく、一部屋使うからよろしく。』とだけ言って薄暗い通路をさらに奥の方へ行きました。部屋に入ると、普通のカラオケでした。ソファーやテーブルはけっこう豪華にできていました。さらによく見ると、ミラーボールやフットライトのあるミニステージなどもあって、少し派手な部屋だと思いました。
『ちょっと待ってて。おれの荷物もってくるから。』
男は部屋から出て行きました。

わたしは思いきってユキさんに言いました。
『ここで前からバイトしてるんですか?』

241さおり:2006/09/09(土) 02:48:02 ID:JA8pm7Ew
『ええ、もう1年近くたつかしら。』
『サービスって、さっき言ってましたよねぇ…。どんなこと、するんですか?』
『まあ、簡単に言えば、キャバレーみたいなことね。』
『キャバレー?』
『カラオケの店でそういうことは、ほんとはダメみたいなんだけど…。でもね、驚かないで、それだけじゃないの。エ○チなこともばんばんやるの。』
『えっ?』
『まあ、そのへんはゆっくり説明していくけど・・・。ちょっと待ってて、トイレ行ってくるから。』
(ユキさんは出て行ってしまいました。)

それから・・・。
ひとりになったわたしは部屋の中をもう一度ゆっくりと見回していました。
その時です。ドアがぱっと開いて数人の人たちが入ってきました。
『おはようございます。そろそろ始めちゃいますよ。』
『まず、ここで何か飲みながら、普通に話すところからいこう。』
『OK、はやくスタンバイしてくれ。』
何が何だかよくわからないうちに、人が大勢やってきた。
ライトを2・3個点けると薄暗かった部屋の中が急に明るくなりました。
ソファー座り込んだままのわたしにくっつくように若い男が腰を下ろしました。
『まあ、よろしく。いっぱいやろうか?』
『・・・?』
『これから、長くなるけど。がんばろうね。』
『えっ?』

そのとき初めてビデオカメラで撮影をしているのに気がつきました。
『覚悟を聞かせて?ふふふ、かわいいねぇ。』
『・・・』
『わかるよ。バージンだってね。決心してここまで来たんだから、もう恐がらないで。』
『わたし、何も知りません。帰ります。』
席を立って逃げ出しました。でも、出口のドアの前にいた男たちに両側からおさえられてしまいました。

242さおり:2006/09/09(土) 02:56:17 ID:JA8pm7Ew
『ん〜。ちょっと、考えていたのとイメージ違ったかな。』
カメラの脇にいた年配の男が言いました。
『よし、方針変更だ。そうだな、捕まえレイプ、バージン喪失・・・。これでいこう!』
何が起きようとしているのか、わたしにも、やっとわかったと思いました。でも、まだ、どこか遠い世界で夢を見ているようで、気が遠くなるのを感じました。
(その後、わたしは意識を失っていたようです。)

妖しいピンク色のネオンが見えました。走っている車の中のようです。道路標識を見ると、たぶんM県のようです。(こんな遠くまで・・・)と思いました。
『けっこう広い部屋だな。』
ラブホテルの部屋に入ると、あの若い男が言いました。
部屋の中にはビデオ撮影の機材がすえつけてあり、2・3人の男がいました。中年のチョットこぎれいな女の人もいました。
『ねぇ、うらやましがられやしない。ひさしぶりに処○膜ひらくの、それもこんなかわいい娘さんのお股ひろげて・・・。』

下品なコトバへの嫌悪感よりも、恐怖感が襲ってきました。
ガクガクと体が震えました。力が抜けて、立っていられなくなりました。
そして、自分の股間に異常を感じました。
(ああ、いけない。)おしこっこをオモラシしてしまったのです。
(どうしよう。気づかれてしまうだろうか。)
『はい、いい子だから、こっちで待っているのよ。』
その女に手を引かれて別の男にかかえられたわたしは応接セットみたいなところに座らせられたのです。
『あら、いけない子ねぇ。こんなところで…おもらししちゃったわ。』
(ああ、もうおしまい。)と思いました。
(カメラをまわし、人がたくさん見ている前で、あの若い男と延々とセ○クスしつづけるんだわ。)また、目がまわりだしそうでした。
『さっそく、ここから始めない。いいのが撮れるかもよ。』

『よーし、グットアイディア。はじめよう。』
白髪まじりのあごひげがあるあの年配の男が声をかけました。

アキラというあの若い男が、わたしのそばにきました。
『おもらししたか。お仕置きだね。』
『…』

243さおり:2006/09/09(土) 02:57:42 ID:JA8pm7Ew
『悪い娘は、お仕置きだよ!みんな、こっちに来い!』
数人の男がわたしを取り囲んでジロジロと見下ろしています。
『汚れたパンティーをスグ脱ぎなさい。』
(わたしはオロオロするだけです。)
『ひとりで脱げますか。』

『ちゃんと言うこと聞いてくれないと、もっと恐いことするよ。』
『そうだよ。あそこのビデオ見てごらん。』
女に言われて、部屋の向こう側にある大画面のテレビを見ると、はだかでムチ打たれている女の人が映っています。音声は出ていないけれど、ビッシ、ビッシと音が聞こえてきそうなほど苦痛に満ちた表情がリアルでした。

『何も、あんなに痛めつけたり、あなたを死なせたりなんてしやしないんだから、言われるままにするんだよ。』優しい声だけどすごみがきいた言葉でした。
(もう、どうにでもなるしかない。)恐さを通りこした気持ちで、わたしは観念したのです。

『きれいなヒロヒロがぬれているね。みんな見てみろよ。なかなかおがめないいぜ。』
両足をつかまれて、グッイと広げられました。
『はじめてさんだから、いきなりはかわいそうだよね。おにいさん、やさしんだよ。』
やわらかい肉ヒダを舌で分け入るようにいたぶりながら、なんとわたしの尿道を刺激するではありませんか。おおぜいの人たちに見られている前で・・・。たまらなく羞恥心がこみ上げると涙が出てしまいました。
『いい子だから、泣かないんだよ。待ってなさい。そのうち気持ちよくなってきたら、大よろこびして悶えちゃうんだから。』

『痛がるかも知れないけど、たっぷりぬれぬれさせてやろうね。』
おとこはいやらしい舌を使って、尿道口のあたりをゆくっりとこねまわしていましたが、ときおりわたしの敏感な突起に触れるか触れないかくらいの刺激が伝わってきます。こんなことされて、気持ちいいはずなどあるはずもないのに、やがてこらえられない感覚がわたしの局部をおそってきました。
『手間かけさせたけど、やっとおつゆがでてきたねぇ。ねっとりしてきたじゃない。』
(ア〜。もう、だめだぁ〜。)
わたしのあそこは、少しずつ火照ったようになってきました。そればかりか、固くなったあのあたりの感覚に耐え切れないように、自然にヒクヒクと小刻みにふるえだしてしまいました。
『いい子じゃないか。ゆっくり楽しめばいいんだよ。かわいいお嬢ちゃん。』
さっきまで身をよじるようにしたりして抵抗しようとしてみたりもしたけど・・・。
(もう、ダメだ。)と思いました。
『もう、はなしてやりな。』
わたしが逃げないように手足を押さえつけていた男たちがはなれると、男はわたしの上におおいかぶさるように抱きついてきて、唇を吸い寄せました。
『ほんとにかわいいねぇ。』
今度は、服の上から両手でわたしの乳房をまさぐりだしまました。逃げ出したり、抵抗したりすることも、すっかりあきらめきったわたしは、いつのまにか全裸にされました。

244さおり:2006/09/09(土) 02:58:54 ID:JA8pm7Ew
体じゅうをなめまわすようにもてあそびながら、片手を股間にもってきてすっかり潤いきった陰唇をかき分けたり、楕円を描くようにゆっくりとさすったりしました。そして、上方のけっこう濃く生えそろったわたしの陰毛を手のひらや指先でなでまわしてくるのでした。
『ねこちゃんの頭みたいですね。こんもりしてお毛けの生えているところは。』
やがて、男の指先がわたしの熱くおマメのように固くなったところを集中的にこねまわしたのです。
『あぁ。いやぁ。』
思わず、上ずった声をあげてしまいました。
『いい子だ。う〜ん。』
ますます、感じ出してしまったわたしは、もう、股間ばかりでなくて、全身が火照ってきました。

『みんなでかわいがってやろうな。』
そそくさと、服を脱いだ男たちがわたしのまわりにやってきました。
いきなり、乳首をつままれました。さらに、2本の指で乳首を軽くはさみこんで乳房をゆっくり揉みだしました。おマメの快感がこみ上げるように高まってきました。
(いやだぁ)
そう、思う間もなく、固くなった男のものを口に含まされました。腰を振って、そのおチン○○が口の中の粘膜にこすりつけられています。のどの奥のほうにくるときは息ができないくらい苦しい。わたしの表情の変化を見ると、また興奮したのか、その男は狂ったように責めつづけます。

気が遠くなるほど、長い長い時間が経ちました。
『あんまりかわいくて、みんなで、いじめすぎちゃってごめんね。』
わたしは、失神していたのです。でも、それは、わずかな時間だったようです。
『さあ、つながるよ。』
(とうとう、犯られてしまうんだ。)高校生の頃のあの遠い記憶がよみがえってきました。
『握ってごらん。』
顔の前に、怒張した男のものを突き出されました。
近くで改めてながめると、人間の体の一部だという気がしません。大きくて少し赤茶けたように反り返った先端部分は粘液でぬれて光っていました。

『握るんですよ。』
右手を出そうとしたが、男の体の下にあってだめだったので、左手を伸ばしてそっと根元をつかみました。
『いい子だ。しごくんだよ。』
男の手がわたしの手にそえられて、上下に動かしました。
『やってごらんなさい。』
わたしは、なぜだか、もう男に言われるままに、なっていました。
『今度は口にくわえるんだ。』
(あぁ、またこれをくわえるんだ。)と思いながら・・・。ぱっくりと先っぽを口に含みました。さっきの男のものよりもひとまわり大きいと思いました。先端部分をくわえただけで、お口の中がいっぱいになってしまいました。

『いいねぇ。』
男はゆっくりと腰を振りました。

245さおり:2006/09/09(土) 03:01:36 ID:JA8pm7Ew
しばらく、わたしの口で遊んでから乳首や耳元を吸い寄せました。そして、もう一度、股間に手を這わせてました。
もう、すでにぐったりするほど感じきっていたわたしでしたが、やはり女の体がそうなっているのでしょか?まだ、何か満ち足りてはいないような気もしたのです。
(こんなにされてしまっても、やっぱり女の、いや、わたしのあそこは、男の体を求めるのだろうか。)と、ふと思ったりしました。
『足を、大きく広げるんだ。もう、恥ずかしくないよ。』

自分でもあきれるくらい素直に、言われるがままに、男の前で両足を広げました。
『きれいな色してるねぇ。ピンクでぷくぷくしてるよ。』
男のものが触れるのを感じました。でも、すぐに入ってきません。
(なにしてるんだろう?)
どうやら、わたしの分泌液を先端に塗りつけて最先端だけを少しだけ挿入しようと小刻みに動いているようです。
(わたしが処○だと思ってるんだわ。)
やがて、するっとすべりこむように、おチン○○のあたまがわたしの膣口を通過しました。
(はじまるわ。)そう思いました。

『おや、驚いたね。あなた初めてじゃなかったんだ。かわいい顔してても、さすが今どきの娘なんだねー。でも、いいしまり具合だ。』
耳元でささやきました。
『今日は、撮ってるんだから。わかってるか。演技するんだよ。』
(あぁ。カメラで一尾始終を撮影されていることさえも、いつかわからなくなっていました。)
『生娘みたいに、痛がれ。』
(しかたない。)と思って、顔を少しゆがめて声を出しました。
『あ、だめ。』
ゆっくりと膣の中にそれ全体が収まったようです。おとこはピストン運動をはじめました。
『あっ、痛いよぅ。』
わたしにしては、大きな声をだしました。

男は腰を振り続け、ずんずん突きまくります。奥のほうまで突き上げるように摩擦されると、堪らない快感がこみあげてきました。
『あ、あ、あ〜ん。』
芝居なんかじゃなくて、本気で声を上げていました。
『いいじゃないか。チン○が好きになっちゃったようだね。』
『うっ、うっ、もうだめ。』
『そら、いくぞ。』
男はさらに激しく動き出しました。わたしの体がベッドの上ではずむように揺れています。その揺れが、また結合している部分に伝わり、まるでわたしの体が男の固い棒を求め、むさぼっているような感覚をおぼえました。

『いいぞ、いいぞ。何ていい○○○だ。』
男も快感がたかぶり、いよいよ最後の瞬間が近づいてきたようです。
『くわえるだけじゃない、吸い込むよ。この子のは・・・。もういくぞ。』
(セッ○スってこんなに感じるものなのか。)と、いつの間にか、われを忘れて感じまくっていました。
『うぉ、うぅ・・・。』
男は果てながら、まだ腰を振り続けていました。

246さおり:2006/09/09(土) 03:08:08 ID:JA8pm7Ew
『どろどろのが逆流するところ撮るから、そのまま広げてろ。』
汗だくなった体が自分のものでないような気もしました。まして、カメラに収められたり、何人もの人にこんなところを一部始終見られていたなんて・・・。
(これから、どうなるかなんて、もう、考えられない。)

『次は2人と絡むんだからな。』
カメラの男から言われました。
(あぁ。そうなのだわ。)観念するしかないんだとあきらめました。(この人たちの思いのままにされつづけていくんだわ。)
『バージンじゃなかったから、ギャラは安くなるよ。』
『でも、すげぇお○○○こだって、よろこんでたぞ。女狂いの彼氏といつもやってたんだな。』
『おれたち、ベテランだからよく教えてやろうね。おもちゃで遊びましょう。』
『お尻もきれいだ。』
ぬるぬるしたものを指にぬったようでした。わたしの肛門の周囲をマッサージし始めたのです。それも割りと強い動きです。
『はじめは指一本。ちょっとだけね。』
(いやだ。)わたしにとってそれは、ある意味セッ○スよりも耐えがたい恥辱でした。
『もう、小さいローターなら入っちゃうね。お湯で温めてあるよ。』
ピンク色した細長い卵形のものに白いコードがつながっています。ゆっくり肛門にあてがうとすっと入れてしまいました。肛門を通るときはきつかったけど、中に入ってしまうと思ったほどの違和感がありません。何だが排便前の感覚とちょっと似ています。
『○ッチな穴には大きいこけしちゃんです。ほら、こうに動くんです。』
今度は何をされるのかと思って目をやると、透き通った水色のおチン○○にそっくりのものがあって、先端がクネクネ回転して首を振っています。
『あぁ〜』
それを入れられた瞬間も、思わずあえぎ声がもれてしまいました。
そして、お口には本物のお○○チンをくわえさせられました。
『ほぅら、いい子だから。お口でクチュクチュやりなさい。』
(ここまできてしまっては、今さらしかたない。)と、思いました。でも、ここまでされてしまっても、やはり抵抗感もあり、少しためらいました。
『うっかり逆らったりすると、本当におうちに帰れなくなっちゃうんだよ。』
『ほら、素直にオトコをよろこばしてやりなよ。若い娘にはチョットつらいだろうけど、もう少し我慢しないとだめなんだよ。』
今度は女の声がしました。横目で見るとあの女が少し微笑みかけながら、下着姿でこっちを見ていました。
そのものを口に含んだまま、あれの先っぽのあたりに自分の舌先をあててこするように動かしたのです。
『そうだ、もっとだ。』
わけもわからず、必死に舌を動かしていたら頬や首筋が疲れてしまいました。
『お口で、しゅぽしゅぽしごくんだ。』
男はそれを突き出したり引っ込めたりしながら動かしました。
『おまえが口を動かすんだ。』
息苦しさもあって、わたしにはとても苦痛でしたが、言われるままに顔を振ってそのものをしごいてやりました。深く突き出されたときは喉の奥に達するぐらい大きなものでした。

247さおり:2006/09/09(土) 03:09:18 ID:JA8pm7Ew
『お口に出すのは初めてかな?』
(やだ、これって。)犯されて惨めな思いをさせられた、あの日の記憶がまた生々しくよみがえってきました。ねっとりとしたあの異臭が、ここでもまたわたしを襲ってきました。
『うー。いけたぞ。次は下の口に出してもらいな。』
股間の感覚は、もう、とうに麻痺していました。手のひらに白い体液を吐き出しながら、わたしは少しむせかえりました。そのとき、またたまらなく尿意をおぼえました。(わぁ。おしっこ、もれそう。)と、思っても異物を2個も差し込まれたままの姿です。
『ちょっと、はなしてください。』
『まだ、終わっちゃいないんだよ。』
『出ちゃいます。』
『おや、そうなのかい。』
股間のおもちゃは抜いてくれました。
『見てよ。これ。こんなにねちねちしちゃってるよ。どうして、ですか?』
『・・・』
『わたしのおつゆでぬれました。って言ってごらん。』
『・・・』
『おしっこに連れてってやらないよ。』
『・・・』
『さあ、なんでこんなにねちねちしてるんですか?』
『・・・わたしの・・・おつゆでぬれました。』
『そうだね。』
(まるで奴隷のようにされてしまった。)と思いました。実際そうかもしれません。
『お風呂場に連れて行こう。』
両脇をかかえられて立ち上がりました。スイッチは切られていましたが肛門のものはつけたままです。
『じょーじょーしていいよ。』
(そんな、馬鹿な!)他人に見られながら、カメラで接写されながら、排泄するなんて・・・。
『いつまでも待ってあげるよ。でも、すっきりしちゃったらいいじゃないの。』
また、泣いてしまいました。自分が惨めでした。でも、どうしても我慢できなくなりました。
(だしちゃおう)と思った・・・ところが、今度は出なくなってしまいました。また、しばらく時間が経ちました。
『恥ずかしいんだね。かわいそう。おじさんお毛けをさすってやるよ。』
男の手が股間に伸び、毛深いわたしの陰毛をジョリジョリ音がするくらい強く撫で回しました。
そのとき、無意識にほとばしりでたのです。堰を切ったような勢いでした。
(あぁ・・・。見られている。)もう、どうしようもありませんでした。

『いきおいよかったなぁ。こっちまで、はねがとんできちゃった。』
そんなことを言いながらシャワーをはずしてお湯をだしはじめました。
『きれいに流そう。』
少しぬるめのシャワーを下腹部にかけてきました。
『これでもいたずらしちゃおうかなぁ。』
水勢を少し強めて、自分の手で湯加減を確認してから・・・
『おまめちゃんまできれきれにしちゃうよ。』
まだ興奮が醒めきっていなかったピンク色の突起物にシャワーの刺激が加えられました。
(まるで、おもちゃのように、もてあそばれている。)と思いました。そのとき、また、もうひとつわたしの体に残っていたローターが激しく動き出しました。
(うっ、うぅ。だめぇー。)疲れ果てた体の内部で、また、別の感覚があたまをもたげてきたようでした。

248さおり:2006/09/09(土) 03:12:55 ID:JA8pm7Ew
空気の入ったビーチマットが敷かれて、わたしはそこにねかされました。
そして、またねちねちと何人もの男にもてあそばれたのです。体中をなめまわされたり、ぬるぬるした液のようなものをお湯で溶いてお腹や乳房に塗りたくられて、男たちが体を擦りつけました。まるでなめくじがからみあっているようです。
『そうだ。そろそろ、つるつる○○コにしてやろう。』
『毛深いから、はさみで切ってからだな。』
(あぁ〜。何て人たちなの。)でも、わたしはされるがままになっています。
『いいか。動くとあぶないよ。』
スプレー式のシェービングフォームを陰毛にかけられました。男の手が毛をさすっています。
『ライトをあてろよ。いいところだから・・・。』
あれのスイッチもいったん切って、じっと動かないようにされています。ジョ、ジョ、というわずかな音をたてながら、すこしずつあそこから毛が剃りとられていくのがわかりました。
『きれいになるよ。ピンクのひだがかわいいや。小さめできれいなはなびらだ。』
ゆっくりと時間をかけて剃っていました。やがて剃りあがると、手桶のお湯で流しました。
『ちょっと残ったところがあるね。きれいに仕上げよう。』
また、かみそりが当てられました。それがすむと、今度はシャワーで流しました。
『あー。かわいい。』
はなびらを両側からつまんで広げています。その後も、しばらく恥ずかしいところをいじくりまわされました。そして、興奮した男たちが、わたしの顔やお腹の上に白い体液を次々に放出しました。

『少し休ませてあげるからね。』
あの女から湯船につかるように言われました。男たちはみんな出て行きました。

『この後、服を着てもう少し撮ったら終わるからね。』
(やっと・・・。)でも、終わりになると聞いて安堵しました。
『悪く思わないで・・・。かわいそうだと思うよ。やっぱり…。』
湯船の脇にしゃがみこんだ女は、わたしをなだめるように話しました。
『あゆみってあの女は、ワルだね。あなた、まんまとだまされて売られちゃったんだよ。』
『えっ、まさか?』
『男とつるんで、なんでもやるようなヤツだったのよ。うっかりだまされちゃうよ。たいていの娘は。何でもピンサロで働いてたらしいって誰かから聞いたけど、他人まで食い物にするようなワルはいつかひどい目にあうさ。もう、ヤクザにつながれてるみたいなもんだろうけどね。』
『・・・』
『明日の午後から、また撮るんだけど、今夜はわたしのうちに泊まりなさい。』
『いつ、帰してくれるんですか。』
『社長は、あいつらに200万も渡しちゃったのよ。何とか元とる気でいるけれど・・・。まだ、何日か、かかるわ。ごめんなさい。でも、1日やると30〜40万貰えるときもあるんだよ。わたしみたいな年じゃもう無理だけどね。』
『あの男の人・・・、バージンじゃなかったので、ギャラ安いって言った・・・。』
『そうだったの。』
『・・・』
『初めてじゃなかったんだ。好きな人がいたの?』
『高校生の頃、無理やりされちゃったことが・・・あったの。』
『そうだったのかい。もういいよ。また、話そう。』
互いにしばらく黙っていましたが、やがて、女はわたしをうながしました。
『そろそろ、あがって。』
バスタオルを渡してくれました。
『そこに、服を用意してあるから着替えて。服といっても、高校生の制服なんだけどね。そとの公園で普通にしているところを撮るから、もう少しだけがんばるんだよ。』

もう、外は夕暮れ時になっていました。わたしたちの乗ったワゴン車が公園につき、撮影が始まりました。普通に歩いてきたり、ベンチに座ったり、街路樹にもたれかかったり・・・。
『じゃあ。最後のシーンを撮りながら撤収しよう。』

249さおり:2006/09/09(土) 03:14:03 ID:JA8pm7Ew
さっきと同じように、公園の向こうからここまで普通に歩いてくるように言われました。カメラの位置は、わたしのそばではなく今度は遠くから撮っているようでした。ゆっくりと前を見ながら歩いていきます。公園に入って、そのまま20メートルくらい歩いた時です。左後ろの植え込みあたりでガッサと物音がしました。2・3人の男が、いきなりわたしの体をおさえました。そのひとりは、タオルのようなもので口を強くふさいでいます。目隠しをされました。(あっ。)という間もなく、体をかかえらあげられました。車に乗せられると、すぐ走り出しました。そして、わたしは後ろ手に縛り上げられたのです。

しばらく時間が経ちました。
『つづきは、また明日だよ。放してやって。』
あの女の人の声がしました。わたしは自由にされ、車のシートに座りました。もう外は、すっかり暗くなっています。町の明かりが目に入っても、わたしには何だか焦点が合わないように、うつろにぼやけて見えるような気がしました。今日一日の出来事が、断片的に脳裏に浮かびました。それは、大きなショックでした。そして、まだ彼らの手から逃れられないままの自分にとって、何もかも終わったわけではない。これからまた、どんな目にあわされるのだろうかと思いながら外を眺めていたのです。道路わきに車が止まりました。
『わたしといっしょに来て。』
わたしは女の人といっしょに車を降りて歩きました。近くの駅前まで少し歩き、タクシーに乗りました。
『ごはん食べていこうね。』
わたしは、黙ってうなずきました。

食事が済むと、またタクシーに乗りました。
『帰る前にちょっとだけ、寄って行くところがあるんだ。ついて来て。』
タクシーを降りてから、少し歩きました。そこは、市街地でもちょっと裏通りに入ったようなところで、人通りの少ない路地でした。ある、店にはいりました。衣装のレンタル店のようでした。でも、店の奥のほうまで入ると何やら妖しい雰囲気でした。

セーラー服やらスケスケのパンティーやらが所せましと置いてあります。
(やだわぁ〜、これ。)さらに、わたしが見たものは、あの男たちがわたしの体をもてあそんだときに使ったような道具でした。大きさや、色、形も様々なものが透明なふたのついた箱に入れられて並んでいたのです。

あの女の人はどうしているのかと見ると、いろいろと買い込んでお金を払っているようです。
『こんなところに来たのは初めてかい。』
店を出た後で言いました。

そのあと電車に乗って、二駅目で降りました。
『もう、すぐそこだから、ついておいで。』

250さおり:2006/09/09(土) 03:15:30 ID:JA8pm7Ew
そのひとの家というのは2階建てのアパートにありました。2階の一番端の部屋でした。
入り口のそばに小さなキッチンがあり、となりが居間でカーペットが敷いてあります。その奥がどうやら寝室のようで、セミダブルのベッドがひとつ置いてありました。そこと居間の間には引き戸があるけど今は開らかれています。キッチンと居間の間にはとくに戸や仕切りはありません。
『そこの部屋のベッド使っていいよ。わたし、今日はここでねるから。』
女の人は居間にある低いソファーにもたれながら、リモコンでテレビのスイッチを入れました。
(そういえば名前もまだきいていなかったな。)などと、思っていると。
『パジャマ着るでしょう。そのあたりの衣装ケース開けてみて。着るものなら適当に使っていいから。』
ケースの引き出しを開けると、衣類がいろいろ入っています。まだ、わたしは、最後の撮影に使った服を着たままでした。
(これって、どこかの高校の制服なんだろうか。)
着ていた服を脱いで、パジャマに着替えました。
『いろいろ、つらいことばかりだったろうけど、ゆっくり寝てやすむといいよ。』
女の人が居間と寝室をへだてる戸を閉めました。明かりはつけていなかったので、寝室はすぐ暗くなりました。
わたしは、ベッドに横たわっても、なかなか寝つけません。心身ともに疲れ果てていました。でも、どうしても心が落ち着きません。少しウトウトした程度だったでしょうか。ベッドにじっと横になっていました。隣の部屋は、まだテレビをつけているのでしょう、戸のすきまから少しだけ光がもれています。
そのとき、戸を細くあけて女の人がこちらを見ていました。わたしは、思わず目を合わせてしまいました。
『少しは休めたかい。まだ、寝られなかった?』
『えぇ、あまり・・・。』
『寝ないと、疲れちゃうよ。ちょっと来てごらん。』
居間にまねき入れられました。
『少しだけ、飲むと寝られるよ。』
といってウイスキーをくれました。でも、グラスを口元に持っていくときついにおいがしました。
『少し割ったほうがいいね。』
氷を入れて、水差しで水をつぐと、1本の箸でかきまわしました。わたしは、それを一口飲みました。冷たさがのどをつたわっていきました。
『少し話そうか。』
『・・・』
『ねえ、セック○ってすきなんでしょ。本当は。』
『・・・』
『彼氏とかいたんでしょう?』
わたしは首をふりました。
『そうなの。』
わたしは、また一口飲みました。
『高校生のとき、いやな事があったって言ってたね。』
『・・・だから、男の人が恐かった。』
『じゃあ、今日も、かわいそうなことしちゃったんだね。ごめんね。苦しかった?』
『・・・』
『わたしなんて、ふしだらな女だったからしかたないけど・・・。これでも、若い頃は、いろいろあったよ。ずいぶんな目にあわされたこともあって、死んじゃおうって思った時だってあったよ。』
『わたし、これからどうなっちゃうんですか。』
思わず問い詰めるようなことばを発してしまいました。

251さおり:2006/09/09(土) 03:18:37 ID:JA8pm7Ew
『言いづらいんだけど・・・。悪いとは思うけど・・・。だけど、今さら、嘘ついてあなたをだますつもりはないから、全部話しておくよ。あなたも今日のことで、少しずつ覚悟はできてきたんじゃないかと思うから・・・。』
彼女は、言い含めるような口調で、また話し始めました。

『明日は、朝からまた撮影するよ。今日はラブホテルとか使ったけど、明日行く場所はちょっとすごいよ。』
(やっぱり)と、観念しきっているものの、わが身の置かれている状況を考えると、とても、つらかった。(まだまだ、わたしは奴隷のように体をもてあそばれてしまうのね。)
『明日行くのは、ソ○プランドなの。その店が営業してない時間に撮影をやるんだよ。』
『ソープ?』
『わかる? どんなところか?』
『・・・』
『あっそうだ。これを見てもらおうかな。いやかもしれないけど。』
彼女は、テレビの下のガラス扉を開けてビデオにカセットを入れました。リモコンを操作すると画面がビデオに変わりますが、まだ青一色の画面です。
『これは純粋なソープものじゃないんだけど。このなかに、ソープの場面もけっこう長く出てくるわ。』

ビデオの映像がではじめました。キャミソールを着た若い女と男が小さなベッドのふちに並んで腰掛けて、なにか話しています。音声が少し大きめに調整されると会話の内容もわかってきました。やっぱりエ○チなことを話しています。ビデオが早送りされました。ビデオの中の女がすっと裸になり男の服をぱっと脱がせ、そそり立っている股間のものをお口でしごく場面がながれていきます。しばらくして通常の再生になりました。となりの風呂場にあるバスタブに男がつかっているところに、全裸の女がまったく恥ずかしげもなく入っていきます。女が男と向き合って座ると、男はバスタブの中で少し寝そべるようにして腰をうかせました。水面から顔を出した男のものを女はまず両手でさすり、さらに、片手でしごきながら口に含んだのです。いったん口からはなしてペロッと舌を出し、そりかえるほどに怒張したものの頭の先っぽをゆっくりとなめ回したり、くびれているあたりに唇で吸い付くようにネチネチと時間をかけて刺激していきます。映像には、ぼかしも何もかかっていませんから、くっきりとした映像が細部までハッキリと見てとれるのです。その後も、男女は様々なやりかたで延々とからみあいました。
『すごいでしょう。おとこたちはこんなことしてやれば、みんな夢中になっちゃうんだよ。』
(明日は、わたしもこんなふうにさせられるのか?)と、そのときはじめて思いました。
『はじめから、あなたにあんなことできないわよね。』
『・・・』
『だから、明日のでは、わたしがソープのおねえさん役で、あなたを仕込んでいくストーリーなの。』
『女どうしで・・・ですか?』
『そうよ。いきなり無理なことさせたりはしないけど、覚悟はしておいてね。』
『あの。』
『何?』
『わたしの映ったビデオも、あんなふうなのがつくられるんですか?』
『編集をするのに、まだ時間がかかるだろうけど、結局はそうなるんだよ。』
(やはり、そうなのね。)自分が、これからどうなるのかと、また考えました。
『ぼかしを入れたりして編集したのはレンタルビデオ店などにも出回るけれど、だいたいはウラで売っているんでしょうね。』
何か遠い世界のことのように思ったりもするが、抜け出せないところに無理やり連れ込まれてしまったと感じて、そのときのわたしは絶望というより、あきらめきった暗い気持ちになりました。とりわけつらくやりきれないのは、今日もそうでしたが、やたらと体をいじくりまわされると、人が見ていようがカメラで撮られていようが、どうしても自分から感じ出してしまうことでした。

252さおり:2006/09/09(土) 03:19:40 ID:JA8pm7Ew
『飲むとやっぱり、リラックスしてよく眠れるもんだよ。』
(そんなものだろうか。)と思いながら、グラスの水割りを飲みました。同じ一口でも今度は、さっきよりたくさん飲みました。そして、あまり話もしないまましばらくそこにいましたが、またベッドにもどりました。また、じっと目を閉じていましたが眠れません。やがて、隣の部屋も暗くなりました。わたしは、体を仰向けから横向きにしてすこし両足をちぢこめたかっこうになりました。(ああ、何て1日だったのだろう。あんなにされた股間や肛門はおかしくなっていないだろか。)と思って、そっと手で触れてみました。今はしっかり閉じられた陰唇から肛門にかけてそっと撫でてみました。とくにいつもとは変わらない様子でした。でも、あそこの毛がすっかりきれいに剃りとられて子どものときのようにツルツルしています。どちらかというと毛深い方だったわたしのあそこが、すっかりべつのもののようになっています。こんもりふくらんだあたりに手をはわせてもまったく抵抗なくするっとした感触です。それから無意識にその下のヒダにかくされた柔らかな突起物に指先がとどきました。ヒダをかき分けるようにして、そっと少しだけその先端にふれてみました。あのときに男たちにさんざん刺激されて感じてしまった記憶がよみがえりました。まだ小さいままのものにもとのようにヒダをかぶせ、指先を使ってその上から全体をゆっくりとさすりました。
(感じてきた!)わたしはツルツルの自分をもてあそびだしてしまったのです。
しだいに快感が高ぶってくるにつれて身体が熱くなっていきます。無意識に自分の乳首をつまんでいました。体の奥の方まで、あの快感が欲しくなってしまいました。乳首をつまんでいた左手も股間に持っていって、トップリぬれてしまった小陰唇をかきわけながら人差し指と中指を2本いっしょに中に入れました。指先を少し曲げて内側からオマメのその奥あたりを軽く押し付けるようにしました。右手も動きを強めました。皮をめくって直接さわりました。粘液でヌルヌルしているので刺激が強すぎることもありません。それどころか、適度な潤いを持った指先の感覚が局所を捉えたときの快感は、このうえもないほどよかったのです。(うっ、いく!)と思いました。わたしは一気に昇りつめて、快感にもだえながら、体を硬直させました。それが終わっても、体中が熱くて頭もボーっとしていて、夢見るような気持ちのままで、まだおさまらない自分の胸の鼓動を感じていました。
(でも、まだ欲しい。)と、ぼんやりした意識の中で感じました。
(わたしのあそこは、男のもので満たされたいんだわ。きっと・・・。)
何とまた、股間に手をのばしてしまったのです。今度は右手で自分の内部を刺激しました。また、2本の指を入れたのです。
(これ、いいわ。)と、思ったと同時です。指がぎゅうっと強く締め付けられました。指が少し苦しくなるくらいに強い力です。それにもめげずに右手の動きをさらに強めました。体の奥に突き上げるようなえもいわれぬ快感におそわれました。
(あっ。すごく、いい。)あまり間隔もおかないまま、もう一度、昇りつめたのです。
われにかえると、股間がぐっちょりしていました。(ああ、やだ。わたしって・・・。)
そのままでいるのは、気持ち悪かったので、新しいパンティーにはきかえました。自分の身体がまだ熱いのがわかりました。それから、わたしは、ようやく深い眠りにつきました。

253さおり:2006/09/09(土) 03:21:32 ID:JA8pm7Ew
目が覚めると、朝食が用意してありました。
『おねえさん、ありがとう。』
わたしは、なぜかその女の人を(おねえさん)なんて呼んでいました。
『おねえさん…か。わたし、あなたのことを何て呼ぼうか。名前は聞かずにおこうね。サッちゃんとかユキちゃんとかなんでもいいんだけどね。』
(ユキっていうのは、やめてほしい)と思っていると・・・。
『わたしほんとに妹がいるの。シホちゃんて名前なの。これからあなたのこと、シホちゃんて呼ぶことにするわ。』
別に返事もしなかったけれど、(まあ、いいか。)と思いました。

『シホちゃん。おねえさんは何人ぐらいの人とセッ○スしたと思う。』
『・・・』
『自分でもわかりゃしないよ。1日に5〜6人相手にするくらいソープでは普通だったからね。』
『ソープで働いていたんですか。』
『そう。わたしもだまされたみたいなもんだった。いい彼氏だと思って婚約までしたんだけど、その人が仕事で失敗して借金しはじめたんだね。わたしの名前でお金を借りてあげたんだけど・・・。それが、運のつきだった。結局、身をほろぼすことになっちゃったわ。』

『くやしかったり、やけを起こしたりもしたけど、結局、男を見る目がなかったんだってあきらめた。今は、自分の好きなように楽しむことにしてるよ。男と遊ぶのも、まるっきり嫌いなわけじゃないしね。』
『つきあってる人とか・・・、いるんですか?』
『別にいないわよ。男なんて、バカなのが多いから・・・。何人も、骨抜きにしてやったよ。何も憎くてやってるわけじゃないけど、女好きの男が、好きなだけ女に入れ込めたんだから幸せなのかもね。』

『ただ、セッ○スって、いい悪いはともかく男と女を結びつけるわ。その男が好きだとか、わたしを愛してくれるとかいうのは抜きに、身体が求めるのね。もう気が狂うほど気持ちよくてたまらないときってあるのよ。きっと誰もそうなのだろうけど、世間体とかいろんなことがあって、そこまでのめりこめない人もきっといるんでしょう。最近、わたしだって、少し年とってきたわ。(もうそういうことはいいんだろう。)なんて若い人は思うかもしれないけど・・・。実は、わたしもう40近くになってきたんだけど、やっぱり、まだやめられないの。男にめちゃくちゃにされたくなるときもあるの。今日も、シホちゃんが男たちにいろんなことされるのを見ながら、いつの間にか、(わたしも今すぐ男のアレが欲しいなぁ〜。)って思っちゃった。あの部屋とても暑かったし、風呂場にも出入りするから、わたし下着姿でいたけど、パンティーはいてる上からクリのあたりを強くおしたり、乳首をおさえたりしちゃった。自分のあそこが火照ってきて濡れていくのがわかったわ。こういう女なのね、わたしって。』

254さおり:2006/09/09(土) 03:23:28 ID:JA8pm7Ew
わたしは、おねえさんが話すのをただ黙ってきいていました。
(でも、わたしだって。ゆうべはベッドの中で、自分の指で遊んでしまった。今までも、やらなかったわけでもないが、ゆうべのわたしはいつもとは違う自分だった。何だか、どうしても自分の性欲がおさえきれなかった。)
『いい男っていうのは、女をとことんよがらせる男だと思う。やっぱり。』
そんなことばをききながら、わたしは、きのう、わたしの口にくわえた、いくつものお○ンコの、あのにおいや舌触り、くちびるやほおにつたわるぬるっとした感触、そして包皮のフニャフニャした感じや、口の中で固くこすれる怒張したものの硬さが脳裏をよぎりました。
(何てことでしょう。やだ!わたしったら・・・。)自分の感覚に、自分であきれました。心まで麻痺してしまったのでしょうか。体の奥底から湧き上がるような、おさえられない性欲を覚えるのでした。わたしのあそこが、おクリもヴァギナも(肛門さえも・・・)はやく気持ちよくなりたがって、疼いているようでした。胸に手をあてると、固くなった乳首がツンと突き出してくるのがわかりました。わたしの頭はのぼせていました。

ぼぉーとしているわたしの顔色を見て、おねえさんは、『だいじょうぶかい。どうかした?』とききました。おねえさんにも、今のわたしの本当の感情までは読み取れなかったようです。

朝食が済んでしばらくすると、おねえさんの携帯が鳴りました。(バックストリートボーイズの着メロ?そんなイメージじゃないなぁ)なんて思いました。
『すぐ出かけなきゃみたいよ。用意して。』
電話を切ると、そう言いました。
アパートを出てタクシーを拾えそうなところまできました。タクシーで現地に直行するのかと思っていたら、途中で降りてタクシーを乗り換えました。(何か用心しているんだわ)と感じました。(そういえば、ゆうべここに来るときもそうだったぁ。世間に知れるとまずいことやってるわけだから…)タクシーを降りてからも、わたしは黙っておねえさんについていきました。広い通りに面した1Fにコンビニがテナントで入っているきれいなビルの脇に細い路地がありました。そこを入ると行き止まりのように見えましたが、コの字型に折れ曲がって狭い道路が続いていました。立派な庭があるお稽古事の師匠さんの家らしいのがありましたが、それ以外の建物は小さくてごちゃごちゃしているところでした。その先は、少し広い道路と交差していて、さらにその先の場所に出ました。ひと目で歓楽街だとわかりました。でも、朝の時間帯でひっそりとしています。おねえさんから離れないように後をついていきます。「ラブマリン」という看板のあるお店に入っていきました。入り口はとても小さいですが、フロントのようなところをすぎると立派なドアがあり中に入りました。お店の人らしき人は見かけません。四角い部屋でソファーがいくつかおいてありました。テレビもおいてあります。ふたりしてソファーに腰掛けると『わたしがずっと一緒だから、固くなったり恐がったりしなくていいよ。』と言いながら、おねえさんはタバコをくわえました。
『じゃあ、部屋を見に行きましょう。』
フロントに戻るとさっきは気づきませんでしたがエレベーターがありました。それで3Fに上りました。せまい通路のような廊下がありましたが、やはりそれほど広いところではありません。3つか4つくらいドアがあって部屋の入り口になっているようです。おねえさんは一番奥の部屋に入りました。わたしも後からそこに入ったのです。
靴を脱ぐ場所があり、そこに小さなベッドが置いてあります。ただ、ベッドといっても内科医院や学校の保健室にあるような患者をねかせて診療するようなものです。ベッドにはクリーム色のタオル地のシーツがかかっています。ベッドの周りには脱いだ服をいれるようなカゴや小さい冷蔵庫やちょっとした整理戸棚のようなものもあり、その近くの壁には小さな鏡があります。その向こうにはマッサージ椅子みたいなのがおいてあるスペースがあり、ガラス戸を隔てた向こうがお風呂場になっているようです。当然だけれど、こんなところにきたのは初めてです。(ああ、ここでまた、わたしはセ○クスやいやらしい行為をやりつづけることになるんだわ。)と思いました。

255さおり:2006/09/09(土) 03:24:41 ID:JA8pm7Ew
すると、おねえさんは、
『撮影スタッフはまだ来ないの。でも、ここにはカメラが3台仕込んであるわ。あとで、カメラマンがひとり来るだけのようだよ。男役をここの若い従業員に頼んであるけれど、はじめのうちは、二人だけでいいんだよ。』と言いました。

わたしは、おねえさんから、ベッドに腰掛けるように言われました。
『ソープってね、お客さんがさっきの部屋に入って女の子を選んで貰うの。写真とか見てね。それから、時間になるまであそこで待っているわけ。なじみの子がいたりすると電話で予約して指名済みのこともあるわ。わたしたちは控え室にいて、店の人から呼ばれたらお客さんをお迎えに行くの。そして、いっしょにここまで案内してくるの。トイレも各階にあるから、前に入っておくようだったら連れて行ってあげるの。』
(へぇ、そんなものなのか。)と思って、わたしはきいていました。
『部屋に入ったら、かけてもらって飲物を出すのよ。そこの冷蔵庫にあるんだけど。実はたいていのお店が、こういった飲み物やおしぼりなどの消耗品もギャラから差し引かれるの。でも、大金はたいて遊びにいてくれるお客さんにこんなものケチってられないわけ。ところで、シホちゃん、何飲む?』
『別にいいです。』
『のどかわくから、飲んでおいたほうがいいんだよ。水分が足りないと尿道炎とかになりやすいんだってよ。わたし、一度なっちゃって医者からそういわれたよ。ジュースでいいでしょう。』
なんだか変な雰囲気だったけど、ジュースを紙コップについでもらって乾杯しました。
『男って、早く遊びたくてうずうずしているものだけど、ある程度じらして性欲が高まり切ったところで出させてやるといいの。でも、じらしすぎてもだめだね、やっぱり。もっとも、こういうところで遊びつけている人は、そんなにあせったりしないわよ。サービスやテクニックにうるさい人だっているし、お客さんをよく見極めないとダメかもしれないね。それと、お客さんが帰る時に店のアンケートみたいのもあるから手抜きは禁物よ。あとで、店長じきじきの実地指導が待ってるよ。あなたも、今日は本当にソープ嬢になるつもりでやってね。』
『もう、始まっちゃってるんですね。』思わず、そんなことを聞いてしまいました。
『まあ、ゆっくりと、自然にやろうよ… ね。だけど、あなたの知らなかった世界だよね。』
頼もしそうに感じた半面、何もかも知り尽くしているおねえさんが、そのときのわたしには少し不気味に思えたのでした。
『次は、お風呂場の用意をしておくの。こっちに来て。』
奥の風呂場に行きました。
『家で入るお風呂のように熱くすると、長い時間入っていられないから、すこしぬるめにしておくんだよ。お湯も、もったいない気はするけど、シャワーを少し出しっぱなしにしておいたほうがいい。使いたいときすぐちょうどいい温度のお湯がでるようにね。』
湯船にお湯がはれると、またベッドのところにきました。
『服を脱がせてやるといいけど、自分で脱ぐ人はそれでもいいよ。今日はシホちゃんがお客さんのつもりで、わたしが脱がせてあげます。』
(何かヤダー)と思ったけど、逆らえなかった。わたしは、すっかり裸になりました。
おねえさんも裸になりましたが、また、別のパンティーをはきました。そしてスケスケのネグリジェを着ました。男のお客さんなら、一目見ただけで、かなり刺激されるでしょう。
『わたしをご指名いただいてありがとうございます。ユミと呼んでくださいね。』
いきなりわたしを抱き寄せて、唇にキスしました。わたしの胸がドキドキしました。
『いっしょにお風呂に入ってください。』
おねえさんはバスタオルを差し出します。
『どうすればいいんですか?』
『まあ、お客さんのつもりで腰に巻いてお風呂場に来て。』
おねえさんは、少しもためらわず、さっさとネグリジェとパンティーを脱ぎ捨てました。

256さおり:2006/09/09(土) 03:26:32 ID:JA8pm7Ew
お風呂場に入ると、おねえさんはわたしからタオルを受け取り、シャワーでからだを流してくれます。
『このイスにすわって。』
そのイスは、股間のあたる部分が空洞になっています。股間の前後から手が楽に入るくらいのくぼみもありました。おねえさんは、スポンジで泡立てた石鹸を手につけてわたしのあのあたりをきれいにしてくれました。
『おチン○○をきれいにしながらさすってあげるとよろこぶね。あとでしゃぶったりするからよくきれいにしておくといいね。』
それから、シャワーできれいに流してくれました。
『お風呂に入って、うん。ここで本当は歯磨きやうがいもしてもらうのよ。今日は省略ね。じゃあ、わたしも入るよ。』
おねえさんのお股のお毛けがわたしの目の前を通ってお湯につかっていきました。
『ゆうべのビデオで見たでしょ。あれは潜望鏡って言うのよ。男のものを水面から出しておしゃぶりしてやるの。タマタマもさすってやるといいよ。それから、あれをくわえているときに男の目を見て視線を合わせてやりなさい。それから、舌の使い方だけど…。チョット待ってて。』
おねえさんは湯船から出て行ってまた戻ってきました。
『わぁー。すごい。』
思わず声に出してしまいました。おねえさんの股間に、おチン○○がはえているのです。黒ベルトで男のあれと寸分たがわぬシロモノが装着されています。ただ、色は本物と違います。少し白っぽいクリーム色でした。
『ふふぅ、さわってみるかい。』
感触は本物とは少し違うけれど、硬さも同じだし、形は細部まで実にリアルできています。ニョキっとしたしなりぐあいもそっくりです。

それからわたしは、おねえさんから、くわえかたや、おしゃぶりのやりかたを事細かに教え込まれました。そしてさらにレッスンは続きました。次は、マットプレイのやり方でした。
最後はお風呂からあがって、ベッドで本番です。コンドームをお口にくわえて、上手に装着する練習を何度もやりました。正直とても大変でしたが、何も知らないわたしに、おねえさんは次々といろんな事を教え込みました。
『つかれたでしょう。頑張ったから…。さあ、ごほうびをあげようね。』
ベッドに横たわっていたわたしを見下ろしながら言いました。そして今、わたしがお口でくわえながらゴムをかぶせたばかりのモノをつけたままで、わたしの上にのしかかりました。そして、激しくわたしの股間にうちおろしたのです。体の奥を快感が一気に突き抜けました。わたしは、たえきれずに『うっ。』と、うめき声のような声をあげました。
『あっ、あっ、あぅ〜ん。』夢中で、快感をむさぼっていました。
わたしが果てるのを見とどけて、おねえさんは腰の動きをとめました。
『ほんとにかわいい子だねぇ。シホちゃんて。』

シャワーで体を洗い流してから、タオルを巻いて腰掛けました。ふたりでジュースを飲みました。
『お昼をとどけてもらうからね。食べてから、少し休んだら男の人にきてもらうから。もうひとがんばりだよ。それがすんだら、今夜はホテルに泊まってもらうわ。ギャラを払うからあなたの帰るところまで送ってあげるよ。わかったかい?』
『はい。』
(あぁ、やっと戻れるんだ。)と思ったが、もう、前の自分じゃなくなっているんだと思いました。もとどおりに学生生活に戻れるものだろうかと思ったのです。でも、まだ、あの時から2・3日しかたっていないわけだから、体調が悪くて外出できなかったことにしておけば何とか隠し通せるだろうが…。

でも、あのユキさんは、どうしただろう?あの学生マンションに戻るのはどうしても気が引ける。(だけど、戻らないわけにもいかないし…。)また、深刻な悩みが生じてしまいました。(また、何とか考えるしかないだろう。とりあえず、ここから抜け出せそうなのでとてもよかった。)と、思いました。

おねえさんはフロントまで届けられたお弁当をとってきてくれました。その部屋の中で、ふたりしてお弁当を食べました。それをちょうど食べ終わった頃、部屋の電話がなりました。
『カメラマンが撮影前に部屋をチェックしたいって。ここに来るそうだよ。』
そのとき、わたしは下着の上にガウンをはおっただけでした。

257さおり:2006/09/09(土) 03:29:15 ID:JA8pm7Ew
『入るよ。ちょっと仕込んであるカメラを見ておくよ。レンズが曇っていると思うんだ。』
いきなり入ってきたその人は、そういいながら風呂場に行くと、天井の防火装置のようなもののおおいを工具を使って器用に取り外しました。そして、何やらそこに隠されていたらしい小型の機械を調べているようでした。
(あんな所にカメラって隠せるのか。)と、わたしは感心しながら見ていました。

しばらくして、また電話がなりました。すぐ、おねえさんが壁についている電話を取ると、
『はい。わかったわよ。』
と言って、すぐ電話を切りました。
『始めるそうよ。じゃあ、さっき教えたように、頑張るんだよ。わたしもここにいるけど・・・。』
その時、わたしは、つらいことをしなければならない嫌悪感はあまりなくなって、今までは感じなかったような、不思議な緊張感がありました。

『下のエレベーターの前で、お客さんを迎えるところからスタートよ。』
『はい。』
カメラマンに付き添われて、エレベーターに乗りました。いよいよ、始まりです。
扉が開いて、眼鏡をかけたスーツ姿の中年の男の人と顔をあわせました。
『坂巻さま、こちらがシホです。』と、店長が言うと、
『よろしくね。』と言って、こっちを見てニヤッとしました。

『シホです。お願いします。』と、あいさつして、一緒にエレベーターに乗りました。
『トイレにいっておきますか?』と、(教わったように)さりげなく言うと、
『だいじょうぶだよ。来るとき、駅で寄ってきた。』と言って、わたしの手を握りました。
そのまま手をつないで部屋に向かいました。(カメラマンの人はどうしたのだろう?)と思いましたが、あまり気にかけませんでした。(隠しカメラで間に合わせるのだろう。)と思いました。部屋の入り口に、おねえさんがいました。『わたしも、他からお呼びがかかっちゃたから・・・。』と、微笑みながら言いました。

『指名してくださってうれしいです。まだ、入ったばかりですけど、頑張ります。よろしく。』
部屋に入って腰掛けてもらって、まずそうに言いました。
『そう、まだ若いね。』
『何を飲みますか?』
『ビールある?』
冷蔵庫の中をのぞくと、小さめの缶ビールがあります。
『どうぞ。』
紙コップにビールを注ぎました。
自分のコップにはウーロン茶をついで、『乾杯しましょう?』と、おねえさんと二人でやったのと同じに振舞いました。
『お風呂入れてきますから待っててね。』
と言って、彼の唇に軽くキスしてあげました。
そしたら、両手でわたしを抱き寄せて、背中からお尻のあたりをなでなでしました。
それから、わたしは、彼の前で衣装を脱ぎました。じっとこっちを見ているのがわかりましたが、レースのついたかわいいパンティもさっと脱いで棚に片づけて、彼を見てにこっとしました。つられて彼もニヤッとしました。

『じゃあ、おねがいします。』
服を脱がせてやろうとすると、もうほとんど裸になってました。白いブリーフの中が大きくなっているのがよくわかります。
『はやいわね。とっても大きそう。』
脱がせながら、少し黒ずんだ一物をさわってやりました。完全にコチコチです。いすに座らせて体にシャワーをかけてやりました。股間の一物に、泡立てたハンドソープをぬりたくってなでまわしてやると、『もう、たまらないよ。』と言ってくれました。たまたまを片手でさすりながら、上を向いて反り返っている包皮をかぶり気味の先端から少し下のあたりを軽く握りました。そして、ゆっくり上下に動かしました。おねえさんに教わったとおりに、おとこの物をほめてやりました。
『とっても固くて、すごいオ○○○○ね。』
『そうかい。』
平然とかまえているようですが、きっとすぐにでも女体をむさぼりたいのではないでしょうか。お風呂に入ると、おしゃぶりもしてあげました。よく洗ったので、陰毛からも石鹸のにおいがしました。

258さおり:2006/09/09(土) 03:30:20 ID:JA8pm7Ew
それから、容器に手が熱いくらいのお湯を用意して、ローションを溶かしました。シャワーで暖めておいたマットを敷いて、ゆっくりとうつぶせに彼をねかせて、ねちねちした液体を塗りたくりました。おなかや乳房にもローションを塗りました。彼に重なっていこうとしたとき、(あっ、お股にも塗らなくちゃ。)と、気がつきました。自分の体を彼にすりつけるように絡まり合ったり、彼の突起した肉体を刺激したりしてやりました。彼を仰向けにさせる前に、4つ折にたたんだオレンジ色のタオルの上にコンドームを用意して脇においておきます。乳房をすりつけて彼の体や顔をマッサージします。乳首を吸わせてあげようとしたのに、吸い付きませんでした。『おねがい。やさしく、乳首をすって。』せがんでみせました。(わたしって、何て女の子になってしまったんだろう。)と思いながらも、体を許しあう恋人同士のような錯覚さえ感じました。

(これ以上、じらしちゃいけないのかな?そろそろ、入れさせてやらなくちゃ。)と思いました。まず、ゴムの先端を唇の先にくわえて、あれを手でさすりながら先端にキスするようにくっつけて、唇に力を入れたまま少しずつ口を開きました。くびれているところよりも下まではお口を使ってかぶせなければなりません。おねえさんと何度もやったので一度でうまくいきました。あとは巻き上がっている状態のコンドームを下まで下げればいいのですが、うっかり陰毛を巻き込まないように注意します。OKです。
『さあ、この固いのを入れてあげますよ。』
股間にまたがってつながりました。ゆっくりと、彼の上におおいかぶさります。彼はこらえきれないのか下から激しく突き上げます。まだ浅い結合状態なのでわたしの奥まではとどきませんが、内部に固く突き当たる感覚がありました。ヌルヌルしたローションにまみれて絡まり合いながら、わたしも彼の上からさらに激しく腰を揺らしました。しだいに、自分のものが締めつけているのが感じられます。
『すごいよ。シホちゃん。奥のほうへ、吸い込まれちゃいそうだ。』
そう言った後も、しばらく彼はケモノのようなうめき声をあげながら求め続けましたが、やがて小刻みに体を震わせながら最後にグッと強くわたしを突き上げると、動きが止まりました。

『わたし本気になっちゃたわ。』
『・・・』
『あなた、とっても元気いいわね。』
『・・・』
『どうしちゃった?』
(うっとりしたような顔つきのまま返事がありませんでした。)

(のぼせちゃったのかも。)体にぬるいシャワーをかけてやりました。
その時でした。向こうで電話が鳴っています。

259さおり:2006/09/09(土) 03:31:31 ID:JA8pm7Ew
(何だろう?どうしよう。)と思いながらも部屋まで行って受話器をとりました。
『シホちゃん?』
『あ、おねえさん。』(少し安心しました。)
『様子が変じゃない?カメラで覗いちゃっていたんだけれど・・・。行ってみるからね。』
身体がネチネチしたままでした。浴槽につかってからタオルで拭きました。彼はまだぐったりしたままでした。少し心配になってきました。
おねえさんと店長がきました。
『まさか、困ったことになりゃしないだろうな。』店長は風呂場の様子を見て言いました。
おねえさんは、彼の胸に手を当てています。
『おかしい。救急車、呼ぶしかない。』
店長も胸に耳を当てました。
『しかたないな。電話してくれ。』

(どうなるんだろう。また、えらいことになってしまった。)
タオルを巻いただけの姿で、わたしは急に固まってしまいそうでした。
(ともかく服を着よう。それから、彼をあのまま救急車にのせられないだろう。)
『シホちゃん。あの人の体をきれいに流しておいて、とりあえず浴衣を着せるから・・・。』
おねえさんに言われて、横向きになっている彼にシャワーをかけながらローションを洗い流しました。反対向きにしようとしたら、とても体が重くなっているように感じた。正直、気味が悪かった。でも、そんなこと考えている場合じゃないと思いました。

『死んじゃったかしれないよな。これはどうしたって、警察も入るだろう。どう見ても、あの子じゃ無理だから・・・あんたが相手していたことにして、上手くやってくれよ。ただの事故として終わるだろう。』
『だいじょうぶだろか。』
『うめあわせはさせて貰うから、ここのところは何とか上手く頼むよ。』
『しかたないわ・・・。あの子はすぐ帰しましょう。』

店長はわたしを呼ぶと、一万円渡しました。
『とりあえず、これ電車賃ということにしておいてくれ。今回のことは、よそでは絶対に言っちゃだめだよ。警察沙汰になったら大変だから。今日はこれで帰ってください。』
『はい・・・。』
(こんな状況だから仕方ないわね。)と、納得しました。

ひとりでそこを出ると、おねえさんとここに来たときと逆の道順で広い通りに出ました。しばらく、その通りを歩きました。駅に近づくと人通りも多くなりました。
(ともかく駅に行って、帰るまでのルートを確認しないと)と、思いました。
あまりにも、さまざまなことがわが身に降りかかったので、まだまだ、頭の中の整理もつきません。

いろいろと悩んだり、考えたりすることも、もちろんあったのですが、わたしには戻れる場所は他にありませんから、今まで暮らしていた学生マンションに戻ったのです。ずいぶん長いこと留守にしていたような、不思議な感覚にとらわれました。でも、これといって変わったこともなく何のトラブルもありませんでした。部屋の中もあの日(どうしても、はるか昔のように感じられてしまうけれど・・・)のままでした。ただ、当然ですけれども・・・、ユキさんの部屋を訪ねる気にはなりませんでした。それどころか、彼女の部屋がある5Fに行くことさえためらわれました。
(もしも、ユキさんと会ったら、どうしよう。)
と言うのが、わたしの最大の不安でした。
(明日は土曜日。週末だから、大学の授業はないから、外出せずにずっとここにいることもできる・・・。でも、あぁ、わたしは、もう、前とはすっかり違う自分にかわってしまったんだわ。とっても、疲れた。)と思いました。ともかく、わたしは休むことにしました。

260さおり:2006/09/09(土) 03:32:33 ID:JA8pm7Ew
***************************************

何時間眠ったのでしょう、いえ、おとぎ話の眠り姫じゃないけれど・・・何年間も眠り続けたのではないかとさえ思いました。薄目を開けると、カーテンの隙間からさす日差しがとてもまぶしかった。時計を見ようとして頭をもちあげようとすると、軽いめまいを感じました。もう、夕方近くになっていました。冷蔵庫から飲物をだしてのみました。(はあ〜)と、思わずため息が出ました。おしっこが出たくなってトイレに行きました。排尿しながら、また、いろんな出来事を思い出してしまいました。ごろんと横になると、また、うとうとしてしまいました。

部屋の呼び鈴がなったような気がしました。
(ピン、ポン)
また、なりました。(誰か来た。誰だろう?)
のぞき穴から覗こうかとしましたが、何となく体を動かせませんでした。
『やっぱり、まだ、帰ってないみたいだね。』
ドアの外で声がしました。(ユキさんだ!)
『もう、会うこともないだろう。気にするな。』
(あの男の声だったみたいです。)
わたしは、黙ってじっとしていました。

それほど時間も経たないうちに、立ち去ったようでした。そのあとも、しばらくボーっとしていましたが、また眠くなりました。そして、そのまま眠ってしまいました。

次に目が覚めたのもかなり経ってからだったと思います。そのときは、とってもおなかがすいていました。(何か食べに行こうか? 買ってきて食べようか?)と考えました。
時計を見ると、早朝です。(いや、まだまだ、夜が明ける前だろう。コンビニに行ってこよう。)と思いました。

コンビニでおにぎりとお茶とポッキーを買いました。
店を出て20〜30m歩いたら後ろから誰かに肩をたたかれました。
驚いて振り返ると、一見まじめな少年から声をかけられました。
『おねえさんのパンティー撮ってしまいました。』
携帯の画面を見せました。
『もう、いやな子ね。』と、あどけない顔の男の子をにらみました。

軽くあしらっておこうと思いました。
そのまま早足で歩きました。でも、その子はついて来るのです。
(わたしのこと甘く見てるようね。いじめて、やろうかな。)
自宅を知られちゃまずいから、ちがう方向に歩きました。
地下鉄の駅に入りました。人は少ないけど上手くまいちゃおう。
姿が見えなくなったようなので、トイレに入りました。
でも、トイレから出てホームに向かうところで、あの子が待ってました。
『ホントにいけない子だよ。』

261さおり:2006/09/09(土) 03:33:23 ID:JA8pm7Ew
見るとズボンのチャックが開いたままになっています。
そればかりか、股間が大きくなっているのがわかります。
(幼い顔のわりに、ませた男の子なのかしら。)
そう思うと、わたし自身も急に欲情してきたのです。
(ちょっと、遊んじゃおうかな。)
なんて、思ったのです。
『もう一度、携帯を見せてごらんなさい。』
ポッケットから出した携帯をサッと取り上げました。
『何するんだ。返せよ。』
『だまって、おねえさんについてきなさい。』
『悪かった。ごめんなさい。警察とかだけは、よしてよ。』
『いい子ね。こっちに来なさい。』
股間のふくらみをそっとなでてあげたのです。
(固くなってる。)と思いました。

別のトイレに行って、身障者用に入りました。
『いい子だから、もう悪いことはしないのよ。』
『...』
『いいことしてあげるから、じっとしていなさい。』
彼のベルトをはずすと、一気にズボンごとパンツを下げました。
まだ、包皮をかぶったままで勃起しています。
手で握って皮をめくると、先端がピンク色です。
膝をついて、それをぱっくりくわえました。
舌先で先端の太くなったあたりをゆっくり刺激してやりました。
声を出すのをこらえて顔を真っ赤にしています。

『ああん...。おねえさん。出ちゃうよ。』
かまわずに、舌を使いつづけました。彼の下半身が急に硬直して
『ううぅ…。わぁ〜。』
またたくまに、わたしのお口からもあふれてしまうくらいの、おびただしい量の白い体液を噴出したのです。
トイレの壁に取り付けられた、金属製の手すりにつかまったまま、そそり立った彼のものが上を向いていました。
その先っぽにはふきだしたままの白濁液が少しついています。

『もう、悪いことしちゃだめよ。』
男の子は、こっくりと頷きました。
わたしは、そのままひとりで表に出て、何事もなかったように歩き出しました。
そして、自分の部屋に戻りました。
買ってきたものを食べたら、気持ちが落ち着きましたが、あの子のにょきっとしたピンク色のものをくわえた感覚が、またわきあがってきました。そして、自分の股間が、潤っているのを感じました。

262さおり:2006/09/09(土) 03:34:13 ID:JA8pm7Ew
(やっぱり、わたしって我慢できないんだわ。)
ベッドに横たわると、いきなり2本の指を入れて遊びだしました。
親指の先でクリットを刺激すると、わたしのあそこは、きゅーっと締まっていい気持ちです。
もう一方の手で乳首をつまみました。頭の中がおかしくなるほど感じてしまいました。さっきの男の子が射精の瞬間、両目を固く閉じ、口を半開きにして気持ちよさそうにしている顔を思い出しました。どんな男でも、果てる時はあんなものなのでしょうが、あの男の子のことがひときわ愛らしく思えてきました。

(かわいい顔とは不釣合いなくらい元気に突き出したあのもので、わたしは奥まで突かれてみたい。)そう思いながら、自分の指を激しく出し入れしました。手のひらは、不規則にあの固くなったところにあたって刺激します。わたしの額は汗ばんできました。全身に広がった快感は、また1点に集中してきました。そして、頂点に達しました。(あぅっ。あ、あ、あ、あ、…  あぁ〜ん。)それは、体の芯まで熱くなるほどの、たまらない快感でした。気がつくと、わたしの手やおしりのあたりまでぐっしょりと濡れていました。でも、しばらくそのままの姿で快感の余韻にひたっていました。

263某経大生:2006/09/10(日) 04:49:33 ID:vwcMharQ
↑すばらしい。何度も抜けた。

264某経大生:2006/09/10(日) 04:50:21 ID:vwcMharQ
こんなことが、あっていいのか?


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